「君も、プロライダー試験に合格したのかい」
大きな体育館の男性用更衣室。一人の男が隣の青年に話しかける。
「もちろんさ、君もだろう」
「ああ」
ここはプロの仮面ライダーを目指すものが集う試験会場。試験は先ほど終了し、各々が帰り支度をしているところだ。
先に声をかけた男が名乗る。
「俺は新崎新。よろしくな」
「僕は努井努。こちらこそよろしく」
二人を含めた合格者は今日、体力と知力のテストを突破し、晴れてプロの仮面ライダーとなった。
仮面ライダーとは、別名を仮面騎士と呼ぶ鎧の戦士である。そのアーマーによって強化された肉体は、レスラーに勝る強靭さやスプリンターを凌駕するスピード、そして様々な特殊能力を併せ持つ。
新人にまず与えられるのは、初心者用のカードデッキだ。ライダーへの変身はもちろんのこと、カードによる特殊能力の発動ができる扱いやすいアイテムだ。
プロの仮面ライダーは『ライダーバトル』を行い勝負をすることになっている。
・格闘や特殊能力を駆使し、相手を規定のエリア外に出す
・ダメージ量の蓄積で相手の変身を解除させる
・相手が敗北を認め降参する
のいずれかが勝利条件だ。エリアは試合や大会によって異なる。
彼らプロの仮面ライダーは、このようにライダーシステムを利用したスポーツによって賞金を稼ぐのだ。
一週間後──某市体育館
新崎と努井、それに先日合格したほかのメンバーは再び試験会場に集められた。
ここでプロとして初めての試合が行われるのだ。
仮面ライダーの力を行使できる特設リングが用意されている。変身はこのリングの中でしか適用されないのだ。
今回は16人によるトーナメント方式で試合が進められる。一回戦に出場するため控室に待機する新崎。彼は大会を運営する協会のホームページで対戦相手の情報をチェックしていた。
基本情報を事前に入手することはもちろん認められている。いきなり努井と対決というわけではなさそうだ。
今日の大会で良い成績を残せばランキングの上昇や上位大会への挑戦も見えてくる。
イメージトレーニングを続けていると、試合に呼ばれた。
会場に入ると、歓声が響いた。それなりに観客が入っている。リングに上がると、対戦相手が既にリングで構えていた。
相手は
「「変身」」
デッキをベルトに装着すると、鎧がベルトと同様に自動で装着される。仮面ライダーへの変身が完了した。
新崎が変身を遂げたのはレイヨウの力をもつ仮面ライダーインペラー。
一方、堤はカニの力を持つライダー・シザースに変身。
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第二話
ゴングと歓声が響き渡り、二人は試合を開始する。
早速二人は勝利の鍵であるカードをそれぞれの召喚機に読み込ませる。
「スピンベント」
インペラーのもとにツインドリル型の武器・ガゼルスタップが飛んでくる。彼はそれを腕に装着し、構えを取った。
「ストライクベント」
シザースは腕に巨大な鋏を装着。そのままインペラーに向かって突っ込んでくる。鋏の攻撃をインペラーはドリルで防御。そしてキックを相手の腹部に叩き込み、ダメージを与える。体制を崩したシザースに、すかさず回し蹴りを喰らわせ、場外方向へと飛ばす。
「ガードベント」
カニの甲羅型の盾を装備し、シザースは次の攻撃に備える。
「アドベント」
モンスターを召喚したインペラーは、シザースを襲わせ、相手が防御姿勢を崩したところでとどめに入る。
「ファイナルベント」
モンスター・ギガゼールを利用したジャンプからの足技・ドライブディバイダーでシザースを場外まで蹴り飛ばした。
「勝負あり! 勝者、新崎新!」
二回戦で仮面ライダーベルデ、三回戦で仮面ライダーガイを倒した新崎は、順調に決勝戦に勝ち上がっていた。決勝での対戦相手は、先日新崎と会話をした努井だった。
リングに上がり、お互い変身する。
「「変身」」
努井は虎の力を有するライダー・タイガに変身し、召喚機である斧を構えた。
素手での対決が不利だと判断したインペラーは、カードでガゼルスタップを召喚し、向かってきたタイガに対抗しようとする。だが、インペラーの不意をついてタイガは召喚機にカードを装填。
「フリーズベント」
突如、インペラーの体が凍結!
