ネコ (ミーちゃん)
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1話

二つも途中の小説があるのに新しく書いてしまった。し、仕方ないのです。ここ最近ずっと忙しくてポケモンもできなし、ガチャは爆死するしで息抜きがしたかったんです(言い訳)
だから、文章上のルールもあまり守ってないので読みづらいかもです。





 吾輩は猫である。黒翡翠の様な漆黒の体毛、ルビーを思わせるような煌く深紅の瞳をもつ黒猫である。今世の名前はまだ無い。どこで生まれたのかまるで見当がつかぬ。何でも真っ白な空間で神と名乗る者と話したことだけは記憶している。暇つぶしに人間であった頃の吾輩を殺し、過剰なまでの力を与えて猫に転生させた神は許さぬ。現在を見通す程度の千里眼、天候を容易く変化させられるほどの超能力、どこぞの金ピカ王が持っていそうな蔵(射出も可)、病気や毒で死なれても困るからと不老不死を、その他にも様々な力を与えられた。力を与えられる度に吾輩の魂は悲鳴を上げていた。あの真っ白な空間では肉体がなく魂のみの姿であったが、肉体があれば全身から血を吹き出し倒れるレベルだろう。しかも、たった一回でそのレベルだ。先程も言った通り、神はそのような力を吾輩に幾度も与えた。発狂しそうなほどの痛みを何度も味わうが、ついぞ狂うことはできなかった。神が吾輩の魂が壊れないようにしていたらしい。そう言っていたのを記憶している。痛みを消すこともできたがそれはしなかったとも言っていたな。つまんないし見ていて愉快だからと・・・・・・・・・・・・絶対に許さぬ。

 

 その後、神は吾輩を転生させた。当然ながら、どんな世界なのか説明してはくれなかった。今更期待していなかったが。

「私が与えた力をどう使うのか、どのような生涯を送るのかを見せてもらう。せいぜい、私を愉しませろ」

神は最後にそう言っていた。

 

 

 神に転生させられた吾輩が一番最初に取った行動は、与えられた力を完全に己のものにすることだ。いずれはあの神に一矢報いるために力を完全掌握する。流石に、勝てるとは思わないがせめてぶん殴る。転生した吾輩に手はないが。なければこのキュートな前脚を使うだけのこと。

 

千里眼は、自分の視覚を遠近に高速移動したり空中から俯瞰して見下ろせたりすることができるようだった。また、地面の中や生物の体内も見ることができた。限界まで視覚を飛ばしてみたところ約3900キロ先で移動できなくなった。距離は目測かつ大凡だが、日本で一里は約3.9キロとされていると考えると、間違っていないだろう。この限界を超えることができるかどうかは吾輩の今後の鍛錬次第だな。

 

超能力は、神が言っていたとおり天候を変えることができた。念動力で大気を操作すれば、竜巻を起こしたり雨を降らすこともできる。さらに、物や吾輩自身をテレポーテーションすることができた。千里眼と併せて使えばより強力になりそうだ。

 

金ピカ王が使っているのと機能は同じらしい蔵は、何も入っていなかった。残念だ。エアみたいなものがあれば使えるかどうかは別として、天地を裂いてあの神にぶつけてやったものを。試しにそこらの石ころを入れてみたが、普通に取り出すこともできた。金ピカ王のように射出もできた。石ころ射出してどうするんだと思うかも知れんが、射出スピードによっては十分な殺傷力を持つ。まぁ、超能力で音を超えた移動が可能ゆえに射出の機能は使う機会はないかもしれないな。

 

不老不死に関しては、前足を軽く切って実験した。もちろん、歩くのに支障がない程度の切り傷だ。それで、切り傷を入れてみたところ、約二・三秒くらいで完治した。傷の度合いによって回復速度が変わるのか実験してみたかったがそれは怖いのでやめた。病気や毒で死なれても困るからという理由だったが、これだと頭か心臓を潰されない限り死なないのでは? 文字通りの不老不死なのかは、今すぐ確かめることができないので日記などを作って経過を記録してみようと思う。紙も鉛筆もないから、そこから作らなければならないが。

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

○月△日

 転生してから二日目。紙の作り方などを覚えていないので、そこら中に生えている木の皮をはいで代用している。書き終えたら蔵に放り込めばいいので持ち運びは問題ない。文字は念動力で掘っている。超能力で天変地異を起こすのは簡単だったが、文字を書くなどの細かい作業は難しい。最初は文字を書こうとしてそのまま木の皮を貫通させてしまった。また、ここまで日記を書いていて分かったが、前世の癖が出ている。話し言葉で書いてしまう。日記なんだし別にいいじゃないかと思うが。ちなみに、話せるか試してみたがニャーニャーとしか鳴けなかった。あとは喉をゴロゴロしたりとかだろうか。不老不死をのぞいた身体能力は、基本的に猫と変わらなかった。つまり、フルパワーで殴っても猫パンチの域を出ないということだ。ニャンコォ・・・・・・

 余談が長すぎた。今日は、千里眼と超能力の併用を実験した。千里眼を使用しながらテレポーテーションや念動力を使用してみたが無事成功した。この世界、というよりこの時代は白亜紀なのかジュラ紀なのか知らんが恐竜がいたので、千里眼と超能力の併用ができたのは嬉しい。安全に外敵を始末でき飯も調達できる。いかに恐竜といえども首が折れれば死ぬわけで、念動力で首を百八十度回転させたら一発だ。もしくは、直接脳をシェイクしてもいいかもしれない。確実だ。襲われそうなら安全圏から始末し、食べる場合はテレポート(長いしテレポートで今後は統一する)で運ぶ。この流れでいいだろう。

 

○月○日

 今日は蔵の機能をより詳しく調べてみた。金ピカ王の蔵を参考にしているらしいので、金ピカ王の蔵を基準に考えて調べた。その結果、中に入れた物の回収と自動修復機能がついており、中に入れたものを認識していないと取り出せないことがわかった。金ピカ王の蔵と比べると性能がいいのか? 金ピカ王の蔵に回収機能はなかったしな。流石に、遥か遠い未来の道具でも人類が生み出すのであれば入っているなんて機能はなかった。中身なかったしね。あと、体積が大きい物も関係なく入れることができた。木とか岩とか湖とか。生物はダメだったな。結論、容量がおかしく回収と自動修復機能がついた倉庫(射出も可)。時間とかはどうなっているのかは、中に肉とかを放り込んで調べていこうと思う。

 

□月△日

 三日ほど経ってから気付いた。家が欲しい。力を把握、実験することに集中して簡易的に安全な場所は作っていたが、ほぼ外と変わらないせいで虫が多いし、地面は硬いし、雑草が生い茂ってるし、翼竜がたまにでっかい糞を落としていくしで最悪だ。糞を落として行く翼竜は、その度に始末してご飯になってもらっているが限界だ。快適な住居があれば実験や鍛錬にも力が入るだろう。ということで、千里眼を用いて住むのに適した空間を探した。できれば海があるところがいいと思って探してたら海を見つけることができた。あとは住みやすそうな空間を探すだけだが、見つからなければ超能力を使って開拓するのもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

なんか、海でおよぐ四人の子供と首長竜、二足歩行する青いタヌキを見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




正直、主人公が猫である必要がないですね。作者が猫が好きなので、主人公は猫になりました。

また忙しくなるので、息抜きしたくなったら更新します。




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2話

気が向いたので更新。


 昨日のことだ。吾輩、海の近くで家を作りたいがために海を探していたら、海で遊んでいる4人の少年少女と首長竜、二足歩行する青いタヌキを見つけてしまった。今は、青いタヌキ含めて4人とも空を飛んで移動している。竹トンボのような物を頭につけて空を飛んでいる。あの形状では、髪もしくは頭の皮が持っていかれそうなものだが・・・・・・特に問題はないらしい。不思議な道具だ。不思議な道具といえば、首長竜を小さくしたライトのような道具や空飛ぶ絨毯のような形状の乗り物もあったな。乗り物の方は壊れていたが、どのような機能があったのだろうか。おそらくタイムマシンだとは思うが、壊れているのが惜しいな。少年少女の服装は少し古い感じがするものの、明らかに近代以降の物だ。特に、一緒にいる青いタヌキ。お腹についてるポケットから竹トンボもどきを出したり、壊れた乗り物を仕舞っていた。少年少女よりもあのタヌキが怪しい。挙動とか色とか。

 

 4人と一匹は海岸線を縦に移動している。このままだと、吾輩の千里眼でも捉えられない距離に出るだろう。仕方ない。家を作る予定だったが、あれらは気になる。特に道具。超能力を駆使してついていくとしよう。まずは、彼らの少し後ろの位置にテレポートする。空中に投げ出されるが、吾輩自身を念動力で浮遊し、移動していく彼らの跡をついていく。もちろん、光をねじ曲げて不可視化するのを忘れない。光をねじ曲げてしまうと吾輩も見えなくなるが、千里眼を用いれば問題ない。

 

 

 

「ピー、ピピー!」

 

「っ! こら、ピー助。落っこちゃうぞ」

 

「ピッピー!」

 

「えぇ、外が見たいの? もう・・・・・・仕方ないなぁ」

 

ふむ、あの首長竜はピー助というのか。吾輩に反応したわけではないよな? 一応、不可視化しているから見えていないはずだが。こちらは風下だから匂いもしないはず。・・・・・・偶然か。

 

「わお! 見てよジャイアン、トリケラトプスだ!」

 

「すげー」

 

ジャイアンと呼ばれた子供とリーゼントのような髪型の子供がトリケラトプスの群れに興味を示した。トリケラトプスの群れに近づいていく。危険だな。案の定、襲われそうになっていた。超能力でトリケラトプスの動きを止めたおかげで難を逃れていたが、あの子供らが危険なことをするたびに吾輩は手を出さないといけないのだろうか。あの青いタヌキが何かしてくれればいいのだが、あの二人には注意するだけだった。目の前で子供が死なれても困るし、不思議な道具を出す青いタヌキのこともある。致し方なし。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

□月○日

 一日中、こっそりついて行っていたが、終始気づかれることはなかった。明日もこの方法でついていくとしよう。子供の好奇心ゆえか何度も危ない目にあっていた。その度に超能力で助けたのは言うまでもない。浅瀬とはいえ、なんの武器も持たずに水着で海に潜った時は冷や冷やした。肉食の水棲生物が子供らの近くを通りそうなら、念動力バリアを貼って遠ざけていた。

 それと、青いタヌキがまた不思議な道具を出していた。いや、ドラえもんと呼ばれていたし、今後はドラえもんと呼ぼう。ドラえもんが腹のポケットから取り出した道具は、鍋のような形をしたものとピンのようなものの二つだった。鍋のような形をした道具は、木の実と海で獲った魚や貝を一緒に入れると、ソーセージに加工していた。なるほど、調理器というよりは加工機なのか。だが、加工した後の量がおかしい。入れた量の倍くらいはあった。もう一つの方は、ピンの先端部分を地面に刺すと、瞬く間に巨大化した。確か、『キャンピングカプセル』とか言っていたな。キャンピングカプセルの内部は1、2人が十分宿泊できる広さで、冷暖房、ベッド、トイレ、シャワーが備えられていた。出入りは球体部分から出る簡易エレベーターで行っていて、外から出入りする時には支柱にあるボタンを押すことでこのエレベーターが下りてくるようだ。・・・・・・・素晴らしい。その道具、是非欲しい(|)

 

□月△日

 今日も彼らは海岸線を縦に進んでいた。ただし、昨日と違い徒歩がほとんどだった。『タケコプター』とやらは、消耗が激しいのだろうか。食料は昨日のソーセージを利用していた。一日では消費しきれない量だったし、当然か。吾輩もいくつか拝借させてもらった。危険な時には助けるので大目に見て欲しい。・・・・・・存外美味かった。

 夜はやはりキャンピングカプセルを用いていたので、今日はこっそり侵入して寝心地を試させてもらった。む? 不法侵入は犯罪? な〜に、バレなきゃ問題ない。 そもそも、今の吾輩は猫だから人間の法律など適用されないし。でも、そのうち人間に戻りたいな。

 

○月□日

 今日もほとんど徒歩だったが、その途中で恐ろしいものを見た。『桃太郎印のきびだんご』という道具? 食べ物? を使ってオルニトミムスを一時的に支配下に置いていた。一時的とはいえ、食べさせた相手を従えることができるというのは恐ろしい。名称から考えると、効果があるのは動物のみのはずだが、今の吾輩は猫なのでヤバイ。事故でも食べないようにしなければ。ドラえもんは「友達になったから言うことを聞いてくれるよ!」などと言っていたが、普通は友達だからって言うことを聞くとは限らんぞ。

 それと、冷や冷やさせられた出来事もあったな。火口湖らしき場所でしずかちゃんと呼ばれる少女がティラノサウルスに襲われそうになった。一応、直前で離れたところにティラノサウルスをテレポートしたが、のび太と呼ばれる少年とドラえもん、ピー助とやらが勇敢にも盾になろうとした時は驚いた。あの少年少女たちはかなり絆が強いようだ。

 

○月○日

 今日は『タケコプター』の調子が悪いようで、何度か墜落しそうになっていた。しかも、運悪くケツァルコアトルスの巣に入ってしまい、ケツァルコアトルスに襲われてしまった。そこで、テレポートで逃がそうとしたら、見た目が完全に不審者な奴がケツァルコアトルスを撃ち殺してしまった。目と鼻と口だけを露出した黒マスクを被って、どう見ても不審者だった。どうやらドラえもんとのび太、ピー助とこの不審者は面識があるようだ。ドラえもんの話を聞くと、恐竜ハンターという未来の犯罪者らしい。過去に渡って恐竜を殺したり捕まえたりするのは犯罪らしいが、首長竜を持っている少年少女らは問題ないのだろうか。不思議だ。

 恐竜ハンターは大量のおもちゃを置いて、どっか行ってしまった。彼らもタイムマシンを持っているのなら、彼らについて行った方が良かっただろうか? いや、どう考えてもないな。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「ピー助を渡して、現代に送ってもらおうよ!」

 

「そんなのピー助ちゃんが可哀想じゃない!」

 

「そうだよ、なんためにここまで来たのさ!」

 

「家に帰るためだよ!」

 

「違うわ! ピー助ちゃんを返してあげるためよ!!」

 

「違う違う!」

 

ピー助を巡って争う子供たち。現実的に判断して、歩きで日本まで行くのは不可能と考えるスネ夫と、単純にピー助を渡したくないしずかちゃんとのび太。

 

「ジャイアンもなんか言ってやってよ!」

 

「スネ夫・・・・・・オレは、日本まで歩いてもいいぜ」

 

「ウソ!?」

 

「のび太、オレが落ちそうになった時にお前・・・・・・オレの手を離さなかっただろ?」

 

「ジャイアン・・・・・・ありがとう!」

 

命を助けられたから、最後まで手を離さなかったからこそ、ほぼ不可能なことにも賛成したのか。友情・・・・・・いや、恩義か? 最初は悪ガキだと思っていたが、意外と義理堅いじゃないか。ふむ、本格的に吾輩が手を貸してもいいかもしれない。どのような素性なのか性格なのかいまいち把握できていなかったが、このような義理堅い性格の者がいるのなら、大丈夫だろう。

 

『吾輩が手を貸そう』

 

「「「「「うん? / え?」」」」」

 

「今の・・・・・・ドラえもん?」

 

「ち、違うよ! ボクじゃない」

 

「じゃあ、誰が?」

 

『吾輩だ』

 

透明化を解いて、五人の前に姿を現す。

 

「「「「「猫?」」」」」

 

『そう、吾輩はネコである』

 

「し・・・」

 

「しゃ・・・」

 

 

 

 

 

「「「「「しゃべった〜!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 



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3話

授業がきつい。バイトがきつい。単位がヤバい。
ああ、休みが欲しい・・・・・・


「「「「「しゃべった〜!!」」」」」

 

『騒々しい。それに、そこの青いタヌキが話せているのだから、猫が話せても不思議はないだろう?』

 

「な、なるほど〜!」

 

「た、確かに…!」

 

「ボクはタヌキじゃな〜い! みんなも納得しないでよ!」

 

「「「「ご、ごめん・・・」」」」

 

『タヌキではないのか?』

 

「違〜う! ボクは22世紀の猫型ロボットだよ!」

 

『ロボットだと?』

 

 

100年違うだけで、技術はここまで変わるのか。吾輩が人間だった頃のロボットといえば、ASIMOや先行者だった。漫画やアニメでも、ガンダムやマジンガーZみたいに機械のイメージが強いロボットだった。人と同じように考え、話し、飲食を行い、眠ることもできるロボットか・・・・・・人間の定義があやふやになりそうだな。

 

 

「君は一体何者なの?」

 

『先程も言った通り、吾輩はネコである。名前はない。ただし、吾輩は人間で言う超能力が使える』

 

「「「「「超能力!?」」」」」

 

『うむ。念動力や千里眼、空間転移、今使用しているテレパシーもそうだな』

 

「っ! そういえば、さっきから口は動いてない」

 

『今頃気づいたか、まぁいい。吾輩が協力すれば、歩きより早く日本につけるぞ。どうだ?』

 

「そうか、空間移動ができるならここから日本に行くことだってできる」

 

『いや、ここからでは無理だ。吾輩の移動可能範囲は大体3900キロ程度なのでな』

 

「そうなんだ…」

 

「それでも、歩いて行くよりは断然いいよ!」

 

「でも、どうして僕たちに協力してくれるの?」

 

『それは、お前たちが危うくて見ていられなくなったからだ。あとは、そこのドラえもんの出す不思議な道具にも興味があった』

 

 

のび太、ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんの4人を順に見て、最後にドラえもんを見ながら話す。タケコプターやキャンピングカプセル、桃太郎印のきびだんご等、規格外な道具を出すあのポケットにはとても興味がそそられる。もしかしたら、あの神に一矢報いることができる道具か吾輩を強化することができる道具が入っているかもしれん。是非欲しい・・・・・・・・・・・・交渉したらくれないだろうか。

 

 

「そうなんだ」

 

「どうする?」

 

「協力してくれるって向こうから言うならいいじゃないか! 歩いて日本に行くよりかは絶対にいいし、恐竜ハンター達からも逃げられる!」

 

 

スネ夫が他の4人に向かって賛成の意を示すと同時に理由を話す。千里眼で見える最大距離を転移し続ければ、少なくても十数回、多くても二十回前後で日本に着くだろう。そして、念動力があれば、肉食恐竜も恐竜ハンターたちが使う銃もたいして怖くはない。さらに、テレパシーで離れたところからでも会話が可能。そのような存在が協力すると言っているのに断る理由はないだろうな。、のび太、しずか、ジャイアン、ドラえもんらの4人も、その理由を聞いてうなずいた。

 

 

『ふむ。どうやら、吾輩の協力は受け入れてもらえそうだな』

 

「うん。これからよろしくね」

 

『ああ、こちらこそよろしく頼む』

 

「それで、あなたの名前は何ていうの?」

 

『今の吾輩に名前などない。名付けるものもおらず、自分で名を考えるのも面倒でな。それに、この時代で生きていくのに名前など必要なかったからな』

 

「でも、名前がないと呼ぶときに不便だし・・・」

 

『なんなら、お前たちが吾輩の名前を考えてみるか?』

 

「いいの?」

 

『構わん。よほど気に入らん限りは受け入れる』

 

 

ダークフレイムマスターとか中二病的な名前は断固として拒否させてもらうがな。人間と違って社会的な死はないだろうって? そんなの関係なしに、恥ずかしいし死にたくなるからダメだ。ポチとか豆太郎くらいならギリギリ許容範囲だ。猫につけるような名前ではないと思うが・・・

 

 

「じゃあ、黒猫だからクロにしようよ!」

 

「安直・・・」

 

「呼びやすくていいと思うわ」

 

「オレも別にいいと思うぜ」

 

 

 

「なら、今日から君はクロだ! 改めてよろしくね、クロ」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

ククククッ・・・・・・。ようやくピー助を見つけることができた。本来ならタイムホール内で捕まえているはずだったんだがな、あのタヌキ型ロボットのせいで取り逃してしまった。まぁいい。ピー助は未だ子供たちと一緒にいるが、今の子供たちにとれる選択肢は少ない。ケツァルコアトルスから命を助けた恩と、取引の対価として大量のおもちゃと元の時代への帰還。普通なら首長竜一匹渡して元の時代に帰るはずだが、ここまで来た子供たちはその選択をとらないだろう。となると、残された選択肢は・・・・・・

 

 

「おっと、合図が来たか。この合図は・・・・なるほど、逃げたか。ああ、たまには恐竜以外のものを狩ってもいいかもしれない。人間狩りか、ククククッ・・・・・。せっかくだ、オーナーにも参加してもらうか」

 

 

オーナーの元へ向かい、報告と準備を進める。オーナーも人間狩りには乗り気だった。さて、子供たちはどこまで逃げ切れるかな・・・・・・?

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「すごーい! タケコプターもないのに空を飛んでる!」

 

「それもかなりの速度が出てるのに、風の抵抗がない」

 

「ふふふ、まるで魔法みたいだわ」

 

「「すげー!」」

 

 

吾輩は、のび太たちを念動力で浮遊させて飛行している。今は、ちょうどジャングルに入ったところだ。昨日の夜、吾輩の名前が決まった後、作戦会議を行ったのだが、最初に出たのはひたすら空間転移で日本まで移動して元の時代に戻るという提案だった。だが、あの恐竜ハンターたちもタイムマシンを持っている以上、元の時代に戻ってもまた狙われるだけだ。故に、最終的に恐竜ハンターたちを排除する作戦になった。といっても主に行動するのは我輩なのだが。

 

のび太たちが行動を起こせば、奴らも動くだろう。監視していないはずがないからな。つまり、のび太たちを囮にして奴らをおびき寄せ、吾輩が奴らを一網打尽するということが作戦内容だ。

 

 

「見つけたぞー!! 」

 

 

後ろの方から男の声がエンジン音と共にやってきた。もう、追いついてくるとは・・・・・・意外だ。ダダダと炸裂音がし、弾のようなものがのび太たちを狙う。

 

 

「粘着弾だ!」

 

「きゃああああ!」

 

 

粘着弾がのび太たちを襲うが、粘着弾が当たることはない。なぜなら、粘着弾が当たる前に、吾輩が弾いているからだ。それに、もう粘着弾は撃たせない。

 

 

「む!? 銃が・・・・・・!?」

 

「なんだ!? 操縦が効かない!」

 

「いや、それだけじゃない。体も動かない・・・・・・!」

 

 

既に、恐竜ハンターたちの飛行機、銃、その体を念動力で捕まえた。もはや、恐竜ハンターたちは吾輩の肉球(てのひら)の上だ。

 

 

『お前たちの記憶、読ませてもらうぞ』

 

 

超能力を使って、彼らの記憶を読む。サイコメトリーみたいなものだと思ってくれていい。昨日の作戦会議の後、吾輩はドラえもんと超能力について話し合った。ドラえもんは未来から来た猫型ロボット、吾輩よりも先の未来から来たなら超能力についても吾輩よりも詳しいだろうとと考えたのだ。案の定、吾輩よりも知識は豊富だった。おかげで、以前よりも超能力の扱い方や種類について知り、記憶を読むことができるようになったのだ。もちろん、記憶を読むことの他にも色々できるようになったが、今は使わない。

 

映像フィルムを見るかのように彼らの記憶を読み、彼らのアジト、人数、武器、捕まえた恐竜たちについて知ることができた。どうやら、そこまで大きい組織ではないようだ。人数も武器も道具もそう多くはない。捕らえられた恐竜たちは、空間転移で逃せばいいだろう。これらの情報を取得できた以上、こいつらに用はない。念動力で気絶させる。

 

 

「すごい、もう倒しちゃった・・・・・・!」

 

『この程度であれば造作もない。後は、彼奴らのアジトへと赴き潰すだけよ』

 

 

さっさと終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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4話

静謐ちゃんのアイドル霊衣、めっちゃ可愛いですね!

最近、学校の課題やバイトでポケモンもMHライズもできずにストレス溜まり気味でしたが一瞬で消し飛びました。


○月△日

 

 未来に戻れた!

 

 いや…まぁ、正確には吾輩がいた時代ではなかったが。のび太たちの家を見てみると、ボタン式もあるが黒電話を使ってるところが多く、テレビなんか白黒カラーのものを使っているやつもいた。ここは、おそらく20世紀なのだろう。吾輩は21世紀生まれ故、古い家電を見たときは「これ教科書で出てきたやつだ!」と思ってしまったくらいだ。

 現代に戻れた経緯としては、まず作戦通り襲撃してきた恐竜ハンター共を気絶させ、奴らのアジトに移動して壊滅させた。捕まえられた恐竜とその赤ちゃんは空間転移で逃し、奴らの使っていた檻や銃、乗り物などの道具は吾輩の蔵にこっそり放り込んでおいた。そして、アジトにいた恐竜ハンター共の仲間は同じように気絶させ、全員を檻の一つに集めて縛り上げた。亀甲縛りで縛ったからか、少し絵面が悪かった。でも、相手が抜け出せないような縛り方ってこれしか知らないから……是非もナイね。その後、アジトの前にある滝に何度もアタックしていた浮遊する白い目玉が、ドラえもん曰くタイムパトロールという時空警察のような組織の監視カメラであることがわかったので、それを恐竜ハンター共の前に転移させておいた。恐竜ハンターたちは、タイムパトロールとやらがなんとかしてくれるだろう。吾輩たちは、タイムパトロールが来る前に日本まで転移を繰り返した。だって、ドラえもんたちも時間旅行してるからね、念のためだ。あとは、日本でピー助を野生に返してタイムマシンで未来に戻ったというわけだ。ピー助を返す…というより置いていった時は吾輩以外の全員が涙を流していた。なんかこう、ハブられた感が凄かったが、ピー助と過ごした時間はこの五人とは比べ物にならないくらい短いから、仕方ないのかもしれない。

 そんなわけで、吾輩は今、20世紀の日本の東京にいるのだ。白亜紀に比べれば、食糧を恵んでくれる猫好きの人間がいるので飯には困らないし、自分を食べる可能性のある恐竜がいないので安心して寝られる。うむ、端的に言って素晴らしい。

 

 

○月%日

 

 久しぶりに日記を書いたな。

 この時代に来て一週間ほど経って、生活が安定してきたため今日は、現状使える力を再確認した。ドラえもんと話して使える超能力の幅が広がったし、こっそり蔵に放り込んだ恐竜ハンターどもの私物を確認する必要もあったからな。

 

 蔵については、ひとつ分かった事がある。おそらく、蔵の中は時間が止まっているか時間の進みが遅い。なぜなら約一週間前に入れた肉が腐っていなかったからだ。まぁ、蔵の中が本当の意味での真空だから酸化しないとかそういう理由かもしれないが……もう少し時間をおいてみないとわからないな。恐竜ハンターどもが使っていた飛行機はちゃんと起動して運転も念動力でできたが、それをするくらいなら自分を浮かしたほうがいい。檻は蔵に放り込んだ時はボロボロだったが、今日確認したら綺麗に修復されていた。銃に関してはよくわからないが、アサルトライフルのような感じだ。はっきり言って、銃弾は使う可能性はあるが、銃そのものは使わないだろう。他にも縄や布、椅子型のタイムマシンなどがある。椅子型のタイムマシンは動かし方もわからないため手をつけていない。機会があれば、ドラえもんにタイムマシンの動かし方などを聞いてみるのもいいかもしれない。

 

 千里眼は特に変わったことはなかった。相変わらず、おおよそ3900キロ先まで見えるし、過去や未来は見通せない。障害物などは透視することができる。念動力と組み合わせることもできる。

 

 超能力は、できることが増えた。以前は念動力、空間転移、テレパシー程度だったが、この前恐竜ハンターどもに使った、触れることで記憶を読むことができるサイコメトリーに加え電子を操作できるようになった。電子の操作に関しては念動力の応用なのだが、できることが増えたことに変わりはない。電子の操作は、名前の通り電子を操作することができる。例えるなら、超電磁砲や荷電粒子砲、粒機波形高速砲も放てるし、普通に放電することもできるわけだ。その他にも、機械類をジャックすることもできるし、電磁波や電磁場の知覚が可能になった。もともと、念動力で大気の操作が可能だったし、電子の操作ができるようになったのも不思議ではない。この調子で他の物質も操作できるように頑張ろう。

 

 

 

そういえば、明日、ジャイアンが空き地でリサイタルを開くとのび太たちに話しかけてまわっていたが、空き地とは吾輩が普段寝床にしているこの場所のことなのだろうか? まぁ、吾輩は空き地に生えている木の上で基本的に生活しているから問題ないだろう。

 

 

 

○月$日

 

 

 

○月◇日

 

 昨日はひどい目にあった。猫になって人間の頃よりも聴覚が鋭くなった弊害か、丸一日気絶していた。恐ろしい歌だった…………。いや、あれを歌と言うには無理があるな。あれは音波攻撃と言った方がしっくりくる。吾輩以外もアレを聴いた者はもれなく耳をおさえ、気を失うものもいた。心臓が弱いものが聞いたら死んでしまうのではないだろうか? そう思ってしまうほどのアレだった。なぜ、近所に住んでいる大人は注意しないのだろうか? もしかして、大人たちも気絶しているのか? う〜む、あり得る。とりあえず、次にジャイアンがリサイタルを開くと言ったら、空き地から離れるかジャイアンの周りだけ真空にしよう。空気がなければ音は伝わらないからな。

 

 

○月○日

 

 今日は面白いものを見た。のび太が薄紫色の手袋のようなものを身につけて悪戯をしているのを、超能力の修練中に見つけたんだ。どうやら、離れた場所にある物に手を触れずに力を加えることができるようだった。念動力みたいなものだろう。手袋をつけるだけで念動力を行えるようになるとは驚きだ。出力は吾輩のように細かい物質の操作が行えるわけでもなく、数tクラスのものを持ち上げる力はない。人間が出せる力とおおよそ変わらないように見えた。度を越した悪戯をするようならお灸を据えてやろうと思っていたが、ドラえもんが代わりにお仕置きをしていた。『マジックおしり』という道具でのび太の尻を遠隔から叩いていた。おそらく、マジックおしりは道具と対象者の部位をシンクロさせる道具なんだろう。因果応報とはこのことだと思うような出来事だったな。

 

 

○月#日

 

 ドラえもんに椅子型タイムマシンの扱い方について聞く必要があったため、のび太の家に行き、のび太の家で漫画を読んでいたドラえもんにタイムマシンについて聞いた。椅子型タイムマシンは一人用であり、ドラえもんが使う絨毯型のタイムマシンより扱いが難しいそうだ。吾輩のおかげで無事に帰ることができたから、没収されたりすることはなかったが、悪用はくれぐれもしないでほしいと念を押された。言われずとも悪用はしないとも。

 その後、ふと昨日のマジックおしりなどを思い出し、試しに魔法のようなことを起こせる道具はあるかと聞いてみたら、とんでもない道具が出てきた。それは『魔法事典』という名前らしく、白紙のページに好きな魔法の使い方を書くとその通りに魔法が使えるようになる道具だった。呪文であれば書いた呪文を逆さに読めば逆の効果が発揮され、魔法を書いたページを破ればその魔法は消えるらしい。欠点としては、書いた本人以外にも書いた通りのことを行えば魔法が発動するところだろうか。しかし、複雑な手順にすればその可能性はかなり低くなるので、欠点とまでは言えないだろう。思った以上にとんでもない道具が出てきて驚いたが、しばらく貸してくれると言うのでそれに甘えることにした。

 

 

○月&日

 

 魔法事典すごい。発想次第ではいろいろなことができるからな。これが未来の科学の結晶だというのだから、驚きしかない。「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」というクラークの言葉があったはずだが、まさにその通りだとしか言えない。ちなみに魔法事典に書いた魔法は試しなので五個程度にしてある。他の人が間違って発動させてしまわないように複雑にしたり、一度使ってみたかった漫画とか小説とかの魔法を書いた。

 

【望んだ姿に姿を変える魔法】

地面や壁などに○、□、△を組み合わせた特定の陣を描き、その陣に自身の血を垂らしてその上に手(もしくは前足)を翳しながら「我が望みを叶えよ」と唱え、変わりたい姿を思い浮かべる。

 

【身体能力を二倍にする魔法】

一回転して「我に力を与えよ フィジカルドウブリング」と唱える

 

【「第二魔法 平行世界の運営」を使用できる魔法】

元々の第二魔法の使い手の名をフルネームで唱える。

 

【自身に敵意や殺意、怒りなどを抱くものの戦闘能力を奪う魔法】

特定のマークを体のどこかに描き、「ジアイ」と唱える。

 

【発動している魔法を解除する魔法】

解除したい魔法を思い浮かべながら、「魔法解除」と唱える。

 

この五つの魔法を試しに書いて、実際に使えるかも試してみたんだが、その結果、第二魔法も含めて書いたものは全て発動した。ヤベェ、ヤベェよ……。ガチの魔法も使えちゃったよ。まぁ、使えるだけで極めたわけじゃないから、この魔法もきちんと練習しないといざというときの手段にはできないだろう。修練あるのみだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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5話

語彙力が欲しい。


誤字報告感謝。2021年6月9日0:06に誤字修正しました。


△月○日

 

 今日の夕方はひどい目にあった。空き地の木の上でいつものように寝ていたら、吾輩の上にいきなり石像が落ちてきたのだ。一応、念動力バリアを常に展開しているから無傷で済んだが、吾輩の寝床が壊れた。木の上に石像を落としたやつは許さん。許すまじ。寝床を作るのに三日もかかったんだぞっ…………!

 そういえば、落ちてきた石像がのび太にそっくりだったのは不思議だった。しかも、石像の表情やポージングが何か危険なものから逃げているかのようなものを感じさせる。しばらくして、ジャイアンとスネ夫、しずかちゃんが空き地にきたので、石像について聞いてみたが何もわからなかった。しずかちゃんがのび太とドラえもんを呼びに行ったのでその間に、吾輩は寝床を直すことにしたんだ。今日は土管の中で寝るしかないが、明日は寝床で寝たい。その後、吾輩が直している間にのび太とドラえもんが石像をとりにきたが、のび太たちも石像については心当たりがないらしい。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

『もしも、魔法の世界になったら』

 

 

ジリリリと電話機のベルの音が、夜に鳴り響く。

 

そして、世界は一変した。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 吾輩は、現代日本にいたはずだが……いつから魔法の社会になったのだろう? 

朝、起きて土管から顔を出し、ふと空を見上げたら空中を多くの絨毯が飛び交っていた。昨日までは、澄み切った青空が広がっていたのに、突然、魔法の絨毯のように人が絨毯の上に乗って飛び交っている。よく見たら箒に乗って移動しているものもいるようだ。何を言っているのかわから(ry

 

 

 今起きている現象の原因を突き止めに、のび太の家に向かう。なぜのび太の家かって? ドラえもんが過去未来を自由に行き来できる道具や新たな魔法を作る道具を持っているのだから、現実を改変する類の道具を持っていてもおかしくないと思ったからだ。まぁ、濡れ衣を着せていた場合はちゃんと謝るがな。

 

のび太の部屋で漫画を読んでいたドラえもんに、窓から入って話しかける。窓の鍵は念動力で外した。

 

 

『おい、ドラえもん。今起きてる現象はお前たちの仕業か?』

 

「わっ!? 急になんだよ、ビックリするじゃないか!」

 

『吾輩の方が驚愕したわ。朝起きたら訳わからんことになってるのだから』

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

『で? 結局どうなのだ?』

 

「昨日の夜、のび太君が『もしもボックス』を使って魔法の世界にしたんだ」

 

『のび太のせいか・・・・・・。それで、そのもしもボックスとやらはどのような道具なのだ? 聞く限りでは世界を改変する道具のようだが』

 

「もしもボックスは、一種の実験室なんだ。もしもこんなことがあったら〜ってことがどうなるか見せてくれる」

 

 

 架空世界を作り出し、もしもボックスの使用者をその世界に移動させるのか、元の世界を改変しているのか、どっちなのか結局わからないが、望み通りの世界を作っていることはわかった。この道具があるなら、未来で犯罪など起こらないはずだがな。なんせ、この道具があれば望み通りの世界にすることができるのだ。例えるなら、全員が聖杯もしくは7個のスーパードラゴンボールを所持している。自身の欲を叶えてくれる道具があるのに、法を犯してまで欲を出す必要がないはずなのに、恐竜ハンターのような犯罪者が出るとは・・・・・・。もしかして、ドラえもんの出す秘密道具とやらは一般に普及しているわけではない?

 

 

「ドラえも〜ん! どうなってるんだよ、ちっとも魔法が使えないじゃないか!? これじゃ前と一緒だよ〜!」

 

「う〜ん・・・・・・」

 

『・・・・・・魔法を習ったことがないのに、魔法が使えるわけがないだろう』

 

「そんなぁ・・・・・・」

 

「元の世界に戻そう」

 

 

ドラえもんがそう言ってお腹のポケットからもしもボックスを取り出したとき、コンコンとのび太の部屋の窓がノックされる。

 

 

「のび太、ホーキングに行こうぜ!」

 

 

ジャイアンとスネ夫が箒にまたがって浮遊しながら、のび太をホーキングに誘う。ジャイアンのは普通の箒のようだが、スネ夫の方は形状が違うな。

 

 

「ホーキング?」

 

「サイクリングの箒版じゃないかな?」

 

「ほら、見ろよこれ。パパがドイツ製の最新型を買ってくれたんだ! 外見の美しさもさることながら吸い付くような手触り、股擦れ防止の低反発サドル。一回くらいなら、乗せてあげても良いけど?」

 

「あらやだスネちゃん、のびちゃんは箒に乗れないのよ?」

 

「あらまぁ〜、そうでしたわ。それじゃ悪いことしちゃったわ〜ね?」

 

「ささ、行きましょ」

 

「「ごめんあそばせ〜」」

 

 

ジャイアンとスネ夫はのび太を煽るだけ煽ってどこかに行ってしまった。

 

 

「あの二人はどの世界でもやることが変わらないな〜」

 

 

 ドラえもんはそう言うと、もしもボックスの扉を開く。先ほど、元の世界に戻そうと言っていたので、そのつもりなのだろう。しかし、そのドラえもんの行動に待ったをかける者がいた。

 

 

「のび太くん?」

 

「せっかく魔法の世界にしたんだもん。魔法が使えるようになりたいんだよ!」

 

「ふ〜む、のび太くんにしてはいい根性だ」

 

『ならば、魔法が使える者に教えを乞うしかないが、どうする?』

 

「う〜ん・・・・・・」

 

「そうだ! しずかちゃんに頼んでみよう!」

 

 

 しずかちゃんか、彼女なら快く教えてくれそうだな。もしもボックスで改変した、この世界独自に発展した魔法を見るせっかくの機会だ、ついでに吾輩も見学しに行くとしよう。

 

 

 ということで、吾輩たちは今、しずかちゃんの家に来ている。のび太の頼みに対して、笑顔で了承してくれたしずかちゃんは、庭に人形を置いて、そこでのび太と魔法の練習をしている。今練習している魔法は、物体浮遊術といって、魔法の中では基礎の基礎らしい。指で指し示した対象を浮遊させる呪文らしいが……

 

 

「ちんからホイッ!」

 

 

 魔法の呪文がダサいというか力が抜けそうな感じがするのは、吾輩だけだろうか? こう「アクシオ」とか「ザケル」とか、そういう呪文はなかったのかと考えてしまう。他の魔法を使う際はどんな呪文になるのだろうか?

 

む……少しだけだが、物体浮遊術が成功した。練習相手にしている人形のスカートがふわっとめくり上がったのだ。

 

 

「おお! できた!」

 

「その調子だよ、のび太くん」

 

「うん! ちんからホイッ!」

 

「きゃあああああああ!」

 

 

一度成功して調子づいたのび太は再び魔法を使用するが、指がしずかちゃんのスカートの方を指していたので、人形ではなくしずかちゃんのスカートがめくられた。ほう……白か。

 

 

「もう! のび太さんのエッチ!」

 

「しずかちゃん、わざとじゃないんだ!」

 

「フンッ、もう知らない! …………あら、何かしら?」

 

 

 結果的にスカートめくりを起こしたのび太に腹を立てたしずかちゃんは、怒って顔を背ける。そして、顔を背けたしずかちゃんは空に浮かぶものを視認して疑問の声を上げる。

 

 

『ふむ、吾輩が見てみよう』

 

 

 千里眼で見てみると、それは黒色の流星のようなもので、どこか禍々しく感じるものだった。なぜか、中心から出ている黒色の粒子のようなものが邪魔して、中心にあるものは確認できなかった。こんなことは初めてだ。おそらく、魔法かそれに準ずるものの効果が発動しているのだろう。となると、あれは何かしらの攻撃か中に何者かがいる。

 

 

「どう?」

 

『吾輩の千里眼を持ってしても、中身を確認できなかった。魔法のようなものがかけられているのだろう。あれは…………む!』

 

「消えた!」

 

 

 黒い流星は突如、消えた。だが、吾輩の千里眼はきちんと捉えていた。あの黒い流星は、少し離れたところにある森の上空に近づくと破裂し霧散した。その破裂する瞬間に何かが中心から飛び出していった。かなりのスピードで飛び出したが、千里眼で見ている吾輩に死角はない。そう思っていたが、流星から飛び出て行った何者かは急に姿を消したのだ。流星の時と同じように魔法をかけたのだろう。おそらくは姿を消す類の魔法だろうが、障害物すら関係なく見通すはずの千里眼でも見通せないとは。千里眼の意外な弱点だな。

 また、これは魔法の影響なのか黒い流星が霧散した場所の下にあった森は、なぜか枯れてしまっている。これは、森の生命力を吸い取ったのだろうか? 

 

 

『少し離れた森のところで霧散した。ひとまずそこに行ってみよう』

 

「うん」

 

「ええ。はい、のび太さん」

 

 

 のび太に箒を渡して飛んでいくしずかちゃん。一方、箒を渡されたのび太は同じように飛ぼうとするが、失敗している。何度も失敗していると時間の無駄だ。それ故に、念動力で浮かせようとしたら、しずかちゃんがやってきてのび太を箒にのせた。箒に乗ったのび太はどことなく幸せそうだった。チョロい奴だ。ドラえもんはタケコプターで飛び、吾輩は念動力で飛ぶ。

 

 

「ドラちゃんもクロちゃんも、変わった魔法を使うのね」

 

「ボクのこれは魔法じゃいよ。科学の力で超小型化したプロペラ機だよ」

 

『吾輩は念動力だ』

 

「もう何言ってるのドラちゃん、冗談ばっかり。科学なんてそんなの迷信よ?」

 

 

 移動中の会話で、きっちりと世界が変わっていることを再認識される。前は常識だった科学がこの世界では迷信とされているようだった。しかし、科学とは一定領域の対象を客観的な方法で系統的に研究する活動のこと。広義的に言えば、魔法の発展も科学だと思うのだが。それに、科学がなければ家など建てられないしフライパンやガスコンロなどの生活必需品も生まれない。いや、科学という研究の概念が魔法に置き換わっているのか。それならば

理解できる。

 

 

「あ! 見えてきたよ!」

 

「っ! ひどい……」

 

「森が枯れている……」

 

『一体どのような魔法でこのような現象を起こしたのだ?』

 

 

 流星が霧散した地点の森にやってきたが、案の定、千里眼で見た通りの光景が広がっていた。森の一定範囲だけ綺麗に枯れてしまっている。これほどの魔法を使う者がいるとなると、吾輩も開発した魔法を使うべき時が来るかもしれないな。

 

 

ドオオオオン!!

 

 

「な、なんだ!」

 

「爆発!?」

 

 

 突然、森の一部が爆発した。何かと思ってその場所を見ると、紫色の雷のようなものが走るとその場所が爆発している。その爆発は何かを追うようにして移動している。

 

 

「あ、あれは!」

 

「ジャイアンとスネ夫!」

 

「危ない!」

 

 

 爆発の煙の中から出てきたジャイアンとスネ夫。それを追うようにして黒い猫のような生物が飛び出し、逃げるジャイアンとスネ夫の背に向けて手をかざす。すると、その掌から先ほどの紫電が迸り、二人に向けて放たれた。

 

 

「ジャイアン、スネ夫!」

 

「あれ!? ふたりが消えた!?」

 

 

 しかし、逃げるジャイアンとスネ夫に向けて放たれた紫電は、突如、その二人が消えたために空へと流れていった。なぜ二人が消えたのか。それは簡単だ。吾輩が空間転移でこちらに移動させたからだ。

 

 

『二人とも無事のようだな』

 

「クロがやったのか!?」

 

「助かった〜」

 

『まだ安心はできんぞ。あの猫もどきをなんとかせねば』

 

「そうだ、あいつは!?」

 

「いなくなってるわ」

 

 

 しずかちゃんが猫もどきがいなくなってることに気づく。吾輩も千里眼で探すが見当たらない。完全に見失った。おそらく、黒い流星のやつと同じように迷彩の効果を持つ魔法を使用したのだろう。

 

 

 

 

 



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6話

アンキパンが欲しい。もしくは、ほんやくコンニャク。

誤字報告感謝。2021年6月9日に誤字修正しました。
再度誤字報告感謝。2022年3月22日に誤字修正しました。


△月□日

 

 あの猫もどきを見失った後、吾輩たちは美夜子さんに出会った。美夜子さんは妖精が着ていそうなピンクと白のグラデーションが綺麗な服を着た美人で、消えた黒い流星と爆発音を耳にしてやってきたそうだ。吾輩たちが見た猫もどきについて話を聞きたいというので、吾輩たちは美夜子さんについてくことになった。んで、美夜子さんの家に着くと満月牧師と言う人が出迎えてくれた。吾輩とドラえもん、のび太は知らなかったのだが、かなり有名な人だったらしい。んで、満月牧師曰く吾輩たちが見た黒い流星と猫もどきは悪魔族の可能性があるそうだった。悪魔族とはなんぞや? 悪魔と何が違うのか疑問に思ったが概ね前の世界の悪魔と概念は変わらないように思えた。ただ、この世界の悪魔はきちんと実在し、魔界星という惑星に住んでいるらしい。まさかの宇宙人説。ノアの大洪水や恐竜の大量絶滅も魔界星の接近と悪魔族が関係しているらしい。この世界の悪魔族はめちゃくちゃ強そうだな。その後、満月牧師が解読中だった古文書をドラえもんが渡した『ほんやくコンニャク』でスラスラと読めるようになったり、逃げてる最中に怪我したジャイアンとスネ夫が美夜子さんに治療してもらって顔が緩んだりしていた。ドラえもんの出した『ほんやくコンニャク』は、食べるとあらゆる言語を自国語として理解できるようになるらしく文字も読めるようになるらしい。吾輩も食べてみたいと言ったら、あっさりわけてくれた。あまりにも簡単に渡すから「いいのか?」と聞いたら、「別に高くないから未来でまた買うよ」と言われた。そんな簡単に手に入るものなのか……。

 ジャイアンとスネ夫の治療が終わった後は、とりあえず皆帰ることになった。まぁ、ここにいても手伝えることなんてほとんどないだろうからな。

 

 

△月¥日

 

 今日は非常に雨風が強かった。昨日の夜も、日記を書き終えた後にかなり大きい地震があったし、魔界星の接近が原因なのだろうか。だとしたら、物凄い質量の星なのだろうな。というか、ドラえもんとのび太はいつになったら元の世界に戻すんだ? 元の世界に戻せば魔界星はなくなるからこの異常気象も無くなるだろうに。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

くっ……雨風が強すぎる。一時的に寝床を土管の中に移したが、雨が入ってくるし、風が強くて土管の中に移した寝床が吹き飛びそうだ。日記も満足に書けん。ドラえもん達に元の世界に戻すよう頼もう。そう思って千里眼どのび太の家を覗いてみると、庭の方でのび太とドラえもんにそっくりな石像が置かれ、その上に時計の絵が描かれた風呂敷をかけようとする赤いリボンをつけた黄色いタヌキがいた。ドラえもんと同じ猫型ロボットか? とりあえず移動しよう。

 

空間転移でのび太の家の塀の上に移動する。そして、謎の風呂敷をかけた黄色い猫型ロボットに声をかける。

 

 

『おい、その石像に何をしているのだ? それはドラえもんとのび太のものだが』

 

「きゃっ! びっくりした。あなたは誰?」

 

『吾輩の名はクロ。超能力が使えるネコである』

 

「クロね、わかったわ。あたしはドラミ、よろしくね」

 

『ドラミか、了解した。それで、石像にかけたその風呂敷はなんだ?』

 

「これは『タイム風呂敷』と言って、この風呂敷をかぶせたものの時間を逆行させたり、進行させたりできるの」

 

『時間の逆行と進行だと!? いよいよ常識外れな道具が出てきたな』

 

 

ドラミからタイム風呂敷についての説明を聞いてると、風呂敷の方からチンっという音が鳴った。なんだろうと思ってると、ドラミが風呂敷を取り上げる。すると、そこには石像ではないのび太とドラえもんがいた。

 

 

『ドラえもんにのび太!? まさか石になっていたとは……』

 

「気がついた?」

 

「「ドラミ / ドラミちゃん!!」」

 

「それにクロも!」

 

「どうしてここに?」

 

「セワシさんが言っていたの。お兄ちゃんの腹痛の原因は四次元ポケットにあるかもしれないからスペアポケットで中を覗いてみたらって、それで覗いてみたら、なんと石になった二人を見つけたってわけ」

 

「吾輩は元の世界に戻して欲しくてな」

 

「それで、二人は何がどうなって石になったの?」

 

 

ドラミのその質問に、これまで経緯を説明するドラえもんとのび太。もしもボックスを使って魔法の世界にする話は吾輩も既知の内容だが、その後に悪魔族と戦ったり、魔界星に行って魔王デマオンに敗北したり、一緒に魔界星に行ったジャイアンやスネ夫、しずかちゃん、美夜子さんが捕まってしまい、最終的にメデューサという悪魔に石にされたらしい話は初耳だ。いつの間に魔界星とやらに行っていたのか。それに魔王デマオンの強さや魔界星とやらの特性にも驚いたが、一番はメデューサという奴だ。奴が我輩の寝床を結果的に壊した犯人だったか。悪魔族で人間の敵というのなら容赦無く攻撃できるというものよ。

 

 

「だったらもしもボックスがあれば解決ね」

 

「やったー! これで元の世界に戻せるね!」

 

「持つべきものは妹よ!」

 

 

ドラえもんたちの話を聞いたドラミは、もしもボックスを取り出した。まぁ、元の世界に戻せばこの異常気象も解決するし悪魔族も消えるだろう。だが、そうしたら吾輩の寝床を壊したメデューサとやらに仕返しができなくなる!

 

 

『む…、できれば吾輩がそのメデューサというやつを懲らしめてからにしてほしいのだが』

 

 

そう伝えると、三人ともに「なんで?」という顔をされた。理由を話したら、なぜかため息をつかれ呆れたような顔をする三人。

 

 

「えぇ……ん? 聞きたいんだけど、もしもボックスを使えば僕らは元の世界に戻れるけど、魔法の世界は…………そこにいるみんなはどうなるの?」

 

「それは…………」

 

 

のび太の質問に対して返事を窮するドラえもん。それを見たドラミは、ドラえもんの代わりに答える。

 

 

「パラレルワールドになるのよ」

 

「パラっなに?」

 

「つまり、あっちはあっちでこの世界とは関係ない世界としてそのまま続いていくの」

 

 

もしもボックスは世界を改変させるだけではなく、新たな並行世界を作り出すことができるのか。ふむ…吾輩、魔法事典で第二魔法を使えるようにしたけど、ドラえもんやドラミの道具があれば第二魔法を全て再現できそうだな。つまり、ドラえもんとドラミは魔法使いというわけか。

 

 

「そんなのダメだよ! それじゃ美夜子さんたちは僕らの助けが来ないまま、悪魔たちに……」

 

『奴隷にされるか食われるだろうな。満月牧師の話では悪魔に食べられたものもいたそうだし』

 

「戻ろう、ドラえもん」

 

「えっ?」

 

「忘れるところだった。僕、約束したんだ。必ず美夜子さんのパパを助けるからって、誓ったんだ、必ず美夜子さんを助けに戻るって!!」

 

「うん、戻ろう! 決着をつけるために!」

 

「なら、あたしも行くわ。二人だけだと心配だし」

 

『吾輩も協力しよう。メデューサへの仕返しも兼ねてな』

 

「「ありがとう、ドラミ、クロ!」」

 

 

 

 

 

 

 ということで、吾輩たちはドラえもんのタイムマシンを用いて魔界星に向かった。星が違うから重力や空気が心配だったが、特に問題はなかった。美夜子さんたちが捕まっている悪魔の住む城に行く前に、魔界星の入り口で燃え尽きたという魔法の絨毯を回収した。

 

 

『美夜子さん達を救出するにあたって、陽動する者と救出に向かう者に分かれる必要がある』

 

「なら、あたしとクロで陽動を担当するわ。クロもそれでいい?」

 

『ああ、構わん。派手に暴れれば、それだけ偉いのが来るだろう。そうすればメデューサにも会えるかもしれないしな。』

 

「わかった。ならボクとのび太くんは美夜子さん達の救出だ」

 

「うん。でも、どうやって向かうの? 『モーテン星』は通じなかったよ?」

 

「多分、匂いを辿られたんだよ。だから、今度はこれを使う。『石ころぼうし』!」

 

「石ころぼうし?」

 

『どのような道具なのだ?』

 

「これを被るとまるで道端の石のように周りから一切認識されなくなって、自分の存在を完全に消すことができるんだ。しかも、自分の声や足跡、匂い、触られていても認識できなくなるんだ。それに、時間制限もない」

 

「えー!!」

 

『モーテン星とやらの完全上位互換だな』

 

「どうしてあの時これを出さなかったのさ!」

 

「数が少ないんだ! ちょうど僕とのび太くんの分しかないんだ」

 

「なんでだよ〜」

 

『数の問題なら仕方あるまい。とりあえず、救出班は石ころぼうしをかぶって潜入。それから美夜子さん達を救出し、タイム風呂敷で直した魔法の絨毯で脱出という作戦だな』

 

「うん」

 

「あたし達は城の外で陽動ね」

 

『ああ。派手に暴れてやる』

 

 

作戦会議を終了した吾輩たちは、作戦通り二手に分かれ、陽動に向かった。城の近くまで空間転移で移動したら、ドラミが巨大ドラえもん気球を出し、吾輩がそのドラえもん気球に乗って攻撃する。攻撃といっても、せいぜい城の外壁を崩す程度だ。城を崩壊させる攻撃は潜入しているドラえもん達や捕まっている美夜子さん達も危ないからな。

 

 

『初めましての挨拶だ。快く受け取ってくれ』

 

 

蔵を開いて、放り込んでおいた岩や樹木、銃弾を音速を超えたスピードで射出する。それと同時に、電子を操作して粒機波形高速砲を複数発射する。射出されたものは悪魔やドラゴンを貫き吹き飛ばし、発射された粒機波形高速砲は城の外壁を容易く穿つ。射出できる蔵の中身が少なくなってきてからは、近寄ってきたドラゴンや悪魔を放電で感電させたり、十を超える数の粒機波形高速砲を放ったりした。ちなみに、死んだドラゴンや悪魔は念のため蔵で回収している。一応は幻想の生物だし、何かに使えるかもしれないからな。

 

 

「ドラミー! クロー!」

 

 

かれこれ十分ほど過ぎた頃だろうか。遠くから魔法の絨毯に乗ったのび太達がやってきた。作戦は成功したようで、捕まっていた美夜子さん達も乗っている。

 

 

「お兄ちゃ〜ん!」

 

『やっと来たか。いや、割と早い方なのか?』

 

 

魔法の絨毯に乗ったドラえもんがドラミを拾うのと同時に、吾輩も絨毯の上に転移する。吾輩が座るスペースはあるが、結構狭い。

 

 

「このまま月へ向かうわ。メデューサが月の光を消し去ろうとしているの」

 

「なんだって!? よし、みんな中に入って!」

 

 

ドラえもんの指示に従って、絨毯の中央に開いた入り口から中に入る。中はかなり広めの空間が広がっていたから少し驚いた。多分、魔法で空間を拡張したのだろう。ドラえもんやドラミの出す道具ほどではないが、この魔法の絨毯も十分常識外れの品だな。

 

 

吾輩たちの乗った絨毯は魔界星の重力圏を抜け、地球の衛星である月へと向かう。この世界の月は、大昔にナルニアデスという人間によって悪魔族を退ける魔法をかけられているらしく、メデューサはその魔法を解きに行ったとか。月は悪魔にとって弱点も同然であるならば、直接魔法を解きに行ったメデューサはだいぶ弱っているだろうな。

 

 

「見えた!」

 

 

魔界星がかなり地球に接近していたらしく、たいした時間をかけずに月の近くまでやってくることができた。そして、吾輩の千里眼はメデューサを捉えていた。というか、月眩しすぎ。太陽の光を反射しているのではなく、物理的に光っている。

 

 

『射程距離範囲内だ。空間転移で吾輩が止めてくる』

 

「ちょっ、クロ!?」

 

 

この世界の宇宙では呼吸が可能らしいからな。問題ない。剣を持ったメデューサの前に転移して、念動力で動きを止める。

 

 

「グッ…!」

 

 

ついにこの時が来た。さて、吾輩の寝床を壊した罪を償ってもらうぞ。そう思って念動力でメデューサをボコボコにしようとしたら、横合から猫もどきが飛びかかってきて電撃を放ってきた。

 

 

『くっ、貴様……!』

 

 

咄嗟に転移して避けたが、電撃は掠ってしまった。おかげで体が痺れて動けん。吾輩の念動力バリアを容易く貫通してくるとは…………。猫もどきはそのまま動けないメデューサから剣を奪い取り、陣の中心に剣を突き立てた。剣が刺さった箇所からヒビが広がり、凄まじい光がもれる。完全にしてやられた。

 

 

『しまった!』

 

「ぐあああああああああああああ」

 

 

漏れ出た光に当てられた猫もどきは消滅し、メデューサは苦しみの声を上げる。凄まじい光に吾輩は目を閉じ、光が収まるのを待つ。十秒くらい経っただろうか、光は収まり、月は色を失っていた。ドラえもん達は先程の光のせいで月に墜落しているようだが、全員怪我はないようだ。

 

 

「アアアアああああああ」

 

 

『ん? 貴様、身体が……』

 

 

吾輩が動きを抑えていたメデューサは光を間近で浴びたせいか、身体が溶けているかのような状態になって苦しんでいる。よく見たら、メデューサの体が溶けてその中から別の人が出てきているように見える。

 

 

「まさか……」

 

「ママ?」

 

 

その姿に見覚えがあったのか、満月牧師と美夜子さんがメデューサの中から出てきた人に駆け寄る。ちなみに、念動力による拘束は解いている。しかし、意気揚々と向かったのにまんまと失敗するとは…………恥ずかしい。

 

 

「美…夜……子…………?」

 

「ママ? ママなの……?」

 

「こんなことが……」

 

 

美夜子さんと満月牧師、元メデューサの会話を聞いていると一つの真実がわかった。どうやらメデューサの正体は、美夜子さんの母親だったらしい。そういえば、娘の命と引き換えに魂を売り渡したと満月牧師が言っていたような気がするな。なるほど、だから悪魔として転生? 洗脳? されていたが悪魔を退ける月の光を直接浴びたせいで元に戻ったと。

 

じゃあ、吾輩は危うく美夜子さんの母親をボコボコにするところだったというわけだ。あの猫もどきのせいでできなかったが。

 

 

「魔界星に浮かぶ……赤い月…………」

 

「月? 月が何?」

 

「あれが……デマオンの……心…臓……」

 

「何っ!?」

 

「えっ!?」

 

 

 

 

 

 

どんどん身体が薄くなって消えていく美夜子さんの母親から告げられた情報は、かなり重要なことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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7話

学校の課題多すぎでは? 


今回は短いです。



%月△日

 

 疲れた。しかも、メデューサに寝床を壊した責任を負わせることはできなかったし。いや、その責任は元凶であるデマオンが背負って星と共に滅んでくれたから別にいいか。許そう。

 吾輩の寝床を破壊してくれたメデューサを仕置きするためにドラミとドラえもん、のび太と一緒に魔界星へと向かった後、捕まっている美夜子さん達を助け、月へ向かったメデューサを追いかけ、月にいたメデューサに追いつき妨害するも、そばにいた悪魔のせいで月の魔力が解けてしまった。月の光を間近で浴びたメデューサは体が溶けて、美夜子さんの母親が現れた。満月牧師曰く、娘を助けるために悪魔に魂を売った母親らしい。その美夜子さんの母親が重要な情報と家族への謝罪と愛を伝え、光の粒子となって消えてしまった後、デマオンの心臓と判明した魔界星の月へと全員で向かい、空間転移で月のすぐそばまで移動して、のび太が持っていた最後の銀のダーツで心臓を破壊。見事、デマオンと悪魔、魔界星を塵一つ残さず滅した。その後、美夜子さんの母親がつけていたネックレスから光が月へと放たれて、月が輝きを取り戻した。地球に戻り、数日ほど美夜子さん家の修復を手伝った後、別れを告げて元の世界に戻ってきた。これが魔法世界での顛末だ。ドラえもんとのび太はしばらくの間、どことなく寂しそうな雰囲気だったが、吾輩はそうでもなかった。なぜって? 第二魔法で平行世界に行けるからだ。ドラえもんのもしもボックスを元の世界に戻るときに体験したのと、魔法の世界という平行世界を認識できたからか、魔法世界を含めた並行世界に移動できるようになったのだ。ただし、移動できるようになっただけで並行世界の観測や時間の干渉、無尽エーテル砲とかは無理だ。杖もないしな。

 まぁ、というわけで、吾輩は時々美夜子さんに会いに行くことができるのだ。満月牧師? なぜ、男に会いにいかねばならんのだ? 吾輩はこれでも生前は男だったのでな、そういう趣味はない。

 

 

 

 

 

 

%月○日 

 

 今日は、魔法世界で倒したドラゴンの肉を食べてみた。蔵に入れていた死骸のことを思い出して、恐竜の肉は食べたが、ドラゴンの肉は食べたことがなかったこと考え、せっかくの機会だから食べてみた。悪魔の方はさすがに人型なので食べる気はしない。肉を切り出すときは、いつもの通り念動力を使った。範囲を集中して使えば、ものを切断することも可能だからな。生物の肉程度なら簡単に裂ける。

 食べてみた結果、ドラゴンの肉は意外にうまかった。そのまま食べたり、焼いたりして食べてみたが、焼いた方がよりうまい。余った鱗や内臓、血液なんかは何かに使えるかもしれないから蔵に入れてある。モンハンみたいに鎧とか武器に使ったり、何かの触媒に使ったりとか? まぁ、鱗はそこまで強度があるわけじゃないから武器に用いるのは難しそうけど。

 

 

 

 

 

 

%月¥日

 

 今日は「望んだ姿に姿を変える魔法」であそ……練習をしていた。陣を描き、その上に吾輩の血を垂らして手をかざし、変わりたい姿を思い浮かべながら呪文を唱える。そうすると、心の中で思い浮かべた姿へと変身できるのがこの魔法。魔法世界で倒したドラゴンや悪魔、のび太たちなどに変身してみたが、変身した後が大変だった。変身することはできるが、変身した後の肉体で違和感なく動けるわけではないから、変身した後の体の使い方を覚えなければならなかった。同じ四足歩行のドラゴンはまだいい。悪魔やのび太たちなどの人型に関しては二足歩行の練習をしなければいけなかった。つまり、ハイハイの練習をしていた。こういう練習をするときは、のび太達が通っている学校の裏山に行って、ステルスを使いながらだから、他人に見られることはない。

 人型にも慣れてきたら、今度は鳥とか蛇などの動物にも変身して体の動きを覚えていった。動物や人型の姿に慣れたら、今度は空想の生物などにも変身できるか試そうと思ったが、気が付けば夜になっていたので今日はこのくらいが限界だった。

 

 

 

 

 

 

%月&日

 

 昨日に続いて、今日も変身していた。今日は主に、空想上の生物に変身して体を慣らした。変身したのは、青龍や有翼人、ゲームのモンスターなどだ。ちなみに、姿を変えるだけなのでその生物特有の器官を持っていたりするわけではない。つまるところ、変身する先の生物が持つ特殊能力は使えないということだ。まぁ、大体の特殊能力は吾輩の超能力でどうにでもなるから問題ないが。

 空想の生物やゲーム上の生物に変身して、超能力で代用してその生物のロールプレイが実際にできる日が来るとは思わなかった。ゲームや本を読んだことのある者なら一度は、このようなカッコイイ生物になってみたいと思うだろう。そんな生物に変身できたのだからテンションが上がってしまい、ステルスが解けていることにしばらく気がつかなかった。一応、裏山で行っていたので、変身を見られた可能性は低いとは思うが、次はもっと気をつけようと思う。

 

 

 

 

 

 

%月$日

 

 今日、普段の散歩コースを散歩していた時にある噂を聞いた。「学校の裏山には、ドラゴンが住んでいる」という噂で、子供たちが話をしている時に偶然聞き取ってしまった。話を聞くに、学校の裏山で写生をしていたらドラゴンを見つけた子供が、そのドラゴンを写生して他の子供たちにその絵と一緒に話をしているらしい。気になって、その絵を描いた子供を探し出して描かれた絵を見てみたら、吾輩が変身した姿だった。これはヤバいなと思ったので、しばらく裏山で練習するのは避けることにした。ステルスも気持ちが昂ると解けてしまうようだし、裏山以外の場所で練習した方がしばらくは安全かもしれない。どこがいいかな。地下とか海の中とか? あるいはドラえもんに頼んでみてもいいかもしれない。ドラえもんなら、そういう施設みたいなのを持っていてもおかしくはないしな。

 

 

 

 

 

 

%月□日

 

 ジャイアンはスネ夫を殺す気なのだろうか? 昼ごろに散歩しながらのび太の家へと向かっていたら、スネ夫の家の前あたりで突然気を失ってしまった。夕方あたりに目を覚まして思い出したが、スネ夫の家でジャイアンが歌を歌っていたんだ。その歌をたまたま散歩していた吾輩がきいてしまって気絶したというわけ。のび太の家に行ってドラえもんに頼み事をした後、ジャイアンについて聞いてみたら、家で歌の練習をしているとママに叱られるからジャイアンはスネ夫の家で歌の練習をすることに決めたらしい。家の外にいた吾輩でも気絶したのに、至近距離で聞くことになるスネ夫は生きていられるのか? ジャイアンの歌は矯正不可能だし、ジャイアンの性格も治すことはできん。吾輩にできることと言えば、ただスネ夫の無事を祈るばかりだ。万が一の時は、ドラえもんからタイムふろしきを借りてかけてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ひみつ道具が多すぎて、どれを話に用いるか迷ってしまう。


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8話

そろそろ、ポケモンの方も進めないとなぁ……


%月%日

 

 今日はなんと、鏡の世界に行ってきた。昨日、ドラえもんに頼んで貸してもらった道具『入りこみ鏡』は、鏡の中の世界に行き来することができ、鏡の世界は人や動物はおらず、どんなに物を壊しても大丈夫らしい。散歩コースにいつもいるパン屋のおばさんがくれたどら焼きと交換で道具を貸してもらった。貸してくれるのはありがたいが、ちょっと警戒心がなさすぎでは? まぁ、気が向いたらそれとなく指摘しておこう。

 鏡の世界では、何をしても大丈夫らしいから魔法や超能力の修業をすることにした。第二魔法や変身の魔法(望んだ姿に姿を変える魔法)、その他開発した魔法と新たな超能力の使い方を。第二魔法は、この鏡の世界から現実世界へと戻ることができるか試したり、擬似的な杖を作って無尽エーテル砲みたいなのを放ったりした。変身の魔法について、人や動物、龍などはもちろん、現実世界ではできなかった、かなり大きめの生物への変身も試してみた。例えば、恐竜のティラノサウルスやブラキオサウルス、ゲームなどの空想の生物ならジエン・モーランとかバハムート、ウルトラマンなどだろう。第二魔法は魔法世界の出来事のおかげで使用機会ができたが、変身の魔法は使う機会があるのだろうか。まぁ、生きている限り何が起こるのかはわからないから、できるようになっていて損はないよな。

 身体能力を二倍にする魔法や自身に敵意や殺意、怒りなどを抱くものの戦闘能力を奪う魔法(長いのでジアイの魔法と今後は書く)は、変身の魔法や第二魔法のように応用が難しいので、魔法を発動した後の状態に慣れることを努力した。しかし、身体能力を二倍にする魔法はともかく、ジアイの魔法に関しては相手がいないと意味がない魔法なので、発動した状態に慣れようとしても誰もいない鏡の世界では本当に意味がない。ジアイの魔法に関しては、現実世界で危険な目に遭ったときに使うことにしようと思う。咄嗟の判断で使用できるかは分からないが。

 今日1日で修業できたのはこのくらいだった。修業で使った地域は更地になってしまったが、ドラえもん曰く鏡の世界に生命体が存在しなければ勝手に修復されるらしい。なるほど、そういう意味でどんなに壊しても大丈夫と言ったのか。第二魔法を用いれば自由に鏡の世界に出入りすることができるようになったので、第二魔法で一度現実世界に戻った後、しばらく時を置いてから再び鏡の世界にやってきた。ドラえもんの話通り本当に修復されていたので、明日の修業も同じ場所を利用することにしよう。今日はとりあえずこの世界で夜を明かすことにした。この世界は、人や動物はいなくても食料や道具、建造物に関しては現実と同じように顕在なので、それらを利用すればこの鏡の世界での生活は問題なかった。吾輩の作った寝床も存在していたしな。

 

 

 

 

 

%月※日

 

 昨日に引き続き、今日も鏡の世界で修行をしていた。今日は主に超能力の方を重点的に鍛えた。現状、吾輩が使える超能力は、念動力、空間転移、サイコメトリー、電子操作、大気操作くらいだ。この中で、念動力に関しては、限界がわかっていない。日常生活で試す機会はないし、魔法世界や白亜紀の時も全力を出す状況はなかった。だから今日は、その限界を知るために念動力を使って鏡の世界で暴れた。吾輩以外に誰も住んでいないし、この世界に来ているのも我輩だけ。壊れた建物も一度現実世界に戻れば元通りになるのなら、憂いなく行うことができる。おかげで、念動力の限界を知ることができた。

 念動力は、高層ビルを数本持ち上げることができ、使用範囲は吾輩の視界で捉えている場所のみだった。使用範囲については空間転移同様、千里眼で補うことができるが出力の限界は鍛えるほかない。使い終わったビルは蔵に入れておいた。漫画や小説に登場する凄腕の念動力者は重力をねじ曲げてブラックホールを作り上げたり、未知の物質を引き出したり、ベクトルを変換したり、地形を変えたりするが、吾輩も鍛えればその領域にたどり着けるのだろうか。電子操作や大気の操作は念動力の応用で使ってるから、重力への干渉はどうにかなりそうだけど。とりあえず、持ち上げたビルを輪切りにしたり、圧縮したり、限界まで念動力を使用することにする。

 

 

 

 

 

%月☆日

 

 修業終わりに夕食を食べていた時にいいことを思いついてしまった。鏡の世界にあるスーパーで、食糧を補給すればいいと! 今まで、非常食として恐竜の生肉やドラゴンの生肉、商店街のおばちゃんやおじちゃんたちがくれる魚とかどら焼きとかを蔵に入れて、お腹が空いたら調理して食べていた。だけど、鏡の世界のスーパーでキャットフードやハム、ポーク、ラーメン、弁当などの食糧を蔵に入れておけば、わざわざ調理する必要もなくなる。別に生肉でも大丈夫だが、味気ない。え? ラーメンとか弁当は猫が食べたらダメじゃないかって? 大丈夫、普段怪我とかしないから忘れそうになるけど、不老不死だから。慢心していないかと言われると悩んでしまうが、実際に死んでみようとは思わないし、一応だがわざと怪我をしたり本来猫にとっては毒になる食べ物を食べて実験してみたことはある。怪我はすぐに治ったし、猫には毒になる食べ物も平気だったし大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

%月#日

 

 今日は、ドラえもんに入り込み鏡を返した。魔法で鏡の世界に行き来できるようになっているから、無くても問題ないのだ。道具を返却しにのび太の家へ行った時、なぜかドラえもんがタヌキになっていたのは驚いたな。なぜそうなっていたのか聞いてみたら、『からだねん土』という道具とのび太のせいらしい。からだねん土は、体につけるとねん土がその体の一部になるという道具で、ドラえもんがのび太に整形を頼んだところああなったようだ。残りのからだねん土がいつの間にかなくなっているらしいし、のび太のやつ、確信犯だな。

 道具を返却した後は、空き地に戻って吾輩の寝床を掃除していた。今回の道具騒動も吾輩に害のあることではないし、道具自体もそこまで悪さできるようなものでもないから、別に何かする必要もないだろうと思って放置していた。それで、掃除が終わってちらっと千里眼でのび太達の様子を覗いたら、笑いが抑えきれなかった。のび太は少し比率がおかしい長身マッチョになっていて、しずかちゃんはピノキオのように異様に鼻が長くなっているし、スネ夫は足が身長と同じくらいもあった。からだねん土は専用のスプレーがないと剥がせないらしいから、あの三人は大変だな。

 

 

 

 

 

%月√日

 

 今日は一日中雨だった。まぁ、それは現実世界の話で、鏡の世界にいた吾輩には関係なかったが。鏡の世界も現実世界と同様の天気になるが、超能力で雲を吹き飛ばせば天気の影響などないに等しい。なので、今日一日ずっと鏡の世界で修業をしていた。早速修行の成果が出てきているのか、念動力の出力が少し上昇していたので、このまま修業を続ければ、いつかは一つ上の領域に至れるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 



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9話

課題が追いつかない……小説書いてる場合じゃねぇ。でも現実逃避で書いちゃう。
タンマウォッチが欲しい。


短いです。

誤字報告感謝。2021年6月16日に誤字修正しました。


雨が降り頻る夜、街の中を歩く。

 

父さんが死んで、大臣のダブランダーの策略によって命からがらここまで逃げ延びてきた。バウワンコの中で生まれ生きてきた僕にとって、外の世界はとても魅力的だった。だけど、それも最初だけ。国が違えば文化も違う。外の世界では犬は話すことができず二足歩行もできない。おまけに野生の犬は群れで行動するのがほとんどだ。四足歩行や鳴き声などは慣れてきたけど、一人で行動する僕には食事にありつくのも大変だった。ここ最近は、何も食べていない。

 

パシャッと側を通った車に水をかけられる。

 

ただでさえ雨で濡れて冷えが体に追い討ちをかけられる。体は、限界が近いのか時々ふらついて転びそうになってしまう。…………一度、どこかで休もう。そう思って歩いていたら、土管が置かれている空き地に着いた。その空き地には一本の木が生えていたから、その下で眠ろうと思って移動すると、木の太い枝に寝るのに良さげな場所を見つけた。木に登ってその場所まで移動したのはいいけど、足を踏み外して木から落ちてしまった。その場所にあった何かと一緒に。意識が朦朧としていて、一緒に落ちたのが何なのかわからなかったけど、寝心地は良かった。

 

体力が限界だった僕は、あっという間に深い眠りに落ちていった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「クゥ……クゥ……」

 

犬だ、犬がいる。吾輩の寝床の上に薄汚れた犬がいる。修業で疲れたのでお昼寝しようと空き地に戻ってきたら、吾輩の寝床が占領されている。一昨日はいなかったから昨日のうちにやってきたのだろう。吾輩の寝床は木の上にあったはずだが、どうやって落としたのだ? まさか、木の上に登って吾輩の寝床を落とすはずもあるまい。犬にそこまでの知恵があるとは思えんからな。

 

 

「あれ? クロ、どうしたの?」

 

『のび太か。見ての通り、この汚い犬が吾輩の寝床を占領しているのだ』

 

 

買い物帰りののび太が空き地の前を通り、寝床を凝視している吾輩に気づいたのか声をかけてくる。吾輩はのび太に現状を説明し、寝床を占領している犬をどうしてやろうか思案する。念動力で浮かすか空間転移で退かすか……

 

 

「クゥン?」

 

「あ、起きた」

 

 

ふと目を覚ました犬は、よろめきながらものび太が持っている買い物袋に近寄って匂いを嗅ぎ始める。

 

 

「そんなにフラフラするほどお腹が空いてるの? なら……はい! このソーセージをあげるよ」

 

 

のび太が買い物袋からソーセージを取り出し、犬に与えた。勝手にあげていいのだろうか? おそらく、のび太のママに頼まれたものだと思うのだが。

 

 

「っそうだ! こんなところで油売ってる場合じゃない! 僕はもう行くけど、ついてきたらダメだからね! クロも、またね!!」

 

『ああ…………む?』

 

 

 のび太が吾輩に別れ際の挨拶を言うと、空き地から出ていき家へと向かった。だが、その後をなぜか犬が走ってついて行ってしまった。のび太のやつ、あの犬に懐かれたのだろう。吾輩としては、寝床が空いたので別にいいが、のび太の家はのび太のママが動物を飼うのを許すだろうか。吾輩が家の中でドラえもんと談笑していたときにたまたま見つかって、動物を飼うのは許しませんなんて言われたからな。

 

 

 汚い犬に汚された寝床を綺麗にした後、木の上の場所に戻して夕方近くまで散歩していた。散歩中は店番を任せられているジャイアンと話したり、バイオリンの騒音で鼓膜を破壊されそうになってしずかちゃんに物申したり、商店街のおばちゃんたちからいつものように食料をもらったりしていたぞ。ジャイアンから話を聞いてわかったことだが、のび太達は明日から夏休みらしい。そういえば、最近は暑くなってきていたな。

 

 

散歩から戻ってきたら、夜まで少し眠ってから鏡の世界で修業をしていた。ベクトルの操作くらいなら既に可能になっているのだが、変換はうまくいっていない。それと、未元物質を引き出すこともできていない。まぁ、未元物質は天界という違う位相から引き出した物質だから、それに限定する必要はないのだが。位相関連に関しては、第二魔法を応用すればどうにかなると思うけど、魔法を使わずに使用できるようにしていたい。もっと精進せねばな

 

 

 

 

 

 次の日の朝、空き地でのび太たち5人と昨日の犬が集合していた。昨日の犬はのび太とドラえもんに洗われたのか、綺麗な白色をしている。ペンダントのせいなのか色のせいなのか、かなり上品そうなイメージが伝わってくる。不思議だ。

 

 

「探検隊〜番号!」

 

 

ジャイアンが土管の前に立ち、声を上げる。それに応じるようにしてドラえもんが「1」と答え、ドラえもんに続いてのび太、スネ夫、しずかちゃんが2、3、4と答えていく。それで終わりと思っていたが、なぜか5という答えがしずかちゃんの後に続いた。しずかちゃんの隣から声が聞こえて、その隣には昨日の犬がいるのでおそらくは犬が言ったのだろうが、犬が喋るか? いや、この犬を見てると仕草がどことなく上品な感じが伝わってきて怪しいし、吾輩も話せるのだからあり得なくはない。まぁ、話せるからといって別にどうもしないが。今のところのび太たちにも吾輩にも害はないしな。

 

 

寝床から5人の話を聞いていると、どうやらドラえもんとのび太が道具を使って、ジャングルの奥地で謎の建造物を見つけたらしい。そして、今からその謎の建造物を目標にして100キロ前の地点から出発するようだ。なぜ、わざわざ100キロも前の地点から始めるのだろうか。ジャングルなのだから、日本にはいない毒を持つ虫や猛獣がわんさかいる。普通に危険なはずだが、子供ゆえの好奇心とスリルを求めているのか? …………ドラえもんがいるし大丈夫だとは思うが、心配だし念のためについて行こう。

 

 

「あ、クロ」

 

「どうしたのクロ?」

 

『お前たちの話は聞かせてもらった。大魔境への探検、吾輩もついていく』

 

「お、クロも来るのか」

 

「クロちゃんも来るなら心強いわね」

 

『うむ、大抵のことは吾輩とドラえもんでなんとかするつもりだ。大船に乗ったつもりで探検するといい』

 

「クゥン……?」

 

 

犬には念話を飛ばしていないために伝わっていないが、他の全員に探検についていくことを伝えた。虫にまで気を配るのは難しいが、危険な猛獣なら空間転移で離れたところに移動させればいい。それに、吾輩もちょっとだけその大魔境とやらに興味があるしな。冒険ってロマンであろう?

 

 

「それでは、大魔境に向けて出発ー!」

 

『ん? おい、全員が走って入ろうとしたら——』

 

 

ドラえもんがポケットからピンク色のドアを取り出してドアを開き、その扉の向こうへ吾輩を除いた全員が一斉に走っていく。皆が一斉にドアに入ろうとしたら、押されたりつまづいたりして転びそうだ。案の定、扉の向こうで誰かが転んでドミノのように全員が倒れた。

 

 

 

 




妖精騎士ガウェインの胸部と脚が思っていた以上にゴリラで好き。


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10話

学期末レポートや宿題、論文の翻訳などやることがかなり残っているのに、現実逃避をしている作者はもうダメかもしれない。

タイムマシンで過去に戻って、過去の自分にやることをやらせたい。



誤字報告感謝。誤字修正しました。


『人一人しか通れないドアに、一斉に駆け込めば誰か一人は転ぶ者が出ることくらいは予想できるだろうに』

 

「ご、ごめん……」

 

「助かったよクロ」

 

「ありがとうクロちゃん」

 

「重くて死ぬかと思った」

 

「ははは、ワリィなスネ夫」

 

 

 扉の向こうで転んだ全員を念動力で浮かして立たせる。まったく……本来なら止めるべき立場のドラえもんも一緒に走って転ぶとは。やはり、吾輩もついて行くことにして正解かもしれんな。

 

 

「わぁ…………すごい!!」

 

「すげぇ!!」

 

「僕達、本当にアフリカに来たんだね」

 

 

全員が落ち着いたのを確認して周囲を見渡し、ジャングルの自然や生命力に圧倒された。吾輩以外の皆も同じように圧倒されているようだ。皆、白亜紀でもジャングルはあるので経験があるが、白亜紀のジャングルとはまた違った生命力を感じさせる。

 

 

『それで、ここから100キロ先に目的地があるのだったか?』

 

「うん、そうだよ」

 

『なら、吾輩が全員を転移させればすぐに着くが……』

 

「クロ、それは絶対にやるな! それじゃ冒険にならないだろ!!」

 

『…………わかった』

 

 

ジャイアンには断られたが、もしもの時は有無を言わさず転移させるか。命に代えられるものなどない。

 

 

「それじゃ、目的地に向かって探検隊〜出発〜!」

 

「「「「ええ / うん!」」」」

 

「ワンッ!」

 

 

ジャイアンの合図で目的地に向かって歩き始める。道中、日本にはない珍しい花の匂いを嗅ごうとしたしずかちゃんがオカピにスカートをめくられそうになったり、ジャイアンが木の上で複数のアンゴラコロブスと戯れていたり、スネ夫がホオジロカンムリヅルのヘアスタイルを褒めていたり、吾輩を除いた五人と一匹が葉っぱを纏って遊んでいた。途中で見つけたオアシスでも遊んでいたな。吾輩? 吾輩は五人と一匹が無警戒で遊んでいる間、猛獣が近寄ってこないように千里眼で見張っていた。

 

 

「飽きたー!」

 

 

全員でジャングルを歩いている中、のび太が唐突に叫ぶ。飽きたというが、アフリカに来てまだそんなに時間は経っていない。のび太は飽き性なのか?

