双子マスターカルデアにジオウが来たようです。 (木綿豆腐)
しおりを挟む

双子マスターカルデアにジオウが来たようです。

「……これで、最後の呼札だな…」

 

「石は使うなってエミヤに言われちゃったしね…」

 

「だ、大丈夫ですよ先輩方!きっと新しいサーヴァントの方が来てくださるはずです!」

 

ここはカルデアの召喚施設。

曜日クエストで貯めたマナプリズムを呼札に変換した男主人公(リッカ)女主人公(立香)は5枚のうち4枚を麻婆豆腐に変えてしまうという未曾有の事態に絶望してた。

 

「ダメだよ…だってこの流れだとまた麻婆豆腐が来るんでしょ…知ってる」

 

「やだ…私たちの幸運値…低すぎ…?」

 

「ええと…その…」

 

もはやみんなの後輩、マシュ・キリエライトもフォローが間に合わない。

 

もはやクー・フーリンが他人事とは思えない。

 

ある意味自害と何ら変わりない爆死を繰り返し、その度麻婆豆腐の辛さと世の中の不条理に涙して来た。

 

なぜ、何故我々は麻婆豆腐にここまで苦しまなくてはいけないのだろうか。

 

背後霊があの愉悦神父なのだろうか。

 

「マシュ、頼みがある」

 

「は、はい!何でしょうか…っ!?こ、この姿勢は少々照れ臭さを感じます…!」

 

突然、リッカが立ち上がり壁際までマシュに詰め寄った……平たく言ってしまえば壁ドンである。

 

「わたしも、いいかな?」

 

「ひゃぁっ!せ、先輩!?」

 

まるで滝を登る鯉のようにマシュの下半身を抱きめつつも上半身まで登る立香。

 

「「自害しそうになったら止めてね」」

 

「そ、それは勿論!ですがこのようなことをする必要性はあったのでしょうか!?」

 

「…あー。いいからさっさと召喚しようぜ?いつまでそれやってんだ」

 

茶番(コント)に歯止めが効かなくなって来そうな雰囲気を察知したのはキャスターのクー・フーリンだ。

 

彼はマシュたちの最初の冒険の時からずっと一緒に、傷つきながらも戦って来たカルデア一番の古株である。

 

召喚施設に同行しているのも彼らを案じているからに違いない。

 

また、彼自身フレンドリーな為、マスターたちが新規サーヴァントとのコミュニケーションに詰まった場合のフォローを任されている。

 

「…ふぅ、落ち着いた。ありがとうマシュ。キャスくーちゃんも」

 

「ありがとねマシュ、キャスニキ」

 

「キャスニキはともかく、キャスくーちゃんはやめてくれねぇかリッカ!?」

 

食い気味のツッコミだが顔は笑っている。

それはこの場にいる全員に当てはまることだった。

 

人理焼却の危機が迫っているとはいえ、ずっと神経を張り詰めていては、いずれ何処かでパンクしてしまう。

 

それがレイシフト先で起こってしまえば、どれ程の危険に見舞われるか分かったものではない。

 

息抜きというのはとても重要なことである。

 

「よし、それじゃドンデン返しを期待して回そうか!」

 

「それは言ったら起こらないタイプのフラグなのでは我が弟よ!」

 

「ハッ!」

 

クスッ、と笑いが溢れる中、

和かに、ゆるーく召喚が行われる。

 

(これなら仮に麻婆豆腐が現れてもあいつらは精神を保っていられるだろな)

 

(これなら先輩方も大丈夫そうですね)

 

爆死のショックで自害しようとする彼女らを止めるのはいつもキャスターのクー・フーリンとマシュの役目であるが、今回はその必要は無さそうで一安心。

 

……そう、思ったのがいけなかったのか。

 

「「星5確定演出だぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」」

 

「「!?」」

 

マシュの盾の上で旋回する三つのリングが虹色に輝き出している。

 

これは、ジャック・ザ・リッパーやアルテラを召喚した際にも現れた現象。

 

「おいおいおいおい…!今のあいつらにゃそりゃ逆効果だろ…!」

 

「まさかこれまでとは真逆の理由で止めに入る事象が存在するとはおもいませんでした!」

 

興奮死。マシュとクー・フーリンの脳内にこの単語がよぎる。

 

初めての星5はジャック・ザ・リッパーだったが、その時はまだレア度の基準をよくわかっていなかった為そこまで大事にならず、アルテラを引いた時は敵対してすぐに召喚したので気まずい空気により有耶無耶に。

 

今回は……流石にアルテラと同パターンはないだろう。確率的に。

 

「いいか嬢ちゃん。今のうちに医務室に連絡しておけよ。万が一あいつらが倒れるようなら、サーヴァントとは俺が話をつけておく」

 

「りょ、了解です!」

 

「「こいこいこいこい!!!」」

 

虹のリングは一つに纏まり眩い光を放つ。

やがてその光が収まり、人型へと形を変えていき、

 

『——————』

 

"それ"は現れた。

 

黄金と黒で統一されたスーツに悪趣味な高級時計のような印象を受ける装飾。人で言うならば顔にあたる部位には、クラス名と思われる『ライダー』の文字が禍々しくあてがわれていた。

 

しかしながら、そこから放たれる威厳はこれまで出会って来た『王』とは一線を画すもの。

 

ただの『王』ではなく【魔王】

 

その場にいた全員が直感した。

……いや、雑務が忙しく、ここにはいない天才やドクター達にも映像越しに感じたことだろう。

 

あれだけ騒いでいた双子マスターもその迫力の前に沈黙せざるを得ない。

 

『—————』

 

しかし、その原因であるサーヴァントも同様に押し黙っている。

 

「…なあ、どこの英霊だかしらねぇが、マスターが目の前にいるなら一言くらい喋れってんだよ」

 

切り出したのはキャスターのクー・フーリン。

 

自身が最も得意とする獲物は持ち合わせていないが、それでもこのサーヴァントが危険な思想を抱え、マスターに襲い掛かろうものなら迎撃する。

 

と言う意思をマスターを庇うように前へ出ることで主張した。

 

「あっ…!」

 

それを視界に捉えたマシュも停止していた思考を復帰させ大切な先輩を守るため、クー・フーリンの横へ並び立つ。

 

こちらも盾が召喚したサーヴァントの下にあるため充分な戦闘は期待できない。

 

(けれど、それでも…!)

 

守るのだ。

 

『…ふむ。なるほど、状況は把握した』

 

「「!」」

 

言葉を、初めて口にした。

その内容は捉え方によってはどう答えれば良いか分からず困惑していたかのように思えるが…。

 

どうなのだろう。

 

『私自ら語るのも良いが…他に適任がいる』

 

「そ、それはどう言う…?」

 

『奴は来る。私のいる場所に、必ずな』

 

マシュの疑問に答えると同時、再び三つのリングが現れた。今度は虹ではなく金色に染まっている。

 

「…あっそっか、10回引いたからおまけでもう一回できるんだった」

 

呆然としたまま立香が呟く。

 

「…ちと、やべぇか…?」

 

このサーヴァントの言動が正しければ、敵か味方かわからない人物がもう一名追加されるのだ。決して顔には出さないが、内心冷や汗を流している。

 

そうこうしている間にもサーヴァントは召喚されてしまった。

 

マシュとクー・フーリンに緊張が走る。

 

 

「———祝え!」

 

 

が、それは空回りに終わった。

ズッコケ、まではいかないがなんとも言えない。

 

「時空を超え、過去と未来をしろしめす究極の時の王者!その名もオーマジオウ!人理を修復するためルーラークラスにて現界した瞬間である!」

 

「ライダーではないのですか!?」

 

「…うちにも弓兵なのにバリバリ前衛で戦闘する奴はいるけどな」

 

