中二病少年が本物に出会う話 (うみうどん)
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一話 見滝原中学に映画部ってあったんですかね?

 みんなは中二病という症状を知っているだろうか? 

 それは第二次性徴期、主に中学二年の男子女子に唐突に発病する不治の病。

 

 自分は中二病などかかっていないなどと豪語する人間も少なからずかかっている恐ろしい病気。

 

 僕、こと八千(やち)ましろもそんな症状の患者の一人だ。

 

 中学一年生の時、SFライトノベルにすっかりとハマってしまい、それから一年間そればっかり読んで生きてきた。

 勿論、騒がしい教室の中で黙々と本を読み続ける根暗に友達など出来るはずもなく、未だに友人と呼べる人間は周りにはいない。

 

 まあ、そんなものは僕には必要ないと思っている。

 僕にはSFラノベさえあればいい。

 というより人とうっかり話そうものならラノベの主人公の口調が出てきてしまいそうで怖いのだ。

 

 うっかり男の事を卿とか言ったり、女の事をフロイラインとか言ったりしそうで怖い。

 僕は中二病ではあるが、世界観に浸ったり妄想するのが好きな中二病であって、このように表面的には出したくないのだ。

 目立ちたくないと言えばいいだろう。

 

 というわけで、今日も僕はこの見滝原中学の教室の隅で本を黙々と気配を消して読むのであった。

 

 

 

 

 そしていつのまにか昼が来る。

 チャイムの音と同時に目線を上に上げると、前の方の席で見知らぬ女性がクラスの連中に囲まれていた。

 見ない顔だったので、すぐに転校生だと気づく。本に夢中で気づかなかった。

 

 それにしても端正な顔つきをしており、クール系美少女と言った感じだ。

 ああいう子はSFではパイロットで女上官ポジションが似合う。

 

 おっと、こっちを向き始めた。こういう時はさっさと目線をそらすに限る。

 そして、目線をそらしたついでに飯を食いに行こうと、僕は弁当を持ってとある場所へ向かった。

 

 場所とは屋上であり、ここは人気スポットという訳ではなく、逆に昼休みには不人気だ。

 たまに強風が吹くので、飯が食べづらいと言われる時もある。

 

 まあ、僕はサンドウィッチだけなので問題はないのだが。

 定位置に座り、本を読みながらサンドウィッチを頬張る。

 

 そして、チラリと後ろの方を見る。

 

 そこには黄色の綺麗な髪をした豊満な胸を携えた女性が屋上で黄昏ていた。

 彼女の名前は知らないが、屋上に来ると高確率で出会える。

 間違いない。彼女も中二病だろう。

 

 憂いを帯びた顔で屋上にて黄昏る。

 何か絶対設定をつけて黄昏ているに決まっている。

 

 多分、夜な夜なポエムとか必殺技とか考えてるんだろうなって思ってしまった。

 おっと、女性を詮索するなど、失礼に値する。

 すまない、名も知らないフロイライン……僕はこれにて失敬するよ。

 

 パタンと少し大きめな音を出して本を畳む。

 これは少しものお詫びだ。君は一人では無い、安心したまえ……また一緒にご飯を食べてやろう……と。

 

「…………誰?」

 

 

 

 僕は帰りにとあるCDショップへ寄った。目的は好きなSFラノベがアニメ化した際、オープニングに流れた曲を買うためだ。

 そして、レジにて会計を済ませ、帰ろうとしたら、鹿目まどかと同じくクラスメイトの美樹さやかの姿がそこにはあった。

 

 鹿目は何やら少し険しい表情で、CDショップの立ち入り禁止区域へと入り込む。

 おいおい、何やってんだ。

 僕は少し注意してやろうと、同じように足を踏み入れた。

 

「おい、鹿目さん」

「!? 八千くん……?」

「ここは立ち入り禁止区域だ、危ないから早く外へ出よう」

「で、でも……」

「?」

「八千くんは聞こえない? 頭の中で……助けてって声……」

 

 ????? 

 

 何を言ってるんだ? 鹿目さんは……はっ! まさか……彼女もまた中二病の被害者!? 

 仕方がない……あまり目立ちたくはないが、そうも言ってられない。ここは彼女に恥をかかせない為にも全力で乗ってあげなければ! 

 

「助けてという声か……生憎、僕には聞こえはしないが、実に興味深い……協力しよう。鹿目さん」

「ありがとう! 八千くん!」

 

 当たり前だ……こんな面白そうな事……もとい重要そうなシーン、ついていくしか無いじゃないか! 

 おそらく鹿目さんは謎の生命体に呼ばれている設定なのだろう。

 こんな女の子が呼ばれると言ったシチュエーションは……成る程……魔法少女物だろうか? 

 

 彼女はおどおどした様子で前に進んでいく、すると彼女と僕の目の前に突如としてボロボロの白い生命体が落ちてきて、びっくりして倒れようとした彼女を抱きかかえる。

 成る程……ここまでの細工をしているとは……鹿目まどか……本気だな! 

 

「あ、ありがとう……」

「なに、礼には及ばん。しかしコイツは……」

 

 俺はそれっぽい事を言って、ぬいぐるみに目を向ける。

 しかしよくできたおもちゃだな、うめき声とか上げてるぞ。

 

「貴方なの!?」

「うう……助けて……」

 

 喋った! このおもちゃ喋った! すげぇ! 鹿目さん……ここまで本気で魔法少女ごっこをしているとは……素晴らしい執念だ。

 

 そして、目の前で大きな音を立てて、鎖が落ちてくる。

 驚いて目線を上げると、そこには魔法少女の衣装に身を包んだ転校生がその場に立っていた。

 

「!」

「っ!? 貴方……誰っ!?」

 

 なんという事だ……まさか転校生まで巻き込んでいるとは思わなかった……。

 しかも彼女……衣装まで来てノリノリじゃないか! 演技にもかなりこだわっているようで、僕を見るなり驚いた表情を挙げた。

 

 とにかく僕は誰と聞かれたから、答えるしかないだろう。

 

「僕は八千ましろだ。転校生……こんな所で何をやっている?」

「……そう……八千……まどか、そいつから離れて」

 

 僕に少し反応を見せてから、すぐに鹿目さんに話しかける。

 成る程……ここでは僕はイレギュラー扱いか……。しかし、このレベルの演技や気合の入りよう……まさか映画部とかの撮影だろうか……。

 

 見滝原に映画部があるかどうかは知らないが、そうだとすれば俺はかなりの邪魔者だろう。変に関わってしまったので後で謝っておこう。

 しかし今は盛大に乗らせてもらう。引っ込みがつかなくなってしまった。

 

「え? だっ……だって……この子怪我してる……だ、ダメだよ! 酷いことしないで!」

 

 転校生は僕とすれ違い、まどかに近づく。

 

「貴方には関係ない」

「だってこの子! 私を呼んでた! 聞こえてたんだもん! 助けてって!」

「そう」

 

 あいも変わらず凄まじい演技力を見せつける二人。若干蚊帳の外になっているのが寂しくなってきた。

 

 しかし、僕がこの場に立っていてカットの一つも入らないとは……二人とも動揺しているだろうが、監督からアドリブで続けるように指示があったのだろうか……。それならば二人は将来とんでもない女優になれるのでは? 

 

 転校生は鹿目さんを見下ろしたまま、ピクリとも動かなくなった。

 なんだろうか……コマ割りの時間とかそんなので調節しているのだろうか? 

 すると、転校生に突如として白い霧が勢いよく噴射される。

 

 僕が驚いて横を見るとそこには美樹さやかが消火器を持って、転校生に噴射していた。

 

「八千! まどかを!」

 

 僕は急いで、鹿目さんに駆け寄り、手を握って立ち上がらせて走る。

 その後で、美樹が消火器を転校生に投げつけて、こちらに駆け寄ってきた。

 

 少しやり過ぎではとも思ったが、これは映画だという事を思い出す。

 中学生でここまでのシーンを撮ると言うのか……本格的すぎて少し怖くなってきたぐらいだ。

 

「八千! まどか! 何よアイツ! 今度はコスプレで通り魔かよ!」

「僕にもさっぱりだ、しかし美樹さん……君までも……」

 

 おっと、メタいことを言ってはいけないな。進行の邪魔になる所だった。

 

「つか……何それ……ぬいぐるみじゃあないよね……生き物?」

「わかんない! わかんないけど……この子! 助けなきゃ!」

「ならば早く行こう……なんだと……?」

 

 急に僕たちの目の前が不可思議空間になる。

 あたりは薄暗く、周りにはよく分からないオブジェやら何やらでいっぱいだ。

 

 すっげ……本格的だとは思っていたが……ここまでするか!? 普通……。

 僕の思っている以上に見滝原の映画部はかなりの力を持っているようだ……。

 

 そして美樹さんもかなり演技力が高い。

 将来の女優がまた増えてしまったようだ……。

 

「な、何かいる!?」

 

 鹿目さんが辺りを見渡すと、顔がコットンで覆われたような人形が複数現れた。

 ああ……魔法少女物と言えば謎の敵だ。これはかなり僕の心を熱くさせる。

 

 しかし、二人の焦り具合が尋常じゃない。

 ハサミのようなものが荊に包まれてジャキジャキと音を立て、不吉な声を上げて僕達に近づいてくる。

 

 なんだ? 装置の故障か何かか? なんだかこちらに対してかなりの敵意を持っているような感じがする。

 二人を僕の後ろに隠して、拳を構える。

 すまない、舞台を作った人! このままでは被害が出そうなので、先手を打たせてもらう! 

 

「ふんっっ!!」

 

 僕は人形に向かって、拳を放つ。

 すると目の前にいた人形はバラバラに弾け飛んだ。

 

「へ?」

「ええ!?」

 

 二人してかなり驚かれた。

 無理もない、目の前の人形が木っ端微塵になったのだから。

 

 これでも僕はかなり鍛えている、服の下はムキムキマッチョメンだ。脱ぐとすごいというのはこの事だろう。

 しかし、いつ異世界転生やロボットに乗って戦えとか言われるか分からなかったので、鍛えてあったのが功を奏した。彼女たちに怪我はないようだ。

 

 しかし、人形たちは未だこちらに向かってくる。

 いくらなんでも数が多い、そう思った時だった。

 

 周りを囲むように鎖が落ちてきて、そこから強烈な光を放つ。

 周りにいた人形たちは全部消滅していた。

 

 すげぇ演出……。これももしかして、演出の一環だったのか? 困った、人形を一つ壊してしまった。後で弁償とか言われないだろうか? 

 

「危なかったわね、でももう大丈夫」

 

 後ろを振り向くと、階段から降りてくる一人の少女。

 あれ? この人って確か……屋上によくいる。

 

「あら? 貴方……屋上の……」

「君か、こうして話すのは初めてだな」

「ええ、キュウべぇを助けてくれたのね、どうもありがとう。その子は私の大切な友達なの」

「礼なら、鹿目さんに言うといい、僕は手伝っただけに過ぎない」

 

 いつのまにか僕の後ろに隠れていた鹿目さんをこの人の前に押し出す。

 

「私……呼ばれたんです、頭の中に直接この子の声が」

 

 ふむ、どうやら魔法少女物の映画で間違い無いようだ、それにこのシーンにカットも入れられないのでいつのまにか僕も演者の一員として放置されているのかもしれない。

 些か小っ恥ずかしいが、結構僕は義理固い方だ、ここまで楽しませてくれたお礼に最後まで演じ切らせてもらおう。

 

「ふーん、なるほどね。その制服、貴方たちも見滝原の生徒みたいね。二年生?」

「貴方は?」

「そうそう、自己紹介しないとね……でもその前に!」

 

 そう言うと彼女は手に持っていた宝石みたいな物を宙に投げる。

 成る程、あれが変身アイテムか、ということは! 

 案の定、彼女を包み込むように黄色い光が発光する。

 

「ちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら」

「魔法少女……か」

 

 ポツリと僕が一言言うと、彼女が後ろを向いてニコッと笑った。

 

 そして、一つ一つ衣装に身を包んでいく。

 黄色を基調としたゴスロリちっくな衣装、素晴らしい……こんな変身シーンが目の前で見れる日が来るとはな……。生きてて良かったというのはこの事か。

 

 彼女は銃を出現させ、人形どもに向かって放つ。

 そこらかしらで爆発しているのでとんでもない火薬の量だ。

 立ち入り禁止区域をこんなセットにして爆発までとなると少し、問題にもなりそうだが今はそんな事はどうでもいい。

 

 見滝原中学の映画部は凄い。僕はこの時こう思った。

 

 彼女が攻撃を終えると、辺りが素の風景に戻る。

 二人も安心して、ホッとしているのが見えた。

 

 すると、目の前に転校生が現れた。

 なんだ? 目線がこっちを向いている、いや鹿目さんに向いているのか? 

 僕は何か鹿目さんに因縁があるシーンだと思い、庇うように前に立つ。

 鹿目さんはキュウべぇとやらを抱き抱えながら僕の服の裾を掴む。

 

 すると転校生は激高したような表情を浮かべた。

 どうやら当たりを引いたようだ、一先ずホッとする。

 

「魔女は逃げたわ、仕留めたいのならすぐに追いかけなさい。今回は貴方に譲ってあげる」

「……私が用があるのは」

「飲み込みが悪いのね、見逃してあげるって言ってるの。ここには武術の達人もいるのよ? 貴方一人で私と彼……相手に出来ると思って?」

 

 ん? 武術の達人……ああ僕の事か、いつのまにか僕も戦う事になっているのだが、まさか演者の一員として認められたのか? 

 このまま映画部に所属となると少し不味い、ラノベを読む暇がなくなってしまう。このシーンが終わったら丁重にお断りしよう。

 

「お互い、余計なトラブルとは無縁で居たいとは思わない?」

 

 彼女がそう言うと転校生はより一層こちらを睨む。

 そして、静寂な空気が流れ転校生が背を向け去って行った。

 

「ふう」

 

 四人して一息つく。

 やっと終わった……。四人の演技が凄くてこちらまでかなり緊張した。さて……人形一つ壊してしまったので──。

 

 

 

 逃げるか。

 

 

 

 僕は颯爽と後ろを向き、三人から去ろうとした、しかし後ろから声を掛けられる。

 

「貴方、名前は?」

 

 ……名前を聞かれたと言う事は、多分請求書を送りつけられるのだろう。

 ……逃げれなかった事を悔やみ、観念したように僕は名前を言う。

 

「八千ましろだ」

「そう、私の名前は巴マミ、今からキュウべえを治してあげないといけないから、少しここに居てくれるかしら?」

 

 ぐっ、ここに居ろと命令されてしまった。お小遣いで足りるといいのだが……。

 

「貴方には色々と聞きたいことがあるしね」

 

 そう言って巴さんはキュウべぇというおもちゃに手をかざす。

 手から暖かい光が流れ、どうやらそれでそれを癒しているようだ。

 

 ああ、まだ撮影は続いていたのか。それでここに居ろと……まあ良い、隙を見て逃げよう。

 

「ありがとうマミ! 助かったよ!」

「お礼はこの子達に、私は通りがかっただけだから」

 

 癒し終えた後、僕たちに向かってお礼を言ってくるマスコットキャラ。

 ふむ、いかにも魔法少女物らしくて良い演出だ、思わず頰が緩みそうになる。

 

「どうもありがとう! 僕の名前はキュウべぇ!」

「貴方が私を呼んだの?」

「そうだよ、鹿目まどか! それと美樹さやか! で…………君は誰だい?」

 

 このおもちゃ、こういうアドリブも入れられるところを見ると、誰かが別の場所でアフレコしているのだろうか。

 こうして聞こえてくるなんて不思議な感覚だ。

 

「八千ましろだ、僕の事は気にしないでくれ」

「……僕が見えて、声も聞こえるなんて……」

 

 キュウべぇは少なからず驚いた素振りを見せる。

 機械なので、感情は一定のままのようだ。

 

「というか! どうして私たちの名前を!?」

 

 美樹さんがキュウべぇに向かって、疑問を問いかけた。

 

「まあいいか、僕、君たちにお願いがあって来たんだ!」

 

 そう言ってキュウべぇはニコッと笑い、定番のセリフを言った。

 

「僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ!」

 

 かくして、僕と魔法少女達の少し不思議な話が始まった。



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二話 僕は魔法少女と邂逅する

 あの後、巴マミに僕の事を聞かれた。

 なぜそこまでの力があるのか、なぜキュウべぇの事が見えるのかとか、なぜ魔法少女の事を知っているのだとか聞かれたのだが、僕にはさっぱり何のことだか分からない。

 

 どうやら映画の撮影でもないらしく、本当にみんな巻き込んで魔法少女ごっこをやっていたんだなと思った。

 

 キュウべぇという不思議なおもちゃに関しては謎だが、多分あの人形と同じ原理で、アフレコしてる人がいるか居ないかなのだろう。

 キュウべぇも僕の事に関心を持っているみたいで、魔法少女の存在を聞かされた。

 

 ごっこ遊びでも設定をしっかりと持ってやるのは良い事だ。

 設定があるかないかで、深みが違うからな。

 

 そして詳しい話がしたいと言われ、巴さんの家に招待されたが僕はまっぴらゴメンだ。

 こんな美人の先輩の家にお呼ばれされたとクラスも男どもに知られたらそれこそ注目を浴びてしまう。

 ただでさえ、今は気配を消してうまくやっているんだ。

 

 そんな訳で僕は丁重にお断りする。

 理由はこの後やるべき事があると真剣な表情で言ったら、「そう……魔女を追うのね」と真剣な表情で返された。

 

 どうやらあの人形は使い魔と言ってそれを操る魔女という存在がいるらしい。

 

「貴方が何者なのか、また学校で聞かせてもらうわ。後……あの子に気をつけてね」

「ああ、また学校で、フロイライン達……」

 

 そして僕はその場を去った。

 よかった弁償とか言われなくて……いや、また学校でって言ってたから学校で請求されるのか? ……こんな事になるんなら壊さなきゃ良かったぜ。

 

「……風呂? なんだって?」

「フロイラインよ、ドイツ語でお嬢さんって意味」

「へー八千くんって物知りなんだね」

 

(……多分だけど……彼、私と同じような空気を感じるのよね……何故かしら?)

 

 ──ー

 

 僕は一人夕暮れの道を歩く。

 そんな時、後頭部に突如なにか固いものが突きつけられた。

 

「止まりなさい」

「……」

 

 僕は仰々しく、両手を上にあげる。

 全く、エアガンでも人に向けちゃならないと習ってはいないのか? 説明書を読め、説明書を。

 

「本来なら魔法少女でしか倒すことの出来ない使い魔を貴方は人間で……しかも素手で倒した……貴方は一体何者なの?」

「何者か、か。それを言ったら君たち魔法少女とやらが何者かと聞きたいのだが……」

「ふざけないでっ!!!」

 

 転校生がトリガーに指をかける。

 これはいけない、たとえエアガンでもトリガーに指をかけ人に向けるのは危なすぎる。

 僕は、両手を上げた状態から後ろを向き、素早く転校生の銃を持った手を抑える。

 

 ? エアガンに対しては重量が重たすぎるな。

 まあリアル志向の店で買ったのだろう。

 

「CQC!?」

「生憎僕はそんな高度な技術は納めていない」

 

 僕が納めているのは銀河連邦式なんちゃって徒手空拳だ。

 

 僕が愛読しているSFライトノベルで登場人物の殆どが習得している武術であり、僕のは見様見真似であり、本物には遠く及ばない代物。

 

 作品の中では巨大な岩を拳で叩き砕くのだから、僕の技術は赤ちゃんレベルだろう。

 それより……。

 

「そんなものを人の頭に突き付けたら危ないだろう?」

「っ! この代物を危ないで済ませるの?」

「所詮はおもちゃではあるが、危険だからな」

 

 僕は、なぜか呆然としている転校生から銃を抜き取る。

 ズッシリと重たい感じがするが、そんな事はどうでもいい、僕は家にあるエアガン同様にその場で分解した。

 

 エアガンみたいに一発でうまく出来なかったが、力技でなんとか分解する。

 いや、これ壊れたかな? 結構リアルな代物だし、これもかなり金がかかってるんじゃ……。

 

 僕は少し青ざめる。

 しまった、またやってしまった。

 

 これで機械を壊すのは二度目だ。

 請求が怖い。

 

 ん? 分解した銃の中から弾丸が出てきた。

 ははん、中にBB弾を詰め込むタイプだな? とも思ったが、どうやら違うらしい。

 限りなく本物に近い代物だ。

 

 成る程、エアガンでもないただの弾が出ないおもちゃだったか。

 ここまで拘るとは、転校生もいやはや、なかなか侮れない。

 

「おもちゃ……銃を……おもちゃですって……?」

「はあ……僕なら平気だが、もう茶番も終わっているこの状態でまだ続けるとは……流石に疲れたぞ」

「茶番……」

 

 転校生は目を見開く。

 む、怒らせてしまったのだろうか。ごっこ遊びでも本気でやっている彼女達に失礼な発言をしたと、少し反省する。

 口は災いの元だ、やはり話さない方がいいだろう。

 

「私が……これまでどんな思いで頑張って来たかも知らないで……言うに事を書いて茶番ですって……!?」

 

 あちゃあ、これは完全怒らせてしまった。

 すぐに訂正しなくては。

 

「ああ、すまない……茶番じゃあないな、少なくとも君は本気だな」

「……私の事を知ってるの……?」

 

 困惑して表情で僕を見据える転校生。

 お互い初対面の筈だが、この問答も想定の範囲内だ。

 大方、魔法少女ごっこをずっとやってきたのだろう、中学生にもなってそんな衣装に身を纏い、演技力も高いはずだ。

 

 だから僕は彼女を傷つけないようにこう答えるしかないだろう。

 

「ああ、知っているよ。また学校でね、転校生」



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三話 迷い込むのはこれで二回目である

 事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだろう。

 その言葉がなければ僕は自制心を保っていなかったかもしれない。

 

 なぜ僕がこんな事を言ってるのかと思っている人に説明しよう。

 またもやあの不可思議空間に飛ばされてしまった。

 

 奇怪なオブジェに謎の生命体。

 なぜこうなってしまったのかと頭を抱える。

 

 しかも近くに魔法少女がいない状態でだ。

 そんな状態で僕一人迷い込んでしまった。

 

 これはもうあれだ、この空間だけは本物だろう。

 まさか中二病ワールドがこんなところに広がっているなどと思いもしなかった。

 

 しかし……なんか誰かに呼ばれたような気がしたんだがな……。

 気のせいではあるだろうが、こんなところに迷い込んだんだ。

 少し探索してみるのもいいだろう。

 

 しかしよく見てみるとこの空間は歪ではあるがどことなく美しさを感じる。

 この不安感が美しさを助長させているのではないかと思った。

 そしてヒゲを生やした謎の生命体。

 

 魔法少女達は使い魔と呼んでいたが、やはり名前がないと何かと不便だろう。

 よし、この白いコットン頭のヒゲはアントニーと名付けよう。

 なんだかアントニーっぽいし、いいかもしれない。

 

 しかしこのアントニー、ドイツ語で歌を歌いながら僕の方に迫ってくる。

 なんだ? ちょん切ってしまおうだって? 

 ああ……向こうからすると僕も謎の生命体なのかもしれないな。

 

 それに一体破壊してしまったのもあって怒っているのかもしれない。

 なんだか、僕はここ最近怒らせてばっかりだ。

 行動にも気をつけねば。

 

 しかし……あの時は殺意があったから仕方なくだな……。

 まあすまない気持ちでいっぱいではあるが。

 

「一体……いや、一人? を破壊してすまなかった、この通りだ謝らせてくれ」

 

 僕がアントニーたちに向かって謝罪の言葉を投げかける。

 しかしまあ、こいつらは怒りが収まらないようで、こちらに近づいてくる。

 ああ……どうしようかな。実力行使に出るのもやぶさかではないが、これ以上壊すと後で厄介な事になりそうだ。

 

 ふと横にある薔薇が目についた。

 ほう……美しい薔薇だ。ちゃんと手入れもしてあってこの芸術感溢れる空間にとてもマッチしている。

 

「……この薔薇の手入れは君たちが?」

 

 僕がそうポツリと言うと、アントニーの動きが止まった。

 やはりそうだ、このステキな薔薇の手入れをしているのはコイツらしかいないだろう。

 しかしいい腕をしている。前に一人で薔薇園を見に行ったがそれよりも美しいかもしれない。

 

「素晴らしい腕をしているな」

 

 僕がそういうとアントニーは少し照れたような仕草をする。

 いや照れているのか正確には分からないが、まあそう解釈したほうがいいだろう。

 

「この領域に勝手に入ってすまなかった、僕はここから出たいのだが、出口まで案内してくれるだろうか?」

 

 僕がそう言うと、アントニー達は顔を見合わせてコクリとうなづく。

 よかった、どうやら話は通じるみたいだ。

 先導して歩き始めたアントニー達の後ろを僕はついていく、途中で僕の後ろに謎の浮遊する生命体も付いてきた。

 

 こいつの名前はアーデルベルトにした。

 いや、僕の趣味全開だが許してほしい。

 

 このアーデルベルト、最初は僕を見つけるなり急に鐘を鳴らして頭突きをかましてきた。

 まあ、痛かったがそこまでの威力ではなかったし放置してたら、疲れからか、いつのまにか頭突きはやめてくれた。

 それでも、後ろで機会を伺っている様子が見られるので、諦めてはいない様子だ。

 

 そして、未だに出口にはつかない。

 アントニー達は歌を歌っていた。

 一部ではあるが翻訳できて、行こう行こう主人の元へ、行こう行こう優しき青年を連れてとドイツ語で歌っている。

 

 元はドイツからやってきたのだろうか? 

