けものフレンズ2after☆かばんRestart 幕間 (土玉満)
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第9.5話『とおさかもえの映画館暮らし』

本作はけものフレンズR合同企画への参加作品となります。
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/18199/1570453446/


お題は『おかし』『だんらん』『新手法』全てを選択させていただきました。

後書きにてそちらをそれぞれ解説させていただきたいと思います。

ともえちゃんになる前のもえちゃんにも幸せに過ごして欲しいなあ、という想いがあって今回のお話を書くに至りました。
よろしければ是非ご一読下さい。

あ。本編の『けものフレンズ2after☆かばんRestar』と
https://syosetu.org/novel/200630/

もう一つの『けものフレンズRクロスハート』もよろしくお願いします。
https://syosetu.org/novel/198989/

それでは是非ご一読下さいませ。



―ハッハッハッハッ…

 

 急がないと、急がないと。

 息があがるのも構わずアタシは走っていた。

 本当だったら病弱なアタシは走ったりしたら命の危機がピンチで危ないんだけど別こ『ここ』でならそんな事はないのだ。

 絨毯敷きの柔らかい床はややくぐもった音しか返さないので爽快感にはちょっと欠けるけど結構走りやすい。

 目当ての重たい防音扉の前に辿り着くとアタシは走って来た勢いのままにそれを開け放つ。

 

 中は明るい映画館の客席だった。

 そこにいるのは二人の真っ黒いフレンズちゃん。

 こっちのポンチョみたいな服を着た可愛いのがカンザシフウチョウちゃんで、そっちのマントみたいなのを羽織った可愛いのがカタカケフウチョウちゃんだ。

 ここの管理人みたいなフレンズちゃんらしい。多分。

 っていうのも…。

 

「おや、とおさかもえ。キミはきっと客人に会いにきたのだろうけれど、だとしたら残念だったね。」

「客人達ならついさっき目覚めたところだよ。まあもっともキミには会う事は出来なかったろうけれどね。今はまだ、ね。」

 

 このよくわからない言い回しで話の意味がよくわからない時があるんだよね。

 

「ごめん!フウチョウちゃん達!一行でお願い!」

「「ともえ達なら帰ったよ。」」

「OK。把握。」

 

 頼めばちゃんとわかりやすく言ってくれる辺りわざとやってるんだろうなー。って思う。

 ちなみにこうやって頼むと心底残念そうな表情をするのでアタシもちょっとだけ胸が痛む。

 

「そっかあ…。ともえちゃん達もう帰っちゃったのかあ。お話したかったなー。」

 

 そう。

 さっきまで走ってたのは『ここ』にともえちゃん達が来てる、と聞いたからだ。

 残念ながら会う事は出来なかったけれど…。アタシにとっては大事な人だ。

 

「とおさかもえ。先程も言ったがキミがともえに会うのは今はまだ不可能だ。」

「キミとともえは未だ互いが互いの存在を認識しきっていない。故にこの“星の記憶”で出会う事はまだ出来ない。」

「「けれどともえがキミを認識し、存在を認めればいつか会う事が出来るだろう。」」

 

 んー…。つまり…。

 

「ごめん、フウチョウちゃん達。一行でお願い。」

 

 やっぱりフウチョウちゃん達の難しい言い回しはよくわからなかった。

 

「ともえとキミはまだ知り合いじゃないからここでは会えないよ。」

「でも今日、ともえはキミの存在を知ったからもしかしたらいつか会えるかもね。」

「OK。今度はわかりやすい。偉いから撫でてあげる。」

 

 二人がうぇ!?という顔をしているが逃がさない。

 するり、と距離を詰めてそのまま二人まとめてダブルモフモフ。

 

「やーめーてー!」

「はーなーしーてー!」

「うふふふー。よいではないかー、よいではないかー。」

 

 ちなみにフウチョウちゃん達、ジタバタはしてみせてるけど撫でられるのそんなに嫌いではないらしい。

 それの証拠にこちらの手からは決して逃げようとはしないのだ。

 威厳がどうの、と言っていたけれど、結局は恥ずかしいだけなのだろう。

 だから二人を撫でる時はちょっと強引に撫でまくるくらいがちょうどいい。

 しばらく撫でまくってフウチョウちゃん達のモフモフを堪能したらパッと離してあげる。

 ちょっと名残惜しそうにこちらを見るフウチョウちゃん達。

 愛いやつめ。

 

「まったく、もえちゃんは相変わらずですね。」

 

 言いつつ現れたのはイエイヌちゃんだ。“あっち”のイエイヌちゃんよりもちょっと毛足が長くて少し身長も高い、アタシのイエイヌちゃんだ。

 そう。

 この子はアタシのイエイヌちゃんだ。

 大事!ここ大事!だってアタシのだもん!