スピンベントの効果もなくなってしまう。
「ストライクベント」
そこに畳みかけるように、巨大な爪・デストクローを装備したタイガが走り寄る。
絶体絶命! しかし、インペラーには策があった。
タイガの攻撃で氷結した脚部が削れる。そこにカードをすかさず装填!
「アドベント」
隙を見逃さず、レイヨウ型モンスターのギガゼールを召喚。
タイガはストライクベントで打ち払う、しかしそこに、もう一体のモンスター・メガゼールも出現。
タイガは自身のアドベントで虎型モンスター・デストワイルダーを召喚して戦わせる。
そうしているうちに、オメガゼール、マガゼールとレイヨウ型モンスターは次々に出現。
そう、インペラーのアドベントはレイヨウ型モンスターを複数召喚できるのだ。
モンスターに囲まれ身動きできないタイガに上空からインペラーのファイナルベントが炸裂!
タイガはダメージの蓄積により変身解除に追い込まれた。
「ナイスゲームだったぜ」
新崎は努井の手を取り立ち上がらせる。
試合終了。優勝した新崎は、ささやかな賞金と上位大会への挑戦権を手に入れた。
「俺は勝ち上がって、そして……最強の仮面ライダーになってやる!」
彼はプロの仮面ライダーとしての第一歩を歩み始めたのだった……
金のために。
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第三話
今日も新崎はトレーニングに励んでいた。スポーツとしてのライダーバトルに勝てば、多額の賞金を得ることができる。それを夢見て、彼は今日も研鑽を欠かさない。
「フン! フン!」
体を鍛えぬく者たちの集まるトレーニング場。そこに、ひときわ大きな声を上げて特訓に励む者がいた。
「ずいぶん気合が入っているな。いったいどんな奴が……」
新崎は気になって、タオルで汗をぬぐいながらその声のする方へ歩いていく。
「うわっ!!」
思わず叫び声をあげてしまった新。それもそのはず、声を上げてトレーニングを行うその男は、体から赤色の炎のようなものを噴き出していたのだ!
その炎のせいか、男の鍛え上げられた筋肉までも色が違って見える。
叫び声に気づいて男が巨大なベンチプレスを置く。そして自分の目を疑う新に声をかける。
「やあ。ずいぶんと驚いているみたいだけど」
「え、ええ……体から炎なんて、初めて見ましたよ」
「君もプロのライダー? 新人かな」
「ええ。こうして変化形の選手を実際に見ると、圧倒されます」
プロの仮面ライダーはそのほとんどが鎧を装着するアーマータイプだが、この男のように体を鍛え上げ変身する変化タイプのライダーもいる。新崎のように最初はアーマーを纏って戦うが、後天的にこのような別のタイプになるライダーも稀にいるのだ。
彼は変化タイプの一人、鬼島雄鬼と名乗った。
変化タイプのライダーは自分の肉体で戦闘を行う。そのため、戦闘用に用意されたエリア以外でも力を行使できる。したがって、それによる犯罪を抑止する法律などが整備されている。
その力を使って罪を犯せば、逮捕されるだけでなくライダーの資格を失い路頭に迷うこともある。
そして、犯罪に走るライダーを止めるための警察の秘密兵器もある。だが……
「!?」
二人はトレーニング場の外から聞こえるサイレンに反応。すぐに外へ出た。
パトカーがあわただしく往来する。
「どうやらただ事じゃないらしい」
新崎は端末を開き、付近の最新情報をチェックする。ヒットしたのは、強盗の情報。そこには、防犯カメラの映像と思しきものが映っていた。
鬼島もその画面をのぞき込んでくる。
映像に映ったのは一人の女。変化タイプのようで、赤い炎と共に自身の体を変貌させる。彼女はプロライダーのアーカイブによると、引退した選手・朱鬼のようだ。そして、ハープ型の武器を用いて謎の音波を発生させる。セキュリティのかけられているであろうドアを破壊し、中に潜入。後ろから、さらに二人の男が入る。
「この倉庫みたいなところはなんだ?」
鬼島の疑問。
「見てください。記事によると、ライダーシステムの開発を行っているところらしいですよ」