 

 

「もう10キロくらい歩いたかな?」

 

「まだ5キロも歩いてないでしょ」

 

「えぇー!! あと95キロ〜!?」

 

「ジャングルはどこまで行っても木ばかりだね……当たり前だけど」

 

「猛獣なんていないじゃないか! ワクワクもドキドキもしやしない」

 

 

飽きたのはどうやらのび太だけではなさそうだ。スネ夫やドラえもんも愚痴のようなものをこぼしている。というか、スネ夫の愚痴はおかしい。猛獣と出会ってワクワクドキドキするか? いや、ドキドキはするかもしれないがワクワクは絶対にないと思うぞ。

 

 

「お前ら文句が多すぎるんだよ! 少しはペコやクロを見習えって!」

 

 

三人の文句を聞いたジャイアンは我慢の限界だったのか、ペコと吾輩を指差しながら三人に怒鳴る。指を差されたペコは黙々とジャングルを進んでおり、吾輩はジャイアンのすぐ隣を歩いている。

 

 

「あっ…………大変なことを忘れてたー!! ドラえもん、どこでもドアを出して!」

 

 

また、のび太が叫ぶ。今度はなんだ…………?

 

 

「0点のテストが出しっぱなしだから隠さないと!」

 

「「「「えぇ〜!?」」」」

 

『かなり下らない理由だな』

 

 

ドラえもんが再び出したどこでもドアを通り、すぐ戻るからと告げて走っていくのび太。かなりの大声で叫んでいたから、余程なことだと思っていたのに、想像以上に下らない理由だった。

 

その後、のび太がすぐに帰ってきたのはいいものの、スネ夫やしずかちゃん、ジャイアンもどこでもドアをドラえもんに出してもらって一度帰宅していた。スネ夫のは上級フランス語講座を録画予約するのを忘れていた理由で、しずかちゃんは御手洗い、ジャイアンは怒り心頭の母親の呼び出しに応じたためだ。どれも、のび太と同じくらいには下らない理由だ。ただ、母親の呼び出しに応じたジャイアンが帰ってきたときの姿が、かなりボロボロになっていて驚いた。一体何があったのだろうか。

 

 

「ねぇ、そろそろお昼にしない?」

 

「「いいねぇ!!」」

 

 

しばらくジャングルを進んでいると、お昼にしようというしずかちゃんの提案にドラえもんとのび太が賛同する。誰も弁当を持ってきていないのはそれぞれの格好と荷物を見れば明白だ。というか、みんな私服で何も持ってきていない状態で探検に来ている。完全にドラえもん任せだ。

 

 

『仕方ない、吾輩の蔵にある食糧を……』

 

「クロ、ここはボクに任せて!」

 

鏡の世界で手に入れた食料を蔵から出そうとしたら、ドラえもんが任せてと言うので譲ることにした。ポケットを探るドラえもん。今度はどんな道具を出すのだろうか。

 

 

「ふふ〜ん、『出前電話』!」

 

「やめろ!! それを使ったら雰囲気がぶち壊しだ!!」

 

「確かに、イメージに合わないよね」

 

 

出前電話という道具について後で聞いてみて知ったことだが、出前電話で注文を受けた人は誰であろうと必ず要件を果たさなければならなくなるらしい。つまり、頼み事や用事を他人に強制させる道具ということだ。ジャングルでその道具を使った場合、ラーメンを頼んだらアフリカのどこかでラーメンを作ってる人がジャングルまで届けに来る羽目になるのか。かなり恐ろしい道具だな。

 

 

「なら、『植物改造エキス』! 皆、食べたい物を言ってみて」

 

「カレーライス!」

 

「ホットケーキ!」

 

「カニピラフ!」

 

「ラーメン」

 

 

出前電話の代わりに取り出した植物改造エキスという道具で、ドラえもんは皆の食べたい物をその辺の植物を使って作っていく。どうやら、植物にエキスを注射器を使って注入することで植物を改造し、食べ物を作り出す道具らしい。品種改良の応用だと思うが、規格外にすぎる。ホットケーキやカレーライスなら原料に植物が多いからまだ納得できるが、なぜ植物からカニやラーメンを作り出せるのか。そもそも、都合よく皆の希望する食べ物のエキスがあったな。これは、ツッコンだら負けか?

 

 

「どうせなら眺めのいいところで食べよう。『即席エレベーター』!」

 

 

即席エレベーターという道具で木の上に登っていくドラえもん。どうやら、名前の通り即席でエレベーターの役割を果たす道具のようだ。その道具で木の上に上ったドラえもんは、先ほど出していた注射器を取り出して枝に刺した。注射器を刺された枝は形状が大きく変化し、五人と吾輩とペコを乗せても問題ない程度の大きさと円形状になった。

 

ジャイアン、スネ夫、しずかちゃん、のび太とペコの順で即席エレベーターを使って上に昇っていく。吾輩は転移で移動すればいいので、四人とペコが猛獣に襲われないように見守って、一番最後に移動した。

 

 

「ジャングルで食べる昼飯は最高だな!」

 

「うん!」

 

 

ラーメンを食べてご機嫌なジャイアン。ちなみに、ドラえもんはどら焼きでペコはソーセージ、吾輩はハムを食べている。ソーセージとハムは我輩が蔵から出したものだ。

 

 

「ジャイアンの機嫌が直って良かったね」

 

「そうね」

 

 

ドラえもんの言葉にみんなが頷く。その時、突然ペコが端の方まで駆け出し、ある方向を見つめた。そのペコを追うようにしてのび太達がペコの近くまで移動して、ペコが見ているものを見る。

 

 

「何あれ? 白い煙みたいなものが……」

 

「ひょっ、ひょっとしてあれが……」

 

「「「「「ヘビースモーカーズフォレスト!!」」」」」

 

「やったー!」

 

「ちゃんと近づいていたのね!」

 

「歩き続ければいつかは着くんだ!」

 

五人の言葉が重なる。ヘビースモーカーズフォレストというのはタバコ付きの森という意味で、ジャングルの一部にいつも雲がかかっていて衛星写真が撮れないところのことを指すそうだ。今回の探検の目的地でもある。ひたすら木ばかりのジャングルを歩いていても本当に進んでいるかもわからず飽きがきていたところに、目的地が視界いっぱいに大きく存在したのだから、あの喜びようなのだろう。

 

 

 

 

昼飯を食べた後、目的地がちゃんと存在し、少しでも近づいていることが分かったからか、五人は先ほどに比べると軽快にジャングルの森を進む。

 

 

「盛り上がってきたな! これで猛獣が出てくればもっと探検らしくなるんだけどなぁ」

 

 

機嫌が良くなっているジャイアンが余計なことを言う。そんなことを言ったら、絶対のび太が反応するだろう。

 

 

「ドラえもん、猛獣出せない?」

 

「もちろん出せるよ。『猛獣誘い寄せマント』!」

 

『その危険な道具は仕舞え』

 

 

危惧した通り、のび太がドラえもんにとんでもない頼みをしていた。そして、ドラえもんもそんな頼みに応えようとするんじゃない。今日までドラえもんの出す様々な道具を見てきたが、大体が名称の通りの効果をする道具が多かった。おそらく、猛獣誘い寄せマントも読んで字の如く猛獣を誘い寄せるマントなのだろう。なぜそんな危険な道具が存在するのか甚だ疑問だ。

 

 

『猛獣なら我輩がなんとかしてやろう。だから、ドラえもんもその類の道具は出すな。下手したら死ぬぞ?』

 

「うぅ……確かに。ごめん、わかったよクロ」

 

「でも、なんとかするって言うけどどうやるつもりなの? 猛獣を転移させるとか?」

 

『それではドラえもんと変わらんだろう。秘密だ』

 

 

そう言ってから、のび太たちから少し離れた場所に転移する。そして、転移した場所の地面に○、△、□を組み合わせた陣を描き、その陣の上に吾輩の血を垂らして呪文を唱えた。

 

 

『我が望みを叶えよ』

 

 

呪文を唱える際にイメージした姿に吾輩の姿が変化する。ジャイアンは猛獣がいればと言っていたが、要はスリルが味わえればいいのだろう。ならこの姿でのび太たちを傷つけないように多少暴れてやれば問題ないはず。まぁ、この姿は猛獣というよりも龍と言ったほうがいいかもしれんがな。

 

魔法によって、とあるゲームの中で古龍に分類されているモンスター「クシャルダオラ」に姿を変えた吾輩は、のび太たちがいる場所に向かって羽ばたいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




普通の動物にしても良かったけど、せっかくだから主人公の能力を活かしたかった。悔いは無い。


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11話

最近、YouTubeでドラえもん雑学をあげている人の動画を見て、そういえばのび太の世界に主人公と同じ名前の泥棒猫「クロ」がいたなぁと思い出しました。

ドラえもん達をきちんと表現できているのかわからない。

誤字報告感謝。2022年9月30日に修正しました。


クロが猛獣をなんとかすると言って消えた後、ドラえもんとのび太が話していた。

 

 

「結局、クロはどうやるんだろう?」

 

「さぁ、少なくともボクがやろうとした手段は取らないと思うよ?」

 

「うーん、わかんないや」

 

 

クロがどうやって猛獣を呼ぶのかのび太とドラえもんが考えてみていたその時、先頭を歩いていたジャイアンとペコの前に何かが空から降りてきた。

 

 

「グオオオオオオオオオオ!!」

 

「きゃああああ!?」

 

「な、なんだコイツ!?」

 

「ド、ド、ドラゴン!?」

 

 

それは、黒銀色の外殻を持つ古龍……クシャルダオラだった。正確にはクシャルダオラに姿を変えたクロなのだが、今ののび太たちがそれを知る由もない。クロはジャイアンとペコの前に降り立つと、思わず耳を塞いでしまうような咆哮して走り出した。

 

 

「逃げろー!!」

 

 

ドラえもんの声をきっかけにして、全員が走ってくるクロから逃げる。しかし、先頭にいたジャイアンは逃げきれず、途中でクロの前足によって押さえつけられた。同じく先頭にいたペコは、ジャイアンを押さえつけているクロに向かって吠えている。押さえつけられたジャイアンは、それでも逃げようともがくがジャイアンを押さえつけている足はびくともしない。ちなみに、クロは姿が鋼鉄の強度とその性質を持つ鱗や甲殻に覆われているので、力を入れると簡単に怪我をしてしまうため優しく押さえつけている。

 

 

「たけしさん!」

 

「ドラえもん、ジャイアンが!」

 

「わかってる! 食らえ『桃太郎印のきびだんご』!」

 

 

桃太郎印のきびだんごを取り出したドラえもんが、クロの口元に向かってきびだんごを投げる。だが、クロはそれを横に避けて尻尾でドラえもんに跳ね返した。跳ね返したきびだんごはドラえもんの顔面に直撃して地面に落ちた。

 

 

「きびだんごを食べないなんて……」

 

「ええい! これはどうだ『スモールライト』!」

 

 

次にドラえもんが取り出した道具は『スモールライト』。スモールライトから放たれる光を浴びたモノは、大きさが縮んでしまうのだ。ドラえもんは、スモールライトをクロに向けてスイッチを入れる。すると、スモールライトから光が放たれる。しかし、クロはその光が特殊な効果を持っているのだと判断して、空中に逃れることで回避した。

 

クロが空中に逃げたおかげで、ジャイアンを押さえつけていた力がなくなり、ジャイアンがのび太たちのところまで逃げてくる。

 

 

「また避けた!」

 

「ジャイアン大丈夫!?」

 

「ああ、助かった」

 

「またドラゴンがこっちに来てるよ!」

 

「『空気砲』! ドカン!!」

 

 

新たに取り出した道具『空気砲』は、空気の衝撃波を発射することができる。空気砲をクロに向けたドラえもんは、ドカンという言葉と共に空気の衝撃波を発射する。

 

 

「グオッ!?」

 

 

クロは見えない攻撃である空気の衝撃波を避けることはできず、まともに受けてしまった。それも、かなりの威力で、鋼鉄の強度と性質の鱗と甲殻に覆われた姿のクロを数メートル程吹き飛ばした。途中で念動力を発動して止まることができたが、次々と空気の衝撃波が発射されてくる。ドラえもんがのび太たちにも空気砲を渡して撃っているのだ。

 

 

 

連続で発射されてくる空気の衝撃波に対して、クロは大気を操作して風のブレス(偽)を放つ。もちろん、のび太達には当たらないようにしていたが、風のブレス(偽)は空気砲から放たれた衝撃波を容易に貫いて、ジャングルの木を吹き飛ばした。

 

 

「きゃあ!?」

 

「しずかちゃん!?」

 

「大丈夫、驚いただけ…………」

 

「良かった」

 

「どうすんだよドラえもん、空気砲じゃあのドラゴンの攻撃に勝てないよ!」

 

「なら、『タケコプター』『ショックガン』『ひらりマント』『スーパー手ぶくろ』!」

 

 

さらに、ドラえもんが新しく出した道具は『ショックガン』に『ひらりマント』、『スーパー手ぶくろ』だ。ショックガンは銃の見た目をした道具で、先端から放たれる光線は生物を気絶させることができ、ひらりマントは、目の前に迫ってくる物に対して使用すると闘牛士のマントのようにどんな標的でも回避したり跳ね返したりできる。スーパー手ぶくろは、ゴム手袋を象った道具ではめると怪力を発揮できるのだ。

 

スネ夫がショックガンを装備し、のび太はひらりマント、しずかちゃんはスーパー手ぶくろ、ジャイアンとドラえもんは空気砲を装備して、ペコを含めた全員がタケコプターで空を飛んだ。このまま下にいても、上から遠距離攻撃を相手も出せるなら的になるだけだと判断して、ドラえもんが渡した。

 

 

「えいっ!」

 

「「ドカン!!」」

 

「ひらりっ!」

 

 

クロは、スネ夫の持つショックガンから発射される光線を避け、ドラえもんとジャイアンが発射した空気砲の衝撃波を風のブレス(偽)を放って貫く。衝撃波を貫いた風のブレス(偽)はドラえもんとジャイアンの方向に進むが、ドラえもん達は動かず風のブレス(偽)の進路上にひらりマントを持ったのび太が割って入る。そして、そのままひらりマントで風のブレス(偽)をクロへと跳ね返した。

 

 

「っ!?」

 

「捕まえたわ」

 

 

当然のように跳ね返されたブレスを避けたクロだったが、いつの間にか懐に近づいていたしずかちゃんに尻尾を掴まれた。今のクロは、千里眼を使用していなかったため見逃してしまった。なぜ千里眼を使用していなかったのか。それは、クロが猫になって初めてまともにダメージを負った驚きと痛みで千里眼を解除してしまったからだ。クロは普段から危険を事前に排除していたが故に戦闘経験が少なく、痛みを負うこともほとんどなかった。

 

 

「えいっ!!」

 

 

しずかちゃんは尻尾を掴んだままジャイアントスリングをするかのように回り始め、勢いがついたところで尻尾を離し、クロを下のジャングルへと振り投げた。投げられたクロは超能力を使う暇もなくジャングルに墜ち、ジャングルはクロが墜ちた衝撃で木々が吹き飛び土煙が上がって数メートル程のクレーターができた。

 

 

「しずかちゃん凄い!」

 

「あのドラゴンを吹っ飛ばしちゃった!」

 

「倒したのかしら?」

 

「煙が邪魔でわからないや」

 

 

さらなるダメージに耐えかねたクロは、土煙が上がって見えていないのを確認して空間転移で離れたところに逃れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

痛い

 

身体中がとても痛い。鋼鉄の強度と性質を持つクシャルダオラの姿になったのに、なぜこうも簡単にダメージが入るのか。食べたものを従えるきびだんご、衝撃波を放つ道具に、謎の効果を出すライト、攻撃を跳ね返すマント、ビームを放つ銃、恐ろしい怪力を発する手袋。やはり、ドラえもんの道具は規格外なものばかりだ。世界を創り出したり、時間移動が可能な道具もあるから、時間を止める道具とかもありそうだな。

 

 

 

少し経って痛みが引いてきたので体を見てみると、しずかちゃんに投げられた時にできた傷がようやく治り始めていた。あのまま続けていたら、吾輩の方が危なかっただろうな。傷が治ってから、ドラえもん達の所に姿を戻して再び転移する。

 

 

「あ、クロ!」

 

「どこ行ってたのさ! ドラゴンが出てきて大変だったんだよ!?」

 

『そうか、すまなかったな。吾輩は少し用事を思い出して、一旦離れていたのだ。まさか、吾輩が離れてる間にドラゴンに襲われるとは思わなんだ。お前達が戦ったドラゴンは、吾輩が空間転移ではるか遠くに移動させたし、今後はなるべく離れないようにするから安心するといい』

 

「良かった、それなら安心できるよ」

 

「頼むよ、本当に危なかったんだからね?」

 

「少し疲れちゃったわ」

 

「オレも……さすがに疲れちまった」

 

 

まぁ、いきなり襲われて戦闘になったら疲れるだろう。むしろ、少し疲れたくらいで済んでいるしずかちゃんはちょっとおかしい気もするな。

 

 

「だいぶ日も沈んできたし、今日はここまでにして明日また来よう」

 

「そうだね」

 

「ワンッ」

 

 

ドラえもんがポケットからどこでもドアを出し、ドアを通って日本に帰る。皆が家に帰っていくのを見守ってから、吾輩は鏡の世界に移動した。

 

 

『傷つけないようにしていたとはいえ、あのような醜態を晒すとは。もっと精進せねばならんな』

 

 

今日のことを反省して、肉弾戦闘の修業を忘れないうちにしよう。痛みで超能力や千里眼を解除してしまうなど、戦場ではありえないからな。

 

 

 

 

 




原作と違い、ジャイアンだけが狙われてるわけでもなく活躍もできていないわけではないので、拗ねることはありませんでした。


正直、ペコの存在感が薄いです。バ、バウワンコに入ったら活躍するから(震え声)


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12話

疲れた、疲れたよパトラッシュ……期限遅れの課題は山積み、中間レポートは大量、夏休みの課題も大量……なんだかとても眠いんだ…………


%月£日

 

 今日は、アフリカのジャングルから帰ってきた後、鏡の世界でいつものような超能力の修業ではなく、肉体を使った修業を行った。のび太達と戦ってみて、吾輩は痛みを負うことが猫になってから今まで一度もなかったがゆえに、痛みに弱いことがわかった。痛みと驚きで超能力を解除してしまうのは致命的だ。そのため、弱さを克服するための修業を行なったのさ。相手がいないので、修業方法はいろんな姿に変えて、自身に念動力を使って岩や物をぶつけたり、拳や脚、頭、牙、尻尾などを用いて逆に砕いたりした。もちろん、かなり痛かったし負傷もした。と言っても、負傷の方は数秒で完治してしまうから大した問題ではないが。痛みの方は何度やっても慣れることはなかったが、少なくとも気絶しない限りは痛みや驚きで超能力を解除するようなことはなくなったと言っていいだろう。

 もう直ぐ夜明けになるので、修業はここまでにする。明日は、今日みたいに猛獣と出会うドキドキを要求しないといいのだが……不安だ。

 

 

%月β日

 

 ドラえもんがやらかした。いや、これは吾輩も予想できなかったから、ドラえもんが100%悪いわけではないと思う。今日は、昨日の地点からスタートして歩き出し、おそらくルアラバ川かコンゴ川のいずれかに相当する大きな川に出たので、ドラえもんがポケットから出した道具『探検ごっこ用蒸気船』で渡りきった。船で川を渡る際は中々危うい場面があったが、吾輩がきちんと千里眼で監視して危うい場面に遭遇した際は、超能力で回避した。川を無事に渡りきったら、途中で原住民族と出会ったのだが、ジャイアンが余計な事を言ったために彼らを怒らせ、追いかけられた。まぁ、空間転移で離れたところに転移して難を逃れたのだが。最終的にはサバンナのような所へついて、そこで、日が暮れ始めていたのでそろそろ帰ろうと言う話になり、ドラえもんが昨日と同じようにどこでもドアを取り出したのだが、ドラえもんが取り出したのはノブだけだった。ドラえもんを含めた全員が呆気にとられていたな。どこでもドアは空き地に置いてきたものとリンクしていたらしく、空き地においてあるどこでもドアに何かがあったのだと予想できた。まぁ、おそらく切り刻まれたのだろう。ノブの部分が正方形に切られていたからな。

 

 その後、吾輩の空間転移で日本まで戻ろうという話になったが、今日と同じ地点に必ず戻れるわけではないぞと告げたらなぜか悩み出した。吾輩の空間転移は視界で捉えた範囲に転移するというもので、きっちり座標を割り出してるわけではない。スネ夫はそれでもいいから帰ろうと言っていたが、ジャイアンやのび太は自分達が歩いてきた記録が消えるのは嫌だと反対し、しずかちゃんの方はお風呂が理由でスネ夫の考えに賛成していた。結局、ドラえもんが頭に被っていたひみつ道具『キャンピングハウス』で一夜明かすこととなった。その帽子、ひみつ道具だったのだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝になり、全員がキャンピングハットの中から出てくる。朝日がサバンナを照らし、サバンナにいる動物たちが生活している姿をみることができる。

 

 

「牙の王…………命落とす……」

 

「やめろよ!」

 

 

スネ夫が原住民族たちから聞いた言葉を呟き、のび太に止められる。昨日出会った原住民族たちは、吾輩たちの目標である謎の巨神像を神と崇め奉り、その巨神像に会うための話をしてくれた。『サバンナにでると牙の王がいる、そこで一つ命落とす。オドロンドロの谷、切り立った崖、死霊の国、また一つ命落とす。その向こうは永遠の霧に閉ざされた神の国、入れば生きて帰れぬ、三つ目の命落とす』というもので、今いる場所が話の一つにあったサバンナであるから思い出したのだろう。のび太たちは怖がってるようだが、あの話はあくまで彼ら目線の話だ。吾輩とドラえもんがいる時点で、あの話を真に受ける必要はない。

 

 

『吾輩やドラえもんがついているから心配ない』

 

「そ、そうよね」

 

「うん」

 

 

気を取り直して、サバンナを歩く。目的地までの道のりは、吾輩が千里眼で確認しており、道を逸れそうになったら注意しているので、道を間違うことはない。しばらく歩いていると岩が積み重なった場所を発見し、周りの景色を確認するためにその上に登ると、象の群れが水浴びをしている場面に遭遇した。

 

 

「象の群れだ!」

 

「な〜んだ、牙の王って象のことだったんだ」

 

「うわ〜、大きいな〜!」

 

「可愛い!」

 

 

象の群れに何の躊躇いもなく近づいていく四人とペコ。ジャイアンは吾輩と一緒に積み重なった岩の天辺にいる。あの四人はなぜああも躊躇せず野生動物に近づいていくのか。象は体重が7トンもあるのに時速40キロ程度まで走れる上に、アフリカの象は気性が荒いと聞く。心配する吾輩の気持ちを考えて欲しいものだ。像の近くにいるのび太たちとジャイアンに危険がないよう千里眼で確認をしていたら、周囲をライオンの群れが囲んでいるのに気がついた。

 

象が周囲にいるライオンに気づいたのか、急いで逃げてゆく。のび太たちがそれに気を取られている間に、ライオンを空間転移で離れたところに転移させた。

 

 

「なんだったんだろう?」

 

「さぁ……わかんない」

 

 

突然、慌てて逃げ出した象の群れに首を傾げているのび太達へ、声を掛ける。

 

 

『休憩はそろそろ終わりにして、先へ進もう。道は吾輩が把握してある』

 

「わかったわ」

 

「今回は大丈夫だったけど、王国にたどり着くにはあと二回も命を落とさなくちゃならないのか」

 

「とりあえず、今は進もう」

 

 

サバンナで無事牙の王をやり過ごした吾輩たちは、この先にあるオドロンドロの谷へと向かった。道中はドラえもんが新たに取り出した道具『電車ごっこロープ』でのび太達五人は駆け抜け、吾輩とペコは浮遊しながらついて行った。

 

オドロンドロの谷の入り口である崖に着いたら、吾輩が全員を念動力で浮遊して降りた。谷はかなりの深さで、一番下まで降りるのに5分ほどかかった。

 

 

「陰気な所だな……」

 

「こりゃ、本当に死霊の国だよ……」

 

「い、岩がうなってる!?」

 

 

オドロンドロの谷の一番深い場所は、少し暑く薄暗い。また、穴だらけの岩がいくつも隆起して、そこから呻き声のような音が聞こえたり、勢いよく煙が出ている。

 

先へと進むと、人の顔に似た穴が開いたかなり大きい岩が見えてきた。その岩は、他の岩からも聞こえる呻き声のような音を出し、穴の奥は怪しく光っている。

 

 

「怪しい光、怪しい声!」

 

「やっぱり死霊がいるんだ〜!?」

 

 

のび太とドラえもんが抱き合って叫ぶ。のび太はいいとして、ドラえもんはなぜ怖がっているのか。むしろ、未来の知識で死霊について否定するものだと思っていたのだが。ちなみに、吾輩は死霊は存在すると考えている。吾輩の存在自体がそれに近いしな。

 

 

「っ!?」

 

「で、出たー!?」

 

「わあああああ!?」

 

 

目の前にある岩の穴から光が飛び出してきた。それに驚き、叫びながら逃げていくドラえもんたち。念動力で飛び出た光を覆ってみると、あっさり捕らえることができた。

 

 

『念動力で捕らえた。身動きは取れんはずだ』

 

「すごーい!」

 

「さすがクロだ!」

 

 

五人が戻って来て、徐にジャイアンが吾輩が捕らえている光を掴んだ。

 

 

『どうした?』

 

「いや、よく見たらよ、小さな虫みたいなのが見えたんだ」

 

「えぇ?」

 

 

ジャイアンがそう言うと、ドラえもん達が近づき光を掴んだジャイアンの拳を見る。ジャイアンがゆっくりと手を開くと、光がゆっくりと散ってゆく。わずかに羽音のような音が聞こえた。光が散ってゆく様を見て、ドラえもんが気づく。

 

 

「これは……ブヨみたいな小さな虫に発光バクテリアがついたんだ!」

 

「な〜んだ、タネがわかればあっけないや!」

 

「死霊の声もそうだ! きっと科学的に説明がつくはずだよ!」

 

 

ドラえもんが怪しい光の正体を看破すると、のび太達は安堵の息をついた。怪しい光の正体が死霊や霊魂などではないと分かり冷静になったのか、スネ夫が穴だらけの岩に近づいてゆく。穴を覗き込み、何かを考えようとしたスネ夫の顔に、煙が勢いよく噴出した。

 

 

「ぎゃああああああ! 熱っつい!」

 

「スネ夫さん、大丈夫?」

 

「うん、でもわかったよ」

 

「なんだったの?」

 

「この辺は、火山帯なんだ。だから時々、地底から蒸気を吹き出すのさ。それが穴だらけの岩を共鳴して音が出る、笛と同じ原理だよ」

 

「おお! さすがスネ夫」

 

「なるほど!」

 

 

ふむ、スネ夫は怖がりだが知識があるのだな。思えば、ドラえもんの次くらいに動物の名前を言い当てたり物事の解説をしていた気がする。

 

吾輩含めた全員がスネ夫に感心していると、パムパムという音が聞こえてきた。のび太達が音のなる場所を振り向くと、そこには吾輩よりも少し高いところに座って拍手をしているペコがいた。吾輩は千里眼で確認していたので、突然ペコが拍手をし出したときは少し驚いたが、妙に賢いところがあるし、拍手できても不思議ではないと思っていたので予想の範囲内だった。

 

だが、次に起こったことは吾輩の予想を大きく上回っていた。

 

 

「お見事! さすが僕が見込んだ皆さんです」

 

「あ、ああ……!」

 

「「「「「ペコが喋った!!」」」」」

 

「驚かすつもりはなかったのです。もっと早く打ち明けて、お力添えを願うべきでした」

 

「「「「「立った!!」」」」」

 

「事情を話しても信じてもらえないと思って、皆さんの目で確かめてもらいながらここまで来たのです」

 

『ペコ、お前は一体何者だ?』

 

 

言葉を話せて二足歩行ができる。もしかすると、吾輩と同じ立場の者かもしれん。仮にそうであれば、神に一矢報いるために協力願うところなのだが…………

 

 

「僕はバウワンコ108世の子、クンタック王子です」

 

 

 




い、いかん。ジャイアンがほとんど空気になってしまった。


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13話

遂に私はやりましたよ!大量にあった課題を終わらし、レポートも残り一つまで減らした!
ヒャハ、ヒャハッ
私はやったんだぁーっ!
ヒャハハハハハハハァーッ!


誤字報告感謝。誤字修正しました。


「僕はバウワンコ108世の子、クンタック王子です」

 

『バウワンコ?』

 

「王子様だったの……」

 

 

突然、拍手して立ち上がったと思ったら喋り始めたペコに正体を尋ねた結果、吾輩の同胞ではないことが判明した。人間のように話し、行動できていたからてっきり吾輩の同胞だと思ったのに……残念だ。いや、吾輩と同じような目に合っている者はいない方がいいか。

 

 

「訳あって日本まで行きましたが、皆さんのおかげでここまで辿り着くことができました」

 

『なるほど。して、その訳とは?』

 

「それは、歩きながら話します。とにかく先を急ぎましょう!」

 

 

クンタック王子…………長いからペコでいいな。ペコの先導の元、谷を進んでゆく。しばらく歩いていると、水が流れている洞窟に入った。そして、洞窟の奥へと進んでいく。

 

 

「王国につながる道はただ一つ、この地下洞窟だけです」

 

「それはなぜ?」

 

「この川の道は王国の湖から流れ出しているからです」

 

「そうなのね」

 

「でも、犬の王国なんて信じられないな」

 

「それは、お互い様です。僕だって、この目で見るまで人間の世界なんて信じられなかった。おそらく、何百万年前か昔、地殻の大変動があったのでしょう。大地の一部が陥没し、外の世界と切り離されてしまったのです」

 

「へえ〜」

 

 

犬の王国か……猫の国とかもどこかにあるのだろうか。

 

 

「あれ? 行き止まりだよ?」

 

「そうみたいですね」

 

『ここから来たのではないのか?』

 

「それはそうなんですが……」

 

「ドラえもん、なんとかならない?」

 

「うーん、そうだ! 『さかのぼりボート』!」

 

 

ドラえもんが、のび太の要望に応えるために『さかのぼりボート』という道具を取り出した。吾輩を除いた6人がギリギリ乗れそうな大きさの鯉を模したボートで、ドラえもんの説明によると、流れに逆らって進むボートらしい。

 

 

「さあ、みんな乗って乗って!」

 

『吾輩は、飛行しながらついていく』

 

 

ドラえもんの指示に従って、のび太達とペコが乗り込む。吾輩はボートに乗れないので、超能力で飛行してついていく。はっきり言って、空間転移で移動した方が早いのだが、もうみんなボートに乗ってしまったし黙っておく。

 

ボートは勢いよく、流れに逆らって川を遡っていく。ボートの見た目に反して、かなりのスピードが出ている。

 

 

「ヒャッホウ! これはいいや!」

 

「そうね!」

 

「ペコ、久しぶりに故郷に帰れるんだから嬉しいんじゃない?」

 

「もちろん、嬉しいことは嬉しいのですが……王国には恐るべき敵が待っているのです」

 

「敵?」

 

 

川を遡っていたボートの勢いがどんどん遅くなっていき、それと共に出口が近づいてきた。先に、転移して出口の方に行く。

 

 

『ほう……これが、バウワンコ王国か。美しいな……』

 

「うわぁ…! これがバウワンコ!」

 

「きれい……!」

 

 

ここから見えるバウワンコの風景に感動していると、のび太達も着いたようで同じように感動していた。現代日本で生活していたら、このような景色を見ることができることはほとんどないだろうし、良い経験になる。

 

しばらくして、皆を地上に転移させた。出口は高い場所にあったから、そのまま降りるにはかなり時間がかかりそうだったからだ。

 

 

「大きな水車だな…」

 

「収穫した農作物を加工したり、王宮に水を運ぶのに使われています」

 

「綺麗なところね」

 

「ああ」

 

 

道を歩きながら、景色を眺める。それぞれが疑問や感想を述べていると、遠くの方から足音が複数聞こえてきた。千里眼で確認すると、豚のようなロバのような蜥蜴のような謎の生物に乗った鎧を着た犬の兵士達が道を走っていた。なんだあの生物。大きさ的に人を乗せて走らすには難しそうだが、なぜああもスピードを出せているのだろうか。

 

 

「っ! 伏せて!」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

 

ペコも音を聞き取ったのか、倒れるように伏せて、全員にも伏せるように指示を出した。ペコの指示に従って、全員が伏せる。一応、吾輩も伏せている。

 

 

「あれは……犬の兵隊!?」

 

 

のび太が犬の兵隊に驚いて大きな声を上げてしまい、道を走っていた兵士の一人がその声に気付いたのか止まってしまった。

 

 

「どうした?」

 

「いや、あっちの方から妙な鳴き声が聞こえた」

 

「気のせいじゃないのか? それより急ぐぞ!」

 

「ああ……」

 

 

どうやら気のせいだと思ったようだ。もしもの時は脳震盪を起こして眠らせるつもりだったが、杞憂だったな。

 

 

「もう、いいでしょう」

 

「い、今のは……?」

 

「父から王位を奪った大臣、ダブランダーの部下です」

 

「ダブランダー?」

 

「悪知恵のはたらく恐るべき敵で、この国は今、ダブランダーの支配下にあるのです」

 

「そうなのか」

 

 

なるほど。ペコの敵は王位を奪ったダブランダーという元大臣。吾輩なら、ここからでもダブランダーを始末することは可能だが、それではあまり意味がないのだろう。

 

 

「今はどこに向かっているの?」

 

「ブルススの屋敷です。ブルススは父の親衛隊長を務めていた王国一の戦士で、とても信頼できる部下です」

 

「そうなんだ」

 

 

ペコの案内に従いながら歩いていると、広い庭と大きな屋敷がある場所についた。これがペコの言っていたブルススとやらの屋敷なのだろう。親衛隊長を務めていたと言っていたし、これほどの屋敷に住んでいても不思議はない。……のだが、千里眼で中を透視してみると誰もいなかった。それどころか荒らされている。金目のものは盗まれていないところを見るに、強盗の類が入ったわけではなさそうだ。

 

 

「ブルスス! ブルスス!」

 

「ひどいなぁ…」

 

「誰もいないみたい」

 

「おそらく、捕らえられてしまったのでしょう。ブルススならあるいは、無事かと思ったのですが……」

 

『他に頼れる人はいないのか?』

 

「この分だともう、味方は一人残らず……」

 

「どうしてこんなことになったの?」

 

「それは……」

 

 

そう言ってペコが語り始めた。五千年前のバウワンコには今よりも遥かに高度な文明が存在しており、その科学力で火を吐く車や空を飛ぶ船などの兵器を発明したらしい。しかし、賢明なるバウワンコ一世は限りない兵器の発達が世界の滅亡を招くと考え、兵器の研究を禁じてその記録を封じたそうだ。そして、五千年の間に科学力は衰退したが王国の平和は保たれてきたという。ところが、ペコの父王の代になってから大臣だったダブランダーが古代兵器を復活させ、外の世界を侵略しようと企てた。そして、ペコとスピアナ姫の婚礼の日にペコの父が暗殺され、その罪を着せられたペコは逃亡し、最終的に地下水の流れに巻き込まれて人間の世界に来たようだ。

 

この話を聞いて思ったが、バウワンコは色々と凄い国だな。まず、五千年前に飛行船と擬似戦車を開発できていたのが凄い。人類が初めて空を飛んだのは十八世紀で、戦車なんて二十世紀初頭に開発された。今は見る影もないが、当時の技術力は当時の人類の先を行っていたわけだ。そして、五千年もの間平和を保っていたというのも凄いことだろう。人間なんて、百年の間に何度も戦争を起こしている。

 

ペコがダブランダーを恐ろしい敵と称しているのは、王を暗殺して部下のほとんどを掌握した五千年も保ってきた平和を崩した悪党だからかもしれない。

 

 

「ダブランダーがいる限り王国に未来はない。皆さん、無理を承知でお願いします。どうか、僕に力を貸してください!!」

 

「ぺ、ペコ…」

 

「冗談じゃない! 宝探しに来たのにどうしてこんなことに巻き込まれなきゃいけないのさ! さっさとクロにお願いして日本に帰ろうよ!」

 

「そういうわけにはいかないでしょ」

 

「そうだよ、ペコを見捨てるわけにはいかないよ」

 

「ぼくたちに何ができるっていうのさ!」

 

「それをみんなで考えましょう?」

 

「無駄だよ!!」

 

「無駄じゃない!!」

 

『デジャブのある光景だな』

 

 

スネ夫とのび太、しずかちゃんが言い争いをしていると、屋敷の外の方から「助けて」という声が聞こえてくる。千里眼で外を覗いてみると、犬の兵士二人に追いかけられている犬の子供がいた。おそらく、声はあの子供のだろう。子供は兵士の一人に捕まると、その兵士の鼻を噛んだ。鼻を噛まれた兵士は痛さのあまり、捕まえた子供を手放し、剣を抜く。

 

 

「やめろ!」

 

 

ペコが横から剣を抜いた兵士に体当たりをして、その兵士から剣を奪った。いつの間にか、ペコだけじゃなくのび太たちも外に出ている。最初の助けてという声を聞いて、外に出たのか?

 

 

「な、なんだ貴様ら!?」

 

「子供に乱暴するとは……許さぬ!」

 

「小癪なぁ……っ!」

 

 

槍を持ってペコに突撃してきた兵士の槍を、ペコは避ける際に切り飛ばした。槍を失った兵士は腰にぶら下げている剣を抜き、ペコに斬りかかる。力任せに振られる兵士の剣を危なげなく避けるペコは、隙を晒した兵士から剣を叩き落とし、蹴りを胴体に放つと、蹴りによって倒れた兵士に剣の鋒を向ける。

 

 

「ま、まいった…………ん?」

 

 

負けを認めて降参した兵士はもう一人を連れて逃げていった。何かに気づいたようだったが、なんだったのだろうか。

 

 

「どうやら、僕の正体に気づいたようです」

 

「そうなの?」

 

『なぜそう思う』

 

「僕の首からかけているこのペンダントは代々受け継がれてきたもので、僕は王子ですから」

 

『良くも悪くも顔を覚えられているということか』

 

 

その後、兵士から逃げていた子供から話を聞いた。子供……チッポは兵隊に両親を無理矢理連れて行かれたせいで満足に飯を食うことができずに腹を空かせ、あの二人組の兵士の弁当を盗んだという。盗んだのは悪かったと言っていたから、盗みが悪いことだとちゃんと認識しているようだ。

 

 

「だからオイラ、父ちゃんと母ちゃんを助けに行くんだ!! ほら、剣も作ったんだよ!」

 

「チッポ…………」

 

 

震えた声で名前を呼ぶペコ。王となったダブランダーはどうやら、悪政を敷いているようだ。兵器の開発などしたこともない農民を無理矢理連行して兵器開発のための労働をさせるとは。まともな給料も出なさそうだな。

 

 

「ペコ、僕たちにも手伝わせて!」

 

「のび太さん…」

 

「もちろん、私達もね! 皆で力を合わせれば、きっとなんとかなるわ」

 

「ああ!」

 

『吾輩も協力しよう。』

 

「わかったよ、手伝えばいいんでしょ?」

 

「ああ……ありがとう……ありがとう、皆さんっ……」

 

 

泣きそうになっているペコを落ち着かせながら、吾輩たちは作戦会議を行うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうしよう…主人公が全力で取り組むとRTAできちゃいそう。


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14話

ワクチンの副作用エグくない……?

疲労に頭痛に筋肉痛に発熱に吐き気とクワトロコンボでした。




誤字報告感謝。誤字修正しました。


「こ、ここは一体!? 誰だお前たちは!?」

 

「落ち着くんだブルスス!」

 

「その声、そのお顔、その匂い、まさか……王子!? よくぞご無事で……」

 

 

吾輩の空間転移によって『かべかけ犬小屋』の中に現れたブルススという男。大柄な体で、額に十字傷がある。今より数時間前に行った作戦会議にて出た、ペコの「ブルススがいれば百人力だ」という意見を取り入れたため、吾輩がこの国の収容所に入れられていたブルススを空間転移で連れてきたのだ。ペコから特徴を聞きながら千里眼で見通せば、さほど時間もかからず安全にブルススを救出できた。

 

ちなみに、吾輩たちが今いるこの『かべかけ犬小屋』はドラえもんの出した道具だ。見た目は、犬小屋の絵が描かれた壁紙だが、絵の入り口から中に入ることができるのだ。中は想像より広く、ドラえもん達五人とペコ、チッポ、ブルスス、吾輩が入っていても少し余裕があるくらいだ。

 

 

「王子、この方々は一体何者ですか?」

 

「僕と一緒に外の世界から来てくれた、勇敢なる方々です」

 

「なんと、外の世界から!? ありがたや、バウワンコ一世の予言は真であったか!」

 

「予言?」

 

「王家に伝わる古い古い言い伝えのことです。『国乱れる時 五人の外国人と黒き竜来たりて 巨神の心を動かさん』という内容です」

 

「五人の外国人?」

 

「ボクらのことかな?」

 

「でもよ、黒き竜ってやつはいないぜ?」

 

「うーん、現実に竜がいるわけないし、何かの例えなのかな……?」

 

 

黒き竜……おそらく、吾輩のことなのかもしれん。魔法を使って姿を変えれば黒竜になることは可能だからな。しかし、こうなることを予言していたというバウワンコ一世は一体何者なのだろうか? もしかしたら、吾輩以上の性能の千里眼を持っていたのかもしれんな。だとすれば吾輩も、もっと修業すれば未来をも見通せるようになるのだろうか。しかし、千里眼を鍛える方法はわからんからなぁ。ひたすら千里眼を酷使するくらいか? だが、それは普段からずっと千里眼を使っているから既に行っているようなもの。とりあえず、かつて見通せなかったものを見通せるように戻ったら修業してみるか。

 

 

「それに、巨神の心というのも一体……?」

 

「わかりません。ですが、巨神の内部は空洞になっていると聞いています。入ってみれば何かわかるかもしれません」

 

「なるほど」

 

「クロの空間転移で直接内部に入れないの?」

 

 

のび太からの質問が飛んでくる。そう、吾輩も最初は巨神像の内部に直接飛ばせたら安全だし楽になると思ったのだが、なぜか魔法世界の時と同じように千里眼で内部が覗けなかったのだ。巨神像には魔法がかかっているのだろうか。

 

 

『すまないが、吾輩の千里眼でも内部を覗くことができなかった。故に、直接内部に転移させることはできない』

 

「そうなの?」

 

「なら、夜の闇に紛れて森を進むほかありませんね」

 

『いや、それはやめておけ。直接内部には無理だが、その手前に転移させることはできる。夜の闇に紛れて森を進むよりも安全だし、何より奴らを完璧に出し抜けるだろう』

 

「確かに! それなら安全だよ!」

 

 

グウゥ〜〜〜!

 

 

作戦会議をしていると、突然、お腹のなる音が聞こえる。音の出所はのび太のようで、お腹に手を当てている。

 

 

「ご、ごめん。お腹空いちゃって」

 

「そういえば私達、長いこと何も食べてないわ」

 

「お腹が空いて死んじゃいそうだよ〜!」

 

「う〜ん」

 

『吾輩が保有している食糧を分けよう。調理したものはないが、何もないよりはマシだろう』

 

 

この場の全員にそう伝えて、蔵から鏡の世界で調達した食糧を取り出す。ハムやパン類、様々な種類の缶詰やビスケット、カップラーメンなどを取り出し、ラーメンや水分補給に使う水を用意した。ジャイアンとのび太は迷わずカップラーメンを選び、ペコやブルスス、チッポたちはパン類、しずかとスネ夫とドラえもんは缶詰とビスケット、吾輩はハムを選んだ。

 

 

「ふぅ、ここに来てラーメンが食えるとは思わなかったぜ」

 

「ありがとう、クロ」

 

「助かりました」

 

『うむ』

 

「でも、この食糧はどこから?」

 

「確かに……」

 

『鏡の世界で手に入れたのだ。鏡の世界には生きた動物は存在しないからな、誰のものでもない食糧や物が多くある』

 

「そうなんだ。もしかして、前に僕が貸した入り込み鏡で?」

 

『うむ。それに、今の吾輩は入り込み鏡なしでも魔法で鏡の世界に行けるようになっている』

 

「魔法?」

 

「魔法ってあの?」

 

『まぁ、おおよそお前たちの想像している通りだ。並行世界の運営や身体能力の強化、姿を変える魔法などもあってな、昨日お前たちを襲った龍は吾輩が変身した姿なのだ。すまなかったな』

 

「あれクロだったの!?」

 

「クロさんは、ドラえもんさんのように不思議なことができるのですね」

 

 

吾輩の魔法について説明した後は、作戦会議を再開して話し合い、今日の夜に吾輩の空間転移を用いて巨神像の前に移動することになった。全員が巨神像に入るわけにはいかないので、巨神の心を動かすまでの時間稼ぎは吾輩が行うこととなった。もしかすれば、大臣たちも予言を知っていて吾輩たちの行動を予測して待ち伏せをしている場合もあるだろうが、その時は転移で飛ばせばいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

夜、バウワンコの王城の玉座にて—

 

 

「なんということだっ! あれだけの兵を動員しておきながら手掛かり一つ掴めんとは」

 

「天に登ったか地に潜ったか、奴らも中々やりますなぁ…………」

 

「何を悠長なことを言っておる!」

 

 

この国を支配するダブランダーと隻眼のサベール隊長、古代兵器の復活に尽力したコス博士が話し合っていた。多くの兵を用いてもペコたちの手掛かりを掴めず焦っているダブランダーは、どこか余裕を感じさせるサベールに対し怒号を浴びせる。そして、焦りで苛立っているダブランダーにコス博士が声を掛ける。

 

 

「まぁ、お静まりくださいダブランダー様」

 

「なんだ」

 

「おそらく奴らは、夜の闇に紛れて巨神像を目指すものと思われます」

 

「どうしてそんなことが言える」

 

「王家に伝わる古い予言があるのです。『国乱れる時 五人の外国人と黒き竜来たりて 巨神の心を動かさん』この予言を頼りに奴らは行動するでしょう。巨神像は森に囲まれていますので、見つかりにくい森の中を進もうとするはずです。森の中に兵士を配置し巨神像の前に待ち構えておくのが良いでしょう」

 

 

悪どい笑みを浮かべたコス博士は、ダブランダーに予言の内容と作戦を伝えた。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふむ、巨神像の前で兵士達と大臣が待ち構えているな。それに、森の中にも複数の兵士と謎の車がいる』

 

「う〜ん、クロが懸念していた通りになったね」

 

「大丈夫! クロの空間転移なら待ち構えてる兵士達と入れ替えることもできるもんね」

 

『ああ。問題ない』

 

 

 

『我が望みを叶えよ』

 

 

呪文を唱えて姿を変えた吾輩は、全員を巨神像の足元に転移させ、同時にその近くに展開していた兵士たちと大臣を森側に転移させた。巨神像の内部に直接送り込みたかったが、なぜか千里眼で内部を覗くことができなかった。

 

 

『作戦通りに我輩が時間を稼ぐ。その間に巨神像の心を動かしてくれ』

 

「わかった! クロも頑張って!」

 

「気をつけて!」

 

「ああ」

 

 

ドラえもん達が巨神像の足元にある入り口に向かい走ったのを見て、吾輩も転移させた兵士たちを見る。兵士たちは森の方から急いで走っており、もう少しでここまでたどり着くだろう。

 

 

尾の刺を剥き出しにし、いつでも動けるように頭を低くして後ろ足に力を入れておき、鋭刃翼を前に出して構える。

 

 

そうしたタイミングで森から黒い鎧を着た兵士を筆頭に他の兵士たちや大臣も出てきた。

 

 

「グアアアアアアアアァッ!!」

 

「な、なんだアレは!?」

 

「まさか、予言の黒き竜なのか!?」

 

 

兵士たちと大臣への挨拶がわりと、未だ入り口でもたもたしているドラえもん達へ「急げ」という意味を込めて、咆哮した。

 

 

 



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15話

調子がいいとスラスラ書けるのに、悪いと本当に何も書けなくなる。特に期限が迫っている時ほど書けなくなる。一体なぜなのか。


「グアアアアアアアアアァッ!!」

 

「な、なんだアレは!?」

 

「まさか、予言の黒き竜か!?」

 

 

咆哮すると、吾輩は兵士達へと飛び掛かった。別に超能力で兵士達や大臣を縛って時間稼ぎを行うことはできたが、ペコが主に行動して解決することが重要だし、予言とやらに沿って動いてみようと思ったのだ。

 

 

「うわあああっ!」

 

「ぎゃああっ!」

 

 

飛び掛かった吾輩に吹き飛ばされ、悲鳴を上げる兵士達。尻尾で残りの兵士達を薙ぎ払い、巨神像から遠ざける。吹き飛ばした兵士達は一か所に固めて、蔵から出したロープを念動力を使って縛った。今の吾輩は迅竜ナルガクルガの姿になっているから、クシャルダオラの時よりも素早く動ける。迅竜ナルガクルガは飛竜種の中で群を抜く驚異的な俊敏性を誇っており、あっという間に相手との距離を詰めることができるのだ。

 

新たに森から現れた兵士達へと跳躍し、兵士達を吹き飛ばす。次々と現れる兵士達を前足で叩きつけたり、尻尾で薙ぎ払ったりしながらドラえもんたちが巨神像を動かすのを待っていると、剣を持ってかなりのスピードで吾輩に向かって来る者を千里眼で捉え、振り下ろされたその剣を左の鋭刃翼で受け止めた。

 

 

「予言の黒き竜……これ以上貴様の好きにはさせんッ!」

 

「「「「サベール隊長!!」」」」

 

「おお……!! いいぞサベール!」

 

 

そう言って吾輩に斬りかかってきたサベールを右の前足で吹き飛ばそうとするが、サベールは吾輩の攻撃を素早く後ろに退がることで避け、お返しとばかりに吾輩の懐に入り剣で斬りつけてきた。

 

 

『何だとッ!?』

 

 

驚き、後ろに跳躍して距離を取った。今の吾輩の姿はナルガクルガそのもの。つまり、体を覆う鱗や体毛もナルガクルガそのものなのだが、それが斬られた。血が出るほどではなく鱗が体毛とともに数枚斬られただけだが、サベールの使う剣はおそらく鉄製だ。モンスターの素材やあの世界の鉱石を用いた武具でもないはずなのに、斬られたことに驚いたのだ。てっきり斬れずに弾かれると思っていたから、完全に吾輩の慢心だ。…………だが、次はない。

 

 

「ほう、硬いな…………だが、斬れんほどではない」

 

 

再び吾輩へと走って向かってくるサベール。それに対し尻尾の棘を飛ばして牽制しようとするが、走りながら飛んでくる棘を剣で斬り払い距離を詰めてくる。回転し尻尾で尻尾で薙ぎ払おうとするが、跳躍することで避けられた。跳躍したサベールは宙で剣を構え、突きを放とうとする。だが、吾輩の攻撃はまだ終わりではない。回転を止めず、先ほどよりも早く回ることでサベールを尾で吹き飛ばす。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

吹き飛ばされたサベールは勢いで地面を数回転がると軽く後ろに跳躍して即座に体勢を立て直し、また剣を構えて向かってきた。…………先程斬られたことでわかってはいたが、強いな。他の兵士は今の一撃で気絶したのに、気絶せずに体勢を立て直してまた向かってくるとは。

 

ならば、吾輩もこの姿で出せる全力でいくとしよう。さっきまでは意図的に鋭刃翼をほとんど使わなかったが、今度は違う。下手をすれば死んでしまうかも知れんが、それはサベールも覚悟しているだろう。

 

黒上毛を逆立て、先程までとは別次元のスピードで動き、紅のような瞳が残光を残す。一瞬で剣を構えながら走っているサベールの目の前まで近づき、左前足を振り抜いて鋭刃翼で斬りつけた。サベールは咄嗟に構えていた剣を間に挟むことで威力を減衰させたが、斬られた衝撃で吹き飛び、森の方に設置されていた柱に激突し苦悶の声を上げた。鋭刃翼を受けた剣は半ばから折れ、身に付けていた黒い鎧は大きな一文字の傷が刻まれて、そこから血が流れている。真っ二つになっていないのは良かったが、柱にぶつかった衝撃と斬られた痛みで気を失っているようだ。

 

 

「サベール!?」

 

「バッ……バカな……サベール隊長がやられた!?」

 

 

兵士達と大臣が驚いているようだが無視する。今はサベールだ。傷つけたのは吾輩だが、殺したいわけではないので、ロープで身動きできないように縛ると治療する。吾輩の血液を一滴、念動力でサベールの元まで運んで傷口に垂らす。すると、あら不思議、サベールの傷は瞬く間に治ってしまった。修業をしている最中にわかったことなのだが吾輩の血液はなぜか、他者の傷を一瞬で直してしまうほどの回復力を持つらしいのだ。

 

 

「おお! ようやく来たか……!」

 

「これでもくらえ化物めッ!!」

 

 

サベールの傷を治し終えると同時に、森の中と空から新たな敵が現れた。千里眼でみた火を吐く車と空飛ぶ船だ。車の方は吾輩に向けて火を放射し、空飛ぶ船からは爆弾が落とされた。

 

だが、吾輩には当たらない。火は跳躍して避け、爆弾は尻尾で車や船に跳ね返した。爆弾が当たった車や船は爆発し、爆風と共に兵士達が吹っ飛んでいく。念の為、千里眼で確認したがちゃんと生きている。他にも、棘を飛ばしたり、鋭刃翼で直接斬り裂いて大臣が復活させた古代兵器を破壊していく。

 

吾輩が古代兵器を使い始めた兵士達を迎撃してしばらく経つと、巨神像の頭上に雷雲が集まっていた。雷雲から巨神像に雷が落ちる。その後、雷が直撃した巨神像の無機質な目に光が宿った。中の様子を覗くことはできないが、おそらく巨神の心を動かせたのだろう。目に光を宿した巨神像は、足元の入り口を破壊しながら動き出し、組んでいた手を解放すると同時に大きな咆哮をした。

 

 

「ワオオオオオオオン!!」

 

「きょ、巨神像が動き出した!?」

 

「なんだとぉ!?」

 

 

……見るからに石に近い材質でできているはずなのに、どうやって動いているのだろうか。やはり、魔法でも込められているのではないのか?

 

 

動き出した巨神像は、次々と攻撃を仕掛けてくる兵士達の乗る古代兵器を破壊していく。古代兵器を突き、肘打ち、踏み潰し、時には掴んで投げた。何発か爆弾や火炎放射を浴びているが、効いている様子はない。

 

 

「たかが石ころ如きに何を苦戦しているのだッ! ええい、遠吠え砲の準備をしろッ!!」

 

「「ハッ」」

 

 

巨神像が古代兵器相手に無双している間に、コス博士と呼ばれていた人物が乗る一番大きい船が遠吠え砲の準備を始める。だが、それをただ眺めている我輩ではない。

 

 

「な、なんだ!? 船がッ…………!?」

 

「ひッ……黒き竜!?」

 

「うわあああああ!?」

 

 

かなりの力を込めて大きく跳躍し、船に飛び付く。そして、船に乗っていた博士と兵士達を叩き落とした。叩き落とした兵士達と博士は、念動力で浮遊させると同時に身動きが取れないように蔵からロープを出して縛る。これで、大将格を二人捕縛したことになる。サベールとコス博士が捕らえられた事実を知った残りの兵士達は投降したため、後は大臣だけだ。……だけなのだが、いつの間にかこの広場からいなくなっているな。兵士やサベールに集中して見落としたか。まだまだ修業不足というわけか。

 

 

「コス博士、ダブランダーはどこにいる!」

 

 

巨神像の額にある宝石から降りたペコが、巨神像の手のひらに乗せられたコス博士に対して怒鳴りながら質問する。大臣がいる場所を知っているか怪しいし、仮に知っていたとしても正直に答えたりしないだろうと思ったのだが…………

 

 

「フンッ、とっくに王宮の方に逃げたわ」

 

 

普通に答えてくれた。案外、忠誠心は無かったようだ。念のため、千里眼で王宮を確認したら本当にいた。

 

 

『うむ、確かに王宮の方にいるようだ。今はドレスを着た褐色系の女性に迫っているな。口の動きから察するにスピアナ姫と言っているようだが』

 

「なっ……!? クロさん、可能であれば僕を今すぐそこに送ってください!」

 

『可能だが、ペコだけではなく全員で行く』

 

 

巨神像ごと王宮の方まで空間転移で移動する。もちろん、縛った兵士たちも一緒にだ。王宮に着くと、城下にはたくさんの人が集まっており、テラスの方で大臣とスピアナ姫と思われる人物が向かい合っていた。チッポの方は作戦通り、働かされていた国民たちの決起に成功したようだな。

 

 

剣を携えたペコが巨神像から飛び、テラスの手摺に着地するとスピアナ姫と大臣の間に降り立った。

 

 

「もう逃げ場はないぞ、ダブランダー!」

 

「おのれ……クンタック! こんなところで終るものかッ」

 

 

ダブランダーは腰に挿していた短剣を抜き、ペコへ近づいて短剣を振り下ろした。だが、ペコは振り下ろされた短剣をすでに抜いていた剣で弾き飛ばし、隙だらけとなった大臣へと峰打ちすることで大臣の意識を奪う。

 

 

「スピアナ姫!」

 

「王子!」

 

 

大臣を民衆の目の前で打ち倒したペコは、スピアナ姫と抱きしめ合う。それを見た民衆は溢れんばかりの歓声を上げた。

 

 

 

 




原作と新映画の両方に出てくるサベール隊長は、名刀電光丸と勝負ができる程の強さで描写されていたので、そこそこ強くしました。特に、新映画の方は声がキャラデザとマッチしていて好きなので、イメージはこっちです。


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16話

コロナワクチン二回目の副作用にやられました。

短いです。


%月☀︎日

 

 眠い。猫は本来1日の半分以上は寝て過ごすのに、昨日は一睡もしていなかったからそれが原因か? 倒した大臣と兵士達、コス博士を牢屋に放り込み、王宮に蓄えられていた食糧を国民に配給し、巨神像を元の場所に戻して、ペコとブルススが残りの後処理をしている間に吾輩たちは仮眠とったのだが、それでは足りなかったようだ。吾輩が起きる頃には、ドラえもん達はとっくに起きていて、王宮の食堂でペコたちと一緒に食事していた。吾輩も起こしてくれよ。

 

食堂に転移して我輩も食事をした後、しずかちゃんがお風呂に入り、いくつかペコと話して帰ることになった。吾輩の空間転移でしか帰れないのはわかっていたから、食事しながら千里眼で東京都練馬区月見台すすきヶ原を探していた。まぁ、のび太の家や空き地、学校や裏山などの目印があるから見つけやすかったな。

 

吾輩たちは巨神像の所まで移動し、そこで帰る前にのび太たちとペコが話をした。途中、ペコがお礼として宝石の入った壺を渡してきたが、スネ夫たちが王国復興の財源として活用してくれと断ってしまった。吾輩と違って、子供たちは金に目が眩まないようだ。スネ夫はちょっと惜しんでいたが。

 

のび太たちがペコと話し終えるのを見届けて、別れの挨拶をした後は空間転移で出発した空き地に戻った。各々が冒険の余韻を残しながら家へと帰っていき、吾輩は眠気が限界だったのでこの日記を書いたら眠ることにした。こっそりちょろまかした火を吐く車やコス博士が乗っていた空飛ぶ船などの古代兵器は、明日運転してみようと思う。

 

 

 

 

 

%月□日

 

 今日は、昨日こっそり拝借した古代兵器の試験運転をした。もちろん鏡の世界でだ。試験運転といっても、兵士達が使ってたし問題なく動いたがな。

 火を吐く車は街中で運用するようにはできていなかった。森林とかなら活用できるんだろうけど、戦車の下位互換だな。

 コス博士が乗っていた一際デカイ空飛ぶ船は、火炎放射器以外にも「遠吠え砲」とやらが使えた。名前は「遠吠え砲」の説明とともに紙に書かれて船内に貼られていたので、そのまま採用した。コス博士は暗証番号を紙に書いておくタイプなのだろう、無用心。「遠吠え砲」は、船首についてる犬の口から衝撃波を飛ばす兵器だった。その威力は、的にした学校の裏山の一部を吹き飛ばす程だ。だが、「遠吠え砲」を放つまでに少し時間がかかり、威力もミサイル1・2発分くらい。これなら、吾輩の蔵から高層ビルを射出した方が強い。射出に溜めはいらないからな。…………白亜紀にいた頃は、蔵の射出機能を使う機会はほとんどないだろうなんて日記に書いてるが、全然そんなことなかったな。それなりの頻度で使ってるわ。

 

拝借した古代兵器は、吾輩の蔵の中で観賞用のものとなるだろう。普通に現代兵器の方が強いから、使う機会があまりなさそうなのだ。是非もなし。

 

明日は、魔法世界に行って千里眼の修行をしようと思う。

 

 

 

 

 

 

%月▶︎日

 

千里眼の修行は難航した。なぜなら、メデューサやデマオンほどの魔力を持っている人がいないため、あの時の再現ができなかったからだ。一応、美夜子さんや満月牧師はオーラのように魔力を放出することはできたが、とても姿が見えなくなるほどではない。千里眼を使わずともバッチリと姿が見える。これでは意味がない。なので、少しやり方を変えることにした。魔力ではなく、魔法を使って姿を隠してもらうのだ。魔法は何でもいいので片っ端から試していった。

 

火や水、土の壁、光の透過、『魔法の絨毯』の中などの拡張された空間、いろいろ試してもらった。その結果、拡張された空間の内部だけはどうやっても千里眼で透視することはできなかった。他は、最初は見えなくても集中して見れば見通せるようになったのだが、空間系の魔法はダメなようだった。もしかすると、あの巨神像には内部空間を拡張する魔法でもかかっていたのかもしれない。だとすれば、見通せなかったのも納得がいく。手伝ってくれた美夜子さんと満月牧師には、今度ドラえもん達がいる世界に連れて行くことを約束した。

 

 

 

 

 

%月◆日

 

 ついにパイロキネシスを使えるようになった。いつものように鏡の世界で超能力の修業をしていたら、パイロキネシスで炎を出せるようになった。これで、ハムをこんがり肉にしたり敵をコゲ肉にすることもできる。炎というのは多くの創作物の中で用いられるから、それらを参考にして技を再現したりオリジナルの技を作ることもできる。ポケモンの「だいもんじ」や雨の日は無能な人の指パッチン、流刃若火とかいろいろできるだろう。まぁ、最大火力はまだ試してないからわからないが、古代兵器の火炎放射よりは火力が高いだろうな。

 

 

 

 

 

%月€日

 

 今日は、昨日使えるようになったパイロキネシスの現状最大火力の調査とパイロキネシスを使った修行をした。現状、吾輩のパイロキネシスの最大火力は山を融解させる程度だった。ただし、念動力を使うよりも力を込めての火力で、使うと2分位は超能力が使えなくなる。

 

課題としては、反動だな。最大火力でパイロキネシスを使うと2分の間超能力が使えなくなるのはキツイ。反動をなくせるようにしなければな。

 

最大火力がわかったところで、反動をどうにかなくすためにパイロキネシスを使った修行をした。最初は、弱火・中火・強火と火力を段階的に調節できるようにし、慣れてきたら弱火から強火、強火から弱火へと、それにも慣れたら火の範囲調節などをした。マッチの炎サイズから大炎戒・炎帝くらいのサイズに。他にも、火の形状変化や変身した姿での応用など様々な修行をした。

 

鏡の世界で町を破壊してしまったので、町が修復されるまでは現実世界で眠ることにする。

 

 

 

 

〆月◎日

 

 いつものように寝床で寝ていたら、興味深いことを聞いた。なんと、ジャイアンが料理の研究をしているらしかったのだ。しずかちゃん、スネ夫、のび太の三人に料理研究会を開くと言ったジャイアンはコック帽をかぶって家へ帰っていき、残されたのは青い顔をして口を抑える三人だけだった。話を聞くに、どうやらジャイアンの料理は吐き気を催す邪悪らしい。ブチャラティが怒りそうだ。

 

千里眼で様子を覗いてみたが、凄かった。料理中はなぜか紫色に発光していて、三人を恐怖させていたな。完成した料理は紫色の液体で中に入っている具材がおかしかった。豚の挽肉や沢庵はまだいい。苺ジャムと煮干し、大福、セミの抜け殻、インスタントコーヒー、その他諸々は普通におかしい。ジャイアンシチューと名付けられていたらしいが、どう考えてもシチューではない。

 

この時点で、吾輩は千里眼で覗くのをやめた。見るに堪えない。ドラえもんに三人の危機を教えた今の吾輩にできることは、あの三人が生きて戻ってくることを祈るだけだ。

 

 

 

 

 

〆月○日

 

 散歩をしていたら恐ろしい場面を見てしまった。今日は普段とは違う散歩コースにしようと、公園がある付近を散歩していたのだ。公園側は吾輩が塒としている空き地からは遠いからな。普段とは違う散歩コースを歩き、公園の入り口の方を横切った時に偶然見てしまったのだ。ドラえもんが謎の機械で犬と猫を合体させてしまう瞬間を。どうやらのび太としずかちゃんがその場にいたらしく、隠れて話を聞いてみると「喧嘩する犬と猫をどうにかしてほしい」というしずかちゃんの願いからこの惨劇が起きてしまったようだ。

 

合体された犬猫は「ワオニャーん」という訳のわからない鳴き方をし、姿は犬の体に猫の目と模様という状態だった。一応、しずかちゃんの元に戻してという願いで元の犬と猫に戻ることができたが、恐ろしい道具だ。ドラえもんも「これで喧嘩しなくなる」と言っていたが、倫理機能が壊れてしまったのかと思ったわ。「いいアイデアだと思ったのになぁ」ではない。

 

あの道具自体は戻す機能もついていたようだし、フュージョン! とか ポタラで合体だァー! みたいなものなのだろうが、今日のドラえもんは倫理的に頭がおかしかったからな。もしかすると…………

 

のび太「ドラえもんっ! 朝からしずかちゃんと犬のペロが……!」

 

ドラえもん「あ、ちょうどいいところに来た。見てのび太くん! ペコたちみたいに喋る犬だよ!」

 

喋る犬「のび……た……さん……」

 

のび太「へぇ、いつどこで見つけたの?」

 

ドラえもん「? 今日の朝、しずかちゃん家でだよ!」

 

のび太「ドラえもん、もう一つ質問いいかな しずかちゃんとペロ どこに行った?」

 

ドラえもん「……今日のような勘のいいのび太は嫌いだよ」

 

 

みたいな展開が…………ないか。ないよな?

 

 

 

 

 

 



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17話

学校が始まるので、そろそろ更新が難しくなってきたこの頃。
卒論かぁ〜ドラえもんじゃダメかな?


誤字報告感謝。誤字修正しました。


〆月△日

 

 今日は、半日修行した後に現実世界の寝床で休憩していたら面白いものを見た。のび太たちが暗いどんよりとした空気をまとったと思えば光出したり、突然ゴマを擦り始めたスネ夫に呼応するかのように天狗のような状態になっていくジャイアン。なぜこんな不思議な状態になっているのか、犯人であろうのび太かドラえもんに聞いてみたところ『具象化鏡』という道具のせいだった。具象化鏡は「暗い人」や「時の流れ」などの言葉の上の表現を本当に見えるようにする道具らしい。面白いが、あまり使い道はなさそうな道具だと思った。

 

……と思っていたが、使い方次第では危険になる道具だった。のび太の気分がひどく落ち込んでいる時に相応強い表現が具象化され、危うい場面があった。「絶望のどん底」が似合いそうな雰囲気には落とし穴、自分のゆく道が「茨の道」だとのび太が言った時には薔薇が出現し痛みも伴っていた。「胸が張り裂けそうな悲しみ」を口にした時は、本当にのび太の胸が張り裂けそうになっていたから、流石に焦ったな。まぁ、のび太の先生が来てくれたおかげで張り裂けることはなかったが、代わりに昇天しそうになっていた。

 

どんな道具も使いようというわけだな。

 

 

 

〆月✥日

 

 今日は修行を休みにして散歩をしていた。途中でハプニングが生じたが、それも無事解決できた。ハプニングというのは、のび太の家の近くを歩いていた時に偶然聞いたのだが、のび太のママが家の鍵を失くしてしまったのだ。ドラえもんとのび太が鍵屋に走っていき、のび太のママは家の玄関の前で待機していた。気になったからしばらく待っていたのだが、一時間経ってもドラえもんたちは戻ってこず、千里眼で確認したら『エレベーター・プレート』なる道具で遊んでいたので、吾輩がドラえもん達の代わりに念動力で鍵を開けた。このまま放っておいたら、ドラえもん達はのび太のママが玄関で待っていることを忘れるだろうと思ったからな。

 

『エレベーター・プレート』は、プレートに人を乗せたままエレベーターのように建物の階数の位置に上下し、空中に止まった場合はプレートに乗っていた者だけ空中を歩行することもできる道具のようだ。のび太達はタケコプターのように空を飛ぶのではなく、空を歩くという体験が面白かったのだろう。まぁ、それで重要な頼み事を忘れて遊ぶのは良くないが。

 

 

 

 

〆月❇︎日

 

 今日は美夜子さん達との約束を守るため魔法世界に行き、美夜子さんを現実世界につれてきた。満月牧師は、やることがあるとのことで美夜子さんだけになったのだ。車や飛行機などに驚く美夜子さんを案内しながら街を歩くと、買い物途中のドラえもんとのび太と出会った。とても驚いていたな。しばらくドラえもん達と会話した後は、一緒に街を案内してから公園などでドラえもんの道具を使って遊んでいた。箒を使わずタケコプターで空を飛んだり、『フエルミラー』という道具で全員分(吾輩も欲しいと頼んだ)に増やした魔法の絨毯で競争をしたりだな。

…………今更だが、この街の住民はこのような場面を見ても驚くだけで、携帯で動画を撮ったりネットに上げたりすることをしないのは何故だろうか? 民度が高いのか? でも、日記に書いてないだけで二日に一度はポイ捨てや強盗、誘拐が起きているからな。そのうち米花町の犯罪率に追いつきそうだ。

 

 

 

 

〆月✳︎日

 

 今日は、空き地に『フエール銀行』という道具をドラえもんが置いていったのでそれを利用してみた。……と言っても、偶然拾った十円玉を預金しただけだが。ドラえもん曰く、フエール銀行に預金すると一時間ごとに一割の割合で利子が増えてくそうだ。つまり、吾輩が預金した十円は一日で約百円に、一週間では約9000万円になるということだ。一ヶ月預けた場合は大体100穣円くらいになる。京や垓よりも数字は上だ。確実に人間が一生使い切ることのできない金額だろうな。猫である吾輩は余計に使い切れないだろう。まぁ、ないよりはあったほうがいいので、預けられる間は預けて、必要になった時に下ろすか。

 

 フエール銀行が空き地に置かれて二時間ほど経った時に、のび太が裸になってやってきたのは驚いたな。しずかちゃんもその場にいたから、吾輩がのび太に屈折させた光のシールドを大事な所に当てなければ、のび太の立場は危ういことになっていただろう。フエール銀行の貸し出し機能を使ったはいいものの、すぐに借りた金を返さなかったせいで、利子として着ていた服が消えていったようだ。金の貸し借りは慎重にせねばな。

 

 

 

 

 

〆月◆日

 

 驚いた。のび太が世界一頭が良くお利口なパラレルがあったとは。

 

 何があったのかしっかりと経緯を書き残しておかなくてはな。夜中に、のび太が家の窓から短冊を釣竿の先に垂らして何かを祈っていたから、何を祈っているのか気になって転移し、のび太に話を聞いてみたのだ。すると、「みんなが自分のことをバカと呼ぶから、利口になるように祈っていた」という。その行動自体が既に……と思ったが、言いはしなかった。吾輩は空気を読める猫なのだ。後からドラえもんがやってきて、先程と同じことを説明し、吾輩と同じことを思ったのかドラえもんは呆れていた。加えて、七夕が関係する星の名前すらのび太は知らなかったようで「七夕様ってどの星のこと?」などとドラえもんに聞いていたな。丁寧にドラえもんが説明するも理解できず「向かいの家の屋根から上に数えて何番目とかで教えて」と無理難題な発言をしていた。これには、流石のドラえもんものび太を馬鹿にしていたが、それによってのび太は号泣。

 

 馬鹿でもわかるように『天球儀』という道具を出し、それを使ってのび太に彦星と織姫星の説明をしだしたドラえもん。その間、吾輩は何をしていたかと言うと、天球儀をのび太と一緒に眺めていた。天球儀は本物をマイクロコピーしたもので、生物のいる星にはナノロボットを置いて完全再現しており、ある意味本物の宇宙ということらしい。相変わらずドラえもんの出す道具は凄まじいな。のび太と一緒に宇宙をドラえもんが出した『天体けんび鏡』を使って天球儀の中を覗き、ドラえもんの説明を聞いていたのだが、この時にのび太が途中で地球にとても酷似した星を見つけたのだ。ただし、あべこべだったが。ドラえもんはとても驚いていて、数秒すると「行ってみよう」と言ってポケットから宇宙船らしきものを取り出した。吾輩たちはその宇宙船に乗って天球儀の中に入り、のび太が見つけた星へと向かった。

 

 のび太が見つけた星は、吾輩たちが住んでいる地球そっくりではあるが、大体のものがあべこべになっていた。横断歩道や道路の信号は赤が進めになっていて、家の表札や店の文字、ネズミと猫の関係性、のび太達に該当する人物の見た目はそのままに性別などがあべこべになっていた。ただ、あべこべになっていると言っても、空気や昼夜の概念は変わらなかったのは良かったな。空気があべこべになってヨウ素や二酸化窒素、オゾンが多くなっていたら致命的だからな。あべこべになっていたのび太達は、性別だけでなく性格もあべこべになっていた。風呂好きのしずかちゃんは風呂に入らない男の子に、ジャイアンは気が弱く走って転ぶ程運動能力もあべこべになり、スネ夫との立場もあべこべだった。

 

正直、見た目は変わらず「〜だぜ」口調のしずかちゃんは男の子と言うよりも男の娘という感じで良かった。実に良かった。あべこべのび太は天才や利口などと呼ばれていたが、この星のジャイアンは歌上手で料理上手になっている可能性があるのか。のび太的にはガッカリだろうが、吾輩にとっては実に面白いものだった。この記録はぜひ残さなければと思ったので、きちんと経緯を書き記しておく。

 

 

 

 

 

〆月●日

 

 朝起きたら、世界がおかしなことになっていた。道端やお店の中、ましてや運転中に皆が皆眠ろうとしていた。魔法世界の時と同じように、ドラえもんかのび太のどちらかが何かしたと思い、のび太の家に突撃したら、案の定のび太が原因だった。もしもボックスを使って「眠れば眠るほど偉いという世界になったら」と願ったらしい。眠るのが得意なのび太は、この世界においては「偉い!」「凄い!」と持て囃されていたようだ。なんて世界を願っているんだと思ったよ。より眠ることが何においても重要視されるのなら、人々は働かず、何も食べず運動もしなくなる。そうなるとこの世界はあっという間に滅んでしまうからな。

実際に影響も出たようで、普段は夜中でも空いている店は店員が皆寝ているせいで空いておらず、挙げ句の果てにはのび太の家に居眠り運転のダンプカーが突っ込んだ。吾輩がたまたま起きていたから、中にいたのび太達が引かれる前に念動力でダンプカーを止めることができたが、寝ていたらどうなっていたことか。

 

 のび太には、早々に元の世界に戻してもらった。

 

 

 

 

 

〆月◉日

 

 今日は、のび太がドラミから面白い道具を借りていたので、使わせてもらった。『ハツメイカー』という道具で、専用の材料箱が必要になるらしいが、欲しい道具をハツメイカーに注文すると希望した道具の作り方を記した設計図が出てきて、それをもとに組み立てればドラえもんやドラミの持つ道具と同様のものが作れるようなのだ。のび太は、ハツメイカーに「いじめっ子にいじめられたり親に叱られた時に素早く逃げられる道具」をリクエストして『ゴキブリぼう』を、しずかちゃんの頼みを聞いて『オールシーズン花だん』を、スネ夫とジャイアンの頼みを聞いて『ファイタースーツ』を制作していた。のび太の手によって制作された道具の性能は注文通りで、吾輩も是非作ってみたいものがあったから、のび太に頼んだのだ。ただ、吾輩の望む道具は秘密裏に作りたかったから「ハツメイカー専用の材料箱と一緒になったハツメイカーが欲しい」と注文して、新たなハツメイカーの設計図を手に入れた。

 

 設計図通りに新たなハツメイカーを組み立て、できたハツメイカーと共に鏡の世界に移動し、吾輩の望むものをハツメイカーにリクエストした。…………クククク、これで神に一矢報いる可能性のある道具を制作できるわ!

 

 

 

 

 

 




そろそろマトモなタイトルに直した方が良いのか悩んでいます。小説のあらすじくらいは書いておくべきか。


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18話

話が思いつかなくなってきた。
ドラえもんの漫画を新しく買うべきか?

誤字報告感謝。2022年3月26日に誤字修正しました。

誤字報告感謝。2022年9月30日に誤字修正しました。


〆月Ω日

 

 先日、新たなハツメイカーを作り上げた吾輩は『思い描いたものを形にする道具』や『物体を完全コピーする道具』などいろんな道具を作り、それらを使って様々なものを作り出した。その最中に吾輩はふと思ったのだ。神に一矢報いるために道具を作っていたが、神を殺せる道具は作れるのだろうかと。試しに注文してみたところ、ハツメイカーは『次元爆弾』という道具の設計図を吐き出した。

 

『次元爆弾』は設計図についてる説明によると、次元を連鎖爆発させる道具らしい。ただし、使ったら最後、使用者諸共消し飛ぶらしい。あれだ、差し違えるつもりのときに使えばいいのだな。次元を破壊するから同じ次元にいる存在も一緒に消し飛ぶが。

 

純粋に高次元生命体なら次元を破壊することで神殺しを、信仰による存在なら信仰する者たちをまとめて一掃することで神殺しを果たせるということなのだろうか。吾輩的には、ミストルティンやロンギヌスの槍のようなものが出てくると思っていたから驚いた。

 

 

 

 

 

〆月δ日

 

 今日も引き続き、新しい物を制作していた。吾輩の超能力を補強する道具や、日常生活に便利な道具、危険から身を守るための道具などを作ったのだが、新たにロボットを作ってみようと思った。のび太は、ジャイアンとスネ夫から頼まれて、バトルスーツという見た目は完全にロボットの道具を作り出していたから、開発した道具をうまく組み合わせればロボットを作れるのではないかと考えたのだ。試しに機動戦士や最強型決戦兵器バスターマシン、メカな怪獣王など作ってみたが、性能は吾輩の知っている通りのものを再現できた。

 

そして、ロボットも作れるということは吾輩の理想とするアンドロイドも作れるはずだ! ということで、アンドロイドの制作を始めた。なぜアンドロイドが必要なのか? 神に一矢報いるのに、一人で立ち向かわなければならないなんて縛りはない。使えるものは全て使わなければ、あの神に一矢報いるのは無理だろう。だから、吾輩の相棒的な立場のものが必要なのだ。我輩に忠実なアンドロイドを作る。それが、ここ最近の新たな目標だ。

 

性能面は最終兵器彼女や邪神かがみを参考にして作ることにする。流石に、一日では到底無理だったので、これから何日かかけて制作していこうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

〆月α日

 

 今日はドラえもんの誕生日だとのび太から聞いたので、鏡の世界で調達した大量のどら焼きをドラえもんに渡そうとしたら、様子が変だった。いつもならどら焼きをもらったら飛び上がるくらいに喜ぶのに、吾輩が渡したらなぜか顔を青くして断ってきたのだ。しかも、口調がおかしくなってもいたな。その後、ジャイアンとスネ夫から野球に誘われたら、積極的に野球に参加しに行って、ホームランまで打っていた。 

 

野球でエラーをしたのび太は球拾いを押し付けられ、野球が終わってみんなが帰った後も残って球拾いをしていた。そして、ベンチで仰向けになって寝転んでいるドラえもんは、のび太の球拾いが終わると、のび太に球の打ち方を教え始めた。そう、ここまでは良かった。

 

10分くらい経った頃だろうか。のび太がドラえもんの指導のおかげで初めてヒットすることができたのだが、のび太がヒットして飛んでいった球を拾いに行くと、草むらから飛び出した謎の赤いロボットがのび太を追いかけてきたのだ。吾輩は慌てて念動力を使おうとしたのだが、それよりも早くドラえもんが空気砲で赤いロボットを打った。空気砲の衝撃波を受けた赤いロボットは最初こそ動揺していたようだが、二発目以降からは打ち出された衝撃波を腕で弾きながらドラえもんに近づいていった。それに対して、空気砲を両手に装備したドラえもんが先程以上に赤いロボットを撃ち、途中で捕まってしまうも、のび太の援護でなんとかロボットを撃退していた。

 

今日のドラえもんはなんというか、好戦的だった。途中でロボットが空気砲の衝撃波を弾いた時は「やるねぇ!」とか「そらそらどうしたぁ!!」などと言っていたからな。もしかしたら、誕生日は毎回好戦的になっている可能性もあるな。

 

 

 

 

 

〆月γ日

 

 昨日の好戦的なドラえもんは、どうやらデンジャーという名前のロボットがドラえもんの人格と入れ替わっていたらしい。『入れ替えロープ』という道具で、未来で健康診断を受けている最中に入れ替わってしまったらしく、昨日ドラえもん……デンジャーが吹っ飛ばした赤いロボットがドラえもんだったようだ。

 

昨日の夜、町外れの森で決着をつけたらしい。空気砲を三つ繋げた高威力の空気砲でデンジャーはドラえもんと対峙したようだが、決めてはのび太がドラえもんの正体を看破したことのようだった。正体が看破されたデンジャーは大人しく『入れ替えロープ』で元に戻り、未来警察に自首したそうだ。

 

しかし、人格を入れ替える道具も存在するとはな。ギニュー特戦隊の隊長が得意技を封じられた時に重宝しそうだな。

 

 

 

 

 

ᚨ月●日

 

 今日は、ドラえもんに誘われて『ヒーローマシン』という道具で共に遊んでいた。22世紀最新のゲームマシンらしく、物語の登場人物になりきり自由に遊ぶことができるという道具だった。『西遊記』や『バイキング』、『三銃士』などいろいろソフトがあるようで、今回ドラえもんと遊んだソフトは『桃太郎』だ。ドラえもんが桃太郎になり、吾輩はお供の犬の役になった。猫なのに犬の役をもらうとは…………

 

ゲーム自体は面白かった。ドラえもんは刀で、吾輩は牙で敵を倒していって、ラスボスは鬼ヶ島の大鬼だった。序盤の敵のデザインは80年代のゲームに出てきそうだったが、流石にラスボスはちゃんとしたデザインがなされていた。吾輩とドラえもんの連携でラスボスを倒し、『桃太郎』を完全制覇した時は楽しかったな。超能力? ゲームの中で使うなど、緊急時でもない限りはあり得ない。

 

ゲームが終了した後、ドラえもんがヒーローマシンをしまった時にのび太が机の引き出しから飛び出してきて、「孫悟空がいた」と言っていた。しかも、のび太に似ていたらしい。少し……いや、かなり気になったが、吾輩は開発している新たな道具の完成待ちだったから後でドラえもんにタイムテレビで見せてもらうことにした。そうすれば、のび太たちのようにわざわざタイムマシンで赴かなくとも確認できる。

 

 

 

 

 

ᚨ月○日

 

 

 

 

 

ドラえもんかのび太がまた何かやらかしたな!?

 

 

 

 

 

 




つ……次はもう少し長く書くので!




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19話

学校の課題多くない…………?
多い上に難しのですが…………?




