ありふれてはいけない職業で“世界”超越 (ユフたんマン)
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転生…なのか?

目が覚めたら赤ん坊だった。意味がわからないって?安心してくれ、俺にもわからん。

しかも目の前にはハゲたおっさんと綺麗な女性がいる。この人らが俺の両親だろうか。というか何故かこんな状況に陥っているというのにすごく落ち着いている。何故だろうか…

 

「こいつの名前はディオだ。ディオ・ブランドー。見ろ!この髪色!!お前にそっくりじゃあねえか!!?」

 

「そうだねぇ…アタイにそっくりだ。この耳のホクロはアンタと同じだねえ…」

 

…は!?ディオ・ブランドー!!?聞き間違いだよな!!?というかさっきから泣き声がうるさい。いや、自分の泣き声なんだけどさ…

 

ディオってあのURRRYとかWRRRY叫ぶ吸血鬼だよな!!?冗談じゃねえぜ!!!俺ジョースターの一族に殺されるじゃねえか!!

いや待て、素数を数えて落ち着くんだ…!1、2、3、5、7… 1って素数じゃあなかったな…

よし落ち着いた。

 

そうだ、名前が同じだけで別人の可能性もある!同一人物だとしても悪行をしなければいいだけじゃあないか!!

そうと決まれば…グゥ…ZZZ…

 

赤ん坊の頭はオーバーヒートしディオは夢の世界へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

あれから6年が経った。飛ばし過ぎだと?そんなこと知るか!!俺はディオ様だぜ?

 

突然だが良いニュースと悪いニュースがある。

 

まずは良いニュースからだ。

はい、俺はジョジョのディオだったよ…父さんの名前がダリオ・ブランドーだったし…耳に3つのホクロがあるし…しかもイギリスに住んでるし…だが安心してくれ!!ここはジョジョの世界じゃあなかった!現在2005年だ!!

やったぜ!!確かジョジョやディオの生まれた西暦は1868年だった筈だ。

これで俺が吸血鬼になって死なないということが証明された!!

 

 

そして悪いニュースがこれだ。

父さんの経営していた店が多額の借金を負い倒産した。ダジャレじゃあねえぞ?ダジャレだったらよかったんだが…

そのせいで父さんが荒れた。自暴自棄というやつだ。家で働かずに昼間から酒を飲み、完全にダメ人間と化した。

 

 

母さんはそんな父さんから俺を連れて家を出た。向かう先は日本にある母さんの実家、つまり俺の祖父母の家だ。

言い忘れていたが俺には日本人の血が流れている。母親が日本人とイギリス人のハーフ、それで俺は所謂クォーターというやつだ。

 

こうして日本に来たものの母さんが僅か一週間で過労で倒れ死んでしまった。

どうやらイギリスで子供の俺と自暴自棄になった父さんを養うために無茶しすぎてしまったのだろう。

 

 俺は泣いた。初めてこの世界で心から泣き、悲しんだ日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが悪いニュースだ。現在はジイちゃんとバアちゃんと俺で暮している。

 

近場の小学校に通い普通の学園生活を送った。

前世?と違うのはモテるということだ。何たってディオ様の容姿だからな。ロールプレイングしてるし。

クォーターでキリッとした顔立ちの中に幼い子特有の可愛いさが残っている。しかもクール(多分)!!モテる!!実にモテるぞ!!最高にハイッてヤツだ!!フハハハハッ!!!

なんて言ったものの相手は小学生だぜ?俺はロリコンじゃあねぇんでな。別にモテて嬉しいとかそんなのはないんだからねッ!!

 

まあそんな訳でモテまくってるんだよね!これを見ているみんなに質問しよう。同じクラスにモテモテな奴がいたらどうする?勿論嫉妬する。

しかも相手は小学生。はい、始まりましたイジメ。

朝、机に死ねだの馬鹿だの消えろ等、いろいろと悪口が書かれていた。oh…shit…(嫉妬)

 

女子達は犯人がわかっているらしくガキ大将チックな風貌をしたタカキ君を責めている。「ちょっとタカキー!」って。

 

タカキくんは悪びれもせずに面倒くさそうに聞き流す。

まあこういう行為を行うのは相手が嫌がる姿を見て楽しむのが主なイジメの典型だと思う。

なのでこういうのは無視に限る。

 

 

 

 

 

 

 

 

イジメは一年後に無くなった。

 

理由はディオを呼び出したタカキくんとその取り巻き5人がディオ1人にボコボコに打ちのめされたからだ。

 

 

その時のディオのセリフ抜粋。「正当防衛だ。法的にはやってしまっても構わないのだろう?」

タカキくんは痛い目に合った。

 

 

 



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卒業、そして中学へ

この世界にはジョジョの漫画はありません。異論は認めん!ぶっちゃけると存在してたら僕の文才ではどうにもなりません…


そして年月は流れ舞台は小学校から中学校へと変わる!

 

 

 

『とったァーーッ!!ボールを奪い取ったのは我が校の雄ーーーーッ、松本タカキだァーーッ!!』

 

タカキはラグビーボールを持ち、雄叫びを上げ走る。

 

『元ガキ大将!身長183cm、松本タカキ!!雄叫びを上げてゴールへ突進するゥ!!部活引退を目前にしたこの試合!優勝でかざれるかァーーッ!』

 

タカキは走る。嵐のように走りゴールへと目指す。しかし相手の守備に捕まってしまう。普通ならここでパスをするだろう。普通なら…だ。

 

『おおーーッと捕まったァーッ!敵校の1人がタカキにタックル!

し…しかし!倒れない!引きずるぞォ!タカキ!!』

 

さらに2人、3人とのしかかられるもタカキは止まらない。何故なら歩みを止めない限りゴールへの道は続くからだ。

 

『すっごぉ〜〜〜〜〜いッ!!3人にタックルされたまま引きずりながらも突進をやめないッ!!松本タカキッ!!なんというパワー!!なんという根性!!まるで重機関車ですッ!!』

 

そしてさらに4人目が加わり、流石のタカキもぐらつき膝を付きそうになる。絶対絶命なはずのタカキは何故か笑っていた。

何故ならそれは!!

 

タカキはラグビーボールを誰もいない空間に投げる。

 

『ああッ!!パスが通ったァーーーー!!飛び出したのは………!?』

 

誰もいなかった空間に狙ったように彼が現れた!!タカキが笑っていたのは全て作戦通りだったからだ!

 

『ディオ!!やはり我が校のディオ・ブランドーですッ!!』

 

ディオはパスを受け取ると同時に飛びかかって来た相手を華麗に避ける。その姿はまるで素麺流しの素麺の如し!

 

ディオが相手をぬくと観客席から黄色い声と野太い声が響き渡る。

そのままディオは全速疾走!タカキに4人も守備を使った為、ノーマークのディオにパスが通り、手薄になった守備を華麗に躱しながらゴールへと目指す!

 

『ぬけたァーーッ!!単独走です!!華麗だ!!相変わらず華麗な走りっぷり!!そしてぇ…!!トライッ!!

やったァーーッ!!最後の試合を優勝で飾りましたァーーッ!!』

 

試合は終了し、ディオとタカキはをガシッと肩を組み両者共々称える。

 

 

「やったなタカキ!またまた僕らのコンビで勝負を決めたなッ!」

 

「ああ!ディオ!流石だぜ!お前の走りは!!」

 

「ありがとう!だがタカキ!君あってのトライさ!」

 

 

『ディオ・ブランドーは学年で常時No.1の成績!かたや松本タカキは勉学は苦手のようですが体育方面で見事な成績を残しています!

このラグビー試合もこの2人あっての優勝!まさに我が校の誇りです!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はい、そういうわけで中学3年生になりました。またまた時間が飛び過ぎだって?だって小学校でダラダラしてるよりも早く原作に追いついた方がいいだろ?

 

ンンッ!!さて、軽く今までに起こった出来事を話そう。

まずは一つ目、タカキくんと仲直りしたよ。これにはディオ様フェイスの俺もニッコリ。いやぁ…小学生っていいなぁ…喧嘩してもすぐに仲直り出来るし…

今では親友であり戦友でありライバルだ。

 

二つ目はタカキくんと一緒にラグビー部に入部した。

ディオ様たるものラグビーを一つや二つ嗜んでなきゃダメだろうとなりタカキくんを誘って入部した。最後の試合では優勝することが出来た。

因みに俺とタカキに多数のスカウトが入ったが俺は全部断っておいた。将来は法律に関する仕事をしたいと思ってるからな。

タカキくんは何かに目覚めたらしくラグビーを続けるようだ。

 

三つ目は俺に彼女が出来た。が、すぐに別れた。いや、俺がフったわけじゃあないんだ。俺がフラれたんだ…

あの子は恥ずかしそうに顔を紅く染めながら勇気を出して俺に告ったんだ。人生初めての告白だぜ?すぐオーケーさ。

モテると言っても俺って高嶺の花のような感じで誰も告って来なかったんだ。そんな俺に告白するってのは相当な覚悟をして来たのだろう。そんなのオッケーするしかないわなぁ!!

 

しかしそこから不可解なことが起こったんだ。彼女と3日程連絡が取れなくなった。学校にも来ていなかったことから病気だろうと思っていた。

 

そして次の日、すごく窶れた顔になった彼女にフラれた。しかも泣きながら。事情を聞こうとしても何も言わず走り去り数日後、彼女は転校した。

その後、もう一度違う彼女が出来たが同じようにフラれ転校していった。

 

怖ッ!!?何なの!!?誰かの陰謀!!?

 

となり告白されても全部断ることにした。あと偶に弁当の使用済みの箸がよく無くなるのはなんなのだろうか…

 

 

まぁこれくらいかな?最近俺のファンクラブとやらが出来たとか小耳に挟んだが多分大丈夫だろう。多分……

 

 




次回で原作突入です。


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転生?した世界でさらに転移しました…

唐突だが高校生になった。

小学校から一緒だったタカキくんとは別の高校に入った為、かなり寂しい今日この頃。連絡は今でも取り合ってるけど。

入学当初など顔馴染みといえばタカキと同じく小学校から一緒の天之河光輝、八重樫雫、白崎香織と、中学の時に光輝繋がりで知り合った坂上龍太郎の4人ぐらいだ。

しかもその中の2人が二大女神と呼ばれるようになり、話しかけ辛くなった。

 

1人目は白崎香織。いつも微笑の絶えない彼女は、非常に面倒見がよく責任感も強いため学年問わずよく頼られる。黒髪ロングで少しおっとりとした印象を受ける。

 

そして2人目は八重樫雫。香織の親友であり、ポニーテールにした黒髪がトレードマークだ。切れ長のの目は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられる為、冷たいというよりもカッコいいという印象を与える。

香織と光輝と知り合ったのも雫のおかげだ。

最初に出会ったのは小学生の時だな…なんとなく体育館裏に行くと雫を含めて女子が4人程いたんだ。俺を女子達が見ると雫以外が慌てふためき何処かへ走り去った。何かやってしまったのかとすぐにその場から離れたが…それから雫が話しかけて来るようになったな。なんでだろう?今でもわからん…

まぁそんなこんなで雫達と知り合った。

 

 

あと紹介を忘れていたが天之河光輝。彼は俺と同じくイケメン、さらに運動、勉強もサラッとこなせる超人だ。思い込みの激しい欠陥付きだけど…

 

そして坂上龍太郎。身長190cmの巨体を持つ、努力、熱血、根性が好きな人間だ。因みに俺の身長は193cmだ。

 

さて、そんな感じで現在は知り合いも増え第二の高校生活も楽しくやっている。

俺の最近の楽しみは読書と香織を観察することかな。おっと!!その11と打っているスマホを放そうか!誤解だ!観察といってもストーカーじゃあないぜ?

もうそろそろ来るんじゃあないかな?

 

始業チャイムが鳴るギリギリで教室が開かれる。入って来たのは南雲ハジメ、極めて平凡な容姿をしている。彼が教室に入ると、男子生徒の半数が舌打ちし、鋭い目で睨み付ける。女子生徒も友好的な表情をする者はいない。

 

「よぉ、キモオタ! また徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」

「うわっ、キモ〜。エロゲで徹夜とかマジキモいじゃん〜」

 

何が面白いのかゲラゲラと笑い出す男子生徒達。

声を掛けたのは檜山大介といい、ハジメに絡むのが日課となっている生徒達の筆頭だ。近くで馬鹿笑いしているのは斎藤良樹、近藤礼一、中野信治という3人で、大体この4人がハジメに絡む。

 

だがハジメはオタクではあるがキモオタと罵られる程、身だしなみや言動が見苦しいという訳ではない。

世間一般ではオタクに対する風当たりは確かに強くはあるが、本来なら嘲笑程度はあれど、ここまで敵愾心を持たれることはない。

では何故男子生徒全員が敵意や侮蔑をあらわにするのか。

 

その答えが香織だ。

 

「南雲くん、おはよう!今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

ニコニコと微笑みながらハジメの方へ歩いて行った。

 

香織は何故かよくハジメに構うのだ。俺や雫は何故か知っているが…

徹夜のせいで居眠りの多いハジメは不真面目な生徒と思われており、生来の面倒見のよさから香織が気にかけていると思われている。

これでハジメの授業態度が改善したり、あるいはイケメンなら香織が構うのも許容出来るかもしれないが、生憎、ハジメの容姿は極々平凡であり、態度改善も見られない。

このような理由で男子からは嫉妬向けられ、女子からは不快さを感じられている。

 

そして光輝と雫、そして龍太郎がハジメの方へ歩いて行くのを後ろから眺める。

俺は趣味方面でハジメとの繋がりもある為、ある程度は彼がどんな人間かは知っている。なので学校では大抵は不干渉だ。

 

手元の推理小説を読みながらチラチラとハジメ達を見る。

 

「? 光輝くん、何言ってるの?私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

 

光輝が香織に甘えるのはやめろ。香織はお前に構ってばかりいられないぞと言うと、香織から爆弾を投下される。

その言葉で教室が騒つく。やはり彼女らを見るのは飽きない。

 

「え?……ああ、ホント、香織は優しいよな」

 

どうやら光輝の中で香織の発言はハジメに気を遣ったと解釈されたようだ。

なんと都合の良い耳だろうか……あいつは自分の正しさを疑わないところがあるからな…

 

聞き耳を立てていると一つの足音が聞こえて来た。

 

「ディオはまたあの2人を見ているの?飽きないわねぇ…」

 

本から視線を上げるとそこには雫が呆れたような顔で立っていた。

 

「まぁな。香織達を見ていると大抵は光輝がやらかすじゃあないか。なかなか滑稽だとは思わないかい?」

 

「いい性格してるわね」

 

フフフッと2人で笑うと周りから視線が向いていることが分かり少し恥ずかしくなる。

周りから見れば美男美女が笑い合っているいい絵になっているが。

 

そうこうしている内に始業のチャイムが鳴り教師が教室に入ってきた。そして空気のおかしさには慣れてしまったのか何事もないように朝の連絡事項を伝える。そしていつものようにハジメが夢の世界に旅立ち、当然のように授業が開始された。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

四時間目が終わると購買組はさっさっと教室を出ていった。おそらく限定の焼きそばパンを狙っているのだろう。

 

そんなことは関係ない俺は鞄から小さめのバスケットを取り出し、読み挿しの小説を読みながらバスケットの中にあるサンドイッチを手に取り咀嚼する。ふとハジメの方を向くとやっと起きたようだ。鞄から十秒でチャージ出来るゼリーを啜ったハジメは再度寝ようとしていた。座った体勢でよく寝れるな…と呆れつつ香織の方を見ると、彼女は珍しく教室にいるハジメを見て弁当を持ちハジメの席へと向かって行く。

また面白いことが始まりそうだな…とニヤリと笑う。

 

「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当?よかったら一緒にどうかな?」

 

再び不穏な空気が教室を満たし始める。

 

ハジメは抵抗を試み、ゼリーのパッケージをヒラヒラさせ、もう食べたから、と言うがーその程度の抵抗など意味をなさないとばかりに女神は追撃をかける。

 

「えっ!お昼それだけなの?ダメだよ、ちゃんと食べないと!私のお弁当分けてあげるね!」

 

さらに周りの圧力が増していき、ハジメから冷や汗が流れる。この圧力に気付かない香織はある意味大物だな…

そんな時にハジメの救世主が現れた。光輝だ。

 

「香織。こっちで食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?

ディオもそこで1人で食べてないで俺達と食べないかい?」

 

爽やかに笑いながら気障なセリフを吐く光輝にキョトンとする香織。少々鈍感というか天然が入っている彼女には俺のイケメンスマイルも効果はない。従って光輝のイケメンスマイルやセリフも効果はないようだ。

それを見た俺は読んでいた本を閉じ、バスケットを持って光輝達がいる席へと向かう。

 

「あぁ、一緒に食べようか。」

 

雫の横に椅子を置き座る。

 

「さぁ、香織も」

 

「え?なんで光輝くんの許しがいるの?」

 

素で聞き返す香織に思わず雫が「ブフッ」と吹き出した。かくいう俺も少し吹き出してしまった。過去一番のお笑いだ。コントでもしているのか?

 

笑いを堪えていると突如、純白に輝く模様、俗に言う魔法陣らしきものが出現した。それは徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大される。

自分の足元まで異常が迫って来たことでようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。

教室に残っていた四時間目の社会科教師である畑山愛子先生が咄嗟に「皆!教室から出て!」と叫んだのと魔法陣が爆発したように輝いたのは同時だった。

 

 

 

あれれれれ?このパターンってもしや……

 

 

とんでもない光量に目を瞑り手で庇う。

そしてザワザワと騒ぐ無数の気配を感じて目を開く。するといきなり体に倦怠感と吐き気が襲う。

 

数十秒の死闘の末に、どうにか山場を乗り切り、安堵の溜息をつく。あの光に呑まれてから体調が優れない。そんな俺に気付いた雫が俺に肩を貸してくれた。ありがたいが身長差が激しくて少し辛い。

 

少し楽になり周りを見ると見覚えのない人たちが神に祈るように跪いていた。

突如のことに混乱していると、豪奢で煌びやかな衣装を纏った七十代くらいの老人が進み出てきた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いております、イシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

拝啓、前世のお母さん。どうやら俺は転生と転移、どちらも体験したようです。違う世界の地球から今回は異世界のようです。

 

 



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逃れられない運命

現在俺たちはイシュタルと名乗る老人に案内され、十メートル以上はあるテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

そこに全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。

皆の妄想を具現化したような美女、美少女メイドだ。当然男子の大半はメイドさんを思わず凝視。思春期だからしょうがないね。

普段俺なら同じように凝視しただろうが生憎ここに来てから体調が優れない為、そんな余裕はない。

 

「雫…すまないがイシュタルとかいう老人の話を後で教えてくれないかい?少し体調が優れなくてね…今、話を聞く余裕がないんだ…」

 

男子を冷たい目で見ている女子を見て苦笑いしていた雫に話の内容を教えてくれと頼む。マジで聞く余裕がない。インフルエンザの時よりも体がダルい。というか窓から差し込む日光が眩しい…

 

目の前に置かれた飲み物を口に含む。紅茶のような色をしているがどうやら紅茶ではないようだ。しかし味がとても薄い。言うなればカルピスの原液と水の分量が合っていない時のような薄さだ。

 

周りの他に飲んでいる奴を見ると皆美味しそうに飲んでいた。なんでや!?これ味うっすいやろ!!

 

「雫…この飲み物少し、いや…かなり薄くないかい?」

 

「え?十分濃くない?」

 

これが濃いなんて正気か!?いやまて…味が薄く感じるのもこの体調のせいだクソッタレ…!

 

「ねぇ…大丈夫?もうイシュタルさんの話終わったわよ?」

 

もう終わったのか…?ヤバイ…意識が朦朧としてきた…

 

「ッ!!?ディオ!!貴方!!体から煙が出てるわよ!!」

 

ったく雫は何言ってんだ…そんなわけないだろ…俺は人間なん…だ……か…ら?

手を見るとそこからは煙が立ち昇っていた。否、これは煙ではない!!!

 

「こ、これは!!?まさか!!?」

 

灰だ!!俺の体が灰になっているんだ!!しかもこの灰が出ているのは日光が当たっている部分だ!!

 

「クッ…!!避難しなくては!!」

 

具合の悪い体に鞭打ち立ち上がる。今思えば召喚された場所も大広間も日光が入り込んでいた。

日光が当たらないエリアを探し、メイドが出て来た扉に目をつけた。そのまま脇目も振らずに突撃。扉を突き破って通路の隅に身を隠す。

 

ハァ…ハァ…助かった…大分マシになった…まさか体調不良の原因が日光だったなんて…太陽の光を浴びて灰になる…それに…

 

腕に爪で軽く引っ掻き傷を作る。だがそれはすぐに消え去った。

 

この再生能力…もしかしなくても吸血鬼じゃあねえかァアッ!!!!

 

ディオという運命からは逃げられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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日光に耐性があってよかった…なけりゃあ一瞬で灰になって消え去っていただろう。

あれから俺はイシュタルさんに体を隠せるコートを貰い日光から身を守る。そしてその後、王宮に連れて行かれた。ここに来るまでがすごく大変だった。

何故って?あれだよ。聖教教会は神山とか言われる山の頂上にあるらしいんだよ。勿論雲より高い位置だ。そうなると日光を遮る物もなく、景色は幻想的なものであったが俺には地獄に見えた。

 

そんで向かう最中に雫にこの世界の話を聞いた。掻い摘んで話すとこうだ。

この世界には魔法があり、人間族、魔人族、亜人族と、三つの種族がある。

そして北を人間族、南を魔人族が治めており、二種族の間の樹林で亜人族がひっそりと暮らしている。

魔人族は個の力、そして人間族は数の力で長年拮抗していたそうだ。しかし最近魔人族が魔物を操るようになり数というアドバンテージが奪われた人間族は、滅びの危機を迎えている。

そしてそこに彼らが信仰しているエヒトという神が人間族の危機を助けるために俺らを召喚した。

ということらしい。なんとも自分勝手な神様だ。

 

王宮に着くとすぐに玉座の間に案内された。玉座の間に着くと、扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士2人がイシュタルさんと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。

 

ちょっとまて…!!王様中にいるんだろ!!?そんなことしたら無礼だろう!?暴君ならそっコロだぞ!!

 

イシュタルさんはなんら気にすることなく玉座の間へと入って行く。後をついていくと、王らしき初老の男が立ち上がって待っていた。

玉座の手前に着くと、イシュタルは俺達をそこに止め置き、国王の隣へとすすんだ。

 

周りを見渡すと、軍服のようなモノを着た人、文官らしき人がざっと30人は佇んでいた。

 

イシュタルは国王の隣に着くと、おもむろに手を差し出すと、国王はその手を取り、軽いキスをした。そこで俺はこの国に警戒心を抱いた。宗教が統治する国などロクなことはない。テンプレ的にはそうだ。警戒しておいて損はないだろう。

 

そこからはただの自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。

そして十歳ほどの金髪碧眼の少年はランデル王子、その隣にいる14歳程の王女はリリアーナという。

 

後は、騎士団長や宰相など、高い地位の人達の紹介がなされた。紹介されている間、たびたび視線を感じた。コートを被り姿を見せない俺を不審がっているのだろう。

 

紹介が終わると王女、リリアーナが口を開く。

 

「ところで…そこの彼は何故顔を隠しているかはわかりませんが、差し支えがなければお顔を拝見させてはいただけませんか?」

 

リリアーナの言葉にイシュタルさんが事情を説明するが少しの間なら大丈夫だといい覆っていた服を脱ぐ。

 

「私の名はディオ・ブランドー…事情があれど顔を王族の方々に隠していたことを謝罪いたします。」

 

俺が顔を晒すと俺に慣れてしまったクラスメイト以外が男女問わず息を飲む。

黄金色の頭髪、透き通る肌、男とは思えないような怪しい色気。その場にいた女性は全員顔を赤らめ、男性陣はディオの発した声に心を安らげられる。その中の1人、騎士団長のメルドはディオに恐怖する。自分と話すならともかく他人と話すだけで周りにいた自分までもが安らいでいることに。彼はディオの危険な甘さを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうやらディオ様の魅力は異世界でも通用するようだ。女性達の心をズキュンと射止めたようだ。単純に女性から好意を寄せられるのは嬉しいが、それが自分の本来の顔でなくこの未来の姿が約束されたディオ様の顔というのはなんとも言えない虚しさがある…

 

「そ、そうですか…!無理を言って申し訳ございません!!」

 

「いえいえ、こちらはこれから衣食住を提供してもらう身です。このぐらいのことでは無理とは言いませんよ。」

 

軽く微笑むとリリアーナの顔がさらに赤くなる。

が、すぐに真剣な表情に戻り、クラスの皆に聞こえるように大きな声を出す。

 

「勇者様とその御一行様方!!この度はこちらの都合で何の断りもなく召喚したことを謝罪いたします!失礼も重々承知ですが、どうか、貴方様方の御力でこの世界をお救いくださいッ!!」

 

リリアーナが頭を下げた。そう、王族が頭を下げたのだ。相手がもし他国の権力者なら国際問題にもなりかねない。

勿論、国王や王妃、イシュタルは止めるがリリアーナは断固として辞めない。

これに真っ先に反応したのが光輝だ。

 

「安心してください!!ここにいる皆は既にこの世界を救うために戦う覚悟は出来ています!」

 

クラス全員が光輝の言葉に同意する。

俺も当然賛成だ。帰る方法がないなら衣食住を提供してくれる所にいた方がいい。この世界を救えばエヒト様とやらが元の世界に帰らせてくれるかも、という話だそうだ。確信はないが試すしかない。あっちにいるジイさんバアさんが気掛かりだ。

 

「私も当然賛成です。これからお願いします。リリアーナ王女。」

 

俺達の異世界生活はここから始まった。

 

 



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ステータスプレート

低評価を付ける方や面白く無いな、ここは変えた方がいいんじゃないか、等思う方は出来ればでいいのでどこがダメかなど活動報告で教えてください。改善していきたいと思います。
小説向いて無いな、やめれば?的なことはやめてください。心が折れます…


あの後は晩餐会が開かれ、異世界料理を堪能した。見た目は洋食と殆ど同じだった。味は…うん…めっさ薄かった。どんな料理もほぼ食感だけで味はしなかった。夜になって気分も体調も良くなってたんだがなぁ…

まぁその後に部屋に案内されて一眠りさ。眠くならずなかなか眠れなかったが…

天蓋付きベッドは流石にビビった。

 

そして今日から早速座学と訓練だ。

全員が揃うとメルド団長から銀色のプレートが配られた。大きさはというと小さいスマホぐらいのサイズだ。

全員に渡ったのを確認したメルド団長は直々に説明を始めた。

 

「よし、全員に配り終わったな?このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、なくすなよ?」

 

非常に気楽な話し方をするメルド団長。彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいだ。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。“ステータスオープン”と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。あぁ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ。」

 

メルド団長が言うにはアーティファクトとは現在では再現出来ない強力な力を持った魔法の道具のことだ。神やその眷属が地上にいた頃に作られたと言われているらしい。

 

 

周りの皆は顔を顰めながら指に針を刺し血を流す。それを見ていると何故か腹が空いてきた。まるで昨日から何も食べていないかのように…

皆が血をプレートに擦り付けたのを見て正気に戻る。

俺は何思ってるんだ?血を見て美味しそうだなんて…

 

頭を振り変な考えを振り払う。

 

俺も血を出しプレートを擦り付ける。

 

すると…

 

 

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ディオ・ブランドー 17歳 男 レベル : 1

天職 : 吸血鬼

筋力 : 200

体力 : 112

耐性 : 65

敏捷 : 82

魔力 : 90

魔耐 : 28

技能 : 吸血・自動回復・不老不死・肉体操作・異常状態無効・痛覚軽減・剛力・豪運・五感強化・日光耐性・◼️◼️紋[◼️・◼️◼️◼️◼️]・言語理解

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表示された。あれ?文字化けしてる…というかこれ絶対隠す気ねぇだろ…

日光耐性…?あっ、これがあるから灰にならずに済んだのか…!!

 

「全員見れたか?説明するぞ?まず最初にレベルがあるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれが人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達出来る領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない。」

 

なるほど…ゲームのようにレベルが上がってもステータスが上がるわけじゃあないのか…

ところで俺ってば吸血鬼なんだが限界は100までなのだろうか…

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることも出来る。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

別にレベルを上げなくてもステータスは上昇するのか…

装備は俺のステータスやディオの能力的にも素手の方がいいな。

 

「次に天職ってのがあるだろう?それは言うなれば才能だ。末尾にある技能と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦闘系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一つの割合だ。非戦闘系も少ないといえば少ないが…百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持ってる奴が多いな」

 

天職ねぇ…言い換えるとドラ○エの職業みたいなもんか…俺の天職って種族と間違えてない?

そういえば俺達のいた世界は、この世界よりも上位の世界らしく、その世界に住んでいた俺達は、トータスの人達よりハイスペックなのだそうだ。

 

メルド団長の説明を続ける。どうやらレベル1の平均は10程度らしい。俺のステータスを見る。…見事にチートだな…3桁超えてるし…

 

メルド団長の呼びかけに早速、光輝がステータスを報告しに前に出た。そのステータスは……

 

 

===============================

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

===============================

 

俺よりチートじゃあねぇか…バランス良すぎだろ!ゾロ目ですね、はい。俺のは尖ってるからなぁ…

 

「ほお〜、流石勇者様だな。レベル1で既に3桁か……技能も普通は二つや三つなんだがな……規格外な奴め!頼もしい限りだ!」

 

 

 

その後、他の生徒たちも、光輝には劣るが、この世界では充分なチート揃いだった。そして俺の番が周りステータスプレートを報告する。

 

「こ、これは……聞いてはいたが…ステータスも筋力、体力においては勇者をも越している…!!それにこの技能……」

 

何やらすごく驚いているようだ。まぁ吸血鬼だしな。昨日の晩餐会でこの世界の吸血鬼について聞いたが既に300年程前に滅びているらしい。今では余り吸血鬼についての文献は多く残っていないらしく、吸血鬼を知らない人間も意外に多いらしい。

 

少し唸ったメルド団長は小声で俺に忠告する。

 

「このステータスプレートは一部を隠蔽することが出来る…だからこの自動回復と不老不死だけは隠しておけ…!確実に面倒ごとに巻き込まれるぞ…!」

 

「……わかりました…」

 

訳がわからないよ…まぁ面倒ごとに巻き込まれたくない為一応その通りにしておく。全く…吸血鬼といえば不死身ッ!!不老不死ッ!!スタンドパワーッ!!だろォ!!?