一気に空気が弛緩した。

 

『やはり来たか、ウォズ』

 

「えぇ、我が魔王。私は貴方に忠誠を誓った身。何処までもついていくさ」

 

『……そうか』

 

「…そっちの祝ってたのにいちゃんはなんのクラスだ?」

 

かなり親しそうな会話であり、忠誠を誓うほどの家臣を持っている。

 

が、オーマジオウの名は聞いたことがない。

 

自分より後の世代だろうかと考えつつも、黒のストールを巻いた胡散臭い男…ウォズに話しかけ、彼は答えた。

 

「おっとそうだね、私も召喚された身だ。一応の挨拶はしようじゃないか。…私は名はウォズ、クラスはライダー。過去と未来を読み解き、正しき歴史を記す預言者だよ」

 

———歴史が消えても仮面ライダーは壊れない。

 

この人理修復の旅において、彼らの存在は予想以上の活躍を見せることとなるが、それは少し、未来のはお話。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

じいさんはご飯を食べるようです。


オーマジオウはアーチャーでもないのに単独行動のクラススキル持ってそう。


「ねーリッカ。今日の種火回収どっちが行く?」

 

「んー昨日は立香がやってたし俺が行くよ」

 

「ん、りょーかい」

 

マイルーム。

それは彼ら姉弟に与えられた個室である。

 

本来、別々の部屋が貸し与えられる予定であったが、この姉弟はあろうことかゴネた。

 

「リッカと一緒じゃないと…その、家事が…」

「立香と一緒にいないと…あの、癒しが…」

 

で、本音は?

 

「「うちの姉(弟)を1人にすると誰かに取って食われるから!」」

 

なんだその自信(困惑)

恋人に盲目なタイプのマスター達である。

 

ちなみに冒頭の会話はお風呂で洗いっこしながらのものである。

 

……恋人かな?

 

いや恋人だろうと風呂を共にすることはそうそう無いはず……。

 

なんなんだこいつら(戦慄)

 

閑話休題(それはともかく)

 

「種火回収…必要だとは言え、皆には苦労をかけているよね」

 

「ああ。それも必ずしも自分が強くなるわけでもないのに…ほんと、感謝しかない」

 

泡を流して浴槽に浸りながらまじめ腐った顔で話し合う。

 

そもそも種火回収を何故行なっているのか。

それは、この双子マスター達はマスター適正があまり高くない事に起因している。

 

サーヴァントと絆レベルを上げる(仲良くなる)のは得意なのだが、最初に召喚した時点では能力が殆ど発揮できないのだ…。

 

たがしかし、それは逆に成長しないはずのサーヴァントに成長を促すキッカケとなった。

 

特異点が発生した影響は大きく、歴史に大きな変化は与えないものの、(エネミー)が発生した時代は多数存在する。

 

その時代にレイシフトし、エネミーを排除すると彼らはとある魔力の詰まったアイテムを落とす。

 

それが種火。

 

倒したエネミーのクラスによって、サーヴァントが育つ相性は変わるが、どれも有用性が高いことには変わりない。

 

大規模な特異点修復に出ると種火回収はほぼ不可だが、そこは双子。

 

片方は特異点修復。

残った片割れは種火回収をし、特異点修復をサポートするのだ。

 

ちなみ種火は技術開発部が色々やりくりした結果QPと同じく電力に変換が可能になっため、特異点修復が休止の日でも必ず行う。

 

現状、カルデアの電力節約その他諸々の理由で特異点修復時以外はマスター1人とサーヴァント数名のレイシフトが限界のため冒頭の会話が起きたのだ。

 

しかし何故風呂場でこの話題なのだろうか……?(純粋な疑問)

 

☆☆☆☆

 

朝風呂から上がり食堂へ向かうマスター達。

 

「おー、賑わってるなぁ」

 

「そうだねぇ…」

 

ザワザワと、それなりに広い食堂が賑わっていた。

 

カルデアの生き残りの職員が20名ほど。

双子マスターが召喚したサーヴァントが53名。

 

それぞれが談笑したり黙々と食べていたり、調理していたりと思い思いに過ごしていた。

 

特異点3つを修復(最近働き詰めのだったものが多く)、オーバーワーク気味だったカルデアは交代制で1週間ほど休みを取ることが決定したのだが…。

 

週間になっているのだろう。

仕事が休みにでも寝過ごすことなく食堂に全員が揃っている。

 

しかし、

全員が集合状態なのはそれだけが理由ではない。

 

「ねーリッカ。今日は何にする?」

 

「エミヤの日替わり定食!」

 

「だよね!エミヤ飯は最高にうまい!」

 

そう。

エミヤの作るご飯が美味いから。

 

たったそれだけのこと。しかし侮ることなかれ。

 

彼の料理はどの世代、年齢層にも受けがいい。

それが例え王様であろうと狼であろうと、万人に愛されているのだ。

 

「ブーディカさんおはようございまーす!」

「まーす!」

 

「はいおはよう。……君たちこのメニュー本当に好きだよねぇ…エミヤの日替わり定食2つ、ますたオーダー入りましたー!」

 

厨房の奥で『了解した』と言う声が返って来た。

 

……食堂は食券制であり、食券機はエミヤの自作(投影)となっている。

 

設定をいじり、お金を入れる必要を無くした為ボタンを押すだけで出てくるのだ。

 

そうして選んだ食券を副シェフに手渡し、呼ばれたら取りに行けばいい。

 

呼ぶにあたって一人一人の名前を覚えておかなければならないのだが、その辺、彼女は完璧にマスターしていた。

 

「毎日楽しみなんだよねーエミヤ飯!私は特に漬物が好き!」

「渋いな立香!だけどすんごいわかる。滅茶苦茶わかる!あれはもうカルデアの遺産だね!」

 

だが、双子マスターはその場を去らずに図々しくもそこで待っているのだ。

 

これは、双子マスターは知らされていないが、食堂において彼ら彼女らが訪れた場合は今までの調理を中断し、マスターオーダーを優先する暗黙のルールが存在するためである。

 

これは、まだ成人もしていないのに人類最後のマスターなんて重荷を背負わせてしまい申し訳ない、せめて食事の際は何不自由なくして欲しい、と言うカルデア職員の願望によって定められたからなのだ。

 

「……マスター。本人を目の前にして良くそのような会話ができるな」

 

そう言うわけで最高の定食を携えたエミヤが、自らをベタ褒めする場面に遭遇することもしばしば。

 

「「あっ、照れてる〜!」」

 

「む、そう言うわけでは……まぁいい。今回も最高のものを用意させてもらった。存分に味わいたまえ。……食事前の手洗いを忘れるなよ?」

 

「うん!ありがとうお母さん!」

「ありがとな!母さん!」

 

「誰が母だ!…こら!食堂で走るんじゃない!」

 

はぁ〜い!

と間延びした返事がはるか遠くから帰ってきた。

 

「あははは!また言われちゃったねエミヤ」

 

思わず目元を覆うエミヤに、副シェフのブーディカは思わず吹き出してしまった。

 

「…あなたからもどうか言ってくれないか、ブーディカ」

 

エミヤはあまり人の本名を呼び名として話すことはあまりないのだが、ブーディカに押し切られて名前呼びが定着している。

 

「うーん、私が言ってもやめないと思うな、あの子たちは。それに、エミヤがお母さんなら私はお姉さんってことになるし」

 

「まて、その理屈はおかしい」

 

「さ、次の人が待っているし、もうひと頑張りだよ!」

 

「…………了解した」

 

詳しく問いただしたいエミヤだったが、それを言われてはどうすることもできない。

 

(観念して厨房に戻るか…)

 

そう彼が踵を帰そうとしたと同時に。

 

食堂のドアが開いた。

 

(…見覚えのない顔だな。昨日掲示板で書かれていた御仁か?)

