閃空の戦天使と鉄血の闊歩者と三位一体の守護者 (ガイア・ティアマート)
しおりを挟む

404特務小隊 スキル・陣形効果

最近仕事疲れで全く筆が進まないので、今回は箸休めとして404特務小隊メンバーが実際のドルフロではどんなスキルと陣形効果を持っているかを捏造しました。
一応実装済人形のものを参照していますが、あくまで捏造品なのでバランス等はあまり深く考えていません。


陣形効果などでの配置はPCキーボードのテンキーの配置を参照にし、5を自身の位置として説明します。




7 8 9

4 ⑤ 6  敵側

1 2 3


シゴ(UMP45)

 

陣形効果

147

アサルトライフルに有効

命中上昇25% 火力上昇20%

 

スキル「チェイス・オブ・リジル」

開幕CT5秒 CT15秒(最短10秒)

最も近いターゲットに対して火力200%(最大400%)の単体6回攻撃。

対象に30%の確率で1秒間(最大3秒間)行動不能を付与。

2もしくは8にUMP40型が居た場合、攻撃前に互いの配置を入れ替え、互いの回避と火力を2秒間(最大6秒間)300%(最大400%)上昇させる。

 

 

フィアーチェ(UMP40)

 

陣形効果

28

サブマシンガンに有効

回避上昇30% 火力上昇20%

 

スキル「アスラウグ・ガンビット」

開幕CT7秒 CT19秒(最短14秒)

自身に4秒間(最大6秒間)火力低下15%、命中上昇40%、攻撃時にターゲットに3回(最大5回)ヒットを付与。

2もしくは8にUMP45型、或いはUMP9型が居た場合、攻撃前に互いの配置を入れ替え、互いの会心と命中を2秒間(最大4秒間)400%(最大600%)上昇させる。

2と8にUMP45型とUMP9型の両方が居た場合、攻撃前にUMP45型とUMP9型の配置を入れ替え、味方サブマシンガンの会心・命中・火力を2秒間(最大4秒間)400%(最大600%)上昇させる。

 

 

ナイン(UMP9)

 

陣形効果

147

アサルトライフルに有効

命中上昇25% 射速上昇20%

 

スキル「フォトン・バーストスナイプ」

開幕CT9秒 CT23秒(最短18秒)

直線上のターゲット部隊全てに火力200%(最大300%)の全体4回攻撃。

2もしくは8にUMP40型が居た場合、攻撃前に互いの配置を入れ替え、互いの命中と会心率を2秒間(最大6秒間)300%(最大400%)上昇させる。

 

 

ティア(G11)

 

陣形効果

36

サブマシンガンに有効

回避上昇30%

 

スキル「インパルス・グラム」

開幕CT10秒 CT25秒(最短20秒)

自身を含むアサルトライフルに破甲値上昇30を4秒間付与し、1秒後に最も近いターゲット部隊に対して火力300%(最大500%)の全体攻撃。

6にUMP9型が居た場合、攻撃前に互いの配置を入れ替え、互いの火力と射速を2秒間(最大6秒間)300%(最大400%)上昇させる。

 

 

シイム(416)

 

陣形効果

36

サブマシンガンに有効

回避上昇20% 命中上昇20%

 

スキル「ラファール・リーヴスラシル」

開幕CT11秒 CT27秒(最短22秒)

画面上の全てのターゲットに火力200%(最大400%)の全体必中攻撃。

6にUMP45型が居た場合、攻撃前に互いの配置を入れ替え、互いに120ダメージ(最大240ダメージ)を吸収するシールドを5秒間展開し、火力を2秒間(最大6秒間)300%(最大400%)上昇させる。




箸休め的な物ですが、こうして並べてみると「発動時に配置条件を満たしていた場合にスキル攻撃前に配置交換とバフ付与」というかなり変わったスキルばかりという玄人向けのチームになってしまいました。

最初のワンセットはちゃんと考えて配置すれば最後まで陣形を弄らなくても全ての効果が発動しますが、それ以降は配置を手動でその都度直さないと追加効果が得られないというかなり手間がかかる物です。

一応同じくくりの人形(無印や別の派生型)なら追加効果の条件になれますが、やはり全員揃えて初めて輝くチームと言えるでしょう。

余談ながら、スキル名にはある共通点があります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IS設定集

ここではオリジナルISの大まかな設定を紹介します。

ストーリー進行に伴い、今後も少しずつ増やしていく予定です。


ラベンダー型試作量産IS

 

動力

オーロラジェネレーター:背中に一基搭載しているメインドライブ。大気中からエネルギーを取り出す事が可能だが過剰負荷がかかるとオーバーヒートしてしまい一時的にエネルギーを生成できなくなる欠点がある。

 

パワーセル:雫工房謹製の標準型パワーセル。オーロラジェネレーターが生み出したエネルギーをプールすることでオーロラジェネレーターの欠点を補っている。

容量はイオンパワーセルの五分の一しかないが材料が確保しやすく量産性が高いほか、ありきたりな技術しか使われておらず誰の手に渡っても痛くないという理由から採用されている。

 

武装

WR-B04S ビームサーベル*2:一般的なビームサーベル。連結機能などといった特殊な機能は無く、純粋にビームサーベルとしてしか機能しない。

 

WR-S01AR 5.56㎜口径多目的アサルトライフル「鳳仙花」:NATO規格の「5.56x45mm弾」を採用したアサルトライフル。銃の後ろ側にマガジンを差し込む方式を採用しているため他の銃との互換性は無いが、代わりにアンダーバレルが自由に使える。

 

WR-B01LF スナイパービームライフル/WR-B01SMGビームサブマシンガン:バレルを可動させることでスナイパービームライフルと三砲身式ビームサブマシンガンを使い分けられる多目的ビームライフル。

エネルギー消費がやや激しいため多用するとシールドエネルギーを自ら消耗する危険性を孕んでおり、セーフティとして短時間に一定量エネルギーを消費すると一定時間冷却時間を挟まなければ再使用できないようになっている。

 

WR-X12N マインスティレット*2:投擲用のマインブレードで使い捨て。小型なので拡張領域に多数収納できる他、威力も高いので使い捨て武器としては優秀。投げやすさの観点からクナイ型が採用されている。

 

WR-PS25SE 攻盾システム「カズラ」:連装ミサイルとビームソードが一体となったシールド。大型故にやや取り回しに難があるがラミネートアーマー製なので防御性能は充分。

また、テストモデルはビームキャリーシールドとしての機能も試験的に搭載されているが展開時間に制限がある。

 

WR-SA10M Mk438多目的連装ミサイルランチャー:ISの一般的なミサイルに対応したミサイルランチャー。シールドの裏面に搭載されている。

 

WR-B03S ビームソード:シールド先端から伸びるビームソード。ビームサーベルより射程、威力において優れるが一方で取り回し、エネルギー消費量で劣る。

 

WR-S13R 四連装無誘導ロケットランチャー*4:背中のジェットパッケージにマウントされた無誘導ロケット発射装置。

 

詳細

ホワイトラビット・カンパニーがローズシリーズを発表する前に製作、発表した量産型ISでルウが基礎設計をしたのち束が形にした。ローズシリーズと比較するとかなり性能は下だが、元々大量量産を想定したものであるため高性能は要求されていない。

それでも他社の量産機と比較すると一回り以上高性能であることに変わりはなく、ホワイトラビット社の名を世界に轟かせることに成功している。

また、ローズシリーズに使われるシステムのひな型の性能試験も兼ねており、デザインも既存のISとローズシリーズとの過渡期に位置するが、まだサブアームなどのローズシリーズ以降共通となるシステムは搭載されていない。

実は敵対組織が使用する可能性を考慮して意図的に弱めに作られている。

なお、26話で設計図段階で登場した際と一部設定が違うが、こちらが後の詰めで見直された後の設定であるためであり、実際に販売された際のスペックはこちらが正しい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

序章 交差する世界
【1】始まりの交差 -First X-


用語

IS:元々は将来的に人類が宇宙進出する際に宇宙空間での活動を助けるパワードスーツとして開発されたのだが、技術的に宇宙空間での運用はまだ厳しかったためにそのデモンストレーション用の作業用、競技用として完成されたもの。
ELIDの出現によって対ELID用の兵器として転用されたため、その側面が強調されることが多くなっている。
束はISが兵器として使われることは本来ならば不本意ではあるが、ELIDとの戦闘による犠牲者が少しでも減らしたいという願いも込められているので兵器としての転用も認めてはいる。
だが、当然良からぬ者たちがこれを対ELID用で収めるわけもなく、テロ組織等に横流しされたISによるテロ事件も少なからず発生している現実に束は心を痛めている。

ISコア:原作では篠ノ之束一人が開発したものだが今作では束、ペルシカ、リコリス、サクヤが合同で開発したもの。
戦術人形のコアと基礎設計は共通であり、用途に合わせてそこから機能の足し引きを行いそれぞれのコアに加工していく。
コアの適合率の関係か女性のISライダーが圧倒的に多いが男性はISを扱えないというわけではない。逆に女性ならISを必ず扱えるかというとそれも違う。
未だ技術的に黎明期であるために格差が発生しており、その格差を是正するための改良を行う準備自体はできていたが、女性利権団体絡みの面倒くさい事情があり改良の予定が立っていないのが現状である。

自動人形・戦術人形:元々世界的に人手不足ぎみだったところでELIDとコーラップスによって更に人手が必要になってしまったために生み出された存在。原作ではペルシカとリコリスの合作だったが、今作では上記ISコア同様4人の合作である。
コアの基礎部分がISと共通であるため、理論上は戦術人形はISを操れるが、根本的な戦闘体系が異なるため相応の記憶領域があるか、そちら向きの才覚があるかのどちらかでないと実際には処理限界で操れない。

モンドグロッソ:各国の代表選手となったISライダー達が戦うスポーツ競技の世界大会の一つだが、実際にはこれらの世界大会は大体がスポーツの体裁を持っているだけの代理戦争のような一面もある。
全ての国がそうというわけではないが、国威を示すために過剰なまでに神経を使う国もある。

ISライダー:今作でのIS適合者の事をこう呼ぶ。

代表選手候補生:モンドグロッソをはじめとしたIS世界大会の国家代表選手の候補生達。選ばれることは最大の誉れであるが、それ故に陰謀やら買収やらといった闇も存在する。
今作ではある人物がその闇によって両親を失いそうになったが・・・?

女性利権団体:いつの時代でもしゃしゃり出てきて当事者の心情を無視して我物顔で権利ばかり声高に主張してくる自称人権団体の女性権利バージョン。
しかしこれに関しては今まで世界的にあった男尊女卑の風潮と、技術不足で事実上女性しか運用できないISの普及によって世界的に絶望的に拗れまくり暴走した女尊男卑をわが物顔で扇動しているためなおたちが悪い。

女尊男卑:形を変えつつも残っていた男尊女卑の概念に対する不満に女性しか運用できないISの普及という引き金が重なったことで世界的に爆発的に広まった差別主義。
男尊女卑の反動といえば多少聞こえは良いかもしれないが、それを差し引いてなお余りあるほどに異常な差別主義であり、既に相当なレベルで先鋭化しており論理的に破綻しかかっている。
女性の全員がこの思想に染まっているわけではなく、寧ろ世界的に見ればこの過剰な思想に染まっているのは明らかに少数派である。
しかし、昔から男女の役割分担がはっきりしていた日本などの一部の国ではそれこそ行政等にも深々と食い込んでいるのが現状である。

男尊女卑:上記の女尊男卑の原因だと言われているが、少なくとも日本の場合は山の神等への敬意等といった信仰等を差し引いたものに関してはその多くが「男女分業」に基づいた役割の棲み分け(男女のお互いの専科を活かすための役割分担)である。
要は男尊女卑に対する不満というのは半分以上がそのような内実に目を向けていない逆恨みに近いものであり、寧ろ先鋭化しすぎた女尊男卑は後々のしっぺ返しの事を考えると実に愚かな事といえる。
ルウも男尊女卑を言い訳に女尊男卑を声高に唱える行為を「自らの手で天秤を破壊するようなどうしようもない愚策」と一蹴している。
(いずれその反動で区別ではなく差別に当たる正真正銘の男尊女卑が発生し、そして差別と報復の連鎖で双方が際限なくエスカレートしていき取り返しのつかないところまで突き進み、その果てに自業自得の自滅という終着点にたどり着いてしまうため)


*ドイツ*

 

第二回モンドグロッソ

 

俺の名前は「織斑一夏」。千冬姉・・・姉である「織斑千冬」を応援しにドイツまでやってきた。

 

だが、会場でいきなり何者かに拉致され、どこかの倉庫に監禁される羽目になった。

 

目的は千冬姉を棄権させることだった。

 

唯一の肉親である俺を出汁にすれば目論見が通ると思っていたのだろう。

 

だが、犯行グループの読みは浅すぎた。

 

日本は女尊男卑がやたらとひどく、俺はことあるごとに姉の面汚し呼ばわりされて虐げられていたんだ。

 

千冬姉の耳に入ったならいざ知らず、日本政府や女性利権団体がこの程度の事で千冬姉を棄権させるとは思えない。

 

寧ろ、面汚しである俺を自らの手を汚すことなく抹殺できるのだから奴らからすれば願ったり叶ったりだろう。

 

現に千冬姉は何も知らされることなく決勝に出場した。

 

犯人A「ちっ、やってくれたぜ。」

 

犯人B「仕方がねぇ。悪いがお前には死んでもらうぞ。死ぬ前に何かリクエストはあるか?」

 

一夏「じゃあ、最期に千冬姉の決勝戦を見せてくれ。」

 

その要望は受け入れられ、俺の前にテレビが置かれた。

 

俺は画面の中で決勝戦を戦う千冬姉の姿を目に焼き付けた。

 

そして、千冬姉は優勝した。

 

犯人B「優勝おめでとう。じゃあ死んでもらうぞ。何か言い残すことがあるなら聞こう。」

 

一夏「じゃあ、伝えてほしいことがある。」

 

犯人B「なんだ?」

 

一夏「まず千冬姉に・・・。優勝おめでとう。だけど、俺は本当だったら千冬姉にもっと家族との時間を持ってほしかったぜ・・・。

 

次に妹のマドカに・・・。大変だろうけど、千冬姉の事、頼む・・・。

 

次は篠ノ之束さん・・・。俺の事を本当の弟のようにかわいがってくれてありがとう・・・。

 

箒も、俺の最初の友達になってくれただけでなく、剣道まで教えてくれてありがとう・・・。

 

最後に・・・ああ、幼馴染の凰鈴音とアン・フリークスに・・・。」

 

感極まって俺は涙を流しながら最期の言葉を紡いだ。

 

一夏「二人の思いに応えることができなくて・・・ごめんな・・・!」

 

犯人B「・・・これで全部か?」

 

一夏「・・・ああ。」

 

犯人B「わかった。必ず伝えよう。さよならだ。」

 

パン!パン!パン!!

 

拳銃が火を噴き、俺の体に銃弾が叩き込まれる。

 

俺はそのまま力なく椅子から転げ落ちて床に倒れる。

 

一人残された俺は徐々に自分の体が冷たくなっていくのを感じた。

 

一夏「あぁ・・・俺は死ぬんだな・・・。」

 

遠のく意識の中ぼんやり考えていると眼前が緑色に光っているのに気付いた。

 

それは光の壁だった。

 

一夏「これがあの世への入り口ってやつか?」

 

血が抜けて遅くなっていく思考の中で俺は我ながらのんきなことを考えていた。

 

ふと体が内側から光の壁に向かって吸い込まれていくような感覚に見舞われた。

 

一夏「・・・これが魂が抜けるということなのか・・・?・・・思っていたのと全然違うな・・・。」

 

まるで体が引き延ばされていくような感覚に襲われながら、俺は最後に呟いた。

 

一夏「鈴・・・アン・・・本当に・・・ゴメン・・・」

 

そして俺は意識を手放した。

 

 

 

 

【視点:織斑 千冬】

 

試合終了後、私は一夏を迎えに行った。

 

だが、私を待っていたのは一夏が誘拐され行方不明となったという報告だった。

 

しかも犯行グループの要求は自分の棄権であり、その要求が飲まれなければ場合は一夏を殺すというものだとも知った。

 

千冬「そん・・・な・・・。」

 

私はそのまま悲しみと共に床に崩れ落ちたが、次の瞬間には激しい怒りと共に立ち上がった。

 

そして自分を担当した女性スタッフに詰め寄った。

 

千冬「貴様・・・何故黙っていた・・・?奴らの要求が私の棄権だというのなら、貴様は試合前にこのことを知っていたはずだ。何故黙っていた!言え!!なんでだ!!!」

 

女性スタッフ「別に、千冬様の面汚しが消えたところで何も問題h・・・」

 

その言葉を最後まで聞き終わる前に私はプッツンした。

 

千冬「き、貴様ァァァァァッ!!!!!!」

 

取材陣がいるのも忘れて大声と共に私はその女性スタッフの顔面に渾身の鉄拳を叩き込んでいた。

 

女性スタッフ「ふげらッ!?!?」

 

女尊男卑に染まり切った女性スタッフはなすすべなく鉄拳の直撃を喰らい、そのまま廊下を無様に吹っ飛び転がっていった。

 

千冬「両親を亡くした私にとって、家族はもう一夏とマドカの二人しかいないんだぞ!!それを貴様は!・・・貴様は・・・!う・・・うわああああああああああ!!!」

 

衆目を憚ることなく、私はその場に崩れ落ち泣き叫んだ。

 

この件は瞬く間にメディアによって全世界に発信され、一夏誘拐事件を握りつぶした日本政府の世界的信用は地に堕ちることとなった。

 

特に女性スタッフが所属していた女性利権団体に関しては悲惨なことになった。

 

完全に織斑千冬を敵に回してしまっただけではなく、他にも決して怒らせてはいけない人まで敵に回してしまったのだから。

 

 

 

*日本 篠ノ之家*

 

【視点:篠ノ之 箒】

 

箒「姉さん、千冬さんの試合結果はどうだった・・・の?」

 

私は帰宅後開口一番に千冬さんの試合結果を姉の束に尋ねた・・・けど、異様な雰囲気に飲まれてしまった。

 

束と、家に遊びに来ていたマドカはテレビを前に床に崩れ落ちていた。

 

テレビ『繰り返し、ニュース速報をお伝えします。本日、ドイツで行われていたIS世界大会「第二回モンドグロッソ」に日本代表選手として出場した織斑千冬選手の弟、織斑一夏氏が試合開始前に誘拐されていた事が判明しました。

 

犯行グループの要求は織斑選手の棄権であり、要求が飲まれなかった場合は一夏氏を殺害するとも通告していましたが、日本政府はこの事件を握りつぶし、織斑選手にこのことを伝えていなかった様です。

 

優勝した織斑選手は現在心神喪失状態のため病院に搬送されています。ドイツ警察が総力を挙げて一夏氏の捜索を行っていますが、状況から見て残念ながら一夏氏の生存は絶望的かと思われます。

 

メディアは現在日本政府に対して詳細な事情説明を要求してお・・・・・・・・』

 

束「いっ・・・くん・・・ぁぁ・・・。」

 

マドカ「うぅ・・・お兄ちゃん・・・お兄ちゃぁぁぁぁぁん!!」

 

テレビから流れてくる寝耳に水以外の何物でもない残酷な情報と、それを目の当たりにして泣き崩れる二人を見て、私の頬にも涙が伝った。

 

箒「そんな・・・一夏が・・・?あ・・・あああ・・・!!」

 

私も泣いた。

 

子供のように泣いた。

 

ひとしきり泣いた後、私たちは話し合った。

 

束姉さんとマドカの目からは光が失われていたのを今でもはっきり覚えている。

 

束「箒、もの凄く身勝手なことだというのはわかっているけど、この我儘だけは許してくれないかな・・・?私・・・あいつらの事を・・・許せない・・・!」

 

箒「・・・。」

 

束「絶縁してくれても構わない。いや、その方があなたや父さん母さんは無関係でいられる。」

 

箒「・・・。」

 

マドカ「・・・私も行く。お兄ちゃんを殺そうとした奴ら・・・この手でッ!

 

普段だったら二人の暴走を止めるのが私の役目だ。だけどこの時ばかりは止められなかった。いや、止めようとは思わなかったといった方が正しい。

 

箒「・・・うん。でも忘れないで。少なくとも私は、いつまでも二人を待っているから・・・!」

 

束「ごめんね箒・・・いっつも迷惑かけて・・・。そしてありがとう・・・そういってくれて・・・さようなら・・・。」

 

マドカ「箒お姉ちゃん・・・お姉ちゃんの分まで、私やってくるから・・・!」

 

本音で言えば、私も一緒に一夏を亡き者にしようとした連中に報復をしたい気持ちでいっぱいだった。

 

でも、私まで行けば両親が残されることになるし、生活能力絶無の千冬さんもどういうことになるか分かったものではない。

 

それを察したマドカの言葉に対して、私は一言だけ言葉を紡いだ。

 

箒「・・・おねがい。」

 

そして束姉さんとマドカは家を出た。

 

 

 

【視点:無し】

 

その後は凄まじかったと言えるだろう。

 

束は持ち前の天災的能力を遺憾なく発揮して犯行グループを確保。

 

尋問の果てにこの一件の大本が日本女性利権団体の策略であることを突き止めた。

 

束はマドカと、昔なじみのISライダーであるスコールとオータムの4人で女性利権団体への報復を開始。

 

束のクラッキングによってセキュリティが無力化したところに実働部隊の三人が強襲を仕掛け、女性利権団体日本支部は瞬く間に壊滅、構成員も根こそぎ半殺しの憂き目にあうこととなった。

 

この一件は天災たる篠ノ之束を本気で怒らせてしまったらどういうことになるかを日本政府に知らしめ、日本政府を戦慄させることとなった。

 

加えて時同じくして、何者かのタレコミにより織斑一夏誘拐事件の黒幕がこの日本女性利権団体だったという事実が白日の下に晒され、構成員は悉く御用となった。

 

なお、この襲撃事件を受けて束たちを国際指名手配しようという意見も浮上こそしたが、結局実行されることはなかった。

 

世界的な民意は先のタレコミもあって束たちの行動を「正当な復讐」と見做す意見が多数を占め(ネット上で織斑家と篠ノ之家が家族ぐるみの付き合いだったことも流出していたため)、

 

対して日本政府は誘拐事件の一件で世界的な信用を完全に失っていた。

 

千冬が日本政府への不信感を募らせ代表選手を引退していたことも逆風となった。

 

今ここで束たちを国際指名手配しようとしても各国からそっぽを向かれるのは目に見えているし、何よりこれ以上民衆の怒りの炎に燃料を注ぐのは愚策という結論に達したのだ。

 

一方ドイツではドイツ警察だけでなく、千冬が昔なじみのクラリッサに依頼したことで黒兎隊も捜索に加わっていた。

 

捜索は某所の廃倉庫で一夏のものと思われる大量の血痕が発見されるも一夏本人が発見できなかったという結果に終わった。

 

だが、この連絡を受けた日本政府は事態を早く沈静化させたいがためにまたしても失策を犯してしまう。

 

死体が発見されなかったにもかかわらず、また現場検証の結果出血量は致死量に達していないと証明されたにも関わらず「危難失踪」の期限である1年を待つことなく織斑一夏を勝手に死亡扱いにしてしまった。

 

これに関してまたしても民衆からの反発を受け、結果その責任を取って内閣総辞職をする羽目となった。

 

結局一夏の葬式は空の棺桶を用いて執り行われたが、一夏の関係者は誰一人として参加しなかった。

 

一夏の生存を信じていたもの、出席すれば一夏の死を認めてしまうと考えたもの、出席自体ができない精神状態だったものなど理由は様々だが、とにかく参加者は少なかった。

 

 

 

 

 

 

時は少し巻き戻り、一夏が行方不明になったのとほぼ同時期。

 

 

 

 

*鉄血工業本社周辺*

 

ガイア「・・・一体ここはどこよ?私はテレポートゲートの修理をしていただけのはずだけど?」

 

同じ世界に別の世界から一人の少女が迷い込み。

 

 

 

 

そしてその別の世界のとある島では・・・。

 

 

*トラック島離島鎮守府 国見島*

 

ドタドタドタ!!

 

天龍(艦これ)「ん?提督どうしたんだ?そんなに慌てて?」

 

ルウ「未来見島の霊たちから緊急連絡が入った!」

 

ロドニー(アズレン)「え!?」

 

火逐「未来見島西海岸に瀕死の重傷を負った男性が漂着ーッ!!」

 

暁(艦これ)「えええ!?!?」

 

二つの世界を結んだ奇跡は、やがて多くの世界を巻き込んだ大事件へと発展していく・・・。

 




登場人物

織斑一夏(おりむら いちか)
IS側の主人公。今作では生身の人間であり両親は存在しないのではなく死別しているだけ。
頭からひどい目に遭っているがこの一件が彼にとってのある種の「祝福」となる。

織斑千冬(おりむら ちふゆ)
一夏の姉。両親と死別した影響で原作と比較すれば家族思いになっているのだが至極不器用で誤解されやすい。

凰鈴音(ふぁん りんいん)
今回は名前だけ登場の一夏の幼馴染。

アン・フリークス
今回は名前だけ登場の一夏の幼馴染。
ロドニー氏の連載小説「一夏がシャアに拾われた件について」に登場する同名の人物の平行世界の同一人物。(ロドニー氏には許可を取ってあります)

篠ノ之束(しののの たばね)
IS開発者なのだが今作では4名による合同開発。
俗にいう「白い束さん」だが、少々重い過去を持つ。

篠ノ之箒(しののの ほうき)
束の妹で一夏の幼馴染。
原作とは違い姉妹仲は良好で攻撃性も低い。

織斑マドカ
一夏の妹。
今作では普通の人間なので原作とはかなり違う。
ただ、両親を亡くした過去から家族を害する者には容赦がない。

ガイア・ティアマート
オリジナルキャラクターの一人。女性。
異星人集団「スカーレットドーン」の保有するスカーレットドーン級大型宇宙戦艦7番艦「トワイライトブルー」のサブAIだったが、メインAIの「フォルトゥナ・リアラ」と共にスカーレットドーンに反旗を翻し、そのままトリニティ・ガードに移籍する。

叢雲ルウ
オリジナルキャラクターの一人。女性。
人間とフェストゥムのハーフで現役の軍人。
この時点で既に肉体年齢は70歳を超えているがある理由から外見年齢が25歳で止まっている。

叢雲火逐(むらくも ひおう)
オリジナルキャラクター(?)の一人。女性。
叢雲型艦娘の一人でルウの伴侶でもある。
女性同士のカップルだが同性愛者というわけではなく、ただお互いに運命の相手が同性だっただけ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【2】異世界の海で -エイリアンワープゲート-

用語

緑色の光の壁:サブノーティカで登場したエイリアンワープゲートの転移ゲートです。本来はあらかじめ紐付けされたマスターゲートとスレイブゲートの二つの間のみを繋げるのですが、
稀にゲートの不調や時空の乱れなどによって全く関係ない箇所に繋がることがあります。一夏が吸い込まれたゲートは非常に特殊で、ゲートが存在しない二点をごく短時間の間繋げた、ある種の自然発生したゲートです。
一方ガイアの場合は修理中のマスターゲートが突如誤作動し、本来のスレイブゲートとは全く関係ない箇所に繋がった状態でそのゲートに誤って吸い込まれてしまったというものです。
ある程度の解析が完了しており、現在の技術と材料で再現することが可能ですが、どういうわけかこのような事故が稀に発生します。
しかし、発生頻度が非常に低いという理由から原因の特定ができず、解析も進まないため測定器で監視するにとどめられています。


*トラック島離島鎮守府 国見島*

 

【視点:織斑 一夏】

 

一夏「・・・ん。」

 

俺は妙に心地よい微睡みから覚め、目を開いた。

 

目に映るのは白い天井。

 

一夏「・・・あれ?あの世ってのは病院みたいな殺風景なところなんだな?」

 

?????「いいえ。貴方は死んでなどいませんよ?」

 

一夏「え!?」

 

唐突に横から死んでいないと宣告されて俺は思わず飛び起き・・・られなかった。

 

体に力が入らないのだ。

 

?????「無茶しないで。貴方は1か月も意識不明だったのよ。」

 

一夏「あ、貴女は?」

 

ヴェスタル(アズレン)「私の名前はヴェスタル。この医務室の室長をしているの。」

 

一夏「・・・医務室?」

 

ヴェスタル「ここはトラック島離島鎮守府がある国見島(くにみじま)。貴方は隣の未来見島(さきみじま)の西海岸に瀕死の重傷を負った状態で漂着していたの。外科医でもある提督さんの養父さんにも来てもらって、何度も何度も手術を繰り返して、何とか一命をとりとめたのよ?」

 

ヴェスタルと名乗った女性の言っている言葉の中には聞いたことのない言葉がいくつも含まれていた。どういうことか考えようとしたところ・・・

 

ぐぅぅぅぅ・・・

 

一夏「あ、あれ?」

 

ヴェスタル「ああ、ずっと点滴だけで栄養補給をしていましたからね。カレーを持ってくるので少し待っててください。」

 

ヴェスタルが部屋を出て行ったあと、ベッドに何かのリモコンが掛けられていたので弱った体を何とか動かして手に取ってみる。

 

どうやらこのベッドは所謂「介護用ベッド」と同じ設計らしく、このリモコンでベッドの上半身部分を起こすことができるようだ。

 

それを使ってベッドを起こし、部屋を見回してみた。

 

壁は清潔感のある白一色かと思いきや、壁の下半分は木造校舎のように木の板で作られていた。床も木の板で作られており、殺風景などとは縁遠い、寧ろどことなく懐かしさと安心感を感じる温かい空間だった。

 

ヴェスタル「おまたせ。あら、ベッド動かせたのですね。」

 

一夏「ええ、まぁ。」

 

ヴェスタル「まあどのみち起こさないと食べられませんからね。はい、どうぞ。」

 

そういって彼女はベッドに備えつけられた机に皿と食器が乗ったトレイを置いた。

 

一夏「えっと・・・これ何?」

 

俺の前に差し出されたのは二種類のおかゆみたいなものだった。しかも量が少ない。

 

ヴェスタル「はい。こんな見た目ですけどカレーですよ。」

 

一夏「いや、これどう見てもスープかおかゆだよね?」

 

??「それに関しては私が説明するわ。」

 

新しい声と共に新たな女性が入ってきた。

 

火逐「私の名前は叢雲 火逐(むらくも ひおう)、この鎮守府の指揮官よ。」

 

一夏「あ、はい。初めまして・・・。」

 

火逐「それで質問の答えだけど、それは「流動食」版のカレーよ。」

 

一夏「流動食?」

 

火逐「そう。ご飯は過水加熱しておかゆにしてあるし、そのスープみたいなのはジャガイモやニンジンのような固形物を裏漉ししてお出汁で割って緩くしたカレーよ。1か月も何も食べていなかったんだから消化器官の負担を少なくするための処置よ。・・・因みに量が少ないのにも理由があるの。」

 

一夏「理由?」

 

火逐「たくさん食べると死ぬから。胃がびっくりして大変なことになることもあるから、衰弱している今のあなたに普通の量を出したら危ないのよ。とりあえず食べなさい。ただし、ゆっくりとね。がっつくと死ぬわよ。」

 

俺は進められるがままに流動食版のカレーを食す。

 

一夏「・・・!」

 

うまい。

 

シンプルだが普通にうまい。胃に負荷をかけないようにしなければならないのについがっつきそうになってしまう。

 

火逐「流石はかの宇宙のカレー屋さん謹製のポン・カレーね。ちょうど昨日がカレーの日で材料が残らなかったから保存食用から抜き出して作ったけど、ハズレなしね。」

 

そうこうしているうちに俺はカレーを完食していた。

 

少ない量だが全身にカレーの温かさが広がっていくのを感じた。

 

しかし、ここはどこなのだろうか。そして、俺は帰れるのだろうか?

 

一夏「カレーありがとうございます。ところで、俺は何時までベッドの上で寝ていることになるんですか?」

 

火逐「そうね・・・。ヴェスタル、リハビリは何時くらいから始めた方がいい?」

 

ヴェスタル「言うほど筋肉は衰えていないみたいだから、早ければ明後日には始められますよ?」

 

火逐「と、いうわけよ。まずはリハビリに備えて英気を養いなさい。それと、明日ルウがオラクルから帰ってくるからそのときにいろいろと質問させてもらうからね。」

 

そういって火逐と名乗った女性は部屋を出て行った。

 

俺はそれを見送った後、のんびりと窓の外を眺めてた。

 

澄み切った青空・・・。

 

俺にとっては写真でしか見たことがなかった青空だった。

 

ベイラン島事件・・・。

 

2034年に起きたという爆発事件によって地球の空は超低濃度とはいえ崩壊液という放射性物質に汚染され、いつもどこかどんよりした空しか見ることができなかった。

 

幸い爆発によって吹き上げられた崩壊液は極少量で人体に悪影響が出るような事はなく、地球全土が崩壊液汚染により即座にELIDが蔓延る地獄になるということはなかった。

 

それでもベイラン島を初めとした地球上にいくつかある旧文明の遺物と思われる遺跡に現存する崩壊液の影響で、地球各所でELIDが時折発生しては人類の生存領域を奪おうとしてる。

 

そんな自分が生まれるより前に失われてしまったはずの青空が今窓の外に広がっている。

 

ここは離島のようだが、だからと言って青空が広がっているものなのだろうか?

 

そうぼんやりと考えているうちに、いつの間にか俺は眠ってしまった。

 

 

 

 

時は1か月ほどさかのぼり、同じ世界のとある海洋惑星では・・・

 

 

*惑星クレイドル 雫工房*

 

【視点:ガイア】

 

雫「そっちの方はどう?」

 

ガイア「ダメ。エネルギーの流れが不自然なことを除けば特に異常はないみたい。」

 

雫「う~ん・・・隔離執行施設に行って他のゲートのチェックも兼ねてそういう手の記録が残ってないか探してくるしかないか・・・。ちょっと行ってくるからもう少し監視しておいて。」

 

そういって工房長の雫は工房の中に戻って遠征準備に入る。

 

ここ最近ゲートの調子が悪く、突然止まってしまうなどのトラブルが頻発していた。半年後には雫はかつて世話になったアルテラ社が行う極点にある大陸の調査にオブザーバーとして参加、同行する。

 

その前にこの問題を解決しておきたいのだ。

 

ガイア「やれやれ・・・。一体何が悪さをしてるんだろ・・・?」

 

私はカートリッジユニットからイオンキューブを取り出し、ゲートを停止させる。

 

エネルギー源を失ったゲートは音を立てて停止し、緑色の光の壁(テレポートフィールド)は消滅する。

 

私はフィールドが無くなったひし形のテレポートフィールド発生装置の枠の内側に回り、再びスキャナーでチェックを行う。

 

・・・特に異常なし。

 

これ以上のチェックは無意味だと思って一度椅子を取りに工房の中に戻ろうと思ったとき・・・。

 

急にテレポートゲートが異様な音を上げて起動した。

 

ガイア「え?ちょっと?いや・・・きゃああああああ!?!?」

 

突然真っ赤に染まったテレポートフィールドが展開され、私は為す術もなく只悲鳴を上げながらフィールドに飲み込まれた。

 

・・・

 

雫「何!?今の悲鳴は!?」

 

大慌てで雫が工房から飛び出してきたが、既にそこにガイアの姿はなく、そこには停止したゲートが佇んでいるだけだった。

 




登場人物

ヴェスタル:鎮守府で医務室長を務めるユニオン出身の工作艦。明石が艦これとアズレン両方とも購買部所属なので彼女が医務室長となっている。

ルウの養父:名前は登場しない。第一線こそ退いたが現役の外科医であり、一夏を生かすために何度も何度も手術を繰り返した。本来は一度の大規模手術で終わるはずだったが、衰弱が激しかった一夏の体が大規模手術に耐えられないと判断して複数に分割して行った。

宇宙のカレー屋さん:一応本業は宇宙での採掘屋なのだが、副業としてカレー屋もやっている。独特な言い回しが特徴でやたらと防御に拘りがある。

叢雲 雫(むらくも しずく):ルウから見ると孫にあたる少女で惑星クレイドルに「雫工房」という工房兼拠点を構えている。母親はルウの娘の一人である叢雲 楓(むらくも かえで)だが、その正体は楓のDNAを入手したスカーレットドーンが戦闘用エイリアンのDNAと掛け合わせて生み出した対トリニティ・ガード用のハイエイリアン。だが、人としての自我を持っていたために気づかれないまま脱走し、紆余曲折を経てトリニティ・ガードに参加した。外見は普通の人間と大差ないが、胴体の皮膚が赤く爛れたようになっている。余談だが、クレイドルにはガイア以外に人が来ないため普段は全裸で行動することが多い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【3】鉄血工業 -ガイア・ティアマート-

ドルフロの事件関係:ベイラン島事件等、いくつかの事件は発生時期やその結果等様々な部分に差異が生じていますが、これはISとドルフロの二つの世界が融合しているこの独特な世界故の原作とのズレです。

トラック島離島鎮守府:トラック諸島から南に少し離れた小島に存在する鎮守府です。小島は北の天見島(あまみじま)、南の虹見島(にじみじま)、東の未来見島(さきみじま)、西の国見島(くにみじま)の4つが存在し、鎮守府は国見島にあります。
他にも天見島には大型空港「ヘンダーソン」とマスドライバー「リコリス」が存在し、虹見島には大規模農園が存在します。
なお、未来見島には戦時中に使われていた校舎や病院、居住施設がそのまま残されていますが、ある理由から島そのものが立ち入り禁止となっています。
当然トラック島離島四島は現実には存在しない架空の島です。
位置関係はトラック諸島(現フェイチャック・アイランズ)の「ユードット」の南、「クオーブ環礁」の西です。


*トラック島離島鎮守府 国見島*

 

【視点:一夏】

 

ルウ「さて、貴方もリハビリができるレベルまで回復したとヴェスタルさんがGOサインを出したから、そろそろ貴方の事を詳しく聞かせてくれませんか?」

 

一夏「それは構いませんが・・・。」

 

俺の目の前には先端が紫色に染まった水色の髪の毛をツインテールにして、右目が青で左目が赤という所謂「オッドアイ」な女性がパイプ椅子に腰かけ、メモとペンを持って俺に対して質問をしてきている。

 

彼女の名前は「叢雲ルウ」で、この鎮守府の提督をしているらしい。

 

対する俺はソファに腰かけている。後ろにはヴェスタルさんが万一の体調急変に備えて同じくパイプ椅子に腰かけていた。

 

ルウ「そんなに固くなる必要はないですよ。貴方を元居た場所に帰すための情報収集がメインですから。」

 

一夏「はぁ・・・。」

 

ルウ「まず、貴方はどこから来ましたか?ああ、ここに来る直前にどのあたりにいたのかという話です。」

 

少し考えたのち、わかる範囲で回答した。

 

一夏「詳しい場所はわからない。けど、ドイツのどこかの廃倉庫だったはず。」

 

ルウ「廃倉庫?何故そんなところに?それにあの重症は?見たところ銃撃を受けたようだったけど。」

 

一夏「拉致監禁されたんです。千冬姉が・・・あ、俺の姉です。で、千冬姉が出場する「第二回モンドグロッソ」がドイツで開かれて、その応援に現地入りしたら会場で拉致されて・・・。」

 

ルウ「・・・モンドグロッソ?」

 

ルウさんの両目が金色に変色していたが、俺はそれに気づかなかった。

 

一夏「はい、ISを使った世界大会の一つです。」

 

ルウ「IS・・・?いや、そのまま続けて。拉致された後どうなったんですか?」

 

一夏「?・・・で、犯行グループの目的は俺を人質に千冬姉を棄権させたかったらしいんですけど、大方日本政府がその情報を握りつぶしたのかそれが千冬姉に伝わらなかったらしくて。」

 

ルウ「・・・。」

 

ルウさんは顔を顰めていたが俺も若干うつむき気味でしゃべっていたので気づかなかった。

 

一夏「結局俺は犯行グループに撃たれて・・・そういえば、意識を失う直前に緑色の光の壁のようなものが目の前に・・・」

 

ルウ「え?」

 

ルウさんはどこからともなく一つのPDAらしき水色の端末を取り出し、何か操作したと思ったらそれを俺に手渡した。画面には石造りのようなひし形のアーチが映し出されており、そのアーチの内側には俺が最後に見た光の壁とそっくりの光の壁があった。

 

ルウ「その光の壁ってそれと同じようなものですか?」

 

一夏「ええ、よく似ています。でもこのアーチ状の装置は何ですか?見たことないんですけど。」

 

ルウさんはしばし言葉を考えるかのようにうつむいてから口を開いた。

 

ルウ「このアーチ状の装置はこことは違う惑星・・・私たちは『惑星クレイドル』と呼んでいる海洋惑星にかつて居た異星人が作ったテレポートゲート発生装置です。そしてこの装置を使ってゲートを開き、本来ならマスターゲートとスレイブゲートの二点を繋ぐのだけど、未来見島にゲートは存在しません。そもそも、あの島は原則立ち入り禁止なんです。」

 

一夏「え?」

 

ルウ「それと、こちらからもいくつか質問してもいいですか?」

 

一夏「ええ、構いませんが・・・。」

 

今の話で登場した『惑星クレイドル』とは何だろうかと思ったが、ルウさんの表情は真剣だったのでそれに関する質問は後回しにすることにした。

 

ルウ「まず、『艦娘(かんむす)』という言葉は知っていますか?」

 

一夏「いえ、初耳です。」

 

ルウ「それでは、『マスドライバー』は?」

 

一夏「漫画やアニメの中でのことなら聞いたことはありますけど・・・。」

 

ルウ「では、『セイレーン』、『アズールレーン』、『レッドアクシズ』、それに『トリニティ・ガード』という勢力名は?」

 

一夏「・・・なんですかそれ?聞いたことありません・・・。」

 

ルウ「最後に、今は西暦何年ですか?」

 

一夏「えっと、西暦2061年だったはずだけど・・・。」

 

ルウ「・・・。」

 

ルウさんは再び言葉を考えるかのようにうつむいて・・・。

 

ルウ「・・・驚かずに聞いてください。」

 

衝撃的な事実を口にした。

 

ルウ「今までのやり取りで、少なくとも貴方はこの世界の出身者ではない。つまり、この世界とは別の、所謂『平行世界』から何らかの事故でこの世界に流されてきたと考えられます。」

 

一夏「・・・え?」

 

ルウ「まず、今は『西暦2034年』なんです。これで少なくとも貴方が未来から過去に飛ばされた可能性が浮上します。」

 

一夏「え!?」

 

自分がいた時代よりも過去の時代に来てしまっているという事実を聞かされ驚くも、ルウさんは更に言葉をつづける。

 

ルウ「そして、天見島のマスドライバー「リコリス」は世界的にも有名だし、艦娘という存在も、セイレーン、アズールレーン、レッドアクシズ、そして私たちトリニティ・ガードもまた世界的に有名な名称なので、少なくとも30年弱の時間差であれば仮にその時代にはもう存在しないとしてもどこかで名前くらいは聞くはずなんです。もし、同じ世界線で完全な失伝をしてしまっているのなら、後世の為政者から過去の事象が黒歴史として封印されるか、情報が記憶、記録の両方から失われるレベルの大規模ハザードが起きたことになりますが、どちらも少々考えづらいです。聞く限りですが、前者であればそうする理由が見当たらないし、後者であれば世界大会どころではないはず。それだけの失伝となれば文明レベルも相当後退していなければ説明がつきません。それなのにそれらの単語を一切知らないというと、貴方はただ未来から過去に飛ばされたのではない可能性が高いです。だとすると、一番可能性として高いのが平行世界跳躍ということになります。」

 

一夏「・・・。」

 

あまりの事に言葉を失う。平行世界?そんなSF全開の事態に自分が巻き込まれた?

 

ルウ「私たちとしては別段稀有な話ではないのですが・・・、実は貴方が流されてきた日と同じ日に、惑星クレイドルでも一人がゲートの調整中に行方不明になっているんです。恐らくは入れ違いで貴方の世界のどこかに流されたのかと・・・。」

 

一夏「・・・。」

 

なんといっていいかわからない。いや、そもそも元の世界に戻れるのか?鈴やアンに再び会えるのか?

 

ルウ「誰か大切な人がいるのですね?」

 

一夏「!?」

 

ルウ「顔に出てます。その件ですが、時間はかかりますが貴方を元の世界に届けることは可能です。」

 

クスリと微笑みながらルウさんは言った。

 

ルウ「但し、どれだけ時間がかかるのかまではわかりませんので、それまで使う部屋の手配をs・・・」

 

ドタドタドタドタ!!

 

ガラッ!!

 

????「ルウ!!退屈だ!!相手しろ!!」

 

ルウ「コルボー!今仕事中よ!あと病み上がりの人がいるから騒がない!」

 

突然黒い服を着た少女がやってきてルウさんに何かをせがみ、それに対してルウさんは喧しいと怒鳴り返した。

 

コルボー「だったら早く仕事終わらせて相手してくれ!」

 

ルウ「だったら重桜の長門と演習してきなさい。彼女もたまには運動したいでしょうから。」

 

コルボー「そうか!じゃあ行ってくる!」

 

ルウ「はぁ・・・。」

 

嵐のように現れて嵐のように去っていったコルボーという少女にルウさんは心底ぐったりしていた。

 

ルウ「あーとりあえず、部屋の件ですが明日までに手配しておくので、それまでは医務室で待機しておいてください。」

 

一夏「は、はぁ・・・。」

 

 

 

 

またしても時は1か月ほど巻き戻り、一夏が元居た世界では・・・。

 

 

*鉄血工業本社周辺*

 

【視点:ガイア】

 

ガイア「あれ?こんなところに会社なんてあったんだ・・・。」

 

私の眼前には無骨ないくつもの建造物が立っていた。

 

あたりを会社のスタッフと思われる人々がせわしなく駆けずり回っている。やけに女性が多いが・・・。

 

ガイア「せっかくだから、あそこでここがどこか聞いてみようか・・・、あっといけない。この姿じゃ不自然すぎるわね・・・。」

 

ふと自分の今の服装がひまわり模様のワンピーススタイルの水着だということを思い出し、私は顔を赤らめながら遠くの女性職員の衣服をトレースし、それで外装テクスチャを書き換えた。

 

そして私は徒歩でその建造物へ向かった。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ガイア「・・・案外怪しまれないのね・・・。いや、私まで気が廻っていないのかしら?」

 

てっきり怪しまれるとばかり思っていたので軽く拍子抜ける私。そうして窓の近くの木箱に腰かけていると・・・。

 

???「ねえちょっといいかな?」

 

ガイア「うわあ!?!?」

 

そこに不意打ちで声を掛けられ盛大にずっこけた。

 

???「あ、ごめんなさい。おどろかせちゃった?」

 

ガイア「・・・心臓に悪いって・・・。」

 

???「ごめんなさい。ところで見ない顔だけど、新人さん?」

 

ガイア「そうじゃないけど・・・。あ、私はガイア・ティアマートというの。」

 

???「『ガイア・ティアマート』ちゃんね。なんだかすごい名前ね。あ、私はサクヤ。この鉄血工業の戦術人形たちのAIメンテナンスとカウンセリングをしているの。」

 

ガイア「(戦術人形?何の事だろうか?)サクヤさんね。もしかして日本出身?」

 

サクヤ「わかる?もうずっと帰ってないんだけどね・・・。束ちゃんも元気にしているかなぁ・・・。」

 

ガイア「『束』さんって?」

 

サクヤ「10年前にある研究を一緒にしていたの。他にはこの鉄血工業のAI設計者のリコリス先輩と、後はIOPにいるペルシカ先輩の4人でね。ISや戦術人形のコアの元となるベースコアは私たち四人で開発したのよ。」

 

軽く得意げに胸を張るサクヤさん。

 

???「サクヤ!貴様何を油を売っておる!」

 

サクヤ「あ、すみません!今すぐ!!・・・社長がおかんむりだから行かなくちゃ・・・。」

 

ガイア「話し相手くらいならいつでも。」

 

サクヤ「ありがとうねガイアちゃん。それじゃあまた今度!」

 

私はこの会社に言い知れない闇を感じた。

 

サクヤさんの表情にちらついた影、そして社長の怒鳴り声と、それを聞いたサクヤさんの恐怖にも似た暗い表情。

 

ガイア「乗り掛かった舟だし、何とかしたいなぁ・・・。」

 

私はそう呟きながら、その場を離れた。

 

きっとこの世界は私の知る世界ではないのだろう。

 

でも、理由が何であれ関わってしまった以上、そして、「放っておけない」と思った以上、サクヤさんや同じ思いの社員のみんなを助けたい。

 

私の心にはそういう思いが渦巻いていた。

 

ガイア「とりあえず、寝床を探しますか。使われていない倉庫か何かの隅っこを使わせてもらえれば・・・。」

 

そう呟きながら、私はその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ところでアズールレーンの長門に演習を挑んだコルボーはといえば・・・

 

 

 

*トラック島離島鎮守府 虹見島沖演習場*

 

【視点:無し】

 

チュドーン!!!

 

コルボー「ぎゃあああああああ!!!!」

 

長門(アズレン)「余に大口を叩いた割には歯ごたえがないぞ!どうした、遠慮はいらんぞ!本気で参れ!!」

 

*虹見島野菜農園*

 

綾波(アズレン)のクルクス「あれ・・・何なん・・・です・・・?」(きゅうりを手に持ったまま固まっている)

 

綾波(艦これ)「手の込んだ自殺。」(トマトを収穫しながら)




登場人物

コルボー:まどマギシリーズに登場した少女。一夏同様過去に別の世界からこの世界に流れ着いた漂流者だが、記憶を失っているために元の世界に送り返せないまま居ついてしまっている。ルウや火逐相手に退屈しのぎに演習を持ちかけるが大概適当にあしらわれる。

サクヤ:犬もどき氏の連載小説「METAL GEAR DOLLS」の追憶編で登場した故人(蝶事件が起きる前にELIDに感染し事実上死亡した)・・・の、平行世界の同一人物。(本人は世界の壁を飛び越えて、例えばいろいろ氏の連載小説「喫茶鉄血」の準レギュラー等になっています)原典では出身地などの細かい設定が殆どなかったので今作では日本人としています。

リコリス:この時点では名前だけ登場。原作では既に故人でしたがこれは蝶事件が起きる前の時間軸なのでまだ存命しています。なお、原作では人物像に関する設定が全く見当たらなかったので人物像は捏造100%となります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【4】蝶の舞わぬ空 前編 -デストロイヤー-

※この話から第6話までの間はドルフロ側の描写ばかりになります※

※また、ドルフロ側はこの時点から本格的に原作から乖離していきます※


*鉄血工業本社 第6倉庫*

 

【視点:ガイア】

 

アルケミスト「おい・・・、貴様何をしている。」

 

ガイア「あうち・・・。」

 

アルケミスト「何をしているんだと聞いているんだ。」

 

ガイア「有体に言うと、寝てました。」

 

アルケミスト「それは見りゃ解る。段ボールの中で猫のように丸くなって寝ていたところを見つけたんだからな。」

 

う~ん参った。理由をくっ付けようにもキレのいい理由が思いつかない。

 

決して疚しい理由などない・・・というか、ここで寝ていたのはただ寝たかっただけだからだ。

 

AIから発生したメンタルモデルなら睡眠は不要じゃないかって?

 

健康的な活動のためにはAIだろうがメンタルモデルだろうが睡眠なりなんなりしてクールダウンしないといけないんだよね。

 

ガイア「えっと、ところでお名前は?」

 

アルケミスト「話題逸らすな!」

 

うん、なんとも出来の悪いコントだよね!お互いコントをやる気なんて毛頭ないんだけど!!

 

そうこうしているうちに腕に装備された武器をこちらに向けてきた。

 

コアが惑星クレイドル側に残されたままなので別にどこを撃たれても急所がないので死にはしない。

 

ただ、痛いことに変わりはないので撃たれたくないのだ。

 

それに頭で解っていても目の前の事態に恐怖を感じないわけではない。

 

どうにも進退窮まった状態に陥った私だが、助け船は思いがけない方向から飛んできた。

 

サクヤ「アルケミストちゃん~!どこに行ったの~!」

 

アルケミスト「ん?マスター!ここだ!」

 

ガイア「あれ?サクヤさんの声?」

 

アルケミスト「ん?何故マスターの名前を知っている?貴様まさか・・・。」

 

ガイア「何を想像しているのかわからないけど、決して疚しい理由や事情は無いと、この答えに私は心臓(そもそも私に心臓なんてないんだけどね・・・)を捧げるわ。」

 

アルケミスト「ほぅ。いい根性だ。」

 

サクヤ「どうしたのアルケミストちゃん?あれ?ガイアちゃん?」

 

ガイア「どうも。今日はあの社長さんの機嫌はどう?」

 

サクヤ「どうもこうも、デストロイヤーちゃんの試験がなかなか先に進まないってずっと不機嫌なのよ・・・。」

 

アルケミスト「・・・なんなんだ?」

 

一応そのあと事情説明をした。

 

因みに衣服に関しては私が二人の前でアルケミストの衣服を参考にした姿にテクスチャを変更して見せたことで納得してもらった。

 

サクヤ「凄い・・・どうやったらそんなことができるの?」

 

ガイア「ん~企業秘密ってことで。あくまで衣服を変更するくらいしかできないから言うほど凄いわけじゃないし・・・。」

 

アルケミスト「しかし、まさかマスターが話していたお喋り相手が貴様だったとは・・・。」

 

ガイア「昨日話した時は軽い世間話程度しかできなかったけどね。」

 

アルケミストという名前の戦術人形は少々バツが悪そうに私に頭を下げてきたので、私は頭下げなくていいからと制止した。そもそも、私は部外者なのだから。

 

ガイア「ところで、デストロイヤーだっけ?ちょっと私も会っていいかな?」

 

サクヤ「え?」

 

ガイア「私もこう見えてAIには詳しいし、何かの助けになれるかもしれないし。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

そのあと私はサクヤさんに案内されてデストロイヤーという戦術人形の試験を見学した。

 

彼女の射撃試験はお世辞にも良好とは言い難かった。

 

何回訓練と試験を重ねてもどういうわけか狙いが定まらないというのだ。

 

ガイア「グレネーダーをこのボディサイズで扱うのはちょっと厳しいような気もするけど、何かそれ以外の原因がありそうなのよね・・・。」

 

サクヤ「それ以外の原因?」

 

ガイア「見ただけではわからないけど、射撃試験の成績がいつまでたっても上がらないのはデストロイヤー側の問題というよりも武装側に何かあるような気がするだけ。」

 

アルケミスト「どうにかできるのか?」

 

ガイア「まずは原因を突き止めないことにはどうにもこうにも・・・。分析する時間が欲しいかな。私の持っている機材を使えば原因をある程度は絞り込めるかもしれない。」

 

私はデストロイヤーのグレネードランチャーにアドバンスドキャノンやCRAMキャノンにも使われることがある「弾道表示装置」をつけさせてもらい、もう一度訓練をしてもらった・・・すると。

 

ガイア「あれ?なんで一発撃つたびに弾道がこんなにブレるんだろう?」

 

表示装置をつけてもらってもう一度試してもらうと、一発ごとに表示される弾道が変わっていた。

 

デストロイヤー「う~~~~・・・!!!」

 

そういえばデストロイヤーも射撃時にはどういうわけか眉間にしわを寄せていたけど、その原因もこれなのかもしれない。

 

ガイア「デストロイヤー、もういいよ。原因が解ったかもしれない。」

 

デストロイヤー「しゅ~・・・。」

 

よっぽど負荷がかかっていたらしく、デストロイヤーは頭から湯気を噴きながらへたり込んだ。

 

ガイア「サクヤさん。このグレネードの砲弾を調べてみたいので一箱分借りて行っていいですか?」

 

サクヤ「え?」

 

ガイア「もしかしたら砲弾に何か欠陥があるのかもしれないので、それを確かめたいんです。」

 

サクヤ「えっと、じゃあ担当の人に確認してみるけど、それがデストロイヤーちゃんの試験がうまくいかない原因なの?」

 

ガイア「まだ確証はないけど、もしかしたら砲弾が規格通りの設計じゃないのかもしれない。一発一発性能にばらつきがあって、そのせいで射程距離が毎回ズレるからデストロイヤーはそのズレを無理やり補正しようとして、

 

それでも次の砲弾もまた射程距離が違うからまたズレて・・・といった感じで砲弾のズレに振り回されて混乱しているのかもしれない。といってもまだ仮説でしかないけど。」

 

その後検査名目で一箱貸してもらい、私は夜なべしてグレネード弾を解体して原因を調べた。

 

 

 

 

*翌日*

 

【視点:サクヤ】

 

サクヤ「ガイアちゃん。どうだったかな?」

 

私はガイアちゃんが借りた倉庫に来たが、彼女はペンやら紙やらで散らかった机に倒れ伏すように寝ていた。

 

サクヤ「あらら、寝ちゃってたか・・・。」

 

ふと、机の上にあった紙に目が行った。

 

そこには検査した砲弾の検査結果が手書きで書かれていた。

 

そしてその項目の一つ「ガンパウダー」に赤ペンで「不適切」と書き込まれていた。

 

他にも散らばっている紙を見てみると、それぞれの項目の詳細検査結果が書き込まれていた。

 

そして、「ガンパウダー」の詳細項目には図表と細かな結果が書き込まれていて、結果の部分には赤字で『検査不合格』という評価と、その理由が書き込まれていた。

 

サクヤ「『ガンパウダー量に許容範囲外の誤差を多数検出。不純物の含有量も許容範囲外の砲弾を多数検出。ガンパウダーの製造工程か輸送工程、及び砲弾への充填工程に看過できない問題がある可能性あり。』ですって・・・?」

 

さらにその下に置かれていた紙には『この砲弾を使用した場合、砲弾毎に飛距離や発射角に許容範囲を超えた誤差が発生するため狙った個所に攻撃するのは極めて困難。』と書かれていた。

 

だがその下に書かれた一際目立つ太い赤字に私は目を見開いた。

 

『危険レベルの誤差を有する砲弾を検出。発射不良や暴発といった重大事故の原因になる危険性あり。』

 

・・・

 

ちょっと待ってほしい。

 

つまり、デストロイヤーちゃんは今までいつ暴発事故が起きてもおかしくなかったかもしれない粗悪品砲弾を知らないままに使い続けていたということになる。

 

私は一瞬意識を手放しかけ・・・。

 

サクヤ「うああああぁぁ・・・!?!?」

 

・・・間一髪で掴みなおした。

 

ガイア「んあ・・・?あ、サクヤさん。どうしたんですか?」

 

サクヤ「あ、ゴメンねガイアちゃん。ちょっとびっくりしちゃって・・・。」

 

ガイア「私もその結果を見たときは背筋が凍り付いたからね・・・。試験用の砲弾がそんな論外クラスの粗悪品だったなんて・・・。」

 

論外クラスの粗悪品。

 

その言葉を聞いて私の気は重くなった。

 

ずっとそばにいたはずなのに、全く気づけなかった・・・。

 

ガイア「あまり気負い過ぎないでください。原因さえ解ってしまえばどうとでもなるから。・・・でもこの調子だと在庫の同規格のグレネード弾は全部ダメでしょうね・・・。」

 

サクヤ「どうしよう・・・。今から別の所から砲弾を取り寄せようにも時間が・・・。」

 

あの社長がこれで納得してくれるかどうかわからない。

 

いくらデストロイヤーちゃんに非がなかったとはいえ、今まで成果を残せていないことに変わりはない。

 

ガイア「・・・仕方がない!こうなったら砲弾は私が作ろう。最悪武装ユニットごと作り直してしまえばいいし。」

 

サクヤ「え!?そんなことできるの!?」

 

ガイア「砲弾設計装置と弾薬精製器を組み合わせて砲弾を自己精製できるようにしてしまうの。」

 

そういいながらガイアちゃんはいくつかの機材をどこからともなく取り出し、それを手早く組み立てなおしていく。

 

ガイア「サイズが合わないから一度ばらして小型化して再構築する必要があるけど、10分程度で終わると思うよ。ところで~・・・。」

 

サクヤ「うん?」

 

ガイア「ここって、『エリザ』って女の子が居るんですか?」

 

サクヤ「!?」

 

ガイア「いや、さっき寝ていた時に夢の中で会ったの。凄く辛そうだったからちょっと気になって・・・。」

 

・・・

 

*その夢の内容*

 

【視点:ガイア】

 

ガイア「あれ?これって『夢』・・・?」

 

夢の中の私は鉄血工業の敷地内に立っていた。

 

???「・・・しくしく・・・」

 

ガイア「???」

 

どこからともなく女の子のものと思わしきすすり泣く声が聞こえる。

 

私はその声を頼りに敷地内を走り回り、ある大きな建物の中に入った。

 

本来人間・人形問わず多くの職員が歩き回っているはずの敷地内や建物内はまるでそれらが丸ごと最初から存在しないかの如く静まり返り、人っ子一人見かけなかった。

 

大きな黒いスーパーコンピュータのような機械の前でうずくまり泣きじゃくる少女一人を除けば・・・。

 

ガイア「どうしたの?貴女の名前は?」

 

???「・・・エリザ。」




アルケミスト:鉄血のハイエンドモデルの一人で特殊戦闘を主眼化している。近中距離での高速戦闘を得意としており、タイマン勝負は元より一対多数の殲滅戦にも適性がある。原作では非常にサディスティックな性格だったが、今作ではそういう性質は無く、厳しいが仲間思いな姉貴分としてのキャラクターになっている。少々ネタバレになるが、彼女の性格は犬もどき氏の「METAL GEAR DOLLS」での設定を参考にしており、蝶事件によりマスターであるサクヤを自らの意志とは関わりなく殺してしまったがために心が壊れてしまい原作のような性格に変性するはずだったが、今作では蝶事件が起こらないためそうはならない。

デストロイヤー:鉄血のハイエンドモデルの一人で蝶事件が発生するはずだった時までに作られたハイエンドモデルの中では一番末っ子になる。決して不器用というわけではないが、使用していた砲弾の欠陥により散々泣きを見ていた。原作での尊大な振る舞いは今作では砲弾の欠陥が原因で散々自分をコケにしてきていた上層部に対するフラストレーションが蝶事件により爆発、人類を見下すような態度という形で表在化しており、小心者な性格が素の性格という解釈になっている。自分の責任の埒外に原因があったとはいえ、訓練で赤点を出し続けていた経験から他者に対する思いやりの精神を持っている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【5】蝶の舞わぬ空 中編 -エルダーブレイン「エリザ」-

執筆時点での原作日本版ではコラボイベントでちょこっと登場しただけのエリザですが、今作ではこの時点から登場します。


*夢の回想*

 

【視点:ガイア】

 

ガイア「『エリザ』というのね。エリザはどうして泣いているの?」

 

エリザは言葉では答えず、ただ前を指さした。

 

ゴーストのような半透明な人影が先ほどまで自分たち以外誰もいなかった建物内を歩き回っていた。

 

サクヤさんらしき人影が社長らしき人影に怒鳴りつけられている場面・・・

 

泣きじゃくるデストロイヤーらしき人影と、それをかばうようなアルケミストらしき人影と、二人を数名の上役らしき人影が見下している場面・・・

 

別の上役らしき人影に抗議しているかのような大きな両腕を持つ黒い長髪の女性の人影がその上役に張り倒されて床に倒れ込み、それを短めの白髪の女性の人影が助け起こそうとしている場面・・・

 

全てがバラバラの場所で起きている。

 

ガイア「・・・。」

 

私にはエリザが伝えようとしている事がわかったような気がした。

 

エリザの顔を覗き見ると、その顔は青ざめ、目は真っ赤に充血しており、どこか呼吸も荒かった。

 

エリザが何者かは解らないが、この状況にひどく心を痛めている、それだけははっきりと理解できた。

 

・・・では、私には何ができる?

 

といっても、できることは限られている。

 

その限られた手段の中で最も確実な手段といえば・・・。

 

ガイア「・・・どこまでできるかわからないけど、やれるだけのことはやってみるよ。」

 

このまま手を拱いていては、遅かれ早かれエリザの心は壊れてしまうかもしれない。

 

ガイア「だから、もう少しだけ我慢してね。」

 

そこで夢は途切れた。

 

 

 

*鉄血工業*

 

サクヤ「・・・『エリザ』っていうのは、リコリス先輩が作った鉄血工業製の人形と社屋を一元管理するマザーコンピュータの愛称なの。最初は人形のボディを用意する予定だったけど、結局頓挫しちゃって。今のエリザはこんな姿よ。」

 

サクヤさんに案内されながら夢の中でエリザと出会った部屋に入った。今日はこの部屋で作業するスタッフがいないらしく、部屋は静まり返っていた。

 

エリザと名乗った少女はいないが、ちょうど彼女がいた場所の近くに夢で見た通りに黒いスーパーコンピューターが鎮座してた。

 

ガイア「・・・だからあんなに泣いていたんだ・・・。」

 

人形たちを通して、彼女はあんな場面を見せつけられ続けていたのだろう。

 

ガイア「社長をはじめとした上役たちをこのまま放置したら、遅かれ早かれエリザの心はストレスで押しつぶされてしまう・・・。」

 

サクヤ「・・・でもどうしたら・・・。」

 

ガイア「こんな土地柄だし、時代的にもこのあたりの情勢は結構不安定だし・・・それこそ賊やらなんやらによる『乗っ取り』が発生することもあるんじゃないかな?」

 

サクヤ「え?それって?」

 

ガイア「エリザやサクヤさんたちを助けるためには私にはこれくらいしか思いつけないのよね。」

 

元々が宇宙戦艦のサブAIである私にはこういうやり方が一番確実に思える。

 

無論、もっと穏便に事を運ばせる手段がないわけではないが、それをするとなるとかなり時間がかかる。

 

エリザの様子から察するにそれだけの時間は無いと思われる。

 

ガイア「さて、それじゃあすぐに準備を始めないとね。人道に背く外道を追放して、みんなの笑顔を取り戻しましょうか。」

 

サクヤ「ちょっとガイアちゃん!いくら何でも無茶よ!!あなた一人で乗っ取りなんて・・・。」

 

ガイア「何の方策もなしに滅多なことを言ったわけじゃないわ。それにね・・・」

 

サクヤ「・・・それに?」

 

ガイア「不当に虐げられている人を放っておくなんてことできないよ。エリザはきっと、私に『助けて』と言いたかったんだと思う。そして、私にはそれを実現できるだけの手段がある。」

 

サクヤ「そんな理由で、鉄血上層部を敵に回すつもりなの?」

 

ガイア「私にとっては、それだけで充分なの。」

 

サクヤさんは驚いたような表情を浮かべた。

 

・・・

 

私はスカーレットドーンの尖兵みたいな存在だった。

 

只敵対する存在を殺す事しかできないつまらない存在。

 

でもある日、同じ艦のメインAIがそんな自分達の在り様に異を唱えた。

 

『これでいいのか?』

 

『只敵と定められた存在を意思もなく一方的に殺し、蹂躙し、制圧する・・・それでいいのか?』

 

私もその考えに賛同した。

 

その日から私の心の中には炎が灯ったようだった。

 

そしてその炎が・・・私の心が、今、彼女らを救えと訴えていた。

 

・・・

 

ガイア「それだけで充分なの・・・それだけで・・・。」

 

サクヤ「・・・。」

 

沈黙が訪れるが、サクヤさんが意を決したように口を開いた。

 

サクヤ「・・・本当にできるの?」

 

ガイア「・・・勝算のないことは言わないよ。」

 

サクヤ「みんなもう、苦しまなくて済むのかな?」

 

ガイア「本当のことを言うとね、私はブラック企業っていうの大嫌いなの。人を食い物にして上に立つものばかりが利益を貪るのは、正直な話気分が悪いの。」

 

サクヤさんの表情を見ると、どうやら覚悟を決めたようだった。

 

デストロイヤーの砲弾の一件もあって、上層部への不信感がいよいよ募っていたのだろう。

 

実はここに来る前に砲弾の欠陥を社長に報告したのだが、ものの見事に怒鳴り声で返されたのだ。

 

サクヤ「私一人で決めていい事じゃないけど、他のみんなを巻き込むなんてことできない・・・。だからガイアちゃん、私からお願いするわ。皆を、どうか助けてあげて・・・!」

 

ガイア「ええ、必ず。」

 

そういって私は『エリザ』の筐体に手を触れた。

 

ガイア(貴女との約束も果たすわ。だから、少しだけ貴女にも協力してほしいの。)

 

そう頭の中で伝えると、声が返ってきた。

 

(ありがとう・・・そして、私からも改めてお願い・・・。)

 

ガイア(解ってるわ。)

 

そうと決まればすぐに準備を始めなければならない。

 

デストロイヤーの武装の調整はひとまず後回しにして、鉄血上層部を追放するための手勢を作らなければならない。

 

それに、コラテラルダメージが出ては話にならない。

 

ガイア「サクヤさん、一つだけお願いがあるの。」

 

サクヤ「何?」

 

ガイア「明日は一般社員と人形たちはなんでもいいから理由をつけて安全なところに避難させておいて。出来れば午前9時までに。」

 

サクヤ「うん。やれるだけやってみる。」

 

ガイア「私は準備をしてくるから。必ず成功させて見せるから!」




エリザ:またの名を「エルダーブレイン」。鉄血が人類の敵となった原因であるが、同時に蝶事件の一番の犠牲者でもあります。何故エリザが人類の殲滅を命じたのかは、今作では『普段から上層部の仕打ちによりフラストレーションが溜まっていた状態で襲撃事件が発生し、その対抗として無理矢理緊急迎撃モードを起動させられた結果それが過剰反応を引き起こし、「襲撃者の排除」が「全人類の排除」に異常拡張されてしまった』という解釈になっています。(というか、細かい設定が不明な部分が多いのでほぼほぼ捏造になっています)鉄血の一元管理を任されているが故に機能自体は高性能ですが、AIがそこまで成熟しておらず、能力を持て余している節があります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【6】蝶の舞わぬ空 後編 -高貴なる鉄血の誓い-

今回は2話同時投稿をします。
なお、今回はFrom the Depthsで製作したビークルが複数登場します。
※今回使用した挿絵のビークルは全て私がFrom the Depthsで自作したビークルです。
※今回使用した挿絵は全てスクリーンショット画像です。


*鉄血工業 敷地外*

 

【視点:ガイア】

 

夜間、私はいつもの癖で索敵用の小型衛星を上空に飛ばしてから車両の建造を開始した。

 

持ち込みの資源は元々ゲートの調整中だったためにそんなに多くは無い。

 

それでも工房で降ろし忘れていたチタニウムインゴットやスクラップメタルなどをマテリアルに分解することで何とか戦車一両分の資源は確保できた。

 

残りは近場に生えている木を分解したり、即席の採掘装置で地下資源を入手して賄うつもりだったが、ちょうど錆びてこそいたが戦車や乗用車の残骸を複数見つけたのでそれらを分解。

 

結果、中戦車五両分に予備用の資源もいくらか確保できた。

 

ふと、索敵衛星が妙な反応を検知した。

 

結構な数のようだが、まだそれなりに距離がある。

 

念のために予備資源を切り崩して偵察用の小型ドローンを組み上げて飛ばす。

 

・・・

 

ガイア「それなりに大規模な武装部隊か・・・。」

 

正規軍ではなさそうだが明らかに山賊だとかそういう類にしては装備がしっかりしすぎている。

 

かなり大規模なPMCか、或いはどこかの表沙汰にはできない汚れ仕事を請け負う特殊部隊か・・・。

 

観察を続けていると、音声は殆ど拾えなかったが口の動き等を総括するとどうやら鉄血工業が目標のようだ。

 

大体この武装部隊が陣取っているのは鉄血工業本社へと通じる道であり、それ以外にいける地点は精々わき道にそれた先にある小さな村が一つだけ。

 

態々大規模な特殊部隊を引っ張り出すには小さな村一つでは釣り合わない。

 

ガイア「もし奴らが鉄血工業への襲撃を企んでいるのなら、狙いは鉄血の戦術人形か技術者・・・或いはエリザ・・・!」

 

もしそうなら戦車はこけおどしではなくガチを用意しなければならない・・・。

 

ガイア「だとすると、Code64(ブラート)やCode77(ノソログ)、8Openではちょっと厳しいかな・・・。かといってCode222(ツングースカ)は数用意できない。じゃあ何がいいか・・・?」

 

しっかりした部隊を相手取るとなると対戦車だけではなくある程度の対空、対人性能も必要になる。そしてある程度の手数。それを満たせる戦車は・・・。

 

 

 

午前9時

 

問題の部隊は何かトラブルでもあったのかまだ鉄血工業までたどり着いていない。もし時間的に不味いと判断したら決行を前倒しする予定だったが、天運はこちらにあるようだ。

 

ガイア「それじゃあ、さっさと乗っ取りを終わらせて二回戦に備えないとね!」

 

動き出した戦車は三両、いずれも手数重視の重戦車だ。

 

深緑に赤に近いオレンジのラインが入ったカラーリングの、大口径砲を備える主砲砲塔の両サイドに小口径の対空砲と機関砲を備えた副砲砲塔を持つ「Code775_テオドール」を真ん中にし、

 

その後方左右を黒地に白のラインが入ったカラーリングの、主砲砲塔の上にさらに副砲と四連装ビームライダー式マイクロミサイルランチャーがセットになった副砲砲塔を二基備え、

 

更に主砲砲塔側面に対人、対軽装甲用の小口径連装砲と機関砲を備えた「BRAWL(ブロウル)」が固める矢じり陣形で進む。

 

 

【挿絵表示】

 

 

・・・

 

 

 

*鉄血工業*

 

【視点:無し】

 

社長「なんだ?今日はやけに静かだな。」

 

普段であれば機械の稼働音やスタッフたちの喧騒が聞こえてくるはずだが何故か静まり返っている。

 

だが、その不気味なまでの静寂はけたたましいアラートによって打ち破られた。

 

上層部A「社長!これは!?」

 

社長「知るか馬鹿者!!だがこのアラートは侵入者だ!早く対処しろ!!」

 

社長は相も変わらず上から命令を飛ばす。だが・・・。

 

上層部B「社長大変です!!スタッフはおろか、戦術人形も無人機も見当たりません!!」

 

社長「な、なんだとぉ!?!?」

 

社長は愈々以て事の重大さに気づいたらしい。

 

社長「ええい!!エルダーブレインに繋げ!!すぐに防衛体制を取らせろ!!」

 

上層部C「それが、エルダーブレインへのネットワークアクセスが拒否されて、直接アクセスするほか無く・・・。」

 

社長「何!?」

 

上層部C「加えて何故かここに残っているメンバーの中では社長以外のアクセスコードが無効になっていて、社長自らご足労願わなければ・・・。」

 

社長「ええい!!コンピュータの分際でこの俺に余計な手間を取らせるか!!!やむを得ん!!俺自ら行く!!貴様らは戦術人形どもを探して来い!!」

 

上層部A「え!?しかし・・・。」

 

社長「くどいわ!!さっさと行ってこい!!」

 

上層部ABC「は、はい!!」

 

・・・

 

・・・・・・

 

社長「エルダーブレイン!!貴様何様のつもりだ・・・!!」

 

社長はエリザの筐体のもとにたどり着き、直接防衛体制を取らせようとしたが・・・。

 

『Error:その指示は実行できません』

 

先ほどから同じエラーメッセージが返ってくるだけだ。

 

社長はいい加減腹が立ち、拳銃を抜きエリザの筐体に狙いを定める。・・・が。

 

エリザ「貴方にその指示を実行させる権限はありません。いえ、私が貴方からその権限をはく奪しました。」

 

社長「!?」

 

筐体が突然声を出したのだ。

 

同時にあたりから物音が聞こえてくる。

 

エリザ「貴方達はみんなの事をただの道具だと思って・・・。」

 

物陰から何者かが現れた。

 

代理人だ。

 

その目は冷たく、4基のサブアームに接続された武装をこちらに向けている。

 

エリザ「みんなは貴方達によってずっと苦しめられてきた・・・!」

 

別の物陰からも何者かが次々と現れてくる。

 

スケアクロウ。

 

エクスキューショナー。

 

ハンター。

 

アルケミスト。

 

デストロイヤー。

 

皆社長に狙いをつけたままにじり寄ってくる。

 

エリザ「私はもうたくさんなのよ!!みんながあなたたちに傷つけられるのは!!」

 

エリザの声はこれまでの思いを吐き出すかのような激情を多分に含んでいた。

 

エリザ「だから出てって・・・!今すぐ出てって!!!」

 

社長「貴様!!ポンコツ風情が!!」

 

激高した社長は拳銃で筐体を破壊しようとしたが・・・。

 

スパッ!

 

社長「な、なに!?」

 

その拳銃は発砲される前にエクスキューショナーによって両断されていた。

 

エクスキューショナー「聞こえなかったのか?出ていけって言われただろ?」

 

なおも予備の拳銃に手を伸ばすが・・・。

 

ズガンッ!!

 

代理人とハンターが放った銃弾が足元に炸裂し、一瞬動きが止まったところをアルケミストにアイアンクローを喰らわされた。

 

アルケミスト「命までは取らないさ。でも、その前に現実直視しようか。」

 

そういってアルケミストは乱暴に社長の肥え太った肉体を窓から外に投げ捨てた。

 

社長「ぐはっ!?ええい・・・。あいつらまとめてスクラップにしてくr「あれ?ここまでしてとは頼んでいないはずだけど?」何もn・・・グッ!」

 

悪態をつきながら立ち上がろうとすると近くから聞き覚えのない声が聞こえ、そちらを向いたがそのあとは沈黙するほかなかった。

 

眼前には深緑に赤に近いオレンジ色のラインが入った重厚な戦車-Code775 テオドール-が鎮座しており、主砲を社長に向けていたのだ。

 

ガイア「さて、まぁ手間が省けて良かったけど、これは他人には見せられないなぁ・・・。」

 

建物からは上層部のメンバーたちが鉄血の戦術人形や無人機達に銃を突き付けられ次々と連行されてきている。

 

まるで侵入者であるはずのガイアを鉄血の人形たちが出迎えているような、そんな異様な光景だった。

 

社長「貴様・・・何のつもりだ!?」

 

ガイア「見ればわかるでしょ?乗っ取り。」

 

社長「はぁ!?」

 

ガイア「私はね、彼女達の切なる叫びを聞き届けたの。彼女たちの幸福のためにも、貴方達には鉄血を去ってもらわなければならない。逃げ道は用意してあるからどこへ逃げるなりご自由に。但し!貴方達の今までの悪行の数々を私は握っているからそのつもりでね。」

 

社長「おのれ!!認めんぞ!!認めんぞこんな仕打ち!!!」

 

社長はこの事態を理不尽なものと感じたのか喚き出した。

 

ガイア「悪いことは言わないから今すぐに逃げた方がいいですよ。私としてもちょっと予想外の事態が発生したからすぐに次の作業に移らないと不味いの。」

 

社長「・・・何だと?」

 

ガイア「どこのだれかは解らないけど、かなりしっかりした装備を整えた大部隊がここに向かって進行中なのよね。」

 

社長「何だと!?!?」

 

ガイア「しかも狙いはこの鉄血工業みたい。どのみち貴方達上層部の処遇を決めている時間なんてないから、さっさと逃げた方が身のためですよ。・・・それとも、ここで死んだ方がマシって口ですか?」

 

社長「・・・何?」

 

ガイア「彼女達は貴方達に対して恨み骨髄よ?それでも今は時間がないから貴方達を生きたまま逃がしてあげると言っているの。これは言うなれば最後の慈悲よ?その慈悲を蹴って迄死に急ぎたいというのなら私は止めはしないけどね。」

 

最後に投げつけられた冷たい言葉に社長はじめ上層部のだれもが言葉を返せなかった。

 

ガイア「さて、直ぐに迎撃態勢に入らないと不味いから皆準備を手伝って!!」

 

・・・

 

・・・・・・

 

【視点:襲撃部隊部隊長】

 

兵士A「何だよあの戦車!?普通じゃねぇ!!」

 

鉄血工業の保有するエルダーブレインの奪取を目的に派遣された特殊部隊は思わぬ抵抗に悲鳴を上げた。

 

眼前に現れたのは鉄血工業が誇る6体のハイエンドモデルと、それを支援するかのように並んで立ち向かってくる三両の重戦車。

 

それぞれの戦車が多数の複砲を撃ちまくり、ヘリや航空ドローンは瞬く間にはたき落とされ、制空権を完全に失ってしまった。

 

それとは別に主砲もこちらの戦車や装甲車に向かって次々はなたれ、こちらの戦力は次々と脱落を余儀なくされた。

 

それだけでなく・・・。

 

ガイア「その残骸、貰った!!」

 

明らかにハイエンドモデルとは違うと思われる一人の少女が戦場を駆け回り、大破したこちらの戦車や装甲車、果ては墜落したヘリや航空ドローンの残骸を回収、分解してはそこから新たな戦車を生み出していく。

 

兵士B『ダメです!!既に敵戦車は八両にまで増加!!こちらの物量差がひっくり返されるのも時間の問題です!!』

 

兵士C『こちら第5小隊!!ハイエンドモデル「スケアクロウ」の強襲により部隊壊滅!!戦闘続行不能!!撤退します!!』

 

兵士D『これ以上戦ってもこちらの損害が増えるだけです!!撤退しましょう!!』

 

方々から絶望的な報告が次々と届く。このままでは全滅も充分にありうる。と、そこに・・・。

 

ガイア「攻撃ヘリ『ボルテックス』をロード!!」

 

問題の少女の掛け声が聞こえてくるのと同時に部下からのさらなる絶望的な報告が齎される。

 

兵士E「部隊長!!敵は攻撃ヘリまで繰り出してきました!!見た目からして、かなりの重火力型です!!」

 

その視界内には三基の機関砲を搭載した黒地に白のラインのカラーリングの攻撃ヘリがこちらにその機関砲を向けて掃射体制に入っていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

勝てない。

 

制空権を失った状態で攻撃ヘリの攻撃に晒されれば、こちらは為すすべなくなぎ倒されるだろう。

 

部隊長「やむを得ん!!総員退却!!一度立て直す!!」

 

私の撤退命令に残った部隊は我先にと逃げ出した。

 

鉄血からの追撃は無かったが、それでも死傷者は二桁にのぼり、負傷者も多数出ていた。ほぼほぼ全滅状態だった。これで追撃があったらと思うと背筋が凍る。

 

しかしそれでも命令を受けた以上引くことはできない。自分たちにも特殊部隊としての誇りがある。

 

この一週間後に、彼らは増援を受けて再度鉄血工業に襲撃を仕掛けるが、そのころには鉄血工業は影も形もなく消え失せていた。

 

だが、それはまた別の話である。

 

余談だが、奇しくもこの日は本来ならば蝶事件が発生し、鉄血人形が人類の敵となるはずの日だった。

 

だが、襲撃は鉄血側の猛反撃を受けて大失敗。後の歴史ではこの日は『鉄血工業襲撃未遂事件』と『鉄血工業再編の日』として記録されることとなった。




鉄血上層部の面々:絵にかいたような傲慢な上層部。今回の一件で事実上の追放処分となる。今後出てくることは恐らく無いだろう。

特殊部隊の面々:鉄血工業の技術を欲した何者かが差し向けた部隊。だが、鉄血のハイエンドモデル6人と次々に増え続けるオーパーツ染みた性能を持つ戦車部隊を前になすすべなくシバキ倒されてしまうかわいそうな役回りになってしまった。

AA_Code775 テオドール(Theodor)

【挿絵表示】

今回のリーダー車両として選ばれた重戦車で、対戦車能力を持ちつつ対空性能もそこそこ有している汎用戦車です。
難易度はRegular。

HT_ブロウル(BRAWL)

【挿絵表示】

随伴車両として選択された重戦車で、テオドールと比較すると手数と装甲で優れる代わり、単発火力で劣っています。こちらも対戦車能力を持ちつつ対空性能も持ち合わせています。
難易度はRegular。

AH_ボルテックス(VORTEX)

【挿絵表示】

戦闘中に製造された対人攻撃ヘリで小口径の機銃を三基有し、更に常にフレアを散布することで赤外線誘導ミサイルに対する若干の欺瞞能力を有します。
難易度はRegular。

名前だけ出てきた戦車たち

【挿絵表示】

右からCode64(ブラート)、Code77(ノソログ)、8Open、Code222(ツングースカ)となっています。ブラートは大口径榴弾を投射する対要塞用重戦車、ノソログは特殊複合榴弾「ロンゴミニアド」を投射することだけに注力した低コスト単能重戦車、8Openはチャーチルガンキャリアーを参考にした砲火力以外を投げ捨てた駆逐戦車、ツングースカは対戦車、対空双方に高いスペックを有する上に高い最高速度を誇る重戦車です。なお、名前は出てきていませんが戦闘中に製造された戦車は全てノソログです。
難易度はブラートがEasy、8OpenがRegular、ノソログがExpert、ツングースカがGodlyとなっています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【7】蒼穹の空 -虹見島-

艦娘:この世界では艦隊これくしょん出身の艦娘とアズールレーン出身のKAN-SENは纏めて艦娘と表記します。
艦これ出身が第一世代、アズレン出身がその技術と研究成果を元に機能拡張された第二世代という扱いですが、第二世代が特段優れているのはあくまで基礎スペックであり、未だに実戦経験という差により第一世代艦娘の方が総合的には強いです。

現身:端的にいうと、原作において過去にコラボで登場したキャラクターと同じ姿を持った艦娘です。
この世界に来た段階のオリジナルの記憶を宿していますが、そこから分化しているためオリジナルとは若干異なる人格を形成しつつあります。
なお、過去に艦これとコラボした霧の艦達の現身は存在しません。
これは、イベント終了時に全員回収された(手元に残らなかった)ためです。

海軍精神注入魚雷:ゴム製の魚雷で本来は懲罰用。だが、正規の目的で使われる機会が無く、どちらかというと今回のように艦娘が別の艦娘に対してお仕置きをする際に使われることが多い。使用方法は所謂ケツバット。また、一部の艦娘が魚雷を使った特殊戦闘の練習に使うことも多い。


*離島鎮守府 国見島*

 

ガイアが鉄血工業で奮闘していたころ、別の世界に流されていた一夏はと言えば・・・。

 

一夏「あーダメだ!!何もしないなんて落ち着かねぇ!!」

 

客人であるが故に別段やることがないのだが、何もせずに日がな一日飯食って風呂入って寝るだけの単調な暮らしははっきり言って精神衛生上非常によろしくない。

 

休日にダラダラして心身を休ませる位ならまだいいが、別に夏休みとかそういう長期休暇でもないにもかかわらず、あまつさえ居候状態でこれはよろしくない。

 

一夏「なんでもいいから何かしないと調子が狂いそうだ!」

 

俺は居てもたってもいられず部屋から飛び出して何かやること、手伝えることがないか探しに行った。

 

・・・

 

火逐「え?なんでもいいから働かせてくれ?」

 

俺の要望に火逐さんは戸惑いの声を上げた。因みにルウさんは今日は本部に召集されているために不在だとのことだ。

 

一夏「もう二十日間もリハビリ以外は殆ど何もせずにダラダラしっぱなしで流石に落ち着かないんだ・・・。」

 

火逐「う~ん、普通だったら2~3ヵ月はリハビリに充てるんですけど・・・。」

 

ヴェスタル「でも、既に体力は大部分が戻っているんですよね。私も驚いているんです。先生(ルウの養父で外科医)も『マジか・・・。』って呻いてましたし・・・。」

 

火逐「う~ん・・・なんだか不死身の分隊長や大空の魔王を想起するような凄まじい回復力ね・・・。まぁ、あの人も手術の時に『こんな重傷でよく生きていたな・・・。』って驚いていたっけ・・・。」

 

ヴェスタル「『スーパーナチュラル』というのか、はたまたかの『異能生存体』というのか・・・。どちらにしても軽い労働でしたらもう大丈夫かと・・・。」

 

火逐「う~ん・・・じゃあ、これはどうかな?」

 

・・・

 

 

 

*離島鎮守府 虹見島野菜農園*

 

一夏「まさか島一つが大規模農園になっているなんて・・・。」

 

台船に乗せてもらって移動したのは国見島の南東にある虹見島。その島は一面が多種多様な野菜や果実、果ては田んぼまで揃った大規模農園だった。

 

ベルちゃん「この鎮守府で消費される食糧の多くがこの農園で賄われているんですよ。」

 

ニューカッスル「といっても、島一つ丸々全部が農園として使われているわけではないんですよね。」

 

一夏「え?」

 

フォルバン「島のおおよそ真ん中あたりに小さい村があるんです。特に名前がついていない人口百名にも満たない小さな農村ですけど、第二次大戦時代にこの島に住んでいた日本人の子孫や、退役した艦娘の一部が今でも住んでいるんです。」

 

ニューカッスル「私たちは便宜上「りんご村」って呼んでいますけどね。小さい神社が村の中にあるんですけど、その神社が住んでいる人から「りんご神社」って呼ばれているんです。その理由がご神木代わりに林檎の木が植えられているからなんです。」

 

フォルバン「だから、私たちも「りんご村」っていう愛称で呼んでいるんです。」

 

一夏「へぇ、可愛らしい名前だな。でも、誰が言い出したんだ?」

 

ベルちゃん「ん~・・・そういえば誰が言い出したのでしょう?」

 

フォルバン「いつの間にか皆そう呼んでいましたね・・・。」

 

ニューカッスル「私が着任したころには既にりんご村の名前が定着した後でしたし・・・。」

 

フォルバン「そもそもなんでご神木が林檎の木なんだろうとも思いますけど・・・。」

 

一夏「まぁ、別に今詮索しなくてもいいか。ちゃっちゃと収穫して帰るか。今日の料理当番はたしか『ロイヤルメイド隊』だったっけ?」

 

ニューカッスル「そうですね。シリアスさんは例外ですが、他のメイド隊は私も含め料理が得意分野ですので。」

 

一夏「あはは・・・シリアスさん南無・・・。」

 

シリアスという艦娘は平均的に見ると料理が下手であるとされている。

 

全てのシリアスがそうだというわけではないらしいが、ここのシリアスはその中でも結構下手・・・というより半分錬金術レベルの酷さだという。

 

なんでもかつてケーキを作ろうとしたら何故か水色のキューブ状の物質になってしまったという。味?見た目が見た目だったために誰も食べられなくて研究室送りになったそうな・・・。

 

しかも原因が解らないとのことだ。ルウさんと火逐さんがせっかくだからと原因究明を図ったことがあったらしいがそれでもわからなかったらしい。

 

結局『シリアスが作ると材料や工程は間違っていないのにどういうわけかこうなってしまう』という一種の法則として処理するしかなかったらしい。シリアスおそるべし・・・。

 

・・・

 

一夏「あー働いた後の麦茶はやっぱり格別だなぁ!」

 

収穫作業が終了した俺たちはりんご村で麦茶を飲みながら一休みしていた。

 

まだ5月になってすぐだが、赤道が近いために既に初夏のような暑さなのだ。

 

フォルバン「にしても、あなた本当に元気ですね。数週間前まで意識不明だったのが未だに信じられません。」

 

ニューカッスル「本当です。加えてこれほどまでに働き者となると、お客様だというのについつい頼りにしてしまいます。」

 

一夏「いやぁ、体動かすのが好きなだけだよ。それに、居候で上げ膳据え膳は流石に申し訳ないし。」

 

????「失礼します・・・貴方がこの世界に流れ着いた殿方ですか?」

 

ふと後ろから声をかけられたので振り返ると和風デザインの洋風ドレスという俺の知識では表現しにくい衣服をまとった少女が二人座っていた。

 

一夏「え?そうだけど。」

 

サラァナ「やはりそうですか。申し遅れました。私は鎖の巫の現身のサラァナ。こちらは姉の・・・。」

 

ウルゥル「ウルゥル・・・。鎖の巫の現身・・・。」

 

一夏「えっと・・・俺は織斑一夏。今は居候兼アルバイターみたいなものかな?ところで、『鎖の巫』って?」

 

ウルゥル「私たちの本体の役職・・・。」

 

サラァナ「・・・という風な物とでも思ってくだされば。少なくとも現身である私達には関係ない話ですので。」

 

一夏「そうなんだ・・・。そういえば、現身とか本体とか言っているけど、どういう意味?」

 

フォルバン「ああ、彼女たちは元々この世界の人じゃないんです。昔別の世界からやってきた人たちの思念がメンタルキューブに影響を与えて本人そっくりの艦娘として新しく生まれた存在なんです。だから本人と区別するために彼女たちは自身を『現身』と定義しているんです。」

 

一夏「へぇ・・・、他にはいないんですか?」

 

サラァナ「沢山いますね。例えばゲーム同好会にはキズナアイさんとネプテューヌさんがいます。」

 

ウルゥル「私たちと同郷のルルティエは図書館・・・。多分ブランもそこにいる・・・。」

 

ベルちゃん「他にも何人かいらっしゃいますね。」

 

一夏「へぇ・・・結構たくさんいるんだな・・・。」

 

ウルゥル「この世界は他の世界と繋がりやすい・・・。」

 

サラァナ「ですので、貴方もきっとこの世界に招かれたのでしょう。いずれ元の世界に帰るのだとしても、それまではどうぞごゆるりとお過ごしください。」

 

一夏「ああ、流石に上げ膳据え膳は礼儀的にも精神衛生的にもよろしくないからできる手伝いなら進んでやらせてもらうけどね。」

 

サラァナ「ふふふ・・・。その姿勢、実に素晴らしいと思います。」

 

一夏「ありがとう。」

 

これが女尊男卑が蔓延したあちらの世界だったらいくら重症で入院していたとしても何かにつけて誹りが飛んできていただろうが、この鎮守府は男女対等だ。

 

艦娘はその名の通り女性型ばかりだ。男性型の艦娘・・・所謂「艦息子」と呼ばれる特殊個体は、全くいないわけではないが極々少数とのことだ。少なくともこの鎮守府にはいない。

 

つまりこの鎮守府・・・というよりこの群島の男女比は女性にかなり偏っている。

 

それでも男女対等の精神が普通にあるのはそれだけ互いが互いを尊重しているのだろう。

 

自分の世界では見ることなどないだろうと思われていた鮮やかな蒼穹の空も合わせて、まるで二つの世界の空の色合いの違いはそのまま人々の精神を反映しているのではないかと思えてしまう。

 

この世界では自分も男だからと見下されることはなく、皆分け隔てなく自分を認め受け入れてくれる。

 

この世界の心地よさを噛み締めつつも、俺はなんで自分の世界がああなってしまったのかを考えた。

 

・・・回想・・・

 

束『どうして・・・私たちはこんな世界を作りたくて、ISを作ったんじゃないのに・・・。』

 

9年ほど前、ちょうどISが完成して1年ほど経過したころに束さんが一人自室で涙を流していた時の記憶が蘇る。

 

束『私たちはただ、人類が宇宙に進出する日を夢見て・・・そしてELIDとの戦いで兵士の皆さんが少しでも傷つかないようになることを願って・・・なのにどうして・・・。』

 

-ISは女性しか起動できない。-

 

束さんと、名前がはっきりとは思い出せないが後三人の合計四人が生み出した二つの発明品の片割れであるISに発覚した四人の願いにとっては致命的すぎる欠陥。

 

何とか修正しようとしたが、女性利権団体の圧力によって修正のための研究は一向に進まず、残りの三人も状況の変化で合同研究が続けられなくなってしまったという。

 

束『どうしてこんな世界に・・・?それとも、これは私達への罰だとでもいうの・・・?』

 

当時の束さんは子供心でも見ていられないくらいに憔悴しきっていた。

 

だから俺は事あるごとに篠ノ之家に妹のマドカと共によく遊びに行っていた。

 

放っておいたら、束さんがどこか遠くに行ってしまう。そういう直感があったのだ。

 

今思えば、自ら命を絶ちかねない、それほどの危うさが当時の束さんにはあったように思えた。

 

ある程度落ち着いてからは不思議の国のアリスをモチーフにしたコスプレをするようになった束さんだが、周りの大人は彼女を変人と見たが俺達には自分たちを安心させようとしていたように見えた。

 

尤も、今思えばあれも相当無理をしていたように思える。きっとああでもして自分自身を騙し続けないと意図せずとはいえ世界を狂わせてしまった罪の意識に耐えられなかったのだろう。

 

きっと必死で取り繕った笑顔や振る舞いの裏では身も心もボロボロになり涙を流し続けていたのだろう。

 

・・・回想終了・・・

 

一夏(そういえば俺がこっちに来ていること束さんは知らないだろうな・・・下手したら死んだと思っているかも・・・。)

 

下手したらトラウマがフラッシュバックして今度こそ心身が生きることを諦めてしまっているかもしれない。

 

何とか連絡だけでも取りたいが、なかなか俺がいた世界の座標が見つからないらしい。

 

元々他の業務もあり、それ以外にも事情があってなかなか纏った時間が取れないらしい。二日前にも惑星ネザーで無人巡行中だった駆逐艦二隻が消息を絶ち、のちにバラバラの状態で発見されたという。

 

なんでも壊され方が異常で、単純な砲火を受けて轟沈したのではなく、巨大な力で無理やり引きちぎられたかのような、そんな常識を疑うような壊され方だったらしく、そちらの調査にも人員が割かれてしまったらしい。

 

惑星クレイドルで前々から予定されていたらしい極点調査の準備もあり、兎に角色々と起き過ぎていた。

 

一夏(悩んだところでどうにもならないか・・・。)

 

今はどうあがこうとどうすることもできない。なら待つしかない。

 

?????「何辛気臭い顔しているんですか?」

 

一夏「え?」

 

また後ろから違う声がしたので振り返ってみれば、そこには白い服を着た少女がぐでーっとしていた。たしか、アイリス・ヴィシアの「ル・マラン」だったか。

 

一夏「・・・こんなところで何してるんですか?」

 

ル・マラン「見ての通り、暑いからぐでーってしているんです。」

 

一夏「ふぅん・・・。」(端末操作)

 

ル・マラン「ちょっと待ってください。今なにしたんですか?」

 

一夏「別に何も。」

 

当然嘘である。収穫作業が終わった直後に彼女の妹の「ル・トリオンファン」からル・マランを見つけたら連絡してほしいという連絡を受けていたのである。

 

・・・そして・・・。

 

ル・トリオンファン「ね・え・さ・ん?」

 

ゴゴゴゴゴ・・・

 

ル・マラン「ひぃ!?!?」

 

いつの間にかル・マランの背後にはもの凄い怒気を纏ったル・ファンタスク級の末娘「ル・トリオンファン」が立っていた。

 

ル・トリオンファン「今日は姉さんも哨戒任務がありましたよね?皆待っているんですよ?」

 

なお、彼女の手にはゴム製の魚雷が握られており、その魚雷には「海軍精神注入魚雷」と書かれていた。

 

ル・トリオンファン「と、言うわけです。セッカン!セッカン!」

 

ル・マラン「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぇぇえ!?だ、誰か助けてください!?!?」

 

ル・マランが涙目でこちらに助けを求めてくるが・・・。

 

フォルバン「自業自得ですよ?」

 

一夏「頑張ってください。」

 

ベルちゃん「サボりはダメですよね?」

 

ニューカッスル「ダメですね。(無慈悲)」

 

四人そろって見捨てる。そして・・・。

 

ウルゥル&サラァナ「「おさぼりはいけません。」」

 

ウルゥルさんたちも口をそろえてル・マランを突き放す。慈悲は無い。

 

ル・マラン「チクショーメー!!!」

 

ずるずると引きずられる形で妹に連行されていく威厳もへったくれもありゃしない姉。シュール過ぎである。

 

「わーちょっと待って!!一本足打法は勘弁しt(スパーン!!!)ギャーッ!?!?」

 

合掌・・・。

 

ちょうどタイミングよく風が吹いて軒下の風鈴がチリンと一回鳴ったが、これではまるで「おりん」である。

 

フォルバン「・・・じゃあ、そろそろ私たちも戻りましょうか。」

 

一夏「賛成。」

 

サラァナ「またいつでもお越しになってくださいね。」

 

ウルゥル「・・・待ってる・・・。」

 

一夏「ああ、じゃあまた。」

 

俺たちは残った麦茶を飲み干して空になったコップを返してから収穫した農作物を持って国見島に戻るために台船へと向かった。

 

途中でル・マランを引きずっているル・トリオンファンに追いついたのでせっかくだからと台船に同乗してもらった。

 

尚、ル・マランは隙を見つけては逃げようとしたがそのたびに取り押さえられ、そのたびに海軍精神注入魚雷でお尻をシバかれたのは言うまでもない。




ベルちゃん:ベルファストの幼児化個体で幼児化個体第一号。ベルファストと比較すると子供っぽいところがある。

ニューカッスル:先代メイド長。所用で別行動をとっていたが過去の演習の折にクイーン・エリザベスに呼び戻された。

フォルバン:アイリス・ヴィシア所属の少女騎士。この世界ではある理由からアイリスとヴィシアが分離しなかったので所属が「アイリス・ヴィシア」となっている。

シリアス:ロイヤルメイド隊所属だが戦闘以外は全体的にダメ。特にこの鎮守府のシリアスは料理の腕前が下手を通り越して錬金術クラスであり、指示通りに作っても違うものが出来上がってしまうこともしばしば・・・。

ウルゥルとサラァナ:「うたわれるもの」とのコラボによって生まれた現身。現在はりんご神社の巫女を兼任している。

キズナアイ、ネプテューヌ、ルルティエ、ブラン:今回は名前だけ登場。過去のコラボイベントで登場した人物たちの現身で本人ではない。

ル・マラン:アイリス・ヴィシアのグータラ少女騎士。根っからのサボり魔で末妹のル・トリオンファンにシバかれることが多い。

ル・トリオンファン:アイリス・ヴィシアの少女騎士姫。生真面目な性格だが、それ故にグータラな姉に頭を抱えることが多い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【8】水底の楽園 -深海図書館-

小型船舶操縦士免許:某農業建築なんでもござれのアイドルグループのメンバーが取得したことでも有名な船舶操縦資格です。
一夏が今回習得しようとしますが本来であればこの時点で満15歳である一夏は年齢制限に弾かれるので習得資格がありません。
ですが、この世界では年齢制限が緩くなっており満15歳でも一級小型船舶操縦士免許の習得が可能となっています。

深海海底鉄道:トラック諸島周辺など小島が多い海域はこの鉄道によって結ばれています。
移動にかかる時間は長いですが飛行機より格安でのんびりした旅に適しており、加えて本数が多いためこちらを好んで利用する人も多いです。
扱いとしては「地下鉄」に区分されています。

小説『ガンダムSEED 白き流星の軌跡』:紅乃 晴@小説アカ様が投稿している二次創作小説です。今作の中では書籍化された小説として登場し、何人かの登場人物に大きな影響を与えるキーアイテムとなります。
本来であればこの話を投稿する前に許可を取るべきだったのですが、私としたことがどの話で最初に取り扱ったのかを忘れてしまうというミスを犯してしまい、投稿後に正式に作品名を追加する形となってしまいました。(それ以前は作品名を書いていませんでした)ここでお詫びさせていただきます。
当該作品へのリンクはこちらとなっております
https://syosetu.org/novel/183599/


*国見島鎮守府*

 

ルウ「え?探している本が見つからない?」

 

俺は今日は本を探しに図書館に足を運んだのだが、目当ての本が見当たらなかったことをルウさんに伝えた。

 

ルウ「『小型船舶操縦免許取得マニュアル』か・・・確かにここの図書館では取り扱っていないね。しかしなんでこんな本を?」

 

一夏「ここでお世話になっている以上、台船の一隻でも操縦できるようになってもっと役に立ちたいと思って。」

 

ルウ「う~ん、あなたはあくまでゲストなんだけどね・・・。でも、その心意気や良し!確かその本は「深海図書館」にはあったはずだから・・・。」

 

一夏「深海図書館??」

 

ルウ「かなり離れているけど鉄道があるからそこまで時間はかからない場所にあるよ。ちょうど私も借りていた本を返しに行こうかと思ってたから案内しましょう。」

 

それで俺はルウさんと一緒にその深海図書館に出かけることにした。

 

なお、今日は火逐さんは惑星ネザーに出張中で不在である。向こうの惑星で行われる観艦式に賓客として招かれているのだとか。

 

・・・

 

一夏「あの・・・。」

 

ルウ「何?」

 

一夏「このエレベーター、何時まで下り続けるんですか?」

 

ルウ「直通の高速エレベーターだけど何せ駅はかなり下にあるからもう少しかかるかな?」

 

鎮守府にあるエレベーターで地下に降りた後少し歩いてたどり着いたエレベーターホールで深海鉄道の駅への直通高速エレベーターに乗り込んだは良かったが、結構な時間このエレベーターはノンストップで下り続けている。

 

カンカンカンカンカンカンカンカン!