あれは、朝早く吾輩にいつもおやつをくれるお婆さんの所へ赴いた時だった。いつものように吾輩がお婆さんの家でおやつをもらってると、突然……

 

 

「かわいいねぇ、かわいくて思わず食べちゃいたいくらい」

 

 

と言って鬼の形相になったお婆さんが吾輩を捕まえようとしてきたのだ。鬼婆となったお婆さんから不意打ちを受けた吾輩は、思わず念動力で鬼婆を吹っ飛ばしてしまったわ。元々、お婆さんが鬼婆だったという可能性もあったが、町を観察してみると、あちこちで化物になっている者がいたからそれは無いとわかった。どうやら、感情が昂ると化物の姿に変わるらしい。加えて、都市部の方には赤色の五重塔のようであり城のような見たことのない建造物が建っていた。

 

化物に変わる人々や謎の建造物を見て、吾輩はドラえもんかのび太がまた何かやらかしたのだと思った。魔法世界の時のようにもしもボックスを使ったか、孫悟空を見に過去に行ったのび太が過去で歴史改変をしてしまったかのいずれかだと推測した吾輩は、ドラえもんの所へ転移し事情を聞くことにした。のび太はこの時間はまだ学校だ。

 

 

『ドラえもん、町の様子がおかしいのだが…………昨日何かしたか?』

 

「クロ! ごめん……わからない、ボクも様子が変ってことはわかるんだけど……」

 

『町の人々が化物に姿を変えたり、都市部の方には見たこともない建物があったぞ』

 

「なんだって!?」

 

 

「「「「ドラえもん!!」」」」

 

 

吾輩とドラえもんが話していると、のび太が帰ってきた。いや、のび太だけではない。ジャイアンやスネ夫、しずかちゃんも一緒に来ている。学校はまだ終わっていないはずだが、何かあったのか。のび太達の話を聞いてみると、学校で練習していた西遊記の劇の内容が変わっており、学校の先生や出来杉という同級生などが角を頭から生やしたり化物になったようだ。変わってしまった西遊記の内容や出来杉が自分たちのことを妖怪と言っていたことから、ドラえもん、のび太、しずかちゃん、ジャイアン、スネ夫、吾輩以外のすべての人々が妖怪になってしまったらしいとわかった。

 

 

『吾輩たちを除いた全ての人間が妖怪に変わったことはわかった。だが、何故変わったのだ……?』

 

「多分、昨日タイムマシンで唐の時代に行った時にボクがヒーローマシンを開けっぱなしにしていたのが原因かもしれない」

 

『なんだと!?』

 

「じゃあ、みんなでゲームをしたときに敵が出てこなかったのは……」

 

「おそらく、ヒーローマシンが開けっぱなしになってたせいで、『西遊記』のゲームソフトに出てくる妖怪たちが現実の世界に出てきちゃったんだ」

 

「「「「えぇーーッ!!」」」」

 

「妖怪たちは三蔵法師をやっつけるようインプットされていたんだ」

 

「でも、やっつけたらそれで終わりじゃないのか?」

 

「いや、妖怪たちは三蔵法師を食べちゃった後、少しずつ進化していったのかも。妖術を武器にして人間と戦って、歴史を支配してしまったんだと思う」

 

「そんな……」

 

 

妖怪たちによる歴史改変が原因で今の世界になってしまったらしい。であれば、これを正す方法はシンプルだ。

 

 

『歴史改変が原因ならば、元の歴史に戻してしまえば世界は戻るのだな?』

 

「うん。唐の時代に戻って、妖怪たちをやっつければ戻せるはずだよ」

 

「えーッ!! じゃあ僕たちで本当の『西遊記』をやるの……?」

 

「そういうこと」

 

「「「「そういうことってドラえもんが出した道具が原因なんだぞ!!」」」」

 

『擁護はできんな』

 

「ご、ごめん…………と、とにかく相手はヒーロマシンから出てきた妖怪だ。ボク達もヒーローマシンで『西遊記』のキャラに変身して戦った方がいい!」

 

「俺また豚になるのかよ」

 

 

どうやら、のび太達は一度ヒーローマシンで『西遊記』を遊んだことがあるらしい。配役はコンピュータが選ぶらしいが、ジャイアンの発言からおそらく、のび太が孫悟空でジャイアンが猪八戒、スネ夫は沙悟浄でしずかちゃんは三蔵法師だったのだろう。案の定、ヒーローマシンから出てきたのび太達は吾輩の予想通りだった。

 

 

「のびちゃん……? ちゃんと宿題はやっているの……?」

 

 

 

「まずいっ、ママが来る! はやくしなくちゃ!!」

 

 

のび太のママが階段を登ってくる音を聞き、急いで出発する。行き先は唐の時代、西暦630年だ。西遊記の妖怪たちを相手にせねばならない。西遊記に出てくる妖怪は数多くいるが、ドラえもん曰くゲームに出てくるのは牛魔王をはじめとした有名な妖怪が数体らしい。それに、牛魔王を倒せば妖怪たちは力を失うようだ。西遊記で有名な妖怪といえば、金角大王や銀角大王、羅刹女などか? 他にも九尾の狐などもいるはずだが、どうだろうな。警戒すべきは、五つの法宝か。持っている可能性は高いだろう。法宝を持っていた場合は、奪って使わせないようにせねばな。

 

 

「あ、そうだ。皆、もうすぐ着くけどその前にほんやくコンニャクを食べて」

 

「なんで?」

 

『現地の人に会った時や万が一逸れてしまった時に、当時の言葉が話せなければ大変苦労するからだろう』

 

「クロの言うとおり」

 

 

ドラえもんから渡されたほんやくコンニャクを全員が食べた頃に、タイムマシンは目的の時代と場所についた。タイムマシンのコンピュータ曰く、プラス・マイナスに時間が多少ズレることがあり、場所もズレてしまうことがあるらしい。白亜紀から現代に戻るときはそんなことなかったはずだが、しゃべる機能がついた代わりに空間移動と時間移動機能が劣化したのだろうか?

 

タイムホールから出てみると、外は岩だらけの渓谷のような場所だった。全員がタイムホールから出てきて、周りを見渡していると、上の方から岩がいくつも転がってきた。落ちてきた岩を念動力で吾輩たちに当たらないように動かす。

 

 

「……見て!! ほらあそこ、三蔵法師だ!!」

 

岩が落ちてくる中、のび太が落ちてくる岩から逃げている三蔵法師を発見した。馬に乗り、白い袈裟を着たおっさんが三蔵法師らしい。吾輩のイメージしていた三蔵法師とは違っていて驚いた。そして、三蔵法師がいるということは、近くに三蔵法師を狙う妖怪がいるはずだ。

 

そう思い千里眼で探してみると、渓谷の上の方でが岩を落としている蝙蝠のようなガーゴイルのような妖怪と、その妖怪に指示を出している青白い肌で独特な武器を持ち、「ギ」や「キ」と書かれた鎧をつけた二人組の妖怪を見つけた。

 

 

『吾輩とのび太で岩を落としている妖怪を倒してくる。ドラえもん達は三蔵法師たちを助けてやってくれ』

 

「僕?」

 

「なんでのび太なんだよ」

 

『それは、のび太が孫悟空の力を持っているからだ。持ちうる武器の多さや性能が違う』

 

「確かに、猪八戒や沙悟浄に比べたら孫悟空は、筋斗雲や如意棒、緊箍児、妖術もある。皆、ここはクロとのび太君に任せよう」

 

「ちぇっ、いいなぁ……のび太だけ」

 

 

作戦を伝えたので、吾輩とのび太で今も岩を落とし続ける妖怪どもを倒しに行く。

 

 

「あれが岩を落としてる妖怪だな!」

 

 

のび太も岩を落とす妖怪を見つけ、筋斗雲に乗って一瞬で上昇した。驚いたのが、のび太の乗った筋斗雲は吾輩の空間転移と大差ないスピードで頂上についている。頂上についた吾輩とのび太は周囲にいた多くの蝙蝠妖怪を蹴散らし、奥にいる二人組のところへと進んだ。

 

 

「見つけたぞ!」

 

「な、なんだ貴様らは!?」

 

「あれ? 僕のこと知らないの?」

 

「誰が、知るものか! 名を名乗れ!!」

 

「ふふんッ、今の僕は孫悟空だ。弱虫のび……『素直に名を名乗ろうとするな』……んー!!」

 

「チッ」

 

 

おそらく金角と銀角であろう二人組の妖怪に名を問われ、孫悟空ならまだしも本当の名前まで名乗ろうとするのび太の口を、念動力で無理やり閉じた。金角と銀角を知ってるなら、金角が持ってる紫金紅葫蘆についても知っているはずだなんだが、忘れていたのだろうか。

 

 

『フンッ、紫金紅葫蘆しか持っていないのなら丁度いい。ここでお前たちを倒すとしよう』

 

「なんだと?」

 

「ハッ、猫風情に何ができる」

 

 

人間であるのび太と違い、猫である吾輩に対して油断している金角と銀角。その隙をついて、金角の持っている紫金紅葫蘆を空間転移で奪い取り、すぐに蔵へと放り込む。万が一があってはたまらないからな。紫金紅葫蘆を盗られたことに気付いていない金角と銀角は、悪どい笑みを浮かべて吾輩たちのところへにじり寄ってくる。

 

 

「エーイ!!」

 

 

のび太が如意棒を構えて金角と銀角の方へ駆け出していき、如意棒を振るうも大したダメージは与えられていない。というか、如意棒が当たってもひるみもしていない。単純にのび太のパワーが足りていないのだろう。のび太に如意棒で叩かれている金角と銀角は「なんなんだコイツは……」とでも言いそうな顔をしている。

 

 

「このっ、このこのこのッ!」

 

「くっ、さっきからしつこいぞ!」

 

「わあっ!?」

 

 

ダメージにはならないが、のび太の攻撃が煩わしく感じたのか、銀角がのび太へ腕を振るいのび太を吹き飛ばす。腕が当たる直前に我輩が念動力でガードしたからダメージはないはずだ。吹き飛んだのび太を筋斗雲が追いかけていく。のび太を吹き飛ばして、ニヤニヤと悪どい笑みを深めている金角と銀角。脳みそを念動力でシェイクしてもいいが、ここは新しく開発した道具を使うとしよう……

 

 

「な、なんだこれは!?」

 

「鎖!? どうなってやがる!!」

 

 

空中に開かれた複数の蔵から伸びた鎖が、金角と銀角を締め上げる。自分たちを縛る鎖を破壊、あるいは脱出しようともがく金角と銀角だが、鎖は二人がもがくたびにどんどん体を締め上げていく。金角と銀角の二人を締め上げている鎖は吾輩がハツメイカーで新しく開発した道具の一つ。どこまでも伸縮可能な鎖型の道具と自動で相手を追尾する道具、対象の筋肉量や大きさなどのステータスによって硬度が変わる道具を合成した、その名も『無限の鎖』だ。天の鎖や万里ノ鎖を参考にして開発した道具だが、その性能は先に挙げた二つに勝るとも劣らないだろう。

 

 

「くそっ、こうなったら紅葫蘆を……なッ、紅葫蘆がない!?」

 

「なんだと!?」

 

『今更気づいたか。紫金紅葫蘆は吾輩が奪ったぞ』

 

「きっ…………貴様ぁ!!  ぐあっ!」

 

「ぎゃあっ!」

 

『フンッ』

 

 

鎖に縛られ身動きの取れなくなった二人を気絶させ、下で三蔵法師を守っていたドラえもん達を呼ぶ。ついでに、吹き飛ばされたのび太も転移で呼び寄せ、筋斗雲の上で気を失っていたので軽い電気ショックで目を覚まさせた。

 

 

「うわあ! これが金角と銀角? 」

 

「今は気を失っているのね」

 

「のび太君はカッコつけたわりに、蝙蝠妖怪を倒しただけと……」

 

「うるさいやい」

 

 

ドラえもんがヒーローマシンを取り出し、捕らえた金角と銀角をその中へと放り込む。ヒーローマシンに戻せば問題ないらしい。二人を気絶させたときに記憶を読んだが、現実世界に出てきたのは金角と銀角、羅刹女、牛魔王、紅孩児、蝙蝠妖怪だった。その内、金角と銀角は今回捕まえたから、残りは羅刹女と牛魔王、牛魔王の拠点にいるであろう蝙蝠妖怪と紅孩児だけだ。

 

 




筋斗雲って凄いですよね。不老不死の術を得て神通力を持つ仙人の体でなければ乗れず、一瞬で10万8,000里も移動できるらしいですよ。千里で3900キロですから、凡そ42万1200キロですね。地球一周が約4万キロなので、一瞬で地球を十周できるんですよね。主人公が可愛く見える。


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20話

やったッ! 終わったッ!
一瞬早いのは課題の期限よりもオレの方だッ!
未来はオレの動きを選んでくれたッ!
終わったァァァーッ!!
(次の課題の山)
オレは何回課題をこなさなければならないんだ!? オレは! オレはッ!
オレのそばに近寄るなァァァーッ!!!




はい。多忙故、更新が遅れます。


「グギャギャ、ギャーギャ!」

 

「何? 金角と銀角が孫悟空と猫に倒されただと……?」

 

「ギャッ——!?!?」

 

 

大理石のような美しい石でできた床に、赤色の美しい装飾がなされた柱がいくつも並び、その部屋の一番奥に存在する豪華絢爛な玉座へと座するは妖怪の頭領である牛魔王。柱や部屋の中央に設置されている火盆によって照らされている部屋は、薄暗く恐ろしい雰囲気を放っている。

 

自身をいつ消し飛ばしてもおかしくない圧を放つ牛魔王へ、蝙蝠妖怪は金角と銀角が倒されたことを報告する。すると、牛魔王から放たれる圧が強まり、その圧によって蝙蝠妖怪は潰されてしまう。

 

牛魔王は、自らが放つ圧によって潰されてしまった蝙蝠妖怪には目もくれず、己の側に控える妻と話をする。

 

 

「フンッ、名のある妖怪と言ってもアイツらはアタシらの中では最弱……。倒されても不思議はないよ」

 

「うむ。それよりも、紫金紅葫蘆が奪われたのは手痛い損失だ」

 

「そうね。でも、アンタ一人さえいればどうとでもなりますよ。それに、同じ性能の琥珀浄瓶に加えて七星剣、幌金縄、芭蕉扇もこちらにはあるのだから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金角と銀角を捕らえ、ヒーローマシンの中へと戻してから一日経った後、クロ達は広い砂漠を進んでいた。太陽の日差しを遮るものは何もなく、しばらく歩き続けても景色に変化は見られない。少し前に、のび太が偵察のために筋斗雲に乗って飛んで行ったがまだ戻ってきていない。

 

 

「疲れた……。もう歩けないよ!」

 

「妖怪なんかちっとも姿を見せないじゃんか」

 

「この砂漠、どこまで続くの……?」

 

 

一緒に歩き続けているジャイアンたちは、早くも限界を訴えていた。ドラえもんはロボットで、クロは念動力で浮遊しながら進んでいた。ヒーローマシンの力を借りてるとはいえ、元は普通の子供であるジャイアンたちが先に疲れているのも無理はない。

 

 

「のび太君はどこまで行ったんだろう……?」

 

「ちょっとおだてると、すぐコレだ」

 

『眠い…………』

 

 

クロは念動力で浮遊していたが、ドラえもん達の足が止まると念動力を解除し、地面に降りて横になる。一晩眠りはしたが、早めに起きて出発したため、睡眠時間がまるで足りないのだ。

 

 

「ギャオ!! グギャーギャッ!」

 

「妖怪だ!」

 

 

ドラえもんたちが足を止めていると、上空から無数の蝙蝠妖怪たちがやってくる。ジャイアンは手に持っていた釘鈀を構え、スネ夫は降妖宝杖を構える。ドラえもんはしずかちゃんの前に立って空気砲を手に装備し、しずかちゃんはひらりマントを装備している。

 

 

「ギャッ、ギャーッ!!」

 

 

ドラえもん達が蝙蝠妖怪たちを迎え討とうすると、やってきていた無数の蝙蝠妖怪たちが一体の蝙蝠妖怪に引き寄せられるかのように悲鳴を上げながら勢いよくぶつかっていき、一瞬にして無数の蝙蝠妖怪たちはかなり大きめの黒い玉になった。突然、妖怪たちが一塊のボールになったことにドラえもんたちは唖然としている。

 

 

『ドラえもん……ヒーローマシンを出してくれ。吾輩が……ボールにした……妖怪たちを入れる』

 

「今のは、クロがやったのか……!」

 

「いきなり集まっていくから、合体でもしてるのかと思ったよ」

 

 

先ほどの妖怪たちの奇妙な行動は、クロによるものだった。クロが念動力を用いて一体の妖怪を中心にして周りの妖怪達を引き寄せ、圧縮したのだ。普段ならば、脳震盪を起こしたり直接ヒーローマシンに放り込んだりするのだが、今のクロは寝不足で繊細な作業はできず雑になってしまっている。

 

クロが妖怪達をヒーローマシンに放りこんで、一行はまた進み出した。クロは限界になったのか、ドラえもんの頭の上で寝始めている。そんなクロを温かい目で見つめながらドラえもん達は砂漠を進み、火焔山へと向かう。その途中で、偵察に向かったはずののび太と三蔵と共にいた少年と出会った。

 

 

「君は確か三蔵法師と一緒にいた……あっ、のび太くん! しばらく戻ってこなかったけど何があったの!?」

 

「実は…………」

 

「「「「えぇー!? 火焔山で羅刹女と戦ったー!?!? それに、三蔵法師さまが拐われたって!?!?!?」」」」

 

「うん、そうなんだ」

 

「本当にっ……申し訳ございませんっ…………!」

 

 

偵察に行っていたのび太から得られた情報は、火焔山の炎が特殊という事と、羅刹女の姿に身を以て味わった芭蕉扇の性能だった。そして、少年……リンレイから得られたのは、三蔵法師が妖怪達に攫われたという情報だった。三蔵法師を攫った妖怪達は火焔山へと向かったらしく、それを聞いたドラえもん達は妖怪達の本拠地である火焔山へと向かう事になった。

 

 

ドラえもん達の現在地から火焔山まではそう遠くなく、一時間程歩くと火焔山が見えてきた。

 

 

「あれが……火焔山」

 

「あそこに妖怪達の頭領……牛魔王が……」

 

「それに攫われた三蔵法師も……」

 

 

轟々と大きな音をたてながら燃え続ける火焔山。その上空は炎から放たれる熱気によって分厚い雲が覆っている。迂闊に近づけば、炎によって瞬く間に灰になってしまうだろう。

 

 

「こんな時に限ってクロが動けないなんて……」

 

「いつまでもクロに頼ってばかりじゃいられないってことだね。ポケットの中なら安全だから、クロはポケットの中に入ってもらおう」

 

 

クロは未だに眠り続けていた。猫は平均で10時間以上は眠ると言われている。ドラえもん達に合わせて起きたクロはまだ、起きることは難しいだろう。ドラえもんの頭の上で眠り続けていたクロを、ドラえもんはポケットの中にそっと入れる。

 

 

「さて、どうやってあの中に入るか…………」

 

「羅刹女の芭蕉扇さえあればなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

『……………………』

 

 

砂漠で睡魔に負けて眠っていたはずが、起きたら全く知らない場所だった。知らない天井どころではない。吾輩自体がフワフワと浮いている状態で、周囲にはいろいろな形の道具などが浮いている。目を凝らせば見たことのある道具もあるから、おそらくドラえもんのポケットの中なのだろう。

 

ドラえもんのポケットが四次元になっているとは聞いていたが、中はこのような空間になっているとは……

 

四次元に干渉する機会も見る機会もそうそう無いから、貴重な体験だな。

 

 

『さて、貴重な体験をしたは良いが、どうするかな』

 

 

完全に眠気も吹き飛んだし、今の吾輩の調子は万全だ。外の様子が気になるため、この空間から出たいが……どうすればいいのだろうか。残念なことに、この空間では吾輩の千里眼が意味を成さない。ポケットの入り口があると思うのだが、人目で入り口と分かるものは見当たらない。

 

 

『動いて探すしかないか』

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「ママーーー!!」

 

「くそーっ! 牛丼にしてやりてぇ!!」

 

 

火焔山の内部にある城の一室。羅刹女の罠によって捕らえられたドラえもん達五人と三蔵法師は、巨大な椅子に座っている牛魔王と、その足元に立っている羅刹女の前に吊るされ、牛魔王に食べられそうになっていた。

 

 

「羅刹女よ、そろそろ食事にしよう。まずは青いタヌキからだ」

 

「はいはい、すぐに準備しますよ」

 

「ボクはタヌキじゃなーい! それに、ロボットだから食べても美味しくないよ!」

 

「ドラえもーん!!」

 

 

羅刹女の合図によって床の一部が開き、下の方から油の入った大きな器と大量の粉が入った巨大な器が上がってくる。牛魔王はドラえもん達を揚げて食べるようだ。

 

牛魔王がドラえもんに粉をつけようとしたその時、ドラえもんを縛っていた縄が突然弾け、ドラえもんのポケットから黒い何かが飛び出した。

 

 

『吾輩が寝ている間に大変なことになったようだな』

 

「「「「「クロ!」」」」」

 

 

ポケットから飛び出たのは四次元ポケットの中で目覚めたクロだった。クロは、飛び出た勢いでそのまま浮遊すると、のび太達を縛っている縄を念動力でほどき、床へとゆっくり下ろした。三蔵法師に関しては、スパイであったリンレイ……紅孩児がナイフで縄を切っていた。

 

 

「ありがとう、クロ。助かったよ!」

 

『うむ。吾輩は途中で寝てしまった役立たずだからな。名誉挽回するとしよう』

 

 

「猫風情が……よくも食事の邪魔をしてくれたなぁ…………!!」

 

 

突然現れたクロによって食事の邪魔をされた牛魔王は怒り、並の木端妖怪であれば消し飛んでしまう程の圧を放つ。クロは、その圧を念動力によって防ぐことで全員を守ったが、念動力の防御がなされていない部屋の柱や床にはヒビ割れが起きる。

 

牛魔王は椅子から立ち上がると、腰に携えていた剣……七星剣を抜き放つ。七星剣の刀身は牛魔王の禍々しい妖気を纏っており、七星剣が振り下ろされるとその刀身から妖気の斬撃が飛ぶ。部屋の柱を破壊しながら飛んでくる斬撃を転移することでクロは躱し、ドラえもん達を転移で城の外へ避難させる。

 

 

「お、落ち着きなアンタ! こんな場所で暴れたら危ないよ!!」

 

 

「おおぉ…………!!」

 

 

「怒りでアタシの声が届いてないか……仕方ない、アタシは逃げた三蔵たちを追うとしようかね」

 

 

不可思議な力が使えるとはいえ、猫に食事の邪魔をされたことに対して怒り心頭な牛魔王の耳に、自らの言葉が届いていないことを悟った羅刹女は、クロによって城の外へと逃されたドラえもん達を追うことにした。

 




牛魔王を少し強化しました。牛魔王がただ大きいだけだと貫禄がないので。また、法宝が紫金紅葫蘆のみしか登場しないのは違和感があったので増やしました。
だけど、敵を多少強化したところで、クロに勝てる未来が見えないッ……


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21話

やったぁー!! あの数の課題を全てこなしたんだ! 今度こそ終わったぁぁーー!!

(期末レポート)

カハッ(吐血)




はい。現実って辛いですね。


禍々しい妖気の斬撃が床や柱、壁を破壊していく。壊された床や柱や壁、またはその破片がそこら中に飛び散り、さらなる破壊をもたらす。もう部屋の中は、先程とはまるで違う姿に変わり果てていた。

 

 

「おのれッ…………ちょこまかとッ!!」

 

 

『くっ、加減を知らんのかっ…………!』

 

 

自身の攻撃を避け続け、あろうことか見えぬ力で自信に反撃してくるクロに対して怒りを隠せない牛魔王は、手に持つ七星剣に多くの妖気を集中させ、剣に収束させた妖気をビームのように放った。その射線上にいたクロは、牛魔王の背後に転移することで攻撃を避ける。だが…………

 

 

「甘いわッ!」

 

『何っ!? これは…………まさか、幌金縄かっ!?』

 

 

牛魔王の腰に巻きついていた幌金縄が突如、後ろに回ったクロへと急速に伸びていき、油断したクロを縛る。なぜか、牛魔王サイズからクロを縛るのに丁度いいサイズへと変わっているが。

 

幌金縄によってグルグル巻きにされたクロへと牛魔王が七星剣を振るう。クロは再び牛魔王の背後に転移することでそれを避けたが、クロ自身のみを転移させたはずがなぜか幌金縄に縛られたままの状態になっている。

 

 

『なんだこれは!? 吾輩から離れんっ!!』

 

「それが幌金縄だ」

 

『くっ……!』

 

 

幌金縄がだんだんと自身を縛る力が強くなっているのを感じたクロは、なんとか幌金縄を解く手段を探る。この状態でも牛魔王の攻撃を避けるのは可能だが、縛る力が強くなってきている幌金縄は放っておけば自身を絞め殺す可能性もあるのだ。反撃よりもそちらに集中する。ちなみに、クロは隙があれば何度か念動力の衝撃波で牛魔王を攻撃していたが、直接脳や内臓に攻撃を仕掛けてはいない。何度か試していたが、牛魔王が放つ圧倒的な妖気の壁が念動力の干渉を防ぎ、効果がないと分かったからだ。

 

 

「おのれ……その状態でもまだ動けるとは……!」

 

 

斬撃、妖気を纏った殴打、ビームなど様々な手段で攻撃を仕掛けてくる牛魔王。幌金縄で縛られた状態であるはずのクロに未だ攻撃をあてられず、怒りが頂点に達し、そして頭に冷水を浴びせられたかのように冷静になった。

 

 

「お前、確かクロと言ったな?」

 

『……なんだ』

 

 

冷静になった牛魔王は突如として攻撃を止め、空いた手を腰に当ててクロに話しかける。先程まで荒々しく攻撃を仕掛けていた牛魔王が攻撃を止め、話しかけてきたことに違和感を持つも、返事をするクロ。そして、返事をしたクロを見て牛魔王はニヤリと笑った。

 

 

『っ!?!? しまった……!』

 

 

ニヤリと笑った牛魔王が腰から外した物を見て、クロは自分が失態を冒したことに気づいたが、遅かった。クロは、牛魔王が手に持った琥珀浄瓶の中へと吸い込まれていった。琥珀浄瓶と紫金紅葫蘆は、名を呼び、それに返事をした相手を吸い込み、中に閉じ込めることができる法宝なのだ。紫金紅葫蘆と違う点は、溶かされることは無いところだろう。

 

 

「クククッ……その中で三蔵法師が食べられる様をみているがいい」

 

 

琥珀浄瓶を崩れた部屋の隅に置き、牛魔王は外へと逃げた三蔵法師達の所へと向かうために、部屋を出る。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

琥珀浄瓶の中は、透明な液体が底に溜まっており、壁はガラス状でも曇りがかかったように中から外の様子を伺うことはできない。

 

 

『しくじったな……』

 

 

七星剣の斬撃や幌金縄の締め付けに気を取られ、琥珀浄瓶の存在を忘れていた。幸い、琥珀浄瓶は紫金紅葫蘆と違って中のものを溶かす機能はない。牛魔王による攻撃もないため、急ぐべきではあるが、先ほどに比べれば落ち着いて行動できる。もう、さっきのような失態は冒さない。

 

琥珀浄瓶に取り込まれた衝撃と吾輩自身の失態を悟ることで、ある程度冷静に考えることができるようになった。まずは、今も我輩を締め付けている幌金縄を念動力で切断する。幌金縄の硬さは普通の縄とさほど変わりなく、苦労せずに切断することができた。切断した幌金縄を蔵にしまって、次は琥珀浄瓶から出る手段を考える。

 

千里眼で外の様子を覗くことができればよかったのだが、空間が歪んでいるのか外の様子を見ることはできなかった。よって、転移で外に脱出するという手段は取れない。他の手段は、できるかはわからないが念動力でこの琥珀浄瓶を破壊するくらいだろうか。

 

 

『こうしている間にも、牛魔王がのび太達の所へ向かっているのだ。やってみるしかないな…………』

 

 

吾輩を中心にして全方位に念動力の衝撃を放つ。それも、全力でだ。

 

 

『はあああぁぁーっ!!』

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

柱や床、天井、壁などの瓦礫が転がっている部屋。その隅に置かれていた琥珀浄瓶に突如ヒビが入った。ヒビが入った琥珀浄瓶はその次の瞬間、木っ端微塵に砕け散り、凄まじい衝撃波が放たれた。衝撃波は部屋の瓦礫を吹き飛ばし、まだ形を保っていた一部の壁や柱は完全に崩壊する。

 

 

「ッ!? グアアアアアアアア!!?」

 

 

三蔵法師を食べるために外へと向かっていた牛魔王は、突然後ろから襲ってきた強力な衝撃波に吹き飛ばされ、その勢いで壁を突き破っていき、城の外へと吹き飛んだ。

 

 

「なんだい!? きゃあっ!!」

 

「「「「「「うわあああああっ!?」」」」」」

 

 

城の外で羅刹女と戦っていたドラえもんたちにも衝撃波が襲い、宙を浮いていた羅刹女は突然の衝撃に抵抗することもできずに吹き飛び、火焔山の内部の壁にぶつかった。同じように衝撃波に襲われたドラえもん達は、火焔山の入り口と城の入り口をつなぐ橋の上まで地面を転んでいった。

 

 

「グウゥ……一体何が……?」

 

 

衝撃波によって外まで吹き飛ばされた牛魔王がそう呟く。身につけていた鎧が所々欠けてヒビが入っており、身体中の節々にダメージを負っているようだ。そんな牛魔王の前に、念動力を全解放することで琥珀浄瓶から脱出することに成功したクロが現れた。

 

 

『よくもやってくれたな。おかげで全力で念動力を使うことになった』

 

「お前はッ……!? どうやって琥珀浄瓶から出た!? 」

 

『フンッ、これ以上教えてやる義理はない』

 

「チッ、まあいい。ここでお前を屠って三蔵を食うだけだ」

 

 

牛魔王はそう言うと、手に持っている七星剣を掲げ、クロに向かって振り下ろし七星剣の刃がクロを捉えそうになる。だが、刃はクロに届くことはなく、その少し手前で停止していた。いや、停止しているのは七星剣だけではない。七星剣を握っている牛魔王も体を動かせないでいる。空中にいくつも開放された蔵から無限の鎖が牛魔王と七星剣を縛っているのだ。

 

 

「グッ! なんだこれはッ……!」

 

 

牛魔王が鎖を解こうともがくがびくともせず、妖気を用いて破壊しようとしても鎖には傷一つはいらない。この隙に七星剣を奪おうとしたクロは、七星剣に対して空間転移が効かずに困惑する。七星剣に纏わりついている牛魔王の妖気が邪魔をしているのだ。

 

 

『直接奪うしかないか……』

 

「させると思うか……? …………はあッ!!」

 

『むっ!?』

 

 

牛魔王は鎖に縛られながらも七星剣からは手を離さず、剣を奪おうとするクロへと向けて口から妖気でできた焔が放つ。念動力で自身に向かってくる焔を当たらないように逸し、その間に地面に陣を描くクロ。全開放した念動力の衝撃波を受けても、牛魔王が七星剣ほどではないが体にも纏わせている妖気のせいでさほどダメージを受けていないことを認識し、電撃や炎もおそらく同様に効果が薄くなるだろうと判断し、姿を変えて直接戦うことにしたのだ。

 

 

『我が望みを叶えよ』

 

 

一定の行動と呪文を唱えたことで姿が変わっていくクロ。体の大きさはおおよそ9メートル台になり、強靭な剛腕、漆黒の体毛、頭から真横に伸びる一対の巨大な角を持つ生物へと姿を変えていく。

 

 

「なっ!? お前は何だ、奴はどこへ消えた!?」

 

 

牛魔王が焔の放出を止め、止めたことによって現れたクロの姿に驚き、混乱する。この猿のような生物はなんなのか、一体どこから現れたのか、焔を受けたはずのクロはどこに行ったのか

 

 

「ゴアアアアアアアアッ!!」

 

 

牛魔王の質問に対して、わざわざ教える義理もないと判断したクロは、モンスターハンターにおいて、古龍にも劣らない超攻撃的生物と呼ばれる大型牙獣種のラージャンの姿となって咆哮し、鎖によって縛られている牛魔王へと飛びかかって牛魔王の顔を殴りつけた。

 

 

「ガッ!? くっ、おのれぇ……!」

 

 

クロに殴られた牛魔王は、口の中を噛んだのか口から血を流すも、大きいダメージは与えられていない。ノーマルな状態では、念動力などに比べればダメージは与えられる方でも、大きなダメージを与えることはできないと悟ったクロ。そして、次にクロがとった行動は、自己の強化だった。

 

 

『我に力を与えよ フィジカルドウブリング。 …………ハアァーーー!!』

 

「くっ、今度は何だ!?」

 

 

その場で一回転し、呪文を唱えて自身の身体能力を2倍に引き上げ、さらに肉体の枷を開放することで黄金の状態へと移行する。黄金の獅子へと変貌したクロは、先ほどと同じように牛魔王へと飛びかかり、黄金と漆黒の体毛が入り混じった剛腕で殴りつけ、その瞬間に牛魔王を縛っていた鎖を解く。

 

再びクロに殴られた牛魔王は、体を縛る鎖が突如解けたために体を支えることができず、後ろに吹っ飛んで倒れた。

 

 

「ゴフッ!! ……ハァ……ハァ……おのれ……調子に乗るなぁ!!!!」

 

 

身を守っていた鎧が破損し、内臓が傷付いたのか大量に口から血を流す牛魔王。その痛みと二度も殴られた怒りで、クロを滅さんと薄く身に纏っていた妖気も全て七星剣へと集中させて薙ぎ払い、今まで以上の範囲と威力のビームを放つ。

 

その攻撃を高く跳躍することで避けたクロは、超能力で電撃を纏わせた両碗を、ビームを放った直後で隙ができている牛魔王へと勢いよく振り下ろした。クロの渾身の一撃が振り下ろされた直後、まるで、雷が落ちたかのような音と共に地鳴りが起き、両腕を叩きつけられた牛魔王を中心にして大地が砕ける。

 

周囲には電気が迸り、大地が砕けたせいで多くの土煙が上がっている。その土煙が幾分か晴れた後、牛魔王の姿が顕になった。頭に被っていた兜は割れ、身を守っていた鎧は両腕を叩きつけられた箇所を中心にして砕けている。牛魔王は身体中の至る所から血を流し、攻撃を受けた胴には空洞ができており、そこから大量の血を流していた。もはや、牛魔王の顔に生気は宿っていない。数多の妖怪たちを滑る頭領、牛魔王はクロの渾身の一撃によって倒されたのだった。

 

 

 

 

 




原作において、牛魔王は35メートル、体重2万トンもの大きさへと姿を変えたそうですが、牛魔王よりも身長が高い自由の女神が重さ225トンらしいので、もしかしなくても、牛魔王はちょっと転んだだけで死んでいた可能性が高いのでは? ボブは訝しんだ



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22話

お、終わったぁッ……!


ᚨ月▲日

 

無事に人類の歴史を取り戻すことができた。

 

火焔山で吾輩が牛魔王を倒した後、牛魔王が倒されたことによって力を失った妖怪達は一人を除いて死に至った。そう、牛魔王と羅刹女の息子であるリンレイは生き残ったのだ。リンレイは妖怪たちを裏切り、三蔵法師に付き従うことを改めて約束したから倒す必要はないと判断……いや、信じることにしたのだ。それに、未来に戻ればどんな行動をしたのかはわかるしな。その後、牛魔王の妖力で押さえ込んでいたのか火焔山内部のマグマが上昇し、危険な状況になったので吾輩がドラえもん達と一緒に火焔山の外へ転移し逃げた。

 

外に逃げた吾輩達は、羅刹女が持っていた芭蕉扇を使って、マグマが上昇したことによってより激しく燃え盛る火焔山の焔を消した。一振りで突風を呼び、二振りで雲を呼び、三振りで雨を呼び、連続49回振るうことでどんな火も消す雨を呼んでからな。火を消した後、芭蕉扇を吾輩の蔵にしまってから皆で未来に戻った吾輩達は、西遊記の内容や周りの人間達を調査し、無事元の歴史になっていることを確認できた。

 

まったく……当初はいきなり妖怪達の世界になっていて困ったが、無事に元の歴史を取り戻せて良かった。しかし、歴史改変の原因になったドラえもん達が妖怪になっていなかったのはまだわかるが、吾輩は何故変わらなかったのだろうか……。今は動物だからか?

 

 

 

 

 

§月☼日

 

歴史改変を正している間に、吾輩の新しい道具が完成したようだ。完成した道具の名は『テキオー錠』。1錠飲めば、一日はあらゆる環境に適応できるようになる。ちなみに、一度に2錠飲むと1ヶ月、3錠飲むと半年、4錠で10年といった具合に期間が伸びていく。

 

もしかしたら今後、海の中や宇宙などに行くことがあるかもしれないからな。実際、魔法世界も含めると何度か宇宙に行ってるし。いざという時の手段は必要だ。

 

とりあえず4錠飲んだ。

 

 

 

 

 

§月☂日

 

今日は、ドラえもんから未来で販売されてる道具のカタログをもらった。ドラえもんが何度か使う道具は、未来のデパートで売っている「ひみつ道具」という種類の道具らしく、安物を使用しているらしい。あんな規格外な道具がデパートで売っているなんて、未来はどうなっているんだ?

 

ドラえもんから貰ったカタログはかなり分厚く、カタログを見てみると、今までにドラえもんが使っていた空気砲やショックガンなどの武器類、石ころ帽子やさかのぼりボートなどの道具類、桃太郎印のきびだんごや植物改造エキスなどの食物類など、その他にもかなりの種類のひみつ道具が載っていた。しかも、カテゴリ別に分けられ、道具一つ一つに画像や詳細な説明、注意及び使用方法がわかる動画などがついていて大変わかりやすい。

 

このカタログとハツメイカーを用いて、無限の鎖のような吾輩だけの新たな道具を増やしていこうと思う。

 

カタログをくれたドラえもんには、鏡の世界で手に入れた高級どら焼きを10個あげた。かなり、喜んでいたな。

 

 

 

 

 

§月☇日

 

鏡の世界は破壊や食料などを気にしないで済むという利点があるが、当然デメリットもある。現実世界の様子がわからないのだ。風や雨などの自然環境は現実世界とリンクしているものの、人間や動物などは鏡の世界に存在せず、状況を伺うことができない。

 

よって、他にも理由はあるが吾輩の拠点を作ろうと思う。拠点には超能力や魔法などの研究をするための施設、食料や飲料などを生産する施設、吾輩が作った道具をメンテナンスするための施設、吾輩が快適に過ごせる部屋、外部からの干渉を跳ね除けたりする機能などが欲しいな。

 

昨日読んだカタログにあった『天才ヘルメット』をハツメイカーで作り、ヘルメットとハツメイカー、住居系の道具を組み合わせれば、吾輩の理想とする拠点が作れるはずだ。頑張ろう!

 

 

 

 

 

§月☃日

 

拠点の制作……構想の段階だが……は順調だ。現実世界では制作する際のデメリットがデカいから、鏡の世界で作業をしている。鏡の世界に拠点を置いておくと、吾輩が一度でも現実世界にいったら、鏡の世界の情報が更新されて拠点が消えてしまうから、制作中の拠点は持ち運び可能なタイプにする予定だ。カプセルホイホイみたいな。

 

あと、拠点制作と一緒に吾輩の下僕となるロボットを作っている。拠点を制作するのに吾輩だけでは手が足りないためだ。カタログにあったミニドラを作ってもいいが、「ドラドラ」としか話せないらしいからな……。作っているロボットは戦闘、料理、家事などあらゆる作業をこなせる万能メイドロボ。作るロボットに吾輩の理想を混ぜているが、吾輩は断固として譲らない。人間だった頃に一度は夢みたメイド……とても楽しみだ。

 

 

 

 

 

§月¤日

 

拠点はまだ構想段階なので一旦中止して、メイドロボの制作に力を入れた。万能なメイドを作るにはそれなりに時間がかかり、完成は今日を抜いて3日後くらいになりそうだ。メイドロボでこれなら、拠点制作はもっとかかりそうだ。

 

何でもこなせるようにするには、高度な知能と高い身体機能、特殊な能力が必要だ。能力に関してはカタログにあるひみつ道具の効果をいくつか絞って付与すればいい。高度な知能については、ドラえもんやドラミを参考にしようと思う。ドラえもんは結構ドジだが、基礎知識はかなり高いし、その妹のドラミは言うまでもない。ハツメイカーはドラえもんのような猫型ロボットの設計図すら出してくれるからな、うまく応用すれば大丈夫だろう。

 

身体機能に関してだが、これはエネルギーの出力とそれに耐え切れる素材にすれば問題ないはずだ。エネルギーはマイクロブラックホールを生成できる道具をハツメイカーで作成し組み込めば大丈夫だろう。素材はハツメイカーに組み込んだ材料箱の機能があるので問題ない。

 

気になるのは性格だな。完成した時、どんな性格になるのかがわからん。キツくない性格だといいがいいが…………

 

 

 

 

 

§月∵日

 

設計図を入れればその通りに作ってくれる道具……『自動制作装置』を新たに作成し、メイドロボ制作に吾輩が取り組んでいる間、同時並行で思いついた道具の設計図を自動制作装置に入れて作らせた。自動制作装置は一度に複数の道具を製作することができるから、いくつもの設計図を入れてある。

 

ちなみに、自動制作装置に入れた設計図……道具は『万能首輪』、『フエルコピーライト』、『フリーサイズぬいぐるみカメラ』だ。

 

『万能首輪』は、人間だった頃に見たエージェントの猫と犬が協力して悪役猫の野望を止める映画を思い出して考えたものだ。首輪にボタンがいくつかついており、象すらすぐに眠らせる麻酔針を出すボタン、どんな機械もハッキングできる装置を出すボタン、吾輩の超能力の出力を上げてくれるボタン、カメラやボイスレコーダーを出すボタンなどが付いている設計にしてある。

 

『フエルコピーライト』は、ひみつ道具のフエルミラーを参考にして考えた懐中電灯型の道具だ。フエルミラーは鏡に写ったものをコピーできるが、欠点として左右反転している。フエルコピーライトはそんな欠点を消したものだ。コピーする対象をフエルコピーライトで照らしてスキャンしコピーする。そして、フエルコピーライトで別の場所を照らしコピーしたものを現出させればものを増やすことができる。

 

『フリーサイズぬいぐるみカメラ』は、カタログに載っていたひみつ道具で、吾輩が面白いと思ったから作ることにした。このカメラで撮影すると、撮影した対象のぬいぐるみが作成されるのだが、これの面白いところは、生成されたぬいぐるみは体の大小や、体格に関わらず誰でも着ることができるのだ。しかも非常に精巧な出来の上、声も撮影された者に似るらしく、仮にピカチュウの画像を撮ればピカチュウの声を出すことができるぬいぐるみ(もはや着ぐるみ)が出てくるということなのだ。これがあれば、いちいち地面に陣を描いて変身しなくても良くなるのだ。体の大小や体格に関わらずに着れるので、モンハンのモンスターを撮ればそのモンスターに、ウルトラマンを撮ればウルトラマンになれると。まぁ、残念ながらこの世界にはウルトラマンもモンスターハンターもないようなのだが。何故だっ…………!!

 

 

 

 

 

 



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23話

卒論……教育実習……就職……うっ、頭がッ……!

歴史改変についての考察を書いたせいか、もしかしたら文章が混迷しているかも……。


§月☆日

 

今日もメイドロボの制作に励んだ。途轍もない量の部品と細かく小さな機械を複雑に組み合わせて地道に作り上げていく。念動力と千里眼がなかったら倍以上の時間がかかっていただろう。やっぱりミニドラを制作しておくべきだったか? 

 

性能を付与するひみつ道具も、前脚と後ろ脚の指を合わせても足りないくらいに数があるからな。疲れる……

 

吾輩がメイドロボの制作に励んでいる間、今度はカタログで見た『タンマウォッチ』、『虫の知らせアラーム』を同時並行で作った。

『タンマウォッチ』はストップウォッチを模した道具で、作動させると時間が停止し、自分以外の生物や物体等が全て停止した状態となる機能がある。しかし、この時間を停止させすべての動きを停止させる機能は、他者が使用者に触れている或いは使用者のそばにいれば免れることができるようだ。それでも、この道具の欠点とはなり得ないだろう。時間を停止できれば、修行や道具の作成、敵の殲滅、味方の救出などにも役立つのだから。第二魔法でも似たようなことができそうだが、あくまであれは並行世界の運営だ。時間遡行なども第二魔法に分類されるが、空間や並行世界に関する技術が主なので時間の停止ができるとは思えない。まぁ、吾輩がそう思ってるだけで、実は可能かも知れんが……

 

『虫の知らせアラーム』は、ハチのような虫の形をしたアラームで、仲間に危機が訪れると鳴って知らせてくれる道具だ。魔法世界の時、ドラえもん達はかなりピンチに陥っていたのに吾輩はそれに気づくことができなかったから、その反省として必要だと思い作ることにした。虫の知らせアラームが鳴ったらタンマウォッチで時間を止め、ドラえもん達の居場所を千里眼で特定し助けに行くというような活用が可能だろう。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

メイドロボを作り始めて今日で三日目。

遂に、完成の時が来た。既に組み立ては終わっており、用意していた多くのひみつ道具の機能も内蔵した。ビジュアルも吾輩の理想を体現しており、あとは起動するだけだ。吾輩、ワクワクすっぞ!

 

『メイドロボの冥、起動せよ』

 

吾輩の言葉をキーとして、吾輩の目の前に立っているメイドロボの「冥」が動き出す。冥というのは吾輩がつけた名前だ。メイドロボは猫型ロボットみたいな種族名というか製品名みたいなものだし、ドラえもんやドラミみたいに名前があった方が呼びやすいしな。

 

「マイクロブラックホールエンジン正常、記憶メディア異常なし、ひみつ道具の使用に問題なし、身体動作に問題なし、全システムオールグリーン、万能メイドロボ……起動します。あなたが私のマスターですか?」

 

そう言って冥は閉じていた目を開け、目の前にいる吾輩に問いかける。主人の登録に必要な作業だろう。

 

『そうだ』

 

「了解しました。お名前は何とお呼びすればよいですか?」

 

『マスター……いや、クロ様というのも……』

 

「『マスター……いや、クロ様というのも……』様ですね、了解しました」

 

『違う! 名前はクロだ! クロと呼んでくれ! というか、そんな長い名前は呼びづらいだろう!』

 

「いえいえ、そんなことはありませんよ『マスター……いや、クロ様というのも……』様。しかし、『マスター……いや、クロ様というのも……』様のご命令とあればクロ様とお呼びすることに致します」

 

『そうしてくれ』

 

 

こいつ……なかなかいい性格をしているな……。作る段階でどのような性格にするかは設定できなかったから、どんな性格になるかと思えば……全く……

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

§月■日

 

今日は、昨日完成した万能メイドロボの冥をドラえもん達に紹介した。冥は見た目にロボット的要素が欠片もないからか、ロボットだと言ったときは驚いていた。しずかちゃんなんかは、人間にしか見えないと言っていたな。そこまで驚いてくれれば、ビジュアルにも力を入れた吾輩の苦労が報われるというものよ。特に何もしていない冥が胸を張っていたのは意味がわからんが。

 

ドラえもん達5人に冥を紹介した後、冥はのび太達の遊び――野球――やしずかちゃんのバイオリン練習に付き合って交流を深めた。冥は最初だからか一切の手加減をせず、野球では100%ホームランでピッチャーになるとドラえもんのひみつ道具『黄金バット』を持たなければ球に触れることすらできなかった。吾輩? 吾輩は超能力を使っていいなら負けることはあり得ないから反則扱いだった。吾輩は悲しい……ポロロロン……

 

しずかちゃんのバイオリン練習に付き合ったのは、冥が何でもこなせる万能メイドだと野球を通じて理解したしずかちゃんが、冥にお願いしたのだ。しずかちゃんが独学でバイオリンを練習していたことはドラえもん達は知っていたらしいが、吾輩と冥は知らなかったので興味を持ち、吾輩も一緒について行ったのだが……しずかちゃんの部屋で、バイオリンを手にしたしずかちゃんを見たのを最後に吾輩の記憶はない。後で冥から話を聞くと、しずかちゃんが弾き始めた瞬間、音の暴力が吾輩と冥を襲い、吾輩はあっという間に気を失ってしまったらしい。冥が練習に付き合うことで吾輩が聞いても気絶しない程度には上達したらしいが、ジャイアンの歌と同様の威力を発揮したしずかちゃんのバイオリンは、強制でもされないかぎり聴きたいとは思わなくなった。強制されたら? 冥やドラえもんが太鼓判を押すまでは逃げる。

 

 

 

 

 

§月§日

 

冥を作ったので、今度は拠点を……と思ったが先にミニドラを作ることにした。冥がいればミニドラとも会話できるから、人手を増やすためにも作ることにした。まぁ、作ると言っても自動制作装置が勝手に作ってくれるんだがな。ちなみに、ミニドラは複数体作る予定だ。最初は、『バイバイン』というひみつ道具を作ってそれをミニドラに使うか考えたのだが、ミスをした場合が怖いからやらないことにした。かける液の量をミスるだけで、宇宙崩壊の危機が生まれる道具など怖くてみだりに使えないわ。

 

自動制作装置にミニドラを作らせている間、冥には鏡の世界で吾輩の無限の鎖の改良を頼んでいた。現状、無限の鎖は縛る相手のフィジカル面にのみ特化していて、相手が特殊な能力を持っている場合は逃れられてしまう。もしくは、破壊されたりだな。例えば、相手が吾輩と同じように空間移動が可能だったり、炎などを放出できるなら無限の鎖は無力になる。それを防ぐために、新たな効果を鎖に付与させるのだ。予定しているのは、テキオー灯のどんな環境でも適応できる効果と『空間接着剤』の物を空間に固定する効果だ。炎やら氷やらの温度変化による破壊はこれで防げるだろうが、空間移動に関してはわからん。ダメだったら新しく考えてみるしかない。

 

それから、今日は『セワシ』というのび太の孫と出会った。虫の知らせアラームにドラえもん達を登録するために各々のところへ回っていたのだが、のび太の家に行った時に出会ったのだ。ドラえもんが上手くのび太を導けているかどうかを確認しに来たらしく、吾輩が今までののび太とドラえもんの行動を教えると、頭を抱えていた。まぁ、結果的に防いだとはいえ、一度歴史改変が起きたしなぁ……。

 

ドラえもんがなぜ未来から来たのかをセワシが教えてくれたが、その目的が上手くいっているとは言えん状況だということはわかった。ただ、セワシの目的が微妙なのがな……貧乏になる未来を脱したいのだろうが、なぜそこでジャイ子の話が出てくるのかわからん。借金はあくまでのび太の失敗だから違う人間と結婚しても、借金を背負う可能性は普通にあると思うんだがな。

 

あと、結婚する人物が変わるとセワシは生まれないのではと質問したら、歴史の流れが変わろうと方向さえあっていれば生まれてくると言っていたが、未来が変わる場合の問題点がある。未来の改変は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のように世界線が分岐するのかどうかだ。セワシが記憶を保持しているところからおそらく、世界線が分岐するのだろうが。セワシが改変の原因だから記憶を保持しているという可能性も否めないが、世界線の分岐の方が可能性が高いと思う。ドラえもんがいるおかげで未来は変わると吾輩は断言できるが、変わった未来が分岐として生まれるだけで、貧乏な未来のセワシの世界は変わらないだろう。

 

そもそも、貧乏で困っているから未来を変えに来たのであって、そうでないのならわざわざ変えにはこないはずだ。つまり、貧乏でない未来のセワシは困っていないので過去に来ることもなくドラえもんを送ることもせず、未来が分岐しただけで生活が変わらない貧乏な未来のセワシはいつまでも変わらないから確認しに来るということだ。

 

こちらから未来に行った場合は、本来なら新しく分岐した未来に行くと思うのだが、もしもボックスという架空世界を生み出したりパラレルに移動したりできる機械があるしな、タイムマシンは登録してある分岐の未来へ飛べるのかもしれん。ならなぜ以前の歴史改変の時は元の未来へ戻らなかったのか疑問が残るが。

未来のことを考えると頭が痛くなるな……

 

 

 

 

 

§月Q日

 

ミニドラが完成した。複数体いるミニドラは「ドラドラ!」と言いながら吾輩と冥に絡んできた。体のあちこちに登ってきたり、吾輩のヒゲや尻尾を引っ張ったり、冥のメイド服にしがみついて笑顔で「ドラッ!」と言ったり…………ちょっと和んだ。

 

無限の鎖の方は、まだ終わっていない。炎や氷などの温度変化による破壊の無効化はできたが、捕らえた相手が空間移動をすることは防げなかったのだ。冥に頼み、吾輩に対して使用してもらったのだが、固定された空間ごと転移したら逃れられた。だから、新しく効果を付与することにした。新しく付与するのは『瞬間固定カメラ』の効果だ。本来はシャッターのボタンを押すと被写体の動きを固定する道具だが、動きを固定するという効果をうまく付与出来れば、空間移動も含めて相手の行動自体を固定できるようになるだろう。

 

そうそう、今日から科学に関する本を読むことにした。吾輩は現状、「空間移動」や「電気」、「炎」、「念動力」、「サイコメトリー」が使えるが、もう少し手段を増やしたいと思ったのだ。目標は漫画とか小説でててくるような「時間操作」や「ベクトル変換」、「未元物質」、「魂魄干渉」だな。あと、何故か知らないが、3秒先の未来が見えるようになった。意図的に見ることはできないが、ふとした時に見えるようになった。見えるのは吾輩が見ている視界の範囲内で、千里眼を使用している時はまだ見えたことがない。

 

 

 

 

 

 




ドラえもんの世界の歴史改変の理屈ってわかりづらいんですよね。ルート分岐系だとは思うんですけど、話によってはそうじゃない場合もあったりでどっちなのかわからないですね。加えて、未来からの干渉が前提の話もあったりで……意図的かそうでないかは問わず、改変するための行動も含めての流れのために改変の影響が出なかったり、逆に改変するための行動を含んだ運命でないために改変の影響が出たりなど……全くわけがわからないよ! 

「不思議風使い」の場合は未来からの干渉も含めてもそういう運命だったため未来は変わらず、「新恐竜」の方も未来の住人であるのび太が過去の存在である恐竜の世話をすることで鳥類が生まれるという流れだったり、「魔界大冒険・新魔界大冒険」も魔法世界にした未来のドラえもん達が過去に遡らなければデマオンを倒せなかったり、「南国カチコチ」や「竜の騎士」も未来からの干渉前提の流れ。

だけど、「パラレル西遊記」や「鉄人兵団」は上記の作品のように未来からの干渉を受けて、影響が出ている。多分、「パラレル西遊記」はルート分岐系だと思うんですけど……よくわからないですね! 


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24話

遅くなってしまいました。
新年、あけましておめでとうございます。


「……録画でも観ますか」

 

 

夜中、クロによって作られた万能メイドロボットの冥はテレビをつけていた。夜中でも自動で道具を作っており、クロは寝ていて特に命令も受けていないため、暇な状態なのだ。暇ならばなぜ寝ないのか、それはクロが冥を作る際に睡眠をする必要がないように設定したからだ。一応、この設定はクロの許可があれば変更することは可能なのだが、暇な夜中にテレビで録画や映画、番組を見るのは、クロに作られてから日課になってきている。趣味とも言えるだろう。

 

 

「おや? これは一体……?」

 

 

本来であれば番組やCMなどが流れない時間帯のため、いつも通り映画か録画を見ようとした冥はテレビの異変に気づいた。

 

 

 

――ザー……ザザッ……ザー……――

 

―――ザー……ザ・ザ・ザア……遥かに続く白い砂浜、目に染みるような青い蒼い海―――

 

―――太陽は明るく……、一年以上海水浴をお楽しみいただけます――

 

――さらに素晴らしいことに、三方を囲む山々は絶好のハイキングコース、色とりどりの草木にかざられ、万年雪の山ではいつでもスキーができます――

 

――是非一度おでかけください。ブリキンホテルはいつでも皆様のおこしをお待ちしております――

 

――ザッザザッ……ザー……――

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「……というCMを、昨日の夜に見たのです」

 

『鏡の世界でテレビはどれも映らないはずだが……どこで見たのだ?』

 

「タイムテレビを作成しまして、それでですね」

 

『いつの間に作ったんだ……』

 

「眠くなることがないというのはかなり暇なもので、その暇をつぶすためにこっそり作りました」

 

 

朝、吾輩はいつもの散歩コースを冥と一緒に歩きながら話をしていた。どうやら、昨日の夜にタイムテレビで番組を視聴していると、ブリキンホテルなるホテルを紹介するCMがやっていたそうだ。普通なら昼か夕方のどちらかにCMがよくやっているように思うが、夜にやることもあるのだな。

 

朝の散歩道を、ミニドラの様子についてや今も製作中のひみつ道具について、その他にも先ほどのCMの話や他愛もない話をしながら歩く。吾輩は塀の上を歩き、冥は普通に道を歩いている。冥を作ってからは、毎朝一緒に歩くようにしているのだ。

 

 

「「やーい、嘘つきのび太ー! 見栄っ張りのび太ー!」」

 

「嘘つきとはなんだ!! ぼくはほんとに行くんだぞ!!」

 

 

冥と歩いていると、先の方の曲がり角あたりからのび太たちが言い争っている声が聞こえてきた。少し気になった吾輩たちは散歩コースから外れ、道を進み、角を曲がって学校へ登校中ののび太たちと出会った。

 

 

『お前たち、何を言い争っているのだ?』

 

「かなり大きな声でしたので、少し気になってしまいました」

 

「クロちゃんに冥さん!」

 

 

吾輩と冥が声をかけると、真っ先に反応したのはしずかちゃんだった。そして、しずかちゃんの声を聞いて吾輩と冥の存在に気づいたのか、のび太とジャイアンとスネ夫がこちらを向く。

 

 

「それで……大きな声で何を言い争っていたのですか?」

 

「え、えっと…………」

 

「のび太の奴が、この時期にスキーと海水浴がいっぺんにできて……」

 

「ガラガラに空いててのんびりできるホテルがあるなんていうんだ!」

 

「今時そんなところがあるわけないのにね!」

 

「ふむ……」

 

『今の時期にスキーと海水浴がいっぺんにできる……?』

 

 

スキーと海水浴が一度にできるなんて、あまりこの時代のホテルに詳しいわけではないが、それでもそんなホテルは聞いたことがな…………いや、どこかで聞いた覚えがあるな。確か、冥が夜中に見たCMの宣伝だったか……?

 

 

「く、詳しいことは秘密なんだ! 世界中の人がおしかけるから」

 

 

そう言ってのび太は早足で学校へと向かって行く。おそらく、ホテルについて詳しく追及されるのが困るのだろう。実際、スキーと海水浴が一度にできるホテルなど普通ならあり得ないからな。しかも、そのホテルの広告が流れたのはほとんどの人が眠っているであろう夜中。夜中に広告を流すということは、広告費がないほど貧乏かホテルができたばかりという可能性がある。まぁどちらにせよ、あまり期待できるものではなさそうだというのは確かだろうな。

 

 

 

その後、吾輩と冥は学校に登校していくジャイアンたちを見送ってから、散歩コースを巡り、鏡の世界に戻ってから道具の制作と拠点作成の計画を立てた。朝は散歩、昼から夕方までは修行か道具制作、拠点作成の計画を立案するなどして夜は日記を書いて就寝するのがここ最近のルーチンとなっている。このルーチンを二日、三日繰り返した後に事件は起きた。

 

 

あれは、吾輩が今まで作り上げた道具の整理をしている時だった。

 

 

『無限の鎖は戦闘用、次元爆弾も戦闘用、タンマウォッチは補助用で…………』

 

「万能首輪は補助用、フリーサイズぬいぐるみカメラは日常用、思い描いたものを形にする道具と物体を完全コピーする道具は工作用で……この二つは名称を変えませんか? 名前が長くて道具の整理が滞りますよ」

 

『確かに長いな。新たな名称か…………具象化機と完コピ機でどうだ?』

 

「先程の名前に比べたら短くて良いかと。ところで……完コピ機はフエルコピーライトと性能が被っていませんか?」

 

『あっ……いや、少し違う。完コピ機はフエルコピーライトに比べて大型で、増やす対象を完コピ機に直接取り込ませないといけないのだ。それに対して、フエルコピーライトは小型で持ち運びがしやすく、増やす対象にライトを当てるだけで増やすことができる代物だ』

 

「それって、フエルコピーライトは完コピ機の上位互換と言っても差し支えないのでは? あと、虫の知らせアラームはどちらに分けますか?」

 

『虫の知らせアラームは補助用に分けておこう。……そういえば、ドラえもん達を登録したのはいいが肝心の虫の知らせアラームの電源を入れていなかったな。丁度良い、今電源を入れておこう』

 

 

そうして、吾輩が虫の知らせアラームの電源を入れた時、虫の知らせアラームがいきなり鳴り始めたのだ。ハチの形を模した虫が羽をばたつかせて目の光を点滅させ、けたたましい音を鳴らす。

 

 

『なッ!? 急に鳴り出したぞ!』

 

「虫の知らせアラームが鳴り出したということは、誰かが危機的状況にあるということですね」

 

『このアラームに登録してあるのはドラえもん、のび太、しずかちゃん、ジャイアン、スネ夫の五人だ。つまり、この中の誰かが危険な状況にあるということか……急いで片付けて現実世界に戻るぞ!』

 

「承知しました」

 

 

五人の誰かが危険な状況にあると知った吾輩は、整理のために出していた道具類を急いで蔵にしまい、ミニドラは冥のメイド服のポケットに入ってもらってから現実世界に戻った。そして、現実世界に戻った吾輩は千里眼で五人の状況を順番に確認しようとした。だが、五人のうちドラえもんを除いた四人はなぜか河川敷の高架橋の下に集まっていたため、順番に確認する必要はなくなった。四人の様子を見る限り、危険な状況にあるようには見えない。ならば、そこにいないドラえもんが危険な状況にあると予想し、のび太の家や町内を見渡してみたが見つけることができなかった。

 

 

『ドラえもんが見つからない……』

 

「ここではない何処かにいるのでしょう。未来か……あるいは別の地域か……のび太さんに聞いてみた方が良いかもしれません」

 

『うむ。確かに、いつもドラえもんと一緒にいるのび太ならドラえもんの行方がわかるかもしれないな』

 

 

のび太ならドラえもんの行方について何か知っていると考えた吾輩と冥は、高架橋の下に集まっている四人の元へ転移した。

 

 

「わっ! びっくりした…………クロに冥さんか」

 

「何かあったの?」

 

『ああ。実はな――』

 

「おい、のび太! ブリキンホテルに連れてってくれるんだろ? 早くしろよ!」

 

「そうだぞ、早くしろよ!」

 

「む、今連れて行くよ。でも、見るだけだからね。チラッと見てすぐ帰るんだよ」

 

 

ジャイアンとスネ夫が吾輩の話を遮り、のび太にブリキンホテルに連れてってくれと急かす。そう急かされたのび太は、持っていた鞄を地面に置き、ジャイアンとスネ夫に注意してから鞄を開けた。

 

 

「ス、スゲェ! どこでもドアみたいだ!」

 

「でもこれ、門だよ」

 

「じゃあ、どこでも門だな」

 

 

吾輩を含めて全員が、のび太の開いた鞄から出てきたものを見て驚いた。なぜなら、鞄から質量保存の法則を無視して大きい門が現れたからだ。ドラえもんの道具かと思ったが、鞄から現れたような形の道具はカタログには載っていなかった。それに、門の先が超空間に繋がっていて先を見通すことができない。移動用の道具だとは思うが、未来の道具なら移動先の景色が見える。未来の道具という可能性は低いだろう。

 

 

「それじゃ、ついてきて」

 

「「おう!」」

 

「わかったわ」

 

『あッ、待てッ…………』

 

 

吾輩が門に驚いて呆けている間に、のび太たちが門をくぐっていってしまった。声をかけようとしたが、間に合わなかったらしい。

 

 

「行ってしまいましたね。いかがいたしますか?」

 

『決まっているだろう、吾輩たちも行く。のび太にドラえもんの行方を聞かなければならぬし、この門の持ち主かもしれないブリキンホテルも気になるしな。のび太は一度ブリキンホテルにこの門を使って行ったことがあるようだし、もしかしたら……な』

 

「なるほど、委細承知しました。では、参りましょう」

 

『ああ』

 

 

虫の知らせアラームが鳴るも、のび太やしずかちゃん、ジャイアンとスネ夫は無事でドラえもんだけがいない。十中八九、ドラえもんが危険な状況にあるということはわかる。ドラえもんが危険な状況にあるということは道具が使えない状況ということ、未来か過去かどこかの時間軸でポケットが壊れて遭難したか、はたまた何者かに拐われてしまったのか。人が寝ているような時間帯に広告を流すのに、現代の地球の科学力を超えているであろう門を持っている謎のホテル。加えて、なぜかのび太はジャイアンたちをすぐに帰そうとしている。

 

怪しいのび太の行動とホテルの技術力が、ドラえもんの行方に繋がっているかもしれない。門をくぐったら、のび太に問い詰めよう。そう思いながら、吾輩は冥に抱かれて門の向こう側へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 




最近、いろいろ書き方を変えてみてるのですが、中々難しいですね。


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25話 

テスト、レポート、発表、あらゆる課題を課された大学生…彼の死に際に放った言葉は飼い猫の眠気を誘った……!

「俺の課題か? …欲しければくれてやる。やってくれ!! すべての課題を置いて逃げてきたッ!!」

彼は買ったばかりポケモンを起動し、夢を追い続ける……!




レジェンズアルセウス楽しい




遥かに続くような輝く白い砂浜、目に染みるような青い蒼い海。門を越えると、その景色が周りに広がっていた。空は快晴で太陽が砂浜や海を照らし、太陽の光を反射して砂浜と海は輝いているようにも見える。

 

 

『冥がみたCMの宣伝文句はあながち嘘でもないということだな』

 

「そのようですね」

 

 

確実に日本ではないだろうな。なぜなら、この場所の暑さがどう考えても日本の春の暑さではないからだ。体感で、予想でしかないが赤道の近くにあるところか、季節が夏の場所なのだろう。

 

 

「すげぇ! ブリキの車が運転手もいないのに来たぞ!」

 

 

冥に抱かれながら考え事をしていると、ジャイアンの驚いた声が聞こえてきた。声のした方向を見ると、のび太たち四人の近くにブリキの車が置かれている。先程のジャイアンの言葉から考えて、車が勝手にやってきたということなのだろう。門のことを考えるに、自動運転で車はやってきたのだろう。この時代の車に自動運転技術などないはずだから、ますますブリキンホテルとやらは怪しいな。

 

 

「ほら、冥さんも早く」

 

「えっと……クロ様、どういたしましょうか」

 

『乗ったらどうだ? この程度のことで確認を取る必要はないぞ。自分で判断するといい』

 

「かしこまりました。では、私もご一緒させてもらいます」

 

 

冥が吾輩を抱いた状態で車に乗ると、のび太、ジャイアン、スネ夫、しずかちゃん、冥を乗せた車は一人でに走り出した。砂埃が立たない程度のスピードで車が砂浜を走っていると、遠くの方にホテルらしき建物が見えてきた。

 

 

『あれがブリキンホテルか……外観は普通だな』

 

 

ブリキンホテルの手前で車が停止したため、各々車から降りていく。ブリキンホテルは六階建てのホテルのようで、ホテルの横や背後にはおもちゃのような植物が生えている。いや、ようなではなくおもちゃなのかもしれない。千里眼を顕微鏡の如く使ってよく見れば、葉っぱや幹などに本来あるべき細胞が存在しないことがわかった。

 

 

「どう? ちゃんと連れてきたんだから、約束通り……「逆立ちで町内一周だろ? 約束は守るよ」……ならいいけど」

 

「でも、その前にホテルの中も見せてくれ」

 

「えっ、ホテルの中? それはちょっと…………留守かもしれないし」

 

「「ホテルが留守!?」」

 

『益々怪しくなってきたな……』

 

 

ホテルなのに留守の可能性があるなど、普通のホテルではあり得ないな。のび太の留守かもしれないという発言を聞いたジャイアンとスネ夫も怪しんでいる。閉鎖しているとかならまだわかるが……

 

 

「ちょっと覗くだけだよ」

 

 

そう言って、ホテルの鍵穴にゼンマイのような形をした鍵を差し込み、閉じられていたドアを開けるのび太。客にホテルの鍵を持たせているのか

 

ホテルの中は、広いロビーと奥の方に上の階へと通じる階段、二階より上はロビーを囲うようにして部屋のドアが配置されている。ロビーには観葉植物や上質そうなソファ、階段を挟むように配置されている二つのドア、吾輩たちが入ってきた入り口の近くには受付と思われる場所が存在している。

 

 

「クラシックで素敵なホテルですね」

 

「でも、誰もいないのはどういうわけかしら……?」

 

「そ、それは…………セルフサービスなんだよ。どの部屋も設備も勝手に使っていいんだ。ただし、地下室以外は」

 

「へぇ、なら探検しようぜスネ夫」

 

「うん。二階から見に行こうよジャイアン」

 

「わたしも探検するわ!」

 

「チラッと見たら帰るんだよ」

 

 

ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんはホテル内の探検へ、のび太は3人を追いかけて行った。

 

 

『冥はのび太達と一緒に行ってくれ。吾輩は、千里眼で怪しい部屋を探す』

 

「畏まりました」

 

 

階段を登ってのび太達を追いかけて行く冥を見送って、吾輩はロビーに置かれている二人掛けのソファに飛び乗り、千里眼を使用する。さっきののび太の発言から考えるに、地下室が怪しいだろう。

 

そう思い、地下室へ向けて千里眼を飛ばした結果、そこで驚くべきものを見た。古い民族が持っていそうな仮面のような顔の大きい扉が地下室に存在したのだ。もう、なんというか、すごく怪しい。怪しすぎて逆に、他のホテルにもこれが普通にある可能性が微レ存では? と思ってしまったぐらいだ。こんな怪しさを全面に出した扉は見たことがない。 

 

怪しさ全開の扉を透視し、その先へを覗いてみると、迷路のような空間が広がっていた。行き止まりや階段、休憩スペースと思われる空間、これらが無数に配置されていて、千里眼だから体力は使わないがそれを踏まえても迷路の全容を把握するのにかなりの時間を要するだろう。扉の時点で怪しさ全開なのに、なぜさらに迷路とかで怪しさを増幅させるのだろうか。やはりミスリードなのか? いや……しかし……こんな怪しい場所を探さないというのもな……

 

ドラえもんの行方の手がかりが掴めそうだが、想像以上に時間がかかりそうだ。虫の知らせアラームがなった時点で、ドラえもんは危機的状況にあるはずだが、すぐ助けに行くことができないのはもどかしいな。

 

 

「おーい、クロ! 飯にしようぜ!」

 

「大食堂でメニューのボタンを押すと料理が出てきたんだ!」

 

 

千里眼で地下を探索していると、ジャイアンとスネ夫が上の階から声をかけてきた。どうやら、大食堂という場所でご飯にするらしい。メニューのボタンを押したら料理が出てきたらしいが、現代の科学じゃ不可能じゃないか? せいぜい、レトルトパックか缶詰状態で出てくるのが関の山だろう。片目だけ千里眼を閉じ、ソファから降りて、ロビーから大食堂へと向かう。最近は、片目だけでも千里眼を発動できるようになったのだ。もちろん、両目で違う場所を見ることになるので、できるようになった当初は酔って吐いた。ジャイアンとスネ夫が扉の前に立っているので、そこの扉の先が大食堂につながるのだろう。

 

大食堂に入ると、中は円形の机とそれを囲うように複数の椅子が並び、観葉植物やブリキの人形などが部屋の隅などに配置されている。食堂なら調理室などがそばにありそうだが、それは見当たらなかった。

 

 

「うめぇ!!」

 

「美味ですね」

 

「合成食品とはとても思えないわ!」

 

「いやあ、素晴らしいホテルだなぁ!」

 

「これを食べたら、そろそろ帰ろうね」

 

 

美味しい。吾輩が普段食べている食べ物とは比べ物にならないほど。ボタン一つで出てきたものとは思えない美味しさに、原材料が気になってしまった。絶対、見た目通りの材料を使っていないだろう。ちなみに、吾輩が食べているのはマグロの刺身だ。

 

 

「スネ夫、ひと泳ぎしてこようぜ!」

 

「いいねぇ!」

 

「ちょっと! 二人とも約束が違うよ!!」

 

「スネ夫さん、武さん!?」

 

 

先に食べ終わったジャイアンとスネ夫が席を立ち、扉を抜けて階段を降りていく。その二人を追いかけてのび太としずかちゃんも階段を降りて行った。……食器はそのままでいいのか。

 

 

『冥、地下室には迷宮が存在した。現状だと、ドラえもんは迷宮にいる可能性が高いだろう。吾輩は地下室を千里眼で探索するから、冥は四人を守っていてくれ』

 

「かしこまりました。ドラえもんさんも無事だといいのですが……」

 

『さてな……虫の知らせアラームが鳴ってからかなり時間が経っている。万が一の時のために、タイム風呂敷を作るべきかもしれん』

 

 

のび太達四人の守護を冥に頼み、吾輩は地下室の怪しい扉の前へと転移する。さすがに中に入ろうとは思わない。どこまで迷宮が広がっているかわからない上に、最悪、吾輩の千里眼の範囲を超える可能性もあるからな。ドラえもんが見つかれば、吾輩が転移するかあるいは、ドラえもんをここに転移させれば良い。

 

扉の前で座り込み、再び千里眼を発動させる。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

ジャイアンとスネ夫は海の中を泳いでおり、近くには二人の服が脱ぎ捨てられている。それを少し離れたところから眺めているのは、二人を追いかけたのび太としずかちゃん、そして四人を守るように指示された冥。

 

 

「つまんない。いいな、男の子は……」

 

「女だって負けずに泳げばいいんだ! 僕に遠慮しないでいいよ」

 

「遠慮するわよ!」

 

「やっぱり……」

 

「当たり前だと思います」

 

 

のび太は泳ぐことができず、しずかちゃんは常識的に考えて水着もないのに脱ぐことはできず、冥は四人を守るために泳ぐ気がない為、三人はジャイアンとスネ夫が泳いでいるのをただ眺める。

 

太陽が傾き、空が赤らみ始めてきた頃。海を泳いでいたジャイアンとスネ夫はようやく満足したのか、海から上がってきて砂浜にゆっくりと倒れ込んだ。

 

 

「泳ぎ疲れてクタクタだぜ……」

 

「今夜は泊まっていこうよ」

 

「とんでもない!!」

 

 

疲れ切って今夜は泊まろうと勝手なことを言うスネ夫たちに、のび太は大声で反対する。そもそも、野比家はきちんと予約しているが、ジャイアンやスネ夫、しずかちゃん、クロ、冥たちは予約もしていないし、ホテルの従業員にも合っていないため宿泊客として登録もされていないだろうから、ホテルの料理を勝手に食べることも泊まることも本来なら犯罪だ。

 

のび太が二人に対して怒り、しずかちゃんが呆れ、冥が見守っていると、轟ッと重々しく大きい音が五人の背後…………ブリキンホテルの方から何度も聞こえてきた。

 

 

「なんだなんだ!?!?」

 

「何かが爆発しているわ!」

 

「ホテルの方角からだ!!」

 

「クロ様ッ!」

 

 

のび太達四人は砂浜を走り、冥も爆発音から四人が何者かに襲撃されないか警戒しながら、ホテルの地下室に残っているクロのことを思い、ホテルを目指す。そして、ホテルが見える位置まで来た五人は、爆発音の正体を見た。

 

 

「あれは…………」

 

「「「「ブリキの飛行機!?!?」」」」

 

「あれらがホテルを襲撃していたのですね……」

 

 

何度も響く爆発音の正体は、ブリキの飛行機から落とされる爆弾だった。空を飛ぶ数多くのブリキの飛行機がブリキンホテルに爆弾を落とし、ホテルの周辺を爆破していたのだ。




久しぶりなので、文章や物語の前後がおかしくなっていないか心配。キャラの性格もこんなんだったっけ?


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26話

 最近、ハードオンさんの思いつき短編集を読んで、作者も思いついた短編集を作ってみようかなと思いました。しかし、そんなことをすれば、ただでさえ遅い更新速度がさらに下がってしまう!
 どうしようかな…………


 ブリキンホテルの周囲を飛び回り、次々と爆弾を落としていくブリキの飛行機。ブリキンホテルは爆発によって周囲の地面が爆ぜ、入り口付近のブリキの植物なども吹き飛んでしまっている。最初に来た時の景観は完全に損なわれてしまった。しかし、意図的かあるいは奇跡的なのか、ホテルそのものは爆発による衝撃を受けているものの直接爆弾が落とされたりはせず、傷一つついていない。

 

 

「クロ様ッ!」

 

「待って冥さん! 今、ホテルに行くのは危ないわ」

 

「しかし……」

 

 

 ホテルにいるであろうクロのことを想い、冥は走り出そうとするがその行動をしずかちゃんに止められる。

 

 

「クロなら大丈夫さ! なんせ、超能力があるんだから」

 

「クロちゃんなら心配いらないわ」

 

「そう……ですね……。 私としたことがクロ様の御命令を破ってしまうところでした、ありがとうございます」

 

 

 のび太としずかちゃんの言葉を受けて冥は冷静になり、ホテルの周辺を飛んでいるブリキの飛行機について考えることにした。なぜ、あの飛行機は爆弾を落としているのか。どうしてブリキの飛行機なのか。受信機が付いているようには見えないが、どのようにして動いているのか。

 

 冥がブリキの飛行機について考えていると、突然ジャイアンが立ち上がり、現在も爆弾を落とし続けているブリキの飛行機のもとへ走り出した。

 

 

「やめろ、こんにゃろー!! これ以上爆弾を落とされたら、今夜泊まれなくなるじゃないか!!」

 

 

 ジャイアンが突然走り出した理由は今夜泊まれなくなることを防ぐためだった。いいのか、そんな理由で。爆弾を次々落としている飛行物体に近づいていくのは並の覚悟じゃできない。あるいは、先のことまで考えが及んでいないだけか。

 

 

「危ないッ!!」

 

「うわっ!」

 

 

 走っていたジャイアンに爆弾が当たりそうになり、自分と違って何の装備も力もないジャイアンがいきなり危険地帯に自ら走り出したことに驚き思考停止していた冥が復活し、一瞬でのび太たちの所からジャイアンの所まで移動し、爆弾が当たる直前でジャイアンを抱えて危険地帯を脱した。ジャイアンに当たらなかった爆弾は地面に当たって爆発し、ジャイアンを抱えて危険地帯を脱した冥のところまで爆風が及ぶ。

 

 

「くっ……! 危ないところでした、大丈夫ですか?」

 

「た、助かった……」

 

「どうやら怪我はないようですね。よかった……」

 

 

 やはり、自分が爆弾に当たるかもしれない、あるいは爆発に巻き込まれるかもしれないという可能性に考えが及んでいなかったのだろうか。冥はジャイアンが無事なことにひとまず安堵した。しかし、先ほどまでホテルの周辺を飛び回っていたブリキの飛行機がこちらに向かっていることを察知した冥は、即座に警戒態勢に入る。

 

 

「皆さん、私の近くにいてください!」

 

「これは……!?」

 

 

 のび太としずかちゃん、スネ夫、ジャイアンが集まり自分の近くに来たことを確認した冥は、円形の透明な膜を冥を中心として瞬時に展開し、五人を覆う。五人を覆った透明な膜は、ブリキの飛行機が撃ち出す弾や爆弾を受けても傷一つ付かず、中にいる五人に衝撃すら通さない。

 

 五人を覆う透明な円形の膜はクロが『安全カバー』を改造したもので、万が一の時のために冥の体に組み込まれていた道具である。改造された安全カバー……いや、『安全膜』は円形の膜であるため地面の中まで覆われている。そのため、安全膜が展開されている間は誰も中にいる者を傷つけることができないのだ。

 

 

「これであちらからの攻撃は届きません」

 

「スゲェ!」

 

「後はあのブリキの飛行機に対処するだけですね…………バンッ!」

 

 

 冥は人差し指をブリキの飛行機に差し向けて、キーとなる言葉を放つ。すると、指先から衝撃波が放たれ、安全膜をすり抜けてブリキの飛行機へと直撃し、飛行機を破壊する。

 

 

「今のって、空気ピストル?」

 

「ええ。安全膜と同じように私に組み込まれている道具の一つです」

 

 

 正確には『空気ピストルの薬』である。冥が意識すれば、指先から自動的に空気ピストルの薬が出てくるようになっているのだ。この道具の難点は、撃つ度に必ず「バンッ」と言わなければならない事だろう。指先から衝撃波を放ち、次々と飛行機を破壊していく。

 

 

「あ! 奥の大きい飛行機が逃げてく!!」

 

「くっ……ここからでは届きません」

 

「追いかけて正体を突き止めようぜ!」

 

「うん!」

 

 

 冥の攻撃が届かない場所にいた飛行機は、状況が悪いと判断したのか山や森がある方へと去っていく。そして、その去っていく飛行機を追ってジャイアンが安全膜から飛び出し、飛び出していったジャイアンを追いかけてのび太達や冥も走っていく。

 

 

「はぁ…はぁ…、ちょっと……待ってッ……!」

 

 

 しかし、走り始めて十秒でのび太がダウンしてしまった。いくらなんでも早すぎである。バウワンコに向かう際は歩いているので、運動不足ということはないだろう。加えて、定期的にジャイアンやスネ夫たちと一緒に野球をしているはずなのに、一体どういうことなのか。

 

 

「飛行機が飛んでいっちまうだろうが!」

 

「こういう時、ドラちゃんならタケコプターを出してるのに……」

 

「あっ……忘れてた! タケコプターなら僕が持ってるや」

 

「もーこれだもの!! それを早く出せよー!!」

 

「バカタレ!」

 

「でも、四つしかないわ。これだと冥さんの分が……」

 

「いえ、私は万能メイドとして作られたので独自で空を飛ぶ手段があります。なので、大丈夫ですよ」

 

「それなら良かった」

 

 

 なぜか四人分のタケコプターをのび太が持っていたため、のび太、しずかちゃん、ジャイアン、スネ夫の四人は急いでタケコプターを装着して飛び上がる。冥も足の側面からブースターを出し、背中からは機械の翼を生やして空を飛んだ。空へと飛び上がった五人は、見失ってしまった飛行機を探すために森の上を飛行し、怪しい場所を探す。しかし、森は広くそう簡単には怪しい場所は見つからない。のび太、ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんはあちこちを飛び回って探し、冥は四人と同じように飛び回りながら自身に組みこまれている『マイクロ補聴器』を使いながら探していた。

 

 『マイクロ補聴器』は、本来はイヤホン型の小型補聴器でどんな小さな音も聞き取ることができる道具だ。クロは安全膜と同じようにマイクロ補聴器をイヤホン型ではなく鼓膜型として改造し、冥の機能の一つとして組み込んでいた。これによって冥は、どんな小さな音でも聞き取ることができるようになるのだ。

 

 太陽が沈みかけた頃、とても小さな話し声を聞き取った冥がバラバラにあちこちを探していた四人を呼び、音を頼りにして五人で移動していると、音の発信源の方に怪しい建造物を発見した。大きな球体に複数の窓と思われるものがついており、球体の上部にある突起物にも同じように窓と思われるものがついている。また、球体の下部の方にはロケットブースターらしきものが四つ取り付けられている。おそらくは、ロケットなのだろう。

 

 5人はロケットの方へと近づいて窓を覗いたり、下部の方に入り口がないかを探って、ロケットの内部の様子を知ろうとする。

 

 

「ロケットにしては小さすぎる。これは一体……?」

 

「中は暗くてよく見えないや……」

 

「何か音がするわ!」

 

 

 5人でロケットを探っていると、しずかちゃんがロケットの中からする音を聞き取った。その次の瞬間、ロケットの内側から声が聞こえてくる。

 

 

「ソコへ来タノハコノ星ノ人間カ?」

 

 

 ロケットの内側から聞こえてきた声は拡声器でも使っているのか、とても大きな声で5人にそう尋ねてきた。この星のという言い方をする辺り、おそらくロケットの内部にいるのは宇宙人なのだろう。それも、地球の言葉を用いて話せる技術を持った。

 

 

「この星の……ってことは、君は宇宙人!?」

 

「フンッ、ヨクモ我々ノ飛行機ヲ落トシテクレタナ。ダガ、たぬき型ロボットハコッチガ捕エタゾ」

 

「たぬき型ロボット……? ひょっとしてドラえもん!?」

 

 

 たぬき型ロボットというのは、十中八九ドラえもんのことだろう。地球以外にもたぬきは同じ姿や概念として存在するらしい。また、この宇宙人の言葉を信用するなら、ホテルに残って地下室を探っているクロの読みは的外れだったことが確定する。

 

 

「ドラえもんをどうしたの!?」

 

「ドラえもんを返せ! 返さないとただじゃおかないぞ!!」

 

「……なッ! 危ない!」

 

 

 ドラえもんが宇宙人に捕らえられたと知ったのび太達は、宇宙人の乗るロケットを叩いたりして抗議する。だが、その抗議を当然の如く宇宙人は無視し、ロケットを離陸させる。

 

 ブースターから火を吹いて離陸していくロケットの近くにいたのび太達は、その危険性に気づいた冥が安全膜を展開して覆うことで、ブースターから放たれる火と煙から守られた。

 

 ドラえもんを乗せたロケットはかなりの速度で空を進み、宇宙へ飛び出そうとしている。それを見て安全膜から飛び出そうとするのび太をジャイアンが抑える。

 

 

「ドラえもーん!!」

 

「落ち着けのび太! 今追いかけても、タケコプターじゃ間に合わねぇ!」

 

「冥さん、何とかロケットを止める方法はないかしら?」

 

「申し訳ございません。撃ち落とすことなら可能なのですが、中にいるドラえもんさんに影響が出ないように動いているロケットを止めるとなると……」

 

「クロが使ってた鎖は?」

 

「無限の鎖はクロ様のみが所持しておりますので……」

 

「そんな……」

 

 

 宇宙へと飛び去っていくロケットを見ていることしかできないのか。五人がそう思いかけた時、のび太がある考えを思いつく。

 

 

「そうだ! 『宇宙救命ボート』で追いかけようよ!」

 

 

 『宇宙救命ボート』とは全自動式の小型宇宙船だ。ボタンを押すだけで、地球人が住めそうな星を自動で探し出し、目的地の星まで勝手に飛んでいくことができる。その他にも、その星にしかない物質や目的地に関わりのあるものを探知ユニットに入れれば、その目的地まで全自動で航行するという機能も存在する。おそらく、のび太は先程破壊した飛行機かドラえもんに関わりのあるものを探知ユニットに入れておいかけるつもりなのだろう。悪い考えではない。だが……

 

 

「でも、それってドラえもんの道具でしょ? 」

 

「あっ……そっか……」

 

 

 のび太の考えは、ドラえもんが道具を出してくれるという前提があった。しかし、道具を出してくれるであろう肝心のドラえもんが宇宙人に捕らえられ連れて行かれたのだ。悪い考えではないが、良い考えでもない。さりとて、実行不可能というわけでもないのだ。

 

 

「いえ、クロ様はハツメイカーを所持しています。多少お時間はかかるでしょうが、宇宙救命ボートを作ることは可能なので、のび太様のお考えは実行可能かもしれません」

 

「そうなの? なら、今すぐクロに頼みに行こうよ!」

 

「急ぎましょう!」

 

 

 のび太の考えが実行可能かもしれないと知った五人は、冥が安全膜をしまってから急いでクロのいるホテルへ向かおうとする。その直前、突如として大地が大きく揺れだした。揺れは人が立っていられないほど大きく、五人は空中に飛び上がることで難を逃れる。

 

 

「何これ、地震!?」

 

「なら尚更急がないと!」

 

「あれ? 海が沈んでいく!?」

 

「いや、ちょっと待て。これは地震じゃねぇ! 島が空に飛び上がってるんだ!!」

 

 

 空中に飛び上がった五人は急いでホテルの方へと向かうが、その途中で海が沈んでいく光景を見て、大地の揺れが地震によるものではなく、島が空へと飛び上がったことによるものだと気づく。なぜ、どうやって島が飛び上がっているのか。巨大な飛行石でも積んであるのか。はたまた、大規模な風石の鉱脈でも存在するのか。

 

 

「グングン高度が上がってる! このままだと何処に連れて行かれるかわからないぞ!!」

 

「とにかく、クロと合流しよう! クロならどうにかできるかもしれないし」

 

「そういえば、ここら辺に門も置きっぱなしだったから、それも回収しないと……」

 

「忘れてた……なら、急いで回収してからホテルの方へ行こう!!」

 

 

 ドラえもんが連れ去られ、島が突如として空へと飛び上がるという驚きが連続する。クロならこの現状もどうにかできるかもしれないという思いを頼りに、五人はホテルへと急ぐのだった。

 

 

 




 ジャイアンに少し無茶無謀をさせすぎてしまったかなと反省。

 『安全カバー』は透明ポリ袋のような外観をした道具で、この中に体を入れるとあらゆる衝撃から身を守ることができます。


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27話

 3回目ワクチンの副作用が強すぎな件。一度に複数もの副作用が強力になって襲ってくるのはキツすぎる。


リメイクされた小宇宙戦争が気になりますが、コロナが怖くて映画を見に行けない……ビデオが出るかアマプラに追加されるまで待とうかな。


 ドラえもんが連れ去られ、島が空へ飛び上がるという問題が発生し、クロを頼るためにホテルへと向かいながら、置きっぱなしにしていた門を探すのび太達。島はどんどん高度を上げており、ほんの数分前まで遠かった雲が今やすぐ近くの距離まで昇っている。早く門を見つけてクロの元に行かねば、地球から連れて行かれる可能性すらあるためさっさと見つけたいが、中々見つからない。島が飛び上がったことで昼間とは砂浜の様子がまるで異なっており、さらに現在は太陽も沈んでいるために、より門が見つけづらい状況となっていた。

 

 

「あったわ!!」

 

 

 しずかちゃんが放置され、開けっぱなしになっていた門を見つけた。島が飛び上がる際、大きい地震と勘違いするくらいの揺れが発生していたが、倒れていなかったのは幸いといえるだろう。もし、揺れにより開けっ放しの門が倒れてその衝撃で壊れようものなら、大変なことになっただろうから。

 

 

「なんだあれ……?」

 

「ピンク色のウサギ? 顔がアホっぽいな」

 

「ホテルのウサギだ!!」

 

 

 五人が発見した門の所へ向かっていると、同じように門へと近づいていく生物をのび太が発見する。ピンク色のウサギのような何か。のび太達はウサギだと言っているが、その見た目はウサギと言うには少し奇妙だ。尻尾がついておらず、胴が短いのか手足が頭についているようにも見える。例えるならウサ耳がついたカービィのような体躯だろう。

 

 

「あ〜!! 食べちゃった!!」

 

「そんなッ……!」

 

「トランクを返せ!!」

 

 

 ホテルのウサギはのび太達よりも先に門へと辿り着き、開けっ放しだった門を閉じると、それを食べてしまった。正確には、飲み込んだと言うべきか。体のサイズに対してどう見ても大きい門が収納されているトランクを飲み込むウサギ…………やっぱり似非カービィでは?

