【完結】覆水盆に返らず (家葉 テイク)
しおりを挟む

01 前編

学園都市生誕祭というSS投稿企画に用意したものです。
実はこれがやりたかっただけ。


   覆水盆に返らず Painful_Relief.

 

   一

 

 一〇月九日。

 その日は、学園都市中の幸福が押し寄せているのではないかというくらい、上条当麻にとって幸福な一日だった。

 学園都市の独立記念日のため学校が休みだったり、朝食に食べた目玉焼きの黄身が二つだったり。

 今日はいいことあるかもなーっ!! と上機嫌で外に出れば、自販機で買ったジュースでオマケが当たり、アイスの棒はアタリの連鎖となる。インデックスの機嫌は過去イチではないかというくらいよかった。

 

 そんな至福の朝が終わり、そろそろお昼以降のスケジュールを考え始める朝一〇時ごろ。

 この異常事態を前に、ツンツン頭のミスター不幸は逆に戦慄していた。

 

 

「どうしよう……。この幸せさはいったいなんだ!? まさか新手の魔術師が俺の人生の幸運全てをこの日に集中させてるんじゃないだろうな!?」

 

「このくらいで大げさすぎると思うけど……とうまの不幸(ふだん)を知ってると笑えないかも」

 

 

 幸福の連続に有頂天になるどころか、逆に警戒し始める上条に、純白のシスターは苦笑して、

 

 

「でも、心配要らないよ。あたりに魔力は感じられないから。魔術師のせいとかじゃなくて、とうまの幸運(それ)は本当にたまたまかも」

 

「……本当か? 俺に魔力とかなんとか分からないからって適当言ってない?」

 

「むっ! 失敬な! こと魔術に関して私が適当なことを言うことはないんだよ! 私は魔力を一切持たないから、魔力の感知はとっても正確にできるかも! とうまだってそれは知ってるでしょ?」

 

「それはまあ」

 

 

 うっかり地雷を踏んでしまった上条に、インデックスは心外そうに唇を尖らせながら言い募る。とはいえ上条は魔術に限らず専門知識を聞くと心と耳にフタをしてしまう系の馬鹿なので、実のところインデックスの言っていることは半分も分からないのだった。

 そしてそんな上条に腹を立てたインデックスはさらなる魔術講義を行う──というのが、いつもの上条なのだが。

 

 しかし、今日の上条は一味違った。

 

 

「独立記念日限定オープンキャンパスですよー!」

 

 

 インデックスの講義が途切れた、ちょうどその時。

 木の棒にベニヤ板を取り付けた形の、簡素な案内板を手に持ったスク水ジャージの少女が通りすがった。

 ピクリ、とインデックスの注意がそちらに逸れる。

 

 

「第九学区、『世界地図』! 各国の都市計画を模倣した学校の集合体の一角──『ヴェネツィア相当』の水随方円学園が無料で開放中! 今なら限定で無料直通バスも運行中! ご希望の方は私までお声掛けをー!」

 

 

 流れるような宣伝文句を耳にして、上条とインデックスは互いに顔を見合わせる。

 それから、あたりを見回す。

 上条とインデックスが奔放に会話のやりとりをしているところからも分かるように、周辺は別に混み合っていたりはしない。むしろ、人は疎らな方だ。

 

 前提として、今は朝一〇時。これから今日一日のスケジュールを立てようという時間帯だった。

 そして今日は祝日。学園都市はどこも混み合っているだろう。たまの休日だしどこか外で遊びたいが、人数を絞るなどで混雑対策をしている場所の方が望ましい。

 ついでに、なんか異国情緒あふれる楽し気なアトラクションならなおいい。

 

 

「…………インデックス」

 

「大丈夫だよ、とうま。これは魔術じゃない。…………完全に、何の含みもない幸運なんだよ!!!!」

 

 

 当然、二人の決断は一つだった。

 

 

「お姉さん! スク水ジャージのお姉さん!! 学生二人でお願いしますっっっ!!」

 

 

 この時、上条は忘れていた。

 幻想殺し(イマジンブレイカー)を持つ自分にありきたりな『幸運』などあり得ない、ということを。

 

 その事実を説明するには、少しだけ時計の針を巻き戻す必要がある──。

 

 

 

   二

 

「…………ふぅ。学園都市も意外とザル警備なんだな。昔は気付かなかったが」

 

 

 ──早朝。

 

 まだ学生たちが起きだしてもいない時間帯に、()()()()()()()()()()()()()()()の少女はいっそ呆れたような調子で呟く。

 左手には、何やら電子回路のような文様が刻まれた円盤が携えられており、その刻まれた文様の上を水が独りでに滑っていた。

 

 

「『世界地図』、ね……。歴オタが随分遠いところまで来たもんだ」

 

 

 右手に持ったパンフレットを一瞥すると、少女はジャージのポケットにそれを乱雑に仕舞い、前を向く。

 彼女の眼前には、歴史的な風格を感じさせる校門が聳え立っていた。

 

 蛇腹状の格子の向こうから見える石造りの学園風景は──『学園』風景というには少し異質だ。

 

 様々な学校の集合体である学園都市において、石造りであることは実はそこまで珍しくない。格式を重んじる常盤台中学などは、最新の建築技術を踏まえた上であえて煉瓦造りで建築されているくらいである。

 ゆえに異質な風景を形作っている要因は、石造りの学園風景にではなく──()()()()()()()()()()()にあった。

 『世界地図』、ヴェネツィア相当の水随方円学園。

 ヴェネツィアをはじめとした世界各地の水上都市に使われている建築技術を解析・再構築することにより、水上建築技術のさらなる向上を目的とした学園である。

 工芸関連の学校が集まる第九学区らしく、全体的な雰囲気は職人寄りではあるものの、そういった関係から流体力学にも特化しており、水流操作(ハイドロハンド)系統の能力開発にも力を入れていることで有名だった。

 

 とはいえ、円盤の上で水を操る彼女は、水流操作(ハイドロハンド)を持つ学生ではなく。

 もっと別の枠組み──魔術師と呼ばれるカテゴリの存在だった。

 円盤を手に持った少女は、学園都市の警備を当たり前のように素通りし、目的である水随方円学園へと移動しながらも、新たなる魔術を起動させる。

 

 

「水は」

 

 

 円盤の上を走る水が、まるで生き物のように動いていく。まるで電光掲示板のように、無数に入り組んだ回路のうち一部分だけを水で埋めて、望んだ文字を描き出しているのだ。

 そしてやがて、水は幾つかの文字となった。

 

 

「視線を歪め、そこにあるものを隠す」

 

 

 瞬時、蠢いていた水の文字が蒸発する。

 しかし少女はそれを全く気にせず、開放されている校門を通り抜け、中庭へと入っていく。

 

 神祓(このはら)海繰(みくり)はルーンの魔術師である。

 

 少女の姿とは裏腹に、その年齢は三〇。

 得意とするのは水。今より一五年前、弱冠一五歳にして魔術の力のみで海を切り拓き世界を踏破した、『全海既踏(フェルディナンド)』の異名を持つ女だった。

 そしてそんな彼女(まじゅつし)にとって『地球最後の未踏』が、この都市である。

 

 

「これでよし」

 

 

 オープンキャンパスの準備のため、朝早いうちから既に賑やかな学園には、当然ながら警備も存在するが、神祓は全く気にしなかった。

 それどころか、

 

 

「警備お疲れ様ーっす!」

 

 

 と、学園内詰め所で立つ無気力そうな警備の男に、気さく極まりない調子で声をかけた。

 部外者のわりにあまりに不用心極まりない様子だったが、男の方はと言えば、

 

 

「……………………」

 

 

 身分証明を確認するどころか、反応すらしない。

 あろうことか魔術師である少女の侵入をあっさりと許してしまう。

 彼女の着ているジャージやスクール水着が学園指定のものであるということを差し引いても、警備の人間としてはあり得ない暴挙だった。

 ──もっとも、今は彼女の魔術によって空気中の水分が操作され、彼女の周囲の光はもちろん音も遮断されているので、魔術を知らない人間にとっては気付けないのも仕方のないことだったが。

 

 

「……やーっぱザルだ。魔術の介在を考慮に入れてない。ま、それで当然なんだろうけどさ」

 

 

 地蔵と化した警備の男を尻目に詰め所を当たり前のように潜り抜けた後、神祓は呆れたように呟いた。ともあれ、これで神祓は第一関門を突破したことになる。

 神祓は頭の後ろで両手を組みながら、適当な調子で、

 

 

「さーって、こっからどーするかだなー。『太陽(ソル)』を基軸にした認識阻害じゃあ、潜入には限界がある。適度に学生としてお仕事をこなして、認識阻害以上の信頼を得ちまうのが一番の早道かね?」

 

 

 そして、神祓は学園内を見渡す。

 蜘蛛の巣のように水路が張り巡らされた中庭には、オープンキャンパス直前の慌ただしさが反映されているかのように雑多な小道具が転がっていた。作りかけの屋台、学園公認ゆるキャラの着ぐるみ、集客用の案内板、水路用の小型カヌー。そして、それらを使って準備を行う学生たち。

 オープンキャンパス直前の学園は誰も彼もが忙しなく、神祓のことなど誰も気に留めていないようだった。勝手に放置された道具を使って業務をやったところで、この分なら特に疑問を抱かれることもない。むしろラッキーとさえ思われかねない。

 その事実を確認した神祓は、静かに決心する。

 差し当たっては──

 

 

(案内板。……アレ使って客の誘導係をやるか。よーっし、客を呼び込みながらなら俺の動きも分かりづらくなるだろうし)

 

 

 水路が張り巡らされた中庭の隅。そこに立てかけてあった案内板を抱え上、神祓は行動を開始する。

 まずは、()()()()()()()()()()()()()()なんて思いながら。

 

 

   三

 

 そんなわけでスク水ジャージの少女こと神祓海繰に連れられて無料シャトルバスに乗り込んだ上条とインデックスは、己の隠された不幸には気付かずに上機嫌なのだった!!

