Fate/Subsequent (マッポーゲニア)
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第1話 親愛なる君へ

どうも、マッポーゲニアと申す者です。
友人のぬはら氏との共同制作です。
こちら、舞台や登場人物、登場するサーヴァントは全てオリジナルになっております故、苦手な方はブラウザバックを推奨します。
では、何卒よろしくお願い致します。


とある所の暗い夜、

それが終わった。

 

「やったぞ、勝ったぞ!セイバー。これで全てが終わった!」

「あぁ!!.....ってことは、これでゲンイチともお別れ。って言うことになるな」

セイバーは半ば作った笑いで俺を祝福した。

 

そうだった。来るべき時が来てしまったのだ。根源へ到達するには6騎と残った1騎、つまり目の前にいるセイバーを自害させなければいけない。

「......なぁセイバー」

「どうした?」

「願いって残酷だよな。いや、人間が欲張りっつうべきか。一つしか叶えられねえってなると、二つ、三つって不思議に叶えたい願いが増えてしまうんだよな...」

「それでさ、なんでもないようなつまんねえ願いも大切に錯覚してしまって、結局迷っちまう」

 

目のあたりが熱い。こういうのは記憶する中で生まれて初めてだ。

「......泣いてんのか...?ゲンイチ。」

「ハハッ。そうかもしれねえな。あまり知らねえんだ。こういうの」

 

俺は手で、目から出る水を拭った。拭き損ねたのか、その水が少しばかり口に入った。しょっぱく、ほんの少しだけ甘さを感じる。

 

「...わかるぞ。オレも泣いたのは片手で数えるくらいだったからな」

気がつくと、俺はうずくまっていた。セイバーは、そんな俺の背中をさすっている。ここからは顔が見えなかったが俺にはわかる。きっと、憐れみと同情と、その他の色々な感情を持ちながら笑っているんだろう。

でも、やる時はやらなくちゃあならない。こういう風の吹き回しだったのだ

 

 

「......令呪を以て命ずる__」

 

~~~~~

ぼんやりと覚醒した。

意識はある。だけどまぶたが本当に重い。

今の時間はざっと5時半だろう。10分くらいなら床の上でダラダラしても無茶は効く。

「......うぅ」

けだるい体を、誰かがつつく。

 

「......わかった、...わかった起きるからピノ」

そうやって私は使い魔の頭をくしゃくしゃに撫でながら自分を立ち上げた。

「はぁ......」

私はあくびみたいなため息をついてしまった。

 

体も文句なしに良好、天気も憎たらしい程にいい。学校には行きたくない訳では無い...っていうのは少しばかり嘘になる。

「だけど、まあこれのせいかな」

右手に謎のアザができているからだ。

線上のが手の甲に3つ。やや左右対称だけど、その形は少し歪。

...否、謎では無い。もう正体は知れている。

 

令呪だ。令呪の兆し。それが現れてしまった。私は聖杯戦争のマスター...とやらに選ばれてしまったのだ。

これができてかれこれ7日経つ

 

「どうしたものかね……」

 

このあざについては、調べる内に二つ驚かされた。まず1つ目は、これが聖杯戦争っていう、騒々しいモノの参加権のようなものであり、その際に召喚される使い魔「サーヴァント」に対する命令権であったこと。

 

繰り返すが、マスターの資格を得た、ということになるのだ。

聖杯戦争は7騎のサーヴァントが殺し合い、最後の1騎になるまで戦う。

文字通りの戦争。と言ってもでかい規模の戦争では無い、そのサーヴァントと契約を結んでいる「マスター」同士の争いである。

まあいわば白羽の矢がたってしまったのだ。

 

2つ目は、この聖杯戦争自体が、もう既に開催することがありえないものであること。

10年以上も前にどうやら、聖杯戦争が起こっていたところで聖杯をぶんどる魔術師と解体する人達がドンパチ起こしたらしい。

...ドンパチレベルのもんじゃあないが。

 

それでも...私の生活は変わらない。というか、より前に進んだ。

「よし、やるぞ。材料は揃った。今日でやるんだ。今日しかない」

...と、私は意気込んだものの

 

 

「......フフフッ」

仰々しい独り言を吐いたのか、目の前にいる使い魔2匹の目が点になっているのを見て我に返った。そしてそいつらのおかしさに少し笑ってしまった。

「まあごめんね。先に笑わせたのはウチだからね」

そう言って2匹の首あたりを順番にくりくりとする。どっちも気持ちよさそうだ。

 

「うしっ。今日も頑張るか」

ピノ、ミケを片手ずつで抱えてリビングに向かう。

「おはよう。ボス、タロウ。早速だけど...朝ご飯の手伝いをしてくれないかい?」

使い魔2匹に朝の挨拶をする。こっちは自分の部屋に向かわなかったヤツら。飼い主である自分の命令を待っていたのだろう。

 

「ピノ、ミケは洗濯物を干しておいて。それが終わったら、朝ごはんができるまで待っておいてね」

2匹は、なー、とかくるる、とか言いながら布、服、毛布、その他諸々を干していく。小動物が口で咥えて連携が取れているような、それでいてちょこまかとうごく仕草は朝の癒しになる。...まあ少し扱いが乱暴なのが玉に瑕だが、

 

「__おーい、できたぞぉ」

朝食、弁当の分の料理がやっと出来上がったので食事にありつく。

使い魔達には、特製のドッグフード的なのを各々の皿に適量入れて済ます。

 

「どうしたボス、...ごめんね。今月はちょっとピンチなんだ。聖杯ぶんどったら鱈腹食わせてやるからね。お前達の中で1番図体でかいのはお前なんだから、ほら、心もでかくなりな」

申し訳なさそうに私はいう。それでもボスは悲しい顔をしていた。

 

色々な、簡単な身支度を済ませ、登校する。

「それじゃあ行くよ。絶対に暴れないでね」

全員元気な返事をした。いつもの事だが、これなら安全そうだ。

扉を閉め、外に出る。

 

ここで、魔術を取り扱ってるお家の一仕事

「...ッ!」

はい。これで終わり。端的に言うと結界を張った。一般人の目につかないようにする程度だけど。

言い忘れてたけど、私、 宍戸 澪尾(ししど みお)は魔術師の家だ。でも魔術なんか大それたことはできない。

どちらかと言うとキメラ作りの家系だ。動物と動物を合わせて別の生き物にするという、傍から見たら倫理感が欠如したような事をコソコソとやっている。

 

母は私という一人娘が生まれてから、父の正体を知って卒倒、後に父が追い出したらしく、父は「時計塔へ行く」と書き置きを残したまま帰ってこない。二人とも子供をなんだと思ってんだか。

 

~~~~~

しばらくして、学校に着く。

「おはよー澪尾」

「あぁ、おはよう」

いつもと変わんない朝。だけどこれから少しだけ、これが少なくなっていくのかと思うと、少し頬辺りにピリピリと、緊張感と表した方がいいのだろうかこれは

 

「......澪尾、どうしたの?怖い顔して」

「あっ!?えっ、あっ...ちょっと変な夢見てさ」

「何の夢?」

クソッ、咄嗟についた嘘がさらに墓穴を掘る結果になってしまった。めんどくせえ

 

「あぁ......なんだったかなぁ。ウチがペットと、知らない人と一緒に......悪いヤツらをぶっ飛ばす...夢だった気がする」

とんでもない捏造である。しかもこれが後に起こることだとはこの友人も知る由もなかろう。

 

「...ふーん。で?」

「で?」

「うん。で?なんかこれだけじゃ漫画の1話だけ読んだ感じでつまんないんだけど」

なんだよコイツ。普通『ふーん』ってのは興味無い時に言う台詞と相場が決まっているだろうが。私は精一杯の誤魔化し笑いをするが、多分やばい感じに引きつってるかもしれない。

「ア、アハハ......そのあとは忘れちゃったカナァ...あぁっ!そういえばぁ!部活の用事があるんだったぁ!ごめン!先急ぐね!」

「あっ!―ねえちょっと待ってよ!」

 

颯爽と、自分が意識してる中で最優の演技をして、私は部室に入る。

「ぷはァーッ!振り切ったぜ...!」

 

息を切らしながらもガッツポーズ。上を向いて、親指を天井に突き上げる。

と、教室4分の1の大きさくらいの部室をキョロキョロする。そして横を見ると、床に座ってる一人の少女の姿が。

「...見ちゃった?」

 

黒い髪のポニーテール、高校二年生には見えない顔の幼さ、そして身長の小ささはぶかぶかの制服と長めのスカートが喋らずとも物語っている。

間違いない。 覡 楓花(かんなぎ ふうか) 。私の1番の親友であり私が所属している登山部の部長だ。

 

少女は、うん。と声を発しながら首を下に傾けた。いやぁ我ながら顔が本当に熱い

「...まぁいいや。ってか楓花、もしかして毎朝そこにいるの?」

また、うん の声。

「だって、朝早く来たら誰もいないんだもん、机が行儀よく並んでるだけでさ、殺風景だよ。」

「...じゃあもっと遅く来ればいいだろ。」

私はすぐそこにあった椅子に足を掛けて座りながらため息混じりに吐いた。

 

「......」

...アレ?地雷に触れちゃった?

「そうだよ!それすごく最強!そしたらもっと寝れるし一石二鳥だそれ!」

ガバっと起き上がって急にハイテンションになった。喜んでるならよかった。

 

「なら明日から快適な眠りを...」

「あーでも私やっぱり人が喋ってるのあんまり好きじゃないし、遅く来ても結局部室かなー」

と、顎あたりに人差し指を当てる。優柔不断だなオイ

 

「それに...明日はホラ私達登山部作ってからの初めての活動!眠れるわけないじゃん!」

あー...そうだった。それがあった。

「だからアレは結局、海側のホテルに泊まる仲良し会レベルのもんでしょ?部費使ったら生徒会やらにぶち殺されるよ?」

「まぁまぁ、TGIFでござるよ澪尾殿ぉ...今日を乗り越えられれば明日は休日!これ以上最強なことってないよね!」

ハイテンションだなぁ。と自分はため息をついた

 

そんなこんなで朝の予鈴が鳴る。

「...おっ、そろそろだな。じゃあうちは行くよ」

「うん」

私はカバンを背負い、2年4組に向かう。

 

教室に入るや否や、クラスメイトは机を囲んでそれぞれの話をしていた。

「...でさー...そうそう、んでねー...」

「いやまじで...だから...」

 

そんなこんなで席につくと、先程の友人が話しかけてきた。

「みお~」

「うぉっ!?何さ」

あまりの急さにビックリした。先程、私が撒いた友人だ。不覚にも、死角をつかれてしまったようだ

「あー...夢の話ならきれいさっぱり忘れちゃったから話せないよ?」

「いや、そうじゃなくてさ...」

何かきな臭い顔をしている。

 

「ココ最近さぁ...ボロボロの馬に乗って、変なヨロイ?のコスプレしてるジーサンがウロウロしては目が合った人に話しかけて来るらしくてさ~...」

はぁ。としか言えなかった。エンカウントも急なら振ってくる話も急なのか

 

「誰かのウソでしょ?エイプリルフールじゃないんだよ今日は」

「ホントだよ!クラスの他の人も見たし...」

信じられない。ただの噂だろう。と、思ったが、もしかするともしかするかもしれない。

 

「何話しているかわかんなかったし、終わったと思ったらどっか行ったし...訳わかんなかった。」

「...ふーん。まあ気ぃつけとくわ」

 

~~~~~

「...以上が今日の連絡だ。各自気をつけて帰るように」

いつものHRが終わった。担任のけだるそうな連絡も、いつもと変わらない。

私は席を立とうとした

 

「あっ...まだあったわ。すまんすまん。お前ら着席ィ」

生徒からの総ブーイング。自分も大事な用事があるので正直今のには少しイラッときた。

「『最近、この辺りの人が失踪する事件が多発しています。生徒はいつも以上に警戒して、己の身を守る行動をとってください』......だそうだ。あんまり1人でほっつき歩くなよー」

なんだよー、と、ザワつくが、中には噂のあのジジイじゃね?と話をするヤツも。

 

と、まあそんなこんなで学校が終わった。私はすぐさまカバンを持ち上げここからの任務を遂行する。

 

「降り立つ風には壁を...四方の門は通じ.....これ結構難しいな...」

メモに書かれた文とにらめっこし、その文をそらでブツブツ唱えながら歩いていた。なんでも英霊を召喚するための詠唱らしい。

 

台座の役割を果たす魔法陣、喚び寄せるための詠唱、喚び出す際に英霊を絞って召喚出来る触媒を用意する必要があるらしいが、

文献によると触媒に至っては用意しているマスターとそうでも無いマスターがいるらしく、詠唱の有無に関わらず英霊が召喚される事例があるらしいのでよくはわからない。

 

「三叉路は...巡回......!あー違ったのかよなんだよ循環って」

暗記科目が苦手なのがここで響く。召喚詠唱を考えた人を呪う一方で、こればかりは才能なのか、と溜息をつきながらそれでもメモに書かれてある嫌になるほど長い文と格闘する。

「物事の初めこそちゃんとやんなきゃ。あとこれだけ...これだけ揃えば」

 

真っ赤に染まる夕陽は、いつもの夕日に見えて何か別物の風景を見ているようだと感じた。

 

_夜遅く、正確に言うと...11時頃。 キメラたちは完全に寝て、ちょっとの騒音でも主人である私が命令するまで起きないようにしてある。

私は、地下の物置にいた

「ふぅ...やっとこの時が、来たか...」

 

魔法陣を書くためのキメラの血を、健康管理という建前であの子達にチュウチュウ吸い取っていた罪悪感もこれで終わり。

でも予備の分も用意された大量の赤い液体を見ると、それはぶり返してくる。

「...ッ! やんなきゃ。もう採っちゃったんだもの」

 

私はケースに血液を入れると、それを万年筆にカポッ、とねじ込み魔法陣を描いていく

「えぇと......?消去......退去......退去、これをあと三つ、か」

消去、退去、退去と繰り返していき、そして遂に魔法陣は完成した。

「よし...!行くよっ......!」

 

はるか遠くにある、古代の物とされている鎖。私はそれを陣の傍らに置く。これを手に入れるのにかなり苦労した。ありとあらゆるところを探して、この歳に見合わないような大きすぎる買い物をしてやっと手に入れたのだ。今更疑おうが、おいそれと気を変えられるものじゃない

 

「スゥッ...」

大きく深呼吸をして...痣のある右手をかざして...

 

素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ

 

いい感じ。絶対に間違えてない、という自信がある。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する。

 

赤かっただけの魔法陣が白く光った。行ける。しかし気を抜いてはダメだ。ここからが本番 だんだん強くなっていく風のためか、右腕を左手で支えるようにして掴んだ。

 

――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 

よしっ...!よしっ...! と思わず心の中で叫んでいた。

光っていたものがさらに光り、ものすごい風を巻き起こしている。

目をつぶっちゃダメだ、と私は直感でそう思った。今まで張った糸が、全部途切れてしまうような確信がそこにあったからだ

 

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!

 

激しい衝撃の後、ホコリのせいでその男を認識できたのは幾秒経ってからだった。

そうしてシルクハットを被った、胡散臭そうな姿をした男は、右手に持っている杖をクルクルさせ私にこう告げた。

「―サーヴァント、キャスター。ン召喚に応じ馳せ参じ致しました......見ましたところ...貴方がマスターのようですね。」




ここで、1話は終了です。
次回はこの物語の主人公、覡 楓花の視点からスタートします。
彼女が、どうやって、どうなってしまうのか
それを2話にてご覧下さい。
感想頂けたら幸いです。


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第2話 誰がために幕は開く

どうも、マッポーゲニアです。
前回の閲覧してくださった方々、誠にありがとうございます。
今回は2話、主人公の楓花のエピソードとなります。
どうぞご覧下さい



ばっちりと目が覚めた。今日は多分、というかすごくいい日なのだろう。ガバッと布団を裏返して起きた。

花の女子高生、覡 楓花の朝は最強に速いので颯爽と洗面所へと行った。顔を洗い、髪をとかし...毎日やり慣れている朝の支度を、鏡とお見合いしながらやる。

支度を済ますと、食卓にはもうほかほかの朝ごはんがあった。

 

「作っておいたよ。さっさと食べて学校へ行きな」

「ありがとう!じいちゃん」

「おうさ...よいしょっと」

じいちゃんはそういうと、家の外へ出ていった。じいちゃんの日課である神社の掃除をしに行くのだろう。

 

覡家は祖父、父、母、そしてこの私の4人構成なのだが、お父さんとお母さんは遠いところで仕事をしており、実質じいちゃんと私の2人構成だ。

私のじいちゃん、覡 賀嵐は海谷神社の神主。

 

2年前に、この海谷市に神社を建立するという話がじいちゃんに回ってきたらしく、ちょうど神主を探していた、というのでここに移り住んだ。親2人は何故か自分だけをじいちゃんと一緒に住まわせたのだ。

理由は今になってもわからない。

 

「...ごちそうさまー!」

両手をパチン、と合わせ軽い足取りで食器をキッチンの方へ持っていく。今日もじいちゃんのご飯は美味しかった。

 

カバンを下げ玄関へ向かう。そして戸を引き私は空を見た。思っている通りだ。最強の快晴。

だけど、何か違う風が吹いている。

「...?」

私は、そんなことを気にせず学校へ向かった。

 