 “あっち”のイエイヌちゃんも可愛いけど、アタシのイエイヌちゃんは別格なのだ。

 

「ところで、もえちゃん。フウチョウさん達。次の上映が始まるまでに少し休憩しませんか?」

 

 とイエイヌちゃんは小脇に抱えてるようにしてもっていたメニュー表を渡してくる。

 ちなみに、このメニュー表、不思議な事に見る人によってメニューが変わるのだ。

 イエイヌちゃんが見ると固いクッキーとかだったり紅茶だったりするけれど、アタシが見るとポップコーンだったりホットドッグとかだったりがメニュー表に並ぶ。

 それについてフウチョウちゃん達が言うには…。

 

「キミ達それぞれのイメージに合せて提供されるメニューも変わるんだよ。」

「これはこの“星の記憶”がキミ達の記憶やイメージによってキミ達の世界が形成されている事に由来しているのさ。」

 

 そんな説明をしてくれるフウチョウちゃん達であったがアタシはじーっと二人を見つめる。

 そろそろアタシの言いたい事はわかるよね?

 フウチョウちゃん達はアタシの視線を受けて一つ嘆息すると言い直す。

 

「もえが知ってるものしか出てこないから食べたいものイメージしてね。」

 

 OK、めっちゃわかりやすい。

 あれ?ちょっとまって、ここにいるアタシのイエイヌちゃんもアタシがいて欲しいって願ったからここにいる記憶の産物ってこと?

 

「それは違う。イエイヌはキミと一緒にいたいと強く願っていてキミも同様だった。だから“星の記憶”でキミ達は共通の世界を形成したのさ。」

 

 というカンザシちゃんにカタカケちゃんが肩をポム、として首を横に振る。

 

「もえとイエイヌが一緒にいたいって思ってたから一緒にいるんだよ。もえの記憶だけから形作られたイエイヌってわけじゃないから安心してね。」

 

 うん。非常に楽!そしてわかりやすい!

 偉いぞフウチョウちゃん達!

 さて、安心したところで何を食べようかな?

 メニュー表を開くとそこには映画館でよく見るラインナップが並んでいた。

 あの甘い匂いがするポップコーンとかコーラとかのドリンク類からホットドッグやホットサンドなどの軽食もある。

 ちなみに、別に『ここ』では食事の必要もないし、栄養バランスとかを気にする必要もなかったりする。

 けど、気分転換にはちょうどいいよね!

 

「みんなは何が食べたい?」

 

 とイエイヌちゃんとフウチョウちゃん達に視線を向けてみるが困ったような視線が返ってくる。

 なんせこのメニュー表はアタシが映画館って言ったらこれだよね。というイメージから出来ているのだ。

 だからきっと馴染みのない物が多くて迷っているのだろう。

 ならばここはアタシが選ばないとね!

 とすると…。うーん。

 軽食よりはオヤツっぽくしたいかなあ?

 だったらここは…!

 

 アタシがチョイスしたのはポップコーン各種。

 そして飲み物は一旦メニュー表をイエイヌちゃんにパスしてノンシュガーなアイスティーを選択だ。

 程なくしてアタシ達の座る客席にポンッと注文した品が魔法のように現れる。

 うーん、便利。

 

「はい。フウチョウちゃん達もイエイヌちゃんも食べて食べて。」

 

 まずはチョコレートキャラメルポップコーンだ。

 甘い匂いに胸やけすらしそうだけど、口の中に入れるとこれまた暴力的な甘さが口の中で暴れまわる。

 そこをノンシュガーなアイスティーで口直し。

 すると…

 

「こ、これは!?」

「甘さがクドいかと思っていましたがこの砂糖なしのアイスティーによくあいますね…!」

 

 と驚愕の表情のフウチョウちゃん達。

 よしよし、計算通り!