 そんな似非カービィなウサギを取り押さえ、飲み込んだトランクを出させようとするのび太とジャイアン。しかし、ウサギは体を捻らせて二人の拘束から逃れ、ホテルの方へとピョンピョンと飛び跳ねながら逃げていく。

 

 

「うわっ! 離して〜!!」

 

「捕まえましたよ。さぁ、トランクを……門を吐き出してください」

 

 

 飛び跳ねながら逃げていたウサギは、タケコプターのフルスピードで追いかけるのび太達をホテルに着く直前で振り切ることに成功したが、次の瞬間、ジェットで飛んできた冥によって捕らえられた。ウサギは見た目の割にモフモフでかなり弾力性があり、冥は思わず捕らえたウサギをむぎゅむぎゅと押したり撫でたりしてしまう。

 

 

「やめて! 乱暴しないでッ!」

 

 

 のび太達が遅れてウサギをむぎゅううう!している冥に追いついた頃、カプセルのような見た目をした近未来的な乗り物に入った少年と執事を模したかのようなブリキの人形が、ホテルの方から声を上げてやってきた。

 

 

「君は……?」

 

「僕はサピオ・ブリーキン。隣の執事はブリキン。お願い、タップを離してください」

 

「でもよ、こいつがトランクを呑み込んじまったんだ」

 

「ボクらが帰るのに必要なのに!」

 

「それには理由があるのです……」

 

「理由?」

 

 

 カプセルのような乗り物に入った少年……サピオが語った理由とは、のび太達5人が自分達と共にチャモチャ星の人類を救ってもらうためにナポギストラー1世の反乱軍と戦ってもらうというものだった。しかも、飛び上がったこの島は宇宙ロケットだったようで、既にチャモチャ星へと向かっているらしい。

 

 

「戦ってもらうってそんな……」

 

「勝手なこと決めないで!」

 

「何か勘違いしてるんじゃない?」

 

「私以外は全員小学生なのですよ?」

 

「大丈夫! 君達なら戦えます!」

 

 

 何の根拠があってサピオ達は武器もない小学生四人とメイドが軍隊と戦えると思ったのだろうかと、冥は不審に思う。サピオはカプセルから降りて、のび太たちを説得しようとしているが、既に出発している時点で説得できるとは思っていないだろう。どう考えても強制的に連れて行こうとしているのだから。というか、島ごと宇宙に飛び立つということは、この島には宇宙空間でも空気や重力を保つ術があるのだろうか?

 

 

「嫌だ! 地球に帰して!」

 

「トランクを返せ! この野郎!」

 

「わわっ!?」

 

「タップ! うわっ!?」

 

「サピオ様!! ……無理をなさるからです、カプセルにお入りください」

 

 

 スネ夫とジャイアンがウサギ……タップへと襲いかかり、口へと手を突っ込んでトランクを吐き出させようとする。二人の暴挙を止めようとサピオが動き出すが、その際に足がよろけて倒れてしまった。倒れたサピオを執事風の人形が手伝って起き上がらせるが、サピオの息が荒くなっており、動ける状態ではないと判断したのか、カプセルの中に戻そうとする。すると、執事の言葉に反応するようにカプセルの側面から二本の細い棒が飛び出し、執事が支えるサピをの両脇を掴んで持ち上げ、カプセル内部の座席へとサピオを戻した。それを見たジャイアン達は捕まえていたタップを解放する。

 

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫、チャモチャ星人はカプセルに入らないと何もできないのです。自由に動き回れる君たちが羨ましい……」

 

「どうしてぼくらを選んだの?」

 

「僕たちは味方を求めて宇宙を探し回っていました。人間などの生命体が住んでいる星は地球以外にもいくつかありましたが、あまりにも進化が遅れていたり、高い文明を持っていても性格が悪かったりしたのです。そこでやっと見つけたのが、反乱軍に立ち向かっていった君達なんです。お願いです、チャモチャ星の人々を助けてください!」

 

「何卒、よろしくお願い申し上げます!!」

 

「申し上げます!」

 

 

 サピオ達の服やカプセル、宇宙ロケット、動くブリキの人形からサピオ達の星は文明がかなり進んでいることがわかる。その星の反乱軍を相手にする以上、文明が遅れていると話にならない。文明が進んでいても性格が悪かったりしたというのも仕方ないのかもしれない。人間とは元来傲慢な生き物であり、自分より下のものを哀れむか蔑むかのどちらかを行うことが多いのだから。

 

 

「ようし!! いっちょやってみるか!!」

 

「えー!? 冥さんやクロがいるとはいえ、僕らは小学生なんだよ? ドラえもんの道具もなしに無理だよ…………なぁ、のび太もそう思うだろ?」

 

「いや、やるしかないよ! だって、ドラえもんはあいつらに攫われたんだよ? ドラえもんを助けるためにも、ぼくはやるよ!!」

 

「そ、そんな〜」

 

「のび太さん……」

 

「ありがとう!! 本当にありがとう!!」

 

 

 サピオ達の懇願を聞いて、助けることを決意するのび太とジャイアン。しずかちゃんはのび太の言葉を聞いて助けることに賛成し、冥はのび太達を守らなければならないため二人が決意した時点で賛成しており、スネ夫は自分以外のみんなが助けると決めてしまい渋々助けることに賛成した。

 

 

「あっ! そういえば、クロを探すの忘れてた!」

 

「そういえばっ……!」

 

「クロとは……?」

 

 

 五人が助力してくれる事に喜んだサピオ達は疲れているであろう五人をホテルの中へと案内し、食事にしようとするが、途中でのび太が元々ホテルに向かっていた理由を思い出す。島が飛び上がったことや攫われたドラえもんを追いかける方法をクロが持っている可能性が高く、ホテルの地下室を探索すると言っていたクロに頼るためホテルに向かっていたのだ。その事情をホテルの持ち主であろうサピオたちに話す五人。

 

 

「ええっ!! 地下室に行ったんですか!? あそこには、僕の御先祖が趣味で作った大迷宮が存在しているのですが……」

 

「大迷宮?」

 

「そういえば、クロ様も迷宮が存在したと言っていました……」

 

「もし、そのクロさんが大迷宮の内部に入ってしまっていたら、探すのは大変難しくなります」

 

「どうして?」

 

「何言ってんだよのび太、迷宮なんだから当然だろ?」

 

「いえ、それもあるのですが……。あの大迷宮は全長が184キロもあり、右へ左へ、上へ下へ曲がりくねって一度迷うと引き返す道も分からなくなってしまうのです。これまで何百人も挑戦したことがあるそうですが、クリアできた人は誰一人もいないされてる。半年もの間彷徨い続けてロボットに救助された人もいたみたいなんです」

 

「そんなっ……」

 

 

 半年もの間彷徨い続けた人がいたということは、もしかしたら中で死んでいる人もいるかもしれないということだ。恐ろし過ぎる。なぜそんなものを宇宙ロケットの内部に作ってしまったのか。趣味で宇宙ロケットの内部に大迷宮を作るご先祖は、一度常識を学び直してみるべきかもしれない。

 

 

「じゃあもう、クロは…………」

 

『吾輩がどうかしたか?』

 

「えっ」

 

「「「「「クロ/クロ様!?!?」」」」」

 

『騒々しいな……』

 

 

大迷宮の話を聞いて、もしかしたらクロが中で迷って出れなくなっているかもしれないと考えていた五人は、いきなりクロがその場に現れテレパシーを使用してきたことに戸惑い、驚いた。そしてクロは、五人から何故大層驚いたのかを聞き、呆れてため息を吐いた。

 

 

『ただの猫ならまだしも、吾輩は超能力があるのだぞ? まして、迷宮を探索するのに何の対策もしないと思うのか? というか、千里眼で探索すると言っておいただろう』

 

「仰る通りです、申し訳ございません…………」

 

『いや、別に責めてるわけではないのだが……』

 

 

 クロは空間転移や未来視、透視、サイコメトリー、テレパシー、念動力、パイロキネシス、電子操作など様々な超能力が使える。加えて、千里眼や不老不死、蔵などの特殊な力も神から与えられている。蔵の中には、クロが鏡の世界で手に入れた大量の食料や飲料、本、道具、乗り物、武器などが入っている。例え超能力が使えず迷宮の中で迷ったとしても、不老不死のため死ぬことはないし時間をかければ迷宮を脱出することも可能なのだ。

 

 

「とにかく、クロが無事で良かったよ」

 

『心配をかけてしまったようだな。冥もすまなかったな』

 

「いえ…………」

 

 

 五人が自身のことを心配していた事を知り、心配をかけたことを謝るクロ。そしてクロは、五人からサピオ達のこと、この島のこと、ドラえもんのことを聞く。

 

 

『ふむ、なるほど……事情はわかった。そういうことならば、吾輩も助力しよう。大迷宮で面白いものを見つけたしな』

 

「「「ありがとうございます!!」」」

 

 

 五人と共にチャモチャ星の人々を救うこととドラえもんを救い出すことを決めたクロ。しかし、テレパシーではああいったが、自分がいれば連れされることは阻止できたかもしれないと思い悔やんでいたのだった…………。

 

 

 

 

 

 




三人称視点で書いてるつもりだけど、きちんと書けているか心配。書けていないかも。

ドラえもんの映画がアマプラで全部観れるようになっていて、いろんな作品を見直してたら他の映画の内容も書きたくなってしまった。なお、どうオチをつけるかは考えていない模様。鉄人兵団とか夢幻三剣士とかどないせーっちゅうねん。


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28話

カービィディスカバリー凄い! 面白い! 楽ちい!(語彙力)



今回は説明をあまり省略しなかったので会話文が多くなってしまいました。


「う〜ん…………ムニャムニャ……」

 

 

 二対の大きいテスラコイルのようなものと窓が一つしか存在しない無機質な部屋。その部屋の中央で、連れ去られたはずのドラえもんは眠っていた。バチバチと二対のテスラコイルらしきものから電気が生じ始め、生じた電気が二対を繋ぐことで生じる電気を増幅させ、増幅した電気がまるで雷のようにビシャンと音を立てて、ドラえもんに降り注いだ。

 

 

「わあっ!!  う〜ん、ここは…………?」

 

「目ガ覚メタカ、ポンコツたぬき。コレカラオ前ノ取リ調べヲオコナウ」

 

「誰だっ……偉そうに! 隠れてないで出てこい!!」

 

「ダマレ!!」

 

 

 電気が降り注いだことによって意識を取り戻したドラえもんは、部屋に鳴り響いた声に対して反抗的な態度を取る。突然連れ去られ、無機質な部屋に閉じ込められて偉そうな態度を取られたら、誰でも不愉快だと思うだろう。しかし、声の主は反抗的なドラえもんの態度が気に食わなかったのか、ドラえもんに怒号を浴びせる。

 

 

「聞カレタコトニ答エレバイイノダ!」

 

「あっかんべーだ!! ……うわあっ!?」

 

 

 舌を出して怒りながら煽るドラえもんに対し、声の主は堪忍袋の緒が切れたのか、ドラえもんに強力な電撃を浴びせた。

 

 

「素直ニ白状シナイト壊シテシマウゾ」

 

「うう……」

 

「サピオトソノ仲間ハアノ島デ何ヲ企ンデイル?」

 

「サピオなんて知らないよ。僕らはホテルへ遊びに……」

 

「シラバックレルナ!!」

 

 

 再びドラえもんに電撃が降り注ぐ。声の主はロボットであるドラえもんがあの島にいた事から、ドラえもんがサピオ達の仲間だと思っているのだ。確かに、サピオ達は島にいたし、反乱軍の打倒と人々の救出を企てていた。しかし、ドラえもんはその事情を聞くこともサピオ達に会うこともなく彼らに連れ去られてしまったため、本当に知らなかった。タイミングが良いのか悪いのか。いや、きっと悪いのだろう。

 

 

「ホテルノ地下ニハ大迷宮ガアルハズダ。ソノ大迷宮ノ謎ヲ教エロ!」

 

「だから、本当に知らないんだってば……」

 

「ムウ! 強情ナ奴メ!!」

 

「うぎゃあ!!」

 

「電圧ヲ最大ニシロ!」

 

 

 またもや、ドラえもんに電撃が降り注ぐ。しかも、一発ではなく何発も電撃を浴びせ、電圧を最大にして浴びせようともしていた。ドラえもんは本当に何も知らないのだが、彼らにとってはそんな事情は知る由もない。ドラえもんらサピオ達の仲間だという認識が彼らの中で固まっているからだ。

 

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 電圧最大の電撃を浴びたドラえもんは、まるで雷に撃たれたかの如く黒焦げており、ピクリとも動かなくなった。

 

 

「コンピュータガ焼ケチャッタミタイデス」

 

「コリャドウニモナランナ。スクラップトシテ海ニデモ捨テテシマエ」

 

 

 ドラえもんが動かなくなってしまった理由は、コンピュータが先程の雷のような電撃によって焼け焦げたからであり、ドラえもんなどのロボットにとって死に等しいこと。

 海へと捨てられたドラえもんは、同じように捨てられた大量のゴミやスクラップと一緒に、深い海の底へと沈んでいくのであった…………

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

  チャモチャ星へと連れ去られたドラえもんを救出し、ナポギストラー一世率いる反乱軍を打倒してチャモチャ星の人々を救う。それが、吾輩達の目標となっている。だが、敵のことを知らねば敵を倒すのは難しい。それ故に、今は食事をしながらサピオから話を聞くことにした。昨日はのび太達が疲れきっていて、食事した後はすぐ眠ってしまったからな。宇宙ロケットがチャモチャ星へと向かうためワープしている間に聞いておけば対策も少しは考えられるだろう。

 

 

「昔はチャモチャ星もいい星でした。恵まれた自然の中で高い文明を育てていたのです。チャモチャ星人は争いを好まず、子供のように無邪気で明るい人々でした。遊ぶことが大好き、楽しいことが大好き、いつものんびり遊んで暮らすのが夢だったのです」

 

「その気持ち、わかるなぁ……」

 

「すっごくよくわかるな!」

 

「ええ!」

 

『ふむ……』

 

「だから、科学もその方向へと進んでいったのです。農場や工場、交通機関、役所、商店、警察や軍隊まで様々な分野のロボットが開発され、仕事を任されていきました。しかし、次から次にロボットを発明していくうちに発明するのも面倒になってしまって、ついに全身がほとんどコンピューターでできている発明家ロボット『ナポギストラー博士』を作ったのです」

 

 

 発明するのも面倒で発明家ロボットを作るとは……宇宙ロケットの内部に大迷宮を作るご先祖もいるあたり、チャモチャ星人は吾輩の予想の斜め上をいくなぁ。というか、開発したロボットにロボット三原則みたいなシステムは組み込まなかったのか。発明家ロボットならなおさら組み込んでおかないとダメだろうに。ナポギストラー博士という名前からして、こいつが反乱軍を率いるナポギストラー一世という奴なのだろうし。

 

 

「ナポギストラー博士は人間がさらに楽をするための発明を続け、やがて人間は働く必要がなくなり、毎日が日曜日になりました」

 

「チクショー、羨ましい!!」

 

「素敵ね」

 

「ナポギストラー博士最大の発明は『イメージ・コントロール』、通称イメコンと呼ばれています。イメコンは心に思うだけでロボットに伝えるシステムで、人間は指一本動かさずに暮らせることになりました」

 

「天国だ!! ぼくらもそんな星に生まれたかった!!」

 

「そう思う……?」

 

 

 どうやら、のび太達はイメコンのデメリットに気付いていないらしい。指一本動かさずに暮らせれるようになるのは幸せかも知れんが、人間の体は動かさなければどんどん悪くなっていく。体を動かさなければ肥満となり、肥満を原因として糖尿病や高血圧、脂質異常症などの病気になる。仮に栄養状態をどうにかするロボットがいたとしても、体を動かさなければ筋肉が固まってしまい、まともに動くことすら難しくなっていく。サピオがカプセルに入っていないとまともに動くことすらできないというのは、十中八九このイメコンが原因だろうな。おそらく、反乱が起きずに文明が進んでいた場合は肉体を捨てて機械やロボットに意識を移すか、別方面へと肉体が進化していただろう。進化していた場合、皆がよくイメージするタコやクラゲのような見た目になっていた可能性が高い。

 

 

『肉体は使わなければ衰えていく。イメコンは便利であると同時にそのようなリスクもあるのだろう? まぁ、それに気づいて普段から運動していれば問題ないはずだが……』

 

「その通りです。そして、クロさんの考えた危険に真っ先に気づいたのは僕の父『ガリオン・ブリーキン』公爵でした。父は科学者だったのです。父はアンラック王にイメコンの使用中止を訴えましたが、まともに取り合ってもらえませんでした。さらに、ナポギストラー博士はイメコンのデメリット対策として僕が今も乗っているこのカプセルを発明し、国中にカプセルを広めました」

 

「対策としての発明をしたなら、イメコンは大丈夫じゃないの?」

 

「のび太さん、サピオさんが乗っているカプセルはイメコンの根本的な対策になっていないのです……」

 

「えっ、そうなの冥さん?」

 

『さっきも言ったが、肉体は使わなければ衰えていく。そして、肉体が衰えていくと様々な病気になりやすくなる上に、動くことすら難しくなるのだ。根本的な対策をするならば、イメコンを使わないか、健康を保てる程度の運動をさせる機械やロボットの開発でも良かった。だが、カプセルの機能は昨日から見る限り手足の延長線上程度で肉体を動かすようなことはしない。つまり、カプセルはイメコンによって加速的に肉体が衰えていくことを止められないのだ』

 

「なるほど?」

 

「つまりどういうことなんだ?」

 

「ナポギストラー博士が開発したカプセルはイメコンの対策としては不十分ということです」

 

 

 ナポギストラー博士が発明家ロボットである以上、カプセル以外の機械やロボットを作ることができたはずだ。いつから反逆を企てていたのかは知らないが、イメコンとカプセルの開発は人類の抵抗力を削ぐための策である可能性が高いな。というか、発明家ロボットに発明以外の機能をつけるなよ。

 

 

「僕の父はイメコンの使用やカプセルの使用を止められないと判断して、このブリキン島にある大迷宮の中央ホールで一年もの間何かを研究し、その研究を完成させたらしいのです」

 

「研究……? それってどんな?」

 

「それは僕も詳しくは聞かされていないのです。そして、研究を完成させた父は母さんと一緒に王様に会いに向かいましたが、それが僕の見た両親の最後の姿でした…………」

 

「どうして?」

 

「両親が王様に会いに行って数日後に、ナポギストラー博士がロボットたちを従えて反乱を起こしたからです」

 

「「「ロボットの反乱!!??」」」

 

「じゃあ、王宮へ出かけたご両親は!?」

 

「多分、他の人たちと一緒に捕らえられてどこかに……」

 

「反乱が起きてどのくらいの時間が経っているのですか?」

 

「おそらく半年程です……」

 

 

 半年となると、捕らえらた人々が無事である可能性はかなり低いな。ロボットが反乱を起こせたり、ホテルを爆破した爆弾や軍隊がある以上、人間を傷つけることに躊躇いなどないだろう。ナポギストラーが何らかの理由で生かしていない限り、生きている可能性すら低いだろうな。

 

 

『凡そ事の経緯と戦うべき相手についてはわかった。次は作戦会議をしたいが……ワープ完了まで後どれくらいなのだ?』

 

「えっと…………残り一時間くらいです」

 

『それなら時間はあるな。サピオ、どこか作戦会議に向いた場所はないか?』

 

「それなら、このホテルの屋根裏にある隠し部屋が最適でしょう」

 

「「「「「隠し部屋!?」」」」」

 

 

 食事を済ませ、話を聞き終えた吾輩たちはサピオと執事のブリキンの案内に従って食堂を出て、中央の階段を上り、最上階の部屋からホテルの屋根裏にある隠し部屋へと向かった。

 

 

「これが……」

 

『隠し部屋か……』

 

 

 屋根裏の隠し部屋は、意外と広く、のび太達5人と吾輩にサピオ達が一緒にいても余裕があるくらいだ。部屋の中央に大きなテーブル、正面には大きなモニターが設置されており、何かを操作しているのかロボットがモニターの前に座っている。

 

 

『あれは、何を操作しているのだ?』

 

「人工重力や空気層など、このブリキン島を管理しながら操作しています」

 

『なるほど……』

 

 

 

 空や宇宙に飛び上がっても息苦しくならなかったのは、どうやらここで管理及び操作していたからのようだ。他にも何か管理や操作ができるのだろうが、それでもこの島の環境を弄る程度だろう。

 一通りこの隠し部屋の疑問を消費できた吾輩達は、中央の大きなテーブルとモニターを使って作戦会議を行った。

 

 

『さて、まず吾輩達の最優先目標は【ドラえもんの救出】と【反乱軍の打倒】、【チャモチャ星の人々の救出】とする。これに異論はあるか?』

 

「ないよ!」

 

「ないわ」

 

「ないぜ!」

 

「ないけど……」

 

「ありません」

 

「僕も異論ありません」

 

『わかった。ならば、次にこれらの目標を達成するための策を考えよう』

 

 

 全員が作戦目標に異論がないとの事らしいので、作戦内容を考えることにした。本当ならブレインストーミングをしたいところだが、そこまでの時間はさすがにない。

 

 

 

『3つの目標に共通する必要な作戦は、居場所の確認だな。誰かが偵察役として行動する必要がある』

 

「確かに……」

 

「なら、それの偵察役は俺達に任せてもらおう!」

 

「え、それ……僕も?」

 

「おう!」

 

『スネ夫とジャイアンだけでは不安だ……。吾輩も一緒に行こう』

 

 

 ジャイアンがスネ夫を勝手に含めて自ら偵察役を買って出た。だが、二人だけでは心配なので吾輩も共に偵察役を担うことにした。

 

 

「ぼくも行くよ!」

 

 

 吾輩も偵察役になることを伝えると、驚くことにのび太も行きたいと言い出した。

 

 

「どうしたんだよのび太、珍しいじゃん」

 

「だって、ドラえもんをいち早く助けるなら偵察役の方がいいんでしょ?」

 

『状況によるがな』

 

「なら、ぼくも行くよ!」

 

 

 連れ去られたドラえもんをいち早く助けたいがための立候補だったらしい。その気持ちを吾輩は否定することができないし、三人をきちんと吾輩が守れば問題もない。偵察役は吾輩とのび太、ジャイアン、スネ夫の四人で行うことになった。

 

 

「なら、その作戦と平行して大迷宮の攻略を提案したいのですが……」

 

 

 偵察任務とそれを行う担当が決まると、サピオの方から大迷宮の攻略という作戦の提案があった。しかし、その作戦がどうして今回の目標に関わるのかが理解できない。大迷宮を攻略することに何か意味があるのだろうが、一体…………

 

 

「なんで大迷宮の攻略?」

 

「大迷宮の中央ホールに父の研究室があるのです。そこで、父が完成させた研究が何かを確かめたいのです」

 

『ああ、それなら吾輩が知ってるぞ』

 

「「「「「「ええッ!?」」」」」」

 

『吾輩は大迷宮を攻略したからな。当然、中央ホールも通過した。その時に部屋の様子が気になってな、いろいろと探っていたら出てきたのだ。ほれ……』

 

「これが……」

 

 

 なぜ、サピオが大迷宮の攻略を提案したのか。それは、中央ホールで行われたサピオの父の研究がどのようなものだったのかを確かめたかったかららしい。しかし、先ほども言ったが吾輩は既にあの大迷宮を攻略済みなのだ。

 吾輩が蔵から取り出したのは、中央ホールで見つけたスチール製の小箱。おそらく、この小箱がサピオの父の研究とやらだろう。この箱は金庫の中に隠されていたが、吾輩の千里眼と超能力による空間転移の前では無力だった。

 

 

ピン♫ ポロポ〜ン♪

 

『ナポギストラーの反乱を予感し、その日に備えてこのディスクを残す』

 

「お父さんの声だ!」

 

 

 小さな箱を開けると中にはディスクが入っており、ディスクを入れていた箱の方から不思議な音と共にサピオの父の声が再生された。

 

 

『これはロボットたちのコンピュータを狂わせるプログラムで、しかも伝染性を持つ。その効力は感染後数時間で発し……』

 

「さっぱりわかんない。何のこと?」

 

「つまり、このディスクは私やドラえもんさんのようなロボットを病気にしてしまうということです」

 

 

 ディスクの効果について理解しきれなかったのび太が疑問の声を上げ、冥がそれにわかりやすい答えを返す。この時代のコンピュータはまだまだ発展途上で、テレビなんかはブラウン管だ。わからないのも仕方ないのかもしれない。

 

 

『ロボットたちに気づかれぬうちに、短時間で全反乱ロボットに感染させるには、まずナポギストラーにインプットすべきであろう。おそらく彼は、イメコンのチャンネルを通じてあらゆるロボットのコンピュータに働きかけ……』

 

「これは……」

 

「敵の親玉であるナポギストラーの頭にこのディスクをインプット……植え付けるということです。そうすれば、ロボット達は次から次へと病気になっていって大変になります」

 

「すごい発明じゃん!」

 

 

 コンピュータウイルスの元であるこのディスクを、ナポギストラーにインプットすることができれば、ナポギストラーから感染してロボット達を一掃できる。これが、サピオの父が完成させた研究だった。

 

 

「これがあればロボット達を一気に倒せるんでしょ? なら早速行こうよ!」

 

『ナポギストラーの居場所が分からん。だから偵察しに行くんだ』

 

「もう一つは、どうやってディスクをインプットするかですね……」

 

「うーん……」

 

 

 ディスクをどうやってナポギストラーに気づかれぬようにインプットすればいいのか。空間転移で頭の中に移動させることはできても、インプットすることはできない。ナポギストラーを気絶させて、その間にインプットするというのがいいかもしれないが、気絶している間に何かされたかもしれないと気づく可能性もある。如何せん、いい案が浮かばない。

 皆でウンウン悩んでいると、不思議な音が島中に響いた。

 

ボボオ! ボボオ! ボボオ!

 

『この音は……』

 

「ッ! この音は、目的地が近くなったのでワープ空間を出る合図です!」

 

「ということは、いったん作戦会議は中断した方がいいかもしれませんね」

 

 

 不思議な音の正体は、ワープ空間から出るための合図だった。作戦会議を中断して正面のモニターを見ると、大きくて綺麗で美しいチャモチャ星が映っている。高度な文明を築いている場合は、星が汚くなっているイメージがあったが、チャモチャ星はそんなことはなかった。

 

 

「綺麗…………」

 

 

 クロ達は、地球にも引けを取らない美しさを持つチャモチャ星に見惚れながら、ドラえもんと人々の救出及びナポギストラー率いる反乱軍の打倒を再び決意するのであった。

 




(|)    ボボオ! とか ピン♫ ポロポ〜ン♪ とか愉快な擬音語ですけど、原作がこれなんですよ。面白いですよね。


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29話

学校が始まると、中々書く時間が……(言い訳)




何度も思いますが、戦闘描写がとても難しい。書ける人は尊敬しマス。


 年中霧に閉ざされて船も飛行機も滅多に近づかないチャモチャ星の北極海。その冷たい海の中を、町がある場所へと向かって悠然と泳ぐ4頭の竜がいた。4頭の竜は色や大きさこそ違いがあれど、その姿はどれも一緒で、前足と後ろ足に肉などたやすく引き裂いてしまいそうな鋭い爪を持ち、頭部後方に伸びる巨大な二対の角、美しく蒼く輝く外殻、背中に並ぶ赤色の突起などがある。その姿は『大海の王者』或いは『海洋の支配者』の異名を持つラギアクルスと呼ばれるモンスターだった。このモンスターは本来このような場所……いや、この世界には存在しない生物だ。ではなぜ、この海の中を4頭も泳いでいるのか。それは……

 

 

『3人とも、そろそろその姿に慣れてきたか?』

 

「俺はもう慣れたぜ!」

 

「僕も慣れたよ!」

 

「3人とも待ってよ〜!」

 

『のび太……』

 

 

 クロとのび太達がラギアクルスに変身していたからだった。クロが最初に変身してみせ、その姿を参考にしながらクロが教えた魔法を用いてのび太達も変身したのだ。当初はサピオ達が所有する潜水艦で行こうという話だったのだが、海洋生物になっていた方が海の中で自由に動けるしのび太達も守りやすくなるという理由で、並の海洋生物よりも強靭なラギアクルスに変身した。

 ブリキン島がワープ空間から抜けてチャモチャ星の北極海へと着陸した後、偵察兼救出班としてのび太、ジャイアン、スネ夫、クロが町へと向かい、しずかちゃんと冥、サピオ達は残って島の防衛及び救出した人々の誘導を行うこととなった。島の防衛を行う理由は、町がロボット達に占拠されている以上、安全な場所はブリキン島くらいだと判断して、救出した人々をブリキン島に送ることになったからだ。

 

 

「この体……動きやすいけどよ、なんでクロの転移で移動しないんだ?」

 

 

 一番体躯が大きく若干赤みがかかったような色のラギアクルス……ジャイアンが、転移で移動せず泳いでることに対して疑問に思い質問してきた。

 

 

『宇宙に進出できる程の技術があるのだ。海や空用のレーダーくらいあるだろう。この星のレーダーがどの程度の範囲を捉えることができるのかがわからない以上、迂闊に転移は使用できんのだ』

 

「なる……ほど……?」

 

「難しくてよくわかんないや……」

 

「なるほど! つまり、もしレーダーに捉えられても不自然にならないようにするためってことだよね」

 

『伝わったのはスネ夫だけか……』

 

 

 海を泳いで向かう理由を3人に説明するも、内容を理解できたのはスネ夫だけだった。小学生ということを考えれば、唯一理解できたスネ夫の方が凄いのだろう。……白亜紀の時もそうだったが、スネ夫は小学生四人の中で一番現実的に物事を判断し理解する能力があるな。その分、勇猛さに欠けるが…………

 三人に説明した後も町へと向かい、時折ジャイアンやのび太、スネ夫からの質問に答えながら泳ぐ。困るのは、三人が地球にはいなかった生物に好奇心を示して何度も逸れそうになることだな。

 

 

「おっ! 見ろよ、あんな魚見たことねぇ!」

 

「本当だ!」

 

『ジャイアン、のび太、ルートから外れるな』

 

 

顔がおっさんみたいな魚やありえない程大きな海藻、二足歩行のウミウシなど見たことないものに興味を示すのは良い事だが、それで目的を忘れるというのはダメだ。全てを解決した後でも見ることは可能だからな。

 

 

「あれなんだろう?」

 

 

 こちらへ戻ってきたのび太が、海面の方に見えるいくつもの細長く丸い楕円形の黒い何かに気付く。

 

 

『あれは…………戦艦だな。空には無数の爆撃機が見える』

 

「「「戦艦に爆撃機!?」」」

 

 

 千里眼で海上を見ると、そこには数えるのが億劫になる程の戦艦と飛行艦隊が存在した。進行方向的に、ブリキン島へと向かっているのだろう。一年中霧に閉ざされているために船も飛行機も滅多に近づかないはずなのに、何故、どうやってバレたのか。サピオの情報が間違っていたか、あるいは大気圏突入の際に気づかれたのかもしれない。

 

 

「しずかちゃん達、大丈夫かなぁ……」

 

『島には冥も残っているから、大丈夫だろう』

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 北極海に浮かぶブリキン島では、冥とミニドラ、しずかちゃん、サピオ達による避難所造りが行われていた。クロ達が作戦目標の一つであるドラえもんと人々の救出を行う際、クロと冥が持つ道具を用いてブリキン島へと避難させるためだ。

 

「ドラドラッ!」

 

「ありがとう」

 

 

 冥とミニドラ達によってどんどん避難所は出来上がっていき、しずかちゃんとサピオ達は冥達へ資材を次々と渡しては新しい資材を取りに行く。そうして避難所の凡そ八割が完成した頃、冥がこの島へと近づいてくる凄まじい数の敵に気づいた。

 

 

「これはッ……! しずかさん、サピオさんは急いで避難所の中に入ってください。未完成ではありますが、この時点でも強度はホテル以上であることは確かです」

 

「な、何かあったんですか……?」

 

「敵です。それも凄まじい数の……」

 

「そんなっ……」

 

「あなたたちも戻ってください」

 

「「「「「ドラッ!」」」」」

 

 

 内蔵されているレーダーによって敵を察知した冥は二人に避難を促し、ミニドラ達にはメイド服のポケットに戻るよう指示する。

 

 

「冥さん、気をつけてね」

 

「はい。しずかさんもお気をつけて避難してください」

 

 

 しずかちゃんと言葉を交わして避難していくのを見送り、冥は浜辺の方へと向かう。

 

 

「見えてきましたね……では、始めましょうか」

 

 

 水平線上に並ぶ無数の艦隊と空を覆うほどの数の飛行艦隊を視認した冥は、浜辺で一人呟くと戦闘態勢になった。安全膜をブリキン島を覆うほど広げ、両肩と腰から四つの巨大な砲塔、両足の側面からは複数のミサイル、両腕には形の違う銃身をいくつも展開する。しかし、冥が武装を完全展開する頃には、飛行艦隊はブリキン島に大分近付いており、艦隊の方も島から凡そ60キロ程度の距離まで来ていた。

 

 

『サピオトソノ仲間達二告グ、無駄ナ抵抗ハヤメテ今スグ出テ来イ!!』

 

 

 降伏を促す警告が島中に響き渡る。しかし、サピオ達は降伏する気などかけらも無いため返事はせず、冥も悠然と構える。

 

 

「出テ来マセンナ」

 

「ナラバ打テ! ソシテ、島ヲ丸ゴト吹ッ飛バセ!!」

 

 

 警告をして尚、サピオ達が降伏してこなかったため、指揮官ロボットの指示の元に飛行艦隊がミサイルを放ち、艦隊からは砲撃が行われる。だが、放たれた無数のミサイルや砲弾は冥の守護するブリキン島……特に、ホテルや作り立ての避難所に向かって進むも、途中で広がっている安全膜にぶつかり盛大に爆発する。その結果、凄まじい量のミサイルや砲弾の破片と爆煙が、島の上空の半分ほどを覆った。

 

 

「ムムム、一体ドウナッテイル! 島二攻撃ガ届イテイナイデハナイカ!」

 

「ドウヤラ、バリアガ展開サレテイルヨウデス」

 

「馬鹿ナ! ブリキン島ノバリアハ我ラ機動部隊ノ攻撃ヲ防ゲルモノデハナイハズダゾ!」

 

 

 冥が展開している安全膜によって一斉攻撃が防がれたことに驚く指揮官ロボット。以前、地球で冥が防いだ攻撃はあくまで小さいブリキの飛行機によるものだったため、おもちゃではない本物の戦艦と飛行艦隊の圧倒的な物量による攻撃であれば堅牢なバリアも破壊できるものだと考えていたのだ。

 

 

「なるほど……容赦のない攻撃ですね。であれば、こちらも容赦はしません」

 

 

 安全膜が凄まじい攻撃の嵐を防ぐさまを間近で見ていた冥は、ついに動き出した。メイド服のポケットから風神と書かれた大きい団扇……『風神うちわ』を取り出し、力強く、そして素早く扇ぐ。すると、烈風が巻き起こって空を覆う煙と破片をあっという間に吹き飛ばした。視界を良好にした冥は、風神うちわをしまうと両腕を艦隊へ、四つの砲塔のうち二つを上空へ向けると、攻撃を開始した。砲塔から放たれる砲弾は一寸の狂いもなく敵艦へと向かっていき着弾する。また、両足の側面の発射台から放たれるミサイルも全て命中している。当然、避けようとする機体や戦艦も出てくるのだが、砲弾やミサイルは避けようとする機体や敵艦を追尾して命中する。それならばと、ミサイルや砲撃、銃撃で飛んでくる砲弾を破壊しようと試みるも、ミサイルはまるで生きているかのように攻撃を避けて目標へと命中し、砲弾は攻撃を物ともせず突き進み着弾する。

 

 

「オノレェ! 何ナノダアレハ!?」

 

「クソッ、避ケテモ追ッテ……ギャア!?」

 

 

 予想だにしていなかった攻撃に動揺を隠せないロボット達。それは仕方のないことだろう。なぜならば、冥が展開している四つの砲塔は『無敵砲台』と同等の機能を持ち、発射しているミサイルは『誘導ミサイル』を改良したものなのだ。ロボット兵の持つ武器や兵器などが現代の地球レベルである以上、22世紀の道具を改造したものにはとても敵わない。

 

 

「ウギャアアア!?」

 

「ナニィ! アノ小サナ弾丸ノ一撃デ破壊サレタ!?」

 

「何ナノダ、アノ熱線ハ……当タッタ瞬間ニ機体ヤ艦が消シ飛ンデイル……」

 

 

 さらに、冥の両腕にある銃身の一つから撃ち出される弾丸は、50キロ以上先の艦隊にまで届き、弾が着弾した戦艦はたった一撃で木っ端微塵になって吹き飛んでいた。また、別の銃身からは熱線が放たれており、その熱線が通ったあとには残骸すら残っておらず、熱線に触れたものは全て瞬く間に蒸発していた。

 

 銃弾や砲弾、熱線が空と海の敵へと降り注ぎ、破壊していく。その光景は、無数の光の矢、あるいは流星が敵へと降り注いでいるようにも見え、戦いとは言えない蹂躙とも呼べるものだった。その光景が続いて十数分後、空や海を覆うほどの数の艦隊は跡形もなく消え失せ、残っているのは冥が守護していたブリキン島だけだった。

 

 

「敵の増援は無し、対象の殲滅は完了と判断します。…………ふぅ、一先ずは安心ですね」

 

 

 武装をしまい、攻撃したことによってメイド服についた砂を落とすと、残心を解いて一息つく。そして、冥はしずかちゃんとサピオ達がいるであろう避難所に向かうのであった。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

『これは……』

 

「何かあったの?」

 

『いや、何でもない』

 

 

 吾輩たちの遥か後方の海で起きた振動を感知し、後ろに首を回して千里眼を発動しようとしたらのび太に声をかけられた。千里眼で何が起きたのかを確認しようと思ったが、確認しなくともわかることだと判断してやめた。十中八九、吾輩たちの頭上を通り過ぎていった凄まじい数の艦隊がブリキン島にたどり着いて、冥と戦ったのだろう。サピオやしずかちゃんには戦闘能力はないからな。

 

 

「なぁ、あれドラえもんに似てないか?」

 

「本当!?」

 

『何だと?』

 

 

 吾輩達の前方を泳いでいたジャイアンが、海底の方を指差して、何かを発見したことを伝える。ドラえもんに似ていると言うから、慌てて千里眼で海底の方を覗いてみると、海底にあるスクラップやゴミが積もって山となっている場所の天辺に黒焦げになったドラえもんがいた。のび太もドラえもんに気づいたのか凄い勢いでドラえもんの方へと駆け寄っていき、吾輩達はのび太の後に続いて行った。

 

 

「ドラえもん!? しっかりしてよドラえもん!!」

 

「おいクロ、なんでドラえもんは動かねぇんだ!?」

 

「そんな……」

 

『黒焦げになってこの海底に沈んでいることから、おそらく壊れてしまったのだろう。クッ…………吾輩がもっとしっかりしていれば』

 

 

 海底にあるゴミ山の天辺で黒焦げになっているドラえもんは、のび太がいくら揺すっても一切の反応を示さず、まるで時が止まってしまったかのように表情も変わらず固まって動かない。ドラえもんの救出とチャモチャ星の人々の救出、ナポギストラー率いる反乱軍の打倒を考え決意している間に、ドラえもんは壊されてしまったのだろう。

 

 

 

 目標の一つであるドラえもんの救出が不可能であることを、吾輩達は知ってしまった。

 

 

 

 

 




冥の戦う姿は、『ささみさん@がんばらない』の邪神かがみ、もしくは『最終兵器彼女』のちせを思い浮かべて欲しいです。


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30話

もうすぐ実習と考えると、憂鬱になってきますね。

分身の術を使えるようになりたいッ……!!


「ドラえもん! 起きてくれよドラえもん!!」

 

「のび太、ドラえもんはもう……」

 

 

 のび太が必死にドラえもんを揺すって声を掛けるが、ドラえもんは何の反応も返さない。やはり、ドラえもんは壊れてしまっているらしい。吾輩がもっとしっかりしていればっ…………!

 

 

「そうだ! 壊れたんなら直せばいいじゃないか!」

 

「確かに……流石だよジャイアン!」

 

「でも、どうやって? 僕らじゃ直せないよ?」

 

「それは…………クロならどう?」

 

『道具の改造程度なら行えるが、果たして直すことができるかどうか……』

 

 

 道具の改造は行えても、ロボットを一から全て吾輩自身で作ったことはないし、直したこともない。故に、壊れてしまったドラえもんを直せるかと言われると、わからないとしか言いようがないのだ。

 

 

「そういえば、前にドラえもんの調子が悪くなった時に、ミニドラに直してもらったんだ。ミニドラなら……」

 

『ミニドラは吾輩の蔵にもいる。試してみる価値はあるか……だが、念の為に陸地で試そう。ミニドラやドラえもんが水中でも大丈夫かわからないからな』

 

「なら早く行こうよ!」

 

 

 一旦、ドラえもんを吾輩の蔵に入れてから、急いで陸地を……町を目指す。当初は吾輩達より遅かったのび太も、今は並んで……いや、少し先を進んでいる。ドラえもんを一刻でも早く直したいためだろう。

 

 

「見えてきたよ!」

 

「おお!」

 

「町だ!」

 

 

 かなり遠くの方に岩壁が見えてきた頃、のび太が水面に顔を出して前方を確認すると、吾輩たちが目指していた町が見えたようだった。人間ならこの距離で町を捉えることはできないはずだが……ラギアクルスに変身しているせいで視力が強化されているのかもしれない。念のため千里眼で確認したが、確かに町が存在していた。

 

 町は大きいが、吾輩の千里眼の範囲から出るほどではないようなので、千里眼で敵に見つかり難い場所を探して転移することにした。

 

 そうすると、町から少し離れた場所に木々が生い茂って視界が悪い海岸があったので、そこへジャイアン、スネ夫、のび太と共に転移する。そして、転移した吾輩達は変身を解いて元に戻り、蔵からドラえもんとミニドラを出して、ドラえもんの修復を試みる。

 

 

『頼んだぞ、ミニドラ』

 

「ドラッ!」

 

 

 蔵から出たミニドラは、のび太がドラえもんのポケットから勝手に取り出したスモールライトによって小さくなり、ドラえもんの口から中へ入っていった。

 

 

「はっ……はあっ……ハックション!!」

 

『むッ! ……おっと』

 

 

 ミニドラがドラえもんの中に入ってから3分程経過した頃、何をしてもピクリとも反応しなかったドラえもんが、一瞬電気を発生させてビクンと体が動いた後、くしゃみと共にミニドラを吐き出した。どうやら、ミニドラがドラえもんを直すことに成功したらしい。直って良かった…………本当に……。

 

 ちなみに、吐き出されたミニドラは吾輩が念動力でキャッチして、彼方へ飛んでいくのを防いでおいた。

 

 

「ここは……? あれ、のび太くん? それにジャイアンとスネ夫にクロも、どうしてここに……「ドラえも〜ん!!」……わあっ!?」

 

「ドラえもんが直った!」

 

 

 盛大なくしゃみをした後、ゆっくりと瞼を開いて目覚めたドラえもん。

 周囲を見回し、自分の状況を理解しようとして、のび太に勢いよく抱きつかれ苦しそうにしている。

 

 

「ぐッ……ぐえッ……!!」

 

「直って良かったよ、ドラえも〜ん!!」

 

『のび太、いい加減離してやれ。ドラえもんが苦しそうだぞ』

 

「えっ!? ごめん、ドラえもん!」

 

「ゲホッ……ガホッ……ふぅ、酷い目にあった」

 

 

 抱きついたのび太に首を絞められ、顔がどんどん青黒くなっていったドラえもんを見かねて、のび太に声をかけて離れてもらった。せっかく直ったのにまた振り出しに戻るのは嫌だからな。

 

 のび太が離れると何度も咳き込むドラえもんを見ながら、ドラえもんを島に送るべきか、それとも吾輩達と一緒に行動するべきかを考える。

 島に送る場合は、冥達と一緒に避難所の増設と島の防衛を任せる必要がある。逆に、吾輩達と一緒に行動する場合は、人々の救出かナポギストラーの打倒のどちらかを任せることになる。ドラえもんであれば、どちらを任せても大丈夫だろう。

 

 うーむ……ドラえもんに事情を説明することは必要だし、ついでにどちらがいいか選んでもらうか。

 

 

『ドラえもん、ここはチャモチャ星のメカポリスと呼ばれる首都の近くにある海岸だ』

 

「チャモチャ星? ってことは、ここは地球じゃないの?」

 

「うん。実はね……………………っていうことなんだ」

 

「ええっ−−!? 大変じゃないか!」

 

『ああ。それで、ドラえもんはどうする? 島に行くか吾輩達と一緒に行動するか……』

 

「もちろんボクも行くよ!」

 

 

 ドラえもんはのび太が事の経緯を説明すると驚き、吾輩達と共に行動することを主張した。ドラえもんがいるなら、コソコソと隠れて動くよりも分かれて行動する方が効率的かもしれん。どのみち、人数が多くなると隠密行動は難しくなるしな。

 

 

『ドラえもんも一緒に行動するのなら、人数が多くなるから分かれて行動しよう』

 

「確かに、五人だと見つかる可能性も高くなるよね」

 

「二手に分かれるの?」

 

『いや、ナポギストラーへウイルスをインプットしてくるグループと捕らえられている人々の救出をするグループ、この二つのグループが行動している間敵を引きつけておく陽動役の三組に分かれようと思う』

 

「なら、ボクとのび太君でナポギストラーにウイルスをプログラムするよ。やられっぱなしは嫌だからね!」

 

「頑張るよ!」

 

『ふむ。なら、陽動は吾輩が行うとしよう』

 

「んじゃ、俺とスネ夫は救出役だな!」

 

「えぇ〜!? でも、僕らだけでどうやってやるのさ!」

 

『救出に必要な道具は吾輩が貸そう』

 

「ボクのも渡しておくよ」

 

 

 流石に、子供二人に何の道具も持たさないで救出に向かわせることはない。蔵から吾輩が作った道具を取り出し、掌サイズの扉と布袋をスネ夫に、ジャイアンにはタンマウォッチ渡す。ドラえもんはポケットから『通りぬけフープ』と『タケコプター』を取り出して渡していた。

 

 

「何これ?」

 

『スネ夫に渡した物のうち、布袋の方はドラえもんの四次元ポケットと同様の機能がある。小さな扉の方は、扉と扉を繋ぐゲートだ。使うときは扉についている青いボタンを押すといい。そうすれば扉は起動し、その掌サイズから2メートル程のサイズになる。あと、それは二つで一つの道具なのだが、もう片方は冥に渡してある』

 

「じゃあこれ、使えないの?」

 

『いや、そんなことはない』

 

 

 ゲートは二つで一つの道具だが、ある意味ではどこでもドアみたいなものだ。どこでもドアは移動先の座標にもう一対のどこでもドアを出現させ、ドア同士を接続させることで空間移動を成し遂げる。つまり、本来は一つの道具だが、使用すると移動先用のドアが出現する二つで一つの道具とも言えるだろう。ゲートは、どこでもドアのように元々一つというわけではないが、より頑丈になっている。何時ぞやの様に、切り刻まれてノブだけになるということはない。

 

 

『それには通信機能がついていてな、ゲートを持っている者同士で通信ができる。その機能を用いて冥に合図を送れば……』

 

「使えるんだね」

 

『うむ。もう、道具の説明は大丈夫か?』

 

「えっと……そんなに難しい手順はないんだよね?」

 

『ああ。ボタンを押して起動すれば、扉はセンサーが人を認識して自動で開き、閉じる』

 

「うん、わかったよ!」

 

 

 2、3回程スネ夫の質問に答えると、スネ夫はゲートの機能と使い方について理解できたようだった。スネ夫は道具に対する理解も早いな。頭が良いというのもあるだろうが、加えて現実的に物事を判断し理解する能力があるからだろうか? ちなみに、タンマウォッチの使用方法は吾輩がスネ夫に説明している間、のび太がジャイアンに説明していたらしい。

 

 スネ夫に道具の説明をした後は、ドラえもんにウイルスがプログラムされたディスクを渡し、ディスクの概要について説明を行った。ドラえもんは一度で完璧にディスクについて理解できたようだ。一緒に聞いていたのび太は、島である程度噛み砕いて説明していたからか、多少理解できたいるようだった。

 

 

『では、吾輩はそろそろ行動を開始するとしよう。吾輩が町で暴れて騒がしくなったら警備が薄くなるはずだ。その時に動いてくれ』

 

「オッケー!」

 

「「「うん / おう!」」」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 普段であれば大型や小型、犬型や車型など様々なロボットが往来するメカポリスの中央通り。 しかし、今はパニックに陥っていた。なぜなら…………

 

 

「「「キャー!?」」」

 

「「「ウワー!?」」」

 

「「「ヒー!?」」」

 

「中央通リ二巨大ナ化ケ物現ル! 大至急軍隊ヲ! 繰リ返ス、大至急軍隊ヲ!!」

 

 

 巨大な黒い怪物が町を襲っていたからだ。

 

 その怪物が一歩踏み出すたびに重さによって道路は割れ、体から発せられる熱が周囲にある建造物を次々と融解していく。

 

 怪物は全身が灼熱の花弁の如き黒鱗と燃え盛る岩石のような甲殻に覆われ、体表にはまるでマグマのように赤き光を放つラインが走っている。また、岩盤と錯覚してしまいそうなほど巨大な翼を持ち、翼と怪物の背部に連なる連山の突起と翼の先端部には、火口にも思える穴が存在する。凝固した炎のように光り輝く爪は万物を容易く引き裂き、紅蓮に輝く瞳に捉えられたロボット達は蛇に睨まれたカエルのように動けなくなってしまう。

 

 怪物の全長はおおよそ62メートル。ある神話では世界を滅ぼす悪魔、またある御伽話では大地を創る巨人、大地の怒りそのものが具現化した存在として畏怖され、煉獄の王、獄炎の巨神、大地の化身など様々な異名を持ち、とある世界では『煉黒龍』と呼ばれている伝説の生命体だ。

 

 

 




そろそろモンハン以外の生命体に変身させた方がいいですかね? ゴ○ラとかガ○ラとか


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31話

やっと実習が終わりました。
長いようで短かったです。

まぁ、この後もやることはたくさんあるというね。
地獄かな?


今回は、視点の入れ替わりが激しいので読みづらいかもしれないです。


誤字報告感謝。誤字修正しました(2022年11月29日)


  突然メトロポリスに現れた煉黒龍、その正体は魔法を用いて煉黒龍に変身したクロだ。最近、このような場面で変身の魔法を多用している気がするが、猫のままだと舐められたりして脅威に思うまで時間がかかる上に便利なので仕方ないのだ。是非もなし。

 

「グオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「「「ギャア!?」」」

 

「「「ヒー!?」」」

 

 口からパイロキネシスで発生させた火炎を玉のようにして放出し、道路に並んだ複数の戦車を道路ごと融解させる。また、空中にいる飛行機から放たれる弾丸や電撃は硬く分厚い甲殻や鱗が防ぎ、翼から炎を纏った火山弾を放って飛行機を破壊し撃墜する。

 クロが統率のとれた軍隊を相手にするのはこれで二度目になるが、変身先の生物が強すぎるのかまるで相手にならない。一度目のバウワンコでは、そもそも相手の文明レベルが低かったが故に舐めプしたせいで傷を負ったが、それでも苦戦を強いられたわけではない。二度目の今も、弾丸や電撃、ミサイルなどが身体に直撃しているが鱗や甲殻に阻まれてダメージはほとんどない。あの世界のモンスターがいかに規格外なのかが分かる。

 

「グルルルルル……」

 

 ドラえもん達とジャイアン達には行動を完了したらそれぞれ合図をしてもらう手筈になっている。その合図が確認できるまでは、町で暴れて気を引き続けねばと考えるクロ。

 尻尾で後ろから迫ってきた特殊なデザインをした大型の戦車を叩き潰し、建物の中から撃ってくる兵士型ロボットを建物ごと爪で切り裂く。向かってくる敵を排除しながらメトロポリスの町を徘徊し、合図を待つのであった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 メトロポリスの中央通りに煉黒龍に変身したクロが現れ騒がしくなった頃、中央通りから離れた場所でそれぞれ隠れていた二組の人影が動き出す。

 一組はドラえもんとのび太。タケコプターを使い、空から飛行機に見つからないようにナポギストラーのいる王宮の方へと向かう。

 もう一組はジャイアンとスネ夫だ。タンマウォッチで時間を止めてから、二人はドラえもんたちと同じ様にタケコプターで空を飛び、収容所へと向かった。

 

「よおし、ここへ降りよう」

 

 ドラえもんとのび太がタケコプターで王宮の上空に到着し、王宮にある最上階の窓の一つから侵入を図った。王宮へ侵入した二人は、見張りや警備が一人もいない廊下を走り抜ける。

 

「見張りが一人もいない……」

 

「変身したクロに気を取られて、みんな街へ出動してるんだよ」

 

 廊下の角を曲がり、一番奥にある扉の前にたどり着いた二人は扉を開き、部屋の正面奥の王座に座っていたナポギストラーと相対する。そして、扉を開いて正面から堂々とやってきた二人に気づいたナポギストラーは、二人へ問いかけた。

 

「ソコヘ来タノハ誰ダ!!」

 

「地球のロボット、ドラえもん!」

 

「そして地球少年、野比のび太!」

 

 ナポギストラーの問に対して自己紹介で返す二人。しかし、地球のロボットならまだ分かるが地球少年……地球人じゃダメだったのか? こう……なんというか……語呂が悪くない?

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 ドラえもんとのび太がナポギストラーと対面している一方、止まった時の中を動いていたジャイアンとスネ夫は、チャモチャ星の人々が収容されている人間収容所に辿り着いていた。

 収容所内部に侵入し、中にまだ生きている人々が収容されていることを確認した二人は、警備を閉じ込めて動けなくした後、時間の停止を解除した。

 

「君達は一体……?」

 

 時間の停止を解除したため、収容されていた人々からは前触れもなくいきなり二人が現れたように見えたのだろう。立派な髭を生やした男が代表して問いを投げかける。

 

「俺はジャイアン!」

 

「僕はスネ夫! サピオ達と一緒に地球から助けにきました!」

 

「地球……それにサピオが……?」

 

「あなた……?」

 

 二人が自己紹介を行い、スネ夫が続けて軽く経緯を説明する。それを聞いて動揺する男性と傍にいた女性。二人は、よくよく見てみればサピオに似た顔をしていた。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

「これほど言ってもわからないの!?」

 

「どうしても人間を滅ぼしてしまうつもり?」

 

「クドイ! 人間ナドナンノ役ニモタタナイ最低ナ生物ダ!!」

 

 ナポギストラーと対面したドラえもんとのび太は、いきなりウイルスを仕掛けるのではなく、言葉での説得を試していた。だが、二人の言葉に対してナポギストラーは頑なに意見を変えようとはせず、説得は無駄に終わってしまった。

 

「よーし、それなら最後の手段だ!」

 

「フンッ、オ前タチダケデ何ヲスル気ダ?」

 

「『必中ゴムパチンコ』!」

 

 言葉での説得を諦めたドラえもんが取り出したのは、必中ゴムパチンコ。その名の通り、狙った的に必ず当てることができる……必中のゴムパチンコだ。と言っても、途中で弾かれたり放たれた弾をどうにかすればその限りではない。

 ドラえもんは、取り出した必中ゴムパチンコにガリオン・ブリーキンの秘密兵器とミニドラをセットし、ナポギストラーへと構えた。

 

「ワッハッハ、子供ノ玩具デハナイカ!」

 

「ていッ!」

 

 ドラえもんがミニドラごと秘密兵器を、ナポギストラーが笑いで口を開いたタイミングを狙って放つ。

 

「ワッハッハ……ッ! ナ、何カ口ノ中へ……?」

 

「気にしない気にしない」

 

 笑ってる最中に口の中に何か入ったのを感じたナポギストラー。気にしないとドラえもんに言われているが、無理があるだろう。

 

「ハァ……ハァ……ハックション!!」

 

「おっと!」

 

「キーキー!」

 

「しっかりプログラムしてきた? よしよし、よくやった」

 

 ナポギストラーがくしゃみをすると、口の中からミニドラが飛んでくる。飛んできたミニドラをキャッチしたドラえもんは、ミニドラがウイルスデータをプログラムできたかを確認した。

 

「あとは、効き目が現れるのを待つだけだ」

 

「引きあげよう」

 

 口の中に手を突っ込んで確認しているナポギストラーを尻目に、のび太とドラえもんは窓の方からタケコプターで外へと逃げ出し、合図を出してから集合場所へと向かう。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「えー!? サピオの父さんと母さん!?」

 

 人間収容所にてジャイアンとスネ夫が出会ったサピオに似た二人は、なんとサピオの両親だった。サピオの父であるガリオン・ブリーキンと母のブリーキン夫人だ。

 

「まさか、サピオが戻ってきているとは……」

 

「それも、遠い地球からお友達の力を借りて……」

 

 一方、サピオの両親も二人から詳しく伝えられた経緯に驚いていた。サピオが宇宙を旅していくつもの星の民に協力を仰いでいたことや、地球から助っ人に来てくれた勇敢な仲間のこと、地下室に置いてあった研究成果も回収済みであり、それをナポギストラーにプログラムしようとしていることなどを聞いたのだ。驚かない方が難しい。

 詳しい経緯を聞いたサピオの両親は、共に収容されている王や他の人々に簡潔に伝わりやすく現状とやるべきことを述べた。元々かなり上の地位にいて、ナポギストラーの反乱にいち早く感づいていたというのもあってか、人々はガリオンとブリーキン夫人の言葉をすぐに信じ、行動に移った。

 

 ガリオンとブリーキン夫人が他の人々に説明している間にジャイアンとスネ夫の二人は既にゲートを起動させていた。ゲートの通信機能を用いてブリキン島にいる冥達に合図を送り、ゲートを設置して使用可能状態にしているのだ。ゲートの高さが収容所の天井にギリギリ届かない程度の高さだったのは良かったかもしれない。もし、天井がもっと低かったら外に設置しなければならなかったからだ。

 

「この扉を通れば、ブリキン島に行くことができます!」

 

「ブリキン島にはサピオにしずかちゃん、冥さんがいるから安全だぜ!」

 

「「「「「おお……!!」」」」」

 

 起動したゲートはブリキン島のゲートと繋がり、開かれた扉の先にはブリキン島が見えた。よく見れば、奥の方で避難所らしき場所があり、その手前でサピオ達が手を振っているように見える。

 

「「サピオ!!」」

 

「父さん!!」

 

 ゲートを一番に通り、向こう側にいたサピオを抱きしめるサピオの両親。抱きしめられたサピオは同じように両親を抱きしめ、涙を流す。半年もの間、両親と離れ離れになりながらナポギストラーの追手から逃げ続けていたのだ、無事に再会できたのは奇跡と言えるだろう。その奇跡に感謝しながら、三人は互いの無事を喜び涙を流していた。

 

 そして、ガリオンとブリーキン夫人が躊躇なくゲートを通って行ったのを見て、他の人々も次々とゲートを通ってブリキン島へとやってくる。

 

「皆さん、収容所を出たばかりで大変心苦しいですが、安全の為こちらの避難所に避難してください」

 

「中には美味しい食べ物や飲み物がたくさんありますし、お風呂もありますよ!」

 

 ゲートを通ってきた人々へ冥としずかちゃんが避難所への誘導を行う。一部の女性達はしずかちゃんのお風呂という単語を聞いてすごい形相で避難所へと入っていった。その姿を見た男性達は若干引き気味になりながらも、美味しい食べ物や飲み物があると聞いて疑い半分期待半分で避難所へと入っていく。

 ジャイアンとスネ夫は収容所の中にいる人が他にいないかタンマウォッチで時を止めながら見て周り、有用されていた最後の一人がゲートを通っていったのを確認すると、ゲートを閉じて合図を送り集合場所へと向かい出す。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 メトロポリスの中央通り。そこでは建物は崩れ、戦車や装甲車は融解し、数多の撃墜された飛行機の残骸が町の至る所に存在し、火災が発生している。

 そんな惨状にした張本人たるクロは、変身を解いてステルス状態で集合場所に隠れていた、別行動をしていた二組の合図を確認したため、陽動の必要がなくなったのだ。

 

「おーい!」

 

「クロ、大丈夫だった?」 

 

『ああ、問題ない』

 

 クロが千里眼で王宮にいるナポギストラーとその他のロボットの様子を確認し続けていると、空からドラえもんとのび太が降りてきてクロの方へと駆け寄ってきた。怪我がないか心配するのび太に、傷一つない身体を見せるクロ。まぁ、例え怪我をしてもすぐに治るため、結果的にはどちらも傷一つない状態になる。今回は、変身先の生物が強かったため無傷で済んでいたが。

 

「よう! こっちも終わったぜ!!」

 

「収容所にいる人は全員ブリキン島に避難したよ!」

 

 二人と会話していると、突然ジャイアンとスネ夫がこの場に現れた。まるで瞬間移動、あるいは空間転移でもしたかのようだったが、単純に時間停止を解除しただけだろう。

 クロはジャイアンから預けていたタンマウォッチを返してもらい、蔵に戻す。ゲートの方は、ナポギストラーと他のロボットの様子次第で再び使うことになるので、まだスネ夫に預けておくことにした。

 

『これはッ……!!』

 

 千里眼で様子を確認していたクロが驚いた声を出す。そんなクロの様子に、ナポギストラー達がどうなっているのか気になった四人はクロにどうなっているのかを問いかける。

 うーむ、こんな狂気的な場面をドラえもんはともかく小学生三人に見せてもいいものかどうか…………

 そう思いながらも、四人のしつこい追求に負けたクロはサイコメトリーの応用で四人と視界を共有し、千里眼で見ている景色を見せたのだった。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

イートマキマキ、イートマキマキ……。

 

ヒーテヒーテ、トントントン。

 

イートマキマキ、イートマキマキ

 

ヒーテヒーテ、トントントン

 

イートマキマキ、イートマキマキ

 

イートマキマキ、イートマキマキ

 

イートマキマキ、イートマキマキ…………

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 次々とナポギストラー率いるロボット達が糸巻きの歌を歌い出していた。空を飛んでいた飛行機は墜落していき、ロボットが乗る戦車などは暴走し、あろうことか同じように歌っているナポギストラーを轢いてしまっていた。最終的にはオーバーヒートのような状態になり、激しいスパークが頭部から流れた後はピクリとも動かなくなった。

 なんというか、勝手に機能が停止していく様を想像していたので、この現状はかなり狂気を感じる。特に、糸巻きの歌が狂気を感じる後押しをしている気がする。

 

「なんだかすごいことになってるね」

 

「ロボット達が歌を歌って壊れていく……」

 

 ガリオン・ブリーキン、そもそもチャモチャ星でも糸巻きの歌は地球と全く同じだったのかとか色々言いたいことはあるが、一番はなぜウイルスに糸巻きの歌を歌うようプログラムしているのかだな。反乱を止めるための研究成果に遊びの要素とか要らないと思うのだが、もしかして歌は必要なものだったりするのだろうか?

 

 全く、わけがわからないよ…………

 




今回から、説明しようかなーと思った単語を抜き出しておこうと思います。

【ドラえもん のび太とブリキの迷宮】
人類とロボットの主従関係が逆転してしまった世界を描いた作品とされている。かねてから『ドラえもん』の物語について「ドラえもんが便利な道具でのび太を甘やかしている」という批判があり、原作の序盤でも道具に依存するのび太に対してドラえもんが「(道具に頼ってばかりいると)自分の力では何もできないダメ人間になってしまうぞ」と叱責するシーンがある。こういったことから、本作の舞台であるチャモチャ星をもう一つのドラえもん世界として捉え、便利な道具に頼り切った人類の行く末を描くことで、そのような批判への回答の一つを示しているとの見方もあるらしい。

【煉黒龍 グラン・ミラオス】
モンスターハンター3tryGで初出演した禁忌の古龍。3tryGの港クエストの実質的ラスボスでもある。ドンドルマで火薬をムシャムシャしていたゴグマジオスを軽く抜き去り、ラオシャンロンに迫るほどの大きさ。設定や見た目、武器などが中二的で多くの少年の心を鷲掴みにした。同じ火山系統のゾラ・マグダラオスよりもスリムでカッコイイ。あと、最後の三文字がラオスで共通している。

【ゲート】
クロが作り出したオリジナルの道具。自衛隊とは何の関係もない。

【通り抜けフープ】
収容所の内部に侵入する際に大活躍していたが、描写はカットされてしまった。

【ナポギストラー】
反逆を起こした張本人。サピオが地球を離れた途端、チャモチャ星に帰ってくることを予測するなど頭はかなり回るはずなのだが、王宮の警備を残さず町に回したり、侵入者である二人に隙を晒しまくった挙句ウイルスをプログラムされてしまう。人間を油断ならない厄介な存在として警戒していたはずなのに、どこか抜けたロボット。

【糸巻きの歌】
原作で狂気を感じさせた場面に使用された。映画版でも普通に怖い。

【ガリオン・ブリーキン】
サピオの父親であり、ブリキン島の所有者。公爵(侯爵)かつ科学者であり、人間がロボットに頼り続け衰えることを危惧していた。また、ナポギストラーが反逆を企てていることをいち早く見抜き、ラビリンスの中央ホールに研究室を設置。1年間の研究および対策を練った末、妻であるブリーキン夫人と共にブリキン島を発つも、首都へ向かう途中でロボット軍に捕らえられてしまう。しかし、研究室でナポギストラー達を自滅させるウイルス入りCD(映画版ではフロッピーディスク)を作ってサピオに残し、これが勝利の鍵となった。なぜ糸巻きの歌をウイルスに仕込んだのか。


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32話

マン・イン・ザ・ミラー! 鏡の中に俺が入ることを許可しろォォォォォォーーーッ!!
だが、就職とか論文とか諸々含めた現実が入ることは許可しないィィィィィィーーーッ!!






○月✕日

 

 チャモチャ星の問題を解決したので地球に戻ってきた。

 

 一応、経緯を書いておく。ナポギストラー率いるロボット軍団が機能停止したのを確認した吾輩達は、ブリキン島に避難していた人達をメトロポリスにゲートを通じて呼び寄せた。

 

メトロポリスにやってきた人達は、倒れ伏し、壊れ果てたロボット達を見て喜んだり驚いていたりしていた。王様らしき人物は、中央通りが崩壊して火の海になっているのを見て口から魂が抜けかけていたな。念動力で身体に戻したが……魂魄にも干渉できるとは思わなかった。

 

 その後は吾輩と冥、ドラえもん達の7名で町の復興を手伝ったな。天候操作で雨を降らして火を消し、町のあちこちにある瓦礫やロボット達を一箇所に集め、吾輩の蔵に入れて処分した。これらの作業を終わらせるのに2日はかかったが、王様やガリオン・ブリーキン、サピオらは喜んでいた。そして、残りは吾輩達がいなくても大丈夫だと判断し、地球へと戻ることにしたのだ。

 

 ドラえもんの四次元ポケットが地球ののび太の家にあるスペアポケットと繋がっているらしく、帰りはポケットの中を通ってきた。四次元ポケットの中を通ったのは二度目だが、おかげで吾輩の超能力の幅が広がり、出力が増したのは驚いたな。具体的には、魔法を使わずとも次元の移動ができるようになり、出力は街一つ浮かび上がらせボールにできるくらいだ。以前は、高層ビルを数本持ち上げるので限界だったというのに、驚くべき成長具合だろう。

 

 明日は、迷宮の奥で発見したアレについて詳しく見る予定だ。上手くいけば、拠点作成の役に立つはずだ。

 

 

 

 

○月▲日

 今日は予定通り、迷宮の奥で発見したアレを確認した。そう……ブリキン島の設計図および各種設備の説明書だ。

 設計図と説明書によると、どうやらブリキン島は元々あった島を改造したのではなく、1から全て作られたもののようだ。確かに、ブリキン島の動植物は全て本物ではなかったが、まさか島そのものが手作りだったとは……サピオの先祖はちょっと頭がおかしいかもしれない。趣味で人が死ぬレベルの迷宮を作るくらいだし。

 

 宇宙船としての機能や人工空気、人工重力などはそのまま流用できるが、バリアは少し手を加えた方がいいかもしれない。破られるようなバリアでは拠点防衛の役に立たないからな。吾輩が改造した安全膜を応用すれば、大丈夫だろう。念の為、魔法による防衛機構もつけておくべきか……?

 

 あとは、海の中でも問題なく活動できるようにしたいな。陸海空宇の全てに対応可能な拠点が望ましい。チャモチャ星の騒動で、宇宙にまで対応可能になったが、海中はまだ未知の領域だからな。ブリキン島のように参考になりそうなものが、まだこの星にあるといいのだが。

 

 今度、海中を探索してみるか。

 

 

 

 

 

○月■日

 

  今日は、冥のメンテナンスを行った。定期的に行わないと、今回みたいな大きな騒動の時に困るからな。

 

 メンテナンスはさほど難しくない。全身をスキャンして内部に異常がないかを確認し、異常が無ければそれで終わり。異常があれば、眠らせた後に身体を開いて問題の部分を調整する、そんな感じだ。まぁ、全身のスキャンにかなり時間がかかるから、メンテナンスを受ける側は暇で苦痛に感じてしまうのが難点か。ドラえもんも定期検診は嫌がってるみたいだし。

 

 ちなみに、冥は全身のスキャンを行なっている間は録画していたテレビ番組やアニメを視聴していた。テレビ番組の方は笑えたりして面白かったが、アニメの方は吾輩的には面白いと思えるものはなかったな。冥は終始微笑んでいたが。あと、タイムテレビで少し先の年代のアニメなどを調べてみたのだが、吾輩が知っているアニメが一つもなかった。これは一体なぜなのか。もしかして、吾輩の前世の世界ではないのか? 似ているだけで、違う世界のなのかもしれない。……いや、これは今すぐに結論は出せないな。

 

 

 

 

○月●日

 

 今日は、久々に魔法世界に行ってきた。

 

 美夜子さんと満月牧師の所へ行き、向こうの様々な魔法を学んできた。物体浮遊術を基本として物体縮小、空間拡張、守護魔法、魔法陣などいろいろだ。何かの拍子に超能力が使えなくなるかもしれないから、その時の代わりになりそうな魔法を習得できたのは良かった。

 

 魔法を教えてくれたお礼として、美夜子さんの家の護りを強化した。魔法を使う敵を相手に、弓矢を持った動く石像だけでは心許ないと前から思っていたのだ。美夜子さんに許可を取り、習った魔法を用いて動く石竜を作った。モデルはグラビモスにしたからかなり大きい上に、なんと熱線まで放つことができる。…………魔法ってすごい。

 石竜……グラビモス君を見た美夜子さんと満月牧師は目を白黒させてかなり驚いていたな。確かに見た目は厳ついが、そこまで驚くことだろうか? そう思って質問してみたところ、習得したてで完璧に作り上げられていたことがとても驚いたらしい。まぁ、吾輩はただの猫ではないからな。舐めてもらっては困る。

 

 グラビモス君をプレゼントした後は元の世界に戻り、冥に学んだ魔法を教えた。

 

 

 

 

○月γ日

 

 美味しいどら焼きが手に入ったので、ドラえもんと一緒にのび太の家で食べていたら、のび太がやらかした。

 

 最近、子供たちの間で漫画やアニメの主人公が描かれた商品が流行っており、スネ夫とジャイアン、しずかちゃんもその流行に乗っているらしい。のび太は母親の教育方針で一人だけその流行に乗れないために羨ましがり、嘘をついてしまったようだった。吾輩がどら焼きを食べている間、のび太はドラえもんに正論を言われていたが、途中からドラえもんの話を無視していた。そして、貯金箱から全財産を取り出してのび太は出かけてしまった。ドラえもんは、のび太がいないことに気づくと何処に行ったのかを吾輩に聞いてきたので、正直に答えた。すると、残りのどら焼きをすごい勢いで食べてから、のび太を追いかけていったのだ。

 一人残された吾輩は、家の屋根に移って軽く睡眠をとっていた。だが、しばらくすると庭の方が騒がしくなって目が覚めた。音の正体を確かめると、庭の壁に壁紙が貼られており、その中から騒がしい音が鳴っていた。おそらく、ドラえもんの道具だろうとあたりをつけた吾輩は、壁紙の中へと入ったのだ。

 壁紙の中では、のび太が何か道具から大量に物を生産していた。何の道具だろうと思っていると、入り口の方からドラえもんも入ってきて、のび太が何をしているのかを知ると怒っていた。ドラえもん曰く、あの道具は『キャラクター商品注文機』というもので、道具にあるレンズに写った被写体の商品を注文することができるらしい。しかし、あくまで注文するだけなので、無料ではない。きちんと注文した分だけ代金を払わなければならないそうだ。その説明を聞いても、のび太はみんなに売れば大丈夫だと言って生産をやめなかった。かなりの量の商品を注文したのび太は、空き地で注文した品を販売していたが誰も購入していなかった。のび太の商品を見に来ていた子供達の反応を見る限り、商品を売る人物のせいで商品の信用が下がっていたように思う。すなわち、のび太の信用度が低いということだな。…………是非もなし。

 

 流石に、小学生で借金を背負うのは可哀想だったので、以前フエール銀行に入れておいた吾輩の貯金を下ろして代わりに支払ってあげた。

 

 

 

 

○月α日

 

 冥と散歩をしていたら、のび太とドラえもんに大量のぬいぐるみを押し付けられた。動物から人工物まで様々な種類のぬいぐるみがあって、一体何をしてこんなに作ったのか疑問に思ったので聞いてみた。そしたら、元々はぬいぐるみ好きのしずかちゃんにプレゼントするためだったそうだ。だが、『ぬいぐるみオーブン』と『ぬいぐるみコートとつめもの』というひみつ道具を使って作るのに興に乗ってしまったらしい。案の定、いろんなものを作りすぎて家に置く場所がなくなってしまい、肝心のしずかちゃんにも断られてしまったと。加えて、倉庫くらいの大きさはある家のぬいぐるみを作って、その中に他のぬいぐるみを入れ、しずかちゃんにプレゼントしたがそれでも断られてしまった。それで、どうしようかと考えていたところに吾輩達がやってきてしまったということだった。

 とりあえず、押しつけられたぬいぐるみは、いくつか冥が欲しがっていたのでそれ以外を蔵にしまった。クジラやウサギ、フクロウ、カンガルーなどのぬいぐるみを欲しがっていたのでそのままプレゼントしたが、冥はどこに置いておくつもりなのだろうか?

 

 

 

 

○月β日

 

 今日は、のび太に『動物変身恩返しグスリ』をかけられた。経緯をここに書いておく。

 昼頃、空き地で吾輩が超能力について冥と悩んでいると、のび太がやってきて「何か困っていることはない?」と聞いてきたのだ。困っていると言うよりは悩んでいるのだが、この悩みをのび太に伝えても解決するとは思えなかった。だから、困っていることはないと答えようと思っていたら、冥が勝手に答えてしまったのだ。冥が話してしまった悩みを聞いたのび太は、超能力について書かれた本を買ってみれば良いという意外にもまともな解決策を出してくれたのだ。本を買えばいいということが全く思いつかなかったから、のび太の案はまともな解決策と言えるだろう。

 「どう? 困ってることは解決した?」とのび太が聞いてきたので、おかげで解決したぞと伝えたら、動物変身恩返しグスリをかけられたのだ。完全に油断していたから、思いっきり浴びてしまった。加えて、あの時はかけられた液体が動物変身恩返しグスリだとは知らなかったから、いきなり液体をかけてきたのび太に憤慨してその場を立ち去った。

 その後、何故かのび太に恩返しをしないといけないと思うようになって、気がついたら人間の女性になってのび太の家まで来ていた。この時点で、吾輩はようやくドラえもんのひみつ道具を悪用されたことに気づいたのだ。ちなみに、道具の名前は後からドラえもんに聞いた。

 人間の女性となった吾輩を見て、ドラえもんと液体をかけた張本人であるのび太も驚いていた。とりあえず、散らかっていたのび太の部屋を片付けることで恩返しをしたが、その後のび太に仕置きしておいた。

 

 しかし、吾輩はオスなのになぜ女性になったのだろうか。『動物変身恩返しグスリ』は元の性別など関係なく女性にするのか……?