~~~~~

 

教室に入ると、そこは机と椅子が碁盤のように並んでる暗室だった。時刻は7時前。どうやら自分がイチバンだったようだ。

こういう時間はふと声に出してしまうほど静かなのである

「なんか寂しーなぁ。」

私は踵を返し、いつもの部室へと向かった。

 

ガチャ、とドアを開け、テーブルの上にカバンを乗っけた。

椅子に座るのはなんだか落ち着かないため、壁に持たれて体育座りをした。

 

そういえば、今日は随分変な夢をみた。

変な、怖い大人の人に追っかけられて、怖かったからずーっと逃げてた。

逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、それで追いつかれそうになった時に……

 

誰かが守ってくれた、って言うよりそれは「隠した」、とか「遮った」って言うのがあたりかもしれない。

実際、それで怖い人はこっちに来なくなったけれど、その向こうには大切な人がいた...ような気がした。

それで多分、急に私は大きい声を出したんだと思う。

 

「ぷはァーッ!振り切ったぜ...!」

そう、この澪尾ちゃんのように。

必死な女の子はキョロキョロ辺りを見回すと、やっとこっちの存在に気づいたらしい。

 

息を切らしていたのか、顔が非常に赤かった。

「...見ちゃった?」

自分は首を縦に振った。

 

宍戸 澪尾。 自分と同級生で入学当初からの親友であり私が取り仕切っている登山部の部員。

ほんのちょっぴりオレンジがかかった茶色のセミロングをしていて、キリッとした顔立ち。身長は自分よりちょっぴり大きい。

 

そしてストラップの動物がヒジョーにダサい。

「...まぁいいや。ってか楓花、もしかして毎朝そこにいるの?」

また首を縦に振りながら、今日の朝のハイライトをば。

 

「だって、朝早く来たら誰もいないんだもん、机が行儀よく並んでるだけでさ、殺風景だよ」

「...じゃあもっと遅く来ればいいだろ?」

その時、この楓花さんに電流が走った。何とあなたはそれほどに天才なのだろうか。

 

「そうだよ!それすごく最強!そしたらもっと寝れるし一石二鳥だそれ!」

逆転の発想というやつだ。盲点だった。

「なら明日から快適な眠りを...」

「あーでも私やっぱり人が喋ってるのあんまり好きじゃないし、遅く来ても結局部室かなー」

そう。私は最強故にあまりパンピーと交わらないのである。

 

「それに...明日はホラ私達登山部作ってからの初めての活動!眠れるわけないじゃん!」

実は、我々登山部は入部からこれっぽっちも登山部らしい活動をしていないのである。

 

そこで!部長であるこの私が立案した『ドキッ! 丸ごと登山 JKだけの外出大会(ホテルもあるヨ!)』を今週末に遂行する。予算も学校が出すらしいのでオールオッケー。

「だからアレは結局、海側のホテルに泊まる仲良し会レベルのもんでしょ?部費使ったら生徒会やらにぶち殺されるよ?」

「まぁまぁ、TGIFでござるよ澪尾殿ぉ...今日を乗り越えられれば明日は休日!これ以上最強なことってないよね!」

なんて、わんやわんや話してたら予鈴が鳴った。

 

「...おっ、そろそろだな。じゃあうちは行くよ」

そう言って澪尾が退室する前に、自分は妙なものを見た。

澪、なんで夏なのにセーター着てるんだろう。

 

「うん」

学校では週末のことで頭がいっぱいで楽しかったことは1つもなかった。しかし今日の夕陽はとてもキレイで最強だった。

 

 

~~~~~

 

 

翌日。

今日の空は少し曇っていた。なんだか危ない模様をしている。

私は早く朝食を済ませ、一応山のピクニックの装備は整えてから待ち合わせ場所に向かった。

澪尾は大丈夫だろうか、昨日電話をかけたのだが一切出てこなかった。 まあ今日の朝連絡が来なかったし休みということはないだろう。

「ふあぁぁ...おはよ。楓花」

後ろから声がした。振り返ると、いつもの澪尾が。

 

否、いつもの、では無い。右腕に骨折した時につけるやつを着けてる。あれなんて言うんだろうな?

……ではなくて、一大事だ。

 

「えぇ!?澪尾......それどーしたの」

「あぁ……うちペット飼ってんだけど、そいつが暴れて右腕を噛んじゃってさ。んで夜救急で応急処置してもらった。...ごめんね?あの時ホンットに痛くて、電話も出られなかったんだ」

怪我人は首を下げて、すまない。というふうに左手を立たせた。

 

ふむ...。これはすごく最強じゃない。

「そっか...」

「あぁ...しばらくそれで休むからさ...なるべく楓花には......」

「じゃあ今日はホテルだけだね」

すると、澪尾はきょとんとした。

 

「.........え?」

「なんで?山は天気悪そうだし怪我したら危ないけど、ホテルは安全だし休めるじゃん。行こーよ」

「え...でも怪我が...」

「ダイジョーブダイジョーブ!最強の楓花さんがいればこんな包帯、日が暮れたら包帯の方から逃げ出すって!」

それにせっかく待ち合わせまでしたのだから、ここでホテルに行かないというわけにはいかないのだ。

 

「ほら!」

「...あっ!!」

すかさず澪尾の左手を掴んで私は目的地へひた走った

 

~~~~~

 

「......んで、わざわざ手ぇ引っ張ってまで連れてきたこのホテル......」

いやぁ...まさかね

自分も、今気づいた。そんなシステムがあろうとは……。

 

「......予約してないだって?」

澪尾がすごく怖い。怖い。

「どうするの?ここアブロードビレッジだよ?週末だし観光客で絶対空いてないって...!」

私たちが住んでいるこの『海谷市』という場所は、住宅街である『高瀬』と、観光用の『谷城』という2つのエリアに大きく別れている。

 

その谷城は、アブロードビレッジという外国人向けの小さな街、というかショッピングモールとか色々な店がずらぁっと並んでるスゴいところを有しているのだ。

んでそのアブロードビレッジの、最高級のホテル、『ロワール・リゾート』に泊まろう!、って言うのがこの覡楓花の魂胆であったのだが...。

 

「だ、大丈夫だよ...今から受付をすれば間に合うかもだし...?」

「まぁこれでチェックイン出来なかったら帰るよ?腕本当に痛いし。」

澪尾、マジで怒ってる。もしかして本当に悪いことしちゃったのかな……。

 

「とりあえず...澪尾はここで待ってて。私チェックインしてくる...!」

私はホテルに入り、ロビーへ全力でダッシュした。

そして...

 

 

「申し訳ございませんが...ただいま空き部屋がございません。またの機会をお待ちしております。」

と、受付のお姉さんに愛想笑いで拒絶された。魂が抜ける感覚を今まさに体感する。

私は意気消沈しながら、下を向いたまま澪尾に敗北宣言をしに行く。

と、その時であった。

 

ドッ、と何かにぶつかった。急なことだったで私は思わずよろけ、そして転んでしまった。

「あっ...すみません大丈夫で...」

上を見上げると何やら眼鏡をかけた男の人がこっちを見下ろしている。髪の色は紫だが先っぽは金髪のようにも見える。どちらが地かは分からない。

「あぁ...大丈夫ですか。」

「えぇ。こっちは大丈...イッ......!」

何か右手に痛みを感じた。ぶつかった時に打ってしまったのだろうか。

 

「...?」

男はこちらを振り向いた。

すると目を見開いたが早いか驚いた様子で、手のひらを返すように態度を変えた。

 

「こっ...この度は誠に申し訳ございません!女性に傷をつけてしまうなんて...ああなんてことを...!!その...お詫びといえばなんですが、私このホテルのオーナーでございまして...もしよろしければ、ここでしばし休まれてはいかがでしょうか?部屋は無論、こちらで手配致します!」

男は矢継ぎ早に話す。展開がはやすぎる。

 

「あぁ...いや、でも二人...」

「2名様でいらっしゃったのですか?構いませんよ!お客様の怪我を治すためでございましたら、私十人であろうが百人であろうが部屋を手配致しますとも!ささっ、どうぞこちらへ」

えーと...これ、泊まれるってことでいいんだよね。 だとしたら澪尾を呼ばなくちゃ。

 

「あ...ありがとうございます!...とりあえずもう一人を呼んできますね」

そう言って立ち上がり、すれ違う瞬間。

「『()()()』はお早めに、我々が全てご用意致します故。」

男はわけのわからないことを言った。

はてな、チェックインはこっちでやれ。ということなのだろうか。

「は......」

振り向くと、もうあの人たちはロビーにはいなかった。

そのあとはすぐ澪尾を呼んで受付に行った。だけどどうやらチェックインはすんでるらしかった。

 

 

~~~~~

 

 

部屋は2人で泊まるにはとても広く、なんでもVIP待遇で、ふつーの部屋3つ分の大きさのヤツを手配してくれたらしい。いやはや、僥倖僥倖。

テレビは2つ、ベッドもダブルサイズのが2つ。

これだけでもすごいのだが一般の家庭のリビングにありそうなテーブルが、室内の中央にどんと置かれてある。きっとスペースを埋めるためのものだろう。

窓は10mくらい長く、ここから海谷市の武器である青いビーチと観光街の夜景を欲張りして眺められる。

 

「ねー!みてー!すごいキレー!夜景だよ夜景」

「......」

澪尾はまだ不貞腐れている。

「ね、ねぇ...さっきはごめんね? 私、予約知らなかったし...でも!ほら、なんやかんやあってこんなスゴい部屋に入れたんだしさ!」

澪尾は、下を向いたままスっと立ち上がると、如何にも「話しかけないでください」と背中で語るように部屋へ出ていった。

......あーあ、澪尾を本当に怒らせてしまったみたいだ。

 

今日は本当に最悪の日だ。全っ然最強じゃない。

本当は今の時間は澪尾と一緒に豪華なビュッフェなるものでも食べに行こうとしていたのだ。

天気はすぐれないし澪尾は体調不良だし計画は頓挫しかけたし...。

それに、あの男の人とぶつかった時にできた痣、なのだろうか?

 

あの男の人とぶつかった時にできた痣、なのだろうか、

痣といえば線状にできているし、かと言って蚯蚓脹れといえば言うほど腫れていない。

 

「なんなんだろこれ...」

右手の甲を天井にかざし、それをまじまじと見つめる。

よく見たら何か模様っぽいし、触っても叩いても痛くない。

...お腹がすいた。 そういえば今日てんてこ舞いでこれといったご飯を食べていなかったんだった。

 

なんとあのホテルの人、お食事券までつけているのだから本当にありがたい。

「一人で行くか...」

私は食事券を握って、部屋の玄関へと足を向ける。

その時、つけてあった髪留めが落ちた。

 

「あ」

ただ髪留めが落ちただけだ。私はそれに手を伸ばそうとした。

すると、信じられないことが起こった。

ほわぁん、と床に「模様」が浮かんだ。

それは丸く、なんやらおとぎ話に出てきそうないわば「魔法陣」っぽいもの。

そしてそれが白く光る。

 

「ッ......!」

その「模様」から風が少しづつ、強くなって吹いている。私がここから部屋を抜け出そうと思った時にはもう手遅れになるほど、その風は強くなっていった。

「ちょっと待って.....何これ......!」

私は立つのがやっとだった。何が起きているのかわかんない。でも、私でもわかることがある。

この後に何かがくる、と……。

「――っ!」

 

魔法陣は急に爆弾のように、眩しいほどに光って、衝撃波が同時に来た。

 

 

そして、10秒ほど

 

 

―そこには大男が一人、目を瞑ったまま正面に胡座をかいていた。

私は立ち尽くしたままだった。物理的で、精神的な衝撃のそれは晴天の霹靂、というものだろう。

男は目をカッと開き、私の方を見ると、腰につけてある剣を抜き、ヒュッ、と私を指してこういった。

「......おめえが俺の『マスター』ってやつか?随分、飄々としてるじゃねえか」

 

同時に、ドアの方からガチャリ、と開いた先には先程部屋を出た澪尾が……。

 

...やはり今日は何かツイてない気がする。

先程の風でカーテンが開いていたのか、窓からの光は、自分と澪尾の方を照らしていた。




如何でしたでしょうか。
投稿は不定期ですが、次話を投稿する予定が出来ましたら追記で告知しようと思います。
お次は3話。さて、一体どうなることやら。
乞うご期待でございます。

ご感想いただけましたら幸いです


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第3話 フーカ・イン・マジックランド

お久しぶりです。 マッポーゲニアです。
Fate/Subsequent 第3話と相成りました。
投稿期間が空いてしまいました。すみません。
前回と比べて文の見せ方と言った感じのものを変えてみました。
いかがでしょうか
それでは、第3話、ご覧下さい


夜。それは反省の時間。自らの未熟さを呪い、明日に活かすための時間。そう普段は...

今日は違う。

 

1つ、2つ、3つとピースが揃うこの感覚はインストールの進捗画面を見るに等しいくらいに精神の高揚が収まらない。しかし後一歩で止まるという歯痒さもそれに近い。

 

何日も、待ち続けた。刹那、瞬き一つするその瞬間でさえ其れに煩わずにいることは無かった。

ついに揃ったのだ、7つのピースが...その時が訪れたのだ...!

 

「......全騎......全騎揃ったァッ!」

 

アサシン!ランサー!ライダー!バーサーカー!キャスター!アーチャー!そして!そしてそしてそしてそして!セイバァァッ!!!!

霊器盤を食い入るように見つめる。やはり7つッ!7騎全て捉えているッ!

確認した!もう少なくとも50回は確認した!

 

「これにて幕は開いたぞォッ!あとは祈るだけだ!そう、祈るだけ...」

 

そう、ただ一つ、腹立たしい点がある。

祈らなければならないのだ。

『前々回まで』の失敗は俺の責任だ......不完全だった複製!不出来な改良!そしてそれらが引き起こすエラー!

 

これらの原因は俺にある。俺によって引き起こされた事故、起こるべくして起こった想定外ッ!、必然のアクシデント!そう!!『前々回まで』は、だ!!!

 

だが

 

『前回』は違う!コピーの粗が見つかるたびそれを直した!改良による不具合が起これば取り除いた!

 

そうやって全ての失敗をカバーしたのが『前回』だ!確実に成功するはずだったのだ!!否、『はず』ではない!!あんなことが起きなければ確実に成功していた!!!

 

計画を突き詰め全てを完璧に整えた上で実行した『前回』!そんな俺の期待と努力を嘲笑うかのように起こった『不確定事項』!!複数の運や気まぐれが絡み合った末にはじき出された『失敗』!!!

 

「今度こそ...今度こそだッ!!」

 

そう今度こそ──

 

ん?誰かいないか?とりあえずふりむく。

 

「...なんだ、お前か。ずいぶんと早いな」

 

居たのはアサシンのマスター。用件はわかってる。注文の『品』を取りに来たんだろう。

 

「えぇ...時間ピッタリのはずですが。」

 

そんなバカな。手首に目をやる。10時。なるほど、時間通りだ。察した。

 

「そうか、すまない。...ほんとにコイツだけでいいのか?」

 

注文された『品』をだしながら、話を進める。

 

「あぁ、これがあれば大丈夫だ。......注文通りの品、確かに受け取った。聖杯戦争が始まり次第働かせてもらいます。依頼通りに」

「それはありがたい。じゃあ今すぐ働いてくれ。ついさっきセイバーが召喚されたんでね」

 

そう、ついに召喚されたのだ。思わず笑みがこぼれてしまった。

 

「...なるほど。おめでとうございます。では、早速──」

「ああ待てもう1つ。」

 

はい?と言いたそうな顔をよそ目に続ける。

 

「聖杯戦争が始まってしまった以上表立っての協力はできない。仮に命の危機だろうと決して助けはしない。...わかっているな?」

 

彼は一言で返事をすますとブツを持って退室した。

その向こうは何故か、暗かったような明るかったような気がした。

 

