高坂穂乃果に弟がいたならば (naonakki)
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第1話 幼馴染

俺の周りの男子共はみんな俺を羨む。

なぜかって?

俺もそれを不思議に思い、皆に聞いたことがある。

それを聞くとみんな怒り狂ったが、わめき散らすみんなの言葉をまとめると、どうも以下のことが原因らしい。

~人気スクールアイドルであるミューズの人たちと交流があるから~

なるほど、確かに姉ちゃんを含めたミューズの人たちとはよく関わってるし、これだけ聞くと、周りの男子が俺を羨む気持ちもわかるかもしれない。

・・・だが、待ってほしい。

上手い話には裏があるのと同じで、決して俺は今の自分が羨ましがられる状況にあるとは思えない。

・・・いや、まじで。

・・・じゃあ、聞かせてやるよ、俺とミューズとの関わりのすべてを。

よく聞いとけよ!!!


第一話 幼馴染

 

・・・やっと学校終わった。

 

長かった学校の授業も終わり、ようやく待ちに待った放課後だ。

特に部活にも入ってない俺は、そのまま教室を出て、帰路につこうとするが、

 

なんか校門が騒がしいな・・・。

 

靴に履き替え、校門に向かっていたが、どうも校門のあたりに人が集まっており、ザワザワしている。

 

何かあったんだろうか? ・・・まさかな。

 

嫌な予感がしつつも、校門に近づくと、その人だかりの一人が俺に気付き、

 

「あ、来たっ!」

 

と、俺の方に指を差し、大声で叫びだした。指を差すな指を。

でも、これは、やはり・・・。

 

そんな俺の嫌な予感が的中しているのを伝えてくるように、皆が俺の姿を確認すると、人だかりが綺麗に二つに分かれていく。モーゼになった気分だね。

 

そして、出来上がった道の先にいたのは・・・

 

「あ、夏樹くん、お疲れ~♪」

 

満面の笑みで俺を迎えてくれる、ことりさんだった。

 

「・・・お疲れ。」

 

しかし対照的に俺は疲れ切ったようにそう返事をする。嫌な予感的中~。

 

ことりさんは、そんな俺の心中を察してか察していないのか、いい笑顔でこう言い放ってきた。

 

「じゃあ、この後ことりの家に集合ね♪夏樹君一人で来てね?遅刻したらお仕置きだからね♪それじゃあ♪」

 

と、わざと周りの人にも聞こえるように大きな声で俺に伝えてくる。

そのまま俺の返事を待たずして、180度ターンして、そのままスキップで去って行ってしまった。何が、じゃあ、なのか・・・。

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

その場に取り残された俺、そして周りの大勢の人も黙って、ことりさんが去るのを静かに見つめていた。ただただ静寂である。

 

そして、ことりさんの姿が見なくなったのを確認し

 

「・・・よし、じゃあ俺も帰るか。じゃあなみんな~」

 

俺が、さっさと帰ろうとすると

 

ガシッ

 

・・・何かに肩を掴まれた。そして

 

「やあやあ、高坂君、君が帰るのは家じゃないだろ?土だろ?」

 

「その通り、今日がお前の命日だ。」

 

「そうだぜ、高坂~、覚悟しとけよ♪」

 

俺がゆっくり振り返ると、そこには、嫉妬に燃える無数の童貞共が・・・。

 

「うるせえっ、お前らに俺の気持ちが分かってたまるか!」

 

掴んできた手を振りほどきながらそう叫び、脱兎のごとく走り出す、ひたすらに。

 

「待てっ、こら!てめえを殺して俺がお前になるんだ!!」

 

「この、うんこ野郎!見せつけてんじゃねえぞ!!」

 

「そうだ!!〇ね!!俺もことりさんにお仕置きされてえよ!!」

 

などと、訳の分からないことを言いながら俺を追いかけてきた。・・・やばい、捕まったらまじで死ぬ。

 

 

 

その後、死ぬ気で走り切った俺は、何とか醜い豚どもから逃げることに成功した。

 

「はあ、はあ・・・あいつら、石投げるのは反則だろ・・・。」

 

俺は、たまたま通りかかった、公園のベンチに横たわり、息も絶え絶えに、休息をとっていた。まじで疲れた・・・。

 

「・・・・・。」

 

しばらく横になっていると、何とか体力も徐々に回復してきた。

 

さて・・・、

 

ことりさんの家に行くか・・・。

 

そう覚悟を決め、ことりさんの家に向かった。お仕置きされないように・・・。

 

(ことり宅)

 

「ことりさ~ん、来ましたよ~。」

 

「いらっしゃ~い♪ ささ、上がって上がって♪」

 

目的地に着き、そう少し大きめの声を出すと、ことりさんは、すぐに待ってましたと言わんばかりに、嬉しそうに扉を開け、俺を家に招き入れた。

 

「・・・お邪魔しま~す。」

 

少し嫌そうな気持ちを含ませ、そう言いながら、見慣れた玄関に足を踏み入れていった。

 

「うん♪じゃあ早速部屋に行こうか♪」

 

しかしことりさんは俺のそんなセリフを特に気にした風もなく、足早に自分の部屋に向かうのだった、まるで、1秒でも時間が惜しいとばかりに。

 

そして、部屋に着いた俺に待っていたのは・・・

 

「え~、それでは!第49回 ことりが穂乃果ちゃんと付き合うにはどうすればいいのかを考えましょう!の会議を行いま~す♡」

 

地獄だった・・・。第49回て・・・。

 

「なあ、その前に学校に来るのやめない?俺死んじゃう。」

 

その下らない会議が始まる前にそう抗議する。とても重要なことだ。

 

「え、どうして??」

 

ことりさんは、わざとらしく、きょとんと首をかしげてくる。この・・・っ、

 

「知ってるんだからな!!俺が追いかけまわされてるの、こっそり陰で見て楽しんでるの!!」

 

俺が心からそう叫ぶと、ことりさんは、目をパチクリして、

 

「・・・てへっ♡」

 

舌を出して、ばれちゃったか~の表情。ふざけてやがる。

 

「だって、夏樹君の逃げる必死な姿ときたらwww」

 

「最悪だっ、この人!!(今度ニンニク入りチーズケーキ食わしてやるぅ!)」

 

とうとう本性を現したことりさんに悪態をつき、ひそかに復讐を誓うが、

 

「だって、この前の日曜日、せっかく呼んだのに来てくれなかったじゃない?」

 

と、急に笑うのを止めて、まっすぐ俺を見つめ、そうピシャリと言ってきた。

 

その言葉を聞いた俺は・・・

 

冷や汗が止まりません♪

 

「いや・・・あれですよ?ラインでも言ったじゃないですか、寝てたんですよ?」

 

「夕方の5時に?」

 

「・・・はい。」

 

「まだまだ、明るいよ?」

 

「・・・はい。」

 

「6時くらいに雪穂ちゃんから、夏樹なら私と一緒にマリオカートしてますよ~って連絡くれたんだけど?写真付きで、ほら?楽しそうだね~。」

 

「・・・・・。」

 

詰み・・・か。

 

「・・・言い残すことは?」

 

「なんでもするので、着せ替え人形だけは勘弁してください。」

 

以前、似たような状況になった時に、最後まで反抗したら、着せ替え人形にされ(もちろん女性服)、ミューズの人たちのおもちゃにされたトラウマがあったのでそう言ったが・・・あ、もちろん土下座しながらね。

 

「・・・ふふふ、そのセリフを待ってました♪」

 

あ~やべ・・・怖っ。

 

急に、満面の笑みになったことりさんを見て再び俺の冷や汗が吹きだしてきた。何をするつもりなんだ、この鳥は!?

 

「じゃあ、――――――――」

 

ことりさんが言った内容に俺が何かを思う前に

 

「はい♪じゃあ、本来の目的の会議をはじめるよ!」

 

「いやいや、さっきのどういういm「まずは、今日ね~寝癖がついたままの穂乃果ちゃんがすっごく可愛くてね~♪」

 

そこから、会議はどこへやら、俺の言葉は、ことりさんの耳には届かず、一方的に、姉ちゃんとことりさんのいちゃいちゃしたことについて2時間みっちり話を聞かされたのだった。なんで姉ちゃんのそんな話をきかなければならないのか・・・。

 

結局今回も、ことりさんが姉ちゃんと付き合うためになにをするべきか、一度も作戦会議をすることなく、第49回会議は幕を閉じた・・・。

 

つづく

 



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第2話 帰宅

「あ、もうこんな時間!」

 

ことりさんのこのセリフによって、ようやく解放された俺は、疲れ切った足取りで玄関に向かう。

姉ちゃんとのイチャイチャ話を思い切り喋ることができ、上機嫌なことりさんも俺の後ろに続く。見送りに来るのだろう。

 

すると、たまたまそこにことりさんと瓜二つのスーツ姿の女性が、仕事から帰ってきたのか、靴を脱いでいる場面に遭遇した。

ことりさんのお母さんだ。それにしても、本当にことりさんとそっくりだな・・・。

特徴的なトサカのような髪型まで同じだもんな。

 

「どうも、こんばんは。お邪魔してました。」

 

ことりさんのお母さんに俺がそう挨拶すると、向こうもこちらに気付いたようで

 

「あら、夏樹君、こんばんは。来ていたのね。」

 

ことりさんのお母さんは、そう挨拶を返すと、さらにこう続けた。

 

「・・・前から聞きたかったのだけど、あなた達、いつ付き合うの?」

 

・・・・・何を言っているんだこの人は?

もしかして、俺とことりさんがしょっちゅう一緒にいるから、付き合うのでは?と勘違いしているのか?

だとしたら、勘違いも甚だしい、何せことりさんが好きなのはうちの姉ちゃんなのだ。

 

「ははは、そんなわk「ちょっと!!お母さん!!」

 

俺が、冗談交じりに突っ込もうとすると、ことりさんが大きな声で俺のセリフをかき消した。

びっくりしたぁ。何だ急に。

 

「変なこと言わないでよ!!」

 

なぜか、顔を真っ赤にしたことりさんが母親に対して詰め寄っていた。

どうしたんだことりさん?

・・・あぁ、ことりさんが好きな人は、俺ではなく姉ちゃんなのに勘違いされて怒ってるのかな?

 

俺が一人で勝手に納得していると、

 

「あらあら♪ごめんなさい♪余計なお世話だったかしら♡」

 

「もう!早くどこかに行ってよ!!」

 

二人の親子は喧嘩していた、いや、明らかにことりさんが一方的にからかわれているな。さすが母親。

それにしても、普段俺をからかいまくってることりさんが、振り回されてる姿を見るのは、うん、いいな(笑)

 

ことりさんは、「じゃあ、ごゆっくり~、ホホホ~」とリビングに消えていった母親の姿をしっかり確認すると、くるりと俺の方に向きを変えた。

何をされるのかと思いきや、顔を真っ赤にしたまま、可愛いらしい甘い声でこう叫んできた。

 

「別に、夏樹君と付き合いたいとか思ってないからね!」

 

「急にどうした。知ってるわ。」

 

思わずそんなセリフを秒で返していた。

いや、そりゃああんな会議を50回近くもしてたら、そんな勘違い起こすはずもないわ。と、思っての返しだったのだが・・・

 

「~~~っ!もう!夏樹君の馬鹿!!早く帰って!!」

 

・・・え、なぜに?

 

急に怒り出したことりさんは、何がそんなにご立腹なのか、その場で地団駄を踏んでる。

・・・ちょっと可愛いなと思ってしまった。

ていうかそっちが呼び出していてこの仕打ち、うぅ、酷い。

 

「はいはい、じゃあ帰ります、お邪魔しました~。」

 

これ以上長居しても、いいことがないと考え、そそくさと靴を履き、玄関の外に歩を進める。

しかし、ここでことりさんから

 

「・・・夏樹君、さっきの約束の件、日曜日だからね?」

 

まだ、怒っていることりさんはムスーとしながら、そう言ってきた。

 

「分かってますよ、じゃあ、また日曜日に。おやすみなさい。」

 

「・・・おやすみなさい。」

 

その言葉を最後に、ようやく俺は帰路につくことができた。

さて・・・帰るか・・・。

 

ことりさんは、スタイルもよく、可愛いらし見た目に加え、誰にもフレンドリーに接することから、女子高に通ってるにも関わらず、近所の男子学生から絶大な人気を誇っている。当然うちの高校も例外ではない。

 

確かに、ことりさんは可愛いと思うし、料理も上手、裁縫も得意と凄い人だと思っている。

だが、なぜか俺の困っている姿を見るのが大好きであり、ことあるごとに、ちょっかいをかけに来るのだ。今日みたいに・・・。

後、姉ちゃんが好きと、レズでもある。

まあ、本当に困ってるときは助けてくれたりと、嫌いではないけどさ・・・。

 

 

 

見送りを終えた私が、リビングに入ると、そこにはお母さんがいて、呆れたように私を迎え入れた。

 

「ことり、あんた・・・馬鹿ねえ。」

 

そのお母さんが、私に呆れたようにそう言ってくる。

 

「・・・うるさいよぉ。」

 

ぐうの音も出ない私は、小さな声でそうつぶやき、そのままお風呂場に向かった。

確かに、その通りだなと思いながら・・・。

49回だもんね・・・。

 

「え、ちょっとことり!?今から私がお風呂入ろうと思ったんだけど??」

 

 

 

家に着いた俺は、インターホンを押して応答を待つ。

すると、

 

ドドドドド、バンッ!

 

「おっ帰り~~!!!」

 

勢いよく俺を出迎えてくれたのは、うちの長女だ。

一生元気だな、うちの姉ちゃんは。

 

「もう、こんな時間までなにしてたの?」

 

姉ちゃんらしく振舞おうと腰に手を当て、ぷんぷんしながらそう言ってくるが、

そんなこと、俺が聞きたいわ。

 

「・・・ことりさんの家に行ってたんだよ。」

 

「そうなの?ふ~ん・・・よくことりちゃんと遊んでるみたいだけど何してるの?」

 

と、姉ちゃんは俺に疑いの目を向けてくる。

そりゃあ、自分の弟と友達が二人きりで頻繁に遊んでたら、おかしいと思うよな。

実際、普通ではないが。

 

「別に、勉強教えてもらってるんだよ。」

 

当然、本当のことを言えるはずもなく、適当にそう誤魔化しておいた。

 

「ふ~ん?まあいいや、そんなことより私とスマブラするよ!雪穂にけちょんけちょんにされたから、夏樹でストレス解消させてもらうよ!」

 

「いや、俺風呂入りたいんだけど。」

 

ていうか、姉ちゃんとスマブラしてても面白くないんだよな、Bボタンしか押さないし。

 

「まあまあ、一回でいいからさ。それにもし、私に勝ったらお風呂で背中を流してあ・げ・る・よ?」

 

と、できもしないウインクを決めながら、気持ち悪いことを言ってきた。

よし、潔く負けて、さっさと風呂に入ろう。

 

その後、わざと負けてやったら、弱いだの、相手にならないだのさんざん馬鹿にしてきたので、二回戦目でコテンパンにしてやった。

二回戦後も性懲りなく、戦いを挑んできたが、完膚なきまでに打ちのめしてやった。

 

「うぅ、同じ血を引いているはずなのに・・・。」

 

心が折れた姉ちゃんは、いじけてソファを独占して寝転んでしまった。

邪魔だったので雪穂と協力して姉ちゃんをリビングの外に放り出した。

雑魚相手にゲームをしたため、消化不良だった俺と雪穂はスマブラを少ししてから風呂に入って、その日は寝た。

 

まじで背中を洗おうとしてきた姉ちゃんにスマッシュを決めて場外にしたのは、また別のお話。

 

それにしても・・・

 

雪穂、スマブラ強すぎな。

 

つづく

 



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第3話 朝は戦争

高坂家の朝は騒がしい

 

「いくぞ、雪穂?」

 

「いつでもいいよ。」

 

朝の6時半、俺と雪穂は姉ちゃんの部屋の前にいた。

その理由は至極シンプル。

これから、あり得ないほど朝が弱い姉ちゃんを起こすためだ。

普通に起こしに行っても、布団に引きずり込まれて抱き枕にされるのがオチなのだ。

だから、姉ちゃんをしっかり起こすためにも、こうして毎日二人で作戦を練り、実行しているのだ。

 

本日の作戦もまさに今、開始しようとしていた。

 

「よし・・・突入!」

 

バンッ!!

 

勢いよく部屋の扉を開け放った。

俺は、中華鍋におたまを激しく打ち付けながら、雪穂はホイッスルを思い切り吹きながらの突入だ!

 

カンカンカンッ!!ピピピピーッ!!

 

二つのやかましい音が、姉ちゃんの部屋に思い切り響き渡る。

・・・うるさっ。

 

実行した本人ですらびっくりの大音量なのだ。

何の前触れもなくこの音を聞かされた当の姉ちゃんはというと

 

「うわああああああ!?!?」

 

と、こちらも負けず劣らずの音量で絶叫をあげ、ベッドから転げ落ちていた。

どうやらしっかり起きてくれたようだ。

 

「早かったね、歴代最高記録じゃない?」

 

そんな姉の様子を冷静に分析し、そう確認してくる雪穂。

 

「間違いなく最速だな。ただ、うるさすぎ。」

 

同じく俺も冷静に、そして素直な感想を述べた。

 

「う~ん、そうだよね、想像の3倍うるさかったね。」

 

「やっぱり、何かを得ようとすると、何かが犠牲になるんだな。」

 

「だね、また作戦の練り直しだね。」

 

雪穂と本日の反省まで終えたところで、姉ちゃんの部屋から出ていこうとする。

腹減った。

 

「いやいやいや、ちょっと待ってよ!?何、冷静に分析をして次につなげようとしてるの??普通に死んだかと思ったよ!!」

 

姉ちゃんが何やらうるさかったが、無視だ。

何せこれは姉ちゃんの為を思っての行動なのだ、文句を言われる筋合いはない。

決して、面白いからやってるわけではないのだ。

同じく無視をしている雪穂も同じ気持ちだろう、双子だから分かる。

 

ドタドタドタッ

 

「ちょっと、あんた達!!近所迷惑でしょうが!何考えてるの??」

 

流石にうるさすぎたようだ、母さんが怒り心頭でやってきてしまった。

 

「姉ちゃんが悪い」「お姉ちゃんが悪い」

 

しかしノープロブレム。

双子であることを証明するかのようにきれいにシンクロして長女に指を差しながら、そう言った。

 

「穂乃果~~!!」

 

すると思惑通り、母さんは俺たちのその言葉を聞き、矛先を姉ちゃんに向けた。

 

「理不尽すぎる!?」

 

姉ちゃんが何か、わめいてたが、そんなことより今は朝ごはんを早く食べることが先決だ。

時間は有限だからな。

そのまま朝一で説教をくらう姉ちゃんを背に、朝食が用意されているリビングに向かった。

 

 

 

「二人とも!もうちょっと普通に起こしてって言ってるじゃん!」

 

俺たちに少し遅れて朝食の席についた姉ちゃんは開口一番そう抗議してきた。

 

「いや、お姉ちゃん、普通に起こしても起きないじゃん。」

 

「そういうこと。」

 

すぐさま年下の双子に反論され、うぐ、とうろたえる姉。

 

「だ、だから~、言ってるんじゃん。優しいキスをしてくれたら起きるって♡」

 

いつも思うが、姉ちゃんは妹と弟に向かって何を言ってるのだろうか?

 

「・・・前にそう言ってたから、実際に雪穂がキスしたけど起きてなかったじゃん。」

 

そう、実は、以前にも同じことを言っていたから、実際にキスをしたことがあるのだ。

本当に起きるのか?と。

だが当然、雪穂も俺も姉にキスをしたいわけもなく、じゃんけんで負けた方がキスをしようということになったのだ。

そして、雪穂がじゃんけんに負けたというわけだ。

本当、あのじゃんけん、勝ってよかった・・・。

 

「ちょっと!それ言わないでって言ったじゃん!」

 

雪穂が顔を赤くして俺に食いついてくる。

だがそれ以上に、

 

「え!?え!?いつ??いつの朝??本当に??」

 

姉ちゃんが、凄い食いていてきた。

 

「ほら、これがその時の写真。」

 

「わ、わ!!本当だ、この写真送って!!」

 

「OK。」

 

実は、雪穂が姉ちゃんのほっぺにキスをしてるシーンをこっそり撮っておいたのだ。

その写真を姉ちゃんに送ろうとすると、

 

ガシッ

 

と、雪穂が俺の腕を凄い力でつかんできた。

 

痛い・・・。

 

「・・・その写真、すぐに消さないと、殺す。」

 

こえ~、あっ、でも送っちゃった♡

 

画面を押すだけで送信できる状態にしていた俺は、間違えて画面を押し、姉ちゃんに画像を送信してしまった。

 

雪穂も俺のスマホの画面を確認したのだろう、

顔を真っ青にし、ゆっくり姉ちゃんのほうを向く。

俺もつられて姉ちゃんのほうを向く。

 

「・・・ふふふふ♡」

 

そこには、満面の笑みを浮かべた姉ちゃんがいた。

そして、

 

「じゃ、ご馳走様!学校行って皆に自慢してくる!!」

 

そう言い残し、勢いよくリビングを飛び出した。

 

「ちょ!!本当にやめて!!待って!!ちょ、待てー!!」

 

雪穂は、朝食を一気にかきこみ、急ぎ、姉ちゃんの後を追った。

しかし、リビングをでる直前にこちらに無表情な顔を向け、静かにこうつぶやいてきた。

 

「オボエトケヨ・・・。」

 

そして、すぐさま姉ちゃんを追いかけていった。

 

・・・・・。

 

さて、学校に行くか!

怖くて震えそうだったが、そう気持ちを切り替えて学校に向かう準備を始めた。

 

姉ちゃんたちに遅れること5分、俺が家の玄関をくぐると、そこに一人の人物が立っていた。

 

「おはようございます、夏樹!」

 

海未さんだ。

 

「・・・おはようございます、海未さん。」

 

とりあえず、そう挨拶を返す。

 

しかし、海未さんは、俺のその挨拶が不満だったのか、少し詰め寄ってきて、こう言った

 

「まったく、何度も言ってるじゃないですか。海未さんではなく、海未と呼んでほしいと。」

 

「いや、やっぱり年上の女性には、敬意をもたないと~、なんで?」

 

姉ちゃん?知らねえよ?

 

「ふふふ、照れてるのですね?可愛いですね。」

 

「照れてないです。」

 

見当違いだと、指摘するが海未さんには届いていないようだ。

 

「まあ今はいいですが、すぐに慣れてもらわないと困りますよ?」

 

だめだ、いつも通り何言っても無駄だわ。

 

俺が、あきらめの境地に入り、反論するのをやめると、海未さんはそんな俺の反応を肯定と受け取ったのか、こう続けた。

 

「なにせ、私たちはその・・・ふ、夫婦になるのですから//」

 

つづく

 



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第4話 幼馴染2

海未さんは、容姿端麗、学業優秀、運動万能、と完璧超人だ。

ただ、ことりさんと違い、少し人見知りの為、皆に分け隔てなく接するわけではない。

そのため正直、周りから高嶺の花のように扱われていてる感はある。

しかしその凛とした立ち振る舞い、これこそ大和撫子と言わんその見た目に、周りからの人気度は決して低くない。

 

そんな、海未さんだが・・・

 

「ふふふ♡式はどこかいいですかね、夏樹?

いえ・・・あなた//」

 

・・・どうしてこうなったのか。

正直原因は分からない。

半年ぐらい前だろうか、急にこんな感じになったのだ。

それまでは普通の仲の良い幼馴染だったと思うが・・・。

そういえば、ことりさんが俺と例の会議をするようになったのもその頃だった気がする。

 

「・・・あの、海未さん?

何度も言ってますが、俺たちは恋人じゃないですよ?」

 

「ふふふ、知ってますよ?そういうの、最近ツンデレって言うんでしょう?まったく、夏樹も素直になればいいのに♪」

 

「デレてませんし、最近の言葉でもないですよ。」

 

いや、正直海未さんのような綺麗な人に好意を向けられるのは悪い気はしない、むしろ嬉しい、すごく、だ。

朝一でこの会話はキツイが・・・。

 

「あの、海未さん、前から言ってますけど、俺には心に決めた人がいるので。」

 

そう、確かに海未さんの気持ちは嬉しいが、その気持ちには答えられないのだ。

何を隠そう、実は俺には既に好きな人がいるのだ。

それを、ずっと海未さんに言い続けているのだが・・・

 

「だから、その好きな人というのは私のことでしょう???」

 

この有様だ。

 

「海未さんじゃない人です。」

 

「じゃあ、誰なんです??」

 

「それはちょっと・・・。」

 

言うわけがない。

理由?

そんなの、みんなにからかわれる絶好のネタになるからだ。

俺の好きな人を知っているのは、まっきー(真姫さんのことね)と絵里さんだけだ。

それ以外には、俺の好きな人どころか、好きな人がいることも知らせていない。

 

だからこそ、海未さんに俺に好きな人がいることを教えるかどうか迷った。

しかし、これだけ好意を向けられているのだ。

流石に有耶無耶にするのも申し訳なく、好きな人がいると伝えたが、まったく信じてもらえないのが現状だ。

 

「ふむ、本当は他に好きな人がいないから、言えないのですね?まったく、もう少し素直にならないと私も悲しいですよ?」

 

どうしろと。

 

誰が好きか言えば、信じてもらえるだろうか?

・・・いや、多分信じてもらえないだろうし、好きな人を言うのは恥ずかしすぎる。

まあ、そのうち諦めてくれるだろう。

そう思いつづけてもう半年経つわけだが・・・。

 

「そう言えば、昨日はラインをしても中々返事をくれませんでしたが、何か用事でもあったのですか?」

 

俺が、一人悶々と悩んでいると、海未さんが話題を変え、そう聞いてきた。

 

「あー、昨日はことりさんの家にいってたんですよ。」

 

「・・・ほう、早速浮気ですか?」

 

なんでやねん。

 

これまで、デレデレしていたのに一転、いきなり鬼のような表情を浮かべ詰め寄ってくる海未さんに思わず希さんのようなツッコミをしてしまう。

ていうか海未さん怖い・・・。

将来海未さんと結婚する人は大変だな。

 

「海未さん、ことりさんとはそんな関係じゃないですよ?

だってことりさんは、姉ちゃんが好きなんだから。レズですよ、レズ。」

 

とんでもない誤解を受けているので、俺がすぐさまその誤解を解く。

ていうか、なんでことりさんのお母さんにしても、俺とことりさんがそういう関係と勘違いしてるんだ?

 

「・・・はぁ、ことりはまだそんなことを言ってるのですか?」

 

俺の言葉を聞いた海未さんは、何故か呆れたように俺にそう聞いてくる。

どういうことだ?

 

「まあ、私は敵が減るからいいんですが・・・。流石に見てられませんね・・・。」

 

「どいうことですか??」

 

海未さんの言っていることが全然理解できない俺がそう聞くと、

 

「・・・私が言うのは、筋違いなので言えませんが。

そうですね、強いて言えば、ことりのことをもっとよく見てあげてください。」

 

「・・・はぁ。」

 

結局何のことか分からなかったが、それ以上聞いても、海未さんは教えてくれなかった。

 

「・・・そう言えば、さきほど満面の笑みの穂乃果と必死の形相の雪穂が家から飛び出してきましたが、何かあったのですか?」

 

「さあ?全然知らないですね。

何かあったんですかね?(笑)」

 

その後は、こんな他愛もない会話をしながら、歩みを進め、いつもの別れ道まで来た。

そしてそのまま、何事もなく海未さんと別れて学校に・・・

 

「あ、そうそう、夏樹。

最近遊べていませんでしたから、日曜日に私とデートをしましょう!では!」

 

行けなかった。

海未さんは、一方的にそうデートの約束を押し付けてきて、颯爽と去っていってしまった。

 

「え、ちょっと!!

その日は、ことりさんと!!」

 

急に言われたもんで、反応が遅れたのがいけなかった。

俺が、無理だと伝える間もなく、海未さんは視界から消えていた。

なぜ、みんな俺の意志を無視するのか・・・。

 

というよりどうしよう・・・。

 

その日、ことりさんともデートなのに・・・。

 

そう、昨日のことりさんとの約束で日曜にデートすることになったのだ。

理由は分からない。

姉ちゃんとのデートをセッティングしてくれという頼みならわかるのだが。

昨日ずっとその理由を考えたが、結局ことりさんの思惑を推し量ることはできなかった。

まあ、着せ替え人形にされるより全然マシだからいいけどね。

 

しかしこれは、ことりさんと海未さんとダブルブッキングじゃん。

 

・・・・・・。

 

面倒だ、放課後に考えよう♪

放課後の俺よ、後は任せた!

 

というわけで、全てから解放された俺は、元気に学校に向かった。

 

しかし、学校が見える位置まで来たところで、異変に気付く。

学校の門の前に大量の殺気立った男子生徒達がいるのだ。

・・・嫌な予感。

 

俺は、不安な心を必死に押し込み、門に近づいていく。

 

すると

 

「来たぞ!!高坂だ!!」

 

やっぱり俺かーー。

 

俺が絶望していると、あっという間に大量の男子生徒に囲まれてしまった。

 

「や、やあ、おはよう諸君!

どうしたのかな、こんな大勢で??」

 

俺が、無理やり笑顔で元気よく挨拶すると、一人の男がスマホの画面を見せながらこう言ってきた。

 

「お前のとこの雪穂ちゃんのツイッターだ。」

 

雪穂のツイッター? 

・・・どれどれ?

 

その内容はというと・・・

 

海未さんと夏樹のキスシーンです。

※拡散希望

 

ということだった、海未さんが眠っている俺のほっぺにキスをしている画像付きで・・・。

 

・・・どういうことだってばよ。

ていうかいつ、キスなんてされたんだよ!

後、これスクールアイドル的に大丈夫なの??

 

俺が恐る恐るスマホの画面から目を外すと、そこには、

 

ゴゴゴゴゴゴ

 

怒り狂った童貞共がいた。

 

・・・あぁ、神よ。

 

 

 

「・・・雪穂、確かに姉ちゃんに画像を送信した俺も悪かったけど、あの復讐はえげつくね?」

 

あの後、フルボッコにされた俺が家で雪穂にそう抗議すると

 

「・・・お姉ちゃん、あの画像を学校のホームページに載せた上に、学校の放送使って、『妹にキスされちゃいましたー!!』って放送したらしいよ、登校してすぐにね。」

 

「さっき、お姉ちゃんの同級生の人に、『あらあら、雪穂ちゃん、お姉ちゃんと仲いいのね~』って、例の画像見せられながら言われたよ・・・。」

 

・・・・・・・・。

 

俺は、なんて酷いことをしたんだ・・・。

 

雪穂の顔は・・・死んでいる。

殺したのは・・・俺だ・・・。

 

「・・・すみません、まじで。」

 

それしか言えなかった。

 

「駅前のパフェ。」

 

雪穂は死んだままの顔でそうつぶやいた。

 

「・・・御意。」

 

まあ、仕方ないだろう。

 

「二杯。」

 

雪穂は死んだままの顔で再びそうつぶやいた。

 

「・・・・・・・御意」

 

さらば・・・俺のお小遣い、うぅ。

 

つづく

 



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第5話 協力者

※以下はラインのやり取りです。

 

夏樹 『へい、まっきー。』

 

真姫 『どうしたの?』

 

夏樹 『緊急事態』

 

真姫 『詳しく』

 

夏樹 『日曜日に海未さんとことりさんとのデートでダブルブッキングになっちゃったorz』

 

真姫 『wwwww』

 

夏樹 『助けてまっきー!!』

 

真姫 『とりあえずうちに集合で』

 

夏樹 『りょ』

 

放課後、俺は日曜日どうしようと、途方に暮れていた。

やはり一人で抱えるのはよくないと、数少ない味方のまっきーに相談することにした。

すると、そこは流石まっきー、すぐさま返事をくれた。

家で俺の相談にのってくれるということだろう。

きっと、まっきーならこの状況を打破してくれるだろう。

 

・・・ちなみにまっきーという呼び方は、

あだ名で呼ばれてみたいと、真姫さんが言うので、試しに呼んでみたら双方気に入ったので、その流れでまっきーと呼ぶようになったのだ、深い理由はない。

なんかよくない?まっきーて?ペンみたいだけど。

 

というわけで、真姫さんの家にやってきた。

・・・相変わらずでかい家だな、交換してくれねえかな。

叶わぬ願い願いを抱きながらインターホンを押す。

 

「は~い」

 

のんびした声で俺を迎えれてくれたのは、まっきーのお母さんだ。

まっきーと同じく綺麗な赤髪であり、とても女子高生の娘がいるとは思えないほど若く綺麗だ。

・・・ことりさんのお母さんにしてもそうだが、なぜ周りの母親は綺麗な方ばかりなのだろうか?

うちの母ちゃんなんか・・・いや、やめておこう、殺されちゃう。

 

「あらあら、夏樹君、真姫ちゃんのお見舞いに来てくれたの?」

 

俺が世の中の不平等を呪っていると、まっきーのあ母さんが嬉しそうにそう聞いてくる。

 

・・・ん?お見舞い?

 

 

 

「来たわね、夏樹・・・。ごほっ、ちなみに私風邪だから。」

 

「なぜ呼んだ」

 

まっきーの部屋に来た俺が見たのは、寝間着姿でベッドに横たわるまっきーだった。

・・・どういうことや。

 

「まあまあ、私が風邪をひいているのなんて些細なことよ?・・・ごほっ。」

 

「大問題だわっ!もうっ、俺帰るから。ゆっくり寝ないと!」

 

俺がそう言い、部屋から出ていこうとすると

 

「ちょっと待ちなさい!せめて日曜の件だけでも詳しく話してちょうだい。」

 

「・・・なんでそんなに?」

 

「そんなおもしr、ごほっ、困っている後輩を放っておけないでっしょー?」

 

・・・今、すごく不自然な咳だったけど、ていうか面白いって言いかけたよね!?

 

「・・・はぁ、今度ゆっくり話してあげるから今日はゆっくり寝ててよ。」

 

一応病人なので、できるだけ優しい口調でそう言い、部屋から出ていこうとする、が

 

「ちょ、ちょっと待って、昨日からずっと部屋にいて、寂しいのよ!だからもうちょっといてよ!」

 

俺を引き止めようと、寂しそうな表情でそう訴えてくるまっきー。

そう言われた俺は・・・

 

「ちょっとだけだからなっ!!」

 

ちょっとだけ、そう、ちょっとだけ、いてやることにした。

 

「ふむふむ、このツンがだめならデレで行けの戦法は有効みたいね。」

 

俺が仕方なく部屋にいることにしたのに、まっきーはさっきまでの寂しそうな表情はどこへやら、納得したような表情でそんなことを言っていた。

・・・帰ろうかな。

 

「ありがとう夏樹、いいデータが取れたわ、これは使えるわ!

で、何しに来たんだっけ?・・・ごほっ」

 

・・・・・。

 

俺が無言で帰ろうとすると、

 

「ちょっと、冗談よ。ダブルブッキングで困っているのでしょ?」

 

・・・確かに困っている、

くそっ、なぜ周りに頼れる人がこんなのしかいないんだ!

 

「・・・ちゃんと相談乗ってくれます?」

 

俺が、疑いの眼差しで真姫さんをジト目で見つめると。

 

「任せなさい?天才まっきーにかかれば、解決できない問題はないわ!ごほっ!」

 

・・・不安だ。

しかし頼れる人がまっきーしかいないのも事実。

その後、ことりさんと海未さんとのデートすることになってしまった経緯を話す。

 

「・・・へぇ~、ことりもとうとう動き出したのね。海未は前からだけど。」

 

俺が、経緯を話し終えると、真姫さんはそんな感想を呟いた。

 

「どういうこと?」

 

何のことか分からなかった俺がそう聞くと

 

「別になんでもないわ、それよりこの状況の打破を考えないとね。」

 

はぐらかされてしまった。

最近ことりさんの話題でこういうの多いな・・・。

ことりさんに何かあるのか?

 

「映画館作戦なんてどうかしら?」

 

俺が、ことりさんについて考えを巡らせていると、まっきーがそんな提案をしてくる。

 

「映画館作戦?何それ?」

 

「映画館に一緒にいくでしょ?そこで映画が開始してすぐにトイレに行くふりをして外に出るのよ。」

 

・・・ふむ。

 

「そこに、夏樹に変装した私が入れ替わりで映画館に戻るのよ。」

 

・・・ほう。

 

「その間に、もう一人の方とデートをするのよ。」

 

・・・ふむふむ。

 

「そして、映画が終わるタイミングで、もう一人の方とも映画館に行くのよ。」

 

・・・ほうほう。

 

「そしてもう一度同じことをすればこれだけで4,5時間は稼げるってわけ!」ドヤッ

 

確かに!

 

「そして日曜日は練習があるからデートをすると言ってもせいぜい4、5時間くらいしかないはず。つまりこの作戦を実行すれば・・・」

 

「・・・完璧に二人とデートをできる。」

 

ゴクリと、思わず唾を飲み込む。

完璧だ・・・。

上手くいかないわけがないっ!

 

「まっきー、あんた天才では・・・?」

 

一瞬で、俺が抱える問題を解決してしまったまっきーに敬意と畏怖の念を込めて、見つめながらそうつぶやく。

この人すげー。

 

「ふふふ、当然でっごほっ!!」

 

「うわっ、汚なっ!?」

 

決め台詞の途中で思い切り咳をしてしまったまっきーの唾がかかってきた。

最後まで格好良く決めろよ!

 

「・・・ごめん、でもこれで解決でしょ?」

 

「・・・まあ、そうだね。ありがとう、本当に。」

 

正直さっきまで、来たことを後悔していたが、こんなにあっさり解決するとは思わなかった。

やはり持つべきは、頼れる先輩だな!!

 

「ところで、夏樹。最近あっちの方の進捗はどうなのよ?」

 

重荷から解放されたことに感激していると、まっきーがそんなことを聞いてきた。

あっちとは、当然俺の想い人との進捗のことだろう。

 

「いや、全然・・・。」

 

そう・・・悲しいかな全くといっていいほど進捗はなかった。

 

「まっきーはどうなの?進捗は?」

 

「・・・同じく。」

 

まっきーもどうやら想い人とは、うまくいってないようだ。

難しいよね、好きな人にアプローチするのって・・・しょうがないしょうがない。

自分と同じ状態のまっきーにどこか安心感をおぼえてると、

 

「・・・とでも言うと思ったかしら?」

 

なんてことをニヤリとしながら言ってきやがった。

うそ・・・だろ・・・?

 

「今度、にこちゃんとデートをする約束をしたわ!」

 

「なん・・・だと・・・。」

 

俺が、ライバルに一歩先を行かれていることに絶望していると

 

「ふふふ、夏樹も頑張ってね??」

 

と、余裕を感じさせるセリフを投げつけてきやがった。

く・・・悔しいぃぃ!!

 

俺とまっきーは、お互いの想い人を知っている関係であり、お互いの恋路をサポートしあっているのだ。

だが、サポートすると同時にどっちが先に結ばれるかを競い合うライバルでもあるのだ。

だが、どうやらそのライバルに俺は知らぬ間に差を付けられていたようだ。

 

「・・・俺も本気を出す時が来たようだな。」

 

「ふふふ、楽しみにしてるわよ?」

 

その後、他愛もない会話をして、その日は帰った。

 

今日は、日曜の件も解決したし、いい刺激ももらえた。

フルボッコにされたりもしたけど、なんやかんやいい日だったな・・・。

よし、明日も頑張るかっ!

 

次の日俺は風邪を引いた

 

まっきーは風邪が悪化したらしい

 

つづく

 



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第6話 見舞客

・・・頭がぼーっとする。

 

風邪を引いてしまった俺は、平日にも関わらず布団の中で休息中だ。

ずっと寝ていた為、もう眠気はない、かと言って起き上がるような元気もない。

 

・・・暇だ。

 

まあ、たまにはゆっくり過ごすのもいいかもなぁ。

なんてさっきまで思っていたが・・・

 

「・・・何でいるの、希さん?」

 

なぜか制服を着た希さんが俺の部屋にいた。

学校は、もう始まっている時間のはずだ。

この人の行動は本当に謎なんだよな。

 

「いや~可愛い後輩が風邪ひいたっていうから、お見舞いに来たんやん?」

 

いい笑顔でそう言っているが、本当だろうか?

 

「学校はどうしたんですか?」

 

「まあまあ、うちはええねん、特別やから。」

 

「どういうことやねん。」

 

「細かいこと気にしてたら、モテへんで?

 おっと、夏樹君にその心配はなかったか?」

 

冗談ぽく笑いながら希さんがそう言ってくる。

 

・・・俺のこと好きなのは海未さんくらいだわ。

 

「それより、色々買ってきたけど何かいる?」

 

希さんはスーパーの袋らしきものをガサガサしながらスポーツ飲料水やゼリーなど取り出しながら俺にそう聞いてくる。

 

一応、お見舞いに来たというのは本当らしい。

 

「あ、それはありがたいです。ちょうどお腹減ってたんですよ。」

 

さっきまで寝ていたので、実はお腹が減っていたのだ。

希さんの真意は分からないが、ここはありがたく好意に甘えておこう。

 

「やろ~?何食べたい?ゼリーにアイスになんでもあるよ~?」

 

「じゃあ、ゼリーでお願いします。」

 

「おーけー」と言い、てきぱきとゼリーを取り出し食べる用意をしてくれる。

 

・・・怖いぐらい従順だな。

ミューズの中でも俺をからかってくるトップ3には確実に入る希さんがここまでしてくるのは、正直裏があるとしか思えない。

ちなみにトップ3の残り二人は、ことりさんと凛さんね。

 

「じゃあ、はい、あ~ん♪」

 

「あの・・・一人で食べられますけど?」

 

当然のようにあーんをしてくる希さんに俺がそう言うと

 

「まあまあ、こんな可愛いお姉さんがあ~んしてくれるなんて中々ないよ~?」

 

「自分で言いますか・・・。」

 

確かに、可愛いけど。

ていうかミューズのみんなは全員可愛いけど。

 

だが希さんはミューズの中でもずば抜けている部分がある。

そうそれは、おっぱ・・・

 

「夏樹君~?何かいやらしいこと考えてない~??」

 

「ハハハ、マサカ」

 

・・・なぜ、ばれたっ!?

乳をガン見したのがいけなかったのか?

 

「そっか♪ じゃあはい!あ~ん♪」

 

・・・どうやら逃げられないようだ。

観念しよう、いくら希さんでも病人の俺に何かしようなどとは企んでいないだろう、うん。

 

「・・・あ~ん。」

 

「はい♪」

 

俺が、口を開くとそこに、ちょうど一口サイズに分けてくれたゼリーを流し込んでくれる。

 

・・・うん、おいしい。

先ほど買ったばかりなのだろう、適度に冷たく、火照った体にそのその冷たさがしみわたっていくようだ。

人は、風邪などを引いて体調が悪い時、弱気になる傾向があるそうだ。

俺も例外でなく正直寂しさを覚えていたこともあり、何だかこの状況が心地よくなってきた。

 

「はい、次あ~ん♪」

 

「・・・あ~ん。」

 

そこから俺も特に抵抗することなく、素直に希さんの好意に甘えることにした。

 

・・・なんだか希さんが優しい理想のお姉さんのように見えてきた。

 

ちなみにうちのリアル姉ちゃんは俺が風邪を引いたと知った時、慌てて俺の部屋に突入してきたらしく、勢い余って俺に頭突きをかましてきやがった。

俺はその衝撃で気を失った。

 

凄い衝撃だったよ、まじで・・・。

 

当然、姉ちゃんは出禁だ。

 

雪穂?

ラインで「ファイト」とだけ送ってきたよ。

 

 

 

「ごちそうさまでした。

 希さんありがとうございました。」

 

すべてのゼリーを食べ終わった俺は、希さんに素直にお礼を言う。

 

「ええんよ、既にお礼はしてもらってるから♪」

 

・・・ん?

 

「希さん・・・どういうことですか?」

 

「まあまあ、気にせんといて。」

 

と、答えてくれなかった。

なんだなんだなんだ?

怖いっ!すごく!

 

「それより、夏樹君、最近いっぱい青春してるらしいやん?」

 

俺が、ビビっていると希さんが急に話題を変えそんなことを言ってきた、

 

「え、なんのことですか?」

 

が、まったく身に覚えがなかった俺がそう答える。

 

「ふふふ、それでこそ夏樹君や。

ただこの先、誰かに想いを告げられるようなことがあったら、

好き嫌いに関わらず真剣に向き合いや?」

 

と、希さんが真面目な感じを出してそんなことを言ってきた。

 

・・・どういうこと?

 

俺が理解できずに考えていると、

 

「今日はそれが言いたかってん、じゃあうちは帰るわ~。」

 

と、さっさと部屋から出ていこうとしてしまう。

しかし、部屋を出る直前に何かを思い出したようにこちらに振り向き、

 

「あ、そうそう、さっき言ってた既にお礼もらってるって言ってた件やけど、

あ~んしてた下りのところ、ミューズのみんなにライブで配信してたんよ、実は。」

 

・・・・・ホワイ?

 

「じゃあ、うちは帰るから、お大事にね~。」

 

そう言い残し、希さんは部屋から出ていってしまった。

 

・・・・・え?

 

・・・・・え?

 

・・・・・・。

 

その後、俺は考えるのをやめて寝た。

 

食事をしたおかげか割とすぐに眠りにつくことができた。

 

 

 

その後、ライブ配信を見たとして海未さんが押しかけてきて、私もあ~んしますと言って無理やりあ~んされた。

後、なぜかことりさんにも。

 

風邪だっていってるのに、凄い疲れた・・・。

これは、復讐だな・・・。

実は対希さん用に、一つ武器を隠し持っていたのだ。

今日だけじゃない、今までからかわれた分の復讐を今果たす時が来たようだ・・・。

 

くくく、今から希さんの慌てふためく姿が目に見えるぜw

 

 

 

今日は、遅刻したせいで、絵里ちに心配かけてもうたな。

 

でもまあ、あんな占い結果になってもうたらじっとしてるなんて無理やったしな・・・。

 

昨日、海未ちゃんから日曜日に夏樹君とデートをすると聞かされたうちは、

興味本位で夏樹君について恋占いをしてみた。

 

その結果は・・・

 

よくないものやった。

 

正直、占いなんて科学的根拠もないし、心から信じてるわけではない。

ただ、なんとなく嫌な予感がしただけ。

 

・・・でもまあ、仮にこの先大変なことになっても夏樹君なら大丈夫やろ。

そのためのアドバイスもしっかり今日したしな。

 

それよりも、あのライブ配信見た海未ちゃん達、凄いご乱心やったな(笑)

あの後、海未ちゃんとことりちゃんは、夏樹君の家にダッシュしていってたな~。

 

夏樹君にちょっと悪いことしたやろか?

 

と、そんなことを考えているといつの間にかラインがたまっていることに気付いた。

スマホを取り、画面をのぞき込む。

 

絵里ちに他のみんなもなんか言ってるな。

え~何々?

 

絵里 『希可愛いわね(笑)』

 

凛  『これは萌えるにゃ~』

 

にこ 『wwwww』

 

・・・何のことや?

ん? なんか動画がアップされてる。

穂乃果ちゃんがアップしてるんか。

 

何の気なしに再生ボタンを押しみる。

 

『あ、お母さん?私希だよ?』

 

『うん、こっちの生活にもばっちり慣れたよ!』

 

『それにミューズのみんなともとっても仲良くなって、毎日がとても楽しいよ!!』

 

動画を止めた。

 

これは、お母さんと電話したときの私だ。

いつもとは違う口調でとても嬉しそうに電話をしている私の姿がそこに映っていた。

 

もう一度ラインを見てみる。

すると、動画のアップの前に穂乃果ちゃんが何かを言っていた。

読んでみると、

 

穂乃果 『希さんまじ可愛いかったです(笑)by動画撮影者の夏樹より』

 

「なつきいいいいい!!」

 

私の叫びは夜の街に響き渡った。

 

つづく

 



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第7話 KKE

結局希さんがお見舞いに来てくれた次の日には、体調もすっかりよくなり完全復活を果たした。

風邪が治った俺は、いつも通り学校に行った。

 

そしてその放課後、

俺は、今、絢瀬家の前に来ていた。

 

俺は、これから絵里さんに会うことにした。

急だったが絵里さんも予定が空いていたのか快く承諾してくれた。

 

よし、いくか・・・。

ちょっと緊張するな・・・。

 

ぴん、ぽ~ん

 

のんびりしたインターホンの音が静かな空気に心地よく響き渡る。

ほどなくして、足音がトトトと近づいてくる。

 

「は~い♪」

 

明るい声で快く迎え入れてくれたのは、絵里さんだ。

 

ラフな部屋着に身を包んだ絵里さんだが、そんな服の上からでも分かるスラッとしたスタイル、日本人にはない輝くような金髪、蒼い瞳はそれこそ芸術作品のようだ。

当然、周りからの人気も凄い。

 

相変わらず美人だなぁ・・・。

何度見てもその美貌には魅入ってしまう。

 

「どうしたの、夏樹?

 私の顔に何かついてる??」

 

「・・・えっ、あ、いや、なんでもない。」

 

「そう?」

 

あぶね~、見とれてた・・・。

これだから絢瀬家は恐ろしいんだよな・・・。

 

その後、部屋に案内された俺は、綺麗に整頓されたリビングで用意してくれていたお菓子と紅茶を飲みながらしばらくしゃべることになった。

 

「そういえば、今日希さんどうだった?」

 

昨日、マザコン標準語の希さんの一部始終が記録された爆弾動画を姉ちゃんのスマホからミューズ全員のグループラインに送った実行犯としてその成果を聞く。

 

「ふふふ、今日の希はみんなにからかわれて、一日中顔真っ赤だったわよ?

とても可愛かったわ~。」

 

それは何より(笑)

 

いつもおれをからかってくる希さんに一泡ふかせたことに心の中でガッツポーズをしていると

 

「でもああ見えて、希は恥ずかしがり屋さんだからあんまりからかったらだめよ?」

 

「・・・は~い。」

 

からかったらだめ?

そんなわけにいかないなぁww

 

「そういえば、希が次に夏樹に会ったら、生まれてきたことを後悔させてやるって言ってたわね。」

 

・・・しばらく希さんには近づかないでおこう。

 

「でも希が学校をさぼってまで夏樹の家に行ったっていうことは何かあったの?」

 

と、絵里さんがもっともな疑問を投げかけてくる。

 

「さあ?俺もよく分からなかった。」

 

結局希さんの言ったことの意味は最後まで分からなかった。

・・・なんか最近こういうの多い気がする。

 

「ふ~ん、まあ困ったことがあったらいつでも言ってね?

力になってあげるから♪」

 

と、ウインクをしながら言われた。

惚れてまう・・・。

ていうかウインクが様になるな・・・、姉ちゃんとは大違いだ。

 

 

 

「それで夏樹?ここに来たっていう事は、また勉強を教えてもらいに来たんじゃないの?」

 

その後も、しばらく雑談を楽しんでいたが、

会話もそこそこに絵里さんがそう切り出してくる。

心なしか、そう聞く絵里さんは少し楽しそうだ。

 

「ふふふ、今日は違うよ、その必要がなくなったんだ。

今日はその報告に来たんだよ。」

 

俺が待ってましたとばかりに、不敵な笑いとともに絵里さんにそう伝える。

そう、今日ここに来た真の目的はこの報告の為なのだ。

 

「え・・・それってつまり。」

 

絵里さんは俺のその言葉で、俺が何を言いたいのか察したのだろう、ひどく驚いている。

まあ、無理もないだろう。

 

「この前の中間テスト・・・学年3位だった。」

 

俺が、今日渡された成績表とともに絵里さんにそう伝える。

そう・・・俺が3位だ。

半年前は、ほぼビリに近かった俺がだ。

 

「そっ・・・か・・・頑張ったのね。」

 

俺の報告に絵里さんは、感動してくれてるのか、途切れ途切れにそう言ってくれた。

でも、気のせいだろうか、絵里さんがとても寂しそうな表情をしているような?