最後は違うが…

 

そして最後にハジメが乾いた笑みを浮かべながらメルド団長に報告しに行く。

 

なんであいつの笑み乾いてんだ?まさかあんま使えねーチートだったのか?大丈夫だよ。俺知ってる。使えないチートって大抵終盤で大活躍するから。ラノベで見たもん。

 

ハジメのステータスプレートを見たメルド団長は、今まで規格外のステータスばかり確認してきた為、ホクホクしていたが、「うん?」と笑顔で固まる。「見間違いか?」というようにプレートを叩いたり光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛治する時に便利だとか…」

 

その言葉にいつもハジメを目の敵にしていた男子達がくいつく。食いつかない筈がない。

 

檜山がニヤニヤとしながら声を張り上げる。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か?鍛治職でどうやって戦うんだよ?メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

 

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国のお抱えの職人は全員持っているな」

 

「おいおい南雲〜。お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

檜山がウザい口調でハジメの肩を組む。

 

「さぁ、やってみないとわからないかな」

 

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボい分ステータスは高いんだよなあ〜?」

 

メルド団長の表情からあいつハジメのステータス察して言ってんな…?嫌な性格をしてるな…

強い者に媚び、弱い者を強く出る小物臭漂う性格…前者だけなら世渡り上手なんだがな…

お前の好きな香織や雫も不快げに眉ひそめてんぞ… 俺もだかな…

 

ハジメからプレートを受け取った檜山は爆笑した。そして取り巻きの斎藤達に投げ渡し内容を見た他の生徒も失笑、爆笑なりをしていく。

 

「ぶっはははっ〜、なんだこれ!完全に一般人じゃねえか!」

「ぎゃははは〜、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな〜」

「ヒァハハハ〜、無理無理!直ぐ死ぬってコイツ!肉壁にもならねぇよ!」

 

流石に言い過ぎだ。ハジメとは外では極力不干渉を決めていたが仕方ない… 久々にカチンときた。

俺はハジメのプレートを持って笑っている生徒からプレートを奪う。

 

「何すん…だ………よ…」

 

身長190cm越えの、しかもラグビーをやっていたことで身に付いた巨体に威圧され、喉まで出かかってたいた言葉が潰れる。

 

「君達…少しやり過ぎだ… 私も今まで本人が望まないから静観していたが…流石に我慢の限界だ…!」

 

ギロリと睨まれ笑っていた生徒は焦りながら目を逸らす。そしてハジメにプレートを返しながらも俺は目を逸らさない。

 

「南雲が直ぐ死ぬ?肉壁にもならない?君達は何もわかっていない。これは人間族と魔人族による戦争だ。戦争は戦闘力だけでは成り立たない。孔明然り、黒田官兵衛然り、戦争に置いて後方支援とは最も重要なモノだ。私達は皆、規格外な力を持っている。南雲が持っていない筈ないだろう?

彼はこの世界における伝説級の武器を造り上げるかもしれない。それに私達はこの世界において数少ない同郷の仲間だ。

仲間に非戦職だからといった理由で貶し愉悦に浸るのはどうかと思うのだが…どうかね?檜山くん?」

 

「…………………ッチ……」

 

檜山はバツが悪いように顔を逸らす。

するとそこに小さな体でウガーッ!怒りの声を発する人がいた。愛子先生だ。今年で25歳となる社会科の教師で、身長150cm程の低身長に童顔という合法ロリ。ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。

愛ちゃん先生と親しまれているが、本人はそう呼ばれると直ぐに怒る。なんでも威厳のある先生を目指しているだとか。まずはその身長を伸ばしてから出直して来いと言いたい。

 

「こらー!!ブランドーくんの言う通りですよ!!仲間を笑うなんて先生許しません!ええ、先生は絶対許しません!!」

 

プリプリと可愛らしく怒る先生を見て毒気を抜かれ俺は下がる。

下がると隣に雫と香織が近寄り礼を言われる。

 

「私のかわりに言ってくれてありがとう。すごくスッとしたよ!」

「貴方が言わなければ香織が暴走してたわ…」

 

うん、知ってる。香織の背中になんか見えたもん。スタンド的な何か。すげー怖かった…

 

こっちで二人と話していると、先生が無自覚にチートステータスを見せ、ハジメにトドメを刺していた。

 

俺がハジメを庇ったのは何の為だったのだろうか…と天を仰いだ。コートの隙間から入る日光が痛い…




この部分の原作読んでて思ったのが、何故この時に光輝や龍太郎が何も言わなかったのか…一応正義感が強い設定でしょ?


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吸血鬼の本能

前話のステータスに、肉体操作を追加しました。


ステータスプレートが配られた日の夜、俺は中庭で星を眺めていた。地球の夜は、電気という科学により暗い夜が都会から消え去った。田舎でも最近では昔と比べて明るくなっている。

この世界は電気は無く、火の光を頼りに夜を過ごすため、夜空がより一層綺麗に輝く。

 

俺は空腹感が絶えない腹を摩りながら、王宮の調理場から拝借したワインを嗜む。他の物と同じように味は殆どしないがアルコールは消えないため、軽くほろ酔い状態だ。

こうして酒を飲んだのはいつぶりだろうか…ディオになる前から禁酒していたためなかなか思い出せない。肴に硬いクッキーをガジガジと齧りながら食感を楽しむ。

ふと明日から訓練が始まることを思い出し憂鬱になる。吸血鬼の体質上、夜に訓練した方が効率的とメルド団長に意見し、一人だけ夜に訓練ということになった。昼間は部屋で就寝するという逆転生活だ。

 

すると背後から足音が聞こえ振り返る。そこにはこの国の王女、リリアーナが可愛らしい就寝着を見に纏いながら佇んでいた。

俺は飲んでいたワインのグラスを地面に急いで置き、地面に膝を付き頭を下げる。

 

「ああっ!!ディオ様!!頭を下げる必要も膝を付く必要もありませんっ!!昨日言ったじゃないですか!!国の王女よりも貴方方勇者御一行様の方が地位は高いと!!」

 

頭を下げた俺を見たリリアーナは慌てながら普段の友人のように話しかけて欲しいと言う。王女に普通に話しかけるとか、もの凄く難しいのだが…

本人に言われた為頑張ってみよう。

 

「やぁ、リリアーナ様。夜分遅くにこんな所に何か用かい?」

 

様はいらないのに、と頬を膨らませるリリアーナ。流石に様抜きは出来ない。

 

「その…別に…用事とかは無いのですが……眠れなくて…気分転換に散歩していたらディオ様を見かけまして…」

 

頬を染めモジモジと言うリリアーナ。どうやら眠れないらしい。そういう時は動物を数えながら寝るといい。と自分ではやったことのない方法を教える。多分寝れるだろう。

 

「ありがとうございます!ところで今日の昼に王立図書館にて吸血鬼族について調べて参りましたわ!」

 

「ほう、それは興味深い…是非、私に教えてくれないかい?」

 

リリアーナから話されたのは大昔から伝わる吸血鬼の出てくる童話や伝記だった。その殆どが吸血鬼という存在は敵として登場していた。噛ませだったり敵の親玉だったり。そしてその中に一つだけ興味深い話があった。吸血鬼族の女王についての話だ。幼いながらにし、ありとあらゆる分野で他の吸血鬼を越え、国の為に戦い続けた女王。そして最後は謀反の疑いでオルクス大迷宮のどこかに幽閉されるというバッドエンドストーリーの話。

別にどうせこれも創作の話でしかないため同情したりとかは無い。

興味深く思ったのはその女王が持っていた技能、『自動回復』と決して老いることはなかったという話だ。どうやらこの世界の吸血鬼は太陽の下でも人間と同じように生活出来るらしい。そしてこの世界の吸血鬼は化け物染みた再生能力も不死性もないらしい。しかし女王はそのどちらも持っていたという。

チートやそんなん!!

俺の技能と酷似している。メルド団長はこの話を知っていたからこそ俺に忠告したのだろう。

 

話し終えたリリアーナの頭を撫でニコリと微笑む。するとリリアーナの顔はポッと紅く染まる。見たか、日本!これが撫でポだ。

 

「もう、子供扱いは辞めてください!!え〜と、最後に言い忘れていましたが、その女王は血を主食にしていたそうです。何も食べなくても死なないが腹は減る、そして血を吸うと腹は満たされ魔力も満たされる。と、書いてありました。

…なのでディオ様の腹が満たされないのは血を摂っていないからではないか、と私は推定しました。」

 

血…か…なるほど…吸血鬼だものな…しかもジョジョの…

リリアーナの言っていることには根拠がある。それは、他の人がステータスプレートに血を垂らした時に反応してしまった。美味しそうと思った。

 

するとリリアーナの顔がより一層紅く染まる。

 

「………私の血で…良ければ吸っても…よろしいですよ?」

 

リリアーナは紅い顔で就寝着を着崩し首から肩までのラインを強調する。

腹の音が鳴る程の空腹感、そしてワインによる酔いの一押し。俺を止めるモノは何もなかった。

 

リリアーナの首筋に長くなった歯を添えゆっくりと差し込む。

その瞬間、リリアーナの全身に痺れるような恍惚感が広がっていき、「あぁ!!んん!!」と声を出すが、俺は無視し、根本まで差し込む。すると、肌の奥から、ゆっくりとドロリとした血液が口内にじんわりと入ってきた。

それに俺は夢中になり、傷口に吸い付いた。

血をジュルジュルと啜る。喉を通る度に、甘美な味わいを覚える。2日ぶりの味だ…しかも

極上の…

たった2日、されど2日だ。2日間、味が殆ど無い物を食べ続けたこのディオ()にとって今啜っている血は最高、極上の食べ物だ。

 

私は血を味わいながら、首筋から一気に血を吸い上げる。

リリアーナの体は、甘い脱力感が倍増し、とろけそうな快楽が全身を支配されていた。彼女は余りの快楽に立っていることも出来なくなり、腰を抜かしてしまった。その衝撃で()は我に帰り、歯を抜く。

 

「ハァ…ハァ…ディオ様ぁ…もっと…して…ください…」

 

顔を快楽で歪め、王女がしてはいけない顔で俺に懇願する。

 

……やってしまった。ヤバイ、どうしよう…これ誰かに見られたらヤバイ!!

 

もう一度リリアーナを見ると幸いなことに眠っていた。吸血鬼が出てくる本を探し続けてくれたんだ。それは疲れていただろう。そんななのに夜出歩いていたのは早く俺に聞かせたかったのだろうと今気づく。

 

無茶しやがって…と呟き頭を撫でる。するとリリアーナは嬉しそうに笑う。いい夢でも見てるのか?と思いながら、リリアーナを抱き、とりあえず訓練施設に向かう。そこで騎士に部屋へ届けてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

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リリアーナを抱いて去るディオの後ろ姿を見ている人影があった。星の光でわかることといえばスタイル抜群の女ということだろうか。

ディオに抱かれているリリアーナを見て、女は爪を噛む。私もディオに抱かれたいのに…と呟き、その場から去った。

 

 

 



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恋心

この作品がルーキー日間で11位。日間で53位でした!!
これからもこの作品をよろしくお願いします!!
UA10000突破しました!ありがとうございます!


今日から訓練が始まる。窓から月の光が差し込みうっすらと部屋全体が一望出来る。天蓋付きのベッドに机、その上にはいくつもの本が置かれている。内容は童話、伝記、魔物図鑑、神話だ。図書館から適当に持ち出し、この世界について一から調べていた。それらは殆どの書物にエヒト神が登場し、都合の良い話となっている。

 

俺は体を起こし、氷を口に放り込みガリガリと食べる。昨日の一件でまた禁酒せざるを得なかったため、氷の食感で我慢している。

するとトントンッと扉が二回ノックされる。入る許可を出すと扉が開かれ、一人の女が入ってきた。

雫だ。

 

「おはよう、いや…おそよう…?なんて言えばいいのかしら…」

 

知らん。けどさっき起きたばっかだからおはようでいいんじゃあないか?

 

「やぁ、雫。一体こんな時間になんのようだい?」

 

現在日本の時間で言えば12時ぐらいだ。こんな時間になんの用だろうか。

 

「何? 用が無かったら来ちゃダメなわけ?」

 

「いや、そんなことはないが…」

 

なんか雫の機嫌が悪いな…光輝がまたなんかやらかしたのか?少し間をおいて雫が話し出す。

 

「ディオ…貴方昨日リリアーナさんの血…飲んでたわよね…?」

 

やっぱり光……あれ…?ちょっと待て…今なんて言った?

 

「とぼけても無駄よ…!私、この目でしっかりと見てたから」

 

な、なァァんだってェェエエ!!?あれを見られていたのか!!?どこでだ!!

でもあれは、ねぇ…?こっちも誘われた訳だし…俺悪くないよね?多分。如何わしいことはしてないし。食事だしね。

 

「あれは両者同意でのものだ…それに私はこの世界に来てから吸血鬼になったんだ。血を飲まないと飢えてしまう… 何かね?君は私に血を吸うなと言うのかい?」

 

「いや…それはッ…」

 

フフフッ!!効いているぞッ!!これが最後の口撃だァッ!!

 

「それとも君が私に血を飲ませてくれるというのかい?」

 

フッ…決まった…!!これで雫は何も言えまい!!人間というものは得体の知れないモノを忌避する習性がある!例外もいるが大抵はそうだ!!例えるなら何も持っていない状況でジャングルにある洞窟に入るということと同じことォ!!これなら慎重かつ常識人の雫は…!!

 

「…えっ!!?あッ…!!うん…!!」

 

 

 

 

…え?いいの…?ちょっと待て!!本当にいいのか?

 

雫は頬を染めながらコクコクと頷いている。少しキャラが崩壊している気がする。さながらその姿は恋する乙女だ。多分…

俺も鈍感ではない(と思う)。ここまでされれば好意を持たれていることくらい気付く。しかしそこで疑問が湧く。何故彼女は俺に好意を持ったかだ。普通の女性ならまず容姿だろう。しかし彼女の隣にはいつもルックスだけはいい光輝がいたのだ。

だが今はどうでもいい。腹が減った。そして昨日の血の味を思い出す。あれほど美味な物を生まれて口にしたことはなかった。ずっと口にしていたいと思ったのも初めてだった。俺がディオになる前にもこんなにも美味な物はなかった。

 

「では…今から頂くとしよう…」

 

「えぇ…」

 

 

ディオの部屋に甘い声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「因みにノックは3回だ。2回はトイレの時のノックだぞ。」

 

「ええッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

あれから二週間が経った。夜中に訓練を続け、ステータスもかなり上昇した。

 

 

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ディオ・ブランドー 17歳 男 レベル:7

天職:吸血鬼

筋力:400

体力:232

耐性:101

敏捷:115

魔力:134

魔耐:75

技能:吸血・自動回復・不老不死・肉体操作・異常状態無効・痛覚軽減・剛力・豪運・五感強化・日光耐性・◼️◼️紋[◼️・◼️◼️◼️◼️]・言語理解

===============================

 

これが、夜中に合間合間に訓練した俺の成果だ。雫に光輝のステータスを聞いたが、レベル10で、ステータスはオール200という。

俺のステータスの伸びがなかなかに凄い。筋力が400だ。これだけはメルド団長を既に超えている。

この理由は一つある。それは吸血だ。最近は吸血の研究をしている。

まずは口。雫やリリアーナにしたのがこれだ。これは血を味わうことに特化している。対象に痛みではなく快楽を与えながら、自分は血の味を味わうことが出来る。吸血するスピードは遅い。

そして手。これは相手の肌に手を喰い込ませ、血を一気に吸血することが出来る。快感は無く、血を失くなっていく喪失感だけがあるらしい。口と大きく違うのは、味わうことが出来ないということだ。手からの吸血は、ただただ栄養だけを摂取するだけで、言い換えれば栄養剤を直接血管に送っているような感じだ。吸血するスピードは速い。

 

そして味についてだが、男よりも女の方が美味だった。メイドさん達にも少し協力してもらったところ、大抵の女性の血は美味だった。

そして男は、ハジメやメルド団長に手伝ってもらった。一言で言えば不味い。ありあわせの具材と調味料を混ぜて、数日間混ぜ続け、発酵するまで置いておいたスープのようだ。口にしたこと無いが。血を飲んだ瞬間、顔を歪めてしまった。

しかし味は不味いが、その分、魔力の回復量等が女性に比べて大きかった。

 

そして、口と手が共通しているのは、吸血することで、ステータスを上昇するというところだ。雫の血を初めて食した時に、プレートを確認すると、ステータスが少し上昇していた。しかし、メイドのような戦闘力においてでの格下では上昇しなかった。メルド団長の時はマジでビビった。

 

これが研究と実験の成果だ。

そして、俺は魔法の適性がなかった。つまりは魔法を使うのに時間を要するということだ。

 

かなり面倒くさい。正しい魔法陣を展開し、長ったるい詠唱をした後に、魔法が使えるという訳だ。適性があれば詠唱とイメージだけで実行出来るらしい。まぁ俺ってばディオ様だし?魔法なんて外道よ外道。別に悔しいなんて思ってなんかいないからね!

 

最近、檜山達のハジメに対するイジメが激しくなったと雫から聞いた。昨日なんて魔法を使ってリンチにしていたらしい。こいつはめちゃ許せんよなぁ?

もしまた俺の目の前でイジメが行われたら俺はあいつらにお仕置きする所存だ。

 

そして今日、朝になれば実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行くそうだ。そのため、俺の逆転生活をみんなと合わせるため、今日は徹夜だ。

ん?徹夜…?徹昼か?徹朝か?まあいいか。

 

オルクス大迷宮とは全百層からなると言われている七大迷宮の一つと言われており、深層へ行けば行く程、強力な魔物が出現するという。

そしてその魔物から出る魔石を目的に冒険者等が集まるという。魔石とは興味が無いためあまり知らないが、魔法陣を作成する際に使用する物だとか…

 

今日はオルクス大迷宮への長旅になるため、訓練はせず、大図書館で本を読むことにした俺は、ベッドで恍惚に浸るリリアーナに布団を掛け、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 



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オルクス大迷宮へ行こう

夜は明け、太陽が昇る。俺達は馬車に乗り冒険者のための宿場町、【ホルアド】に到着した。新兵訓練によくオルクス大迷宮を利用するため、王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

 

どうやら二人部屋らしく、俺とハジメが同室だそうだ。王宮を出たのは日中だが、ホルアドに着く頃には既に空は暗くなり、これから就寝の時間だ。

当然ながら吸血鬼の俺は活性化し、眠ることが出来ない。というかそもそも睡眠を取る必要性もない。睡眠を取っているのは人間だった頃の習性を体が、脳が覚えていたからに過ぎない。眠れないならハジメも巻き添いだと眠ろうとしているハジメに話しかける。

 

「ハジメ、雫から聞いたぞ。またあいつらにやられたらしいな」

 

疲れた顔を布団から覗かせハジメは答える。

 

「まあね…けど気にしてないから大丈夫だよ…」

 

「全く…君は損をする性格だな…ちょっとは言い返してみればいいんじゃあないか?」

 

俺の言葉に苦笑いをしながら答える。

 

「ハハハ、まぁ僕は最弱だからね…言い返しても昨日みたいにやられるのが関の山だよ。」

 

ハジメが自虐し、傷ついているとドアがノックされる。現在、トータスにおいては十分深夜にあたる時間だ。何かデジャヴが…

 

「私が出る」

 

俺は腰掛けていた椅子を引き、立ち上がる。そして、ドアへと近づくとドア越しに声が聞こえてきた。

 

「南雲くん、ディオくん、起きてる?白崎です。ちょっといいかな?」

 

香織?何故この部屋に?ハジメか?ハジメに用事があるのか?

俺は疑問を持ちながら鍵を外しドアを開く。そして絶句する。

 

「「…なんでやねん」」

 

思わず素が出てしまった。何故なら、それは香織の服にあった。純白のネグリジェにガーディガンを羽織っただけの姿でドアの前に佇んでいたのだ。

 

これがジャパニーズYOBAIか… いや、俺も元日本人だけどさ…

 

「えっ?」

 

よく聞こえなかったのか香織はキョトンとしている。

 

「いや、なんでもない。どうしたんだい?何かあったのかい?」

 

「ううん。その、少し南雲くんと話したくて…やっぱり迷惑だったかな?」

 

これはマジでハジメを誘ってるんじゃあないか?俺もディオじゃあなかったら襲っちゃうぜ。そんな勇気なかったけど…

 

「いや、迷惑じゃあないさ。私はこれから夜の街に散歩に行く予定があったからね。私は混ざれないが二人で話しておいてくれたまえ。」

 

俺は香織を中に入れ、代わりに俺が出る。

そして振り返りハジメに向かって、親指を上げサムズアップする。

 

『据え膳食わぬは男の恥だ。後、子供を楽しみにしてるぞ。』

 

そのサムズアップに含まれている意味を理解したハジメは顔を紅くさせ、逃げるな!と目で訴えてくるが無視し扉を閉める。

…さぁ〜て …誰にこのネタ教えようかなぁと思いながら夜の街へと向かった。

 

 

の、その前に…

 

「檜山大介!貴様!!見ているなッ!!」

 

右手を顔の前に置き、左手の人差し指を物陰に向ける。姿は見えないが技能の五感強化のお陰で、誰かがいるのを把握出来る。そして本人が小声で独り言を呟いていたからだ。流石に何を呟いていたかはわからなかったが、その声で檜山と断定することが出来た。

 

「…………………ウッ…」

 

少しの間、出て来なかったが、微動だにしない俺の姿を見て、観念したらしい檜山は姿を現す。その顔は信じられないモノを見たような顔をしていた。

その場で話すのはハジメ達に悪いため、檜山を連れ、人気のない場所に移動し、対面する。

 

「一体何の用だ?…まさか、香織を尾行していたりはしてないだろうな?それとも南雲を闇討ちか?」

 

「白崎は中で何をしてんだ!!?中に無能の南雲はいるのか!!?」

 

「質問に質問で返すなと言いたいところだが…まぁいいだろう。香織は中で何をしているか、南雲はいるか、だったな…

貴様に教えることはないとだけ言っておいてやろう…」

 

檜山の顔は憤怒に染まる。

 

「巫山戯るなァアッ!!なんでアイツだけなんだ!!お前や天之河なら俺も諦められるッ!!だが南雲!!あの無能が!!何もしねぇキモオタが!!屑のくせして白崎と…「少し黙ろうか…!」ヒィッ!!?」

 

檜山に壁ドンの要領で檜山の背後にある壁を打ち砕く。背後の壁は俺の手を中心にヒビが入り、ガラガラと音を立てて崩れる。

檜山は座り込みズボンを濡らす。

 

「私は何も聞かなかったことにしよう…」

 

「…へっ?」

 

何を言っているのかわからないとばかりに、目を見開いてこちらを見る。

 

「わからない奴だな…私は見逃してやる、と言っているのだ。だが…貴様が次に何かをしようものなら…

このディオ…容赦せん…!!」

 

ギロリと睨むと檜山は弾かれたように飛んで逃げていった。

ここでアイツを殺ってしまっても構わなかったが…構わない…?いや!構わなくない!!人間如きの命…如きじゃあない…ッ!!なんだ!?何なんだこの気持ちは…!!?気を抜くと人間が食糧にしか見えなくなる…!!虫ケラの命と同程度に考えてしまう…!!

 

 

 

 

気分が優れない…徹夜で疲れてるのだろう…街に行くのは辞めにして寝よう。どこがいいだろうか…建物の構造的にもあの中庭のベンチは朝日は入らない筈だ…そこで寝よう。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

翌日、俺達はオルクス大迷宮の中へと足を運んでいた。縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのにぼんやりと発光しており、松明や魔法具が無くても視認可能だ。

何もない通路を歩いている際に、ハジメに深夜の話を聞くと、何もなかったようだ。ヘタレめ。と呟くとかなり落ち込んでいた。ついでに「女に守ってくれ…普通は逆じゃあないか?」と追撃しておいた。ちょっと可愛いそうだなと思いました。

迷宮に入ったことで、日光が完全に遮断され、今では夜と同じように絶好調だ。

 

しばらく進むと、通路が広くなり、ドーム状の大きな場所に出た。天井は七、八メートルはありそうだ。

次の瞬間、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が溢れ出てきた。

 

メルド団長が言うにはラットマンというらしい。容姿を簡単にいえば筋肉質なネズミだ。筋肉ムキムキのボディービルダーの頭をネズミに変えたコラ画像のような容姿をしている。すごく気持ち悪い。

 

ラットマンは、無慈悲にも、光輝達に瞬く間に蹂躙されてしまった。まぁ、オーバーキルでメルド団長に注意されていたが。

 

 

その後も、順調に進んでいき、チートにものを言わせ、俺達は二十階層を探索していた。

 

 

 

「擬態しているぞ!周りをよ〜く注意しておけ!」

 

メルド団長の忠告が飛ぶ。

 

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。その姿は完全なるゴリラ。カメレオンのように擬態することが出来るようだ。

 

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!剛腕だぞ!!」

 

ロックマウントは光輝達に雄叫びを上げながら突撃する。ロックマウントは大きく腕を振りかぶり、剛腕を放つが、天職『拳士』の龍太郎が弾き返す。前衛の光輝、雫が取り囲もうとするも、鍾乳洞的な地形のせいで思うように囲むことが出来ない。

 

龍太郎に弾かれ続けるロックマウントは、業を煮やしたらしく、攻撃を一旦やめ、後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

直後、

 

「グゥガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

部屋全体が揺れる程の咆哮を放つ。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

三人はまともに近距離で咆哮を受けたため、体に電流が走ったように硬直してしまった。

 

するとロックマウントは近くにあった岩を持ち上げ、後衛の香織達に目掛けて、綺麗なフォームで投げつけた。回復役から倒そうとしてんのか…意外に頭いいなこいつ。

 

メルド団長の隣で感心していると、香織達、後衛組は杖を向けて迎撃準備に入る。しかし投げられたのは、擬態したもう一体のロックマウントだった。そして俗にいうルパンダイブで香織達に迫る。

香織達は、妙に目が血走り鼻息の荒いロックマウントに思わず悲鳴を上げ、魔法の発動を中断してしまった。

 

隣のメルド団長が助けに行こうとしたため、俺が出ると伝え香織達の前に躍り出る。

 

「気化冷凍法ッ!!」

 

俺は手を前に突き出し、ロックマウントを迎え撃つ。ロックマウントが俺の手に触れた瞬間、体は氷に包まれる。何故凍ったか…それは技能の肉体操作で俺の肉体の水分を気化させたことで周囲の熱を奪ったからだ。最初は少し冷やすだけしか出来なかったが、二週間の訓練で原作同様、ダイアーさんを凍らせることが出来るレベルまで仕上がった。

 

「モンキーが人間に勝てるかーッ!!」

 

俺は叫び凍ったロックマウント(モンキー)を砕く。そしてしっかりと魔石を回収しておく。やっっっばい!!すっげー楽しい!!この倒し方!!檜山がまた何かやった時はダイアーさんゴッコで殺るか…

 

「あ、ありがとう、ディオくん!」と俺に礼を言うも、相当気持ち悪かったらしく、まだ青ざめている。

そんな香織達を見た光輝がまた勘違いで暴走し、残ったロックマウントに向けて威力の高い“天翔閃”を放った。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを両断し、更に奥の壁も破壊し尽くした。

 

「ふぅ〜」と満足そうに息を吐き、俺達に近づこうとすると、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を喰らった。

 

なんか光輝が叱られてるの初めて見た気がする。そう思うとメルド団長みたいな人は貴重だな。さてと、俺も最後尾の警戒に参加しよう。

 

俺ら一行には何名かの騎士団員が参加している。全員実力は折り紙付きで、光輝程度なら経験と技術で倒すことが出来るほどの実力者だ。その中の一人が列の最後尾で警戒に当たっているのだ。しかもその人、人見知りらしくメルド団長しか話せる人がいないのだとか。名前はたしかアドースさんだ。

一人じゃあ寂しいだろうから俺も参加する。

 

「私も警戒します。よろしいですか?」

 

「………」

 

コクリと頷き視線を俺から通路に移す。俺も通路に視線を送り警戒しつつも、横目で騎士を見る。

大体身長は184程か…筋骨隆々でメルド団長よりもガタイがいい。タカキくんにも負けない程だ。

 

そんなことを思っていると前列の方から叫び声が聞こえた。

 

「こら!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

 

メルド団長の視線を追うとそこには壁に攀じ登っている檜山の姿があった。何やってんだあいつ。目を凝らすと手先にはキラキラと光る鉱石があった。どうやらアレを取ろうとしているらしい。

 

「団長!トラップです!」

 

罠を探知するフェアスコープという魔法具をつけた騎士団員が叫ぶ。しかしそれは遅かった。騎士団員が言うのと同じタイミングで檜山が鉱石に触れてしまった。すると鉱石は、転移の時と同じように魔法陣が展開され、眩い光を放つ。

 

これは!!?某ダンジョンゲームでお馴染みのモンスターボックスか!!?と思ったのも束の間、最後尾にいた俺とアドースさんを残し、皆は光に呑まれ、跡形もなく消え去ってしまった。

 

「これは…!!?転移トラップか!?」

 

二十階層には俺とアドースさんの姿しか残っていなかった。

あいつ…何かあったらダイアーさんの刑だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

光に呑まれたハジメ達が見たものは正に地獄だった。柵も縁石もなにもない石橋に転移させられ、背後にはトラウムソルジャーが数百体、そして前方には、額に大きな角が二本ある巨大な魔物が魔法陣により召喚された。

 

その魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

 

「まさか……ベヒモス……なのか……」

 

過去最強とまで呼ばれた冒険者達でも手も足も出なかったと言われる魔物が今、ハジメ達の前に立ち塞がった!!