 車内には神祓と上条・インデックスの他にも、街中で案内人に誘導されたと思しき学生達とスク水ジャージの案内人が何人もいた。おそらく彼女と同じように各所で学生達の誘導を行っているのだろう。

 ……スク水ジャージに案内板という組み合わせはどことなくコンパニオンのようでもあるが、狙っているのだろうか? と神祓は思う。

 

 

「ねぇねぇみくり! 水随方円学園ってどんなところなの!?」

 

「あーっと、その説明をするには、まず『世界地図』の話からしないとだな」

 

 

 ちなみに、見ての通り神祓は既にインデックスと打ち解けていた。初対面の人間とこうまで簡単に打ち解けられるのは、インデックスの才能である。

 対する神祓は講釈をするように、

 

 

「学園都市の中でも、第九学区ってのは元々職人芸の色が濃いところでな。『分かる人に分かればいい』って考えが主流だったわけだ。いや、今でも主流だが」

 

「ふんふん。私もその考えは分かるかも」

 

「だがな、それじゃー予算ってのは下りないんだと」

 

 

 神祓は何故か実感のこもった解説をする。

 

 

「それじゃー困るって思ったヤツがいるわけだ。お金がないとビジネスは成り立たないからな。だから、職人芸に分かりやすいブランドを付加することにしたのさ」

 

「それが『世界地図』か?」

 

「そのとーり」

 

 確認した上条に、神祓は我が意を得たりとばかりに頷いた。

 さらに続けて、

 

 

「参考にしたのは『学舎の園』。あそこは『お嬢様学校の集合体』だろ? 尖りすぎて単体じゃあ中堅どころがいいとこなコンセプトだが、複数集めることで共同経営の形をとることで全体の力を底上げしてる。それと同じように、『世界の都市計画を模倣した学園』って尖ったコンセプトの学園を複数集合させることで全体の力を底上げし、かつテーマパークのようにまとめ上げることでブランド化に成功したってわけだ」

 

「みくり、詳しいね」

 

「そりゃな。これでも一応通ってるわけだし」

 

 

 実際には通ってなどいないのだが、神祓はしれっと言い、

 

 

「んーっで、水随方円学園はその中でも『ヴェネツィア相当』。簡単に言えば、『学園化したヴェネツィア』だな」

 

「……学園化したヴェネツィア?」

 

「そ。ヴェネツィアを象徴する都市構造を模倣し、それを使って一つの学園の形に再構築してるってわけだ。もちろん実験的な試みだから、簡単に学園を組み替えられるように建物自体を特殊なブロックで建築してるとか、色々オプションもあるにはあるんだが……」

 

「う、う~……?」

 

 

 流石にそこまでいくと、科学に疎いインデックスには難しくなってくるらしい。

 なんだかんだで話にはついていけている上条と対照的にだんだん顔色が悪くなってきたインデックスに、神祓は苦笑する。

 

 

「ま、そーんな感じだな。これからお前らはヴェネツィアに行く。……シンプルに説明するなら、こんなとこかな?」

 

「ヴェネツィアなら行ったことあるぞ」

 

「そういうことを言ってんじゃねーよ!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

02 中編

   四

 

 そうこう言っているうちに、神祓達を乗せた無料シャトルバスはあっという間に学園へと到着した。

 他の学生と案内人たちが下りていくのに従ってバスから降りた神祓達は、そのまま校門に入ったあたりで立ち止まる。

 

 

「学内に入ったら、俺はお役御免だ。悪いが他にも学生客を呼び込まなくっちゃーならないんでね」

 

「そっか……。せっかく仲良くなれたのに残念かも」

 

「案内ありがとな、神祓。俺達は俺達で楽しんでるから」

 

 

 互いに言い合って、神祓と上条達は別れ別れになる。

 そしてそこから、神祓は行動を開始した。今の神祓は、多くの学生に学生を案内している姿を目撃されている。つまり、ごく普通の行動をとることにより『負の注目度』を得ている状態になる。

 そうして行動の自由を確保した神祓は、すぐさま前以て準備していた術式に魔力を通す──が。

 

 

「………………本当に」

 

 

 その行動は、背後からかけられたインデックスの声によって、一時中断せざるを得なかった。

 

 

「せっかく仲良くなれたのに、残念かも」

 

 

 振り返ると、そこには先ほどまでいた純真な少女などいなかった。

 そこにいるのは、あらゆる悪しき者に対抗するために(まじゅつ)を極めた組織必要悪の教会(ネセサリウス)の一員、禁書目録(インデックス)だった。

 

 

「お、前……?」

「Index-Librorum-Prohibitorumって言ったら、分かるかな」

 

 

 言われて、神祓は戦慄した。

 その名はつまり──禁書目録。

 言われてみれば、魔術業界の噂で禁書目録が学園都市にいるという話は聞いていた。

 此処が科学の街で、かつ魔力が全く感知できなかったので気付かなかったが……。

 

 インデックスは、徐に円盤を取り出した神祓を油断なく見据えつつ言う。

 

「あなた、魔術師だね。どういう目的か知らないけど、こんなところで魔術を使おうとしているなんてそれだけで見過ごせないんだよ」

「何やろうとしてんのか聞かずに殴りかかるようなことはしないけどさ」

 

 ザッ、と。

 その傍らに、ツンツン頭の少年が並び立つ。

 右手を構えた彼もまた、魔術師である神祓にとってはある種の有名人だった。

 

「まず、話は聞かせてもらおうか」

(『とうま』……上条当麻か────ッ!! クソったれ、俺は馬鹿か!? 『追跡封じ(ルートディスターブ)』と『告解の火曜(マルディグラ)』を叩き潰した野郎をここまで至近に寄せておいて、何故なんの脅威も感知できなかった!?)

 

 実際にはその無害さこそが上条当麻の真骨頂でもあるのだが──それを知らない神祓は歯噛みして、

 

「霧よ!!」

 

 問答無用でルーンを起動させ、上条とインデックスの間に分厚い霧の壁を展開する。

 当然ながら辺りは一気に白一色に包まれ、周囲の学生達は突然の霧に軽いパニック状態になる。

 当然ながら、一気に視界が隠れた上条も慌てたように右手を翳す。ただ、霧自体は魔術によるものではあるが、気体である関係上、右手では一気に殺しきれないようだった。

 

 

「くそっ!! なんだこれ!?」

 

「苦し紛れだね。このくらいの魔術、私には目くらましにもならないかも!!」

 

(だろーよ……!!)

 

 

 もちろん、神祓もインデックスの触れ込みくらいは聞き及んでいる。一〇万三〇〇〇冊の魔導書を脳内に収めた魔道図書館。彼女の前では、並大抵の魔術は無力化されてしまうだろう。

 だから神祓も、最初からこの魔術は破られるのが前提だと思っていた。

 

 

密度を変更(CTD)疎となり散開せよ(SAS)!」

 

 

 インデックスの強制詠唱(スキルインターセプト)が発動し、霧が一気に散らばり煙幕としての役を成さなくなる。

 しかし──開けた視界に飛び込んできたのは、無数の学生達が右往左往している光景だった。

 

 

「なっ!?」

 

「魔道図書館サマに魔術で挑むほど、俺は無鉄砲じゃねーぜ。人を隠すなら人の中……はちーっと違うか。だがまー、お前らの相手をしてる暇はねーんだ。さっさと退散して目的を果たさせてもらうぞ!!」

 

 

 言いながら、神祓は軽々と水路を飛び越え、上条とインデックスから離れていく。

 その動きに迷いはなく、完全に虚を突かれたインデックスは魔術でもなんでもない当たり前の逃走術の前に成す術もなかった。

 ──そう、インデックス、()

 

 

「そう簡単に、逃げられると思うなよ!!」

 

 

 逆に言えば、『平凡な高校生』である上条当麻はその限りではない。

 厄介事に巻き込まれがちなため夜通し走り回ることもザラにある上条は、持久走には自信がある。障害物にあふれた路地裏なんかも走る都合上、霧で立ち止まった人垣を抜けて追跡するくらいならば多少足は遅れるものの、不可能というほどではなかった。

 

 

「チッ……そう簡単に振り切らせてはもらえねーかよ!!」

 

 

 返す刃で水の槍を叩きつけるものの、それは上条の右手の一振りで消し飛ばされてしまう。

 これを見て、流石に神祓も目を丸くした。

 

 

「魔術を、打ち消しただと……!? 俺はまだ『脱色』してねーぞ!? 学園都市にはこんな能力を持つ学生までいるってのかよ!?」

 

「神祓!! お前いったい何しようとしてるんだ!? 答えろ!!」

 

「~~ッ、水よ!」

 

 

 瞬間、神祓の手の中の円盤上を、水が滑る。

 それに呼応して、網の目のように張り巡らされた水路から大蛇が首をもたげるように水流が持ち上がった。

 

 

「小舟となりて大海を渡れ!!」

 

 

 ドッ!! と。

 透明な水流が、何故か木製の小舟のような存在感を放って上条へと突撃する。反射的に右手で防ごうとした上条だったが、直後にそれが間違いだったと気付いた。

 

 

「──!! しまっ、下か!!」

 

 

 水流は上条の手前で下に向きを変え、ちょうど上条の足元を直撃するような軌道で地面に向かう。

 上条は寸でのところで跳躍し、なんとか水流の直撃を回避するが──それでも、地を這う水流に足を取られ、転びそうになる。

 急いで水に右手で触れて妨害を解除するが、神祓もそれを黙って見ているわけではなかった。

 

 さっ、と上条に何かの影が差す。

 

「お前のその能力……右手で発動しているわけか。地面に向けた直後に頭上からのもう一撃──今度は躱せるか!?」

 

 弾かれたように空を見上げると、ちょうど先ほどと同じように木製の小舟のような存在感を放つ水の塊が迫って来ていた。

 

(ルーン魔術の本質は『染色と脱色』! 耳で聞こえる詠唱なんて気分を切り替えるスイッチ程度の意味合いしかねー……。文字さえ用意しておけば、一度の詠唱で二度の発動くらいは訳ないってんだよ! 一度目を打ち消した直後の攻撃、防ぐ手立てはねー……!!)