・・・ま、気のせいだろう。

きっと、俺の成長を嬉しく思ってくれているのだろう。

・・・いっぱい勉強教えてもらったもんな。

本当に絵里さんには感謝している、後この場にはいないが、ことりさんにも、だ。

 

「・・・半年かかったけど、あの時の約束、覚えてるよね。」

 

俺が、珍しく真面目な口調でそう絵里さんに確認をとる。

俺だって真面目な時は真面目なのだ。

 

「・・・・・ええ、もちろん、よ。」

 

さっきから絵里さんはえらく歯切れが悪いな?

そんなに俺が3位を取ったのが、驚きなのか?

まあ自分でもびっくりだけどさ。

 

それより、とうとうあの絵里さんもこの俺を認めてくれた・・・!

やっとだ・・・、やっとこの時が来たのだ。

どれだけこの時を待っていたか・・・。

 

「よし、じゃあ、俺行くよ!

今日はその報告が目的だったし、あんまり長居しても悪いしね。」

 

そう言い、俺は立ち上がる。

さあ、ここからやることはいっぱいあるぞ!

 

「・・・・・。」

 

だが、ここで絵里さんは急に黙ってしまった。

どうしたんだろうか?

 

「絵里さん?どうしたの?」

 

少し心配になり、そう尋ねる。

 

「え、ああ、なんでもないのよ!

ただ、夏樹がよくここまで成長したなって感動してたのよ!」

 

と、いつも通りの絵里さんがそう明るく答えてくれた。

よかった、様子がおかしそうだったのは気のせいだったのだろう。

 

「うん、本当に絵里さんには感謝してるよ。

今まで本当にありがとう。」

 

そう言い、俺は深く頭を下げた。

これは俺なりの誠意だ。

 

「ううん・・・私こそこの半年間は楽しかったわ。

・・・また遊びに来てね?」

 

と、絵里さんは寂しそうにそう言ってくれた。

半年前のことを思い出すとなんだかその言葉だけですごく胸にくるものがある。

 

「きっと遊びに来るよ・・・おねえ様?」

 

「・・・ふふ、もう、気が早いわよ?」

 

少し困ったような絵里さんの顔を見たのを最後に俺は、絢瀬家を去った。

 




次回は、半年前のお話になります。


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第8話 出会い

~半年前~

 

・・・はあ。

 

何もやる気が出ない・・・。

 

ことりさんと海未さんの二人と喧嘩、いや、喧嘩と言っていいのか分からないが、とにかく二人との関係性が気まずくなり、最近はずっと最悪の気分だ。

 

・・・早く帰ってゲームしたい。

 

ところが、悪いことというのは、続くらしい。

 

「では、今から成績表を返していくぞー」

 

先生のその一言で最悪だと思われていた気分がさらに悪くなるのを感じる。

テストなんてこの世からなくなればいいのに・・・。

 

勉強は嫌いだ、なぜしなくてはいけないのか分からないからだ。

英語とか数学とかこの先役に立つのか?

 

そんな考えを持っていると当然成績がいいはずもなく、

 

「おい、高坂、もうちょっと頑張ったらどうだ?

高校に行けないぞ?」

 

と、ありがたいお言葉とともに渡された成績表には、

246位と記してあった。

248人中だ。

 

いつものことだ。

 

ま、後二人俺より、下がいるならいいか、

と成績表をポケットに押し込み、勉強のことを考えるのはやめた。

 

学校が終わると、まっすぐに家に帰った俺は、早速ゲームをした。

 

ゲームはいい。

嫌なことも全部忘れて、夢中になれるからだ。

それに、続けていくうちにどんどんうまくなっていくことが楽しくてしょうがないのだ。

 

ゲームをしていると、途中で雪穂が帰ってきたので一緒にスマブラをすることにした。

 

しかし、

 

「あ~、もうやめやめっ!夏樹強すぎ。」

 

と、わずか2回戦しただけで、雪穂がコントローラーを放り出してしまった。

雪穂もちょくちょくゲームはしてるみたいだが、最近ずっとゲームをしていた俺と、いつの間にか実力の差が開いていたらしい。

 

「・・・ていうかさ、夏樹なんかあったの?」

 

俺が雪穂に構わず一人でゲームを続けようとすると、そんなことを言ってきた。

 

流石双子の姉だ。

俺の様子がおかしいことをとっくに見抜いていたようだ。

 

「・・・別に。」

 

が、当然何があったのか答える訳もなく、そのままゲームを続けた。

 

「・・・ふ~ん、まあいいけどさ。ゲームもほどほどにね?」

 

と、言って自分の部屋に行ってしまった。

 

それからもゲームを続けていが、母さんから、ゲームをしてる暇があるなら買い物に行って来いと、家から追い出されてしまった。

 

面倒だ、しかも買ってくるもの多いし・・・。

 

仕方がなく、スーパーに向かうが、途中で面倒になり、通りかかった公園のベンチで休憩することにした。

 

もう少しで春とはいっても、まだまだ寒い季節は続いている。

夕方ということもあり、公園には他に人の姿はなく、静かな空間が広がっていた。

 

そんな雰囲気だからだろうか、思い出したくもないことを思い出してしまう。

 

・・・二人に嫌われてしまっただろうか?

なぜあそこまで言ってしまったのだろうか。

もっと言い方があったのではないのか?

 

ベンチで過去の自分の行動を悔いていると、

前から声をかけられた。

 

「どうしたんですか?なにかあったんですか?」

 

とても、透き通った声だった。

俺の真っ暗になってしまった感情にも響くその綺麗な声に、

うつむいていた顔をゆっくり上げる。

 

そこには、

 

一人の少女がいた。

 

まず目に飛び込んできたのは、夕日色に輝く綺麗な金色の髪だった。

次いで、蒼色の透き通るようなきれいな目。

そして整った顔、真っ白な肌。

まるでお人形さんのようだった。

 

現実離れしたその光景に思わず、我を忘れて魅入ってしまう。

 

「あの、どうしました?」

 

少女が、黙っている俺を不審に思ったのだろう。

きょとんとし、そう尋ねてくる。

 

「あ、ご、ごめんなさい。つい。」

 

我に返った俺は、少女の方を食い入るように見ていたその顔を慌てて逸らす。

 

「そうですか?

それで何かあったのですか?」

 

少女はそう言いながら隣に座ってきた。

 

ふわりと、化粧水なのか何かは分からなかったが、とてもいい香りがした。

 

「い、いや、別になにも、ないですよ。」

 

座ってきた距離が近かったということもあり、緊張してしまった俺は、噛みながら、そう答える。

 

「そうですか・・・。

でも、口にすることで楽になることもあるかもしれないですよ!」

 

そう明るく言ってくれた少女に、改めて顔を向けた。

 

少女は満面の笑みで俺を見つめていてくれた。

 

・・・可愛い。

 

「って、お姉ちゃんが言ってたんですけどね。」

 

えへへ、と冗談ぽく笑いながらそう舌を出す少女を見て思わずこう思った。

 

可愛い。

 

いや、まあ、さっきも思ったけどね?

 

「・・・実は、ちょっと前に大事な人たちと喧嘩をしたんだ。」

 

しかし、そんな少女を見ていると、俺の中にあった暗い心が少し晴れていくような気がして、気付いたら、勝手に口が動いていた。

 

俺は、二人と何があったのかを最後まで、これまで会ったこともない少女に語った。

 

少女はそんな俺の話を最後まで静かに聞いてくれた。

 

そして、俺が全てを語り終えた後、少女はまず第一声に

 

「話してくれてありがとうございます。」

 

そう、感謝の言葉を述べてくれた。

そして、続けてこういった。

 

「・・・で、ごめんなさいなんですけど、正直日本語に慣れていない部分があって、分からなかったところが結構ありました。」

 

うそ~ん。

 

「で、でも!あなたが、二人のことをとても大事に思っていることは伝わってきました。

きっと、仲直りできます!絶対です!」

 

と、少女は、大きな声で力強くそう言ってくれた。

 

そんな必死に言ってくれる少女の姿を見ていると、

いつの間にか、自分の中にあった暗い感情が無くなっているのが分かった。

 

「・・・ありがとう、何だか俺勇気が出てきた!」

 

そうだよ、俺が二人のことを大事に思っている気持ちだけは嘘じゃない!

きっと二人も分かってくれる!

 

そのことに気づかせてくれた少女に俺は、頭を下げて深く感謝する。

 

「いいえ、私は何もしてませんよ?

でも、元気が出てよかったです!

・・・あっ、もう帰らなくちゃ!」

 

思い出したように少女は、そう大きな声で言い、あたふたしだした。

そしてそのまま、立ち上がって、

 

「じゃあ、私はもう行きます!

二人と仲良くなれることを願ってます!」

 

と、慌てながら走って行ってしまう。

 

「あ、ちょっと待って、名前、そう名前は??」

 

見知らぬ俺にここまでしくれたのだ、恩人の名前くらいは聞いておかなくては、

 

俺のその言葉に少女は立ち止まり、

くるりと、振り向き、そしていたずらっぽく、そして少しだけドヤ顔交じりの笑顔でこう言った。

 

「ふっ、名乗るほどの者でもないですよ?」

 

俺が、ぽかんとしていると、そのまま少女は立ち去ってしまった。

 

なぜ、名乗ってもらえなかったのか分からなかったが、最後のあの、笑顔を見て、俺は確信した。

 

俺、あの子好きになったわ。

 

つづく

 



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第9話 約束

はぁ、あの女の子可愛かったなぁ。

 

名前は何というのだろうか?

見た感じ年齢は同じくらいだと思うが、どうなのだろう?

明らかに日本人ではなかったが、どこの人なのだろか?

 

知りたいことがたくさんある。

 

まあ、いいか、あの子と出会えただけで、今は充分だ。

 

そのまま天にでも上る気分で俺はマイホームに帰宅する。

 

帰宅した直後、

俺は、母親の前で正座させられていた。

 

天に昇っていた気分が地面にたたきつけられたようだ。

 

「で、買い物は??」

 

買い物をするのを忘れて帰ったために母さんがご立腹なのだ。

 

・・・完全に忘れてた。

 

「・・・素敵な出会いがあって、忘れてしまいました。」

 

「は?」

 

怖い・・・。

母さん完全に怒ってるぅ。

 

「いえ、母上違うのです。

素敵なね?出会いがね?」

 

「はやく、買い物行ってきなさい!!」

 

せっかく俺が素敵な出会いの一部始終を説明してあげようと思ったのに、途中で家を追い出されてしまった。

 

人の話は最後まで聞くべきだと思う。

 

というわけで急いでスーパーに向かうが、ちょうどラッシュ時間なのか人が多い。

 

・・・最悪だ、さっさと買い物済ませて帰ろうと。

 

と、速足気味でスーパーの入り口に向かうが、なんとその入口の方に、

 

え? 

 

あの綺麗な金髪、見覚えがある!

 

さっきの少女の髪のモノだ!

見間違えるはずがない。

 

入り口付近で人込みができていたため、頭の部分しか見えなかったが、間違いない。

 

「あ、あのすみません!」

 

俺は、無我夢中でその少女を呼び止めた。

呼び止めてどうするか、何をしゃべるのか、何も考えていなかった。

考える前に体が動いていた。

 

しかし、

 

「はい?」

 

振り向いたその顔は、俺が求めていたものでは、なかった。

 

人違いだったのだ。

 

・・・いや、違う!

 

・・・似ている。

 

公園で出会った少女よりも、明らかに年上で、完全に別人ではあったが、まず髪の色、そして目の色、これは完全に同じだ。

それに、なんというのだろうか、オーラとういうか雰囲気とでもいえばいいのか分からないが、それが似ている気がした。

これは、おそらく・・・

 

「あの、なにか?」

 

俺が、まじまじと顔を見ていたのを気味悪がったのか、警戒しながらそう言ってくる。

 

「あ、あの!

いきなり、失礼なんですが、あなたには妹がいませんか?

俺と同じくらいの年だと思うのですが。」

 

そう妹だ。

そうとしか考えられない。

この女性は、きっとあの子のお姉さんに違いない!

 

「亜里沙のことかしら・・・?

というより、あなたは誰かしら、知り合いじゃないわよね?」

 

・・・亜里沙、

 

そうか、それがあの少女の名前なのか。

 

俺が、少女の名前を知れたことに感動していると、

 

「・・・用がないようだし、行くわ。」

 

俺が返事をしなかったことから無視されたと思ったのだろう、

そう冷たく言い放ち、帰ろうとしてしまう。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!

俺さっき、あなたの妹さんに会ったんです。」

 

せっかくあの公園で出会った少女、亜里沙さんと関係性を築けるかもしれないのだ。

この機を逃してたまるか!

 

しかし、俺の言ったことが気になったのか、亜里沙さんのお姉さんは、足を止め、こちらを振り向いた。

 

「あなたが、亜里沙と?いったい、何が理由で?」

 

と、相変わらず警戒心MAXで俺にそう尋ねてくる。

 

それにしても、亜里沙さんは太陽のように温かい心を持っているようなイメージを受けた。しかし、お姉さんの方は、真逆の、まるで氷のように冷たい心を持っているようだ。

言葉の一つ一つにとげが含まれている。

 

おそらく普段の俺ならとっとと逃げてしまっているだろう。

 

だが、今は、逃げるわけにはいかない、なにせ俺は、あの子が、亜里沙さんのことが好きなのだ!

 

「お、俺あることで悩んでいたんですが、亜里沙さんのおかげで元気をもらえたんです!」

 

「・・・そう、それで?

亜里沙にお礼を言っていたことを伝えればいいのかしら?」

 

が、目の前の女性は、興味なさそうに俺を冷ややかな目で見ながらそう言ってくる。

 

・・・っ、やばい、心折れそう。

ていうか本当にあの子の姉なのか?

全然性格が違うじゃないか。

 

「ち、違います!

いや、確かに感謝はしていますが・・・。

あの、俺、亜里沙さんのことが好きになったんです!」

 

言ってやった。

なぜ、お姉さんにこんなことを言ってるのか、よくわからないがとにかく言ってやった。

もしかしたら、ずっと興味のなさそうな表情をうかべているお姉さんに一泡ふかせたかったのかもしれない。

 

そして、その思惑は、うまくいった。

 

お姉さんは、ぽかんとした表情を浮かべていた。

しかし、それも一瞬、またすぐに冷たい表情に戻ると

 

「いきなり、なにを言うのかと思えば・・・。

名前も分からない人にそんなことを言われても気味が悪いだけよ?

・・・私は帰るわ。」

 

と、言って再び帰ろうとしてしまう。

 

「ちょっと、待ってください!

俺は高坂夏樹といいます!

本気なんです!マジなんです!」

 

と、必死に呼び止めようとするが、

急に体を大きく動かしたせいか、着替えを怠り、まだ着ていた学校の制服のポケットから何か紙が落ちてお姉さんの方に転がっていった。

 

ぎゃーーー、あの紙はあかん!

 

「これは?

・・・246位、ね。

高坂君だっけ?

あなた、随分頭がいいのね?」

 

今日渡された成績表を見られてしまった。

・・・これは、まずい。

お姉さんの好感度が明らかに下がっているのが分かる。

いや、元から低いけども!

 

「べ、別に勉強なんてできなくても困らないんだからね?」

 

慌てすぎて訳の分からないツンデレみたいなことを言ってしまう。

 

恥ずかしい・・・。

 

「ふん、そうやって言い訳をして、学業もまともにできない子が亜里沙のことを好きとい言える資格すらないわね。」

 

と、馬鹿にするようにそう言い放ってきた。

 

「べ、別に学業なんて関係ないでしょう!」

 

俺が、そう大きな声で反論するが、

 

「話にならないわね。

じゃあね?

もう二度と話しかけないで頂戴。」

 

と、バッサリ切り捨てて去ろうとする。

 

「じゃ、じゃあ分かったよ!

勉強頑張るよ!」

 

絶対あきらめるものか!

 

なおも食い下がる俺に、お姉さんは面倒くさそうにだが、振り返ってくれる。

 

「・・・はぁ、頑張るって具体的には?」

 

「え、あの・・・て、テストで学年3番以内に入ってやるよ!

それができたら、亜里沙さんに告白しても問題ないですよね!」

 

3位、適当に言ったが、それがどれほどの数字なのかは分からないが、険しい道であることには違いない。

だが、やってやる。

亜里沙さんのためなら。

 

「ふ~ん、まあいいわ。

精々頑張ってね、無駄だとは思うけど。

何よこれ、全教科の平均点が6点って。

サルでももう少し点数がいいんじゃないかしら?」

 

と、俺にくしゃくしゃになっていた成績表を投げて返してくる。

 

・・・このっ、いちいち、むかつく人だ。

・・・何も言い返せんが。

 

「約束だからな・・・、絶対やってやる。」

 

「あっそう、じゃあ私は帰るから。」

 

と、俺の言葉なんてまるで響ていないかのか、興味なさげにとっとと帰ってしまった。

 

く、絶対に学年3番に入ってやる。

 

・・・て、あ。

あの人がどこのだれか分からないじゃん。

 

仮に3番に入れたとしても、あの人がどこにいるのか分からいのでは、報告ができないから意味がない。

 

ま、いいか。

何とかなるだろ。

それよりまずは、勉強だな。

そうと決まったらすぐに帰って実行だ。

時間は限られてるんだ、ダッシュだ!

 

俺は、全力で家に帰った、人生で初めて全力で勉強をするために。

 

やってやる・・・、そしてあの馬鹿にしたお姉さんを見返してやるぜ!!

 

 

 

「で、何か言い残すことは?」

 

再び買い物を忘れた俺は、本日二度目の正座で母さんに説教を受けていた。

 

「せめて弁解の余地をください、母上。

素敵なね?出会いをしたお姉さんがね?」

 

「いいから、早く買い物に行ってきなさい、ダッシュで!!

次忘れたらお小遣い十分の一だからね!!」

 

「御意」

 

俺は命令通りダッシュでスーパーに向かった。

 

お小遣いが150円にならないように。

 

つづく

 



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第10話 きっかけ

 

ぜ、全然分からん・・・。

 

勉強を始めたはいいが、びっくりするほど分からない。

何から勉強すればいいのかも分からない。

何が分からないか分からない状況だ。

 

このままではまずい。

 

・・・・・。

 

・・・くそ、この手段だけは使いたくなかったが。

 

俺は苦渋の決断を下し、部屋を出て姉ちゃんの部屋に向かう。

 

姉ちゃんは馬鹿だが流石に中学二年生の内容ならわかるだろう。

癪だが贅沢は言ってられない、勉強を教えてもらおう。

 

ノックをし、姉ちゃんの部屋にお邪魔する。

 

「なあなあ、姉ちゃん。」

 

「ん~、どうしたの?」

 

姉ちゃんは、寝転びながら漫画を読んでいた。

 

だらしない、これが華の女子高生かよ・・・。

まあいい、暇そうなら好都合だ。

 

「勉強教えてよ。」

 

ドサッ

 

俺が、端的に用件を言うと、姉ちゃんは寝転がったままの態勢で漫画を床に落としてしまった。

 

・・・まあ、驚くのも無理はないが。

 

「あの、夏樹?今なんて?」

 

と、落ちた漫画を拾いもせず、声を震わせながらそう聞いてくる。

 

「勉強教えて。」

 

もう一度、そう言う。

 

すると、

 

「どどど、どうしたの??

熱でも出てるの?

それとも嫌なことでもあったの?

お姉ちゃんがギュってしてあげるね?」

 

と、姉ちゃんが急にぐいぐい来て俺を猛烈に心配しだした。

後、どさくさに紛れて抱きついてもきた。

 

・・・頼む相手を間違えたか。

ていうかノーブラで抱き着くのは本当にやめてほしい。

 

「熱はないし、抱きつかんでいい。」

 

姉ちゃんを無理やり引きはがしながらそう言うと

 

「む~、最近雪穂も夏樹も冷たいよぅ。

・・・でも、急に勉強なんてどうしたの?」

 

姉ちゃんは、ぶつぶつ文句を言った後、心の底から不思議そうにそう尋ねてくる。

 

そんなに俺が勉強するのがおかしいだろうか?

 

「・・・別にいいじゃん。

先生にこのままだと高校行けなくなるって言われたから、ちょっと頑張ろうかなって。」

 

適当に嘘を言っておいた。

いや、別に嘘じゃないけど。本当に言われたけど。

 

「そ、それは大変だね。

・・・ていうか、そんなに成績悪いの?」

 

俺が黙って今日渡された成績表を見せると

 

「・・・・・っ。」

 

ドン引きしながら絶句していた。

 

・・・なんかむかつくな。

 

「これは、私の手では負えないよ、ここはことりちゃんにお願いしよう!

ことりちゃんなら分かりやすく教えてくれるよ!」

 

そう言うや否やスマホを操作し電話を掛けだす。

 

って、ことりさん!?

 

それはまずい、と、止める暇もなく電話がつながってしまった。

 

「あ、ことりちゃん!うん、うん。」

 

「あのね、夏樹がね、馬鹿すぎて大変なの!

うん、そうそう、知能レベルで言うとチンパンジー並みなんだよ!」

 

「それでね?夏樹に勉強を教えてあげてほしいなって!」

 

「うん、本当に? ありがとう!じゃあそう伝えるね!」

 

姉ちゃんはそう言って電話を切り、こちらに振り向き、満面の笑みで

 

「ことりちゃんが勉強を教えてくれるって!!」

 

「とりあえず謝れ。」

 

誰がチンパンジーだ。

でも亜里沙さんのお姉さんにも猿って言われたな。

・・・あれっ、今の俺の知能レベルって、本当にそのレベル??

 

「でもまさか夏樹がここまでだったなんて、穂乃果でも平均30点は取れるよ?」

 

嘘・・・だろ?

姉ちゃん以下?

 

って、そんなことはどうでもいい、いやよくないけど。

それより、ことりさんは本当に俺に勉強を教えてくれるのか?

 

正直不安だ。

 

いや、亜里沙さんに言われたじゃないか、むしろこれはチャンスだ。

ことりさんも勉強を教えてくれるということは、俺のことを嫌いになったわけではないのかもしれない。

ま、何はともあれこれを機に仲直りをしよう。

 

「お姉ちゃ~ん、続きの漫画貸して~。」

 

俺がことりさんと仲直りをする決意をしていると、

雪穂が何冊かの漫画を持って姉ちゃんの部屋にやってきた。

 

「あれ、珍しいね?夏樹がいるなんて。」

 

雪穂は俺の存在を確認すると少し驚いたようにそう言ってくる。

 

「夏樹がね?勉強を教えてほしいって来たんだよ。」

 

俺が答える前に姉ちゃんが勝手に答える。

それを聞いた雪穂は、

 

「え」

 

ドサッ

 

一言驚きの声を上げ、持っていた漫画を落として固まってしまった。

 

貴様もか。

 

「え、え、なんで?」

 

雪穂が、びっくり仰天という感じで俺にそう尋ねてくる。

 

「ね~、びっくりだよね?

でもこの成績見てよ、高校行けないって言われちゃったんだって。」

 

姉ちゃんはそう言って、俺の成績表を勝手に雪穂に渡してしまう。

 

勝手に渡すな・・・。

 

「どれどれ、うわぁ・・・。」

 

雪穂は俺の成績を確認するや否やそう、悲痛そうな声をあげる。

 

・・・なんかこの反応も慣れてきたわ。

 

「確かに酷い成績だけど夏樹が勉強するほうが私は驚きかな~。」

 

と、雪穂はそう感想を述べてくる。

 

「そんなに俺が勉強するの変か?」

 

「だって中学一年の時、校長先生に勉強嫌だから全部の授業を体育にしてほしいって直談判とかしてたじゃん。」

 

・・・あったな、そんなこと。

人ってこんなに怒るんだっていうくらい先生と親に怒られたんだよな。

 

「そういう変な行動力だけお姉ちゃんに似たよね。」

 

「いやいや、夏樹と一緒にしないでよw」

 

「ごめん、言いすぎたw」

 

くそっ、二人とも好き勝手言いやがって・・・。

 

「うるせえ!

俺はここから学年で3番の成績にまで、駆けあがるんだよ!」

 

雪穂から成績表をひったくり、俺の決意を教えてやった。

 

 

 

あの後二人が爆笑してしまい、聞く耳を持ってもらえなかったので、すぐに部屋に戻ってその日は寝た。

 

覚えとけよあの二人・・・。

 

姉ちゃん曰く、明日早速ことりさんが勉強を教えてくれるそうだ。

そこだけは姉ちゃんに感謝だな。

 

 

 

そして次の日の放課後。

 

はあ、やっぱり緊張するな。

 

俺は今、ことりさんの家の前までに来ていた。

 

あの日以来か・・・

いや、今の俺なら大丈夫だ。

 

・・・よし、行くか!

 

つづく

 



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第11話 すべての始まり

ことりサイド(~半年前~)

 

「楽しみだね、海未ちゃん♪」

 

「ふふ、そうですね。」

 

学校が終わった放課後、私と海未ちゃんで仲良くお出かけです!

残念ながら穂乃果ちゃんはお店番なので一緒に行くことはできなかったけど・・・。

穂乃果ちゃんには美味しいお菓子のお土産を買ってあげるの!

 

今日は、隣町にできたという大型のショッピングモールに出かける予定です。

私は新しいお洋服を、海未ちゃんは登山道具を見たいんだって。

 

「でも、あまり遅くならないようにしないといけませんね。

今から行くところは、夜になると治安が悪くなるという噂ですし。」

 

しっかり者の海未ちゃんは、そう注意してくれる。

 

「うん、わかった!」

 

私はそう言うと早く目的地に着きたいと、少し速足ぎみに歩を進めた。

新しいお洋服が私を待っているとなると、どうしても興奮を抑えられない。

 

「あっ、ことり。あまり急ぐと危ないですよ!」

 

「あはは、ごめんね。楽しみでしょうがなくて。」

 

そんな私を海未ちゃんは、「まったく」と言いながらも、特に私を咎めることもなく同じく歩む速度を早めてくれた。

 

なんやかんや最後には私に合わせてくれる海未ちゃんは本当に優しい、だから大好き!

あ、もちろん穂乃果ちゃんもね!

・・・友達としてだよ?

 

私と海未ちゃんは、電車に乗ってようやく待望の目的地に着いた。

 

でも・・・

 

「す、すごい人だね。」

 

「ええ、これほどとは・・・。」

 

辺りを見回しても人、人とすごい反響ぶりだった。

オープンして一週間もたっていないから多少は混むと思っていたけど、平日の夕方にここまで人がいるなんて。

 

「どうしますか?

こう人が多いと、目的のお店を満足に見られるかどうか・・・。

いっそ、今日はあきらめて後日穂乃果も含めてくるというのもありかと。」

 

と、海未ちゃんがそう提案してくれる。

 

確かに海未ちゃんの案もいいけれど・・・

 

「今から帰る人もいるだろうしとりあえず行ってみない?」

 

そう、既に時間は夕刻間近。

今から多少人も減っていくだろうと思い、そう提案してみる。

何より、新しいお店をみてみたいという欲求が勝ってしまった。

 

「まあことりがそう言うなら構いませんが・・・。」

 

「うんうん♪じゃあいこっ!」

 

そう言って私ははぐれないように海未ちゃんの手を握ってショッピングモールの中に進んでいった。

海未ちゃんは多少恥ずかしそうにしたが、意図が伝わったのか手を握り返してくれた。

 

「じゃあ、まずはあのお店に行こっか!

今日は海未ちゃんにたくさん着せ替え人形になってもらうからね♪」

 

「な!? ことり諮りましたね!?

着せ替え人形にしないことを条件に来たはずです!」

 

「忘れちゃった~♪」

 

知ってる?

海未ちゃんっていろんな服が似合って、とっても可愛いんだよ?

 

「ことり~~。」

 

嫌がる海未ちゃんを引っ張って無理やり目的のお店に入っていく。

 

さあ、今からことりのおやつタイムです♪

 

そこから時間が経つのも忘れ、夢中になり海未ちゃんに色々な服を着せていった。

途中から海未ちゃんはぐったりしていたがそんな海未ちゃんも可愛いから問題はなし!

 

「は~、ことりは満足です♪」

 

このために生きていると言っても過言ではないよね。

 

「うぅ、酷いです・・・。」

 

一方海未ちゃんはしくしく泣いていた。

・・・ちょっぴり罪悪感が。

 

「あ~海未ちゃん?

今から登山道具を見に行こっか?」

 

と、私が言うと

 

「行きましょう!

さあ、ことり! 時間は限られていますよ!」

 

と、完全復活した海未ちゃんは私の手を引っ張り元気よく歩き出した。

 

こういう元気な海未ちゃんも可愛いよね!

 

その後は楽しそうに登山道具を見て回る海未ちゃんと楽しく時を過ごした。

 

しかし、服を見ているときもそうだが人が多く、一つの商品を見るだけでも時間を取られ、結果としてかなり時間が経ってしまった。

 

「ふ~、満足しました。」

 

「うん、楽しかったね♪」

 

だが、ここで周りを見てかなり人が減っていることに今更気付く。

スマホで時間を確認すると、

 

「う、海未ちゃんっ!もう8時前だ!?」

 

「え!? あっ本当じゃないですか!これはまずいです!

早く帰りましょう!」

 

「う、うん。」

 

スマホを見ると親と穂乃果ちゃんから連絡が一杯入ってる。

完全に心配かけちゃってる、連絡しておかないと。

 

(穂乃果サイド)

 

「あ、ことりちゃんから連絡帰ってきた。

よかった無事で。夏樹にも知らせたいけど・・・。」

 

ことりちゃん達が七時を回っても家に帰っておらず、連絡も入っていないことからちょっとした騒ぎになった。

夏樹はそれを聞いた瞬間、ショッピングモールめがけて家を出ていってしまった。

新しくできたショッピングモールの周辺は夜になると治安が悪く、心配だと言っていた。

最近女性が襲われたといううわさが学校であったらしい。

それを聞いた私も一緒に行こうとしたが、そのタイミングでことりちゃんから連絡が来たのだ。

 

夏樹にも知らせたいけど、スマホも持たずに行ってしまったので連絡のとりようがない。

 

う~ん、どうしよう?

 

(再びことりサイド)

 

「ねえねえお姉ちゃんたち本当に可愛いね~?何歳?」

 

「こりゃ上物だなw」

 

急いで駅まで向かっていた私達だったがその途中でガラの悪そうな大学生くらいの人たち複数人に囲まれてしまい、細い路地に連れてこられてしまった。

こっそり助けを呼ぼうにもスマホも取り上げられてしまった。

それにさっき親と穂乃果ちゃんには無事だからすぐに帰ると連絡してしまった。

時間がたてば別だが、すぐに助けに来てくれる可能性は低い。

 

こ、怖い・・・。

男の人たちのなめ回すような視線、さりげなく体を触ってくること、ちゃらちゃらした言動、そのすべてが、怖くて気持ち悪かった。

 

こんなことになるなんて、ちゃんと私が海未ちゃんの忠告を聞かなかったからだ・・・。

 

「やめてください!私たちはすぐに帰らないといけないのです!」

 

物怖じ、びくついている私と違って海未ちゃんはそう言い放つが、その声は震えており、明らかに恐怖を感じていた。

相手もそれが分かっているのだろう、

 

「お~怖いね~。

でも声が震えちゃってるよぉ~。」

 

「おい、その女は俺に先にヤラせろよ?

俺は気が強い女が好きなんだよ。」

 

「じゃあ俺はもう一人の子の方をもらおうかなw」

 

なんてことをへらへら言っている。

 

何を言っているのだろう、この人たちは・・・。

言っていることの意味を分かりたくない。

・・・・嫌だ、逃げたい、帰りたい、帰りたいっ!

 

「や、やめてくださっm、むぐっ!」

 

「うるせえな、これ以上騒ぐんじゃねえ!」

 

海未ちゃんが、口をふさがれてしまった。

男の人に力がかなうはずもなく、海未ちゃんは完全に動きが封じられている、その目は完全に恐怖を感じていた。

 

私は、なにもできなかった。

怖すぎて何もできない。

 

気付けば温かいものが頬を伝っているのを感じた。

 

「おいおいこの子泣いてるぜ?可哀想にw」

 

「本当可哀想に、俺が慰めてあげるからねww」

 

男の人たちが何か言っているがもはや耳には何も入ってこない。

 

あぁ、もうなにもかもどうでもよくなってきちゃった・・・・。

 

私は自分の無力感と恐怖のあまり、なにもかもを投げ出してしまいそうになった。

 

その時

 

「うわああああああ!!!」

 

突如、耳をつんざくような大きな叫び声が襲い掛かってきた。

私は思わず耳をふさぎ、声のしたほうを見る。

 

するとそこには、大声を出し続ける、夏樹君がいた。

 

な、なんで・・・。

 

私が何が起こっているか分からず混乱していると、

 

「こ、このガキ、いきなりなんだ!」

 

「くそっ、うるせえ!」

 

男の人たちも突然の大声に戸惑っているようだが、すぐに態勢を整えると、

 

「このっ、舐めるな、このクソガキッ!」

 

と、一人の男がズカズカと夏樹君に向かっていく。

 

対する夏樹君は、何もしない、ただ大声を上げ続けているだけだ。

 

「黙りやがれっ!このクソガキ!」

 

男はそう言いながら夏樹君の顔を思い切り殴った。

 

っ!

 

私は思わず目線を逸らしてしまう。

 

だが、

 

夏樹君の大声は未だ、聞こえてくる。

呼吸をするため、一瞬声が途切れる時があるが、ずっと大声を上げ続けている。

 

「このっ、黙りやがれっ!」

 

そんな夏樹君を見て、他の男も夏樹君に向かっていき、何度も何度も夏樹君の顔や体を殴り続けた。

 

鈍い音があたりに響きわたる。

 

そのたびに夏樹君の声は途切れるが、その一瞬後、すぐにまた大声を上げ続けた。

腕で口をふさがれても、噛みついて腕を振りほどき、大声を上げ続けた。

 

やめて、もうやめて・・・。

 

顔がパンパンに膨れ上がり、血で染まっている夏樹君を見ると、胸が張り裂けそうになる。

 

何度殴っても声を出すのをやめない夏樹君相手に不気味さを感じたのか男たちは、

 

「お、おい、こいつなにかおかしいぞ。」

 

「なんなんだこいつは!」

 

さらに、夏樹君が大声を上げ続けたことで人が集まってくる気配がする。

遠くからはサイレンの音も聞こえてきた。

誰かが通報したのだろう。

 

「ちっ、おいこれ以上はまずい。いくぞ。」

 

この状況はまずいと判断したのか、その一言を皮切りに男たちは路地の奥へ消えていった。

 

私はそれを確認したことでその場にへたりこんでしまった。

襲われそうになった恐怖からの解放、夏樹君がこれ以上痛い目にあわないことによる安心感などいろいろな感情がぐちゃぐちゃになり、大粒の涙が目からあふれてきた。

 

私が泣いていると夏樹君がよろよろした足取りでこちらに近づいてきた。

 

・・・泣いてる場合じゃない、謝罪と助けてくれてありがとうと言わなくちゃ。

 

私が泣きじゃくりながらもなんとか声を出そうとした、その瞬間

 

「大馬鹿野郎っっ!!!!」

 

既に声はガラガラだったが、さっきまでの叫び声よりも一層大きい声で、そして本気の怒りを私達に浴びせてきた。

 

「・・・ぇ。」

 

私も海未ちゃんも状況を飲み込めず呆然としていると、

 

「こんな時間に!!何を考えているんだ!!!」

 

こんなに怒っている夏樹君は初めてだった。

あの優しい夏樹君がここまでに怒るなんて。

 

そして、そんな初めて見る夏樹君は、とても怖かった。

 

「ご、ごめん、う、ぐすっ、ごめん、なさい・・・。」

 

私は、怖くて思わず俯きながら、そして声を詰まらせながらなんとかそう言葉を紡いだ。

海未ちゃんも同じように泣きながら謝罪をしていた。

 

「もう二度と、こんな時間にこんな場所にくるな!!!」

 

重ねて投げかけられたその言葉に私は、ただ俯いて小さく謝罪の言葉を言うことしかできなった。

 

夏樹君は私達を助けてくれるために、体を張ってくれた。

悪いのは100%私達だ、怒られるのももっともだ。

 

でも、少しくらい優しい言葉もかけてほしいよ。

本当に怖かったのだ。

ちょっとくらい、一言だけでもいいのに。

 

しかし、ここで夏樹君からの怒りの言葉がパタリと止んだ。

それが気になった私は、夏樹君がいる方を向いた。

 

夏樹君は、

 

泣いていた。

 

私たち以上に。

 

そして

 

「よかった、二人が無事でぇ・・・。」

 

と、もはやほとんど聞き取れないようなガラガラの声でそう呟き、その場でうずくまって泣いてしまった。

 

そしてそのタイミングでちょうど警察が到着したのか、何人かの警官がこちらに駆け寄ってきて、私たちは保護された。

 

つづく

 



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第12話 恋する乙女

南ことりは眠れない毎日が続いていた。

 

おかげで毎日寝不足で正直まいってしまっている。

 

これも全部夏樹君のせいだよ・・・。

 

あの事件後、夏樹君のことが頭から離れない。

 

喧嘩なんてしたことがないだろう夏樹君が自分よりも二回りは大きい男の人に一歩も引かず立ち向かったこと。

 

真剣に怒ってくれたこと。

 

そして、自分たちのために涙を流してくれたこと。

 

それらを思いだすと、胸のドキドキが止まらない。

この胸の高鳴りのせいで眠れない毎日が続いているのだ。

かれこれ事件から1カ月近くたっているのだが、ずっとだ。

 

さらに最近はこの胸の高鳴り以外にも悩みの種ができている。

というのも夏樹君とあの事件以来まったく連絡を取り合っていないのだ。

幸い夏樹君の怪我は重傷ではなく、心配ないということだけは穂乃果ちゃんから聞いた。

だが、肝心の夏樹君本人と全くコンタクトが取れていないのだ。

ラインでメッセージを送ろうにもなぜだか無性に恥ずかしくなり、結局送れないのだ。

 

・・・はぁ、何なんだろうこれ?

こんな感情初めてだよ。

 

夏樹君のことを思い浮かべるだけで、胸が高鳴り、心がモヤモヤし、顔が熱を持つことがわかる。

 

元々夏樹君とは、穂乃果ちゃんの弟ということで小さいころから付き合いがあったが、弟の様に接してきた。

決してそれ以外ではなかったはず、なんだけど・・・。

 

・・・・・。

 

お風呂に行こうっと。

少しはさっぱりするかも。

 

~二時間後~

 

「ちょっとことり!?

そろそろ出てきてくれない??

早くお風呂入ってその後ビール飲みながらテレビ見たいんだけど!」

 

二時間お風呂に入っていても、心のもやもやが晴れることはなく、なんとなくずっと湯舟に使っていたのだが、お母さんが外から猛抗議してきた。

それでもなんとななくお風呂から出たくなかったので、そのまま湯舟に浸かっていると、

 

「は~いお邪魔しま~す。」

 

と、言ってお母さんが浴槽に入ってきてしまった。

 

「ちょっとお母さん!

勝手に入ってくるなんて非常識だよ!」

 

「ことり、怒るわよ?」

 

これって理不尽だよね?

 

お母さんが聞いたこともない古い歌を歌いだしたあたりで、我慢できずにお風呂から出ようかなって考えていると、

 

「・・・ことり、あんた夏樹君のこと好きになったでしょう?」

 

と、歌うのを急にやめてそんなとんでもないことを言ってきた。

 

「な、ななな何言ってるの?? いいい、意味わかんないんですけど?? けど??」

 

「落ち着きなさいことり。」

 

お母さんは何を言っているのだろう?

私が、夏樹君のことを、その、す、好きだなんて・・・。

そ、そんなこと・・・。

 

「ことり、あなた寝言でずっと夏樹君の名前を呼んでいるのよ?」

 

「えっ、嘘!?」

 

「嘘よ。」

 

・・・・・。

嘘はよくないよね?

 

「ことり、悪かったからタオルで叩くはやめて頂戴。」

 

私お母さん嫌い。

 

「でもね、ことり?

急がないと夏樹君を他の子にとられちゃうかもしれないわよ?」

 

お母さんは、シャンプーを泡立てながら私に諭すようにそう言ってくる。

 

「別に私夏樹君のこと好きじゃないもん・・・。」

 

そうだよ、夏樹君は私にとって弟のような存在、向こうだって私のこと・・・

 

「じゃあ質問を変えるわ。

夏樹君が知らない女の人と付き合っていて、手を繋いでイチャイチャしてそして最後にき「やめてっ!!」

 

なぜだろう、夏樹君が知らない女の人と付き合ってると聞いたとき、胸がズキリと痛んだ。

最後まで聞くことが堪えられなかった。

 

・・・嫌だよ、そんなこと想像したくないよ。

 

「ことり、ごめんなさい。

まさか泣くとは思わなかったわ。」

 

「な、ないでないっ!」

 

「さいですか。」

 

なぜ泣く必要があるのか。

目にお母さんのシャンプーが入っただけに違いない。

 

「じゃあまた質問を変えるわよ?

まずことりと夏樹君が付き合ってるとします。」

 

「え」

 

わ、私が夏樹君と!?

そんなこと急に言われても困るに決まっている。

うん、心の準備が必要だ、それも分からないお母さんはなんて無粋なのだろう。

 

「ふう、お母さんはしょうがないよね?

・・・続けて?」

 

「・・・やっぱりやめていいかしら?

もう夏樹君のこと好きってわかったでしょう?」

 

「はやく。」

 

お母さんはジト目で私を見たのち、ポツポツ喋ってくれた。

 

「まず、ことりと夏樹君と手を繋いで歩きます。」

 

「うんうん♪」

 

「そして人気のいないところで二人気になり、いい雰囲気になります。」

 

「・・・うん。」

 

あぁ、想像すると胸がどきどきで爆発しそうになるけれど・・・悪くない!

 

「二人はお互いの唇をちかづけていk、ぶっ!?」

 

先ほどと同様最後まで聞くことが堪えられず、タオルで思い切り母親の顔をたたいてしまった。

スパーンッていったよ。

 

「・・・ことり、私今すごくストレスが溜まっていっているわ。」

 

お母さんは叩かれた箇所をさすりながら文句を言ってくるが、これはお母さんが悪い。

あのままでは私が夏樹君とき、ききき・・・、とにかくこれはセクハラだ。

許されないことだ。

おかげで私の鼓動は爆発寸前だ、どうしてくれるのか。

 

「とにかく、ことりは自分の気持ちに素直になりなさい。

幼馴染は結ばれる運命なのよ。

遠慮は不必要なのよ?」

 

「そのあたりもう少し詳しく。」

 

まったく、お母さんはそんな重要なことをサラッと言ってくれないでほしいものだ。

今のことについて詳しく聞かなければ。

 

 

 

それから30分かけて幼馴染同士は結ばれてもいいのだと分かった。

何故かお母さんは最後の方ゲッソリしていたが、これは大収穫だ。

おかげで自分の気持ちをはっきりさせ、それを認めることができた。

 

うん。

 

私、夏樹君のこと大好きです♪

 

そうと決まれば早速夏樹君に会わなければ!

そして想いを告げないと!

 

母曰く、幼馴染同士は恋愛において強いアドバンテージだと教えてくれたのだ。

これは余裕だよね?

ちなみに、お母さんは最近らのべ?というのを読んだらしく、それに幼馴染同士が結ばれる旨が書いてあったらしい。

きっと素晴らしい書物に違いない。

 

でもどう夏樹君と会えばいいのかな。

 

・・・・・。

 

う~ん。

 

 

 

~3時間後~

 

うん、穂乃果ちゃんも誘ってついでに夏樹君も一緒に遊ぶっていう流れにするのはどうだろう?

でもそれじゃあ、二人きりになれないよね。

・・・いっそ途中で穂乃果ちゃんを撒く?

いや、流石にそれは・・・う~ん。

 

♪~♪~♪

 

「わっ、びっくりした、電話?」

 

穂乃果ちゃんからだ。

 

そしてなんとその内容は、夏樹君の勉強を見てほしいとのことだった。

夏樹君と勉強が全く結びつかなかったが、これは千載一遇のチャンスだ。

 

でも、明日早速勉強を教えることになってしまった。

準備時間が全然ない。

とにかく、服装だけでも決めておこう。

服装だけ決めて、後は明日準備をしないと!

 

結局、服装を決めることが出来たのは夜中の3時だった。

 

つづく

 




初めまして!

12話目にして初めてのコメントです(笑)
他の作品を読んでいたら結構皆様コメントしていたので、真似しました(笑)

まず、ここまで読んでいただいた皆様ありがとうございます!!
沢山のお気に入り登録や、何人かの人にも感想を頂きとても嬉しいです!

これからもどんどん投稿していきますので、楽しんで頂ければと思います!
では、引き続き夏樹の活躍?をお楽しみください!


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第13話 ことりの過ち

俺は、静かにインターホンを押した。

するとほんの一瞬で

 

バンッ

 

ドアが開いた。

 

ドアを開けたのは、ことりさんだ。

 

インターホンを押した瞬間にドアが開いたものだから普通にびっくりした。

来るの待ってたのか?

 

・・・それにしても久しぶりに見たなことりさん。

 

「夏樹君、来たんだね!」

 

俺が少々状況に戸惑っていると、そう声をかけてくる。

この甘ったるい声を聞くのも一カ月ぶりくらいだ。

 

「うん、久しぶりだね。」

 

「そうだね、一カ月ぶりだもんね・・・。」

 

お互い久しぶりに会ったことで、どこかぎこちなさがある。

 

だが、俺は冷静にこの状況を受け止めることが出来ていた。

さあ、言うんだ。

 

「あの、ことりさん。

この間は、きつく言ってごめん。

俺、ことりさんのこと、その、大切な人だと思ってるからさ。

あんな言い方しちゃったけど、それは分かってほしい。」

 

俺はそう言って頭を下げた。

・・・嘘を言ったつもりはないが、大切な人っていうのは言いすぎたか?

あれ?意識してきたらなんか急に恥ずかしくなってきた!?

あ、ああ、なんか、もう、死にたい!

 

俺は顔が赤くなるのを感じつつもちらりとことりさんの方を向いた。

 

そこには

 

顔を真っ赤にしたことりさんがいた。

鯉のように口をバクバクしている。

 

どうしたんだ?

もしかして、俺が恥ずかしいこと言ったからか!?

 

「あ、ああ、あの、わ、私も夏樹君のこと、その、すk、じゃなくて大切だと思ってるよ?

あ、あと、夏樹君が謝るようなことじゃないよ。」

 

と、俺の言葉を馬鹿にするわけでもなく、顔を赤くしながらことりさんも俺のことを大切だと言ってくれた。

この言葉に俺は純粋に嬉しく少し感動してしまった。

 

少し間を開けて、ことりさんは続けて口を開き、

 

「それにまだお礼を言えていなかったけど、本当にありがとうね?

あの時本当に不安で怖くて、夏樹君が来てくれなかったと考えると・・・。」

 

と、体を自分で抱きしめながらそう言った。

その体はかすかにふるえていた。

 

・・・俺が駆け付けた時、あれは間違いなく性的暴行を受ける直前だった。

あの時のことりさんと海未さんは今まで見たことがないくらい、恐怖におびえていた。

今でも、トラウマとして残っていても不思議ではない。

 

「・・・大丈夫だよ。

またああなったら、俺が叫び続けてやるよ。」

 

俺は恐怖をやわげるためにも少し冗談も交えつつことりさんの頭をなでてあげた。

姉ちゃんは、怖がっているときこうすると安心するのでことりさんにもしてみた。

 

ことりさんは、顔をより一層赤くしそしてトロンとした顔で俺をポーっと見ていた。

姉ちゃんにはなかった反応だ。

 

・・・よくわからんが、とりあえず安心してくれたのだろうか?

まあさっきのように怖がっているわけではなさそうなので、よしとする。

 

と、なんとかひと段落着いたところで俺は、ずっと気になっていた疑問をぶつけることにした。

 

「ことりさん、なんでメイド服なの?」

 

そう、なぜかことりさんがメイド服を着ていたのだ。

そのせいで今までのやり取り中も2割くらいそれに意識を持ってかれていた。

 

「・・・ふぇ?

あっ、これ可愛いでしょう?」

 

トロンとした表情からことりさんも今自分の服装を思い出したようにそう聞いてくる。

 

・・・そりゃあ似合ってるし可愛いけど。

 

「ごめん、正直違和感しかない。」

 

「えぇっ!?」

 

そう驚いた後、ことりさんはすぐさま普通の服装に着替えてきた。

 

・・・何だったんだ?

 

その後、ことりさんに亜里沙さんのことは伏せ、勉強をしたい意思を伝えた。

ことりさんも協力してくれるようでこれから始まる春休み中も可能な日は勉強を見てくれることになった。

ことりさんには本当に感謝だ。

・・・まあ、衝撃的な告白もあったが。

 

~少し前~

 

はぁ、まさかメイド服がだめだったなんて。

早く見てほしくて、ドアの前でスタンバイしてたのに・・・。

可愛いと思ったんだけどな・・・。

 

・・・ん?でも冷静に考えたら家でメイドって意味が分からなくない?

 

・・・・・。

 

南ことりは今更気付いてしまった。

昨夜深夜テンションで、判断力が鈍った状態で服装を選んでしまった失態に。

 

うぅぅ、最悪だぁ~、死にたいよ~//

 

その後五分ほど恥ずかしさで悶えた後、普通の服装に着替え、自分の部屋で夏樹君の事情を聞くことにした。

 

どうも成績が悪すぎて高校に行けないから勉強を教えてくれとのことだった。

当然、好きな人と一緒にいられる時間が増えるなんて願ってもないことなので勉強を教えることを二つ返事でOKした。

 

その後、現在の夏樹君の知識レベルがどんなものか簡単にテストをした。

結果は目を思わず覆いたくなるような結果だったが、それはこれから頑張っていけばいいだろう。

 

そう、それはいいのだ。

 

事件はこの後起こってしまった。

 

 

 

私は焦っていた。

夏樹君と二人でいるこの状況でどんどん夏樹に対する好きがあふれてくることに。

だからこそだろう、思わずこう言ってしまったのだ。

 

「・・・好き。」

 

意識していなかった。

本当に口から漏れ出てしまったセリフだったのだ。

 

「何が?」

 

だから、夏樹君のこの問いがなんのことか分からなかった。

私が不思議そうな顔をしていると

 

「いや、ことりさん今好きって言ったじゃん。」

 

・・・・・え?

え、え?

・・・嘘?

ま、まさか思わず声に出ていた!?

 

好きというのは本当のことであり、いずれ伝えるつもりでいたが、今ではない。

なんとか誤魔化さなきゃ!

 

「え、ええと、あれだよ?

穂乃果ちゃんのことだよ?」

 

まずい、焦ってよくわからないことを言ってしまった。

 

「・・・え、うちの姉ちゃんが好きなの?」

 

夏樹君はそんな私の言葉に少し驚いたようにそう再度問うてくる。

 

「う、うん、そうなんだ~、あはは~。」

 

いやいや違う、そうではない。

私は何を言っているのだろう?

早く否定してなくては!?

 

「ち、違うの!

本当は違う人が好きで!」

 

「・・・え、誰?」

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・穂乃果ちゃん。」

 

私の馬鹿ああ!!!

へたれてしまって本当のことを言えなかった自分を呪っていると

 

「・・・ま、まあ人の愛なんてそれぞれだと思うよ?

