真・ごとき転生 スウォルチルドレン (サボテン男爵)
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シンフォギア編

 認定特異災害――ノイズ。

 

 どこからともなく現れ、人間のみに襲い掛かり炭化させ、そのくせ軍や警察が用いる現行兵器では容易く倒せない。

 何故存在するのか、何故人を襲うのかもわからない文字通りの災害。

 

 そんな理不尽な災害に唯一対抗できるのは、シンフォギア装者と呼ばれる者達だけ。

 超常の遺物たる聖遺物を元にした力にして装備。

 その力を扱える年端もいかぬ少女たちは、今日も人々を襲うノイズへと対処するため、人知れず戦い続ける。

 

 ――その、はずだった。

 

「何……が――」

 

 ノイズ出現の警報。

 緊急の出動要請。

 装者たる少女たちは、最短・最速で駆け付け――異変に巻き込まれた。

 

 ほんの少し前まで逃げ惑う人々の喧騒に満ちていた道路は一転、静寂へと包まれていた。

 自分たち以外に人の姿はなく、残されたノイズたちは急に獲物を失った為か困惑している様子が見て取れる。

 

「奴は――ノイズ……なのか?」

 

 困惑気味に呟いたのは、3人の中で最も装者歴が長い風鳴翼。

 即ち最も長くノイズと戦ってきた人物であり、その彼女をもってしてもノイズの中心に立つ“怪人”は異様であった。

 

「あく……ま?」

 

 呆然としたような顔で立つのは、立花響――未だ新人の域を出ない少女。

 なるほど、彼女の表現は的を得ているだろう。

 

 黒い異形の鎧を纏った全体像。

 無数のプレートが刺さった頭部に、仮面が砕け素顔が露わになったかのような凶悪な貌。

 牙のような装飾に囲まれた、血走った瞳を思わせるベルト。

 胸部の右側には“2019”と“DARK DECADE”と記された刻印。

 

 それが意味するところは分からない。

 分からないが、はっきりとしていることは一つ――

 

「お前か――」

 

 3人目の少女が、震えながらも問いかける――否、問いただす。

 ノイズには意思疎通は通じない――だが怪人は、確かに少女へと顔を向けた。

 

「お前が、みんなを消し去ったのか」

 

 3人の装者が駆け付けた時、確かにココにはまだノイズから逃れんとする人々がいた。

 ほんの少し前まで、あの怪人が現れる瞬間までは。

 

『そうだ』

 

 低く、重い声が響いた。

 言葉が通じないと思っていたのか、両隣の二人が驚いたのを気配だけで感じ取ることができる。

 だが、少女にとってそれはどうでもよかった。

 

 ――奴は、肯定した。

 みんなを消し去ったのを。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

「貴様ぁあああーーー!!」

 

 ――怒りの歌が、世界を揺らした。

 

 

 転生者愚痴りスレ Part14

 

 

 

128:名無しのごとき氏

 すまん。ちょっと愚痴らせてもらっていい?

 

 

129:名無しの魔法提督

 ダメ。

 

 

130:名無しのごとき氏

 ごめん。帰るわ。

 

 

131:名無しの寺生まれ

 >>129 あなたこそいつも愚痴ってるでしょーが!?

 >>130 まーまー、愚痴るくらいなら構わないっす。そういうスレだし。ただし節度は守ってもらいたいっす。

 

 

132:名無しのごとき氏。

 ありがとう。ちょっとオレのことを説明させてもらうと、訳あっていろんな世界を旅しているんだけど。

 

 

133:名無しの記憶探偵

 ほう、プレインズウォーカーの類か。レアだね。初めて見る名だが、書き込みは初?

 

 

134:名無しのごとき氏

 >>133 うん、というかこういう掲示板の存在を知ったのもつい最近。転生しても、世界を跨いでも、人って早々変わらないのかね。

 

 

135:名無しの魔法提督

 有志の手によるものだからな。ぶっちゃけ使われているテクノロジーが異次元過ぎて、一つの世界の法則だけじゃ手に余る。

 

 

136:名無しのごとき氏

 そうなんだ。興味はあるけど、ここは本題に戻らせてもらう。

 つい最近新しい世界に辿り着いたんだけど、そこでちょっとトラブって。

 

 

137:名無しの魔法提督

 あー、わかるわー。オレも仕事柄いろんな世界に渡るけど、原住民との折衝とかマジ大変っていうかー。

 

 

138:名無しの鬼っ娘

 提督は愚痴り始めると長いからちょいストップ。ごとき氏の話に戻ろうぜい。

 

 

139:名無しのごとき氏

 サンクス。まあその新しい世界がどんな世界か確かめる前にさ。現地民たちがクリーチャーに襲われている場面に遭遇したんよ。何か人間が炭に変えられてて。

 

 

140:名無しの寺生まれ

 うわぁ、そりゃ面倒なことに……オレもちょいちょい霊とかに襲われている人に会うからなぁ。それでどうなったっスか?

 

 

141:名無しのごとき氏

 ほっとくわけにもいかないし、助けに入ったよ。能力柄現地民を逃がす方が早かったから、そうしたんだけど。

 

 

142:名無しの記憶探偵

 能力か。差し支えなければ聞いても? もっとも名前でイメージは湧いているが。

 

 

143:名無しのごとき氏

 探偵強い。ぶっちゃけると転生先が仮面ライダージオウのスウォルツだったんだけど、わかる?

 

 

144:名無しの魔法提督

 あー、やっぱりか。薄々そんな気はしてたけど、自分でごとき氏名乗るなよw

 

 

145:名無しの鬼っ娘

 アタシはわかんないなー。えーと、最後に見たのはアキトだっけ?

 

 

146:名無しの寺生まれ

 >>146 “アギト”っす、姉御。

 

 

147:名無しの鬼っ娘

 あーあー、そうだったそうだった。今度外に行ったとき奢ってね?

 

 

148:名無しの寺生まれ

 うっす、姉御!

 

 

149:名無しの魔法提督

 よく訓練された寺生まれだな……そういや同じ世界出身だったか。

 

 

150:名無しの記憶探偵

 話が逸れているから戻そう。となると、ディケイドの力も持っているのかね?

 

 

151:名無しのごとき氏

 ご名答。ディケイドって言っても、ダークディケイドの方だけど。

 

 

152:名無しの魔法提督

 アナザーダークディケイドか!?

 

 

153:名無しの寺生まれ

 うおっ、オリジナルアナザーライダーっすか!

 

 

154:名無しの鬼っ娘

 なにそれおいしいの?

 

 

155:名無しのごとき氏

 >>154 おいしくはないです、多分。

 

 簡単に説明すると、仮面ライダーの力をベースにした怪人。

 転生先はオリジナルのスウォルツじゃなくて“リ・イマジネーション”のスウォルツ。細部は違うけど、オリジナル同様時を司る王族の力はある。

 だから今回時間を止めて、その間に襲われている人たちをディケイドのオーロラカーテンで安全な場所に転移させた。

 

 

156:名無しの魔法提督

 ごとき氏、君、ウチで働かない? 真っ当なホワイト企業だよ? 給与もいいよ?

 

 

157:名無しの鬼っ娘

 >>156アタシの前で嘘つくなよ。

 寺生まれ、専門用語多くて分かりにくいから今度おせーて。

 

 

158:名無しの寺生まれ

 うっす姉御!

 でもごとき氏、結局なんでトラブったんすか? いい事してるように見えるんすけど。

 

 

159:名無しのごとき氏

 まあ、それがね。その直後っていうか、ちょっと前に妙に際どい格好した女の子が3人ほど来てたんだ。流れ的に変身ヒロインっぽかったし、その3人は転移させずに残していたんだけど……オレが住人を“消滅させた”と勘違いされて殺されに来ました。

 

 

160:名無しの魔法提督

 あっ(察し

 

 

161:名無しの寺生まれ

 あー、アナザーライダーの見た目って……

 

 

162:名無しの鬼っ娘

 アハハハハ!! それでどうなったの?

 

 

163:名無しのごとき氏

 まあ、適当にあしらって撤退。ガチに殺しに来てたのは一人だけだったし、周囲のクリーチャーも戦闘の余波で死んだり勝手に自壊したから、住人は元に戻した。なんかもう色々面倒になったから、その世界そのものから離脱しました。

 

 

164:名無しの寺生まれ

 何という放置プレイ。

 

 

165:名無しの魔法提督

 なんて責任感がないやつだ。コッチは嫌でも責任負う立場なのに。

 

 

166:名無しの鬼っ娘

 そーうー? そのくらい適当でいいんじゃない?

 

 

167:名無しの装者

 お言葉ですがっ! あの後いろいろ大変だったんですよ!?

 でもまず最初にみんなを助けてくれてありがとう!

 

 

168:名無しの魔法提督

 ふぁっ!?

 

 

169:名無しの寺生まれ

 本人降臨っすか!?

 

 

170:名無しの記憶探偵

 私が連れてきた。少し前今回の一件にデジャヴュを覚える記事を見たものでね。

 

 

171:名無しの鬼っ娘

 さすが探偵。まずはこの過疎スレにようこそー。

 

 

172:名無しの装者

 鬼っ娘さん、ありがとうございます。皆さんもお邪魔します。

 

 

173:名無しの魔法提督

 ようこそ。ところで大変だったって、やっぱり転移させられた人たちのアフターケア?

 

 

174:名無しの装者

 >>173 はい、そうです。

 ノイズに襲われたと思ったら見知らぬ場所にいて、ちょっとしたらまた元に戻ってて。結局表向きは集団幻覚ってことで処理されましたが、裏側じゃてんやわんやですよ。

 後私も独断専行ってことでペナルティ受けて。

 

 

175:名無しの寺生まれ

 ノイズってことは、シンフォギアっすか。あのモブ厳の。でも犠牲者が出るより良かったんじゃ?

 あと独断専行じゃ仕方ないと思うっす。

 

 

176:名無しのごとき氏

 あー、うん、なんかゴメン。まあほら、こっちもとっさだったからさ? 突発的な事態で、常に最善の行動をとれるわけじゃないというか。

 というか君、あの時のキワドイガール? だいぶ口調が柔らかいね。

 

 

177:名無しの装者

 キワドイガールは止めていただければ……あの時は頭に血が上っていたので、怒鳴りつけてすみませんでした。改めてありがとうございます、ごとき氏さん。おかげで家族を失わずに済みました。

 

 

178:名無しの記憶探偵

 まあ敢えて指摘させてもらえば、ごとき氏は時を止めることができるんだ。だったらその間に最善の対処法を考えればいいとも思うがね。

 

 

179:名無しのごとき氏

 ぐうの音も出ませぬ。

 

 

180:名無しの装者

 というかごとき氏さん、なんで“ごとき”とか呼ばれてるんですか? 私たち3人がかりでも手も足も出なかったんですけど。というか時間止められるってホント!? 強すぎないですか!?

 

 

181:名無しの寺生まれ

 装者さん、今何期っすか?

 

 

182:名無しの装者

 あ、すみません。私原作知識がない口なんで。何期とかはちょっと……

 参考までに、今いる仲間は翼さんと響の二人です。

 

 

183:名無しの寺生まれ

 ってことは1期っすか。ごとき氏は平成ライダーシリーズのラスボスみたいな人っすからねぇ。今はまだ勝てなくても仕方ないというか。

 

 

184:名無しの魔法提督

 ごとき氏「1期風情が、オレに何かできると思うか? 5期までいったら出直して来い」

 

 

185:名無しのごとき氏

 >>184 提督さん、台詞ねつ造しないで。

 

 

186:名無しの装者

 え、ちょ、5期って今みたいな事件がまだまだ続くってことですか!? ええぇ……

 

 

187:名無しの鬼っ娘

 原作知識は毒にも薬にもなるからねー。私は原作的に、そこまで気にしなくもいい訳だけどさ。

 

 

188:名無しの記憶探偵

 知った上の苦悩や人間関係への影響も無視できないからね。忠告させてもらえば、“なんとなく”で知ろうとするのはおすすめしない。

 

 

189:名無しの寺生まれ

 ところで装者さんの世界で、ごとき氏の扱いってどうなってるんですか?

 

 

190:名無しの装者

 あ、はい。観測していた各種データからノイズではないと結論付けられています。なので何らかの異端技術の産物ではないかと。胸元のイニシャルから、“コードDD”と呼ばれ調査が続けられています。翼さんなんかは、リベンジする気満々ですけど。

 

 

191:名無しの魔法提督

 しかし、本人はとっくの昔に世界からいなくなっているのであった。

 

 

192:名無しのごとき氏

 無駄に税金使わせていると思うと、胸が痛い。

 

 

193:名無しの鬼っ娘

 まー仕方ないんじゃない? 気にしなくていーよ。

 

 

194:名無しの装者

 あっ、でしたらごとき氏さん! 良かったらもう一度こちらの世界に来れませんか?

 司令だって話せば分かる方ですし、直接お礼もしたいですよ。

 

 

195:名無しの魔法提督

 よっ、女学生(多分)から誘われる男の鏡。

 

 

196:名無しのごとき氏

 >>195 いつかそっちの世界に辿り着いたら、時止めて社会的に抹殺してやる。

 >>194 そっちの世界にはピン留めしてないから、意図的には無理。まあもう一度辿り着くことがあれば顔出すよ。でもリベンジは勘弁。

 

 

197:名無しの装者

 はい、その時はよろしくお願いします! 翼さんは、できる限り止めてみますので(笑

 

 

198:名無しの寺生まれ

 これで一応、解決っすかね? あんまり愚痴スレっぽくない感じになっちゃったっすけど。

 

 

199:名無しの鬼っ娘

 いいんじゃない? いつもは提督がぐだぐだ愚痴ってるだけだし。

 

 

200:名無しのごとき氏

 ところで鬼っ娘さん、答えられるならでいいけど、ひょっとして東方Project出身?

 

 

201:名無しの鬼っ娘

 そーなのだー。

 

 

202:名無しのごとき氏

 十六夜咲夜っている? もしよければ、今度会った時オレの名前出してみてほしいんだけど。

 

 

203:名無しの鬼っ娘

 別にいーけど、なして?

 

 

204:名無しのごとき氏

 もしかしたら妹かも。

 

 

205:名無しの寺生まれ

 へっ!? 妹さんってツクヨミなんじゃ!?

 

 

206:名無しのごとき氏

 オリジナルではね。オレ、リ・イマジネーションだから。容姿は銀髪の女の子だったし、世界が終わる前に他の世界に逃がしたから。成長したらあのメイド長みたいになるなーって常々思ってたから、ひょっとしたらって。

 

 

207:名無しの装者

 えっ、あの、今世界が終わるって……

 

 

208:名無しの鬼っ娘

 ふーん、まあいいよ。代わりにこっちの世界に来ることがあったらお酒でも奢ってね。

 

 

209:名無しのごとき氏

 >>208 感謝。

 >>207 まあ、そっちはあんまり気にしなくていい。文字通り終わった話だから。

 あっ、ちょっとゴメン。

 

 

210:名無しの記憶探偵

 ふむ、何かあったようだね。

 

 

211:名無しの魔法提督

 あー、そういやメイド長って時止め持ちだったか。確かに能力的には通じるものがあるな。というか有能で可愛いメイドさんとか、オレも欲しい。

 

 

212:名無しの寺生まれ

 オレは一応一緒の世界だけど、幻想郷と外っすからねぇ。会った事はないっす。

 

 

213:名無しの魔法提督

 もし会っていたらオレの憎しみがお前を襲う。

 

 

214:名無しの寺生まれ

 いやぁ、まあ呪いとかそういうのには強いんで。

 

 

215:名無しの装者

 寺生まれってすごいんですね。

 

 

216:名無しの寺生まれ

 幻想郷のガチ勢ほどじゃ無いっすよ。

 

 

217:名無しのごとき氏

 ごめん、戻った。

 

 

218:名無しの記憶探偵

 何かあったのかね?

 

 

217:名無しのごとき氏

 いや、今いる世界でちょっとね。何か黒っぽい人外な幼女に付き纏われてて。

 「一緒にグレートレッドを倒そう」とか「真の静寂が欲しい」とかって。

 とりあえずアナザーワールドに閉じ込めていたけど、飽きたって言って出てきて……

 誰かこの子知ってる?

 

 

218:名無しの魔法提督

 OK。とりあえず怒らせないように。

 




 掲示板形式に初挑戦。実際の掲示板とは諸々違いますが、簡易版ということで。ネタが浮かんだので書いてみました。


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閃の軌跡編①

 ほんの2週間前に起こった、世界を揺るがす大事件。

 エレボニア帝国における皇帝の暗殺未遂。

 皇子であるオリヴァルトの、搭乗していた飛行艇カイレジャス号諸共の爆殺。

 

 帝国は一連の事件を対立するカルバード共和国の陰謀であると公表し、世界は大戦へと向けて動き始めていた。

 何もかもが大いなる嵐と荒波に飲み込まれ、世界を焼き尽くさんとする炎が立ち昇らんとする。

 

 そんな激動渦巻く時代の中、真実を求めその流れを変えんと抗う者たちもまた存在した。

 

 リベール遊撃士協会所属。

 エステル・ブライト。

 ヨシュア・ブライト。

 並びに協力者であるレン・ブライト。

 

 クロスベル特務支援課所属。

 ロイド・バニングス。

 エリィ・マクダエル。

 かつての零の御子たるキーア・バニングス。

 

 彼らは互いの目的と信念の為協力し、帝国へと併合されたクロスベルのオルキスタワーにおける魔導区画を進み、中枢端末へと辿り着いていた。

 全ては帝都からアップロードされたデータ、2週間前に起きた異変の真実――それを手に入れるために。

 

 “大いなる壁”を超えんとする若者たち。

 彼らの前に、その芽を摘まんとする者たちが立ちふさがる。

 

 エレボニア帝国鉄道憲兵隊にして《鉄血の子供たち》の一人――クレア・リーヴェルト。

 異形の技術の担い手である黒の工房にして地精の長――アルベリヒ。

 クロスベルを利用し、裏切り、己が目的を追求する錬金術師――マリアベル・クロイス。

 

 一人一人が超常の使い手たる難敵。

 そんな中で一同の視線は、マリアベルの背後に控えこれまで一言も発していなかった男へと向けられた。

 

「レディを前にして、自己紹介のひとつもできないのかしら? 男が廃るわよ」

 

 少しでも情報を手に入れんと、桃色がかったスミレ色の髪を持つ少女――レンが挑発的に言葉を発する。

 

「ふん」

 

 二十代半ばと思われる、黒髪をオールバックにした男。

 マリアベルの壁のようにしていた彼は、つまらなそうに鼻を鳴らして前に出た。

 

「――先日、結社《身喰らう蛇》にて執行者No.Ⅱを拝命したスウォルツだ」

 

 言葉少なに発した男だが、リベールから来た3人の警戒度を跳ね上げるには十分すぎた。

 

「っ! そのNoは――」

「レーヴェの後釜、ということか」

 

 エステルは身構え、ヨシュアが目を細める。

 

「その名前は確か、《剣帝》だったわね」

「オレたちは名前しか知らないが、結社でも上位の使い手だったと聞いている。――彼も相応である可能性が高いということか」

 

 特務支援課の二人もそれぞれの武具を構え直し、身を引き締める。

 レンとキーアは中央端末からのデータの吸出しで動けない。

 そしてその為の時間を稼ぐ必要がある。

 

 推定でも達人級が4人――厳しい戦いになるのは一目瞭然であった。

 

 クレア、アルベリヒ、マリアベルもそれぞれ戦闘態勢に入るが、スウォルツは腕を組んだまま傍観の姿勢を見せる。

 その仕草を見た結社の使徒3柱であるマリアベルは、特徴的な縦ロールを揺らしながらスウォルツを諫める。

 

「ちょっと、最高幹部である私を前線に出して、あなたが控えるのはさすがにどうかと思いますわよ?」

「ふん……オレの手を下すまでもない」

 

 あっさりと自身の要求を拒絶した執行者に対し、マリアベルは更に言葉を発しようとしたが、スウォルツが手を正面に差し出したことでその行動を制された。

 

 異変はすぐに、目に見える形で起きた。

 

「銀の、オーロラ?」

 

 スウォルツの背後に揺らめく鏡のようなカーテン。

 幻想的ともとれる現象を見て、エステルが呟く。

 

 だが真なる異変はその直後に姿をあらわした。

 

「うそ……」

 

 呆然としたように(彼女としては珍しい事に)言葉を漏らすレン。

 銀色のオーロラの向こうから姿を現した、黄金の片手剣を携えた白髪の男の姿を目にしたことで。

 

「……ありえない」

 

 一瞬の油断もできぬ状況で、思わず戦闘態勢を解いてしまったヨシュア。

 そんなヨシュアに対し、白髪の男は叱咤するように声をあげる。

 

「“敵”の前で何を呆けている、ヨシュア? 構えろ!」

 

 かつて散ったはずの《剣帝》レオンハルトは、再びゼムリアの大地に降り立った。

 

                      ◇

 

転生者愚痴りスレ Part15

 

501:名無しの装者

それでですねっ! 翼さんったら酷いんですよ!? 私のことを「まるでブレーキの壊れた猫バスだな」って言って!

 

 

502:名無しの魔法提督

いや、うん、その表現はどうなんだ? お兄さんには最近の女子高生の感性は分かりにくいよ……

 

 

503:名無しの寺生まれ

今の時代、生まれが数年違ったらもう別の生き物っすからねー。オレも菫子ちゃんとかのテンションには時々ついていけない事があるっす。

 

 

504:名無しの鬼っ娘

そーいや猫バスなら幻想郷にいるよー。

 

 

505:名無しの装者

マジですか!?

 

 

506:名無しの魔法提督

え、何? クロスオーバーな世界観だったの?

 

 

507:名無しの鬼っ娘

>>506 クロスかははっきりしてないけど、いる。幻想郷縁起にも載ってる。

本人(猫?)は喋らないけど、「千里を駆ける程度の能力」って認識されているね。

 

 

508:名無しの魔法提督

>>「千里を駆ける程度の能力」 ナニソレ地味に格好いい。

 

 

509:名無しの鬼っ娘

橙が自分の式神にしようと頑張っているね。無理そうだけど。

 

 

510:名無しの装者

めっちゃ乗ってみたいんですけど!? ふわふわですか!? ふわふわなんですか!?

 

 

511:名無しの鬼っ娘

ふわふわだよー。適度にあったかいし。私も宴会の帰りとかに乗って、よく一日とか寝過ごしてる。

 

 

512:名無しの装者

うーらーやーまーしーいー!!

 

 

513:名無しの魔法提督

確かに羨ましいな。オレも日ごろのストレスとか癒されたい。

ってか金とれば普通に大ヒット商売になりそう。

 

 

514:名無しの鬼っ娘

基本気まぐれで動いてるからねー。捕まえるのは難しいよ。後偶にノミが発生してる。

 

 

515:名無しのごとき氏

チャオ。相変わらず半分くらい雑談スレになってるね。

 

 

516:名無しの装者

ちょうどいいところに! ごとき氏さん、是非私の世界と幻想郷の開通を早急に! 子供の頃から猫バスに乗ることが夢だったんです!

 

 

517:名無しのごとき氏

テンション高いなー。こっちは駄々下がりなのに……

あと開通は今のところ運次第だから、気長に待ってて。

 

 

518:名無しの寺生まれ

どもっす。また何かあったんすか?

 

 

519:名無しのごとき氏

今いる世界で、ちょっと厄介な案件抱えることになって。

 

 

520:名無しの魔法提督

またか。大概厄に好かれる奴だな。

 

 

521:名無しの鬼っ娘

人の不幸は蜜の味ってね。酒の肴にさせてもらうよー。

 

 

522:名無しのごとき氏

>>521 鬼っ娘さん、ひどいw まあ笑って聞き流して。

 

今は軌跡シリーズの世界にいてね。そこがちょっと原作崩壊起こしてて、ちょっとリカバリーに動いています。

 

 

523:名無しの魔法提督

軌跡シリーズっていうと、空とか碧とかか。懐かしいなー。今どのあたり?

 

 

524:名無しのごとき氏

>>523 閃の軌跡Ⅳの序盤辺り。

 

 

525:名無しの寺生まれ

あー、戦争直前ってことっすか。そりゃ厄介な時分に辿り着いたもので。

 

 

526:名無しの装者

へっ、戦争ですか? 私はメインがノイズ相手だから、あんまり実感が湧かないっていうか。

 

 

527:名無しの鬼っ娘

戦争なんぞ、触れずにすむなら触れない方がいいからねー。

 

 

528:名無しの記憶探偵

>>524 すまないね。私の世界で面倒ごとに引きずり込んで。

 

 

529:名無しの寺生まれ

探偵さんじゃないっすか! え、軌跡シリーズに転生してたんすか?

 

 

530:名無しの記憶探偵

ああ、クロスベルで探偵業を営んでいる。

 

 

531:名無しの魔法提督

あー、その時期のクロスベルなら、徴兵とかされないの? 大丈夫?

 

 

532:名無しの記憶探偵

ご心配ありがとう。だが帝国政府と幾つか取引をしていてね。問題ないよ。

 

 

533:名無しの装者

取引って、どんなですか?

 

 

534:名無しの記憶探偵

主に情報提供なんかだね。伝手はあるし、兵以外の場所で有益性を示しておけば何とかなるものだよ。

 

 

535:名無しの出奔魔女

はじめまして、探偵さんの紹介で来ました出奔魔女です。

軌跡シリーズのエレボニア帝国で、魔女の眷属に転生しました。

今は名前通り出奔しているんですけど。

 

 

536:名無しの記憶探偵

おっと来たかい。

 

 

537:名無しのごとき氏

>>535 来たな元凶。

 

 

538:名無しの出奔魔女

元凶言わないでください!? 反省はしてるんですから!

 

 

539:名無しのごとき氏

でも後悔はしてないんでしょ?

 

 

540:名無しの出奔魔女

勿論。こちとら最善目指して頑張ってきたんですよ!

……まあ結果として色々歯車狂っちゃったんですけど。

 

 

541:名無しの寺生まれ

えっと……つまり魔女さんが何かしらやらかした結果原作崩壊起こしたと?

具体的にはどんな具合になっているんっすか?

 

 

542:名無しのごとき氏

まず、リィン君が金の騎神の起動者になっています。申し開きをどうぞ。

 

 

543:名無しの出奔魔女

うん、まあそのさ? 私原作プレイしてて思ったんだよね。

「この人らもうちょっとお互いの事情明かして連携できなかったの?」って。

 

 

544:名無しの魔法提督

ちょっとうろ覚えだが、そうだった気も。

 

 

545:名無しの出奔魔女

>>544 同意ありがとう。

そんな感じでさ。私も閃原作開始以前は巡回魔女やってて、主人公であるリィン君の故郷であるユミルに行ったんだよね。ちょうどユン老師は去った後くらいで、リィン君は鬼の力で悩んでて。それでちょっと見てられなくて、いろいろと面倒見ることにしたの。

 

 

546:名無しの鬼っ娘

おねショタ?

 

 

547:名無しの出奔魔女

>>546 違いますっ! リィン君が可愛かったのは認めますが!

それでまあ修行つけたり、魔女の術を使って鬼の力の制御なんかを試していた訳です。近くに氷霊窟もあったから、そこも使って訓練して。

 

 

548:名無しの寺生まれ

確か隠しダンジョンっすね。

 

 

549:名無しの出奔魔女

ただ場所が悪かったのか、リィン君の呪いと反応したのか、いきなり試練が始まっちゃって……。結局リィン君、金の騎神の起動者になっちゃいました。テヘッ?

 

 

550:名無しのごとき氏

>>549 齢考えろ。

 

 

551:名無しの出奔魔女

乙女に! 年齢の話を! しない! またギリギリ三十路いってないっつーの!

 

 

552:名無しの装者

ごとき氏さん、確かに女性に年齢の話はどうかと思います。

 

 

553:名無しの鬼っ娘

私くらいになったら齢とるもとらないもないけどねー。永遠に若いし。

まあ甘んじて受けておきな。

 

 

554:名無しのごとき氏

ちくせう。

 

 

555:名無しの魔法提督

もうちょいで三十路なのか(ボソ

 

 

556:名無しの寺生まれ

というかみんな突っ込まないっすけど、原作開始以前に原作崩壊起こしてますね。

閃Ⅰのストーリーが半分くらい消滅しそうな。

 

 

557:名無しの出奔魔女

>>555 そこ、つっこまない!

>>556 その辺りも含めて順に説明していきます。

奇しくも金の騎神の起動者になったリィン君ですか、何やら大いなる力を持ったことで責任感が目覚めたのかしっかりと自分の力を見極め制御するために、修行の旅に出ることに。ご両親からリィン君一人じゃ心配だということで、私も同行することに。

 

 

558:名無しのごとき氏

まあお前の責任だしな。

 

 

559:名無しの出奔魔女

知っているわよ! ともかく向かった先は……結社の陰謀渦巻くリベールの地。

 

 

560:名無しの記憶探偵

今更だが、何故そのチョイスだったのだね?

 

 

561:名無しの出奔魔女

結社の実験に合わせて魔獣も活性化しているし、うまくいけば至宝の力を実感することもできるからちょうどいいと思ったのよ。それに空勢と縁を結べれば、後々役に立ちそうだったし。……まあそれでも適度に空の軌跡原作とは距離を開けつつ付き合うつもりだったんだけどね……うん。

リィン君の主人公補正を甘く見ていました。気が付けば空のメインストーリーにがっちりと絡んでいくことに。おまけに鬼の力や騎神なんて超戦力もあるから、結社に目をつけられてさあ大変。

鋼の聖女や私の幼なじみのヴィータまで出張ってくるし……

 

 

562:名無しの魔法提督

悲報)空の軌跡の難易度がナイトメアを飛び越えた件について

えっ? 何か空勢に恨みでもあったの?

 

 

563:名無しの出奔魔女

あくまで不可抗力です!

まあなんやかんやあったけど、概ね原作に沿う形でクリアー。

レーヴェは原作どおりになっちゃったけど、リィン君は大幅にレベルアップできました。

そして続くは閃のストーリーなのですが……一番の原作崩壊ポイントはセドリック皇太子が灰の騎神の起動者になったことですね。

 

 

564:名無しの寺生まれ

いやいやいや、なんでそんなことになったんすか!?

 

 

565:名無しの出奔魔女

ほらさ、空勢に絡んだことでオリヴァルト皇子がご兄弟にリィン君を紹介してね? それで皇太子が大いに刺激を受けたのか、原作前から特訓を開始して、その果てにクリティカルを引き当てました、はい。

結論=私は悪くない。

 

 

566:名無しの記憶探偵

そこ、責任を放棄しないように。

 

 

567:名無しの魔法提督

うん? じゃあ緋の騎神はどうなったんだ? あれの起動者がセドリックだったろ?