 

 腕を振り下ろしながら、神祓は勝利を確信する。

 もちろん一撃で気絶させられるような威力ではないし、上条の右手の性質を考えれば途中で打ち消される可能性も高いだろう。

 だが、それでも確実に怯みはする。神祓の目的は上条の撃滅ではないのだ。隙さえ作れれば、そのまま逃げおおせて『目的』を果たすことができる。そうすれば神祓の『勝利』だ。

 

 だが。

 

 

「……ォ、おォォおおおおおおおおおおッッ!!!!」

 

 

 神祓の予想に反して、上条当麻を押し流すことはできなかった。

 右手以外は『平凡な学生』のはずの上条は、絶対に打ち消しきれない一撃を前に、()()()()()()()のだ。

 完全に想定外の一手に対して神祓の思考が空白に染められる。その間にも、一歩踏み出した上条の背後で大瀑布が巻き起こった。

 当然、上条はそれを受け止めることなどできない。しかしこの場合、逆にそれがよかった。水に流されるようにして押された上条は、その勢いを使って神祓へと接近する。

 

 

「なッ……こいつ、あの一瞬でこの手を!?」

 

 

 思わず戦慄する神祓だが、有効な一手はない。先ほどの上条と同じだ。一撃を加えた直後のタイミング、彼女はさらなる行動をとるだけの余裕がない──。

 

 ゴッ!! と、拳が肉を叩く音が響いた。

 上条の右拳を顔面に受けた神祓の身体が、勢いよく後ろに倒れていく。咄嗟に手を突いて受け身を取った神祓は、口端から血を流しながらも、瞳に強い意志を宿していた。

 

 

「話をする気がないってんなら、俺だって力づくで動くしかないぞ。それが嫌なら答えろ。神祓、お前はいったい何をしようとしてるんだ!?」

「…………、」

 

 魔術を殺す右手に加えて、咄嗟の局面で最善を掴み取る機転。

 圧倒的不利の中にあって、神祓が口をひらこうとした瞬間だった。

 

 ヴヴヴ、と。

 

 網目状に張り巡らされた水路から、何かの機械音が響きだしたのは。

 

 

「……? 神祓、何かマズイぞ!!」

 

 

 上条が咄嗟に神祓の手を引き上げたのは、殆ど予知にも似た彼の直感の賜物だろう。

 上条が神祓を引き上げた直後、彼女が先ほどまで倒れていたところを、何かの魚のような機械が通過したのだ。

 

 

「な、んだあれ……!?」

 

「……チッ、HsMS-12か!! やーっぱ面倒なことになりやがったな……!」

 

 

 動揺する上条とは裏腹に、魔術師のはずの神祓は切羽詰まった調子で呟くと、手に持った円盤を振るう。その表面を水が走り、高速で複数の文字を描いていく。

 

 

「水よ、小舟となりて大海を渡れ!」

 

 

 虚空から溢れ出すように現れた水が、機械の魚を一気に吹き飛ばした。

 ひとまずの小康状態を作った神祓は、そのまま数秒前までの敵の手を掴み、こう告げる。

 

 

「こうなっちまったらしょうがない。逃げるぞ上条。『理事長』のところまで!!」

 

 

 

   五

 

「おい神祓、いい加減説明してくれ!」

 

 あたりに水路のない区画。

 機械魚からやっとの思いで逃げた上条は、そこでようやく立ち止まって、改めて神祓を問い詰めていた。

 今度は、神祓も逃げるつもりはない。彼女は一度上条とぶつかってみて、彼の追撃を躱しながら目的を果たすことは不可能だと冷静に判断していた。

 このあたりは、少女時代に既に魔術で世界一周の偉業を成し遂げた『全海既踏(フェルディナンド)』たる神祓だからこそだろう。世界を一周するというのは、魔術の強さだけで成り立つほど甘い偉業ではないのだ。

 

 

「お前、いったい何をやろうとしているんだ!?」

 

「…………ま、ここまできたらしょーがないか」

 

 

 神祓は静かに笑って、

 

 

「俺の目的は一つ。()()()()()の阻害にある」

 

「……とある魔術の、阻害?」

 

「死者の蘇生だ」

 

「…………!!」

 

 

 その言葉に、上条は思わず息を呑んだ。

 

 死者の、蘇生。

 それは科学の発展した学園都市でも、そして御伽噺みたいな魔術サイドでも、未だ成し遂げられていない未踏の領域。

 もしもそんなことができるなら、それはもう神の領域にも等しいと、上条は思うが──。

 

 

「術者は、この学園の理事長。磯焼(いそやけ)愛離(あいり)。ヤツは死んだ父を生き返らせる為に術式の準備をしていやがるのさ」

 

 

 忌々し気に言う神祓だったが、上条はそれに言いようのない違和感を抱いていた。

 確かに死者蘇生というと、自然の摂理に逆らった所業のように聞こえる。だが、それは科学だって同じことだ。数十年前までは不治の病として『自然の摂理』だったものを、技術で『取り返しのつくもの』にしているのだから。

 それを考えれば、死者を生き返らせる術式だってそれだけで責められる謂れはないはずだが──。

 

 

「ねーと思ってんのか? 代償がよ。……死者の蘇生だぞ。そんなモン、プロの魔術師でもできやしねー。当然、相応のリスクがあるに決まってんだろ」

 

「…………!」

 

「等価交換ってヤツでね。ヤツの扱う術式は、人間一人を生き返らせるかわりに()()()()()()()()()()()()()()()()()。…………それも、無差別にな」

 

 

 つまり。

 神祓海繰が学園都市に潜入したそもそもの原因は──父を生き返らせる為に誰かを犠牲にしようとする磯焼の暴走を止めることにあった。

 その為に、彼女が理事長を務める学園に潜入し、暗躍していたのだ。

 

 

「…………分からないな」

 

 

 だが、その事実を聞いて尚、上条は釈然としない思いを抱えていた。

 

 

「お前が理不尽に他者の命を奪おうとしているこの学園の理事長を止めようとしてるってことは分かった。でも、お前の話は矛盾だらけだ。そもそもなんで、学園都市にある学園の理事長が魔術を使えるんだ? そしてなんで、お前がその事情を細かく把握できている? ……正直、今までの話が全部嘘だって方が信憑性があるぞ」

 

「やーっぱそうなるのが自然だわな」

 

 疑いの目を向けられた神祓だったが、スク水ジャージの少女はむしろそれが当然とばかりに笑っていた。

 あっけらかんと笑われて、逆に罪悪感に駆られてしまう上条を慰めるように、神祓は続ける。

 

 

「…………友達だったのさ」

 

 

 その一言には、確かな温かさがあった。

 

 

「こんなナリしてるがね。俺はちょーっと若作りしててな、実年齢は三〇だ」

 

「さんじゅっ!?」

 

 

 思わず声を上げながら、上条は目の前の『少女』を見てみる。

 …………青髪をポニーテールにした、スク水ジャージ。どこからどう見ても高校生くらいの少女である。

 いやまぁ、上条の担任には酒も煙草も嗜む幼女がいたりするので、そういう意味ではこのくらいは不思議ではないのだが。

 

 神祓は上条の動揺は軽く流し、

 

 

「当時の俺はまだガキでな。……ひょんなことから仲良くなったアイツの、力になってやりたかったんだと、思う。当時アイツの家にいた飼い犬(ペット)の怪我を、魔術で癒した」

 

 

 懐かしい記憶を呼び起こしているのだろう。優しい声色で、神祓はそう振り返る。

 当時から魔術師だった彼女は、一般人であっただろう磯焼の前で魔術を使った。そして磯焼は、それから長い年月を経て──。

 

 

「…………だから、捻じ曲がった。いや、俺が、捻じ曲げてしまった。大切な肉親の死を受け入れられなかったアイツは、あの時俺が見せた魔術を思い出したんだろう。そして、誰かを犠牲にする決断をしちまった」

 

 

 神祓は、静かに拳を握る。

 その表情からは静かな怒りが伺えるが──彼女は礒焼に怒っているのではない、と上条には分かった。神祓が怒っているのは、おそらく、彼女が決定的に歪む原因となった、幼き日の己の善意だ。