 

 そんなこんなでアントニー達についていくと、一際大きな部屋に出る。

 ここは……一体。

 

 真ん中でこれまた奇怪なオブジェクトが鎮座している。

 頭はデロリと溶けているかのような感じで薔薇が数本添えられている。

 そして体がどうか分からない、部分は特徴的な柄をしていた。

 これが現代美術だと言われてもおかしくないだろう。

 

 しかしそれよりも、知性を感じる? 

 このオブジェクトは確実に僕を認識している。

 すると突然、巨大な椅子のようなもので攻撃してきた。

 

 僕はそれを後ろに避ける。

 ふむ、知性もあって攻撃してくるとならば……。

 

 かっこいい名前をつけるしかあるまい……! 

 

「さしずめ……ゲルトルート……!」

 

「ゲルトルート……魔女に名前をつけるなんて貴方ぐらいね」

「……巴さんか」

 

 いつのまにか後ろに巴マミとクラスメイトの鹿目さんと美樹さんがいた。

 巴さんに至っては銃を取り出して戦闘態勢に入っている。

 それを僕は片手で制した。

 

「……どうして?」

「ゲルトルートに話があるんだ。だからここは僕に任せてくれないか」

 

 僕は興奮冷めやらぬと言った感じで感情を爆発させるゲルトルートに近づく。

 いや、この子に感情なんてあるのかはわからない。

 しかし、あそこまでの薔薇、そして素敵な空間を生み出せるのだ。

 

「薔薇の君よ、どうか僕の話を聞いてくれないだろうか」

 

 ゲルトルートはその巨体を蝶の羽ではためかせ、僕を威嚇する。

 そして、アーデルベルトに命令したのか僕の身体を拘束してきた。

 

 というかコイツら、紐のような形状にもなれるのか。

 

「君がなぜそこまで怒っているのか分からないんだ。君の同胞を一人破壊してしまったことは謝る。償えるかどうかはわからないが、どうか話を聞いてほしい」

 

 ゲルトルートは話を聞く耳を持たずに僕を宙ぶらりんの状態へ持ち上げる。

 巴さんが戦闘態勢に入ったが、それを僕は手で待ったをかけた。

 気持ちは分かるが、それはまだ早計だ。まあ待ってくれたまえ。

 

「それに……あんなに美しい薔薇を咲かせられる君が、どうも悪い物に見えなくてな」

 

 その言葉を聞いたゲルトルートはその場で静止する。

 やはり、薔薇がキーワードだったか。恐らく、ゲルトルートはこの空間でアントニー達と一緒に薔薇を育てれればそれで良かったのではないだろうか。

 

「花というのは、清き心を持つものにしか育てられない。悪しき心を持つ者は必ず花を枯らしてしまう」

 

 僕の身体を拘束していたアーデルベルトが霧散する。

 命令の効力が切れたのだろうか。僕は下に落ちている薔薇を踏まないように着地した。

 そして一つの薔薇を掬い取る。

 

「怖かったろうに……もう安心したまえ、ここには君に危害を加える者はもういないよ」

 

 そういうとゲルトルートは大人しくその場に鎮座する。

 その姿はどことなく哀愁が漂っていた。

 

「信じられない……魔女と対話できるだなんて……」

 

 巴さんは後ろで口を押さえてとんでもない光景を見るかのような表情を浮かべていた。

 そんなに大したことでもないと思うのだがな。

 知性あるものとは対話は必ず出来るだろう。僕は基本的にどんなサイコパス野郎だって対話してみる。それでダメなら仕方がないが、ブン殴る。

 

 それが異形の物だとしても同じだ。

 知性があるのなら少しは話しかけても良いのかもしれない。

 

 そう思っていると、ゲルトルートが僕に近づいてきた。

 その様子は僕直々に葬ってほしいと願っているようにも思えた。

 

「何故だ?」

 

 ゲルトルートの心情はあいも変わらず読み取れない。

 しかし、些細な行動でその心の内をアピールするゲルトルート。

 恐らくではあるが、自分の意識が残っているうちに葬ってほしいとの事だった。

 

 この綺麗な薔薇を作れる存在を葬るのは些か心が痛むが、ゲルトルートがそれを望んでいるのなら……仕方があるまい。

 

「痛いのは一瞬だ」

 

 僕は拳を握り、構える。

 覚悟を決めたかのようなゲルトルート。

 僕は自分の最大の力を振り絞り、せめて苦しまないように逝かせてやりたいと思った。

 

「来世で生まれ変わったら、是非友達になろう」

 

 そして、僕の最大の力をゲルトルートに放つ。

 ゲルトルートは無数の蝶になりその場で霧散する。

 

 ……なんだろうか、なんとも言えない虚無感だな。

 あたりの空間が元の世界へ戻る。

 すると僕は見覚えのない廃ビルに入り込んでしまっていた。

 

 いつの間にか僕の手元には黒いクリスタルのようなものが握られていた。

 そして、少しではあるが小さな声で『ありがとう』という声が聞こえたのだった。

 



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四話 身から出た錆

 あの後、転校生までやってきて一旦険悪なムードになったがなんとか事なきを得た。

 そしてあの黒いクリスタルみたいな物はグリーフシードと言い、魔法少女が持つソウルジェムの濁りを取り除く事が出来るらしい。

 

 ソウルジェムなるアイテムや濁りという新単語が出てきたがもはや僕にとってはどうでもいい事だった。

 非現実が現実になってしまったのだ、その興奮たるや分かってくれるだろう。

 今まで架空の存在とされていた魔法少女が存在する。その事を聞いただけで心が踊った。

 いやはや、僕もいつのまにか非現実に足を踏み入れていたとはな……いつか選ばれしものとか言われて魔法少女と別存在として戦う事が出来るのだろうか? 

 

 まあそれも良い。

 僕はグリーフシードを巴さんに渡した。彼女は良いの? と言っていたが、僕が持っていても仕方ないものである。僕は魔法使いでも少女でもないからな。

 それにソウルジェムなるものなどはもちろん持っていない。

 

 となると、彼女に渡してしまったほうが良いだろうと判断した。

 ゲルトルートがいた証が消えるわけでは無いと思うしな。

 

 そんな感じで僕は魔法少女たちと別れた。

 去り際に美樹さんがなんでそんなに強いの? と聞いてきたので、鍛えているからなと力こぶを見せたのだった。

 

 ────

 

 そしてまたもや夕暮れの道を一人歩いていると、後ろから声をかけられる。

 

「やあ、待ってくれないか? 八千ましろ」

「……キュウべぇか」

 

 後ろにいたのは不可思議生物キュウべぇ、猫のような独特なシルエットをしており、全身真っ白なマスコット。

 コイツの愛らしさはピカイチだと思う。

 

「初めて君の事を見たとき、本当に誰だと思ったよ。僕たちのデータになかったからね」

「そうか」

「でも、前、君が独り言を言ってたのを偶然見てしまってようやく合点がいった。成る程、僕たちのデータにないわけだよ」

「は?」

 

 コイツは何を言っている? 俺は独り言など……。

 

「銀河連邦旅団……この名前に聞き覚えがあるでしょ?」

「ッ!?」

 

 コイツ……まさか……!? 

 

「ねえ、コードネーム【テルミドール】」

 

 誰も居ないと思って銀河連邦ごっこをしていたのをコイツは見ていたのか!? 

 

 は、恥ずかしいッッッッッ!!!!! 

 

 あの時、確かノリに乗っていた時の事だ! テストの点数が思ってより良かったので、テンションが上がって、誰も見ていないと思い、僕が好きな小説をモチーフにした、ごっこ遊びをやっていた! 

 

 確か設定は僕は銀河連邦旅団のリーダー【テルミドール】でとある調査の為に地球に有機生命体として現界し、この地に降り立ったという設定ッ! 

 

 し、死にたいッッッッッ!!!! 

 

 僕がワナワナと震えていると、キュウべぇが後ろ脚で顔を書きながら僕に言う。

 

「大方正体がバレて狼狽しているんだね。驚いたな、まさか感情を持つ生命体がこの地球以外にもいるなんて」

「くっ」

「感情は僕たちの星では、一種の個体汚染。言わば精神疾患と捉えているだけど、そちらの星ではどうなのかな?」

 

 何を言ってるんだコイツは? 

 星? 個体汚染? 精神疾患? いやいやいや、僕にそんな事言われてもなんのこっちゃ、ってなるのが関の山だ。

 

「……何を言ってるのか」

「しらばっくれても無駄だよ、もう裏はとってある」

 

 なんの裏? 

 

「銀河連邦旅団という部隊がこの地球上に存在すると言うことは分かった。他のメンバーももう既に見つかっている。まあ、殆どが人里離れた山奥に居たわけだけど、君はリーダーとしてこの見滝原に住んでいるんだね」

 

 ええ? 話が急にぶっ飛んで分からなくなった。

 なぜ魔法少女から宇宙の話になって、僕の作った架空の旅団が存在しているんだ? 

 

「旅団のメンバーの一人を捕らえて話を聞いたところ、リーダーとなる【マクシミリアン・テルミドール】はこの地球に降り立った時に行方不明になったと聞いたけど、まさかメンバーにも君は連絡を取っていないなんて、全く用意周到だね」

「…………何が言いたい?」

 

 いや純粋な疑問です。本当にコイツは何が言いたい? 

 ただの魔法少女のマスコットだろ? よくいるじゃあないか、可愛い奴が。そんな可愛い奴がなんでドス黒いオーラを出しながら僕に近づいてくるんだ? 

 

「さて、聞こうか。君は一体この地球へ何しに来たんだい?」

 

 知らんがな! 

 生まれも育ちも地球ですけど!? 

 ただちょっとした思春期特有の精神疾患に侵されたかわいそうな中学二年生の男子ですけど!? 

 

「だんまりだね、おっとそう言えば僕の正体も君に話してなかったね。その様子からだと、僕たちの存在を知らないみたいだ。僕たちの名前は【インキュベーター】君達と同じ宇宙人だ」

 

 いやあああああああああああああ!!!! 

 いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! 

 

 僕の頭はパンクした! 急にマスコットが難しい事を話し出して最終的に言った言葉が宇宙人!? 勘弁してくれ!! 

 確かに、いついかなる時もそういうイメージ(妄想)はしてきた! しかし! それが現実に現れてくるとかもう大変! 結構、今の今までも魔法少女とか魔女とかで頭がパンクしそうになったのをなんとか飲み込んできたが、もう無理! 

 

 しかも僕と同じだぁ!? 僕は正真正銘の地球人だ! マクシミリアン・テルミドール!? そんな水没しそうな名前の奴は知らん! 帰れ! 

 

「はあ……はあ……」

「……僕たちに気取られたらいけないような重大な使命なのかな? 例えば……地球人を救う為とか」

「!」

「当たりだね」

 

 いいえ、ハズレです。というより何も考えていません。さっきの「!」だって脳内でツッコミまくってえずきそうになっただけだし。

 

「……ともなれば、この地球で言う所の人類に仇なす僕たちの敵と言ったところか」

「……人類に仇なす?」

 

 ちょっと待て、今。人類に仇なすって言ったよな。

 

「その様子だと、僕たちの目的も知らないみたいだ。そうだね、特別に教えてあげよう。もしかしたら利害が一致するかもしれないしね。ましろ、君はエントロピーって言葉を知ってるかい?」

 

 こうして、インキュベーターと名乗る宇宙人から、色々と聞いた。

 魔法少女の事や、宇宙の事、そして魔女の正体やら何から何まで。

 ご丁寧に目的まで話してくる。

 

 ……コイツらには感情というものが無いと言っていた。

 だから、こうやって平然としていられるのだろう。

 

「というわけなんだ、どうだい? 僕たちと一緒に宇宙を救わないか?」

 

 確かに将来的に見たら、この地球の人類、一人や二人減ったところで問題などない。

 後から続く者を守り、結果的に宇宙を救い、そして地球人はやがて宇宙へと飛び出し

 、高位の存在となる日が来る。

 

 それが今ではないという事であり、今は多くの犠牲の上に文明を作っている最中だ。

 確かに、インキュベーターとやらの言い分は理解ができた。

 僕という中二病からしたら、宇宙の為に礎となる。なんとも甘美な響きだろうか。

 

 しかし、気に食わない点は。

 

「なぜ、第二次性徴期の女性がターゲットなんだ?」

「効率よくエネルギーを回収する為さ」

「そうか」

 

 ならば僕はこういうしかないだろう。

 

「断る」

「……訳がわからないよ、少なくとも君はこの話に乗り気だった筈だけど」

「これが感情のある者と、感情のない者の差だ」

 

 理屈は理解できた。しかし、それをやれと言われて、やる女の子など居ないだろう。

 それが今を生きたい人間の欲求だ。

 

「……やはり感情と言う精神疾患は理解し難いね。また話そう。ましろ」

 

 インキュベーターは僕に背を向け去っていく。

 やれやれ……結局僕を銀河連邦旅団のリーダーだと誤解して帰りやがった。

 ……全く、もうこれ以上何があっても驚きはしない自信がついてしまった。

 

 さて、インキュベーターの目的を聞いてしまった訳だが。

 ここで見て見ぬ振りをすれば、僕はここで魔法少女とおさらばだろう。

 下手に干渉すれば、訳の分からぬまま僕自身が命を落としてしまう。

 

 ……しかし、僕はなんとも捻くれ者だ。

 今の心の内は彼女たちをなんとかしてやりたいと思ってしまっている。

 僕自身が死ぬかもしれないのにだ。

 

 心のどこかで、彼女達が絶望して死んでいくぐらいなら、僕がそれも肩代わりしても良いとすら思っている。

 ああ……ここから先、とんでもない出来事が待ち受けているんだろうな。

 

 僕はそう思い、後ろを振り向くと、そこには呆然とその場に立っている転校生の姿があった。

 ……なんでいるんですか?



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五話 転校生の賭け

 初めて八千ましろと出会った時は、CDショップの立入禁止区域でインキュベーターをまどかに近づかせない為に排除を試みようとしていた時の事だった。

 

 初めはどのループにも存在しないイレギュラーとして少し目を入れていただけなのだが、まどかと一緒に居るところを見ると、彼も関係者なのだろうと思ってしまった。

 さもなれば、彼が干渉してきた場合は排除すればいいだけの話。

 

 どうせ、彼は少女では無いので魔法少女程の脅威にはならないだろう。そう思っていた。

 

 彼は強かった。

 私がそう陳腐な感想を持つぐらいに八千ましろは圧倒的な力を持っていた。

 なぜ生身の人間の状態で使い魔を粉々にできるぐらい粉砕できるのか、本当に不思議でならなかった。

 

 それと同時にまどかが彼の裾に手をやり私を怖がっている姿が目に入った。

 私は悲しい気持ちになると同時に、そこは私の場所だったのにと八千ましろに嫉妬の念を向けたのだ。

 

 それと同時に私の中で八千ましろへの警戒度が上がる。

 彼は危険だ、早めに排除しなければこの先どうなるのか分からない。

 私は不確定要素はあてにしない。全てはまどかを救う為。その為に私はこうして何度も繰り返してきたのだから。

 

 だから早めに彼には退場してもらおう。

 そう思い、彼の背後から軍からくすねてきた銃を時間停止の能力を使い、彼の頭に突きつけた。

 何も殺しはしない。ただ少しだけ脅して、今後一切鹿目まどかに近づかせないようして、魔法少女との関わりを持たなくするだけのことである。

 

 しかし、私の考えは甘かった。

 彼は私がトリガーに指をかけたのを見て、後ろ向きの状態から私の銃をいつのまにか抜き取った。

 時間停止をとも思ったが、こうも密着していては使えない。

 だから彼が離れた隙を狙い、奪い返そうと思った。でもそれも無駄だった。

 

 八千ましろはその場で銃を分解してしまった。

 実銃をだ。

 本来なら実銃を見た人間は殺されたく無いと思い、命乞いかその場から脱兎のごとく逃げ出すだろう。

 しかし彼は銃を見てこう言い放った。

 

「所詮はおもちゃ」

 

 何と言った? 

 今目の前の彼は何と言った? 

 

 銃をおもちゃ……。人一人軽く殺せる最悪の武器をおもちゃと言い放った。

 間違えた、私はまた間違えた。

 

 私のすべき行動は、彼と手を組むべきだったのかもしれない。

 あちらも不確定要素のイレギュラーであるとすれば、この時間逆行を何度も繰り返している私もイレギュラーの存在だ。

 

 だから、もしかすると。私の現状を話さえすれば、彼は協力してくれたのでは無いだろうか? 

 それも一つの可能性の筈だった。それを私はみすみすと逃し、彼を大幅の警戒状態にまで引き上げてしまったのかもしれない。

 

 失敗した。私はまた……。

 

「茶番が終わっているこの状態で続けるとは、流石にもう疲れたぞ」

 

 茶番? この現状を茶番だと目の前の男は言い放った。

 この男は私がどんな思いでまどかを救う為に……何度も何度も人が死ぬところを見てきたのを茶番だと言ったような気がした。

 

 私は許せなかった。

 

 しかし、彼が言ったのは私に向けてでは無かった。

 

「ああ、すまない。茶番じゃあないな、少なくとも君は本気だな」

 

 スーッと頭に登っていた血が降りたような感覚がした。

 

 私の心を読んだかのような口ぶり。

 彼と私は一回どこかで会ったことがある? 

 いや、記憶にない。これが完全に初対面のはずだ。

 

 だから私は、私の事を知ってるのかと聞いた。

 知ってると答えれば、時間逆行の事さえも知られている可能性がある。

 だから……彼がどこまで知っているのか興味を持ってしまった。

 

「ああ、知ってるよ……また学校でね。転校生」

 

 私は彼が心底怖い。

 まるで、全てが見透かされているような感じがした。

 この感覚は、ワルプルギスの夜と対峙した時と同じような感じがしたのだった。

 

 そこからは、彼には干渉しないことにした。

 彼と離れ、私は一人でやっていく方針に切り替えた。

 彼は未知数すぎる、最初は協力をとも思っていたが、流石に背中を預けて安心できる相手ではない。

 

 だから、魔女を浄化するように倒した彼を見て心底驚いた。

 魔女をも包み込むような、優しさ。

 最初対話を持ちかけた彼の行動を見て、死んだか殺すかとも思ったが。その考えもすぐに振り払われる。

 

 最終的に魔女は彼に介錯を頼み、満足したかのように消えて、彼の手の中にグリーフシードが収まった。

 なんて戦い方をするのだろう。

 それに、魔女の倒し方にこんな方法があったなんて思わなかった。

 

 いや、試しもしなかったのだ。最初から魔女は火力で倒すものだと決めつけて、数々のループの中色んな魔女を殺してきた。

 しかし、対話を持ちかけるなど、思いもしなかった。

 

 彼はグリーフシードを巴マミに手渡したのを見て、思わず前に出てきてしまった。

 出て来るつもりなどは無かったが、一応まどかの無事な姿を見てホッとした。

 あいも変わらず、私を怖がり彼の後ろに隠れている姿を見ると、なんとも言えない気持ちになる。

 

 私は巴マミが投げ渡してきたグリーフシードをまた投げ返し、その場から去る。

 そしてその帰り道、魔女に戦い方を見直そうと思って、路地に差し掛かった時だった。

 

 目の前にインキュベーターと対話している八千ましろを見つけてしまった。

 私は急いで物陰に姿を隠す。

 そして、一匹と一人の会話に耳を傾けた。

 

 しかし、息が荒い八千ましろを見るのは初めてである。

 それほど重要な話をしているのだろうか。

 

「ねえ、コードネーム【テルミドール】」

 

 コードネーム? テルミドール? 最初は何のことだろうと思ったが、徐々に真相が分かってくる。

 結論から言うと八千ましろはインキュベーターと同じ宇宙人だった。

 それに銀河連邦旅団という部隊のリーダーだとも言う。

 

 私は酷く狼狽する。

 しかし、そう考えれば納得行く場面も多い。

 インキュベーターと同じ存在、もしくは技術面で優れている種族が彼なのだとすれば、魔法少女システムを初期の方から解読していて、私と言うイレギュラーが存在していることも認識していたのではないだろうか。

 

 それに、魔女の正体も知っていて、だからあのように語りかけるような戦い方をしたのだろう。

 魔女の中にまだ……いると言う事を信じて。

 

 しかし、まだ彼の目的が分からない。

 インキュベーターと同じように、私たちを家畜同然のものとしか考えていない可能性だってある。

 しかし、インキュベーターが言った言葉に私はまたしても驚くことになる。

 

「……僕たちに気取られたらいけないような重大な使命なのかな? 例えば……地球人を救う為とか」

 

 そう言った時、彼の目が見開いた。

 図星を突かれたのだろう。

 

 ……私は酷くとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。

 しかし、そうだろう。

 じゃなければ、あんな戦い方はできはしない。

 

 そしてその後も、インキュベーターの目的を彼は聞かされ、一緒に宇宙を救おうと協力を持ちかけられたが、彼は即答で断った。

 

「これが感情のある者とない者の差だ」

 

 感情を持つ彼なら……痛みを知る彼なら……もしかしたら……。

 

 ────まどかを一緒に救えるかもしれない。

 

 だから、私は賭けよう。

 ……私は彼を。八千ましろを……【マクシミリアン・テルミドール】を仲間に引き込む!




魔法少女から見た八千ましろ

巴マミ→得体は知れないけど、悪い人ではなさそう。
美樹さやか→なんかまた変な奴が出てきたな。
鹿目まどか→ちょっと変だけど頼りになる。
暁美ほむら→ヤベー奴だと思ったら優しいヤベー奴だった。

八千ましろから見た魔法少女達

巴マミ→恐らく中二病患者
美樹さやか→青い人
鹿目まどか→ピンクの人
暁美ほむら→中二病末期患者のヤベー奴


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六話 魔法少女と僕は協力する

 いや……なんで本当にいるんでしょうか? 

 まさか……今の話聞いてたって事……あるよなぁ……。呆然とした表情から一転して何かを決心したような顔つきだもん。

 

「……転校生」

「お願いがあるの」

 

 おっと、僕が言う前に口を開いてきた。

 さて……それにしてもお願いとはなんなのだろうか? さっきの話をばら撒かれたく無かったら一週間以内に三万かそこらを持ってこいと言う話だろうか。

 いいだろう、それに付け加えて土下座もしてやる。だから言いふらさないでくださいお願いします。

 

 というか僕……転校生の名前……知らないんだよなぁ……。

 

「八千……ましろ……貴方を信じてこの話をする。だから、これから言う事は誰にも言わないで」

 

 そこから僕は転校生の話を聞いた。

 まあ、金を持ってこいなどと言う話では無かったが、僕の周りの空気が重たくなるのを感じた。

 ……時間逆行者。まさか魔法少女に続いてタイムトラベラーまで出てくるとは思いもしなかったのだ。

 

 そして最強の魔女、ワルプルギスの夜がこの街にやってくると聞いた。話を聞いてみればとんでもない奴らしく、そんな化け物と転校生はずっと一人で戦ってきたのだ。

 

 そして……鹿目まどかがワルプルギスの夜を倒し、史上最悪の魔女になる姿も見てきたと言う。

 転校生の目的は鹿目まどかを助ける事。その為だけに魔法少女になったと転校生は言った。

 

 ……僕は少し状況を整理する為目を瞑る。

 僕はどこで道を踏み外したのだろうか、魔法少女に関わるまでは普通の中学生だった筈だ。

 僕の両親が亡くなった時からか? いや、それは無い。僕の両親はまだ自我が芽生えてない頃、死んだと聞かされた。

 

 小説に触発されて筋トレを始めたのが間違いだったのだろうか? 自分で言うのもなんだが、そこらの格闘家よりも強い自負はある。

 ああ……そうだ。この力を小説の主人公のように正義の為に使おうと決心したからだ。

 

 弱きを助け、強きを挫く。

 

 僕はその考えを持ってここまで生きてきた。

 些か早い気もするが、ここで命を賭けてもいいだろう。

 

「……マクシミリアン・テルミドール……是非、貴方の力を貸して欲しい」

「……転校生……僕をその名前で呼ばないでもらおうか」

「ッ……ごめんなさい」

「僕の名前は八千ましろだ……それに覚えておくといい。この名前は……数々の苦難、悲劇を乗り越えた君を助ける名だ」

「!」

 

 転校生が目を見開く。

 

 まあ……それになんだ。友達を助けたい。たったそれだけの為に数多の絶望を見てきた彼女は賞賛に値する。

 少しは希望を持たせてやりたいと僕は思った。

 

「この八千ましろ……必ず君の悲願を達成させてみせる!」

 

 僕は腰に手を当て、片方の手で転校生に指を指すポーズを決める。

 うむ、一回やりたかったんだよなこのポーズ。小説のライバルキャラがやっててかっこいいと思っていたんだ。

 

「……ぷっ……何よそのポーズ……」

 

 それを見た転校生が口に手を当ててクスクスと笑いだす。

 おっとぉ? そこ笑うところですか? 笑われると結構恥ずかしいんですが? 