あ~、まあ俺もできることなら力になるからさ?」

 

完全に夏樹君に勘違いされている。

私、穂乃果ちゃんが好きなレズになっちゃった・・・。

 

でも、内容はどうあれ力になってくれると言ってくれたのは嬉しかった。

だからだろうか、こんなことを言ってしまったのは。

 

「じゃ、じゃあこれから勉強以外でも私の相談に乗ってくれる?」

 

「え、まあ俺にできることなら。」

 

若干引き気味に対応されているように見えるのは勘違いだと祈りたい。

 

「うん、じゃあまた相談にのってね。」

 

この後、半年に渡って約50回近くも内容のない相談をするとは、ことりも夏樹も知る由はなかった。

また、ことりはこの後も全く素直に夏樹に接することができず、だんだん小学生の男子が気になる女の子にちょっかいをかけるようになっていくのもこのときの二人には知る由がなかった。

 

つづく

 

 



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第14話 思わぬ再会

勉強を開始してから、二カ月ほどがたった。

 

春休み中も休まず毎日勉強をしたおかげか、成績も順調に伸びてきた。

何よりことりさんの教え方がとても分かりやすく、効率よく勉強を進めることが出来たのが大きい。

 

そんな順調に成績を伸ばしている俺にも最近悩みができている。

最近姉ちゃんがスクールアイドルなるものを始めたらしいのだが、ことりさんもそれに参加しているらしく、俺の勉強を見てくれる暇が無くなってしまったのだ。

ことりさんも頑張って週に一回程度は時間を作ってくれているが、忙しい中申し訳ないし、欲を言えばもう少し勉強を見てくれる時間が欲しかった。

 

海未さんにも勉強を見てくれるよう頼みたかったのだが・・・

 

二カ月前ことりさんと同様久しぶりに再会し和解したのだが、なぜか俺のことを運命の人だと言ってあり得ないほどアタックしてきたのだ。

自分には好きな人がいると言っても全く聞いてくれないので、最近はなるべく海未さんを避けるようにしている。

 

「はぁ、どうするかな~。」

 

朝ごはんを食べているときに思わず俺がそう口に出すと、

 

「どうしたの、なにか悩み?」

 

姉ちゃんが食いついてきた。

 

「俺の勉強を見てくれる人いかなって思って。」

 

「夏樹ここのところずっと勉強頑張ってるもんね~。」

 

「本当に、この前もお父さんとお母さんがようやく夏樹が勉強をしてくれたって泣いてたもんね~。」

 

雪穂も会話に入ってきて、しみじみそんなことを言ってきた。

 

・・・俺ってそんなに心配されてたのか。

 

「ことりちゃんスクールアイドル始めたから忙しくなっちゃったもんね。

衣装も作ってくれてるし。」

 

「そうなんだよ、姉ちゃんがもっと頭良かったら教えてもらったのに・・・。」

 

「む~、悪かったね馬鹿で。

・・・あっ、だったらいい人がいるよ!」

 

と、姉ちゃんがいいアイディアを思いつたとばかりに立ち上がりながら俺にそう元気よく言ってくる。

 

「まじ?」

 

「うんうん、最近一緒にスクールアイドルをすることになったんだけど、すごく頭がよくてきっと夏樹の勉強も見てくれるよ!

・・・ちょっと気が強いかもだけど。」

 

ふむ、気が強いというのは気になるが俺の勉強を見てくれるというのなら頼まない手はないだろう。

 

「じゃあ、その人に頼んでもらっていい?」

 

「うん♪もちろんっ!」

 

「ありがとう。」

 

「どういたしまして♪」

 

・・・なんやかんや姉ちゃんにすごく助けられてるな。

今度何か礼でもするか。

 

その後姉ちゃんはすぐにその人に確認をしてくれたようで、週に一回くらいなら見てくれるとのことだった。

 

ちなみにその人の名前は、

 

絢瀬 絵里

 

という名前の人らしい。

 

今日、早速勉強を見くれるらしく、俺はその絢瀬さんの家に向かっている。

 

「いや~絵里ちゃんの家初めてだから楽しみだな~。」

 

姉ちゃんはこの後、海未さんと用事があるらしいが時間に少し余裕があるらしく挨拶だけしていくそうだ。

絢瀬さんと会うのは初めてなので、正直それはありがたかった。

 

そして、しばらく歩いたのち目的地に着いた。

 

「へ~、ここが絵里ちゃんの家か~。」

 

と言いながらインターホンを押す。

 

俺が少し緊張しながら待っていると、

 

「は~い。」

 

と、中から声が聞こえてきて、足音がどんどん近づいてくる。

 

・・・今の声、聞き覚えがあるようなないような。

 

・・・気のせいか?

 

俺が、その問いに答えを出す前にドアが開いた。

 

「穂乃果、いらっしゃい。

あなたがなつっ・・・え。」

 

「・・・・・うそん。」

 

俺たちを出迎えてくれたのは、忘れもしない亜里沙さんのお姉さんだった。

 

・・・・・・え、どういうこと?

 

俺も絢瀬さんも、状況が飲み込めずフリーズしていると

 

「ん?二人とももしかして知り合いだったの?」

 

違う、いや、違わないのか?

 

「・・・いや、なんというか。」

 

俺が言葉に悩んでいると

 

「そっかそっか、それじゃあ私は退散しようかな?

本当は、もう少しいるつもりだったけど。」

 

そう言って、姉ちゃんは帰ろうとしてしまう。

 

ガシッ

 

俺は、姉ちゃんの腕を捕まえた。

・・・帰らすわけにはいかない!

 

「ふぇ?どうしたの夏樹?」

 

「・・・なんでもするから、一緒にいてくれ。

添い寝でも抱き枕でも何でもするから。」

 

俺が、すべてを投げうって姉ちゃんに懇願する。

 

「そ、そんな// 夏樹からそんなこと言ってくれるなんて//

やっとお姉ちゃんの愛に気付いてくれたんだね?」

 

と、少し涙ぐみながら感動したようにそう言ってくる。

 

勘違い甚だしいが、もうこの際それでいい。

 

「でもね、夏樹そんなことしなくてもいつでもお姉ちゃんは夏樹と添い寝でも抱き枕でもしてあげるからね?

今は、絵里ちゃんと二人きりで思い切り勉強を頑張ってね?

夏樹も今日は久しぶりに思い切り勉強できるってはりきってたもんね!」

 

違う、そうじゃない。

事態がややこしくて、説明ができない。

あぁ、いったいどうすれば、どうすればいいの??

 

「じゃあ、私は帰るね!

夏樹、じゃあ今日は一緒に寝ようね!!」

 

「ちょ、姉ちゃん!!

カムバーーーック!!」

 

俺が最近勉強で覚えた英語でそう叫ぶが、その思いも虚しく姉ちゃんは帰ってしまった。

 

・・・しかも今日姉ちゃんと一緒に寝ないといけないの?

 

俺がダブルパンチでメンタルブレイクしていると、

 

「・・・あの、とりあえず中に入る?」

 

と、絢瀬さんが気まずそうに俺にそう声をかけてきた。

 

「・・・・・はい。」

 

俺は覚悟を決めた。

 

 

 

「「・・・・・。」」

 

き、気まずい。

 

家の中に招き入れてくれ、今リビングの机に二人で座っているのだが、会話がない。

 

あんな喧嘩腰でいい成績を取ってやると啖呵を切って、別れたの後の再開がまさかこんな形で訪れるとは・・・。

 

次に会うのは学年で3番以内に入ってからだと思ってたのに。

 

だがここで意外と絢瀬さんの方から口を開いてくれた。

 

「2カ月ぶりくらいになるのかしら、あなた本当に勉強をしてたのね?」

 

と、少し意外そうにそう尋ねてきた。

 

「・・・まあ、そうですね、はい。」

 

あんだけ馬鹿にされたからな、とは心の中で言っておいた。

・・・ていうか、あの絢瀬さんがアイドルやってる方が意外だけど。

だって、笑顔とかなさそうだし。

でも、気のせいか前会った時より棘が無くなってる気はする。

この二カ月で何かあったのだろうか?

 

「穂乃果からきいているわ、ここ最近はずっと遊びもせず勉強に集中しているって。

・・・成績はどれくらいになったの?」

 

と、どうやら姉ちゃんからある程度の情報は受け取っているらしい絢瀬さんがそう聞いてくる。

 

「この前中間テストがありましたが、110位でした。」

 

と、俺は以前とった成績をそのまま伝えた。

急に成績が伸びたもんだから先生にカンニング疑われて大変だったな・・・。

 

「・・・本当に勉強を頑張っているようね。

さすがは穂乃果の弟いうか・・・。

やるっていったら本当にやるのね。」

 

絢瀬さんは少し納得したように、そう言ってくる。

確かに、俺と姉ちゃんは性格が似てるとたまに言われるな。

よくわからんが。

 

「まあ、いいわ。

亜里沙のことは認めたわけじゃないけれど、本気だということはわかったわ。

私も勉強を見ると言ったことだし、早速今から勉強を始めましょうか。」

 

と、なんやかんや勉強を見てくれると言ってくれた。

ありがたいが、何か怖そう・・・。

 

いや、上を目指すには厳しさも必要だ。

やってやる!

 

つづく

 



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第15話 西木野真姫登場

絢瀬さんとの勉強が始まって5時間がたった。

 

ことりさんは、勉強を教えてくれる時、1から10まで丁寧に教えてくれている。

さらに、どこから用意してるのかわからないが可愛らしいイラスト付きの分かりやすい資料付きでだ。

ことりさんが中学生の時自分で使っていたものなのかもしれない。

 

一方絢瀬さんはというと、1から5を教えるから、後はそれを応用して6から10は自分で考えて解けというスタイルなのだ。

そのスタイルを否定するつもりはない。

自分で考えて解いていくというのも、学力を上げるためには必要だと納得できるからだ。

 

ただ、

 

怖い、そして厳しい

 

ひたすらにだ。

 

「どうしてそんなことも分からないの?」「そんなことで本当に学年3番を狙うつもりはあるの?」「さっきと同じミスをしてるわよ!」「その問題に何分かけるつもり?」などなど・・・

 

もう俺の心ズタズタです・・・。

 

しかも絢瀬さんは、目を引くほどの美人だ。

美人ほど怒った時怖いというのは、本当だと痛感したよ・・・。

 

しかも、

 

「まあ、今日はこんなものかしら。

じゃあ、来週までにここまでの問題をしておくこと。宿題よ。」

 

「え」

 

・・・それ100ページ以上余裕であるんですが。

それを学校に行きながら一週間で?

しかも難しい問題も結構あるんじゃないか?

 

俺が突き付けられた宿題の量に唖然としていると、絢瀬さんが挑発するような口調で

 

「どうしたの?

まさか、できないとでも言うつもりかしら?

その程度なの?あなたの覚悟は?」

 

「・・・くっ、わかったよっ!」

やってやるよ、舐めんなよっ!

じゃあ、今日はありがとうございました、また来週来ますから!」

 

と、勉強を教えてもらったことに対する礼は忘れず言ったものの、売り言葉に買い言葉のやりとりを最後に、飛び出すように絢瀬家を後にした。

 

くそ、勉強する前は絢瀬さんに以前のような棘がなくなったかも、と思ったが勘違いだったようだ。

全然、変わってなかった。

 

・・・しかしああは言ったものの、この宿題どうしよう。

 

1週間後にまた絢瀬さんに勉強を教えてくれることになっているが、その間にことりさんは予定が合わず勉強を教えてくれることができない。

つまり、俺一人だけの力で膨大な宿題をこなさなければならないのだ。

 

・・・・・。

 

まあとりあえず死ぬ気で頑張るしかないか。

 

それから俺は5日間マジで死ぬ気で頑張った。

睡眠も極力減らし、家にいる間はずっと勉強をしたし、学校でも空き時間などは全て勉強に費やした。

クラスメイトが俺が勉強をしているのを見てザワザワしていが無視だ。

後、親に初めて勉強しすぎで心配された。

 

その甲斐もあってか、宿題の9.5割を終わらせることができた。

しかし残りの0.5割、これが問題だった。

 

教科書や参考書を見てもまったく分からない。

問題が難しすぎるのだ。

 

・・・どうしよう。

このままじゃ、絢瀬さんに馬鹿にされてしまう・・・。

 

・・・・・・。

 

最終手段だ。

 

学校の教師を頼ろう。

今までの勉強において教師にはまったく頼ってこなかった。

いや、正確には頼れなかったか。

というのも今まで、勉強なんていらないと思っていた俺は授業態度が酷かったのだ。

まあ、ずっと寝てただけだけど。

最近になってこそ、授業は真面目に聞くようになったが、それでも俺の教師受けは最悪なのだ。

 

まあ、謝れば分かってくれるよな?

 

しかし、誰に聞くか。

やはり各教科の担当の先生に聞くのがいいか。

 

・・・いや、待てよ?

 

ここで俺は恐ろしい考えを思いつく。

 

学校で一番賢い人に聞いた方が効率よく教えてくれるんじゃないか?

 

ということは・・・。

 

校長だっ!!

 

 

 

その後、早速俺は自らの考えにのっとり、校長室に乗り込み勉強を教えろと頼んだ。

しかし、途中で校長室の騒ぎに気付いた体育教師に生徒指導室に連れていかされ、めっちゃ怒られた。

前回のように授業を全部体育にしろなどとは違い、勉強を教えてほしいと、一応学業に意欲的な内容の依頼だったので親が呼ばれることはなかった。

だが、そもそもの常識がないとのことで怒られた。

 

・・・いい考えだと思ったんだが。

 

長い時間怒られたせいで、もう日は沈んでしまった。

妥協で各教科の先生に質問しに行こうにも、みんな帰ってしまったらしい。

 

やばい、明日は土曜日で学校はないし、日曜日は約束の絢瀬さんとの勉強会だ。

 

明日で何とかしなければ・・・。

こうなったら町中で賢そうな人に声をかけまくるか?

うん、もうそうしよう。

きっと見つかるさ。

その日は次の日に備えて久しぶりにゆっくり寝た。

 

 

 

~次の日~

 

俺は警察に捕まった。

 

町中で見た目が賢そうな人に勉強を教えてくれとひたすら頼んでいたのだが、すぐに警官が来て、近くの交番に連れて行かされたのだ。

 

なぜなんだ・・・。

ていうかみんな気味悪がって全然話を聞いてくれなかった。

みんな冷たすぎるぜ。

 

「で、何してたの?」

 

と、警官が面倒くさそうにそう質問を投げかける。

 

「勉強を教えてくれる人を探してました。」

 

俺は嘘偽りなくそう答えた。

 

「・・・すごくまっすぐな目で答えられちゃったよ。

よくわからないけど、なんで知らない人に頼むの?

学校の先生に聞くとかできたんじゃないの?」

 

「言いに行きましたけど怒られたんですよ!」

 

「なんで?」

 

「さあ?」

 

などと、警官とやり取りをしていると外から言い争いをしながら近づい来る気配がした。

 

なんだなんだと思っていると、その言い争いをしていた本人たちが現れた。

ていうか交番に入ってきた。

一人は警官、もう一人は赤い髪の綺麗な女の人だ、高校生くらいの人だろうか?

 

「だから、私はストーカーじゃないっていってるでしょ!!」

 

赤髪の女性は警官に噛みつかんばかりに抗議している。

 

「はいはい、ストーカーはみんなそう言うんですよ?」

 

警官は慣れているのか、そう受け流し女性にそう言い切る。

 

「私は、陰からにこちゃんを見守っていただけよ!!

決してストーカーじゃないわよ!!」

 

ストーカーじゃねえか。

 

「はいはい、もういいから。

電柱に隠れたりしながらニヤニヤして町中歩いてるから気味が悪いと通報をうけているんだよ、10件くらい。」

 

「イミワカンナイ!!」

 

やべーやつじゃん、こんなやつとは一生関わるまい。

 

「ちなみに君は15件くらい通報があったよ。」

 

うそやん。

 

そして警官は続けて口を開き、

 

「で、君の名前は?

親御さんを呼ぶから。」

 

「なんでだよ!

俺はただ勉強を教えてくれる人を探してだけなんだよ!」

 

「目を血走らせて?」

 

「必死だったんだよ!」

 

「靴を舐めますからお願いします、と言っていたのは?」

 

「・・・どうしようもなかったんだよ!」

 

俺が、警官と言い争っていると、

 

「ちょっと、そこの頭のおかしいあなた、騒がしいから黙ってくれる?」

 

と、赤髪の女性が突然絡んできた。

 

「うるせぇ!

てめえに頭おかしいとか言われたくないわ!!

このストーカー野郎め!!」

 

「はぁっ!?

イミワカンナイ!!

私はストーカーじゃないわよ!!」

 

これが俺と西木野真姫との出会いだった。

 

つづく

 



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第16話 まっきー

「よく知りもしないくせにストーカーとか言わないでくれるかしら?この変態っ!」

 

「変態はあんただろーがっ!

俺は好きな人に告白するために、色々あって町中の人に声をかけてたんだよ!」

 

「はぁ??どういうことよ??」

 

「うるせっ、あんたには関係ねえよ!」

 

勉強を教えてくれる人が見つかるどころか、訳の分からない女に絡まれてしまった。

最悪だ、まじで。

ていうかこの人見た目だけなら絢瀬さんにも匹敵するくらい美人なのに中身が残念すぎるだろ!?

 

「はいはい、もうこれ以上面倒毎はやめなさい。

今なら厳重注意で許してあげるから、これ以上騒いだら親御さんに連絡するよ?」

 

俺と喋っていた方の警官が俺と変態女にそう言い放ち、何とかその場は落ち着いた。

変態女はずっと俺の方を睨んでいたが。

 

その後、警官の言う通り注意だけで解放してくれたので自由の身になったが・・・

これで宿題を終わらせる目途が潰えた。

 

・・・どうしよう。

 

俺が途方に暮れていると、

 

「ちょっと。」

 

急に後ろから声がしたので、振り返るとそこには、

 

「げっ、さっきの変態女じゃねーか!?」

 

そう、先ほど交番で言い争った赤髪の女がいた。

 

ついて来たのか?

さすが、ストーカーだな・・・。

 

「変態女って言わないで!

・・・それよりあなたに聞きたいことがあるのよ。」

 

と、自分の髪の毛をクルクルしながら、少しバツが悪そうにそう言ってくる。

変態女が俺に聞きたいこと?

何だ、パンツの色でも聞かれるのか?

 

「あなた、さっき好きな人のために町中の人に声をかけたって言ってたわよね?」

 

「・・・そうだけど。」

 

質問の意図がよくわからない、何を企んでいるんだ?

 

「あなたはどうして好きな人のためにそこまでできるの?

事情は分からないけど、町中の人に勉強を教えてくれと頼むなんてそうそうできないわ。

周りから白い目で見られるでしょう?」

 

と、真剣な表情で俺に聞いてくる。

・・・なんなんだいったい?

そんな真剣な顔されちゃったら答えるしかないけどさ。

 

「そりゃ、その人が好きだからだからだ。

その人のためならなんだってするさ。」

 

「・・・そう、

好きならなんだってする、ね。」

 

と、赤髪の女は俺の言葉をかみしめるようにゆっくり繰り返した。

神妙な顔つきで、だ。

 

・・・何だよ、さっきまで頭がおかしい女だと思ってたのに、急に真剣になりやがって。

調子狂うな・・・。

 

「私ね、にこちゃんっていう女の子が好きなの。

小さくて、可愛くて、とても思いやりのある素敵な子なの。」

 

赤髪の女はしばらく黙って考えている様子だったが、突然ポツポツと語り出した。

 

その重々しい空気に俺もとりあえず耳を傾けることにした。

 

なるほど、女の子が好きなのか・・・。

当然、話の流れ的にラブの方だろう。

 

「でも、私女じゃない?

だからおかしいのかなって・・・。

でもこの気持ちはどうやっても抑えきれなくて・・・。」

 

それでストーカーみたいなことをしたってわけか。

・・・まあ、そう聞くと変態と一方的に罵るのもどうかと思えてくる。

この人もそれなりに悩んだ末に起こしてしまった行動だったのだ。

 

「別にいいんじゃない?

女の人が女の人を好きでも俺は別に変だとは思わないよ?」

 

というか最近ことりさんが姉ちゃんを好きって言ったこともあるし、今の話を聞いても何も感じないのが実情だ。

他にもいるんだくらいの感じだ。

 

「ほ、本当にっ?」

 

俺のその言葉に赤髪の女は俺にぐいと距離を縮め、そう確認してくる。

 

ち、ちかいっ!?

顔は美人だから、思わず体が強張ってしまった。

・・・ていうか、女の人ってなんでこんないい匂いするんだろうな。

 

「本当だって。

俺の周りでもそういう人がいるし、相談に乗っているくらいだ。」

 

まあ相談といっても、ただ姉ちゃんとの出来事を一方的に話されるだけだが。

 

「それ本当に?

嘘じゃないでしょうね?」

 

向こうは奇跡に出会えたかのような表情で俺を見つめてくる。

 

「本当だよ。」

 

「・・・そっか。

最初あなたを見た時は気持ち悪い変態だと思ったけど、あなたに出会えてよかったと今実感しているわ。」

 

・・・喧嘩を売っているのだろうか?

 

しかし、次の言葉で俺の怒りも吹っ飛ぶことになる。

 

「それじゃあ私の恋も応援してくれないかしら?」

 

とんでもないことを言ってきた。

は?

俺がこの人の恋を応援する?

いやいやいや。

 

「いや、変ではないとは言ったけど流石に会ったばかりの人にそんなこと言われても。」

 

そりゃそうだろう、よく事情も知らないのに無責任に相談にのるなんて了承できるわけもない。そんな時間もないし。

 

「私にできることならなんだって協力するわよ?

そうだっ、あなた勉強を教えてほしいんでしょ?

私、医学部を目指してるの、だから勉強はいっぱいしてきたし、色々力になれると思うわよ?」

 

まじか。

医学部ってすごく頭よくないとなれないんじゃなかったっけ?

これは運命というやつでは・・・。

 

「本当に力になれるんだろうな?

・・・この問題とかわかる?」

 

と、俺はしっかり持ってきていた問題集を渡し、まさに今解けなくて苦労している問題の一つを指差し、そう聞いてみる。

 

「どれどれ、ふっ、こんな問題10秒もあれば解けるわね。」

 

と、少々ドヤ顔で俺にそう言ってくる。

 

これはマジで運命の出会いかもしれない、きてるぞ俺の時代が!

 

「それならこっちからお願いしたいくらいだ!

俺にできることならなんでもするよ!

だから勉強を教えてくれ!」

 

「ええ、これで契約成立ね。

・・・そういえば自己紹介がまだだったわね。

私は、西木野真姫というわ。高校一年生よ。」

 

随分大人っぽいと思っていたが、一つだけ上だったようだ。

姉ちゃんより下に見えねぇ~。

 

「俺は、高坂夏樹!

中学三年生です!」

 

一応向こうが先輩と分かったので、そう敬語で自己紹介をする。

 

「ふふ、いいわよタメ口で?

最近、私がある活動をしているチームで年齢による上下関係に縛られず触れ合うことの大切さを知ったばかりなの。」

 

と、西木野さんは俺にやさしく微笑みながらそう言ってくれる。

・・・なんか最初に会った時と随分印象が変わったな。

普通にいい人じゃないか。

でも、そういう経験ができるっていうのはいいな、何の活動か知らないがきっと素晴らしいチームなのだろう。

 

「わかった、じゃあ遠慮なく。

よろしく西木野さん。」

 

正直、姉ちゃんがいる環境で育ってきた俺にとって、年上の女性にタメ口で喋れるのは助かる。慣れているからな。

 

「・・・う~ん、呼び方も変えれないかしら?

これから共闘関係を結ぶわけだし、名字呼びっていうのもね。」

 

確かに言われてみればそうだ。

・・・そうだ!

 

「じゃあ、まっきーとかは?」

 

俺がそう提案する、馴れ馴れしすぎてダメだろうか?

 

「まっきー・・・、うん、いいわねそれ!

採用よ!

私は夏樹って呼ぶわね!」

 

と、西木野さん、いや、まっきーもこの呼び方を気に入ってくれたようだ。

 

「じゃあそういうわけで、これからよろしくまっきー!」

 

「ええこちらこそ、夏樹!」

 

こうして俺たちはめでたく共闘関係を結んだ。

 

 

 

(少し前)

 

・・・びっくりした。

 

急に男の人に声をかけれたと思ったら、勉強を教えてくれと言われたのだ。

 

怖くてつい逃げちゃったけど・・・。

 

あの人、すごく真剣な表情だったな・・・。

それにとても困っているようにも見えた。

 

勉強を教えることができるかは分からないけど、さっきのところに戻ってみようかな・・・。

 

でもあれだけ真剣に勉強を教えてくれだなんて何があったのだろう。

 

今まで会ったこともしゃべったこともない男の人だったが、なぜかすごく私の中に印象づいてしまった。

 

・・・なんでなのかな?

 

私が、自分のモヤモヤしている気持ちの正体を考えていたが、

 

「か~よちんっ!

おまたせにゃ~!」

 

待ち合わせをしていた親友の姿を確認し、私はいったんそのことについて考えるのは保留にした。

 

つづく

 




ここまで、読んでいただきありがとうございます!

申しわけありません、非常に大きなミスをしていました。
読んでいただいていた皆さんはお気づきだったかもしれませんが、これまで
絢瀬絵里を綾瀬絵里と書いていました・・・。
やってしまいました・・・。
(指摘していただきようやく気付きました。)

一応気付いた部分は全部訂正したつもりです。
ちょくちょくミスをしている部分は気付いたら直しているのですが、ここまで大きなミスをしているのは初めてだったので、後書きにて謝罪させて頂きます。
以後気を付けさせていただきます。

では、引き続き作品をお楽しみいただければと思います!


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第17話 PKE

「だから、そもそもここの計算が分からないって言ってるんだよ!」

 

「はあっ、何がわからないのよっ!?

そんなところ、ちょちょいのちょいで計算できるでしょ!!」

 

「そのちょちょいのちょいを教えろって言ってんだよっ!!」

 

「夏樹あんた生意気なのよ!?私年上よ!もっと敬意を払いなさい!」

 

「そういうのなしってまっきーが言ったんだろうが!!」

 

共闘関係を結んだ後、早速まっきーの家で勉強を見てくれるとのことだったので見てもらっているのだが・・・。

 

教え方がへたくそすぎる。

まっきーは賢い、それは何となくわかる。

だが、それ故に俺の様に賢くない者がいったいどこで躓いているのか分からないらしい。

そのせいで、いちいちどこが分からないかを一から説明するというところから始めなければいけない。

それでもまっきーは、何が分からないか理解できない部分が多いらしく、このようにお互い口調を荒くしているというわけだ。

 

結局その後も出会った当初の時の様にお互い言い争いながら勉強を進めていき、何とか夜の8時になろうかというところで終わった・・・。

 

「・・・滅茶苦茶疲れた。」

 

「・・・こっちのセリフよ。」

 

その後は、相談したいことがあったら連絡をしたいからと連絡先だけ交換して別れた。

何気に海未さんとことりさん以外で連絡先を交換した女の人は初めてだった。

・・・こんなのが初めてなんて。

 

それにしても、まっきーの家でかいな~、お母さんも美人でいいよなぁ・・・。

その母親からは何を勘違いされているのか、「楽しそうに遊んでたわね?」と、少しからかうような笑顔でそう言われた。

全然楽しくなかったとは、何とか言わずに堪えた。

 

まあ何はともあれ、まっきーのおかげで何とか宿題を終わらすことはできた。

これで、絢瀬さんにもちゃんと顔向けができるというものだ。

 

(次の日)

 

「え、本当に全部宿題をしてきたの?」

 

「おい待てどういうことだ?」

 

日曜日、早速絢瀬さんに死ぬ気でこなしてきた宿題を提出した。

しかし、絢瀬さんは「えっ、まじでしてきたの」と言いたげにその宿題を受け取ったのだ。

その証拠に、つい言ってしまったとばかりに、あっと、口に手を当て、冷や汗をかいている。

 

「絢瀬さん、まさか元から無理な量の宿題を押し付けていた、なんてことはありませんよね?」

 

「・・・そんなわけないでしょ?

こんなのできて当然よ。さあ今日も早速続きをするわよ。」

 

「・・・ほう。」

 

冷や汗だらだらさせながら言われても説得力がなさすぎる。

 

・・・この人案外ちょろいのでは?

・・・カマをかけるか。

 

「あーっ!!ゴキブリだっ!!」

 

「ええっ!!

どこっ!?ちょっとどこっ!?」

 

「嘘です。」

 

「・・・・・。」

 

やはり、以前棘がなくなったと感じたのは正しかったんだ。

この人表面上だけ冷たく装ってたが、中身はポンコツくさいぞ。

ソファの上に飛び乗り、シャーペンと赤ペンを両手に構えゴキブリを迎え撃とうとしている絢瀬さんを見て確信した。

 

・・・シャーペンと赤ペンでゴキブリをどうするつもりだったのか。

 

「どうしてそんな嘘をついたのかしら。」

 

「絢瀬さんが先に嘘をついたからです。」

 

「・・・私は嘘なんて「ついてますよね?」」

 

「・・・・・。」

 

俺にまっすぐそう言われた絢瀬さんは顔を俯けて黙ってしまった。

しかし、すぐに顔をあげると、

 

「だってそうでしょ??

可愛い妹を、この前まで馬鹿の極みみたいな点数を取っている男に奪われそうになっているなんて看過できるわけないじゃない!

最近は頑張ってみるみたいだけど、今だけかもしれないじゃない?

それで、ちょっと心が折れるレベルの宿題を出してみたのよ、そしたら化けの皮がはがれるんじゃないのかって!!」

 

・・・なるほど。

うん、何も言い返せねえわ。

馬鹿の極みってのは少し傷ついたが・・・。

全てをぶちまけてくれた絢瀬さんの言葉はもっともだった。

俺だって、もし逆の立場で雪穂や姉ちゃんが、と考えると納得できる話だ。

 

「話は分かりました。

でもこれで俺が本気だってわかったでしょう?」

 

「・・・まあとりあえずはね。」

 

よし、何とか絢瀬さんには俺が本気だってことが伝わったようだ。

それにあのあり得ない量の宿題をこなしたことで、かなりの学力アップにもつながったはずだ。

そうだよ、いい風に考えるんだ。

俺の恋は着実に前に進んでいるんだ!

 

しかしここで予想外の出来事が、

 

「ただいま~」

 

玄関の方から、俺がずっと待ち望んでいた声が!

忘れるわけない、この声は、亜里沙さんだっ!

 

え、でもなぜだ?

絢瀬さんと勉強をするときは、亜里沙さんが家にいないことが条件だったはず。

3位をとるまで、亜里沙さんとは会わせないと絢瀬さんが頑なだったためそうなったのだ。

俺も家に亜里沙さんが家にいると落ち着かないので了承したが、その亜里沙さんが帰ってきたぞ?

 

絢瀬さんの方を振り向くと

 

「え、え、ど、どうしよう。」

 

わたわたしていた。

どうやら絢瀬さんにとっても予想外らしい。

前までのクールな絢瀬さんはなんだったんだ・・・。

 

でもよく考えたら、姉ちゃんとスクールアイドルをしている影響なのかもしれないな。

というのも実は姉ちゃんについて尊敬している部分が一つだけある。

それは他人に対する影響力、つまりはカリスマ性だ。

どこまでもまっすぐな姉ちゃんと関わればどんな人間だってそのまっすぐさに心を動かされるものだ。

姉ちゃんは相当スクールアイドルに熱を入れているそうだし、絢瀬さんがうちの姉ちゃんに影響されていたとしても不思議ではない、むしろこの数カ月での変わりようにも合点がいく。

 

絢瀬さんを見て俺はそう考察していたが、次の瞬間そんなことはすべて吹き飛んだ。

 

「ただいま~、お姉ちゃん!

・・・ってあれ?

あなたは、公園で会った!」

 

女神降臨である。

 

・・・あぁ、まさかまた会えるなんて。

数カ月たっても、その美しさ、可愛さは何も変わっていなかった。

しかも、おれのことを覚えてくれているとか、

生きててよかった・・・。

 

俺が歓喜に打ち震えていると、

 

「ん?お~い?」

 

はっ!?

危ないせっかく亜里沙さんが話かけくれているのに無視してしまっているじゃないか!?

急いで、返事をしなくては!

 

「あ、そ、そそそそうですね。おおお久しぶりです。」

 

・・・だめだ、緊張しすぎてうまく喋れない。

こんな気持ち悪く喋ったら亜里沙さんに嫌われる!?

 

「うん♪久しぶり♪

二人とは仲良くできましたか?」

 

ところが俺のキモイ喋りを特に気にすることもなく、それどころか俺が悩んでいたことについて心配をしてくれている。

・・・もう嬉しすぎて死にそうだ。

 

「・・・はい、おかげで仲直りできました。」

 

「えぇっ、なんで泣いてるの!?」

 

おっと、いかんいかん、感動のあまり涙が出ていたようだ。

亜里沙さんに変に心配させるわけにはいかない。

 

「いえ、両目にゴミがはいってしまって、今取れましたのでご安心を、ははは」

 

「な~んだ、なら安心ですね、ふふふ。」

 

この純粋さ、眩しすぎるぜっ!

 

「ちょ、ちょっと亜里沙、今日は友達と遊ぶんじゃなかったの?」

 

絢瀬さんはようやく、落ち着きを多少取り戻したようで亜里沙さんにそう確認をとる。

 

「うん、そうだったんだけど、用事があったみたいで早めに帰ってきたの。」

 

「そ、そんな。」

 

友達さんよ、ナイス用事!

 

「でもどうして二人が家にいるの?

二人はお友達?」

 

「「・・・・・」」

 

・・・なんて答えたらいいんだ?

亜里沙さんに告白するためにお姉さんに勉強を教えてもらってます♪なんて言えるか!

絢瀬さんもどう説明したものか困っている様子だ。

 

「あ~、実は勉強を見てもらってたんですよ。

うちの姉ちゃんと絢瀬さんが知り合いだったみたいだからそのつながりでね・・・。

ね、絢瀬さん?」

 

「え、ええ、そうなのよ亜里沙。」

 

嘘は言ってない、嘘は。

 

「そうだったんだ~、あ、私は絢瀬亜里沙と言います!

あなたは?」

 

そういえば自己紹介できてなかったっけ。

 

こちらが一方的に知っていた状況になっていることに今更気付く。

 

「俺は高坂夏樹と言います。

中学3年生です。」

 

「え、じゃあ私と同じ年だったんだ。

じゃあこれで、お互い敬語じゃなくてもいいよね♪」

 

・・・・・え、亜里沙さんにタメ口でいいと?

何俺、今日死ぬの?

 

「あ、せっかく久しぶりに会えたんだし三人でどこかに出かけない?」

 

「行こうすぐに。」

 

断るわけがない。

 

「よ~し、じゃあ早速出発しよう!」

 

「いぇ~い!!」

 

よっしゃいくぜ!

勉強?知るか!!

 

「ちょっと!!」

 

ところが、ノリノリの俺たちに対して絢瀬さんがストップをかける。

 

「どうしたのお姉ちゃん?」

 

「そうだよ、どうしたんだよお姉ちゃん?」

 

「・・・ちょっとこっちに来なさいっ!」

 

なぜか、力づくで隣の部屋に連行されていく俺。

すぐに戻るよ~と言ったら「うん♪」と言ってくれた、可愛いなあ。

 

 

 

「で、どういうつもり?」

 

なぜか俺は隣の部屋で正座をさせられ問い詰められていた。

 

「質問の意味がわかりません、お姉ちゃん。」

 

「そのお姉ちゃんっていうのやめなさいっ!」

 

「痛いっ痛いっ!わかったやめます、やめますっ!」

 

頭を拳でぐりぐりされちったよ、いってぇ~。

 

「なんで三人で遊びに行くことになってるのって聞いてるの!!」

 

「いや、そんなこと言われても・・・。」

 

「とにかくやめよやめっ!

今日は勉強をするためにきたんでしょ!

勉強するわよ、勉強!」

 

そう言いながら、リビングに戻ろうとしてしまう。

 

「亜里沙さん、がっかりするだろうな~、せっかく三人で楽しくお出かけできると思ってるのに・・・。

しかもその原因が実の姉だなんて。

これは絢瀬さん嫌われるかもな~。」

 

「よ~し、亜里沙~っ!!

すぐにお出かけする用意をするから待っててね!」

 

「は~い♪」

 

絢瀬さん、ちょろいぜ。

 

つづく

 



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第18話 楽しいお出かけ

「えへへ、どこに行く?」

 

天使が満面の笑みで俺と絢瀬さんにそう問いかけてくる。

 

亜里沙さんとならどこでもいいさ・・・。

ていうかその笑顔を見てると浄化されて召されそうになるからあんまり見ると危険だな。

まさかの展開に俺は最高に幸せだ。

勉強頑張ってよかった・・・。

 

「そうね、とりあえず駅前にでも行きましょうか?」

 

「ハラショ~、じゃあ早速行こう!」

 

というわけで、俺たちは駅前に向かうことになった。

 

元気で楽しそうな亜里沙さんを見てるだけでテンションが上がってくるね。

でもハラショ~ってなんなんだ?

日本語じゃないよな?

そういえば、この二人は明らかに日本人じゃないけど何人なんだろうか?

 

「ねえ、絢瀬さんって日本人じゃないんですか?」

 

「・・・私たちにはロシア人の血が入っているのよ、クオーターよ。」

 

まだ、この状況に納得がいっていないのか不満そうな絢瀬さだったが、一応そう答えてくれた。

 

なるほど、通りで日本人離れした綺麗な顔だと思ったよ、納得だ。

 

「ねえ、どうして夏樹君はお姉ちゃんのことを名字で呼んでるの?」

 

急に亜里沙さんがこちらに振り向きそんな質問をしてきた。

絢瀬さんのことを名字呼びしているのが気になったのだろう。

 

なんでと言われてもな・・・。

 

「・・・なんとなく?」

 

「え~だめだよ!

せっかく仲がいいんだからちゃんと下の名前で呼ばないと!

もしくは、あだ名とか!」

 

仲がいい?

どこを見てそう感じたのかは分からないが、天使がそういうなら逆らうわけにはいかない。

・・・ふむ、じゃあ

 

「じゃあこれからは、おねえtyっ!?」

 

「そ・れ・い・が・い・よ?」

 

「・・・じゃあ、おねえ様は?」

 

「却下」

 

「・・・絵里さんと呼ばさせてください。」

 

「よろしい。」

 

凄くいい笑顔のまま、俺の顔を鷲掴みしてきたよ、しかもだんだん力を込めてくるもんだから・・・。

今までで一番怖かったかも・・・。

 

「ふふふ、二人は本当に仲がいいんだね?」

 

亜里沙さん、一回眼科に行った方がいいかも・・・っは!?

俺は天使になんて失礼なことを。

亜里沙さんが黒といえば黒なんだ!

だから俺は絵里さんと仲がいいんだ、きっと!

 

「そうなんだよ~、絵里さんとは本当に仲がよくてね~!」

 

俺が、「ね~」と絵里さんに同意を求める為振り向くと、

 

「なに言ってるの?」

 

無の表情でそう言われてしまった、ですよねー。

 

しかしここで、亜里沙さんがズイッとこちらに迫ってきて、

 

「もうお姉ちゃん!

せっかく夏樹君がこう言ってくれてるのに、酷いよっ!

ねえ夏樹君??」

 

絵里さんにぷりぷり怒った亜里沙さんは俺にそう同意を求めてきた。

 

なんてこった・・・。

 

「え~・・・その・・・。」

 

ちらりと絵里さんの方を向く。

絵里さんは特に何をするでもなく、じっとこちらを見ていた。

 

これは、試されている!?

 

もう一度亜里沙さんの方を見てみる。

 

「ねえ、夏樹君もちゃんと怒らないと、ね?」

 

・・・・・。

 

「そうだよっ絵里さん!

そんなことしてたら友達いなくなるぞっ!」

 

「うんうん!」

 

・・・言ってやった。

いや、これが正しいんだ。

亜里沙さんも可愛くうんうんと言ってるじゃないか。

これでよかったんだ・・・。

 

「・・・あはは、ごめんね二人とも私ちょっとどうかしてたみたい、ごめんね、夏樹~?」

 

絵里さんは、心の底から笑ってるかのように楽しげに俺の両肩に手を置き、そう言ってくれた。

 

「うん、やっぱりみんな仲良くしないとね♪」

 

「ふふふ、そうね、私達みんなずっと仲良しよ。」

 

絵里さん、その仲良しの夏樹君の肩を物凄い力で握りしめちゃってますけど。

めっちゃ怒ってるぞ、これ。

 

「夏樹、集合。」

 

俺の考えを裏付けるように、耳元で小さく、そして感情を含まないとても低い声でそう呟いてきた。

思わずゾクリとしたね、ちょっとちびったわ。

 

その後すぐに、絵里さんは亜里沙さんにちょっと待っててねと言って、俺を路地裏に連れ込んだ。

 

そして

 

「・・・さてと、何か言いたいことは?」

 

「本当にごめんなさい。」

 

壁に押し付けられて、手を壁に付き俺の逃げ道をふさぎながらの尋問だ。

いわゆる壁ドンの状態だが、まさかされる日が来るとは思わなかった。

 

ていうかシンプルに怖い、殺られるのでは?

・・・文句言えんけど。

 

「・・・はぁ、亜里沙が可愛いのはわかるけどちょっと舞い上がりすぎよ?」

 

てっきり、ボコボコにでもされるのかと思いきや絵里さんは呆れたようにそう言ってくる。

 

・・・ていうか薄々感じてはいたが、絵里さんって相当のシスコンっぷりだな。

まあ、あんな可愛い妹がいたらそうなるか。

 

「仕方がありませんよ、だって亜里沙さんが可愛いすぎるんだから。

俺だって言いたくて言ってるんじゃないんですよ?

あの純粋な目で「ね?」て言われたら、そりゃあもう・・・。」

 

「・・・・・。」

 

絵里さんは、何とも言えなない表情で俺の言葉を聞き、黙っている。

否定しきれないのだろう。

 

「とにかくっ!

今みたいな、態度をずっと取るようだったらもう勉強見ないから、そのつもりで!」

 

と、絵里さんは強引にそう言いまとめると、亜里沙さんのところに戻ろうとしてしまう。

 

・・・そんなっ、無理じゃん!?

勉強見てもらえないのは困るっ!

 

「ちょっと、絵里さん!

そんなイジワル言わないでくださいよ。

俺たちずっと仲良しじゃなかったんですか??」

 

「うるさいわねっ!?

それこそ仕方なく言ったことよ!」

 

取り付く島もないとはこのことだろう、そのまま亜里沙さんのところに戻ってしまった。

 

やばい、何とかしないと。

 

急いで絵里さんの後を俺だったが、絵里さんの様子がおかしいことに気付く。

何だかキョロキョロ辺りを見渡している。

 

「絵里さん、どうしたんですか?」

 

追いついた俺は絵里さんにそう質問する。

 

「亜里沙が見当たらないのよ・・・。」

 

「大事件じゃないですか。」

 

俺は、急いで辺りを見渡す。

くそっ、どこに行ってしまったんだ??

何も無ければいいが・・・。

 

全力で走り回り、そしてついに見つけた。

 

・・・見つけてしまった。

 

・・・・・。

 

・・・・・。

 

・・・・・ヤクザに絡まれてね?

 

20メートルほど離れたところに亜里沙さんと、そしてサングラスをかけ、スーツ姿の明らかにそっちの人だとわかる大男の二人が対面していた。

 

・・・どういう状況なんだ!?

 

とにかく急いで向かおうっ!

 

そう遠くない距離にいたため、すぐに亜里沙さんの姿が鮮明に見えてくる。

そしてそれと同時に話声も聞こえてくる。

 

「ハラショ~、これが日本のヤクザですか~、すごい迫力です!」

 

「・・・嬢ちゃん、そいつは俺に言ってるのかい?」

 

「はい♪」

 

あーーーー、亜里沙さあああんん!!!

はい♪じゃあねえよおおお!!

後、ハラショ~、ってなんやねえええん!!

 

俺が心の中で全力でツッコミを入れながらなんとか二人のいるところに到着した、いやしてしまった。

 

「亜里沙さんっ!!」

 

「あ、夏樹君!

ねえ見て!この人ヤクザだよ!」

 

「うんうんうんうん、そうだね、分かったから指を差すのはやめようか、まじで。」

 

きゃっきゃと楽しそうにはしゃぐ亜里沙さんを必死になだめる。

なんだろう、心の中に黒い感情が・・・。

 

「・・・おい、にいちゃん。」

 

ヤクザさんの方からドスのきいた、声でそう呼びかけられる。

・・・兄さんって俺のことだよね?

 

「は、はい・・・。」

 

俺が、ギギギとヤクザさんの方に顔を向ける。

 

そこには、俺を見下ろすグラサン姿の大男が。

 

・・・俺死ぬのかな?

 

「この子は兄ちゃんの連れか?」

 

「・・・はい、ずっと仲良しの関係です。」

 

「・・・よく分からねえが、お前も男なんだろ?

女一人くらいちゃんと見ててやれよ。」

 

「・・・はい。」

 

そう言うとヤクザさんはゆっくりと歩いて去って行った。

 

・・・・・。

 

・・・あれ、目から水が出てきたようだ、視界がぼやけてきた。

 

・・・こ、怖かったぁ。

前のチャラ男たちとは比べ物にならない本当の恐怖をあの人からは感じた。

あれが本物だということなんだろう。

 

「わ~なんか迫力あったね~、

やっぱり凄いんだね、ヤクザって!」

 

「・・・そうだね。」

 

楽しそうで何よりだよ、俺はそれだけで幸せさ、ぐすっ。

・・・でもやっぱりってどういう意味?

 

「あの・・・、大丈夫?」

 

俺が恐怖のあまり膝から崩れ落ち、その場で身動きがとれないでいると、いつの間にか来ていた絵里さんが気まずそうにそう尋ねてくる。

 

「・・・大丈夫そうに見えますか?」

 

「・・・見えないわ。」

 

「・・・ヤクザって怖いんですね、初めて話ましたよ。」

 

「・・・そうみたいね。」

 

「・・・頼むからちゃんとそういうところ教えてあげてくださいよ。」

 

「・・・10回くらい言ったわよ?

わたしも夏樹の今の気持ちすごくわかるもの。」

 

「・・・そうですか。」

 

どうやら、絵里さんも経験済みらしい。

苦労してるんだな、なんか一気に親近感湧いてきた。

 

「・・・亜里沙はね、どうやら心の底から人類みんなを友達だと思ってるらしいのよ。」

 

そこで俺は初めて顔を上げて絵里さんの顔を見た。

 

絵里さんはとても遠い目をしており、すべてを諦めている顔をしていた。

 

「・・・絵里さん、今度勉強を教えてもらうときついでに色々話聞きますよ?

溜まってるようですし。」

 

俺がそう提案すると、絵里さんの目に生気が戻ってきて、

 

「本当に?」

 

と、短く確認をしてくる。

 

「・・・ええ、これを一人で抱えるのはよくないですよ。」

 

「・・・ありがとう本当に。」

 

「いいんですよ、これくらい。」

 

俺たちは静かに抱き合った、そこには疚しさなんて一切ない、慈愛に満ちた抱擁だった、と思う。

 

「二人とも、やっぱりとっても仲良しさんだね!」

 

と、亜里沙さんもとてもご機嫌だ。

 

これがハッピーエンドってやつか・・・。

 

「じゃあ、早速再出発しよう!」

 

「「え」」

 

その後、俺たちは片時も亜里沙さんから目を離さず、緊張を保ったまま一日を過ごすことになりとても疲れた。

 

絵里さんもそうなのだろう、最後の方なんか10秒に一回レベルで溜息をついていたよ。

毎回こうなのかと思うと本当に同情する。

 

しかし収穫はあった。

 

それは、

 

亜里沙さんの沢山の笑顔。

 

そして、絵里さんとの強い絆だ。

 

つづく

 




ここまで読んでいただきありがとうございます!

書いてて思ったんですが、過去編、長いですね・・・。
全然終わらない・・・。
自分の中ではとっくに終わっている予定だったんですが・・・。

というより最初は20話もあれば完結するかなと思ってました(笑)

ちなみに今の感覚だと話の流れ的には今の時点で真ん中くらいかなーと思ってます。
(また色々あって長くなるかもしれませんが)

ちょっと過去編が長いですが、引き続き読んでいただければ、と思います。
では!




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第19話 乙女の悩み

「でね、一瞬よ?

一瞬目を離したすきに不良の20人くらいの集団に「何してるんですか~?抗争ですか~?」

って、楽しそうに言いながら、突撃をしていたのよ。」

 

「容易に想像できますね・・・。」

 

「そうでしょ?

その後、亜里沙を抱えて死ぬ気で走って逃げたわよ・・・。

あの時の私、ボルトより速かったんじゃないかしら?」

 

「まあまあ、はいこれでも飲んで落ち着いてくださいよ。」

 

「・・・ありがとう。」

 

そう言って、俺がついだお茶を飲み干す絵里さん。

 

「・・・はぁ、まあそれでも許してしまうんだけれどね。」

 

「そうですよね、だって・・・。」

 

「「可愛いから!」」

 

絵里さんに勉強を見てもらった後、こうして絵里さんと雑談(といってもほとんど絵里さんの苦労話だが)をするのがすっかり日課になってしまった。

当初の絵里さんとの出会いからこうなると、誰が想像できただろうか?

今じゃ絵里さんの方から「この日なら勉強を見てあげるわよ、うちに来なさいよ。」と誘ってくるくらいだ。

仲良くなれたことは純粋に嬉しいし、おかげで学力も着実に身についていてる実感がある。

それにこんな馬鹿っぽい話をするのも結構好きなので、最近では絵里さんといる時間がひそかな楽しみになっている。

 

「って、もうこんな時間!?」

 

絵里さんが部屋にかかっている時計を見て驚いている。

 

「えっ、うわっ、もう7時半か・・・。」

 

楽しい時間は過ぎるのが早いもんだ・・・。

 

「そろそろ、解散の時間よね・・・。」

 

そう語る絵里さんは少し寂しそうだ。

正直こういう反応をされると、前までとのギャップがありすぎる分、絵里さんがとても可愛く見えてしまう、ついつい抱きしめたくなってしまうような・・・。

ええい、姉妹そろって俺を誘惑しやがって!

 

「今日亜里沙は、お友達の家に泊まるのよね・・・、

そうだっ、夏樹、うちでご飯食べていきなさいよ!」

 

一人でご飯を食べるのが寂しいのか、そんな提案をしてくれる。

 

「絵里さんがご飯を作ってくれるんですか?」

 

「そうよっ、私の手作り夜ご飯よ♪」

 

腕まくりしながらそう楽しそうに言う絵里さんを見て、一抹の不安がよぎる。

絵里さんのキャラ的に滅茶苦茶うまいか、滅茶苦茶まずいかのどっちかだろうな・・・。

 

「・・・夏樹、何か失礼なこと考えてない?」

 

「ははっ、まさかそんな、ははっ、じゃあ家に電話してご飯食べてくるっていいますね。」

 

ジト目で見つめてくる絵里さんをできるだけ視界に入れないように家に電話をかけ、ごはんがいらない旨を伝えた。

 

「家の人、大丈夫だって?」

 

「姉ちゃんが今日はハンバーグだからノープロブレムだって。

夏樹の分もお姉ちゃんが食べてあげるってさ・・・。」

 

・・・今から帰るって言ったら怒るかな?

 

「ふふふ、穂乃果らしいわね、じゃあ明日のランニングは穂乃果だけ倍走ってもらおうかしら、太ったらいけないし♪」

 

「是非。俺が許可します。」

 

~30分後~

 

「はい、どうぞ召し上がれ♪」

 

「おぉ、おいしそう、見た目は・・・。」

 

「ちょっと、見た目はってどういう意味よ?」

 

「いただきま~す、うんうん、うまいうまい!」

 

「たく・・・、でもまあ、おいしかったならよかったわ。」

 

絵里さんが作ったご飯はとてもおいしかった、すこし不安だったがよかった。

絵里さんも俺がおいしいと言ったことで嬉しそうにしている。

 

「いや~絵里さんと結婚する人は幸せですね~。」

 

「っ!? ゴホッ、ゴホッ!?」

 

「え、どうしたんですか、絵里さん?」

 

俺が、絵里さんを褒めたら急にむせたよ、なんでだ?

 

「ゴホッ・・・ふー、きゅ、急になによ!?」

 

なぜか顔を真っ赤にした絵里さんに怒られたんだが。

 

「何って、だから絵里さんと結婚する人は幸せだなって・・・。」

 

何か地雷だったのだろうか?

俺の言葉を聞いた絵里さんはまたさらに顔を赤くしていた。

 

「・・・そ、そう、夏樹は私がその、お、奥さんだったらうれしいの?」

 

絵里さんは、手をもじもじさせ、上目遣いにそんなことを聞いてきた。

 

なんだこの可愛い生き物は?