~~~~~

 

状況 が 全く 読み込めない。

 

「うっし。パスは繋がったみてえだな」

 

訳の分からない出方をした訳の分からない大きい人が、訳の分からないことを言ってる。

とにかく、大きい。あとは髪がモサモサしてたり、どこか昔の人の格好をしているくらい

目は鋭く、顔は少し怖い。

 

「そう、パスは繋がった、が、」

 

そう言って彼は後ろを振り向くと

 

「あの、シマに勝手に入っている虫二匹を祓えばいいんだよなぁ...!」

 

男が剣で指した先は澪尾。まさか、この人澪尾を殺すっていうの?

 

「楓花...そうだったんだね。」

「!?」

 

澪尾がすごい怖い顔してこちらを見る。

 

「強引に連れて行って、それで場を整えてこちらを殺す...」

 

殺すって...

 

「いやちょっと待っ...」

「祓ってやらァッ!」

 

私がセリフを言い終える前に、男は澪尾の首を狙う。

しかし、その太刀筋は澪尾の首をはねるかわりに金属音を響かせて止まった。

 

「状況を見てお話で済むかと傍観を決め込んでいたのですが、いの一番で突撃とは、いやはや。あなた、バーサーカーでは?」

 

サーカスにいるような格好をしたお兄さんが突如『なんもない所』から顕れて、男の剣を杖で受けていた。

両者とも、距離が近すぎるのか一旦ある程度の間隔を置いた。

 

「ほう、そのナリっちゃあ...テメーはキャスターだな。」

「ご名答にございます。少しは話が通じる分、バーサーカーの線は薄れた、と言いましょうか。」

 

一連の会話といい、連続するありえない現象といい、今の私にとって一番大切なのは「説明」であった。

 

「おい!醜女ェ!さっさと指示を出せ!」

 

急に大声を出してきた。こっちのセリフだよ 私は何をすればいいの?

 

奥には澪尾の顔が見える。怖いけど、怒っているような顔ではない。それよりもっと、もう3段階踏み込んだような顔をしている。

 

白い剣と黒の杖の応酬。人の目では追う事ができない。それだけで人の業では無いことがわかった。

 

「早く!指示を寄越しやがれ!醜女ェ!」

 

男の怒号はどんどん大きくなる。

 

「おやぁ?仲間割れにございますか。」

「ちっ―」

 

目の前で手品師風の人と戦っていた男は、急にこちらに踵を返し、私を抱え、窓へ向かい、

 

「歯ァ食いしばれよ、醜女」

 

ベランダから飛び降りた。

刹那の出来事であった。

 

「え」

 

これ 私 死ぬ?

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

地面が迫る。ものすごい勢い。私は目をぎゅうっと目を瞑る

どおっ、と音がした

目はちゃんと見えたので大丈夫っぽい 意識も普通に──

 

「っしゃ行くぞォ!」

 

と確認をする前に益荒男はどこかへ走った。しかも速い。自動車くらいにスピード出ているんじゃないかっていうほど

 

ふとして、森のようなところに入ったところで毛むくじゃら男は立ち止まり、木のところで私を下ろした。

 

「いてっ」

 

しかも乱暴に

 

「ここまで来れば、余裕はあるか」

 

男は木にもたれ、ため息をつく

 

そういえばここまで一切の説明無しだ。まずこいつの名前を聞かないと

 

「あっ!あの!」

「?」

「あんたの名前って何?」

「あぁ...?俺か...俺は...いや、『セイバー』って呼んでくれ」

 

セイバー...日本人、少なくともアジアの人間とは思えない名前である。

 

「『セイバー』...?バカにしてるの?最強じゃないよ全然。あんたの名前じゃないでしょ。」

「はーん...『名前』と聞くあたり、お前本当に何も知らなさそうだな。」

 

セイバーが妙なことを言い出す。

 

「...まぁそうだよ。私全然知らない。さっきの円くてブワァーってするやつとか、なんか手品師みたいなお兄さんとか、なんで澪尾が人殺しみたいな顔してたのか」

 

今までの不安がどっと流れたのか、大きな声で早口になる。

 

「端的に言うぜ。お前、『とんでもなくやべー事』に巻き込まれたみてえだな。」

 

やはりそうか、理解はできなかったが、感覚で分かっていた。

で、知りたいのはその後だ。WhatもWhyもHowも何もかも。

 

「...まぁ、わかったけど、もうちょっと詳しく教えてくれない?」

「まぁ、そうだな、あのさっきの胡散臭えやつがあと少なくとも―」

 

するとセイバーは急に剣を抜き、後ろに飛び込んだ。それを目で追うよりも先に鋭い音が響く。

 

「俺を含めて7人はいるな。」

 

振り向くと、さっきのお兄さんが。そして澪尾もいる。

 

「いやはや...結構イケると思っていたんですが。」

「キャスター、止まらないで。ここで一気に仕留めるよ。」

 

澪尾やばいよ。最強なほどの殺意。

 

「ねぇ澪尾?その...無理やり連れていったことは謝るよ。ごめん。だから一旦止まろ?」

 

澪尾は睨んだまま無視してキャスター?っていう人に指示を送る。

 

「キャスター、セイバーのマスターを無力化して。セイバーとの交戦はできるだけ避けて」

 

するとキャスターの視線は私の方に向く。それを阻むかのようにセイバーはキャスターの方にがっついた。

 

立て続けに繰り出されるキャスターの連撃を、セイバーは剣1本で全部凌いでいる。

 

「醜女ェ...!早く指示を寄越せ!」

「わ、私を守って...!」

 

私は咄嗟にこういう指示しかできなかった。そしてなんとか澪尾の方へ向か─

 

 

           えっ

 

 

誰かに突かれたのだ。脇腹を抉られたように何かで突かれただけ。一瞬の出来事だけど、私にはそれが感覚的にわかった

だけどそのあとは吹っ飛ばされて、木の方にぶつかった。完全に事態を把握したのはその時だった

 

「──かはっ」

どん と衝撃が体中全体につたわる。

どうしよう、体が重い。

そして、そこにはまた違う人の声が、

 

「あァ?生きてやがったか。」

 

顔と毛深さはまんま猿のそれで、手には赤い棒、頭には金色の飾りのようなものが巻かれている。

 

「そ...孫悟空!?」

 

私は思わずその言葉を口にしてしまった。

横腹の痛みよりも、居るはずの無いモノが存在しているのだ。

 

「ご存知じゃねぇかァ!!いかにもォ!オレサマが斉天大聖にして花果山の猿王、ランサー、『孫悟空』様よォ!」

 

孫悟空は威勢のいい口上を言って見得を切った。

 

「これ、孫、無闇に真名を名乗るのでない。 モタモタしとらんかったら、あの小姐の息の根を止めれただろうに。」

 

初老くらいの、白髪がやや混じったおじいさんが孫悟空(?)のところへ歩み寄る。

 

「こんくらいは多めに見てくれよ。さっきアサシン捻ったろ?」

「!?」

 

孫悟空のセリフに、澪尾は驚愕したようだった。

 

「......キャスター、退却。」

「えぇ!御意にございます!」

 

澪尾とキャスターは森からさぁっと消えていった。

 

「オレらも行くぞ!」

 

セイバーはそう言うと、私を肩に載っけて豪快な速さで森から抜けた。

 

「おい醜女、さっさとお前の拠点を教えろ。」

「―あぁ、......うん」

 

あたりはすっかり夜。月は半分よりちょっと欠け気味。

あんなに派手に突かれた脇腹は痛かった。痛かったけど、何だか少し切なさが勝っていた。




いかがでしたでしょうか、第3話 フーカ・イン・マジックランド
この後、主人公の覡 楓花はどうなってしまうのか。澪尾との関係やら今後の動向やら、それについては第4話で記そうかなと思っております。
では、感想や評価など頂けましたら幸いです。


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第4話  サーヴァントは召喚主の運命を見るか?

第三話から投稿がかなり空いてしまい、申し訳ございません
一身上の都合により、執筆よりも優先度の高いことが立て込んでておりました
さて、第四話ですが、今回はいろいろな陣営の内部事情です。
第三話でトラブルが起きてしまった楓花と澪尾ですが、それぞれどのような選択をするのでしょうか。
それでは、第四話どうぞ。


「―そのミオってやつが、キャスターのマスターで、お前のダチなんだな?」

「うん。だからその、仲直りしたいなぁって・・・」

セイバーは私の部屋の中でくつろぎながら訊いていた。

 

私とセイバーは、キャスター、「孫悟空」ことランサーとか言うヤツらと戦って・・・防御一辺倒だったけど機を見て撤退した。

今は私の家の中でとりあえず作戦会議、というか尋問を行っている。もちろん私が尋ねられる側だ。

 

「んで、あれだ。お前の名前、まだ聞いてねえよな。」

一瞬はっとなったが、なんだか「はいそうですか」と教えるのも癪に障る。

「それよりセイバーの本当の名前を教えてよ。あるんでしょ?本当の名前。」

「いいやこっちから先だ。お前の名前を知っておかねえとこの先ずっと醜女呼ばわりするぞ。」

間髪入れずに返された。シコメっていう単語の意味がわからなかったけど、なにか蔑称っぽい感じだと思ったので渋々名乗ることにする。

 

「・・・楓花。覡 楓花」

「よし、じゃあ話を続けるぞ楓花。」

「はい」

 

改めてセイバーがこっちを向いて胡座をかいた。

「すまんが、俺の本当の名前は教えられねぇ。」

急に約束を反故にしやがった

「なんで?」

彼はすぐに返す

「隠す方が強いからにきまってんだろ。」

謎が謎を呼ぶ

「なんで?」

また彼は返す

 

「・・・・・・じゃあ、順を追って話すぜ。」

・・・セイバーの目はより真剣になった

「お前が巻き込まれた...のか参加したのかは現時点わかんねえが、今お前は『聖杯戦争』っつうかなりやべえ催しの中にいる。それはわかるか?」

急にわからない単語が飛んできた

「えっ・・・・・・なにそれ、知らない」

「・・・」

セイバーは一瞬、絶句した。けど

「・・・分かった。『まず』の場所が違ったみてぇだな」

セイバーは改めてこちらを向く

 

「まず、聖杯戦争についてだが、戦争と言っても国同士のでっかい争いじゃねえ。7人の魔術師が聖杯ってのを奪い合うタチの悪ぃ喧嘩だ。さっきも言ったが、お前はそれに()()()()()()()()

「うん」

セイバーは続ける。

 

「でだ。どこのだれが考えたが知らねえが、()()()()()ってのはどうにも陰険らしく、自分で胸張って戦わずに『サーヴァント』っていう・・・まあ俺みたいなやつを呼び出して戦う。そのサーヴァントが7騎召喚されて、最後の一騎になるまで殺しあうことになる。」

 

「へ、へぇ~・・・」

私は、あほみたいな顔になっていながら頷いているだろう。このおじさんの話していることが、あまりにも嘘っぽすぎるし壮大すぎる。

だけど、私は「召喚される」光景をその目で見たのだ。そして現にそれが目の前にいる。

 

「頭の整理はついたか?」

「うん。続けて」

「まあ、俺はこうやって召喚されたわけだが、さっき言った、サーヴァントを戦わせる魔術師のことを『マスター』って言ってな、それがお前だ。」

「なるほど・・・なる・・・ほど?」

「まぁ・・・そうなるよな。」

 

セイバーはため息をつきながら私の右手を掴んだ

「わっ」

「お前の手の甲を見ろ。」

気が付けば赤いタトゥーのようなものが。自分でもこんなの書いた覚えはない

「これは令呪って言って、お前のサーヴァントに三回だけ命令をすることができる。まあ簡単に言や、これが、()()()()()()()()()()()()証であり、これがなくなったら俺とお前の主従関係は終わる。」

 

愚問はしなかった。その言葉の重みというか、主従関係ってヤツが切れたらどうなるかっていうのを、私の勘で分かったような気がした。多分相当ヤバイになるんだろう。

とりあえずこのオジサンが私の家来みたいな人であるということと、()()()()()()()()でこの家来みたいなのが私や澪尾他5人の命令でバトルロワイヤルまがいなことをされるというのが分かった。

「大体のことは分かったか?」

 

セイバーは念を押すように聞いた

「うん」

「よし。じゃあ次の話だ。」

「ここから先は、楓花。お前自身の問題だ。」

 