 オヤツは単体で考えてはいけないのだ。

 一緒に楽しむドリンク類まで計算にいれてのバランスが大事。

 イエイヌちゃんにメニューを渡す際に、ちょっと苦味の強めのお茶をリクエストしていたのもこの為だった。

 軽く手のひらをイエイヌちゃんに向けるとそっと手を合わせて微笑んでくれる。

 

「そして、こっちのストロベリーキャラメルポップコーンも試してみようか。」

 

 こちらはストロベリーエッセンスで味付けされたキャラメルポップコーンだ。

 

「口の中に広がるわざとらしいイチゴ味…!」

 

 本物の果汁ではなくストロベリーエッセンスを使っているから、なんだかイチゴ味ってこういうのだっけ?ってなるんだよね。

 でもそれはそれで嫌いじゃない。

 チョコレートキャラメルポップコーンとはまた違った甘さが後を引く。

 

「そして、甘いのに飽きてきたらこれ。塩ポップコーン!」

 

 これは多くの人がポップコーンと言えばこれ、と思うプレーンタイプだ。

 適度な塩で味付けされたそれは甘さに飽きたところでしょっぱさを提供してくれる。

 この甘さとしょっぱさを交互に食べてしまうと…。

 

「な…!?こ、これは…!?」

「手が!手が止まらない…っ!?」

 

 と、こうなってしまうわけだ。

 フウチョウちゃん達の手はひょいひょいとポップコーンに伸びていく。

 甘い、しょっぱい、甘い、甘い。しょっぱい。と味がかわることでついつい食べる手が止まらなくなってしまうのだ。

 

「ふっふっふ。これで終わりじゃないよ?フウチョウちゃん達っ!」

 

 そしてしょっぱいが続くと喉が渇く。

 そうするとアイスティーに手が伸びるのだが、その苦味が強めのアイスティーを飲んでしまうと…。

 

「はっ!?ま、また甘いのが食べたくなってしまう!?!?」

 

 ふははは!かかったねカンザシちゃん!

 これがインフィニットポップコーンレイド!

 技名は今決めた!!

 

「くう!?わかっていても手が止められないっ!次が…!次が欲しくなってしまうっ!?」

 

 ふふふ。カタカケちゃん。いまだかつてこの技から逃れられた者はいないんだよ!

 

「もえちゃんが楽しそうで何よりです。」

 

 そんなアタシ達をイエイヌちゃんが暖かく見守っていた。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 楽しいオヤツタイムも終わって、いつの間にやらゴミも勝手に消えていた。

 ほんと便利。

 

「さて、ともえがもうすぐ目覚める頃だね。」

「もうすぐ10話が開始する頃だね。」

 

 フウチョウちゃん達がそれぞれに言う。

 言外にこう言っているのだろう。

 

―見るのかい?

 

 と。

 当然見るに決まっている。

 誰が見なくてもアタシは絶対に最後までともえちゃんの冒険を見届けなくてはいけない。

 どんな結末が待っていようと最後まで見守る。

 ともえちゃんがアタシの事を知らなくてもアタシは彼女の事をとても大切に思っている。

 だから最後まで見守り、応援する。

 

 頑張ってね、ともえちゃん。

 アタシは応援しか出来ないけど最後まで見てるからね。

 

 アタシの見るスクリーンに映される文字は不穏だった。

 

―けものフレンズ2after☆かばんRestart 第10話『迫りくる災厄』―

 

 間もなく上映が開始される。

 頑張ってね、ともえちゃん。

 

 

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 幕間 第9.5話『とおさかもえの映画館暮らし』

―おしまい―




本作は
けものフレンズR合同企画への参加作品になります。

https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/18199/1570453446/
企画詳細はこちらです。

今回のお題は
『おかし』『だんらん』『新手法』との事だったので全てを選択させていただきました。

『おかし』
お題に対して登場したのはポップコーン。舞台が夢の中だからこそ、ポストアポカリプスな世界でも普通に普通のお菓子が出て来ちゃう!うーん、便利。
映画館の売店前を通ると漂ってくるあの暴力的な甘い匂いについついお腹が空いちゃうんですよね…。
高いから買わないんですが…w

『だんらん』
いつもやってるような気がするけど、ともかく皆で仲良く和気藹々とした雰囲気にはなったんじゃないかなーと思ってます。
もえちゃんだって現状を楽しむ強さを持ってる女の子だと思ってます。
みんなで仲良くともえちゃんを見守っていて欲しい!

『新手法』
今回はいつもはあまり使わない一人称視点での描写になります。
こんな感じでいいのかな?と思いつつ書いてみたので感想などありましたら是非いただけたら嬉しいです。


そんなわけで自分の中でもえちゃんをこのまま過去編のみの登場で終わらせていいのか、という想いもあって番外編での合同企画参加には彼女に登場してもらいました。
楽しんでいただければ幸いです。
そして企画していただきありがとうございます。
楽しんで書く事が出来ました!

そして最後に……。

けものフレンズR流行れ。
超流行れ。


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