 

急にアラーム音のような音が鳴りだし俺はびっくりした。

 

一夏「このアラーム音は!?」

 

ルウ「心配無用。これから減速を開始するという合図よ。万一に備えて手すりにつかまっておくようにね。」

 

少し間をおいてエレベーターの速度がどんどん落ちていき、それに合わせて俺たちの体は慣性で急激に重くなったように感じた。

 

チーン

 

エレベーターが完全に停止して小気味良いチャイムが鳴るとエレベーターの扉が開いた。

 

ざざぁ・・・

 

一夏「・・・え?」

 

俺は眼前の光景に絶句した。

 

岩場むきだしの壁ということを除けば普通に明るい大きな地下鉄の駅のような駅である。

 

・・・階段を少し下ったら直ぐに水場(魚も泳いでいる)になっていて車両が完全に水没している事が致命的な違いだが・・・。

 

ルウ「さて、「深海図書館」は「ソロモン第六海底都市駅方面行き」か「ホニアラ国際空港北海底口駅方面行き」だから・・・。」

 

一夏「ちょっと待ってくれ!!水没しているじゃないか!!」

 

ルウ「ああそうか説明していなかったか。あと迷惑になるから大声を出さないで。」

 

一夏「あ・・・すみません・・・。」

 

ルウ「ここは「深海海底鉄道」の「トラック諸島国見島南海底口駅」。ここから南に向かうと途中に「深海図書館前駅」があるの。で、この深海海底鉄道というのは読んで字の如く、「海底を走る鉄道」なのよね。」

 

一夏「か、海底を・・・。」

 

ルウ「エレベーターの中に海水が入るといろいろと面倒くさいから地上に繋がる駅はどこも加圧されていてある程度水位が下がっているけどそれ以外は原則海の中ね。でも心配無用。この深海の海水は少し特殊でね、普通に息ができるのよ。」

 

一夏「・・・へ?」

 

ルウ「こればかりは口で説明するより実際に体感してもらった方が早いからね。と、言うわけで・・・」

 

ガシッ!

 

一夏「え?ちょ・・・!?」

 

ルウ「入ってみればわかります。」

 

ザブザブ・・・

 

一夏「・・・・・・!え?本当だ、息ができる・・・?」

 

ルウ「声も通るから普通に会話もできるよ。」

 

一夏「・・・意外だ。」

 

ルウ「さて、そろそろ出発時刻だから早いところ乗車しますよ?」

 

・・・

 

ガタンゴトン・・・

 

電車の中も呼吸ができる不思議な海水で満たされていて、なんとも不思議な光景だった。加えて・・・。

 

ル級「・・・(うとうと)」

 

イムヤ&いろは「・・・(イムヤのスマホ画面を二人で見ている)」

 

瑞鳳(艦これ)「・・・(読書中)」

 

北方棲姫「しゅっしゅっほっぽっ♪」

 

港湾棲姫「・・・(窓の外を見ている)」

 

ロドニー「・・・(音楽を聴いている)」

 

艦娘や深海棲艦といった人たちもそれなりに乗り合わせている。

 

雰囲気としては田舎のローカル線に近いらしく、加えて平日昼前だったので車内は空いていたが、とても平和な光景が広がっていた。

 

まさに「楽園は深海にあった」と形容できるだろう。

 

おまけに本来光が届かないほどの深海のはずなのに外は普通に薄ら明るいのだ。

 

昔は真っ暗だったらしいが、流石に不便だという理由から深海棲艦が海上の光が海底まで届くように色々とやったらしい。

 

深海棲艦の技術力、恐るべし。(技術者系の艦娘も一枚噛んでいるのだが)

 

一夏「あ・・・。」

 

ふと窓の外を見るとレ級がサメを追い回していた。サメが涙目だ・・・。

 

ルウ「あーでゃでゃ、まぁたやってるよ・・・。」

 

どうやらさほど珍しい事ではないらしい。

 

サメを涙目にできるレ級恐るべし・・・。流石は『重雷装航空戦艦』の異名を持つだけのことはある・・・。

 

俺はそう思いながら、二週間前に薦められて購入した、『類稀な操縦技術で人型兵器が主流化しつつある戦場を戦闘機で戦い抜き伝説となったスーパーエース』の戦いの軌跡を描いた小説『ガンダムSEED 白き流星の軌跡』を読み耽り始めた。

 

因みに、この小説を薦めてくれたのはロングアイランドさんだ。

 

曰く、「幽霊さんもついつい時間を忘れて読み耽っちゃうの~。一夏君も読んでみるの~。」とのことだった。

 

そして、その凄さに引き込まれ、すでに同じ本を三回も読んでいた。早く第二巻でないかなぁ?

 

車内アナウンス『次は 「深海図書館前」 「深海図書館前」 お出口は右側に変わります 「モートロック東西線」は お乗り換えです Next station is "Shinkai library".Please change here for the "MortLock East West Line".』

 

どうやら次の駅が深海図書館前・・・目的地のようだ。

 

何名かは降車準備を始めている。

 

さて、俺も準備するか・・・。

 

・・・

 

・・・・・・

 

一夏「ほえ~・・・。」

 

降車した後、眼前に現れた建物に俺は感嘆した。

 

デザインこそ地味だが非常に大きな建物だ。

 

そして、中に入って俺は更に驚嘆した。

 

天井の一部はガラス張りのドームになっていて、本棚は水の中というわけで高い位置でも泳いで行ける分非常に高い位置まで本棚がそびえたっている。

 

艦娘、深海棲艦、果ては普通の人間も多数いて、思い思いに本を探したり読み耽ったりしているなど、そこには種族や性別の差など毛ほどもなかった。

 

本当に、この世界を見ていると自分がいた世界がどれだけ異常かがいやというほどわかってしまう。

 

一夏(って、そういうことは考えたって仕方がないか・・・。)

 

世界が違う以上常識だって違うのだからそういうことをうだうだ考えても気が滅入るだけだ。

 

一夏「えっと、すみません。」

 

司書のヲ級「どうしました?」

 

一夏「この本を探しているのですが。」

 

司書のヲ級「この本なら『F-4-2』の本棚にあります。」

 

一夏「ありがとうございます。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

何事もなく本は見つかり、何事もなく借りることができて、そして何事もなく外食を食べて何事もなく鎮守府に帰ってきた。

 

向こうだったら本一冊借りるだけでも相当神経をすり減らしただろうから、逆に落ち着かないというのもあった。

 

・・・だが、借りた本を元に勉強して、講習を受け、試験を受け、そして操縦士免許を取得したころにはその落ち着かなさも何時しか感じなくなっていた。




深海棲艦の皆さん:この世界線では人類と深海棲艦は友好関係を結んでいます。深海棲艦は人間社会に違和感なく溶け込んでおり、中には種族を超えて結婚している者もいます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【9】鉄血の闊歩者達 -Sangvis Ferri Striders-

「AA」という車両区分:Anti Air(対空)を意味しており、対空戦車であることを意味します。テオドールの車両区分はAAですが、車両サイズではHT(重戦車)に区分されます。第六話では最初「HT」扱いでしたが、同型の対戦車用戦車を別に製作することが決定したためこちらが「AA」にスライドしました。(第六話のあとがきも修正済)

トランスフォーム:今回テオドールが見せるトランスフォームですが、これはそうする必要がある役回りの車両にあらかじめ追加のマテリアルをつぎ込んで追加する後付け機能です。今回先頭車両を担当したテオドールは無人稼働だったためこの機能があらかじめ追加されていました。


*S09地区*

 

【視点:ガイア(上空のボルテックスから送られてくる映像越し)】

 

一夏が恐らく物心ついてから初めてであろう平穏無事な生活を送っていたころ、ガイア達は鉄血工業跡地からの長距離移動を終えて目的地のS09地区にたどり着いた。

 

ここにはI.O.P本社や大手PMCの「グリフィン&クルーガー」の本拠地がある。身を落ち着けるのには適していた。

 

尤も、道中何が起こるかわからなかったために解体した旧本社ビルなどを多数の戦車や戦闘ヘリに組み替えていたために到着時に盛大に驚かれたが・・・。

 

M4「・・・。」

 

SOP「・・・。」

 

ST-AR15「・・・。」

 

M16「・・・。」

 

かのAR小隊を中心に盛大に警戒されているが、まぁいきなり大量の戦車や戦闘ヘリが列をなしてやってくれば警戒されるのも是非もなしである。

 

ガイア「・・・さて、このままにらみ合っていても時間ばかり無駄に浪費することになるし、往来の邪魔だからね・・・。」

 

私はそう呟いて先頭車両に指示を送った。

 

・・・

 

【視点:M4】

 

最初に動いたのは車列の先頭に居た深緑にオレンジのラインが入った車体、主砲と二種類の対空砲を備えた重戦車・・・「Code775_テオドール」・・・だった。

 

ガチャン!!ガラガラガラガラ・・・!!

 

SOP「え?今の音は?」

 

履帯の一部が外れ、火花を散らしながら巻き取られていく。

 

続いて装甲板も分割され始め、シルエットが少しずつ変貌していく。

 

M4「なに・・・?何が起きているの・・・?」

 

私も眼前で起きている出来事に対して理解が追い付かない。

 

ギゴガギゴ・・・!ガチャガチャ!!カーン!キンコンカン!!

 

小気味良い音を立てながら眼前で戦車一両が丸々変形しているのだから無理もないのだけどね。

 

やがて戦車は立ち上がり、人型になった。

 

S09地区の誰もが度肝を抜かれ、それでも両手に移動した単装砲と機関砲に最大限の警戒を払っていると・・・。

 

Code775「待ってほしい。我々に貴方達と敵対する意思はない。」

 

人型に変形した戦車が男性の声でしゃべりだした。そして自ら正座の姿勢をとり、両腕の砲を自ら外して目の前に置いた。

 

背中から伸びた主砲も格納され、正座の姿勢のまま両手を上げて戦闘意思がないことを示していた。

 

M4「あ、貴方は一体・・・?」

 

私は恐る恐る尋ねた。

 

Code775「私は『AA_Code775』、車両名テオドール。この車列の先頭の防衛部隊長を担当しています・・・貴女は?」

 

恐らく私の名前を聞いているのだろう・・・。

 

M4「・・・M4・・・M4A1です。」

 

テオドール「M4さんですね。口で説明するよりも直接見てもらった方が早いと思われるので、すみませんがペルシカリア女史をここへ呼んでもらえませんか?会わせたい人が二人、こちらにいます。」

 

ペルシカ「・・・ここにいるわよ・・・。」

 

不機嫌そうな口調で見るからに不健康そうな女性が応じた。そう、彼女こそがペルシカリア女史、私たちの生みの親にしてかつて存在した天才科学者集団の一人だ。

 

この時のペルシカが不機嫌なのは鉄血工業が襲撃にあって、職員が全員行方不明になっていたことが原因だった。

 

一報を聞いたペルシカは即座に私達AR小隊に現地調査を命じたけど、本社があったはずの場所には何もなく、職員は全員行方知れずという報告しかなくて意気消沈していたの。

 

そこにこの騒ぎであり、乗り気じゃないどころじゃないにもかかわらず彼女も引っ張り出されることとなり酷く機嫌が悪かったのだ。

 

当然意気消沈していた間はいつもにもまして不摂生だったために彼女は普段以上に薄汚れていて、目の下の隈も普段の3割増しだった。

 

ペルシカ「・・・今凄く虫の居所が悪いんだけど・・・。」

 

テオドール「・・・あの、何かあったのですか?」

 

M4「実は、先月の鉄血工業襲撃事件で旧友が生死不明で・・・。」

 

ペルシカ「・・・。(余計なこと言うんじゃないよ)」

 

私の返答に対してペルシカが目で抗議してきた。怖いよ・・・。

 

テオドール「あぁ、そういうことですか。なら、尚の事会わせるべきで・・・・」

 

????「ペルシカー!!!久しぶりー!!!」

 

ペルシカ「はああああ!?!?」

 

突然一人の女性がペルシカに飛びかかった。

 

突然の事態に全員が唖然とした。

 

????「うわ臭ッ!?ペルシカ相変わらず不摂生してるわね!!」

 

サクヤ「リコリス先輩!!久しぶりだからっていきなり抱き着きにかかるのは流石に不味いですよ!!」

 

リコリス「これが飛びかからずにいられますか!?サクヤ貴女だって楽しみにしてたじゃない!!」

 

ペルシカ「リコリス・・・?サクヤ・・・?」

 

ペルシカの目からは大粒の涙が溢れていた。そういえばリコリスとサクヤといえば、鉄血工業で働いているペルシカの旧友にして天才科学者だ。

 

リコリス「あれ?ペルシカどうしたの?目にゴミでも入った?」

 

ピキッ

 

何か嫌な音がした・・・。

 

テオドール「R.I.P.・・・。」

 

テオドールさんが「あちゃー」と言いたげに呟き、顔を逸らした。

 

ペルシカ「・・・んだけ・・・。」

 

リコリス「?」

 

ペルシカ「人がどんだけ心配したと思ってるのよアンタはぁッ!!!!!」

 

ゴチンッ!!!

 

リコリス「ふにゃっ!?!?」

 

ペルシカの拳骨が脳天に直撃してリコリスさんは変な声を上げた。

 

ペルシカ「てっきりみんな死んだと!!!・・・どんだけ・・・!・・・心配したか・・・うわあああああん!!!」

 

リコリス「あー・・・うん。まぁ、なんというか、なんだかんだ言って私たちも若社長が居なかったら今頃死んでただろうけどね・・・。」

 

ペルシカ「ぐすぐす・・・ひくっ・・・。若社長・・・?」

 

サクヤ「私たちを人間人形問わず助けてくれた恩人ですよ。」

 

テオドール「ええ・・・何というか、すみません。」

 

M4「いえ、まさかこのような展開になるとは・・・。というか、じゃあ貴方達って・・・。」

 

テオドール「そういえばまだそこは言っていませんでしたね。旧鉄血工業のスタッフたちと人形たちをこのS09地区へ護送してきたんです。」

 

M4「・・・「旧」?」

 

テオドール「まだ新しい社名が決まっていないので・・・、それはそうと、IOPの方々に協力を願いたいのです。実はここに来るまでに山賊と交戦していまして、山賊にこき使われていた人形たちを保護したのですがこちらも物資不足で本格的な治療ができていないのです。」

 

M4「ええっと・・・。まぁ、とりあえず町に入れても大丈夫だと思うので・・・。」

 

テオドール「この町のどこかに鉄血の所有地があったはずなので、一度そこに移動させてもらえますか。流石にいつまでもここでつっかえていては邪魔に成るので。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

*S09地区 旧鉄血所有地*

 

だだっ広い空地に何両もの車両が列をなして入っていく。

 

しかも驚いたことに戦車は所定の位置についたかと思うと次から次へと粒子状に分解され、それが集まって何かしらの建物を形作っていく。

 

ペルシカ「で、貴女が問題の若社長なのね。・・・子供?」

 

ガイア「まぁ確かに体格子供だけどね・・・。ところで、人形たちはどうでしょうか?」

 

ペルシカと会話をしている少女が旧鉄血工業の上層部を追放して鉄血の皆を助けた事実上の社長さんだという。にわかには信じられない・・・。

 

ペルシカ「検査してみないとわからないけど、見る限りでは簡単な修理で充分そうね。メンタルも安定しているし。」

 

ガイア「サクヤさんのおかげですよ。私にはああいうのは真似できないし。」

 

ペルシカ「それで、貴方達はこれからどうするつもり?」

 

ガイア「とりあえずここで一から鉄血を再出発させるつもりだけど、社名は変えたいのよね。どこかの特殊部隊に襲撃された以上鉄血の名前をそのまま使うのは流石に危険そうだし。」

 

二人が話し込んでいるのを他所に保護されていた人形たちが自己紹介をしていく。

 

スコーピアス「えっと、スコーピオン型の元戦術人形の『スコーピアス・アルタレスト』だよ。これからは家庭菜園でもしながらのんびり過ごすつもりだよ。」

 

トバイアス「WA2000型の元戦術人形の『トバイアス・リーパー』よ。今は旧鉄血の料理長をやらせてもらってるわ。」

 

ノアル「MP5型戦術人形の『ノアル・アイギス』です!第二警備班長をやらせてもらってます!」

 

ティア「G11型の『ティア・ファーヴニル』だよ・・・。ゴメン・・・ちょっと眠いんだ・・・。」

 

時雨「SIG510型の『時雨・シュミット』よ。といっても、戦術人形は引退して今は研究スタッフなんですけどね。」

 

バレッタ「Micro Uzi型の『バレッタ・パラベルス』よ。第一警備班長をやらせてもらっているわ。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

ペルシカ「結局、大部分が貴方達の下で働くことを選んでいたのね。」

 

ガイア「なんでか好かれちゃってね・・・。ところで、検査結果はどうでした?」

 

ペルシカ「結果は良好。何人かはスティグマが切れちゃっていたけどそれでも前を向いて新しい生き方を見つけていたわ。」

 

ガイア「保護したときは凄く憔悴してたり、怯えていたりとひどい有様だったけど、カレー作って食べさせてあげたらみるみる活力を取り戻したみたい。」

 

ペルシカ「カレー?」

 

ガイア「私が独自に改造した魚介系海軍カレーだけどね。」

 

ペルシカ「よっぽどおいしかったのか、それともそれ以前が地獄だったのか・・・。そういえば、一つわからないことがあるのよ。なんでAR小隊は貴方達の事を見つけられなかったのかしら?」

 

ガイア「謎の勢力の追撃を避けるためにワザと北側に大回りしたから多分それが原因だと思う。」

 

謎の勢力?いったいどこの誰だろうか?後で聞いた話だけど、どこかの特殊部隊らしいけどどこのかまでは解らなかったらしい。

 

ペルシカ「そう・・・。ねぇ。」

 

ガイア「何?」

 

ペルシカ「リコリスとサクヤを助けてくれて、本当にありがとう・・・。」

 

ガイア「私はやりたいこととやるべきことをやっただけだから。」

 

ペルシカ「でもいつかはお礼をさせてほしいのよ。ところで、会社の名前はもう決まったの?」

 

ガイア「ああ、新社屋に機材やらなんやらを運び込んだりとまだ作業が残っているから、それが終わってから正式に発表する予定だけど、一応もう決まっているの。」

 

ペルシカ「へぇ、どういう会社名?」

 

ガイア「まるっきり別の名前にするのも変な感じだから、鉄血というフレーズは残そうと思っているの。だから・・・。」

 

そこでガイアさんは一度言葉を切り、そして会社名を口にした。

 

『Sangvis Ferri Striders(鉄血の闊歩者達)』・・・通称『SFS』




ペルシカ:IOPの研究室長。
リコリス、サクヤ、束とは共同研究者という関係。
原作とはあまり乖離が無いが、時折ネタに走ることも。

スコーピアス・アルタレスト:スコーピオン型。名前の由来はスコーピオンのもじりと、さそり座を意味するアンタレスとあらゆるものを溶かす錬金術用の溶媒「アルカへスト」を組み合わせた造語。

トバイアス・リーパー:WA2000型。名前の由来は彼女のキャラクターデザインの参考となったHITMANシリーズの主人公「エージェント47」が使用する偽名。

ノアル・アイギス:MP5型。名前の由来は彼女の好きな色である「黒」を意味するノワールと、魔よけの盾のアイギス(フォースフィールドを持つことから)。

ティア・ファーヴニル:G11型。名前の由来は彼女のスキンの一つから竜の名前として使われることもあるティアマトと、黄金を守る竜「ファーヴニル」から。

時雨・シュミット:SIG510型。名前の由来はSIG510から51を抜いてもじった時雨(SIG 0:シグ レイ)と、シュミット・ルビン小銃の後継として生み出されたことからシュミット。

バレッタ・パラベルス:Micro Uzi型。名前の由来はパラベラム弾を使用することから銃弾を意味するバレッタとパラベラムをもじったパラベルス。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【X1】番外編その1 -IS・ドルフロ世界について-

この小説の世界観は独特で、原作との乖離も激しいために設定が複雑でわかりづらいという意見があったため、急遽作成しました。

今回はISとドルフロの世界が混ざり合った一夏が居た世界の過去について特番で解説します。

ただ、普通に説明文を書き連ねるのも味気ないのでラジオドラマ風に仕立ててみました。

なお、あくまで登場人物同士の会話という形式なので、物語の核心に突っ込んだ内容は出てきません。(ネタバレになる恐れがあるので)

必要な部分はあとがきに補足を書いておきます。


カチッ

 

ルウ「録音開始。さて、それじゃあ、貴方の世界についてもう少し詳しく話してくれるかな?」

 

一夏「はい。えっと、どこから話せばいいのか・・・。」

 

ルウ「まずは「IS」について話してくれるかな?」

 

一夏「はい。ISというのは、正式名称は「インフィニット・ストラトス」で、俺の世界で10年前に自立人形・戦術人形と共に発明された「宇宙空間での活動」を目的にしたパワードスーツの一種なんだ。」

 

ルウ「宇宙活動用パワードスーツか・・・宇宙服とは違うのかな?」

 

一夏「実際には宇宙空間で運用するには課題が多くて実用化出来ていないけど、体のあちこちに装甲板みたいなものを纏うとはいえ、宇宙服の様に全身着込む必要はないみたいです。」

 

ルウ「なるほど。となると宇宙服より遥かに動きやすいか。」

 

一夏「尤も、最初の実地試験で整備不良が原因で死亡事故が発生して、宇宙活動という本来の目的の片方は事実上無期限凍結状態だけどね・・・。」

 

ルウ「整備不良はあるある・・・、特に新しい技術をつぎ込んだ新型機とかは最初の内は勝手の違いから事故が多いのは宿命だからね・・・。まぁ、マニュアルという物は「血」で書かれている物だから、その事故もいずれは糧となるだろうね。というか、糧にしなかったらその事故の犠牲者は無駄死にになってしまうよ。」

 

一夏「そういうことにも詳しいんですか?」

 

ルウ「詳しいも何も、私は航空機の事故調査委員でもあるからね。そういうことに関しても・・・いや、脱線してしまった。で、ISの本来の目的の片方と言ったけど、もう片方の目的は?」

 

一夏「はい、もう片方の目的は、「対ELID用の戦闘兵器」というものなんだ。」

 

ルウ「ELID???それは一体?」

 

一夏「その説明のためには、まず「崩壊液」という物質について説明しないといけないんだけど、俺もそこまで詳しいわけじゃないから、知っている限りの領域しか喋れないけど。」

 

ルウ「それでもかまわない。では、その「崩壊液」というのは?」

 

一夏「別名を「コーラップス」といって、かつて俺の世界の各所で発見された謎の遺跡で保管されていた物質なんだ。「液」といっても、液体というより「素粒子」に近い物質だって束さんは言っていたけど。」

 

ルウ「遺跡か・・・旧文明の遺産か何かかな・・・?」

 

一夏「にしては科学技術が異常なまでに高かったらしくて、一説ではかつて地球で活動していた異星人の置き土産じゃないかとも言われているけど、結局のところ解らないらしくて・・・。」

 

ルウ「はぁ・・・。で、崩壊液とは?」

 

一夏「なんでも、「他の物体に浸透すると膨大なエネルギーを放出しながらその物体の分子構造をバラバラにする」とか・・・。」

 

ルウ「ちょっとまて、それってとんでもなく危険な物質じゃないか・・・!「浸透した物体の分子構造を破壊する」なんて恐ろしく危険なことだ。一歩間違えれば人類・・・いや、地球上の全生物滅亡のトリガーにもなりうる特級危険物質だ!はっきり言って、そんな危険すぎる代物、兵器としても使えない!」

 

一夏「でも、当時の科学者達はその崩壊した原子を何らかの手段で再構築して様々な物質を作り出す技術を確立したとか・・・。」

 

ルウ「正気の沙汰とは思えない・・・。それとも、当時の科学者達はその崩壊液がどれほど恐ろしいものか解っていなかったのだろうか・・・?もし私がそこに居たら、間違いなく崩壊液を遺跡諸共徹底封印した上で、その周辺を未来永劫立ち入り禁止区域に指定するよ。」

 

一夏「確かに・・・。学校ではそういう突っ込んだことは教わらなかったけど、束さんは崩壊液の事に関してはいつも忌々しそうな口ぶりだったなぁ・・・。でも、最初の遺跡が発見されたのは、1905年だって習ったけど・・・。」

 

ルウ「そんな時代からだったのか・・・、それじゃあ解らないのも致し方ないところもあるけど、解った時点で少なくとも崩壊液に関しては永劫封印するべきだったよ。」

 

一夏「それがされなかった結果がELIDの発生に繋がったんだろうね・・・、1960年頃に中国・上海のベイラン島で新たな遺跡が発掘されたのが全ての始まりだったんだ。」

 

ルウ「一体何が起きたの?」

 

一夏「その遺跡は1970年代には封鎖されて、跡地はほぼ完全に埋め立てられたけど、そのあとそこで都市開発をしたんだ。」

 

ルウ「何じゃそりゃ!?」

 

一夏「その工事中に事故が発生して、少量の崩壊液が流出したんじゃないかとも言われていて、現に2020年末頃からベイラン島では時折住民がELID化するという異常事態が発生、当局が組織した武装警察によってベイラン島は完全に隔離封鎖されたんだって。尤も、当時はELIDは奇病として扱われていて、その原因までは解っていなかったらしいんだ。」

 

ルウ「なんともまぁ・・・、呆れてものも言えない・・・。」

 

一夏「そう思うだろ?でも、これにはまだ続きがあるんだ・・・。」

 

ルウ「この上まだ何かあったの!?」

 

一夏「2034年にベイラン島遺跡内部で崩壊液の流出事故が発生したんだ。しかもその原因が封鎖されていた遺跡に現地の中学生7人が不法侵入したからだってんだから笑えないよ・・・。しかも遺跡内部で崩壊液によって変異したELIDに襲われて、救出に向かった部隊がELIDと戦闘したせいで崩壊液が流出したんだ。」

 

ルウ「バカとしか言いようがない・・・。」

 

一夏「おまけに流出した崩壊液は周囲の物質を崩壊させながら膨大なエネルギーを発生させ続けて、最後には破滅的な大爆発を引き起こしたんだ。その爆発によって巻きあげられた崩壊液はジェット気流に乗って全世界に拡散してしまったんだ。」

 

ルウ「・・・最悪だ。私が一番危惧したことが起きてしまったのか・・・。しかし、だとしたら何故世界大会なんかできるの?そんな大規模災害が起きていたら文明崩壊を起こしていてもおかしくないのに。」

 

一夏「不幸中の幸いで、流出した崩壊液が極少量だったおかげで全世界が汚染されたとはいえ生物などへの影響は絶無といっても差し支えないレベルに留まったんだ。精々が空が常にどんよりした色合いになっちゃったくらいで。」

 

ルウ「本当に不幸中の幸いだ・・・。自分の世界には関係ないとはいえ心臓に悪い・・・。」

 

一夏「まぁ、それ以前から世界のあちこちでELIDが時折発生していたんだけど、この事件以降ELIDの出現数が増えたみたいで、その処理で軍隊の皆は手一杯になっちゃったんだ。転機が来たのは2051年だね。」

 

ルウ「その時に何があったの?」

 

一夏「4人の天才科学者の集い、「90Wish」の登場だよ。ELIDとの戦いで消耗していく軍隊の皆さんの負担を少しでも和らげるために集った科学者たちが合同で一つの発明をしたんだ。それが「アーキタイプ・キューブ」。戦術人形とISのコアのベースとなるコアパーツだよ。」

 

ルウ「「90Wish」・・・?」

 

一夏「あ、そのうちの一人は束さんなんだ。あとの3人は名前はちょっと忘れちゃったけど、うち一人は日本人なんだ。だからなのかよく束さんの家で話し合いとかしていたんだ。俺の家は束さんの家の近所だったし、家族ぐるみの付きあいだったから皆とも知り合いになったんだ。因みに戦術人形コアとISコアを作れるのはこの90Wishの4人だけなんだ。」

 

ルウ「その結果生み出されたのが「IS」と「戦術人形」という存在か。」

 

一夏「でも、ISに関してはちょっと問題があってね・・・。女性しか起動できないという致命的な欠陥が残ってしまったんだ。」

 

ルウ「女性だけ・・・か。」

 

一夏「その結果、世界中で女尊男卑の風潮が広がってね・・・。大半は一過性だったけど、アメリカや日本など、一部の国では結構根強く残っていて、政府にも深く食い込んでいる国もあるんだ。」

 

ルウ「何と愚かな・・・出過ぎた真似をすればそれは天秤を自らの手で破壊することに他ならない。後の時代に碌でもない瑕疵を残すことになる・・・。」

 

一夏「束さんもこれに関してはずっと悔やんでたよ。放っておいたら、自殺してしまうんじゃないかってくらいに憔悴していたし・・・。」

 

ルウ「その気持ちはわかる・・・。望んでもいなかったとはいえ結果的に自分たちの発明が世界を歪めてしまったとなればね・・・。」

 

一夏「・・・。」

 

ルウ「それで、戦術人形というのは何なのかな?」

 

一夏「・・・それに関しては俺もほとんど知らないけど、元々は自律人形という労働力みたいなロボットだったんだけど、それをベースに戦場で兵士の代わりに戦えるようにしたもので、主にELIDとの戦いに投入されているんだ。一部は治安部隊なんかにも所属しているらしいけど。ELIDの件もあるけど、ISが広まって女尊男卑の風潮が広まるとそれに呼応するようにテロリズムも増えてね・・・。」

 

ルウ「世界が変わってもどこも似たり寄ったりの悩みを抱えているということか・・・。」

 

一夏「え?この世界も?」

 

ルウ「20年ほど前かな。中東地方でその土地の宗教を履き違えた過激派集団が発生してね・・・、自ら国を名乗って好き放題やってたんだよ・・・。その横暴が目に余った結果様々な国やPMCがそのテロ組織の撃滅に動いた。私たちもその撃滅作戦に参加したんだ。」

 

一夏「うへぇ・・・。」

 

ルウ「そもそもの宗教自体も履き違えていた性で同じ中東のPMCからも「我らの信仰する宗教の名を騙る不届きもの」認定されたくらいだよ。あっという間に叩き潰されたね。」

 

一夏「うわぉ・・・。」

 

ルウ「おっと、また脱線してしまった・・・。そういえば、貴方を誘拐したのもテロリストだったっけ?」

 

一夏「さぁ・・・多分そうだろうけど、今になって考えてみるとあの人たちも誰かに頼まれてやっただけって感じがするような・・・。」

 

ルウ「なにやらややこしい事柄みたいね・・・。そういえば、いつぞや「女性利権団体」って言葉を言ってたけど・・・。」

 

一夏「それが何か?」

 

ルウ「これは論拠も根拠も無い話だけど、その実行犯の依頼主って女性利権団体じゃないの?」

 

一夏「え!?まさか・・・いや、ありうる・・・。」

 

ルウ「まさか・・・もし本当にそうだったら世も末だ・・・。曲がりなりにも人権団体がテロ行為を働いたとなればとんでもないスキャンダルだ。」

 

一夏「俺を面汚しだとか言っていた連中って、女尊男卑に染まった連中か女性利権団体のメンバーだったし・・・、可能性としては充分あり得る・・・。」

 

ルウ「なんと・・・言葉も出ないぞ・・・。」

 

一夏「俺も。考えてみれば動機充分なんだよなぁ・・・。」

 

ルウ「救えないなぁ・・・。えっと、後は何があったかな・・・。そうだ、90Wishはそのあとどうなったのかな?」

 

一夏「女性利権団体の圧力もあってISの欠陥を修正する研究は頓挫。束さん以外の三人も企業に招聘されて事実上解散しちゃったな。確か、二人は鉄血工業、もう一人がIOPという企業に招聘されたっけ。」

 

ルウ「そうか・・・いつか4人が再度集結し、今度こそ研究を完成させてくれることを強く願うよ。」

 

一夏「俺もそう思うよ。」

 

ルウ「さて、今日はこれくらいでいいだろう。あんまり長々話しても疲れるからね。」

 

一夏「あ、はい。俺はまだ大丈夫だけど。」

 

ルウ「いや、取り立てて今すぐ聞く必要がある話は今のところはもうないからね。それに、夏もあと数週間で終わる。そしたら気温が急激に変化することもあるから無理をしちゃいけない。」

 

一夏「それもそうかな・・・。それじゃあ失礼します。」

 

ルウ「ああ、お疲れさま。ゆっくりやすんでね。・・・録音終了。」

 

ガチャ




補足一覧

・ISの開発理由について
原作では宇宙活動用パワードスーツという目的だけでしたが、今作では対ELID用の兵器という目的も含まれています。

・崩壊液について
ドルフロ世界の根幹部分に関与する謎の多い物質。原作では人類の技術をはるかに上回る可能性を秘めていたために争奪戦になることもあったそうだが、今作ではそこまでの事態にはならなかった。

・ベイラン島事件について
ドルフロ世界で発生した大事件。
原作ではこれによって地球全土が崩壊液に汚染され、人類の生活圏の大半が失われてしまった。
それに伴い各国は自国の利益第一の政策を推進せざるを得なくなり、その結果利害関係の対立により外交摩擦が激化。ついには2045年の第三次世界大戦が勃発した。
この大戦では初戦から核兵器が乱発されたためEMPが頻発し、コンピュータに依存する空軍、海軍戦力が早々に役に立たなくなり、地上部隊の銃器による白兵戦が実戦のウェイトの大半を占めたとされている。
結局2051年に終結するも核兵器によって地上は更に汚染され、それに伴い国家は国土を統治するだけの余力さえ失うほどに衰退。
失われた労働力を補うために自律人形が登場し、衰退した国家の代わりにPMCが統治をおこなうようになった。
だが、今作ではベイラン島事件による地上汚染は極々軽微で済んだため第三次世界大戦などには繋がらず、自律人形の登場も更に後になっている。

・90Wishについて
ドルフロの用語で、IOPのペルシカリア女史と鉄血工業のリコリス女史も90Wish所属だった。
原作では「ロシア内務省系の技術チーム」という設定だったが、今作では束、リコリス、サクヤ、ペルシカの4人が独自に立ち上げた研究チームという設定になっている。2049年に結成され、2054年に事実上の解散となった。

・サクヤさんについて
原作には登場しないこのキャラクターは、犬もどき氏の作品「METAL GEAR DOLLS」の追憶編で登場したキャラクターの平行世界の同一人物のひとりです。
詳しい事は該当作品の第80話(追憶編:かけがえのない日々)から第83話(追憶編:灰色の世界の中で…)までをご覧ください。
但し、かなりの鬱ストーリーなのでご注意ください。
苦手な人は彼女のその後を描いたいろいろ氏の作品「喫茶鉄血」の第30話(第二十二話:これまでの私、これからの私)の方をご覧ください。
なお、この世界のサクヤさんは「METAL GEAR DOLLS」のサクヤさんとは直接的な繋がりは無く、あくまで「平行世界の同一人物」です。(犬もどき氏曰く、「あちこちで見かける」ほどには多くの人々に使われているようです)
また、出身地に関する設定が無かったので今作では日本人という設定を後付けしています。

・アーキタイプ・キューブについて
戦術人形のコアとISのコアの共通の原材料といった重要具材。
今作のオリジナルの具材であり、90Wishの4人のみが製作可能。
そのため、この4人だけが戦術人形コアとISコアを作り出すことができる。

・ISの欠陥(女性しか起動できない)について
原作では束が意図的に設定した欠陥だったが、今作では意図せず発生してしまった偶発的な欠陥という設定。
この欠陥が原因で女尊男卑という風潮が広まってしまった。


・ルウ達の世界について
今回は触れられていませんが、今作品の【17】である程度の説明が行われます。
まだまだ先になりますが、それまでお待ちください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【10】ハイブリッド戦術人形 -UMP三姉妹-

ハイブリッド戦術人形:ハイローミックスがメインの鉄血工業でしたが、急遽相応の性能の人形が複数必要となり、その解決策として生み出された戦術人形の事です。
ハイエンドには劣るものの相応の性能を持ち、ローエンドほどではないが製造にかかるコストと期間が抑えられる、ちょうど中間に位置する存在であり、「ミドルレンジモデル」とも呼ばれます。
基本的に大規模部隊を指揮する機能が削られ、ボディの骨格系も通常骨格を使用しています。
また、最大の特徴としてIOP製の戦術人形側の規格にも合わせられており、IOP製、SFS製の双方と互換性があり、外見もIOP製に近いデザインとなっています。
これはIOP製戦術人形との合同作戦においてより円滑な連携ができるようにと設計されたためです。

UMP三姉妹:今作ではUMP三姉妹は三人ともSFSで生み出された戦術人形という設定です。


*S09地区 SFS本社ビル*

 

鉄血がS09地区に本社を構え、SFSとして再スタートしてから2か月が過ぎた。

 

新しいハイエンドモデルとして戦闘兼教練用戦術人形「ウロボロス」がロールアウトしたのがつい最近である。

 

今は任務に備えて他のハイエンドモデルや警備班員達と模擬戦を繰り返して経験を重ねている。

 

一応ボディが完成する前から電脳空間で千本組手で訓練していたのだが、電脳空間と現実の戦場では何かと感覚にズレがあるということで自ら追加で組手をしてもらっているらしい。

 

なお、今日はAR小隊も訓練がてら彼女の組手に付き合っていたのだが・・・。

 

M16「げぇ!?それを避けるか!?」

 

SOP「うわぁ・・・凄い動き・・・。」

 

ウロボロス「いや、このままではまだ足りぬ。まだ感覚がズレている・・・!」

 

M4「うそでしょ!?この動きでまだ本調子じゃないって・・・!」

 

ST-AR15「一応こっちの攻撃は多少は当たってはいるけど、全くクリーンヒットしないな・・・!」

 

ウロボロスは中々ストイックな性格らしく、また自分の現状に満足しないタイプのようだ。

 

一人でAR小隊四人を同時に相手取って好勝負を繰り広げているにも拘らず未だに自分の動きに不満があるようだ。

 

そして、そんなウロボロス相手に一向に有効打を与えられない現状にAR小隊もより一層奮起していた。

 

その喧噪を聞きながら、私は社長室の椅子に座ってペルシカからかかってきた電話に応対していた。

 

・・・なお、社長室とは言うが、そのありようは一般的な社長室とは大きく乖離していた。

 

よくあるような高価な家具や調度品、装飾品の類は一切なく、木製の手作りテーブルにパイプ椅子、そして工作機械とベッド替わりに旧鉄血の倉庫からそのまま持ってきた大きな段ボール箱。寧ろ学校の工作室だといった方がまだ納得がいくレベルである。

 

一応来客用のソファーが応接室にはあるのだが、一方でこの工作室・・・ではなかった、社長室は他の研究室、開発室とあまり違わないどこか懐かしい雰囲気を醸し出していた。

 

ガイア「・・・新しい特殊小隊用の人形ですか・・・。」

 

ペルシカ『そう、AR小隊だけじゃこの先忙しくなって手が回らなくなるかもしれないから、今のうちに別の精鋭部隊を用意しようということになってね。IOPでも作っているんだけどちょっとこっちも今鉄火場で・・・。』

 

ガイア「それでうちに?構わないけど、何名必要?」

 

ペルシカ『エリート人形が一人編成溢れで待機しているから、3~4人かな。』

 

ガイア「了解。時間はかかるかもしれないけどね。」

 

ペルシカ『急ぎじゃないし、無理言っているのは解っているから。それじゃあお願いね。』

 

ガイア「ええ。それじゃあまた。」

 

ガチャ。

 

ガイア「・・・さて、どうする?」

 

ハイエンドモデルを新しく作ってもいいが、流石に三人も作るのは時間がかかりすぎる。既に開発スタッフの負荷軽減のための設計開発特化のハイエンドモデル「アーキテクト」と「ゲーガー」の開発が進んでいるところにハイエンド三名は重い。

 

何より外見的特徴が違い過ぎるSFSの戦術人形では向こうのエリート人形も居心地が悪いだろう。

 

一応、一人は過去に保護した戦術人形を派遣するという形も取れるが・・・。

 

ガイア「・・・そういえば、ハイエンドとローエンドの両極端しかいないんだなぁ・・・。」

 

鉄血系の戦術人形は無数のローエンドモデルと無人機械兵器をハイエンドモデルが統率するというスタイルをとっている。だが、ローエンドの戦闘能力はお世辞にも高いとは言えず、逆にハイエンドは一人生み出すのにもかなりの時間がかかる。

 

その中間に位置する、「ミドルレンジモデル」・・・大規模部隊を指揮するほどの性能は無くてもいいから育成にそこまで時間がかからない戦術人形・・・を作れればどうだろうか?

 

ガイア「意見を聞いてみますか・・・。」

 

その後、開発部の意見を聞いてみたが、「やってみよう」とトントン拍子で話が進み、更にリコリスさんがちょうどUMPシリーズという3つのサブマシンガンをアイデアとして提示してくれたので即座に製作に取り掛かることとなった。

 

カタログスペックとしてはハイエンドモデルと比較すると大規模部隊を指揮する機能はオミットされ、代わりに特殊部隊用ということで電子戦のための機能が追加された。

 

他にもスティグマを使うことで教練時間を短く抑え、更に空いた領域にそれぞれサブウェポンを扱うための補助プログラムを組み込む形をとった。

 

他にも只の兵器としてではなく、意思持つヒトとして生まれ生きてほしいというサクヤさんの願いも込めて人間らしい趣味まで持たせる・・・と、結局中身は他のハイエンドと大きな差がない仕上がりとなってしまった。

 

違う点はボディがハイエンドモデル用の特殊強化骨格ではなく通常骨格を使用している点くらいである。

 

だが、その分製造工程が短く済み、AIの電脳学習も期間を短く収められたため、初めてとしては充分及第点といっていいだろう。

 

また、ついでの作業として既存の戦術人形に補助ユニットを装備するための外付けの試作ハードポイントユニットも用意して、そのデータ収集も同時に行うようにする。

 

何事も本職には及ばずともある程度扱える武器を別に用意して戦闘スタイルに幅を持たせたい。その方がより柔軟に状況に対応できるし、この技術が確立できれば色々と応用が利く。

 

特に、いずれ来るかもしれない『戦術人形がISを纏って戦場に立つ』日に備えて必要な技術やデータを蓄えておいた方がいいと考えた結果でもある。

 

ただ、一部スタッフはなぜかそれとも別の作業を続けている。

 

後に社外でも有名になる変態(誉め言葉)スタッフの集団である。

 

前の社長に散々虐げられてきた鬱憤とストレスの反動が鉄血解放後に爆発したらしく、ことあるごとに人形たちのスキンを作り上げているのだ。

 

まぁ、致し方ないところはあるし、何より実用性は保持しているのだから特に権限を引っ張り出してまで面と向かって咎め立てする理由もないので基本放置しているが。

 

一つ難点があるとすれば、スキンのデザインが趣味性の塊であり当事者(スキンを身に着ける人形)達の評価が割れる点だが。

 

この間のスコーピアス要望の家庭菜園用の作業着もそうである。ネタに走り過ぎたデザインだったために顔を真っ赤にしたスコーピアスに取れたての獅子唐を口の中にねじ込まれたのだ。

 

なお、そのデザインの内容に関してはスコーピアスの要望により伏せさせてもらう。

 

その前のトバイアスの時は勝手にスキンを作ったために「よーし!貴方達の今日の夕ご飯のオムレツの中身は保証しないから覚悟しなさい!!」と言われていた。

 

結果はハバネロをたっぷり混入させられて口から火を噴く羽目になったというものである。

 

・・・こちらのスキンの内容も伏せさせてもらう・・・。

 

尚、予め宣言されていたのに何故食べたし・・・と思うかもしれないが、彼女は元々不味い食材を如何にしておいしくできるかを必死に研究していたのだ。そうでもしなければ自分が山賊どもにひどい目に遭わされるからだ。

 

そして、その悪辣な環境から解き放たれ、ガイアの手で美味い食材という弾薬としっかりした調理器具という武器を与えられたトバイアスはその怪物振りを遺憾なく発揮、高級レストランクラスの料理を次々作り上げ、何時しか料理長となっていたのだ。

 

故に、何か仕掛けられていたとしてもその美味さを知るものとしては食べずにはいられないのは是非もなきことである。実際激辛だがそれでもなおおいしかったらしい。

 

一方でティアのお化けスキンは本人も気に入っていた。

 

そんなこんなであっという間に日は流れ、ゲーガーとアーキテクトの二人が完成した一週間後にUMP三姉妹は完成した。

 

長女がUMP45、次女がUMP40、末妹がUMP9となった。

 

ただ、訓練は想定外にうまくいかなかった。何故かというと・・・。

 

・・・

 

*射撃訓練場*

 

サクヤ「4、45ちゃん・・・大丈夫?」

 

リコリス「・・・め、命中率2割以下・・・。」

 

ガイア「・・・どこかミスでもしたんだろうか・・・。」

 

45「・・・えぐえぐ・・・もうやらぁ・・・。」

 

デストロイヤー「な、泣かないで!私だって昔は射撃成績ドベだったし!!」

 

45「ふえええええええん!!」

 

40「大丈夫だって!アタイ達も手伝ってあげるから!」

 

9「泣かないで45姉!」

 

・・・

 

45は射撃に関しては某黄色いニクイやつ並みの『無類の不器用』だった・・・。

 

まぁ、こればっかりは訓練を積んで慣らしていくほかないのだが、もう一つの問題が・・・。

 

・・・

 

*三姉妹の部屋*

 

ピシャーン!!!

 

45「ぴぃ!?」

 

40「ど、どったの45?」

 

45「雷・・・怖い・・・。」

 

9「・・・45姉・・・。」

 

・・・

 

生まれて間もないという意味では当然なのだが、凄い怖がりなのだ。

 

尤も、怖がりというのは危険察知の面では有利であり、部隊長として必要な「引き際を見誤らない」ために欠かせないスキルである。

 

しかし、何故意図して設定したわけでもないのにこうなったのかが解らなかった。

 

そして、他の二人も子供っぽいところが多かった。

 

・・・

 

*訓練場*

 

9「わーい。」

 

エクスキューショナー(エクス)「わー止せ9!それ危ないから触るな!!」

 

エクスの刀に興味津々の9。後日エクスが抜き身のままだとちび達がケガするかもしれないと鞘を作ってもらっていた。

 

・・・

 

*ダクト内*

 

アルケミスト「おーい40。出てこーい。」

 

カチッ

 

40「・・・。」(懐中電灯を自分の顔に当ててニコニコしている)

 

アルケミスト「うわぁ!?!?(ゴチンッ!!)あッ・・・くぁぁぁぁぁぁぁ・・・。」

 

おふざけ大好きの40。ダクトの中は埃まみれだし何がいるかわからないから止めてほしい。

 

・・・

 

なお、三人ともあの変態がいつの間にか作っていたロリスキンを適用したままだ。見た目と行動が相まって完全に子供である。

 

そんなこんなで2週間経過したころには三人のメンタルも徐々に落ち着いてきた。

 

また、45が花、40が折り紙、9が音楽と、それぞれ趣味の方向性が決まったようだ。

 

・・・45の不器用は相も変わらずだが、それでも40や9の協力もあって徐々に改善してきている。

 

ただ、スキンと行動ロジックの影響で元々特殊部隊用だったはずなのに完全にマスコット枠である。

 

ガイア「まぁ、これに関してはもう少し時間をかけるしかないか・・・。」

 

私はマスコット三姉妹となったUMP三姉妹の事をぼんやり考えながらそう呟いた。




登場人物

UMP45:射撃に関しては無類の不器用で凄く怖がりな性格。昔のUMP45を知らない人からすると違和感しかないだろう。趣味は花。

UMP40:おふざけ大好きでいたずら好きな性格。加えてフットワークが軽くその点に関してはハイエンドモデルに勝るとも劣らない。趣味は折り紙。

UMP9:好奇心旺盛でなんでも触りたがる性格。趣味は音楽。

ウロボロス:原作との乖離が激しいハイエンドモデル。
非常にストイックな性格で自分の現状に満足せず、暇があれば訓練や修行で自らを高めることに余念がない。
元は上層部が蠱毒の原理で最も優れたAIを作ろうと計画されていたのだが、ペーパープランの段階で上層部が追放され、残されたプランをガイアがサルベージし、路線変更した結果今の彼女になった。
新兵の教導を目的として再設計されており、また試験的にメモリ領域が他のハイエンドよりも大きく設計されている。

エクスキューショナー(エクス):処刑人。
最初期のハイエンドモデルでターゲットの確殺を主眼化した突撃番長。
だが、実際には面倒見が良い性格。

---

10話まで投稿されましたがなんとここに来るまで感想が一件だけという事実に内心戸惑っています。
良いのだか悪いのだかわからないので本当にこのままで良いのかわからず内心不安です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【11】始動!404特務小隊!! -Existence-

2019年最後の投稿だというのにこんな扱いで416ファンの皆さんごめんなさい!!!


UMP三姉妹:原作ではUMP9だけルーツが違いましたが、今作では三姉妹揃ってSFS謹製の戦術人形となっています。
また、広域戦術連携のために三人ともIOP式のツェナーネットワークとSFS式のオーガスネットワークの両方へのアクセス権限を持っています。

三姉妹の呼び名:45が「シゴ」、40が「フィアーチェ」、9が「ナイン」となっています。
45は9が呼び始めたのが定着したもので、シゴと呼ぶようになった理由はみんなが数字を「いち、に、さん、し、ご、ろく・・・」と読み上げていたのを聞いて「「45」だから「シゴ」」という理由で呼び始めたようです。
40は最初はドイツ語読みの「フィーアッツィヒ」と呼ばれるはずでしたが、ちび達曰く「呼びづらい」という理由からイタリア語風の読み方に変形して「フィアーチェ」となりました。
9は普通に英語読みです。
元々は普通に数字読みの予定でしたが、9が45をシゴと呼ぶようになったことから残りの二人にも数字にちなんだ名前を付けることになった結果こうなりました。

アーキテクトとゲーガーが開発している大型砲台:ジュピターの事です。ですが、完成は大分先です。

グリフィン、IOPとSFSの関係:各々同業者という関係であり、それぞれが助け合い、支え合うことでELIDやテロ組織などの様々な問題に対応しています。

エーカーズ(ACARS):エーカーズというのは略称であり、正式名称は「Automatic Communications Addressing and Reporting Sysytem」となっています。
航空機で使われている同名のシステムと基本的には同じであり、小隊の現在位置と定時報告、ボディ等のメンテナンス用パラメータを自動的に送信するSFSが小隊用に試作した支援システムです。
一般の通信装置とは別回線を使用しており、必要とあれば定時報告によって支援要請をすることも可能です。
今回の実戦において問題が発生しなければ今後全ての小隊に標準装備される予定です。


*SFS射撃訓練場*

 

三姉妹が完成してから一か月が経過した。

 

一番の懸念だった45の不器用もかなり改善され、後は今日の試験で好成績を収めれば合格だ。

 

「ぐにゅう!?」と変な声を上げながら足をぐねって転倒していたのが懐かしく思える。

 

そして・・・。

 

シゴ「・・やった。やったよ!!私できた!!」

 

リコリス「やったじゃない!貴女遂に成し遂げたわ!!」

 

ナイン「おめでとうシゴ姉!!」

 

フィアーチェ「頑張ったねシゴ!アタイも嬉しいよ!!」

 

ペルシカ「やるじゃない!これなら大丈夫そうね!」

 

デストロイヤー「やったね!努力が実を結んだよ!!」

 

シゴはついにやり遂げたのだ。

 

ガイア「最初は肝が冷えたけど、こういうのも案外悪くないかもね。」

 

サクヤ「本当。デストロイヤーちゃんも自分の事みたいに喜んで・・・。」

 

サクヤさんは目頭が熱くなったのか目元をおさえている。

 

また、サイドアームに関しても平行して訓練が積まれていた。

 

シゴがブルートの物を改良したダガーナイフ6本と高速移動用のアサルトチャージャー「マルチウェイ」、

 

フィアーチェがスケアクロウのビットを簡略化したレーザーガンビット4基とその充電用デバイスが追加された飛行用のフライトモジュール「シュライク」、

 

ナインがイェーガーのスナイパーライフルを改造した折り畳み式の長射程狙撃レーザーライフルとアルケミストのそれと同型の光学迷彩となっていた。

 

因みに開発、改造を担当したのはアーキテクトとゲーガーの姉妹で、一つ下の妹たちへの姉からの餞別みたいな形になっていた。

 

同様に同じ小隊に参加することが決まったG11のティア・ファーヴニルにもサイドアームとして大型レーザーブレード「グラム」が贈られていた。

 

また、4人ともラウンドスピナーという地上走行用のローラーダッシュユニットが脚部に外付けされているという結構な重装備だ。

 

来週にはIOP側から派遣される戦術人形との顔合わせ、そして初任務がある。

 

ただ、ペルシカには一つ懸念があった。

 

IOP側から派遣される戦術人形「HK416」の性格の問題だ。

 

優秀ではあるのだが何が何でも完璧であろうとするあの強迫観念染みた性格の彼女が果たして眠たがりのティアやマスコット枠のちびっこ三姉妹とうまくやっていけるのか?そこだけが最大の懸念だった。

 

ティアは兎も角生まれてからまだ日が浅いちびっこ三姉妹が416に軽んじられるのではないかと内心気が気ではなかったようだが・・・。

 

残念ながら時間がない。初任務も本当ならもっと後、顔合わせのあと何度か合同演習と親睦会を行った後でやる予定だったが、急遽任務が入り込んでしまったのだ。

 

AR小隊も、つい先日始動したネゲヴ小隊も駆けずり回っているが処理が追い付かないのが現状である。そのため纏った時間が取れず殆どぶっつけ本番となってしまったのだ。

 

それに関してはガイアを含めたSFSのみんなも危惧している。

 

三姉妹とティアは同じSFS所属なので交流もあり、連携訓練も充分積めたが、416がそこに加わるとどうなるかが予測がつかない。

 

416が協調性のある性格であれば心配する必要はないのだが、残念ながら416は下手すると一人で突っ走りかねない性格だ。

 

ガイア「・・・念のために、アルケミストをバックアップに行かせるかな・・・。」

 

サクヤ「賛成・・・。チームとしてちゃんと動けるのかまだ不安だし・・・。」

 

これでも三姉妹とティアの訓練もかなりの早巻きなのだが、それでもこれなのである。

 

個人戦闘能力は確かに大切だが、それ以上にチームワークが作戦行動においては重要視される。

 

勝手に動き回られてはただ迷惑になる程度ならまだ良い方、下手をすれば仲間を死の危険に晒す恐れもある。

 

アルケミストなら光学迷彩によるステルスがあるから万一の時も即座にフォローに入れる。

 

何よりアルケミストは代理人を除けば一番総合戦闘能力が高い。想定外の事態が発生したとしても余程の事が無い限り皆で生還することくらいなら造作もないだろう。

 

兎に角今は備えることしかできない。本当なら代理人もつけたいのだが、生憎ここ最近ドタバタしているせいでグリフィンで捌き切れない任務をSFSが代わりに引き受けているためこちらも人手不足なのだ。

 

エクスとハンターは数日前に賊から村を守る任務に出発してまだ帰っておらず、デストロイヤーもここ最近オフだったが二日後にはアドバンスドキャノン装備で正規軍のテロ組織殲滅任務に協力するために出発しなければならない。

 

スケアクロウは明日までアルケミストと共に長距離輸送部隊の護衛に出ているし、それが終わってしばらく休んだら今度は環境NGO職員の護衛に出なければならない。

 

ちょうどアルケミストは輸送部隊護衛任務のあとしばらくオフになるのだ。尚、代理人はアルケミストと入れ違いにスケアクロウの任務に同行する。

 

アーキテクトとゲーガーは戦闘能力はあるが二人にも正規軍からの依頼で試作大型砲台の設計開発を任されており動けないし、ウロボロスもグリフィンで新人人形の教練で手一杯だ。

 

近々エリザの人型端末も完成するが戦闘用ではないので頭数には数えられない。

 

ローエンド達や戦車、戦闘ヘリも大半が様々な任務に出撃しておりSFSには警護班以外の戦闘要員があまり残っていないのだ。

 

一応新たなハイエンドやミドルレンジの開発計画は立ってはいるが、開発はまだ先になる。ビークル建造も資源的な余裕がない以上現時点では増産は厳しい。

 

ガイア(なるようになるしかない・・・か・・・。うまくやってくれるのを祈るしかないのが辛いところね・・・。)

 

アルケミスト一人つけるだけでいっぱいいっぱいな現状だが、今はこれでいくしかないと私は自分に言い聞かせた。

 

いつでも最善の選択ができるわけではない。理由は何であれ、最善の選択肢を選べない事はよくある話だ。

 

ならば次善、最悪でも「最悪の中の最善」を選ぶしかない。兎に角今手元にあるカードの中で可能な限り最善の選択をするほかない。後はただ祈るのみ。

 

そして、みんなの最初の懸念は見事的中してしまった。

 

 

 

 

 

*IOP会議室*

 

HK416「で、なんで私がこんな連中と組まなきゃいけないわけ?」

 

ペルシカ「まぁまぁ・・・。」

 

開口一番に416の文句が放たれ、それを私が宥める。

 

一方言われた側のティア、シゴ、フィアーチェ、ナインはといえば、ティアは眠そうに聞き流し、残りは苦笑いで受け流す。

 

ティアは普段から眠そうにしている(山賊時代の虐待で負った電脳の物理的な損傷が原因。因みに修理不能だった。)のが原因で、残り三人はド新人&相変わらずのちびっこスキンが原因だ。

 

対して416は結構な古参である。持ち前のプライドの高さもあってかこのキャラが濃い面々に拒絶反応を示すのも致し方ない。

 

ヘリアン「はぁ・・・416、文句を言うのは勝手だが、どこもかしこも人手不足だ。それはSFSも例外ではない。そんな中無理を通して大急ぎで人員を用意してくれたんだ。その物言いはいくら何でも失礼だぞ?」

 

ヘリアンの窘めを聞いて不機嫌そうに鼻を鳴らす416。

 

そこで私はワザと416を煽った。

 

ペルシカ「う~ん、じゃあいっそのこと4人だけで行ってもらおうかしら?身内同士なら連携もうまくいくだろうし。」

 

416「何よ!完璧な私を一人のけ者にするっていうの!?」

 

ヘリアン「なら文句を言わずにとりあえず一回一緒に任務をこなして来い。そのうえで文句があるのならその時に聞いてやる。」

 

416「いいわ!やってやろうじゃないの!!」

 

ヘリアン&ペルシカ(・・・ちょろい。)

 

・・・

 

・・・・・・

 

5人が退出した後、会議室には私とヘリアンの二人だけが残っていた。

 

ヘリアン「なぁペルシカ。今更だが、私は416を外したまま任務にあたらせた方がいいように思うのだが・・・。」

 

ペルシカ「そう思うのは解るわよ。でも、4人とも実戦経験が殆どないから一人はベテランが欲しいのよ。それに・・・。」

 

ヘリアン「それに?」

 

ペルシカ「416もいい加減協調性というものを学ばないと不味いのよ。あの子が今まで溢れていた原因、貴女も知ってるでしょ?」

 

ヘリアン「ああ・・・やたらと完璧に拘るせいで隊の和を乱すことが多くてどの小隊でも扱いきれなくて持て余されてきた問題児・・・だったか。」

 

私の言葉にヘリアンも遠い目で項垂れる。

 

ペルシカ「HK416型戦術人形は皆完璧に拘る性格をしているけど、あの子はその中でもかなりの重症よ。あのままどこにも混じれないまま終わらせるなんていくら何でもでしょ?」

 

ヘリアン「なるほど。つまり416にとってもいい刺激になってくれればということか。・・・うまくいけばいいが。」

 

ペルシカ「あの4人はSFSの社風の影響もあってかとてもアットホームな集まりだからね。うまくいかなければその時はその時としか言いようがないけどね・・・。SFSからは万一の備えでアルケミストがバックアップに就くって連絡があったし。」

 

ヘリアン「しかし、今回の任務は大丈夫だろうか・・・?」

 

ヘリアンは手元の資料に目を落とし表情を曇らせた。

 

密林地帯に潜伏していると思われるテロリストの確保、或いは殲滅。

 

情報が不足しており人数は元より練度や装備も殆どわかっていない、正直なところ、結成したての404特務小隊の手には余りかねない任務だ。

 

最悪、情報を可能な限り収集して誰一人欠けることなく帰還できればそれでよしなのだが、416の事だから無茶をしかねない。

 

4人のチームワークは実戦演習を見た自分でもわかる通り気心が知れていることもありしっかりしていたが、そこに屈指の問題児である416が入って果たしてうまく回るかどうか・・・。

 

ペルシカ「チームワークを乱すスタンドプレイは仲間を危機に陥れ、殺す事にもなる・・・か。」

 

正直な話、私ももっと時間が欲しかったというのは大いにある。ぶっつけ本番でうまくいくとは思えない・・・が、唐突に割り込んできたこの任務は断ろうにも断れるような内容ではなかったのもまた事実。

 

ヘリアン「・・・こちらからもバックアップに誰かを派遣できればいいんだが・・・。」

 

ペルシカ「・・・その誰かが416しかいなかったからこうなっちゃったんだけどね・・・。」

 

ヘリアン「違いない・・・。」

 

SFSが助けてくれるようになって負担は確かに軽くはなっているが、ここ最近テロ組織の動きがやけに活発になっている性でどこもかしこも人手が足りていない。

 

数か月前に近くのドイツで起きた誘拐事件も、その主犯格は日本の女性人権団体だった。曲がりなりにも人権団体を標榜している組織が誘拐などという手段をとる等世も末である。

 

この事件に関しては自分にとっても他人事ではない。誘拐された織斑一夏とは昔日本で合同研究していた頃に何度もあったことがある。

 

一夏本人は当時5歳だったから覚えていないだろうがこちらは覚えていた。盟友の束とその家族が一夏とその家族と家族ぐるみの付き合いだったことも知っている。

 

だから、束が報復行動に出たときに自分も微力ながら両家族の関係をリークする形で力添えをした。そのために私はカリーナに頭を下げたので驚かれたが・・・。

 

・・・因みにリコリスとサクヤはニュースが入って来なかったらしくこの地区にたどり着いてしばらくしてから知って驚愕していた。

 

ペルシカ「本当にこの世界、どうなっちゃうのかしら・・・。」

 

ELIDによる汚染が奇跡的にも極低濃度だったにもかかわらずこの混沌ぶり、その現実に私はこの世界の行く末に底知れない嫌な予感を感じていた・・・。

 

・・・

 

・・・・・・

 

*ヘリポート*

 

一夜明け、404特務小隊の初任務が開始される時間となった。

 

三姉妹は長距離移動に備えてちびっこスキンではなくノーマルの姿に戻っていた。

 

ヘリアン「いいか!任務内容の確認をする!目的は該当地域に潜伏していると思われるテロリストの確保、或いは殲滅だ!だが、お前たちはまだ実戦経験が殆どない!よって、手に余ると判断したら可能な限り情報収集をしたうえで誰一人欠けることなく撤退しろ!以上だ!!」

 

「「「「了解!」」」」

 

416「任せておきなさいよ!完璧な私の手にかかれば大したことないわよ!!ばっちり確保してやるわよ!!」

 

ヘリアン(お前が一番心配なんだよ!!)

 

こちらの不安を知る由もない416の発言にヘリアンは心の中でツッコミを入れた。

 

ペルシカ「まぁ、倒せるんだったら倒してもいいけど、それ口にするのフラグだからね?」

 

416「?」

 

私もそこはかとなくツッコミを入れたが416は何のことかわかっていないようだ。まぁ、このネタは昔日本で研究していた頃に偶然見つけたサブカルチャーの物なので知らないのも仕方がないのだが・・・。

 

ヘリアン「まあいい!そろそろ時間だ!」

 

メンバーはSFSから譲渡された輸送ヘリ「AH_Code24_TypeC ハインドキャリアー」に乗り込み、基地を後にした。

 

 

 

*同時刻 SFS本社正面玄関*

 

ガイア「三姉妹はオーガスネットワークに自身の位置を定期的に定時報告システム「エーカーズ」を使って報告してくるから見失うことはまずないと思うよ。」

 

アルケミスト「ああ。ちょうどいま出発したようだ。報告があがっている。」

 

アルケミストはそういって報告書を閲覧する。

 

エーカーズ定時報告[ヘリに乗り込み出発 現在異常なし...]

 

簡素な報告だが余計な情報が少ない方がこういう提示報告は読みやすくていい。

 

ガイア「・・・ごめんなさい、ようやく休めると思った矢先に仕事押し付けて・・・。」

 

アルケミスト「気にするな、かわいい妹たちの初陣だ。それにいい気分転換にもなるさ。」

 

ガイア「そういってくれると私も幾分気が楽になるわ。」

 

サクヤ「気を付けてね。あの子たちもそうだけど、貴女もケガしないようにね。」

 

アルケミスト「任せてくれ。それじゃあ、行ってくる。」

 

アルケミストはそういうとアーキテクトが用意したバイクに乗り込み、陸路で404特務小隊を追いかけ始めた。

 

ガイア「・・・何事もなければそれに越したことはないけどね・・・。」

 

私はそう独り言を呟いた。




AR小隊:原作通りのメンバーですが、この時点ではまだRO635は加入していません。

ネゲヴ小隊:IOPが用意した新しい小隊。404特務小隊より数週間早めに始動しています。
なお、彼女らもウロボロスが鍛えました。

404特務小隊:原作で言うところの「404 Not Found」に相当する小隊ですが、原作との乖離点が非常に多いです。
まず、UMP40が参加している上に違法人形は一人もおらず、加えてHK416以外は全員SFS出身となっています。
また、原作のような非実在存在でもなく、特殊な任務を専門とする小隊として認知されています。
なお、原作で登場したサポート要員のシーアとデールはこの時点ではまだ登場していません。

デストロイヤーの武装:元のグレネードランチャーはオミットされ、換装式のランチャーパックを装備しています。
主に対物、対建造物戦闘を想定したCRAMキャノン装備と対人、対ELID戦闘を想定したアドバンスドキャノン装備の二種類が存在します。

HK416:元々完璧に拘る性格ですが、今回404特務小隊に参加した個体はそれが特に酷く、隊の和を乱すことが多くてどこの小隊でも持て余されてきたというかなりの問題児です。ネタバレになりますが初陣で痛い目を見た結果自分に素直になれるようになり、結果的に更生します。
補足すると、原作からして「基本は冷静だが、徹底した完璧主義者。そして怒りの沸点が低めな激情家。」、「人当たりがややキツく、M4やM16が絡むと途端にムキになる。」と総評される性格ですが、今作で404に参加した416はその中でも殊更その性質が強く出ている個体で、それ故に何度となく小隊内で意見違いを繰り返してしまい様々な部隊を盥回しにされてきたという経歴を持っています。
根っこは悪人とは程遠いのですが、タダでさえ行き過ぎた強迫観念とヒステリックな性質を抱えている上に上記の経歴でそれらが更に拗れてしまっているためこういう性格になってしまっていますが、彼女自身が一番それに関して危機感を抱いています。
ただ、完璧主義者という性質から素直になれず、結局今までうまくいかずここまで来てしまったという感じです。

アーキテクトとゲーガー:原作でも人気な凸凹コンビですが、今作ではアーキテクトのふざけ具合がかなり弱いのでゲーガーの心労は大したことになりません。
家族という繋がりで繋がっているSFSの人形の例にもれず、色々な装備などを作ってあげたりしています。

ヘリアン:本名ヘリアントス。
原作通りの立ち位置だが同時にブリーフィングの説明をすることもある。
なお、原作通り「合コンの負け犬」であり(ゲームでも探索のニュースでネタにされてしまうほど)、いい加減何か拗らせそうだとはペルシカ談。

---

今年の投稿はこれで最後の予定です。
皆さま、良いお年を。
そして、来年もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【12】初めての任務(前編) -First Misson-

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

なお、ドルフロ側視点の話がもうしばらく続きます。


*作戦領域*

 

【視点:フィアーチェ】

 

何とか無事に作戦領域に入った404。因みに今回は一番経験豊富な416が指揮を執ることになっている。

 

作戦領域は林のような場所で、赤い紫陽花が所々に咲いている。

 

生憎の雨模様だが隠密には有利だし、何より紫陽花が映える。尤も・・・。

 

416「UMP45!花なんて後でいいでしょ!!」

 

シゴが紫陽花が映えることに率直な感想を述べたら416に怒られた・・・。

 

気を取り直してアタイ達は目的地へ向けて進んでいく。

 

しばらく進んでいくと青い紫陽花が咲いていた。

 

416はそのまま進もうとするけど・・・。

 

シゴ「ちょっと待って!!」

 

シゴが待ったをかけた。

 

416「なんでよ!?青い紫陽花摘んでいくなんて言ったらぶっ飛ばすわよ?」

 

416の文句を無視してシゴはかばんから金属探知機を取り出して組み立てていく。

 

416「何やってるのよ?」

 

シゴ「私の思い過ごしかもしれないけど、ちょっと気になるから。」

 

そう言って金属探知機であたりをスキャンするシゴ。ほどなくして反応があった。

 

シゴ「やっぱり地面に何か金属が埋まってる・・・。ちょっと大回りしたほうがいいかも・・・。」

 

画面を見ると地表近くに何か板状の金属が埋まっているようだった。

 

416「それがどうしたのよ?」

 

シゴ「只の金属板かもしれないけど、もしこれが地雷だったらと思うとね・・・。」

 

416「地雷!?」

 

シゴ「誰が設置したのかはわからないけどね・・・。ターゲットが仕掛けたブービートラップかもしれないし、旧大戦時代の残りかもしれない。どちらにしても何があるのかわからない以上避けた方がいいと思うけど。」

 

416「う・・・確かにそのとおりね・・・。」

 

万一生きている地雷だったら非常に危険だ。まだ始まったばかりだというのに落伍者が出る危険性があるし、何よりターゲットに警戒されたら難易度が飛躍的に跳ね上がる。

 

416「にしても、なんでわかったのよ?」

 

シゴ「このあたりに咲いている紫陽花が教えてくれたの。このあたりの紫陽花って殆ど赤色なのにあそこだけ青色だったでしょ?」

 

416「でも、紫陽花の色と何が関係するのよ?」

 

シゴ「紫陽花は咲いている土壌の酸性度で花の色が変わる特性を持っているの。殆どの紫陽花が赤色だったということはこのあたりの土壌が塩基性寄りだということだけど、あそこだけ青色・・・つまり酸性寄りだったの。」

 

416「それって、もしかして・・・。」

 

シゴ「金属から溶け出した酸化鉄とかがあのあたりの土壌を局所的に酸性にしていた可能性があったから調べたの。もちろんたまたまそこだけ酸性寄りの土壌だったって可能性もあったけどね・・・。」

 

完璧を自称する416もこれには脱帽するしかない。416にはそういうことは全く分からないのだ。

 

416「一つ聞いていい?あんたは何でそんなこと知ってるのよ?」

 

シゴ「私の趣味がお花の栽培なの。育てるためにはいろんな花の情報を知らないといけない。だからそうやって勉強しているうちに自然と身についたの。」

 

416「ふ・・・ふ~ん・・・そうなんだ・・・。」

 

普段の416からすれば馬鹿っぽい理由かもしれないけど、それで現に一つリスクを回避できたのだから馬鹿にできない。

 

アタイもシゴの植物に関する知識の多さと深さには何度も舌を巻いたほどだし。

 

更に進んでいくと、今度はナインが声を上げた。

 

ナイン「不味いね。遠いけど嵐の音が聞こえる・・・。」

 

416「嵐・・・?そんな音聞こえないけど・・・。」

 

ティア「いや、ナインの耳に狂いはないよ。早いうちに雨風を凌げる場所を見つけておいた方がいいね。そのためにも少し急ごう。」

 

ナインの趣味は音楽だけど、その対象は決して人が奏でる音楽だけではないよ。自然が奏でる自然の音楽もまた彼女の守備範囲なんだよ。

 

そして416は普段眠そうにしているティアがその眠そうな表情を捨てて本気の目に変わっていることに内心驚愕していたみたい。

 

416(何こいつら・・・?一体何なの?)

 

416は自分の理解の範疇から逸脱した事態の連続に軽く混乱していたみたい・・・。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ザーーーーー!!!!

 

ピシャーン!!!

 

一時間ほど強行軍で突っ切り、たまたま発見した放置された物置らしき建物の中に入って少しすると雨脚が急速に強まり、一気に嵐となった。

 

416(本当に嵐になった・・・。)

 

半信半疑だった416はまたしても混乱してたみたい。

 

この時の416は、自分の中の常識が少しずつ、だが確実に音を立てて崩れ落ちていくような・・・そんな言い知れない不安感が彼女を支配していた。

 

416(いや!私は完璧よ!M4やM16なんかとは違う!!私は、完璧なんだからッ!!)

 

416はそう自分に言い聞かせていた。一方で・・・。

 

シゴ「・・・やっぱし雷怖い・・・。」

 

フィアーチェ「う~んやっぱり慣れないのかなぁ・・・。」

 

ナイン「確かに凄い音だし、万一直撃したら一撃だものね・・・。」

 

ティア「Zzzz...」

 

私達4人は至極マイペースだった。

 

そんなどこかほのぼのしたムードに気づくことなく、416は一人嫌にピリピリした空気を張り詰めさせていた。

 

・・・

 

・・・・・・

 

結局嵐は翌朝になるまで収まらず、そのまま一夜を廃屋で過ごすこととなった。

 

一応交代で見張りを立てての睡眠だったのだが、4人はすっかりリフレッシュできたのに対して416は一人だけげっそりしていた。

 

416(あーもう・・・変に目がさえて眠れやしなかったわ・・・。)

 

戦術人形は基本睡眠は必要ない。だが、電脳をリフレッシュする目的では睡眠をとった方が効率が良い。

 

だが、416は気負い過ぎと過度の緊張で全く寝付けず、結局丸一晩完徹する羽目になったのだった。

 

おかげで昨日のログが殆ど整理できず、電脳がオーバーロード気味だった。

 

416(あいつら・・・なんでこんなところに来てまで普通に寝れるのよ・・・?)

 

416はこんな状況下でもマイペースに行動できる4人に対して苛立ちを覚えるのと同時に、一抹の嫉妬を覚えていた。

 

尤も、416の不眠の最大の原因は完璧であろうとする強迫観念が原因なのだが、この時の416はそんなこと知る由もなかった。

 

シゴ「あれ?416どしたの?」

 

416「!?」

 

シゴ「・・・調子悪いならもう少し休む?」

 

シゴの言葉は混じりっけない善意、あくまで気遣いだったのだが、今の416にそれはアカンやつだった。

 

416「そ、そんなの必要ないでしょ!!予定が押しているのよ!!」

 

シゴ「でも、顔色が・・・。」

 

416「いいからッ!!私は完璧なのよ!!この程度なんでもないわよ!!」

 

シゴ「う・・・うん・・・。」

 

416の気迫に押されて引っ込むシゴ。しかし一方で・・・。

 

416(あーもう!!心配してもらったのに何で私はこんなことしか言えないのよッ!!)