 

 

 

「グルァァァァァアアアアア!!!」

 

 

 

 

 



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奈落へようこそ

「くそッ!!あの宝石は残ってないのかッ!!?」

 

俺とアドースさん以外が転移トラップで何処かに飛ばされた元凶である宝石を探すが見つからない。

 

「…あ、あのようなトラップは一度発動すると一定時間が経つまで現れることはありません!!」

 

「くっ…ッ!!ここで無闇に動くのは得策ではないッ!!しかしそれでは間に合わんかもしれん!!一体どうすれば…!!」

 

アドースさんによるとトラップによって復活する時間が異なるらしく、数十秒で復活するトラップもあれば数ヶ月かかるのもあるらしい。

無闇に動こうにも何処に転移したのか見当もつかない。下の階層、上の階層、ここで間違えれば詰む!!

 

「私は下の階層を探索するッ!!貴方は上の階層をお願いしたいッ!!」

 

「で、ですが…ッ!!」

 

「ツベコベ言うんじゃあないッ!!今は一刻を争うッ!!見つけ次第この魔法具を使え!!勇者達が見つからなかった場合は冒険者ギルドに救援の要請を頼むッ!!」

 

今日、大迷宮に挑む前に市場で買った魔法具をアドースさんに投げ渡す。これは『ペアブレイク』と呼ばれる魔法具だ。二個で一つという特殊な魔法具で、この二つの魔法具は特別な電波のようなもので繋がっていて、片方を潰すともう一つも破壊されるという緊急用のサインアイテムだ。どんな場所でも使えるが、消耗品で、価格も高いということで余り人気のない魔法具だ。買ったのは気まぐれだったが今朝の自分を褒めてやりたい。

 

 

 

俺はトラップ部屋を後にし下層への階段へと目指す。当然、過去にマッピングされている45階層までの構造は完璧に把握済みだ。俺がわざわざ下の階層を選んだのはこのためだ。アドースさんをはじめ殆どの団員は迷宮の構造を把握しきれていない。地図を見ればいい話だが、今はそんなことをしている時間も惜しい!!

 

技能の五感強化と剛力をフルで使用し、迷宮を駆け回る。道中で出会った魔物は無作為に凍らし砕く。ちぎっては投げちぎっては投げを繰り返し下層へと降りていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「UREYYYYYYYYY!!邪魔だァーッ!!この虫ケラ同然の犬っころどもがァアーッ!!」

 

狼のような魔物の顎を膝で蹴り上げ、そのまま腹にストレート。狼は吹き飛び後ろにいた狼を巻き込みながら壁に激突する。

 

現在38階層。この数分でここまで降りれたのは快挙とも言えよう。ほんの数分でここまで降りれたのは俺の技能、豪運のお陰だ。落下系のトラップに何度か落ちたことで何階層かはカット出来た。それに見逃しという愚かな行為は行っていない。何故なら五感強化を聴覚に全振りしているため、今いる階層、一つ上の階層、一つ下の階層を全て聞き取ることに成功している。ごちゃごちゃとしていて詳細は聞き取ることが出来ないが人間がいればすぐにわかる。

 

魔力消費量がかなり高い為、魔力回復薬を煽り飲みながら走ろうとすると、狼の魔物を叩きつけた壁が崩壊し、二十階層のと同じような隠し空間が現れた。

 

「こ、これはッ…!!?」

 

中に恐る恐る入るとそこには二十階層で見たのと同じ鉱石が壁に埋め込まれていた。

 

「これは…!!?あの鉱石…!!何処に転移するかわからんが…!!賭けだ!!私はハジメ達がいる階層へと転移することに賭けるッ!!」

 

鉱石に触れると、床に魔法陣が現れ、眩い光を放ち、ディオを呑み込んだ。

 

 

 

 

 

後で分かる話だがこのトラップ。位置はランダムで、一度効力を発揮すると別の場所に移動するという厄介極まりない機能を持っているのだった、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

俺が飛ばされたのは障害物が何もないだだっ広い空間だった。縦横500mはあるであろう空間の真ん中には大きな魔法陣が刻まれている。俺は直ぐに聴覚を最大限に強化し、階層ごと捜索する。

 

 

 

……………………あれが見えないの!?みんなパニックになってる!リーダーがいないからだ!!

 

 

 

「フフフ…やったぞ!!『運』は私に味方してくれているッ!!」

 

一階層下からハジメの声が聞こえた!!同じ階層ではなかったがこれなら許容範囲だ!!後はこの階を下るのみッ!!ペアブレイクを握り潰し足を進める。すると突如、魔法陣が輝き出し、一体の魔物が姿を現す。

 

 

 

 

「ウオオォォォオオオオオオオオオオオオン!!!!!!」

 

雄叫びを上げたこの魔物。血のように赤い毛並み、額には黒い新月を表しているのか、黒い丸がある。体格は今までの狼達と比べ物にならない程に巨大だ。口からは足の膝にまで伸びる鋭い牙が生えており、目らしきものが八つ並んでいる。

 

コイツは…本で見たぞ…たしか64階層の魔物!!名は“ファングウルフ”!!かつて最強と呼ばれた冒険者チームを一匹で壊滅寸前までに追い込んだ魔物!!ここが64階層なら…ハジメ達の前にいるのはベヒモスか!!?早く向かわねぇと!!

 

たしか耐久性が低いかわりに筋力と敏捷が信じられないほ…ど…に………?

 

その瞬間、俺の腕に強烈な痛みが走った。自分の腕を見ると既にそこには俺の腕はなかった。振り向くとそこには見覚えのある手を咀嚼しているファングウルフがいた。すると、突如ファングウルフは体を震わせ、全て吐き出した。

 

「貴様は……誰の許可を得てこのディオの腕を食べッ!!剰えもそれを吐き出したなァッ!!」

 

俺の怒りの声と同時に腕が再生する。感覚も元に戻り違和感を感じさせない。

 

「貴様をッ!!惨殺処刑してくれようッ!!」

 

俺はファングウルフに接近しようと動く。すると目にも追えない速さで俺に牙を突き立てる。「仕留めた…!」と不敵な笑みをファングウルフは漏らすが、直ぐにその笑みは消える。

心臓部分に牙を突き立てた目の前の人間が何事もなかったように平然とした顔でこちらを見つめているのだ。ファングウルフが感じるのは本能的な恐怖。

そして子犬を撫でるような顔でファングウルフの顔に触れる。すると突如、俺の視線は養豚場の豚を見るような目に豹変し、触れた部分から氷漬けにされていく。

マズいと思ったファングウルフは牙を俺から抜き、大きく背後へ飛んだ。そして着地と同時に床を蹴り突進してくる。普通なら目に追えない程のスピードだが、五感強化で聴覚と視覚を強化。ギリギリで避けるが少し擦り、脇腹が抉られ持っていかれる。

しかし自動再生により瞬時に回復。そして反撃態勢に入る。

 

「どうした…!?ファングウルフ!!貴様の攻撃ッ!!なまっちょろいぞッ!!」 

 

俺はさっき出来た瓦礫の破片を拾い、全力で投石する。

しかしそれをファングウルフはそれを全て回避し、口から赤黒い光線を放つ。それを俺は体を逸らすことで何とか避け、再度、瓦礫を投げ続ける。

ファングウルフは全て躱していたが一発当たり少し後ろに下がる。

筋力400越えのステータスに、吸血鬼としての天職補正、そして剛力から繰り出される瓦礫はまさに原始の大砲だ。

 

ファングウルフは怒りの咆哮をあげ、赤黒い光線を放つのではなく、体に纏うと、先程までとは比べ物にならないくらいの速さで俺の横を通り過ぎる。反射的に体が動き、横っ飛びで回避するように試みる。しかし、それでも直撃してしまい首から上の部分だけを残し、他は消滅してしまった。今の俺は完全な生首状態だ。

 

そんな俺の姿を確認したファングウルフは勝利の笑みを浮かべながら、魔法を解き、俺の目の前に歩み寄り前足を振り上げる。

 

「かかったな間抜けがァアッ!!空裂眼刺驚(スペースリパーススティンギーアイズ)!!」

 

技能の肉体操作で、眼球内の体液に高圧力をかけ、目から水圧カッターをビームのように繰り出す。それはファングウルフの喉を貫通し、ファングウルフの目からは生気が消え、力無く崩れ落ちた。

それを確認した俺は安堵の溜息をつく。

 

「ふぅ…危なかった…後少しでも避けるのが遅れていたら私は灰になっていた…!!」

 

そこで俺が今すべ気ことを思い出す。

 

そうだ!!こんな場所でゆっくりしている暇は無い!!くっ!!早く再生しろ!!

自動再生があるものの、首以外が消滅してしまえば時間が掛かる。それに血を流し続け、魔力も殆ど残っていない状態では尚更だ。

 

「クソッ!!どうすれば…!!」

 

そこで、近くに力無く倒れているファングウルフの死体が目に入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いけるか?

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

そのころ、一層下の65階層ではハジメが錬成を駆使し、ベヒモスの足止めをしていた。地面を隆起させ、ベヒモスの四肢を全て固定し、上半身を覆い尽くす。通常の魔物ならこれでオーバーキルなのだが、やはり相手は現在確認されている中での最強格にある魔物だ。ハジメの錬成など足止めにしかならない。しかも気を抜けば一気に破られる。

 

そしてハジメの魔力の残り残量はもう尽きかけており、ハジメ自身もそのことに気付いていた。ハジメは後ろをチラリと確認すると、どうやら全員撤退出来たようだ。

 

ハジメが立てた作戦はこうだ。ハジメが錬成を使いベヒモスを足止め、そしてその間に光輝達が背後のトラウムソルジャーを倒し階段への通路を確保。確保すると頃合いを見てハジメが避難、そして撤退したみんながベヒモスに魔法を放つというハイリスクな作戦である。

現在、その作戦の後半へと入り、後は隙を作り自身が撤退するだけだ。

 

ベヒモスがもがき、数十度目の亀裂が走ると同時に最後の錬成でベヒモスを拘束する。そしてハジメは一気に駆け出した!

 

ハジメが逃げ出した数秒後、地面が破裂するように粉砕されベヒモスが咆哮と共に起き上がる。そしてその目には憤怒の色が宿り、ハジメを捉えている。

 

ベヒモスが追いかけようと四肢に力を溜めた次の瞬間、あらゆる属性の魔法がベヒモスに殺到した。

 

夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージは無いようだが、しっかりと足止めになっている。

 

その時だった。無数に飛び交う魔法の中で一つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げたのだ!

 

ハジメの顔は凍りつく。何故ならその火球はハジメを狙い誘導されたものだったからだ。

 

(なんで!?)

 

咄嗟に踏ん張り、止まろうと地を滑るハジメの眼前に、その火球は突き刺さった。着弾時に生じた衝撃波をモロに受けたハジメは来た道を引き返すように吹き飛ぶ。

ダメージは無いが、三半規管をやられ平衡感覚が狂ってしまった。

フラフラしながら少しでも前に進もうと立ち上がるが…

 

ベヒモスがいつまでも一方的にやられっぱなしではなかった。ベヒモスは怒りの咆哮が鳴り響き、ベヒモスの頭部が赤熱化し、眼光がハジメを再び捉える。

そして赤熱化した頭部を盾のようにかざしながらハジメに向かって突進する。

 

ハジメはなけなしの力を振り絞り、必死にその場を飛び退いた。その直後、ベヒモスの攻撃で橋全体が震動し、着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走り、橋が遂に崩壊を始めた。

 

「グウァアアア!?」

 

悲鳴を上げながらベヒモスは奈落へと落ちていく。橋は今もなお、崩壊が進み、ハジメがいる場所が崩壊するのも時間の問題だった。

 

 

その時、クラスメイトの背後から聞き覚えのある声が65階層に響き渡る。

 

「UREYYYYYYYYYYYッ!!!!」

 

階段から現れたのは産まれた時の姿をしたディオだった!!つまり素っ裸だ!女子達が顔を赤くさせキャーキャー騒ぐがディオは気にせず光輝からマントを、龍太郎からは黒いタンクトップのような物を奪い取り、此方に向かいながら着衣する。マントを腰に巻き終えたディオは、物凄い速さでハジメのいる所まで走りより、遂に崩壊に巻き込まれ、落ちていくハジメに手を伸ばし、ハジメの腕を掴む。

 

「ディオ!!?」

 

「私は死なん!!だから…ハジメも…生きろ!!」

 

ディオは掴んでいた腕を振り上げハジメを安全なメルド団長の元へ放り投げる。

 

「う、うわぁぁああ!!?ディ、ディオーーーーーーッ!!!」

 

これでいいんだ。俺は不老不死…いつかは王宮のみんなの元へ帰れるさ…帰ったら檜山は殺す…!!

 

 

 

 

しかしここでアクシデントが起こる。

 

「グッ!!?」

 

投げられメルド団長らの所へ飛んでいたハジメが蝙蝠型の魔物に衝突し、ハジメも落ちてきたのだ。

 

ディオはハジメとぶつかった魔物をよく見れば、それは二十階層付近に生息する魔物だった。何でこんな所に!!?

 

 

 

 

 

ディオとハジメは奈落の底へと落ちていった。崖の上では泣きながら飛び降りようとする香織と、同じく泣きながら香織を必死に止める雫の姿があった…




鉱石の設定は独自設定です。


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第2ラウンド

AU30000超えましたァア!!更にお気に入りが1000件を超えました!!ありがとうございます!!これからもこの作品をよろしくお願いします!!!

すごく難産でした


俺とハジメは落ちる、落ちる。底は見えない。それは、もう底なんて無いんじゃあないかと思うほどだ。

 

俺とはかなり離れて落ちているハジメは、落下の恐怖で気絶してしまっている。かく言う俺は落ちる恐怖は感じるが、このように考えに耽る程の余裕がある。

やはり吸血鬼に心が引っ張られてしまったのだろうか。昨日のことといい、日本にいた頃と価値観がかなり変わってしまった。親しい仲の人間以外は食糧としか思えなくなってきている。

 

先程から視界の端で横穴が何度か通り抜けた。つまり助かる可能性もあるということだ。ハジメの方を見る。そして突如、ハジメの姿が消えた。 

否、崖の穴から溢れ出した鉄砲水でハジメが吹き飛ばされたのだ!

そのままハジメは横穴に運よく入り込み、ウォータースライダーのように滑り込んで行ったのだ。

 

「何ィィイイ!!?」

 

ハジメが滑り込んだのはかなりの深層!!レベル、ステータスの低いハジメでは殺される!!助けに行かねば…ッ!!

 

しかし宙にいるため何も出来ない。そのまま俺は落ちていく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

あれからどれだけ経っただろう…一日?二日…?ずっと同じ景色を見ていて、既に時間感覚がおかしくなってしまった。終わりのないのが終わりとはよく言ったものだ。

この奈落、全く底が見えない。落ちても落ちても底は真っ暗。カーズ様みたいに考えるのを辞めようかと本気で考えるほどだ。

 

 

 

しかし突如底が見え、俺は地面に叩きつけられる。

 

「ウゲェエ!!?」

 

体は衝撃でグシャッと音を立て、風船のように破裂した。内臓が飛び出し、それも衝撃により破裂する。

これで終わりか…と思い、再生しながら周りを見るとどうやら違うようだ。

俺が今いるのは65階層と同じような橋の上だ。しかし65階層と違うのは、人工?で出来たものではなく、自然で出来たものだということだ。

崖から生えた大樹が大きな橋の代わりとなっているのだ。それも大きく、穴を半分程埋め尽くしている。

更に周りを見るとベヒモスが満身創痍でこちらを睨んで佇んでいる。

 

 

さて、ここからどう登るか……………………………………ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何でベヒモスがいんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゥガガァァァァアアアアッッ!!!」

 

 

雄叫びを挙げ、ベヒモスは頭部を赤熱化させ、突進してくる。俺は再生しきった体を動かしそれを回避する。

 

何でここにベヒモスが!!?あいつまだ生きてたのか!!?何つーータフネスだ!?化物か!!クソッ!!

 

ブーメランな悪態を吐きながらベヒモスと距離を置く。ベヒモスを観察すると、先程も述べた通り、落下のダメージを受け満身創痍だ。普通はこの高さなら潰れると思うが、この大樹、凄く柔らかい。俺が弾けたのは耐久性の違いだろう。

ベヒモスは驚異的な耐久性であの程度のダメージで済んだのだろう。本当に化物である。

そうこう考えている内に、ベヒモスはこちらに向き直り再度、頭部を赤熱化させ、突進する準備をしている。

 

「穏やかじゃあないな…!落ちたもの同士仲良くしようじゃあないか…!!」

 

ズボン代わりにしていたマントと、龍太郎から奪い取ったタンクトップの残骸を破り捨て、俺は構える。

 

「さぁ!!第2ラウンドを始めようかッ!!」

 

ベヒモスと俺は同時に駆け出した。

 

 

 

===============================

ディオ・ブランドー 17歳 男 レベル:28

天職:吸血鬼

筋力:856

体力:295

耐性:168

敏捷:351

魔力:186

魔耐:128

技能:吸血・自動回復・不老不死・肉体操作・異常状態無効・痛覚軽減・豪力・豪運・五感強化・日光耐性・◼️◼️紋[◼️・◼️◼️◼️◼️]・魔力操作・言語理解

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

その頃、ハイリヒ王国王宮内では…

 

召喚者達に与えられた部屋の一室で、雫は暗く沈んだ表情で未だに眠り続ける香織を見つめていた。

雫は親友を見つめながらディオとの出会いを思い出す。

 

 

 

 

あれは今から9年、いや…10年ほど前だったかしら…

あれは私が小学生の頃、光輝と一緒にいるのを気に喰わなかった少女達が私に嫌がらせややっかみを受けるようになった。

それを光輝に相談するも、事態を悪化させてしまい、光輝にバレないような陰湿な嫌がらせが多くなった。

そして複数人の少女達に、体育館裏に呼び出された。簡単にいえば脅迫された。今までのことを光輝に言えばどうなるかわかってんでしょうね?ということだ。

 

そしてそこにディオが現れた。彼は唐突に現れ、少女達を睨み、常人ならざるオーラを纏いながら悠然と佇んでいた。オーラにオノマトペを付けるなら、ゴゴゴゴかドドドドだろう。

 

睨まれていた少女達は萎縮し、その場から慌てて逃げていった。助けてくれた彼に礼を言おうとすると、既に彼はその場を去っていた。

そこから彼との付き合いが始まった。ディオがひと睨みするだけで、今までの嫌がらせは全てなくなった。

私を守ってくれる存在、そして彼の逞しい背中。そんな彼に私、八重樫雫は恋をした。

 

 

 

 

そこからディオは二回も私と違う人と付き合ったんだけどね…

 

 

雫は昔のことを思い出しながらも、香織の手を取る。

香織に早く目覚めて欲しいと思いながらも同時に眠ったままで良かったとも思っていた。

 

帰還を果たしハジメとディオの死亡が伝えられた時、王国側人間は誰もが唖然としたものの、それが無能のハジメと知ると安堵の吐息を漏らしたのだ。

ディオは多くの人間から悔やまれたが、ハジメは真逆の反応だったのだ。

 

そして雫は、初めて吸血された時に、ディオから見せられたステータスプレートを思い出す。

 

 

『雫…君にだけはこの技能を教えておこう…このことは私とメルド団長、そしてリリアーナ王女しか知らない。決して他言はしないでくれ…』

 

 

見せられたのは自動回復と不老不死という技能。どうやら昔にこの技能を持ったと思われる人物が封印されたという。

帰還した際にメルド団長からも、誰にも言うなと釘を刺された。

 

香織はあの日から一度も目を覚ましていない。医者の診断では精神ショックから心を守るため防衛措置として深い眠りについているとのことだ。故に、時が経てば自然と目を覚ますとも。

 

「どうかこれ以上、私の優しい親友を傷つけないでください」

 

その時、不意に握り締めた香織の手がピクッと動いた。

 

「!?香織!聞こえる!?香織!!」

 

雫が必死に呼びかけると、閉じられた目蓋が震え始めた。更に雫が呼びかけると、その声に反応してか、香織の手がギュッと雫の手を握り返す。

 

そして香織はゆっくりと目を覚ました。

 

「香織!」

 

「……雫ちゃん?」

 

香織は焦点の合わない瞳で周りを見渡す。やがて、意識が覚醒してきたのか雫に焦点を合わせ、名前を呼んだ。

 

「ええ、そうよ。私よ。香織、体はどう?違和感はない?」

 

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど…寝てたからだろうし…」

 

「そうね、もう五日も寝ていたのだもの…怠くもなるわ」

 

起き上がろうとする香織の補助をし、苦笑いしながら、どれくらい眠っていたのかを伝える雫。香織はそれに反応する。

 

「五日?そんなに…どうして…私、確か迷宮に行って…それで…」

 

徐々に焦点が合わなくなっていく目を見て、不味いと感じた雫だったが、時既に遅く、香織が記憶を取り戻した。

 

「それで……あ………………南雲くんとディオくんは?」

 

「ッ…それは…」

 

雫の苦しげな表情で悩む姿を見た香織は、自分の記憶にある悲劇が現実であったことを悟る。だが、そんな現実を受け入れられるほど香織はできていない。転移組で唯一受け入れられるとすれば、今はいないディオくらいのものだろう。

 

「…嘘だよ、ね。そうでしょう? 雫ちゃん。私が気絶した後、南雲くんは助かったんだよね?ディオくんが助け出してくれたんだよね?ね、ね?

ここお城の部屋だよね?ディオくんは自分の部屋で寝てるよね?南雲くんは…訓練かな?訓練所にいるよね? うん、私、ちょっと行ってくるね。南雲くんとディオくんにお礼言わなきゃ……だから離して?雫ちゃん」

 

現実逃避するように次から次へと言葉を紡ぎハジメとディオを探しに行こうとする香織。その腕を掴み離そうとしない雫。

 

雫は悲痛な表情を浮かべながら、覚悟を決め、香織を見つめる。

 

「香織…わかっているでしょう?…ここに彼らはいないわ…」

 

「やめて……」

 

「香織の覚えている通りよ」

 

「南雲くんは…ディオは…」

 

「いや、やめてよ……やめてったら!」

 

「彼らは死んだ……」

 

「ちがう!死んでなんかない!絶対、そんなことない!どうしてそんなこと言うの!いくら雫ちゃんでも許さないよ!!」

 

イヤイヤと泣きながら雫の拘束から逃れようと暴れる香織。それを絶対に離してやるものかとキツく抱きしめる。

何故ならまだ話は終わっていないからだ。

 

「彼らは死んだ……とされているわ…」

 

雫はディオに言われたことを思い出す。

 

 

『決して他言はしないでくれ。…だが、もし何かがあれば、香織にならば言ってもいい』

 

 

泣き喚く香織に囁くように雫はディオの技能について説明する。自動回復、不老不死という技能と、それを秘密にしていた理由を…。

 

「ディオは絶対に死なない。いや、死ねないの方がいいのかもね…だからあんなことじゃ彼は死なない。南雲くんのことも大丈夫よ…

絶対ディオは南雲くんを助けて連れ出してくれるわ…!!」

 

香織を落ち着かせるように軽く、優しく抱きしめる雫。それに徐々に落ち着きを取り戻した香織は雫に、ゆっくりと話しかける。

 

「雫ちゃんはディオくんのこと、本当に信じてるんだね…」

 

「そうよ…だってディオは私の大切な人だもの…」

 

香織は、雫の胸に埋めていた顔を、ゆっくりと離し、真っ赤になった目を拭いながら顔を上げ、微笑みながら、決然と宣言した。

 

「雫ちゃん、私、信じるよ。南雲くんとディオくんが生きて…、生きて帰ってくるって」

 

香織は両手で雫の両頬を包むと、微笑みながら話す。

 

「私、もっと強くなるよ。それで、あんな状況でも…今度は守れるくらい強くなって、自分の目で確かめる。南雲くんのこと…ディオくんのこと。……雫ちゃん

力を貸してください」

 

雫は香織の目を見つめ返す。香織の目には覚悟が宿っていた。狂気や現実逃避の色はない。そんな香織の目を見て雫は笑う。

 

「もちろんいいわよ。最後までとことん付き合うわ」

 

「雫ちゃん!!」

 

香織は再度、雫に抱きつき「ありがとう!」と何度も礼をいう。「礼なんて不要よ、親友でしょ?」と、どこまでも男前な雫。

 

その後、光輝と龍太郎が香織の様子を見にくると、抱き合っている二人を見て誤解したのは余談だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雫ちゃん、『ディオくんが大切な人だ』ってやっぱりそういうことなの?」

 

「な、何言ってるのよ香織!!?」

 

いつもは鈍感の癖に今回は鋭かったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そして王宮の別室では……

 

「俺は悪くない…悪くないんだ…あいつらが悪いんだ…あの無能は白崎さんに気をかけられてるというのに何もしない屑。そしてあのディオ・ブランドーは八重樫さんとあんな関係になりやがった…!!」

 

薄暗い部屋で独り言を言っている男の周りには、檻に入った小さな動物や二十階層で出会ったコウモリのような魔物がいた。どれも生気がない瞳で、虚空を見つめている。

 

そして、男は、ディオの部屋での出来事を、声だけだが聞き、知っているのだ。少し誤解しているが…

 

「そしてあの無能はこの俺を指し退いて英雄気取り…!!俺と同じようにあいつに憎悪を抱いている奴がいて助かったぜ…一緒にあの吸血鬼を始末することが出来た…!!

皆は天之河を勇者、勇者と称え女性は熱視線を送る。俺の方がずっと上手く出来るのに…モブ扱いしやがって…!!」

 

男は怒りを吐き出しながらコウモリを撫でる。

 

「よくやったな、よくあの無能を落としてくれた。これで白崎さんも八重樫さんも俺を見てくれるだろう…!!俺がモブってことじゃないことを無能達に分からせてやる…!!」

 

男の目は暗く淀んでいた。

 

 

 




ステータスはファングウルフを吸血したことでパワーアップしました。
技能の剛力は豪力に進化しました。


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決着

アンケートに必要なしを記載するのを忘れておりました。申し訳ございませんが、もう一度、投票をよろしくお願いします!

10月27日、日間ランキング7位でした!!本っ当にありがとうございます!!




因みに感想でもありましたがヴァニラはネタです。一番多かった場合は原作通りのディオ様に心酔したヴァニラが登場します。


「無駄無駄無駄無駄ァ!!!」

 

赤熱化した頭部を盾のようにしながら突進するベヒモスの、頭部を掴み少し後ろに下がるが、何とか受け止める。ベヒモスの熱気に、手が溶け始めるが、俺は気にしない。

 

「気化冷凍法ッ!!」

 

俺の手からは冷気が放たれ、熱気と冷気が鬩ぎ合う。

 

「グヤアラガァァァアアウッ!!!」

「UREYYYYYYYYYYYYYYYYッ!!」

 

両者、雄叫びを上げ、超高温と超低温がぶつかり合う。誰かが見ていればどちらが勝ってもおかしくないように見えるこの勝負。

しかし気化冷凍法の性質的にも俺に分があった。

 

まず俺の気化冷凍法は、周囲の熱を奪い冷やす技で、ベヒモスは自らの体中の熱を頭部に集め、一撃粉砕を狙った技だ。少し使う為のラグがある。

ベヒモスが頭部に集めた熱を、俺の技が奪い冷気に変えていく。相性が何かが起こるのかと思うほどに良すぎる。

例えればポッケモンの炎タイプが水タイプに弱いのと同じだ。そしてこの勝負、勝利したのは当然俺だ。

 

ベヒモスの頭部から下半身にかけて、徐々に凍っていき、頭部の熱を完全に奪い切る。

 

「ちょいとでも俺に勝てると思っていたのかァ?間抜けがァア!!」

 

上半身が凍ったベヒモスを持つ手の力を強める。すると、ギャリギャリと音を立てながら軋む。

 

「貧弱貧弱ゥ!!死の忘却を迎え入れろォォオオッ!!」

 

更に力を込めるとベヒモスの上半身は砕け散り、キラキラと幻想的に舞い落ちる。

振り向き足を少し高くなっている位置にのせ、決めポーズを決める。

 

決まった…!!

 

漫画ならバァーン!!が出そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

というわけでベヒモス討伐成功しました。いや、なんか思いのほか楽に倒せたよ。落下のダメージがやっぱ響いてたね。

あとはファングウルフを吸血したからだろうか。64階層で吸血してから力が有り余ってたんだよね。ステータスを確認しようにもステータスプレートがファングウルフの攻撃で消滅しちまったからなぁ…感覚的に強くなったと感じる(適当)。

 

さて、そんなことより、これから楽しい剥ぎ取りタイムだ。まずは、残った下半身から血を全て吸血し、俺の養分にする。もちろん手からだ。

ファングウルフの血を早く吸血するために、手と口を両方使った為、魔物の味を覚えている。一言で言うと食えたもんじゃあない。

男の血がコーンポタージュに見える程の不味さだ。もう二度と食わない。

そして魔物の血を吸うと、体の内部が作り変わるように脈動する。肉体操作で補助しているため痛みはないが、他の人間が食べたのなら死んでいるだろう。

 

そして、ミイラになったベヒモスの皮を剥ぎ取り、簡易な服を気休め程度に身につける。裸よりはマシだ。一応鱗を装備し、見た目を良くしようと奮戦するが、焼け石に水だったようだ。

そして余った皮で鞄のような物を作り、骨を枠にすることで強度を上げ、簡単に壊れないようにする。見た目は不格好だが…

 

 

 

 

そんなこんなで剥ぎ取り&工作を終え、崖を見上げる。南雲が入っていった横穴はやはり見えない。当然と言えば当然だが…

俺は崖に近寄り、右足を勢いよく壁に突き刺す。そして左の足を右足より上の位置に突き刺し、両足を抜いては刺し、抜いては刺しと繰り返し、崖を歩いて登っていく。

 

「待っていろよ…ハジメ…無事でいてくれ…!!」

 

鉄砲水が噴き出る場所を目指して俺は崖を登る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ディオ・ブランドー 17歳 男 レベル:21

天職:吸血鬼

筋力:1025

体力:568

耐性:238

敏捷:368

魔力:203

魔耐:183

技能:吸血・自動回復・不老不死・肉体操作・異常状態無効・痛覚軽減・豪力・豪運・五感強化・日光耐性・◼️◼️紋[◼️・◼️◼️◼️◼️]・魔力操作・言語理解

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壁を歩くのにも慣れ、今現在進行形で全速力で壁を走る俺。走っても走ってもハジメが滑り込んだ横穴が見えない。

時間的には、3日ほど走っている気がする。感覚なため、大きくズレている可能性もあるが致し方なし。

時折り襲ってくる羽を持った魔物の血を頂きながら走り続ける。

 

ああッ!!美味い血が飲みたい!!マズい血はもう懲り懲りだ!!