 

人数が多くなってきたカルデアにおいて、全員を集めるなんてことは時間の無駄遣い。

 

というかやることが多すぎてそんなことしてられないというのが現実だった。

 

現在は少し落ち着いてきたが。

 

そのため、

誰が召喚された等の情報は廊下にかけられたホワイトボードに記入されることで共有している。

 

エミヤはその掲示板を確認しており『オーマジオウ』とその家臣『ウォズ』がカルデアに来たことは知っていたが、片方は人間。もう片方は鎧を被った状態のため顔が確認できなかったのだ。

 

そして、今食堂を訪れた2人の人物。

 

片方は全体的に暗いファッションで室内にも関わらずフードを被り、もう1人の人間の半歩後ろを歩んでいる。

 

そのもう1人は、謎の光によって顔は隠されているものの、高齢者であることはなんとなくわかった。

 

謎の光の高齢者…謎の高齢者は食堂をキョロキョロと見渡し、若干ソワソワしている。

 

「我が魔王。こちらで食券を購入するようです」

 

『…うむ。久方ぶりの"分からない"という感覚だった。手助け感謝するぞ、ウォズ」

 

「勿体なきお言葉、ご光栄に預かります」

 

食堂にいる一部の人間はその様子を見ていたが、謎の高齢者が発する威厳を無視すれば、介護のような状態だった。

 

「エミヤ?どうしたの、そんなにジッ、とあのお爺さんを見つめて」

 

「……あ、あぁ、すまない。今戻る」

 

エミヤにしては珍しく動揺したかのように厨房に戻ろうとしたが、ブーディカがその動きを、腕を掴むことによって妨害する。

 

「…何か言いたいことでもあるのかね?」

 

少し苛立った様子でブーディカを振り返らずに答えるエミヤ。

 

「ねぇエミヤ。あのお爺さん、君が相手してみてよ。気になっているんでしょ?調理は私がやるからさ」

 

「なっ、何を…っ!?」

 

「ほ〜ら行って行って!お客さん、待ってるよ」

 

グイグイ、とカウンターに押し出されたエミヤ。

その反論を許さない迅速な動きに、エミヤは何もすることが出来ず引き摺り出されてしまった。

 

すぐ振り返り文句を言おうにも彼女はすでに調理を始めてしまっている。

 

「……やれやれ。全く仕方ない。こうなった以上、職務を全うするか」

 

いやあんたの本来の仕事は戦闘でしょーがというツッコミはしてはいけない。

 

「やあ。君がエミヤくんだね、注文いいかな?」

 

「あぁ。構わない。食券を渡してくれればすぐに用意しよう」

 

「では、これを」

 

黒いファッションの男が選んだのは『エミヤの日替わり定食』

 

「これでも結構美食な方なのでね。期待してもいいのかな?」

 

「…その挑戦、受け取らせていただこうか。必ず貴方の舌を唸らせてみせる」

 

「あぁ。楽しみにしているよ…では我が魔王。私は先に席を確保して待っているよ」

 

そう言うが早いか、黒ファッションの男…ウォズは一人でテクテク離れて行った。

 

「待たせてすまない。注文を伺おう」

 

ウォズを見送った後、魔王と呼ばれた人物に向き直る。相変わらず謎の光が差しており眩しい。

 

『…ハンバーグ定食を所望する』

 

朝からキツいもの食べますね我らが魔王。

 

「…!了解した。直ぐ用意する」

 

『うむ』

 

眩しい光を放ちながら「こちらだ。我が魔王」とウォズに導かれて行った。

 

「「オーマおじいちゃん一緒に食べよ!」」

 

なんか二人追加された。が、見て見ぬ振りをしながら彼はブーディカのいる厨房の奥へと引っ込んでいった。

 

「…こんなところで、あの人と全く同一の声を聴く事になるとはな」

 

脳内に、忘れていた一人の男を浮かべながら。

 

 

☆☆☆☆

 

「お、その様子だと、うまく話せたみたいだね」

 

「…調理に私も加わろう。あの御仁がハンバーグ定食を御所望でな」

 

「そっか。それなら、とびっきり美味しいのを作らないとね。久しぶりに会った人なんでしょ?」

 

「…なるほど、そう考えてあのような行動に出たのか…。残念だが答えはNO、だ。生憎と、あの御仁とは初対面でね」

 

「え、そうなの?…でも、その割にはなんだか複雑そうな顔をしているけど?」

 

「……ふ、なんでもないさ。ただ、あの声を聴いていると、妙に泣きたくなる。……いや、忘れてくれ。口が過ぎた」

 

「…うん。いいよ。あとでおねーさんがお母さんを慰めてあげる」

 

「…母ではない」

 

☆☆☆☆

 

【side エミヤ】

 

「お待たせした。日替わり定食とハンバーグ定食。熱いので気をつけるように」

 

『配膳、感謝する』

 

「ありがとうエミヤくん。……ではいただこうじゃないか…お手並み拝見させてもらうよ?」

 

「望むところだ」

 

食堂の一角。

共に食事をしていたマスター達はすでに完食をしていたらしく足早に去って行ったらしい。

 

これは後で聞いた話なのだが、遠目で私達のやり取りを見ていたらしく、邪魔するのも悪い、と思い直し少しの会話した後ワザと退出したそうだ。

 

…気配りができると言うか、無駄に気にしていると言うべきか。

 

まぁ、それは良い。

今はこの御仁方に感想を聞かねばならない。

 

特にこの光る御仁には、な。

 

「おぉ…胃もたれしない程度にボリューミーな肉に、食欲を刺激する漬物…そしてこの白いご飯にお味噌汁…。中々やるじゃないか、エミヤくん。あ、ソースとってくれ。あとおかわり」

 

「私は貴様の母親か!…だが、ご飯くらいならよそわせてもらおう。ソースは自分の手に取れる位置にあるだろう…そら」

 

緑色の茶碗を差し出してきたこのウォズとか言う男に少し多めに盛ったご飯を返却してやるが、ソースはとってやらん。

 

「ありがとう。…全くソースくらい取ってくれても良いじゃないか。ケチだな君は」

 

「生憎と、怠け者にしてやれることはあまり無くてね」

 

会話が途切れる。

 

これ以上はご飯が不味くなると直感したのだろう。

ウォズは一つため息を漏らし、食事に戻った。

 

(……さて)

 

私はメインの人物に目を向ける。

 

『…………』

 

どうやら丁度ハンバーグを食べるらしく、肉を箸で食べやすい大きさに切り分け、口に運んだその瞬間、眩い光が霧散し御仁の素顔が明らかになった。

 

目が死んでおり、意外とシュッとした白髪。

表情は薄くだが…これは…笑って、いるのか?

