死神の力が個性になったら (鮫田鎮元斎)
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とりま主人公のオリジンをば

アイデアの泉が枯れてしまった。

うおおおおおお! オラに活力を分けてくれええええええ!













 見てはいけないものを見てしまった。

 

 いつもの帰り道、いつも見えている裏路地。

 一緒に帰る友達のいない私は一人ぼっちで歩いていた。

 何も面白くない下校の時間、帰ってもすることが無かった私は――偶々その路地を覗いてしまった。

 

 いつもは電気屋さんの前のテレビ、その辺で起きた軽犯罪の野次馬、本屋さんの児童書コーナー、他の場所へ寄り道するだけ。

 その日に限って変な好奇心に突き動かされて、薄暗い路地を覗きこんでしまった。

 

(カメラ……?)

 

 何もないという予想に反して、高そうな一眼レフのカメラが三脚と共に置かれていた。

 そしてその奥――カメラのレンズは信じられない光景を映し出していた。

 

 チンピラじみた男を恫喝しているオールマイト。

 いつものあの輝く笑顔はなりを潜め、恐ろしい表情で胸倉を掴み、チンピラからお金を巻き上げていた。

 

 私はばれないように後ずさりし、静かに立ち去ろうとするもそこは御約束というか、落ちていた空き缶を蹴飛ばしてしまった。

 

「うっ……ってガキか」

 

 オールマイトの声はテレビと大きくかけ離れていた。

 まるで姿形のみが似ているだけのようで――

 

「ちょっとこっちに来な」

「ひ……っ!」

 

 目にもとまらぬ速さで私を捕まえ、路地の奥へ引きずり込んだ。

 

「な、なにをするの……?」

「悪事を見られたならすることはただひとつ」

 

 オールマイトの姿が変化し、スーツを着た平凡な男になる。

 

「口・封・じ」

 

 その姿がまた変わり、エンデヴァーにベストジーニスト、どこかで見たことのあるヒーローに次々と変身していく。

 

「そんな目で見るなよぉ――少しスキャンダル作りを手伝ってもらうだけさ」

 

 やがて変身が終わり、オールマイトの姿に戻る。

 

「うん、やっぱり平和の象徴(オールマイト)がいいか。『No.1ヒーロー、未成年の少女に暴行』明日のニュースはこれで決まりだ!」

 

 私の体は恐怖で震えていた。

 何をされるか想像もつかないが、酷いことをされるのは分かる。

 

「たすけて……!」

「残念! ヒーローがみんな善人だと思うなよ!?」

 

 カメラのセッティングを終えた偽物のオールマイトは私の方へにじり寄る。

 

「奴らはちょっといい“個性”を持っただけでもてはやされている運のいい人種! 人助けしてんのも親切心からだけじゃないのさ」

 

 オールマイトの姿でオールマイトが言わないようなことを口にする。

 

 大きな手で胸倉を掴まれた瞬間、私は咄嗟に個性を使った。

 

「破道の一、『衝』ッ!」

「いてっ!」

 

 私の指先から放たれた衝撃波は、少し相手を痛がらせただけだった。

 

「ッ! このガキっ!!」

 

 顔を思い切り殴られた。痛さで頭がくらくらとした。

 殺される。

 こんな個性で抵抗しても傷一つ負わすことができない。

 大人の人に力で敵うはずもない。

 そして何より――助けを呼んでくれるような、心配して探しに来てくれるような人はいない。

 

「予定変更だ――徹底的になぶり殺してやる」

 

 数々のヴィランを打ち破ってきた拳が私を殴る。

 お腹を殴られて息が詰まった。頭を殴られて目の前がちかちかした。

 

「ははっ! はははハッ! ほら! もっと泣いて! 記事に乗せるんだからもっと――てっ!?」

 

 高そうなカメラが地面に転がった。続けざまに三脚が投げつけられるが、それは受け止められた。

 

(ヴィラン)名、にせオールマイト。犯罪歴は名誉棄損、恫喝、暴行、その他諸々」

「何だァ……テメエは」

「生憎と、悪党に名乗る安い名は持ち合わせていなくてね」

 

 草履の音。

 私は精一杯、助けてくれた人を見ようとしたが、腫れてしまっているせいか開かない。

 

「ううん……俺の履歴(メモリー)には無いし、マイナーヒーローか? お前みたいな金にならない有象無象には」

「口を閉じろ――時間が惜しい」

 

 ぶつかり合う音が響く。

 

「見た目だけだと思うな――パワーだって本物と遜色がないんだよッ!」

「だとしても俺の仕事は変わらない。この娘を護るのみ」

 

 私の意識はそこで途切れている。

 

「卍解――“花散里”」

 

 でもこの声は忘れない。

 私を助けてくれた、この人の声を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在。

 雄英高校入試の日。

 

『ハイ、スタート!』

 

 唐突に告げられた開始の号砲。

 戸惑う受験生たち。

 

『どうしたぁ!? 実践にゃカウントなんざねえんだよ! 走れ走れ! 賽は投げられてんぞ!?』

 

 突き放すかのようなアナウンスに受験生たちは大慌てで駆け出し、我先にロボットに飛びついていく。

 

 私は一度大きく深呼吸をし、地を蹴った。

 あっという間に先頭へ躍り出てヴィランロボットに出くわす。

 

『標的補足ブッ殺す!』

 

 恐ろし気な風貌の顔に向け手を向けた。

 あの日、何の抵抗にもならなかった技。これが通用しなければヒーローになんか絶対になれない。

 

「破道の一“衝”!」

 

 衝撃波は機械の体を大きく吹き飛ばし、機能停止をさせる。

 

(よし……!)

 

 確かにあの日から私は成長している。その手ごたえに浸っていると、周りでは次々とターゲットが破壊されていく。

 

「っ……!」

 

 私は再び駆け出す。

 ザコ敵を倒したくらいじゃ私の目標は達成されない。

 ここで合格し、ヒーロー資格を入手し、あの人のように人々を助ける。

 

 私のように、一人助けを求める人に手を差し伸べられるように。

 

 

 

(28――っいない!?)

 

 試験後半、28P獲得した辺りで周りの異変に気付く。

 

 ロボットのほとんどが姿を消している。それらは全て爆発の発生している場所――金髪頭の男子が起こす爆発に引きつけられていく。

 それだけでない、地響きがする。

 

「うっ……!」

 

 巨大なロボット、得点にならないただのお邪魔なギミックだ。

 

 最悪の気分だった。得点源は一人に独占され、おこぼれを探そうにもギミックに妨害される。

 私は舌打ちしそうになるのをこらえて会場を駆けまわる。

 

(どこか……得点を稼げる場所)

 

 焦る私の目に蹲る人が映る。

 瓦礫に体を押しつぶされそうになっているも、他の受験生たちはポイント稼ぎに勤しんでいて気付かない。

 

「っ……!」

 

 私もポイントを稼ぎたい。あの人を無視してポイントを取りに行きたい。

 

 それなのに体が勝手に動いてしまった。いや、こうせずには居れなかった。

 このまま逃げたら今までの決意が、努力が、築き上げていったものが崩れていきそうな気がした。

 

「っし!」

 

 腰の刀で瓦礫を真っ二つにする。

 茨のような髪を持つ女子で、その髪を支柱にして耐えていたようだった。

 

「大丈夫?」

「は、はい。ありがとうございます」

 

 地響きを感じる。

 妨害ギミックが近づいてきている証だ。

 

「動ける!?」

「……すみませんっ足が」

 

 彼女は茨の髪と自分の腕で残った瓦礫をどかそうとしているが、動く気配がない。そうこうしているうちにどんどんギミックが近づいてくる。

 

「分かった。少しだけ我慢してて」

 

 迎え撃つしかない。

 そもそもいきなり瓦礫を動かしたのが早計だった。ショック症状を引き起こすこともあると聞いたこともある。だったら初めからこうするべきだったかもしれない。

 

 

「――君臨者よ、血肉の仮面・万象・羽搏き・人の名を冠する者よ」

 

 巨大ギミックを破壊する。

 まずは安全を確保してから救助に当たるべきだった。

 

「――焦熱と騒乱、海隔てて逆巻き南へと歩を進めよ」

 

 赤い閃光。

 威力を高め、一撃で破壊する。

 

「破道の三十一“赤火砲”!」

 

 放たれた火の玉はロボットを破壊し、その破片をあたりに飛び散らせる。

 

(しまっ――)

 

 私は咄嗟に彼女に覆いかぶさり、破片から身を護ろうとする。

 その上から更に茨が盾を作り、私たちを護る。

 

 

『終了――!』

 

 

 そして無情にも、試験終了の合図が入る。

 

「ふふ……随分と締まらないヒーローですね」

「ぅあの、その」

 

 構図的には私が押し倒しているようにも見える。この時は私が女であってよかったと感じた。

 

「私は“塩崎 茨”といいます。助けていただいてありがとうございます。

「……“四楓院(しほういん) (あさひ)”、こちらこそ助けてくれてありがとう」

 

 この人は――塩崎さんはきっといいヒーローになる。私はそう直感した。

 

 

 

「ヒューヒュー」「女子の友情……尊い」「百合展開キタコレ」

 

 同時に、余計なヤジを入れてきたこいつらはヒーローになれない気がした。










続くか続かないかは気分次第。


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斬魄刀、そういうのもあるか

モチベは下がったままだ。
適当にやりすぎてタグ忘れ、運営に叱られてしもうた。














「なあ、黒い孔って聞いたことあるか?」

「なんだよそれ」

「噂じゃ、どこかにぽっかりと空いた黒い孔で、落ちたら最後、世界から存在から消えちまうって」

「んなバカなことあるかよ」

「それがよ、四楓院家の誰かが落ちたみたいで、その方の記録が不自然になくなったそうだ」

「ははは! いくら退屈だってそんな話信じる奴――な、なあ……その黒い孔って、お前の目の前にあるみたいな形なのか?」

「え――――?」

 