 

 

568:名無しの出奔魔女

あー、それが現状の問題でして……

閃Ⅱラストでは、セドリック皇太子に代わってアルフィン皇女がテスタ=ロッサに取り込まれる形で魔王化したわけで。

その時は無事救出に成功した訳ですが、閃Ⅳの時期になった今では緋の騎神の起動者が宙に浮いた状態なんですよ。

 

 

569:名無しの寺生まれ。

……確か緋の騎神は、他の騎神と違って起動者の条件が厳しかったっすよね。

皇族限定だったような。

 

 

570:名無しの記憶探偵

そうだね。つまり現状では、アルフィン皇女が無理やり押し込まれる羽目になる。

そして相克にて、弟君のセドリック皇太子と殺し合うことになるだろう。

 

 

571:名無しの装者

そんなっ!? 姉弟で殺し合いなんてダメですよ!?

 

 

572:名無しの出奔魔女

>>571 私としてもそれは避けたい状況です。

でも帝国が呪いに侵された状況をなんとかするためには、相克自体は起こす必要がある。それが探偵さんとも話して得られた結論です。

問題は現状、アルフィン皇女以外に緋の騎神の起動者になれる人材がいないってことで。

 

 

573:名無しの魔法提督

ほら、皇帝なんだろ? 隠し子の一人や二人いないわけ?

 

 

574:名無しの記憶探偵

残念ながらいないようだ。エレボニアの皇帝殿はよほど愛妻家らしい。

ミュゼ君辺りが先祖がえりを起こしている可能性もあるが、分の悪い賭けだろう。

そこで我々の世界を訪れたごとき氏に協力を仰いだわけだが。

 

 

575:名無しのごとき氏

何故オレが悪役ムーブをしなければならないのか?

 

 

576:名無しの装者

具体的にはどんな状況なんです?

 

 

577:名無しのごとき氏

まずは相克に絡むために結社身喰らう蛇にリクルートしました。

いや、就職活動とかほんといつ以来よ……そこで執行者に就任。

 

 

578:名無しの魔法提督

よく受かったな。

 

 

579:名無しのごとき氏

探偵さんに伝手があったから、コネ入社。

でもなー、よりにもよって執行者No.Ⅱだぜ?

前任者の因縁が色々降りかかってきている状況です、はい。

聖女とか、神速とか、火焔魔人とか、空勢とか。モテモテすぎだろ、アイツ。

そこで自分の因縁は自分で処理してもらうために、ご本人を喚ばせてもらいました。

 

 

580:名無しの寺生まれ

アナザーワールドっすか! あれ、ダークライダー以外もOKなんすか?

それに生贄がいるんじゃ……

 

 

581:名無しのごとき氏

ダークライダーなのは、アナザーワールドの基準がライダーの世界だったから。

ここは軌跡世界だから、また条件が変わってくる。

あとアナザーワールドは、制限付きだけど生贄抜きでも作れます。

アナザーディケイドと違って、半分じゃなくて全部の力だから。

 

 

582:名無しの魔法提督

ビーターや!

 

 

583:名無しのごとき氏

その代わり強制力はないけどね。普通に説得して仲間になってもらう必要がある。

月がある夜でも背中には気をつけなきゃ(震え

 

 

584:名無しの装者

そ、その気をつけてくださいね……あっ、そういえばオーフィスちゃんはどうしていますか?

 

 

585:名無しの鬼っ娘

そーいやついてきてるんだったか。自分探しの旅だったか? うまくいってるの?

 

 

586:名無しのごとき氏

>>585 さあ? あの子なに考えてるのかよくわからん。というか何も考えてないかもしれない。

>>584 なんか盟主に気に入られて一緒にいるっぽい。こっちも忙しいし、面倒見てもらってる。

 

 

587:名無しの魔法提督

まさかのWウロボロス。

 




《ちょっとした設定集》

〇オーフィス
“ハイスクールD×D”における最強種。アナザーワールドの静寂がお気に召さなかったためか、自分が本当に欲しいものを見つけるべくなんかついてきた。何気に原作崩壊を引き起こしている。「おのれディケイド!」。
ちなみに禍の団には「探さないでください」と一筆書いて出てきた。彼らの明日はどっちだ。



閃の軌跡編です。転生者の介入の結果原作崩壊した世界を、最低でも世界が終焉しないようにリカバリーしていくスタイル。何話かは閃の軌跡編になる予定。


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閃の軌跡編②

最近仕事が助走をつけて殴りかかってくるので更新。
一気に中盤までワープ。リィンが黒の工房から救出された辺りです。


 魔女の隠れ里――エリン。

 古来より存在する焔の至宝に連なる一族――魔女の眷属たちが住まう、異界とも呼べる地。

 本来ならば決して人の多くない場所だが、現在は珍しく里の外から訪れた人々で賑わっていた。

 先のリィン・シュバルツァー救出に関わった人々が滞在しているのだ。

 

「――そうか。みんなも諦めず、足掻き続けてきたんだな」

 

 リィンは教え子たちから、自分が囚われの身になった後の話を聞き終え、感慨深そうにつぶやいた。

 

「みんなの健闘、本当に誇らしく思うよ。時期的にはそこまで長く経っている訳じゃないはずだけど、正直見違えた……その場に立ち会えなかったのは、教官として不甲斐なくもあるし残念でもあるけどな」

 

「まったく……せっかく苦労してあの暗がりから引きずり出したんだから、あんまり辛気臭い顔はやめろよな。アンタにはこれから精々活躍してもらわなきゃならねぇんだからよ」

 

「アッシュったら素直じゃないわねぇ~。普通に心配してたっていえばいいのに」

 

「てめぇ……」

 

 不良然とした金髪の少年――アッシュの発言に、ピンク髪の少女――ユウナが茶化すように笑い、アッシュは眉を顰めた。

 

「ふふ……ようやく、特務科Ⅶ組が戻ってきたって感じですね」

 

「そうですね。でも、本番はここからです」

 

 ゆるふわお嬢様のミュゼが頬に手を当てて微笑むと、黒兎の少女アルティナが頷きつつも真剣な顔をする。

 

「そうだな。騎神同士の蟲毒である“七の相克”。“巨イナル一”を錬成するための“黄昏”。そして現実問題として迫っている“世界大戦”。どれも尋常ならざる事態だ」

 

 教官の言葉に、新Ⅶ組のメンバーたちが頷く。

 リィンの“導き手”である魔女からの知識で、これから起こる事の概要は既に知る事となっている。

 

「騎神の起動者も出揃ったことだしな」

 

「クロウ」

 

 蒼の騎神の起動者たる青年――クロウが話に加わってきた。

 他にもチラホラと人が集まってくる。

 

「蒼がオレ。金はリィン。紫は猟兵王。銀は鋼の聖女。黒は鉄血の野郎。灰はセドリック。そして緋は――」

 

「“もう一人の僕”――ですね」

 

 クロウから向けられた視線に、エレボニア帝国皇太子であるセドリックが頷いた。

 

「ったく……ありゃ一体どんな手品を使いやがったんだ? 坊ちゃんを一人増やすなんざ」

 

「アッシュ。いい加減殿下相手に坊ちゃん呼ばわりは止めないか」

 

 新Ⅶ組の一員でセドリックの元護衛役のクルトが苦言を呈するが、アッシュはどこ吹く風だ。

 

「かまわないよ、クルト。僕の方が先輩とはいえ、年下なのは事実だ」

 

「しかし……」

 

「侮蔑の意味があるなら僕だって放っておくつもりはないけど、そうでなければちょっと珍しい愛称さ。――さすがに公の場では御免被るけどね。それに今問題にすべきは、もう一人の僕のことだ」

 

 リィンを救出するまでの旅路――その中で対峙した自らと瓜二つの少年。

 セドリックは彼に対して言及する。

 

「あんな傲慢で嫌味な奴、ただの偽物でしょ!? 気にする必要なんてないよ」

 

「いいえ、ただの偽物ということはあり得ないわ。緋の騎神テスタ=ロッサは“呪い”によって皇族の血を引く者しか起動者として認めない。――かつてアルフィン皇女を依代に、魔王として覚醒したように」

 

 結社の最高幹部たる使徒でありながら、独自の行動路線をとるヴィータの言葉に、セドリックも追随する。

 

「――それに、何て言うのかな。分かるんだ、アレは紛れもなく“僕”だった。あの傲慢さも、僕が一歩踏み外してしまえば身に着けていたかもしれないものだ。彼は、僕が成りえなかった僕なんだ」

 

「……彼自身もそう言っていましたね。『僕は君が受け入れなかった可能性。成長と称して捨て去った分岐点だ。“この世界”において、確かに僕は偽物だろう。――だったらソレも面白い。力をもって、“本物の座”を勝ち取るとしよう!』と」

 

「その辺りが焦点――核心なのかもしれないわね」

 

 アルティナがもう一人のセドリックの言葉を正確に再現すると、リィン救出への協力の為に来ていたレンが前に出る。

 

「ありえないはずの人間は、もう一人の皇太子様だけじゃないわ。――死したはずの剣帝レーヴェ。それに――」

 

「オレの親父。赤い星座の闘神――バルデル・オルランド、だな」

 

 闘神の息子であるランディに、苦々し気な顔でセリフを引き継ぐ。

 

「オレみたく、騎神にまつわる不死者とはまた違うみたいだったしな」

 

「ええ、レーヴェに至っては、二振りと存在しないはずの魔剣ケルンバイターまで携えてね。そしてその全てに関係するのが新たなる執行者No.2――スウォルツ。私も結社から離れてそれなりに時間が経つし、詳しくは知らないのだけど……」

 

 レンから視線を向けられたヴィータは、静かに首を横に振った。

 

「悪いけど、私も直接会ったのは黒の工房の本拠地が初めてよ。私が結社から距離をとった後に結社入りしたのでしょうね。そういう意味では、あなたの方が接する機会はあったんじゃないかしら?」

 

 深淵の魔女は鋼の聖女の直属たる神速の騎士・デュバリィへと顔を向けるが、彼女もまた憮然とした顔で嘆息する。

 

「生憎と関わりは多くありませんわ。剣帝の後釜ということもあって結社内でも注目する者は多かったですが、単独行動していることが多いので。ただ、一度力を試そうと後ろに回り込もうとしたら、逆に回り込まれていたことはありますが」

 

「“神速”の字を持つそなたがか?」

 

 帝国の二大武門の片割れ、アルゼイド流の皆伝であるラウラが驚いたような顔になる。

 

「忌々しい話ではありますが……ただ単純なスピードで上をいかれた訳でないのは確実。アレはもっと別の何かでやがりますわね」

 

「どちらにせよ、相当に得体がしれない相手ということか」

 

 誰も答えを出せないまま考え込む一同だったが、一人の女性が声を発する。

 

「“アナザーワールド”、だよ」

 

 一同の疑問に答えたのは、リィンの導き手でありかつてエリンから出奔した魔女だった。

 

「あなた――あの男のことを知っているの? 相変わらずよくわからない情報網ね……」

 

「褒めても何もでないわよ、ヴィータ。若干信じがたい話だし、裏も取れていないからそのつもりで聞いてほしいけど」

 

 集まっていた皆が頷くのを確認した後に、魔女は語り始める。

 

「平行世界、って知ってる?」

 

「異なる可能性の世界ね」

 

 真っ先にレンが答え、ユウナが首を傾げる。

 

「それってどういう事?」

 

「簡単に言えば、違う歴史を歩んだ世界。例えばあなたは今帝国の士官学校にいるけど、少し歯車が噛み違えば今頃クロスベルで警官になっていたかもしれない――そういうこと、考えたことある?」

 

「それは、まあ……」

 

「つまりはそういう概念よ。違う人生、違う歴史の“もしも”の世界。もっとも実証も証明もなされていない、実質オカルトの話だけど……つまり、そういうことなの?」

 

「うん、みんなが会った“ありえないはずの人々”は、限定的な平行世界からやってきた人間だよ」

 

 レンからの確認に、魔女は頷いた。

 

「この世界でも起こるかもしれなかったけど、実際には失われた可能性。例えばリベル=アークで剣帝が死ななかった“もしも”」

 

 魔女はレンを見る。

 

「例えば猟兵王との一騎打ちで相打ちにならず、闘神が勝利し生き残った“もしも”」

 

 魔女はランディを見る。

 

「例えばⅦ組に入らず魔王の力と帝国の呪いに魅入られた皇太子の“もしも”」

 

 魔女はセドリックを見る。

 

「ごと……スウォルツはそんな失われた可能性の世界をアナザーワールドとして限定的に作り出し、その世界の住人を喚び出す異能を持っている」

 

「それって……わたしの……」

 

 目を見開くのはキーア――かつての人造至宝。

 

「似て非なるものね。かつてあなたは都合の悪い可能性を切り捨てた。スウォルツは都合のいい人物が生き残っている可能性を限定的に蘇らせた……ああ、別に責めている訳じゃないのよ?」

 

 シュンとしたキーアに、魔女は慌てて言い繕った。

 

「つまりは、推定で至宝と同等の異能を扱えるっつーことか。相変わらず魔窟だな、結社は」

 

「――だが実際にやっていることは人の命を、文字通り世界を弄ぶ行為だ。あまり愉快とは言えんな」

 

 クロウのぼやきに、四大貴族の一角たる貴公子のユーシスが鼻を鳴らした。

 

「それに一緒にいた黒い少女のこともあるしの」

 

 魔女の眷属たちの長である紅のローゼリアが指摘する。

 

「オーフィスと名乗った少女――形こそ人の子であるが、底知れぬ力を感じた。単純な力の総量ならば、あるいは鋼の至宝よりも――リィン。お主が与えられたという“蛇”のこともある」

 

「――ああ。あれ以来、俺の中の“贄の力”による破壊衝動もだいぶおさまっている。悪い子じゃないと思うんだが……できれば一度、しっかりと話してみたいな」

 

「……教官」

 

「いや、アルティナ。決して変な意味じゃないからな?」

 

 向けられた冷たいジト目にリィンは慌てて弁明し、一同の間に笑いが広がった。

 それにより、張り詰めていた空気が弛緩する。

 

「あの子がスウォルツって奴に利用されているんなら、助けないといけませんからね!」

 

 ユウナが声を張り上げると、リィンも「ああ」と一つ頷き返す。

 

「黄昏を止める為の戦いの中で、あの二人ともまた対峙することになるだろう。他にも曲者揃いだ――気を引き締めていこう!」

 

 ――おお!! と、エリンの広間に大きな声が響いた。

 

                       ◇

 

転生者愚痴りスレ Part16

 

 

58:名無しのごとき氏

それでは何故主人公勢からのオレに対するヘイトが増えているのか。弁明を聞こう。

桃色の髪の子とか、出会い頭に罵倒されたんだが。

 

 

59:名無しの出奔魔女

いやいやいや、私事前に確認とったよね?

こっちの陣営からアンタに対する警戒が上がって、

肝心の黄昏に対する意識がおろそかになる可能性があるから

ガス抜きの為にちょっとネタ晴らししたいって。

 

 

60:名無しのごとき氏

多少能力を明かす分は問題ないといったが、

今更だが本当にガス抜きなんてする必要あったのか?

執行者とはいえ数いる中の一人だぞ?

 

 

61:名無しの出奔魔女

一人じゃないからまずいんでしょーが!

世界最強クラスの戦力を侍らせて、誰でも警戒するって!

 

 

62:名無しの魔法提督

ごとき氏は男でハーレムを作っていた?

 

 

63:名無しのごとき氏

冗談でも止めてくれ。何が悲しくて薔薇の花咲く円卓なんぞ作らなきゃいけないんだ。

 

 

64:名無しの寺生まれ

でも実際かなり強力な能力っすよね。

その気になれば、幾らでも戦力を用意できる訳ですし。

 

 

65:名無しのごとき氏。

まあ、そだね。オレもその内、本格的に指揮とか勉強した方がいいかも。

 

 

66:名無しの魔法提督

そんな君に、管理局の士官コース!

人手不足の管理局は、いつでも優秀な人材をwelcome。

 

 

67:名無しの鬼っ娘

あたし知ってるよー。リンカーネットでブラック企業って検索したら、

最初のページに時空管理局が出てくるって。

 

 

68:名無しの魔法提督

あんなのはデマだ!

 

 

 

 

 

……半分くらい。

 

 

69:名無しの記憶探偵

では半分はあっているということかい?

 

 

70:名無しの魔法提督

まあ、魔力資質がものを言う世界だから就労年齢は低いし。

他世界への遠征となるとその場の上官の権限がどうしても強くなるからな。

人によっちゃ、やり方がきついってことはポツポツある。

 

 

71:名無しの装者

資質次第で子供でも戦場に出るのは、こっちと変わりませんね。

 

 

72:名無しの鬼っ娘

どこまでも管理管理管理なんてやってればねぇ。

もうちょっとおおらかに生きれればいいのに。

 

 

73:名無しの魔法提督

そう簡単にはいかんのよ。良くも悪くもな。

 

 

74:名無しの出奔魔女

ままならないわねぇ。

それでこっちの話に戻すけど、状況は概ね順調に推移している――と思いたいなぁ。

 

 

75:名無しの寺生まれ

ちょっと自信なさげっすね。なにか問題でも?

 

 

76:名無しのごとき氏

大筋は原作に沿っているとは思うが、細々とした差は出ているからな。

原作っていうものさしがどこまで役に立つかはわからないし、

とりあえず黄昏を止めるということを落着地点にするしかない。

 

 

77:名無しの出奔魔女

というかあなたのところの黒ロリ、なんでウチのリィンに唾つけてるのよ!

なんか蛇とやらで鬼の力がパワーアップしてるし!

 

 

78:名無しの魔法提督

ところで黒ロリっていったら、セリーヌと被るよな。

 

 

79:名無しの寺生まれ

アルティナとも被るっすね。あの子の場合、服と戦術殻が黒いだけっすけど。

 

 

80:名無しのごとき氏

>>77

話を聞いてみたけど、なんかきつそうだったからだってさ。

基本、反射と本能だけで生きている気がする。

 

 

81:名無しの記憶探偵

神様なんてそんなものさ。根本的に人間とは思考回路が違う。

 

 

82:名無しの鬼っ娘

わかるわかる。幻想郷も人外が多いからさー、いろんな価値観があるよ。

 

 

83:名無しの装者

みんな大変ですねぇ。

 

 

84:名無しの寺生まれ

いやいや、装者ちゃんとこも人のこと言ってられないですからね?

 

 

85:名無しの出奔魔女

そういやごとき氏、なんかでっかいのになって機甲兵と戦ってたけどアレなんなの?

 

 

86:名無しのごとき氏

アナザークウガ。

なんか生身のオレに人型機動兵器で殴りかかってくるから、つい変身しちゃった。

……あの子らマジ怖いんだけど。アレどういう教育してるの?

 

 

87:名無しの出奔魔女

こっちの世界、達人級なら普通に近代兵器と生身一つでやり合えるからねぇ。

そんな感覚だったんだと思う、多分。

 

 

88:名無しの寺生まれ

ごとき氏ダークディケイド以外にも、アナザーライドウォッチ持ってるんすか?

 

 

89:名無しのごとき氏

うん、まあ。曲がりなりにもディケイドだからか、ライダー系とは微妙に縁があって。

転生特典でクウガの力を貰った転生者がいたんだけど、そいつがアルティメット化して

暴走してたから人間に戻すために力を封じた。

一応アナザークウガのウォッチいる? って聞いたんだけど、もういいですって。

 

 

90:名無しの記憶探偵

ライダーの力も、一歩間違えれば怪人の力だからね。

メリットばかりではないというわけだ。

 

 

91:名無しの魔法提督

ひょっとしてタイムマジーンとかも持ってる?

 

 

92:名無しのごとき氏

一応持っているけど、あんまり使う気にはなれなくて。

ホラ、アレ大型機械だからさ……使うのにもコストがかかるんだよね。

壊れたりしたら涙目。あと博士が興味津々で怖い。

その点アナザーライダーの力はリーズナブル。

 

 

93:名無しの装者

あー、予算って大事ですよねぇ……

 

 

94:名無しのごとき氏

今いる身喰らう蛇も異能や超常の技術が集まった秘密結社なんだけど、

それでも無尽蔵に金や資源が湧いてくるほど浮世離れはしていないから。

コストカットできる部分はした方がいい。

経理の人も大変そうだし……

 

 

95:名無しの出奔魔女

経理、いるんだ。

 

 

96:名無しのごとき氏

そりゃいるよ。最近は大きな作戦の連続でガンガン資材もミラも消費しているから、

やりくりが大変だって頭抱えてた。人形兵器とかも大量投入してるし。

 

 

97:名無しの出奔魔女

あー、あんなにでっかい兵器使ってタダな訳ないかぁ。

 

 

98:名無しの魔法提督

毎度毎度主人公たちの美味しい経験値になっているしね!

 

 

99:名無しの鬼っ娘

世知辛いねぇ、現実は。

 

 

100:名無しのごとき氏

そういやライダーの力で思い出したけど、探偵さんも仮面ライダーだったんだな。

 

 

101:名無しの寺生まれ

えっ、そうなんすか?

 

 

102:名無しの記憶探偵

まあ、ね。一応、ガイアメモリを使うW系列の仮面ライダーだ。

 

 

103:名無しの記憶探偵

あれ? 寺生まれは知らなかったっけ?

 

 

104:名無しの寺生まれ

知らないっすよ! でもそれで記憶探偵なんすね、納得。

ところで何のメモリを? ジョーカー? それともエターナルとか?

 

 

105:名無しの記憶探偵

いや、まあ、そのだね。

 

 

106:名無しのごとき氏

オレの口からはちょっと……

 

 

107:名無しの魔法提督

ヒント。《C》。

 

 

108:名無しの寺生まれ

サイクロンっすか! それは原作にはいなかったすね。

アレ? でも>>105や>>106の反応の説明が……

 

 

109:名無しの魔法提督

ネクストヒーント。黒光りする《G》でもある。

 

 

110:名無しの装者

あっ

 

 

111:名無しの鬼っ娘

あっ

 

 

112:名無しの出奔魔女

あー

 

 

113:名無しの寺生まれ

えっと、その、まさかコックローチ、とか?

 

 

114:名無しの魔法提督

祝え! 魔都の闇を駆ける黒い影――仮面ライダーコックローチの誕生を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

尚、適合率100%な模様。まさに運命。

 

 

115:名無しの記憶探偵

ええい、何が悪い! 

君たちに、ゴキ〇リとの適合率が最大だった私の気持ちがわかるかね!?

こちとらゴキ〇リもバッタも大して変わるまいと自分に言い聞かせているのだからな!

地味に有用だから手放す気にもならないのがまた癪というか。

 

あと>>114は情報が古い。

最近限界を超えて適合率108%まで上がった

 

 

116:名無しの魔法提督

うわぁい、お め で と う。

 




《ちょっとした設定集》

〇アナザーワールドで喚びだした人々
・剣帝レオンハルト
通称レーヴェ。ごとき氏に協力する動機は、故郷壊滅の遠因になる帝国の呪いと黄昏を、結社側の立場から止める為。原作主人公たちの側に立つよりもアプローチの手段を増やすことで、解決の目を増やそうと考えている。その為原作主人公勢とも本気では敵対しておらず、場合によっては普通にごとき氏を裏切る。

・闘神バルデル・オルランド
赤い星座の闘神――原作においては故人。動機はごとき氏と契約しているからという、非常に猟兵らしいもの。報酬が支払われる限りは裏切らない。尚、士官学校とはいえ教職についた息子を見て、爆笑したりしみじみした模様。

・セドリック(緋の騎神)
所謂原作セドリック。この世界のセドリックは闇堕ちしていないが故、発生しなかった可能性。緋の騎神の起動者とすべく喚びだした。自らの力で一から成り上がるという状況が、意外とシチュエーション的にツボだった模様。若い野心を滾らせる。


〇仮面ライダーコックローチ
オリジナル仮面ライダー。ロストドライバーとコックローチメモリを使用して変身する。高機動戦闘が売りで、耐久力もそこそこ高い。
変身者は記憶探偵で、魔都クロスベルに在住。所謂神様転生者の類であり、転生の際「自分と最も適性が高いメモリを!」と願ったことでこのメモリに決定した。もちろん後悔した。
仮面ライダーながらハイドープ的な力にも目覚めており、ゴキ〇リを操ったりその視界をハッキングして情報収集なども可能なため、探偵業に活かしている。適合率108%は伊達ではない。
最近は、ガイアメモリの起動音声を消せないかと悩んでいる。

〇リンカーネット
転生者たちが扱うネットの通称。リンカーネイションネットの略。
ちなみに転生者たちがこのネットにアクセスするためのツールは、リンカーネイションフォン。通称リンフォンだが、「この名前は危険なのでは?」との声も上がっている。





リアルが忙しめで投稿が遅れ気味ですが、更新です。英雄伝説閃の軌跡中盤まで一気に飛びましたが、閃の軌跡の詳細を知らない方には分かりにくい箇所が多々あるかと思いますがご勘弁を(汗
あまり詳細に書いていると、ダイジェストに収まり切れないと言いますか、テンポが悪くなるのでこのような形になっています。
閃の軌跡編は、あと1~2話の予定です。


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閃の軌跡編③完

ルーファス総督は騎神の枠がなくなった事で、七の相克には参加していません。
ついでに言うとある程度光堕ちもしていて、不意打ちがなくなった事で鋼の聖女も健在です。


「馬鹿ナアアアアアアアア……!!」

 

 イシュメルガ=ローゲは己が身に降りかかった現実を前に、断末魔の咆哮を上げる。

 ある意味では人々を導いてきた“神”にして、呪いを振り撒いてきた“悪魔”。

 全ての元凶が滅びを目前にした時であるが、リィンたちは油断しない。

 

「まあ、こんなところか」

 

 推移する事態を悠然と、腕を組みながら傍観する男――スウォルツがいるからだ。

 

 ――《七の相克》にして《黄昏》。《巨イナル一》たる《鋼の至宝》を錬成する儀式の勝者は、金の騎神エル=プラドーを駆るリィン・シュバルツァーとなった。

 だがそれと当時に全ての元凶たるイシュメルガ――その思考システムが進化した精神生命体は、その依代をギリアス・オズボーンから勝者であるリィンへと切り替え、意のままに操らんとした。

 

 対するリィンもエル=プラドーごとイシュメルガを葬らんと、全ての呪いを連れて単身大気圏外へと飛び去ろうとしたのだが――その前に現れたのが結社《身喰らう蛇》、執行者No.2スウォルツ。

 幾度となくリィンたちⅦ組やその協力者たちの前に立ちふさがってきた、謎の男。

 

 彼はオーブメントのようなものを使いエル=プラドーとリィンから、イシュメルガの黒き意思と錬成されつつある《巨イナル一》をあっさりと切り離し、封じ込めた。

 

『これまで呪いを振り撒き、散々人を操ってきたお前だが――最後くらいは自分自身で戦ってみるがいい』

 

 スウォルツはそう宣言すると、共に連れてきた神機アイオーンにそのオーブメントのようなナニカを押し当て――黒の意思の具現化たるイシュメルガ=ローゲは顕現した。

 

 絶大なる力を持ちながらも、この次元で唯一打倒しうる形態として。

 

 ――それ故に、ここにきて初めて危機感を覚えたのか、イシュメルガ=ローゲは不完全ながらも膨大な力を振るい、己が身を脅かす外敵を滅ぼさんと動き出す。

 

 対するリィンたちも駆け付けてきた協力者たちと共に戦い、激戦の末イシュメルガ=ローゲを追い込むことに成功した。

 

「貴様ガァ!! 貴様サエヨケイナコトヲシナケレバ、スベテガワレノモノニナッテイタトイウノニイィィィィィ!!」

 

 遥かな刻をもって醸成された悪意――悲願を目前にして全てが崩れ落ちた怒り。

 その全てを巨腕に込め、せめて目の前のちっぽけな人間を道連れにせんとイシュメルガ=ローゲは拳を振り下ろす。

 だが対する男は淡々とした表情で――

 

「曲がりなりにも、オレが貴様をこの次元に顕現させたのは事実――責任の一端くらいはとるとしよう」

 

『DARK DECADE』

 

 闇がスウォルツを包み込み、幾重ものシルエットが分かれるように広がる。

 ――その後に顕われたのは、一人の魔人。

 

「なっ――!?」

 

「前見たのとは別の……魔人化!?」

 

 ――以前、スウォルツは巨大な魔人へと姿を変えⅦ組の駆る機甲兵と戦いを繰り広げたことがある。

 その時に比べれば今回の姿は遥かに小型――人とそう変わらぬサイズ。

 それにも拘らず、発する力と威圧感は以前の比ではなく――

 

「――ッ!! コケオドシヲォォォォ!!」

 

 魔人の目が光り、両手でベルトのバックルを叩く。

 迫りくる巨大な拳を迎え撃つように、何枚もの赤黒いカード状のエネルギーが展開され、スウォルツは跳んだ。

 

「ふんっ!!」

 

 飛び蹴り――されどカード状のエネルギーを潜り抜けるたびに、爆発的にその威力は増し、拳と蹴りがぶつかり合い――

 

「認メヌ……我ハ認メヌゾォォォォォ!?」

 

 人と虫ほどのサイズ差があったにも関わらず、軍配は拳ではなく蹴りへとあがった。

 膨大な破壊力を纏った蹴りの一撃は拳を打ち砕くにとどまらず、その腕を縦に裂きながら突き進み、ついにはイシュメルガ=ローゲの胸元を貫通。

 元々限界を迎えていた巨体はこのダメージをトリガーとして、一気に崩壊していった。

 

「幾らダメージがあったとはいえ、あの巨体を一撃で――」

 

「なるほど。アレが彼の隠していた力ということですか」

 

 崩れ行くイシュメルガ=ローゲを前にしたリィンの呟きに、鋼の聖女アリアンロードが相槌を打つ。

 そして崩壊したイシュメルガ=ローゲから七条の光が飛び立ち、イシュメルガを除く6騎の騎神となった。

 

「これは――錬成された“巨イナル一”が再び分割されたというのか?」

 

 魔女の長たるローゼリアの言葉に、蒼の起動者であるクロウが答える。

 

「みてぇだな……感覚的なもんだが、以前より力が安定しているようにも感じる。元々、騎神として存在した時間の方がはるかに長いんだ。ある意味では、元の鞘に収まったというべきか……だが肝心の《黒》は――」

 

 魔人スウォルツはイシュメルガ=ローゲが消滅した後に遺された、例のオーブメントのようなものを拾い上げていた。

 

「ほう……こういう形に収まったか」

 

 同時に片腕を振るい、銀のオーロラが顕われる。

 

「転移用のオーロラ!」

 

「てめぇっ! 逃げる気か!?」

 

「ソレを――イシュメルガをどうするつもりだ!!」

 

 リィンからの詰問に対し、魔人スウォルツは意に介さぬという態度を見せた。

 

「既に《鋼》の力の一端は手に入れた。後は《理の外》へと帰らせてもらおう」

 

 銀のオーロラが動き出す。

 何度も見てきた光景――あのオーロラに飲まれてしまえば、もう追うことはできない。

 間に合わないと悟りながらも、リィンたちが駆けだそうとした瞬間――

 

「があっっっ!?」

 

 魔人スウォルツの腹から、刃が生えた。

 

「生憎と、逃がすつもりはない」

 

 背後から騎士剣を突き出すのは、一人の貴公子。

 

「貴様――ルーファス・アルバレア!! 最初からオレの隙を狙っていたのか……」

 

「まともに戦ってはとても敵いそうになかったのでね。ここは戦場――まさか卑怯とは言うまい?」

 

 《鉄血の子》の筆頭たるルーファスは、優雅さとふてぶてしさを併せもった笑みを返して見せた。

 

「我らが父を苛んできた呪いにして、帝国の闇の元凶――この場で全ての決着をつけさせて貰う!」

 

「――っ…… 舐めるなぁ!!」

 

 魔人スウォルツの掌に収束された赤黒いオーラが、ルーファスへと叩きつけられた。

 吹き飛ばされた兄を前に、ユーシスが悲痛な声をあげる。

 

「兄上ーーー!?」

 

「かはっ……。私に、かまうな! 今こそ、《黒》を――!」

 

「うおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 血を吐きながらも鋭いルーファスから叱咤に、リィンが吼える。

 既に魔人スウォルツ――イシュメルガが宿ったオーブメントのようなものは射程圏内。

 贄の力と蛇の力――そして磨き、紡ぎあげてきた人の力。

 その総てを一刀に乗せ、極限の刃と化す。

 

「八葉一刀流終の太刀――《閃》!!」

 

                       ◇

 

転生者愚痴りスレ Part18

 

201:名無しの魔法提督

【朗報】ごとき氏、見事ラスボスを完遂する。

見事な原作再現だったけど、狙ってた?