 相手の為になるからと、その後に及ぶ責任について考えもしなかった、無邪気な愚昧(やさし)さだ。

 

 

「…………神祓、お前……」

 

「最初に言っておくが、お前の力は使わせんぞ。これは俺の問題だ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 神祓は、襲い掛かったときよりもずっと獰猛な表情で上条に言う。

 

 無責任な優しさによって生み出されてしまった歪な幻想を、殺す。神祓はその為に学園都市に来たのだった。

 その静かな覚悟に、上条は何も言えなかった。

 こんな悲しい友情に対して、上条がかけられる言葉なんて何もなかった。

 

 

「……だからできるなら、お前は此処で帰ってくれ。これは俺の問題だから。俺が、決着をつけるべき過ちだから」

 

「………………それは、できない」

 

 

 それでも。

 ただの高校生である上条の出る幕なんかないと分かっていても、その事実を認識したうえで、上条は明確に拒否の言葉を返した。

 

 

「一応、理由は聞いておくが」

 

「失敗を取り戻したいってんなら、俺にも失点はあるからな」

 

 

 上条は握った拳に視線を落とし、そして少し口をつぐんだ。

 どこか遠くから、賑やかさとは異なる喧噪が聞こえてくる。

 

 

「……俺とお前の戦闘で、学園は軽いパニックになっている。さっきの機械の魚……この学園の警備が動いたのも要因の一つだろう。もとはと言えば、俺達が勘違いでお前の前に立ち塞がったのが原因だからな」

 

 

 実際には、立ち塞がった上条達に事情を説明しなかった神祓の落ち度でもあるわけだが──神祓はあえてそこには触れなかった。

 それが上条の方便であることを見抜いていたからだ。

 

 道を踏み外した友人を正すという、悲しい決意。その決心によって、神祓の精神が削れていることを、上条は無意識に見抜いていた。

 だってそうだろう。完全に冷静な人間だったら、そもそもインデックスと上条に魔術の使用が露見した時点で二人を味方につけようと考える。神祓はこの街を守るために動いているのだから、二人の助力をとりつけることは容易のはずだ。

 にも拘らず、神祓は上条達と敵対する勢いでその場から逃げ出した。

 

 それは、彼女が『自分の手で事件を解決したい』という拘りの為に合理性を投げ捨てたからだ。

 そしてそこで合理性を投げ捨ててしまう──そんな『魔術師』の危うい精神性を、上条は見過ごすことができなかった。

 

 

「…………損な性分だね、お前も」

 

 

 神祓は意味が通じないであろうことを承知で呟き、

 

 

「分かった、上条。改めて頼む。──俺と一緒に、道を踏み外した友達を引っ張り上げてくれ」

 

 言って、神祓は円盤を持っていない右手を上条に差し出す。

 

 上条の答えは、当然決まっていた。




神祓の証言は適度に疑ってくださいませ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

03 後編

   六

 

 だが手を組むとして、目下例の機械魚が二人の行く手を阻む。

 張り巡らされた水路から前触れもなく現れる機械魚は神祓にとっても厄介だし、右手の通じない当たり前の科学は上条にとっては天敵ですらあった。

 

 

「そういえばさっき例の機械魚を見たとき、何か知ってる風だったけどさ。アレっていったい何なんだ?」

 

 

 敵の探査網に引っかからないよう、水路をなるべく避けながら進みつつ。

 上条は、神祓にそんなことを問いかけていた。

 科学サイドの上条が魔術師である神祓に科学の話を聞くなどおかしな話だが、神祓が何か知っているようなそぶりを見せるのだから仕方がない。

 

 神祓の方も特に気にはせず、

 

 

「簡単に言えば、愛離のオモチャだな」

 

「オモチャ……」

 

「愛離自身の発明品じゃーない。アイツの専門は歴史だからな。アレはこの学園のコンセプトに合う防衛機構ってとこだ」

 

 

 神祓は油断なく周囲を見渡しながら、上条を引き連れて進んでいく。

 流石にいつまでも水路のない場所を通るということはできず、そのうちに何本かの水路のある場所に合流するが、これは仕方がない。躊躇していても仕方がないので、二人はそのまま先を急ぐ。

 

 

「サメやマグロが、泳ぎ続けないと死んじまうってーのは聞いたことあるよな?」

 

「あん? そりゃまあ。それがどうした?」

 

「あの機械は、その生態──ラムジュート換水呼吸法を参考にしてるってわけさ」

 

 

 魔術師の口から、科学にあふれた言葉が飛び出した。

 ラムジュート換水法とは、簡単に言えば『口に入れた水を使ってエラに酸素を送り込む』エラ呼吸である。

 イメージとしては、移動式の水車だろうか。通常の水車は川の流れによって羽を回しているが、この場合は水車自身が移動することで『流れ』を作り出し羽を回しているというわけである。

 卵が先か鶏が先かという不思議な逆転だが、確かに『小型である必要があり、発電機構を十分備えられない』という環境ではそうした奇妙な機構が必要になるのかもしれない。

 

 

「おーっと、俺もよくは理解してないから詳しい話はアイツに聞いてくれよ? だがな……泳ぐことで内部の発電機構を動かし、細い水路の中でも縦横無尽に動き回ることができる……らしーぜ」

 

「…………神祓、科学サイドの情報にも随分詳しいよな」

 

「当たり前だろ。文通してんだよ、未だに。じゃなきゃ魔術使おうとしてるなんて気付けるかよ」

 

 

 怪訝な表情を浮かべる上条に、神祓は呆れたように肯定を返す。確かに、言われてみればその通りだった。

 

 

「ま、防衛情報についちゃー情報を察知した後に俺が独自に調べたモンだがな。多分、アイツ自身はまだ俺のことを友達だと思ってくれているんじゃないか。…………いや、侵入のことがバレた時点で、だな」

 

「……神祓……」

 

 

 上条は思わず『辛いようなら代わりに俺が』と言いそうになったが、先ほどのやりとりを思い出して呑み込んだ。

 辛い想いも受け入れて、それでも友人の幻想を殺そうとしているのだ。その意思を蔑ろにするようなことは、上条には言えなかった。

 

 

「…………上条、気をつけろ。来てるぞ」

 

 

 と。

 そんなふうに上条がなんとも言えない気分になっていると、神祓がそんなことを呼びかけた。

 その瞬間だった。

 

 

 ドッッッ!!!! と、複数の水路から小さな機械の魚が飛び出してきたのは。

 

 

「水よ!!」

 

 

 その一撃自体は、神祓が生み出した水の一撃によって無事に防がれたのだが──サメにとっては、神祓の生み出した水すらも移動手段の一つらしい。

 破壊することは叶わず、むしろ神祓の生み出した水を経由して元の水路へと戻っていってしまう。

 しかし神祓はその結果すら想定済みなのか、間髪入れずに上条へ忠告する。

 

 

「そいつらの名前はHsMS-12──『マグナムシャーク』! たとえどんなに細い水路でも問題なく移動できる機動性だけじゃねー……体内の水車型発電機構に対応して動く『回転鋸刃』も厄介だ! 上条、お前の右手くらいなら手首から永遠にオサラバだぞ!」

 

「っっっ、クソったれ!!」

 

 

 悪態を吐きながら飛びのいた次の瞬間、上条が先ほどまでいた場所を機械の鮫が高速で通過していく。

 間一髪だったが、上条の勘の良さが功を奏した。一緒にいる神祓の方も、先ほどと同じように水を使ってガードできている。

 しかし──それはそれとして、さらなる問題が表出していた。

 

 

「くそっ、アイツどこ行った!?」

 

 

 それがこれだった。

 すばしっこい上に、周辺には無数の水路。そのせいで『マグナムシャーク』がどこに行ったのかが掴みづらく、延々と奇襲に対応しなくてはならない環境が出来上がってしまっているのだ。

 そしておそらく、この学園を作った者はそうやって襲撃者を削り殺す設計をしている。

 

 

「チッ……面倒な設計してくれやがってあの歴オタ!! これがヴェネツィアを分解再構築した『最適化された水上都市の構造』だってのかよ!?」

 

 

 『マグナムシャーク』の攻撃は既に神祓の方にも及んでおり、彼女は水を操って『マグナムシャーク』の通り道を作り出し、なんとか攻撃を逃がしているような状態だった。

 それも、いつまでも続く均衡ではないだろう。このまま新たな『マグナムシャーク』が投入されれば、いかに神祓でもじり貧だ。

 つまりその前に、今いる『マグナムシャーク』を無力化させて此処から離脱しなくてはならない。

 

 

(チッ……面倒なことになったな。俺の魔術じゃあ早晩じり貧だ。一応()()()()()()()()()()()()()()、こうなった以上アレはなるべく温存しておきてーし……)

 

 

 とはいえ、現状、神祓の手持ちの術式に『マグナムシャーク』をどうにかできるものはない。

 神祓の魔術は手に持った円盤にルーン文字を作ることでいつでもどこでも均一の術式を発動することを目的としたものだが、反面、既に用意した手札以上のものは作りづらいという欠点がある。

 霧の壁や空気中の水分を利用した透明化もあるが、これは上条の右手の干渉を受ける為使いづらい。他のものも、調査した『マグナムシャーク』のスペックを上回るようなことはできない。

 そもそも、神祓の本領は誰かの治療であって、攻撃的な用法は向いていないのである。

 

 

(……いっそ上条を此処で捨てて、俺だけ先に行くか? それもアリだが……しかし…………)

 

 

 そんなことをすれば、おそらく上条はここで『マグナムシャーク』にすり潰される。

 確かに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……だからといって、彼女は無辜の少年を危険に晒すような選択を良しとはできなかった。

 

 と。

 

 そんな風に考え事をしていたからだろうか。

 突如飛び出してきた『マグナムシャーク』に対し、神祓は咄嗟の対処が遅れてしまう。

 

 

「……!! 馬鹿か! 俺は!! 水よ!」

 

 

 寸でのところで水の発現には間に合ったものの──先ほどまでのように『マグナムシャーク』を()()()ような発現はできず、空中に浮かんだ水塊の中を『マグナムシャーク』は悠々と泳いでいる。

 そしてそれはつまり、旋回ができるということだ。

 

 

(まず……ッ!!)