強盗はライダー変身用の装備を盗みに来たのだ。
その次の映像では、ライダーシステム開発所の外の映像が映し出された。強盗たちが脱走しようとしている。しかし、周囲は既に警察の対ライダー用秘密兵器・G3-Xが取り囲んでいる。その数20名。
強盗の女が変貌。さらに、後ろから二人の男が変身して現れた。こちらは先ほど奪ったライダーシステムで変身していると思われる。
「こいつら、どうやって変身を……? 戦闘用フィールドでなければ変身できないはずなのに」
紫の蛇のライダー・王蛇と、水色の鮫のライダー・アビスだ。戦闘が始まったところで映像は終わっている。
この映像を見た新崎は、怒りをあらわにした。
「クソッ! せっかくライダーになったんだ! こいつらの事件のせいで大会が中止になったら、金を稼いでリッチになる夢が……」
言うが早いか、新崎は走り出した。それを鬼島が止める。
「どうする気だ!? 君はシステムで変身するライダーだ。あの場所に行っても何もできない!」
「じゃあ鬼島さんが行ってくれますか!? 無理でしょう!」
「それは……」
鬼島は言葉に詰まる。鬼島が行って戦えば、それは試合外での力の行使だ。彼自身も逮捕される可能性がある。
鬼島が黙ったのをみて、再び新崎は歩き出す。
「俺は最強のライダーになって、ガッツリ金を稼いで、大金持ちになる……その為なら、何だってやる」
「新崎、君は、いったい何を……」
新崎の真意を理解できず、しかし仕方なく走ってついていく鬼島。
サイレンの音はまだ鳴り響いていた。
「がはぁっ……!!」
「弱いなァ、よわァい。君たち、ホントーにケイサツ?」
王蛇に変身した男は次々と剣で警察のG3-Xを薙ぎ払っていく。一方、アビスの男は朱鬼を護衛しながら離脱の算段を整えている。
「応援はまだか!」「あと十分です!!」「それじゃ隊員たちが持たん!!!」
三人組は強盗であるにもかかわらず見せしめのように隊員たちを屠る。その圧倒的な暴力性と盗まれた強力なライダーシステムにより、隊員たちは次々に蹂躙されていった。
そこに、雄たけびをあげながら一人の男が走ってくる。
「うおおおおお!!!! 待てコラァ!!!!」
新崎だ。その手にはカードデッキ。その場にいる全員の注目を浴びながら、彼は立ち止まる。
「強盗ども! これ以上の悪事は俺の夢のため見過ごせん!!!」
大声を張り上げながら、彼はカードデッキを胸の前に勢いよく振りかざす。
「無理だ!」
追い付いた鬼島が叫ぶ。新崎の腰に変身用ベルトは現れない。
「馬鹿か! 俺たちが奪ってきたロック前のデッキじゃねえんだから、変身できるわけねえだろォ」
王蛇の男が嘲笑して言い放つ。
「クッソ……」
万事休す。しかし、新崎は諦めるなどこれっぽっちも考えていなかった。
「俺にはまだやれることがあんだろ……」
勢いよく走りだす。王蛇の男を躱し、女のところへ駆けていく。
「お前が強盗の親玉だろッ!!」
生身のまま新崎は飛び蹴りを放つ。しかし、護衛としてついていたアビスの蹴りが新崎の足を折り、そのまま瓦礫へと吹き飛ばす。
「邪魔者は排除した」
冷徹に言い放つアビスの男。出血量をみるに、新崎はもう生きてはいないだろう。
鬼島は落胆した。将来有望そうな若者が目の前で死んでいくのを、社会のルールに阻まれただ見ている事しかできない自分に。
「ハハッ! 最高にバカだな、あの男!」
王蛇の男が死んでいった新崎を小馬鹿にして高笑いする。
「もういいだろ。そろそろずらかるよ」
朱鬼の女が、二人に言って身を翻す。
「了解」
短くそう呟いてアビスの男がついていく。王蛇の男もそれに続こうとした……それを、誰かに止められた。
「は?」
次の瞬間、王蛇の顔面を強烈なパンチが襲った。朱鬼とアビスの横を王蛇の体が飛んでいき、向こう側の建物に激突。
「何だ?」アビスの男が振り返る。
そこには、鬼がいた。朱鬼と同じ変化タイプのライダー・裁鬼。
「お前、誰だ?」
「さっきの青年の……知り合いだ」
鬼島だった。彼は、ライダーの資格を失い、逮捕されることも覚悟で、"変身"した。