 

 

 

 

 

 ――――とある下級隊士の会話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 斬魄刀。

 それは己の魂を投影した現身のような存在。

 

 ()()には名前がある。

 ただし、最初に教える名は偽りで、もう一つの真の名前があるようだ。

 

 

『――来たな』

 

 劇場のような空間。舞台の上で微睡んでいる女性が、私の斬魄刀の姿。

 

「今日こそ教えて。貴方の本当の名」

『そうさなぁ』

 

 艶やかな声。彼女は片目だけを開き、私の方を一瞥する。

 

『その分だと、教える気にはならんわぁ』

「どうして!? 私は雄英高校の――日本最高峰のヒーロー高校の入試を突破できた! 実力なら十分」

『甘い』

 

 気が付けば彼女は私の前にいた。

 甘い吐息が吹きかけられ、私は思わず頬を赤くした。

 

『お前さんは何も変わっちゃいない。妾が名を教えてやった日から、ずうっと』

 

 顎を持ち上げられ私は目を背けそうになる。潤んだ黒い眼は私の体から力を奪っていく。砕けた腰をかかえられる。

 

『強さとは暴力に非ず。それが分からなければ妾の本当の名は教えぬよ』

 

 熱に浮かされるように意識が霞み、気が付けば私は舞台の上に立っていた。

 

『さあ、舞え。可愛らしく舞うのじゃ』

 

 扇子が足元に落ちる。言われるがままに拾い、広げる。

 恥ずかしい。

 下手くそな舞いを見られる。震える姿をつぶさに観察される。

 

 それでも私は舞を披露した。

 見えない糸で操られているように、夢を見ているかのように。

 

『お前さんは妾の人形。ゆめゆめ、忘れるでない』

 

 客席の奥の闇に、動物の骸骨が見えた。

 あれは一体何なんだろう――――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――っ」

 

 体が跳ねる。

 その拍子に落ちた投影機からオールマイトが映し出され、横向きのまま彼がしゃべりだす。

 

『――私が投影されたッ!』

「…………」

 

 さっき見たばかりだったのでそのまま消した。

 膝の上から刀をどかし、胡坐を崩す。

 冷汗で髪の毛が頬に張り付いて気色悪い。

 

 彼女は私を認めてくれない。

 名前を教えてくれるのは認めた証だと父さんは言った。

 でもそれは嘘だ。彼女は決して私を認めてなんかいない。

 

「はぁ……」

 

 どうすれば卍解――斬魄刀の真の力を開放できるのだろうか。

 いったいどうすれば、あの人に追いつけるのだろうか。

 

 合格通知には得点まで記載されていた。

 

 四楓院 旭。

 敵P:28点、救助P:30点。総合順位:第9位。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 死神。

 それは人を死へといざなう存在。

 

 もしくは――

 

「くそっ! なんなんだこいつッ!」

 

 廃ビルの一室。埃の被った資材が散乱している中、黒い着物をまとった青年が刀を振り回している。

 月明かりは二人目の人物の影を落とし、青年はその主に向けて刀を振るう。

 しかし切っ先は空を斬るのみで肝心の相手にはかすりもしない。

 

「こうなったら――“清めよ”清龍!」

 

 青年が名前を呼んだ瞬間、刀の形状が変化した。刀身は流れる川のように、切っ先は竜の咢のように。

 

「……面白い刀だね」

 

 どこからか声が響く。影がうごめき、一人の少年が姿を現す。

 白かったと思われるシャツは赤茶けた汚れだらけ、制服のズボンは暗い色で目立たないが、よく見ると血の汚れが見受けられる。なによりその幼い顔のいたるところに血を拭ったような跡があった。

 

 少年は口角を上げる。牙のような犬歯が姿を覗かせる。

 それが笑顔だということを、本人以外は分かっていない。

 

「行けっ! 清龍!」

 

 水の竜は少年を飲み込まんとうねる。

 

(清龍の水に洗われた者は一時的に力を失う! これで奴は影に潜めない……!)

 

 膨大な水圧で吹き飛ばされた少年の体が泥のように崩れ落ち、一糸まとわぬ少女の姿となる。

 

「!?」

 

 青年は首筋に痛みを感じた。

 先程まで戦っていると思っていた少年がいつの間にか背後に回っており、鋭い牙でかみついてきたのだ。

 

「……キュウくん寒いです」

 

 水を浴びせられた少女はかわいらしくくしゃみをして見せる。

 

「脱いでくる方が悪いだろ?」

 

 キュウくんと呼ばれた少年は、首筋から流れる血をなめとりながら答えた。

 

 青年の手から刀が落ち、水の竜は元の刀身へと姿を戻す。

 

「くそ……なに、しやがった」

「僕の唾液には弛緩効果があるんだ。あと、血の凝固を止める効果も」

 

 彼の言う通り、首筋から流れる血は止まることなく流れ、黒い着物を濡らし続ける。

 

「この程度で勝ったと――っんぐ!?」

 

 吸い付かれた。

 少年は流れる血を飲んでいく。その姿は御伽話やホラー映画に出てくる“吸血鬼”そのものだった。

 

「安心しなよ――んぐ――君の魂は――永遠に僕の中で生き続ける――」

「あ……ぁぁ……」

 

 青年の頭を走馬灯が駆け巡る。初めて真央霊術院に入学した日、斬魄刀を支給された日、その名を初めて聞けた日、護廷十三隊の配属が決まった日――そして任務中に黒い孔へ落ちた日。

 その手から斬魄刀が滑り落ち、砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の体から最後の血が吸い取られ、亡骸が放り捨てられる。

 

「はあ……おいしかった」

 

 斬魄刀の欠片が再び集まり、少年の手でもう一度刀の姿を取る。

 それを腰に差し、亡骸から着物をはぎ取った。

 

「ほら、これでも着ときなよ」

「さむい……温めてください」

「チッ」

 

 少年は舌打ちし、彼女の体を抱き寄せる。凹凸のはっきりとした体を感じるも、彼は表情を一つも変えない。

 

「キュウくん、好き」

「あっそ」

「……欲しい、血」

 

 鋭い爪で自分の指先を傷つけ、少年は能動的に血を流す。

 滴り落ちる赤い雫を余すところなくなめとろうと少女――トガは口を開く。

 

「ん……チウ、チウ」

 

 指にしゃぶりつき、恍惚とした表情で血を吸い取っていく。

 先程とは対照的に、子供のような愛らしさを感じさせた。

 

「ほら、これでいいだろ。行くぞ」

「あっ……けち」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――数時間後。

 

 

「遅すぎたか」

 

 黒いノースリーブの着物を着た男――四楓院 陽夕間(ひゅうま)は頭を抱えた。

 

 血を抜かれて死んでいる青年。棄てられた死覇装には椿の花が刺繍されている。

 彼と同じ孔に落ちた隊士だろう。

 

「ったく……斬魄刀盗んでいきやがったな」

 

 この世界に迷い込んだ死神の末路は二つ。

 上手く溶け込むか、殺されてしまうかのどちらか。

 

 彼はため息をついて懐のスマホを取り出す。

 

「ふん……旭のやつ、合格か。ま、この俺に似たんだ、この程度は楽勝か」

 

 落ち込んでいた気が少しだけ晴れる。

 

「いつになったら、俺は戻れるのかね?」

 

 孔に落ちて十数年、いつの間にやらこの世界で一定の地位と家庭を築いてしまった。

 向こうの家族は心配してないだろうか?

 それだけが心残りだった。

 

 



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いきなり体力測定とかきいてないし

とりあえず主人公の容姿としては身長160cmくらい、癖のある灰色ロングの髪型、胸は(A組の中では)小さめを想定しています。

どこぞの世界の夜姉様には似てない設定。


 私の朝は早い。

 いつも日が昇る前に起きて身支度をしている。超が付く程朝型生活だと思う。

 

 ご飯は私が作る。洗濯も自分でしている。母さんは放っておくとずっと寝てるからこれは仕方がない。これだけ聞くと育児放棄(ネグレクト)だと思われるかもしれないが、そんなことはない。私が小さかった時は今の怠惰さが嘘のように働いていた。

 あまりに大変そうだったから私が手伝う、と言ったらこの有様だ。言わなければよかった。

 そして父さんは家に帰ってこない。両親の中は完全に悪いので別居中らしい。

 

 顔を洗ったあと寝室に戻り、母さんを起こしに行く。寝ていて三日目だからそろそろ食事をしないと死んでしまうだろう。

 

「母さん、起きて」

「…………ん」

 

 この程度で起きたら苦労しない。母さんは少しうめいて寝返りを打った。布団がはだけてうなじの刺青があらわになる。どうして数字の“0”を入れたんだろう? もう少しましな文字があったと思う。

 

 じっと見ていると母さんが細く目を開く。

 

「そろそろご飯食べないと干からびるよ」

「そう……そうね」

 

 と、言ったはいいが母さんの動きはのろい。

 まるでナマケモノみたいなスローさだ。

 

 でも起きるならそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 ……結局起こすのに時間がかかって出るのがギリギリになってしまった。

 入学初日から遅刻とか本当にシャレにならない。

 

 お行儀が悪いけど最短距離を行くために家の屋根の上を走る。

 父さん曰く、頑張れば空を駆けることができるらしいが、私には怖くてできない。

 

 走ること十数分、雄英高校の敷地が見えてくる。

 久しぶりに見ると本当に広い。某ネズミランドが何個か入りそうなぐらいでかい。

 

「はぁ……はぁ……疲れた」

 

 全力で走ったせいで体力が尽きかかってる。でも今日はガイダンスだけだろうし何とかなると思う。

 

 私のクラスは1-Aだった。

 どうか、どうかA組にやばい人が居ませんように。あと今度こそ、仲良くなれる人がいますように。累計友人数ゼロはさすがに卒業したい。

 

 

「――アア!? テメェどこ中だ!?」

 

 

 あ、無理だ。

 私の高校生活の終わる音が聞こえた。

 

 恫喝する声の聞こえたまえの扉を避け、後ろの扉からこっそりと教室に入った。みんな前の方で繰りひろげられている諍いに夢中で私に気付かない。どうやら友達づくりのファーストコンタクトも失敗しそうな予感がする。

 

 争いの渦中の男子、どこかで見覚えがあるような。

 

 そんなこんなでチャイムが鳴り、担任の先生と思われる寝袋が教室に侵入してくる。

 本当に寝袋だ。この先生も常時睡眠するタイプの人なんだろうか?