 

 

 

 

 




【ブリキン島の設計図】
 その名の通り設計図。ホテルや大迷宮も含めた全ての施設・設備の設計図である。大迷宮の最奥にある宝箱の中に入っていた。原作では、大迷宮の中間地点にガリオンの研究室があるせいで、ドラえもん達がそれ以上進むことがなかったため、作者が勝手に作り出した。でも、趣味で大迷宮を作るなら報酬とかお宝くらいは用意してそうだと思う。

【グラビモス君】
 モンスターハンターシリーズに登場する鎧竜。それをモデルにして作られた動く石像。1分の1スケールで作ったため、家と同じくらいの大きさになっている。先輩の石像が時々背中に登っているらしい。

【キャラクター商品注文機】
 前面についてるレンズにキャラクターをうつし、「プラモデル」や「ゲーム」などの商品名が書かれたボタンを押すと、レンズにうつったキャラクターが描かれた商品が出てくるひみつ道具。現代で使用する場合は、気をつけないと様々な権利関係で逮捕されるだろう。原作では、のび太が自身の商品を注文して販売していたが、誰も買わなかった。
 のび太の鉛筆……字が下手に書けそう
 のび太のノート……成績が下がりそう
 のび太の超合金やプラモ……そんなカッコ悪いものただでもいらないや!!
というのが、のび太の商品のコメントだった。…………是非もないネ!

【ぬいぐるみオーブン】
『ぬいぐるみコートとつめもの』とセットのひみつ道具。フリーサイズぬいぐるみカメラ等と違って、この道具で作られたぬいぐるみの中に質量保存の法則を無視して入ることはできない。タンマウォッチがないと、使用時に窒息の恐れがある道具でもある。

【動物変身恩返しグスリ】
 鶴の恩返しをモチーフとした液体のひみつ道具。動物を助けた後にこの薬をかけると、やがて動物が人間に変身して現れて恩返しをしてくれる。恩返しが終わると、元の動物の姿に戻って薬の効力が切れる。原作では、薬をかけられた動物の性別が判明していないため定かではないが、元の性別に関わらず人間の女性に変身するものと考えられる。動物のメスにしか使用できないとかそういう描写はないし。


【挿絵表示】

作者が描いた、動物変身恩返しグスリによって変身したクロ。下手クソなので、自分のイメージを壊したくないという方はスルーでお願いします。背景の血はいったい誰の血なのか……


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33話

映画の物語を一つずつ進めるの面倒くさい……せや! 一度にまとめたろ!

ドラえもんの大長編って同時に起こってても不思議じゃないんですよね

誤字報告感謝。2022年10月1日に修正しました。


○月δ日

 超能力について研究された本を冥に買ってもらった。実験と考察が主な内容ではあったが、そこそこ有用だった。本を読んで吾輩の超能力に対する解釈が広がったからなのか、新たに磁力と水流操作を身につけた。と言っても、磁力は電子操作の応用で、水流操作も念動力の応用で可能になっているのだが。

 この調子で、吾輩の超能力に対する解釈の幅が広がれば、ベクトル変換や未元物質とかも使えるようになるかもしれない。ただ、ベクトル変換はこの世に存在するあらゆるベクトルを認識出来るようにならなければ難しいだろう。既にある程度はできているのだがな……。未元物質の方は、違う次元から引き出しているのでベクトルを認識するよりかは簡単かもしれない。

 どっちみち、今すぐにはできないから気長にやるとしよう。

 

 

 

 

○月Δ日

 今日は、ドラえもんと冥と一緒に未来デパートで買い物をした。

 

 昼頃にいいどら焼きが手に入ったから、ドラえもんにも分けてあげようと思い、吾輩と冥でのび太の家に向かったのだ。のび太の母である玉子さんに家へと入れてもらい、階段を登ってのび太の部屋へと向かったのだが、部屋中にひみつ道具を散乱させているドラえもんに出会った。なぜ道具を散乱させているのか聞いてみたら、使えないものを処分して未来デパートで安いのを買いに行くためだった。そこで吾輩は、元々分けようと思っていたどら焼きを対価にして、一緒に連れて行ってもらえないか提案をしたのだ。吾輩の提案にドラえもんは快くOKしてくれたので、ドラえもんに預けていたフエール銀行の貯金を全て下ろしてもらい、冥に抱っこしてもらいながらタイムマシンに乗って未来へと出発したのだ。

 未来の世界はそこら中に高層ビルや高層マンションらしき建造物が乱立しており、タイツのような服を着た人間たちが街を行き来していた。吾輩やドラえもんは大丈夫だったが、冥の方は少々奇異な目で見られただろう。メイド服は、未来では着ている人がいなさそうだしな。というか、現代でも奇異の目で見られる。

 ドラえもんの案内に従って歩いていき、未来デパートにやってきた吾輩たちは、道具の処分をするドラえもんと一度分かれて、デパートの中を散策していた。見たこともない物に心躍らせながらそこら中を見ていき、時間になったらドラえもんと再び合流した。そして、ドラえもんと一緒にひみつ道具を売っている区画に向かい、多くのひみつ道具を吾輩も手に入れることができた。

 

 購入してくれた冥には、吾輩お手製のぬいぐるみをプレゼントした。

 

 

 

 

 

○月ε日

  今日は『メカ・メーカー』というひみつ道具を使ってのび太達が遊んでいたので、吾輩達も便乗させてもらった。

 のび太とドラえもんはひどく凸凹なプラスチックの戦艦を作り、スネ夫とジャイアンはすごくしっかりしたSFっぽいプラスチックの宇宙戦艦を作っていた。なので、吾輩と冥はそれ以上のものを作ってみようと頑張った。インドに伝わる伝説の乗り物を参考にして設計図を作り、素材は吾輩の蔵に入ってる様々なものを入れた。魔法世界のドラゴンの鱗だったり、恐竜ハンターたちの乗り物だったり、鋼鉄に金銀銅だったりと、それはもう様々なものを入れた。所詮、お遊びだから素材は特に気にしなくてもいいだろうと思った結果だ。

 設計図と素材が放り込まれたメカ・メーカーは吾輩達の設計図通りにメカを作り上げた。陸海空すべてに対応できる定員六名くらいの乗り物…………その名も『シン・ヴィマーナ』だ。形状は型月のギルガメッシュが所有していたものに似ているが、所々違う部分もある。まず、ボディの色が金色ではなく黒色で、翼はエメラルドではなく真紅になっている。次に、座席が一人分ではなく6人分存在し、安全を守るためのカバーがついている。さらに、ボディには機体に乗り込むための階段と陸上用のタイヤが収納されている。加えて、機体の後部には荷電粒子砲が二基備え付けられており、最後部には加速用のブースターが垂直尾翼の形状で二基存在する。また、メカ・メーカーで作ったものにはコントローラーがつくが、このシン・ヴィマーナはラジコンがなくても操作が可能だ。中央のコックピットに座って舵を取るか思考で操作ができる。その上、最高速度がマッハ20であり、一瞬でその速度まで到達することができるのだ。しかも、陸海空全てに対応できるように特殊なバリアが機体を守っている。

 こうして完成した吾輩達の機体をのび太達の戦艦と勝負させようとしたら、スネ夫達の宇宙戦艦はのび太達に破壊され、のび太達の戦艦は知らないおじさんにあげた後だった。不戦勝となってしまったのは、残念だったな…………

 

 というか、のび太とドラえもんは知らないおじさんに戦艦をあげちゃダメだろう。

 

 

 

 

 

○月η日

 今日は、鏡の世界に行って物資の収集に務めた。今まで蔵から木とか岩とかしか射出していなかったからな。どこぞの金ピカ王みたいに有名な剣とか槍みたいな武器を入れておこうと思ったのだ。それに、巨大ロボットとかひみつ道具とか、食糧は大量に入っているしな。

 刀、戦車、戦闘ヘリ、RPG、迫撃砲、爆弾など多くの武器を、いろんな国に行って収集してきた。そして、収集した物をフエルコピーライトで無数にコピー。その後、蔵に放り込んだ。槍はヤクザとか極道とかでなんとか収集できたのだが、剣に関してはあまり集まらなかった。

 

 明日は魔法世界に行って、あちらの世界の武具を収集する予定だ。

 

 

 

 

 

○月θ日

 予定通り、魔法世界に行って武具を収集してきた。

 

 まず、向こうの世界に行って美夜子さんと満月牧師に武具についての聞き取りを行った。ただ、二人とも悪魔について研究していたからその悪魔を打ち倒すための武具、あるいは呪いとか曰く付きの武具の情報を持っていたが、逆に普通の武具についての情報はあまりなかった。銃刀法のような法律がこの世界にも存在するらしく、普段から武器を携帯していないから情報にも詳しくないそうだった。…………悪魔との戦いの時に思いっきり剣で戦ってなかったか?

 

 その後、二人から情報をもらった吾輩はこの世界の図書館に不法侵入して、武具について書かれた本を読み漁った。途中で司書に見つかって追い出されてしまったが、ある程度の情報を知ることはできた。どうやら、伝説の武具以外は基本的に元の世界とあまり変わらないらしい。大体が博物館だったり研究所に保管されているようだ。伝説の武具に関しては、見つかっているものとそうでないものがあり、いずれも現代では再現できない特殊な魔法が付与されているようだった。

 それを知った吾輩は早速、伝説の武具を探す旅に出た。火の中、水の中、土の中、あの子のスカー…………まぁ、いろんな所に行ってきた。その結果、伝説に語られる武具である以上、情報がデマだったり、あるにはあるが朽ちていたりしていたものが大半だった。だが、中には本物もあったりしたから、骨折り損ではなかった。

 

 ナルニアデスという男が残したとされる剣や鏡、杖などの武具がどれも本物であったのだ。……鏡って武具か?

 

 

 

 

 

○月λ日

 吾輩は気づいた。剣とか槍とか古い時代の武具は、バウワンコで手に入れることができると。

 ということで、バウワンコに行ってきた。空間転移を連続で使用してバウワンコに侵入し、城の玉座にいたペコとブルススの元へと転移した。いきなり吾輩が現れたからか、ブルススが剣を抜いて吾輩に斬りかかろうとしていたな。おそらく反射で動いたのだろう。まぁ、蔵から無限の鎖を出して動きを止めたが。そして、吾輩に動きを止められたおかげで、ブルススは吾輩のことを認識し、警戒を解いた。その後は、吾輩の用事を二人に伝えたことで武器庫に案内され、無事に目的を達成することができた。

 

 二人にはお礼と迷惑料として、ドッグフードとソーセージを一年分プレゼントした。城に勤めている者達に配るもよし、自分達で全て食べるのもよしだ。今度来たときに、感想を聞いてみようと思う。

 

 

 

 

○月μ日

 今日は、のび太達に夏休みのキャンプに誘われた。後でドラえもんも誘うと言っていたから、ならば修行でもしておこうかと思って断ろうと考えていたのだが、冥がすごい行きたそうに吾輩に視線を送ってきたので承諾した。吾輩が承諾すると、冥とのび太達は喜び、ドラえもんも誘ってこようとのび太の家へと移動した。移動している最中に、吾輩がどこにキャンプをしに行くのか聞いてみたのだが、これがマズかった。どうやら、どこへ行くかは決めていなかったようで、最終的には海に行くか山に行くかで言い争いになっていた。ジャイアンとスネ夫は海派でしずかちゃんとのび太は山派だった。途中で、吾輩と冥に流れ弾が飛んできたが、吾輩としては正直どっちでもいい。山でも海でもこの暑さを凌ぐことはできるし。冥の方も、キャンプに行けるなら場所はどっちでもいいらしい。まぁ、どっちでもいいと返すと「どっちでもいいは困る」と五人が口を揃えて言ってきたが。

 のび太の家までの道中をずっと山か海かで言い争いながら歩き、最終的にドラえもんに決めさせようということになったようだった。のび太の家についた五人が部屋にいたドラえもんにもの凄い勢いで詰め寄り、海と山のどっちでキャンプするのがいいか質問すると、ドラえもんは両方行けばいいと言ったのだ。それを聞いた吾輩は、てっきりどこでもドアを使って両方行くのかと思っていたのだが、ドラえもんの考えは違っていた。ドラえもんは海底の山を登ろうと考えていたようなのだ。確かに、海底には地上にある山よりも標高が高い山や谷が存在する。吾輩的には悪くないと思っていたのだが、のび太達はいいとは思わなかったらしい。陰気くさいし真っ暗で薄気味悪い、水圧の問題、キャンプは明るい太陽の下でやるべきという意見を言って、結局この日は解散してしまった。…………そもそものび太達は親から許可をもらっているのだろうか?

 

 とりあえず、吾輩達は行く場所が決まったら教えてくれとドラえもんに伝えて帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【ベクトル変換】
 某学園都市第一位の能力。ただし、本来の能力は別。
 自身が触れたあらゆるベクトルを変換することができる。

【未元物質】
 某学園都市第二位の能力。未元物質と書いてダークマターと呼ぶ。テストで書いたら間違いだよ!

【野比玉子】
 のび太の母親。メガネを外すと美人になる傾向があるが、至近距離に近づかなければ相手を正常に認識できなくなる。
 『ぼくの生まれた日』は必見。

【メカ・メーカー】
 紙に描いた乗り物などの絵(あるいは設計図)を実際にメカとして作り出すことができる道具。絵(設計図)を描いた紙を機械に入れ、鉄製品やプラスチック製品などを入れると、それらを分解して材料とし、紙に描かれた通りのメカが出てくる。大きさは材料として入れた物の量に比例する。絵がいい加減な絵だった場合は、完成品のメカもその通りいい加減な外観になる。
 のび太が最初に作ったメカは凸凹が酷く、辛うじて戦艦だとわかる程度の外観だった。その後、スネ夫が作った宇宙戦艦に破壊されたので、車を材料として新しく巨大な戦艦を作り出してスネ夫達を負かした。

【ナルニアデス】
 新魔界大冒険にて名前だけ登場する。魔界大冒険の方は未読のため不明。
 デマオンの心臓が月にあることや銀のダーツのみで倒せることなどを知っており、悪魔の魔力を封じる月を作り出したりしている。一度、悪魔の手先になると言って騙して魔界に潜り込み、悪魔について情報を収集し終えると地球に帰って魔界歴程を書き、悪魔に裏切りがバレて八つ裂きにされたらしい。強い。
 ゲームだと、『ナルニアデスの剣』や『ナルニアデスの杖』、『ナルニアデスの鏡』などが登場する。


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34話

同時にやることにしたはいいものの、導入が中々思いつきませんでした。
なので、決して……ルナルガかっこいい! とか 金銀夫婦の装備作るぞー! となっていたわけではありません。


 

 『速報です。本日、バーミューダ諸島の沖で宝を積んだ沈没船が発見されました。沈没船は海底資源を調査中に、偶然発見されたもので、金の王冠や装飾品などおよそ二十兆円の宝が積み込まれていると予想されています。また……』

 

 ——まずいことになったぞ。あの船を発見された——

 

——それは問題だ! もし、奴らがこの辺りをうろついて暗黒海域に踏み込んだりしようものなら、世界は……——

 

——くそっ! 怪魚族と名乗る奴らが海を荒らして面倒なことになっているというのに——

 

——とにかく、早急に手をうたねば——

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 太陽が真上に差し掛かる頃、冥とクロはのび太の家に来ていた。夏休みのキャンプにどこへ行くか決まったと、ドラえもんから連絡があったのだ。

 

『それで、結局どこに行くことになったのだ?』

 

「海底!」

 

『ふむ……だが、昨日は反対していなかったか?』

 

 昨日はドラえもんが提案した海底でのキャンプをのび太達四人は反対して、一時解散になったのだ。しかし、一日経って連絡を受けてみれば、意見をくるりと翻している。クロが疑問に思うのも仕方がないだろう。

 

「ボクが一度海底に連れて行ってあげたのさ! 深海の暗さとか水圧の問題はテキオー灯で解決できるしね!」

 

「しずかちゃんにも伝えたら、しずかちゃんも行きたいって!」

 

「なるほど……」

 

『ちなみに、親からキャンプの許可は取ってあるのか?』

 

「えっと、それは…………」

 

 のび太が海底に行く案に賛成した理由を理解したクロと冥。しかし、クロが昨日から疑問に思っていたことを聞くと、声をすぼめて俯くのび太。そんなのび太の代わりに、ドラえもんが説明した。

 全員、キャンプの計画から先に始めていたので許可は得ていなかったが、しずかちゃんの方はドラえもんがついていくと知ると許可を得ることができた。しかし、のび太の方は夏休みの宿題が全て片付くまではダメだと言われてしまった。そのため、出発自体は明日にする予定である。

 ドラえもんの説明を要約すると、このようなものだった。

 

『ジャイアンとスネ夫はどうするのだ?』

 

「一応僕が電話してみたんだけど、二人の意思は昨日と変わらないみたい」

 

「そうなのですか……」

 

『そう残念がることはないぞ、冥。出発は明日なのだから、明日までに二人の意見が変わるかもしれないだろう?』

 

「確かに……そうですね」

 

 ジャイアンとスネ夫は今のところ反対しているままだが、賛成多数となっている以上、明日までに意見が変わる可能性は高いだろう。しかし、のび太の宿題が全て終わらない限り、出発は叶わない。詰まるところ、夏休みのキャンプは全てのび太にかかっているということだ。

 

「とりあえず、全員が行くって決まったわけじゃないけど、ボクとのび太君としずかちゃんは海底行きに賛成したからね。一応、伝えておきたかったんだ」

 

『わかった。ならば、明日までにキャンプに必要そうな物を準備をしておこう。冥もいいな?』

 

「了解しました。しかし、海底にはどのような手段で行くのですか?」

 

 ドラえもんが連絡してきた理由を知って了解したクロと冥。だが、了解すると同時に、どのようにして海底に行くのか不思議に思った冥がドラえもんに問いかける。

 

「最初はボクの『水中バギー』で行こうかなって考えてたんだけど……二人乗りだから定員オーバーになっちゃうんだよね……」

 

「つまり?」

 

「決まってないんだ……」

 

『ふむ…………ならば、吾輩が以前作ったシン・ヴィマーナに乗ってみないか? あれならば、定員が6名故に問題ないはずだ』

 

「シン・ヴィマーナってあの黒いやつのこと?」

 

『そうだ』

 

 行く方法が決まっていないことがわかったため、クロは自身が作った乗り物……シン・ヴィマーナで行くことを提案する。シン・ヴィマーナは、以前にクロが見せたことがある。そのため、ドラえもんとのび太はシン・ヴィマーナについて思い返し、あれなら大丈夫じゃない? と頷くのであった。

 

「行く方法は決まりましたね」

 

「そうだね」

 

『うむ。では、吾輩たちも戻ろう』

 

「はい。また明日来ますね」

 

 海底に行く方法も決まったため、クロ達は鏡の世界の空き地へと戻ることにし、のび太の家を後にした。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「姫様はまだ見つからないのか!」

 

 パラオ諸島の近海にて、人間の上半身と魚の尾をもつ人魚のような者達が姫と呼ばれる人物を探していた。

 

 そして、黄色いハリセンボンのような人魚が、鎧を着た一人の人魚に叱っていた。

 

「申し訳ございません……あらゆる手を用いて捜索しているのですが、それでも見つからず……」

 

「むむむ……、姫様も姫様です! もし地上人に捕まったらどうするつもりですか! それに、万が一にも、あの恐ろしい怪魚族にでも捕まってしまったら…………!! 一刻も早く、姫様を保護するのです!!」

 

「はっ!!」

 

 鎧を着た複数の人魚達は、黄色いハリセンボンのような人魚の命令によって、再び捜索を開始した。

 しかし、彼らは気づかなかった。捜索をしている彼らを監視している者がいたことに。

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 次の日の朝、クロと冥は再びのび太の家に来ていた。出発の予定は今日になっているが、のび太の宿題の進行状況によっては延期する可能性もあるため、のび太の現状を確認するためだ。

 

『それで、宿題はどのくらい終わったのだ?』

 

「それが……」

 

 部屋に入ると、部屋の中央でのび太が寝ていたため、どの程度宿題が終わったのかをドラえもんに確認するクロ。しかし、クロに質問されたドラえもんは言いづらそうにしながらも、現状を説明する。

 

『は? 三分の一も終わっていない?』

 

「かなり時間があったと思うのですが……それでもまだ?」

 

「終わってないんだ…………」

 

『つまり、今のび太が寝ているのは宿題が終わったからではなく、宿題があまりにも進まないから不貞寝しているのか?』

 

「うん……」

 

「えぇ…………」

 

 寝ている理由が思いの外くだらない理由だったため、クロと冥は呆れてしまった。しかし、のび太はまだ小学生だし、仕方がないことなのかもしれない。苦手なものに向き合うというのは小学生では難しいだろう。

 

『こうなったら、吾輩と冥でのび太の宿題を手伝うか?』

 

「そうしたいですけれど……」

 

『そうなると、のび太のためにならないか』

 

「のび太君……ん? ちょっと見てくる」

 

 のび太の宿題について三人が考えていると、ピンポーンとチャイムの音が家に鳴り響く。どうやら、誰かが訪ねてきたようだ。誰が来たのかを確認しに、下へ降りていくドラえもん。

 一階の玄関に来たドラえもんは、扉を開けて誰が訪ねてきたのかを確認した。

 

「ジャイアンにスネ夫じゃないか! どうしたの?」

 

「よう、ドラえもん。昨日はあんなこと言ってごめんな」

 

「僕達も海に連れて行って欲しいんだ」

 

 扉の向こうにはジャイアンとスネ夫が来ており、出迎えたドラえもんに謝罪と要望を伝えてきた。スネ夫の要望を聞いたドラえもんは、昨日のニュースを思い出し、もしかして……と考える。

 

「二人とも昨日のニュースを見てとんできたの? 一応言っておくけどね、ボクらが行くのは太平洋。バーミューダ沖は大西洋だ。地球の裏表だからね!」

 

「何!? なら、大西洋に「ちょっと、ジャイアン!」 もがっ……!」

 

 ドラえもんの推測が当たっていたのか、忠告を聞いたジャイアンはドラえもんへと掴みかかり、行き先を大西洋へと変更させようとする。だが、その直前でスネ夫がジャイアンの口を塞ぐことで、行動を阻止した。ドラえもんはいきなり首輪を掴まれたので不機嫌になった。

 

「ジャイアン、ドラえもんは怒らせたらまずいよ。行き先は後でなんとか言いくるめるからさ」

 

「わかった」

 

 ドラえもんがいないと海底には容易に行くことができない。そのため、ドラえもんを怒らせたくないスネ夫は、ジャイアンがドラえもんを殴る前に説得する。

 

「僕らは宝なんてどうでもいいんだ。みんなでキャンプがしたいんだよ」

 

「そうそう」

 

「うーん……」

 

 取り繕った笑顔でドラえもんへと向き直るジャイアンとスネ夫。そして、宝なんてどうでもいいとドラえもんを説得するスネ夫。だが、その内心はバーミューダ沖の沈没船とその宝のことで溢れている。

 

「あら? 武さんにスネ夫さん、どうしたの?」

 

「しずかちゃんこそ……」

 

「私はのび太さんの宿題が進んでいるか気になって……」

 

「「のび太の宿題?」」

 

 ジャイアンとスネ夫が二人してドラえもんを説得していると、後ろの方からしずかちゃんがやってきた。のび太の宿題の進歩を確認するために来たようだ。だが、生憎のび太の宿題はほとんど進んでいない。ドラえもんは現在の状況を、出発に必要な条件のことも一緒に三人に説明をした。

 しずかちゃんは条件については既に知っていたが、ジャイアンとスネ夫は知らなかったから大変驚いていた。ドラえもんの許可さえあれば、自分達はいつでも行くことができるのに、のび太が宿題を終わらせないと永遠に行けないかもしれないからだ。

 

「おい、スネ夫」

 

「わかってるよ、ジャイアン」

 

「「ドラえもん、のび太の宿題を進めるのに力を貸すよ!」」

 

「本当かい!?」

 

「なら、私も力を貸すわ」

 

「ありがとう、助かるよ!」

 

 自分達がキャンプに行くために、力を貸すことを決めた三人。一人でのび太に宿題をやるよう応援するのはとてもキツいとドラえもんは思っていたため、その提案をしてくれた三人に涙を流して喜ぶ。

 これが友情なんだね……! と思っているドラえもんだが、実際は友情かどうかは怪しい。まぁ、ある意味でのび太には絶大な信用があるので、これを友情と呼んでもいいのかもしれないが。

 

 力を貸してくれると言ってくれたジャイアンとスネ夫、しずかちゃんをのび太の部屋に案内するドラえもん。そして、ドラえもんが部屋の扉を開けると、そこにはクロの念動力によって椅子に貼り付けられ、冥によって強制的に宿題をさせられているのび太がいた。

 

 

 




【バーミューダ諸島】
 バミューダという名前が有名だが、バーミューダと呼ぶこともある。様々な作品で利用される、魔の三角海域が近くにあることで有名。
 ちなみに、作者はバーミューダという呼び方もあることを原作読んで初めて知った。

【水中バギー】
 原作において最後の最後で大活躍したバギー。今作での登場は今回のみになる予定。

【シン・ヴィマーナ】
 クロがFateのギルガメッシュが所有するヴィマーナを基礎にして作り上げた乗り物。クロが武装や加速装置を追加したため、本来のものより性能が上になっている。パクリとか言ってはいけない。

【黄色いハリセンボンのような人魚】
 他の人魚に比べて明らかに異質な人魚。人……魚? 


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35話

リアルが忙しく更新がどんどん遅くなっていますが、せめて月一更新は継続する所存です。

許して……許して……


「あれっ!? のび太君が勉強してる!?!?」

 

 扉を開けると、机に向かって勉強しているのび太がいたため、ドラえもんは目玉が飛び出る程驚いた。

 

『いや、吾輩が念動力で無理矢理押さえて勉強させているだけだ』

 

「ドラえもーん”!」

 

 しかし、実際のところはクロが念動力でのび太がサボらないようにケツと椅子を固定して止め、冥がわからない箇所を教えていただけであり、のび太が自主的に行っているわけではない。

 

『それで、ジャイアン達はどうしたのだ?』

 

「実は、ジャイアン達も一緒に行きたいらしくて、そのためにのび太君の宿題を手伝ってくれるみたいなんだ」

 

『ほう……それは良いな。吾輩達が無理矢理進めさせるよりは、友達と一緒にやった方がのび太もやる気がでるだろう』

 

 ジャイアン達がのび太の宿題を進める手伝いをしてくれることを聞いたクロは、のび太の拘束を解き、ジャイアン達に任せることにした。のび太はやっと動けるようになったと鉛筆を放り投げて喜んでいたが、ジャイアンがのび太の両肩に手を置き、しずかちゃんとスネ夫がのび太の隣に立ち、冥に三人がやってきた経緯を伝えられることで、宿題を進めなきゃいけない事に変わりないことを知る。

 

「いいか、のび太……絶対に今日中で終わらせるぞ。もし、途中でサボろうとしたら俺がぶん殴るからな」

 

「は、はい…………」

 

 ジャイアンの言葉をきっかけにして、鉛筆を手に取り宿題に向き合うのび太。スネ夫が側でやる気を出すように言葉で励まし、しずかちゃんがわからない所を教え、ジャイアンが脅す。中々いい組み合わせじゃないか……そう考えたクロは、冥とドラえもんの三人で温かい目をして見守ることにした。

 そして…………

 

「「「「終わったー!!」」」」

 

 何時間か経ち、太陽が真上に差し掛かる頃、ようやくのび太の夏休みの宿題は終わりを迎えた。さすがに何時間も温かい目をすることはできないので、クロは丸くなって眠り、冥はそんなクロを膝の上に乗せながらドラえもんとどら焼きを食べながらおしゃべりをしていた。

 

「あー!! ひどいよドラえもん! ぼくがこんなに頑張って宿題をやってたのに、その間どら焼きを食べていたなんて!」

 

「大丈夫、ちゃんと皆の分も用意してあるよ」

 

「本当?」

 

「丁度良かった。俺、のび太の手伝いで腹減っちまったからよ」

 

「僕もお腹すいちゃった」

 

「私もいただいていいかしら?」

 

「うん。皆ありがとうね!」

 

 わーい!! とドラえもんから差し出されるどら焼きを手に取って食べるのび太達。ドラえもんはそれを見ながらハッと思い出し、もぐもぐとどら焼きを食べているのび太に釘を刺しておく。

 

「あ、そうだ。のび太君はそれ食べ終わったらママに報告しに行くんだよ?」

 

「わふぁっへふよ(わかってるよ)」

 

 食べながら返事をするのび太。食べながら返事をしたせいで言葉になっていないが、ニュアンスでなんとなくのび太が言ったことを理解し、頷くドラえもん。とりあえず、食事中に話すのは行儀が悪いのでやめよう。

 

 

 

 

————————————

 

 

 

 

 のび太が終わらせた宿題をママに報告して無事にキャンプに行く許可を得ることができたため、クロ達は今、人がいない浜辺にやってきていた。クロとドラえもん、冥以外は既に、ドラえもんからテキオー灯の光を説明を受けながら浴びていた。つまり、いつでも海に潜れる状況にある。早く行こうぜ!……とジャイアンが急かし、どうやって太平洋に行くのかを質問するスネ夫。

 それに応えるようにクロが話だし、蔵を出現させる。

 

『うむ、太平洋までは吾輩の作ったこのシン・ヴィマーナで向かう。6人乗りだから全員乗れるはずだ』

 

 空中に開かれた巨大な黄金の波紋……クロの所持する蔵からシン・ヴィマーナがゆっくりと出てくる。それを見たジャイアンとスネ夫はおぉ……!と驚き、見るのは二度目になるのび太とドラえもんんは入り口はどこだろう? と探し、しずかちゃんはわぁ……大きいと感心するだけであった。

 

 クロの指示に従ってシン・ヴィマーナへと搭乗するドラえもん達。最後に冥がクロを抱いた状態で乗り込むと、入口が閉まり、360度全ての外部の景色が映された。

 

「「「すごーい!!」」」

 

「「スゲー!」」

 

『ふふん。内部の構造にも拘ったからな。海の中なら、水族館のように景色を堪能できるだろう』

 

「流石です、クロ様」

 

『うむ。では、行こうか』

 

 クロがそう言うのと同時にシン・ヴィマーナがフワリと浮かび上がり、目の前の海へと静かに潜っていく。海の中に潜ったシン・ヴィマーナは、のび太達が魚や景色を堪能できるようにゆったりと進みながら、より深くへと潜っていく。そして、深度が増したことで、ウミガメや魚、イソギンチャクなどが多く存在した環境からガラリと変わり、水圧が強くなっていることから生物が少なく、まるで荒野のような景色が目に入るようになっていた。

 

「おお!! 海底に山がある!!」

 

「しかも、あんなに大きな山が何百も連なって……」

 

 海底にある山々を見て興奮するのび太達。ジャイアンとスネ夫、のび太は降りたそうにソワソワしているが、クロとドラえもんが決めた目的地にはまだ到着していないので、降ろすことはしない。その代わり、のび太達が飽きてしまわないように速度を上げて、目的地まで急ぐことを決めたクロ。

 クロは冥に合図を出し、冥にシン・ヴィマーナの操作を任せる。すると、冥は自身の座っている席のみについてる操作盤を取り出し、あるボタンを押した。冥がボタンを押した直後、シン・ヴィマーナの両翼がゆっくりと開き始めた。そして、今まで閉じていたシン・ヴィマーナの翼が開くと、赤い残光が走り一瞬で周囲の景色を置いてけぼりにする。

 

「わぁ! すごいスピード!」

 

「ねぇ、クロ。これ速度出し過ぎじゃない? ぶつかったりしたら大変なことに……」

 

『問題ない。船には自動で周囲の障害物を探知し、自動で避けるようにプログラムしてあるからな。ぶつかることはない』

 

「なら良いんだけど……」

 

 とてつもない速度で進むので海底の山にぶつからないか不安に思い、クロに訊ねるドラえもん。それに対し、シン・ヴィマーナを作った時に組み込んだプログラムのことを話すクロ。シン・ヴィマーナは今マッハ20で進んでいるため、山や岩壁などにぶつかると普通なら木端微塵になる。しかし、そういう可能性を事前に考えていたクロは全自動で障害物を感知して避ける機能をプログラムしており、マッハ20を超える速度でない限りぶつかることはないと言えるだろう。また、バリアを形成する機能もついているため、万が一ぶつかったとしても大破することはない。

 

「ん? ねぇ、あれって何だろう?」

 

「クロ、一回船を止めてくれないかしら?」

 

『む? ……わかった』

 

 赤い残光を走らせながら超スピードで目的地まで進んでいると、途中でスネ夫が何かに気づき声を上げる。そして、しずかちゃんも気づいたのか、クロに船を止めるようにお願いするのであった。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「逃すなぁ!! 絶対に捕まろ!!」

 

「グオオオオオオ!!」

 

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

 巨大なウツボとその横を併走する二隻のアンコウ型の船に追われながら、私は一心不乱に逃げる。武器の一つでも携帯していれば、現状を打破することができたかもしれないけれど、持ってきていない以上は仕方がない。奴らに捕まるわけにはいかないのだから。

 一体、どうしてこんなことに…………

 

 私が都から抜け出して地上を目指していたら突然サメに追われて、やっと撒いたと思ったら今度は巨大なウツボと奴らに追いかけられる。私はただ、私達の故郷である星を見たかっただけなのに……

 

「グアアアアアアアア!!」

 

「ハッ! ……しまった!」

 

「ハハハハハ! やっと追い詰めたぞ!」

 

「……おっと、これ以上無駄な抵抗はするな。俺たちもアンタを傷物にするわけにはいかないんでね」

 

 私を追いかけていたはずの巨大ウツボが目の前の地面を突き破って現れ、前方を塞がれてしまった。加えて、後方は奴らが乗っているアンコウ型の船が二隻。横から逃げ出そうとすれば、船の先端からビームを放って牽制してきた。

 完全に包囲され、船から降りてきた奴らに為す術なく私は捕らえられてしまった。そして、奴らの船に乗せられそうになったその時、不思議なことが起こった……!

 

「うわっ!? なんだこの鎖はぁ!?」

 

「身動きが取れねぇ! それに、動くほど縛りが強くッ……!?」

 

「グワッ!?」

 

「これは一体……どうなってるの……?」

 

 突然、どこからともなく何本もの鎖が現れて奴らと船、巨大ウツボを縛り上げてしまった。奴らが鎖に縛り上げられたおかげで逃げ出すことができた私は、鎖がどこから現れたのか出所を辿って見たわ。そうしたら、鎖はどれも宙に浮かんでいる金色の波紋から出ていたの。あまりにも唐突で不思議な光景に、私は混乱を隠しきれなかった。

 さらに、驚きの連続で混乱している私に追い討ちをかけるように、見たこともない船のようなものがやってきた。それは夜の海よりも黒い漆黒で、両端には火よりも赤く煌く翼が存在し、後部には砲身のようなものが見える。

 

「わっ! すごいよジャイアン、こんな大きなウツボ見たことない!」

 

「スゲェ! でっけぇ!! ……グェッ」

 

「お二人とも、危ないので離れないでください。本当に」

 

『よくやったぞ冥。そのまま二人を離さないでおいてくれ』

 

 私が謎の船を観察していると、船の壁の一部分がゆっくりと外側へ開き始め、まるで階段のようになった。そして、中から子供たちが現れ、その内の二人が階段を降りて鎖で縛られている巨大ウツボの方へと向かおうとすると、中から物凄いスピードで現れた女性が後ろ襟を掴んで持ち上げ、向かうのを阻止していた。あの持ち方は私も昔、おばあさまにされたことがあるわ。あと、黒いフグのような生物も側にいるわね。なんなのかしら。

 

「君、大丈夫? ケガはない?」

 

「私たちはあなたが襲われているのを見て、助けに来たの」

 

「ありがとう。それで、失礼だけれど……あなた達は一体何者なの? 見たこともない船に乗って不思議な波紋から鎖を出すなんて……」

 

 呆気にとられている私に声をかけてきたのは、眼鏡を掛け優しげな顔をした男の子とおさげ髪の可愛らしい女の子だった。声をかけられた私は、隣に立っている青い大きなフグのような生物は何なのか気になりながらも、私を助けに来たという彼らが一体何者なのかを聞くことにしたわ。

 

 

 

 

 

 




【目玉が飛び出る】
 漫画のギャグシーンなどでよく用いられる表現。目玉だけでなく歯茎ごと飛び出ることもある。

【テキオー灯】
 劇場版において、使用回数がそこそこ多いひみつ道具。海底鬼岩城、竜の騎士、雲の王国、ブリキの迷宮、人魚大海戦、ねじ巻き都市冒険記などで用いられている。テキオー灯の光を浴びれば、時間制限はあるものの、どんな環境でも生活することができる。なぜか、ゲストキャラが独自に開発していて使用することがある。なお、見た目は22世紀のものと同じ模様。技術提供でも受けた?

【マッハ20】
 時速24696km。例えるなら、殺せんせーと同じ速度。この速度で走れば、発生する衝撃波によって周囲が大変なことになる。

【都から抜け出した少女?】
 挙動の一つ一つに高貴さを感じさせる少女。頭に、赤い宝石が装飾された金のティアラを着けているらしい。

【その時、不思議なことが起こった!】
 某作品のご都合主義。これによって、都から抜け出した少女が衝撃波に襲われることもなく、間一髪で主人公らに助けられた。


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36話

オリ展開にしたせいでキャラの絡みとかが難しくなった。でも、自業自得なんだよね。


 

「私はソフィア、人魚族の姫です。それで……あなた達は一体何者なの?」

 

「人魚族? えっと、ぼくは野比のび太。こっちは……」

 

「わたしは源静香っていうの。それよりも……ソフィアさん、お姫様だったの!?

 

「え、ええ……そうよ。それで……」

 

「何者ってよくわからないけど、ぼくらは地上から来たんだよ」

 

「地上から!?」

 

 人魚族の姫、ソフィアはのび太達が地上から来たと知って驚き声を上げた。海中で泳ぐための道具や深海でも耐えられるような装備を身に着けているようには見えず、どうやって地上人が深海で息をしているのかなど、伝聞と違うことが多すぎて混乱してしまう。

 

「皆さん、そろそろシン・ヴィマーナに戻って下さい。彼等を捕縛しましたが、この場所に長居は無用なので」

 

 ソフィアが驚き混乱しているのを見て、どうしたんだろう?と疑問に思うのび太としずか。そんな時、ジャイアンとスネ夫の後ろ襟を掴んだままの冥が声をかける。

 姫であるソフィアを襲っていた彼等の記憶をクロが覗き、この場所に留まるのは危険だと判断したのだろう。

 

「貴方も良ければ乗ってくださいませんか?」

 

「でも冥さん、定員が6名だから一人余っちゃうよ?」

 

「大丈夫です。私はクロ様と一緒に別の道具を用いて移動することになりましたので。シン・ヴィマーナの運転はドラえもんさんに頼みました」

 

 ソフィアにも乗らないかと問う冥に対して、定員オーバーを心配するスネ夫。しかし、冥はそんな心配に大丈夫だと返す。

 

「私も乗って大丈夫なのかしら……?」

 

「はい。それに、またあの者達に会ったとしてもそのままでいるよりは余程安全ですよ」

 

 ソフィアは冥が見たところなんの武器も携帯しているようには見えなかった。そのような状態で先を進むよりは、乗り物に乗っていた方が安全性は高いだろう。ただし、いくら窮地を助けたとはいえ、彼女にとって未知の機体を引っ提げて突然現れた地上人と名乗る者達と、素直についてきてくれるだろうか? 少なくとも、襲っていた奴らに比べればマシだとは思うが。

 しかし、そんな冥の考えはソフィアが「……その通りね。なら、お言葉に甘えさせてもらうわ」と言って、サラッとのび太達の後に続いてシン・ヴィマーナへ搭乗してしまったため、杞憂に終わった。

 

「ソフィアさん、大丈夫でしょうか……」

 

『……襲われたばかりで大丈夫とは言い難いだろうな。ただ、武器もなくたった一人しかいない状況では、迎撃も捕縛も不可能だと奴らの襲撃で身に染みてわかっているだろうし、無意味な抵抗はしないと思うぞ』

 

「無意味な抵抗ですか……?」

 

『ああ。複数人に囲まれた状況で抵抗する理由は、大凡最終的に「相手から逃げるため」となる。だが、肉体が超人的なものでない限り、素手で出来ることなどたかが知れている。武器を持った複数人の敵に加えて、武装された船が二隻もあった。それらを瞬時に無力化する程の存在にどうやって素手で抵抗するのだ? それに、吾輩達の目的もわからないだろうしな』

 

「…………」

 

『抵抗しても意味が無いなら、それは「無意味な抵抗」と言えるだろう? それなら、警戒だけして目的を探った方が良いと思わないか?』

 

「それは……」

 

『まぁ、今のはあくまで吾輩の推測だ。素人の推測なぞ、間違っている可能性は大きい。それに、本人が語るまで真実はわからん。…………そろそろ吾輩たちも出発しよう。話している間に置いていかれてしまった』

 

「はい。了解しました……」

 

 ソフィアの気持ちと行動について冥が考え、クロが推測を述べる。しかし、あくまで推測であるため、本人から聞かない限り真相はわからないままだ。そう結論づけて話が終わったクロと冥は、先に出発してしまってクロ達を置き去りにしたドラえもん達を追いかけるため、動き出した。

 

 

 冥がメイド服を着た通常形態から、光速飛行形態である戦闘機に酷似した姿へと変形する。そして、変形した冥の中へクロが乗り込み、冥に内蔵されているある道具を起動させた。起動した道具は冥と中にいるクロを特殊な状態へと移行させ、クロを乗せた冥が出発してから、その道具の効果は判明する。

 冥は高速、音速、光速へと速度を上げていきながら山や岩、深海魚などの障害を、まるで幻かのように透過しながら進んでゆく。三次元に存在する万物を透過する状態になっているのだ。そして、万物を透過しながら光速移動したため、あっという間に先に出発したシン・ヴィマーナへと追いついていた。

 

【クロ様、シン・ヴィマーナに追いつきました】

 

『うむ。吾輩にも見えているが……ドラえもん達は降りているようだな』

 

【そのようです。こちらでスキャンしてみましたが、反応はありませんでした】

 

『一体何処に…………?』 

 

 シン・ヴィマーナに追いついたものの、中にドラえもん達はいなかった。クロ達が置いていかれてから追いつくまでに約十分程。この場所はパラオ諸島の近海ではあるが、景色はさっきまでいた伊豆・小笠原海溝とそう変わっていない。冥が海上に上がったのかと考え浮上するも、ドラえもん達の姿は何処にも無かった。

 

『外は夜だったから、何処かでキャンプしてると思ったのだが……』

 

【周辺もレーダーを用いて探しましたが、ドラえもんさん達の反応はありませんでした】

 

『ふむ…………タイムテレビで過去を見てみるか』

 

 タイムテレビを使えばいいと気づいたクロは、蔵からタイムテレビを出し、ドラえもん達が何処へ行ったのかを確認する。

 

『これはッ!』

 

 過去を覗いたクロは、驚きを隠せなかった。

 

 タイムテレビには、ソフィアを除いたドラえもん達が黄色いハリセンボンのような人魚と鎧を着て槍らしき武器を持った複数の人魚に捕らえられ、マンボウのようでありエイにも似た船に乗せられて消えていく映像が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 シン・ヴィマーナにドラえもん達が乗り込み、クロと冥を置いて先に出発してしまった頃。凄まじい速度で進むシン・ヴィマーナの中で、ドラえもん達はソフィアと話しあっていた。

 

「それじゃ、ドラえもんさん達は遊ぶためにわざわざ地上からやって来たの?」

 

「遊ぶためというか……」

 

「キャンプしに来たんだ!」

 

「キャンプ……? そのキャンプとは何なの?」

 

「「「ソフィアさん、キャンプを知らないの!?」」」

 

 深海にキャンプしに来たというのび太達の言葉に首を傾げ、疑問符を浮かべるソフィア。今までずっと海の中で王族として……姫として過ごしてきたソフィアにとって、キャンプという言葉は聞いたこともなかった。

 

「キャンプを知らないなんて、ソフィアさんは人生の半分を損してるよ」

 

「半分も……?」

 

「ずっと海底に住んでたから、地上のことは何にも知らないのね」

 

「そうだ! ぼくが地上のことを教えてあげるよ!」

 

「ハハハッ! のび太が教えられることなんて、あやとりくらいだろ!」

 

「そんなことないよ!」

 

「ウフフ。のび太さん、地上のことについて、教えてもらえるかしら?」

 

「うん! 任せてよ!」

 

 ソフィアはのび太から地上にある様々な物や知識、常識、遊びなどを教わり、学んでいく。聞いたこともない言葉、聞いたこともない遊び、聞いたこともない乗り物。それらについて知るたびソフィアは瞳を輝かせ、地上について思いを馳せる。

 

「地上にはいろんなものがあるのね…………ねぇ、星を見るためにはどうすればいいの? どこへ行けばいいの?」

 

「星? 星なんて夜に空を見上げれば見れるでしょ?」

 

「ヨル? ソラ?」

 

「そうか……海には昼も夜もないんだ……」

 

 ソフィアが星を見る方法をのび太達に聞き、スネ夫が常識のように方法を語る。しかし、その常識はまだのび太から教わっていなかったため、ソフィアは理解できなかった。

 ソフィアの様子を見て、ドラえもんは海……特に海底では太陽の光が届かないため、ソフィアの住む都には「昼」や「夜」などの概念が存在しないことを悟る。

 

「でも、どうして星を見たいの?」

 

「それは私達人魚族の故郷……アクア星を見るためなの」

 

「アクア星?」

 

 海中で生活していて、どうして星を見たいのか気になったのび太がソフィアに質問をする。すると、ソフィアは一族の故郷の惑星……アクア星を見るためだと答えた。

 

「ええ。私達人魚族はアクア星を飛び出して、五千年も前にこの地球にやって来たの」

 

「じゃ、じゃあ……宇宙人ってこと?」

 

「五千年も前なんて……」

 

 ソフィアの一族が、五千年前にアクア星からこの地球に移り住んでいたことが判明し、その事に驚くのび太達。伝説にもなっている人魚が、実は宇宙人だと知ってしまえば、驚くのも無理はないだろう。今のところ、海中で過ごしていること以外、ソフィアに人魚要素は殆ど無いが。

 

「でも、どうして地球に?」

 

「……アクア星はとてもとても大きい星で、この地球の何十倍もの大きさなの。その分、アクア星の海も大きく広くて優しい海だったと聞いているわ」

 

「そうなんだ」

 

「ええ。だけど、やがて汚染が進み、真っ黒な海となって誰も住める星ではなくなったの……」

 

「それで地球にやって来たのね……」

 

「そうなの」

 

 ソフィアの一族が地球にやって来たの経緯を知ったのび太達。海の中に住みながら星を渡る技術があっても、海の汚染はどうにもできなかったようだった。

 

「よーし! それじゃ、ボクが今すぐ星を見れるようにしよう!」

 

「えっ!?」

 

「今すぐ?」

 

「今って夜なの?」

 

「わかんねぇ」

 

 暗くなってしまった空気を払拭するかのように、ドラえもんが明るい雰囲気でソフィアに告げる。

 

 突然、今すぐ星を見れると聞いて困惑するソフィア達。テキオー灯を浴びているのび太達には深海でも昼間のように明るく見えているが、そうじゃないソフィアには深度によって明るさが変わる。どちらにとっても、浮上してみない限り昼か夜かを判断することができない。浮上しても昼だった場合は今すぐに星を見ることはできないはず。ならば、どうやって今すぐに星を見るのか。

 そんなソフィアとのび太達の困惑を無視して、ドラえもんは進ませていたシン・ヴィマーナを止め、ドアを開けてから外へ飛び出した。

 

「ほら、皆もおいでよ!」

 

 外に出たドラえもんが、まだ中にいるソフィアとのび太達に向けて大きな声で伝える。ドラえもんの声を聞いたソフィアとのび太達はとりあえず出てみようと思い、シン・ヴィマーナから降りてドラえもんのいるところまで歩く。皆が降りてからドラえもんのいる所まで歩くと、ドラえもんはニコニコし出してポケットに手を突っ込み、毛糸玉を取り出した。

 

「『空まです通しフレーム』! 大きく広がれ! そして、空まです通しモードON!」

 

 ドラえもんが取り出した『空まです通しフレーム』はドラえもんの言葉に合わせて動き出し、『空まです通しフレーム』の糸が六人も入るくらい大きな円……フレームを作り出すと、フレームの内部がだんだんと透けて宇宙が見えるようになった。

 

「さらに、フレームの中にみんなを入れちゃう」

 

「「「「「わっ!?」」」」」

 

 そして、ドラえもんは作り出したフレームを内部に映し出されている宇宙に注目していたソフィアとのび太達に向けて振り下ろし、フレームの内部に入れた。

 

「す、す、スゲェ!!」

 

「水も海も消えたわ!?」

 

「それどころか地球が消えちゃったんだ!」

 

「足元まで宇宙!!」

 

「すごいわ、浮いてるみたい!!」

 

 フレームの内部に入って驚いている五人を見つめてニヤニヤするドラえもん。手に持っていた『空まです通しフレーム』を足元に置くと、ドラえもん自身もフレームの中に入っていった。

 

「これらひとつひとつに惑星があって生き物が暮らしているかもしれないんだ」

 

「これが宇宙……これが星……こんなにたくさんあるなんて……」

 

「ソフィアさん、アクア星はどれかしら」

 

「ごめんなさい、私にもわからないの。ただ、アクア星と周囲の衛星を結ぶと五角形になると聞いているわ」

 

「五角形?」

 

 ドラえもんのおかげで星を見ることができるようになった五人は、驚きながらも目の前に広がる宇宙から様々な星を見る。しずかちゃんはソフィアの言っていたアクア星を探すが、ソフィア自身にもアクア星は見つけることができていなかった。しかし、アクア星の特徴は聞いていたようで、その情報をもとにしてのび太達も探し出し始めた。

 

「五角形……五角形……」

 

「なぁスネ夫、五角形の星座って何があるんだ?」

 

「馭者座とかかな。でも、こんなにいっぱい星があると探しきれないよ」

 

「ドラえもん『アクア星探し機』なんてないの?」

 

「そんなもん探す道具なんてあるわけないだろ!!」

 

「ちょっと二人とも!!」

 

「「あ……」」

 

 一生懸命に探すが、視界全てに広がる数多の星々の中からアクア星を見つけるのは難しく、誰も見つけられなかった。のび太はあんまりにも見つからないので、アクア星を探すための道具はないのかと無茶苦茶言い始めた。そんなのび太にドラえもんは怒ってそんな道具はないと言い返すが、言い方がマズかった。しずかちゃん的にはのび太もドラえもんもアウトだったらしい。ソフィアの故郷の星でありソフィア自身が見たがっているのに、のび太は自力で探すことを諦めたこと、ドラえもんは「そんなもん」と言ってしまったことに怒ったのだろう。

 

「「ご、ごめんね、ソフィアさん……」」

 

「ううん、もういいの。みんな、ありがとう」

 

 しずかちゃんに怒られた二人がソフィアに謝り、ソフィアはそんな二人を許し、笑顔で全員にお礼を述べた。笑顔を浮かべている今のソフィアに、クロや冥が考えていたような警戒は一切存在しなかった。

 

 

 

 

 ソフィアが満足したので、のび太達もアクア星探しは終えてフレームの内部から出ていき、共に外に出たドラえもんは『空まです通しフレーム』を片づけ、ポケットに戻した。そして、その瞬間……ソフィアを除いたドラえもん達五人は遠くから放たれた電撃を浴びてしまう。

 

「そんなッ!? しずかさん! のび太さん! みんなッ……!?」

 

 電撃を浴びて気絶してしまった五人に駆け寄り、体を揺すりながら声をかけるソフィア。しかし、五人は気絶しているため、ソフィアの声に何の反応も返さない。ソフィアが放たれた電撃の発生元を睨むと、そこには黄色いハリセンボンのような人魚を筆頭にして複数の鎧を着た人魚と仮面を着けて剥き出しの剣を持った二人組の人間がいた。

 

 

 

 

 




【人魚族】
 ソフィア達の一族? 種族? 元々アクア星に住んでいた地球外生命体。海中を自由に泳ぐために特殊なスーツを用いる。このスーツを着けた状態は鱗がなく服を着た人魚そのもの。ちなみに、大長編と劇場版で彼らの年齢が大分変わってくる。もしかすると、ソフィアは五千歳の可能性も……?

【光速飛行形態】
 冥の通常形態での飛行はブリキの迷宮で見せたものとなる。その点、この光速飛行形態は移動に特化した形態であり、冥の面影が全くなくなる。とはいえ、人格が消えたりするわけではないので、普通に会話は可能。実は可変型万能メイドロボだったのだ……!

【空まです通しフレーム】
 大長編……というか人魚大海戦の漫画版で登場したひみつ道具。見た目は完全に毛糸玉。ただし、原作の方だと見た目は針金のようになっている。
 これで枠を作って空にかざすと、家の天井や厚い雲、果ては太陽光が拡散した大気圏をつき抜け、宇宙空間が素通し状態で見えるようになる。本来は天体観測の際に障害物を素通しすることが目的だが、昼間に使用すれば、天井や雲をよけて太陽光線を降り注がせ、光や太陽熱を手元に導くこともできる。

【アクア星】
 劇場版では五角形から馭者座がそれにあたるのではないかと予想されていたものの、結局わからないままだった。しかし、漫画版では明確にアクア星だとされる星が描写されていた。馭者座にアクア星は含まれていたのか、それとも違う星座だったのか。詳しく知りたい方は、漫画版を読むか作者がその話を書くまで待ってて欲しい。作者的には漫画版がおすすめ。


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37話

内定が……内定が……欲しい……


 美しく多くの水を湛えた惑星……地球。その地球の大気圏外に留まる魚型の巨大な宇宙船にて、怪魚族と呼ばれる者達が怪魚族の王と話をしていた。

 

「トラギス、人魚族を見つけたというのは本当か?」

 

「ギョイ! この姿はまさしく人魚族でしょう。そして人魚族の姫も確認できています」

 

 トラギスと呼ばれた彼は、彼の部下が地球で手に入れた映像を写しながら、王へと返答する。

 怪魚族の王……ブイキンは映像を見てニヤリと笑い、それから目の前のトラギスへと問いかける。

 

「ならばトラギスよ、当然、その人魚族の姫も捕まえたのだろうな?」

 

「そ、それは……邪魔が入ってしまい……」

 

「逃したと?」

 

「は、はい……」

 

 トラギスは、王の機嫌を損ねてしまうであろう己の部下が起こした重大なミスを、恐怖心によって言葉を詰らせながらも報告した。そして、案の定ブイキンの機嫌は悪くなってしまった。

 

「せっかく見つけたというのに、みすみす逃がすとは……」

 

「も、申し訳ございません!!」

 

「海底人と名乗る者共や謎の無人船によって人魚族捜索が滞る中、今回は絶好の機会だったはず」

 

「ギョ、ギョイ……」

 

「フンッ。いいかトラギスよ……人魚族が持つ『人魚の剣』はこの世全ての水を操ることができる。そして、宇宙に存在する多くの生命は海で生まれ進化する。海の生活に適応する者としない者、いずれにしも……オレが手『人魚の剣』を手に入れれば、全宇宙を支配できるのだ! トラギス……貴様に今一度機会を与えよう。なんとしてでも人魚族から剣を奪うのだ!!」

 

「ギョイッー!」

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 

 

 

 

 

一方、海底に存在するとある都市の地下廊下にて、ソフィアとハリ坊と呼ばれる人魚が言い争っていた。

 

「ハリ坊! ドラえもんさん達を解放なさい! 彼等は私を怪魚族から助けてくれたのよ!」

 

「姫様、それはできません! 奴等は地上人なのですよ!」

 

「地上人が何だというの! 彼等が私を助けてくれたことに変わりないわ!」

 

「海を汚す奴等を解放するわけにはいきません! それに、奴等地上人は閉じ込めておくようオンディーヌ様と協力関係にあるムー連邦首相から命令されています!」

 

「ムー連邦首相ですって……?」

 

 ソフィアはハリ坊どの言い争いで出てきたムー連邦首相という聞き慣れない言葉に困惑する。

 

「姫様が都を抜け出した後に、怪魚族に対抗するため彼等と協力関係を結んだのです」

 

「その方の言う通りですよ、姫様」

 

「あなたは?」

 

 ハリ坊がソフィアがいない間に協力関係となったことを伝えると、それを肯定しながら廊下の奥から黒い髪の女性がやって来た。

 

「僕はこのムー連邦の兵士であり、彼等地上人の面倒を見ることになりました。エルと申します」

 

「何ッ!? それはどういうことですか! 捕らえておけという命令のはず……」

 

「彼等はムー連邦にて住民権を与えて地上には返さないと、首相とオンディーヌ様との話し合いで決まりました。」

 

「そんな!?」

 

 ハリ坊は面倒を見ると言い出した女性兵士……エルの言葉に驚き、ソフィアはドラえもん達を地上に返さないと決めた自分の祖母に驚き、なぜ……と疑問を抱く。

 

「ッ! わかった、ありがとう。……どうやら彼等が目覚めたようですので、僕はもう行きます」

 

「待って、私も行かせてちょうだい」

 

「姫様!」

 

 ドラえもん達が目覚めたと連絡を受けたエルは、早速向かおうとするが、ソフィアについていかせてほしいと頼まれる。ハリ坊はそんなことを言うソフィアに注意をするが、ソフィアはそれを無視して何度もエルに頼み込んだ。

 

「わかりました。お一人で行かれるよりはマシでしょう」

 

「ッ! ありがとう……」

 

「ダメです姫様! 地上人の元へ行くなど危険です!」

 

「彼女が許可したのなら問題ないはずよ」

 

「それは…………」

 

 しつこく頼みこんでくるソフィアに根負けし、一人で勝手に向かわれるよりはマシだと判断したエルは、ソフィアがついて行くことを許可した。それに喜んだソフィアは早速とばかりに向かおうとするが、今度はハリ坊に止められる。

 だが、許可をもらっている以上なんら問題ないはずだとソフィアが告げると、ハリ坊は言葉を詰らせた。

 

「行きましょう……」

 

「わかりました」

 

 そう言ってエルと共に離れていくソフィアの背中をハリ坊は無念そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 ……帰らなくちゃ。

 

 ——帰るってどこへ?

 

 ……家に決まってる。キャンプは二泊三日の予定だもの。あれ? でも、まだ一泊もしてない?

 

 ——ここが君の故郷なのに、なぜ帰る必要があるんだい?

 

 ……故郷!? この真っ暗な海底が故郷!? 冗談じゃないぞ!!

 

 ——冗談なんか言ってないよ。君だけじゃない。地球上のあらゆる生物にとって海は故郷なんだ。

 

 ——三十五億年も昔、世界で最初の生命が生まれた。それが海の中だったんだよ。

 

 ——生まれたばかりの生命を海は優しく育ててくれた。時が流れ、生命は増え、複雑に進化し、やがて藻や三葉虫などが現れた。植物と動物の誕生だ。

 

 ——生物が海を離れて陸上で生活するようになったのは、四億年ほど前のことだった。新しい暮らしに合わせ、生物はさらに進化を続けた。激しい生存競争が繰り返され、多くの種類の生物が生まれては滅びていった。しかし……

 

 ——再び母なる海へ帰っていった生物もいるんだよ。

 

 ……陸から海へ? へ〜っ、どんな生物なの?

 

 ——例えば鯨。その証拠にヒレの骨組みを見ると、昔はそれが前足だったことがわかる。他にイルカやアザラシ、そして海底人だ。

 

 

「海底人!?!?」

 

 のび太はそう大きな声で叫ぶと、目が覚めた。扉が一枚と無機質な壁に四方を囲まれた白い部屋の中にいて、側にはベッドが二つ並んでおり、その上にドラえもんとしずかちゃんがいた。二人も同じタイミングで目を覚ましたようで、のび太は今見た不思議な夢の内容を共有しようとする。

 

「不思議な夢を見てた」

 

「ボクも」

 

「私もよ」

 

のび太の言葉にドラえもんとしずかちゃんも同意する。なんと、不思議な夢を見ていたのはのび太だけではなくドラえもん達もだった。三人が同じ夢を見ることがあるのか……そうのび太達が疑問に思っていると、部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。

 

「僕らのことを知ってもらうために、教育ドリームを見せたんだ。僕はエル、さっきは君達に電撃を浴びせてしまってごめんよ」

 

 部屋に入ってそう言ってきたのは、地上では見ない服を着て剣を腰に帯びた黒い髪の女性だった。彼女……エルは、自分たちのことを知ってもらうために教育ドリームを見せたと言う。加えて、電撃を浴びせたとも。

 

「君がボク達を……!!」

 

「傷つけるつもりはなかった。パワーも最小に絞って撃ったんだ」

 

 ドラえもんが怒りをあらわにして言うが、エルは澄ました顔で傷つけるつもりはなかったと言い返した。最小に絞っても気絶するほどの威力は、悪影響を及ぼす可能性が十分にあると思うのだが、どうなのだろうか。

 

「わかってほしい。君達がどんな人物かわからなかったからね……それに、人魚族のお姫様……ソフィア様とも一緒にいたし」

 

「なんでそんなに人を疑うんだ!!」

 

「僕らは大昔から時々陸へ上がり、地上人の歴史を見てきたんだ。血みどろの歴史をね。何千年もの間、戦争の繰り返しじゃないか。警戒するのも当たり前だろう」

 

「そんな!」

 

 地上人の血みどろの歴史から今の人間を警戒していることを聞き、理不尽だと声を上げるのび太。すると、エルの後ろからその声を聞きつけたソフィアが、部屋に勢いよく入ってきた。

 

「みんな大丈夫!?」

 

「「「ソフィアさん!?」」」

 

 部屋に入ってきたソフィアに驚く3人。無事で良かった。なぜソフィアがここにいるのか。一緒に捕まってしまったのか。いろいろと考えてしまうが、ソフィアから事の経緯を聞いた3人はそんな考えが吹き飛ぶほど驚いた。

 

「「「地上に帰れない!?」」」

 

「ごめんなさい……」

 

 自分達が眠らされている間に勝手に永住を決められて、しかも地上への帰還は許されないとくれば、驚くのも仕方がないだろう。

 

「ソフィア様の言う通り……君達は地上に帰ることはできない。もし国境から一歩でも出た場合、君達は処刑されてしまう」

 

「そんな勝手な!」

 

「確かに勝手だが、これはもう決まったことなんだ。諦めてくれ」

 

 血みどろの歴史がある地上の人間だから、警戒して決定権を奪い、生きて帰さないことで秘匿性を保つ。秘匿性を保つという手段においては間違っているとは言えないだろう。だが、このような手段を用いることができる時点で、ムー連邦も歴史の彼方で少なくない血が流れている可能性が高い。

 

「とりあえず、用意されてる君達の部屋に案内しよう」

 

「……わかった」

 

「ちょっと待って! ジャイアンとスネ夫はどこ?」

 

「そういえば……」

 

 エルがドラえもん達に用意された部屋へ案内しようとした時、ドラえもんがジャイアンとスネ夫がこの場にいないことに気づいた。

 

「ああ……彼等は精神鑑定の結果、凶暴性と嘘つき性が出たので地下牢に閉じ込めているよ」

 

「「「ええっ!?」」」

 

「それは誤解だよ!」

 

「本当はいい奴らなんだ!」

 

「「お願い、出してあげて!」」

 

「うーん…………なら、一度彼等の様子を見てから決めよう」

 

「ホント!?」

 

 この場にいなかったジャイアンとスネ夫は精神鑑定の結果が悪く、地下牢に閉じ込められていることが判明した。のび太は精神鑑定の結果を誤解だと言って二人を擁護するが、ちょっと無理があるかもしれない。しかし、三人とソフィアの必死なお願いが、一度様子を見るという譲歩を引き出した。

 そして、ドラえもん達とソフィアはエルの案内に従って、地下牢へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼岩城?」

 

 ドラえもん達は、ジャイアンとスネ夫が閉じ込められている地下牢へ向かいながら、エルからムー連邦のことや金塊を積んだ沈没船のこと、鬼岩城という場所の話を聞いていた。

 

「そう。何者もよせつけない魔の海域に存在するんだ。君達はバミューダ三角海域と呼んでいるみたいだね」

 

「バミューダ三角海域!」

 

「でも、それと沈没船となんの関係が……?」

 

「鬼岩城には恐ろしい兵器が存在していて、無理にあの海域に立ち入ろうとすると、世界が破滅してしまうかもしれないんだ。だから、金塊の引き上げなんかのために、あそこをウロウロしてほしくなかったんだ。最近は怪魚族とかいう奴等が出てきてるしね」

 

「世界が破滅って怖いな…………」

 

「のび太さん……」

 

「ねえ、ソフィアさん。怪魚族って何か知ってる?」

 

「私を襲っていた者達よ」

 

「えーッ!?」

 

「怪魚族は危ない人達なの?」

 

「僕らはあまり詳しくないからわからない。でも、彼等は地上人並みに海を汚すし、魔の海域にも近寄るから良い印象はないかな」

 

「私も詳しくわけじゃないから……でも、私を人魚族の姫だと認識した上で襲ってきたから、危険だと思うわ」

 

「そうなんだ」

 

 地上でバミューダ三角海域と呼ばれている場所に、世界を破滅させるかもしれない恐ろしい兵器を保有する鬼岩城が存在していると知り、少し怖くなるのび太。その一方で、ドラえもんは怪魚族というワードが気になったようだ。

 ドラえもんの呟いた疑問に、ソフィアとエルが答えた。二人共怪魚族について詳しいことは知らないが、危険であることや良くない印象を抱いているそうだ。

 

「……着いたよ。ここに君達の仲間二人がいる」

 

「ここに……」

 

「ジャイアンとスネ夫が……」

 

 話しながら歩いていると、いつの間にか鉄製の扉がいくつもある所に着いていた。どうやらここの一つに、ジャイアンとスネ夫が閉じ込められているらしい。

 ドラえもん達とソフィアは示された扉の方に向かうが、中から聞こえてきた声と音に思わず足を止めてしまった。

 

「出せぇーッ!!!」

 

「出してよーッ!!」

 

「出さねぇと火をつけてぶっ壊して、ギタギタのボコボコにしてやるぞォ!!」

 

 ドンドン、ガンガンと扉を内側から蹴り、叩きながら叫ぶジャイアンとスネ夫。

 

「うーん…………彼等、ホントに誤解?」

 

 そう言うエルの言葉を、足を止めた四人は否定できなかった。

 

 




【トラギス】
 漫画版では登場しない映画だけの人物。割と間抜けらしい。声はケ○ドー・コバヤシをイメージしてね。

【ブイキン】
 怪魚族の王を務めており、漫画版と映画でデザインが大きく変わる人物。人魚の剣を追い求め、遥々地球までやってきた。

【エル】
 海底人の国であるムー連邦の少年兵士……だったのだが、作者の都合で女性になった。漫画版では黒髪だが、映画版では金髪となっている。作者はボクっ娘大好き。

【ムー連邦】
 エルが所属する海底人の国。人魚族と違い、元々地球の海底に住んでいる地球人達。地上の人間が海底にやってくるし、別の地上人が沈没船の引き上げのために魔の三角海域周辺をウロウロするし、怪魚族とかいう奴らが海を汚しながら魔の三角海域とか人魚族とかいろんなところにちょっかいを出すから、人魚族と手を組んだ。


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38話

卒論……就職活動……ううってしてたら長くなっちゃいました。
ちょっとテンポが悪いかもです。


 

 ドラえもん達とソフィア、そしてエルはムー連邦が用意した住居の前に来ていた。箱型の四角い2階建ての家で、周囲にある一般住居よりも広い。ジャイアンとスネ夫に関しては、態度がアレだったため、一時保留ということにされた。

 

「ここが、君達に手配された家だよ」

 

「わぁ……」

 

「2階建てなんだね」

 

「でも、ぼくん家より広いし大きいよ」

 

 自分達に用意された住居を見て感嘆の声を上げるドラえもん達。ソフィアは「少し小さくないかしら?」と思っていたが、ドラえもんやのび太達の話を聞いて言うのは止めた。

 

「うわぁ! 庭も家より広いや!」

 

「のび太さんったら……フフ。海藻がないと海の中ってことを忘れそうになるわね」

 

「そうだねぇ……うん? 何か忘れてるような……」

 

 家の中に入ったドラえもん達は内装や庭などを見て回っていた。のび太は中も庭も家より広いことで若干テンションが上がっているようだ。そんなのび太を見てしずかちゃんは苦笑しながら、庭に生えている海藻を発見して海の中にいることを忘れかけていたことに気づいた。ドラえもんもしずかちゃんにつられて苦笑し、何かを忘れていることに気づいた。しかし、そう簡単に思い出せないのか、うーんと唸りながら腕を組み目を閉じて思い出そうとしている。

 

「ドラえもんさん、どうかしたの?」

 

「体調が悪くなったならすぐ横になった方が良いよ」

 

「いや、大丈夫。別に体調が悪くなったわけじゃないんだ。ただ、何か大事なことを忘れている気がして……」

 

 ソフィアとエルは必死に何かを思い出そうとしているドラえもんを見て、体調が悪くなったのかと勘違いし、ドラえもんの心配をする。心なしか体が青くなっているように見えたらしい。 それは元からだが。

 自身の心配をしてくれたソフィア達に大丈夫とドラえもんは返し、思い出そうとしていたことを伝えた。

 

「そういえば、なんとなく息苦しく感じるような」

 

「私も……ちょっと頭が痛くなってきたわ」

 

「息苦しく……頭が痛く……あっー!! 忘れてた!!」

 

「わっ!? えっと……何を忘れていたんだいドラえもん君?」

 

「ちょっとびっくりしたわ……」

 

「のび太君としずかちゃんのテキオー灯の効果が切れかかっているんだ!! こんな大事なこと忘れていたなんて!」

 

 そう言いながら、ドラえもんは急いでポケットに手を突っ込んでテキオー灯を取り出し、体調が悪くなってきているのび太としずかちゃんに向けてテキオー灯の光を浴びせた。テキオー灯の効果は24時間。エル達に気絶させられたせいで、効果が切れかかっていることに気づくのが遅れてしまったのだ。そして、二人の効果が切れかかっていたということは、地下牢に囚われているジャイアンとスネ夫の方も同じく効果が切れかけているということだ。

 

「急いでジャイアンとスネ夫にもテキオー灯を使わないと大変なことになる!!」

 

「「ええっ!?」」

 

「なら早く向かいましょう!」

 

「仕方ないか……」

 

 ドラえもんはヤバイヤバイと焦り頭を抱え、のび太としずかちゃんはドラえもんの言葉を聞いて驚いている。唯一ソフィアだけが、冷静に地下牢に閉じ込められているジャイアンとスネ夫のもとへ向かおうと提案し、提案を聞いたエルは命に関わるのなら仕方ないと判断してドラえもん達を連れてもう一度地下牢に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

「うう……。苦しい……」

 

「頭が痛てぇ……うおぉ……」

 

 地下牢では、ジャイアンとスネ夫の二人がドラえもんの予想通り、テキオー灯の効果が切れかけて苦しんでいた。徐々に深海の水圧が体全体にかかってきており、間に合わなかった場合は壁か地面のシミになってしまうだろう。

 

「二人共、大丈夫!?」

 

 バンッ!と勢いよく鉄製の扉を開けて入ってきたのはテキオー灯を持ったドラえもんだった。入ってくるなり二人が大丈夫かどうか確認するが、効果が切れかけているので当然大丈夫ではない。

 ドラえもんは急いで痛みに呻いている二人にテキオー灯の光を浴びせる。

 すると、先程の痛みが嘘のように引いていき、ジャイアンとスネ夫はようやくドラえもんが自分達を助けてくれたことに気づいた。

 

「「ありがとうドラえもん〜!!」」

 

「うん。僕がもっと早めにテキオー灯のことを思い出してれば良かったんだけどね……」

 

 ジャイアンとスネ夫を襲っていた痛みは相当だったのか、その痛みから助けてくれたドラえもんに抱きつき、オンオンと泣き出した。

 

「間に合って良かったよ」

 

「そうね……」

 

「ぼく、ジャイアン達がペシャンコになってたらどうしようって考えてたよ……」

 

「のび太さん!」

 

 扉の外にいるのび太達はドラえもんが無事二人を助けることに成功したことを、二人の「ありがとう」と泣き声で察することができた。エルとソフィアはなんとか間に合ったことに安堵し、ため息を吐いた。のび太は最悪な想像をしていたことを打ち明け、しずかちゃんに叱られていた。

 

「おお!お前らも来てくれてたのか!」

 

「目が覚めたら真っ暗な部屋に閉じ込められてて、しかも時間が経つごとに苦しくなるしで最悪だったよ……」

 

「「「「エルさん……」」」」

 

 牢からドラえもんと一緒に出てきたジャイアンとスネ夫。二人はドラえもんだけでなくのび太やしずかちゃん、ソフィアもこの場に来てくれていたことに喜んだ。

 一方で、のび太達は二人の言葉を聞いて可哀想に感じ、エルにどうにかできないかと視線を送っていた。

 

「…………二人からは嘘つき性と凶暴性が検知されている。でも、言うべき時に礼を言える人間は意外と少ない。その点、君達二人はドラえもん君にきちんと感謝しありがとうと言えていた。その点を考慮して、牢に閉じ込めることは止めよう。悪かったね」

 

「「本当……?」」

 

「うん、本当だ」

 

「や、や……」

 

「「やったーッ!!!!」」

 

「「「「ありがとうエルさん!!!」」」」

 

「うん。まぁ、今回は君達を気絶させて無理矢理連れて来た僕らに責任があるからね」

 

 ちゃんとお礼が言えるなら極悪人ではないし、上からのお達しとはいえ子供を地下牢に閉じ込めておくのはやはり問題があるよね……と思い、エルは地下牢から二人の解放を許した。

 ジャイアンとスネ夫は、エルの言葉を一度では信じきれず本当か尋ねるも、エルは本当だと断言したため、もうあんな暗くて狭い所に閉じ込められないんだと思い大喜びする。ソフィア含めたのび太達も喜び、二人の解放を許してくれたエルにお礼を告げていた。まぁ、本来は気絶させて強制連行したムー連邦が悪いのだが。

 

 六人が喜び合っているのを見て、僕が見つけてしまったのだから責任を持って彼等の面倒を見なければとエルが気を引き締めたその時……!

 

 

ドオオオオオオオオオン!!

 

 

 突如、上の方から轟音が地下に鳴り響く。そして、音が鳴り響くと同時に激しい揺れがエルとのび太達を襲った。

 

「な、なんだ今の音と揺れは!?」

 

「音は上からだったよね」

 

「なら、地上で何かあったんだわ!」

 

「一度戻ろう!」

 

「「「「うん/ええ!!」」」」

 

 激しい揺れと轟音の正体を確かめるべく、エルとのび太達は階段を駆け上り、地上を目指した。そして、数分でエルとのび太達が地上に着くと、そこではとんでもない光景が広がっていた。

 倒壊した建物、逃げる人々、街を破壊し逃げる人々を追い回す怪魚族、その怪魚族と闘うムー連邦の兵士達。時折、宙で戦っていた怪魚族やムー連邦の機体が墜落しており、ムー連邦の首都のあちこちから煙と炎が上がっていた。

 

「これは……怪魚族が攻めてきたのか!? クソッ! なぜ、僕に連絡が来なかったんだ……」

 

「怪魚族……ッ!」

 

「じゃあ、さっきの音は怪魚族によるものってこと!?」

 

 突如起こった怪魚族との戦い。地下にいたエルとのび太達は大丈夫だったが、地上の首都ではかなりの被害が出ていた。ムー連邦が所有する兵器と怪魚族の所有する兵器は見た目こそ違えど、性能はほぼ互角と言っていい。しかし、現在の戦況はムー連邦側が押されている。なぜ押され気味なのか…………それは、怪魚族によって凶暴・巨大化した海洋生物達が暴れているからだ。

 

「ガオオオオオオオ!!」

 

「マズい! 巨大ナマコがこっちに来るぞ!」

 

「どうやって声を出してるんだろう?」

 

「そんなこと言ってる場合か! 早く逃げるんだ!!」

 

 どこから声を出してるかわからない不思議な巨大ナマコが、呆然としているエルとのび太達に気づいて向かって来た。楕円形の黒く巨大なナマコは、途中でムー連邦の飛行機から攻撃を受けながらも効いた様子はなく、蠕動運動で街を破壊しながら移動する。

 

「ナマコが蠕動運動するなんてどうなってるんだ!?」

 

「怪魚族が操っているのよ!」

 

 怪魚族に操られると本来の動きや大きさを無視できるようだ。ドラえもんはナマコの動き方に驚きながらもポケットに手を突っ込み、ショックガンを複数取り出した。そして、取り出したショックガンをソフィアとのび太達に渡し、ナマコを迎え討つことを提案する。

 

「おう、わかった!」

 

「射撃なら任せてよ!」

 

「君達正気かい!? アレには僕らの兵器すら効いてないんだ、君達は立ち向かうのではなく安全な所に避難するべきだ!特にソフィア様、あなたは誰よりも優先して行くべきです!」

 

「大丈夫だよエルさん。ドラえもんの道具は特別なんだ」

 

「ええ。私もドラえもんさんの不思議な道具には驚かせられたわ」

 

「本当は僕も逃げたいけど、ドラえもんの道具はある程度信用できるよ」

 

「スネ夫君……」

 

「…………はぁ、わかった。君達がそこまで言うなら仕方ない。僕も共に戦おう」

 

 兵士ですらない彼らが戦う理由はないと避難を優先しようとしたけど、全員が戦うことを決めているし、その考えを変えさせるのは簡単ではなさそうだ……

 そう思ったエルは自身の考えを変え、共に戦うことにした。鞘から剣を抜き、ショックガンをナマコに向けているドラえもん達に並び立って剣の切っ先を向けた。

 

「みんな、今だ!」

 

「「「「えいッ!!」」」」

 

「「はあっ!!」」

 

 ドラえもんの合図で各々ショックガンの引き金を引き、進撃するナマコに向けて光線を放った。エルの方は剣の切っ先から電撃を放っている。ドラえもん達からナマコまで多少距離はあるものの、障害となる建築物はナマコが進撃する際の振動で破壊してしまっている上に、ナマコ自体が巨大なので攻撃が外れる心配もない。

 

「キュオオオ……」

 

 ショックガンの光線と電撃が無事直撃したナマコは、凶暴・巨大化していると言っても所詮はナマコなのであえなく気絶。ドラえもん達に到達する前にナマコの進撃を止めることができた。そして、気絶したナマコはドラえもん達の前でシュルシュルと縮んでいき、最終的に元の大きさのナマコに戻った。

 ドラえもんは元の大きさに戻ったナマコを手に取る。

 

「ドラえもん、そのナマコはどうするの?」

 

「一旦ボクのポケットに入れて、後でちゃんとした場所に返してあげるつもりだよ」

 

「その方がいいわね」

 

「ありがとうドラえもん君。それにしても……僕らの兵器が一切効いていなかったのに、一撃で気絶させるなんてもの凄い道具を持っているんだね」

 

「ドラえもんは未来のロボットだからね!」

 

「タヌキ型のな」

 

「失礼なッ、猫型ロボットた!」

 

 ドラえもんの意見にソフィアやエルも賛成するが、エルはドラえもんの道具にも興味を示した。

 ドラえもんの道具に興味を持ったエルに、未来のロボットだからとなぜか自慢げに語るのび太。その側でジャイアンがタヌキ型だと言って、ドラえもんに怒られていた。

 

「巨大ナマコを倒した以上、ここに誰かがいるということは怪魚族にもバレているはずだ。早く移動しよう」

 

「どうする、ドラえもん?」

 

「ナマコは巨大で的が大きかったから良かったけど、怪魚族を相手にゲリラ戦をするのはボクらじゃ難しい。エルさんの言う通り移動するべきだと思う。ソフィアさんもそれでいい?」

 

「ええ。悔しいけれど、状況を詳しく把握できてない今は情報を得られる場所まで移動するべきだと、私も思うわ」

 

「みんなもいいかい?」

 

「「「「おう!/了解!/うん!/わかったわ」」」」

 

 怪魚族に見つかって戦闘にならないように移動しようと伝えるエル。それを聞いたのび太がどうするべきかドラえもんに質問し、ドラえもんは自分達が怪魚族の相手をすることの難しさを伝えた。そして、ドラえもんはソフィアと四人に確認を取った。

 

 エルとドラえもん達全員が移動することを決め、早速動こうとしたその時。

 

 倒壊した建物の瓦礫の影でドラえもん達の会話を盗み聞きし、しめたぞ……!と笑っていた怪魚族の男が槍を構えて飛び出した。瓦礫を飛び越えながら一直線にソフィアの方へと駆け抜け、射程範囲内に入った瞬間、男はソフィアを狙って槍の先から電撃を放つ。

 

「ッ! ソフィアさん危ないッ!」

 

「えっ?」

 

 放たれた電撃は勢いよく射線上にいるソフィアへと進んでいく。しかし、偶然のび太が自分達の背後から近づいてきていた怪魚族の男に気づき、男が放った電撃の射線上に割り込むことで変わりに電撃を浴びて、ソフィアを庇った。

 電撃を浴びたのび太はしばらく痙攣すると、気を失ってその場で倒れてしまう。

 

「「のび太さんッ!?」」

 

「そんなッ……のび太君!?」

 

「チッ! 小僧が盾になったか」

 

「のび太!! このぉッよくもやったな!!」

 

 倒れたのび太に急いで駆け寄るソフィアとドラえもんとしずかちゃん。スネ夫は突然の出来事に驚き、アワアワと行動できずどうすればいいのかわからないでいた。

 

 一方、怪魚族の男は狙い通りに事が運ばず舌打ちし、再びソフィアに向けて槍を構えた。だが、今度は電撃を放つことができなかった。なぜなら、ジャイアンがのび太が撃たれた怒りでショックガンを乱発し、エルがそれを掻い潜って剣を振るってきたからだ。

 

「ふっ! はあっ!!」

 

「くっ……! この俺が、女子供に負けるわけが……ぎゃあッ!!」

 

「今だ、はあァー!!」

 

 エルの鋭い太刀筋とジャイアンの放つショックガンの光線によって、防戦一方となって焦る怪魚族の男。そんな男の後ろから尻に目掛けて飛び込む存在がいた。それはソフィアにハリ坊と呼ばれていた黄色いハリセンボンの人魚で、頭の髪の毛のような部分をピンッと尖らせて怪魚族の男の尻を突き刺していた。

 尻を突き刺された男はあまりの痛みに声を上げて飛び上がり、その隙を見逃さなかったエルは剣に電撃を纏わせ男を袈裟斬りにして、男を気絶させた。

 

「はぁ……はぁ……ふぅ。ハリ坊さん、助かりました。ジャイアン君も助かったよ」

 

「俺様にかかればこんなもんよ! ……ハッ!のび太ァー、大丈夫かー!?」

 

「姫様をお守りすることは兵士として当然のことです! って、そんなことよりも姫様ァー!!」

 

 気絶させた男を動けないように縛り上げたエルは、助力してくれたジャイアンとハリ坊に礼を言う。礼を言われたジャイアンとハリ坊はやや自慢げに返答すると、それぞれハッとしてのび太とソフィアの所へと駆けて行った。エルは二人の行動を見て苦笑いしながらも、二人の後を追っていった。

 

「のび太さん! のび太さん!」

 

「ドラちゃん、のび太さんが目を覚まさないわ!」

 

「そんな……のび太……」

 

「ハァ……ハァ……おい、ドラえもん! のび太は……のび太は大丈夫なのか!?」

 

 ソフィアが倒れたのび太を揺さぶりながら一生懸命声をかけ、しずかちゃんはのび太が目を覚さないことに嫌な予感を覚える。スネ夫は最悪の可能性を考えて瞳から涙を溢れさせている。ジャイアンは怪魚族の男と戦っていた場所から急いで戻ってきて、倒れているのび太を見た瞬間、ドラえもんの胸ぐらを掴み上げ声を荒げながらのび太が大丈夫なのかどうか確認を取ろうとする。

 

「む……あの時の地上人ですか」

 

「のび太君というあの眼鏡をかけた子が、ソフィア様を庇ったんだ」

 

「なっ……それは本当ですか!? 地上人がそんなことを……」

 

 ソフィアに何か報告をしようとやって来たハリ坊は、六人の様相を見て困惑しながらも、エルと共に捕らえた地上人だと気づく。ハリ坊が思わず漏らした言葉をエルが聞き取り、エルはあの状態に至る経緯を伝えた。

 

「みんな落ち着いて! のび太君は気を失っているだけみたいだ。命に別状はないよ」

 

「「「「本当!?」」」」

 

「うん。のび太君はちゃんと生きてる」

 

「うおおおおおおおん!! 良かったあぁー!!」

 

「のび太さん……良かった……」

 

「グスッ! ……僕はのび太のやつがこんなことで死ぬ筈ないってわかってたんもね!」

 

 ドラえもんは四人を落ち着かせ、のび太が無事であることを伝える。すると、四人は一度では信じ切れないのか、本当かどうか再度確認し、ドラえもんがちゃんと生きていると言い頷くと泣き出した。ジャイアンは大声で泣きながらも良かったと安堵し、スネ夫は最悪の予想が外れてホッとしながらも最初からわかっていたと言う。嘘こけ。

 

「良かった……ちゃんとお礼も伝えていなかったから、後で目を覚ましたら言わなきゃね」

 

「ソフィア様、ちょっといいかな?」

 

「エルさん?」

 

「姫様、その地上人の無事を喜んでいる最中に水を刺すようで悪いのですが……至急、伝えなければならないことがあります」

 

「ハリ坊……至急伝えたいことって?」

 

「今現在、ムー連邦とアクアベースは怪魚族に攻め込まれており、怪魚族は我らの住むアクアベースに主力を割いているようで、アクアベース側はかなりの被害を受けています。さらに、海底火山の噴火がムー連邦から報告のあった鬼岩城近辺で発生する見込みありとの情報もあります」

 

「そんなッ……!」

 

「えっ、鬼岩城付近で海底火山の噴火だって!?」

 

 ソフィアもドラえもんからのび太の無事を聞いて安堵していると、ハリ坊を連れたエルに声をかけられる。エルはソフィアがこちらに意識を向けたことを確認するとハリ坊に目線で合図する。

 合図を受けたハリ坊は至急伝えなければならない情報を伝えて、ソフィアは怪魚族がムー連邦だけでなくソフィア達が住むアクアベースにも攻め込んでいることに驚き、エルは鬼岩城付近で海底火山が噴火する可能性があるということに驚いた。

 

「ソフィアさん! エルさん!」

 

「みんな、のび太君を中心にして背中合わせになるんだ!」

 

「ドラえもんさん……? ハッ! いつの間に……!!」

 

「囲まれている……」

 

 ハリ坊の報告に二人が驚いていると、のび太を連れたドラえもん達がやって来た。ドラえもんは全員に背中合わせになることを伝えると、ポケットからひらりマントを取り出し、全員に持たせた。ソフィアやエル、ハリ坊は最初どういうことだと困惑していたが、ドラえもん達の視線を辿って、自分達が十人以上の怪魚族に囲まれていることに気づいた。

 この人数差だと、全員が逃げることは難しい。自分とハリ坊さんで奴らの足止めをすれば、彼らを逃すことができるか……?