 

 

202:名無しのごとき氏

せめて悲報にしてくれ。そしたら好感度が上昇したのに。ミクロ単位で。

あと狙ってない。

 

 

203:名無しの鬼っ娘

好感度って単位ミクロなのかい。

でもお腹ぶち抜かれたって聞いたけどだいじょーぶだった?

 

 

204:名無しのごとき氏

まあ、命に別状はない。痛かったけど、めっちゃ痛かったけど。

おかげで危うく、激情態になるところだった。

というか人間の執念なめてたわ。まさか生身の人間にダークディケイドのアーマーぶち抜かれるとは思わんかった。

 

 

205:名無しの寺生まれ

って激情態なれるんっスか!? ひょっとしてコンプリートフォームとかも……

 

 

206:名無しのごとき氏

激情態はいける。コンプリートは無理。

アナザーライドウォッチを全部手に入れたらいけるかもしれんけど。

まだ何個かしか持ってないからなぁ……

 

 

207:名無しの出奔魔女

いやいやいや、アレでもまだ本気じゃなかったってこと!?

感じる威圧感とか普通にヤバかったんですけど!?

 

 

208:名無しの記憶探偵

こらこら魔女君。礼の方が先だろう。

掲示板越しで済まないが、助かったよ。

直接会って礼をしたいから、何処かで打ち上げでもしないかい?

 

 

209:名無しのごとき氏

えっ……Gと一緒じゃ衛生的にちょっと。

 

 

210:名無しの記憶探偵

ハハハハハ……よろしい。そのケンカ高く買った。

 

 

211:名無しの装者

もー、ダメですよごとき氏さん。お礼はちゃんと素直に受け取っておかないと。

 

 

212:名無しのごとき氏

まあ実際、そうやって会っていると誰かに見られるフラグになりそうで……

そうなったらオレはともかく、そっちは今後も軌跡世界で暮らしていくんだから面倒だろ?

特にリィン君から告られた魔女とかは。

こっちがヒーヒー働いてるときにラブコメしてた魔女とかは。

おめでとう!

 

 

213:名無しの寺生まれ

おめでとっス!

 

 

214:名無しの鬼っ娘

おめでとー!

 

 

215:名無しの装者

わー! おめでとうございます!

 

 

216:名無しの魔法提督

いやぁ、めでたいなぁ。……やっぱりおねショタじゃねぇか。

 

 

217:名無しの記憶探偵

では私ものらせてもらって、改めておめでとう。

結婚式には呼んでくれたまえよ?

 

 

218:名無しの出奔魔女

ありがとうって素直に言いたいところだけど!

ごとき氏からの皮肉が胸に痛い! でも後悔はしてない!

>>216

リィン君はもう立派な成人男性なので、おねショタじゃないでっす!

 

 

219:名無しのごとき氏

こっちは元々中ボスで退場する予定だったんだから、皮肉くらい流せ。

しかし、アレは予想外だったよなぁ……

 

 

220:名無しの出奔魔女

あー、うんそうだね……まさか大地の聖獣がもう成仏しちゃってたなんて。

終盤の悪魔関連の依頼は普通にあったから、予想もしてなかったよ。

 

 

221:名無しの記憶探偵

普通にあったというか、原作よりだいぶ多かったようだがね。

まさか悪魔たちの狙いが、大地の聖獣ではなくオーフィス嬢だったとは。

バタフライエフェクトというやつだろう。

おかげで私とごとき氏が悪魔退治に奔走する羽目になったよ。

 

 

222:名無しのごとき氏

まああのぐうたらドラゴンなら、放っておいても返り討ちにしただろうがな。

おかげでトゥルーエンドへのキーアイテムである大地の檻が手に入らないから、正直焦った。

 

 

223:名無しの魔法提督

しかしよくライドウォッチが檻の代わりになったよな。

 

 

224:名無しの寺生まれ

ライダー以外の力もいけるもんなんっスねぇ。

 

 

225:名無しのごとき氏

力の器としては、最上級だからな。世界を滅ぼすレベルの力でも、普通に入れ込めるし。

まあそれでも正直賭けの部分が大きかったけどな。

結局不完全な形での封じ込めになったし。

その結果が騎神への再分割なんだろうさ。多分。

 

 

226:名無しの出奔魔女

まさか騎神が残るとはねぇ……原作崩壊。元から崩壊気味だったけど。

 

 

227:名無しの記憶探偵

聖女殿や地精の長は、結局呪いの終焉を見届けて消滅することを選んだがね。

長殿はともかく、聖女殿は十分生きてきただろうから仕方ないだろうが。

ごとき氏、確認したいがイシュメルガは消滅したのだね?

 

 

228:名無しのごとき氏

ああ、リィン君のあのよくわからんが凄い剣技でな。

ウォッチごと破壊されたよ。

盟主に任せるつもりだったが、人の手で解決したあの形で良かったのかもしれんな。

 

 

229:名無しの記憶探偵

そうか……これで一先ずは、落着というところだな。

それでもこの軌跡世界の終末時計の針が止まった訳ではなさそうだが。

 

 

230:名無しのごとき氏

さすがにそこまでは面倒見るつもりはない。そっちでなんとかしてくれ。

逃げ出すってんなら、力は貸すが。

 

 

231:名無しの記憶探偵

分かっているさ。我々も精々、足掻いて見せるよ。

それにしても、今回君には貧乏くじばかり引かせてしまって悪かったね。

 

 

232:名無しの装者

でも、最後までラスボスやる必要あったんですか?

途中で主人公勢の味方として振舞うやり方もあったと思うんですけど……

 

 

233:名無しのごとき氏

自分で言うのもなんだけど、かなり悪役ムーブしてたからなぁ。

味方面するには信頼関係が足りなかった。

ある程度《黒の史書》にも沿っておかないと、どう呪いの影響がでるかもわからなかったし。

それだったら悪役をやり通した方が、後腐れがない。

 

 

234:名無しの装者

そうかもしれませんけど、なんだかもやもやします。

 

 

235:名無しの出奔魔女

でもごとき氏、ホントゴメンね? 色々とこっちの都合で振り回しちゃって。

そして助けてくれてありがとう。

 

 

236:名無しのごとき氏

……え? 偽物? 乗っ取り?

 

 

237:名無しの出奔魔女

あーなーたー!!

人が素直にお礼言ったのにー!!

 

 

238:名無しのごとき氏

ハハッ……そこは軽く流しておくれ。

まあオレも、軌跡世界の住人のことは割と評価してるからさ。

 

 

239:名無しの出奔魔女

へ? 私が言うのもなんだけど、迷惑ばっかりかけたと思うんだけど。

元凶であるイシュメルガの呪いだって、元を辿れば人の業だし。

 

 

240:名無しのごとき氏

むしろ至宝なんて明らかに手に余る力を手にして、あんな呪いごときでよく済んだとオレは言いたいけどね。

 

 

241:名無しの魔法提督

ごとき氏がごとき言うとる。

 

 

242:名無しの寺生まれ

そこ、真面目な話してるんだから茶化さないっスよ。

 

 

243:名無しの記憶探偵

ふむ……我々の認識としては極めて厄介な呪いだったが、ごとき氏の見解は違うのかね?

 

 

244:名無しのごとき氏

まーねー。オレがこれまでどれだけ、世界の滅びを見てきたと思う?

軌跡世界にとっちゃ今回のことは一大事だっただろうけど、

世界の滅びっていうのは実は、そう珍しいものじゃない。

特に至宝みたいな力を手にした連中はさ、多くの場合は力に振り回されて自滅するんだよ。

それを考えれば、瀬戸際まで踏ん張っていた軌跡世界はむしろ評価できる。

 

 

245:名無しの魔法提督

あー、ソレ分かるわ。こっちもロストロギア関連の任務が多いから、

そういう終わった世界の残骸や、今終わりゆく世界には立ち会うことがあるんだよなぁ。

他の世界にまで飛び火するようなら、アルカンシェルブッパしてでも止めなきゃならんし。

 

 

246:名無しの出奔魔女

>>アルカンシェル

えっと、劇団のことじゃないよね?

 

 

247:名無しの魔法提督

こっちの兵器。超広範囲殲滅兵器と思ってくれ。

 

 

248:名無しの装者

それを考えると、私たちが使う聖遺物も同じようなものですよね。

気をつけなくっちゃ……

 

 

249:名無しの鬼っ娘

聖遺物関連は、むしろ使える人間が限られているからよかったのかもね。

そう考えると、誰でも使える機械関連のオーバーテクノロジーが一番危ないのかも。

 

 

250:名無しの記憶探偵

>>244 245

なるほど……世界に対する視点のスケールの差ということか。参考になったよ。

 

 

251:名無しの出奔魔女

そういやごとき氏、ちょっと聞きたかったんだけど、世界大戦に何か仕掛けた?

なんか終戦と同時に、人的被害以外の被害が一気に元に戻って大混乱なんだけど……

 

 

252:名無しのごとき氏

あー、その件か。うまくいったんだな。提督、助かったわ。

 

 

253:名無しの魔法提督

何の何の。こっちじゃ一般公開されてる、珍しくもない術式だからな。

 

 

254:名無しの寺生まれ

うん? 術式ってことは、なにかのリリなの魔法っスか?

 

 

255:名無しの出奔魔女

なんか戦争が始まる前に、バカでかい結界が張られてさ。

多分、西ゼムリア全土を覆うレベルの。黄昏の影響だと思っていたんだけど、ババ様が「これは理の外の力だ」って言うし……

 

 

256:名無しのごとき氏

封時結界って知ってる? リリなの世界の魔法の一つ。

すごくざっくり言うと、その結界内で起きた被害は、人的被害以外はなかったことになる。

 

 

257:名無しの装者

ナニソレめっちゃ羨ましいんですけど!?

 

 

258:名無しの出奔魔女

チートじゃん(白目

 

 

259:名無しの鬼っ娘

へぇ。あんた魔法まで使えたのかい?

 

 

260:名無しのごとき氏

うんにゃ、ウィザードのウォッチは持ってないし。

だけどまあホラ。ちょうど暇して力を持て余してるドラゴンがいたからさ。

 

 

261:名無しの記憶探偵

なるほど、オーフィス嬢か。

無限ともいえる力を持つ彼女ならば、あの広範囲展開も納得がいく。

 

 

262:名無しのごとき氏

まあ人的被害まではどうにもならんが、傷が少なくてすむならそれに越したことはないしさ。

デバイスは博士にパパッっと作ってもらった。

ちょっとしたサービスと思ってくれ。

 

 

263:名無しの出奔魔女

……うん。なんかもう、ほんと何から何までお世話になっちゃったわね。

なんか厄介な人物に厄介な技術が渡った気がするけど。

 

 

264:名無しのごとき氏

ま、いいさ。

それよりも探偵さんやい。アイツのこと、よろしく頼む。

 

 

265:名無しの記憶探偵

ああ、わかっている。既に戸籍などは用意したし、変装しておけば顔も簡単にはバレないだろう。

 

 

266:名無しの寺生まれ

>>264

うん? 何の話っスか?

 

 

267:名無しのごとき氏

アナザーワールドから呼んだセドリックの話。

剣帝と闘神は消えることを選んだけど、アイツは残って自分の人生を生きてみたいって言うしさ。事情を知っている探偵が面倒を見ることになった。

 

 

268:名無しの記憶探偵

皇族の方々にも、一応私の方で預かることは伝えている。

アルフィン皇女などは、「生意気な弟が増えたわねぇ」と言っていたが。

 

 

269:名無しの出奔魔女

喚ぶだけ喚んで、用が終わったら「はいサヨナラ」とはいかないからね。

 

 

270:名無しのごとき氏

闘神なんかは、猟兵だけあってえらくサラッとしてたなぁ。

「報酬はこちらの赤い星座宛に」って言い残して、さっさと退場したし。

 

 

271:名無しの出奔魔女

レーヴェも、「何度も同じような別れは必要あるまい」って言ってたなぁ。

まあ、簡単にはあの子らが離さなかったけど。

 

 

272:名無しの魔法提督

出会いあれば別れあり、ってな。

でもごとき氏、仮に今回の一件をRTAするとしたらどうしてた?

 

 

273:名無しのごとき氏

そうだなぁ……多分だけど、知人の聖人男性2名にヘルプ出すのが一番早かったかも。

 

 

274:名無しの寺生まれ

すいません。今度サイン貰ってきてもらっていいっスか?




《ちょっとした設定集》

〇終の太刀――《閃》
オリジナルSクラフト。何かスゴイ剣技。
リィンの最終Sクラは、きっとこんな感じの名前になるとずっと信じていた。
ならなかったけど。

〇ルーファス・アルバレア
諸々の都合から出番を大幅に奪われた人。
その恨みを剣に込め、ごとき氏を貫いた(チガウ
ちなみにごとき氏からは派手にフッ飛ばされただけで、死んでいない。

〇大地の聖獣
女神から遣わされた聖獣。諸々の都合から原作より早く安眠につき、出番が消失した。

〇名無しの出奔魔女
年齢的にはクロチルダさんと同じくらい。閃4終盤にてリィンから告られ、受け入れた。
リィン君も長い付き合いの中で、心が固まったらしい。

〇盟主
結社《身喰らう蛇》の盟主。
今回の一件の終息後、ごとき氏に対し「なんだか色々とお疲れ様でした」と言ってくれた。

〇聖人男性2名
聖なお兄さん方。以前ごとき氏が彼らの世界線にお邪魔した時知り合った。
多分呪いとか一発で浄化される。




 閃の軌跡編はこれにて終了です。次回以降の予定は未定。また何かネタが浮かんだら投稿していきます。
 ちなみにごとき氏の「力を手にした連中はさ、多くの場合は力に振り回されて自滅する」という書き込みは、元ネタは魔術師オーフェンのレッドドラゴン種族から。今までいろんな小説を読んできましたが、彼らの「もし自分たちがあの強大な力を手にしていたら、2週間ともたずに自滅しただろう」的なセリフが今でも非常に印象に残っています。


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対魔忍編

 東京キングダム――東京湾に建造された人工島。

 元は政府主導の元都市開発が進められていたが、今ではその影もなく。

 当初の夢想は崩れ去り、今や犯罪者や魔界の住人たちが蠢き、数多の非合法活動や人道を無視した行為がまかり通る闇社会。

 

 夜中でも明かりの絶えぬ不夜城であるが、その闇はぬぐえず。

 欲望と絶望が入り交じり、怠惰と快楽が都市を巡る。

 

 道理も天道も姿を消して久しい都市の片隅――薄暗い路地を駆ける影が一つ。

 

 ――はぁ、はぁ、はぁ……

 

 荒い息が響き、影は自らの手で口を抑え込む。

 奴らに見つかったら終わりだと、これ以上ないほどに思い知らされたからだ。

 

 駆ける、走る、逸る。

 とにかく逃げねばと、心臓が早鐘を打ち気ばかりが急く。

 だが走り続けた両足は重く、徐々に引き摺るように、時に躓きながらも足を止めない。

 

 ――なんで、こんなことになってしまったんだ。

 

 簡単な仕事のはずだった。

 情報は出揃い、仲間も装備も十分で、後はパズルの最後の1ピースを嵌めるかのような作業が待っているだけ――そのはずだった。

 

 だが蓋を開けてみればその最後の1ピースは、パズル全体をあっけなく崩壊させる爆弾で。

 仲間たちは瞬く間に蹂躙され、捕らえられ、凌辱の憂き目にあった。

 

 ――あんな恐ろしいことがあるなんて、酷い現実があるなんて知らなかった。

 

 自分は何とか逃げ出した。

 後ろめたさもあったが、あの恐怖を前に足を止めることは叶わなかった。

 他にも逃げられたヤツがいるかは分からない。それを確かめる暇もなかった。

 

 ――逃げなければ、逃げなければ、逃げなければ……!!

 

 疲労で鈍化した頭の中で、その言葉ばかりがループする。

 東京キングダムはもうダメだ。あんな化け物どもが現れた以上、崩壊も時間の問題。

 足りぬと自覚している頭でさえ、そのことははっきりと認識できた。

 

 ――こんな仕事、もう続けられるかっ!! 故郷に帰って、平和に暮らすんだ……

 

 路地も終わりに近づき、メインストリートの明かりが視界に入る。

 あの場所も安全とは言い難いだろうが、それでもここよりはマシなはずだ。

 ――そんな気の緩みからか、足がもつれ盛大に転んだ。

 

 べしゃあっ! と、盛大に音が鳴る。

 無様にも、顔から地面に激突する。

 体が重い。顔が痛む。後先考えぬ逃走劇と先ほど味わった恐怖は、予想以上に自分の 体力を犠牲にしていたようだ。

 

 それでももう少し、もう少しで――

 

 ――びしゃあっと、重い足音が背後から響く。

 

 頭を上げようとしていた体が強張る。滝のような汗が、全身から流れる。

 

 ――まさか、まさかまさかまさかまさかまさか……

 

「見ぃつけた、ダーリン♡」

 

「ブヒイィィィィィ!?」

 

 にんまりと笑みを浮かべる雌オークに襲われた雄オークの汚い悲鳴が、東京キングダムの路地裏に空しく響き渡った。

 

                      ◇

 

転生者愚痴りスレ Part18

 

 

3801:名無しのごとき氏

という訳で、対魔忍世界にこのすば世界のオークを放流してきた。

 

 

3802:名無しの寺生まれ

……………………

 

 

3803:名無しの記憶探偵

……………………

 

 

3804:名無しの鬼っ娘

……………………

 

 

3805:名無しの装者

えっと、つまりどういう事なんです?

 

 

3806:名無しの魔法提督

毒を制すために、バイオハザードを引き起こしたって感じかなー。

 

 

3807:名無しのごとき氏

何を言うんだ。婚活の手配をしただけだ。

キューピットと呼んでくれてもいいぞ?

 

 

3808:名無しの寺生まれ

明らかに堕天しているキューピットっすよね。

ブラックどころかダークマター婚活会場じゃないっすかー。

 

 

3809:名無しの鬼っ娘

なんでそんなことになったんだい?

 

 

3810:名無しのごとき氏

現地の対魔忍(転生者)から相談されてね。

あの腐れオークどもを根絶やしにできないかって。

でも実際根絶やしはどうかとも思ったし、ぶっちゃけ面倒臭かったし、要はオークたちの異常すぎる性欲が問題なんだからそれに対抗できる嫁さんを用意すればいいって話。

 

 

3811:名無しの装者

えっと、それでこのすば世界のオークを?

あんまり詳しくないんですけど、豚の魔物でしたっけ。

 

 

3812:名無しのごとき氏

まあ大雑把にはそれで合ってる。

対魔忍世界には雄のオークしかいないし、このすば世界には雌のオークしかいない。

まさにベストマッチだろう?

 

 

3813:名無しの鬼っ娘

物理的に人生……豚生? の墓場だけどねー。

>>3811 このすば世界のオークは実質キメラ

 

 

3814:名無しのごとき氏

まあ、誰も不幸にはなってないし。多分。

対魔忍世界のオークは嫁さんゲットできてうれしい。

このすば世界のオークは同種の旦那をゲットできてうれしい。

対魔忍(転生者)はざまぁ!! できてうれしい。

うん、最高にCooooooolな回答だと思う。

 

 

3815:名無しの記憶探偵

クールどころかコキュートスに叩き落とされた雄オークも少なからずいそうだがね。

あっちはあっちで性質が悪いから、同情する気は起きないが。

 

 

3816:名無しの魔法提督

ごとき氏って、地味に悪辣なところあるよな。

 

 

3817:名無しのごとき氏

そう? あんまり自覚はないんだが……

そういえば以前の同僚も、そんな事は言ってたか。

 

 

3818:名無しの装者

ごとき氏さんの同僚ですか。どんな方なんです?

 

 

3819:名無しのごとき氏

Fateの陳宮。

「私も結構外道な真似をしている自覚はあるけど、あなたのやり方は正直どうかと思う時がある」って。

 

 

3820:名無しの寺生まれ

味方自爆させる専門家じゃないっスかやだー!?

あの人からまでそんな事言われたんスか!?

 

 

3821:名無しのごとき氏

ヒドイよなー。まあ軍師としての才能はないって言われたんだけど。

 

 

3822:名無しの装者

才能がないんですか?

 

 

3823:名無しのごとき氏

「良くも悪くも人に任せられない人間」なんだってさ。

 

 

3824:名無しの魔法提督

あー、確かにそういうとこあるよな。

部下に仕事を振れない、上司に向かないタイプ。

 

 

3825:名無しの記憶探偵

ふむ、言われてみれば我々の軌跡世界への干渉時も、自ら前線に立つことが多かったか。

 

 

3826:名無しのごとき氏

自分でやるのが一番早いっていうのはあるからなー。

余計な心労を抱えなくて済むし。

能力的には、割と軍師向きだとは思うけど。

 

 

3827:名無しの鬼っ娘

そーなん?

 

 

3828:名無しのごとき氏

まーね。大概の相手には時間止めて殴れば勝てるけど。

でもオレと本気で戦ったことがある奴はみんな言うんだよなー。

「お前、正面から戦わない方が絶対強いだろう?」ってさ。

 

 

3829:名無しの装者

いえいえ、わたしとか正面から戦っても今だ勝てる気がしないんですけど……

 

 

3830:名無しの魔法提督

あー、でも分かるわー。

その気になればアナザーワールドの乱立で幾らでも兵隊は喚べる。

相手の時だけ止めれば、あっという間にフルボッコ体制。

おまけに空間移動や時間移動も思いのまま。

ごとき氏自身は後方に回って、兵力の供給と援護を続ければいいだけだし。

……うん、絶対敵には回したくないね。

 

 

3831:名無しのごとき氏

ま、そんなとこ。実際はいろいろ制限はあるけどね。

アナザーワールドにしても、作り過ぎたら可能性の飽和で最悪世界そのものが自滅するし。

そもそも悪い事してると、その内オールライダーの足跡をつけられて爆散する未来しか見えない。

 

 

3832:名無しの寺生まれ

それっスね。そう考えると結構世知辛い立場?

 

 

3833:名無しの記憶探偵

しかし人助けなどもそれなりにしているのだろう?

ならばそう心配する必要もないのではないかね。

 

 

3834:名無しのごとき氏

うんにゃ。自分からしゃしゃり出ることは少ない。

目の前で何かあって対処できそうなら対処するし現地民から頼まれれば手を貸すけど、どうしようもない時は普通に手を引くし。

 

 

3835:名無しの鬼っ娘

例えばどんなー?

 

 

3836:名無しのごとき氏

そーだなー。例えばアナザーライダー繋がりで話すなら、SCP世界に行ったときの話かな。

 

 

3837:名無しの記憶探偵

いきなり危険すぎる場所に出たね。

 

 

3838:名無しのごとき氏

SCP関連は平行世界が多いから。

話を戻せば、SK-シナリオ。支配シフトシナリオってやつ。

全人類の9割超が、アナザーアギトになってた。

 

 

3839:名無しの寺生まれ

サラッと言ってるっスけどトンデモっスよね!?

 

 

3840:名無しの装者

アレ? アナザーアギトって一応仮面ライダーだったんじゃ……

 

 

3841:名無しの記憶探偵

そちらとは別物の、ジオウ本編に出てきたアナザーライダーになるね。

もっとも、容姿は酷似しているが。

 

 

3842:名無しのごとき氏

正直あそこまで行ったら、武力じゃ手のつけようがない。

最初は財団にいた転生者からも協力を求められたけど断った。

結局残った人類は宇宙への移住に活路を見出した感じ。

 

 

3843:名無しの魔法提督

財団完全敗北シリーズかぁ。

管理局も危険物を管理してるって意味じゃ他人事じゃないし、気を付けないとなぁ。

そーいやSCPで思い出したけど、この中に神様転生系っている?

 

 

3844:名無しの装者

あっ、わたしはそうです。神様っていうか、よく分からない光でしたけど。

 

 

3845:名無しの記憶探偵

わたしもだな。そうでもなければ軌跡世界にガイアメモリは持っていけない。

 

 

3846:名無しの鬼っ娘

わたしは天然転生だね。

トラック3台にサンドイッチにされたと思ったら鬼になってた。

いやぁ、混乱したよ。

 

 

3847:名無しのごとき氏

>>3846 どんな状況だ。

オレも天然になるな。それがどうかしたのか?

 

 

3848:名無しの魔法提督

オレも天然ものな。いやさ、神様転生って一概に言っても、神様も結構種類があるだろう?

 

 

3849:名無しの記憶探偵

そのようだね。リンカーネットで情報を集める限りでは、神、悪魔、超越者、賢者、邪神などいろいろと種類があるように見受けられる。

 

 

3850:名無しの魔法提督

うん、そんな感じだよな。でさ、その内の神様の一人が死んだらしい。

 

 

3851:名無しの鬼っ娘

うん? ヒドイ境遇に転生させた奴に逆襲されたとかそんな感じ?

 

 

3852:名無しの魔法提督

いや、それが完全な自業自得。最悪のババを引いたっつーか……

その神様は転生させた奴の人生を観測して暇をつぶす系神様だったみたいなんだけど、その趣味のウォッチングの過程でな……

よりにもよってSCP世界に転生させて、その転生者経由で“例の鳥”に感染したみたいだ。

 

 

3853:名無しの寺生まれ

ちょっ!? それ書きこんで大丈夫なんすか!?

 

 

3854:名無しの魔法提督

おう、ここまでなら大丈夫って確認されてる。

リンカーネット自体、認識災害に対しちゃ厳重なセーフティフィルターがあるしな。

それでも安心しきれないのがオブジェクトなんだが。

 

 

3855:名無しの鬼っ娘

そんなにヤバい鳥なの?

 

 

3856:名無しのごとき氏

まあ、な。精神主体の妖怪にとっては、致命的な相性だろう。

しかし上位存在の神様でも喰われたか。

 

 

3857:名無しの魔法提督

最初から対策をしていれば分からなかったけど、多分無防備な状態で喰らったんだろーな。

娯楽でヤバいドラッグに手を出して、そのまま破滅したイメージか。

 

 

3858:名無しの装者

神様でもそんなことあるんですね。

 

 

3859:名無しの記憶探偵

神だからこそ、だろう。

絶対的に安全な場所から見ているという慢心故に、判断を誤った。

個人的には、上位存在を喰らった鳥がどんな変化を遂げているかが、怖いところではあるがね。

 

 

3860:名無しのごとき氏

考えたくないなー(白目




《ちょっとした設定集》
〇対魔忍オーク
『対魔忍』世界における主演AV男優の一角。
雄しかいなかったが、自種族の雌に巡り合った。巡り合ってしまった。
彼らの明日はどっちだ。


〇このすばオーク
『この素晴らしい世界に祝福を!』世界における生物災害の一角。
自種族の雄を搾り取った上で滅亡させている。
ごとき氏によって対魔忍世界に放流された。


〇アナザーアギト
アナザーライダーの中でも、“種としての増殖”という特異な特性を持つ。
未確認さんたち涙目。


〇SCP世界の“鳥”
《データ削除済》

ライセンスおよびガイド

SCP-444-jp locker氏作
http://ja.scp-wiki.net/scp-444-jp

SCP_foundationはクリエイティブ・コモンズ表示-継承3.0ライセンス作品です(CC-BY-SA3.0)
http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0/deed.ja



前話から時間が空きましたが、お久しぶりです。
新年一発目にしては内容が色々とアレでしたが。
他の話の投稿に力を入れていたので間が空きましたが、ネタ自体はあるのでのんびり投稿していく予定。気長に待ってもらえれば幸いです。
あと対魔忍編なのに対魔忍が全く出てこないところはご容赦をw


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アイドルマスター編

 一本角の生えた赤い鎧の戦士が、コンクリートの壁に叩きつけられる。

 轟音、反響、舞い上がる土埃――そしてうめき声。

 

「ぐ……が、あ……」

 

 頑強な鎧越しでもあっても遮る事の出来ぬダメージに、苦痛の声が上がる。

 しかしそれに対して答えるのは、黒い怪人の冷ややかな声音。

 

「ふん……所詮は非ィ戦闘系世界への転生者。戦いの経験値がまるで足りん。“彼”のように7年間の鍛錬を続けた訳でもなく、“カブト”の力が本物と遜色なくとも宝の持ち腐れ」

 

 仁王立ちする黒い怪人を前に、カブトの力を持った転生者はよろめきながらも立ち上がる。そしてベルトに手を当て――

 

『Clock Up』

 

 機械音と共に、周囲の光景が一気にスローモーションへと様変わりする。

 タキオン粒子を使った時間流への干渉――クロックアップシステム。

 あらゆる相手に対し“スピード”で勝るというアドバンテージを手に入れる。

 

「だが無意味だ」

 

「なっ!?」

 

 通常の時間に置き去りにしたはずの怪人は何事もないかのように動き、カブトの転生者は何度もベルトに手を当ててクロックアップが正常に作動していることを認識し、愕然とする。

 

「時間への干渉は、何も貴様だけの特権ではない」

 

「お前は、一体……」

 

「アナザーダークディケイド――もっともその様子では、“ジオウ”以前の転生者のようだな」

 

 カブトの転生者も、目の前の相手は知らずとも仮面ライダーディケイド自体は知っていた。

 その言葉から、自分が死んだ後の仮面ライダーに登場した怪人だろうということも。

 だとしたら――仮にあの怪人が、ディケイドと同等以上のスペックをもつ相手だとしたら――

 

「くっ――!!」

 

 駆け寄り、拳を振り抜く。

 本来なら超高速となるはずの一撃は、同じ時間流に立つ相手には相応にしか映らず。

 拳は予定調和のようにいなされ、次の待つのは反撃の連打。

 

 殴打、蹴り、肘打ち――特殊な能力は一切用いない、純粋な格闘攻撃。

 しかしながら流れるようなコンビネーションで放たれる連撃は、確実に赤い鎧を打ちのめす。

 

『Clock Over』

 

「頼みの綱のクロックアップもここまでか。もっとも、何の役にも立っていなかったがな」

 

「こんなっ! ところでっ!」

 

 焦りと共に、ベルトに装着されたカブトゼクターを操作する。

 

『Rider Kick』

 

 赤い角から右足へと雷が走り、必殺技へのパワーがチャージされる。

 タキオン粒子を波動へと変換し、触れたものを原子崩壊させる蹴撃。

 

「うおぉぉぉぉーー!!」

 

 跳び上がり、足を突き出し、アナザーダークディケイドへと矢のように奔り――

 

 カウンターとして振り抜かれた黒い拳に仮面を叩き割られた。

 

「があっーー!?」

 

 地面を転がり土まみれになる赤い鎧。

 砕かれた仮面の奥からは、揺れる生身の瞳が覗いている。

 

「カブトもどきが、オレに何かできると思ったか?」

 

 淡々とした声が、朦朧としたカブトの転生者の耳に届く。

 

「相手の隙も作らずに使った考えなしの大技が、本気で通用するとでも? ふん、その様子ではもう碌に聞こえてもいないか」

 

 通常の時間流へと帰還した二人。

 しかし戦いの行方は既に明らかで――否、そもそも戦いと呼べるほどのものだったか。

 終始怪人がペースを握り、赤い鎧はなぶられただけ。

 

 もはやこれ以上の言葉は不要と、アナザーダークディケイドは倒れ伏したカブトの転生者へとゆっくりと歩を進める。

 

 コツ、コツ、コツ、コツ――ガタリ。

 

 自らの足音に異音が混じるのを察知し、怪人は歩みを止めた。

 

「あっ……」

 

 向けられた視線の先で、ビクリと体を震わせる女の子。

 小柄な体躯に、くせっ毛気味の長い緑色の髪。

 物陰に隠れて今の一連の流れを見ていたのだろう。

 

「一般人か――さっさと消えろ。子供の起きている時間じゃない。今日のことは忘れるといい」

 

「わ、私は……」

 

 威圧感のある言葉を前に身を縮こませる少女だが、震えながらも立ち上がる。

 

「そ、その人に! 一体何をするつもりだ!?」

 

 答える筋合いも、義理も、必要もない。

 だが奮い立たせた勇気に敬意を払ったのか、怪人は重々しく答える。

 

「――こいつはこの世界に紛れ込んだ異物だ。相応に処理するのみ」

 

「き、君は……」

 

 今のやり取りの間に意識がはっきりとしてきたのか、カブトの転生者が弱々しく声を響かせる。

 

「南条……光?」

 

「え?」

 

 ポカンとして目を丸くする少女。

 

「知って、いる? 私のことを、ヒーローが知ってくれている?」

 

 光と呼ばれた少女の体が震える。

 それは先ほどまでの怯えによるものではなく――歓喜と感動によるもの。

 少女は声を張り上げる。

 ステージで数多のファンに向ける声を、一人のヒーローへと向けて。

 

「頑張れっ!! 負けるなヒーロー!!」

 

 その純粋な思いのこもった声援を前に、カブトの転生者は――

 

「……………………………………お、おう」

 

 なんかもう、滅茶苦茶後ろめたそうな目をしていた。

 

                      ◇

 

転生者愚痴りスレ Part19

 

 

 

101:名無しのごとき氏

なんて茶番だ。

 

 

102:名無しの寺生まれ

いつもの如くやさぐれているっスねー。

 

 

103:名無しの装者

また何かあったんですか?