 

「そりゃあ、嬉しいでしょ~。

絵里さん美人だし、周りにも自慢しまくりでしょう。」

 

思ったことをそのまま言う、毎日が楽しいだろうよ。

そしてそれを聞いた絵里さんは、

 

「そ、そう!そうなのね?」

 

顔は赤いままだが、嬉しそうにはしゃいでいる。

 

「・・・まあ、俺には亜里沙さんがいますけどね!」

 

最後に俺は格好をつけるためにわざと虚空を見つめながら、クールにキメ台詞を決めてやった。

 

・・・・・。

 

・・・・・ん?

 

てっきり、「そんなことはもっと賢くなってから言いなさい」などと、ツッコミが来るのではと構えていたが、全然絵里さんからの反応がないぞ。

 

ちらりと視線を絵里さんに戻す。

 

そこには、

 

とても悲しそうな表情をした絵里さんがいた。

 

・・・・・え?

 

・・・どうしたんだ、さっきまであんなに楽しそうにしてたのに。

俺のキメ台詞が寒すぎたのか!?

 

「あの・・・絵里さん、何か反応がほしいな~って。」

 

気まずかったので、絵里さんにそう呼びかけると

 

「・・・えっ、あ、ごめんね。

ちょっと、ぼーっとしてたわ。」

 

そう言う絵里さんは何かを隠すかのようにご飯をがっがっと食べ始めた。

 

どうしたんだ絵里さん?

まあいっぱい食べることはいいことだ、俺も冷める前に食べよ。

 

その後は、何とか調子を取り戻したらしい絵里さんとほどほどに雑談を楽しみ、その日は帰った。

 

 

 

「・・・・・。」

 

独りぼっちになってしまった家の中で私は、ぼーとしていた。

 

こんなに楽しい日々を過ごしているのはミューズでの活動を除けば本当に久しぶりだ。

もちろん、その楽しい日々を過ごすことが出来ているのは夏樹のおかげだろう。

 

・・・・・。

 

・・・いけないとは分かっている。

 

夏樹は亜里沙が好きなのであって、決して・・・。

 

・・・・・。

 

この関係も、夏樹が学年で3番以内に入るまでなのだろうか・・・。

 

それは・・・いやだ。

 

・・・はあ、ずっとこの毎日が続けばいいのに。

 

ミューズでの活動、そして夏樹との勉強会、

断言できるが私の人生のなかでも今が一番輝いている。

 

・・・最初に夏樹と会った時はこんなことになるなんて思いもしなかった。

 

最初は、ただ馬鹿な男の子が亜里沙の見た目の可愛さに寄ってきただけだと思っていた。

そういう子は今までにも何人もいたし、特に驚きはなかった。

 

しかし、その後夏樹は、死に物狂いで努力し続けて着実に実力を伸ばし、今までの男の子とは違うことを証明して見せてきた。

一生懸命頑張れば、叶うのだと、私に証明しているかのように・・・。

実際、そう遠くない未来に夏樹は学年で3番以内の成績をとるだろう。

 

私はどちらかというとっつきにくい性格をしていると自覚している。

実際あまり友達とかあまりいないし・・・。

でも夏樹はそんな私にもどんどん喋ってくれるし、思ったこともそのまま言ってくれる、からかってきたりもする。

・・・最初は私に緊張してたようだけど。

まあ要するに夏樹と一緒にいると、楽しいのだ、特に気を遣ったりもせずに自分をさらけ出すことができるのだ。

 

そしてこんな風に接することが出来るのは、夏樹が初めてだった。

 

・・・だからなのだろうか?

 

私はいつの間にか、そう、自分でも気づかないうちに、夏樹のことが・・・。

 

でも、それは許されないこと。

 

だって夏樹は亜里沙のことが好きなのだから・・・。

 

生まれて初めて亜里沙を羨ましく、そして少し恨めしく思ってしまう。

 

そんな風に考えてしまう自分に嫌気がさす。

 

でもそれも仕方がないだろう。

 

・・・・・・。

 

やめね、やめやめ。

 

これ以上考えてもどんどんマイナスの方に向かっていきそうだったので、考えるのをやめて、別のことを考えるようにした。

 

次はいつに勉強をみてあげようかしら?

 

また夕食を作ってあげようっと♪

 

つづく

 



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第20話 μ'sの食事会

「ねえ夏樹、私だけ今日のランニング倍走らされたんだけど、何か知ってる?

絵里ちゃんに夏樹に聞けって言われたんだけど。」

 

俺が勉強をしていると、練習から帰ってきた姉ちゃんが何か言ってきた。

どうでもよかったので無視していたが、

 

「ね~、夏樹~無視しないでよ~。」

 

後ろから抱き着いてすりすりしてきたので仕方なく、手を止めて振り返る。

 

「確かに俺が倍走らせてもいいって許可したけど、何か文句でも?」

 

「文句しかないけどっ!?

何その開き直りっ!?」

 

姉ちゃんは、なんでそんなことしたのさ~と、まとわりついてきて鬱陶しかったが無視して勉強をしていると

 

「・・・そういえば、夏樹最近すごく勉強頑張ってるけど何かあったの?」

 

まったく反応しない俺に飽きたのか、話題を変えてきた。

当然、俺は勉強に力を入れている本当の理由を姉ちゃんには話していない。

気になるのも仕方がないことかもしれない。

 

「別に、前も言ったけどこのままじゃ高校に行けないから勉強してるだけ。」

 

「いや、もう十分に頭いいじゃん。

お母さんに聞いたよ、この前の模試で校内順位41位だったんでしょ?

志望高校も十分に受かるって言われたんでしょ?」

 

確かにそうだ、勉強を開始してから4か月ほどがたったが、俺の成績はとうとう学年でも40番台というところまで来たし、志望高校も余裕で受かるレベルにまできた。

先生たちもようやく俺が改心したことを認め始めてくれたようで、前ほど険悪に扱われることはなくなった。

このまま頑張れば、近いうちに3番以内に入れる可能性も十分にあり、その自信もある。

 

「まあ、どうせならもうちょっと上目指そうくらいの感じだよ。

前にも言っただろ? 3番以内を目指してるって。」

 

「そういえば言ってたね、あの時は冗談だと思ってたけど・・・。

まあ勉強を頑張るのはいいことだし、止めないけどさ、

最近雪穂が夏樹が全然相手してくれないって言って寂しそうだよ?

たまにでもいいから相手してあげてね?」

 

と、姉ちゃんはそんな気になることを言ってきた。

 

・・・本当姉ちゃんはいつも俺たちのことを見てくれてるな。

それにしても雪穂か、確かに最近全然関わってなかったな。

・・・たまには、雪穂とゲームでもして遊ぶかな、息抜きにもなるし。

早速明日にでも誘ってみるか。

 

俺がそう考えていると、姉ちゃんが続けてこんなことを言ってきた

 

「でね、話は変わるんだけど、今週の土曜日に私達ミューズのみんなで集まってご飯を食べようってなってるんだけど、夏樹も来ない?」

 

「なんで俺が行かないといけないんだよ?」

 

姉ちゃんが、スクールアイドルにかなりの力を入れており、人気も出てきているとは話には聞いていたが、あまり興味がなかったし、勉強も忙しかったので詳しくは知らない。

でも確かミューズは全員で9人いるはずだ。

その中でも知っているのは姉ちゃんとことりさん、海未さん、そして絵里さんだけだ。

それ以外の人は知らないし、俺が行っても変な空気になるだけだろう。

 

「みんなに可愛い弟がいるよって自慢してたら、じゃあ呼ぼうってなったの。」

 

・・・なぜそうなった??

 

「いやだよ、雪穂でも連れていけばいいじゃん。」

 

人見知りというほどではないが、知らない年上の女性が5人もいるとなると緊張する。

それに男が俺一人とか気まずいしな。

 

「雪穂も誘ったけどその日は友達と約束があるらしくて・・・、

だから夏樹しかいないの!」

 

「嫌だ。」

 

当たり前だ。

 

「・・・当日はお金持ちの子の家でパーティー形式で食事をすることになってるんだ。」

 

「・・・・・。」

 

「いっぱい豪華な食事が出るって言ってたんだよね~。」

 

「・・・・・。」

 

「なんでも専門のコックさんも呼んでその場で調理してくれるんだって。」

 

「・・・・・。」

 

「高級なお肉とかお魚とか使った料理を振舞ってくれるらしいんだよね~。」

 

「・・・しょうがねえな〜、そこまで言うなら行ってやってもいいけど?」

 

まあ、たまには姉の顔を立ててもバチは当たらないだろう、しょうがなく行ってやるか。

 

「ふふ、決まりだね!じゃあ土曜日だからね!」

 

「了解。」

 

おっしゃ、勉強頑張るぜ!!

 

~土曜日~

 

「ここが、今日食事会を開いてくれる子の家なんだよ!!」

 

姉ちゃんが、今から開かれる食事会にワクワクを隠し切れないように元気よく俺にそう言ってくる。

 

だが、俺はそれどころではなかった。

それもそうだろう・・・。

 

だって、ここまっきーの家じゃん!?

 

実は最近、まっきーと恋云々といったその辺の知識及び経験に乏しい二人でお互いの恋事情について意見を交換したりしているのだ。

そして、それを行うのは基本的にまっきーの家だ。

つまりまっきーの家には見慣れる程度には来ているのだ。

その見慣れたまっきーの家が今目の前にあるというわけなのだ。

そしてそのまっきーの家が、食事会の場所!?

どういうことだ・・・?

 

俺が混乱していると、まっきーの家の扉が開き

 

「いらっしゃい、ほの、かっああ!!??」

 

「えぇっ、どうしたの真姫ちゃん!?」

 

まっきーは、俺の姿を確認するとあり得ないほど驚いていた。

その気持ちわかるぜ・・・。

ついでに姉ちゃんも突然まっきーが大声をあげたことに驚いている。

 

「え、え・・・?

どういうこと??」

 

「な、なにが?」

 

二人は明らかに混乱している。いや、俺もしているが。

だが、俺とまっきーの関係性がばれたら面倒になるのは明らかだ。

 

ここは俺が冷静に対応しなければ。

そう、初めて会いましたという風に挨拶するんだ、まっきーもきっと察してくれるだろう。

 

「あの!初めまして!

姉ちゃんの弟の高坂夏樹と言います。

よろしくお願いします!」

 

俺が、目で合わせろと必死に訴えながらまっきーに強引に自己紹介をする。

そんな俺の姿を見て、まっきーはしばらく考える様子を見せると

 

「・・・・・あ~、

そうね、初めまして私は西木野真姫よ。

・・・よろしくね。」

 

何とか俺の意思が伝わったのかまっきーも俺に合わせて対応してくれた。

さすがまっきーだぜ。

 

「え、なに今の不自然な自己紹介の流れは??」

 

しかし流石に違和感が拭えなかったのだろう、姉ちゃんが俺たち二人に疑惑の目を向けている。

これは、もう一押し演技が必要だな・・・。

合わせろよ、まっきー。

 

「なにかおかしかったですかね、まっき、いや真姫さん?」

 

「いえ夏樹、これっぽちもおかしくないわ、夏樹のお姉さんは何を言っているのかしらね?」

 

「ですよね~。」

 

「まったく、イミワカンナイ。」

 

・・・完璧だ、これなら完全に姉ちゃんも騙されただろう。

俺たち二人にかかればこのくらい朝飯前というわけだ。

まっきーも「どうよ」と言わんばかりのドヤ顔だ。

 

「いやいやいやいや、騙されないよ!?

二人とも現在進行形で違和感ありまくりだよ!

いきなり名前呼びだし、夏樹に至っては、あだ名っぽく呼ぼうとしてたよね!?

どう見ても二人ともお互いを知ってる仲だよね??」

 

 

「「・・・っ!?」

 

なぜだ!?

なぜばれた??

完璧な演技だったのに!

まっきーもなぜばれたか理解不能という表情を浮かべている。

 

「二人とも馬鹿なの?」

 

「「姉ちゃん(穂乃果)には言われたくない。」」

 

「酷いっ!?」

 

喚く姉ちゃんは放っておいて、とりあえず中に入れてもらうことにした。

まっきーとは、後で状況を整理しようという短いやり取りを小声ですませ、とりあえずは落ち着いた。

 

まあ色々考えることはあるが、何はともあれ今からうまい食事にありつけると考えたらテンション上がってくるね!

 

「この部屋にみんな集まってるから入っておいて。」

 

リビングの扉前まで案内され、まっきーは料理の様子を見てくると言って行ってしまった。

 

「ねえ夏樹、本当に真姫ちゃんと知り合いじゃないの?」

 

「違うって言ってるじゃん。」

 

「む~、怪しい。」

 

「こんにちは~!」

 

怪しむ姉ちゃんから逃げるように元気よくリビングの扉を開いた。

 

まっきーの言った通り中にはすでに他の人たちが集まっていたようで、皆がこちらに視線を向けている。

 

ふむ、海未さんにことりさんに絵里さんは知っているが、他はやはり知ら・・・な・・・くない!!??

 

俺の目線は、おとなしそうな、ショートボブの明るい茶髪の少女にくぎ付けになってしまった。

 

おれの体中から冷や汗がぶわっと出てくるのを感じる。

 

・・・あの人、俺が町中で勉強を教えてくれって頼んだ人じゃん。

しかもよりにもよって、靴を舐めるから教えてくれと頼んだ人だ。

 

・・・・・終わった。

 

つづく

 



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第21話 自己紹介

や、やばい・・・。

 

あの人に全てをばらされれば、俺はこれから靴を舐める変態野郎として生きていかなければならなくなる・・・。

ていうか、俺ミューズの人と関わり持ちすぎじゃない?

絵里さんにまっきーもそうだが・・・。

 

いや、だが待てよ。

もうあの日からしばらくたつし、あの人も俺のこと忘れた可能性はないか?

・・・そうだよ、その可能性だって十分にあるじゃないか。

 

とりあえず俺はあの人に恐る恐る視線を向けてみる。

 

「・・・・・っ!?」

 

なぜか向こうも俺のことを見ていたようだが、俺が視線を向けた瞬間、すごい勢いで視線逸らされた。

 

あかん、あれは完全に俺のことを覚えてる反応だわー。

いや、そりゃいきなり知らない人から靴を舐めるから勉強を教えてくれとか頼んでくる人いたら忘れないよねー、俺なら死ぬまで覚えてるわ。

・・・どうしたらいいいんだ?

 

「お~君がうわさの夏樹君か~、初めまして、うちは東條希っていうねん、よろしく~。うちのことは希って呼んでくれていいからね~。」

 

俺が、これからどうしようと、頭を抱えて必死に頭を回転させていると、一人の先輩が自己紹介をしてくれる。

変な関西弁は引っかかるが、いい人そうだな。

とにかく挨拶はしなくては。

 

「あ、はい、俺は高坂夏樹といいまsっ!?」

 

俺は自己紹介をしながら視線を希さんに移すが、その時、体中に電気が流れた。

 

・・・なんだこれは。

 

・・・この人おっぱいでかすぎじゃないか?

・・・まったく、けしからん。

こんなの歩くセクハラじゃなないか。

・・・それにしてもでかいな。

 

俺が、その驚愕のサイズに驚きを隠せず、まじまじと見つめていると

 

「ど・こ・を・み・て・る・の!」

 

「いたたたっ、ごめんなさいごめんなさい、もう見ませんからっ!」

 

俺の至福の時間を、絵里さんに思い切り耳を引っ張られる形で邪魔されてしまった。

酷すぎるよ、絵里さん・・・。

 

「まったく、本当に馬鹿なんだから!」

 

「まあまあえりち、うちは別に気にしてないし。」

 

「甘やかしてはだめよ希。」

 

少し見ただけだから何とも言えんが、絵里さんと希さんは仲が良さそうだな。

・・・よかった、ちゃんと友達いたんだね、正直クールすぎて孤立してると思ってたよ。

 

「・・・夏樹、何よその温かい目は。」

 

「・・・いえ、なにも?」

 

「・・・なんかむかつくわね。」

 

「二人ともやけに仲よさそうやけど面識あるん?」

 

俺たちのやり取りを見て、違和感があったのだろう、希さんがそう確認をしてくる。

 

「ええ、以前穂乃果に頼まれて、ちょっと前から夏樹の勉強を見ているのよ。」

 

「ほえ~、そうやったんや。

知らんかったわ~。

夏樹君、えりちの教えは厳しいんちゃうん?」

 

いたずらっぽく聞いてくる希さんに

 

「ええ、あり得ないほど。

以前、規格外の量の宿題を出されて死にそうになりました。」

 

乗っかるようにそう答えておいた。

まあ、嘘ではないしセーフだろう。

 

「うわ~、えりち、中学生の子に容赦ないな~。」

 

「ちょっと絵里ちゃん、うちの弟をあんまりいじめないでよ!」

 

「ち、違うのよ、それには色々あって!」

 

くくく、これ面白いなw

もっとからかってやろうかな?

 

「夏樹、そのことについては本当に申し訳なく思ってるから、後で詳しく話し合って今後のことを決めましょうね?詳しくね。」

 

絵里さんがにっこり笑顔で俺にそう優しく言ってくる。

 

・・・これ、完全に怒ってる時の絵里さんじゃん。

もうからかうのやめよう・・・。

 

俺と絵里さんがそんなやり取りをしていると、後ろから黒髪のツンテールの小さな女の子がトテテとやってきて、

 

「にっこにっこに~♪

初めまして~、にこに~です♡」

 

・・・・・え、なんだ急に。

オリジナルであろう振り付け付きで紹介されたぞ、いやそもそも自己紹介なのか!?

 

「ん~?

聞こえなかったかな~??

もう一度いくね~、にっこにっこに~♪

にこに~だよ~♡」

 

・・・どう反応すればいいんだ!?

痛すぎる、痛すぎるこの人!?

 

俺が未知との遭遇に戸惑いを隠せずオロオロしていると、

 

「もう、にこちゃん、初対面の人にその挨拶はキツすぎるからやめるにゃ~。

私は星空凛っていうにゃ、凛ってよんでにゃ~。」

 

・・・いや語尾!?

にゃ~って。

助けてもらってあれですけど、あなたも相当変ですよ!?

・・・とは言わないでおこう、面倒そうだ。

「どういうことよっ」とさっきのにこにーと凛さんがぎゃーぎゃ騒いでいる様子を見てひそかにそう決断する。

 

ていうか、もしかしてまっきーが好きと言っているにこちゃんて、あの人のことか?

 

・・・・・。

 

・・・ま、人の好みはそれぞれだしな、俺はとやかく言う権利はないよな。

それにしてもミューズの人たちクセ強い人多くないか?

 

まあでも、とにかくこれで自己紹介は終わりだな、後は姉ちゃんの陰にでも隠れてご飯を楽しもうっと。

 

俺がそそくさと姉ちゃんの近くの席に座ろうとする、しかし

 

「あれ夏樹君?

かよちんがまだ自己紹介していないよ?」

 

・・・余計なことを、この猫もどきめ。

忘れかけていたのに・・・。

 

「え、自己紹介って何のことですか?」

 

「いやだから、かよちんがまだ自己紹介してないよって。」

 

「・・・なるほど、それは大変ですね。」

 

「うん」

 

「まあでもそれは後でということで。」

 

「・・・ん?なんで?今やればいいにゃ」

 

「・・・まあまあまあまあ」

 

「・・・え、どういうこと?」

 

・・・だめだ、もはや何を喋ってるか分からなくなってきた。

もうどうやっても逃げられる気がしない。

諦めるしかないのか??

 

「ほら、かよちん、よくわからないけど、さっさと自己紹介するにゃ。

かよちんで最後だよ!」

 

「ちょ、ちょっと凛ちゃん!?」

 

凛さんは、かよちんさんとやらの背中を後ろから押して無理やり俺の方に連れてきた。

 

変態野郎の前に無理やり連れてこさせるとは、凛さんは最低だな、まったく。

・・・あぁ、俺の社会生命も、後わずかだ。

 

「あ、あの・・・。」

 

かよちんさんは、変態野郎の俺と視線を合わせるのも嫌なのか、目を合わせずオロオロしている。

 

「ん? 二人ともなんか様子がおかしいけど何かあったん?」

 

「確かに、かよちんどうしたの?」

 

「え、ええと、その・・・。」

 

「もしかして、夏樹君と会うの初めてじゃないとか?」

 

・・・だめだ、周りも俺たちの様子がおかしいことに気が付いてきている。

このままでは、すべてがばれるのも時間の問題だ。

・・・どうせ死ぬなら、最後に思い切り抵抗してやるのはどうだろうか?

今みんなは俺たち二人の様子がおかしいことに不信感を抱いている。

その不信感が吹っ飛ぶようなことが起これば、有耶無耶になる可能性はある。

・・・・・。

ええい、もうどうなってもいい、すべてがひっくり返るように思い切りやってやれ!

 

「なっつなっつき~♪

初めまして~、なつき~で~す♡」

 

世界が

 

止まった。

 

 

 

結果から言うと、作戦はうまくいった。

皆不信感なんてぶっ飛んだのか、しばらく固まっていたが、静かに、そして徐々に視線を逸らしていき、無言で各々の席についた。

そしてしばらくしてから雑談をし始めていた、俺抜きで。

かよちんさんは、「え、え、あ、あのよろしく・・・」と戸惑いつつもそう言って、皆と同様に席についていた。

 

・・・なんだろう、うまくいったはずなのに、死にたい。

 

「・・・夏樹、あんた何やってるの?」

 

俺がにこにーポーズのまま固まっていると、リビングに戻ってきたまっきーに不審そうに声をかけられた。

ただし、俺とまっきーが知り合いとばれないよう周りに聞こえないように小さな声で、だ。

 

「・・・まっきー、俺もうだめかもしれない。」

 

「・・・何があったのよ?」

 

「社会的に生きようともがいたら、精神的に死んだ・・・。」

 

「いや、普通にわからないけど。」

 

「・・・もう放っていおいてくれ。」

 

「・・・よくわからないけど、そういう事ならそうしておくわ。

ただ、その馬鹿みたいなポーズは早くやめたほうがいいわよ?」

 

「・・・うん。」

 

俺は静かにそう同意すると静かに手をおろした。

まっきーは、他の人たちのところに合流していった。

 

・・・帰りたい。

 

つづく

 



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第22話 宇宙NO.1アイドル

ここまで読んでいただきありがとうございます!
なぜかこの2,3日でお気に入り件数が一気に増えました、ありがとうございます!!(何が起こったんだ??)
正直嬉しいを通り越して驚きが大きいです(笑)(当然滅茶苦茶嬉しいですよ?)
引き続き、どんどん投稿していきますので、楽しんでいただければと思います!!
もし、よろしければコメントや感想など頂ければ凄く嬉しいです!
では、引き続き作品をお楽しみください!!


食事会が始まってからも俺はひたすらコックさんの前に陣取り食事を摂っていた。

勿論一人でだ。

コックさんは、さっきから気まずそうにしているが知ったことではない。

靴を舐める変態野郎として生きていくことだけは、避けられたが代償として失ったものも大きかった・・・他にも何か方法はなかったのだろうか?

 

まあいいや、今は目の前の食事を楽しもう。

流石、専門のコックというだけあって、どの料理もおいしい。

色々あったが、これだけでもまだ来た甲斐はあったというものだ。

・・・この肉料理うめぇ、口の中でとけたぞ!?

 

「ふふん、夏樹だっけ?

寂しそうなあんたのために、にこに~が来てあげたわよ?」

 

俺が素晴らしい食事に夢中になっていた為、人の接近に気付かなかった。

後ろを振り返ると、にこにーがいた、なぜか上機嫌の。

 

・・・よく考えたらこの人がいなかったら俺もあんな失態はなかったのでは?

 

かよちんさんとの関係をばらされないよう何とかしなくてはいけなかった時、このにこにーの自己紹介の場面がフラッシュバックしたので、ああなってしまったのだ。

 

俺のそんな心中を知ってか知らずかにこにーは俺の隣に座ってきて

 

「それにしても、私も罪よね~??

出会ったばかりの男の子を早速虜にしちゃうなんて~。」

 

にこにーは、自分に酔ってるかのように手を自分の頬にあて、体をくねくねしながら訳の分からないことを言っている。

 

「・・・なんのことですか?」

 

「もう、照れなくてもいいのよ?

私の真似をしちゃうくらい私のことが好きになっちゃんでしょう??」

 

なるほど、あれをそうとらえたか、それで上機嫌なのか。

そんなわけないだろばーか、と否定するのは簡単だがこれ以上面倒毎が増えるのはもっと嫌だ。

気は進まないがここは話を合わせておこう。

 

「・・・まあ、刺激的だったので。」

 

刺激的だったのは間違いない、悪い意味でだが。

だが、この回答に満足したのか、にこにーは嬉しそうに口角をより一層上げて

 

「ふふん、わかってるじゃない!

でもあれじゃあだめよ?

みんなも引いてたでしょう?

もっと情熱をこめて、そして全力ですることが大切よ!!

そうすれば、さっきみたいにみんなに引かれることもなくなるわ!」

 

いや、どれだけ頑張っても引かれる運命に変わりはないと思うが・・・。

ていうか、にこにーも凛さんに馬鹿にされてたじゃん。

後、二度とやらないのでそもそもその心配もないけどね。

 

「というわけで、私が見てあげるからもう一度やってみなさい。」

 

なぜそうなる?

俺にもう一度死ねと言うか。

 

「いや、今日はちょっともう疲れちゃったのでまた今度でいいですか?」

 

「今度ね、いいわよ、じゃあいつが空いてるのよ?

都合のいい日に見てあげるわよ!」

 

にこにーは、俺の内心など知ったことかと、体をぐいっと近づけ目をキラキラさせながら、そう元気よく提案を持ちかけてくる。

 

めっちゃぐいぐい来るや~ん。

なぜそこまで?

まじで勘弁してほしいぜ。

 

「明日の日曜日はどうかしら?

練習も休みだし。」

 

「いや、明日はちょっと体調が悪くて・・・。」

 

「何都合が悪いみたいに言ってるのよ、でもまあ明日暇ってことよね!

じゃあ明日ね!

それまでに練習しとくのよ?」

 

え・・・嘘だろ?

 

俺が嘘だろと、にこにーに言おうとするが、

 

「いや~、私も明日に備えて色々準備しなくちゃね~!!」

 

「・・・そうですね。」

 

とても楽しそうに語るにこにーを見ると、でかかった言葉も引っ込んでしまった。

くそー、こういうのずるいよな、まじで。

はぁ、まあ一日位いいか・・・。

・・・でもまじで何でここまで乗り気なんだろうか。

 

「じゃあ明日、朝9時に集合ね。

遅れたら許さないからね。」

 

・・・待て、9時?

朝の?

・・・嫌な予感が。

 

「あの、にこにー、それって何時くらいに終わるの?」

 

「ん?まあ日が沈むまでにできれば上等かしら。」

 

ボキッ

 

俺の中で何かが折れた。

 

・・・あかん、これは死ぬ。

これなら靴を舐める変態野郎で生きる方がマシだったのでは!?

・・・はっ、そうだ!

 

恐ろしいアイディアが浮かんでしまった、俺って天才なのでは?

 

「なあにこにー、真姫さんも誘っていい?」

 

「え、真姫ちゃん?

なんで?」

 

「いや、真姫さん実はにこにーのこと、結構尊敬してるって言ってたからこの機会にと思って。」

 

「・・・え、そうだったの?

・・・ふ、ふ~ん、馬鹿にしかされていないと思ってけど、ふ~ん、そうなのね。」

 

・・・すげえ嬉しそうだな。

滅茶苦茶ニヤケるのを我慢してる。

 

「まあ?

そういうことなら真姫ちゃんも呼んでいいわよ?」

 

「よし、決定。」

 

やった、これで俺の負担が半分に減るぜ!

 

「ちょっと!!」

 

こちらの話を聞いていたのだろうまっきーがこちらにズカズカ近づいてきた。

 

ふっ、もう手遅れだぜまっきー。

 

「どういうことよ、夏樹!」

 

「まあまあ、真姫さん。

ツンツンするのはやめて、たまには素直になったらどうですか?」

 

ここでまっきーが、急にしゃがんできて、座っている俺の顔の高さに自分の顔の高さを調整してきた。なんだなんだと思っていると、突然俺の肩に腕を回し、俺の体を自分の体にくっつけるように力をいれてきた。

突然のことに対応できず、抵抗する間もなく、まっきーの体にぴたっとくっついてしまう。

さらにそれだけでなく、まっきーは自分の顔を思い切り俺の顔に近づけてきた。

その距離わずか10センチほど。

 

ちょ、近い近いっ!

突然のことに、俺の心臓がバクバクと早鳴っていくのを感じる。

なんだなんだ!?

 

「ちょっと、夏樹どういうことよ!!」

 

まっきーが小声でそう俺に言ってくる。

どうやら、周りに聞こえないようにこの態勢をとっているらしい。

 

「ななな、なにが?」

 

まっきーの意図は理解したが、見た目は完璧な美少女のまっきーにこうまで接近をされてしまうと、嫌でも緊張してしまう。

体温とか吐息とかめっちゃ伝わってくるし。

そんなわけで、まっきー相手に噛み噛みになってしまった。

中身はへっぽこと分かってるんだが・・・。

 

「だから、なんで私を巻き込むのよ!」

 

「だって、にこにーのこと好きなんだろ?

だったら、少しでも一緒にいる時間を増やさないと。」

 

「・・・でも、私がにこちゃんを尊敬してるとか言わなくてもよかったじゃない?」

 

「でもにこにー凄く嬉しそうだよ?」

 

「・・・はぁ、まあいいわ。

まあ、その、尊敬してないわけじゃ、ないし・・・。」

 

・・・まっきーや、こんな至近距離で顔を赤らめて恥じらうのはやめてもらえないですか?

間違って惚れたらどうするんだ。

 

なんとか話がまとまり、まっきーが俺とくっついている態勢を解いた。

少し残念だなんて思ってないからね?

 

「あんたら、なにコソコソ喋ってたのよ?」

 

にこにーは、俺たちが秘密話をしていたことに怪しさを感じているらしく、ジト目でこちらを見つめてきている。

 

「ははっ、にこにーのこと尊敬してるのは、秘密だったみたい。

真姫さんが恥ずかしいから言わないでって文句言われてた。」

 

「へ、へ~、そ、そうなの?」

 

「・・・え、ま、まあ、ね。」

 

「そっかそっか、真姫ちゃんも私のこと本当に尊敬してたのね。

じゃあ二人とも明日9時に集合ね!

このにこがあんたら二人を立派に育ててあげるわ!」

 

「・・・よろしくね、にこちゃん。」

 

まっきー、そんなに足をぐりぐり踏んだら痛いよ・・・。

 

そんなこんなで、明日にこにーとまっきーと会うことになってしまったが、ここで意外な乱入者が、

 

「「あ、あのそれ私も行っていい(ですか)?」」

 

ことりさんと海未さんだ。

 

・・・なぜ二人が?

完全にハモッてたし。

 

「え?なんで二人が?」

 

にこにーも疑問に感じたのか、二人にそう尋ねる。

 

「・・・え~と、私もにこちゃんを尊敬してるから?」

 

「・・・そうですね、私も同じですかね?」

 

しかし、二人の反応はこれだ。

疑問形じゃないか、何が目的なんだ?

 

俺が二人に疑惑の目を向けていると、二人も俺の方に視線を向けてきた。

その表情は怒りに包まれていた。

なぜだ!?

 

一方にこにーは上機嫌だったためか、ことりさんと海未さんの明らかに嘘とわかる発言には気付かなかったようで、

 

「まったく、しょうがないわね。

あんたらまとめて面倒見てやるわよ!

この宇宙NO.1アイドルのにこにーがねっ!!」

 

とのことで、急遽明日、にこにー、まっきー、ことりさん、海未さんで集まることになった。

 

・・・なんだこれ?

 

つづく

 



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第23話 戦いの始まり

今日のみんなとの食事会、本当に楽しみしていた。

楽しみすぎて、昨日は全然眠れなかったほどだ。

当然ミューズのみんなとの食事が楽しみだったというのもあるが、一番の理由は、夏樹君がいるからだ。

最近は、スクールアイドル活動、衣装づくり、そしてバイトに行っていた為、あまり夏樹君と関われていなかったから余計に楽しみな気持ちが膨らんでしまったのだ。

 

だというのに、気になることを聞いてしまった。

 

さっき絵里ちゃんが言っていた、夏樹君に勉強を教えているということだ。

・・・どうして?

私では頼りなかったの?

そう考えただけで、胸がズキズキと痛み、泣き出しそうになる。

私なりに頑張って色々準備して、教えていたつもりなんだけど・・・。

成績が上がって嬉しそうに報告をしてくれる夏樹君を見て、私もとても嬉しく幸せだったのに、それは私ではなく、絵里ちゃんのおかげだったのかな・・・。

 

私があまりに辛そうにしていたからだろうか、穂乃果ちゃんが声をかけてきた。

 

「ことりちゃん、どうしたの?」

 

心配そうに私の顔を覗き込んでくる穂乃果ちゃん。

さっきまで凛ちゃんと一緒に一心不乱にバクバク食事を摂っていたのに、その手を止めて私を心配してくれるなんて、なんて優しいんだろう。

 

「ううん、別に何も無いよ?

・・・そういえば穂乃果ちゃんは、夏樹君がどうして絵里ちゃんに勉強を教えてもらってるか知ってる?」

 

「うん!

穂乃果が夏樹に絵里ちゃんを紹介してあげたのっ!

夏樹はことりちゃんにもっと教えてもらいたがってたんだけど、ことりちゃん忙しいでしょ?

だから絵里ちゃんにお願いしたの!」

 

・・・え?

夏樹君は私に勉強を見てもらいたがっていた?

・・・そっか、そうだったんだ。

 

「えへへへへ。」

 

「・・・え、急にニヤけてどうしたのことりちゃん?さっきまで、世界の終わりみたいな雰囲気だったのに。

・・・もしかして食事にイケナイ薬とか入ってた!?」

 

穂乃果ちゃんが何か失礼なことを言っている気がしたが、どうでもよかった。

まったく、下げて上げるなんて夏樹君も酷いことをするね、これ以上夏樹君を好きにさせないでほしいよ、まったく。

 

そう思いながら、夏樹君の方に視線を向ける。

 

そこには、

 

真姫ちゃんと夏樹君が超密着して何かしていた。

 

・・・・・。

 

・・・まったく、

 

・・・下げて上げて下げるなんて、どういうつもりなのかな、夏樹君?

 

それに真姫ちゃんも何なの!?

あ、あんなに密着して、なんて羨ましい・・・。

ていうか二人って知り合いだったのかな?

とにかくこれは、夏樹君にお仕置きが必要だね・・・。

後、真姫ちゃんにも詳しく色々聞かないとね・・・。

 

 

 

今日の食事会は非常に楽しみでした。

その理由は、当然夏樹と会えるからです!!

何故か、夏樹には最近ずっと避けられているので凄く寂しかったんです。

まあきっと、照れていたのでしょうね。

気持ちはわかりますが、私に寂しい思いをさせるとは罪な人です。

ですが、その分今日はいっぱい夏樹とはお話をしましょう。

・・・あぁ、何を話しましょうか?

そんな感じに私は、ぷわぷわーおしていたわけですが、気になることを聞いてしまいました。

 

それは、夏樹が絵里に勉強を教えてもらっているというではありませんか!?

しかもその後、穂乃果とことりが二人で話し合っているのが聞こえましたが、ことりも夏樹に勉強を教えているそうです。

 

・・・なぜですか?

 

・・・なぜですか!!!

 

ことりも絵里もずるいです!

私も夏樹に勉強を教えたいです!

そ、そしてその流れで、あ、あんなことや、こ、こんなことも・・・。

 

「海未ちゃん、どうしたの?

・・・ニヤニヤして、その、気持ち悪いよ?」

 

はっ、いけませんね、ついつい妄想の世界に入ってしまいました。

・・・ていうか穂乃果、今私のことを気持ち悪いって言いました?

 

「なんでもありません。

それにしても穂乃果、酷いじゃないですか、勉強なら絵里でなくて幼馴染の私に声をかけるのが、筋ではないのですか?」

 

そう、なぜ絵里なのか、私がいるではありませんか。

 

「・・・あ~、一応それも聞いたんだけど海未さんだけは、勘弁って夏樹に土下座されっちゃってね、あはは。」

 

と、気まずそうに、しかし素直に答えてくれる穂乃果。

 

・・・ふむ、つまり夏樹は土下座をしてでも私に勉強を教えてもらうのが嫌だったというわけですか。

それは、なぜか?

・・・簡単ですね。

それだけ、私と二人きりになるのが恥ずかしかったのでしょう!

まったく、夏樹はなんて恥ずかしがり屋さんなのですか!

本当に可愛いですね!

 

「海未ちゃん、一層ニヤニヤしてるよ?

大丈夫?・・・本当に。」

 

穂乃果は心配そうにこちらを気にかけているが、どうでもよかった。

さあ、早く夏樹にしゃべりに行きましょう!

さっき、夏樹がにこの物真似をするという奇行をしたため、声をかけるタイミングを失いましたが、もう我慢できません、いきますよ!

 

私が、愛する夏樹に目を向けると、

 

夏樹と真姫が凄く密着していた。

 

・・・・・。

 

・・・ほう。

 

・・・なるほど。

 

夏樹はこの光景を私に見せつけて嫉妬感を煽っているのでしょうか?

だとしたら、その作戦は大成功ですよ、夏樹。

・・・ですが、何事も限度があることを教えてあげないといけませんね。

私だって、我慢できないことはあります。

それから真姫にも詳しく話を聞く必要がありますね・・・。

 

 

 

夏樹とにこ、それに真姫が色々騒いでいるのを遠巻きに見ていた。

 

真姫がどうしてあれほど夏樹と仲が良さそうなのか分からない。

もちろん二人が付き合ってるなんてことはあるわけない、夏樹は亜里沙のことが好きなのだから・・・。

だからといって正直、真姫と夏樹が密着して何かをしている光景を見るのは辛かった。

私だって、夏樹のことは好きなのだから・・・。

・・・私も、スキンシップとしてならあれくらいしてもいいのかしら?

 

そんなことを考えているとことりと海未が夏樹のところに行き、なにやらぎゃーぎゃーと騒いでいる。

 

どうやら、あそこにいるメンバーで明日集まるらしい。

・・・残念ね、明日は夏樹に勉強を教えてあげようと思っていたのに。

おいしい食事を作れるように練習していたメニューだってあったのに。

・・・私も明日夏樹と会いたいわ。

しかし、私と夏樹はあくまでも勉強を教える、教えられるだけの関係。

それ以外で夏樹と関わるのは、何だか色々と自分の中で歯止めが効かなくなる気がした。

それこそ亜里沙を押しのけてでも私と・・・。

だが、そんなことは望んでいないし、する気もない。

・・・そう、これでいいんだ、遠くから夏樹の楽しそうな顔が見られれば。

 

「え~りち、どうしたん、怖い顔してるで?」

 

そんなことを考えていると希が肩をポンと叩きながら私の顔を覗き込んできた。

 

・・・そんなに怖い顔をしていただろうか?

 

「・・・いえ、何もないわ。気にしないで頂戴?」

 

無理やりなんとか笑顔を作り、誤魔化す。

しかし、そんな作りものの笑顔が希に通用するわけもなく、

 

「もう、どうしたん?

・・・今のえりち、凄い辛そうやで?」

 

簡単に嘘が見破られてしまった。

 

・・・希には、敵わないわね。

今はミューズのみんながいるものの、元はこちらでの唯一の親友だ。

思いやりがあり、本当に私を理解してくれているがこの時ばかりはそれが逆につらかった。

 

「まあ、色々あってね・・・。」

 

観念して、しかし内容は誤魔化しながらそうつぶやいた。

しかしここで私が無意識に夏樹のほうに目を向けたのが希にばれてしまったらしい。

 

「ん~?

・・・はは~ん、なんとなくわかったわ~。

えりちもいつの間にか大きくなってたんやな?」

 

と、ニヤニヤしながら私に詰め寄る希。

 

「な、なんのことよ?

希には関係ないでしょう?」

 

まさか、私が夏樹を好きだとばれたのかしら?

いや、いくら希での今の一瞬で・・・ありえるわね。

 

「えりち、深い事情は分からないけど、我慢はよくないと思うよ?

やりたいことを全力でやったらいいと思うよ?

現に、そうやってみんなをここまで導いたいい例もあるやん?」

 

そう言いながら、希は視線を穂乃果に移した。

穂乃果は「?」と、よく分かっていないようだが、私には希の言うことが痛いほどわかった。

 

「・・・ふふ、そうね、希の言う通りね。

じゃあ私もあっちに行ってくるわね?」

 

「うん、いってらっしゃい。」

 

そう見送られながら私は夏樹のもとへ歩みを進めた。

 

 

 

いや~、初めて夏樹君に会ったけど、凄い子やな~。

モッテモッテやん。

三人も虜にするとはな~・・・いや、四人かな?

まあいいわ。

それよりも、夏樹君を観察しないとなっ!

面白そうやしっ!

 

 

つづく

 



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第24話 かよちん

色々あり、明日にこにーのもとに急遽集まり、「にっこにっこに~♪」を練習するという、事態になってしまった。

そして、ことりさんと海未さんも急に参加すると名乗り出てきた。

 

なぜ、わざわざ参加してきたんだ?

もしかして、二人はまじでにこにーを尊敬しているのだろうか?

いや、まさかなw

 

「ちょっと、夏樹あの二人どうしたのよ?」

 

まっきーも二人の行動が不思議に映ったのか、小声で俺にそう聞いてくる。

 

「さあ、あの二人もにこにーのこと好きなんじゃないの?」

 

俺が適当に同じく小声で答えると

 

「ちょっとっ!そんなの困るわよ!

何とかしなさいよっ!」

 

しかし、そんな俺の冗談にまっきーご乱心である。

耳元でいきなり大きな声を出さないでほしいものだ。

 

「馬鹿だなまっきー、あの二人を俺にどうにかできる訳ないだろう?」

 

「ったく、使えないわね。」

 

自分の髪の毛をくるくるしながら呆れたようにそう馬鹿にしてくる。

・・・まっきーのくせに調子に乗りやがって。

 

「うるせぇっ!

そもそもまっきーが、こんな食事会開くから、どんどん面倒なことが起こるんだ!!」

 

そうだ、こんな食事会を開くから悪いのだ。

確かに美味しくて、口がとろけそうで最高の食事で毎日食べたいとも思うが、

こんなことが起こるなら来なかった、絶対だ。

 

「はあぁぁ!?

片手に料理を持ちながら、何言ってるよの!

思い切り楽しんでるじゃない!」

 

当たり前だ、せめて食事をしなければ、ストレスで死んでしまう。

・・・うおっ、この魚うめえ!

 

「なに目の前でおいしそうに食べてるのよ!

そんなこと言うなら、その料理返してよ!

残りは私が食べるわ!」

 

「あぁっ!?

酷いっ、まっきー酷すぎる!

それだけが楽しみで今日来たのに!」

 

食事がとられたら、ここに来た意味が完全になくなる。

俺が、何とか食事を取り返そうと半泣きでまっきーに縋りつくと、

 

「・・・そんなに気に入ったなら、今度から家に来たとき何か美味しいものを用意してあげましょうか?」

 

まっきーは俺の必死な様子を見て、少し考えてそんなことを提案してくれた。

 

「え、まじで?」

 

まっきー、あなたが神か!?

 

「まあ、毎回ここまで豪華にってわけにはいかないけどね。」

 

・・・あれ何だろう、急にまっきーが神々しく見えてきた。

 

「まっきー、まじ愛してるっ!!」

 

俺は、感動のあまりまっきーに思い切り抱き着く。

周りの目があることなど、頭の中から抜け落ちていた。

 

「ちょ、ちょっと// 何してるのよ!?」

 

まっきーも急なことで、びっくりしているのかあたふたしている。

いやぁ~まっきーまじ最高、頭すりすりしてやれ。

やっぱここ来て正解だったな、最高だぜ!

 

「ねえ二人とも、ナニシテルノ?」

 

そんな状態だったからだろう、後ろから近づく不穏なオーラをまとわせる存在に気付かなかったのは。

 

「「??」」

 

俺とまっきーは、声がしたほうに同時に向く。

 

「ドウシテフタリハ、ダキアッテルノ?」

 

目の光を完全に失っていることりさんと海未さんがそこにいた。

 

・・・え、怖っ!?

なに、今から殺されるの??

 

二人から放たれる異常な雰囲気につい、まっきーを抱きしめている腕に力を込めてしまう。

同じく恐怖を感じているのだろう、まっきーの方からも俺の腰に手を回してきて力強く抱き返してきた。

その手は震えていた、無論恐怖でだろう。

 

「あ、あの何か御用で?」

 

俺が何とか絞り出すようにそう二人に声をかける。

 

「トリアエズハナレタラ?」

 

ことりさんが、聞いたこともないくらい低い声でそう言ってくる。

 

「「はい!」」

 

ことりさんがそのセリフを聞くや否や、音速で俺たちは離れる。

やばいやばいやばい、怖い怖い!

 

しかし、俺たちが離れたことをきっかけに、二人の目に少しだけ光が戻った。

・・・よくわからんが助かった?

ていうか何で怒ってるんだ??

 

俺たちが、二人を前に気を付けの姿勢で立っていると、今度は海未さんが口を開き

 

「では、あっちの部屋でじっくり話し合いましょうか?」

 

と、満面の笑みでそう提案してくる、ちなみに目はまったく笑っていない。

 

・・・え、何を話し合うの?

オレ、コワイ。

 

「ちょ、まっきー助けてくれよ。」

 

俺が、小声でまっきーに必死に助けを求める。

 

「冗談じゃないわよ、あんたで何とかしなさいよ。」

 

「何言ってるんだよ、俺たち一蓮托生じゃねえか。」

 

「ふん、知らないわね。」

 

まっきーは、まったく助けてくれる気はないとの姿勢を崩さないようだ。

 

くそ、なんて薄情な・・・、こんな人間には絶対ならないぜ。

 

「何を勘違いしているのかわかりませんが、話があるのは真姫、あなたですよ?」

 

俺たちの会話は丸聞こえだったのか、海未さんからそんな指摘が入る、無論目は笑っていない。

そして、これを聞いたまっきーは、

 

「ヴェェェ!?」

 

絶望していた、無理もない。

 

「まっきーご指名だぜ?行ってきな、一人で。」

 

なんだよ、最初からまっきーが目的だったのか、びびって損したぜw

 

「ちょ、ちょっと夏樹本当に助けて!?」

 

「お、このデザートうめえww」

 

「夏樹いいいいっ!?」

 

いやぁ、人の不幸をシロップにしたデザートは最高だぜ・・・。

 

俺は、二人に連行される絶望したまっきーを余裕の表情で眺めながら食事を続けることにした。

これが勝ち組と負け組の差だろう。

何に勝ったか知らんが。

 

その後、なぜか絵里さんも明日の「にっこにっこに~♪」練習に参加すると言い出したり、ことりさんと海未さんとの話し合いから帰ってきたまっきーが、ずっと部屋の隅で体育座りして、うなだれていたなどはあったが、食事会は無事お開きとなった。

 

「じゃあ、夏樹私たちは、このまま海未ちゃんの家に行くからね!」

 

「へいへい。」

 

姉ちゃんと海未さん、ことりさんはこのまま海未さんの家でお泊り会をするらしい。

 

そうなると、帰りは一人かな。

少し暗くなってきていることもあり、一人で帰るのは、少し物寂しい気もするが仕方がない。

 

「あれ、夏樹君とかよちん、帰る方向そっちなんだね、じゃあね~二人とも!」

 

凛さんが、元気よくそう挨拶して他の人たちと一緒に帰っていった。

 

・・・最後まで元気な人だな、って、今なんて言った!?

かよちん・・・??

 

俺が、ゆっくり横を見ると、

 

「あ、あの・・・帰り、一緒だね。」

 

そこには、気まずそうにもじもじしているかよちんさんがいた。

 

OH~。

 

まじか・・・。

 

しかも二人きりって。

 

「・・・あの、帰ります?」

 

「・・・う、うん。」

 

相変わらず、かよちんさんは俺と目を合わせてくれず、よそよそしい態度だ。

 

それから、俺たちは帰路についるわけだが・・・

 

き、気まずい!!

 

まず、会話がない。

頑張って話しかけても、「う、うん」「そ、そうだね。」くらいの返事しか返ってこず、会話のキャッチボールが成立しないのだ。

その結果、沈黙が生まれるわけで。

やっぱり、あの時のことを気にしているのだろうか。

 

「あの、かよちんさん。

この間の時は、すいませんでした。」

 

もう、素直に謝ることにした。

このまま有耶無耶にしてもよくないだろうと判断したためだ。

 

「え?な、なにが?」

 

しかし、かよちんさんは俺の謝罪に対してきょとんとしている。

何に対して謝られているのか理解できないようだ。

 

「いや、前に町中で急に変な感じで声をかけちゃったことですよ。」

 

「え? あ、その時のことか。

でも、どうして謝る必要があるの?」

 

・・・え?

変態野郎だから謝っているんですが・・・。

 

「私は、夏樹君を見てかっこいいと思ったよ?」

 

・・・かっこいい??

 

予想外の回答に思わず俺はこの日初めてかよちんさんの顔をまっすぐ、しっかり見た。

 

かよちんさんは、変わらず、恥ずかしそうに少しおどおどしていたが、うっすら優しい微笑みを浮かべこちらを見つめていた。

 

「可愛い・・・。」

 

「えぇっ!?

きゅ、急にどうしたの??」

 

原理は分からないが、顔を一瞬で真っ赤にしたかよちんさんが、あわわとびっくり仰天し、手足をばたばたしていた。

 

・・・思わず声に出ちゃったぜ♪

 

つづく

 




第24話読んで頂きありがとうございます!

食事会編では、まっきーとの絡みを意識しました。
自分で言うのもなんですが、このまっきー大好きです(笑)

さてこの作品ですが、話数も重なってきて少々複雑になってきています。
ここからは慎重に一話一話をじっくり考えていき、投稿していこうと思いますので
少し投稿ペースが落ちるかもしれません、申し訳ありあません・・・。

では、引き続き作品を楽しんでいただければ嬉しいです!
もしよければ感想やコメントもお願いします!


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第25話 花陽の告白

俺が思わず「可愛い」と言ってしまったため、お互い再び沈黙になって、気まずい状況になってしまった。

 

・・・だって、可愛かったんだからしょうがねえじゃん、ねえ?

あの笑顔は反則だって。

なんといえばいいのか分からないが、ことりさんのような女の子らしい可愛さとは違うのだ。無条件に守ってあげたくなるような可愛さというでもいうのか、まあとにかく可愛い、それは間違いない。

ていうかミューズの人たち、中身はともかくみんな可愛すぎではないだろうか?

その中に姉ちゃんがいるのが、違和感があるが・・・。

 

それにしてもさっきのかよちんさんの、かっこいいと言っていたのは、何だったんだろうか?

・・・見当もつかん。

しかしどうしたもんか、かよちんさんは、相変わらず顔を真っ赤にして落ち着かない様子だ。

くそう、こんなことなら姉ちゃん達のお泊りに混ぜてもらえば・・・いや、それはないな。

うん、何をされるか分かったものではない、死んでも行ってたまるものか。

 

結局そのまま何もできずに時間は過ぎ、飲食店が立ち並ぶ道なりに来た。土曜日ということもあり、俺たちとは正反対な賑やかな雰囲気だ。

俺はなんとなく、かよちんさんの方をちらりと見てみた。

すると、何ということでしょう、そこには顔を真っ赤にし、おどおどしたかよちんさんはおらず、目をキラキラさせて何かを夢中に見ているかよちんさんがいた。

 

どうしたんだ?何を見てるんだ?

 

俺がかよちんさんの見ている方に視線を向けてみる、そこには

 

「GOHANYA」

と、書かれた飲食店があった、黄金米で大盛り無料らしい。

いかにも男子中学生や、男子高校生が好んで行きそうな店だ。

 

・・・ん?

なぜこの店をかよちんさんはそんな子供のような夢中になって見ているんだ?

・・・え、まさか行きたいのだろうか?

さっきあんなに一杯食べたのに・・・。

だが、これだけ期待に満ち溢れた様子を無視するのもなあ、一応確認するか。

 

「・・・あの、かよちんさん? あのお店行きたいんですか?」

 

「うん・・・はっ!?

う、ううん、嘘だよ!?