 

『エミヤ、だったか…』

 

「あ、ああ。どうかしたか?もしや口に合わなかったのだろうか」

 

『いや…』

 

御仁はもうハンバーグを口にする。

ゆっくりと味わうように咀嚼し、嚥下。

 

そして、私に顔を向け…こう言った。

 

『うむ、美味い。素晴らしい手腕だ–—––』

【うん、美味い。士郎はすごいなぁ–——】

 

「…………………………」

 

頭をよぎる、幸せだった日々。

そのうちの、()が特に若く、じいさんに初めてハンバーグを作った日。

 

なにせ……辛いことばかりだから。

思い出すと、苦しくて、戻りたくて、でも、それは叶わないとわかっていて。

 

だからもう、

思い出すことは、ないと思っていたのだが……。

 

 

「–——もっと、上手くなるさ。ずっと、ここにいたい、そう思えるくらいに」

 

 

気づけば、

あの時と同じような台詞を口にしていて。

 

 

『…そうか。それは、成長が楽しみだな』

 

 

御仁(じいさん)の返事を聞いた瞬間。

 

 

………私の頬を、熱い、熱い何かが伝って落ちた。

 

 

 




エミヤさんちの今日のご飯。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

双子マスターのフレンドに救世主が来たようです。

付けてるタグが生きる回
この回は深夜テンションで仕上げたから支離滅裂なのであります


「え…エミヤ、それ、本当に言ってる?」

 

カルデアの召喚ルームにて。

 

俺は、一推しサーヴァントであるエミヤと二人で来ていた。

 

いや、正確にはエミヤに呼び出されたいうべきか。

 

「ああそうだ。我が愛しのマスターよ。今日に限り、10連召喚を許可する」

 

俺がルームに入った時はすでにエミヤが待機していて、開口一番に

 

『10連して良いぞ』

 

と言い放たれた。

 

「う、嬉しいけど…どういう風の吹き回し?」

 

そう、普段から節約家でカルデアの備品の修理や掃除、食材の管理から調理までお手の物。

そんなカルデアのママは無駄に石を使ってはならないと常々口にしてきたのに、今日、いきなり解禁令がでやがりました。…ここまで急だと怪しくって警戒してしまうだろう。

 

「む、それはどちらの"嬉しい"だ?10連か?それとも私のマスターに対する呼び名か?」

 

え、そこ着目しちゃいます?

 

「えぇぇっと……どちらも、デス」

 

正直、愛しいとか言われても…嬉しいけど、困惑が勝るっていうか…。

 

でも正直に答えて機嫌損ねたくないしなぁ…。

 

「……割合は?」

 

…目がマジだ。

これ嘘ついたらoutだよね。

 

タイガー道場行きは勘弁だ。

 

「…7:3」

 

「ふむ、やはり10連は見送りに」

 

えええええええええええええええ!!?

 

それはマジ勘弁!いや、本当おあずけはダメだ!

 

…くそぅ!仕方ない!

なりふり構っていられないし、俺のカルデアで鍛えられた演技(ひまわりの様な笑顔)で誤魔化しにかかる!

 

「嘘嘘!100%だよ!エミヤの気持ちはすっごく嬉しいデス!」

 

やべっ、最後棒読みぽっいかもしれねぇ!

 

「そうか!それなら仕方ないな!」

 

チョロいぞエミヤ!?

こんな一般ピーポーに騙されないで!

いややっぱり騙されてて!俺10連引きたいの!

 

…っと、そういえば自己紹介がまだだったな。

 

俺の名前は純一郎。

 

カルデアの最後のマスターであり、平行世界のマスター達のお手伝いさんをやらしてもらっている。

 

なにせ…俺んとこのサーヴァントは少数にも関わらず気合とガッツがすんごいからめちゃんこ強い。

 

だからこんな特異点攻略中に余裕がある。

偶然知った平行世界のお手伝いができてしまう。

 

あと俺のマスター適正が高いのか、それとも何か概念的なのが働いているのか、最初からレベルMAXで召喚されるサーヴァントが何体かいる。

 

エミヤもその一人だ。

 

「なあ愛しのマスター。10連を引かせる条件、と言ってはなんだが、今日、君の部屋で料理を作らせてもらえないだろうか」

 

「えっ……因みになに使うんだ?食材」

 

……そのレベルMAXで召喚されるサーヴァントの共通点2つあり、1つは『男』である事。

 

もう一つは…。

 

「フッ…食材などいらないさ。…何せ、必要なのは君を食べる(性的に)ための下準備(穴をほぐす)だけだからな」

 

俺に、並々ならぬ性欲を向けるもの。

 

……紹介に補足させてもらおう。

 

俺は、何故か男サーヴァントにケツを狙われる運命に囚われた一般人マスターである。

 

………なんでさ。

 

まぁ勤勉な観測者の皆さんなら、この俺がそんな頭のイッちまった英霊をのらりくらりと躱していくような語り草だと察しているだろう。

 

そんな方々に1つお知らせがある。

 

 

–––––俺は非処女だ。

 

 

–––––既に掘られたあとなんだよ(事後)

 

 

はじめてはランスロット(バーサーカー)でありました。

 

 

しぬかとおもった。

 

 

だからもう開き直って楽しむことにした…と、いうわけでもない。

 

…一度……乱交みたいになったことがあり…サーヴァントほど体力がない俺は…気絶して…しまいまいましてね…?

 

それ以来みんな自粛してくれているんだけど…今日のエミヤみたいに爆発寸前なんだ。

 

だから、何か、この状況で俺のケツを狙わない女性サーヴァントの切り札が欲しいのだよ。

 

……まあそのためにエミヤにケツを捧げるという犠牲は必要みたいだけどネ(白目)

 

「ワカッタ。イイヨ」

 

「本当か…!そうか……!!」

 

くぅ〜よしっ!

と喜んでいるエミヤを尻目に俺は死んだ目でガチャを回す。れでぃごー。

 

この召喚は初めてくるサーヴァント(または概念礼装)の場合のみこのルームに現れる。

 

それ以外は倉庫や応接間に飛ばされて、宝具強化やマナプリズム化、QP化される。

 

今回もその例にもれず7回目光を放つがこのルームにはなにも現れなかった。

 

そして8回目……どうやら、神は俺を見放さなかったらしい。

 

3つのリングが虹色に発光。星5確定演出!

 

(どうかっ…!どうか女性サーヴァントでありますようにっ…!!)

 

さぁ!お仕事ですよ神さま!

俺の願い聞き届けてください!

 

「サーヴァント『アーチャー』真名は【ゲイツ】救いを求める声に応じ参上した。…悪はどこにいる」

 

召喚されたのは男!神は死んだ!

しかもステータスレベルMAX!神は神でも疫病神であったかチクショー!

 

…あれ?でもその割には俺に獣の様な視線は向けてこないな。

 

「……そいつか」

 

【ゲイツリバイブ!剛列!】

【ゲイツリバイブ!疾風!】

 

ふあっ!?

ちょ、宝具かなそれ!?

 

「や、まってまって!もしかしてエミヤのこと言ってる!?」

 

「…ならどいつだ。俺が呼ばれたということは、滅ぼすべき魔王でもいるのだろう」

 

「いやまぁいるにはいるんだけどさぁ!」

 

第4特異点の最後に出てきたソロモンとか言うやつとかね!魔神柱出してきたけど割と余裕で突破したのを見て少し面食らってたお陰であまり脅威的な印象残んなかったけど!!

 

「悪は滅ぼす。それが俺の決めた道。例え相手が一番の友であってもだ。…サーヴァントになる前のような甘さは捨てたつもりだが、万が一迷いが見えたのなら令呪を使ってでも俺を動かしてくれ」

 

やばい。なにがやばいってうちのメンツとの温度差がやばい。

 

多分この人生前、自分の使命を友達より優先させて倒しちゃって、それで英雄になったパターンだ。

 

うちのメンツにもいるかもしれないけど、普段のムーブ見ているとこの人の覚悟との差が浮き彫りになってて、やばい(語彙喪失)

 

「悪…か…」

 

あっ!正直怒涛の展開で忘れたけど、エミヤちょっと傷ついてるよ!

 

め、メンタルケアは必要か!?

 

「そういうプレイも…ありか…」

 

要らなさそうだなこのヤロー!!

心象風景風俗と化してそうだなこのヤロー!!!