 死にたい。すっげぇ死にたい。

 

 ああ……こうやって黒歴史というものは増えていくんだな……。もうこれ以上人と関わるのはよした方がいいかもしれん。

 

「ふふ……よろしく。ましろさん」

「ああ……」

 

 転校生が手を差し出す。

 それにしっかりと僕は答え、手を繋いだ。

 

 さて……一ついいでしょうか? 

 

 ────名前……何ですかね? 

 



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七話 魔法少女同士の喧嘩

 あの後転校生の名前は暁美ほむらという名前だと判明した。

 いやまあ、直接聞いたわけではなく、後からクラス名簿を見て初めて知ったのだ。

 だってそうだろう? これから協力していこうと盛り上がっている時にあんた誰? とか言って水を差したくない。

 

 とまあ、こんな感じでまだ魔女とかが出てきていない生活をしている。

 もしかしたら出ているのかもしれないが、僕には魔女を感知する能力がないしな。

 暁美さんも必要になった時だけ力を貸してくれたらいいと言ってくれたし、問題はないと思いたい。

 

 そんな訳で僕は見滝原から少し離れた場所に来ている。

 どんな訳だと総ツッコミをするのは辞めてもらいたい、たまに寄り道したくなる時が無性にあるのだ。

 まあちょっとした散歩だな、こうやって狭い見滝原から出て見聞を広めるというのも乙なものである。

 

 そして少し歩いたら、路地の方に迷い込んでしまった。

 いや、違うよ? 路地に一人で歩く男はカッコいいとか思ってないよ? ホントダヨ? 

 嘘です、かっこいいと思ってます。

 

 薄暗い影が差し込む路地も中、謎の男が一人でそこを歩くだなんてロマンじゃあないか。

 まあ今、夜の時間帯だから真っ暗だけど。

 

 そして迫り来る事件の匂いやら何やらとか好きだろう? 僕は大好きだ。

 まあ本当に謎の男になってしまった僕なのだが。

 

 あれから結局、宇宙人だと誤解されたままで終わってしまった。

 言い出せる空気でもなかったので仕方ないけどさ。

 

 さて、今の時刻は午後7時ぐらいか。少し遅くなってしまったな。早く家に帰らなければおばあちゃんが心配する。

 一応連絡はしてあるが、あまり心配はかけさせたくないしな。

 

 そんな時だった。

 僕の耳に何か金属がぶつかり合うような音が聞こえた。

 音がした方に目を向けてみると、壁から何かを覗き込む女の子の姿が見える。

 

 おいおいフロイライン……。こんな夜にお出掛けとは感心しないな。僕が言えたことじゃあないけど。

 さて、何を見ているんだろうか? 僕はこっそり後ろから女の子が見ている方向へ目を向ける。

 

 えー。なんか魔法少女らしき人達が戦ってるんですが? 

 片や盾のついたポールアックスを持った少女。

 片や手に光るかぎ爪のような物をつけた少女。

 

 暁美さんに他にも魔法少女はいると聞いていたがこんなに早く遭遇するとは思わなかった。

 名前も知らない人達だし、放置で良い気もするが、たまたまこの現場を見てしまった一般人らしき女の子が気がかりだ。

 少しこの場で様子を見ていよう。

 

「ひゃ! 110番!」

 

 どうやら女の子は警察に電話をかけようとしているらしい。

 それはまずい。このことが国家権力に見つかったら大変な事になる。

 というか補導されたくない。

 

「待ちなさい」

 

 僕は急いで女の子の手を抑える。

 こんなことで補導されたらたまったもんじゃない。

 これなら僕がこの場を収めたほうが手っ取り早いだろう。

 

「え? だ、誰?」

「あそこにいる者たちの関係者、と言えば良いのかな? 彼女たちの事は知らないけどね」

 

 そして僕は走って、戦っている二人の元へ出向く。

 全く。決闘罪という罪を知らないのか? 喜べ、警察に見つかったら一発でアウトだぞ。

 

 僕は二人がぶつかる寸前に、両方の武器を両手で持つ。

 

「なっ!?」

「はあ!?」

 

 二人がとんでもない顔をする。

 まあ、突如として現れた男が武器を掴んだらそりゃ大層驚くだろうよ。

 

「やめろ、近所迷惑だ」

「誰だよ! 離せっ!」

 

 かぎ爪の少女が僕の手から無理やり離れる。

 僕がわざと離したのもあるが、コイツ……なんか異様な空気を感じるな。

 

「誰だか知らないけど、ここは危ない! 離れて!」

 

 ポールアックスを持った少女が僕の前に立つ。

 事情はなんとなく把握した。おそらくあのかぎ爪の少女がこの子に喧嘩を吹っかけたのだろう。

 それによく見たらこの子、結構足に来ているようで、少し震えていた。

 こんな状態で戦ったら大怪我をするのは必至だ。

 

「下がるのは君だ。そんな足にきている状態で戦えるのか?」

「だから離れろって言ってんじゃない! アンタ死ぬわよ!?」

 

 ダメだ。頭に血が上っているのか僕の話を全く聞いてもらえない。

 しょうがない、ここは少し眠ってもらうしかないようだ。

 僕は彼女の首に手刀を落とす。

 

「がふ」

 

 すると彼女は変身を解除して膝から崩れ落ちた。

 すまない。せめて安眠できるように静かに戦うから許してくれたまえ。

 

「……えー? ……殺ったの?」

 

 目の前に黒い魔法少女は目を見開き僕に指を指す。

 

「殺しはしていない。少し眠っていてもらうだけだ」

「小巻!」

 

 遠くから見ていた女の子が小巻と呼ばれた少女に駆け寄る。

 

「君、その子と共にここから離れたまえ。そしてここは僕に任せろ」

「っ! は、はい!」

 

 女の子が小巻さんを引っ張ってこの場から離れようとする。

 引っ張ってる姿を見ていると少し重たそうだな。手伝ってあげたいがそうも言ってられない。

 

「へーキミ、ただの人間じゃないね。名前は?」

「人に名前を訪ねる時は自分から名乗るのが礼儀じゃないか?」

 

 心底楽しそうに狂気に満ちた顔で笑う者だな。

 魔法少女と者がそんなので良いのか? 小さなお子様が見たら泣いてしまうぞ。

 まあこの魔法少女達はそんな生易しい世界ではなく、とんでもない運命を背負っているわけではあるが。

 

「ま、いっか。そんな事どうでも」

 

 黒い魔法少女は姿勢を低くして臨戦態勢に入る。

 全く、War junkie(戦争中毒者)め。人の話を聞かない奴だな。しかし毎度黒い魔法少女と呼称するのは少しめんどくさい。

 ここは……カッコいい名前をつけなければな! 

 

 僕は彼女の攻撃をかわしながら名前を考える。

 手から爪……某アメコミを思い出す攻撃だ。そうだな一先ずここは【ウル】と名付けよう。

 うむ、カッコいい……僕の中ではな! 

 

 僕はウルの攻撃を片手で払いのける。

 

(参ったなぁ……攻撃が全く通じない……本当に何者なんだ?)

 

「ずぉら!!」

 

 僕が拳を握り、殴る。

 女を殴るのは趣味ではないがこんな状況ではそうも言ってられないだろう。

 それに……ウルはここで叩いておかなければ少し危険だと思ってしまった。

 いつか大変な事をやらかしそうな危険な香りがしたのだ。

 

「ウワァ!!!!」

 

 かろうじて爪で塞がれたか。

 まあ良い、さっきの攻撃で痺れが来ているはずだ、ここで一気に叩き崩す! 

 

 僕がウルに急接近して殴りかかる。

 するとウルはニヤリと笑い、爪を前に出した。そこから伸びる爪。僕は咄嗟に反応してなんとか躱す。

 

「……爪が伸びるのか……厄介だな」

 

 少し切れてしまった頰から血が流れる。

 僕はそれを拭い取り構え直した。

 

(今の攻撃もかわされた……! 厄介だね……)

 

 僕は伸びる爪に警戒しながらまたウルに殴りかかる。

 先程は少し油断したが、流石に攻撃パターンも分かり始めたので、落ち着いて攻撃することが出来ている。

 

 しかし先程から僕の攻撃が鈍いような感じはしている。それと同時にウルの攻撃速度、反射神経が過剰に上がっているのを感じた。

 これはまさか……魔法、か? 

 

「鈍いなぁ……鈍いよ。そんな鈍い攻撃、初めて見たよ」

「そうか……貴様。先程から魔法を行使しているな?」

「だとしても教えるわけないでしょ!」

 

 ウルは目を見開き僕にとんでもないスピードで攻撃を仕掛けてくる。

 魔法の種類までは判別できないが、相手のスピードを下げ、自分のスピードを上げる魔法か。単純だが厄介な魔法ではある。

 

 しかし……! 

 

「な!?」

 

 僕はウルの攻撃を片手で止める。

 

「まあ……どんな魔法を使っているのかは知らんが……己の限界を突破すれば良いだけの事だ!」

 

 僕はウルの爪を掴み、頭上に放り投げる。

 突如として宙を舞ったウルは汗をかき両方の爪で防御体制をとったがもう遅い! 

 僕はその場で跳躍して、ウルの爪の上から拳でのラッシュを放った。

 

「うぉらああああああああ!!!!」

「ぐぼふぁ!!??」

 

 少し痛いだろうが我慢してくれ。これでも手加減はしているんだ。

 

 地面に落ちたウルは大の字に倒れながらこっちを見てか細い声で呟く。

 

「な、なんで……そ……くどが……落ち……ないの……」

「……己の限界を突破しただけだ。眠っていろ。いい子は寝る時間だからな」

 

 そう言うとウルは変身を解除して眠るように気絶する。僕はその上から上着を被せてやった。

 風邪でも引かれたら困るしな。

 チラリと彼女の持つソウルジェムを見る。少し濁っているな……。まだ大丈夫そうだがこのままでは魔女になってしまう。

 

 ……先程の小巻さんとやらが持って居ないだろうか? 

 少し追いかけてみよう。

 

 僕は走って先程の女の子を探す。

 重たそうに引っ張っているのでそう離れた場所には居ないはずではあるが……。

 近くの公園に入ると、ベンチに横たわっている小巻さんと女の子がいた。

 

「あっ! だ、大丈夫でしたか?」

「ああ、問題ない。少し眠っていてもらった」

 

 そう言いながら小巻さんのソウルジェムを見る。

 こちらも少し濁っているようだ。

 スカートもポケットが少し盛り上がっているのを見つけた。僕はそれを申し訳ないと思いながらグリーフシードを取り出し、ソウルジェムに翳す。

 

 すると濁りがグリーフシードの中に吸い込まれていった。

 ふう、初めて使ったが案外うまくいったもんだな。

 

「え、えとなんて言ったらいいのか分からないんだけど……さっきのは」

 

 女の子が困惑した表情でこちらに質問してくる。

 どうしたものか……ここは僕が説明しても拗れる気もするしな。

 

「それは目を覚ました彼女から聞くといい。僕はこれで失礼する」

 

 グリーフシードを持ちその場から立ち去ろうとしたら後ろから声をかけられた。

 

「あ、あの! 貴方の名前は?」

「……八千ましろだ」

 

 そう言って僕は返事を聞かず、その場から立ち去りウルの元へ向かう。

 その後ウルの濁りも吸収してその場から立ち去った事は言うまでもない。




マギレコのガチャでさやかちゃんが出ました。
初めて一年…ようやく推しキャラが出て天にも登るような気持ちです。


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八話 走れましろ

 僕は走る。

 ひたすらに学校の廊下……全面ガラス張りにされた窓が特徴的の廊下をただひたすらに走っていた。

 足が軋む。かなり限界が来ているがそんなものは無視して走っていた。廊下の突き当たりの階段を全段ジャンプして降りたり登ったりして、またひたすらに走る。

 もはやここがどこか分からなくなっていた。

 

「あ! またアイツ階段を全段ジャンプして登りやがった!」

「なんて身体能力ですの!?」

 

 後ろから追ってくる青い鬼と緑の悪魔。

 緑に至ってはまともに会話すらしたことないクラスメイトだった。

 

 なぜ僕がこんな目にあっているのかは数時間前に遡る。

 

 ──ー

 

「ありがとう! 八千くん!」

 

 いきなり僕は男から熱い抱擁を受けた。

 つい先日、魔法少女と一戦を交えて限界を突破した体は大分痛むもののなんとか復活したと思ったらこの状態だ。

 何が悲しくて男と抱き合わなければならないのか。

 

 そして困ったことに目の前の彼はとんでもない美形だ。

 一歩間違えると女にでも見間違えるような端正な顔つきをしているコイツは同じクラスメイトの上条恭介だった。

 

 この甘いマスクで何人の女を落としてきたのかと思うと反吐がでる。

 僕は基本的にリア充というものが嫌いであり、特に才能を持ってその分野で活躍している者が苦手である。

 昔、そういう、所謂天才というやつと関わっていた時期があった。はっきり言って時間の無駄だった。口を開けば並みのナルシストなら裸足で逃げ出すような自慢話ばかりであり、何故か奴に気に入られた僕は毎日その話を聞かされて危うく中耳炎になりかけた。

 

 天才と呼ばれる人間はどこかネジが抜けている。そんな常識のない天才どもが嫌いだった。

 そして上条恭介も天才の部類に間違いなく入るだろう。

 

 中学生ながらにして将来有望なヴァイオリン奏者。そのヴァイオリンを弾く姿はまるで湖の上で優雅に翼をはためかせる白鳥のようだと聞いたことがある。

 なんだその例え。

 ちなみに情報の発信源は緑の悪魔こと志筑仁美さんらしい。

 

 ちなみのその志筑さんは顔を真っ赤にして手で口を押さえてとんでもないものを見てしまったかのような表情をしていた。

 待ってくれ、その表情は何か危ない。おい、とんでもない妄想をしているのではないだろうな? 即刻やめたまえ。ぶっ飛ばすぞ。

 

 美樹さんはガタガタと震え出して、机の中からハサミを取り出すのをやめろ。お前のあだ名をリッパーにするぞこの野郎。

 

 しかし、上条君は無事で何よりだった。

 これはつい先週かそこらに遡る。

 結論から言うと事故に遭いそうになった上条君を命からがら助けたのだ。

 

 いや助けたと言っても二人とも轢かれて宙を舞ったのだが。

 僕の方は当然のごとく無傷でその日のうちに退院、上条君の方は安否不明だったが……この様子からすると大丈夫そうだ。

 

「あの後医者から、君がクッションになってなかったら一生ヴァイオリンを弾けなくなっていたと言われて……! ありがとう! 君は僕の恩人だ!」

 

 そうか……そういうわけか……。

 この日、僕は何をトチ狂ったのか男の友情というものに憧れていた。

 それはライトノベルの中で主人公とその相棒が無事生還したと熱い抱擁をかましているシーンを見て、ああ……僕もやってみたいと思ったのが運のつきだった。

 

 僕は優しく上条君を抱き返してしまったのだ。しかも頭ポンポン付きで。

 それをみた上条ファンが黙っちゃいなかった。

 いや……正確には二人だ。

 

「いやあああああ!!!! 恭介ええええええ!!!!」

「ああああ! イケませんわ! 禁断の恋ですわああああああ!!??」

「さやかちゃん!? 仁美ちゃん!?」

 

 鹿目さんの狼狽した声が僕の耳に届く。

 何事かと上条君の後ろを見てみると。ハサミを持った青い鬼と顔を真っ赤にしながらもこっちに興味津々の緑の悪魔がいた。

 

 僕は身の危険を感じ脱兎のごとく駆け出す。

 教室から出る間際、中沢君が「……災難だなぁ……」とポツリと零していた。

 ……中沢君……! 生きて帰ってこれたら是非友達になろう! 

 それと、暁美さんは必死に目を逸らして他人のふりをするんじゃあない! 

 

 とまあ、こんな感じで走っている訳だ。

 今はなぜか外の風景が見えるがそんなことはどうでもいい。僕の命が一番なのだ。

 え? 殴って終わらせろって? 女の子にそんな事出来るわけないだろ! いい加減にしろ! 

 

 お前がな! というツッコミが聞こえてくる気がしたがそんなことはどうでもいい。

 僕はとにかくひたすらに走った! 走って走って走りまくった! 男はこういう時、走る時なのだ! 多分! 

 

 そして──ー

 

「はーっ! はーっ! はーっ! …………ここは……どこだ?」

 

 とにかく走りまくってたら変な所に来てしまった。

 と、とにかく、こういう時は人に道を尋ねるのが一番だ。

 

 あたりを見渡し、一番目立つ赤毛の女の子が見えた。……僕と同じくらいの歳……。そうだ、彼女にここはどこか聞こう。

 

「あ、あのすみません」

「あ?」

 

 だめだ不良に声をかけてしまった。

 よく考えたらこの時間に学校行ってないイコール不良じゃないか。

 ……まあ声をかけてしまったものは仕方がない。

 

「すみません、ここってどこだか分かりますか?」

「はあ? アンタおかしな事言う人だね、ここは風見野市だよ」

 

 隣町まで走ってた。

 バスで片道約20分から30分ぐらいの場所にある風見野市。

 もちろん走ってでは1時間ぐらいかかるのは必須の街だ。

 

「いや、僕、隣の見滝原から走ってきて」

「マジかよ」

 

 ドン引かれた。

 やばい、女の子にこんなに引かれるのは初めての経験だ。メンタルがゴリゴリと削れていく音が聞こえる。

 ま、まあそんなことはどうでもいい。

 

「す、すみません。財布とか全部、見滝原に置いてきたまま走ってきたもんで、喉がカラカラなので水が無料で飲める場所……知りませんか?」

「あーならあそこが一番だなぁ」

 

 赤毛の女の子は頭をぽりぽりとかきながら、前を歩き始める。

 口にはポッキーイチゴ味を咥えながらニッと笑い、僕の方を向いた。

 

「なんだかアンタ面白そうだから、案内してやるよ。ついてきな」

 

 そしてポッキーの新しいのを僕に差し出して彼女はこう言った。

 

「くうかい?」

 

 ──ー

 

 行動や言葉使いは粗々しいも、本当は優しい人なんだなと思った赤毛の少女。

 彼女の名は佐倉杏子と名乗った。

 

 公園で水をがぶ飲みして、後ろを振り向くと緑の悪魔……いや天使がそこにはいた。

 

「はい! お兄ちゃん!」

 

 小学低学年らしき女の子の名は千歳ゆまと名乗った。

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

 ゆまちゃんは僕にハンカチを手渡してくれて、佐倉さんが居るところへ向かう。

 佐倉さんとゆまちゃんの中はとても良いらしく、こうして見てみると姉妹のように見えた。

 

「っていうか、なんでド平日のこんな時間に走って見滝原から風見野に来るんだよ」

 

 佐倉さんは心底可笑しそうにくつくつと笑った。

 いやまあ、僕だってきたくて来たわけではないのでなんとも言えないのだが、少し追われてと言っておいた。

 

「まあいいや、さて、こっちはこうやってアンタの希望を叶えてやったと言うわけだが……少しくらい見返りがあってもいいじゃねえかとも思ってな」

「見返り?」

「まあ、私たちは所謂家なし子って奴でね、日々食いつないでいくのに必死なんだ」

「……ストリートチルドレンという奴か……今のご時世にも居るんだな……目的は金か?」

「……まあそれも魅力的なんだが、私が欲しいのは情報だ。……アンタ、『織莉子(おりこ)』って名前に聞き覚えはないか?」

 

 佐倉さんは神妙な面持ちで僕の方を見やる。

 しかし……織莉子……か。聞いたこともないし見たこともないな。

 

「すまない」

「そうか……悪い、変な事聞いちまったな、今のは忘れてくれ」

 

 忘れてくれ……と佐倉さんは言った。

 まあ、それが強い希望であるのなら僕は忘れることに務めるが、しかし今の佐倉さんを見ているとどうもそんな風には見えなかった。

 ゆまちゃんを少し、悲しそうな表情で見据える佐倉さんを見ているとなんだか心がざわめくような気がしたのだ。

 

「でもまあ、探すことくらいは出来るよ」

「……!」

「それに僕は受けた恩は必ず返したいんだ。もし探して見つけたらまた風見野に来る。だから佐倉さんがいつも居る所を教えてくれないか?」

「……」

 

 佐倉さんが考えるような素振りを見せる。

 まあそうだろう、だいぶ打ち解けては居るが、出会って数時間の僕を信用してもらえれるかどうかは分からない。

 だからこの話は断られるのを覚悟で佐倉さんに話していた。

 

「キョーコ……」

 

 ゆまちゃんが佐倉さんの裾をキュッと掴む。

 そのゆまちゃんの心配そうな表情を見て佐倉さんは覚悟を決めたような顔つきになった。

 

「……正直な所、アンタを信用してもいいのかはまだ計り知れない。でも、こっちには織莉子の奴にオトシマエをつけさせるって決めたんだ。……アンタを信用してもいいんだな?」

「勿論、受けた恩は仇では返さない。絶対的な誇りを持っている。もし先に佐倉さんたちがその織莉子とやらを見つけた時は、違う恩返しでも考えておくとするよ」

 

 そう言うと佐倉さんはフッと笑って、僕の肩に手を置いた。

 

「……バカだねぇ……何も知らない一般人が……でもその言葉、信用するぞ!」

「任せておいてくれ」

 

 僕が背を向け去ろうとしたら、後ろに引っ張られる感覚があった。

 僕の裾を引っ張って来たのはゆまちゃんだった。

 僕はしゃがみこんでゆまちゃんと同じ目線になる。するとゆまちゃんはにこやかな笑顔を浮かべて、僕の頭を撫でて来た。

 

「無理しないでね!」

「……! ああ!」

 

 僕も撫で返して、歩きで見滝原に帰るのであった。

 

 ──ー

 

 そして、ようやく1時間くらいかけて見滝原に帰って来たわけだが……。

 はい、でましたよ。ようやくお出ましだよ。

 

 周りがいつぞやのゲルトルートと出会った時みたいに不可思議空間になる。

 いや、ここは魔女の結界と言うのだったか。

 

 家に帰る道中、大きな総合病院の前を通り過ぎる道があったのだが、そこからこの結界に迷い込んでしまったようだ。

 周りには病院をモチーフにしたと思われる、ベットやらが見うけられたりしていた。

 ……しかし、疲れた今の体で魔女と戦うのは少し危険かもしれないが、まあそれでも進むしかない。

 

 この奥に……哀れな魔法少女の成れの果てが居るのだとしたら、僕はそれを助けてあげなければならない。

 そんな思いだけで僕は足を動かす。

 

 そんな時だった。

 突如として僕の首元に突き付けられる、ポールアックスの刃の部分。

 僕は突如のことに冷や汗をかいた。

 

 ……このポールアックス……見たことがあるぞ。これはあの時の……! 

 

「やっと見つけた……アンタ! 私にあんなことしておいて、タダじゃ済まないわよ!」

 

 視線を横に向けるといつぞやの小巻さんという魔法少女が怒りの表情と思われる顔で、僕を睨んでいたのだった。




小巻さんはおりこマギカ新訳を読むかググるかしてください……
結構マニアックなキャラなので…


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九話 もう何も恐くない

 私は迫り来る大きな口をただ呆然と見ていた。

 ああ……こんな事になるのなら彼女たちをこの場へ連れてくるべきでは無かったのかもしれない。

 この時まで私は自分がこんな目に合うなんて思いもしなかった。

 それに、鹿目さんが私を励ましてくれて、もう何も怖くないとも思った……。もう一人じゃないとも。

 でも、こんな事でまた一人に私はなってしまうのだろうか。

 

 これまでの出来事が走馬灯のように流れていく。

 その時間はゆっくりと流れていき、最終的には私はこの口の中に収められてしまうのだろう。

 

 怖い。死にたくない。そんな思いと同時に、私は暁美さんの言葉を思い出していた。

 ……そうだ、暁美さんは私の身を案じてくれていたのでは無いだろうか。

 

 そんな事に今更気がついたとしても、もう遅い。

 

 私の目の前は真っ暗の闇に包まれた。

 

 

 ──ー

 

 

 

 僕にポールアックスを突き立てながら、歩く事を強要してくる彼女は浅古小巻と自分で名乗った。

 一応、急に攻撃しては来たが、一端の礼儀はあるらしく名前を名乗ると言うのは教養が行き届いている証拠だろう。

 

 僕は両手を上に上げながら、渋々僕は浅古さんの前を歩いていた。

 

「ほら! キビキビ歩く!」

「……なあ……」

「何?」

「なんでこんな事を?」

「私はね、急に後ろから不意打ちで攻撃してくる男に復讐しに来ただけよ」

 

 ああ……あの事を……。

 でもなあ、あの時はちょっと君が邪魔だったからであって、僕には全く攻撃する意思などは無かったのだがなあ……。

 

「そのためにはこの邪魔な魔女を倒さないと、アンタをまともにボコボコに出来ないじゃない」

 

 嫌だなあ……僕をボコボコにするのか……。

 いくら鍛えているからと言って、僕は正真正銘ただの人間であり、一般人である。

 そんな中、人間の力を超越した魔法少女の攻撃を受け続ける……そんな事が可能なのだろうか? 