全然そんなことないよ?」

 

うんって言ったよ、この人・・・。

しかし、すぐに我に返ったのかそう強く否定してくる、遅いけど。

 

さらにここで、

 

ぐうぅぅ~

 

何とも大きなおなかの虫が鳴った、かよちんさんからだ。

見事な音だ・・・。

 

「「・・・・・。」」

 

気まず~い空気があたりを支配する。

かよちんさんは、俯いて黙っているが、今の音って・・・。

 

「あの、いまの・・・」

 

「はうううぅぅ//」

 

俺がかよちんさんに声をかけると、突然、今日一の顔を真っ赤にしてそこにうずくまってしまった、よっぽど恥ずかしいのだろう。

・・・悪いですけどちょっと可愛いです。

 

「あの・・・行きます?」

 

「・・・うん//」

 

俺が、そう提案すると恥ずかしがりながらも素直にそう言ってくる。

 

というわけで、食事パーティー後に「GOHANYA」にいくことになった。

後どうでもいいけど、店のネーミングセンスはどうにかならんのかね。

 

 

 

俺は驚愕していた。

 

「ごはんおかわり、大盛りで!!」

 

かよちんさんの食欲にだ。

 

・・・これで三杯目だぜ、しかも大盛りで。

 

ちなみに俺は、既にお腹はいっぱいだったので、サイドメニューの豚汁だけ飲んでいた。

 

「かよちんさん、さっきの食事会で、あまり食べてなかったんですか?」

 

「うん、真姫ちゃんに悪いけど正直洋食ってあまり得意じゃなくて、特にご飯がないと私だめで!」

 

とのことらしい。

さっきまでのおどおどした様子はまったくなく、元気いっぱいだ。

 

「ごはん好きなんですね。」

 

「うんっ、ごはんとアイドルが大好きなんだっ!!」

 

まあ、幸せそうなので細かいところは気にしないでおこう。

それより今の雰囲気なら聞けるかもしれない。

 

「あの、気になってたんですけど、さっき俺のことかっこいいとか言ってましたけど、あれって何だったんですか?

足舐めるとか言ってたんですよ?」

 

「ん~、だってあれも何か訳があって、していたんでしょ?」

 

「・・・まあ、そうですけど。」

 

「その何かのためにあれだけ必死に全力で取り組めることが凄くかっこいいなって思ったの。」

 

かよちんさんは、ご飯を食べながらもそう饒舌に回答してくれる。

この人ご飯食べさせてたら、何でも喋ってくれるんじゃないか?

 

それにしてもそういうことか、まっきーにも似たようなことを言われたが、そんなに凄いことだろうか?

自分ではよくわからない。

 

「・・・特に私、何事もやる前から諦めちゃうことが多いから、余計にそう思ったの。」

 

ここでかよちんさんが、そんなことを切り出してきた。

 

「そうなんですか?

でも今は、スクールアイドルしてるんでしょ?

詳しくは知りませんけど、結構人気も出てきてるらしいじゃないですか。

それって、かよちんさんもスクールアイドルに全力で取り組んでいるってことじゃないんですか?」

 

それに、ご飯を食べているかよちんさんは本当に幸せそうだった。

きっと、スクールアイドル活動に取り組んでいる時のかよちんさんも楽しそうに、そして全力で取り組んでいるに違いない。

 

「違うよ・・・、それは周りが凄いからだよ。

私なんて、みんなの足を引っ張ることが多くて・・・。

凛ちゃんにだって助けられてばかりだし。」

 

そう言って、かよちんさんは、ご飯を食べる手を止めてそう悲しそうにそうつぶやいた。

 

「そんなことないと思いますが・・・

そうだっ、ミューズのライブの映像とかないんですか??」

 

この人が、本気でスクールアイドルに取り組んでいるかは、そのライブ映像を見ればわかるはずだ。

本気そうじゃなかったら・・・うん、それはその時考えよう。

でもなんとなくだが、大丈夫な気はする。

 

「え? う、うん、スマホで見られるけど・・・。」

 

俺の意図が分からず戸惑っていたが、そう言いながらスマホを取り出し、少し操作してからそのスマホを渡してくれた。

画面はすでにタッチすれば動画が再生できる状態になっていた。

 

「ありがとうございます、あ、でも店内で再生するわけにもいかないか・・・。」

 

そう、ここは店内だ、周りにも少なくないお客さんがいる。

流石にこの状況で音を出して動画を見る訳にもいかないだろう。

 

「あ、だったらイヤホン持ってるよ?」

 

「・・・貸してくれるんですか?」

 

「うん、どうぞ使って?」

 

「・・・ありがとうございます。」

 

かよちんさんは、ピンク色の可愛らしいイヤホンを渡してくれた。

 

「・・・・・。」

 

なんだろう、これを耳につけるの凄く恥ずかしいんだけど!?

姉ちゃんや、雪穂からイヤホンを借りてもなんとも思わないが、というか勝手に使ったりするけど、なんでこんなに恥ずかしいんだ??

 

俺が、貸してくれたイヤホンを手に持ちフリーズしていると、

 

「・・・どうしたの?

聞かないの?」

 

「あぁ、いえ、今聞きますっ!」

 

そう言って、俺は急いでイヤホンを自分の耳に装着した、してしまった。

 

「・・・・・。」

 

あぁ、かよちんさんのイヤホンを装着してしまった・・・。

なんか今までのイヤホンより、いい気がする!

なにがいいかは知らん!

ってこんなこと思ってたら気持ち悪いな、気持ちを切り替えよう、今は動画を見ることが先決だ。

 

そう言って、俺は動画の再生ボタンを押そうとする。

 

・・・そういえば、ミューズのライブを見るのは初めてだな。

姉ちゃんが踊ってるというのがどうも気恥ずかしく、今まで敢えてスルーしていたが、まさかこんな形で見ることになるとはな。

そんなことを考えながら、俺は再生ボタンを押した。

 

 

 

「・・・君、夏樹君?どうしたの?

もう動画終わってるよ??」

 

「・・・え、あぁ、そっか、もう終わってたか。」

 

あれ、なんだ?

俺は今、ミューズのライブを見てていた。

そして、俺は今、動画終わったことに気付かずぼうっとしていた。

なんでそんなことに・・・?

・・・いや、理由は簡単だよな。

 

ライブが想像を遥かに超える素晴らしいものだったからだ。

 

動画を見た瞬間、俺の何もかもがそのライブに引き込まれた。

9人のメンバーの一人一人の魅力を次々と見せつけられ、その魅力に取り込まれているうちにいつの間にか動画が終わっていた。

 

・・・こんなに凄かったのか、ミューズは。

正直言うと、舐めていた。

アイドルなんて、興味もなかったし、そもそも初めて数カ月やそこらで人気が出る程度の世界くらいにしか思っていなかった。

しかし、蓋を開けてみると、今日変人だと思っていたミューズの人たちのみんなのスクールアイドルに対する熱意と情熱がびしびしと伝わってきた。

 

「それで、どうだった?

僕らのLIVE君とのLIFEっていう曲なんだけど。」

 

かよちんさんが少し不安そうにそう聞いてくる。

それに対し俺は、

 

「・・・がっかりですよ、かよちんさん。」

 

本当にがっかりだぜ、かよちんさん。

 

「・・・え、そ、そうだよね、やっぱり私なんて。」

 

俺のそのセリフを聞いたかよちんさんは、ショックを受けたのか、その瞳にどんどん涙がたまっていっている。

 

「ええ、これだけ素晴らしいライブをしていて、何を迷うことがあるんですか!!」

 

「・・・え、素晴らしい?」

 

予想外の言葉だったのだろう、間をおいて、きょとんとしてそう聞き返してくる。

 

「そうですよ!!

動画が終わっても感動していて、動画が終わったことに気付かなかったんですから!

かよちんさんは、どう見ても全力でスクールアイドル活動に全力で取り組んでいます。

そしてミューズの魅力を形作っている確かな存在であることが、伝わってきましたよ!

これでなぜ自信を持てないのか逆に謎ですよ!」

 

そんな俺の怒涛のセリフをずっと目をパチパチして聞いていたかよちんさんは、

 

「あ、あ、うぅぅ。」

 

泣き出してしまった。

 

や、やばい、強く言いすぎたか!?

こういう時つい熱くなってしまう自分の性格が恨めしい。

ほらぁ、周りのお客さんも俺のことをごみを見るような目でみてきてるぅ。

 

「あ、あの、すみませんでした。

こんなにキツク言うつもりじゃなかったんです。」

 

「う、ううん、違うの、そんな風に言ってくれて嬉しくて・・・。」

 

どうやらキツク言ったから泣いたわけじゃなくて、嬉しかったようだ。

できればすぐに泣き止んでほしいが・・・、ほらあのおっちゃんなんか俺のこと露骨に睨んでるよ!?浮気ばれたとかじゃないですよ~。

 

それから、5分程度、かよちんさんが泣き止むまで周りの客に睨まれる地獄の時間が続いた。

 

「ごめんね、泣いちゃって?」

 

何かスッキリしたように、そう謝罪してくるかよちんさん。

 

「・・・いえ、いいんですよ。」

 

ゲッソリしながらそう答える俺。

 

「・・・おかげで私自分に自信がもてたよ!」

 

何はともあれ、丸く収まってよかった。

 

「あ、それからかよちんさんじゃなくて、かよちんでいいよ♪」

 

と、そんなことまで言ってくれた。

ここに来るまでのかよちんさん、いや、かよちんからは考えられないくらい、明るくそして自信に満ちた表情だった。

 

「ありがとう、かよちん。

それと、改めて自己紹介してもいいですか?

あの時は有耶無耶になっちゃったし。」

 

まあ、有耶無耶になったのは、俺のせいだが。

ていうか地味にかよちんの本名知らないんだよな・・・。

凛さんがかよちんって言ってたからそれで呼んでたけど。

 

「ふふ、そうだったね。

私は、小泉花陽です!改めてよろしくお願いします!」

 

「俺は、高坂夏樹です、こちらこそよろしく、かよちん!」

 

「うん!

・・・それから、せっかく夏樹君から自信ももらえたし、もうひとつ、私のしたいことにも取り組むことにするよ!」

 

と、ここでかよちんは、気になることを言ってきた。

やりたいこととはなんだろうか?

 

「はあ、ちなみにそれって何か聞いてもいいですか?」

 

「そうだね、じゃあ夏樹君だけに特別に言うね?

・・・私ね、好きな人がいるんだ。」

 

思ったより、爆弾発言が飛んできたな。

好きな人か、かよちんがいい寄ったら大抵の男は落ちるんじゃないだろうか?

 

「そしてね、その好きな人はね・・・」

 

と、そのタイミングで俺に顔を思い切り近づけてきた。

 

・・・え、なんだいきなりっ!?

今日このパターン多くね??

というか、え、まさか、かよちんさんが好きな人って・・・

 

「凛ちゃんが好きなの!」

 

・・・・・ん?

 

「すみません、誰が好きって言いました?」

 

「凛ちゃんが好きなの!」

 

「・・・・・。」

 

またこのパターンか~い!

とりあえず、俺のドキドキを返してほしい。

流れ的に俺のことを好きとかいう流れかと思ったよ!

イヤホン借りてドキドキしてた俺バカみたいじゃん!?

・・・まあ、俺には亜里沙さんがいるからね?

残念とか思ってないよ?本当だよ?

 

「そうですか、頑張ってください。

じゃあ、そろそろ帰りましょう。」

 

俺が、豚汁を飲み干し、急ぎ帰り支度を進めると、

 

「でね?

正直私はこの気持ちをずっと抑えるつもりだったの。

だって女の子同士だし。

でも、夏樹君にここまで言われちゃったから頑張ろうってなったの!」

 

俺の帰ろうという提案なんて無視で話を続けてきた。

・・・おどおどしたままの方がよかったのではないだろうか?

 

「・・・できれば、その思いは墓場までもって行ってほしかったです。」

 

「だからね、私のこと応援してくれないかな?」

 

「オコトワリマシマスッ!!」

 

「・・・私のこと応援してくれないかな?」

 

「オコトワリ「応援してくれないかな?」・・・はい。」

 

「ありがとう、夏樹君!」

 

・・・なぜこうなった。

まっきーの物真似をして断ったのがいけなかったのだろうか・・・。

 

こうして、かよちんの恋を応援することになってしまった。

 

 

 

「じゃあね、夏樹君!

また、色々相談するからね?」

 

「・・・うい。」

 

その後店から出て、分かれ道でそう言って、意気揚々と帰っていった。

しっかりラインまで交換させられたよ・・・。

・・・ブロックしたら怒るかな?

 

はぁ、まあいいや、今日はもう帰ってゆっくり休もうっと!

 

ピコンッ

 

ん? 海未さんからライン?

 

海未『今から私の家に集合です、お泊り会ですよ!

   ちなみに無視したら、後悔しますよ?」

 

「・・・・・。」

 

ダレカタスケテーーー!!

 

つづく

 




25話読んで頂きありがとうございました!

というわけで、花陽ちゃん回でした。
もうあれですね、みんな可愛いですわ(笑)

今回は夏樹が初めて、ミューズの素晴らしさを知った回でもありました。
いい曲ですよね、僕らのlive 君とのlife・・・。

というわけで、次回はお泊り編になります!

もしよければ感想やコメントをお願いします!!
ではっ!






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第26話 お泊り会

どうしよう、ようやく今日一日が終わったと思ったのに・・・。

今から、姉ちゃんとことりさん、海未さんとお泊り?

・・・ゾクッ!

だめだ、寒気しかしない、ここは勇気をもって断ろう。

後悔するという点が気になるが・・・。

 

夏樹 『すみません、今日はちょっとあれなんで無理です。』

 

これでよし、さあ帰ろう!

 

ピコンッ

 

ラインの通知音である。

 

・・・・・。

 

恐る恐るスマホの画面を見る。

 

海未 『夏樹の部屋の引き出しの二重底の下にあるものが、公にされてもいいのですか?』

 

夏樹 『ダッシュで行きます。』

 

行かなかったら完全に後悔するやつだわ。

・・・でもなぜだっ!?

完璧に隠していたはずなのに!?

 

なぜ秘蔵お宝コレクションの存在がばれたのかを必死に考えながらも海未さんの家にダッシュで走り出した。あんなもん公に出されたら、それこそ終わりじゃねえか!

 

ピコンッ

 

またラインの通知音だった。

 

今度は姉ちゃんからのメッセージが来ていた。

画面を開くと、そこには

 

姉ちゃん 『二重底の下に隠してやつのこと、二人に話しちゃった♪

ごめんね、てへぺろ♡」

 

くそがあぁっ!!

・・・ぜってえ、許さねえぞ姉ちゃん。

ていうか、なんで姉ちゃんは俺の引き出しの秘密を知ってるんだよ!

 

その後、姉ちゃんへの復讐方法を考えながら、海未さんの家へ死ぬ気で走った。

 

~15分後~

 

や、やっとついた・・・。

・・・おえっ、豚汁出てきそう。

 

「やっと来ましたね夏樹!」

 

俺が疲労と吐き気と戦っていると、海未さんの嬉しそうな声が聞こえた。

顔を上げると、そこにはパジャマ姿の海未さんがいた。

風呂に入った後なのか、髪は少し湿っており、頬は少し赤みがかかっており、シャンプーのいい匂いが漂ってくる。

こうして見てる分には、超絶美人なんだよな、海未さんって。見てる分には。

 

・・・はぁ、いまから何が起こるのやら。

どうか平和に今日一日が終わりますように。

 

その後、走ったことで汗だらけの俺を見てまずは風呂に入るように言われたので、ありがたくお風呂に入らせてもらった。

「一緒に入りますか?」、と言われたが丁重にお断りしておいた。

後、なぜか俺の着替えは姉ちゃんが持ってきていたらしい。

最初から呼ぶつもりだったのだろう。だったら最初から呼べよという感じだ。

そしたら、かよちんとの下りもなかったのに・・・。

 

そんなことを考えていたが、風呂から上がり、着替えも終わった俺は、とうとう3人がいる部屋の前にまで来てしまった。

中からは、楽し気にしゃべる話声が聞こえてきている。

 

おとなしく三人だけで女子会をしてくれたらいいものを・・・。

お泊り自体は初めてではない、だが最後にしたのは俺が小学生の時だ。

まさか中3になってまで、お泊り会なんてするとは思っていなかった。

 

一応軽くノックをしてから、入室をする。

 

「あっ、夏樹君!さっきぶりだね♪」

 

「ふふ、今から楽しいお泊り会の始まりですね!」

 

「夏樹、おつかれ~。」

 

3人は、三者三様の反応で俺を迎え入れてくれた。

 

・・・それにしても、この3人もあのライブをしていたんだよな。

にわかには信じがたいな・・・。

さっき、ミューズのライブ映像を見たためか、今その当人たちがパジャマ姿で目の前にいることに少し違和感を覚えた。

実際のアイドルを見た時もこんな気持ちになるのかね。

 

「どうしたの、夏樹?

早く入っておいでよ?」

 

俺が、部屋の入り口で3人を見て固まっている俺を見て不思議そうにそう入室を促してくる。

 

「ああ、ごめんごめ・・・って、ちょっと待って、何でこの部屋に布団が4組あるの?」

 

すでに3人は寝る為の布団を敷いていたようだ。それ自体はいいのだが、問題はその布団が3組ではなく、4組あるのだ。姉ちゃんに、海未さん、ことりさん、後一組はいったい誰のだ?

見当もつかんな。

当然俺は別の部屋のはずだ、もう中学三年生の立派な男子だし、間違いない。

 

「何を言っているのですか?

夏樹の分の布団に決まってるじゃないですか?」

 

「そうだよ、夏樹君疲れてるの??」

 

間違いなくなかったようだ。

って、いやいやいやいやいや。

 

「それはまずいだろっ!?」

 

心からの叫びで、三人に抗議する。一緒の部屋で寝る?冗談じゃない。

 

「何がまずいのですか?」

 

ところが海未さんは、何か問題でもと、平然とそう尋ねてくる。

馬鹿なのだろうか?

 

「いい年した男女が一緒の部屋で寝ることがおかしいって言ってるんだよ!!」

 

お互い、育つとこも育ってきてどんどん大人に近づいてきているのだ、最近では俺の息子にだって、その、フサフサのあれだって、生えてきたしな//

とにかく、昔のような距離感でいつまで接していくのはまずいだろう。

 

「「「???」」」

 

ところが、3人にはまったく通じていないようだ。

全員、何を言っているのとばかりに、可愛く(姉ちゃんは除く)首をかしげている。

どうすればいいんや!?

 

「よくわからないですね。だって夏樹は穂乃果とよく一緒に寝ているんでしょ?」

 

「おいおいおいおい、それはいったい何の冗談ですか??」

 

よく一緒に寝てる??

誰が好き好んで寝るか!!

たまに無理やり、一緒に寝させられるときがあるだけだ、週に一回くらい。

・・・あれ、結構寝てる??

姉ちゃんはたまに突然部屋に来て、布団に潜り込んできて、手と足でがっしりホールド決めてくるので、無理やり一緒に寝させられるのだ。

冬は意外と暖かいので、案外なしでもないと、思ってしまっている自分がいるのは内緒だ。

無論夏は地獄である。

 

「でも穂乃果ちゃん、よくツイッターで、「夏樹と一緒に寝た~」みたいなコメントしてるよ?」

 

・・・ちょっと待て、俺の不名誉が全国ネットで発信されてるってこと??

 

俺が、「えへへ、夏樹と雪穂を抱きながら寝るとすごい気持ちいいんだよね~。」などとふざけたことを言っている姉ちゃんに、呪いよかかれと睨むが、当の本人はその俺の視線には全く気付かない。

 

「そうですよ、それを考えれば一緒の部屋で寝ることなんて大したことではないんですよ。」

 

「いやいや、でもおかしいって!!」

 

「・・・では、穂乃果と一緒に寝ている夏樹は変態ということになりますが?」

 

「断じて違う!」

 

「では、一緒の部屋で寝ることくらい、問題ありませんね?」

 

「・・・そう、なのか?」

 

「そうだよ、夏樹君。」

 

「・・・・・。」

 

論破された俺は、一緒の部屋で寝ることになってしまった。

・・・どこで間違ったのだろうか?

しかし、俺に思考する時間なんて与えられないらしい。

 

「それで夏樹君、早速だけど夏樹君は胸が大きい女性が好みなの?」

 

と、ことりさんが突然ぶち込んできたからだ。

相も変わらず笑顔だが、目がちょっと怖いのは気のせいではないだろう。

海未さんは、完全に目が笑っていない、なぜだろうか?

 

「スミマセン、ナニヲイッテイルノカワカリマセン。」

 

・・・まずい、間違いなく俺の秘蔵コレクションを見たうえでこの質問をしてきている!?

やっぱり、この三人のお泊り会に来てもろくな事がない・・・。

冷や汗が止まらないぜ、最近冷や汗いっぱいかいている気がする・・・。

 

「夏樹君、siriみたいに答えても誤魔化されないよ?」

 

少し低いトーンでそう答えてくることりさん。

そして、続けてより低い声のトーンで海未さんが、

 

「夏樹の部屋の引き出しの二重底の下にあった本のタイトルは確か、『爆弾果実で包んであげr「うわあああああああ!!??」」

 

いつぞやの叫び声よりも大きな声で海未さんのセリフをかき消す俺。

ああああ、恥ずかしいいいい!!??

タイトルが妙に馬鹿っぽいのが余計恥ずかしい!!??

エロ本を見つけられた世の中の同胞は皆この地獄みたいな羞恥心と戦ってきたのか??

・・・これを乗り越えて大人になるということか、険しい道だな。

と、訳が分からないことを考える程度には、俺の頭はパニック状態である。

・・・経験ある奴ならわかるよな??

 

恥ずかしさのあまり、布団の上を縦横無尽にごろごろ転げまくっていると、

ガシッ

俺の腕と足が何かに固定された。

何だと思ってみてみると、

腕をことりさんに、足を海未さんにがっちりホールドされていた。

・・・体がまったく動かないんですが。

ていうか姉ちゃんはなにしてんだ!?

弟が、年上の女性にいたずらされかけてますよ??

俺が、姉ちゃんがいた方向に目を向けると、

 

「・・・すぴ~。」

 

・・・寝ていた、なんでやねん!?

なぜこの状況で寝れるんだ!?

ていうかいつから寝てたんだよ!!

 

「さて夏樹、では別の質問です。

夏樹は、胸の大きい女性が好きなのですね?

よく考えたら、希の胸も凄く見てましたものね?」

 

「・・・いや、別に好きじゃn「正直に。」」

 

「・・・・・はい、狂おしいほど大好きです。

希さんの胸も正直、ど真ん中ストライクです。」

 

もはや言い逃れはできないので素直にそう答える、これなんて拷問??

 

「私のような大きさの胸の女性はどうなのです?」

 

ボールですね~、と言ったら殺されるだろうか?うん、やめておこう。

俺が黙っていると、海未さんは続けてこんな質問をしてきた。

 

「答えたくないのなら、まあいいでしょう。

・・・では、彼女にするのも、胸の大きい女性がいいのですか?」

 

なぜか、すごい真剣な顔つきでそんなことを聞かれた、ことりさんもごくりと固唾をのんでいるし。

二人の顔つきと質問内容がアンマッチすぎて、状況が分からなくなってきた。

・・・しかし、海未さんそれは違うぜ。

 

「海未さんは大きな勘違いをしていますよ?」

 

俺もなんとなく、二人の真剣な雰囲気に合わせるように、いい声で、諭すように、二人にそう語り掛ける。

 

「何が勘違いなの、夏樹君?」

 

「・・・性欲と好きは違うってことさ。」

 

一瞬部屋は静まり返った。

ふ、あまりの俺の言葉の深さに驚きを隠せないのだろう。

 

「・・・何言ってるの夏樹君?」

 

「・・・馬鹿なのですか??」

 

しかし、一瞬の間をあけて二人は、こいつ何言ってるんだと、俺を馬鹿にしてきた。

 

・・・ふっ、女にはわかるまい。

・・・・・。

うん、正直俺もよく分かっていない、雰囲気で適当に言ったわ。

 

だが、こころなしか二人が嬉しそうに見えたのは気のせいではないだろう。

二人とも、胸が大きくないことを気にしているのだろうか?

別にことりさんは胸が小さいとも思わないけど、海未さんは、まあ、うん・・・。

 

「まあ、いいでしょう。

このあたりで許してあげましょう。」

 

しかし、二人は俺の回答になんやかんや満足してくれたのか俺の拘束を解いてくれた。

・・・ていうか、何で俺は拘束されてたんだ?

だがまあいい、これで少しは休めるな・・・。

 

「ではこの件は、一件落着ということで、次にどちらが夏樹と一緒に寝るか勝負しましょうか。」

 

「負けないよ海未ちゃん!

あ、夏樹君。ことりは、別に夏樹君と一緒に寝たいわけじゃないけど穂乃果ちゃんが大絶賛するから、試したくなっただけだからね??」

 

・・・どうやら、まだまだ休むことはできないらしい。

 

つづく

 




第26話読んで頂きありがとうございます!

というわけで今回から二年生の三人とお泊り会です!

ちょっと長くなりそうだったので、分けて投稿させて頂きます!
次話も読んでいただければ嬉しいです!

ではっ!


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第27話 お泊り会2

「ふむ、では勝負の内容はどうしましょうか?」

 

「ババ抜きにしようよ海未ちゃん。」

 

「望むところです!」

 

「ちょっと待とうか二人とも。」

 

放っておいたらどこまでも加速していきそうだったので、ストップをかける。

ていうか、ババ抜きを勝負内容にするなんて、ことりさん勝つ気満々じゃねえか・・・。

海未さん全部顔に出るから、絶対勝つんだよな。

 

「邪魔しないでください、これは私達二人の問題なんです。」

 

「そうだよ、夏樹君はおとなしくしておいて!」

 

「いやいや、思い切り関係あるだろ!?

なんだよ、一緒に寝るって!?

一人で寝るわっ!」

 

「はい、ことりの分の手札です。」

 

「ありがとう、海未ちゃん。」

 

・・・聞いてねえし。

 

俺の抗議も虚しく、二人は既にカードを配り終えていたようで、ゲームを開始していた。

こうなってしまったら、何を言っても無駄だろう。

しょうがないので、とりあえず二人のババ抜きを観戦することにした、まあ勝負の行方は分かっているが。

 

~3分後~

「やった~♪私の勝ちだ!」

 

「くっ、どうして・・・。」

 

予想通り、ことりさんの勝ちで勝負は決着した。

海未さんは、膝から崩れ落ちて悔しそうにしていた・・・。

そろそろ、顔に思い切り出ていることを教えてあげた方がいいんじゃないだろうか。

 

「じゃあ、その、夏樹君、一緒に寝ようか//」

 

トランプを片付ける海未さんをバックに、ことりさんは、顔をほんのり赤らめて、恥ずかし気にそんなことを言ってくる。

 

「いや、寝ませんよ?」

 

「どうしてっ!?」

 

ことりさんは、まさに驚愕といった風に驚いている、まじかこの人。

ていうか、なんで俺と寝たがるのか・・・。

海未さんは、俺のこと好き好き言ってるから分からんでもない。

しかしことりさんは姉ちゃんが好きなのだから、姉ちゃんと寝たいはずなのでは・・・。

 

「とにかく、ことりさんとは寝ません。

俺は一人で寝ます。」

 

そう言って俺は、部屋を出ようとする。

さっさと、トイレに行って寝よう、明日も多分大変だろうし・・・。

 

「・・・ふーん、そんなこと言うんだ。」

 

ことりさんは、不満そうにつぶやいているが、知ったことではない。

そう高を括っていたのが間違えだったらしい。

 

ドンッ

 

背中に衝撃を受け、一瞬何が起きたか理解できなかったが、柔らかい感触とほのかな温かみが背中越しに伝わってくるのがすぐに分かった、これって・・・。

 

「・・・夏樹君が一緒に寝てくれるまで離さないから。」

 

ことりさんが、抱き着いてきてる!?

え、え、えええっ!?

何してるんだ、ことりさんはっ!?

あ、ああ、何か色々やわらけえ・・・。

 

「・・・あの、ことりさん離してください。色々やばいです。」

 

「一緒に寝てくれるならいいよ。」

 

「・・・それはちょっと。」

 

「じゃあ離さない。」

 

なぜここまで強情なんだ!?

ていうか、ことりさんが耳元で喋るもんだから、耳に吐息が当たって、もう、あれ、よろしくない。

こういうことを一番注意してくれそうな海未さんは、まだババ抜きに負けたことにショックを受けているのか、トランプでピラミッドを作ってるし!

 

「なんでもするので、一緒に寝るのだけは勘弁してください。」

 

「・・・言ったね?

じゃあそれでもいいよ、明日早速いうことを聞いてもらおうかな?」

 

「・・・はい。」

 

何を命じられるのか考えるだけでも嫌だが、一緒に寝るよりはましだろう。

ことりさんから、解放された俺はトイレをに行き、その日は寝た。

ことりさんと海未さんもその後は特に騒ぐこともなく、その日はおとなしく寝てくれた。

 

~1時間後~

 

・・・寝れねえ。

何だろうか、女子三人と一緒の部屋で寝てるというのは、変に緊張するもんだ、全員知った仲のはずなんだが・・・。

ちょっと、外に行って空気にでもあたるか。

 

というわけで海未さんの家の庭に出て、ぼうっとしていた。

 

・・・よく考えたらこのまま帰ったらよくね?

ナイスアイディアだじゃね?

よし、帰ろう、今すぐに。

 

「夏樹、ここで何をしているのですか?」

 

「うえぇえ、う、海未さん!?

べ、別に帰ろうとなんかしてませんよ??」

 

なぜ、ここに海未さんが!?

帰ろうとしたのが、ばれたか?

いや大丈夫、たぶん・・・。

 

「なるほど、帰ろうとしていたんですね?」

 

OH MY・・・。

やべえ、何されるか分からないぞ・・・。

 

「まあいいでしょう、それより夏樹少し話しませんか?」

 

しかし、予想と違い海未さんは、そう言ってあっさり許してくれて、縁側に腰をおろし、その隣に座るように促してくる。

海未さんと二人きりで話か・・・。

 

「海未さん、どうしてここに?

寝てたんじゃないんですか?」

 

しょうがないので、海未さんの隣に少し距離を取って座り、とりあえず当たり障りのないことを聞いてみる。

 

「物音がしたので、起きてみれば夏樹がいなかったので・・・。」

 

「それはすみませんでした。」

 

どうやら、ここに来る際に海未さんを起こしてしまったらしい。

 

「いいえ、いいのです。

それより夏樹、なぜ最近私を避けるのですか?」

 

「・・・いや、まあ。」

 

その話か・・・。

海未さんの言う通り、最近俺は海未さんを避けている。

というのも少し前から海未さんから謎に猛アタックを受けているからだ。

その度に、別に好きな人がいるって言っているんだがな・・・。

 

「・・・あまり避けられると私も寂しいのですよ?」

 

だったらアタックするのをやめてもらえないだろうか。

後、徐々に近づいて来るのも是非やめていただきたい。

でも、この際だから色々聞いておくのもありかもしれない。

 

「海未さんは、ちょっと前から俺のことを好きって言っていますが、好きになった理由って聞いていいですか?」

 

「理由ですか?

・・・ふふ、気になるのですか?」

 

海未さんは、好きになった理由を聞かれて少し嬉しそうに、そして悪戯っぽく笑いながら逆に俺に質問をしてきた。

 

「・・・まあ。」

 

堪えろ、俺・・・。

 

「内緒です♡」

 

「・・・。」

 

うおおおおお、この感情はどこにぶつければいいんだ??

なんか、すごい無駄な時間を過ごしてる気がする。

でも癪だが、なぜこんなに好意を向けられているか気になるんだよな・・・。

 

「夏樹は、私のことが嫌いなのですか?」

 

こっちが、悶々としているといつの間にか密着するほど近づいていた海未さんにそんなことを聞いてきた。

 

「・・・嫌いではないですけど。後、海未さん近いです。」

 

「では、好きか嫌いでいえばどっちなんですか?」

 

俺の言葉に構わず、ぐいぐいくる海未さん、まっきーとことりさんもそうだが、最近の女性は男性にこんなに密着するもんなのだろうか?

・・・だとしたら素晴らし、ごほん、ふしだらな時代になったもんだな、まったく。

ていうか、また困る質問を・・・。

 

「いや、その二択はちょっと・・・。」

 

「どっちなんですか??」

 

「そりゃあ、どっちかと聞かれれば・・・、

好き、ですかね。好き寄りってだけですからね!!」

 

なんだこれ、めっちゃ恥ずかしいんだけど??

変なツンデレみたいになったし!

 

「そうですか・・・そう言われると、何だか少し照れ臭いですね//」

 

いやいや海未さん、何顔赤くしちゃってるんですか、好き寄りって言っただけだからね?

 

「海未さん、何度も言っていますが、俺には別に好きな人がいるので。」

 

俺がもう何度目かわからないセリフを言うと、

 

「・・・仮に、夏樹が本当に私以外の人が好きだとしても、私が諦める理由にはなりませんね。」

 

と、真面目な、凛とした表情でそうまっすぐ目を見て言われてしまった。

 

「・・・そうですか。」

 

そう言われてしまうともう何も言えない、何が海未さんをこうしたんだろうか・・・。

 

「夏樹、何度も言っていますが、私は本当に夏樹のことが好きです、いえ大好きです!

必ず、夏樹を私に振り向かせて見せますからね?」

 

海未さんは、俺の目をじっと見つめながら、ゆっくりと、まるで俺の心にそのセリフを刻み込むようにそんなことを言ってきた。

 

「っ!?」

 

思わずドキッとしてしまった。

海未さんの、ぱっちりした目、サラサラな髪、小さな顔、どれも見慣れているはずなのにやたら海未さんが綺麗に見えてしまう。

亜里沙さんと出会ってなかったら、本当に好きになったかもしれないな・・・。

ぶっちゃけ、すげえ嬉しい。

今まで告白とかされたことないししょうがないよな?

 

「さあ、今日はもう寝ましょうか。」

 

俺が、内心ドキドキしていると、

海未さんは立ち上がりながらそう言ってくる。

 

「そうですね。」

 

・・・寝られるだろうか、あの部屋で。

しかも、外の空気に当たって気持ちを落ち着けるどころか再加熱されてしまったしな。

まあ、もう夜もかなり遅いし、眠気も多少はあるから、いけるだろう、きっと。

 

「ふふ、私と一緒に寝ますか?」

 

「オコトワリマシマス!」

 

その後、部屋に戻った俺はぐっすり眠れた、なんてことはなく、寝ぼけたことりさんに抱き着かれてしまい、緊張でほとんど眠ることができず夜が明けていったのだった・・・。

 

つづく

 



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第28話 そして今へ(過去編最終話)

ピピピ・・・

 

朝の7時、設定していたアラーム音が私を夢の世界から現実へと引き戻す。

いつもは、うるさく感じるこのアラーム音も今日だけはこの音を聞くと心躍ってしまう。

その理由は無論、夏樹だ。

最近避けられていたが、昨日はたくさん喋ることができたし、照れた夏樹を見ることもできました、これで嬉しくないわけがありません。

しかも、今日は私の家でお泊りです!

つまり、横を見れば夏樹がいるというわけで・・・

まったく、最高の朝ですね!

 

私は、期待を胸にゆっくりと、夏樹が寝ているはずの布団に目を向ける。

 

そこには、

 

夏樹がいた、

 

・・・ことりに抱き着かれて寝ている夏樹が。

 

前言撤回、最悪の朝です。

なぜか夏樹は、ぐったりしているように見えますが、ことりの幸せそうな顔ときたら・・・。

まあ、ババ抜きに負けたからこれに文句を言う筋合いはありませんが、もう朝ですから起こしてあげないといけませんよね?

 

 

 

はあ、眠いし、おでこは痛いし、今からにこにーとの特訓とか・・・。

 

結局ことりさんに抱き着かれた俺は、ほとんど眠ることができなかった。

おまけに、何故か海未さんが、鍋におたまを思いきり打ち付けながら俺たちを起こしに来るという荒業をしてきたのだ。

そのせいで、とことりさんは、びっくりして飛び起きてしまい、その勢いのままお互いのおでこを思い切りぶつけてしまったのだ。

朝一から、俺とことりさんは、激痛に悶えるという最悪のスタートを切る羽目になった。

・・・マジで頭割れるかと思ったぜ。

 

「くそ、あんな起こし方するとか、人間じゃねえよ・・・。」

 

「うぅ、おでこ痛いよう~。」

 

「普通に心臓止まるかと思ったよ。

二度とこんな起こし方はごめんだよ・・・。」

 

ことりさん、さらには目覚めの悪い姉ちゃんでさえも、飛び起きたようで、各々ぶつくさ文句を垂れていた。

・・・しかし、これは姉ちゃんを起こすのに使えるかもしれんな。

 

「アラームで起きないあなた達が悪いんですよ。

さあ、早くにこの家に行くためにも朝ごはんを食べに行きますよ。」

 

海未さんは悪びれた様子は一切なく、むしろ機嫌が悪そうにそう言って部屋を出ていってしまった。

 

「俺たち何か悪いことでもしたのか?」

 

「「さあ?」」

 

結局海未さんがなぜ怒っているのかは分からなった。

生理にでもなっていたのだろうか?

 

その後、俺たちは朝食を摂り、にこにーの家に向かった。

姉ちゃんもみんなが行くならという理由で一緒について来た。

なぜかことりさんは、持ってくるものがあると一旦家に帰ってしまった。

 

ところで朝にまっきーからラインがあったが、これどういう意味なのだろうか?

 

真姫 『今日、海未とことりの前で私にしゃべりかけないで頂戴。消されるから。』

 

・・・昨日何があったんだ、まっきー。

 

気にはなったものの、寝不足の頭では深く考えることができなかったので、この件は横に置いておくことにした。

 

ちなみに今日は人数が多いということで、姉ちゃん達が通う学校で集まることになった。

そして、ついに目的地に到着した、到着してしまった。

 

ふ~ん、これが姉ちゃん達が通ってる、学校か。

・・・普通だな、特にぱっとしない、ごくごく一般的な学校だな。

前に雪穂がパンフレットで見てた、UTXとかいう学校は凄かったのにな・・・。

 

「ここが私たちの部室だよっ!」

 

姉ちゃんと海未さんに案内されて部室に入ったが、おそらくアイドルであると思われるポスターやDVDがたくさんあり、その光景に圧倒されてしまう。

 

すげーな、これ全部スクールアイドルなのか?

 

「ふふふ、ちゃんと来たわね?」

 

俺が、部屋のアイドルグッズに目を奪われていると、いつの間にか俺たちの目の前にいた、にこにーが、嬉しそうにそうにそう言ってきた。

まだ、集合時間まで10分ほどあるが、それより前に既に来ていたようだ。

見るからにやる気ありそうだが、こっちは寝不足なのだから、お手柔らかに頼みたいものだ。

 

「さあ、今日はあんたにアイドルのなんたるかをみっちり叩き込んでやるわよっ!」

 

俺の想いとは裏腹ににこにーは、そう言ってストレッチをし始めた。

何が起こるんだ・・・。

 

その後、絵里さん、まっきーも揃った後、俺たちはというと・・・

 

「だからね?

結局アイドルには、キャラが必要なのよ!!

そして、今アイドル界の頂点にいるのが、アライズと言って―――」

 

「・・・ふむふむ。」

 

アイドルとは、うんたらかんたらという話を既に1時間は聞かされていた。

今までアイドルになんて興味はなかったが、にこにーが楽しそうにアイドルの魅力などを語ってくれるので、何となくこっちまで楽しい気分になってきて普通に話に夢中になっていた。

もしかしたら、昨日ミューズのライブ映像を見たことで、アイドルのことを知りたいと思う気持ちが出ていたせいかもしれない。

 

・・・でも、マジで眠くなってきた。

結局1時間くらいしか眠れてないもんな・・・。

 

ちなみに俺以外のみんなは、にこにーのことは、無視して雑談を楽しんでいる。

みんなここに何しに来たんだよ、まっきーは俺が無理やり巻き込んだだけだけどさ。

しかし、にこにーはそれを特に気にしている風もなく、俺にどんどんアイドルについての話をつづけた。

 

そして、それから間もなくして、

 

「夏樹、あんたはやっぱり見込みがあるわね!」

 

と、結局最後まで話を聞いていた俺に、にこにーが、勢いよく立ち上がり、嬉しそうに俺にそう言い放ってくる。

 

まあ、こちらも聞いていて結構面白かったし、案外ここに来たのも悪くなかったのかもしれない。

 

そしてにこにーは続けて、こんなことを言ってきた。

 

「あんたには、特別にこの私がマンツーマンで「にっこにっこに~」を教えてあげるわ!」

 

・・・え

 

・・・何を言っているんだこの人は?

まんつーまん??

・・・確実に死んでしまう、もうマジで眠いし、そもそもメンタル的に持つだろうか、いや持たない。

 

しかし、ここで今まで雑談をしていた海未さんが、俺たちの会話を聞いていたのか

 

「ちょっと、にこ!

夏樹とマンツーマンとはどういうことですか?

そんなこと許しませんよ!」

 

と、偶然にも俺のマンツーマンは嫌だという意思と海未さんの抗議内容が一致した。

いいぞ、頑張れ海未さん!

 

「うるっさいわよ!

あんた達ずっと雑談してただけじゃない!

ほら、行くわよ夏樹!」

 

と、俺の腕をつかみ部屋から出ていこうとするにこにー。

 

冗談じゃない、もっと頑張ってくれ海未さん!

 

俺は必死に海未さんにアイコンタクト送る。

 

「まあまあ、海未ちゃん、にこちゃんなら心配ないと思うよ?」

 

「ですが・・・、いえそうですね、それよりも―――」

 

しかし、なぜか、海未さんは急に俺とにこにーを引き止めるのを諦めたようだ。

 

嘘だろ??

いつものしつこさを今発揮しないでどうするんだ!?

 

結局、俺とにこにーは、二人きりで声が思い切り出せるようにと、屋上に向かうことになった。

 

~30分後~

 

「にっこにっこに~♪」

 

「ちがあぁあう!!

笑顔が足りないわよ!

後、声量も熱意もポーズの切れも全然足りないわよ!!」

 

俺は地獄を体験していた。

 

眠いし、しんどいし、喉は痛いし・・・。

ちなみに、最初は羞恥心があり、メンタル的に死にかけていたが、何回もこれをやることにより、羞恥心なんてどうでもよくなった。

今は、ただただ早く終わらせるために、全力で「にっこにっこに~」をするだけだ。

人間の適応能力は恐ろしいぜ・・・。

 

だが、やはり寝不足だったのがいけなかったのか、もう何回目か分からない「にっこにっこに~」をしている途中に急に目の前が真っ暗になった。

 

 

 

起きた時のように、意識が戻ってくるような感覚があったが、どうなったのか理解できなかった。

しかし、後頭部に柔らかく、そしてほのかな暖かみを感じるのが認識できた。

そして、ゆっくり目を開き、ぼんやりとだが目の前が見えるようになってきた。

俺の目に飛び込んできた光景は、

 

「あ、目覚めた?

急に倒れたから心配したわよ、大丈夫??」

 

心配そうに俺を見つめるにこにーの顔だった。

 

・・・倒れた??

ということは、俺は意識が飛んでいたのだろうか?

 

しかし、ここでそれを考えるよりも先にある疑問が出てくる。

なぜか俺は、にこにーを見上げているのだ。

にこにーは、背が小さく、男子の中では背の低い俺でもずっとにこにーを見下ろす形になっていた。

だが、なぜ今、俺はにこにーを見上げているのだろうか?

・・・ん? おいおい、まさか、

 

にこにーに膝枕されている!?

 

「あっ、すみませんっ!」

 

状況を把握し、慌てて起き上がろうとする。

 

「・・・あれ?」

 

しかし、体はうまく動かず、意識もまだぼんやりしているようで、うまく起き上がれなかった。さらに、

 

「ほら、まだ起き上がっちゃだめよ!!

あんた、倒れたのよ!」

 

と、俺を再び膝枕して、横になるように強制されてしまった。

 

正直、凄く恥ずかしいが、流石に自分でも体調が悪いことが認識できたのでここは、にこにーに甘えることにしよう。

 

俺がそう決断し、しばらく横になっていると、にこにーが申し訳なさそうな表情を浮かべて

 

「・・・その、ごめん。

自分の話をしっかり聞いてくれたことが嬉しくて、ついつい熱くなってしまったわ・・・。

夏樹が体調悪そうだったのにも気づかないくらい。」

 

と、謝罪をしてきた。

別に、体調が悪かったのは、ことりさんのせいなのでにこにーは悪くないのだが、俺が倒れたのは自分のせいだと、責任を感じているようだ。

 

「いいですよ、体調管理できていなかった俺も悪いですし。

それに、にこにーの話も面白かったですしね。」

 

「にっこにっこに~」の練習は地獄でしたけどね・・・。

と、心の中で付け加えておいた。

 

これを聞いたにこにーは、少し目を見開いた後に、

 

「ふふ、ありがとう、そう言ってもらって嬉しいわ。」

 

と、今までの様に作った笑顔ではなく、素の心からの笑顔で、はにかみながらそう言ってきた。

 

・・・まっきー、なんとなくにこにーのことを好きになった理由が分かった気がしたよ。

最初は、変人だと思っていたが・・・。

ちなみに、にこにーの不意の笑顔に少しドキッとしたことは内緒だ。

 

その後、しばらく休憩した俺たちは、部室に戻った。

 

「ただいま戻りました~。」

 

俺が、部室のドアを開けるとそこには、ことりさんや海未さんがいたわけだが・・・

 

「ことりさん、その沢山の衣装はどうしたんですか?」

 

恐らく、スクールアイドル用の衣装なのだろうものを、多数部室の机の上に広げていた。

もしかして、これを持ってくるために一度家に帰ったのか??

 

「今から、夏樹君が着るものだけど??」

 

「ははは、ことりさん、腐ったチーズケーキでも食べましたか?」

 

「・・・夏樹君、何でも言う事聞くって言ったよね?」

 

「いやいやいやいや、結局一緒に寝たじゃないですか!!??」

 

「知らないっ!

私、おでこを思い切りぶつけたことしか記憶にないもんっ!!

だから無効ですっ!!」

 

・・・うそ、だろ。

これ、あまりにも俺が可哀想じゃね?

 

その後、俺の猛抗議も虚しく、無数の衣装を着せられ、写真を撮られてと、生きてきた中でもダントツの地獄を味わう羽目になった。

それと同時に俺の男としての尊厳もその日に消えてしまった気がした。

最後はもうヤケクソでめっちゃポーズをとってやったわ。

撮られた写真は近いうちに全て抹消しようと、心に誓いその日は、幕を閉じた。

しかし気のせいか、皆の間に流れる空気が微妙にぴりついていたような・・・。

 

 

 

その後、俺はことりさんや絵里さん、たまに海未さん(勉強を教えさせろとうるさいので)に力を借りながらも勉強を続け、期末テストでは、15位の成績を残し、夏休みに入った。

夏休みにもいろいろあったが、それはまた今度な?

 

学力も確実に身についている自信があった俺は、二学期には、絵里さんと約束した3位以内をとれる自信はあった。

つまり、俺の恋はもう少しで動き出すのだ。

待ってろよ、亜里沙さん!!

 

つづく

 




28話読んでいただいてありがとうございます!

どうでもいい余談ですが、私も部活動をしているときに気絶したことがあります。
しかし、意識が戻って、視界に入ってきた光景は、プロレスラーのようなゴツイ顧問の先生の心配そうな顔でした(私が無事だと分かると、爆笑してましたが)
自分もミューズの誰かに膝枕されたいものです・・・。

さて、余計な話は置いておいて、とうとう28話にて、長かった過去編終了になります!
いや~・・・本当に長かった。

次回から時系列的には、7話の続きからになるのですが、皆さん覚えてますかね(笑)

ここまで、たくさんのお気に入り登録者数や感想、コメントありがとうございました!
これからもどんどん更新していきますので、引き続きお楽しみいただければと思います!

ではっ!!





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第29話 デート開始!

ちょっと開けての投稿になりました、申し訳ございません。

さて、前話のあとがきでも書きましたが、今回から時系列的に7話の続きからになります。
もし、7話?覚えてねーよ、という方がいましたら、読み返すことをお勧めします。
申し訳ありません、面倒かけて・・・。



「まっきー、いよいよダブルブッキングデートの日が来ちまったな・・・。」

 

「そうね、昨日で完全に風邪が治ってよかったわ!」

 

「何でちょっとテンション高いんだよ・・・、ていうか昨日まで風邪長引いていたのかよ!?」

 

「・・・そうよ、昨日まで普通にしんどかったわ。風邪を引いている時に騒ぐものじゃないってことを痛感したわ、ゴホツ!」

 

「・・・おい、今咳しなかったか? 本当に風邪治ったんだよな?」

 

「・・・治ったわよ。」

 

「おい、目を逸らすな目を。」

 

日曜日、ことりさんと海未さんとのデートの当日、俺とまっきーは本日の動きについて最終確認をするため、とある喫茶店に来ていた。

だが、まっきーの様子がおかしい、というかどう見ても風が完治していない。

 

「本当に大丈夫よ!医者の卵の私が言うのだから間違いないわよ!」

 

しかし、まっきーはそう言って、自分は大丈夫だと言い張っている。

協力してもらっておいてなんだが、なぜこんなにも手を貸してくれようとしているのだろうか?

 

「まっきー、協力してもらうのは嬉しいけど、体調悪いなら帰って休んでくれよ?

また風邪がぶり返しでもしたら、俺が嫌だからな?」

 

俺がまっきーの目をしっかり見てそう言うと、まっきーは目をパチクリさせてから、

 

「・・・はぁ、そんなことを平気でペラペラ言うからことりや海未に迫られるのよ。」

 

まっきーは俺から目を逸らして髪の毛をくるくるさせながら、そんなことを言ってきた、心なしか少し顔が赤くなっている気がする、やはり風邪なのだろうか。

・・・しかしなんで今のが海未さんやことりさんに迫られることに繋がるんだ?

 

「というより、私が帰ったら今日のデートはどうするつもりなのよ?」

 

「・・・・・謝る?」

 

「許してくれると?」

 

「・・・・・無理?」

 

「無理ね。」

 

いや、ワンチャン許してくれ・・・ないよな~。

どのパラレルワールドに行っても許してくれる世界なんてなさそうだわ。

 

「心配しなくても映画を見るくらい大丈夫よ。このまっきーに任せときなさい!」

 

まっきーは、自分の胸に手を当て、ウインクまでして俺にそう言ってくれている。

 

「・・・わかった、でも体調が悪くなったら素直に帰ってくれよ?」

 

「はいはい、分かってるわよ。」

 

確かに、現状ではまっきーに頼る以外に手はない。

不安は残るが、ここはまっきーに甘えることにしよう。

 

「それより、今日の予定について最終チェックするわよ?」

 

まっきーは、自分の体調の話は終わりとでも言わんばかりに、話を強引に切り替えてきた。

確かにそうと決まれば今日の予定については、お互いの行動を把握する必要があるので、俺も集中モードに入る。

 

「まず、ことりと夏樹が待ち合わせをして、映画館に向かう。そして席に座ったところでトイレに向かうふりをして私と入れ替わる、ここまではいいわね?」

 

「大丈夫、お~けい。」

 

「そして、夏樹は海未との待ち合わせ場所まで向かい、海未と合流して食事を摂る。そして私たちの映画が終わる頃に夏樹はこちらに向かって、海未と映画館に入る。

そこで、私たちが見ている映画が終わる頃を見計らってトイレで合流して、私と夏樹が入れ替わる。後は、ことりと夏樹が食事をして、そのまま別れる。

そしてまた映画館に戻ってきて、海未と合流してそのまま帰る。

・・・どう覚えた?」

 

「・・・・・おう。」

 

大丈夫、賢くなった俺なら理解できたはずだ、何せ俺は学年3位の男だからな!