新崎の無念を晴らすため。悪党たちをのさばらせておかないため。
目の前でこれ以上、人が死ぬのを見たくないため。
「ハァあああああああ!」
気迫のこもった雄たけびと共に放たれる正拳突きが、アビスを襲う。それを間一髪のところでかわし、アビスは鋸型の剣で腕を落としにかかる。
「くっ」
腕を引っ込め、一歩下がる。すると先ほどまで立っていた場所に、高速でサーベルが飛んできた。あと一瞬下がるのが遅れていたら、腹部を貫かれていただろう。
「!?」
驚きで硬直してしまう裁鬼。サーベルは、先ほど突き飛ばした王蛇の投擲したものだった。王蛇は首を鳴らしながら近づくと、一瞬で背後に飛び移り、裁鬼の背中を猛烈に殴打した。
「テメェ、ざけんじゃねえぞオラ!!」
暴力的な言動に違わず、その攻撃は相手の命を少しも顧みない衝動的なものだ。だからこそ、スポーツとしてのライダーバトルしか経験していない裁鬼のかなう相手ではなかった。
「がはっ!! ごふっ!!」
警察も思わず身をすくめるほどの惨状。裁鬼はもう意識を保っていられないほどの傷を負っている。誰もが、はやくこの悲劇を終わらせてくれと願った……その時。
「ギイッ」
断末魔とともに、王蛇が消し飛んだ。文字通り、跡形もなく。
「!?」
アビスが驚き、周囲を探る。すると、その身が金縛りにあったかのように動けなくなる。それほどの、強烈な"力"。
ゆっくりと振り返る。先ほど、新崎が吹き飛ばされた瓦礫の山。そこに血だらけの新崎の姿はなく、代わりに紫に身を包んだ人型の"力"があった。
「なんだ、お前は。ライダー……なのか」
アビスが聞く。その声は圧倒的な力を前に、震えていた。
その"力"は、答えた。
「俺は……なんだ? どうなってる?」
新崎だった。死んだはずの新崎の声が、その桁外れの力を放つ、紫のライダーのようなものから放たれる。
満身創痍の裁鬼が声をかける。
「新崎……なのか?」
「ああ。いま、俺どういう状況? なんか、吹っ飛ばされた後気絶してた?」
「馬鹿野郎、お前、血だらけで死んでて……それ、変身してるのか」
その紫の姿は、明らかに普段新崎が変身する仮面ライダーインペラーとは似ても似つかないものだった。
体の複数個所に、宇宙や惑星を象ったレリーフや紋章が刻まれている。そして、体の背面には青紫のマント。
見たこともないベルトから、電子音声が鳴り響く。
「仮面ライダー……ギンガ!」
「……だそうです」
自分でもわかっていない様子の新崎。とにかく、アビスを止めようと手を前にかざす。すると、
「ぎああああああああああああああああああああああ!!!!!」
ギンガの手から放たれた凄まじいエネルギーの奔流はアビスを包んで遠くのビルに叩き付けた。
「何だよ、この力……」
瞬時に取り巻き二人を倒された朱鬼は気付かれないように逃走。逃げる彼女は何かにぶつかった。
「ち、何だい……」
見上げる彼女の目の前には、いつの間にかギンガがいた。
「ひぃぃ」
先ほどアビスと王蛇がなすすべもなく倒されるのを見ていた彼女は、恐怖のあまり失神。
裁鬼のもとに戻ってきたギンガこと、新崎。
「とにかく、変身解除して……いや、逃げよう。警察の応援が来たら、厄介なことになる」
そう言って裁鬼は鬼島の姿に戻る。
しかし、ギンガは元の姿に戻らない。
「どうした?」
「いや、それが……戻り方が、わからなくて」
「ベルトは?」
「外れません」
「変身はどうしたんだ」
「目が覚めたらこうなってました」
そう言っている間に、警察の応援が到着してしまった。
「ここか、ライダーシステムを盗み出した奴が暴れてるのは……ひどい惨状だ」
二人の警察のエリートが変身した状態で現場に入ってくる。
警察屈指の機動部隊の精鋭、仮面ライダーアクセルと仮面ライダードライブだ。
「まずい、アイツらに見つかるのは今の状況じゃ非常にまずいぞ!」
「とにかく逃げましょう、つかまって!」