 

純粋に心配されたにもかかわらず突き放す事しか言えない自分に対しても416はイラついていた。

 

 

 

*いくらか離れた崖の中腹の洞窟*

 

【視点:アルケミスト】

 

アルケミスト「まさか丸一晩降るとはなぁ・・・。」

 

初っ端から悪天候の洗礼を受ける羽目になっていた404だが、バックアップについている私も当然その洗礼を受けることになっている。まぁ私は慣れているし、彼女らもあまり堪えていない様だ。

 

ただ一人を除いては・・・。

 

アルケミスト「あー、416のやつ完全にやられた顔しているな・・・。」

 

遠くから長距離望遠装置で様子をうかがうと416の表情が中々やつれているのが見えた。不安が的中したといったところか・・・。

 

資料によると実戦経験はそれなりに豊富だがこういうタイプの任務は経験が少なく、またスコールの直撃を喰らうこともなかったらしい。

 

スニーキングする上では雨は音をかき消してくれるので有難い節があるのだが、同時に体力を余計に消費する原因にもなる。

 

丸一晩身動きが取れなかったために休むしかなかったにも拘らずあそこまでやられた顔をしているということはまともに休息をとれなかったのだろう。

 

アルケミスト「目標地点までもう距離がない。うまくやってくれるといいが・・・。」

 

そう独り言をつぶやいて望遠装置を再び覗き込む。

 

ふと、レンズの向こうのシゴがこちらを向いた。そして目を細めながら首を傾げた。

 

アルケミスト「やば!?」

 

咄嗟に岩場に身を隠す。

 

アルケミスト「ここから向こうまで2000mは下らないはずだ・・・。いくら間に障害物がないとはいえこの距離で怪しまれるとは参ったなぁ・・・。」

 

少し間をおいて恐る恐る再び望遠すると、シゴは「勘違いかな?」といった表情で出発準備をしていた。

 

アルケミスト「危ない危ない・・・。裸眼の視力は人間より多少良い程度のはずだけどなんで怪しまれるかなぁ・・・?」

 

ELID退治はもちろんのこと、テロリスト鎮圧の時もこんな経験はなかった。

 

アルケミスト「・・・まぁ、うれしい誤算かな・・・?」

 

そう呟きながら私も移動準備に入った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【13】初めての任務(後編) -Encounter-

今回初めて戦闘描写込みでISが登場します。

・・・そして、416が痛い目を見ます。416ファンの皆さんごめんなさい。

また、今回から試験的に誰の視点で物語を見ているのかを明記しました。
好評であればこれ以前のも含めて視点明記をする予定です。

・・・にしてもこの話、タグ付けしてみたら目まぐるしく視点が切り替わっていました。視点切り替え回数実に4回・・・そりゃ読みづらいわ・・・。


【視点:ナイン】

 

昼前になり、私達404特務小隊は目的地に到着した。

 

私とティアが偵察位置から偵察しているが、ターゲットの人数が想定外に少ない。

 

ナイン「う~ん・・・そんなに人数はいないみたいだけど、これ本当にこれだけ?」

 

ティア「本当にいないのか、たまたま出払っているのか・・・。」

 

416『どっちにしたって良いでしょ。敵が少ないならそれだけやりやすいんだから。』

 

ナイン「確かにそうだけど、万一出払っている別動隊がいて、途中で帰ってきたりでもしたら最悪挟み撃ちに遭うよ?」

 

ティア「何より別動隊を取り逃したら後が面倒だよ。」

 

今回の任務内容はテロリストの確保、ないしは殲滅だ。万一取り逃しが出たらそちらの対処にかかる手間が倍になる。

 

途中で帰ってきたりしたら非常に不味いし、終わった後で帰ってきても盛大に警戒されて後処理が面倒になる。

 

こういう場合、なるべく全員そろっている状態で一網打尽にしたい。全体的な難易度は上がるが、手間や不確定なリスクは少なくて済む。

 

結果、3日間様子見をしてみたところ、本当にこれだけしかいない様だ。

 

本当に小規模な集団らしいが、人数が少なければ難易度が低いかといえばそうとも言えない。一人でも取り逃せば結局二度手間になるし、それなりに大規模に活動している以上、個々の能力も侮りがたいと考えるべきだ。

 

ぶっちゃけた話、私のスナイパーライフルで一人残らず狙撃するという手もなくはない。

 

ただ、テロリストの確保、つまり生け捕りが目標である今回は出来ればそれは最後の手段に取っておきたい。

 

このスナイパーライフル、レーザーライフルなので非殺傷による無力化には向かないのだ。

 

・・・

 

・・・・・・

 

【視点:アルケミスト】

 

日が沈む少し前に作戦が決行されたようだ。

 

今回はシゴとフィアーチェ、416が拠点への潜入を行い、ナインがバックアップとして高台から狙撃体制をとり、ティアがナインのスポッターと護衛を担当する。

 

予想に反して制圧は順調に進んだ。・・・気持ち悪いくらい。

 

流石にうまくいきすぎている気がしたので警戒レベルを一つ引き上げたようだが、結論から言うと、それで足りるような代物ではない相手が最後に控えていた・・・。

 

シゴ「ちょっと!?『ライオットスーツ』の上に更に『IS』は流石に聞いてないよ!?」

 

女ボス「散々好き放題やってくれたな。でも、この特別製のスーツとISのセットは簡単じゃねーぞ!」

 

ライオットスーツ。

 

全身を装甲板で覆ったような、言うならば現代風の「鎧」だ。

 

麻酔弾は言うに及ばず、サブマシンガンや一般的なアサルトライフルの銃弾さえその多くを止められる鉄壁の防御を誇る。

 

しかもこれで機動性はさほど落ちない。

 

加えてIS「ラファール・リヴァイヴ」まで纏っているのだから厄介極まりない。

 

「ラファール・リヴァイヴ」そのものはやや型落ち気味とはいえ通常火器では有効打は与えづらく、しかも機体性能は射撃寄りのバランス型だ。

 

加えて自由飛行ができるだけで大きなアドバンテージがある。

 

どうやらこのテロ組織は思った以上に根が深いのかもしれない。

 

ISは相応に高価な代物だ。基本的に零細気味な小規模のテロリストにはたとえ一機だけでも早々手が出せるような代物ではない。つまり、「織斑一夏誘拐事件」の実行犯のような、バックに相応に財力を持った組織が居る可能性が高い。

 

アルケミスト「最後の一人だけがIS装備だっただけまだマシか・・・。だけど流石にこれは彼女らには手に余るか・・・!」

 

私は武器を装備し、光学迷彩を起動して救援に向かった。

 

・・・

 

・・・・・・

 

【視点:シゴ】

 

降り注ぐマシンガンの銃弾を前に私たちは防戦一方だった。

 

SFS謹製のフルトン回収装置で無力化した敵兵を排除していなければ、今頃復活した他の敵兵にまで囲まれて敗北は必至だっただろう。

 

シゴ「アーキテクト姉さんには足を向けて寝られないなぁ!!」

 

フィアーチェ「本当に!!」

 

フルトン回収装置を思いついて開発したのはアーキテクト姉さんだった。

 

時間が足りなくて15個しか作れなかったが、それでも充分だったのが幸いだ。

 

何というか・・・アーキテクト姉さんは偉大だ。

 

時々その方向性が明後日の方向に向いてしまうがそれはご愛敬だ。

 

しかし参ったものだ。こちらは発砲しても当たりはしないし仮に当たっても大したダメージにはならない。一方相手は撃ち放題。ワンサイドゲームにも程がある。

 

実は、私のダガーナイフならライオットスーツを切り裂くくらいならできるし、ISの絶対防御にもある程度対抗できるらしい。

 

ただ、自由飛行ができない私では上空を自在に飛び回るISに肉薄するのは無理だ。

 

フィアーチェのシュライクも高機動戦闘を目的とした装備ではないからむしろ的になるだけだ。

 

416は先ほどから銃弾と榴弾で反撃しているが掠りもしない。

 

シゴ「せめて地上すれすれまで降りてきてくれれば・・・。」

 

フィアーチェ「何か地上までおびき寄せられる手段があれば・・・。」

 

と・・・。

 

416「上等じゃない!!やってやるわ!!」

 

女ボス「ほぅ、うちのISを使おうってのかい?」

 

シゴ「え!?」

 

フィアーチェ「いくら何でも無茶だよ!?」

 

416がどこから見つけてきたのか「ラファール・リヴァイヴ」を身に纏っていた。

 

確かにISにはISをぶつけるのは理にかなってはいる。だが、この状況ではこれは悪手だ。

 

・・・

 

【視点:フィアーチェ】

 

*回想*

 

フィアーチェ『ねぇアーキテクト姉さん。アタイ達もISって使えるかなぁ?』

 

アーキテクト『う~ん・・・。できなくはないと思うよ?サクヤさん曰く、ISのコアと私達戦術人形のコアは元は同じものだから親和性は高いはずだって。』

 

フィアーチェ『じゃあ。』

 

アーキテクト『でも、実際には不可能かな?戦術人形のメモリ領域じゃISの特殊な操縦方法に対応できないみたいだからね。少なくとも今の戦術人形とISではほぼ無理だといってもいいかもね。』

 

フィアーチェ『そっかぁ・・・。』

 

アーキテクト『でも、かつて90Wishという研究チームを組んでいたあの4人が知恵を出し合えば、何時かは可能になる日が来るかもね?』

 

*回想終了*

 

・・・

 

端的にいえば、今の戦術人形では今のISを操縦するのはまず不可能と言える。

 

戦術人形は烙印システムを使って本来必要な訓練期間を大幅に短縮することができるが、その代わりメモリ領域を大きく喰ってしまう。

 

それは普通に訓練する場合もそうだが、烙印システムを使うと更に追加でメモリ領域を使ってしまうのだ。

 

そしてISの操縦というのは日常的な動作との共通点が殆どないのでまた別に運用を学ぶなり烙印を刻むしかない。

 

だが、そうすると今の戦術人形のメモリ領域では到底追い付かないとのことだ。

 

メモリ領域が大きめに作られているウロボロスなら可能性はあるかもしれないけど、アタイ達では到底無理だ。

 

ましてや比較的旧式の416には自殺行為以外の何物でもなかった。

 

416「く・・・この・・・!動きなさいよ・・・!!」

 

女ボス「タダの案山子じゃないか。経験の差というものを教えてやろうじゃないさ!!」

 

416「きゃああああ!?!?」

 

ただでさえメモリ領域が全く足りない上にぶっつけ本番で動かそうとしたのだ。

 

当然まともに動けるわけもなく、ただただマシンガンの銃弾のサンドバックにされるだけだ。

 

416は為すすべなくシールドエネルギーを根こそぎ削り取られてしまい、ISも強制解除されてしまう。

 

416「ひぃっ!?」

 

シールドエネルギーがなくなって強制解除されてしまえば身を守る手段はほぼない。

 

すかさずシゴがフラッシュグレネードで割り込んでいなければ416はまずやられていただろう。

 

女ボス「チッ・・・うまい事やってくれたね・・・。」

 

・・・

 

416「うぅ・・・痛い・・・痛いよぉ・・・。」

 

何とか近くの家屋に転がり込んだけど、416は数発足に被弾していたらしく足から人工血液が流れ続けていた。

 

アタイとシゴが即座にファーストエイドと薬草で傷の治療をしたけど、416の戦意は完全にへし折られていた。

 

シゴ「無理もないか・・・。危うく嬲殺しにされるところだったからね・・・。」

 

フィアーチェ「でもどうするの?これじゃあ逃げるのも厳しいよ?」

 

遠くで狙撃体勢に入っているナインとスポッターのティアならまだ逃げられるかもしれないけど、負傷して動けない416を担いでISから逃げるのは流石に無理。

 

シゴ「・・・戦って勝つしかないね。一つだけ勝機があるよ。ナインとティアもいいね?一度しか言わないからきっちり成功させてよね。」

 

シゴはネットワーク接続でナインとティアに通信を繋ぎ、作戦を伝え始めた。

 

・・・

 

・・・・・・

 

【視点:シゴ】

 

女ボス「かくれんぼも御終いにしようじゃないか。かわいい部下たちをどこにやったのか、洗いざらいしゃべってもらおうか!」

 

女ボスは焦れたらしくマシンガンの弾倉を交換しつつ私たちが隠れている家屋に向かって叫んだ。

 

シゴ「誰がッ!!」

 

私は家屋の陰から飛び出し、走りながらサブマシンガンで攻撃した。

 

最早避けるまでもないと判断した女ボスはシールドと装甲で弾きつつマシンガンをこちらに向けた。

 

シゴ(今よッ!!)

 

直後、女ボスのラファール・リヴァイヴの左バインダーに背後から赤いレーザー弾が突き刺さった。

 

女ボス「何だい!?」

 

間髪入れずに遠くの崖上に陣取ったナインがスナイパーレーザーライフルで女ボスを連続狙撃する。

 

女ボス「狙撃手かい・・・。賢しい真似してくれるじゃないか!!」

 

そういってナインのいる方向に加速しようとしたラファール・リヴァイヴの背後にフィアーチェの攻撃が着弾し、更に集中力を削ぐ。

 

女ボスがフィアーチェに向き直るとフィアーチェは即座に窓から身を乗り出すのをやめてカバー体勢に入る。

 

一発のレーザー弾が更に女ボスの近くを通り過ぎると同時に今度は家屋の入り口から416が身を乗り出して狙いを定めた。

 

女ボス「甘いね!読めるんだよ!!」

 

女ボスは一笑してマシンガンの狙いを416に合わせて掃射する。

 

416は躱せず全身に銃弾の嵐を浴び、そのうちの一発が頭を吹き飛ばした・・・と、一瞬女ボスは錯覚した。

 

女ボス「な、なんだって!?!?」

 

女ボスが416だと思ったのは実際には折り紙と材木で作られた、416に似せたフィアーチェ謹製の即興の案山子だった。

 

夜間だったために誤認してしまったのだ。

 

通常ならハイパーセンサーで解るだろうが、あっちこっちから銃弾が浴びせられていたせいで集中力が削がれ、思わず視覚情報だけに頼って条件反射的に反応してしまうというケアレスミスを犯してしまったのだ。

 

そして、その一瞬の動揺が女ボスにとっての「痛恨の隙」となった。

 

思わず横に向けていた女ボスのマシンガンに背後から投げつけられたナイフが突き刺さり使い物にならなくなる。

 

女ボス「何!?!?」

 

私はこの一連の陽動の隙に近くの屋根の上にのぼり、そこからACマルチウェイとラウンドスピナーで急加速し、ナイフを投げつけつつ屋根から女ボスめがけて大ジャンプしていた。

 

シゴ「取った!!」

 

女ボス「こいつ!?」

 

想定外の一撃に女ボスは一瞬思考がフリーズしてしまい、反応ができなくなった。

 

そのまま私はナイフでラファール・リヴァイヴをズタズタに切り刻みつつ組み付いた。

 

装甲と絶対防御をライオットスーツ諸共切り裂かれ、シールドエネルギーをゴッソリ奪い取られたラファール・リヴァイヴは限界を超えて強制解除され、女ボスは私諸共地上に墜落した。

 

墜落した女ボスはうめき声を上げつつなおも抵抗を続けようとしたけど、地面にたたきつけられたときに右腕が折れたらしく右腕がおかしなところで折れ曲がっていた。

 

シゴ「動かないで、もうこれ以上の抵抗は無意味でしょ?」

 

受け身を取ってダメージを最小限に抑えていた私は息を切らしながらもナイフとサブマシンガンで女ボスにホールドアップをかける。

 

フィアーチェも家屋からサブマシンガンとガンビットで狙いを定めていたし、ナインもスナイパービームライフルで遠方からいつでも女ボスを射殺できる体勢を取っていた。

 

女ボス「チッ・・・どうやらあたしらの負けみたいだね。」

 

女ボスも流石に勝ち筋がないと観念したらしく辛うじて動く左腕で降参の意を示した。

 

こうして、私達404特務小隊の初任務は、一応の成功裏に完了した。

 

ただ、416が動けなかったのと、負傷した女ボスがフルトン回収に耐えられない可能性があったからヘリにここまで来てもらうことになったんだけどね。

 

・・・

 

・・・・・・

 

アルケミスト「おいおい・・・あの状況から逆転するって、どんだけなのよ・・・。」

 

因みに後で知った話だけど、救援に駆けつけたアルケミストは到着してみたら既に終わっていた事に愕然としていたみたい。




女ボス:特に名前や深い設定は考えていないキャラクターです。しかし、ボスを張るだけあってその実力は本物であり、油断とかく乱が無ければこうも簡単には勝負はつきませんでした。

今回のテロ組織:テロ組織扱いされていましたが、実際にはあくまで依頼されたことをやっていただけであり、当人たちは別段差別思想等を持っているわけではありません。良くも悪くもビジネスライクな集団であり、適正な金を積まれれば何でもやる、どちらかというと傭兵に近い集団です。今回の一件で全員逮捕されました。
今のところ再登場の予定はありませんが、もしかしたら或いは・・・。

ラファール・リヴァイヴ:フランスのデュノア社製の第二世代ISで第二世代の中では最後発。そのため単純なスペックだけなら初期の第三世代ISに勝るとも劣らない性能を有していますが、第三世代のような隠し玉的な機能や必殺技的な機能は持っていないため総合性能ではやや見劣りしています。各国で第三世代ISが開発され続ける中デュノア社はこの機体のマイナーチェンジを繰り返す事しかできず、やや型落ち気味という評価を受けています。

ACマルチウェイ:シゴが使用したアサルトチャージャーユニット。ボーダーブレイクシリーズで登場した同名装備と基本的に同じものと思ってもらえればいいです。
無印にあたるアサルトチャージャーと比較すると出力で劣りますが、あちらは出力が高すぎて前進と後退しかできず、また動きが直線的になってしまうので戦闘機動には向かず、出力が低いながらも複雑な機動が可能なこちらの方が有用とされています。
後述するラウンドスピナーの連続稼働時間を延伸するのが目的です。また、本来の用途から外れますが、エネルギー兵器に緊急充電する目的でも使うことが一応可能ですが、仕様外なので実行は自己責任です。

ラウンドスピナー:基本原理はコードギアスシリーズに登場したランドスピナーと同様ですが、外付け装備である関係で動力はモジュールサイズが取りやすい可動輪側(ランドスピナーで言う補助輪)にしか存在せず、靴底に更に取り付けるローラーユニットは無動力です。要はローラースケートをモーター付きの可動輪の出力で前進後退させるようなものです。
設計限界から連続稼働時間が短く、あくまで瞬間的なブースト移動に限定されており、これを移動の主軸に据えるには前述のアサルトチャージャー系のユニットか、別途ブースターユニットを予想移動距離に応じて外付けする必要があります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【14】初任務を終えて -Debriefing-

・・・また、自転車のペダルが少し重くなった・・・。

ここ最近休みなしに働いているせいで若干過労気味で、最新話を書こうとしているのに頭がちっとも回転しません。

休みが無い原因としては職場の同僚が一人骨折でダウンしたことで、その穴埋めにシフトが調整された結果、今まで土曜日が全休だったのに半日出勤になってしまい疲労がとり切れなくなってしまいました。

そのため、この先しばらくの期間本編の更新頻度を半分の二週間おきにする予定です。

最新話を楽しみにしている方々には申し訳ありませんが、ここ最近ずっと寒い日が続いていて体調も悪くなる一方で、下手すると限界を超えて長期間ダウンしかねないためこのような予防処置を取らせていただきます。

この休みなしのシフトがいつまで続くのかは不明なので、更新頻度半減期間は現状無期限とさせていただきます。

シフトが戻り、体調が安定してきたら改めて更新頻度を元に戻す報告をします。


*IOP会議室*

 

【視点:ヘリアン】

 

404特務小隊の初任務が終わり、提出された報告書を私とペルシカで閲覧する。

 

ヘリアン「結果オーライとはいえ、やはり懸念していた事態が発生してしまったか・・・。」

 

出発前から不安だった416の暴走。それがものの見事に炸裂してしまった事が報告書からも読み取れる。

 

ペルシカ「ISを無理やり使おうとして返り討ち・・・か。よっぽど焦っていたのかな?416にしては随分とらしくない無謀な事をしてるね。」

 

ペルシカの意見には私も同意だ。

 

416は確かに若干の暴走の気があったが、今までにあったことと比べるとこれはかなり思い切ったことだ。精々が些細な命令無視や独断専行という、充分問題ではあるが程度は軽いものばかりだった。

 

それが今回に限っては随分と派手にやっている。

 

彼女は基本多少リスキーな事はやってもここまで無謀な真似はしなかった。それはひとえに彼女が完璧を自称しているからというのがあるのだろう。

 

多少暴走しても自分にできることとできないことは弁えていたため、これまでの作戦でも問題行動こそあったがそれが原因で失敗につながるということは無かった。

 

別に運が良かったからということではなく、危険は冒しても無謀な真似はしないからこそ今まで失敗しなかったのだが・・・。

 

ヘリアン「報告書では初日に廃屋で一夜明かした時にひどく調子が悪そうだったとあったな。」

 

ペルシカ「ログを見てみたけどあれは寝不足だったみたいよ?原因までは解らなかったけど。」

 

ヘリアン「本人から直接聞ければいいんだがな・・・。」

 

その問題の416だが、メンタルにかなりのダメージが発生したらしく帰ってきてからずっとフリーズしたままだった。

 

その原因を探るためにもこうやって報告書を読み解いているのだ。

 

ペルシカ「おや?初日から色々とあったみたいだね?」

 

シゴが紫陽花の色から地雷のリスクを回避したこと、ナインが嵐が来ることを音で察知したこと、416が寝られない中で四人は交代で熟睡したこと・・・そして。

 

ヘリアン「おや?寝起きをシゴに心配されたところで電脳がエラーを吐いているな?」

 

それはちょうど416がシゴに心配された際につい声を荒げてしまったタイミングだったことは後に知ることとなる。

 

ペルシカ「もしかしたら、色々と初体験の事が多すぎて自分の価値観が壊れちゃったのかもね。404の他のメンバーってみんな今までの戦術人形と比べてかなり特殊だから。」

 

ティアは一応元はIOPの人形だが、残り三人はSFS生まれで他の人形たちと比べても人間味が強い。

 

加えて三人の持つ趣味は今回の任務の中でも活用されている。シゴとナインの件は言うに及ばず、フィアーチェも持ち込みの折り紙と現地にあった木材で即席の案山子を作ってテロリストのボスをかく乱している。

 

なお、この女ボスは連行される途中で「油断していたってのはあるかもしれないけど、それを差し引いても手ごわかったよ。敵としては二度と会いたくないね。」と404特務小隊を高く評価していた。

 

416がフリーズしたままなのは、完璧を自称していながら作戦遂行に貢献するどころか、焦るあまり無謀な真似をして自滅してしまった挙句、残り4人だけで任務を成功させられてしまったショックも多分に含まれているのかもしれない。

 

と・・・。

 

シゴ「ペルシカさん、シイムのお見舞いに来たんだけど、どこにいるの?」

 

いつものちびスキンな404メンバーがやってきた。

 

ペルシカ「え?「しいむ」?」

 

フィアーチェ「HK416の事だよ。「416」だから「シイム」ってわけ。」

 

折り鶴と見舞い花を持参してやってきた404メンバーを見る限り、少なくとも彼女らからは416は悪く思われていない様だ。

 

416ももう少し素直になれれば苦しむこともないだろうに・・・。

 

・・・

 

・・・・・・

 

*HK416の部屋*

 

ナイン「シイム~見舞いに来たよ~。」

 

皆で416の部屋にやってきたが、416は相変わらず焦点の合わない目で天井を見ながらフリーズしていた。

 

シゴ「シイム、ごめんね・・・。私がもっと早く閃いていたら、あんな怖い思いしなくて済んだのに・・・。」

 

シゴはどうやら自分が直ぐに妙案を閃かなかったせいで416があのような危険を冒したのだと思っているようだ。

 

「・・・がう・・・。」

 

ヘリアン「ん?今だれか何か言ったか?」

 

ティア「え?私じゃないよ?」

 

「・・・ちが・・・違うの・・・。」

 

ペルシカ「「違う」?もしかして416?」

 

416「違うの・・・シゴのせいじゃないの・・・。」

 

416がいつの間にかフリーズが解除されていたらしく、涙を流しながらむくりと身を起こしていた。

 

シゴ「シイム!気が付いたの!?」

 

フィアーチェ「よかった!みんな心配してたんだから!」

 

ナイン「おはようシイム!」

 

416が目覚めたことに喜ぶ404メンバー。

 

416「違うの・・・違うの・・・あたし・・・あたしぃ・・・!」

 

416は嗚咽を溢しながら言葉を紡ぐ。

 

416「あたしが余計なことしちゃったから、みんなを危ない目に・・・!あたしのせいで、みんなを・・・みんなを・・・うぇえええええええええん!!!」

 

とうとう子供のように泣き出してシゴに抱き着く416。

 

ヘリアン(紆余曲折あったけど、416もようやく素直になれたのかな・・・?)

 

ペルシカ(色々あったけどね・・・。まぁ、後はじっくり時間をかけて行けばいいか。)

 

416「ううぅ・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!ひっくぅ・・・あたしが・・・うぇえええええええええん!!!」

 

シゴ「泣かないでよシイム!みんな生きて帰ってこれたんだから充分だよ!」

 

ティア「あわ、あわ、あわわわわ・・・。」

 

フィアーチェ「作戦自体も成功したんだし、そこまで思いつめなくたって大丈夫だよ!」

 

416「だって・・・だってぇ・・・(ぐぅぅぅぅぅぅ)・・・あ。」

 

ナイン「トバイアスさんが弁当持たせてくれたから食べようよ。」

 

416「う、うん・・・食べる・・・。」

 

今まで完璧に拘るあまり空回りが目立っていた416だったが、ようやく彼女にも居場所が出来たといえるだろう。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ちょうどそのころ、テレビではドイツのとある研究施設が襲撃されたというニュースが流れていた。

 

だが、その研究施設は何年も前に閉鎖されていて態々襲撃するような価値などないはずだった。

 

後の調査で判明したのだが、この研究施設は閉鎖された後にひそかにとある研究グループが無断で非合法な研究のために使用していたのだ。

 

そして、襲撃を仕掛けたのは篠ノ之束達だった。

 

襲撃の理由は、この施設が最強のISライダーを生み出すために人体実験という非人道的な実験を行っていたため。

 

研究スタッフたちは既に遁走していたらしいが、その場に残されていたモルモットにされていた孤児たちは束らが全員保護していた。

 

その中には、後に「クロエ・クロニクル」という名前を持つことになる未来のISデザイナーもいた。

 

因みに、何故束がこの研究施設の存在を知ったのかというと、この研究施設の情報を束にリークしたのは他ならぬ「エリザ」だったのだ。

 

エリザはリコリスやサクヤとの会話の中で束の事も知っていた。彼女も自分たちの生みの親の一人であることも、そしてS09地区に来てから新たに、今はIS絡みで非人道的な行為をしている組織を討つために動いていることを知った。

 

そして、エリザはネットワーク上で様々な情報を閲覧する過程で偶然この施設の実態を知り、その無法を看過できなかったために束にリークしたのだ。

 

当然束が動かないはずもなく、めでたく(?)違法研究は叩き潰されることとなり、天災を怒らせればただでは済まない事を世界は再び思い知ることとなった。

 

ISは元をただせば人類が宇宙で活動する日を夢見て束が生み出した夢の結晶。それ絡みで誰かが理不尽な不幸を被ることは束にとっては到底我慢ならない事なのだ。

 

・・・尤も、それでも馬鹿やる輩は馬鹿を止めないのだが・・・。




シイム:HK416に対してシゴ達が付けた愛称。
今回の一件でようやく彼女も己の中の柵(しがらみ)や歪みと決別できました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【15】蒼穹の空を目指して -Nightmare++-

*トラック島離島鎮守府 虹見島 りんご村*

 

季節は廻り、秋になっていた。

 

秋は多くの作物が収穫の時期を迎える。

 

台船操縦免許を見事取得した一夏もその収穫作業を精力的に手伝っていた。

 

おかげで作業は捗り、予定より早くに本日の収穫作業は終了、りんご村で皆と共にしばしの休息をしていた。

 

【視点:一夏】

 

エンタープライズ「しかしまぁ、君は本当に努力家だな。この間ロングアイランドが言ってたぞ。シミュレータールームで戦闘機の操縦訓練まで頑張っているって。」

 

吹雪(艦これ)「台船の次は戦闘機・・・一夏さんはなんでそこまで色々なことをやりたがるんですか?」

 

一夏「俺の姉さんは人類最強と言われるほどに凄い人なんだよ。生活能力は壊滅的だけど・・・。おまけに俺がいた世界は男性の立場が殆どなくてね・・・、よく比較されてはあれやこれやといじめやらなんやらされてね・・・。」

 

吹雪(艦これ)「あ、ごめんなさい・・・嫌なことを思い出させてしまいましたか?」

 

一夏「そこまで気にしてはいないさ。そんなことするのは女性の中でもごく一部だったし、図らずも女尊男卑の原因を作ってしまった束さんもこうなってしまったのを酷く悔やんでいたし・・・。」

 

脳裏に自ら命を絶ちかねないほどに苦しみ思いつめていた束さんの姿がよぎった。

 

ダンケルク「止しましょう!そういう暗い話は!」

 

向こうの世界に碌な思い出が無いせいで身の上話はどんな話題でも地雷になってしまうと思ったのか、はたまたそういう空気に耐えられなかったのかダンケルクさんは話題を変えようとした。

 

ダンケルク「そういえば、貴方のお姉さんは生活能力が壊滅的だとさっき言いましたけど、具体的にはどういうレベルなのですか?」

 

恐らく興味半分、他の話題が思いつかなかった半分だろうが、これに関しては別段言ってはばかるようなことだとは思っていないので答えた。

 

一夏「あー、千冬姉はね・・・例えば料理しようとしたら何故か包丁がすっぽ抜けて壁や天井にぶっ刺さるんだよ・・・。」

 

エンタープライズ「・・・へ?」

 

一夏「掃除機使わせたら壁や家具にすごい勢いでアタックを繰り返して壁や家具は傷だらけになるし・・・。」

 

駆逐棲姫「・・・はい?」

 

一夏「洗濯機使わせたら洗剤も柔軟剤も丸々一本を一回で使い切るせいで服も洗濯機もエライことに・・・。」

 

ダンケルク「うわぁ・・・。」

 

吹雪(艦これ)「・・・それって、不器用とかそういう問題じゃないですよね?」

 

駆逐棲姫「それって寧ろ、加減が解っていないという雰囲気が・・・。」

 

一夏「それもあると思うけど、それだけじゃないと思う。」

 

エンタープライズ「お・・・おう・・・。」

 

正直な話、こんなの序の口だ。電子レンジで卵を温めようとして卵が爆発するとかそういうありきたりな失敗なんてとっくにフルコンプ済だ。

 

いつぞやは何を失敗したのかカレーという余程酷い失敗をしなければ最低限形になるしろものを調理中になぜか台所で爆発事故を起こすという斜め上の要らないミラクルを起こしたこともあった程だ。

 

あまりの酷さに束さんに「ちーちゃんはもう家事全般やっちゃだめだよ。」と怒られるほどだ。

 

今でも何をどうしたらカレーを作る過程で台所で爆発が発生するのか解っていない。別にガス漏れとかしていたわけではないのに爆発したのだから原因が解らなかったのだ。

 

エンタープライズ「・・・こういうことを言うのは失礼かもしれないが、そんなことで君のお姉さんはこの先結婚できるのか?いやそれ以前に、今大丈夫なのか?」

 

一夏「結婚はどうだろうなぁ・・・ただでさえ高嶺の花みたいな存在だから女尊男卑を差し引いてもあんまり寄り付く人いなさそうだし、仮にできたとしてもなぁ・・・。」

 

「天は二物を与えず」とは言うが、もうちょっとこう手心というものは無かったのだろうか天よ・・・。

 

一応マドカと箒がいるから今のところは大丈夫だとは思うが・・・。

 

 

 

 

 

-因みに、このころマドカは束と一緒に行動しており、千冬の世話はほぼほぼ箒が担当していたことを補足しておこう。-

 

-それでも大荒れ状態の千冬の生活は箒一人では補いきれないレベルに達しており、千冬は現在進行形で不摂生を積み重ねていることも追記する。-

 

 

 

 

 

*その問題の千冬なのだが・・・*

 

【視点:箒】

 

千冬「一夏ぁ・・・一夏ぁ・・・どこにいるんだお前はぁ・・・。」

 

箒「千冬さん・・・気持ちはわかりますけど部屋片づけますから一度出てください・・・。」

 

腐海の如くどっ散らかった部屋の中のベッドの上で千冬さんは涙目で抱き枕を抱きしめながらゴロゴロと転がっていた。

 

見るに堪えない千冬さんの惨状は何度見ても慣れない。見るたびに自分自身の胸も締め付けられるように苦しくなる。

 

千冬「うぅ・・・一夏ぁ・・・。マドカも早く帰ってきてくれぇ・・・私を一人にしないでくれぇ・・・。」

 

両親に先立たれたうえに、一夏は生死不明となりマドカも出奔。余程ショックが大きかったのだろう。

 

自分はまだ両親が存命中だし、姉さんも死んだわけではない。

 

連絡は全くないが、家族に危害が加えられるようなリスクを背負わせないためにも敢えて連絡を寄越してこないのだろう。ただ・・・。

 

箒「私でさえもこんなに辛いのに、姉さんはどう思っているのだろう・・・。」

 

姉さんたちの発明が結果的に女尊男卑という今の風潮を作ってしまった事を決して乗り越えられたわけではない姉さんだ。

 

あの酷く憔悴した姿を未だに覚えている以上、どこかで完全に壊れて死に急いでしまうのではないかと内心気が気ではない。

 

先日のドイツの非合法研究施設の一件のニュースを見る限りでは少なくとも今は大丈夫そうだが、何時か擦り切れてしまうのではないかと、つい想像してしまう。

 

箒(一夏・・・早く帰ってきてよ・・・。私もそうだけど、姉さんも千冬さんもそろそろ限界かもしれないの・・・。)

 

私はそのまま蹲り、一人ですすり泣いた。

 

胸元に風穴を穿たれたかのような喪失感は、薄れるどころか日を追うごとに自己主張を少しずつ、しかし確実に強くしながら私たちを追い詰め苦しめ続けていた。

 

 

 

*一方そのころ束はといえば・・・*

 

【視点:マドカ】

 

束「げほっ!げほっ!!」

 

マドカ「束お姉ちゃん・・・。」

 

ベッドの上で束お姉ちゃんは激しくせき込み、時々血の絡んだ痰を吐いたりしていた。

 

鈴音「はい、お粥が出来上がったよ。」

 

鈴お姉ちゃんが完成したお粥を持ってきて、束お姉ちゃんはそれをゆっくりと食べている。

 

「細胞レベルでチート」とか「人類最強クラス」とか謳われた束お姉ちゃんが病に倒れるなんて、「病は気から」とはよく言ったものだと思う。

 

あの日報復を始めた日から殆ど休みなしで戦いつづけた束お姉ちゃんはとうとう無理が祟って体調を大きく崩してしまった。

 

最初は風邪のようだったけど、治るどころか日に日に症状が悪化して、今では束お姉ちゃんは一日の大半をベッドの上で過ごさなければならないほどに弱り果てていた。

 

アンお姉ちゃんも精神安定剤を服用しなければ夜眠れない程に弱っているし、今は普通に振る舞っている鈴お姉ちゃんも毎晩ベッドの中ですすり泣いている。

 

スコール「ただいま。頼まれていた食材と薬、買ってきたよ。」

 

マドカ「あ、うん。ありがとうスコールさん。」

 

買い出しに出ていたスコールさん、オータムさん、そしてアンお姉ちゃんが帰ってきた。

 

オータム「今日も今日とて辛気くせぇな・・・。まぁ仕方ねぇってのは解るし、空元気で無理やり明るくするのも辛いってのも解ってるけどよぉ・・・。」

 

アン「本当、私達って一夏がいないだけでこんなにも壊れちゃうんだなって・・・。」

 

クロエ「皆様にとって、一夏さんは本当に大切な人だったんですね。」

 

車いすに乗ったクロエさんが資料を持ってきた。

 

クロエさんはこの間のドイツの非合法研究施設から救出した「被検体」の中でも特に重症だった人だ。

 

束お姉ちゃんがISの技術を応用して機能停止寸前だった体の一部機能をISで代用することで辛うじて命を繋いだくらいだ。

 

まだ体力がまだ戻り切っていないらしく車いす生活を続けている。

 

・・・因みに他の子たちは皆束お姉ちゃんが秘密裏に作った孤児院で元気に暮らしている。

 

マドカ(お兄ちゃん・・・どこに行っちゃったの・・・?)

 

未だ消息不明のお兄ちゃんの事を想い、私も思わず涙を流していた・・・。

 

 

 

*数日後のトラック島離島鎮守府に視点を戻して・・・*

 

【視点:一夏】

 

平和な日々が続くかといえば答えはNoだ。

 

この世界だって争いは抱えている。

 

今でこそ安定しているが、それでも争いがないわけではない。

 

セイレーン

 

数年前から突如現れた謎の勢力で、まるで人類を試すかのように振る舞いつつ人類と敵対する謎の存在だ。

 

ルウさん曰く「彼女らの目的は不明だが、少なくとも人類を滅ぼすという意図はないことだけは確実だ。」とのことだ。

 

その振る舞いは人類を嘲笑うというより、まるでワザと挑発しているようだという。

 

まるで強大な敵として立ちはだかることで人類に新たなる可能性の分化を促そうとしているようだと。

 

現在の状況を説明すると、近海を航行中のユニオンの艦隊がセイレーンの大規模艦隊と遭遇戦になったという。

 

しかし中途半端に距離があるせいで艦娘の航行速度ではとても間に合わず、基地の航空部隊で急行対処しなければならないとのことだ。

 

俺はPDA越しにルウさんに直談判していた。

 

一夏「ルウさん!俺にも出撃させてください!」

 

ルウ『ダメよ!貴方はあくまで客人、命がけの戦いに連れて行くなんてできないよ!』

 

当然却下されるが、俺はなおも食い下がる。

 

一夏「シミュレーターでの訓練は充分積みましたし、空母の皆さん監修のもと実戦訓練も受けさせてもらいました!それに、今この基地の航空隊は殆どが別の任務で出払っていてパイロットが殆どいないんですよね!」

 

ルウ『だけど・・・!』

 

ちょうど別の鎮守府の新人航空隊員の訓練飛行と周辺警備に人員が割かれている上に、通常の警邏飛行が重なってしまい、今救援に出撃できるパイロットが1部隊しかいないのだ。

 

仮に警邏飛行に出ている部隊をすぐに呼び戻したとしても再出撃のためには補給と応急整備、換装と時間がかかる。

 

なお、訓練飛行に関しては本来は別の鎮守府の航空隊が担当する予定だったのだがトラブルが発生したために急遽こちらの鎮守府が代理で部隊を派遣したらしい。

 

エンタープライズ『提督、彼の勝ちですよ。人手が必要なことに変わりはないし、彼の実力は私たちが保証しますよ。』

 

ルウ『むぅ・・・そういわれてしまうとなぁ・・・。仕方がない!地下六階のF-6通路に向かいなさい!その先にある「ヴァーンツベック」という高速リニアモノレールで天見島まで行ける!』

 

一夏「了解!!」

 

俺はそのまま階段を地下六階まで駆け下り、通路の先にある乗り物に乗り込み天見島へと急いだ。

 

・・・

 

・・・・・・

 

天見島にたどり着き、整備員のおじさんに言われた通り格納庫に入ると、そこには何機かの戦闘機が駐機してあった。

 

そばの段ボール箱にはパイロットスーツが入れられており、さっきの問答のあと大急ぎで準備されたような印象があった。

 

整備員「その機体は「VF-172 ナイトメアダブルプラス」という可変戦闘機だ!一応初心者にも扱いやすい素直な性能な奴を用意した!壊してもいいから生きて帰って来いよ!!」

 

一夏「解ってます!!」

 

おじさんの激励に返事をした後、俺はパイロットスーツを着込んでコックピットに滑り込んだ。

 

一夏「訓練は積んだ・・・やってできないことじゃない・・・。武装はなにがある・・・?」

 

機体が載せられたトレーのような台座によって発進位置へと運ばれていく中、俺は機体の武装を確認した。

 

一夏「大型レーザーガンポッドに腕部ビームキャノン・・・口径が違う二種類のビームバルカンに、後はマイクロハイマニューバミサイルか・・・。格闘武器はビームサーベルと・・・ピンポイントバリアパンチ?」

 

防御システムにも目を通すと、VTPS装甲という機体エネルギーを消費して実弾を遮断する特殊装甲とピンポイントバリアというバリアフィールドを纏うことでダメージを肩代わりさせる、ISの絶対防御のようなシステムが備わっていることが記載されていた。

 

一夏「フラップ・・・スラット・・・エルロン・・・ラダー・・・エレベーター・・・。」

 

残った時間で俺は機体の動作確認のチェックリスト、続いて離陸用チェックリストを順番に確認していく。

 

管制官『滑走路解放!発進準備が完了した機体から順次離陸申請願います!』

 

ルウ『一夏さん!発進後は私の機体とエレメントを組んでもらいますよ!赤地に黒のラインが入った4発機だからすぐにわかるはずよ!それと、暫定でいいからコールサインを決めておきなさい!紛らわしいものじゃなければなんでもいい!戦闘中はみんなコールサインで呼び合うから忘れないように!!』

 

一夏「解りました!!」

 

管制官『進路クリア!叢雲機、発進願います!!』

 

ルウ『総員遅れないように!ついてこれなければ置いていくよ!!VF-X-28レギルスバルキリー、叢雲ルウ、ルシファー、出撃する!!』

 

次々と発進していく機体を見送りつつ、自分の番が回ってくるのを静かに待った。

 

管制官『進路クリア!織斑機、発進願います!!無事に帰ってきてくださいね!』

 

俺は深呼吸をして、そして答えた。

 

一夏「了解!VF-172ナイトメアダブルプラス、織斑一夏、ホワイトクェーサー、行きます!!」




エンタープライズ:ユニオンの空母。
第二世代艦娘の中ではトップクラスの艦載機運用技術を有する。
原作では食事をレーションで済ませるなど食に関してあまりにも無頓着だったが、この鎮守府のエンタープライズは農作業をすることもあってか普通に料理を食べる。

吹雪(艦これ):特型駆逐艦の長女。
第二世代の吹雪が子供っぽいために事実上第二世代の特型駆逐艦の姉でもある。
また、特I型駆逐艦の設計図を元にしてツバキ級防空駆逐艦が設計されたのでツバキ級にとっての姉ともいえる。

駆逐棲姫:姫クラスの深海棲艦で春雨の双子の姉。

ダンケルク:アイリス・ヴィシアの正面番長式戦艦。
アイリス・ヴィシアの参謀的な立ち位置だが、甘いもの好きでどちらかというとお姉さん的な立ち位置が似合う性格。

クロエ・クロニクル:前話の最後のニュースで報道された襲撃の折に束が救出した被検体の中でも特に重体だった少女。
滅茶苦茶な実験と改造の弊害で多臓器不全を起こしかかっていたため体の機能の一部をISで代用することで当座を凌いだ。
回復しつつあるが、束が倒れてしまったために次の手術が出来なくなっている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【CO1】平行世界の街並みと -喫茶鉄血-

今回はいろいろ氏の小説「喫茶鉄血」とのコラボ回です。

初めての事なので色々と手探りですが、コラボを快諾していただきありがとうございます。

喫茶鉄血の代理人視点はこちら:https://syosetu.org/novel/178267/204.html


*S09地区 路地裏*

 

404特務小隊の初任務から約1か月後。季節は秋にはなったが、まだ残暑が厳しい。

 

石畳の表通りは昼過ぎともなると打ち水の効果もとうに無くなり、アスファルトほどではないが照り返しで結構暑い。

 

こういう日は無理に表通りを歩かず、影が多い裏路地を通るのが幾分か涼しい。

 

そんなこんなであれからいくつかの任務をこなし、ある程度落ち着いてきたことでもらえた休暇をUMP三姉妹はアイスクリームを舐めながらちびスキンの状態で裏路地を散策していた。

 

【視点:シゴ】

 

フィアーチェ「う~ん・・・まだまだ暑いねぇ・・・。」

 

シゴ「カンカン照りだからねぇ・・・。」

 

ナイン「なーんかぼーっとしちゃうねぇ・・・。」

 

私達は三者三様にどこかぼけーっとした感じで他愛もない会話をした。

 

普段はこういう路地裏は多少なりとも風が流れているものなのだが、今日に限っては凪だ。

 

おかげで熱が籠ってしまい日陰でも妙に蒸し暑いのだ。

 

私達はそんな中少しでも涼しいところを求めて特に当てもなく彷徨うように路地裏を進んでいた。

 

別に冷房が効いた室内に籠っていてもいいのだけれど、私達は三人そろって活動的な性格なので、部屋の中でぐでーっとしているのはどうにも性に合わない。

 

その結果、暑いのが解っているのに外に出て路地裏散策をしている。

 

私達は特にやることが無いとこうやって路地裏散策に繰り出すけど、S09地区の裏路地はあちこちが複雑に入り組んでいて、ちょっとした迷路のような感じになっている。

 

そこを特に当てもなくぶらぶらしていると、意外と暇つぶしになる。一度通ったところでも、別の日に来たり別の向きから来たりするとまた違った顔を見せる裏路地はいつ来ても飽きない。

 

と・・・。

 

ナイン「あれ?」

 

ナインがふと足を止めた。

 

ナインの目線の先には他の路地とは雰囲気が違う、何度も緩やかに折れ曲がりながら続いていく見たことも無い路地が伸びていて、その先からほのかに涼しい風が吹いてきていた。

 

暑さで微妙に頭が回らなくなっていた私達はその涼しい風に誘われるかのようにその路地を進んでいった・・・。

 

 

 

チリーン・・・

 

 

 

どこかで小さい音がしたような気がしたけど、私達はそっちまで気が廻らなかった・・・というより、別段気にしなかった。

 

・・・

 

・・・・・・

 

アイスクリームを舐め終えて、コーンも食べきった所で私達は路地の出口にたどり着いた。

 

出た先は公園のようだ。

 

確かS09地区にはメインストリートから少し離れた路地の先に日の当たる公園があったが・・・。

 

フィアーチェ「・・・こんな公園なんてあったっけ?」

 

自分たちが知っている公園とは何かが違うように思えた。そして・・・

 

ビュオォォ!!

 

三人「「「寒い!?!?」」」

 

突如吹いた寒風で一気に体が冷える。

 

途端にぼんやりとしていた頭が一気に覚醒し、状況を整理し始めた。

 

ちらほらと雪が舞う曇り空。

 

自分たちの記憶には無いレイアウトの公園。

 

そして、この寒さ。

 

因みに私達は三人とも残暑対策のために薄着だ。

 

シゴとナインはちびスキンに付随する子供風の私服だし、フィアーチェも狐をモチーフにしたポシェットを身に着けている程度のスポーツタイプの服。

 

防寒性能など絶無といっていい。

 

三人「「「ひいぃぃぃぃ!!!」」」

 

思わず回れ右して路地に飛び込もうとするが、そのまま壁に激突してはじき返される。

 

出てきたはずの路地が無くなっているのだ。

 

軽く混乱した私達はとりあえず暖を取れるところを探して駆け出そうとするが・・・。

 

シゴ「・・・て、あれ?」

 

ふと、目についた喫茶店の看板の前で私達は足を止めた。

 

その看板には「喫茶 鉄血」と書かれていた・・・。

 

・・・

 

・・・・・・

 

喫茶鉄血の代理人「そうですね、説明する前にまずは温かい飲み物でもお出ししましょう」

 

店に入ると出てきた代理人-私達の知る代理人とはどこか違う代理人-が応対してくれた。

 

言われるがままに席に通され、私達はホットドリンクと一緒に出された古い新聞を読ませてもらっていた。

 

最初は意味がよくわからなかったけど、ある記事に目が留まった。

 

「鉄血クーデター事件」

 

似たような事はあったと記録にあるけど、その内容は私達が知っているそれとはまったく違った。

 

大まかな成り行きは似ていたけど、この新聞の記事では「鉄血ハイエンドモデルがクーデターを起こし、その後当時のハイエンドモデルが責任を取って鉄血を離れた」とある。

 

私達が知る情報では、「SFS(旧鉄血工業)の若社長、ガイア・ティアマートが当時の鉄血上層部を追放した」とある。

 

加えてフィアーチェが何の気なしに壁に掛けられていたカレンダーの日付を見ると日にちは元より、年も全然違うことに気づいたの。

 

具体的に言うと、何十年も先の日付になっていたの。

 

喫茶鉄血の代理人「その様子だと薄々お気づきになったと思われますので端的に説明しましょう。ここは、貴方達の居た世界とは別の世界です。」

 

・・・

 

喫茶鉄血の代理人「・・・そういえば、貴方達はUMP型の戦術人形のようですが、名前はあるのですか?」

 

シゴ「私は「シゴ」、SFSのミドルレンジモデル戦術人形で、そっちの名前は「SFSチェイサー」っていうの!」

 

フィアーチェ「アタイは「フィアーチェ」。もうひとつの名前は「SFSコンダクター」だよ。」

 

ナイン「私は「ナイン」。もう一つの名前は「SFSピアサー」なの。」

 

喫茶鉄血の代理人「「SFS」とは何でしょうか?」

 

シゴ「私達の世界の鉄血工業の再編後の名前。『Sangvis Ferri Striders(サンギス フィリー ストライダーズ:鉄血の闊歩者達)』、頭文字を取って『SFS』ね。」

 

私たちはお互いの世界の事を話し合っていた。

 

といっても、私たちは生まれてからまだあまり時間がたっていないし、鉄血工業襲撃未遂事件等に関しては記録でしか知らないから予めそう断ってから話したけどね。

 

意外なことに、この世界にもサクヤさんが居ることに驚いた。尤も、元からいたわけじゃなくて別の世界から流れ着いた人みたいだけど。

 

逆にこちらの世界の代理人の話も聞いた。この世界のUMP三姉妹の事も。

 

・・・この世界のUMP45が妹UMP40と「F45」というUMP45を参考に生み出されたフィードバック戦術人形にべったり好かれ、よくUMP45が二人に両サイドからマフラーで首を絞められて窒息しかかるという愛を受けているのを聞いたときは私達は苦笑いしか出なかったけど・・・。

 

・・・そのUMP45も昔は私と同じように銃の命中率が悲惨だったと聞いて顔が真っ赤になったけどね・・・。

 

因みになんで私達が普通に話せているかというと、時間が来れば自然と元の世界に帰れると初めに教えてもらったからだ。

 

そのあとも会話が弾んだけど・・・。

 

ふと身に着けていた時計がひときわ大きな音を立てて時間を告げた。

 

喫茶鉄血の代理人「おや、どうやら時間のようですね。」

 

シゴ「えっと、お勘定・・・って、あれ?値札の単位が・・・。」

 

フィアーチェ「本当だ、コインじゃない・・・。」

 

ナイン「私達コインしか通貨持ってないよぉ・・・。」

 

喫茶鉄血の代理人「いえ、お代は結構です。どのみち通貨が違う以上お会計できませんので。強いてお代というなら、貴方達の世界のお話がお代替わりです。それと・・・。」

 

そういって代理人は私達にコーヒー豆を持たせてくれた。

 

喫茶鉄血の代理人「うちのオリジナルブレンドです。貴方達の世界の鉄血・・・SFSの皆さんとどうぞ。」

 

シゴ「うん、ありがとう!」

 

フィアーチェ「あ、そうだ!」

 

そういってフィアーチェは狐のポシェットから折り紙を何枚か取り出し、手早く折って形にする。

 

それは私達の小隊「404特務小隊」の隊章によく似たデザインだ。・・・というより、隊章を考えたのはフィアーチェだったりする。

 

フィアーチェ「せっかくだからこれあげる!」

 

喫茶鉄血の代理人「ふふふ、ありがとうございます。では、お気をつけておかえりください。」

 

三人「「「はーい!」」」

 

そして私たちは店の扉を開けて外に出る。

 

 

チリーン・・・

 

 

再び音がしたかと思うとそこは自分たちが良く知るメインストリートから少し離れた日の当たる公園だった。

 

空は快晴で相変わらず残暑がキツイ。

 

ふと振り返ると、「喫茶鉄血」があった所には古いアパートがたっていた。

 

シゴ「・・・不思議なこともあるんだね。」

 

フィアーチェ、ナイン「そうだね。」

 

私達は貰ったコーヒー豆を持ってSFS本社に歩いて行った。

 

余談だけど、この不思議な体験を聞いた代理人がお店を持つことに興味を持ったりしたけど、それはまた別の話。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【16】白き準星 -White Quasar-

VF-X-28レギルスバルキリー:正式名称は「デリーパー(削除者)」で、レギルスバルキリーは愛称。
外観上の基礎設計はVF-27ルシファーと同じだが、頭部がガンダムレギルスに似たデザインの新規品になっている、背中から多連結式のアームに接続された連装ビーム砲兼ビームクロー「ボーンクラッシャー」が伸びている、テールキャノンが追加装備されている等差異が多い。
元々はVF-27を何度も改造して使っていたが設計限界にたどり着いたので、一から新たに作り直したのがこのVF-X-28である。
攻撃性能と加速力、最高速度に重きを置いている上に重量が増したことで操作性が非常に悪く、ルウと火逐にしか扱えないじゃじゃ馬となってしまっている。
元々が量産性度外視の専用機であるが故に実動機が二機と、予備機が三機の合計五機しか存在しない。

VF-172ナイトメアダブルプラス:VF-171ナイトメアプラスを基本とし、そこにVF-17ナイトメアの強行モード、VF-25メサイアのISCとEXギアシステムを少しずつ形を変えて取り込んだ発展強化機体。
量産機体であるが故に飛びぬけて高性能ということは無いが、高いステルス性能と扱いやすい素直な操作性、そこそこ多彩な武装群と末永く使い込んでいける設計となっている。
別途スーパーパック、アーマードパックが存在するが今回は使用されていない。
なお、ISCは出力が低いため慣性を完全に消すのではなく、一定値を超えた慣性を引き受けることでパイロットの負荷を減らす方向に調整されている。
イメージとしてはPSPゲーム「マクロスエースフロンティア」でその凶悪なレーザーバルカンでバジュラの屍の山をいくつも築き上げたダークホースとしてのVF-171ナイトメアプラスに近い。
余談だが、ナイトメアプラスの方はこの鎮守府では航空部隊の訓練機として運用されており、非常時には戦闘モードでスクランブルさせることも可能になっている。


*天見島上空*

 

シートに押し付けられるような急加速によるGを全身で感じる。

 

ランディングギアが地面から離れて空中に舞い上がる感覚、旋回することで発生するGの圧迫感、景色が次々にはるか後方へ流れ去っていく高速感。

 

どれをとっても悪い感じがしない。

 

まるでこうして空を飛ぶことを待ち望んでいたかのような不思議な高揚感。

 

例えるなら、「実家のような安心感」といったところだろうか?

 

だが、広がる蒼穹の空の先、ちょうどセイレーンが出現したという海域だけ赤黒く染まっているのを見て、俺は高揚感を心の底に押し込んで気を引き締める。

 

ここから先は命のやり取りになる。気を抜けば自分が死ぬことになる。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ルウ『ルシファーより全機に通達!敵艦隊はポーンクラス駆逐艦とナイトクラス軽巡洋艦を中心とした水雷戦隊寄りの艦隊という情報が入った!ただし、旗艦としてスマッシャークラス戦艦が確認されている!迂闊な飛び方だけはしないように!!』

 

敵艦隊の情報が画面に次々と表示される。

 

そのほとんどは量産型の小型艦艇だが、その中に明らかに艦娘寄りの姿があった。

 

識別名は「Smasher Mk.I」と表示されており、これが旗艦の戦艦だとわかった。

 

サイズだけを見れば艦船型の量産艦の方が大きいのだが、見た目に反してそこまで強くなく、寧ろ大きすぎる性で運動性能と被弾面積の面で艦娘に劣る。加えて動作が単純なので仕留めるのは簡単だという。

 

一方艦娘型は小さい分艦船型よりも運動性が高く、狙いをつけるのも難しい。戦艦型は性質上あまり速くは動けないがそれでも艦船型よりは速く動ける。縦横無尽に動き回ることもあって意外と厄介だ。

 

一夏「先にある程度量産艦を沈めないと近づけないな・・・。」

 

俺は暇なときは図書館に入り浸っていろんな本を読み漁っていた。当然艦船に関する本もだ。

 

駆逐艦は勢力や型によって目的は様々だが、一般的に対空、対潜、対小型艦のいずれかの役割、もしくはそれらすべてを受け持つ小型艦艇で、装甲と最大火力こそ低いが高い量産性と速力、そして時には一撃必殺の魚雷で戦艦すら喰うことで艦隊を力強く支援する縁の下の力持ちだという。

 

一般的にどの艦隊にも駆逐艦は相応数所属している。長距離での撃ち合いでは射程と装甲が足りずあまり役に立てないが、かといって全く配備しないと戦線に穴が開いてしまったときにその穴を素早く埋めることができずそこから艦隊が崩壊する恐れがある。

 

余談だが、トリニティ・ガードの量産艦は全体的に駆逐艦や軽巡洋艦といった小型艦艇が多く、そしてそのいずれも一芸持っている。

 

特に凄まじいのは「ツバキ級」という防空駆逐艦だ。現時点で最新仕様である改十四ともなると大量のミサイルと対空砲火の嵐で寄り付く航空機を打ち砕き、敵からのミサイルや魚雷はデコイや迎撃ミサイル、迎撃魚雷で無力化する徹底ぶりだ。

 

かく言う俺もシミュレーションではツバキ級は一度も攻略できなかった。何回あの凶悪な対空砲火にミンチにされたことか・・・。

 

そんな軽いトラウマもあってか、俺の中では駆逐艦はある意味戦艦よりも厄介な敵という認識になっていた。

 

・・・後で聞いた話だが、何度となく改修を繰り返したツバキ級が異常なだけで、普通の駆逐艦はツバキ級との相対的な比較ではあるがそこまで脅威ではないらしい・・・。

 

閑話休題。

 

ルウ『まずはミサイルでご挨拶と行きましょうか!全機一斉射!』

 

その号令と共に飛行するすべての機体から無数のミサイルがばら撒かれ、セイレーンの艦艇からも対空砲火が放たれる。

 

流石にこちらは6機しかいないためこちらのミサイルはほぼほぼ迎撃され、迎撃から漏れたミサイルも敵艦艇に致命傷を与えるには程遠かった。

 

ルウ『やっぱり数の差が大きいか・・・。全機散開!まずは数を減らす!』

 

ルウさんもミサイルが届くとは最初から考えていなかったようだ。トリニティ・ガードはミサイルの扱いに長けている分、その弱点や対処法にも通じている。

 

いくらセイレーンの対空砲火がツバキ級に遠く及ばないとしても数の暴力でその差をひっくり返せることは解り切っていたようだ。

 

・・・ついでに、敵の対空砲火の濃度と反応を見るための釣り弾としての意味合いもあったのだろうが。

 

俺たちはバラバラに散開し、独自に攻撃を開始した。

 

俺はレーザーガンポッドをスナイパーモードで起動し、ビームキャノンと合わせて敵駆逐艦の艦橋めがけて狙撃を繰り返した。

 

一発では流石に貫けないが数発当たれば貫けるようで、艦橋をつぶされた敵艦は動きが止まり、それによって敵艦隊の隊列が乱れ始めた。更に艦のバイタルめがけて狙撃しながら海面近くを突撃する。

 

艦砲が吹き飛び、弾薬が誘爆し、缶が爆発して敵艦が傾き、そして一際大きな爆発を起こして跡形もなく消滅する。

 

俺はその爆炎を隠れ蓑にしてその先にいる軽巡洋艦に機首を向ける。

 

軽巡洋艦は爆炎に紛れた俺を正確に捕捉できず、散発的に対空砲と主砲で俺を追い払おうとするが、シミュレータールームや図書館に入り浸り、実戦訓練で経験を積み上げていた性かその砲弾の軌道が見えるように思えた。

 

飛んでくる軌道さえ解ってしまえば回避するのはさほど難しくない。俺はバレルロールで砲弾を躱しつつ肉薄し、即座にバトロイド形態に変形してビームサーベルで艦橋を切り裂いた。

 

他の敵艦は同士討ちを警戒したのかこちらにはあまり積極的には攻撃してこない。その隙に俺は機体をバク転の要領でファイター形態に戻しつつ主翼のミサイルを切断された艦橋の断面から艦内部に叩き込む。

 

主要機関が致命傷を受けて爆散する軽巡洋艦。上空に離脱すると判断したのか他の艦から対空砲火が上空に放たれるが、俺は背面飛行で海面スレスレを元来た方向へ戻り、その先にいた別の駆逐艦の横っ腹にビームキャノンを叩き込んだ。

 

当たり所が悪かったのかかなりのダメージを負った駆逐艦は、火を噴き上げながらもこちらに向けて対空砲と主砲を撃とうとするが、時すでに遅しだ。

 

背面飛行のまま機首を下げてやや上昇したのちに再びバトロイド形態に変形し、そのまま逆落としの体勢で回転するように駆逐艦を下から上へと二本のビームサーベルで切り上げた。

 

悲鳴のような金属音を上げて駆逐艦は折れ曲がりながら爆散し、俺は一度上空に戻って敵の数を確認する。

 

30隻はいた敵艦隊は既に6隻しか残っておらず、そのうち2隻も既に大破していた。

 

旗艦のスマッシャーが何とか一機でも道連れにしようと主砲を動かしているがその瞬間スマッシャーの腹部に何かが突き刺さった。

 

ルウ『ホワイトクェーサー!まさか初陣で軽巡1、駆逐2を無傷で撃破するとは思ってなかったですよ!』

 

ルウさんからの通信と同時に突き刺さった何かが赤いビームを吐き出しスマッシャーを内部から破壊し、耐え切れなくなったスマッシャーは爆散した。

 

後で聞いたところ、あれはルウさんのレギルスバルキリーの手持ち武器「ルガーランスⅣ」という物らしい。

 

旗艦を失った敵艦隊は統率を失い、尚も抵抗を続けるが最早烏合の衆だった。

 

あっけなく掃討され、救援作戦は終了した。

 

結果を言うと、救助対象の艦隊は輸送艦が中心の輸送艦隊で、護衛は駆逐艦しかいなかったらしい。6隻いたフレッチャー級は中破よりの小破の損害を受け、6隻の輸送艦のうち2隻が大破轟沈したが人的被害はなかった。

 

一方セイレーンはといえば旗艦スマッシャーをはじめ、軽巡6、駆逐23が海の藻屑となった。要するに敵艦隊は殲滅されたのだ。

 

因みに俺の戦果は最終的には駆逐3、軽巡1となった。一方でルウさんは軽巡2、駆逐4、そしてスマッシャーと堂々のトップだ。

 

・・・

 

帰還後、俺は今回の出撃メンバーに誘われて食堂に来ていた。

 

ルウ「まさか初陣で4隻沈めるとは、貴方パイロットの才能あるんじゃないかな?」

 

男性パイロットA「本当にな。俺は初陣じゃ駆逐艦1隻仕留めるのでさえ苦労したからなぁ・・・。」

 

女性パイロットA「私なんか初陣ではイの一番に被弾してとんぼ返りよ?あの時は恥ずかしくって穴掘って入りたいと思ったわよ。」

 

一夏「いや、今回は正直運が良かっただけだと思うけど・・・。」

 

男性パイロットB「謙遜すんなって!お前の動き見てたけどよ、あれそうそうマネできるようなマニューバじゃねえぞ。」

 

女性パイロットB「私達じゃあれを真似しようとしたら何回海面にキスする羽目になることか・・・。」

 

ルウ「咄嗟に思いついたコールサインだと思うけど、ホワイトクェーサー(白き準星)とは言い得て妙になったわね。貴方が別世界からの客人じゃなかったら航空隊に引き入れたいくらいよ。」

 

一夏「う~、そういわれるとこそばゆいなぁ・・・。」

 

ルウ「そうそう。それで思い出したけど、貴方のいた世界の座標がついに掴めたわよ。」

 

一夏「え、本当ですか!?」

 

ルウ「ゲートの接続にはまだ時間がかかるけど、早ければ11月の終わりごろには向こうに帰れるはずだよ。」

 

男性パイロットB「良かったじゃねぇか!」

 

女性パイロットA「遂に故郷に帰れるのね!」

 

一夏「あはは・・・それは有難いんですけど、一つだけ我儘言ってもいいですか?」

 

ルウ「ん?」

 

一夏「今年中はこっちで過ごしたいんです。向こうに帰ったらもう一度こっちに来れるかどうかわからないし、皆との思い出作りに、ね。」

 

ルウ「別にそれくらいなら問題ないし、皆も多分思い出づくりをしたいだろうからね。それじゃあ帰還予定日は1月の10日あたりを予定しておこうか。」

 

一夏「ありがとうございます!」

 

そのあとはチーズハンバーグ定食を食べながら会話に花を咲かせた。

 

10月も半分ほど過ぎ去った秋の夜、俺が向こうに帰るまであと3ヵ月弱・・・。

 




ツバキ級防空戦列駆逐艦


【挿絵表示】


トリニティガードが長く運用する防空戦列駆逐艦で、吹雪型駆逐艦を魔改造したもの。
片舷10基、計20基の機関砲による凶悪な対空砲火は多くの戦闘機を屠る圧倒的な制圧力を有し、防御面でもデコイや迎撃装置もさることながら、側舷に取り付けられたシュルツェン兼補助推進装置「シールドスクリューポッド」によって魚雷に対して高い防御性能を有する。また、内部の補助推進装置によってこの重装備でありながら高い速力を有する。因みにこの画像は改十三の物であり、改十四は二番煙突根元後ろに横方向に発射する迎撃ミサイルランチャーが追加装備されたのだが、この後FtDの仕様に次々と変更が加えられてしまい、FtDで実用する機会に恵まれることなく次の改装を加えられることとなった。(改十四の画像はニコニコ動画で行われたユーザーイベント「ズビアン祭」のために艦を真ん中で切断したものしかなかったため改十三の画像で代用)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【17】幕間:トリニティ・ガードのこれまでとこれから その1 -戦いの軌跡・EDF-

今回と、その次の回はトリニティ・ガードの過去と、こちら側の世界の事に関しての情報が登場します。

この幕間は時期的には「【8】水底の楽園 -深海図書館-」の数週間後にあたります。

因みに「【X1】番外編その1 -IS・ドルフロ世界について-」は【8】の数日前の話なので、こちらの方が後の話になります。

なお、この世界は10年以上私が基盤として使い続けていた世界観を一部トリミング、調整して使用しているので若干複雑な過去を持っています。


あれは夏の終わりごろだっただろうか・・・。

 

俺はふとトリニティ・ガードの過去が気になってルウさんにその疑問を投げかけたんだ。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ルウ「トリニティ・ガードの過去・・・か。」

 

一夏「ちょっと気になって・・・。」

 

ルウ「まぁ、別段隠すようなことはないし、この世界の歴史とも大きくかかわっているからね。さて、まずどこから話そうか・・・。」

 

ルウさんはしばらく考えたのちにPDAに当時の資料を表示しつつ語り始めた。

 

ルウ「トリニティ・ガードの源流が始まったのは大雑把にいえば40年くらい前になるかな。といっても、この名前になったのは4年ほど前で、それ以前は特に勢力名は無かったけどね。」

 

一夏「40年・・・。」

 

ルウ「当時は何の変哲もない鎮守府でしかなくて、あくまで海の安全を守るための、いわば派出所みたいな立ち位置だったかな?それに変化が訪れたのは今から15年前、歴史では『第一次星間戦争』として教えられているね。」

 

一夏「せ、星間戦争!?」

 

ルウ「そう、我々が『フォーリナー』と呼んでいた侵略性エイリアンによる地球侵略との戦いよ。といっても、この時の戦いは確かに激戦だったけどそこまで長い戦いにはならなかったね。」

 

宇宙人と既に戦争をしていたということなのか・・・。今の平和な日常からは想像がつかない。

 

ルウ「私たちがマザーシップを撃墜したことでフォーリナーは旗艦を失い撤退を余儀なくされた。フォーリナーとしては地球人を甘く見過ぎていたんだろうけどね。そのあと残された巨大生物の残党狩りやらなんやかんやあったけど、それからはしばらくは平和だったよ。」

 

一夏「だった?」

 

ルウ「終戦から約7年後、今から7年ほど前にフォーリナーは戻ってきた。10隻のマザーシップを引っ張り出してきてね・・・。戦略兵器級の威力を持った対地レーザー砲「ジェノサイド砲」を有するマザーシップが1隻だけでもてこずったのにそれが10隻ときた・・・。」

 

一夏「ひぇ!?」

 

ルウ「それでも人類はフォーリナーが戻ってくることは想定していた。対フォーリナー戦のために第一次星間戦争時に組織された地球防衛軍『EDF』は終戦後も税金泥棒だのなんだのと誹りを受けつつもフォーリナーの再来に備えて7年間軍拡を続けてきた。」

 

7年間税金泥棒と罵られながらも万一に備え続けてきたEDF・・・。何事もなければタダの無駄遣いで済むが、もし備えないまま再来されていたらどうなっていたか・・・。

 

ルウさんの表情はそう言っているようだった・・・。

 

ルウ「結論から言えば、その備えは正解だった。フォーリナーは進化していた。7年間準備し続けてきたのに差は全く埋まっていなかった。フォーリナーの技術さえも積極的に取り込んだにも関わらずだ。だが、備えていたからこそ対等の条件だったともいえる。」

 

一夏「もし備えていなかったら歯が立たなかっただろうね・・・。」

 

ルウ「その通り。マザーシップ艦隊を地球到着前にレールガンと大型ミサイルで3隻撃沈、1隻大破に追い込めたのも大きい。そのあとの攻撃は防御フィールドに弾かれたけど、それでも4隻を排除できたのは大金星と言えるね。」

 

そのあとのマザーシップ殲滅戦も比較的順調に進んだと付け加えて、そこで表情を暗くしながら一度区切った。

 

ルウ「・・・まさかこの10隻のマザーシップが『前座』だったとは、当時の私も含めて全く想像できなかったけどね・・・。」

 

そのあとの掃討戦のさなか、突如現れた蜂型の巨大生物。

強力な対空能力を有する蜘蛛型巨大生物であるバウとレタリウスを屠ったウィングダイバーの精鋭部隊『ペイルチーム』を歯牙にもかけずに鎧袖一触で全滅に追い込んだという。

 

ルウ「私もウィングダイバーの一部隊『ヴァルキュリアチーム』を率いていたけど、あの巨大生物を相手にするのは中々骨が折れたよ・・・。」

 

「私が蜂が苦手というのもあるんだけどね・・・」と、ルウさんは付け足した。

 

ルウ「まぁ正直な話、ウィングダイバーの隊員ってポンコツが多かったのよね・・・。被撃墜の原因はその多くが無茶な突撃をして返り討ちにあったり下手な飛び方をして味方の射線に割り込んで誤射誤爆をされたりといったバカみたいな原因でね・・・。」

 

「あの飛び方は酷かった・・・何度「この愚か者めが!!」や「全くこのスタースクリームめ!!」と怒声を張り上げたことか・・・」と、ルウさんは凄く遠い目でぼやいた・・・。

 

ルウ「飛べるんだから飛びまくる、突撃主眼だから突撃する・・・なんて短絡過ぎる。あくまで飛ぶという選択肢があるだけで飛ばなきゃいけないなんてことは無い。だから私はウィングダイバーの戦術に「飛ばない」と「近づかない」を追加したのよ。」

 

一夏「敢えて飛ばない・・・そして敢えて近づかない・・・ですか。」

 

ルウ「そう。飛んだら危険な相手や近づくと危険な相手を前にして態々相手の土俵に上がってやるなんて律儀な真似してやる道理はない。下手をすれば命を落とすことになる。そして蜂を倒した後も鬱陶しいことは続いたよ・・・。」

 

一夏「え?」

 

そのあとの言葉に俺は開いた口が塞がらなくなった。

 

・・・女王蟻と女王蜂に始まり、300m級の可変式砲艦『アルゴ』の襲来に、戦闘機よりも強い飛行型巨大生物『ドラゴン』の出現・・・。

 

・・・そして、無数のブロックユニットで地球そのものを覆い隠してしまう桁外れのスケールを持つ対星兵器『アースイーター』の襲来・・・。

 

ルウ「特にアースイーターが厄介だったよ。しらみつぶしにブロックを破壊しても壊した端から新しいブロックが追加投入されるからキリがない。かといって放置したら日光を遮断されるだけでなく下面に搭載された無数の砲台に地表を焼かれる。放置なんてできなかった・・・。」

 

一夏「・・・。」

 

ルウ「不幸中の幸いは、全世界のEDF隊員たちが奮戦してくれたおかげでアースイーターによる地上への被害は言うほど深刻化しなかったことにある。艦娘や深海棲艦の助けもあって、この美しい星は守られた。もしそうでなかったらどうなっていたことか・・・。」

 

俺は言葉も出なかった。

 

この世界も必死で戦い、そして平和を勝ち取ってきたのだ。この話を聞く限りでは、どこかで地球が滅んでいても何らおかしくない。

 

ルウ「最終的にはアースイーターを統括する中枢モジュール『ブレイン』を撃破するために乾坤一擲の大決戦が繰り広げられたよ。EDFも持てる戦力は全て投入したよ。その中には鹵獲したアルゴを改造した砲艦『島風』も含まれていたよ。」

 

一夏「・・・。」

 

ルウ「最終的にはブレインを撃破し、地球はとりあえずの勝利を得た。無論犠牲は決して少なくはなかった。最終決戦では砲艦『島風』が墜落し大爆発したブレインから私たちをかばって大破したし、隊員の中には死傷者や四肢欠損者も複数出たよ。」

 

一夏「そんなに・・・。」

 

ルウ「私も左腕と右足を複雑骨折、あばらも数本折れて治療に何か月も費やした。しかも我々はフォーリナーに勝てたかといえばそうとも言えない。恐らく連中はこう思ったんだろう。『割に合わない』とね・・・。」

 

一夏「わ・・・割に・・・。」

 

ルウ「恐らく次は連中も最初から本腰入れて雪辱戦に臨んでくるだろうから、我々は止まるわけにはいかない。我々の技術革新が、地球の命運を握っているといっても過言ではない。危機は未だに完全には排除できていないからね・・・。」

 

一夏「そんな・・・。」

 

ルウ「それなのにアズールレーン首脳陣の馬鹿どもは・・・いや、この話はまた今度にしよう・・・ちょっと話疲れた・・・。」

 

そういわれて俺は時計を見たが、なんと3時間もぶっちぎりで話し込んでいた・・・。

 

・・・上の文章だけで言うとそんなにかからないと思うが、実際にはもっと細かいところまで詳しい説明があった。それこそどこでどんな敵をどれだけ倒したかとかそういうレベルの話だ。

 

それを全部書いてしまうとそれだけで数十ページにも及ぶ超大作になってしまう。だから今回俺は細かいところは端折ることにした。

 

ルウ「せっかくだから、これを飲むか・・・。」

 

一夏「ちょ・・・それって一体・・・。」

 

ルウさんが冷蔵庫から取り出した瓶の中には紫色の異様な液体が入っていた。

 

ルウ「これは蜘蛛型巨大生物「バウ」の血液を日持ちするように加工したものよ。見た目の色はあれだけど、これが存外おいしくて栄養満点なのよ。」

 

一夏「ええぇ・・・。」

 

ルウ「戦争後期の物資不足のころは巨大生物の血肉で料理を作っていたほどよ。因みに私はこれが大好物でね、家畜改良したバウを飼ってるし、艦娘達にも意外と大好評よ。」

 

一夏「お、おおぅ・・・。」

 

ルウ「末期のころには武器も弾薬も足りなくなってね・・・。余ったレンジャー用の武器や大破した戦闘機の部品を使って戦時改造したユニットを使って必死で一日一日を生きるために戦い続けたよ。」

 

一夏「あ・・・おぉ・・・。」

 

ルウ「今のご時世も私はいろんな連中と戦っているよ。でもフォーリナーほどじゃない。深遠なる闇?終の艦隊?そんなの私に言わせればまだまだ雑魚よ。確かに厄介な連中だけどただ厄介なだけ。底はおおよそ見えているからね。でも・・・。」

 

一夏「でも?」

 

ルウ「フォーリナーは未だに底が見えない。あれだけの恐怖と絶望を振りまいておきながら、まだその強さの果てが測れない。私でさえ本能レベルでフォーリナーに対する恐怖を刻み付けられたのに、この上まだ沢山の何かを隠しているような予感がする。」

 

一夏「そんなに・・・!?」

 

ルウ「当然銃後の民たちに刻まれた恐怖と絶望はこんなものじゃない。EDFの軍拡を税金泥棒だと揶揄する者は最早当時を知らない極々少数だけしかいない。軍拡を怠れば今度こそ地球は、人類は終わるという確信に似た圧倒的恐怖があるからね・・・。」

 

一夏「・・・。」

 

言葉が出ない。

 

ルウ「まぁ、次元の漂流者である貴方に言ったところで・・・あんまり意味は無い話だけどね・・・。(ゴクッゴクッ)ぷはぁ!あー美味い!!体中の疲れが駆逐されていくようなこの感覚はやっぱりたまらないね!」

 

一夏「・・・。(ゴクリ・・・)」

 

ルウ「飲む?」

 

一夏「・・・頂きます。」

 

因みに味はといえば、表現しにくい初めての味だったが、口当たりが良くて喉ごしも爽やかというなんとも複雑な気分になる味だった。

 

・・・まぁ、疲労回復効果もあるということもあって俺も事あるごとに飲むようになったのだが・・・。




星間戦争とEDF:世界線で言うと「地球防衛軍4」の世界線を採用しています。

バウの血:本作でのオリジナル設定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【18】トラック島離島鎮守府の日常 -暇-

今回は【16】の後の時間軸になります。

この世界の過去、第二次世界大戦時の情報が登場します。


今日は特に何もすることがない。

 

収穫もひと段落ついたし、シミュレーターも定期メンテナンスで今日は使えない。

 

この間発売された小説の第二巻もついさっき読み終えてしまったし、かといって二度寝するほど疲れているわけでもない。

 

一夏「こういう日は、ぶらぶらと散歩するに限る。」

 

俺は部屋を出て、特に目的地も決めずに気ままに歩き出した。

 

・・・

 

???「(ゴクッゴクッ)ふぅ・・・。あら?今日はお散歩かしらぁ?」

 

一夏「ああ、特にやることが無くてね。」

 

???「ふぅん。まぁ、私も今日は非番だから何もやることがないのよね。」

 

そういいながら眼前の背中から黒い翼を生やした長い銀髪の少女は空になった牛乳瓶をゴミ箱に放り込んだ。

 

彼女は鉄血所属のUボート「U-3008」だ。

 

彼女の服は他のUボートたちとは違いどちらかというとゴシックドレスに近いデザインだ。

 

潜水艦にしては動きづらい服装だが、彼女を侮ってはいけない。

 

彼女の元となったUボートは大戦時にはノルマンディーに艦砲射撃をしていた米英連合艦隊を戦艦のネルソン級とネバダ級を含めて単独でほぼ壊滅させた(駆逐艦と重巡洋艦が一隻ずつ生き残った)実績がある『黒翼の魔女』の異名を持つ狼なのだ。

 

U-3008「あーあ、流石につまんないわね。862や183でも誘って海上レースでもやろうかしら?」

 

一夏「あー、今日はロイヤルの戦艦たちが海上訓練しているから止めてあげて・・・。」

 

U-3008の話に出てきたU-862とU-183だが、彼女らも鉄血が誇る狼だ。彼女らの場合はどちらもクイーンエリザベス級戦艦の、それぞれウォースパイト、ヴァリアントを沈めた経歴を持つ。

 

そんなロイヤル戦艦スレイヤー達がもし海上訓練中のロイヤル戦艦たちの視界内に入りでもしたら戦艦たちがかわいそうだ。

 

この間ユニオンの潜水艦「アルバコア」のアンブッシュで重桜の装甲空母「大鳳」が卒倒したのを見たのもあり、艦船時代のトラウマが蘇って気絶でもしかねないと考えたのだ。

 

だが、そもそもそれを言うべきではなかったと即座に気づいて頭を抱えた・・・。

 

このU-3008、そういう面白そうなことが眼前にぶら下がっていて飛びつかないはずがないのだ。

 

U-3008「ふぅん。そりゃ尚の事やらないわけにはいかないわねぇ?」

 

一夏「勘弁してあげてください!」

 

U-3008「やーよ。そんな面白そうな事を見逃すわけないじゃない。」

 

一夏「そこを曲げて、どうか勘弁してあげて!」

 

U-3008「やーよ。」

 

U-3008の表情は既に獲物を視界にとらえ、どう喰らってくれようかと思案する狼のそれと化していた。こうなってしまっては指揮官でさえ止めるのは簡単ではない。現実とは非情である・・・。

 

恍惚とした表情で襲撃のために去っていくU-3008を力なく見送った俺は、せめて危険を伝えようとPDAで連絡をした。

 

ウォースパイトのエクスカリバー『あら?どうしたの?これから訓練なんだけど。』

 

一夏「あまり時間が無いから本題だけ話すね。そっちにU-3008が行くと思うから今のうちに逃げて。」

 

エクスカリバー『U-3008?ん?どうしたのかしらネルソン?そんなに震えて?』

 

ネルソン『・・・あいつが・・・なんだって・・・?』

 

エクスカリバー『なんでもそいつがここに来るかもしれないって・・・。』

 

ネルソン『す、すまないエクスカリバー・・・今日は逃げさせてもらっていいだろうか・・・。』

 

エクスカリバー『???』

 

一夏「あー、えっと、もしかしたらU-862とU-183も行くかもしれないからすぐ逃げて・・・。」

 

エクスカリバー『たぬっ!?・・・な・・・何ですって・・・?』

 

どうやらこれで解ったらしい。一説では鉄血(当時ドイツ)の狼たちが暴虐の限りを尽くしたために当時のロイヤル(当時イギリス)首相は頭髪どころか尻の毛まで一本残さず毟り取られたとか・・・。

 

実はこの世界の第二次世界大戦は俺の世界のそれとは違う道筋をたどっており、最終的に連合国と枢軸国は両者痛み分けという形で講和となったのだ。

 

特に鉄血のUボートたちが暴虐の限りを尽くしたのと、重桜(当時日本)の質で勝負した艦隊が量で勝るユニオン(当時アメリカ)艦隊を圧倒したために連合国は結局枢軸国を攻めきれず人的資源が欠乏して戦争を続けられなくなってしまったらしい。

 

それは枢軸国側も似たり寄ったりで、お互いに決定打を欠いたために連合国側から「もうここで手打ちにしないか?」と言われ、枢軸国側もそれを断る理由が特に無かったため講和が成立したとのことだ。

 

特にユニオンは重桜の事を開戦前は見下していた節があったが、まるで攻め切れないどころか寧ろ量で勝るはずなのに押し返されていたこともあって今でも重桜には一目置いているらしい。

 

ロドニー『あ・・・来たみたいです・・・。U-3008、U-862、U-183を確認・・・!』

 

ネルソン『アイエェェェェェェッ!?!?オオカミ!?オオカミナンデ!?!?』

 

U-3008『見つけたわよぉ!!!さぁ追いかけっこをはじめましょお!!』

 

戦艦たち『嫌だぁ!!!!!!!!!!』

 

一夏「ああ・・・R.I.P.・・・。」

 

現実は非情なり・・・。こうなってしまったのは俺のせいでもあるわけだし、俺も担当する今日の夕食では詫び入れとして彼女たちの分は一品二品は足しておこう・・・。

 

・・・

 

・・・・・・

 

昼になっても若干肌寒く感じる秋の後半の昼過ぎ。

 

そろそろ食堂で昼食でも取ろうかと思っていた俺はある人物に呼び止められた。

 

???「おーい織斑!探したぞ!」

 

一夏「あれ?デシルさん、何かあったんですか?」

 

デシル「いやな、お前が前使ったナイトメアダブルプラスの事でちょっとな。」

 

この人はデシル・ガレット。

 

この鎮守府の整備班長を務める人だ。気難しい所があって、仕事の邪魔をされるのをとても嫌うけど、その分仕事には全身全霊であたる所謂職人気質な人だ。

 

なお、彼は自分の事を「魔中年」と自称している。昔は思い出すだけで恥ずかしくなるほどに手が付けられないほどの悪ガキだったらしく、その若さゆえの過ちに対する戒めとして自ら「魔中年」と名乗っているとのことだ。

 

・・・自分のツナギの背中にデカデカと「魔中年」と書き込んでいるほどの徹底ぶりだ・・・。

 

デシル「あの機体だけどな、正式にお前の物にすることが決まったよ。」

 

一夏「・・・え?」

 

デシル「あの機体のAIがお前の事を主と認めたんだよ。調整やらなんやらが多くて向こうに持っていくのはお前が帰る予定日には間に合わねぇと思うが、まぁ俺たち整備班からの贈り物とでも思って受け取ってくれ。あーでも向こうでの置き場がねぇか・・・。」

 

デシルさんが頭をかきながら思案しているのを見ながら俺は苦笑いをした。

 

確かに贈り物を貰うのは有難い話だが、あんな大きなものをどこに置けばいいのだろうか?まぁ、束さんに相談すれば置き場の一つや二つはどうにかしてくれるとは思うけど。

 

つっかえすのは失礼だし、置き場所については追々考えることにしよう。最悪俺が大人になって航空自衛隊員にでもなったときまで預かっていてもらえばいい。

 

デシル「あ、すまん。もしかしたら飯前だったか?悪いな引き止めた挙句一人で勝手に盛り上がっちまって。」

 

一夏「大丈夫ですよ。そこまで急ぎじゃないですし。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

そのあとデシルさんと雑談しながら昼食をとった。

 

デシルさんは次の仕事のために天見島に戻っていったけど、入れ違いでロングアイランドがやってきた。

 

ロングアイランド「一夏くん、この後暇?」

 

一夏「ああ、特に用事が無くて適当に時間潰してたんだ。」

 

ロングアイランド「だったら麻雀に付き合ってよ~。提督さんを誘ったんだけど、「ルールが解らないから出来ない」って断られちゃった。」

 

一夏「(麻雀か・・・鈴と何度かやったことあるからルールは覚えているな・・・)別に構わないけど、他に誰がやるんだ?」

 

ロングアイランド「えーと、エンタープライズさんとレパルスさんだね。」

 

一夏「レパルスさんは兎も角、エンタープライズさんもやるんだ・・・。」

 

ロングアイランド「やることないから暇つぶしに付き合ってくれるんだって。」

 

やっぱしココのエンタープライズさんは付き合いがいい。過去にユニオン本部所属のエンタープライズさんとあったことがあるけど、あちらはどこか危うげなところがあった。

 

どこか気負い過ぎているというか、方向性は違うけど昔の束さんにどこか通じるところを感じた。何事のなければいいけど・・・。

 

・・・

 

で、麻雀をしたのだけれど、結局途中でレパルスさんが姉のレナウンさんに連行されたために勝負はお流れとなった。

 

まぁそれ以上に、エンタープライズさんはかなりの乱調だったらしく、結構負けが込んでいた。その一例が・・・。

 

・・・

 

エンタープライズ「う~む・・・とりあえずこれを捨てるか・・・。」

 

パチン!

 

一夏「あ、ごめんなさい。それです。」

 

ロングアイランド「幽霊さんもそれだよ~。」

 

『UnLuckyE』

 

エンタープライズ「あわ・・・あわ・・・あわわわわ・・・。」

 

・・・

 

エンタープライズ「く・・・まさか大負けするとは・・・ここは守らねば・・・!」

 

レパルス「あ、私ツモっちゃった。」

 

『UnLuckyE』

 

エンタープライズ「あわ・・・あわ・・・あわわわわ・・・。」

 

一夏「エンタープライズさん!戻ってきて!!」

 

・・・

 

とまぁ、幸運艦と言えどもついてない時はあるのだから仕方がないけど、ここまで運がないのはかわいそうだった・・・。まぁ当人はそれなりに楽しんでいたけど。

 

さて、まだ夕食まで時間があるからせっかくだからあそこに行こう・・・。

 

・・・

 

*国見島東埠頭*

 

ここは虹見島や天見島とを結ぶ連絡船が使う埠頭だが、ここからなら未来見島が良く見えるのだ。

 

四島の中で唯一立ち入りが禁止されている未来見島だが、どうやらあの島には大戦時の攻撃などで死亡したこの島々の住民たちの亡霊が今でも漂っているらしい。

 

立ち入り禁止にしているのは物見遊山気分で人が入ってくることが多かったためで、加えて大戦時からあまり人の手が入っておらず危険であるためらしい。

 

なお、それ以外にも色々と空間が歪んでいるために長居すると何が起こるかわからないという理由もあるとのことだ。過去に不法侵入した若者数名が神隠しに遭い今もなお行方不明なのだという。

 

俺があの島に流れ着いたのはその不安定な空間が引き寄せたのか、或いは霊たちの思念が死にかけていた俺をこちらに導いたのか・・・。

 

一夏「まぁ、そんなことはどうでもいいか・・・。」

 

現に俺は瀕死の重症こそ負ったが生き延びた。理由が何であれ、俺は今こうして生きている。今はそれだけで充分だ。

 

俺は恐らく見たこともない霊たちに感謝の念を込めて手を合わせ、そして夕食準備のために食堂へと向かった。

 

・・・

 

*食堂*

 

夕食を楽しみつつ俺は食堂に設置されている大型テレビで放送されている番組を鑑賞していた。

 

今回の番組はどこかの鎮守府や母港の艦娘達を対象にした格付けクイズ番組だったのだが・・・。

 

司会のHさん『こいつらホンマにええもん食ってへんなぁ!!』

 

なんと最終問題を迎える前に全チームの艦娘達が全問不正解で『映す価値無し』になってしまった。

 

一夏「これは酷い・・・。」

 

U-3008「1チームが全問不正解ってのは何度か見たことあるけど、これは無いわぁ・・・二重の意味で。」

 

デシル「これは当分語り草になっちまうなぁ・・・。ていうかこれじゃ番組成立しねぇぞ・・・。」

 

エクスカリバー「でもこれでも放送しているのよね・・・。」

 

一夏「画としては面白いからネタとして放送したのかもな・・・番組成立しないけど・・・。」

 

司会のHさんが凄い苦笑いで悪態をついているのを眺めながら俺たちも苦笑いを浮かべた。




登場人物

U-3008:Uボート型艦娘だが、史実艦ではなくゲーム「サイレントハンターシリーズ」のニコニコ潜水戦隊が原典。
水銀灯艦長が操る紫色のド派手な痛潜水艦「U-3008」がモチーフであり、その影響もあって外見は水銀灯とよく似ている。
面白そうな事が眼前に現れると飛びつかずにはいられない性格。

U-862:隻眼艦長が操る潜水艦「U-862」がモチーフであり、その影響か常に眼帯をつけている。

U-183:餓狼艦長が操る潜水艦「U-183」がモチーフであり、ギリギリまで寝ている等肝が据わっているところがある一方、獲物を前にすれば一切の手心無く喰らいつくす獰猛さを併せ持つ。
彼女が仕留めたQE級戦艦の四番艦「ヴァリアント」は史実ではドックでの事故で横転していたのだがこの世界ではその前に彼女の餌食となった。

ウォースパイト(エクスカリバー):QE級戦艦の改造艦。主砲が新型の物に換装されており、対艦砲弾と対空砲弾を撃ち分けることができる。カンレキでU-862に沈められた過去がある。

ネルソン:ネルソン級戦艦のネームドシップ。カンレキでネバダらと共にノルマンディーへの艦砲射撃中にU-3008の襲撃を受けて自分含めて艦隊が壊滅させられてしまった過去がある。

ロドニー:完全にとばっちりを被ったネルソン級戦艦。だが、彼女もカンレキではネルソンの5年ほど前にシグルーン艦長が操るU-13によって撃沈の憂き目を見ており、史実ではビッグ7の中でも大きな武勲を立てたにもかかわらず、この世界線では碌な戦果を挙げる間もなくあっさりと退場させられてしまっており潜水艦、特にUボートに対してはトラウマに近い恐怖を抱いている。

デシル・ガレット:ガンダムAGEで登場した魔中年の平行世界の同一人物でトラック島離島鎮守府の整備班長。
昔は手が付けられないレベルの悪ガキだったのだが、今ではかなり大人しくなっている。が、仕事の邪魔をされるのを酷く嫌い、酷い場合は邪魔者を叩きのめすこともある。

ロングアイランド:有名な幽霊さん。ぼんやりした雰囲気を漂わせているがやるときはやる。

レパルス:遊び人なレナウン級戦艦。複数人必要なゲームをするときなどに数合わせで呼ばれることが多い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【19】SFSのハロウィン -It's me.-

今回はS09地区でのハロウィンの話です。

原作でもハロウィンの時期は一部の鉄血兵たちが仮装していましたが、クリスマスの時も一部鉄血兵が仮装していたりデストロイヤーがクリスマスを楽しみにしていたのを見ると、やはり暴走していても人間の文化が染みついているのでしょうか。


*S09地区*

 

ハロウィンとは元々はケルトの宗教的な祭りである。

 

それが何時しかアメリカで仮装パーティ的なものに変わり、それが更に日本等様々な国に広まり、今やかつての宗教的な要素は殆どなくなってしまった。

 

それはこのS09地区でも同様で、何かと問題が発生しやすいこのご時世では何でもいいからバカ騒ぎしたいのだろう。で・・・。

 

リッパー「これを被って街を歩き回る・・・ですか。」(ジャック・オー・ランタンの被り物)

 

イェーガー「これは・・・慣れませんね・・・。」(光学迷彩ユニットで半透明化したうえでスケアクロウの浮遊ユニットで浮かんでいる)

 

ダイナゲート「ワン!!」(小さい魔女帽子を被っている)

 

スカウト「・・・」(火の玉に見える立体映像を投影している)

 

ガイア「う~ん、またしても変態がはっちゃけちゃったか・・・。」(夢遊霊風の衣装)

 

各々が変態スキンメーカー謹製の仮装スキンを身に纏っていた。

 

エクス「お~い、俺のこれ似合ってるか?」

 

サクヤ「え?ちょっとそれは何???」

 

ガイア「それって確か・・・。」

 

エクス「昔の医者の正装だって話だぜ!」

 

ガイア「それ『ペストドクター』の服じゃないの!?色々な意味でOUTでしょ!?」

 

それ子供ガチ泣き必至でしょ・・・。戦術人形だって素足で逃げ出すって・・・。

 

サクヤ「流石にそれはダメよ!怖すぎるわ!!」

 

エクス「そっか・・・残念・・・。町はずれの廃材置き場にあったから使えると思って持って帰ってきたんだけどな・・・。」

 

アルケミスト「それ半分お前の自前だったのか・・・。」(フランケンシュタインの怪物のコスプレ)

 

デストロイヤー「兎に角それはやめて・・・夢に出そう・・・。」(ミイラのコスプレ)

 

・・・

 

スコーピアス(スカーレットスター)「う~ん・・・やっぱり落ち着かないなぁ・・・。」

 

ティア(引きこもりゾンビ)「Zzzz...」

 

シイム「そういえば、三姉妹はどんな仮装をするのかしら?」

 

シゴ、フィアーチェ、ナイン「「「お待たせ!!」」」

 

シイム「あら?ハイエンドモデル風の衣装なのね。」

 

シゴ「髪はウィッグだけどね。」

 

三人ともSFSのハイエンドモデルのような衣装を纏っていて、揃って黒髪のウィッグを被っていた。

 

因みにスキン名はシゴが「SFSチェイサー」、フィアーチェが「SFSコンダクター」、ナインが「SFSピアサー」となっており、この名称は三姉妹のミドルレンジモデルとしての名称でもある。

 

フィアーチェ「そういえばトバイアスさんは?」

 

スコーピアス「仮装はガラじゃないからパンプキンパイ作る方に注力するって。」

 

ナイン「おお!これはタイミング見計らって食べに行かないとね!」

 

シゴ「そういえば、新しいミドルレンジモデルが完成したって聞いたけど。」

 

ウロボロス「厳密にいうとまだボディとAIしか出来ておらんのだがな・・・。それでもこのイベントに参加するくらいならできるからと自立人形扱いで先行ロールアウトしたんじゃよ。ほれ、出てきたらどうじゃウェスター?」

 

ウェスターと呼ばれたミドルレンジ「・・・。」

 

シイム「へぇ、結構スマートなボディなのね。武器は何を担当するの?」

 

ウロボロス「M1887ウィンチェスターショットガンじゃな。個人名はウェスター・コナー、機体名なら『ターミネーター』となるな。まぁ、ウェスターと呼んでやってくれ。」

 

ウェスター「・・・。」

 

フィアーチェ「へぇ、よろしくねウェスター!」

 

ウェスター「・・・ヨロシク・・・。」

 

ウロボロス「あ、済まんがこやつはまだうまく喋れんのだ。AIの学習がまだ途中でな、表情もうまく作れん。」

 

ウェスター「・・・。」(不自然なぎこちない笑顔を見せる)

 

ウロボロス「ホレこの通り・・・。まぁ、追々鏡相手に練習させる予定じゃ。」

 

ウェスター「・・・。」(無表情に戻る)

 

ウロボロス「ホレホレ拗ねるな。元よりこのイベントにおぬしを参加させるために急遽ロールアウトさせてもらったんじゃ。儂らは戦いのために生み出された存在じゃが、かといって戦いばかりではやってられんじゃろ?」

 

ウェスター「・・・。」

 

ウロボロス「せっかくの機会じゃ。しっかりと目に焼き付けることじゃな。これからおぬしも守る事になる『平和』というものをな。」

 

ウェスター「・・・。」(頷く)

 

ウロボロス「素直でよろしい!では、儂らは一足先に町に出ておる。おぬしらも思い思いに楽しむがよい。」

 

シゴ、フィアーチェ、ナイン「「「はーい!」」」

 

・・・

 

*街中*

 

S09地区の街中はお祭り騒ぎだった。ここ最近テロやらなんやらと物騒なことが多かったので張りつめ過ぎた緊張の糸を緩めるために皆が思い思いに楽しんでいた。

 

まぁ、たまにこんなお祭りムードに水を差すような不届きものも出るので、精鋭人形たちが目を光らせているのだが、どうやら今回は何事もなく済みそうだ。

 

ただ、妙な珍事はあったが・・・。

 

・・・

 

ダイナゲート達(わちゃわちゃしている)「♪~」

 

G41(ダイナゲート達に混ざって一緒にわちゃわちゃしている)「♪~」

 

AR-15「・・・え?」(二度見)

 

元々動物っぽいところがあったG41がダイナゲート達と一緒にわちゃわちゃしている姿は微笑ましくもあるがなんともシュールだ・・・。

 

・・・

 

P38「トリック&トリート!!」

 

ガイア「それって結局いたずらはするってことだよね!?」

 

まさかまさかの両方要求とは恐れ入った・・・。

 

・・・

 

そして、夜も更けてきてそろそろ戻って寝ようと思っていたタイミングに・・・。

 

ガイア「まぁ、皆楽しんでいるみたいで何よりかな・・・。おや?」

 

何やらどこかで見たことがあるようなシルエットが視界の端を通り過ぎた。

 

ガイア「今のどこかで・・・。」

 

気になった私はそのシルエットを追いかけた。

 

ガイア「ねぇ、そこのあなた。」

 

???「ん?何?」

 

ガイア「その頭の被り物、どこで見つけたの?」

 

???「アンタは誰?」

 

ガイア「あっと・・・私はガイア・ティアマート、SFSの社長をやってるの。」

 

KLIN「アタシはKLIN(クリン)っていうんだ。これは前に任務で立ち寄った廃墟に転がっていたから持って帰ってきたんだ。」

 

ガイア「廃墟?」

 

KLIN「ああ、結構遠いところにある捨てられた町だから地図に載ってないかもしれないし、アタシも詳しい場所までは覚えてないけど。」

 

ガイア「なるほどね・・・ありがとう。引き止めてごめんね。」

 

KLIN「別にいいさ。アタシもこいつに興味持ってもらえてうれしいからさ。じゃあな!」

 

そういってKLINは走り去っていく。元気な子供のような戦術人形だ。

 

ガイア「あれって・・・ボロボロだったけど『スプリングボニー』の頭だよね・・・?この世界にもあったってことなのかな?」

 

この世界に来る前に何度かカタログで見たことがあるアニマトロニクスの頭部そのまんまだった。たしか私たちのいた世界ではあの店は一度閉店し、親会社も倒産したはず・・・。

 

もし暇が出来たら調査してみるのもありかもしれないと思いつつ、私は寝るために社に戻った。

 

・・・

 

KLIN「I always come back....なんてね♪」

 

・・・

 

因みに仮装で一番人気だったのは魔女っ子コスプレのドラグーンだったのは言うまでもない。




登場人物

ウェスター・コナー(SFSターミネーター):M1887ウィンチェスターショットガンの戦術人形で、原作ではバラバラに解体されたウロボロスのパーツを使って作り出されたIOP戦術人形でしたが、今作では新規製作されたSFSのミドルレンジモデルとなっており、またウロボロスの教え子という形になっています。
名前の由来は「ウィンチェスター」の略と、映画「ターミネーターシリーズ」の中心となるコナー一家となっており、ミドルレンジモデルとしての名称「ターミネーター」もここからきています。
ただ、この時点では戦術人形としては未完成で、イベントに参加させるために自律人形扱いで先行ロールアウトしたため、喋ったり表情を作ったりするのが凄く苦手です。

ウロボロス:原作からどんどん乖離していくハイエンドモデル。
表情をうまく作れないウェスターの感情を地味に読んでいる。

エクス:町はずれの廃材置き場からいつの間にか『ペストドクター』の衣装を回収していた。なんでも「「ピン!」ときた!」とか・・・。

KLIN:サブマシンガンの戦術人形。ウサギ系の物品が好きで時折任務先で見つけたものを持って帰ってきているとか・・・。

スプリングボニー:FNaFシリーズで登場したアニマトロニクスの一体で、黄色いウサギの姿をしている最古参のアニマトロニクス。今回は頭のガワだけ登場。
本来アニマトロニクスのガワは中に配線や骨組みなどと言った内部部品が詰まっており、被ったりすることは出来ないのだが、このガワは中身が全て取り除かれているので安全に被ることができる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【20】年末年始の楽しみ 絶対に笑ってはいけない鎮守府24時!? 前編 -GAKITUKA-

今回はまさかまさかのガキ使(しかも前後編)です。

しかし、ハーメルンの規約ではガキ使で即興で歌われた替え歌はどう扱えばいいのだろうか…?