仮面ライダーが性欲塗れはいかんでしょ!
という概念から生まれた仮面ライダーゲイツは性欲かわりに覚悟が増大し【オーマジオウを倒し、その後も悪を滅ぼし続けた救世主ゲイツ】の世界線が生み出されて今回召喚された。

アーチャーなのはジカンザックスに弓モードがあるから。
あとバイクより走った方が速いし、疾風×2だとハイパークロックアップみたいになるから(独自設定)

ボツにした会話

エミヤを見て「……もう一度聞くが、そいつか?」

「貞操を狙う悪という意味ならうちのメンツ殆ど悪だなぁ…!で、でも味方で心強い人たちなんだ!羽目を外しすぎることあるけど!」

「そういう奴らほど、覚醒した時が怖いものだ。言っとくが体験談だぞ?」

覚醒してこの状況なんだよなぁ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オーマジオウはひ孫に甘いようです。

このカルデアにいるサーヴァントは私のカルデアを参考にしています。


『…この年になって女子の部屋にお呼ばれするとは思わなかったな…正確には姉弟の部屋だが』

 

「え、そうなの?意外。なんか、すごくやり手なイメージがあったんだけど…」

 

『…そうだな、別の私なら、そういうこともあったかもしれないが…』

 

「別の…オーマじいちゃんにもオルタがいるの?」

 

『正確には別世界の、だが…確認できるだけでも大体20人前後くらいはいる』

 

「そんなに!?」

 

カルデアの廊下。

 

そこは、生き残った職員だけでなくサーヴァントも行き来する公共の場。

 

人理焼却前から人が途切れないことで有名なその廊下で、とある人物達が妙な存在感を醸し出しながら闊歩していた。

 

人類最後のマスターの片割れ(女主人公)と、謎の光が取れて普通のおじいちゃんになったオーマジオウである。

 

もちろん通行人は彼ら以外にもいる。

 

しかし、マスターはサーヴァントとの絆を育むのも立派な仕事の一つ。

 

故に、カルデア職員はよほど緊急でもない限りはサーヴァントと談笑中のマスターとは話しかけないという暗黙のルールができていた。

 

「あ、おかーさん!」

 

「お、ジャックちゃん!どーしたの?」

 

しかし、それはあくまで職員内での約束事であるためサーヴァントには関係ない。

 

むしろ一部(マスターLOVE過激派)は積極的に割り込んで新人に釘をさしたりする。

 

その筆頭は清姫であるのだが…これはまた後ほど。

 

「あのねあのね!さっき種火をたっくさんとってきたんだよ!」

 

「本当?ご苦労様!いつもありがとう。毎回周回メンバーだけど、疲れてない?」

 

「んーん!ぜんぜーん!私たちは、おかあさん達のためならなんだってできるもんね!それに、何回も解体できるからすっごくたのしいんだよ!」

 

「そっかー!もーかわいいなぁうちの子は!」

 

「わっ、くすぐったいよぉ……えへへ」

 

突然立香に突進してきた露出度の高い子供。

この子は別にカルデアに元からいた誰かの子供ではなく、れっきとしたサーヴァントの1人なのだ。

 

最初はこの突進で転んでいた立香も、もう慣れたもので多少よろめく程度に収まっていた。

 

ここまではいつものカルデアの風景。

 

『…まさか、マスターはその年で子供を…?しかもそれなりに大きな…』

 

「!?」

 

ちょっと違うのは、人の心が分からないまま王様になってしまった平成の墓守がいたこと、ただそれだけである。

 

「え、いや、ジャックちゃんは私が産んだわけじゃないよ!?」

 

『だがその子はマスターを母と呼んでいるが?』

 

「うん!おかーさんはおかーさんだよっ」

 

「そうだけど、そうじゃないの!」

 

とてもややこしい。

 

「…我が魔王。マスターはまだ未成年だ。こんなに大きな子供が産まれるわけがないだろう?彼女はサーヴァントだよ」

 

『ウォズ…。確かにそうだな、うむ』

 

見かねたウォズがフォローをしに来た。

明らかに呆れている。

 

しかし口元には笑みが溢れている。

 

2068年では常に張り詰めていないと行けなかった為に、若き頃のような談笑が出来なかったのだ。

 

もしかしたら、カルデアに来て少し昔に戻ったオーマジオウに感動しているのかもしれない。

 

『…そうだな、うん。子供か…』

 

「オーマじいちゃん?」

 

「おじーちゃんなの?なら、わたし達にとってのひいおじいちゃんだねっ」

 

『おぉ…!うむ、うむ…』

 

「わ、我が魔王…いかがなされました?」

 

ズキューン!

そんな音が聞こえた気がする。

 

恋愛コンボでも入ったのだろうか。

いや親愛?どちらでもいいが。

 

『なら、ひいおじいちゃんとしてひ孫にはおもちゃをプレゼントしようか』

 

「は?」

 

失敬。

おじいちゃんスイッチだったようである。

 

オーマジオウは懐に手を入れ…スッと何かを取り出した。

 

【ライドヘイセイバー!】

 

自己紹介どうもありがとう。

 

『音の出る武器(おもちゃ)だ。時計の針を回せば色んな技が飛び出る。さすがにカルデア内では使ってはいかんが、シュミレーターや特異点では自由に使うのだぞ?』

 

「わっ、すっごい派手だね!ありがとう!」

 

「お、オーマじいちゃん…これ、本当にいいの?すっごい魔力を感じるけど…宝具なんじゃ…?」

 

『問題ない。それくらいならいくらでも出せる』

 

「我が魔王…」

 

まるで年金はいくらでもあるからなんでも買ってあげるよと孫に自慢げに話すおじいちゃんのようだ。

 

流石のウォズもこれには本気で呆れている。

 

しかしジャックもオーマジオウも無邪気に喜ぶので文句というか、小言を言うに言えない。

 

立香も立香で、やっぱりすごい英雄なんだと戦慄を隠しきれない。

 

「あのねあのね、ひいおじいちゃん、おねがいがあるんだけど…」

 

『なんだ?』

 

「わたし達をたかいたかーいしてほしいな!」

 

『それ程度なら、いくらでも』

 

「わーい!」

 

しかし、目の前に広がる光景は孫と祖父が戯れる微笑ましいものだ。

 

————カルデアは今日も平和である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

姉マスターは壊れているようです。

キャラ崩壊注意。


マイルーム。

それはカルデアに住み込みで働いている職員のために用意された個室の事である。

 

個室といえば、所有者が外ですり減らしたメンタルを回復する数少ない癒しの場でもあるのだが、カルデアに届く物資は少ないため、趣味で埋もれているマイルームはほとんどない。

 

ただし一部の部屋では男の娘の写真で埋め尽くされたり、マスターの写真が天井に貼り『マスターがずっと私を見ている…!』と悦に浸るような特殊な人たちがいるのだが……。

 

姉の方のマスター、

立香もその一部に含まれていた。

 

「さ、はいってはいって!」

 

オーマジオウは、少しばかりドキドキしていた。

 

若き頃では人付き合いはそれなりにしていたが、友達ではなく民との触れ合いの側面が強かったために、誰かの家へとお邪魔したことがなかったからだ。

 

『お邪魔する』

 

「うん、どうぞどうぞ!」

 

故にオーマジオウは気付かない。

 

壁一面に男主人公(リッカ)の写真を引き伸ばして貼り付けられているのが異常だと。夜中2時を回ってお呼ばれすることの非常識さを。これが女の子の部屋かぁ…と、呑気に考えているのだ。

 

「ねぇ、オーマじいちゃんってさ、聖杯を手に入れたらどうするの?」

 

『聖杯……。そうだな、何か願うとすれば、より良い時代が来ますように…だな』

 

英霊によっては重たい質問もコミュ力お化けな立香は相手に不快感なく聞くことができる。

 

……が、どう考えても最初の一歩でドン引きされているのでプラマイ0どころかマイナスに舵が切られてしまうのだ。

 

そしてこの部屋を訪れた英霊の7割が同部屋のリッカを慰めに行くまでがセット。

 

因みにリッカによると、実家にいた頃はこんなことをしてはおらず、今よりはボディタッチも少なかったそうだ。

 