 

栄養だけが高い魔物の血を飲みながら呟く。

この魔物達の襲撃のせいで俺の一張羅が再びボロボロになってしまった。走る邪魔になるため、泣く泣く服を破り捨てた俺は、再び全裸フォームだ。

 

それから体内時計で一時間程走ると、水の流れる音が聞こえてきた。反響して少し聞こえる程度なため、まだまだ先だろう。だが今はそれだけの情報で充分だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから体内時計で二日程ぶっ続けに走り抜けた俺はついに目的の横穴に到着する。

 

ここか…まるでプールのウォータースライダーのようだな…と呟きながら体を水流に放り込む。

その瞬間、壁にガンガンとぶつかりながらも猛スピードで横穴を滑り抜ける。この流れの速さで、ハジメが無事でいられるか心配になるが、その考えを振り切り、流され続けること数時間。水脈も終わりを迎え、水の溜まり場に到着した。

そこから這い出た俺は周りを確認する。緑光石の発光のおかげで、薄らとだが周りを確認出来る。もっとも、吸血鬼なため、真っ暗でも昼のようにハッキリと見えるが…

 

背負っている鞄の安否を確認し、ひとまず上層の階段を探す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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全然見つからねぇ…いや、下層に向かう階段ならすぐに見つかったんだが… 上層に向かう階段が一向に見当たらない。

脳内マップを築いて探索しているがもう全エリアを歩いただろう。その間に魔物の血を吸いながら移動している。ウサギの魔物や狼の魔物がいたが、やはり美味しくなかった。

 

そろそろ下層に降りてみるか…と、踵を返すと、床になにやら小さな物体を見つけた。拾ってみるとそれは前の世界で、見覚えのある物だった。

 

 

 

 

 

 

「銃弾…?」

 

そう、それは銃弾だった。更に近くを見渡すと不自然に出来た横穴が空いていた。

こ、これは…!!まさか…!!

そこを潜り抜けるとそこには大量の拳銃が落ちていた。そしてそのデザインには見憶えがあった。

 

これはハジメの親の会社が開発中のゲームに出てくる銃のデザインだったのだ!!この作品にはハジメも製作に手掛けている!!つまりはハジメが生き延びていることに希望が出てきた!!

 

更に中を調べると魔物の骨や焚き火の跡などの、人間の生活した跡が残っていた。やはりハジメはまだ生きている!!

 

しかしあの魔物を喰って大丈夫なのか…?通常なら身体中に激痛が走る筈だが…

まぁいいか。ハジメが生きていることがわかっただけで大満足だ。上層への階段が見つからなかったことから恐らくハジメは下層へ向かっただろう。

 

俺も行くか…!!

 

 

すると突如、俺の体が切り刻まれる。

 

「ウゲェッ!!?」

 

俺は微塵切りの玉ねぎのように、サイコロ状にされてしまった。

ひとまず目だけを再生させ、魔法の発生源の方を向く。

そこには白い毛を持った熊っぽい魔物が舌舐めずりをしながらこちらに向かって歩いて来ていた。爪は長く、牙の長かったファングウルフを思い出させる。

 

取り敢えず空裂眼刺驚(スペースリパースティンギーアイズ)を油断して近づいてきた熊に放つ。それは熊の眉間を貫き、熊の生命を奪った。

 

俺も油断しすぎたな…こんなに接近されても気付かないとは…

 

おっ!!ラッキー!!コイツの皮で服作ろ!!ふかふかじゃねえか!!

 

熊に破られたウサギの皮で作った服を破り捨て、新たに熊の皮で服を作り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あれから、タールの池のサメに襲われたり、毒蛙、モスラ擬き、巨大ムカデなどに襲われたりしたがキング・クリムゾンッ!!

全部美味しくいただきました。不味かったけど。

階層を降りるたびに着ている服代わりのものがボロボロになるのは何故だろうか。もう諦めて俺のアームストロング砲を隠しているだけだ。所謂半裸ってとこかな?カーズ様もそうだったし大丈夫っしょ。

 

そして魔物を吸血していった為、かなりステータスが上がった気がする。ステータスプレートが無いのが悔やまれる。

最初のウサギとかいた階層からもう50階層ぐらいは降りていると思う。途中で面倒になって数えるのをやめた。

 

そんで今、目の前にある3メートル程の高さがある両開きの扉がある。その扉は装飾されており、荘厳な雰囲気を醸し出している。

 

そして俺の背後には二体のサイクロプスらしき魔物が、目が潰されて、地に伏していた。

声を掛けたり叩いてみたりするが反応がない。どうやらただの屍のようだ。

 

一応二体を吸血しておき、扉に耳を当てる。するとかなり激しい戦闘音が聞こえた。

ドパンッ!ドパンッ!と銃撃音も聞こえる。

キシャアアアアアッと魔物の悲鳴が聞こえた為、決着がついたかとドアを勢いよく開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには裸の幼女を抱いている白髪男がいた。

 

 

「すみません、間違えました。」

 

そっと静かに扉を閉めた。

 

 

 

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ディオ・ブランドー 17歳 男 レベル:51

天職:吸血鬼

筋力:2359

体力:1862

耐性:1029

敏捷:1582

魔力:1683

魔耐:985

技能:吸血・自動回復・不老不死・肉体操作・異常状態無効・痛覚軽減・豪力・豪運・五感強化・日光耐性・◼️◼️紋[◼️・◼️◼️◼️◼️]・魔力操作・言語理解

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活動報告にてオリ魔物を募集します。雑魚からちょいボス、なんでもいいので想像力が足りない私に案を分けてください。


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再会

クラスメイトに落とされたハジメは目覚めると、知らない場所に打ち上げられていた。下半身が水に浸っていたことから、着ていた服が全部ビショ濡れになり、体も冷え、大きなクシャミをする。

 

このままではいけないとパンツ以外の服を全部脱ぎ、魔法で火種を作る。それで服を乾かし、暖をとる。

 

 

 

二十分ほど暖をとり、服も乾いたのでハジメは慎重に迷宮の探索を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこでハジメが見たものは正に自然の摂理、弱肉強食の世界だった。弱者は強者に淘汰される。そんな生物として当たり前な世界をハジメは見た。

そしてハジメは弱者だ。現にハジメの腕はこの階層の強力な魔物よりも別格の魔物に喰べられてしまった。

錬成を駆使しなんとか逃げ切れたが、出血多量と失った腕の幻肢痛により、今にも死んでしまいそうだ。

 

(なんで僕がこんな目に…!!)

 

そう思いながらも奥へ奥へと錬成しながら進んでいく。

更に進んだところで、ハジメは水源に辿り着く。そこにはバスケットボールくらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。

それは石壁に同化するように埋まっており、下方に向かって水滴を滴らせている。それは小さな水溜りが出来ており、それに顔を擦り付けるように啜り飲む。

 

すると、体の内に感じていた鈍痛や靄がかかったようだった頭がクリアになっていき、倦怠感も治まっていく。

 

ハジメは知らないが、これは不死の霊薬、神水とも言われる歴史上でも最大級の秘宝ともされる伝説の鉱物だ。

 

この神水を飲むことで、回復することは出来たが、殺されかけた恐怖で、ハジメの心は砕けてしまった。

 

 

 

 

 

 

そこから地獄が始まった。

あれから四日経った。その間、神水を飲むことでハジメは生きながらえていた。神水を飲むことで決して死ぬことはないが、空腹感を消し去ることは出来ない。

それに幻肢痛にも苛まれ苦しんでいた。

何度も何度も意識を失うように眠りについては、飢餓感と痛みに目を覚ましの無限ループだ。

 

いつしかハジメは神水を飲むことを止めていた。無意識のうちに、苦痛を終わらせるもっとも早い方法を選択していたのだ。

 

 

 

それから数日経った。

 

まだハジメは生きている。あれから何も口にしていない。だがまだ死なない。一度治った飢餓感は、再び激しくなり襲い来る。幻肢痛は一向に治らない。

こんな理不尽な状況に心身共に絶望に追い詰められる。

 

 

 

そして更に数日が経った。

 

ここでハジメに変化が訪れる

ただひたすら、死と生を交互に願いながら、地獄のように苦痛が過ぎ去るのを待っているだけだったハジメの心に、ふつふつと何か暗く澱んだものが湧き上がってきたのだ。

暗く…暗く…激しい怒りと憎悪…真っ白だったキャンパスに黒のインクが落ちたようにジワリジワリとハジメの中の美しかったものが汚れていく。

 

 

そして全てが汚れそうになった時、唯一ハジメを助けようとした親友の顔が脳裏によぎった。

 

(ディオ…)

 

 

 

 

彼との出会いは中学生の時だった。いつも通りハジメが新刊のラノベを買おうと本屋へ向かうと、そこには金髪のガタイが良く、高身長な男がいた。

ハジメはその男の顔に見覚えがあった。学校は違うが、自分の通っている中学校でも耳がタコになる程に話題になっている生徒だ。

名はディオ・ブランドー。ラグビー部に所属しており、1年で即レギュラーとなる程の才能を持ちながらも、更にその甘いマスクで男女年齢問わず魅了するという完璧な超人だ。

 

ハジメは彼を遠目から観察すると、手に持っている籠には、ミステリー、SF、ホラー、アクションといった様々なジャンルの本が多数入れられていた。

そして彼が立っているのは、今からハジメも用があるラノベの本棚の前だったのだ。

彼は唸る素振りを見せながら本棚を睨み付けていた。

 

彼もこういう本を読むのか…意外だな…と思いつつ、ハジメも、目的の本を取りに本棚に向かう。買うものは決まっていたため、目的の本を取ると、すぐにレジへと向かう。

すると、突然彼に話しかけられた。

 

「突然すまない。私の名はディオ・ブランドーという。」

 

「はぁ」と言いながらもいきなり有名人に話しかけられ、緊張するハジメ。有名でなくとも190cm程の巨漢に声をかけられるのは普通に怖い。というか身長差がヤバイ。

 

「君はこのライトノベルに詳しいのかい?」

 

ハジメが持っている本を指差しながら問うディオ。ここでハジメはディオが何を言おうとしているのか察する。

 

「私にオススメの本を紹介してくれないかい?」

 

 

 

これがディオとの出会いだった。

 

それからも、ハジメとディオの気が合うことから、連絡を取り合うことが多くなった。ネトゲ等では協力プレイ、対戦ゲームでは二人で競いあったりと楽しい時間を過ごした。

次第にリアルでも度々会うことになり、ハジメの親が勤める会社にディオが見学に来る程になった。

遊んでいる内にわかったことだが、周りの噂と実際は大きく違っていた。チャットをしている時に、偶に素が出たりして、外面の自分を作っているということに気づいた。

このことを本人に言うと、二人の時だけ素で話してくれるようになったが、高校生になってから、だんだんと元に戻っていった。

外面だと思っていたのが、それが素になったとでも言う程に…だ。それでも彼自身は変わらなかった。

 

同じ学校になった高校では、余り目立ちたくないハジメを考慮して、必要最低限のことしか話しかけてこなかった。チャットやLINEでの愚痴や鬱憤は相変わらず多かったが…

 

ディオはいつもハジメの味方だった。少し口喧嘩をすることもあったが、自然に喧嘩は終わり、すぐにまた話すようになったりもした。

 

異世界に来てからもそうだった。ハジメを馬鹿にする檜山達を諫めたり、イジメが激しくなってきたハジメを心配したり…

 

あの橋でもそうだった…あの時、ディオだけが助けに来たのだ。二十階層から全力で走り抜け、ハジメ達のところへ駆けつけたのだ。

 

 

 

 

 

ハジメの意思は固まった。まずは生きる。生きる。簡単そうで現在もっとも難しい。そして一緒に奈落へ落ちたディオと、元いた世界、日本への帰還だ。

他はどうでもいい。

ハジメの意思は、ただ一つに固められる。鍛錬を経た刀のように。鋭く強く、万物の尽くを切り裂くが如く。

 

すなわち……

 

(殺す…)

 

悪意も敵意も憎しみもない。

ただ生きる為に必要だから、目的の為に、滅殺するという純粋なまでの殺意。

 

自分の生存を脅かす者は敵、目的を邪魔する者も全て敵だ。

 

そして敵は…

 

 

殺す…!

 

 

 

 

(殺して喰らってやる…)

 

いまこの瞬間、今までの南雲ハジメは消え去り、新しく、後に魔王と呼ばれるハジメが誕生した。

 

 

 

 

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その後、魔物を喰らい、身体が作り変えられる痛みに耐えながら力を溜め続けたハジメは、ディオを探すため、生きる為に階層を降り続けていった。

 

そして五十階層に辿り着き、同じ一族に裏切られたというハジメと同じ境遇にある、封印されていた吸血鬼の金髪紅眼の少女?を錬成で助け出した。そしてその吸血鬼の少女をユエと名付けた。どうやら彼女を封印した吸血鬼は、封印が解かれた際に発動する仕掛けを掛けていたらしく、現在ハジメは体長8メートル程のサソリと対峙していた。

 

 

 

ユエを背負いながら、ハジメが錬成で作り上げた相棒、大型のリボルバー式拳銃のドンナーを構え、サソリの攻撃を飛び退いて躱し続ける。

サソリの攻撃は尻尾の針から溶解液を噴出するというものだ。

 

ハジメはそれを横目で確認しつつ、ドンナーでサソリに向かい発砲する。

 

ドパンッ!

 

ドンナーの弾丸の発射速度、秒速3,9キロメートル!!そしてさらに魔物を喰って得た力、“纏雷”により電磁加速された弾丸はサソリの頭部に炸裂する。

ハジメは魔物を喰べたことで、本来魔物しか使うことの出来ない魔力操作を会得しており、この世界ではアーティファクトと呼ばれるドンナーに、詠唱無しで電撃を帯びさせることが出来る。

それを見たユエは驚愕する。何故なら彼女も魔力操作という技能を持っているからだ。

実はユエ、現在300年という長い間封印されていたせいで魔力が枯渇しており、ハジメの足手まといとなっているが、魔力さえあれば、魔力を直接操り、強力な魔法をポンポン放てる勇者顔負けのチーターなのだ。

 

自分と『同じ』、そして、何故かこの奈落にいる。ユエはそんな場合じゃないとわかっていながらサソリよりもハジメを意識せずにはいられなかった。

 

一方でハジメは足を止めることなく、くどいようだが、魔物を喰べて手に入れた“空力”を使い、跳躍を繰り返す。

するとサソリの尻尾の針がハジメに照準を合わせ、凄まじい速度で針を撃ち出した。

躱そうとハジメは動くが、針は散弾銃のように広範囲を襲う。

 

「ぐっ!!」

 

ハジメは唸りながら、ドンナーで撃ち落とし、“豪脚”で払い、“風爪”で叩き切る。どうにか全て凌ぎ切り、お返しとばかりにドンナーを発砲。そして手榴弾を投げる。

それはカッと爆ぜ、その中から燃える黒い泥を撒き散らしながらサソリへと付着する。

 

所謂『焼夷手榴弾』というやつだ。奈落の上層で手に入れたフラム鉱石というものを使っており、摂氏三千度の付着する炎を撒き散らす。

 

サソリが暴れ、炎を引き剥がそうともがく。その隙にハジメはドンナーを素早くリロードする。

 

それが終わる頃には焼夷手榴弾は燃え尽き、殆ど鎮火してしまっていた。サソリはダメージがあったようで怒りを露わにし、ハジメを睨む。

 

「キシャァァァァァアア!!!」

 

叫びながら、8本の足を猛然と動かし突進する。4本の大バサミがいきなり伸長し大砲のように風を唸らせながらハジメに迫る。

 

ハジメは技能をフルで使用し、全てのハサミを避け、跳躍しサソリの背中へと降りたった。そしてサソリの外殻に銃口を押し当て、ゼロ距離でドンナーを打ち放つも、僅かに傷が付いたくらいで、ダメージらしいダメージは与えられていない。

 

 

その後もあらゆる手を使うが、全てサソリの外殻に弾かれる。どうすべきかと、ハジメが思考を一瞬サソリから逸した直後、今までにないサソリの絶叫が響き渡った。

 

「キィィィィィイイイ!!」

 

その叫びを聞いて、全身を悪寒が駆け巡り、咄嗟に距離をとろうとするハジメだったが……既に遅かった。

 

 

すると突如、周囲の地面が波打ち、轟音を響かせながら円錐状の刺が無数に突き出してきたのだ。

 

 

これには完全に意表を突かれ、ハジメは必死に空中に逃れようとするが、それを読んでいたサソリはハジメに尻尾の照準を合わせ、散弾針と、溶解液が発射される。

 

ハジメは避けるのは無理だと歯を食いしばる。そして溶解液だけを空力でなんとか躱し、腕をクロスさせ急所を守る。

 

直後、強烈な衝撃と共に鋭い針が何十本とハジメの体に深々と突き刺さった。

 

「がぁぁああ!!」

 

悲鳴を上げながらなんとか致命傷だけを避ける。衝撃で吹き飛ばされ地面に叩きつけられ、そのまま転がる。ユエもその衝撃で背中から放り出されてしまった。

 

ハジメは痛む体に鞭打ちながら、ポーチから閃光手榴弾を投げつける。それはサソリの眼の前で強烈な光を放った。

 

「キィシャァァァァァアア!!」

 

突然の光に悲鳴を上げ思わず後ろに下がる。

ハジメはその隙に奥歯に仕込んでいた神水を噛み砕き飲み干しながら一気に針を抜いていく。

激痛の余り、呻き声が漏れるが耐えられないほどではない。

 

「ハジメ!」

 

投げ出されたユエがハジメを見つけ、駆け寄る。無表情が崩れ今にも泣き出しそうだ。

 

「どうして…?」

 

「あ?」

 

「どうして逃げないの?」

 

自分を置いて逃げれば助かるかもしれない。それを理解しているはずだと訴えるユエ。しかしそれに対してハジメは呆れたような視線を向ける。

 

ハジメは生きるためならどんなことでもする。闇討ち、不意打ち、etc,

だが、好き好んで外道には落ちたい等と思ってはいない。通すべき仁義くらいは弁えている。

 

だからこそ、ここで助けたユエを見捨てるという選択肢はない。

 

ユエは、ハジメに言葉以上の何かを見たのか納得したように頷き、いきなり抱きついた。

 

「お、おう?どうした?」

 

状況が状況だけにいきなり何してんの?と若干動揺するハジメ。

 

すると突如、閉まっていた背後の扉が開かれる。

何事かとハジメはユエを庇うように扉から遠ざけ、扉の方へと視線を向ける。

 

 

「あいつは……!!?」

 

そこには見覚えのある半裸の男が立っていた。彼はハジメとユエを一瞥すると、何を思ったのか再度扉を閉めた。

 

「すみません、間違えました。」

 

「ちょッ!?待てぇえ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ちょッ!?待てぇえ!!」

 

「嫌です。通報しました。」

 

変態の言うことは無視に限る。ギルティだギルティ。昔からあるだろう?YES!ロリータ、No!タッチって。

あの人タッチしちゃってんもん。御用だよ御用。衛兵さーん!ここに犯罪者がいまーす!

 

「待て!!本気で行くな!!ディオ!!俺だよ俺!!」

 

ああ?なんで俺の名前知ってんだこいつ…

 

「私の知り合いに貴様のような厨二患者はおらん!騙されんぞ!」

 

色の抜け落ちた白髪に赤い眼。アルビノみたい。けど激しい戦闘音してたしアルビノではないだろう。

 

「ちゅ、厨二病……」

 

その言葉に白髪の男はショックを受けたようでorz状態になる。間違いない。こいつは…

 

「ハジメか…?」

 

「あ、あぁ。久しぶりだな…」

 

やはりハジメだ。厨二病と言われ過去の傷を抉るとこうなるのは豹変前と変わらないらしい。

ぶっちゃけると最初に声を掛けられた時点で気付いていた。

 

「…ハジメ、悪いけど時間がないから…」

 

そばにいた幼女がハジメの首筋にキス。と思ったら血を吸っていた。

 

吸血鬼…!?300年前に滅んだはずだが…!こいつ…まさかあの物語の女王か!!?

 

リリアーナに聞いた話を思い出す。

 

「オルクス大迷宮に幽閉されていた吸血鬼の女王か…!?」

 

「あぁ、そうらしい。っと、今は話してる場合じゃないな。ディオ、少しの間あのサソリを足止めしておいてくれ。」

 

 

「キシャァァァァァアア!!!」

 

 

部屋の奥からサソリのような魔物の咆哮が轟く。

 

ったく…まだ倒してなかったのか…あ!!おい!!ハジメ!隠れるな!!

 

ハジメは錬成で地面を隆起させ、自分の姿を隠し、サソリの注意を俺に引かせる腹だろう。

 

「仕方ない…!!このディオがやってやるッ!!」

 

 

サソリは奇声を発し、俺の方へと突進してくる。ひとまず俺も迎え撃ち、ハサミと俺の腕が激しくぶつかり合う。

すると、サソリのハサミは少しヒビが入り、サソリは驚愕する。

 

サソリは大きく後ろに退避しようとするが、俺がみすみす距離を取らせる訳がない。サソリは距離を取るのを諦め、溶解液と散弾針を大量に放つも、俺は発射口である尻尾の真下に潜り込み、難なく回避する。そのまま尻尾を掴み取り、気化冷凍法で中身の溶解液を凍らせ、針を詰まらせる。

 

そのまま尻尾を掴みながら俺は大きく跳躍する。豪力を使い、天井ギリギリまで跳ぶ。   

 

「UREYYYYYYYYYYYYYYYッ!!」

 

そして尻尾を持ちながら振りかぶり地面に叩きつける。

キシャァァァァァアア!!と悲鳴を上げながら仰向けになるサソリ。

 

「吸血完了、今…!!“蒼天”!」

 

その瞬間、サソリの頭上に大きな青白い炎の球体が出来上がる。それは仰向けになったサソリの腹に直撃し、青白い光が視界を埋め尽くす。

その魔法はとてつもない強度を誇った外殻をもドロドロと溶かす。

 

「さぁ!!最後の攻撃だァッ!!行くぞ!!ハジメ!!」

 

「お疲れさん。助かったよ、ユエ。後は任せろ。

ああ!!行くぞディオ!!」

 

俺はサソリの上に飛び乗り、腕に力を込める。

 

「KUAッ!!」

 

渾身の力を込め腕を振り抜く。それはユエの魔法にも負けない程の衝撃波を放ち、溶けかかっていたところから外殻を完全に破壊しきる。

 

そこにハジメが手榴弾を投げ込み、それをドンナーで撃つ。その瞬間爆発し、サソリは断末魔を叫びながら粉々に粉砕される。

 

 

俺とハジメはそれを見届けた後、拳と拳を打ち付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、俺のズボンは溶解液にやられ、ヒラリと舞い落ちた。

 

 



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恐怖心

サソリ型の魔物を倒した俺たちは、破裂したサソリと、部屋の外で倒れていたサイクロプス二体の素材やら肉やらを回収し、ハジメが拠点としている場所へと持ち帰った。

 

サソリの血はしっかり吸っておいた。ミイラを見たハジメ達は驚いていたが無視無視。

 

拠点で今までの情報を交換し合った。語るも涙、聞くも涙の話を聞かされた。

どうやらハジメはかなり辛い道を歩んでいたようだ。

だからそんなにアルビノ風の厨二病になってしまったのか…

 

「うるせぇ、俺の傷口抉んな」

 

おっと、口に出ていたようだ。

 

対して俺のことを話せば呆れられた。何故だ…解せぬ。

 

「まぁお前らしいっちゃお前らしいな…」

 

 

 

「…ところでハジメ、次はその…ユエだったか?一体どうして吸血鬼の女王を助けたんだい?」

 

俺が作り置きしていた魔物の服を体に身につけた少女を見る。長い金髪、紅い目、まさに吸血鬼といった外見をしている。それに封印されていたということはそれ程危険な存在だったからだろう。

 

「あぁ、そうだなユエは「私が話す…」…わかった。」

 

そこから彼女はポツポツと話し出す。

どうやら彼女は先祖返りの吸血鬼だという。普通の吸血鬼よりも強大な力を持っており、国の為にその力を使い続けていたそうだ。

しかしある日、叔父に裏切られて、技能のせいで死ねないユエを、この大迷宮に封印したらしい。

 

なるほどなぁ…けどこの迷宮の最高到達階層って65階層じゃあなかったか?まぁ300年も前なら記録に残っていなくても不思議ではないな。

 

「次は私からの質問… ディオ、貴方は一体何者?吸血鬼のようだけど…私の知る、私と同類の吸血鬼じゃない。」

 

紅い目で俺を見る。そういや俺がハジメと同じく異世界からきた勇者の同胞って言ってなかったな…まぁここで言えばいいか。

 

「私はハジメと同じく異世界からきた者だ。まぁ、種族については聞いてくれるな。まだ私にも把握しきれていない。わかっていることといえば私は異世界の吸血鬼…といったところだ。」

 

「異世界の吸血鬼?」と呟くユエに、ハジメが詳しく説明する。太陽光に弱い、十字架に弱い、銀に弱い、ニンニクに弱い等etc…

まぁ弱点は太陽光と波紋だけだが…

 

「ところでユエは300年以上前から封印されてるんだよな?そうすると、ユエって少なくとも300歳以上なわけか?」

 

「……マナー違反」

 

ユエが非難を込めたジト目でハジメを見る。女性に年齢の話はタブーということを知らんのか!

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

 

「…私は特別。“再生”で歳もとらない……」

 

聞けば12歳の時、魔力の直接操作や、“自動再生”の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。

 

……?あれ?俺ってば自動再生持ってんぞ?それに不老不死も… 俺ってユエと殆ど同じなんだな。

 

 

っとそれより…

 

「ハジメ、私に血を分けてもらえないかい?」

 

「は?前に男の血は不味いって言ってたじゃねえか。」

 

すごく嫌そうな顔で俺を見るハジメ。傷つくから止めてくんない?

 

「魔物の血よりは幾分マシだ。ここのところ魔物の血しか飲んでいないからな。」

 

ハジメが錬成で作ったコップを差し出し血を要求する。何故コップだって?おいおい、俺が口で吸えば男女問わず快楽を与えんだぜ?男同士じゃあ絵面がヤバイだろ?

 

「俺じゃなくてユエじゃダメなのか?」

 

「ダメだ。」「ダメ…」

 

俺とユエの声が重なる。

 

「吸血鬼同士での吸血は禁じられている… 特に力を持つ者は…」

 

本に書いてあったことだが、吸血鬼同士で吸血すると、吸血した方は、膨大な力が体の中を駆け巡り体が暴発する、らしい。更に吸われた方は、どんなに少量でも体の中の魔力等が危篤状態になる程まで吸い取られるらしい。

ユエのような膨大な力を持った女王なら尚更だ。俺も死なないとはいえ爆発するのは嫌だ。というか俺が大丈夫でもユエがヤバイ。

 

どうやら技能の自動回復は魔力がないと回復出来ないらしい。知らなかったな… まあそんなわけで魔力が枯渇したらユエが死んでしまうというわけで、俺は現在美味しく飲めるのはハジメの血しかないということだ。

 

「チッ…しょうがねぇなぁ…」

 

やれやれとしながらハジメは自分の腕をナイフで軽く切り、コップに注いでいく。

 

「ほらよ…!」

 

投げやりに渡されたコップを受け取り、さっそく血を口に含む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゥンまあーいっ!!なんつーか気品に満ちた血っつーか、人間に例えると砂漠の中を飲まず食わずで彷徨い続けてよーッ!幻覚が見えてくるぐらい危ねー状態の時にオアシスを発見して初めて飲む水っつーかよぉーっ!!血!!飲まずにはいられないッ!!

 

「美味しそうで何よりだ。」

 

目の前で笑みを浮かべながら血を飲む親友を見たハジメは、苦笑いしながら止血しようと包帯を巻こうとする。するとそれをユエに止められる。

 

「ディオだけ狡い…私も飲む…」

 

ハジメから包帯を取り上げハジメの傷口をペロペロと舐め回す。

 

「ちょっ!!?おま!!止めっ…!?」

 

 

 

 

 

空になったコップを地面に置き、それを見た俺はボソッと呟いた。

 

「事案発生…」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「だぁー、ちくしょぉおおー!」

「…ハジメ、ファイト……」

「どうしたハジメ。近くにコ◯メ太夫でもいるのか?」

「うるせぇぇええ!!」

 

現在、俺たち一行は、猛然と草むらの中を逃走していた。

周りは約160cm以上ある雑草が生い茂っている。それを掻き分けながら、俺たちが逃走している理由は、

 

 

「「「「「「「「「「シャァァアア!!」」」」」」」」」」

 

200体近い魔物に追われていたからである。

 

「ディオ!!お前絶対俺よりステータス高いだろ!!アイツらの足止めをしてくれぇ!!」

 

「残念だが私は殲滅には向いていない… どちらかといえば殲滅ならユエとハジメが向いているな…それにステータスはプレートを失くしたと言っているだろう?」

 

ひとまず俺はジョースター家直伝の秘技でこの場を乗り切る!!ジョースター家じゃあないけど!!

 

 

俺は横から襲ってきたティラノザウルス型の魔物の頭にある一輪の花を掴み、力を少し入れ、魔物の頭に飛び乗る。

 

「これが我が逃走経路だッ!!」

 

ジョースター直伝の秘技!!逃げる!!

 

そのまま迫り来る魔物の頭を踏み台にしながらその場を離れていく。

 

「フハハハハハハッ!!後はハジメ、任せたぞ!!」

 

馬鹿笑いしながら俺はドンドンと距離をとって行く。

 

「ディオォオ…ぉぉ…」

 

なんだ?急に声が小さくなったぞ?

 

チラリと振り返ると…

 

「「「「「「「「「「キシャァァァァァァアアア!!」」」」」」」」」」

 

殆どの魔物が俺の後を追いかけて来ていた。

 

「何ィィィィイイイイッ!!?」  

 

何故だ…!!?何故俺の方にこんなに来やがるんだ…!?花をピラピラさせやがってェエ!!俺の方へ近寄るなァァァアアア!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

はぁ、怠い…やっと倒し終えた…

 

そこは死屍累々の山が出来ていた。それは全て先程襲ってきた恐竜達だ。しかも何故か全員頭に一輪の花を咲かせている。何故なんだ…?