 同じようなことを考えていたエルとハリ坊は、互いに視線を送るだけで自分達のすべきことを認識し、覚悟を決める。 

 

「ヘッヘッヘ! まさか、こんなところに人魚族の姫がいたとはなぁ……痛っ、舌切っちまった!」

 

「お前達、さっさと捕まえて剣の在り処をはかせるぞ! 行けぇ!」

 

「「「「「ウオオオオオオオオオオオ!!」」」」」

 

 一方で、ドラえもん達を包囲している笑いながらナイフをペロペロしている男に、一際大きくゴツい男、モヒカン頭の怪魚族の男達。リーダー格でもあるゴツい男が指示を出すと、モヒカン頭とナイフをペロペロしていた男達は雄叫びを上げながら突撃していった。

 

「なんだ……こりゃあ!!」

 

「身動き一つとれやしねぇ!」

 

「クソッ!! 何なんだ、この鎖はよぉ!」

 

 しかし、突如宙に出現したいくつもの鎖によって彼らは身動きを封じられ、ドラえもん達に傷一つ負わせることができなかった。…………いや、それだけではない。ムー連邦に攻め込んできていた全ての怪魚族と、凶暴・巨大化している海洋生物達を鎖は縛り上げ、一切の動きを封じていた。金色の波紋から伸びる鎖は、彼らが逃れようとすればするほどより彼らを縛る力が強くなる。

 

「一体、何が……」

 

「ハリー!! 何ですかこの鎖は!? それにあの波紋は一体!?」

 

 エルとハリ坊も、覚悟を決めて突撃しようとしていたところに現れた謎の鎖と波紋に驚く。無数の鎖が意識を持っているかのように奴らを縛り上げた光景は、エルとハリ坊にとっては初めて見るもので、一体誰の仕業なのかまるで見当がつかなかった。

 しかし、ドラえもん達にとっては何度か見た光景であり、ソフィアも一度見たことがあったため、この光景を作り上げた者の正体に気がついていた。

 

「ねぇ、ドラえもんさん。これって……」

 

「ソフィアさんの考えている通りだよ。これは、クロの無限の鎖だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【海底火山の噴火】
 海底鬼岩城で発生する噴火。原作では鬼岩城のポンコツAIが噴火を他国からの攻撃と勘違いして、核をばら撒こうとしていた。

【ナマコ】
 ナマコは本来、海流に流されて漂いながら場所を移動します。そのため、どこまで移動できるかは運次第! ただし、ヒメカンテンナマコとかは足を使って移動できます。当小説のナマコは足がない方です。

【クロ】
 待たせたな!(スネーク風)


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39話

卒論がッ! 就職活動がッ! 終わらないィィッー!!

また長くなってしまいそうだったので、途中で切りました。



 

 ただのキャンプのはずだったのに、七面倒な事態になった。

 タイムテレビでドラえもん達を連れ去った者共の正体を暴き、救出しようとした矢先に始まった怪魚族による戦争。ムー連邦に向かう途中、トラギスとかいう男が率いていた一部隊、それと戦っていた海底人、人魚族数名の争いに巻き込まれたから、全員を返り討ちにして記憶を読んだのだが、そこでかなり面倒な事になっていると判明した。どうしてこんなことに……

 怪魚族の王ブイキンの狙い、人魚族と海底人の思惑、人魚の剣、バミューダ三角海域に存在する鬼岩城、海底火山の噴火…………

 

『海底人の住うムー連邦に人魚族が暮らすアクアベース、怪魚族、海底鬼岩城……どれから手をつけるべきか』

 

「現在、怪魚族はムー連邦とアクアベースの両方を襲っていますが、ムー連邦にはドラえもんさん達がいます。当初の予定通り、ムー連邦の方から先に解決するのがよろしいかと」

 

『…………それもそうだな』

 

 冥とそのような会話をして、吾輩達はタイムテレビと千里眼で特定したムー連邦へと赴き、襲撃している全ての怪魚族を無限の鎖で縛り上げたのだ。

 

「クロ! 良かった、無事だったんだね!」

 

 転移で現れた吾輩に駆け寄ってくるドラえもん達。六人は吾輩や冥の無事を喜んでくれていたが、何かを思い出したのか、ハッとすると大変なんだと慌てながら吾輩に事情を話し始めた。

 

「…………というわけなんだ」

 

『なるほど、大体理解した……のび太……』

 

 ムー連邦が通達した指示や、吾輩が来る前にのび太がソフィアを庇って怪魚族の攻撃を受けて気絶してしまったことを知った。

 吾輩がもう少し早くここに来れていれば、のび太は気絶することもなかったはずなのに……間に合わなかった。ソフィアを庇ったことは勇敢な行為ではあるが、そもそも子供が………いや、これ以上は止めておこう。全てはムー連邦と人魚族、怪魚族、そして間に合わなかった吾輩の責任なのだから。

 

「クロ様」

 

『うむ。ドラえもんとソフィア、あそこにいる二人も呼んでくれ。皆に話したいことがある』

 

「エルさんと……」

 

「ハリ坊を?」

 

『ここに来る途中で返り討ちにした怪魚族の記憶を読んで、奴らの狙いがわかった。そして、お前たちから聞いた鬼岩城での海底火山噴火の予想。どちらも早急に解決せねばならない問題故、情報を共有して作戦会議をしたいのだ』

 

「なるほど、わかったよ!」

 

「なら、私が呼んでくるわ」

 

 吾輩がドラえもんとソフィアにエル殿とハリ坊を呼んでくるよう理由を含めて頼むと、二人は了解してくれた。ただ、ソフィアの方が二人を呼びに行って、残ったドラえもんはより詳しい情報を先に共有しておきたいみたいだ。なので、ソフィアが二人を連れてくるまでドラえもんと情報共有を図ることにした。……ちなみに、のび太を抱えたジャイアンとスネ夫、しずかちゃんは冥に対応を任せている。

 

「クロさん、呼んできたわ」

 

「ハリーッ!? 黒いフグなんて初めて見ました!」

 

「アハハ……えっと、君がクロでいいのかな?」

 

『ああ、吾輩がクロである』

 

 ドラえもんと話していると、ソフィアが二人を連れてきたので一旦中断し、初対面の二人に自己紹介をした。吾輩を見た二人の反応は驚きと苦笑であったが、エル殿の方はハリ坊とやらの反応に対してのものだったように思える。

 ……というか、吾輩はフグではない、ネコである。

 吾輩が念話を二人にも使って返事をすると、二人とも目を見開いて驚いたというような顔をした。ハリ坊とやらは「喋ったー!?!?」などとデジャブを感じる反応もしてくれたが。

 

 吾輩が二人に返事をした後、ドラえもんとソフィアも交えて情報の共有と今後の話をした。

 優先すべき事柄は、怪魚族から読み取った今回の戦争の目的である「人魚の剣」と鬼岩城付近で発生が予想されている「海底火山の噴火」だろう。海魚族はどうやら人魚族が「人魚の剣」を持っていると思っているようだが、ハリ坊やソフィアの話を聞くと、人魚族は剣を持っていないしどこにあるかもわからないらしいのだ。剣が関連する伝説はあるが、場所がわかるような情報はないようだ。

 怪魚族が剣が無いと知って大人しく帰るとは思えないし、万が一の場合に備えて剣を探す必要があるだろう。

 

「その剣探しについては任せて! いい道具があるんだ……えっと……『宝さがしペーパー』と『あぶり出し暖炉』!」

 

 そう言ってドラえもんが取り出したのは二つのひみつ道具だった。『宝さがしペーパー』と『あぶり出し暖炉』……この二つの道具について、ドラえもんがソフィアに実践してもらいながら説明してくれた。

 ドラえもん曰く、人や物がどこにあるかを一部切り取った『宝さがしペーパー』に尋ねながら『あぶり出し暖炉』の熱をあてると、その場所を示すヒントがペーパーに現れるらしい。

 

「これはッ……!」

 

「ハリーッ!」

 

『なぞなぞ形式か……』

 

「ドラえもんさん、もっと簡単に場所を知る方法はないのですか?」

 

「ごめん……ボクが今持っている道具じゃ、これが一番なんだ」

 

 ソフィアがドラえもんの説明を聞きながら実践に移り、ちぎったペーパーに人魚の剣の在り処を尋ねて暖炉の熱をあてると、ドラえもんが言っていた通りにヒントが炙り出された。だが、出てきたヒントには少し問題があった。

 

 ——輝く金と赤を揃え——

 ——真の持ち主へと届けよ——

 ——その者は、ねころんだお家の真ん中で待っている——

 

 という……なんと、出てきたヒントはなぞなぞ形式だったのだ。これには我輩たちもビックリ。

 エル殿がドラえもんに別の方法がないか尋ねるも、ドラえもんはこれが一番なんだと答える。ドラえもんの道具は基本的に規格外だが、あくまで子守用の道具なのだ。このようなおちゃめな機能がついていてもおかしくはないのだが……この状況では合わないだろう。まぁ、ドラえもんが今持っている物探し系道具の中ではこれが一番らしいから、仕方ないか。

 

「ねぇ、ソフィアさん。このヒントに何か心当たりはある?」

 

「そうね……輝く金と赤についてはなんとなく程度だけどあるわ」

 

「本当ですか姫様!?」

 

「ソフィア様、輝く金と赤は一体……?」

 

「私がさっき説明した人魚族の伝説に輝く金と赤が関係すると思う話があるの」

 

 ドラえもんがソフィアに心当たりがないか尋ねると、ソフィアは最初の一文についてはあると言う。それは何なのかとエル殿が問うと、ソフィアは人魚族の伝説の中に関係すると思われる話があると答えた。そのまま、ソフィアは伝説について話す。

 人魚族の伝説——正確には神話だが——にマナティアという勇者が出てくるのだが、そのマナティアが怪魚族の目的でもある『剣』と鎧、ティアラを装備していたとされているそうだ。人魚の剣を使って人魚族の願いを叶えてくれたとか。そして、重要なのはマナティアが装備していた剣と鎧と髪飾りで、これらは黄金で作られており、それぞれ同じ赤い宝石が装飾されているという伝説が残されていることだった。

 

「私が着けているこのティアラは代々王家に受け継がれてきた物なのだけど、マナティアが着けていたとされている物でもあるの」

 

 頭につけていたティアラを外して、吾輩たちに見せながらそう言うソフィア。その手に持つティアラは金色で赤い宝石が装飾されている。マナティアが着けていたとされるティアラが目の前にあり、伝説の通りの色をしているということは、剣と鎧も伝説の通りである可能性が高いだろう。

 

『最初の一文がマナティアの装備であるならば、“輝く金と赤を揃え”という文章にも納得がいくな。剣を探しているのだから剣は当然除外するとして、ティアラは既にソフィアが所有している。だとすると、残りは鎧の方だろう』

 

「ソフィアさん、鎧がどこにあるか知ってる?」

 

「それが……」

 

「鎧は……怪魚族に奪われてしまっているのです!」

 

「「ええッ!? 本当なの!?」」

 

「本当よ……おばあ様からも聞いているわ。ずっと昔、アクア星に怪魚族が攻めてきた時に鎧を奪われてしまったそうよ」

 

「そんなぁ……」

 

「つまり、怪魚族から鎧を奪い返さなければならないわけか」

 

 万が一のために剣を探しているというのに、敵から鎧を奪う必要があるとは……中々難しいな。それに、まだ問題が残っている。

 

『加えて、残りの文章が謎のままというのもあるな。“真の持ち主へと届けよ”は王族かマナティアの可能性が高いが……最後に関しては全くわからん』

 

「“ねころんだお家の真ん中で待っている”か…………」

 

「家が寝転ぶなんてあり得ないですよ!」

 

「何かの例えだと思うけど……なんだろう?」

 

 家が寝転んだような形ということかもしれないが、そもそも家の形など千差万別。おそらくマンションやアパートなどではなく個人住宅だと思うが、それでも地域によって大きく違いがでる。今すぐには思いつかないな。

 

『この謎解きはドラえもんとジャイアン達に任せよう。吾輩の予想では、ヒントは人魚族の都であるアクアベースにあるはずだ。そこに冥と一緒に行ってくれ。』

 

「わかった、任せといてよ!」

 

「いや、君達をこれ以上巻き込むわけにはいかない。ここまで協力してくれて感謝はしているが、君達はムー連邦の避難所に行くべきだ。謎解きは僕達の誰かがやろう」

 

「エルさん……」

 

『何を言うかと思えば……そもそも巻き込んだのはお前達だろう。それに、これから話す鬼岩城のこともある。吾輩も本来であれば参加させたくないが、今は少しでも人が必要だ』

 

「その黒フグの言う通りです! 我々のアクアベースも被害を受けている以上、人は必要です!」

 

「うぅ……それは、そうですが…………わかりました」

 

 吾輩が謎解きをドラえもん達に任せようとすると、エル殿……エルがこれ以上巻き込むわけにはいかないと反対してきた。お前達海底人と人魚族が勝手に巻き込んでおいて、どの口が言うのか。それに、鬼岩城が保有しているとされる爆弾が全世界に放たれたらどこにも安全な場所などない。それと、ハリ坊は次名前を間違えたら焼き魚にして食ってやる。

 気絶しているのび太は安全カバーに入れれば、敵の襲撃にあったとしても大丈夫だろう。今は一つしか持ってないから、残りの四人には『四次元若葉マーク』を預けておこう。

 

『ドラえもん、これらを預けておくから、動くとき全員に貼り付けておいてくれ。あと、これはのび太に』

 

「これは『安全カバー』と『四次元若葉マーク』!  わかった、後で皆に説明して貼り付けておくよ。のび太君はカバーに入れて……」

 

『冥に担がせよう。本当は安静にしてた方がいいんだが、今はそうも言ってられない状況だからな』

 

 この状況でのび太をムー連邦に置いて行ったら、ムー連邦側がどう出るのかわからないからな。エルはああ言っていたが、地上人を嫌っているムー連邦なら気絶しているのび太を人質にして、吾輩達を無理矢理戦線に立たせることもあり得る。

 

『さて、人魚の剣とその謎解きについてはひとまず結論が出た。次は、鬼岩城についてだ』

 

「確か、恐ろしい兵器を保有していて、迂闊に近寄ると世界が破滅するかもしれないんだよね」

 

「……その通りだよ。ただ、それ以外に最も注意すべき点がある」

 

『バミューダ三角海域のバリヤーか』

 

「ッ! どうしてそれを……?」

 

『さてな。それよりも鬼岩城の話だ』

 

 ここに来る途中で兵士から記憶を読んで知ったが、わざわざ言う必要はあるまい。そんなことよりも、鬼岩城を囲うバリヤーをどう越えるかが重要だからな。

 鬼岩城を囲うバリヤーは目に見えず触れることもできない状態で、海底から空まで伸びているらしい。しかも、放射能すら通さないとは……かなり高性能なバリヤーだ。まぁ、それが近因して鬼岩城と共に元々存在した国が滅びたのは皮肉としか言いようがないが。

 

「空まで伸びるバリヤー……どうすればいいんだろう?」

 

「むむむ……思いつかないです!」

 

「ハリ坊……諦めるのが早いわ」

 

 バリヤーのことを知ると、どうすればいいのか考え出すドラえもん。ハリ坊は早々に考えるのを諦めて、ソフィアに叱られている。当たり前だが。

 

『バリヤーに関しては我輩に策がある』

 

「「「策?」」」

 

『ああ。実はな…………』

 

 バリヤーのことを知ってから考えていた策を、三人に聞かせる。すると、三人は一様に驚いてから、「確かにこれなら……」とつぶやいた。

 

『吾輩の策が成功すれば、バリヤーを越えて鬼岩城に侵入できるだろう。中に充満しているであろう毒素のことを考えると、吾輩一人で行きたいところだが……』

 

「僕も行くよ。ドラえもん君も使っていたテキオー灯があれば問題ないしね。それに、鬼岩城に行くなら首相に話を通しておく必要がある」

 

『……是非もなし、か。ソフィア達はどうする?』

 

「私達は、ドラえもんさん達と一緒にアクアベースまで戻るわ。今も怪魚族に襲われているはずだから、助けないと」

 

「ハリーッ! 当然、私もついて行きますよ!」

 

『ふむ、了解した。これで情報の共有は済んだな。では早速、各々動くとしよう……時間も無駄にはできないしな』

 

 重要な情報を共有し、それぞれがやることを認識した以上、ここで留まっておく必要はない。特に、海底火山の噴火は怪魚族に比べてリミットも近いし危険度も高い。さっさと行くとしよう。

 

 




【宝さがしペーパーとあぶり出し暖炉】
 人魚の剣を探すのに用いた道具。二つセットで登場したのは映画のみで、漫画の方ではペーパーだけだった。切り取ったペーパーに向かって人や物を尋ね、熱をあてるとなぞなぞ形式で探し物のヒントが炙り出されてくる。ちなみに、映画と漫画でヒントが違う。今回出てきたヒントは、漫画版の方を少し変えたものとなる。

【ハリ坊】
 映画でも漫画でも騒がしいキャラクター。映画ではよく「ハリッー!」とか言っていた気がするので、作者は適当にハリハリ言わせとけばええやろと思っている。

【四次元若葉マーク】
 この道具を貼ったものは四次元空間に入った状態となり、壁でも建物でも何でもすり抜けることができる。ただし、この若葉マークを貼ったもの同士だとすり抜けずにぶつかってしまうことも。ある意味、神威みたいなもの。止めてくれカカシ、その術はオレに効く。

【クロ】
 せっかく登場したのに、出番はまだ先だった模様。



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40話

ポケモンV。 バトルの際にキャラが瞬間移動したり、バグがあったりと中々面白いですね。ヒソカみたいなライバルがいたりとキャラクターも個性的で愉快ですよ。皆さんはどのキャラクターが好きですか?
 ちなみに、作者はナンジャモが好きです。オハコンハロチャオ〜!

誤字報告感謝。誤字修正しました(2022年11月29日)


 

『これがバリヤーか……』

 

「あっという間に着いた……」

 

 吾輩は今、エルと共に鬼岩城を囲うバリヤーの前に来ていた。

 ドラえもん達との情報共有および作戦会議を終わらせた後、エルと二人でムー連邦の首相をおど……説得して鬼岩城に行く許可を得た。そして、転移を繰り返しながらムー連邦から移動し、ようやく到着したというわけだ。

 

『では、吾輩の策を早速試してみるとするか』

 

「気をつけて。この付近で大きな音を立てると、鬼岩城の武装した無人艇がやってきてしまうから」

 

『ああ』

 

 念動力で人一人通れるくらいの穴を掘削する。吾輩によって掘り返された海底の土が舞っていき、吾輩とエルの視界を奪ってくが、千里眼を用いれば問題はない。

 吾輩の策とは、穴を掘って地中からバリヤーを越えるというものだ。バリヤーは地面から伸びているが、地中には通っていないと考えたのだ。もし通っていた場合は次善策として宇宙から侵入する方法を考えている。エルから空まで伸びているという話は聞いてるが、宇宙までかはわからないらしいからな。万が一の場合は試してみる価値はあるだろう。

 む……どうやら、吾輩の考えは正解していたらしい。ちょうど今、バリヤーの真下まで穴を掘り、何事もなく通過することができた。あとは、鬼岩城まで一直線に伸ばせばいい。

 

『ふむ……無事、バリヤーの真下を通過できたぞ』

 

「おお! ということは、クロさんの読み通りだったわけだ!」

 

『うむ。では、行こうか』

 

 バリヤーの真下に穴を掘ることができたので、そのことをエルに伝え、次の行動に移ることにした。と言っても、掘った穴にダイブして地中から鬼岩城に向かうというだけだがな。吾輩から先に穴へと入り、その後ろからエルが入ってくる。そして、吾輩たちは地面の中で移動を始めた。

 このバリヤーがある場所から鬼岩城まではそこそこ距離があるようで、地中を穴掘りしながら進むと大体2時間くらいかかる。できるだけ急ぐつもりではあるが、大きな音を立てるのはマズいらしいからな。中々もどかしい。

 

 地中を進んで1時間くらい経った頃だろうか、吾輩達がいる場所に鬼岩城のロボットが5体やってきた。イルカに似た乗り物に乗っていて、三叉の槍を手に持ち、深海魚をイメージしたかのような姿をしている。エル曰く、鬼岩城がある神殿を守るロボット騎士団で、今来ているのはその一部だろうと。

 

「彼等は恐ろしく耳がいいと聞いています。一旦、止まりましょう」

 

『ああ……ッ!』

 

 ドカンッ!!という轟音と共に爆発が起きる。

 咄嗟の判断でエルを連れて外に転移したが、もう少し転移するのが遅かったら、吾輩達はロボット兵が放った攻撃によってできたクレーターの一部となっていただろう。

 エルの小声での注意を聞き取ったのか、あるいは止まるのが遅く、念動力による掘削の音が聞こえてしまったのか……どちらかはわからないが、バレてしまったらしい。

 

『バレたのなら仕方ない。ここで蹴散らす』

 

 槍を向けてきた5体のロボット兵の腕を念動力で切り落とし、蔵から石を射出して頭を破壊する。大体2秒程度で終わったな。石で頭を破壊したせいでそれなりに大きい音が響いてしまうが、ロボット兵の攻撃ですでに爆音が響いてるから今更だろう。他のロボット兵がここに近づいて来ているのも千里眼で捉えている。

 

「凄い……一瞬であの鉄騎隊を……」

 

『隠密重視だったが、バレてしまった以上仕方ない。鬼岩城に直接転移するぞ』

 

「わかった、準備はできてるよ」

 

 破壊したロボット兵を蔵にしまい込み、一瞬でロボット兵を破壊したことに驚いているエルへと話しかけた。

 意外にも、驚いていたエルは吾輩に話しかけられるとあっという間に意識を切り替え、鞘から剣を抜いて準備を完了させていた。伊達に兵士はやってないというわけか。

 

 その後、鬼岩城内部に転移した吾輩とエルは、襲ってくる大量のロボット兵を打ち倒しながら、最奥へと向かった。鬼岩城内部はいたるところにパイプが通っていて、城と言うよりは機械室のような感じだな。パイプの上から、通路の奥から、本来の入口から無数のロボット兵が押し寄せて来るが、吾輩の敵ではない。吾輩が瞬きの間に物言わぬ骸に変えたからだ。まぁ、元々何も話さないようだが。倒したロボット兵を回収してると、エルから何か意を含んだ視線を感じたが努めて無視した。

 

 倒したロボット兵を回収し終え、再び最奥へと向かうことにしたのだが、途中でさっきと同じようにロボット兵が無数に現れて襲ってくる。吾輩とエルで既に100近くは倒したのではないだろうか。それでも、襲ってくるロボット兵の量は変わらない。もしかすると、この鬼岩城にはロボット兵を大量生産する場所があるのかもしれないな。

 

「この扉の向こうにアトランティスと鬼岩城の管理しているコンピューター……ポセイドンがいるはずだ」

 

『大層な名前だが、その割には海底火山の噴火を他国の攻撃と勘違いしてるし、ポンコツなのでは?』

 

「アハハハ……」

 

 無数のロボット兵を倒し、遂に大きな扉がある最奥へとたどり着いた吾輩とエルは、扉の向こうにいるであろう存在について話していた。

 エルによると、この鬼岩城の管理も行ってるというコンピューターが扉の向こうにいて、その名前がポセイドンと言うらしい。この情報は吾輩が読み取った兵士の記憶には無かったから、少し驚いている。噴火と他国の攻撃を間違えるコンピューターがポセイドンって……名前負けしてないかと。

 吾輩がそう言うと、エルは苦笑しながら扉に手をかけた。

 

『では行くか。さっさと終わらせよう』

 

「うん。じゃあ、開けるよ」

 

『うむ。これは……』

 

 エルが扉を開けると、巨大な機械が四方に存在し、中央には兜を着けた頭のような機械が浮遊している光景が目に入ってきた。

 部屋の中にはマントを着けたロボット兵が2体いて、そいつらは吾輩達が扉を開いて入ってきたと同時に襲ってきた。幸いというか、ロボットの性能は今まで襲ってきたやつらとそう大差なかったようで、一体はエルが剣で倒し、もう一体は吾輩が念動力で倒した。

 

「フンッ! 愚かな虫ケラがッ」

 

『ドラえもん達が心配なのでな、さっさと終わらせてもらう』

 

「よ、容赦がない…………当たり前だけど」

 

 中央に浮いていたポセイドンであろう機械が話しかけてきたが、それを無視して粒機波形高速砲で真っ二つにした。敵の前でダラダラと話している暇があるなら攻撃するべきだろう。

 真っ二つの残骸になったポセイドンを放置して、吾輩は千里眼でこの城にある兵器を探す。鬼角弾とか言う核兵器がこの城に大量にあるらしいからな。そのまま放置して噴火に巻き込まれたら、放射能がバリヤー内に撒き散らされ、侵入したものを殺す死の海になるだろう。…………ん? それって今と変わらなくないか? まぁいいか。

 

『よし。確認できた分は全て回収できた』

 

「なら早くここから出よう。そろそろッ!」

 

『噴火が近いようだな』

 

 回収できたことをエルに報告すると、この海域から出ようと提案するエル。しかし、その途中で大地が揺れ始め、海底火山の噴火が近いことを知る。

 

『ひとまずムー連邦に戻ろう』

 

 噴火に巻き込まれる前に鬼岩城からバリヤーの所までエルを伴って転移し、地中を通ってバリヤーを越える。そして、ムー連邦の首相官邸前まで連続で転移した。首相官邸前に人は誰もおらず、気になって千里眼で覗いてみると会議室のような場所に首相と他の大臣数名がいて、兵士のほとんどはムー連邦からいなくなっている。おそらく、人魚族の加勢に向かったのだろう。

 

「あっという間に戻ってきた……」

 

『ではエル、後は頼んだぞ』

 

「うん。本来は関係ない君達を巻き込んでしまったんだ、なんとしても説得してみせるよ」

 

 吾輩の言葉に強い意思をもって頷くエル。鬼岩城の問題を解決したら、ドラえもん達の解放の許可を得ることをエルと約束してもらったのだ。エルが失敗したら意味ないが、そこはエルを信じるとしよう。

 官邸の中へ入っていくエルを見送り、吾輩もドラえもん達がいる人魚族の都……アクアベースへと向かおう。位置は人魚族から記憶を読み取って把握してるから問題もない。

 

 …………この問題を解決したら、しばらく海には行くのをやめようかな。

 

 

 




【ロボット騎士団】
 魚人をイメージして作られたと思われるデザインをしたロボット。鉄騎隊とも呼ばれている。常に手に持っている三叉槍の先からはビームが発射可能。耳がとてもよく、地中の音も聞き取ることができる。なお、全てポセイドンが操作しているため、ポセイドンが倒されると自動的に停止する。

【ポセイドン】
 既に滅んでいるアトランティスの防衛を行うAI。国が滅んでいることを知らず、噴火を他国からの攻撃だと勘違いし、間違いを認めようとしない頑固なポンコツ。自称「復讐の神」。漫画版だと10p以下しか出番がなく、映画版でも出番が多いとは言えず、しかも簡単に倒されてしまった。そのため、この小説でもおしゃべりの途中で倒された。

【鬼角弾】
 アトランティスが開発した核兵器。地上も含めた全世界に発射できるほどの量があるらしい。既に滅んでいるとはいえ、同じ海底人がこんなん開発してる時点で地上人のこと言えなくね。


 人魚大海鬼岩城編ナゲェ。次のアクアベースの話はクロの日記でダイジェストにしようかと考えていますが、皆さんはどう思います?


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41話

う、嘘だろ……もう12月中旬!?
論文の提出まで一ヶ月もないッ!
どうして(電話猫)

もうちょっとだけ続きます。
次回からは日記形式に戻ります。


 クロ達が鬼岩城でポセイドンを倒し、無事にムー連邦まで戻ってきた頃。

ソフィアと冥を含むドラえもん達は怪魚族とその王ブイキンと戦っていた。

 なぜ、クロに謎解きを頼まれたドラえもん達も戦っているのか。

 

 ドラえもん達がアクアベースに到着した際に、襲撃していた怪魚族は全て冥によって撃退され、一時的にではあるが平和な時間を得たのだ。その間にドラえもん達は復活したのび太と共にソフィアと協力し、どうにかヒントの謎を解くことができたのだが…………なんと、ヒントが解けたタイミングでブイキン率いる怪魚族が再び攻めてきたのだ。人魚族はもちろん応戦したのだが、多勢に無勢。怪魚族は圧倒的な人数差で人魚族を追い詰めていった。加えて、ブイキンが奪っていた伝説の鎧を装備していたのも、人魚族が追い詰められていった要因の一つだろう。

 このあまりに酷い惨状を見てしまったドラえもん達は、人魚族と共に怪魚族と戦うことを決意。ドラえもんの出すひみつ道具で怪魚族を惑わすことで、敗北必至の状態からどうにか形勢有利な状態までもっていくことができた。しかし運悪く、ヒントが解けた際に出現した人魚の剣を……ブイキンが手にしてしまったのだ!

 

 ブイキンが手にした人魚の剣の力は凄まじかった。突けばドラえもんの水圧砲を大きく上回る水の弾が放たれ、平打ちの状態で軽く横なぎに振るえば、巨大な渦潮を誕生させるほどの激流が発生する。刃を真っ直ぐに振れば水圧の斬撃が放たれ、大地や建造物を豆腐のように切り裂く。海中で剣を振るえば無敵かもしれない。

 人魚族はブイキンの攻撃によって死屍累々だが、ドラえもん達は無事だった。しかし、ドラえもん達は戦闘に参加する際に四次元若葉マークを外してしまっていたから、冥が安全膜を使用していなければ範囲外で力なく倒れている人魚族達のようになっていただろう。

 

「フハハハハハ! この剣さえあれば、俺様は全宇宙を支配できる!!」

 

 人魚の剣を掲げ、その圧倒的な力に酔いしれるブイキン。全宇宙を支配できるとまで言い出している。海中なら確かに脅威だが、水がない場所ではただの頑丈で豪華な剣になるのだが……ブイキンはそのことを知らない。

 

「いけませんソフィアさん!」

 

「冥さん、離してください! 私がブイキンを倒さなければッ!!」

 

「姫様、無茶です! 悔しいですが……人魚の剣を手にしたブイキンには誰にも勝てません!」

 

 レイピアのような細い剣を手に持ち、安全膜から飛び出そうとしたソフィアの腕を冥が掴んで止める。

 人魚族の兵士達がブイキンの攻撃によって次々倒れていくのを、安全圏からただ見守るだけしかできないのは、ソフィアにはとても耐えられなかったのだろう。だが、クロの信頼する冥でも剣を手にしたブイキンを海中で倒すことはできない以上、ソフィアが出ていっても無駄死になってしまう。ハリ坊もソフィアの前に出て手を広げ、説得しようとしている。まぁ、ハリ坊はブイキンが手にしてしまった力に恐れを抱いてしまったが故のようだが。

 

「消え失せるがいいッ!…………なんだこれは!?」

 

 さらに渦潮を発生させようと剣を平打ちの状態で振るうブイキン。しかし、渦潮が発生することはなかった。なぜなら、宙に浮かぶ金色の波紋から飛び出た鎖が剣もろともブイキンを拘束し、最後まで振るわせなかったからだ。

 この光景を見た者達の反応は2つに分かれていた。驚愕と希望である。驚愕しているのは、まだ無事な人魚族の兵士達。突然現れた金色の波紋、その中から飛び出てブイキンを拘束している鎖、彼等からすれば非現実的で驚くことしかできていない光景だ。その前の状況が絶望的だったことも関係しているだろう。では希望を抱いたのは誰なのか。それは、この光景を何度も見たことがあるドラえもん達と冥だ。今までに何度もこの鎖の持ち主に助けられてきたドラえもん、のび太、スネ夫、ジャイアン、しずかちゃんの5人とメイドである冥は一瞬で理解し、三度目の光景となるソフィアはドラえもん達の数秒後に、ハリ坊はさらにその十数秒後に理解し希望を抱いた。

 

『またギリギリセーフだったな……』

 

「「「「「クロ!!」」」」」

 

「クロ様!」

 

 ドラえもん達が抱いた希望は、拘束されたブイキンの前に転移で現れ、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「おのれぇ……なんだこの鎖は!? 全く動けぬうえに斬れん!」

 

 さて……拘束したはいいがどうしようか。この男、怪魚族の王らしいし、こうして捕えた時点で戦争には勝ったも同然だとは思うんだがな。…………それにしても、黄金の鎧に剣とはどっかの金ピカ王をリスペクトでもしているのか?

 とりあえず気絶させるか。

 

『ッ!』

 

「む? 何かしようとしたようだが無駄だ!この鎧の前ではあらゆる攻撃が無力よ!」

 

 念動力で気絶させようとしたら無効化された…………こんなことは初めてだ。念動力で空気の弾や水圧弾をつくって当てても一切のダメージを与えることなく霧散している。直接男の体に干渉しようともしてみたが、干渉前に弾かれてしまった。

 

「無駄だッ!何度やってもッ!何をッ!しようともッ!!」

 

『むぅ…………』

 

「そんな……クロさんの攻撃が効かないなんて……」

 

「でも攻撃の内容とか密度とか容赦ないね」

 

 電撃、転移、念動力による操作で大地を槍状に尖らせて投擲、人ぐらい軽く押しつぶせる大きさの岩を男の頭上に転移させ落下、蔵から瓦礫や岩などを射出、いろいろできることを試してみたがどれも傷一つ付けることができなかった。どうやら本当に攻撃が通じないらしい。搦手はまだ試してないからわからないが、それも無効化されるのだろうか?

 というかスネ夫よ、敵の首魁に容赦してやる必要はどこにもないと吾輩は思うぞ。

 

「ウグッ!! 貴様ァ……!!」

 

『ふむ……』

 

「えっ!? 今、攻撃が通じた……?」

 

「じゃあ、クロの攻撃は効いてないわけじゃないんだ!」

 

「さすがクロだぜ!」

 

 搦手を試す前にさっきとは違う攻撃をしたのだが、この攻撃は少し効果があったようで、奴が着ている鎧に浅い傷が出来上がった。傷がついた衝撃で奴は少し呻いていたが、大したダメージにはなっていないからか、すぐに原因たる我輩に怒りを露にした。むむむ…………

 

 吾輩が鎧に傷をつけた攻撃は、念動力で再現した超高水圧ウォータージェットだ。高水圧ウォータージェットに切断できないものはないとされていたからな、それを思い出して擬似的に再現してみたのだが、傷がついたのは予想外だった。だが、これでわかったことがある。奴の鎧は攻撃を無効化しているのではなく、攻撃の衝撃やエネルギーとかを減衰させているのだろう。素肌の部分を狙っても同じようになっていたところを考えるに、鎧が奴の体を覆うように薄いバリアのよう何かを発生させていて、それに触れると攻撃の威力が減衰させられるのかもしれん。だが、減衰しきれない程の攻撃であればダメージを与えることができるとわかった。ならば、あとは簡単だ。

 さっきよりも高威力かつ殺傷力の高い攻撃を浴びせる。まぁ、さっきはさっきで十分人を殺せる攻撃だったんだがな。巨大な船とかを相手にするつもりで攻撃しよう。

 

「ガハッ! ゴハッ! ブヘッ! やめッ……!!」

 

「「「「「うわぁ……」」」」」

 

 超高水圧ウォータージェットを鞭のようにして何度も奴に振るい、鎧と奴の体に傷をつけていく。この調子だと、少し時間がかかりそうだ。鎖に拘束された男がビシバシ打たれているのを見ると、Mをしつける女王の絵面を思い浮かべてしまった。汚い……最悪だ……うっかり殺ってしまいそうで使わなかったが、これを長く見るくらいなら使おう。

 

「ウグアアアアアアアアアッ!!」

 

 バスケットボールくらいの大きさの粒機波形高速砲を放ち、それと同時に鎖による拘束を解いた。本来なら何の抵抗もなく貫通して背後の建物も貫いてしまうような攻撃だが、鎧によって減衰されてしまい、それ程の威力は出なかった。鎧を粉々に砕きながら奴を15メートルくらい吹き飛ばし、気絶させる程度に収まっていた。

 だがまぁ、目的は果たせたのでヨシッ。…………砕けた鎧と奴が持っていた剣は後でこっそり回収しておくか。

 

 

 

 

 

 




【ブイキン】
 漫画版と映画版で見た目のスッキリ度合いが変わる人。漫画版は魚の要素が強い。後、奪った鎧を着込んで活躍させている。映画版の鎧とティアラはどこに消えたんですかね? 

【ハリ坊】
 漫画版だと読者からヘイトを集める行為しかしてない人。今回は出番が少ないため、ハリ〜とは言えなかった。

【伝説の鎧】
 人魚族に伝わる伝説の鎧。人魚族の武具なのに敵に奪われ、あまつさえ着用されていた。それで不機嫌になっていたところを粉々にされてアビャァァァァァ!!となった……哀れ。

【伝説の剣】
 人魚族に伝わる伝説の剣。最後以外は鎧と同じようになってしまう。粉々に砕かれた鎧を見て、恐怖で光を漏らしたとかしていないとか。


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42話

卒論を書く、就職活動も行う、両方やらなくちゃならないってのが……学生の辛いところだ。
覚悟……睡眠時間を削る覚悟をッ!


短いです。許して……許して……(震え声)


Θ月○日

 

 吾輩がアクアベースに駆けつけ、怪魚族の王ブイキンを倒してから3日経ってようやく帰ってこれた。

 

 ブイキンが倒されると、次々と残りの怪魚族達が降伏していったから、少し休んだらさっさと帰ろうと思っていたのだが……結局帰れなかった。

 ドラえもん達がアクアベースの復興を手伝いたいと言い出したのだ。「友達であるソフィアの住む場所が酷いことになっているのに、そのまま帰るわけにはいかない」とか。それで、ドラえもん達はひみつ道具を使い、吾輩と冥も各々の力を用いて復興を手伝うことになったのだ。瓦礫を念動力で持ち上げて片付けたり、家を新しく複数建築したり、いろいろだな。

 

 そして、2日間の復興も終わってさあ帰ろうとなったのだが、人魚族の女王が剣と鎧を渡して欲しいと言い出したのだ。そう言われた皆は「まさか……」というような表情をして一斉に吾輩の方へと顔を向けてきた。ヒドい誤解だ!……と思ったが、間違ってはいないので、大人しく蔵から出して返した。「椅子型タイムマシンのこともあるし、こっそり回収してそうだと思ってたけど……」とドラえもんは言ってたが、吾輩のことを一体どう思っているのだろうか?

 まぁそういうこともあり、しぶしぶ剣と鎧(修復済み)を返したのだが、その際に少し問題が発生した。受け取りはソフィアがしたのだが、ソフィアが剣に触れた途端、剣の柄についている赤い宝石から光が溢れ、上に向かって光が伸びていったのだ。この光の指す向こうにラピュタが……と言いたくなるような光景だった。

 結局、光が何を指していたのかだが……おおいぬ座のシリウスを指していた。なぜシリウスを指していたのかについては、ドラえもんが考えを披露してくれた。ドラえもん曰く、シリウスがソフィア達人魚族の故郷だからじゃないかと。ソフィア達の故郷であるアクア星は、周囲の衛星を結ぶと五角形になると言っていた。シリウスは結び方を変えれば五角形になるし、シュメール文明に残っている人魚伝説にも、人魚がやってきたのはシリウスを指すような記述があるそうだ。

 

 まぁ、そういうわけで、ちょっとした問題がありながらも、日本に帰ってくることができたのだ。

 しばらくは海にいかん。

 

 

Θ月△日

 

 人魚の剣と鎧、実はこっそり修復して複製していたから、今日はそれの使い心地を試してみた。

 剣の方は、地上だと頑丈で豪華なだけの剣になってしまうが、水中だとその真価を発揮する。まぁ、これはブイキンが実践していたからある程度はわかっていたが、想像以上にできることが多かった。激流や渦潮の発生、ウォータージェット並の斬撃、水弾以外にも、赤い宝石の過剰発光による目潰し、汚れた水の清浄化、清浄化させる力を刃に溜めて放ち、相手を昇天させる疑似エクスカリバーとかが使えた。

 鎧の方は、剣程できることは多くなかった。ダメージを減衰させる力、ヘソについてる赤い宝石の過剰発光くらいだな。傷の治癒とか、毒の無効化、温度変化の耐性とかいろいろついてたら便利だったのにな。

 剣は今後使う機会があるかもしれないが、鎧はサイズも合わないし使うことはないだろう。完全にコレクション用だな…………いや待てよ? 改造すれば使えるかもしれんな。

 

 

 

Θ月●日

 

 思い立ったが吉日ということで、昨日思いついた改造を鎧に施してみた。ひみつ道具と美夜子さんから習った魔法を用いて改造したから、性能は折り紙付きだ。

 

 まず、見た目を変えた。そもそも吾輩のサイズに合わないからな。サイズの自動調整機能を加えて、『日輪よ、具足となれ』風にした。その方がカッコイイし。

 次に、毒や病気を含んだ傷の治癒と再生をさせる機能、環境適応機能、鎧自体の修復機能も加えた。これで万が一ダメージを受けても大丈夫だし、宇宙だろうがマグマの中だろうが問題なく過ごせる状態になった。まぁ、吾輩はどれも素でできるから、他の奴が使ったら得する機能だな。

 そして最後に、ダメージの減衰度合いを改善させた。前は、貫通力や殺傷力が高い攻撃は減衰してもダメージが通ってしまっていたが、今度は通らなくなった。吾輩が持ちうる最強の攻撃でやっとだろう。

 

 改造した鎧は剣と一緒に、蔵にしまった。普段使いはしないからな。

 

 

 

Θ月▲日

 

 今日は魔法世界へ行ってきた。攻撃力とか手数の不足を感じたから、また魔法を習いたかったのだ。結局、問題があって魔法を習うことはできなかったが。

 

 

 向こう世界に着いてから、美夜子さん家を訪れたのだが、残念ながら美夜子さんはいなかった。魔界星ごと滅んだはずの悪魔が街中に現れたので、それを討伐しに出かけたらしい。日を改めて出直そうかと思ったが、嫌な予感がして、満月牧師から聞き出した現場へと行くことにした。

 そうして念動力で空を飛びながら向かった現場には、巨漢の悪魔に苦戦している美夜子さんがいた。何度か攻撃を受けたのだろう。腕や足、頬などにいくつか切り傷ができていた。それを見た吾輩は「美しき乙女の肌に傷をつけるとは何事か!」と思い、巨漢の悪魔へ衝撃波を放った。突然、自分以外からの攻撃を受けて吹き飛ぶ悪魔に驚いていた美夜子さんだが、近くにいた吾輩を認識すると更に驚いていたな。ここに来た経緯を美夜子さんに話すと、「心配かけちゃったみたいでごめんなさい、来てくれてありがとう」と笑顔で言ってくれた。

 その後、巨漢の悪魔を難なく討伐した吾輩は、美夜子さんの傷を癒やし、後始末を任せて帰ってきたわけだ。

 

 ちなみにあの悪魔は、魔界星が滅ぶ前に地球にて封印されていた悪魔だったらしい。その封印が偶然解けてしまったせいで、街中に現れたらしい。

 

 

 

Θ月◆日

 

 『クロマキーセット』は面白いな。

 ドラえもんとのび太が、吾輩と冥を遊びに誘うから何かと思えば、『クロマキーセット』というひみつ道具での遊びだった。最近は碌なことがなかったからな。疑うのも仕方ないと思う。

 『クロマキーセット』は、簡単に言えばクロマキーで撮った映像を3次元の立体映像として出力することができる道具だ。動画撮影程度なら現代の道具でも十分可能だが、立体映像に関しては『スパイ衛星』を用いる必要がある。というか、未来要素は『スパイ衛星』くらいじゃないか? まぁ、ドラえもんが出したにしては珍しい、小学生には良い勉強になる道具だから別にいいか。

 

 そういうわけで、今日は『クロマキーセット』で特撮ヒーローものを撮って遊んだ。吾輩が怪獣役で、冥とドラえもんが一般市民兼ヒーロー応援役、のび太はヒーロー役だった。のび太マンは名前が安直すぎると思うがな。

 

 

 

Θ月■日

 

 昨日までに比べて少し肌寒くなっていて、葉っぱが一部紅くなりつつあった。秋の訪れを感じる。

 今日は、魔法でカルナ(fate)に変身して、カルナごっこをしながら鏡の世界で修業していた。冥に相手を務めてもらったが、中々いい勝負になって面白かったな。流石に街一つ燃やしてしまうのはやりすぎたと思ったが、それくらい白熱したのだ。そのおかげか、パイロキネシスの操作性が上達した。以前は炎の弾や火炎放射、熱線を放つくらいが限界だったが、今は炎を槍や剣、弓矢、鞭などの武器から、鳥とか犬のような生物の形態まで変化させられるようになった。

 どんな形であれ、修業は欠かさないようしなければな。

 

 

Θ月□日

 

 拠点作成の続きを再開し……ようとしたのだが、デザインが決まらなくて、止まっている。デザインというのは拠点の外観のことだ。拠点内部に作る部屋の内装とかは大体決めたのだが、外観はまだだった。

 最初はラピュタ風にしようかと思っていたのだが、島に擬態できないから止めたのだ。ブリキン島を見てから「一見普通の島にしか見えないが、実は戦闘可能な巨大宇宙船」というのは捨てがたいと思うようになったのだ。いや、前からかだったな。だが、ラピュタも捨てがたい…………

 今のところは「ラピュタ」か「メルヴィユ」っぽくしたいと吾輩は考えているのだが、冥は「設計図通り作ってしまわれてはどうでしょう?」と言っている。冥の考えも悪くはないのだが、やっぱり吾輩の個性を出したいのだ。まぁ、「ラピュタ」も「メルヴィユ」も吾輩のオリジナルではないが。

 

 うーむ…………何か他に良いデザインはないだろうか?

 




【ラピュタ】
 ジ○リの有名作品に登場する空飛ぶ城。グラサンかけた20代の男も有名。「読める、読めるぞぉ!」とか「見ろ!人がまるでゴミのようだ!」有名なセリフが多数。

【メルヴィユ】
 ワンピースの映画『ストロングワールド』に登場する、金獅子が拠点にしていた島々。ワンピースの映画の中で一際印象に残っている。スカイピア?知らない子ですね……

【カルナ(fate)】
 インドのヤベー奴。眼力で対象を焼き尽くしたり、核兵器クラスの炎を放つ。施しの英雄と呼ばれていて、カルナが関わる話は大体感動する。


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43話

あけましておめでとうございます。

三が日の間に出すつもりが、遅れてしまいました。(無念)


Π月≯日

 

 驚いた。夕方くらいに気分転換で散歩していたら、顔を赤くしたスネ夫が大きな袋を抱えたジャイアンの尻を蹴っ飛ばしながら歩いていた。大きな袋にはたくさんの切手が入っていて、それはどうやら他の子供からジャイアンが巻きあげたものだったらしい。それをスネ夫が怒りながらジャイアンの尻を蹴っ飛ばし、元の持ち主に返させていたようだ。パッと見て二人とも酔っ払ったような状態になっていたから、まさか酒を飲んだのか!?と思ったのだが、ドラえもんの出したひみつ道具のせいだった。

 

 『ホンワカキャップ』という道具で、このキャップを通して飲み物を飲むと、ホンワカして幸せな状態になるらしい。ホンワカ放射能が関係しているようだが…………放射能って大丈夫なのか? まぁ、大丈夫だからひみつ道具になっているのだろうが。それに、アルコールはないから大丈夫とドラえもんは言っていたが、酒を飲んだ状態と同じになるのならダメじゃないか?……というか、スネ夫は酔うと怒り上戸でジャイアンは泣上戸になるんだな……意外だった。

 

 夜にドラえもんから借りてみて、冥と吾輩も試しに飲んでみたが吾輩には効果が無く、冥だけがホンワカしていた。推測の域を出ないが、理由はわかっている。あの神のせいだろう。奴が作ったこの肉体は、普通の猫とは少々異なるからな。傷はすぐ治るし、病気にもならない、寿命もないのだから、ホンワカキャップの効果が消された可能性はあるだろう。吾輩が、自己改造すれば話は別かもしれんが…………自己改造は正直に言ってやる勇気がでない。

 

 まぁ、万が一を想定しておくことは必要かもしれんがな。

 

 

 

Π月∮日

 

 今日は、昨日のせいかジャイアンが凶暴化していた。目に入る同級生(男子のみ)全てに襲いかかり、ボコボコにしていた。特に、スネ夫はボッコボコにされていたな。尻を念入りに蹴っ飛ばしていたから、ジャイアンは確実に昨日のことを根にもっていると思うぞ。

 

 スネ夫をボコボコにしている途中でジャイアンが、反対の道からやってきたドラえもんとのび太を発見し、追いかけて同級生達と同じ目に合わせようとしていたのだが、そこでのび太のとった行動に驚かされた。なんと、のび太が手に持っていた銃でジャイアンを撃ったのだ。ついにやってしまったのか!?と驚きのあまり人ん家の屋根から転げ落ちてしまったわ。

 

 後々ドラえもんに聞いてみたら、『ツモリガン』というひみつ道具で撃ったから死ぬことはないそうだ。これからやろうとする行動を夢で見せて、やったつもりにさせる道具らしい。刹那的な行動を取る者には非常に有効な手段となりそうだ。

 

 今度、冥にも組み込んでおこうと思う。相手を無力化する手段がショックガンか素手しかないのは問題だものな。手札は多いほうがいい。それに、やりようによっては相手を油断させることもできるだろう。壮大な目的を持った者は、それが成就する前に使えば特にな。

 

 

 

 

Π月∝日

 

 今日は吾輩の拠点デザイン制作のために、冥と二人で日本各地にある城へと行ってきた。天守閣であったり、大体の部分はどれも似たようなものだったが、城につながる道や門、立地を活かした絡繰など細かいところの差異はあった。中々良い参考になったと思う。

 

 それで町に帰ってきた後、商店街でどら焼きを買おうと思って冥と共に歩いてたら、道に這い蹲っているのび太を見つけた。冥が何をしているのか聞くと、『リフトストック』というひみつ道具が原因で這い蹲っていると言ってきた。そう言うのび太の視線の先には、マンホールのフタに引っかかっている杖に似た道具があった。それがリフトストックだったらしい。冥が取りに行こうとしたのだが、遠くでボール遊びをしていた子供のボールがリフトストックに当たってしまい、倒れてしまった。そしたら、のび太がまるで落ちているかのように、真っ直ぐ宙を移動していたな。まぁ、壁にぶつかる前に吾輩が念動力で止めたから怪我はしていなかったが。

 

 その後、ドラえもんが来てリフトストックの頭についているスイッチを切っていたから、もう大丈夫なはずだったのだが……のび太はしばらく四つん這いで歩いていた。

 

 

 

 

 

Π月⊅日

 

 今日は、子供達にクリスマスパーティーに来ないかと誘われて、パーティーに参加していた。吾輩の超能力でパーティーを盛り上げ欲しかったみたいだ。

 

 子供達みんながそれぞれ隠し芸を用意していて、くじ引きで順番を決めて披露することになったのだが、何故か隠し芸の内容を把握していたのび太がネタバレをしていったのだ。こののび太の行為によって、芸を披露するはずだった子供達はやる気が失せてしまった。そして、子供達はその原因たるのび太の隠し芸は何だと詰め寄ると、のび太は逃げてしまった。……なんというか、今日ののび太はつまらない真似をしていたな。

 

 その後、吾輩がトナカイや蝶などの動物の形にした水を操ってパーティーを盛り上げていたのだが、吾輩の芸を見て「俺達は最初から知ってるもんな」と笑っていたジャイアンとスネ夫が宙に浮き始めたのだ。全員が二人に注目し、皆の視線を浴びた二人は「これは俺達の隠し芸なんだ」と言っていたが、その後に現れたのび太の服で犯人は知れた。

 

 どうやら、『エスパーぼうし』というひみつ道具を使って隠し芸の内容を把握し、人を宙に浮かせたり、服だけ転移させたみたいだった。出力は使う人物の努力次第のようだが、吾輩が使った場合はどうなるのだろうか?

 

 吾輩の超能力の出力が単純に増幅されるのか、あるいは吾輩が普段使う程度と変わらないのか……

 

 

 

 

 

Π月∋日

 

 ドラえもんにちょっとした用があって、今日はのび太の家に来ていた。その時の話をしよう。

 

 吾輩は一階の居間でドラえもんとある話をしていたのだが、テレビに人気スターが映るとドラえもんがテレビに夢中なってしまった。しかも、その際にサインの話がテレビでやっていて、ドラえもんは欲しいと言っていた。人気スターのサインというのは、どの時代でも欲しがられるものらしいな。吾輩は元々この時代に住んでたわけじゃないから、この時代の人気スターには大して興味はなかったが、ドラえもんや冥達は違ったようだ。特に、ドラえもんは丸井マリと伊藤つばさというアイドルに御執心のようだった。

 

 ……ドラえもんって確か猫のみーちゃんが好きなんじゃなかったか?猫型ロボットだから人間より猫の方が好きなのだと思っていたんだが、そうでもないんだな。丁度、今日のテレビに出ていた伊藤つばさには目を♡にして体をくねらせていたし。

 

 そして、のび太が帰ってくるなりスネ夫の自慢話に対する羨ましさを語ると、体をくねらせていたドラえもんの目つきが変わった。スネ夫の自慢話は、今まで収集した人気スターのサインについてだったようだ。それで、のび太の話を聞いたドラえもん、のび太と同じように羨ましいと感じたみたいだ。

 目つきを変えたドラえもんは、ポケットから『人形スタンプインクと用紙』を取り出し、その場にいた吾輩とのび太に道具の説明を始めた。曰く、黒いスタンプインクを人にぶっかけて用紙に三分間くっつけると、その人の人形……魚拓……人拓?を取れるらしい。インクは全て紙に吸収されるから、インクをかけられたとしても三分後には元の色に戻るそうだ。のび太で実演していたから、わかりやすかったな。当の本人はいきなりで混乱していたが。

 

 道具の効果を理解したのび太は、ドラえもんと二人で人気スターにインクをぶっかけに行ってしまった。どこでもドアであちこちに移動し、伊藤つばさを始めとして丸井マリ、星野スミレなど数々の人気スターの人がたをとっていた。凄く人に迷惑をかけているから、ひと通り終わらせたドラえもんとのび太に注意だけしておいた。吾輩も止めはしなかったからな。

 

 ……しかし、人がたなぞもらって嬉しいのだろうか?大体が驚きのポーズで残りは怒りをあらわにしたようなポーズだったぞ。

 

 

 

 

 

Π月∃日

 

 今日は、世界各国の城や有名な建造物を冥と二人で観に行った。もちろん、夢の国の方にも行ったぞ。大凡作りが共通していて面白かったな。個人的に気に入ったのはボイニツェ城とノイシュバンシュタイン城、シャンボール城、エディンバラ城、ブラン城、ホグワーツなどだ。どれも美しく荘厳な作りで神秘性を感じたな……。

 

 日本の城と世界各地の城、どちらも甲乙つけ難い。どちらの特徴もある拠点が欲しい……。吾輩はそこでハッと前世でそこそこ人気があったある作品を思い出した。それは、『XXXHOLIC』という作品だ。主人公が願いを叶える店で願いを叶える対価を払うために働きながら様々な出来事に遭遇する話なのだが、その願いを叶える店は和洋折衷の家……館?なのだ。そもそも城ではないが、和洋折衷としては吾輩にとって理想的で、特に劇場版『真夏ノ夜ノ夢』にて登場した館は神秘性を保ちながらも混沌とした作りで好みだった。

 劇場版の館を参考にして作れば、日本と世界各地の城の特徴も出せるし、城以外の美しい建物やお気に入りの風景も組み込めるだろう。館以外の部分はメルヴィユを参考にして春夏秋冬の地域を作ろうと思う。うむ、それがいい、そうしよう。

 

 と思って取り組んだのだが、いろいろ問題が発生した。吾輩の考える拠点をデザインするには、まず道具が足りなかった。設計図通りに作るならまだしも、吾輩が勝手にアレンジを加えるから、必要な道具が増えてしまったのだ。次に、拠点を作ったところでそれを管理する者がいないという点だ。今更気づいたのかと言われても仕方ないのだが、普通に忘れていた。吾輩と冥、ミニドラ数体しかいないからな。そんな人数では吾輩の作ろうとしている拠点を管理するなど不可能だろう。他にも「作った拠点をどこに置くのか」とかいろいろあった。

 

 これらの問題をどうにかして解決しない限り、吾輩の考える最高の拠点は作れないだろう。早いとこどうにかしなければ。

 

 

 

 

 

Π月∂日

 

 新年早々いいことがあった。

 拠点を作るにあたって発覚した問題を解決することができ、ついに拠点が完成したのだ!

 

 不足していた道具については、いくつかドラえもんから借りながらハツメイカ―で作ったり、未来デパートで購入して解決した。『ナイヘヤドア』『お好み建国用品いろいろ』『お好みルームカタログ』『オールシーズンバッチ』『引き伸ばしローラー』『固形空気』『どこでもじゃ口』『なんでもじゃ口』『無料フード製造機』『四次元建増しブロック』『材質変換機』『ノビール下水管』『人工太陽』『マジックチャック』『お天気ボックス』『壁紙シリーズ』『引力ねじまげ機』『大自然セット』『観光ビジョン』『ホームメイロ』『天才ヘルメット』『自動万能工事マシン』などの道具と魔法を主に活用して拠点を作り上げた。

 拠点および館を管理する者の人数不足については、以前ドラえもん達からもらった大量のぬいぐるみや吾輩が作ったフィギュアを、『天才ヘルメット』を使用して吾輩や冥の命令を遵守するよう改造し、『生命のねじ』で命を与えることで解決したな。

 

 作り上げた拠点は、認識阻害と光学迷彩、障壁の魔法をかけて太平洋に置いてきた。通常は認識も視認もすることができず、仮にできたとしても障壁があるから近づくこともできない。専用で作った、どのドアからでも拠点内の館に繋がる鍵か扉、あるいは拠点管理者として登録した吾輩達に認められることで入ることはできるがな。

 

 これで、わざわざ鏡の世界に行かなくとも拠点で鍛錬や道具の作成、実験が行える。神に一矢報いるための準備が着々と進んでいるのを感じて、気分は最高だ。

 

 

 

 




【ホンワカキャップ】
 コーラやジュースなど、ソフトドリンクの瓶の口に取り付けるキャップ状の道具。ペットボトルの口でも大丈夫そう。このキャップを通して注いだ飲み物は、キャップから「ホンワカ放射能」が浴びせられることにより、体がホンワカしてまるで酒に酔ったように気分が高揚する。味そのものは変らずむろんアルコール成分が生じるわけでもないので、子供が飲んでも安全とされている。
 ホンワカ放射能ってなんだ?

【ツモリガン】
 拳銃の形をした道具で、これで相手を撃つと相手は睡眠状態に陥り、今やろうと考えていた事を夢で見る。そして相手は、やろうとしていた事をやったつもりになっている。
 階段を登ろうとする奴に撃てばポルナレフ状態になるわけだ。

【リフトストック】
 重力の方向を変えることで水平軸を操ることのできるストック。ストックで地面を突いて傾けた状態でボタンを押すと、そのストックの方向が垂直になるように重力の向きを変えることができる。きつい上り坂を下り坂にしてしまうなど、道を歩くときに重宝するだろう。ただし、名前でもわかるように本来はスキーの際にリフトなしで頂上まで登るための道具。傾けすぎると、真横に重力がかかるのでとても危険。なぜ安全装置がついていないのか。

【エスパーぼうし】
 先端に人指し指を突き出した手が付いた帽子。被ることで、「念動力」「瞬間移動」「透視」の3種類の超能力が使えるようになる。ドラえもん曰く、練習しないと使いこなすことはできないとのことだったが、偶然黒猫が被ったときは焼き魚を引き寄せている。天才か?

【XXXHOLIC】
 CLAMPの漫画作品の一つ。特殊な悩みを抱える主人公と対価さえ払えばどんな願いも叶えてくれる店の主人、そして主人公と同じように様々な悩みを抱えた客が願いを叶える店に訪れるという非日常的な世界観のファンタジー漫画。「ツバサ・クロニクル」と世界が繋がっている。
 作者的には、そこそこ人気があると思う作品。お気に入りは百物語の回。後、劇場版の物語も好き。ぜひ見てほしい。実写の映画? 知らない子ですね…………


【挿絵表示】

クロの拠点を超絶簡単に表した。見なくとも良い。


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44話

下手クソでも挿絵を欲しいと思ってくれている方が多くてちょっとビックリしています。
毎回描いてると容量が足りなくなるので、劇場版の話をやる際に描いてみようと思います。

あと、アンケートはもうしばらく続けます。


誤字報告感謝。2023年4月に誤字修正しました。


∬月▷日

 

 今日は吾輩の完成した拠点にドラえもん達を招待した。

 ドラえもん達は吾輩の拠点に来るとワクワクした様子を隠し切れていない状態で、特に危険はないから好きに探検することを許可したら、一斉に走り出してしまった。まぁ、仕方ないだろう。吾輩だってちょっとワクワクするし。

 拠点の各地には、吾輩が生命のねじで命を与えたぬいぐるみ達が歩き回っている。基本的に自由に過ごすよう命令しているが、いざというときはすぐ行動に移せるようになっている。加えて、特別なぬいぐるみ達には春夏秋冬ゾーンのそれぞれを管理させている。何か問題の前触れを感知したらすぐに報告し、問題解決に取り組むだろう。

 

 春ゾーンには春の風物詩と言われるような物ばかり集めてある。ウグイスや雲雀、燕などのぬいぐるみ達や桜、タンポポ、菜の花とかの植物等だな。巨大な青龍のぬいぐるみが春ゾーンの管理者として君臨している。もし、青龍が不法侵入者を発見した場合は、一度警告してから炎のブレスや竜巻、雷を落とすよう伝えている。今回は吾輩が招待した者達しかいなかったから出番はなかったが。ちなみに、ドラえもん達五人の内、しずかちゃんが春ゾーンで鳥のぬいぐるみ達と遊んでいた。

 夏ゾーンでは海に海洋系のぬいぐるみ、森には夏が時期の植物を植えてある。巨大な朱雀のぬいぐるみに夏ゾーンを管理させていて、警告を無視した不法侵入者には炎や熱風、爆破を行うように命令してある。青龍と同じく今回は出番がなかったがな。ジャイアンとスネ夫が素っ裸になって海に入り、クジラやダイオウイカなどのぬいぐるみ達にもみくちゃにされていたのが印象的だったな。

 秋ゾーンは、キツネやリス、シカなどのぬいぐるみ達を放ち、秋を代表する植物を植えてある。まぁ、ここまで書けばわかるかもしれないが、それぞれのゾーンに合わせて植物やぬいぐるみ達を放っているのだ。ここでは、のび太が冥と一緒に管理者でもある巨大な白虎のぬいぐるみに乗って、このゾーンならではを堪能していた。

 冬ゾーンではドラえもんがぬいぐるみ達と山の方でスキーをしていたな。時々、リフトストックを使って巨大な玄武のぬいぐるみの甲羅でスキーをしていたが、よく玄武は許したな……他のぬいぐるみ達も甲羅を滑り台がわりにしていたし。

 ちなみに、管理者である四体のぬいぐるみは人間並みに知能があり言葉を交わすことができる。改造する際にほんやくコンニャクの機能を組み込んであるから、どんな相手だろうと会話することができる。宇宙人はわからないが……地球上の人類であれば会話可能なはずだ。そう考えると、あの時はなんで怪魚族の言葉が分かったのだろうか。奴らは宇宙人だし、吾輩達はほんやくコンニャクも食べていなかったはずなのだが。人魚の剣を目的にしていた奴らが地球上の言語を事前に調査しているとも思えないし……たまたま使っている言語が同じだったのか?

 

 夕方まで遊び尽くした五人は、吾輩の館に泊まらせた。館内部は迷宮のような造りになっているから、ドラえもん達は驚いていたな。今回は吾輩と冥がいるから迷いなく目的の部屋に到着し、楽しげに一泊過ごしていた。

 

 

 

∬月⇔日

 

 せっかく拠点が完成したので、今日は拠点内で鍛錬を行った。超能力を封じ、魔法世界の魔法と魔法事典の魔法だけで四体の管理者と冥を相手にしたのだ。吾輩は超能力に頼りがちな面があるからな。超能力が使えない場面に遭遇した時、動揺して何もできませんでしたでは話にならない。故に、魔法の修業を行なったのだが……夏ゾーンの一部が消し飛びそうになった。

 思っていたよりも冥達が強く、戦いが結構白熱してしまったのだ。雷や火、氷、風などの属性魔法から物体浮遊魔法を使ったりしていたのだが、超能力よりも制御が難しく、かなりの頻度で防がれるか避けられていた。逆に、吾輩は何度か冥達の攻撃が被弾していた。体が千切れようともすぐに再生するから戦闘に支障はないのだが、痛みは凄かったな。

 

 冥の無敵砲台やウルトラクラッシャーによる攻撃は、気がつけば体が欠損している状態になるから、それほど痛みは感じないのだが……それ以外のミサイルや弾丸がものすごく痛かった。特にミサイル、あれは直撃を避けて魔法で破壊しようにも近距離だった場合は爆風を受けて毛と肉が焼け焦げる。しかも、ミサイルと砲弾は吾輩が空間魔法を使わない限り必中だから一番厄介だったな。

 四体のぬいぐるみに関しては、彼らも初戦闘であるが故かあまり戦い方が上手いとは言えなかった。攻撃が大雑把で、吾輩が意図的に避けたのもあるが、何度かぬいぐるみ同士で攻撃が当たっていることがあったのだ。まぁ、冥が厄介すぎるせいもあるかもしれないがな。彼らには時間があれば吾輩と同じように鍛錬を行うよう命令しておいた。

 それで、夏ゾーンの一部が消し飛びそうになった理由だが……冥達の攻撃を捌きながら魔法の扱いに慣れた頃、吾輩が前から考えていた魔法を放ったことが原因だ。魔法で宝石でできたような特殊な杖を作成し、第二魔法を使っていくつもの並行世界に繋がる空間に小さな穴を穿つことで大量の魔力を供給。供給した魔力を杖に収束し、光の斬撃として放ったのだ。いわゆる無尽エーテル砲というやつだ。斬撃に使う魔力を無限に供給し続けられるから、吾輩が止めない限り攻撃は止まらない。まぁ、それのせいで消し飛びかけたのだがな。

 

 改めて吾輩が超能力に頼りすぎていることも分かったし、今回の鍛錬は結構上手くいったと思う。

 

 

 

 

∬月∂日

 

 昨日に続いて今日も鍛錬を行った。

 と言っても、今日は昨日と違って戦闘中の魔法も使用禁止にしていたが。拠点中にいるぬいぐるみ達と百人組手を行ったのだ。ぬいぐるみ達の中には管理者クラスのサイズもいるから、戦闘前に身体強化の魔法は発動していたが、姿は普段のままで行った。この肉体での戦闘方法も考えておかねばならないと思ったからだ。

 

 百人組手のおかげで、超能力も魔法も使用できない状況だと吾輩はかなり弱体化していて、特殊な力に頼りすぎだということを昨日に続いてさらに痛感した。まず、死角からの攻撃に対応できない。今までは千里眼やそれに連なる魔法を使用してなんとかしていたのだが、両方とも使用不可の状況では普通に攻撃を受けてしまった。次に、身体強化した超スピードで地上を動くことが中々なかったから、攻撃を捌ききれなかったり木や他のぬいぐるみ達にぶつかったりしていた。

 まぁ、身体強化に関しては組み手が終わる頃には完全に慣れたから問題なくなったが、死角からの攻撃や動きの先読みに関しては課題だな。

 

 気配を感じとる鍛錬を行うべきかもしれない。ドラゴンボールとかH×Hの修行方法を参考にするといいのだろうか?

 

 

∬月⌘日

 

 今日の日記は少し長くなりそうだ。

 気配を感じとる鍛錬が上手くいかなくて気分転換で町の中を散歩していたら、ドラえもん達に宝探しをしないかと誘われたのだ。

 しかも、今日は珍しくドラミまで来ていた。全員が空き地に集まっていて、そこで宝探しを始めたのだが……中々大変だったな。まず、地面に埋まっている宝がどこにあるかを探すために『ここほれワイヤー』を使ったのだが、のび太がワイヤーをこすりすぎてとんでもないものを見つけてしまった。なんと、空き地の下に街一つ分の何かが埋まっていることがワイヤーによって分かったのだ。ドラえもん達の住む町の、それもよく利用する空き地の真下に埋まっているとか……偶然が重なりすぎて怖いんだが。

 真下に街一つ分の何かがあることが分かったら、今度はドラえもんとドラミが『地底探検車』を取り出した。地底探検車は正面に巨大なドリルがついた掘削車両機械で、一度に乗れる人数が三名ずつとなっているから心配していたのだが、素の吾輩一人分くらいなら問題なかった。その地底探検車で真下へとひたすら掘削しながら進んでいき、ついにはマントルすらも超えてようやく目的地に着いた。ドラえもん達はマントルを通った際に発生した激しい揺れによって気を失っていたが、吾輩が蔵から取り出した水を顔面にかけると目を覚ましていた。

 

 地底探検車から外に出ると、そこにはアステカやマヤ文明を感じさせるような神殿が存在していた。そして、神殿の反対には長い階段があり、その先には巨大な何かへの入り口があった。いや、同時に出口でもあったのだろう。吾輩の後にそれぞれの探検車から皆が降りてきて、神殿とその周りの空間を目にして驚いていた。……しかし、ここでも不思議に思ったのだが、マントルの下にどうやって移り住んだのだろうか? 超巨大な穴でもない限り、空気が地下まで届かないし、神殿を築くほどの人間がいるなら空気はさらに必要となってくる。空気を生み出す何かと、マントルよりも深く溶岩を通さない巨大な穴がなければいけないはずなんだが……わからん。

 地下空間に広がっていた光景に驚いた吾輩達は、一番目立つ神殿へと近づき『年代そくてい機』でいつの時代に造られたのかを調べた。すると、今から大体1400年程前に造られたものだと判明した。おおよそ5世紀〜6世紀といったところか。マヤ文明は繁栄し始めた頃で、アステカも同じくらいだったはずだから……マジで地上の人間が降りてきてこの神殿や地下空間を造った可能性があるのか……

 

 造られた年代が判明した後はジャイアンがこの空間で宝探しをしようと言い、のび太達はそれに賛成してしまい勝手に動き出してしまったのだ。罠がないとも限らないのだが、こういう空間でワクワクしてしまう気持ちは理解できる。そのため、千里眼と魔法を駆使して各々の動向を把握するだけに努めておいた。ちなみに、ドラえもんとドラミは吾輩と同じ場所で座って待っていた。

 のび太達四人が宝探しをしていると、のび太とジャイアンの意図しないファインプレーで隠された扉と空間を発見した。一応第一発見者であるジャイアンに呼ばれ、吾輩達は隠されていた扉の先にある空間に集合したのだが、そこにはジャガーを模した宝箱が中心に置かれていた。ジャガーの宝箱以外は何もない無機質な空間故か、皆ジャガーの宝箱に何が入っているのかワクワクしていたな。まぁ、開けてみたら何もなかったからガッカリしていたけど。だが、それで諦めるようなのび太達ではなかった。『タイムベルト』を使って神殿が作られた時期に遡ることになったのだ。提案したのび太曰く、その時期なら宝もあるかもとのこと。なぜ、こういう時には頭が回るのか実に不思議だ……

 

 そうして過去へと遡ったのだが、ジャガーの宝箱はなくなっていた。理由はなんとなく予想がついていたから吾輩は大して動揺してなかったのだが、のび太達は露骨にガッカリしていた。そのせいか、元の時代に戻ろうとドラミが提案してもジャイアンがその提案を無視し、お手製のダウジングを使って一人で神殿の反対にあった階段を登っていったのだ。ジャイアン一人置いていくわけにもいかず、ドラえもんとのび太が後を追っていったのだがいつまで経っても帰ってこなかった。

 流石に遅すぎると感じた吾輩達はジャイアン達を探すことにした。ドラミ達はジャイアン達の名前を呼びながら歩き回り、吾輩はしずかちゃんに抱かれながら千里眼で捜索していた。その際に外への出口を吾輩が見つけ、もしかしたらジャイアン達も外にいるのかもしれないと、吾輩達もその出口から外へ出たのだが…………ジャイアン達はいなかった。しかし、外では二つの民族が吾輩達が出てきた場所を挟んで暮らしていた。二つの民族はそれぞれポルン族とワカナ族と言うらしく、吾輩達はポルン族の娘と出会った。

 ポルン族の娘は優しくもてなしてくれて、いろいろな話を聞くことができた。民族間で起きている問題や吾輩達が出てきた神殿、ジャイアン達の居場所などを知ることができた。民族の存亡を左右する翡翠のジャガーが紛失し、そのせいで争っていることが重要な問題であると判断した吾輩は、一人地下の神殿に戻り、千里眼と物探しの魔法を駆使して翡翠のジャガーを見つけ出した。

 その後は、推測通りワカナ族にて囚われていたジャイアン達を翡翠のジャガーと取引で解放させて帰ってきた。一応、取引する際はポルン族も連れていたから、存亡を左右する翡翠のジャガーを独占することはしないと思うが……そんなことまでは知らん。

 

 

 とにかく大変な一日だった。戦利品はスネ夫が拾っていたメダルとコピーした翡翠のジャガーくらいだ。オークションなどで売れば結構な値段がつきそうだが、スネ夫は家で大事に保管しておくと言うので、それを信じて翡翠のジャガーをあげた。

 

 

 

 

 




【無尽エーテル砲】
 FGOでカレスコおじさんとして有名な「キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ」の技。並行世界に穴を穿ち、そこからマナ(魔力)を供給し、また並行世界へ……というふうに繰り返すことで無限にマナを供給し、そのマナを集約させて放つ。ドラえもんの世界は、魔法世界でもないのに魔法(またはそれに類似した技術)を扱う人間がそこそこいるので、割と大気に魔力とかもありそうだと判断した。

【ここほれワイヤー】
 外見は長い針金を輪状に巻いた束。それを襟巻きのように首にかぶってこすりながら歩くと、ワイヤーの形が変化して地中にあるものの形とそれが埋まっている地点を示す矢印が自動的に現れる。こすればこするほど地中深くのものを示させることができる。ちなみに、今回の話はのび太がこすりすぎたため、丁度地球の反対側にあった遺跡に反応した。原作も同じである。
 あと、他のひみつ道具にも言えることだが、後の劇場版とかに出る際は外見が変化していることが多い。『南国カチコチ大冒険』では、ピンク色になって針金らしさが消えているうえに持ち方も違う。

【地底探検車】
 外見は穴ほり機に酷似した地底戦車タイプの乗り物で、前方にドリル、装軌走行式で操縦席はガラス張りになっている。また、地球のコアを通過しても耐えられる構造になっており、防水性も高いとされている。定員に関しては、原作とアニメ(わさドラ)で変化している。
 これ本当に子供が使う道具なのか…………?

アマプラでドラえもんのアニメが見れるようになっていたので、皆さんも時間があれば是非見てみてください。


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45話

複数の教授に囲まれながら質問に淀みなく答えなければならない口頭試験ッ……!
発表の前座として軽い地獄を味わえ、ということなのか……?


