DOKUBARI QUEST Ⅹ (ニモ船長)
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用語集的ななにか

 
※随時更新予定
※ドラクエ10及び「蒼天のソウラ」の専門用語を主に解説
 


 

 

 

※アストルティア

 

レイクやエレット、ユルール達が住む世界のこと。赤肌の戦士気質なオーガ、自由を好む青肌のウェディ、鍛治が得意な小さなドワーフ、自然を愛するエルフ、愛らしい小さな体をもつプクリポ、そして人間の六種類の種族がそれぞれ六つの大陸に王国を築いて暮らしている。

例えばレイク(人間)とエレット(ウェディ)が初めに訪れるガートラント城下町はオーガ領の街。

 

 

※ユルール

 

漫画「蒼天のソウラ」の登場人物であり、ドラクエ10の主人公にあたる人物。元々アストルティアの真ん中に位置する人間の住む大陸で暮らしていたが、「冥王」の襲撃にあって故郷の村は壊滅、自身も死亡してしまい、その後オーガに転生したことをきっかけに冥王を倒す旅に出た。

旅の仲間に僧侶のディオニシア(愛称シア)、魔法使いのアマセ、武闘家のヨナがいる。魔力のシャボン玉とか言い出したり僧侶なのに使い魔とか言い出したり(後に裏付けされた)、少年漫画特有の割となんでもありな戦い方をする。

 

 

※キーエムブレム、一人前の証、大陸間鉄道パス

 

まずアストルティアに住む人々が「冒険者」になるには、地元の村で長に認められるなどの方法で「一人前の証」を手にする必要があり、これによって各種族の王と謁見したり、冒険者として宿屋等の専用施設を使用することが出来る。

また、人間を除く五種族の住む五大陸は鉄道で連結されており、これを使用する際に必要なのが「大陸間鉄道パス」。

そして、国の危機を救った勇気ある冒険者には王から「キーエムブレム」が与えられる。冒険者としての評価の指標となっており、多く持っていれば持っているだけ一流の冒険者とみなされる。

 

 

 

※職業、スキル

 

冒険者になると、それぞれの戦闘スタイルが「職業」という形でタイプ分けされる。

例えばユルールは剣と盾で前衛として接近戦をする「戦士」、と言った感じ。レイクはなんか踊ってる「踊り子」だし、エレットは自然を操る「レンジャー」である。

そして、それぞれの職業には適した武器があり、冒険者は先人達が体系化した戦闘術に則って実戦の中で身に付けていくことになる。例えば片手剣を使っていれば「かえん斬り」「ドラゴン斬り」と言った剣技をに見つけていくのだが、この戦闘術をスキルという。

つまり早い話、「片手剣スキルを上げていけばかえん斬りやドラゴン斬りを覚えられる」ということ。

……はずなのだが、短剣のカテゴリに属するどくばりを使うレイクの身に付けているスキルは、何故か「短剣スキル」ではなくて「どくばりスキル」。

 



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第一話

 

 

「ねえ、そこの君たち!!」

 

 

それは黄昏時のガートラント城下町。上下層に分かれた独特の造りのこの街の北西……下層に存在する教会の裏での事。

 

 

「突然で申し訳ないんだけど、僕と一緒に古代オルセコ闘技場まで向かってほしいんだ!」

 

 

焦った表情でそういったのは白髪のいささか小柄なオーガの男だった。白髪と言っても決して歳をとっている訳ではなく、むしろまだ顔に純粋さの残る少年だ。

彼は名前をユルールといった。ここ一年ほどで七つものキーエンブレムを獲得した、十七歳新進気鋭の冒険者である。

 

 

「……んご? それは俺ちゃん達に向けて言っているのかい少年?」

 

 

対して返答したのは、ユルールの目の前でムシロを敷いて野宿している、これまた男二人……のうちの片方。ヒョロっと背の高いウェディだった。身に纏う衣服から察するに一応旅をする身の上の様だが、冒険者にとって当然とも言える宿屋の利用をしていない辺りどうもきな臭い。

 

 

「そう、あなた達二人に言っているんです! このままだと……」

 

 

だが当のユルールはそんなことを気にする余裕すらなかったようで、両手をぶんぶん振り回しながら続けた。

 

 

「ガートラントの冒険者たちが……僕の仲間たちが、危ない……!!」

 

 

 

 

 

 

ここ最近ガートラント王国では、自国の屈強な兵士、及び一部の冒険者が突如として失踪する事件が多発していた。

国を救うほどの功績を成した冒険者に与えられるというキーエンブレムを求めてこの地を踏んだユルールとその仲間たちは王命によりその調査をしていたのだが、実はその黒幕が王の腹心ともいえた賢者マリーンだった。

このマリーンという者、過去には多くのガートラントの民の病や怪我を治癒していたこともあり周囲からは絶大の信頼を寄せられていて、この賢者、いやモンスターは皮肉にもそれを最大限に利用したという訳である。

彼女は事もあろうにガートラント城の玉座にて魔族としての正体を現し、その場でグロスナー王、将軍のスピンドル、さらにはその場に居合わせたユルールの仲間までもを魔力でボールにして持ち去ってしまったというのだ。

 

 

「それだけじゃないんだ、さっき酒場で応援を募ろうとしたんだけど、みんな怖がっちゃって……」

 

「あーなるほどな。通りで今日は立ち退き勧告がないんだわー。ここに居座ってもう三日だからいい加減諦めてくれたのかと思ったぜ」

 

 

ユルールから事情を聞いてもこのウェディ男、全く動じていない。一国の危機だというのにのんきなものである。

だがこの場にはそんな彼よりも更に能天気な男がいた。

 

 

「んー……まあきょうりょくしてもいいんじゃない? ……ふぁああ」

 

「やっと起きたかー。お前が踊んなきゃ俺ちゃん達食いっぱぐれるんだけどなー。裏方の俺ちゃんだけ頑張ったってなー」

 

 

ウェディ男の横であくびをしながら上体を起こしたのは、つい今まで眠っていたからか寝ぐせで髪型が酷いことになっている、黒髪の人間の少年だった。一応朦朧とした意識の中で先程の話を聞いていたらしく、横で愚痴を零すウェディ男にそう言った。

 

 

「踊んなきゃって、人来ないじゃん。あのぴゅーぴゅーが上の橋でパフォーマンスしちゃったらみーんなあっち行っちゃうし」

 