 

しかし階層的にも魔物が弱過ぎる。ここはユエが封印されていた階層から10階層降りた約60階層だ。それなのにこれまでの階層とは違い、群れの癖に連携を一切行なっていない。ただただ敵を倒さんと動く殺戮兵器だ。

 

まぁそれ故に倒しやすかったんだが…

 

まぁ、それよりも… まずは血祭りだ…!!

 

俺は右手を切り落とし、その傷口から、エシディシのように血管を体の中からウネリながら出てくる。

これは肉体操作の応用で、原作ディオ様の首から出ていた触手のようにウネリ動く血管を、内部から外部に出すだけの技だ。もしも首だけになってもこれで逃げ出せれるぞ!!

 

血管を複数の魔物の死体に突き刺し高速で吸血する。

 

これ結構楽なんだよなぁ。味は勿論しないが複数を一気に吸血出来るから効率がいい。けど一体この数…いつになったら終わるんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 一時間後 〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと終わった……時間かかり過ぎだろ…しかも途中から増援が何百体と来るしよぉ〜…

というかそろそろハジメ達と合流しないと置いてかれる!!

 

俺は聴覚を強化し、ハジメ達の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

今現在ディオと別れたハジメ達は、ティラノザウルス達に花を寄生させ、操っていた本体がいるであろう部屋の中央へと訪れていた。

 

「ここでビンゴだろ。油断するなよ?」

 

「ん」

 

すると突然、全方位から、緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできた。それに気づいたハジメとユエは一瞬で背中合わせになり、飛来する緑の球を迎撃していく。

 

次第に球の数が多くなっていき、今では100個を超えているだろう。ハジメは迎撃しきれないと踏み、錬成で壁を作り出し防ぐことに決めた。壁に阻まれ貫くこともできずに潰れていく球。大した威力もなさそうである。

ユエの方も問題なく、速度と手数に優れる風系の魔法で迎撃している。

 

「ユエ、おそらく本体の攻撃だ。どこにいるかわかるか?」

 

「………」

 

「ユエ?」

 

その時だった。

 

 

ドジャアアアアアンッ!!

 

 

外の寄生された魔物達が入って来れないように錬成して閉じていた入り口が破壊される音が室内に響き渡った。

 

「まったく…何故こんなにここに集まっているんだ… 時間がかかってしまったではないか…」

 

入ってきた人物はハジメ達がよく知っている人物だった。そしてハジメ達を置いて一人で逃げようとした男…

 

 

「ディオ!!」

 

ディオ・ブランドーだった。

 

なんだこれ?というように緑の球を手で破壊しながらこちらに歩み寄るディオ。なんともないのか?とハジメは思いながらもディオに現状を話す。

 

 

 

 

「なるほど…本体らしきモノの音は聞こえるな…」

 

ディオは本体がいると思われる場所へと向かおうと俺達に背中を見せる。

 

「二人とも…逃げて…!!」

 

いつの間にかユエの手がディオの背中に向いていた。ユエの手に風が集束する。ディオが振り向いたその刹那、強力な風の刃がディオを縦に両断する。

真っ二つになったディオは力無く地面に伏せる。

 

「ディっ!!ディオォオオ!!?何してんだユエ!?」

 

ディオが殺され、悲鳴のような怒号を上げるハジメに、ユエは涙を流しながら謝る。

 

「ハジメ……うぅ…ゴメン…なさい……」

 

ハジメはそんなユエを見て、少し冷静になり、ユエに起こった異常を理解する。そう、ユエの頭の上にも花が咲いていたのだ。それもユエによく似合う真っ赤な薔薇の花が…

 

「くそっ、さっきの緑球か!?」

 

ハジメは自分の迂闊さに自分を殴りたくなる衝動を堪え、続々と放たれる風の刃を回避し続ける。

 

ハジメはこの状態の解放方法を既に知っている。ハジメはドンナーをユエの薔薇に向けるが、飛び道具を相手は知っているようで、上下に激しく動くように動かしたり、腕等で花を守るような動きをしだした。

接近しようにも、ユエの手を操り、手を自分の頭に当てるという行動に出た。

 

「やってくれるじゃねぇか…」

 

つまり、ハジメが近づいたら、ユエ自身を自らの魔法の的にすると警告しているのだ。

 

ユエは確かに不死身に近い。しかし、上級以上の魔法を使い一瞬で塵にされてなお再生出来るかと言われれば否定せざるを得ない。

そしてユエは最上級の魔法ですらノータイムで放てるのだ。特攻など分の悪そうな賭けは避けたいところだ。

 

ハジメの逡巡を察したのか、それは奥の縦割れの暗がりから現れた。 

 

アルラウネやドリアード等とという植物と人間の女性が融合されたような魔物がいる。目の前にいる魔物はまさにこれだった。

醜悪な顔で笑みを浮かべながらディオの死体を踏み、ハジメを挑発する。

すぐさまハジメは銃口をアルラウネに向けるが、ユエが射線に入り込む。

 

「ハジメ…ごめんなさい……」

 

再度悲痛そうな顔で謝るユエ。口は謝罪しながらも、引き結ばれた口からは血が滴り落ちている。鋭い犬歯で唇を傷つけているのだ。

悔しいためか、呪縛を解くためか、あるいは両方か。

 

 

ユエを盾にしながらアルラウネは緑の球をハジメに打ち込もうとしたその瞬間…

 

 

 

 

アルラウネの右半身が凍った。

 

 

「ま、まさか……生きていたのか……!!?ディオ!!」

 

アルラウネの影から姿を現したのは、先程死んだと思っていたディオだった。だが少し様子がおかしかった。

真っ二つに分かれた右半身と左半身がズレて引っ付いているのだ。

 

「ンッン〜!」

 

下にある顎に手を添え、頭の天辺を叩くことで、体のズレを治す。直した直後、彼の傷は跡形も無くなった。

 

ニタニタという笑いを止め、表情も凍りついているアルラウネの肩に、ディオは手を置く。

 

「どうした?動揺しているぞ、アルラウネ。『動揺する』それは『恐怖』しているということではないのかね」

 

直後、ハジメとユエに、ディオの普段では考えられない程の威圧感と圧迫感に襲われる。汗が流れる。喉が渇く。ハジメもユエも、かなりの強敵と戦ってきたが、これ程までに恐怖心を煽られた存在には出会ったことはなかった。ハジメに関しては最初の頃の爪熊と同様、いや、それ以上だ。

しかもこれは自分自身に向けられたモノじゃない。これはあのアルラウネに向けられているのだ。その余波でこれだ。格下ならその威圧感と圧迫感だけで殺せるだろう。

 

「貴様は死ぬしかないな…!」

 

ディオはアルラウネの頭を握り潰す。ユエの頭にあった薔薇は枯れるようにポトリと落ちる。

支配から逃れたユエは、ディオの威圧感に気圧され、地面にへたり込んでしまう。ディオはそんなことは気にするか、とでも言うようにアルラウネからツルを剥ぎ取り、丸出しになったディオのアームストロング砲を隠す。

 

彼がこちらに来ると、先程までの威圧感は、嘘のように消え去り、いつも通りの雰囲気に戻っていた。

 

 

(一体何だったんだ…!?)

 

 



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覚醒

アルラウネを握り潰し、ハジメとユエに技能のことを告白した日から随分経った。

あの後から、ハジメとユエが遠慮しなくなった。俺が魔物と戦っているのにハジメはドパンッドパンッと銃撃、ユエは魔法をバカスコと放ち、俺ごと魔物に攻撃するようになった。

マジ辛い…泣いていい?服の無くなり方が尋常じゃない。一階層で4着以上が消炭にされた。

 

まぁそんなこんなあって、俺らは遂に、次の階層でウサギやら熊やらがいた階層から百階目になるところまで来たらしい。俺は数えてなかったから知らんよ。めんどくさかったし。全部ハジメがやってた。

まぁそれで今は、その一歩手前の階層で装備の確認と補充にあたっていた。主にハジメが。武器が銃や手榴弾とかだから。消耗品が多いんだよね。作業が長い。

 

ユエはユエでハジメにべったりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

実に暇である。ストックの服は既に十分ある。しかも俺に装備も武器もない。余は暇を潰したいのであるぞ!

 

「少し離れる」

 

「直ぐに帰ってこいよ」

 

「わかっているさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

適当にそこらにいた魔物達を吸血していく。あぁ〜マズいんじゃあ〜 

早く地上に帰って人間の女の血を飲みたい。いっそハジメ達と地上で別れて、そこらの村の住民を一人残らず吸い殺すのはどうだろうか…甘美な血が…

 

 

…今俺なんつーこと考えてたんだ…?マズいマズいマズい……!!!また来た…!!せっかく迷宮に来て人間のことを考えずに済んだのに…!!無意味に人を殺すとか一番NGだから!!

 

 

本当にそうか…?

 

 

そうだ…!俺に敵対したものならいいが、無関係の一般市民を巻き込むなんざ、ただの狂人だ!!

 

 

人間なんぞ私達にとっては虫ケラ同然の食糧ではないか…

我々が行うのはただの食事だ。人間もするじゃあないか。生きとし生きるもの、全てがする行為。何故それを我々が否定しなければならない?

例えるなら肉食動物が草食動物を襲うのを見て、可愛そうとかいい、草食動物を助けるバカな奴と同じ程に愚かだ。

 

 

…… それは

 

 

それに敵対した人間も、一般人も私達にとっては食糧でしかない。君が気にする必要はない。

 

 

黙れ黙れ黙れッ!!お前は一体何なんだ!!?

 

 

私は君だ。

 

 

俺はお前だ…

 

 

()達は…

 

 

 

 

 

 

 

ドパンッ!!

 

 

突如、俺の背後に迫っていた魔物の頭部が破裂するように爆散する。

 

「何やってんだ。そろそろ行くぞ」

 

振り返るとハジメがドンナーで魔物を撃ち抜いたということがわかった。そして俺の意識は完全に覚醒する。

 

「あぁ…すまない…今向かう…」

 

「? もう準備は出来てる。ディオがいいならすぐに出発だ」

 

「私も大丈夫だ。出発しよう」

 

俺は魔物の血を吸い取りハジメの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

===============================

ディオ・ブランドー 17歳 男 レベル:81

天職:吸血鬼

筋力:4523

体力:3681

耐性:2539

敏捷:3182

魔力:1724

魔耐:1498

技能:吸血・自動回復・不老不死・肉体操作・異常状態無効・痛覚軽減・豪力・豪運・五感強化・日光耐性・◼️◼️紋[◼️・◼️◼️◼️◼️]・魔力操作・威圧・裁縫・言語理解

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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

 

 

俺達は現在、約100階層にいる。そこは無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。

柱の一本一本は直径5mははあり、柱の男がラスボスではないかと不安になる。

足を進めると、全ての柱が淡く輝き始めた。警戒態勢をとる俺達。柱は俺達を起点に奥へと順次輝いていく。

 

 

 

しかし何も起きない。この光は俺達を導くものなのだろう。それを理解した俺達は、足を進める。

 

 

しばらく歩くと、ハジメと再開した場所よりも豪華で煌びやか、そして大きい扉が待ち構えていた。

 

「…これはまた凄いな。もしかして……」

「…反逆者の住処?」

「無駄に豪華だな…これは少し無駄が多い…だがセンスはいいな…」

 

一人だけ呑気なことを口走る俺を睨む二人。いいじゃあないか。雰囲気的にも柱の男じゃあないってわかったんだからさ!

 

 

そして三人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

その瞬間、扉と俺達の間30m程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

「おいおい、何だこの大きさは?マジでラスボスかよ」

 

「大丈夫…私達、負けない…」

 

ハジメは思い出す。これまでの苦難を…ユエとの出会いを…ディオとの再会を…!

 

ユエは思い出す。叔父に裏切られ幽閉された時の虚無感を…ハジメに出会った運命を…!

 

 

 

 

 

 

 

隣で感傷に浸ってるとこ悪いんだけどさ…これって転移の魔法陣だよなぁ?扉使わねぇってのはどういうことだああ〜〜っ!?

ナァーンで、こんな豪華な扉を設置してる癖に使わねぇんだよクソがッ!!!俺を舐めてんのか!?さっき言った言葉返せや!!どんなに豪華で煌びやかでも使わなきゃ、『家にウォーターサーバーあるけど水って殆ど使わないんだよね、薬とかで飲む時は水道水だし!』と一緒じゃあねえかッ!!

ナメやがってこの迷宮、超イラつくぜぇ〜〜ッ!!

結局…扉無駄だったじゃあねぇか!! 

 

その瞬間、俺達を光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

光に呑まれたディオ達は、目を潰されないように、咄嗟に腕をかざす。光が収まった時、そこに現れたのは…

 

 

「クルゥァァアアン!!」

 

 

顔が六つある蛇だった。体長30m、目は赤く、六つの頭はそれぞれ違う色をしている。

例えるならヒュドラ、首はこの魔物より首の数が多いがヤマタノオロチだろう。

 

ディオ達に殺気を飛ばすと同時に、赤い頭が口を開き火炎放射を放った。

ハジメとユエは同時にその場を左右に飛び退くが、ディオは動かない。

もはや火炎放射ではなく、炎の壁というに相応しい規模の炎に、ディオは手をかざす。

 

「気化冷凍法ッ!!!このディオをこれしきの熱量で焼けると思うなァッ!!間抜けがッ!!」

 

炎は凍り、ディオが少し力を入れると粉々に砕け散る。

 

「ったく!!何で炎が凍んだよ!!相変わらず無茶苦茶なやつだな!!」

 

ハジメはそう叫びながらドンナーで、赤頭を狙い撃つ。その弾丸は狙い違わず赤頭を吹き飛ばした。

 

「炎は超高温の気体だッ!!しかし我が気化冷凍法の超低温はそれを上回るッ!!炎の熱を水に変え、更に凍らせる!!このディオにとって赤子の手をひねることよりも楽な作業よッ!!」

 

砕け散った氷の破片に紛れ、近くにいた白頭を狙い腕を振りかぶる。

しかし、間に黄頭が入り込み、拳は白頭には当たらず、黄頭だけを吹き飛ばす。黄頭は破裂したように爆散し、氷と一緒に肉片が舞い散る。

 

まずは二つとディオとハジメは内心ガッツポーズを決めた時、白頭が叫び、吹き飛んだ赤頭と黄頭を白い光が包み込んだ。

すると、まるで逆再生されているかのように元に戻った。白頭は回復魔法を使えるのだろう。

 

ユエも少し遅れて氷弾を放ち、緑頭を吹き飛ばすが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまった。

 

“ディオ、ユエ!あの白頭を狙うぞ!キリがない!”

 

ディオはハジメからの念話を受け取り、ハジメの射線に入る頭を蹴散らしながら、サポートする。

 

ハジメが白頭を狙い撃ち、ユエが“緋槍”を放つ。しかし、タイミングよく白頭が吹き飛んだ黄頭を回復させ、復活した黄頭が一瞬で肥大化し、銃弾と魔法が防がれる。

ディオも白頭を狙うが、他の頭に阻まれ、思うように攻撃出来ない。

 

しかも黄頭の耐久が非常に高い。ディオの4000後半の筋力での全力の一撃でやっと倒れるレベルだ。その威力に及ばないハジメのドンナーとユエの魔法ではなかなかダメージを与えられない。

 

ディオが向かうも他の頭に再度阻まれハジメの援護が出来ない。一瞬で全ての頭を凍らせるも、それを予知したかのように凍った直後に、赤頭が何かしらの魔法を使い、凍った部分を解凍し、更に白頭が回復魔法を使用することで復活する。

 

 

 

これではキリがない。

 

すると、念話でハジメから目と耳を守れと言われ、ディオは目を閉じ耳を塞ぐ。すると直後に閃光と音波がヒュドラを襲う。

 

今のはハジメが閃光手榴弾と音響手榴弾を投げつけたために起きた。それをまともに喰らったヒュドラは怯み、のたうち回る。その隙にディオはハジメ達と合流し、柱の陰に隠れた。

 

「おい!ユエ!しっかりしろ!」

 

「…」

 

ハジメの呼び掛けにも反応せず、青ざめた表情でガタガタと震えるユエ。一体どうしたとディオがハジメに問うと、どうやら黒頭はデバフ系の魔法を使うらしい。

ユエもハジメが頬をペシペシ叩きながら念話で呼びかけ続けるとユエは我に返り、虚ろだった瞳に光が宿り始めた。

どうやらハジメとディオに見捨てられた幻覚を見たらしい。あの黒頭は心の奥底にある不安を幻覚にして見せる魔法を使ったようだ。

 

だがディオには異常状態無効の技能があるため、大丈夫だとハジメにいい、ユエが完全に回復するまで俺が奴を引きつける。とカッコいい死亡フラグを建築していく。

 

「ヒュドラとかいう魔物!!このディオが相手してやるッ!!」

 

目と耳が徐々に回復してきたヒュドラは大きな怒りの咆哮を放ち、白頭を除く、全ての頭がディオに殺到する。

 

それを時には破壊し、時にはいなし、時にはわざと攻撃を受け、凍らせる。全ては自動再生という技能があってこその芸当だ。

ディオはそろそろ大丈夫かとハジメ達の方を見ると、なんと二人はキスしていた。

 

 

 

 

俺が一人で戦っているのにそれはないんじゃあないか!!?と思うディオだが、迫る頭を捌きながら、再びヒュドラの方へ視線を戻す。

 

その時、ハジメから念話でシュラーゲンを使う、と入る。シュラーゲンとは何か?と聞かれれば、地球でいうところの対物ライフルだ。まだまだ試作品だが、その一撃は全てを貫く、らしい。

 

すると、ハジメとユエが、漸く柱の陰から姿を現し、ユエが魔法を連発する。

 

「“緋槍”! “砲皇”! “凍雨”!」

 

矢継ぎ早に引かれた魔法のトリガー。あり得ない速度で魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と、鋭い針のような氷の雨が、赤頭、青頭、緑頭を襲う。

黄頭は守ろうと動こうとするが、ハジメやディオが白頭を狙っていることに気づき、その場を動かず咆哮を上げる。

 

「クルゥアン!」

 

すると近くの柱が波打ち、変形して即席の盾となった。…が、ユエの魔法により、呆気なく破壊され、後続の魔法が三つの頭に直撃した。

 

 

悲鳴を上げる三つの頭。そして黒頭が、反動で硬直したユエを再びその眼に捉え、恐慌の魔法を行使する。

しかしユエはハジメとのキスを思い出し、気持ちが体に熱が入ったように高揚し、不安を押し流す。

 

更にユエは威力重視の魔法に切り替える。それを連発で撃ち込み、3つの頭と互角に渡り合う。

 

黒頭は、ユエに魔法が効かないと悟ったのか、ディオを視界に入れ、魔法をかけようとするが、既にディオは腹に大きな穴を開け、地に伏せていた。黒頭は心音を確認しようと地面に耳を付ける。心音はしていない。

 

呼吸もしていないことを確認すると、ハジメのいる方へ向かおうとするが、その瞬間、ハジメは空中に飛び上がり背中に背負っていた対物ライフル:シュラーゲンを取り出し空中で脇に挟んで照準する。

 

 

黄頭が白頭を守るように立ち塞がるが、それを許さんと横から重い一撃が黄頭を襲う。

 

ディオだ。彼は技能の肉体操作で心音を消し去り、自分の腹に穴を開け、呼吸を止めて死んだフリをしていたのだ。

そしてノーマークとなったディオに黒頭は反応出来ず、ディオを見送り、黄頭は爆散する。

 

「今だッ!!決めろッ!!」

 

「砕く!!」

 

 

ドガンッ!!

 

 

シュラーゲンに赤いスパークが走り、大砲を撃ったかのような凄まじい炸裂音と共に、赤い弾丸が周囲の空気を焼きながら白頭に直撃した。

それはまるで何もなかったように白頭を貫き、背後の壁を爆砕した。階層全体が地震のように激しく振動する。

 

後に残ったのはドロドロと融解した白頭の残骸と、周囲を四散させ、どこまで続いているかわからない深い穴の空いた壁だけだった。

 

青頭は、他の頭と違い真っ先に立ち直り、ハジメに氷結のレーザーを放つ。それを空中で避けるが、少し足に掠ってしまう。だがそんなの関係ないとばかりに、ドンナーで青頭を撃つ。青頭の眉間に弾丸は命中し、爆散する。

 

一方、ディオはというと、黄頭を潰したついでに赤頭と緑頭を蹴り飛ばして飛散させた後、ユエの隣へと着地した。

 

これで黒頭を除く全ての頭が戦闘不能となってしまった。

 

「これで後は…「ハジメ!!」!!?」

 

ユエの切羽詰まった声が響き渡る。何事かとハジメは見開かれたユエの視線を辿ると、音も無く7つ目の銀色に輝く頭が胴体部分からせり上がり、こちらに向き口を開いているではないか!!

 

ハジメは飛びのこうとするが、足が先程の被ダメのせいで思うように動けない。

 

ディオとユエはハジメを助けようと動くが間に合わない。

 

銀頭が放った極光がハジメに襲いかかる。

 

「「ハジメッッ!!」」

 

 

ハジメのいた位置を光線は呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

マ、マズい!!!新しく頭がもう一本出てくるとか聞いてねぇぞ!!このままじゃあハジメが!!

 

 

 

 

「「ハジメッ!!」」

 

 

 

そうだ…隣にいるユエの血を飲めば…

 

「すまないユエッ!!」

 

右手でユエの首に差し込み吸血する。もう一つの手でハジメから万が一用にもらっていた神水を口に突っ込む。

 

するとユエは力が抜けたように荒い息を吐きながら倒れる。これは魔力枯渇の現象だ。気にしなくていい。神水のお陰か、俺が異世界の吸血鬼であるゆえか、ユエは瀕死の状態だが大丈夫だったようだ。

 

次に俺の体に変化が起こる。メキメキと音を立てながら肉体が変形する。肩幅は前よりも広くなり、付いていた筋肉は更に膨張する。顔の彫りも深くなり、着ていた服も変化に耐えきれず弾け飛ぶ。

 

その瞬間、黒頭が邪魔をさせるかと俺達の目の前に踊り出てくる。黒頭は俺を視界に捉え、魔法をかける。

 

 

 

すると目の前には真っ暗な空間が広がっていた。何かを持っている。よく見るとそれはミイラになった雫だった。

 

「ディオ…貴方は…」

 

そして彼女は息絶える。

 

周りを見るとそこには大量のミイラが捨て置かれていた。そこにはハジメやユエも混ざっている。クラスメイトも、家族も…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フンッ…くだらん…!」

 

 

脳裏に再度声が響く。

 

 

私は君だ。

 

 

◼️◼️紋[◼️・◼️◼️◼️◼️]

 

 

俺はお前だ…

 

◼️◼️紋[◼️・◼️◼️◼️◼️]

 

()達は……ディオだ…そしてそしてこれからは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DIOだ…!

 

 

 

真っ暗な空間に亀裂が入り、覚醒する……

 

 

 

 

 

『“そばに現れ立つ”、“立ち向かう者”というところからそのビジョンを名付けて、幽波紋(スタンド)!!

 

 

 

世界… 名付けよう…私達のスタンドは…

 

 

 

 

 

 

世界(ザ・ワールド)!!」

 

 

 

 

幽波紋[ザ・ワールド]




ディオが黒頭の魔法にかかったのは、実は魔法はデバフ系の魔法ではなかったからですね。
この魔法は心の奥底に眠っている恐ろしいと思う、思っていた出来事を見せているだけなんです。どの出来事が出てくるかは完全なランダムですが。
恐慌に陥るのは、その幻覚を見て発狂するという二次災害です。なのでディオの無効は効きませんでした。



独自設定です。すみません。


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“世界を支配する”能力

世界(ザ・ワールド)!!」

 

その言葉をトリガーに、金色のオーラがDIOを包むように纏い、半透明の逞しい体つきをした人型の像が背後に現れる。

その姿は三角形のマスクを被ったような顔、背中にはタンクのような物体が付いてあり、手の甲には時計のようなマークがある。

肌は白く、纏っている装備は全て、DIOの髪色のように黄金色だ。

 

そしてDIOは一言、この像、スタンドの能力を発動させる言葉を声に出す。

 

「“時よ止まれ”!」

 

その瞬間、世界から音が消えた。何も聞こえない、誰も動かない、それがDIOのスタンドの能力。“時間停止”

光をも止め、背景は灰色になる。決して何者も干渉されることのない絶対的領域。

そして…

 

「止まった時の中は一人…このDIOだけだ…!」

 

DIOは目の前にいる黒頭に自身の拳を叩き込み、飛散させる。それは弾けると同時に再度止まる。

 

 

1秒経過…

 

 

黒頭を始末したDIOはハジメの元へ瞬時に移動し、ハジメを光線の射線から離す。もう少し時間を止めるのが遅ければハジメはこの光線に全身巻き込まれていただろう。顔に掠るだけで済んだのは幸運だった。片目は蒸発してしまったが…

 

 

2秒経過…

 

 

「“そして時は動き出す”」

 

その瞬間、世界に色彩が戻り、時は再び刻み始める。

光線は先程までハジメがいた場所を呑み込み、後ろの柱や壁を貫き、ハジメのシュラーゲンにも負けない程の威力を見せる。

 

だが無意味だ。

黒頭は突如飛散し、何が起こったのか分からぬまま意識を掻き消される。

 

 

銀頭は、ハジメが仕留め切れなかったのと、黒頭が何が起きたかわからない内に破壊されたことを理解し、怒りの咆哮を上げる。

口に光を圧縮され、放とうとしたその瞬間、再度DIOが時間を止める。

 

「ザ・ワールド…!」

 

またしても時が止まり、DIOだけの世界が展開される。

 

DIOはヒュドラの背中が見える上空へ浮遊し、腕を組みながらザ・ワールドをヒュドラへ向かわせる。

 

[無駄ァ!!]

 

ザ・ワールドが吠え、ヒュドラの背中に拳を突き出す。その一撃でヒュドラは凹み、鮮血を撒き散らす。

まだまだ終わらない。まだ始まったばかりだ。

更に反対の腕を振りかぶり突き出す。重く、速く、ザ・ワールドは連続で拳を突き出す。

 

 

[無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァアァアァァアアッ!!]

 

 

2秒経過…

 

 

「そして時は動き出す!!」

 

 

 

 

 

 

グゥルアァァァアアア!!?

 

 

時が動き出したと同時に大きな爆音、ヒュドラの悲鳴が空間に響き渡る。ヒュドラの肉体はドンドンと爆音を鳴らしながら潰れていき、数秒後にはヒュドラと思われる肉塊しか、その場に残っていなかった。

 

「これが“世界を支配する”能力、ザ・ワールドだ…!」

 

ザ・ワールドはDIOの体に戻るように消え去り、それと同時にDIOはそのまま地面に落下し、意識を手放した。

 

 

 

 

「ディオ!!?」

 

突如起きた怪奇現象に困惑しながらも、ハジメは神水を飲みながらDIOの元に駆け寄る。

 

容態を確認し、気絶していることがわかり、ハジメは安堵する。

 

そしてユエの方を見ると、思わずハジメは硬直してしまった。

ユエが…ユエが瀕死の状態だったからだ。硬直が解けた瞬間に、ユエの元へ駆け寄り血をを飲ませる。

 

ハジメの血を飲むこと数十秒、ユエの荒くなっていた呼吸も落ち着き、普段と同じように話せるようになるまでに回復した。そしてハジメが尋ねる。

 

「何でユエが倒れてんだ!?」

 

ユエはその質問に、DIOに視線を向けながら答える。

 

「…ディオに、血を吸われた…」

 

その言葉を聞いた瞬間、ハジメの頭の中は真っ白になった。 

前に言っていたDIO達の言葉を思い出したからである。

 

『吸血鬼同士で吸血すれば、どちらも死ぬ』…と。

 

DIOは不老不死のため死なない。しかしユエはどうだ。彼女は不老であり再生もするが不死ではない。下手をすれば死んでいたかもしれないのだ。

自分の好意を抱いてる相手を親友があと一歩のところまで追い詰めたのだ。

 

「ディ…ディオが…ユエ…を、…」

 

そんなハジメの心を読んだようにユエは付け加える。

 

「でもディオを責めないであげて…彼もハジメを助けるために必死だった…。それに吸血する際に『すまないユエッ!!』って言ってたし…」

 

「そ、うか…」

 

ユエが死んでいたかもしれないし、しなければ自分が死んでいたかもしれない。複雑な心境でDIOを見ながらハジメは呟く。

 

「起きたら礼を言わねーとな… 今までありがとう…ディオって…」

 

一瞬、奈落に落ちる前のハジメの表情に戻った。ほんの一瞬だった…のにユエはしっかりとその優しげなハジメの表情を目に焼き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメはまだ本調子ではないユエを背負い、DIOの両足を掴み、引き摺る形で奥の、ひとりでに開いた扉へと向かっていった。

 

流石のハジメも裸の男を背負いたくはなかった。例え親友でも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

俺が目を覚ますと知らない場所だった。白いベッドに寝かされ、薄いシートを掛けられている。

そういえばヒュドラはどうなったんだ?俺が生きて…いや、俺死なないな…俺がこうしてベッドに寝てるってことはハジメがどうにかしてくれたのか?

 

え〜と…始めから思い出してみよう…

 

ヒュドラの部屋へ転移された。黒頭を除く全ての頭を撃破した…そこで銀頭が突如出て来て……ハジメに光線を…撃って…咄嗟に……

ユエの血を……吸って……そこから……

 

思い出せない……俺は一体何をしてたんだ…?そこから何を…

 

 

部屋を見渡すと、等身大の縦鏡があり、その前に立つと自分の身体の変化に気づく。本来、吸血鬼は鏡に写らないようだが、どうやらジョジョの吸血鬼は問題ないようだ。

 

 

俺……DIO様になってるだとーーーッ!!?

 

 

え!!?何故!!?いつこんな変化を!!?じゃ、じゃああれも出せるのか!!?