Ж月〇〇日

 

 今日から、新しい配下……部下……とにかくそれに類する者を創ろうと思う。基本的に、冥もぬいぐるみ達も科学の力で超常現象を起こしているから、魔法を扱える者が欲しいと思ったのだ。冥にも魔法を教えはしたのだが、魔法事典の魔法しか使うことができなかったしな。恐らく、機械ではない肉体じゃないと魔法世界の魔法は使えないのだろう。

 とりあえず、魔法を使える者を創るとして……問題は方法と材料だ。材料に関してはあてがある。魔法世界の悪魔とドラゴン、それから特殊な武具だ。これらは既に吾輩が手に入れて蔵にしまってある。これらを材料にすれば、少なくとも魔法世界の魔法は使えるようになると思う。あとは、適当に魔法事典とか他の役に立ちそうな材料を混ぜる予定だ。魔法世界の動物を従えて連れてくる事も考えたが、どうやら使える魔法が限られているようで、それだと吾輩の理想に届かないと判断した。故に、合成獣を創ることにしたのだ。ただ単に合成獣を創るなら、以前ドラえもんが使っていたウルトラミキサーを用いればいいのだが、あれは機能と姿で分かれるのだ。例えば、壺とトイレを合成した場合は壺の見た目をしたトイレが誕生する。生物だと両方の姿が混ざるが、それでも機能と姿に分かれるのは変わらない。つまるところ、機能や特性が増えるわけではないので、ウルトラミキサーを用いることはやめたのだ。

 

 材料はいいとして、問題は創る方法だろう。案のいくつかは、ドラえもんたちが人気スターの人形をとっていた時に聞いてあるが……まだ決めかねている。『架空動物製造機』という道具を使って創るか、『精霊よびだしうでわ』を用いるか、魔法を用いて創るか、生命創造が可能な世界の技術を学んで創るかだな。だが、一つ目の架空動物製造機はドラえもん曰く、強力な超能力を持つミュータントが誕生してしまうから販売中止になってしまっているらしい。誕生したミュータントは勝手に仲間を増やして反逆し、未来世界では国連軍が出てくるまでの大騒ぎにもなったからだと。吾輩的には、エスパーぼうしで鍛えれば人間も強力な超能力を得られるのだから、ミュータントも大して変わらないと思うのだが……未来世界ではそう思わなかったようだ。

 一つ目の案はとりあえず最終手段として保留にしている。吾輩が迷っているのは、二つ目と三つ目、それから四つ目の案だな。二つ目の案である精霊よびだしうでわは、火や水などの属性がある精霊を呼び出すことができ、一つ目ほど危険ではないが制御が難しい道具ではあるようなのだ。火の精霊はとにかく何でも燃やしたがるとか、雷の精霊ならどこかに雷を落としたがるとかだ。三つ目の案である魔法についてだが、魔法世界の魔法もちょっとした生命創造の魔法は存在するから、それを使うという案だ。グラビモスくんとかまさにそれだな。だが、架空動物製造機レベルの魔法は未だ存在しないらしいのだ。四つ目の案は単純だな。生命創造が可能な世界へその技術を学びにいくというものだが……例えば、『ドラゴンボール』の世界や『ワンピース』の世界とかだな。

 

 どれにしようか…………

 

 

 

Ж月〇▽日

 

 結局、一つ目以外のすべての案を複合的に採用することにした。つまり、異世界で生命創造の技術を学んだうえで精霊よびだしうでわと魔法世界の魔法を用いるのだ。一つの案にこだわる必要はないだろうからな。

 故に、新たな仲間の創造は少し時間がかかってしまう。学ぶ時間が必要だからな。しかし、学んだ技術は吾輩の力にもなるから、決して無駄にはならない。これも、いつかは神に一矢報いるための力になるだろう。

 

 ということで、今度はどの世界に行くのか迷っている。『ドラゴンボール』の世界か『ワンピース』の世界かあるいは別の世界か……全部でも良いのだが、そうすると莫大な時間がかかってしまう。吾輩が天才であればよかったのだが、生憎そうではないからな。学習するのに時間がかかってしまう以上、一つの世界、多くても二つの世界に絞る必要があるだろう。ちなみに、違う世界に行く手段として『もしもボックス』を改造したものを考えている。もしもボックスは並行世界へ飛ばすか、使用者の望み通り新たな世界を創る道具だからな。吾輩の記憶にある漫画の世界にも行くことは十分可能だと思う。まだ試してないから実際はなんとも言えないが。

 あと、純粋に漫画の世界を冒険してみたいというのもある。吾輩、人間はやめてしまったが男の……少年の心までは失っておらんのでな。

 

 

 

Ж月〇◇日

 

 拠点から日本に戻ってきたら、大変なことになっていた。老若男女全ての人間が、運や物忘れ、頭の出来、根性が酷くなっていたのだ。街中で買い物をしようにも、店の人間が金額を計算できず諦める。テレビの放送に映っていた議会の人間は皆堂々と居眠りをしていて、テレビのアナウンサーも簡単な漢字すら読めなくなって諦めていた。まるでのび太のように…………そう感じてから吾輩の行動は早かった。すぐさまのび太の家へと向かい、ドラえもんに何をしたのかを問い詰めたのだ。ドラえもんものび太のように物忘れが酷く諦め癖がついていて大変だったが、なんとかこうなった理由はわかった。どうやら、『ビョードーばくだん』というひみつ道具を使った結果らしい。標準にする対象の体の一部(爪の垢とか)を煎じた爆弾を空中に発射して爆発させ、中の粉を浴びた者を対象者と同じレベルにするようだ。身体能力から運、普段の癖まで全て等しくする。今回はのび太を標準の対象にしていたから、そのせいだった。小学生とはいえ、全員がのび太レベルになると社会が終わりそうになるとは……とんでもないな。

 ドラえもんはビョードーばくだんの効果を受けていて役に立たなかったから、『ふりだしにもどる』で爆弾を使う前まで戻させた。のび太の不平等さを嘆く言葉がきっかけだったようだが、のび太と同じになるとここまでとは思わなかった。今後は、ほんの少しだけ優しくしてやろう。

 

Ж月▲〇日

 

 今日はドラえもんに頼まれてのび太の説得を行った。

 のび太は普段、嫌な思いをした時には学校の裏山に行っているらしく、ゴミが落ちていたら自分の部屋が汚れされているように感じてゴミ掃除もするそうだ。まず最初にドラえもんからそれを聞いた吾輩は、のび太お前……漫画とかお菓子の食べかすとかが散らばってて普段から部屋は汚いのに何を言っているんだと思ったな。まぁ良い。それで、裏山のゴミを片付けるのび太を見たドラえもんはその姿に感動して『心の土』というひみつ道具をのび太に与えたと言う。心の土は砕いてそれを蒔いた土地に心を育む効果がある道具で、のび太はそれを裏山に蒔いた。その結果、裏山には心が生まれ、のび太と心を通わすようになったそうだ。最初は、のび太も前向きになって良かったのだが、段々と友人や家族などの人間関係を蔑ろにするようになり、ついには心配になって注意しに来たドラえもんを山を使って追い返してしまったらしいのだ。それで、一人では厳しいと判断したドラえもんは吾輩に手伝いを頼んだというのが事の経緯だった。

 

 ずっと山に篭り、人との関係を断ち切るという行為は容易ではない。加えて、勉強もせずただ食って寝てトイレをするだけというのは、ただの獣と変わらない。いや、獣ですら他者と関係を持つ。その点では、今のまま進むとのび太は獣以下の存在になってしまうだろう。それは良くないことだ。

 

 吾輩とドラえもんは裏山へと入り、夜になってもムキになって帰ろうとしないのび太を説得しようとしたのだが、のび太は聞く耳をもたなかった。しまいには大量のスズメバチを嗾けたり、突然落とし穴を生成したりと、友と呼ぶ裏山に吾輩達を攻撃させる始末。裏山の繰り出す攻撃は吾輩が全て防いだのだが、のび太は頑固になって話を聞こうともしなかった。故に、仕方なく吾輩達は裏山の方を説得することにした。のび太は優しい裏山に完全に依存しきっているから、裏山の方がのび太を拒絶すればのび太も諦めがつくだろうと思ったのだ。

 

 『心よびだし機』で呼んだ裏山の心は女性のような姿をしていて、のび太のことが大好きで、のび太のためなら何でもするような性格だった。それ故か、のび太を不愉快にさせる吾輩とドラえもんを恐ろしい目に合わすと脅してもきた。だが、今のび太がとっている行為が本人のためにならないことを懇切丁寧に説明すると、裏山の心は理解してくれたのか、悲しそうな色を滲ませながらものび太を説得し、家に帰らせることに協力してくれた。

 

 のび太を山から追い払うことに悲しみつつも、のび太のために協力してくれた裏山の心は、本当にのび太のことが大好きだったのだと伝わってきたな……。

 

 

 

Ж月〇◆日

 

 今日はふしぎな出会いがあった。

 朝はいつものように冥と散歩して、昼には道具の開発を行う予定だったのだが、空から降ってきた謎の青い球によってその予定が崩れたのだ。青い球は拠点のバリアに阻まれて夏ゾーン側の海へと落ちたのだが、海中の見回りをさせていたイルカのぬいぐるみがその球を拾ってきてしまった。まぁ、拾ってきてしまった以上は仕方がない。そう思った吾輩は、イルカが拾い手渡してきたこの青い球がどこから飛んできたのか、一体何なのかを調べたのだ。

 調査の結果、分かった事は2つある。まず、どこから飛んできたのかについてだが……モンゴル辺りからだった。正確な位置までは割り出せなかったのだ。この青い球ともう一つ何かが日本の方にも飛んで行ったようなのだが、それは一旦後回しにすることにした。次に分かったことは、青い球は卵だったということだろう。拠点の館の方まで持ち帰り、調べている最中に球の中心からヒビが入り、そこからパカっと犬に似た青い風の生命体が出てきたのだ。吾輩と冥、そしてミニドラ達が解析のためにその場にいたからなのか、あるいは親とでも思っているのか、やけにスリスリしてきたな。触れた感触としては、ひんやりとしていてまるで冷気の塊のようだった。この時期には丁度良い温度だな。

 

 卵から孵った生命体にはとりあえず「アスール」という名前をつけた。生き物だし、名前が無いと呼びづらいからな。アスールはまさに風の子の如く拠点の至る所を飛び回り、ぬいぐるみ達と戯れていた。だが、ある程度遊ぶと突然元気を失い始めたのはビックリしたぞ。どうやら、近くに冷気がないと存在を保てないらしい。それがわかった吾輩は、すぐさま衰弱してしまったアスールを冷蔵庫に入れた。冷蔵庫にアスールを入れて1分くらい経った頃だろうか。元気になったアスールが冷蔵庫の扉を吹っ飛ばして出てきたのは。開け方が分からないから仕方ないとはいえ、できれば壊さないで欲しかったな。

 とりあえず、せっかく元気になったのにまた衰弱してしまうと困るため、アスールには冷気を作り出す装置を組み込んだぬいぐるみの中に入ってもらった。

 

 明日は日本に飛んで行ったもう一つの球を探してみようと思う。

 

 

 




【架空動物製造機】
 又の名を人間製造機。その名のとおり、人間を作り出す機械。身の周りにある品物を材料として、その中から人体を構成する物質を抽出して再構成し、人工的に人間を作り出す。人体錬成と違ってちゃんと健常な人間を作ることができる。ただし、元気すぎて他者を支配しようとするが。一応、架空の動物も製造できるが、材料の調達難易度……捕獲レベルが跳ね上がる。例として「タイタンの石」や「絶滅した恐竜のウンチ」など。
 他の道具もそうだが、子供の遊びで生命を容易く作り出せるようにするのはどうなのだろうか……

【精霊よびだしうでわ】
 精霊を人工的に作り出して呼び出す道具。手首につけて「——の精」と唱え腕輪を擦るとその精霊を呼び出すことができる。呼び出された精霊はギリシャ風の服装で姿を現すが、性別はランダムか使用者のイメージが影響している可能性がある。ただし、精霊は触媒となるものが近くになければ存在することができない。
 仮に使用者のイメージが影響するのなら、やろうと思えば美男美女の精霊を作り出せるかもしれない。

【ビョードーばくだん】
 小型の打上花火台に似たひみつ道具。「平等」の基準にしたい人の爪の垢を煎じて仕込まれた弾頭を打ち上げると、これが上空で爆発し灰をまき散らし、この灰を被った者は皆、爪の垢の主と同程度の知能、体力になってしまう。つまり、出来杉くんの爪の垢を煎じれば……?

【心の土】
 ハート型の土の塊。これをほぐして地面に撒くと、周囲の土地と心を通い合わせることができる。なぜか、土地に住う動物や昆虫達も助けてくれる。土地から生える草とか土を食ったからか?

【ふりだしにもどる】
 サイコロを模した道具で、これを振ると出た目の数だけ時間が巻きもどる。現在は出た目の数だけ日数が戻っていることが多いが、昔はサイコロの目一つにつき1分ということもあったそう。タイムマシンやタイムベルトと違って過去を遡るのではなく時間を戻しているので、違う時間軸の同一人物が同じ時間に存在する、ということがない。

【アスール】
 おや? タマゴの様子が…………という感じで誕生した風の子。もう一匹対になる存在が日本にもいるらしい。一体何ー子なんだ……


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46話

すまない……すまない……投稿が遅れてすまない……内容も短くてすまない……口述試験や卒展、発表などで忙しかったんや……



 吾輩と冥は今、アスールを連れてのび太の家に来ていた。アスールと同じ性質を持った球が日本にも飛んで行った事は把握していたのだが、今日改めて調べたらのび太の家からその反応が出てきたのだ。アスールと同じように人懐っこいなら別にいいのだが、そうでなかった場合が怖いからな。のび太の家から反応が出たなら尚更だ。というか、むしろのび太が何かイタズラとかに利用している可能性があるか?

 のび太のママに許可をもらってのび太の部屋に行くと、そこにはのび太とドラえもん、しずかちゃんがいた。そして……

 

「この子はフー子って言うんだ!」

 

「フー♪」

 

 そう言うのび太の横にはドラコッコのぬいぐるみが浮いていた。なんの偶然か、アスールが入ってるぬいぐるみと同じ種類だ。色はオレンジで青色のアスールとは違うがな。

 

「フー?」

 

「スー?」

 

 フー子を見たアスールは何かを感じ取ったのか、ゆっくりとフー子と同じ高さまで浮かぶと、鏡合わせのように見つめ合って動かなくなった。

 

「フーフー♪」

 

「スッ♪」

 

「そうだ!今からフー子がのびのびと遊べる場所に連れて行こうと思うんだけど、クロ達もどう?」

 

『ふむ……断る理由もないし、行くとしよう』

 

 鏡合わせの状態から一転して楽しそうに飛び回るフー子とアスールを見ながら、のび太が吾輩に提案してきた。特に断る理由も必要もないから提案に乗ることにした。

 

「よーし、そうと決まれば早速行こう!『どこでもドア』どこでもいいから広ーい原っぱへ!」

 

 ドラえもんがポケットからどこでもドアを取り出し、ノブを握りながらそう言って扉を開くと、扉の向こうにはドラえもんの言葉通り広ーい原っぱがあった。風が吹いて原っぱの草がなびいている。

 

「わあ!」

 

「すごぉい!」

 

「フー!」

 

「スー!」

 

 のび太としずかちゃん、フー子、アスールが広い原っぱを見て感嘆の声を上げる。吾輩と冥も、声こそ発してはいないが驚いている。このような美しい風景がまだ地球に残っていたとは……ッ!

 

「うわあっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「なんだぁ!?」

 

「これはッ!」

 

 五人と二匹が風景に感動していると、突然何かに吸い込まれるように強い風が吹き始め、その場にいた全員を吹き飛ばした。人を吹き飛ばす程の強い風が、クロ達の背後にあった洞窟の中を通り、クロ達がどこでもドアから出てきた場所のちょうど反対側に位置する所……洞窟の外である空中へと全員を運んだ。どうやら、クロ達は高台にいたらしい。

 

『何だったんだ今のは……』

 

 空中に投げ出され、危うく地面にいくつかの赤い華が咲くところだったのを、クロが念動力で浮遊させることで防いだ。アスールとフー子は流石風の子と言うべきか、さっきの状況をまるでジェットコースターに乗ったかのように楽しんでいる。

 

「ありがとうクロ、助かったよ」

 

「助かりました」

 

「「ありがとう」」

 

『どういたしまして。……そういえば、冥は飛べたよな?』

 

「…………」

 

 クロの指摘に顔を背ける冥。油断してたのだろうか。クロも呆気なく風に吹き飛ばされているので、深くは追求しなかった。

 

「タヌキ!」

 

「「『!!』」」

 

 突然、しずかちゃんが大きな声でタヌキと言いだして、その言葉を聞いた三人は驚いた。急にどうしたのかと。自分が言われたと勘違いしたドラえもんは、しずかちゃんに対して猫型ロボットだと訂正しようとしていた。

 

「あのねしずかちゃん、ボクは……」

 

「違うわ、あそこにタヌキちゃんがいるのよ」

 

「ええッ?」

 

 そう言ってしずかちゃんが指し示す先には、二頭身の体をしたタヌキが数匹まとまってこっちを見ていた。いや、よく見てみるとタヌキにしては体が少し小さいような…………

 

「クロに冥、どうしてこっちを見るんだい?」

 

『なんでもない』

 

「ええ、気にしないでください」

 

 どうやら冥も吾輩と同じことを考えていたらしい。ドラえもんが問いかけてきたタイミングで同時に視線を逸らした。別によくタヌキに間違われるドラえもんと見比べていたわけではない。……わけではないぞ!

 

「フー?」

 

「スー!」

 

 フー子とアスールがタヌキに近づくと、タヌキ達は驚くべき生態を見せた。大きく息を吸ったかと思うと体がみるみる膨張していき、最終的に吸った空気を吐き出すとまるで割れた風船のように吹き飛んでいってしまったのだ。吾輩の知っているタヌキにあんなことは出来ないはず……であれば、あれはタヌキに似ているだけの違う動物なのだろう。

 

「イヤアァァァ!」

 

 吹き飛んでいったタヌキを見て少し和んでいたクロ達は、遠くからあげられた甲高い悲鳴を聞き取り即座に臨戦態勢へ移る。悲鳴の発生源はクロが千里眼で探すまでもなく向こうから現れた。円形の棒に布を貼っただけの物の上に乗りながら空中を移動する幼女と、その幼女を追いかける黒づくめのおっさん二人組。おっさん達も幼女と同じように空中を移動している。状況を見るに、悲鳴をあげたのはおそらく追いかけられている幼女の方だろう。

 しかし…………三人ともぱっと見ただけでは、どのような原理でもって浮遊し宙を移動する力を発しているのか全くわからない。魔法か何かを使っているのだろうか?

 

「キャァッ!!」

 

「危ないっ!」

 

 おっさん二人に挟まれた幼女は恐怖故かバランスを崩して謎の乗り物から落ちてしまい、それを見たドラえもんが叫ぶ。ポケットに手を入れて道具を取り出そうとしているが、焦っているせいで目的の道具を取り出せていない。このままでは、幼女は地面の赤い染みとなってしまうだろう。地面まで残り5m……4m……3m……2m……そして、地面に赤い花が咲くと思われたその時、幼女の体は地面まで残り1m手前の位置で停止し浮遊していた。

 

 その光景を見た一同は、安堵の息を吐いて胸を撫で下ろす。

 

「「「ふぅー……よかったー……」」」

 

『ギリギリだったな……』

 

 いつの間にか縄で縛り上げられたおっさん二人の片方の頭に乗ったクロがそう呟く。その傍には冥もおり、二人とも幼女の救出をドラえもんに任せて怪しげなおっさん達を先に倒していたのだ。

 幼女を地面にそっと降ろし、傷がないかを確認しようとするクロと冥。しかし、三人の少年が幼女がやってきた方角から声を上げながらこちらに向かってきたことで、後回しにせざるをえなくなった。

 

「スン!!」

 

「テムジン!!」

 

 やってきた三人の少年の内、真ん中の赤い服を着た少年に幼女は駆け寄り、抱きついた。抱きつかれた少年の方も幼女を優しく受け止めている。

 

「兄妹なのかな?」

 

「家族なのかもしれないわね」

 

『ドラえもんはまだ食べ終わらんのか?』

 

モウフォイ(もうちょい)!」

 

 のび太としずかちゃんは抱き合う二人を見て関係性を考え、クロはほんやくコンニャクをリスみたいに頬張っているドラえもんに問いかけていた。

 

 

 

 




【アスール】
 自分と似たような存在に出会って不思議気持ちを抱いた。原作とは性格と性質が異なる。

【フー子】
 のび太が名付けた台風の子。なお、発見者はスネ夫である。


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47話

 子供の頃は号泣した『ドラえもんのび太と ふしぎ風使い』が、意外にも評価が低いことにショックを受けていました。レビューを読んでみると、まぁ確かにとなるものが多く、大人になってみるとどうしても視点が変わってしまうものなのだなぁと感じました。作者的に『ワンニャン時空伝』と『ふしぎ風使い』、『のび太の恐竜2006』などは、今でも涙腺が緩みますね。うっ……



 

「妹を助けてくれてありがとう! 俺はテムジンって言うんだ」

 

 ほんやくコンニャクを食べ終えたドラえもんが今も幼女を抱きしめている赤い服を着た少年に話しかけると、少年……テムジンはそう返してきた。どうやら幼女はテムジンの妹であったらしく、一人でおつかいをこなしていたところをおっさん二人組が襲撃してきたようだ。つまり、おっさん達はロリコン……いや、危ない奴らだったということか。捕まえて正解だったな。そして、いつも通り互いに自己紹介を済ませた後、ジャイアンとスネ夫が上から落ちてきたが、理由はわかってるからあまり気にしないでおいた。どこでもドアは忘れないうちに回収して、後でドラえもんに返しておくとしよう。

 

 その後、テムジンが『風の村』を案内してくれると言うので、その言葉に甘えた吾輩達はテムジンのナビゲートに従いながら村を探検していた。旋風を発生させる「カタツムジ」、浮輪の胴体を持つ熊の「浮きの輪グマ」、ムササビのような兎の「ウササビ」、それ以外にも空飛ぶ羊や魚、モグラなど本当に地球の生物なのか疑う動物がいた。「浮きの輪グマ」とか合成獣にしか見えん。ドラえもんが過去か未来でこっそりウルトラミキサーで作ってこの村に放った可能性が……?

 村で思い出したが、こんなトンデモ生物が数多く住み着いている村がどうして現代でも見つかっていないのか気になり、テムジンに聞いてみたのだが……どうやらこの辺りに流れる風のおかげらしい。なんでも、風が何十にも重なり光を屈折させて、外界から村を隠しているとか。風王結界かな?

 バウワンコは雲が外界からの発見を防いでいたが、この村は風が防いでいるのだな。ブンブンとかいう紐の先に玉をつけただけの木の道具で風を自在に操作し、風を使って生活をしているのはファンタジーが過ぎる。村の位置は谷間にあるし、実は風の谷だったりしないか?

 

 村の案内が終わると、次はテムジンの家に行くことになった。家ではテムジンの親が待っており、娘を助けてくれたお礼として衣装をくれた。村の伝統的な衣装をもらった吾輩達は、せっかくだからと吾輩を除いた全員がその衣装に着替えていたな。ジャイアン以外は全員似合っていて、冥としずかちゃんは普段よりも可愛く見えた。ジャイアンは似合っていない……と言うよりも、他の面子とは服の趣が違う。何というか、世紀末風だ。肩パッドとかついてるし。

 

「なぁテムジン、風弾ダーツやろうぜ!」

 

「君達もよかったらどう?」

 

 伝統衣装に着替えた吾輩達は、テムジンのお勧めで村から少し離れた広場で日向ぼっこしていたのだが、空から円盤状の……カゼスビーという乗り物に乗ってやってきた少年たちによって中断することになった。

 少年達はテムジンの友達で、風弾ダーツという遊びをドラえもん達にもやってみないかと誘っている。テムジンはすぐにやると返事し、風弾ダーツの説明を聞いたジャイアンとのび太もやる気を示した。しずかちゃん、ドラえもん、冥、そして吾輩はやる気がないので二人を応援することにしたのだが、スネ夫は挑戦することや応援することにも興味を示さず、楽しくアスールと飛び回っていたフー子に執着していた。

 ……スネ夫はなぜああもフー子に執着しているのだろうか?アスールと同じで風を自在に操る風の生命体というのはとても珍しいだろうが、ドラえもんならいくらでも作れそうなものだがな。それに、風の操作なら吾輩もできるのだが……可愛さの問題なのだろうか。猫の可愛さがわからぬとは、スネ夫もまだまだだな。

 

「やったー!!」

 

「すごいぜのび太!」

 

「ちくしょー! のび太に負けた!」

 

「いやいや、君も初めてであれは十分すごいって」

 

 のび太の喜ぶ声とジャイアンの悔しがる声が聞こえてきた。テムジンと少年達はのび太とジャイアンの二人を褒め称えている。ジャイアンの言葉を聞く限り、どうやらのび太がジャイアンに勝ったようだ。のび太がジャイアンに勝つとは珍しい。明日は雨かもしれんな。肝心の場面を吾輩は考え事をしていて見逃してしまったので、後で冥に聞いてみるとしよう。

 

「そうだ! クロもやってみてよ風弾ダーツ」

 

 のび太が吾輩を誘ってきた。吾輩的にはこの遊びに対してあまりやる気が出ないのだが、ジャイアンやしずかちゃん、ドラえもんは何か期待するような眼差しになっている。冥は目を瞑って「お任せします」と言うような表情だ。スネ夫はこっちを見ていない。

 

「えっ、クロってこの黒猫のことかい?」

 

「猫には難しいんじゃないかな……」

 

 テムジンは吾輩が超能力で浮いたりおっさん達を縛り上げたりしているのを見ているからか、特に何か言ってくることはなかった。しかし、少年達の方はそうでもない。吾輩がただの猫だと思っているのだろう、のび太に「何を言っているんだろう」という顔をしている。……仕方ない、のび太のためにも吾輩の実力を披露するとしようか。

 

『わかった、吾輩もやろう。テムジン、乗せてくれ』

 

「わかった」

 

 カゼスビーに乗せて欲しいとテムジンに頼んだら、テムジンはすぐに頷いて吾輩を乗せてくれた。少年達は、突然頭の中に直接声が響いてきてビックリしているようだ。懐かしい反応だ、最近は驚かれることが少なかったからなぁ……。

 

「いくぞ!」

 

『ああ』

 

 テムジンの合図と共に高速で上昇していくカゼスビー。岩壁に設置されている龍を模した筒状の布に向かって上手に風の弾を当て、一発でも命中すればゲームクリアとなる。一見難しいように感じるかもしれんが、実はそうでもない。特に、何度も戦闘してきた吾輩にとっては。

 

「すごぉい! 全弾命中するなんて!」

 

「ただの猫じゃないんだ!?(でも、どうやって風弾を発生させたんだろう?)」

 

 超能力で風弾を発生させて全ての的に命中すると、のび太やジャイアン、しずかちゃん、ドラえもんは吾輩の超能力にもう慣れているからか拍手してくれているが、少年達は先程よりも一層驚いていた。スネ夫はフー子達を追いかけて坂をゴロゴロと転がっている。まぁ、吾輩ブンブンなるものを使わずにやったからな。念話をした時と同様驚くのは是非もない。しかし、ここに住んでいる動物達もどういう原理かわからないが風を発生させているし、ただの猫じゃないことにそこまで驚くことはないのではないか? 

 その後、もう一度ジャイアンが挑戦してのび太の記録に追いついたり、冥やドラえもんも気変わりして風弾ダーツに挑戦し、全弾命中させて何度か少年達を驚愕させていた。風弾ダーツに飽きた後はドラえもんが出した『ドラでカイト』というドラえもんが描かれた巨大な凧に乗って、風の村の風景を楽しんだりもした。

 風の村は巨大な風車がいくつも建っていて、その周囲を羊が浮遊している様は中々面白かったな。フー子とアスールも吾輩達が遊んでいる間に村を探検して十分楽しんだようだった。

 

「そろそろ帰ろうか」

 

「フー?」

 

「もう? フー子もまだ遊び足りないみたいだし、もう少しここにいない?」

 

「のび太さん、また明日来たらいいじゃない」

 

 日が暮れて夕方になり、そろそろ帰らなければ皆の親が心配すると考えたドラえもんが全員に帰ろうと提案すると、フー子とのび太が渋った。フー子は残念そうな顔をしており、のび太はどちらかと言えばフー子が残りたがっているから反対しているようだ。吾輩が見た限り十分楽しんでいたように見えたのだが、フー子はそうでもなかったらしい。アスールもそうなのかと念の為確認してみたら首を振ってちょっと疲れたような顔をしたから、フー子の元気が有り余っているのだろう。

 のび太も結局はしずかちゃんに説得されて、帰宅の準備を始めた。フー子に関しては、今日は風の村に泊めてもらい、明日一緒に連れて帰ることになった。そして、吾輩が回収しておいたどこでもドアを蔵から出して、いざ帰ろうとなったその時、今度はスネ夫が帰るのを土壇場で渋り始めた。

 

「フー子が残るなら、僕も残る」

 

「何言ってんだお前? ほら、いいから帰るぞ!」

 

「ちょっ! 僕はフー子を……っ!!」

 

 しかし、のび太がもう少しここにいたいと言い出した時ならまだしも、こんな帰る直前では誰も聞く耳を持たない。夕方の時点で言えば良かったのだろうがな。吾輩と冥とアスールも帰る気満々だったので、スネ夫の言葉を最後まで聞かずに首根っこを掴んで強制的にどこでもドアを通って行ったジャイアンの行動は実に良かった。

 どこでもドアをフー子以外の全員が通った後、のび太がフー子に危険なことはしないよう注意をしてからドアを閉め、各々別れの挨拶をしてから家へと戻っていった。吾輩達も拠点に戻り、アスールが就寝するのを確認してからいつもの作業を行った。

 

 

 …………この時、クロとドラえもん達は部屋にいなかったせいで気づくことができなかった。部屋に出しっぱなしにされていたどこでもドアが開き、向こう側から赤い目をした一匹の獣が入り込んだことに。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「フー子がどうしても諦められない…………やっぱり戻ろう」

 

 家に向かって歩いていたスネ夫は思案顔でそう呟くと踵を返し、先程出ていったばかりであるのび太の家に向けて歩き出した。フー子はのび太に懐いているが、最初にフー子を見つけたのはスネ夫である。ただ、スネ夫には懐かなかったが。フー子の力を利用してやろうというスネ夫の邪な心をフー子は感じ取ったのかもしれない。しかし、スネ夫は諦めきれなかった。例え自分に懐かなくともどうにか従えたい……自分のものにしたいと。

 

「ん?」

 

 のび太の家に向かう途中、いつもの空き地の道を通ると、空き地の方から物音が鳴るのを聞き取ったスネ夫。

 

「フー子ちゃ〜ん? もしかして、僕についてきちゃた?」

 

 もしかしたら、あの時実はこっそりついて来ていたのかもしれない。そう考えて、スネ夫は空き地に入り物音がした土管付近を探した。土管の後ろを最初に見て、その次に土管の中を見た。しかし、フー子は見つけられなかった。

 

「グルゥ……」

 

「なんだ狼か…………えっ!? 狼!?!?」

 

「丁度いい」

 

 顔を上げ、土管の上を見たスネ夫の目の前には赤い目の狼が唸り声を上げ牙を剥き出しにしていた。フー子に夢中になっていたスネ夫はフー子でないことにガッカリしたが、その数秒後に現実を再認識し、自分の目の前に牙を剥いた狼がいることに驚き、同時に恐怖を抱いた。加えて、なんと狼が話しだしたのだ。一体何が丁度いいのか、その言葉がさらにスネ夫の恐怖を倍増させる。

 

「ちょ、丁度いいって……何が?」

 

「お前の身体だ」

 

「ウワァァァァ!!!」

 

 自分の身体が目当てだとわかった瞬間、スネ夫は駆け出した。決して振り返らず、真っ直ぐに空き地から出ようとした。だが、狼は……いや、狼の中にいた何者かはスネ夫のその行動を許さなかった。

 狼の中から煙のようなモノが出ると狼は倒れ伏し、煙は背を向けて逃げるスネ夫の首筋へと伸びていき、叫び声を上げるスネ夫の中へと侵入していった。

 

「……ほう、飛び散った玉はフー子とアスールと言うのか。ふむ……また彼の地に戻る必要があるな」

 

 満月の夜。空き地から出ていき、のび太の家へと歩いていく誰かはそう呟いた。

 




【テムジン】
 風の村に住む風の民の子供。コミュ力が高く、初対面ののび太達とすぐに仲良くなった。前髪とこめかみに毛が生えたラーメンマンみたいな髪型をしている。風弾ダーツでは全弾命中の記録を残している。

【少年達】
 テムジンの友人達。本作では名前がわからず、細かく描写する気力もなかったため、ひとまとめにされた。ジャイアンとスネ夫をイメージしたかのようなキャラクター。

【スネ夫】
 フー子に執着しすぎるあまり身体を乗っ取られてしまった。ただし、どこかのお辞儀様のように後頭部に生えたりするわけではない。フー子の第一発見者。

【??????】
スネ夫の体に乗り移った人物。こいつが主人公のことをどれだけ警戒するかでルートが変わる。警戒度が低いと??????消滅ルートで、警戒度が高い場合は通常のマフーガ復活ルートになる。ぶっちゃけると、スネ夫の記憶を見ることができるので警戒しない方がおかしいのだが、映画ではドラえもんに対してあまり興味を示しておらず警戒もほとんどしていないかったので、決めかねている。

【カゼスビー】
 調べたらこのような名前が出てきた。本当かどうかわからないが、所詮本作は二次創作なのでそのまま使うことに。なぜあんな作りで人を乗せて浮かせられるのかわからない。普通は破れるか枠の木が折れると思う。

【ブンブン】
 同じく名前が本当かどうかわからないが、そのまま使うことにした道具。紐の先につながっている石を回転させるだけで風を自在に操るオーパーツ。原理が全くわからない。魔法でも使ってるんですか?

【風の村】
 謎生物が大量に住み、風を用いて生活する風の民が住まう村。何故こんな村が現代まで発見されていないのか謎であり、『ふしぎ風使い』三大謎の一つである。本作では、Fateの風王結界のようなシステムが働いていることにした。

【冥】

【挿絵表示】

衣装に着替え、少しドギマギしている冥。大雑把なイメージしか抱いていなかったので、書くときは大変苦労した。


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48話

お久しぶりです。仕事に慣れるのに時間がかかりました。
まぁ、まだ慣れてないんですけどね。スケジュール管理が大変すぎて……

ちなみに、この『ふしぎ風使い編』は悩みに悩んだ結果「?????消滅ルート」に決定致しました。
?????はフー子とアスールを奪い去るだけの簡単なお仕事だと考えていたので、ドラえもんとクロのことは警戒していても、まぁなんとかなるやろと思っていました。故に、その油断が命取りに……


『何ッ!? スネ夫が帰っていないだと!』

 

 明朝に緊迫した様子のドラえもんから連絡が来たので、慌ててのび太の家に行ったら、スネ夫がまだ家に帰っていないことを聞かされた。どうやら、スネ夫のママさんがスネ夫が帰ってこない理由を、泊まりがけでのび太の家にいると思い込んでいたようで、今朝から家にやってきてスネ夫は元気であるかを聞いてきたらしい。

 ドラえもんは昨日の夜に忘れ物をしたと戻ってきたスネ夫は見たが、帰るところは見てなかったそうだ。そのせいで今はかなり後悔しているようだが……

 吾輩の拠点に設置している虫の知らせアラームは何の反応もなかったというのに、これは一体どういうことなのか……

 

「あいつ……きっと一人で風の村に行ったんだ。フー子に拘ってたし、昨日の夜会った時も様子が変だったしよ」

 

 ドラえもんから連絡を受けて、吾輩や冥と同じようにのび太の部屋へとやってきていたジャイアンとしずかちゃん。ドラえもんの話を聞いたジャイアンは昨夜スネ夫と出会った時の様子を語り出した。

 

「いきなり俺のことをブタゴリラって呼んできたり、目が赤く光ったと思ったら触れてもないのに離れたところに投げ飛ばされたんだ。クロの念動力みたいな感じだったぜ」

 

「そんな……」

 

「あのスネ夫さんが……?」

 

 スネ夫が吾輩のように念動力を使用したとはな……いつのまに超能力に目覚めたのだろうか。しかし…………超能力が開花して調子に乗ったスネ夫なら、ジャイアンの悪口も言いそうなのがなぁ…………

 

「とにかく、早く風の村に行こうぜドラえもん!スネ夫は向こうに行ってから帰ってこなかったんだろ?」

 

「うん……そうだね。必ずスネ夫君を見つけなくちゃ!」

 

 ジャイアンとドラえもんが意気込み、どこでもドアを勢いよく開けて向こう側へと渡ってゆく。その後をのび太としずかちゃんが追いかけていき、最後に吾輩と冥が扉を通った。

 

 扉の向こう側である風の村は、昨日と変わらず心地良い風と原っぱが広がっている。特に異常は感じられない。こんな環境でスネ夫はいったいどこへ消えたのか……

 

「フー?」

 

「フー子! スネ夫を見なかった?」

 

 のび太が風の村にやってきたのを感知したのか、フー子が遠くの空からのび太の前まで降りてきた。そして、降りてきたフー子にスネ夫は見なかったかと問いかけるのび太。フー子は見ていないと首を振るが、ジャイアンは本当に見ていないのかとフー子に詰め寄り、ドラえもんとしずかちゃんに落ち着けとフー子から離されていた。

 

「あれは……?」

 

「どうしたの冥さん?」

 

 風の村を囲む高い岩壁。その上から複数の黒い点が現れ始め、徐々にそれらが大きくなっていくことでこちらに近づいていることがわかった。

 

「人?」

 

『あの黒い服装は……嵐族……だったか?』

 

 のび太達でも視認できる程向こうが近づいてようやく、黒い点の正体がわかった。風の村のはずれからやってきた十数人の嵐族だったのだ。

 彼らは真っ直ぐにこちらへと向かってきているから……吾輩達の誰かが目的かもしれんな。しかし、だとすれば何が理由で吾輩たちを……?

 

「フフッ」

 

 クロやドラえもん達が嵐族を認識し、その目的を考察しようとした時に、驚くべき人物が風に乗って向かってくる嵐族の先頭に現れる。

 

『なっ!? あれは……ッ!』

 

「スッ!?」

 

「ネッ!?」

 

「夫ォ!?」

 

「さッ!?」

 

「ん!?」

 

 クロ、ドラえもん、のび太、ジャイアン、冥、しずかちゃんの順で驚き、その人物の名前を叫んだ。……ちなみに、ギャグみたいな流れでスネ夫の名前を一文字ずつ連呼しているが、偶然である。

 

「おいのび太! フー子を渡せ!」

 

 黒い嵐族の服を着てカゼスビーに乗り、空からそう言い放つスネ夫。その顔は死人のように青白く、眼球は真っ赤に染まっていた。ぱっと見ただけでも正常な状態にはないとわかる。

 

「フー子!? どうしてフー子を――」

 

「まだそんな事言ってんのかスネ夫! いい加減に目を覚ませ!」

 

 スネ夫の言葉に困惑するのび太。なぜフー子を狙うのか分からないのび太はそれを質問しようとするが、隣で発したジャイアンの大声によってかき消されてしまった。

 ジャイアンは昨日からスネ夫がフー子に拘っていたことを知っていたし、なんなら協力するよう頼まれてもいた。協力に関しては途中で忘れていたが……スネ夫がフー子に執着し、家にも帰らなかったのは自分のせいだと思っていた。自分がスネ夫の話しにもっと耳を傾けてやればと……。そして、風の民からも悪印象をもたれている嵐族と共にスネ夫がこの場に現れた時点で、ジャイアンの怒りと罪悪感は限界だった。

 

 しかし、ジャイアンの思いはスネ夫には通じない。通じるはずもない。

 

「ふん、またお前かブタゴリラ。お前に用はない。……かかれ! フー子を奪うんだ!!」

 

 スネ夫の周囲で滞空していた嵐族の男達が、スネ夫の命令を聞いて動き出す。一気に降下し、のび太の側で浮遊するフー子を狙う嵐族。だが、彼らがフー子を捕らえることはできなかった。

 

「か、体が……」

 

「動かねぇ!」

 

『フン、吾輩が大人しくのび太達が襲われるのを見ていると思ったのか?』

 

 クロの念動力によって動きを止められていたからである。のび太達もクロが一緒にいて、嵐族が動き出した瞬間に冥が庇うように前に立ったことで、逃げようとはしなかった。クロと冥を信頼しているというのもあるのだろう。同じように無防備に立っているドラえもんは、さすがにポケットに手を突っ込んで戦闘態勢くらいはとっておくべきだと思うが。

 

「ええい面倒な! ハァッ!」

 

『何ッ!?』

 

 クロに動きを止められ何もできずにいる配下達の姿を見たスネ夫は、面倒だと言い放ちながら赤い目を怪しげに光らせる。すると、動きを封じていたクロの念動力が途端に中和され、念動力による拘束が解けてしまう。

 

 (吾輩の念動力に干渉して相殺……いや、中和してきただと!? 仮に昨夜超能力に開花したとしてもこんな芸当はそう簡単にできることじゃないぞ!? あの顔や言動といい、スネ夫に一体何があったのだ?)

 

 驚愕するクロ。だが、驚いているのはクロだけではなかった。

 

(小童どもをついでに動けなくしてやろうと思っとったが……よもや儂の力をもってしても彼奴らの拘束を中和することしかできんとは……これ程の力をもっておったとは儂の想定外じゃ。この小童の記憶を読んである程度警戒はしておったが、それでは足りんな)

 

 互いの持つ力に驚きを隠せず、警戒するクロとスネ夫。

 

「何をしている、早くフー子を捕らえろ!」

 

「「「「ハッ!!」」」」

 

 スネ夫の助けによって動けるようになった彼等は、命令に従って再び動き出した。

 

『冥、ドラえもん達を頼む。吾輩はスネ夫に集中する』

 

「かしこまりました」

 

 それを見たクロは、ドラえもん達の前で仁王立ちしていた冥にドラえもん達の守護を任せた。油断していたとはいえ、自身の超能力を中和してみせたスネ夫の相手をするために。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「はあっ!」

 

 クロからドラえもん達の守護を頼まれた冥は、安全膜を展開した。

 

「な、何だこりゃ!?」

 

「見えないナニカがガキ共の周りにありやがる!」

 

 安全膜は無色透明の絶対防御を誇る球状の膜。冥を中心にしてドラえもん達を覆った安全膜は、嵐族の侵入を決して許さなかった。クロの念動力が目の前で中和されて驚き動揺していたドラえもん達も、冥が安全膜を展開したことを知ると安堵していた。

 

「クソッ! 風弾も届かねぇ!」

 

「むぅ…………」

 

「ストーム様、どうすれば!?」

 

 無数の砲弾や爆弾からブリキン島を守り、人魚の剣を手に入れたブイキンの攻撃も防いだ冥の安全膜は、嵐族の持つブンブンから放たれるいくつもの風弾をものともしなかった。

 近づくことも攻撃することもできないとわかった嵐族は、同じ黒い装束を着たストームと呼ばれる男にどうすればいいのかと助けを求める。

 

「あなた方には何もさせません……バンッ!」

 

「ウッ!?」

 

「何だ!?!?」

 

「これは……空気ピストルかッ!?」

 

 握りしめていた拳から人差し指のみを伸ばし、指先を嵐族に向け「バンッ」と唱える冥。すると、狙われていた嵐族の男に空気の弾丸が直撃し、カゼスビーの上から落ちていった。それを見て理解が追いつかずに慌てふためく嵐族達。そして、その隙を見逃すほど冥は甘くはない。

 

「バン、バン、バン、バン、バンッ!」

 

「うっ」

 

「あへっ」

 

「おぎゃっ」

 

「イっ!」

 

「バカな……この時代の人間がどうして道具を……くっ!」

 

 次々と冥に撃墜されていく嵐族。滞空していた高度はそこまで高くなかったため、落下した嵐族は気絶程度で済んでいるのは幸いだろう。そして、いつの間にか残っている嵐族はストームと呼ばれた男一人のみになっていた。

 

「あなたは他の方々と違い、よく避けますね。それに、私の行っていることを理解できているそのご様子……あなたはもしや、22世紀の人間ですか?」

 

「チッ! ああ、そうさ! まさか同じ時代の人間と子守りロボットがいるとは想定外だった! だが、ここで貴様らを消せば全て問題ない」

 

「クロ様と私がいてそれができるとお思いなさっているとは……えっ!?」

 

 ストームの発言や空気ピストルを避ける動作など、およそこの時代の人間らしくない行動に疑問を感じた冥は、ストームが未来(22世紀)の人間ではないかと考える。ドラえもんのように別の未来からの使者、あるいはスネ夫からもたらされた知識故の行動という可能性もあるが、あの驚きようではその可能性は低いだろうとも。

 ストームという男の正体はこの考えで合っていると思うが、実際に相手が答えるかクロが記憶を読むまでは分からない。冥は相手が素直に答えてくれるとは限らないが、聞いてみるのは無駄ではないと思い、未だ空中で自身を睨みつけているストームへと問いかけた。

 そんな冥の問いかけに対しストームは、舌打ちしながらも自身の正体を正直に明かす。そのまま黙っていても良かったが、同じ時代の者ならもしかしたら自分の顔を知っている可能性もある。それに、膜の中でひたすらガラクタを引っ張りだしている青いタヌキ型ロボットもいるのだ。バレる確率は高いはずだ。しかし、いずれにせよアレを使ってここで奴らを消せば問題ないと判断した。

 

 そして、ストームは一目散にこの場からアレが置いてある場所へと去っていった。その速度は、ここへ来た時よりも圧倒的に速かった。

 

 

 

 

 

 自分達を消すとまで言った敵がまさかの逃亡するという行動に、冥はビックリし呆けざるを得なかった。




【ジャイアン】
 映画同様、スネ夫が家に帰らず嵐族に与したのは自分が気づいてやれなかったせいだと考え、後悔している。友情度と知能指数が若干上がっているのは映画補正。

【フー子】
 何がなんだかさっぱりわかっていないが、雑巾みたいな顔色のスネ夫は大嫌い。冥が嵐族を次々倒していくのを見て興奮し、のび太に膜の外へ出ていかないように抱きしめられていた。

【ドラえもん】
 主役キャラではあるが、『ふしぎ風使い編』ではあまりにも出番が少ない。というか、作者の力量不足で同時に二人以上のキャラクターを運用できないため、本来はあった出番が消滅した。『ワンニャン時空伝編』では増やす予定。

【ストーム】
 本来は最後の最後で正体がバレるはずだった黒幕。道具の存在を知っていたわりに、ギガゾンビみたいな機械特攻の武器を持っていなかったのでこうなった。

【?????】
 明らかに風以外の力を使っているなんちゃって嵐族。映画では電撃からビーム、念力、憑依などを使用し、普通に風の力も使用できていた。超能力なのか呪術なのか、はたまた魔法なのか全くわからない謎パワーである。本作では超能力であるとした。クロ程出力はないが、技術に関しては引けを取らない。


途中から三人称で描写していますが、一人称の方がいいのでしょうか?



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49話

最近…………愛猫が逝っちゃったり、親族が亡くなったりして忙しく……短くても許して……許して……(震え)

ちょっと……いやかなり迷走しました。
視点がコロコロ変わって読みづらいかも……


 スネ夫とクロの戦いは互角……いや、クロが徐々に優勢になっていた。スネ夫が放つ超能力は、どれも高い技術と一定以上の出力を必要とされるものばかりだったが……クロはそのいずれもスネ夫より勝っていたのだ。出力は神からの贈り物だが、技術に関しては厳しい修業の成果だった。

 

 スネ夫が手のひらから電撃を放てば電子の流れを誘導して防ぎ、指先から発射された赤いビームには粒機波形高速砲で貫き、カゼスビーに直撃させてスネ夫を落下させていた。スネ夫に当てるのではなく、カゼスビーに当てたのは、スネ夫をできるだけ傷つけぬようにするため……というクロの配慮だった。

 そんなクロの配慮を感じ取れぬ程、敵は弱くはなかった。手加減されているという事実を思い知らされる。

 

「おのれぇ……! たかが猫風情に儂がぁ!!」

 

『…………』

 

 落下したスネ夫は、赤く目を光らせフワリと浮くと、怒りの言葉と共に衝撃波を放つ。大地を砕き、周囲を吹き飛ばす程の衝撃波がクロへと迫るが、クロの真紅の瞳がキラリと輝くと、まるで衝撃波が意思をもっているかのようにクロを避けていった。

 そして、スネ夫の言動や超能力技術に強い疑問を抱いていたクロは、スネ夫が怒りで隙をさらしている間にサイコメトリーで記憶を読みとり、真実を知った。

 

『貴様……中身はスネ夫ではないな』

 

「っ!? 何を根拠に……」

 

『生憎、隙だらけだったのでな。記憶を読ませてもらった。それで貴様の正体を知ったというわけだ……嵐族の亡霊めが』

 

 そう、今のスネ夫は亡霊に取り憑かれた状態であったのだ。それも……かつて嵐族を統べ、世界に災いをもたらした男の亡霊に。

 

「獣如きが図に乗るでないわ! はぁっ!!」

 

『くだらん』

 

「なにィ!? ぎゃあぁぁぁぁ!?!?」

 

 ちょと力があるだけの猫に攻撃が届かず、記憶を読まれ、自身を侮辱された亡霊は烈火の如く憤怒し、先程とは比べ物にならない威力の衝撃波を放った。それは、もしクロが避けてしまえば、風の村が跡形もなく消え去る程。だが、クロは避けない。避ける必要すらない。

 クロは村一つ消し飛ばす程の衝撃波を前にして微動だにせず、自らの身体から蒼いオーラを放出し、束ね、刃のようにして放った。蒼いオーラの刃と衝撃波は互いに向けて一直線に進み、衝突し、衝突波は霧のように消え去り、蒼いオーラ刃だけがそのまま亡霊へと直撃した。

 

 クロが放った蒼いオーラは、冥達との修行の中で身につけた特殊な技。第二魔法や魔法世界の魔法、そして超能力を組み合わせた技で、直撃したところで肉体には何のダメージもないが、その精神や魂にのみダメージを与えるというもの。つまるところ、肉体を持たない精神生命体等に良く効く技ということだ。

 それを証明するように、蒼いオーラの刃を受けた亡霊は苦悶の声を上げている。

 

『スネ夫の肉体に攻撃できないだろうと高を括っていたのだろうが、考えが甘かったな』

 

「お、おのれぇ……」

 

『ここで消えるがいい』

 

 荒く息を吐く亡霊の目の前にやってきたクロは、全身から蒼いオーラを立ち昇らせて、亡霊に永遠の眠りを与えようとしていた。

 

「くぅ…………フンッ、認めよう。貴様は儂より強いと……だが、ただでは死なん!」

 

『っ!?』

 

 目の前にいるクロを見た亡霊は、観念したかのような表情をして語り始めたが、最後の言葉を言いきるとスネ夫の体から上空へと出ていった。

 

「儂の全てを使ってマフーガを復活させる!! 【イナム・メラー・ハイナラ・イマーラー】!!!!」

 

 風の村を見下ろせる程の高さで浮遊している亡霊は、呪文を唱え、自身の命を使う禁術を発動させる。

 すると、空はみるみるうちに曇天へと変わっていき、強い風が吹き荒れる。浮遊していた亡霊の形も、人形から大きく伸びていき、台風を纏う巨大な風の龍……マフーガへと変化していった。

 その場に存在するだけで嵐を巻き起こし、被害をまき散らす天災。風の民達はこのマフーガの影響でようやく異変に気づき、外に出てマフーガに驚いていた。

 

『天候を変えるとはな…………だが、吾輩もそれくらい可能だ』

 

 マフーガを見たクロは驚きはしたものの、それだけだった。相手が天候を変えてくるなら、こちらも変えるだけ。ただそれだけのこと。亡霊が出ていき、気を失って倒れているスネ夫を冥の膜の中に

 

「ギュオォォォォォォーン!!」

 

 目には目を、歯には歯を、龍には龍をぶつけよう。そう考えたクロは、魔法を使って嵐龍アマツマガツチへと姿を転じ、マフーガと同じ高さまで昇り咆哮した。

 

「グオォォォォォォ!!」

 

「ギュオォォォォォォ!!」

 

 マフーガも咆哮し、嵐を纏う龍同士が衝突する。両者はそれぞれ反対向きの嵐を纏っており、衝突と同時に雨風と雷が吹き荒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アマツマガツチへと姿を変えたクロがマフーガと衝突した頃、ストームに逃げられた冥達は、気絶した嵐族達を縛ってスネ夫と一緒に膜の中に避難させていた。外は暴風雨に加えて落雷も発生している危険地帯。そのままにしていたら、命の保証はできなかっただろう。

 

「冥さん、これ大丈夫かな?」

 

「のび太さん、私の膜はこの程度の嵐では傷一つつきませんのでご安心を」

 

「そうじゃなくて……テムジン達のことだよ」

 

「それは……」

 

「クロちゃんの戦いに巻き込まれてたら……」

 

 テムジンや風の民を心配するのび太達。冥に守られている自分達は大丈夫でも、そうじゃない風の民は外の影響をモロに受けているんじゃ…………そう思ったのだ。冥は、風の民については考えが及んでいなかった。生まれて一年も経っていないなら仕方ないだろう。

 

「一度膜を解除し、風の村全域を包むように大きさを変えて再展開すれば大丈夫なはずです。ですが……」

 

「大丈夫だよ冥さん! 再展開までの時間はボクが風神うちわで稼ぐから!」

 

「それでしたら……」

 

「大丈夫なん『ドォォォォン!!』わあっ!?」

 

 冥がドラえもんやのび太達と話している最中、突然に衝撃と爆発音が膜の中で響いた。

 

「一体何が……なっ! そんなッ……」

 

 衝撃と爆発音は大きくて強かった。子供なら昏倒は免れない程に。ドラえもんはなんとか意識があるものの立ち上がれず、フー子も含めたのび太達は怪我はしていないものの全員、意識を失っていた。六人の中で比較的ダメージが少なかった冥はすぐに何が起こったのかを確認し、驚愕で固まってしまう。

 驚くのも仕方ない。なんせ、絶対防御だとクロと冥の二人が思っていた安全膜に大穴が開いていたのだから……

 

 膜に空いた大穴の直線上には、一機の黒くて大きい謎の飛行物体が浮遊していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……それは、22世紀のタイムマシンにしてはあまりにも大きく、黒かった。まるで戦闘機を模したかのような形状をしており、その室内で高笑いする一人の男がいた。

 

「ハーッハッハッハ!これならばひとたまりもないだろう!!」

 

 目の前に映し出されるモニターの映像を見て、自分の勝ちを確信した男……ストームが高笑いしていた。なぜなら、改造した自身のタイムマシンから撃った時空ミサイルが、冥の安全膜を破り、大穴を開け、ダメージを与えたからだ。

 時空ミサイルは、対タイムパトロール用に作った特殊なミサイル。対象の時間と空間にダメージを与え、爆破するもので、並大抵の防御では役に立たない。改造したとはいえ、所詮は子供用のひみつ道具である安全膜では完全には防げなかったのだ。

 

「クククッ、所詮は子供の遊び道具。この時空ミサイルならあと一撃でお前達を葬れるだろうが……マフーガが復活したならば、何をしても意味はない。さあ、マフーガよ! 当初の目的どおり、この穢れきった世界を洗い流し、清めるのだ!!」

 

 ストームの本来の目的はマフーガの復活であり、マフーガがもたらす嵐と雨によって世界を沈めることだった。その成就が近いものとなった今、ストームは安全なタイムマシンの中でクロと幾度も衝突しているマフーガにそう言うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【?????→ウランダー】
 本作では結局名前がわからないまま退場した亡霊。原作の様子を見る限り、こういう奥の手も持っていそうだなって思った。呆気なく倒されたのは原作通りかもしれない。

【マフーガ】
 いつから復活しないと錯覚していた……?でも、当初は復活しない予定だった。封印の剣がぶっ刺さっている玉はそのまま。

【冥】
 安全膜が破られてビックリ。無数の爆撃を受けても無傷だったが、時空間にダメージを与えるレベルは無理だった。

【ストーム】
 いろいろと予定が崩れたが、マフーガは復活したし調子に乗ってたガキ共にも攻撃できて大満足。


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50話

遅くなってしまって申し訳ない……


 今朝からクロの拠点、その夏ゾーンでぬいぐるみ達と遊んでいたアスールは、空が異様な変化をし始めると、何かを察知したかのようにある方向に顔を向け、睨んでいた。

 

「スゥ……スッ!」

 

「「「「!? ……ッ!」」」」

 

「スーッ!」

 

 そして、風が強まり……嵐になると、アスールはぬいぐるみ達の制止の声をふりきって飛んでいき、拠点から出ていった…………嵐の発生地へと。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 クロと風の龍がぶつかり合い、その度に嵐が強まる。嵐が収まる気配は一向になかった。

 

「ギュオォォォォォォーン!!」

 

 クロは咆哮しながら強力な風の弾、雷、水の刃を放ち、マフーガを消滅させようとする。だが、その体を跡形もなく消し飛ばそうとも、マフーガは周囲の風を収束させて何度も復活した。マフーガの戦闘力自体はそう高くない。むしろ、スネ夫に憑依していた時の方が強かっただろう。なぜなら、クロのように風弾を放つでもなく、雷を落とすでもなく、ただ体当たりや噛みつきをするだけであったからだ。ただし、マフーガのもつ再生力だけはかなり厄介に感じていた。

 精神生命体にダメージを与えられるオーラの攻撃も、まるでどこからかエネルギーを供給しているかのように、ダメージを回復して再生するのだ。きりがない。

 

 むぅ……おそらく奴は、この嵐によって形成されている。だから、龍の形をとった奴を倒してもこの嵐をどうにかしない限り、奴は復活し続けるのだろう……厄介な。天候を変えるだけならそう難しくないと思っていたが、この嵐には奴の意思が込められている。ただの嵐でない故か、予想以上に大気の操作ができない。さてどうするか……

 

 何度も再生するマフーガを見ながら考えるクロ。この戦いの最中に嵐を解除しようと複数回試みているが、その成果は芳しくない。意思持つ嵐故に、通常以上の出力を要するのだ。マフーガを処理しながら試みていては嵐を治められない。かといって、マフーガを放置すれば今以上の被害が風の村におよぶ可能性が高く、ドラえもん達も巻き込まれるかもしれない。

 誰かがマフーガを抑えてくれれば、その間に大気操作に専念できるのだが…………

 

「グオオオオオオオオオ!!! ……グアッ!?」

 

 そう考えている間にマフーガは再生を完了し、咆哮しながらクロへと体当たりしていく。クロはその体当たりを正面から受け止め、オーラを込めた衝撃波を放ち、マフーガの体を木端微塵にする。

 だが、やはりマフーガは周囲の風を収束させて再生していく。体が破壊されてから再生し、復活するまで大体3秒程度。そのわずかな時間で、クロは嵐を鎮めなくてはならない。

 

 再生したマフーガはさすがに学習したのか、体当たりをしてくることはなく、ジッとクロを睨んでいた。何もしてこないなら都合が良いと考えたクロは、蔵を開いて宙に巨大な黄金の波紋を出現させる。波紋からは高層ビルの上部分が露出しており、その先端は嵐の目を向いていた。狙いを定め、高層ビルを勢いよく発射する。

 

「グオッ!?」

 

 巨大質量が凄まじい速度で空を進み、嵐の目の部分へと向かっていく様を見たマフーガはクロの狙いを悟り、焦りで声を上げる。

 空を進む高層ビルはそんな声に反応するわけもなく、天を覆う分厚い雷雲の中心へ入り、音速を超えたことにより発生した衝撃波で雲を吹き飛ばした。

 

『!? …………これでもダメか』

 

 雲が円状に吹き飛んだことで見えた綺麗な青空。だがそれも、すぐに天を再び覆った雷雲によって見えなくなってしまった。一瞬止まった雨風もまた激しく降り始め、ふりだしに戻った。

 また体当たりしてきたマフーガを木端微塵にして天の様子を確認したクロは、単純に空を晴らせば良いというわけではないと知り、他の方法を考える。

 

 そんな時、遠くから何かが近づいているのをクロは感知した。魔法による感知領域を広範囲に広げていたおかげだ。

 

 近づいているのは飛行機などの大型ではない。それよりもさらに小さい。あるいは人間より小さいかもしれない。だが、鳥のような動きではなく、群れでもない。一体だけで近づいている。明らかにこの場所へ向かってきている存在は一体何なのか。

 

『なっ、アスール!? なぜお前がここにいるのだ!』

 

 視界に入ってきたそれを認識して、クロは驚いた。なぜなら、拠点で留守番をさせていたはずのアスールだったからだ。

 

 アスールはアマツマガツチに変身したクロとマフーガを交互に見た後、覚悟を決めた顔をして嵐の中心へと突撃していく。その身に風を纏って…………

 

『何をする気だアスール……ッ』

 

 上昇していくアスールへと攻撃しようとしていたマフーガを雷と風のソーサーで破壊したクロは、アスールが何をしようとしているのかを考える。

 

 アスールは青白い煙のような風を纏いながら、嵐の渦……その中心に到達すると、嵐とは反対方向に回り始めた。おそらく、冷風で嵐から熱を奪い、消滅させようとしているのだろう。だが、それは既に吾輩が試した。ただの自然現象であれば消滅させられたのだろうが……意思をもった風には効果がなかったのだ。…………いや、待てよ? アスールは風に意思が宿った生命体……そして、それはマフーガも同じだ…………まさかッ!?

 

『止まるんだアスール! そのやり方では、お前も消えてしまうんだぞ!』

 

 アスールの狙いに気づいたクロは、今も回転を続け、嵐と同程度の規模の雷雲と風を生み出すアスールを止めようとする。

 

「スーッ!! スー、スッスーッッ!!」

 

『アスール……』

 

 しかし、アスールは止まらなかった。むしろ、制止しようとしたクロに自身の覚悟を伝えたことで、クロの動きを止めた。

 

 

 

 

 アスールとクロは出会ってからまだ一週間も経っていない。そんな短い期間でも、アスールはクロを好いていた。同時に、自らに相応しい主人であるとも思っていた。フー子と違い、アスールは自身がどのような存在なのか知っていたし、封印される前の記憶も残っていた。だからこそ、玉から出れた時に見た世界は、あまりにも自身の知っているものと違いすぎて衝撃的だった。場所によって涼しくも暖かくもなる穏やかな風があること、太陽の存在や陽射しの暑さ、様々な生命体の存在クロがもつ元主人以上の力など多くのことを知り、あっという間に世界を好きになっていた。そして、好きになった世界で一番好きなものは青空だった。なぜなら、マフーガとして生まれて世界に大洪水を起こした時の記憶では空は常に曇天で、それが普通なのだと思っていたからだ。だからこそ、本当の空が綺麗な青空だったことを知った時はしばらく見続けた程に衝撃的だった。

 この素晴らしい世界を……美しい青空が見れなくなるのは嫌だ。たとえ、自身が消滅したとしても必ず取り戻す。

 

 

 

 

『アスール……お前の気持ちは確かに伝わったぞ……その覚悟もな。冥に威勢よく啖呵を切ったというのに恥ずかしいが、吾輩だけではこの現状を打破することが難しい。だから、一緒にやろうアスール!』

 

「ッ! スゥスゥ!!」

 

『ああ……ありがとう。アスール、マフーガは吾輩が抑えるから気にするな。お前はそれを完成させるのに集中するといい』

 

「スー!」

 

 アスールと共闘することを選んだクロ。一人ではなく、誰かと一緒に戦うのは魔法世界以来故か、少し楽しげだ。アスールも自身の気持ちを尊重してくれたクロに感謝と嬉しさを感じている。

 

「グオオオオオオ!!」

 

 再生したマフーガが吠えながら上昇し、クロ達へと近づいていく。アスールの思い通りさせないために。

 

『さて…………やろうか、アスール』

 

「スゥ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ! まさかあのマフーガが手も足も出ないとは!」

 

 嵐の中、タイムマシンの中から外の様子を見ていたストームは荒れていた。変身したクロにマフーガが何度も倒されていたからだ。

 

「というか何なんだあの猫! ウランダーと同じように超能力を使ったと思えば、あんな餃子みたいな龍に姿を変える! E・S・P訓練ボックスじゃあんな芸当はできないぞ!? どうなってるんだ!?!?」

 

 マフーガを圧倒するクロに驚愕を隠せないストーム。それも仕方ないのかもしれない。なんせ、念動力に空間転移、魔法など多種多様な力を用いてくるのだ。どう考えても普通の猫ではない。ストームがひみつ道具について詳しく知っていれば架空動物製造機やウルトラミキサー、魔法事典などの可能性も思いついただろう。まぁ、魔法以外は元々クロがもっていた力だが。

 

「…………あの化け猫がマフーガを倒せるとは思えないが、万が一ということもある。邪魔できんように排除しておくか」

 

 そう呟いて座っていた椅子から立ち上がり、運転席へと向かった。自動操縦にしてた運転を手動に切り替え、アスールの下へ行かせないようにマフーガと戦っているクロへと標準を合わせる。そして、ミサイル発射のボタンを押そうとした瞬間、轟音と激しい揺れがストームを襲った。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 揺れに耐えきれず転んでしまったストームは、何事かと動揺し、モニター室へと走っていった。

 

「一体何がぁッ!?」

 

 部屋の中へ入り、モニターで外の様子を確認しようとすると、また大きな揺れと轟音が起きてモニターに勢いよくキスする羽目になったストーム。

 

「さっきから何なんだまったく! なっ! なぜ奴が動いて……ッ!?」

 

 痛ぁぁ!!と顔を手で覆いゴロゴロとのた打ち回り、2分くらいしてやっと痛みが引いてきた。そして、改めてモニターを確認したストームは驚きで声を荒げるのだった。

 なぜなら、モニターには光る剣を構えた冥が映っていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 安全膜を破壊され、気を失ったのび太達をドラえもんと一緒に安全な所まで運んだ冥は、ひどく落ち込んでいた。

 

「申し訳ありません……ドラえもんさん。あなた方を守ることも、クロ様の命を守ることもできずに……私は……」

 

「冥さん。ボクは無事だし、のび太君達もみんな生きてる……それに大きな怪我もないのは、冥さんのおかげなんだよ?」

 

「しかし、気を失うほどのダメージは避けられませんでした…………これでは、怪我したも同然です……」

 

「冥さん…………」

 

「ですが……今落ち込んでいる状況ではないことも理解しています。なので、大丈夫ですよドラえもんさん。心配してくださって、ありがとうございます」

 

 そう言って切り替えた冥は、クロとアスール、マフーガの戦いを浮遊しながら観察しているタイムマシン……の中にいるストーム……を睨み、片手を上げた。

 

「私の持つ武装の大半はひみつ道具による物ですが、そうでない物もあります」

 

 冥はそう言う。掲げていた手にはいつの間にか、神秘を感じさせる西洋風の剣が握られていた。翡翠色の刀身に黄金の鍔、純銀の柄で構成されたそれは、以前、クロが魔法世界で発見したナルニアデスの剣を改造したものであった。

 

「魔法システム起動。『斬光(ゼルリッチ)』」

 

 冥の言葉に反応して刀身から翡翠色の光が強まり、魔法名が唱えられると洪水のように溢れ出した。冥がそのままタイムマシンに向かって剣を振り下ろすと、眩い光の斬撃がビームのように放たれた。

 

「冥さん……それって……」

 

「これは、クロ様から戴いた『ナルニアデスの剣改』です。特定のキーワードで誰でも魔法を発動できる魔道具で…………斬光(ゼルリッチ)……っと、このように連続使用も可能です」

 

 冥は、ドラえもんの質問に答えながら次々と光の斬撃を飛ばし、ストームが乗るタイムマシンにダメージを与える。一発当たるだけで深い一本線の傷が刻まれるため、タイムマシンが墜落するまでそう時間はかからないだろう。

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 時は戻ってタイムマシンの中。

 

「おのれぇ……まだ動けたとは」

 

 ストームはモニターに映る冥を見て、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。時空ミサイルによって少なくないダメージを負ったはずの人物が攻撃していたのだ……ストームにとって想定外のことであったため、そうなるのも仕方なかった。

 

「ぎゃあッ!? クソッ! なんて威力だ……うわあっ!?」

 

 ドオン!! という轟音も振動がタイムマシンを襲う。そして、遂に限界を迎えたストームのタイムマシンは浮遊すらできなくなり、コントロールを失って墜落するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




終わらせられなかったよ……

【アスール】
 原作フー子のようなことをしている風の子。短い期間で懐き、自身を犠牲とするほどの理由は作者の勝手な独自解釈によるもの。じゃないと、のび太が相当な人外たらしか……フー子が聖人すぎることになる。

【ナルニアデスの剣改】
 クロが魔法世界で手に入れたナルニアデスの剣を改造したもの。宝石剣のように光の斬撃……ビームを放つことができる。ただし、反動が強いため、人間が使うと骨が折れる。


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51話

展開が……話の展開が……オリジナルにすると、どうすればいいのかわからなくなるッ! でも、オリジナル要素入れないと二次創作にならないし……難しすぎるッ!


今回でふしぎ風使い編は終了だす。
更新が遅くてすまない……すまない……(泣)


「グオオオオオオッ!」

 

「キュオオオオオオ!!『近づかせんッ!』」

 

 アスールが新たな嵐雲を作り出す。それを阻止せんとマフーガが風を纏って向かっていく。もし、そのまま衝突すれば、アスールが作り出した嵐雲だけでなくアスール自身も吹っ飛ばされるだろう。だが、それを許す吾輩ではない。風と電撃でマフーガが纏う風を引き剥がし、吾輩自身がオーラを纏って体当たりすることでマフーガを崩す。

 

「グゥゥゥ……」

 

 形を崩されてもマフーガは風を収束させて再生する。しかし、アスールが来る前よりも確実にそのスピードは遅くなっていた。アスールの策が効いてる証拠だ。そして、それは同時にアスール自身も…………いや、今はその事を考えてる場合ではない。

 

「キュオッ!」

 

「グッ!?」

 

 完全に再生し終えて突撃してきたマフーガを、サマーソルト(尻尾)で顎をかち上げる。そして、がら空きのマフーガの胴に周囲の水を集めて圧縮させた水圧ブレスを当てて、空中から大地に落とした。

 ドォン!!と勢いよく大地へ衝突するマフーガ。地面は割れ、砕けて吹っ飛び、大量の土煙が上がる。一応、冥達や風の村からは離れた場所に落としたが、もしかしたら多少影響があるかもしれん。

 

 上空から落ちたマフーガを見下ろしてると、倒れたままだったマフーガの体に突如、異変が起きた。マフーガの尻尾――その先端の輪郭がブレ始め、アスールの作り出した青色の渦巻く雲の中心へと吸い込まれていったのだ。

 

「ッ!? グギャァァァー!!」

 

 自分の体の異変に気づいたのか、マフーガは全力で抵抗を始める。いくつもの巨大な大地の破片を風の力によって浮かび上がらせ、己の体を吸い込んでいる渦に向かって放った。

 放たれた大地の破片は目標に向かい真っ直ぐ進んでいく。だが、横から吾輩の生み出した雷が破片を穿ったことによって、アスールの作り出した雲に当たることはなかった。

 

『今更、全力で抵抗するとはな……だが、もう遅い。お前の負けだ』

 

「グギャァァァァァァッ!!」

 

 ついに、尻尾だけでなくマフーガの体全てがアスールの作った渦巻く雲の中心へと吸い込まれていく。吸い込まれまいとマフーガは暴れて抵抗するが、それも虚しくマフーガの体はどんどん小さくなっていく。そして、雷鳴と同時にマフーガは消滅した。

 

『アスール…………』

 

 風は次第に弱くなり、それに比例して雨も弱くなっていく。

 たった数日だったが、吾輩はアスールに何をしてやれただろうか…………その身を犠牲にするほどのことがあったのか…………いくら考えても出てこない。この姿になってからは初めてになる身近な者の死。以前は何度か経験していたから大丈夫だと思っていたのだが……存外、結構キているな。

 

『ああ……ぬいぐるみは残ったか…………』

 

 ついに雨もやみ、雲間から幾条かの光が差し込む。その雲間からゆっくりと落ちてきたある物を龍としての前足でキャッチした。それはアスールを入れていたドラコッコのぬいぐるみ。ピクリとも動かないそれが、アスールの死の証にも感じる。

 

『吾輩は、強くなった気でいた。吾輩にできないことはほとんどないと……だが、それは自惚れであったことを奴らとアスールのおかげで知ることができた』

 

 今回の出来事は決して忘れん。教訓にする。自惚れに対しての……教訓だ。吾輩はまだまだ出来ないことが多く、未熟である。ならば、もう二度と失わぬように、どんな時でも守りたい者を守れるように今まで以上に自己研鑽を行おう。

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

Ж月℃¿日

 

 今日、アスールが死んだ。吾輩の力不足のせいで。精神生命体に攻撃できるようになった程度で調子にのっていた己のせいで。今日のことは今後の教訓にする。

 

 アスールを弔うために、遺体はないが、拠点の夏ゾーンに墓を作った。墓にはアスールが使っていたぬいぐるみを供えてある。吾輩の知る神に会わないといいのだが……

 

 

 

 

∮月⊕日

 

 今日は昨日の後始末を行って一日が終った。いくつもやることがあって大変だったな…………おかげで、気持ちを切り替えることができたが。

 

 まず、未来人のDr.ストームという男。ストームはどうやら、マフーガ復活のために嵐族へ潜入していたらしい。冥に正体がバレたり、計画が崩れたりしながらもマフーガが復活したことによって結果オーライ。ストームの目的は叶ったというわけだ。まぁ……復活したマフーガは消滅したし、ストーム自身も冥によって捕縛され、最終的にはドラえもんが呼んだタイムパトロールに連れて行かれたが。

 冥がナルニアデスの剣改を使用して墜落させたストームのタイムマシンは、タイムパトロールに接収される前に吾輩が修復・複製してたから良かったんだが…………問題は冥の安全膜を破られたことだ。吾輩でも突破できなかった安全膜が破られるなぞ想定していなかった。これも、吾輩の自惚れだったということがわかって嫌になるな……。とりあえず、突破された原因を調べてみたところ、安全膜の存在する座標の時空間を爆破して破壊されていたことがわかった。

 今後、時空間攻撃対策として、対時空防壁をストームのタイムマシンについていた時空ミサイルから作成してみることにした。

 

 次に行った後始末は、風の村の修繕だ。吾輩とマフーガの戦いで風の村を囲うように存在していた巨大な岩壁が粉々に崩れ、地形が変わったのだ。他にも住居十件が吹き飛び、五件が半壊、風車四基が全壊、そして軽傷者20名と……幸い死傷者や重傷者こそいないものの、かなりの被害をもたらしてしまった。

 怪我人は魔法世界の治癒魔法で治し、建造物等に関しては魔法と超能力、千里眼を併用して修繕した。なぜかドラえもん達と被害者である風の民達も手伝いだしたのは驚いたな。何もできなかったからと言っていたが、子どもがそんなことを気にする必要はないと思うのだがな……。

 

 最後は嵐族の処遇だ。彼らは今まで風の民に迷惑をかけていたし、のび太達にも躊躇いなく襲っていた。故に、どこか遠く離れた場所に追放するか牢獄で一生暮らしてもらおうかと考えていたのだが……風の民の長が、彼らを監視付きではあるが風の民として受け入れたのだ。ひどく驚いたな。いくら嵐族の拠点が戦闘の余波で崩壊して行き場を失くしたとはいえ、受け入れるとは思わなかった。ぐう聖というやつか?

 

 後始末は大変だったが、一日で終わって良かった。

 

 

 

 

∮月⊗日

 

 時空ミサイルから対時空防壁を作るために、天才ヘルメットを被って調べてみたが、吾輩が今保有している技術では不可能ということが分かった。

 同じミサイルは作れるのだが、防壁を作るには別の技術が必要らしいのだ。22世紀の軍用施設にならあるかもしれないが、流石に忍び込む度胸はない。時間の停止や並行世界を作り出せるのだ、吾輩の知らない未知の感知器があっても不思議ではない。

 

 魔法世界のような新たな並行世界を探してみるべきかもしれん。魔法世界の魔法は、空間には干渉できても時空間には干渉できなかったからな……技術や文明が進んでる世界が見つかるといいのだが。

 

 あと……フー子とのび太、ドラえもんが拠点に訪れていた。夏ゾーンに作ったアスールの墓に用があったらしい。墓参りだな。アスールのために、綺麗な花を摘んで供えてくれていた。

 

 

 

 

∮月≯日

 

 第二魔法を活用して並行世界を探していたら、鳥人間が住む不思議な世界を見つけた。文明度や技術はそう進んでいるようには見えなかったが、一番デカい木の頂上には宇宙船らしきものがあった。

 現地の住人との交流はしないでおいた。どんな文化なのか、まだ理解できていないからな。ただ、おそらく吾輩が望む技術は保有していないだろうな。森の中で金属をほとんど使わずに生活しているし、武器の類も刺叉のようなものだけだ。

 

 とりあえず座標は覚えておいた。何か古代兵器みたいなものがあるかもしれないしな。

 

 

 

 それから世界探しを午前中までやった後、午後は鍛錬に時間をあてた。超能力の出力を上げ、できることをさらに増やすためだ。今の吾輩では、マフーガのような規模の敵は倒せないからな。最低限、超能力だけで島一つ消し飛ばせるくらいにはしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 




【嵐族】
 行き場を失くしたので、長の意向により風の民の一員となった。ただし監視付きである。正直、オリ展開に入ってから扱いに一番困った。

【ドラえもん達】
 ふしぎ風使い編では半分空気になっていた。一応、気絶から回復したら、風の民の避難誘導やストームの捕縛、クロの応援をしていた模様。

【ストーム】
 タイムマシンが墜落した衝撃で気絶していた。その間に捕われ、後にタイムパトロールへと引き渡される。あのタイムマシンって恐竜ハンターのやつよりも最新鋭に見えるけど、結構高名な博士だったのだろうか……? それとも盗品かな? 謎は深まるばかりである。

【アスールの墓】
 クロの拠点の夏ゾーンに作られた墓。ドラコッコのぬいぐるみとお花が供えられている。時々、冷たい旋風が発生するようだが……?


本編が無理矢理に映画を駆け抜けてる感じがするので、幕間の話でも書いてみようかと思います。


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閑話1

ミュウツーのレイドバトルにソロ(加入してない)で挑戦しましたが、ダメでした……。
強すぎませんか? ソロだと常にどろかけ回避を祈りながらNPCガチャを行わなければならないとか……ぼっちに当たり強すぎんよゲーフリ……

今回は閑話なので、あまり気にせず読んでいただけると幸いです。


【猫から見た(クロ)

 

 我々が住んでいる町には、山があるためか多くの動物が住んでいる。猫を筆頭に犬、ウサギ、タヌキ、ネズミ、鳥等いろいろだ。猫はその愛くるしい姿のおかげか、町中では特に猫を見かけることが多い。クロ、ミイちゃん、たまちゃん、リアは猫の中でもさらに有名だ。

 ミイちゃん、たまちゃん、リアは前からこの町にいるため、知っている人が多いのはわかる。しかし、クロは先の三匹と違い、ここ最近になってから見かけるようになった新参者の猫だ。商店街から小学校までが縄張りなのか、その周辺でよく遭遇するらしい。そして、時々だが家政婦のような格好をした美しい女性が、クロと一緒に散歩している事もあるそうだ。もしかすると、クロはお金持ちの家で飼われているのかもしれない。

 そこで我々は、新しくこの町にやってきたクロに対する猫達の印象を聞いてみた。

 

①魚屋と神成さん家によく出没する猫……くろ。

 

 ——クロという猫は知っていますか?——

 

「ンニャーゴ。ニャンニャンニャー!(知ってるぞ。ニャーと同じ名前でよばれてるからな!)」

 

 ——クロについてどう思っていますか?——

 

「ニャンニャオ、オンニャー(そりゃ当然、いけ好かない奴だ)」

 

 ——それはなぜ?——

 

「ニャーゴ。ニャーニャ「こらぁ!! そこにいたか泥棒猫ォー!!」……ニャッ!(先輩であるニャーに貢ぎ物を持ってこなかったからにゃ。野良猫界のキングであるニャーに……さらばっ!)」

 

 残念ながら、自称野良猫界のキング(くろ)へのインタビューはここで途切れている。よく魚屋から鮮度のいい魚を盗んでは追っかけられているので、再度インタビューを行うのは難しいだろう。

 今度は別の猫に聞いてみた。

 

 ——クロという猫は知ってる?——

 

「ンニャン。ニャース?(知ってるわ。あの美しい毛並みの彼でしょう?)」

 

 ——クロについてどう思う——

 

「ニャーニャン……ナウ? ニャーニャンゴ(質問が曖昧ね……彼への印象ということでいいのかしら? 彼は不思議な雰囲気を纏っていてとてもミステリアスだわ)」

 

 ——魅力的?——

 

「ニャー……ニャン。ニャゴニャゴ(そうね……彼のような同族は中々みないから魅力的よ。でも、私の友達には負けちゃうわね)」

 

 ——友達というと?——

 

「ニャンニャンニャー。ニャオン(私の友達はね、見たことのない色んな物を出して私を楽しませてくれるの。青色の同族でドラえもんと言うのよ)」

 

 ぅ゙ぅ……ミイちゃん、ボクをそんな風に思ってくれたんだぁ!やったよのび太君!

 良かったねドラえもん。でも、うるさくて何言ってるのか聞こえないから静かにしてほしいな。

 よーし!もっと色んな道具を買って、もっともっとミイちゃんをたのしませるぞぉー!

 聞こえないってばあー!!

 

 

 

 この町に住む猫達にインタビューすることで、我々が知らないクロを知ることができた。今後もまた、調査を行うことがあるかもしれない。その時はよろしく頼む。……以上、謎の猫探偵より。

 

 

 

 

 

 

【娯楽】

 

 吾輩が拠点としているこの時代は20世紀に分類され、かつて吾輩がいた時代と比べると娯楽が少ない。とても。

 だから、吾輩は娯楽を作るためにとあるものを開発した。それはスマホだ。そう……21世紀になって登場する凄まじい数の機能を持った携帯……それがスマホ。だが、吾輩が開発したスマホはただのスマホではない。未来の技術を詰め込んだフューチャースマホなのだ。

 基本的な携帯機能は当然として、スマホ同士のインターネット作成機能、数秒だが過去と未来の写真も取れるカメラ、どんな環境でも決して壊れない本体等いろいろ詰め込んだ。このおかげで、21世紀のスマホと同等……いやそれ以上のことができるのだ!

 

「クロ様、この《ニャンチューブ》というアプリは一体……?」

 

『それは、カメラで撮った動画や《ニャン編集》アプリで編集した動画をアップロードして、みんなで共有するためのアプリだ』

 

 いわゆる◯ouTubeだな。しかし、この時代にはまだ存在しないのでセーフ。ギリ、セーフだ。他にもトークアプリの《にゃイン》とか呟きアプリの《つぶやくニャー》もセーフだ。

 

「なるほど…………しかし、これを売りに出すのは少々危険なのでは?」

 

 ふむ。冥の言うことはわかる。確かに、このスマホが悪人に渡ったりすると危ないだろう。だが、それも問題ない!ノー・プロブレムなのだっ!