 

 

 これまでの神祓の防御は、水を使って『マグナムシャーク』の攻撃に逃げ道を作ることを旨としていた。

 しかし、『マグナムシャーク』が悠々と泳げる──即ち方向転換ができるような水塊を出してしまえば、どうなるか。

 水路から飛び出して攻撃するのと同じように、『マグナムシャーク』は水塊から飛び出して神祓を攻撃できる。そして至近距離の為、今度はそれを防御することはできない。

 水を解除しようにも、『脱色』が解除シークエンスに必須となるルーン魔術では、咄嗟に水を消すことができない。

 神祓が覚悟を決めた、その瞬間。

 

 

「これだ!!」

 

 

 上条の右手が、水塊に触れた。

 バギン!! と何かが割れるような音と同時に、水塊が嘘のように消え去る。

 そしてその中を泳いでいた『マグナムシャーク』も、そのまま地面に落ちた。陸に上がった機械魚が動く様子は、ない。

 

 

「やっぱりだ……。軽量化の為にバッテリーを殆ど積んでいないから、一度でも陸に揚げれば止まるってわけだな」

 

「……その右手か」

 

 

 『マグナムシャーク』は、どんなに細い水路でも通り抜けられるよう小型化された機械だ。

 それゆえバッテリー類を積んでおらず、その問題を解決する為に移動の際に発生する水流で発電を行っていた。

 ということは、水流を消してしまえば発電はできず、バッテリーのない『マグナムシャーク』は一度でも発電が途切れれば一瞬で動作停止に陥るわけだ。

 

 もちろん神祓も水流消失による無力化は狙っていたものの、根本的に彼女は魔術師である。

 魔術というのは決められた手順を踏んで終了させないと術者にしっぺ返しが来るというのが大半であり、そういったものもまとめて殺すとはいえ、上条の右手に解決策を求めるという発想はないのであった。

 

 

「追手は……まだ来てないみたいだな」

 

 

 神祓は周囲の様子を注意深く確認したあと、そう言って胸を撫で下ろす。

 さらに上条に向かって神妙な面持ちで、

 

 

「今のは助かった。ありがとう」

 

「礼なんてやめろよ。一緒に戦ってるんだし」

 

「いーっや。今回は厳しかったからな。これは俺の問題だ。だから付き合わせてるお前なしに解決できなくなってる時点で俺としちゃー片手落ちなんだよ」

 

「バーカ」

 

 

 真面目腐った調子で言う神祓に、上条は軽い口調で返した。

 

 

「んなもん、気にしてんじゃねぇよ。俺だって無条件になんでもかんでも手助けする聖人なんかじゃない。俺が助けたいって思ったのは、お前の目的をちゃんと聞けたからだ。……俺の協力を勝ち取ったのはお前なんだ。そこに引け目を感じる必要なんかないだろ」

 

 

 言って、上条は右拳を握りしめる。

 あらゆる幻想を殺す右手だが、今回は彼女の幻想を守りたいと思ったからこそ、この拳を握った。

 そういう戦いだってあると、上条は思うのだ。

 

 

「…………そーかい」

 

 

 きっと、今の上条の言葉は神祓の懸念を晴らすのに最適な言葉だっただろう。

 にも拘らず、神祓はどこか沈んだ調子だった。

 

 

   七

 

 学園都市の科学兵器の最大の弱点は、理の外からの防備が皆無に等しい点にある。

 たとえば、核ミサイルの直撃にも耐える超巨大兵器があったとして、『前進したら弱くなる』というルールを強制されればただ進むだけで自重に耐え切れず崩壊してしまう。

 それと同じように、学園都市製の兵器はまともに強みを発揮できれば魔術師さえ当たり前に倒せる反面、強みを発揮できなければ呆気なく機能不全に追い込まれる。

 たとえば──

 

 

「来たぞ上条! 水を消すのは頼む!」

 

「おう! 任せとけ!!」

 

 

 『マグナムシャーク』の欠点。

 水がなくなれば迅速に機能停止するという部分を突かれれば、こうも簡単にセキュリティは無力となってしまう。

 

 

「随分進んだな……。そろそろ理事長室なんじゃないか?」

 

 

 『マグナムシャーク』をあらかた無力化させた神祓達は、そのまま学園を進み、校舎を分け入り──そして理事長室近くまでやって来ていた。

 校舎内奥まで進んでも、やはり防衛網の要である水路はある。その為何度も襲撃はあったが、そのたびに二人は襲撃を切り抜けられていた。

 結局、騒動のあとにすぐ襲撃が発生してしまったため、インデックスとの合流は敵わなかったが──

 

 

「……時間がない。ヤツが術式の起動を始める前に、全部終わらせるぞ」

 

 

 言って、神祓は理事長室の扉を開ける。

 その中にいたのは──

 

 

「…………海繰」

 

 

 一人の女性だった。

 艶やかな黒髪をサイドテールにした、『バリバリ仕事ができます』という感じのキャリアウーマン然とした女性だ。

 手には海繰と同じような円盤を持って、理事長室の執務机に腰かけていた。

 

 

「よく来たじゃない。こんなに大騒ぎされるのは想定外だったけど……」

 

「俺としても、ここまで大事にするつもりじゃあなかったんだがな。ちょーっとイレギュラーがあって」

 

「そっちのコ?」

 

「そんなとこだ」

 

 

 言いながらも、二人は油断なく互いの間合いを測っていた。

 眼光も鋭く、久方ぶりの邂逅で旧交を温めるような姿はない。その様子を見て、上条は我慢の限界を迎えた。

 

 

「なんでだ!!」

 

 

 魔術サイドと科学サイド。

 いがみ合いを続ける二つの勢力にそれぞれ身を浸していながら、磯焼も神祓も根本的に互いのことを敵視などしていない。むしろ、つい最近まで連絡のやり取りをしていたくらいだ。

 今まで二つの勢力のいがみ合いを見てきた上条は、そんな二人の関係がどれほど尊いものなのか知っている。にも拘らず……、

 

 

「なんでだ……なんで魔術なんかに手を出した!? 確かに、テメェの親父さんの件は残念だ!! それを受け止める心構えなんか、俺には口出しできないモンなのかもしれない。…………でもな、」

 

「上条」

 

 

 上条がそこまで言ったところで、神祓がそれ以上の言葉を制止する。

 そこで、上条も気づいた。────目の前の女性が、何故だかとても当惑していることに。

 

 

「……貴方も、そう言うのね。海繰も言っていたわ。死者蘇生なんて、そんなものはこの世の摂理に反するって。終わった命を再び始まらせるのは、間違ったことだって」

 

 

 その当惑の別名は、怒り。

 

 

「だったらなんであの時、リューを助けたのよ!? 車に轢かれて、事故で死ぬしかなかったあのコは、自然の摂理に従うなら死ぬべきだったっ!!!! それを助けて、そんな奇跡を見せておいて…………なんでお父さんは助けてくれないのっ!?!?!?」

 

「………………、」

 

 

 磯焼の激情に、神祓は何も言わなかった。

 その一連のやり取りを聞いて、上条は悟った。この女性は……全てを知っているわけではない。

 魔術を使って父を生き返らせようとしているのは、確かにそうだ。だが、この女性は自らの術式のリスクを分かっていない。誰かを生き返らせる代わりに誰かが死ぬなんて想像もしていない。

 だから、危険な術式をそれでも使おうとしているのだ。

 

 

「死ぬからだよ」

 

 

 神祓は、刃を突き立てるように静かに言った。

 磯焼の呼吸が、死ぬ。

 

 

「死者蘇生。異界へ旅立った魂を現世に引きずり戻し、傷をいやし、生命力を補充し、生命のスイッチを入れ直す。……そんなの、並の魔術でできるモンじゃない。そんな大魔術を個人の力で成し遂げるには、相応のリスクが要る。兵器を買うのにだって相応の金が要るだろ? そういうことだよ」

 

「そ、んな、それって……」

 

「ああ。お前のお父さんを生き返らせるには、代わりに誰かの命が必要になる。……お前を人殺しにはできない。だから、止めに来た」

 

「…………、」

 

 

 神祓にそう言われても尚、磯焼は手に持った円盤を手放すことはできていないようだった。

 だからこそ、神祓はこうして学園に侵入したのだろう。

 手紙や電話この事実を伝えても、磯焼の決意を覆すことはできない。だから、学園に侵入して磯焼の選択肢を狭めた上で、『諦めるしかない』土壌を作りたかったのだ。

 

 だって、今なら退けるから。

 磯焼が今まで魔術を使おうとしていたのは、リスクを正しく認識できなかったから。たとえこれから発動する魔術が誰かのことを犠牲にしてしまうものだったとしても、知らなかったのだから仕方がない。