 

「早速だが、体操服(これ)きてグラウンドに出ろ」

 

 いや、これはただの面倒くさがりなやばい先生だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 聞いてない。

 いきなり個性把握テストという名の体力測定なんて聞いてない。

 

 今日走っていたせいで疲れているときにやられたら絶対記録が悪くなる。

 加えてトータル成績が最下位だったら除籍とか理不尽にもほどがある。教育委員会に訴えてやろうか。

 

 しかも除籍されて欲しい金髪男子は入試一位だから記録的に上位に行きそうで悔しい。

 

「――次、砂藤と四楓院」

 

 男女混合出席番号順。

 いや、個性ありきだから男女の体力差はあまり考慮しなくていいのかも。

 

 とはいえ体格差が激しすぎる。彼は私の1.5倍の体格を有している。

 

『――用意、スタート』

 

 瞬歩。

 父さんから教わった走法。今の私なら50mくらい――

 

『――0.57秒』

 

 走り抜けたところで足がもつれた。私は顔面からグラウンドへダイブしてしまった。

 

「いてっ」

「わっ大丈夫?」

 

 エイリアンみたいな子が助けてくれた。

 

「うん、なんとか」

「すごい速かったね! 速さを上げる個性なの?」

「あ、えっと……」

「??」

 

 どう説明しようかと迷っているうちに興味をそがれたのか、つまらなさそうにどこかへ行ってしまった。

 私の後に走る人たちも多種多様な、それこそ好奇心をくすぐるような個性を使っているから仕方がないかもしれない。

 

 私は転んだ拍子に乱れた髪を整え、ため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 続けて握力、これは大したことなかったので省略。

 その次は立ち幅跳び。

 

「おおおお!?」

「すげえ! 二段ジャンプ!」

 

 空中を走るのは少し気が引けたので落ちる寸前で再ジャンプする、所謂多段ジャンプに近い動きで距離を稼いだ。

 父さん曰く『宙に浮くのではなく宙に立つ』だそうだ。意味が分からない。

 

「わっ!」

 

 30m跳んだ辺りで調整を間違えて墜落した。

 

 

 

 その次の反復横跳びではコケるのが怖かったので慎重にやったらあまりいい結果は出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いよいよメイン(?)のボール投げ。

 円からでなければ何でもしていいとのことで、個性の応用力が試されているともいえる。

 

 この種目は麗日さん? の独壇場だろう。まさか記録が無限に到達するとは思ってもいなかった。

 

 私の番が来てもあまり注目はされていないようだった。緊張しなくて済む。

 

「――破道の三十三」

 

 ボールを軽く前方に放り投げる。

 右手を前に出し、タイミングを合わせて技を放つ。

 

「“蒼火墜”!」

 

 照射された炎の柱にボールがかすり、しかも一瞬で消えてしまったため記録が伸びなかった。

 

「――29.8m、二投目行くぞ」

 

 クラスメイト達は雑談を止め、私に視線を向けた。

 特に紅白頭の男子からの視線が突き刺さるようだ。

 

 

 


 

「……君臨者よ」

 

 目を閉じて深呼吸をする。

 体内の霊圧に呼応して灰色がかった髪がなびく。

 

「血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ、真理と節制、罪知らぬ夢の壁に僅かに爪を立てよ――」

 

 ボールは再び宙に舞い、緩やかな放物線を描いて落ちていく。

 綺麗に指をそろえた右の掌の中心とそれが直線状で重なる。

 

 

「破道の三十三“蒼火墜”ッ!」

 

 

 

 炎の柱はその真芯でボールを捉え、遥か彼方へと吹き飛ばしていく。

 

 

「――892.6m」

 

 

 技が遺した狼煙が旭の顔を神秘的に飾る。

 ただ、彼女の心臓が早鐘を打ち、今すぐ立ち去りたいと思っていることに誰も気づいてはいなかった。

 





次回、結果発表――――!!


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これが主人公補正か


やるきーすいっちぼくのはどこにあるんだろう?

みつけーておくれよ、ぼくにあるーやるきすいっちー


 熱気が残っている。

 先生が記録を読み上げ直後、歓声が上がった。

 

 今度はみんなに囲まれそうだと思ったけど、先生が苛立っていたようでみんな自重した。

 なぜか鳥頭の男子から熱い視線を感じていたが、話しかけられることは無かった。

 

 その後の記録はまちまちで、すごい記録もあれば平凡な記録もある。デモンストレーションをやった爆豪(だったはず)が700m台の記録を打ち立てた。それ以外は特に言うべきところは無かった。

 

「次、緑谷」

 

 天パにそばかすが特徴的な男子が青ざめた顔で円の中に立った。

 よく考えたら彼は殆ど記録を残せてない気がする。普通の高校の、それも個性無しの身体測定なら間違えなくトップなんだろうけど、今回は分が悪そう。戦闘向きの個性ではないのかもしれない。

 彼はブツブツと呟きながらボールを構え、思い切り目をつぶって放り投げた。

 

『46m』

「な……今使おうとしたのに」

 

 増強型の個性? このタイミングまで温存したのはなんでだろう。

 緑の人は先生からお説教を喰らっていて縮こまっていた。

 

「彼の事が心配?」

「え、あの」

 

 おへそからビームを出してた人が話しかけてきた。

 

「僕はね、全☆然」

「あ、わ、私は」

 

 頑張ってコミュニケーションをとろうとしたけどもう別の人に話しかけにいっていた。よくわからない人だ。

 

 そうこうしているうちに二投目。

 今度は爆音と共にボールが彼方へと飛んでいった。

 

 ……え?

 思っていた以上に飛距離が出ている。その代わりに右手の人差し指が醜く膨れ上がっていた。

 

「先生……まだ動けますっ!」

 

 すごい。

 記録もそうだけど使いにくい個性を土壇場でコントロールした。あの様子だと全力で使えば腕がボロボロだった。だから指先だけに範囲を限定した。

 まるで試合の中で成長していく主人公のよう。

 

 その後もひと悶着あったが、ボール投げはそのまま終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 持久走も終わり、結果発表がされた。

 

 私の結果は3位だった。

 因みに最下位は除籍と言うのは合理的な虚偽だったらしい。よかったね、緑くん。

 

 そんなこんなで激動の初日が終わった。

 私が密かに練っていた『友達百人大作戦』が実行できないまま終わってしまった。

 

「ちょっといいかしら?」

 

 帰ろうと荷物をまとめていたらカエルのような子に話しかけられた。

 

「あ、うん」

「私は蛙吹 梅雨よ。私、思ったことをすぐに言っちゃうから、気分を悪くしないでほしいのだけど――もしかしてアサヒちゃんは一人ぼっちなのかしら?」

 

 何気ない言葉が私の心を思い切り抉った。

 小中学校では友達がいなかった私にとって“一人ぼっち”という言葉ほど刺さるものはない。

 私は話すときのテンポが悪いみたいで、気が付くとどのグループにも属せていなかった。

 

「え、あの、その……」

「ケロ、私もそうなの。同じ中学校から一緒の子がいないの」

「う、うん……私もいない」

「だから――お友達になりましょう?」

 

 頭が真っ白になった。

 友達。

 昨晩どうやって作ろうかずっと悩み続けていたのが馬鹿みたいだった。

 

「も、もちろん! あ、えっと蛙吹、さん」

「梅雨ちゃん、と呼んで欲しいの」

「うん、梅雨……ちゃん」

 

 初めての友達に私が有頂天なっていると、鳥頭の――身体測定の時から私を見ていた彼と目が合った。

 

「……同志」

 

 何かを呟いたようにも見えたけど、よく聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 雄英高校の授業は普通の高校とは一味違ったものが実施される。

 その中でもヒーロー基礎学は特別な存在。

 ヒーロー科をヒーロー科たらしめている科目だ。

 

(いきなり戦闘訓練……)

 

 自分の申請したコスチュームはサポート会社が製作してくれる。

 

「ケロ……ちょっと恥ずかしいわ」

 

 でも詳細を書かないとサポート会社の趣味が反映されてしまう。

 梅雨ちゃんのスーツはカエルらしさを強調するピチピチスーツ。どうやら着やせするタイプみたいで、ナイスなバディが強調されている。

 

「思ったより布面積が多くなっていますね……」

 

 ポニーテールの人がつぶやいている。そんな彼女のコスチュームは露出度の高いハイレグ……これ以上布がなくなったら全裸なんじゃなかろうか。

 

 と、人を見ていたら自分のコスチュームの着替えに手間取ってしまう。

 

「アサヒちゃん、手伝うわ」

 

 私のコスチュームは黒の着物。

 刀に会う服装、としたらこうなった。着替えるのが大変だけど妙にしっくりとくるのはなんでだろう?