急に部屋の空気が変わった。

「選べ。」

急な質問である。

「選べ...って何を?」

鋭い目をしたセイバーは続ける。

「俺だって外道じゃねえ。何も知らなかったお前を聖杯戦争から無理矢理引きずりおろして切捨御免たぁ、筋が通らねえ話だ。」

「楓花。聖杯戦争に参加するか。マスターの座を降りて俺と契約を切るか、どっちかを選べ。」

厳かで、強い眼差しでこちらをにらむ。

 

これは分岐点だ。多分、この後の私の決断によっては私は死ぬかもしれない。

と、迷っているうちに、澪尾のことを思い出した。

「・・・質問、いいかな。」

 

「おう」

「もし、私が参加したら、澪尾はどうしてくると思う?」

「あぁ、さっき話したアイツか。」

 

表情を変えず。セイバーは告げた。

「わかんねえが・・・お前のことを殺しに来るんじゃねえか?お前とソイツはダチなんだろ?でも俺が召喚されてた時は・・・ミオだったか?まあたまげてやがったぜ。」

私ははっとした

 

「今まで仲良ししてきたやつがいきなりだまし討ちまがいのことするんだぜ。人によっちゃあ考えることもあるかもしれんが・・・俺だったらすぐ殺してるな。」

確かに。と私は思った。まだ悩む。私はもう一つ質問をした。

「・・・じゃあ、私が参加しなかったら・・・どうなるかな」

少し間をおいて、セイバーは告げた。

 

「多分、お前の目の前から姿を消すだろうな。おそらく、二度と会えねえぜ。」

私はその言葉でまたハッとなった。

彼は続ける

 

「正直、俺ァどっちでもいいぜ。ほかのマスターに頭一つ下げりゃ済む話だからよ。だから、これはお前の選択だ。」

澪尾はどう思ってるんだろ。怒ってるのかな。それとも、私のことなんかどうでもよくて、今は勝利のためにサーヴァントと作戦を立てているのかもしれない。

でも・・・    ()()だもん。

 

―決めた。

「私、戦うよ。澪尾と絶対に、仲直りするもん。」

「それに・・・」

 

今考えれば、わたしは澪尾に対していろんなことをした

だから

「謝らなきゃ。」

わたしはセイバーの前で誓った。

「―いいよ、セイバー。今日から、私は貴方の、マスターになる・・・!」

こうして、私と澪尾との物語は始まって行ったのである

 

~~~~~~~~~~

 

ありえない。予想外だ。

・・・認識の範囲内だけど

海谷での魔術師の家は、私、宍戸と街のはずれにある麻霧(おぎり)くらいだ。

ここら一帯で力のある魔術師の家なんて麻霧くらいしか聞いたことがないし、他の魔術師が引っ越してきた。なんて事はココ最近聞いていないし(そもそも魔術師という存在自体世間に知られていないのだけど)

ありえないのだ。なんで、なんで、どうして、

あいつ(楓花)がマスターなの?

 

「よろしいですか?マスター。」

急にキャスターの声が聞こえた

「うわぁっ!?」

正直かなり心臓にクる。人が考えてる時に、死角から出てくるのだ。怖い。

「・・・びっくりしたぁ。」

安堵のため息 そしてイライラがこみ上げるけど面倒くさいので其れは引っ込める。

胡散臭い葦のような男は話を切り出す

 

「話、よろしいです?」

「何?」

()()()()()()()()()()()()()、面識がおありで?」

すさまじい単刀直入ぶりである。

 

「・・・まあ、そうだったよ。正直今はわかんない」

キャスターは何か気づいたようだった

「その様子ですと、あなたの『友人』が魔術師であったことに気づかなかったってヤツですか」

私はこくりと首を縦に振る。

 

「いやはや!それはまあさぞ辛きにございますね!」

このキャスター、どうやら口ぶりにかなり癖があるらしい。すこし癪に障る

 

「前から思ってたんだけどさ、そのしゃべり方どーにかなんないの」

「私のしゃべり方、にございますか?」

そうすると彼はいかにも申し訳なさそうな顔をした

「いやはや!・・・こればかりはどうしようもありません故、正直言うとこれは()()というやつでございまして、令呪などで縛るのならお好きにどうぞ?しかしそうされましたら私がどうなるか私にも予測しかねます。真名濁し、としてご容赦いただければよろしいのではないでしょうか?・・・しかし、私は不可能を可能にする男にございますれば・・・いやはや!普通の口調にでも戻せるのではないでしょうか!?」

知るかよ

 

「・・・わかった、じゃあそれはいいよ。」

次はキャスターが話を吹っかけてきた

 

「で、どうされるんですか?ご友人は。」

「もう敵だよ。倒すし、必要になったらもう殺す。」

「はぁ、左様にございますか」

「そうだよ。」

口調もあってか、悠長なキャスターにさらにイライラする。

 

「私、少し思う所がございまして、」

「何」

「彼女、本当に裏切ったんでしょうかね。」

「はぁ?」

と同時に、私の知らない何かがこみ上げてきた。

 

「何故って?普通の魔術師であれば、あんなところで召喚致します? 友人がいらっしゃる、発見されやすい、ほぼアウェイである場所。私だったら致しませんよ?現にマスターが私をお呼びなさった場所も、自宅の工房ではなかったじゃないですか。 いやまぁ!私魔術師ではないのでそんなこと微塵も分かりはしませんがね!えぇ!」

「キャスター。」

「戯言にございます。此度の戦といえど、いやはや、ユーモアのユの字くらいは理解してくれる主の下に呼ばれたと思っていたのですが・・・」

私はキャスターに必要以上に反応してしまった。

 

詐欺師なのかサーカス師なのかわからない男の顔は青ざめている。

気が付くとひょろひょろした胡散臭い男は張り付いたように壁に立ってた。

私は相当感情的になって詰め寄ったらしい。

 

「は、はは。これはこれは・・・。大変失礼いたしました・・・」

顔をひきつらせながら

 

「そうだ!マスター、コーヒーなんてどうです?話もひと段落ついたところにございますし、ええ!私が淹れますとも。なにより召喚されてやりたいことリストの中に『おいしいコーヒーを淹れる。』とありました故に。せっかくにございます。ささ、リラックスいたしましょう?台所はあちらにございますよね?」

 

いやはや、という言葉を連呼しながら彼は一目散に台所へ向かった(逃げた)

はぁ、と私はため息をついた。

でも、これである程度吹っ切れた、というものだ

最も、あっちが、あのサーヴァントを手放さなかったらの話だけど。

その時は―

「いい度胸じゃん。ぶっ潰してあげるよ」

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

召喚されたときはかなり驚いた。

が、一目でわかった。英霊とは、僕たち人間とは違う、まさに幻想の具現化であるのだと。

―成功してから、僕はこのサーヴァントとはまず会話をした。

 

最初はたどたどしかったものの、時間がたってしまえば僕とすんなり喋ることができた。

次に行ったことは観察だ。僕はライダーに、「待機」を命じた。下手に動くよりも、戦況を見てから動いたほうが賢明だ。

幸いにもライダーは静かな性格だった故か、ちゃんと聞いてくれた。

 

―観察と会話の結果、ライダーは神性を持っているらしい。

それに、携えた兵装、ライダー特有の機動力。

僕が得た確信は一つ。この聖杯戦争は僕の勝利で確定した。ということだ。

しかし、油断をしてはいけない。まだ動くべき時ではない。

潰しあって減っていったところを、確実に狙う。

そう、僕とライダーなら、きっと

 

「失礼します。」

ノックの音がしたので、僕はノートを閉じた。

「どうした?」

ぼくはふと窓を見た。どうやらもう夜らしい。

彼女はドアを開けた。

「コーヒーを届けに参りました。」

「気が利くじゃないか。あぁいや、やはり紅茶にしてくれ。僕はもう寝たいのでね。」

はい、と彼女は言うと代わりにすぐ紅茶を差し出した。

 

「そう言うと思っておりました。」

「ますます気が利くね!いやぁ、気分がいいね!此度の聖杯戦争は勝利同然だし、いいところにあつい飲み物が来る。そもそも、聖杯戦争が開催されたのも僕にとってジャストミートだったんだ。いやぁ、かなりついてるね。」

「ええ、」

白いカップに赤く透明な液体が注がれていく。その時間さえ優雅に感じられるほどに僕は悦に浸っていた。

 

「それにしても。あのクソジジイの間抜けッ面、本当に最高だった。あれは芸術だね。岡本太郎がいっただろ?『芸術は爆発だ。』って、僕にしてみれば、あの一瞬こそ爆発でそれでこそ美しい芸術だった。」僕は紅茶をあっという間に喉に突っ込んだ。

「せいせいしたよ!もう僕を邪魔する奴はいないし、それに、ライダーなら全部()()()()()!まだ出陣もしていないが。僕は大いに期待している。」

「・・・失礼しました。」

 

用が終わったのか、彼女は部屋から出て行った。

僕は周到だ。この海谷一帯に、使い魔をばらまいておいた。

 

どうやら今夜、3騎が遭遇して戦闘。その戦闘の前にも1騎の反応が薄くなるのが観測できた。瀕死になったか、退去したかのどちらかだろう

もう少しだ。馬鹿どもはさっさとやられて、僕とライダーの踏み台になる準備をしてくれ。

 

今宵は気分がいい。

僕は笑った。この勝利を喜ぶために、敗者たちの前座を馬鹿にするために。

部屋中いっぱいに、大きく嗤った。

 

 

この聖杯戦争、麻霧斗真が聖杯をいただこう。




いかがでしたでしょうか。Fate/Subsequent第四話
最後までご一読いただき、誠にありがとうございます。
次回の内容は未定でございます。読んでからのお楽しみということで、
それでは、第五話にてお会いしましょう


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第5話 オカルティアン・ラプソディ

どうも、マッポーゲニアです
第5話の内容がかなりシンプルで、自分の時間も結構取れていたので今回はかなりスムーズに書けました
今回は楓花と澪尾の話はメインではなく、別の陣営のお話です。
では、ご覧ください


僕、ダレン・スペクターは世界一ヘンな運命を持つ男であるという自信がある。

小学校、中学、高校は普通に、なんの荒事もなく過ごした。というのもこれは僕が小さいとき、僕の先生から教えられた「約束」を常に信条として生きてきたからだ。

高校を卒業してから、僕は軍に入隊することに決めた。特にすることがなかったのと、いろんな経験を積んでおけば自ずと得られるものもあるだろう、と判断したためである。

 

しかし、僕はここで地獄を見ることになる。

元々やせぎすな体形で体育会系のようなコミュニティが僕の性に合わなかったのだ。

今思えば、あの判断はかなり僕の人生にとって悪手だったといえる。

 

それから、あまり詳しい期間は覚えていないけど、すぐに除隊した。

数えきれないほどのパワハラ、モラハラ、

・・・それにセクハラだってされた。さすがに僕は自分のケツを掘られに軍に入ったわけじゃない。

 

除隊してからはすぐに雇ってもらえる会社を探し、職に就いた。・・・だけどネクラな性格が祟ったのか、上司や同僚とすぐトラブルを起こした。

結局なんやかんやあって会社はクビ。 次の会社を探した。

 

次の会社はかなり居心地がよかった。自分と同類が比較的多かったからだ。この時同僚に勧められ、小さい頃は気味悪がってたオカルトにはまる。僕が22歳の時だ。

しかし、僕にとってビルが立ち並ぶストリートというのはかなりストレスだった。いや、人と人の関係というのが億劫だ。というのが正しい。

 

僕はまた会社を辞めた。その時はちゃんと友人である同僚も別れを惜しんでくれたし、今も彼らとはたびたびパーティをする。

僕は西部の田舎に移り住んだ。とても静かで人との関わりも最小限に抑えられる。ここで自給自足の生活を送ることに決めた。

そして、そこそこ集まってきたオカルト仲間たちとレスをしてる時に、僕の運命は変わった。

 

なんでも、「極東の小さい島に小規模で魔術的なゴタゴタが起こっているらしい」というのをオカルトスレで見つけたからだ。

このことはレスをあさっている僕やオカルト仲間の間で有名になった。情報源が現地であるのと、レス主の正体が特定できない、他にも興味心をくすぐるような要素がありまくってた。

僕自身、外出のけだるさよりも興味のほうが勝ってしまった。

幸か不幸か、僕以外に暇な奴はいなかったらしい。ならばこれは僕だけで独り占めするとしよう。と、海谷(ウナダニ)へと赴いたのである。

 

着弾してからは、海谷のはずれにある、手ごろな家を借りた。日本の家はウサギ小屋なんて話をきいたし、ただでさえ小さいのにマンションやアパートだったら息苦しくて死にそうだと僕は踏んだ。

それから、あれこれとオカルトグッズを家において、生活の足回りも用意した。

観光ついでに、海谷の心霊的なもの、今回の「ゴタゴタ」に関係がありそうなものを隅から隅まで調べまくった。

そして、現在に至る。

 

「はぁ・・・」

海谷に到着してから三日目。パソコン右下の端にあるカレンダーは「Fryday」の文字。こんなに経ったのに、こんなに進まない。

完全に手詰まりである。正直、自然を離れてここまで歩いてきたのは社会人時代以来だ。

あのレス主の正体もここに来たのに掴めない。もう少しなんだ。だけどそのもう少しに僕はたどり着けない。

 

そういえば、と

僕はまだ整理されていないダンボールを漁った。

「....あった。これか」

それは、1冊のボロボロな本だった。引越しをする前、実家に行ってオカルティックな道具を探していたらこれが見つかったのだ。

 

親父やお袋に聞いてもその存在、出自は謎らしい。

ただ親父は『「その本を余所者に渡してはならない」とだけ聞いたことがある。』という情報を口にした。

僕はなんとなくその本をめくろうとしたが、

 

「こんな破れやすい本、素手で触ったらやばいだろうな・・・」

と、今度は白い手袋をはめ、ピンセットを以て開帳する。

開くと、ほぼ内容は虫に食われていたが、端的に言うとこれは()()()だ。

「聖・・・戦争の・・・容を、・・・」

 

僕はすぐさまノートPCを開いた。本に書かれていることで怪しいやつを見つけたらすぐさま検索。これを繰り返していった。

が、ほとんどそれに類するものは出てこなかった

しかし、それでこそこの書の信憑性が増してくるというものだ。

 

「いいぞ・・・いい・・・。でもまだ大ダネがないな・・・。」

そして、僕は本に書かれている奇妙なものを目にした。

 

「なんだ?この紋章・・・」

その隣のページには「召喚」とうっすら書かれているらしい文章が載っていた。

「これ、もしかして・・・」

間違いない。大方予想はついた。つまり

 

「悪魔の召喚書だ!昔、悪魔召喚の儀式が起こるときに、僕のご先祖様はこのことを記していたわけだ!」

と、あれこれ推測や解読が一気に進まった。点と点が線になる、とはこういうことを指すのだろうか。

いや、そうに違いない

 

ここで大きな難関が一つ

召喚のためには生き物の血が必要だと分かった。

「まいったな・・・。」

自分の血を・・・と思ったが陣を組むのに必要な血を想定するとかなり血の気が引いた。

「どうしたものか・・・」

と、窓へ目をやるとそこには、にゃあと鳴く小動物が。

「!?」

 

野良猫と30分の格闘をして捕獲は成功した。

「日本は銃禁止だからな・・・持っていたら一発で仕留められたのになあ・・・」

と、ぼくはナイフでその猫に切り傷をいれながら、ドクドクと流れる赤い液体を瓶で集める。

 

「うげぇっ」

勢いでやってみたはいいものの、実際かなりグロテスクだ。血が流れるのは何回見ても僕は耐性の付くものじゃあなかった。

「ごめんよ。ちょいとばかし、頂戴するだけだ。おわったら治療してやるからな。」

 

第一関門はこれにて潜り抜けた

結構血をとったが大丈夫だろうか、と心配しながら僕は猫に応急処置をした。

軍での訓練の中で、真面目にやった数少ないことが応急処置でよかったと思っている。

本来は人を想定しての救命だけど・・・まあ要所要所には手当てしたから大丈夫だろう。

 

猫は意識が朦朧としていながらも、息はあった。引っ掻こうとするあたり野良猫のしぶとさを、しみじみと感じさせられる。

僕は猫に栄養剤をうった。これも猫ちゃん用じゃないけど、まあ大事はない。そう思いたい。

 

早速僕はそので血で本の書いてある通りに魔方陣を描いた。

この紋様自体の意味は分からないが、何か精密なしくみがこの陣の中に仕組まれてあるのだろう。

 

「ふぅ・・・描いたぞ!」

作業がひと段落ついたので、ここで休憩をする。僕は手を後ろについて海谷の空を見た。

―思えば、今日はかなり幸運が続いたものだ。

といっても、本来の目的にそれてはいないかと懸念はしたものの、まあ興味を満たすものはできたしそれで十分だろう

その時だ。

 

イッ(ouch)!」

右手のほうに瞬間的だけど強烈な痛みを感じた。

まさか猫が起き上がって反撃でもしたのかと猫のほうを見る。

しかし、ヤツはまだ眠ったままだった。

「・・・?」

 

僕は次に、痛みのした右手の甲を見た。

すると、赤いロゴのようで、それでいて不気味な()()()()()()()()()がくっきりと表れている。

「えっ・・・えっ・・・!」

あり得ないことは次々と起こる。

 

描いた魔方陣がバチバチ、と音を立てて光を発している。そしてその光とバチバチはどんどんと強くなっている!

その光は暗くなることを知らない。さらに召喚陣の周りを風が吹きまくていた。

すごい。すごい。すごい!来るぞ!

 

―そして、

正面から急に懐中電灯を点けられたかのように、僕の視界は白一色となった。

 

目を開ける。すると、髪を結った、白い衣をまとっている人影がそこに立っており、さっきの僕のように空を見ていた。

やがてソイツは僕の存在に気づき、気圧されてすくんでいる僕のほうへ近づき、こう尋ねた。

「君が、私のマスターかい?]

 

・・・マス、ター?

 

 

 

とりあえず、落ち着こうと悪魔(?)を椅子に座らせ、仔細を話した。

「はぁ・・・そういうことか。」

とりあえず大方話は聞いた。聖杯戦争から、令呪やら英霊やら・・・それらの情報は僕にとって垂涎ものだった。

「これで理解したかい?」

 

むこう側に座っている、悪魔と思ってたものはかなり板についた様子で僕の淹れたコーヒーをすすっている。

「苦ッ!!!」

そして床に黒いソレをぶちまけた。

「・・・なんだ。この苦いのは。何だ?私をサーヴァントだと見くびっているのか?ええ?」

「ああいや、そんな気はないんだ。待ってくれよ。すぐ床を拭くからさ。」

 

気を取り直して

「今度は大丈夫だろうね?」

「ああ。さっきはすまん・・・苦いのはびっくりするよな。そこにシロップを用意した。・・・ああ、苦いのを和らげるやつね。好きなだけ入れて、そばに置いてあるマドラーでちゃんとかき混ぜてから飲んでくれ」

そうすると彼女(いや、彼なのか?とにかく中性的な見た目だが、今は「彼女」と考えよう。)は、気難しい顔をして、シロップを1個2個・・・7個入れてコーヒーをすすった。

 

「ふむ」

今度は平気らしい。

「で、だ。」

彼女は話を切り出した。

 

「契約するか、契約しないか。選びたまえ。君にはそれを選択する権利はある。」

そんなの、決まってるじゃないか。

「そりゃあ、僕は参加するよ。せっかく出不精のオカルトマニアがここまで来たんだ。こうなったら、趣味に生きて、趣味に死んでやるともさ。」

さて、次にやることと言ったら・・・

これも決定事項だ。

 

「ん?ダレン。何をするつもりだ。」

「何って、今起こった出来事をスレでぶち込んでやるのさ。こんな面白いこと隠しておけるわけがないだろ?」

こうして僕が[投稿]の文字を押そうとした瞬間。

 

「あれ・・・」

いや、キーを押そうとしているけど、キーが近いようで遠い。

()()()()()()()()()()()()()みたいだ。

 

「今君は、とてつもなく軽率な行動をしているということに気が付かないのかい?」

僕はすぐさま彼女のほうを見た。

「だから私が()()()。いいか、話を聞け。」

「!?」

 

これが、この英霊の力なのか?

「よせよ。僕の邪魔をするのはとても頭にくるぜ。確か令呪って契約しているサーヴァントに命令できるんだったな?君がこれを解かないのなら僕だってやり方が―」

 

「今、君が向こう見ずな行動で君の一連の努力の成果を見せびらかすとしよう。考えてみろ。これは戦争なんだぞ?敵はどこにいるかもわからない。今だって、君と同じ状況にあるかもしれない。」

「それに」

 

雄弁はまだ止まらない

「私が今この体で土を踏んでいられるのは、隠し続けないといけない技術によって成り立っているからだ。魔術とは、そういうルールなんだ。こればかりは魔術を作ったやつに言ってくれ。令呪でやるのなら大いに結構、君がたった3画しかない貴重な強制命令権を使ってまでしたいのならどうぞそうしたまえ、私は君のためを思って忠告しているのだぞ?イギリスに『好奇心は猫を殺す』ということわざがあるようだが、使い方に多少の差異は有れど今の君にはそれが一番お似合いだとも。」

「だからやめたまえ」

 

彼女は続けた。

「魔術はね。『神秘』であるからこそ魔術なんだ。隠すことに意味があるのさ・・・明かしてしまったら?それは科学がその仕事と置き換わることになる。君がばらさなければ魔術は魔術でいられる。好きなコンテンツが生き続けるのだよ?今を重視するか、未来を重視するか、だ。ダレン・スペクター。」

 

「・・・わかった。そこまで筋が通されちゃあ僕も返す言葉がないよ」

僕はパソコンをぱたんと閉じた。

「賢明な判断だ。」

 

そしてすぐ彼女は言う。

「この忠告はこれっきりにしておいてくれ。これ以降君が『利敵行為』ともみれる言動をした場合、私は君を見捨てるからな。」

「オーケイ・・・」

この英霊がどれだけ聖杯戦争に固執しているのが分かった。

そういえば

 

「ああ、そうだ。君の真名を教えてくれるかい?今話せないんだったら、せめてどのクラスなのかくらいは知りたい。」

彼女はさっきとは打って変わって冷静な態度で返した。

「そうだな。自己紹介がまだだった。今回はアーチャークラスで現界した。私の真名は―」

 