ギンガの手をつかむ鬼島。100mを超える跳躍でその場を脱する。惨劇を後にする二人。その様子を見ていたものは少ない。彼らが、これから世界を大きく動かしていく存在であると知る者は、まだいない……。
「いったいどうなったんだ、俺の体は。どうなるんだ、俺の大金持ちの夢は……」
登場人物
インペラー、ギンガ 新崎 新
タイガ 努井 努
裁鬼 鬼島 雄鬼
朱鬼 鬼頭 美鬼
王蛇 蛇塚 蛇九蓮
アビス 鮫口 鮫一
G3-X 警察
アクセル 機動隊員
ドライブ 機動隊員
シザース 堤 堤
ベルデ 助川 佐助
ガイ 盾山 盾
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第四話
「仮面ライダーギンガ」へと変身し、元に戻れなくなってしまった新崎新。偶然知り合った変化形ライダー・裁鬼に変身する鬼島とともに、事件の場所から逃走。
追手もなく、落ち着いた時には周囲は既に薄暗くなっていた。
「夢中で逃げてきましたけど……隣町まで来ちゃいましたね」
「どのみちあの場所に居れば私たちは逮捕されてしまう。あそこでは逃げるしかなかった」
「しかし、もう家にも戻れないでしょうし……それよりもこの変身を解かないと」
すっかり日も暮れてきた。誰もいない公園の隅で、男二人、試行錯誤。しかし、ベルトも外せず、ボディアーマーも壊せず、一向に変身は解けない。
「どうしたもんかな」
「シ! 誰か来るみたいです」
二人は物音を聞き、とっさに身を隠す。懐中電灯の光が周囲を照らす。
現れた人影が唐突に声を上げ始める。
「ここにいるのはわかってんですよー。出てきなさいよー、助けてあげるからさあー」
若い女の声だ。何とも間の抜けた様子だ。しかし、このまま声を上げられてはたまらない。
おそるおそる、まずは鬼島が会って応対する。
「お前さん、何を知っている。何者だ」
女は軽快な調子で返答。
「質問はひとつづつ! まずはわたしの事を教えてあげましょう。わたしは、
彼女は高らかに宣言し、ギンガの姿となっている新崎に向けビシと指をさした。
「そして、貴方にはわたしの手伝いをしてもらいます!」
「わたしが全てを話せば、貴方たちは逃亡生活を余儀なくされる。これは心優しいわたしからの提案ですよ? 救ってあげようというんです、わたしの言うことを聞いてくれればね」
「何をさせようというんだ」
「わたしの目的のために、邪魔なものを排除してもらいます」
「物騒だな……目的って?」
伊武はニヤリと口角を上げながら話し出す。
「わたしの目的は最強のライダーシステムを作ることです! そのための理論はもう完成しているのですが……上層部にコストが高すぎると却下されてしまいました! だから、貴方たちに目を付けたんです。貴方たちなら、上層部を黙らせる力が使えます」
「しかし、すでにこの仮面ライダーギンガという"力"があるんだが……君の発明は、それを超えるのか」
「わかりません。でも、わたしは自分で作りたい。それが発明家というものです! さあ、あのビルにビームを撃って!」
彼女は何でもないことかのようにテロ行為を勧めてくる。
「馬鹿! そんなことするわけないだろ!」
「ええー。じゃあ、警察に話しちゃいますよ」
「それは困る……」
そこに鬼島が口をはさむ。
「その力なら警察も敵ではないと思うがな……発明家のアンタならこの力のことも何かわからんのか?」
「知りませんよ、そんなこと。しかし、この力が世間に知れ渡ったら、社会はきっと大混乱☆しちゃうだろうな~あ、そうだ」
伊武はおもむろにタブレット端末を取り出す。
「今ここにぃ、今日の事件現場の監視カメラ映像があります。仮面ライダーギンガの凄まじい活躍もばっちり撮れてますよ。マスコミには情報規制が敷かれてるようですが、ハッキングで頂きました。これをネットの海に放出しちゃいましょう!」
「やめろ! そんなことをしたら社会が混乱するといったのは君だろう!」
「わたしは自分の研究ができればそれでいいので。さあ、どうします? わたしに協力するか、社会を混乱に陥れるか!」
彼女は既に端末に手をかけて、新崎を脅してくる。