「ピュージュな。まあ確かにあの旅芸人がいるうちはここにいても仕方ないかね……よし!」

 

 

二人の男はゆっくりと立ち上がった。広げていた荷物をまとめ敷いていたムシロを手早くたたみ上げると、それぞれ目の前の少年オーガに右手を差し出して。

 

 

「……えっと、どっちの手を握ればいいかな?」

 

 

ユルールはようやく、苦笑いという形で頬を緩めた。

 

 

 

 

 

 

 

踊り子の人間、レイク。

レンジャーのウェディ、エレット。

お互いに自己紹介をして二人の名前と職業を聞きながら、ユルールは彼らに先駆けてガートラント西部、オルセコ高地を駆けていた。因みにユルールは戦士である。

 

 

「ふんふん、つまりエレットたちは二人で大道芸をしながら旅をしているんだ!」

 

「ま、そういうことになるかね。俺ちゃんことエレットちゃんが前口上やって楽器鳴らして、んでレイクが踊り子として踊るってわけ。ただでさえチビの踊りなんて誰も見ねえってのに……俺ちゃんの涙ぐましい努力よ……」

 

 

なるほどねー、とユルールは頭の中で思った。このエレットというウェディ男、普通のウェディ男よりウェディ男してる。変わったことといえば通常のウェディより少しだけ身長が高いことくらいだ。

 

 

「チビじゃない。エレットがノッポなだけ」

 

 

一方でレイクと呼ばれた人間は、ユルールよりほんの少しだけ幼い、子供の様な雰囲気をまとった少年だった。というより、オーガの中ではかなり小柄な方であり、どちらかといえば人間の平均身長と大差ないユルールよりも背が低いのでそう思えるのかもしれないが、残念ながらエレットが「チビ」と呼ぶのもあながち誇張表現とは言えないのだろう。

いずれにしても、面白い人たちだな、とユルールが思った時だった。

 

 

「ユルール、3時の方向にライノソルジャー!」

 

 

レイクの内容の割に落ち着いた声によって、ユルールは唐突な奇襲に落ち着いて対応する事が出来た。大上段から振り下ろされた斧を身体を開いて避けると、お返しとばかりに愛剣のバスタードソードでかえん斬りをお見舞いする。これが見事なカウンターとして決まり、ライノソルジャーは前方の岩山の側壁まで吹っ飛んでいった。

 

 

「うぉう、ユルールって結構馬鹿力なのな……流石にこれはやったか?」

 

「エレット、それ言ったらダメなやつ」

 

 

レイクのテンポの良い切り返しを裏付けるかの様に、三人の前で倒れていたライノソルジャーが起き上がった。どうやら手持ちの斧の柄がぎりぎりまでしなったお陰で見た目程ダメージを負っていない様だった。

 

 

「よし……まずは僕がアイツの斧を捌くから、そしたら二人は自分の武器で……」

 

 

はじめは魔物を見据えながら、「そしたら」辺りで背後の暫定パーティメンバーに振り返ってそう指示を飛ばしたユルールだったが。

 

 

 

「……ちょっと待って」

 

 

 

そう、気付いてしまったのだ。

勿論、エレットもレイクもそれぞれ自分愛用の武器を既に構えている。エレットはすっかり手に馴染んだブーメラン、ツインスワローを右手に握り、左手にはライトバックラーを引っさげている。そしてレイクも、踊り子としての特性を十二分に活かした短剣二刀流の使い手らしく、左右の手を背中の短剣二本に回している。ここまでは何も問題はなかった。

 

 

「ん? どうしたユルール……って、あーそうだったな」

 

 

エレットが呆気に取られているユルールに気付いて尋ねるが、その言葉が終わらない内にその理由を悟った様で、ため息をつく。

 

 

「悪いけど、レイクはあー言う感じだから。攻撃面では期待しないほうが良いと思うよん?」

 

「エレット、それは違う」

 

 

げんなりしながら自分を見やってくる相棒に向かって、レイクはやんわりと否定する。身にまとうフェンサーマントを翻して短剣を抜き放つと、彼は言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どくばりは最強。異論は認めない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DOKUBARI QUEST Ⅹ

 

 

 

 

 

 

 



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第二話

 

 

「ど、どくばりぃ……!?」

 

 

今は急ぎの時だと言うのに、この瞬間だけは完全に固まってしまったユルール。

 

 

「だからぁ言ったでしょー? あいつ昔っからアレに無駄なこだわりがあるんでさー」

 

 

しかしエレットからすればそんなものは日常茶飯事である様だ。ユルールの動揺っぷりを楽しむかの様にそう口を開いた。

 

 

「攻撃力+1、ダメージもぜーんぶ1。全く、あいつもこんな時くらい普通の武器使えば良いのにねぇ」

 

 

どくばり。

短剣の一種。

攻撃力+1 おしゃれさ+2 おもさ+3。

攻撃時2%で急所突き、敵に与えるダメージが1になる。

基本的な情報はそんなところだ。攻撃力+1だけなら、元々攻撃力の高い冒険者が装備すればまだある程度は使えたかもしれないが、そこにさらにダメ押しをするの様に降りかかる「敵に与えるダメージが1になる。」。

これによって相手が誰であろうと、使う側が誰であろうと、与ダメージはこの母なる大地アストルティアに存在する如何なる攻撃にも劣るものへと成り下がるというわけなのだ。

 

 

「しかぁも、最初期のアプデの段階でモンスター全体に即死耐性が付いちまったもんだからねぇ。そのせいで頼みの急所突きも体感的には2%を軽く下回る発動率だし……」

 

「な、なんの話をしてるのエレット?」

 

 

妙に実感のこもったエレットの言葉から、今までの戦闘では相当苦労をしているのだろうことをユルールは察した。それと同時にこの後のマリーン討伐の雲行きの怪しさを悟る。

 

 

「エレットうるさい。どくばりは最強。これ絶対」

 

 

しかし当のレイクはどこ吹く風である。慣れた手つきで二本のどくばりを両手でくるくる回すと、目前のライノソルジャーに向かって構える……。

 

 

「あのなぁ、それやめろって人間子供で短剣二刀流した時のコマンド待機モーション!!なんかめっちゃムカつくんだよ!」

 

「ウェディは全般的にモーションがムカつく。分かったら黙ってて」

 

「オイ」

 

 

聞くに耐えないケチの付け合いの後、レイクは地を蹴ってライノソルジャーに肉薄した。さすが踊り子をやっているだけあり足取りは軽やかだ。その動きに今まで途方に暮れていたユルールも我に返って感心する。

 

 

「へぇ! レイクもやるじゃん! もしかして何か作戦が……」

 

 

レイクのこうげき!