 そしてこうして戦力を奪われた上で事実を突きつけられれば、諦めるしかない。磯焼は危うく誰かを犠牲にしてしまうところだったが、友人のお陰で全てを知り思いとどまった『ただの善人』で済むことができる。

 

 すべてはその為。

 磯焼に、『誰かを犠牲にしてでも父を蘇らせる』という決心すらもさせない為に。

 大切な友人の心に、少しでも傷を残さない為に、神祓は動いていたのだった。

 

 

「私、は…………」

 

 

 観念したのだろう。

 磯焼の手から、円盤が滑り落ちる。カラン、と乾いた音を立てて、魔はその手から零れ落ちた。

 

 上条の口元にも、笑みが少しだけ滲んでいた。

 安堵もあるが──それ以上に、神祓に対する尊敬の念が大きい。

 友人を止めるどころか、悪人にしない為に、ここまで本気で戦える。それは、その用意周到さは、ただの高校生である上条にはどう足掻いてもできない領域だ。

 大切なものを守る為ならなんでもするその姿勢は、彼のよく知る赤毛の魔術師にも通ずるものがあった。

 その力が、上条の力なんかろくに借りずとも、事件を終結に導いた。

 

 ──導いた、はずだった。

 

 

 ゴアッッッ!!!! と。

 

 理事長室にも張り巡らされた水路から、一匹の機械魚が飛び出す。

 

 上条がそれを回避することができたのは、殆ど偶然だっただろう。たまたま機械魚が飛び出した場所が遠く、上条が反応できるだけの余地があっただけ。

 一歩間違えば、確実にわき腹をえぐられて戦闘不能になっていたことだろう。

 

 

「なっ……!? どういうこと!? 防衛機能はもう動いていないはず……! 暴走したとでもいうの!?」

 

「チッ……! 上条無事か!?」

 

「なんとか! クソったれ……せっかく丸く収まったってのに今更こんなのでゲームオーバーなんて認められるかよ!!」

 

 

 音からして理事長室にいる『マグナムシャーク』は五機。一体ずつ襲ってきてくれるならいくらでも対処できるが、暴走状態とはいえそう甘くはないだろう。

 どうにか同時攻撃を防ぐ必要があるのだが──

 

 

「……くそっ!!」

 

 

 策なし。とにかく攻撃を躱そうと、上条が身を低くした、次の瞬間だった。

 

 

「──動作を修正(CTB)内部での旋回を停止せよ(SRMITA)!」

 

 

 声と共に、一気に全ての機体の動きが停止する。

 まるで死んだ魚がそうなるように、全ての『マグナムシャーク』が腹を上にして浮かび上がる。

 

 

「……はぁ、はぁ。やっと追いついた。とうま達、さっさと先に行きすぎなんだよ!」

 

 

 振り返ると──そこには、白の修道女インデックスがいた。

 思わぬ援軍に、上条はつい顔を綻ばせる。

 

 

「助かったよインデックス! 危ないところだった。お前がいなきゃどうなってたか……」

 

「それより、とうま」

 

 

 インデックスは。

 全ての脅威を取り払ったはずの少女は、にも関わらず全く警戒を解かずに上条に呼び掛けていた。

 その言葉を聞いて、上条は疑問に思う。何故彼女はこうまで慌てているのだろうか? 今まさに、『マグナムシャーク』はインデックスの強制詠唱(スペルインターセプト)によって無力化されたはずなのに――、

 

 

「……ん?」

 

 

 『()()()()()()()()()

 科学サイドの技術によってつくられた兵器が、魔術の操作を奪う技術によって、無力化された?

 

 

「今すぐ、みくりの傍から離れて────!!!!」

 

 

 極大の違和感に気付いたその瞬間。

 上条の身体は、くの字に折れ曲がってノーバウンドで数メートル吹っ飛んだ。




完結編につづく。(後編とは)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

04 完結編

   八

 

 ただ、笑っていてほしかった。

 

 魔術を極める旅路の中で、たまたま出会った同年代の少女。

 少し滞在していただけだったが、よく笑う、笑顔が魅力的な彼女に、多分一目惚れしてしまったのだと思う。

 

 だから、初めて彼女が涙を見せた時、当惑した。

 聞けば、飼い犬のリューが車に轢かれたのだと言う。確かに、見てみると血まみれの小型犬は今にも息を引き取りそうなほど弱弱しい呼吸だった。

 初めての経験だった。

 大粒の涙を零し、リュー、リューとうわ言のように言う彼女を見たとき、己に課した魔法名すら投げ捨てたくなるほどの激情が、彼女の心を押し流した。

 そして、面倒なことになるからと隠していた魔術を、何の躊躇もなく行使した。

 

 

「水よ。万の生命の源たる、慈悲深き聖母の象徴よ」

《WTSOOLOMTSOAL》

 

 

 それは、己の奥義。

 文字を形作り、蒸発した水達を媒介にした簡易儀式魔術。

 広がり散らばった水の粒子をかき集め、包み込んだ負傷の一切を治療する完全自動再生魔術。

 

 

「それは世界に遍く在り、それは世界に偏に在る。ゆえにそれは我が意思を映す鏡であるとともに、光をたたえた器となる。目覚めよ、癒せよ。主を慕い香油を携えた、罪深き女よ!」

《IIUITWAITBITWTIIAMTRMWAACTSLWUAHASWWPTLACB》

 

 

 亜使徒級とも呼ばれるその術式の名は──

 

 

「『罪深き香油の聖女(マリアマグダレーナ)』!!」

 

 

 そしてそれが、彼女──神祓海繰の最大の過ちだった。

 

 何のことはない。

 十数年の時を経て、幼き日の過ちを清算するときが来たのだ。

 

 

   九

 

「────なんでだ!!」

 

 

 蹴り飛ばされ、転がり、起き上がった上条が最初に吐き出した言葉は、それだった。

 激情を隠そうともせず、上条は下手人──神祓海繰のことをにらみつけていた。

 そして、当の神祓は特に悪びれる様子もなく、

 

 

「……だーって。邪魔だったからよ」

 

 

 と、そう言った。

 その表情には、後ろ暗い色はない。完全に覚悟を決めた人間の顔だった。

 

 

「あ、の、海繰……」

 

「愛離は、安心して眠っていてくれ。起きた頃には、()()が元通りだ」

 

 

 神祓の身体から、白い靄のようなものが出たかと思うと、その靄は磯焼の口と鼻を覆う。磯焼が何か言う間もなく、彼女の身体はそのまま執務机の上に倒れ伏した。

 

 

「……これでもう、後には退けない。俺は、愛離に手を上げた。魔術で害した。……その場で腹を切るのが筋ってレベルの大罪だぜ、これは」

 

「……んなことを聞きたいんじゃねぇ。なんで、今更こんなことをした!? お前の親友だって父親の蘇生を諦めて、真っ当な道へ戻ったんだろ!? ならこれ以上盤面を乱すようなことをする意味がねぇじゃねぇか!! 此処から一体、何をしようってんだ!?」

「違うよ、とうま」

 

 

 激情に駆られる上条の横で、インデックスはあくまで冷静だった。

 冷静に、今回の『茶番』の全てを見通していた。そして、言う。

 

 

「……そもそも、みくりの友達は、魔術なんて発動してなかったんだ」

 

 

 全ての前提が覆るような、隠された真実を。

 

 

「……は?」

 

 

 これには上条も、思わず耳を疑った。

 だってそうだろう。そもそも今回の事件は、魔術に詳しくない磯焼が術式を起動させようと計画したことにある。魔術に詳しくないがゆえに磯焼は『死者の蘇生と引き換えに誰かの命が失われる』術式を起動しようとしてしまい、友人を『誰かの命を奪った悪人』にしたくなかった神祓が、術式の発動そのものを阻止しようとしていた──それが事件の全貌だったはずだ。

 だからこそ、全てが解決したこの状態で神祓が動く理由などないというのに──

 

 

「とうま、おかしいとは思わなかったの? プロの魔術師でも難しいような死者蘇生の術式を、リスクがあるとはいえ()()()()()()()()ズブの素人が発動できると思う?」

 

「………………ま、さか」

 

 

 それは。

 その言葉が、意味することは。

 

 上条は知っている。

 

 かつて誰かを癒す魔術を目撃した一般人が、理論なんて分からずに、それでも誰かを救いたくて魔術に縋って、それでも何にもならなかった──そんな光景を。

 

 

「………………術式なんて、欠片も出来上がってなかったんだよ。魔術的記号も何もない。魔力さえ練られていない。ただ見た目の形だけそれっぽく整えたアクセサリを持っていただけ。みくりの友達は、放っておいても誰も傷つけることなんてなかったんだよ」

 

「ま、待てよ!? それじゃあそもそも論が通らない! だってそうだろ!? 誰かを傷つけることがないなら、何も問題ないじゃないか! 神祓がわざわざこうやって学園都市に侵入する必要だって──」

 

「本当に、ないと思うか?」

 

 

 その少女は。

 いや、少女の姿をした魔術師は、両目から静かに血を流しながら、今にも唾を吐き捨てそうなほど忌々しい口調で呟いた。

 

 

「あるだろうが。この、俺が! ガキの頃に見せてしまった偽りの希望に縋って……お父さんを救う為に頑張って、それでも何の意味がなかったなんて! そんな残酷な絶望を愛離に背負わせることが!! 許されるとでも思っているのか!?!?」

 

 