(くっ……このままでは日本はとんでもないことになる。制御できない力に怯えるものだけでなく、それに乗じて暴徒化するもの、俺のこの力を利用しようとするものが出てくる)
「どうするんだ、新崎」
「はやく決めてくださいよ、仮面ライダーギンガさぁん」
(しかし、この常識のない発明家に協力したら、それ以上の惨劇が起こる)
「決めたよ。俺は、ここでお前を止める」
「ぽちっとな」
新崎が彼女に宣言した瞬間、仮面ライダーギンガの映像は全世界に向けて発信されてしまった。
「馬鹿だなあ。わたしに従ってくれれば悪いようにはしなかったのに」
「それよりも、お前をここで止めることが先決だ! 悪いが鬼島さん、下がっててください」
ギンガの体に力を込める。周囲を威圧感が覆う。
だが、伊武は動じない。
「仮面ライダーギンガの力は本物だ。でもね、攻撃はあてないと意味が無いんだよ」
そう言うと彼女は近くに停めていたらしきバイクに乗る。
「その力で私を攻撃して、どうするつもりだい? わたしを殺す覚悟が君には無いだろう」
伊武はバイクで走り出した。それをギンガが追撃すれば、バイクは大破、伊武も無事では済まないだろう。新崎はその力を向けることができなかった。
「まあ、奴一人ならテロなんてできやしない。とりあえず、今日の寝床を探そう」
鬼島が新崎の肩に手を置き、励ました。
バイクを走らせながら伊武は自分の隠れ家に向かう。その表情には苛立ちが見える。
「チッ……せっかくいい駒が見つかったと思ったのに、使えねー奴! あんな桁外れの強さじゃ、殴って言うこと聞かせられねーし……わたし一人であのビルぶっ壊すしかねーな!」
そう愚痴る彼女のバイクには、荷台にトランク。彼女が所属していた組織で作り上げた、発明の試作品であった。
ネットの海を、その情報は駆け抜ける。
「なんだこれw」「映画の撮影?」「加工でしょ」
圧倒的な力でライダーとなった強盗を倒す仮面ライダーギンガの姿を、多くの人は目にした。
「スポーツのライダーバトル以外で変身できないんじゃないの?」「これは危険だ! ライダーシステムは廃止すべき!」「正義のヒーローキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
そしてここにも、彼の雄姿を見たものがいた。
「凄い……これはライダーなんかじゃない、神様だ!」
青年は画面の奥のギンガを狂信的な眼で見つめる。
「僕もこんな風になりたいなぁ……そうと決まれば、早速準備しなきゃ」
その日の夜、
一人の男が、同じとき、同じ映像を見ていた。彼の元に帰ってくるはずだった部下は、未だ帰ってきていない。なぜなら、画面の奥の仮面ライダーギンガに倒されたからだ。男は強盗団のリーダーであった。
仲間を迎えにいくための道はギンガの衝撃波で封鎖され、計画は失敗。三人の仲間のうち一人は行方不明、二人は警察に捉えられたという。
「このライダー……生かしておけねぇ」
男は立ち上がり、その屈強な身体を乱暴に振り回す。卓上の小物が全て床に散らばる。
「三人とも待ってろよ、すぐに脱獄させてやるからな……あのライダーへの仕返しはその後だ」
新崎と鬼島の家はすでに警察の手が回っており、近づける状況ではなかった。
鬼島が偽名で取った安ホテルに、ギンガはこっそり窓から入る。
「さて、これからどうするか、だ」
「俺にも自分の体に何が起きてるのかわからないってのに」
「だな……その力を悪用したわけでもないのに警察に追われるのもやり切れねえぜ」
戦闘用以外のフィールドで変身した二人はまず逮捕されるだろう。プロライダーの資格も失う。しかし、新崎の体は変身を解除することができない未知の症状に悩まされている。まずこれを解決するのが最善と二人は判断した。
鬼島はスマホのネットで調べてみるが、似たような事例は載っていない。そもそもとしてライダーのシステムの開発や人間が変化型ライダーになれるようになり始めたのは数年前なのだ。まだまだ事例が少ない。
「そうだ!」
新崎は思いついたとばかりに、スマートフォンを弄り始める。変身した体では指紋が認識されない。