人理修復という重荷。

それをストレスに感じない訳がなく、溜め込めばいずれ自滅する。

 

彼女のメンタルケアを行うドクターからも《なるべく好きにさせていた方がいい》と進言されたこともあり、リッカは立香を咎めることはしないそうだ。

 

【大事に思われていることは嬉しいし、オレが立香の…姉ちゃんの支えになれてるなら本望…まぁ流石にあれはドン引きだけど】

 

とは本人の弁である。

 

「じゃあ好きなものはなに?」

 

『好きなもの……誰かの思いがこもった料理は好きだ。中でも、育て親が作る種類が好ましい』

 

「ほうほう…俗に言う母の味というやつだね!」

 

立香の目をよく見てみるとわかるが、彼女の瞳に光はない。

 

普段は照明器具のお陰で誤魔化せているが面と向かって対峙するとよく分かる。

 

彼女の精神は最初の冬木の時点で砕けていたのだ。

 

「それなら嫌いなものは?」

 

『人の死を笑う者は、絶対ゆるさねぇ!』

 

「そっか…うん!そうだよね!」

 

辛うじて戦い続けられているのは、弟の存在があったからだ。

 

それもそうだろう。

昨日まで普通の生活をしていた未成年が、いきなり命の危機に見舞われ世界を救うという使命を与えられて耐えられる訳がない。

 

姉として守らなくちゃいけない、と己に言い聞かせて漸く奮起ができたのだ。

 

そしてそれを継続するためにはガス抜きとしての趣味が必要になる訳だが…カルデアに持ち込める道具(娯楽)は非常に少なく、弟と絡むくらいしか心の安らぎがない状況は、普段からブラコン気味だった立香のブレーキを完全に壊した。

 

一番身近で、一番自分の事をわかってくれて、一番大事な弟の存在がどんな危機的状況でも彼女を奮い立たせる。

 

逆にいえば、リッカがいなくなれば彼女は立つことすらままならなくなるということでもある。

 

ただ、性的欲求は全くない。

感覚的にはアイドルオタクが『あの子がいないと生きてけない!』と言っているようなものだ。引退したら絶望する。

 

……事の重さが桁違いではあるが。

 

「そういえばオーマじいちゃんっていつの時代の英霊なの?」

 

『平成だ』

 

「えっ、うっそ同世代!?」

 

ここまで立香が笑えるようになったのも、第3特異点を攻略し終わってから。日々メンタルケアを行うドクターと立香、リッカの努力の賜物である。

 

「あー楽しかった…あ、そうだ、一つ提案があるんだけど、いいかな?」

 

『なんだ?』

 

「最終再臨の姿になってみてよ」

 

『かまわんが…フッ!』

 

既に聖杯は捧げられていないものの最終再臨は終えていたオーマジオウは、諸葛孔明もとい、ロードエルメロイⅡ世よろしく若き頃の姿に変えることができる。

 

しかし、何故いきなりこのようなことを頼むのだろうと不思議に思いつつも、オーマジオウはマスターの要望に従い姿を変えた。

 

「ありがとう!…ところでさ、カルデアの電力による魔力供給ってちょっと味気ないと思わない?」

 

ん?

 

『味…?いや、魔力にそんなものはないだろう』

 

生前、魔力は仮面ライダーウィザード関係でしか関わったことがないオーマジオウ。

 

その力を継承した影響か、攻撃に使った魔力は回収できるのでむしろ有り余っている。

 

なので、カルデア所長代理には魔力供給は1週に3日ほどで良いと伝えるほど。

 

なので味がどうこう言われてもピンとこないのだ。

 

「おっとまさかの無知シュチュ。これはなかなかオツですな」

 

ギシッ

ベッドが軋む。

 

『マスター。何故私をベッドの隅に追い詰める?』

 

「大丈夫大丈夫。みんな病みつきになるからね…天井のシミを数えていれば終わるよ」

 

『お前は一体何を言っているんだ』

 

…彼女の弟に対する思いはとんでもない方向へと向かっている。推定人類悪レベル。

 

そう!彼女はカルデアのサーヴァントと男女問わず性的関係を結んでいるのである!!!!

 

それは『弟とマシュをくっつけるために、しょうがいとなり得るもの全てを取っ払ってやる!』というおもいから!

 

つまりはみんな私に夢中になれば2人はくっつくしかないよね!

 

という事である!

……いやどういう事だよ!

 

「令呪を持って命ず!私に全てを預けて!」

 

『お、落ち着けマスタァー!』

 

 

 

 

 

【見せられないよ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

『……と、いうことがあったんだ。みんなもマスターには気をつけるのだぞ』

 

『『『りょ、了解』』』

 

オーマジオウは全てのオーマジオウと情報をリンクすることが可能である。

 

別世界の自分とのチャットができるのだ。

 

その情報を見た、境遇が非常に似ている()()()()()()()()()()にいるオーマジオウは冷や汗をかいた。

 

(私もこれからお呼ばれするのだが…大丈夫だろうか…?)

 

朝食が終わって移動し始めたばかりなので大丈夫だとは思うが、やはり心配なものは心配だ。

 

「オーマじいちゃんどうしたの?」

 

『いや……なんでもない』

 

(そんなまさかな)

 

本をパタンと閉じるようにその考えを断ち切ったオーマジオウ。

 

それと同時にマスターの部屋へと辿り着く。

 

「さ、入って入って!」

 

『ふむ、お邪魔しよう…』

 

どうか違ってくれますように、と願いつつオーマジオウはマイルームに入り込んで———。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おっと。

どうやら今回はここまでのようです。

 

この後我が魔王がどうなったかは、皆さんの想像に任せるとしましょう。

 

それでは、いい夜を。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏休み特異点【駄菓子屋オーマ】

幕間のネタが思い浮かばないので息抜きに執筆しました。ゲーム風です。


>村の外れに着いた。

>道路は途切れているが土の道が続いている。

 

>さらに進みますか?

>『はい』 『いいえ』

 

>道なりに進むと、

>突き当たりにポツンと一軒家が建っていた。

 

>立て掛け看板には【駄菓子屋オーマ】という文字と

>2頭身のカラフルなキャラクター達が、20人ほど

>描かれている。

 

………む。

弟の方のマスターか。

 

私の店によく来たな。

 

>駄菓子屋と思われる店から顔に赤い文字で

>【ライダー】と書かれている金の甲冑を着た人物が

>話しかけて来た。

 

不思議そうな顔をしているな…。

もしや私のことを忘れてしまったのか?

 

>あなたは首を傾げる。

>『少なくとも、

 こんな凄みのある甲冑を着た人は初めて見た』

 

…そうか。

 

>『あなたは何者?前にあったことがあるの?』

 

……私が何者かは、いずれ思い出すだろう。

それまでは、普通の老人として接してもらえるとありがたい。

 

>『ここで何をしているの?』

 

見ればわかるだろう?

駄菓子屋経営だ。

 

駄菓子屋といっても、

液体のりやハサミなどの文房具も扱う、田舎特有の何でも屋のようなものだがな。

 

>『…その格好で?』

『…暑くないの?』

 

仕方ないだろう。

なにせ、この特異点では特定の人物に強い縛りの【役割】が与えられるのだからな。

 

お前たちマスターが、10代に届かぬ程度の子供になっているのと同じだ。

 

私はこの通り【駄菓子屋の店長】なのだが…。

 

その影響か、

何故か変身が解除出来なくなっている。

 

>『よくわからないけど、それ大丈夫なの?』

 

ふ、心配には及ばない。

 

何せ、

生前も歳を50重ねた頃合いから落ち落ち変身も解けなくなるほど体にガタが来ていたのだからな。

 

むしろ、この姿の方が健康的なのだぞ?