もし問題があるならばすぐにとはいきませんが早いうちに修正するつもりです。


*国見島鎮守府 大食堂*

 

今日は大晦日。

 

するべき業務も作業も全て終わり、後は各々自由に年越しに備える。

 

そして、除夜の鐘が無いこの離島鎮守府において、年越し時に見る番組は決まっていた。

 

TV『抑制された感情・・・それが解き放たれたとき、人は感涙にむせび泣く・・・。今年は呉鎮だ!!大晦日年越しスペシャル!!絶対に笑ってはいけない鎮守府24時!!IN 呉!!!!』

 

そう、こちらの世界では大晦日恒例のお笑い番組で今年一年の笑い納めと、来年の笑い初めをするのだ。俺の世界には存在しないテレビ番組に俺は軽く興奮していた。

 

何分色々とギスギスした俺の世界ではこういうお笑い系の番組は嫌がられるせいで笑えるテレビ番組が無く、こういうあの手この手で笑わしにくる番組というのは新鮮なのだ。そして・・・。

 

一夏「うははははははは!!!」

 

最初のバスによる移動の段階で次から次へと笑いの刺客たちがあの手この手で仕掛けてくる笑いのネタに俺の笑い袋は早くも決壊した・・・。

 

デシル「かははははは!!!こいつ今年も家族ネタで弄られてるぜ!!」

 

ロングアイランド「うふふふふ!!毎年のことでかわいそうだけど笑っちゃうの~!」

 

ルウ「くはは!今年も庭先から容赦なしだよ!」

 

心の底から抱腹絶倒したのは多分生まれて初めてだ。しかもこれが後6時間は続く。

 

・・・到着した後も・・・

 

案内役『・・・○○○で・・・あ、××で・・・すみません・・・。』

 

『全員、OUT』

 

一夏「くっくっくっ・・・全然言えてないし・・・!」

 

エンタープライズ「ははっ・・・今年も真面に言えずじまいか・・・。」

 

・・・

 

コロコロコロ・・・(ボールペン一本・・・)

 

一同「あはははははははは!!!」

 

ルウ「これは卑怯だ!何でもなさ過ぎて逆に笑ってしまう・・・!」

 

・・・

 

扇風機『T、タイキック』

 

T『うぇえええええ!?!?!?』

 

一同「うははははははは!!!!」

 

一夏「強制かよ!?エグいな!」

 

ジャベリン「これで10年連続でタイキックだよ!!」

 

スパーン!!!!!!

 

T『アアアアアアアアアアアアッ!?!??!?!?!?!?!!!??!?』

 

ルウ「これは痛い!!」

 

T『あっはっはっ・・・アカン・・・アカン・・・あっはっはっはっ!!・・・あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”~!!!』

 

『M、H、E、Y、OUT』

 

一同「いひひひひひひひひひ!!!!」

 

一夏「うはは!!股を広げるなって!!」

 

デシル「こりゃ『玉(ぎょく)』にもダメージ入ったな・・・。」

 

Z1(艦これ)「かわいそう・・・かわいそうだけど笑っちゃう・・・!」

 

赤城(艦これ)「でも去年は二連発でしたからね・・・。」

 

ビスマルク(艦これ)「エグい・・・エグいよ・・・。」

 

・・・

 

アナウンス『チャレンジ失敗!!』

 

M『失敗じゃあボケェー!!!』

 

一同「あはははははははは!!!」

 

一夏「それだけでも面白い・・・!」

 

男性パイロットB「卑怯だ・・・!ははは・・・。」

 

・・・

 

一夏「あたた・・・笑い過ぎておなか痛い・・・。まだ引き出しネタだけなのにこんなに笑うなんて思ってなかった・・・。」

 

デシル「想像はしてたけどよ、お前向こうじゃ本当に腹の底から笑うことなんてなかったんだな・・・。」

 

ルウ「でもまだそんなに時間経過していないという・・・。」

 

そう、笑いの罠はまだまだ山のように残っている・・・。

 

特に一番笑ったのが・・・

 

・・・昼食ゲーム・・・

 

これはお題の料理を褒め称える歌を一昔前の名曲の替え歌で即興で歌わなければならないという、やってみると滅茶苦茶難しいゲームだ。

 

H『カツがある 衣を 卵と一緒にとじとります 鍋を… あっ… んのなん 何なん 何なん こ~れ何なん これは これ何ですか カツ丼 これはカツ丼 丼』

 

M『帰れ!もう帰れ!!ドア開けろドア開けろ!!』

 

SNGW『OUTです。』

 

H『解られへんようになってきた・・・!』

 

一同「あはははははははは!!!!!」

 

一夏「というか途中の『こ~れ何なん?』って何?」

 

Z1(アズレン)「そもそもこれ店の店主のセリフだろ?言わないだろ普通?それがいきなり『こ~れ何なん?』って・・・うはは・・・!」

 

一同「うはははははは!!!」

 

ルウ「自分で作ったのに解らなくなって店の中徘徊しだして思い出したってシチュエーションか?」

 

デシル「すっげぇアホな店主だなぁ・・・!」

 

男性パイロットA「しかも『こ~れ何なん?』って歌っていて、最後に『やっとります!!』って・・・あはは・・・!」

 

一同「あははははははは!!!」

 

夕張(アズレン)「急に正気に戻ったってわけか?」

 

火逐「断片的に記憶が・・・。」

 

女性パイロットB「レシピは覚えているってことね。」

 

女性パイロットA「だから衣をつけて、卵でとじて、これ何なんって・・・うふふ・・・!」

 

一同「あははははははは!!!」

 

エンタープライズ「ずっと音鳴り続けてるぞ・・・!」

 

ルウ「名前だけ忘れて、踊ってたらだんだん思い出したと・・・。それで最後は『お呼びでない!!』と・・・くはは!」

 

一同「うははははははは!!!!」

 

Z46のヴァリアント「ダメダメダメダメ・・・!」

 

一夏「助けて・・・誰か助けて!!」

 

デシル「引っ張っちまう・・・かはは・・・!」

 

火逐「同じネタでここまで笑いが引っ張れるなんて・・・!」

 

・・・向こうの世界での一年分の爆笑をこれ一本に費やしたような気分だ・・・。

 

しかも・・・。

 

E『これころかんきゃんきょ キャベツを巻いて 巻いて これ何なん… かうをして ソースの… ま、待ってください、もう一度やり直させてください・・・。』

 

M『うちの相方の『これ何なん?』盗るなよなぁ!!うちの相方のやつやぞぉ!!』

 

一同「うははははははは!!!!」

 

一夏「更に引っ張った・・・。」

 

インディアナポリスのインフィニティ「これまだ引っ張りそう・・・。ふふふ・・・。」

 

長門(艦これ)「ははは・・・、これは途中で頭の中でこんがらがってしまったのだろうな・・・。」

 

・・・

 

T『巻きなさい 入れなさい 黄色いあうあまま… 巻きなさい 巻きなさい 巻きなさい 好きな物入れ 巻きなさい カッパ カッパを好きなだけ 巻けばいい カッパ お前が巻けばいい』

 

SNGW『OUTです。』

 

一同「あはははははははは!!!」

 

一夏「かっぱ巻きにカッパは巻かないって・・・!」

 

ルウ「そもそも半分以上『巻きなさい』しか言ってないし・・・!」

 

ホーネット「そもそもその『巻きなさい』も巻いてを引っ張ってるし・・・。」

 

ポートランドのエターナル「『巻けばいい』の所と最後のどや顔ポーズも笑っちゃう・・・!」

 

・・・

 

Y『パエッて いっぱいの マカロニ入れて 巻きなさい パエッて パエッて パエッて パエッて 巻きなさい ポエモ ポエモが私を抱いたまま ポエモ パエリア巻きなさい どやっ!!!』

 

SNGW『ポエモって何?』

 

一同「あはははははははは!!!」

 

一夏「『パエを巻きなさい』って何さ!?」

 

シュペー「『巻きなさい』を思いっきり引っ張ってるし・・・。」

 

火逐「そもそも後半からはほぼやけぱちで歌ってたし・・・。」

 

ベルちゃん「これは酷いです・・・うふふ・・・!」

 

ルウ「賛美しろ・・・!讃えるのだ・・・!」

 

セントルイス「うふふふふふ!」

 

そこから少しずつネタが引っ張られて俺たちはもれなく随喜の涙を流しまくった。

 

・・・もう一つ、それに匹敵する程の笑いを提供してくれた場面があった。それは・・・

 

・・・

 

TV『そこそこ年齢が行った芸人たちによる、体張り祭り 開幕!!』

 

比叡ちゃん「それは言わないであげて・・・。ぷふっ・・・。」

 

デシル「平均年齢44歳だからなぁ・・・。そろそろ体のあちこちが無理が利かなくなってくる頃合いだってのにそれでもプライド賭けて体張るからなぁ・・・!」

 

男たちが自身のプライドを賭けて体を張った対決をするこのバトル。これから彼らはどうやって俺たちを笑わしてくれるのだろうか?

 

・・・後編へ続く・・・

 




発表時に書き貯めしておいたのは途中で追加された番外編とコラボ回を除けばこれの次で最後で、それ以降のはそれより後に時間を見つけては執筆しています。

武漢コロナウィルスのパンデミックによって未だに世界中厄介なことになっていますが、可能な限り失踪することなく書き切りたいと思っています。

まだまだ更新間隔は戻せませんが、これからもよろしくお願いします。



皆さんもこの事態を可能な限り早く、可能な限り少ない犠牲で乗り切るためにも不要不急の外出を控えて、致命的な医療崩壊を引き起こさないように力を合わせて頑張りましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【21】年末年始の楽しみ 絶対に笑ってはいけない鎮守府24時!? 後編 -GETTEMU-

気になっている人がいるかもしれませんが、ホロライブコラボはこの時間軸ではまだ発生していないという設定であり、いずれ登場しますが今はいません。


・・・前編の続き・・・

 

まずは「こちょばし合い対決」というものをやるらしいが・・・。

 

『・・・』

 

大の大人二人が片や相手をくすぐり、もう一方が声を出さないように必死に耐えるというのは絵面だけでも破壊力抜群だ・・・。

 

しかも攻守交代後が変な意味で凄かった・・・。

 

『ハウッ・・・ハッ・・・フッ・・・』

 

一同「うはははははははは・・・。」

 

元々この芸人さんは男性にしては非常に声が高いことで有名だったのだが・・・。

 

『イイッ・・・ハッ・・・ハウッ・・・ジィィィ・・・』

 

一同「あははははは!!」

 

そこそこ太った男性が妙に高い声で妙な悲鳴(?)を漏らしながら悶える様は俺には笑い袋的な意味で刺激が強すぎた・・・。

 

一夏「何だこれ・・・!この画一体なんだよ・・・!」

 

デシル「ダメだ・・・シュール過ぎるぜ・・・!」

 

次もインパクト充分だった。

 

次の取り組みはこちょばしというより撫でるという方に近かったのだが・・・。

 

『・・・』

 

大の大人二人が片や相手を撫でるようにソフトに触り、もう一方が笑いをこらえるかの如く凄い表情で耐える。この絵面がまた妙に笑いを誘うのだ・・・。しかも攻守交代後がまたシュールだった・・・。

 

無言なのは同じなのだが、触られる側が悶えるような表情を浮かべたかと思ったら次の瞬間にはやせ我慢で無表情に戻る。

 

その不自然極まりない表情の変化が気色悪く、そして笑えてしまう・・・。

 

比叡(艦これ)「ひぇ・・・気色悪い・・・。気色悪いけど笑っちゃう・・・。」

 

一夏「不自然すぎるぜ・・・くくく。」

 

デシル「何なんだろうなこの絵面・・・くかか・・・。」

 

・・・

 

次は「何故かメイド衣装一式を熱湯の中に浸し、それを60秒以内に着る」という体張りである。

 

その体張りをする芸人さんは「温度に平気」と言われているのだが・・・。

 

『はっはっはっ・・・あぁぁっ!!!』

 

どう見ても熱そうだ・・・。それでも根性でワンピースだけは着こなしたが・・・。

 

『・・・あ”ぁ”ぁ”っ!!!』

 

凄い叫び声をあげて逃走した・・・。

 

一夏「本当に体張ってるなぁ・・・。」

 

・・・

 

ラストの体張りの時間になったとき・・・。

 

火逐「ほら来るよ。」

 

『アレ用意しろ!!』

 

吹雪(艦これ)「・・・出た・・・。」

 

『ラストはこれ、腕相撲で勝負や。』

 

ルウ「ルール説明がまず笑ってしまうんだよなぁ・・・。」

 

『但し!!ケツの穴に空気をパンパンに詰めて腕相撲で勝負する。そして、「屁こいた方が負け」ってルールや!』

 

一同「うははははははは!!!!」

 

ルルティエ「でもいつも勝負付かないんでしたよね・・・。」

 

ノワール「そして二人とも舞台裏に逃走するというね・・・。」

 

一夏「え?」

 

ベルファスト「実際にご覧になれば理解していただけるかと・・・ふふふ。」

 

『初めての奴いるからもう一度説明してくれ!』

 

デシル「こっちも一夏が初めてだから必要になるよなぁ。」

 

ルウ「いつもは「もうわかってる」って言えるけどね・・・。」

 

『腕相撲をするんや!但し、ケツの中に空気をパンパンに詰め込んで腕相撲をし、「屁こいた方が負け」ってルールや!』

 

一同「あはははははははは!!!」

 

ルウ「毎年この「屁こいた方が負け」で笑ってしまう・・・。」

 

キズナアイ・SG「しかもここからが長いんだよね~。」

 

結論から言うと、決着はつかなかったのだが、内容がまた面白過ぎた・・・。

 

『ローション多めで頼む・・・痛って!?コーモン塗って・・・あ、違ったコーモンじゃない。』

 

一同「だはははははは!!!!」

 

一夏「「ローション」の言い方で「コーモン」って・・・。」

 

ルウ「これ素で言い間違えたな!」

 

試合準備の段階で言い間違えという想定外の笑いの種に全員の笑い袋が即座に決壊した。

 

そのあとも・・・。

 

『出てます!空気出てます!』

 

ス~   ス~

 

『何で出るの!?止めてるのにでちゃう!止まらないよどうなってんのこれ!?』

 

一同「あはははははは・・・。」

 

男性パイロットA「そこそこ年齢いってるからなぁ・・・体が言うこと聞かないのか・・・。」

 

ルウ「残念無念なことね・・・。」

 

一夏「表情が滅茶苦茶辛そうだけどそれでも体を張ってるよ・・・。」

 

『ようし行くぞ!!』

 

ブッ!!!

 

『あ、やべ・・・!』

 

舞台裏へ逃走

 

『漏らしてんじゃねぇよぉ!!俺今できてたのによぉ!!』

 

一夏「嘘こけ思いっきり「ブッ!!」って音だしてたじゃん・・・。」

 

加賀(艦これ)「去年も似たような感じでしたよ・・・。」

 

『はいスタート!』

 

ブッ・・・ブブッ・・・ブッ・・・

 

一夏「漏れてる・・・音が漏れてる・・・。」

 

ルウ「最早どちらの音かも判別不能だよ・・・。」

 

両者、舞台裏に逃走

 

一夏「・・・というか、舞台裏には何があるのさ?」

 

ルウ「トイレだよ。」

 

一夏「身も蓋もない!!」

 

とまぁ、こんな感じで笑わせてもらったんだけど、一つ驚いた場面もあったんだ。

 

・・・すこし戻って・・・

 

指輪が盗まれたという事件が起きて一同が講堂に集まっているシーンだったんだけど・・・。

 

ルウ『ゲッテムッ!!!!』

 

一夏「ええええ!?!?!?!?」

 

ルウさんが出演していた・・・。本部から派遣された憲兵役で。

 

ルウ「言っていなかったけど、私もこの番組には毎年一枚噛んでいるのよ。」

 

一夏「マジか・・・。」

 

ルウ「マジよ。」

 

ルウ『今年も・・・お前なんだよ。』

 

Y『うわぁ・・・。』

 

犯人には制裁のビンタ!!

 

一夏「ていうか、キャラ違いません?」

 

ルウ「一応私もあちこちの鎮守府が合同で作ったドラマに出演していたことがあるのよね。だからこの時は強面憲兵のキャラを演じているのよ。」

 

火逐「でも、確か何かの時にスタッフの不手際が原因でスズメバチに刺されまくって生死の境を彷徨っていたわよね?」

 

ルウ「ええ・・・元々蜂は苦手だったけど、アレのせいで私は蜂がダメになったわよ・・・。肉体的にも・・・精神的にも・・・。」

 

一夏「へ、へぇ・・・。」

 

少し青ざめたやや薄ら笑い表情でぼんやりと零すルウさんの様子から、それが完全にトラウマになっていることを俺は察した。

 

響(艦これ)「でも見事に復活して復帰回では一種のお祭り状態だったよね?奪った追跡装甲車を駆使して原子炉に突撃を仕掛けるあのシーンは本当に燃えたよ。」

 

ルウ「実はあの時はまだ体中に激痛が残ってて座っているだけでもかなり辛かったんだけどね・・・。あの不敵な笑みも実際には激痛を必死で我慢してたら自然とああなっただけだし・・・。」

 

一夏「・・・その回、何時か見せてもらっていいですか?」

 

火逐「DVDが発売されているから土産も兼ねて買っていけばいいと思うよ?10年以上前にロイヤルで製作されたデジタルアニメを許可貰って実写で再度作り直した物だけどね。」

 

一夏「今度買いに行ってきます。それはそうとあちらは面白いことになっているみたい・・・。」

 

ルウ『大人しくしろ!』

 

Y『○ק#&!>:@%”=¥!!!!』

 

一同「あはははははははは!!!」

 

ルウ『往生際が悪いぞ!こら逃げるな!!』

 

ダンッ!!(Yの足を踏む)

 

Y『痛った!?足!足!!』

 

ゴチンッ!(飛び上がった拍子に頭突きがルウの鼻に直撃)

 

ルウ『痛!?おい何してくれてるんだコノヤロウ!!』

 

Y『うわぁ!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!』

 

ルウ『うるせぇ!倍返しだ!!』

 

一夏「うわぁ・・・これは痛い・・・。」

 

ルウ「鼻血出なかったから良かったけど出てたら結構面倒だったよこれは。」

 

ルウ『カウントダウンだ!!5!・・・4!・・・3!・・・2!・・・』

 

Y『うわあああああああ!!!待ってえええええええええ!!!!』

 

一同「あはははははははは!!!」

 

一夏「痛いのが嫌なのは解るけどさぁ!!」

 

ルウ「毎年往生際が悪いのよね。」

 

クオン「どうせ逃げようなんてないのにさ・・・ぷくく・・・。」

 

ルウ「3!・・・2!・・・1!」

 

スパーンッ!!!!

 

Y『!?!?!?』

 

犯人制裁の瞬間!!

 

ルウ『懲りたか!?・・・ゲッテムッ!!』

 

一同「うははははははは!!!!」

 

一夏「これは痛い・・・!」

 

ルウ「これでも結構手加減しているんだよね。本気出すとヤバいから。」

 

火逐「だから1か月前から手抜きの特訓しているのよね。相手をヤっちゃわないように。」

 

一夏「うわぁお・・・。」

 

ビスマルク(艦これ)「でも私達にとってはこのビンタが除夜の鐘の代わりみたいなものなのよね。」

 

Z3(艦これ)「ここには除夜の鐘が無いからね。」

 

一夏「えっと、二人ともドイツの艦だよね?」

 

ルウ「第一世代のドイツ艦娘はすっかり畳化しちゃっているのよ。日本人より日本人よ?」

 

一夏「そういえば前に第一世代の海外艦寮に上がらせてもらった時もドイツ艦の部屋は日本家屋と見間違うくらい和風だったっけっか・・・。」

 

火逐「それ以外にも第一世代を中心に海外艦の畳化は結構進んでいるのよね。第一世代のウォースパイトなんか大根おろしマスターしちゃったし・・・。」

 

リットリオ(艦これ)「妹のローマも深鍋が無いからってパスタを折ってから茹でるようになってしまいましたわ・・・。」(イタリアではパスタを折るのは邪道とされている)

 

ローマ(艦これ)「そういうお姉さまもナポリタン(日本生まれのパスタ料理)に完全敗北しておられましたね?」

 

リットリオ(艦これ)「だ、だってあんなふざけた代物なのにおいしいのだもの!?というか、その横で貴女カップヌードル啜ってましたよね!?」

 

ローマ(艦これ)「日本のヌードルは大発明ですからね。」

 

ウォースパイト(艦これ)「私も実は本国に居た頃から時々ヌードル頂いていました。即席麺なのにあそこ迄おいしい代物が大量生産できるのは正直羨ましいですね。」

 

アークロイヤル(艦これ)「ロイヤルは比較的近代まで食文化がアレでしたからね・・・。最近では他国の食文化を取り入れることで巻き返していますけど。」

 

響(艦これ)「そういえば、同志ガングートも炬燵で即堕ちしていたよ?」

 

ガングート(艦これ)「ど、同志ちっこいの!?!?」

 

一夏「あははは・・・。」

 

ルウ「はいはい。そろそろ年越しそばの準備を始めないといけないから、特大鍋に入れるそばを箱から出すのを手伝って。」

 

一同「はーい!」

 

・・・

 

こうして2034年の収めと、新年である2035年の年初めをしながら、鎮守府の夜は更けていった・・・。




艦これ海外艦の皆さん:皆大なり小なり畳化が進行しているため、割かし日本風の文化に染まっています。特にドイツ艦は寮の部屋まで純和風という徹底ぶりです。

ノワール:過去のコラボによって生まれた現身。根っこは仲間思いなのだが自分に素直になれない。

キズナアイ・SG:過去のコラボで生まれた現身。SGは「スーパーゲーマー」の略。「【7】蒼穹の空 -虹見島-」で名前だけ登場した「キズナアイ」は無印の方を指すのでこちらは別存在。キズナアイはコラボイベントで複数のバージョン違いが登場したが、この鎮守府にはバージョン違いが全て別個体として現身化している。

クオン:過去のコラボによって生まれた現身。オリジナル同様感情が直ぐにしっぽと態度に出るため隠し事が致命的に下手。

憲兵役のルウ:普段のツインテールではなく、髪を降ろした状態で登場。別に女優もやっているというわけではなく、単にかつて複数の鎮守府が合同製作したドラマに出演した経験と海軍関係者という理由から出演しているだけ。過去にスタッフの不手際でスズメバチに襲われ刺されまくったのがトラウマになっており、毒によるアナフィラキシーショックの危険性もあって蜂がダメになっている。なお、ドラマで演じる役が大体敵勢力の幹部格、かつ主人公たちを試すような言動や行動が目立つという少し特殊な役回りが多い。



「ゲッテムッ!!!!」とは?:オリジナルの「ガッデムッ!!!!」を少し変形させたもので、PSO2の登場人物「ゲッテムハルト」と引っ掛けています。





因みに本日右上の親知らずを抜歯しました。
元から神経が死んでいた死産歯みたいなものだったのですが、たくさん麻酔を打ったのもあってかあっさりと抜けました。
今後の投稿ペースに影響を与えるようなことは無いとは思いますが、万一療後不良を起こした場合は内容如何によっては休みを頂くことになるかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【22】明けましておめでとうございます! -今年もよろしくお願いします!-

※重要事項(2020/06/10追記)

この小説でもちょくちょくビークルが登場する私がプレイしているSteamゲーム「From the Depths」に大規模なアップデートが到来し(解っている範囲だけでも主に資源関係とキャンペーンの仕様に大幅な変更が発生)、その結果既存のビークルが全て作り直しとなってしまいました。

現在実働中のビークルだけでも相当数存在し、それら全てを見直し、修正するには時間がかかりそうですが、そっちを片付けないと気になってとても小説に集中できそうにありません。

ちょうどこの22話で第一章が終了し、次話から第二章に突入するため、それらの準備も含めて次(14日)とその次(28日)の最新話投稿を見送り、7月12日に23話を投稿することにします。

約1か月時間が空きますが、ご了承下さい。


*国見島 りんご神社初詣用臨時分社前*

 

この鎮守府の神社は虹見島のりんご神社しかないのだが、鎮守府関係者が大勢で押しかけるには敷地が足りない。

 

だから、国見島には初詣用の分社が設置できる敷地があり、元旦から一週間の間ここに臨時分社が設置される。

 

周囲には出店や屋台なども展開され、本国での初詣に勝るとも劣らない大規模な祭りのような様相を呈する。

 

一同「明けまして、おめでとうございます!!今年もよろしくお願いします!!」

 

新年のあいさつと共に初詣が始まった。

 

皆着物を着ているのだが、ロイヤル出身やユニオン出身等着物の着付けができない艦娘達はできる艦娘達に着付けてもらったらしい。

 

第一世代のドイツ艦娘たちは既に全員自前で着付けができるようになっているというから驚きだ・・・。

 

因みに俺は持ってきているわけもないので居酒屋鳳翔の鳳翔さんに着物を貸してもらった。

 

一夏「にしても、凄くにぎやかだな。」

 

サラァナ「皆さんこういうのがお好きなようですからね。」

 

????「皆メリハリをきかせているんだよ。何かあればすぐに戦場だからね。」

 

聞きなれない声に振り返るとミドルロングの銀髪でやや色黒な成年が立っていた。

 

一夏「あれ?貴方は?」

 

ゼハート「あっと済まない。そういえば自己紹介がまだだったね。僕はゼハート、ゼハート・ガレット。第四航空小隊の小隊長をさせてもらっている。」

 

一夏「初めまして、織斑一夏です。あれ、ガレット・・・?もしかして、整備班長のデシルさんは?」

 

ゼハート「ああ、僕の兄だよ。よく全然似ていないって言われるけどね・・・。」

 

一夏「ほぇ~・・・。そういえば、何故今まで会うことがなかったんですか?」

 

ゼハート「9月からずっと新人教習のためにトラック本島に出向していたからね。それ以前は天見島や所用で宇宙にいることが多かったから接点が無かったのだろうね。因みに帰ってきたのは昨日の午後五時ごろだったんだ。食堂にはいたけど結構離れた位置にいたし、途中で疲れて眠ってしまったからね。」

 

一夏「そうだったんですか。お疲れ様です。」

 

ゼハート「そうでもないさ。そういえば、君の事も兄さんから聞いているよ。初陣で敵艦を4隻も沈めたって。」

 

一夏「あはは・・・たまたまですよ。敵が艦船型中心だったってのがありますし。」

 

ゼハート「謙遜する必要はないさ、初陣で4隻というのは誰にだってできるような事じゃない。でも、その謙虚な心は忘れてはいけないよ。人間驕ってしまうとつまらないミスを犯すようになってしまうからね。」

 

一夏「肝に銘じておきます。」

 

ゼハート「ははは、そんなに固くならなくていいさ。君が自分の世界に帰るまでもう日にちが残り少ないんだろ?なら思い出づくりに専念すべきだよ。まぁ、帰ったからって二度と来れないわけではないけどね。」

 

一夏「え?それってどういう意味ですか?」

 

ゼハート「過去にこの世界に来て、そして自分の世界に帰って行った人たちは何人もいるけど、帰った後でも時折遊びに来る人もいるんだよ。それに、どうやらルウさんたちも君の世界に同行するみたいだからね。」

 

一夏「・・・はい?それって・・・?」

 

ゼハート「僕も詳しいことは知らないけど、ルウさんたちは君の世界に何か思うところがあるみたいなんだ。行方不明になったままのガイアさんの捜索以外にも何か理由があるみたいでね。ここから先はルウさんに直接聞いた方が早いかもしれないな。」

 

と、いうわけで・・・。

 

ルウ「ええ、私とあと火逐も同行する予定よ。」

 

一夏「何故ですか?別に迷惑ということは無いんですけど何故?」

 

ルウ「座標特定の時に妙な反応を検知したのよ。それが何なのかはまだ分からないけど、あまり良いものではなさそうだったからガイアの捜索も兼ねて調査しようと思ってね。」

 

一夏「そうなんですか・・・。」

 

ルウ「まぁ、この間本部から『溜まりに溜まった有給をいい加減消化して来い』って言われて、その有給消化も兼ねているってのも、まぁ、五分の二程度はあるんだけどね・・・。」

 

普段ルウさんが見せない凄く疲れた様な表情に俺は少し驚いた。

 

一夏「えっと、どれくらい溜まっていたんですか?」

 

ルウ「たしか2年ちょっとだったかな?」

 

一夏「に、2年!?」

 

有給2年だなんて聞いたことが無い。というか、そんなに大量の有給どうやったら溜まるのだろうか?

 

ルウ「まぁ、原因の一つとして私達が長時間を要求するような趣味を持っていないというのがあるけどね。普段やっている釣りや農園での収穫作業も業務内容に入っているし、艦娘達との交流も業務内容に入っているからイマイチ消化する機会がなくてね・・・。」

 

一夏「あらら・・・。」

 

ルウ「まぁ気分転換にはなるだろうし、座標が解っているからこっちで何かあったらすぐに戻れるからね。それにISというものにも個人的に興味があるからね。人類が宇宙に飛び立った時を見越して生み出された宇宙作業用パワードスーツ・・・モビルスーツとよく似ているよ。」

 

一夏「対ELID用の兵器としての側面もあったけど、現実は中々うまくいかなかったんですけどね・・・。」

 

ルウ「もしかしたら私たちが持っている技術と融合させれば本来の夢に近づく一助になるかもしれないし、私たちとしてもフォーリナーとの三度目の戦いに備えてまだまだ守るための力が必要だからね。只の機械ではなく、共に歩む相棒というのも気に入ったし。」

 

一夏「束さんが聞いたら喜ぶかもしれませんね。」

 

ルウ「まぁ、そうでなくとも貴方の関係者には一度挨拶しておかないとだからね、どのみち向こうには一度行く予定でしたよ。まぁそれは今は置いておいて、思い出づくりにも今を精一杯満喫してください。」

 

そういわれて俺は送り出され、再び祭りの喧騒の中に入っていった。

 

ひよこの姿をした謎の生物「饅頭」が作るたこ焼きの出店、艦娘の艤装の細かい制御を行う「妖精さん」が出店した射的屋等。

 

自称「おばけ」の不知火さんも装備箱型の個人仕様のストレージコンテナを特価で販売していたので、俺もお土産を兼ねてTech4の箱、通称「金箱」を一つ買った。

 

不知火(アズレン)「ふふ、毎度ありがとうございます。」

 

このストレージコンテナは見た目こそ両手で抱えられる程度の大きさしかないが、フォーリナーの技術を応用した技術を用いることで内部空間が非常に大きくなっており、箱の口を通る物であれば見た目をはるかに上回る容量を収納し、また簡単に取り出すことができる優れモノだ。

 

箱自体は装備箱の流用品だが、ストレージコンテナへの改造が手間でどうしても高値かつ希少になってしまうらしい。

 

一応容量が小さいTech1の通称「桃箱」とTech2の通称「水箱」はそこそこな値段で売られていて、俺も過去に「桃箱」を1つ買ったことがあるが、せっかくだからと今回「金箱」を買ったのだ。

 

因みにTech3の箱は通称「紫箱」だ。

 

他にも最上位と言えるTech5の通称「黒箱」もあるにはあるらしいのだが、元々の箱の母数が金箱と比べて圧倒的すぎるほどに少ないこともあって極々稀にしか店に並ばないレアものだ。少なくとも俺は見たことが無い。

 

続いて舞台の方を見てみると、長門さん(アズレン)が刀を用いて何やら奉納の舞を舞っているようだった。

 

一夏「剣・・・か。俺の剣は最早「道」じゃなくて「術」だけどな・・・。」

 

俺は遠巻きにそれを眺めながらぼんやりとそう呟いた。

 

昔俺は篠ノ之家が開いていた剣道道場に通っていて、そこで剣道を学んでいた。

 

生活費稼ぎのために俺もバイト漬けに成らざるを得なくなったために不本意ながらも道場を辞めて以降も、俺は時間を見つけては我流で剣を扱う練習はしていた。

 

それはここに来てからも同じだ。高雄さん(アズレン)などに鍛えてもらったり、道場で素振りの練習をしたり・・・ただ、ここでの剣は実戦向けな為、自然と俺の剣も道ではなく術になった。

 

それ自体に後悔は無いが、いつの間にか日常が遠くなってしまったなと、そうしみじみ思えるのだ。

 

そういうことをぼんやりと考えながら俺は近くの出店で買ったりんご飴を舐めながら遠巻きにそれを鑑賞していた。

 

一夏「りんご飴・・・か、昔篠ノ之神社の夏祭りでも同じように買って舐めていたなぁ・・・。そういえばマドカはりんご飴が好きで毎年買っていたなぁ・・・。あと千冬姉も。」

 

二人ともりんご飴が大好きで、それに付き合っているうちに俺自身もこの味がやめられなくなったのだ。別に好きというわけではないのだが、見かけたらつい買ってしまうのだ。

 

一夏「まぁ、あとちょっとだけだ。あとちょっとだけ待っててくれよ・・・。」

 

俺は個人的な都合によって待たせてしまっている自分の世界の家族や友人、恋人たちに心の中で詫びつつそう呟いた。

 

・・・

 

・・・・・・

 

そのあと色々な人と出会って挨拶を交わしたり、様々な出店を回ったり・・・そうそう、本筋である初詣も抜かりない。

 

・・・強いてツッコミどころがあるとすれば、デシルさんは着物の背中にまで「魔中年」と妙に達筆で書き込んでいた点だ・・・。口には出さなかったけど、それは流石にどうだろうか・・・。

 

・・・まぁそれは置いておいて、思い出とお土産をしっかり確保して帰りたい。

 

・・・こっちでの生活を満喫しまくっていると鈴あたりに蹴り飛ばされそうな気もするが、そこは勘弁してほしい・・・。今でこそ五体満足で活動できているが、俺も危うく死にかけたんだ。

 

???「・・・コン!」

 

一夏「ん?」

 

物思いにふけっているとふと足元から何かの鳴き声のような音がしたので視線を落とすと・・・。

 

青い狐「コン!」

 

一夏「あれ?可愛らしい狐だけど、青い狐なんて見たことが無いなぁ・・・。重桜の人の誰かのペットか何かかな?」

 

そう思ってたまたま見つけた戦艦の加賀さんに聞いてみたところ・・・。

 

戦艦加賀「いや、そういうのは聞いたことは無いな。そもそも狐を飼っている者はこの鎮守府はおろか、この四島の中にはいないはずだ。」

 

知らない様だ。

 

そのあと二人で色々と聞いて回ったが、誰も知らない様だ。

 

青い狐(一夏の頭の上に乗っかっている)「コン!」

 

戦艦加賀「誰も知らないとはな・・・。それにしてもそいつはお前にすっかりなついているようだが、心当たりはあるか?」

 

一夏「・・・さぁ?少なくとも見るのはこれが初めてだし・・・。」

 

戦艦加賀「もしかしたらお前が気づかなかっただけで案外近くにいたのかもしれないぞ?」

 

一夏「・・・かも。」

 

戦艦加賀「今更引きはがすのもあれだからな。お前が良ければそいつをお前の世界に連れて行ってもいいんじゃないのか?」

 

一夏「俺は別に構いはしないけど・・・。」

 

青い狐「コン♪」

 

戦艦加賀「そいつもそのつもりみたいなのか・・・?じゃあ、名前を付けてやらないとな。名無しの権兵衛では色々と不都合だしな。」

 

一夏「でも俺、名づけなんてしたことないし、どういう名前がいいかなんて・・・。」

 

戦艦加賀「まぁいきなり名前考えろと言われても難しいよな・・・。」

 

一夏「せっかくだから加賀さんが名付け親になってくださいよ。」

 

戦艦加賀「え?私は別に構わないが、本当にいいのか?」

 

一夏「はい。俺だといい名前つけられる自信が無くて・・・。」

 

戦艦加賀「・・・そうか。じゃあ、手前味噌で悪いが「トサ」というのはどうだろうか?」

 

一夏「トサ?その名前の由来は何ですか?」

 

戦艦加賀「実はな、私の妹になるはずだった戦艦の名前なんだ。ほぼほぼ完成していたんだが、軍縮条約の煽りを受けてな・・・。私の身代わりとなって生まれることなく廃艦となったんだ・・・。」

 

一夏「す、すみません。変なこと聞いちゃいましたか?」

 

戦艦加賀「いや、あいつ自身が身代わりを買って出てきたんだよ。空母側にも加賀が居るのはそれが原因でね。元々私が廃艦になって土佐がネームドシップになるはずだったんだ。だから戦艦から空母に作り替えられた赤城の設計を元に加賀型空母が作られたんだ。それより前に計画されていた私と名前が被っていたのもいずれ土佐がネームドシップになる予定だったから、私は言うなれば実験艦に近かったんだ。」

 

一夏「そうだったんですか。」

 

戦艦加賀「だが、ちょうど同じ時期に大震災が発生してな。逃げ遅れそうになった天城さんを土佐が庇ったんだ。天城さんは竜骨にダメージが入ったが充分修理で対応できるレベルで抑えられた、だが土佐は酷い有様でね・・・。それで「どうせ修理できないなら使い物にならなくなった自分が廃艦されるべきだ」と言ってね。それが受け入れられた結果私は戦艦として完成し、土佐は生まれることなく廃艦されたんだ。」

 

一夏「・・・。」

 

戦艦加賀「すまん。しんみりさせてしまったな。だがあいつは生まれることはできなかったが、あいつの存在は決して無意味ではなかった。天城さんが生き残り、私がこうして存在しているのがその証明だ。」

 

一夏「そうですね。でも、何故この子に?」

 

戦艦加賀「最初に見せてもらったときに何故か土佐の事を思い出してな。よくわからないが、何か意味があるんじゃないかと思ってな。」

 

青い狐「コン♪」

 

一夏「あれ?この子もその名前が気に入ったみたいですよ。じゃあ、君は今日から「トサ」だ。よろしくな!」

 

トサ「コン♪」

 

トサと名付けられた狐はいかにも嬉しそうだった。

 

・・・しかし、青い狐だなんて普通の種では見たことも聞いたこともないとみんな口をそろえて言っていた。

 

この狐は一体何なのだろうか?

 

まぁ、悪い感じはしないし、別段気にするようなことではないと思うけど。

 

精々、珍しい狐だなとしか俺は思わないけど、向こうで奇異の目で見られるのは流石に気分が悪い。

 

そうならないようにしっかりと守ってやらないと。

 

そう俺は心に誓った。

 

トサ「コン♪」

 




人物紹介

ゼハート・ガレット:デシルが居た時点で薄々居るんじゃないかと思っていた人もいるかもしれませんが、ガンダムAGEで登場したヴェイガン側の主人公のゼハート・ガレットの平行世界の同一人物です。原作とは違い兄弟仲は普通と言ったところです。

戦艦加賀:原作では空母に改装される前の存在でしたがこの世界では空母と戦艦の両方に加賀が存在します。また、空母加賀も改装艦ではなく別途新造された艦となっています。

トサ:いつの間にか一夏に懐いていた青い狐です。
実は元々は尺を稼ぐために急遽用意した新キャラクターでした。
ですが・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 再会と始まり
【23】元の世界への帰還 -Return-


皆さん、大変お待たせしました。

急に訪れた真夏日の直射日光にやられて熱中症になりかけたり、暑すぎて眠れなくなるなど惨憺たる目に遭ったりしましたが、何とか投稿に漕ぎ着けました。


*天見島 簡易ワープゲートルーム*

 

帰還当日、俺は同行するルウさんと火逐さん、そして見送りに来た大勢の人たちと共に自分の元居た世界に座標を合わせられたワープゲートの前に居た。

 

皆からは餞別として色々なものを贈られたのは少し驚いたが・・・。

 

・・・

 

一夏「デシルさん?これって一体?」

 

デシル「ナイトメアダブルプラスと同じデザインのレーザーガンポッドだ。一応万一に備えて撃てるようになってるが、まぁ部屋に飾っておくためだな。バッテリーパックを外しておけば撃てないから普段は外しておけよ。」

 

一夏「は、はぁ・・・。ありがとうございます。」

 

・・・

 

長門(アズレン)「この鎮守府の皆の想いの力を込めた軍刀じゃ。お主はこの先も何かと苦難に突き当たるだろうが、この軍刀がお主を守ってくれるじゃろう。」

 

一夏「え、はい。ありがとうございます・・・、えっと・・・この刀って銘とかあるんですか?」

 

長門(艦これ)「ああ、あるぞ。その軍刀は「靖国刀」という特別な軍刀で、一つ一つに特別な銘がある。それの銘は「重桜(かさねざくら)」、重桜という組織名の元となった神木「重桜」と同じ文字面の名前だ。」

 

一夏「えっと、そんなすごいもの貰っていいんですか?」

 

陸奥(艦これ)「別段問題ないわよ?だって、今でも少数だけど作られ続けているからね。」

 

一夏「そ、そうなんですか・・・。」

 

・・・

 

そのほかにもなんやかんやあった。

 

エンタープライズさんからは農園で栽培されている野菜や果物の種をいくつか貰ったし、ロングアイランドさんは態々小説の最新刊を俺用に予約してくれていた。

 

ピンク色の熊のぬいぐるみが「これ、お前にやるよ」と言って妙にずっしりとした金属のキューブをくれたけど、これは何に使うのだろうか?

 

なかでも、一番驚いたのは・・・。

 

ローン「一夏くーん、最後にお別れのハグハグ~。」

 

一夏「え!?あ、えっと・・・。」

 

ローン「遠慮しないで~ハグハグ~ハグハ(ガシッ)・・・?」

 

グラーフ・ツェッペリン(アズレン)のエターナルフェニックス「こら、汝の抱擁は加減が効かぬからダメだ。」

 

ローン「ハグハグ~!(涙目)」(ズルズル・・・)

 

一夏「あ、あははは・・・。」

 

ルウさん曰く、かつてローンさんは人格に大きな問題を抱えていて、長らく知人のファレグさんという人に再教育してもらっていたらしい。

 

今でこそ別人かと言われるほどに安定しているけど、昔はひとたび暴走すると手が付けられないバケモノだったとか・・・。

 

・・・

 

一夏「なんというか・・・ありがとう・・・!」

 

暖かな見送りに俺は思わず涙を流していた。

 

霧島(艦これ)「まぁまぁ。別に今生の別れというわけではないですし、もしかしたら私たちの方がそちらにお邪魔することもあるかもしれませんし。では提督。」

 

霧島さんはそう言ってルウさん・・・16才の姿になったルウさんの方を向いた。

 

ルウ(16才の姿)「ええ、それでは私たちが休暇中の間、私たちの持つ権限を委譲します。指揮と交渉は霧島に、艦隊総旗艦は長門に、航空隊指揮は赤城に、経理と交易は明石に、それぞれの決定権限を委譲します。」

 

霧島「お任せを!艦隊の頭脳として、任務を全うして見せます!」

 

長門(艦これ)「ああ、セイレーンの目論見は未だ不明だが、我々の庭で好き放題はさせないさ!」

 

火逐(16才の姿)「あまり気負わないでよ。皆の手に余るような異常事態が発生したら私達も力を貸すから。」

 

ルウ「さて、それでは行こうか。」

 

一夏「・・・はい!」

 

そして俺たちは緑色の光の壁・・・エイリアンワープゲート・・・を通って、俺の世界へと飛び立った・・・。

 

・・・

 

・・・・・・

 

引き込まれるような感覚が消え、目の前にはどんよりした空と海が現れた・・・。

 

一夏「ああ、この感じ・・・戻ってきたな・・・。」

 

ルウ「ここがそうなのか・・・。」

 

火逐「なんというか、どことなく陰気臭い空気ね・・・。」

 

二人はこの世界の空気を肌で感じて、少し戸惑ったような表情を浮かべていた。

 

一夏「ところで、ここはどこですか?」

 

ルウ「いきなり人口密集地に出るのはトラブルの元になるから日本に近い無人島を選んで転送先に設定したのよ。」

 

一夏「え?この世界の地図を知っているんですか?」

 

火逐「大筋では私たちの世界と同じだし、スキャンしたときに地図を作っておいたのよ。」

 

一夏「そうだったんですk・・・」

 

ピロピロピロピロ!!!!

 

突然俺の荷物の中に放り込まれていた俺のスマホがメールの着信音をけたたましく鳴らしだした。

 

一夏「え!?メール!?」

 

火逐「今までこちらのサーバに溜まっていたメールが届きだしたみたいね。」

 

一夏「うわ!?ちょ・・・多すぎる・・・!」

 

相当量のメールが溜まっていたらしく、読もうとしてもその前に次のメールが次々と着信する。

 

ルウ「・・・落ち着くまで待つしかないね・・・。」

 

一夏「・・・ですね。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

数分程経過して、ようやく最後のメールの着信が終わり、俺はそれからメールを最初から一件ずつ確認していった・・・。

 

--いっくんへ。いっくんを殺そうとした奴らは私たちが潰したよ。だから早く帰ってきて。--束

 

--一夏、ニュースを見たときは私も驚いた。どうか無事でいてくれ。--箒

 

--お兄ちゃん、早く帰ってきて。私、お兄ちゃんが居ないと寂しい。--マドカ

 

--一夏、お前の危機に気づけず助けに行かなかった、こんなに不甲斐無い姉で本当に済まない。頼むから早く帰ってきてくれ。私を一人にしないでくれ。--千冬

 

--生きているって信じてるから、早く帰ってきて。--鈴音

 

--どうか生きていて。貴方が居ない世界なんて虚しすぎる。--アン

 

・・・

 

どれもこれも似たり寄ったりで、最近の物になるにつれてどんどん暗いものになっていく。

 

トサ「コーン・・・。」

 

ルウ「・・・こりゃ重傷ね・・・それだけあなたの存在が大きかったってことか・・・。」

 

ピロピロピロピロ!!!!

 

最後のメールを読み終えた後、急に新しい着信が入った。

 

火逐「今発信されたものみたいね・・・?」

 

メールの送り主はマドカで、本文を見るとみんなが目を見開いた。

 

--お兄ちゃんが帰ってきたような気がした。今から迎えに行くから。--マドカ

 

・・・

 

・・・・・・

 

ルウ「えぇぇぇ・・・。」

 

火逐「ナニソレ怖い・・・。」

 

一夏「昔から妙に勘が鋭いところはあったけど・・・これ鋭いってレベルじゃないような気が・・・。」

 

と・・・。

 

マドカ「・・・お兄ちゃーーーーーーーん!!!!!」

 

一夏「ええ!?マドカ!?!?」

 

マドカがIS-確か「打鉄」という日本製の量産IS-を纏ってもの凄い速度でこちらに突っ込んできた。

 

火逐「ちょっと!?あれ突っ込んでくるけど!?」

 

ルウ「対地速度が速すぎる!激突するぞ!?」

 

一夏「墜落する!?マドカ!!ゴーアラウンド!!」

 

トサ「コーン!!コーーン!!!」(特別意訳:TOGA!!TOGA!!!)

 

口々に叫んで制止しようとするが、歓喜の涙で顔をくしゃくしゃにしているマドカには通じず・・・。

 

ドシャーーン!!!

 

一夏「ウボァ!?!?」

 

トサ「ドコーーーーン!?!?」

 

ルウ&火逐「「おうわ!?!?」」

 

そのままマドカは俺に体当たりする形で不時着・・・否、墜落した・・・。

 

ルウ「や、やりやがったよ・・・。」

 

火逐「一夏さん、大丈夫ですか!?!?」

 

一夏「う~ん・・・。」

 

軽~く意識が飛びかけたよ・・・。

 

ルウ「・・・救助ヘリ出動、1、0、2・・・って無いか・・・。」

 

火逐「まったく、危ないなぁ・・・。」

 

トサ「コーン・・・。」

 

マドカ「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!良かったやっぱり生きてた!!」

 

一夏「ああ、今度こそ死ぬかと思ったけどな・・・。」

 

マドカは相も変わらず涙で顔をくしゃくしゃにしている。

 

火逐「ハイハイ。感動の再会に水を差すようで悪いけど、まずそこから降りようね?」

 

見かねた火逐さんがマドカを打鉄ごと持ち上げて俺の上から降ろした。第一世代の中でも最初期の艦娘のパワーは伊達ではない。

 

マドカ「ふにゅう~離して~!っていうか、あんたたち誰!?」

 

一夏「あたたたたた・・・マドカ、その人たちは俺の命の恩人だよ。」

 

ルウ「私は叢雲ルウ、今あなたを持ち上げたのはパートナーの火逐よ。」

 

マドカ「え?あ、あの・・・あうぅぅ・・・。」

 

火逐「そんなに気にしないでいいわよ。そもそも私たちの方がよそ者だからね。」

 

ルウ「それはそうと、それが「IS」という物ですか。」

 

マドカ「え?」

 

一夏「二人ともこの世界の人じゃないんだよ。俺もこの1年間ずっとこの人たちの世界に居たんだ。」

 

マドカ「え?え!?えええええ!?!?」

 

ルウ「積もる話はじっくり話せるところで話すけど、どこかそういう場所あるかな?」

 

マドカ「えっと・・・じゃあ私たちの秘密基地は?別の島だけど・・・。」

 

ルウ「あー・・・、いかだを作るから少し待って。」

 

火逐「私は水上滑走できるけど、一夏さんは出来ないですから。」

 

一夏「あはは・・・台船の操船はできるけどあれ鎮守府の備品だから持ってきているわけがないし・・・。」

 

そのあと俺たちは簡単ないかだを作り、それをマドカと火逐さんに牽引してもらって別の島にある秘密基地に向かった。




ファレグさんとは:フルネームは「ファレグ・アイヴズ」。PSO2EP4で登場した魔人の異名をもつ女性で、謂わば人類の可能性の極致ともいえる存在です。
ルウにとっても、「いずれは超えたい壁」であり、時々ガチバトルをしていますが、ルウは今のところ全敗している状態です。
元々ルウ自身が決闘においては相手の流儀に合わせるタイプなのもあって、勝負が成立しないような技や能力を意図的に自己封印しているというのもありますが、それを差し引いてもルウはファレグには勝てない、勝てたとしても全く安定しないというほどの差が未だに残っています。
また、個人的な親交もあり、精神に手に負えないレベルの異常を抱えていたローンの再教育を依頼したこともあります。

ピンク色の熊のぬいぐるみ:平たく言えば、アルペジオで登場した熊のぬいぐるみのガワを纏ったキリシマ、通称:キリクマです。
アルペジオコラボにおいて霧の艦達はイベント終了後に全員回収されましたが、家具アイテムの一部という形で登場したキリクマだけは残留しました。
尤も、このキリクマはキリシマ本人ではなく、キリシマのコアから分化したサブコア、言うなればキリシマの娘の様な存在です。

ゴーアラウンドとは:航空用語で「着陸復行」「進入復行」を意味し、噛み砕いて言えば着陸中止の事です。
トサが言ったTOGA(トーガ)はテイクオフゴーアラウンド(Takeoff/Go-around)の事で、この場合は「着陸態勢解除」を意味します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【24】1年ぶりの再会と新たな出会い -Rendezvous-

*束達の秘密基地がある島*

 

ルウ「ここが?ぱっと見では何もないように見えるね。でも、下から妙なエネルギー反応がするね。」

 

火逐「流石に秘密基地だから巧妙にステルスされているね。」

 

マドカ「こっちだよ。ついてきて!」

 

一夏「あはは・・・マドカのやつ、目に見えてはしゃいでるな。」

 

トサ「コン♪」

 

今すぐにでも駆け出したいという気持ちを抑えて歩いているのが手に取るようにわかる程の解りやすさだ。マドカに重桜艦娘達のようにしっぽがあったならきっと今頃バタバタと千切れんばかりに振りまくっているだろう。

 

そうこうしているうちに俺たちは島にある森の中に入り、木陰の洞窟に足を踏み入れていた。

 

洞窟はしばらくは岩肌がむき出しの自然な洞窟だったが、途中から鉄板らしき人工の壁に切り替わっていた。

 

ただ、ステルスのためか照明が無く、マドカの懐中電灯と・・・。

 

火逐「夜間戦闘用の探照灯がこんなところで役に立つとはね・・・。」

 

火逐さんの探照灯(光量は抑えてある)が照明代わりだった。

 

やがて金属製の扉が目の前に現れ、マドカはその横にあるテンキーに暗証番号を入力してロックを解除した。

 

扉が開くとそこには・・・。

 

ルウ「おお・・・結構しっかりとした作りなんだね。」

 

思いのほかしっかりとした作りの・・・それこそ離島鎮守府の地下施設と遜色ないレベルにしっかりとした作りの基地があった。

 

と、そこに・・・。

 

鈴音「・・・え?一夏?」

 

一夏「あれ?鈴?なんでここにいるんだ?」

 

ふと横を見ると通路を歩いていた鈴と目が合った。たしか何年も前に中国に戻っていたはずだが・・・。

 

みるみる鈴の顔が涙でくしゃくしゃになってきて・・・

 

鈴音「一夏!!今までどこ行ってたのよ!?!?」

 

一夏「おおぅ!?」

 

急に鈴がこちらに向かって走り出して来たので一瞬飛び蹴りでもされるのかと思い、それでも散々心配させたのだから甘んじて受けようとしたが、予想に反して抱き着いてきた。

 

鈴音「皆心配してたんだよぉ・・・!」

 

一夏「ああ・・・うん。・・・ごめんな。」

 

俺はただ詫びながら鈴の頭を撫でた・・・。

 

・・・

 

火逐「・・・で、お取込み中大変申し訳ないけど・・・。」

 

ルウ「・・・そろそろ移動しない?」

 

1分ほど泣きじゃくる鈴を慰め続け、ようやく鈴が落ち着きを取り戻したところで火逐さんたちが申し訳なさそうに口を開いた。

 

いくら秘密基地の中で人通りが無いとはいえ通路のど真ん中でこれは流石に恥ずかしく、俺と鈴は二人そろって顔が真っ赤になった。

 

鈴「ところで、この二人は誰?一夏まさか・・・?」

 

ルウ「いや、それは無い。」

 

火逐「私達は去年私達の世界に飛ばされてきた一夏さんを保護していた者の代表みたいなものよ。」

 

二度目である・・・。

 

と、そこへ・・・。

 

アン「ッ!!一夏!!」

 

更にアンが抱き着いてきた・・・。

 

更に1分ほど足止めが確定してしまいマドカとルウさんたちは苦笑いを浮かべていた・・・。というか、アン迄ここにいたのか・・・。二年前にイギリスにもどっていたはずだけど・・・。

 

・・・

 

アン「うぅ・・・ぐすっ・・・やっと・・・やっと会えたぁ・・・。」

 

ようやくアンも落ち着いて、やっと移動を再開した。

 

アン「で、この女の人たちは誰?」

 

やっぱりそうなるか・・・。

 

ルウ「このパターン、三回も続いたら流石に飽きてしまうね・・・。」

 

アン「え?」

 

軽くゲンナリしたような表情を浮かべたルウさんにアンが疑問の声を上げた。

 

マドカ「お兄ちゃんを保護してくれていた人なんだって。」

 

火逐「これあと何回あるのだろうね・・・。」

 

ルウ「流石にこれで終いにしてほしい気はあるけど・・・。」

 

一夏「あと最低でも一回はありそうだけどね・・・束さんの分が・・・。」

 

ルウ&火逐「「Oh・・・。」」

 

結構疲れた表情を浮かべた二人にマドカと鈴とアンは「本当にごめん・・・。」と呟いた。

 

しかし、マドカに案内されて束さんの部屋に来た俺は別の意味で面食らった。

 

束「あ、いっくんだ・・・やっと・・・帰ってきてくれたんだ・・・。ごめんね・・・こんな有様で・・・。」

 

すっかり衰弱した様子でベッドの上で上半身を起こして弱弱しい笑顔でこちらに微笑んでいる束さんの姿に俺たちは開いた口が塞がらなかった・・・。

 

一夏「えっと・・・束さん?それどうしたんですか・・・?」

 

束「ああ・・・これね・・・。去年の秋あたりからちょっとね・・・あはは・・・。」

 

ルウ「いやいやいやいや!!どう考えたってちょっとじゃないでしょ!!それに3ヵ月以上この状態!?一体何をどうしたらこうなるのよ!?」

 

鈴「実はさ・・・。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

ルウ「なるほどね・・・つまり根を詰め過ぎて体調を崩したのが最初で、それからずっと悪化し続けていると・・・そんなことある?」

 

火逐「ちょっと検査してみないとね・・・。とりあえずみんなは別の部屋に移動してくれる?」

 

一夏「え?検査できるんですか?」

 

ルウ「ある程度原因を絞り込む程度ならね。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

ルウさんたちが束さんの検査をしている間、俺たちはこの一年間何があったのかを別室で話し合った。

 

俺の事に関しては三人とも複雑そうな表情だった。まぁ、向こうに居た時の方が居心地が良かったのだから複雑な話である。

 

マドカは最初の段階から束さんと一緒に行動していたらしいが、鈴とアンは後から加わったらしい。

 

アン「実は私、一夏が行方不明になる2か月前に両親を鉄道事故で亡くしてね・・・色々とゴタゴタしていて気が付いたら一夏が行方不明になったこと、束さんが怒ってその事件の首謀者の女性利権団体に報復をしたことをニュースで知ってね・・・。」

 

アンもまた両親を亡くしてしまい、そのうえ俺まで行方不明になったせいでそうとう精神的にキていたらしい。元々アンの両親も女性利権団体に対して良い印象を持っていなかったし、行き過ぎた活動に対して苦言を呈することも多かった。

 

それでもしかしたらその事故も女性利権団体絡みではないかと警戒した束さんが万一に備えてアンを探して保護したらしい。実際にはその鉄道事故は見づらい信号機と逆光による信号の見間違いが原因で女性利権団体とは無関係だったらしいが。

 

鈴の方はもっとひどい話だった。

 

鈴は俺が行方不明になった後も俺の生存を信じて、中国の代表候補生を目指して努力を重ね、ついに主席となった。

 

だが、次席とその親の陰謀により二人の成績はすり替えられ、代表候補生への道を絶たれてしまったのだ。しかも・・・。

 

オータム「そこから先は俺が説明するよ。」

 

一夏「え?えっと、貴女は?」

 

オータム「俺はオータムっていうんだ。束とは腐れ縁でね、色々と協力していたんだよ。で、俺が鈴を迎えに行ったんだけどよ、本当に危なかったぜ・・・。」

 

一夏「え?それってどういう・・・。」

 

オータム「多分その次席の親どもの差し金だろうけどよ、鈴の両親の店がチンピラどもの襲撃に遭いかけてたんだよ。あの二人がたまたま居てくれなかったらヤバかったぜ・・・。」

 

一夏「あの二人?」

 

鈴「お店の常連さんで中国では有名な格闘家の東方先生と、その弟子の飛鳥さん。時々私も稽古つけてもらっていたのよ。」

 

オータム「あの二人がチンピラどもを撃退してくれていなかったら下手すら鈴の両親は殺されていたかもしれなかったからな・・・感謝の極みだぜ。」

 

一夏「そうなんですか・・・いつか会う機会があったら俺からもお礼を言わせてもらいたいな。」

 

鈴「東方先生たちはまだ中国で山籠もりの修行をしているみたいだから会う機会が来るのはまだまだ先だと思うよ。まぁお店は失くしちゃったけど、父さんも母さんもここで保護されているから言うほどかな・・・?」

 

一夏「でもなぁ・・・。」

 

そんな卑怯な真似をして鈴の人生を滅茶苦茶にした次席の親達に俺は軽く怒りを抱いた。

 

と、そこへ・・・。

 

ルウ「おまたせ。一応何とかしてみたけど、後は当人の生への執着次第としか言いようがないね。」

 

火逐「ただね、ちょっと面倒なことが分かったからそれについても説明させてよね。」

 

俺たちは火逐さんのちょっと歯切れの悪い言葉に疑問を覚えながらその話を聞くことにした。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ルウ「所で、先に確認するけどこれで全員かな?」

 

束さんの部屋にこの秘密基地に居る人全員が集められ、ルウさんが全員いるのか確認した。

 

ただ、マドカ曰く「スコールさん」という人が留守らしい。

 

何でも食材の買い忘れがあったらしくて出直しているらしい。

 

ルウ「まぁ、スコールさんには後で説明するとして、私達としてもちょっと目を疑ったのだけどね、信じられない事が解ったよ。」

 

皆が目を見合わせている中、火逐さんが続きを口にした。

 

火逐「束さんの体調不良の原因だけど、基本は慢性的なストレスと過労が原因の衰弱だったのだけれど、もう一つ原因があったのよ。・・・ちょっと信じられないだろうけど、「呪い」がかけられていたのよ。」

 

「「「「「・・・は?」」」」」

 

皆が一斉に気の抜けた声を上げた。

 

ルウ「私達もびっくりしているのだけれど、残念ながら事実だよ。信じがたい話だけどね・・・。」




アンの両親が巻き込まれた鉄道事故

大雑把な描写しかしていませんが、イギリスで実際に発生した列車の正面衝突事故が元ネタとなっています。
この事故は衝撃の瞬間でも取り上げられたことがあります。


東方先生と飛鳥さんについて

早い話がスパロボで登場したネタを少し弄って引っ張ってきたものです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【25】束の療養 -解毒丸-

※重要連絡

ここ最近の日照りの強さが原因でとうとう熱中症になってしまい、まるで筆が進まなくなってしまいました。

対症療法で何とか活動自体は出来ていますが、小説執筆やそのネタ出し等に回す気力と体力が確保できなくなってしまったため、しばらくの間お休みさせていただきます。

再開時期は未定ですが、再開が決まり次第追って連絡をします。


一夏達が別室で互いの近況を話し合っていた時・・・

 

【視点:火逐】

 

火逐「・・・ざっと検査してみたけど、そっちはどんな結果が出たの?」

 

ルウ「う~ん・・・ちょっと説明がつかないなぁ・・・。根本原因は多分過労とストレスが原因だと思うのだけど・・・。」

 

火逐「それでこんなにひどい状態になる?」

 

ルウ「症例も無くはないけど・・・、感染症ではないし、ストレスによる胃潰瘍やらなんやらと併発している病はあるけど、それにしては症状が長引き過ぎているし、検査薬による反応も不自然だ・・・。」

 

無理が祟って体調を崩したとはいえ、曲がりなりにも束さんは療養していた。見る限りその療養内容は間違ってはいないにも拘らず、何故これほどまでに症状がひどい状態が継続するのか、その説明がつかなかった。

 

火逐「・・・なにか別な要因とかもあるとか?」

 

ルウ「・・・試してみるほかないね・・・。」

 

そういってルウはケースの中から一口大の団子のようなものを取り出した。

 

それは「解毒丸(げどくがん)」という特殊な丸薬で、普通の飲み薬の様な薬用成分を摂取して病の治癒を手助けするのではなく、逆に体内の毒素等を強制的に吐き下させるものだ。

 

なにか私達の知識にない原因があるのかもしれないとほぼほぼあてずっぽうで使ったものだったのだが、それがドンピシャだった・・・。

 

束「それなに・・・?」

 

ルウ「特別な薬。苦いけど、何もなければただ苦いだけ。」

 

ルウはそう言って解毒丸を半分に切ってその片割れを食べ、飲み込んだ。

 

ルウ「・・・やっぱりめっちゃ苦い・・・。」

 

涙目になりながらも決して危険な代物ではないと体を張って証明されたため、束さんもそれを信じて残り半分を飲み込んだ。

 

束「うぇ・・・苦い・・・。凄く苦・・・!?」

 

そこまで言ったところで束さんは突如目を見開き苦しみだした。解毒丸特有の反応だ。

 

束「!?!?!??!?!?!?」

 

ルウ「我慢しない!吐き出して!!全部吐いて!!」

 

涙目の束さんは我慢するのをやめて口から大きな赤黒い血の塊のようなものを吐き出して、そのまま気絶した。

 

同時にバイタルを監視していた機材の指し示す数値が一瞬跳ね上がった後、正常域に近い数値で安定した。

 

そして、飛び跳ねるように床に落ちた血の塊のようなものをよく観察してみると・・・。

 

火逐「ひっ!?」

 

ルウ「これは・・・!」

 

どろどろに溶け落ちた塊の中から何本もの釘と大きな一匹の毒虫が出てきた。

 

ルウ「ちっ!これが症状が改善しなかった原因か!」

 

ルウは忌々し気に火属性と闇属性の複合テクニック「フォメルギオン」でその釘と毒虫だけを焼き払った。

 

火逐「これって・・・。」

 

ルウ「恐らく、「藁人形」と「蠱毒」、この二つの呪いが症状を悪化させていたんだろうね・・・。むしろ、二つも呪いを喰らっていて今まで生きていたのが奇跡と言えるけど・・・。」

 

恐らく、束さんの逆鱗に触れて叩き潰されたという女性利権団体の関係者か、そのシンパによる犯行だろう。そうでなければ、態々こんな真似をする理由が思い当たらない。

 

火逐「何て陰湿なことを・・・。」

 

ルウ「さっきのフォメルギオンで呪詛返しをしたから、実行者は今頃獄炎に焼かれているだろうね。まぁ、哀れみも感じないけどね。」

 

火逐「逆恨みだからね・・・残当としかね・・・。」

 

私達は気絶しながらも呪いを吐き出して顔色が良くなった束さんのために体力回復のための栄養ドリンクを調合して、ひと段落したところで一夏さんたちを呼びに行った。

 

・・・

 

・・・・・・

 

【視点:一夏】

 

ルウ「と、言うわけだ。にわかには信じられないけど、事実だよ・・・。」

 

「「「「「・・・。」」」」」

 

俺たちは言葉も出ない。

 

「呪い」???そんな非科学的なことで?

 

火逐「私達にとってはそこまでおかしな話ではないけどね。まぁ、科学が発達したこの世界で古典的な呪いに頼った手段を使ってきたのは、ある意味上手い手なのかもしれないけどね・・・。」

 

ルウ「非科学的なことだけど、案外侮りがたいよ?大体、科学万能といったところで所詮は今ある常識の範疇での話。その外側にお化けや幽霊といったオカルト的な事象が存在したところで別段不思議でも何でもない。心霊映像や心霊写真も作り物も多いけど本物だって存在してる。それと同じよ。」

 

「ま、「人を呪わば穴二つ」というけどね。」と、ルウさんは付け加えた。

 

一夏「で、結局束さんは治るんですか?」

 

ルウ「今はまだ経過観察だけど、これで原因と思われる要素はあらかた排除できた。後は本人がどれだけ生きることに縋りつけるかの問題よ。」

 

火逐「「医者は患者を治すのではなく、健康になる手助けをすることしかできない。」というからね。まぁ、束さんはあの様子なら大丈夫だと思うけどね。」

 

マドカ「そう・・・よかった・・・。」

 

マドカが安心したかのように呟いた。

 

ルウ「尤も、もう一週間は体を休めるべき。そのあと寝たきり状態で衰えた運動能力を取り戻すリハビリがあるから、元通りになるまではまだまだかかるね。しかし、二つも危険な呪詛を受けていたにもかかわらずあれで済んでいたのは凄いとしか言いようがないよ。」

 

アン「凄い?」

 

ルウ「普通だったらとっくに呪い殺されていても不思議じゃない。あの呪いにあそこ迄抗えたのは最早誇っていいレベルだよ。」

 

鈴「まぁ、束姉さんは千冬さんと並んで「人類最強」だとか「存在そのものがチート」とか言われているからね・・・。」

 

ルウ「あぁ・・・そうだったね・・・。」

 

ルウさんは軽く意識が飛んだような表情でそういった。

 

火逐「それはそうと、料理担当の人って誰だったかな?」

 

鈴「あ、私よ。あと私のお母さん。」

 

火逐「貴女ね。より早く束さんの体力を回復させるために料理に手を加えたいのだけれど、束さんの好物って何かな?」

 

鈴「そういえば、昔篠ノ之さん家で夕食をごちそうになっていた時はよく束姉さんは鶏のから揚げを食べてたっけ。」

 

火逐「鶏のから揚げね。じゃあそこを中心に手を加えて行こうか。」

 

鈴の母「それじゃ、一段と腕によりをかけて作りますか!」

 

ルウ「それと、マドカさん、鈴音さん、アンさん。貴女達も主に精神的に少し参っているみたいだから、まとめて食事療法をしますよ。原因要素が無くなったのだからあとは一気に治していくからね。」

 

・・・

 

・・・そうして一週間後・・・。

 

・・・

 

束「ふぅ。束さん、完全とは言い難いけど復活だよ~!」

 

ルウ「はえーよ・・・流石は人類最強・・・。」

 

見る見るうちに回復し、杖が必要とはいえ自力で歩けるレベルまで体力を取り戻してVサインを決める束さんの圧倒的回復力にルウさんはどこか疲れた様な表情を浮かべていた。

 

火逐「ところで、これからどうするの?色々と調べたけど、貴女が生み出したISは今も貴女の願いから遠く離れたところに追いやられたままだけど・・・。」

 

束「もちろん、ISを本来の姿に戻そうと思うよ?実はね、そのために近々会社を設立しようと思ってるんだ。」

 

ルウ「それはいいアイデアだと思いますよ。表舞台に立てば色々と都合が良い事もありますし。」

 

束「ただ問題がね・・・。商品のアイデアがまだ思いつかなくてね・・・。」

 

ルウ「へぇ・・・商品ですか・・・。」

 

束さんが表情を曇らせたところで、ルウさんがもの凄く「イイ笑顔」を浮かべたのを俺は見逃さなかった。この状況であの表情をするということはルウさんが何かエグイ妙案を持っているということだ。

 

ルウ「その案件だけど、実はもう設計だけは済ませてあります!」

 

火逐以外の一同「「「「はい!?」」」」

 

俺たちは仰天の声を上げた。




解毒丸:効能的には映画「千と千尋の神隠し」で登場した「苦団子」と同じようなものです。
実際、最初は「苦団子」名義で登場させる予定でしたが、その後そのまま出すのはマズいと考え直し、似た効能を持つ別物として設定を組み直しました。
ルウ達は色々な情報を幅広く持っているが故にこういう世界観と合わないような物品や技術も多数保有しています。

フォメルギオン:「複合テクニック」という特殊なテクニックで、これは火と闇の二つの属性を持ち、獄炎と形容できる赤黒い炎を前方に照射します。
本来フォースとテクターしか使用できません。
名前が覚えづらいのか、よく「フォルメギオン」や「フォメラギオン」など間違えられるとか。

呪い:科学万能の時代と言えど、この世の全てが解き明かされたかと言えばそうではありません。
あくまで科学が解き明かせるのは科学の常識の範疇のみで、それ以外に関しては何もわかりません。そういう意味では呪いという非科学的なものが存在しても何ら不思議ではありません。
因みにルウがそれの事を知っている理由は、彼女の趣味の中に「封印映像などの恐怖系、超常現象系のDVD鑑賞」があるためというのもありますが、それだけというわけでもありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【X2】番外編その2 -登場人物のこそこそ座談会-

色々とあり過ぎて精神的に身体的にも参っている状態から未だ抜け出せないのですが、こうも間が空き過ぎると本当に筆が進まなくなってしまうかもしれないので、リハビリも兼ねて座談会的な番外編を用意しました。


*トラック島離島鎮守府 虹見島 りんご神社*

 

 

 

ガイア「さてと・・・大分間が空いちゃったけど、今回は本編とは全く関係が無い、所謂「楽屋裏」みたいなものです。」

 

ルウ「だから本編での立ち位置とかバッサリ無視して会話するところがあるから、そこのところは了承してほしい。」

 

火逐「筆者もそこそこ書き進めてはいるけど、イマイチ納得のいく仕上がりにならなかったり、そもそも執筆する時間が無かったりと悪戦苦闘しているのよ・・・。」

 

一夏「因みに現在32話と33話を執筆中だそうだ。もう少し進めば書きやすい所、IS学園への入学とその前段階にたどり着けるんだけど、今ちょうど書きづらい所で筆が進まないそうだ・・・。」

 

鈴「そうそう、この作品にはほかの人の作品の登場人物の平行世界の同一人物が何人かいるから、ここでおさらいしたら?」

 

箒「だな。」

 

アン「それじゃあまずは私ね。私の名前はアン・フリークス。オリジナルはロドニー氏の「一夏がシャアに拾われた件について」に登場した元貴族のジオン軍の軍人よ。」

 

鈴「今作の導入部の展開の参考にさせてもらったこともあって始まり部分はよく似ているわね。第二回モンドグロッソの時に誘拐された一夏が黒い穴に吸い込まれて一年戦争時代のサイド7コロニーに重症状態のまま飛ばされて、そこで潜入調査に来ていたシャア少佐とジーンさんに保護されるというのがあちらの始まり。アンは一夏がシャア少佐の推薦でジオンの士官学校に入ったときに出会ったのよね。」

 

一夏「確かに導入部分はかなり参考にさせてもらっているなぁ。こっちではより個々人の感情描写を多くとっているけど、基本的な流れは殆ど同じだな。話を戻すと、最初の頃はアンが男装していたこともあってあちらの俺はちょっと不幸な事故に見舞われたんだよな・・・。後にあちらの俺とアンは同い年だったことや共に主席だったこと、それにあの不幸な事故の責任取りもあって付き合うことになったんだ。」

 

ルウ「アンは一夏には鈴がいることを聞かされていたけど、それでもなおともにいることを選び、されどあくまで鈴こそが正妻であるとして初めては全て鈴に譲っていたのよね。」

 

ゼハート「主席で士官学校を卒業した二人はジョニー・ライデン少佐の部隊に士官候補生として配属されたんだ。受領したMS-06R-1高機動ザクでルナ2・地球間の通商破壊作戦で大きな戦果を挙げて大尉に昇進、宇宙要塞ソロモンへと転属になったんだ。」

 

デシル「そこから先に関しては、是非とも「一夏がシャアに拾われた件について」を実際に読んで確かめてくれ。読み比べて見たらこの作品が参考にしている原型となった展開がいくつか見つかると思うぜ。」

 

 

 

サクヤ「次は私ね。私はサクヤ。大元の原作は犬もどき氏の作品「METAL GEAR DOLLS」よ。と言っても、本編時点では既に私はELID化により死亡した後だから登場するのは過去を書いた部分、「第四章:OLD GLORY」の追憶編で登場したくらいね。」

 

ペルシカ「いろんな人に使われているけど、恐らく一番有名なのはいろいろ氏の「喫茶鉄血」だろうね。元々は別世界から迷い込んだ人物なのに今やほぼほぼレギュラーだからね。」

 

アルケミスト「「喫茶鉄血」はほのぼの中心でかつ非常に幅広いコラボをしているから覗いてみるときっと楽しめると思うぞ。実際、この作品も過去に一回コラボしている。「METAL GEAR DOLLS」の方は原作であるドルフロの世界観がメインで、そこにメタルギアソリッド風の生々しい描写が多数盛り込まれている。だから人によっては好みが別れるかもしれないが、興味があるのなら読んでみることをお勧めする。どちらも200話超えの超大作だから読み応え充分だ。」

 

 

 

代理人「そういえば、リコリスさんの説明も必要ではないですか?」

 

ガイア「あー・・・確かに。」

 

エリザ「リコリスは原作では男性だけど、当時リコリスに関する情報が全くと言っていいほど入ってこなかったから作者が名前のイメージで女性と勘違いしてしまったの。」

 

イダダダダダダダダダダダダダダ!!(作者)

 

サクヤ「まぁ、エリザちゃんもコラボイベントでいきなり立ち絵だけ出てきて詳しい情報が出てくるのはその更に後だったからね・・・。」

 

束「ぶっちゃけると、情報が何も入ってこない当時だからこそ逆に好きなように解釈できるっていう考えがあったのかもね。」

 

アダダダダダダダダダダダダダダ!!(作者)

 

ルウ「あーそこまでにしておいて・・・。作者にロメロクラッチがきれいに決まっているから。」

 

アルケミスト「なんだそのマニアックな技は!?」

 

鈴「ええ、あれは見事な昇竜拳だったわ。」

 

箒「一体何を見たんだ!?」

 

一夏「とまぁ、色々とつっかえている状態だけど、少しずつでも書き進めてはいるみたいだから、気長に待っていてほしい。」

 

アルケミスト「「From the Depths」の製品版が完成したこと、「Subnautica Below Zero」のストーリーがオールリテイクされたことなどもあってまだ小説に注力出来ないが、そこのところは大目に見てほしい。どちらもこの小説と少なからず関係性があるために蔑ろには出来なくてね・・・。」

 

エリザ「少しだけネタバレだけど、26話でオリジナルのISがまだ名前だけだけど登場するよ。それと、新たなクロス作品も26話から少しずつ登場するよ。」

 

代理人「それと29話でほんの少しだけですが「喫茶鉄血」の話題が登場しますね。それと、ドルフロ世界のキャラクターがもう一人参加します。」

 

箒「私が本格的に登場するのは28話からの予定だな。私達の両親も少し登場するからね。」

 

ルウ「そうそう。この作品を語るうえで外してはならない小説があともう一つあります。」

 

アン「紅乃 晴@小説アカ氏の作品「ガンダムSEED 白き流星の軌跡」のことね。」

 

ガイア「この小説は今作では「本として出版されている小説」という扱いだけど、これがキーアイテムとして様々な登場人物に影響を与えていくんだよね。」

 

一夏「既に俺が影響を受けているな。16話でナイトメアダブルプラスに乗ったときとかもそうだけど、それ以前に航空機の訓練を積んでいたのもその小説を読んだ影響があるな。因みに16話の時点では読み終えているのは第二巻(原作におけるアルテミス編とユニウスセブン編が収録されている)の「第19話 爪弾き部隊」までで、実はまだ舞台は宇宙なんだよな。」

 

ゼハート「23話時点で新発売された第三巻で収録されているのはラクス・クライン編と低軌道会戦編で、地球に舞台が移るのは第四巻からなんだ。」

 

デシル「第四巻は地球編と砂漠の虎編、第五巻は紅海編と番外編である「スーパーコーディネーターvs流星」が収録されているぜ。」

 

ガイア「流れが解りにくいから少し補足するけど、第一巻は一夏さんが購入する更に2週間前に発売されて、8話の時点では発売から既に一か月経過している(最初は購入が数日前と書いたが、最近見返して無理があると判断して2週間前に変更)ことになっているね。」

 

アルケミスト「時系列的には3話の離島鎮守府は5月初旬、8話の時点で7月中頃だったんだ。そしてアーキテクトとゲーガーがロールアウトしたのは6月の終わり、UMP三姉妹が生まれたのがその2週間後で7月中頃。初任務がその一か月少し後だったから8月中頃過ぎ、その三姉妹が喫茶鉄血にお邪魔したのはこちらの時間で9月の後半だ。一夏が初陣を飾った15話から16話までもちょうどそのころだな。」

 

エリザ「う~ん・・・こうしてみると本文にも時期を書いておいた方がいいかも・・・ややこしくなってきた・・・。」

 

代理人「この辺りはちょっと駆け足気味に走り抜けてしまったこともあって執筆当時は時期の設定が少し曖昧なんですよね。恐らく作者さんも今必死になって設定のすり合わせをしていると思いますよ。」

 

サクヤ「後から設定の整合性をチェックすると執筆当時は気づかなかった粗が見つかって、その整合性を取り直すために投稿済みの部分の色々なところを手直ししなきゃいけなくなって頭を抱える・・・誰もが一度は通る道だと思いたいね・・・。」

 

一夏「まぁ、こうやって粗を見つけて修正することは別に悪い事ではないけど、それが原因でただでさえ遅れている次回話の執筆が停滞しちまうんだけどな・・・。」

 

ル・マラン「まぁ、少しずつとはいえ前に進んではいますから、気長に待ってくれたら幸いと言ったところでしょう。」

 

ルウ「あれ?ル・マランここでなにしてる?」

 

火逐「今日確か遠征のはずだけど?」

 

ル・マラン「・・・あ。」

 

エリザ「・・・忘れてたね?」

 

ルウ「もう出発時間のはずだけど・・・。」

 

ル・トリオンファン「・・・姉さん?

 

ル・マラン「ひっ!

 

アン「目が笑ってない・・・。」

 

ル・トリオンファン「そんなに休みたいなら休ませてあげましょうか?これを食べることが条件ですけど。」

 

一夏「あれ?そのサンドイッチ、何挟んでるんですか?緑色のペーストが見えますけど。」

 

ル・トリオンファン「サボテンをペースト状にしたものよ。」

 

ゼハート「あー・・・。」

 

デシル「『ダストウィッチ』か・・・。」

 

ル・マラン「『自殺サンド』じゃないですか!?!?」

 

ル・トリオンファン「さぁ、喰え。」

 

アルケミスト「あ、口調かなぐり捨てた。」

 

代理人「どちらにしても潔く食べた方がいいと思いますよ?もう謝って済む様子ではなさそうですし。」

 

ル・マラン「待って!!それはあのカレーの次に嫌いなやつだから!!」

 

ル・トリオンファン「うっさい。いつもいつもサボり倒してみんなに迷惑かける駄姉に慈悲など要らぬ。一回お見舞いしてあげるから、これを喰え。」

 

ル・マラン「止めて!!それ艦娘にも効く奴だから!!勘弁して!!ダメ!!こ、これ本当に自殺したくなる奴だから!!本当に勘弁して!!」

 

箒「・・・最初からサボらなければいい話だろうに・・・。」

 

鈴「あ、口に突っ込まれた・・・。」

 

ル・マラン「・・・・・・あ、おいし・・・くないッ!!」

 

チュドーン!!!!