 

「ザ・ワールドッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………出て来たっちゃ出て来たけど…何で下半身が無いんですかねぇ…しかもシルエットだし。ゲームの邪悪の化身DIOの奴っぽい。

時を止められんのか?

 

「時よ止まれィ!!」

 

瞬間、全ては灰色になり、光も、音も、風も止まる。

 

 

 

 

 

 

だが一瞬で元に戻ってしまった。どうやらまだザ・ワールドは0.5秒程しか止められないようである。まぁ無くとも十分チートだろう。あの化け物並みのハジメのステータスと同じくらいだからな。

本人は俺の方が絶対高いと言うがわからん。

 

取り敢えずスタンドの力を試してみるか…試せる場所は…

 

ひとまず外に出ようとドアを開けた瞬間、ハジメと目があった。そっとドアを閉めた。

 

 

「おいおいおい!?何閉めてんだよ!!」

 

「いや、私に白髪、赤目、眼帯、義手のような厨二要素満載の知り合いはいないのでね…。いや、一人いたな…厨二病の…もしかしてハジメくんかい?」

 

少しの静寂…するとカチャッという音が聞こえ、ハッ!となった頃にはドパンッドパンッ!とドア越しに撃たれ俺の腕が千切れ飛ぶ。

 

「ウゲェ!!?待て待て待てッ!!!私は目覚めたばかりだぞ!!そんな私に!!」

 

「うるせぇぇええ!!」

 

 

俺とハジメの追いかけっこは30分程続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追いかけっこが終わるとヒュドラとの戦いの後を教えてもらった。ついでに記憶が抜け落ちたところも。

どうやらヒュドラは俺が殺したらしい。瞬間移動を使いハジメを助けたと思ったら宙から落ちて来て、ヒュドラもいつの間にか肉塊に変わっていたという。

訳がわからないよ。

まぁ、そこで俺がザ・ワールドで時止めをしたのだろう。瞬間移動とか俺出来んし。それしかありえん。

 

ヒュドラを倒した俺はすぐに気絶したそうだ。ハジメは俺を引き摺りながら奥の扉の中に入ると、そこは反逆者の住処だった。らしい。

 

そして俺をベッドに寝かせてから、ハジメは神水を、ユエは血を飲みまくり、回復するのに徹していたそうだ。

どうやらヒュドラの光線には毒が含まれていたらしく、かなり危ない状態だったとか。

 

その後はこの住処を探索してたらしい。

ついでに俺は一週間も寝ていたとか…寝過ぎだろ俺…一体どうした?

 

 

「そうだったのか…で?その厨二病満載のその腕はどうした?」

 

「厨二病言うな!!…これはオスカーが作っていた義手を俺が改造したもんだ。最近付けたばかりだからな、まだ馴染んでねえ」

 

ほ〜ん…まあハジメが手を加えたのなら強力な武器になるのだろう。そりゃよかった。

 

「あとディオについて来て欲しい部屋がある。いいか?」

 

「違うぞハジメ」

 

「は?」

 

「Dに、I、そしてO。私はディオではない。DIOだッ!!」

 

「いや、変わってないだろ…」

 

変わって無くても文面じゃあ意味があるんだよ!スタンドも出せるようにもなったしな!

 

「ハァ…じゃあDIO、ついて来て欲しい部屋がある。いいか?いいな?」

 

なんだその溜息は!!やれやれ、仕方ないなぁ◯び太くんはって言ってる青ダヌキのような態度とりやがって!!

まぁいいか。

 

「いいだろう」

 

「じゃあ行くぞ」

 

俺は、立ち上がり部屋を出るハジメの後について行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ハジメの後を追い、たどり着いたのは、中央に大きな魔法陣が刻まれた部屋だった。その奥には豪華な椅子に骸骨が座っている。

 

ハジメに魔法陣の上に乗れと言われ、言われるがままに乗ってみると、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げた。

 

やがて光が収まり、目を開けると、そこには黒衣の青年が立っていた。

 

 

 

 

そこから長い長い話が始まった。内容からしてエヒト神は人類、全ての種族の敵だということがわかった。マジでサイコな神だ。人間を玩具としか思ってねぇ。しかもそれを人類は崇めている。最悪だな…まぁ俺やハジメ、ユエには関係ないが。

 

そう考えていると、このオルクス大迷宮の創造者オスカーの長い話が終わり、穏やかに微笑む。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。

ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。

…君に力を授ける。どのように使うのも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには使わないで欲しい。

話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを…」

 

そう話を締めくくり、オスカーの姿はスッと消えた。すると脳裏に何かが侵入してくるような不快感を一瞬感じたが、すぐに治った。

 

 

 

「神代魔法を無事手に入れたようだな。

さて、これからディ…DIOはどうする?俺とユエは故郷の日本へ帰るために他の大迷宮を回って、他の神代魔法を習得するつもりだ。」

 

う〜ん…これから…か。それは…

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

『「“天国”へ行く」』

 

「は?天国?」 

 

『「あぁ、私は精神が天国にたどり着くことが出来ると本当の幸福がそこにある…と考えていてね… ハジメ、君は幸福というものはどういうものだと思う?」』

 

その質問にハジメは少し悩み、答える。

 

「それは全部個人の匙加減じゃないか?道で金を拾った、幸せな家庭で育った、運命の出会いをしたとか…」

 

『「それも幸福だろう…だが、本当の幸福ではない。本当の幸福とは、無敵の肉体や大金を持つことや、人の頂点に立つ事では得られないということはわかっている。しかし“天国”にはそれがある。

真の勝利者とは“天国”を見た者の事だ……どんな犠牲を払ってでも私はそこへ行く」』

 

突如雰囲気が変わったDIOに圧倒されながら頷くハジメ。そして尋ねる。

 

「じゃ、じゃあDIOは俺達と一緒に来ないのか?」

 

『「いや、私も同行する。“天国”へと向かうには条件があるからな…」』

 

「条件?」

 

『「あぁ、特別にハジメにだけ“天国”へと到達する方法を教えてやろう。

 

 

必要なものは私のスタンドである

 

 

必要なものは信頼できる友である

 

 

必要なものは極罪を犯した36名以上の魂である

 

 

必要なものは14の言葉である

 

 

必要なものは勇気である

 

 

朽ちていく私のスタンドは、36の罪人の魂を集めて吸収

そこから新しいものを生み出すであろう

 

 

最後に必要なものは場所である

北緯28度24分、西経80度36分へ行き…次の“新月”の時を待て…

 

 

それが“天国の時”であろう…

 

 

 

 

 

これが“天国へと辿り着く”唯一の方法だ」』

 

 

 

「そ、そうか…じゃあDIOは俺達と共に来るってことだな?」

 

DIOの話している内容を半分も理解出来ていないハジメは話題を逸らすように尋ねる。

 

「そうなるな」

 

その瞬間、DIOからの威圧感、圧迫感が消え去り、通常のDIOに戻っていた。

 

(というかさっきからスタンドって何だ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

俺は天国に行かなくてはならない… 理由はわからない…これが俺の進むべき道だ…

 

 

 

 




突然だけど帝国勢と光輝達の絡みのシーンいるかなぁ…展開殆ど変わらないし…



後、人型のスタンドのラッシュってどっちが叫んでるのだろか…


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運命

遅れてすいません…次も更新恐らく遅くなります。


俺達は何故“天国”へ向かおうとしているんだ?

 

 

それが私達が“運命”を覆す唯一の方法だからだ。

 

 

“運命”?

 

 

そうだ…我々、生命あるものは全て『運命の奴隷』なのだ。

“運命”とは、この世に生まれ落ちた瞬間から『決定されている未来』であり、また『人と人との出会い』のことだ。“運命”は必然であり偶然ではない。全て理由がある。

例えば…君とハジメの出会いなんかがそうだろう。

あの時君がラノベじゃあなく、他の本棚にいればハジメに会うことはなかっただろう。彼との縁は奈落へ落ちた今でも続いている。

そして、決してその“運命”を変えることは出来ない。それは私達のような生物を超越した者でも…だ。

人間を辞めた私も最後は“運命”により敗北した。

 

 

それじゃあお前はどうやって“運命”を覆そうとしているんだ?

 

 

私達は『運命の奴隷』だ。それを、私達を解き放つことが出来るのが“天国”へと到達することだ。

“天国”へ到達した者は“運命”という鎖に縛られない。そのような特別な立ち位置に立てる。

 

 

“天国”へ行く…か…それはあの天国地獄の“天国”か?

 

 

それは違う。私の言っている“天国”とは“精神”に関わる事だよ。

精神の向かうところ……死ねってことじゃあない。精神の『力』も進化するはずだ。

そしてそれの行き着くところって意味さ。

 

 

意味がわからない…一体お前は…!!

 

 

おっと、すまない…そろそろ時間のようだ。君が今わからないのも無理はない…しかし…君はいつか、私やかつての友のように、この“天国”を理解出来る日が来るだろう…

あと、私達の裸体を容易に晒すんじゃあない!

 

 

待てッ!!?待てッ!!クソッ…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ちやがれッ!!!」

 

俺は目を覚ますと、手を上に掲げて大声で叫んでいた。

何故叫んだのだろう…何も思い出せない。何か大切なことを話していたような気がする…

たしか…俺の裸体がどうやらこうたら…

 

 

まぁそんなことは置いといて、俺がこのオスカーの住処に辿り着いてから約二ヶ月経ちました。

その間、三人で特訓しまくり、ステータスは右肩上がりだ。ハジメがだけど。俺の無いから強くなってるかわからん。

因みに、手に入れた神代魔法『生成魔法』の適性はそこそこだった。

錬金術師のハジメには勝てなかったよ…

 

この魔法めちゃ使える。その効果はなんと、都合の良い鉱石を創り出すことが出来るという効果だ!!ハジメと俺が三週間程、寝る間も惜しんで共同開発したのがこちら!!

 

 

 

テッテレー!『衣服自動修復装置〜(ダミ声』

 

 

効果は名前の通り、見た目はDIOに合わせて、緑色のハートのサークレットだ。一応これが壊れた時用に両膝に予備を付けている。

皆さん気になる見た目は勿論DIO様フォームよ。

黄色の上着に黒いインナーを着用し、ズボンも黄色、しっかり股間の社会の窓も開けている。

もう魔物の毛皮で服を作る必要はなくなったのだ…!!

 

 

うん、本当にハジメには悪い事したと思ってる。反省するよ…多分。

 

 

そしてハジメの持つ『宝物庫』という便利アイテムの複製を作った。これが何なのかと聞かれれば四次元ポケットと答えよう。元々はオスカーの遺体の指に付いていた物らしく、それをハジメが頂戴したようだ。

俺とハジメはそれを解析し、本物にはまだ及ばないが、『宝物庫』の複製の製造に成功したのだ!いずれはあの世界最古の王みたいにするのさ!

形状は、オリジナルの指輪とは違うベルト型にしておいた。しっかり緑色のハートだ。

 

そしてハジメのステータスはこちら!

 

===============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

天職:錬成師

筋力:13256

体力:15368

耐性:10862

敏捷:14568

魔力:15832

魔耐:14786

技能:錬成・その他諸々

===============================

 

こんな感じだ。うん?技能が適当だって?

しょうがないじゃあないか。ハジメの技能多すぎるのが悪い。技能数26+派生技能20だ。こんなにやるのは面倒だぜ。

 

しかも魔物を喰いすぎてる為、レベルはバグっている…チーターや!!

さらにユエとできていた。奈落に落ちてからいつも強気のハジメが受け身になってるところを見て思わず吹き出してしまい、バレて十時間程追いかけられた…

 

 

 

 

 

 

まぁそんなこんなで二ヶ月の猛特訓を終え、ステータスだけでは無く、技術もかなり上昇した。

例えばハジメ、彼は『宝物庫』から弾丸を空中に転送し、そのまま装填するという人間離れした技術を手に入れていた。あと、魔力駆動二輪、四輪を製造していた。バイクと車だな。

ハジメの蒸発した目については、魔眼石とか作って目に填めていた。完全なる厨二病である。

ぼくのかんがえたさいきょーのきゃら(アルティミット・シィング・ハジメ)の誕生だーッ!! 

 

俺もかなりの力と技術を手に入れたつもりだ。そう易々と地上の敵に負けはしないだろう。ハジメとユエにもまだ負けたこと無いし。

最後にスタンドだが、全体像を出せるようになった。止められる時間はまだ3秒だが、これから伸びていくだろう。いずれは1分、1時間、制限なしになる可能性もある!!

あと、このザ・ワールドはハジメやユエにも見えるらしい。まったくスタンドはスタンド使いにしか見えないというルールはどうなってんだ。仕事しろ!

しかしユエが言うには、このザ・ワールドは魔力の塊で出来ており、技能に“魔力操作”を持つものにしか見えないのだとか。魔物はみんな持ってるな、うん…

 

ハジメ曰く明日にはもう地上へ戻るそうだ。俺も住処から出る準備は終えてるし後は眠るだけだ。

俺は最後に、復活した最下層の魔物の血を飲み干し眠りについた。

 

 

 

 

 

 

===============================

DIO・Brando 17歳 男 レベル:???

天職:吸血鬼

筋力:38215

体力:25096

耐性:13941

敏捷:32009

魔力:11231

魔耐:10013

技能:吸血・自動回復・不老不死・肉体操作・異常状態無効・痛覚軽減・豪力・豪運・五感強化・日光耐性・幽波紋【ザ・ワールド[+時間停止]】・魔力操作・威圧[+圧迫]・裁縫[+精密裁縫][+生地見極]・生成魔法・高速魔力回復・投剣・血飲強化・言語理解

===============================

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

ついに今日、DIO達は地上へ出る。

屋敷の三階にある魔法陣を起動させながらハジメはユエに小さな声で告げる。

 

「俺がユエを、ユエは俺を守る。それで俺達は最強だ。DIOもいるが途中で抜ける可能性が高い。最悪は敵になるかもしれない…あいつにはなるべく“天国”の話を振るな。呑まれるぞ。」

 

「ん…DIOが“天国”について話す時…何かおかしい…」

 

「あぁ…抜けるだけなら全然気にしないんだが…敵となると俺達二人がかりでも倒せるかもわからない。それ程の力だ。」

 

ハジメとユエはDIOから漏れ出る微々たる狂気を、この二ヶ月で感じ取っていた。普段は何も感じないが、“天国”の話になるとDIOはおかしくなるのだ。

無意識に威圧感を放ち、幾らか耐性を持っているハジメとユエさえも震え上がらせる。

 

何か考えごとをしているのか、日光対策のコートを羽織り、静かに目を閉じているDIOを見ながら再度ユエに告げる。

 

「敵は誰であろうと全部なぎ倒して、世界を越えよう」

 

ハジメの言葉に、ユエは背後からハジメに抱きしめ、いつもの無表情を崩し、花が咲くような笑みを浮かべた。そして少し寂しい表情になる。

 

「んっ!!………でも無理はしないで……私はハジメが傷つくところを見たくないから…」

 

ハジメはDIOから目線を落とし、俯きながら答えた。

 

「わかってる…」

 

 

 

そして次の瞬間、眩い光が三人を取り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜~~~~~~~~~

 

俺の“天国”へと到達する条件は既にいくつか揃っている。

 

 

必要なものは私のスタンドである。

これはザ・ワールドがある。

 

 

必要なものは信頼出来る友である。

これはハジメだ。多分大丈夫だろう。…いや、神の法を尊んでいないな…大丈夫だろうか…

 

 

必要なものは14の言葉である。

これは何十年も前に見たのにも関わらず、全て覚えている。

 

・らせん階段

・カブト虫

・廃墟の街

・イチジクのタルト

・カブト虫

・ドロローサへの道

・カブト虫

・特異点

・ジョット

天使(エンジェル)

・紫陽花

・カブト虫

・特異点

・秘密の皇帝

 

だ。これを特定の場所で言えばいいだろう。

 

 

足りないものは極罪を犯した36名以上の魂、そして勇気だ。

 

俺は天国へ行くと言ったものの、まだそのことに関して恐怖心が消えていない。何かが胸の中でモヤモヤとし、何かを引き止めているようだ。一体何を止めているのだろうか…

スタンドを捨て去る勇気を出すにはまだ時間がかかりそうだ。

 

36の魂はこれからの道中に集めればいいだろう。この世には屑が溢れているからな。神父みたいに収監所のような場所へ赴くのもいいかもしれない。

やはり質の悪い魂より、高純度の魂が欲しい。その方が天国へ到達した時に得られる力は大きい。

 

 

 

 

あれ…?なんで俺、そんなこと知ってんだ…?というか俺が天国に到達したら神父みたいに時を加速して、世界を一巡させるのか?…わからん。

 

 

 

 

俺達のいる魔法陣が光を放ち始める

 

おっ、そろそろ転移か…少し名残惜しい気もするが早く美味い血を吸いたい。まずは近場の村や町の人間共を手当たり次第に殺さないように吸血して回るか。

この際男でも構わない。ハジメの血は流石に飽きた…!

 

 

そこで光が俺達を包み込み、転移の術式が発動した。

 

 




オリ主はアイズオブヘブンを知りません。というかオリ主の元いた世界では存在していません。所謂パラレルワールドってやつですね。


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スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う

11月23日、アンケートを終了します。投票してくださった3156人の方々、ご協力頂きありがとうございました!



魔法陣の光に視界を満たされた。何も見えないが空気が変わったのは実感した。奈落の澱んだ空気とは明らかに異なる。

しかし何故か日光に晒された時の疲労感、怠惰感が襲ってこない。しかし夜のように力は湧き上がらない。

 

つまりはだ…

 

 

 

 

洞窟じゃねーか!!

 

「なんでやねん」

 

ハジメも隣でツッコミ少し落ち込んでいる。

そんなハジメを慰めるようにユエは自分の推測を話す。

 

「秘密の通路…隠すのが普通…」

 

そりゃそうだなと思いつつも俺達は道なりを進んでいった。途中にトラップや封印された扉などが多々あったが、全てハジメの持つオルクスの指輪に反応し、勝手に解除されていった。何事もなくてよかったでござる。

 

更に進むと、遂に光を見つけた。それと同時に体の具合が悪くなる。間違いない。あれは日光だ…!

 

ハジメとユエはニッと笑みを浮かべ駆け出した。当然具合の悪い俺は置いていかれる。

 

待ってッ!!行かないでッ!!

 

仕方なく『宝物庫』から議員が乗っていたような自動車のクレスタの形をしたモノを取り出し、それに乗車する。

色は赤色、フロントガラスや窓は、俺が生成魔法で作り出した“日断石”という魔石がコーティングされていることで、外の日光が遮断されており中は快適。しかも耐久も高く、突如フロントガラスを割りに来るやからがいても、一切傷つかない作りになっている。

ハジメの錬成で作ってもらった逸品だ。

 

既に姿が見えなくなったハジメ達を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ハジメ達を追い、車を走らせ迷宮の外へ出ると、既にハジメ達は魔物達に囲まれていた。手助けする必要もないが、なんとなくハジメ達の隣を走り抜け、魔物達を轢き殺していく。

 

ガァァァアアア!!と断末魔を上げながら屍と化していく魔物を見ながら少し口角を吊り上げる。

今の俺には、子供が蟻で遊ぶように、蟻を魔物に置き換え、子供が虫を玩具とするように俺は魔物が玩具にしか見えない。相変わらず不味そうな血を撒き散らしながら息絶えていく。こういうのを見ると突如来る“発作”が抑えられている気がするのだ。

 

ハジメも隣でドンナーを撃ち、魔物の頭部を次々と破壊していく。それはまさに戦いと呼べるものではなく、蹂躙と言う方が正しい。俺にとっては遊戯だったが。

辺り一面が魔物の屍で埋め尽くされるのに3分もかからなかった。

 

俺達は手応えのなさを実感しつつも、俺は再度周りを見渡す。

高さ一キロはある断崖絶壁に挟まれている。名前はたしか【ライセン大峡谷】だったな…断崖の下では魔法が殆ど使えないというクソ仕様。お陰でザ・ワールドも出すのが辛い。いつもの十倍は魔力が持っていかれる。

 

ライセン大峡谷は基本的に東西に伸びた断崖だ。そのため脇道などが殆どなく、道なりに行けば迷うことなく目的地に到着出来る。

最初の目的地は獣人族が住んでいる樹海だ。因みに反対方向に進めば、砂漠地帯だそうで、そこを抜けるならある程度支度してからということになった。

 

 

ハジメは俺と同じように“宝物庫”から魔力駆動二輪、所謂バイクを取り出し、それに颯爽と跨り、後ろにユエが横乗りしてハジメの腰にしがみついた。

一緒に乗らないのは俺があの二人の関係を邪魔しないためである。というか目の前でイチャイチャされたらたまったもんじゃあない。爆ぜろ。

 

 

そんなこんなで俺達はこのライセン大峡谷の何処かにある迷宮の入り口を探しながら軽快に車とバイクを走らせていく。

その間もハジメはバイクを走らせながら魔物を撃ち殺していく。俺?俺は見学だよ。スタンド出すのしんどいし。

 

 

 

暫く車を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。まあまあの威圧だ。奈落の魔物共には劣るが、ここらの奴らの中ではかなりのものだ。

突き出した崖を周りこむと、その向こう側に大型の魔物が現れた。

頭が二つという異形で、ティラノザウルスのような姿をしている。

だが真に注目すべきは双頭ティラノザウルスではなく、その足元をピョンピョンと飛び回るウサミミを生やした少女だ。

 

俺とハジメは車とバイクを止め、そのウサギを見つめる。ハジメはウサミミの少女が何故こんな場所にいるのか疑問に思っていたが彼のことだ。彼女は所詮赤の他人、助けるだけ無駄、と考えているだろう。

 

 

だが俺は違う。俺は再度、魔物から逃げ惑う彼女を凝視する。健康そうな体つきをしておりとても美味しそうだ。

 

食べたい…飲みたい…彼女の血が……!

 

俺には抑え切れなかった。奈落に落ちる前ならこうはならなかっただろう。なにせ魔物の血は吐き気を催すほど不味い。ハジメの血は魔物の血よりはマシだが正直言ってマズい。魔物を喰っているのもあるだろう。美味い美味いと血を飲んでいるユエに頭大丈夫か?と聞きたいレベルで…だ。

 

 

それがどうだ。彼女の血は絶品だろう!甘美であろう!不味いモノばかり食べていた奴が、突如美味いモノを目の前に置かれたらどうする!?どうなる!?

 

 

 

食べるしかないよなぁ!!?

 

 

 

「ザ・ワールドッ!!!」

 

[無駄ァッ!!]

 

こちらに気づき泣きながら助けを請う彼女の頭上にザ・ワールドが現れ、ティラノザウルスの胸を魔石ごと殴り消し飛ばす。慈悲はない。

ザ・ワールドは一仕事を終え、満足そうな顔をしながら消えた。

 

一瞬にして屍と化したティラノザウルスは地響きを立てながら倒れる。その衝撃でウサミミ少女は吹き飛ぶ。狙いすましたかのように俺の車の方へ。

 

「きゃぁああああー!た、助けてくださ〜い!」

 

俺は体が重くなり、体調が悪くなるのを無視し、ボロボロになったウサミミ少女を優しく包み込むようにキャッチし、そのまま流れるように首筋に歯を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ウサミミ少女は赤い何かの方へ、魔物が倒れた衝撃で吹き飛ばされる。彼女は確信していた。こちらを見る白髪の男性と金髪の少女、そして彼女を受け止めるために外へ出てきた男性が、彼女を、家族達を助けてくれると……!

 

 

 

 

優しく腕に包み込まれた少女は、自分のことを助けてくれた男性の顔を見た。心臓の鼓動が跳ね上がった。

絶世の美青年。そんな男性が微笑みながら自分を至近距離で、夢にまで見たお姫様抱っこで見つめているのだ。顔に熱が篭る。

 

「あ、ありがとうございま、ヒャッ///!?」

 

お礼の言葉をなんとか絞り出すと、それを言い終わる前に突如彼は顔を近づけてきた。変な声が出たのは仕方ないだろう。

 

顔が近づくにつれて彼女は目を瞑り唇を少し前に出し、目の前の男性の唇がくるのを待つ。彼女だって女だ。ウサギは一年中発情期とかいうが今は関係ない。

 

期待して待った…次の瞬間、生物としての本能が突如、警鐘を鳴らす。心臓が更に速く動く。汗が噴き出す。

 

彼女は先程まで…この心臓の高鳴りは…きっと恋だと思っていた…初恋だと思っていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

違った…この高鳴り…それは恐怖だった。

 

 

 

 

 

 

 

「キャァァァアアアアアア!!!」

 

峡谷に少女の声が響き渡った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「おい、大丈夫か!」

 

ウサミミ少女の頬をペシペシ叩く。恥ずかしいことに少し暴走してしまったようだ。ん?血の味?あぁ美味かったとも。久しぶりの御馳走だった。ハジメ達に止められなければ彼女の血を残さず全て飲んでいただろう。

 

「出会ったばかりの女に…流石にそれはドン引きだぞ…」

 

「久しぶりの御馳走だぞ?美味い血だ。しょうがないじゃあないか」

 

「…わかる」

 

「ユエさん!?」

 

ハジメには少々引かれたが、やはりユエは話がわかる。流石は吸血鬼の女王だ。味覚はわかりたくないがな。

というより何故彼女は絶叫してたんだ?快感が走る筈なんだが…喘ぎ声を上げるならいざ知らず…

 

「うぅ…私は一体……そ、そうでした!!私は…ってヒィッ!!?」

 

目覚めてすぐに涙目になり怯え、俺から距離を取るようにハジメの背後に隠れる。泣きそう…いや、俺が悪かったな。

 

「汚い顔近づけるな、汚れるだろうが」

 

「酷い!?」

 

ハジメはウサミミ少女を蹴飛ばし俺の前に出させる。確かに涙や鼻水で顔はぐちゃぐちゃだが容姿に体型は完璧といっても過言ではない少女を汚いといい蹴飛ばすのはどうかと思う。

 

彼女はそこで今思い出したかのように後ろで倒れているティラノザウルスに目を向ける。

 

「し、死んでます…あのダイヘドアが…」

 

ウサミミ少女は驚愕も表に目を見開いている。どうやらあのティラノザウルスはダイヘドアというらしい。

驚愕に硬直している彼女の肩にチョンチョンと叩くと、またもや怯え俺から距離を取る。

 

「おいおい、そんなに怖がらなくてもいいじゃあないか…何も恐れることはないんだよ…友達になろう」

 

子供に言い聞かせるように優しく言ってみた。これでダメなら諦めるしかない。

 

「そりゃいきなり血を吸われたら誰でも怖がるだろ。普通」

 

そこ!うるさい!  

 

少女は覚悟を決めたように大きな声で叫ぶ。

 

「さ、先程は助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです!取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

なかなかに図太い内容の自己紹介だな…

隣でハジメは深い溜息をついている。

 

「あぁ…シア…だよな?取り敢えず事情を説明してもらってもいいかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《少女説明中…》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の家族を助けてください」

 

シアという少女の話を要約するとこうだ。

 

シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。戦闘力は低く、長所といえば聴覚と隠密行動に優れているということだけらしく、亜人達の中では格下に見られる傾向が強いらしい。

性格は総じて争いを嫌い、一つの集落全体をを家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。

 

そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。基本髪色は濃紺なのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。

しかも、亜人族にはないはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。

 

そんなこんなで亜人族の国【フェアベルゲン】にバレれば確実に処刑される。家族愛が非常に強い一族の兎人族達は見捨てず、女の子を隠し、16年の間ひっそりと育ててきた。

が、先日彼女の存在がバレてしまった。その為、フェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。

 

しかしその道中に帝国に見つかり、このライセン大迷宮に逃げ込んできたそうだ。

 

しかし撤退するだろうとふんだ兎人族達だったが、予想に反し一向に撤退せず、出入り口を陣取り、兎人族達が魔物に襲われ出てくるのを待っていたのだ。

 

 

「…気がつけば、60人はいた家族も、今は40人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

最初の少し残念な感じとは打って変わって、恐怖による体の震えも止まり、悲痛な表情で懇願するシア。

そんはシアにハジメは特に表情を変えることなく答えた。

 

「だが断る」

 

ハジメの言葉が静寂もたらした。何を言われたのかわからない、といった表情のシアはポカンと口を開けた間抜けな姿でハジメをマジマジと見つめた。

少ししてから硬直が終わり、物凄い勢いで抗議の声を張り上げた。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと!何故です!今の流れはどう考えても『なんて可哀想なんだ!安心しろ!!俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ!貴方もそう思いますよね!?」

 

おおう、俺にいきなり話を振ってくるんじゃあない。というか俺達結構大事なことスルーしてたな…

 

「それはどうでもいい。「酷い!?」そんなことよりも…貴様…これが見えるのか…?」

 

俺は抗議しようとするシアの目の前にザ・ワールドを出す。

 

「ヒィァアア!?」

 

シアは突如現れたザ・ワールドに驚き腰を抜かす。どうやら見えているようだ。

 

「やはり見えているな…間違いない。こいつは魔力操作の技能を持っている」

 

『スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う』…この世界でのスタンドは魔力操作を持っている者にしか見えない。そして限られた人間だけはこの技能を持っている…間違いない…私達は…“運命”に引き寄せられている!!

 

 

 

 

「ハジメ…君は“引力”を信じるかい?」

 

 




遅れたのはポケモンが悪いんや…許してくだせぇ…


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引力

待たせたな!