ライノソルジャーに1のダメージ!

ライノソルジャーに1のダメージ!

 

 

「んなわけあるかい!!」

 

「ないの!?」

 

 

エレットの諦観のツッコミに、ユルールの悲痛な叫びである。ちなみに両手のどくばりで相手を攻撃しているので計2ポイントのダメージである。

 

 

「ほらはやく、エレット、攻撃。遅いよ」

 

「お前のせいだろうがぁぁぁぁ!!!」

 

 

悪い人じゃないのは間違いないと思うけど。ユルールは思った。この人達と戦って、あのマリーンに勝てるんだろうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、ユルールさん! 来てくれたんですね!」

 

 

それから少ししてたどり着いた古代オルセコ闘技場の前に、ひとりのオーガの女性がいた。

 

 

「マイユさん! はい、遅れてしまって……」

 

「こんな殺風景な荒地にも一輪の花が…お嬢様、ぜひこれからこの私と華麗なるひと時を」

 

「エレット黙って。黙ってウェディ男」

 

 

マイユと呼ばれた格闘家然とした女性を一目見るなりその手を取って妙な事を口走り始めたエレットを、レイクが制止する。

 

 

「みんなが捕まってるのは、ここ?」

 

「はい、賢者マリーン……いや、あの魔物の言うことが正しければ、ですが。

お二人はユルールさんのお仲間さんですね、よろしくお願いします」

 

 

このマイユという女性は、婚約者のアロルドという男をマリーンに攫われたことで今回の騒動に巻き込まれている。ユルールと同じく玉座にてマリーンの正体を目撃した後、脇目も振らずにここオルセコ闘技場に向かって今に至るのだという。

 

 

「このマイユさんもかなり凄腕の武闘家なんだよ! ランガーオ村では色々とお世話になったなぁ……」

 

「へぇ、ユルールはランガーオ村出身なのかい?」

 

「あ、いや、まぁ……そんな所かな、はは……」

 

 

どうも返答が鈍いユルール。その理由は、実はユルールは元々アストルティアの中心に存在する大陸、レンダーシアのエテーネ村で生まれた人間であり、生き返しを受けてオーガになった身だからという事情があるのだが、まあそんな込み入った事情を話すのも面倒なので黙っておいたというわけだ。何言っているのか分からない人は今すぐドラクエ10をプレイしよう。

 

 

「それより、これからいよいよ捕まった人々を助けに行くよ。

みんな、準備はいい?」

 

 

そして話が長引くのを恐れて、これからの事へと話題を移すユルール。実際彼は数刻前に気の合う本来の仲間をかの魔物に連れ去られているのだ。それだけでも焦る理由としては十分過ぎるものである。

 

 

「ええ、私はいつでも大丈夫です!」

 

「こっちも平気さぁ! 賢者だかなんだか知らないけど、俺ちゃん達の手にかかれば楽勝もんよぅ!」

 

「ん、ん〜??」

 

 

マイユはともかくエレットの調子のいい発言にユルール、若干疑心暗鬼である。なんてったって……。

 

 

「ばっちこい。問題ない。どくばり最強」

 

「オメーが一番心配なんだどくばり狂め」

 

 

まるで躊躇い一つ見せずどくばり最強と言い張り続けるレイクに突っ込みならも、エレットはユルールの背中を叩いて言った。

 

 

「まあ、見てなって。 あいつあれでも、やるときゃーやる奴だ」

 

 

 

 

 

 

「おや、あんた……?」

 

 

古代オルセコ闘技場の中心、入場門をくぐった先のコロシアムで待ち構えていたのは、ぶくぶくに太った青肌の巨体とハンマーを持つ、賢者と言うよりは術師と言った風体の魔物だった。

 

 

「こんな所までたどり着くなんて、おマヌケさんのわりにはやるじゃないか!」

 

「ユルール、なんかヘマしたの?」

 

「ち、ちょっとね。ガートラント城前で、スリにスられそうになって……」

 

「ユルっとしてんなぁ。ユルールだけに」

 

 

全く緊張感のないレイクとエレット。そのノリに慣れてきたのかユルールも始めに比べると自然体で話せているようであり、当然マリーンはそれが面白くない。

 

 

「ふん……そういうことかい。

ジュリアンテを倒したのはユルール、あんただったってことかい?」

 

「ユルール、なんかヘマしたの?」

 

「今度はヘマじゃないよレイク。僕と僕の仲間で、そういう名前の魔物をつい前に倒したって事だよ」

 

「でもそれが知られてないあたり謙虚なのか他の誰かに名声を取られちまったかだな。俺ちゃんならありえねー事態だね」

 

「ぐぬぬっ……その横のフヌケな二人はなんだいっ!? 気に食わないね!

出てきな、アロルド! ジーカンフっ! 二人をまとめてやっちまいな!! ついでにユルールを捕らえるんだっ!」

 

 

せっかくのボス戦前の会話なのに、二人が横槍を挟むから全然締まらない。痺れを切らしたマリーンは遂に、攫っていたマイユの婚約者アロルドと、同郷の豪傑ジーカンフを呼び出した。彼女が手に持っている紫色のボールが妖しく光ると、そこには召喚された二人の姿が。

 

 

「……はい……マリーンさま……。

このアロルド、貴女の仰せの通りに……」

 

「待ちなさいっ!!」

 

 

しかし、二人がユルール達に襲いかかろうとした刹那、眼前に飛び込んでくる影があった。別行動で動向を伺っていたマイユである。

 

 

「ふたりとも、目を覚まして!!」

 

 

そう言うなりマイユはアロルドの腹に強烈な拳をかまし、次の瞬間にはジーカンフに飛び回し蹴りを打ち込んでいた。その技の冴えっぷりに彼らは息をのむ間も無くコロシアムの壁に叩きつけられる。

 

 

「ほう……? 少しは出来るようだね!