 

 

 

 

 

 着替えが終わり演習場に集合すると、いかにもヒーローの卵のような出で立ちになったクラスメートと顔を合わせる。

 

「みんな、似合ってるぜ!」

 

 先生のオールマイトが輝くような笑顔で親指を突き立てる。

 本物がそんなことをしないとわかっていてもあの偽物に襲われたせいで、少しだけあの笑顔が怖い。

 

 目を合わさないように背けていたらいつの間にか説明が終わっており、チーム分けもすでに済んでいた。

 エイリアンみたいな独特な風貌の……確か芦戸さんだ。

 

「第一試合は――Dチームがヴィランサイド、Eチームがヒーローサイドだ!」

 

 爆発小僧とメガネ委員長――爆豪(くん)と飯田くんのペア。

 そして私たち。

 

 対戦カードが発表された瞬間、爆豪がものすごくギラついた目で私の事を睨み付けてきた。向こうはヴィランサイドだから先にビルの中に入っていったが、その際に聞こえるような舌打ちをしていった。

 ……私、何かしたっけ?

 

 

「こわ……なんか身に覚えある?」

「全然ない」

「もしかして――一目ぼれ? だったりして」

「え、無理。生理的に無理」

 

 あんな糞を汚水で煮込んで下水と混ぜ合わせたようなクソ人間に好かれたくはない。

 

「っそんなことより作戦立てないと」

「そっか、核の隠し場所って決められてないもんね。じゃアサヒの魔法みたいな技使ったらいいんじゃない? 炎であぶりだし、とか」

「本物の核爆弾にそれやったら爆発すると思う」

「あ……でもさ、訓練だからそこまで考えなくてもいいんじゃない?」

「訓練は本番のように、本番は訓練のように、だよ。いつも楽観的に考えてたら本番で(いざというとき)失敗する」

 

 芦戸さんがおお、と声を漏らす。少し気が引き締まったのか、悪そうな表情で提案してきた。

 

「だったら……囮作戦はどう?」

 

 

 

 

 

 

 






一応主人公の斬魄刀は卍解まで考えてます。
主人公父の斬魄刀も卍解までアイデアがあります。
謎のヒーローの卍解『花散里』の能力も始解も考えてあります。

問題はやる気だけ。
あと黒い孔のこと(おい)


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それっぽい終わり方すると逆に何も起こらなさそう


閃きませんでした、まる。






「さあ皆も考えながら見るんだぞ!」

 

 地下のモニタールームでは待機となった面々が戦いの様子を観察していた。

 オールマイトは矢継ぎ早の質問を捌きつつ戦闘の様子を採点していく。

 

(思ったより大変だコレ)

 

 教師として初の授業であったがそんな様子など微塵も見せず、ひそかに冷汗をかくばかりだった。

 

「――そう、この訓練は圧倒的にヒーロー側が不利なんだ。そんな時こそ忘れちゃいけないアレだよ! せーの、プルス」

「あっ! かっちゃんが」

 

 大きな動きがあったようで緑谷がモニターを指さす。

 少し気まずくなりつつオールマイトはそちらに目を向ける。

 

(爆豪少年……聞いたところ自尊心の塊って感じだが――)

 

 相対しているのは四楓院 旭。女子が相手にもかかわらず爆豪は容赦なく攻撃を浴びせる。

 

「うおっ!?」

「いまモロ入ったぞッ!?」

「容赦ねーな……」

 

 ラリアット気味の大振りがアサヒの胸元にクリーンヒットし画面が爆炎で曇る。

 

「どんびいてる場合じゃないぞ少年たち。女性の(ヴィラン)だって少なからずいるんだぜ? 時には彼のような思い切りも必要なんだ(とはいえあれはやり過ぎだけどね)」

 

 映像が戻ってくるとそこでは相手を組み伏せている爆豪が映し出される。

 これで確保証明のテープを巻きつければ勝負が決まる。 

 

 しかし確保テープを巻きつけようと片手を離した瞬間に吹き飛ばされる。

 画面が閃光に包まれホワイトアウトする。

 

(普通ああなったら諦めるもんだが)

 

 別のカメラに逃げるアサヒの姿が映る。

 息を整え、爆豪の方を見て口を動かしている。そして彼を指さし指先を動かす。拳法家が相手を挑発するかのように。

 

 それに怒った爆豪は籠手のピンを外し引き金に手をかけた。

 籠手の内部には彼の汗――ニトロのような物質が蓄積されるように設計されており、引き金を引くとそれが一斉に放出される仕組みとなっている。

 

 BOOOMM!!

 

 音声は通っていないはずが幻聴のように爆発音が聞こえた。

 通路の壁が吹き飛んだものの、前方の爆風は防壁によって防がれている。

 

 衝撃自体は地下にも響いてきており僅かに悲鳴が上がる。

 

「授業だぞコレ!?」

「でも見ろよ――瓦礫で爆豪の逃げ道が」

 

 袋小路の道で撃った結果、爆豪は退路を断たれ閉じ込められてしまっている。

 そんなことに構わず瓦礫を吹き飛ばして強行突破するも、待ち構えていたアサヒの掌底が叩きこまれる。彼は苦悶の表情を浮かべるもすぐさま受け身を取り、体勢を整える。

 続けざまに確保証明のテープが飛来し、焦った爆豪はそれを跳んで躱す。

 空中で身動きが取れないところに刀の峰が迫る。しかしそれは当たらず、代わりにアサヒの体が瓦礫に突っ込んだ。

 

(爆破で軌道修正して回り込み、背後から蹴りを入れる……口で言うのは簡単だがそれを土壇場で実行するのは難しい)

 

 伊達に入試一位を取っているわけではないようだ。

 

 倒れたままのアサヒを警戒しつつ爆豪は距離を縮める。

 あと一歩で触れる刹那、動けないふりを止めた彼女が放った砂を目に喰らい爆豪はのたうつ。

 

(Hum......これは食い合ってたパターンか)

 

 雄英高校の入試では同校での協力を防ぐために受験生を振り分けている。逆に言えばそれ以外は完全にランダムであり、稀に同じ会場内に優秀な受験生が複数配置されてしまうこともある。そうなった場合はより優れた方が合格するか、どちらも点数を稼げないまま低成績で合格するか、はたまた両方とも不合格となってしまうか。

 

 実力が十全に発揮されず、優秀な生徒を確保できないことが起こってしまうのは事実だ。

 

 まるでアクション映画のような攻防は二人の実力が拮抗していることを示しているようだった。

 

(おっと、飯田少年と芦戸少女の方を見ていなかったぞ)

 

 生徒たちにつられていたオールマイトは核の配置されている部屋の様子を観察する。

 二人とも五分の勝負を繰り広げているようで距離を保ったままにらみ合っている。

 

 徐に芦戸が動く。手の平から酸を放出しつつ核へ迫る。しかし飯田が走って核を奪い距離を取った。彼は悪役になりきっているようで、芦戸を翻弄するかのように振る舞っている。

 ずっとその攻防を繰り広げているせいか、床はドロドロに溶けだしていた。

 

(ほう……これは中々いい作戦じゃないか)

 

 飯田は核を持ったまま走り翻弄していたが、溶けた床でスリップし、大転倒してしまった。その隙に芦戸が核に触れ、勝利条件を満たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 ヒーローの卵が戦闘訓練を行っている裏側、一人の記者が雄英の周辺をうろうろとしていた。

 

「くそっ……雄英バリアか。折角オールマイトが赴任したってのに取材NGかよ」

 

 いち早く取材をしようと雄英高校の敷地に入ろうとしたものの、許可を得ていないため門前払いを喰らってしまったのだ。

 

『――どうやら、お困りのようですねえ』

 

 男はどこからか聞こえてきた声に顔を上げる。

 

『壁があるならぁ――孔をあけちゃえばいいんですよぉ?』

 

 妙に間延びした口調に、男は意識が浮つくような錯覚を覚える。

 無駄だと思いつつ再び雄英バリアの前に向かう。

 

「なん……だって?」

 

 先程まで自分を阻んでいた防壁に綺麗な穴が開いていた。それも人が一人入れそうな大きさだった。

 

『さ、孔が空きましたよぉ? 後は――貴方の自由です』

 

 スクープが転がってきたなら拾うのが記者の仕事だ。

 男は迷うことなく雄英高校に侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「はい、先生。全て先生の手筈通りに進んでおります」

 

 白い軍服を着た女は通信機を使い誰かと話していた。胸元には星のような十字架のエンブレムを身に着け、左目には眼帯をしていた。

 傍らには死神の使う大鎌(サイス)が安置されており、彼女が堅気の人間でないことがわかる。

 

「承知しました。全ては先生の思し召しのままに」

 

 通信を切ると、彼女は武器を後ろ手に持つ。

 

「さあ、もっと孔に堕ちなさい、英雄達よ」

 

 大鎌の切っ先が大きな黒い孔を開けた。それは底が見えず、どこまでも落ちていきそうな錯覚を抱かせるような暗さの孔だった。

 

「ああ、申し訳ございません。陛下」

 

 女は誰かに謝罪をする。それは先生と呼ばれていた人物とは違うようだった。

 

(わたくし)は先生に仕えることとします――本当に、申し訳ございません」

 

 しばらくすると黒い孔から黒い着物をまとった人間が落ちてくる。

 すぐさま鎌が一閃し、その首を落とした。

 

「すべては先生の為に――」

 

 







もう引退の時期なのか……
いや、もう少しがんばろう。


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リアリストはオサレじゃなくない? ……なくない?