 血の涙を散らしながら、神祓は叫ぶ。

 

 

「俺のせいだ。俺が招いた絶望なんだ。だったら、俺が帳尻を合わせるしかない! これは、俺の問題なんだ!! 俺が拭い去ってやらなきゃならない絶望なんだっっ!!」

 

「……だったら、どうする気だよ」

 

「犠牲は、俺がなればいい」

 

 

 神祓の答えはシンプルだった。

 

 

「お前に話した術式のリスクは本物だよ。何せ、()()()()()()()()()()()()。魔術理論も分からずに真似だけした愛離のそれとは違う。プロの魔術師が考えに考え抜いて、ようやく一人の犠牲と引き換えに誰かを生き返らせることができる、そんな夢の術式だ」

 

「そんなの、意味ねぇだろうが!! 磯焼の親父さんが生き返ったところで、アイツが喜ばねぇことくらい考えなくても分かるだろ!!!!」

 

「意味ならある」

 

 

 上条は叫ぶが、それでも神祓はブレなかった。

 神祓はただ真っ黒な意思を瞳にたたえて、続ける。

 

 

「今回のことで確信した。俺という存在は──愛離の害にしかならない。魔術なんてものを便利に使う存在が身近にいたから、愛離はズレかけた。これ以上は許容範囲外だ。だから俺が死に、愛離の父さんが生きることで、アイツを魔術から完全に切り離す。俺を失ったことで愛離は悲しむだろうが、その悲しみが、彼女の人生をまともな方向へ立て直してくれる。『魔術なんて外道に頼れば幸せを失う』という教訓を与えてくれる」

 

 

 左手に円盤を構えて、神祓は真っ直ぐに上条を見据えてこう言った。

 

 

「俺が死ぬことが、愛離の為になるんだよ」

 

 

 直後。

 

 ドッ!!!! と、転がっていた『マグナムシャーク』が独りでに動き出す。

 おそらく──内部にルーン魔術による水を滞留させているのだろう。水流によって発電するというのなら、内部で水を動かせば水中にいなくても無限に稼働させられるということ。

 さらに運動系も水流で操作することで、挙動すらも掌握できるということなのだろう。

 思えば、神祓は『マグナムシャーク』について、魔術サイドの人間としてはあり得ないくらい詳しい知識を持っていた。こうした操作の為に前以て準備をしていたといったところか。

 

 上条はそれをなんとか回避し、インデックスが強制詠唱(スキルインターセプト)によって動作を掌握する。

 しかし、操作を掌握してもすぐに術式が途切れてしまい、逆用には至らない。お陰でインデックスは『マグナムシャーク』の処置の為にかかりきりになってしまう。

 

 

「……ふざけんじゃねぇ」

 

 

 上条は、怒っていた。

 

 

「なんでだ。なんでテメェは、そこで自分を投げ出しちまうんだ!!!!」

 

 

 親友の心を傷つけない為に、徹底してきた神祓。

 その手管について、上条は本気で尊敬していたのだ。大切なもののためにここまで完璧に動けるそのプロ意識は、それほどまでに誰かを大切に想う気持ちは、ただの高校生である上条当麻にはまだないものだから。

 その美意識は、白いシスターの為ならあらゆる苦痛を背負う覚悟を持つ、あの赤髪の魔術師のようですらあったというのに。

 だから上条は、一人の人間として目の前のヒーローを尊敬していた、のに。

 

 最後の最後で、神祓は踏み外した。

 最高のハッピーエンドを掴もうとしていたはずなのに、自分が死ぬことで解決なんて最低のバッドエンドに流れた。

 上条は、それが許せなかった。

 

 

「水よ」

《W》

 

 

 言葉と共に。

 神祓の周囲に、少しずつ白い靄のようなものが集まっていく。

 それは、魔術によって生み出されたものではない。彼女が今までこの街で使用して、『脱色』として蒸発していった、普通の水。それが徐々に、彼女のもとに集まっているのだった。

 

 

「万の生命の源たる、慈悲深き聖母の象徴よ」

《TSOOLOMTSOAL》

 

 

 魔術の中でも、治療というのはかなりの高等技術にあたる。

 攻撃魔術にも炎や氷など様々な種類があるのと同じように、治療魔術にも『火傷に対する治療術式』や『凍傷に対する治療術式』のように、治療分野が限定されている。

 だからこそ、全てを治療できる術式というのはそれこそ一〇万三〇〇〇冊の叡智がなければ、専門の分野の魔術師以外には実現できない。

 

 

「それは世界に遍く在り、それは世界に偏に在る。ゆえにそれは我が意思を映す鏡であるとともに、光をたたえた器となる。目覚めよ、癒せよ。主を慕い香油を携えた、罪深き女よ!」

《IIUITWAITBITWTIIAMTRMWAACTSLWUAHASWWPTLACB》

 

 

 そう、専門の分野の魔術師以外には。

 

 

「出でよ、罪深き香油の聖女(マリアマグダレーナ)!!」

 

 

 神祓の背後に、霧で形作られた聖女の像が浮かび上がる。

 聖女の像がまるで羽衣のように神祓の身体の上に覆いかぶさると、神祓の両眼から流れていた血の涙は嘘のように消えていった。

 

 

「これは……!」

 

「さーって。ここからは止まらねーぞ、上条当麻」

 

 

 羽衣を纏った神祓は、そう言って拳を構える。

 先ほどは上条が反応もできなかった身体能力。それを、本気で構えながら、彼女は叫ぶ。

 迷いを振り切るように──己の真の名を。

 

 

「『癒しの雨は万人に降り注ぐ(pluvia410)』!!!!」

 

 

   一〇

 

 

 上条は、異能を殺せる右手以外は何の変哲もない平凡な高校生だ。

 だから、何らかの魔術で人外の力を得た神祓をどうにかする術はない。頼みの綱となるインデックスも──

 

 

「くっ! とうま、こっちはこっちで手いっぱいかも! 何とか持ちこたえて!」

 

 

 『マグナムシャーク』の包囲網をなんとか上条の方へ行かせないよう押しとどめるのが精いっぱいで、神祓の妨害までは手が回らない状態だった。

 そんな状況で、上条がどうなるか。

 

 

「お、らッッッ!!!!」

 

「ご、がァァああああああッ!?!?」

 

 

 神祓の蹴りが上条の腹に突き刺さり、ノーバウンドで理事長室の壁に叩きつけられる。

 上条がまだ意識を保っていられるのが、奇跡なほどだった。それほどに、両者の間には身体能力の差がある。

 

 

(く、そ……。身体強化の魔術でも使ってるのか? でも、触ったところで魔術が解除される様子もねぇし……、いったい、どうすればいいってんだ……!?)

 

「……なぁ上条。いい加減に諦めたらどうだ?」

 

 

 考えあぐねている上条に、神祓の声が突き刺さった。

 一旦攻撃の手を止めた神祓は、辛そうな表情を浮かべながら続ける。

 

 

「今回は、元々お前には関係ないじゃねーか。一人の馬鹿な魔術師が、テメーの過ちの償いをする。ただそれだけだ。それなのにボカスカ殴られて、そのくせ得られるものはない。そんなの割に合わないんじゃないか。お前が、此処まで身体張る理由なんてないだろ」

 

「…………あるだろ」

 

 

 しかし、その言葉を聞いて、むしろ上条は力を取り戻したように、しっかりとした足取りで立ち上がる。

 

 

「やっと誰もが笑えるハッピーエンドが目の前にあるってのに、そこから勝手に離脱しようとしている馬鹿を、黙って見過ごせるわけがねぇだろうが!!」

 

 

 上条は知っている。

 大切な誰かの為に、己を犠牲にできる男を。

 そいつは、ある少女のことが大好きなくせに、本当に大切で大切で仕方がないくせに、それでも少女の幸せの為に、己の幸せを殺せる男だった。

 そんな男の在り方を、上条も歯がゆく思ったことがある。どうにかできないかと思ったことがある。

 だが、男はそんなありきたりな救いを許さなかった。そんな救いより、少女の幸せだけをただ願った。

 もしもそんな信念を神祓が持っていたなら、きっと上条は立ち上がれなかった。迷いのないプロの拳に対して、ただの高校生が太刀打ちできるわけがないのだから。

 

 だが、神祓の『これ』は違う。

 

 確かに、彼女は磯焼の幸せを本気で願っているのかもしれない。その為に最適解を選んでいるつもりなのかもしれない。

 だが、違う。本当に幸せを願うなら、もっとやるべきことがあった。

 

 

「…………テメェが守ればよかったんだろうが」

 

 

 上条の拳に、力が宿る。

 足の震えが止まる。全身全霊で、大地を踏みしめることができるようになる。

 

 

「絶望? 道を踏み外す? だったらテメェが癒せばいいだろ! テメェが止めればいいだろ!」

 

「何も知らねぇくせに吼えてんじゃねぇぞ、クソガキが!!」

 

 

 上条の激情に被せるように、神祓が吼えた。

 

 

「失敗は取り返せない……覆水は盆に返らない!! この先同じことが起きたらどうする? 今回はなんとかなった。でも、次もなんとかなるとは限らないだろ! だったら! 一番あの子の為になる選択は、これしか、」

 

「くっだらねぇ!!」

 

「…………!」

 

「さっきから聞いてりゃ、失敗したときのことばかり考えて逃げやがって……。確かに、先のこと考えるのは大事かもしれない。起きた事実は覆らないのかもしれない。でも、頑張っていればなんとかなるかもしれないのに、都合の悪い可能性にばかり目を向けるのは絶対に間違ってる!!」