「鬼島さん、検索!」
「何をだ?」
「配信の方法!」
「は?」
「俺が、この姿で配信する! そしたら、人目を集められる。誤解を解くために説明をするんだ、ついでにこの症状を知ってる人を探す」
バカか、と鬼島は言いかけた。が、確かにネット社会の今、社会に情報を発信するには最も手早い方法だ。
「しゃあねえ、やってみるか」
夜は更ける……そして、次の朝がやってくる。
テロを決行する発明家。
殺人を犯した少年。
報復を決意した泥棒。
そして、配信を決心した仮面ライダーギンガ。
激突の日は近い。
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第五話
伊武は、仮面ライダーギンガと化した新崎の勧誘に失敗。バイクで逃走し、自分の隠れ家に戻っていた。そこには、彼女が開発を行っていたラボから持ち出した機材があふれかえっていた。怪しい光に照らされた機械。ゴミや不気味な色に変色した果実が転がっているそこを通り抜け、伊武は次の準備に取り掛かる。
「よっしゃ」
過去にライダーシステムの研究に携わっていた伊武は、今や追い出され研究費も開発を行う施設も無い。しかし、彼女の手には既に完成していたシステムの試作品があった。
「しょうがない、これで乗り込むか」
翌朝。
日曜日にもかかわらず社員たちが次々に入っていくそこは、国に認可されたライダーバトルシステム開発の最大手『RBSコーポレーション』。
都心のオフィスビル群に堂々と立つその会社の入り口に、警備を突っ切り物凄い勢いでバイクが突撃する。
「どけどけぇ──っ!!」
そのままガラス窓をぶち破り、広いエントランスにやってきたのは伊武だった。彼女は開発した試作システムの武器を取り出す。剣の柄部分に銃口が取り付けられたそれを上に向け、発砲。
ロックの掛けられていないそれは、スポーツとしてのライダーバトル用のパワーの調整が全く行われていない。大きな音とともに、悲鳴と怒号が飛び交う。
「いいね。でも、邪魔だからどいてほしいな」
逃げ惑う人々に銃口を向ける伊武。そこに、警備員が数人現れる。
「取り押さえろ!」
その掛け声とともに、巻いていたベルトを操作。
「変身!」
警備員たちはRBSコーポレーションが開発した警備システム・ライオトルーパーに変身する。
銃剣を構えて、伊武を取り囲む。
「わたしは社長に用事があるんだよ! どけ!」
トランクの中から取り出されたベルトを装着し、その手には錠前。かたどられたレリーフは……毒林檎。
「変身」
頭上から降り落ちる巨大な毒林檎が、ライオトルーパー達の攻撃を弾きながら彼女の体のアーマーを形成していく。
仮面ライダー邪武 ダークネスアームズ。先ほどから使っていた剣・無双セイバーに加えて、短剣・ダーク大橙丸を取り出し、ライオトルーパー達に向かっていく。
その戦力差は一目瞭然であった。片や悪用防止のため能力をセーブされたシステム、片や試作品で力を調整されていないモンスターシステム。数人がかりで取り押さえに行ったライオトルーパー達は全員薙ぎ払われ、変身を解除されてしまった。
「じゃあね~」
そんな彼らを一瞥し、伊武はエレベーターで最上階へ。
到着すると、そこには社長のオフィスが広がっている。
「やれやれ。行儀の悪い野犬は始末するしかないな」
「!」
伊武の頭上からライダーがとびかかる。その弓型武器・ソニックアローによる斬撃を伊武は無双セイバーで受け流した。
「わたしの開発したやつ! 返せよ!」
「こいつは採算が取れない……ですが、戦闘能力はピカイチだ。社長のボディーガードにはピッタリでしょう?」
そう言って攻撃を仕掛けてくる男は、RBSコーポレーションの社長の秘書兼ボディーガードの
伊武がこの会社で開発を行っていたころ、仮面ライダー邪武と共に没になったシステム・仮面ライダータイラント ドラゴンエナジーアームズ。伊武の襲撃を受け、竜宮は変身し待ち構えていたのだ。
「社長の元へは行かせません!」