~~~~~~~~~~~~~

 

最強の女子高生、覡 楓花の朝は早い。

朝起きて、支度をして、下に降りて、朝食をとり、玄関をくぐって、さあ学校へ!レッツゴー!

まさにいつもの日常である。いやー!日常っていいなー!ビバ平穏日和!

 

「おい、マスター。」

そしてその日常はただちに崩れ去ったのである。

「なぁに、セイバー。」

「おまえ、どこ行くんだよ。」

「え、学校だけど。」

 

セイバーはため息をつく。

「な、何よ?別に学校行ったっていいでしょ?」

「ガッコウ、ってたしかお前みたいな年のやつらが集まる場所だろ?それならずいぶんと人が多いところにいくっつうことじゃねえか。」

「それの何が悪いの?」

「右手の甲を見ろ。忘れたのか?」

あっそうだ。

 

まあ急にこんな赤くてくっきりした痣誰かに見られたらそりゃあ怪しがられるよね。

「あ、あははぁ・・・こりゃあ失礼いたしました。」

「いくっつうんならよ。何か羽織れ。ないよりマシだろ。」

セイバーに言われて、私はすぐセーターを出した。

 

そういや、学校行かないって選択肢もあるのか・・・

いや、学校は行くもんだし、なんか今行かなくなったら明日また休みそうだし。

それに、澪尾がいるかもしれないし。

 

「おはよー。」

「・・・でさー。聞いたー?」

「えーまじ?!」

いつもの喧騒が続く中、私は教室へ行かずに部室へ行った。

ドアを開け、そこらへんにかばんを置き、椅子に座らずに壁にもたれかかって体育すわり。

いつも始業前からこうしているが、今日はなんだかいっそう()()()()()()()()()

「澪尾・・・」

 

昼休み、澪尾のクラスの担任に呼ばれた。

「覡 楓花さんか・・・」

国語の教師の川藤 大村先生。たまーに臨時で私のクラスの古文を教えたりする。

「宍戸のことなんだが、欠席届が出ていないまま休んでるんだ。お前、宍戸と同じ登山部だろ?何かあったのか?週末は活動を行ったって聞いたぞ。」

「あっ、それなんですけど・・・」

 

私と喧嘩して休みました。なんて言えない。いったところで、だよね

「澪尾、右腕ねん挫したらしくて・・・、しばらく休むそうです。」

「はぁ・・・」

川藤先生は微妙な反応である。

「まぁ分かった。体調不良、っていうことだな?わかった。わざわざ呼び出して、すまないな。」

「はい。失礼します」

 

結局、今日は澪尾を見ることはなかった。

 

下校中、急にセイバーが現れて話を切り出した。

「おい。」

「わっ」

「どうすんだよ、澪尾とかいうやつ。」

「てかセイバー急に消えたり出てきたり何してたの?」

「ずっとお前の近くにいたが。」

「えぇ!?」

 

私は驚いた。コイツうそをついているんじゃないか。いや、日中君見なかったよ?

「あぁ、俺たちサーヴァントはな、霊体化っていってな、簡単にいや幽霊みたいな状態になることができる。その間は斬る殴るとかの物理的な攻撃が効かねえし、魔力の消費も抑えられる。」

「えぇ、それ最強じゃん。」

 

「まあこっちからも攻撃できねえんだけどな。そんなうまい話はねえんだなこれが」

「あっそうなの・・・」

セイバーが話を戻す。

「でだ。キャスターのマスター、どーすんだよ。」

「うーん・・・」

私はセイバーに思っていることを告げた。

 

「私ね、澪尾と仲直りしたいの。・・・仲直りじゃなくても、今まで私がやってきたこと全部謝りたいなぁ、って。」

「そうしたら、もし殺しあう関係になっても、後悔せずに済むだろうから・・・」

私は今日の学校の時間を振り返った。友人がいないだけでも、こんなにも心に穴が開くのかとしみじみと感じられる。

 

「いや、殺すわけじゃないよ?殺すわけじゃないけど・・・澪尾は今はもう敵みたいなもんだし、怒ってるし・・・」

他にも言いたいことはあるのに、なぜかここで詰まってしまう。胸いっぱいになっているんだろうか。

 

「・・・なぁマスター。一つ方法がある。」

「何、セイバー」

「アイツと仲直りする方法だ。」

私はセイバーからの提案を聞いた。

 

「・・・」

 

 

「これだけだ。おまえができて、俺が納得する方法だぜ、ただ欠点もありありだけどよ。」

「いいね!その提案、ものすごく最強!そうと決まればすぐ行動ッ!行くよ!セイバー!」

 

 

 

作戦決行。準備は万端。装備はセイバー一人で十分。まあ澪尾がいなかったらそこまでだけど・・・

「準備はいい?セイバー」

「ああ、ただよ、相手はキャスターだ。どんなもん仕掛けてくるかわからねえからな。」

「へーきへーき!最強だもん!澪尾にごめんなさいして、今日のやることはこれでおしまい!」

私は深呼吸をした。そして

 

「いざ!澪尾の家へ!」

私はかつて、そしてこれからも友であってほしい人の前に立っている。

私が今から押すであろうピンポンは運命が変わる音でもあるのかもしれない。




いかがでしたでしょうか、
ダレン・スペクターのその後、アーチャーの真名、乞うご期待。としか今は言えません。
そして次回から楓花が澪尾の家でドンパチしかけます。
最後までお読み下さり誠にありがとうございます。
感想など頂けましたら幸いです。


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第6話 二人主屋敷の契

こんにちは、マッポーゲニアです。
第6話でございます。

澪尾と楓花、果たしてどうなってしまうのか
ご覧ください

色々詰め込みすぎたのでいつもより結構長いです。
覚悟して、ゆっくりして読んでいただければ。




午前8時、宍戸澪尾は起床した。

もっとも、午前8時であると気づいたのは時計を見てからであり、咄嗟に学校の支度をする。

が、あることを思いつくと私はそれをすぐやめた。

「・・・今日はさぼりでいいや。」

私をずっと起こしていたのだろうか、ピノはわたしが仕度をやめたのを少し不審がっていた。

 

「ピノ・・・今日は学校休みなんだ。今日はお前たちと十分遊べる日だよ?」

ピノはくるる?と首をかしげるが、ピノを手に乗せている私はこのこの~と両翼をすこしなでる程度で、くしゃくしゃにしてごまかす。

 

頭が犬の猫、ミケ。

 

二足歩行するワニ、タロウ。

 

「ドラゴン」を再現しようとしたキメラ、ボス。

 

そして足が六本ある鳥、(正確な種類はモズだったっけ・・・)のピノ。

 

この子たちが、私が小さいときに作ったキメラであり、私が気に入り、またあの子たちも私を気に入ってくれた、いわば魔術師にとっては貴重な、お互い心を通わせた友人である。

いまでは性能を重視した合成獣の作成が専らだが、この子達に関しては私の愛を注いだ。といっても過言ではないくらいに

 

私の家には私と、今紹介した四匹の友人くらいしかいない。

 

「ンマスターァッ!おはようございます!不肖キャスター、少しでもお役に立てられればと思い、ブレークファストをご用意いたしました!ささ、種も仕掛けものうございます故、冷めないうちにお召し上がりくださいませ!」

いや、このうるさい英霊とあわせて6人である。

 

重い瞼をこすりながら洗面所に向かう手前、テーブルを見た。本当に朝食が用意されている、使い魔の分十分によそってあり内心、ちょっと感心した。

 

 

食卓の前には、カリッカリのトーストの上に、脂でテカテカしているベーコンを下敷きにしてプルンプルンの目玉焼きが乗っていた。ベーコンエッグ、というやつか。

普通にうまそうなのが余計癪に障る。

「・・・まあ、いただきます。」

ふいに、目玉焼きを食べるときの癖なのか私は、ベーコンエッグの上に醤油をかけてしまった。

 