それなら、もっと応援を寄越そうかねぇ!?」

 

「なっ……!?」

 

 

二人は私が止まるから、皆さんはマリーンを。そう言おうとしたマイユだったが、直後のマリーンの行動がそれを阻んだ。魔物の呪術師がいつのまにか両手に仕込んでいたらしい大量のボールを宙に投げると、一瞬の発光の後に今まで行方不明になっていた兵士や冒険者達が次々と姿を現わす。その数は二十から三十までにのぼり、コロシアムの半分を埋め尽くした。

 

 

「そんな……流石にこんなに……私だけじゃ……!!」

 

「私達がいますよ、お嬢様?」

 

 

だが失念しかかったマイユの横に、エレットとレイクが颯爽と並ぶ。

 

 

「エレットさん、レイクさん……!!」

 

「ユルールよぅ!そっちはしばらくおめーさんに任せるぜ!?

俺ちゃん達はこの洗脳されたおマヌケ共とちょっと遊ぶからよぅ!?」

 

「ああ、分かった! 気をつけて!!」

 

「大丈夫、どくばり最強」

 

「…………」

 

 

最後の沈黙はレイク以外の誰に当てはめてもらっても構わない。みんなそんな感じだったからね。

 

 

「よ、よし! それじゃあレイク、エレット!」

 

 

だがユルールのその号令で、それぞれが気持ちを切り替えて構えた。彼自身もマリーンを見据えながらバスタードソードを鞘から抜き放ち、盾を構える。

 

 

「みんな、行くよ!!」

 

 

そして続いて上げられた閧と同時に、戦いの火蓋は切って落とされた。

 



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第三話

 
登場人物整理

レイク…主人公その一
エレット…主人公その二
ユルール…ドラクエ10の主人公に該当するキャラ
ディオニシア(シア)…ユルールの仲間その一
ヨナ…ユルールの仲間その二
アマセ…ユルールの仲間その三
 


 

 

「うるわしき……マリーンさま……」

 

 

そんなうわ言をのたまいながら、夜のグレン領に湧いて出るくさった死体の如く迫ってくる兵士や冒険者達。マイユとレイクが前衛となって敵の最前線を牽制し、エレットが遊撃手としてブーメランで援護する形で戦いは続いていた。

 

 

「あなたたちっ……あんな魔物の……どこがうるわしいって言うのよっ……!!」

 

 

マリーンの子分と化しているとは言え、相手はそれぞれ一人一人がガートラントでは腕の立つ戦士である。だがそれをものとせずに雨のように降りかかる攻撃を見切り受け流し、反撃として突き殴り蹴り飛ばすマイユの実力には目を見張るものがある。彼女を攫わなかったあたりマリーンも人を見る目がないのではないだろうか。

 

 

(……だけど、レイクさんも予想以上ね。どくばりを見たときはどうなるかと思ったけど)

 

 

そう、そしてもう一人の前衛であるレイクも想定以上の大奮闘をしていた。敵の武器や拳を必要最低限の動きで舞うように躱すと、すかさず相手の身体に両手のどくばりで斬り込む。

刺突を行なっていない以上、はなから急所狙いをするつもりはないのであろう。要は「1ダメージ」で相手を牽制しているのである。

 

 

「ひゅー。レイクの野郎、今日も絶好調みたいだな」

 

 

一人目の兵士の横薙ぎに振られた剣を左斜め前に飛び込んで避けると、身体を捻って相手の右足首を裂く。すかさず繰り出された二人目の冒険者の蹴り足に転がったまま巻きつくように絡みつくと、鉄棒体操をするかのようにくるりと一回転をして体勢を立て直しながら相手の背後に立ち、逆手に握ったどくばりで相手の背中を浅く斬りはらう。

 

 

「言ったでしょ。どくばりは強いって」

 

「いやそれ別にどくばりのおかげじゃないから。オメーがすばしっこいだけだから」

 

 

確かにそれはまるで立ち風や閃光を思わせるような素早い立ち回りだった。マイユが来る敵を片っ端からなぎ倒して行く剛の強さを持っているとしたら、レイクのそれは相手とまともに交戦する前に昏倒させていく柔の強さと呼べるだろう。

 

 

「あっそーれホイミベホイミ、ばあぁ〜にんグヴァァァドォォォッ!!!」

 

 

そしてそんな二人の後ろで可愛く回復魔法を放つや否や、すかさずドス声でブーメランを投げるエレット。彼の放ったバーニングバードという技は、範囲状の敵に多段ヒットする代わりに一発はとても威力が低い。殺してはならない複数対人戦では最適である。

 

 

「く……こんなことになるなんてね……!!」

 

 

そんな自らの手下達の劣勢を見やって、マリーンは焦り始めていた。マイユはともかく、あんな間の抜けた連中二人があれだけ場馴れした戦い方をするとは思わなかったのだ。やっぱりひとを見る目がない。

そして何より、どうやらジュリアンテを倒した張本人らしい眼前の男……ユルールの強さが、彼女の予想を遥かに上回っていた事も劣勢の決定的要因となっていた。

 

 

(そもそも馬鹿力だってのに、頭までよく回るときた……間違いないね、こいつが生き返しを受けた奴だ……だが)

 

 

しかし、マリーンはこんな想定外の事態の中で、不気味にニヤリと笑ってみせた。

 

 

「!? ……何を企んでるんだ!?」

 

「ハッハッハ……仲間の為にこんな所までやって来るなんて、涙ぐましい話じゃないか、ねぇ?」

 

 

魔の呪術師はハンマーを持たない方の手を紫色に光らせると、そこから三つのボールを放り投げる。

 

 

「っ!? まさか……!!」

 

「察しがいいね! これがお前さんのお仲間の成れの果てさ!!」

 

 

なんとそのボールから召喚されたのは、ユルールがここまで取り戻しにきた仲間その人たちだった。一人は砂漠の民の踊り子のような装衣を、一人は虎柄の武道着を、そして一人は燕尾服をまとっている。

 

 

「シア…ヨナ! アマセっ!?」

 

 

だが三人とも返答はなく、虚ろな目をしてぼんやりと立ち尽くしている。そんな仲間に動揺するユルールを見て、マリーンは勝ち誇ったように続けた。

 

 

「無駄さ! あたしの術にかかったが最後、決して解けやしないのさ!!