 

 

104:名無しのごとき氏

人間って、見た目の生き物なんだなー、って。

 

 

105:名無しの装者

その言葉は私に刺さる。

あの時はごめんなさい。

 

 

106:名無しのごとき氏

>>105 いいよ。

一から説明すると、今回辿り着いたのはアイドルマスターの世界線。

この後はアイマスと略するので悪しからず。

 

 

107:名無しの記憶探偵

ふむ。そうなると、アイドルかプロデューサーに転生者がいたのかね?

 

 

108:名無しの装者

アイドルかぁ。翼さんも歌手だし、ちょっと興味あるかも。

 

 

109:名無しのごとき氏

>>107 ご名答。プロデューサーの転生者がいて、依頼を受けた。

なんかライブ中に非合法に撮られた写真がばらまかれているから、調べてほしいって。

 

 

110:名無しの鬼っ娘

写真撮ったらダメなんだっけ?

 

 

111:名無しの寺生まれ

基本的にはそうっスね。最近は解禁される場合もあるっスけど。

でもわざわざごとき氏に頼むようなことっスか、ソレ?

 

 

112:名無しのごとき氏

ただの盗撮写真ならマナーの悪い観客で済むんだけど、明らかにおかしな写真があったからって。

アングル的に、観客席からは絶対に撮れない写真が混じっていたんだよ。

それこそステージの上から撮ったようなものまで。

 

 

113:名無しの魔法提督

なるほどな~。そりゃ怪しい。

 

 

114:名無しのごとき氏

そっからは現地の探偵とかと協力しながら調べてね。

調査の詳細は省くけど、一人の男が写真の流出元だってわかった。

後はどうやって写真を撮ったのかって部分だけど、監視していたらその男、仮面ライダーカブトの力を持った転生者の事がわかってな。

 

 

115:名無しの記憶探偵

………………なんだかものすごくくだらないオチが見えた気がするのだがね。

 

 

116:名無しの寺生まれ

オレもっス。

 

 

117:名無しの魔法提督

え~っと……つまりクロックアップを使って写真を撮ってた?

 

 

118:名無しのごとき氏

ざっつらいと

 

 

119:名無しの装者

字面からごとき氏さんのやるせなさが感じ取れますね……

 

 

120:名無しの鬼っ娘

クロックアップって何さ?

 

 

121:名無しのごとき氏

簡単に言えば時間操作。

周りの時間をすごくゆっくりにして、相対的に超スピードで動ける。

登場する回や作品ごとに描写は違うけど、今回の場合は時間停止に近いレベルだった。

 

 

122:名無しの装者

そんなトンデモ能力を盗撮に使った訳ですか。そうですか……

 

 

123:名無しの寺生まれ

ひたすらに空しいっスね。

 

 

124:名無しのごとき氏

まあ種さえ割れてしまえば後は簡単。

能力の相性的に、オレなら問題なかったし。

実際本人も弱かったから。

 

 

125:名無しの魔法提督

でも主役ライダーの力を持っていたんだろう?

 

 

126:名無しのごとき氏

“力”だけだよ。中身はてんで素人さん。多分ケンカすらやったことないんじゃないかな。

主人公補正もなかったし、案山子みたいなもんだ。

 

 

127:名無しの記憶探偵

なかなかに辛辣だね。

 

 

128:名無しのごとき氏

ちょっと思うところがあるってだけだよ。

それでまあ、倒すのは簡単だったんだけどさ。――現場に南条ちゃんが居合わせた。

 

 

129:名無しの魔法提督

あー、確か特撮趣味のアイドルの子だったっけ? うん、オチが見えた。

 

 

130:名無しの寺生まれ

倒れた仮面ライダー。迫る怪人。うん、“見た目”ってそういうことっスか。

 

 

131:名無しの装者

私の時と同じパターンですね(白目

 

 

132:名無しのごとき氏

元々カブトモドキもライブの時に出現するから、偶然がかみ合ってエンカウントしたというか。

ご丁寧に仮面砕け演出までしちゃったからなー。

南条ちゃん、あのカブトモドキのこと応援し始めちゃって。

 

 

133:名無しの鬼っ娘

でも実態は盗撮犯なんだよね? 間が悪いなー。

なんか憑かれてるんじゃない? アンタ。

 

 

134:名無しのごとき氏

>>133 最近そんな気がしてきた。いや、実際ずっと前からそんな気もしてるけど。

まあだからアレだ。子供の夢を壊すわけにもいかないし、急遽時間を止めてカブトモドキと作戦会議。

 

 

135:名無しの鬼っ娘

シュール過ぎるんだけど。

 

 

136:名無しの魔法提督

子供に現実を教えるのも、大人の役目じゃないのか?

 

 

137:名無しのごとき氏

現実を教えた後の責任とかとれないし。

それだったら夢を守って、問題を先延ばしにした方がマシだ。

 

 

138:名無しの魔法提督

そういうとこだぜ、ごとき氏。

 

 

139:名無しのごとき氏

うっさいわ、わかってるよ。

幸いというか、カブトモドキ君も南条ちゃんからの応援で完全に心が折れたっぽくてね。

「なんかもう穴があったら入りたい。いや、いっそ墓穴に入りたい」って。

ぶっちゃけオレから殴られた時よりも、よっぽどきつかったってさ。

 

 

140:名無しの寺生まれ

まあ盗撮しといて、知らずとはいえその被害者から声援受けるのはきついっスよね……

 

 

141:名無しの装者

根はそこまで悪い人じゃなかったんですかね?

 

 

142:名無しのごとき氏

擁護するわけじゃないが、盗撮写真もアウトなシーンや際どいシーンとかはなかったからな。

写真も彼がバラまいた訳じゃなかったみたいだ。

自分用のアルバム的なものだったみたいだけど、パソコンのフォルダに入れといたのがハッキング喰らって流出したっぽい。

強盗とか盗みみたいな他の犯罪行為にも力は使っていないし、単純にアイドルのファンで、そこに力を持ってしまった故の結果というか。

“魔が差した”ってやつだな。

 

 

143:名無しの記憶探偵

ふむ、だったら今の内に止めることができたのは僥倖だったのだろうね。

止めるものがいない犯罪行為というのは、最初は軽くとも徐々にエスカレートしがちだ。

 

 

144:名無しの魔法提督

ごとき氏なら楽に対応できても、普通は対処できないスピードだからなぁ。

 

 

145:名無しのごとき氏

まっ、そんな感じで本人からの協力も得られたから。急遽寸劇を演じる羽目になった訳だ。

主演オレ、監督オレ、脚本オレ、演技指導もオレ。

時間止められるのってこういう時に便利だよな。

時間がない時でも何回か練習できる訳だから。

 

 

146:名無しの装者

こう、何というかすごい力なのに使い道が……

 

 

147:名無しのごとき氏

平和的に使える内が一番いいんだよ、この手の力は。

とりあえず“秘密裏に戦ってきたヒーロー、最後の戦い”的な演出をして。

適当に戦った後必殺技を打ち合ってオレが倒れ爆散し、ヒーローもまたひっそりと姿を消す的な展開に。その後エンドロール。

 

 

148:名無しの鬼っ娘

爆散って、爆薬とか持ってたの?

 

 

149:名無しのごとき氏

ホラ、オレ爆破能力も持ってるし。

 

 

150:名無しの寺生まれ

ああ、あのライダー系ボスが何故か持ってる手をかざしたら爆発するやつっスね。

 

 

151:名無しの記憶探偵

それで南条嬢は誤魔化せたとして、実際にカブトの転生者はどうしたのかね?

 

 

152:名無しのごとき氏

依頼を受けたプロデューサーに連絡とって、謝罪させた。

カブトの力はこっちでウォッチにして回収した。

本人も、持ったままだとまたいつか変なことに使っちゃうかもって納得したから。

 

 

153:名無しの鬼っ娘

ふぅん、意外と潔いんだな。

 

 

154:名無しのごとき氏

良くも悪くも、平凡な感じだったから。

だからこそ、ちょっとしたきっかけで善にも悪にも転ぶんだけどね。

 

 

155:名無しの魔法提督

じゃあそれで今回の一件は解決した訳か。

 

 

156:名無しのごとき氏

うん、まあ、いや……むしろ個人的にはこの後の方が大変だったというか。

 

 

157:名無しの装者

まだ何かあったんですか?

 

 

158:名無しのごとき氏

オーフィスがたまたま会った武内Pにスカウトされて。

「誤解しないでほしいのですが、彼女には他のアイドルにはない――そう、非人間的とでも言うべき魅力を持っている」って。

なんで分かるんだよ、あの人。しかもかなりグイグイくるし。

 

 

159:名無しの寺生まれ

あー……仏頂面に見えて情熱の人っスからねー。

 

 

160:名無しの装者

スカウトかー、ちょっと憧れちゃいます。

でも受けなかったんですよね? 何でです?

 

 

161:名無しのごとき氏

冷静に考えろ、あの超マイペース娘に芸能活動なんてできる訳ないだろ。

下手すりゃ同僚たちに適当に加護とか与えかねないぞ。

超能力系アイドルとかがマジモンの超能力者になるかもだぞ。

しかもオーフィス自身が微妙に乗り気になるから、止めるのにも苦労したし。

 

 

162:名無しの魔法提督

カオスになる未来しか見えないな。

 

 

163:名無しのごとき氏

しかもなー、公園のベンチで3人で話してたら警察から職質受けて……

 

 

164:名無しの寺生まれ

えっ? ごとき氏何かしたんすか?

 

 

165:名無しの記憶探偵

ふむ……怪しげな男二人に挟まれたゴスロリ幼女。傍から見れば事案だな。

 

 

166:名無しのごとき氏

だろう? 多分誰かが通報したんだろ。

誰だってそーする。オレだってそーする。

 

 

167:名無しの鬼っ娘

自分で言っちゃうのかい。

 

 

168:名無しのごとき氏

オレとオーフィスなんて、住所不定無職どころか国籍もないんだぜ?

警察とかハッキリ言って鬼門すぎるというか……

 

 

169:名無しの魔法提督

え? その辺り偽造とかしてないの?

 

 

170:名無しのごとき氏

知らんよ、偽造の仕方とか。

 

 

171:名無しの魔法提督

いや、そこは知っとけよ。ラスボス。

 




《ちょっとした設定集》
〇南条光
特撮趣味の女の子で、現役アイドル。その日、彼女は運命に出会う――
……その実態のごたごたっぷりはさておいて。


〇仮面ライダーカブトの転生者
本編でこそライブの盗撮に走ってしまったが、根は普通に善良な転生者。――それ故に、南条光からの声援を受けた時の罪悪感がマッハ。
事件後はカブトの力を手放し、盗撮写真も全て破棄。真面目な一ファンとして活動している。




 以上、今回はアイマス世界が舞台でした。
 カブトの転生者とごとき氏との戦闘力の差は、『一般人出身系ライダーが初変身時にラスボスと交戦した場合』的なイメージです。うん、勝てないね!
 南条ちゃんの勘違いは、あの場面に遭遇したら仕方ないよねって感じです。


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Fate/stay night編???

2020/2/20 セリフ微修正


 ――聖杯戦争。

 7人の魔術師と7騎のサーヴァントが、万能の願望器たる聖杯を求め争い戦う魔術儀式。

 極東の地日本――その地方都市の一つたる冬木で行われるこの戦いも、此度で5度目。

 これまでの4度の戦いで聖杯を手にし、願いを叶えた者はただの一人も存在しない。

 

 今度こそ勝利を――今度こそ聖杯を――

 

 目的と手段は反転し、原初の願いは忘却され、因縁ばかりを膨らませ絡まり引継ぎ、それでもとっくに壊れた儀式は続く。

 

 ――その、はずだった。

 

「はっ、はははははははははははははははは!!」

 

 夜の校舎――その屋上に、哄笑が響く。

 狂ったように笑う少年に浴びせかけられる、少女の冷ややかな声。

 

「早々に敗退したことで、おかしくなったのかしら? 間桐君」

 

「敗退、ねぇ」

 

 少年――間桐慎二は笑いを止め、屋上に倒れ伏した自らのサーヴァントを一瞥し、興味をなくしたかのように少女――遠坂凛と傍らにいる衛宮士郎に視線を戻す。

 

「ライダーは確かに虫の息だが……止めも刺していないのに勝利宣言ってのは、さすがに気が早いんじゃないかい? 遠坂。それとも生かしておいて、自陣に加えるつもりとか?」

 

「生憎とサーヴァントの複数使役なんて無茶をするつもりはないわ。この悪趣味な結界を解除するためにも、キッチリと退去してもらうわよ」

 

 ――“殺す”という言葉を使わなかったのは、傍らにいる素人同然の、魔術師未満の少年への配慮か。

 それでも学園という日常の場に、生徒たちを生贄にする結界を張った危険なサーヴァントを逃す気はない――その意思を視線に乗せ、慎二へと叩きつける。

 

「慎二……もういいだろう。お前の負けだ。降参して、この結界を解除してくれ」

 

 衛宮士郎は、友人へと説得の言葉をかける。

 色々と問題がある人物ではあるけど、決してそれだけの人物ではない。

 何かが掛け違ってしまっているだけど、悪いだけの人間ではない。

 そのことを、知っているが故に。

 だが――

 

「ふん、お前まで上から目線で勝者気取りか? 衛宮。半端物の魔術師モドキが」

 

 冷めたように――しかし瞳の奥に確かな激情を押し込んで慎二は告げた。

 

「たまたま最優のセイバーと契約して、気が大きくなっているんじゃないのかい? 少し強い使い魔を得たところで、お前自身が何か変わった訳でもないっていうのにさ」

 

「マスターへの侮辱は止めてもらおう」

 

 金髪の少女――セイバーが前に出る。

 

「言葉で止まらぬというのなら、サーヴァント諸共に切り捨てる。――お前もその覚悟をもって聖杯戦争に挑んだはずだ」

 

「――っ!? 待ってくれ、セイバー!」

 

「二人とも、落ち着いてちょうだい」

 

 緊迫感が高まる状況に、凛が待ったをかける。

 

「間桐君。見栄を張るのも大概にしなさい。あなたのサーヴァントは既に敗北した。退去こそしていないけど、アーチャーとセイバー相手に戦える状態じゃない。――さっきあなたが衛宮君に言ったセリフ、そのまま自分に当てはまることくらい自覚はあるでしょう? この手のやり方はあまり好きじゃないけど、敢えて言わせてもらうわ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。魔術回路の一本も通っていない、知識だけの一般人。もう、ここから逆転の目はないのよ」

 

 凛は躊躇いを押しつぶし、慎二にとって最も残酷な一言を告げる。

 未だ解除されていない結界への焦りもあり、速やかに心を折り戦いを終わらせるために。

 だが――

 

「ははっ」

 

 慎二は唇を歪め、嗤った。

 

「だったら試してみるかい? 遠坂」

 

「……ここまでね」

 

 人差し指を構え、銃のような形をとり、慎二へと向ける。

 ガント――凛の十八番にして、呪いの魔弾。

 一挙動で放たれるフィンの一撃は、慎二の意識を速やかに奪うべく放たれ――

 

 ――突如競りあがった岩盤によって受け止められた。

 

「なっ!?」

 

「くく……」

 

 驚愕する凛の耳に、岩盤で姿が見えなくなった慎二の低く嘲笑う声が届く。

 

「僕が魔術師じゃないなんて、一体いつの話をしているんだい?」

 

 岩に手を当て、まるで幽鬼のように暗く嗤う慎二が、再び姿を見せた。

 

「凛――気を付けろ。何かがおかしい」

 

 凛の契約するサーヴァント――アーチャーが愛用の黒白の双剣を構え、主人を背に前に出る。

 

「間桐君……あなた、体に纏うその異質な魔力は一体……」

 

「もともと、ライダーは使い物になれば儲けものくらいにしか考えてなかったさ。なんせ、あのどんくさい桜が召喚したサーヴァントなんだからな。元から大して期待はしていなかったよ」

 

「なっ!? 何でそこで桜の名前が――」

 

「そんな事どうだっていいだろうぉ!? 衛宮ぁ!! ――見せてやるよ。僕が手に入れた“力”を!!」

 

 セイバーが地を蹴るよりも早く――

 アーチャーが双剣を投擲するよりも早く――

 慎二は手に持った“ソレ”を押し込んだ。

 

『WIZARD』

 

 慎二の体に闇色の帯が巻き付き、怪人が顕現する。

 その顔は赤色を基調としたひび割れた宝石のようで、瞳は窪みドクロの様相を思わせる。

 後頭部には異形の怪物の手に鷲掴みにされたかのような異様な装飾が誂えられ、ベルト部分には人の手の骨じみた紋様が浮かぶ。

 

「なんだよ、それ……」

 

「危ない、士郎!」

 

 声と同時に、士郎の体はセイバーによって抱えられ一気に跳ぶ。

 直後、自身が一瞬前までいた場所を奔った“ナニカ”。

 それは屋上に設けられた貯水槽にぶつかり、一瞬で緑色のオーラへと変え霧散させた。

 

「衛宮君っ!? ――っ、今のは魔術、なの? 一体どんな外法に手を出したって言うのよ!」

 

「ははっ、ははははははははは!! どうだ遠坂ぁ!! 衛宮ぁ!!」

 

 異形へと姿を変えた慎二が吼える。

 

「これがっ、僕の力だ! この力が――この力さえあれば、僕だってやれるんだ! もう誰にもっ、出来損ないなんて言わせない!」

 

「慎二、お前……そんな――そんな姿がお前の望んだものだって言うのかよ!?」

 

「ああそうさっ!!」

 

 絞り出すように、吐き出すように叫ぶ。

 俯く異形の表情は、まるで苦悶と悲痛に満ちた罪人のようにも見え――

 

「お前には分からないよ、衛宮。スタート地点に立つことさえできなかった、僕の気持ちなんて! 魔術師の家に生まれながら魔術を振るう資格がなく! 間桐の長兄でありながら後継者としての座を、よそから貰われてきた子に譲るしかない惨めさ! 良い兄であろうとしたのに、その義妹からは同情される始末! 今となっては家ではいらない子扱い! そうさ――魔術師でさえあれば、こんなことにはならなかったんだ!」

 

「――っ!!」

 

 凛が唇を噛みしめるようにするが、慎二はそれに気づかない。

 

「この力さえあれば、僕だって魔術師に――いいや、僕はもう魔術師なんだ! あの恐ろしいお爺様だって、この力の前には敵わなかった! は、あははは、すごい……この力はすごいぞ! これで僕は間桐の後継者に……桜とだって、またちゃんと家族とし――て? ――ああちくしょう……何を口走っているんだ、僕は!?」

 

 頭を抱える慎二に、凛は声をかけようとし――

 

「アナザーウィザードになった影響か。情緒が不安定になっているな」

 

 割り込まれた男の声に、機先を制された。

 

 その場にいた全員の視線が一か所に――屋上の出入り口に集中する。

 そこには腕を組んで佇む見慣れぬ男の姿。

 そしてその傍らには、見慣れた少女の姿。

 

「綾子? 何であなたが――まだ入院していたはずじゃあ……」

 

「抜け出してきたんだよ。悪いけど、慎二の相手は私に任せてもらう」

 

「何を言って――」

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ――」

 

 遠坂凛にとって、美綴綾子は日常の象徴のような人物である。

 その彼女の口から出た、聖杯戦争の名。

 凛はキッと、隣に立つ男を睨みつける。

 

「あなたね……綾子に妙なことを吹き込んだのは。一体何者かしら? 聖杯戦争のマスター?」

 

「別に、そういう訳ではないのだがな。さて――」

 

 男――スウォルツは視線を慎二に向け、それを受けた当人はたじろぐ。

 

「アナザーウィザードウォッチ――どんな経緯で流れ着いたのやら。まあいい。美綴、本当にやるんだな?」

 

「ああ、あのバカは私が止める」

 

 あまりにも堂々とした物言い。

 それに真っ先に反応したのは、士郎だった。

 

「なっ、やめろ美綴! 無茶だ! 今の慎二は――」

 

「無茶だとか、アンタに言われたくないセリフトップ3に入るね」

 

 綾子は苦笑して見せ、それでもアナザーウィザードと化した慎二から視線を逸らさない。

 それが勘に障ったのか、伽藍の双眸に怪しい光が宿る。

 

「止める、だって? はっ、どうやってだ? ライダーに吸血されて寝てたやつが何を言って――」

 

「お前の意見は求めていない」

 

 スウォルツが取り出したものに、慎二の動きが凍り付く。

 何故ならばそれは、つい先ほど自身が使ったものと瓜二つで――

 

「お前に新しい体験をしてもらう」

 

『AGITΩ』

 

 綾子の背中に押し当てられるウォッチ。

 先ほどの光景の焼き増しのように、彼女の体を闇が包み込み。

 

「……やれそうか?」

 

「ああ、問題ない」

 

 緑を基調とした異形――アナザーアギトと化した美綴は、はっきりと答える。

 

「最初に言った通り、制御できないようならオレが全て片付ける。精々燃え尽きないようにするがいい」

 

「これ以上手を煩わせないようにするさ」

 

「綾子――その姿は……」

 

「後で全部説明するから、ちょっと待っててくれ。――行くぞ慎二、指輪の準備は十分か?」

 

 アナザーアギトが長刀状の武器を構える。

 

「ふざっ――けるなっ!! ここで負けたら、僕はただの道化じゃないか!!」

 

 アナザーウィザードは左手に嵌めた指輪をかざす。

 

 聖杯戦争の中で、アナザーライダー同士の戦いが始まった。

 

                        ◇

 

「道化というのも、そう捨てたものではないのだがな。貴様はどう思う?」

 

 アナザーアギトとアナザーウィザードの戦いは校庭に移行し、士郎と凛に、セイバーとアーチャー――二つの主従はそれを追いかけていった。

 屋上に残り戦いを見下ろすのはスウォルツと、突如現れた黄金の王。

 

「直接見に来るとはな――ご自慢の千里眼はどうした?」

 

「質問に質問で返すとは、不敬なヤツよ。……ふん、我が眼に映らぬ不届きな影がいた故、直接見定めに来たまで」

 

 傲岸不遜が形になったかのような男であり、それが許される男。

 人類最古の英雄王・ギルガメッシュはスウォルツと対峙する。

 

「星の外側からの来訪者か」

 

「如何にも」

 

「脆弱な小娘に力を与え高みの見物とは、よほど自らに自信のない小心者と見た」

 

「身寄りのない子供を電池代わりにするよりはましだと思うがな。祭祀長(シドゥリ)が見れば、眉をひそめるんじゃないか?」

 

「受肉したこの身には本来不要であるが、献上品として受け取っているに過ぎん……が、貴様――我の臣下の名を引き合いに出した以上、首を差し出す準備は出来ていると判ずるぞ?」

 

 黄金の王が纏う気配が変化し、赤い瞳が鋭く細められる。

 鎧こそ纏っていないものの、その威圧感は肌を刺すように膨れ上がる。

 魂を押しつぶすかのような圧迫感を前に――スウォルツは己がウォッチを掲げて見せた。

 

「まったく――藪蛇だったか」

 

「我をさして蛇と言ったか。この痴れ者が」

 

「お前の財とオレのウォッチ――どちらが上か試してみるか?」

 

「戯け! 試すのは裁定者たるこの我よ!」

 

 空間に金色の波紋が幾つも浮かぶ。

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)――この世全ての財が収められているとされる、英雄王の宝物庫。

 揺れる空間から剣が、斧が、槍が、弩が――あらゆる宝具の原典たる財たちが顔を覗かせる。

 

 王の意思一つで爆撃とも称される武器群は射出され、来訪者を穿たんと迫り――

 

『DARK DECADE』

 

 低い音声と共に撃ちだされた無数のプレートとぶつかり合い、弾かれる。

 散らばったプレート群は意思を持ったかのように本来あるべき場所――スウォルツの頭部へとその身を躍らせる。

 

 怪人――アナザーダークディケイドと化したスウォルツに、ギルガメッシュは嗤って見せる。

 

「何者かと思えば、人類悪(ビースト)の近縁種といったところか。わざわざ見合わぬ角までつけおって」

 

「確かにその気になれば、人理定礎の一つや二つ、破壊できるかもしれんがな。元は世界の破壊者の力――そこに理があるかまでは知らんが」

 

「ほう――世界の破壊ときたか。ならばその大口が真実のものか――我に示してみるがよいっ!!」

 

 宝物庫から斬山剣(イガリマ)が繰り出され、怪人がそれを片手で弾き、ここにもう一つの戦いが始まった。

 

 ――同時にこの戦いを呼び水に、抑止力は1騎のサーヴァントをカウンターとして召喚した。

 

「これは――懐かしい気配がするね」

 

 緑色の髪を持った、美しき土人形を――

 

 

                      ◇

 

転生者愚痴りスレ Part21

 

 

511:名無しの装者

なんか私、調ちゃんからは苦手に思われているっぽいんですよね。本当にアレで良かったんですか?

 

 

512:名無しの魔法提督

だいじょーぶだいじょーぶ。時間が解決するって。

 

 

513:名無しのごとき氏

乙。あとおひさー。何の話してるの?

 

 

514:名無しの寺生まれ

あっ、ごとき氏久しぶりっスね。ちょっと装者ちゃんのことで、何でも人間関係がうまくいっていないとか。

 

 

515:名無しのごとき氏

へぇ、原因は分かっているの?

 

 

516:名無しの装者

調って子なんですけど……多分その子と敵対していた時に問題があるのかなって。

今は仲間として一緒に戦っているんですけど。

昔敵だった時にその子から「偽善者」って罵られたことがあって……

その事で提督さんに相談したことがあったんですけど、その時は「一方的なとらえ方だから、真に受ける必要はない。君はよく戦っている」って。

 

 

517:名無しの鬼っ娘

大人な物言いだね。

 

 

518:名無しの装者

あと「格好いい言葉で相手を否定したら自分が正しい気になれる年頃ってだけだから、生暖かい視線で見守ってあげるといい」って。

「相手が嫌いだったら今の内に録音でもしておけば、将来脅迫の道具になる。数年もしたら絶対に黒歴史になるから」とも。

 

 

519:名無しの記憶探偵

最悪の助言だね。

 

 

520:名無しの魔法提督

この上なく現実的な助言だったと思うんだけど。

ところでごとき氏は何してたんだ? しばらく来てなかったけど?

 

 

521:名無しの寺生まれ

あからさまに話題を変えたッスね。

 

 

522:名無しの装者

あっ、私のことは後回しでもいいのでどうぞ。

 

 

523:名無しのごとき氏

あー、ちょっと修羅場っててね。

fate/stay night? の世界線に行ってたんだけど……

 

 

524:名無しの鬼っ娘

名作だねー。でもなんでクエスチョンマークつき?

そーいやfateっていえば、今幻想郷にもカルデアの連中が来てるんだよ。

 

 

525:名無しのごとき氏

闇鍋だったから、かなぁ・・・・・・いや、世界観的にありうる話ではあったんだけど。

ちょっとダイジェストに説明していくよ?

まずその世界にいた転生者は、美綴綾子。転生だか憑依だか知らんけど、そうだった。

 

 

526:名無しの鬼っ娘

あの子かー。チートとかあって聖杯戦争に巻き込まれたとか?

 

 

527:名無しのごとき氏

うんにゃ。天然ものの転生者で、別にチートはなしの一般人。

原作通りちょっと巻き込まれはあっても、がっつりは絡まない。そんな立ち位置。

でも間桐慎二を助けたいって相談をうけてね。

 

 

528:名無しの魔法提督

あー、まあ展開次第じゃ普通にバッドエンドだからなぁ、彼。

そこは主人公もだけど。

転生前にファンかなんかだったの?