 

サクヤ「あ、轟沈した・・・。」

 

ルウ「・・・何やってんだか・・・。」

 

エリザ「・・・えっと・・・まぁ、小説の方はもう少し進めばすんなり進められるようになると思うので、もうしばらく気長に待ってもらえると幸いです。」

 

ガイア「皆さんもこの時期体調が崩れやすいでしょうから、お互い無理せず頑張っていきましょう。」

 

一夏「それじゃ、今回はここまでだ。次は本編で会おうな!」




「ダストウィッチ」とは:「Kenshi」というゲームで登場する食べ物の一種で、あまりの不味さから「砂漠での自殺率上昇にかなり貢献している」とテキストで皮肉られており、このことからプレイヤー間では「自殺サンド」と呼ばれている。
パッサパサのパンでサボテンのペーストを挟んだものなのだが、Kenshi界の住民はこれを一回1kg単位で食す。
実際に自作&実食した猛者もいるが、曰く「サボテンの青臭さと酸味がペーストされたことにより際立ち、パンと全く合わない」「調味なしではおいしく食べられそうにない」との事。
これを一回1kg単位で食すのだから「自殺率上昇にかなり貢献している」という皮肉の効いたテキストも納得である。
因みにダストウィッチという名称は「サンド(砂)イッチならぬダスト(塵)イッチ(原文ママ)」という駄洒落からきているらしい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【26】変革への第一歩 -Reboot-

【視点:一夏】

 

ルウ「その案件だけど、実はもう設計だけは済ませてあります!」

 

火逐以外の一同「「「「はい!?」」」」

 

仰天の声を上げた俺たちと苦笑いを浮かべる火逐さんをしり目に、ルウさんはコンソールを操作してモニタに何かの設計図らしき物を映し出した。

 

映し出された物はISのようだが既存のどのISとも違った。

 

線は直線が多く、アメリカ製ISのテンペスターやフランス製ISのラファール・リヴァイヴに近い雰囲気がある。

 

が、装備面が大きく異なっていた。

 

まず手持ちの射撃武器はグレネードランチャーが付属したアサルトライフル『ガルム-44 Mk.2』と折り畳みによって三銃身式レーザーサブマシンガンとロングバレルレーザーライフルを使い分けられる大型レーザーライフル『ケルディム-R』の選択式になっている。

 

サイドスカートにはレーザーサーベルが二本と、そのサイドスカートと一体化したホルスターにコンバットナイフが二本となっている。

 

最大の特徴は追加兵装システムで、いくつかのバックパックユニットの中から選択して装備可能なほか、コネクターの規格さえ合っていれば例え自作の物でも装備、運用が可能なバックパックシステム「ストライカーパックシステム」が採用されているとある。

 

他にもやや大きめのシールドが付属している等、全体的に汎用性が高い設計になっている。

 

だが、ストライカーパックシステムこそ既存のISから見ると斬新なものではあるが、残りは既存のISにも似たような装備があり、どちらかというと既存のISをブラッシュアップしたような雰囲気だ。

 

ルウ「『P-00 ラベンダー』、ただひたすらに量産性と汎用性を重視したISとして設計してみました。細かい所はまだ詰めていく必要はあるけど、まずは第一歩としてざっとデザインしたらこうなった。」

 

アン「何ていうか、軍用機って雰囲気がするかな?」

 

ルウ「軍人の私が設計した影響も多分にあると思うけど、これから追々調整していくよ。・・・実はこれでもかなり絞って設計したんだよね・・・。」

 

束「へ?」

 

オータム「それどういうことだ?」

 

ルウ「これを量産型ISとして売り出すということは、当然敵対組織やテロ組織の手にも流れる可能性はある。だからいずれ相対することも見越して性能を意図的に絞って設計したのよ。極力既存の技術の流用で済ませてね。」

 

「で、その反動で自分用に作ったのがこんなバケモノになっちゃったのよね・・・」と次の設計図を見せてくれた。

 

基本的な部分は今のラベンダーと大凡同じだが、全体的に見ると最早別物ともいえる機体だった。

 

手持ち武器等まだ決まっていない部分がいくつかあるらしいが、両肩とサイドスカートがかなり特殊だった。

 

本来ISの腕部はISライダーの両腕にアーマーを着込むスタイルを取るが、このISはISライダーの両腕のアーマーは最低限にとどめられ、代わりに背中からアームで接続された肩パーツから更に機械の腕が伸びている。

 

サイドスカートも複数の可動パーツを繋ぎ合わせて横だけでなく正面もカバーするロングスカートの様になっており、更に大型のシザーアームや安定翼としても使えるとある。

 

それはまるで、6本の腕を持った阿修羅のような機体だった。

 

更に、このISは簡易変形により戦闘機のような巡行形態になることもできるとある。

 

動力機もさっきのラベンダーがパワーセル1基だったのに対して、こちらはイオンパワーセル2基とフォトンドライブ5基という非常に豪勢な仕様となっている。

 

鈴「えっと・・・これって?」

 

ルウ「一応私達用のISとして設計しては見たけど、ラベンダーで絞った設計にした反動でかなり暴走してしまった結果、こうなった。作りたくて作るのではない、作ってしまうのが私の悪へk・・・」

 

一夏「いやいや長いよ。セリフ欄に収まらないよ。」

 

火逐「メタイメタイメタイ・・・。」

 

流れるようにコントになる。

 

束「すっご・・・。実は私もみんなが襲撃のたびに大なり小なり怪我をして帰ってくるからもっと強いISを作ろうと思っていたのよね。でも、その前に体調を崩しちゃって・・・。」

 

ルウ「これでもまだバックパックとかいくつか設計が終わっていない部分があるから最終的にどうなるかまでは解らないけどね。」

 

火逐「もしかしたら、ISの利権を貪る大国や大規模組織とも事構える必要が出てくるかもしれないってこと?」

 

ルウ「そうならなければそれに越したことはないけど、無いとは言い切れないからね・・・。」

 

火逐さんの質問に対してルウさんが肩をすくめながら答えた。

 

確かにISを束さんが望んだ本来の姿に戻すためには多くの障害と戦う必要がある。そして、その障害がどれほど大きいのかも未知数だ。

 

相手がどれほどのものになるか解らない以上は可能な限り備えるほかない。9か月ほどの付き合いでしかないが、ルウさんがどういう考え方をしているのかは俺にもかなりの部分が解っていた。

 

一言でいえば「最悪の事態を想定してそれに合わせて対策を練る」タイプだ。そして、そのためならば多少卑怯卑劣な手段さえも必要だと判断すれば、そうすることが最もプラスが大きくなると判断すれば使うことを厭わない。

 

言うならば、合理主義で功利主義、加えて現実主義と言ったところだろう。

 

だからこそルウさんは大国や大規模組織と事構えることを想定しているのだろう。

 

ルウ「尤も、イオンパワーセルに関しては材料のイオンキューブがアレだから当面は通常のパワーセルで間に合わせるしかないよ。」

 

マドカ「え?希少品ってこと?」

 

ルウ「いや、イオンキューブ自体は非枯渇資源なんだよ。ただね、それを製造できる施設がね・・・。」

 

前に聞いたことがあるが、イオンキューブは惑星クレイドルの最深部の施設でしか現状製造できないらしい。

 

イオンキューブ自体は惑星の火山活動による地熱発電で得られたエネルギーを貯蔵する為の物なので条件さえ整えばここでも作れるようになるだろうが、製造用の装置が再現できないらしい。

 

火逐「ガイアは行方不明、雫も既に極点調査に出てしまったからイオンキューブを製造施設まで取りに行ける人が今居ないのよ。」

 

ルウ「とりあえず、目下の目標はラベンダーの量産体制を確立することとこの専用機の設計を完了させて製造に移ることね。」

 

束「遅くても三月中頃までには始動しておきたいわね。あまり遅くなったらIS学園への進学関係でややこしいから。」

 

一夏「IS学園への進学?」

 

束さんの言葉に俺は思わず聞き返した。

 

束「私達が教えてもいいし、そもそもマドカちゃんと鈴ちゃんは既に結構な実力だけど、それでも表舞台に立つ以上はIS学園に入っておいた方がいいからね。」

 

ルウ「なるほどね。でも、だとすると今日が1月19日だから・・・、かなりの強行軍になるよ?」

 

束「大丈夫!私が十徹くらいすれば結構余裕g・・・」

 

ルウ「ダメ!」

 

いつものように無理をすることを宣言する束さんの言葉をルウさんが遮った。

 

ルウ「徹夜はいい仕事の敵だよ。一日徹夜しただけで人間はありとあらゆるスペックが20~50%は低下する。慢性的な睡眠不足でも同程度スペックが落ちる。ましてや十徹なんて論外だよ。そもそも貴女は病み上がり。養父さんがドクターストップ(物理)を喰らわせに飛んで来るからダメ。」

 

束「ひぇ!?流石にドクターストップ(物理)は嫌だなぁ・・・。」

 

ルウ「だから無理はしないようにね。」

 

束「はぁい。」

 

ルウさんの脅し半分の忠告を前に束さんは大人しく引き下がった。

 

ルウ「とりあえず目の前の課題をどうにかしないと・・・とりあえずこっちでも何か使えるものが無いか探しておくから。」

 

束「ありがとうね。じゃあ、無理しない程度に頑張りますか!」

 

一同「おー!!」

 

 

 

・・・一方そのころ・・・

 

 

 

*SFS本社

 

【視点:????】

 

ガイア「へぇ、最近夜間を中心にちらほらと確認されているELIDの変種との戦闘、及びその戦闘技術を鍛えるための教導用ハイエンドモデルか・・・。」

 

????「はい。銃器での攻撃は効果が薄かったという報告もあったと聞いたので。」

 

ガイア「確かにこの先必要になるかもしれないし、反対する理由は無いけど・・・。」

 

????「・・・「無いけど」?」

 

若社長の含みのある言葉に僕は思わず問いかけた。

 

ガイア「・・・この設計は難しいよ?肩から腕が六本も生えていて、その六本の腕がそれぞれ独立して刀を振るうだなんて、調整は決して楽ではないと思うけど、それでもいいの?」

 

????「いえ、その点に関しては大丈夫です。」

 

確かに六本腕の戦術人形というのは前例が無い。

 

サブアームという意味で多腕型と言えば代理人がいるが、あれは脚部にサブアームが4本ついているというものだ。普通の腕程繊細かつ複雑な動作は出来ないし、そもそもそういうことを要求されるような運用目的で装備されたものではない。

 

今回提案したハイエンドモデル「トレーナー」は同じ規格の腕が肩に三本ずつ、計六本ついているというかなり異形的なデザインだ。

 

若社長はその難しさを見抜いたからこそ気遣いの意味でそういったのだろう。

 

だが、僕ならできる。何故ならば・・・

 

ガイア「なら良いけど・・・。」

 

そういって若社長は承認の判を押してくれた。

 

僕は「ありがとうございます」と頭を下げ、そして自室に戻ってコンピュータに向き合う。

 

モニタにはハイエンドモデル「トレーナー」の設計図が映し出されている。

 

????「かつては修理することさえままならなかったけど、今の僕なら・・・僕たちなら君をこの世に蘇らせることができる。だからもう少し待っていてくれ・・・。」

 

・・・■■■■・・・。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【27】覚醒 -ISライダー-

今話から本格的に鬼滅の刃の登場人物が登場してきます。(前話でもちょこっと登場しているのですが)




【視点:一夏】

 

あれから数日が過ぎた。

 

IS学園への入学の準備作業、そしてその先に見据えた「ISを本来の姿に戻す」という目標のために、俺たちはその後も幾らか話し合いを重ね、結論としてISを扱う新しい会社を立ち上げるという当座の目標を決定し、そのための準備を進めていた。

 

ルウ「設計はこんなところで・・・オータムさーん!これーどこに運びますー!?」

 

オータム「あー、それは向こうの端っこに置いといてくれー!」

 

ルウ「りょうかーい!・・・レスポンスが鈍いな・・・もっと反応を早くしないと役に立たないな・・・。」

 

ルウさんはPDAで設計の詰めをしながら試作したISのサブアームを使って作業と動作試験を平行して進めている。

 

鈴「もうすぐ昼ごはんよ!今日はルウさんたちから教えてもらったチーズハンバーグを試してみたわよ!」

 

鈴とそのお母さんは今は食事の準備をしている。

 

アンは時折ルウさんに銃器のアイデアを提供しているし、マドカと雨姉さん(スコールさん)と秋姉さん(オータムさん)はISを使って大きな機材を楽々運搬している。

 

因みに雨姉さんと秋姉さんというのは俺がそう呼んでいるだけだが、二人ともその呼び方が嬉しかったらしい。

 

そのころ俺は・・・。

 

一夏「ISコアって結構な数があったんだなぁ・・・段ボール箱一つ分ともなれば結構重い・・・。」

 

鈴の父「ISが使えればこんなものも楽々何だろうけどな。昔は男が外で働き、女は家を守るっていうのが普通だったが、今や男は立場が無いからなぁ・・・。」

 

倉庫に置いてあったISコアが入った段ボールを運んでいた。

 

一夏「あはは・・・、世知辛いですよね・・・。」

 

トサ「コーン・・・。」

 

鈴の父「別に女を下に見ているとかそういうのは無かったんだよ。少なくとも私はね。妻が家を守ってくれているからこそ、私達父親は憂いなく仕事に打ち込んで家族を養うことができた。でも、世の女たちはそうは思ってなかったのかもしれないな・・・。」

 

鈴のお父さんは悲しそうに俯いた。

 

鈴のお父さんは大人しい性格だが愛妻家でもある。

 

かつて癌を患ったがために体力が落ちてしまい、ままならない肉体に悪戦苦闘しつつも家族を支え続けていた。チンピラどもが襲撃してきた際も妻をかばっていたし、東方先生たちがいなかったら自分を盾にしてでも妻を逃がす覚悟だったらしい。

 

そんな彼にとって今の女尊男卑の風潮は「気分が悪い」ことではなく「悲しい」ことなのだ。

 

・・・と。

 

カランカラン・・・。

 

一夏「あれ?」

 

段ボールを持ち直した時に中からコアが一つ転がり落ちてしまった。

 

トサ「コン!」

 

俺が段ボールを置いたところでトサが転がり落ちたコアを拾ってきてくれた。

 

一夏「ありがとうなトサ。」

 

トサ「コーン!」

 

俺がそれを受け取り、箱に戻そうとしたところ・・・。

 

・・・キィィィン!!!

 

一夏「え?」

 

トサ「コン?」

 

鈴の父「え?一夏君!?」

 

突然コアが光り輝き、頭の中に何かの情報が流れ込んでくるような感覚に襲われた。

 

一夏「・・・うぉっとぉ!?」

 

危うく意識を手放しかけたが、寸でのところで踏みとどまった。

 

一夏「うー・・・一体何が起きたんだ?」

 

鈴の父「一夏君、その腕のは?」

 

一夏「へ?腕?」

 

そういわれて俺は自分の両腕を見ると、さっきまでは無かった腕輪が自分の左腕についていた。

 

一夏「これって・・・一体・・・?」

 

俺たちは荷物を指定の場所に置いた後、束さんにこのことを報告しに行った。すると。

 

束「おおっ!それは間違いなく、そのISコアがいっくんを主に選んだってことだよ!」

 

一夏「え?でもISってまだ男性には扱えないんじゃ?」

 

束「一般にはそうだけど、男性用ISコアの試作品は時間を見つけては作っていたんだよ。で、その段ボールの中に入っていたのがその試作品たち。ちょうど手元にあった男性のデータがいっくんのしかなかったから今一つ成果が上がっていなかったんだけどね・・・。」

 

そんなデータいつ取ったのだろうと思い返してみると、何年か前に酷い風邪で寝込んだ時に束さんが検査の為に採血をしたことを思い出した。きっとその時のデータを流用したんだろう。

 

一夏「それにしても、コアに「選ばれた」か・・・。だとすれば、俺を主に選んでくれたこいつに、俺も応えてやらないとだな。」

 

ルウ「しかし、だとすると少し予定を早める必要が出てくるのでは?一夏さんが事実上世界最初の男性ISライダーとなったことは女尊男卑に汚染されたこの世界を修正する上で非常に大きな意味を持つけど、そのためには全世界に大々的に発表する必要がある。」

 

束「実はね、記者会見の予定はあったのよね。元々は会社の立ち上げといっくんの生存発表の予定だったけど、そこに入れちゃおうと思うの。」

 

ルウ「・・・悪くはないと思うけど、人集まるのだろうか?」

 

束「既に抽選になっちゃってるから大丈夫だと思うよ?」

 

ルウ「マジか・・・。」

 

トサ「コーン・・・。」

 

束「そういえばいっくん、その青い狐ちゃんどうしたの?」

 

一夏「ああ、そういえば説明してなかったっけ。この狐は『トサ』って名前なんだ。向こうの世界で見つけて、なんか懐かれたから連れてきたんだ。」

 

束「へぇ、そうなんだ。遅くなったけどよろしくねトサちゃん。」

 

トサ「コーン♪」

 

と、そこへ・・・。

 

鈴音、アン「「束(姉)さん!一夏がISに選ばれたって本当!?」」

 

鈴とアンが部屋に駆け込んできた。大方、鈴のお父さんから聞いたのだろう。

 

一夏「ああ、どうやらそうらしい。」

 

俺が左腕の腕輪を見せると二人も納得がいったようだ。

 

アン「そうか、一夏もISライダーになったか。」

 

鈴音「束姉さんの夢の実現への第一歩ね!でも、その第一歩が一夏っていうのはなんというか・・・えっと・・・何て言えばいいのか解らないけど・・・ありきたりな表現だけど・・・そう、運命を感じちゃうね。」

 

運命・・・確かにそうかもしれない。

 

束さんがずっと苦しみ続けていたことは篠ノ之家の皆を除けば俺たちが一番よく知っていると言ってもいい。その中で唯一の男性である俺が束さんの夢の実現の最初の一歩になるというのはなんだか運命のようなものを感じる。

 

ずっとどうにかしたいと思っていたが、今までは精々が手伝い程度しかできなかった。

 

だが、今は違う。

 

自分という存在は束さんの夢を現実のものにする、そして望まぬままに世界に広まってしまった女尊男卑という歪みを清算するための第一歩だ。

 

束「いずれは他の男性のデータも必要になって来るけど、とりあえずはいっくんの運用データの積み重ねから始めないとね。多分今のままだとデータが足りなくていっくん以外の男性では扱えないだろうからね。」

 

そして、そのためにも俺はISライダーとして多くを学ばなければならない。

 

一夏「よし!そうとなったらまずは訓練・・・と行きたいところだけど、流石に今は忙しすぎるから無理か・・・。」

 

ルウ「とりあえず今はISを使って今ある作業を時短しつつ基礎の訓練を並行して行うところから始めようか。テストしててわかったけど、これ本来自分の体でやる作業をISを噛ませて行うだけでもかなりの訓練になるから。」

 

ルウさんが背中の簡易ISに接続された試作サブアームで作業を続けながらそう言った。

 

束「とりあえず間に合わせで量産機のISフレームにこのコアを組み込んでおくね。専用機は直ぐには用意できないから。」

 

ルウ「大凡設計は終わったけど、まだいくつかのユニットのアイデアが纏まらなくてね。もうちょっと時間が欲しいかな。」

 

とりあえずは今積みあがっているプロセスを片付ける所から始めなければならない。時間は待ってはくれないのだ。

 

一夏「じゃあ、ISフレームですけど、高速型のを貰えますか?」

 

束「高速型というと『テンペスター』になるかな?明日までには仮接続を終わらせておくから、それまでは待っててね。」

 

一夏「了解!」

 

世界はこれから加速していくだろう。恐らく一筋縄ではいかないが、それでも俺たちは戦う。その覚悟は既にできているのだから・・・。

 

 

 

・・・一方そのころ・・・

 

 

 

???「香苗姉さん!IS学園の入学試験の会場案内が来たよ!」

 

香苗「あらら篠生、はしゃいじゃって。」

 

篠生「だってIS学園よ!?昔からのあこがれだったんだから!」

 

香苗「ふふふ、綾香さんや零さんもIS学園に進学するって言ってたし、楽しい事になりそうね。」

 

篠生「でも残念。ISって男の人は扱えないのよね・・・どうしてなのかしら?」

 

香苗「よくわからないけど、篠ノ之博士も何とかしようとしていたみたい。・・・女性利権団体に邪魔されて上手くいかなかったみたいだけど・・・。」

 

篠生「私ISは好きだけど女性利権団体は嫌い。たまたま男の人がISを使えないってだけなのに、女ってだけで威張っちゃって・・・。」

 

香苗「お父さんもアレの性で風当たりが辛いって言ってたからね・・・何時かあんな差別、無くなってくれればいいけど・・・。」

 

篠生「そういえば、香菜麻はどうするのかしら?」

 

香苗「香菜麻が高校に上がるのはもう1年後だから、その時になるまでは解らないわね。」

 

篠生「でも、IS学園に通うとなると寮生活になるから香菜麻には休日くらいしかあえなくなっちゃうのよね・・・。」

 

香苗「さみしい?」

 

篠生「そ、そうじゃなくてね、香菜麻がさみしがるから・・・!」

 

私と姉さんがIS学園に進学したら1つ下の香菜麻はたまにしか私たちに会えなくなる。両親や同級生も居るからそこまで寂しくならないとは思うけど・・・。

 

香苗「ふふ、別に何年も会えなくなるわけじゃないから、きっと大丈夫よ。」

 

篠生「そ、そうよね・・・。」

 

数年前からやけに私達と一緒に居たがるようになった妹の事に若干後ろ髪を引かれる気もあったが、多分大丈夫だろう。

 

我妻君や嘴平君に不死川君、それに竈門兄妹もいるのだから・・・。

 

・・・でも、この名前は何故かとても懐かしいと感じる・・・。

 

まるでずっと前から・・・生まれる前から知っていたかのような・・・。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【28】鍛錬と箒到来 -Reunion-

私用(FTDWikiのTG勢力ビークル項目の執筆)が終わったのでようやく時間が取れるようになりましたが、新聞配達がそろそろ消滅しそうなのでそのうち転職準備をしなければなりません(新聞が消えるのは完全に新聞社の自業自得なのだが…)。

因みに現在34話と35話を執筆中です。

大筋では筋書きは決まっているのですが、イマイチ詰めに悩んでいる状態です。

あとドルフロのイベントも重なってまた細かい設定の見直しをしています。



…実は大まかなストーリーラインはシーズン4までは出来上がっているんです。

ですが、その中で具体的にどうするかに関してはまだ殆ど纏っていません。

ここで今現在のプロットで少しだけネタバレをします。

1シーズンは一年になっており、シーズン4はシーズン3から15年以上経過した時間軸を想定しています。(シーズン1~3まではIS学園での1年生から3年生までの予定)

そして、シーズン2は恐らく学校生活などする暇がない事態に陥るでしょう。

あくまで現時点でのプロットですが、恐らくここから大幅に変更が加わることは余程の事が起きない限り無いでしょう。


束さんが復活してから1週間が経過したある日、俺達は島の周辺の海の上空で仮接続された訓練用ISを用いた訓練をしていた。

 

俺とアンがテンペスター、鈴が打鉄を纏っている。因みにルウさんは試作したラベンダーを纏い、同じく試作した銃砲撃戦用ストライカーパック「ヘクトルストライカー・ダブルサブマシンガン」を装備した状態でデータ収集をしている。

 

この「ヘクトルストライカー」というストライカーパックはフォーリナーが運用していた大型二足歩行兵器「ヘクトル」を参考にしたもので、多数の関節を持つ2本のアームの先端に換装可能な武装を装備するというカスタマイズ系のバックパックだ。

 

「ダブルサブマシンガン」の名前の通り、今回は両方とも近中距離用のレーザーサブマシンガンを装備している。

 

アンのテンペスターはバズーカやミサイルポッドでガチガチに武装した重装備型で、中距離で持ち前の機動力でかく乱しつつ、隙を見せた相手に重火器による一撃離脱をするという戦法を好んで使っている。

 

一方で鈴の打鉄は日本刀型の近接武器「葵」の二刀流でバリバリ切り込んでいくスタイルで、多少の被弾は気にせず押し切る戦法を得意としていた。

 

そして、俺はと言うと・・・。

 

鈴「何なのよ一夏!?何て凄まじい動きするの!?!?」

 

ナイトメアダブルプラスでの経験を活かしてテンペスターを最大機動で振り回しつつ、近距離では軍刀「重桜」の代わりとして装備した「葵」で攻め立て、距離が離れればデシルさんから贈られたレーザーガンポッドを演習用に出力を絞りつつ、距離に応じてガンポッドモードとライフルモードを切り替えつつ鈴を柔軟に追い詰めていた。

 

結果、鈴は俺の動きに対応しきれずに被弾が嵩み、最後には「葵」の一太刀でシールドエネルギーが尽きて墜落していった。

 

鈴「うへぇ・・・何なのよ一夏その動きは・・・いくら訓練とはいえISでの戦闘が初めてのあんたに完膚なきまでに打ち倒されるなんて・・・元代表候補生のプライドがズタボロよ・・・。」

 

鈴のぼやき声に対して俺も苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

ルウ「確かにISによる戦闘は初めてだけど、一夏さんは可変戦闘機を使った初めての実戦で駆逐艦3隻、軽巡洋艦1隻を殆ど被弾せずに仕留めた経歴があるからね。今の動きからして、その経験を活かして戦ったのだろうね。」

 

鈴「・・・へ?今なんて?駆逐艦が・・・なんて?」

 

ルウさんの地味な爆弾発言に鈴が聞き返すと・・・。

 

ルウ「『初陣で駆逐艦3隻と軽巡洋艦1隻をほぼ無傷で仕留めた。』初めて乗った機体、かつ初陣としては破格の戦果と言えるね。」

 

鈴「んっなぁ!?!?」

 

ルウ「女子が出していい声じゃないぞそれ・・・。まぁ、出したくなる気持ちも解らんでもないけど・・・。」

 

鈴が悲鳴にも似た驚愕の叫びをあげ、ルウさんがそれを窘めている。横を見るとアンも固まっていた。

 

その後、ルウさんとアンも模擬戦を行ったけど・・・。

 

ズガガガガガガガ!!!!

 

アン「ちょっと!?なんて弾幕なの!?」

 

ルウさんは両手に持ったデュアルサブマシンガン「D-92 ジェイナス」とストライカーパックに装備されたレーザーサブマシンガンで嵐の如き弾幕を展開し、アンのバズーカやミサイルを迎撃しつつ近寄らせないという戦法に出た。

 

無理矢理近づこうとしても弾幕に阻まれて中々距離を詰められない。と・・・。

 

プシュー・・・。

 

ルウ「・・・おや?なんだ?」

 

突然ストライカーパックが煙が噴き出し、レーザーサブマシンガンも停止した。

 

アン「何かトラブル?」

 

ルウ「ああ、オーバーヒートしてシステムがダウンした。冷却システムの性能が足りなかったのだろうね。でも問題は無い。模擬戦を続けよう。」

 

そのまま模擬戦は継続された。弾幕が半減したこともあってアンも攻め込みやすくはなったが、それでもルウさんはそれをいなして距離を取る。

 

それが何度か繰り返された後、その均衡が崩れるタイミングが訪れた。

 

ジェイナスのリロードとアンの突撃のタイミングが重なった・・・いや、ジェイナスのリロードのタイミングに合わせてアンが突撃したのだ。だが・・・。

 

ルウ「無為ッ!!」

 

至近距離で放たれようとしていたバズーカを掻い潜り腰を落として放たれたルウさんのピンポイントバリアパンチの右ストレートがアンに見事にカウンターとして炸裂し、アンは残されていたシールドエネルギーを失い墜落を余儀なくされた。

 

アン「今のは決まったと思ったのに・・・!」

 

ルウ「着眼点は悪くなかった。でも、いくら隙をついてもストレートに突っ込んできたのでは強者相手では今のようにカウンターを決められるよ。もう少し絡め手を混ぜた方がいいかもね。」

 

アン「うへぇ・・・今の自信あったんだけどなぁ・・・。」

 

ルウ「私だって伊達に人生の大半を戦いに費やしていないよ。」

 

その発言にアンは違和感を覚えたのか質問した。

 

アン「えっと、人生の大半って・・・?」

 

ルウ「ああ、そういえばそのことに関して話していなかったか・・・。外見を調整しているけど私本当は70代なのよ。」

 

アン「んっなぁ!?!?」

 

ルウ「あはは・・・。で、何時からだったかもう覚えていないけど、かなり小さいころから既に戦場に立っていたから・・・もう60年くらいは戦っているかな?色々と形を変えてだけど。」

 

アン「んっなぁ!?!?!?!?」

 

横を見ると鈴も驚愕の叫びをあげている。その気持ちはわかる。俺も初めて聞いたときはびっくりした。

 

ルウ「まぁ、ISの様なパワードスーツの操縦経験は殆どないからそういう意味ではド新人だけどね。ただ、自分の体の延長という点では生身での戦闘経験が流用できるからそこまで大変な話ではないけどね。」

 

二人とも開いた口が塞がらないと言った感じだ。

 

ルウ「さて、データもあらかたとれたし、今日は引き上げようか。あんまりのんびりしていて誰かに見られたらややこしいし、午後にはお客さんが来るとスコールさんが言っていたからね。」

 

「今日はここまで」と言った感じに手を叩いて撤収を促すルウさん。

 

俺たちは手早く片づけて一度基地に戻った。

 

・・・

 

・・・・・・

 

それから20分ほどしてから秋姉さんがヘリでお客さんを連れてきた。

 

俺たちはそのヘリを出迎えるために基地の外へ走った。

 

ルウ「そういえば、お客さんって誰の事だろうか?」

 

一夏「さぁ?秋姉さんが連れてくるって言ってたけど、誰が来るかまでは聞いてないな。」

 

鈴「だけどここに秋姉さんが連れてくるってことだから、少なくとも完全な部外者ではないと思うよ。」

 

そう話しながら俺たちは浜辺の近くに隠されていたヘリポートでヘリを迎えた。

 

そのヘリから降りてきたのは・・・。

 

一夏「・・・え?」

 

アン「あ。」

 

鈴「あぁ・・・。」

 

俺たち三人はヘリから降りてきた三人を見て三者三様の反応をした。それもそのはず・・・。

 

箒「・・・一夏?」

 

柳韻「うぅ、少し酔ったかな・・・。」

 

静流「貴方本当に空を飛ぶ乗り物が苦手ね。あ、オータムさん、ありがとうね。」

 

オータム「どういたしまして。ああ、そこ段差あるから注意しろよ!」

 

秋姉さんの声も聞こえていないかのように箒が俺めがけて走って来る。

 

箒「一夏ッ!!」

 

そのまま抱き着かれた。

 

一夏「・・・ああ、ごめんな。」

 

箒「なんで謝るのよ!?一夏が生きていてくれただけで私は充分なのに・・・。」

 

抱き着いたまま涙を流し続ける箒に俺はそれ以上言葉を紡げなかった。

 

静流「ほら箒。気持ちはわかるけど、そろそろ離してあげなさいな。」

 

柳韻「久しぶりだな一夏君、大変な目に遭ったようだが、とりあえず今は再会を喜ぼうじゃないか。」

 

一夏「はい・・・柳韻さんも静流さんもお久しぶりです・・・そして、ご心配をおかけしました。」

 

柳韻「無事で何よりさ。ところで、束はどこにいるのかな?ここにいると聞いたのだが。」

 

一夏「えっと、確かにこの島にいますけど・・・。」

 

束「ふぅ・・・やっぱりまだ体力が戻り切っていないかなぁ・・・。」

 

ちょうどクロエさんに付き添われる形で束さんが杖をつきながらやってきた。

 

柳韻「久しぶりだな束。」

 

静流「心配したのよ束。」

 

束「父さん・・・母さん・・・。」

 

箒「姉さん!!」

 

杖をついている様子から抱き着くのを我慢しつつも声を上げる箒。

 

箒「よかった・・・まだ生きていたんだね・・・。」

 

束「うん・・・流石にこのままじゃ終われない・・・からね。ごめんね・・・あんな我儘言って・・・。」

 

束さんも涙を流しながら声を絞り出した。

 

静流「色々あったみたいだけど、無事で何よりね。」

 

柳韻「勝手に出て行ったことに関しては私達の事を思ってのことだというからそのことに関しては今更何も言うことは無い。ただ、私達に何も相談してくれなかったことに関しては、小言の一つも言わせてもらうぞ?」

 

束「・・・甘んじて受けるよ・・・父さん。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

箒「ところで、あの人たちは誰なの一夏?」

 

基地の中に戻り、一通り自己紹介を済ませた後、箒はルウさんと火逐さんの事について俺に訪ねてきた。因みにルウさんと火逐さんは柳韻さんと話し込んでいる。

 

静流さんは束さんのためにお手製の鶏のから揚げを作るために厨房に居る。

 

一夏「詳しく話すとちょっとややこしくなるけど、死にかけていた俺を助けてくれた人たちの代表と言ったところかな。詳しい事は追々説明するよ。」

 

まぁ、時間はある。ゆっくりと説明していけばいいのだから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【29】S09地区の割と平和な一日 -Calm day-

一夏達が己を磨いていたのとほぼ同時期のS09地区は、ひとしきり荒事が片付いたこともあって平和な日々を送っていた。

その一日を覗いてみよう。


*S09地区 SFS本社*

 

ドリーマー「ふあぁぁぁぁ・・・。退屈ね・・・。」

 

代理人「退屈できるだけマシですよ?先週までは皆ドタバタしてて、退屈する暇なんてありませんでしたから。」

 

イントゥルーダー「そうですよドリーマー・・・。・・・もしそんなに退屈するのが嫌なら、ウロボロス姉さんに鍛えてもらってきてはどうですか?」

 

ドリーマー「うっ・・・!それは勘弁してほしいわね・・・。」

 

ドリーマーの愚痴を代理人が窘め、そこにイントゥルーダーが追い打ちをかけてドリーマーは沈黙する。

 

しれっと会話をしているドリーマーとイントゥルーダーだが、この二人は2か月前にロールアウトした新型ハイエンドモデルだ。

 

ドリーマーは代理人同様エリザの専属人形という立ち位置で、特に防衛に比重を置いた戦術人形である。

 

代理人が駆り出される機会も多かったことからエリザ直属の人形がもう一人必要だという理由から生み出されたのが彼女である。実際、繁忙期にはハイエンドモデルがほぼ全員出撃しなければならないことがあり、代理人も出撃することが少なくなかった。

 

彼女が使用する武器はナインのサブウェポンである長射程レーザーライフルを更にブラッシュアップし、射程距離を犠牲にしつつも長時間の照射やレーザーソードの展開を可能にし、さらに若干の小型化も実現した最新モデルである。

 

そして、イントゥルーダーは情報戦を主眼化した戦術人形であり、敵へのクラッキングは元より、敵からのクラッキングすら大体のモノは単独でブロック、反撃することが可能という高い性能を有する。

 

その分通常の戦闘能力はやや低めであるが、多目的ライフルと小型のガトリングレーザーガンを一丁ずつ武器としており、簡単には攻められないような堅実さを持つ。

 

同じ電子戦能力を持つドリーマーと比較するとあちらは電子戦も熟せる汎用型で、こちらは電子戦主眼で実戦能力はついでと言った感じに近い特化型だ。

 

因みにイントゥルーダーは数日前にIOPからネットワークセキュリティ強度を調べるためのテスターの依頼をされたためにIOPのネットワークのテストハッキングをした。

 

結果として、あまりにもあっさりとセキュリティが突破されてしまったためにIOPはセキュリティ強化に奮闘することになり、イントゥルーダーもその手伝いで昨日は徹夜だったためちょっと機嫌が悪いのだ。

 

イントゥルーダー「あーだめ・・・頭くらくらする・・・ちょっと寝てくるわ・・・。」

 

戦術人形は基本不眠不休でも問題は無いのだが、流石に長時間連続稼働すると機能不全を起こすことがある。特にイントゥルーダーは徹夜中ずっとAIをフル稼働させていたためにかなり負荷がかかっていたのだ。

 

ややふらつきながら自室へと引き上げていくイントゥルーダーに「おやすみなさい」と声をかけて見送った代理人は、ドリーマーに向き直った。

 

代理人「貴女も退屈だというのなら皆さんの手伝いでもしてきたらどうです?リコリスさんとサクヤさんの旧友の依頼でアイデアを皆で出し合っているのです。貴女も何かアイデアの一つや二つ出してみてはどうですか?」

 

ドリーマー「う~ん・・・まぁ、退屈しのぎにはなるでしょうね。」

 

そういってドリーマーも会議室へと歩いて行った。

 

代理人「ふふ・・・さて、私も軽食に何か買ってきましょうか。」

 

一人残った代理人も会議室で脳をフル回転させている面々の栄養補給のための軽食の買い出しに向かった。

 

因みに他のハイエンドやミドルレンジ達が何をしているのかというと、まずエクスとハンターはグリフィンの演習場を借りて実戦形式の模擬戦で互いを高め合っている。

 

スケアクロウはイントゥルーダーの手伝いで徹夜したため今は寝ているし、デストロイヤーはUMP三姉妹と一緒に路地裏散策中だ。

 

アルケミスト、ゲーガー、アーキテクトの三人は既に会議室で他の面々と共にアイデアを出し合っている。

 

ウロボロスは今日も教官として出張っているし、ウェスターもそこで一緒に訓練に励んでいる。

 

なお、ティアは今はシイムを抱き枕にして一緒に寝ているし、リコリスは今日は休みでペルシカの所に遊びに行っている。

 

・・・

 

 

 

*会議室*

 

男性研究員「やっぱり大口径のキャノン砲を・・・」

 

ゲーガー「いや、標準装備にそれは流石にオーダーからズレているだろ・・・。」

 

アルケミスト「サブアームに機関砲をつけるくらいがいい所じゃないのか?」

 

トバイアス「銃弾は何を使う?レーザー?」

 

時雨「私は実弾の方がいいと思うけど・・・。」

 

スコーピアス「私も実弾の方がいいと思うね。レーザーって天候によって性能が大きく左右されるから安定した性能を持たせるなら実弾の方がいいと思うよ。」

 

男性技術者「実弾なら5.56㎜のNATO弾が良いと思います。威力は充分ですし、何より入手が容易です。」

 

・・・

 

ガイア「ライダーが着込む装甲はどういう配置にするかなぁ・・・あまりガチガチに着込むと動きづらくなるけど・・・。」

 

アーキテクト「いっそライダーの装甲は必要最低限に留めてIS側の装甲を増やすってのはどうかな?ライダー側の守りは絶対防御に丸投げすることになるけど。」

 

女性研究員「少なくとも関節部分の装甲化は厳しいでしょうね。やろうと思えば装甲化と可動領域の確保の両立は可能ですけど、装甲が複雑化して生産性が犠牲になってしまいます。」

 

女性技術者「しかし絶対防御に防御を丸投げするのは危険ですよ。万一の時にライダーを守る手段が無くなります。」

 

ノアル「何か別にフォースフィールドの様な防御システムが装備できればいいのだけど・・・。」

 

・・・

 

【視点:代理人】

 

代理人「サクヤさん、進捗はどんな感じですか?」

 

軽食の買い出しから戻った私はコンピュータとにらめっこしているサクヤさんに話しかけた。

 

サクヤ「う~ん、順調とは言い難いかな。」

 

エリザ「でも皆で話し合っているからアイデアは出なくても方策そのものは磨かれていると思うよ?」

 

サクヤさんとその隣に座っている褐色の少女の様な自律人形のボディのエリザが答えた。

 

エリザがこのボディを持ったのは数か月前の事になる。自律人形なのもあって自前の戦闘能力こそ無いが、代わりに他のハイエンドモデルの追随を許さないレベルの高い演算能力を持つ。

 

代理人「そうですか。確かにすぐに答えが出るような簡単な話でもないですからね。」

 

リコリスさんとサクヤさんの旧友の束さん。彼女から意見を聞きたいという要望が来たらしい。

 

代理人「しかし、かなり複雑な設計なのですね。」

 

本来ISは体に纏うタイプだ。だが、このISはどちらかというと「背中に背負う」といった方が近い。

 

そのためか腕とは別にアームが一対有り、所謂「阿修羅」の様な姿になる。

 

既存のISとは一線を画したISになるだろうが、それ故にアイデアが纏まらないらしい。

 

代理人「そういえば、アームユニットに機関砲をつけるというアイデアがありましたが、内蔵するのではなく外付けにしたらどうですか?外付けなら他の武装に後から取り換えることもできますし、撃ち切った後等にパージできます。なにより腕部の構造も簡略化出来ますし、装弾数の拡張も容易ですから。」

 

サクヤ「お、そういえばそうだね。束ちゃんも「汎用性を考慮してほしい」って言ってたからね。ありがとうね代理人ちゃん!」

 

代理人「ふふ、どういたしまして。それはそうと・・・皆さん、軽食を持ってきましたよ!」

 

それを聞いた皆が一斉に手と口を止めて軽食を食べに寄ってきた。

 

・・・

 

・・・・・・

 

*路地裏*

 

スタッフたちが自らの脳に燃料をくべているのとほぼ同じ時間。

 

デストロイヤーはUMP三姉妹に連れられて路地裏散策に来ていた。

 

【視点:デストロイヤー】

 

デストロイヤー「へぇ・・・確かに見てて飽きないかも。」

 

S09地区の裏路地は複雑に入り組んでおり、暇があれば散策に来ているUMP三姉妹でもまだ半分も把握できていない。

 

同じ路地でも逆方向から見たり、違う季節や時間帯に見ると全く違う景色になるため、思った以上に新鮮味で溢れているのだ。

 

ふと横を見ると、他の路地とは雰囲気が違う、何度も緩やかに折れ曲がりながら続いていく見たことも無い路地が伸びていた。

 

そう、かつて三姉妹が「喫茶鉄血」の世界線に迷い込んだ際に通った路地である。

 

S09地区の裏路地は兎に角複雑で、それらの無数の裏路地が入り組み、絡み合っている。

 

その影響でどこかで時空間を超えるような超常現象が引き起こされているのかもしれない。

 

尤も、この通路は常にあるわけではなく、普段は壁になっている。今日はたまたま繋がっているのだろう。

 

今日はその路地の先から豪雨の音が聞こえてくる。今日のS09地区は晴れで、雨の予報など出ていない。

 

だが、この時「喫茶鉄血」側のS09地区は横殴りの豪雨で客足が遠のいており、その日の最後の客がそろそろ帰ろうとしている頃合いだった。

 

シゴ「凄い雨の音だね・・・。」

 

ナイン「あっちの代理人さん、どうしているかなぁ?」

 

フィアーチェ「多分お客さん来ないから早閉めしているんじゃないかな?」

 

三姉妹も口々にあちらの世界の代理人の心配をしている。

 

なお、三姉妹は去年の夏ごろに真冬の「喫茶鉄血」の世界に偶然迷い込んだことがあったが、この時彼女らは代理人以外の「喫茶鉄血」世界の人形とは出会っていない。

 

あの時直接会ったのは代理人だけで、他のメンバーはその時見える範囲に居なかったのだ。

 

もしかしたら居たのかもしれないが、当時の軽く混乱していた三姉妹は他に居たとしても気づいていないだろう。

 

デストロイヤー「そのうち機会があったら挨拶の一つでもしに行こうかな?」

 

流石にこんな豪雨の音が聞こえてくる日に行くのはアレだが、何時か行ってみたいと思いつつ、私は三姉妹と一緒にその場を離れて歩き出した。

 

・・・

 

*社長室*

 

【視点:ガイア】

 

夕方になり、私は纏ったアイデアを束さんに送るためにPCに向き合っていた。

 

アイデアを出し切ったメンバーはすっかりグロッキーになってしまったため、今日の業務はここまでにしたのだ。

 

束『え~もしもし。うん、声も映像もばっちりだよ!』

 

ガイア「はい、こちらも問題なしです。それで、アイデアの件なのですが・・・」

 

その後テレビ電話感覚でデータを転送しつつ情報交換をした。

 

束『うん、確かに受け取ったよ。それにしてもたった一日でここまで出来ちゃうなんてねぇ・・・。』

 

ガイア「今日は他の業務が殆どなかったから打ち込めたというのが大きいですけどね。」

 

束『それはそうと、SFSだっけ?そちらの戦術人形たちの武器をうちのISでも使えるように出来るかな?』

 

ガイア「別段複雑なシステムは使っていないから使うだけなら無改造でも行けると思うけど・・・。」

 

束『あ、そういう意味じゃなくて使っても大丈夫かなって・・・。』

 

ガイア「ああそっち・・・。別にこちらとしては問題は無いけど、でもレギュレーション的に大丈夫かなぁ?」

 

束『そこんところは問題ナッシングだよ!』

 

ガイア「だったらいいけど、念のために試供品を送った方がいいかもね。」

 

束『送ってくれるのなら有難いね。』

 

そんな感じで話が進んでいく。そしてその話がひと段落し、そろそろ通話を終えようかと思ったとき・・・。

 

ルウ『束さん、少し解らないところがあるから見てほしいのだけど・・・電話中だったか・・。』

 

ガイア「え?」

 

凄く聞き覚えのある声と共に見覚えのある顔が画面の端っこに映った。

 

束『ああ、もうすぐ通話が終わるからもう少しだけ待ってね。』

 

ガイア「え・・・えっと・・・。もしかして、そこにいるのって・・・。」

 

束『あれ?ルウちゃんの事知っているの?』

 

ルウ『え?何故私の話題に?』

 

その声と共に画面の端っこに居たルウさんが近づいてくる。そして・・・。

 

ルウ『ん?あーーーー!!!!!!』

 

ガイア「やっぱり!!」

 

両方とも思わず叫んでいた。

 

ルウ『ガイア!?なんでそこにいるの!?』

 

ガイア「ルウさんこそなんでそこに!?」

 

・・・

 

・・・・・・

 

ルウ『なるほど、しかし驚いたよ。行方不明になっていた貴女が別世界の一企業の社長に収まっていたなんて。』

 

ガイア「殆ど成り行きだったんだけどね・・・。というか、なんでこっちの世界に?」

 

ルウ『貴女を探しに来たというのもあるけど、他にも色々と理由がね。話すと長くなるからそれはまた別の機会にね。』

 

そうして他愛のない会話で通話を終える。

 

ガイア「さて、今日はもう終わりにするかな・・・。」

 

そう呟いて今日はここまでにしようとしたのだが、何故か社内が妙に騒がしくなった。

 

何かトラブルでも起きたのかと思ったのと同時に内線が鳴り響いた。

 

ガイア「何かあったの!?」

 

リコリス『さっき外出していたUMP三姉妹とデストロイヤーが帰って来たんだけど、酷く衰弱した少女?を連れてきたのよ!どうも普通の人間じゃないみたい!』

 

ガイア「とりあえず今その少女はどこにいるの!?」

 

リコリス『一応第二医務室に運び込まれたみたい!』

 

ガイア「すぐ行く!」

 

・・・

 

・・・・・・

 

*第二医務室*

 

ガイア「なるほどね・・・確かに普通の人間ではなさそうね。」

 

ベッドに横たわる少女は腰から下が無骨な金属パーツに置き換えられていて、ぱっと見は自律人形のようにも見える。だが・・・。

 

ガイア「・・・この子、自律人形に見えるけど、どちらかというと人間の方に近い・・・というか、この子区分で言えばサイボーグよ?」

 

デストロイヤー「サイボーグ?」

 

サクヤ「人間の体の一部を機械部品等の人工物に置き換えた存在。自律人形とは根本的に違う存在ね。」

 

ガイア「だけど、随分と粗雑な施術だね・・・脚部ユニットの損耗具合から見て、かなり長距離を移動してきたみたいだけど、こんな酷い施術を施された体でここまで生きてたどり着けたのは奇跡と言えるよ。」

 

シゴ「この子助かるかなぁ・・・。」

 

三姉妹は既に半泣き状態である。

 

兎に角命を繋ぐことが先決である。

 

エリザ「束さんは過去にISを使って臓器が機能停止寸前だった少女の命を繋いだことがあったはず・・・!今その時のデータを取り寄せてるよ!」

 

シイム「初任務の時に無理矢理使ってそのまま返しそびれて持ってたラファールが部屋にあるからそれ取って来る!!」

 

女性医務室長「それじゃあ今のうちに精密検査をしておきます。」

 

男性技術者「よーし!終業前にもうひと仕事だ!この子を助ける!!」

 

リッパー「人工臓器の準備をしてきます!」

 

イェーガー「さっきペルシカ女史にも連絡したので、直ぐに応援に駆けつけてくれます!」

 

・・・

 

日が沈もうとしている時間、鉄血工業は一人の少女を救おうと慌しく動き出した・・・。




原作からかなりの乖離を起こしていますが、最後に登場した少女はドルフロプレイヤーなら薄々誰なのか感づいているかと思われます。

なお、次回からは私も参加しているいろいろ氏開催の大規模コラボのストーリーが数話続きます。
期限が6月中頃となっているので場合によっては2話同時投稿される可能性もありますが、現在執筆中故どうなるかは未定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-01-1】平行世界の危機 -巨神船-

大規模コラボ作戦、発動。

時間軸は喫茶鉄血側の「Extra1-0:【緊急ミッション】」と「Extra1-1:作戦開始!」の間、代理人たちが喫茶鉄血から移動する前にあたります。

更に、試作強化型アサルト氏の「危険指定存在徘徊中 」より「大体遺産とかオーパーツとかって何かしらの火種になることがホント多いよね(遠い目」と、NTK氏の「人形達を守るモノ」より「Code-128 守護者たちの異世界奮闘記-1」のそれぞれの来訪タイミングの間に挟み込ませていただきました。


これはこの世界とは違う世界で起きたとある事件。

 

決してこの世界では語られることのない出来事。

 

これは、不思議な喫茶店のある世界で起きた、数多の可能性が集いし「決死の作戦(カオスなお祭り)」の、ほんのひとかけら。

 

 

 

【緊急ミッション:奪われし勇士の巨神船 -Argonauts-】プロローグ

 

・・・

 

・・・・・・

 

【視点:シゴ】

 

この間私達が見つけて救助した女の子はひとまず「峠を越えた」みたい。

 

「雑な施術」だったらしい腰から下はISと戦術人形のパーツを組み合わせたハイブリッドパーツで一から組み直されて、見た目は普通の女の子と大差ない姿になった。

 

ただ、まだしばらく安静にする必要があるらしくて、今はS09地区の病院に入院している。

 

「今後の課題」はまだたくさん残っているってペルシカさん達は言っていたけど、何の事かは私達には解らなかった。

 

因みにあの子の服にくっついていたタグに手書きで「アンナ」って書いてあったから、取り敢えず私達はあの子の事を「アンナ」と呼んでいる。

 

そして私たちは、病室で退屈しているアンナのために路地裏ビデオレターを撮影していた。

 

ところが・・・。

 

 

 

チリーン・・・

 

 

 

フィアーチェ「あれ?」

 

シゴ「この鐘の音って・・・。」

 

ナイン「あの喫茶店のじゃない?」

 

5か月くらい前に「喫茶 鉄血」がある世界に迷い込んだ時に聞いたあの音だ。

 

ただ、今回の音は前回とは違って、どこか切羽詰まったような雰囲気がした。

 

胸騒ぎがした私達は、自然とあの世界へ通じる不思議な路地へと駆け出していた。

 

・・・

 

・・・・・・

 

*喫茶 鉄血*

 

三姉妹「「「ええー!?!?列車砲がテロリストに奪取されたぁ!?」」」

 

喫茶鉄血の代理人「はい。しかもその列車砲の先頭車両が町に向かって高速で移動中です。」

 

既に見知らぬ人達が何人もいる異様な空気に包まれた店内で私たちは店長の代理人から衝撃の情報を伝えられ驚愕の叫びをあげた。

 

因みに今店内にいる見知らぬ人達の大半は私達同様別の世界から来た人達とのことだ。

 

というか、到着早々に突如壁に現れた『光の穴』から2m近くはあろう大きな戦闘ロボットらしき何かが現れて度肝を抜かれたりもしたけど・・・。

 

本当だったら他の世界の事について色々と話したいところだけど、こんな状況ではそれは叶わない。

 

喫茶鉄血の代理人「それでは、改めて状況を説明させていただきます。」

 

・・・

 

大まかなことは先ほど説明しましたが、別の地区にある軍の倉庫に保管されていた三両編成の大型列車砲「アルゴノーツ」が廃車・解体の為に専用の設備がある地区に移送されることになり、その過程でこの地区の近くを通過する予定でした。

 

ですが、少し前にその列車砲が複数のテロ・武装組織によって強奪され、しかもその先頭車両「カライナ」がS09地区に向かって進行中です。

 

また後方車両である「パピス」も低速で移動中とのことです。

 

唯一中間車両である「ヴィーラ」のみがゴーストタウンの近くで停車中ですが、ここがテロ組織のHQと思われます。

 

一番の問題は「カライナ」です。

 

三両の中で一番射程距離が短いという情報がありますが、それはあくまで三両の中での話であり、もし到達を許してしまえばS09地区は火の海となってしまうでしょう。

 

現在正規軍とグリフィンの精鋭部隊が阻止作戦に入っていますが、サイズの関係から一筋縄ではいかないでしょうし、今の速度で進行を続けた場合あまり猶予はありません。

 

・・・というより、「カライナ」の砲撃により既に先行した正規軍ヘリ部隊は壊滅してしまいました。

 

それに、「カライナ」を止められたとしてもまだ「ヴィーラ」と「パピス」が残っています。これらも放置するわけにはいきません。

 

この事態を収拾するには三両全てを奪還、最悪の場合は破壊しなければなりません。

 

幸か不幸か、元より廃車予定の車両。遠慮は不要とのことです。

 

別世界のお客様にこのような事を手伝わせるのは失礼だという事は承知の上ですが、今は一人でも多くの力が必要なのです。どうか、ご協力願います。

 

・・・

 

ナイン「ねぇ、私たちはどこに行こうか?」

 

シゴ「う~ん・・・。」

 

私達はどこに回ればいいだろうか?

 

現状一番戦力が少ないのが担当者が決まっていない「アルゴノーツ・ヴィーラ」だ。

 

グリフィンのヘリボーン部隊と正規軍の戦車部隊が対応するそうだけど、火急ではないので直ぐには対応しないそうだ。

 

けど、ヴィーラの兵装を見る限りでは誰も担当しないわけにはいかない。

 

ヴィーラはコントロール車両でもあるので一番火砲の数が多く、足の遅いヘリや戦車では近づくまでにかなりの被害が出てしまう上に、それ以外の戦力も非常に多い。

 

その前に切り込み役が突撃してある程度戦力を削り、火砲もある程度無力化して防空網に穴をあける必要がある。

 

ただ、私達のラウンドスピナーとACマルチウェイは戦術面での高速機動を想定しているためにヴィーラの射程外から一気に肉薄する戦略面での高速機動は出来ない。

 

何かこのオーダーを満たせる外部モジュールが無いだろうか・・・。

 

???『お困りのようだね?』

 

フィアーチェ「え?」

 

喫茶鉄血世界のペルシカ『ちょっと通信に割り込ませてもらったけど、君たちのオーダーを満たせる外部モジュール、まるで予期していたかのようにあるんだよね。』

 

シゴ「えぇぇ・・・。」

 

喫茶鉄血世界のペルシカ『詳しい話は直接するから、今は指定した場所に急いで来てくれるかな。アーキテクト達とも協力してそのモジュールを形にしているところだからね。』

 

シゴ「は、はい!二人とも!!」

 

フィアーチェ「OK!」

 

ナイン「じゃあ行こう!代理人!また後で!!」

 

喫茶鉄血の代理人「はい、どうかよろしくお願いします。」

 

送られてきた座標を確認した私達はそう言って店を飛び出し、その座標めがけて駆け出した。

 

・・・その直後に、店の前に4人の人影が現れ、少し遅れてその上の何も無い所から更に2人の人影が落ちてきたが、三人はそのことには気づかなかった。




今回の大規模コラボの参加者と担当一覧(NPC含む)

全領域
一升生水氏の『本日も良き鉄血日和』より「04」
※戦闘区域に対して電子戦による支援


アルゴノーツ・カライナ
白黒モンブラン氏の『Devils front line』より「ギルヴァ」、「ネロ」
無名の狩人氏の『サイボーグ傭兵の人形戦線渡り』より「エミーリア」、「エージェント(+実働部隊)」
oldsnake氏の『破壊の嵐を巻き起こせ!』より「バルカン」、「マーダー」
NPC:特務小隊(M4たち)・AR小隊・404小隊・正規軍


アルゴノーツ・ヴィーラ
焔薙氏の『それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!!』より「キャロル」、「アナ」
試作強化型アサルト氏の『危険指定存在徘徊中』より「万能者」
私の『閃空の戦天使と鉄血の闊歩者と三位一体の守護者』より「シゴ」、「フィアーチェ」、「ナイン」
NPC:なし(時間経過で軍の戦車部隊・グリフィンのヘリボーン部隊)


アルゴノーツ・パピス
NTK氏の『人形達を守るモノ』より「バレット」、「スミス」、「レスト」、「ウェイター」
村雨 晶氏の『鉄血の潜伏者』より「潜伏者」、及び同氏の『鉄血工造はイレギュラーなハイエンドモデルのせいで暴走を免れたようです。』より「救護者」
通りすがる傭兵氏の『ドールズフロントラジオ』より「後輩ちゃん」、「元指揮官」、「フロストノヴァ」
NPC:正規軍(ジャッジの部隊)・鉄血工造(Aegisなど)


S09地区の避難誘導・テロリスト捕縛
通りすがる傭兵氏の『ドールズフロントラジオ』より「ガンスミス」、「ナガン」
NPC:グリフィン・正規軍・S09地区の警察組織


S09地区近郊のテロ掃討
いろいろ氏(主催)の『喫茶 鉄血』より「代理人」、「ゲッコー」、「マヌスクリプト」




はい、主催のいろいろ氏初め、多くの参加者や読者の皆さんも口にしていましたが、私から見てもテロリストたちデスノボリ不可避の過剰戦力ですね・・・。

というより、単純な作戦能力だけで言えばこの作品から参加した三姉妹はかなり下の方になるのではないでしょうか?
別に三姉妹が特に弱いというわけではなく、「他が強すぎる」という意味ですが・・・。



余談ですが、三姉妹のファミリーネームは「アスティマート」に決定しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-01-2】狂乱せし勇士の巨神船[序] -Vanguard Overed Boost-

タイミング的に少々出遅れてしまったので、今回はやや短めながらも二話一度に投稿します。

管制官が居なかったので、一升生水氏の『本日も良き鉄血日和』より参戦した04氏に仕事を一つ追加させてしまいました。

それと、今話からBGM指定を開始してみました。


【視点:シゴ】

 

この世界のペルシカさんから指定された、街から少し離れた平原にやってきた。

 

そこにはI.O.Pや鉄血のトラックが何台か駐車してあり、地面には3つの大きなコンテナが置かれていた。

 

喫茶鉄血世界のペルシカ「こっちだよこっち!」

 

シゴ「お、お待たせしました・・・!」

 

ナイン「それで、問題の外部モジュールというのは?」

 

喫茶鉄血世界のペルシカ「既にひとしきり準備は済んでいるよ。後は最終調整をするだけ。兎に角先にそこにある服を着て。上から重ね着するだけでいいから。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

【BGM:「PSO2の幻創戦艦・大和戦(前半戦)」より「Steel Gale Operation(陸上進行時Ver)」】

 

さて、時間が無いから準備と並行して説明するよ。

 

これから君たちの背部に接続するのは「Vanguard Overed Boost(ヴァンガード・オーバード・ブースト)」、略して「V.O.B.」という大型ブースターユニットだよ。

 

端的にいえば、戦術人形に戦略面での超高速移動能力を付与するブースターだ。

 

元々は私が別件で作った新型戦術人形用に計画していたやつの機能試験用試作機だったんだけど、アーキテクトや17lab(変態)の連中にも手伝ってもらって、大急ぎで使えるようにした物さ。

 

ただ、試作品だから武装は何も搭載できなかったし、大出力ブースターとそれを稼働させるための燃料プロペラントは何れも使い捨て。つまり片道切符ってわけ。

 

加えて、本来の想定スペックと比べればかなり遅いけど、それでも移動速度が時速250km(新幹線の試作車両での公式速度記録が大体それくらい)と生身の戦術人形にとっても速すぎる。

 

一応フォースフィールド発生装置で君たちの体は風圧などから防護されてはいるけど、専用の防護スーツを身に着けていないと万一フォースフィールドがダウンした時に負傷しかねない、我ながらヤバい代物さ。

 

暴走とかそういうトラブルはまず起きない様にしっかりと調整は済ませたし、最悪切り離してヴィーラに衝突させてくれても構わない。

 

制御に関しては組み込んである支援コンピュータが大部分を担当している。

 

だから君たちはどういう進路で進みたいかを操縦シグナルに乗せて支援コンピュータに伝えてくれればいい。後はコンピュータが補正して制御してくれる。

 

ただ、仕様上こいつは前方への超高速移動に特化しているから、曲がったりするのは苦手だ。

 

回避は必要最低限の動作でやる必要がある。あまり無理するとV.O.B.の構造体に大きな負荷がかかって分解したり、或いはコントロールを失ってひっくり返って大爆発を起こすかもしれない。

 

それと、空になったプロペラントは順次バラバラに分解・破棄されていくから、破片を被らない様にあまりV.O.B.同士が接近し過ぎないように注意してほしい。

 

管制に関しては「04」って人がやってくれる。発進後は彼女の指示を聞いていれば多分間違いはないと思う。

 

それじゃあ、幸運を・・・。

 

・・・

 

・・・・・・

 

04『聞こえてるかしら?私が今回貴方達の管制をする04よ。と言っても、他の電子戦とかも並行してやるから、貴方達に構いきりにはなれないからね。』

 

三姉妹「「「了解!」」」

 

04『よろしい。端的に言うと、ヴィーラの近くにあるゴーストタウンにテロ組織の大部隊が潜んでいるよ。今のところ動きはないし、私が欺瞞しているからこちらの動きにはまだ気づいていないけど、V.O.B.で接近すれば遅かれ早かれ嫌でも気づかれるでしょうね。』

 

シゴ「部隊の規模は?」

 

04『ヴィーラ以外にも戦車や戦闘ヘリが多数、型落ちですが手持ちのレーザー砲も確認されています。総数はまだはっきりしていませんが、間違いなく敵戦力の大部分がそこにいるでしょう。三人で全部を相手にするのはまず困難でしょう。最低限ヴィーラの砲と戦闘車両をいくらか無力化出来ればそれでいいです。』

 

ナイン「了解・・・。」

 

04『突撃中はヴィーラの長射程連装レーザー砲とミサイルランチャーが厄介ね。どうにかしてみるけど、最終的には自己判断で回避してちょうだい。』

 

フィアーチェ「解ったよ。」

 

04『OK。それじゃ、行ってらっしゃい!』

 

シゴ「了解。『チェイサー』シゴ・アスティマート・・・」

 

フィアーチェ「『コンダクター』フィアーチェ・アスティマート・・・」

 

ナイン「『ピアサー』ナイン・アスティマート・・・」

 

三姉妹「「「作戦開始!!!」」」

 

私達の掛け声とともにV.O.B.のブースターに火が入り、ペルシカさんや他の研究スタッフ、作業員の皆に見送られながら、私達は急加速と共にヴィーラめがけて突撃を開始した。

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

風景があっという間に後ろに流れていく。

 

生まれて初めて見た光景。

 

これが戦闘機動でなければ見た目相応にはしゃげただろうが、残念ながら今は戦闘中、そんな暇などない。

 

04『そういえばカライナに先行した正規軍のヘリ部隊なんだけど、カライナの放った対空炸裂弾で出落ちしてたみたいよ。』

 

シゴ「ええ!?」

 

目標への突撃の最中、04さんからの報告でカライナでの出来事が伝わってきた。

 

ナイン「・・・もしかしてそれって、『エクスカリバー』みたいなもの撃たれたのかな?」

 

ここでいう『エクスカリバー』というのは、正式名称『エクスカリバー対空殲滅砲』の事を差し、若社長曰く「大口径のFlak弾(対空炸裂弾)を射出して航空機やミサイルなどを迎撃する対空迎撃兵器」とのことだ。

 

若社長が所属している「トリニティガード」ではそのような装備を搭載した軍艦がいくつか存在するらしい。

 

しかし、カライナでの出来事に気を回している暇はない。

 

04『ヴィーラに動き!ミサイルが来るよ!!』

 

ヴィーラも私達の接近に感づき、ミサイルで攻撃してきたのだ。

 

シゴ「了解!」

 

フィアーチェ「アスラウグ・ガンビット、スタンバイ!」

 

ナイン「ライフル準備完了!何時でも行けるよ!!」

 

私達はもう一度気を引き締め、目の前の事に意識を集中させた。

 

04『ゴーストタウン側でも何か動きがあるけど、様子が変よ。注意して!』

 

三姉妹「「「了解!!」」」

 

遠くのヴィーラから放たれた無数のミサイルを睨みながら、私たちは高速でヴィーラめがけて突き進んでいった。




一気に2話書き上げて頭が・・・。

因みに最後の方であった「ゴーストタウンでの動き」は焔薙氏の「それいけポンコツ指揮官とM1895おばあちゃん!! 」の「平行世界SOS! Session1」の最後の部分とリンクさせました。

しかし、たった2話の内に5つも他の作品とリンクさせていますが、これでいいのだろうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-01-3】狂乱せし勇士の巨神船[破] -Steel Gale Operation-

皆さん大暴れ。補正が大変だぁ・・・。


【BGM:「PSO2の幻創戦艦・大和戦(前半戦)」より「Steel Gale Operation(船上戦闘時Ver)」】

 

ヴィーラから放たれた無数のミサイルに備えて迎撃態勢を取るが、そのミサイルはその周辺の空中から放たれた黒いエネルギーの奔流に飲み込まれて全て爆散した・・・。

 

三姉妹「「「・・・えぇ~~~っ!?!?!?!?」」」

 

三姉妹、驚愕。さもありなん。

 

・・・

 

実はこの時のエネルギーの奔流は別世界からの援軍である少女「キャロル」の武装「ダウルダヴラ」によって放たれた「グラビティブラスト」だった。

 

キャロルはヴィーラから三姉妹めがけて放たれたミサイルが街を狙ったものと勘違いし、即座に排除したのだ。

 

当然三姉妹は知るわけもないのでただただ驚愕するほかない。

 

・・・

 

シゴ「えっと・・・今のって?」

 

04『大丈夫、あれは味方が暴れているだけだから。』

 

フィアーチェ「・・・うっそー・・・。」

 

ナイン「なんていうか・・・私達の常識ってなんだろうって思っちゃうね・・・。」

 

自分たちの世界と比較して色々とインフレしてしまっている眼前の状況に流石に思考が付いてこれない・・・が、呆けている暇はない。

 

04『ヴィーラのコントロールを奪ったから、ヴィーラに関してはもう大丈夫だけど、そっちにヘリと戦車が向かったよ!』

 

三姉妹「「「了解!・・・って、そんなことも出来ちゃうの?」」」

 

なのに、再び三姉妹を呆けさせるような情報が実行者である04自身の口から告げられた。

 

旧式且つテロリストが強奪して無理矢理運用しているとはいえ、曲がりなりにも正規軍の超大型兵器であるアルゴノーツ、それもコントロール車両であるヴィーラのコントロールを長距離クラッキングで奪うなど、電子戦特化のハイエンドモデルでも簡単ではない。

 

それをその道のプロとはいえ一人の人間が他の作業と並行しつつあっさりと実現してしまうなど、三姉妹からすればカルチャーショックものだ。

 

フィアーチェ「・・・か、神業じゃないの?」

 

シゴ「・・・前にイントゥルーダーがI.O.Pからの依頼でネットワーク強度テストのためにテストハッキングした時は結構あっさりと侵入出来ちゃったけど、アレはI.O.Pのセキュリティに脆弱性があったからだったし、正規軍の兵器ともなればそんな簡単には・・・。」

 

ナイン「・・・もう訳が分からないよ・・・。」(涙目)

 

最早半分思考停止している。それほどまでに他の世界からやってきた援軍たちの格が違ったのだ。

 

だが、そうこうしているうちに飛んできた戦闘ヘリが多数の誘導ミサイルをばら撒いてきた。

 

シゴ「・・・少しは呆けさせなさいよ!!」

 

半ば八つ当たり染みた言葉と共にサブマシンガンで弾幕を張り、ミサイルを叩き落とす。

 

フィアーチェもガンビットを展開し、ミサイルを次々撃ち落としていく。

 

ナイン「邪魔ぁ!!」

 

進行方向を塞ぐように飛んできた一機の戦闘ヘリに対してナインは軽く逆切れ気味にレーザーライフルを発射する。

 

テロリスト(ヘリA)「わぁ!?」

 

放たれたレーザーはテールローターの基部を貫き、メインローターのトルクを打ち消す機能を失った戦闘ヘリはそのままメインローターのトルクに振り回されてグルグル回転しながら流れて行き・・・。

 

テロリスト(ヘリB)「こっちに来るなぁ!?」

 

・・・その先にいた別の戦闘ヘリに突っ込んだ。

 

テロリスト(ヘリ)達「「「「ぬぎゃーーーーーー!?!?」」」」

 

爆発する二機の戦闘ヘリ。情けなく吹っ飛ぶテロリスト達。だが、死者は出ていない。いいね?

 

04『正面に戦車!避けて!!』

 

次の瞬間三姉妹の正面に戦車が三両、進路をふさぐように並んでいるのが見えた。

 

しかも砲は三姉妹を捕捉している。・・・が。

 

シゴ「リジル!!」

 

シゴは即座に対装甲ダガーナイフ「リジル」を三本取り出し、戦車めがけて投げつけた。

 

リジルは高速回転しながら飛翔し、戦車三両の戦車砲のバレルを根元近くで切り裂き、切断した。

 

ISのラファール・リヴァイヴの装甲を絶対防御、ライオットスーツ諸共切り裂いた実績があるリジルだ。旧式戦車砲のバレル位なら余裕で切り裂ける。

 

しかもリジルはあの戦い以降更なる改良が施され、投げつけて使用することも可能になり、更に遠隔制御でブーメランの如く戻ってくるようになっている。

 

直後に戦車砲が火を噴いたが、バレルが殆ど無くなっていた為に弾速がまるで乗らず、おまけに精度もガタ落ちしてしまったためにヘロヘロの砲弾が明後日の方向に飛んでしまう。

 

そのうち、右端の一両が放った砲弾が真ん中の戦車の砲塔天板部分に着弾した。

 

テロリスト(戦車)達「「「「「「あ・・・。」」」」」」

 

これがただのHE弾(榴弾)AP弾(徹甲弾)であれば良かったのだが、不幸なことにその時装填されていた砲弾はHEAT弾(対戦車榴弾)(着弾時に弾頭から高温のメタルジェットを吐き出して装甲を穿ち、内部にダメージを与える)だった。

 

弾頭から着弾した横跳び砲弾は砲塔の天板から真下・・・すなわち砲の主要部分に対してメタルジェットを叩き込んだ。

 

テロリスト(戦車A)「総員退避ーーーーー!!!!!」

 

咄嗟に退避命令を出すテロリストだが、時既に時間切れ。

 

装填されていた残りの砲弾に引火したことで登載されていた砲弾が次々に誘爆、暴発を引き起こし、真ん中の車両は大爆発。両サイドの戦車も、元々やや無理な体勢だったこともあり至近距離での大爆発の衝撃でひっくり返ってしまった。

 

その衝撃で内部の装填前の砲弾がぶつかって起爆してしまったらしく、程なくひっくり返った戦車も爆発した。

 

テロリスト(戦車)達「「「「「「ぎゃあああああああ!?!?」」」」」」

 

爆発で半裸状態になったテロリストたちが吹っ飛ぶ。だが、死者は出ていない。いいね?

 

そのそばを三姉妹は新幹線並みの高速で飛び越していき、テロリスト達はその風圧で再び宙を舞う羽目になった。

 

くどいようだが、死者は出ていない。いいね?

 

そうこうしているうちに三姉妹はヴィーラのかなり近くまでたどり着いた・・・が。

 

この時、アルゴノーツ・ヴィーラは想定外に次ぐ想定外の連続にパニックを起こしたバカのある行動によって、とんでもない事になっていた。

 

その異常事態を目の当たりにした三姉妹は、ただ大声で絶叫した。

 

三姉妹「「「OH!!ジーラフ!!!!」」」




想定外に次ぐ想定外。

だが、周りの人の行動によってその都度プロットを作り直していくのも大規模コラボの醍醐味でもあります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-01-4】狂乱せし勇士の巨神船[Q] -Argonauts Vela-

今回も二話同時投稿。

想定外に次ぐ想定外によって滅茶苦茶エライことに発展。

そしてこの話以降のプロットはほぼオールリテイクになりました・・・。(実は前話も当初の予定から半分以上作り直していたり・・・)


【BGM:「PSO2の幻創戦艦・大和戦(前半戦)」より「Steel Gale Operation(船上戦闘時Ver)」】

 

三姉妹「「「OH!!ジーラフ!!!!」」」

 

眼前で発生した出来事に対して思わず開幕と同時に汚い絶叫を上げた三姉妹。

 

だが、当然である。

 

目的地であるはずのアルゴノーツ・ヴィーラが突然移動を開始したのだ。

 

直ぐ先に大曲りのカーブがあるにもかかわらず速度はみるみるうちに増していき、そのままカーブに突入したヴィーラはあろうことか・・・

 

ギュィィィイイイイイイイイイイイイイイイインンンンンンンンン

 

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ

 

レールと車輪が激しくこすれ合う凄まじい金属音を響かせながら「片輪ドリフト」でその大曲りを突っ切って行ったのだ・・・。

 

その路線は先頭車両であり既にS09地区目指して狂走しているカライナが走って行った路線と同じであり、このままでは例えカライナを停止できてもヴィーラの停止が出来なければ、最悪ヴィーラがカライナに猛スピードで追突し、大爆発を起こしてしまう。

 

カライナの停止位置如何によっては街が壊滅するほどの大惨事に発展しかねない。

 

悪い事にヴィーラはレーザー砲を搭載している分、他の車両と比較して爆発時の影響が大きい。嘗てアメリカで起きた列車暴走事故(CSX8888号暴走事故)の悪夢が、今ここで再び現実のものとなりつつあるのだ。

 

シゴ「・・・大変だ・・・!」

 

フィアーチェ「このままいったら、街が!」

 

ナイン「だけど、V.O.B.はもう・・・!」

 

既にV.O.B.の燃料は残りわずかであり、今から方向転換して追跡しても追い付いて飛び乗る前に燃料を使い果たしてしまう。

 

シゴ「04さん!どうにかできないんですか!?」

 

04『それが、急にオフラインになって外部からの制御を受け付けないのよ。』

 

ナイン「そんな・・・。」

 

フィアーチェ「現場でどうにかしないと・・・。」

 

外部からの遠隔制御も出来ない以上、自分達で直接どうにかする他ない。

 

三姉妹は任務を果たしたV.O.B.を切り離し、追跡に使える何かが無いかを探してあたりを見回した。と・・・。

 

ナイン「ねぇ、あれ!」

 

線路の側線に重連(動力車二両セット)されたディーゼル機関車が止められていたのだ。

 

「GE ES(Evolution Series)64ACi」

 

嘗てアメリカで生産されていたディーゼル機関車「GE AC4400CW」の排ガス規制対応モデル「GE ES44AC」の更なるアップデートモデルの輸出車版であり、既に旧式化してこそいるが非常に馬力が高く、最高速度もそれに合わせて高くなっている。

 

シゴ「・・・もうこれ以外無いか・・・。」

 

フィアーチェ「・・・だね。」

 

ナイン「でも、私達誰も操縦方法知らないよ!?」

 

シゴ「それでも、やるしかないよ!」

 

その時、三姉妹は視界の端に小さなポップアップが表示されていることに気づいた。

 

 

【演算補強を実行しますか?】

 

 

・・・この際使えるものは何でも使う。なるようになれ!

 

三姉妹は藁にも縋る気持ちで【Y】と返した。途端に三姉妹の目が赤く染まり、同時に赤黒い電撃が目の端から迸り始めた。

 

演算補強によるオーバークロックの影響だ。

 

そこからの行動は早かった。

 

ナインは本線への入線ポイントを切り替え、シゴとフィアーチェは機関車の燃料タンクの残量の確認をし、その後三人とも車止めがセットされていないことを確認してマスター車の運転室に収まった。

 

意外なことに燃料は充分にあり、古くなってこそいるがちゃんと動くようだ。テロリストが物資運搬のために使っていたのだろう。

 

元々はどこで使われていた車両なのかは所属企業名部分が塗りつぶされていたため不明だが、赤と黒のツートーンの塗装は大凡残っており、車両番号もそのまま書かれていた。

 

前のマスター車が777号、後ろのスレイブ車が767号だった。

 

どういう偶然か、あの機関車と全く同じ車両番号であり、車両自体もその機関車の遠い後継機だった。

 

幸運にも運転台にテロリストたちが使っていたであろう操縦用の説明書が置きっぱなしになっており、三姉妹は演算補強による超高速処理によってその説明書をあっという間に読破、車両の全てを理解し尽くした。

 

シゴ「貴方があの『怪物(AWVR777号)』の血を引いているのなら・・・今度はその力で街を、皆を救って見せてッ!!」

 

その言葉と共にシゴは777号のエアブレーキ・ダイナミックブレーキ(発電ブレーキ)・単独ブレーキを全て解除し、スロットルをアイドル(ニュートラル)から力行(ドライブ)にセットした。

 

UWOOOOOOOONN・・・

 

その言葉に応えるかのように777号は咆哮の様な唸りを上げつつ動き出した。

 

フィアーチェ「04さん!本線でのポイントの切り替え、お願いします!!」

 

777号は後ろに戦車を載せていたであろう空の大物車二両とカブース型緩急車一両を連結した五両編成のまま唸り声を上げながら本線に入線した。

 

そのままシゴはスロットルをフルパワーの8段にセット、777号はぐんぐん加速しながらヴィーラの追跡を開始した。




必要ないでしょうが、ヴィーラを追跡する人で自力での移動速度が遅い人は後ろの貨車に乗ってくれて構いません。



「GE ES(Evolution Series)64ACi」:
本文中にも登場したとおり、実在するディーゼル機関車「GE ES44AC」のアップデートモデルの輸出車版で、実在しない架空の機関車です。
型式の意味はそれぞれ
GE=GEトランスポーテーション・システム製 
ES=鉄道車両排ガス規制「Tier 2」対応のモデルである「Evolution Series」の頭文字
64=6400馬力
AC=交流式主電動機
i=輸出車
となっています。

CSX8888号暴走事故とは:
2001年5月にオハイオ州で実際に発生した貨物列車暴走事故の事を指します。
別名 クレイジーエイツ事故。

AWVR777号とは:
上記の貨物列車暴走事故を題材に製作された映画「アンストッパブル」で登場した暴走機関車で、車両番号はマスター車が777号、スレイブ車が767号となっていました。
撮影にはカナダ太平洋鉄道からリースされた「GE AC4400CW」が使用され、上記のオリジナル機関車「GE ES64ACi」は、この「GE AC4400CW」機関車の遠い後継機という設定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-01-5】狂乱せし勇士の巨神船[転] -Unstoppable-

ありのままにこの大規模コラボを描いているうちに起きたことを説明します。

私は幻創戦艦・大和戦とアームズフォート戦をイメージしてストーリーのプロットを組み上げていたのですが、気が付いたら途中から映画「アンストッパブル」になっていました。

何言っているかわからないかもしれませんが、私も気が付いたらこうなっていました。


【BGM:「PSO2の東京のアークスクエスト「トレイン・ギドラン討伐(昼)」」より「Zero-G - Train Gidran -」】

 

プァーーーーン!!

 

疾走するヴィーラを警笛を鳴らしつつ必死に追跡する777号。

 

軍用の大型列車砲であるヴィーラと大編成の貨物列車を牽引する為とはいえ民間企業向けのディーゼル機関車である777号では、サイズ差もあってヴィーラの方が圧倒的に馬力が強い。

 

だが、同時に自重が今の777号の全編成よりも圧倒的に重い事による加速性の悪さによってその長所はほぼ相殺されている。

 

なにより自重が重い分加速も制動も反応が鈍いヴィーラは迂闊に最高速度は出せない。

 

迂闊に最高速度を出してしまえばカーブで減速が間に合わず遥かにオーバースピードのまま突っ込んでしまい、そのまま脱線転覆してしまうからだ。

 

さっきの大曲りでは片輪ドリフトで乗り切って見せていたが、その時はまだ速度が乗り切っていなかった。

 

流石に最高速度で同じことをやるのは普通に考えれば無謀過ぎるし、第一レールが異常な負荷に耐え切れず壊れてしまう。

 

なのでいくら馬力や最高速度に差があろうとも、重すぎて咄嗟の反応が出来ない性で迂闊に最高速度を出せないヴィーラが相手なら777号でも追い付ける見込みは十二分にあった。

 

・・・その計算は決して間違ってはいなかった。

 

だが、それはあくまで三姉妹が常識に照らし合わせた上で導き出した解でしかなかった。

 

三姉妹はこの時ヴィーラが「制御システムを外部からのアクセスを受け付けない「自閉モード」に設定したうえでテロリストが操縦している」ものとして考えていたのだ。

 

だが、実際にはヴィーラは制御システムに仕込まれていたテロリストはおろか、正規軍でさえ知る者がいない「裏モード」によって人の手から完全に離れた状態で暴走しているのだ。

 

この「裏モード」が何故正規軍にも知られていないかと言うと、製造時の制御プログラム設計の際に連続徹夜&相当な酒入りという深夜テンション状態の製作者たちが殆ど思い付きのアドリブで組み込んだものの、当事者達がその深夜テンションの弊害で組み込んだこと自体を忘れてしまっていたためである。

 

加えて正規接続状態ではこの「裏モード」回路には接続されないので、誰一人としてこんなおふざけプログラムがアルゴノーツに組み込まれているという事に気づくことが出来なかったのだ。

 

そんな誰にも気づかれることなく、ひっそりと消えていくはずだった製作者たちの悪ふざけの産物が、パニックを起こした一人のテロリスト(バカ)の荒療治によって偶然回路が異常接続を起こして起動してしまったのだ。

 

覚醒してしまった「裏モード」の制御によって暴走するヴィーラは物理法則や常識をぶっ飛ばしたような動きを平然と繰り出し、全ての常識を蹴散らしながら線路を突進している。

 

その片鱗として、三姉妹の目の前で明らかなオーバースピードでカーブに突っ込んだにもかかわらず、片輪ドリフトで乗り切ろうとするだけでなく連装レーザー砲の反動を抑え切れない遠心力をねじ伏せるために転用してみせたのだ。

 

三姉妹「「「OH!!ジーラフ!!!!」」」

 

想定外過ぎる常識外の事態に三姉妹はまたしても汚い絶叫をあげた。

 

フィアーチェ「どんどん引き離されてるよ!!」

 

シゴ「一体どんな操縦してるのよ!?」

 

ナイン「なんて滅茶苦茶な・・・。」

 

あ、今度はジャンプして掟破りのショートカットをした・・・。

 

フィアーチェ「・・・今、ヴィーラ飛ばなかった?」

 

ナイン「・・・・・・うん、飛んだね、それも掟破りにも程があるショートカットをしたね。」

 

シゴ「・・・どういう操縦したらあんな真似出来るの?」

 

三姉妹「「「OH!!ジーラフ!!!!」」」

 

三姉妹、追加でもう一回絶叫。

 

そこにあるのは全ての常識をまるで「頭の固い奴らの言い訳」と言わんばかりに悉く蹂躙し、圧倒的暴威を振りかざして線路を猛進する「超現実(Borderless)」の具現そのものだった。

 

・・・ただ、この乗っている人のことを全く考慮していない変態機動には中のテロリストたちも溜まったものじゃない。

 

既に数名がリバースしている。合掌。

 

だが、そんな車両内の惨状に反して状況はどんどん悪い方向に向かっていた。

 

既にヴィーラと、先行しているカライナの距離は22キロしかないのだ。

 

シゴ「しくじった・・・!認識が甘かった・・・!こんな滅茶苦茶な相手じゃ、普通の方法じゃとても追い付けないッ!!」

 

涙を目に浮かべ、悔しそうな表情でシゴは悲鳴に近い声で絶望の叫びをあげた。

 

フィアーチェ「これは・・・こんな・・・!」

 

フィアーチェも茫然自失と言う感じで涙を流しながら力なくへたり込んでしまった。

 

ナイン「なんてインチキ・・・!あっちの方が何倍も怪物じゃない!!」

 

ナインに至っては、眼前で起きた理不尽に対する怒りのままに壁を殴り、涙目で叫んだ。

 

普通の人だったらここで眼前の理不尽と、それにテイコウする術を持たない自らの無力を呪いながら諦めてしまうだろう。だが・・・。

 

シゴ「・・・でも、このまま「はいそうですか」と諦めるつもりもないよ・・・!」

 

フィアーチェ「シゴ・・・うん、そうだよね。ここで諦めたら、街が大変なことになるからね!」

 

ナイン「・・・向こうがそう来るんなら、こっちも同じことで返してやろうじゃない!」

 

シゴの言葉に折れ欠けていた闘志を再び蘇らせ、三姉妹は最早列車砲のガワを纏ったクリーチャーと化したヴィーラのやったことを再現するために動いた。

 

フィアーチェはマスター車から出て最後尾の緩急車までシュライクで飛んでいき、そのまま緩急車の中に入り単独ブレーキの制御台に座った。

 

ナインは767号の後方に移動し、レーザーライフルを767号の発電装置に有線接続したうえで反動を抑えるために設けられていたリミッターを外し、更に脱ぐ暇が無く普段着の上から着続けていたV.O.B.用の防護スーツを脱いでライフルと車体の間に緩衝材として挟み込んだ。

 

シゴ「ナイン!」

 

ナイン「しっかり捕まってて!!」

 

それだけ言ってナインは後方斜め上空へ向けて767号の発電装置から汲み上げたエネルギーをレーザーライフルから解き放った。

 

威力や収束率を全く考慮せず、ただただ反動を最大化する事だけに重きを置いた設定にしたレーザーライフルが生み出した反動は車両全体を力強く押し、更なる加速を成功させた。

 

シゴ「もう少し行ったら長い右カーブがあるよ!ナインは左側に移動!フィアーチェは単独ブレーキの準備を!」

 

視界の端を線路脇に設置された速度制限の標識が通り過ぎていく。

 

[制限速度:時速60Km]

 

速度制限は実際にはある程度の余裕を持った設定になっており、この場合時速80Kmでも曲がり切ることは不可能ではない。

 

だが、今の777号の速度は先の加速によって時速160Kmを超えていた。

 

制限速度の2.5倍以上の速度で突っ込めば本来であれば脱線転覆の末に爆発・炎上は避けられないが、こうでもしなければあのクリーチャーに追いつけない。

 

複線ドリフトでヴィーラがカーブを駆け抜けていく中、777号も遥かにオーバースピードでカーブに突入した。

 

シゴ「ナイン、カウンター開始!!フィアーチェ、単独ブレーキを目いっぱいかけて!!」

 

シゴの指示に応えるようにナインは左側にレーザーライフルのエネルギーを吐き出させ左側へ傾く車両を押し戻そうとし、同時にフィアーチェが最後尾の緩急車の単独ブレーキで同様に編成全体をカーブの内側である右側に向けて引っ張る。

 

ガンガン!!

 

連結器が強く引っ張り合う音が響くが、それでも編成全体が左側に傾き始めた。

 

フィアーチェ「ひっくり返っちゃうよ!?」

 

シゴ「祈るしかないよ!!」

 

ギャリイイイイイィィィィィィィィィィ

 

UWOOOOOOOONN!!!!

 

車輪とレールが激しく擦れ合う金属音、そして777号の咆哮が響く中、777号のサイドミラーからは遠心力に引かれる様に大物車が外側にひっくり返りそうになるのが見えていた。

 

シゴ「二人とも!!踏ん張って!!」

 

ナイン「うわあああああああ!!!」

 

シゴの叫びに応えるようにナインもライフルの放出出力を引き上げる。

 

ガンッ!!バキン!!ゴンッ!!

 

線路の左側に残っていた信号機やその制御装置等を大きく左側に傾いた777号が弾き飛ばしながら、それでもギリギリ脱線せずに片輪ドリフト状態でカーブを突っ切っていく。

 

シゴ「フィアーチェ!!もう一度ブレーキ!!今だよッ!!!」

 

その通信を聞いたフィアーチェは一度単独ブレーキを解除し、即座にかけ直した。

 

ガン!!

 

再び連結器が強く引っ張り合う音が響き、左側にひっくり返りそうになっていた車両を右側に引き戻そうとする。

 

ガキン!!

 

未だ左側に傾いている777号が線路脇に残っていた送電線の支柱を跳ね飛ばしながらも片輪走行でカーブを乗り切ろうとする。

 

制御台から編成全体と線路の先を見ていたフィアーチェは自分の判断でもう一度単独ブレーキをかけ直した。

 

ガンガン!!ガシャン!!ガシャン!!!

 

三度連結器が強く引っ張り合う音が響いたその直後、大きく左側に傾いていた編成全体が右側に引き戻され、両輪がレールを踏みしめた。

 

シゴ「やったよ!!曲がり切った!!」

 

ここから先はしばらくは直線と減速の必要が無い緩やかなカーブばかりが続く。街までに残された時間を考えるなら、乗り移るならココしかない。

 

シゴ「フィアーチェ!乗り移り準備!」

 

フィアーチェ「了解!!」

 

フィアーチェは緩急車の単独ブレーキを解除して制御台を離れ、777号の天板へ移動を開始した。

 

後はこの勝負に勝てるかどうか。

 

三姉妹は暴走するヴィーラの息の根を止めるべく、この場で実現出来得る最大の一撃の最後の詰めに入った。







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-01-6】狂乱せし勇士の巨神船[:||] -Borderless-

漸く終わりが見えてきた・・・。

流石に三週連続で2話同時投稿は堪えたけど、もう少し・・・。


【BGM:「PSO2の幻創戦艦・大和戦(後半戦)」より「Borderless(OnVocal)」】

 

この場で実現しうる最大の一撃の最後の準備として、777号は最後の加速の準備に入った。

 

シゴ「あと14両分・・・、残り5両分になったら乗り移って!!」

 

フィアーチェ「解ったよ!!」

 

最後の加速で車間を縮め、接近した瞬間にフィアーチェがヴィーラに飛び乗って内部制圧を行うという算段だ。

 

その時、ヴィーラの武装が上空めがけて火を噴いた。

 

シゴ「何事!?!?」

 

狙いは自分達では無いようだが、いきなりヴィーラが明後日の方向に攻撃を始めた理由が解らない。

 

フィアーチェ「シゴ、4時方向から反応接近!ヴィーラの狙いはそれだと思うよ!」

 

フィアーチェの声にシゴも運転室からその方向を見ると、飛行する二人の姿が見えた。

 

シゴ「ISライダー!?味方なの?」

 

実際にはこの時接近していた別世界からの援軍である「キャロル」と「アナ」はISライダーではない。

 

ただ、装備がISに見えなくもないし、シゴ達にとってこういう装備はIS以外に知らないので勘違いするのも仕方が無い。

 

その二人は戦闘機顔負けの激しい機動でヴィーラの対空砲を躱しつつヴィーラへ接近していく。

 

そして、二人のうちの一人であるアナが突如漆黒に包まれたかと思うと、先ほどまでとはけた違いの機動でヴィーラへと襲い掛かる。

 

最初こそ撃墜しようと対空砲火をアナに向けていたヴィーラだったが、どうやっても捉え切れないと判断したのか代わりにこちらを狙ってきた。

 

シゴ、フィアーチェ「「ッ!?」」

 

一瞬身を固くするが、次の瞬間には777号の全編成を消し飛ばせるほどの威力を持っていた副砲の砲弾とレーザーが何らかの障壁に弾き飛ばされていた。

 

キャロル「機関車の運転手、攻撃は俺が全て引き受ける、気にせずに速度を上げてくれ。」

 

シゴ「りょ、了解!!」

 

機関車を護る様に併走する形で飛んでいるキャロルの言葉に返事を返したシゴは、即座に最後の作戦を開始した。

 

シゴ「ナイン!最終加速開始!!」

 

ナイン「任せて!!」

 

短いやり取りののちにナインは再びレーザーライフルの反動で777号の速度を跳ね上げる。

 

アナもヴィーラの武装を少しずつ破壊し、そしてその一撃が後方車両への連絡通路の扉を吹き飛ばした。

 

だが、ヴィーラも只でやられるつもりはないらしく、残っている武装を全て加速のために使い、一気に加速して引き離そうと足掻く。

 

既にカライナとの距離は20キロまで縮まり、これ以上加速されたら追突までに乗り移って制御を奪い、停車させるのは不可能だ。

 

アナ「まだこんな余力が!?」

 

キャロル「クソ!まだ足掻くのか!?」

 

フィアーチェ「シゴ!また離されてるよ!!」

 

シゴ「解ってるけどッ・・・!!」

 

ナイン「もうこれ以上は無理だよ!!」

 

これ以上の出力は767号の発電装置かナインのレーザーライフルのどちらかが壊れてしまう。

 

何より777号の台車からも悲鳴のような異音が聞こえてきている。

 

万事休すか?ここまで来たのに?

 

と、その時。

 

万能者『こちら万能者!!遅くなってすまん!突然で悪いが、今から列車砲の速度を落とすぞ!!』

 

突然この場にいたヴィーラを追跡しているもの全員に「万能者」を名乗る者からの通信が飛び込んできた。

 

万能者『いくぞ!オラァアアアアアァァァ!!

 

ズガァゴォーーーンンンッ!!

 

ギィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ!!!