思いつかないなら書きたいとこだけ書けばいいじゃない!




 救助訓練。

 13号先生の指導のもと人命救助のイロハを学ぶ時間――そのはずだった。

 

「――ご清聴、ありがとうございました」

 

 少し小言じみたスピーチが終わり、相澤先生が指示を出そうとした時だった。

 

 私は殺気を感じ、広場の中央に目をやる。

 黒い渦が生じ、体中に手を付けた人物が現れた。

 

「全員一丸となって動くなッ!」

 

 相澤先生が焦ったように叫ぶ。

 しかしみんな演出だと思っているようで、呑気にそれを見守っていた。

 

「あれは――(ヴィラン)だ」

 

 その一言に戦慄が走る。

 

 先日記者が侵入して大騒ぎになったおかげか、雄英のセキュリティは大幅に強化されたはずだ。それを易々と突破して、しかも警報が機能していない。

 

 どうして?

 目的は何?

 こんな大掛かりなことをしてどうするつもり?

 

 

 

「13号、生徒の避難誘導! あと上鳴と四楓院は個性使って通信を試せ!」

「う、ウス!」

「っはい!」

 

 パニックになりそうだった頭が落ち着く。先生のお陰で冷静さが取り戻せた。確かに天挺空羅を使えば電波妨害を受けずに外へ通信ができる。

 

「――黒白の(あみ)ッ!?」

 

 詠唱をしようとした瞬間、左肩に痛みが走る。

 

「アサヒちゃん!!」

 

 全身を包帯で覆っている男が私に短筒を向けていた。そして私の肩には針のようなものが突き刺さっていた。

 

「っ……二十二の橋梁、六十六の冠帯、足跡(そくせき)……遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列、太円に満ちて天を挺れ――縛道の七十七“天挺空羅”!」

 

 痛みをこらえて詠唱をしたものの、術が発動できない。

 霊圧が安定しなくて、体の力が入らなくなる。

 

 描く紋章を間違えた? いや、そんなことは無い。教えられたとおりにできたはず。

 ということは――鬼道を封じられた。

 

 背筋に悪寒が走る。

 脳裏にあの邪悪な――にせオールマイトの笑顔が浮かぶ。

 

 もう昔の弱い私じゃない。あの偽物にだって――でも力が使えないと。

 

 

 

 

 

 

『悪事を見られたならすることはただひとつ――口・封・じ』

 

 

 

 

 目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

「――伏せろ四楓院っ!」

 

 気が付くと暴風の真っただ中だった。

 言われるがままに私はかがんでおく。

 

(さっきまで中央広場だったのに……)

 

 横殴りの雨が激しく、視界がままならない。

 

「――ヒャッハーっ! 一人で守り切れると思うなよ!」

 

 異形型の(ヴィラン)が襲い掛かってくる。

 

「っ! 破道の四“白雷”!」

 

 迎撃のために鬼道を使おうとしたけど、やっぱり上手くいかない。

 

 上手くいかないことなんて知らないせいか、警戒して向こうは様子を見ている。

 ここは――()()の力を借りるしか――

 

「な、なんだよ……やっぱガキだな」

 

「――行け黒影(ダークシャドウ)!」

『アイヨ!』

 

 黒の影が敵を薙ぎ払った。

 続けざまに着物の帯を引かれる。

 

「(こっちだ)」

 

 建物の内部に引き込まれる。短時間しか大荒れの天気の中にいなかったというのに服が水を吸い過ぎていて重い。

 

「虚構の災害とはいえ、よく再現されているな」

 

 助けてくれたのは常闇くんだった。びしょ濡れになった頭の水を払っている。どんな構造になっているんだろう……。

 他の人たちは見当たらなかった。

 ここにいるのは私たち二人だけのようだ。

 

「……他の皆は?」

「どうやら散り散りに飛ばされたらしい。このゾーンに飛ばされたのは俺たちだけのようだ」

 

 突風で窓ガラスが大きく揺れる。 

 

「先程撃たれていたが、傷は大丈夫か?」

「多分、大丈夫……でも個性が上手く使えない」

「!? あのかっこい……あの術か?」

 

 何で言い直したんだろう?

 

「個性がなくなったとかじゃないから、多分そういう類の薬品ではないと思う」

 

 もし個性を消す、とか止める、とかなら斬魄刀も無くなるはずだ。それに霊圧を感知することすらできなくなっていてもおかしくはない。

 

「ごめん、なさい……私、足手まとい、だと思う」

「そんなことは無い。あの詠唱を聞けないのは残念……お前にはまだ剣術があるだろう。戦闘訓練での殺陣は爆豪相手に善戦をしていた」

 

 常闇くんはフォローをしてくれたけど、そう言う問題じゃない。

 もっと根本的な部分。

 

 現に先刻(さっき)から――

 

「違う……怖いの」

 

 体の震えが止まらない。腰が抜けて立つことすらままならない。

 頭にあの偽物の顔がちらついて離れない。

 

「私、小学生の頃、(ヴィラン)に襲われたことがある。今、個性が使えなくなって――その時と同じ……私、何もできない……っ」

 

 それを聞いた彼は目を丸くし、悔しそうに唇をかみしめた。

 

 

「……っ済まない。お前がそんな心境だったことを知らず、俺はまたあの格好いい詠唱を生で聞くことができるのではないかと期待をし、気分を高揚させていた」

 

 え、格好いい?

 鬼道の詠唱なんて正直恥ずかしい以外の何物でもないのに。

 

「もう案ずることは無い! 今はこの俺が傍にいる。そうでなくても必ず俺たちが助ける!」

 

 常闇くんはコスチュームの下からネックレスを取り出す。

 十字架に龍が絡みついた、あのお土産屋さんとかでよく売ってそうなデザインの物だった。

 

「これをお前に託そう。お守りの代わりに持っていてくれ」

 

 それを握らせてくれる。ちょっと恥ずかしいけど、不思議と安心できる。

 気付けば体の震えも止まっていた。

 

「ありがとう……少しだけ、勇気をもらえた」

 

 もう、恐怖で怯えていたあの日の私じゃない。

 私には助けてくれる人がいる。何より――まだ()()の力がある。

 

 

 

 窓ガラスにひびが入った。

 それは強風の為でなく、鈍器で叩かれたからだ。

 

「見つかったか」

 

 敵達はガラスを破壊して強引に侵入してくる。

 

「常闇くん、時間稼いで!」

「っ? ああ、分かった!」

 

 今の私は起動を使えない。

 でも十分はったりになるはず。

 

「……滲みだす混濁の紋章、不遜なる狂気の器」

 

 敵達は何かの詠唱をしている私を止めようと躍起になり、そのせいで常闇くんへの注意が疎かにし、その隙を彼につかれている。

 

「――湧き上がり・否定し、痺れ・瞬き 眠りを妨げる、爬行する鉄の王女、絶えず自壊する泥の人形 」

「クソッ! あのガキを止めろぉっ!」

 

 リーダー格の男が叫んでいる。

 わざわざ使えないことを白状しなければ向こうが勝手に警戒してくれる。

 

「――結合せよ、反発せよ、地に満ち己の無力を知れっ!」

 

 ビビった敵は一目散に逃げだし、そうでない者は腕を交差させて防御姿勢を取った。

 

「破道の九十“黒棺”ッ!」

 

 もちろん何も出るわけがない。

 一瞬の隙を作れるだけだ。

 

(ごめんなさい! 貴女はこういうことに使われるのが嫌だろうけど――)

 

 私は瞬歩で距離を詰め、リーダー格の男を居合の要領で斬り伏せた。

 残りも常闇くんが気絶させていた。

 

「ふむ……今日も冴えているな」

 

 心なしか彼の目が輝いているように思えた。

 

「あの、気を悪くしないでほしいんだけど……もしかして、常闇くん中二病?」

「!」

 

 梅雨ちゃんのように思ったことを口走ってしまい、彼は慌てたように否定し始める。

 

「っそれはお互いさまだろう!? あんなに格好いい詠唱をする人間には言われたくないッ!」

「わっ私だってやりたくて詠唱してるんじゃないって! そういう仕様だから仕方なく――」

 

 

 

 

 私たちは知らない。

 まだ本物の悪が待ち構えていることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 (ヴィラン)サイド。

 

『申し訳ありません死柄木 弔。生徒を一人逃がしてしまいました』

 

 報告された瞬間、手だらけの男、死柄木はすぐさま個性を発動させようと手を伸ばす。

 

「駄目ですよぉ弔くぅん」

 

 しかしそれは大鎌の柄が阻止した。

 武器の持ち主は穏やかに微笑みながらも、細身の女性らしからぬ怪力で手を押さえつけていた。

 

「……離せよ。脱出ならお前もできるだろ。ならこんな無能なんか砕いたっていいだろ」

「私の孔はぁどこへ出るか分かりませんのでぇ……黒霧さんの座標移動はぁ大事なんですよぉ?」

「……チッ! 相変わらずうざい話し方だな」

 

 女は不敵に微笑みながらも、眼帯に覆われてない右目に殺気を宿していた。

 

「それにお前もだミイラ男。短筒(それ)で毒撃ってたら一人殺せてたのに……何やってんだよ」

 

 死柄木は癇癪を起す子供のように首筋を掻きむしっていた。

 

「いいのか? あれを殺せば我々は物理的に消滅するが」

「……はぁ? 何言ってんだよ」

「あれの親に報復されれば我々は数時間と保たない。それでよければ殺していたが?」

 