姉ちゃんなら確実に理解できなかっただろう。

 

「ふ、我ながら完璧な作戦ね。まあ欠点があるとしたら、私が同じ映画を立て続けに二回見なくちゃいけないことね、せめて別の映画だったらよかったのに・・・。」

 

「しょうがないじゃん、二人とも同じ映画見たいって言ったんだから。

でも、ことりさんはともかく、海未さんまで恋愛映画を見たいなんてな・・・。」

 

そう、今回の映画は海未さんとことりさんの見たい映画をみることになったのだが、二人とも今人気急上昇中の恋愛映画を見たいと言い出したのだ。

映画の内容は、人気というだけあって面白かった。主人公と幼馴染のヒロインの子との恋の駆け引きが見てるこっちまで、ドキドキしたり、ハラハラさせられたりと言った感じだ。

 

ちなみにことりさんと海未さんと映画を見た後に、映画についての話になった時に話を合わせられるように、昨日映画を見に行っていた、抜かりはない。ちなみに一人だと恥ずかしかったので雪穂も一緒についてきてもらった。

 

「まあいいわ、後怖いのは、私が入れ替わっているとばれた時ね。ばれた時を想像するだけで震えが止まらないわ。」

 

まっきーは、両手で自分の体を抱きしめるようにして、まじで震えていた。

前から思っていたが、なぜかまっきーは、海未さんとことりさんに恐怖心を抱いているように見える、実は仲でも悪いのだろうか?

 

「まあ、映画館は暗いし大丈夫だろ・・・多分。」

 

「・・・祈るしかないわね。」

 

よし、不安しかないが、やるだけのことはやった。

後は、もう前に進むしかない!

なるようになるだろう!

 

「そういえば、気になっていたんだけど夏樹が持ってるその紙袋は何?」

 

まっきーは俺が持っている紙袋が気になったのか指差し質問をしてきた。

 

「ふっ、よく聞いてくれた。これはな・・・にんにく入りのチーズケーキだ!

食べた瞬間口の中ににんにくが広がるスペシャルケーキだ!」

 

そう、この前ことりさんに悪戯をされた仕返しに昨日の土曜日に一生懸命作ったのだ。

途中、臭すぎて死にそうになったが、これを食べたことりさんのリアクションを想像をすれば余裕で我慢できた。

 

「・・・それをどうするつもりなの?」

 

「ことりさんにプレゼントする。」

 

「・・・殺されるわよ、まじで。」

 

「そんなまじな感じで言われるとびびるじゃん、やめろよ」

 

まっきーは、まじでやめとけとばかりに、超真剣な表情で俺にそう警告をしてくる。

 

「・・・まあいいけど、私は忠告したからね?」

 

おいおい、そんな反応するから滅茶苦茶怖くなってきたじゃねえか。

まっきーのことだから、「いけいけww」みたいなノリで返してくれると思ったのに。

・・・渡すのをやめるか?

・・・いや、やる、なにせこのケーキを作るのに6時間かかったんだ、絶対渡してやる!

 

 

 

その後、まっきーと別れた俺は、ことりさんとの待ち合わせ場所に向かった。まっきーは、先に映画館に向かっているはずだ。

 

というわけで、集合場所近くまで来たのだが、まだ時間まで15分ほどある。

 

・・・少し早く来すぎたか。もうちょっと喫茶店にいればよかった。

なんて思っていたのだが待ち合わせ場所に近づくと、既にことりさんが待っているのが見えた。

遠めからでも、手をもじもじさせ、そわそわしているのがわかる、恐らく映画が楽しみなのだろう。

俺が近づいていくと向こうもこちらに気付いたのか、トテテとこちらに近づいてきた。

 

「お、お疲れ夏樹君!」

 

「お疲れ様です、ことりさん。」

 

少し上ずった口調で、しかし元気よく挨拶をすることりさんに、俺も挨拶を返す。

 

・・・それにしても、今日のことりさんは一段とお洒落だな。

普段からもお洒落だなとは、思っていたが今日はさらに力を入れている気がする。

夏も終わったこの季節に合わせた服装もそうだが、イヤリングなどのアクセサリーが一層、ことりさんの魅力を引き出していた。

しかもシャワーを浴びてきたのか、ことりさんからシャンプーのいい香りが漂ってくる。

 

俺がまじまじとことりさんを見ていると、ことりさんが緊張と期待が入り混じった顔でこちらを見ているのに気付いた。

 

・・・はは~ん、これはわかったぞ、ことりさんの考えていることが。

これは、自分の格好を褒めてほしい時の仕草だ。

ていうか、昨日見た恋愛映画でこんなシーンがあった。

ことりさんは今からその映画を見ることになるが、その時のヒロインとことりさんは同じ表情だった。まさか、昨日の映画がこんなところで役に立つとは。

・・・しかし、どう褒めたもんか、まあ適当でいいか。

 

「今日のことりさん、すっげー可愛いですね。」

 

「・・・・・っ!?」

 

ドゴッ

 

「ぶっ!? なぜ・・・。」

 

俺が可愛いと言った瞬間、持っていたハンドバッグをフルスイングして殴ってきたんだが!? しかも顔面。

いてぇ~、もろに顔に入った・・・。

 

「きゅ、きゅきゅ急に、そんなこと言ってくるからだよ!!

も、もっと、こう、ふんわりと褒めてよっ!直接的過ぎるよ!!」

 

ことりさんは、恥ずかしかったのかどうか分からないが、見たことがないくらい顔を真っ赤にして、俺にそうまくしたててくる。

 

おかしい、映画では「も、もう〇〇君ったら//」って、なってたのに・・・。

いや、別にことりさんにその反応をしてほしかったとかじゃないけどさ・・・。

ま、しょせん映画は映画だな。

でも、映画のヒロインと同じで褒めては欲しかったんだな・・・。

難しいな、女心って。

 

こうして俺のデートは、顔面と胃の痛みを伴って始まってしまった。

 

つづく

 




というわけで28話でした!

今回から海未ちゃん、ことりちゃんとのデートです!

ここから、物語はどんどん動いていきますので、どうか最後までついて来ていただければと思います!

では、また次話で会いましょう!


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第30話 動き出す乙女たち

今日の私は一味違うよ。

今までお母さんから、さんざんヘタレと馬鹿にされてきたけど今日はしっかり、夏樹君に私の想いを伝えます。

 

というのも、つい先日電話で目標としていたテストで学年3位をとることが出来たと報告があった。何のためにその目標を掲げていたかは分からないけれど、夏樹君が3位をとれば告白しようって、あの日みんなで決めたから。

 

正直夏樹君を好きな人があんなにいたなんて驚きだった。

ライバルは手ごわいけど私だって夏樹君とたくさんの時間を共に過ごしてきた。

・・・絶対負けないよ。

でも、正直ライバルがいてよかったのかも。

ライバルの存在に後押しされて今日、告白をしようを決心することができたから。

 

まあでも、とりあえずは映画を楽しまないとね!

今日はきっと最高の日になるよね!

・・・恥ずかしいけど、腕組んじゃえ!

 

 

 

・・・やばい、ことりさんがぐいぐい来る。

 

映画館までに行く道中、ことりさんが思い切り腕を組んできた。

本人も顔を真っ赤にしているから相当恥ずかしいのだろう。

恥ずかしいのならやめてくれよ・・・。

さっきから周りから視線を感じるし、ていうか頼むから学校の奴に見つかりませんように、こんな場面を見られたら確実に殺される。

・・・まさかそれが狙いか?

 

「あの、ことりさん。腕を組むのは俺の生命の危機に繋がる可能性が・・・。」

 

「やっ!」

 

しかしことりさんは、短く可愛い声ではっきり否定の意思を示し、さらに腕に力を込めてきた。そんなに俺を貶めたいのか!?

 

こうなったら学校の奴に会わないことを祈るしかないな・・・。

それにしても、ことりさんとこんな密着して散歩するとか、心臓に悪いったらありゃしない。

さっきから鼓動があり得ないほど早いんだが・・・。

ことりさんもこれを姉ちゃんにすればいいものを。

俺が勘違いしてことりさんのことを好きにでもなったらどう責任をとってくるのか。

 

 

 

その後、何とか特にトラブルなく映画館に着き、予定通りトイレに行くということで上手く抜け出すことができた。

トレイに向かうと、そこにはまっきーが既に待機していた。

 

「予定通り来たわね、後はこのまっきーに任せなさい!」

 

「・・・不安しかないが、頼むよ。」

 

「どうして不安なのよ?服装だって夏樹と同じにしたし、カツラだってしてるのよ?

ばれないに決まってるわよ!」

 

確かに映画館内で着替えたのだろうまっきーは、ぱっと見ただけなら俺と見間違るかもしれない、顔をみれば一発で分かるが・・・。

まあ映画館内は暗いし大丈夫だろう。

 

「そうだな、じゃあここは任せた!」

 

「ええ、任せて頂戴!」

 

まっきーの自信のみに満ち溢れた表情を後に俺は映画館を去った。

 

 

 

・・・電話では伝えたが、今日はちゃんとことりさんに勉強を見てくれたお礼をちゃんと言わなくちゃな。

それに亜里沙さんに告白するために勉強を教えてもらっていたことも伝えたほうがいいよな?一番勉強を見てもらったのはことりさんだし、本当のことを黙ってるのは何だか悪い気がする。

からかわれる気もするが、最後にはことりさんなら応援してくれるだろう。

ことりさんは、なんやかんや人を思いやることができる優しい人だからな。

その分、気は進まないが姉ちゃんとの恋もしっかりサポートしてあげよう。

俺はそう心に決め、海未さんとの集合場所にまで向かった。

 

 

 

本日二度目の集合場所にまで行くと、そこにはことりさんと同様で、すでに海未さんがいた。

ちなみに集合時間まではまだ10分以上ある。

 

・・・デートは集合時間前に集合するのが普通なのだろうか?

 

「お疲れ様です、海未さん。」

 

「夏樹!お疲れ様です!とうとうこの日が来ましたね!」

 

元気よく、そして実に嬉しそうに俺に挨拶をしてくる海未さん。今日がよっぽど楽しみだったのだろう。

 

「そう・・・で、すね。」

 

しかし、俺はその海未さんを見て思考が止まってしまい、うまく返事をすることが出来なかった。

おいおい嘘だろ・・・、海未さんがお洒落をしている!?

 

海未さんはあまりお洒落には関心はなく、いつもは見た目より機能性を重視した服を着ていることが多い。

ところが今日はどうだ?あの海未さんがふりふりのスカートをはいて、今どきの女性のファッションをしているぞ??

ことりさんは、元からお洒落をしていることが多いため、今日のファッションにもそこまでの驚きはなかったが、海未さんは普段とのギャップがあり、そのインパクトは絶大だ。

・・・ていうか元々美人だからすっげー綺麗なんですが。

 

「ふふふ、今日は夏樹とのデートの為に頑張ってお洒落をって・・・、夏樹?きいているのですか?」

 

「え? あ、海未さんが綺麗でびっくりしてました、ってあっ・・・。」

 

うぉぉぉ、俺は何を言っているんだ!?

急に声をかけられたもんだから、思ったことをそのまま言っちまったよ!

 

「え・・・、あ、そ、そうですか// どうも、ありがとうございます//」

 

海未さんも俺の言葉に一瞬、豆鉄砲をくらった様に呆気に取られていたが、すぐさま照れたように視線を逸らしながら、もじもじとそんなことを言ってきた。

 

「い、いえ・・・。」

 

「じゃ、じゃあ行きましょうか?」

 

「・・・そうですね、行きましょう。」

 

出会って、一瞬で気まずい空気を作ってしまった俺たちは、そのまま食事を摂るため、予約してあるレストランに向かった。

 

 

 

レストランへの道中、俺たちの間には、特に会話もなく静かな空気が二人を包んでいた。

普段はあんなにうるさい海未さんもなんか今日はやたらと大人しくしている。

しかも「手を握ってもいいですか?」と、聞かれ、思わず首を縦に振ってしまい、今俺たちは手を握って歩いている。

 

・・・うん。

・・・なんだこれは。

普段のガツガツくる海未さんはどこに行ったんだ!?

滅茶苦茶恥ずかしいんですが!?

なんか、初々しいカップルみたいですげえ恥ずかしいいい!!

 

海未さんをちらりと見ると、心の底から幸せそうな表情を浮かべており、それを見ると、「手を握るのをやめよう」とは、言い出すことが出来なかった。

結局、海未さんから伝わる手の暖かいぬくもりをレストランに着くまで、ずっと感じることになった。

 

その後、予約していたレストランについた俺たちは、二人で食事を摂った。

食事中は、先ほどのような沈黙はなく、世間話や近況報告などを話し合い、食事を心から楽しんだ。

 

お互い出された料理を全て食べてもしばらくは会話を楽しんでいたが、ここで海未さんが、外にでようと、提案してきた。

予定では、後もう少しレストランでゆっくりするつもりだったが、特に断る理由もなかったので了承し、レストランから出ることにした。

 

「映画までまだ少し時間がありますし、この近くに公園があるのですが、少しそこを散歩しないですか?」

 

と、散歩をしようと誘ってきた。

その顔はどこか、覚悟を決めたような表情を浮かべていた。

 

「いいですよ。」

 

俺は、その提案を受け入れた。

 

 

 

~少し前~

 

「ほら、お姉ちゃん! 早くしないと上映に間に合わないよ!」

 

「そうね、確かにその通りよ。それは十分理解しているわ。でもお願いだから走らないで頂戴。また、はぐれたら何をするか分からないから!!」

 

今日は、亜里沙と映画をみることになっていた。

どうも、最近人気のある映画らしくどうしても見たいとお願いされたので、一緒に見に行くことにした。

正直、今日の練習もきつく、家でゆっくりしたかったが、可愛い妹のお願いとなれば断ることなど出来るはずもなかった。

 

それにしても、今日の映画は恋愛映画って言ってたわね・・・。

はぁ、亜里沙はいいわね、映画でも恋愛を楽しめて、現実でもすぐに恋愛をするのよね。

せめて、私は映画をたのしもうと・・・何か凄く悲しいわね。

 

つづく

 




というわけで30話でした!

もう30話とは早いものですね・・・。

さて、タイトルの通り、今回は、いよいよ彼女たちが本格的に動き出したという回になります!

次話もすぐに更新していきたいと思います!
ではっ!


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第31話 海未

日は、ほとんど沈みきっており、もう人気もほとんどない公園内を俺と海未さんは、目的もなく、ゆっくりとしたペースで歩いていた。

 

「夏樹、この間遂にテストで学年3位になったそうですね。」

 

静かな沈黙を破ったのは、海未さんだった。

その口調は、とても穏やかであり、そこには驚きと称賛の意が込められていた。

 

「うん、大変だったけど。とうとうやったよ。」

 

「・・・やはり、夏樹は穂乃果と似ていますね。すると決めたことには、とことん全力で取り組むところがそっくりです。」

 

「・・・そうかな?」

 

また、言われたな。

もう周りにここまで言われたら俺と姉ちゃんは似ているのだと、認めざるを得ないのだろう。釈然とはしないが・・・。

 

「ええ、そうですよ。私はそんな穂乃果や夏樹をとても尊敬していますし、私にとって、太陽のような存在なんです。」

 

「・・・はぁ。」

 

あまり、褒められることに慣れていないので凄くむずがゆい、ていうか恥ずかしいんだが・・・。

それにしても、太陽か・・・。確かに姉ちゃんにその表現は当てはまる気がする。いつも元気いっぱいで、周りを巻き込む姿はまさに太陽のようだ。しかし俺もそうなのだろうか?

 

「ふふ、納得がいかないという顔ですね?自分でも気づいていないだけで、夏樹には、周りを巻き込んで何かに全力で取り組める素晴らしい力があるのですよ?だからでしょうね、夏樹のことを意識していたのは・・・。そして半年前の夏樹が私とことりを不良の方達から助けてくれた時、私は自分の気持ちに確信が持てました。」

 

「・・・・・。」

 

俺は黙って、海未さんの言葉の続きを聞くことにした。

 

「複数人の男の人たちに臆することなく立ち向かく姿、そして私たちを真剣に怒ってくれた夏樹のことが、好きなのだと・・・。」

 

好き・・・、それはこの半年海未さんから何度となく言われ続けた言葉だ。

だが、今の好きはこれまでにはない本気が込められていた。

 

「夏樹。」

 

ここで、海未さんが歩みを止めて俺の名前を呼ぶ。

 

「はい。」

 

俺も海未さんに合わせて歩みを止め、海未さんに向き合う。

 

歩みを止めた場所は、ちょうど街灯の真下であり、もうすっかり日が沈んでしまった公園の中で、俺たち二人だけを照らすスポットライトのようになっていた。その為、暗い公園の中でもここでは、海未さんの表情をはっきりと見ることができた。

その海未さんの顔には、朱がかかったように紅潮しており、そして緊張と不安が痛いほど伝わってきた。

・・・こんな海未さんの表情を見るのは初めてだった。

 

「もう何度も言ってきていることですが、夏樹。私は、夏樹のことが異性として好きです!いえ、大好きです!!」

 

海未さんは、表面上は凛とした振る舞いで、しっかり者と周りからは認識をされているが、内面は存外乙女な部分があったり、自分の好きなことになると暴走しがちになってしまったり、そんな少々おっちょこちょいな部分も含めて、海未さんのことは大好きだ。

それこそ半年前なら俺は、この告白を受け入れて海未さんと付き合っていただろう。

でも今は・・・。

 

「夏樹、私は本当に心の底からあなたのことが好きです。だから、今の夏樹の素直な思いを私に話していただけませんか?

・・・自分勝手だとは分かっていますが、スクールアイドルのことは勿論、受験のことも視野に入れてくる時期に入ってきたのです。そろそろ自分の気持ちに区切りを付けたくて。」

 

受験・・・。言われてみれば、海未さんは来年もう受験生だ。

ずるずると想いを引きずったままでは、確かに身が入らないだろう。

それに、海未さんもここまで真剣に俺に想いを伝えてくれたのだ、俺もそれに応えるべきだろう。

 

俺は、海未さんに改めて向き合う。

海未さんに俺の気持ちを伝えるために。

海未さんもそれを感じたのだろう、一気に緊張をしたように姿勢を正して俺に言葉を一つも聞き逃すまいと、俺に向き合ってきた。

 

「海未さんの気持ちは凄く嬉しいです。でも、すみません、俺には既に好きな人がいるので海未さんの気持ちに応えることはできません。」

 

俺は、海未さんの告白を断った。

この半年、海未さんから好きと伝えられる度に断ってきたセリフと全く同じに。

 

海未さんは、俺の言葉を聞き、

 

「そ、そうです・・・か、何度も好きな人がいるとは聞いていましたが、本当に他に好きな人が、い、いたのです、ね・・・うぅ。」

 

そう悲しそうに呟く海未さんの目には大粒の涙がどんどんたまってきてやがてそれは、ダムが決壊したように、頬を伝い、乾いた土に次々と落ちていった。

俺は、海未さんから視線を少しずらし、泣き顔を見ないようにした。

 

こういう時、どうすればいいのだろうか・・・。

 

何をすればいいのか分からない無力な自分自身にいら立ちを覚えるが、どうしようもないことに、変わりはない。結局、海未さんが落ち着くまでそばにいて、じっと待っている事しかできなかった。

 

「す、すみません・・・取り乱してしまいました。」

 

真っ赤にした目を俺に向けてそう謝罪をしてくる海未さん。

 

「いえ、気にしてませんよ。」

 

もっと、気が利くようなセリフを言うのがいいのだろうが、どんなことを言えばいいのかわからない俺はそう言うのが精一杯だった。

 

「・・・もしよければ誰が好きなのかを教えてはいただけませんか?」

 

ここで、海未さんは俺にそんなことを質問してきた。

 

俺は海未さんに亜里沙さんのことを言うべきだと、感じた。

海未さんは、自分の気持ちを偽りなく伝えてくれたのだ、ならば俺も自分のことは、隠さず伝えるべきだろう。

今までは、おちょくられるからと伝えてこなかったことを今伝える。

 

「・・・俺の好きな人は、亜里沙さんです。」

 

言った、今までは絵里さんとまっきーしか知らなかった事実を今、海未さんに伝えた。

これを聞いた海未さんは、ひどく驚いたように目を見開き、

 

「あ、ありさ・・・? それは絵里の妹の?」

 

「・・・はい、そうです。」

 

どうやら、海未さんも亜里沙さんのことは知っていたようだ。

しかし海未さんは、にわかには信じがたいと言わんばかりに手を頭にあて、混乱しているようだ。

 

・・・そこまで驚くことだろうか?

確かに俺と亜里沙さんにつながりがあること自体、想像できなかっただろうから無理もないのか?

 

「私はてっきり・・・このことは誰か知っているのですか?」

 

海未さんは何かを言いかけたが、そのセリフを止めて、別の質問をぶつけてきた。

 

「このことは、絵里さんとまっきーが知っています。」

 

最早、二人のことも隠すことはないだろう。俺は素直に事実を伝える。

 

「・・・なるほど、それであの時二人はあんなことを。」

 

「あんなこと?」

 

海未さんが何やら、気になることを言ってきた。何か、三人の間であったのだろうか?

 

「・・・いえ、気にしないでください。ということはことりはこのことは知らないのですね?」

 

「・・・知らないと思いますけど、なぜことりさん?」

 

ここでことりさんの名前が出てくるのに違和感を覚える。

・・・そういえば、以前から海未さんはことりさんを気にかけている傾向があった気がする。

まさか、ことりさんの母親同様、ことりさんと俺の仲を疑っているのだろうか?

俺がそんな予想を立てていると、海未さんが

 

「・・・いえ、何でもありません。」

 

と、短く気にするなと暗に伝えてくる。

 

「・・・そうですか。」

 

俺もこの状況下でことりさんのことを言及するつもりはなかったので、素直に引き下がるが、ここでお互いの間に会話が無くなり沈黙が支配しだした。

 

・・・き、気まずい!?

よく考えたら、告白をして、振った、振られたの関係の二人がこうして一緒にいるこの状況ってまあまあエグイのでは・・・。

こういう時、どうすればいいの!?

冗談っぽい雰囲気にするのがいいのか?

それとも、すこし黙っておいた方がいいのか、はたまたいつも通りに接するのがいいのか・・・。

わ、わからねえ・・・。

この状況は童貞の俺には、ハードモードすぎる・・・。

 

「・・・では、いい時間ですし映画に行きましょうか?」

 

しかし、ここで海未さんがそう言ってきた。

そう言えば、そういうプランだったっけ。

告白されたことで頭から抜けていたが、今はダブルブッキング中でのデート中だった。

 

「・・・そうですね、でも、いいんですか?」

 

海未さんは、今のこの状況で俺とデートを続けたいのだろうか?

もし、気まずいならこのまま解散でも、と思い、そう言ったが、

 

「夏樹に好きな人がいるのは分かりましたが、私が夏樹を好きな気持ちは変わりません。だから好きな人とのデートを中断するなんてありえません。」

 

と、まっすぐな目でそう俺に伝えてきた。

でも、今からデートをするのは、俺ではなくまっきーなんだよ、海未さん。

・・・それでいいのだろうか?

 

「・・・あの海未さん、この後の映画、別の日にしませんか?」

 

俺に好きと伝えてくれた海未さんを騙してデートをするのは、間違っている。

だからこの後のデートは別の日にしようと提案する。

 

「・・・なぜですか? 私とデートをするのは嫌ですか?

でもそうですよね、振った人とデートなんて嫌ですよね・・・。」

 

しかし、海未さんは俺の発言を、デートを嫌がっていると判断したのか、再度泣きそうな顔で俺にそう言ってくる。

 

「ち、違いますっ! 海未さんのことを嫌だなんて思ったことは、な・・・いですよっ!!」

 

一瞬、過去に海未さんからおちょくられたことがフラッシュバックして、言葉には詰まったものの、そう伝える。

ばれてないよな・・・?

 

「・・・一瞬、言葉に迷いがあったように聞こえましたが?」

 

ばれてたー。

やばい、海未さん滅茶苦茶怖い顔してるし・・・。

 

「・・・はぁ、分かりました。夏樹がそう言うのなら何か事情があるのでしょう?」

 

しかし、海未さんは呆れたようにそう言ってくると続きのデートを別の日にしてもいいと、了承してくれた。

・・・やっぱり、海未さんはなんやかんやいい人だよな。

 

「その代わり! 続きのデートでは、罰として駅前のパフェを奢ってもらいますからね!」

 

「・・・はい。」

 

いい人・・・だよな。

 

こうして、俺と海未さんとの本日のデートはこれにて幕を閉じた。

 

 

(一方その頃)

 

「お姉ちゃん!!あそこで、大人の人たちが喧嘩をしてるよっ!!止めなくちゃ!!」

 

「待ってぇ!! 亜里沙ぁあ、警察に連絡するからっ!! あなたは行かないでぇええ!!」

 

映画に行く途中、運悪く柄の悪そうな大人の人たちが複数で喧嘩をしている場面に遭遇してしまい、それを見た亜里沙がその喧嘩を止めようと、駆け出してしまったのだ。

 

「だめだよっ、お姉ちゃん! 警察なんか頼りにならないよ! 昨日見た映画でそう言ってたよ!!」

 

「何を見たか知らないけれど、とりあえず待ってぇ!! 本当に、お願いだからぁ!!」

 

私は、練習で疲れ切った体に鞭をうち、妹を全力で追いかけた。

 

・・・あぁ、早く映画館に着かないかしら。

 

つづく

 




第31話読んでいただいてありがとうございます!

というわけで、今回は海未回でした!
引き続きどんどん更新していきます!

最近は特に寒くなってきたので、皆様も風邪には気をつけてください!

ではっ!


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第32話 デート折り返し

・・・まずいわね。

 

西木野真姫は、現在大ピンチに陥っていた。その理由は、

 

・・・確実に風邪がぶり返してるわね、意識が吹っ飛びそうだわ。夏樹はしんどくなったら帰れと言っていたけど、任せなさいと言った手前ここでダウンするわけにはいかないわ。

 

とは言っても、やはりしんどいものはしんどい。最初は頑張って、映画を見ていたが、次第に体のだるさ、寒気が押し寄せてきて、ついには顔を項垂ってしまう。

 

やばいわ、気の利くことりのことよ。体調が悪そうにしている私を見れば、無理やりにでも帰らそうとするわよね、そうしたら私の正体が・・・。

ていうかぶっちゃけ、家を出る前に体温測ったら、38度あったのよね・・・、やっぱり無理せず休めばよっかたわね。なんで夏樹のためにここまでしてるかしらね?

・・・はあ、もう無理、ごめん夏樹。

 

なぜ自分がここまで夏樹に協力するか、疑問に感じた部分はあったが、それよりもしんどさが私の思考を強制的に遮断し、そのまま、私は気絶するように眠りについてしまった。

 

 

 

―――はっ!?

急に、意識が戻ってきて私は完全に目を覚ます。急いで辺りを見渡すと、既に明かりがついており、周りにはほとんど人はいなかった。

 

映画は、とっくに終了している・・・?

 

冷や汗が、自分の顔を伝うのがわかる。映画館では、明かりが暗いから顔を見られても大丈夫だと思っていたが、明るくなってしまえば話は別だ。顔を見られれば、一発でばれる。そしてこの状況・・・。

 

隣の席には私の正体を知り、怒っていることりがいるのでは、と恐る恐る振り返ると、そこには予想外の光景が。

 

・・・寝ている?

 

隣の席を見ると、そこにはぐっすりと眠ることりの姿があった。いつから寝ていたのかは分からないけど、ばれていないわよね?

 

・・・そういえば、次のライブが近いから、衣装づくりで忙しいってラインで言ってたっけ。それに土日のキツイ練習後だ、ことりが疲れで眠ってしまっていても不思議ではない。

 

そこまで考えたところで、本日の計画について思い出す。

 

やば、計画ではとっくに夏樹と入れ替わっている予定じゃないっ!

 

計画では、映画が終わる10分前にトイレに行くふりをして入れ替わる予定だったので、今この状況は、計画から大きくずれていることを示していた。急いでスマホを確認すると、

「何かあった?」「お~い」「まさか、ばれた?」などなど、夏樹からいくつかのメッセージが届いていた。すぐに行くと、返信して集合場所のトイレに向かった。ことりは、ぐっすり眠っているため、しばらく放っておいても大丈夫だろう。

 

ちなみに、体調面はしばらく眠ったおかげで大分楽になった。でも流石に疲れたから海未との映画を見た後は、速攻で帰って寝ないとね。

ついでに今度今日のお礼を夏樹に迫ろう、ふふ、何を要求しようかしら?

 

何にしようかなと思考を巡らせながら、私は静かに寝息をたてることりをそのままに足早に夏樹との集合場所に向かった。

 

 

 

「あっ、まっきー! 何かあったの!?」

 

私が夏樹との集合場所にまで、行くと不安で仕方がないといった夏樹が既にそこにいた。

 

「いえ、ノープロブレムよ。」

 

そんな夏樹を安心させるように簡潔にそう答えておいた。

 

「え、でももう映画終わってるだろ? ことりさんは?」

 

「ことりなら、席で眠っているわ。衣装作りと部活で疲れが溜まっていたんでしょうね。」

 

「・・・なるほど。でもそんなに忙しいなら別にデートなんてしなければいいのに。」

 

・・・本当に夏樹って鈍感よね。そんなに忙しくてもデートがしたいくらいあんたのことを好きってことじゃないのよ。・・・夏樹のことを好きになる子は大変ね。

 

「それより夏樹、早くことりのところに戻らないと目が覚めちゃうわよ?」

 

「うわっ、そうだわ。後、色々あって海未さんとは今日映画を見ないことにしたから、まっきーは、今日帰っていいよ。帰ってちゃんと休めよ?じゃあ行くわ、ありがとうまっきーまた今度お礼するわ!」

 

そう言って夏樹は、駆け足で去って行った。今からことりと二人でご飯を食べに行くのよね。

・・・・・。

私も今度、今日のお礼でご飯でも奢ってもらおうかしら?

 

というか、海未とは映画をみないことにしたって、海未と何かあったのかしら?

まあ、体調悪いから、私は助かるからいいけど。そうと決まれば早く帰らないと、倒れでもしたら夏樹に心配かけちゃうものね。

 

 

 

「えーと、ことりさんは、と。」

 

ことりさんがいるはずの席を見ると、確かにぐっすりと気持ちよさそうに眠っていることりさんがいた。ことりさんに近づき、改めてことりさんを見る。

 

・・・やっぱ、ことりさんって可愛いよな。なぜこんな人がうちの姉ちゃんなんかを?

 

俺がじろじろみていたからかどうかは知らないが、ことりさんが「うぅん」と小さく声を漏らしながら、閉じていた目をゆっくり開けていく。

 

「・・・ふぇ? あれ、え・・・もしかして私寝てた?」

 

目を覚まし周りを見渡し、状況を把握したのか、そんな質問を投げかけてくる。その表情は、少し青ざめている。映画に誘った側なのに寝てしまったことに罪悪感があるのだろう。俺的には、全然気にしなくてもいいのだが、ていうか、一緒に見てたのまっきーだし。しょうがない、ここは冗談の一つでも交えてやるか。

 

「ええ、ぐっすり眠ってましたよ。ことりさんの可愛い寝顔を見れたのでラッキーでしたよ。」

 

・・・言っておいてなんだが、流石にセリフがキモすぎたか?

俺が姉ちゃんにこんなこと言われたら、確実にデコピンコースだね。

 

そんな俺の言葉にことりさんは、ゆでだこかと疑うくらいに顔を急速に真っ赤にし、しかしすぐに申し訳なさそうに

 

「うぅ、ごめんなさい。私から誘ったのに・・・。」

 

と、泣きそうな顔になり、そう謝罪の言葉を消えそうな声で言ってきた。

 

「まあまあ、ことりさん最近忙しいんでしょ?しょうがないですよ。それにさっきも言いましたが、ことりさんの寝顔を見れたのでむしろラッキーと思ってますよ?」

 

俺が、そう言うとことりさんは、再び顔を真っ赤にし

 

「うぅ~もう、分かったから! あんまり寝顔寝顔っていわないで!」

 

寝顔を見られたことがよっぽど恥ずかしかったのか、ぷんぷん怒りつつも、しかし罪悪感から、あまり強くは言えないと言った感じで、ことりさんが少しむくれてしまった。正直そんな姿も可愛いと思ってしまったが、それは口には出さないでおいた。あまり言いすぎると後が怖いからな・・・。

 

「じゃあ話もまとまりましたし、ご飯食べに行きましょうか?」

 

「・・・うん。」

 

というわけで、これから俺にとっては2回目の夕食を摂るために、映画館の出口に向かった。

 

ふ~、色々あったけど後はことりさんとご飯を食べて終わりだな、って、んん!?

あの、目もくらむような、神々しい金色の髪はまさか!?

 

 

 

(少し前)

 

「よかったね、お姉ちゃん! みんな仲直りしてくれて!!」

 

「・・・えぇ、そうね。」

 

私、過労で倒れないわよね・・・?

 

結局亜里沙を止めることはできず、喧嘩のど真ん中に躊躇なしの特攻を決めた亜里沙が、「みんな、喧嘩はだめです!! 仲よくしましょう!」と、叫んだことをきっかけに、喧嘩をしていた人たちは、一瞬呆気にとられたように動きを止めて、皆恥ずかしそうに喧嘩をするのを辞めてくれた。

 

よかったわ、亜里沙の言葉をくみ取ってくれるいい人達で。・・・いや、いい人ならあんな町中で喧嘩はしないわね、訂正よ。

 

「やっぱり、私たちは警察になんか頼らくなくても大丈夫だね!」

 

「亜里沙、お願いだからその考えだけはすぐに投げ捨てなさい。日本の警察は凄く優秀よ?」

 

「あ、大変、お姉ちゃん! もうすぐ映画が始まっちゃう!! すぐに行こ!」

 

そう言って、愛しの亜里沙は映画館の方に猛然とダッシュしていった。

 

・・・リードでも付けたほうがいいのかしら。

 

最早叫ぶのは無駄だと判断した私が無言で亜里沙のことを、同じくダッシュで追いかける中そんなことを思ってしまった。

 

(映画館)

 

「ハラショー、ここが映画館、楽しみっ!」

 

「ぜーぜー、それはよかったわ・・・。」

 

行きも絶え絶えにそう答える私。確実に上映中、爆睡コースね。

・・・って、あら? あのとさかは見覚えが・・・ことり? と、その隣にいるのは、夏樹??

 

つづく

 

 

 




第32話読んで頂き有難うございます!

もうすぐ、年明けですね~、早いもんです・・・。
今年は本当に一瞬でした。

さて、来年も引き続き、どんどん更新していきますので、来年も読んで頂ければ嬉しいです!

では、皆さま良いお年を!!


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第33話 すべてを知ることり

うぅ、最悪だよ、まさか上映中に寝ちゃうなんて・・・。夏樹君は全然気にしていないって言ってくれているけど・・・。

昨日はなるべく早く寝たつもりだったけど、最近の衣装づくりと部活で疲れが溜まってたのかな・・・こんなこと言っても言い訳だけど。

でも何が一番最悪だったって、寝顔を見れたことなんだよね~あぁぁ本当に最悪だよぉ~//

で、でも可愛いて言ってくれたのは、ちょっと嬉しかったけど//

 

私は羞恥と嬉しさから悶絶していてすぐに気付かなかったけど、映画館入り口辺りに来たところで夏樹君が立ち止まっていた。

 

「どうしたの夏樹君?」

 

夏樹君が立ち止まっていることに気付くのが遅くなったので、振り返る形で夏樹君に問いかける、が、夏樹君の視線がある一点を見つめていることが分かり、私もその視線を追っていく。その視線の先には・・・え、絵里ちゃん??それに絵里ちゃんの妹さんの亜里沙ちゃんもいる。

 

「わあっ、夏樹君にことりさん!! こんばんは!」

 

「こんばんは、亜里沙ちゃん♪」

 

亜里沙ちゃんは、元気いっぱいの満面の笑みで手を大きく振りながらテテテと走ってきた。相変わらず亜里沙ちゃんは明るくて可愛いなぁ~、私が作った衣装とか着てくれないかな~♪ と、私が呑気なことを考えていると夏樹君が

 

「あ、あああ亜里沙さん!?」

 

ん? 夏樹君??

聞いたことがないくらい緊張と焦りを混じらせた夏樹君の言葉に違和感を覚える。

・・・どうしたんだろう?

 

「うん♪ 夏樹君も久しぶり! 夏樹君達も映画を見に来たの??」

 

「ゴホン・・・そ、そうそう実はそうなんだ、はは。」

 

夏樹君は呼吸を整えるためだろう、一度大きく咳ばらいをし、それでも尚緊張を隠し切れない様子で何とか亜里沙ちゃんに返事をしている。その顔は、心なしか少し赤くなっている気がする。

 

・・・どういうこと?

私が疑問に感じたのは会話の内容ではなく、夏樹君の態度だ。

・・・夏樹君のあんな嬉しそうで照れくさそうにしている顔見たことがない。

 

「あ、亜里沙ちゃんと夏樹君は知り合いなの?」

 

何となく亜里沙ちゃんと夏樹君が仲良く話し合っている様子を見続けることができなくなってしまい、そんな質問を慌てて横から投げかけてしまう。

 

「はい! 半年くらい前に夏樹君と会って、公園で仲良くなりました。ね?」

 

「そ、そうだね。」

 

私の質問に亜里沙ちゃんが変わらない笑顔でそう答えてくれた。夏樹君も認めていることから半年前に知り合ったのは本当らしい。

半年ってあの事件があった時だよね・・・。そういえば、夏樹君が勉強をしだしたのもそれくらいだったけ・・・。

 

「こ、こんばんは二人とも・・・はぁはぁ。」

 

そのタイミングでなぜか疲労困憊になっている絵里ちゃんがやってきた為、私の思考が中断される。

 

「絵里さん・・・大丈夫ですか? またいつものあれですか??」

 

「ええそうよ。まじで吐きそうよ・・・うぅっ。」

 

「・・・お疲れ様です絵里さん。でも映画館で吐いたらだめですよ、まじで。」

 

「・・・がんばるわ。」

 

夏樹君が絵里さんを何やら労うような会話をしているが何の話だろう?

・・・まあ、それはいっか。それよりも先ほどの夏樹君と亜里沙ちゃんのことが気がかりだ。

 

「あ、え~と、じゃあ亜里沙! 早く映画を見にいくわよっ!」

 

「ふぇ? あっ、そうだよ!もう上映の時間だよ!じゃあ、お二人ともまた会いましょう!」

 

しかし、ここで絵里ちゃんが慌てた様子で亜里沙ちゃんを引き連れて「また」と言葉を残して映画館の中へ消えていった。

ことり達の様子を見てデートをしていると判断して邪魔にならないようにしたんだろう。

 

「はい、また会いましょう!!」

 

夏樹君は、そう元気よく返事をして手をぶんぶん振っている。まるで、このちょっとした時間だけでも会えたことがとても嬉しいことであるかのように。

 

「じゃあ、ことりさん行きましょうか!」

 

今からご飯屋さんに行く為夏樹君がそう私に声をかけてくれる。いつもの夏樹君だ。いつもの優しい表情を浮かべた夏樹君だ。しかしそこには先ほどまで亜里沙ちゃんに見せていた照れくさそうなしかし、嬉しくてしょうがないといった表情は欠片もなかった。

 

「・・・うん。」

 

私は短くそう答えた。お店に行く間、今度は手を繋ぐことはしなかった。

何となくそんな気分になれなかった。

 

その後も夏樹君との食事の間も、中々お箸が進まなかった。会話がない、なんてことはないけど、どこか楽しみきれていない自分がいた。

・・・どうしたんだろう、今日のデートはとても楽しいデートになるはずだったのに。最後は告白してっていう計画さえ立てていたのに。

それもこれも先ほどの亜里沙ちゃんと夏樹君のやり取りがずっと頭の中をぐるぐるしているせいだ。

 

まさか夏樹君は亜里沙ちゃんのことを・・・。

いやいや、確証も何もないしそれに何より今はデート中、今を楽しまないとね!

そう自分を無理やり納得させ、デートに臨もうとした。

 

しかし

 

私のそんな儚い希望は粉々に打ち砕かれることになった。

 

誰でもない私が世界で一番大好きな夏樹君自身によって。

 

 

 

「俺、亜里沙さんのことが好きなんです。」

 

・・・・・え

 

・・・・・え?

 

いま・・・なんて・・・?

 

二人とも提供された食事をほとんど平らげたところで、夏樹君から話があると真剣な雰囲気を漂わせながら切り出してきたので、こちらも真剣に聞く態勢をに入ったのだが、先ほどの第一声で頭を思い切り殴られたように私の頭の中が真っ白になる。

 

「あ・・・え?・・・あ・・り・・さ・・ちゃん?」

 

あまりの衝撃に口が震えてうまく喋ることが出来なかったが、ゆっくり、そして確実になんとか言葉を紡ぐことができた。そしてこの問いに対して、夏樹君は全てを語ってくれた。

 

衝撃のあまりすべてを覚えていないが、要約するとこうらしい。

半年前に亜里沙ちゃんと出会い、一目惚れした。しかし絵里ちゃんに勉強もできないような人に亜里沙を渡せないと言われた。だからこの半年間必死に勉強をしていた、と。今まで黙っていたのは、本当のことを言うとからかわれると思ったからという理由らしい。

 

・・・・・なに、それ。

 

私が夏樹君に勉強を必死に教えていたのも遠回しに夏樹君の恋を応援してたってこと?

 

そんな、ひ、酷いよ・・・。

・・・いや、本当は分かってる、いつまでも穂乃果ちゃんを好きなんて嘘をつき続けていた私がそんなことを言える筋合いはないことを。本当のことを今まで黙っていた理由についても自分が確実に悪い、確かにこの半年間夏樹君にちょっかいを出し続けてたのも事実だし、そう思われても仕方がないだろう。後悔、反省といった重圧でつぶれてしまいそうだった。

 

その後も夏樹君とは何か会話をした気がするが、ほとんど覚えていない。覚えている事といえば、夏樹君が近々亜里沙ちゃんに告白すること、そしてなんとか最後まで涙を出さずに我慢できたこと。

 

本当は映画館で夏樹君と亜里沙ちゃんとのやり取りを見ていてた時から自分の中ではこのことに気付いてたのかもしれない、だって今までで私にあんな顔を見せてくれたことなかったもんね・・・。

 

私は気付いたら家の前にいた。どうやって夏樹君と別れたのか、最後に何か会話をしたのか、まったく記憶になかった。私はほとんど無意識状態のまま家に入っていった。

 

 

 

「そろそろ、ことりが帰ってくる頃かしらね?」

 

ことりに先を越される前にお風呂に入り、ビールを片手にくつろぎながらそんなことを呟いた瞬間だった。

 

ガチャッ

 

「あら、噂をすればなんとやらね。」

 

今日は夏樹君に告白すると言っていたこともあり、結果を早く知りたく、出迎えることにする。そう思い、玄関に向かう。

 

「お帰りことり。・・・何してるの? 怖いわよ?」

 

玄関に行くと、何故か顔と腕を下にだらんと項垂れさせて、突っ立ている娘の姿があった。見方によっては貞子に見えないこともない。

普通に怖いわね、髪もだらんってなってるし・・・。

 

「う・・」

 

「う?」

 

ことりがなにやら呟いた、まさかバイ〇ハザードみたいにゾンビにでもなったのかしら!?

 

などと考えた次の瞬間

 

「うわあああああああああん!!!」

 

「えぇっ!?」

 

「うわあああああああああん!!!」

 

「・・・・・。」

 

娘、大号泣である。恥も外聞もなく、幼子のように泣くことりがそこにいた。

 

・・・そっか、だめだったのね。

 

それだけですべて悟った私はことりをそっと抱きしめ、頭をよしよしと撫でてあげた。

普段はこんなことをしたらビンタの一つでもして去っていくが、今だけは大人しく抱きしめられ、泣いている。その体はとても小さかった。ふふ、小さいころと全然変わっていないんじゃないかしら?

 

「・・・今はたくさん泣きなさいことり。」

 

つづく

 




第33話読んで頂きありがとうございます!

個人的には大変心痛む回でした・・・。

次話も早く更新できるうようにします、では!


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第34話 姉弟の絆

「・・・なあ、姉ちゃん。」

 

「ん? どうしたの?」

 

海未さんとことりさんとのデートの次の日、リビングのソファでのんびりしている姉ちゃんの横に座り、声をかける。姉ちゃんはテレビから目を離し、こちらに向き合ってくる。

ちなみに、両親は買い物に、雪穂は友達と遊んでいるのかまだ帰ってきておらず、家には姉ちゃんと二人きりだ。

 

「今日さ、ことりさんどうだった? 元気だった?」

 

そう、俺はことりさんのことが少し気がかりだった。

というのも、昨日のことりさんの様子が変だと感じたからだ。具体的には、映画館から出たあたりからだ。それまではいつも通り、むしろいつも以上に楽しそうだったんだけどな。

何が変だったかと言われると・・・よく分からない。

急に元気がなくなったというか、悲しそうだったというか・・・とにかく、あんなことりさんを見たのは初めてだった。表面上は何事もなかったかのように振舞っていたが、どこかぎこちなさを感じた。

最初は上映中に寝ていたこともあり、疲れているのかとも思ったが。・・・もしかして、上映中に寝たことをずっと気にしていのだろうか?

・・・いや、なんかしっくりこないんだよな。

根拠はない。強いて言うなら長年の付き合いによる勘だ。

 

「ん~、それがことりちゃん体調を崩したみたいで今日学校休んでたんだよね。真姫ちゃんもずっと休んでいるけど今風邪流行ってるのかな??」

 

・・・風邪?

風邪を引いているからことりさんは様子がおかしかったのか?

でも、体調がおかしいって感じでもなかったんだよな・・・。

・・・ん、待て。

 

「姉ちゃん、今なんて? まっき・・真姫さんも休んだの? 体調崩して?」

 

「え? うん。先週からずっとだよ? そういえば夏樹も先週体調崩してよね? やっぱり流行ってるのかな~?」

 

・・・あのやろー、やっぱり体調悪かったんじゃねえか。・・・ていうことは、昨日の映画中に風邪を引いているまっきーと一緒にいたせいでことりさんにも風が移ったってことか??

完全に俺が悪いじゃないか・・・。

 

「・・・ことりさんのお見舞い行こうかな。」

 

風邪を引いた原因がまっきーを身代わりに用意した俺なわけだし、何より昨日のことりさんのことが少し気がかりだ、と思ったが

 

「え、今から? もう夜だよ?」

 

・・・確かに今時間は夜の7時を回っている。今から行くのは流石に迷惑か・・・。

 

「それに、ことりちゃんもラインで大した風邪じゃないから大丈夫って言ってたから大丈夫だと思うよ。それより一週間以上休んでる真姫ちゃんのお見舞いに行った方がいいかも、心配だし。

明日夏樹も一緒に行く?」

 

ことりさんの風邪は大したことはないらしい、それを聞いて少し安心はした。よく考えたら俺もまっきーから移った風邪は次の日には治ったからな。

・・・まあ、ことりさんは体調がよくなったら会いに行ってみるか。

 

「そうだな、じゃあ明日まっきーの家に行こうか。」

 

そうだよ、ことりさんにも申し訳ないが、まっきーもだよ。

昨日のせいで体調が滅茶苦茶悪くなったりとかしてないよな?

たく、体調が悪かったら帰れって言ったのに・・・。

でもよく考えたら人を思いやる気持ちが強いまっきーが風邪を引いたくらいで、本当に帰るわけないか・・・。

それくらい考えたらわかるだろうに・・・。

結果的に優しいまっきーに甘え、無理をさせていたのかと思うと、罪悪感がどんどん芽生えてきた。

そんな暗い気持ちになっている俺に姉ちゃんが、

 

「うん♪ じゃあ明日一緒に行こうね♪ お見舞いに行って真姫ちゃんにいっぱい元気を分けてあげないとね!」

 

と、俺の不安を全て包んでくるような温かい笑顔でそう言ってくれた。

・・・こういう時姉ちゃんが本当に姉ちゃんに見えるんだよな。

 

ここで俺が少し弱気だったのが良くなかったんだろう。

まっきーについてもだが、海未さんを振って、泣かせてしまったことを心の中で申し訳なく思っていた気持ちが残っていたのかもしれない。

 

・・・ぎゅっ

 

気付いたら、

 

姉ちゃんに抱き着いていた。

 

本当に無意識だった。相当精神をやられていたらしい。

 

「えっ!? どうしたn・・・よしよし。」

 

姉ちゃんは一瞬驚いたようだったが、すぐに何かを察したのか、ぎゅっと抱き返してくれて、優しく頭を撫で始めてくれた。

・・・こういう何も言わないでも察してくれるところも今はありがたかった。

 

・・・暖かい。

 

心の中にあった、ことりさん、まっきー、海未さんへの申し訳なさで真っ暗になっている俺の心に光を与えてくれているようだった。

結果、催眠にかかったように夢心地状態でしばらくしばらく姉ちゃんに抱き着いていたが、その時リビングの入り口から物音がした、と気付いたときには手遅れだった。

 

「ただいまぁ~、遅くなっちゃたよ、って、えっ!?」

 

もう一人の姉、雪穂のご帰宅である。

俺と姉ちゃんが抱き合っているのを確認し、固まる雪穂。

急な展開で、夢から覚めたような感覚になっており頭が追いつかず、結果的に雪穂と同じく固まる俺。

 

「「・・・・・。」」

 

「ふ、ふふ、二人ともそんなイケナイ関係だったの? とりあえず写真は撮っておこう・・・。」

 

「誤解だぁあっ!! 後写真をとるなっ!?」

 

とんでもない勘違いをされているので必死に否定するが、雪穂はショックからワナワナ震えており、聞く耳をもってもらえない。

ていうか写真を何に使うつもりだ??

 

「この写真はとりあえず、希さんに送ろう・・・。」

 

・・・ナンダッテ?

 

「おいっ、やめろ、まじで!! ただでさえ次に会ったら生まれてきたことを後悔させてやるって言われてるんだぞ!?」

 

俺が雪穂の暴挙を止めるべく雪穂のもとへ駆け出そうとするが、そこでがっちり姉ちゃんに抱き着かれており身動きができない状況にあることを知る。

 

「ちょ、ちょっと姉ちゃん!! もう、もういいから! 早く離してくれっ!!」

 

俺は、ミノムシの様に体をばたつかせながら姉ちゃんに必死に呼びかけるが、

 

「よしよしよし・・・、辛かったんだね夏樹・・・。お姉ちゃんだけは味方だからね?」

 

と、まったく俺の声が届いていない様子。

・・・まじかよ。

姉ちゃんと抱き着いている態勢の関係で腕も動かせないので無理やり引きはがすこともできない、絶対絶命のピンチだ。

・・・こうなったら最終手段だ。

 

「・・・ちょっと申し訳ないけど、うらっ!」

 

ゴチンッ

 

俺の最終手段、頭突きだ。

・・・いってええぇ!? 姉ちゃん頭硬っ!?

当の姉ちゃんはと言うと

 

「いったああっ!? えっ!? いったああ!? なになになに!?」

 

俺に抱き着く姿勢を解き、おでこを両手で抑え、事態が飲み込めていない様子である。どれだけ、周り見えてなかったんだよ・・・。

まあそれだけ心配してくれたってことなんだろうが・・・、って今はそれどころじゃない!

 

「雪穂おおお、その写真を消せええっ!!」

 

自由の身となった俺は、猛然と雪穂に向かっていくが、

 

「あ、ごめん、もう送っちゃった♡」

 

「う・・・そ・・・だろ?」

 

希さんに・・・姉ちゃんと抱き合っている写真を・・・送った?

俺があまりの絶望に膝から崩れ落ちると、

 

「まあまあ、夏樹もこの前私がお姉ちゃんにキスしている写真をお姉ちゃんに送ったんだからおあいこってことで♪」

 

雪穂が、何の悪びれもなくのうのうとそんなことを抜かしてくる。

 

「いや、あの件だって結局駅前のパフェ奢ったじゃねえか・・・。」

 

「忘れた~。」

 

雪穂は、わざとらしくそんなことを言い残し、リビングを後にした。

・・・悪魔だ。

 

「うぅ夏樹~、おでこ痛いんだけど何が起こったの??」

 

俺が雪穂のせいで怒りゲージがマックスになっているところに涙目の姉ちゃんがやってきた。

 

「・・・冷蔵庫に俺が作ったケーキがあるから食っていいよ。」

 

「えっ!! 本当、わーいっ!! 夏樹大好き!!」

 

俺の言葉におでこの痛みなど吹き飛んだかのように、満面の笑みになり、大喜びである。

ちなみに、ケーキというのはことりさん用に作ったニンニク入りチーズケーキだ。

昨日のデートの時に渡そうと思ったが、様子がおかしかったので渡すのをやめたのだ。

地味にそのケーキの処理に困ってたが、姉ちゃんにあげよう、喜んでるし。

 

それよりも俺も亜里沙さんに告白するため準備しないとな。

・・・あの二人に相談するか。

 

 

 

ケーキを食べた姉ちゃんは吐いたらしい。

 

つづく

 




第34話読んで頂きありがとうございます!