 

>『そっか…』

『なんか生々しい…』

 

ところで、ここは駄菓子屋だが……マスターは何を求める?

 

ライバル店であるインドマートやコンビニエンスストアに比べると品揃えは劣るが……品質では最高最善最強だと約束する。

 

……QPは頂戴するが。

 

そのような目でみるな。

そういう役割なのだ。諦めろ。

 

>何を買おうかな。

>右クリックで解説が聞ける。

 

『すごい虫取り網』 1000QP

『すごい虫取り籠』 800QP

『すごい釣竿』 1000QP

『罠用のバナナ』 200QP

『魚のエサ』300QP

『お菓子の詰め合わせ』500QP

『マッドドクター(使い切り)』8000QP

『タカウォッチロイド』7500QP

次のページ>

 

>『すごい虫取り網』

 

それか。

それは若き日の私がよく使っていた虫取り網を様々な手段で強化したものだ。

 

通常の虫取り網では使うごとに耐久値が減少するが、その虫取り網に減少は無い。

 

…だが、流石に武器として扱えば耐久値は減る。

正しく扱うことを祈るぞ。

 

因みにだが、私が直々に強化した日用品や遊び道具などのものには、商品の名前に『すごい』という名称をつけている。参考にするといい。

 

>『マットドクター(使い捨て)』

 

全身に凄まじい痛みが走り、精神力が少し減るが、体力を全回復させることのできる車型アイテムだ。

 

本来なら使用制限は存在しないのだが…。

この特異点ではどうしても縛りが効く。

 

一人につき一つまでが所持の限界となっている上に割高となっているが、効果は抜群。

 

体力のほかにも、例外を除き毒や病気なども治療できる優れもの。

 

扱いどころを見誤ることのないようにすることだ。

 

>『タカウォッチロイド』

 

誰かを捜索する際に使うといいだろう。

空からの索敵も可能だ。

 

重さにもよるが、何か一つ荷物を持って運ばせることもできるように設定されている。

 

持ち運びに制限はない。

 

存分に購入するのだぞ?……冗談だ。

 

☆☆☆☆☆

 

>『すごい虫取り網』×1

>『すごい虫取り籠』×1

>『すごい釣竿』×1

>『罠用のバナナ』×3

>『魚のエサ』×3

>『マットドクター(使い捨て)』×1

>『タカウォッチロイド』×2

 

>以上を購入しますか?(27300QP)

>『はい』 『いいえ』

 

>いっぱい買った!

>少し重い…。

>自宅に帰るまでの移動速度が減少した。

 

……マスターよ。

少し…いや、かなり重そうだな。

 

>『これくらい平気だよ!』

『うーん、結構辛いかな…』

 

ふ、マスターも男の子ということか。

誰かに弱みを見せまいとする姿勢は大いに結構。

 

しかし、だ。

 

>駄菓子屋オーマの店長は

>あなたの荷物を半分強奪した。

>移動速度が元に戻った!

 

1人で全てやろうとするな。1人で全部出来てしまうと、仲間がいる意味が無くなる。

 

そのまま突き進んだ先に待つのは孤独だ。

 

……私がその例だな。

 

>『店長は1人じゃないよ』

 

む?

 

>『だって、俺が一緒にいるからね!』

 

—————。

 

>『話は難しいけど、ようは孤独になるなってことでしょ?なら俺、それはすっごく得意だし!…俺は弱いけど、その分いっぱい助けてくれる仲間ができたんだ。だからさ、店長も、その助けてくれる人の中に加われば…ほら!もう1人じゃなくなった!』

 

……お前は面白いな、リッカ。

確かにリッカなら孤独にならないだろう。

 

………なら、私もリッカが1人にならないよう、王として、店長として手助けさせて貰おうか。

 

>『うーん。それって友達としてじゃダメなの?』

 

なに?

 

>『なんか、王様だとか店長だとかじゃ少し遠い気がするんだよね!だからさ、本当の1人ぼっちにならないように!友達になろうよ!』

 

友達…!

友達か…!

 

>『駄目かな』

 

そんなことはない。

フフッ…いいだろう!

 

今日から私はリッカの友となった!

 

これからよろしく頼むぞ?リッカ。

 

>駄菓子屋オーマの店長と友達になった!

>お昼はお店があるから閉店してから遊びに誘おう。

 

>夕方行動メンバーにオーマジオウが加入しました。

 

>夕方に駄菓子屋オーマを訪ねることでオーマジオウをパーティに加えることができます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【日記】

その後は、そのままオーマジオウに半分荷物を運んでもらって帰宅した。

 

頼光お母さんとジャンヌお姉ちゃんに紹介した。

何故かオーマジオウが俺のおじいちゃんになった。

 

オーマおじいちゃんが我が家に住むことになった!

なんでぇ!?

 

 

 




夏休みを繰り返す系のハートフルホラーやりたい。戦闘があるとなおよし。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間の物語
トリニティ。①


「トリニティマー?」

 

「そう!リッカ君ことマスターとマシュと最初にマの付く英霊……3人の"マ"力を結集させる礼装が完成したのだよ!」

 

「ちょっと何言ってるかわかんないっすね」

 

夜中0時。

 

普段のオレはこの時間帯はぐっすり眠っているはずなんだけど、目の前で酒瓶に囲まれながらニッコニコなモナリザ顔の天才に緊急連絡を受けたため、飛び起きカルデア制服に袖を通し迅速に工房にやって来た。

 

…よく見てみると、ダヴィンチちゃん以外にも寝っ転がってる共犯者(ウォズ)もいるようだが…意識はないみたいだ。

 

「…かなりお酒、飲みましたね」

 

いつも物が散乱しつつも清潔感はあった工房がみる影もない…ついでに酒臭い。

 

エミヤと婦長さんがブチ切れする案件じゃないかなこれ。健康に害を与えるような暴飲暴食はあの2人大っ嫌いだし。

 

「なにおー!この天才が、酔っ払ってるとでもいうのかー!?」

 

「キャラ!キャラ崩れていることに気付いて!」

 

「ふっ、既存のものは新しい法則の前に崩れ去ることもあるのさ。わかるかい?」

 

「わかりません。で?礼装がどうのこうの言ってましたがなにができたんです?」

 

これ以上は時間の無駄になりそうな予感がする。

幸い明日は休日と設定されてるから問題ないけど、健康のためにも早く寝ておきたい。

 

なにより、寝坊したらエミヤのご飯が食べられなくなる。それだけは絶対に嫌だ。

 

そういうわけでサッサと切り上げるのが吉。

本題を早く言うように催促する。

 

「むーつれないね。ま、いいさ!今日はそれが主題じゃないからね…という訳で(ガサゴソ)」

 

なんか酒瓶の山を漁りだした…。

 

「じゃじゃーん!ジクウドライバー!」

 

「!?」

 

ファッ!?

最近召喚したゲイツが持ってたやつ!

 

「ちょ、ちょっと待ってなんでダヴィンチちゃんそれ持ってるの!?ていうか作ったのそれ!?」

 

「天才に不可能はないからね!ウォズ君に実物借りて変身システムも完全コピーして見せたとも!外見だけだけどね!」

 

「すごい!さすが天才!酔っ払いでもその頭脳に狂いはなかった!」

 

「当然のことをわざわざありがとう。でも中々どうして嬉しいものだね、これは」

 

オレがちょっとオーバーに褒めると、お酒で赤くなっていた頬をポリポリかいて照れた様子を見せてくれるダヴィンチちゃん。

 

かわいい。だが男だ。

 

————しかしそれがいい。

 

————ちくわ大明神。

 

誰だ今の。

なんだ今の。

 

「しかしだ、今の時間にこんなことをやってしまっているのだから、お説教は確定だよねー」

 

「まぁ、当然そうなりますけど…何かあったんです?」

 

ダヴィンチちゃんがここまで酒に溺れるなんて初めて見た。やっぱり事務作業が多すぎてストレスになっているのだろうか?