 

 どう考えても、血だまりを作って地面を舐めている光景しか思い浮かばない。

 ……そのボコボコにするとやらは僕が反撃しても良いのだろうか? よし決めた、最初はわざと攻撃を受けてそのあと身の危険を感じたら、応戦するか逃げよう。

 

 そう僕が決心した時の事だった。

 

 

 

 目の前にリボンに吊り下げられた暁美ほむらの姿があった。

 僕も彼女も自分たちの光景を見合わせて、目を見開きぽかーんとしている。

 

((何やってんの、コイツ))

 

 僕たちの心がシンクロしたような気がした。

 いや、本当に何をやっているのだろうか? 

 

「暁美さん……」

「……何かしら……」

「なんでそんな事に?」

「…………油断して……」

 

 敵の攻撃を受けたのだろうか? 

 しかし、それにしては外傷や周りに使い魔たちの姿は見えはしない。

 それにこのリボン。

 

 暁美さんはボソッと巴マミにやられたと言われた。

 どうやら、最初から敵対心を持たれていて、むやみに接触しようとした結果暁美さんはこうなってしまったらしい。

 

 そりゃそうだろう。としか言いようがないが。

 まさか巴さんがこんな大胆な行動に出るとは思わなかった。

 

「何? アンタの知り合い?」

「……ましろさん……彼女は」

「ああ」

 

 僕は浅古さんの事を暁美さんに紹介する。

 浅古さんは訳の分からない奴に名前を教えるなと小突かれたが、僕はひょいと躱した。

 すると、ワナワナと震え始め、こめかみに青筋を浮かべたまま「あとで覚えてなさいよ」とポツリと零していた。

 

 何を覚えておけというのだろうか。勘弁してほしい。

 

 一応、僕の状況も暁美さんに伝えておいた。苦笑いされたが勘違いだとしておこう。

 

「ましろさん、このままじゃ巴マミが危ない」

 

 暁美さんは吊るされたまま、真剣な表情で僕に言う。

 なんだかシュールな光景ではあるが、僕はその真剣な表情は嘘ではないと判断して、僕もまじめに聞くことにした。

 

 どうやら暁美さんの統計上、巴さんはここで命を落とす確率が高いらしく。その光景は凄惨たるものだと言った。

 浅古さんは何の話をしているかわからないと言った表情をしている。無理もないだろう。彼女は暁美さんがタイムトラベラーだと言うことは知らないのだ。

 

「お願い! 早く!」

「分かった!」

 

 どうやらここには美樹さんや鹿目さんたちもいるらしく、このまま巴さんが死ぬと言うことになったら二人もまた危ない。

 それに……巴さんは僕は勝手に同類だと思っている。そんな彼女を殺すなど、この僕が許さない。

 

 僕は浅古さんの包囲を無理やり突破して、走り抜けていった。

 

「……お願い、ましろさん。……さて、貴女は浅古さんだったかしら」

「……だったらなんだって言うのよ」

「……この拘束……解いてくれないかしら?」

 

 ──ー

 

 僕は一直線に走り抜けて、一際大きな広場に出る。

 僕の目に飛び込んできたのは巨大な化け物が巴さんの頭に噛り付きそうになっていた光景だった。

 

「させるかあああああ!!!!」

 

 僕は空中を蹴り、真っ直ぐに化け物に向かっていく。

 

「オラァ!」

 

 僕はそのまま横顔を叩き殴り、巨大な化け物を転がした。

 どうやら間に合ったようだ。またもや己の限界を突破したのか体の節々が痛むがそうもいってられない。

 僕は着ていた上着を巴さんに被せる。

 

 目を瞑ってふるふると震えていた巴さんを僕は抱きしめた。

 

「大丈夫……大丈夫……」

「あ……ああ……」

 

 恐る恐る目を開けた巴さんは僕の事を確認すると、目に涙をいっぱい浮かべてそのまま気絶した。

 さて……。僕は巴さんを二人の元へ連れて行き、預ける。

 横にいたインキュベーターを一瞥して、僕は魔女に対峙した。

 

 ピリピリと肌を突き刺すような感覚。なるほど……ゲルトルートとは一線を画しているようだ。僕は魔力とやらは感知できない。だが、それでも、目の前の大口を開けた魔女はかなりの強さのようだ。

 

 見る限り、知性はあるようだが、こちらを食料としてしか見ていない節も取れる。

 僕はこの時悟った。コイツは……話が通じない魔女の類だと。

 

 だったらやるべきことは1つだ! 

 辛かったろうに……こんな姿になってしまい、心の奥底では泣いている少女が居る。

 

「待ってろ、今、安らかに眠らせてやる」

 

 目の前の魔女はムッとした表情でこちらを見て、食らいついてくる。

 僕はバックジャンプで躱しながら、攻撃の機会を伺って、隙を見つけたら拳を叩き込んだ。

 魔女はくらりと体制を崩して、その場に倒れこむ。

 

 僕はこんな時にまで、この魔女に名前をつける事を考えていた。

 まあ、名前がないと不便だしな。

 

 僕はこの魔女をシャーロットと名付ける。

 

 シャーロットは起き上がりふるふると頭を振ったら。僕に向かって突進してきた。

 僕はそれを手を広げて抱き込むように真正面から受け止める。

 数メートル、後ろに下げられたが、問題はない。

 

 シャーロットを横にぶん投げ、その上から拳を叩き込んだ。

 

「……ましろさん! 私の力を!」

 

 後ろから暁美さんの声が聞こえる。

 力? 一体なんの? 

 

 暁美さんが僕に触れ、腕につけていた盾を回す。

 すると、あたりが静寂の空気に包まれた。

 

「これは……!」

「時間停止よ、今のうちに」

 

 取り敢えず僕は状況を判断する前に、動きが止まったシャーロットに拳の連打を叩き込んでいく。そうだな……時間停止……拳の連打と言えば、アレを叫ぶしかないだろう!! 

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!!」

 

 僕が無駄無駄ラッシュを叩き込んだ後、暁美さんは時間停止を解除する。

 すると無駄無駄を叩き込まれたシャーロットはその場で宙高く吹っ飛んで、消滅する。

 

 その後、小柄な人形のようなものが落ちてきてそれも消滅してグリーフシードが落ちてきた。

 僕はそれを掬い上げて、ギュッと握りしめて「おやすみ」と呟いた。

 

 ──ー

 

 あの後結界がなくなり、浅古さんは「なんだかなぁ」と言って帰っていった。

 僕をボコボコにするのでは無かったのだろうか? いや、別にボコボコにされたいとかそういう訳ではない。というより、胸を撫で下ろした。

 

 あんなポールアックスで殴られた日には原型をとどめてないのではないだろうか。

 

「……無駄って……」

「なんだ? オラオラの方が良かったか?」

「何よそれ……」

 

 暁美さんも若干呆れたような顔で去っていく。いいじゃないか。時間停止なんて能力滅多にお目にかかれないんだからな。やってみたくなるのも必然である。

 ちなみに僕はオラオラも無駄無駄もどっちも好きです。ぶっちゃけラッシュの練習はあの漫画を読んで練習した。

 

 さて……暁美さんはこの三人を僕に押し付けて帰りやがった。

 協力するんじゃなかったのか。ほら見ろ、未だに腰を抜かしているぞ。

 

「……よ、よかった……マミさんが……生きてて」

「うん……! うん……!」

 

 よっぽど切羽詰まった状況だったんだな。

 泣きながら二人して巴さんを抱きしめている。

 僕は巴さんのソウルジェムを探して、グリーフシードをかざす。

 

 穢れがグリーフシードに吸い込まれていき、綺麗な色に戻った。

 

「ましろ、それを僕にくれないか?」

「……」

 

 インキュベーターが僕に話しかけてくる。

 ふむ、ここでこいつにコレを渡してしまって構わないのだろうか? いや考えるのはよそう。もし何かあった時はまたその時に対処すればいい。

 僕はおまけに先日のグリーフシードもくれてやった。

 

 インキュベーターは背中にそれをしまい込んだ。

 というか背中、そんな事になっているのかよ。

 

 さて、僕はさっさと家に帰って寝よう。

 今日は流石に疲労がたまって、かなりキテいる。フラフラと僕はその場に立ち上がり、家に向かって歩くが、足が重たい。重たすぎる。

 

 あ、コレだめだ。倒れ──ー。

 

 薄れゆく意識の中、鹿目さんが何か僕に対して叫んでいたが、上手く聞き取れない。

 目が霞んで、微睡んでいく。

 そして気絶する前に、「コンクリートって冷たくて気持ちいな」と呑気な事を考えていた。

 

 




なんかバーが赤くなってるんですが…
ありがとうございます!


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十話 その後

 とある魔法少女は語りかける。

 

 もし私の事を忘れたとしても、私の力は貴方に受け継ぐ。だから貴方はその力で使命を全うしてほしい。

 

 それは一種の呪いでもあった。

 最強の魔法少女は災害とも呼べる魔女によって葬られ、そしてその命をとある青年に明け渡した。

 青年はその時すでに死んでいた。まるで最初からそこで眠っていたかのように目を瞑って死んでいた。

 

 魔法少女は最後に消えかかっていた命をその青年に明け渡す。

 

 燃え盛る家、あたり一面に吹き出る水。コンクリートは割れてビルは倒壊し、あたりの惨状が地獄とも呼べる最中、魔法少女は命を落とし、身体が消え去る。

 

 それと同時に、青年は目を覚ました。

 

 ──ー

 

 ……内容は思い出せないが酷い夢を見ていたような気がする。

 僕は気だるいながらも体を起こし、今の状況を確認した。僕はソファの上に寝ていたようで、上に毛布が敷かれてある。

 額には濡れタオルが置いてあったようで、ポトリと僕の目の前に落ちた。

 

 そうだ……あの時、僕は気絶したのだった。

 あの時すでに体は限界を迎えていて、度重なる戦いでの影響で意識が途切れてしまった。

 まあ、1人の命が助かりホッとしたのもある。

 

 あたりを見渡すと、オシャレな小物が置かれた三角形のテーブルが目に付いた。

 ……このテーブルの所有者は使いにくくないのだろうか? いや、とてもオシャレでかっこいいと思う。ロマンがあっていいだろう。

 

「あら、起きた?」

 

 声がした方へ顔を向けると、そこには巴さんがエプロン姿で立っていた。

 よかった、どうやら彼女は元気そうだ。死にかけたことはまだ忘れられないだろうが、まあそれもなんだ。徐々に忘れていくといいだろう。

 

「あの後、貴方より私が先に目を覚ましてね。そのまま私の家に連れてきたのよ」

「……そうか……なんとも迷惑をかけてしまった……すまない」

「いえ、貴方が謝る必要は無いわ。むしろ謝らければいけないのは私の方。ごめんなさい。そしてありがとう、助けてくれて」

 

 巴さんは、はにかむような笑顔を見せてくれた。

 とても可愛らしい笑顔だ。やはりフロイラインは笑顔でなくてはならない。それが最高の化粧だからだ。

 

 さて、ところで今は何時だろうか……昼!? 12時!? やべえ! 丸一日寝てたのか! おばあちゃんが心配する! 

 僕は急いで携帯を取り出し、おばあちゃんに連絡する。

 

 もしもし? ごめんなさい、僕、無事です。はい、はい、え? 帰ってきたら覚えとけって? やだなぁ! おばあちゃん! 僕が貴方の折檻を耐えられるとお思いで? ……え? そんなこと関係ない? お仕置きフルコース? ……そこで通話が切れた。

 

 ……お仕置きフルコースとは一体なんなのだろうか。

 石抱きみたいな拷問をするのは辞めてもらいたいです。

 

 僕が呆然とした表情をしていたら、巴さんがクスクスと笑い始める。

 何、笑っているんだこの人は。僕の命が絶賛ピンチ中なのだぞ。

 ちなみにおばあちゃんは僕に合気道を教えてくれました。あの人、武術界では名の通った達人だという。僕はあの人に何度打ちのめされたか、もう数えるのをやめた。

 

 

「お祖母様と仲がいいのね」

「……仲がいいというか、恐れ多いというか。素直に怖いというか」

「それはとても仲がいい証拠よ。さて、お昼ご飯作っちゃったから一緒に食べましょう?」

「……いいのか?」

 

 だとすると、とても有り難い。

 今、途轍もなくお腹が空いている。腹が減ってはなんとやら。ここで腹ごしらえして、おばあちゃんのお仕置き(拷問)を耐えきるエネルギーを貰っておこう。

 

 さて、1つ疑問があるのだが。

 なぜ僕は上半身裸なのだろうか。いや僕のシックスパックはどうでもいいんだ。こらそこ、興味ありげに僕の筋肉を見ないでいただこう。別にボディビルダーを目指しているわけではないので、裸を見られると素直に恥ずかしいのだ。

 

「ごめんなさい、勝手に脱がせたりして」

 

 巴さんが少し顔を赤らめながら謝罪してくる。なんで赤面してまで僕の服を脱がす必要があったのか。今はそれを小一時間ぐらい問い詰めたい所ではあるが、今は飯だ。お腹が空いた。

 

 僕の目の前に出されたのはパスタだ。しかも好物のカルボナーラである。

 少し大盛りによそってくれたようで、僕の皿には山盛りのカルボナーラがあった。

 

「ちょっと作りすぎちゃって」

 

 少し笑いながら巴さんは言う。

 まあ、問題はない。この量なら健全な男子中学生ならペロリと平らげるだろう。

 僕は両手を合わせ、感謝の気持ちを告げて、フォークでパスタを巻き取り口へ運ぶ。

 

 美味だ。口いっぱいに濃厚なクリームの風味が広がる。この甘しょっぱい感じがいいんだよな。黒胡椒もいいアクセントを出している。

 

「我ながら上手くできたと思うのだけど、どうかしら?」

「うまい、すごくうまい」

「ふふ、ありがとう。ゆっくり食べてね?」

 

 こうして巴さんと昼食を楽しむ。

 他愛もない会話しながら食べたらより一層美味しくなった。人と一緒に食べる事により美味さがまた一際上がったような気がする。

 

 そういえば、昼食はいつも一人で食べていたな。こうして誰かと一緒に食べると言うのは久し振りかもしれない。そうだな……昔……誰かとこうやって昼食を食べていたような……。

 

 思い出そうとしても一向に思い出せないので、僕は考えるのをやめて残りのカルボナーラを口へ運んでいった。

 

 その後後片付けを手伝い。服を着て、家に帰っておばあちゃんのお仕置きを受けようと思っていた時、突如、巴さんが僕の背中に体を寄せてきた。

 僕の服を掴んだ手は震えていて、か細い声で「本当にありがとう」と言った。

 

 僕は巴さんと向き合い手を握る。

 そして一言、「大丈夫。君は生きている」と告げると、巴さんは涙目でこくりと首を縦に振ったのだった。

 

 ──ー

 

 さて、皆さん。僕が学校に着くなりいきなり走っている理由はなんでしょう? 

 

 1、ウルに見つかったから逃げている

 2、ウルに見つかったから逃げている

 3、ウルに見つかったから逃げている

 

 ちっちっちっちっ…………。はい時間切れでーす。

 正解は……4のウルに見つかったから逃げているでしたああああああ!!!! 

 

「待てー!!!」

 

 ちくしょう! アイツ同じ学校だったのかよ! 

 

 いやね、前から歩いてくる女子生徒が、どうもどっかで見たことあるなーと思っていたら、いきなり指を刺されたわけですよ。そしたら、いきなり目を見開いて「みいつけた」とかって笑うわけ。

 

 恐怖。

 

 昨日のおばあちゃんのお仕置きフルコース(拷問)がなかったら発狂してた自信がある。

 ちなみにお仕置きは江戸時代の拷問を調べてくれ。大体のことはやられた。

 

 くそ! 図らずも授業を何回かサボってしまっている! 

 これも、ウルって奴のせいなんだ。

 

 外に出てもまだ追ってきやがる。というかアイツ魔法少女姿になってませんか? 

 魔法でスピードがアップしている節が見て取れる。

 だったら反撃してもいいよね? 生身は流石に可哀想だからやらなかったけど、魔法少女姿だったらやっても良いよね? 

 

 僕は方向転換して、ウルに向かって地をかける。

 限界を突破した体はその無理な負荷運動にも耐えて、凄まじいスピードを実現することができた。

 僕はそのままウルに向かってタックルをかます。

 

「はあ!?」

 

 僕のタックルをまともに受けてしまったウルは、またもや宙を舞った。

 咄嗟に爪でガードしたようだが、無意味だったらしく。地面に落ちた後、変身を解除した。

 上から覗き込むと、ウルの奴は目を回してまともに動けない様子だ。

 いやあ、申し訳ないことをした。でも、急に追いかけてくるのが悪いと思うな。僕は結構繊細なんだ、あんな形相で追いかけられたら怖くて仕方がなくなる。

 

 後、上着返してください。

 

 僕はウルを立ち上がらせようと、頰をペチペチと叩く。

 するとウルはうなされたように、寝言を呟いた。

 

「う……ん……おり……こ……」

 

 おりこ? ……確か、佐倉さんが前に織莉子なる人物を探していると言っていた。

 その特徴的な名前から僕は記憶に残っている。というより、佐倉さんにこれ、言わなくてはならないじゃないか? 

 

 僕は目の前の少女が織莉子へたどり着く鍵だと認定して、彼女が起きるのを待ったのだった。

 

 

 



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十一話 美国織莉子

 くだらない奴の真似。私はそう言って持っていたスマホで笑顔を無理やり作る。教室にいた奴らと同じような笑顔がそのスマホには映った。

 でも私がその笑顔を浮かべているとなんだか自分ではないような気がして、とても気持ち悪い。

 

「へんなの!」

 

 私はそう吐き捨て、屋上で風を感じる。

 変わりたい。私はなんでそんな事を願ってしまったのだろうか。つまらない。とてもつまらない。もっと刺激的な事は無いのだろうか……。

 いや、1つだけあった。それはあの男と戦っていた時。確かな高揚感を覚えた。結局私は負けてしまったけど、織莉子は私を見捨ててない。逆にその男の事を調べてくれと言われた。

 

 あの男は何者なのか。それを知るまで私は魔法少女にちょっかいを出すのをやめた。

 全てはあの男を倒すため。私は身体を鍛えて、もっと早いスピードでアイツに勝とうとしている。

 しかし、この肉体を鍛えて意味はあるのだろうか? 私の体……いや魔法少女の体は魂が抜け落ちた抜け殻だと織莉子は言っていた。

 だから鍛えてもあまり意味がないのではと思ったが、そうでもないらしい。

 鍛えていくにつれて、身体能力が上がっているのを実感する。

 

 これならあの男を倒せるかもしれない。そして倒したらいっぱい織莉子に褒めてもらおう。よくやったわねと頭を撫でてもらおう。

 

 そして、案外その時は近かった。

 

 廊下を歩いていたら見覚えのある顔が目に入った。間違いない奴だ。

 倒れてあった時に私にかけてあった制服からして、見滝原中学にいるという事は知っていた。

 あの後探してはいたが見つかりはしなかったが、今回は見つけた。

 

 さあ戦おう? 楽しい事をしよう? 

 気づけば私は心底楽しんでいるような表情で──

 

「みいつけた」

 

 と奴に告げたのだった。

 

 ────ー

 

 お、やっとウルの奴が目を覚ました。

 僕の顔を見るなりパチクリと瞬きして、盛大にため息をついた。え? なんでため息ついたの? 僕の顔を見たから? すみませんね、イケメンじゃなくて。これでも近所におばちゃんから男前と言われているのだが、うら若い彼女はお気に召さなかったようだ。

 

 まあ生まれてきて15年ではあるが、一回もモテた事は無い。悲しいなぁ。

 

「また負けたんだね」

 

 心底ガッカリしたような表情でウルは言った。

 ああ……なるほど、負けたからため息をついたのか。よかった僕の顔が原因じゃなくて本当に良かった。起き抜けに「うわきも」とか言われていたら明日から学校を三週間休む所だった。

 

「でもさあ、どうせ負けるんなら、もっと殴り合ってから負けたかったなぁ……。これじゃつまんない」

「いや、戦いにつまるもつまらんも無いだろう」

「つまんない、つまんない、つまんない!」

 

 駄々をこねる子供かこいつは。

 上級生か同学年か下級生かは知らんが、子供だこいつ。全く中学性にもなって、駄々をこねるなんて恥ずかしいと思わないの! と僕の中のオカンが言った。

 いや、オカンの顔知らないんですけどね。

 

 さて、そんな事はどうでもよくて、少々ウルに聞きたいことがあるからこうして起きるまで残っていたのだ。

 僕はウルの額に人差し指を当てる。

 

「え? なんで指を……っ! 体が……! 動かない!」

 

 昔よく見たよね。額の中心に人差し指を当てるとあら不思議、起き上がれなくなっちゃうマジック。まあ僕の場合はそんな器用では無いので力技で無理やり動かなくしているだけだが。

 

「君が眠っている間、寝言を言っていたね」

「え? 寝言?」

「ああ、それは幸せそうな顔で織莉子……と」

「!」

 

 ウルは目を見開いた。そのあと少し唇を噛む。おそらく彼女にとっては一生の不覚みたいなものなのだろう。

 しかし、織莉子という名を聞いた以上、ウルと織莉子は知り合いなのだろう。いや、もしかしたら友達なのかもしれない。

 

 佐倉さんと約束したのだ。あんなに親切にしてくれた人の願い、今ここで叶えてみせよう。

 

「し、知らない……だれ? そいつ?」

「しらばっくれるな。呼吸が荒くなっているぞ。嘘を付いている証拠だ」

 

 いや、実際嘘を付いてるかどうか、分からないんですけどね? だってそれっぽい事言ってみたいじゃないですか。

 今のセリフはカッコよかったと僕の中で思う。

 

「……織莉子に何をする気だ」

「何もしない。ただ会って話がしたいだけだ」

「絶対に織莉子は私が守る! お前みたいな奴に教えるもんか!」

 

 怒ったような顔を見せるウル。どうやら友達同士なのは確定的だそうだ。いや、この怒りよう。親友同士のそれだ。

 どうやら思ったよりもウルと織莉子は深く関わっているようだな。

 これ以上、ウルから聞いても何も収穫がないと判断して、僕は指を離す。

 

 それに友達を守ると啖呵をきってみせた、彼女の事が気に入った。

 僕は根性のある奴は嫌いではない。何か足りないところを必死に埋めようと努力する姿は見ていてとても美しい。

 

「……今日の夜7時頃……見滝原の広場で待つ。織莉子とやらにそう伝えておけ」

「っ! ……ふんっ!」

 

 ウルは返事をせずにそっぽを向いて歩いて行った。

 返事は聞けなかったが、来るということを信用して僕は広場で待つとしよう。

 すまない、佐倉さん。伝えに行くのは少し時間がかかりそうだ。

 

 ──ー

 

 そして時刻は午後7時。

 僕は自身で指定した、広場で待つことにした。

 さて、織莉子とやらはどんな姿をしているのだろうか。少し好奇心が湧いてくる。

 

 しかし、佐倉さんは織莉子にオトシマエをつけるとか言っていたな。どんな因縁があるのかは分からない。

 僕はただ接触して、そのあと佐倉さんに伝えておけばいいのだ。

 

 そう思っていた矢先だった。

 僕の目の前に突如、白いボールのような物が飛んできた。

 反射的に片手で掴み、そして離す。どうやら来たみたいだな。

 

「貴方が……私を呼んだのかしら?」

 

 僕の目の前に白い衣装で身を包んだ魔法少女が現れた。

 コイツが……。

 そう思っていたら、続いて暗闇から爪が伸びてくる。

 僕はそれを掴み、引っ張った。案の定ウルが闇夜から姿を表せる。

 コイツら、もしやこの場で僕を消そうとしているのか? 面白い。やれるものならやってみろ。

 

「流石ね、この不意打ちを全て防ぐなんて」

「お褒めに預かり光栄だな」

「ええ、噂以上だわ。八千ましろ」

 

 僕の名を何故知っている。嫌な汗がブワッと吹き出る感覚がした。なんだ? この全てを見透かされている感じは。

 そして、白い魔法少女は両手を仰々しく前に出し、僕にこう言った。

 

「私の名前は美国織莉子。八千ましろさん。私たちの目的のために協力してくれないかしら」

 

 それは、さも決定事項だと言わんばかりの圧力を三国織莉子は出したのだった。

 

 



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十二話 絶望と希望の未来

後書きに主人公設定を置いてあります。


 私が生きる意味を知りたい。確かに私の願いは叶った。

 私の行く道が指示された。しかしそれはどうあがいても絶望の未来にしか辿り着けない。

 巨大な影、とんでもない質量を持つ魔女を視て私は最初にこう思った。

 

 これには誰にも勝てない。この魔女に世界を蹂躙され、この世界は消え失せる。そんな絶望の未来だった。

 しかし、手段はある。あの魔女が生まれなければいい。

 

 生まれないようにすれば良い。そうだ、あの少女を殺してしまうのだ。たった一人と幾千の命。比べるまでもなく、私は世界を救うために走り出した。

 しかし、心の中でそれは正しいことなのか? と自分自身を疑ってしまう。

 

 それが本当に正しいのかと。

 そんな時だった。私の能力である未来視がまたもや発動する。

 

 私が視た未来は崩壊する街の中、ただ一人その場で佇んで、先ほど見た光景とは全く違う晴れやかな空が広がっていた。未来視であるのに眩しい。それにとても美しい。

 

 私が視たもう1つの未来とは、希望の未来で、それに到達するには一人の少年を仲間にすれば良いと言うことだった。

 

 しかし、どちらの未来に転ぶかはまだ分からない。

 絶望かはたまた希望か。

 

 私はどちらの未来が起こっても良いように、あの少女を殺す準備をしながら少年を探さなければならない。

 そしてその時は案外早かった。

 

 キリカがその少年と接触したと言うのだ。そして、キリカはあの少年の上着を放り投げ、ふて寝した。その様子から察するに負けたのだろう。

 そしてなんの因果か、小巻さんまでもあの少年と会ったという。

 彼女を手刀一発で倒してしまったと聞いた時は想像以上だとかなり驚いた。

 

 名前は八千ましろ。それが私の接触すべき相手。

 そして彼の上着になんとなく触れた時にまた未来が見えた。

 

 視た未来は八千ましろの下半身が消え失せ、上半身だけになっている姿。

 黄色い服に身を包んだ魔法少女に膝枕をしてもらいながら、その中で息絶えていた姿だった。

 満足そうな笑みを浮かべ、見つめるその先にはあの少女と髪の長い少女が手を取り合い喜び合っている光景だった。

 

 頰に一筋の涙が流れる。私はなんという未来を見てしまったのだろう。

 こんな……こんな結末があって良いのだろうか。

 世界を救った後に待っているのがこんな事だなんて。

 

 しかし、世界を救う為には彼には何も言うことはない。

 私も私で動いて、あの少女を殺す。

 

 私が掴むのは希望の未来だけだ。

 

 そんな中、キリカから八千ましろに会わないかと言われたのだった。

 

 ────

 

 

 

 

 

 

 ……目の前のコイツは今なんと言った? 協力……だと? 