「開発者のわたしにそれで挑むのは失敗だったね。そいつの弱点はわたしが一番知ってる!」
伊武はダーク大橙丸と無双セイバーを合体し、薙刀モードへ。ドライバーのブレードを下ろし技を発動させる。
「ダークネススパーキング!」
負けじと竜宮も弓型武器ソニックアローを構え、ドライバーのレバーを引き絞る。
「ドラゴンエナジースパーキング!」
ぶつかる剣と弓。双方がお互いの武器を弾きあう。その瞬間、伊武はダーク大橙丸を分離。無双セイバーを放り、床に突き刺さったダーク大橙丸をすぐさまつかんでタイラントのボディに突き刺す。
「わたしのほうが一枚上手だったね」
「貴方は……狂ってる」
「発明家には、それ誉め言葉ね」
変身を解除され血まみれで倒れる竜宮を踏み付け、伊武は社長の元へ向かった。
「あのゲネシスドライバーももっと改良したいなぁ」
そう呟きながら。
新規登場人物
邪武 武部伊武
タイラント 竜宮竜
ライオトルーパー 警備員
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第六話
RBSコーポレーション最上階、社長室。広々とした見通しの良いデスク……そのドアを蹴破り、伊武――仮面ライダー邪武が突入してくる。
「やれやれ。狂犬には躾ではなく、殺処分が必要なようだ」
そう言いながら立ち上がる男こそ、この部屋の主にしてRBSコーポレーション社長・
邪武の襲来を前に落ち着いた様子の彼は、その手に持った携帯電話型デバイス・デルタフォンを口元にあてる。
「変身」
腰に巻いたベルト、その脇に備え付けられたデルタムーバーにデバイスを装着すると彼の体を水色のラインが走る。
瞬時に変身を完了した、仮面ライダーデルタが射撃。
それを剣ではじき返した邪武にさらに射撃を続ける。
「ライダーバトルに使用する動物系ライダーシステム。警察や警備に配備される機械系ライダーシステム。それに比べ、君の発明した植物系は燃費が悪すぎる」
そう言いながらデルタは、邪武を遠距離から攻撃し近づけさせない。
邪武も負けじと銃撃をするが、決定打にはならない。
「それが君の弱点だ。もうすぐ警察のライダー部隊が到着する……それまでここに足止めさせてもらうよ」
社長は柔和な雰囲気を崩さないまま、徐々に邪武を追い詰めていく。
だが、伊武にはまだ笑う余裕があった。
「はッ……自分の開発したものの弱点くらい当然わかってるっての!」
「ほう……?」
「それを克服する手段も、もう用意してあるんだよ!」
彼女の手には、先ほどのタイラント戦で取り返したドラゴンフルーツエナジーロックシード。拡張スロットとともにドライバーに装填する。
「なんだ、その機能は!」
焦る三角。彼でさえ知らない、開発者である伊武自らが忍ばせておいた秘密兵器。
毒林檎型アーマーがドラゴンフルーツ型アーマーと融合し、陣羽織へと変形する。
仮面ライダー邪武 ジンバードラゴンフルーツアームズ!
先ほどタイラントも手にしていた弓型兵器・ソニックアローを引き絞り、エネルギーの矢を放つ。
銃撃を押し返し、その威力を弱めることなくデルタの装甲を直撃。
「ぐっ!!」
たまらず一歩下がるデルタ。攻撃の手が緩んだその隙を逃さず、邪武はソニックアローで切りかかる。斬撃がボディアーマーに亀裂を入れる。
「どうした!? さっきまでの威勢は!」
立ち上がる間もない猛攻。デルタは銃を構えることすらできない。
邪武はデルタの首根っこをつかみ、持ち上げる。窓ガラスに叩き付け、その体を蹴り落とした。
「社長の座、陥落だな」
到着した警察の機動隊員たちを蹴散らし、伊武は実質的にこの会社を占領した。社員たちは逃げ出し、外は警察が取り囲んでいるが、彼女は気にしない。
この会社内の施設を利用し、究極の発明をする……その邪魔をするものは誰であろうと殺す。
そう言い放ち、彼女は最上階から次々と機動隊員たちを突き落としたのだった。
新規登場人物
デルタ 三角雄三
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