今回は久しぶりに姉弟回でした。
書いててほのぼのした気持ちになれました・・・。

では、また次話でお会いしましょう!


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第35話 お見舞い

次の日、姉ちゃんとまっきーのお見舞いに来ていた。

まっきーは、今日も学校を休んだらしい。ラインを入れたところ、「心配なし」と帰ってきたので大丈夫だと思うが、一応の確認だ。

現にデートの日も大丈夫と言ったまっきーは風邪を引いていたわけだからな。

 

「真姫ちゃん、大丈夫って言ってたけど本当に大丈夫かな?」

 

姉ちゃんにもまっきーから大丈夫との連絡は来ているようだが、流石に一週間も休んでいることもあり、少し心配している様子だ。

 

「・・・それはそうと夏樹、何持ってるの?」

 

ここで姉ちゃんが気を紛らわすためか、俺が手に持っている紙袋が何なのかと質問を投げかけてくる。

 

「お見舞い品だよ、手ぶらっていうのもなんだしな。」

 

「ほむまん持ってきたから別によかったのに。ちなみに中身は何なの?」

 

姉ちゃんの何気ない質問に対し俺は、少し気まずげに視線を逸らし、

 

「・・・ケーキだよ。」

 

と答えた。

姉ちゃんはそんな俺の態度に違和感があったのだろう、俺を怪しむような目つきになり

 

「・・・何ケーキ?」

 

「・・・にんにく入りチーズケーキ。」

 

「やっぱりぃ!! だめだよっ! そんなものを病人にあげたら! 真姫ちゃんショック死しちゃうよ!!」

 

昨日、実際にこのケーキを食べた姉ちゃんによって全力で止められる。

しょうがないじゃん、余ってんだし。姉ちゃんも結局一口しか食べてないし、その一口も吐いたけど。

・・・ていうか、ショック死て、そこまで酷い味なのだろうか?

 

「まあまあ、まっきーなら大丈夫だよ。」

 

面倒だった俺は、そう言って姉ちゃんから逃げるようにまっきーの家に向かっていった。

姉ちゃんも「待ってよぉ~」と言いながら後を追ってきた。

 

ほどなくして、俺たちはまっきーの家に到着した。

相変わらず美人なまっきーのお母さんによってまっきーの部屋に案内された。

一週間ぶりに訪れた部屋には、ベッドに横たわる部屋の主であるまっきーがいた。

俺たちが家に来たことは既に気付いていたのだろう、横たわっているものの起きてはいるようで、俺たちを待っていたようだ。

 

「あ、真姫ちゃん!お見舞いに来たよっ! 体調は大丈夫??」

 

まず姉ちゃんが第一声にそう大きな声でまっきーに呼びかけながら、てててと駆け寄る。

 

「穂乃果・・・声が大きいわよ。」

 

まっきーは困ったように、しかしどこか嬉しさも滲みだしながら姉ちゃんを受け入れていた。単純にお見舞いに来てくれたことが嬉しかったんだろう。

まっきーはこう見えて結構寂しがり屋だからな。

 

「だって~、久しぶりだもん!心配だったんだよ~!」

 

「それはごめんなさい。」

 

姉ちゃんに顔をすりすりされて、少し鬱陶しそうにしながらも、一週間も学校を休んでいることに申し訳なささはあったのか、素直に謝っている。

 

「ううん、真姫ちゃんが元気そうでよかったよ! 明日からは学校に来れそうなの?」

 

「ええ、もう完全に熱は引いたから大丈夫よ。今日は安全をとって休みを取っただけよ。」

 

「よかった~。」

 

「そいつはよかったよ、熱が下がったようで。本当に。」

 

ここまで空気と化していた俺がそう言いながらまっきーのほうへ向かっていった。

まっきーは気まずそうにしながら

 

「あ、あら・・・夏樹も来ていたのね。」

 

と苦し紛れにそんなことを言ってきた。

・・・最初から気付いていたくせに。

デートの日にやはり体調が悪かったことがばれて、怒られるのではと言いたげに顔の半分を布団で隠しながら、ちらちらとこちらの様子を伺っている。

 

「あ、そうだ。お見舞い品にほむまん持ってきたんだけど、真姫ちゃん横になってるみたいだし、お母さんに渡してくるね!」

 

と、このタイミングで姉ちゃんがそう言って部屋から慌ただしく出ていこうとする。

 

「あ、それならケーキも一緒に・・・」

 

バタンッ!

 

ついでにニンニク入りチーズケーキも一緒に持って行ってもらおうとしたが無慈悲にも部屋の扉を閉められてしまった、持って行ってくれる気はないらしい。

そんなにだめだろうか・・・うん、普通にだめか。

まあいい・・・ちょうどまっきーと二人きりになれたわけだし。

 

「・・・まっきー、やっぱりあの日体調悪かったんだな。」

 

早速俺は、そうまっきーに切り込みを仕掛ける。

まっきーは、気まずそうにしながらさらに顔の大部分を布団で隠しながら

 

「・・・その、嘘をついたのは悪かったわよ。・・・ごめんなさい。」

 

と、叱られた子供の様に目を伏しながら謝ってきた。

 

「こっちこそ、ごめんまっきー。」

 

謝罪を行ってきたまっきーに対し俺も謝罪を持って応えた。

これにはまっきーも意表を突かれたように目をぱちくりと見開き、こちらを見てきた、どういうこと?と言わんばかりに。

 

「俺もまっきーが体調悪そうにしてたのは、何となく気付いてたのに結局自分の都合でまっきーの優しさに甘えてデートの身代わりをしてもらったから・・・。」

 

結果的にまっきーがそこまで体調が悪くなっていなかったからよかったものの、もし倒れるなんてことになったと考えると、自分がとんでもないことをしたのだと思い知ってしまう。

しかしここでまっきーが、予想外の行動に。

 

「それは違うわよっ!! 夏樹は悪くないわよ!」

 

がばっと、勢いよく起き上がり声を荒げて食い掛ってきた。

その顔は怒りに包まれていた。

その勢いに俺は、思わず「お、おう」と、たじたじの状態である。

 

「あれは私がしたくてしたの! 夏樹は悪くないわよっ! 私はね、夏樹の為ならなんだってするわよっ!!」

 

「・・・そ、そうね。」

 

な、なにを怒られているんだ俺は??

俺がびっくり仰天の状態で呆気にとれれている様子を確認し、少し冷静になったのか、まっきーは「あ」と、声を漏らし、急激に顔を真っ赤にさせていき、ぼふんと布団に倒れるように戻って、顔ごと布団の中にもぐってしまった、亀みたいだ。

 

「・・・とにかく、夏樹は何も気にする必要はないから。」

 

と、布団の中からくぐもった声が聞こえたきり布団から出てくることはなかった。

姉ちゃんが戻ってきてもその状態は変わらず、お見舞いに来たのに長居するわけにもいかないので、その日はそれでお暇することにした。

・・・何だったんだろうか、本当に。

まあ元気そうだったしいいか、釈然としないが・・・。

 

「真姫ちゃんが元気そうなのも確認できたし、じゃあ帰ろうか!」

 

「・・・あー、ちょっと今から用事あるから先に帰ってて。」

 

「え? あ、そうだったの? 誰かと会うの?」

 

「・・・まあ、ちょっとね。」

 

誰と会うのかをあまり知られたくなかった俺は、誤魔化しながらそう返事をしたが、姉ちゃんは、特に気にした風もなく

 

「そっか、じゃあ先に帰ってるね! 気を付けてね!」

 

と、何故か駆け足で家に帰っていった。

・・・本当に無駄に元気だな、姉ちゃんは。

 

さて、俺も行くか・・・。

あっ、そういえばニンニク入りケーキ渡せなかったな・・・いらねーな、これ。

俺が、そんなことを考えていると、

 

「やっほー夏樹君やん、何してるんこんなとこで?」

 

ぎぎぎ、と首を後ろに回すとそこには今会いたくないランキングトップに間違いなくランクインする希さんの姿が・・・。

 

「希さん、お疲れ様です。じゃあ僕は用事があって急いでるんでこれで!」

 

できるだけ爽やかにそう言い放ち脱兎のごとく逃げようとするが、

 

「まあまあ、そんな急がんでもいいやん。で、用事って何なん?」

 

首根っこを捕まれ、逃げることが叶わなかった、声をかけられた時点で既に詰んでいたらしい。

希さんの表情はおもちゃを見つけた子供の様に、満面の笑みである、怖すぎる。

・・・やべえ、今からの目的だけは、希さんには知られたくねえ。

 

「いや、本当に何もないので、まじで、本当に。」

 

と、できるだけ希さんから逃れようとするが、その俺の態度が裏目に出たのか、

 

「・・・ふ~ん、うちに知られたくない用事なん??」

 

「は、は、はあああ!? ち、ちげーし、いや、まじで!!」

 

鋭すぎるんだよ、この人は!

思い切り動揺しちゃったし!!

 

「そっか、じゃあ、うちもついていこうかな、その用事とやらに?」

 

と、面白いものが見れることが確定と言わんばかりについてくるという希さん。

だめだ、何とかして阻止しないと!!

 

「・・・希さん、あんまり人のプライベートに首を突っ込むのはだめだと僕は思います。」

 

と、ちょっと怒ったような表情を作り、希さんにそう言い切る。

怖いが、これで少しでも怯んでくれたらその隙に逃げれるっ!

 

「う~ん、確かにそうやね~。例えば、人の動画を盗撮してそれをグループラインでばらまいたりしたらあかんよね~?? そんなことされたら、キツイお仕置きをしないとあかんよな??」

 

希さんの顔は笑っていたが、目はまったく笑っておらず、返答によっては「わかってるよな」と言わんばかりのオーラが漂っていた。

 

「是非わたくしめの用事にご同行をお願い致します。」

 

「おっけ~♪」

 

やはり、希さんから逃げようなどと淡い夢だったららしい。

なんで一週間前の俺は標準語の希さんの動画なんてバラまいてしまったんだよぉ・・・。

 

つづく

 



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第36話 恋愛相談

「で、今からどこ行くの?」

 

結局着いて来てしまった希さんが俺の顔を覗き込みながら、楽し気に聞いてくる。

・・・いきなり全力疾走したら振り切れたりしないだろうか?

希さんに着いて来てほしくない俺は、そんな企みを思い浮かべるが、

 

「あ、ちなみに逃げたりしたら、昨日雪穂ちゃんからもらった穂乃果ちゃんと抱き合ってる夏樹君の写真ばらまくからね♪」

 

「・・・ハハハ、希さんから逃げるわけないじゃないですか?」

 

雪穂、今度必ず後悔させてやる・・・。

しかしそれは別として、希さんに一方的にマウントを取られているのもしゃくだな・・・。

絵里さんには止められたが、あれやるか・・・

 

「そういえば、どうして希さんってお母さんと話す時は標準語なんですか?」

 

俺の言葉に希さんは、ピシッと効果音が聞こえてくるかのように、固まってしまった。

俺も歩みを止めて希さんの方に振り返ると希さんの顔が少し紅潮していた、さらによく見ると全身がぷるぷると震えているのが分かる、恥ずかしいのだろう。

普段、希さんは冷静で落ち着いているイメージがあるので、これだけでも俺の嗜虐心をくすぐるのには十分だった。

 

「いや~、でも標準語の希さん可愛いかったな~、どんなだっけ~??

確か、私~ミューズのみんなととっても仲良しだよ! だっけww」

 

俺が笑いをこらえきれず涙目で希さんに聞くと、希さんの表情はさらに赤さを増していき、恥ずかしさのあまりか、目尻には涙さえ見える。

その目でキッと睨んでくるが、その目には力強さはなかった。

・・・き、気持ちい。普段からかわれてしかいなかった希さんをからかっているという快感・・・、たまらねえぜw

前に、偶然町中を歩いていたら希さんを見つけて、挨拶をしようとしたら急に電話越しで標準語でしゃべりだした時はびびったが、まさかこんなことになろうとはな・・・ふふふ。

あの時、とっさに動画を撮った自分を褒めてやりたいね。

俺はさらに希さんの正面に立ち直り、

 

「なあなあ、なんで希さんは標準語で喋らへんの~??w

なあなあ、なんで~??w」

 

と、恐らく俺は最高に人を馬鹿にしたような表情を浮かべながら、わざとらしい関西弁で希さんに食い掛るが、ゆでだこのように赤くなった希さんがくわっと俺の方に向き直ると・・・

 

―――――――――――――――――――

―――――――――――――

 

「お~い、夏樹く~ん、ってあれ? 希ちゃんもいたんだ?」

 

声のしたほうを向くとそこには、手をぶんぶんと振りながら小走りで近づいてくる花陽さんの姿があった。その隣には、同じく手を振りながら近づいてくる凛さんの姿があった。

 

「やっほ~、夏樹君に希ちゃんも・・・って、どうしたの夏樹君? 頬に思い切りもみじの跡がついてるけど?」

 

「いや、別に何もないんで、気にしないでください・・・。」

 

凛さんが俺の顔を見るなり少し驚いたようにそう言ってくるが、そんなに跡くっきりついてるのか・・・。

まさか、ビンタされるとは思わなかった・・・。

フルスイングでビンタだぜ? まじで首とれるかと思ったよ・・・。

何事も調子に乗るのはよくないことを実感したわ、ほんまに。

 

「夏樹君が用があるのは花陽ちゃんに凛ちゃんやったんか。

それよりも夏樹君のもみじとかどうでもいいやん? 二人はなんで夏樹君に呼ばれたん?」

 

希さんは、笑顔で、しかしまだ怒っているらしく俺の足をわざとらしく踏みながらそんなことを凛さんと花陽さんにそう質問を投げかけている。

・・・足をぐりぐりするのはやめてもらえないだろうか。

 

「・・・あの~、恋愛相談があるって聞いて呼ばれたの。」

 

花陽さんは、俺と希さんの間に何があったのか気になっているようで、あっさり今日の目的を希さんにばらしてしまう。

・・・凛さんと俺以外には内緒って言ってたのに。

まあ、ここまで来たら希さんにばれるのも時間の問題なので諦めるか・・・。

 

「・・・ほほ~う、なるほど、なるほど? それでこの二人を呼んだんか~、納得やな。」

 

今度は、希さんがにやにやしながら俺にくいついてくる。くそっ、こうなるから嫌だったんだ・・・。

 

「この二人は恋愛に関しては大先輩やもんな?」

 

「・・・まあ、そいうことです。」

 

「そ、そんなことないよぉ~//」

 

「だ、大先輩だなんて//」

 

俺と希さんにそう言われた二人は揃って照れている。

そう、実はこの二人は夏から付き合っているのだ。

以前、花陽さんから凛さんが好きだと告白を受けてから色々と花陽さんから恋愛相談と称してコキ使われたが、結局凛さんも花陽さんが好きであることが判明したのだ。

そうなると二人が付き合うまでに時間はそうかからない、と思いきや・・・、

二人とも中々奥手で中々行動できずにいたので、俺が陰で色々手を回し、付き合うまでに至ったのだ。

今日は、その時の苦労した恩を返してもらうべく恋愛相談に乗ってもらおうと思ったのだ。

亜里沙さんに告白するにあたって、女性の意見も聞いておくべきだと思ったからだ。

 

「ふふふ、じゃあうちも夏樹君のためにひと肌脱いだろやん! 恋愛相談、うちも乗ったるわ!」

 

「いや、別に希さんはいらない・・・。」

 

「ん? なんて夏樹君?」

 

「・・・いえ、なにも。」

 

というわけで、凛さんに花陽さんに加えて希さんの四人で近くのカフェまで行き、恋愛相談会が開かれることになった。

 

「で、で、夏樹君は誰が好きにゃ??」

 

「た、確かに気になる・・・。」

 

「これはうちも気になるな・・。」

 

三人は興味津々と言った感じで俺の言葉を今か今かと待ちわびている。

・・・こうまで興味を持たれるとなんか言いづらいな。

まあ言わないと話も進まないし、言うけど・・・。

 

「・・・亜里沙さんが好きなんです。絵里さんの妹の。」

 

改めて、自分の好きな人を他の人に言うのって恥ずかしいんだな、初めて知ったわ。

そして、俺の言葉を聞いた三人はと言うと・・・

 

「「「ええええぇぇぇ!!??」

 

滅茶苦茶驚いていた。

というか周りのお客さんに迷惑っ!

 

「わ、私はてっきりことりちゃんか海未ちゃんだと・・・。」

 

「え、凛は真姫ちゃんだとおもってた。」

 

「う~ん、えりちであってほしかったけど。まさかミューズ以外やとは・・・。」

 

三者三様の反応をしているが、なぜその四人の名前が??

・・・そんなに亜里沙さんが好きだというのが意外だろうか?

 

「でも、どうして亜里沙ちゃんが好きになったの??」

 

「確かに気になる・・。」

 

「・・・色々あったんですよ。」

 

「いやいやいや、ちゃんと一から順番に説明してどうやって好きになったか言ってもらわないとな、やっぱり!」

 

「そうだよっ、ちゃんと言ってくれないと私たちも恋愛相談にちゃんと乗ってあげられないよっ!」

 

「そうにゃそうにゃ!」

 

三人はぎらぎらした目で俺を逃がさんと迫ってくる。

嘘だろ・・・どうやって好きになったのか一から説明しないといけないのか??

俺が、突き付けられた現実に全身を震えさせていると、ふと以前姉ちゃんが言っていた言葉を思い出した。

女子は恋バナが大好きだと。

・・・今日は長くなりだぜ、ちくしょうっ!?

 

~1時間後~

根掘りはぼり聞かれまくって、結局ことりさんと海未さんと気まずくなったこと、亜里沙さんとの出会い、亜里沙さんに告白をするために勉強を死ぬ気で頑張ったことなど全て吐き出さされてしまった。

・・・もうね、ここまで吐き出したら逆に謎の達成感さえあるわ。

 

「うわぁ~、夏樹君結構青春してるんだね//」

 

「確かに・・・意外だね。」

 

「なるほどな~、そういうことやったんか・・・。」

 

三人もある程度満足してくれたのか、これ以上聞くことはされなかった。

長かった・・・まじで。

この時点で疲労困憊だが、今日の目的は恋バナじゃない、ここからが本番だっ!

 

「さあ、三人ともここまで話したんだから、俺の恋愛がうまくいくように相談に乗ってもらいますからねっ!!」

 

自分自身を奮い立たせる意味もあり、立ち上がってそう言い放つ。

 

「うんっ、任せてよっ!」

 

「凛達に任せるにゃ!」

 

「まあ乗りかかった船やっ、任しときっ!」

 

待ってろよ、亜里沙さんっ!

もう少しで君に告白するからなっ!

 

つづく

 




第36話読んで頂きありがとうございます!

実は、凛ちゃんと花陽ちゃんはつきあってたんですよね・・・。
このエピソードについては、特別編みたいな感じで書こうと思ってます、気が向けば。
本編に直接関係ないと判断し、本編には載せない方向でいこうと思います。

では、またはやく更新できるようにしますので、次話で会いましょう!


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第37話 準備は万端

どうも、久しぶりの投稿になりました。

最近寒くなってきましたが、皆さん健康には気を付けてくださいませ。
ちなみに作者は健康ですが足が肉離れを起こし、松葉杖状態です・・・、本当につらい。

はい、そんなことはどうでもいいですね!

というわけで、久しぶりの投稿で前話を忘れかけているかもしれませんが、第37話です、どうぞっ!!


「で、どうすれば亜里沙さんに好印象を与えられると思いますか?」

 

「「「・・・う~ん。」」」

 

「役立たずすぎるっ!?」

 

俺の満を持した質問に対し、三人は同じ動きで頭を抱えてしまった。

希さんはともかく、花陽さんに凛さんまでも・・・。

このポンコツ三人衆どもめ、俺から亜里沙さんを好きになった経緯を聞き出すだけ聞き出してておいてぇ・・・。

俺がジト目で三人を見つめると、全員気まずそうに目を逸らしてきたぞ。

 

「う~ん、そう言われても凛そういうのよくわからないんだよね・・・。」

 

「うん・・・私も申し訳ないけれど、恋愛経験とかあまりなくて。 り、凛ちゃん以外//」

 

「か、かよちん//」

 

「いちゃいちゃするのは後にしてください・・・。 それにしても希さんはともかく、凛さんに花陽さんまで何のアドバイスももらえないなんて。」

 

急にお花畑な雰囲気を漂わせる二人に呆れながらそんなことを呟いていると足に衝撃が

 

「あはは~、夏樹君~? あんまり調子に乗ってたらお姉さん怒るよ~?」」

 

「いたたっ!? ちょっ、足を踏まないでっ! すみません、すみません!!」

 

笑顔で、しかしその額に血筋を浮かばせながら、力いっぱい足をぐりぐり踏み付けてくる希さんに、必死の謝罪を繰り返す。

やっぱり希さんを敵に回してもいいことがないな・・・。

 

それにしても、恋人関係の凛さんと花陽さんに聞けば何かいいアドバイスがもらえると思ったんだが、当てがはずれたな・・・。

まあ、よく考えたらこの二人は最初から相思相愛だったから、恋の駆け引きみたいなことはほとんどなかったからな・・・。

とはいっても、俺の周りに他に恋愛に強そうな人はいないしな。

どうしたもんか・・・。

 

「・・・まあでも、夏樹君なら普段のまま接してたら、亜里沙ちゃんも夏樹君の良さには気付いてくれると思うよ?」

 

ここで、悩む俺に声をかけたのは、意外にも希さんだった。

相変わらず足は踏まれ続けているので、まだ怒っているのだろうが、その顔は真剣だった。

・・・でも痛いから足を踏むのは、やめて頂きたい。

 

「うん、確かに! 亜里沙ちゃんのためにそこまで勉強を頑張ったていう気持ちはきっと亜里沙ちゃんに伝わるよっ!」

 

「そうにゃそうにゃ! きっと大丈夫にゃ!」

 

「・・・まじ?」

 

「うん、まじやで。 だから夏樹君は特別なことをする必要はないんやで!」

 

「うんうん、何もしなくても夏樹君の想いは亜里沙ちゃんに伝わるよ、きっと!」

 

「にゃーっ!」

 

「そ、そうか・・・、何だかいけそうな気がしてきた。」

 

何だか上手く騙されいてる気もするし、凛さんはにゃーにゃーと騒いでいるだけだが、こう言ってくれると本当にいけそうな気がしてきた。

そうだよ、俺はこの半年間亜里沙さんのために頑張ってきたんだ。

それなのに、うまくいかないはずがないじゃないか!

 

「せやで、夏樹君やったらきっといけるで~。まあ最悪振られた時は、代わりにうちが付き合ってあげてもい・い・で??」

 

「ははは、希さんが?? 冗談はそのエセ関西弁だけにしてくださいよw」

 

「・・・。」

 

「痛い痛いっ!? 両足で踏んでくるのは反則ですよっ、希さん!?」

 

だめだ、さっきの流れのせいで希さんを馬鹿にする発言が止まらない・・・。

希さんめっちゃ睨んでるし・・・こえぇ。

 

「でもでも、やっぱり告白するには、デートをしていい雰囲気にしてからしたほうがいいよね!」

 

俺が足を踏まれいてる件については一切触れず、花陽さんがそんなことを言ってきた。

これに希さんと凛さんも食いついてきて、

 

「確かにそうやね! やっぱり雰囲気作りは大切やね!」

 

「確かにそれは言えてるにゃ!」

 

「じゃあじゃあ、まずはショッピングを楽しんで、その後に――」

 

「「うんうん!」」

 

三人は、楽しそうに俺を置き去りにしてデートの内容を勝手に決め始めた。

だが、これは正直ありがたい。

告白の成功率を少しでもあげるために、少しでもいい雰囲気の中で告白をしたい。

そのためには、デートをすることが避けられないが、正直どんなデートをすればいいか見当もつかないのが正直なところだ。

そのため、こうしてデートの内容を決めてくるの願ったりかなったりだ、若干不安だが・・・。

 

それにしてもはやく足を踏むのをやめてくれないだろうか、希さん・・・。

 

~1時間後~

 

「できたで! 夏樹君、完璧なデートプランやっ!!」

 

「うんうん♪ これなら亜里沙ちゃんもきっと楽しんでくれるよ!」

 

「よく分からないけど、かよちんが言うなら間違いないにゃ!」

 

「さ、三人とも、最初役に立たないとか言ってすみませんでした。本当に助かります・・・。」

 

凛さんはまじで最後まで役に立ってなかった気がするが、まあいい。

俺は三人が、いや二人か?が作ってくれたデートプランが書かれたメモに目を落としながら感謝の言葉を述べる。

 

「いいんやで、これで青春をつかみとってや?」

 

「そうだね♪ 夏樹君は私達のキューピットだもんね! 次は夏樹君が幸せにならないとね!」

 

「そうと決まれば早速明日決行するにゃ、デートの申し込みをするにゃ!」

 

今までにゃーしか言ってなかった凛さんが突然、そんなアグレッシブなことを言ってきて、電話をかけ始めたぞ!?

まさか亜里沙さんに電話をかけてるのか!?

 

「ちょっと、凛さん!? 明日とか急すぎるよっ! 俺にも心の準備があるわけで!」

 

「はい、亜里沙ちゃんに繋がったよ?」

 

が、俺の抗議も虚しく、凛さんは真面目な顔でそう言いながら電話を差し出してきた。

・・・嘘だろ?

 

俺が急な展開について行けずに固まってると、

 

「まあまあ夏樹君、善は急げって言うしいいんじゃない?」

 

「た、確かに・・・、亜里沙ちゃん可愛いから、いっぱい告白とかされるだろうし、遅れればそれだけ、他の人と付き合う可能性が増えるかも・・・。」

 

亜里沙さんが・・・他の人と・・・??

俺は、あの天使、いや女神が他の男と恋人になっている光景を想像してしまう。

 

「えっ!? ちょ、なんで泣いてるの、夏樹君!?」

 

「まじか夏樹君・・・。」

 

あれ? おかしいな、目から汗がとまらないぞ・・・。

ていうか亜里沙さんが他の人と付き合うとか、もはやこの世は地獄じゃないか・・・。

確実に精神が崩壊する自信がある・・・。

そんなことになってたまるかっ!

そうだ、そのためには早く亜里沙さんに告白して想いを伝えなければいけないじゃないか!!

 

「ありがとう、凛さん、俺目が覚めたよっ!!」

 

「そうにゃ! その勢いが大切にゃ!! 夏樹君!」

 

俺は、自分でもきっと覚悟を決めたいい顔になっているという自信を持ちながら凛さんからスマホを受け取る。

 

「涙と鼻水出してるくせに表情は凛としてるとか軽くホラーやな・・・。」

 

「の、希ちゃん、本当のことでもそんなこと言っちゃだめだよ・・・。」

 

何だか外野がうるさかったが無視だ、亜里沙さん、君をもうすぐ俺の恋人にして決めるぜ! このデートはそのためのチェックメイトだ!

 

自分でも気持ち悪い、訳の分からないことを心の中で叫びながら、スマホを耳にあて

 

「亜里沙さん! 明日俺とデートをしましょう!!」

 

言ってやった・・・。

三人の力を借りなければこんなに力強く、亜里沙さんをデートには誘えなかっただろう・・・。

ありがとう、三人とも。

三人も、「おおっ」と、男らしい俺の言動に感嘆の声をあげている。

ふっ、今の俺は輝いているぜ!

 

しかし、スマホからは何の反応も帰ってこない。

・・・まさか、この男らしいデートの誘いに亜里沙さんまで戸惑っているのだろうか?

ふっ、無理もない、か。

今の俺はイケメンすぎるからな。

 

ところが、待てど暮らせどスマホからは、うんともすんとも反応が返ってこない。

・・・いくら何でも遅くないだろうか?

流石におかしいと感じた俺は、スマホを耳から離し、画面を見てみると

 

「・・・とっくに通話が終了している・・・だと・・・??」

 

画面に表示されていたのは、通話が終了しました、という無機質な文だった。

 

・・・そういえば、凛さんが電話をかけてから俺が受け取るまで、だいぶ時間がたっていたような。

その間にしびれを切らし、亜里沙さんは通話を切ってしまったのだろう。

 

あれだけ、流れがよかったのに。

 

あれだけ勢いがあったのに。

 

あれだけ、なんか上手く行きそうだったのに。

 

ここで、ふと三人を見てみると

 

「ふw いい顔して主人公みたいなオーラ出しながらデート誘ったのに通話切れてるとかw」

 

「だ、だめだよ希ちゃんw 夏樹君は真剣なだから、ふw」

 

「wwwww」

 

三人とも笑ってた、しかも凄く馬鹿にしたように。

嘘だろ・・・、さっきまで全員一致してる感じで雰囲気も良かったのに・・・。

凛さんに至っては爆笑してるし。

急に凄い孤独を感じるんだが、心細いっ!

 

「ま、まあそういうところも含めて夏樹君の魅力やと思うでw」

 

「ふふw 凄い自分に酔ってる感じがしてたもんねw」

 

「wwwww」

 

「う、うるさいっ!! 三人とも黙ってろ//」

 

笑いを堪えている三人に(凛さんは思う存分笑ってるが)そう怒鳴り、再度亜里沙さんにデートの誘いの電話をかけた。

 

幸いにも明日亜里沙さんは、予定がなかったようで快くデートの誘いを受けてくれた。

不幸中の幸いで、この三人の前で恥をかいたおかげ?で全く緊張せずに亜里沙さんをデートに誘えたのはよかった・・・と、思おう。

 

失ったものはかなりあったが、これで明日亜里沙さんに告白することが決まった。

 

いよいよだ・・・。

 

そうと決まれば早速今日は帰って明日の準備をしなければ・・・。

必ず成功させてやるぜ!!

 

 

 

~南家~  

 

ことりが部屋に閉じこもってからもう3日か・・・、やっぱり夏樹君に振られたことが一番の理由よね。

 

ことりが、夏樹君とのデートから帰ってきてからずっと部屋に閉じこもっていた。

最初は風邪を引いていたので仕方がなかったが、風邪は昨日には完全に治っていた。

それでも部屋から出てこないということは、やはりそういうことなのだろう。

 

・・・まあ、初恋だもんね。無理もない、か。

こういう時は、時間が解決してくれるのを待つのが一番いいのよね、今はそっとしておいてあげましょう。

そんなことを考えながら、ビール缶に口を付けた時だった。

 

「・・・お母さん。」

 

「ぶっ!?」

 

いきなり背後から、部屋に閉じこもっていると思っていた娘に声を掛けられ、思わずむせてしまった。

 

「ごほっ、ごほっ!? は、鼻にビールが入ったわ・・・、い、痛い。」

 

変なところにビール入ったせいで苦しんでいたが、そんなことはどうでもいいとばかりに、ことりは淡々とこんなことを言ってきた。

 

「お母さん・・・、一学期に言ってくれたあの件って今からでも有効かな?」

 

つづく

 




はい、というわけで第37話でした!

次回はようやく、ようやく亜里沙ちゃんとのデート、そして・・・
というところまで来ました!

まさかここまで来るのに、37話もかかるとは思わなかった・・・。

というわけで、早く更新できるよう、がんばりますので、また次話でお会いしましょう!!


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第38話 運命のデート

「・・・うぅん。もう朝か。」

 

今日は土曜日。

時計を見ると短針は6の数字を差していた。

私はお姉ちゃんや夏樹と違い、休日でも平日と変わらない時間に起きることを習慣としている。

というのも休日に朝早く起きるのってなんだか得した気分になるからと考えているからだ。

だって、今から夜まで果てしない時間を自分の好きなように行動できるんだよ?

お姉ちゃんや夏樹みたいに昼まで寝るなんて論外だ、せっかくの休日の半分を寝て過ごすなんてもったいないことこの上ない。

それに、この休日の朝陽は自分の輝かしい休日を迎えてくれるようで好きだ。

まあ、何が言いたいかと言うと・・・

 

 

 

休日最高だよね~!

 

 

 

私は顔を洗うべく、鼻歌交じりに洗面所へと向かう。

 

ふふ~ん、今日は何をしようかな~?

そんなことを考えながら、私は洗面所の扉を開いた。

 

そこで私は見てしまった。

 

 

 

鏡に向かってポージングを行う夏樹を

 

 

 

しかも全裸で

 

 

 

「ぎゃあああああ!!!???」

 

最悪の朝だった

 

―――――――――――――――

 

「ごめんって雪穂。まさかあんな時間に起きてくるなんて思わなかったから。」

 

「・・・あー最悪。気持ち悪いもの見たから私の視力0.5は落ちた・・・。」

 

「・・・いや、言いすぎだろ。ていうか女子が男子に気持ち悪いって言うのは傷づくからやめろ。」

 

「・・・ていうか何してたの? 勉強のしすぎで頭おかしくなったの?」

 

「そんなわけないだろう? ふっ、今日は俺の人生一番の大勝負の日なんだよ。その為に精神を集中していたんだよ。」

 

そう、今日は亜里沙さんとのデートの日。

この日のために俺は死ぬほど努力を重ねてきた。

そんな重大な日に生半可な精神状態で望むわけにはいかない。

そこでどうすれば万全の心構えができるか考えた時にたどり着いたのが、ポージングだったのだ。

・・・おかげで今ならなんだってできる自信がある。

ポージング・・・素晴らしいぜ、毎日しようかな?

 

「馬鹿なの? 筋肉もないくせに。」

 

ところが雪穂にはいまいち伝わっていないようで、この様である。

残念だ、雪穂も一度やれば分かるだろうに・・・。

まあ、確かに筋肉はあんまりないけど・・・。

筋トレしようかな?

 

―――――――――――――

 

朝9時、場所は駅前だ。

そう、デートの待ち合わせ場所である。

 

朝早く起きたおかげで準備は万端である。

髪はしっかりセットした。

服装だって、前にことりさんがチョイスしてくれた流行のイケテル服装を着ている。

そんなこれ以上ないくらい完璧な俺だったが・・・

 

「で、もう一度聞くけど待ち合わせ時間は、いつって?」

 

「だから11時半だって。」

 

「まだ9時じゃないのよ!!」

 

「まっきーが、絶対来たいって言ったんだろ!」

 

「待ち合わせ時間を言いなさいよ! 9時って言われたから来たのに!」

 

「うるさいな~、だから俺は9時に来たじゃないか。 それに心の準備があるから早く来るのは当たり前だろ?」

 

「限度があるでしょ、限度がっ!?」

 

亜里沙さんとの待ち合わせ場所にて、俺とまっきーは言い争いをしていた。

 

昨日、亜里沙さんとデートをするとまっきーに伝えたところ、絶対に邪魔をしないから、どうしてもついて来たいと言われたので呼んだのだが・・・。

どうやら集合時間が気に食わなかったようだ。

 

「というか本当に風邪は完治したんだろうな?」

 

「完治したわよっ! あんまり疑うから、わざわざビデオカメラにして体温計で熱を測って見せたでしょう?」

 

「・・・まあそうだけど。」

 

「・・・はぁ、あと2時間もどうしようかしら。」

 

「まあ、ちょうどよかった。流石の俺もちょっと早く来すぎて暇だなーって反省してたんだ。いい話し相手がいて助かったw」

 

「・・・ぶっ飛ばすわよ?」

 

しかし、そう言うまっきーはどことなく嬉しそうにも見えた。

なんやかんや風邪で家に籠りきりだったので、面と向かって人と話せるのが嬉しいのかもしれない。

 

 

 

~2時間後~

 

「そろそろ、私は隠れるとしようかしら。じゃあ・・・頑張りなさいよ。今まで努力して来たんだからね?」

 

まっきーは、腕時計を見ながら俺にそう言葉を投げかけてくれる。

その言葉には冗談は含まれておらず、本当に応援をしてくれているのだということが伝わってくる。

 

「・・・ああ、頑張るよ。」

 

「・・・うん、それじゃあ。」

 

そう言って、まっきーは人込みに消えていった。

まっきーは、もう話すことができないからなのか悲しそうな顔をしながら去っていった。

・・・今度、いっぱい電話でもしてやるか。

 

でも、まっきーのおかげでだいぶ緊張もほぐれたな・・・。

感謝するよ、まっきー。

 

 

 

それから15分後

 

俺の待ちに待った亜里沙さんが待ち合わせ場所にやってきた。

しっかり、集合時間の10分前だ。

 

「お~い、夏樹く~ん!」

 

「あ、亜里沙さん!!」

 

俺の姿を確認し、小走りで寄ってきた亜里沙さんに手をぶんぶん振って迎える。

 

「お待たせ! 待たせちゃった?」

 

「いや~全然? 俺も今来たところ!」

 

「ハラショー良かった!」

 

いやぁ~それにしても、亜里沙さんはいつにも増して可愛いな・・・。

今からこんな可愛い子とデートできるというだけで楽しくなってくるね。

 

「それで、今日はどこに行くの?」

 

「ああ、ちょっと待ってね。」

 

ここで、俺は希さんと凛さんと花陽さんが作ってくれたデートプランが記されたメモを開く。

・・・さてさて、最初の目的地は、と。

 

 

 

・・・ん?

 

 

 

・・・GOHANYA? 

・・・前に花陽さんと行った?

デートに・・・GOHANYA?

 

・・・・・・。

 

ていうか待て、嫌な予感がするぞ!?

俺は急いで全ての項目に目を通す。

GOHANYAの次が焼き肉、次にラーメン、そしてその辺を散歩して雰囲気良くなったところで告白・・・だと?

 

 

 

・・・あの、くそ3人衆めぇ。

食べてばっかりじゃないか!? ていうか三人の好物の店に行ってるだけじゃないか!

こんなプランじゃどう考えても、お腹パンパンで気持ち悪くなるだけじゃないか!?

いい雰囲気になるわけがない!?

 

・・・どうしよう。

 

俺の中で上手く行きそうだったイメージが音もなく崩れていくのを感じる。

あの三人に頼った俺が馬鹿だった・・・。

というか事前にメモの内容に目を通すべきだった。

しかし時すでに遅し。

自力でこの状況を何とかしなければいけない。

 

・・・無理だ。

 

今までデートなんてしたこと・・・はあるな・・・しかも割と最近。

とにかく、亜里沙さんとどんなところに行けばいいのか検討もつかない!?

 

「・・・あの~、どうしたの夏樹君?」

 

俺が、パニックに陥り混乱していると、亜里沙さんが不思議そうに声をかけてきた。

 

「・・・あ~、その、ね。 あ、亜里沙さんは休日とか普段どいうところに行くの? お昼とか。」

 

今から、ちょうどお昼時なので、そう質問を投げると

 

「え、私? う~ん、お姉ちゃんと一緒に行くことが多いけど、普通に家で食べることが多いかな?」

 

「そ、そっか・・・。」

 

・・・だめか。

確かに、絵里さんよく家でご飯を作るって言ってたっけ・・・。

・・・・・・。

・・・こうなったら俺の好物のところに行こうかな。

ええい! なるようになれだっ!

 

「亜里沙さん! 今から寿司屋に行こう!」

 

「すしや?」

 

「そう、日本の代表料理、寿司!」

 

「ハラショー、知ってる! この前テレビで見たよ! うんうん、行ってみたい!」

 

・・・お?

意外と好感触?

俺の大好物である寿司屋に行こうという提案だったが、うまくいったようだ。

良かった・・・まじで。

 

「それでそれで?? そのお寿司屋さんはどこにあるの??」

 

あぁ、きらきらした顔でそう聞いてくる亜里沙さんを見ていると全てが癒されるなぁ~。

さっきまで希さんら三人にどう復讐してやろうか考えていたが、どうでも良くなってきた。

 

「え~とね、あの辺だね。ここから歩いても10分くらいかな?」

 

俺が指を差しながら、そう言うと

 

「ハラショー、じゃあ早速行こう! もう私お腹ぺっこぺっこ!」

 

そう言って、テンションマックスの亜里沙さんは凄い勢いで走り出してしまった。

 

・・・しまった

亜里沙さんは制御が効かないんだった・・・。

 

「ちょっと!! 亜里沙さん待って! うぇーーいと!!」

 

亜里沙さんを見失わないように全速力で亜里沙さんを追いかける。

・・・なんやかんやあったけど、楽しいデートにしてみせるぜ!

 

 

 

~真姫サイド~

 

はあ・・・楽しそうね夏樹。

あんな顔の夏樹、初めて見たわ・・・。

 

・・・って、ん?

どうして急に走り出して・・・?

って、見失っちゃうじゃない!?

 

私は、二人に見つからないように、そして二人を見失わないように、適度な距離を保ちながら、町中を駆けていくのだった。

 

 

 

~絵里サイド~

 

亜里沙から夏樹と二人でお出かけって聞いたからついてきちゃったけど・・・。

夏樹も亜里沙も楽しそうね・・・。

特に夏樹・・・。

ふふ、あんな浮かれちゃって・・・。

はぁ・・・・・。

 

・・・あら?

亜里沙が急に走り出したわ!?

夏樹も!?

 

しまったわ、今日は尾行用に町中のマダム風に変装したからヒールなのに!?

くっ、走りづらい・・・。

 

私は、カツカツとやかましい音を立てながら二人の後を全力で追いかけるのだった。

 

・・・周りの視線が痛すぎるわ。

 

つづく

 




38話読んで頂いてありがとうございます!

というわけでデート始まりました!
ちょっと予告っぽくなりますが、次回は告白までいこうと思います。

では、また次話でお会いしましょう!


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第39話 亜里沙さん・・・大好きです!!!

今回少し長めです、ご了承くださいませ・・・。


秋風が吹き始め、少し肌寒いこの季節。

しかし、休日ということもあり、町中は子供から年配の方まで幅広い年代の人で溢れており、賑やかで、平穏を感じさせる温かい雰囲気を漂わせていた。

 

そんな中、俺は

 

「亜里沙さああぁああん!! 待っててえええ!!」

 

走っていた、無論、全速力でだ。

 

必死の形相で叫びながら走る俺を見た人たちが勝手に避けていく中、俺は我が道で駆けていく亜里沙さんを見失わないように出せる限りの体力を振り絞り、追いかける。

しかし、困ったことに亜里沙さんは走るのが速すぎるのだ。

情けないことだが、男の俺がどんなに走っても追いつけないのだ。

・・・何か運動でもしているのか??

単にこの半年間、勉強しかしていなかった俺の運動不足が原因でもあるだろうが・・・。

 

ちなみに当の亜里沙さんはと言うと

 

「あはは~♪ 夏樹君~、早くおいでよ~♪」

 

と、美しい金色の髪をなびかせ、超のつく笑顔で振り返りながら、実に、実に楽しそうに俺にそう言葉を投げてくれる。

既に体力が尽き欠けていた俺は、そんな亜里沙さんの言葉に

 

「は~い♡」

 

うおおおお!!

あの笑顔の為なら、俺はボルトにだって追いついてやる!

体の底から湧き上がる愛の力によってブーストを得た俺は亜里沙さんに追いつくことに成功する。

 

「わっ、すごい! 夏樹君! すっごく速いね」!

 

「・・・は、はは、まあ・・・ね。」

 

ぜーぜーと、息を切らしながら、なんとかそう答える。

・・・デートが開始してまだ30分も経っていないのに体力が既に尽きそうだ。

ていうか、なんで亜里沙さんは全然息を切らしていなんだ??

あれだけ走ったのに、ケロッとしている亜里沙さんを見て驚愕していると、亜里沙さんがあたりをきょろきょろ見渡しながら、

 

「そう言えば、おすしやさんは、どの辺にあるの? たくさん走ってきたからそろそろかな?」

 

「・・・亜里沙さん、もうとっくにお寿司屋さんは過ぎたんだよ、実は。」

 

「ええっ!?」

 

何を隠そう、寿司屋には走ってからものの2分ほどで着いたのだが、走るのに夢中になっていた亜里沙さんは気付くはずもなく、その後も10分ほど走り続けたのだ。

勿論、声をかけたが、走って夢中になっている亜里沙さんに通じる訳もなく・・・ということだ。

でも可愛いから何をしても許しちゃうんだよな~。

 

「大変っ! じゃあ急いで戻らないと! さっきよりスピードを上げて走らなくちゃ!」

 

ここで間髪入れず俺を殺しにかかる発言をサラッとした亜里沙さんはスタンディングスタートの姿勢に・・・

 

「ちょっと待って亜里沙さん!?」

 

ほぼ無意識的に亜里沙さんの手を掴み、走らせまいと止める。

 

「どうしたの?? 早く行かないと!!」

 

「今度は、お寿司屋さんを通り過ぎないように二人で一緒に行こう。」

 

「ハラショ~、確かにそうのほうがいいね♪ また見失ったら大変だもんね!」

 

 

よし、これで亜里沙さんを見失なわないで済むぞ・・・助かった、まじで。

既に、足ががくがくの状態になっている俺は、心の底から安心する。

ここで、俺は重大なことに気付く。

 

・・・え、ちょっと待てよ?

 

俺、今亜里沙さんと手を繋いでいる!!??

 

さっき、亜里沙さんを止める為、咄嗟に手を掴んだがそれが結果的に手を繋いでいる状況を作り出している!

 

・・・あ、ああ、やばい、意識した瞬間手から汗が滝のように出てきたんだが!

で、でも・・・

亜里沙さんの手、柔らかぁあい!?

なんだこれ!? 小っちゃくて、すべすべで、あぁ、もうこれだけで幸せだ・・・。

と、というか、この状況はお寿司屋さんまでこのまま手を繋いで行く流れでは??

そ、そうだよ、今更手を離したら、意識しているみたいで変な空気になるかもだし??

こ、このまま手を繋いでいくのが自然だよな? な?

 

「じゃ、じゃあ行こうか亜里沙さん//」

 

俺が手を繋いだまま、努めて冷静に(なれていないが)そう声をかけると

 

「うん! じゃあ今度は二人三脚だね! 上手く走れるかな??」

 

「うん?」

 

走る? 何を言って・・・

俺が、亜里沙さんの言っている意味が分からず、混乱していると、突然亜里沙さんが俺の手を強く握り返してきた。

 

「・・・え//」

 

な、なんだなんだ急に手を握り返してきて――

 

「よ~い、ドン!!」

 

俺が、鼓動を高鳴らせてドキマギしていると、亜里沙さんは元気よくそう叫び、勢いよく走りだした。俺の手を強く握ったまま。

当然、亜里沙さんに引っ張られる形になった俺は

 

「ぎゃあああぁぁぁ!!??」

 

ピンク色のお花畑気分から、一気に地獄に叩き落さされたかのような絶叫をまき散らしながら亜里沙さんに、引きずられるような形で追従する。

あ、足が・・・もげる・・・。

既に悲鳴を上げている足を無理やり動かされる形で寿司屋まで行く羽目になってしまった。

・・・こ、これは、あかん、まじで。

 

 

 

「亜里沙さん!! ここ! ここっ!! ここがお寿司屋さんっ!!」

 

足の感覚がなくなりそうになる時にようやく寿司屋さんに来たので、絶対に聞こえるようにお腹の底から声を出し、亜里沙さんに伝える。

 

「ハラショ~♪ ここがお寿司屋さん!!」

 

何とか、俺の心からの叫びは亜里沙さんの耳に届いたようで、しっかり止まってくれた。

よかった・・・本当に。

俺たちの目の前には、100円で様々な種類のお寿司が食べられるチェーン店のお寿司屋があった。

昼時ということもあり、結構混んでいるが、カウンター席ならすぐに入れそうだ。

出来ればテーブルの方が良かったが、この際カウンターでいいだろう。

・・・というか、早く席について水分補給をしたい!

 

カウンターを希望するとすぐに店内に案内された俺たちは、ようやく席に着くことができた。

・・・あ~、やっと席に着いた。椅子ってこんなに素晴らしいものだったのか。

俺が、ほっと一息ついていると、横では、亜里沙さんが子供の様に目をキラキラさせて、レーンの上を回っている寿司を見ている。

 

「ハ、ハラショ~、こ、これがお寿司!!」

 

大変喜んでもらっているようだ。

これだけでも、死ぬ気で走った甲斐があったものだ・・・。

とりあえず、水を飲もうっと・・・。

俺が、がぶがぶと水を飲んでいると、亜里沙さんが

 

「ねえねえっ!! これって回っているお寿司は何でも食べてもいいの??」

 

「うん、いいよ。回っているお寿司は基本的に何でも食べてもいいよ。」

 

「ハラショ~! とっても面白い!!」

 

そう言いながら、亜里沙さんは「どれがいいかな~?」と回っている寿司の一つ一つを食い入るように見つめながら迷っていた。

そんな亜里沙さんをずっと見ていたい欲求もあったが、こちとら健全な中学生。

目の前に寿司があったのなら、食べたくなるのが自然、何より寿司は大好物なんだ!

亜里沙さんと寿司のどっちが大切だって? そんな質問は野暮ってもんだ。

 

まずは・・・サーモンから食べよう!

 

流れてきた二貫のサーモンが載った皿に目をつけ、それを取る。

淡いピンク色をしたサーモンの身の美味しそうなことといったら・・・。

俺は、慣れた手つきでサーモンに醤油をかけ、箸を取り、サーモンをいざ食わん!!

・・・と、したところで、俺は隣からの熱い視線を向けられていることに気付く。

なんだ? と思い、隣に目を向けると

 

「ほおぉ~~」

 

寿司を食べようとする俺を、口を大きく開けて感心したように見つめる亜里沙さんの姿が。

初めてだから寿司の食べ方ひとつとっても珍しいのか?

 

・・・正直食べにくい。

それに、亜里沙さんにそんなに見つめられると、滅茶苦茶恥ずかしいんだが・・・。

 

「ん? 食べないの??」

 

しかし、この期待に満ちた亜里沙さんをこのまま焦らすのも罪っていうものだ。

・・・よし、食うぞ。

 

パクッ

 

俺が、サーモンを口に放り込むと同時に亜里沙さんは、顔をぱあっと明るくさせ、

 

「ハラショ~!! これがお寿司の食べ方なんだね!!」

 

「もぐ・・・もぐ・・・、喜んで何よりだよ・・・。」

 

ちなみに味なんて分からなかった。

もう一貫は大事に食べよう・・・。

 

それから俺たちは、思い思いに寿司を堪能し、店を後にした。

ちなみに、亜里沙さんは最終的にはサーモンが一番お気に入りだったようだ。

おいしいよね・・・サーモン。俺も3皿食べちゃったよ。

 

「う~ん! とっても美味しかったね!!」

 

「本当に。 寿司こそ日本の誇りだわ、まじで。」

 

亜里沙さんも大変満足してくれたようで、良かった。

最初はどうなることかと思ったが、何とかなるものだ。

・・・でも、この後どうしよう?

何も考えていない・・・。

俺が、再度頭を悩ませていると、ここで亜里沙さんが意外な申し出をしてきた。

 

「あのね、私美味しい和菓子屋さんを知っているんだけどそこに行かない??」

 

「行こう!」

 

亜里沙さんの提案に対し、「NO」の二文字はない俺は、即座に了承するが、

・・・和菓子か。

自分の家が和菓子屋だけに、勘弁願いたいところだが、亜里沙さんがお勧めするということは、さぞかし素晴らしい和菓子屋さんに違いない。

それに、亜里沙さんがどいうものが好きなのかを知るいい機会だ。

 

というわけで、食後は走ったら体に悪いんだよと、これ以上足を酷使しないように適当なことを言い、亜里沙さんとゆっくり歩きながらその目的地に向かった。

 

 

 

歩くこと15分ほど、どうやら目的地に着いたようだ。

うん・・・着いたんだよな?

 

 

 

って、ここうちやん!?

 

 

 

目の前には、見慣れた我が家があった。

・・・どいうこと?

まさか、お勧めの和菓子屋ってここ!?

いやあ、まあ家に近づいているな~なんて思いながら歩いてたけど、まさか俺の家とは・・・。

・・・美味しいか、うち?