 死柄木は包帯の奥の眼光に気圧され、更に首を掻きむしる。

 

「くそっ! くそっ! 何で上手くいかないっ! ……ラプラス、平和の象徴(オールマイト)は後何分で来る?」

「はて、私に聞かれてもぉ分かりませんけどぉ」

「……とぼけるな。先生からお前の眼の事は聞いている」

 

 ラプラスと呼ばれた女は心底いやそうに右目を閉じ、数瞬の後に口を開く。

 

「遅くとも、10分。それよりは遅くならないはずですよぉ?」

「……ならそれまでに――殺して来いよ、シバ」

 

 包帯の男は僅かに反応する。

 

「……お前、妙に善人ぶってるけど、その腰の刀は飾りか?」

「………………いいだろう。義に反するが、その要請に応えよう」

 

 シバと呼ばれた男はゲート付近に残された生徒たちを見つめる。

 鯉口を切ると、一足で距離を詰め、斬りかかった。

 

 その切っ先は別の刀とぶつかり合って阻まれる。

 

「! 成程、級友の危機に駆け付けたか」

 

 着物の裾を濡らし、三点防御で競り合っているのは四楓院 旭であった。

 

「貴様が相手ならば、こちらも相応の覚悟で臨まなければなるまいな」

 

 男は後ろに跳び退き、刀を下段で構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……“儚め”――朝顔」












































先に始解は負けフラグってよく言われてるから。


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いくぞ(ヴィラン)共――オサレ値の貯蔵は十分か?

書ける書ける! 書きたいところだからサクサクとかけるぞっ!










 数分前

 

「なっ……」

「……っ!」

 

 暴風雨ゾーンを抜け、中央広場付近にたどり着く。

 そこでは雑兵を一掃した先生と、それをぼろ雑巾のように嬲っている異形型敵(クリーチャー)が目に入る。

 駄目だ。このまま広場に出ていったらあれにやられる。

 

 私たちは物陰に隠れて様子を見守る。

 

 どうやら向こうは仲間割れをしているみたいで、何やら言い合っていた。

 それが終わると今度は包帯の男――私の事を打ってきた男が腰の刀に手をかけ、腰を落としたのが目に入る。

 

「まさか……!」

 

 男の視線の先には入口のゲート。当然そこにはクラスメイト(みんな)がいる。

 斬りかかる気だ。

 もし成功すれば――

 

「っやめてッッ!」

「! 待て四楓院!」

 

 常闇くんが止めに入るけどそれよりも早く体が動いていた。

 普通に考えて私なんかが敵うはずもない。返り討ちにあってしまうのがオチだ。

 

 それでも――気が付けば体が動いていた。

 

「――! 成程、級友の危機に駆け付けたか」

 

 間一髪で割り込み、斬魄刀で防ぐことに成功する。

 しばらく鍔迫り合いになった後、向こうは後ろに跳び退き、刀を下段に構えた。

 

「貴様が相手ならば、こちらも相応の覚悟で臨まなければなるまいな」

 

 包帯の下から覗く眼光が私を貫く。

 背筋に悪寒が走り、思わず構え直した。

 

「――儚め“朝顔”」

 

 向こうの刀の形状が変化する。

 鍔は花弁のように、刀身は細剣(レイピア)のように細く、しかし刃を失わないように。

 まるで花のおしべとめしべが刀へと変化したかのように見える。

 

 名前を呼ぶことで刀の力を解放する――それは斬魄刀の性質そのもの。

 死神、と呼ばれる者のみが持つと言われている刀に他ならなかった。

 

「何を驚いている? 始解を出来るのは何も貴様だけの特権ではない」

「っ!」

 

 やっぱりこの男は私の個性を全て知っている。初めに私を狙ったのも、きっと偶然なんかじゃない。

 

 再び間合いを詰められ、切っ先が足元から迫ってくる。斬魄刀の力を解放したということは、迂闊に斬り結べば何が起こるかわからない。でも躱してしまえば後ろの皆に攻撃が向かってしまう。

 

「……いい判断だ。だが甘い」

「ぅ……ん!」

 

 刃が触れ合った瞬間、花弁の奥から粉末が噴き出る。力んだ拍子に、それが私の鼻腔に侵入した。

 

「朝顔は毒性の花粉を放出する。受けざるを得ない状況にされた段階で貴様は詰んでいるのだ」

 

 視界が歪む。

 向こうの言う通り、毒を持っているのかもしれない。

 体が気持ち重くなっているような感覚がある。

 

 刃が迫ってくる。私は咄嗟に受け止めるも斬魄刀を弾きとばされてしまう。

 

「一太刀、それで事足りる」

 

 上段の構えが見える。

 斬りかかられる――

 

「受け取れ、四楓院ッ!」

『ホラヨ!』

 

 少し離れたところに常闇くんが来ており、影の個性を使って私が手放してしまった斬魄刀を渡してくれる。

 

「っ!!」

 

 寸でのところで受け止め、すかさず息を止める。花粉が噴き出る前にはじき返し、そのまま斬り返す。

 しかし向こうは上体を逸らして回避し、カウンター気味の斬撃が来る。

 

 先刻(さっき)と同じ要領で受けようとするも、常闇くんの目の前に黒いもやが出現したのが目に入る。

 そこから伸びてきた手に、嫌悪感を覚えた。

 

 あれに触れさせてはいけない――そんな気がした。

 

「――ッ魅せろ! “舞姫”ッッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 その瞬間、常闇 踏影は死を意識した。

 目の前に現れた黒いもや――ワープゲートから伸びてきた手。

 彼の個性黒影(ダークシャドウ)は絶対的なアドバンテージを与えてくれる戦闘力を持つが、その反面自分自身のフィジカルが欠点となってしまっている。

 

 故に、直接的な格闘を迫られれば勝ち目は無かった。

 

「ぐっ……!」

 

 級友の助けになりたい、その一心で広場付近へと躍り出たのが仇となってしまった。

 

 迫り来ていた手の平は、彼の頭に触れる寸前で静止した。まるで何かに引っかかっているかのように。

 そして数瞬の後に悲鳴が聞こえてくる。

 

「…………初演、蜘蛛糸ノ舞(くもいとのまい)

 

 彼を助けたのは――剣戟で(ヴィラン)と戦っているはずのアサヒ。

 個性で手渡したはずの刀はなぜか扇に姿を変え、その先をゲートから伸びる手へと向けていた。

 当然、防ぐ刀が無ければ斬撃は防げない。

 

 彼女の足元は血溜りとなっていた。

 左肩から袈裟懸けに斬り伏せられ、その傷口は現在進行形で出血していた。

 

「あくまで自分よりも級友を優先するか」

「……あたり、まえでしょ?」

 

 当たり前な物か。プロヒーローならばともかく、つい先日まで中学生だった人間がいともたやすく身を犠牲にできるはずもない。

 

「成程、卵とはいえ英雄というわけか」

 

 アサヒは震えながらも踏ん張り、扇を閉じて構える。

 

「……余興、剣ノ舞(つるぎのまい)

 

 あたかも、それが刀であるかのように。

 だがふらついていて、とても戦闘が行える体には見えなかった。

 

「っ行くぞダークシャド」

 

 常闇は個性を使って援護しようとするも、アサヒの様子がおかしいことに気付く。

 今にも倒れてしまいそうに見えた彼女が、急に機敏な動きで蹴りを繰り出す。

 

「何……っ!?」

 

 続けざまに右の大振りで殴りかかり追撃していく。その動きはどこか爆豪をほうふつとさせるものだった。着地し、僅かに首をかしげている。

 

「な、なにが――」

 

 彼が唖然としていると入り口で爆発が起きた。

 

 

『――己の不甲斐なさに腹が立つ……! 君たちが恐怖で怯えているにも関わらず私は呑気に談笑をしていた……っ!』

 

 聞き間違えるはずもない。

 世界一安心できる声、安心できる言葉。

 

「だがもう大丈夫、なぜかって?」

 

 粉塵の向こう側より現れたのは平和の象徴。

 

 

 

「私が来たッ!」

 

 

 オールマイトが臨戦態勢で現れた。

 それを見届けたアサヒは、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。























……まあ前より量書けないんですけどね、はは。

結局主人公の始解そんなに見せられなかったな。


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断章だと思ったら地味に重要情報出すのやめてほしい



ちょっと悩んでるうちにもう年開けてひと月ですか……はやい。


 (ヴィラン)連合。

 そのチープな団体名に反して雄英高校に大きな爪痕を残すこととなった。

 

 教師二名負傷、生徒一名が意識不明の重体。

 

 もし救援が間に合わなければ?

 もしオールマイトの到着が遅ければ?

 

 ――もし、一人の生徒が勇気を振り絞れなかったら?