 まさか……コイツ……インキュベーターから僕が宇宙人だとか聞きやがったな!? いや宇宙人でもなんでもないですが! マクシミリアン・テルミドールなんて名前の奴は知りませんが! 

 

 まさかあの野郎、他の魔法少女にも僕の存在を明かしてはないだろうな? これ以上デマが広がるのはゴメンだぞ。

 

「私が貴方に協力を申し込んだのは、貴方にもメリットがあるのよ」

「メリット?」

 

 一体何のメリットがあるのだろうか? 宇宙人だなんてホラを告かれて、現在進行形で黒歴史を量産している僕にはデメリットしかない。

 

「単刀直入に言うわ。貴方はワルプルギスの夜を倒した後死んでしまう」

「……死ぬ?」

「ええ、ワルプルギスの夜と一騎打ちの末、相打ちでね」

「……なんでそんなことが分かるんだ」

 

 まるで未来を見てきたかのような口ぶり。もし本当に未来を見てきたとしたのならそれは大層な能力だ。ロボット物で主人公かラスボスを務めるに違いない。

 そして、この織莉子という少女は紛れもなくラスボスの方だろう。

 

「……未来を、視たのよ」

 

 やはりそうか。

 しかし、魔法少女の魔法というのはそんなに高度なものなのか? 時を止めたり、銃を出したり、傷を癒したり、未来を見たり。

 

 まるで奇跡を制限なく使っているかのように見える。

 

 いや、奇跡と魔法は一緒だったな。奇跡を掌の上で操れるように行使できるから魔法。成る程、魔法というのは厄介だ。

 

 しかし、僕が死ぬ? ワルプルギスの夜との一騎打ちで? 

 正直言って死ぬのはゴメンだと思う。読み終えてないラノベもあるし、アニメも見たいものがわんさかある。それらを全消化するまで死ねるに死ねないのだ。

 

 しかし、ワルプルギスの夜を倒すということは暁美さんの鹿目さんを助けるという願いを叶えるということ。

 

 ラノベか暁美さんの願いか……まあ考えるまでもないな。

 僕は苦笑して、迷いなく自分が死ぬことを選んだ。暁美さんの事は友人だと思っている。その友人を助けてやりたいと思うのは当然のことなのではないか。

 僕の死で誰かが幸せになるのならそれで充分だろう。

 

「……その微笑み……やはり、思った通りね」

「……美国さん、君がどんな未来を見たのかは分からない。だけど、友人の為なら命を投げ棄てる事も躊躇わないのさ。僕は今世紀史上最大の大バカ者だからね」

 

 

 

「じゃあ貴方は!」

「だから協力というのも断る」

 

 

 

 

「…………」

 

 苦虫を噛み潰した表情でこちらを見る美国さん。

 恐らく協力関係というのも僕を心配して……というものもありそうだが、裏の真意が見え隠れしている。

 ただ僕の死を宣告しに来たわけでは無いだろう。もっと他に、美国さんには別の目的があるように僕には見えた。

 

「それに、僕はもう他の魔法少女と協力関係にあってね。申し訳ないが、二重契約はお断りしているんだ」

 

 僕は自分の為に嘘をついた。少し、美国さんを泳がせてみようと思ったのだ。そうする事で、別の目的が見えてくるに違いない。

 それに、あまり暁美さんを裏切りたくないのもある。僕は王道を往く主人公が大好きなのだ。

 

 機動武闘伝Gガンダムのドモンのように熱くクールで、天元突破グレンラガンのシモンのように成長して、銀河英雄伝説のラインハルトのように知的で同じくヤンのように秀才で。

 

 僕はそんな所を目指したい。たとえその先は死であったとしても、甘んじて受けようではないか。

 さて、フロイライン。君はどんな未来を見た? 

 

 僕が美国さんと見つめあっていると、先に動いたのは彼女の方だった。

 僕に踵を返し去っていく。その光景を見たウルも急いで着いていった。そして、数歩歩いて顔だけ振り向いた。

 

「数日後、私たちは見滝原中学に強襲をかける。その時になって私たちを止めることが出来るのならばやってみなさい」

 

 そう言って美国さんは闇夜に姿を消した。

 ……何故、彼女は自分たちが不利になりそうな事をバラしたのだろうか。まるで、目的が僕の学校の中にあるように思える。狙いが僕では無いとしたら、魔法少女の方だろうか。

 いや、魔法少女ならば学校を占領せずとも、誰も居ないところで二人掛かりで襲えば良い。

 

 僕には美国さんが誰からに止めてもらいたそうな雰囲気を出しているようにしか思えなかった。

 僕は街頭の弱い光に照らされながら「来るなら来い」と小さく呟いたのだった。

 

 




主人公設定
名前:八千ましろ
年齢:15歳
身長:175㎝
体重:77㎏
髪色:グレー

中二病少年であり、中学一年生に銀河英雄伝説とかSF系の小説を読み漁って立派な中二病になった。主に心の中で男には卿、女にはフロイラインと言ってたりする。カッコいい名前考えるの大好き、主にドイツ語から取ったりしてるけど英語もいける。見滝原中学の制服めちゃくちゃカッコいいので大好き。
おばあちゃん(鬼)にめちゃくちゃ鍛えられたらしく、ましろの一番好きなラノベにもあった銀河連邦式徒手空拳を主に使用して戦う。
引くぐらい強い。


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十三話 集いし魔法少女

 あの後、僕の中でとある1つの答えを導き出していた。それは美国織莉子の目的は鹿目まどかなのでは無いのかと、思ったのだ。

 前に暁美さんは鹿目さんが最悪の魔女になってしまい、それを阻止すべく時間逆行を繰り返していると言っていた。

 

 そして未来視を持つ美国さんはその未来を見てしまったのでは無いだろうか? そうすると辻褄があうような気がして仕方がない。

 そして、彼女は僕に宣戦布告をして去って行った。学校に強襲をかけるか……流石に僕一人では全校生徒を助けるのは不可能だ。

 しかし、協力者を集めれば或いは……。

 

 そんな訳で僕は休日返上で風見野に来ていた。

 

 最初はおばあちゃんの協力も煽ぐ事を視野に入れていたが、おばあちゃん曰く「ガキの喧嘩にゃ私は首を突っ込まないよ」と言っていた。

 いや結構命がけなんで協力してくれたって良いじゃ無いか……。見た目だけなら中学校に潜入してもおかしくない容姿をしてるのにどうしてこうも非協力的なんだ。

 

 ちなみにおばあちゃんは御年80歳近い癖して、見た目だけはそこら辺の若い連中と同じようにお肌ピッチピッチの20歳以下にしか見えない。

 本人曰く合気道の応用で生体エネルギーをちょっくら弄って若さを保っているだけと話していた。合気道すごい(脳死)。

 

 おっと話が逸れてしまった。

 風見野に来た理由は美国織莉子の事を佐倉さんに伝える為だ。

 前に別れる際、いつもだったらここに居るというメモを渡してくれていたので、僕はその場所に向かった。

 

 僕はいろんな機械音が交錯し、光をチカチカと放つゲームセンターの中へ入っていく、そして一際大きなダンスゲームでリズムよくステップを踏んでいる佐倉さんを見つける。横でゆまちゃんがキラキラした目で佐倉さんを見ていた。可愛い。

 だが今日はゆまちゃんを愛でるために来たわけでは無い。

 

「おっ、ましろじゃねぇか」

「あ! お兄ちゃん!」

「久し振り、佐倉さん、ゆまちゃん」

 

 僕はゆまちゃんの頭を撫でながら、佐倉さんを見る。

 どうやら僕の視線の意図に気づいたようで、彼女もコクリとうなづいた。

 

「織莉子の存在が分かった、そして協力を仰ぎたい」

 

 ──ー

 

 僕の目の前に集まる少女たちは稀代の英傑達……というわけではなく、魔法少女達だった。

 

「まさか……ましろも関係者だったとはな……ようマミ」

「ええ、久し振りね佐倉さん」

「……で、なんで私たちはこんな所に呼ばれたわけ?」

 

 メンツは巴さん、佐倉さん、ゆまちゃん、暁美さん、そして白女に行って捕まえてきた浅古さんだ。

 佐倉さんが魔法少女だったのは少々驚きではあるが、まあ不思議ではない。それよりか巴さんとどうやら知り合いのようだった。

 

 僕は彼女達に今回の件を喋っていく。暁美さんは織莉子の名前を知っていたようで、「やはり」とうなづいていた。

 

 浅古さんに至ってはまさかの美国さんと友人関係だという。友達という言葉を使ったら何故かめちゃくちゃ起こり始めたが、浅古さんもここ最近の美国さんの挙動が怪しかったらしく、自分一人で少し探っていたらしい。

 浅古さんは僕がウルと呼んでいた彼女の名前まで調べていて、ウルの名前は呉キリカだという事が分かった。

 

 巴さんは呉キリカという名前に聞き覚えがあるらしく、もしかしたら同学年の生徒かもしれないとこぼしていた。

 

「……まさか美国がね……ここ最近休んでいたから怪しいとは思っていたのよ」

 

 ここで今まで口を閉ざしていた佐倉さんが僕の方に来て肩を叩く。

 

「……ありがとな、ましろ。アンタを信用して良かった。今度はこっちが恩返しさせてくれ」

「キョーコ……」

「ああ、ゆま。お前を魔法少女にした織莉子にオトシマエつけさせてやる」

「うん、ごめんなさいってしてもらう!」

 

 ……まさかとは思うが……ゆまちゃんまでも魔法少女なのか。

 こんな小さな子供を命がけの世界に放り込むなど……大きな運命をその小さな背中にのしかかっているのだ。ゆまちゃんは見たところ小学生だろう。

 

 ぴょんぴょんとはねるゆまちゃんの髪がふわっと浮いた瞬間僕はとんでも無いものを見てしまった。

 額の方にひどい火傷の跡、あれはタバコの火を押し付けられた時に出来る代物だ。僕は手を握りこむ。人間というのは時に、魔女よりも恐ろしい化け物になる。恐らく、虐待させれていたのだろう。

 そこを佐倉さんが拾ったというわけか……。

 

「……ましろさん」

 

 暁美さんが小声で僕に話しかけてくる。

 

「美国織莉子と呉キリカ……この時間逆行の中で一回だけその二人に会ったことがあるわ。目的はまどかの殺害よ。まさか……この時間軸でも」

「大丈夫だ、今回はこれだけの魔法少女がいる。前の時は少なかったじゃないのか?」

「ええ、巴さんと佐倉さん、後はあの子だけね」

「今回は僕を入れて六人もいる、心配するな。大丈夫だ」

 

 やはり、彼女達の目的は鹿目まどかの殺害だったか。

 となると、学校のみんなを助けながら鹿目さんを確実に護らなければならない。

 

「みんな、今から作戦を伝える」

 

 僕の作戦はこうだ、基本三人のペアで別れる。暁美さんによると、前の時間軸では魔女を駆使して学校のみんなを殺害しながら見滝原に攻めてきたらしい。

 今回も同じ作戦なのかは分かりはしないが基本その方針で進めていくことにした。

 

 佐倉さん、ゆまちゃん、浅古さんの三人で美国織莉子と呉キリカの探索および確保。

 僕、暁美さん、巴さんの三人で学校に湧いて出てくる魔女の殲滅。

 

「名前は……そうだな……佐倉さん側が薔薇の騎士(ローゼン・リッター)、僕たちが黒旗軍(ブラック・フラッグ・フォース)と言ったところか……」

「却下」

「え」

 

 浅古さんに僕の考えたカッコいい名前を即却下された。

 浅古さん? 名前は大切ですよ? 

 

「長いし恥ずかしい」

「……私もちょっと遠慮したいわ」

「私もそういうのは柄じゃねぇからな」

 

 なんてこった。ボロクソである。

 え? 僕の感性がおかしいの? 普通にかっこいいと思うんですけど……ちょっと、長いことに目を瞑ればさ、ほら、もしかしたら魔法少女の間でめちゃくちゃ噂になるかもよ? 

 ほら、ゆまちゃんも……だめだお子様には難しかったようで頭をひねっている。

 くそう。

 

「……私は良いと思うのだけれど……」

「巴さんっ!」

 

 女神がそこにいた。僕の感性を理解して共感してくれる彼女こそ女神に違いない。決めたぞ、僕は明日から巴さんを崇拝する。巴神と呼ばせてくれ。

 

「私はピュエラ・マギ・ホーリー・セクステットって名前を考えて……」

「ほう……? やるな」

 

 直訳すると魔法少女の聖なる六人組と言うわけか……ごめん、僕、魔法少女じゃないんだわ。それだったら僕を退けてピュエラ・マギ・ホーリー・クインテットの方が良いと思うのだけれど……。

 

「誰かこの二人を止めてちょうだい」

「無理だな」

「無理ね」

「……? ローゼン? ブラック? ピュエラ?」

 

 こうして僕と巴さんの名前論議が今、始まったばかりである。

 

 




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十四話 いつかは今じゃない

 魔法少女達の集結から数日が経った。今日現在でも美国さん達は現れずにいるが油断は禁物だ。

 佐倉さん、ゆまちゃんにはここ数日見滝原で暮らしてもらっている。今はどこに居るのかは分からないが、恐らく見滝原中学の近くで待機しているのだろう。

 

 浅古さんには白女に通ってもらっている。招集の知らせはインキュベーターに一任した。

 

 信用のならない奴ではあるが、僕の頼みならやってあげようと言っていたので任せることにした。

 なんかインキュベーターの中では僕は仲間みたいな扱いになってないか? 勘違いするなよ、僕の黒歴史をばら撒きやがって。いつか張っ倒す。

 

 

 学校の中にいる僕たちは周囲に目を光らせていた。外にいる彼女達と違いすぐに動けることができるからだ。

 巴さんは三年生なので主に三階を頼み、僕たちは鹿目さんを守る係と、クラスメイトを助ける係に別れた。

 暁美さんが鹿目さんを守る役目に付いている。

 

 そして遂に、その時がやってきた。

 

 朝礼の時間が始まり、教室に備え付けられたテレビに放送委員が映るのだが、その放送委員が突如として倒れた。後ろから現れるのは呉キリカと美国織莉子だった。

 

「この放送は私と織莉子が占拠した!」

 

 来たか! 僕はちらりと暁美さんに目をやる。すると暁美さんはコクリとうなづき席を立って鹿目さんに近づいた。

 僕もそれを見て席を立つ。クラスメイトの全員はこの状況に何事かと騒ぎ始めた。

 

「テステスーマイクテスー」

「キリカ、カメラそっちじゃないわよ?」

 

 まるでこの異常な空間の中さも当然かのごとく日常会話を始める二人。

 その光景は少し歪な形だった。

 

「え? なに? どうしたの?」

「……まさか魔法少女?」

「そんな……」

「大丈夫、なにも心配しなくて良いわ」

「ほむらちゃん……」

 

 画面に映った美国織莉子がカメラの前に立つ。そして仰々しく口を開き始めた。

 

「皆さんには愛する人がいますか? 家族、恋人、友人。心から慈しみ自らを投げ打ってでも守りたい人は居ますか? そして、その人たちを守るに至らぬ自分の無力を嘆いたことはありますか? …………八千ましろさん。貴方は一人残らず、守れることが出来ますか?」

「……」

「来るがいい、最悪の絶望」

 

 カメラ越しにでもわかった。僕を名指しで見つめてくる目。それは何かを訴えかけてくるような目だった。

 そこで映像が途切れる。周りから八千? とか僕の事を噂してくる声が聞こえた。

 そして先生が、「八千さん? あの人たちと知り合いなの?」と言ったときの事だった。

 

 使い魔達が窓を割って教室に入ってくる。

 それと同時に結界が作り始められた。

 

 僕はその使い魔達を入ってくるや否や拳の連打を叩き込み一気に殲滅させた。

 もはや今の僕に慈悲などはない。あんな挑発をされたんだ。救ってやろうではないか、一人残らず。

 

「暁美さん! 後は頼んだぞ!」

「ええ、頼んだわ、ましろさん」

 

 僕はその場から疾走する。その瞬間またもや自分の限界を超えた。今の僕ならヒグマだって片手で倒せるだろう。それに今回は最初から本気だ。僕は校舎の中を駆け回った。

 

(ましろさんの姿が一瞬で消えた……もはや魔法を行使しているのと変わらないわね)

「ほむらちゃん……」

「心配しないで、貴方達は私が守る。それがましろさんとの約束だもの」

 

 ──ー

 

 三年生は巴さんがなんとかしてくれているが、今気がかりなのは下級生の方だ。

 僕は下の階に向かって疾走する。女子生徒の首筋に噛みつきそうになった使い魔を見つけ、その場で殴り飛ばした。

 

 下の階も結界で覆われており、なにも分からない生徒達は怯え狂っている。

 僕は無我夢中で拳を振り回した。途中、佐倉さん達がやってきて、僕の加勢に入ってくれたが、今は巴さんの方が心配だ。

 佐倉さん達を巴さんの方へ向かわせ、下の階は僕一人で殲滅していった。

 

 そして数分が経った後、下の階の使い魔達はどうやら全滅したようで、1つも残ってはいなかった。

 だいぶ体を酷使したような気がするが、少し息が荒くなっただけでまだ体は動く。大丈夫だ、今のところ全部を守れている。

 

「あ、あの……」

「?」

 

 僕の後ろにいつのまにか女子生徒がいた。この子は……先程使い魔に食べられそうになっていた子じゃないか。

 

「こ、これは一体……」

 

 恐怖で顔が歪んで体が震えている。

 僕は彼女の不安を取り除くようにニコリと笑って頭を撫でた。

 大丈夫……大丈夫だ。君は死んではいない。心臓は脈打っている。

 

「あ…………ありがとう……ございますっ……」

 

 僕はこの子の涙を人差し指で掬い取る。少しキザな真似ではあるが、それで多少なりとも安心できるのならお安い御用だ。

 

 僕は彼女に背を向けて走る。

 この階はもはや使い魔が存在出来ないくらいに殲滅した。となると上の階だろう。

 僕は上の階に向かって走っている途中、なにやら結界の中に入っているクラスメイト達を見つけた。

 これは浅古さんのシールドの能力らしく、前に見せられたことがある。

 そのほかにも魔法少女達には他人を守れるだけの結界が貼れるらしく、絶対的ではないものの、効果は高いらしい。

 

 その分ソウルジェムが濁ってしまうのが欠点だと話していたが。

 

 走っていると一際大きな扉が見えてくる。

 中に入るとそこには魔法少女達が集結していた。

 

 しかし、味方の魔法少女は劣勢らしく、ゆまちゃん以外が地にひれ伏していた。

 目線の先にはなにやら前とは違う呉キリカがいた。いや姿は一緒なのだが、雰囲気が違うのだ。まさか……強くなっているのか? 

 

 ゆまちゃんに襲いかかる呉を僕は弾き飛ばす。

 爪がかすったらしく、僕の腕から血が吹き出た。

 

「……来たわね」

「……この感じ……織莉子……コイツ、使い魔達を全滅させやがったよ」

「! この短期間で!?」

 

 僕はゆまちゃんの抱えて下がる。

 

「ゆまちゃん! みんなに回復を!」

「う、うんっ!」

「……いいわ回復しないで」

 

 巴さんが仰向けになりながら遠い目線で、そう言った。

 なぜそんな事を言うんだ? なぜそんな絶望の表情を浮かべている? 

 

「ソウルジェムは魔女を生む……魔女になるくらいならここで死んでしまった方がいいじゃない」

 

 僕は美国さんの方を見る。成る程……彼女が魔法少女が魔女になると話したのか。

 それにしても、インキュベーターの野郎、そんな大事な説明を省いて、彼女達を魔法少女に引きずり込んだのか……。

 僕はにじり寄ってきた呉の前に立つ。

 

「うん、だから今から殺してあげるよ。八千ましろ。そこを退いてくれるかな?」

「断る」

「……分からないなぁ……ソイツは今、死のうとしてるんだよ? そんな奴を助けたってどうしようもないでしょ?」

「そんなことはねぇよ」

 

 そうだ、そんなことはない。

 死にたくなるのは人間誰しもある。そんな時、実際に死にかけたら生きたいと願うものだ。人間は生というものを切望する。

 こんな事で死んでしまったら、後悔して死にきれないだろう。

 

「……そうだよ……お兄ちゃんの言う通りだよ」

 

 ゆまちゃんがみんなの傷を癒す。

 

「ゆまはね、ママにいじめられてた時いつも考えてたよ、死んじゃった方がいいって。でも魔女に襲われて死んじゃうって時、ゆまは必死に生きようとしたんだ」

「でも……いつか私たちも……」

 

 ゆまちゃんの言葉に続いて僕も口を開く。

 

「いつかは今じゃないだろう。人はみんないつか死ぬ。誰だって死んでしまうんだ。だが、今はその時じゃない」

 

 立て、立って戦え! 大いなる力には大いなる責任が伴う。それは弱い人々を救うためだ! 

 僕たちにはコイツらに対抗できる力がある! だから! ここで今! 止める! 

 

「……ふっそうね…………みーくーにぃ……あんた、前に私に前に進めるかって聞いてきたわね……進んでやろうじゃない。進んだ先にどんな地獄が待っていようと、進んでやるわよ!」

 

 浅古さんがポールアックスを杖代わりにして立ち上がる。

 そして、構え直して美国さんに突進していった。

 しかし、その前に立ち塞がる呉キリカ。それを見た僕は浅古さんの邪魔はさせないと、呉に飛び蹴りを食らわした。

 そして叫ぶ。

 

「立ち上がれるのなら! 立って! 助けに行け!」

 

 そうだ、まだ使い魔達による脅威は消え去っていない。

 そんな叫びを聞いた、巴さんと佐倉さんが立ち上がった。

 その目には生気が戻っている。

 

「……ガキに説教されて、その上恩人にここまで言われちゃあな」

「……キュウべぇには後できっちりと説明してもらわなきゃね。ありがとうましろさん、また助けられたわね」

 

 僕の目の前に1つのグリーフシードが飛ぶ込んでくる。……このグリーフシードには見覚えがあった。これはゲルトルートの……。

 

「お守り代わりよ、武運を祈るわ!」

 

 そう言ってゆまちゃんを連れて三人はこの部屋から飛び出した。

 生徒を助けに行ったのだろう。

 

「さて……暁美さん……立てれるか?」

「ええ……私は浅古さんと連携して美国織莉子を……貴方は」

「ああ、また眠らせてやるよ」

 

 僕が軽口を叩くと暁美さんはクスリと笑い、美国さんに突撃していった。

 さて……今思えば呉と戦うのはこれで3回目か。

 

「……今の私は絶対に負けない!」

「来い、決着をつけるぞ」

 

 こうして、僕たちはぶつかり合ったのだった。

 

 



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十五話 僕は君の未来を否定する

「うおおおおおお!!」

「はあああああ!!」

 

 僕の拳と呉の爪がぶつかり合い、その場に激しい音を残す。僕は限界を突破した体で身体能力が向上して並みの人間なら見えない速さで動くことが出来ている。それは呉の速度低下の魔法もあまり意味をなさない程に。

 しかし、体が鈍い感覚はある。油断したら一気に首を掻っ切られそうだ。

 

 僕は拳のラッシュで呉に対抗するが、呉も反射神経が上がっているのか、僕の攻撃を全て防ぐようになった。

 

 確実に前よりかは強くなっている。しかしこの短期間で何故? とも思ったが、理由はすぐに分かった。呉のソウルジェムがかなりの勢いで濁っている。使い魔達も生み出していたのは呉だろう。魔女に近づいているのか。そのため、身体能力が上がっているのだと考察する。

 

「私は! 織莉子に相応しい友達に変わり続けるんだ! そのためにはお前なんかああああ!!」

 

 そして呉の根気が勝ってしまったのか僕は肩から腹にかけて切り裂かれた。薄皮一枚で避けたが、あの爪が伸びたせいで、制服がはらりと落ち、肉体からは血を流した。

 まずい、一発もらってしまった。あの速度と僕の速度の低下。厄介だ。

 

 あの速度を止めるには何かしらの方法で呉を止める必要がある。

 そして僕はとある方法を追いつく。

 

 僕は攻撃を受け、足がよろめいた。

 

「! 勝機! もらったああああああ!」

 

 ────フリをした。

 僕は顔を上げ、呉の爪を真正面から腹で受け止める。呉は突き立てた爪を僕の腹に押し込んでいくが、それで呉の動きは止まった。

 腹に刺された爪を筋肉で固定、抜けないようにする。そして僕は呉の両手を持ってサマーソルトをその場で食らわした。

 

 顎にモロに入った呉は宙を舞う。

 

「ガハッ!」

「……さっきは効いたぜ、お陰で腹に穴を開ける事になってしまった」

 

 肉を切らせて骨を絶つ。

 僕の腹から血が吹き出る。しかしそれを筋肉で塞ぎ無理やり止血した。内臓の方は呼吸法で上の方に押し上げ、傷は1つも付いていない。

 しかし……結構キツイな……。

 

「ぐっ……ぐう……」

「はあ……はあ……」

 

 お互い満身創痍。おそらく次の攻撃で最後となるだろう。

 呉も……いやここまでやって立ってくるコイツに敬意を表し、名前で呼ばせていただこう。

 キリカはまだ諦めた様子はない。

 どうやら最後の手段を持っているようだった。僕もそれに少し気づいていたので、行動に移す。

 

「……こうなったら……魔女に……!」

 

 と、キリカの体が変化しかけた時だった。僕は一気に駆け出し、右手に持っているグリーフシードをキリカのソウルジェムに押し当てる。どうやら、巴さんはゲルトルートのグリーフシードは使わずに持っていたらしく、かなりの穢れを浄化しても問題はないくらいの空きがあった。

 

「う、うわあああああ! わ、私の……ち、力が……!」

「すまないが、またもや僕の勝ちらしい……浄化しろ! 呉キリカ!」

「ぐっ、ぐああああああ!」

 

 しかしキリカも最後の力を振り絞り、僕に爪の斬撃を浴びせてきた。僕はその攻撃を一身に受け止める。所々から血が吹き出ていくが問題はない! このまま押し切らせてもらう! 