 

 

529:名無しのごとき氏

いや――アレはどっちかといえば友情か、それとも男女的な感情というか……

まあそれはいいや。どっちにしろ、彼をまともな人の道に戻したいってね。

でも問題になったのが、慎二がどこからかアナザーウィザードのウォッチを手に入れていたこと。

 

 

530:名無しの装者

へ? それって元々あるようなものじゃないですよね?

 

 

531:名無しの記憶探偵

ふむ、あり得ざる物品か。我々転生者が絡む以上、度々ある話だね。

以前の転生者の遺物か、何かの拍子に流れ着いたか、何者かが敢えて渡したか。

 

 

532:名無しのごとき氏

本人に聞いたら、間桐雁夜の遺物だとか。

雁夜本人が力について知っていたかは、今更分からんけどな。

……正直慎二が力を使いこなせているようなら放っておいてもよかったけど、明らかに暴走している感じだったから取り上げることにした。放置したら、誰にとっても碌なことにならないし。

――で、ここでみつづりんが自分の手で目を覚まさせたいって言いだしてなぁ。

 

 

533:名無しの寺生まれ

みつづりんって一気にフランクになったっスねw

でも彼女、一般人なんでしょ? いったいどうやって……

 

 

534:名無しのごとき氏

アナザーアギトウォッチを貸した。

アレは、基本的に使う人間を選ばないからな。

 

 

535:名無しの装者

えっ? でもそれって危なくないですか?

 

 

536:名無しのごとき氏

危ない。でも本人がやるって言ったから。

まあ暴走しても、慎二諸共オレが抑え込めば済む話ではあったし。

なりたてのアナザーライダーならどうとでもなる。

結果としては杞憂だった訳だけど。意思が強かったのか、よほど慎二を助けたかったのか。

力に飲まれず、ちゃんと戦えていたよ。

オレはオレで、成り行きでAUOと戦うことになったけどそれはまあいいとして……

 

 

537:名無しの魔法提督

良くない。全然良くないんだけど。

 

 

538:名無しのごとき氏

あの世界な時点で、可能性はあるかなーと思ってたから。

むしろここからが問題だった。

最初はアナザーウィザードのウォッチを回収して終わりかなーと思っていたけど、抑止力が余計な仕事しやがりやがった。

オレのことを人類の脅威だが世界の脅威だかと判断して、カウンターとしてサーヴァントを召喚してきた。

 

 

539:名無しの鬼っ娘

うんー? ごとき氏世界の敵だったの?

 

 

540:名無しのごとき氏

まあ性質的には、そういう面もなくはないのかな?

加えて召喚したサーヴァントがこれまた問題で……

多分その場にいたギルガメッシュの縁から引っ張ってきたんだろうけど、エルキドゥ。

しかもこっちそっちのけでギルガメッシュと仲良く喧嘩始めて。

冬木の森とイリヤ城が吹き飛んだよ。

 

 

541:名無しの記憶探偵

とんだとばっちりだね、彼女も。本人たちは無事だったのかい?

 

 

542:名無しのごとき氏

ちょうどメイド共々城を離れていたみたいだ。

ただなぁ……ギルガメッシュとエルキドゥが遭遇したことで、神代に女神イシュタルが残しておいた呪いが起動したんだ。

 

 

543:名無しの装者

呪い、ですか……? いったいどんな?

 

 

544:名無しのごとき氏

イシュタルは昔、二人にトラウマ植え付けられててね。

もし将来的に二人が出会ったら、復讐してやるってやつ。

当然イシュタル本人は神霊になってとっくに地上から離れているから、残っているのは本人じゃなくある種の残渣。

それが近くにいた、一番相性のいい依代に憑りついた。

 

 

545:名無しの魔法提督

あー、つまり遠坂凛。イシュタリンになった訳か。寺生まれ、出番だぜ。

 

 

546:名無しの寺生まれ

無茶言わないでほしいっス。

 

 

547:名無しのごとき氏

FGOみたく、疑似サーヴァントになった訳じゃないけどね。

あくまで性質の悪い呪いに憑依された人間。

英雄王とエルキドゥもその気配に気づいて一先ず矛を収めたけど、エミヤもマスターの豹変に気づいて……具体的に言えばあくま度合いが急上昇したことで危機感を覚えたのか、速攻でルールブレイカー投影して契約を解除。

イシュタリン、さすがにこの状況じゃ復讐なんてできないと判断したのかオレに協力を求めてくる。

 

 

548:名無しの装者

受けたんですか?

 

 

549:名無しのごとき氏

そんな訳ないだろう。ぜってー碌なことにならないし、秒で断った。

するとイシュタリン、顔を真っ赤にして肩をプルプル。昔のトラウマを思い出したんかね?

英雄王大爆笑で腹筋崩壊太郎。

おかげでオレまで復讐対象に入ることに。

 

 

550:名無しの寺生まれ

災難っすね。女神に絡まれるとか……

 

 

551:名無しのごとき氏

基本マイルールな生き物だからなぁ。オーフィスの方がだいぶ聞き分けがある。

でもそこは腐っても女神というべきか。包囲網から離脱して柳洞寺地下に直行。

大聖杯を手中に収める。

 

 

552:名無しの魔法提督

既に聖杯戦争の意味がなくなってきている件について。

 

 

553:名無しのごとき氏

元々第三次の時に儀式自体壊れたようなもんだし、今更だろうさ。

そこでオレ、全陣営にコンタクトをとり現状と大聖杯の汚染について説明。

ギル陣営は元々知っていた訳だけど、イシュタリン登場もあって何とか全員で協力して事に当たることに。

 

 

554:名無しの装者

戦わなくてよくなったのはいい事ですね!

でも慎二さんとかも大丈夫だったんですか?

 

 

555:名無しのごとき氏

そこはみつづりんが頑張ってくれた。

アレだな、夕焼けがさす河原で殴り合った的な感じである程度毒が抜けたというか。

リアルに世界がヤバいって説明したら、ぐちぐち言いながらも協力者に。

蟲爺も桜諸共スリープの魔法で眠らされていたけど、叩き起こして現状を説明。

とにかくもう聖杯は使い物にならないってことを、重点的に。

油断していたとはいえ、慎二にこっぴどくやられたことも効いたんだろうな。

すっかり大人しくなったよ。

 

セイバーも落ち込んでいたけどさすがは英雄か。世界の危機は見過ごせないと。

桜はもう士郎に任せた。

 

で、全陣営に協力を取り付けた訳だけどそれが裏目に出たというか……

イシュタリン、大聖杯の裏コードを起動。聖杯大戦開幕。

 

 

556:名無しの魔法提督

事態が更に悪化してるじゃねーか!?

オートでアポコラボ始めるなよ!

 

 

557:名無しのごとき氏

不可抗力だったと主張する次第であります。

 

さすがは女神というべきか、聖杯の泥を回避しつつ大聖杯を魔力のバックアップに。

新たに召喚したサーヴァント全騎のマスターになりやがった。

まずはバーサーカー・フワワ。

 

 

558:名無しの寺生まれ

最初っからフルスロットルじゃないっスか!?

 

 

559:名無しの鬼っ娘

ヤバい奴なのー?

 

 

560:名無しの寺生まれ

滅茶苦茶。

 

 

561:名無しの鬼っ娘

ふーん。戦ってみたいなぁ。

 

 

562:名無しのごとき氏

まあ本命はフワワだけだったみたいだから、後は適当に召喚してた。

そのせいか、5次鯖に関連があるのが多かったかな。

 

セイバー・モードレッド

アーチャー・エミヤオルタ

ランサー・メドゥーサリリィ

ライダー・ヒッポリュテ

 

この辺までは、まだまともだった。

 

 

563:名無しの記憶探偵

ふむ、結構な面子だとは思うが、それ以上のサーヴァントが?

 

 

564:名無しのごとき氏

アサシン・謎のヒロインX

キャスター・英霊トーサカ

 

 

565:名無しの魔法提督

ヤメロヨ、真面目な戦いに唐突にイロモノを放り込むのは。

 

 

566:名無しのごとき氏

まだこれじゃあ終わらないぜ!

ルーラーとして、ルヴィアを依代にアストライアが召喚。

その時一緒にいたロード・エルメロイⅡ世を拉致って現地入り。グレイも一緒に。

前回の聖杯戦争経験者として、ナビにしたらしい。

 

 

567:名無しの装者

拉致ですか……アストライアって確か、ギリシャの方の女神様でしたよね?

 

 

568:名無しのごとき氏

ああ。本来神霊は召喚できないはずだけど、イシュタルに呼応したのか、それともこの世全てに悪に汚染された大聖杯の最後の抵抗か。

――で、こっちとも顔合わせした訳だけどギルとかアルトリアに因縁があるエルメロイⅡ世、気まずい。

グレイもアルトリアにバッチリ顔合わせし、お互い気まずい。

モードレッドにも遭遇して更に気まずい。

ヒロインXに至っては、未知との遭遇。

 

 

569:名無しの記憶探偵

モードレッド卿はロンゴミニアドで死んだわけだからね。

アーサー王の写し身という意味でなら、同じ立場でもあるわけだ。

ヒロインXについては……まあコメントを控えよう。

 

 

570:名無しのごとき氏

更には桜、英霊トーサカに遭遇してマジ切れ。

「私を他所の家にやって姉さんを育てた結果がこれってあんまりですよ、うわーん!! こうなったら私も自由に生きてやるー!!」

桜、覚醒。蟲爺および慎二との力関係が完全に逆転する。

イシュタリン及び英霊トーサカ、ガチで落ち込む。

 

 

571:名無しの寺生まれ

ま、まあ借金まみれで世界と契約したのが姉の成れの果てとかアレっすからねぇ(汗

 

 

572:名無しの鬼っ娘

お金は難しいねぇ……

 

 

573:名無しのごとき氏

まあそれでもいろいろありながら戦いは進んだ訳だ。

イリヤが凛の家にあった魔術礼装と契約して魔法少女になったり。

ヒロインXを餌付けして寝返らせたり。

言峰が「ちょ、もうさすがに隠蔽無理かも」と冷や汗かいたり。

蟲爺や言峰の妨害が減ったせいでプレラーティがちょっかいかけに来たり。

自分を呼んではいけない名で呼んだクソ野郎が来日したのを察知して、人形師がやって来たり。

その姉にちょっかいかけに、第五魔法使いまで来たり。

所詮は田舎のしょっぱい儀式だと認識していたけど、実は結構ヤバいんじゃね? と考えた時計塔が本腰を入れ始めたり。

みつづりんが仮面ライダーアギトに覚醒したり。

 

 

574:名無しの魔法提督

止めて! 冬木のライフはもう0よ!?

>>仮面ライダーアギトに覚醒

ねえ、今どんな気持ち?

 

 

575:名無しの装者

あっ、そっちにもプレラーティさんいるんですね。

 

 

576:名無しの寺生まれ

ヒロインX餌付けって……ま、まあ士郎とかエミヤがいるっスからねぇ。

 

 

577:名無しのごとき氏

>>574

ノーコメントで。客観的に言うなら、アナザーアギトの因子に刺激されたんだろうさ。

>>575

そっちのプレラーティとは比べ物にならん性の悪さだけどな。

>>576

X餌付けしたのはオレの料理だ。自慢じゃないけどエミヤよりもうまいぞ?

 

 

578:名無しの鬼っ娘

へぇ、料理うまいのかい。なんというか、意外だねぇ。

 

 

579:名無しのごとき氏

黒包丁だって持ってるからな。妹に料理を仕込んだのもオレだぜ?

それはさておき、徐々に追い詰められたイシュタリン、爆発オチを選ぶ。

具体的には大聖杯の中身を溢れさせるという暴挙に出る。

「アンタに復讐できないなら、アンタの庭に復讐する!」という謎理論。

 

 

580:名無しの記憶探偵

いきなりのクライマックスになったね。

しかし聖杯の泥といえば、方向性は違えど帝国の呪いより凶悪そうだが……

 

 

581:名無しのごとき氏

こんなこともあろうかとオレ、某聖人男性の片割れから貰っていた聖杯(紙コップ)で聖杯の泥を浄化。

 

 

582:名無しの魔法提督

最初っから使えやソレ!?

わざわざ苦労する必要皆無じゃねーか!?

 

 

583:名無しのごとき氏

いや、ほらね? こう、最初っから神頼みってなんか違うじゃん?

 

 

584:名無しの装者

ごとき氏さんって、そういうとこ変に真面目ですよね。

 

 

585:名無しのごとき氏

何やかんやで聖杯大戦にも決着がつき、事態は落ち着くと思いきや聖杯(紙コップ)の使用を察知した聖堂教会が全力で回収に来る。埋葬機関も半分以上投入してくるし、アイツらガチすぎだろ。

 

 

586:名無しの寺生まれ

いや、別世界とはいえガチの救世主の聖杯っスからね。仕方ないんじゃ……

 

 

587:名無しのごとき氏

時計塔も聖杯(紙コップ)の価値を認め獲得に動き出す。

ついでに当たり前のように存在したナチス残党も活動を開始する。

聖杯(紙コップ)争奪戦、開幕。

 

 

588:名無しの魔法提督

ちょ、待てよ。どっからナチ湧いてきたんだ!?

 

 

589:名無しのごとき氏

>>588 知らん、オレが聞きたいよ。

 

――で、オレ全勢力に対して告げる。

「すみません、普通に使い終わった紙コップと勘違いして燃えるゴミに出しました」

聖杯(紙コップ)争奪戦、ゴミ漁りにシフトする。

 

 

590:名無しの寺生まれ

この罰当たりぃぃぃぃ!!?

 

 

591:名無しの鬼っ娘

アハハハハハハハ! もう最っ高! 気に入った、家に来て妹をファックしていいよ!

 

 

592:名無しの記憶探偵

何とも言えない有様だね……

>>591 鬼っ娘嬢、君妹がいたのかね?

 

 

593:名無しの鬼っ娘

うん、萃香のやつ。

 

 

594:名無し魔法提督

マジか。萃香成り代わりだとずっと思ってた。

 

 

595:名無しのごとき氏

聖杯大戦が終わった後、みんなで打ち上げやってて酒が入ってたんだよ。

それでついうっかり。

 

 

596:名無しの鬼っ娘

酒は飲んでも飲まれるなってね。

 

 

597:名無しのごとき氏

まあ結果として冬木一帯、ポイ捨てのゴミとかが一掃されたからなぁ。

で、聖杯(紙コップ)だけど浄化された冬木の大聖杯の元まで流れ着いてた。

多分だけど、浄化した時の影響が大聖杯に残ってて引かれ合ったんだろう。

それでなんか、柳洞寺の地下空間がダンジョン化していた。

 

 

598:名無しの装者

何なんですかその急展開!? 何が起きたんです?

 

 

599:名無しのごとき氏

うん、まあね? あの聖杯(紙コップ)、あの人が天使たちとオンラインゲームやってるときにジュース入れて飲んだやつみたいで……

その時ぼんやりと考えていた「いつかVRとかでもやれたらなー」って願いが残留思念的に付着していたみたい。それを大聖杯が読み取って叶えちゃったと。

 

 

600:名無しの寺生まれ

リアルデモハンじゃないっすか!!

 

 

601:名無しのごとき氏

しかも大聖杯、今まで回収していた英霊の魂をNPCとして再雇用。

ディルムッドはかつて叶わなかったアルトリアとの対決を果たし、エルメロイⅡ世はイスカンダルと再会。グレイにはめっちゃ礼を言われたけど、正直完全に意図外だったからなぁ……

 

 

602:名無しの装者

そこは素直に受けておいていいと思いますよ。

 

 

603:名無しのごとき氏

まっ、実際いい子だからな。グレイ。

 

 

604:名無しの装者

むう……

 

 

605:名無しのごとき氏

ダンジョンの扱いに関しては、また問題になっているんだけどな。

時計塔は霊墓アルビオンに代わる魔術資源の採掘場として欲しがっているし、教会もあの人関連の地として聖地認定したがっている。

凛はイシュタルからは解放されたけど、冬木のセカンドオーナーとしてもうてんやわんやだよ。

ぶっちゃけここからは金と政治の戦争だからな。後は勝手にやってくれって話だ。

 

 

606:名無しの記憶探偵

何というか、お疲れ様としか言いようがないか。

そう言えば、当初の目的だったアナザーウィザードウォッチはどうなったのかね?

 

 

607:名無しのごとき氏

ああ、それはきっちりと回収した。

慎二本人が、もう必要ないからって。

 

 

608:名無しの鬼っ娘

ふぅん? 力にこだわっていた分、意外だねぇ。

 

 

609:名無しのごとき氏

運命の悪戯ってやつかな?

アナザーウィザードの力を使い続けた副作用で、死活していた魔術回路が励起したみたいだ。

つまり、本当に魔術師の仲間入りを果たしたってわけ。

 

 

610:名無しの装者

よかったじゃないですか! これで報われるってことですよね?

 

 

611:名無しのごとき氏

いや、そう単純な話でもないだろうさ。

一つ得れば、いずれはそれが物足りなく感じる時が来る。

これから冬木は一大霊場として超一流の魔術師やら何やら集まってくるだろうし、多分彼らに対してコンプレックスは感じ続けるだろう。

 

 

612:名無しの魔法提督

足るを知る、ってやつだな。

ないものねだりを続けて身を崩すなんて、よくある話だ。

 

 

613:名無しのごとき氏

プライドが高いし、また自棄になってバカやらかすかもしれないけどさ。

その時はみつづりんがまた殴って止めるだろう。仮面ライダーになった彼女がな。

 




《ちょっとした設定集》
〇美綴綾子
Fate/stay nightに登場する主人公の同級生で、女傑。この世界線では成り代わり転生者。「慎二を自らの手で止める」という目的の元ごとき氏からアナザーアギトウォッチを借り受け、その因子を受け続けたことで本物の仮面ライダーアギトとして覚醒する。今回の一件後、慎二とは付き合い始めたらしい。ちなみに士郎やエミヤからは、アギトの力を羨ましがられているとか。


〇黒包丁
料理番組「仮面ライダーカブト」と登場したアレ。闇の料理人の頂点に受け継がれる。


〇デーモンハンター
某聖人男性がプレイしていることで有名なオンラインゲーム。




Q.シリアスな展開や風呂敷を広げ過ぎた設定をうまく畳む方法は?

A.全部ダイジェストにするんだよ!

という訳で、fate/stay nightの皮を被った何かでした。超展開の連続でも「大変だったね」で解決できる。そう、ダイジェストならね!
慎二はアナザーウィザードが似合うキャラだなぁ、ということで起用しました。魔術師の家系ながら魔術師ではなく、同じ冬木の名家である凛が宝石魔術を使うのに対しアナザーウィザードの顔はひび割れた宝石である点などです。当初の想定ではアナザーライダー周りで決着がつく予定でしたが、何時の間にか話が広がり過ぎて……(汗
もう行きつくところまで行ってしまえ! と。それでは長文失礼しました。


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落第騎士の英雄譚編

メタルクラスタホッパーとか見ていると、アナザーライダーに変身している方がまだリスクが少ないんじゃないかと思う今日この頃。


 ――七星剣武祭合宿の最終日。

 黒煙の上がる校舎と、幻想形態の固有霊装(デバイス)によって気を失った生徒や教師たちが倒れ伏している中。

 駆け付けた破軍学園合宿参加者たちと、襲撃者である暁学園の生徒たちの戦いは膠着状態に陥っていた。

 ――否、そもそも戦いと呼べるほどのものが発生していない。

 

 暁学園を裏切った有栖院凪による奇襲は読み切られ、逆に囚われ連れ攫われた。

 それを追いかけていった面々と、この場に残った面々。

 まさに一触即発と言える中で、いつの間にか瓦礫の上にチョコンと腰を下ろした“彼女”の存在に全員が気づいた。

 

(何よ、アレは……)

 

 ステラ・ヴァーミリオンは伐刀者(ブレイザー)である。

 それも平均的な伐刀者の30倍ともいわれる規格外の魔力量を誇る、破格の才能の持ち主。

 生まれながらの強者。世界的にも希少なAランク。

 

 しかしながら視線の先で何をするでもなく、両の頬に手を当てぼんやりとしているだけの無害そうな黒衣の少女相手に、冷や汗と緊張が止まらない。

 

 それはステラだけではなかった。

 この場にいる全員が、同じ感覚に囚われていた。

 

 魔力量は、伐刀者の全てではない。

 ステラはその事実を、日本にきて強く思い知らされた。

 同時に魔力の強大さは、大きなアドバンテージであるのも揺るぎない事実。

 物理法則を越え、自らの意思一つで運命すらも捻じ曲げる。

 強力な伐刀者の戦力は近代兵器すらも上回り、時に“個”が“軍”すらも超越する。

 その観点から言えば、膨大な魔力を生まれながらに身に纏うステラは紛れもない怪物。

 だが――

 

 あの黒衣の幼女は、底が知れなかった。

 

(――いえ、そもそも底なんてあるの? Aランク(わたし)どころじゃない。EXランク(規格外)とでも呼ぶべき……)

 

 あの幼女は攻撃的な兆候も、敵意も一切向けていない。

 文字通り、ただその場にいるだけ。

 何かを害しようという魔力の発露は感じられない。

 ――にもかかわらず、意識を外せない。

 自然にあふれ出る魔力のみで、この場にいる全員を超越している。

 その認識を共有しているが故に、全員動けない。

 

 例え敵意も害意もなくとも、黒衣の幼女が動いた際の空気の揺らぎ一つで自分たちは埃のように飛ばされてしまうのではないか――そんな幼稚な錯覚すら現実味を帯びているのだから。

 結果として始まるはずの戦いはゴングを鳴らすことはなく、膠着状態に陥っていた。

 否、例外はあるのだが。

 

「……………………」

 

 幼女の前に一人陣取り、一心不乱に手に持ったスケッチブックに筆を走らせ続ける少女。

 いや、少女というには些か体つきが豊満すぎる気もするのだが――

 その様子からは鬼気迫るものが感じられ、母校を半壊状態に追い込んだ怨敵の一人であるはずなのだが、『戦闘など知った事か』と言わんばかりの一心不乱さにどこか毒気を抜かれてしまう。

 

 そして――

 

「――――――――」

 

 チラリと視線を向けた先に横たわる、道化師風の人物。

 真っ先に幼女に対して何かしようとした人物であり、おそらく反撃を受けたのだろう。

 それ以降はピクリとも動かず、倒れ伏したままである。

 おまけに暁学園といったか。その面々は、誰も倒れた道化師に駆け寄ろうともしない。

 薄情な事――と、ステラは他人事のように心の奥底で呟いた。

 

 現時点でステラには知る由のない話だが――

 この日世界各地で1000を超える“人間だと思われていた物”が機能不全を起こすという摩訶不思議な事件が発生したのであるが――

 この場この時においては、特に関係のない話だ。

 

(ともかく、状況から見て暁学園側でないことは間違いない)

 

 むしろ破軍学園の面々よりも、暁学園側の方があの幼女に対して警戒を抱いているようにすら見える。

 

(それに――)

 

 単純な警戒以外の部分でも、ステラは意識が外せなかった。

 自分以上の伐刀者がいるということは、ステラもよくよく認識している。

 同時に、いつかは彼ら彼女らを上回る事が出来るだろうという確信もまた、ステラの中には存在した。

 

 ――だからこれは、初めての経験。

 明確に生物として格上の相手との遭遇。

 不謹慎ながら、胸の鼓動が止まらない。

 心臓が早鐘を打ち、まるで自分の中にいるナニカが『早くここから出せ!』と激しくノックを続けているかのように。

 

 そんな妄想じみた考えに囚われた数瞬の間に、幼女は目の前に移動していた。

 

「えっ? あっ――!?」

 

 狼狽えてしまった自分を叱咤する。何をやっているのか! と。

 心臓の早鐘が急激に増す。まるで触発されているかのように、共鳴するかのように。

 

「我、オーフィス」

 

 幼げな声が響き渡り、一瞬遅れで目の前の幼女が発したものだと脳が認識する。

 場の空気が張りつめる。

 これまでアクションを起こさなかった強大な“ナニカ”が、初めて動いたことで。

 ついでにスケッチブックの少女もついてきて、絵をかき続けていた。

 メンタルが強すぎる。

 

「えっと、私はステラ。ステラ・ヴァーミリオン。その……あなたは一体誰――いえ、何なの?」

 

 その場にいた全員の声を代弁するように、言葉を紡ぐ。

 カリカリと筆を紙面をなぞる音だけが続く中、幼女は我関せずとばかりに告げた。

 

「似た者同士」

 

「へっ?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「りゅ、う……?」

 

 突然告げられた言葉に戸惑いながらも、胸にストンと落ちる。

 ずれていたパーツがかみ合ったような感覚。

 自分でも分からないが、異常なまでの納得感。

 否、本当は最初から分かっていたはずだ。ずっと目を逸らしていただけで――

 

(そう、わたし、は――)

 

 ドオォォォォォォン!!!!

 

 突如遠方で、轟音と閃光が鳴り響いた。

 

「何が――っ!?」

 

 空に伸びる光の柱。あまりにも神々しい、幻想的な光。

 大気圏を突破しているのではないかとすら思わせる、光の槍の如き柱。

 まるで天と地を縫い留めるがごとき威容。

 その余波は大気を揺るがせ、強大な風を生みステラたちの元にまで届く。

 

「ああっ!?」

 

 風にあおられ飛ばされていくスケッチブックに少女が悲しそうな声を上げる中、暁学園の中の誰かが呟いた。

 

「アレは――」

 

「お仕事、終わった?」

 

 オーフィスと名乗った幼女が片手を振ると、銀のオーロラが彼女の横で揺らいだ。

 

                     ◇

 

「あっ――」

 

 圧倒的なまでの虚脱感。胸の奥底に、ポッカリと穴が開いたかのような感覚。

 今大切な人が失われたことを、黒鉄一輝はどうしようもなく悟ってしまった。

 

『はじめまして、こんなところでどうしたのかな?』

 

 幼少期。伐刀者として最低限の魔力しか持たず、訓練に参加させてもらえなかった頃。

 そんなときに出会った、黒鉄家分家の少しだけ年上の少女。

 

『なるほど――伐刀者としての訓練は難しいが、私の武術鍛錬で良ければ付き合うかね?』

 

 投げかけられた言葉に、一輝は一も二もなく飛びついた。

 両親からさえ碌に相手にされなかった落ちこぼれ。

 そんな自分に手を差し出してくれた人。

 

『私たちは似た者同士のようだ。まあ、仲良くやろうじゃないか』

 

 豪快に笑った彼女。

 “オンオフの効かない、自分の魔力を完全に隠蔽する” という伐刀絶技を持つ彼女は、周囲からは非常に評価されにくい人物だった。

 伐刀者としての分かりやすい基準である魔力量が、客観的に判別できないためだ。

 故に彼女の異名は『評価外』(ノーランク)。ただその戦績のみをもって名を馳せる伐刀者。

 

『いやはや、これはすさまじい“武”の才だな。ほれぼれする。才でいえば、私よりは遥かに上だな』

 

 謙遜だろうと思った。

彼女の武は、学び始めたばかりの一輝の目から見ても図抜けていた。

 ――だが褒められて嬉しかった。

 その思いは、今も鮮烈に胸に焼き付いている。

 

『ちょっと世界を見て回ろうと思ってね。知り合いの爺様を真似して世直しついでに。……えっ? 着いてくる? マジで?』

 

 一輝が小学校を卒業したばかりの頃。

 突如旅に出ると言い出した彼女に、一輝は同行を申し出た。

 道場破りをしつつ日本を回る計画もあったが、その方が実りが多いと判断したからだ。

 ――ほのかな恋心が存在したのも、事実なのだが。

 

 実際に、旅の経験は一輝の実力を大きく底上げした。

 各国の伐刀者や武芸者との戦いのみならず、その国における習慣や風習、文化。

 日本に籠っているだけでは分からなかった、世界の現実。

 世界最強と謳われる剣士との邂逅と、僅かながら受けた手解き。

 魔人という、生まれながらの枷から解き放たれた者達の存在。

 

『いや、学校の卒業資格はあった方がいいよ。マジで。――私が言うのもなんだけどさ』

 

 その時は尊敬する従姉に思わずジト目を向けてしまったが、勧められることもあり破軍学園に入学。

 ――初年度こそ散々であったが、2年目からは学園の理事長と方針が大きく変わり見違えるほどに過ごしやすくなった。

 臨時コーチとして従姉を招聘してくれた日は、新たに理事長になった新宮寺にお礼の手紙を送ってしまったくらいだ。

 

 世界を回ったとはいえ一輝も日本人。やはり七星剣王の座への思いはある。

 同時にそれは、自分を鍛え上げてくれた彼女の評価へと繋がるだろうとも。

 

『七星剣王かー。格好いい称号じゃないか!』

 

 結局は彼女のその一言が、一輝の心を決めたのだったが。

 制限を取り払われた一輝は学園で瞬く間に名を馳せ、七星剣武祭への参加資格を手に入れた。

 

 そして剣武祭の為の合宿最終日である今日に至り、連れ攫われた有栖院凪を取り返すべく妹の黒鉄珠雫や従姉と共に追いかけ、暁学園の校舎に辿り着いたとき、そいつは現れた。

 

『一輝、珠雫。二人はアリスちゃんを。アイツの相手は、私がする』

 

 異形の怪人。頭をよぎったのは覚醒超過というワード。

 魂ばかりか肉体まで変質した魔人。

 ほとんど見たことのない、従姉の全力の戦闘態勢。

 雰囲気のみで肌が切れそうな真剣さ。

 

 そんな彼女に、一輝は共に戦うことを申し出た。

 妹を先に向かわせ、渋る彼女の隣で己が霊装である陰鉄を顕現させ――

 

 間違えた。

 失敗した。

 判断を誤った。

 ――共に、戦うべきではなかった。

 

 自分という足手まといさえいなければ、こんな結果にはならなかった。

 

 過程を省き結論だけ言えば、一輝は庇われた。そして彼女は致命傷を負った。

 例え事実がどうであるにせよ、それこそが一輝の主観だった。

 

『ここが命の捨て時、かぁ』

 

 彼女は儚げに、寂しそうに、申し訳なさそうに微笑んだ。

 一輝は悟った。彼女が何をしようとしているのかを。

 存在だけは聞いていた、その禁技を。

 

『ごめんな、いー坊。いや、一輝。……私はいく。達者でな』

 

 やめろ――やめてくれっ!!