さあお前たち、ユルールを取っちめちまいな!!」

 

「くっ……!?」

 

 

慌てて防御の姿勢をとるユルールに、アマセと呼ばれた燕尾服を着たエルフの男が右手を上げる。そしてその指先から放たれた攻撃呪文がユルールに炸裂する……。

事はなかった。

 

 

「取っちめられるのは、お前さんだぜ。マリーンさんよ」

 

「何ッ……!?」

 

 

発動した呪文……イオラは狙い違わず、現出したその場でUターンしてマリーンの眉間にクリーンヒットした。まさかの事態に対処できなかった彼女は、思わず大きく後方に転倒する。

 

 

「よっ、ユルール! 悪りぃな、でもこうするしかあのボールから抜け出す方法がなかったんでね……おっとチャージタックルは無しだ」

 

「アマセ!? 無事なんだね!!」

 

「まぁ……アマセの考えそうなことだとは思いましたが」

 

「見事にハマったじゃん、結果オーライだね」

 

「シア! ヨナも……みんな!!」

 

 

そう、実はこの三人、ボールの中に閉じ込められてはいたがマリーンの洗脳にかかっていなかったのだ。

 

 

「ば、馬鹿な……ボールに取り込めばあたしの洗脳が施されるはず……!!」

 

「ところがどっこい、オレにはこのシャボン玉があるんだなー」

 

 

シャボン玉。ユルールのパーティーの魔法使い、アマセの得意技である。

具体的には、魔力を球形に展開し空気を内側に取り込むことで、魔法をその場に長く滞留させるというものである。アマセはマリーンが彼らをボールに取り込もうとした瞬間に、ほかの二人と合わせて三つのマホトーンで作ったシャボン玉を作り、それぞれの体を覆わせたのだ。その結果、ボールから発せられる洗脳の魔力を今の今までマホトーンで封殺させる事に成功したのである。

 少年漫画あるあるのなんでもあり戦術である。

 

 

「お……おのれぇっ……!! どいつもこいつもあたしの邪魔をしおってぇ……!!」

 

 

だが涙の再会もつかの間、徹底的に自分の計画を邪魔されて怒り心頭のマリーンが起き上がった。

 

 

「そんなに死にたいかぇ……!! だったらあたしもそろそろ本気を出させてもらうよっ!!」

 

「マズイっ! みんな、備えて……っ!!」

 

 

マリーンのただならぬ様子にユルールが自分のパーティーだけでなく、後方で戦っているレイク達にまで大声で呼びかける。

 

 

「おおっ!? ユルール、遂に俺ちゃんの出番かな??」

 

「エレット、マズイのが来る!」

 

「まーまーレイク、どんな攻撃がきたっておれちゃ……!?」

 

 

レイクのただならぬ声に思わず視線の先のマリーンの様子を見て、エレットもその異様性に気付いた瞬間。

 

 

「みんなくたばりな!!! ギガトンハンマァァァッッ!!!」

 

 

コロシアムが、真っ二つに割れた。

 

 



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第四話

 

 

「がはっ……ぐ……!!」

 

「み、みんな……大丈夫……!?」

 

 

呪術師マリーンが怒りに任せて放ったその一撃は、闘技場の地盤を粉砕するには十分過ぎる威力を誇っていた。彼女の操り人形と化していたガートラントの戦士までもを巻き添えにして、彼女は眼前のすべての人達を地割れの中に飲み込ませたのだ。

 

 

「し、シア……!!」

 

「はい…! すぐに回復を……!!」

 

 

戦局は一変していた。マリーンは自分の兵士にも多大なるダメージを被らせたが、お陰で敵対する冒険者達殆どの動きを止める事に成功したのである。

特に彼女の真正面にいたユルールのパーティーはダメージが深刻だった。魔法使いのアマセと武闘家のヨナは呼んでも返事がなく、かろうじて意識のあるユルールと僧侶のシアも地面に身体がめり込んでしまい身動きが取れない。

またギリギリまでガートラントの戦士達に気を取られていたマイユも不意に大きく吹き飛ばされて意識を刈り取られてしまっていた。

 

 

「フフ……ははははぁっ!! 見たかい! これがマリーン様の実力さ!!

これだけあたしを傷つけたんだ、お前ら……二度と帰れると思うなよ?」

 

 

そんな冒険者達に、少なくとも今の攻撃の反動を一切受けていないらしいマリーンがゆっくりと歩み寄ってくる。

今この状態で彼女の追撃を食らってしまうことは、間違いなく全滅に直結する。だがユルール達は動くことさえままならないのだ。

 

 

「そうだねぇ……お前達をちゃんと洗脳して、今度こそ最強のマリーン軍団を作り上げるのも良いかもしれないねぇ? 今までのあいつらは緩くてしょうがないよ」

 

 

 

「うーん……まだ早いと思うけどねぇ。そーいうの考えるの」

 

 

 

「何……!? 誰だ、出てきな!!」

 

 

だが、そこに唐突に降りかかった呑気な声音。驚いたマリーンがそう声を張り上げるのと同時に……彼女から見て円形コロシアムの対角の位置に存在した地面の凹みから、ボコリと飛び出る影があった。

 

 

「なっ……お前らっ……!?」

 

「ふぅー、今のは割と危なかったぜ」

 

「……オレは別に、エレットがいなくても、避けられた」

 

「やせ我慢すんなってレイク。こーいう時はおにーさんの出番さ」

 

 

そう、レイクとエレットである。誰もが甚大な被害を被っている中、彼二人は比較的軽傷で済んでいる様子だった。

 

 

「レイク、エレット!」

 

「おぅユルール、俺ちゃんが今みんなを回復して回っからな!

でもその前に……と」

 

「エレット」

 

 

その前に、あいつをやっつける。そう言おうとしたエレットを、レイクが留まらせた。

 

 

「エレットは先にみんなを回復してて。あいつはオレでじゅうぶん」

 

「…ははーん、さてはお前」

 

 

エレットはこれからレイクが何をしようとしているのかを察して、ニヤリと笑った。それにレイクも不敵に笑って応じる。

 

 

「そういうこと」

 

 

彼は左手に持っていたどくばりを背中の鞘に収めた。そしてなんと……右手で逆手に構えていたどくばりを持ち替えて、順手で剣を持つかのように構えたのだ。

 

 

(あの構えは一体なに……!? 短剣の特技であんな初動のものはなかったはず……)

 

 

仲間の魔法使いのアマセが一度短剣を試した時の事を思い出しながら僧侶ディオニシアは、そんなレイクの構えに強い違和感を覚えた。

基本的に短剣はリーチが短い分、逆手に持った方が刃を固定しやすく、また腕を敵に向けて伸ばすという格闘にも通じる極めて自然な動作で相手を斬る事が出来るのだ。現に現時点で冒険者の間で伝わる短剣の秘技の数々の全てが逆手持ちで発動させるものである。