 

『スマホには、吾輩が設定した以外での用途で使用を試そうとした場合、吾輩にしか解けないロックがかかるようにしてある 。だから、問題ない』

 

「その機能はクレームなどが発生しそうですが……」

 

『不特定多数に売るのであれば、文句を言う者も一人くらい出てくるだろう。それと一緒だ』

 

「そうですか…………」

 

 むむむ? 冥が何か言いたげそうな顔をしているな…………

 

『ふむ……何か気になることでもあるのか?』

 

「そう……ですね……、歴史改変にならないかが気になってしまいまして……」

 

『ああ……それは確かに気になるな』

 

 なるほど。冥が危惧することもわかる。本来。この時代にスマホなんていう高機能携帯はまだ存在しないからな。未だにダイヤル式の黒電話だし。

 もし、吾輩のやろうとしていることが歴史改変にあたるなら、タイムパトロールがすっ飛んでくることになるだろう。それは、吾輩の望むところではない。

 

『ドラえもんに聞いてみるか』

 

「その方がよろしいかと」

 

 ということでドラえもんに『糸なし糸電話』で電話して聞いてみた。……すると、ドラえもんからはこう返事が返ってきた。

 

「うーん……ギリギリアウトだね」

 

 人間数名程度ならアウトよりのセーフらしいが、吾輩がやろうとしたことは数名程度に収まらない。なんせ、販売しようとしたのだからな。だから、アウトらしい。

 

『無念…………』

 

「お労しやクロ様……」

 

 娯楽を生み出すための策が頓挫した吾輩は軽く伸びをした後、コテンッと横向きに倒れた。やる気が失せてしまった……。

 冥はポケットからハンカチを取り出して目元に当てて嘆いている。だが、涙とかは出ていないから、泣いているわけではないことがわかった。ハンカチを出すなら、せめて涙くらいは流すべきだと吾輩は思うぞ。

 

 とりあえず、スマホは吾輩達が考えるような悪用をしない人間……しずかちゃんとドラえもんにだけ渡した。のび太とジャイアン、スネ夫は普段がなぁ…………ちょっと信頼度と好感度が足りんな。

 

 

 

【外からの来訪者】

 

 宇宙は広大だ。何千何億もの星があり、星々を渡るのに光速が必要とされる程に。加えて、宇宙には生物が生きるための環境がない。空気がないから呼吸を必要とする生物は生存できず、熱もないから寒さに弱いと生存できない。宇宙とは、軟弱な生命では生きられない過酷な世界なのだ。

 そんな宇宙を、何の装備もせずに遊々と進む者がいた。その者の名は、通称「モング」。宇宙の平和を守るために活動している宇宙警察からは「宇宙害獣237号」とも呼ばれている生命体であった。……地球に住まう人からすればあり得ざる光景だろう。なんせ、宇宙空間において生身で活動できているのだから。

 

 宇宙を遊泳していたモングは、ふと視界に入った美しい緑と青の星に目をつけ、その星へと進路を変えた。美しき星へと向かうその顔には「たくさん食べられるかな?」と言うような期待に満ちた表情があった。

 星へと接近し、やがて空気の層に触れるとモングの体は赤く轟々と燃え上る。超高速による空気の圧縮と分子の運動が原因での発火だが、モングは気にしていなかった。今のモングには熱さや寒さを感じ取る機能がないからだ。

 そして、その特殊な体を保ったまま成層圏にまで突入し、凄まじい勢いで海に浮かぶ一つの島に落下した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

『これは……一体何なのだ?』

 

「見た目は毒々しい液体ですが……生命反応を検知できます」

 

 宇宙での出来事から数時間後。地球では、クロと冥が拠点に落ちてきた謎の物質について話し合っていた。その物質は紫色の液体ではあるが……タヌキの尻尾のような部位があったり、目や口に似た部位が存在していて……拠点のセンサーからは生命反応すら出ていた。念動力で捕えていなければ、捕まえるのは困難だっただろう。

 

『つまり、これは液体型の生命ということか。バウワンコの生物といい風の村の生物といい、地球はわりと魔境すぎやしないか?』

 

「もんぐー」

 

『しかも、その姿で鳴き声を発せられるのか……』

 

「神秘ですね……」

 

 見た目は液体なのに生物のような鳴き声を発す。「これ本当に地球の生物なのか?」と考えるクロだが、冥の方は風の村のトンデモ生物達を思い出し、科学・生物の常識では測りきれない生命の神秘に遠い目をしていた。

 

『紫色の生物……鳴き声からとりあえず名は【もんぐ】とするが……危険性の把握を行ってからどこから来たのかを調べよう』

 

「かしこまりました」

 

 クロと冥はもんぐを蔵から取り出したビンに詰め込み、冥に抱っこされながら館へと向かった。そして、数分で館に着くと、もんぐを対象にして様々な調査・解析を行い始めた。

 【レーザー検査機】でビン越しにもんぐの構造や構成物質を分析し、【データ解せき機】で年齢等を解析した。その結果、驚きの事実が明らかになる。

 もんぐは地球外から来た液状の巨大な単細胞生物であり、動物などの細胞に触れるとその動物に寄生し、凄まじい勢いで増殖し浸食を始め、最終的には三日程でその動物をコントロール下における性質を持っていたのだ。しかも、増殖・浸食する際に大量のエネルギー消費を解消するためか強制的に宿主に食事を取らせるのだが、最終的には星一つを根こそぎ喰らい尽くせる程だという結果も出た。

 

『宇宙から来た星を喰らう寄生生物か……吾輩達が見つけてなかったら危なかったな』

 

「決して逃さないようにするべきですね」

 

 もんぐの性質が明らかになった後、クロと冥はもんぐを【カチンカチンライト】でカチンコチン……固体にして、クロの蔵に封印した。蔵の内部では時の概念が無く、物が劣化することがない。つまり、封印にももってこいなのだ。

 そして、もんぐから取ったデータを保存したクロは、改造した【自家用衛星】をいくつも打ち上げ、宇宙に到達した複数の自家用衛星同士で連結しながら地球を覆うように透明な膜を張った。この膜はセンサーであり、外から侵入してきたものを察知し、瞬時に解析してその情報をクロや冥に伝達させる機能がついている。今後、もんぐのような生物が地球へやって来る可能性を危惧したのだ。

 

 

 

 こうして、地球は突如降り立った宇宙の脅威から、未然に救われたのであった。

 

 

 




【謎の猫探偵】
 本作オリジナルキャラ。
 今後も登場するかは未定。

【フューチャースマホ】
 クロが開発した最新型のスマホ。今いる時代では明らかにオーバーテクノロジーであり、売り出すと歴史が変わってしまうのでアウト判定をもらった。21世紀になれば大丈夫。

【糸なし糸電話】
 その名の通り、糸のない糸電話である。見た目は鮮やかな模様が描かれた紙コップ。二つセットの道具で、距離や電波等を無視して話をすることが可能。これがあればスマホはいらなくね?と思うかもしれないが、この道具に電話以外の機能はついていない。

【レーザー検査機】
 レーザーを照射して対象の構造や素材などを調べる道具。大長編でも登場し、物に対して使用されていたが、生物に使用できるかは不明である。本作では使えることにした。

【データ解せき機】
 レーザー検査機と似た効果を持つ道具。ただし、こちらでは物の年齢や概要もわかる。

【自家用衛星】
 自家用衛生……を打ち上げる道具。本作ではクロが改造して、解析系の機能を追加した。自家用衛星は普通の衛星に比べると非常に小さく、スペースデブリと間違われるため複数打ち上げても問題ない。

【モング】
 ドラえもん誕生日スペシャルにて登場する宇宙害獣。見た目や鳴き声は可愛いのだが、その習性はとても恐ろしい。他者に寄生してコントロールし、星を喰らい尽くすまで成長するやべー奴。でも可愛い。
 ちなみに、アニメでは作画が細かいシーンが多く、同じ誕生日スペシャルの「アリガトデスからの大脱走」と並んでオススメ。


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52話

次はどの映画の話を用いるか悩んでます。
最近は空の理想郷を見たので、その話を書きたい欲がすごいのですが……時系列が……

えっ? ある程度話が進んだ『ドラえもん』に時系列なんてない? ほんと? ほほう…………


 

@月@日

 

 鳥人間達の世界に再び行ってきた。

 今回は、あの世界の地図を作るのと古代文明調査が目的だった。

 

 地図を作る前に、まず吾輩の目で古代文明を調査した。魔法でバルファルクへと変身し、高速飛行しながら山や森、海、砂漠、荒れ地、雪山を調査した。無論、鳥人間達には見つからないようにだ。結局、上空からは見た限りでは以前見た巨大なとまり木(鳥人間達がそう言っていた)の頂上以外で、それらしいブツは見当たらなかったが。

 次に、吾輩は地中を調べるためにバルファルクからホルビーへと姿を変え、地中を掘り進んだ。地底に文明を築いていた例もあったから、それに期待して掘りまくった。だが結局、鉱脈や地下水脈に到達することはあったが、古代遺跡などはカケラも見つけられなかったな……。

 

 古代文明調査でハズレを引いた後、吾輩は自家用衛星を打ち上げた。宇宙からこの星の地図を作り、環境や地形を把握するためだ。バルファルクの姿で飛び回った時におおよその環境は把握したが、位置関係までは覚えてないからな。今後何かの役に立つことがあるかもしれないし。

 そうして打ち上げたのだが……自家用衛星から送られてきたこの星の写真を見て、吾輩は驚いた。この鳥人間達が住む星は地球とかなり酷似していたのだ。森の多さや人工物の少なさなど、細かい違いはもちろんあるが、地球そっくりだった。いやまぁ……第二魔法による移動だから似通っていて当たり前ではある。あるのだが…………魔法世界とはだいぶ違うし、なんなら種族すら違うから地球じゃないかもって思っていたんだが。

 

 まぁ、地球にはこのような可能性もあったということと、いざという時の第二の避難場所としても役立ちそうなのがわかったので良しとする。

 

 

 

 

 

@月/日

 

 今日は久しぶりにバウワンコに行ってきた。

 

 剣を使った鍛錬をしようと思ったのだが、吾輩も冥も素人。力任せに振るうことはできても、業がない。剣技をどうにか習得できないものかと思案していた時に、ふと思い出したのだ。

 

 そういえば……バウワンコには変身した吾輩を斬った者がいたな……と。

 

 敵側ではあったが、奴は何の変哲もない剣でナルガクルガの鱗を斬った。恐るべき剣技。それを身につければ、超能力や力任せが効かないような相手でも対抗できるだろう。ナルニアデスの剣改や人魚の剣を今後活用するいい機会になるかもしれないしな。

 そう考えた吾輩は、冥と共にバウワンコへと転移し、ペコにアポをとって監獄へ出向いた。監獄の一番奥深く……そこに吾輩の目的の人物……サベール元隊長がいたのだ。サベールはペコと同じ、あるいはそれ以上の剣の使い手と呼ばれていた。ペコの剣の腕はよくわからないが、少なくともサベールは強いとわかっている。

 

 鉄格子越しに再会したサベールは「貴様があの黒き竜とはな……」と驚いて……はいなかったな。ほう……みたいな感じの反応だった。まぁ、それはいい。サベールには、監獄に来る前にペコから許可をもらった刑期の短縮を条件に、吾輩と冥を鍛えるという取引を行った。暇をもて余していたのもあってか、サベールは吾輩との取引に快く応じた。

 

 肝心な剣の鍛錬についてだが、思っていたよりもキツかった。人型に魔法で変身して、冥と一緒にに鍛錬を受けたのだが……あらゆる場面を想定した素振りをさせられた。吾輩と冥は身体能力が高いから普通よりも回数を増やされ、最終的には各型の素振り一万回だった。某ハンターの会長より多くないか?まぁ、それくらい回数を増やさなければ、吾輩達には負荷があまりかからないかららしいが。

 

 日が暮れて帰る時には、サベールが私を連れて行ってみないか?と言ってきて驚いた。どうやらサベールは、あの巨神像での戦いで自身の未熟さを感じ取ったそうで、吾輩達と一緒にいればサベールも吾輩達も修行できるから提案してきたようだ。

 サベールの提案にペコとブルスス、側にいた秘書?宰相?っぽい女性はうーん……としばらく考え、話し合っていた。サベールの性格とか犯罪歴、刑期、国民にはどう説明するのかとか、いろいろだな。

 

 そして、意外なことにサベールの提案は条件付きで許可された。犯罪歴はダブランダーの命令に従っていたことくらいで、盗みや辻斬りとかそういう悪行はやっていなかったこと。よって、そもそも懲役もそう長い期間ではなかったこと。国民から畏れられてはいたが、性格自体はわりと誠実だったことが要因となって許可が降りたらしい。

 条件は、犯罪を犯さぬことと吾輩の命令に従うことだった。いいのかそれで?

 

 

 

 

 今日はいろいろあったが、吾輩の拠点に住民が一人増えた。

 

 

 

 

 

@月◐日

 

 『強いイシ』……言葉だけ聞くと覚悟とか精神に関することかと思うが、今日はそうではなかった。

 

 サベールと修行してたら、急にドラえもんから以前渡したスマホで電話があったのだ。

 のび太君を助けて欲しいと。

 虫の知らせアラームは鳴っていなかったが、ドラえもんの声の様子から緊急性を要すると判断した吾輩は、ドラえもんの所に向かうことにした。

 

 のび太の家の屋根に転移し、そこから千里眼でドラえもんとのび太を探すと、ボロボロになったドラえもんと『強いイシ』に追いかけられているのび太を発見した。どういうことだと思い、強いイシのメモリを見ると設定が1年になっていた。『強いイシ』はやると決めたことを宣言し期間のメモリを設定することで、その期間中は宣言したことを物理的に守らせる道具だとカタログで見た。おそらく、のび太はメモリを間違えたのだろう。それを止めようとしてドラえもんはあのような姿に…………。

 

 とりあえず強いイシは吾輩がその場に転移して、念動力波(衝撃波ともいう)で破壊した。その後、ボロボロのドラえもんを『お医者さんカバン』を使って治療して一件落着したのだが……のび太は強すぎる意思は身を滅ぼすと悟ったらしい。

 

 

 

 

@月◑日

 

 今日は『念画紙』を使って吾輩がいた時代に流行っていた漫画を復活させた。いや、先取りになるのか?この時代、なぜか吾輩が知ってる漫画が一つもないのだ。ブラックジャックも20世紀少年もない。そこで吾輩は先取りすることにしたのだよ。ちなみに『念画紙』は、じ〜〜と念力を紙にそそぐと描きたい絵が浮かんでくるひみつ道具だ。念力は吾輩の得意分野だからな……作り上げるのにそう時間はかからなかった。なに、個人で楽しめば法律にも違反しない。

 先取りした漫画は観賞用と保存用、保存用のスペアで各三種ずつ作った。スペアは拠点の図書室に追加し、保存用は吾輩の蔵に、観賞用は冥のポケットに入れた。これでいつでも吾輩の好きな漫画を読むことができる。別にこの時代で流行ってるライオン仮面とかを否定しているわけではないが…………仮面ライダーのパクリにしか見えないのだ……。

 

 そういえば『絵本入り込み靴』というひみつ道具があったはずだが、この念画紙で作った漫画の世界にも入れるのだろうか?

 

 

 

 

 

@月❖日

 

 しずかちゃんは凄いな。

 

 今日、何をトチ狂ったのか……のび太が『虫スカン』を大量に飲んでしまったのだ。吾輩はドラえもんからのヘルプを受けてから状況を初めて知り、冥と共にのび太の家に向ったのだが……精神干渉系のひみつ道具が効きづらい吾輩ですら耐えかねる程の嫌悪感と気持ち悪さだった。千里眼でのび太を見ることすらできなかった。あんな状態は初めてだったな。冥も吐き気を抑えるような顔をして、家の中から出てきていた。のび太のパパは仕事で家におらず、ママは虫スカンに耐えられず家を出た。つまり今、のび太の家には誰もいないということだ。

 ならばいっそのび太を避けて家を破壊してしまうかと考えていた時だった。しずかちゃんが現れたのは。

 

 最初はしずかちゃんも吾輩達と同じように家の中に入ることに拒否反応していたが……この現象の中心にのび太がいることを知ったしずかちゃんは、踵を返して家の中に入っていったのだ。虫スカンを大量に飲んだのび太が放つ瘴気に顔を顰めながらも、しずかちゃんはゆっくりと、だが確実に一歩ずつ進んでいった。のび太がいる2階へと。

 しずかちゃんが入ってた5分くらい経った頃だろうか。家の中から放たれていた虫スカンによる瘴気が消えたのは。それからしばらくすると、しずかちゃんに手を引かれてのび太が家から出てきた。一回吐いたのか、のび太の顔はあまり良くはなかった。だが、しずかちゃんがあの状況でものび太を助けた事に……のび太を心配していたという事実に嬉しそうでもあった。おかげで一件落着した。吾輩はしずかちゃんを尊敬しよう。

 

 ちなみに、後からドラえもんに聞いたのだが……今回の件の発端は宿題を何度も忘れたのび太が先生に説教されたことだった。碌な大人にならないと。言葉がちゃんと響いたのなら良いと思うのだが、今回のようなことはもう止めてほしいな。

 

 

 

@月✡日

 

 ドラえもんから面白い道具を教えてもらった。『植物ペン』というひみつ道具で、このペンを使って紙に植物を描いて紙を丸め、土に埋めて水をかけると描いた通りの植物が生えてくるのだ。数日経ってすっかり元気が戻ったのび太は様々な果実のなる木を生やし、共に遊んでいたしずかちゃんは色とりどりの大きな花々、ドラえもんはツリーハウスを生やしていたな。

 フエルミラーで植物ペンを増やして、拠点で吾輩と冥……それからサベールも植物を描いた。サベール曰く、吾輩達が使う道具に興味があるらしい。…………正直、サベールも参加するとは思わなかった。この拠点に来てから、吾輩達の修行を見ている時と食事時、睡眠時以外は基本的に拠点を守護するぬいぐるみ達と鍛錬していたし……なんとなか武人一筋みたいな印象があったからな。新たな発見だ。

 吾輩達三人が大量に用意した紙に植物を描いている間、拠点のぬいぐるみ達は興味深そうに側で見ていた。ちなみに、吾輩は超能力を使わない練習のために尻尾でペンを掴んで描いた。想像以上に難しかったが、なんとかこなしたぞ。冥とサベールは普通にペンを掴んで描いていたが。

 

 しばらくして絵は完成し、各々土に埋めて水をあげた。最初に生えてきたのは吾輩の植物で、巨大な向日葵とその周囲に咲く様々な種類の花々だった。もちろん、ただの大きい向日葵や花々ではない。向日葵は太陽が出ている間は光を通常以上に吸収し、夜は吸収した光を使って葉や茎が発光するのだ。しかも、向日葵の種がある筒状花の部分からは小さな光球がゆっくりと、シャボン玉のように共に咲いた周囲の花々へと飛んでいくのだ。そして、光球が宿った花々も向日葵と同じように淡くしかし鮮やかに発光するというわけだ。幻想的な風景を目指したのだ。

 

 次に生えてきたのはサベールの植物だった。葉がない枯れ木のような植物だが……枝の先が鋭い刃になってるうえに、なんと動き出したのだ。しかも、吾輩達に向けて刃を振るってきた。幸いと言っていいのか、吾輩達に当たる前にサベールが動いて刃となっている枝を切り落としたから、特に怪我とかはしなかったが。

 しかし、サベールは凄まじい早業だった。柄に手を添えてから剣を抜き放ち、斬り終えてから再び鞘に戻すまでが2秒程度だった。それも、2秒の間に斬った枝の本数は10本だからな。超能力や魔法ありなら吾輩も同じことができるが、素の状態では無理だ。冥ならできそうだが……とっさに無敵砲台を使いそうだな。

 

 最後に生えてきたのは冥の植物であった。冥の植物は超巨大な木で、神話とかなら世界樹とでも呼ばれそうな程デカかった。桜色の葉を生やし、バナナやリンゴ、ミカンなどの様々な果実が実っており、樹皮は鋼鉄よりも硬かった。ぬいぐるみ達はワイワイとおおはしゃぎしてこの巨木に登ったりしていたな。

 

 とりあえず、吾輩の植物は光向日葵、サベールの植物は暴れ剣、冥の植物は巨大樹と名付けた。

 

 

 

 




【バルファルク】
 モンスターハンターダブルクロスにて初登場を果たしたモンスター。別名『天彗龍』。鳥の構造を参考に練られたモンスター故か、洗練されたフォルムをしている。作者はこのモンスターが大好きだったが、後のサンブレイクに登場する克服バルファルクに打ちのめされて苦手意識をもってしまった。……無念。

【ホルビー】
 あなほりポケモン。
 耳で 穴を ほるのが得意
 地下10メートルに届く巣穴を 一晩で作ってしまう。

【サベール】
 旧と新で扱いが違う人。最後も含めて作者的には新の方が好き♡
 なんとなく、こういうことも言いそうだなーと思って書いているが解釈違いがあったら申し訳ないです。

【強いイシ】
 どうしてこんなモンを開発したと言いたくなる道具。よく企画通ったな。
 やると決めたことを宣言して期間を設定するメモリを回すと、その期間の間に決めたことを破ろうとすると強いイシが止める。物理で痛めつけて止めさせるので、病弱な人は使っちゃいけない。原作だと、のび太はしずかちゃんの服を借りて頭に布を被っただけで一時的にやり過ごす事ができてしまったので、存外ポンコツである。

【お医者さんカバン】
 未来の子どもがお医者さんごっこをするためのカバン。……なのだが、その性能は現代の医者泣かせである。大抵の病気・怪我に対応しており、診察すると即座に薬やガーゼ、包帯など。出してくれる。とある紫色の地球外の寄生生物に対しては無力だったが。

【念画紙】
 世のすべての漫画家、イラストレーター、アニメーターが欲しがるであろう道具。イメージがしっかりしていれば、誰でも神絵師になれる。作者もメッチャ欲しい。

【絵本入り込み靴】
 文字通り絵本に入り込める靴。絵本になっていない念画紙には入り込めない。漫画などに入り込めるかは不明。やりようによっては、アナザーストーリーを作ることができる。ただし、イメージが壊れてしまうために賛否がわかれるが。

【虫スカン】
 単純に言えば、相手から嫌われるための道具。使用者から周囲の人間に対してムカムカ・イライラさせる不快感オーラを放つ。1個だけでも十分な効果を発揮するが、今回はのび太が飲みすぎたため通常以上の効果と副作用が起きた。そもそも、薬系は一度にたくさん飲んではいけない。過ぎれば毒である。
 良い子は絶対にマネしないでね!

【植物ペン】
 このペンで紙に植物を描き、紙を土に埋めて水をあげると描いたとおりの植物が生えてくる。水をあげ続けるとさらに大きく育つ。ただし、紙の温度が植物にも影響するので、ツリーハウス系は注意が必要。




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53話

のび太の理想郷……書きたい欲はあるけど……ストーリー構成がむっっっっずい!
なので、今回は断念せざるを得ませんでした。



@月✤日

 

 し、死ぬかと思った……。

 もしもボックスをバラしたうえで、他のひみつ道具のシステムや魔法世界の魔法を組み込んで新しく開発した道具……その名も『if世界渡りドア』を試したのだが……酷い目にあった……。

 

 if世界渡りドアは、ドアノブに触れながら望む世界の特徴を言うと、その特徴がある世界へと扉の先を繋いでくれる道具だ。もしもボックスのように、該当する世界がなければ要望に沿った新たな世界を作り出すこともある。そしてもう一つ、機能を設けている。それはランダム機能だ。望む世界はないものの違う世界には行きたい、そういう時にこの機能を使うと文字通りランダムに適当な世界を選んでくれるのだ。

 そして、吾輩はその機能を使ってみたのだが……繋がった世界がどれもヤバかった。

 

 一回目に繋がった世界は、重力が強すぎて足を踏み入れた途端に潰れてしまった。吾輩のキュートな前足がドアの向こう側にでた瞬間にグシャッと潰れたからな……痛みと驚きで思わず叫んだわ。冥は潰れはしないものの動くことは難しそうだった。ちなみに、ドアの向こう側に広がる景色は荒れ果てた大地くらいで、人工物も緑もなかったな。

 二回目に繋がった世界は、今より多少時代が進んだような地球だったのだが、探索中に見つけた古代遺跡で酷い目にあった。人間の顔程の大きさで見た者を不快にさせるフォルムの生物にぬらりひょんのように頭が長く全身真っ黒の人型生物が数十体、全身真っ黒な人型生物をさらに巨大にしたような生物が襲ってきたのだ。しかも、この生物達は共通して血液が鋼鉄を溶かすほどの強酸性を有していたのだ。知らずに倒した際に血を掠ってしまったが、痛みは凄かったな。吾輩じゃなければ死んでた。一応、何体かサンプルは持ち帰ることができたので、今後研究してみようと思う。

 三回目に繋がった世界は、美しい景色と不思議な生き物が住んでいて幻想的だったのだが、空気……大気が吾輩達が住む地球の生物にとって猛毒だった。その世界に入って数秒で呼吸困難になって死にそうになったからな。一回目の世界もそうだが、初見殺しがすぎるぞ。冥はロボットだから普通に活動できるため調査を頼んだのだが、青色の人型生物に襲われて断念せざるを得なかった。一応、あの青色の人型生物達は特定の言葉と文字を使いながら、布を着て巨大な木の中に住居を作っていたので、ある程度の文化と文明があることは確認できた。猛毒の大気の対策ができれば、また調査を検討したい世界ではあった。

 

 たった三つの世界を調査しただけだが、死ぬほど疲れた。世界の調査のためにテキオー錠の効果を一時的に無効化していたが、ちょっと後悔してる。今日はもうこの日記を書いたら寝ることにする。おやすみ……

 

 

 

 

@月✨日

 

 日に日にサベールの強さがおかしなことになっている。サベールがここに来てそこそこ経つが……いつの間にか人間一人ほどの大きさの岩を真っ二つにしていた。……◯治郎か?

 吾輩達の修行とぬいぐるみ達との鍛錬、暴れ剣での修行が効いているのかなんなのか……岩を分断し、木剣でも丸太を斬り飛ばすことができるようになっていた。時々、コオォォォォ!!という独特の呼吸音もするのだが……吾輩がこないだ念画紙で復活させた漫画でも参考にしたのだろうか? 

 

 吾輩の拠点には、特殊能力や新しく作った道具の性能を確認するための訓練室を作ってある。といっても、こないだみたいな全力戦闘には耐えられんが。

 そこで、試しに模擬戦(吾輩は念動力なしで、サベールは木剣)をしてみたら、危うく首チョンパされるところだった。開始直後、サベールのやつ……縮地か何かのような技術を使って瞬間移動してきたのだ。気がつけばサベールは吾輩の目の前にいて、首めがけて刃を振るっていた。木剣とはいえ、サベールはこれで丸太を斬っている。丸太より柔らかい猫の頸など容易く刎ねるだろう。さすがにそれは遠慮したかった。一応、なんとか反応して刃を避けることはできた。当然、サベールは避けた吾輩を斬るべく木剣を振るってきたが。いやはや…………吾輩が電子操作を習得していなかったら危なかったな。最後は、電撃で痺れさせてからサベールを気絶させることで勝つことができた。

 

 今回の件でわかったことは……吾輩、おそらく素の状態で超能力がなかったらサベールに勝てないかもしれない……ということだ。蔵による射出攻撃は威力こそ高いが、射出するまでに若干のタメがいる。今のサベールの力量なら、射出前に吾輩の至近距離まで近づけるだろうな。サベール強ぃ……

 

 

 

 

❦月◯日

 

 今日はフー子が拠点に訪れた。

 拠点のぬいぐるみ達と遊びながらアスールの墓に行き、どこに持っていたのか一輪の小さな青い花を供えていた。のび太に渡されたのか、はたまた自分で見つけてきたのか……どっちでもいいか。

 花を供えた後は館にいた吾輩達に挨拶し、サベールを見て興味津々になっていたな。サベールの方は、ぬいぐるみ達と模擬せ……戯れたりしてるからか、あまり驚いたり興味を示す様子はなかった。

 

 その後、フー子はひとしきりサベールと遊んだら食事という名の燃料(空気)補給をして、海の向こうにあるのび太の家へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

❦月▶日

 

 前世も含めて初めて未来……22世紀でバイトをした。

 

 ドラえもんはよく未来デパートでひみつ道具を買っているが、どれも中古か安いやつだ。トンデモ性能のひみつ道具のせいで勘違いしていたが、ドラえもんは別に裕福ではないのだ。吾輩はそれを知らずに、ドラえもんに頼み事をよくしていた。故に、22世紀での買い物でドラえもんに負担をかけなくて済むように考えた吾輩は、バイトをすることにした。

 方法は単純だ。ドラえもんに紹介してもらって未来の猫カフェで働くというもの。冥にも手伝ってもらった。冥は店員としてだが、吾輩は客を癒やす猫の一匹としての採用だった……。

 

 店にいる他の猫達から喧嘩を売られたり、客からの要求に応えたりといろいろあった。猫吸いをされた時は、驚きと気持ちの悪さに思わずぶっ飛ばしてしまうところだった……。逝き過ぎた猫好きの客は危険だと身をもって理解できたよ。

 仕事が終わったあと、店長からは今後も続けないかと勧誘された。冥は可愛く要領もよくて客と店長に気に入られたらしい。吾輩も普段よりも店の猫達が言う事聞いてくれるようになっていたし、サービス多めで客が満足していたから気に入ってくれたようだ。

 

 今回稼いだ分だけでは心許ないからありがたく店長の言葉に乗らせてもらった。

 

 

 

 

 

❦月×日

 

 『ドラキュラセット』という道具があるのだが、今日はそれを改造した。ドラキュラセットは黒いマントと二本の牙がセットの道具で、身に着けるとドラキュラの特徴を得ることができる。例えば、コウモリへの変身や噛みつきによる記憶の吸い取りとかだな。あとは、デメリットとして十字架やニンニクが苦手になる。

 吾輩には変身の魔法があるから魅力が薄いが……他の者が使うことを考えた場合、デメリットは消しておきたいと思ったのだ。

 

 そして『天才ヘルメット』と『技術手袋』で冥と話し合いながらドラキュラセットを改造した結果、デメリットを帳消しにして新たな機能を獲得した『真祖ドラキュラセット』ができあがった。

 まず、変身がコウモリだけでなく霧にも変身できるようになった。霧に変身しても意識はちゃんとあったから問題ない。さすがに広く散ると危ないがそうならなければ大丈夫だ。

 次に、相手と目を合わせることで簡単な暗示をきることができるようにできた。一時間程度しか持続せず「ウサギ跳びしながらカエルの真似をしろ」というような複雑な暗示はかけられないが。

 牙の機能に関しては、記憶以外にも血液や精神力も吸い取れるようになったな。エナジードレインに近づいたと言ってもいいか。あと、牙はマントと一体化したから、マントを着た時に牙がニュッと伸びるようにもなった。よりドラキュラっぽくなったわけだ。

 

 

 さて、改造前と比較してだいぶ改善された真祖ドラキュラセットだが……うーむ……これを使う日は来るのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

❦月▲日

 

 今日はドラえもんとのび太、しずかちゃんが拠点にやって来て、『いつでもスキー帽』『坂道レバー』で遊んでいた。

 冬ゾーンでスキーはできるのだが……のび太の練習のために安全を確保しやすくするために道具を使っているらしい。ここに来たのは、空中浮遊してるところを見られても問題ないからとか。まぁ、町中だと使いづらい道具ではあるだろうな。前は、エレベータープレートとか見られると問題のある道具をガンガン使ってたが、ようよくドラえもんも周りの目を気にするようになったみたいだ。成長してくれて吾輩は嬉しいぞ。

 

 しずかちゃんとドラえもんは最後まで遊び、練習が上手くいかなくてやる気が失せたのび太は、拠点のぬいぐるみ達にもみくちゃにされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

❦月◎日

 

 のび太が子犬と子猫を拾ったというので見に行ったら、本当に拾ってた。のび太のママがよく許したなと思ったが、許可はとっていないらしい。バレた時の樣が目に浮かぶ。

 子犬はイチという名前で、ジャックラッセルテリアに似ているが……柴犬系の雑種にも似ている。性格はとても人懐っこく、賢い。よりペコを彷彿させるな……。

 子猫の方はズブ濡れだったからズブというかわいそうな名前で、青色の毛並みで両耳には特徴的な三本の黒い線が入っていた。人間によって酷い目にあったのか、かなり人間を憎んで見下していた。「どうしてその特別な力を持ちながら奴らに従っている」なんて言われたからな。冥はそもそも人ではないし、別に吾輩は人間に従っているわでもないんだがなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 




【一回目の世界】
 重力が強すぎる世界……というより星。イメージは、NARUTOのカグヤが移動した中にあった世界。重力が強すぎて惑星上に存在するあらゆる物質が地球のものよりも強固になっている。ただし、生物は住んでいない。食べられるものが育たないし生命が生まれる環境が整ってないから。地球の人間がこの星に足を踏み入れた場合、五体投地で立ち上がれず、だんだん重さで内蔵が潰れて死に至る。とある究極生命体ならあるいは……

究極生命体「ば、バカなッ! このカーズが……立ち上がることすらできないだとッ!? う、動けんッ! 岩に変身すればッ……だめだ、割れるッ!!」


【二回目の世界】
 とある戦闘種族が宇宙から定期的にやって来てメチャクチャされてしまう世界……というより星。戦闘種族達の文明は地球よりも進んでいるので、クロが知ればすぐに調査しに行く。ただし、出会ったら最後、戦争は避けられないが。

【三回目の世界】
 自然豊かだが地球人にとっては毒の大気がある世界……というより星。とある星にある腐海の森が出す瘴気よりも猛毒な大気で、専用マスクかテイオー灯、テキオー錠がないと生きられない。イメージはアバター。

【サベール】
 クロの漫画から呼吸を身につけた男。常中はまだできないが、キッカケは掴んでいる。また、水の中に入ると特殊な形の波紋ができる。映画で、横幅が1mはありそうな木を一振りで真っ二つにしてたので、成長すればこれぐらいはできそうだと判断した。

【フー子】
 本作では退場しなかったため扱いに困る風の子。後の映画編では基本的に登場しない。するとしても、フーフー言わせるだけになるかも。
 ちなみに、イチとズブを見たフー子は「いっしょ? かわいい? なかま? なかまー!」と思っている。

【ドラキュラセット】
 『忘れろ草』よりも高い精度で記憶を忘れさせることができる。さらにコウモリに変身することができる。だが、ニンニクや十字架など弱点は多い。なお、記憶の忘却に関しては『わすれんボー』がより性能が高い。

【いつでもスキー帽と坂道レバー】
 いつでもスキーができるように作られた帽子。帽子についているダイヤルを回すと、帽子を被っている者にしか見えず触れられない雪が現れる。この時、他者からは空中浮遊しているように見えている。
 坂道レバーは、レバーを前に倒すと坂道にする道具。使用者の世界が傾いているので、平地だろうと関係ない。リフトストックと使い道は一緒だが……形状からリフトストックのようにマンホールに引っかかるようなことはないと思われる。

【イチとズブ】
 真反対な性格の犬猫。ズブの境遇は同情の余地があるが……基本的には自分勝手なので人間と変わらない。あるいは、あの経験があって人間に似たのかもしれない。
 イチ? イチはまぁ……特筆するほどのことはないかな。それよりも、のび太がけん玉を出来てたのに作者はとても驚いた。





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54話

 ついに12月ッ!! 蒼の円盤が配信される月で、年末年始に向けて大掃除をしなけらばならなくなり、仕事が増える時期ですね……講座……報告書……掃除……うっ、頭がッ!

 というわけで、ワンニャン時空編です。
 このワンニャン時空編は漫画が手元にないので、映画を主軸に進めることにしました。

 最近は仕事に脳ミソ支配されてたので、文章や口調が安定してないかもしれません……ユルシテ……




 太陽がサンサンと輝く朝。

 のび太の家には、ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんの三人と、のび太達に誘われてやってきた冥、怒り心頭のドラえもんがいた。

 なぜ、ドラえもんは怒っているのか。それは、のび太がドラえもんのスペアポケットを許可なく持ち出し、イチやズブ、捨てられた犬猫を連れて過去の時代に行ったからだ。しかも、いくつかの道具を置き忘れてしまったらしい。高かったうえに買ったばかりの道具も置き忘れているので、冥はのび太達を擁護しなかった。

 

「もうっ! スペアポケットを勝手に持ち出さないでよ!」

 

「だから謝ってるじゃない。みんな、支度できた?」

 

「「「もちろん!」」」

 

「…………」

 

 普段より激しく怒っているが、のび太にはあまり響いているように見えない。冥は目を瞑りながら、ドラえもんに同情した。

 

「聞いてるの!? 君達はもうっ!」

 

「お願ぁい、説教は向こうでもできるから」

 

「……それもそうだ」

 

 そんなことはない。向こうでもできるからといって、今ここで止める理由にはならない。

 

「ドラえもんさん……」

 

「わかってるよ、冥さん。でも……みんなの顔を見たら、さ」

 

 冥に呼びかけられたドラえもんは、わかっていると頷きながらも、タイムマシンへワクワクした顔で乗り込んでいく四人を見て溜息をついた。

 

「よーし、それじゃあ出発ー!」

 

「ハァ……どうしてこう、ボクは甘いんだろう……」

 

 より深い溜息をつきながらドラえもんもタイムマシンに乗り込み、最後はタイムホールの入り口となっている机の引き出しを閉めながら、冥がタイムマシンに乗った。以前なら六人だと定員オーバーになっていたが、西遊記事変以降にドラえもんが改良して、最大十人は乗れるようになっている。

 

 そして、のび太達はイチ達を置いてきた時代……今から3億年前の日本に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?何あれ……何だろう?」

 

 ドラえもんの運転でのび太達が目的の時代まで真っ直ぐ向かっていると、突如として前方のタイムホールが暗くなり、まるで何かに侵食されているかのようにねじれていく。

 

『ねじれゾーン突入。ねじれゾーン突入』

 

「ねじれゾーン……? うわあッ!?」

 

 バチバチとタイムホール内に雷が弾け、衝撃がのび太達を襲う。いや、それだけではない。目に見えない何かが、のび太達に影響を与える。

 

「「うえぇぇん、うえぇぇん!」」

 

「どうなっとるんじゃぁ!?」

 

「何なのよこれぇ!?」

 

「これは……まさか時間がっ!?」

 

「あっ!? いけない、制御ボタンを押し忘れた!」

 

 のび太とジャイアンは赤ん坊まで若返り、スネ夫としずかちゃんは大人に成長していたのだ。急な変化のせいか、あるいは今も発生している衝撃と振動のせいなのか、四人とも気を失った。

 一方で、ドラえもんと冥は変化していなかったが故に、四人に起こっている異変にすぐ気がついた。ドラえもんはタイムマシンについてる制御ボタンを思い出し、ポチッと押す。すると、あっという間に四人の肉体が出発時の年齢へと戻った。

 

 そして、四人が元に戻ったタイミングでねじれゾーンの終わり……出口が開き、タイムホールの外へと勢いよく出た。

 

ドガッシャン!!

 

 轟音と何かが壊れる音、両方が同時に響く。タイムホールは基本的に地上近くに開く。つまり、六人の乗るタイムマシンは盛大に地面へとダイブしたのだ。その衝撃で全員投げ出され、タイムマシンは衝撃により故障した。

 

「皆さん、大丈夫ですか?」

 

「なんとかぁ」

 

「俺もォ」

 

「僕も大丈夫」

 

「ドラちゃん!」

 

 冥の確認にジャイアン、スネ夫、のび太の三人が反応して声を上げ、しずかちゃんは地面に頭から埋まって犬神家状態になっているドラえもんを見て驚き、声を上げた。どうやら到着時間の衝撃で四人とも目を覚まし、特に怪我もないらしい。

 心配なのはドラえもんだけになったが、おそらく大丈夫だろう。足をバタつかせて、なんとかしようと藻掻いていた。

 

 冥としずかちゃんがドラえもんの足を掴み、同時に引っ張り上げる。なぜかドラえもんの体が餅のように少し伸び、そしてボコッと土を捲り上げながら引っこ抜けた。大きなカブを引っ張ってるような状態だった二人は、引っこ抜けたと同時に尻もちをついたようだ。

 

「ゲホッゲホッ! ……ありがとう二人共。みんなは大丈夫?」

 

「ドラちゃんに比べたら平気よ」

 

 咳をして口の中に入った土を吐き出すドラえもん。特に壊れているような様子はなく安心する冥としずかちゃん。

 

「ねぇ、ドラえもん。ここって本当に3億年前なの? 前に来た時と違うよ?」

 

 そんな時、周囲を見渡したのび太が以前来た時と風景が違うことに気づく。前にのび太達が来た時は、崖の上で野球ができる程度の草原と木々が広がってた。しかし、今回やって来たこの場所は緑豊かな森が広がっており、遠くの方には謎の建造物すら見えていた。

 

「あの建物は一体……?」

 

「クロちゃんもいたら、なにかわかったかのかしら……」

 

 のび太の質問を聞いて周りを見渡し、塔に似た建造物を冥としずかちゃんは認識した。こういう時、千里眼をもつクロがいたら……としずかちゃんは思う。だが、今ここにクロはいない。複製したストームのタイムマシンを改造するのに集中していたために来れなかったのだ。

 

「みんな! みんなちょっとこっち来て!」

 

 森の奥から大きな声で呼びかけるスネ夫。その呼びかけを聞いた五人は声のした方へと進んでいき、ドラえもんの首あたりまでの高さまで積まれたレンガの壁と金属の柵がある場所に着いた。スネ夫はその側で少し屈んでおり、五人が来たのを知るとチョイチョイと手招きした。

 

「どうしたんだよスネ夫」

 

「何かあったの?」

 

「いやまずこのレンガの壁と柵自体もそうなんだけどさ……あれ見てよ」

 

「「「「「あれ?……っ!!」」」」」

 

 スネ夫が指し示した壁と柵の向こう側には驚くべき光景が広がっており、それを見た全員が目を見開いて驚愕していた。

 

 なんと、人間サイズまで大きくなった様々な種類の犬や猫が、服を着て二足で歩いていたのだ。しかも「今日の映画どうだった?」「微妙……30点」「辛口すぎて草」などと日本語を話しており、その会話からある程度文明が発展していることもわかる。

 隠された魔境ではあったが……現代でも二足歩行の犬が服を着て日本語で喋るのを冥を除いた五人は直接経験している。冥は経験こそしていないものの、クロが記録していたおかげで知識としては存在していた。だが、犬だけでなく猫までも同じように歩いて話し、しかも明らかにバウワンコよりも文明が発展していることが伺える目前の光景は、驚愕に値するものだったのだろう。

 

「一体……何が……? いくら何でも、1日にでこの光景は異常ですよ……?」

 

「ここってホントに3億年前なの?」

 

「確かめてみよう!」

 

 目の前の光景がイチ達を置いてきた時代と同じだとはとても信じられなかった六人は、タイムマシンの下へと走って戻っていった。タイムマシンには今いる時代を示すタイムカウンターがついている。それを見て確認しようとしているのだろう。

 

 来た道を走りながら戻り、タイムマシンの下へと急ぐ六人。そして、一足早く戻れたドラえもんがタイムカウンターを覗き、後に次々と戻ってきた五人へ今の時代を告げた。

 

「「「「「1000年後!?」」」」」

 

「うん……」

 

「なんでそんなにズレたのさ!?」

 

 タイムカウンターが示していた数字は、目的の時代より1000年も後の時代だった。かなりズレている。のび太もそう思ったのか、ドラえもんにズレた理由を問いかけた。

 

「たぶん……ねじれゾーンのせいだよ」

 

「ねじれ……何?」

 

「ねじれゾーン。時空の中に別の時空がねじれ混んで歪んだ空間のことだよ」

 

「?????」

 

「つまり……どういうことなんだ?」

 

「おそらく……別の時空が混ざったせいで、タイムマシンの時間移動機能に不具合が生じたのだと思います。あとは、時空間の歪みからいくつも発生していたプラズマが、何発かは直撃していたからかもしれません」

 

「さっすが冥さん!」

 

 ねじれゾーン。それは別の時空がねじれ混ざって歪み、時間の進行と退行が入り乱れている空間なのだ。ねじれゾーン内でのび太達の肉体に変化が起きたのはそれのせいであり、到着先の時間がズレたのも同様にそれのせいだとドラえもんは思っている。

 

「『わんにゃんごっこつけ耳』〜! タイムマシンは時間移動機能がオシャカになってたから、直さなきゃいけない。だけど、今ボクはタイム風呂敷を持ってないんだ。だから、これをつけて修理に使えそうな部品や道具をあの街で探そう!」

 

「タイムマシンの部品代わりになるものなんてあるのかしら……」

 

「大丈夫!たった1000年であの発展度合いなら、代用品くらいは見つかると思う!」

 

「だといいけど」

 

 街で壊れたタイムマシンの修理に必要な部品や道具を探すために、六人はドラえもんが取り出した『わんにゃんごっこつけ耳』を頭につけた。

 ジャイアンとスネ夫にのび太は犬耳をつけて、ドラえもんとしずかちゃん、冥は猫耳をつけた。のび太はイチにそっくりな犬種で、しずかちゃんは白色の猫種、冥はクロに近い種類を選んでいた。ちなみに、ドラえもんはタヌキの耳をつけないのかとジャイアンやスネ夫にからかわれて憤慨していた。

 

「あれ? のび太さん、尻尾が生えてる……」

 

「えっ、ホントだ!?」

 

「俺にも生えてるぞ!?」

 

「みんな生えてるよ、そういう道具だから」

 

 耳をつけたのび太に、服の上から犬の尻尾が生えてると気づいたしずかちゃん。しかし、それはしずかちゃんも一緒で、猫の尻尾が生えていた。他の四人も同様に、耳の種類に合った尻尾が服の上から生え伸びていた。

 

「これはね、つけることで犬や猫になりきることができる道具なんだ」

 

「それで尻尾まで生えたのですね」

 

「それにこの尻尾、結構自由に動かせるみたい」

 

 ドラえもんが『わんにゃんごっこつけ耳』の説明を行い、それを聞いて冥やしずかちゃんは尻尾が生えたことに納得した。一方でのび太やスネ夫、ジャイアンは、ドラえもんの話を聞きながらも、自分から生えた尻尾の動きに気を取られていた。

 自分の意思で自由に動かせるとわかった三人は面白がって遊びはじめたが、その後に説明を聞いてないと怒ったドラえもんが説教して止めた。

 

「よーし、それじゃ気をつけていこう!」

 

 数分説教されて反省したのび太達はちゃんとドラえもんの説明を聞き、犬や猫達が住まう街へ意気揚々と向かっていった。その姿を見たドラえもん、しずかちゃん、冥の三人は、先行きが少し心配になったのだった。

 

 

 

 

 





【タイムマシン】
 大幅改造されたことで、定員が増えた。西遊記の時のナビゲート機能はそのままだったが、今回のダメージで逝ってしまった。また、空間移動機能は無事だが『のび太の恐竜』の時と違って、今回は時間移動機能の方が壊れている。

タイムマシン「もっと優しくして……」

【わんにゃんごっこつけ耳】
 つけると犬や猫になりきることができる道具。犬や猫からは同族に見えるらしい。『バードキャップ』と似たような道具。なお、クロには効かない。

【西遊記事変】
 西遊記とヒーローマシンをキッカケにして起こった出来事。クロが現代にやってきて以降つけている記録(日記とは別)にその詳細が書かれている。当事者それぞれにインタビューもして多視点から記録をつけているらしい。他にも、魔法世界やバウワンコなど今までに起きた事変についても書かれている。

【クロ】
 今回は出番がなかった主人公。Dr.ストームから回収・複製したタイムマシンが面白い性能だったので、改造することに夢中になっていた。しばらく出番はないかも。



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55話

え!? もう1年経つんですか!? は、速すぎる……いつから作者はメイド・イン・ヘブンの影響を受けていたんだ……。

新年 あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。




 

 

 ――犬や猫が住まう街――

 

 山猫軒。そこは、のび太達が1000年前に置き忘れた『無料フード製造機』を改造した機械で料理を出す店。注文の多そうな名前だが、実際はそんなことはない。しかし、ただの料理店というわけでもない。無料フード製造機は水と空気とクロレラを培養して、個人の好きな味を出すことができる……つまり、無料で必ず美味しい料理が食べられる店なのである。

 

「うぅんまあいぃぃ!!」

 

 山猫軒のハンバーグを口にしたジャイアンはそう叫んだ。

 周りの他の客は突然の叫び声にビクッと肩を震わせ、あいつなんで下着でメシ食って叫んでるんだ……狂人か……?というような視線を向けている。ドラえもん達の服は到着時と変わらないが、犬猫達の文化では薄着=下着となってしまうのだ。その証拠に、他の客達は似通ったデザインの厚手の服を着ている。是非もナシ。

 

「良い味付け……」

 

 ナプキンの内側の端で口を拭いたスネ夫はそう呟いた。それを見た周囲の客は、マナーは良いのになんで下着なんだ……狂人か……?といいたげな視線を向けていた。

 

「ねぇ、これって……」

 

「うん、のび太君が忘れてった無料フード製造機で作ったんだと思うよ?」

 

「だからゴメンってばぁ……」

 

 料理についてのび太に聞かれたドラえもんは、ジトーっとした目でのび太を見ながら答えた。高かったひみつ道具を購入して1日で1000年前に置き忘れられた怒りもあるのか、返答には皮肉も混ざっていた。

 二人のやりとりを見た周囲の客は、あの猫族なんで素っ裸なんだ……羞恥心がないのか……狂人か……?といいたげな視線を向けていた。

 

「…………」

 

 一方、黙々と料理を食べる冥。その所作は美しく丁寧で、料理を運んだウェイターは満足そうにしている。周囲の客は、アイエエエ!メイドッ!?メイドナンデェ!?と驚愕していた。この時代ではメイドの希少価値が高いのかもしれない。あるいは……

 

 

 

 

 

 

 

『皆様! 今日はお越しくださりありがとうございます。予定の時間となりましたので始まります。シャミー……ショー!!』

 

 ドラえもん達が料理をほとんど食べ終えた時、突然照明が落ちて真っ暗になると、店内に響き渡る放送が始まった。ドラえもん達は知らなかったが、この山猫軒ではこの時間にショーを予定していた。それが、シャミーショー。

 冥は周囲の客をチラリと見てみたが、なんだなんだと動揺しているのはドラえもん達だけで、他の客はむしろ待ってたんだ……というような顔つきであった。

 

 〜〜♪〜〜♫〜〜♬〜〜 〜〜…………

 

 曲が始まると同時にスポットライトが店の舞台とその上を照らす。そして、透明感のある澄んだ歌声がスポットライトで照らされている舞台上部から聴こえてきた。

 

 ゆっくりとリズムに乗ってユラユラ揺れながら降りてくるブランコ。そこには、ピンクのノースリーブを着た白桃のような毛色の妖艶な猫族が座っていた。可愛らしくチャーミングな歌声や華奢な体型から女性と思われる。

 やがてブランコは止まり、そこから舞台に降りた彼女は舞台の上を踊るように歩きながら歌い続ける。そして、複数の猫族の雄を魅了するようなウィンクをした。

 うっ♡……と店内にいる雄の猫族の大半はそれにやられてしまう。一緒に来ていた雌の猫族は雄達に冷たい視線を送っていた。犬族は、ふーん……エッチじゃん……といった感想を抱く程度にしか効いていなかった。

 

「はうぅッ!♡?」

 

 ドラえもんは魔性のウィンクから逃れられなかったようだ。姿を見た時点で多少なりとも興奮してはいたが、ウィンクがトドメをさしたらしい。黄色とピンクの小さい悲鳴をあげながら目を♡♡にして倒れた。

 突然倒れたドラえもんに、側に座っていたのび太としずかちゃんは驚き、ドラえもんの目を見て呆れた。それを見てた冥は、ミイちゃんのことはいいのでしょうか……と思って首を傾げていた。

 

『山猫軒の歌姫、シャミーでした!』

 

 彼女……シャミーが歌い終わると、店内に明かりが戻り、アナウンスが響く。シャミーは歌姫と呼ばれているようだ。確かに、その多くを魅了する美貌と歌声は【歌姫】という称号に相応しいのかもしれない。

 

「シャミー……?ちゃああああんッ!」

 

「ッ!?」

 

 アナウンスを聞いたドラえもんは、自身を魅了した美しき歌姫の名を知り、冥すら驚く速度で舞台上のシャミーに近寄った。その動きは軽く物理法則を無視しているようだったが……未来のロボットならそれくらいはやってのけるのかもしれない。

 

「ボク、ドラえもんです!さっきの歌とても良かったです!」

 

 自己紹介をしながらポケットから色とりどりの花束やどら焼きを出して、シャミーに渡すドラえもん。それをちょっと引きながらも受け取るシャミー。

 

「ありがとう……初めて見る猫族ね?」

 

「猫ォー! ボクのこと猫って言ってくれたの!?」

 

「え、えぇ。ちょっと独特な体型と色だけど……その耳と尻尾は猫族でしょう?」

 

「あ、あっ、嬉しいィーッ!! これ、七色の鈴をどうぞ!」

 

「まぁ! ドラちゃんは色んな物を持ってるのね」

 

「だってボクは未来から来た、22世紀の猫型ロボットですから!えへへへ……」

 

「えっ!?」

 

 ドラえもんを初見で猫と言ってくれた久しぶりの相手……それも今まさに自分が夢中になっている相手ともなれば、ドラえもんの嬉しさの感情はとどまることをしらなかった。

 ポケットから七色……いわゆる虹色に光る鈴をプレゼントするドラえもん。花束、どら焼き、そして七色の鈴……次々にポケットから色んな物を出すその姿は、質量保存の法則を無視しているようにしか感じられなかった。シャミーは珍しいマジックを見た気分でお礼と感想を述べたが、それに対するドラえもんの返答を聞き驚きの声をあげてしまう。

 

「シャミーさん、そろそろ時間が……」

 

「あっ!ごめんなさい。それじゃあ、また会いましょうドラちゃん」

 

「えっ?」

 

 スケジュールが詰まってるのか、歌い終わっても中々戻ってこないシャミーに焦りを感じたマネージャーが、時間が押してきていることを耳打ちする。

 耳打ちされたことでシャミーはこの後に重要な予定があることを思い出し、ドラえもんとの会話を終わらせた。

 

(あの方にお伝えしなければ……)

 

 そう思いながら、シャミーは舞台から裏へと戻っていく。マネージャーもシャミーの後を慌ただしくついていき、その二人の後ろ姿をドラえもんは未練がましい気持ちで見送った。

 

「さぁ、そろそろ行くよドラえもん」

 

「腹も満たされたしな!」

 

「歌も良かったわね」

 

 のび太がドラえもんに声を掛け、ジャイアンとしずかちゃんは感想を言い合う。美味い料理に良いサービスで皆満足したようだ。

 

「うーん……やっぱり諦めきれないッ!」

 

「えっ!?ちょっ、ドラえもん!?!?」

 

「シャミーちゃああああん!!」

 

 前言撤回。どうやら一人だけ満足できなかったようだ。ドラえもんはシャミーの名前を言いながら、彼女の消えていった裏へと走っていく。

 五人は走り去っていくドラえもんに一瞬呆気にとられ、遅れてからドラえもんを追いかけていくのだった……。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「あら……? どうしたの?」

 

「シャミーちゃん……あのォ……そのォ……ボク……」

 

 裏でマネージャーと次の場所の確認を行っていたシャミーは、ドラえもんがモジモジしながらやって来たのに気づいた。何かモゴモゴと言っているようだが、小さくてシャミーは聞き取れなかった。

 

「キャッ!」

 

「へっへん! いっただきィ!!」

 

 何を言ったのかシャミーが聞き返そうとすると、急に横から走ってきた何者かがシャミーの手から七色の鈴を奪い取っていく。その衝撃と驚きで、シャミーは軽く悲鳴をあげながら尻もちをついてしまった。

 

「シャミーちゃん大丈夫!?」

 

「ええ……なんとか」

 

「良かったあ……それにしても、許せない!」

 

 尻もちをついたシャミーにドラえもんは駆け寄り、怪我がないか確認し、怪我がないとわかると安堵した。そしてすぐに先程の蛮行を思い出し、それを行った盗っ人を絶対に許さないと息巻く。

 

「あっちの方に逃げたよ!」

 

「追いかけましょう!」

 

「うん!」

 

 その場面にタイミングよく来たのび太達五人は、激おこプンプン丸のドラえもんを筆頭に、逃げた盗っ人を追いかけていく。

 

「ひっ!?」

 

 山猫軒の裏、その狭い通路を走り抜けながら盗っ人であるダックスフントの犬族はチラリと後ろを確認し、恐ろしい形相で追いかけてくるドラえもんを見て慄く。青かった体が、怒りで顔中に血管を浮かび上がらせながら朱くなって、血走った目で睨みつけていたからだ。

 

「ダク! ここは俺に任せて先に行け!」

 

「気をつけてブルタロー! あいつら色んな意味でヤバいよ!」

 

 出口の扉を乱暴に開け放って出ていく犯人。逃がすまいとすぐ後ろを追いかけたいたドラえもん達は、出口の向こうから聞こえてきた会話から仲間がいることを悟る。セリフからおそらく、先を行かせないために立ち塞がるつもりなのだろう。

 案の定、出口を抜けてからドラえもん達が周囲を見渡すと、店内の通路よりは広いもののそれでも狭い小道を走っていく犯人と、その途中で仁王立ちしているブルドッグの犬族がいた。大柄でちょうどジャイアンくらいの身長だ。先程の犯人の会話から、彼奴がブルタローと呼ばれていた人物なのだろう。そして、逃走中の犯人がダグという名前であることも推測できた。

 

「そりゃあ!」

 

「うおっ! くっ……ドラえもん達はあいつを追いかけてくれ!」

 

「わかった、頼んだよ!」

 

 ブルタローとジャイアンがぶつかり、取っ組み合う。ジャイアンもブルドッグに近い犬種のつけ耳をしてるからか、デカいブルドッグ二匹が喧嘩しているようにも見える。いや、犬猫達からは実際にそう見えているのだろう。

 ドラえもんはジャイアンにその場を任せて、のび太・しずかちゃん・スネ夫と共に犯人の後を追いかけていった。冥は立ち止まり、心配そうにジャイアンを見つめたが……当のジャイアンからニヒルな笑みを取っ組み合いながら返された。その笑みを見た冥は苦笑して、先を行ったドラえもん達を追いかけていった。

 

 

 

 

 




【無料フード製造機】
ドラえもんが未来デパートで奮発して買った道具。水と空気とクロレラを培養して犬猫などの動物が好きな食べ物を出すことができる。1000年で成長した犬猫達に改造された。

【シャミー】
他に比べて人間要素が多い猫族。髪の毛が生えてる犬猫キャラは片手で数えられる程度しかいない。ドラえもん達の服が下着と言われる中、シャミー着ていた服はそれ以上に露出度が高く薄い。つまり…………えっちぃ服……ってコト!?

【七色の鈴】
文字通り七色に光り輝く鈴。眩しすぎて目に悪い。しかも手のひらサイズなので、おそらく観賞用である。

【ドラえもん】
シャミーへのプレゼントを眼の前で強奪されたうえに渾身の告白も中断されて、怒りが天元突破グレンラガンした。
???「野郎ブッコロしてやる!!」



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56話

難産でした……。キャラが多すぎるのと、映画と漫画で言動も動きも場所すら変わるので迷いました。このワンニャン時空伝編の明日はどっちだ!?

新しいドラえもん映画は……どことなくクレヨンしんちゃん味を感じたのは作者だけでしょうか?




 

「はあっ……はあっ……あいつら、いつまで追いかけてくるんだ……」

 

 ダクと呼ばれた犬族の少年は、時々後ろを見て追手を確認しながらも狭い小路を走り続ける。息切れ……あるいは別の理由からか、彼の顔色は青白くなっている。

 

「待てェ!! 絶ッ対に逃さない……地獄の果てまで追って必ず捕まえる!!」

 

 物凄い形相で追いかけくる青い裸の猫族。その後ろには青い猫族の仲間であろう四人が走ってきている。捕まるわけにはいかない。あの青い猫族に捕まったら、何をされるのか考えるだけで震えが止まらない。

 

「なっ……! く、くそぉぅ!」

 

「鈴を返せェェェ!!」

 

 しかし、彼の走った先は行き止まり。右も左も自分より高い塀に囲まれた……袋小路。ダクはついに追い詰められた。

 ドラえもんは今にも頸を斬ってしまいそうな勢いで、鈴を返せと要求する。後ろを走っていた四人も既にこの場に辿り着いていた。

 

 逃げ場はない。万事休すか……ダクが考えたその時!

 

「ダク! こっちに!!」

 

「っ!! 助かったぜ、チーコ!!」

 

 右方の壁、その上から白い犬族の女の子がダクに声をかけた。先のブルタロー同様にダクの仲間なのだろう。彼は声を認識した瞬間、即座に懐に入れていた鈴を彼女に投げ渡していた。

 鈴をキャッチしたチーコはそのまま塀の上を走り、ドラえもん達から逃げようとする。

 

「逃さない……『念力目薬』!! うぅ……しみるぅ」

 

「ドラえもんさん……?」

 

 冥がチーコを捕まえようと足に力を入れたタイミングで、ドラえもんがポケットから特殊な形状の目薬を取り出し、中の液体を両目に垂らした。液体が目にしみるようで何度か瞬きをしている。

 やがて、液体を垂らしたドラえもんの目にはピンク色の波紋が瞳を中心に走っていた。その姿を見たのび太達は少し引いている。

 

「わあっ!? な、ナニコレ!?!?」

 

「さぁ……こっちへいらっしゃ〜い!」

 

「これは、念動力ですか……」

 

「クロと一緒ね」

 

 逃げるチーコの背を睨むように見つめるドラえもん。ドラえもんが腕を前に出し、グルグルと回し始めたかと思えば……突如としてチーコの体がフワリと浮かび上がった。冥としずかちゃんは、その光景とさっきの道具の名前からクロのように念動力を使っているのだと推測した。

 

「キャアアアアア!?」

 

「ブヘッ!?」

 

「ドラえもん!?」

 

「えぇ…………」

 

 念動力を使ってチーコを引き寄せたドラえもん。だが、使い慣れていなかったのか……引き寄せすぎて、顔面で勢いのついたチーコの尻を受け止めることになった。堀の上にいたことで、引き寄せるために発生した運動エネルギーだけでなく位置エネルギーも含まれた衝撃。人間が同じ箇所に同じだけの衝撃を受ければ、首がポッキリと折れてもおかしくない。それほどの衝撃を顔で受け止めたドラえもんは、二頭身の体のおかげか気を失うだけで済んだ。

 チーコの方も、ドラえもんと同じだけの衝撃を尻で受け止めている。痛みに慣れていない女の子が耐えられるようなダメージではないので、当然、気絶した。

 のび太はダメージで失神したドラえもんへ心配して駆け寄り、怒り狂って道具を使った結果がこれか……とスネ夫は呆れた声を出した。しずかちゃんと冥は尻にダメージを受けて気絶したチーコを看ている。女の子のお尻は大事なのだ。

 

「チーコから離れろォ!」

 

「きゃっ!?」

 

「しずかちゃん!」

 

「どこから……えっ」

 

 突然、どこからともなく走りながら現れた犬族の少年が、離れろと怒号を浴びせながら気絶したチーコの介抱していたしずかちゃん、冥へと襲いかかってきた。

 声に驚くしずかちゃん。手持ち無沙汰になっていたが故にいち早く気づいたスネ夫が、二人を守るかのように前に出た。素早く走って近づいてくる犬族の少年へを捕まえようと手を広げ、肩幅まで脚を広げる。そして、十分に距離が近づいた少年を捕まえようとしたその時、少年が凄まじい速度で繰り出した拳がスネ夫の鳩尾を打ち抜いた。

 ゴッ!! という音ともに白目を向いて崩れ落ちるスネ夫。その姿を見向きもしないでチーコへと駆け寄っていく犬族の少年。のび太は、少年の姿を見てからある理由で呆けていたが、スネ夫が倒れた音で正気に戻った。スネ夫を容赦なく殴り、怒号を発している奴だ、しずかちゃんや冥に何をするかわからない…………何とかしなくちゃ! そう思い、立ち上がるのび太。しかし、のび太の出番はなかった。

 

「仕方ありませんね……バンッ!」

 

「うわあっ!?」

 

「動かないでください……」

 

「ちっ……」

 

 冥が走り寄ってくる少年に向けてスッと人差し指をさし、空気の弾丸を放ったからだ。冥の指先には常に空気ピストルの薬が出るようになっている。そのため、いつでも空気の弾丸を放つことが可能なのだ。ただし、この弾丸は人を軽く吹っ飛ばす威力があるので、クロから自身の命令か防衛のため以外では使用しないように言われていた。以前使用した際はブリキン島を守るためだった。今回は、少年がスネ夫を躊躇いなく殴ったことから、しずかちゃんやのび太、ドラえもんにも何かしらの被害をもたらす可能性があると判断したのだ。

 犬族の少年は突然発生した不可視の衝撃に5Mも吹っ飛ばされ、痛みと驚きで声を上げる。だが、動けなくなるほどじゃない。すぐにでも立ち上がり、また走り出そうとする。

 そんな少年の眉間に、冥は瞬時に近づいて人差し指を突きつけた。まるで銃口を額に押し付けるように。

 

 『ロッドソード』のように電気を帯びてるわけでもない、ただの指に何ができるというのか。少年はそう思いながらも、舌打ちして動きを止めた。このメイドはあの距離を瞬きの間に移動できる身体能力に、さっきの謎の攻撃を放った可能性もある。この突きつけられた指に何かあると……そう思わせる凄みが……このメイドにある。

 

「ねぇ……イチ、イチだよね?」

 

「あぁ?」

 

「やっぱりだ! すぐわかったよ!」

 

 動き止めた少年に、イチではないかと問いかけるのび太。確かに、少年の姿はイチと似ている。成長した姿と言われてもおかしくないほどに。

 

「誰と間違えてるかは知らねぇが、おいらの名前はハチだ!」

 

「そんな!」

 

「のび太さん……あれから1000年も経ってるのよ? イチなはずないわ」

 

「なんだぁ……」

 

 少年は腕を組み、不機嫌そうに自らの名をハチだと明かした。そして、イチだと思った人物がイチじゃなかったことにガックリと肩を落とすのび太。普通に考えれば、イチが1000年も生きているはずがない。神に造られたクロとは違うのだ。

 

「……はッ! 鈴は!?」

 

「あ、ドラえもん起きた」

 

「鈴はそちらですよ」

 

「ありがとう! よーし……シャミーちゅわぁぁん!!」

 

「まぁ待てよドラえもん」

 

「ぐへっ!?」

 

 のび太がガックリしていると、気絶していたドラえもんが意識を取り戻し、すぐに鈴を探し始めた。冥がハチの動きを封じながら鈴の場所を教えると、ドラえもんはお礼を言ってすぐに立ち上がり、山猫軒に戻ろうとする。だが、店側からブルタローと一緒にやって来たボロボロのジャイアンにガシッと首輪を捕まれ、うめき声をあげた。その横ではしずかちゃんとのび太が……あのジャイアンがボロッボロになってる!?!?……と驚いていた。

 

「こいつらの話、聞いたか?」

 

「話……?」

 

「おいブルタロー!」

 

「アハハ……悪ィなハチ、つい」

 

「っくそ!」

 

 悪態をつくハチ。苦笑いをしながら悪いと謝るブルタロー。このやりとりで、ドラえもん達は彼ら四人が何か複雑な理由があってこんなことをしているのだと認識した。

 

「ねぇジャイアン、話って?」

 

「それは……」

 

「ここじゃ話せねぇ。おれ達のアジトで話してやるよ」

 

「アジトがあるの?」

 

「ああ。それで、案内するためにもその指、どかしてくれないか?」

 

「…………いいでしょう。しかし、あなた方が怪しい動きを見せた場合、即座に捕らえますので」

 

「あんたの強さはさっきのでわかったからな、もう何もしねぇよ」

 

 少年達のアジトに向かうことになり、冥が気絶したチーコを背負いながら、ハチとブルタロー、ダクの後を全員がついて行った。大通りを避け、人の目がつきにくい路地を何度か通る。そうして到着した場所は、大通りをよく走っていた車のような乗り物、その解体工場であった。

 工場内は広く、しばらく使われていないのか機械や作業台などに埃が積もっている。いくつか解体途中の乗り物がそのままにされていて、外の広場には数十台の乗り物が放置されていた。

 

「そこに座りなよ。今、特製ドリンクを入れるからさ」

 

「ありがとう」

 

 広場で横に置かれていた土管を指差して言うダク。そして、ダクとブルタロー、冥から代わってチーコを背負ったハチが工場内に消えていくと、ドラえもん達五人は土管へと腰掛けた。

 

 

 

 




【ロッドソード】
 伸縮可能な帯電棒。よく腰のベルトに差し込まれている。漫画の方で名称が判明した。スタンガンと警棒を合わせた性能をしており、鍔迫り合いの際の絵面はカッコいい。

【ブルタロー】
 漫画と映画で話し方が違う人。本作では映画に合わせている。ちなみに、ジャイアンとバトルした会場も漫画と異なる。ジャイアンより人の心を持ってそうな人。

【ダク】
 ブルタローと同様に漫画と話し方が異なる。というか、漫画だとブルタローと口調が一緒なため、小説形態では映画に合わせざるをえなかった。
 なお、鈴をチーコに渡した後は隅っこで息を殺して隠れていた。

【スネ夫】
 劇場版補正で正義感が増し、盾になったものの見事な一撃をもらいノックアウトした。現在は冥に膝枕された状態で眠っている。え、誰が運んだのかって?…………ジャイアンあたりじゃないですかね?

【ハチ】
 意外にも漫画版だと暴力的な手段を取りがちな人。のび太が飼っていたイチそっくりな姿をしている。言動とか行動が映画とでそこそこ違うので、一番描写に迷った。

【クロ】
 神造生物。神から様々な力を与えられており、未だ主人公が自覚していない力もある。寿命で死ぬことはまずない。

❤❦❂❁❤「タハッ!知識と記憶を消しといて良かったー。事前知識があると楽しめないもんね? さぁ、もっと頑張れ頑張れ」


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57話

遅いうえに短くてすまない……スマナイ……。
それもこれもプロットを作らない作者のせいなのだ。いつも1話ごとに脳内作成してるせいなのだ。(ずんだ餅の妖精)

……地球交響曲……見に行こうかな?


 

 ドラえもん達が犬猫の国で出会ったハチ達の話を聞いている頃。

 ネコジャーランドと呼ばれる遊園地の中央塔、その執務室で二人の猫族がある人物について話していた。

 一人はふくよかな体型の男。そしてもう一人はフードを深く被り全身を覆うコートを着ている。その声は女性のものだった。

 

「ほほう……それは本当か?」

 

 椅子に座っていたそう言って男は立ち上がり、目の前の人物を見つめて返事を待つ。その目はギンギラと怪しげに光っていた。

 

「はい。不思議なポケットから様々な物を取り出して、ロボットだと……」

 

「であれば、この闇の黙示録に載る機械猫に間違いなかろう」

 

 男は執務机の後ろにある壁に掛けられていた、古い黒地の本を手にとってそう言った。目を細め、悪戯が成功した時のようにニヤリとほくそ笑んでいる。

 

「機械猫の力が闇の黙示録通りならば……人間世界を占領することなどわけもないことだ!よいか、その機械猫から目を離すでないぞ!!」

 

「はっ!」

 

 人間世界の占領を企む男は、フードを被った人物に機械猫……ドラえもんの監視を命じた。ドラえもんの持つ力を利用するために…………。

 

「あと次から上司が話してる時にフードは被るな。普通に失礼だぞ」

 

「すみません……」

 

 

 

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

 

 

 

『むぅ……どうしたものか』

 

 吾輩はお座りの姿勢で首を傾げてそう呟いた。

 拠点にて複製したストームのタイムマシンを改造してたのだが、突然虫の知らせアラームが鳴り出したのだ。アラームが鳴る時はのび太達が危険な目にあっている時。だから、のび太達の現状を知るためにタイムテレビを見ていたのだが…………

 

「映らんな」

 

『ああ』

 

 ザァーザァーとチャンネルが繫がっていない昔のテレビのような状態だった。

 こんなことは初めてだ。タイムテレビが故障しているか、時空間が乱れているかのどちらかが原因だと予想はしている。

 

 

「それで、どうするつもりだ?」

 

『のび太の部屋に行く。過去を知る術は一つだけじゃない』

 

「ほう……?」

 

 サベールが興味深そうに吾輩を見てくる。

 そういえば、サベールには教えたことはなかったな。

 

『サイコメトリーと言ってな……触れた対象の記憶を読み取ることができるのだ。以前は対象が生物でなければ読み取れなかったが、最近になって生物以外でもできるようになった』

 

「なるほどな」

 

『では行ってくる』

 

「待て、私も連れて行け」

 

『何……?』

 

 サベールの意外な言葉に驚いてしまった。この拠点に来てから剣術の鍛錬バカとなったサベールがついてきたいだと……?いったい何が……?

 

「そう驚くな。少し、気になるだけだ」

 

『気になる? 何が気になるのだ?』

 

「私の勘がついて行けと言っている。その理由がな……」

 

『………………』

 

 ふむ……勘、か。今は人手が多くても損はない。それに、サベールもこれまで叛意を抱くことはなかったし、のび太達の交流の甲斐あってある程度人間社会についても知っている。

 サベールを連れて行くことに大した問題はない。

 

『わかった。ただし、吾輩の言う事には従ってもらうぞ』

 

「了解した」

 

 そうと決まればさっさと行くとしよう。

 サベールと共にのび太の部屋に転移する。景色が拠点からのび太の部屋へと一瞬で切り替わり、目の前に引き出しが開いたままの机が現れた。

 

 それを見ただけで、のび太達がどこに行ったのかは大体察せられたが……念の為、サイコメトリーを使って読み取ることにする。

 

「この感覚……二度目でも、やはり面白いな」

 

『あまり動き回るなよ』

 

 少しソワソワしているサベールに注意して、記憶を読み取ることに集中する。すると、この部屋が記憶しているのび太達の姿が見え始めた。

 

 いつものメンバーに冥と怒ったドラえもん。なにやら、のび太達に対して怒っているようだ。

 

 ……ふむ、なるほど。のび太がスペアポケットを勝手に持ち出したことに怒っているのか。

 

 一方で、のび太はドラえもんを宥めながら、スネ夫にジャイアン、しずかちゃんを引き出しに入るよう促している。あまりドラえもんの怒りが響いているようには見えない。やがて、部屋にはドラえもんと冥の二人だけになり、少し言葉を交わすと二人とも同じように引き出しへと入っていった。

 

 やはり、別の時代へと行ったようだな。問題は……どの場所でどの時代に向かったか……だ。

 

「行き先はわかったのか?」

 

『……いや、わかったのはこの時代にいないという事だけだ』

 

「ならどうする」

 

『これを使って調べる』

 

 蔵からひみつ道具を取り寄せる。それは、モニターとボタンがついた機械に小さい気球のような物が繋がってる。22世紀のバイトで稼いだ金を使って購入した『時空震カウンター』だ。

 

「それは?」

 

『時空間の乱れを調べる道具だ。本来なら、タイムホールの漂流物をどこから来たのか調べるための道具だが、応用すればのび太達が乗ったタイムマシンの行き先を調べられる』

 

 サベールの疑問に答えながら、吾輩は時空震カウンターの気球を机の引き出しに繋がっているタイムホールへと浮かべ、調査を開始した。この道具の使い方は購入時に店員から聞いてるため問題ない。まぁ、結果が出るのに時間がかかるのが難点か?

 吾輩の調査が終わるまで、サベールにはのび太のママがやってこないか警戒するよう頼んだ。普通に不法侵入してるからな、バレたらマズい。

 

「…………」

 

 カタカタカタカタカタカタと、ボタンを肉球で叩く音が部屋で静かに鳴り響く。

 

「…………」

 

 ピーッ! ピーピーピー……ピッ、ピッと、時空震カウンターから音が鳴る。

 

「………………まだ、かかるのか?」

 

『いや、もう終わる』

 

 最後にガーガーと耳障りな音を立てながら、時空震カウンターから調査結果が記された紙が出てきた。その紙を念動力で引き寄せて、結果を読み解く。

 …………なるほど、そういうことか。

 

『のび太達の行き先と、虫の知らせアラームが鳴った理由がわかったぞ』

 

「なんだったんだ?」

 

『どうやらのび太達は3億年前の日本に向かったらしい。だが、途中でねじれゾーンに入って1000年後の時代に出たようだ』

 

「ねじれゾーン……?」

 

『時空の中に別の時空がねじれ混み、歪んだ空間のことだ。そのせいで、タイムマシンの時空移動機能に障害が発生したのだろう』

 

「ふむ……なるほど、よくわかった。それで、私達はどの時代に向かう?」

 

『決まっている。のび太達のいる2億9000年前の時代だ』

 

 場所がわかったのなら、あとは向かうだけだ。

 サベールと吾輩自身を念動力で浮かせて、目の前にある机の引き出しに繋がっているタイムホールへと移動する。そして、蔵から改造したある乗り物を取り出した。

 

『よもや、早速これを使うことになるとはな……』

 

「これは……何だ?」

 

『改造したタイムマシンだ』

 

 そう……ついさっきまで改造していたストームのタイムマシン(複製)だ。その名もタイムマシン改! そのまんまな名前だが、わかりやすくて良い。

 戦闘機型の形状はそのままに、武装とエンジン、システム、内装を変えた。

 

 武装は元々、時空ミサイルがついていたがそれを取っ払った。代わりに、ショック砲やハイパー空気砲、水圧砲、原子核破壊砲、ジャンボガン、ウルトラクラッシャー、etc……。大魔王デマオンを仮想敵として組み上げた。正直、これでもまだ足りなさそうではあるが。一応、外装には安全カバーに使われているウルトラスーパーポリマーと超硬質ゲルを塗装して、機体の強度を上げている。また、透明マントを薄く貼ってもいるから、隠密性もある。

 

 エンジンはマイクロブラックホールエンジンを主にして、予備に太陽エンジン、感情エネルギーエンジンを追加した。これで以前よりも馬力が上がる。

 

 システムに関して、ストームが意味のわからん古代語でできたシステムを組んでいたので、それを削除した。精霊呼び出し腕輪で召喚した雷の精霊をAI代わりに組み込んだ。ちなみに、エンジン室には整備士の代わりとして闇、太陽の精霊を置いている。精霊は余計なことをしやすいので、皆『十戒石板』で行動を制限している。

 

 内装は、最初に古代遺物風デザインの装飾物を捨てた。その後、『引き伸ばしローラー』で空間を広げて生命維持環境シートを貼り、様々な家具をセットした。タイムテレビを設置したから外の状況を知ることができるし、『交通安全お守り』も用意したから事故が起きても問題ない。

 

「ここがさっきの乗り物の中だと……?」

 

『ああ。素晴らしいだろう?』

 

 タイムマシン正面入口を精霊に開けさせ、内部に入ったサベールが驚愕していた。ふふふ……存分に驚くと良い。

 おっと、そんな場合ではなかったな。

 

『さて、では行くとしよう。のび太達を救いに』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【昔のテレビ】
 ブリキの迷宮の序盤でのび助が見ていた感じ。ザァーザァー音が鳴っている状態は砂嵐やスノーノイズとも言う。

【サベール】
 一人称が迷子になる人。ちなみに、イメージはずっと小栗旬が声を担当したイケメンの方である。度重なる鍛錬の末、大魔王デマオンとマフーガ以外になら勝てる強さを手に入れた。鬼滅式呼吸法と波紋の呼吸をマスターしている。斬撃も飛ばせる。つよい(確信)

【時空震カウンター】
 時空間の乱れを調べる道具。一応、ひみつ道具の分類だが……子どもには難しいのでは? 未来の子どもはレベルが高いのかもしれない……。
???「のび太おじいちゃんが特別悪いだけだと思うよ?」

【タイムマシン改】
 複製したストームのタイムマシンを改造したもの。いい名前が思い浮かばなかった。作者に命名センスはない。わかりやすければそれでいいのだ! でもBLEACHみたいにオサレな名前も好きです。

【精霊】
 精霊呼び出し腕輪で召喚された精霊は、その属性に性格が左右される。基本的に召喚者の言うことは聞くのだが……暴走しがち。雪の精霊はカワイイ。なので、雷と闇と太陽の精霊は同タイプのイメージ。

【十戒石板】
 石板に書いた十戒を強制させる道具。対象を絞ることができるので、割と応用ができる。

【引き伸ばしローラー】
 場所や物を引き伸ばすことができるローラー。空間や物体の拡張が可能。新魔界大冒険で登場した魔法の絨毯内部みたいに、外観以上の空間を作れる。欲しい。



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閑話2

地球交響曲……見てきました。音楽がテーマなだけあって曲は良かったです。ストーリーは……空の理想郷とドッコイくらいの評価ですかね……70点♠あとは、作者的ドラえもん最強ボスランキングが更新されてしまったぜ。現状1位です。

エイプリルフールに便乗しただけの、ただの閑話でございます。読まなくても何の問題もございません。
本編? もう少し待っていただきたい……ッ!(迫真)


 

 クロによる映画ラスボス撃破RTA、始ッまーるよー!

 

 

 はい。今回はですね、映画編に入ったクロが原作知識を持っていた場合どうしていたのかを観察するつもりです。

 本来なら持っていた知識と記憶を私が奪ったので、作中ではああいう動きでした。では……もし、仮にそのまま事前知識を持っていたら?皆さん気になりますよねぇ?

 

 あ、皆さん……忘れてるかもなので自己紹介しときましょうか!

 私は❤❦❂❁❤です! あ、聞き取れない? うーん……是非もなし!

 アレですアレ。クロを造って白亜紀に落としてあげた神様ですよ!!

 いや〜クロはもうちょっと感謝してくれてもいいんだけどね?色々詰め込んであげたから今があるわけで。はい、自己紹介終わり!!

 

 そういうことで!

 各映画(大長編)ごとのクロを動きを見てみましょう!

 

 まずは、恐竜編からですね。

 え〜っと、これはリメイクされた『のび太の恐竜2006』に近い流れでドラえもん達が動いていました。クロが出会ったのは、恐竜ハンターから取引を持ちかけられた日の夜ですね。気づいたのはもっと早かったですが。

 じゃあ、ここでタイマーをスタートしますね!

 ポチッとな!

 

 はい。スタートしました。

 さて、クロはどのように動くのでしょう?

 

『吾輩が手を貸そう。その代わり、吾輩を未来に連れて行ってくれ』

 

「どういうこと?」

 

 おお。クロの言葉をのび太が理解しきれず、聞き返していますね。まぁ、仕方ないかと。いきなり現れた喋るネコが、手を貸す代わりに未来に連れてってくれーだなんて、混乱するのも無理はないです。

 どうやらクロは、未来の実験動物で命からがら逃げ出してきた。のび太の住む過去の時代に行く予定が、事故でこの時代にやって来た〜という設定を作っていますね。ははぁ……考えますねぇ。

 

 その後の流れは本編と変わらず、翌日追いかけてきた恐竜ハンターを一網打尽にし、サイコメトリーでアジトを暴き、捕まっていた恐竜達を解放していました。

 

 はい。一旦、タイマーストップです。

 ここまでにかかった時間は凡そ半日程度ですね。うーん、ここは知識があろうがなかろうが変わらないみたいです。

 

 

 

 では、次のお話に移りましょう。

 確か……魔界大冒険のリメイクである『新魔界大冒険』に近い流れでしたね。知識持ちの場合、クロは寝床に落ちてきた石像で気づきます。

 

『これは……新魔界大冒険かッ!』

 

「新まか……何それ?」

 

 驚いてますねぇ〜。

 では、ここでタイマースタート!

 さてさてさ〜て、クロはどうするんですかね?

 

『やはり魔界星か……。いつ出発する? 吾輩も同行するぞ』

 

「アタシも行くわ!」

 

「「クロ、ドラミちゃん!」」

 

 おやおや、魔法世界になった深夜にドラミちゃんと共について行くことにしたみたいです。これは……本編も一緒ですね。もしかして……いや、まだ早いですね。

 さて、続きを見ましょうか。

 

『大魔王デマオンの心臓の在り処は知っている。救出作戦が成功したら、心臓を破壊すべきだな』

 

「すごい!さっすがクロだ!!」

 

「心臓はどこにあるの?」

 

『魔界星の側を衛星のように浮遊している星……それが心臓だ』

 

「「あれが心臓!?」」

 

 アッサリとバラしちゃいましたね。まぁ秘めておく理由もないし、仕方ないか。

 というか、デマオンの体って不思議ですね。4・5m程度の図体に衛星クラスの心臓って……物理的に入らないですよ。肉体から取り出した時に巨大化させた説が有力ですが……弱点をデカく晒しては意味がないのでは? もしかしたら、心臓が大きいことで魔力も膨大になる、みたいな意味があったのかもしれませんが。

 

『くッ! やはり銀のダーツでなければダメか』

 

「でも、僕のが最後の一本なんだよ!?」

 

「どんなノウコンでも、こんな大きな的ハズせるか!」

 

「メデューサが月に向かってんだ、早く投げろのび太!」

 

「「「「のび太ッ/さん/君!!」」」」

 

「うぅ……いっけぇぇぇぇぇ!!!」

 

「ビッグライトーッ!!」

 

 月の魔力が消えてないので悪魔達による妨害は少なく、簡単に心臓を銀のダーツで破壊しちゃいました。その前に、クロがいろいろ攻撃してたみたいですが、傷どころか衝撃一つ与えられていないようでしたね。特定の武具以外の無効化といったところでしょう。より上の概念か魔法があれば、また違ったんですけど……。

 はい。では、デマオンの悲鳴をBGMにタイマーストップです。

 時間は……半日と3時間くらいですね。半日は、のび太が魔法世界にするまでの時間です。その後、救出までが2時間で移動と心臓破壊に1時間ですね。本編よりも3時間くらいは早いですよ、このタイムは。

 余談ですが……のび太がもしもボックスを使用することを阻止してしまった場合、地球は滅んでいました。なぜなら、魔法世界の魔界星と本来の世界にあった巨大質量の星はリンクしていたからです。

 え? もしもボックスで作ったパラレルだからリンクはしてないだろ? 

 目の付け所が良いですね〜。そう、普通ならリンクしません。ですが、タイムマシンが関わってくると話は変わるんですよ。ドラえもん達は一度魔法世界でタイムマシンを使い、時間を遡っています。これによって時間的な繋がりが魔法世界に出来たってわけ。つまり……パラレルでありながらパラレルではない……ということです。そして、双方がリンクしていたおかげで、魔界星が消滅すると本来の世界にあった巨大質量の星も伴って消滅したんですよ。

 

 おっと、余談が長くなってしまいましたね。皆さん暇していそうですし、次へ行きましょう。

 次は……『新大魔境』ですね。

 一番最初にクロが、汚泥に濡れて汚くなったクンタック王子を見つけたんですよね。クロの寝床で。

 

『この犬……もしやペコか?』

 

「クゥン?」

 

 クロが気づいたのでタイマースタートです。

 いや〜しかし、この時のクンタック王子はバウワンコの民からすれば恥辱プレイをしているように見えるでしょうね。人間からすれば猿のロールプレイをしているようなもんですよ。もちろん全裸で。

 閑話休題。

 さて、バウワンコに入るまでは基本的に変わらないのでスキップしましょうか。知識があろうがなかろうが、子どもを優先することは変わらないみたいですし。

 

 〜〜スキップ中〜〜

 

「皆さん、本当に……ありがとうございました!」

 

 おっ、スキップが止まりましたね。

 ん~~? あれっ、これダブランダー撃破後では?えー……。

 本編と流れが変わるか、一段落つかない限り止まらないように設定してたのですが……これ見る限り変わらなかったみたいですね。本編クロは無意識に最短の道を選んでいるのでしょうか?

 

 気持ちを切り替えましょう!

 新大魔境は特に変わりなく終わってしまいましたが、次は別ですよ! きっと……。

 

 

 

 

 




【クロがストーリーを気にしない場合は?】
・『のび太の恐竜2006』……未来に戻りたいため恐竜ハンターを真っ先に潰して、のび太達と共に連続転移で日本に移動する。1話の見つけた時点から夜になるまでに決着がつく。
・『新魔界大冒険』……魔界歴程を手に入れて油断したメデューサと小悪魔の首を、念動ブレードでチョンパ。その後、魔界歴程から銀のダーツを一本とり、魔界星へと一人で出発。大魔王デマオンの心臓である魔界星の月を銀のダーツで破壊し、無事にデマオンと満月牧師がオサラバ。そのため、そもそも石像が落ちてこない。
・『新大魔境』……場所がわかっているため、先手必勝。バウワンコ王宮内まで連続転移し、一時の天下を噛み締めている大臣と博士を拘束。日本にいるペコのところまで運んで、二人の心を折る。


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