 

 その言葉は届かず、彼女は異形の怪人に切りかかり、そのまま切っ先を己に向け――

 

『――我裂獄鬼哭陣』

 

 すべてが、爆ぜた。

 一言で言うならば、自爆。

 己の命と引き換えに、周囲全てを消滅させる文字通りの最終奥義。

 その存在を聞いたとき、決して使わせてはならないと心に刻んだ技。

 

 一輝の目の前で彼女は光の柱となり――この世界から消滅した。

 

「どうして、こんな……」

 

 陰鉄を取り落とす。

 力なく、地に膝をつく。

 どうしてかって? 決まっている。己の未熟さ故。

 身の程を弁えず、無謀な戦いに臨んだ結果。

 

 守れた。庇われた。いつかは自分の手で、守れるようになると誓った女性から。

 そして彼女は喪われた。永遠に。

 

「黒坊っ!!」

 

 放心した一輝に、鋭い声がかけられる。

 聞きなれた声。虚ろに目を向ければ、そこには着流しの小柄な女性。

 

「西京、先生」

 

「何があった! あのバカはどうしたっ!? さっきの光の柱は――」

 

「姉さんは、もう……」

 

 破軍学園の臨時教師である西京寧音は、それだけですべてを察したのか唇を強く噛む。

 

「あんのっ、バカがっ! くそぅ!!」

 

 消え去った彼女への怒りか、間に合わなかった自分への怒りか。

 やがて白煙が消え、二人の前に大きく抉られた大地が姿をあらわし――

 

「残念だったな」

 

 絶望的な声が、背後から放たれた。

 

「あ――」

 

 異形の怪人。悪魔の如き様相。

つい先ほど彼女が道づれにしたはずの存在は、何事もなかったかのように健在だった。

 

「些か後味の悪い役回りではあるっ――!?」

 

 怪人の体が、不可視の力場に拘束される。

否――押しつぶされる。周辺の大地諸共に、星に穿たれるクレーターのように。

 

「てめぇが……」

 

 西京寧音。KOK世界ランキング3位。夜叉姫。そして、重力使い。

 

()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 怒髪天をつく、とはこのことか。

 迸る魔力。刻一刻と増す重力。吊り上がり、血走った目。

 夜叉と化した彼女を前に、怪人は――

 

「悪いが、お前の順番は後だ」

 

『Evol』

 

 ――その音声と共に、寧音の支配下にあった重力が押し返された。

 

「――っ!?」

 

 虚を突かれる寧音。その隙に、既に次の行動は完了していた。

 

「――は?」

 

 寧音は思わず、そんな呆けた声を上げる。

 異形の掌に生まれたソレが何なのか、理解できてしまったが故に。

 

「星が死んだ後に残るもの――そして、星の運命を終わらせる力。もっともこれは、些か小ぶりではあるが……」

 

 総てを飲み干す黒天。――()()()()()()()()()()

 怪人はそれを、無造作に放り投げる。近くにある、街の上空に。

 

「それでも、街一つ消し去るくらいなら難しくはない。さて、ここらで限界の一つや二つ超えてみるか? ――Are you ready?」

 

「このっ!! ちくしょうがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 射殺すような視線で怪人を睨みつけ、続いて未だに膝をつく一輝に視線を送り――拳を握り締めたまま重力を操り飛び出す。

 街を飲み干す闇を何とか出来るとすれば、自分かライバルである女性しかありえないと知っているが故に。

 目をかけている教え子と、街の人々を天秤にかけ。

 

 その姿を見送った怪人は、未だ膝をついたままの少年に声をかける。

 

「――さて、それでは仕切り直しという訳だが」

 

「………………」

 

無冠の帝王(アナザーワン)。八つ当たり程度なら、付き合ってやってもいいぞ?」

 

「八つ、当たり――だと?」

 

「今回の一件は、全てあの女の因業。そしてお前には3つの選択肢がある。

 そこでそうやって腑抜けたままでいるか。

 オレに向かって来て、何も為せずに屠られるか。

 ――それとも、その剣でオレを討つか」

 

 怪人はおどけたように肩を竦め――

 

「ああ、4つ目の選択肢もあったな。女々しく侍の真似事でもして、あの無意味な女の後を追うか――」

 

「――無意味なんかじゃないっ!!」

 

 胸に熱が灯る。

 掌に陰鉄を握り込む。

 両の足で、大地を踏む。

 いつの間にか流していた涙を、振り払う。

 

「あの人は、僕に手を差し伸べてくれた。

 あの人は、僕に剣を教えてくれた。

 あの人は、僕に世界の広さを見せてくれた。

 あの人は、あの人に会えて! 僕は初めて愛というものを知った!!」

 

 相手はあの人が敵わなかった相手だ。

 自分が敵う道理はない。

 だがそれがどうした。

 今必要なのは、そんな賢しい考えではない――!!

 

 自らに纏わりつく鎖を砕く。

 知識としては知っていた覚醒。魔人への第一歩。

 

「フハハハハハッ……俺はこの時を待っていた! このために黒鉄一輝を追い詰めてきたのだ!」

 

 嗤う怪人。

 しかしそんな思惑も、運命を越えた高揚さえも今はどうだっていい。

 ――総ては、目の前の相手を斬るという一点に!!

 

「僕の託されたもの(さいきょう)を以て、お前の最強を打ち破る!」

 

 

                      ◇

 

 

転生者愚痴りスレ Part21

 

 

3998:名無しのごとき氏

いや、マジでこういうの後味悪いんだが。逆にテンション変な風に上げないとやってられん。

 

 

3999:名無しの似非伐刀者

うん、それはマジですまないと思ってる。

 

 

4000:名無しの魔法提督

いやそこ、なんで当たり前のように生きてるんだよ。ちゃんと死んどけよ。

 

 

4001:名無しの似非伐刀者

客観的に見れば私もそう思うけど、今度こそ老衰で死ぬって決めてるんだ。

 

 

4002:名無しの装者

ええっと……なんでこんなややこしい事に?

 

 

4003:名無しの寺生まれ

というか“似非”伐刀者なんすね。

 

 

4004:名無しの似非伐刀者

あー、その辺私の経歴から説明する必要があるね。

言ってみれば私は多重転生者。

『トキワ来たれり』って知ってる? 一旦その世界に転生して死んだ後、落第騎士の世界に転生した形になるね。

 

 

4005:名無しの記憶探偵

ああ、記憶しているよ。確か打ち切りになった作品だったね。

 

 

4006:名無しの似非伐刀者

私は続き、期待してたんだけどね。まっ、それはいいか。

で、似非からも分かる通り私は伐刀者じゃありません。

トキワ来たれりに登場する志念抜刀法って技を使えてね。

傍目には固有霊装にも見えるけど魔力はない。

だから“魔力を隠ぺいする伐刀絶技”だって勘違いされて、伐刀者扱いに。

――まあ私としても、その方がいろいろ隠さずに便利だったけど。

 

 

4007:名無しのごとき氏

補足すると、落第騎士に関しては原作知識はなかったそうだ。

 

 

4008:名無しの鬼っ娘

それで主人公にがっちり絡んじゃう当たり、運命力を感じるねぇ。

ちなみに志念抜刀法ってどんな技?

 

4009:名無しの似非伐刀者

簡単に言うと、心の力を武器に変える技。

 

4010:名無しの魔法提督

ザケル?

 

4011:名無しの似非伐刀者

>4010 ザケらない。

ほら、普通に考えて一族ぐるみで虐待されてる子供とかほっとけないでしょ?

これでも一応、世の為人の為自分の為ずっと戦い続けてきた訳だし。

ただなー。一族の権力やら何やら強すぎて、警察やら児童相談所やらに相談してもあんまり効果なさそうだったし。

何より張本人のいー坊が父親大好きすぎてねぇ。

なんであんなのがよかったんだろ?

 

 

4012:名無しの記憶探偵

虐待に関してはデリケートな問題だからね。やる方も、やられる方も。

 

 

4013:名無しの似非伐刀者

それでいー坊のことはいろいろと面倒みててね。

いや、実際個人的に楽しかった部分もあるんだけどね?

さすがに志念の技は教えなかったけど、武に関しちゃ飲み込みが早いからねぇ。

色々と教え込んじゃった訳だよ。

 

 

4014:名無しの寺生まれ

へぇー、武術も凄いんスか?

 

 

4015:名無しの似非伐刀者

すごいよー。トキワ来たれりの世界、『史上最強の弟子ケンイチ』とクロスしている部分があるからね。無敵超人の爺様とも知り合い。

 

 

4016:名無しの魔法提督

それは強い。

 

 

4017:名無しのごとき氏

ガチで強かったぞ。多分似非伐刀者も超人級。

 

 

4018:名無しの似非伐刀者

なんせ年季が違うからね。

他にもいー坊とは一緒に世界を回ったりしてねぇ。

色んな国を回って、いろんな武芸者に会ったよ。

いやぁ、エーデルさんとか傑物だったね。

 

 

4019:名無しの魔法提督

何というオリ主ありがちルート。

 

 

4020:名無しのごとき氏

これで天然だって言うんだからな。

 

 

4021:名無しの似非伐刀者

私も原作知識を得た後だとマジでそう思うよ。

え? なんでこんなに知り合ってるの? ってレベル。

 

 

4022:名無しの寺生まれ

自分で言っちゃうんスねぇ。

 

 

4023:名無しの似非伐刀者

ま、そうこうしている内にねぇ。いー坊にえらく懐かれちゃってね。

自意識過剰とか言わないでほしいけど、男女的な意味合いで。

 

 

4024:名無しの魔法提督

やーい、この自意識過剰ー!

 

 

4025:名無しの装者

提督さん、ダメですよそういうの。

でも要するに惚れられたってことですよね? そこまで問題だったんですか?

原作に遠慮したとか?

 

 

4026:名無しの似非伐刀者

装者ちゃんありがとう。

や、個人的な話だけど大問題な訳。

カミングアウトすると、私今生の体こそ女だけど中身はちゃんと男だから。

 

 

4027:名無しの装者

……はい?

 

 

4028:名無しの鬼っ娘

あー、転生時のTS問題かぁ。

でもアレって割と肉体に引きずられるって言わないっけ?

 

 

4029:名無しのごとき氏

彼の場合はもう少し事情が特殊でな。

なんせトキワ来たれりの世界で、男のまま数百とループしているんだ。

なかなか男としての在り方は抜けないだろうさ。

 

 

4030:名無しの寺生まれ

え? トキワ来たれりの世界ってそういう世界観なんっスか?

 

 

4031:名無しの似非伐刀者

まあねー。簡単に言えば主に神々の襲来で終末が訪れて、ヒロインの子がその未来を回避するために何度もループしてる。私の場合は、さすがにあの子ほどはループしてないけど。

 

 

4032:名無しの記憶探偵

なるほど。先ほど年季が入っているといったのはそういうことか。

 

 

4033:名無しの似非伐刀者

大体20になる前には死んでたけど、それでも数百回分だからね。

異能者ともロボットとも武芸者とも妖怪とも神とも殺し合ってたから、自分で言うのもなんだけど経験豊富な訳よ。

おかげで才能はあんまりなかったけど、割と強くなったし。

いー坊もそうやって鍛え上げた技をどんどん吸収してくれるからねぇ。

悔しくもあったけど、やっぱり楽しさの方が上だったかな。

 

 

4034:名無しの装者

でも男女的な関係にはなれないと。

 

 

4035:名無しの似非伐刀者

そこは退けない一線。

いー坊がどう思うのであっても、私からは弟で弟子だから。

あの子も頑なだから、言葉で諦めたりはしないだろうし。

それに他の問題も出てきてねぇ。

ごとき氏の協力を取り付けることができたから、完全にあの世界から離脱することにした訳。

 

 

4036:名無しの記憶探偵

ふむ、その問題とは?

 

 

4037:名無しの似非伐刀者

私が伐刀者じゃないんじゃないかって疑いをもたれ始めた。

いー坊が最低ランクの魔力しか持たないって理由で、公的機関が潰しにくるような国に。

多分近々適当な罪をでっち上げられるか、暗殺者が放たれただろうね。

 

 

4038:名無しの装者

そんなのひどいじゃないですか!

 

 

4039:名無しのごとき氏

そういう現実もあるってことだ。

 

 

4040:名無しの魔法提督

よくある話だな。

 

 

4041:名無しの似非伐刀者

分かりにくいかもだけど、この世界では伐刀者は絶対的な戦力。

人によっては、個人で国を落とせるほどに。

だからさ、今の体制下ではそれに対抗できる力は求められていないんだよ。

黒鉄のご当主とかは、特にそういう混乱を嫌うから。

志念抜刀法は、死んでもおかしくない訓練が必要だけど原理的には誰でも使える技。

色んな意味で、潰される理由はあるって話。

 

 

4042:名無しの装者

でも……

 

 

4043:名無しの似非伐刀者

それにね。私も結果だけは色々と残している訳だから、暗殺者が来るとすれば相応の実力者。

そしてそういう実力者には、私も知り合いが多いんだ。

……すき好んで、知り合いと殺し合いはしたくないんだよ。

 

 

4044:名無しの鬼っ娘

それで世界を捨てるってわけかい。

 

 

4045:名無しのごとき氏

完全に死んだことにしてな。

オレも相応に派手に暴れてきたから、『これならあの女でも死んだだろう』と思わせることはできただろうさ。

 

 

4046:名無しの似非伐刀者

でも一輝に発破までかけてくれたのは素直に助かった。

一応遺書とかは用意していたけど、あそこで塞ぎこまれたら私も嫌だから。

 

 

4047:名無しのごとき氏

八つ当たりに付き合っただけさ。初恋を終わらせたわけだからな。

それにこれからの似非伐刀者のことを考えると、キレイな思い出にしておいた方がいい。

 

 

4048:名無しの寺生まれ

これからの予定って言うと?

 

 

4049:名無しの似非伐刀者

あー、まあそのね? うん、白状すれば男に戻ります。

 

 

4050:名無しの魔法提督

そういや心は男で体は女だったか。

 

 

4051:名無しの似非伐刀者

うん、実を言えば世界を回っていたのは、性転換でできる伐刀者を探していたのもある。

 

 

4052:名無しの記憶探偵

ふむ、一輝君からすれば、好きなあの人がいきなり性転換とか悪夢にもほどがあるね。

 

 

4053:名無しの鬼っ娘

同性愛に目覚めちゃうかもねー。

 

 

4054:名無しの装者

そういう初恋の終わり方は、ちょっと……

 

 

4055:名無しのごとき氏

だから完全に死んだことにした部分もある。それも劇的に。

そうしておけば、後から多少違和感を感じても誤魔化せるだろう。多分。

 

 

4056:名無しの記憶探偵

ところで性転換には、人形師の力を借りるのかね?

 

 

4057:名無しのごとき氏

うんにゃ、ペアを使う。

 

 

4058:名無しの装者

ペアですか? 何でしたっけ?

 

 

4059:名無しのごとき氏

トリコの世界。地球のフルコースのスープ。

それを飲んだ副作用で、TSできるやつ。

 

 

4060:名無しの魔法提督

ごとき氏お前トリコの世界にまで行ってるのかよ!?

しかもフルコースが手に入る立場!?

 

 

4061:名無しのごとき氏

行ってるっていうか、拠点の一つを置いてるよ。

世界の旅って言っても、その方が便利だし。

 

 

4062:名無しの寺生まれ

てっきり根無し草だと思ってたっス。

 

 

4063:名無しのごとき氏

あの世界の転生者と色々協力してな。

三虎のメテオスパイスで人間界が壊滅した時があったろ?

アレで株とかが暴落したんだけど、数年もすれば回復するのは分かってたから。

その転生者と協力して株を買いまくったりして、一財産は築いている。

 

 

4064:名無しの装者

えっと、その、いいんですかソレ?

 

 

4065:名無しのごとき氏

人間界の食料危機の時、いろいろと食料調達やら移送やらもしたからなー。

ちょっとくらいはいいだろうさ。

オーロラカーテンがホント便利だった。

トリコからも結婚式に呼ばれる程度の仲。

ちなみにあの世界で調理技術も学んでいるぜ。

 

 

4066:名無しの記憶探偵

それはエミヤでも料理で勝てないわけだね……

 

 

4067:名無しのごとき氏

恒星豆をブラックホールを使って炒ったBHコーヒーは、未だに誰にも真似できない専売特許だ。

 

 

4068:名無しの寺生まれ

そりゃ誰にも真似できないっスよ!? というかエボルの力の使い道がぁ!?

 

 

4069:名無しのごとき氏

エボルトも原作でコーヒーが趣味だったし、リスペクトで。

 

 

4070:名無しの似非伐刀者

ちなみに私もあの世界に籍を置く予定。いや、ご飯が楽しみ。

 

 

4071:名無しの魔法提督

ごとき氏、似非伐刀者。我々はこれまで君達の境遇に同情的だったが、今なら憎しみで殺せそうだ。

 

 

4072:名無しの鬼っ娘

ねーねー、ごとき氏。こないだウチの世界にも開通してたよね?

今度なんか持ってきてよ!

 

 

4073:名無しのごとき氏

えっ? いや、あの時会った紫さんにお酒とつまみあずけてたけど?

今度の宴会の時にでも、みんなでどうぞって。

 

 

4074:名無しの鬼っ娘

……あんのスキマ妖怪っ!! 独占しやがったな!?

そーいややけに最近『彼、こんどいつ来るのかしら?』とか聞いてきたから『おー、アイツにも春が来たのかな? かなっ?』とか2828してたけどそーいうことかー!?

 

 

4075:名無しの寺生まれ

美味しいものには勝てなかったんスねぇ……あの人も。

 

 

4076:名無しの装者

ごとき氏さん、いつの間にか東方世界に行ってたんですね。妹さんには会えたんですか?

 

 

4077:名無しのごとき氏

ああ、元気にやっているのは確認した。

とは言っても既に別れは済ませた身だ。

壮健な事さえわかれば、今更顔を出すつもりはない。

 

 

4078:名無しの装者

でも、せっかくお互い生きていて、会おうと思えば会える状態なんですよね?

だったら私は、会った方がいいと思います。

 

 

4079:名無しの魔法提督

>4077 ――で、本音は?

 

 

4080:名無しのごとき氏

いやさ、『オレはこの世界と運命を共にする』とかやっといて、今更顔出し難いじゃん? 言わせんなよ恥ずかしい。

 

 

4081:名無しの装者

ええぇぇぇぇ。なんというか、その、ガックシ。

 

 

4082:名無しの似非伐刀者

ところでごとき氏。聞いてなかったけどもうペアって確保できてるの?

 

 

4083:名無しのごとき氏

ああ、問題ない。だけど最初はもうちょい軽めの食材から舌を慣らした方がいいだろうな。

あの世界の食材尋常じゃなくうまいから、稀にうますぎてショック死とかあるから。

 

 

4084:名無しの寺生まれ

嘘のようなホントの話。そんな人がいたんすか?

 

 

4085:名無しのごとき氏

ビルス様。

 

 

4086:名無しの魔法提督

破壊神殺すなよ、この神殺し。

 

 

4087:名無しのごとき氏

辞世の句は、『もうこれで終わりでいい……』でした。

その後ウィスさんが生き返らせてたけど。

ところでちょっと相談があるんだけど、いい?

 

 

4088:名無しの記憶探偵

どうかしたのかね?

 

 

4089:名無しのごとき氏

いやね? ウチの幼女が王馬君拾ってきたんだけど、どうしよう?

 

 

4090:名無しの魔法提督

元居たところに返してきなさい。




《ちょっとした設定集》

〇似非伐刀者
最初トキハ来たれりの世界に転生。チートはループ時の経験引継ぎ。刃隠衆として数百に上るループの中で技を鍛え上げ戦闘経験を積み、ループの最中弾かれるように落第騎士世界に転生しなおした。落第騎士において体は女、心は男。ちなみに結構な美人さんだが、同性の弟に接する感覚で一輝に接していたら惚れられた。仕方ないネ!
ちなみに自爆技の我裂獄鬼哭陣に関しては、ループ中に使いまくっていた経験で自分が死なない範囲で使えるようになっています。なのでごとき氏と相打ったように見せかけて、普通にオーロラカーテンで離脱していました。


〇黒鉄一輝
似非伐刀者によって良くも悪くも人生が歪んだ人。ごとき氏との戦いで魔人として覚醒。傷心は、寧音先生とかステラとかが何とかするだろう。多分。


〇オル・ゴール
傀儡王の異名で知られる魔人。突如現れたオーフィスに興味を持ち道化師越しにちょっかいをかけようとしたら、糸を伝って“蛇”による逆襲を受け大ダメージ。現在療養中。オーフィスを探しているようだが、世界から離脱しているため当然見つからない。


〇黒鉄王馬
力こそを絶対とする信条の持ち主。突如現れたオーフィスの圧倒的な力を感じ取り、ついてくる。その際「お前こそが俺の理想だ(力的な意味で)」とか言っちゃったため、周囲からはロリコン認定された。ごとき氏も、「まあ名前的にちょっと縁があるかな?」ということで面倒を見ている。


〇八雲紫
幻想郷のスキマ妖怪。以下コメント。
「違うの、ちょっと味見しようと思ったらいつの間にか全部なくなっていたの。信じて」
八雲藍「とても幸せそうな顔でした」


〇ビルス様
ドラゴンボール超における破壊神の一人。ドラゴンボール世界に出現したエボルの力を持った転生者の一件でごとき氏とは遭遇。その際トリコ世界の食材を食べる機会があったが、うまさのあまりにショック死。ついでに命がリンクしている界王神さまも死亡。ウィスさんに生き返らされたが、現在は「破壊神を引退してあっちの世界に移住するんだ」と少年のように目をキラキラさせて、後進を育成中。


 以上、落第騎士の英雄譚編でした。幾つかパターンを考えていましたが、迷った末にコレに。落第騎士はぶっちゃけにわかなので、どこか変な部分があるかもですが大目に見てもらえば。寧音先生が一輝君の方に来たのは、例の光の柱を見たせいです。一輝君は追い込めば追い込むほど輝くと信じている! 好きな人はTSとかは、さすがに心が折れるかもですが。ちなみにブラックホール攻撃は、寧音先生が対処できなければ普通に解除する予定のごとき氏。何とかしてしまいましたが。
 オーフィスがオーロラカーテンを使っていましたが、ごとき氏からラーニング。鳴滝さんや海東も使ってましたし、きっとやれるはず。
 エボルの力に関しては、オーマジオウがやったようにウォッチから能力だけを引き出している形に。というかエボルのドラゴンボールに出演してもやっていけそうな設定面よ。


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ハイスクールD×D×???編

今回からスレ数の部分はなくしています。元々フレーバーみたいなものですし、時系列とのすり合わせが地味にややこしかったので(汗

2020/2/21 セリフ微修正


 俺――兵藤一誠は転生悪魔だ。

 元々は人間だったんだけど、神滅具「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」を宿していたおかげで殺されたところを、悪魔であるリアス部長に助けられ俺自身も悪魔になった。

 ちょっと性的好奇心が強いだけのごく一般的な高校生だった俺は、悪魔に転生したころは仕事もあまりうまくいかず、戦力としても仲間たちには大きく劣っていた。

 

 でも悪魔界隈におけるプロスポーツ的なレーディングゲームや幾つかの事件を通し、我ながら随分レベルアップしたものだと思っている。

 世界も大きく情勢が変わり、所謂三大勢力――悪魔、天使、堕天使は和平にこぎ着け、少なくとも表面上は平和になった。

 

 もっとも和平の切っ掛けになった禍の団とかいう連中は、首魁であったオーフィスとかいうドラゴンがいなくなったらしく、尻すぼみになって破れかぶれで特攻してきたやつ等、禍の団を抜け出して独自の行動をとりだした奴ら、別の勢力に吸収されたり鞍替えした奴らと、半ば自己崩壊に近い形で実質的に壊滅したそうだ。まったく、悪い事はできないもんだぜ。

 

 世の中も平和になり、俺も俺自身のハーレムを築き上げる為に上級悪魔を目指して日々鍛錬と悪魔稼業にいそしむ毎日。え、学業はって? ハハハ、まあそっちは気にしない方向で。

 

 そんな高校生と悪魔の二足の草鞋で頑張っていたのだが、つい先日急に情勢が一変した。

 なんでもソウルなんちゃらとかいうやつ等が、悪魔に宣戦布告してきたと言うのだ!

 

 死神とかいうやつ等が中心になった組織らしいが、基本的に他の勢力との関りが薄くリアス部長のお兄さんをはじめとした魔王様たちでもその詳細は把握していないらしい。

 

 今はオカ研の部室で、その話題について部長や眷属のみんなと話していた。

 

「所謂“冥府”の死神たちとはまた別勢力なんですよね?」

 

 小猫ちゃんの問いかけに、リアス部長が頷く。

 

「ええ、その通りよ。とは言っても魂を扱うという関係上、交流はあるそうだけど……ただ、冥府は今回の件には不干渉を宣言しているわ」

 

尸魂界(ソウル・ソサエティ)、でしたか。彼らの言い分では、“悪魔の駒”の多用が世界の崩壊に繋がるって話でしたよね」

 

 悪魔の駒――悪魔以外の種族を悪魔への転生させる、出生能力に乏しい悪魔が種の存続の為に作り出したツール。俺自身その力で死の淵から救われた。

 木場の言葉に、リアス部長は端正な顔を歪める。

 

「一方的な言いがかりだわ。実際悪魔の駒が誕生してからもう5世紀以上。問題があるのならとっくに目に見えて何か起きているはずよ。第一、これまで神話間の争いや事件に不干渉を貫いてきた癖に、今更偉そうにしゃしゃり出てこられても不快なだけ」

 

 怒れる部長も素敵だが、大きく息を吐いてヒートアップした頭をクールダウンさせる。

 

「以前から向こうからの使者が出向いて話し合いは持たれていたようだけど、ここにきて急に方針転換をはかったみたい」

 

 まったく、話し合いで解決できるならそれがいいだろうに。

俺も悪魔らしくなってきたのか最近は力に惹かれる部分もあるが、平和なのが一番だ。

 

「無駄な争いは望むところではないけど、売られた喧嘩から逃げ出すほど悪魔は臆病ではないわ。戦争を喜ぶべきではないんでしょうけど、イッセー。これはあなたにとってもチャンスよ」

 

「えっ? 俺ですか?」

 

「ええ、上級悪魔を目指しているんでしょう? だったら戦争の場は功績と名を上げるには絶好の機会よ」

 

 戦争――戦争か。正直実感が湧かないが、これまで巻き込まれてきた事件の延長戦と考えればいいだろうか?

 

「でも部長。相手の戦力とかは分かっているんですか?」

 

「詳細は不明――だけど強大な力を持っているのなら、隠し切れるものじゃないわ。実際あらゆる神話に彼らの名は刻まれていない。少なくとも三大勢力ほどの力はないでしょう」

 

 なるほど、実力のある相手なら自然とネームバリューがつくというのは分かる。

 実際神話の知識なんて、ゲームや漫画くらいのものしかなかった俺でも知っている名前が、冥界を探せばいることだし。

 

「でも油断はダメよ? 勢力としては弱小でも、強力な個人がいる可能性は否定できない。それこそ先の禍の団の残党を取り込んでいるかもしれないわ。そう考えれば、今回の強気も納得のいく話だし。――相手の目的が悪魔の駒である以上、原材料があるアグレアスが攻撃目標になる可能性が高い。そちらの防衛には手練れが配置される予定だけど、私たちだって負けてられないわ。私の愛しい眷属たち――その力を存分に発揮し、冥界を守るのに力を貸してちょうだい!」

 

「「「「「「はいっ!!」」」」」」

 

 ――そんなやり取りをしたのが、1週間ほど前の出来事だった。

 

                       ◇

 

 アグレアスの地獄は、和風の出で立ちをしたおかっぱ頭の男が銀のオーロラと共に現れたところから始まった。

 

『卍解――逆様邪八宝塞(さかしまよこしまはっぽうふさがり)

 

 その一言と共に咲いた巨大な花のような台座。

 敵襲――そう判断した()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そこからは悪循環。敵襲と、訳も分からずに殺し合う悪魔たち。

 状況が判明しないうちに駆け付けた援軍は、更に同士討ちを始める。

 あの男を中心に何らかの精神攻撃が働いている――そう判断された時には、少なくない悪魔が犠牲になっていた。

 

「我ながら、雑兵退治が板につき過ぎやなぁ」

 

 決して雑兵などではない。

 アグレアスに防衛についていたのは、主に中級から上級の悪魔達なのだから。

 

「まっ、これも戦争っちゅうことで堪忍や。恨むんなら交渉で済ませんかった己らを恨んでくれや」

 

 夥しい死体が重なる中で、何でもないように男を独り言ちる。

 

「っと、そろそろ魔王はんやら超越者とか言うんが出てくる頃合いやな。……さすがに藍染やユーハバッハクラスとは思いとうないけど、現ルシファーとやらも大概ヤバい奴っちゅうことやし。ええっと……情報通りならあの辺やな」

 

 男は空中都市の一点を眺める。

 観光都市として知られる場所であるが、感じられる霊圧は少ない。

 観光客や一般人はとっくに避難させられているのだろう。

 

「結界の発生装置も同士討ちの隙に壊させてもろうたし……うーん、花丸の仕事っぷりやな」

 

 自画自賛する男――平子真子が己の顔の前で空を掻くように手を動かすと、次の瞬間にはその顔面はツタンカーメンの如き仮面に覆われる。

 

「『虚閃(セロ)』」

 

 膨大な霊圧の奔流が、アグレアスの遺跡へと殺到した。

 

                        ◇

 

 アグレアスの惨状は、リアス・グレモリーとその眷属にも伝わっていた。

 当初こそ駆け付けようとしたものの兄であり魔王であるサーゼクスからストップがかかり、味方内で同士討ちが起こるという不可解な状況の中、安易に援軍を送ることもできなくなっていた。

 

 否――そもそも人の心配をしている余裕がなかったというのもあるのだが。

 

「楽しませてくれそうなヤツじゃないかっ!!」

 

 発見した“敵”に対して拳を振りかざすは、共闘していた今代にして最強の白龍皇――ヴァーリ・ルシファー。

 二天龍の片割れたる“白”の力を纏った鎧。触れれば10秒ごとに相手の力を半減する異能。しかしながら肉薄した拳は届くことなく、その身ごと突如現れた銀のオーロラに飲みこまれる。

 

 飛び出した先を把握する――先ほどから僅かにずれた地点。遠くには跳ばされていない。

 その事実を理解し、振り返ったヴァーリの視界に浮かんだのは赤黒いオーラを纏った異形の回し蹴り。

 

 カウンター気味に放たれた一撃は白龍皇の鎧を捉え、打ち据え、砕く。

 声を上げる間もなく意識が闇に落ちるヴァーリ。

 そして蹴りの余波とも言える赤黒い衝撃波は、その延長線上にいた赤龍帝の鎧を纏った一誠にまで届き、その身を嵐のように蹂躙した。

 

「があああああっ!?」

 

 吹き飛ばされ、地を転がり、鎧は解除される。

 ただの余波でこの威力――蹴りの直撃を受けた好敵手は生きているのかと、一誠はふらつきながらも立ち上がろうとする。

 

「てっ、めえ! よくも部長やみんなを!」

 

「騒ぐな、殺してはいない。そしてわざわざ息の根を止める気もない」

 

 悪魔である一誠が言うのもなんだが――まさに悪魔そのものといった外見の異形は肩を竦めた。

 

 仲間たちは、すでに皆倒れ伏している。

 接敵し、臨戦態勢に入ろうとした瞬間皆やられていた。

 

「お前、一体何者なんだっ!? 何でこんな真似をする!」

 

「通りすがりのアナザーライダーだ。別に覚えておく必要はない」

 

 突如――冥界の空で光が爆ぜた。

 目を細める一誠だが、感じる破滅の魔力には覚えがあった。

 

「今のは――」

 

「現ルシファーと黒崎一護の戦いが始まったか。ならばこちらも急がねばな」

 

「っ! 何をするつもりだっ!?」

 

 異形――アナザーダークディケイドが手をかざすと、銀のオーロラが巻き付くように一誠の体を拘束する。

 銀のミノムシのようになった赤龍帝に、冷酷に告げた。

 

この世界(めいかい)を破壊する」

 

 

 

 

                        ◇

 

 

 

 

転生者愚痴りスレ

 

211:名無しのごとき氏

やほー。

 

 

212:名無しの寺生まれ

どもっス。オーフィスちゃんの里帰りはどうでした?