 

 

「非常に、惜しかったですねぇ」

 

 襲撃者としてはあと一歩目標に及ばず、と言ったところだろう。

 しかし一人のみ、疑念を持った者もいた。

 

「……なんて、言うと思いましたぁ?」

 

 ラプラスは大鎌の刃をシバの首にそっと当てる。彼女が少しでも力を込めれば、首を落とすことなどたやすいだろう。

 

「貴方、手を抜きましたね?」

「……そう、見えたか」

 

 それに対してシバは臆することなく、静かに口を開く。連合の拠点である薄暗いバーの空気が一気に張り詰める。

 

「はい。貴方が悠長に始解など使わずに“卍解”していれば生徒の殆どを嬲り殺しにできたはず。弁明があるのならば聞きますが?」

「…………」

 

 彼は静かに顔の包帯を解く。

 老人のようなしわくちゃの顔に、擦り傷にも似た無数の小さな傷が見て取れた。

 それでいて引き締まった肉体も相まって、歴戦の老兵のような風貌となっていた。

 

「……俺に言わせてみれば、“眼”を使わなかったお前も俺以上に手を抜いていたように思えるがな」

「ッ!」

「それともう一つ、俺の卍解は命を削る。後一度しか使えないが……“こんな所”で使ってもいいのか?」

 

 痛いところを突いた上に能力の解説をされてしまえば反論のしようがなかった。

 彼女はため息をついて武器を納める。

 

「いいでしょう。そこまで言うならぁ、私も刃を納めましょう。弔くんの課題も分かったことですし」

「……ならば俺は御暇させてもらおう。また事を起こすならば呼んでくれ」

 

 シバはしっかりとした足取りでバーを後にする。一歩間違えれば自分の首が落ちていた、そんな恐怖など微塵も感じさせないように。

 

「何なんだよアイツは……」

 

 死柄木は手の平のようなものを外し、カウンターの上に置いた。

 

『裏の世界では有名な用心棒、素性や個性は不明ですが――何よりもその戦闘力は折り紙つき、だそうですよ、死柄木 弔』

「そんなこと俺も知っている」

 

 彼は苛立って首を掻きむしっている。自分の思い通りにならない“駒”がいることにフラストレーションが溜まっているのだ。

 

「――彼は志波家の人間。とある国の四大貴族に数えられる一族の一人。もっとも、分家の分家のそのまた分家、本家の血は一滴ほどしか流れていないとか」

『おや、貴方の知り合いなのですか?』

 

 ラプラスは意味深に微笑み、孔を作り出す。

 

「それはぁ――企業秘密です。勿論、私の本名も、能力も」

 

 彼女は慇懃無礼に一礼すると、孔の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

『――様! なんかヤバそうな死神来ましたよ! 早く起きてくださいよ!』

『…………』

 

 私(?)は岩の影で眠りこける何かを揺り起こす。しかしどんなに声を掛けても、それは目を覚ましてくれない。

 

『わわっ! もう来ちゃった! くっそー   様に手を出そうってなら相手になるぜッ!』

 

 体がシャドーボクシングをするかのように動く。

 影が差し、一人の男が現れた。

 危険とは程遠い、物腰の柔らかさそうな風貌。黒い着物をまとい、腰には刀を挿していた。

 

 それなのに、どうして私はこんなに警戒をしているんだろう?

 

『――やれやれ、私は戦いに来たわけではないのだが』

『そ、そう言って油断させるつもりだろッ! そうはいかないぜッ!』

 

 普通に見れば、相手に敵意がないことが分かる。

 だが私の体が勝手に動き、コンバットナイフのようなものを構えた。

 

『いっくぞー!』

『はぁ……』

 

 相手も呆れたように刀を抜き、その名を呼んだ。

 

 

 

『――砕けろ“鏡花水月”』

 

 

 

 

 

 体中を何かに引き裂かれた。

 血が滴り落ちていく感覚があるけど、不思議と痛みは無い。

 

『ま、待て……』

 

 悠然と歩みを進める男に追いすがろうとするも、指先が触れる刹那で届かない。

 

 

『うるさいわね……』

 

 

 すさまじい殺気を感じた。

 ……あれ、この声は、母さん?

 

『ふむ、かなりの霊圧だ。自分の従属官(フラシオン)を傷つけられたからかな?』

『折角気持ちよく眠っていたのに起こしたのは貴方? 死神の霊圧は不愉快だから目が覚めるの』

『それは済まないことをした。謝罪しよう』

『いいえ、いいの。私はまた眠るから』

 

 男は交渉が決裂したことを悟り、再び能力を解放しようとするも、何かに気付き舌打ちをする。

 多分、発動条件を満たしていないのだろう。

 

 

 

『――おやすみなさい……“堕眠獣(ベール)”』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 見知らぬ天井

 

「ん……」

 

 そうだ、私は斬魄刀で斬り捨てられたんだった。何日間寝てたんだろう……?

 ゆっくりと体を起こしつつ日付を確認できるものを探す。

 

「……5月――20日っ!?」

 

 確か雄英体育祭の日は――

 

 目の前が真っ暗になるような錯覚を覚えた。

 体育祭欠席は致命的すぎる。他のクラスメイトはここでプロにアピールをし、そして親睦を深める場でもある……のに。

 

「――目、覚めたか?」

 

 病室の扉が開いた。

 黒の着物に白の羽織、病院なのに刀を挿す――父さんだ。何年ぶりに会うかわからないけど、見た目はあまり変わっていない。髪は伸ばしたまま、適当に結んでいた。

 

「父さん……私」

「婆さんの力でも解毒できなかったらしい。ま、死ななかっただけましだと思うしかない」

「でも……」

「それに――出なかった方がマシかもしれないぞ?」

 

 と、渡してきたのは一枚のディスク。

 

「トーナメントだけだが録画してある。参考までに見て――」

 

「アサヒ!」

 

「おふっ!?」

 

 父さんは思い切り跳ね除けられて壁にめり込む。

 

「母さん……?」

 

 びっくりしたけど、母さんは私の事をぎゅっと抱きしめて呟く。

 

「ああよかった。安心して、あなたを襲った連中は跡形もなく――霊子単位で消滅させるわ。特徴は? どんな姿? どんな匂い? どんな霊圧? 少しでもヒントをくれれば探し出せる」

「――それはやめろ。さすがに“ヒーロー”として見過ごせない」

 

 危うい殺気を出し始めた母さんを私から引きはがし、引きずっていく。

 

「安心しろ、旭。次は職場体験だろ? 父さんに心当たりがあるから、焦らずに体を治しな」

 

 嵐の様に過ぎ去ってしまった。

 私の手元には体育祭の録画映像。

 

 ……せめて、見てみようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「……離して」

「はいよ」

 

 ヒュウマは文句を言われたのでそのまま手を離す。

 

「っ痛いわ。レディーの扱いがなってないんじゃない?」

「うるせーな。お前がレディーって柄かよ、パール」

 

 不満を口にしたアサヒの母――パールに言い返す。

 夫婦のくせに二人とも仲が(死ぬほど)悪かった。

 

「だからと言って邪険に扱うつもりなのかしら? だから死神は嫌いなのよ」

「俺たちの娘は死神だが?」

「あの子は別。私の……娘だもの」

 

 彼女は躊躇いつつそう言い返す。

 

「不思議ね。破面(アランカル)の私に娘、だなんて」

「しかも、死神との間に、な。技術開発局の誰かがやろうとしていたことを、俺たちはあっさりと成し遂げちまったわけだ」

 

 ヒュウマは彼女を背負って病院を歩く。

 

「やめて、恥ずかしいわ」

「つってもお前、ここに来るまでで全力を使い果たしてるんじゃないか?」

「……」

「俺と違って、お前は食事からエネルギーを摂取できないんだ。大人しくしとけ」

 

 そう言われ、彼女は黙って背負われた。

 

 病院を出るとそこは超人社会。ちょっとした犯罪はすぐさま起きる。

 

「邪魔だッどけっ!」

 

 熊のような大男が病院に向かって突っ込んでいく。

 何やら恨みがありそうな様子だが、それは計り知れなかった。

 

「……ねえ、あいつ消してもいいかしら?」

「死なない程度で頼む」

「……仕方ないわね」

 

 パールは背中から降り、チャクラムのような武器を構えた。

 

「そこの熊人間さんよ! 一応プロヒーローのお墨付きだ、勘弁してくれよ?」

 

 熊のような男はその声にハッとし、しかし注射器のようなものを首に突き刺す。

 

「うるせえ! 俺はそこの病院の医療ミスでこんな風にされたんだ!」

「うるさいのは貴方よ――」

 

 彼女は祈るかのように座り込み、目を閉じた。

 

 

 

 

『――おやすみなさい……“堕眠獣(ベール)”』

 












オサレなネーミングって難しい。


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新章はシリアスなムードから

スランプである。
忙しくて時間がないのである。
気がついたら「ここが好き機能」追加されててビビり申した。








 苦しい。

 苦しい……。

 

 血が足りない。最近は厄介な“偽善者(ヒーロー)”の巡回が厳しくてなかなか事に及べない。

 

 ああ、黒い着物の連中が出てくれればいいのに……奴らはどうやら身寄りも戸籍もないから都合がいい。どんなに殺しても騒がれない――ただし、嬉しくないオマケが付いてくる。

 

「――ようやく尻尾を掴ませてくれたな」

「お前……!」

 

 黒い着物の集団の中でもこいつだけ白の上着のようなものを羽織っている。

 個性で翻弄しようとしても悉く見抜かれる。

 

 狭い路地の入口に奴は立っている。背後はゴミだめで行き止まり。

 

「おいおいそう殺気立つなよ。俺はお前に聞きたいことが――」

 

 違う。追い詰めに来たに違いない。

 僕は個性で変身し、蝙蝠となる。

 

「ッ――破道の十二“伏火”」

 

 よくわからない攻撃で阻まれ、変身が解ける。

 こいつの個性が分からない。影に潜んで逃げようにも、前に出くわした時は影を消してきた。

 

「いいか、俺はお前が持ってるその“刀”の出自を」

「……誰が教えるかよ……お前らみたいな――偽善者に!」

 

 何で僕だけ。

 どうして僕のやっていることだけが非難されるんだ。

 こんなにも苦しんでいる僕を――助けてくれないッ!