俺が和菓子屋の息子として、思ってはいけないことを思いつつも、店に入っていく亜里沙さんに急いで後を追いかける。

 

店に入ると、

 

「・・・は~、朝からキモイもん見るわ、店番させられるわで、最悪の休日だよ、本当に。」

 

と、ぶつくさ文句を言う、双子の姉である雪穂が店番をしていた。

それにしても朝から見たキモイものとは何のことだろうか??

 

「雪穂~、やっほ~♪」

 

ここで、亜里沙さんが雪穂にとても慣れ親しんだ、まるで友達のように挨拶をしていた。

 

「えっ? あっ、亜里沙・・・って、何で夏樹がいるの!?」

 

・・・ドウイウコト?

 

どうして、雪穂と亜里沙さんが親し気に挨拶してるんだ??

・・・え? 二人はまさか友達かなにか??

 

「ん? 雪穂、夏樹君と知り合いなの??」

 

「いや・・・知り合いも何も双子だよ、私達。」

 

「ええっ!!?? 双子??」

 

亜里沙さんもまさかの状況にかなり驚いていた。

無理もない、俺も驚いている。

 

その後、状況の整理をしたところ、亜里沙さんと雪穂は同じ中学に通っており、仲の良い友達で、よく一緒に遊んでいるらしい。

一度、うちに来た際、うちの和菓子を大変気に入ったのだとか・・・。

まさか、雪穂と亜里沙さんが繋がっていたとは・・・世の中分からないもんだ。

 

「でも、本当凄い偶然だね♪」

 

「ね♪」

 

「・・・・・。」

 

ちなみに、どうせお客さんも来ないだろうと勝手に決めつけ、三人でお茶と和菓子をつまみながら談笑している。

俺が、亜里沙さんに、相槌を打つたびに雪穂が引きつった顔でこちらを見てくるが知ったことではない。

 

「でもよかった~、私一度雪穂の弟さんには会いたいと思ってたから♪」

 

「ん? どうして?」

 

「あ、亜里沙?? そ、それはいいじゃない?? ほら、お饅頭食べなよ?」

 

亜里沙さんの言葉に今まで、仏頂面だった雪穂が何故か急に慌て始めたぞ。

双子だから分かる。

・・・これは、何か面白いことが起こるぞ。

 

「まあまあまあ、雪穂。饅頭なんて後で食べられるだろうから亜里沙さんの話を聞こうぜ??」

 

「うるさいっ! 夏樹は黙って!!」

 

俺は、暴れる雪穂を押さえて亜里沙さんに先をどうぞと促す。

 

「雪穂ったらね? 弟は可愛げがないけど、優しくて話も合って、なんやかんや一緒にいると落ち着くんだよね~ってよく言ってるんだよ♪」

 

「「・・・・・。」」

 

それを聞いた俺たちは一瞬沈黙に包まれる。

しかし、数瞬後には、雪穂の顔は耳まで真っ赤になり、顔を両手で覆い、「うわああ// 最悪だよ//」と、悶え始めた。

 

一方俺は、

 

「ほほほほおおおうう??? なるほど、なるほど~?? 雪穂は俺が大好きなんだなww」

 

「くうう// うるさいっ! 死ねっ!!」

 

俺にからかわれ、ますます顔を真っ赤にした雪穂は、座布団で殴り掛かってるが、そんなものどこ吹く風。

そうかそうか~ww これはいいことを聞いたぜww

一生いじってやるww

 

「うふふ♪ 二人は本当に仲良しさんなんだね♪」

 

その後も、三人で楽しく談笑をし、あっという間に時間は経ち、お開きとなってしまった。

 

一つ謎が解けたことがあったが、どうも雪穂と亜里沙さんは、ミューズに憧れ、二人で時間がある時に自分たちもミューズのようなスクールアイドルになるために練習をしているらしい。

・・・どうりで走るのが速いわけだ。

というか、亜里沙さんがアイドルとか絶対にファンになる自信があるな。

 

「じゃあ、雪穂またね?」

 

「うん、またね。」

 

俺は、亜里沙さんを送るため、一緒に我が家を後にする。

 

まだ18時だが、この季節では既に外は真っ暗になっていた。

気温も昼に比べると数度下がっているようで、かなり肌寒く感じる。

だが、そんな中でも俺たちは今日一日を振り返り、楽しく会話をしていた。

 

「今日は本当に楽しかった! ありがとうね、誘ってくれて♪」

 

「こっちこそ楽しかったよ!」

 

・・・これはいい感じなのでは??

 

辺りに人気はなく、暗い道を照らすのは、等間隔に並べられた街灯の淡い光のみ。

まるで、世界に俺と亜里沙さんの二人しかいないようだ。

昼間は少々騒がしいこの通りだが、静寂となると、そのギャップから普段とは違う何か神秘さを感じてしまう。

この流れでいきなり告白とかしたら成功しないだろうか・・・。

が、ここで亜里沙さんが少し興奮したよう口調で

 

「あ、ここってさ。私たちが初めて会った時の公園だよね!」

 

と。亜里沙さんが、指を差した先には確かに俺たちが初めて出会った公園があった。

 

「ね、せかっくだから、ちょっと寄って行こうよ!」

 

そう言うと、亜里沙さんは小走り気味に公園へと足を踏み入れた。

俺も後を追って公園へと足を踏み入れる。

 

あの時と同様に公園内に人気はなかった。今ここには俺たち二人きりだ。

・・・懐かしいな。

思えば、半年前に亜里沙さんとここで出会ってから全てが変わったんだよな。

全てに絶望をしていた俺が、ことりさんと海未さんと仲直りをし、まっきーや絵里さんとも仲良くなれた。

極めつけは、学年底辺の成績の俺が、今やトップレベルにまで来たのも、全て、あの時の出会いがあったからだ。

 

「う~ん、懐かしいね~! あの時は夕方だったけどね~「亜里沙さん!」」

 

急に大きな声で、呼ばれた亜里沙さんは、こちらを振り返り、きょとんとした顔で見つめてくる。

 

・・・よし、決めた。

 

 

告白

 

 

するぞ

 

 

 

大丈夫さ、ここに来るまでにたくさんの人たちの支えがあったんだ。

 

 

 

「亜里沙さん、大事なことを言うよ?」

 

経験したことのないほど、高鳴る鼓動を感じつつも俺は言葉を紡ぐ。

亜里沙さんも、雰囲気的に何かを感じ取ったのか、俺の言葉を逃さないように耳を傾けてくれる。

すぅーっと大きく息を吸い、そして

 

 

 

「亜里沙さん、半年前から出会った時から好きでした!」

 

 

 

 

「一人の女の子として、一人の女性として・・・」

 

 

 

 

「亜里沙さんが大好きですっ!!!」

 

 

 

 

つづく

 




というわけで、第39話でした!
読んで頂いてありがとうございます!

今回は少し長めでした、申し訳ありません・・・。
書いている途中で私もつられて鼓動が速くなっていました。

というわけで、次話にてどうなるのか、一緒に見届けていただければと思います!

では、また次話でお会いしましょう!


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第40話 彼女

ドクン・・・ 

 

ドクン・・・

 

ドクン・・・

 

心臓の音がやたらとうるさい

 

頭が真っ白だ

 

顔が熱い

 

呼吸がうまくできない

 

だが・・・俺は、言ったんだ。

この半年間、ずっと秘めていた想いを亜里沙さんにぶつけたんだ。

後は・・・返事を聞くだけ!

 

・・・スゥ

 

深呼吸を行い、気持ちを落ち着かせ、亜里沙さんに向き直る。

 

改めて見た、亜里沙さんは

きょとんとした表情を浮かべていた。

まるで、自分が何を言われたのかが理解ができないといったふうに。

しかし、数秒の時を使い、俺の言葉の意味を理解したのだろう。

 

「・・・え、ええっ!?//」

 

亜里沙さんは、その小柄な体からは、想像もできない大きな声をあげ、ひどく驚いている。

あまり、こういうことに経験がないからなのか、その顔は真っ赤だ。

亜里沙さんは、手をもじもじとさせ、口をパクパクさせながらも、その小さな口を開き

 

「え、ぅ、その・・・夏樹君は、私のことが、好き//なの??」

 

と、途切れ途切れながらもそう確認を取ってくる。

上目づかいで見つめてくる亜里沙さんを見て、さらに心臓が跳ね上がるのを感じながらも、俺は、亜里沙さんの間違いをしっかり訂正する。。

 

「違うよ・・・大好きなんだ!!」

 

俺は、亜里沙さんにしっかり想いが伝わるように、先ほどよりもさらに大きな声で、そう叫ぶ。

 

「あぅ// ・・・そ、そう//」

 

俺のまっすぐな言葉に、亜里沙さんは元々真っ赤だった顔を、湯気が出るのではないかと錯覚するほど、さらに真っ赤にして、うつむいてしまった。

 

俺は、ゆっくり待つことにする。

亜里沙さんだっていきなりのことで、気持ちを整理する時間は必要だろう。

個人的な希望では、早く返事が欲しいが。

もう心臓がキャパオーバーで破裂しそうだ。

 

そして、どれだけ時間がたったのか、緊張のあまり分からなかったが、亜里沙さんは恥ずかしいのか目は少し逸らしながらも、顔を上げてくれた。

まだまだ、顔は赤いが先ほどよりは落ち着いているように見える。

 

・・・亜里沙さんは、なんと答えるんだ!?

 

俺の全身が細かく震えていることに気付く。

手汗も、滝のように溢れてくる。

 

・・・怖い

 

亜里沙さんの口から、告白の返事をもらうのが怖い。

断られたらどうする??

俺と亜里沙さんの間には、決して埋まらない溝ができるだろう。

そうなると、今日の様に二人で楽しく遊ぶことだって叶わないだろう。

・・・・・。

告白ってこんなに大変なことだったんだな・・・。

 

けど

俺は精一杯したんだ。

どんな答えだろうが、受け入れるさ、きっと。

けど、やっぱり怖いわ・・・。

 

「あの・・・// まずは、ありがとう// 私なんかを好きになってくれて//」

 

亜里沙さんは、慎重に言葉を選びながら、ゆっくりとそう切り出してきた。

 

「・・・いや、俺こそ急にごめん。」

 

だが、俺が聞きたいのはその先の言葉だ。

俺は、震える手に力を込め、恐怖を無理やり押し殺そうとする。

もうじき来るであろう、俺が求める言葉に備えて。

 

亜里沙さんは、恥ずかしそうに振舞いながらも俺の方に、視線を向けてきた。

そして

 

「それで、その・・・返事なんだけどね?」

 

・・・きた

 

どっちだ・・・どっちだ??

亜里沙さんは、どう返事をする??

それとも返事は保留パターンだろうか??

 

亜里沙さんは、口を静かに、ゆっくり開けて、一言

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 

 

 

いま・・・なんて・・・言った?

 

ごめ・・・ん・・・なさい?

 

ふら・・・れた・・・のか?

 

―亜里沙さんに振られた― 

 

それを理解した瞬間、俺の中で何かが崩れていくのを感じた。

この半年間の俺の行動を支えていた、愛の力とでもいうのか、それが打ち砕かれたようなそんな感触。

はは、そうだよ、俺なんかが亜里沙さんと付き合えるわけなかったじゃないか・・・。

分かっていたことじゃないか。

そんな風に思考がマイナス方向にいくと、それはどんどん加速していく。

今すぐこの場から逃げたい欲求にかられてしまう始末。

もはや、亜里沙さんの方を見ることができない。

情けない、その一言だ。

 

「・・・その、告白されたのなんて初めてだったし、凄く嬉しかった。でもね・・・」

 

そう語る亜里沙さんの方を盗み見るように視線を向けると、その顔は、悲痛に包まれていた。

亜里沙さんは、困っている人がいたら、誰にでも声をかける心優しい女の子だ。

そんな子が、この状況を苦しく思わないはずがない。

好きな子にこんな顔をさせてしまうなんて・・・。

俺の何がいけなかったのだろうか??

性格? ルックス? ポージングをしたのがダメだった?

・・・まあ、もう、どうでもいいか。

俺ができることは、なるべく振られたことを気にしていないように努めて、亜里沙さんの罪悪感を軽減すること、それだけだ。

俺の中に残った、わずかな責任と義務感により、折れてしまった自分の心に鞭を打ち、亜里沙さんの方に顔を上げる。

 

しかし、ちょうどそのタイミングで亜里沙さんが、続きの言葉を語るために口を開き、

 

「・・・私ね、女の子が好きなの///」

 

 

 

流石に聞き捨てならなかった。

 

 

 

心の中にあった、どんよりとした感情が一気にとっぱわれ、というよりは、疑問の感情が心の中を埋め尽くしたというのが正しいかもしれない。

 

「え? 女の子? ・・・今、女の子って言った??」

 

俺が、食い気味にそう確認をとる。

・・・嘘だろ?? 聞き間違いだよな??

あの女神のような亜里沙さんが、レズなわけ・・・ないよな??

俺が、さっきとは別の意味で震えながら、亜里沙さんの回答を待っていると

 

「う、うん// 女の子が好きなの// 」

 

照れながら答える亜里沙さんを見て、再度俺の中で何かが音もなく崩れ去っていくのを感じる。

・・・また、レズ。

俺の周り、レズ多くないだろうか。

呪いなのか?

俺が、あまりの衝撃的事実に絶望と戸惑いの感情に襲われていると、

 

「だ、だから、その、本当にごめんなさい!」

 

ぺこりと謝った亜里沙さんは付け加えるように「ここから家近いから」と言って、亜里沙さんは急ぎ足で帰ってしまった。

俺に気を遣って、一人にしてくれたんだろう。

暗く、静かな公園で一人になってしまったことが分かると、

俺は膝から崩れ落ち、

 

「~~~~~~~っ!!!???」

 

力いっぱい、握りしめた拳で地面を殴りつけ、声にならない叫び声をあげ、泣いた。

 

 

 

本当に好きだった。

 

笑顔が可愛いところも、あの光り輝く金色の髪色も、真っ白な肌も、少し天然なところも・・・。

 

今回振られたって、また努力を続けて告白しなおそうなんて考えも、実はあったのだ。

 

それくらい、好きだった・・・。

 

しかし、その想いが叶うことは決してないことが分かってしまった。

 

だって・・・亜里沙さんはレズなのだから。

 

俺は、男。

 

つまりは、そういうことだ。

 

 

 

その後も、俺はしばらく公園で泣き続けていたが、時間も遅いこともあり、いつまでもそこにいるわけにもいかない。

抜け殻の様になっていた俺は、よろよろと立ち上がり、おぼつかない足取りで公園の出口に向かう。

 

 

 

~絵里サイド~

 

「・・・はぁ、結局二人のことは見失うし、ヒールのせいで足は痛いし、変な目では見られるし。」

 

亜里沙と夏樹が走り出してから、必死に追いかけたけど、ヒールのせいで、思い切り転んだのよね、まだ痛いわ・・・。

それに、よく考えたら金髪隠せてない時点で変装も何もなかったわね、何が町中のマダムなのよ・・・、バカみたい。

 

はあ・・・。

亜里沙と夏樹はどうなったかしら?

もしからしたら、二人とも既に恋人の関係になってたりしてね・・・。

そうなったら、私は素直に二人を祝福してあげられるかしら。

って、だめね、思考が良くない方に行ってるわね・・・はぁ、早く帰ってお風呂にでも入りましょう。

 

そう気持ちを切り替えて、家の近くにある公園まで来たところだった。

この時間帯に公園に人がいるとは思わなかった私は、公園の入り口から、よろよろと歩いてくる人物を避けることが出来なかった。

 

ドンッ!

 

慣れていないヒールを歩いていたこともあり、力なく歩いていた私は、その衝撃でお尻からドスンと鈍い音を立てて転んでしまう。

本日二度目である。

 

「いったぁ~い!! うぅぅ・・・早く帰りたい。」

 

お尻の激痛に涙を浮かべながら、たまらずそう叫んでしまう。

今日はなんてついていないのだろう・・・。

そんなことを心の中でぼやきながら、ふとあることに気付く。

そうだわ、ぶつかった人はどうなったのかしら??

ぶつかった人がいるであろう方向に目線を向けると、そこには自分と同じく、お尻をついて、地面に座る態勢になっている人がいた。

私と同じようにお尻から転んでしまったのだろう。

・・・って、え??

私が、その人物が誰かを確認した瞬間、一気に痛みが吹き飛んだ。

だって、その人物は・・・

 

「夏樹!!??」

 

「・・・え? あ、絵里さん・・・。」

 

そこにいたのは、いつものように元気で調子のいい夏樹ではなかった。

沢山泣いたのか目は充血しており、顔も何だかやつれているように見える。

 

「・・・夏樹? 何があったの?? 大丈夫??」

 

あまりの異常な夏樹の姿に、私は軽いパニック状態になってしまい、わたわたと夏樹にそう問いかけるが、夏樹は、それに答えることはせず私のことをじっと見つめてきた。

 

「どうしたの、夏樹? 具合でも悪いの??」

 

何があったのかは分からないが、何か夏樹にとって重大なことがあったのは確かだろう。

だとしたら、なんとかしてあげなくては。

しかし、夏樹は私をじっと見つめたまま、固まってしまっている。

どうしたらいいのか分からなかったが、夏樹の目に見る見る涙があふれてきたかと思うと、表情がどんどんくずれていき、ドンっと、私に思い切り抱き着いてきた。

 

「・・・え// ええ//?? ちょっと// どうしたの、夏樹??」

 

突然の嬉し、こほんっ、突然の出来事に戸惑いを隠せず、抱き着かれるままでいると、

 

「おれ、俺・・・亜里沙さんに振られた・・・。」

 

「・・・え??」

 

 

 

その後、泣きじゃくる夏樹をとりあえず、公園内のベンチまで誘導して話を聞くことによると、デートを楽しんだ後、亜里沙に告白をしたが、振られた・・・と。

亜里沙がレズであったという事実については、後日、じっくり考えるとして、今は夏樹だ。

私にもたれかかるように泣いている夏樹を見て、どれほど傷ついているのかがよく伝わってくる。

この半年、目標に向かってひたすら真っすぐに突き進んできた姿は、欠片も見て取れなかった。

その夏樹の姿を見て、私はある決心をつける。

 

私は、できるだけ優しい声で夏樹にそっと呼びかける

 

「・・・ねえ、夏樹? ちょっとこっちを見てもらえないかしら?」

 

私の声に、夏樹は嗚咽を漏らしながらでは、あるがこちらを見てくれた。

そんな夏樹に私は自身の顔を近づけ、

こう言った。

 

 

 

「・・・夏樹? 私と付き合わないかしら?」

 

 

 

「・・・え?」

 

絵里さんは何を・・・言っているんだ?

・・・付き合う??

俺と絵里さんが・・・?

 

「私なら、夏樹の悲しみを埋めることができるわ・・・。この半年、夏樹と触れ合ってきて分かったのだけど、夏樹と一緒にいると楽しいし、幸せな気分になれたわ。何より、夏樹のことをよく理解している自信があるわ。夏樹はどうかしら??」

 

俺が思考をまとめる前に絵里さんはそう言いながら俺の顔に片手を当て、その整った小さな顔を近づけてきた。

 

「・・・え、いや、え、急に言わても。」

 

状況が飲み込めていない俺は、近づけてくる絵里さんの顔から視線を外し、そう答える。

な、なんだ・・・何が起きているんだ??

 

「いいのよ? でもね、悲しい時には人に甘えることも重要なのよ?」

 

そう言って、絵里さんは俺を、優しく・・・優しく

 

ぎゅつ

 

と、抱きしめてきた。

絵里さんに抱きしめられていると、悲しみも全て拭い去ってくれるかのようなぬくもりを感じることができた。

 

ああ・・・なんて、温かいんだ。

 

今感じられるのは、先ほどとは真逆の温かみ、優しさ。

 

俺の心の中で崩れていった、何かを埋めてくれるような感覚。

 

そんな天にでも召されるのではないかと疑うくらい、心地よい気持ちになっていると、絵里さんは俺を抱くのを辞めて少し距離をとり、

 

「ね? 安心するでしょう? 私なら夏樹に空いた穴を埋めることができるわ・・・。」

 

にこりとした笑顔を浮かべながら、そう言い、またその距離を近づけてきた。

しかし、今度は抱きしめるために近づいてきたのではない。

 

潤んだ瞳を静かに閉じ、真っ白な肌を朱色に染め、僕の顔に自身の顔を近づけてきた。

それを拒むことが出来なかった。

それどころか、心の中では、それを受け入れたいと思う気持ちもあった。

 

 

 

そして

 

 

 

――――――――。

 

 

 

 

この日、俺は人生初の失恋を経験し、人生初の彼女ができた。

 

つづく

 




第40話読んで頂いてありがとうございます!

実は、この展開は第一話を書いている時から絶対書きたいと思っていた内容になります。
ようやく形にできた・・・。

ちなみに物語は、まだまだ続きます(笑)
今回のお話で一段落といったところでしょうか・・・。
なんか、20話のあとがきくらいで物語中盤くらいかなーとか言ってた気もしますが忘れてください・・・。

というわけで!
引き続き、読んで頂ければな、と思います!

では、また次話でお会いしましょう!


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第41話 彼女が可愛すぎて死ねる

自室のベッドに大の字で横たわり、見慣れた天井をボーと見つめる

 

放心状態で帰ってきたのだが、そのまま着替えもせず自室のベッドにダイブしてから、まったく動く気になれなかった。

 

・・・心がざわざわする

地に足がつかないとでもいうのだろうか、とにかく落ち着かない

 

今日一日自分に起きたことがあまりに衝撃的であり、現実感がないのだ。

それを証明するように、トクントクンッという、いつもは気にならないはずの鼓動の音が、やたらと耳に響いてくる。

 

・・・こんな気持ち初めてだ

 

嬉しい感情と悲しい感情が互いにぶつかり合って相殺し合っているような、そんな感じ

 

とにかく、今のままでは何もやる気が起こらない為、ただただぼうっと過ごす。

 

 

 

 

 

・・・30分位、経っただろうか?

 

これっぽっちの時間の経過だけでは気持ちが完全に鎮まることはなかったが、流石に多少は落ち着いてきた。

 

・・・少し整理していこう、今日一日俺の身に何が起きたのかを。

 

まずは・・・

 

 

 

―亜里沙さんに振られた―

 

 

 

改めて、再認識すると、また目頭が熱くなり、泣き出しそうになったが、すんでのところでそれを堪える。

 

当然だが、ショックだった

 

それはそうだ、亜里沙さんが好きだから、亜里沙さんと付き合いたいと思っていたからこそ、この半年間頑張ってきたのだ。

それが、まさか亜里沙さんがレズだという結果に終わり、俺の初恋は木端微塵に砕け散ったのだ。

 

ここまでで終わっていたら、俺はただただ悲しみから自室に閉じこもって出てこないような事態にも発展しかねなかっただろう。

あるいは、俺に少しでも根性魂が残っていたら、どうすれば亜里沙さんに振り向いてもらえるかを死に物狂いで考え、実行していたかもしれない。

 

だが、今の俺はそのいずれでもない・・・。

 

理由は明白

 

 

 

絵里さんが俺の“彼女”になったから

 

 

 

本日一の予想外の出来事であある。

・・・やはり、その言葉を自分の中でも繰り返してもいまいち実感が湧かない。

夢だと言われた方がまだ、納得がいくというものだ。

 

・・・・・。

 

俺は、何も考えず、無意識に

 

指を、そっと、唇に這わす

 

その瞬間

 

あの

 

柔らかく、ふにっとした感触が

 

蘇る

 

「っ////!!??」

 

口から手をばっと離し、勢いよく起き上がる。

ようやく少し落ち着いてきていた心臓がバクンバクンと他の人にも聞こえるのではないかというほどの大音量を奏でる。

 

・・・やっぱり、夢じゃないよな?

 

あの時感じた絵里さんの温かさ、優しさ、そしてあの・・・『キス』の感触

あれは、間違いなく偽りのモノではなく、本物だった。

 

でもなあ、やっぱり信じらないよなぁ・・・。

 

そんな風に、呟いたときだった。

 

♪~♪~♪

 

スマホから、電話がかかったことを知らせる軽やかな電子音が部屋に鳴り響く。

手に取り、画面を見ると、電話をかけてきた相手は

 

 

 

『絵里さん』

 

 

 

・・・ざわっ

 

電話をかけてきた相手を確認した瞬間、突風が吹きつけたかのように、心が大きく揺れ動く感覚に襲われる

 

期待

 

不安

 

二つの感情が一気に押し寄せてくる

 

いったい、何の用なんだ??

・・・いや、このタイミングでの電話。

俺と絵里さんが恋人同士になったことに関係する内容の電話に違いない。

しかし、もし勘違いだったら?? 夢だったら??

今までも連絡はたくさん取ってきたが、それはあくまでも、姉の友達として

だが、今は・・・どうなのだ??

 

凄まじい緊張に襲われるが、そのまま電話に出ないわけにいかないので、指をスマホの画面に這わせ

 

ゆっくり・・・ゆっくりと・・・・画面を、スライドさせる。

 

そして、通話状態になったことを確認し、スマホを耳にそっと当てる。

 

そこから今まで何度も聞いてきた、声が聞こえてきた。

 

「・・・もしもし? 今、大丈夫だった?」

 

出るのが遅かったせいだろうか、そんなことを聞いてくる絵里さん。

しかし、なぜだろう、聞きなれた声のはずなのに、どうしてこんなに緊張するのだろうか

電話越しに聞こえる絵里さんの声が、やたらとこそばゆい。

 

「あ、ああ、うん。大丈夫だよ。」

 

なんとなく緊張していることを隠すように、冷静を装い、返事を返す。

 

「そう、よかったわ♪ それで、その、なんて言うのかあれだけど・・・改めて、よろしくね?//」

 

「・・・え?」

 

絵里さんの少し照れを含めた言葉に

何が? といった意味も込めて、そう返事を返す。

本当は、何のことかなど分かっている。

・・・しかし、どうしても絵里さんの口から聞きたかったのだ。

これが夢でないと、確かめるためにも

 

 

 

「そ、その// 私達が『恋人』になったからよ// 恥ずかしいから言わせないでよ//」

 

 

 

はにかみつつ、隠し切れない幸せを振りまきながらのその言葉は、ぼんやりと靄がかかっていた俺の心に、溢れんばかりの光を届けてくれる。

心が澄み渡っていくようだ。

 

・・・やっぱり、夢なんかじゃない。

 

絵里さんは、俺の

 

 

 

『彼女』なんだ!!

 

 

 

それを、はっきりと確信できた俺は、途端に、心の底から嬉しさがこみあげてくる。

亜里沙さんの件は、悔いが残らないと言えば、嘘になる。

しかし、それを補っても、尚、余りある幸せが俺を包んでくれる。

 

「ちょ、ちょっと?? 聞いてるの?? 恥ずかしいんだから返事してよ、ねえ??//」

 

おっと、いけない、いけない、つい、考え事をして『彼女』を困らせてしまったようだ。

絵里さんの、焦り、困ったような言葉にさらなる興奮を感じつつ

 

「ごめん、絵里さんが彼女になったことに幸せを感じてたんだ。」

 

冷静になってから、今の自分の放った言葉を聞くと、羞恥のあまり、壁に頭突きを食らわせ、記憶を飛ばすところだが、今の俺は、テンションマックスなのだ。

そんな、くさいセリフが自然と口からこぼれてしまう。

今の俺は無敵だ。

 

「え・・・//// あ、ぅ、そ、そう/// なら・・・しょうが、ないわね//」

 

電話越しで、姿は見えないが、顔を真っ赤にし、もじもじと恥ずかしがる絵里さんの姿が俺には、見える!!

可愛い・・・可愛すぎる!!

俺が、妄想を捗らせ、ご満悦になっていると、絵里さんが、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに

 

「そじゃあその・・・明日の放課後にデートでもしないかしら??」

 

 

デート・・・だって・・・!?

 

電話越しでさえ、こんなにも絵里さんの可愛さが伝わってくるのに、その上、デート!?

 

直接、絵里さんと触れ合うことができるデート!!??

 

・・・そんなの

 

・・・行くに決まってるじゃないか。

 

「わかりました、じゃあ明日は予定を開けておきます。」

 

「うん♪ それじゃあ明日また連絡するわね。 それじゃあ、その、おやすみ。」

 

「はい、おやすみなさい。」

 

ここで、通話は終わり。

 

プープーと、通話が切れた音が虚しく鳴っているが、そんなことは、どうでもよく、スマホを耳に当てたまま身動きが取れないでいた。

今、自分が置かれている、あまりにも幸せな状況を全て受け止めることができなくて、一種のフリーズ状態なのだ。

 

待て待て待て待て、落ち着け落ち着け~?

 

まとめるぞ?

 

俺は興奮状態ながらも、何とか頭を回らせ、状況の整理にかかる。

 

・・・よし、え~と

 

①  絵里さんは俺の彼女になった

②  絵里さんは可愛い、とびっきりに、抱きしめたくなるほどに、ていうか可愛すぎて死ねる

③  そんな絵里さんと明日デート

 

・・・・・。

 

・・・・・。

 

・・・・・。

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

叫んだ

 

それはもう、叫んだ

 

この気持ちを言語化することなんてできない

 

溢れる感情を吐き出すには、叫ぶしかできなかった

 

夜の9時

 

腹の底から、大気を、大地を揺るがさんばかりの大声量が自らの部屋を飛び越え、家の中、そしてその外へ、まき散らされていくのを感じつつも俺は叫んだ

 

「絵里さあああああんんん、かわいいいいいいいいぜえええええ!!!」

 

天を仰ぎ、そこに絵里さんの姿を思い浮かべ、ありったけの感情を全て乗せ、叫ぶ

 

叫び続ける

 

この想いよ、絵里さんに届けと言わんばかりに

 

 

 

その後、鬼のような形相となった母親が部屋に突入してきて、思い切り殴られるまで叫び続けたのだがそれは、また別のお話。

 

つづく

 




第41話読んで頂いてありがとうございます!

というわけで、しばらく夏樹君には、絵里ちゃんとイチャイチャしてもらいます・・・。
次回は、デート回です!

・・・・・はぁ、彼女欲しい。

はい! では、どんどん更新していきますので、次話でもお会いしましょう!


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42話 初デート

デート

 

ただのデートではない

 

初めての彼女との初めてのデートだ

 

他がなんと言おうが、それは俺にとって特別なことであり、とても大切なイベントだと思っている

 

考えが童貞っぽい?

 

言っておくが俺は童貞だ、夢くらいみさせてくれよ

 

具体的には分からないが、初デートっていうのは、なんというか、その・・・、日常から解き放たれたかのような幸せを彼女と一緒に噛み締めるような、素晴らしく、楽しいイベントっていう感じなんだよ

そして、付き合って一年経ってから、「そいえば初デートは――」なんて懐かしむように二人で語り合う・・・

それが俺にとっての初デートのイメージだ

 

なのに・・・

 

なのに・・・!?

 

 

 

「どうして、絵里さんの家で勉強なんだよ!?」

 

とうとう我慢の限界が来た俺は、ノート、参考書といった勉強道具がたくさん載ったテーブルをガタッっと言わせ、立ち上がり、心からの主張を隣に座っている彼女となった絵里さんに訴える。

 

「どうしたのよ、急に?」

 

絵里さんは、特に驚いた様子もなく、冷静な様子で俺を見上げながらそう返事を返してくる。

 

昨日、絵里さんからのお誘いで、初デートをすることになったわけだが、そのデート場所は付き合う前から馴染みのある絵里さんの家だったのだ。

最初は、もしかして家デートというやつでは、とドキマギしたものだが、俺を自宅に招いた部屋着姿の絵里さんは、にこりとした笑顔で

 

「それじゃあ、早速、勉強をしましょうか?」

 

と、『いつものように』言われてしまい、今に至る。

 

当然、絵里さんに勉強を見てもらうのは、付き合う前からも何回もしているわけで・・・

彼女との初デートというイベントに胸を膨らませていた俺を裏切る形になっているわけで、不満爆発である。

別に絵里さんと勉強をするのが嫌というわけでは、ない。

こうして彼女としての絵里さんと二人きりで勉強をするというのも、ドキドキするし、ぶっちゃけ、絵里さんがそばにいるだけでも幸せを感じてしまっている自分もいる・・・が

それでも、初デートで、わざわざ勉強をしなくてもいいのではと思う自分がいるのだ。

 

絵里さんは、そんな不満げな俺を一瞥すると

 

「・・・それじゃあ聞くけれど、学年で3位とれてからも勉強続けている?」

 

懐疑的な視線を俺に向け、そんな質問を投げつけてくる。

 

「・・・してないけど。」

 

「ほら見なさい。」

 

絵里さんは、そう結論付けると「早く勉強を再開するわよ」と、早く座るように促してくる。

 

「・・・勉強をしなかったのは、別にさぼっていたわけじゃなくて――」

 

最近、色々あったからできていなかっただけだ、

そもそも、3位をとる目標は達成しているんだから、勉強をしなくてもいいじゃないか、

だから、今からでもちゃんとしたデートをしよう――

 

そう説明をするつもりが、途中で俺の言葉を遮るような形で

 

「言い訳無用、学生として勉強をすることは当然のことよ? 勉強をさぼっていたのなら、その分の遅れを取り返すべきよ。 気が抜ているんじゃないかしら?」

 

と、絵里さんは、聞く耳を持ってくれない。

それどころか、説教モードである。

 

・・・なんだよ

 

一人だけ盛り上がっていた自分が馬鹿みたいだ

絵里さんは俺のことを好きと言ってくれたが、嘘だったのだろうか?

それとも世間一般で言いう、恋人同士というのは、存外こんなものなのだろうか?

・・・とにかく、気持ちが萎えてしまったのは、事実だ。

 

そもそもが亜里沙さんに告白するために始めた勉強であり、絵里さんの言い分に納得できなかったし、勉強をする気もあまりなかったが、

 

「分かりましたよっ! やりますよ、勉強!」

 

不満を含ませるように、少しだけ声を荒げさせてドカッとその場に座り直し、勉強を再開することにした。

このまま、帰るのは何だか絵里さんに言い負けたような気がして、嫌だった。

俺は、負けずぎらいなんだと、改めて実感したよ。

絵里さんは、そんな俺の態度に特に何もコメントすることなく、ただただ、いつものように、分かりやすく、勉強で分からない部分を教えてくれたのだった。

 

そして、4時間ほど経った頃に、俺はペンを机に、静かに置き、大きく息を吐きながら

 

「・・・やっと終わった。」

 

と、つぶやいた。

 

久しぶりに勉強をしたせいで、感覚が鈍っている部分があり、効率的に学習できなかった。

少しでも、勉強をさぼるとこうなるのかと、恐ろしく思ったよ。

 

勉強が終わったことに対する達成感と、初デートが勉強一色だったことに対する不完全燃焼感が俺の心を満たす。

 

・・・これが、初デートか。

勿論、勉強中に浮ついたことなんて、一ミリも起こっていない。

粛々と勉強に集中していただけだ。

 

「・・・はぁ。」

 

思わずため息が出るが、しょうがないと思う。

時計を見ると、既に18時を回っていた。

亜里沙さんが帰ってくるのは19時って言っていたから、少しくらいなら絵里さんの家にいることは、できそうだが、正直もうそんな気分ではなかった。

 

そういうわけで、絵里さんに何を言うまでもなく、荷物をまとめ、自宅に帰る準備をはじめる。

 

その時だった

 

 

 

ギュッ!

 

 

 

絵里さんに

 

 

 

抱きしめられた

 

 

 

俺の背中に、飛びつくように

 

 

 

―まるで、ずっと待っていたと言わんばかりに―

 

 

 

「え・・・ちょ// 絵里さん// 何なんですか急に!?」

 

一瞬何が起きているのわからなかったが、すぐに抱きしめられているということを認識し、慌てふためきながら質問をする。

しかし絵里さんは何も答えず、抱きしめる腕にさらに力を込め、自分の顔を背中にぐりぐりと押し付けてくるのみ。

 

「ど、どうしたんですか、絵里さん??// 何か言ってくださいよ//」

 

抱き着かれているという現状への高揚感に加え、背中に押し付けられる柔らかく暖かい感触にドキドキが止まらない。

 

なんだ!?

 

何が起きている??

 

すると、ここで絵里さんが背中越しに

 

「・・・夏樹は勘違いしているようだけれど、私だって最初から、こうしたかったんだからね?」

 

ドクンッ!?

 

絵里さんの、甘えたようなそんな言葉に心臓が跳ね上がる。

 

え・・・何が起きているんだ?? 勉強のし過ぎで幻覚でもみているのだろうか??

 

ここで、絵里さんは俺の背中からゆっくり―名残惜しそうに―離れた。

少し残念におもいつつ、絵里さんの方を振り返る。

自分の顔が赤くなっている自覚はあったが、振り返って見た絵里さんの顔は、もっと真っ赤っかだった。

 

「・・・その、私はね? 夏樹の一度決めたら、それに対して真っすぐに突き進む姿に惹かれて好きになったの、勿論それ以外も性格とか、色々あるけれど・・・//」

 

手をもじもじさせながら、上目遣いで、そんなことを可愛い絵里さんを目の前に俺の脳内は真っ白だった。

前半とのギャップもあり、絵里さんが可愛すぎて、脳内処理が追いつかないのだろう。

 

「最近、穂乃果から夏樹があまり勉強をしていないって聞いていたの・・・。せっかく勉強を頑張ったのに、3位をとったからそれで終わり、っていうのは凄く悲しい気がしたの。一緒に勉強して達成したっていう私達との思い出がなくなってしまうようで・・・。それに勉強をしておいた方が色々将来の役にも立つし・・・。」

 

申し訳なさそうに、目を伏せながら絵里さんはそう俺に謝罪を述べてくる。

 

目の前にいる絵里さんが、もうどうしようもなく愛おしく感じてしょうがなかった。

今すぐに抱き着きたい衝動に襲われるほどだ。

先ほどまで、不満に思っていた自分を殴ってやりたいくらいだ。

そうか・・・今思えば俺と絵里さんが関係を築き上げてきたのは、勉強を通してだった。

だったら、その勉強をやめて言い訳がなかったのだ。

 

「絵里さん・・・」

 

俺の呼びかけに対し、切なそうな目で俺を見つめてくる絵里さん

 

「ごめん、絵里さん。勘違いしていたよ。俺、勉強を続けるよ。」

 

あまり、多くを語ると、感極まってどうにかなりそうだったので、短くそう答える。

そんな、俺の回答に対し、絵里さんは、パアッと顔を明るくし、

 

「ありがとう!! でも・・・」

 

絵里さんは、そこで口を止め、なぜか不満げに口をぷくーと膨らませた。

普通に可愛いが、急にどうしたんだろうか?

 

「絵里さん、どうしたんですか急に?」

 

「それよ」

 

俺の質問に、食い気味にそう答えてくる絵里さん。

・・・それ??

思い当たることが何もないのだが?

 

「あの・・・どれですか?」

 

「呼び方よ、その『絵里さん』っていうの」

 

え・・・それって・・・

 

まさか!?

 

「も、もしかして呼び捨てにしろと・・・?」

 

俺が、困惑気味手にそう質問をすると

絵里さんは、少し恥ずかしそうに

 

「・・・そ、そりゃそうでしょ、だって夏樹は私の彼氏なのよ?//」

 

・・・この人は何回俺を惚れ直されたら気が済むんだ??

彼女にこんな風に言われたら逆らえるはずもない・・・

しかし、呼び捨てか・・・

うん、ハードルたけぇ・・・

 

しかし、絵里さんの勇気を出して言ったであろう頼みを裏切るわけもない。

俺は心を決めて、改めて絵里さんを真っすぐに見つめる

絵里さんも、緊張したように俺の視線をまっすぐに捉える。

 

やばい・・・どんどん顔が赤くなっていくのが分かるんだが

ていうか、改めて思うが絵里さんってまじで可愛いよな・・・

あー、だめだだめだ! 

早く言わないとどんどん、ハードルが高くなっていく・・・

 

くそっ、早く言うんだ!!

ええいっ、ままよ!

 

「・・・え、絵里////」

 

「・・・う、うん////」

 

うおおおおお、何だこれ、恥ずかしいいいい!!??

 

言った瞬間に、顔が凄い熱を持って絵里さんのことをまともに見れないんだが!?

絵里さんも俺と似たような感じなのか、俺から視線を外し顔を両手で覆っている。

小さな声で「呼び捨てにされちゃった~~~//」という呟きが、かすかに聞こえてくるのが、凄く可愛いと思う反面、気恥ずかしさが増すのを実感する。

 

その後、お互い落ち着くのを待って、ようやく一息ついた。

 

「あの、色々あるだろうけど、これからもよろしく、絵里・・・//」

 

「うん// こちらこそよろしくね?//」

 

結果良ければすべてよしというが

 

俺の初デート・・・

 

最高でした

 

まじで

 

まだ、呼び捨てにするのは時間がかかりそうだが、これからゆっくり慣れていけばいいだろう。

 

「じゃあ、今日はこれくらいで帰ります。もうそろそろ亜里沙さんもかえってくるだろうし。」

 

既に18時半を示している時計を横目にそう締めくくり、帰宅に着こうとする。

 

しかし、ここで絵里さんは、ニコっと妖しい笑顔を浮かべる

 

なんだ? と思う間もなく、

 

ぴん・・・ぽ~ん・・・

 

と、呼び鈴が鳴る音が

 

誰だろうか? 宅配便でも来たのだろうか?

 

そう思ったが、ここで絵里さんがとんでもないことを言ってきた

 

「あら、亜里沙が『時間通り』帰ってきたようね♪」

 

 

 

・・・・・え

 

 

 

つづく

 




第42話読んで頂きありがとうございます!

自分も一度でいいから彼女と勉強とかしてみたいものです・・・

というわけで、次話も早く更新できるように頑張ります!

では、また次話お会いしましょう!


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第43話 爆誕 高坂夏子♂

今、何て言った・・・??

 

『亜里沙さんが時間通りに帰ってきた』だって!?

 

状況が飲み込めず、慌てふためく俺に対して絵里さんは、罠にかかった獲物を観察するように、ニヤリと口角を上げた表情を浮かべ、こちらを見つめてきている。

 

ちなみ今日は、19時まで亜里沙さんが帰ってこないという絵里さんから聞いていたので、それまで絵里さんの家で居るという予定だったのだ。流石に亜里沙さんに振られて直後のこのタイミングでお互い会っても気まずいだけだろうから

――まして、亜里沙さんにとっては、自分が振った男と姉が付き合っていたとなれば、亜里沙さんの心中がどうなるかは想像もできない。

ちなみに俺は、絵里さんが彼女になったこともあり、割り切れていてる部分もあるので、そこまで抵抗はないが、それでも振られた次の日に会うというのは、流石にどうだろうと思う。

そのことを絵里さんも当然分かっているはずだが・・・。

先ほどの、絵里さんのセリフと表情から考えてみても、どう見ても絵里さんがこの状況を作り出している。

理由は、皆目見当もつかないが。

 

「ちょっと、どういうことですか!!」

 

当然、俺は絵里さんに理由を問い詰める。

しかし、絵里さんは余裕の態度を崩さず、こんなことを言ってきた。

 

「ふふふ♪ ごめんね、亜里沙が帰ってくる時間が18時半って今思い出したわ♪ でも、このまま大変ね? 亜里沙と鉢合わせしちゃうわね?」

 

「ちょ、笑い事じゃないですよ、何が目的ですか?? このままだと死ぬほど気まずい空気が流れて、誰得状況が出来上がるだけですよ!?」

 

だめだ、絵里さんの目的が分からない??

勿論、18時半ということを今思い出したというのも嘘だろう。

面白半分でこんなことをする訳はないと思うが・・・。

 

「でも大丈夫♪ この状況を打破する方法が一つあるわ!」

 

絵里さんは、そう言って、まるで『あらかじめ』用意していたかのように、何かが入った袋を渡してきた。

相変わらず訳が分からなかったが、とりあえずその袋を受け取る。

袋自体に重さはあまりなく、柔らかい何か布製のものが入っているようだ。

取り出してみる。

 

 

 

取り出したものを見て、思考が完全に止まる。

まるですべての時が止まってしまったかのように

 

 

 

なぜかって?

 

 

 

取り出したものが

 

 

 

女性用の制服に、長い黒髪のカツラだったから

 

 

 

正確には、姉ちゃんや絵里さんが通う音ノ木坂学院高校の制服のものだ

 

 

 

は?

え?

どいうこと?

どうしろと??

 

よほど俺が間の抜けたように見えたのだろう、絵里さんは俺の肩をポンと叩き、こう補足してくれた―満を持したように―

 

「ふふふ、夏樹? 女の子に変装しちゃえば、亜里沙にもばれないわよ?」

 

「ふざけんなおい。」

 

べしっと、制服とカツラを壁に叩きつける。

それを見て「あぁ、酷い!?」と絵里さんは、ショックを受けているようだが、知ったことではない。

 

「な・ん・で、俺が女装しなくちゃいけないんだよ!?」

 

怒り大爆発で絵里さんにそう問い詰めると、絵里さんは少し怯んだ様子を見せ、手をもじもじとしながら、その理由を語りだした。

 

「だ、だって・・・、夏樹って、男の子の割には小柄でしょ? 腕とか足も嫉妬しちゃうくらい細いし・・・。 それに顔も雪穂ちゃんによく似てるし、女の子の格好をしたら似合うんじゃないかな~って、てへ♡」

 

と、舌を出して、所謂てへぺろのスタイルで許しを請うふざけた彼女の姿を見て、思わず、かわえぇ・・・と許してしまいそうになるが、

 

「いやいや、俺に女装が似合いそうとかツッコミどころはこの際置いておいておくとしても、なんでこのタイミングなんだよ!?」

 

「・・・だって、普通に頼んでも絶対女装してくれないでしょ?」

 

「当たり前だ! ていうかこの状況でもしねえよっ!!」

 

「でも、このままだと亜里沙と会っちゃうわよ??」

 

ぐっ・・・、前言撤回だ。やっぱりクソみたいな初デートじゃないか!?

悪魔のような所業を働いた彼女を横目に、何とか状況を打破する方法を考えようとするが

 

ぴん・・・ぽ~ん

 

ここで、再びのインターホンの音。

中々反応がないことに、しびれを切らした亜里沙さんが、もう一度押したのだろう。

さらに畳みかけるように

 

「じゃあ、私は愛する妹を出迎えてくるから、早く着替えたほうがいいわよ? 私の大好きな、『か・れ・し・さん♡』」

 

パチンッと綺麗なウインクを最後に玄関へ向かって言ってしまった。

憎たらしいくらい可愛いな畜生!?

迎えに行く絵里さんを止めたかったが、亜里沙さんを玄関前に待たせるのも悪いと感じてしまい、止めることが出来なかった。

 

というより

 

どうするどうするどうするどうする??

時間もない、この状況を打破する方法も見つけることができない。

だが、このまま亜里沙さんと出会ってしまう事だけは、避けたい・・・。

 

 

 

・・・チラッ

 

 

 

俺が思い切りなげつけたことにより、散らかってしまった制服とカツラを見る。

 

 

 

女装・・・か・・・

 

 

 

男としてのプライドが、それだけはやめとけと魂が叫ぶが、どうしようもないこの状況下であることもあり、思わず心の中でそう呟いたとき、廊下の方から絵里さんと亜里沙さんが楽しそうにしゃべり合う声が・・・!?

 

ダッ

 

俺は考えるのをやめて、投げ散らかした制服に飛びついた。

まず、着ていたものを素早く脱ぎ、それを絵里さんの部屋にオーバースローで思い切り投げつけ、ドアを閉めきっておいた。

次は・・・

視線を制服に向ける、一瞬の抵抗があったが、二人の会話の音がどんどん近づいていることもあり、すぐに迷いを断ち切り、制服に手を伸ばした。

 

くそっ、ボタンいちいち止めるの鬱陶しいな・・・。

ていうかスカート短くね?? 普段、皆こんなものを着ているのか・・・。

リボンどうやって止めるんだよ??

苦労しつつも素早く制服を着ていく。

女物の制服を身に付けていくたびに自分の中にある大切な何かが消えていくようだ・・・。

 

最後にカツラだけかぶって女装完了というところで、とうとう半透明ガラスでできている廊下とリビングを繋ぐドアに人影が・・・!?

 

ボスッ!

 

慌てて、鎖骨上にかかる程度の長さまではある黒髪セミロング用のカツラを被り、位置を微調整する。

くそっ、髪の毛が鬱陶しいな・・・もっと短髪のものにしてくれよ。

そんな、不満を呟いた時だ

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「ただいま~! ・・・って、え?」

 

と、元気な一声で部屋に入ってきたのは、亜里沙さんだ、その後ろに絵里さん。

慌てて少し目線を下げ、できるだけ顔を見られないような体勢をとる。

パッツン仕様のカツラだったようで目にかからない程度に切り揃えられた前髪が垂れ下がってくる。

 

亜里沙さんは、リビングに突っ立ている俺を見て、驚いたようにその場に立ち尽くしている。

ちなみに絵里さんも『えっ』という驚きの表情を浮かべこちらを見ている。

あんたがさせたんだろうが、女装を!

 

しかし・・・

 

だめだ、死ぬほど恥ずかしいんだが・・・。

羞恥のあまり、顔が熱くなるのを感じる。

 

ていうか、これ、ばれてるんじゃないか?

だが、無理もない、男らしさ溢れる俺が女装したところで誤魔化せるわけがなかったのだ。

 

そんなことを思いつつも、視線を下げているため、自然と上目遣いで前方を伺うが、どうも亜里沙さんの様子が変だ。

亜里沙さんは、驚きの表情から、だんだん、顔を赤らめていき、ポーと何かに見とれているような目つきでこちらを見つめてきたのだ。

こんな顔を見るのは、初めてだ。

どういう感情なんだ?

そんな疑問を抱いたときだった。

亜里沙さんが「・・・ゕゎぃぃ」と何かつぶやいたように聞こえたが、あまりに小さすぎて聞き取ることが出来なかった。

 

なんて言ったんだ?

女装とかキモイとでも言われたのだろうか?

・・・だとしたら流石にショックだ、二日ほど引きこもるまである。

 

「・・・えっ、えっ、あなた、誰ですか??」

 

俺が最悪の想像をしていると、いつの間にか目の前までに来ていた亜里沙さんが、なぜか興奮しているようで食い気味にそう質問をしてきた。

だが、朗報だ。

まだ俺が高坂夏樹とばれている訳ではなさそうだ。

 

「うわぁっ・・・と、え・・・と・・・。」

 

一瞬びっくりしたものの、質問にどうかえしたものかと迷う。

まさか、正直に言うわけにもいかないし・・・

だが、ずっと黙っているのも亜里沙さんを怪しませるだけだ。

 

「え・・・えぇ・・・と。」

 

とはいえ、中々うまい言い訳が思いつかず、苦しんでいると

 

「その子は高校の後輩よ。仲が良いから勉強を教えてあげていたのよ。」

 

と、絵里さんがここで助け舟を出してくれた。

絵里さんがこの状況を作り出した当の本人であることを忘れて、素直に感謝してしまう。

 

「そ・・・そうなんです・・・。」

 

流石に素で喋ってしまうと声でばれる可能性があるので、できるだけ小さな声で、気持ち声を高めにし、そう答える。

 

「そうなんだ~!!」

 

亜里沙さんはなぜか目をキラキラさせて、奇跡に巡り合えたかのように感激していらっしゃる。

・・・どうしたんだ? 

こんな亜里沙さんを見るのは初めてだ。

そんな疑問を抱いていると、突然亜里沙さんは俺の手をとり、再び質問をしてきた。

 

「名前は?? 名前はなんていうんですか??」

 

と。

 

いきなり手を握られドキリとするも、すぐに冷静にならざるを得ない。

・・・名前・・・だって・・・?

流石に自分の本名をそのまま言うわけにはいくまい。

なんかそれっぽいの・・・。

だめだ、そんなぽんぽん名前なんて思いつかない、でも早くしないと名前聞かれてすぐ答えないとか怪しすぎる。

 

ええ・・・と

ええいっ! もう適当だ!!

 

 

 

 

 

「おr・・・私は、高坂夏子です」

 

つづく

 




ここまで読んで頂いてありがとうございます!

というわけで、次回、高坂夏子ちゃんの活躍をご覧あれ!!



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