 

 

213:名無しのごとき氏

ちょっと世界を破壊してきた。

 

 

214:名無しの装者

いきなり物騒ですね!? 何があったんですか!?

 

 

215:名無しのごとき氏

正確には、破壊というより分断といった方が正しいんだけど。

いや、まいったよ。久々に出向いたら何か戦争前夜になってて。

 

 

216:名無しの記憶探偵

ふむ、オーフィス嬢がいなくなったことで三大勢力間の和平が失敗。

それで戦争に繋がったということかね?

 

 

217:名無しのごとき氏

うんにゃ、予想外の方向。

前行ったときは分からなかったけど、ハイスクールD×DだけじゃなくてBLEACHがクロスしている世界観だった。

それで死神と悪魔で戦争に発展してたわけよ。

 

 

218:名無しの魔法提督

原因は何なんだ? 赤龍帝が女性死神をドレスブレイクしたとか?

 

 

219:名無しのごとき氏

いや、悪魔が使う悪魔の駒っつーアイテムが原因。

 

 

220:名無しの鬼っ娘

どんなのなのさ?

 

 

221:名無しの寺生まれ

悪魔以外の生き物を、強制的に悪魔に変えるアイテムっスね。

確か同意抜きで強制的に悪魔にされた人とかもいたような……

 

 

222:名無しの装者

つまり死神が人間を守るために立ち上がった、ってことですか?

 

 

223:名無しのごとき氏

あー、そこんとこ勘違いされがちだけど、死神が守るのは人間じゃなくて世界のバランス。

極端な話、無理やり悪魔に変えられる人間がいても現世のやり取りには手出しはしない。

……問題がそこで終わるなら、だけど。

 

 

224:名無しの鬼っ娘

つまり、何か問題があったってわけかい。

 

 

225:名無しのごとき氏

悪魔に変えられた人間はさ、魂が変質して元の輪廻転生の輪には戻れないらしい。

少なくとも死神たちの弁ではそういう話だった。

 

 

226:名無しの魔法提督

あー、つまり滅却師たちと同じケースってわけか。

 

 

227:名無しの装者

どういうことです?

 

 

228:名無しの記憶探偵

BLEACHの世界観では、あの世とこの世の魂の比重が壊れると、世界そのものの崩壊に繋がるのだよ。つまり転生した悪魔が増えれば増えるほど、魂の比重が傾くという訳だ。その魂の比重を監視・管理する死神がバランサーと呼ばれる所以だね。

 

 

229:名無しの寺生まれ

それで魂の比重を傾ける滅却師とも戦争になったんスよね。

でも話し合いとかはされなかったんスか?

 

 

230:名無しのごとき氏

してた。悪魔の駒によって誕生した転生悪魔は当初こそ数が少なかったけど、近年は増えているそうでね。今回の問題が発覚して死神サイドとしても悪魔サイドに再三交渉をしにいったみたいだけど、うまくいかなかったらしい。

 

 

231:名無しの装者

話が通じない相手だったんですか?

 

 

232:名無しのごとき氏

言葉は通じるよ。言葉は。

そーだなー。装者ちゃんはさ、例えば異端技術で世界が滅びるって言われたら実感湧く?

 

 

233:名無しの装者

そりゃあまあ。実際何度もピンチになった訳ですし。

 

 

234:名無しのごとき氏

じゃあ地球温暖化で世界が滅びるって言われたら?

 

 

235:名無しの装者

……正直実感が湧かないです。理屈は分かるんですけど。

 

 

236:名無しのごとき氏

だろ? 多分悪魔サイドとしてはそういうレベルの認識。

人間だって、年々地球の温度が上がって南極の氷が溶けているって言われても、「じゃあ世界みんなで手を合わせて温暖化防止に取り組みましょうか」ってならないのが現実。

結局、どこかで決定的な破綻が起きるまでは本気になれないんだよ。

ましてやあの世とこの世の魂の比重なんて、死神くらいしか分からないバランス感覚だ。

多分悪魔的には「何言ってるんだアイツら?」って感じだったんだと思う。

提督辺りは、この感覚覚えがあるんじゃないの?

 

 

237:名無しの魔法提督

あー、分かる。

ロストロギアの回収任務とか、現地民に説明してもどうしても話がかみ合わない事があるからなぁ。

どんなにヤバいものだって言われても、納得が追い付かないというか。

どうでもいい物品ならまだしも、生活や文化に根差したもんならなおさらに。

 

 

238:名無しの寺生まれ

あっ、自分もちょっと分かるっス。

こっちの目から見たら明らかにヤバい物品を持ってる人も、口だけじゃなかなか分かってもらえないっスからねぇ……

 

 

239:名無しのごとき氏

そんな感じでね。

悪魔的には「よく分からない奴らがいちゃもん付けてきて、自分たちの当然の権利を害しようとしている」って話になるわけ。そりゃ説得も通じんわな。

 

 

240:名無しの記憶探偵

当然の権利、か。

悪魔達にとっては、人間を同族に転生させるのは当然の権利だと?

自ら望んだ場合ならばともかく、無理やりともなれば権利も何もないと思うのだが。

 

 

241:名無しのごとき氏

あー、要するに悪魔からの人間に対する認識か。

オレの視点からの、個人的な偏見交じりの意見で良ければ説明するけど。

 

 

242:名無しの記憶探偵

拝聴しよう。

 

 

243:名無しのごとき氏

一言で言うなら――悪魔にとって人間は“有益な資源”かな。

 

 

244:名無しの装者

資源、ですか。

 

 

245:名無しのごとき氏

まっ、全員が全員そう考えている訳じゃないだろうけどさ。

中には愛を育むやつや友誼を結ぶってこともあるだろう。

でも総合的かつ平均的な感覚は、多分そうなると思う。

本人たちがどう思っているかは知らないけど、そう的外れな意見でもないと思う。

 

 

246:名無しの魔法提督

なんかちょっとしっくりきた。

 

 

247:名無しのごとき氏

有益な資源だからこそ、守るし保護もする。

はぐれ悪魔や他勢力に荒らされないよう、できれば政府直轄で管理したい。

 

 

248:名無しの記憶探偵

人が家畜や漁場・観光資源を保護するように、か。

 

 

249:名無しのごとき氏

当然の話だが、そもそも悪魔は人間じゃない。

脳味噌の構造も魂の造りも精神性も文化も違う生き物だ。

そんな相手に、自分たちより人間の観点を優先してくれってのが筋違いだろうさ。

変に人間の味方ぶっているから、違和感を覚えることがあるだけで。

 

 

250:名無しの鬼っ娘

なるほどねぇ。言われてみれば、地獄の埴輪神や893も結構そんな感覚かも。

人間はあくまで資源で道具ってね。

 

 

251:名無しの寺生まれ

人間が他の生き物に対してやっていることって訳っスね。

人間が“される側”に回っているだけで。

 

 

252:名無しのごとき氏

ま、視点や価値観の話はこの辺りでいいだろう。

悪魔の駒だけでも問題だったんだけど、最近は天使たちも同じようなことをやろうとしているってことがわかってね。

 

 

253:名無しの魔法提督

御使いってやつだったか。

 

 

254:名無しのごとき氏

死神サイドが警戒したのが、他の勢力も同じようなことを始めるんじゃないかってこと。

現状の数ならまだ大丈夫でも、多勢力の人外が見境なく人間を転生させて自陣に加えるようになれば完全に魂のバランスが崩れだす。

そうなる前に、状況を鎮静化する必要がでてきたってわけ。強引なやり方になったとしても。

 

 

255:名無しの寺生まれ

それで戦争っスか。

 

 

256:名無しのごとき氏

死神サイドとしても、実際苦渋の選択だったみたいだけど。

千年血戦篇が終わってそう月日が流れていない状況。

死神の数も減って、瀞霊廷のダメージも回復し切っていないまま。

そんな中で開戦に踏み切る必要があった訳だから。

だからこそ、オレみたいな雇われが必要とされたんだけどさ。

 

 

257:名無しの鬼っ娘

そーいえば誰から雇われたのさ?

 

 

258:名無しのごとき氏

瀞霊廷の四十六室に転生者が居てそいつから。

あと悪魔サイドの政治家にも転生者が居て、そっちもグルになってた。

 

 

259:名無しの魔法提督

マッチポンプじゃねぇか。

 

 

260:名無しのごとき氏

実際そこまでキレイに状況は整えられなかったけどさ。

死神サイドとしては、今の状態で無茶な進軍はしたくない。

悪魔サイドとしても、死神のヤベーやつ等を相手にしたら被害がバカにならない。

だからお互いコッソリ手を結んで、この戦争最小限の被害で終わらせよーぜってなった訳。

 

 

261:名無しの装者

戦争の裏側を見てしまいました……

それで世界の破壊――というか分断になったんですか。

 

 

262:名無しのごとき氏

死神サイドとしては別に悪魔を滅ぼしたい訳じゃなくて、転生悪魔を増やしたくなかっただけ。

だからこそ悪魔の駒の原材料である結晶体の産地の破壊と、悪魔が人界に出てこれないように冥界に封をする。最悪この片方が為せれば、それで良かったんだ。

オレが請け負ったのは、冥界の封印。

アナザーワールドを作る応用で次元の壁を分厚くした感じ。

冥界は地球と面積が変わらないから、さすがに苦労した。

 

 

263:名無しの寺生まれ

苦労したで済ませられるだけすごいと思うっスけどね。

それで冥界は完全に封印できたんスか?

 

 

264:名無しのごとき氏

うんにゃ、わざとちょっと穴は空けてある。

転移しようと思えば何とかやれなくもないけど、今まで見たく気軽にやるにはとてもコストが見合わないってレベルで。

 

 

265:名無しの鬼っ娘

なんで完全に閉じなかったのさ?

 

 

266:名無しのごとき氏

完全に分断したら、何が何でも突破しようと死に物狂いになる可能性があるだろう?

だったら最初から、”大規模の転移は無理でも少人数なら何とかなる”レベルにしておいた方がいい。

不便なだけなら、それで何とかやりくりしようとするから。

 

 

267:名無しの記憶探偵

必要は発明の父、逆もまた然りという訳か。策士だね。

 

 

268:名無しのごとき氏

アグレアスの方も結局派遣された死神が落としたんだけど、これがまた怖い話でね。

例の悪魔の政治家、アグレアスの防衛に不穏分子や敵対する派閥を当てていたらしい。

 

 

269:名無しの魔法提督

これを機に自分の手を汚さずに始末させたのか。

全滅しても良し、生き残ってもアグレアスを落とされたら責任を追求できる、守り切れたらそれはそれでよし。うーん、嫌いじゃないぜ。そういうの。

 

 

270:名無しの装者

私はそういうのはちょっと……

 

 

271:名無しのごとき氏

悪魔の駒も、元は人口問題が発端。

だからそのことも相談受けて、トリコ世界の妊娠率を上げるような食材を幾らか見繕っている。

悪魔相手にどこまで効果があるかは分からんが、うまくいけばそれも功績にするだろうさ。

他所の種を転生させるのに比べたら、よっぽど真っ当だしな。

 

 

272:名無しの記憶探偵

なかなかに強かな人物のようだね。

 

 

273:名無しのごとき氏

力じゃ魔王にかなわない分、頭を巡らせて立ち回る必要があるってさ。

 

 

274:名無しの寺生まれ

そういや現地の主人公勢はどうなったんスか?

 

 

275:名無しのごとき氏

D×D勢の方は、オレが相手をしといた。

一護とかち合わせて、変に力を取り込まれて進化されたら厄介だし。

ただオーフィスが居なくなった影響か、多分原作ほどの力はなかったかな。

 

 

276:名無しの鬼っ娘

ってことは一護の方も参戦してたんだねぇ。

 

 

277:名無しのごとき氏

それなんだけど、最初は「尸魂界と冥界の戦争だから死神代行の業務ではない」ってことで参加させないつもりだったみたいなんだ。ただ……

 

 

278:名無しの魔法提督

ただ?

 

 

279:名無しのごとき氏

よりにもよって織姫ちゃんに襲い掛かった悪魔がいてな。

「可愛くて、胸がでかくて、珍しい力をもったレアものだ。よし、自分の眷属に加えて可愛がってやろう」って。

それでイッチーブチギレ。

 

 

280:名無しの寺生まれ

そりゃキレるっスわ。虎の尾を踏んだどころじゃねぇっスよ。

 

 

281:名無しのごとき氏

イッチーだけじゃなくて、この一件で一気に死神サイドからも悪魔へのヘイトが高まってね。

 

 

282:名無しの鬼っ娘

なんでさー?

 

 

283:名無しのごとき氏

容姿がいいっていうのはそれだけで高ポイントだが、加えて彼女の力で命を救われた死神もそれなりにいる。新入りの死神には「どの隊にいけば織姫さんに会えますか?」って勘違いしているヤツまでいるそうだ。そんな子がコレクション扱いで狙われたとあっちゃあ、もうね。

要は、人気者に手を出したら悪者になるって話。

 

 

284:名無しの装者

アウトですね。

 

 

285:名無しのごとき氏

ぶっちゃけオレが一誠を抑えていたのは、万一にも織姫ちゃんにドレスブレイクさせないためだったりする。

そんなことになったらイッチーが超虚化するかもしれん。

 

 

286:名無しの装者

英断だったと思います。

ところでごとき氏さん。その破廉恥悪魔、ちゃんと仕留めました?

 

 

287:名無しのごとき氏

え、ちょ、装者ちゃん?

 

 

288:名無しの装者

息の根止めました?

 

 

289:名無しのごとき氏

いや、生かしてあるけど……

 

 

290:名無しの装者

そうですか。

 

 

291:名無しのごとき氏

え、ハイ。

 

 

292:名無しの装者

そうですか。はぁ……

 




ちょっとした設定集
〇D×Dサイド
オーフィス不在によりイベントの難易度が低下。主人公勢は相対的に実力が原作よりもダウン済。今回の戦争によりアグレアスが落とされ悪魔の駒の増産は不可能に。加えて冥界は封印され、人界との行き来が困難に。しかしながら新発見された作物により出生率の改善が見られ、とある政治家主導で手つかずだった土地を使って増産することに。


〇BLEACHサイド
戦争にて少数精鋭を派遣し、実質的に死者なしで冥界相手に戦略的勝利を飾ったため他の人外勢力から注目を集めることに。しかしならが神話間の争いには基本的に干渉するつもりはなく、最低限の交流のみに勤める。現在は涅マユリ主導の元、悪魔の駒摘出及び人間への回帰の研究が行われている。ちなみにごとき氏も研究対象として目を付けられている。

〇逆様邪八宝塞
平子真子の卍解。敵味方の認識を逆にし、同士討ちを誘発する。



以上、ハイスクールD×D×BLEACHな世界観でした。
今回D×Dが大敗を喫した形になりましたが、情報不足、過小評価、情報流出、平子の凶悪な対軍能力が噛み合った結果で、総力戦になればまた違った結果になったでしょう。また悪魔の駒による魂の変質は独自解釈になります。
次回は多分、番外編になると思います。


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番外編 after days

 クロスベルの路地裏を横切った先にある、年季の入ったアパルトメント。

 紙袋を抱えた少年が、ソッと一室の扉を開け慣れた様子で入り込む。

 少年は深々と帽子を被り眼鏡をかけているが、詳しく観察すれば分かる端麗な容姿は、世のマダムの興味を引くこと請け合いだろう。

 

「先生、ただいま帰りました」

 

「ああ、お帰り。何か面白い事はあったかね?」

 

 年季の入った椅子に深々と腰を掛けた男性が少年に問いかける。

 年齢は20代後半から30代半ばといったところだろう。

 眺めていたクロスベルタイムズを横にあるテーブルに置き、視線を動かした。

 

 対する少年は、少し困ったような顔をした。

 

「それがですね。ちょっとばかり予想外のお客さんが見えています」

 

「いよう、邪魔するぜ。探偵屋」

 

 少年の背後から姿を見せたのは、白い長髪に薄い色彩のサングラスをかけた、赤いコートの男。

 探偵屋と呼ばれた男――とある掲示板では記憶探偵を名乗る彼は、興味深そうに喉を鳴らした。

 

「ほう、君がここに来るとは意外だな。『劫炎』の。いや、異界の神と呼んだ方がいいかな?」

 

「劫炎で結構だ。いちいち日常の場で神なんて呼ばれたら、堅苦しくて仕方ねぇ」

 

 面倒くさそうに髪を掻きむしる男――マクバーンを前に記憶探偵は立ち上がった。

 

「ワトソン君、帰って早々で悪いが、コーヒーを頼めるかね? ああ、君は紅茶の方が好みだったかな?」

 

「コーヒーで構わねぇさ。しかし緋の小僧、今はそんな名前だったんだな」

 

「先生が決めた偽名ですよ。あと、今の僕は起動者ではないから緋の小僧は正確ではないですね」

 

 アナザーワールドから喚び出されたセドリックは、苦笑しながら肩を竦める。

 記憶探偵とマクバーンがテーブルを挟んで腰かけ、セドリックがコーヒーを運んできて話を再開する。

 

「それで今日は何の用なのかね? 自分探しの旅に出たと聞いていたが」

 

「間違っちゃいねぇが、言い方がアレだな……まあいい。探偵屋、アンタにも話を聞いておきたくてな」

 

「ふむ、まあ吝かではないが……」

 

「そういや東方で、仮面ライダーとかいうのに会ったぜ」

 

「……彼か」

 

「何だ、知り合いだったのか?」

 

「いいや、直接の面識はないさ。ただ情報としては知っていただけだ」

 

 記憶探偵がコーヒーを一口飲む。

 

「それって、先生と同じ――?」

 

「出典は違うだろうがね」

 

「ありゃ面食らったぜ。バカでかいニガトマトを被ったかと思うと鎧になったんだからな。最初はツァイスの生態兵器かと思ったもんだ」

 

「何なんですかその状況!?」

 

「ハハハ、さしずめニガトマトアームズといったところか。是非とも直に見てみたいものだ」

 

 セドリックが思わずツッコミ、探偵が笑う。

 

「――で、だ。アンタも“理の外”の存在なんだろう?」

 

「君相手に否定しても仕方ないか。その質問は肯定しておこう。――もっとも、このゼムリアで一般に“理の外”と呼ばれるモノとは、また別枠になるがね」

 

「そもそも“理の外”自体、全然一般的じゃないんですけどね」

 

「ワトソン君、それは野暮なツッコミというものだよ?」

 

 茶目っ気を込めてウインクする探偵に、セドリックは肩を落とした。

 

「そういや、スウォルツやオーフィスの居場所は知っているか? あいつらからも話を聞きたかったんだが」

 

「いいや、居場所は知らないね」

 

 連絡を取ることは可能だが、この場ではその札は伏せておくことにする。

 

「そうか。お前の紹介で結社に来たからひょっとしたらと思ったんだが……本題に入る前に、こいつはちょっとした好奇心なんだが――アンタは何を目的にしているんだ?」

 

「私はただの私立探偵。そう大層な目的などないさ」

 

「抜かせ。帝国とも共和国をはじめとした各国に伝手を持ち、結社や裏の勢力ともかかわりのある男がただの探偵なんて事があるか」

 

「これは随分と評価されたものだね」

 

 探偵はおどけたように肩を竦め、あっさりと答えて見せる。

 

「敢えて言うのなら、そうだね――英雄伝説の結末を見ることさ。例え、どんな結末であろうとも」

 

「へぇ……その過程でクロスベルが滅びることになっても、か?」

 

「ああ」

 

「ちょ、先生!?」

 

 平然と返す探偵に、セドリックが声を上げる。

 

「はは、アンタも大概にズレたヤツってことだ。あのピンク頭の嬢ちゃんとは偉い違いだ」

 

「ユウナ君か。私は別に、クロスベルの出身という訳でもないのでね。破滅を敢えて見過ごすつもりはないが、彼女ほどのこだわりはないよ」

 

「ユウナさんが聞いたらどう思いますかね」

 

「耳に入らなければいいだけさ。口を噤んでおいてくれたまえよ、ワトソン君」

 

 セドリックの呆れたような視線を、探偵は軽く受け流す。

 

「故郷であるせいか、ユウナ君は些かクロスベルを贔屓し過ぎているところがある。確かにクロスベルが帝国と共和国から搾取されていたのは事実だろうが、同時に二大国がバックにあるという信頼があったからこそ、ここまでの経済的発展を遂げたという一面は否定できない。――そもそもクロスベルは、先のディーター大統領が引き起こした事件の責任をとっていない」

 

「手厳しいですね」

 

「客観的な意見だよ。神機という武力をもって他国に自分たちのルールを強要しようとしたという事実は、帝国による占領によって有耶無耶になっているだけさ。むしろ帝国に占領されていなければ、他の国がどんな行動に出たことか。この先クロスベルが独立したとしても、まずは信頼を取り戻すところから始める必要がある。はっきり言って属州だった時よりもよほど茨の道だ。なんせ、責任をとってくれる親はもうどこにもいないんだからね」

 

 探偵は、空になったコーヒーカップをテーブルの上に置く。

 

「さて、少々話が脱線してしまったが本題に入るとしようか、劫炎の。ああ、ワトソン君。込み入った話になりそうだから、看板をclosedに変えておいてくれるかね?」

 

「はいはい、分かりましたよ先生」

 

「わりぃな、営業妨害するつもりはなかったんだが」

 

「かまわないさ。私にとっても興味深い話になりそうだ」

 

 

 

 

                      ◇

 

 

 

 

 闇の地下都市――ヨミハラ。人界の常識も法も通用せぬ異界。

 その中にそびえたつビルの一角で、欲望に満ちた都をガラス越しに見下ろす男。

 多国籍複合企業体創始者にして強大な吸血鬼――エドウィン・ブラックは部下の魔界騎士・イングリッドからの報告に耳を傾けていた。

 

「例の変種の雌オークたちは、日々その勢力を増す一方です」

 

「ふむ……」

 

「兵隊として運用していたオークたちはほぼ全滅。連中に捕らえられるか、都会デビューを諦めて実家に帰るか、この事態をやり過ごそうと逃げ出すか。個体として見るのなら大した能力はなくとも、使い捨てしても惜しくない、数を揃えることができる兵力が失われたのは痛手です」

 

「オーク以外の被害状況は?」

 

「はい。雄オーク同様――いえ、それ以上に性欲が強く雄オーク以外にも被害は拡大しています。特に能力の高い男性魔族が狙われる傾向が強いようです。雌オークたちは対魔忍たちと手を結んだようで、高位の魔族も次々と奴らの餌食に……。捕まった魔族は感度3000倍に改造された上、雌オークが常連の娼館で男娼として働かされている事例も確認できています」

 

「そうか……予想外の事態に発展したものだ」

 

 ブラックはヨミハラの夜景を見下ろしながら、自らの顎を撫でる。

 

「所詮はオークと放置しておいたのが仇となったか。これは少し、本腰を入れて駆除する必要があるかもしれんな」

 

「それですが、その……」

 

「なんだね? 続けたまえ」

 

 言いよどんだ部下に、ブラックは先を促す。

 

「……先ほど能力の高い魔族が狙われていると説明しましたが、その――ブラック様が狙われているとの情報も入っています」

 

「ほう――」

 

 ブラックは意外そうに――続いて面白そうに笑みを深めて見せた。

 

「ククク……まさかこの私が、オーク風情から情欲の対象として見られる日が来るとはな。侮られたものだ。――この認識は、改める必要があるな」

 

「いえ、その件ですが――駆除の件は私どもに任せて頂き、御身にはゆるりと報告を待っていただければ!! 必ずやご期待にっ――!?」

 

 イングリッドの言葉が止まり、冷や汗が褐色の肌を濡らす。

 ブラックが背中越しに放つ、冷たく鋭い殺気を受けたが故に。

 

「ふむ……残念だよ、我が騎士。ああ、本当に残念だとも。まさか君まで、私を侮っていたとは……」

 

「――いっ、いえっ! け、決してそのようなことは! 害獣駆除の如き雑務に、貴き御身を晒す必要はありません!」

 

「言葉にする必要もない事実と思っていたが、この際だ。はっきりと言っておこう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はオークになど絶対に負けん!!!!」

 

 

 

 

 

 ピコーン

 

 

 

 

                       ◇

 

 

 

 

「ありがとうございましたー!!」

 

 元気のいい挨拶に返答を返し、商売道具の片付けに入る。

 まだまだこの業界に入って短いが、それでも少しずつ慣れてきたという自覚が楽しい。

 

「あの……」

 

 片付けに集中していたためか、彼女が近くまで来ていることに気が付かなかった。

 今回の仕事の被写体――アイドル・南条光に。

 

「ええっと、どうかしたのかな?」

 

「すみません。勘違いかもしれないですけど、どこかで会ったことありましたっけ?」

 

 上目遣いで告げられた台詞に、ドキリとする。

 青春の甘酸っぱい恋の予感とかではなく――図星であったが故に。

 もっとも、それを言葉にするわけにはいかないのだが。

 

「あー、そうだね。前にプライベートでライブに行かせてもらったことがあるから、もしかしたらその時に僕の顔を見かけたんじゃないかい?」

 

「ううん、そうだったかなぁ……あの時の――いえ、急に変な質問してごめんなさい。写真、楽しみにしています!」

 

 お疲れ様でした、と言葉を交わし合い、彼女は離れていく。

 自らも片づけを終え、その後はレストルームの自販機でコーヒーを買う。

 一服していると、見知った顔から声をかけられた。

 

「うっす、調子はどうだ? カメラマン」

 

「――っと、お疲れさまです、プロデューサーさん。いい感じですよ。みんないきいきしていますから」

 

「そりゃあ重畳。隣いいか?」

 

 プロデューサーは煙草に火をつけ、大きく吸い、吐く。

 煙草の匂いが、鼻をくすぐる。

 

「最近はやれ禁煙だの副流煙だのと、喫煙者には厳しい世の中でなぁ」

 

「時代の流れですかね」

 

「だな……しっかし、あの時のヤツが今じゃカメラマンとは、世の中何が起こるか分からんもんだな」

 

 かつて自らが起こした事件。

 内々に処理され、闇に葬られた――しかし忘れてはならない罪。

 

「あなたが言ってくれたからですよ」

 

「あん?」

 

「『やったことは許されんが、写真そのものは粗削りだが悪くない』って」

 

 それからは必死で勉強した。

 生まれ直しても前世と変わらず適当に生き、適当に仕事をして。

 チートを得ながらも使うべき敵などおらず、持てあました挙句悪事に走った。

 そんな自分、多分生まれて初めて必死に何かに取り組んだ。

 

「両親からは『今の安定した仕事でいいじゃないか』って諭されましたけど、どうせ一度大失敗しているんです。だったらもう、ちょっとやそっとの失敗は怖くないって思い切って挑戦したんですよ。……拙い演技の上ですけど、あの人に勝って。そうしてあの娘に振り返ったら、とってもキラキラした顔をしていて。――あの顔は本来僕に向けられるべきものではないけど、それでも素敵な顔でしたから。今度はちゃんと、正面から残せるようにって……」

 

「……お前さん、よくそんなこっ恥ずかしい台詞素面で言えるな」

 

「冷静に指摘しないで下さい。自分でもそう思っているんですから」

 

 さてと、と椅子から立ち上がる。

 

「なんだ、もう行くのか?」

 

「ええ、次の仕事がありますので」

 

「そうかい……まっ、ウチのアイドルたちを上手に撮ってやってくれや」

 

「ええ、必ず」

 

 カメラを片手に、歩き出す。

 ヒーローでない自分には、誰かを笑顔にすることはできないかもしれないけど。

 それでもアイドルたちの笑顔を、誰かに届けることは出来るのだから。

 

 

 

 

                       ◇

 

 

 

 

「なかなか忙しそうじゃないか、義兄上」

 

 ロード・エルメロイⅡ世は、小悪魔な義妹の来訪にあからさまにため息を吐いて見せた。

 

「おいおい、可愛い義妹を前にその態度はいただけないと思うよ。それにこの国では、ため息を吐いたら幸せが逃げるというじゃあないか。――いや、それとも征服王との再会で幸福は使い切ってしまったかな?」

 

「レディ、見ての通り今は仕事が溜まっているんだ。からかいに来たのならまた今度にしてもらってもいいかな?」

 

「ああっ! ロンドンからはるばる会いに来たというのに、義兄上が冷たくて私の胸は張り裂けそうだよ!」

 

 よよよと泣く――真似をして見せるライネスに、エルメロイⅡ世はこめかみを抑える。

 するとケロリとした顔で、ライネスは臨時オフィスの机に腰かけた。

 

「しかし電話では聞いていたが、大概珍妙な事態になったものだね。電話で事情を聞いたときは、ついに義兄上の頭がオーバーフローを起こしてしまったのかと、高名な魔術医師に治療の予約をしてしまったものだよ。もちろん請求先は義兄上宛で」

 

「おいっ!? さすがに聞き捨てならないぞっ!?」

 

「フフフ……冗談だよ。冗談。しかし冬木大迷宮の利権さえ確保できれば、治療費どころかこれまでの借金くらい簡単に返せそうじゃないか?」

 

 からかうような顔から一転、ライネスは真顔でそう言った。

 

「魔導の大聖杯と真なる聖杯の恩恵を受けた神秘の迷宮。魔術協会も聖堂教会も、こぞって興味を示している――いや、自らの管理下に置きたがっている。実際当事者の義兄上にも、あちこちから声はかかっているんじゃないかい?」

 

「そこまで察しているのなら分かるだろう。下手に欲をかけば、四方八方からの袋叩きだ。そもそも私の本業は政治家ではない。おとなしく意見役兼調整役として、いい顔でもしておくとするさ」

 

「そうか。義兄上の七面相が見られると期待していたのだがね」

 

「まったく……安心するといい、レディ。確かに私は征服王との再会という本懐は果たしたが、約束を違えるつもりはない。いずれその時が来るまで、ロード・エルメロイⅡ世の名は預からせてもらうよ」

 

「そっか……ウン、それならいいんだ」

 

 ほんの一瞬だけホッとしたような顔を見せたライネスであったが――

 それをわざわざ指摘するほどの無粋さを、エルメロイⅡ世は持ち合わせていなかった。

 

「話は変わるが、アニムスフィアのロードがこの冬木の異変に相当な興味を示しているらしい。オルガマリーからの情報だから、間違いはないだろう」

 