これにはキャスターも驚いたらしい。

「いやはや!マスター。さすがは日本人、といったところでしょうか。・・・しかしそこにソイソースをかけるのは少し似合わないのでは?」

ここで引けばよかったものを、私は変な意地を張ってしまった。

「・・・べ、ベーコンエッグは私はこういう食べ方なの!キャスターも騙されたと思ってかけて食ってみれば?お、おいしすぎて悶絶するよ?」

 

覚悟を持って口に入れた

 

 

普通にうまかった。

 

「あっそうだ。キャスター。あんたの真名さ、まだ聞いていないけどどの英霊なの?」

私の真似をして醤油ベーコンエッグをほおばってるキャスターはこちらのほうを見た。

「私の真名、にございますか。」

のこりのベーコンと目玉焼きを飲み込むと、彼は信じられない言葉を口にした。

 

「ん~、今は教えられませんね。」

「はぁ?」

あまりにも軽いノリだったので声が出てしまった。

 

「いやはや、二度もマスターの支持を無視するのはいささか許されざる行為ではございます。私が()()()()()。ただそれだけなのです。」

はぁ、ものすごく面倒くさい。

「なんでそんなに喋りたかないのさ。」

 

今度は、キャスターは伏し目がちに心の内を明かす

「ご友人と対峙したとき、ランサーが乱入いたしましたでしょう?彼の真名、孫悟空にございますよ?これではまず名前の時点で負けにございます。ええ。しかし!私の宝具はそれをも超える、空前絶後の大演目にございます故!その幕が開いたときにこそ演者である私が輝くというものですとも。」

 

らちが明かない。令呪で無理やり言わせようと思ったが・・・こんなことに令呪は切ってられないし。

・・・まあ教えてくれないならこっちから看破してやろう。

 

そんなこんなでピノやミケたちと遊んでたり、家の警報装置などの点検をしていたら夕方になった。

 

その夕方の時だ。私の運命を大きく変えることになったのは

 

「・・・ッ!これは!」

警報が鳴る。 外敵が来た。ということだ。

魔術師の工房にわざわざ立ち入るとは、変な奴だ。

変な奴・・・まさか

私はすぐ窓から外のほうを見た。

 

小さい身長にうちの高校の制服、それにポニーテール。

あぁ、あいつだ。あいつがいる。覡 楓花だ。

 

「昨日の友人にございますか。」

何気に一緒に覗いていたキャスターが話しかけてきた。

「うん。キャスター。こっちが指示を出すから、その指示通りに動いて。」

あの子たちにも戦闘態勢を取らせる

「ミケとボスは玄関近くで待機、敵が来たら応戦すること。タロウはキャスターと連携して行動して。」

 

と、この中で一番小さいミケがそのやる気を、私でもわかるようにふんすふんすと跳ね回っている

「う~ん・・・ピノは小さいから、私と一緒ね。」

 

ピノは一瞬固まりながらも、喜んで自分の肩の上に乗ってくれた。

 

「よし・・・!キャスター、タロウと一緒に連携お願いね。家に仕組んである術式は言ったから、それに注意して迎撃して。」

「ふむ。」

キャスターは、なんだか考え事をしているようだ。

「どうかしたの?キャスター」

「いや、一つ質問してよろしいです?」

今までとは違うような真面目な顔だ。

 

「ええ、ただ一つ単純な質問にございます。先ほどの警報装置についてなんですけれども。あの装置、()()()()()()って外までです?」

「え、いや・・・この家の敷地内までだけど・・・」

「ふむ・・・だとしたらかなりまずい状況にありますね。」

 

すこし背筋が凍るような感覚を体験した。

想定外の連続である。こんなこと想像もしたくない。

「私の懸念が正しければ・・・」

 

そう話しているころには遅かった。

「―ッ!マスター!」

咄嗟に振り向いた。

 

すると目の前には髑髏の面をかぶり黒衣の布をまとった、死神のようなものが

 

     来る

 

ふいにつぶってしまった目を、恐る恐る開けた

「間に合いましたが・・・()には敬礼を。」

キャスターが防いでくれているが、ピノが目の前で倒れていた

「ピ・・・ノ・・・?」

 

「チッ・・・」

焦りからか、白面の向こうからは舌打ちが聞こえた。

 

「いやはや・・・気配遮断でこちらに近づき、殺しやすいマスターを襲撃、これにてキャスター陣営お粗末!という目論見にございますか。姿を消すのが得意な割には、ずいぶんと見透かされるものでございますねぇ!()()()()さん?」

「・・・っ!」

 

そうか。この見た目、確かに過去の記録にあった。

七つあるサーヴァントのクラスの一つである、隠密行動や気配遮断などでかく乱をするクラス、『暗殺者(アサシン)』がいると

 

私はそれより、頭の中がピノでいっぱいで、刺客の分析もこれで精いっぱいだった。

 

「・・・見透かしたところで何になる。」

アサシンは大きく後ろに跳躍し、間を取って仕切り直しをした。

キャスターのおかげで、何とか隙からの強襲は防げた。

が、惜しい友をなくしてしまった。

せめてピノの遺体を、アサシンも撃退しなければならないし、ピノも取り戻さなければならない

 

目の前にピノはいるのだ。

しかし、うかつに出てしまっては瞬で首を掻っ切られる。

相手は人の形をした影法師だ。 私がいつも相手している合成獣とはかなりわけが違う。

 

アサシンはあざ笑うかたちで啖呵を切る。

「貴様、キャスターと抜かしたな?笑わせる。手の内を自ら見せる阿呆に言われる筋合いはない。」

「阿呆で結構!地の利に甘んじてこそ驕れるというもの。私が今キャスターであると明かした所で、あなた、()()()()()()()()()()()()。と冷や汗かいたほうがよろしいのではないでしょうか?」

「ッ!」

 

キャスターが用意したのか、床から音を立てて、大きい爆発が轟いた。

よほどの爆発だからか、濃い煙が立ち込めている。

 

「マスター。今のうちに仕切り直しを。今のはただのかんしゃく玉みたいなものにございますゆえ。」

キャスターが耳打ちをした。

あれでかんしゃく玉・・・まあキャスターの道具作成によるものだろう。

 

いや、それよりもピノの死体だ。あの子をさがさなくては。

「マスター、早く!」

「え、あぁ、あぁ、ピノ! ピノは!」

襲撃に備えなくては、と同時に、ピノを探さなくては、と躍起になってしまう。

これじゃあだめなのに、あぁ、クソ。 早く、一刻でも早く、あのアサシンが襲ってくる前に―

「―サーヴァントも阿呆なら、主も阿呆か。」

 

声が聞こえたころには、アサシンがもう目の前にいた。

「ここで潔く死ね」

あぁ せっかくここまで来たのに

ピノにも手が届かないなんて。

魔術師なのに、友達にまんまとだまされ、挙句の果てには使い魔を探そうとして手間どり殺されるなんて

あの馬鹿(楓花)とも、これっきりか。

もしかしたら、馬鹿なのは―

 

すると、

 

「!?」

 

アサシンが玄関の方向から何かに気づいたか、身軽に退いた。

すかさず私も、つられてそちらの方向をみる。

 

バキッと鈍く大きい音が鳴る。

ドン、と厚い板が倒れたような音がするやいなや

しぃんと、静まり返ったこの空間に、大きな叫びが高らかに、玄関の先の居間まで響いた。

 

「たのもー!」

煙が晴れた瞬間、少女と偉丈夫のシルエットが逆光で際立つ。

その隔てていたドアを蹴破った彼らの後ろの光の先には、私も照らし出されていた。

 

 

 

~~~~~~~

 

 

いよいよだ。いよいよ澪尾にごめんなさいできる。

「よし、行くよ。セイバー。」

「おう。」、

そうやって敷地に入ろうとした瞬間、

「うわぁっ!?」

 

警報らしきものが鳴った。おそらく私たちが入ったから・・・?

「さすがは聖杯戦争参加してるだけあるね・・・。セキュリティもしっかりしているんだね・・・」

急なサイレンでいままでの威勢がさらーっとくずれおちた。

 

「おい、何ぼさっとしてんだ。行くぞ」

「う、うん!そうだよね!」

 

気をとりなおして澪尾の家の門をくぐる。

それにしても妙だった。

 

いや、自分の気のせいかもしれないが、ふつう、警報装置とかそういうセキュリティは侵入者が入ってから作動するものである

それなのに、作動したのは確か、自分が敷地に入る前だったはず・・・

まあそれくらい用心深いっていうことでしょ。

 

と、思ったその時であった。

今度は屋敷の中から大きな爆発音がした。

「え、澪尾・・・大丈夫かな・・・」

「ほう・・・」

 

セイバーは辛気臭い顔で言った。

「この気配は・・・サーヴァントがもう一騎いるな。」

 

それって、澪尾が戦ってるっていうことだよね

だめ。だめだよ。せっかく言いたいことがあるのに

死んじゃったら。言えないじゃん。

 

「突っ込もう!セイバー。」

「あぁ、こんな状況じゃノックもしてられねえな。ぶちかますぞ!準備はいいな!」

「うん!」

 

セイバーは足でドアを蹴り飛ばした。

その向こうには、煙に包まれた澪尾がいた。

私は再会をよろこぶ意味で、こう叫んでやったのさ

「たのもー!」

 

 

~~~~~~~

 

「わぁ・・・セイバー、もしかしてアレ?」

澪尾のすぐ向こうには骨のお面をかぶった気味悪い人がいる

ナイフとか物騒なもんもってるし。

「そうだな。おそらくあれで間違いねえだろ。」

その黒い人は私たちを見るや否や、

「チッ・・・厄介な輩が・・・!」

すぐさま逃げた。

「おや、いけませんよ? せっかくですから、まだびっくりしてもらいましょう!」

キャスターが叫ぶと、不思議なことが起こった。

キャスターが、黒い人にいたところに・・・?

いや、違う。

先ほどまでセイバーの目の前にいたはずのキャスターは確かにそっちに移動した。

その代わりに、

「何っ!?」

黒い人がセイバーの目の前にいた。

「よっ。」

セイバーはとっさの移動で黒い人を気絶させる

さすがの黒い人も、あまりにも予想外な不意打ちには対処できなかったのか、あっさり倒れてしまった。

 

「・・・一回、お預けに致しません? 私、アサシンが気になりますので」

キャスターさんは親指で黒い人のほうをさしながら、目はどっかを向いてそう提案した。

「私が行く。」

()()()は言わなかったけど、「来るな。」っていうことだろう。そう言っていた気がした。

 

「ッ!?」

澪尾がすぐに後ずさりした。顔はかなり青ざめてる。

すぐさま私もその顔を覗いた。

 

見た途端、声じゃない声が出た。

 

いや本当に、びっくりするしかない。えぇ、本当に・・・嘘でしょ?

黒くてボロボロとした衣に紛れていたが、衣の下に来ていたのはうちの学校の制服

つまり、私と同じ高校生ってことだ。

 

しかも、この子・・・

「澪尾・・・この子、澪尾んとこのクラスメイトだよね・・・」

澪尾は戻らない青ざめた顔を、ゆっくりと、縦に振った。

「とりあえず・・・」

澪尾はどこから出したか、何やら注射器を出すと、そのままその子の首に打った。

私はびっくりして声を出してしまった

「ちょ、澪尾!なにしてん・・・」

すると、瞬きの間に人を殺すような目がこっちに向くと注射器を私めがけて投げてきた

「うわぁッ!」

私はとっさによけた。幸い当たらず、壁に注射器が勢いよく刺さる音がした。

「澪尾・・・」

 

 

 

澪尾はすぐこっちを睨みなおすと殺気立つようにこちらへ迫る。

 

「帰って。」

 

怖気ついたけど、ここでは戻れやしない

「澪尾! 私、澪尾と仲直りしに来たの!仲直りっていうか、ほんとのこととか、思っている事を話に来た。全部。」

澪尾の表情はかわらない。それどころかさっきより凶悪な何かが見えつつある。

「さっさと帰って。友達ごっこしてたよしみだから、今なら見逃してあげるよ」

私はおされて潰されそうな心をなんとか保たせて、できる限りぶちまける

 

「澪尾、聞いて。あの時は私にもわからなかったの。サーヴァントどころか、セイバーことも、そもそも聖杯戦争っていうのもわからなかったんだよ。」

「で? それを話に来たところで何? 私を殺さないでください? それともこのデスゲームから抜ける方法を教えて? ふざけないで。」

澪尾は持っていた空の注射器を落とすように捨てると、右手をこちらにかざしながらこう言った。

「忠告はこれで終わりだよ。」

 

なにやら、澪尾の右腕から紋様みたいなものが光るように浮かび上がる、令呪にしては多すぎるし、

私の勘はすぐさま、『危険』と判断した。こういう時に限って勘は当たる

(おい、やべえぞ。俺に早く指示を出せ。)

 

霊体化したセイバーも察知したのか、私に声をかけた

実体化しないのは、おそらく空気を読んでのことだろう

たしかに、このままだとかなりやばい 気がする。

けど

 

私はこっそり、『ダメ』のサインをだした。

(何やってんだ!死ぬぞお前)

死ぬのは怖いけど

ここでセイバーを出したら澪尾をさらに刺激してしまう。

 

 

時間の経過とともに澪尾の手から白い弾が現れ、大きくなっていく。

 

 

怖い、すごく怖い、けど

それで澪尾がわかってくれるんだったら...

その方が最強だし

 

「いいよ。澪尾、私、何発でも受け止めるよ。」

自然とその言葉が口に出た。

 

どんな顔で言ったんだろう、澪尾のさっきまでの硬い表情がすぐに崩れたかと思うと、もっと怖くなった。

 

吹き飛べ!!

その大きい声とともに、私は澪尾のそれ()をモロに食らった。

 

あぁ、 生きてる。

でも 痛い

いたい。 けど

こらえなきゃ

 

「澪尾、ごめんね。」

 

意識が ふわふら するけど、なんとか いえた。

 

「・・・ッ!」

 

澪尾は まだ、撃つ構えをしている。

 

あぁ、私 死―

 

「そこまでにございます。彼女、限りなくシロに近いシロだと思われるのですがね。」

キャスター、さん?