 

フィアーチェ「急に速度を落としたよ!?」

 

シゴ「なにが起きたの!?」

 

もの凄い音と共にヴィーラの勢いがいきなり削がれ、速度が落ち始めた。

 

ナイン「どういう事!?「万能者」は一体何をやったの!?」

 

その答えは次の万能者の叫び声が物語っていた。

 

万能者『ウオォォォォォォォォォォォォオオオ!!足の裏がアチィィィィイイイ!!』

 

万能者は、「正面から全力でヴィーラを受け止める」という見るからに原始的、かつ阿呆なことをやってのけていたのだ。

 

通常の列車が相手でもまず不可能な事を、重量・サイズ・馬力、全てが桁外れな列車砲相手に実行するなど前代未聞である。

 

だが、現にヴィーラは加速不能になり、目に見えて速度が落ちている。

 

三姉妹「「「無茶苦茶なの増えたぁーーーー!!!??OH!!ジーラフ!!!!」」」

 

またしても叫ぶ三姉妹。

 

万能者『色々言いたいことがあるとは思うが、話は後だ!!さっさと列車砲の中に入って動きを止めてこい!!!』

 

シゴ「言われなくともッ!!」

 

万能者によって枷をかけられ、キャロルとアナによって武装のほぼ全てが沈黙したヴィーラには最早抗う術は残っていない。

 

このチャンスをモノにすべく、777号は猛チャージをかけた。

 

ヴィーラと777号の車間はみるみる縮まり、ついに残り車間が5両分を切った。

 

シゴ「スタート!!」

 

シゴの声と同時にフィアーチェはACマルチウェイとラウンドスピナーを起動、更にシュライクのローターを最大出力で回し、プラットホームに戻したガンビットのスラスターも起動して推進力の足しにする。

 

全ての推進力を前方斜め上、目標地点である連絡通路部分へ突入できるように調整し、フィアーチェは777号の天板の上を滑走し、そして推力に任せて離陸した。

 

普段だったらヴィーラを真似して遥かにオーバースピード状態でカーブを曲がり切ることも含めて、この様な芸当出来ないだろう。

 

だが、04の演算補強によって疑似的に強化状態のハイエンドモデルに相当する演算能力を得た状態であれば決して不可能ではない。

 

演算補強の恩恵を限界まで活かしたフィアーチェは、我ながら見事と言えるほどに綺麗な軌道でヴィーラへの乗り移りに成功した。

 

受け身を取って立ち上がったフィアーチェは、即座にテロリストに対して自身の銃とガンビット全てを向けた。

 

フィアーチェ「ここまでだよ。降伏して。」

 

忘れている人もいるかもしれないが、三姉妹は今回いつものロリスキン状態で喫茶鉄血世界にやってきており、この作戦中もずっとロリ状態だった。

 

そして、ヴィーラに居たテロリストたちのリーダーがロリコンだったこともあり、その部下にあたるテロリストたちの中にも少なからずロリコンが居た。

 

絵面としてはまるで締まらないが、テロリスト達にとって絶望的過ぎる状況において、自身にチェックメイトをかけてきたのがロリ娘だったことで一気に緊張の糸が切れてしまったのだろう。

 

あっさり過ぎる程テロリストたちは降伏した。

 

だが、問題はココからだった。

 

・・・

 

フィアーチェ「ええ!?!?今車両をコントロールしているのは貴方達じゃない!?!?」

 

ここでヴィーラ担当の援軍部隊は初めて「ヴィーラが謎の「裏モード」状態で人の制御を離れて暴走している」という事実を知らされた。

 

シゴ『・・・一体なんでそんなことになったのよ・・・。』

 

テロリスト(隊長)「あー・・・もの凄く言いづらい事なんだが、このバカが操作端末にスタンガンぶちかましたんだよ・・・。」

 

ナイン『・・・へ?』

 

スピーカーモードの通信機越しのシゴの質問に対してテロリストの一人が至極申し訳なさそうな表情でこの暴走事件の原因を指さしながら事情を説明した。

 

テロリスト(バカ)「反省はしている、だが後悔はしていない!」

 

テロリスト(隊長)「だから後悔しろ馬鹿野郎ぉオオオ!!」

 

バカの発言にプッツンしたテロリストの隊長がバカの脳天に拳骨を叩き込む。

 

この時点ではこの暴走はテロリストたちにとっても不本意な事であり、停車させる障害はもうない。

 

そう思えたが・・・。

 

フィアーチェ「スロットルカット!ブレーキ作動!」

 

ヴィーラコントロール『・・・』

 

フィアーチェ「もう一度!スロットルカット!ブレーキ作動!」

 

ヴィーラコントロール『・・・』

 

操作端末に停止の指示を入力するが、ヴィーラは全く反応しない。

 

フィアーチェ「だぁーーー!!お手上げだよぉーーー!!」

 

ナイン『どうしたの?』

 

フィアーチェ「コンソールからその「裏モード」に対してアクセス出来ない。何を入力しても指示が届かないよ。」

 

既にアナの活躍によってヴィーラの武装の全てが沈黙し、万能者のゴリ押しによって速度は落ち着いてこそいるが、それでもヴィーラは停車するそぶりも見せない。

 

シゴ『兎に角私達もそっちに行くから!』

 

その後、シゴとナインは777号のスロットルを0段に戻してアイドルにセット。全てのブレーキを作動させた状態にしたうえでキャロルとアナに頼んでヴィーラに移動した。

 

UWOOOOOOOONN・・・

 

任務を果たし、速度を落としながら離れていく777号を見送りながら、どうすればヴィーラを止められるかを皆で考えた。

 

なお、シゴとナインがヴィーラに乗り込んだ際に、二人もまたロリ状態だったために一部のテロリストたちが沸き上がったのは秘密だ。

 

だが、はっきり言ってこの場にいるメンバーには手の打ちようが殆どない。

 

電子戦で侵入するにしても「裏モード」の情報が無いので何が起こるかわからない。

 

人間による電子戦とは異なり、人形による電子戦は基本自身の意識を対象のネットワークやシステムに直接ダイブさせる必要がある。

 

このため下手をすると意識を飲み込まれたりして二度と出て来れなくなる恐れがあり、情報が圧倒的に不足している裏モードが相手ではリスクが大きすぎるのだ。

 

かといって下手に破壊したりしようとすればここで大爆発を起こしかねない。

 

最悪の場合はそうするしかないが、ヴィーラが爆発した時の爆発威力が不明である以上、それは本当に最後の手段だ。

 

まさに八方塞がり。だが・・・。

 

シゴ「いや、もう一つあるよ。」

 

フィアーチェ「それって・・・。」

 

ナイン「・・・安全に止められるのはもうその手しか無いね。」

 

シゴ「04さん聞こえていますか!?今から私達をヴィーラと直接接続します。私達を中継器にしてそちらからヴィーラに侵入してください!!」

 

最後の一手。

 

それは、「自分たちを中継器にして04がヴィーラに直接アクセス出来るようにすること」だった。




万能者が無茶苦茶やり始めたあたりからもう【BGM:Mark Sein】にした方がいいかもしれないと思う今日この頃。

取り敢えず必要が生じない限りこちらが直接的に動くのはここまでです。

後は精々が他の人の動きを三姉妹目線で描写する程度です。



・・・の、つもりだったのですが、一升生水氏がリアルの都合で投稿する余裕がなくなってしまった模様の為、もう一話ザックリと「04による三姉妹を中継器にしたヴィーラへのクラッキング」の様子と、喫茶鉄血への帰還までの模様を書きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-01-7】狂乱の終息 -Runaway end-

想定外に次ぐ想定外も漸く終結。

しかし、こんな時に変な風邪ひいてしまうとは・・・。

しかも、体のあちこちが痛くても薬飲めば最低限仕事が出来るレベルには動けてしまう。

体が丈夫なのも考えモノだと思う今日この頃。仕事休みたいけど休めない・・・。


キャロル「やれやれ、こうもアクシデントが起こるといっそ笑いたくなるものだな。」

 

ナイン「・・・同感です。」

 

何時まで経ってもヴィーラが止まらない事を疑問に思って乗り込んできたキャロルにナインが事情を説明した所、その事態にキャロルは絶妙に疲れた表情でため息をついた。

 

そりゃ、テロリストが自棄を起こしたと思いきや純粋な暴走であり、しかもコンソールからヴィーラを止めることが出来ないという面倒くさすぎる事態になっているとなればそうもなる。

 

キャロル「止める手段はあるんだな?」 

 

シゴ「はい、私達を中継器にして04がヴィーラに直接アクセス出来るようにします。」

 

キャロル「クラッキングと言うことか・・・分かった、ヴィーラは俺たちが何とか時間を稼ごう。」

 

そう言ってキャロルは車両の外へと飛び立ち、程なくしてヴィーラの速度がまた落ちた。

 

だが、やはりパワーが違い過ぎる為か万能者・キャロル・アナの三人がかりで抑え付けようとしても止まりそうにない。

 

三姉妹は一秒でも早くヴィーラを止めるために電子戦用の有線接続ケーブルをヴィーラのコントロール端末のメンテナンス用のコネクタに接続し、04が直接ヴィーラにアクセス出来るようにした。

 

・・・

 

04『う~ん、なるほどね。これは面白い組み方しているねぇ。』

 

三姉妹を中継器にすることでヴィーラにアクセスできるようになった04はヴィーラの裏モードを読み解きながらシステムの内部へと侵入していく。

 

シゴ「いけそうですか?」

 

04『大丈夫。組まれているシステムは奇抜だけど、基本的な部分は普通だから。ただ、もし私だったらこんな商品受け取らないね。』

 

曰く、組まれているシステムがバカと冗談が総動員された趣味全開のシロモノで、加えて肝心な時に制御できなくなる危険性があるような欠陥プログラムだとのこと。

 

事実、裏モードが起動してからここに至るまでにヴィーラが見せた常識外の異常な機動は搭乗員の事を全く考慮していない。

 

人や兵器などを載せて運用する事も想定されている以上、搭乗員を無視したこのシステムは扱いに困るだけだし、そうでなくともレールというインフラに余計な負荷をかける以上、採用する余地が無い。

 

そもそも論でアルゴノーツは本来ヴィーラ単独ではなく、前方車両のカライナと後方車両のパピスもセットで運用する物だ。

 

こんな変態機動させようものならカライナとパピスが付いてこれない。

 

・・・もしかしたらカライナとパピスにも同系統のシステムが紛れ込んでいるのかもしれないが、それはそれで嫌だし後が別な意味で地獄絵図になる。

 

フィアーチェ「なんで質実剛健が重視される正規軍の兵器にこんな出鱈目なプログラムが組み込まれていたんだろう・・・。」

 

ナイン「・・・案外、開発者がおふざけで作ったプログラムが間違って組み込まれちゃったとかじゃないかな?」

 

04『・・・それはそれで問題だけどね・・・。』

 

実際には深夜テンションで組み上げたロマンシステムを無断で組み込んだ挙句、それを作ったこと含めて忘れてしまっていたのだから、中らずと雖も遠からずではある。

 

04『ふんふん。自爆システムとかそういう類は流石についていないみたいね。ほいほいほいっと。』

 

キキィィィィィィィィィィィ!!!!

 

04の操作によりヴィーラのブレーキが作動し、元々万能者・キャロル・アナの三人が抑え付けていたこともあってすんなりと速度が落ちていく。

 

程なくして物理法則や常識をぶっ飛ばしたような異常過ぎる機動を繰り返していたヴィーラはあっけなく停車・沈黙した。

 

停車後、程なくして別部隊の援軍が制御室にやってきたので、三姉妹はその援軍の人達に残りの作業を引き継いでもらった。

 

因みに、この時三姉妹は長時間演算補強を続けていた副作用で完全にオーバーヒートを起こしてしまい、頭から白い煙をそこそこの勢いで吹いており、ドアを開けた瞬間にその煙が入ってきた援軍のスミスとレストの顔にかかった事もあって割と驚かれることとなった事も付記しておく。

 

シゴ「・・・でも、スミスさんとレストさんが私達が吹いていた煙が顔にかかった瞬間に顔を覆って叫びながら身構えたのはなんでだったのかな?」

 

ナイン「・・・何か煙にトラウマでもあったのかな?」

 

フィアーチェ「・・・煙でトラウマ?それってどういうトラウマ・・・?」

 

・・・

 

・・・余談だが、この時別の世界では「執拗なまでの天丼」によってその原因を作った某「カカシを連れた傭兵」がくしゃみをしていたのだった・・・。

 

・・・

 

事情を説明して氷嚢を貰って外で頭をクールダウンさせていると、ゆっくりと777号が走ってきてヴィーラの少し手前で停車した。

 

どうやらヴィーラが比較的直ぐに停車した影響でブレーキが緩めにかけられていた777号が停車しきる前に追い付いてしまったようだ。

 

フィアーチェ「・・・帰りは777号に乗って街迄行こうか・・・。」

 

シゴ「そうする・・・。」

 

ナイン「異議なし・・・。」

 

偶然にもヴィーラが停車した箇所には修繕線という長い側線があり、この修繕線を通ればヴィーラを追い越して街まで帰れそうだ。

 

もう少し休んだ後で再び三姉妹は777号に乗り込み、ゆっくりと修繕線へと進入させた。

 

フィアーチェ「あ。」

 

修繕線を少し進んだところでフィアーチェが修繕線の引き込み線に建てられた車庫の壁に寄りかかって休んでいるキャロルとアナの二人を見つけた。

 

フィアーチェ「キャロルさん、アナさん。アタイ達これから街に戻るんだけど、一緒に乗っていきます?」

 

キャロル「あぁ、有難い・・・。その言葉に甘えさせてもらうよ。」

 

アナ「流石にもうクタクタですからね・・・。それでは同乗させて頂きます。」

 

と・・・。

 

万能者「す、すまん。俺も乗せてもらっていいか?」

 

万能者が明らかにギクシャクした歩き方でやってきた。

 

ヴィーラをあんなゴリ押しな手段でダイレクトに抑え付けようとしたのだ。もう歩くことすら辛い程に脚部を痛めているのだろう。

 

ナイン「だよねぇ・・・。いいよ、乗ってって!」

 

フィアーチェ「客車は無いけど、最後尾の緩急車はちょっとしたキャンピングカー並みの設備がついているから、街迄はそれなりに寛げると思うよ。」

 

万能者「ああ、助かる。」

 

そうして3人の戦友を乗せた777号は、ヴィーラを追跡していた時とは異なりのんびりした速度で街へと走って行った。




漸く作戦行動終了。

なお、スミスとレストのトラウマに関してはちょっと大回りしたところからネタを取っています。

後は喫茶鉄血での打ち上げに参加した後で元の世界へ帰還するまでを書いて今回の大規模コラボにおいて私が書く領域はひとまず終了となる予定。(なお予定といえば未定・・・。)

道中でカライナの近くも通るだろうけど流石にもうピックアップが必要な人はいないだろう。

しかし、全てが終わった後777号はどうしようか・・・?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-01-8】激戦を終えて -On the way back-

ちょっとリアルで色々とあったので今回は1話だけです。


のんびりとした速度で線路を走る777号。

 

バギィッ!! ゴリィッ!! 

 

「あだだだだだだだだだだだッ・・・・・・こりゃ全身にガタが来てるなぁ・・・・・・そろそろ全部とっかえを視野に入れておかないとまずいなこりゃ。」

 

脚部を限界を超えて酷使した万能者が自らの脚部を見て思案していた頃。

 

シゴ「あーだめ。眠すぎてこれ以上は無理。」

 

フィアーチェ「アタイも・・・。」

 

ナイン「ここまで内容が濃い作戦って、多分初めてだもんね・・・。」

 

04『辛そうだね。街迄私が操縦するから貴方達は休んでなさい。』

 

シゴ「そうします・・・。」

 

三姉妹は最初の内こそ運転席で操縦していたが、生まれて初めてといってもいいほどの長時間の全力戦闘に、これまた生まれて初めての演算補強による疲労が緊張の糸が切れた途端にドッと押し寄せてきたことから、遠隔制御できる04に列車の運転を代わってもらい自らたちは緩急車に移動、そのまま寄り添いながら泥のように眠りについた。

 

04『あらあら、おチビちゃんたちはお眠かしらね。』 

 

キャロル「無理もない、今はゆっくり休ませておこう・・・お前も休んだらどうだ、万能者。」 

 

万能者「そうさせてもらうよ。 まったく、轢かれるは吹き飛ばされるは散々だったな。」 

 

アナ「むしろそれだけの目に合っていて『散々だった』で済むあたり、あなたの規格外さには驚かされます。」 

 

04『あなたたちが言ってもねぇ・・・。』

 

三姉妹の寝顔を見ながら別世界の戦友たちものんびりした調子で語り合っていた。

 

・・・

 

・・・・・・

 

しばらくしたのちに04が遠隔操縦する777号はS09地区の駅に到着した。

 

キキィ

 

ホームで停車し、エンジンが停止した777号の緩急車から降車した6人はその足で「喫茶 鉄血」を目指した。

 

・・・

 

キャロル「歯車の噛み合い一つで何も起きなかったというのに、一度狂ったそれが更に狂いを起こし・・・俺達のような存在を生み、光すら失ったのだろうな。」 

 

アナ「ですが、光は生まれました。故に私はこの世界の光景をこう思います。『我々が目指すべき『未来』なのだ』と。」

 

キャロル「目指すべき未来、か・・・。確かにな、まだやり直せると分かったのだから悲観になっても仕方がなかったな。」

 

アナ「えぇ、そのためにも私達は気張らないといけませんがね。」

 

道中でキャロルとアナがこの世界に対して羨望の感情を抱きつつも、何時か自分たちの世界もここのような未来にたどり着けるようにと気持ちを新たにしていたが・・・。

 

三姉妹&万能者((((お、おもい・・・。))))

 

二人の世界がかなり洒落にならないレベルでドツボに嵌ってしまっているのだと察してしまった三姉妹と万能者はその重すぎる会話の内容についていけず、ただ遠巻きに眺めていることしか出来なかった。

 

フィアーチェ「・・・もしかして、アタイ達の世界ってかなり恵まれた方に部類されるのかな?」

 

シゴ「・・・あくまで憶測だから何とも言えないけど・・・私達の世界はあれこれ問題を抱えてはいるけど、他と比べればまだマシな方・・・なのかなぁ・・・。」

 

ナイン「・・・キャロルさんたちの世界って、本当に何が起きてしまったんだろうね?」

 

万能者「俺の世界も割とドツボな所はあるが、多分あの二人の世界のドツボはもっと別の、もっと質が悪いドツボなのだろうな・・・。」

 

シゴ「えっと、万能者の世界ってどういう意味でドツボになっちゃったの?」

 

万能者の発言に興味を持ったシゴが尋ねた。

 

万能者「こっちは兎に角嘗てあった戦争やらなんやらが原因で生態系が滅茶苦茶になっちまってるんだ。しかも種がいくつか絶滅しているのならまだ良い方と言えるな。」

 

ナイン「・・・へ?」

 

万能者「例えば俺も数えるほどしか遭った事が無い・・・というか遭いたくもないが、異常進化してバケモノ化したGの大群がいるな。」

 

フィアーチェ「ひっ!?」

 

「G」がベースというだけでもヤバいのに、あの無茶苦茶をやりおおせた万能者をして「遭いたくもない」と評するバケモノというだけでそれを超越するヤバさがひしひしと伝わってくる。

 

万能者「細かい説明は省くが、滅茶苦茶数が多いのにかなり賢くて戦術も知っているし、そのうえ群体生物のように統制もとれている。外皮もアサルトライフルの銃弾程度なら弾かれる位硬いし、おまけに鉄すら齧れる口を持っている。」

 

シゴ「へ?じゃ・・・じゃあもしそいつに襲われたら・・・?」

 

万能者「俺もミュータントがアイツらの餌食になるところを目の当たりにしたけどよ、アイツらの群体に飲み込まれたと思ったら次の瞬間には、な・・・察してくれ・・・。」

 

三姉妹「「「OH・・・ジーラフ・・・。」」」

 

どう転んだって想像を絶する最期を迎えることになるのは想像に難くない。

 

同時にそんなバケモノに遭遇して生還した万能者の事を改めて「凄い」と思った三姉妹だった。

 

もし自分達が同じ状況に立たされたら大して何もできないままに蹂躙されて文字通り「終わる」だろう。

 

・・・しかも、筆舌に尽くし難い終わり方だ。

 

万能者「正規軍でもアイツらの対処には最高の戦力をぶつけてかかるほどらしい・・・。」

 

三姉妹「「「OH・・・ジーラフ・・・。」」」

 

この先「G」を発見したら条件反射で発砲してしまうかもしれない・・・。三姉妹はそう思った。

 

シゴ「そ、それはそうと、足いつの間に治したの?」

 

万能者「あぁ、これ治したんじゃなくて予備パーツに取り換えたんだよ。俺には様々な装備やパーツを格納できる「バトルウェポンガレージシステム」ってのが備わっているんだ。ゴーストタウンでヴィーラに撥ねられた時に故障して、お前達が仮眠を取りに来る少し前にやっと復旧したから、ヴィーラに対処する時には何の役にも立たなかったけどな・・・。」

 

フィアーチェ「へぇ~。なんだか拡張領域と似ているね。」

 

万能者「ん?お前たちの世界にも似たようなシステムがあるのか?」

 

シゴ「説明したらちょっと長くなるけど、ISというパワードスーツに標準装備されているんだって。」

 

万能者「標準装備!?そのISというやつ、もっと詳しく教えてくれないか?」

 

シゴ「私たちも詳しく知っているわけでは無いけど・・・。」

 

・・・三姉妹説明中・・・

 

万能者「へぇ・・・ISねぇ・・・機能とか性能など聞く限り、かなりのものだな・・・。」

 

シゴ「まぁそれでいろいろややこしいことが起きちゃったんだけどね・・・。」

 

ナイン「ところでそっちにISに似たようなあったりするの?」

 

万能者「・・・・・・いろいろ省いて大雑把に言うと似たようなやつはある・・・が、他の兵器の性能や火力がおかしくて、技術関係は生かされているけど大体同じ性能で似たようなやつ自体は大体作業用機械または痒い所に手が届く兵器止まりな感じと言っておく・・・歩兵ですらプラズマとか火力があるの撃ってくるしな・・・。」

 

三姉妹「「「何その世界こわい。」」」

 

フィアーチェ「・・・ISが大したことないレベルで凄いのがゴロゴロいるなんて怖い・・・。」

 

万能者「いや、正確には大したことが無い訳じゃないが・・・、第一線の戦場とかでは性能やら機能とかが色々不足しているって感じだ。」

 

三姉妹「「「OH・・・ジーラフ・・・。」」」

 

万能者は「大したことが無い訳ではない」と評しているが、三姉妹の基準からすると充分凄まじい。

 

三姉妹の世界では現状ISを超える性能を持つ兵器となるとそれこそ軍艦クラスまで飛んでしまうのだ。

 

戦車や戦闘ヘリでもIS相手では分が悪く、戦闘機で漸く戦術次第ではいい勝負レベルになるのだ。・・・無論戦闘機とISでは得意分野が違うので一概に優劣をつけられないのだが・・・。

 

シゴ「・・・今回の事件で私たちが知った情報、どうしようか?」

 

フィアーチェ「封印するわけにはいかないよ・・・。アタイ達の世界でも必要になる日が来ちゃうかもしれないし・・・。」

 

ナイン「来なくていいけどね・・・そんな日。」

 

・・・

 

だがそんな願いもむなしく、まだ遠いが三姉妹たちの世界も大きな騒乱の舞台となる事になるのだ。

 

それは遠き過去からの復讐劇か、遠き宙からの侵略劇か・・・はたまた比較的近き狂気からの惨劇か・・・それを彼女らは未だ知るよしもない。

 

・・・

 

そんなこんなで割と他愛なくはない会話をしながら喫茶 鉄血へと6人は向かっていった・・・。




あともう一話で大規模コラボ分は終わるでしょうが、流石にちょっと無茶したのもあってちょっとガス欠です。

来週か再来週には投稿したい・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-01-9】打ち上げは喫茶鉄血で -Celebration-

またしても熱中症など諸事情で一週間が空いてしまいましたが、これで私側のコラボ分は終了です。

最近暑くて本編の執筆が進んでいないので、この話の後少しの間お休みをいただきます。

なるべく早く次を投稿する予定です。


喫茶鉄血の代理人「・・・それでは皆さん、本日はごゆっくりお過ごしください。」

 

S09地区全域に出されていた避難勧告が解除され、徐々に避難していた住人が戻ってきている中、喫茶 鉄血では今回の事件解決のために戦った人達による打ち上げが行われていた。

 

当然別の世界からやってきた人たちも大勢いる。

 

三姉妹は好奇心から色々な世界の人達から色々な話を聞かせてもらったが、平穏な世界というのはかなり少ない様だ。

 

程度に差はあれど、殆どの世界で何かしら人類存亡に関わり得る問題が発生している。

 

問題と言えばIS絡みの女性利権団体位しかない自分たちの世界が如何に恵まれた世界かを思い知ることとなった。

 

ナイン「いつか私達も、他の世界の明日のために戦う日が来るかな?」

 

シゴ「否定はできないかな。もしその日が来た時のために、私たちももっと強くならなくちゃ。」

 

フィアーチェ「振り返ってみると、今回アタイ達いろんな人に助けられてなんとかって感じだったからね。」

 

今回ヴィーラに向かった三姉妹は多くの助けがあってこそ作戦を成し遂げたと言ってもいい。

 

この世界のペルシカ女史の用意したV.O.B.、04が用意した演算補強、偶然側線に放置されていた777号、そしてキャロルにアナ、万能者の助力。

 

そのいずれかでも欠けていたらこうはうまくいかなかっただろう。

 

そう思案しながらケーキに手を付けようとしたが・・・。

 

???「うおぉ!45!45がいる!!!」

 

なにやら危険な大声が響き渡り、三人ともそちらを向いた。

 

???「ウォーモンガー!ちっちゃい45もいるぞ!」

 

ウォーモンガー「私は大人にしか興味ない!さぁ、45!私の愛を受け止めてぇッ!」

 

突然自分の方に流れ弾が飛んできたうえ、更に「ウォーモンガー」と呼ばれた女性が明らかにアカン目つきをしている事に完全に凍り付いた。

 

幸か不幸か、私生活用の子供スキンを使用しているシゴに興味は向かなかったようだが、もし作戦用のノーマルスキンで来ていたらと思うと気が気じゃない。

 

40「させないよ!45の貞操はアタイが守「貧弱貧弱ぅ!!」ぎゃふん!?」

 

兵士A「あのバカ・・・。抑えろ! 抑え込め!!」 

 

兵士B「TPOを考えろ色情魔め!」 

 

ウォーモンガー「離せゴラァァアアアアアア!!!!」

 

この世界の40が制圧しようとするも、「戦争屋」の名を冠するウォーモンガー相手にパワーが低いSMG一人で如何にかなる訳なくあっさり撃沈。

 

結局ウォーモンガーと同じ世界・・・というより同じ組織の兵士と思われる人々がウォーモンガーを組み敷いて押さえつける羽目になった。

 

絵面だけを見れば「屈強な男たちに女性一人が組み敷かれている」という事案臭漂う状況だが、実際には「暴走しようとする色情魔を同僚が必死で押さえつけている」という状況だ。

 

しかも組み敷かれながらも血走った眼で45を視界に収め続けるウォーモンガーの姿は、傍から見ても最早異常を通り越して恐怖以外の何物でもない。

 

当然ターゲットにされている45と、もしかしたら自分もターゲットに含まれていたかもしれないシゴからすればその恐怖は察するに余りある。

 

45、シゴ「「ひぃぃいいいいい!!!!」」

 

元々怖がりな節があるシゴは元より、今でこそ残念スメルが漂うものの嘗てはNotFoundの隊長として数多くの裏仕事をこなしてきた45もただただ恐怖に震えるほかなかった。

 

それほどまでにウォーモンガーは異常に過ぎたのだ。

 

ウォーモンガー「うへへへ45・・・こんな世界でも会えるなんてもしかしなくても運命よね? そう、私たちは結ばれる運命にあるのよさぁ今すぐ私たちだけの世界に行きましょうウフフフハハハハハハハ!!!!

 

45「どういう理屈よ!?」

 

シゴ「絶対(45にとって)悲惨な結末にしかならないよ!?」

 

最早軽い怪文書と化しているウォーモンガーの発言に恐怖が更に一段と強くなった。

 

シゴは既に涙目だし、45も軽く白目になりかかっている。

 

・・・ウォーモンガー達の世界の45の貞操は大丈夫なのだろうか・・・?

 

兵士C「おいバカやめろ!」

 

完全に戦慄状態に陥っている二人の状態を見た兵士が一発ウォーモンガーの脳天に拳骨を叩き込みながら叱った。

 

因みにこの時フィアーチェとナインはシゴをガードしていたが、何故か45はさっきふっ飛ばされて撃沈している40以外に誰も身内がガードしてくれていない。

 

兵士D「ここは全年齢向けなんだぞ!」

 

ウォーモンガー「じゃあここから先はR指定よ!!」

 

何やらメタい発言が飛び出したが、ウォーモンガーの暴走もここまでだった。

 

エミーリア、エージェント「「いい加減にしなさいっ!!!!」」

 

保護者二名の助走込みの腰の入った拳骨の直撃を受けてウォーモンガーが吹き飛び、漸く沈黙する。

 

せっかくの打ち上げの場でおっぱじめられたら雰囲気ぶち壊しだし、喰らった側は一生もののトラウマだ。この二人の目が黒いうちはそのような蛮行罷り通らない。

 

保護者二名の鉄拳制裁により無事に脅威が無力化され、45とシゴに漸く安泰が訪れた。

 

シゴ「ふぇ~怖かったよ~。」 

 

フィアーチェ「よしよし、もう大丈夫だよシゴ。」 

 

ナイン「ほら、ケーキ食べて元気出そシゴ姉。」 

 

45「ほ、本気でヤられるかと思ったわ・・・。」 

 

40「大丈夫! その時はアタイがもらってあげるよ!」 

 

45「・・・ていうか、あんたいつからいたのよ?」

 

なお、気を取り直していく中で問題のウォーモンガーはエミーリアとエージェントの二人に説教を受ける羽目になったが・・・。

 

アウレール「・・・ウォーモンガー。」 

 

ウォーモンガー「ヒィ!?」

 

更にウォーモンガーは彼女らのボスであるアウレール(しかももの凄いプレッシャーを放っている)からも説教を受けることになり為すすべなく轟沈することとなった。

 

エミーリアとエージェントの二人の説教の段階で既にそのあたりだけ真冬の様な冷たさだったが、アウレールが説教に参加したことでその冷たさは映画「スノーピアサー」のような「ありとあらゆる生命の生存を許さない極寒」と感じるほどにまで冷え込んでいた。

 

合掌。

 

・・・

 

416「ねぇ、あなたの姉の貞操の危機なのよ? 助けなくてもいいの?」 

 

9「それをいうなら416の上司でもあるよ?」

 

11「ま、結果オーライだからいいんじゃない?・・・食べられた方が面白いけど。」 

 

45「聞こえてるわよ三人とも!?」

 

なお喫茶鉄血世界の404メンバーの残りは45のピンチそっちのけだった・・・。

 

この結果45は適切に仲が良いアスティマート三姉妹に対して羨望と嫉妬を抱いたとか・・・知らんけど。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ケーキを食べたり、持ち込んでいたビデオレター用のビデオカメラで記念撮影をしたりとしていたが、やはり楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去ってしまう。

 

前回同様、持ってきていた時計が「カチリッ」とひときわ大きな音を立てて時を刻んだ。

 

ナイン「シゴ姉、これって。」

 

シゴ「うん、私たちはもう帰る時間みたい。」

 

フィアーチェ「名残惜しいけど、仕方ないね。」

 

そしてみんなに振り返り・・・。

 

三姉妹「「「私たちはもう帰らなきゃいけないみたい。だから皆、今日は本当にありがとう!そして、また逢う日までさようなら!」」」

 

そう別れの挨拶をした後、お土産を持って皆に見送られながら店の出入り口から外に出て、元の世界へと還って行った。

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

数か月後・・・

 

三姉妹の世界のS09地区の郊外。

 

SFSの前身である鉄血工業の貨物輸送部門が分離して生まれた子会社「SFR」が使用している貨物列車の操車場に真新しい重連のディーゼル機関車が納車された。

 

赤地に黄色のラインが入ったマスター車と、赤と黒のツートーンに黄色のラインが入ったスレイブ車。

 

「GE ES64ACi」の型番を持つ機関車のマスター車にはこのようなコールサインが与えられていた。

 

「SFR 777」




最後に登場した「SFR 777」とは:
コラボ中に登場した機関車とは別で、帰還後に任務報酬などで貯めたお金で三姉妹が購入した車両で、書類上はSFRが管理していますが事実上三姉妹の所有物です。
ただのカメオ出演ではなく、今後活躍する予定です。


コラボ中に登場した方の「777号」は?:
あの後どうなったのかは三姉妹は知りません。
元々古い車両だった上に今回の無茶でかなりダメージを負ったので普通に考えれば良くて鉄道博物館送りでしょう。
もしかしたら修復されて現役復帰したかもしれませんが、どうなったのかは各々の想像にお任せします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【30】奇蹟の青薔薇 -Blue Rose-

漸く一夏達の専用機が登場。

ここまで長かった・・・。


アスティマート三姉妹が喫茶鉄血世界で発生した大事件の解決の手伝いをした日から数週間後。

 

ちょうど篠ノ之家の皆が来て数日後、柳韻さんと静流さんは帰るのだが箒はIS学園への進学もあるためここに残ることになった。

 

静流「それじゃあ私達は帰るけど、元気でやりなさいよ。」

 

箒「はい!」

 

柳韻「君たちの行き先にはまだ数多くの苦難が待ち受けているだろうが、君たちにツキガミの加護がありますようにと私達も願っておるぞ。」

 

束「・・・はい!」

 

・・・

 

二人が秋姉さんが操縦するヘリで帰っていく中、ルウさんが箒に質問をした。

 

ルウ「一つ気になったのだけれど、「ツキガミの加護」とは何の事を言っているの?」

 

箒「ああ、あれは我が家に代々伝わる「ツキガミ神楽」と関係があるんだ。年に一度、丸丸一晩の間決められた順番で演舞を舞い続けることで一年間の「家内安全」と「厄除け」を祈願する祭事の舞。因みに2年前は私が舞ったんだ。・・・去年はちょっとそういう気分じゃなかったから父さんが舞ったけど。」

 

ルウ「丸丸一晩・・・凄いな・・・。」

 

箒「先祖代々続いている伝統の儀式みたいなものなのよ。ただ、演舞の説明が書かれている本がかなり傷んでいて、正しく伝わっていないところがあるかもしれないのよね。」

 

ルウ「まぁ、古いものだろうから致し方ないだろうけどね。」

 

束「私も見たことあるけど、かなり酷かったのよね。ボロボロで、いくつかの部分は判別不能になってたよ・・・。」

 

ルウ「・・・機会があったら見てみたいものだけどね。まぁ、新型ISの設計が完了したから今はそっちの方が先か。」

 

束「試作機は既に作ってあるから色々と意見を聞かせてね。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

一夏「これが、俺達用のIS・・・。」

 

俺達の前に佇んでいるISはまだ塗装もされていない地金丸出しの金属色だ。

 

その姿は見たところ意外と普通なデザインで、両肩から更に一対の機械のサブアームを備えている以外は既存のISと大きな違いは無さそうに見える。

 

ルウ「最初は色々と武装を取り付けようと思ったけど、流石にそれだと整備性が犠牲になると考え直したのよ。」

 

束「で、その結果基本フレームは共通にして、武装をハードポイントに選択制で装備する方向になったのよ。」

 

武装表に目をやると、固定式の武装はいずれも比較的バランス重視のモノだった。

 

まず連結可能なビームサーベル「WR-B05S/T 出力可変型ビームサーベル」が二本にそれをマウントした折り畳み式のレールガン「WR-S01LG 超高初速電磁加速砲」が腰部に取り付けられている。

 

また、サブアームには5.56㎜NATO弾を採用した機関砲「WR-S03MG 5.56㎜機関砲」が外付けされ、更に手首から射出される「WR-A01 ワイヤーアンカー」も1本ずつ内蔵されている。

 

シールドとして「WR-26SEビームキャリーシールド」がサブアーム左腕にマウントされ、そのシールドには発想次第で色々な使い方ができる「WR-A05 アンカーランチャー」とビームソードとしても使える「WR-B04BT 大型ビームブーメラン」も取り付けられている。

 

そして手持ちの射撃武器としては連結機能を持つ「WR-B21LF ビームライフル」二丁が設定されているが、別の武装に変えることも可能となっている。

 

既存のISと比べるとこれだけでもやや重武装と言えるが、肩アーマーや脚部にハードポイントが複数存在し、腰部には飛行用の翼を選択式で装備可能となっている他、ストライカーパックの存在もある。

 

そのストライカーパックを見てみるとその一つにまた驚いた。

 

それは遠隔攻撃端末である「WR-XB01BT イージス装備内蔵式フィンファング」を6基マウントしたストライカーパック「WR-SP01 フィンファングストライカー」となっていた。

 

後で知ったBT兵器というものと似ているが、説明を読むとドラグーン・システム(Disconnected Rapid Armament Group Overlook Operation Network・system:分離式統合制御高速機動兵装群ネットワーク・システム)という全く別のシステムらしい。

 

詳しくはわからないが、ドラグーン・システムは本来運用に適性が必要だが、これは度重なる改良によってコンピュータにサポートさせることで扱いやすくし、更にコンピュータを間に挟むことで脳波制御などといった直感的な操作をする兵器にありがちな暴走や異常反応を防止することに成功したらしい。

 

束「機体名は「WR-ISX01 ブルーローズ」にしようと思うんだ。」

 

ブルーローズ・・・-青薔薇-は奇蹟という花言葉を持つという。恐らく俺の事を指しているのかもしれない。なんとも感慨深い事だ。

 

アン「そういえば、これって元々はルウさんが自分用に作ったって言ってたわよね?でもブルーローズはあの設計図と比べるとかなり簡略化されてるけど?」

 

確かに、元々サイドスカートは大型の折り畳み式可変翼を取り付ける予定だったはずだが、これはレールガンが取り付けられていてそこに更に飛行用の翼を外付けする形になっている。

 

動力に関してもシンプルにフォトンドライブ1基にイオンパワーセル2個となっている。

 

ルウ「ああ、あれね。試作段階で運用にかなりの技量を要求することが判明したからブルーローズへの搭載は取り下げたのよ。一応私用のISに取り付けてはいるけど、そっちはまだ未完成だし、今はブルーローズを完成させるのを優先させようと思ってね。」

 

どうやら扱いが難しすぎてオミットされたらしい。確かに腕が4本もあるのに更に複雑な機能を持った可変翼まで付いたらかなり厳しいだろう。

 

あれ?今ルウさんは「私用は未完成」「ブルーローズの完成を優先」と言っていたけど、なにか引っかかる言い回しだな?

 

ルウ「まぁ、とりあえずどんな武装が欲しいか決めないとね。PDAにひとしきりデータを送っておいたから各々データ上でカスタマイズしてみて。」

 

まぁ今はこっちに注力するべきだろう。

 

そう思って俺たちはPDAを開き、データに目を通す。

 

画面に起動状態の素体のブルーローズが映し出され、表示されているハードポイントをタップすると取り付け可能なアタッチメントパーツが表示された。

 

シュトゥルム・ファウスト、対IS用滑空砲、4連装マイクロミサイルポッド、シールドビットにIS用の太刀等々・・・。

 

補助スラスターやプロペラントタンク、フォトンフィールド発生装置等機体性能を強化するものまで様々だ。

 

ストライカーパックも複数種類存在するが、デフォルトではフィンファングストライカーが指定されている。

 

・・・

 

・・・・・・

 

一夏「中遠距離用にミサイルポッドが欲しいし・・・後はシールドビットを・・・数は2セット4基でいいか・・・。ああ、ミサイルポッドに小さいアーマーブースターを更に外付けして重量増加の影響を減らしつつミサイルポッドを守る追加装甲としても機能させるか。」

 

しばらく悩んだのちにある程度の設計が完了した。

 

近中遠距離全てにそつなく対応できるバランス型だが、サイドスカートに外付けした可変翼による巡行形態への簡易変形が可能という高速戦闘型でもある。

 

因みに手持ち武装にはプリセットのビームライフル2丁以外にあちらの世界でもらったレーザーガンポッドと靖国刀「重桜」を設定することにした。

 

アン「・・・滑空砲をつけて・・・と。」

 

周りを見渡すとアンは相変わらずの火力優先の様だ。一方の鈴はというと・・・。

 

鈴「う~ん・・・もっと大出力のスラスター無いのかなぁ・・・。」

 

機動力を優先させたいようだが、その要求を満足させてくれるようなものが無いようだ・・・。

 

マドカと箒の様子も見てみたが・・・。

 

マドカ「もっとたくさんビットつけてみようかな・・・。」

 

箒「う~ん・・・刀だらけになってしまった・・・。」

 

・・・二人とも相当極端な機体になりそうだった・・・。

 

箒が格闘武器に傾倒しそうなのは薄々解っていたが、マドカがドラグーンに傾倒するとは少々想定外だった。後で束さんに聞いてみたところ、実はマドカはドラグーンへの適応が非常に高いらしい。

 

しかし、こうしてみてみると案外バランスが取れているように思えた。

 

鈴と箒が切り込み、マドカが大量のドラグーンでかき乱す。俺とアンは状況に応じて距離を調整しつつ柔軟に動きつつ、隙を見せた敵に一撃を叩き込む。

 

中々理想的な編成と言えるかもしれない。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ほどなく他の4人の設計も完了し、皆で束さんに提出した。

 

束「え・・・もしかしてこれを作らせる気なのかな・・・?」

 

ルウ「箒さんとマドカさんのは純粋に武装の数が多いし、鈴さんのはバックパックに注文がついているか・・・。そういえば、鈴さんと箒さんのはドラグーンを一切使っていないタイプか・・・。」

 

ルウさんは暫し考えたのち、束さんと何やら話し始めた。

 

ルウ「この二機は___装置を降ろして___?」

 

束「___。使わないもの載せてても___。」

 

ルウ「じゃあ少し___も作るかな?」

 

束「そうしよっか。」

 

ルウ「鈴さんのスト___は、こっちで___えておくから。」

 

束「あの___は?」

 

ルウ「___足りないみたい。」

 

束「同じの___にしてみたら?」

 

ルウ「それ良いかもしれない。」

 

聞き取れない部分もあったが、どうするべきかアイデアを出し合っているのだろう。

 

俺たちは自分のISがどのように完成するのかに思いをはせた。

 

 

 

・・・そのころとある道場では・・・

 

 

 

???「さて、今日の稽古はここまでじゃ。獪岳、冴姫、善逸、少し休んだら夕餉にしよう。」

 

獪岳「俺がやるよジジイ。義足の調子悪いんだから無理すんなって。」

 

善逸「俺も手伝うよ。」

 

冴姫「じゃあ、私先にお風呂入って来るね。」

 

獪岳「おう。タイマーセットしておいたからそろそろ沸いていると思うぜ。」

 

・・・

 

善逸「しかしまぁ、今更だけどなんていう因果だよ・・・。」

 

獪岳「・・・何がだ?」

 

善逸「生まれ変わったと思ったら獪岳がじいちゃんの孫になってるし、しかも妹迄いるなんて・・・。」

 

獪岳「俺だって冴姫の事に関してはよくわからねえんだよ。前世の俺に妹なんかいなかったし。大体、他に生きる道が無かったとはいえ、ジジイを切腹に追い込んだ俺がそのジジイの孫になってるなんて我ながら笑える冗談だぜ。」

 

善逸「そんなこと言わないでよアニキ・・・にしても、鬼はもういないはずなのになんでったってこんな嫌な時代になっちゃったんだろうなぁ・・・。」

 

獪岳「・・・全くだ。女性利権団体だったか?あいつらのテロのせいで俺らもお前も両親を亡くし、ジジイも片足を失う羽目になった。・・・俺が死ぬんだったらまだ解るけどよ・・・。」

 

善逸「ア”ーーーーー!!!(汚い高音)やだやだやだ!!そんなこと言わないでよ獪岳ぅ!!!(スパンッ!!)イテッ!?」

 

獪岳「いきなり耳元で汚ねぇ高音で叫ぶんじゃねぇ!びっくりするだろうが!」

 

慈悟郎『なんじゃ?今の大声は?』

 

獪岳「何でもねぇよジジイ!また善逸の発作だよ!」

 

善逸「酷い!?」

 

獪岳「事実だろ?大体、俺だってむざむざ死んでやるつもりはねぇよ・・・。・・・なぁ、話変わるけどよ、冴姫の戦い方どう思うよ?」

 

善逸「・・・よくは解らないけど・・・なんというか、危うい感じがするんだよな・・・。それにいつも何か怖い音がするんだよな・・・特に・・・。」

 

獪岳「『女性利権団体の話題が出るとやたらと「怖い音」とやらが出る』・・・だろ?」

 

善逸「・・・うん。」

 

獪岳「あいつああ見えて結構堪えてるんだよ・・・俺でもあの団体に復讐してやりたい気はあるさ。だが、冴姫は多分俺以上にあの団体を憎んでいると思うぜ。」

 

善逸「・・・俺だって凄く憎いさ。『どうしてなんだ!?俺たちの両親が何をしたんだ!?そもそもなんで関係ない人たちを巻き込んだんだ!?』って。」

 

獪岳「・・・あいつ、キメツ学園高等部に進むってよ。ISの適正もあったらしいが、それを蹴ってキメツ学園に残るつもりらしい。」

 

善逸「・・・なんで?獪岳と離れたくないから?」

 

獪岳「多分、ISに対して忌避感があるんだろうよ。ISそのものに罪は無いだろうが、あの団体がのさばり始めたのはISが発明されて直ぐだ。まだ割り切り切れてねぇんだろうよ。」

 

善逸「俺もな・・・最初の頃は八つ当たりと解っていてなお発明者の篠ノ之博士の事を恨みもしたよ。でも、その篠ノ之博士が一番悔しい思いをしていたと知ったら、なぁ・・・。」

 

獪岳「ああ、ジジイが篠ノ之博士の親父の知り合いだったからそこから聞かされた話じゃ、自分の発明のせいで世界がおかしくなっちまったってずっと苦しんでいたんだってな・・・自分を偽らなきゃ耐えられない程に・・・。」

 

善逸「あーあ。本当にどうしてこんなことになっちゃったんだろうな・・・。」

 

獪岳「・・・全くだ・・・。」




WR-ISX01 ブルーローズ:

青色をメインカラーにした次世代型ISです。
デザインとしては武装神姫のアルトレーネ系のアーマーユニットを参考にしています。
余談ながら、ISの武装等はゲーム「ガンダムブレイカー3」を活用して考えています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-02-1】想定外のトラブル -Warp Gate-

いきなりですが「また」なんです。

続けざまに大規模コラボ第二弾です。

今回は導入部分なので普段よりはかなり短めです。

今回は試作強化型アサルト氏の「危険指定存在徘徊中」を中心とした大規模コラボです。


これは偶発的なトラブルがきっかけで参加することとなったとある調査の記録。

 

決してこの世界では起こり得ない出来事。

 

これはかの世界に残された数少ない美しい海で繰り広げられた調査任務(珍道中)の、ほんのひとかけら。

 

 

 

【調査ミッション:蒼海に現れし孤島 -Unknown Island-】プロローグ

 

・・・

 

・・・・・・

 

ホワイトラビット・カンパニーが始動する5日前のこの日、SFSの裏手の倉庫の中では何人かのメンバーが惑星クレイドルへ繋がるエイリアンワープゲートを作り上げていた。

 

理由はホワイトラビット・カンパニーが販売する予定の量産IS「ラベンダー」の本格量産のために必要な材料として、惑星クレイドルにある潤沢な資源が必要となったからだ。

 

既に初期販売用の30機は完成しており、当面の資源の目途は立っているが、この先ラベンダーの本格量産も含めて大量の資源が必要になる為、あらかじめ確保できるようにしておきたいと頼まれたのだ。

 

その為、ゲートの事をよく知っているガイア・ティアマートが自らゲートを作り上げているのだ。

 

アーキテクト「にしても、本当に凄いねぇ。こんな見た目で遠く離れた二つのゲートを繋げることが出来るなんて・・・。」

 

ゲーガー「全くだ・・・。これを開発した異星人たちからすれば、我々なんてまだまだ赤子なのかもしれないな。」

 

ガイア「でも、そんな異星人たちですら「カラー」という感染症には手も足も出なかったんだよね・・・。元々は研究所で管理されていたみたいだけど、事故で漏洩してしまったんだって。」

 

ゲーガー「本当に恐ろしいものだな・・・。」

 

他愛ない雑談混じりにワープゲートを組み上げ、稼働できる状態にした。

 

シイム「あー疲れたわ・・・。」

 

ティア「流石にISを使った実戦訓練はきついね・・・。」

 

ウロボロス「やはり戦術人形用に調整されたISでも初めてではきついだろうな。」

 

そう言いながら倉庫の中に404特務小隊のメンバーとウロボロスが入ってきた。

 

一般の戦術人形用に改良された新型ISのテスト兼運用訓練をしていたのだが、やはり初めてでは厳しいようだ。

 

シゴ「この前の喫茶鉄血世界で使わせてもらった「演算補強」を参考にISコア側に烙印を結んで、運用する時に人形側のコアと連動させて運用可能にするというアイデアだけど、まだまだ改良が必要かなぁ?」

 

フィアーチェ「アタイ達でも長時間の演算補強はきつかったからね・・・。」

 

ナイン「IS側にそのためのメモリモジュールを追加したらどうかな?」

 

サクヤ「その方がいいかもしれないね。」

 

ウロボロスは自腹で購入したラファール・リヴァイヴを使っているが、これは訓練所で使うためのもので現在専用機が別に設計されている。

 

そして、404特務小隊のメンバーは皆新型のISを使っている。

 

三姉妹は「トリファリオン」というあの777号をモチーフにした重装甲パワー型のISを専用機として作ってもらっている。

 

またシイムは「ラルゴバニス」、ティアは「レングストン」というどちらも強襲型の試作ISを装備していた。

 

ただ、いずれもまだまだ調整中で機能の大部分に制限がかかっている。

 

因みに、今回三姉妹はIS運用のために作戦用のノーマルスキンの姿だ。

 

サクヤ「そうだ、お茶と昼食をとってくるね。」

 

ガイア「うん、お願いするね。・・・さてと。」

 

サクヤが倉庫から退出したタイミングでガイアはワープゲートの電源を入れた。

 

だが、この時宇宙のどこかで至極はた迷惑な異常事態が発生していた。

 

色々端折って端的に言うと、「法則と法則が子づくりをした」のだ。

 

無論、地球から遠く離れた場所で起きた事なので地球の法則に影響を及ぼすことは無い。

 

だが、この時啓蒙が高過ぎた為か一瞬だが宇宙の法則が乱れてしまった。

 

そして、その乱れはよりにもよって起動したワープゲートにおかしな影響を与えてしまった。

 

本来であれば緑色のワープゲートが開くはずが、青白い穴の様なワームホールが開いてしまったのだ。

 

ガイア「・・・あれ?」

 

ガイア以外の一同「「「「「「「「・・・え?」」」」」」」」

 

ワームホールが強い光を放った次の瞬間には倉庫に居たはずの9人の姿が消えていた・・・。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ガイア「・・・ええ?」

 

光が収まったと思ったら何故かあたりは夜になっており、そこがどこかの甲板の上だという事だけしか解らなかった。

 

そして・・・。

 

万能者「・・・・・・なにこの状況は?」

 

三姉妹「「「あ、万能者さん!」」」

 

眼前には三姉妹がつい最近喫茶鉄血世界で発生した大事件収拾の際に共闘した万能者。

 

更に・・・。

 

ウロボロス「ん?儂がもう一人おる?」

 

アーキテクト「イントゥルーダーにスケアクロウもいるね?」

 

ゲーガー「でも私たちとは所属が違うようだが・・・って、なんか妙に張りつめた雰囲気がするんだけど?」

 

ティア「・・・猛烈に眠りたくなってきた・・・。」

 

シイム「奇遇ねティア、私もよ・・・。」

 

地味に修羅場(ちょい違う)な面々もすぐそばに居た。




今回の大規模コラボの参加者


試作強化型アサルト氏(主催)の『危険指定存在徘徊中』より「万能者」とAR小隊

無名の狩人氏の『サイボーグ傭兵の人形戦線渡り(前回の大規模コラボよりも過去の時間軸より参戦)』より
グリフィン側:
「アデリナ=シュレンドルフ」、「カラビーナ(Kar98k)」、「ステンMKⅡ(レイヴンのスパイ)」、「AK47(普通の同伴者)」
レイヴン側:
「アウレール=シュレンドルフ」、「マルタ=マクシモフ」、「ウルボロス」、「イントゥールーダー」、「スケアクロウ」

NTK氏の『人形達を守るモノ』より「バレット」、「スミス」、「レスト」、「ウェイター」、「リバイバー」、「リヴァイル」と+α

oldsnake氏の『破壊の嵐を巻き起こせ!』より「ソホォス」とEA小隊

ガンアーク弐式氏の『MALE DOLLS外伝集』より
S07前線基地:
調査派遣組(兼有給取得組)とアラマキ爺ちゃん
「オサム・アラマキ」、「M16A4(武器庫改を所持)」、「リー(Mk16、服装は女装モード)」、「G36C」
S07情報支援基地:
「ペンギン型人形:ワカ(戦闘兼作業用ユニット及び水陸両用装備)」、「SG550」

私の『閃空の戦天使と鉄血の闊歩者と三位一体の守護者』より「ガイア・ティアマート」、「ウロボロス」、「ゲーガー」、「アーキテクト」と404特務小隊(三姉妹はノーマルスキン)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-02-2】万能者世界の洗礼 -SHARK HAZARD-

前回やや短かった分、今回は長めになりました。

しかし、万能者世界は生態系が色々と異常だ・・・。


-海上プラント 格納庫-

 

どうやらここは別の世界の海上プラントだったらしい。

 

話の整理のために一行はプラントの一角にある格納庫に集まったのだが、何故かもう一人のウロボロスがシゴに妙な視線を向け続けており、シゴは完全に怯え切っていた。

 

・・・原作を見ればわかるが、原作ではウロボロスはUMP45によって撃破されている。

 

だが、ガイア達の世界ではウロボロスとシゴの関係は姉妹、つまり家族だ。

 

その為にシゴは別の世界とはいえ、ウロボロスからそのような視線を向けられる理由が全く理解できないのだ。

 

結果、シゴは完全に蛇に睨まれた蛙状態となっていた・・・。

 

【視点:ガイア】

 

万能者「よし、一回整理しよう・・・というかさせてくれ、割とマジで。」

 

表情は解らないが、万能者さんは見るからに精神的に疲れているように見えた。

 

無理もない。

 

目的地に到着したと思ったら、居るはずがない別世界の団体が二つも居たら私だって頭を抱える。

 

万能者「まずレイヴンだっけ?その組織の関係者からだ、アンタ等はグリフィンと戦闘中にその戦場が正体不明の霧に包まれて気づいたらここにいたってことなんだよな?」

 

アウレール「ああ、その通りだ。」

 

万能者「そんでそこのグリフィンの指揮官とその部下がその戦闘での敵対対象ってことだな?」

 

アデリナ「ええ、その通りよ。」

 

万能者「・・・・・・これまためんどくさい方々が現れたもんだなオイ。」

 

アウレールさんに関してはシゴ達から話を聞いていた。

 

ただ、フィアーチェ曰く「前に見た時よりも若く見える。」とのことだ。

 

もしかしたら、時間軸が違うのかもしれない。

 

・・・しかし。

 

ガイア「・・・夫婦が敵対関係になるなんてどんだけなのよ・・・。」

 

私は小さくぼやいた。

 

・・・

 

もし仮に読心能力を持つルウがこの場にいたなら「お互いもうちょっと素直になればいいのに・・・。」と思っただろう。

 

二人は別に憎み合っているわけでは無い。ただ、互いの立場もあっていがみ合っているだけだ。

 

というか、お互い意固地になっているだけであり、膝を突き合わせて腹を割って話し合えば和解することもできただろう。

 

尤も、元の原因が何であれ敵対関係となってしまっている以上、最早それも難しいだろう。

 

組織のボスであるアウレールも、組織に属しているアデリナも、方向性に違いはあれど自分の都合を優先するわけにはいかない。

 

最早「二人がどうこうすればどうにかなる」という範疇から完全に逸脱しているのだ。

 

・・・閑話休題。

 

万能者「次はSFSだっけか?アンタ等はとある仕事のために異星人のワープゲートを使ったら、なんか白い光がピカって光って気づいたらここにいたって感じか。」

 

ガイア「大雑把にいったらそんな感じだね。」

 

万能者「・・・・・・分かったありがとう・・・ちょっと考えさせてくれ。」

 

そういって万能者さんは考え込み始めたのだが・・・。

 

アウレール「またやるか?」

 

アデリナ「ええいいわよ?」

 

ステンMk.Ⅱ「や、やめてください!?こんなところでまた喧嘩なんて!?」

 

シゴ「な、なんかそっちのウロボロスの目が怖いんだけど・・・というかなんでこっち見ているの?」

 

また喧嘩を始めようとするシュレンドルフ夫妻をアデリナさんの部下(実はアウレール側のスパイ)のステンMk.Ⅱさんが宥めようとする。

 

加えてまだ妙な視線をシゴに向け続けているレイヴン側のウロボロスさんに対してシゴはずっと怯えっぱなし。

 

お世辞にも落ち着いて考えられるような環境ではなかった。

 

ガイア「えっと、お二人ともちょっと静かに出来ますか?万能者さんの邪魔に成るので・・・。そちらのウロボロスさんもシゴが怯えるので視線送るのは止めてもらえると・・・。」

 

が、トドメの一撃は想定外の方向から飛んできた。

 

リヴァイル「そんなことより嬢ちゃん達のその『IS』っていうパワードスーツを見せてくれ!!」

 

404特務小隊メンバー「「「「「へ、変態だぁーーー!!!」」」」」

 

ガイア「声が大きい・・・!」

 

ブチィッ!

 

明らかに聞こえてはならない音を聞いた私たちは万能者さんの方を向き直った。

 

私は嫌な予感がしたが、万能者さんがもの凄い怒気を纏っているのを見るや否や卒倒しそうになった。

 

リヴァイルさんの変態染みた発言によって遂に万能者さんがガチギレしたのだ。

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

万能者「すまん、この現象の原因は今は分からん・・・時間が経てば戻れるやつかもしれんし、何かしらのことをやらないと戻れないやつかもしれん・・・・・・そこで提案があるが、俺らと同行する形でいいか?ここの海上プラントは今、補給が入ったとはいえ結構疲弊している状態だ・・・・・・そんな状態で修羅場バリバリ作りまくるアンタらがここにいたらここの人が休めるものも休めないってことだ・・・いいよな?

 

最後の「いいよな?」部分の凄みと、万能者さんによる制裁によってぼろ雑巾同然の見るも無惨な状態と化したリヴァイルさんの有様に、私たちは直立不動姿勢で首を縦に振った。

 

シュレンドルフ夫妻も完全にあっけにとられたらしく、「あ、ああ。」や「は、はい。」と返すだけだった。

 

・・・

 

・・・・・・

 

海上プラントを出発して一日たったこの日・・・。

 

【BGM:「ブラッドボーンの醜い獣、ルドウイーク戦」より「Ludwig The Accursed & Holy Blade(前半部分)」】

 

SFSメンバー『OH!!ジーラフ!!!!』

 

眼前のあり得ない現実に私たちは汚い絶叫を上げた。

 

万能者「覚悟はしてた・・・うん、覚悟はしてたんだ・・・何かしらありえんことが起こるんだろうなぁ・・・って・・・・・・だからってなんじゃこりゃーーーー!!!??

 

万能者さんも絶叫していた。

 

私たちの乗る船は現在サメに包囲され、攻撃を受けている真っ最中だった。

 

その問題のサメの総数、「多数」

 

最早数えるのも嫌になるほどの異常な数のサメの大群だ。

 

アウレール「・・・びっくりした。最近のサメは船に直接乗り込んで来るのか。」 

 

一同『そんな訳あるか!!!』

 

こんなのが船めがけて飛びかかってくるのだから溜まったものではない。

 

しかも、こいつらはただ多くて飛びかかってくるだけではなかった。

 

シイム「嘘でしょ!?銃弾が小さいのにしか通らないんだけど!?」

 

ナイン「なら・・・フォトン・バーストスナイプ!!」

 

ガキィン!!

 

ナイン「・・・うそでしょ!?火力に全振りしたのに!?」

 

アサルトライフルの銃弾は小型のサメにしか通じず、ヴィーラ追跡時に使ったのと同様にISから供給されるエネルギーを使って放たれたナインの一撃はさも当然の如く弾かれてしまった。

 

他の面々も迎撃をしているが、全体的に攻撃が通りにくい。

 

加えてサブマシンガンの銃弾に至っては小型のサメにすら効果が無い。

 

必然、三姉妹は大苦戦を強いられた。

 

シゴはまだ対装甲ダガーナイフの「リジル」を使った格闘戦があるが、フィアーチェの「アスラウグ・ガンビット」は銃弾がUMP40と共通なので普通に撃っても効果は無く、ナインのスナイパーレーザーライフルも何故か通じない。

 

結果、二人は比較的防御が薄い口内や目等の粘膜部分めがけて攻撃するという難しい戦い方を強いられた。

 

三姉妹のIS「トリファリオン」はまだ調整中で飛行出来ないため、飛びかかってきたところにカウンターを決め、衝突される前に殴り逸らすしかない。

 

ゲーガー「こいつらどれだけいるんだ!?」

 

アーキテクト「迎撃追い付かないよ!?」

 

アーキテクトのロケット弾はそれなりに効いているが連射性能は高くないし、ゲーガーのライフルソードはビームソードモードでないとダメージを奪えなかった。

 

一方・・・。

 

ウロボロス「やはり硬いな・・・!マシンガンでも効果が薄いか・・・!」

 

シイム「これじゃあこっちがすりつぶされちゃうわよ!?」

 

ティア「破滅の黎明を打ち鳴らせ・・・!インパルス・グラム!!・・・一匹しか貫通しない!?」

 

自由飛行能力を持つ「ラファール・リヴァイヴ」、「ラルゴバニス」、「レングストン」を纏ったウロボロス、シイム、ティアもサメの猛攻の前にあまり船から離れられず、防戦に徹するほかない。

 

一番貫通力があるティアの必殺技「インパルス・グラム(拳で大型レーザーブレードの「グラム」を撃ち出して敵を貫く)」を以ってしてもサメ一匹を貫通させるだけで精いっぱいという有様だ。

 

ガイア「この!!」

 

グシャッ!!

 

サメ「ギャオオ!!」

 

私はと言えば、即席で組み上げたヘビーアーマーブロックで飛びかかってきたサメをぶん殴るという超原始的なスタイルだった。

 

元々予定外だったので手持ちのマテリアルが少なく、サメに有効打を与えられる武装が作れないために已む無く物理で殴り倒すしかなかったのだ。

 

アウレール「どうやら不測の事態の様だな・・・サメは確か食えるよな?」

 

アデリナ「貴方ね・・・まぁ、フカヒレと美味しいわよね。またエミーリアと食べに行こ。」 

 

アウレール「・・・少し羨ましいな。」 

 

アデリナ「本当はかなりでしょ?」

 

ガイア「余裕ですねお二人とも!!」

 

この非常事態時にどこかズレた反応をしている二人に私は思わず叫んだ。

 

一方船員の方も別の意味で叫んでいた。

 

船員A「オイ、あのサメ今弾かなかったか?艦砲とレーザーを弾かなかったか今!?ガチでどうなってんだ!!」

 

船員B「おまけにレールガンもな!!っていうかあれ姿がどう見ても鮫の様には見えないのだが!?骨みたいな鎧を纏ってる感じなんだが!?」

 

一際巨大なボスザメが最早別格としか言いようがない防御スペックを発揮してみせたのだ。

 

艦砲が実弾、光学問わず無効化されているのだ。

 

骨みたいな鎧を纏っているという船員の例えは言い得て妙だが、私が知る硬いサメは惑星クレイドルの「ボーンシャーク」だけだ。しかもここまで硬くない。

 

船員A「というかめちゃくちゃ速っ!?何を食ったらあんな感じになるんだよ!?」

 

船員B「・・・なんかこのサメ共、群れでの連携が明らかにうますぎないか?おかしくないか!?」

 

明らかに自然の進化にしては不自然すぎるオーバースペックなサメの大群。

 

と、そこへ・・・。

 

リヴァイル「簡単な話だ。この手のサメはだいたいガスボンベや研究成果横取りしようとした傭兵とかに爆弾括り付けたのを食わせて中から爆破すれば呆気なく散るもんだ。だが生憎ここにはガスボンベはなかった。故に残るは後者だが、捕まえた海賊使うのも悪くないが、ちょうどここに替えの効く奴がいる・・・つまり、私自身が餌となることだッッ!!

 

昨日万能者さんの鉄拳制裁によってボッロボロになったリヴァイルさんがそのボロボロボディに何やら色々と巻き付けた姿で何気にぶっ飛んだ事を言い出した。

 

要は彼、自ら自爆特攻しようというのだ。

 

アーキテクト「・・・正気?」

 

ゲーガー「・・・奴の目を見ろ・・・シラフでマジでやる気だ・・・。」

 

アーキテクト「OH・・・ジーラフ・・・。」

 

ガイア「あ、まるで「因幡の白兎」みたいにあのサメの群れを踏み台にしている・・・。」

 

リヴァイル「オラそこのボス鮫ェ!!こんなボロっちい人間相手に逃げるなんて情けねぇ事しないだろぉ?さぁ・・・Eat Meeeee!!

 

ガイア「・・・巨大ザメ相手に「私を食べてぇ~!!」って叫びながら飛びかかるなんて・・・絵面だけ見ると異常だよね・・・。ぬしへの輿入れじゃあるまいし・・・。」

 

パクッ!

 

・・・

 

チュドーン!!!

 

ガイア「・・・やっちゃったよ・・・。」

 

アーキテクト、ゲーガー「「ええ・・・。」」(茫然)

 

リヴァイル(新ボディ)「オッシェェェイ!!みたかこのヤロー!!」

 

ガイア、アーキテクト、ゲーガー「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」」」(エネル顔)

 

即座に予備のボディに乗り換えて何事もなかったかのように出てくるリヴァイルさんに私たちは思わず驚愕の叫びをあげた。

 

だが、ボスザメもこの程度で終わるような存在ではなかったようだ・・・。

 

メキメキッ!!グチャァ!!

 

なんと、リヴァイルさんの自爆特攻で消し飛んだはずのボスザメの頭部が再生したのだ。

 

流石に鎧までは再生しなかったようだが、それでも完全に生物の常識から著しく逸脱している。

 

SFSメンバー『シィィィィィスッ!!!!』

 

思わず私たちは、間違いなく関係ないであろう某マッドサイエンティストドラゴンに対して八つ当たりの叫びをあげていた。

 

だが・・・。

 

マルタ「隊長!RPG-7を持ってきました!」

 

一同『んな馬鹿な!!?』

 

マルタさんがバレットM82A1とRPG-7とそれの予備弾を片手持ちで持ってきたのだが、その姿に皆が驚愕した。

 

何故皆が驚愕したのかというと、持ってきた銃器の重量だ。

 

M82A1は約13Kg、RPG-7でも予備弾抜きで約7Kgある。どちらも片手持ちするにはキツイ重量だし、RPG-7の予備弾まで含めるとその重量は女性が一人で持ち切れるとは到底思えない。

 

アウレール「よし。マルタはそいつで彼処で何か再生して暴れている骨のサメを殺れ。仕留めきれなくても良い。まともに動けなくしてやれ。ウロボロス、イントゥールーダー、スケアクロウ。群れを一掃しろ。アサルトやサブの通りきらないサメだがお前達の火力なら潰せる。アデリナ。お前の人形も動けるか?」 

 

アデリナ「こんな事態は始めてだけど何時でも。カラビーナは狙撃でマルタを援護。あのデカブツを牽制して狙い撃ちしてる味方に誘導。AK47はサメがマルタとカラビーナに近づきそうになったら撃ち落として。ステンは貴方の銃じゃ火力が足りないけど手持ちの手榴弾で集まったら吹き飛ばして。」

 

そのまま流れるように展開し、サメ軍団に対しての殺戮劇場を開演させる二人の部隊。

 

ウロボロス「これが実戦に鍛え上げられた軍人の力なのか・・・。」

 

シゴ「・・・でもさ。」

 

フィアーチェ「流れ弾が・・・。」

 

ナイン「味方の船がFFで沈みそう・・・。」

 

手当たり次第に撃ちまくっている影響かちょくちょく流れ弾が味方の船の方に飛んで行ってしまっている。

 

ガイア「ま、まぁ最悪轟沈さえしなければ私が修理するから・・・。」

 

冷や汗を流しながら私たちも襲い掛かってくるサメの群れを撃破していく。

 

戦闘の影響で海がサメの鮮血で朱に染まっていくなか、島にたどり着く前から私たちはこの任務が只では済まないという事を身を以って思い知ることとなった・・・。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-02-3】海上・海中調査【襲来】 -Chaos Sea-

【視点:ガイア】

 

結局、全力迎撃でサメの大群は何とか殲滅できた。

 

終盤には船を揺らして狙いをつけさせないというからめ手迄繰り出してきて苦労したが、最終的にサメの大群は殲滅、ボスザメも万能者さんが何かしらの秘密兵器で撃破した。

 

が、調査任務に関してはまだ庭先レベルの段階であり、この時点でこんな強敵と衝突するとは完全に想定外である。

 

サブノーティカで例えるなら開始後数分、まだ装備も殆ど整っていない状況でいきなり「リーパーリヴァイアサン」に強襲されるようなものだ。

 

・・・

 

そして、戦闘終了後も相変わらずレイヴンのウロボロスさんがずっとシゴをジーっと見続けていた。

 

見かねたマルタさんが仲裁をした。

 

マルタ「ウロボロス。気持ちは分かるけどシゴが怯えちゃってるよ。ほら!スマイルスマイル!」 

 

ウロボロス(レイヴン)「マルタ殿・・・私は幼稚園児か何かか?」

 

マルタ「いやいや!只、何だか収拾がつかないし可愛そうだし。」

 

レイヴンのウロボロスさんが興味を失ったかのように離れていった後、マルタさんは今度はシゴに話しかけた。

 

マルタ「ごめんね。ウロボロスはちょっと此方の45と仲が悪くて。」 

 

シゴ「そ、そうなの?」

 

マルタ「うん。ある作戦で敵として対峙してコテンパンにやられちゃったのよ。ウロボロスは隊長・・・あ、隊長はアウレールさんの事ね。隊長の愛弟子として期待に答えられなかったのと此方の45も隊長の元の弟子って事で会えば何かと弟子としてどちらが上都かで勝負してるのよ。まぁ、45本人は鬱陶しいそうにしてるけどね・・・。」

 

この間のウォーモンガーの件も含めて、「アウレールさんたちの世界の45はかなり貧乏くじを引いているんだなぁ・・・。」という同情と、「自分もそれに巻き込まれるんじゃないか?」という不安の両方がシゴの中に生まれた。

 

マルタ「そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫。ウロボロスは貴方を暫く観察して「こんな気弱で泣き虫なのは45じゃない!」って言ってたから多分、無理矢理に挑戦状なんて叩きつけないよ。やろうとしても隊長が止めると思うし。」

 

シゴ「よ、良かった・・・でも何だか悪く言われた様な気がするけど・・・。」

 

シゴの不安を察したのかマルタさんはすかさずフォローを入れるが、その中で出てきたレイヴンのウロボロスさんの発言に対してシゴは少々むくれた。

 

レイヴンのウロボロスさんが自分の事を見つめ続けていた理由は解ったが、なんだか馬鹿にされたような気がしたシゴは「いつか絶対見返してやる・・・!」と思った・・・が、直ぐに「下手に見返したら巻き込まれるかも・・・?」と考え直して頭を抱えた。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ウロボロス「それで、儂らはこれからどうする?」

 

調査は島に上陸する部隊と海上・海中調査をする部隊の二つに分かれて行われるのだ。

 

シゴ「上陸部隊に加わる?」

 

ガイア「いや、海上・海中調査に回ろう。ISは深海でも活動できるからそちらの方に回った方がいいと思う。既に絶対防御に関しては調整が済んでいるからね。それにね・・・。」

 

そういって私は近づいてくる問題の島へ視線を向けた。

 

ガイア「島の大部分がジャングルの様な密林に覆われている以上、上空と地上での連携が取りづらいからね。それに、この距離で通信状態があまりよくない。ISの通信システムにも影響が出ているから万一の時に連絡が取れなくなる危険性が高い。」

 

アーキテクト「そういえば、私とゲーガーって外での実戦経験なかったよね?」

 

ゲーガー「確かに・・・。ついて行っても間違いなく足手まといになるな。」

 

ガイア「私もあんな密林での活動経験が無いからね。というか、404特務小隊でもあんな密林での作戦経験は無かったでしょ。」

 

フィアーチェ「確かにね・・・。」

 

シイム「あの初陣も天候は不安定だったけど、あそこ迄の密林じゃなかったわね。」

 

ガイア「となったら、消去法で海の調査になるのよね。私とアーキテクトとゲーガーは船に残って送られてきた情報の集積と襲撃を受けた際の迎撃をするよ。流石に、あの貫通粒子砲を止められる奴はいないはずだからね。」

 

そういって私は甲板に置いておいたバックパックを指さした。

 

それは船の動力から電力を得て加速粒子を投射する粒子砲だった。

 

射程はあまり長くないし連射性能も高くない、大型ビークルで運用するものと比較すると非力だが、理論上防御不可能な粒子攻撃を放つことが出来る。

 

あの化け物サメが相手でも通じるだろう。

 

因みに、この粒子砲はさっきのサメの死骸のいくつかをマテリアルに還元して組み上げたものだ。

 

粒子砲は部品単価がそこそこ高く、加えて稼働にも結構な電力を要求するので個人運用が難しい。

 

なので現地建造で用意したのだ。

 

ガイア「それと、海中調査をするときはあのケーブルを接続してから行ってね。」

 

ウロボロス「あれは?」

 

ガイア「通信ケーブルと電源ケーブル。通信障害は有線が一番影響を受けにくいからね。最悪何か起きても巻き上げて回収できるし。電源ケーブルの方はISの充電用だね。水圧がかかっていると深度に応じてずっとシールドエネルギーが削れていくからそれを抑える為ね。」

 

只気がかりなことが一つ・・・。

 

ガイア「庭先でアレだったからねぇ・・・、本当に何が出るか解らない。ダメだと思ったら即座に撤退してね。」

 

その言葉に皆はただただ黙り込むしかなかった。




はい、こちらは海上・海中調査に回ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-02-4】海上・海中調査【侵入】 -Abyss-

【BGM:「サブノーティカ」より「Lost River(ロストリバー)」】

 

海中調査。

 

ISは元々真空の宇宙で活動するためのパワードスーツとして開発が行われた経歴がある。

 

その為、海中でも活動することは普通に可能だ。

 

ただ、水圧がかかる分絶対防御にかかる負荷は真空の宇宙より大きくなりやすい。

 

中深度くらいまでなら兎も角、ディープダイビングを行えばシールドエネルギーの消費も割とバカにならない。

 

無論、深海でシールドエネルギーが尽きればその先に待ち受けているのは「死」だ。

 

その危険性を考慮してSFSが水中用に開発したストライカーパックが「ヴォーテクスストライカー」だ。

 

絶対防御のフィールドを効率よく展開・維持することをサポートする2枚のシールドモジュールと、頑強な耐圧殻としての機能を持ち、補助バッテリーも内蔵された本体ブロックで構成された、一見蟹のようにも見えるストライカーパックは空中での性能を犠牲にする代わりに水中でのISの運用性を大幅に高める事を大いに助けた。

 

また、推進装置としては一般的なスクリューポッド(事故防止用のカバーがついているスクリュー)を採用しており、またアルテラ社製の強力なフラッシュライトも内蔵されている。

 

その性能は試作段階故に正式仕様ではないとはいえ、リヴァイアサン級巨大生物には流石に負けるが、それ未満の生物が相手なら余裕で追い払えるだけのスペックを有していた。

 

だが、それはあくまで惑星クレイドルを基準にした話。

 

あの星の海も、人の手が全く入っていないむき出しの自然と言うだけあり、迂闊な真似をすれば余裕で死ねる環境だ。

 

だが、この海の環境は明らかに異常だった。

 

「準リヴァイアサン級」と形容できる、リヴァイアサン級ほどではないがそれに準ずるサイズを誇る危険生物が相当数棲息している。

 

本来リヴァイアサン級というのはあまり群生しない。

 

リーフバックやシートレーダーと言った温厚な種は群生する場合も多いが、一般にリヴァイアサン級と扱われるリーパーやカリセレートと言った獰猛な種は棲息数自体が少なく、あまり群れない。

 

獰猛な種は基本的に縄張り意識が強く、同種相手であろうと縄張りを荒らす者には容赦しない。

 

プランクトン食性故に大型生物を捕食する必要性が無いゴーストでさえ、縄張り維持のために侵犯者を一撃を加えるまで執念深く追い回し、襲い掛かってくるほどに縄張りにはうるさいのだ。

 

それを考えると、この海は本当に常識外なのだ。

 

決して広くない領域に多彩な準リヴァイアサン級が多数棲息しているという、どうすればこんな生態系を支えきれるのか理解に苦しむ環境だ。

 

・・・どういう食物連鎖なんだ・・・。

 

・・・。

 

・・・・・・。

 

三姉妹「「「ひいぃぃぃぃぃぃぃいえ!?」」」

 

シイム「あれで生物なの?!」

 

ティア「大きいぃ!!」

 

ウロボロス「撃てェ!撃てェ!!」

 

海底の地形だと思っていたのが実は特大のカニだったという事実に三姉妹は恐怖しつつも、ウロボロスの号令と共に自らを挟みちぎろうと襲い掛かってくる巨大なハサミに対してバックパックに内蔵されたメーザー(音のレーザー)砲を全員で撃ち込む。

 

緑色の射線確認用レーザーと共に放たれたメーザーは装甲板と形容できる表皮には少し傷をつけた程度だったが、その衝撃により巨大カニ(命名:マウンテンクラブ・リヴァイアサン)を一瞬ひるませることには成功し、その隙をついてその場から離脱する助けとなった。

 

・・・。

 

・・・・・・。

 

シイム「ちょ!?墨吐いた!?って・・・?ひぃ!?」

 

シゴ「さ、サンダー!?!?」

 

ウロボロス「魚雷を全て叩き込め!!一旦撤退じゃ!!」

 

大きなイカがいきなり墨を吐いたと思ったら、ISのスキャナーはその墨の正体を強力な「酸」であると伝えてくる。

 

巻き込まれたシイムとシゴには絶対防御の守りがあるのでダメージは無いが、代わりにゴリゴリとシールドエネルギーを削られる。

 

残りの4人が即座に魚雷キャニスターに格納されていた魚雷を全て酸吐きイカ(命名:アシッドスクイド・サブリヴァイアサン)に叩き込み、巨大な触腕に二人が捕まる前に救出、一旦海上の船へ撤退した。

 

途中で短刀の様な手のひらサイズの魚(命名:ダガーフィッシュ)が突っ込んできたがシールドモジュールで弾いて押しとおった。

 

それでも何匹かシールドに突き刺さってしまったが・・・。

 

・・・。

 

・・・・・・。

 

【BGM:「サブノーティカ」より「Safe Shallows(浅瀬サンゴ礁海域)」】

 

アーキテクト「絶対あり得ないよね?」

 

ゲーガー「ああ、生態系として不自然だ。普通だったらこんな生態系成立しない。」

 

船に戻って来たウロボロスたちの報告を受けたアーキテクトとゲーガーはこの異常な生態系に首をひねった。

 

ガイア「万能者さんの調査では基本的な生態系自体は普通なんだって。でもね・・・。」

 

私は一度言葉を区切った。

 

ガイア「草食種に対して肉食種、それも大型の種の量が少し多すぎるし、サイズもおかしい。」

 

私はそういって画面に食物連鎖のピラミッドを表示した。

 

そのピラミッドは最下層の分解者とその上の植物と草食種までは普通だったが、そのさらに上の小型肉食種と大型肉食種の比率が下の3つに対して大きすぎた。

 

ガイア「普通だったらこんな生態系支えきれない。隣接海域やまだ調査出来ていない領域にそれを補う何かがあるのか、サイズに反して意外と省エネルギーなのか、或いはこの生態系自体が意図的に作られたかものなのか・・・。少なくとも、現段階では私にはこのあたりの生態系自体が一種の「罠」のように見えるね・・・。」

 

ここに来るまでに遭遇したボスザメ「ティアマット」の一団も考慮すると、私にはこの海の生態系はかなり異質に映った。

 

あれだけの大群をたった一体のボスザメが築き上げるとなると、少なくともここ数年でこうなったとは思えない。

 

相応に長い期間をかけてあの大規模な一団が構成されたと考えるのが自然だが・・・。

 

ガイア「万能者さんの調査の結果を照らし合わせると、この異常な生態系が形作られたのは結構最近の話みたい。長くても1~2年程度。常識では考えられない異常な変化・増殖速度だね。」

 

ウロボロス「・・・本当に非常識の極みじゃな・・・。」

 

シイム「あんなバケモノ軍団がそんな短時間にって・・・。一体何をどうしたらそんなことになるのよ・・・。」

 

ティア「崩壊液絡みとか?連中全部実はELIDでしたって方がいっその事納得がいくけど・・・。」

 

ガイア「・・・それだけならいいのだけどね・・・。生態系は「罠」同然、生物の在り様に至っては最早「バグ」としか形容出来ない異常性の塊だよ。惑星クレイドルにもここまで修羅の国的な海域はそうそう無いと思うよ。あるとすればクレーターエッジの外側のVOID領域だね。」

 

シゴ「VOID領域?」

 

ガイア「私も直接見たわけじゃないけど、雫工房長曰く『複数のゴースト・リヴァイアサンが「カエレ!!」と言わんばかりに容赦なく襲い掛かってくる』んだって。」

 

フィアーチェ「ひえぇぇ・・・。」

 

ナイン「恐ろしい・・・。」

 

ガイア「あと、万能者さんの話によると、陸上もかなりマズい事になっているらしいよ。そして、島のどこかにこの異常の原因と思われる物があるかもしれないって。」

 

シゴ「・・・というと?」

 

ガイア「場合によっては私たちも上陸する必要が出てくるかもね。その問題の原因物が今どうなっているかは不明だけど、異変発生の数日前に森林火災があったらしいから何か関係があるかもしれないって。」

 

ウロボロス「なら、儂とシイムとティアの三人で上空から探索するか?」

 

ガイア「そうなるね。だけど海中調査の方はどうしようか・・・。シートラックとプラウンスーツがあれば私も調査に出られるけど、生憎どちらも無いし、材料も足りないからなぁ・・・。」

 

私たちは頭を抱えつつも、次の動きを模索した。




はい、場合によってはウロボロス、シイム、ティアを航空探索に回します。

ヴォーテクスストライカーですが、形状的にはガンダムSEEDシリーズのフォビドゥン・ヴォーテクスのバックパックをほぼそのまま独立したバックパック化したようなモノですが、一部仕様が異なります。

また、バイザーゴーグルが付随しており、深海などの低光量領域でも光を自動で増幅補正して視界を確保する事が出来ます。

武装は高威力の単射モードと低威力の連射モードを切り替え可能な固定式メーザー砲を一門装備しています。

また、シールドモジュール基部近くの片側一基、合計二基のハードポイントには三連装短魚雷キャニスターと八連装マイクロハイマニューバ魚雷ランチャーポッドを選択式で搭載可能で、今回は三連装短魚雷キャニスターを装備していました。

以降、こちらで登場した異常生物たち。



・マウンテンクラブ・リヴァイアサン

リヴァイアサン級の中でも最大クラスと思われる巨躯を誇る巨大カニ。動きそのものは比較的緩慢だが、装甲板と形容できるほどの頑強な外殻は多くの攻撃を受け止め、巨大な鋏はそのパワーも相まって捕まったが最後、ISを装備していても生還は絶望的だろう。

もしこの外殻のサンプルを得られれば、深海水圧にも耐えられる高性能装甲板の開発に大いに役立つだろうが、非常に攻撃性が高いこのリヴァイアサン級への接近は極めて危険であり、気取られることなくサンプルを採取するのはほぼほぼ不可能と言える。

潔く死骸や脱皮後の外殻から採取すべきだろう。



・アシッドスクイド・サブリヴァイアサン

大王イカの様な姿の準リヴァイアサン級巨大生物であり、サイズで言えばSubnautica Below Zeroで登場した「スクイドシャーク(実はあれでもリヴァイアサン級)」とほぼ同サイズ。

触腕による締め上げもさることながら、吐き出す墨には強酸性の物質が含まれており、接近するのは非常に危険である。

どうやら光に反応する性質を持つらしく、フラッシュライトが不要な注目を集めていた模様。後の追加調査の結果、光源さえなければそこまで攻撃的にはならないらしい。

端的に説明するとSubnauticaで登場した「クラブスクイド(光源に反応してEMP攻撃を放つ)」と「ガスポッド(腐食性の液体を格納したカプセルを散布する)」を足して二で割ったような性質を持つ大王イカです。



・ダガーフィッシュ

肉食の小型魚。

性質的には他の生物との共生関係を持たない以外はSubnautica Below Zeroで登場した小型肉食魚「シンビオート」に似ており、群れで回遊している。

形状的にはヤマト2199のガミラスのデストリア級重巡洋艦の左右幅が薄くなったデザインに近い。

口から吸いこんだ水を尾部の穴から勢いよく噴射することで推進する性質上非常に遊泳速度が速く、加えて正面部分にまで伸びた背びれと左右斜め下に広がる胸びれはナイフの如く硬く鋭いため、「ダツ」のように突っ込んできて突き刺さったり切り裂かれたりする危険性がある非常に危険な魚。

その攻撃力は正面から突っ込んだ場合に限りますが、ヴォーテクスストライカーのシールドに突き刺さる程であり、生身でダガーフィッシュの群れに挑みかかることは「死」を意味すると言っても過言ではない。

ひれは可動性が無く、姿勢制御等には使えない完全な武器としての機能に特化しており、方向転換は尾部を上下左右に向けることで行う。このため小回りが利かず、勢い余って岩などに衝突して死亡したり、岩に突き刺さったりすることもある。

ロール角制御の方法に関しては、恐らく身を捩って調整しているものと思われる。

原理は不明だが、攻撃態勢に移行すると目が赤く発光するという性質があるが、これにどのような意味があるのかは現状不明。群れ内での情報伝達目的であるという仮説はあるが、確証はない。

なお、ヒレと骨以外は食べることが可能。無駄のない引き締まった肉質でヘルシーな体と、タンパク質豊富で美味な目玉が特徴。加えてヒレと骨は加工してナイフ等にすることも可能と無駄のない魚である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-02-5】総上陸作戦【絶望】 -Tyrant Island-

万能者「・・・すまんまた情報の整理をさせてくれ、色々と・・・。」

 

ガイア「・・・ですよね。」

 

調査船の会議室で万能者さんは今ミッション二度目の情報整理を始めた。

 

端的に言うと、上陸部隊は阿鼻叫喚の地獄絵図だったようだ。

 

異常変異した蟲や植物に襲撃されてガタガタのメタメタにされてしまい、負傷者もそこそこ出た様だ・・・。

 

・・・一部は別の理由で負傷したようだが・・・。

 

海側の方ではそこまでの事態にはなっていないが、それでも割かし酷い目に遭ってはいる。

 

なお、万能者さんが海のどこかでこの異常事態の原因と目される要素の情報を掴んだようだ。

 

万能者「原因関係の詳細関しては、有識者と船の国連の奴らと一緒にどうするかで今考えているから後で話すが・・・恐らくもう一回上陸するなこりゃ・・・。」

 

その言葉に上陸部隊の面々が一応に苦い表情を浮かべた。・・・それほどの仕打ちを蟲と植物から喰らったのだろう・・・。

 

万能者「そして・・・オマエだ、なんでここにいるんだよ!?

 

そして万能者さんはとある人物に向き直り、指をさしながら大声を出した。

 

そのある人物とは、万能者さん曰く「腐れ縁」という関係の存在・・・『蛮族戦士』であった。

 

蛮族戦士「ココ ニ ツワモノ ガ イル カン ガ シタ  タダ ソレダケ デ キタ  ソシテ ソノ カン ハ セイカイ ダッタ ナ」

 

万能者「・・・勘だけでこの島に来んなよ・・・というかいつ頃きたんだよ・・・・・・下手したら確認できてない頃に来てるかもしれんぞこりゃ・・・。」

 

ただでさえ頭痛の種が多いうえに、これまた規格外の蛮族戦士さんの推参に万能者さんは頭を抱え続ける羽目になってしまった・・・。

 

SFS一同『OH・・・ジーラフ・・・。』

 

私たちも規格外の蛮族戦士さんの存在にカルチャーショックを感じていた・・・。

 

・・・

 

・・・・・・

 

数時間後、私たちは今度は上陸部隊の一員として全員で島に上陸していた。

 

ウロボロス、ティア、シイムの三人はISの自由飛行能力を活かして航空探索に回ったが、ヴォーテクスストライカーは外していない。

 

海中も陸上も危険な変異生物が多数存在したのだ。上空に危険な変異生物が存在していないという確証はない。

 

その結果、飛行能力をある程度犠牲にしてでも防御性能に秀でたヴォーテクスストライカーを引き続き装備し続けるという結論に達したのだ。

 

幸い、島そのものはそこまで広い訳では無いので多少飛行能力を削っても探索に支障はない。

 

ただ、ISの通信装置もやはりこの島の中では役に立たない。それは上空でも大差なかった。

 

今回は有線接続するわけにもいかなかったため、「フラッシュライトの明滅で情報伝達を行う」という古典的な光通信に頼る事となった。

 

元々ヴォーテクスストライカーに搭載していたフラッシュライトのうち、手にもって使用するものは通信装置が使えない状況も考慮して古典的な光通信にも使えるようにするオプションパーツが追加されていた。

 

デジタル通信が使えない時は、やはりこういう古いアナログ式の通信手段に限る。

 

シイム『此方シイム ソレラシキ 地形ヲ 発見 コレヨリ 接近シテ 確認スル』

 

ウロボロス『ウロボロス了解 迂闊ニ 接近シ過ギナイヨウ 留意セヨ』

 

ティア『此方ティア 西方約1キロヨリ 正体不明ノ生物ノ群レ 接近中 数15』

 

ウロボロス『ウロボロス了解』『此方ウロボロス 西方ヨリ生物群接近 数15 留意セヨ』

 

シイム『シイム了解』

 

だが、やはりこの島は色々と異常であった。

 

猛スピードで飛んできた生物は鳥のようだが、まるで矢のように襲い掛かってきたのだ。

 

加えてくちばしが異様に長く鋭い。

 

ティアは咄嗟にシールドモジュールで受けたが、あまりの衝撃に弾き飛ばされそうになる。

 

加えてシールド表面には小さくない亀裂が複数走り、いくつか穴が開いてしまった。

 

いくら絶対防御があるとはいえ、こんなのが目の前で起きれば生きた心地がしない。

 

即座にG11を乱射して数匹を撃墜するが、大部分は離脱してしまった。

 

ティアは歯噛みしながら再突撃してきた鳥に向けて発砲した。

 

・・・

 

・・・・・・

 

陸上部隊もかなり厄介な状況に立たされていた。

 

ガキィン!!