 

「ッ……ああ……」

 

 穢れを最後まで浄化しきったグリーフシード。キリカは穢れを力に変えて戦っていたので、力が抜けてその場に倒れこんだ。

 その瞬間、結界が晴れ、学校の部屋が出現した。結界がなくなったということは、使い魔達も消え失せただろう。

 これでクラスメイトや生徒に危害が及ばなくて済む。

 

 この戦い、僕たちの勝ちだ。

 

 僕は暁美さんの方へ目を向ける。

 すると、浅古さんが美国さんを押さえつけて馬乗りになっていた。

 美国さんは目を見開き足掻いてみせるが、浅古さんのパワーに押し切られる。

 どうやらあちらの方も大丈夫なようだ。

 

 ──ー

 

 暁美さんが美国さんに銃を突きつける。

 

「今回は失敗しない」

 

 決意が篭った目線で美国さんを睨む。全く、焦り過ぎだろう……。

 美国さんも美国さんで観念したような表情を浮かべるんじゃない。

 

 僕は暁美さんの銃に手を置く。

 

「待て」

「っ!」

 

 僕は美国さんに聞きたいことがある。そうだ、僕の意識がなくなる前に聞いておきたい事があった。

 それは美国さんが見た未来について。出来ることなら僕も死を避けたいところではある。未来予知が絶対的でも回避が出来るかもしれない。

 

「僕の未来を見てはくれないだろうか」

「……貴方の未来?」

「ああ、君が見た物を詳細に教えてほしい」

 

 そして美国さんに僕の未来を聞く。それは僕がワルプルギスの夜を倒して死ぬという所だけは変わらなかったらしいが、1つ変わったことがあったらしい。

 それは僕を看取る人が変わったらしい。最初は巴さんだったらしいが、今は見知らぬ少女になっていると言っていた。

 

 その見知らぬ少女は魔法少女かどうかも分からないらしい。顔に靄がかかった状態で見

 たらしく、顔も分からないと言っていた。

 

 そうか……。僕が死ぬという展開だけは変わらなかったか。

 

 しかし、これで未来は変えられるということが分かった。

 

「……ま、ましろさんが死ぬ?」

「そんな……」

 

 暁美さんと巴さんが驚愕の顔になる。

 後ろに控えていた佐倉さんと浅古さんも少なからず驚いた顔をした。

 そうか悲しんでくれているんだな……すまない心配をかけて……。

 

「ましろさんが死ぬところなんか想像出来ないわ。現にこうしてお腹に穴を開けても平然としてるじゃない」

「げ、現実的じゃないわね」

 

 僕は盛大にずっこけた。

 ええ……心配してくれたんじゃないのか? そっちの意味での驚愕かよ……。

 

「コイツが殺られるなんて、ワルプルギスの夜ってのはどれだけ規格外なのよ……」

「ああ……そこまでなのかよ……そいつは……」

 

 あの、一応僕は人間ですよ? しかもただの一般人。たしかに魔法少女に混じって拳1つで戦っているのも一応、僕の中では驚きなんですからね? そうか僕ってこんだけ強かったんだーとか、思ったりしてますよ? なのになんでおばあちゃんには全く勝てないんだ。

 

 全くコイツらは……。しかし、こうして立っているのも事実であり言い返せはしない。

 本当は死ぬほど痛いし、さっさと気絶したいだけどな。

 しかし、まだ聞いておきたいことがある。

 

「……美国さん、おそらく君はもう一つ別の未来を見ているはずだ、それは鹿目まどかに関する事か?」

 

 僕は少し疑問だった箇所を美国さんに聞く。

 美国さんは小さくコクリとうなづき「そうよ」と言った。

 おそらく最悪の魔女に関することだろう。彼女はそれを止めるために他の時間軸でも鹿目まどかを殺害しようとした。

 暁美さんが時間逆行をしているという点から、それは成功したのだろう。

 

 僕は美国さんに手を差し出す。ちょうどキリカも起きたようで、美国さんを真剣な表情で見ている。

 決断するのは君だ。未来は変えられる事は証明済みだ。僕たちが協力すれば僕が死ぬ可能性も消えるかもしれないし、鹿目さんが魔女になる確率だって下げられるかもしれない。

 そして美国さんの世界を救うという目的も達成するかもしれない。

 

 そうだ、鹿目さんをなんとか魔法少女から引き離すことが必要なのだ。そのために暁美さんはこれまで時間逆行を繰り返してきたのだから。

 

 僕は暁美さんの方を見る。暁美さんは呆れ半分でクスリと笑いうなづいた。

 浅古さんも佐倉さんもゆまちゃんも巴さんだって納得している表情をしている。さて僕たちは君に力を貸すことができる。美国さん、キリカ。君たちはどうする? 

 

「…………わ、私は……」

「……織莉子……もういいんじゃない? コイツに負けたのは癪だけどさ、でもさ、コイツと戦ったから私たちは間違わずに済んだんじゃないかな……。ま、私は織莉子の行く道をついていくよ」

 

「この先の未来。どんなものが待っているか分からない。だが君が見た未来を僕は否定しよう。必ず、君の願いを成就させる」

 

 美国さんは恐る恐るではあるが、僕の手を握る。

 そして華やかな笑顔で、「はい」と彼女は言ったのだった。

 

 ちなみにこの後ぶっ倒れた僕は近くの病院に搬送されて入院を余儀なくされた。

 医者からは「車に轢かれても無傷だった君がなんで死にかけてるんだい?」と怯えながら言われ、おばあちゃんには盛大に笑われた。

 

 張り倒すぞこの野郎。



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十六話 閑話休題

 ──ー僕は何度も繰り返す。

 何度も何度も命を使っては消えはて、そして新しい命となって生まれてきた。ああ、これで何回めだろうか。君が消えてもうどのくらい経ったのだろうか? 今の僕にはそれすら記憶することが危うくなってきた。

 最後に……君を助けたかった。最後に君を救いたかった。なのにどうして、君はいつまでたっても現れないんだろうか? 

 

 ──ー僕は何度も繰り返す。

 君を救うため、君を見つけ出すため。もう名前も分からない君だけど、姿だけはハッキリと覚えている。

 この命が尽き果てようと、君がどんな姿になってようと。

 

 ──ー僕は君を愛そう。

 

 ──────────────ー

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

 

 ────ー

 

 

 

 

 ──ー

 

 

 

 ー

 

 

 ……何故だろうか。ひどく悲しい夢を見ていたような気がする。

 ここ最近多いのだ、魔女と接触してからだろうか? こうやって夢を見て涙を流す。しかし内容は覚えていない。頭の中にひどく靄がかかったかのように何も覚えていないのだ。

 

 僕はベットの横にあった水を飲む。冷たい水が喉を通り一気に僕の意識を回復させた。

 あの後、僕はわずか2日で退院して、家に帰った。

 美国織莉子と呉キリカは無罪放免の処置が取られた。放送室に忍び込んでただ遊んでいたら偶然あの不可思議空間に足を踏み入れてしまった不幸なイタズラ者だとされた。

 

 しかし学校の方では何かしら罰があったらしく、二人とも反省文を書かされていると話していた。

 

 時計を見ると朝7時。もうそろそろ学校に行く支度をせねばならない。

 しかし、気が重いというか何というか。すごく学校に行きたくなかった。

 

 その理由とは。

 

「よっ! ヒーロー! 今日もかっこいいな!」

 

「あ、あの人が八千ましろさんよ」

 

「今日もカッコいいわね」

 

 あれ以降、僕は英雄として扱われている。

 教室に入れば大勢のクラスメイトが僕を取り囲む。あの時はありがとうだとか、どうやったらそんなに強くなれるのだとか質問攻めに逢うのだ。

 これには大変迷惑している。これでは学校にいる時はプライベートなんてあったものじゃない。

 それに僕は一定の人数に囲まれると頭痛がしてくるのだ。これまであまり人と接触して来なかった反動なのだろうか? 

 

 これが僕が憂鬱になっている理由だ。

 ぶっちゃけもう勘弁してほしい。毎日毎日よく飽きないな君たちは。

 

「どいて欲しいのだけれど」

 

 いつのまにか僕の後ろに立っていた暁美さんがクラスメイトを睨みつけながら教室の中に入る。

 暁美さんの近くにいたクラスメイトはサッとまるでモーゼの海割りかのように割れ、暁美さんの為の道を作った。

 

 僕の時とはえらい違う反応だな。

 

「みんな、八千君が困ってるから、ね?」

「そうだぞ、みんな」

 

 横から上条君と中沢君が止めに入る。ありがとう……中沢君……是非友達になってはくれないだろうか? 

 ただし上条、テメーはダメだ。嘘嘘、上条君も是非友達になろう。

 

 ──ー

 

 結局人に囲まれてうんざりした僕は逃げるように屋上へ駆け込む。まるで奴らはゾンビのようだ。しかも、全学年ときた。下級生からは「きゃーセンパーイ」と手を振られたりした。

 これがモテ期と言うやつか、もうお腹いっぱいなので勘弁して欲しい。

 まあモテたいと願った事はあるがこんなモテ方はしたくなかった。

 

「あら?」

「……ああ! 巴さんか」

 

 僕は少しホッとする。見知った顔がいて安心したのだ。

 彼女もあれ以来、なにかと学校で注目を浴び、その性格からかアイドル化してしまったと苦笑して話していた。

 最初の頃は彼女も満更では無かったらしく、すごい嬉しそうだったが、日に日に顔がやつれていったのを覚えている。

 

 僕と彼女は近い思考をしているので、大方同じ理由で屋上へ足を運んだのだろう。

 

「……最初はね……私も嬉しかったわ。男の子達から熱烈なラブコールを受けたり、女の子と一緒にお出かけしたり……私の憧れていた状況よ……でもこんなに疲れる物だなんて……」

「同感だ、現実と理想は違うと言うわけか……悲しいなぁ」

 

 今や、学校では僕派と巴さん派の勢力に分かれているらしいが僕たち陰の者達にとっては大災害だ。頭が痛い。

 こんな事なら巴さんと必殺技の名前を考えている方が良かった。

 そして中には物好きな者がいるようで、暁美さんのその冷たい目線で見られながら踏まれたいと世迷言を話しているやつも見かけた。気持ち悪。

 

 当の本人はと言うとその話を聞いた瞬間すごい表情をしていて、すぐに鹿目さんの後ろへ隠れてしまった。その一件以来暁美さんは鹿目さんにべったりだ。……鹿目さんを救うんじゃ無かったのか……? 逆に守られてどうするつもりなのだろう。

 

「そういえば……ここ最近呉さんの姿を見かけてないわね?」

「ああ、キリカなら今は僕の家でおばあちゃんに稽古をつけてもらっている」

 

 あの一件以来、織莉子を守る力を手に入れたいと話していたので僕のおばあちゃんを紹介した。今や、メキメキと力が増していっている。しかし、毎日キリカが宙を舞っている光景しか見ていないような気がして仕方がない。「あの……人……何でそんなに強いの……?」と生傷を作って震え声で僕に聞いてきたのを「諦めろ」と言ったのを覚えている。ちなみにその後、僕も宙を舞った。

 全く、あの人は怪我人にも容赦がない。

 

「前から思っていたのだけど、そのお祖母様って何者?」

「さあ? でも、昔、陰陽術を習ったことがあると言っていたな」

「……もう、ましろさんとその方だけでいいんじゃないかしら?」

「……僕もそう思うよ」

 

 しかし何度言ってもその重い腰を動かそうとはしないのがあの人だ。

 しかもここ最近忙しいらしく、僕たちの稽古の他に何か国から呼び出されているらしい。おばあちゃんと国がどんな繋がりがあるのか分からないし知りたくもない。どうせ、紛争地域に行って戦争でも止めているんだろう。

 

 ちなみに白女組は浅古さんと美国さんは正式に友達になったらしい。しかし関係は前と変わらず憎まれ口を浅古さんが叩き、それを美国さんがハイハイと受け流している状態らしい。

 どうやら美国さんは政治家を目指し始めたらしいが、あの人が国を動かす権利を持ったらとんでもないことになりそうだ。

 

「ねえ……その名前……なんだけど……」

 

 巴さんが頰を赤く染めて口を尖らして僕に言ってくる。どうしたのだろうか? 名前が何だって? 

 

「その……呉さんの事は名前で呼ぶのに、何で私は呼んでくれないのかなって」

 

 巴さんがもじもじとし始める。

 おっと、ついうっかり告白しそうになってしまった。「僕と君はもしかしたら前世で恋人同士だったのかもしれない、だからもう一度付き合おう」ととんでもなくヤバイ台詞を口走りそうになった。こんなことを言った日には彼女からは「は?」といわれ僕は三週間学校を休むに違いない。

 

 つまりそれほど巴さんが眩しかったと言うことだ。

 まずい、これはまずいぞ八千ましろ。

 これはどんな攻撃よりもまずい。一発でノックアウトしそうな程に強烈なジャブを巴さんは打ってきやがった。面白い……これは彼女の挑戦状だな? 僕は冷や汗をかきながら、どう攻撃を回避してカウンターを入れるか探る。

 

「私たちは……友達……でしょ?」

 

 グハッ!? 

 

 ダメだ……! ストレートを回避できなかった。僕の後ろにいたイメージの僕が巴さんのイメージに殴られて吐血する。

 こいつ……ヤバイッ! 強すぎる……! 

 なんて人だ……巴さんは……! この攻撃力はまるでおばあちゃんに殴られた時の痛みと似ている。

 僕は少し震えながらなんとか口を開いた。

 

「あ、ああ、マミさん」

 

 どうだ! 僕、会心のカウンターだ! これは避けられまい……! 

 

「……! あ、ありがとう! ましろくん!」

 

 ぐほあ!! 

 

 な、なんだ……と? カウンターに合わせて……カウンターを返された! ありえ……ない……この僕が! 

 この日、僕は初めて膝をつき、初めて敗北というものを経験した。……巴さんはとんでもない人だ。

 

 




アンケートを設置してます。
織莉子以外の外伝に手を出すか、もしくはこのままワルプルまで突っ走るかというものです。
ちなみに登場キャラが増えるだけです。

これでやらないの票が多くても、ましろ外伝で投稿するかもしれません。


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十七話 おばあちゃんだ!逃げろ!(しかしまわりこまれてしまった!)

 僕とキリカは合気道の時に着る道着を着たまま、畳の部屋で二人して正座していた。

 目の前から放たれるさっきに二人とも息を呑み、体の震えが止まらなくなる。なんでったてこの人はこんなに殺気を放っているんだ? 

 

 よく、分からない……。国から呼び出された先で何かあったのだろうか? この人を怒らせるなんて、国1つ消し飛ぶんじゃ? 

 

「……ねえましろ、なんで師匠はこんな殺気を?」

 

 キリカが涙目で僕に聞いてくる。僕だって泣きたい。なんで神は僕たちにこんな試練を与えたのだろうか。

 

「わ、分からない……」

 

 目の前には絶対的な強者のオーラを出す化け物。

 その姿を見た人間は敵であったら数秒で体が弾け飛んでいる。今までこの人のしごきに耐えられてきた僕たちが奇跡的なのだ。

 目の前にいた化け物はダンっと畳を踏みならした。

 

 真っ白な長めの髪を靡かせ、僕たちの前に立つ化け物。その容姿は20代前半を思わせるような美貌を持っている。みんな騙されるな、この人は優に80歳を超えているんだぞ。

 そう、僕のおばあちゃんこと八千しらよは人類史における最悪の絶望であり希望なのである。

 

「……組手……しようぜぇ…………二人がかりでいいから来いよぉ……」

 

 ブワッと嫌な汗が流れた。ニタァと笑い首をすごい角度に曲げるおばあちゃんはすごく怖かった。

 キリカも似たような反応でマジ泣き2秒前だ。

 というより……組手……だと? まずい、この組手が稽古として選ばれた時は決まっておばあちゃんの機嫌が悪い時だ。誰だ? この人の前で粗相をしたやつは! 

 

「あんのクソじじい……ちょっと私の容姿が幼いからって馬鹿にしくさって……お前より20は上じゃボケ。総理大臣とかいう席から転落させたろか」

 

 ダメだ総理大臣だった。国家権力のトップである彼には僕は何も言えない。というよりその場で殺されてないか逆に心配である。

 

「国家転覆でも図ったろか」

 

 やめていただきたい。おばあちゃんなら本当にやらかしそうなのでやめていただきたい。

 この人が国を牛耳ったら政治家を目指している美国さんが可哀想だ。絶対こき使われるに決まっている。

 

「まあいいや、実はこれから家を開けることになってね。そのせいで数週間は稽古がつけてやれないから組手って訳さ」

「ああ、師匠! お出かけするんですか!」

「やっ……ゲフンゲフン。気をつけて行ってきてね! おばあちゃん! 旅先でゆっくりしてきてね!」

「……お前らの魂胆が見え見えで逆に面白いよ」

 

 魂胆とは一体なんだろうか? 別に稽古をサボるわけじゃないぞ? 普段の稽古を少し軽くするだけだ。今のままじゃキツすぎていつ死ぬか分からないしね。

 というわけで、おばあちゃんの留守はすごく嬉し……悲しい! 

 

「というわけで、今ここで血反吐を吐かせてやろうと思ってねぇ。なーに私ゃすごい手加減するよ?」

 

 そうおばあちゃんが言った瞬間、キリカと僕は脱兎のごとく逃げ出す。これは仕方がない! 今日を生き残るためのちゃんとした手段だ! 決して、稽古が嫌だからではない! 今ここで捕まったら死より酷い目に遭わされること間違いなしなのだ! 

 

「……はあ…………に、が、す、かあああああああああああ!!!!」

 

 そうおばあちゃんが叫んだ時に僕たちの体が宙へ舞う。しまった! 畳を返された! 

 おばあちゃんが震脚で部屋中の畳を一斉に裏へ返す。これが八千家秘技【畳返し】だ。ちなみに地面でも同じことができるらしく、地面をひっくり返していたのを見たことがある。

 

 しかし、僕たちはこんな所で死ぬわけにはいかない! キリカと目線を合わせ、二人で連携しておばあちゃんに突撃して行った。

 

 ────

 

 数時間後、おばあちゃんの宣言通り血反吐を吐いて畳にひれ伏している僕とキリカの姿があった。僕はなんとか意識を保っているがキリカの方は完全に気絶して目を回している。

 ぐっ、体全体が凄く痛い。ちなみにキリカが学校を休んでいる理由はこの稽古が原因で授業を受けている体力がないのが原因である。

 大丈夫か三年生。受験するのではないのだろうか? まあその点は美国さんに勉強を習っていると言っていたから平気なのだろう。

 

「ケッ、もうちょっと持たないのかねぇ」

「……無理言わないでくださいよ……」

 

 僕も立っている体力がないので畳に横になっている。

 壁や天井に無数の傷が増えているのが見えて、今日も激しかったなと漠然と思った。

 

「……ましろ。お前が今から何をしようとしてるのか私ゃ想像つかねぇ。でもな、こんだけ私が鍛えてやってんだ。負けんなよ」

 

 むすっとした表情で僕に話しかけてくる。当たり前だろう、貴女の一人孫ですからね。そう簡単に死ねないってものですよ。

 そうだ、簡単には死ねない。美国さんが見た未来までどんな感じでたどり着くのか未だに分からないのだ。出来れば僕も易々と命を落としたりしたくない。

 

「ま、頑張れよ」

 

 そう言っておばあちゃんは僕の目の前から姿を一瞬で消した。

 ああ、久しぶりに見たなおばあちゃんの瞬間移動……。そういえば僕も出来るようになったんだっけ。結局あれは足と腰を使ってその場から消え去るように走り抜けるという技だったが。

 そして僕も眠るように気絶した。

 

 ────

 

「キリサキさん? 僕の知り合いには居ないが……変わった名前だな」

「いや、噂話だって」

 

 僕とキリカは気絶から復活して道場を片付けた後、用意してあった和風の飯を一緒に食べていた。彼女は今は内弟子という立ち位置で一緒に暮らしている。

 親からは了承を貰っているらしい。男とシェアハウスなんて許してくれたのが不思議だ。

 こうして、少し遅い昼飯を食べながら喋っていたらキリカが突然「キリサキさんって知ってる?」と話し始めた。

 

「いや、前にクラスメイトの連中が言ってたんだけどね。夜一人で人気のない場所を歩いていると、突然鈴の音が聞こえてきて、どこからともなくコートを着た女が名前を訪ねてきて、それに素直に答えると刃物でズタズタにされるっていう奴らしいよ」

「成る程、それで切り裂きさんと……」

 

 一体なんの話だと思えば怪談話か。いや、この場合都市伝説とでもいうのかな? 僕はオカルト系はあまり詳しくはないので怪談とかあまり知らない。口裂け女とか人面犬とかしか知らないのだ。

 

「ま、君じゃあ、その切り裂きさんって奴も一発でしょ」

「そういうキリカだって、着実に力をつけてきたじゃないか。追い抜かれそうでヒヤヒヤしている」

「……冗談言わないでよ」

 

 キリカは才能はあったらしく、技とかは足さばきはすぐに覚えた。僕から言わせればまだ筋力が足りない、純粋なパワーがあればなんとかなるものだ。

 そう思いながら食器を片付けて出かける準備をする。キリカも慌てて、出かける準備をし始めた。

 今日は少し大きな買い物をするためにホオズキ市にまで行く予定だ。

 ちなみにキリカは美国さんに可愛いペンダントをプレゼントしたいと張り切っていた。

 

「あれ? そういえば噂の出どころってホオズキだったような」

「…………ここ最近不思議体験ばっかりだからな。ばったり出くわすかもしれん」

「ははっ、だったら逆に切り裂いちゃおう!」

 

 こうして、ホオズキ市へ出発したのだった。

 




おばあちゃん登場回でした。
それとアンケートでやるの方が多かったのですずね☆マギカ編をやっていくことにしました。
かずみ☆マギカはやるにあたって登場人物が多くなりすぎるので、本編が終了した後外伝でボチボチしようかなと考えてます。


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十八話 ホオズキの魔法少女

「あれ〜? おっかしいなぁ……」

 

 僕は目の前を歩くキリカを見ながら頭を抱える。

 目当てのジュエリーショップを先にいこうと提案した彼女は意気揚々と僕の前を歩き、どんどん人気のない場所へと入り込んだのだ。

 まあ、途中で確認しなかった僕も悪いけど、途中で気づかないかな? 