澪尾はけげんな顔でキャスターに言い返す

「キャスター。あなたまで何言ってるの?」

「すこし、冷静に・・・マスター?種明かしの時間に参りましょう!まず我々が初めて対峙したときからの話にございますが・・・」

身振りを大きくして、キャスターさんは弁明を始めた

 

「彼女、一切指示を出しておりませんでしたよね?あぁ・・・明確に申しますと、我々への攻撃はほとんどしてきませんでした。 攻撃といいます攻撃はすべてセイバーの意志によりますものと私は判断いたしますよ。答え合わせをしたいのですが、如何でございましょう?」

セイバーは霊体化を解き、話した。

「・・・あぁ。この醜女、本当になんも言わなかった。目の前に敵がいやがるのにだぜ? 事情を聴くまではこいつぁ外れだな・・・ったぁ薄々思っとったわ。」

 

澪尾は少し固まりつつも、こう返す

「私が想定外の時間にきたんでしょ? そもそも、あの部屋の誘導から色々臭すぎたんだよ。ホテルの支配人とグルだったんでしょう。」

「いやはや・・・それほどいたしますのならば自ら逃げるといった選択肢はとりますまい!『追い込んで、罠を使いまくっておさらば!』のほうがよほど合理的にございますよ?」

 

「あぁ・・・うん。・・・正直コイツ・・・・・・アホだから」

少しだけ、納得したのかちょっぴり澪尾はすねたように口をとがらせてその言葉を吐いた

 

衝撃の言葉である。仲たがいしたことよりも『アホ』って言われたことのほうが心にキテる・・・

「えぇ!お分かりになりましたか? 彼女がなぜ我々を攻撃しなかったか! まず彼女が仮に、魔術師にございました線をお話しすると『彼女がそもそもアホだった』か『マスターが来る時間が想定外だった』、この二つに絞れます。加えまして・・・。」

魔術師じゃないしそもそもアホじゃないです。

 

そして、キャスターさんは澪尾に諭すようにこう言った。

「彼女が仮に、魔術師ではなかったら?『予想外の現象が起き、予想外に喧嘩をしてしまい、予想外に敵意を向けられてしまった。』こういう一線しか考えられません。魔術師であるとしたらすかさず!ちょちょいのちょいっと攻撃いたしますし?なにより、なによりでございますがさきほどのアサシン襲撃、セイバー陣営が何気な~く派手に表れて何気な~くアサシン(仮)を見事討伐いたしました。」

さらにとどめを刺すように

「挙句の果てには! いやはや、アサシン(仮)を調べながらも我がマスターに何げな~く近づきました! 正直あの場面、彼女が魔術師であればすぐに殺せる距離でした。」

 

「それは、ミケやボスたちもいたし―」

キャスターさんは澪尾の言葉をさえぎるように続けた。

「あなたの使い魔も、セイバーほどのサーヴァントがお相手にございましたら一瞬でお生肉に変わっていましたよ?」

澪尾は目が開き、口から一瞬声が出なかった。

 

「そしてです!先ほどの口喧嘩! あなたも壮絶にございますねぇマスター。話を聞かず対大型魔獣の魔弾を人にBAN! あの時は私もおしっこちびっちゃいました。いやはや生きてて何よりでしたね。あぁそうですね、お名前を聞いておりませんでした。レディ、お名前をうかがってよろしいでしょうか?」

 

キャスターは、ショーのMCみたいな口ぶりで今更私の名前を尋ねる。

「え、あぁ・・・楓花、覡 楓花です・・・」

「カンナギフーカ! いいお名前にございます。・・・そうです!ミス・カンナギ、セイバーを実体化させましたら、あの魔弾は防げたはずにございますよね? あえてお聞きいたしましょう!なぜセイバーを出さなかったのです?」

 

私はちょっと自嘲気味に笑いながら話した

「いやぁ・・・あの時、セイバーを出したら、最強じゃないかなぁって・・・」

 

「いやはや、マスター?もうお判りでしょう。そう、結論から申しますと、ミス・カンナギは―」

ここまでの口上の流れの良さに思わず息をのんでしまう。

「『聖杯戦争を知らない、一般人ですこし間の抜けたレディ』にございましょう。えぇ!」

なんだろう、頼もしい仲間にフレンドリーファイアされたような気分だ。 私はアホでもなければ間抜けでもないのに―

 

「キャスター・・・」

澪尾はすこし申し訳なさそうに下を向きながら口を開ける

「・・・うん、薄々、いやもうそうなんじゃないかなって思ってた。だって楓花がアホじゃない魔術師だったらあんなことしないって・・・」

澪尾は顔をくしゃくしゃにして、私に抱きつきながら言った。

 

「ごめんねぇ・・・楓花。疑っちゃって・・・私、楓花のこと信じられなかった・・・本当の楓花は、少し抜けてるとこがあって・・・それでまっすぐで、私をこうやって貶めることなんか絶対にしないって・・・だって、あんなことがあって・・・それでもう・・・」

 

一言多い気がするけど・・・まぁいいや

「ううん。大丈夫だよ。澪尾。ちゃんとわかってくれて、・・・こっちこそごめんね? 今日は、それが言いたかったんだ。あと―」

私は澪尾の肩を両手でつかむと、澪尾と面向かうように手で抱き着いているのを離して、

 

「私はあほじゃない!」

と、ちゃんと目を見て怒った。

でも、なんだかだんだんおかしくなって

「「あっはははははははは!」」

二人とも笑ってしまった。

 