…すいません…他のssやリアルの事情により更新が遅れてしまいました…

他のssもみてね!(露骨な宣伝)
久しぶりに執筆したので少し書き方が変わっているかもしれないですが悪しからず


「ハジメ…君は“引力”を信じるかい?」  

 

ハジメには意味がわからなかった。突如DIOの雰囲気が変わり、自分に問いかけて来たからだ。

今は“天国”の話をしていない。それなのにいつも天国について話すDIOと同じ威圧感を放っているのだ。

 

「“引力”…?一体何を…」

 

先程震えが治まっていたシアも再び震えだし、目尻には涙を浮かばせている。当然だろう。耐性のあるハジメ達でさえぶるってしまう程の威圧感なのた。気絶しないだけでも大したものだ。

 

「ハジメは万有引力というのを知っているか?」

 

「まぁ…何となくは…たしか全ての物体は互いに引力を及ぼし合っている…っていう法則だったか…?」

 

「そうだ。“全ての”…つまりその中に当然人にも備わっている。我々人間は互いに引き合っている。そして互いに引き合っているからこそ、我々は“出会う”んだ。

しかしこの世界には何億という数の引力によって常時引き寄せられ続けている。出会える者もいれば出会えぬ者もいる。それは何故か…

それはおそらく、出会った人間同士が、特別に強い“引力”で引き合っていたからだと思っている。

『特別な引力』…それを我々は“運命と呼んでいる」

 

「運命…私は…信じる…」

 

DIOに圧倒されながらもユエは答える。ユエはハジメとの出会いを運命と感じている。運命でなければなんだというのだ!という気迫が込められていた。

 

「まぁ…ユエとの出会いは俺も運命だと思ってるしな…信じるしかねーよな」

 

ハジメもユエに信じているという趣旨を伝えると、DIOの雰囲気は元に戻り普段のDIOへと変わる。

 

「そうか、君たちは信じているんだね?ならシアとの出会いはどうだい?私達と同じように魔力操作という技能を持ち、さらにはユエと同じ先祖返り。この出会いを運命と呼ばなくては何と言えばいい…“運命”というものは既に決められている。それは拒否しようがすまいが結果が覆ることはない。そしてーーーー…」

 

雰囲気が元に戻ってもなおDIOは続ける。ハジメは直感的にヤバイと感じ、話を遮る。

 

「わかった…DIOがそこまで言うならコイツを助けてやる。だがやるのはコイツらを帝国兵から守り樹海へと送るだけだ」

 

「…樹海の案内に丁度いい」

 

ハジメはユエに真っ直ぐな瞳を向けて、DIOに聞こえないように告げた。

 

「運命と引力は禁句な?」

 

「…ん」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ふぅ〜、少しスイッチが入ってしまったな…恥ずかしい、、、何故こんなに運命について語ったのだろうか…厨二病かな?いや、ハジメのほうが厨二病っぽいからセーフかな?

 

まぁいい。あれから私達一行は樹海へ向けて出発した。因みにシアは俺の車の隅っこで震えながら縮こまっている。何故だろうか…

唐突だがシアは未来視が出来るという。断片的にらしいがなかなか強力だと思うよ。俺TUEEEEEE出来るよ。私が保証する。だってラノベで見たもん。

 

まぁ使いどころを間違えてピンチになったとかでハジメ達に残念ウサギと呼ばれていた。まぁ私は言わないでやるが…

というかここまで怯えられたら流石に私も少し傷つく。さっきまでは魔力操作を持っている同類に会えて喜んでいたというのに…

 

 

少し車を走らせていると、魔物に襲われているシアと同じ耳をつけた集団が視界に入る。その瞬間にハジメはドパンッドパンッとワイバーン型の魔物を撃ち殺していき、私もハジメに続きザ・ワールドを出し、適当にコロコロしていく。すると、またもやハウリア族の連中に怯えられた。一体私が何をしたというのだ!!因みにハジメは怯えられていない。

適当に人数を数えてみると、だいたい数十人といったところか。

 

「み、みんな〜…助けを呼んできましたよぉ〜…!」

 

「「「「「「「「「…シア!?」」」」」」」」」

 

車の窓から上半身を乗り出したシアは私の機嫌を窺っているのか知らないが、こちらをチラチラと横目で見ながらハウリア族のウサギ共に声をかける。それに反応したウサギ共は驚きながらシアの名を呼ぶ。

…おい、少し待て…なんだその目は…こんな恐怖の権化のような人が自分達を助けに来ただって!!?という目は…!誤魔化そうとしても無駄だ。

 

シアは車に降りてすぐにハジメの方に走り出し猛抗議する。

 

「あぁんまりですぅぅぅううう!!!私もハジメさんと一緒に乗らして下さいぃぃい!!D、DIOさんと一緒だと恐怖で死んじゃいますよ私は!!」

 

結構傷つくんだがそれは…普通本人の前で言うか…?吸い殺してやろうか。…おっと冗談だよ冗談。だからそう怯えないでくれ。

 

「シア!無事だったのか!」

 

「父様!」

 

硬直から解けたシアの父と思われる男はシアと抱き合う。目尻には涙を浮かべている。感動的だな、だが茶番だ。

 

ウサミミおっさんという色物を眺めていると、互いの無事を喜んでいた二人は私達の方へ向き直った。

 

「ハジメ殿、DIO殿、ユエ殿でよろしいか?私はカム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。このたびはシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも脱出まで助力くださるとか…父として、族長として深く感謝致します」

 

そう言って頭を下げる。ハジメがあっさり信用したことに疑問を抱くが、シアの信用する相手だから我らも信用しなくてどうする、といった警戒心0である。野生を忘れたのか?

ウサギ共は私と目が合うとすぐに地面へと落とす。やはり私は獣人族に怯えられているようだ。私の前からの夢、警戒心0、私に心を開いている獣人娘と戯れる行為が不可能であるという現実がわかった瞬間である

 

 

 

 

あとハジメはツンデレ。はっきしわかんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

 

 

あれから、わた…俺達はウサギ共42人を連れて峡谷を進んでいった。出てくる魔物は全てハジメがヘッドショットで撃ち抜き瞬殺。強い…

 

道中にハジメが自分をおちょくっていたシアをゴム弾で撃つなどいろいろあったが、今ついに、ライセン大峡谷から脱出出来る場所へと辿り着いた。

 

というかウサギ共の子供はハジメのことをヒーローのように見ている中で、私…俺だけに畏怖の目を向けるのやめてくれないか!?スゲー悲しい。

 

「…いるな」

 

「ああ…」

 

強化した聴覚で人間の声が聞こえた。恐らく帝国兵だろう。ハジメもその気配に気付いていた。それよりもこの気配……足しにはなるか

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ〜、こりゃあいい土産が出来そうだ」

 

約30人くらいか…質より量を取るなら妥当なあたりか…

 

「小隊長ォォォォオオ!!?」

 

突如、一人の帝国兵の腹に風穴が空く。

 

「どうしたァァァラバッ!!」

 

また一人…

 

「み、見えない何かに…!!ギャァアアアアッ!!!」

 

また一人…

 

「た、たすけブルァアア!!?」

 

また一人…

 

「し、死にたくないィイイィイイァァァ!!?」

 

また一人…

 

 

命乞いする帝国兵すらもザ・ワールドで無慈悲に殺していく。こいつらは善悪を10で分けるとすると平均で4:6程のカスも同然の食糧共だ。

 

「光栄に思うがいい!このDIOがネズミの糞にも匹敵するその腐った脳味噌をした貴様らに引導を渡すということをなァッ!!

貴様らは我が目的の為の糧となってもらうッ!!」

 

残った帝国兵に宝物庫から多数のナイフ型の魔剣を取り出し投擲する。それは全て残った兵達の眉間を貫き、絶命させる。

 

死体の頭からナイフを抜き取り回収した私は、死体には目もくれず周りを確認する。見える、死に輪廻の輪に向かう魂達が…!!   

 

『大切なことは『認識』することですじゃ!スタンドを操るという事は出来て当然と思う精神力なんですぞッ!』

 

頭に老婆の声が響く。かつて言われた言葉が…

 

ザ・ワールドは淡く発光し、この世に留まる魂を一つを除いて全て吸収する。

 

 

 

 

 

出来た…我がスタンドに魂を取り込ませることが…ダービー兄弟のスタンドがなければ出来ないと思ってはいたが…それは杞憂に終わったようだ。

 

私は小隊長と呼ばれていた男の首に手を差し込み、吸血鬼のエキスを流し込む。その瞬間、死体の頭上にあった魂は何かに縛られるように動きを止め、死体の方へ引きづられていく。

たちまち小隊長だった男の肉は爛れていき、人間だったとは思えない異形へと成り果てる。

 

URRRY…

 

所謂、屍生人というやつだ。

周りから悲鳴が聞こえるが無視し、必要なことを聞いていく。

 

「他の兎人族がどうなったか教えろ。結構な数が居たはずだが…全部帝都に移送済みか?」

 

…恐らく…全て…移送済み…かと…売れそうに…ない、老人共は…殺した…から…

 

「そうか…御苦労」

 

私は屍生人を蹴飛ばし炎天下の下に晒す。

 

ぎゃあああっ!!!

 

屍生人はジュージューと肉を鉄板で焼く時のような音を立て、断末魔をあげながら灰になった。

 

 

「だ、そうだが…ハジメ、どうする?」

 

ハジメに声をかけるが返ってこない。一体どうしたんだ?

 

「ハジメ?」

 

「…ああ!?すまん、ちょっと考え事をな…」

 

本当か〜?まぁいいか。よし、さっさと行こうぜ!

 

ハジメは魔力駆動二輪、バイクを帝国兵が使っていたであろう馬車に連結し、ハウリア族を乗せ樹海へと進路をとった。

 

いざ、樹海へ!!レッツラゴー!!

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ハジメとユエは戦慄していた…いや、この場にいた者全てが目の前の惨劇を起こした張本人に恐怖していた。

 

DIO…彼一人で帝国兵の部隊は壊滅した。それだけならハジメとユエは何も思わない…自分達でも容易に出来るからだ。

彼らが驚き恐怖したのは、それを嗤い、まるで息をする様な当たり前の行為のように成し遂げた事だ。

 

ハジメは邪魔する者は全て殺すと決めてはいるが、やはり人の子。ほんのちょっぴりだが抵抗はある。出来れば人を殺したくないとも思っている。

 

だが彼、DIOは違った。彼は作業をする様に平然と人を殺したのだ。しかも殺した人間を醜い姿へと変貌させ生き返らせるという死者への冒涜、そして意識があるゾンビから情報を聞き出し、聞き終えると、もう一度、日光に当てて殺したのだ。

 

断末魔が峡谷に響いた。ハジメの周りのハウリア族も顔を青ざめ震えている。無理もない。彼らは元々温厚な種族で虫を殺すのも泣いて謝りながらするという優しすぎる性格だ。それがこんな惨劇を見たらどうなるか…子供はチビり気絶、大人も意志力が弱い者は気絶している。それほどまでに残酷な行いをしていたのだ。

 

「…眷属を造るのはほんの一握りの吸血鬼だけ。…しかもそれは神話級。…私には出来ない」

 

ユエの言葉でゾッとする。その話が本当なら、この世界の神、エヒトとも劣らない有力者ということになる。

かつて天才とまで言われたユエを超える化け物に…

 

 

 

(もうDIOは人間じゃない…)

 

その事実を受け止めたハジメは親友のDIOへの警戒を高めた。雰囲気が戻っても威圧感や残虐性は衰えていない。

 

確実に…汚染されている…

 

 

 

 



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ハルツィナ樹海

あけましておめでとうございまーす!!今年もこの作品を宜しくお願いします!


車で進むこと数時間、遂に【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。

これまでの道中にシアが私達のこれまでの話を聞き泣いたり、私達と旅に出たいなどと色々あったが無事についた。

 

「それではハジメ殿、DIO殿、ユエ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。御三方を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。

それと、行き先はは森の深部、大樹の下で宜しいですな?」

 

「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

カムが私達に対して樹海での注意と行き先の確認をする。大樹とは簡単に言えば迷宮への入り口だ(多分)。私達はこの樹海全体が大迷宮だと思っていたが、よくよく考えるとそんな魔境では亜人が住めるはずもない。

 

「では、出来る限り気配は消してもらえますかな。大樹は神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアゲルベンや他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々はお尋ね者なので見つかると厄介です。」

 

「ああ、承知している。」

 

ハジメは“気配遮断”を使い、気配を完全に消す。続いてユエも奈落で培った方法で気配を薄くした。

対する私は…

 

「ッ!?これはまた…ハジメ殿、出来ればユエ殿くらいにしてもらえますかな?」

 

「ん?……こんなもんか?」

 

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!」

 

元々、兎人族は全体的にスペックは低いが、聴覚に関しては私と同レベルという規格外だ。そのため、索敵や気配を断つ隠密行動に優れている。

そんな兎人族の索敵能力でも見失いかねない程に気配を殺したハジメにカムは苦笑いだ。

 

「では、DIO殿も…気配を薄めてもらっても…「出来ん…」はい…?今…何と…?」

 

「出来ないと言っているのだッ!!」

 

そう、私の最も苦手なこと…それは隠密行動だ。DIO様の溢れ出る存在感が原因だと思う。かくれんぼを子供の時にすれば即見つかり…街中の人混みにいても、遠目でも私と認識出来ると聞いたことがある。

 

奈落でもそうだった。必死に気配を断とうとしても、すぐに魔物供に気付かれてしまう。チクショウメーッ!!これじゃあ恥ずかしい本も買えやしねぇーッ!!

 

「で、では…どうしましょうか…DIO殿の気配は並大抵のモノではありませんからな…このまま樹海に入ればすぐに他の集落の者に気付かれてしまいます…」

 

「じゃあDIOはここに残れ」

 

なん…だと?私を置いて行くのか…?やめて!!寂しくて寂死しちゃう!!

 

「では何かあればすぐに迎えを出しますので…DIO殿はここで待機ということで構いませんかな?」

 

「ああ、それでいい。じゃあ案内を頼む。」

 

「はい、任されました。行きましょうか」

 

「ちょっ…と〜…」

 

ハジメ達は本当に私を置いて樹海に入っていった…あぁぁぁんまりだぁぁあああ!!

 

 

憂さ晴らしに近くにいる魔物でも狩ろうと思ったが、最近本を読んでいないことを思い出し、宝物庫から本を取り出し車の中で読書に勤しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ハジメ達と別れてから1日が経った。流石に遅すぎる。ハジメ達に何かあったのか?いや、兎人族達なら兎も角、ハジメとユエならば地上の相手で苦戦もしない筈だ。となれば…フィアゲルベンで何かあったのか…?

 

すると、樹海から一人の兎人族が現れたのを見て、車から降りてそちらへ向かう。

 

「遅かったな…何かあったのか?」

 

「いや…あの…その〜…」

 

なんだコイツ。隠し事は無駄だぞ。私は無駄が嫌いなんだ。

 

「…怒らないでくださいね?えっと…ハジメ殿から『すまんすまん、忘れてたわ』…ヒィッ!?」

 

…………イラッときた…一発殴る。

というかこの世界に来て多分一番イラッときた…

 

「…さっさと案内しろ」

 

「は、はいィィィィイ!!?」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「ハジメぇぇえッ!!」

 

「DIOッ!?  グハァッ!!?」

 

私はハジメを殴り飛ばす。義手でガードしやがったが俺には関係ねぇ!その上から強烈な一撃を喰らわしてやったぜ!

 

「「「「「「ハジメ(さん)(殿)ッ!!?」」」」」」

 

ハジメは木をへし折りながらも後ろへと飛ばされ、民家らしき建物の壁を破壊して止まる。

 

「この私を待たせておいて…『すまんすまん、忘れてたわ』で済むかこの間抜けッ!!」

 

「残念、偽物だ。」

 

しかし振り返るとそこにはいつの間にか回り込んだハジメが私に銃口を向け…

 

ドパンッ!!

 

俺の服が弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※

 

 

「で、何か私に言うことは無いのか?」

 

「すみませんでした…」

 

服は衣服自動修復装置により、ゆっくりと再生していき、今は半裸状態だ。ハジメには謝らせ、罰として名前の前に† 赤眼の破壊者 †と付けるよう兎人族に言う。

それは何かと聞かれたので、ハジメの二つ名と答えておいた。

すると「おお!!赤眼の破壊者ハジメ殿!!」「赤眼の破壊者!!バンザーイ!!」と都合よく騒いでくれた。

 

精神的にボロボロなハジメに話を聞くと、どうやら亜人の族長達とお話をして奴隷ということで兎人族を保護し、不可侵条約的なものを結んだらしい。私的には兎人族以外の血も飲んでみたかったが…

 

そして今は兎人族の戦闘訓練を行なっているそうだ。しかし優しすぎる性分の為、魔物を殺す度にいちいち泣き、三文芝居を繰り広げるらしい。 

それにキレたハジメが地獄のブートキャンプを開始したという。

 

 

 

ところで…私は何をすればいいのだろうか…ユエはユエでシアをつきっきりで鍛えているらしい。

 

 

 

では…本でも読んでおくか…

ついでに日光下での私のスペックも確かめておかねば…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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少し時は遡り、ハイリヒ王国、王女リリアーナの寝室では…

 

 

リリアーナは枕に顔を埋め、奈落へと落ちたという想い人を思い枕を濡らす。

 

「ディオ様…」

 

リリアーナはDIOから不死身、不老不死という技能を教えてもらってはいるが、やはり不安に駆り立てられる。

リリアーナは不死身、不老不死を無敵だとは思わない。

 

体が再生する?じゃあ塵一つ残さず魔法で消されたらどうなる?魔物に喰われたらどうなる?

不死身?封印されたらどうする?それに生命を終わらせることだけが死ではない。精神、心を殺すことも出来る。

 

詳しくはリリアーナにはわからない。わからなくてもここまでの不安な要素が出てくるのだ。

しかしどれだけ泣いても、悲しんでも…DIOが戻ってくるはずもない。

 

 

 

『リリアーナ』

 

 

 

『リリアーナ!』

 

 

 

『…リリィ』

 

 

 

 

頭の中にDIOの声が響き渡る。

今、リリアーナに出来る事はない。それはあくまでDIOを助けることは…だ。

 

彼が戻って来た時に何か出来るように、リリアーナは不安になる気持ちを押し除け、彼…DIOが無事に帰還し、また自分と話せることを願い、リリアーナは今彼のために出来ることをする。

 

 

そう、固く決意した。

 

 

 

「ディオ様…このリリアーナ…貴方様が無事に帰ってくださいますよう願っております。…エヒト様、どうか彼をお導きください…」

 

 

 



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かなり遅くなりましたが投稿です。次話はもっと早く投稿出来るように頑張ります。


さて、特訓を始めてから10日が経った。私もこの期間で、日光下でのスペックを把握することが出来た。簡単に結果を言うなら、全力の三分の二くらいの力しか出せない。また、自動回復と吸血の技能の性能が格段と落ちている。まぁ日光下で活動出来るのなら許容範囲だ。致し方なし。

 

そして旅の仲間にシアが加わった。ユエとの条件付きの戦いで遂に勝てたらしい。私も何度かシアの特訓に付き合ってやったが、彼女のスペックはかなり高い。それでもユエに勝てるとは思っていなかったが…

シアがハジメのことを好きだ!とカミングアウトしていた。あれぇ?最初にシアを助けたのは私だよな?じゃあなんで彼女は俺に惚れずにハジメに惚れたんだ?

 

 

 

 

《そのまま流れるように首筋に歯を立てた(スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う から抜粋)》…これか…だって私は吸血鬼だし…仕方ないよな。うん。

 

 

 

話が少し脱線したが戻そう。その後、ハジメ式ブートキャンプで変わり果てたハウリア族一行に案内され、大樹の元へと辿り着いたが空振りに終わった。どうやら七大迷宮の内四つを攻略し、尚且つ再生に関する神代魔法を会得しなければこの大迷宮は攻略出来ないらしい。これは推測だが、大樹が枯れている時点で今は攻略などできないだろう。完全な無駄足だった…といいたいところだったが、道中に熊人族なる亜人が襲いかかって来てくれたお陰で、この国に大きな借りを与えることに成功した。これは後に役立つだろう。

 

 

 

 

 

 

そして現在、カム達と別れ、次の目的地はライセン大峡谷ということで取り敢えず近隣の街でその準備をするというので、街へ向けて車とバイクを走らせている。街で食材やら調味料とかが欲しいらしい。…魔物の肉でよくないか?

 

「嫌に決まってるだろ!誰が好き好んで魔物なんか食うか!DIOもどんな味か知ってるだろ!?」

 

「まぁ不味いが無味の食材よりはマシだな。味のないパンやパスタなんぞ食えたもんじゃあない。」

 

「…お前に聞いた俺が馬鹿だった」

 

 

解せぬ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そんなこんなでやって来た【ブルッグの町】。まずこの町に来てから行ったのは素材の換金だ。今後の為にも金を用意しておくらしい。私も俺TUEEEEEEのテンプレで有名になりたかったら、オルクス大迷宮の低層にいる魔物の素材を渡しているところだが、私達の目的にメリットはほぼ無いに等しいので、取り敢えず樹海の魔物の素材を換金してもらう。それでも十分希少で驚かせてしまったが…

まあ私の分は嗜好品や娯楽でつかうお小遣い程度のものだがな。

 

そしてギルドのおばちゃんに貰った地図を頼りに“マサカの宿”という宿屋にチェックインする。部屋割りで揉めていたが、何とか1人で2人部屋を占領することに成功した。ユエとシアはハジメの部屋にぶち込んでおいた。ユエは嫌そうな顔をしていたが我慢してもらおう。俺も美味い血が飲みたいんだ。

 

その後、取り敢えずもう一度ギルドに寄り、ギルドの中に置いてあった本やパンフレット、そして依頼書などを目に通していく。王宮の図書館でかなりの本を読んでいたが、冒険者の本は余り見ていなかったために興味を惹かれた。

その後もずっと本を読んでいると1人の冒険者らしき少女に声をかけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

私は最近冒険者になったばかりの未熟者だ。町の外壁の近くにいる雑魚と呼ばれる魔物にも苦戦する腕前、といっていい。

先人に憧れ、この冒険者になったはいいものの、雑魚と呼ばれるほどに弱い魔物にズタボロにされた時なんかすごく惨めな気分になった。

 

ある日、ギルドで少しでも魔物と戦えるようにと、“魔物の生態”と書かれた本を食い入るように見ていると、ひと目見ただけで心奪われるような美貌を持つ男性がギルドにある本やパンフレットを大量に持ちながら、私の隣に立ち話しかけてきた。

 

「すまないが相席させてもらってもいいかい?」

 

突如話しかけられて少し混乱したが、すぐに落ち着きを取り戻し周囲の席を見回す。今日はこのギルドにいる人数が多く、殆どの席は埋まっている。空いている席は私の目の前の席と奥にいる男性の前の席ぐらいだろう。

 

「は、はい!全然大丈夫でしゅよ!!」

 

緊張して噛んでしまった。恥ずかしい…多分顔は羞恥で真っ赤になっているだろう。そんな私を見た彼はフフッと笑い、名前を教えてくれた。

DIO・ブランドー、という名前だそうだ。DIOと呼んでくれ、と微笑まれ、顔は再度紅くなる。自分も軽く自己紹介し、彼が本を読み出したと同時に私も本に目を向ける。

名残惜しいけど…DIOさんも本を読むためにこの相席を頼んだのだ。私情だけで邪魔するのはいけないだろうと思いつつも、先程の集中力も切れ、チラチラと彼の顔を見てしまう。生まれて16年、これほどに顔が整った男性にあったのは初めてだった。同い年の子にもかっこいいな、と思う人はいたけれどこれほどの美貌を持つ男性に会うのは初めてだ。だからチラチラと見てしまうのは仕方ないことなのだ。

そしてチラリともう一度見ると、視界には本をパラパラとめくり、すぐに本を取り替える彼の姿が…

 

 

え?

 

 

本当に彼は本を読んでいるのか!?読むの早すぎないか!?様々な疑問が頭の中で飛び交うが、彼の真剣な顔を見るに、本気でこの驚異的なスピードで理解しているのだろう。

そして次に身につけている装備を見る。何故か緑色のハート型のサークレットを付けているが、それは問題ではない。

私は“鑑定”という物質の状態や素材を見抜く技能を持っている。しかしその眼を持ってしても彼の着ている装備は鑑定出来ない。恐らくは今の私の力量では鑑定出来ないのだろう。しかし、何度かこの町の実力者を鑑定したことは多々あったが、鑑定出来なかった装備は初めてだった。

彼は恐らく相当な実力者なのだろう。

 

「あの…すみません」

 

「なんだい?」

 

「その…あの…相当な実力者とお見受けします…実は私…駆け出しでして…よければ…!少しでもいいので戦い方を指南してもらえないでしょうか…!」

 

言ってしまった。しかし私もこうするしか強くなる方法はない。言ってしまえば冒険者というのは商売業なのだ。自分より実力が少し低い程度なら、すぐにパーティに加えてもらえるが、格下が相手となると話が違ってくる。それに何故かこの町の実力者は感覚派が多いのだ。とてもじゃないが、人に教えることに向いていない。

彼は相当な実力者だ。しかし名を聞いたこともないし、このような美貌を持っていればすぐに有名になっているだろう。なら他の町から訪れたということだろう。町の外の情報は幾らか入ってくるが、彼のような冒険者は聞いたことがない。ならばもっと遠方から来たのだろう。

では自分の知らない、力が弱くても戦える技を持っているだろう。

 

自分の現状を変えるためにも、彼に恥も承知で頼み込む。

 

「私も冒険者としては駆け出しなのだが…まぁそれでいいならいいだろう」

 

やった!とつい頬が緩む。駆け出し、とは言っても恐らく戦いに関してはずっと経験していたのだろう。彼の筋骨隆々な身体がそう思わせる。そして彼はしかし条件がある、と付け加える。

 

「私は常に娯楽に飢えている。そこでだ。私が戦い方を指南する見返りとして君のこれまでの冒険を聞かせてもらいたい。どんな些細なことでも構わないし、冒険以外のことでもいい」

 

本当にそれだけでいいのだろうか。私自身、全然強くないし、親が商人だった為、小さい頃は商法を叩き込まれていたことしか覚えていない。私は彼を満足させることは出来るのだろうか…

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうしてこうなった!!?

 

私は今、彼…DIOさんが宿泊している宿の一室のベッドに座っている。

あの後、静かな場所で話がしたいと言われ、ホイホイと宿について来てしまった。DIOさんは私の隣に座り、顔を覗き込んでくる。

 

「さぁ、君の話を聞かせてもらおうか」

 

彼は舌舐めずりし、僅かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「DIO…様ァ…もっと…吸って…くださいィ…!」

 

目の前には恍惚に染まった表情をしたギルドで出会った少女がいる。名前は忘れた。食糧にいちいち呼び名があっても誰も覚えないだろう。例えば養豚場の豚にトントンと名付けていたとする。そして出荷されたトントンの名は消費者の人間達に知られるか?否である。あっても誰も興味はない。今私の前にいるのは“人間”という食糧であり、個体名なんぞ覚える価値もない。

しかしこの娘からはいい情報が聞き出せた。この町から馬車で数日かかる程度の距離の山に『悪魔』と呼ばれる男が暮らしているという噂があるらしい。それが非常に気になる。目撃者はゼロ、今まで調査に出て帰ってきた者もゼロ。確実にその山には何かがいる。私はその山から重力を感じ取っているのだ。

ハジメ達から一度抜けてその山に行くのもいいかもしれない。  

 

しかし、やはり処女の血は美味い。雫やリリィ、シアもそうだったが、処女の娘の血というのは旨味が凝縮されており、喉越しも良く飽きも来ない。処女でなくとも美味いには美味いがやはり私には処女の血が好ましい。処女厨のユニコーンとかもこんな気持ちだったのだろうか…

 

そこでドアがノックされ、ハジメが部屋に入ってきた。

 

「DIO、そろそろ風呂の時間……だ………」

 

ハジメは部屋に入ると同時に固まる。何故だ?まぁ風呂か…風呂はオルクス大迷宮の、反逆者の住処以来だな…

 

「わた…私のォ……血を…血を…」

 

「おや、もう血を吸えば死に至るというのに…まだ吸われたいのかい?」

 

「は、はぃい…!DIO様のォ…ためならばァ…身も…心も…命も…捧げますゥ…!」

 

「そうか…。そういう訳でハジメ、少し遅れる」

 

「あ、ああ…わかった…」

 

少女の首筋に歯を刺し、そこから快楽と共に血を…生命力を吸い上げる。

 

「あああああああっ………!」

 

口から漏れ出る甘い声は徐々に小さくなっていき…

 

 

 

 

「ふぅ…御馳走様…」

 

少女は息絶えた。ミイラとなった死体は、私から出る吸血鬼エキスで屍生人に変え、夕陽に晒して処理する。完全犯罪成功だ。

 

「さて…行こうか、ハジメ」

 

「………………」

 

 

何も答えずに部屋を出るハジメに続き、風呂場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ハジメが見たモノはまさに衝撃的だった。DIOの部屋に入ると、ベッドの上に2人、男女が寝転んでいたのだ。一瞬、そういう行為をしていたのかと脳裏に過るが、DIOは1枚も服を脱いでいないのだ。そしてもう1人の少女に眼を向けると、そこには全裸で首筋から血を流す姿が…

 

そこでハジメは理解する。今、DIOは食事をしていたのだと。

 

「わた…私のォ…血を…血を…!」

 

少女はDIOに懇願する。既に顔は蒼白く、生気を感じさせないほどまでに衰弱しきっている。それでも彼女は懇願する。恐らくDIOの吸血の際に得られる快楽に嵌ってしまい、抜け出せないのだろう。

 

(まるで麻薬だな……)

 

「は、はぃい…!DIO様のォ…ためならばァ…身も…心も…命も捧げますゥ…!」

 

既に彼女はDIOに魅了されてしまっている。そして一番タチの悪いのが、消して彼は自分から吸血させようとしていないことだ。DIOは相手を魅了し虜にし、自分から血を吸って欲しいと懇願するように誘導している。ハジメもDIOが町で人に襲い掛かり、血を吸っていれば止めに入っていたが、彼に吸血を求めるのは彼女自身だ。それをハジメは無視することは出来ない。

 

そう考えている間に少女はミイラとなり、峡谷であった兵士と同じように少女を眷属として蘇らせ、夕陽に浴びさせることで消滅させることによって死体を処理していた。

 

「さて…行こうか、ハジメ」

 

彼の言葉に何も返すことが出来なかった。

 

 

 

 

 



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忠誠、そして試練

朝、私は車に乗車し、ハジメ達に別れを告げる。

 

「ひとまずここでお別れだ。また何処かで落ち合おう。」

 

「ああ、俺達は【ライセン大峡谷】に向かう。早く用事とやらが終わったら来いよ。」

 

「ああ…ではな」

 

窓を閉め、アクセルを踏む。

 

 

 

 

 

 

何故私がハジメ達と別れたのか…それはここ、ブルッグの町で噂になっていたことに興味が唆られたからだ。

ここから数日で着く山岳地帯の何処かの山に悪魔が住むと…

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ーーーーーーーーー〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

車を走らせ約2日、休み無しで走らせ続け、遂に目的地に到着した。見える範囲は全て緑。ジブ◯とかで出てきそうな大自然だ。

そこで私は悪魔とやらを探す。すぐに見つかるだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

探し始めて一時間。すぐに見つかった。やはり私たちは運命と言う名の重力に引き寄せられ合っているのだろう。そんな悪魔の容姿は、私にも劣らない体つきをした長髪の男だった。しかし悪魔と呼ばれていたが、魔族ではなく、彼らと変わらない人族だ。

 

さて…見た感じだがかなりの実力者だろう。私やハジメ、ユエにシアには届かないだろうが、そこらの兵や冒険者にはまず負けないだろう。

うん、彼が欲しい。別に私がホモとかそんなんじゃあない。彼は磨けばかなり伸びるだろう。それに私に忠誠を誓う部下が欲しかったところだ。

どう説得しようか…まぁ取り敢えず…

 

「私の名はDIO・ブランドー。どうだね一つ、このDIOに永遠に仕えないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「私の名はDIO・ブランドー。どうだね一つ、このDIOに永遠に仕えないか?」

 

男は困惑していた。今まで彼は自分の縄張りに侵入した者や、自身を討伐せんと訪れた冒険者を屠ってきていたが、目の前に立つDIOと名乗る人間には会ったことがなかったのだ。

そして彼は現在、DIOに恐怖していた。この山は弱肉強食の世界。その頂点に立つ山の主以上に圧倒的なオーラを放っているのだ。彼の住処はここより何キロも離れている。しかしそこからでも分かる程の威圧感を放っているのだ。山の弱者はすぐに住処に身を隠し、強者であっても怯え身を隠す。

しかし彼にはその威圧感に惹かれる何かがあった。そう何かを感じ取り、向かった先にはDIOがいたのだ。

 

そして今、彼は驚愕する。

 

(ッ!?私は何故跪いているのだ!?)