では、あの構えから放たれる技とは、一体。

 

 

「……って、意識がぜーんぶレイクの方に集中したところで、俺ちゃんの気まぐれアターック!!」

 

「今度は一体何だいっ!? ……ぐわっ!!」

 

 

突然のエレットの攻撃宣言に対応が遅れるマリーン。そんな彼女の目線の先でエレットは手首をくりっと回転させながら人差し指を上に向ける。

 

 

「ジバリカ、起動!」

 

 

彼がそういったその瞬間、マリーンの足元の地面……先ほどのギガトンハンマーでボコボコになった地面が、突然せり上がって彼女の足を突き刺した。深々と刺さるだけでなく一つの刃が他の刃とくっつきあい、まるでトラバサミの様にマリーンの足を捕捉する。

もうお分かりだと思うが、ギガトンハンマーの時もエレットはジバリカ……時間差で放たれる土属性の魔法を唱え周囲の土を操る事で、ダメージを最小限に抑えていたのだ。

 

 

「ぐっ……地味な技を……!!」

 

「よーしレイク、あとは頼むぜぇ?」

 

「了解」

 

 

そして役目は終わったと言わんばかりにユルール達へと駆け出すエレットを尻目に、レイクもマリーンを見据えて地を蹴った。

 

 

「は、速い……!」

 

 

シアとエレットから回復魔法をかけて貰いながら、ユルールはそのレイクの動きに驚愕していた。もはや目視できない速さである。レイクの着るフェンサーマントのマント部分が銀色に塗色されていなければ、彼の姿は完全に影となって確認できなかっただろう。

 

 

「く……小賢しいっ!!」

 

 

マリーンはハンマーを振って対処しようとするが、当然のごとく避けられる。瞬きする間もない程の時間でマリーンの懐に入り込むと、レイクは大きく跳躍し、呪術師の顔面に肉薄して。

そして、言った。

 

 

「どくばりスキル、一の針」

 

 

そして、マリーンの口元でどくばりを一閃させる。するとどうした事か、その針の軌跡に紫色の霧が発生したではないか。

 

 

「ど、毒かぇ……小癪な……!!」

 

 

その霧を大きく吸い込んでしまったマリーンが口惜しげに悪態を突き、再びハンマーで地面に着地したレイクをなぎ払う。これを彼はバックステップで避けると、マリーンをじっと見やった。

 

 

「フン、そんな搦手でこのあたしを出し抜こうなんぞ百年早いんだよ! それなら先にお前を叩き潰すまでさ!」

 

 

そして、先程の大技……ギガトンハンマーをまた繰り出すべく、ハンマーを空高く振りかぶった……だが。

 

 

「その毒、弱いんだ」

 

 

「……は?」

 

 

突然のレイクのカミングアウトに、マリーンは拍子抜けした声を出す。

 

 

「毒としては、普通の毒以下。動くのに支障はない」

 

「……何言ってんだいアンタ」

 

「だけど」

 

 

ジャキッ、と、どくばりを改めて構えるレイクは、続ける。

 

 

「その毒は、アンタの体内で解毒される瞬間に、光る」

 

 

その瞬間。

マリーンのせり出た左下腹部が、突然紫色に発光し始めたのだ。

 

 

「なっ、これは一体」

 

「そこがアンタの解毒器官。要は……」

 

 

そして、マリーンがそれに驚き声を上げ……そのセリフが最後まで紡がれる前に。

 

 

「そこがアンタの、『急所』」

 

 

レイクは稲妻の速さで、その光るマリーンの腹をどくばりで貫いていた。

 

「グッ……グアアァァッッ!!??」

 

「ユルール、今!」

 

 

レイクの宣言通り急所をどくばりで刺されたマリーンはその致命傷に断絶魔を上げる。そして続けて放たれた彼の掛け声に、ユルールは思わず飛び起きた。

 

 

「わ、分かった! ……呪術師マリーン! 覚悟ッ!!」

 

 

後方に下がるレイクと入れ替わる様にして、ユルールが突進する。

 

 

「あ、あたしの技が効かないなんて……これが生き返しを受けた者と……そして……」

 

 

それがマリーンの最期の言葉となった。雷撃をまとったユルールの剣が、彼女の胸を深々と切り裂いたからだ。

 

 

 

「……ギガスラッシュ!!!」

 

 

 

 

 

 



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第五話

 

 

「わしには、わかるぞ。そなたらがわしらを救ってくれたのだな?感謝するぞ、『勇者』ユルールとその一行の者たちよ。

後でガートラント城に来てくれ。しかるべき礼をさせてもらおう」

 

「だってさレイク。俺ちゃん達、いよいよエンブレム貰えちゃう感じなんじゃね?」

 

「別にいらない。邪魔。すぐ無くしそう」

 

「分かってないなーレイク坊ちゃん。キーエンブレムがあれば俺ちゃん達、あれが貰えるんだぜ?」

 

「あれは……たしかに欲しい」

 

 

さて、呪術師マリーンが倒されて数分後の古代オルセコ闘技場。レイクやユルール達は、かの魔物の放った攻撃に傷ついた人々の救助と介抱をしている。ボス戦を制したばっかりだというのに人使いが荒い……そう愚痴ろうとしたエレットに、意識を取り戻した現ガートラント国王であるグロスナーが掛けた言葉が先程のである。

 

 

 

「ユルールよ。この度のはたらき、見事であった。

呪術師マリーンを倒し、皆を解放してくれたユルールに、ガートラントの英雄の証、赤のキーエンブレムを贈ろう!」

 

「っちよぉぉっと待ったぁぁぁあ!!!」

 

 

 

しかし。

それから半日ほど経った後のガートラント城、王座の間にてグロスナー王が放ったその言葉に、やはりエレットは大声で割り込まずにはいられなかった。

 

 

「む……そなたは何者だ?」

 

「何者だじゃねーよ! なんで俺ちゃん達はスルーされてんの!?