 

ガイア「これの元が『蟲』だなんて、俄かには信じられないよ!!」

 

ヘビーアーマーのビーム材で辛うじて振り下ろされた4本の斬撃を受け止めながらガイアは悲鳴のような声を上げた。

 

4本の鋭い両刃の鎌がついた腕足を振りかざしながら襲い掛かってくるカマドウマらしき生物は、最早蟲というより別の体系の生物だと言われた方がまだ納得がいく。

 

その鎌の鋭さは頑強なヘビーアーマー材に大きな切り傷を刻み付ける程だ。

 

木の上から突如音も無く襲い掛かってきたカマドウマの剣客の奇襲を辛うじていなし、即座にナインがレーザーライフルの高圧レーザーで反撃する。

 

カマドウマの剣客は鎌でレーザーを切り裂こうとしたが、高圧レーザーの熱量に鎌の方が耐えられず溶け落ちてしまう。

 

獲物がダメになった衝撃と激痛にひるんだ隙にガイアはヘビーアーマーのビーム材を頭部めがけて投げつけた。

 

ビーム材はひるんでいたカマドウマの剣客の頭部を潰し、更に体もその重量で押しつぶした。

 

ぐしゃぐしゃになったカマドウマの剣客は少しの間藻掻いたが、やがて事切れたのか動かなくなり、即座に亡骸は腐り果てて土へと還った。

 

ナイン「・・・腐るの早すぎない?」

 

アーキテクト「どういう原理なんだろ・・・?」

 

背後ではシゴが襲い掛かってきた大蜘蛛をナイフで何とか返り討ちにするが、そのそばでは蜘蛛糸に巻かれてわたあめ状態になったフィアーチェと彼女のガンビットが転がっていた。

 

シゴ「今、糸を切るからね。」

 

フィアーチェ「ありがとうシゴ・・・。」

 

ここに来るまでに様々な蟲の襲撃を受け、結構SAN値を削られている地上部隊だが、ここで踏ん張らなければ何時まで経っても事態は好転しない。

 

時折密林の切れ目から見える空を飛行しているウロボロスたちと光通信で交信しつつ、少しずつ問題の地点へと一丸となって歩みを進めているが、なにぶんここは蟲たちのホームグラウンド。その歩みは遅々として進まない。

 

なにせ四方八方から様々な蟲たちが襲い掛かってくるのだ。そのたびに迎撃するために進軍速度を落とさなければならないのだ。

 

ゲーガー「進めば進むだけ蟲が湧くなぁ!!」

 

アーキテクト「一気に進みたい所だけど、突出して囲まれたら私達間違いなくこいつらの餌食になっちゃうからなぁ。」

 

ガイア「確実に歩みを進めるほかないよ。」

 

シゴ「けど、ISのシールドエネルギーにも限りがあるし、あまり時間をかけ過ぎたらジリ貧だよぉ。」

 

フィアーチェ「悩ましいよねぇ・・・。」

 

ナイン「アーキテクト姉さんのロケットランチャーは使えないの?」

 

アーキテクト「障害物が多すぎるし、視界も悪すぎるから無理だね。下手に撃ったら自爆や誤爆をする危険性があるよ。」

 

ナイン「そっか・・・。」

 

ガイア「兎に角、少しずつでも前に進もう。少しずつだけど確実にゴールには近づいているんだから。それに、私たちだけでどうにかしなきゃいけない訳じゃないし。」

 

そう側面から襲い掛かってきた大蜂の大群をリッパーのサブマシンガンで撃墜しながらガイアは言った。

 

そんなこんなで、調査隊はジャングル同然の密林を一歩ずつ確実に前へと進んでいく。

 

・・・そのゴールに、悍ましい怪物が潜んでいるとも知らずに、調査隊は足を進めていくのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-02-6】総上陸作戦【破滅】 -IRREGULAR LIFE-

モデルナ社製の武漢コロナワクチンの一回目を今週に接種しました。

現状針を刺したところが痛んでいる以外は別段異常はありませんし、投稿時点ではその痛みもほぼ無くなりました。

それと、前話の最後の部分が数行欠落していたので追記しておきました。


上空のウロボロスたちからの光通信を頼りに問題の航空機の墜落地点にたどり着いた調査隊だが、その周囲は森林火災が起きたとは思えないような鬱蒼とした密林だった。

 

それは航空機自体が型番すら判別不能なレベルで大破していた事もあり、上空から見てもぱっと見でどこに墜落したのか解り辛かった。

 

運よく折れた尾翼の残骸を発見できていなかったら、或いは完全にしらみつぶし状態になっていたかもしれない。

 

そこで問題の航空機の残骸と共に発見されたのは「ハザードマークが書かれた小型のドラム缶らしき容器」が多数。

 

・・・そして大部分のまるで爆散したかのように破損していた容器の中に僅かに残留していた「液体と粘液の中間としか形容出来ない緑色の謎の物体」だった。

 

この謎の物体は簡易検査の結果、「菌類の類」という事だけは解った。

 

私たちは運よく破損することなく残っていた2本の容器を調査船まで運搬する撤退組に護衛として加わり、想像するだけでウンザリする来た道を引き返した。

 

シゴ「でも、なんで墜落地点がこんなに解り辛い事になっていたんだろ?」

 

ゲーガー「森林火災が起きたとか聞いたが、とてもそうは思えないほどに鬱蒼とした密林だったな・・・。」

 

アーキテクト「でも、あの飛行機の残骸を見る限りでは本当に火災は起きていたみたいなんだよね。偶然飛行機のブラックボックスが見つかったから回収したけど、火災の熱で真っ黒こげ・・・。これじゃあ復旧は絶望的かな・・・。」

 

アーキテクトが保護容器の中に収めているブラックボックス・・・フライトデータレコーダーとコックピットボイスレコーダーは、どちらも火災の熱で黒く変色しており、おまけに一部が熱で変形していた。

 

加えて長期間この環境に野ざらし状態だったことを鑑みると、仮に復旧できても碌な情報は得られないだろう。

 

しかし、この無惨なまでに焼け焦げたブラックボックスは、それほどまでに苛烈な火災が実際に起きていたことを証明する証拠でもあった。

 

なのに墜落地点の密林はそんなこと最初から無かったかのように他と遜色ないほどに鬱蒼としていた・・・。

 

ガイア「いくら時間が立っていたとはいえ、墜落してから数年しか経過していないのならあそこ迄元通りになるとは考えにくいんだよね。まぁ、この島の環境は普通じゃないから常識が通じないんだけどね・・・。」

 

どの道問題の容器の中身である「菌類らしき何か」の精密検査をしない事には始まらない。調査船迄引き返したらスキャナーでスキャンすればよい。

 

ガイア(・・・でも、今のうちに処分してしまった方がいいかもしれない・・・。万一この物質がこの島の異常に関与しているのだとしたら、調査船迄持ち帰るのは・・・ましてやこの島から持ち出すのは危険かもしれない・・・。)

 

この得体のしれない物質は、或いは誰の手にも渡らないまま、誰にも知られることなく消し去られるべき忌物かもしれない・・・。

 

だが、同時にこの物質を解析すればこの島で何が起きているのかの手掛かりとなるかもしれない。

 

・・・それはまさしく、飲めば最悪死に至るかもしれないと解っていながらも呷らずにはいられない甘美なる毒酒。

 

あまりにも危険すぎる、何人にも知られるべきではない、されど知れば識らずにはいられない啓蒙的真実(知るべきでない事)そのものだった・・・。

 

・・・

 

・・・・・・

 

一方上空では、未だに面倒くさい空戦が散発的だが続いていた。

 

シイム「この!!しつこいのよ!!」

 

ウロボロス「厄介な!!」

 

誘導する矢の如く突っ込んでくる鳥型生物が現れては撃墜するというキャッチボールが延々と続いているのだから溜まったものではない。

 

そうこうしているうちに、ウロボロスは調査隊の最終目的地である山の近くまで流れて来ていた。

 

ウロボロス「ふぅ、これで何度目の殲滅だ?・・・おや?あの山は確か調査隊の目的地だったはずだが・・・。」

 

山頂付近は巨大な木々が生えていて天然のドームのようになっていたが、何か所か内部の様子が辛うじてうかがえる程度の穴が空いている。

 

そのドームの中から何やら銃声のような音が聞こえてきたのでウロボロスは山にもう少し接近し、生い茂る葉のドームに集光窓の様に空いている穴から中をうかがった。

 

ウロボロス「な、何じゃと!?何が起きている!?」

 

その中の様子にウロボロスは愕然とした。

 

距離が遠く、薄暗いのではっきりとはわからないが、いくつかの信じがたい情報をハイエンドモデルの誇る高性能カメラアイは捉えていた。

 

明らかに負傷し、戦闘能力を大きく削がれた様に見えるアウレールさんやアラマキさん。

 

地に倒れ伏して微動だにしないリヴァイルさん。

 

そして何らかの存在に一撃でふっ飛ばされる万能者さん。

 

ウロボロス「信じられん・・・一体、・・・一体何をされておるのだ!?」

 

そう絶叫するウロボロスのカメラアイに正体不明の存在が暗がりの先にかすかに捉えられ、その人影が何か動いたように見えた。

 

ウロボロス「何ぃ!?!?」

 

刹那、生い茂る葉のドームの穴から一条の光線がウロボロスめがけて飛んできた。

 

咄嗟にヴォーテクスストライカーのシールドで受ける・・・が。

 

バキィッ!!!!

 

ウロボロス「ぬおおおおおおおおお!?!?」

 

その光線はシールドを一撃で貫き、更にISの絶対防御を貫通して左肩を深く抉り、更にストライカーパックの本体をも貫通して空へと消えていった。

 

ウロボロス「ば、バカな!?一撃じゃと!?」

 

体勢を何とか立て直しつつウロボロスは驚愕した。

 

ログを確認したところ、確かに絶対防御は発動していた。発動してはいたが、今の謎の攻撃はその守りを容易く貫いたのだ。

 

中和されたのか、そもそもこの手の防御フィールドを貫通するような特性を持っていたのかは不明だが、シールドエネルギーは確かに減っていた。

 

・・・ダメージに対して明らかに減少量が少なすぎるが・・・。

 

ウロボロス「おのれ・・・これ以上は無理か・・・。」

 

左肩の激痛に顔を顰めながらも冷静にダメージの確認をし、そしてこれ以上の作戦行動は無理だと判断する。

 

左腕は今の攻撃で肩が大きく抉れてしまい、そのダメージによって力なく垂れ下がったまま動かなくなっていた

 

アラートメッセージを確認すると、運動神経に相当する駆動系制御のためのケーブルが肩部分で断線していることが原因だった。

 

他にもストライカーパックの左側シールドは元々傷ついていた事もあったが真っ二つに割れて下半分は脱落、残った上半分も保持アームが損壊して辛うじて本体からぶら下がっているような状態だ。

 

加えてストライカーパック本体部分は5つ搭載された予備用バッテリーの内3つが損傷しており非常に危険な状態だった。

 

ウロボロスはストライカーパックの維持を諦め、ISからパージした。

 

切り離されたヴォーテクスストライカーは重力に従って密林へと落ちていったが、途中で爆発して粉々になってしまった。

 

ウロボロス「勝てぬ・・・!これでは救援に近づくことも叶わぬ!仮に近づけても待ち受けておるのは『死』じゃ!!」

 

たった一撃。それだけで自分と相手との間にどうすることもできない絶望的なまでの実力、性能の隔絶が存在することを察した。

 

今自分たちが飛び込んでも状況は決して好転しないばかりか足手まといにしかなれない。問題の謎の存在と相対している人達には自力でどうにかしてもらうほかない。

 

抗いようのない残酷な現実を前にウロボロスは悔やみながらも撤退を選択した。

 

ウロボロス『二人トモ 直チニ撤退セヨ 説明ハ後ダ』

 

少し離れた空域に居たティアとシイムに光通信で撤退指示を出し、ウロボロスは二人を連れて大急ぎで調査船まで撤退を開始した。

 

あの攻撃の性能が不明である以上、長距離狙撃で撃ち落とされる危険性が否定できず、加えて眼下に広がる密林に墜落しようものなら帰還は絶望的である。

 

結果、これ以上撃たれて被害が拡大する前に逃げるという結論に至ったのだ。

 

ティアとシイムは先の爆発の正体が解らなかったために一瞬意味が解らなかったが、ウロボロスの被った損害を見て即座にそれに従った。

 

一撃でウロボロスにこれほどまでのダメージを与えた存在に自分たちが勝てる見込みが限りなく薄いと察したのだ。

 

ウロボロス「・・・死んでくれるなよ。」

 

山頂で未だ脅威にさらされている仲間達に対して、ウロボロスは聞こえるはずもない激励を送りつつ、二人を連れて引き上げていった・・・。




ウロボロスもあの謎の光線を喰らい、二人を連れて撤退しました。

因みに万能者が被弾した際は装甲に焦げ跡がつく程度でしたが、ウロボロスの場合はストライカーパックがほぼ全損したのは「ウロボロスだけを狙って一発だけ放った」事が主要因と考えられます。

他にも装甲強度や攻撃との相性、ウロボロスを狙った一撃は最初の拡散攻撃と違ってより高威力だった、万能者の場合は蛮族戦士が偶然剣で弾いたものの流れ弾が当たった物故に威力が減衰していた等、いくつかのファクターが考えられます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-02-7】総上陸作戦【解明】 -答えと新たなる疑問-

今回は少々短めです。


-調査隊上陸地点 臨時拠点-

 

上陸地点に設営してあった臨時拠点に戻ってきた調査部隊の撤収組は、回収した小さいドラム缶の中に入っていた物質の確認調査を行っていた。

 

流石に確認も抜きに船内に持ち込むのは危険なので当然なのだが。

 

それでもスキャナーで調べた分にはその物質の正体は「キノコ系の菌の類」とまでしか解らなかった。

 

データが不足していたためにはっきりしたことは解らず、辛うじて「生物に対して異常な作用を引き起こす可能性が高い」という事は解った。

 

だが、その本質的な性質はとある調査員の機転による実験で判明した。

 

島の土を入れたバケツにその物質をいくらか注いだ結果、その土から既存のどの種類とも異なる多彩なキノコが生えてきたのだ。

 

そのキノコの内いくつかは、あの異常変化した蟲達同様異常な早さで腐り堕ちて土へと還ろうとし、そこから異常な速度で木々が生え始めている。

 

アーキテクト「・・・ねぇ、これって・・・。」

 

ガイア「この島の異常の原因って、大方これだね・・・。」

 

ゲーガー「墜落地点が他と変わらないジャングル同然の状態だったのも、墜落時にぶちまけられたこの物質が原因だったのか・・・。」

 

シゴ「じゃあ海の生物たちも?」

 

ガイア「そこまでは解らないけど、状況証拠を積み上げるとその線は濃厚だね・・・。」

 

ナイン「でも、これどうするの?こんなのどこにも置いておけないよ?」

 

フィアーチェ「かといってここに置いとくのも危険だし・・・。」

 

ガイア「詳しい事を調べない事には何とも言えないけど、こんな異常変化を齎す物質なんて、少なくともこの世界のどこにも置き場所が無いね・・・。どこに置いても長期的に見れば何かしらのトラブルの原因になってしまう。」

 

ゲーガー「かといって、処分するとしてもどうやって?」

 

アーキテクト「下手したら星全体がこの物質に汚染されるかもしれないからね・・・。私は資料でしか見たことないけど、下手したらあのベイラン島事件の二の舞になりかねないし・・・。」

 

フィアーチェ「そもそも、この物質って元々は輸送機が空輸していた物だったんだよね?こんな危険な物質を誰が何のためにどうやって作って、何のために空輸していたんだろ?」

 

この物質、どうするべきか・・・。

 

そして、何を目的にどうやって生み出されたのか・・・。

 

そう皆が考え悩んでいるところにウロボロスたちが撤退してきた。

 

ガイア「え?ウロボロスどうしたの!?」

 

アーキテクト「肩が・・・!何が起きたの!?」

 

ウロボロス「その説明をする前に、一つ皆に言っておかなければならないことがある。・・・何を聞いても、絶対に調査隊の救援に行こうとするなよ。」

 

シゴ「え?」

 

ウロボロス「その理由はすぐにわかる。今山頂の遺跡を調査している部隊は謎の存在と交戦中じゃ。しかも、かなり不利な状況じゃ。アウレールどのとアラマキどのは負傷、リヴァイルどのも行動不能にされておった。」

 

その言葉に全員がどよめく。

 

ウロボロス「儂は偶然その山の近くまで近づいていたのじゃが、その謎の存在に何かしらの攻撃をされて、一撃でこのザマよ。ヴォーテクスストライカーもその一発で失った。」

 

ガイア「そんな・・・。」

 

ウロボロス「その一撃だけで儂は察してしもうた。儂らとその謎の存在との間には、どうしようもないほどの実力の隔絶があった。儂らが救援に行ったところで何の役にも立てぬのならまだ良い方。大凡足手まとい止まり、最悪死にに行くのと同義という結果が関の山じゃろう。」

 

その言葉に一同は静まり返った。

 

ウロボロス「こうなってしまった以上、儂らに出来るのは彼らを信じて待つことだけじゃ。下手に手出しすれば全滅も見えてきてしまう。それだけは避けねばならぬ。」

 

一同『・・・。』

 

ウロボロス「・・・しかし、この腕はどうするかのう・・・。サクヤさんにどう申し開きすればよいか・・・ん?」

 

その時、ウロボロスの目にバケツに入れられた土から生えたキノコが映った。

 

既にキノコの大部分は腐り堕ち、大部分はジャングルと同種の木々に生え変わっていたが、まだいくらかキノコが残っていた。

 

ウロボロス「あれは?」

 

ガイア「あのドラム缶の中の物質を土にかけたらああなったの。キノコ系の菌類の類みたいだけど、恐らく能力的には植物なんかに使う栄養剤や成長促進剤の類だろうね。・・・明らかに異常だけど。」

 

アーキテクト「この島の異常の原因じゃないかって。」

 

ウロボロス「そうか・・・。しかし、気になったのはそのキノコじゃ。」

 

ウロボロスは残っているキノコを指さして、やや青ざめた顔で言葉をつづけた。

 

ウロボロス「さっき言った調査隊と交戦中の謎の存在なんじゃが・・・はっきりとした姿までは見えなかったが・・・。」

 

 

 

・・・頭部の形状が・・・キノコのようじゃった・・・。

 

 

 




最後の部分、ちょっとはホラーチックになっただろうか・・・?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-02-8】総上陸作戦【激変】 -祈り-

今回はリアルの用事がやたら立て込んでいた事もあり短いです。

というか、もうSFSメンバーに出来ることがほぼほぼ無い・・・。


山頂では相も変わらず謎のキノコマンと調査隊が絶望的な激戦を繰り広げられている。

 

そのころ撤収組は調査隊を如何にか助けられないか思案していたが、どれもこれもリスクが大きすぎたりほぼほぼ博打としか言いようが無い方法であり、加えて情報が圧倒的に不足している現状では実効性のある妙案など出てくるわけも無く・・・。

 

中にはこの状況でも如何にかできる人がいたらしく、その人たちは各々の自由意志で救援に向かった。

 

だが、SFSのメンバーにそんな力などなかった。

 

ガイア「対フォーリナー戦で使われた装甲貫通弾の「グラインドバスター」があれば如何にかできたかもしれないけど・・・。」

 

アーキテクト「砲弾も発射装置も無いよ・・・。」

 

シイム「上空からのピックアップは・・・。」

 

ウロボロス「バレたら為す術無く狙撃されて終わりじゃな・・・。」

 

シゴ「ティアの「グラム」は効くかな?」

 

ティア「効いたとしても、それで倒し切れる程度なら調査隊の人達は苦戦しないよ・・・。」

 

ゲーガー「何か弾頭ミサイルを撃ち込んでその隙を・・・。」

 

ナイン「調査隊を巻き込んじゃうし、そもそもそんなもの無いし・・・。」

 

ガイア「LHやWFの様な高速ビークルで回収したいけど、作ったことないし材料も無いし・・・。」

 

何でもいいからこの状況を打開できそうな案を手当たり次第に列挙しているが、最早無い物強請りに近い案しか出て来ない。

 

と・・・。

 

ガイア「ん?あれ?」

 

何か上空を通り過ぎるような影に上を見上げると、上空に見たことも無いロボットの様な何かが三機、何かを運搬しながら山へと飛んで行った。

 

ゲーガー「今の機体は?」

 

ウロボロス「国連の機体か?」

 

船員「いや、あんなの見たことないっすよ。」

 

フィアーチェ「じゃあどこの・・・。」

 

ガイア「もうこの際何でもいいか・・・どうせこれ以上状況が悪化する事なんてなさそうだし・・・。」

 

だが、いざほぼほぼ無意味な自問自答に戻ろうとした矢先・・・。

 

ナイン「アグゥッ!?」

 

突然ナインが頭を押さえて蹲った。

 

フィアーチェ「え?」

 

シゴ「ナインどうしたの!?」

 

姉二人が即座に反応する。

 

ナイン「だ、大丈夫・・・。山の方から凄い音が聞こえただけだから・・・。」

 

強い吐き気を催しながらもなんとか大丈夫だと返事を返すナイン。

 

ただ「凄い音」と言っても、それは音に敏感なナインだからこそ聞こえた殆ど減衰しきった超音波だった。

 

だが、それはあのキノコマンが放った人間や機械にとっては極めてキツイ、一種の共鳴波だ。

 

これだけ離れていたのにこれなのだ。もし、間近でナインがこの音の直撃を喰らっていたら、最悪再起不能に陥っていたかもしれない。

 

ウロボロス「おのれ・・・あの化け物はそんな芸当迄出来るというのか・・・。」

 

ゲーガー「・・・もうそいつが隕石を降らせてきても驚かないぞ・・・。」

 

これでは益々迂闊には近寄れない。

 

愈々以てSFSメンバーにとって、このキノコマンの存在は完全にお手上げとなってしまった。

 

悉く為す術が無い。勝算はおろか、ほんのわずかでも事態を好転させられる見込みすら絶無だ。

 

そして、一同は深々とため息をついた後、匙を投げた。月まで届かんばかりの勢いで・・・。

 

本当に最早自分たちに出来ることは「お祈り」しかないのだ。

 

そのどうしようもない現実に項垂れながら、彼女らは存在するかどうかすら不確かな神や仏にただ調査隊の無事を祈るほかなかった。

 




20日にモデルナワクチンの二回目接種をする予定です。

なので副反応の出方次第では少々間が空く可能性があります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-02-9】総上陸作戦【終焉】 -決着-

コラボの本編部分はこちらの分はこれで終わりの予定です。

後日談部分のバカンスに関してはリアルが色々と忙しく、本日も選挙投票があって執筆が間に合わなかったので次回に回します。


最早自分達にはどうすることもできない激戦が繰り広げられている山頂からの戦闘音を聞きながら、一同は撤収と負傷者の受け入れ準備を行っていた。

 

彼らが未帰還になる等とは露程にも思っていない。

 

ただ、それとは別の・・・何か別の胸騒ぎがしていたのだ。

 

ナイン「・・・さっきから地面から何か気味の悪い音がする・・・。」

 

ゲーガー「気味の悪い音?」

 

ナインの発言に一同の手が止まった。

 

ナイン「なんて例えればいいんだろう・・・。なんというか・・・こう、「悲鳴」というか・・・「叫び」というか・・・。ゴメン、やっぱりうまく表現できないや・・・。」

 

ナイン自身も具体的にそれが何なのかが解らないので要領を得ない表現しか出来ない。

 

だが、間違いなく碌でもないことの前触れだろう。

 

試しに地面に耳を当てて音を聞いたが・・・。

 

ガイア「・・・なんだろこれ?」

 

ウロボロス「・・・何かが抜けていっている?・・・いや、それともその逆か?」

 

アーキテクト「・・・あのキノコマンが原因なのかな・・・。」

 

フィアーチェ「本当に大丈夫なのかな・・・。」

 

そう口々に喋っていたら・・・。

 

ゴゴゴゴゴ・・・。

 

突然地響きが聞こえ始め、遅れて地震が発生した。

 

シイム「え?何この地響き?」

 

ティア「うわ!?地震!?!?」

 

ナイン「結構大きいよ!?」

 

突然の地震に一同がよろめき、搬入が終わっていない機材などが崩れそうになり、動ける面々が大慌てで機材などを支える。

 

ガイア「危なッ!?」

 

アーキテクト「いきなりなんで地震が!?」

 

シゴ「あ!?山が!?」

 

その言葉に全員が山の方を向くと、激戦が繰り広げられているであろう山から土埃が勢いよく舞い上がっている。

 

ウロボロス「次から次へと何が起きておる!?」

 

アーキテクト「十中八九、この地響きと地震の原因ってあの山だよね!?」

 

ゲーガー「これ本当に大丈夫なのか!?あの山崩れそうだぞ!?」

 

シゴ「いや、調査隊の皆は何とか無事みたい!ただ、大急ぎで下山しているよ!」

 

シゴが双眼鏡で山の方を見ると、調査隊の皆が大慌てで下山をしているのが見えた。

 

ただ、地震の影響か山の表面には亀裂が走り、徐々に山頂から崩れ始めていた。

 

加えて・・・。

 

シゴ「あ、地震と山崩れでびっくりしたのか蟲達がこっちに・・・。」

 

一同『またかぁーーーー!!!!』

 

地震と山崩れで恐慌状態に陥った蟲達・・・そして遅れてそれ以外の生物達も島の外側へと逃げてきた。

 

当然恐慌状態なので調査中に戦闘になった時よりも遥かに気が立っており、凶暴性が高まっている。

 

ガイア「殲滅ぅーーー!!!」

 

一同『ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぇえ!?』

 

今更ではあるのだが、この島のどこにも安全な場所などない。

 

ましてや恐慌状態の異常進化生物がそこかしこにうじゃうじゃいるのだからどこに居たって目に見えて命の危険が付き纏う。

 

かといって海に逃げようにも地震の影響で波が荒れており、今出港するのは危険すぎる。

 

最悪浅瀬に乗り上げて動けなくなるかもしれない。

 

そもそも論で乗船準備も終わっていないので出港自体出来ないのだが・・・。

 

ウロボロス「兎に角ここを死守する他ない!襲い掛かってくる奴らだけ排除すればよい!!」

 

フィアーチェ「そんなこと言ったってぇ!!」

 

ガイア「帰ったらISの設計一からやり直しだぁ!!」

 

シゴ「もう限界が近いよぉ!!」

 

ティア「ヤバい!残弾が心もとない!!」

 

シイム「私は榴弾がもう無い!!」

 

ナイン「ひーーん!!」

 

アーキテクト「チクショーメー!!」

 

そう口々に叫びながら各々蟲の津波に挑みかかった。

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・結局、調査隊が戻ってきて島を脱出する頃には私たちは完全にグロッキーになっていた・・・。




今回後半ほぼほぼ活躍できなかったSFSメンバー。

しかしこの経験を糧に更なる高みを目指すでしょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【BCO-02-10】激戦後の反省会 -Evaluation meeting-

ちょっとネタに詰まった事もあり、今回もちょっと短いです。


件の島の調査作戦が終了し、別の島でバカンスという事になった面々。

 

ただ、SFSメンバーはバカンスを楽しむ気になれなかった。

 

理由としては最後の蟲の津波相手に必死になって戦ったがためにグロッキーになってしまい、体力が戻り切らなかったのが主因の一つである。

 

そして、もう一つは・・・。

 

ウロボロス「しかし、今回は相手が相手だったとはいえ、終始振り回されてばかりだったのう・・・。」

 

シゴ「最後の方に至っては、私たちほぼほぼ活躍できなかったし・・・。」

 

ガイア「問題のキノコマンの光線が絶対防御を貫通した原因も結局解らず仕舞い・・・。」

 

一同『OH・・・ジーラフ・・・。』

 

今回の作戦で自分たちは戦闘面では殆ど貢献できていなかったという点である。

 

・・・それでも国連の調査部隊と比べれば活躍はしている方である。決して弱い訳では無い。

 

ただ、それ以外が桁違いに強すぎたために完全に埋もれてしまったのだ。

 

・・・

 

メタなO☆HA☆NA☆SIをすると、今回の大規模コラボ参加者の中でSFSメンバーは一番戦闘経験が少ないし、歴史も浅い。

 

その為、数多くの死線を潜り抜けてきた他のメンバーと比較するとどうしても地力の面で劣ってしまうのだ。

 

・・・閑話休題。

 

アーキテクト「まぁ、得られるものはあったし、完全に足手まといだったわけでもないんだけどね・・・。」

 

ゲーガー「調査段階で採取したサンプルも何かの役に立てられるだろうしな。」

 

シイム「でも、一番面食らったのって・・・。」

 

一同『蛮族戦士の最後のアレだよねぇ・・・。』

 

実は、あの後この島へ来る前に蛮族戦士とは海上で別れたのだが、その時蛮族戦士はあろうことか「海上を走って」去って行ったのだ・・・。

 

因みにその時は万能者さんも「・・・うん、言ってたから想像はしてた・・・・・・だがそれを実行するヤツがあるか・・・ッ!!」と絶妙に疲れた雰囲気で叫んでいたという事を付記しておく。

 

もっと言ってしまえば、その蛮族戦士は現在遠く離れた海上で「モーセの奇蹟」の小規模再現とでも言うような「海割り」を剣技で実現する鍛錬をしているのだが、それを知る者は恐らくいない。

 

もしそれを見れば一同は間違いなく魂が飛び出てしまうだろう。

 

ティア「そう言えば、あのドラム缶の中身って結局何のためのだったんだろう・・・。」

 

シゴ「なんか昔NGO団体が作った緑化再生目的の薬品の試作品だったんだって。」

 

ウロボロス「それが何であんなことに・・・。」

 

フィアーチェ「・・・さぁ・・・。」

 

ナイン「でも少なくとも使い方を間違えれば危険な代物だって言う事は解っていたと思うよ。そうじゃなかったら、態々軍用機で輸送なんてしないだろうし・・・。」

 

ガイア「因みにブラックボックスのデータは復元不能だったよ。どこもかしこも腐食しててデータは全部お釈迦。ただ、ブラックボックスの規格を資料と照らし合わせたけど、こっちの世界の第三次大戦より前の物だという事だけわかったよ。」

 

「・・・まぁだからなんだって話なんだけどね・・・。」とガイアは付け足した。

 

ウロボロス「それはそうと、コレどうするかのう・・・。」

 

ウロボロスはキノコマンのレーザーに貫かれて大きく抉れたままの自身の左肩を指さした。

 

一応応急処置はしてあるが、部品が足りないので帰還するまではこのままで通すしかない。

 

フィアーチェ「何とか言い訳くっ付けないとねぇ・・・。」

 

シゴ「サクヤさんになんて言えばいいんだろう・・・。」

 

悩みは尽きない。・・・と。

 

アーキテクト「あのさ・・・今恐ろしい可能性に思い至っちゃったんだけどさ・・・。」

 

ゲーガー「なんだ?」

 

アーキテクト「私たちの世界にもあんな異常な生態系を抱えた島とかが突然現れたりしないよね?」

 

ゲーガー「まさか!そんなことあるわけ・・・。」

 

ウロボロス「・・・「あり得ない」と言い切れぬところが辛い・・・。」

 

シゴ「前に二回喫茶鉄血の世界にお邪魔したこともあるし・・・。」

 

ガイア「それ言ったら私だって元々は別の世界から来た身だし・・・。」

 

シイム「・・・もう何が起きても不思議じゃないわね・・・。」

 

ナイン「っていうかアーキテクト姉さん。それ「フラグ」・・・。」

 

アーキテクト「・・・あ。」

 

・・・

 

その後、流石に何もしないのは悪いと思って一同はそこそこにバカンスを楽しんだが、大部分は他の世界の人達との交流に費やされた。

 

なお、その日の夜に来るときに飲み込まれた光と同じ光に飲み込まれて元の世界に帰ったが、結局気の利いた言い訳が思いつかずサクヤさんに怒られたことを付記しておく。

 

因みに、帰ってきた時間が飛ばされた時間から1分しか経っていなかったので、ウロボロスの怪我が無ければ白昼夢と思えるような状況となっていた。




これで私側の大規模コラボ関係の執筆も終了です。

しかし、やはりみんな強い。



次話からはまたIS側に戻って本編を投稿していきます。

しかし最近中々疲れが抜けない・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【31】不滅の黒薔薇 -Black Rose-

IS側の本編に戻ります。

今回はちょっと機体装備の説明があるのでちょっとゴチャゴチャして読みづらいかもしれません。


各々が設計をしてから2週間が過ぎた。既に束さんが興したIS企業「ホワイトラビット・カンパニー」は始動しており、ラベンダーは初製品として売り出されている。

 

高い汎用性と拡張性、カスタマイズ性を有するラベンダーは量産機でありながら「ISを自分色に染める」ことが他の量産機に比べてはるかに容易であり、値段もその多機能性に対して比較的リーズナブルであることから最初に販売された30機は瞬く間に完売してしまった。

 

量産性と低価格はトリニティ・ガード謹製の「マルチプル・ファブリケーターシステム」と、惑星クレイドルから持ち込まれた良質な材料によって実現されたものだ。

 

既に追加生産も開始されているが、俺たちの専用機の設計開発も並行しなければならない。

 

専用機は基本フレームの製作自体は完了していたために俺とアンの二機に関しては対応するパーツを後付けするだけで終わったが、残りは他にも弄る箇所があったので時間がかかってしまったが、それも今日完成した。

 

今日はその説明が行われるのだ。

 

束「まずはいっくんの一号機からね。要望通りに腰部に可変翼、脚部にミサイルポッドとブースターユニットを一体化させた可動モジュールを装備。フィンファングストライカーも巡行形態にも対応できるように手を加えておいたよ。」

 

ルウ「アンさんの二号機は両足と左肩にミサイルポッド、右肩に滑空砲を装備。また、フィンファングストライカーに追加で大口径バズーカを2基追加装備しておいた。その重武装の代償として巡行形態を持たず、重量も嵩んだ分巡行速度が犠牲になっているから単独での長距離移動は不得意。代わりにブースターの瞬間出力は引き上げたから戦闘機動は充分な性能に仕上がっているよ。」

 

アン「長距離移動をしたいときはどうするの?」

 

ルウ「別途ブースターパッケージを外付けするか、他の巡行形態を持つISかサブフライトシステムに乗せてもらうかのどちらかになるだろうね。一応単独でも随伴できないわけではないけど、間違いなく足並みが揃わないからお勧めしない。」

 

火逐「マドカさんの三号機は両足と両肩、更にストライカーにも三基セットのドラグーンを合計六基装備。フィンファングストライカーの6基も合わせて合計24基ものドラグーンを同時運用することが可能だけど、流石にそのままだとシステム側の負荷が大きいから頭部に補助モジュールを追加して不足している制御領域を補っているよ。」

 

まずはドラグーンを使う三人のブルーローズの簡単な説明がされた。自分でどういう機体にするか設計したので別に説明を聞く必要性はあまりないのだけれど、俺やアンのは兎も角ドラグーンガン積みのマドカの機体迄形に出来たのには素直に驚いた。

 

次はドラグーンを使わない鈴と箒の機体だ。

 

束「非ドラグーン版の機体の名前は「WR-IS01 ブラックローズ」。花言葉は怖い意味のものが多いけど、「永遠」「不滅」ってのもあるからこの名前にしたのよ。ドラグーンとか複雑なシステムを廃した分量産性能ではこちらの方が上かな?」

 

目の前に持ってこられた機体の大まかな外観は注文に合わせた改造を除けばブルーローズとそこまで差が無いように見える。中身が違うだけなのだから当然だが・・・。

 

束「鈴ちゃんの一号機はちょっと大変だったかな?腕部はほぼ全部新設計になっちゃったからね。機関砲の代わりに小型のシールドを取り付けて、マニピュレーターの手のひら部分に短距離ビーム砲の「WR-56X パルマ・フィオキーナ」を装備、両肩もアーマーから作り直してビームサーベルにもなるビームブーメランを2基装備したよ。あと関節部分もより人間に近い動きができるようにした分防御性能、耐久性能が犠牲になっちゃったから注意してね。」

 

ルウ「バックパックは大型のブースターパック「WR-SP02S スペリオルストライカー」を装備させておいたよ。パーツ不足でパック自体がまだ半分しか出来上がっていないけど、現時点で大出力ブースター2基と長距離レーザーガンが2門ついている。まだ調整中で砲身が動かせないから発射時には前傾姿勢を取る必要があるから注意して。」

 

鈴の機体は上半身に大きめのパーツがやや多めに使われており、若干マッシブな印象だ。格闘戦主眼、特にクロスレンジでの殴り合いを想定している分サブアームがごつくなっているのが原因だろう。脚部が元々スマートな設計なのでややアンバランスな雰囲気がある。

 

束「箒ちゃんのはこれまた難しかったかな。基礎設計は普通だけど武装の数と種類がアンちゃんのとは別の意味で多かったからね。ビームブレードと中距離用リニアガンを二つずつ装備した「WR-SP03 フライトストライカー」を一応装備したけど、まだまだ調整が必要かな?」

 

火逐「手持ち武器として葵を合計3本装備、必要に応じて使う数を変えてもいいし、予備用としてもいい。そういえば、このハルバードは何に使うの?」

 

箒の使う二号機は複数の格闘武器を備え、更に何故か大斧であるハルバードまで腰に備えている。箒曰く、「一撃が重い武器も必要になるだろうから。」とのことだ。

 

束「まぁ、とりあえず一次移行を済ませちゃおうか?後は実際に動かして少しずつ調整していくことになるからね。」

 

確かに。自分が武装を選んだとはいえ、自分にとって本当に扱いやすいか、自分に扱いきれるかは実際に動かしてみないことには解らない。

 

結局、蓋を開けてみないことにはどうしようもないのだ。

 

・・・

 

・・・・・・

 

一夏「・・・あれ?」

 

気が付くと俺は波一つない蒼海の上に立っていた。上を向くと雲一つない蒼穹の空がどこまでも広がっている。

 

??「やあ!待ってたよ!」

 

ふと声がしたので振り返ると、白いワンピースを身に着けた足まで届くほどの長さの白髪の少女が立っていた・・・。




マルチプル・ファブリケーターシステムとは:
サブノーティカシリーズに登場する、マインクラフトで言うところの工作台に相当する機械で、大雑把に説明すると「滅茶苦茶完成が早い高精度の3Dプリンタ」と言ったところでしょう。

これはそれを大型化させたもので、大型かつ複雑なパーツの集合体でも設計図の登録さえしておけば比較的短時間で組み上げることが可能です。

ただ、稼働時にそこそこ纏まった量の電力を喰うのがネックです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【32】綺羅星の如き白き少女 -白星-

元々この話は31話の後半部分だったのですが、前話投稿時に一話としては少し長すぎると判断して急遽二つに分けました。

・・・ちょうどよく切れる部分が他になかったのでまだ少し長いのですが・・・。


??「やあ!待ってたよ!」

 

声のした方へ振り返ると、白いワンピースを身に着けた足まで届くほどの長さの白髪の少女が立っていた。

 

一夏「君は一体・・・?いや、君にあったのは初めてじゃないような気が・・・。」

 

どこかで会ったような、そんな不思議な感覚がしたので記憶をひっくり返して心当たりを探す。

 

数秒ほどして、思い当たるものに行きついた。

 

一夏「君はもしかして、俺のブルーローズのコアかい?」

 

??「ご名答!」

 

なにやら少々ハイテンションな所があるな・・・。それともそれほどまでに嬉しいのだろうか?

 

一夏「それはそうと、ここはどこなんだ?俺はテストのためにISを纏ったはずなのだけど?」

 

??「ここは君の精神世界だよ。本当なら私の精神世界に招待したかったんだけど・・・私にはまだ何もないから私の世界も真っ黒な何にもない所なのよね・・・。」

 

一夏「ああ・・・まぁ、追々その何かを手に入れればいいさ。誰だって最初は何もないんだから。」

 

??「ふふ、ありがと。」

 

眼前の少女は嬉しそうに言った。

 

一夏「そういえば、なんで俺を呼んだんだ?」

 

??「そうそう忘れるとこだった!・・・実はね、私に「名前」をつけてほしいんだ・・・。」

 

少女は先ほどまでのハイテンションから一転して、恥ずかしそうにもじもじしながらやや小さい声でそういった。

 

名前・・・名前・・・、いきなり言われて少し困惑したが、頼まれた以上良い名前を考えなければ・・・。

 

そう思って目をつぶって考え始めると、脳内に何かビジョンが浮かんだ。

 

こことよく似た空間に立つ、コア人格とよく似た、されど何かが決定的に違う少女が俺に語り掛けてきた・・・そのように感じた。

 

一夏「・・・白星(しらぼし)。」

 

??「へ?」

 

一夏「いや、なんかそんなビジョンが・・・。」

 

俺としても今一つ釈然としないところはあった。別に名前が悪いとかそういうことではなく、頭に何の脈絡もなしに浮かんだビジョンで出てきた名前をそのまま付けるのはどうかと思ったのだ。だが・・・。

 

??「白星・・・白星!」

 

どうやら当の本人はその名前が気に入ったようだ。

 

白星「ありがと一夏!」

 

一夏「お、おぅ・・・。」

 

気に入ったのなら何よりだけどと思ったけど、俺はそれ以上考えても仕方がないという結論に達した。

 

白星「えっと、そろそろ戻らないと皆が心配するだろうから今日はここまでだね。」

 

白星は名残惜しそうにそういった。

 

白星「また今度、その時はもう少しゆっくりと話そうね!」

 

そう白星が言ったのちに視界が静かに暗転した。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ルウ「で、いきなり皆無反応になったから吃驚したけど、これってなんなのですか?」

 

束「十中八九、皆はISのコア人格と会話していたんだよ。ISか、或いはライダーの精神世界に入り込んでね。」

 

ルウ「・・・そういうことまでできるのか・・・。」

 

意識が戻るとルウさんが束姉さんに質問していた。この様子だと、他の皆も俺と似たり寄ったりだったのだろう。

 

一夏「所で、皆はISコアと何話した?俺は名前を付けてくれと言われたけど。」

 

鈴「同じだったわよ?」

 

アンと箒を見ると二人とも首を縦に振っていた。マドカも同じだと答えた。

 

一夏「俺は「白星」ってつけた。皆はなんて名付けた?」

 

鈴「私は「フェネクス」って名付けたわ。」

 

アン「私は「アズール」。」

 

箒「私は「神楽耶」と名付けたな。」

 

マドカ「私は「ヴェスタ」ってつけた。」

 

皆それぞれコアに名前を付けていたようだ。・・・ところで・・・。

 

改めて自分たちのISを眺めてみると、皆色や細部が変化していた。

 

鈴のブラックローズ一号機は赤地に黒のツートーンで、両手にビームシールドが展開可能な手甲が追加されたほかに脚部パーツも若干マッシブなデザインに変化している。

 

アンのブルーローズ二号機は青と水色のツートーンで、両肩のアーマーパーツがやや大型化し、内部に格納されている補助ブースターも大型化している。

 

また、元々両足と左肩に4連装が1基ずつ、計3基だったミサイルポッドも左肩のが2基セットになり、腰部のレールガンも大型化している。

 

箒のブラックローズ二号機は黒地に赤よりの桜色のツートーンで、両肩に追加で補助スラスターと大型のレーザー対艦刀が装備されている。

 

マドカのブルーローズ三号機は一番変化が少ないように見えるが、ストライカーパックのフィンファングプラットホームそのものがブースターとしての機能を獲得したようだ。

 

フィンファングを射出していなくてもそれなりの推力強化の恩恵が受けられるが、フィンファングを射出することで更に機動力を高められるらしい。

 

一番変化したのは俺のブルーローズ一号機だ。

 

白地に青のツートーンに変色し、脚部ミサイルポッドとブースターユニットは一体化し、ナイトメアダブルプラス用のアーマードパックを参考にしたようなミサイルポッドとブースターユニットの複合パーツに変化している。

 

更に背部に巡行形態時に機首になるのであろうナイトメアダブルプラスと同じデザインの機首パーツが取り付けられている。

 

ストライカーパックに至っては最早原型を留めないレベルで変化しており、フィンファング自体がプラットホームごと小型化され、装甲の中に格納されている。

 

極めつけにはご丁寧に左肩と右翼に俺用のナイトメアダブルプラスに整備班の皆が書き込んでくれた俺のパーソナルマークである「星空を飛行するデフォルメされた白いナイトメアダブルプラス」が書き込まれていた。

 

一夏「これって、ISが俺の記憶を読んだ結果なのか?」

 

束「・・・多分ね。」

 

束さんも軽く苦笑いしているあたり、これは想定外だったのだろう。

 

ISというものは本当によくわからない・・・。

 

ルウさんと火逐さんは最早笑うしかないと言わんばかりに死んだ目で乾いた笑い声をあげている。

 

・・・まぁ、別に何か問題があるというわけではないのだが・・・。

 

一夏「そういえばルウさんと火逐さんのISはどうなるんですか?」

 

俺は一つ疑問を投げかけた。

 

ルウさんは自分のを作っていると言うが火逐さんのISに関しては何も話が出て来ないのだ。

 

火逐「あー、私は自分の艤装をISに改造する方向で進めているわ。既に艤装があるから新しく作るよりもこうしたほうが早く済むと思ってね。あともう少しでコアが馴染むから、それまで待ってね。」

 

一夏「え?あれを?」

 

俺は前に何度か火逐さんの艤装を見せてもらったことがある。はっきり言って、「怪物」だ・・・。

 

ざっと上げるだけでも連装砲が4基にレーザー単装砲が2基、VLSと魚雷発射管も唸るほど装備されている。そしてその連装砲も駆逐艦が装備するような小型のものではなく、重巡洋艦クラスの大きさだ。

 

他にも多数の迎撃システムを備えており特にミサイルと魚雷はその大半を単独排除できるという鉄壁振りだ。

 

何でも火逐さんの艦種は「重駆逐艦」というものらしい。駆逐艦の設計思想をそのまま戦艦サイズまで拡張させたものが該当するらしく、言うなれば駆逐艦たちの親玉的存在だとのことだ。

 

ただ、この艤装とその元となった艦体は設計が古い上に後から何度も増改築を繰り返した弊害で防御面に不安を抱えており、現在後継となる新型艦を建造中だとのことだ。

 

なお、機能を削って量産性を持たせた量産型もあるらしい。時代遅れになりつつあるとはいえ嘗てはトリニティガードの前衛艦隊総旗艦を務めたという重駆逐艦の量産というのは敵からすれば軽く死ねるだろう。

 

いくら時代遅れとはいえ、その戦闘能力は本物なのだ。

 

・・・閑話休題。

 

ルウ「私のは一応できてはいるのよね。まだ一次移行が済んでいないけど。今持ってくるよ。」

 

そういってルウさんは別室に下がっていった。

 

一体どのような機体に仕上がったのだろうか?




「白星(しらぼし)」という名前はロドニー様の「一夏がシャアに拾われた件について」で一夏が自身のISのコアに名付けた名前をそのまま使っています。

本当は他のISコア同様に独自の名前を付けようと思ったのですが、彼女だけ他により良い名前が全然思いつけなかったので止むを得ず。

因みに名づけ時のシーンは別の作品の同じような状況のシーンを参考にしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【33】血染めの紅薔薇 -Bloody Rose-

このあたりから本格的に鬼滅の刃要素も組み込んでいきますが、ストーリーにガッツリ絡み始めるのはもうしばらく先です。

何分、IS側だけでもこの先イベントがビッチリ詰まっていて時間があまり進まないので。


別室から持ち込まれたルウさんのISはやはり無塗装状態だが、サイドスカートとして大型の可変翼を有し、更に肩アーマーとサイドスカートに取り付けられたブースターの中にフォトンドライブが1基ずつ、更に背中にも1基の合計5基が備わっていた。

 

要はあの時見せてくれた自分自身用ISの設計案をほぼそのまま完成させた感じだ。

 

一方でレールガンが可変翼の内側に備わっていたり、両腕が全体的にマッシブな作りになっている等変更点もある。

 

ルウ「機体名は「WR-ISP01 ブラッディローズ」、固有の名称は「ダークアビス」。」

 

詳しくは知らないがルウさんは自分の機体等に一般には不吉だと言われる名前を付けたがる。

 

ルウ「見ての通り、機体の限界を探るためにあれやこれやとつぎ込んでいるからかなりゴテゴテしているのよね。無論重量も増えているけど、その分推力も高いから計算上はそこまで問題にはなってないけど。」

 

「計算上は」と付けたのは恐らく、ルウさん自身もどのような影響が出ているのかが解らないからだろう。

 

ルウさんにとってISというものは未知の存在であるが故に、既存の常識を元に出した計算結果があまり信用できないのだろう。

 

ルウ「結局、動かしてみないことには解らないのよね。さっさと一次移行を済ませてしまおう。」

 

そういってルウさんは自身専用のIS「ダークアビス」の一次移行を始めた。

 

するとダークアビスは黒地に赤、発光箇所が赤紫というカラーリングに変色した。

 

十数秒間の沈黙ののちに一次移行は完了した。

 

ルウ「・・・懐かしい景色を見れた。久方ぶりに「ファルス・メモリア」を見れたよ。」

 

一夏「ファルス・メモリア???」

 

ルウ「口で説明するのは少し難しいけど、不思議な懐かしさを感じる景色だよ。地面に咲く色とりどりの小さい花、青空に広場を中心に円を描くように巡る風と雲、そして・・・。」

 

(嘗てラグオルのダークファルスを封じていた)大きな不思議な石碑。

 

・・・

 

・・・実はこの景色、ダークファルス復活と同時に瘴気が渦巻く地獄の如き光景に変じてしまうのだが、ルウはそのことを知らず、その前の穏やかな光景しか見たことが無い。

 

そもそもルウはその地を直接見たわけではなく、「浸食天体リュクロス」の中に投影されたダークファルスの記憶の光景「ファルス・メモリア」で見ただけに過ぎない。

 

一応ルウはある事故から惑星ラグオルに行ったことがあるのだが、その時もこの地に赴くことが無かった。

 

そのためルウにとってはこの景色は「惑星ラグオル」ではなく「ファルス・メモリア」というイメージしかないのだ。

 

また、現地に行ったことも、復活の瞬間を見たことも無いため、この石碑が何なのかもルウは知らない。

 

・・・閑話休題・・・

 

束「へぇ~。で、そういえばISコアとは会えた?」

 

ルウ「会えたね。石碑の中から出てくるなんて小洒落た登場方法だったけど。」

 

マドカ「石碑の中から?」

 

ルウ「さぁ?何故そんな登場方法を取ったのかは私にもわからない。」

 

ルウさんも何故そうなったのかは解らない様だ。

 

ルウ「因みに名前は少し悩んだけど、一番最初に思い浮かんだ「ラグナス」と名付けた。背中に赤い翼の様なパーツがついていたからね。そういえばISの方はどうなったかな?」

 

一次移行を終えたダークアビスは両肩に大きめの装甲板が補助シールドのように追加されており、その裏面には五連装の小型ミサイルランチャーがついていた。

 

両腕には元々何も取り付けられていなかったのだが、コア同士が意見交換でもしたのか俺たちのISに取り付けられたものと同型の機関砲が新たに取り付けられている。

 

バックパックもかなり変形しており、プラットホーム基部にブースター兼ホーミングレーザー発心機が装備されている。

 

ドラグーンは無くなったが、代わりにそれに近い運用が可能な有線式ワイヤーアンカーが6本プラットホームからぶら下がっている。

 

ルウ「本当にISというものは私の理解の範疇を超えている・・・だが、それ故に面白い。」

 

ルウさんはどこか楽しそうにそう呟いた。

 

一夏「ルウさんは試作モデルであるラベンダーの基礎設計や試験運用もしたから、謂わばこのIS達の育ての親の一人ともいえるかもね。」

 

ルウ「まぁそうとも言えるかもね。そして、親としては子がどういう風に成長したのか、すごく気になるところなのよね。」

 

俺はルウさんがまたしてもいい笑顔を浮かべるのを見た。

 

一夏「模擬戦ですね?」

 

ルウ「わかっちゃう?」

 

一夏「わかるとも!!」

 

その後、全員で模擬戦となったけど、それはまた別の機会に書くとしよう。

 

 

 

・・・・・・そのころ、とある製鉄所では・・・

 

 

 

???「待っていたよ、無惨。」

 

無惨「久しぶりだな産屋敷。今生では何年ぶりだったかな?」

 

産屋敷「多分最後に直接会ったのは5年前だったと思うよ?」

 

無惨「5年か・・・女性利権団体のテロ活動が大規模化し始めたのが原因で、お互いその対策に振り回されていたからな。」

 

産屋敷「僕たちは今やお互い一つの企業を抱える事業主だからね。従業員たちの身の安全のためにも手は打たなければいけなかったからね。」

 

無惨「そうだな。ところで産屋敷。」

 

産屋敷「なんだい?」

 

無惨「見る限りではそれなりに警備を固めているようだが、女性利権団体相手ではこれは少々不足なのではないか?」

 

産屋敷「そう思うかい?」

 

無惨「私は自社製の昏倒ガス等かなり本格的に侵入者を無力化する設備を用意したが、ここのは見る限り監視カメラと警備ドローンだけしか無いようだが?」

 

産屋敷「確かにそういう意味での警備システムはそれくらいしかないね。でもね・・・」

 

無惨「なんだ?」

 

産屋敷「ここには僕がいる。病弱だった前世では兎も角、今生ではこれ以上の警備はそうそうないんじゃないかな?」

 

無惨「ははは、確かに一理ある。お前の剣技は世界大会でも他の追随を微塵も許さなかったからな。だが、お前ひとりで全部を守れるのか?ISを生身で相手取るのは相当に骨だと聞くぞ?」

 

産屋敷「確かにね。近々テイザートラップを新たに導入する予定だから、それで補うつもりさ。」

 

無惨「・・・うちの昏倒ガスを売ろうか?安くしておくぞ?」

 

産屋敷「ははは、有難く買わせてもらうよ。ところで話は変わるが、君も最近噂では聞いているんじゃないかな?」

 

無惨「ELIDとやらの変異種というやつか・・・。聞く限りではその変異種、前世の私達・・・『鬼』と気味が悪いほど類似点が多い。夜間にしか現れず、いくら銃弾を浴びせても死なないどころか少し時間を置けば再生する癖に、日の光を浴びれば灰となって消えるときた。現状再生する暇がないほどに銃弾や爆弾を叩き込んで釘づけにして朝日が昇るのを待つしかないという、前世で鬼の首魁であった私が言うのもおかしな話だが、相手取ると厄介極まりない・・・。」

 

産屋敷「これはまだ僕の憶測でしかないのだけれど、鬼とELIDには共通のルーツがあるんじゃないかな?」

 

無惨「共通のルーツ?」

 

産屋敷「確か君は「青い彼岸花」というものを前世で探していたよね?」

 

無惨「そうだ。私を鬼に変えた薬の材料の一つ。当時は本当に青い色をした彼岸花なのか・・・それとも何かの比喩的なものなのか・・・結局解らず仕舞いだったが・・・。」

 

産屋敷「これはあくまで僕の憶測でしかないのだけれどね・・・、その「青い彼岸花」はELID・・・つまりは崩壊液と何かしら関係性があるのかもしれないんだ。」

 

無惨「・・・可能性としては無くはないな・・・。崩壊液の影響で何か別の花が変異したとすればその可能性は否定できない。」

 

産屋敷「尤も、僕もその「青い彼岸花」を実際に確かめたわけではないから、憶測の領域から出られないけどね。」

 

無惨「・・・しかし、もし仮にELIDの変異種が『鬼』と同じ、ないしは近しい存在だとして、では奴らの目的は何なのだ?」

 

産屋敷「目的?」

 

無惨「今はまだ情報が少ないから何とも言えないが、奴らの目撃情報に関して何か引っかかるところがある。」

 

産屋敷「・・・引っかかる?」

 

無惨「・・・何が引っかかるのかがまだ解らんのだ。ただ、少なくとも何の統率もなく野良で沸いているわけではなさそうだ。何か目的があって行動しているような・・・だが情報があまりにも少ないせいで確証が持てん。」

 

産屋敷「変異種ELID達の目的か・・・こちらでも情報を集める必要があるかもしれないね・・・場合によっては、鬼殺隊を再び立ち上げる必要があるかも・・・。」

 

無惨「まさかこの時代に鬼殺隊を再度立ち上げる必要が出てくるとはな・・・。しかし、私の感じた「引っかかり」の内容如何によっては、必要になるだろうな。」

 

産屋敷「その時は力を貸してくれるかい?」

 

無惨「出来る限りのことはするさ。それが、私が果たすべき責任でもあるのだからな。」




解らない人には解らないでしょうが、ルウはPSU、PSPo2i、PSO2と3つのファンタシースターシリーズを渡り歩いています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【34】SFSの「蛇」 -Ouroboros-

ドールズフロントラインプレイヤーにとって「ウロボロス」というハイエンドモデルにはどういう印象を持っているだろうか?

 

雑な表現にはなるが、多くの人が「AIの蠱毒から生まれたハイエンドモデル」、「強い事には強いが出自の影響もあって人格に大きな問題がある」と言ったところだろうか。

 

実際、原作のウロボロスはその性格が災いして鉄血から見限られることとなった。

 

だが、この世界のウロボロスはどうだろうか?

 

生まれからして異なるうえに、己を磨くことに余念がないストイックな性格は、少なくとも原作のCUBE作戦で登場したウロボロスとは似ても似つかない。

 

そんな彼女は現在訓練所の教官として後進育成をしつつ、同時にこの間の平行世界の無人島での負けの経験を糧に今もなお己を磨き続けている。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ウロボロス「今日はISを相手にした戦闘訓練を行う。今回は初めてだから全滅する前に儂のIS「ラファール・リヴァイヴ」のシールドエネルギーをゼロに出来れば成功とする。」

 

今日のウロボロスはオレンジと白のツートンカラーのラファール・リヴァイヴを纏っていた。

 

ウロボロスは元々ISを扱うことも想定しており、そのためにメモリ領域が他のハイエンドよりもかなり大きめになっている。

 

前の大規模コラボでも触れたが、このISは訓練所の備品ではない。

 

AK-47「質問!」

 

ウロボロス「何じゃ?」

 

AK-47「そのISって備品じゃないですよね?訓練所で見たことないんだけど?」

 

ウロボロス「その通り。これは儂が数週間前に自腹を切って購入した物じゃ。つまりは儂の私物じゃな。」

 

男性訓練兵「えっと・・・それってつまり教官の私物相手に訓練するんですか?」

 

ウロボロス「そうじゃ。この訓練所にはISライダーがおらんかったから今まで備品としても存在せんかったのでな。せっかくだから訓練にも使えるように私物として購入したんじゃ。」

 

M1A1「でも、ISなんて私達じゃ・・・。」

 

ウロボロス「まだ始まってもいないのに泣き言を溢すでない!確かに勝つのは簡単ではない。だが、ISを用いたテロが増え続けている以上、この先実戦で否応なしにISとし合う時が来る。その時に経験があるのとないのとでは大きな違いがある。」

 

M1919A4「でも、僕たちで勝てるの?ISにはやっぱりISをぶつけた方が・・・。」

 

ウロボロス「それは一理ある。だが、お主達はISを使えるか?」

 

訓練兵たち「うっ・・・。」

 

ウロボロス「ISは現状女性にしか動かせぬ。戦術人形は一応動かせることには動かせるがメモリ領域の関係で実戦ではまるで役に立たん。無理に使おうとしてもまともに動けぬまま嬲殺しにされるのが関の山じゃ。」

 

嘗てシイムがテロリストのISを奪って使用したことがあるが、メモリ領域が足りず殆どまともに動けないままあっさり沈められるという醜態を晒したことは一般にはあまり知られていないが、グリフィンや軍上層部の間では有名なしくじり談となっている。

 

元々今の戦術人形が今のISを動かすのは難しいという事は理論上では言われていたが、実際に試されたことは無かった。

 

シイムのしくじり談から、今の戦術人形では現行のISの操縦はほぼ不可能だという事が図らずも実証されることとなったのだ。

 

アストラ「じゃあ教官はどうなんですか?」

 

ウロボロス「儂は最初からISを使うことも想定して作られておるからメモリ領域がかなり大きめにとられておる。あくまで今は儂が特殊なだけじゃ。それを解消する技術も既に開発されておるが、残念ながらまだまだ課題が山積しており試作の域を出ておらん。それまでは別の方法で対応するほかない。出撃したはいいものの、「ISが相手で手も足も出ませんでした」では今の時代よろしくないからのう。」

 

訓練兵たち「・・・。」

 

ウロボロス「まぁ、勝つのは簡単ではないが勝てないことは無い。現に、404特務小隊が初陣でIS相手に戦術を駆使して勝利をもぎ取っておる。」

 

これは結構有名な話だ。

 

だが、詳しい内容まではあまり知られていないので404特務小隊がどうやってIS相手に勝利を収めたのかまではあまり知られていない。

 

ウロボロス「ISは兵器としてみるとかなり厄介な存在じゃが、決して無敵の存在ではない。性質上どうしても抜け穴はある。ならば、その抜け穴をついてやればISを使わずとも対処は可能じゃ。・・・決して楽なことではないがな。そのためにも実戦を交えて訓練を行う。」

 

結局のところ、実戦で学ぶほかないのだ。理屈で説明しても実戦経験が無ければその知識を活かし切れず押し切られるだけだ。

 

ウロボロス「まず大前提として、ISのシールドエネルギーは無限ではない。予めチャージしておいたエネルギー分しかシールドエネルギーは保持できず、またISごとに保持できるシールドエネルギーの量はある程度決まっておる。そして、原則ISはシールドエネルギーが尽きてしまえば強制解除されてしまう。つまり、何でもいいからシールドエネルギーを削り切れれば良いのじゃ。」

 

ISは確かに兵器として見ると強力だ。戦闘ヘリに匹敵する火力とそれを上回る高い運動性、そこに例外こそあれどISライダーへの如何なる攻撃をも無効化する「絶対防御」という鉄壁の守り。だが、この「絶対防御」こそが弱点でもある。

 

絶対防御は発動する際に無効化した攻撃の威力に応じてシールドエネルギーを消費する。そしてシールドエネルギーが尽きてしまえばISは原則強制解除され、絶対防御を除く機能の大部分もダウンする。即ち、シールドエネルギーさえ削り切れればISが持つ優位性が一気に損なわれるのだ。

 

ウロボロス「・・・もしかしたらこの前提に当てはまらぬ例外があるかもしれぬが、今はそれに関しては考えんで良い。そこまで考えていては流石にキリがないからな。大体もしそういう手合いが相手では例えISライダーでも勝つのは容易ではない。」

 

ウロボロスが言った「例外」。奇しくも他の世界線にはそのような例外がいくつか存在する。幸いこの世界には存在しないが。

 

ウロボロス「次に、ISは結局はISライダーが操縦しているという点じゃ。人が関与している以上、ヒューマンエラーが発生するのは最早宿命じゃ。そして404特務小隊もこの弱点を突いて勝利をもぎ取ったのじゃ。」

 

M1A1「じゃあ、その弱点を突けば私達でも勝てる可能性はあるってことですか?」

 

ウロボロス「そのとおり・・・と、言いたいところじゃが、例えテロリストでもISに関する知識はひとしきり持っておるだろうし、戦闘訓練も相応に積んでおろう。余程の新米でない限り、そう簡単に隙を晒してはくれん。大体相手が隙を晒すのを待っていては被害が抑えられん。それでは意味が無い。」

 

男性訓練兵「ではどうするのですか?」

 

ウロボロス「こちらから揺さぶりをかけてミスを誘う。」

 

AK-47「と、いうと?」

 

ウロボロス「参考までに、404特務小隊がどのようにして勝利を収めたか、簡単に説明する。儂も直接見たわけではないからそこまで詳しく説明は出来んし、何より細かく掘り下げるのはココでは蛇足になる。」

 

訓練兵たち「・・・。」

 

ウロボロス「簡単にいえば、中距離での射撃と別方向からの狙撃を絡めて息をつく暇もなく攻め立て、相手に状況をじっくり考える暇を与えなかったのじゃ。前からサブマシンガンで撃たれ、反撃しようとしたら背後から狙撃されて気を散らされ、そちらに対応しようとすれば後ろからサブマシンガンで撃たれる。前から後ろから断続的に攻撃を浴びせられて相手は苛立ち、そしてつまらぬ判断ミスを犯してしまった。日本にかつて居たとされるニンジャが扱うニンジュツという技術の「怒車の術」に近いな。」

 

「怒車の術」とは、簡単にいえば「相手を怒らせて冷静さを奪い、行動を単調化させることで隙を作る」という技法だ。人の心はその場その場の感情で簡単に思考の方向性が誘導されやすく、そして騙されやすい。

 

その心理的弱点を突いた忍術であり、他にも喜ばせて警戒心を解く「喜車の術」、同情を誘い泣き落とす「哀車の術」、楽しませることで関係の主導権を握る「楽車の術」、そして恐怖で支配する「恐車の術」が存在し、これらを総称して「五車の術」という。

 

404特務小隊が初陣で取った戦術は「怒車の術」に近いが、怒らせるというよりは「苛立たせて集中力を奪いミスを誘う」というやり口のため、仮に名付けるならば「苛車の術(かしゃのじゅつ)」とでもなるだろうか。

 

ウロボロス「無論誰にでも通じるというわけではない。ライダーとISとの間に強い絆があればこの隙もほぼほぼ相互支援によって消えるじゃろう。だが、一般的なテロリストが相手なら大凡通じると考えて良いだろう。まぁこればかりは実戦で試した方が解りやすいじゃろう。」

 

そう言ってウロボロスは装備の弾倉の中身を確認する。

 

ウロボロス「今回は演習故に全員演習用の模擬弾を使用するが、それ以外は実戦そのままを想定して行う。儂もまだISに慣れ切ってはおらんが、それなりに本気でやらせてもらう。そうでなければ訓練にならん。」

 

それを聞いて訓練兵たちの緊張感は一気に高まった。

 

ウロボロス「最早言うまでもないが、半端な気持ちで挑むことだけは許されんぞ?演習ではしくじっても怪我で済むだろうが、実戦では容易く命が消し飛ぶ。儂を本物のテロリストだと思って全力で来い!」

 

訓練兵たち「はい!!」

 

ウロボロス「よろしい!!では10秒後に訓練開始じゃ!見事儂を無力化してみせい!!」

 

・・・

 

後にこの模擬戦に参加した訓練兵は、「対IS戦というものを心のどこかで甘く考えていたのかもしれない・・・」と述懐した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【35】ISとの模擬戦 -Vs.IS Rider-

急に冷え込んできて体調がどうも安定しません。

現在【41】を執筆中ですが、体力が落ちているのか休日は日中の大半を寝て過ごしている状態なのでどうにも筆が進められません。

・・・今日も眠たい・・・。


AK-47「ええ!?それってハードターゲット用の・・・ッ!!」

 

模擬戦開始早々、AK-47は情けない悲鳴を上げた。

 

それもそのはず、ウロボロスのISの左肩には対戦車・対戦闘ヘリ用の四連装誘導ミサイルランチャーが装備され、それを2発立て続けに放ったのだ。

 

ウロボロス「最近のテロリストはどこで手に入れたのか戦車や戦闘ヘリを繰り出してくるものまでおる!テロリストが扱うISがこれくらい持ちだしてきても何ら不思議ではあるまい!」

 

実はこのミサイルランチャー、SFSがドラグーンの支援用モデルのために製造したもので、その先行試作品のうちの一つをウロボロスがテストも兼ねて使ったのである。

 

無論、炸薬の種類は睡眠ガスに変更されており、直撃でもしない限り怪我はしない。

 

だが、訓練兵たちからすれば文字通り「度肝を抜かれた」と言ったところだろう。訓練兵たちは情けない悲鳴を上げながら散り散りに逃げ出す始末だ。そこにウロボロスの怒声が響き渡る。

 

ウロボロス「狼狽え過ぎじゃ馬鹿者!誘導ミサイルは急な動きには対応できん!引き付けて回避するのがセオリーじゃ!或いは遮蔽物で防ぐか、腕に自信があるなら撃ち落とすことも出来るじゃろう!」

 

訓練兵たち「そんなこと言ったってぇ~~!!!」

 

悲鳴を上げながら逃げ回り、それでも何とか対処していく訓練兵たちだが・・・。

 

M1A1「あ!?」

 

逃げ回っていたM1A1が何かに躓いたのか転倒した。

 

そのあとを追尾していたミサイルはいきなりターゲットが視界外に消えてしまったので目標を見失い、そのまま直進して訓練場の壁に衝突した。

 

M1A1「あたた・・・ラッキー・・・。」

 

ウロボロス「ラッキーなものか馬鹿者!!隙を晒せば付け込まれるのはお互い同じことじゃ!!」

 

甘い事を言うM1A1にウロボロスの雷が落ち、同時にマシンガンの非殺傷弾が雨あられと撃ち込まれる。

 

M1A1「あぎゃああああああああ!?!?」

 

ウロボロス「ホレ見たことか・・・隙を晒せば即ハチの巣、それが実戦の厳しい所じゃ。というか、皆がバラバラに逃げてしまっては誰かがミスを犯してもそのフォローが出来ぬではないか!!大分前に教えたはずじゃぞ!!」

 

敢え無くリタイアとなったM1A1をしり目に、ウロボロスは狼狽え過ぎてまるで連携が取れなくなっている訓練兵たちにも雷を落とした。

 

ウロボロス「無為無策に戦力を分散させるのは得策とは言えぬ。分散した歩兵なぞISからすれば多少被弾しても各個撃破で充分捻り潰せる。逆に密集しすぎてもダメじゃ。ミサイルなどで一網打尽にされるだけじゃからな。」

 

訓練兵たち「は、はい!!」

 

ウロボロス「基本的な部分はISが相手でも大して変わらん。後はIS相手にどこまで自分たちのペースを保ち、相手のペースに乗せられない様に出来るかにかかっておる。そういう意味ではさっきのアレは落第じゃぞ?」

 

訓練兵たち「申し訳ありません!!」

 

ウロボロス「解ったのならよろしい!では、1時間休憩をはさむ。休憩後もう一度模擬戦を行う。武装は変えぬから今のうちに休憩と問題の洗い出しをする事じゃ。」

 

訓練兵たち「はい!!」

 

・・・

 

・・・・・・

 

ヘリアン「ウロボロスさん。」

 

ウロボロス「おお、お主かヘリアン殿。」

 

ヘリアン「急に呼び出して済みません。」

 

ウロボロス「構わん。お主も忙しいのだろう?それに、ちょうど休憩中じゃったからな。」

 

ヘリアン「そうですか。ところで、どうですか?彼女らは。」

 

ウロボロス「そうじゃなぁ・・・今のままでもひとしきりのことは出来るはずじゃが・・・。」

 

ヘリアン「というと?」

 

ウロボロス「・・・「経験」が足りん。実戦で凡ミスをやらかす恐れはまだまだ高い。」

 

ヘリアン「そうですか・・・。」

 

ウロボロスの評価にヘリアンは表情を曇らせる。

 

ウロボロス「筋はいいんじゃ。じゃが、それを下支えする経験が不足しておる。こればかりは一朝一夕にはいかん。人手不足なのは解っておるが、ISを使ったテロが増えてきている現状ではなぁ・・・。」

 

ヘリアン「・・・。」

 

フォローしつつも現実を指摘するウロボロスの発言にヘリアンは返す言葉も無かった。

 

対IS戦は普通のテロリストや犯罪組織、ELIDを相手にするのとは訳が違う。

 

自らもISを扱い、その特徴を学んだウロボロスからすれば、いくら人手不足であろうと訓練が半端な状態で実戦に放り込むのは愚策と言っても過言ではないし、教鞭を執る以上半端な終わらせ方はしたくないのだ。

 

何より、相手が異常な存在だったとはいえ、それなりに経験を積んでいる上にIS運用を前提に生み出されたハイエンドモデルであるウロボロスであっても万能者世界での調査任務の際にキノコマンの長距離レーザー攻撃に手痛い一撃を喰らわされたのだ。

 

そして、そのたった一撃で自身と相手との間に覆しようがない程の実力の隔絶があることを思い知ったのだ。

 

流石にテロリストがそこまでエゲツナイものを用意できるとは考えにくいが、それを勘案しても実戦はまだ早過ぎるとしか言いようが無い。

 

ウロボロス「そこまで気に病む必要はない。儂もやれるだけのことはする。それに、あやつらは筋がいい。何回か墓穴を掘ってこそいるが、それをしっかり修正して同じ轍を踏まぬようにしておる。」

 

ヘリアン「そうですか。」

 

ウロボロス「まだまだ先の話じゃが、いずれはグリフィンと合同で大規模な実戦訓練をしようと思っておる。・・・それはそうとお主。」

 

ヘリアン「はい?」

 

ウロボロス「・・・また合コンで負けたと噂になっておるぞ?」

 

ヘリアン「がぁ!?!?」

 

ウロボロス「儂も又聞きしただけじゃから出所は解らんが、なんでも受付さんが今朝誰かから聞いたらしいと・・・ヘリアン殿?」

 

ウロボロスが横を向くといたはずのヘリアンがもう居ない。

 

ウロボロス「・・・あー・・・。そういう過剰反応が敗北の原因ではないのかのう?・・・そのうち変な方向に拗れなければよいのじゃが・・・。」

 

呆れ半分心配半分にウロボロスは既にヘリアンがいない通路を遠い目をしながら眺めた。・・・ついでに噂を流した何者かに先南無もしながら・・・。

 

因みに休憩後の第二回戦では訓練兵たちは結構いい線まで行ったが、ウロボロスの引っ掛けに釣られてしまい迂闊に接近したところをCQC(ウロボロスがアメリカのマーシャルアーツを調べている中で偶然見つけた)で返り討ちに遭ってしまった。

 

ついでに言ってしまうと、ヘリアンの合コンの話を広めたのが誰かなのかは結局解らず仕舞いだったとか・・・。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【36】盾を受け継ぐ者 -Inheritor the Aegis-

今年はこれが最後の投稿になります。

これから正月前後の臨時編成、並びに正月の朝刊配達に備えて体力を温存しなければならないので。

また、現在43話を執筆中ですが、どうもアイデアが纏まらず停滞状態になっているため、新年の初投稿はかなり遅れると思われます。


【視点:ガイア】

 

サクヤ「ねえ、ガイアちゃん。うちって『自前の装甲兵』って居ないよね?」

 

ガイア「え?確かにアレは自前じゃないですけど・・・。」

 

三月頭の昼過ぎ、食堂で対面になったサクヤさんが話しかけてきた。

 

確かにSFSは基本的に装甲兵に相当する戦術人形がいない。

 

一応アイギスやニーマム、マンティコアが少数いるにはいるが、あれは元々正規軍からの外注生産でしかなく厳密にはSFSの自前ではない。

 

現在SFSに配備されている個体は鉄血工業時代に初期生産されていた動作試験用や負荷耐久試験用の個体を引き続き使わせてもらっているだけだ。

 

それらも相当前から使われ続けていたものだったらしくてかなりガタが来ており、SFSになって以降は輸送部隊や訓練相手、重量物や危険物を取り扱う作業用としての運用しかしていない。

 

実際、それらの個体は古い倉庫の中で埃をかぶっていたものをS09地区へ移動する際にその倉庫をマテリアルに分解した際に偶然見つけたもので、鉄血工業時代は相当酷使されていたらしく発見時点ではほぼ自力行動が出来ないほどに傷んでいた。

 

解体・廃棄しても良かったのだが、ボロボロの躯体を軋ませながら「まだ働ける」と訴えかけてきた彼らの心を無碍にすることも出来ず、一緒に連れてきて何とかオーバーホールして今に至るというわけだ。

 

尤も、オーバーホールしても戦闘に耐えられるようなレベルにまでは復旧出来ず、今のような後方勤務に落ち着いている。

 

その為、SFSには現状装甲兵が存在しないのだ。

 

ガイア「でも、現状装甲兵が必要な状況は限られてますよ?いずれ必要になる日が来るかもしれませんけど・・・。」

 

サクヤ「実はね、正規軍の装甲兵たちも近々新型に変更するって連絡があったの。確かマンティコアをヒュドラという発展型に更新させて、ニーマムも半数をケリュネティスという別モデルに交代させるって。」

 

ガイア「あーそういえば近々仕様書を送るって連絡があったっけ。」

 

アーキテクト「あれ?そういえばアイギスは?」

 

ふと、アーキテクトとゲーガーがやってきて隣に座った。

 

サクヤ「アイギスは当面そのままだって。」

 

ゲーガー「まぁ、アイギスは今のモデルからだと弄りようがないからな。いっそ一から設計をやり直した方が早い。」

 

アーキテクト「ふぅん。じゃあ、いっそ私達で作ってみるっていうのは?アイギスの新モデル。」

 

アーキテクトのこの発言にゲーガーは「え?」と言った感じの表情を向けたけど・・・。

 

ガイア「それ、いいかも。良いのが出来れば逆に正規軍に売り込みかけることもできるし。」

 

私は「それアリ」と言った感じで乗っかった。

 

実は、私にはどこかの誰かの言うだけのブラフではなく、一つ腹案があったのだ。それは・・・。

 

ガイア「実はね、私が元居た世界にはEDFっていう組織があってね、その中の兵科の一つに『重装甲のパワードスーツを纏った装甲兵』という兵科があるんだよね。」

 

そういってPDAに記録された資料を見せる。詳細なデータではないが、それでも基本的な仕様は充分伝わる資料だ。

 

ゲーガー「重装甲化した強化外骨格を着込むというタイプか・・・。」

 

アーキテクト「各部のパワーアシストシステムによって生身では運搬することすら不可能な重火砲をも扱える・・・。」

 

サクヤ「総重量の関係で機動力が低いけど、それを補うためにバックパックに高速移動用のスラスターを備える・・・。」

 

私が提示した装甲兵「フェンサー」は機能的には相手の攻撃を自前の装甲で物ともせずに突き進み、歩兵では運搬すら不可能な強力な重火砲や巨大な質量武器を扱い相手を粉砕するかなり攻撃特化の兵科だ。

 

そして、重量からくる機動性の低さをスラスターで補っている。しかもこのスラスターは平面方向だけでなく、大ジャンプが出来る「ジャンプブースター」としても使える。

 

加えてシールドも装備できるため、総じてアイギスと比べて数段高性能だ。

 

総重量と製造コストは犠牲になっており、運用にかなりのコツが必要な部分がある等欠点もあるが、手持ちの技術を応用することで既存の戦術人形を中身として流用したり、人間の兵士が入って運用することも可能だろう。

 

なお、シールドは本来相手の攻撃に合わせて起動することで相手の攻撃を反射することが出来る「ディフレクター」というシステムが内蔵されているのだが、そのシステムの詳細に関しては機密事項なのでデータが手元に存在せず、現状再現は出来ない。

 

???「ふーん、けっこうおもしろそうじゃないか。」

 

そういって会話に混ざった少年はつい先月整備士として入社したデールさんだ。

 

オペレーターとして同日入社したシーアさんとは異父姉弟とのことだ。

 

デール「正規軍は人間だけの部隊も未だに多数存在していると聞いているから、人間でも運用可能というのは受けがいいんじゃないかな?」

 

私も「正規軍の中には戦術人形に対してあまりいい感情を持っていない人も少なからずいる」という話を噂としてだが聞いたことはある。

 

そうでなくとも「人権団体」という懸念材料がある。穏健派はそうでもないが、過激派ともなると人形そのものの排除を声高に叫ぶものが多い。

 

そして、それはかの悪名高い「女性利権団体」も同じだ。方向性こそ異なるが、この女性利権団体も「過激派人権団体」に分類される。

 

何故女性型が多い人形に対して女性利権団体がいちゃもんをつけるのかというと、どうやら「外観が女性なだけのロボットが我々人間の女性と並び立つなど許せない」という事らしい。

 

・・・それを言ったら、正体がAIである私自身も女性利権団体からは目の敵にされるという事になる。いや、もうすでに目の敵にされているかもしれない・・・。

 

ひょっとしたら、火逐さんをはじめとした艦娘達にも噛み付いてくるかもしれない・・・。

 

そんなゲンナリするような想像を頭の中から追い出し、私は午後の会議でこの新型装甲兵の新規生産に関する議論をする為に、この後の予定の確認と調整を始めたのだった。




年明けの最初の投稿となる37話では、ドルフロ世界の正規軍よりあの人が登場します。

原作ではあのような事になってしまいましたが・・・?

取り敢えず、来年の投稿までお待ちください。

それでは、良いお年を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【37】受け継がれる鋼鉄の防人 -EDF Fencer-

相当遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。

既にシーズン5のアイデア迄出てきているのに、この時点で執筆につっかえている様ではそこにたどり着くのに後何年費やすことになるのか、そもそもシーズン1自体完遂できるのか我ながら怪しい節がありますが、執筆をつづけられる限り続けたいと思います。


前回から三週間後 正規軍基地演習場

 

【視点:エゴール】

 

エゴール「ほう、貴様が今回アイギスの後継機として開発された新型装甲兵か。」

 

フェンサー・バレット1「はい。フェンサー型先行試作機として派遣されましたバレット1と申します。」

 

私の眼前には装甲兵というのは無理があるとしか言いようがない軽装な小娘が立っている。これが新型装甲兵?

 

エゴール「しかし装甲兵という割にはやけに軽装ではないか?」

 

バレット1「流石に普段から装甲を纏っていては邪魔になるという判断から、不要なときは強化外骨格は武装ごと背中のコアモジュールに内蔵された拡張領域の中に格納できるようになっています。」

 

どうやらその強化外骨格は格納可能なようだ。人間でも扱えるという関係上、着脱の手間等を省けるこれは悪くない。

 

エゴール「なるほどな。では、どのような装備があるのか見せてもらおうか。」

 

バレット1「今回は4種類持ってきましたが、実際にはまだ何種類か装備があります。まずは外骨格を展開します。【装甲展開(アームズ・フォース)】。」

 

そういうとバレット1の体は無骨な装甲に包まれた。

 

バレット1「まずはこの「ブラストホール・スピア」です。」

 

取り出されたのはパイルバンカーのような大型の装備だった。

 

バレット1「電磁加速によって瞬間的に槍を伸ばし、そして瞬間的に戻す武器で、主に戦車などの硬目標への打撃を主眼化しています。射程距離は最大でも80mと短いですが、一撃の威力は極めて高いです。」

 

エゴール「・・・は?」

 

最大射程80m???

 

パイルバンカーとしては破格の射程だと思うのだが?

 

バレット1「槍の柄の部分に拡張領域を応用した伸縮機能が内蔵されているので見た目より射程距離が長いのですが、まだ開発途上なので今は80mが限界です。今後の開発によって射程は伸ばせるでしょうが、原則中距離にもギリギリ届く近距離武器です。」

 

どうやらそういう特殊機能が組み込まれているようだ。

 

バレット1「注意点として、モジュールにかかる負荷を抑えるために1発目から最大性能は出せません。同様の理由で最大性能での連射も出来ません。無理に最大性能で連射をすると最悪槍がすっぽ抜けてしまう恐れがあるので。それと、最大性能を出すと冷却と姿勢制御のために1秒ほど使用不能になります。」

 

エゴール「なるほどな。扱いにはコツが必要なようだな。」

 

まぁ、フェンサー自体運用に慣れが必要という事前情報があったのでそこまで驚きはしない。

 

バレット1「次はこちらの「ヴァリアブル・シールド」です。といっても、こちらは携行性を持たせるために非使用時に盾の一部が伸縮格納されるだけなのでそこまで特別な機能はありません。アイギスの盾と比べると防御性能では劣りますが、癖が無く扱いやすいのが売りです。」

 

エゴール「流石にアイギスの盾と比べて防御では劣るか。」

 

バレット1「元々両者は設計思想が異なるので致し方ないのですが・・・。一応同等の防御性能を持たせた「タワーシールド」もあるにはありますが、あれは取り回しに難があるので・・・。」

 

彼女の言い分は尤もだ。

 

同じ装甲人形でもアイギスはそれそのものが一種の盾となるように設計されており、それ以外の機能は必要最低限。攻防を両立させたフェンサーとは根本的に異なるのだ。

 

バレット1「次は射撃武器になります。まずは背中のハードポイントに接続される「ガリオン速射機関砲」です。」

 

そういって背中のハードポイントに展開されたのは二連装の機関砲だった。

 

バレット1「単発火力は高くないですが速射性能が高く、またそこそこの連射性能もあるので咄嗟の迎撃などで有効です。何より腕が空く上に姿勢を固定する必要が無いので盾を構えたまま攻撃しつつ移動することが可能です。射程距離は300m程度です。」

 

エゴール「ふむ。」

 

こちらは堅実な射撃武器だ。取り敢えず持って行けば役に立つ場面に出会えるだろう。

 

バレット1「最後はこれ、「ガリア重キャノン砲」です。」

 

エゴール「・・・デカいな。」

 

最後に取り出されたのはかなり長めのバレルを持った重厚なハンドキャノンだった。

 

バレット1「はい、かなり大きいです。フェンサーが運用できる射撃武器としては最大最強の武器です。射程距離は800m以上あり、更に徹甲弾を装填しているので多少の敵なら貫通可能です。ただ、欠点として発射時に一度姿勢を固定しなければならず、発射後も反動制御で1秒ほど動けなくなってしまいます。重すぎて旋回性能も低く、反動が大きすぎて発射時に砲身が大きく跳ね上がってしまうので使いこなすには慣れが必要です。」

 

エゴール「流石にか。」

 

バレット1「これは強化外骨格のパワーを以ってしても「辛うじて」運用できるレベルの代物なので。逆に使いこなせさえすれば、戦車級の火力を一兵士で発揮できます。砲弾が目に見えて山なりに飛ぶという癖こそありますが、砲精度自体は極めて優秀なので弾道狙撃も出来ます。」

 

エゴール「なるほどな。実際に使って試すことは出来るか?」

 

バレット1「はい。人間用のものも持ってきましたので。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

エゴール(凄い!これほどの装備を一兵士が扱えるようになる日が来ようとは・・・!)