 

「あはは……ごめん、迷子になっちゃったみたい」

 

 頭に手を添えながら苦笑いでこっちを見てくるキリカ。

 まあ、迷子になってしまったものは仕方がない。さっさと出口を見つけてここから脱出するだけだ。

 そんな事を思っていた時の事だった。

 

「! ましろ!」

「ああ……これは結界!」

 

 あたりが不可思議空間に包まれる。どうやら魔女の結界に迷いこんでしまったようだ。

 キリカは変身して戦闘態勢に入る。僕たちは走ってこの結界を作り出した魔女の元へ向かった。

 使い魔達を倒しながら一際大きな扉に近づく。間違いない、あの先に魔女がいるのだろう。

 僕たちが勢いよく中に入ると魔法少女が魔女と戦っていた。どうやら先客が居たようだ。

 しかし彼女は苦戦しているらしく、切っても切っても再生してくる腕に辟易しているようだった。

 

「クプオオオオオオ!!」

「そ、そんな……再生する前に一撃で倒さないとダメなんだ……」

 

 その声を聞いたキリカが駆け出す。両手の爪を高速で繰り出し、次々と魔女の触手を切り刻む。

 

「あはっ! 修行の成果出てるよ! これ!」

 

 僕から見てもキリカの動きは前とは違う。キリカが持っている魔法を行使してなくても、使っている時と同程度の速度が出ていると感じた。いや、本当に才能の塊だなおい。おばあちゃん曰く僕には才能がないが努力する力はあると言われたが、やはり天性の才能というものは素直に羨ましい。

 

 いいなぁ、才能の一部僕にくれないかなぁ? ちなみに、ラノベを読み始めてから僕はかなり強くなったと自負している。その前の僕はへっぽこ中のへっぽこだ。SFラノベ凄い。これからも崇拝する。

 

「って! ちょっとちょっと! こいついきなりパワーアップし始めたんだけど!? ましろー!」

「ああ、今行く」

 

 魔女の方もおとなしく狩られる気は毛頭ないのか、触手のようなものを繰り出すスピードが速くなった。キリカの魔法でも抑えられないらしいので僕が出張るしかないようだ

 

「え!? 危ないです! 下がってください!」

 

 短めのツインテールの魔法少女が僕に制止をかけてくる。それを見たキリカが苦笑いしたような気がした。心配してくれているのは有難い、魔法少女の鏡だろう。しかし、僕は一般人ながら魔女とも対等に渡り合える力がある。

 

「ありがとう」

 

 僕は彼女に微笑んで制止も聞かずに前に出た。

 

 さて、魔女の名前は何にしようかな。ドクロのような顔つきが特徴の魔女か……よしこの子の名前はスケーレトロだ。少し安直すぎるがな。

 

 スケーレトロが僕に向かって触手を飛ばしてくる。僕はそれを避けて掴む。

 そして、その触手を引っ張って本体をこっちに引き寄せる。

 

「少し痛むと思うが我慢してくれ」

 

 僕はそのままドクロの部分を殴り抜いた。スケーレトロは殴られた部分から衝撃波が体内の中に浸透していってあらゆるところの触手が弾け飛ぶ。

 さっき再生する前に一撃で倒せばいいと言っていたので、それに習っただけだ。

 スケーレトロはそのまま消滅してグリーフシードを落とした。

 

「よく頑張ったね。おやすみ」

 

 僕はそのグリーフシードを拾い上げて言ったのだった。

 

 ──ー

 

「助けてくれてありがとう!」

 

 ツインテールの魔法少女が深々と頭を下げる。この子の名前は穂香佳奈美というらしい。さっき自分で自己紹介をしていた。

 

「でさ……ちょっと聞きたいんだけど、そのキリカちゃんは別として、なんでましろくんはそんなに強いの……?」

 

 なぜ強いか……か……。まあ、おばあちゃんの修行の成果もあるが、僕の場合大部分はSFラノベである。おばあちゃんの修行は体作りとして機能しているに違いない。

 と言ってもラノベを読んで強くなったとか言っても信じてもらえなさそうなので、無難におばあちゃんに鍛えられたからと答えておいた。

 そしてら何故か穂香さんは目をキラキラと輝かせ、おばあちゃんという単語に食いついた。

 

「実は私も、おばあちゃんの為に魔法少女になったんだ」

 

 えへへと笑う穂香さん。

 その笑顔はとても眩しかった。そうか、おばあちゃんの為か。彼女はなんて立派なのだろうか。誰かの為にこの世の地獄に足を踏み入れる。キリカも似たような願いからかウンウンとうなづいていた。

 

「それはとても立派だな……さて、そこにいるのは分かっている。そろそろ出てきたらどうだ?」

 

 さっきから柱の影からなにかの気配が感じられた。どうやらまだ魔法少女が居たようだ。

 僕がそう言うと二人ともびっくりして、僕の向けていた視線を追った。

 すっと無表情で出てきた魔法少女。白く長い髪を後ろで束ねている少女だった。……どことなく僕のおばあちゃんに似ている……。

 

「……」

「君、名前は?」

 

 僕が名前を聞くとふいっと顔を逸らし、その場から去っていく少女。

 ……何か気に食わないことでもあったのだろうか? あ、もしかしたら魔女を倒されてグリーフシードを奪われたことに腹を立てているのかもしれない。

 前に佐倉さんが魔法少女の中には利己的な奴もいると話していたが、その類の魔法少女なのだろう。

 僕が後ろを振り返ると、キリカが青白い顔になっていた。

 

「めちゃくちゃ師匠に似てた……怖……」

 

 どうやらキリカはおばあちゃんにトラウマを持ってしまったらしい。まあ無理もない。僕も怖い。




短い上に遅くなってすみません。
ポケモンやってました。お詫びにましろくんのイラストでも置いときます。

普通

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眼鏡あり

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十九話 キリサキさん

 あの後日が暗くなり始めてからまたもやホオズキに僕は足を踏み入れた。

 買い物は無事に済ませ、キリカは美国さんにお目当てのペンダントをプレゼントしに行った。正直言ってハート型のペンダントはどうかと思う。可愛いけど美国さんに果たして合うのだろうか? 

 

 まあそんなことはどうでもいい。何故僕がホオズキ市にもう一回来たかと言うと、あの白い髪の魔法少女が少し気がかりだったからだ。僕が初めて会った時に感じたあの冷えたような目。とても印象に残っている。

 いや、惚れたとかそんなんじゃないよ? 全然そんな事思ってませんけど? ただちょっと気になるなーって思っただけで、僕にはちゃんと好きな人もいるし…………あれ? 居たっけ? 僕、好きな人……。

 

 少し頭をひねって考えていると、少し離れた場所から声が聞こえてきた。

 

「誰!? 誰かいるの!?」

 

 フロイラインの声が聞こえる。その切羽詰まったような口調から僕はただ事ではないと判断して、急いで声のする方へ駆け出す。

 そして見えてきた光景は魔法少女と思われる子にあの白い髪の子が剣を突き刺そうとしていた場面だった。

 僕は間一髪で、その剣の刃を指でつまむ。

 

「!?」

「えっ!?」

「よお、また会ったな」

 

 白い髪の魔法少女は急いで僕の元から離れ、そして同時に戦闘態勢に入った。それを見て、僕も拳を握り構える。

 しかし、こうやって対峙して分かるものがある。この子……かなりの実力だ。そんじょそこらの魔法少女よりかなり強いだろう。これは僕も気を引き締めないと危ないな。

 

 取り敢えず、この魔法少女の事をヴァイスと呼称することにする。

 僕はヴァイスに向かって跳躍して、まずは様子見の拳を振り抜く。避けない!? ヴァイスは僕の拳が当たると同時に、姿を揺らめいてその場から消えた。

 

「分身!?」

「遅い」

 

 後ろ! ヴァイスは僕に向かって剣を振り落とす。それを見て僕はその刃に拳をコークスクリューの要領で回転させ突き出した。

 刃と拳が接触するときに、拳を回したのでスルリと刃が横へ逸らされる。そのまま僕は殴ったが、ヴァイスに間一髪で避けられた。

 

 そのまま僕たちは後ろへ跳躍してお互いに距離を取る。

 まさか避けられるとは……それに陽炎のように消えた分身……あれも厄介だな。

 

「しかし……分からんな、一体何故こんな事をする」

「理由……?」

 

 ちらりと僕の後ろにいる魔法少女へ目を向け、そうして冷たく言い放つヴァイス。

 

「そんなもの、知らない方がいいわ」

 

 そう言って、ヴァイスは背を向けて去っていった。

 僕はその姿を見て、戦闘態勢を解く。

 知らない方がいい……か。魔法少女を殺す理由、それは僕の思っている通りの事だったら、僕は彼女を止めなければならない。

 

「あ、あの……」

「ん?」

 

 おっと、彼女を少し放置してしまっていた。考えすぎて周りが見えなくなるのは反省すべき点だな。今度から気をつけよう。

 

「あの……なんていったらいいのかしら……まずは、助けてくれてありがとうございます……で、貴方は一体何者ですか?」

「む……こっちこそなんと言えばいいのやら」

 

 魔法少女の協力者? いや、この事自体は暁美さんは知らない。完全に僕の独断で魔法少女のいざこざに足を踏み入れている。

 そうだな、側から見れば命知らずのクレイジー野郎と言ったところか。

 と言っても自己紹介でいきなり「命知らずのクレイジー野郎です」なんて言っても彼女はポカンとするだけだ。

 ともかく、ここは当たり障りのない事を言っておこう。

 

「通りすがりのお節介野郎さ」

「……お節介……ですか。私が聞きたかったのはなんで生身で魔法少女と渡り合えているのか、だったのですけど……まあ良いでしょう。本当にありがとうございます、この借りはいつか返しますね」

「ああ、その方が後腐れもないだろう。じゃあな」

「あ、待って! 貴方、名前は?」

 

 ここで「名乗る程の者ではない」と答えたら彼女はどんな反応をするのだろうか。いいよねこのセリフ。男のロマンというか中二心をくすぐられるというか。……しかし、このセリフは僕のキャラにあっていないという事が欠点だ。それに、借りを返すと言ってくれたのだ、その恩恵をありがたく頂戴しよう。僕がピンチな時は助けてくれ。

 

「八千ましろ、以後お見知り置きを。フロイライン」

「フロ……? まあいいわ、よろしくお願いします。私の名前は詩音千里です」

 

 詩音さんの名前を聞いて僕はその場から離れる。

 まあ今後会うかどうかも分からないが、名前は重要だろう。

 さて、ここ当分の行動の目的がはっきりとしたな……。この街とはなんの縁もゆかりもないが、君のその冷たい目がどうしても気になって仕方がない。首を突っ込まさせてもらうぞ、ヴァイス。

 

 ──ー

 

 急に私を助けて何処かへ去っていったあの男……。八千ましろ。

 そう名前を言い残して私の前から姿を消した。私はその後ろ姿を見ていることしか出来なかったと思う。

 まさか、生身であれだけの魔法少女と渡りあえる事が出来る人なんているとは思わなかった。

 私が殺されそうになった事実を差し置いて、未だ現実ではないように思えて仕方がなかった。

 

「チサト!」

「あ、アリサ」

 

 アリサの切羽詰まった様子の声で一気に現実に引き戻されたような気がする。

 そうだ、急に通信を切ってしまったのでさぞかし心配しているだろう。

 

「どうしたのよ! いきなり黙っちゃうなんて!」

「ごめんなさい、それよりもキリサキさんの正体が分かったわ。みんなを集めて」

「! 分かった」

 

 取り敢えず、彼のことは一旦置いておいてみんなにキリサキさんのことについて話さなければならない。

 これ以上魔法少女によって犠牲者が出ないように……。

 

 あの後みんなが集まり、キュウべぇがおもむろに現れてキリサキさんについて喋っていった。

 キリサキさんという噂話の正体は魔法少女であり、名前は天乃鈴音だという。その名前を聞いた途端、マツリが酷く狼狽した。

 どうやらクラスメイトらしく、ちょっと前に転校してきたと話していた。

 

 キュウべぇもあの子に気をつけるように言ってれた。そう端的にいうと彼女は暗殺者なのだ。そして私たちの天敵でもある。

 

「キュウべぇ」

「なんだい?」

「あの……彼の事なんだけど」

「…………もしかして八千ましろの事かい?」

 

 私はみんなに八千ましろの事を話した。あのスズネという少女に生身で互角に渡り合え、とんでもない力を持った彼のことを。

 みんなは最初は半信半疑だったけど、私とキュウべぇが嘘を吐く理由もないとすんなり信じてくれた。

 

「だったら、その八千ましろさんという人を仲間に引き込む事が出来たら」

「はい、あのスズネという魔法少女に対抗できるかもしれません」

 

 マツリも概ね同意のようで、アリサは難しい顔をしながらも渋々了承してくれた。

 

 とにかく、私たちの当分の目標は八千ましろを仲間にすることに決まった。




ましろくんは魔法少女に(戦力として)モテモテです


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二十話 無自覚というのは怖いものである

「貴方は面倒ごとを拾ってくる才能があるわね」

「はい、面目次第もございません」

 

 僕は今、絶賛正座中だ。何故かって? そりゃあ分かるだろう? 僕がホオズキの魔法少女と接触したと暁美さんに伝えておこうと思って、今噂になっているキリサキさんの事をついでに話したらこう言われたのだ。

 

 それになんか雰囲気も刺々しいので自然と正座になった。

 いやあ、こういう時は男は女の人に敵わないな、本当にごめんなさい。

 

「……まあいいわ、ましろさんが裏で何をやっていようと私の目的はまどかを助ける事だけだもの」

 

 ここ最近その鹿目さんに守ってもらっている人が何を言っているんだ、という心の声は胸の内に秘めておこう、今ここでややこしい事を言ってめんどくさい事になるのはごめんである。

 

「何か失礼な事を考えていないかしら?」

「いえ、ただ、どの口が言ってんのかなぁって思って」

「いい度胸ね」

 

 おっとしまった、僕の口は正直者だったらしく、余計な事を喋ってしまったー。

 いや、少し足が痺れてきてね。さっさとこの状況を脱出したいわけですよ。

 しかも、僕が正座している場所、ここが問題だ。

 教室ですよ? 教室。さっきからクラスメイトの視線が痛いわけ。

 

 おいコラ美樹さん、さっきから笑いを堪えているのバレバレだからな? 

 それに比べて、鹿目さんはいい人だ、さっきからこの目の前の紫の人を止めようと「ほ、ほむらちゃん……」と言って制止しようとしている。優しい。

 

 鹿目さんはこんなに優しくて大丈夫なのだろうか? どこぞの奇怪生物に騙されてはいないだろうか? 例えば僕が宇宙人だとかホラを吐かれては居ないだろうか? 心配である。

 

「まあ、今日の所は不問にしといてあげる。この後まどかと遊びに行く予定があるのよ」

「そうか、実に羨ましい。鹿目さん、今度は僕と遊びに行こう」

「ふえっ///!?」

「貴方には巴マミがいるでしょう!!」

 

 僕が冗談で言ったら鹿目さんは顔を赤らめた、かわいい。

 というか暁美さん、首を締めるのはやめてくれ。この世には窒息死というものがあってだな。どんなに体を鍛えていてもそればっかりはどうしようもないんだ。苦しい。

 

ふぁみしぇんふぁふぁんふぇいふぁいはほ(マミさんは関係ないだろ)

「知ってるわよ、貴方と巴さんはお似合いのカップルだと学校中で噂されているの」

 

 誰だそんな噂流しやがった奴。

 中二病同士気が合うだろうってか? やかましいわ。マミさんは必殺技とかつけちゃう系の中二病であって、僕は世界構築系の中二病であるため一緒にしないで頂きたい。

 

 それにマミさんが可哀想だろ、僕みたいな奴とカップルだと言われるのは。

 それにもしかしたら、どこかで会話を聞いている可能性もあるのだからそんな事を言うのはやめて差し上げろ。

 そして僕の首から手を離せ。

 

「まあ、ホオズキの魔法少女の問題は貴方自身で解決する事ね」

「おいおい、普段協力しているのだから、協力してくれてもいいじゃないか」

「貴方が持ち込んだ面倒ごとの方が多いじゃない」

 

 首から手を離しながら、冷たい目線で僕に言う。

 よく考えてみれば美国さんの件も僕が持ち込んだような物だった。何も言い返せない。

 まあ仕方はないか。当初の予定どうり、この問題は僕個人で片付ける事としよう。

 

「了解した、暁美さんはデートを楽しむといい。じゃあな」

「でっ!? ……ええ、また何かあったら連絡するわ」

 

 そして暁美さんと別れ、廊下を一人で歩く。

 さて、これからどうしようか悩むところではあるな。

 

「あ、あの! ましろくん!」

「? 鹿目さん?」

 

 鹿目さんが息を切らしながら僕の名前を言う。どうやら走って追いかけてきたようだが、一体全体どうしたと言うのだろうか? 

 

「あの……その……わ、私にも何か、お手伝い出来ることってないのかなって……」

 

 手伝い……か。正直言って鹿目さんにしてもらうことなどは、ほぼほぼない。強いて言うのなら、インキュベーターの勧誘から逃れ続けてくれたまえ、と言うしかないだろう。

 しかし、目の前の鹿目さんはおどおどしながらも、決心したような目線で僕を見る。

 

「いつも……ましろくんやほむらちゃんの助けられてばかりだから……私にも……私も二人のために何か出来ないかなって思って……」

「その考えは少し危険だな」

「え?」

 

 鹿目さんは臆病ながらも芯が強くて優しい。それはこの短い付き合いでも分かっている。この子は魔法少女になるべき人材なのだろう。しかし、その想いが世界を破滅に導くことになってしまうと彼女が知ってしまったら? 

 

「その言い方では、誰かの役に立ちたいから、自分自身を使ってくれと言っているようにも聞こえる」

「……で、でも、私ももし、魔法少女になって二人の力になれたら」

「魔法少女になるという事がどんな事か、暁美さんから聞いた筈だろう?」

「……」

 

 コクリと伏せ目がちにうなづく鹿目さん。

 魔法少女になるという事は、肉体自身を殺し、魂をソウルジェムという器に移し替える事だ。それはたった1つの願いで、永遠の苦しみを味わう事になる。確実に割に合わない事になる。

 それは誰かを助けたい然り、自分自身の欲望を叶えたい然り、呪いのような願いでさえも、たどり着く運命は同じ場所である。

 

「鹿目さんの気持ちはとても嬉しい。だが僕はこれ以上、女の子が苦しむ姿を見たくないんだ」

「……」

「それに、戦いだけでは無く、君に出来る事は山程ある」

「……え?」

「例えば……鹿目さんが暁美さんの隣にずっと居てやる事とかな」

「隣に?」

「ああ、それだけで暁美さんはずっと救われるだろうさ」

 

 事実、鹿目さんの隣にいる暁美さんはいつもの仏頂面ではなく、朗らかな年相応の少女のような顔をしている。

 鹿目さんが隣にいる、それだけで彼女はとても幸せなのだろう。そして僕はそんな二人を眺めて、日々ほっこりする。WIN-WINという奴だ。

 

 そう、先ほどの馬鹿話を繰り広げるだけでも良い。ああいうのが大切なんだ。

 鹿目さん自身も何かシックリ来たようで、何度も首を縦に振っていた。

 

「まあ、ロクな事は言えなかったかもしれないが、そういう事だ。僕達を手助けすると思って、暁美さんの側に居てやってくれ」

「……ありがとうましろくん、うん! 分かった!」

 

 にっこりと笑う鹿目さん。その笑顔はすごく眩しくて、暁美さんが鹿目さんを何が何でも絶対に守りたいという気持ちが少し分かったような気がした。

 恐らく、暁美さんはこの笑顔に何度も救われたんだろうな。

 

「じゃあ、これからみんなを誘ってほむらちゃんと遊びに行くね!」

「ああ、是非そうして……ん? みんな?」

「うん! ましろくんも一緒に来る?」

「いや、お誘いは嬉しいが、この後用事が……。で、暁美さんと二人で出掛けるんじゃ?」

「最初はそういう話だったんだけど、やっぱりみんな一緒の方が楽しいと思って、さやかちゃんと仁美ちゃんにはもう声をかけてあるんだ」

 

 おいたわしや暁美さん……。きっと……二人で出かけられると思ってウキウキだったんだろうな……。何故だろう、「何でこんな事になってしまったのよ」と言って頭を抱えて心の中で泣いている暁美さんの姿が見えるような気がするよ。

 でも……鹿目さんのこの笑顔には敵わないわけで……。

 

「どうしたのましろくん?」

 

 同情するよ。あとで二人で遊べるように計らってあげよう。ポケットマネーで遊園地のチケット二人分を買ってあげることもやぶさかでない。

 

 僕は暁美さんのソウルジェムが濁らないか心配ではあったが、それを無視してホオズキに向かうための準備をすべく、家に帰ったのであった。

 



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二十一話 探索に行こう

 僕は自室で、一人で着替えていた。

 僕も前々から少し思っていたことがあった、魔法少女は専用の衣装を纏って戦っているのに、僕と来たら私服か見滝原の制服でずっと戦っている事に気付いたのだ。それに、前、キリカに制服を破られてからは予備の制服でなんとかやりくりしていた。

 制服だけでもかなりお金がかかるので、これはなんとかしないといけないと思ったのだ。

 

 そこで思いついたのが僕専用の戦闘衣。

 

 道着でも良いと思ったが、やはりここは僕好みのカッコいい奴にしたいと思ったのだ。

 破れた制服は、そのまま白いマントのように改造して上から羽織り、下には前に服屋で見つけた銀英伝の銀河帝国サイドの軍服のような服がなぜか置いてあったので衝動買いをしてしまったのを着る。

 

 ふむ、どこからどう見てもあのラインハルトのような格好になっている。カッコいい。

 戦う時はマントは邪魔になるだろうがそんな事は気にしてられない、だってあったほうがカッコいいじゃん。

 

 姿鏡の前に立ち、手には白い手袋をはめる。

 やばい、ニヤニヤしてしまう。だって憧れのラインハルトに姿だけでも近づけたのだ、こんなの嬉しくないわけがない。

 参ったな、今度、自由惑星同盟のほうの軍服もなんとかしてみるか。

 

 こうして僕が姿鏡の前でクルクルしてた時だった。

 

「おーいましろー、今日もホオズキに……うわ」

 

 なぜこの人はノックもしないで僕の部屋に入ってくるのだろうか? 幸せな気持ちから一気に絶望へと叩き落とされた気分だ、ソウルジェムが濁りそうになる。いや、持ってませんけど。

 

 とにもかくにも、おばあちゃんの方ならまだ救いはあったかもしれない。何だかんだ言ったって家族なんだ、家族の暖かいエピソードに加えられ、照れながらやめてくれよって言えるかもしれない。

 

 しかし、今、僕の目の前に立っている女は何だ? 家族でも親戚でもない。内弟子という繋がりがなかったらただの赤の他人である。

 死にたい。ものすっごく死にたい。

 

 ここで僕が取れる行動はかなり絞られてくる。

 

 1、「お、おい! 何勝手に入ってんだよ!」と慌てふためきながら泣く。

 2、「どうかしたか?」と、クールガイに振舞いながら泣く。

 3、「勝手に入ってきて悪い子だな」と、乙女ゲームに出てくるキャラのように振舞いながら泣く。

 4、この場で重大な犯罪を犯し、何事もなかったかのようにリセットして、刑務所で泣く。

 

 だめだ、どれを取っても泣いてしまう。

 それほど心が傷ついた。どんな攻撃よりこれが一番キツイだろう……。

 

「ま、まあ、結構似合ってるじゃん」

「……なに!? 本当か!」

 

 良かった! 似合ってないからうわって言われたのかと思った! 

 似合っているのなら全くもって問題ない! 

 

「よし! 今日もホオズキに行くからな! 飯は大目に作ってあるから友達でも誘って食ってくれ! じゃあな!」

 

 こうして僕は自室を飛び出しホオズキへ向かう。

 気分はすごく良くなったので、これならなんでも出来そうだ。

 

「……あのままの格好で行っちゃった……補導されなきゃいいけど……よし! 知らない! 織莉子誘ってご飯食べよ!」

 

 ────

 

 さて、電車を乗り継いでホオズキまでやってきたわけだが、なんか僕が電車に乗った瞬間乗客がざわめいた。

 まあ、大体の原因は分かっている。このような格好をして電車に乗ったからだろう。

 ……流石に電車に乗る時は脱いでおくべきだった。あの時は何故か似合っていると言われたお陰で謎のテンションになりこの格好でここまで来てしまったのだ。

 冷静にならなくてもすごく恥ずかしい。

 

 取り敢えず、マントだけは脱いでおく。

 多分補導される確率が上がるだけでリスクしかなかった。なんで僕はアレでイケるだなんて思ってしまったのだろうか? 数時間前に戻って僕をボコボコにしたい。

 

「ま、ましろくん?」

「え? ああ、穂香さんか……」

 

 急に声をかけられたのでビックリした。

 穂香さんはどうやら魔法少女姿になって街のパトロールをしているようだ。

 

「こんな時間に大変だな」

「いやいや〜、ましろくんも多分同じでしょ?」

「いや、僕はちょっとした人探しの途中でな」

「人探し?」

 

 僕はあの日あった少女のことを話す。

 穂香さんも会っているので、あの後あのヴァイスに出会ったかどうかを聞いておいた。

 しかし、あれ以来姿も見ていないようで、ここ最近はホオズキでは見かけてないと話していた。

 ふむ、ほかの街に行ったのか……それとも潜伏しているのか……。

 

「まあ、いいか。穂香さん、パトロールを手伝おう」

「え!? 悪いよそんな……」

「いいさ、二人だったら何かと勝手が効くし、お互い助けられるだろ?」

「うーん……だったらお願いしちゃおっかな?」

「ああ、お任せあれ」

 

 僕は胸に手を置いてニッコリと微笑む。

 穂香さんの方も太陽のような眩しい笑顔を返してくれた。

 さて……ここから長い夜の始まりだ。魔女を探す傍、ヴァイスの居場所を突き止める! 