 

体が無意識の内にDIOに屈服してしまっている。DIOに…人間としての本能が悲鳴を上げる。しかし動けない。

 

だが…それでいい。いや、それがいい。

 

彼はこれまでに何度も疑問に思っていた。何のために生まれ、何をするために生きているのか。それを今、ようやく理解出来た。

 

 

 

 

 

私はこの御方に仕える為に…尽くす為に生きているのだと…

 

 

 

「ハッ!!貴方様のような御方に仕えられる等…まさに光栄の極み…!!私の身体、命!全てを貴方に捧げましょう!」

 

 

故に彼はDIOの配下となる。DIOに頭を下げ、忠誠を誓う。

 

 

「…そうか、では君の名を聞いておこう。」

 

「我が名はヴァニラ・アイス、何なりと御命令を…!」

 

「……そうか、やはりこれも運命…か…」

 

少し驚いた顔をしながら何やら呟くDIO。そして何かを閃いたとばかりに顔を上げ、ヴァニラに提案する。

 

「ヴァニラ…君の力を知っておきたい。よって今からこのDIOとの模擬戦だ。なに、遠慮することはない。本気でやってもらって構わん。」

 

その言葉にヴァニラは狼狽える。今、直前に忠誠を誓ったばかりだというのにいきなり矛を向けるなど彼に出来るはずもなかった。

そんなヴァニラの心情を理解したのか、DIOは顔を強張らせ、一喝する。

 

「…貴様は私の命令を聞けぬというのか?このDIOが許可をしているのだ。貴様の忠誠心とやらはその程度のものだったのか?」

 

「そんなことはッ!!しかし……」

 

「まぁいい。これは決定事項だ。弱い者、奪われるだけの者はいらん。フンッ!」

 

咄嗟にヴァニラは顔を傾ける。するとそこにDIOの目から放たれた光線のような液体がヴァニラの頬を掠める。

 

「これはテスト…いや、試練だ。私という恐怖に打ち勝てという試練だ。」

 

その瞬間、ただでさえ凄まじい威圧感がさらに増す。

 

「“覚悟”を決めろ、ヴァニラ。このDIOに一撃でも入れられれば同行を許可しよう。どうだね?」

 

 

「………はい。このヴァニラ、全力を持ってこの試練、乗り越えて見せましょう!」

 

少し間が空いた返答だったが、DIOは満足そうに頷く。

 

「こい」

 

「ハッ!!」

 

ヴァニラはDIOに向かい駆け出す。山で鍛えた剛腕で大振りのストレートを繰り出すが、軽く受け止められる。

 

「その程度か?」

 

「くッ!!ガハッ!?」

 

ヴァニラの腹に鈍痛が襲う。完全なる意識外からの攻撃にヴァニラは顔を歪める。ヴァニラはDIOをしっかりと視認していた。攻撃が来るであろう腕、下半身、そして目…しかしそれでも見えなかった。それ即ち、ヴァニラが視認出来ない程の速さでヴァニラにダメージを与えたのだ。

それを極当然のように繰り出して来るDIOに改めて戦慄する。

 

「ハァアッ!!」

 

その後もヴァニラは連続でラッシュを続けるが、全て受け止められ、弾かれ、躱される。山に住んでいる魔物達なら既に息絶えている攻撃だろうが、DIOには届かない。力任せに放たれる一撃は全て水の流れるような動きで流される。

 

一度距離を取る為に後ろへ下がるが、その隙を見逃すほどDIOも甘くない。

 

「気化冷凍法ッ!!」

 

ヴァニラの両腕をスッと触り、その触れられた部分から体の熱が奪われ始め、両腕が凍り使い物にならなくなってしまった。

 

「これで終わりか?…ほぉ、まだ何かあるようだな…貴様の力!!このDIOに見せてみるがいいッ!!」

 

「うおぉぉおぉおぉおぉおおおッッ!!!!」

 

ヴァニラは雄叫びを上げながらDIOに向かって飛び上がる。そしてそのまま飛び蹴りを放つ。DIOはそれを余裕の笑みを浮かべ受け止めようとするが…

 

「(かかったッ!!)ハァッ!!!」

 

ヴァニラはおもむろに開脚し、DIOの腕を弾き飛ばす。そして無防備なDIOへ向けて…

 

「力を貸せッ!!【悪霊】よッ!!」

 

瞬間、ヴァニラの体がブレ、二本の角と大きな口をもつ人型の異形が姿を現し、それはDIOに襲いかかる。

これこそヴァニラ・アイスの真骨頂。これまでに家族、強者を屠ってきた必殺の“技能”!能力は使わないが、腕が使えないヴァニラにとってこれ以上にない攻撃方法だ。

 

「ほう…隠し玉はそれか…だが…」

 

 

 

【ザ・ワールド】

 

 

 

「惜しかったな…私も使えるのだよ。君が悪霊という存在をな」  

[無駄ァッ!!]

 

ザ・ワールドの拳はヴァニラの悪霊の顎を捉え打ち上げる。

 

「ぐぉおおッ!!?」

 

悪霊の受けたダメージがフィードバックされ、宙に浮くヴァニラ。そのヴァニラの着ている服のポケットから小さな玉が落ちる。

 

 

 

ボンッ!!

 

 

 

爆発音が鳴り響き、玉から白い煙が溢れ出し視界を白く染め上げる。

 

「煙玉か…?」

 

 

 

ガオンッ!!

 

 

 

奇妙な音が背後で鳴った音で全てを察したDIOは驚愕する。

 

「何ィイ!?」

 

「はァァアアッ!!!」

 

煙に紛れ地面をくり抜き、背後に回り込んだヴァニラは渾身の一撃を叩き込む。

 

「時よ止まれいッ!!」

 

周囲の色彩は灰色に染め上げられ、ヴァニラの拳が目の前で止まる。時間が止まったのだ。

 

 

「はぁ…使うつもりはなかったのだがな…つい使ってしまった……フフフッ…やるじゃあないか…合格だ、ヴァニラ・アイス。まさか同じスタンドまで使うとは…これもまた、運命ということか…奇妙なものだな、まったく。

 

そして時は動き出す」

 

世界は色彩を取り戻し、時が動き出す。

 

「ァアアッ!!…なッ!!?」

 

自分の目の前にいたDIOが突如姿を消したことに驚きの声を上げるヴァニラの肩に後ろから手を置き、彼に告げる。

 

 

 

「合格だ、ヴァニラ。今はゆっくりと休め」

 

「あり…がとうございました…」

 

グラリと巨体を揺らし倒れ込むヴァニラを支えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

無事に部下を手に入れた私はヴァニラが回復するのを待ち、彼の住処へと案内させ、旅支度をさせる。

 

「DIO様、お聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか」

 

粗方旅の支度を終えたヴァニラが私にそう聞いてきた。まぁ何が聞きたいかはわかる。彼はスタンドのことを悪霊と呼んでいた。簡単に言えばスタプラが発現したばかりの承太郎と同じレベルの知識なのだろう。

 

「なんだね?」

 

「悪霊のことについてお聞きしたいのですが…」

 

やはり…か、、、どう説明すればいいのだろうか…

 

「いいだろう。君が呼んでいる悪霊…その総称は【幽波紋】、それを扱う者を【幽波紋使い】と呼ばれている。まぁこの世界では私と君以外にいるかはわからないがね。そのスタンドの正体は自身の精神力が具現化したものと言っていい。幽波紋使いの中には性格、生き様、心情に合った特殊能力が使えるからな。

私が知る中では平穏に生きたい男が邪魔者を爆弾にし、消し去るといった能力を持つ者がいる。

さて、そして本来スタンドは通常の人間には見えず、スタンド使い同士でしか見えない。例外も存在するが…この世界では技能に【魔力操作】を持っている者には見えるらしい。」

 

私の側に金色の装甲を身に付けたザ・ワールドが現れる。

 

「私のスタンドの名はザ・ワールド。タロットの世界のカードを暗示している。ヴァニラのスタンドには名を付けていないのか?」

 

「……付けておりません。私の人生はこの悪霊…いえ、スタンドに全て潰された身です。そのようなこと…一度も考えたことがありませんでした」

 

難しい顔をしながら理解しようと頑張るヴァニラは、少し間を置いて答えた。しかし内容がブラックすぎるが…

 

「フム…その話はまた後で聞くとしよう。時間はまだまだあるからな。しかし呼び名がなければ不便だろう。故に私が名付けてやろう。ヴァニラのスタンドの名は【クリーム】」

 

 「なな…DIO様が……ッ!!この私のような者の力に名付けをして貰えるとはァアッッ!!クリームッ!!クリームッ!!!素晴らしいッ!!素晴らしい名でございますッ!!クリームッ!!!この名の響きッ!!このヴァニラの心にッ!!脳にッ!!染み渡りますゥゥウウッッ!!!」

 

狂喜乱舞するヴァニラ。やだ怖い。勝手に名付けたがここまで喜ばれたならよかった。ハジメがいたら頭大丈夫か?ネーミングセンスの欠片もねーな、と馬鹿にされそうだが、彼のスタンドにはやはりこの名だろう。

 

「ところでヴァニラ。あの刀はなんだ?」

 

それはヴァニラの住処の小屋の壁に立て掛けられている日本刀のような形をした刀。それは妙なほどに力を感じる。

 

「ハッ!あれは我が一族に受け継がれてきた刀でございます。なんでも技能を無効果して斬れるとか…」

 

切り替え早いな…しかしそんな刀が…どれ、私にも効果があるのか…興味が湧いてきたな…

 

ヴァニラから差し出された刀を受け取り、鞘から刀身を引き抜く。刀身は紅く、血を求めているかのような色彩を放っており、窓から入る日光で反射し、人目見ただけで心が奪われるように錯覚するほどまでに美しい刀だ。素人目からしてもこれほどの逸品だ。鍛治士がこれを見たらどんな反応をするのだろうか…

 

そのまま、指にその刀で傷を軽く付ける。普段なら一瞬で治る筈の傷が一向に治らない。これは…本物だ!!まさに…私を殺せる…唯一の武器…!!

 

「その程度の刀で宜しければ献上させていただきます。残念ながらその刀は無銘ですが…それに私には剣の才はありません。宝の持ち腐れ…というやつでしょう。さきほどの戦いからして、DIO様は刀をお使いにならなさそうでしたが、そうであればご友人への贈り物としてでもご自由にお使いください。」

 

……この刀を私に寄越すとは…それ程に私に忠誠を誓ってあるということか…しかし原作のヴァニラのように忠誠心が強過ぎて負けた、というのは勘弁してほしいな…しかし銘がないのか…なんという銘がいいだろうか…

 

「礼を言うぞヴァニラ。いい拾い物をしたものだ。さて、そろそろ向かうぞ。ライセン大峡谷へ!」

 

「ハッ!!このヴァニラ!DIO様の矛となり、盾となりましょうッ!!」

 

私達は車に乗り込み、ハジメ達の待つライセン大峡谷へと向かった。

 

 

 

 

 




活動報告で刀の銘を募集します!その中から作者が気に入った物を採用するといった形でいこうと思います。ネーミングセンスがマジでないですからね、私…


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ヴァニラ・アイス

お久しぶりです。恥ずかしながら帰って参りました。最近は忙しく、ボチボチ投稿していく予定ですが、更新はゆっくりになります。他の作品も並列で執筆するので…
なお作者も久しぶりに書いたので設定がおかしくなっていたりするかもしれません。もし気づいた方や違和感を覚えた方は感想にてご報告ください。


「ヴァニラ、ここを踏めば進む。そしてこれを踏めばブレーキがかかる。分かるかい?」

 

ヴァニラに車の運転の仕方を簡単に教える。私が一人で運転するのもいいが、それでは忠誠心の高いヴァニラがそれを許さない。私が運転をしている間、何もせず乗っているというのは従者としての沽券に関わるのだとか。

 

ヴァニラの住んでいた小屋から持ってきた刀とヴァニラ用の食料を車のトランクに詰め込み、俺は助手席へと座る。

 

「いけ」

 

「はッ!」

 

ヴァニラは車を発進させる。初めてにしてはなかなか上手い。最初は何処かぎこちない動きで運転していたが、今ではかなりの余裕を持って運転出来ている。ならここでヴァニラの過去でも教えてもらうとしよう。何せ先程、気になることを言っていたからな。幽波紋に人生を潰された…と。

 

 

「ヴァニラ、何故君はあのような場所で一人で暮らしていたのだね?」

 

「それは…私の生い立ちからの話になり時間がかかります。それでもよろしいでしょうか?」

 

「ああ、どうせ目的地に着くまで時間があるんだ。無駄な時間を潰すためにも話してくれないかい?」

 

「かしこまりました。あれはーーーーー…」

 

ヴァニラは自身の過去を語り始めた。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「お前の名はヴァニラ・アイスだ」

 

それが私が最初に聞き、最後に聞いた親の声だった。当然私は覚えていない。

 

私の祖父は元商人であり、ブルッグの町に私が産まれるまでは私の両親と暮らしていたという。両親は私が産まれて間もなく事故で死んでしまったと聞いていた。今はブルッグの町から離れたアラタナという小さな町から少し離れた山に、小さな小屋を建て暮らしている。

私は動くのが好きだった。私はよく山を駆け遊んでいた。この山は危険な魔物も生息しているため、あまり祖父はいい顔をしていなかったが、危なくなったら戦おうとせずにすぐに逃げろと忠告し送り出してくれていた。

そうして私は祖父と質素ながらも、充実した日常を送っていた。

 

祖父は毎晩、父と母の墓の前で何事か呟いている。私には思い出も何もない親だ。祖父程、死んだ親に情はない。それよりも、小さな私はどうして私を置いて死んだのだという怒りがあった。

 

ある日、山にアラタナから冒険者がやって来た。この山の魔物を狩りにきたようだ。その魔物は山奥の洞窟に住む凶暴な魔物だ。冒険者は私達に住処に案内してほしいと言う。当然祖父は断っていたが、好奇心の強かった私は祖父に黙って案内をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

冒険者達は無事に魔物を倒すことが出来た。私は見返りとしてこっそり町に案内してもらうように頼んだ。冒険者達もそんなことで良いならと快く了承してくれた。私はこれまでに山から出たことが一度もなかったのだ。何度か祖父に町に行きたいと頼んだ事もあったが、全て断られている。アラタナは日帰りで帰られる距離だ。一度だけなら行ってもバレないだろう。

 

 

 

 

 

 

アラタナに着いた私たちはまずギルドに向かった。魔物の素材を売却する為らしい。冒険者達と受付の女性のやり取りを横から見る。すると、素材を全て渡した後、見慣れない紙のような物を手渡していた。気になった私はそれは何かと尋ねた。

それは冒険者が言うにはステータスプレートといい、誰もが必ず持つ物だという。しかし私は持っていない。その趣旨を伝えると再発行してくれることになった。費用は冒険者達が出してくれるらしい。これもお礼だとか。

 

発行してもらったステータスプレートを確認する。

 

 

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ヴァニラ・アイス  10歳 男 レベル : 15

天職 : 信仰戦士

筋力 : 80

体力 : 68

耐性 : 35

敏捷 : 52

魔力 : 30

魔耐 : 13

技能 : 衝破・神格化・信仰・幽波紋【◼️◼️◼️◼️】

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おお、戦闘職じゃないかと冒険者達が騒ぎ出す。どうやら戦闘職とやらを持つのはほんの一握りの人間のみらしい。思わず頬が緩む。信仰戦士ということは、エヒト様を信仰すればするほどステータスが上がるのではないかと冒険者に言われた。

技能も今のうちに試してみたいと頼めば修練場を使わせてくれるそうだ。ありがたい。礼を言い修練場に向かう。

 

修練場の一角にて冒険者から教えを乞う。技能の使い方をだ。技能を使う際のコツや感覚を教えてもらう。

 

衝破、これは拳や手に持つ武器が標的に触れた瞬間、高火力の衝撃が発生する技能だ。意識すれば簡単に発動することが出来た。

神格化と信仰は何度か試したが発動しなかった。冒険者が言うには自動で発動する技能かもしれないとのことだ。

 

そして文字化けしているこの幽波紋とやら。冒険者達に聞いたが見たことも聞いたこともないとのこと。受付の女性やギルド支部長にも聞いてみたが前例は一度もないらしい。

 

ひとまずアドバイスをもとに体から魔力を捻り出す。

すると突如血相を変えたギルド支部長。俺に魔力の放出を止めろと叫ぶがそう急に止められるものではない。放出された魔力は禍禍しい気配を纏いながら人形に変貌する。

 

ギルド支部長が剣を抜き人形の『何か』に斬りかかる。それを軽く避けた『何か』はギルドマスターに向かい飛びかかる。

 

「危ないッ!!」

 

咄嗟に叫んだがギルド支部長は剣を構えて迎え撃つも、『何か』に頭から貪られた。

綺麗に、音も血も流さず貪られたギルド支部長を見て悲鳴が木霊する。その中で私はおかしいと思いその『何か』を見る。まるでその『何か』は貪るうようにではなく、丸ごと削り取ったかのようにギルド支部長を葬った。

足元に落ちていた削られた剣を震える手で拾う。

 

「ヴァニラ…お前が…やったのか…?」

 

冒険者が化け物を見たかのような目で私を見る。やめてくれ…そんな目で私を見ないでくれ…!!全部この化け物がやったんだ!!見ただろう!!この化け物が支部長を食べたところを!!

 

「何…訳わかんないこと言ってんだよ…!!そんなの何処にもいないだろッ…!!」

 

嘘だ。私のすぐそばで佇んでいる。俺を見ている。何故…何故…まさか見えていないのか…?

 

「支部長を殺ったのは貴様かッ!!」

 

騎士らしき女が私の背後から槍を携え襲い掛かる。私はその速さに反応出来ず、なす術なく貫かれる…筈だった。

 

いつまで経っても槍は私を貫かない。振り返るとそこには『何か』が女の槍を掴み私を守っていたのだ。

 

「面妖な技を使う…!!」

 

女が槍を手放そうとした瞬間、『何か』は女を頭から丸呑みする。ガオンッという音が鳴り、騎士の女は腕と槍だけを残し虚空へと消え去った。

 

「う、うわぁぁああああああッ!!!?」

 

先程まで私に真摯に相手してくれていた冒険者達は怯え切った表情で私を尻目に逃げていった。

腕自慢の冒険者は一斉に私に襲い掛かった。私を危険な存在として見なしたのだろう。しかしそれを嘲笑うかのように、『何か』は冒険者達を貪り尽くす。

 

全てが終わった。私は手に持っていた剣の破片で喉笛を掻き切ろうとすると、『何か』が腕を掴みそれを阻止する。

 

「何だよ…死なせろこの化け物!!」

 

恐らくこの『何か』は私の技能の力だ。私を守るために動いていたからだ。私がコントロール出来なかったせいで多くの冒険者が死んだ。私は自責の念に耐えきれず自殺しようとしたが止められた。自分の意思とは関係なしに私を生命の危機から守るのであろう。

 

死ぬことを諦めた私は廃墟となったギルドから逃げるように山へと帰った。

 

 

 

 

 

 

空も暗くなり、小屋に帰った私は祖父に心配される。恐る恐る、落ち着いた祖父に今日の出来事を話していく。祖父は顔を真っ青にしながらも、私をしっかりと叱り抱きしめる。

そして語られた真実。私が産まれた直後、技能が暴走し父と母を消し去ってしまったこと。そして祖父は私のことを恐れて、大切な子を消し去った為に憎悪の感情を抱いていたらしい。だが、それよりも…

 

「憎悪を忘れる程に…お前のことが愛おしかった…」

 

視界が霞む。瞳から涙が流れ落ちる。私は今まで両親を恨んでいた。何故私を置いて死んでしまったのかと。しかし違った。私が殺したのだ。この化け物、悪霊が両親を…

祖父の体温を感じる。ほんのりと暖かい生命の温もり。この温もりだけでも私は最後まで守りたい。

 

 

ギャンッ!!!

 

 

遠くで魔物の悲鳴が聞こえた。嫌な予感のした私は外に出た。見える。灯りが。煌々と燃える松明が。ギルドを荒らした私を滅ぼさんと大量の冒険者が進軍する。

私はすぐに祖父を抱き締める。別れの挨拶を告げて…

 

「ヴァニラ…行くのか…?」

 

「あぁ…」

 

私と一緒にいれば確実に祖父は危険に晒されてしまう。私の事情で祖父を危険に晒したくなかった。祖父の温もりが名残惜しいが、離れ小屋から出発する。

 

「こっちだ」

 

迫る冒険者の軍団の視界に躍り出る。私を視界に入れた冒険者達は魔法を放つ。それを全て悪霊が喰らい無効化する。そして私は逃げた。冒険者達を祖父から引き離すために。

 

私を追う冒険者達。さながら私は野犬から逃げ惑う野うさぎだ。魔法や矢という冒険者の牙を掻い潜り、遂に逃げ切ることに成功した。

 

私は高台に登り辺りを見渡す。視界には見知らぬ町が映った。これ幸いと町へお邪魔する。門番の兵士に聞いたところ、ここはブルッグの町だそうだ。ブルッグの町はかなり住んでいた山から距離が離れている。少し羽休め程度にはなるだろう。

広場の噴水の水を飲み、露天の店で食料を微々たる程度だが、小屋から持ってきた小銭で買い口に放り込む。

 

「貴様、ヴァニラ・アイスだな?」

 

突如、鎧を着た男に声をかけられた。何故私の名前を知っている。まさか追ってか…!

私はすぐ様逃亡の準備に入るが、男の一言で私はなす術がなくなった。

 

「貴様の祖父は拘束している。大人しくお縄につけ」

 

ザッ、と私の周りを冒険者達が取り囲む。見知らぬ顔ぶれだが、恐らくギルド同士で連絡する手段が何かしらあるのだろう。

私は手を上げ降伏した。唯一の家族である祖父を人質に取られたのだ。そうするしかない。

 

私は留置場へと連行された。やはりというか当然というか、私は死刑だった。最後に看守に祖父に会いたいと願った。最初は渋っていたものの、ブルッグの町ギルド支部長が許可を出してくれた。

 

薄汚れた石造りの対面室で祖父と対話する。祖父はこのような落ちぶれた私を孫として大切に育ててくれた。予測出来た筈だ。祖父を小屋に置いてくれば、人質にされると。だが、私は敢えてそうしたのかもしれない。私は死にたかったのだ。

祖父は私を必要としてくれた。だが、多くの人間の命を奪ったことには変わりない。その人間達にとって私の死は贖罪になるだろう。そう考えていた。

私が死ねば祖父は危険に晒される心配はない。そう自己完結していた。祖父の意思は無視して…

 

 

私は断頭台に立つ。私の腕には特別な手錠が嵌められている。技能を使い辛くするものだ。ライセン大峡谷という魔力が不安定になる地を元に作られたらしい。私の斬首はクリスタベルという金ランクの冒険者だ。金ランクは冒険者の中で最も高い階級だそうだ。2mあろうかという巨漢は剣を持ち私に話しかける。

 

「若いってのに大変ねぇ…安心しなさい、楽に死ねるようにしてあげるから」

 

女口調で話しかけられたことに動揺を隠せないが、忠告しておいた。いくらあの悪霊が手錠で弱体化するとはいえ、必ず何か行動を起こす筈だ。注意して欲しいと。

 

さぁ、処刑が始まる。祖父が私に必死に手を伸ばすが、兵士に取り押さえられている。私は神、エヒトに祈る。祖父がこれから幸せに生きられるように。こここそ技能の信仰の使いどきだ。

それにしても…せっかく祖父と心から分かり合えたのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ…もうちょっとだけ…生きたいなぁ…

 

 

 

 

 

ギチギチ…

 

 

 

 

 

何かひび割れるような音が響き渡った。私に何かが無理矢理体から這いずり出ようとしているかのようにとてつもない痛みが襲い掛かる。

思わず絶叫する。異常に気づいたクリスタベルは直ちに首を斬り落とさんと剣を振るったが、既にそこには腕が無かった。

 

荒れ狂う。

 

悲鳴が上がる。

 

頭が痛む。

 

何かが私の体を突き破るかのように這い出る。

 

痛い…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い…

 

 

 

 

辺りは沈黙し、目を開ける。そこには何も無かった。隣には右手と左足を何かに削られたクリスタベルが気絶し横たわっている。原型を保っているものはそれだけだ。家も、道路も、断頭台も…人も…全て消え去っていた。まるで嵐が通り過ぎたように。

 

いつの間にか手錠は無くなっていた。よろよろと歩き、見覚えのある眼鏡のレンズを見つける。それは祖父が掛けていた眼鏡。見間違える訳がない。ずっと一緒にいたのだ。

 

「あ、あぁ…」

 

嗚咽が漏れる。絶望する。

 

神エヒトよ…何故このようなことに…何故私を生かしたのだ…!私は一瞬、生きたいと願ってしまった!!何故神はそれを叶えるッ!!私は罪人だ、忌むべき人間だッ!!何故…善良な市民と祖父を生贄にし私を生かすッ!!

 

許せない、決して許すものかッ!!私を生かした神を…!!そして私自身を…!!

 

 

 

 

 

 

 

いや、この怒りは、この感情は…偽物だ。たしかに許せない。その気持ちは嘘ではない。だが、死ななかったことにすこし安心してしまっている自分がいる。

私は死ねない。この悪霊がいる限りは…

 

私には守ると誓った祖父ももういない。私の手で殺めてしまった。何もない。空虚な世界をこれからも生き続けなければならないのだ。

 

その日から私は生きる屍となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「と、このようなことがあり、16年間あの山で過ごしていました。偶に冒険者が討伐せんと訪れましたが、全て返り討ちに致しました」

 

おぅ…かなり内容が重かった…原作ヴァニラもこのような幽波紋の暴走があり、それがきっかけで悪の道に堕ちたのかもしれない。ぬくぬくと育ってきた私には理解出来ない辛さだ。しかしヴァニラが始めて殺した支部長は何故見えない筈の幽波紋に反応出来たのだろか。冒険者を引退した有力な人間が支部長などになるというのはさして珍しいことではないし、勘で危険なものと判断したのだろう。迂闊に手を出して殺されただけだったが…

 

「DIO様、貴方様とお会いしなければ私はあの山で無為に一生を過ごしていたことでしょう。DIO様が私の噂を町で聞かなければ出会うことはなかった。この偶然こそがDIO様の言う“重力”、そして“運命”なのでしょう。

私はDIO様と出会い生きる意味を、生かされている意味を理解しました。全ては貴方様にお仕えするためだったのです。DIO様は私にとって『神』そのものです。何もせず、ただ悪戯に異世界人を召喚する者が神などと…おのれエヒト!!DIO様の前で畏れ多い…ッ!!」

 

「落ち着けヴァニラ」

 

ダンダンとハンドルを叩くヴァニラを諌める。ヴァニラはすぐさま顔を青くし罰を受けようとするが辞めさせる。

 

これで私の手駒は増えた。ヴァニラの神格化…これは恐らく信仰対象を神と同等の存在にする技能だろう。少しだけその技能の影響か体の調子が良い。これでさらにこのDIOは確実に天国へと近づいた。

ヴァニラも私を崇拝し信仰するだろう。ならばヴァニラのステータスも上がりより強力になるだろう。ふむ、本当に良い拾い物をしたものだ…。

 

そうそう、ヴァニラの小屋にあった刀の銘はアヌビス神としよう。やはりジョジョの刀といえばアヌビス神だろう。よく切れる事と刀である事以外に共通点が少ないことは内緒だ。

しかしこのアヌビス神をどうしようか。自分で使うのもいいが刀など振った試しはない。完全なる宝の持ち腐れだろう。ヴァニラに返そうにも受け取らないだろうし…雫に譲るとしよう。

 

さて、なんだかんだヴァニラと話しながら移動して一週間、ようやくライセン大峡谷に辿り着いた。少し遅くなった。ハジメ達はもう何処か次の迷宮に出発しているのだろうか…

 

 

 




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ヴァニラ・アイス  26歳 男 レベル : 52
天職 : 信仰戦士
筋力 : 805
体力 : 602
耐性 : 215
敏捷 : 314
魔力 : 483
魔耐 : 166
技能 : 衝破・神格化【対象:DIO】・信仰・幽波紋【クリーム】
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※信仰の恩寵が含まれています



たくさんのご提案ありがとうございました!結局アヌビス神となってしまいましたが、募集した銘は何かに使っていきたいと思います!


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