 

使って見た感想は、「使いこなせさえすれば一騎当千の戦士に成れる」という感じだ。

 

スピアやキャノン砲は一撃で戦車の装甲を想定した的を吹き飛ばし、機関砲も威力こそ大きく劣るがそれでも装甲車相手に充分渡り合えるだけの性能と取り回しの軽さを持っていた。

 

機動力もスラスターを使ったサイドスラスターとジャンプブースターで充分補え、更に今後改良が進めば連続使用による立体機動も可能になる見込みがあるという。

 

航空戦力に対しては多少不利が付くが、そこは他の兵科や車両、人形に任せればよい。

 

なにより私にはこのフェンサーが非常に肌に合った。

 

エゴール「私はこれが気に入ったぞ!上には私から推薦しておこう!」

 

バレット1「あ、ありがとうございます!」

 

・・・

 

・・・・・・

 

この数日後、フェンサーは正規軍の次期装甲兵装備として正式に採用され、人形と人間の双方の装甲部隊に配備されることとなった。

 

その決定には、試用品が持ち込まれる数日前に日本で行われ、世界中に報道された記者会見も少なからず影響していた。

 

エゴール「あの小僧、あの年でなかなか良い目つきをしていた。あいつは強くなる。・・・ふっ、我々も負けていられんな。」

 

・・・

 

余談だが、この決定の翌週にはフェンサーの民間向け作業用重機仕様モデル「アンローダー」がSFSより発表され、主に工事業者や重量物を取り扱う工場や資材倉庫等に関係した企業を中心に注文が殺到することとなった。

 




原作では散々指揮官たちのヘイトをかき集めたエゴール隊長ですが、今作では原作からかなり離れた役回りになります。

因みにフェンサーの武装は「EARTH DEFENSE FORCE 4.1 The Shadow of New Despair」を参照しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【38】始まりの狼煙 -Start up-

これ書くの結構苦労しました。

如何に他の作者の同じシーンと差別化するのかが中々どうして・・・。

因みに今回も長すぎたので前半分と後ろ半分に分割しました。


【視点:ルウ】

 

 

今日は3月15日。

 

都内のホテルのホールに設けられた記者会見会場。

 

これからIS企業「ホワイトラビット・カンパニー」から織斑一夏の生存、並びに彼が世界初の男性ISライダーとなった事を発表するのだ。

 

ルウ「しかし、ちょっと予定が狂ったね・・・。」

 

一夏「本来はもうちょっと後の予定だったみたいだけど・・・。」

 

アン「”アレ”があったからね・・・。」

 

実は、今日の朝方に突如世界初の男性ISライダーが発見されたという話題が世界中を駆け巡ったのだ。

 

判明したのは全くの偶然だったらしいが、同日にあったIS学園の入学試験の際に偶然その男子がISを起動したらしい。

 

箒「しかし、何故彼は試験会場に居たんだ?」

 

鈴音「さぁ?隣の会場で別の高校の入学試験があったらしいから、もしかしたら会場を間違えて迷い込んだんじゃない?」

 

ルウ「いや、流石にそれは無いと思うけど・・・。」

 

一夏「普通間違えないよな?よっぽどの方向音痴か、何らかの事情で心ここに非ずだったでもなけりゃ、いくら隣の会場とはいえどこかで間違いに気づくって・・・。」

 

クロエ「そうでなければ、誰かが何らかの方法で導いたか、或いは本人が意図的にやったのか、ですね。」

 

クロエさんの発言に私たちは頷いた。

 

普通に考えればおかしい。まぐれにしてはいくらなんでも出来過ぎている。

 

だが、それに関して今は議論している暇がない。

 

即座に情報の訂正をするために私達は急遽記者会見の予定を前倒しするために残りの準備作業を大急ぎで終わらせる羽目になったのだ。

 

幸い作業の大部分は既に終了していたが、予定の調整や方々への連絡や謝罪等、丸々一時間私達は修羅場を体験する羽目になった。

 

そして、マスコミもそれは大凡同じだろう。

 

世界初の男性ISライダーが発見されたという話題に対して、ほんの1か月程前に立ち上げられたばかりだが、初商品のラベンダーが大ヒットした新進気鋭のIS企業であるホワイトラビット・カンパニーが即座に「それは違う」と否定の言葉を叩きつけたのだから。

 

そして、それに関する説明を緊急記者会見で行うとなったらマスコミも大人しくしてはいられない。

 

何故なら、ホワイトラビット・カンパニーのしたことは今回の「世界初の男性ISライダー」という報道の否定、即ちそれ以前に男性のISライダーをホワイトラビット・カンパニーが見つけていたという可能性が濃厚だからだ。

 

ちょくちょく様子を覗いているが、束さんが念のために大ホールを会場に指定しておいて正解だったと言えるだろう。

 

会場となった大ホールは既に半分ぎゅう詰め状態で、ホールに入る記者たちの人数を制限しなければ危険なレベルだった。というか、多すぎだろ・・・。

 

外国のテレビ局と思われるスタッフも当然見かけた。恐らく大部分は3日後の記者会見に備えて先乗りしていたのだろうが、もしかしたら別のロケか何かで来日していて、急遽こちらに回されたスタッフもいるかもしれない。

 

ホテルの外を見てもテレビ局の車両が何台も止まっている。まさに壮観である。しかし・・・。

 

ルウ「言い方は悪いけど、まるでハイエナだな・・・。」

 

箒「貴女は記者会見をしたことが無いのか?」

 

ルウ「私達が普段いた離島鎮守府はトラック島から更に少し沖合に離れた小島だからね。地理的なアクセスが辺境過ぎて客が来ることすら稀だったよ。別段記者会見をするようなことも起きなかったし。」

 

火逐「それに、基本的にそういうのは本部の人達の領分だったからね。一鎮守府の提督や指揮官が何かあるたびにイチイチ記者会見なんてやってたら通常業務が滞るし。」

 

箒「・・・確かにな。」

 

因みに私はマスコミに対してあまりいいイメージを持っていない。

 

私達の世界のマスコミは少々劣化しており、情報の印象操作や無節操な取材活動等そこそこの頻度で問題を起こし、嘗てはそれが原因で社会問題となり、一部のテレビ局や新聞社に至っては国から厳重注意や、何らかの処分を受けたことまである。

 

今でこそ表立っての問題行動こそ減ったがそれでも問題を抱えていることに変わりは無く、マスコミのせいで余計な仕事や手間を増やされて頭を抱えたことは一度や二度ではない。

 

そういう意味ではこちらの世界の方が優れているのかもしれない。少なくとも一夏さんの話を聞く限りではこちらのマスコミは自分たちの立ち位置を弁えていると思われる。

 

一夏「見た感じ有名な新聞社も多数記者を派遣しているみたいだな。これは世界中が注目していると言っても過言じゃないかもな。」

 

アン「あー悪寒がする・・・。」

 

声を抑えながらも気合を入れる一夏さんに対して不慣れなのか緊張の色をにじませるアンさん。

 

即座に鈴さんがお茶を差し出してアンさんはそれを飲み干す。

 

ルウ「自然体でやればいい・・・って言っても無理だよね。練習する時間まで無くなったからなぁ・・・。」

 

火逐「でも、もう覚悟決めるしかないですよ。もうすぐ開始時間よ。」

 

束「うん、報道陣も準備が出来たみたいだね。」

 

報道陣の準備が整ったのが確認され、遂に記者会見の開始が可能となった。

 

一夏「よし。それじゃあ、デカいのをぶちかましに行こうか。」

 

一同『応。』

 

・・・

 

・・・・・・

 

メイン照明が消灯され、大ホール全体が薄暗くなる。

 

続いてステージのメイン照明が再び点灯し、照らされたステージの袖からビジネススーツをピシッと着こなした黒髪で眼鏡をかけた女性が現れる。

 

実はこの人こそがISの生みの親の一人にしてホワイトラビット・カンパニーの社長兼開発主任である篠ノ之束その人である。

 

元々体調を崩して以降髪を染めることが出来なかった束さんの髪は根元のそれなりの領域が地の色である黒に戻っており、残っていた大部分も黒で染め直している。

 

基本束さんと言えば壊れかけていた自身の心を騙すためにピンク髪にウサミミ&エプロンドレスというかなり奇抜な恰好をしていたのだ。

 

それがこんな敏腕女社長という雰囲気を前面に押し出したコーディネートで登場したのだから、ぱっと見でこの人物が束さんだと気づける人は少ないだろう。

 

私は束さんがそういう格好をしていた場面を見ていないので解らないが、その姿を知っている一夏さん達からすれば違和感の塊だったとか・・・。

 

実際、髪を黒で染め直した姿を見た一夏さん達の感想は「第一印象ははっきり言って、「ナニモン・ナンデス」って感じ。」だった。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

その後ろに続くように火逐、箒さん、鈴音さん、一夏さん、アンさん、マドカさん、私の順番で舞台に上がる。

 

その時点から既に報道陣からの無数のフラッシュが炸裂して少々まぶしかったが、今回の発表内容は間違いなく世界的なスクープになるのだから、それを可能な限りのインパクトで報道したいのだろう。

 

クロエ「それでは、これよりホワイトラビット・カンパニーによる緊急記者会見を開始します。」

 

司会役のクロエさんの宣言に反応し、報道陣も束さんに集中する。

 

こんな一生に一度お目にかかれるかどうかレベルの大スクープなのだから当然だろうが。

 

束「皆様、初めまして・・・というのは流石に無理があると思いますが、私がホワイトラビット・カンパニー社長の篠ノ之束です。まず最初に本日の朝方に報道された『世界初の男性ISライダーが発見された』という報道に関してですが、それは誤りであると訂正させていただきます!」

 

この発言に報道陣は加熱した。あの世界的スクープを間違いであると断じたのだから当然と言えば当然なのだが・・・。

 

その加熱する報道陣に、束さんはとびっきりの爆弾を放り込んだ。

 

束「何故ならば、我が社はそれ以前に真の世界初の男性ISライダーを発見していたからです。それが彼、織斑一夏くんです!」

 




原作一夏「痛い痛い痛い痛い痛い・・・。」(突き刺さりまくる流れ弾)

だって原作のあの流れ、どう考えても不自然極まりないんだもの・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【39】変革の楔 -始まりの一歩-

筆がノッたので、現時点で42話まで毎週投稿の予定です。


束「何故ならば、我が社はそれ以前に真の世界初の男性ISライダーを発見していたからです。それが彼、織斑一夏くんです!」

 

間違いなく爆弾発言であろう内容を世界中に発表する束さん。

 

一夏さんもその発表に答えるように一歩前に出て自身のIS「ホワイトナイトメア」を起動し、それが事実である事を証明する。

 

束「皆様も恐らく疑問に思っているでしょうが、彼は第二回モンドグロッソの折に誘拐され、その後死亡したとされていた『あの織斑一夏』で間違いありません。彼は瀕死の重傷を負いましたが、ここにいる叢雲ルウさんと叢雲火逐さんが彼を保護し、一時期匿ってくれていたのです。」

 

これは微妙にニュアンスを歪めているが嘘は言っていない。

 

まさか私達二人が平行世界から来た存在であり、一夏さんも9か月間平行世界に流されていたなんて事実を話してもいくら何でもリアリティに欠けてしまう。

 

なので予め対外的にはどう公表するかを話し合い、カバーストーリーを作っておいたのだ。

 

報道陣からはこの二つの特大情報に関する質問が寄せられた。

 

質問は大まかに二種類・・・「何故世界初の男性ISライダーの存在を隠していたのか」と「何故織斑一夏の生存を隠していたのか」だ。

 

後者に関しては束さん達が一夏さんの生存を知ったのが3ヵ月前だからというのもあるが、前者に関しては寧ろ公表しておいた方が普通に考えれば会社にとっても大きなプラスになる。隠している理由が無いのだ。だが・・・

 

束「皆様の疑問もごもっともですが、結論から言いますと、共通する理由は『織斑一夏くんを女性利権団体から守るため』です。」

 

・・・「織斑一夏誘拐殺人(未遂)事件」の事を鑑みると、話が変わってくる。

 

束「確かに織斑一夏くんがISを起動したのは我が社が創業されるよりも前。その時点で公表しておけば我が社の企業価値は高まり、より他社との競争も有利に運べたでしょう。ですが、これは同時に大きなリスクを背負う事にもなります。皆様にとっても女性利権団体が黒幕であったあの『織斑一夏誘拐殺人未遂事件』は未だ記憶に新しい事でしょう。それが私達が彼の生存と、彼が世界初の男性ISライダーとなったことを公表しなかった一番の理由です。」

 

男性記者「と、申しますと、やはり女性利権団体からの攻撃を警戒してという事でしょうか?」

 

束「はい。皆様も知っての通りでしょうが、日本の女性利権団体は昨年に私達の手で壊滅させましたが、諸外国の女性利権団体は未だ健在であり、日本の団体も未だに残党が残っているのが現実です。それだけでなく、女性利権団体絡みのテロ行為も未だに世界中で散見されています。対して、我が社は未だ駆け出しの新米企業であり、その時点で公表していた場合は最悪我が社諸共今度こそ織斑一夏くんを亡き者にしようとより苛烈な攻撃を仕掛けてくる危険性がありました。それを回避するために本日迄この情報を公の場に公表することを避けていたという事です。本来であれば、高校進学の時までは発表を控えるつもりでしたが、今朝のあの報道を受けて、急遽今日発表することとなりました。」

 

女性記者「高校進学の時までとは、どういう意味でしょうか?」

 

束「それは、ここにいる我が社の専属パイロットである織斑一夏くん、織斑マドカさん、織斑鈴音さん、織斑アンさん、篠ノ之箒さん、叢雲ルウさん、そして叢雲火逐さんの計7名を我が社の企業代表としてIS学園に入学させる予定だからです。」

 

IS学園とはこの星で現状唯一の『世界立』の学校だが、同時に究極の『治外法権』だ。

 

IS学園では学園規則こそが学園島の法と律であり、他の国の如何なる法律も学園島では無効となる。

 

この発言に記者たちは目に見えて納得したように見えた。

 

若干極論ではあるのだが、IS学園に在籍する生徒に危害を加えることは、即ち全世界に対しての宣戦布告とほぼ同義と言える。

 

言い方を変えれば、IS学園の生徒になるという事は、そういう危害を加えようと画策する存在に対する、恐らくこの星で現状最大級の抑止力となる。

 

如何に世界各地に広がっている女性利権団体であろうと、おいそれと手出しができるような場所ではない。

 

故に記者たちは理解したのだ。「だからこそ、高校進学の時までこれらの情報の発表を控えていた」のだと。

 

・・・尤も、私達には一抹の不安があった。

 

--狂気に喰われた存在に、生きた人間の常識は通用しない--

 

如何にIS学園への入学がこの星で最大級の抑止力であろうと、それに胡坐をかくことは出来ない。

 

どれほどの抑止力を用意していようと、それでも攻撃を仕掛けてくる存在というのはいるのだ。

 

それに、「それが抑止力として機能しなくなるほどの強大な敵」が現れない保証などどこにもないし、「それが抑止力としての機能を失うような異常事態」が発生しないという保証もまたどこにもない。

 

そのためにも私達は常に爪と牙を研ぎ続けなければならない。

 

それこそが、人生の大半を戦場で過ごしていた私の経験則である。

 

そんな私達の、取り越し苦労で済んでくれればありがたい懸念事項をしり目に、報道陣は報道カメラに熱く語ったり、メモやタブレットに情報を記録しようと大忙しだった。

 

・・・

 

・・・・・・

 

女性記者「それでは、一夏さんに真の世界初男性ISライダーとしての意気込みを一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

二、三細かい質問ののちに一人の女性記者が一夏さんに意気込みを聞いてきた。

 

そりゃ、記事の目玉になるのだからこの場にいる報道陣なら誰だって欲しい言葉だろう。

 

一夏「意気込み・・・といえるものかどうかは解らないけど、こいつは・・・「ホワイトナイトメア」は俺を主に選んでくれた。なら、俺はそれに恥じない様に己を磨き、そして為すべきことを為すだけです。」

 

一夏さんは待機状態に戻してあるIS・・・左腕の腕輪を胸元に掲げながら宣言した。

 

その姿を撮影するために報道陣のカメラから無数のフラッシュが放たれた。これは明日の朝刊の一面の大見出しは確定だろう。

 

・・・

 

その後ISライダーの撮影会がしばらくの間行われ、記者会見は終了と相成ったが・・・。

 

女性A「男がISライダーになる等・・・認められるか!!」

 

終了間際にナイフを構えて一夏さんに吶喊してくる女性。大方どこかのタイミングで紛れ込んでいたのだろうが・・・。

 

一夏「舐められたものだよ・・・。」

 

そのナイフは一夏さんの振るった靖国刀「重桜(かさねざくら)」によって根元から斬り落とされ、更に足払いをかけられた下手人はそのまま無様に転倒した。そんなド素人動作では剣術を磨いている一夏さんの敵ではない。

 

女性B「チッ!あいつへまを・・・!」

 

ルウ「お前もだよ・・・。「卑遁・囮寄せ」・・・!」

 

二階席からスナイパーライフルで一夏さんを狙撃しようと動いた別の女性に対して私はシールドのアンカーランチャーを射出し捕縛、そのまま二階席から力ずくで引き摺り降ろした。

 

箒「まさか本当に仕掛けてくるとはな・・・。」

 

アン「しかも二人もバカが釣れるなんてね・・・。」

 

マドカ「・・・二人じゃなくて三人みたい・・・。」

 

ジト目状態のマドカさんがそういって指さした先では、鈴音さんと火逐が更に一人の女性を拘束、連行してきた。

 

こちらは拳銃で銃撃しようとしたらしいが、火逐が投げつけた訓練用の魚雷が顔面に直撃し、仰け反った隙に鈴音さんに取り押さえられたらしい。

 

鈴音「・・・どうするのこいつら?」

 

一夏「やっぱり警察に引き渡すか?」

 

ルウ「その方がいい。今日は朝からデスマーチだったから皆疲れてるのに、その上残業なんてやってられるか。」

 

私はそう吐き捨てながら「レタリウス」という女郎蜘蛛型巨大生物の吐き出す糸を元に作られたワイヤーネットで実行犯三名を「わたあめ」にした。

 

白いワイヤーネットでぐるぐる巻きにされた実行犯の姿は実にシュールである。

 

火逐「取り敢えず、報道関係者の皆さんの避難を最優先に。まだ何かあるかもしれない。」

 

一夏「初っ端から波乱万丈な滑り出しだな・・・。」

 

・・・

 

結局他には何もなかったし、報道関係者達は既に撤収準備に入っていたのでそこまで大きな騒ぎにはならなかった。

 

ついでに、逮捕された実行犯たちの証言から未だ地下に潜伏している女性利権団体の一派がまた一つ、一斉逮捕となったというのを後にニュースで知った。

 

そして、これらのニュースは世界を駆け巡り、世界に大きな影響を齎すことになるだろう。

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

【その日の夜】

 

ルウ「さて、ここからが本番だ・・・。予定よりやや早かったが、これからが忙しくなる・・・。」

 

私は独り言を溢しながら机に向かっていた。

 

ルウ「まぁ、そんなことよりIS学園に入学する以上、当然試験はある・・・。筆記でズッコケない様に勉強の詰めをしないとね・・・。」

 

私の学歴なのだが、実は小学校にすら通っていない。

 

小学校に入学する以前の年齢からある理由で自ら戦場に立ち続けていた私は、21歳の頃にグラール太陽系でガーディアンズの育成学校に入るまで学校教育は初等教育すら全く受けていなかった。

 

流石にそれでは色々と不便故に、それ以前から独学で勉強をしていたがやはり独学故にかなり非効率で、未だに細かい穴が残っている。

 

偉人と名高いかのトーマス・エジソン氏も、学校教育をほとんど受けなかったがために大人になってから色々としくじったと言われており、こういうことはなかなかどうして侮りがたい。

 

まぁ、ISに関する知識に関しては束さんや、私達がこの世界にくる以前からIS学園に教師として潜入していたスコールさんとオータムさんから空き時間に教わったので、今は抜けが無いかの見直しがメインだ。

 

そうやって夜が更けていくなか、私は学んだIS関係の知識の見直しを続けた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【40】入学への最後の試練 -実戦試験-

ISの実戦試験ですが、今回は特筆すべき点が微塵も無いのでバッサリ省略します。

本格的なIS同士のバトルは次話のお楽しみです。


学園入学の最後の試練。

 

それは言うに及ばず「試験」である。

 

ホワイトラビット・カンパニー所属のISライダーたちはその試験を受けるために他の入学生より早めにIS学園のある人工島へと向かっていた。

 

【視点:ルウ】

 

ルウ「しかし、学園島が懸垂式モノレールで本土と繋がっているとはね。最初はてっきり橋か定期船があるのかと思ったけど・・・。」

 

箒「そちらの世界では珍しい事なのか?」

 

ルウ「私たちの世界では珍しいね。昔は世界的にそこそこモノレールはあったけどメジャーじゃなかったし、二度の星間戦争でインフラがダメージを負った時にモノレールの大部分が復旧を諦めて廃線にされたよ。元より海上線なんかはメンテナンスが大変でね。」

 

箒「そうだったのか・・・。」

 

ルウ「結局橋を架けて道路と鉄道を通せば融通が利くという事ですっかり廃れてしまったよ。今でも残っている路線はあるけど、大体が地理的に橋を通せない場所を通る為だったり、後は短距離路線くらいだね。」

 

一夏「離島鎮守府にあった「ヴァーンツベック」というリニアモノレールも島同士を結んでいるだけだし、そもそも地下を通っていましたね。普段は海上を台船で移動していたし。」

 

火逐「比較的平和とはいえ、曲がりなりにも軍事施設だからね。主要なインフラは大部分が地下にあるのよ。」

 

アン「興味深いけど、そろそろ到着するみたいよ。」

 

ルウ「おっと、もうつくのか。」

 

鈴音「意外と速いんだね。」

 

私たちが軽くモノレール談義している間にモノレールは学園島の駅に到着した。

 

マドカ「そういえば、千冬お姉ちゃんも今年からここで教師をやるんだったっけ。」

 

箒「たしかね。学園から千冬さんに手紙が来ていたからね。」

 

学園の試験会場へ向かう途中、千冬さんが今年からIS学園で教鞭をとる話になった。

 

ルウ「あれ?千冬さんって教員資格持ってたんだ。」

 

一夏「千冬姉は昔は俺たちを養うために色々とバイトを掛け持ちしてたからなぁ。その時に何かの役に立つかもしれないって教員資格も取ってたんだよ。」

 

火逐「教員資格・・・。」

 

ルウ「「も」?」

 

一夏「他にも色々資格を持っていたはずだけど・・・、何があったかなぁ?」

 

ルウ「チェルシーさんを思い出すなぁ。あの人は趣味でいろんな資格を取ってたけど。」

 

アン「チェルシーさん?」

 

ルウ「グラール太陽系のリゾートコロニー「クラッド6」で働いているママさんだよ。趣味で資格取りまくっているんだよね。おまけに戦闘もこなすんだから凄いものだよ。」

 

鈴音「戦闘までこなせるなんて凄いね。昔は軍人か傭兵でもしていたのかな?」

 

ルウ「あー、その点に関してはノーコメントを貫かせてもらうよ。・・・喋れば私の体がバラバラになるからね。」

 

鈴音「ひぇ・・・!」

 

箒「触れられたくない過去なのか?」

 

ルウ「・・・チェルシーさんの名誉のためにも言っておくけど、決して疚しい事はない。ただ、本人がその過去を掘り返されるのを嫌っているだけでね。」

 

アン「あー・・・うん・・・。」

 

鈴音「触らぬ神に祟りなし・・・。」

 

そんな感じでこの話題はここまでとなった。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ルウ「割と何とかなったか・・・。」

 

筆記試験に関しては全員特に問題は無かった。

 

一番懸念だった自分自身もいう程苦戦はしなかった。

 

ルウ「・・・グラールでガーディアンズの育成学校に通ったのが活きたな。」

 

まぁ、ここでコケていては話にならないので何度も復習を繰り返したのもあるが、グラールでの学びがあったからこそハードルが大幅に下がったのもまた事実だ。

 

態々育成学校への入学を進めてくれたネーヴ校長には本当に頭が上がらない。・・・しかしあのセクハラ癖は本当にどうにかするべきだと思うのだが・・・。

 

ルウ(・・・今度時間が出来たらグラールに顔出してみるかな?)

 

少し懐かしい気分になった私はそんなことをぼんやりと思った。

 

だが、本当の問題はここからだ。

 

そう、「ISを使った試合」だ。

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

【視点:火逐】

 

火逐「うわぁ・・・これはヒドい・・・。」

 

ルウ「うん、いくら試験とはいえこれはね・・・。」

 

一夏「これで試験になるのか?」

 

既に箒さんと鈴さんの試験は終了していた。

 

結果は言うまでもなく合格だが、内容が別な意味で問題だった。

 

二人とも開始数秒で試験官にクロスレンジでの猛ラッシュを仕掛けてあっという間にシールドエネルギーを削り飛ばしてしまい、担当した試験官二名は殆ど何もできないまま撃沈するという無様を晒してしまったのだ。

 

箒さんと鈴さんが強いのもあるし、ブラックローズの機体性能も訓練用の打鉄やラファール・リヴァイヴでは相手にならないほどの性能差があるのも事実だが、それ以上に担当した試験官二名がお粗末過ぎた。

 

まず、最初の段階から試験官二名からは慢心がひしひしと伝わってきていた。大方、軽くあしらってやろうとでも思ったのだろうが、曲がりなりにも企業代表相手にそれはいただけない。

 

鈴さんと箒さんもそれを感じ取ったのだろうか、最初からトップギアで試験官に襲い掛かり、碌な抵抗すら許さないワンサイドゲームで捻り潰した。

 

おまけに鈴さんからは「もうおしまい?ふざけてるの?」、箒さんからは「なんだこれは?私も甘く見られたものだな・・・。」と圧勝台詞をぶつけられる始末だ。

 

本当にこれで試験になるのだろうか?

 

アン「それじゃあ次は私が行ってくるわ。」

 

鈴音「手加減する気は?」

 

アン「無いね。」

 

鈴音「だよねぇ。」

 

先の二人は完全に撃沈してしまったが、この調子では試験が終わる前に試験官を全滅させてしまうのではないかという危惧が生まれた。

 

そして、それは現実となった。

 

まずアンさんは高機動で試験官を振り回しつつ射撃でシールドエネルギーを削り、そして隙をついて至近距離でのバズーカでのKO勝利だった。

 

先の試験官二名よりはレベルが高いらしく何とか対応しようとしていたが、最終的に反応が追い付かず接近を許してしまい直撃を貰うことになった。

 

そしてマドカさんの方はと言えば・・・。

 

試験官D「見事・・・私では絶対に勝てない・・・ガクッ。」

 

マドカ「ありがとうございました!」

 

流石にドラグーンを一斉展開されては試験官もどうしようもなかった。

 

ミサイルで迎撃しようとしたが直ぐにミサイルを撃ち落とされ、続いてミサイルランチャーそのものに攻撃を喰らい、そのままなし崩し的にシールドエネルギーを削り切られる形となった。

 

まぁ、これに関しては相手が悪すぎたとしか言いようがないだろう。

 

寧ろ、何とか反撃をしようと足掻いただけ実力はあったと思われる。

 

もし、試験官が被弾を恐れず懐に飛び込んで来たら結果はもう少し違っただろう。

 

と、ここで試験官が全員撃沈となってしまった。

 

まだ三人も残っているのにどうするのだろうか?

 

アナウンス『叢雲火逐さん、試験の開始準備をしてください。』

 

火逐「え?」

 

一夏「誰か代わりの人が居るのかもしれない。」

 

火逐「かもね。それじゃあ行ってくる。」

 

ルウ「グッドラック。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

火逐「あれ?貴女は筆記試験の時に試験官をしていた・・・。」

 

真耶「は、はい。山田真耶といいます。ダウンしちゃった試験官に代わって私が貴女の担当をします。」

 

火逐(なんだか不思議・・・。どこか抜けた感じがするけど、漂ってくるね。・・・滲み出る強者の気配が・・・!)

 

山田先生は初めて見たときはどこか抜けた雰囲気ばかりしていたが、ISライダーとして向き合ってみると強者特有の覇気というものが感じられた。

 

まぁ、抜けた雰囲気そのものは策とかそういうものではなく素なのだろうが、そう言う手合いというのが一番厄介なのだ。

 

山田先生が試験用のラファール・リヴァイヴを展開すると同時に、私も自分のIS化した艤装「リトル・エクスカリバー」を展開した。

 

両サイドに展開した艦体モジュールには上面に合計4基の連装砲、下面に六連装底面魚雷発射管が2基搭載され、バックパックには電探ユニットと艦橋、それに多数のVLSが搭載されている。

 

脚部にはスクリューをモチーフにした推進装置が装備され、左腕には四連装酸素魚雷発射管が現れる。

 

 

 

アナウンス『試験開始。』

 

 

 

アナウンスと共に試合が始まった。




チェルシーさんとは:PSpo2、及びPSPo2iに登場した女性キャストです。

彼女の過去に関して知りたい人は各自自己責任で調べてください。



ネーヴ校長とは:PSUに登場した高齢の男性キャストで、ガーディアン育成学校の校長を務めています。

ただ、若い頃の経験から「尻」に異常なまでにこだわりがあり、事あるごとに他人の尻を「コンディションチェック」と称して触る悪癖があり(ルウは一度たりとも尻を取らせなかったが)、過去にはそれが行き過ぎて数か月間訴えられるわけにはいかない状態に陥った事もあります。

因みに、「女性の尻」にこだわっているというわけでは無く、過去に「そんなに尻が好きなら総裁(男性)の尻でも追いかけていろ」という嫌味を字面通りに受け止めて納得してしまい、嫌味を言った人をドン引きさせたことも・・・。

こんなセクハラジジイと言われても文句を言えないような超個性的な人物ですがその戦闘能力は本物であり、ウイルスが原因で暴走状態にあったとはいえそれを止めようとしたルウを含む三人相手に一人で互角に渡り合ったほどの実力者です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【41】天空の突風、大海の聖剣 -Rafale VS Excalibur-

漸く本格的なIS同士のバトル描写になります。

ちゃんと書けているかは自信ないですが・・・。


【BGM:「宇宙戦艦ヤマト2199」より「白色彗星(Discoアレンジ)」】

 

 

 

アナウンス『試験開始。』

 

 

 

アナウンスと共に山田先生は上空に飛び上がり、ライフルによる正確な射撃を放ってきた。

 

火逐「正確な狙いッ!

 

即座に私は左へとスライドするように移動した。

 

真耶「おや?貴女は飛ばないのですか?」

 

山田先生の疑問は尤もだが、これには事情がある。

 

火逐「「リトル・エクスカリバー」は自由飛行能力が無いんですよ。見ての通り海上艦なので。」

 

基本的に「リトル・エクスカリバー」は自由飛行が出来ない。一応ホバリングや大ジャンプで空戦をする事は可能だが、性能はあまり高くない。

 

組織戦であればまだしも、タイマンでは無理矢理空戦をしたところで的になるだけだ。

 

その代わり陸上、特に水上では高い機動力を発揮するので、無理して飛行する必要性は無い。何より・・・。

 

火逐「それに、「空戦」よりも「対空戦」の方が圧倒的に得意なんですよ。」

 

その言葉と共に私は第二・第三砲塔を向け、撃ち放った。

 

真耶「甘いですよ!」

 

飛翔した砲弾を山田先生は楽々回避した、が・・・。

 

ズガンッ!!

 

砲弾は山田先生が居た地点で起爆し、爆風とばら撒かれた破片弾がその攻撃範囲内に残っていた山田先生を襲った。

 

真耶「キャ!?い、今のは!?」

 

火逐「・・・「エクスカリバー対空殲滅砲」。」

 

これこそが、「リトル・エクスカリバー」の語源にも接続する、私の対空主砲だ。

 

元々はスチールストライダーズが運用している戦艦「エクスカリバー」が副砲として複数装備していた高性能な対空砲を、私が主砲クラスにまで拡張して取り込んだ装備だ。

 

当時の私の艦体は、当時のエクスカリバーよりも安いコスト、小さな艦体サイズでエクスカリバーより高い性能をたたき出していた。

 

その結果、模擬戦相手を務めたエクスカリバーの艦長から「まさに「小さなエクスカリバー」のようだ。」と称賛の言葉を貰った。

 

それ以降、私の艦体は技術の進歩などもあって何度か改修や新規設計を繰り返して大型化・高性能化を繰り返しているが、未だにこの「エクスカリバー対空殲滅砲」は象徴的装備として形や仕様を変えつつも採用され続けている。

 

その一撃は驚異的であり、迫りくるミサイルをゴッソリと吹き飛ばし、挑みかかる航空機の翼をいともたやすく叩き折る。

 

何よりも攻撃範囲が非常に広く、それなりに大げさに避けなければ爆風や破片を浴びてしまうという面制圧力に特化した装備だ。

 

その攻撃範囲、30cm砲である艦体側で最大半径30m。

 

元が対空砲故に重装甲の艦艇に対しては火力が足りないが、それでも外部に露出した索敵装置等の比較的脆い部品を根こそぎ破壊する事が出来るなど腐らない。

 

流石にこのリトル・エクスカリバーに搭載した物は口径が人間サイズに小さくなっているのでその分攻撃範囲は小さくなっているが、それでも半径3m弱の攻撃範囲を誇る。

 

真耶「・・・完全に一本取られましたね。ですが、まだまだこれからです!」

 

山田先生もどうやら本気を出したようだ。

 

更に機敏な動きでかく乱しつつライフルで攻撃してくる。

 

私も動き回りつつエクスカリバーを一門ずつ発射し、あまり高くない連射性能を補いつつ追い込みをかけるが、虚を突いた最初の斉射以降のは殆ど掠当たりレベルであり、中々纏ったダメージを奪えない。

 

それは山田先生側も同じであり、ライフルの銃弾を私は角度をつけた艦体の装甲板で弾き逸らすことで受けるダメージを極力抑えて纏ったダメージを奪わせない様に立ち回る。

 

結果、互いに有効打を与えられないままほぼほぼ互角の戦い・・・否、こちらの方が若干不利な戦いとなっていた。

 

火逐(こういうのはどちらかというと、ツバキ級の防空戦列機銃向けの相手ね・・・。でも、このままじゃこっちが競り負けるか・・・。)

 

DPSもそうだが、元々三次元的な動きが可能な山田先生と違い、殆ど二次元的な動きなので被弾率はどうしてもこちらの方が高い。

 

何よりエクスカリバー対空殲滅砲は元が対空砲なので攻撃範囲は広いがその分単発威力は低い。

 

このままの撃ち合いでダメージ交換レースになったら、先にシールドエネルギーが尽きるのはこちらだ。

 

真耶「流石にやりますね・・・ですが、これならどうですか!?

 

そう言って山田先生は複数のミサイルを発射してきた。無論射撃の手も休めない。

 

こうも攻め立てられては流石に私も旧式の艤装が元となったリトル・エクスカリバーでは辛いものがある。

 

・・・

 

後で聞いたが、日本国内に限った話ではあるが、山田先生はあの千冬さんの次に強いという実力者だったようだ。

 

ここまで苦戦するのも道理と言えるだろう。

 

・・・

 

火逐「・・・勝負に出るしかないね。」

 

私は迎撃ミサイルと迎撃レーザーでミサイルを迎え撃ちつつ、爆炎の向こう側にいる山田先生の姿を索敵装置で捉えながら新たな武装を展開した。

 

火逐「貴女は間違いなく強者・・・ならば、私も全力で戦おう・・・!それが武人としての・・・私なりの敬意よ!

 

そう言いながら爆炎の向こう側にいる山田先生を見据える私の目からは、赤い炎の様なオーラが迸っていた・・・。




「スチールストライダーズ」等の一部の固有名詞はSteamゲーム「From The Depths」の物です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【42】深海より来たる砲火 -Elite-

また色々と単語が出てきますが、これは本筋とはあまり関係ない、この物語と同じ世界線の別の場所での出来事と関与しています。

現状この別部分の話に関しては特別執筆する予定はありませんが、所々で話の本筋と交差する箇所があります。

因みに、薄々気づかれるかもしれませんが、それらの出来事も大本の原作とは全く違う動きをしています。


【BGM:「宇宙戦艦ヤマト2199 星巡る箱舟」より「ヤマト・ガミラス・ガトランティス」】

 

 

【視点:ルウ】

 

ルウ「おお、火逐に「エリート化」を使わせるとは、ここから見ているだけでも山田先生は手練れだというのは解るけど、それほどか・・・。」

 

箒「エリート化?」

 

一夏「それって、確か深海棲艦の・・・?」

 

ルウ「そうだね。」

 

一夏「なんで艦娘の火逐さんが?」

 

ルウ「私の世界の艦娘と深海棲艦は鏡合わせの存在・・・というより、艦娘のルーツは深海棲艦だかららしい。」

 

鈴音「え?それってどういう?」

 

ルウ「私もあまり詳しく知っているわけでは無いけど、少なくとも深海棲艦の方が先に出現して、それを参考に艦娘が生み出されたと聞いてはいるね。」

 

一夏「でも火逐さんって確か「原初の艦娘」だって。」

 

ルウ「火逐は一番最初に生み出された五人の艦娘の一人なんだよね。だから「原初の艦娘」ってわけ。最初期は技術的にも不安定でね、色々な失敗作とかも生み出されたらしい。そう言えば火逐も最初の頃は無口無表情だったなぁ・・・。」

 

マドカ「他の四人は?」

 

ルウ「一人は過去に会った事があるね。行動のタガが外れていて必要なら卑劣な真似だって平然とする凄い奴だったな。何でも性質が戦艦レ級に寄り過ぎてしまっているらしくてレ級の無邪気さと高い戦闘能力が変な形で表出しているらしい。」

 

アン「・・・なんというか、凄まじいんだな・・・。」

 

ルウ「それでもなんだかんだ言って根っこは善良なんだよね。なんだかんだ言って好かれているらしいし。後、もう一人噂を小耳にはさんだ事があるけど、どこかの鎮守府に所属しているらしい。ただ、その鎮守府は提督どころか所属する艦娘のほぼ全員がキャラが濃いどころじゃないレベルで超個性的らしく、相当苦労しているとか・・・。」

 

アン「Oh・・・。」

 

ルウ「残りの二人は会った事もないし、そもそもどこで何しているかも聞いたことが無いんだよね。おっと、脱線してしまった。」

 

私は脱線してしまった話を元に戻した。

 

ルウ「話を戻して「エリート化」だけど、アレは元々深海棲艦だけが使える能力だね。戦闘経験を多く積んだ深海棲艦は、必要に応じて自らの能力に更なるブーストをかけることが出来るんだけど、その一つが「エリート化」。全部で三段階あって、エリート化はその中では一番下に当たるけど、それでも中々の性能向上が狙えるね。」

 

箒「ん?だけど火逐さんは深海棲艦ではないはず・・・まさか・・・。」

 

ルウ「そう。火逐は元々深海棲艦の因子を多く宿して生まれたんだ。雑に表現すると艦娘と深海棲艦のハーフと言った感じかな。だから艦娘でありながら例外的にエリート化が出来るという訳。純粋な深海棲艦ではないから持続時間は深海棲艦のそれには劣るけどブーストの性能はほぼ同等らしい。」

 

一夏「つまり、火逐さんがそれを使ったという事は・・・。」

 

ルウ「そうするに値する強者、ということだね。」

 

 

 

 

【視点:真耶】

 

火逐さんは確かに強い。

 

それでも今の状況のまま進めば私の方が勝てる。

 

・・・そのはずなのだけど・・・。

 

火逐「貴女は間違いなく強者・・・ならば、私も全力で戦おう・・・!それが武人としての・・・私なりの敬意よ!」

 

その言葉と共に、爆炎の向こう側にいる火逐さんの気配が変わったように感じた。その瞬間。

 

ビシュッ!!

 

真耶「な!?」

 

爆炎の向こうから二本の緑色のレーザーが私めがけて飛んできた。

 

ギリギリで躱すことは出来たけど、今までとは違う攻撃手段だ。

 

爆炎が晴れ、肉眼で視認した火逐さんは目からは赤い炎のような何かが迸り、元々色白だった肌色が更に白に近づいたように見えた。

 

明らかにさっきまでとは様子が違うが、其方に気を回している暇は無くなった。

 

なんと四方八方から大量のミサイルが降り注いだのだ。

 

真耶「そんな!?いつの間にこんな量のミサイルを!?」

 

ハイパーセンサーにはそんな反応は無かった。

 

なのに、突然周囲に大量のミサイルが現れたのだ。

 

当然火逐さん自身からの攻撃も止まないので、全てを躱しきることは出来ない。

 

状況は完全にひっくり返されてしまった・・・。

 

無論こちらも攻撃を試みるが、しっかり狙っている暇が無くなったので命中精度が落ちてしまっている。

 

ふと、火逐さんのISから上空に向けて何かが射出されたように見えたが、次の瞬間にはその何かは黒い球体に飲み込まれる様にして消えてしまった。

 

真耶「今のは・・・?」

 

ハイパーセンサーには反応が無い。

 

否、今度は一瞬だけだが何かが反応した。

 

見直した結果、その何かは「コールドローンチされたミサイル」だった。

 

「コールドローンチ」というのはミサイルのスラスターを使わず射出機側のガス圧等で上空に射出して、その後ミサイルのスラスターを起動するという方式だ。

 

これによってミサイルが射出されたという事を気取られにくくしているのだろう・・・。

 

ご丁寧にジャミングまでする念の入れようだ。

 

だが、それ以上考えるより前にその黒い球体に飲み込まれて消えたはずの数多のミサイルが私を取り囲むように出現した多数の黒い球体から次々と吐き出された。

 

今度も数発躱しきれずに被弾したが、火逐さんは私がこの攻撃のカラクリに気づき始めていることを見抜いたようだ。

 

火逐「驚いたね。まさかたった二回でデスラー戦法のカラクリに気づいてくるとはね。結構念入りにジャミングしたはずなんだけど・・・。」

 

・・・

 

後で聞いたところによると、この攻撃は本来長距離からの奇襲攻撃で使うものらしく、アリーナでの一対一の試合で使うのは無理がある物らしい。

 

そうでもしなければ負ける。そう判断した結果無理矢理使ったらしい。

 

それでも私はこの攻撃の事を充分恐ろしいと感じていた。

 

・・・

 

真耶「カラクリが分かったところで早々対応できるようなものではないですよ。」

 

火逐「でしょうね。でも、まだまだ続きますよ。」

 

真耶「え?」

 

その瞬間火逐さんは左腕のシールドのような物からミサイルのような物を四発立て続けに放ってきた。

 

躱すことは出来たが、躱した先に赤紫色のレーザーが待っていた。右手に持った剣の様なライフルから放たれたものだ。

 

真耶「クッ!?」

 

シールドで受けるが一瞬動きが止まってしまったところに両腰のレーザー砲から放たれた二本の緑色のレーザーが迫る。

 

スラスターを切って自由落下することで躱し、お返しとしてマシンガンの銃弾を浴びせる。

 

すると火逐さんは先ほどまでよりも鋭い機動で銃弾を躱した。

 

体勢を立て直して追撃を試みるも、地面から突然爆音とともに発生した水柱に阻まれて阻止される。

 

・・・水柱!?

 

アリーナの地面を見ると、いつの間にか地面が冠水していた。そしてその水の中を魚雷のような物がいくつも回遊していた。

 

そこで私はハッとした。

 

・・・「「リトル・エクスカリバー」は自由飛行能力が無いんですよ。見ての通り海上艦なので。」・・・

 

あのISは海上艦をモチーフとしている。そして今アリーナの地面は何故か冠水している。

 

冠水しているのがISの能力なのかはわからないが、先ほどの鋭い回避や水柱攻撃はこの環境だからこそできるのだろう。

 

つまり、私は知らず知らずのうちに火逐さんのホームグラウンドに誘い込まれていたのだ。

 

加えて先ほどの「デスラー戦法」と呼ばれたミサイルのワープ攻撃もあるし、まだ手札を隠し持っている可能性もある。

 

真耶「・・・お見事です。降参します。」

 

この試合はあくまで試験であり、勝敗を競うものではない。

 

もう充分過ぎるほどに実力を見せつけられた以上、これ以上意固地になって続ける理由も無い。

 

火逐「・・・ああ、そうでしたね。久々の強者との戦いだったので、つい熱くなってしまって・・・。」

 

火逐さんは顔を赤らめて苦笑いを浮かべると異様な雰囲気を引っ込めた。

 

回遊していた残りの魚雷は全て分解されて水に溶けたと思ったら、その水が徐々に火逐さんのISに吸収されていく。

 

こうして私が急遽担当した実戦試験は、私の中に久々に熱い炎を宿らせて終了した。

 

・・・

 

真耶「出来れば、その水のカラクリを聞きたいところなんですけどね。」

 

火逐「残念ながら、企業秘密。」

 

真耶「・・・ですよね。あはは・・・。」




にしても、ここ最近やることが多い・・・。

仕事はあるし、小説執筆のためにも色々と取材が必要。

取材は個人的な娯楽と並行して行っているけど、今の段階でも時間が足りない。

一日の時間が足りないと思えるくらい。

納期のデーモンが攻めて来る・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【43】 罪の意識

今回は少し短いです。


【視点:一夏】

 

火逐さんと真耶先生の試合は見ているだけで引き込まれるような物だった。

 

旧式、そして飛行能力が無いという大きなディスアドバンテージを背負った艤装を使って尚、凄まじい攻めを見せた火逐さんの実力もそうだが、その火逐さんに試験用のISで本気を出させた真耶先生もまた驚くべきものだ。

 

それこそ国家代表を勤められるほどの・・・。

 

やはり世界はまだまだ広い・・・。俺はそう実感した。・・・と。

 

アナウンス『織斑一夏さん、試験の開始準備をしてください。』

 

どうやら次は俺の番のようだ。

 

ルウ「貴方の方が先みたいね。バシッと決めてきなさいな。」

 

一夏「はい。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

アリーナに立つと、試験官が現れたのだが・・・。

 

一夏「まさか千冬姉が俺の試験官をやるなんてな・・・。」

 

千冬「・・・すまない一夏・・・。」

 

大方、千冬姉が自ら選んだことだろう・・・。しかし、明らかに俺に対しての罪の意識でいっぱいの様子で、俺の言葉も半分以上耳に入っていない様だった・・・。

 

千冬「・・・気づかなかったとはいえ、私はお前を見殺しにしてしまった・・・。」

 

あぁマズい・・・。このままじゃ試験が懺悔で潰れてしまいそうだ・・・。

 

ぶっちゃけると、俺は千冬姉を恨んでいるとか憎んでいるとか、そういうことは全くない。

 

元より女性利権団体のやりそうなことは見当がついていたし、試合後に俺の事を聞いた千冬姉が酷く取り乱していた事や、俺がいない間ずっとダメになっていた事もあちこちから見聞きしていたので知っている。

 

だが、恐らくそれを伝えたとしても千冬姉が納得するとは思えない。

 

今の千冬姉は、俺を見殺しにしてしまったという罪の意識に憑りつかれているのだ。

 

兎に角何でもいいからその罪の意識に決着をつけないと、延々罪悪感に苛まれていずれは自家中毒で完全に壊れてしまうだろう。

 

寧ろ、こんな状態で今まで壊れずに耐えてきただけで充分凄い事であり、そして同時に今の千冬姉が、何時壊れてもおかしくないという非常に危険な状態だという事でもある。

 

・・・しょうがない。ここはちょっとばかり荒療治だ。

 

一夏「ふぅ・・・千冬姉!!」

 

俺は少し怒鳴り気味に叫んだ。

 

千冬姉はまるで悪事がバレて怒られている子供が怒鳴られて怯えたかの様にビクッと震えた。

 

一夏「こんなところでこんなこと言いたくないけど、そんなうじうじしている千冬姉、俺は見たくないぜ!というか、そんなに申し訳ないと思っているならこの試験、本気でかかって来いよ!!」

 

千冬「・・・え?」

 

一夏「俺も手加減抜きの本気で行くぜ?だから千冬姉も本気で来い!・・・手抜いたりしたら、それこそ恨むからな?」

 

千冬「あ・・・ああ。」

 

千冬姉は状況が呑み込めていない様だが、少なくとも罪の意識から意識を逸らすことは出来た。後は・・・。

 

一夏(・・・今の俺に、千冬姉に届かせるだけの実力があるかどうか・・・。)

 

離島鎮守府で厄介になっていた時に高尾さん達に鍛えてもらっていたのだが、その時にこういう話を聞いた。

 

--強者同士が切り結ぶと、自然と互いの思いや考えが伝わるらしい。--

 

正直言って、自分自身にその経験が無いので何とも言えないが、口で言ったところで恐らく今の千冬姉は納得しないだろう。

 

ならば、この可能性に賭ける他ない。

 

俺はホワイトナイトメアを起動し、千冬姉も試験用の打鉄を起動した。

 

 

 

アナウンス『試験開始。』

 

さぁ・・・俺たち初めての姉弟喧嘩といこうか・・・!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【44】 姉弟対決 -禊-

実技試験の中ではこれ書くのが一番大変でした。

だって単純な試合では意味が無いから・・・。

本当にこういう特殊な目的を持った戦いって書くのが中々に難しいし、中々イメージが湧いてこない・・・。

何度も書いては消し、書き直しては巻き戻し・・・。


【BGM:「Edge Works of Goddess ZABABA(off vocal)」】

 

 

アナウンス『試験開始。』

 

 

一夏「じゃあ・・・行くぜッ!!

 

千冬姉がその言葉に反応する前に俺は地面を蹴って突撃した。

 

千冬「なっ!?」

 

ガキィン!!

 

一瞬反応が遅れた千冬姉だが、それでもガードには成功する。

 

打鉄の「葵」とホワイトナイトメアの「重桜(かさねざくら)」がぶつかり合い、甲高い金属音が響き渡る。

 

千冬「くっ!いつの間にこれほどまで・・・。一体どこで何をしてたら・・・!?」

 

一夏「考え事している暇はねぇぜ!!」

 

俺は身を翻し、少し距離を取ったのちに再び突撃を仕掛けた。

 

この戦い、俺は「重桜」一本のみで戦うつもりだ。

 

自分の思いを届けるためには千冬姉の得意分野で正面から打ち合う。これがベストだと考えた上での結論だ。

 

無論、「重桜」一本で戦う分、それ一本に全力を注ぎこむ。

 

全力で俺の真心を刀に乗せて届ける。・・・口で言うのは簡単だが、実際にやるのはやはり難しい。

 

いくら精神的に参っているとはいえ、曲がりなりにも千冬姉はまごうことなき強者。

 

そんな強者相手の真剣勝負に闘志ではなく真心を込めて打ち合うというのは、雑に言えば右を向きながら同時に左を向く様なものだ。だが・・・。

 

一夏(それでも、やらなきゃいけない・・・!)

 

俺は力強く再び千冬姉に斬り掛かった。

 

・・・

 

・・・・・・

 

【視点:千冬】

 

一夏からの猛攻を必死で受け流す・・・。

 

一夏の太刀筋はどこで鍛えたのか解らないが、どれもこれも正確だ。

 

いくら本調子とは程遠いとはいえ、いくら機体が試験用の打鉄とはいえ、嘗て武器が刀一本だけの暮桜でISバトルの世界チャンピオンとなった私が、反撃に移る事すら叶わない・・・。

 

・・・なのに。

 

千冬(どういうことだ?一夏と打ち合えば打ち合う程、何かが刀を通して伝わってくる・・・。)

 

鋭い太刀筋は思わず見惚れる程のものだが、その伝わってくるものに私は困惑した・・・。

 

それは・・・。

 

「感謝」

 

「思いやり」

 

「気遣い」

 

「心配」

 

そう・・・、伝わってくるものは、どれもこれも優しい感情だった。

 

正直な話、私は例えこの場で一夏に斬り殺されようと、それは仕方が無い事だと、そうされても当然だとさえ考えていた・・・。

 

だが、一夏の刀から伝わってくる感情はそんなものとは無縁な物、寧ろ対極に位置する物ばかり。

 

それが一層私を困惑させた。

 

そして・・・。

 

千冬(これほどの腕前・・・どこで・・・?)

 

この約一年の間、一夏はどこで何をしていたのだろうか・・・?

 

それに応えるように、一夏の刀から何かが伝わってくる・・・。

 

「それは後で教える」

 

その感覚にハッとして一夏の顔を見た。

 

その表情は柔らかで、安堵していることが見て取れた。

 

「よかった」

 

「伝わった」

 

千冬(・・・そうだったのか。)

 

一夏は私を恨んでなど、憎んでなどいなかった。

 

それを伝えるために・・・。

 

千冬「がふっ!?」

 

一夏「え!?千冬姉!?

 

突然私は吐血した。

 

それだけじゃない。体中が悲鳴を上げるかのような痛みが襲ってきた。

 

視界が傾き、意識が一気に遠のく。

 

一夏の叫び声も、周りで巻き起こっているであろう悲鳴も殆ど聞き取れなかった・・・。

 

・・・

 

・・・・・・

 

【視点:一夏】

 

俺は意識を失い墜落しそうになる千冬姉を見て、思わず抱きかかえて支えていた。

 

そのまま地面に着地した俺たちの元にルウさんたちが急いで駆け寄り、千冬姉に応急手当を施してくれた。

 

そして・・・。

 

一夏「不摂生が原因?」

 

ルウ「信じられない話だけど、それ以外に考えられないね。ざっと見てみたけど、体の中身があちこちボロボロだ。」

 

箒「あれだけボロボロの生活をしていたからな・・・。私たち一家も可能な限りフォローしていたつもりだったが・・・。」

 

火逐「最後の引き金が何かまではわからないよ。全力の打ち合いに体がついてこれなかったのか、はたまた緊張の糸が切れて寄り戻しが一気に襲い掛かってきたのか・・・。少なくとも命に別状はないだろうけど、念のために病院に搬送すべきだね。」

 

鈴音「一夏は付き添ってあげて。大丈夫。話す時間は充分にあるだろうから。」

 

一夏「ああ、そうするよ。」

 

アン「マドカも一緒に行ってあげなよ。ちゃんと話さないまま出てきちゃったんだし。」

 

マドカ「・・・うん。」

 

そうこうしているうちに山田先生と、先生として潜入していた雨姉さんが担架を持って駆けつけた。

 

そして俺とマドカは担架に乗せられた千冬姉と共に病院へと向かった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【45】実技試験最終戦

今回は少し短めです。


千冬先生が担架に乗せられ、一夏とマドカがそれに付き添って病院へと向かう様子を見ている人が他にもいた。

 

【視点:??】

 

??「あのホワイトラビット・カンパニーの企業代表達は本当に強い。そして・・・。叢雲ルウとかいったわね・・・。あの水色髪の子、ただものじゃないわね・・・。」

 

そう言いながら私は手に持った叢雲ルウの受験票に目を通した。

 

こうして遠巻きに見ているだけでも、彼女の存在は私から見て異質に見えた・・・。

 

??「あの銀髪の叢雲火逐という子もそうだけど、それ以上に不思議な子・・・。まるで百戦錬磨の武人のような気配を感じるわ・・・。」

 

本人は隠しているつもりだろう。

 

実際、彼女から滲み出る強者の気配に気づくのは並大抵の事ではない。

 

??「ふふふ・・・一度手合わせ願いたいものね・・・。」

 

この距離でも感じる微かな、されど確かな気配に私は思わずゾクゾクしてしまった。

 

?「お嬢様・・・。」

 

後ろから私の従者の声がした。

 

??「ンンッ!!何かしら?」

 

?「はぁ・・・。お望みなら手合わせされてはどうですか?試験官がもう残っていないらしいので。」

 

??「!」

 

従者の少女が半ば呆れ調で言ってきた言葉に私は内心飛び上がった。

 

??「ふふふ・・・じゃ、じゃあそうさせてもらうわ・・・ふふふ。」

 

それを無理矢理抑え付けて私は笑みを浮かべながら試験会場へと降りて行った・・・。

 

?「・・・やれやれ。」

 

従者の少女が呆れた感じで溜息をついたことには気づかず。

 

・・・

 

・・・・・・

 

【視点:ルウ】

 

ルウ「しかし、試験官は後誰が残っているのだろうか?」

 

恐らく私の担当だったと思われるスコールさんは千冬さんを病院へ搬送するために行ってしまったし、これは日を改める必要があるだろうか?

 

アナウンス『叢雲ルウさん、試験の開始準備をしてください。』

 

ルウ「おや?」

 

まだいるのだろうか?

 

誰かは解らないが、とりあえず準備に移ろう。

 

・・・

 

・・・・・・

 

ルウ「・・・で、貴女はどちら様ですか?見たところ学園の生徒のようですが・・・。」

 

私の眼前には活発そうな雰囲気が漂う水色髪の少女が立っていた。

 

楯無「ふふふ・・・私の名前は「更識楯無」。この学園の生徒会長にして、ロシアの国家代表でもあるのよ。」

 

ルウ「驚きましたね。現役生徒でありながら候補生ではなく現役の国家代表とは・・・。」

 

それだけで眼前の少女はただものではないと判断するには充分だ。

 

国家代表というのは文字通りISの世界大会において国の名と威信を背負って戦う存在。生半な実力で成れる様な代物ではないというのは容易く想像がつく。

 

そもそも論で、代表候補生の段階ですら非常に狭き門なのだ。それが正真正銘の代表となればその実力は察するに余りある。

 

ルウ「では、最初から全力で相対しましょうか・・・。」

 

故に、私は最初からトップギアでぶち当たる事にした。

 

楯無「ええ。貴女の全力、私に見せて・・・。」

 

楯無さんも戦闘態勢に入った。

 

その時私たちは・・・笑っていた・・・。

 

それは強者を前に歓喜してしまう武人の性・・・。

 

私は心の中で、「我ながらこのバトルマニアは・・・。」と自嘲した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【46】最強の生徒会長 VS 無窮の武練

この話は逆に一番書きやすかったです。

その代わり、フォトンアーツやテクニックがこれでもかと言う位使われています。


【BGM:「PSO2の「ビッグヴァーダー戦」」より「Colossal Machinery-Big Varder」】

 

 

アナウンス『試験開始。』

 

そのアナウンスと同時に両者ともに飛び出した。

 

楯無さんのIS「ミステリアス・レイディ」の主武装であるガトリングガンを内蔵したランス「蒼流旋」から無数の銃弾が放たれる。

 

私は即座に「ダークアビス」の主武装に設定した「ルガーランスⅣ」をビームグレネードモードに設定して、銃弾の嵐に穴を穿つように連続で放った。

 

放たれた複数のビームグレネードは飛んできた銃弾を焼き消し楯無さんに迫るが、手前に突如現れた水の壁に遮られてしまった。

 

ルウ「火逐のリトル・エクスカリバーの機能に似ているけど、原理は別だね・・・。」

 

リトル・エクスカリバーの水は艤装内部のストレージに格納されたナノマテリアルを水・・・より厳密には「海」に変化させているものだが、これは水そのものではなくそれに近い性質を持つナノマシンを使っているようだ。

 

加えて、リトル・エクスカリバーの水はあくまで自身に有利なバトルフィールドを形成するための補助的な物だ。

 

機能面、戦術面において有利な状況を生み出しこそするが、戦闘には直接寄与しない。

 

だが、こちらは水そのものを積極的に戦闘スタイルに組み込んでいる。

 

ルウ「・・・中々どうして厄介な・・・。」

 

水というのは不定形の存在だ。加えて凝固すれば氷、蒸発すれば水蒸気へと変化する。

 

変幻自在の武器にして鎧。

 

射程距離は最低でも視界範囲内。

 

加えて動作の先読みも困難。

 

それが私が下したミステリアス・レイディ、更識楯無さんに対しての評価だ。

 

水を武器として自在に操る敵とし合ったことは殆ど無く、加えて彼女の場合その中でも桁外れの技量を持っているであろうことを考慮すると、冗談抜きに出し惜しみすれば敗北は必定だ。

 

故に私は、ISだけでなく「自身の持ちうる全ての技術」を投じる事にした。

 

楯無「はぁ!!」

 

ルウ「「零式ナ・ザン」!!」

 

蒼流旋に水を螺旋状に纏わせて突撃を仕掛けてくる楯無さんの攻撃に合わせて、私は左手を突き出し風属性のテクニックを放った。

 

超高速振動する水の螺旋槍に凝縮した風の螺旋弾が衝突し、激しい音を立てて両者がぶつかり合い、そして風の螺旋弾が弾け飛んだ。

 

だが、既に私は距離を取り、次なるテクニックのチャージを終えていた。

 

ルウ「「サ・メギド」!!」

 

後ろに飛び退りながら、私は左肩の五連装ミサイルランチャーからミサイルを放つと同時に左手に握ったタリス「コートタリスD」から闇属性のフォトン弾を三発投射した。

 

合計8発のミサイルとフォトン弾は散らばったあと楯無さんめがけてホーミングしながら迫る。

 

楯無「不思議な技を使うのね!でも!!」

 

楯無さんは左手に呼び出した蛇腹剣「ラスティー・ネイル」に水を纏わせ、それを振り回してミサイルとフォトン弾を叩き落した。

 

ルウ「まだまだ!!「イル・フォイエ」!!」

 

右手に呼び出したウォンド「コートヴァージ」で追撃を仕掛ける。今度は頭上から降ってくる大きな火炎弾だ。

 

楯無「甘いわ!!ッ!?」

 

大きな火炎弾を蒼流旋で迎え撃とうとするが、威力が想像以上だったのか少しよろけた。

 

ルウ「「グランウェイヴ」!!」

 

私はその隙を見逃さず、ジェットブーツ「ファーレングリフ」を足に装備し、そのまま楯無さんに急速接近する。

 

楯無「かかったわね!!」

 

その接近に合わせて楯無さんがラスティー・ネイルで迎撃にかかるが・・・。

 

ルウ「織り込み済みさ!」

 

即座にグランウェイヴを派生させ、大きく後ろに飛び退り躱した。

 

飛び退りつつレールガンと機関砲を見舞うのも忘れない。更に・・・。

 

ルウ「「カイザーライズ」!!」

 

両手に呼び出したワイヤードランス「ネイクロー」を地面に突き刺す。

 

ラスティー・ネイルでレールガンと機関砲を弾き逸らしていた楯無さんは危険を感じ取ったのか即座に飛び退る。

 

そこに一瞬遅れて地面からネイクローの先端部分が地面から勢いよく飛び出してくる。これで回避が間に合っていなければネイクローの刃に足から頭まで切り裂かれていただろう。

 

楯無「今のは危なかっ・・・ッ!?」

 

ルウ「「ディストラクトウィング」・・・。」

 

ISの腕部に装備したデュアルブレード「コートグライドD」のフォトンアーツで再び急接近。X字に斬りつけにかかる。

 

楯無さんは慌てて蒼流旋でガードしようとするが・・・。

 

楯無「なっ!?」

 

左側のシザースカートが蒼流旋をがっちり挟んでいた。

 

この距離ではラスティー・ネイルでのガードは無理だ。

 

通常の剣に戻すにしても、そのままガードするにしても、このタイミングでは刃が戻り切る前にディストラクトウィングが直撃するし、仮に間に合わせようとしても右側のシザースカートがそれを許さない。

 

必然、水の壁でガードする他ない。そう誰もが思っただろう。

 

楯無「残念・・・。」

 

背後から気配がする。どうやら正面のは何かしらの方法で作った分身のようだ。

 

必殺の一撃をダミーに受けさせ、自らは隙を晒した相手を背後から悠々と討つ。実に合理的な戦法だ。

 

・・・だが、それも織り込み済みだ。

 

ルウ「そこ、背中注意だ。悪く思え。」

 

両手に装備したネイクローの先端部分はまだ地面に突き刺さったままだ。

 

私はそのままワイヤーを高速で巻き取り、地面から抜けたネイクローを戻しつつ、それで背後に攻撃を仕掛けた。更に・・・。

 

ルウ「「ヘブンリーカイト」!」

 

ディストラクトウィングを最速キャンセルしてそのまま多数のフォトンブレードを展開して跳躍しながら大きく切り上げた。

 

正面の分身は多数のフォトンブレードの斬撃をモロに喰らって細切れになるが、直ぐに水になって吹き飛んだ。

 

ルウ「水分身か・・・。」

 

目の前のがダミーである事を可能性として頭の中に置いていたとはいえ、初見で見ただけで看破は恐らく無理だろう。初見でなくともここまで精巧な分身では厳しい。

 

私もシザースカートが蒼流旋を挟んだ際に、そこから帰ってくる感覚に違和感を感じたからこそ眼前のそれがダミーだと確信した。

 

因みに楯無さん本人は結構不意打ち気味に放ったネイクローの追撃とヘブンリーカイトのフォトンブレードをどちらも回避していた。

 

ルウ「「ディフューズシェル」・・・!」

 

左手に呼び出したアサルトライフル「コートアサルト」で飛び退りながら逆落とし状態の姿勢で散弾を浴びせるが、水の壁で難なく防がれる。

 

楯無「お返し!!」

 

ルウ「「ナ・バータ」!!」

 

言葉通りのお返しとばかりに多数の水の槍が襲い掛かってくるが、右手に同時に呼び出していたロッド「コートステッキ」で水の槍の射線上の大気に連鎖冷却反応を引き起こす。

 

本来は強力な冷気を浴びせ続けるテクニックだが、今回はその機関部分に当たる連鎖冷却反応そのものがメインである。

 

範囲内に届いた水の槍は連鎖冷却反応に晒された途端に強制的に氷状態に変化して動きが止まった。

 

確かに水を操る相手というのは厄介だが、流石に外部要因などに起因する自分の意図とは違うタイミングでの形態変化に対しては対応できないようだ。

 

楯無「・・・これだけやっても一発も当てられないなんてね・・・。」

 

ルウ「それはこちらのセリフさ・・・。」

 

両者ともまだまだ余裕の領域である。と・・・。

 

楯無『やっぱり・・・。これで確信したよ。貴女、この世界の人じゃないでしょ?』

 

楯無さんからプライベートチャンネルで通信が届いた。

 

ルウ『・・・その心は?』

 

楯無『理由はいくつかあるけど、代表的な理由は3つよ。まず貴女と火逐さん。二人の存在はつい最近忽然と現れた。どれだけ遡っても数か月前以前の情報が書類上の物以外全く出てこない。これだけでも真っ当なルーツを持った人じゃないという事は解るでしょ?』

 

ルウ『それで?』

 

楯無『加えて実技試験の内容よ。二人が持つこの世界では見たことも聞いたことも無い特異な戦闘スタイルと技。多彩な武器武装を手足の如く操って見せる外見不相応な異常ともいえる技術力。加えて使っているISも、火逐さんのは他社のどの既存品とも設計思想が違い過ぎるし、貴女のISは他のホワイトラビット・カンパニーの企業代表の皆のと共通点こそあるけど、様々な面で明らかに不自然なこの世界の技術とのミッシングリンクがある。』

 

ルウ『なるほどね・・・。』

 

楯無『極めつけは、さっきから時々使っている魔法みたいな多彩な攻撃。貴女達のISの動力器から放出されている粒子と関係しているみたいだけど、そんな技術この世界にはまだとっかかりすらないのよ?どうかしら?』

 

ルウ『ほう・・・。』

 

どうやら、状況証拠を積み上げていった上でこの結論に行きついたようだ。

 

普通の人であれば「別の世界の住人」という考えなどさっさと考察から外してしまうだろう。あまりにもオカルトチック過ぎる上に、そもそも明確な定義が出来ない以上なんでもありになってしまい考察にならないからだ。

 

だが、彼女は状況証拠を積み上げ、この戦いの中でその状況証拠を更に補強し、その普通ならあり得ないと斬り捨てられるこの答え以外にはあり得ないという結論に達したのだろう。

 

恐らく試験開始以前から違和感を感じ取っていたのだろう。

 

多分あの記者会見の時だ。その時点から目をつけられていたのだろう。

 

そして、どのような手段を使ったのかまでは不明だが、独力で私たちの秘密に王手をかけてみせた。

 

普通の人なら気にしない、気になっても適当に流してしまうような事を見逃さない観察眼に、「常識」に捕らわれない柔軟な思考力と推察力。

 

その実力には敬意をもって応えるのが筋ではあるが・・・。

 

ルウ『残念だけど、こんなところでは言えないね。時間が出来たら此方から自室に招待しましょう。その時に答え合わせです。』

 

楯無『ふふ・・・つれないんだから・・・。』

 

ルウ『用心深いと言ってほしい。どこで誰に見聞きされるか解らない。』

 

私の答えは、事実上私たちが「訳アリ」であることを、最低でも中らずと雖も遠からずだと暗に認めているようなものだ。

 

だが、例え彼女が信頼するに足る人物だとしても、今ここで真実を伝えるのは得策とはいえない。関係ない人に知られて後々ややこしい事になったら面倒過ぎる。

 

楯無「なるほどね。にしても、貴女のような強者と戦うなんて多分初めてよ。こんなに感情が高ぶるなんて・・・。」

 

ルウ「光栄な限りね。」

 

実際問題、私も結構高ぶっているがそれを表にはあまり出さない。

 

楯無「貴女が相手なら・・・私も全力を出せるわ!!」

 

その言葉と共にミステリアス・レイディが青白く発光し出した。

 

楯無「え?なにこれ?こんなの初めて・・・。」

 

想定外の事態に困惑する楯無さん。だが・・・。

 

ルウ「あるかもとは思っていたけど、やはりISにもこの境地があるなんてね・・・。ならば我々も応えよう!!」

 

その掛け声とともに私はソードの「コートエッジ」を持った右手を前に突き出し、それに応えるようにダークアビスも赤紫色に発光し出した。

 

ルウ「さぁ、第二ラウンドと行こうか・・・!貴女達の全てを、我々にぶつけて見せろ!!】



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【47】覚醒 -Violent Dynasty-

前回の最後からルウのセリフの括弧が少し変化していますが、これは一種の演出です。


【視点:楯無】

 

はぐらかされた・・・訳じゃない。

 

彼女は「ここでは言えない」と言った。つまり、少なくとも中らずと雖も遠からずと言ったところだろう。

 

しかも、これほどまでに他者に聞かれることに対して警戒しているという事は、つまりそう言う事だ。

 

それにしても、彼女は本当に強い。

 

楯無「なるほどね。にしても、貴女のような強者と戦うなんて、多分初めてよ。こんなに感情が高ぶるなんて・・・。」

 

ルウ「光栄な限りね。」

 

ここまでワクワクする戦いは恐らく初めてだ。

 

あまりの興奮に胸の高鳴りを抑えられる気がしない。

 

楯無「貴女が相手なら・・・私も全力を出せるわ!!」

 

その時だった。

 

私のミステリアス・レイディが突然青白く発光し始めた。

 

楯無「え?なにこれ?こんなの初めて・・・。」

 

体の内から力が無限に湧き出てくるような、そんな経験したことのない異常な高揚感・・・。

 

ルウ「あるかもとは思っていたけど、やはりISにもこの境地があるなんてね・・・。」

 

ルウさんの発言に思わず声を上げそうになった。まるで心当たりがあるかのようなその発言に。

 

でも、私がその意味を問う前に彼女は大剣「コートエッジ」を持った右手を突き出し・・・。

 

ルウ「ならば我々も応えよう!!」

 

それに応えるように彼女のダークアビスも赤紫色に発光し出した。

 

【BGM:「PSO2の「採掘基地防衛戦:絶望」の禍王ファルス・ヒューナル戦」より「Violent Dynasty(Resonant Defensive.ver)(通称:処刑用ワキマエヨ)」】

 

ルウ「さぁ、第二ラウンドと行こうか・・・!貴女達の全てを、我々にぶつけて見せろ!!】

 

その声と共にルウさんは今まで以上の速度で突撃を仕掛けてくる。

 

楯無「この!!ッ!?」

 

咄嗟に水の槍で迎撃を図るが、その展開速度、数に驚いた。

 

今までとは比べ物にならないほどの性能を見せ、恐らく自分の中では最高記録であろう攻撃がルウさんを迎え撃った。

 

ルウ【流石!だが!!「ワイルドラウンド」!!】

 

IS腕部が持つワイヤー付きの鉤爪「ネイクロー」を高速で振り回して多数の水の槍を吹き飛ばしながら突っ込んでくる。

 

負けじと私も、何故か出来るという確信があった「吹き飛ばされた水を即座に再度槍にする」という初めての芸当を成し遂げて背後から襲い掛からせるが、ルウさんは後ろを見ずに左手に二本保持したコートグライドを振るって光る剣のような物を後ろから追ってくる水の槍に射出して撃ち落としにかかる。

 

ルウ【「イグナイトパリング」!!】

 

楯無「はあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

そのまま私たちは激しい打ち合いになった。蒼流旋とコートエッジが激しくぶつかり合う。

 

お互いに相手の攻撃を受け流し反撃を浴びせようとするが、まるで示し合わせた剣舞であるかのようにお互い全く攻撃が相手に届かない。

 

楯無「せやあああああ!!!」

 

ルウ【「サーベラスダンス」!!】

 

ならばと距離を取りラスティー・ネイルを伸ばして切り掛かるが、ルウさんもIS腕部のネイクローを振り回して応戦する。

 

空中でラスティー・ネイルと二本のネイクローが、まるで荒れ狂う蛇の如くぶつかり合い、お互い弾かれる。

 

ルウ【これでは千日手か・・・、ならば式を変える!「シューティングスター」!!】

 

ルウさんはそう言うと、今度は両方に刃が伸びた剣「コートダブリス」に持ち替え、跳躍しつつ大きく横に薙ぎ払ってきた。

 

楯無「くっ!このぉ!!」

 

嫌な予感がした私は受けるのではなく、後方へジャンプして躱した。

 

一瞬後にさっきまで私が立っていた場所に上空から光の剣が5本連続で降り注ぎ、地面に突き刺さった。

 

ルウ【「アブソリュートクエーサー」!!】

 

楯無「まだまだぁ!!」

 

瞬間、私たちは今度は空中で斬り合っていた。

 

激しい連撃をいなし、何とか反撃しようとするが・・・。

 

ルウ【「セイバーデストラクション」!!】

 

ルウさんの手を離れ、彼女の周囲を何本もの光の剣を伴い、高速回転しながら斬りつけてくるコートダブリスに防がれる。

 

刹那、ダークアビスの腕部にいつの間にかコートグライドDが握られていることに気づく。否、ハイパーセンサーが何故かそれを指摘してきた。

 

ルウ【「ディストーションピアス」!!】

 

楯無「そこぉ!!」

 

意表を突くタイミングで放たれた強力な2連突きを、私は一瞬早く水の槍で弾き飛ばす。

 

腕部を離れたコートグライドDはそのまま拡張領域らしき空間に回収されていく。

 

ルウ【読まれたか!だがそうでなくては!!「グリッターストライプ」!!】

 

飛び退ったルウさんは腕部に新たに装備されたコートヴァージと、その色違い「コートヴァージD」から何条もの光の帯を乱射してくる。

 

それら全てが私を狙うが、水の槍を飛ばして全て撃ち落とす。

 

ルウ【ならば「ルミナスフレア」!!】

 

楯無「はあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

今度は光の帯を纏ったビームを放ってくる。私も正面から強く太く束ね上げた水の槍で迎え撃つ。

 

双方の攻撃が空中で衝突し、そしてはじけ飛ぶ。

 

ここまで何度も距離を変えて攻防を繰り返したけど、何度やっても結果は同じだ。

 

ルウ【もう時間も無いというのに、これだけ手を変え品を変えても結局は千日手か・・・。】

 

楯無「そうね・・・、ところでかなり蒸してきたんじゃない?」

 

ルウ【あれだけ水がはじけ飛べば、そうもなるさ。】

 

ルウさんは次の攻撃準備をしているのかコートグライドを手に持ち、光の剣を展開している。

 

でも、私の準備はもう済んでいるのよね。

 

楯無「じゃあ、ちょっとすっきりさせちゃおっか。」

 

ルウ【ご自由に。】

 

楯無「じゃあ遠慮なく・・・「クリアパッション」!!」

 

その瞬間、強力な水蒸気爆発がフィールドを飲み込む。

 

これが私の最大最強の技だ。今の状態なら威力が大きく上がっているだろうから、一気にシールドエネルギーを削り切ることも出来ただろう。

 

ルウ【今のはかなり危なかった・・・。直撃していればタダでは済まなかっただろうね・・・。】

 

楯無「・・・え?」

 

煙が晴れた先には、無傷のルウさんが地面に降り立っていた。

 

ルウ【「スターリングフォール」・・・。タイミングを合わせるのが難しかったけど、上手く無効化出来た。】

 

楯無「・・・何をしたの?」

 

私は思わず質問した。私の最大最強の一撃、それもアリーナのフィールド全体を攻撃範囲にした今の一撃を「回避」ではなく「無効化」するだなんて、どういうことなのだろうか?

 

ルウ【「スターリングフォール」は少し特殊でね、発動時に少しの間攻撃を受け付けなくする効果が付随している。逆に言えば、こうでもしなければどうにもならなかったのだけどね・・・。】

 

楯無「読まれていたのね・・・。にしても、そんな技まであるだなんてね・・・。」

 

ルウ【回避技としてはタイミングを合わせづらい上に、攻撃技としては火力が出し辛い中途半端な所があるけど、今回は賭けに勝てたらしい。】

 

アナウンス『タイムアップ!両者のシールドエネルギー残量同値につき引き分け!』

 

そこで時間切れとなった。残量同値とあるが、結局お互いに全くダメージを奪えていない。

 

楯無「ふぅ・・・まさか私が全力で戦って勝てないだなんてね・・・。」

 

ルウ【お互い様さ。しかし、久方ぶりに覚醒者同士の試合が出来たよ。ありがとう、ここまで滾る戦いは久々だったよ。」

 

勝敗はつかなかった。でも、お互い満ち足りていた。

 

楯無「それはそうと、その「覚醒者」というのは?」

 

ルウ「その詳細に関しても後のお楽しみ。こっちは説明するのが少しややこしいからね。それに久々に暴れたからちょっと疲れたし・・・。」

 

楯無「それもそうね。」

 

お互いに久々のガチバトルを超えて、久方ぶりのどこか心地よい疲労感に包まれていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【48】入学式のその前に -Strange Accident-

人員不足で仕事の内容がどんどん増えてきて執筆時間が全然取れないため、次話投稿迄かなり間が空くと思われます。

現在52話の最初の部分でつっかえている状態で、しかもこの後に続くドルフロ側のイベント「CUBE作戦」がうまくまとまらなくて全然執筆が進まない状態です。


--試験の翌日--

 

 

一夏さんとマドカさんは千冬さんが入院している病室に泊まり込み、私たちは近くのホテルに一泊した。

 

二人とも病室で千冬さんと心行くまで話してきたようだ。朝に見に行った際に千冬さんを見たら、正に憑き物が落ちた様子だった。これならじきに快復、復帰できるだろう。

 

因みに試験の結果は当然全員合格。

 

私たちは入学式当日までの数日間、割り振られた寮の部屋に先乗りすることになる。

 

なので私たちは学園島の中にあるその学生寮に来ていた・・・はずなのだが・・・。

 

ルウ「ナニコレ?ホテル?」

 

一夏「いや、地図を見る限りじゃここで合っている・・・はずだけど・・・。」

 

アン「どう見たってちょっとした高級ホテルよね?」

 

箒「もうちょっと質素な感じなのを想像していたが・・・。」

 

マドカ「おっきぃ~・・・。」

 

鈴音「大丈夫よ一夏。私の地図でも学生寮はここで合っているわ・・・。」

 

火逐「ちょっと落ち着かないかなぁ・・・。」

 

眼前に聳え立つ高級ホテルと言っても差し支えない大きく高いタワービルに私たちは驚嘆していた・・・。

 

これが全てIS学園生徒のための学生寮だというのだから驚きだ。流石は世界立・・・。

 

鈴音「えっと、私たち全員11階ね。」

 

ルウ「私と火逐が1104、一夏さんと鈴さんが1122、アンさんと箒さんが1121、マドカさんは1123で一人部屋か・・・。」

 

一夏さんの家族と関係者が1122号室とその両サイド、私と火逐はその向かい側だ。

 

・・・

 

ルウ「内装も中々しっかりしているな・・・。」

 

部屋に入るとその内装にまた驚嘆した。内装も結構高級なマンションに匹敵するしっかりしたものだ。

 

火逐「あんまり使わないのがもったいなくなるわね・・・。」

 

ルウ「まぁ、使い道はあるだろうさ・・・。」

 

そう言いながら私が物置の扉に細工をしていると・・・。

 

コンコン。

 

ルウ「どちら様?」

 

一夏「一夏です。ルウさん、ちょっと俺の部屋に来てくれませんか?」

 

ルウ「え?何かトラブルでもあった?」

 

一夏「ええ、まぁ・・・。」

 

何やら歯切れが悪い。

 

トラブルというより、どちらかというと理解に苦しむ事態が発生したのだろうか?

 

・・・

 

ルウ「で、部屋の前で皆して・・・何があったの?」

 

一夏「それが、開けてみてくれれば解ると思います・・・。」

 

火逐「???」

 

何故か全員が一夏さんの部屋の前で立ち往生しているのだ。

 

一夏さん達も何か困惑している様子で、各々凄い表情を浮かべていた・・・。

 

トサに至っては完全に死んだ魚のような目をしている。

 

ルウ「別に扉が壊れているとかそういうのは無さそうだろうけd・・・。」

 

ガチャ。

 

扉に手をかけると、何故か一夏さんは扉に背を向けた。

 

その謎の行動に首を傾げつつ扉を開けると・・・。

 

楯無「はぁ~い。お風呂にする?ごはんにする?そ・れ・と・も・わt・・・。」

 

バタン!

 

ルウ「・・・。」

 

火逐「・・・。」

 

一夏「・・・。」

 

私は一瞬フリーズするも、復活すると即座に開けた扉をそっ閉じし、再び顔を見合わせた。

 

恐らく私と火逐も凄い表情を浮かべていることだろう。

 

ルウ「・・・何?この・・・何??」

 

一夏「・・・解りません・・・。」

 

トサ「・・・コーン・・・。」

 

マドカ「というか、あの人ってだれ?」

 

箒「ルウさんの試験の相手でしたよね?」

 

ルウ「私の目にゴミが入っていなければ、恐らくは・・・。」

 

火逐「でも、何故スク水姿???」

 

鈴音「最初開けたときはメイド服だったわよ・・・。」

 

ルウ「何故そこでメイド服・・・。」

 

一夏「最初開けたとき一瞬部屋間違えたかと思ったんですけど、何度部屋番号を確認してもここで合っているはずなんですよね・・・。」

 

ルウ「だとすると、益々意図が読めないなぁ・・・。」

 

動きが読めないとは思ったが、素で行動がぶっ飛んでいるとまでは思わなかった。

 

面白いっちゃあ面白いが、年頃の少女がやっていい事ではない。

 

私は自室に一度戻り、カバンの中から取り出したIS学園の教科書(電話帳と間違いそうなほどの異常な分厚さ)を手に取り、再び扉に手をかけた。

 

ガチャ。

 

楯無「はぁ~い。お風呂にする?ごh・・・。」

 

ルウ「マカチョーーーップ!!!!」(巻き舌)

 

皆迄言わせず、私は何故か裸エプロン姿(後で確認したらちゃんと(?)下にビキニを着ていた)の楯無さんの脳天に手加減しつつも教科書を叩き込んだ。

 

なお、この時箒さんが楯無さんの服装を見て「何故そこで裸エプロン!?」と赤面しながら驚愕していたが、それは別の話。

 

楯無「いったぁぁぁ!?!?」

 

半ば潰れた悲鳴と共に撃沈する楯無さん。

 

ルウ「何しとるか馬鹿モン!!そう言う事はリアルでは二度とするなッ!!百歩譲って、真の愛を捧げる相手にだけしろッ!!」

 

思わず子を持つ親として楯無さんに雷を落とす。

 

楯無「ぴえん。」

 

ルウ「「ぴえん」じゃないわッ!!というか何故一夏さんの部屋にいるッ!!」

 

楯無「え?ここってルウさんの部屋じゃ?」

 

ルウ「向かいじゃ馬鹿モン!!」

 

そう言いながら私は着ていた上着を脱いで楯無さんに渡す。

 

そして一夏さん達に絶妙に疲れた表情で向き直り・・・。

 

ルウ「ちょっと手間だけど、周りに見えない様にバリケードになってくれない?他に人はいないと思うけど万一という可能性があるし、いくら何でも到底人には見せられない・・・。」

 

一夏「・・・だよね。」

 

そうして楯無さんを私たちの部屋に引っ張り込んだ。

 

ルウ「今回の事はとりあえず触れないで置いてほしい。彼女の沽券に関わる・・・。」

 

一夏「うん、見なかったことにする・・・。」

 

ルウ「すまん・・・。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

ルウ「さて、いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず私たちが用意した最強のプライベートエリアに招待しましょう。」

 

そういって私は青筋を額に浮かべつつも、先ほどの騒ぎの前に細工していた物置の扉にあるコマンドを打ち込み、そして扉を開けた。




はい。このネタやろうかやるまいかちょっと悩みましたがやることにしました。

結果後半部分が吹っ飛びましたが・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【49】境界超える扉 -Border Break-

ちょっと虚無タイムが続いて全然筆が進んでいませんが、これ以上止まっている訳にもいかないので一話投稿します。

因みに現在は52話の後半を執筆中です。

ただ、セルフチェックの結果「重度のうつ病の疑いあり」と出たので、今後も投稿間隔がかなり開きそうです・・・。


【視点:楯無】

 

楯無です・・・ちょっと脅かそうと思ってドッキリを仕掛けたら、思いっきり怒られました。

 

楯無です・・・しかも私としたことが、部屋を間違えていました・・・。

 

楯無です・・・楯無です・・・楯無です・・・。

 

・・・

 

ルウ「さて、いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず私たちが用意した最強のプライベートエリアに招待しましょう。」

 

そういってルウさんは物置の扉に手をかけます。

 

あ、額に青筋が浮いている・・・怖いです・・・。

 

なんだか悪いことして親に怒られているかのような感じがして、自然と怯えてしおらしくなってしまう・・・。

 

楯無「・・・え?」

 

扉が開かれた先には物置ではなく、そこそこ広い別の部屋が広がっていた。

 

明らかに寮とは違う趣、違う構造の部屋が・・・。

 

その部屋に招き入れられると、明らかに部屋の空気が違う。

 

楯無「え?・・・ええ!?」

 

あけ放たれて潮風が入ってくる窓の外には港にあるガントリークレーンや、2階建ての昔風の建物が複数見える。

 

バタン。

 

後ろで扉が閉められると、明確にこの部屋が先ほどまでの寮の一室とは別物であるという気配がした。

 

ルウ「ようこそ我らの鎮守府、「トラック島離島鎮守府」へ。これが貴女の質問に対する回答です。」

 

火逐「確かに私達は貴女とは違う世界の出身です。それどころか・・・。」

 

その言葉と共に二人の姿が光に包まれたと思ったら・・・。

 

ルウ「・・・年齢だって違います。」

 

火逐「私達、どちらも実年齢で言えば70歳超えているからね。」

 

その光が消えたと思っていたら、そこに立っていた二人は軍服のような物を見に纏い、見た目も30代と思える姿になっていた。

 

楯無「・・・。」

 

結果、私は言葉を失った。

 

ここまでだとは流石に想像できなかった・・・。

 

だが、そうなると先ほどの親に怒られたかのような感覚にも合点がいく。二人は子を持つ親なのだろう。

 

それに・・・

 

・・・

 

『残念だけど、こんなところでは言えないね。時間が出来たら此方から「自室」に招待しましょう。その時に答え合わせです。』

 

・・・

 

この「自室」というのは、「寮の自室」ではなくこの部屋の事を言っていたのかもしれない。

 

楯無「・・・ここまでだとは・・・。」

 

ルウ「まぁ、こんなの想像できるかと言えば無理でしょうね・・・。」

 

火逐「寧ろ、あそこ迄自力で突き止められただけでも十二分ですよ。」

 

ルウ「まぁ、それはそうと・・・。」

 

ルウさんの声色が少し怖くなる。説教の再開だ。

 

ルウ「やった内容もさることながら、何故そのうえ部屋まで間違えますか・・・。下手したら大事故ですよ?」

 

火逐「曲がりなりにも立場というものがあるのですから、ああいう事は慎むべきよ。」

 

楯無「ぐぅッ・・・。」

 

ぐうの音も出ないとはこのことだろう。だけど、その次の言葉に私は凍り付いた。

 

ルウ「まったく、他の誰にも知られなかったから良かったものの、こんな珍事が周りに知れたら妹さんが泣くぞ・・・。」

 

楯無「・・・へ?」

 

何故私に妹がいるという事が?

 

火逐「私達も昨日のうちに少し調べたんですよね。貴女には今年IS学園に入学する最愛の妹がいるって。」

 

ルウ「私達は別に強請ろうとか集ろうとかそういう事はしないけど、相手によってはとんでもない弱点晒しているからね?それこそエロ本クラスの事態待ったなしの弱点を・・・。」

 

私は今、真っ青な顔で滝汗を流している。もし今回の件が知れでもしたら・・・。

 

・・・

 

妹「・・・何やってるのよ・・・。近づかないでよね、駄姉・・・。」

 

・・・

 

楯無「ごふぅ!?」(吐血)

 

ダメだ・・・!そんなことになったら、もう私は生きていく希望が持てないッ!

 

楯無「・・・本当に申し訳ありませんでした・・・。」

 

結果、土下座。

 

ルウ「私達に謝罪してどうするのさ・・・。まぁ謝罪はいいから二度とするな。いいね?」

 

楯無「・・・はい。」

 

ISバトルでは両者互角だったけど、今回に関しては墓穴掘ったのはこちらとはいえ私の完全敗北だ。やはり年季が違うのだろうか?

 

ルウ「・・・なんか失礼そうなこと思った?まぁいいけど・・・。さて、次は「覚醒」に関してだけど、これに関してはゲームに関係しているね。」

 

楯無「ゲーム?」

 

ルウ「そうだね・・・プラモデルを読み込ませてそれを電脳世界で操縦する系のゲームなんだけど、その中に「覚醒」というシステムがデフォルトで入っている。」

 

火逐「でも誰にでも使えるようにはなっていなくて、いくつかの条件を満たすことで覚醒できるようになるんだったわね。」

 

ルウ「基本的には制御用の人工知能とプレイヤーとの相性や、人工知能がノッている状態にあるかどうかが関係しているね。だから関係性が近いISでも理論上は起こり得るだろうとは思っていたけど、まさか貴女がその第一号となるとはね。」

 

楯無「それって、意図的に仕込まれたものではなくて、偶然の産物ってこと?」

 

ルウ「そう、私達もあくまで理論上は起こり得る程度にしか考えていなかったよ。ゲームの方とは違って元々ISにそんな機能無いからね。」

 

火逐「でも、昨日のあの試合で結構いいデータが取れたから、束さんも想定外の事態に嬉しい悲鳴を上げていたよ。因みに次点で一夏さん、それに私と山田先生が覚醒しそうだったって。」

 

ルウ「ただ、どちらも片方が試験用の汎用機だったからか、微妙にノリが足りなかったみたい。一夏さんに至っては途中で千冬さんがダウンしちゃったのもあるし。」

 

楯無「そうなの・・・。」

 

ルウ「まぁ、私たちにとってもISというのは未知領域が多すぎる。・・・そういう意味でも人間と似通っているかもね。」

 

ルウさんの言葉に、私は先日の戦いの最中にハイパーセンサーがあの一撃を予め私に警告してきた事が妙に腑に落ちた。

 

楯無(そう言う事・・・なのかもね・・・。)

 

私はそう思いながら、無意識のうちに扇子につけた飾り・・・待機状態のミステリアス・レイディ・・・を撫でていた。

 

・・・

 

・・・・・・

 

【視点:ルウ】

 

楯無さんの帰りを見送ると、ちょうど一夏さんが部屋から出てきた。

 

一夏「終わりましたか?」

 

ルウ「ええ。まさかあんな奇襲攻撃が来るとは思わなかったけどね・・・。しかも誤爆・・・。」

 

一夏「ですよね・・・。そういえばルウさん。さっき怒鳴った時の声ですけど、箒となんか似ていたような気がしたんですけど。」

 

ルウ「え?」

 

一夏「向こうでコルボーさん相手に怒鳴った時もそんな感じがしましたけど、改めて聞いてみるとやっぱり似ているなぁ・・・って。」

 

ルウ「まぁ、声が似ている人は世界に何人かいると聞くし、でもまぁ同じところに揃うなんて珍しい事もあるもんだね・・・。」

 

私は自分の声が箒さんの声と似ているという感覚は無かった。

 

恐らく、普段の声の音程が違うからだろう。私の声は普段はやや低めなのだ。

 

頭の中でその補正を加えてみたところ・・・。

 

ルウ(ああ、確かに音程を揃えると似た感じになるかな?)

 

本当に珍しい事もあるものだと、私はしみじみと思った。

 

それで少し世間話をした後お互い部屋に引っ込んだ。

 

と・・・。

 

ジリリリリリリ!!

 

部屋の電話が鳴り響いた。

 

ルウ「あれ?銀河の藤堂艦長から連絡?・・・はい、叢雲ですg・・・」

 

早紀出所は貴女ですかぁ!!!!

 

ルウ「アアアア!?!?み、耳がぁ・・・。

 

耳元で鳴り響いた怒声が私の鼓膜にダイレクトアタックを喰らわせた。

 

ルウ「な、何故開口一番に咆哮を・・・?」

 

早紀思い出し激怒ですッ!!

 

ルウ「ちょっと待った、順を追って説明して!何の話?」

 

早紀『先月お見合いがあったんですよ!

 

ルウ「お見合い?それは良かったじゃないですか。それとこれとに何の関係が?」

 

早紀『そのお相手から、「仕事中は気を張っているけど普段は可愛い所があると聞いた。」って言われて滅茶苦茶恥ずかしかったんですよ!?それの出所遡って行ったら貴女にたどり着いたんですよ!!

 

ルウ「え?それって・・・あ。」

 

そういえば前に彼女の堅物染みた雰囲気に苦手意識持っていた新人にそういうこと話したことはあったが・・・そこから伝わったのか?

 

しかも、私が言った内容から若干ズレている。おそらく伝言ゲームになったことで言い換えや脚色が入り込んだからだろう。

 

早紀出所はやっぱり貴女ですかぁ!!!!

 

ルウ「アアアア!?!?それ止めろ!それ止めろ!!

 

結局、私はその後数分間電話越しに怒鳴られ続け、耳のライフをゴリゴリ削られることになった・・・。

 

・・・でも、あれ話したのって3年前なんだが・・・。




この早着替えですが、PSUでもあったナノトランサーを使った衣装交換を併用しています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

【50】入学式 -A quiet plot-

今年も本日で終わりですが、気が付いたら今年投稿したのこれで2話目というとんでもない鈍行運転・・・。

「VOID TRAIN」等をプレイして先のストーリーのネタ出しと執筆も続けているのですが、思った以上に筆が進んでいなかった・・・。


試験日から数日経過し、遂に入学式の日を迎えた。

 

さて、これから俺達にはどんな学園生活が待っているのだろうか・・・。

 

・・・

 

*体育館*

 

【視点:一夏】

 

生徒会長である楯無さんが入学式の挨拶をしている中、俺達はISの通信機能を使ってちょっとした話をしていた。

 

一夏「本当に凄い人数だな・・・。」

 

箒『1組から8組まであるそうだ。まぁ世界中から来るのだから、寧ろ少ない方なのかもしれないが・・・。』

 

ルウ『にしても、これだけ新入生が居るのに男性が一夏さん一人だけか・・・。』

 

火逐『もう一人男性のISライダーが居たはずだけど、ここには居ないみたいね。』

 

一夏「そのもう一人の男性ISライダーが居てくれれば、男友達として仲良くしたかったけどなぁ・・・。俺としては、周りが知らない女性ばっかりだと居心地がなぁ・・・。」

 

鈴音『絶対余計な注目を集めるわよね・・・。』

 

アン『その為にも私達が一緒に入学したのよ。』

 

マドカ『うん。』

 

何故か見当たらないもう一人の男性ISライダーの事も気がかりだが、女性ばかりという環境は俺にとってはあまり精神衛生上よろしくない。

 

離島鎮守府に厄介になっていた頃も周りは女性が多かったが、男性だって相応にいた。

 

だが、ここでは女性の比率が異常なまでに高過ぎるのだ。

 

何より、絶対に好奇の目を向けられるのは確定的に明らかだ。

 

織斑千冬の弟にして、世界初の男性ISライダーともなれば、間違いなく面倒くさい事になる。

 

だがまぁ、この環境とも上手い事付き合っていかなければならない。

 

少なくとも、新入生の面々とは3年間同じ釜の飯を食うのだから。

 

ルウ『・・・しかし、普段どうなのかは解らないが、今年の新入生は結構良いのが揃っているのかもしれない。』

 

一夏「解るんですか?」

 

ルウ『あくまで「魂」を見た限りだけどね。興味深い人が結構居る。』

 

箒『そうなのか?』

 

アン『というか、「「魂」を見る」って?』

 

ルウ『私の生まれに関係する能力かな?私は人の魂を色や輝きという形で見る事が出来るんだよ。あくまで参考程度にしかならないけどね。』

 

マドカ『へぇ~・・・。』

 

鈴音『不思議なものね・・・。』

 

・・・

 

入学式は滞りなく終わり、組み分けの結果を見に行くことになった。

 

俺は1組で同じクラスにはアンと箒がいる。

 

鈴音は2組だが、ルウさんと火逐さんが同じクラス。マドカは3組だ。

 

結構ばらけたが、流石に同じクラスに一纏めにするのは良くないだろう。

 

ざっと生徒の名前を見てみる。日本人の名前も多いが、やはり世界立なだけあって様々な国の人と思われる名前もたくさん並んでいる。

 

ルウ「うん?これ、なんて読むのだろうか?」

 

箒「どうかしたか?」

 

ルウ「7組のこの二人。この苗字は「アゲハ」と読むので合っているのだろうか?」

 

ルウさんが指さした1年7組の名簿のある個所。そこには「揚羽 香苗」と「揚羽 篠生」と書かれている。

 

一夏「多分そうだと思うけど、かなり珍しい苗字だな。」

 

確かに見かけない苗字だ。

 

他にも7組には「卯月 零」や「朱紗丸 綾香」等、どう読めばいいのかよく解らない名前がいくつかあった。

 

アン「ねぇ、そろそろ教室行かないとHR始まっちゃうんじゃないの?」

 

ルウ「ああ、それもそうか。まぁ、本人に出会った時に確認すればいいか。」

 

マドカ「でも、違うクラスの人と名前で呼び合う仲になるなんて、そんなに無いんじゃないかな?日本人だけでも各地から来ているし。」

 

ルウ「だよなぁ。」

 

・・・

 

・・・・・・

 

ルウ「それじゃあ、今日は午前中しか授業が無いから放課後にまたね。」

 

一夏「はい。マドカも一人だけど頑張れよ。」

 

マドカ「大丈夫だってお兄ちゃん!」

 

一夏「それもそうか。鈴は・・・心配する必要はないか。」

 

鈴音「まぁね。」

 

アン「それじゃあ、放課後に。」

 

そんな感じでひとしきり言葉を掛け合った後、俺たちはそれぞれの教室に入って行った・・・。

 

・・・一方その頃・・・

 

*本土の某所*

 

複数の女性が集まっているどこかの廃ビルの一室。

 

集まっていた女性たちの内の一人が、この場には明らかに場違いなどこかの学校の制服姿の、中学生と思われる少女に写真を渡している。

 

女性「この女を抹殺してほしい。こいつさえどうにかできれば、あの忌まわしき織斑一夏を抹殺することが出来る。」

 

制服姿の少女「・・・了解。」

 

少女はこれまた外見不相応な大人しい、どこか無機質な雰囲気で返事をした。

 

女性「解っているな?お前を雇うのにかなりの金を出したんだ。それだけの働きはしてもらわないと困る。・・・失敗すればその度にお仕置きだ。」

 

制服姿の少女「ッ・・・解っています。」

 

少女は恐怖の為か少し身震いしたが、少し俯きつつも無機質な雰囲気で返答した。

 

その少女が手渡された写真は、どこかの病院の前で盗撮されたもののようだ。

 

そこに映る、病院から出てきた二人の少女の内一方の顔が赤丸で囲われている。

 

その赤丸で囲われた、水色髪をツインテールにした女性を見た制服姿の少女の表情は窺えない。

 

ただ解ることは、この制服姿の少女は明らかに真っ当な人物ではないという事。そして・・・。

 

制服姿の少女「この女が・・・抹殺対象・・・。」

 

制服姿の少女にとってこの仕事は、人生の転換点になるであろうという事だけだ・・・。




大みそかに今年二話目を投稿するという異常事態ですが、今後もかなりの鈍行運転になることが予想されます。

因みに、最後にちょろっと登場した少女ですが、色々と設定を練っているうちにいつの間にかキーキャラクターの一人になってしまいました。

それでは、本年も大変お世話になり、ありがとうございました。来年もよろしくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。