ユルールにあげるんなら俺ちゃん達にもキーエンブレム寄越せぇ!!」

 

「王様、このウェディ男失礼だから、捕まえていいよ」

 

「こーらレイクぅぅ!?」

 

 

厳かな雰囲気もレイクとエレットに掛かればぶち壊しである。これにはユルールパーティーのみんなも苦笑いをしている。

 

 

「むぅ……? そなた達は一体何をしたというのだ……?」

 

「マジで覚えてねーのじーさん!? 俺ちゃん達仲間を攫われたユルールについてって、ピンチの時に劣勢を立て直したファインプレーヤーよ!?」

 

「何を言っておるのだ? わしが意識を取り戻した時、そこのユルールがマリーンにとどめの一太刀を浴びせていたはずだが……」

 

「そこしか見てないのねん!? 俺ちゃん泣いちゃう!!」

 

「あれだよエレット、ラストアタックボーナスってやつ」

 

「んなルールドラクエ10にねーよ!! てゆーか公平性的にMMOじゃ滅多にありえねーよ!!」

 

「おやめなさい、あんまり続けると運営から裁きが下りますよ。

それはそうとエレット様、どうしてそれほどまでにキーエンブレムに拘るのですか? 名誉のために集める方は多いですが、あなた様からはそれ以上の必死さが…」

 

 

ユルールの横に並ぶ僧侶シアが居た堪れなくなり、横からそうエレットに尋ねた。それを聞くや否や、エレットは鼻をすすりながらその場に座り込んだ。

 

 

「……ないんすよ、大陸間鉄道パス」

 

「は?」

 

 

その場に居合わせた、レイクを除いた兵士や冒険者、王様までも全員が固まった。

 

 

「いやー、そもそも俺ちゃん達、一人前の証も持ってないんスよねー。元々いた村から家出同然みたいな感じで抜け出してきたもんでー」

 

 

一同、口ポカーンとしている。そんな中無理やり口をこじ開け疑問を投げかける、トラ柄バンダナの女武闘家ドワーフ、ヨナ。

 

 

「え、じゃあ今までどうやってここまで旅してきたんだ?」

 

「まああれっすね、パス持ってる人に頼み込んで一緒に乗せてもらったり、酷い時は荷物袋に紛れたりして……」

 

「王様、このウェディ男鉄道規則違反してるから、捕まえていいよ」

 

「オメーもだろうがアホレイクめっ!!」

 

 

あー。二人を見ながら、冒険者達は察した。だから彼らは宿屋も使えなかったのね。一人前の証がない以上、彼らは正確には冒険者ですらないのだ。そりゃエンブレムの一つでも貰って、少しでも冒険者らしくならないと困るわな。

 

 

「と言うわけでだ王様!! これ以上俺ちゃん達にひもじい思いをさせない為にも、今すぐにキーエンブレムをくれぃ!!

さもなくば城門で裸踊りをする!! こいつが!!」

 

「なっ……なんと破廉恥な……!!」

 

「あんまり意味ないと思う。オーガの衣装は裸同然。つまりみんな裸で街を歩いてる。オレが裸になってもそう目立たない」

 

「はだっ……!?」

 

 

グロスナー王は頭を抱えていた。前にユルールも思った通り、確かにこの二人は国家に危害を加えんとする悪人であるはずもなく、むしろ今回の事件に尽力してくれたのなら冒険者となる資格は十分だと思うのだが。

なんだろう。本能が、コイツらはやめとけと叫んでいる。

 

 

「むぅ…しかしのぉ、キーエンブレムはそう易々と多くの旅人に贈られるべきものではなくてのぉ……そうでないと誰かの活躍に寄生をする者が現れかねないのだよ……」

 

 

だが、そんなガートラント国王に、ユルールが助け舟を出した。

 

 

「陛下、この二人の申し上げた事は事実です、僕が保証します。

呪術師マリーンの討伐に誰よりも貢献したその功績を称え、出来ればキーエンブレムを……それがダメなら、せめて大陸間鉄道パスを授けて頂くわけには参りませんか?」

 

「ユルールぅ……あとで一杯奢るゼェ……!!」

 

「エレット無理しないで。お金ないでしょ」

 

 

レイクの冷静な指摘にんぐ、と詰まるエレットだったが、果たしてこの提案はグロスナー王の腑に良く落ちたようで。

 

 

「……よかろう! それではエレット、レイクよ!

ユルールをよく助け、ガートラントの平和に貢献した功を称え、ここに大陸間鉄道パスを授けよう!」

 

 

晴れて二人は、このアストルティアをちゃんと旅する事が出来るようになりました。

 

 

 

 

「えーそれでは! 俺ちゃん達の大陸間鉄道パス取得と!

ガートラントの平和を祝って!!」

 

「「「乾杯!!!!」」」

 

 

ガートラントよりも先に自分達の事を言ってしまうあたり流石エレットだ。レイクも気づかれぬようにさささーっとそのウェディ男から離れていった。

ここはガートラント城下町の酒場である。なんとか行方不明になった全員が生還したという事で、ガートラントの兵士や酒場の冒険者達が入り混じって無礼講で祝賀パーティーを開いていると言うわけなのだ。

 

 

「エレットは相変わらずだねぇ〜」

 

「ユルールは相変わらずゆるいねぇ〜」

 

 

仲間の奪還という使命を全うし肩の荷が下りたのか、すっかりゆるーくなってしまったユルールが、酒場の端っこまで退散したレイクに話しかける。

 

 

「レイクもこのガートラントを救った英雄の一人なんだから、みんなと楽しんでくればいいのに」

 

「ドラクエのメインコンテンツはストーリー。馴れ合いはサブコンテンツ」

 

「色々問題発言だからやめよっか?」

 

 

どんな時も自らを失わないレイクにユルールも思わずツッコミに回ってしまう。玉座での一件の後すぐにこちらに来たというのに冒険者達は活きがいいものだ。もっともまともにマリーンと戦ったのはユルールとその仲間達と、レイクとエレットだけなのだが。

 

 

「……そうそう、その事で一つ聞きたかったんだけど」

 

「なに?」

 

 

突然のユルールの言葉に、レイクは微かに眉を上げた。

 

 

「マリーンと戦っている時、見たことのない技を使ってたよね? 何だっけ、一の針……?」

 

「……まあ、合ってる。どくばりスキル、一の針。『ホタル突き』」

 

「ほ、ほたるづき……? どくばりスキル……!?」

 

 

基本的に一人で旅ができる年齢になった若者が冒険者になる時、彼等は自らの戦いのスタイルを決める選択を迫られる。要は自らの「職業」を決めるという話なのだが、そのように特定の職業についた旅人……つまり冒険者は、その職業に適性のある武器の技術(武器スキル)、そして職業固有の技術(職業スキル)を身につけて成長してゆく手筈になっている。