 

「むふー!実はね、ちょっとした寝酒のつもりで私の美しさをつまみに飲んでいたら…なんと、止まらなくなってしまったのさ!」

 

「大丈夫?お医者さん呼ぶ?」

 

「おっとそれは勘弁だ。治療(物理)されてしまう……あと、そこの酒瓶の山の下にお酒を試しに飲んでみたらぶっ倒れたエリザベート君が埋まっているから助けてあげて」

 

「なにしてんのエリちゃん!?」

 

エリちゃん…アイドルがお酒に飲まれたらいけませんよ…マネージャーとして起きたらお説教です!

 

…と、取り敢えず引っ張り出さないと。

ダヴィンチちゃんは予想以上に酔っ払っているのかずっと笑ってばかりで手伝ってくれなさそうだし、一人で頑張るか。

 

「…てかサーヴァントが気絶するってとんでもないものよく用意しますね…」

 

酒瓶を整理しつつも、ふと疑問に思ったことを投げかけてみる。

 

あ、髪の毛が見えてきた。

エリちゃーん!

 

「なぁに、君が周回で稼いだ素材をチョチョイと拝借…あっ」

 

「はい?」

 

おっと、お説教相手が増えたぞう。

 

エリちゃんを引っ張り出しながら、ダヴィンチちゃんに顔を向ける。

 

「ま、待ちたまえリッカ君。君は今、冷静さを欠いている…ちょっとした出来心だったのさ…お詫びに呼あげるから許して?」

 

「……もう」

 

しょうがないなぁ…。

ダヴィンチちゃんも疲れてたみたいだし、オレの苦労が少し増えるくらいだからまぁ…。

 

「さぁて今日はお開きとしようか。効果の程は、明日試してもらうとしよう!あ、ウォズ君は私に任せて」

 

「了解。おやすみなさいダヴィンチちゃん」

 

「おやすみ、いい夢を」

 

その日はエリちゃんを立香のベット(本人は特異点攻略中)に寝かせ眠りについた。

 

☆☆☆☆

 

—————王様になる。

 

原点は小さい子供の時の夢。

時には馬鹿にされ、まともに考えろとも言われた。

 

しかし、私の意思は曲がることなく突き進む。

 

—————変身!

 

始まりの日。

化物が民を襲い、私は助けようとしたが…あまりにも無力であり、あっさりと目の前で命が奪われてしまった。

 

そんな時、傍にドライバーが自然と現れて…流れのままに変身。

 

これ以上の犠牲が出ないように私は戦い、正義の味方の力を継承した。

 

次に、病気で苦しむ民を助けようとして再び化け物と戦い、ゲームの力を継承した。

 

その後も幽霊や魔法、ライダーなのに車の力を継承したり、他ライダーと強敵が戦っている謎の空間に単身で乗り込み撃破し、その時空の正義の味方と邂逅したりと…語りきれない出会いがあった。

 

そして別れは突然だった。

 

19人のライダーの継承が終わった途端…クォーツァーなる組織が平成を否定し、今まで継承して来たと思っていたライダーの力は実は奪って来た物だと知らされて……。

 

それでも諦めまいと戦っている最中に…最悪の事態が起きた。

 

—————おじさんッ!しっかりして!おじさん!

 

目の前で、今まで自分を大切に育ててくれた人を亡くした。

 

それも、私を守る形で…。

 

—————事情はまるでわかんなかったけど…体が勝手に動いちゃってね…無事でよかった。

 

私、は…。

 

私は…っ!

 

私はッ!

 

 

—————『祝福の刻』

 

 

 

祝ってくれる人なんていない。

たった今目の前で死んでしまったから。

 

なのに、ベルトの声がいつもと違って、おじさんのように聞こえるのは何故だろう。

 

 

……結果として、クォーツァーの幹部の討伐は一人取り逃がした事以外は成功した。

 

 

しかし、対応が遅すぎた。

 

 

世界の人口は半分となり、世間は私を魔王と呼んで攻撃を始めたのだ。

 

話し合おうにも聞き入れてもらえず、やむなく武力行使に出るしかなかった。

 

…取り逃がしたクォーツァーの幹部が裏で情報操作したのだと気づいた時はもう味方はいない。

 

私は孤独の魔王として世界に君臨し続ける。

 

たまにくる地球外からの侵略者の排除やレジスタンスを撤退させる生活を、気づいたら50年近く経っていた。

 

変わったこともある。

ウォズと名乗った家臣ができた。

 

隙とも言えない隙をついてライドウォッチをレジスタンスの1人に奪われた。

 

この二つの出来事には本当に驚かされ、今でも鮮明に思い出せる。

 

しかしながら、50年で鮮明なのはこの二つの程度。

 

我ながら良く持ったなと思う。

 

私が耐えることのできたこと…それは、奪ってしまったライダーたちへの贖罪の面が強く、誰も覚えていなくても私が覚え続けることで、誰の記憶にも残らない…なんてことにはさせない為だ。

 

 

…いわば『平成の墓守』と言ったところだろうか。

 

 

……レジスタンスが過去に行くと知った時、なんて無駄なことをするのかと疑問を抱いた。

 

過去の自分なら倒せるという根拠はどこから湧いてくるのかが、本気でわからなかった。

 

故に見逃して様子を伺う。

 

するとどうだ。

過去の私が私の知らない力で私に膝をつかせたではないか!

 

……いや、時系列は逆だったか?

 

なにしろ、私の出来事なのか共有した出来事なのか年々判別がつかなくなってきている。

 

まぁ、それは置いておく。

 

重要なのは、過去の私が違う未来の可能性を見せてくれたという事。

 

そして、成し遂げて見せたのだ。

若き日の私は、私という物語を受け継ぎ20人のライダーを継承し、真の最高最善の王へと『変身』した。

 

嬉しかった。

漸く、私たちは前に進むことができたのだ。

 

もう、思い残すことはない…。

が、それはそれとして地球の危機には参上しようと思い『座』に登録される次第となった。

 

私が呼ばれるということは、最低でも人類の危機ということだし、気合を入れ召喚を待った。

 

そして、時は来たる。

 

私を呼ぶ声に導かれ…眩い光に包まれて————。

 

 

☆☆☆☆

 

「子イヌ?起きなさーい!」

 

「ッ!?」

 

目が覚めた。

変な汗がビッショリと体を濡らしている。

 

「エリちゃん…おはよう。二日酔いしてない?」

 

「サーヴァントなんだから大丈夫に決まっているでしょ、そんなことより着替えてらっしゃい!アイドルのマネージャーが汗臭いなんて許さないんだから!」

 

「ごめんごめん…、じゃあ着替えてくるから」

 

着替えを持って脱衣所へと向かう。

ついでにシャワーも浴びよう。

 

「って、なんで私子イヌの部屋で寝てるのよー!?」

 

「………」

 

説明めんどくさくなりそう。

まぁいいや。

 

「…オーマじいちゃん。報われたのかな」

 

本人そう言ってたし、話に出ていたっぽいゲイツは召喚できた。

 

けど、あまり話している様子がないんだよね。

 

「ちょっと聞きに行こうかな」

 

レイシフトメンバーじゃなかったはずだし、カルデアの何処かにいるはず。

 

なら善は急げだ。

 

オレはさっさと全裸になりシャワーで汗を流し、タオルで体を拭こうとして—————。

 

「ちょっと子イヌ!なんで私貴方の部屋、で寝て……」

 

「あっ……」

 

「えっ…!?」

 

———その日、カルデアに二つの悲鳴が響き渡り、一部機械が壊れたそうだが、オレは何も知らない。

 




②に続く。多分。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。