 

~~~~~~~~~

 

 

「で、どーすんの」

 

澪尾のベッドを借りて先ほどの重症を治してもらっている最中、私は澪尾にそんなことを聞かれた。

 

「・・・どうしよ。正直、決めてないっス。」

私は少し、ベッドに座っている澪尾の顔を覗き込んだ

少し考えこんでいるようだ。

「う~ん・・・」

「どうかしたの?」

澪尾は考えながら話す。

 

「いやさ、普通、聖杯戦争ってのは監督役っていうのがいてね、こう、参加者の中でズルしやがる奴がいないかっていうのを見張る役なんだけど、同時に聖杯戦争の事後処理役でもあるわけ。んで、楓花のような何にも知らない『巻き込まれた人』もそっちに駆けこめば保護してくれるんだよね。」

 

澪尾はさらに、少し真面目な顔で話した。

「問題はそこ。―結論から言うと、私もこの聖杯戦争の主催者が正直誰なのかわかっていない。から、監督役も全然知らないんだよね。」

「へぇ~。」

へぇ~。しかでない。こんなにしっかりしてるんだな聖杯戦争って

 

いやちょっと待て

「えっじゃあそれって、」

「気づいた? ・・・まぁこんなことないだろうと思うけど、極論、色々ガチでやべーやつが荒らしたりする可能性があるってわけ。あと・・・監督役って嘘ついて令呪をだまし取るマスターや魔術師が出てくるってことも全然ありうる」

「うぉぉ・・・」

 

「まあ主催者も魔術師だろうし、それもこんな日本の辺境なところで聖杯戦争するくらいだからさ、何か変なことでも企んでるんだと思うけど・・・やべーやつの暴走より、令呪詐欺がいちばん怖い・・・かな。」

恐ろしいことだ。 あっこれ戦争だった。 忘れてた そんじょそこらのお祭りじゃなかった

「うわぁ・・・すごいね。気を付けないとね・・・」

 

澪尾はぽかんとした。

「えっ、私、今あんたのことを言ってるんだよ?」

「えぇっ!?私そんな最強じゃないことしないよ!」

「いやそうじゃなくてさぁ。逆。楓花が騙されるの。 楓花さ、ほとんど知らないでしょ?聖杯戦争とかサーヴァントとか」

「あぁ・・・うん、アハハ・・・」

 

澪尾はため息をついた。

「わかった。じゃあさ、楓花。これは提案ね? 両方にとってウィンウィンな―」

澪尾が話を切り出したかと思うと、セイバーがドアを強引に開けてきた。

 

「おい!楓花ァ! キャス坊の奴ァなかなかに面白れぇぞ! 魔術師ってのは陰険な奴か胡散臭えヤツしかいねえと思ったがな。決めたぜ。てめぇは最後に()()()()やらぁ。」

セイバーはキャスターの頭を強くガシガシになでている。・・・いや、キャスターの頭をゲームのスティックのようにぐらぐら動かしている。

 

「お気に召していただけて何よりでございます! サムライの方。いやはや。あとその、レバーのように私の頭をぐらぐら揺らしなさるのを少し遠慮なさったらうれしいのですが。」

キャスターさんは頭が爆速で揺れながらもお構いなしにキャスターさん節である。

 

「ちょうどよかった。キャスターとセイバーも打ち解けたみたいだし・・・」

澪尾は単刀直入にその言葉を口にした。

 

「同盟、組まない?」

同盟・・・

「同盟?」

 

「うん。私と楓花はお互い、戦うことはしない。まあ、その場に応じて協力してほかのサーヴァントを倒したり、最後まで生き残ったり・・・的な。」

「それって、最後はどうなるの? 私と澪尾だけが残ったら」

澪尾は、当たり前でしょ?みたいな顔で返した。

 

「そりゃあ、私と楓花で一騎打ちだよ。」

「えぇ・・・」

「どうすんの、嫌なら、楓花、すぐ死ぬよ?」

だよね。

 

「う~ん・・・・・・いいよ。ってかお願い。仲間になってください!」

私は澪尾に右手を差し出した。 

「・・・楓花らしいや。」

澪尾は笑いながら私の右手を、澪尾の右手で握って応えた。

 

こうして、私と澪尾の少し小さくてすこし大きい喧嘩は幕を下ろしたのであった。




最後までお読みくださりありがとうございます。

サーヴァント、登場人物の設定などをちょくちょく載せていこうかな~と思っております。

感想、評価いただけたら幸いです。


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第7話 いくさ間も無し 備えよ乙女

どうも、マッポーゲニアです。
第七話 今回はすこし日常回です。
どうぞご覧ください


朝というのは本当にイイ時間だ。

お天道さんものぼりはじめ、空気が『澄み渡っている』この感覚が実に最強

風が冷たい感じだと、もー100点!

 

私はこれが止められなくて朝早く起きて登校をしている、というのもある。

というかそれが主な理由なのかもしれない。

 

校門を越える。校舎の前の坂道は少し急だけど私にとってはちょうどいい運動だったりする。

 

校舎に入り、私はすぐに部室に入った。

 

すると、思わぬ来客が。

 

 

「おや!ミス・カンナギ、ようやくいらっしゃったようですね!」

「あ、キャスターさん、・・・おはようございます。ってことは澪尾も?」

キャスターさんは部室にある将棋の駒でピラミッドを作っていたようだ。

 

登山部も、実は学校の開いている部屋を部室として使わせてもらった。おそらくきっと、前は将棋部がこの部屋を使っていたんだと思う。

今は6段目、もう少しでピラミッドが完成するところ。

 

「えぇ、ただいま職員室にて先生とお話をしているようでございまして、私は待つようにと頼まれたんですが・・・私手が落ち着かぬ性分でございまして、生前からの趣味も人っ子一人おらぬようでは腐ってしまうようなものでございます故に・・・暇つぶしにしてはなかなかのボリュームにございますね!」

 

そう話しているうちに、澪尾は部室に戻ってきた。

「あぁ、楓花。いたんだ。」

 

澪尾はどうやら、私の包帯の巻かれているところをみたのか。

「昨日は、...その、ごめんね。」

澪尾は暗い顔をして私に謝った。

「あぁ、いやダイジョーブだって!もうすぎたことっしょそれにさ、走れるようになるまで治療してもらったしもうフェアってことで!」

澪尾はちょっと笑った。

「それにさ、元はこっちだし、謝るの。」

場が少し辛気臭くなる。

カシャン、とトランプの三角が水平線になった。

・・・

 

「いやはや!このままだと空気もどよんと重くなりてございますゆえ、他の話でもされたらどうです? 私は邪魔にございましょう。カードの手癖には自信がありますよ!あっという間に、はい!」

キャスターさんはそういうと、ばらばらになっていたトランプのカードをすぐに束一つにまとめた。本当にあっという間だった。

「あっそうだ。昨日の、あの子のことなんだけどさ。」

見当はついている。アサシン(仮)の人である。

 

「あのあと、すごかったよねえ。」

「うん。担任に話したら、二木さんは意識を取り戻したみたいなんだけど、片頭痛が起きたり記憶がいくつか抜けている、みたいなこと言ってた。」

「うへぇ・・・、澪尾、もしかしてその二木さんに打ったワクチンみたいなもののせいじゃない?」

若干私は冗談交じりで言った。

 

澪尾は若干考えるように抱え込む。

「いや・・・うーんあのワクチンはキメラ専用だしぶっちゃけ人に打つと悪影響が出るのは否めないけど・・・おかしいんだよね。」

マジになっちゃったやつ

「あくまでもあれは睡眠剤というか・・・若干のスタンガン、スタンワクチン?みたいなもんだけど、頭痛はともかく記憶までは干渉しないはずなんだよね。なにか絶対種がある。」

へぇ~、といってしまった。

 

「それよりさ、どうだったの。そっちこそ。」

不意に澪尾が質問を投げかけてきた

「へ?あぁ。私!?いや私はその二木さん・・・には何もやってないよ」

「いや、あの後。お爺さん相当怒ってたくない?」

「あ、そっち? いや~大丈夫大丈夫! げんこつ一発で済んだし。」

 

私と澪尾はあのドンパチの後、倒れている二木さん(ちなみにこの子の名前は今さっき知りました・・・昨日は色々あったし・・・)を119で病院に連れて行った。

 

二木さんが意識不明で病院に運ばれたことから、そのあとは110もおまけで来て私たちは事情聴取を受けた。

・・・が、なんかあっさりいった。

 

後から聞くと、澪尾はちょこっと警察に暗示なるものをかけていたらしい。よくわかんないけど。

その後、保護者が来るまで警察署まで待つように言われ、その後おじいちゃんがきて、警察や澪尾にあいさつしながら深々と頭を下げて

「何しとるかお前は。(はよ)来い」

と、げんこつを一つ食らって家に帰った。 ただそれだけである。

私も一応、すみませんでした。と警察にお辞儀をしてからじいちゃんのところへ行った。

 

「それだけ。」

私は何ともなく言った。何ともないんだもん

「まぁそれならいいけど。」

 

「じゃあさ、放課後、少しどっかで話そ。」

澪尾が言ってきた。

 

「何を?」

「・・・色々。」

 

予鈴が鳴る。もうおしゃべりは終わりのようだ。

「んじゃ、終わったら私のクラスの前で待ってて。」

 

と澪尾は部室の扉をばたんと閉じて消えた。

 

教室に入る。

「覡さん。」

「ほえぁ!?」

急にびっくりした。

「隣のクラスの倒れているの、見たんだって?」

5、6人が私を取り囲んで聞いてきた。

 

「あぁ、うん。」

「それで、今はどうなってるって・・・?」

「う~ん、記憶がトんでる?っぽいよ・・・」

 

今までかかわらなかった子たちが急にぐいぐい来るもんだからたじたじしちゃっている。いかんぞ覡。最強じゃない。

ぐいぐい来る子たちは勝手に話を進める。

 

「ほぉらやっぱり。最近ここら辺おかしいって。」

「二木さん昨日は登校してたよね。今日は?」

「いなかった、ってさ」

「えぇ~やばいじゃん。」

ぽかん、と立ちながらもそういえばここ最近物騒だなぁ。とはよく聞く。

「あっあとさ。谷城のホテルで喧嘩のあとガラスが割れたって。」

ひやり。

 

「それはさすがに関係ないでしょ~」

「考えすぎだって」

「えぇ~私は関係あると思うな~。」

勘が鋭いなこの子

しかしほかの子たちは、あまりにもちぐはぐだと笑いながら騒ぐ

 

今がチャンス・・・!

私はすぐ席に着いた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

授業が終わると、私はすぐ澪尾のクラスの前の廊下で、澪尾が来るのを待っていた。

「お待たせ。」

しばらく待つと澪尾が来た。担任と話していたしきっと昨日のこととかなんだろうなぁ、と

歩きながら喋る。

 

「担任と話していたの、昨日のこと?」

「いや、欠席してたじゃん?あれでなんで二木さんを連れてこれたんだって。楓花。私のことねん挫って言ってたのもきいたよ。」

「うん。ホテルの時、こう、巻いてたじゃん?あの巻くやつ。」

語彙力

 

「うん。伝わるからいいよ。」

「だからそうなのかな~って」

「なる」

無気力な会話である。

「んで、どこ行くの?」

「家」

澪尾は即答した。

 

「さ、入って入って。」

昨日よろしく屋敷に入る。

 

「あ、セイバーもせっかくだからもう霊体化解いて大丈夫だよ。」

あっそうだ。セイバーがいたの忘れてた。

「・・・んじゃ、実体化するぜ。」

「ごめん、セイバー。すっかりいるの忘れてた・・・」

セイバーは豪快に笑い飛ばした。

 

「だッはッはァ!ま、そりゃ、俺ァ『ガッコ―』っちゅーもんを俺も黙ってみていたからな。」

なぜかセイバーは得意げに語る。

と、入ったはいいものの、澪尾を見失ってしまった。

「って、あれ?澪尾は?」

すると、どこからともなく、少し洒落たスーツ姿の見知った姿が

「マスターは何やら準備をしていらっしゃるようで!ええ。ささ。私がご案内いたしましょう。」

 

案内されるまま進むと、そこには昨日の有れようとは大違いなほどにきれいになっていた。

居間と思われる広い空間の真ん中には、低めのテーブルとその高さにあったソファがあった。

キャスターさんが、どうぞ。といったので私とセイバーはそれぞれ適当なところに座った。

「ふぅ。・・・どっこいしょ。」

 

青くて分厚いファイルをどさっと音を立ててテーブルの上に乗った。

 

ファイルには「聖杯戦争」と書かれてある

「え、何それ。」

「聖杯戦争の情報とかいろいろ。集めるの大変でさ~。」

私は一つ手に取ってパラパラ、とめくった。こんなにも集めたのか・・・と感心した。

「楓花、ロクに聖杯戦争のこと知らないでしょ。」

唐突に聞かれて、そういやそうだ。とはっとなった。

 

「セイバーに教えてもらったこととか、・・・それくらいしか思いつかないなぁ」

えへへ、と笑ってごまかす

「まあそうだろうと思った。から今から手取り足取り教えてあげる」

セイバーは澪尾に視線を感じたのか、セイバーは急に釈明をし始めた。

 

「なぁ嬢ちゃんよ。そりゃあ説明責任はあるのはわかってるぜ?だがよ。あん時ゃ何から何まで急だったんだ。契約するかどうかくらいの話だぜ?付け焼刃程度の知識しか俺は教えねえよ。」

正論に聞こえるが、なんだか腹が立ってきた。

「はいはい。それじゃ。教えるね。」

流れるようにいなした澪尾は、そのまま授業を始める。

 

「まず『聖杯戦争』が何かわかる?」

単純だけど唐突な質問。これはたしかセイバーに教わったやつ

 

「えーとね、分かるよ。確か、7人の魔術師・・・参加者が『聖杯』を取り合って戦うんだっけ。んでその『聖杯』はなんでも願いをかなえることができる。 そうでしょ?」

「うん。合ってる。」

澪尾は頷きながら説明を始める

 

「で、その聖杯戦争において重要なのが『サーヴァント』っていう存在ね。セイバーからサーヴァントのことに関して聞いていない?」

「うーん。まず、『契約しないとマリョクが切れて消滅してしまう』、とか、レイジュとかなんとかは聞いた。それ以外のことはあまりわからないかな。」

「もっと教えたはずだけどねぇ。」

「あの時はね、色々あったし、えへへ・・・」

セイバーは半ば呆れながら、挑発にのる5秒前のような顔をしている。

 

「うん。オッケーじゃあ私が教えるから、」

澪尾はすぐなだめた

「サーヴァント・・・英霊ってたまーに呼ばれたりするけど、過去の伝承とか昔話、歴史の偉人をこう、魔術的なアレで召喚するらしいの。詳しいことを話すとついていけないと思うから話さないけどね。実のところ私もちょっと時間かけて読まないと分からないところがあったし。」

澪尾は続ける。

 

「サーヴァントは7つのクラスがあって、召喚される際はそのうちの1クラスで召喚されるの。うん。そう書いてある。」

「クラ......ス......?」

澪尾が口を開ける前にぴきーんときた。

「あっ、待って!わかった!待って待って待って待って待って!!!アレでしょ!セイバーってヤツ!」

澪尾はうなづいた

 

「そう。それ。・・・でも楓花、他のクラスわかる?」

「ちょっとまってね。・・・えーと、セイバーでしょ。キャスターでしょ、アサシン?も入ってるんだよね。あとは・・・ラン・・・忘れた。」

「オッケー。全部教えるね」

そういうと、澪尾はファイルをパラパラ、とめくった。

 

「えーと、あった。これ。セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、そしてバーサーカー。これで7つ・・・って書いてあるね。んでさ、サーヴァントって真名があるって言ったじゃん?でも真名がお互いわかんないから、お互いクラスで呼び合うらしい。」

「なるほどね。それで最初からセイバーとかキャスターとか。」

「実際最初から相手の真名がわかりゃ世話ねえんだけどな。武器とノリで分かるし名乗るやつはクラスを自分から言いやがるからな。そこんところは問題ねえさな。」

こういう感じで、澪尾の、聖杯戦争講座は1時間かけて終わった。

 

「なるほどね・・・なるほどなるほど。・・・大体わかった。ありがとね。」

「うん。」

澪尾はすくっと立ち上がり、くるっと後ろの方を向いてどこかへ行こうとする。

「澪尾、どこか出かけに行くの?」

澪尾はきょとんとしている。

「何って・・・今から戦いに行くんだけど。」

 

早すぎない!?と声が出てしまったが、いや、そういうものなのか。と私は理解した。

戦うときのような嵐の雰囲気って、こういう静けさの後に急にくるんだもん

「楓花は?こっち的には協力してほしいけど、爺さんに昨日こっぴどく叱られたでしょ。」

「爺ちゃんのことは大丈夫だと思う。夜遅く出歩くのはあまり怒らないんだ。そこんところずれてる人なんだよね。」

我ながら思う。昨日は頭に山ができるほど痛かったし、そこんところの線引きがガタガタなのでは・・・?

「じゃあ、ついてきて。」

澪尾は若干にやっと口が緩みながら、立てた親指でいく方向を指した。

 

向いている方向を少し良く見ると暗くてよくは見えない。

しかし、私には不安はなく、むしろワクワク50パー、ドキドキ50パーで中身が埋まっていた。

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

これは、奇怪な事件が起こるようになった海谷市の、岸城(きしろ)宇津木(うつぎ)という二人の男による奇妙な体験である。

 

 

 

 

窓越しにうつる紺色、目の前には扇形の光が二つ。

運転席の中央に埋め込まれてあるデジタル時計は「21:37」の数字列を見せている。

 

『高瀬』のほうで水道の破裂が起こったらしく、その調査をするために俺と宇津木が突発で駆り出された。

俺だけでもいいとあれほどいったんだが、新人の教育のために、ということで宇津木も連れていくことになった

 

「―続いてのニュースです。相次いで起こる失踪事件、またも海谷市に行方不明者が出ました。行方不明になっているのは高校生の―」

行方不明、意識不明、こういうのが相次いでいる。なんでも夜にふらついてる人が帰ってこなかったり、病院でおねむの状態で戻ってくるんだとか。

いつもだと車の量が多くて渋滞を起こすのもしばしばあったが、おかげで今じゃその車も少なくてすいすいいける。

「この連日続く海谷の失踪者は現状100人を超えており、これにより観光業に大きな被害が出ている模様です。」

無味乾燥なラジオの声から発せられるとてつもない内容には内心驚かされる。

 

「やべーっすよね。これ。」

助手席に座っている宇津木はゲームをしながら世間話を切り出した。

「まぁ、そうだな。上もさっさと、早いうちに帰らせてくりゃいいんだけどな。」

「そーっスねぇ。夜早く店も閉まるようになりましたし、ここら辺の夜景もなくなりましたよネ。あの景色マジで好きだったんだけどな~。」

 

窓をちらっと見て宇津木はすぐゲームに戻った。俺も寂しくてすこし歯がゆかったので窓の方へ眼をやった。本当に暗い、しか感想が出ない。

左折しようと周りを確認すると、サイドミラーに少し大きなトラックが走るのが目に留まった。

まぁ疲れてるんだろ、と俺はランプをたいた。

と、先ほどのトラックがすごい物音を立て、電車のような速度でこちらを通り過ぎた。

「うおっ。」

さすがに俺も面食らった。

 

「あのトラック・・・やばくないっすか。キシロさん。」

「俺も長いこと外で仕事してるけどよ、あのデカさは見たことがねえな・・・」

 

かれこれあって、現場についた。とりあえず現場をポールで囲んでおく。

改めて、俺と宇津木は破裂している水道を見て調べる。

「ふぅ、これか・・・」

道路に亀裂が生じ、水道管がむき出しになっている、

 

しかし、どうやらおかしい

「ちょっといいっっスか。キシロさん。」

「あぁ。」

こんな漫画みてぇなことおきるわけがない。

 

「コレ、()()()()()()ようにしか見えないっすよ。どうみてもこれおかしいっスもん。」

経年劣化によるものにしてはあまりにも新しすぎる。

「とりあえず、もっと調べるか。」

と、俺は宇津木に手取り足取り教えながら調査に移った

 

しかし、

「うーん・・・」

「やっぱりあれっすかね。」

「そうだな。これに関してはあまりにもレアケースだな・・・」

 

どう報告書を書こうか。原因不明と書くか人為による損壊と書こうか考えこんでいた。

「とりあえず、もうここら辺の作業は済んだし、帰るか。お前、家近くか?」

「いや、すんません。職場まで送ってもらってイイっスか?職場のほうが近いんで。」

「おう。せっかくだし飲みモンくらいは奢ってやるよ」

うっす。あざっす。と宇津木は会釈をした。

 

「じゃぁ、リンゴジュースで。」

斜め上の注文で耳を疑った。

「おまえ、変わってるな。コーラとか、コーヒーとか飲まねえのか。」

「ああいうのあまり好きじゃないんで。炭酸は腹壊しますし、コーヒーって苦いじゃないっスか」

「ハハハ。最初は、カフェラテとかでなれたらいいんじゃねえか?」

「・・・イイっス。とりあえず、リンゴジュースで。」

 

少し不機嫌そうな後輩はせめてもの愛想笑いをした後助手席へ向かう。

にしても、不思議なことが立て続けに起きるもんだ。と俺は運転席のドアを閉めてエンジンをかけた。

 

新人にしては物覚えが良く。作業もすんなりいったが、時計には「0:45」と表示されている。

眠気がすこし頭の中を支配し始めている。

宇津木をちらっとみたが、ゲームをせずにフロントガラスの向こうを見ているようだ。ゲームの音が聞こえてこない。

「どーした宇津木。眠いのか?夜間は初めてだろ。寝てもいいぞ。」

 

と笑い交じりに言ってみたが。宇津木からうんともすんとも帰ってこない。

「宇津木?」

あまりにもおかしいと思ったので宇津木の方をみた。

「先輩、あれ・・・」

指がさす方をみると、先ほどのトラックが空を飛んでいる

いや、先ほどの、馬鹿デカいトラックなんだが、()()()()()()()()()()。見ているだけでおかしくなりそうな。禍々しさと神々しさがあるような・・・

 

俺は直感で「やばい」と感じた。

 

「おい、宇津木。しっかりしろ。」

宇津木はまるでこっちの声がきいていないようで。ついにはドアを開けて車から降りようとした。

「あぁっ・・・くそっ・・・!」

俺は宇津木を助けようと身の回りのものを探し始めた。

 

あった。

休日に家の日曜大工の際につかってたロープと、夜間作業の時のアイマスク。

外に出てる宇津木を俺はすぐに追いかけ。

「宇津木、スマンッ・・・!ふんっ!」

ヘッドロックをかけてオとし、車へ引きずる。

 

アクション映画の見よう見まねでやってみたが・・・。あとはコイツが起きることを祈ろう。

起きても暴れないように、またあのトラックを見ないようにと俺は宇津木を縛り、アイマスクをかぶせた。

 

上へ少し目をやると、またあのやばいトラックが空を飛んでいる。

俺は視界に注意しながら、暗い道路を全速力で走らせる。

 

しかし、走っているときにもおかしなことが起きるばかりだった。

「何じゃこりゃ・・・」

今まで人っ子一人いなかったここらへんの通りに、人がわらわらと出てきては、その焦点が合わない目で上のデカブツへ向かって歩いている。

 

「やべえ、やばすぎる・・・!」

一刻も早く職場に戻らなくては・・・しかし道路歩道の判断すらつかないようで、ハンドルを右左と素早く回す。

「ハァ・・・ハァ・・・」

一心不乱にフロントガラスとその先に照らし出されるコンクリートだけに目を凝らす。じゃないと宇津木の二の舞だ。

 

が、

「うっ・・・」

少しずつ、ではあるが幻覚がうっすら見えてきた。

これも()()()のせいか・・・?

ここでトんだら・・・

「クソっ・・・!」

頭突きでクラクションをならし、音と痛覚で商機を取り戻した。

 

「絶対に、絶対に生きて帰ってやる・・・!」

こうして、俺は『谷城』へ出た。

『谷城』を抜けた途端、空を飛ぶトラックは見えなくなったのでコンビニにとまると宇津木の縄をほどきアイマスクは・・・職場に戻るまでそのままにしておいた。

 

翌日、破裂した水道の調査にもう一度向かおうとすると、所長にとめられた。

なんでも、急遽別の会社が調査と修復をやってくれることになり、やむなくこっちが引かざるを得なくなったらしい。

そうですか、と自分は机に戻り別の報告書を書こうとした。

 

「先輩、昨日はありがとうございました。」

声をかけてきたのは宇津木だった。

 

「おう。宇津木。大丈夫だったか。」

「? いや、自分はあのあとフツーに起きて家に帰りましたけど。あーでも、なんか肩が軽くなった気がします。」

「そうか・・・」

若干苦笑いをしてしまった。いや、よくなるのかい。

にしても、昨日のことはさっぱり忘れてしまうのか。

 

いや、もしかしたら、こっちが変なのを見ていたのかもしれないな。

「あっそうだ。宇津木、コンビニ行くぞ。」

「え、何スか。」

「何って、昨日の約束だろ。昨日お前眠っただろ?来いよ。今日は少し気分がいいから、弁当も奢るぞ。」

「え、マジっすか。」

少し宇津木は笑いながらも、俺の後をついていった。

 

「宇津木、お前は、リンゴジュースだったか。」

「いや、・・・イチゴオレにしよっかなーって」

おぉ・・・おぉ!?・・・おぉ・・・となる回答だった。

「そこは、カフェラテじゃねえんだな。」

「せめてもの妥協点です。毎日成長っスよ。」

 

不思議なことは、立て続けに起きるものなのだ。と俺はつくづく思いながらも、コンビニへ向かった。




如何でしたでしょうか。

次回は、いよいよ戦闘に移ろうかな、と予定しております。

感想、評価などいただけましたら幸いです。


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