 

 

 だから、上条は拳を握る。

 いつだって、上条当麻が本領を発揮するのは、こういう瞬間だ。

 

 

「間違ってると思うなら…………止めてみろ、小僧!!」

 

 

 直後、神祓の身体が()()()

 

 否、それはブレたのではない。あまりに高速すぎる動きの為に、上条の瞳の中で残像ができたのだ。

 だが、それは今までの攻防の中で腐るほど見てきた。だから上条も大して驚愕はせず、行動を開始する。

 

 具体的には、右に飛び跳ねた。

 

 

「…………何故躱せた?」

 

 

 上条がつい一瞬前までいた場所から、神祓の声が聞こえる。

 飛び跳ねた勢いのまま転がって起き上がった上条は、得意そうに笑う。

 

 

「水だよ」

 

 

 見ると、神祓のあまりに素早い動きの為に、理事長室に張り巡らされた水路の水は僅かに波立っていた。

 

 

「確かに俺は、お前の動きに追いつけない。でも、何も聖人レベルってわけじゃないんだ。だから、拳が飛んでくる段階から動けば間に合わなくても──その前段階、移動中に発生する水面の波を見れば、どっちから攻撃が来るかくらいは予測できる」

 

 

 つまり、動き出しのタイミングが早いから躱せた、ということ。

 もちろん並大抵では不可能だ。向かってくる攻撃を無視し、その余波のみに注意深く観察できる胆力と観察眼、その双方がなければ成立しない荒業だ。

 

 

「だーっが! 躱すだけじゃ意味ないことくらい、分かってるだろ!!」

 

 ダッ!! と、神祓が急襲を繰り返す。

 上条は先ほどと同じように回避するが──今度の上条の回避は、先ほどとは異なっていた。

 まるで反復横跳びをするように、回避した方とは反対の脚を軸足にして、攻撃直後の神祓に突貫したのである。

 

 

「んなっ!?」

 

「俺が……気付いていないとでも思ったか!!」

 

 

 ゴッ!! と、上条のタックルが、神祓の腹に突き刺さる。

 軽い体躯はその一撃で宙を舞い、そして執務机のすぐ傍に軟着陸した。

 

 

「な、んで……ごはっ!」

 

「考えてみりゃ、最初からおかしかったんだ」

 

 

 倒れ伏した神祓に歩み寄りながら、上条は言う。

 

 

「そもそもなんで俺は立っていられるんだ? 確かに聖人レベルには及ばないかもしれない。それでも、お前の膂力はただの高校生が太刀打ちできるようなモンじゃなかった。間髪入れずに攻撃を続けていれば、今頃俺はじり貧だっただろ。今の攻撃だって、簡単にガードされてた」

 

 

 でも、と上条は続けて、

 

 

「そうはならなかった。それはなぜか。…………それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………、」

 

「長続きしないって言い方は少し違うかもしれないけどな。……お前、身体強化の術式が苦手なんだろ。体内の水分を操って無理やり強化してるからか……お前の肉体強化は、破壊を伴ってしまう。最初にお前の眼から血が流れていたのはそのためだ」

 

 

 では、そんなリスクの塊でしかない術式を使ってここまで戦闘できるのはなぜか。

 答えは一つ──彼女が先ほどから纏っている、霧の聖女だ。

 

 

「その術式は、身体強化を完成させるような効果を持ったものじゃない。不完全な身体強化によって発生する肉体のダメージを癒すための安全装置だったんだ!!」

 

「…………だったら、どうした。それは俺の弱みを潰す情報でしかない! お前の勝機には繋がらない!!」

 

「その治療が完璧じゃなくて、その為に継続行動ができないとしてもか?」

 

 

 そう。

 破壊をいくら治療できるとしても、痛みが消えるわけではないのだ。むしろ、直される分、彼女は身体強化を続けている限り新鮮な痛みを常に受け続けることになるはず。

 そんな状態で継続行動なんてできるわけがない。いや、むしろ此処まで動けていることが、彼女の強靭な精神力を物語っているようなものだ。

 

 

「…………!!」

 

「だからお前は、行動のたびに一旦インターバルを入れる。こうやって俺が長話できるのも、そのインターバルがあるお陰だ」

 

「……ハッ! 馬鹿が、分かっているならもっと早くに決着をつけるべきだったな! もう、俺は十分動け、」

 

 

 ガクン、と。

 

 立ち上がろうとした神祓の身体が、崩れ落ちる。

 まるで糸が切れた人形のように、その場から動けなくなる。

 

 

「な、んだと……? 馬鹿な、罪深き香油の聖女(マリアマグダレーナ)の治療術式は生半可じゃない! この程度のダメージ、簡単に……!」

 

「まだ気づかないのか?」

 

 

 そう言って、上条は神祓を──というより、彼女が持っていた円盤を指さす。

 それにつられて見ると、神祓の円盤は、いつの間にか粉々に砕けていた。

 

 

「な……!?」

 

 

 先ほどのタックルの時。

 アレは、上条にしては不自然な攻撃だった。

 上条当麻という人間は、物事の決着には己の右拳を使う傾向にある。ようやく訪れたタイミングで拳以外の攻撃手段を選ぶということは、相応の理由があるとみるべきだったのだ。

 

 

「そういえば、お前の使う魔術はルーン魔術だったんだな。忘れてたよ」

 

 

 上条は思い出すように、

 

 

「俺の知り合いにも、ルーンの魔術師がいるんだ。そしてそいつの魔術は、触れただけじゃ俺にも殺せなかった。大元のルーンを破壊しない限り、ずっとエネルギーを供給し続けるからな」

 

 

 今回もそれと同じ。

 何度か上条が神祓を触っても魔術が解除されなかったのは、手元のルーンが生きていたから。

 それを破壊しない限り『消した傍から再生する』という魔女狩りの王(イノケンティウス)と同じ状況になっていただけだ。

 

 全ての手札は失われた。

 

 しかしそれでも、神祓は立ち上がった。

 おそらく円盤の上で水を走らせるのに使っていたであろう、手品レベルの小さな水を生み出す魔術を携えて。

 そんな無惨な有様になっても、なお諦めることなく。

 

 

「…………お前だって、本当は分かってるんだろ。これが最善の結末じゃないってことくらい」

 

 

 それを見て、上条は拳を握る。

 これまでで一番の力を、右拳に込める。

 

 

「でも、怖いんだろ。これ以上そいつを傷つけることが。自分のせいで傷つけてしまうことが」

 

「…………!! うるさい」

 

「そいつは許してくれると思うよ。だからきっと、本当の正解は、悲しむそいつを支えて、癒してやることなんだ。それが、一番磯焼の為にもなる」

 

「うるさい、うるさいうるさいうるさいっ!!!!」

 

「…………それでも、お前が自分の存在が磯焼の害になると思ってるんなら。覆水が、盆に返らないって思ってるんなら」

 

「うるせェェええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!!!!!!」

 

 

 水が、爆発的な増加を見せる。

 ただの手品レベルだったはずの破壊力が、一気に莫大な水の流れとなり、上条に襲い掛かる。──傍らにいる女性には、飛沫の一つもかけずに。

 

 その不器用さに、上条は少しだけ笑い──

 

 

「────まずはその幻想を、ぶち殺す!!!!」

 

 

 その右手を、ただ振るった。

 

 

   一一

 

「……結局、騒ぎのせいでオープンキャンパスには最後まで参加できなかったね」

 

「他の学生とか教員にバレないように逃げて脱出したしなー……。体中痛いし、はぁ、やっぱり結局不幸だ……」

 

 

 それから一時間後。

 上条とインデックスは、『水随方円学園』から脱出し、第七学区をうろちょろしていた。

 ルーン魔術を制御していた円盤が破壊されたことで磯焼の眠りもすぐに覚めた。

 そして上条の予想通り、磯焼はあっさりと神祓のことを許した。もとより神祓の懸念は加害妄想もいいところだったので当然だが。

 

 

「あの後のことは、びっくりしたけどね」

 

「ああ……まぁな」

 

 

 思い返すようにして、上条とインデックスは互いに苦笑する。

 というのも、目を覚ました磯焼は事の次第を上条から聞くなり、神祓に対して愛のビンタをするとか、言葉をかけるとか、そういう分かりやすいことはせず──ただ無言で唇を奪ったのだった。

 

 曰く、『最初からこうしておけばよかった』とのこと。

 

 なんというか……友情にしてはかなり行き過ぎてるな、と上条もなんとなく思っていたのだが、二人はお互いにそういう感情を持っていたということらしかった。

 なんとも居た堪れなくなった上条は、そのままさっさと立ち去ってしまったのだが……。

 

 

「…………」

 

 

 何故だか、それきりインデックスはこの調子なのだった。

 不機嫌……というわけでもないのだが、何か不満げなように、上条には見えた。だが、それが何を意味するのか上条には分からない。

 ただ、この機微を見逃すことは、何か不幸につながる。上条の直感がそう言っている気がする。

 

 なので。

 

 

「あー、アイスでも食う?」

 

「…………大ハズレ!!!!」

 

 

 見事に地雷を踏み倒したミスター鈍感こと上条は、そのまま暴食シスターのガブガブ攻撃を受けることになるのだった。

 

 でも大丈夫。

 意外と、覆水は盆に返るものだ。具体的には豪勢な夕食とかで。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。