 

『――――』

 

 声が聞こえた。

 

「清めろ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 人のいないビルの屋上。

 ヒュウマは懐からスマホを取り出し、協力者に電話を掛ける。

 

「おう、俺だ。対象に逃げられた」

『やはり私が“視た”通りの結果みたいだな』

「いや、完全にその通りじゃない――奴は斬魄刀を使った」

 

 電話の向こうから息を飲む声が聞こえた。

 

『それは本当か?』

「ああ……」

 

 彼は白い隊長羽織にこびりついた血を拭いながら答えた。

 

「なあ佐々木」

『本名で呼ぶな』

「悪い悪い。ちょいとお前の個性について閃いたことがあるんだけどさ、聞いてくれねえか?」

 

 電話の相手――サー・ナイトアイの個性は“予知”

 企業秘密の条件を満たした相手の未来を視ることができ、かつ彼の視た未来は絶対に外れない。

 

 

『……長くなりそうか?』

「それなりにな」

 

 しばらくの無言が続く。

 

『サイドキックに仕事を任せた。好きに話してくれ』

「――もし仮に、同じ個性が二つあるとする」

『かなり無理のある話だな』

「いいから聞けって――例えば、お前の“予知”と同じ個性を持った人間がいたとする。もしそいつと対面し、互いに未来を予知しあったら何が起こると思う?」

『思考実験という奴か。いいだろう……』

 

 互いに未来を予知する。

 もし仮にそんな事態が起きたら。

 予知して動く相手の動きを予知し、それを踏まえて動くも相手にそれを予知され、更にそれも予知して――

 

『それこそ矛盾だ。互いに確定した未来を元に動く、結局予知によらない行動をしようにも……いや、それすらも予知されているならば……』

「ククッ……やっぱ、そうなるよな」

 

 電話の向こうで困惑している姿を思い浮かべたヒュウマは思わず笑みをこぼす。

 

『分かっていたなら何故考えさせた?』

「第三者が予測するのと当事者が考えるのじゃ全然違う。ま、実際俺たちは同じ結論に至ったわけだが」

 

 予知しあってその結果、何が起こるか予測できない。

 

「一度見た未来は絶対に外れない、最初に会ったときお前はそう言った。だがこうしてみると絶対、ということはありえないことだと思えてくる」

『なるほど、そうまでして私に予知を使わせたいというわけか』

「現に俺の未来はお前が視たとおりにならなかった――とはいえ、俺が例外の可能性もある」

 

 ここまでが前振り、と言わんばかりに彼は本題を告げる。

 

「そこでひとつ提案があるんだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 久しぶりの学校。

 みんな体育祭で活躍したせいか、雄英の制服を着ているだけで周りからの視線が集まってしまう。

 でもテレビに映らなかった私の事をヒーロー科だと思う人は居ないようで、声を掛けられることは無かった。

 

「はぁ……」

 

 大丈夫だろうか……「お前の席ねーから!」状態だったらどうしよう。

 逆に腫物扱いにされて距離を置かれてしまったらどうしよう。

 

 せっかくクラスに馴染めそうだったのに、一気に溝が深まっていたら最悪だ。ぼっち記録を更新してしまう。

 

 ただでさえ大きい教室の扉がいつも以上に大きくなっている気がする。

 大きく吸って、吐く。よし、心の準備はできている。

 静かに扉をスライドさせた。

 

「「「!」」」

 

 まだ全員揃っていなかったが、その場にいた面々は私の姿を見たとたんに驚き、取り囲まれることになった。

 

 あちこちから声がして上手く答えられなかったけど、みんな私の事を心配してくれているみたいで、心配は全部取り越し苦労だったのかもしれない。

 私は質問に答えつつ、常闇くんを探した。

 彼に返さなくてはならないものがあった。

 

「っ常闇くん、これ……」

 

 あの日、彼から渡されたネックレスを差し出す。

 龍の意匠には刀傷がつき、欠けている。

 懐にしまい込んでいたので、ちょうど私の心臓を守った形になる。

 

「それは……!」

「これのお陰で傷が浅く済んだんだって。傷ついちゃったけど、返すね」

「いや、いい……」

「えっ……?」

 

 彼は机の上で拳を握りしめていた。

 音が聞こえてきそうな位、強く。

 

「お前が深く傷付いたのは俺のせいだ。だから……それは持っていてくれないか?」

「っでも……私は」

「またそれが命を助けてくれるかも知れないからな。せめて、俺がお前を守れる位強くなれるまで預かっていてくれ」

 

 彼の真剣なまなざしを受け、私は思わずうなずいた。

 

「わかった……」

 

 強く、ならなきゃ。

 せめて、彼が心配をしなくてすむくらい、強く。

 思わず手を強く握りしめていた。ネックレスの固い感触が手のひらに伝わる。

 この感触を忘れない様にしよう。決意が風化しないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 久しぶりの授業は体育祭のフィードバック、職場体験の案内から始まった。

 欠席した私には無縁な話だと思っていたけど、体育祭で指名を取れなかった人と同じように学校の指定した体験先に行くと聞いて一安心した。

 

 

 そしてその後に待っていたのは――ヒーローネームの考案。

 

「まだ決まってないのは飯田君と四楓院さん、緑谷くん再考の爆豪くん」

 みんながサクサクと決めていく中で私は取り残され気味だった。

 昔から考えてもいないし、即興で思い付けるほどのセンスもないし、まして自分の名前を付けるほどの勇気はない。もしかしたら居残りで考えるコースになる……?

 

 そこで私は相澤先生の言葉を思い出す。

 

 

『名は体を表すともいう――例えばオールマイト、とかな』

 

 私の目標……あの人のように、人知れず苦しんでいる人を救うこと。

 それを成し遂げるのにふさわしい名前……。

 

 私の脳裏に、斬魄刀(マイヒメ)の姿がよぎる。

 何時までも認めてくれず、真の名を教えてくれない意地悪な彼女の姿。

 

 艶やかで、美しく、それでいて信念を感じさせる眼差し。彼女なら私よりもきっと上手くやれているはずだ。常闇くんに辛い思いをさせることもなかったかもしれない。

 

 私は――彼女(マイヒメ)のようになりたい。強く、美しく、完全無欠なヒーローに。

 

 

 気が付くと私はフリップに文字を書き、教卓まで歩いていた。

 

「私のヒーロー名は――“マイヒメ”」

 

 私が宣言した瞬間、一部の男子からがっかりしたような雰囲気が生まれた様に感じた。

 

「私は――私の個性に恥じないヒーローに成りたい。だから私は――個性の一部の、この刀と同じ名前を名乗りたいっ!」

 

 心臓が口から飛び出そうな位脈打っている。

 笑われないだろうか?

 こんな安直な名前。みんなと違って洒落たヒーローネームではないけど。

 

「……良いじゃない。素敵なヒーローネームね」

 

 ミッドナイト先生が褒めてくれた。

 どうやら、採用になるみたい。

 

 これは後で聞いた話だが、一部の男子は鬼道の詠唱の様な厨ニセンス全開な名前を期待していたようだ。

 ……あれは私が考えた訳じゃないのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 放課後、授業に全然ついていかなかったので梅雨ちゃんから勉強を教えて貰っていた。

 校舎を閉める時間となり、帰ろうとしていた時の事だった。

 

「――漸く見つけたぜ」

 

 柄の悪い生徒に声を掛けられた。柄の悪さで爆豪くんに勝てる人はいないと思っていたが、彼以上の荒れ具合だ。

 

 燃えるような赤髪は逆立てられ、制服は着崩され過ぎてだらしないというより一つのファッションとして成り立ってしまっている。

 何より気になるのは――腰に挿している刀。

 

「貴方、B組の阿良々木(あららぎ)ちゃんね。私たちに何の用かしら?」

 

 梅雨ちゃんとは面識があるようで、彼に問いかける。

 

「手前に用はねえ。引っ込んでろ」

「ケロッ!」

 

 彼は乱雑に梅雨ちゃんを蹴りとばした。

 そして荒々しい殺気をぶつけてくる。

 

「梅雨ちゃんっ……!」

 

 私は苦しそうに蹲る梅雨ちゃんの下へ駆け寄りつつ、斬魄刀をしまってしる竹刀袋に手を伸ばす。

 

「用があるのは手前だよ――半端野郎。虚だか死神だかわかんねえ霊圧出しやがってよ」

「!」

 

 霊圧。

 それは内なる霊力を放つ強さの事。

 その言葉を知っているのは、ごく一部の人間のはずだ。

 

「……あなた、何者なの?」

「俺か? 俺は護挺十三隊、十一番隊第四席“阿良々木(あららぎ) 新也(あらや)”だ」

 

 護挺十三隊。

 父さんが昔所属していた組織らしい。

 

 その組織の人がなぜ雄英高校にいるのか分からない。

 そんなことよりも、大事なことがある。

 

「どうして梅雨ちゃんを蹴ったの?」

「あ? 邪魔だからだよ」

 

 邪魔だから?

 そんな理由だけで、暴力を振るったとでもいうの?

 

 静かに怒りが沸き起こる。

 全身が沸騰しそうな位熱くなってくる。

 

「そんなことよりも、やることは」

「謝って」

「は?」

「梅雨ちゃんに、謝ってよ!」

 

 彼は困ったように頬を掻き、刀を抜く。

 

「そうだな――俺に勝ったら、謝ってやってもいいぜ?」

「……魅せろ“舞姫”」

 

 するりと竹刀袋が落ち、舞姫が姿を顕す。

 

「いいね、そうこなくっちゃな!」

 

 

 

 

 

 霊圧が静かにぶつかり合った。

 

 









次は期間が開かないよう頑張ります(震え)


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