だが冒険者の身に付けることのできる武器スキルの中に当然『どくばりスキル』などというものは存在しない。そもそもどくばりという武器は一般的に短剣の一種とされているのだ。それはつまり、通常の冒険者ならどくばりを装備した所で「短剣スキル」としての剣技しか習得しえないという事だ。

 

 

「その、レイクはその技をどこで身につけたんだい……?」

 

「ホント妙な体験だったよなぁレイク君〜? あんな経験多分二度とあるもんじゃないぜー?」

 

「げ、エレット」

 

 

大分酒をあおったのだろうウェディの癖に顔を真っ赤に染め上げたエレットが、ユルールの話し相手の首に背後から組みこうと……する前にすっと拘束から逃れるレイク。

 

 

「俺ちゃんもあれにはびっくりしたぜ……いいかユルール君。

レイク坊ちゃんはな、何と幽霊にどくばりの使い方を習ったのさ」

 

「え……ゆうれい……?」

 

「…まあ、間違ってはいない」

 

 

レイク本人も否定しないのだから嘘ではないのだろうが、いささか現実離れしたその内容にユルールは困惑した。

 

 

「俺ちゃんとレイクはなぁ、ウェナ諸島レーンの村ってとこの孤児院で一緒に育ったんだけどよ。

ある日、村の大人に黙ってレーナム緑野っていう村から半日ほど歩いた所まで探検しに行ったんだよ。そしたら帰れなくなっちまってさ、気が付いたら辺り一帯でも立ち入り禁止されている強敵の出没するエリアにいて、きりさきピエロ達に囲まれちまったんだよな……」

 

 

だがその時。突然現れた人影が、ものの数秒でその強敵達を瞬殺していった。結果として少年時代の二人はその人に命を救われた訳なのだが、レイクはその時の鮮やかな魔物の倒し方にすっかり憧れてしまい。事もあろうか、命の恩人に、その人が持つ得物……つまりどくばりの扱い方を教えてくれと頼み込んだのである。

 

 

「全くあの時のレイクにゃ流石の俺ちゃんも呆れたぜ。

結局丸々一ヶ月はそのままレーナム緑野にある宿屋、祈りの宿でその命の恩人……ユキサラとか言う婆ちゃんなんだけどさ……とどくばりの修行してたんだからな」

 

 

だがそんな不思議な時間は唐突に終わりを告げた。

ある日の晩に、突然ユキサラはレイク達に別れを告げたのである。当然戸惑う二人に、彼女は驚きの事実を告白し始めた。

 

 

「なんとぉ、その婆ちゃんは幾千年も前に死んだ人間の幽霊だったって言うんだよ。で、どくばりの技はほぼ全てレイクに託したから、自分はもう死後の世界に帰るって。

だけどただ一つ、どくばりスキルを極めた先に存在する秘伝の技だけはまだ教えていない、知りたければ世界を旅しろって……妙に意味深なことを言ってその場でスーッと消えちまったんだよ」

 

「秘伝の技……それがどんな技かはレイク達は知ってるの?」

 

「どんな敵も、必ず一撃で仕留める最終奥義って、言ってた」

 

 

いつのまにかその奇妙な話に、周りの冒険者も集まってエレットの語りに聞き入っている。その中の一人……マリーン戦では機転を利かせて仲間もろとも彼女の洗脳から救った魔法使い、燕尾服のエルフ男、アマセが口を挟む。

 

 

「じゃあお二人さんはその幽霊の婆さんを探すために旅に出たのか?」

 

「あー、いや俺ちゃんはちょうど冒険者になってひとヤマ当てるにゃ丁度いい機会かと思ってこいつと旅に出たって算段さ。いやー、だけど冒険者になるには、一人前の証なんて物が必要だったなんてあの時はつゆにも思わなかったぜー」

 

「エレットは、いつも考えが甘い。村を出る時点でそこまで考えて、オレに教えるべき」

 

「そもそも俺ちゃんから教わろうとしてるオメーが何言ってる。

お仕置きが必要だな、みんな! レイクにメにモノを見せてやろーぜ!」

 

 

全く持って理解不能な理屈だが、なまじその場の雰囲気的にエレットが暫定酒場のリーダーの様になっていた為に、意外と彼に乗っかる冒険者がいたりして。

 

 

「野郎ども、レイクをザクーーーッ!メコメコーーッ! とやっちまえ!!」

 

 

もはや只の酔っ払いのだる絡みである。レイクはげんなりした顔をすると、エレットの号令に乗っかった少なくない冒険者達の手をスイスイと避ける。

 

 

「あ、くそっ! すばしっこいヤローだぜ!ヒラリヒラリ俺達を躱しやがる!」

 

「ど、どこ行きやがった!? 二階に逃げやがったか……いや、ここ二階なんてなかったよな」

 

「あ、あいつ棚の上にいやがるぜ!!」

 

 

こうなるともう一種のクエストである。クエストNo.??「レイクを捕まえろ」みたいな。そして依頼された冒険者というのはそのクエストに対して全力で取り組むもので。

何が言いたいかというと、今や酒場にいる冒険者のほぼ全員がレイクを捕まえるべく奮戦しているのだ。その騒ぎから離れているのはユルール達と言い出しっぺのエレットだけである。

 

 

「人気者なんだねぇ〜レイクは〜」

 

「あれ見てそういうとはユルールの旦那、さては結構ワルだなぁ?

あー、でもこりゃ結構荒れそうだな、俺ちゃんはとっとと宿屋に引き返すことにしようかね」

 

 

なんて無責任な、そんな呆れた表情でコソコソと出口へと向かおうとするエレットを見送るユルール。そして今もフェンサーマントを翻して追っ手を避けるレイクを見やり。

 

 

「……なんかあの銀色のマント、メタルスライムみたいだと思わない?」

 

「ん? レイクのことか? あー……なるほどね」

 

 

逃げ出す直前のエレットに何気なく声をかけたユルールに、しかしお調子者のウェディ男は、いい笑顔でサムズアップをした。

 

 

「メタル狩りに使えるどくばりを持つレイクが、メタルスライムってか、笑えるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっとですね、あなたの持っているのは大陸間鉄道パスであって、一人前の証ではないので、宿屋を利用する権限をお持ちになられていません……」

 

 

「…………こん畜生がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

「エレット、うるさい」

 

 

 



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