 

「でも……なんでましろくんはそんな格好を?」

「……聞かないでくれ……」

 

 黒歴史が1つ増えた瞬間であった。

 




遅くなってすみません。
アーマードコアの新作匂わせに嬉しすぎて涙を流して遅れました。

誤字とかありましたら教えてくれると幸いです。



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二十二話 記憶の底にあるものは

 僕の黒歴史が1つ増えた所で、穂香さんとパトロールを開始したのだが……。

 

「いくらなんでも早いな……」

 

 僕たちは魔女結界に取り込まれていた。僕たちが街を探索しようとしたその瞬間、タイミングを見計らっていたかのように結界が出現して、僕たちを取り込んだ。

 あたりはファンシーな布みたいなものに取り囲まれている。

 

「穂香さん、無事か?」

「う、うん……なんとか……」

 

 周りから一ツ目のハットをかぶったコウモリのような形をした使い魔達が襲ってくる。

 僕たちはお互い背中をくっつけて、背後を守った。とにかく、ここの主を早く見つけねばならん。

 使い魔達が襲ってくるので、申し訳ない気持ちになりながらも迎撃する。

 本来ならば、いくら魔女とて殴りたくはないのだが、ここは人命が優先だ。

 

「はああ!!」

 

 ドンと靴で地面を鳴らす音がした瞬間、僕は拳を突き出す。今使ったのは震脚×正拳突きで、僕の好きなSFラノベの主人公が使っていた技である。

 震脚の方で体を固定して正拳突きの威力を増大させたシンプルな技ではあるが、それ故に強力だった。

 あたり一帯の使い魔達が吹き飛んでいく。初めて使った技ではあるがかなりうまく行ったな。

 今なら奥義の方も使えそうである。

 

「す、すご……」

 

 穂香さんにありえないという目で見られたが、僕はそれを無視して最深部へと進んでいった。

 

「……誰かいるな……」

「魔法少女?」

「だろうな」

 

 奥から戦っている音が聞こえる。魔法少女同士の喧嘩ではなく、普通に魔女と戦っているようだった。

 僕は少し安堵して奥へと入る。そこには前に会った詩音さんともう一人の方は名前は知らないが黄色い衣装に身を包んでいる魔法少女が魔女と戦っていた。

 

「先輩!」

「ええ! チサト!」

 

 二人は連携して魔女へ立ち向かっていた。詩音さんが二丁拳銃で弾幕を張り、そこの間を縫って黄色い魔法少女が肉薄して行く。

 しかし、この完璧なコンビネーションでも魔女は打ち砕けずに、それどころか二人を圧倒していた。

 

「加勢するよ!」

 

 穂香さんも双剣を持って魔女へ肉薄する。彼女は自身のスピードを上げる能力の持ち主でキリカと似たような魔法を使っていた。

 そのスピードに圧倒されてかは知らないが魔女の動きが鈍くなったような気がする。

 僕は三人の邪魔をしないように彼女達の背後から迫ってくる使い魔達を迎撃していった。

 

「貴方は!?」

「話は後でしましょう!」

「三人とも! 後ろは僕に任せて魔女を!」

「オッケー!」

「八千さん!? ……はい! 分かりました!」

「一般人まで……ってチサトが前に言っていた人!?」

 

 向かってくる使い魔を裏拳で弾き飛ばして行く、少し遠い使い魔には蹴りを食らわした。

 ちなみに僕が魔女と戦わないのは、魔法少女にグリーフシードが行きやすいようにするためである。

 僕が倒した魔女から取ったグリーフシードを彼女達に渡しても、それは貴方の戦果だからと言って受け取らない人もいる。恐らく詩音さんもその類の人だろう。なんだか真面目そうだし。

 

「あれだけの数の使い魔を一人で……」

「先輩! 前!」

 

 僕の方に気をとられていた魔法少女が魔女に襲われる。まずいな……このままでは彼女がやられてしまう。

 咄嗟に僕は体を反転させて、空中を蹴る。そして、彼女へと追いつき体を手で押しやった。

 取り敢えず、先輩と呼ばれていた彼女は詩音さんの元へ弾いたが、これから僕はどうしようか。

 

 後ろには攻撃体制が完了した魔女。それに僕は背中から落ちていっている状況だ。あれ? これ結構まずいんじゃ……。

 

 そう思った瞬間、魔女は箱のようなものから黒い水のようなものを出し、それに僕は飲み込まれてしまったのだった。

 

 ──────

 

 これは……一体なんだ? 

 周りは暗いし、目のようなものが僕を見つめている。なんだ? これは……この感覚は……。

 体の奥から湧き出るこの寒気。まるで心の中……いや、記憶の中を覗かれているみたいな感覚だ。

 失敗した……この魔女……厄介なことに精神系の攻撃をしてくるのかもしれない。

 

 これまで精神系にダメージを及ぼしてきた敵とは戦ったことがない、僕にとっては未知の領域である。

 

「ぐっ!」

 

 頭が……割れるように痛いっ! コイツは……この子は……僕の何を……一体何を見ているんだ!? いや……見ていない? 心の中に入ってくる……! 

 

 ──────

 

「君はいっつもそうだね……誰かを助けては自分が怪我をしてしまう……もっと自分を大切にすればいいのに」

「まっ! それだけが私の取り柄だし? それに……魔法少女っぽく人助けってのも悪くないよ?」

「ワケがわからないよ」

 

 この記憶……なんだ? 僕は一体何を見ているんだ? 

 僕が見ているもの……そこにはインキュベーターと名前も知らない魔法少女の姿があった。

 場所は……見ている雰囲気からすると見滝原のようではあるが、僕はこの魔法少女……いや女の子を知らない。

 でも……見ていると、なんだか落ち着くような気がした。

 

 いつのまにか頭痛も治ってて、体も軽かった……って!? 浮いてる!? 心なしか僕の体も透けているように見える。

 なんだ? 僕は死んでしまったのか? だとすると……案外あっさりしていたな……。

 まあ……こんなものか……僕の最後なんて。

 

「──ー! 無茶だ! 一旦引くべきだ!」

「でも! この子が!」

「……諦めるしか……」

「私はそんなの絶対に嫌! ここで引いたら魔法少女っぽくないもん! ……今の私がこの魔女に勝てないとするのなら……己の限界を突破するだけだよ!」

 

 顔をあげると結構ピンチの状況に陥っていた。

 これまた名前も知らない魔法少女が倒れててそれを彼女が助けようとしている。

 インキュベーターは名前を叫んでいたが、それでも僕の耳には届きはしなかった。

 

 というより、おかしいな? インキュベーターには感情が無いはずだが、どうもあのインキュベーターは冷や汗をかいているようにも見えて、先ほども彼女のことを心配していた。

 

「行くよ! ファイエル!」

 

 彼女の掛け声と同時に周りにあった瓦礫やらが見ることさえ覚束ない魔女へ飛んで行く。

 その光景を見て僕はクスリと笑った。彼女も銀英伝が好きなのかな? 銀河帝国公用語を使っている時点で間違いは無いだろう。

 

 どうやら先ほどの攻撃で魔女は消滅してグリーフシードを落としたらしい。

 彼女はそれを拾い上げ、慈しみながら「おやすみ」と零していた。

 僕はその光景を何故か懐かしいと感じながら見ていた。

 

「どうなることかとヒヤヒヤしたよ」

「へへん! さーて! さっきのフロイラインは大丈夫かなっと!」

「待って、それより先にソウルジェムの穢れを取り除いたほうがいいんじゃない?」

「じゃあ、あの子と半分こしたらいいよね!」

「……全く……グリーフシードは半分こは出来ないよ、精々二人分の穢れは吸い込めるかもね」

 

 ……なんだか彼女は僕と似ているな、性格は真反対らしいが。

 そう思って彼女たちをぼんやりと眺めていたら、唐突に彼女が僕の方へ振り向いた。

 なんだ? まるで僕の事が見えているかのような……。

 

「思い出した?」

 

 え? 

 

「……そっか……まだダメか……。まあいいや! それより、フロイライン達が帰りを待っているよ! 送っていってあげる!」

 

 彼女はそう言って僕とは正反対の方へ走り出した。

 ……待ってくれ!? 送って行くって! 何処へ!? というより、君の名前は!? 

 

 そう僕が口を開けると彼女は振り向いて僕の方を向いてニッコリと笑った。

 そして、「ないしょ!」とイタズラっぽく笑った後、その姿は霧散して消えた。

 その光景に呆然としていると、突如強い光が差し込んで来て僕を飲み込んでいく。

 

 次に目を覚ましたのは、心配そうな顔で僕を見つめる穂香さんと詩音さんと先輩と呼ばれた人がいるのだった。

 



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二十三話 何かドス黒いもの

 どうやら僕はあのまま数分間目を覚まさなかったらしい。

 なんとか詩音さんが自身の魔法である、魔法の解除という効果を使って現実世界に引き戻された。

 どうやら魔女は消滅しており、詩音さんの手にはグリーフシードが収まっていた。

 しかし……僕が見たあの光景は一体? 

 

 どこかの魔法少女に感情を持っていると思われしインキュベーター……。それに僕はあの魔法少女と一回会っている? 思い出さない? とか言われても完全に初対面だった訳ではあるし、僕は彼女のことは何一つ一切知らないのだ。

 しかし……懐かしい雰囲気だけは間違いはなかった。

 

 僕はこれからどうすれば良いのだろうか。あんな光景を見せられて僕はこの先……。

 

「ちょっと! ましろくんどうしたの!? さっきからぼーっとして! あ! もしかしてさっきの……」

 

 そう叫びながら僕の肩を盛大に揺らす穂香さん。

 やめてくれー。気持ち悪くなってしまう。

 まあ、ともかく呆けてる場合ではないな。

 

 僕はとにかく立ち上がって、服に付いた埃とかを払った。

 

「すまない、迷惑をかけてしまったようだね」

「い、いえ……とにかく八千さんが無事で良かったです」

 

 ……詩音さん……なんて優しいんだ……。これまで出会ってきた魔法少女ときたら、喧嘩が大好きバイオレンス少女、気が強くて僕を見ると度々詰ってくる少女、協力関係にあるけどあたりがキツイ少女……ここまで優しいのは久しぶりだな……。

 

「ありがとう」

「大丈夫そうで何よりです」

「その……ごめんなさい」

 

 詩音さんの後ろにいた魔法少女が僕に頭を下げてくる。……これはまた巴さんに負けず劣らずの素晴らしい大きさを持っていらっしゃる人だ……いや、どこととは言わないよ? 絶対に言わないからね? 

 

「いや、気にすることはない。こういうのには慣れているからね」

「そう……ですか……」

 

 悲痛な面持ちを浮かべる彼女は奏遥香と名乗った。どうも責任感が強そうだが、本当に気にすることはない。精神攻撃とも思ったがどうやらあの魔女は何かの記憶を見せる類の魔女だと思った。

 何か最悪の過去を持つ人間ならフラッシュバックで絶望してしまうかもしれないが、あいにく僕には謎の記憶を見せられただけである。

 

 まあそれもそれで気にはなってしまうが、追い追い分かっていくと思う。

 それまで気にしないでおこう。

 

「あの、八千さん。少しお話が」

 

 詩音さんが真剣な表情で僕を見てくる。

 なんだろうと思い、穂香さんに顔を向けるが、不思議そうな顔で首を横に振った。どうやら穂香さんも知らないようだ。

 

「私たちに協力してはくれませんか!?」

 

 またか。

 

 一体これで何回めだろうか? 少なくとも3回は勧誘を受けている。

 人によってはモテていると解釈するかもしれないが、僕の場合は戦力の増強を目的とした協力関係だろう。

 

 理由を聞いてみたら、どうやらヴァイスは鈴音という名前らしく、キリサキさんの正体も鈴音だと言った。魔法少女が殺されている事件もあるらしく、それも彼女の仕業だと言った。

 彼女たちはキュウべぇから鈴音という少女は魔法少女の天敵【暗殺者】だと言ったらしい。

 

「まさか……前に会った子が……」

「やはり……」

 

 穂香さんは少し悲しげに目を伏せる。おそらく、あの時あの場所にヴァイス……いや鈴音がいたのは次のターゲットは穂香さんだったのだろう。

 しかしそれは意図せず僕たちが止めてしまった。穂香さんは言うなれば、命拾いをしたのだ。

 

 それに気づいた穂香さんは少し体を震わせた。

 

「ましろくん……」

「なんだ?」

「私は……この街が好き……。おばあちゃんの次ぐらいに好き。だからそんな子がいるのなら私はほっとけない……! ましろくん! これ以上被害者を出さないようにしないと!」

「そうだな……僕もこの話を聞いたからには見過ごすわけにはいかないな……。それにいつか僕の街にもやってきて同じことをするかもしれない」

 

 そんなことは絶対に許さない。

 僕は拳を握る。今度の敵は暗殺者。しかも今回は前回と違い人を殺しているかもしれない危険人物。

 魔法少女の力をそんなことに使うなどと、言語道断である。

 彼女になんらかの思想を持っていたとしても、正常な人間なら必ず止めて見せるだろう。

 

「わかった、詩音さん、それに奏さん。君たちに協力するとしよう。必ず……鈴音という少女を止めるんだ!」

「はい! 私も微力を尽くします!」

 

 穂香さんも元気よく手をあげる。しかしその目は覚悟が決まった目をしていた。

 これから起こることはおそらく殺し合いだということを彼女も理解しているのだろう。それなら頼もしい限りである。

 

「ありがとう……ございます!」

「よろしくね、二人とも」

 

 詩音さんが頭を下げてお礼を言い、奏さんが手を差し出してくる。僕はその手をしっかりと掴み握手をしたのだった。

 

 そんな時だった。

 

 僕は何者かの殺気を感じ、反射神経で殺気の感じた方向へ警戒態勢をとる。

 上……? 確か上から殺気を感じた。今も何かドス黒い何かが渦巻いているようにも感じる。

 程なくしてその気配は消えたが、僕は無意識のうちに冷や汗をかいており、少し手が震えていた。

 

 恐怖心。

 

 そんな感情が僕を襲ったのだった。

 

 ────

 

「……あの男……何か危険な香りがするわぁ……」

 

 ましろと魔法少女の協力が結ばれた現場のすぐ近くのビルの上。その光景を眺めていた少女がポツリと一言こぼした。

 

「あの男が現れてから、スズネちゃん……なんだか動きづらくなってるみたい……ねぇ〜キュウべぇ? 何か知ってるぅ?」

「……彼の名前は八千ましろ……僕たちと同じ存在さ」

「同じ存在……はぁん?」

 

 少女は目を細め、八千ましろを見据える。

 その目にはましろが決心を固めたかのように見えた。

 

「情に熱くて、むさ苦しいタイプ……か。私の一番嫌いなタイプぅ……」

 

 心底軽蔑したような目線をましろに向けてギリっと奥歯を噛みしめる。

 少女から放たれる殺気は、感情のないインキュベーターでさえも、無意識のうちに後ずさりする程であった。

 しかし、その殺気は一気に霧散することになる。

 

 ましろが同質量の殺気を向けてきたからだ。

 それは彼女の幻覚かもしれないが、ましろから放たれた殺気は風となり、屋上の淵で座っていた彼女を内側へ押し飛ばした。

 

 彼女は何が起こったのか分からないような表情を浮かべて、次に汗が吹き出した。

 これまで感じたことのない殺気。

 

「……本当に気に入らないッ!」

 

 手の震えをなんとか気合いで抑え、彼女は夜の街へと消えていった。



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番外

「ましろ────ー!!!! 大変大変大変────! 靴箱にラブレターらしき物が入ってたよ!」

 

 急に僕のランチタイムに割り込んでくるキリカはとんでもない顔をしながら屋上で叫んでいた。

 周りにはマミさんと暁美さん、鹿目さん、美樹さん、志筑さん、上条君もいたので全員が全員ビックリしてキリカを見据えている。

 

 ……というより、なんだって? ラブレター? 僕の靴箱に? はっはっはっ! そんなバカな……

 

「えええええええええええ!?」

 

 嘘だろおい!? ここ最近は落ち着いてきたかと思ったら今度はラブレター!? 

 僕は柄にでもなく大声を出し、キリカに詰め寄って手紙を奪う。

 なぜキリカが僕の靴箱を漁っているのかはこの際どうでも良い! 

 

「いや、どうでもよくはないでしょ」

 

 なんか青い人が何かを言っているが本当にどうでもいいのだ! 

 僕はやけに女の子らしいかわいい便箋に入っていた手紙を読む。

 

『拝啓

 八千ましろ様、お元気ですか? ここ最近は暑くなってきて熱中症になりやすいので、水分補給はしっかりとなさってください。

 さて、本題なのですが私は貴方の事がすごく好きで仕方がないのです……それはいつもましろ様が夢に出てきてしまう程で……その事が気になっていつもましろ様の跡をつけてしまうのです。この前だって……お家の方で捨てられた自作の小説を拝見いたしました──ー(中略)──ーと言うわけで私と付き合って欲しいと思っています。

 

 PS.この前盗んだ服は堪能いたしましたのでクリーニングに出したのでお返しいたします』

 

「……やばいやつやん……」

「ええ……これは紛れもなくヤバイ人ね」

「ええ……とても危険人物よ」

 

 とんでもなくヤベェ奴だった……。

 いや……ついに僕にも春が来たと喜んだんですけどね? これは流石にキツイものがあるでしょ……。というより、僕の跡をつけていたってどういう事? 一切気配なんざ感じなかったんですが? 

 

 というよりやめろよ自作の小説を読んだとか書くの。死ぬぞ? 主に僕の心が。

 

「ついでに靴箱にましろの服が入ってた」

「怖い!」

 

 無駄にピカピカになったチリ一つすら残っていない新品同然の服を渡される。

 それがまた異様に不気味さをかき立ててしまっている。

 どうしようかこれ……取り敢えず燃えるゴミで出せるだろうか? 一応家に帰ったら鍵のつけるところを見直しておこう。

 

「……八千君が……ラブレター……そんな……僕も用意していたのに……」

「!?!???? イヤですわ! 禁断ですか!? 禁断ですの?????」

 

 何か後ろでとんでもなく不穏な空気を感じるがそれも無視しておこう。やめろ美樹さん、そんなゴミを見るような目で僕を見ないで頂きたい。悪いのは僕じゃない。

 

「で、でも……その人……ちょっと怖いけど……やっぱりましろくんの事を想ってラブレターを出したんだよね? やっぱりお返事してあげないと可哀想だよ?」

「そうね、まどかの言う通りよ。ましろさん、直接会ってお返事をしてあげるのが良いんじゃないかしら?」

 

 鹿目さんは相変わらず優しいなぁ……でも暁美さん? 君、絶対面白がってるだろ。笑いを堪えているポーズをとるんじゃない。それでも仲間かこんちくしょう。

 

 ……まあしかしそうだよな……返事はしてやらないと……でもこの手紙一切呼び出しとか書かれてないんだよなぁ……どこに向かうというのやら……ん? 服の間からまた何か紙が落ちたぞ? なになに? 『果たし状』……。

 

「ブフッ! ら、ラブレターの次に果たし状って……ふふ……」

 

 ついに暁美さんの笑いのツボがぶっ壊れた。ちなみに僕も頰が引きつっている。ラブレターの次に果たし状って……僕が一体何をしたと……いやいろんな事したな……うん……よく今まで命を狙われなかったのか不思議でならない。いや、殺されかけた時はあるけど……主に目の前の黒い奴に。

 

 次に果たし状とやらも開けてみると、成る程……この人か……。

 差出人の名前が『浅古小巻』となっていた、あの人こんな古風な真似をするんだな……。

 なになに? この前フルボッコにするって言ったのを今思い出したから、あの日の公園で待つ。

 

 …………そのまま忘れててくれて良かったのに……。

 

 ──ー

 

 僕は渋々、あの日浅古さんを助けた公園へと足を踏み入れる。

 すると鋭い眼光で仁王立ちをして待っていた彼女がそこにはいた。うわぁ……おっかねぇ……。一般人ならあの眼光で人一人殺せるのではないだろうか? 

 

「来たわね」

「そりゃあなぁ……」

 

 隣には困った顔を浮かべている美国さんとあの日浅古さんを介抱していた少女がいた。

 あの子はあれ以来会ってなかったので、少し心配していたがどうやら無事のようで何よりだ。

 いつのまにかキリカが美国さんの横で……というか腕に絡みついてキラキラした目でこちらを見てくる。よし、なんかムカついたので、あとでアイツの稽古は二倍にしておこう。

 

「古き良きヤンキー漫画じゃないんだから……本当にやるのか?」

「ええ、勿論よ。地べたに押し付けてあげる」

 

 そのまま浅古さんは持っていた薙刀で僕を攻撃してくる。どうやら変身はせずに僕に勝とうとしているようだ。

 

 取り敢えず様子見で、振り下ろしてきた薙刀を手で払った。その瞬間薙刀が僕の腕に絡みつくようにしなり、腕の関節を見事に抑えた。

 

「なっ!」

「はあああ!!」

 

 僕は中学生にしてはかなり体重が重いのだが、それを浅古さんは軽々と薙刀を僕ごと振り上げる。これまで数多の魔女と戦って勝ち残ってきた戦闘センス。それも諸々込みで浅古さんは生身でも強いらしい。

 僕はそのまま、柱にぶつけられそうになったので腕の関節を外して、なんとか回避する。

 

「チッ!」

 

 怖い。何あの人怖い……。僕をフルボッコにするとか言って殺す気満々じゃないか……。

 あの時結構分かり合えたと思ったのに……なんでこうも戦っているんだ……。

 まあいいか……これで浅古さんは生身でもかなり強いということが分かった。それなら遠慮する必要はないだろう。

 

 僕は足でステップを踏み、一定のリズムを刻む。

 

 トーン…………トーン…………トーン…………────

 

 そして自分の最善のタイミングで僕は宙高く飛んだ。そして空中で何回かしてそのまま回転により最大に増幅された威力のかかと落としを浅古さんの薙刀に向かって放つ。

 

「くっ! でもその程度!」

 

 かかと落としは難なく弾かれてしまったが、僕の狙いは浅古さんではない。薙刀の方である。薙刀は時間差で真っ二つに折れて、浅古さんは両手で折れた薙刀を持ちあたふたしている。

 この薙刀は競技用の物なのでこうやって力を加えると簡単に折れてしまうのだ。

 

「よいしょっと!」

「ふが!」

 

 僕は二つに折れた薙刀の片方を奪い取り、そのまま背後に移動して頭を少し小突く。そのまま浅古さんは前に倒れて気絶したのだった。

 

「す、すごい……小巻のあの攻撃を受け流せるだなんて……」

「まあ、あの人が規格外なだけだから……」

「これだけは凄いよね……ほんと……」

 

 ────

 

 あのあと気絶から立ち直った浅古さんは頭にできたコブをさすりながら行方晶と名乗った少女に肩を貸してもらい帰っていった。

 え? 浅古さんの出番あれだけ? なんか悪いことした気分である。

 

「……で、私は小巻さんが倒れる未来を見て、心配だったからついてきたのだけれど、どうしてこんな事になってるのかしら?」

「いや〜聞いてよ織莉子! ましろって面白くってさァ!」

 

 キリカは美国さんに浅古さんから来た果たし状の他に、ラブレター(怪文書)のことまで話し始める。

 そして実物を見た瞬間顔をしかめて、僕に同情の視線を送ってきた。

 

「……なんて声をかけていいのかしら」

「ありがとう美国さん……その言葉が聞けただけで充分だよ」

「でもさぁ……いつも跡をつけているって書いてるんだから、もしかしたら今も居るんじゃない?」

 

 ……なんかキリカが怖いこと言い始めた。

 いや、まあ大体そんな気はしていた。よく集中して周りを観察すると、一点だけ不自然な気配を感じてしまう。それもすごく微弱であり、よく目を凝らさないとわからない程にだ。

 居るの? いらっしゃるの? 

 

「……も、もし居るのなら聞いてほしい」

 

 僕はその気配を感じる場所へ向かって話し始める。

 

「気持ちはとても嬉しい、しかし今は恋愛とかそういうのに興味が無くてな。この通りだ! すまない! 君の気持ちには答えられない」

 

 僕は頭を下げ謝罪する。後ろで「ヘタった?」「へたったわね」とかいう会話が聞こえてきた。お前らいったいどっちの味方なんだ。今もいつ襲われるか分からないし、内心ドキドキしてるんだぞ。

 

 取り敢えず、頭を下げ続けたら、気配が消えた。どうやら分かってくれたみたいで去っていったようだ。

 ひとまず安心だ。これで気配なきストーカーに悩まされずに済むかもしれない。

 

「……あとで復讐に来たりして」

「ありえるわね」

「あり得てたまるか」

 

 その後、僕の靴箱の中に『コロス』という文字がビッシリと敷き詰められた紙が置いてあったとか無かったとか。

 ……いや、まあ……あったんですけどね? それで後で襲ってきたので返り討ちにした。犯人は白女の生徒だった。

 

 白女怖い。

 



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