「――それについては警告を受けている。『星見には注意しろ』とね。わざわざ念押しして警告されたからな。おそらく、頭を抱えるだけじゃ済まない厄介ごとだろう」

 

「へぇ、お優しいお友達がいるようじゃないか。――おっと」

 

 ライネスがヒラリと机の上から落ちたレポート用紙を拾い上げ、何気なく目を通す。

 

「なになに……『電脳世界への魔術回路を用いた干渉の可能性について』。何だね、これは?」

 

「ああ、冬木の魔術師――間桐の家から提出されたレポートだ。時間が出来た時でいいから、意見を貰いたいとね」

 

「可能なのかい、コレ? いや、可能だとしても魔術師の本分からは外れる気がするが……」

 

「検証は必要だが、着眼点は面白い。まあ君の言う通り、従来の魔術師とは違った意義になるだろうし、時計塔では評価されない項目だろうがな。そうだな――さしずめ“メイガス”ならぬ“ウィザード”といったところか」

 

 

 

 

                        ◇

 

 

 

 

 西京寧音は困惑していた。

 

「ここではかつて、“力の大会”と呼ばれる戦いが行われたそうだ」

 

 ステラ・ヴァーミリオンに修業をつけ、一通り形が整った後――

 突如何者かからの――いや、知っているけど知らない誰かからの襲撃を受け、銀のオーロラをくぐったかと思えばあからさまに地球ではない場所に降り立っていた。

 

「文字通り、宇宙の命運を決める戦いだったという――ふふ、今でも戦いの残り香をはっきりと嗅ぎ分けることができる。お前もそうだろう?」

 

「まあな」

 

 挑発するような声音の言動に、素直に返す。

 今立っている場所は、元は荘厳な闘技場だったのだろう。

 尤も行われた戦いの激しさを物語るように、原形などほとんどとどめていなかったが。

 

「――で、アンタは誰だい? くーちゃんのそっくりさん」

 

「そうだな。ま、夢みたいなものさ」

 

「つーことはここは夢の世界って訳かい」

 

「実際に夢だっただろう? こうやって決着を付けることは」

 

 自らの好敵手――新宮寺黒乃と瓜二つの“彼女”は獰猛に嗤う。

 

 夢――好敵手との戦い――決着。

 かつて焦がれて、あと一歩のところまで迫り、フラレてしまった苦い過去。

 

 寧音の知るくーちゃんと彼女は、よく似ているが細部は違う。

 髪はざっくばらんに切られ、服装は見慣れたスーツではなくタイトなジーンズと無地のシャツの上から黒コート。

 霊装は2丁拳銃ならぬ、銃口に凶悪な刃が取り付けられた2丁剣銃。

 新宮寺黒乃の限界を遥かに超える、肌を刺すような魔力の放射。

 何より目を引くのは、時計に置き換えられた右目。

 

 それでも寧音の魂は認めてしまった。

 彼女もまた“くーちゃん”であるのだと。

 

「やれやれ、うちも大概業が深いというか……恋焦がれすぎてこんな夢まで見るなんてねぇ」

 

 困惑は既になかった。そんな余計なものは捨て去った。

 自らの霊装である1対の扇子を顕現させる。

 同時に自覚する。自分は今、鬼のように嗤っているだろうと。

 

「――よしっ、じゃあ戦ろっか」

 

「ああ、私もずっと待っていたよ。この瞬間を」

 

 興奮で体中の血潮が沸騰するようだ。

 内から吹き出す魔力は、今なら簡単に限界を超えられそうだ。

 

「夜叉姫と世界時計(ワールドクロック)のカード、か。KOKの試合だったらスタジアムが溢れだすところだねぇ」

 

「フッ、良かったじゃないか。観客がほとんどいない分、今回は粗相をしても気にならないだろう?」

 

「……やっぱうちのことここまでムカつかせてくれるのは、くーちゃんくらいだわ」

 

「お褒めにあずかり光栄だな。――ああそれと、一つだけ訂正しておこうか」

 

 懐かしそうに、自嘲するように、彼女は笑った。

 

「今は時計ではなく災害――《時空災害(ワールドディザスター)》滝沢黒乃だ」

 

 黒乃が銃口を向け、寧音が扇子を開き――

 

 時間と重力が衝突した。

 

 

 

 

 

                        ◇

 

 

 

 

 

「やっほー、調子はどう?」

 

 魔王セラフォルー・レヴィアタンは、魔王サーゼクス・ルシファーが療養中の病院へと赴いていた。

 

「ああ、数日休ませてもらったからね。明日には公務には復帰するさ」

 

 ベットの上で下半身をかけ布団で覆った状態のサーゼクスは、手元の書類から目を離しセラフォルーへと片手を上げ返答する。

 その姿を見たセラフォルーは顔を顰める。

 

「もー、ちゃんと休んでなきゃダメじゃないの」

 

「心配してくれるのはありがたいが、傷は癒えているよ。それに早急な対応が必要な案件も多い」

 

 サーゼクスは1枚の書類を手に取る。

 

「陥落したアグレアスもそうだが、冥界封印への対応が急務だ。列車の運行や人間界との交易を主としていた業界への混乱とダメージが大きい。政府としての補助も必要になるだろう。しばらくは国庫の中身が寂しくなるな……尸魂界からの使者は?」

 

「ここ、防諜防音は問題ないよね?」

 

「ああ」

 

「使者とは交渉中。あっち側からしたら、もう戦争の目的は全部達成しちゃった訳だからね。停戦、もしくは終戦の為の条件のすり合わせ中。……今回の件に限れば、こっちが一方的に攻撃された展開だから国民感情を納得させるのが難しいけど。相手の手際を褒めるのもなんだけど、鮮やかにやられちゃったわね」

 

「現代の戦争、というやつだな。開戦の時点で終戦・戦後までを想定して最低限の労力と被害で事を進める。いつかのコカビエルのように、戦争を起こすためだけに戦争を起こすような輩でなかったのには助かった」

 

「――相手側からの条件を確認して思ったけど、内通者がいるわね。こっちの事情に詳しすぎる。多分、尸魂界と一緒にこの戦争の絵を描いた誰かがいるわ」

 

 サーゼクスの顔が僅かに険しくなる。

 

「それは、冥界政府へのダメージが目的で?」

 

「いえ、むしろこの戦争を冥界側にもできるだけ有益な形で終わらせるような意思を感じるわ。アグレアス防衛の面子も素行に問題があったり背後関係が怪しかったりするのが多いし、結果として彼らは一掃されている。幾つか公共事業の案も上がってきているし、さっき言ってた人間界関連の仕事で出てくるだろう失業者をそっちに回せそう」

 

「タイミングが良すぎるな」

 

「手際もね。他にも尸魂界側から“妊娠作用を促す作物数種”の提供を打診されているわ。終戦の条件としてね」

 

「それは……実際に効能が期待できるなら是非ともほしいが」

 

「サンプルは貰っているからこっちの研究所で検証中。あと人間界との行き来も完全にできなくなった訳じゃないけど、今までみたいに観光気分で大人数の移動は難しいわね。だからこそ、通行許可を与える悪魔の人格や背景の調査を強化すべきだと議題が上がっているわ」

 

「やれやれ、冥界政府にもとんだ狸が住み着いていたようだね」

 

「狸……ああ、日本の言い回しね。化け狸の転生悪魔なんていたかしらって思っちゃったわ」

 

 サーゼクスは苦笑して、書類から手を離す。

 

「何にせよ、少しばかり肩の荷が下りた気分だよ」

 

「だったら明日まではちゃんと休んでなさい。この機を逃したら、しばらく休みなんて取れないんだから」

 

「そうさせてもらうよ」

 

「それにしても――」

 

 セラフォルーがジーっとサーゼクスの顔を見る。

 

「えっと……何かな?」

 

「うーん、ちょっとショック受けてる?」

 

「……分かるかい?」

 

「まあ、それなりに付き合いは長いから。例の死神の男の子?」

 

「“力”は私にとって、数少ないセールスポイントの一つだからね。だからこそ、押し切れなかった事実は些か歯がゆいさ」

 

「――サーゼクスが入院させられるほどの実力者か」

 

「ああ、そうだな。お互い全力ではなかったとはいえ、強かった」

 

「あのまま戦っていたら、どうなった?」

 

「私も魔王だ。負けるなどと、そうやすやすとは口にできないよ。ただ――」

 

 サーゼクスは窓の外に視線を向ける。

 

「勝てたとも、言い切れない」

 

「随分と評価しているわね」

 

「少し話をしたが、イッセー君とそう変わらない年齢のようだ。――少なくとも、私があの年頃の時にはあそこまでの力はなかった」

 

「末恐ろしい話ね」

 

「リーアたちの前に現れた相手も、相当な手練れだったと聞いた」

 

「まだ全盛期には及ばないとは言え、二天龍を一撃で二枚抜きだからね。外見からすると、“破面(アランカル)”って種族じゃないかと思うけど。あっちの情報は少ないから、はっきりとは言えないんだけどさ」

 

「リーアたちが倒されたと聞いたときは肝が冷えたが、捕虜になった訳でも命に別状がある訳でもない。正直胸をなでおろしたよ」

 

 サーゼクスは同僚の魔王に向き直った。

 

「セラフォルー」

 

「何?」

 

「君は妹さん――ソーナ君がもし、他の種族に無理やり転生させられて奴隷扱いされたらどうする?」

 

「勿論そのクソッタレをぶっ殺すわ」

 

「だろうな。私だって家族がそのような目にあわされたらそうする。――そして彼も、そうだった。大切な人が、無理やり悪魔に変えられそうになったそうだ」

 

「そっか……じゃあ恨まれても仕方がないね」

 

「ああ、そうだな。仕方がない。……悪魔の駒を開発した時、アジュカは言っていたよ。『悪魔の駒は画期的な発明だが、同時にこれまでにはなかった劇薬だ。本格的な運用を始めれば現段階でも予想できる問題はあるし、想定外の問題もでてくるだろう』と」

 

 小さく息を吐くサーゼクスに、セラフォルーは頷く。

 

「でも使うことを選んだ」

 

「ああ、そうだ。理由は幾つかある。一つは言わずと知れた人口問題。悪魔の出生率の低さは、長寿故の人口爆発を防ぐための種族的特性という意見が有力だが、一度に多くの人民が失われた場合にはその特性が裏目に出る。それに、悪魔の中に新たな価値観を取り込むという目的もあった」

 

「多神話時代の到来、だね」

 

「異形の世界もグローバル化が進んでいる。もう三大勢力の内輪だけで済まされる時代ではなくなった。――しかし古い悪魔は頭の中が未だ神代で止まっていることも多いし、自力で意識改革をすることも難しい。リーアを人間界の学校に通わせているのも、これまでの悪魔にはなかった価値観を身に着けてもらいたかったというのもある」

 

「でもその割にはリアスちゃん、結構古い悪魔寄りっていうか、偏った思考だよね。……まあ原因はサーゼクスちゃんだろうけど。あの子もアレで、結構お兄ちゃんっ娘だから」

 

「言うな……私とて複雑なんだ。兄としては嬉しくもあるし、成長を願って送り出した身としては残念でもある」

 

「このシスコンめ」

 

「君に言われたくはないよ。コホン……話を戻そうか。後は現金な話ではあるが、魔王として日が浅かったかつての私には、具体的な結果が必要だった。誰の目から見ても分かりやすい、且つある程度早急に結果を出せる政策が」

 

「だね」

 

セラフォルーが同意する。

 

「あの頃はまだまだ政治基盤も貧弱だったからねー。とにかく国民からの支持を集めなきゃならなかった。その点じゃ、悪魔の駒政策は分かりやすかったわ。今でも現政権の代表的な政策が何かって言われたら、悪魔の駒の名前が出てくるだろうし」

 

「ああ――苦しい言い分になるが、どんな政策にも穴もあれば問題もある。ならばリスクを承知の上で、進むことも必要だろうと。問題にはその都度対処していけばいいだろうと、リターンの魅力に目を眩ませて」

 

 深々とため息を吐く魔王。

 

「その選択が、今回の結果に繋がってしまった訳だが」

 

「『魂の比重のバランス崩壊による、世界の終わり』か。確かに想定の斜め上の問題だったよね」

 

「軽いギャンブルのつもりが、いつの間にか身包みをはがされていたような感覚だよ。アジュカに検証を頼んでみたが、世界の仕組みそのものに関わる事だけに、それこそ天界のシステムを完全解析するのと同等以上の労力が必要だろうという話だった。加えて一度悪魔社会に普及させた悪魔の駒を撤廃するためには、それを超える労力が必要になるとも」

 

「悪魔の駒を開発した天才でも、か」

 

「悪魔の駒も、双方の同意抜きでの転生を出来ないように改造できないかと聞いてみたことがある。技術的には可能だが、イタチゴッコになるだろうと言われたよ」

 

「ま、そーだね。同意が必要なら、よりえげつない手で同意を迫る悪魔が出てくる。人質をとったり、精神的に追い詰めたり。そういうのに限って、『ちゃんと同意の上ですよ。そうじゃなきゃ悪魔の駒は使えない仕組みでしょう?』なんてほざいてくるのよね」

 

「彼方を立てれば此方が立たぬ、か。他の問題――大王派や国内国外への不穏分子への対処にかまけていたのも相まって、結局は現場レベルでの対応に留まっていたのが現状だ。焼け石に水レベルの結果にしかならなくとも、やっておくべきだったか。あの死神の少年からも言われたよ。『今のままでいいと、アンタは本当に思っているのか?』と。分かっている――ああ、分かっているさ。今のままじゃダメだってことくらい、ずっと前から分かっている」

 

 力なく天井を仰ぐ魔王。

 その表情は、国民には決して見せない弱々しいもの。

 

「かつて反政府軍として、私たちは当時の政権を打倒した。自分たちならもっとうまくやれると、自惚れてもいた。――だが現実は、上に立つというのは何とも難しいな」

 

「理想と現実は遠く、か」

 

「リスクとリターンを天秤にかけて、何が悪魔の未来にとって有益か判断し続ける。判断した後も、本当にこれで良かったのかという疑念が常に頭から離れない。一つ解決しても、また別の問題が生まれる」

 

「サーゼクスちゃんは真面目過ぎるし、博愛主義すぎるからね。表面上は余裕を取り繕っていても魔王の業務、実は結構いっぱいいっぱいでしょ?」

 

「ここだけの話、自分でもあんまり向いていないんじゃないかと思うことは多々ある」

 

「だったらいっそ全部放り出しちゃう? 今なら家族を連れて人間界にでも逃げちゃえば、追ってこれる相手は少ないわよ」

 

「それはダメだ」

 

 冗談交じりのセラフォルーの言葉に、サーゼクスはきっぱりと首を横に振った。

 

「私には魔王の位の簒奪者としての、責任と義務がある。悪魔の未来を少しでも良いものにする責任が。向いていないという理由で簡単に放り出せるほど、軽い席ではないよ」

 

「そうやって自分から貧乏くじを引きに行くんだから」

 

「耳が痛いな……セラフォルー、君は日本のアニメーションの『ドラ〇もん』を知っているかい?」

 

「そりゃあまあ。有名だし、映画とかこっちでも公開されているでしょう?」

 

「時々ね、私に超越者としての力ではなく、あの不思議なぽっけと道具の数々があればと――そんな益体もないことを考えることがある。そうすれば、どれだけの問題を解決できただろうと」

 

「……気持ちは分かるわ。私だって同じようなものだし。魔法少女は私にとって、みんなを笑顔にできる解決者の象徴。だから形から入って……早々はうまくいかないんだけどね」

 

 でもさ、とセラフォルーは続ける。

 

「多分、それはダメなことなんだよ。他人を見捨てられない気質と、実際に見捨てないで済むだけの力が合わさってしまったら――きっと最終的には不幸なことになっちゃう。“個”の意思で何もかもを決められる状況は、とても歪なものだと思う」

 

「――そうかもしれないな。結局は持てるもので何とかするしかない、か。今の戯言は忘れてくれ」

 

「はいはい。あと私に弱音を吐く分はいいけど、甘えるのは奥さん相手にしてね? 勘違いで嫉妬されて刺される醜聞とかに発展したら、さすがに魔王として――まあある意味悪魔らしいのかもしれないけど」

 

「尤も男女関係のトラブルは、悪魔と言えどギリシャ神群には到底及ばないがね」

 

「違いないわ」

 

 二人の魔王は顔を合わせて笑った。

 

「――今回の戦争は実質的に敗北だ。だが負けやバッドエンドを迎えたところで、簡単に生涯が終わるわけではない。冥界も、良くも悪くも変化を余儀なくされるだろう。冥界の封印は痛手だが、逆に言えば他の勢力も冥界に手を出すことは難しくなった。これを機に内政を進めて、国内の問題を片づけていくとしよう。これからもよろしく頼むよ、盟友」

 

「はいはい、わかりましたよ盟友。……そう言えばちょっと聞きたいんだけど」

 

「何だい?」

 

「例の死神の子、サーゼクスの目から見てどうだった? こう、人格的に」

 

「そうだね。短い邂逅だったが、拳を合わせれば伝わってくるものもある。芯の通った青年だと感じたが……」

 

「そっかぁ、じゃあちょっと残念だったかも」

 

「……? 何の話だい?」

 

「あなたと戦えるだけの実力があって人格的にも問題ないなら、ソーナちゃんのお婿さん候補にどうかなって。年齢的にも近いみたいだし。出会い方さえ違えば、お見合いとかセッティングできたかもしれないけど……」

 

「私と妻も元々敵対する陣営だったから、全くありえない話ではないだろうが……ただ彼には彼で思い人がいるようだったからな。というよりあまり他所の家庭の問題に口を出したくないのだが、婿の条件が私以上の実力者というのは厳しすぎではないかな? 自分で言うのも何だが」

 

「半端な男にソーナちゃんは任せられません!」

 

「そもそも妹の嫁ぎ先を心配する前に、自分の――」

 

「あ゛っ?」

 

「いや、うん、まあ今のは失言だった。忘れてくれ」

 

 ギロリと睨みつけられらサーゼクスは、シュンとした。

 その様子を見たセラフォルーは一転、柔和な表情に戻る。

 

「それにしても――悪魔の駒が問題になった以上、今スカウトしている相手に眷属になってもらうのは諦めるしかないか」

 

「ああ、そうだが……なんだ、眷属を増やすつもりだったのかい? 初耳だね」

 

「うん! もうすっごい魔法少女を見つけたの!」

 

 興奮した様子で、セラフォルーはサーゼクスに詰め寄る。

 

「神器持ちの人間なんだけど、サイラオーグ君と似たタイプなの! 魔力は大きくないけど、総合的な戦闘力は準魔王級から魔王級! にも拘らず、むやみやたらと力を振るうこともせず、状況次第では戦い抜きで事件を解決するセンス! 政治的な感覚や交渉術も優れていて、戦いの場以外でもすっごく頼りになるの!」

 

「ほほう……そのような人材が埋もれていたのかい。興味深いね」

 

「でしょでしょ! 魔法少女は副業で、普段はジムを経営しているんだけど……」

 

「ふむふむ……ふむ?」

 

「名前は高田厚志さんって言って――」

 

「すまないセラフォルー。まだ戦いのダメージが抜けきっていなかったようだ。耳の調子がちょっとおかしい」

 




《ちょっとした設定集》

〇エドウィン・ブラック
ノマドの創始者にして、強大な吸血鬼。
近々「パンツ脱がないラスボス」から「パンツ脱がされるラスボス」にクラスチェンジするかもしれない。


〇滝沢黒乃
王馬の面倒を見ることになった際、ごとき氏が「抜刀者の訓練なら抜刀者もいた方がいいだろう」と、原作で教師をやっていた人格者という安易な考えでアナザーワールドから召喚してしまったSSR。彼女は自身の詳しい経歴を語らないが、姓は結婚前の滝沢のままであり、魔人として人の枠を超えてしまっている。王馬の教導の見返りの一つとして“西京寧音”との再戦を望み、「あっちがOK出すなら……」いう条件で承諾された。アナザー黒乃。


〇高田厚志
“魔法少女プリティ・ベル”よりキャラのみ参戦。
職業ボディービルダーの、筋骨隆々とした35歳の日本人男性。笑顔がトレードマーク。
リィン・ロッドという神器を宿した、現役魔法少女である。その実力・人格を買われ魔王セラフォルーからスカウトを受けている。



以上、「あの人は今!」的なお話でした。ごとき氏が訪れた世界の、その後のお話。
アナザー黒乃は元々落第騎士世界で寧音先生足止め役の候補でしたが、さすがに黒乃理事長本人に迷惑がかかり過ぎるだろうということで、こちらで登場。この後は王馬君の先生になります。スパルタですが。
サーゼクスは原作を見ていると基本爽やかな人格者で、妹が絡むとちょっとタガが外れることもあるお兄さん。でも実際冥界を治める以上、相応に苦悩も挫折も経験してきているはず。前回は死神寄りの視点でしたので、今回は悪魔サイドの視点もあわせて描写に挑戦でした。
プリティ・ベルの電撃参戦は、まあキャラのみでw あっちの世界観まで混じりだしたら完全にカオスですので。
次回は別の作品の執筆をする予定ですので、少し間が空くと思います。


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僕のヒーローアカデミア編

「それで、あの、オールマイト……」

 

 星空が天を覆う海岸。

 海岸線に向かって座る僕――緑谷出久は、同じように隣に座る人物に話しかける。

 

 オールマイト――言わずと知れたNo.1ヒーロー。

 活動拠点である日本のみならず、世界的に知られる英雄。

 しかしながらその体は骨と皮とでも形容すべき痩躯と化しており、彼をオールマイトと呼んでも大概の民衆は信じることは出来なかっただろう。

 少し前までは、だが――

 

 雄英高校の施設であるUSJ襲撃事件に端を発した(ヴィラン)連合との戦いは、つい先日多くの傷跡をこの国に刻み込んだ“神野区の悪夢”事件にて一応の区切りを見せた。

 街の一角を廃墟へと変えた激戦の末、敵連合の首領である“オール・フォー・ワン”は捕らえられ、同時にオールマイトもとっくに限界を迎えていたことが世間へと晒された。

 

 敵連合の残党は取り逃がし、その規模もはっきりとしたことは不明。

 しかしながらオール・フォー・ワンの撃破と収監は良くも悪くも大きな意味を持ち、世の中は大きな転換点を迎える。

 ヒーローの卵に過ぎない僕でも、そのことは骨身に染みて感じ取っていた。

 

「オール・フォー・ワンは、どうなったんですか……?」

 

 慎重に、されどストレートに尋ねる。

 オールマイトに敗北して尚、どこか余裕のある空気を漂わせていた巨悪。

 そんなオール・フォー・ワンの身に降りかかった、誰も予想もしていなかったであろう結末を。

 

「私も、タルタロスに収監後のオール・フォー・ワンと直接対峙した訳ではない」

 

 だが――と、オールマイトはゆっくりと首を横に振った。

 

「ヤツはもう、ダメだろう。完全に、心を折られた」

 

 やっぱりと、僕はブルリと身を震わせる。

 神田区の戦いが決着し、その戦いを見守っていた人々の歓喜の声が盛大に響いた瞬間――あの異形型のヴィランは、その姿を現した。

 

「オール・フォー・ワンにとっても、自分が“戦い”で敗北するという結果は、まだ予想の範疇だったんだろう。私もこの通りだが、ヤツにもかつてのダメージは根深く残っている。己の敗北すらも前提に、幾つもの策を練っていたはずだ。常人の一生を超える時間、ヴィランの頂点に君臨し続けた手腕と頭脳は伊達じゃあない」

 

 その道のりは、未だ成人すらしていない僕には想像すらできない闇と深さを湛えているだろう。

 オールマイトがヒーローの象徴ならば、オール・フォー・ワンはヴィランの象徴。

 倒した後でさえ、その死骸から発せられる猛毒で世界を汚染する邪竜の如き怪物。

 

「だからあのヴィランは、敢えて戦わなかったんでしょうか。オール・フォー・ワンが最も弱るタイミングをじっと待って――」

 

 牙も――

 爪も――

 羽根も――

 尻尾も――

 猛毒も――

 

 全てを根こそぎ、奪い取った。

 その在り様はヒーローでもヴィランでもなく……まさに人間のようだと、そう考えてしまう。

 

「アレは、オール・フォー・ワンの前提条件を完全にひっくり返す一手だった。ああ、この上なく有効な手段だろう。普通なら、実行不可能という点を除けばだが」

 

「はい……因果応報、なんでしょうか」

 

「そうだね、ヤツにとって皮肉な結果だ。“個性”を奪い、ストックし、与える“個性”。その力で数多の“個性”を思いのままにしてきた男が――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『か、返せ!』

 

 僕の脳裏に蘇るのは、映像越しで見たオール・フォー・ワンの姿。

 そして余裕の仮面をかなぐり捨てた、焦燥と必死さに満ちた声。

 

『今奪ったモノを! 僕の――僕の“個性”を返せ! 今すぐにだ! それは、それは僕の――』

 

『物乞いの真似事か? ならばもっとうまくやるのだな、オール・フォー・ワン』

 

 オールマイトが打ち破り、倒れ伏したオール・フォー・ワン。

 そのオール・フォー・ワンを見下ろすように、あの悪魔のような異形型のヴィランは現れた。

 見守っていた人々も、事態の変化に騒然とした。

 悪夢は終わったはずなのに、まだ続きがあるのかと。

 

 周りにいた歴戦のヒーローたちも、異変を察してすぐに対処しようとした。

 だがあのヴィランが手をかざしただけで、まるで時が止まったかのように動きを封じられてしまった。

 

 オールマイトは――動けなかった。

 今まさに、文字通り死力を尽くして死闘を制したばかりだったのだから。

 

 そしてあのヴィランは、まるでオール・フォー・ワンからエネルギーを吸収するかのようにストックされていた“個性”を全て奪いとった。

 いや、傍目からは分からなかったが、オール・フォー・ワン自身が言ったのだ。

 間違いないだろう。

 

『さて、これでお前が蒐集してきた“個性”は全て戴いた。お前自身の“個性”は――まあついでだ。利息だとでも思っておけ』

 

『ふざけっ――!!』

 

『ふざけてなどいない。ヒーローの手前だ。先ほどの健闘を称えて、命だけは置いていこう。良かったじゃないか、どうせ終身刑だ。寿命が尽きるまでの間、手厚く面倒は見てもらえるだろうさ』

 

 あのヴィランは、オール・フォー・ワンをまるで聞き分けのない老人を相手にするかのように扱うと、オール・フォー・ワンが使っていた転送の“個性”を使っていずこかに姿を消した。

 それがあのヴィランがオール・フォー・ワンの“個性”を奪い取ったという、何よりの証拠だった。

 

「オール・フォー・ワンの人生は、良くも悪くも“個性”と共にあった」

 

 痩躯のオールマイトが、遠くを見るかのように目を細める。

 

「かつて世に“個性”が生まれ始めた時代から存在し、その力を以て悪を為した。言ってみれば、アイデンティティのようなものだ。一気に大量の“個性”を失った肉体が、どんな変調をきたすかもわからない。ヤツからすれば“個性”は半身どころじゃないはずだ」

 

 肉体に宿った力が“個性”なのか。

 それとも“個性”の媒介として肉体が存在するのか。

 ふと、そんな事を考えてしまった。

 

「成長を止めていたであろう“個性”も失った以上、老化も防げない。真っ当に齢をとって――いや、案外普通以上の早さで齢を取るかもしれない」

 

「えっと、どうしてですか?」

 

「ヤツにこんな言葉を使うことになるとは思わなかったが、“燃え尽き症候群”というやつさ」

 

「ああ、仕事一筋の人間が仕事を止めたら、一気に老けるっていう……」

 

「憎悪が再燃すればまだ分からないが……タルタロスでの監視上は、かなり無気力な感じになっているらしい。“個性”を失ったのがよほど堪えたんだろう。同情には値しないが」

 

「ですね……」

 

 オール・フォー・ワン自身数多の個性を奪い取ってきたのだ。

 林間学校でお世話になったワイルド・ワイルド・プッシーキャッツのラグドールだって“個性”を奪われている。

 それが自分の番になったからと言って、仲間以外は誰も同情してくれないだろう。

 

「オール・フォー・ワンの統治の根底にあったのは、“力”だ。信奉者も多いとはいえああなった以上、元のように返り咲くことは難しいだろう。もちろん、世に数多の個性がある以上可能性はゼロじゃあないが。例え話になるけど、“存在を巻き戻す個性”とかがあればね」

 

「それは――夢みたいな話ですね」

 

 もしもそんな個性が存在するのなら、用途も可能性も幾らでも思いつく。

 敵連合の残党だって真っ先に狙うはずだ。

 

「世間じゃ、“二代目オール・フォー・ワン”の話題だらけです」

 

 あの悪魔のようなヴィランは、今ではそのような名で呼ばれていた。

 元々オール・フォー・ワンは巨悪であれど、世間に知られた名ではなかった。

 社会と歴史の闇に隠れて蠢いてきた存在だからだ。

 しかし生中継されていた神田区の戦いで、その名は拡散することになった。

 オール・フォー・ワンからすれば、自分から“個性”を奪い取った相手が二代目などと、絶対に認めたくない事だろうが。

 

「みんな、不安がっています。もしもあの二代目が暴れだしたら、一体誰が止められるんだって」

 

 日本のヒーローは優秀だ。

 不動のNo.1オールマイトをはじめ、轟君の父親であるエンデヴァーなど多くのヒーローが揃っている。

 だがあの二代目の前では、戦うことすらできなかった。

 

「あの“停止”の“個性”は強すぎます。僕もヒーロー殺しの一件で、動きを封じられることのヤバさは痛感しました。映像を検証してみても、大して発動の条件がない。加えてオール・フォー・ワンの力まで加わったとなったら――」

 

「ああ、うん。実はその件なんだけどね」

 

 オールマイトが僕の言葉を遮るように、声を発した。

 その声には緊張感が無いというか、どちらかというと困惑のようなものを感じる。

 

「“彼”のことなら、別に心配する必要はないと思うよ」

 

「え? それってどういう――」

 

「――そうだね、君には話しておこうか。秘密ばかり抱えさせることになって申し訳ないけど、ここだけの話にしてほしい」

 

 ポリポリと頬を掻くオールマイトに、肯定の意を返す。

 

「あの後、入院していた私の元に二代目が現れてね」

 

「……はい?」

 

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「へ?」

 

 オールマイトの顔を凝視すると、コクリを頷かれる。

 続いて海を見る――穏やかな波だ。

 続いて空を見る――満点の星空だ。

 最後にもう一度、オールマイトを見る。困ったように頷かれた。

 

「はあぁぁぁぁぁ!?」

 

 そんな叫び声をあげた僕は、多分悪くないと思う。

 

 

 

 

                       ◇

 

 

 

 

転生者愚痴りスレ

 

712:名無しの魔法提督

それでオールマイトに“個性”全部押し付けてきたのか。もったいねーな。

 

 

713:名無しのごとき氏

いや、別にいらなかったから。

それに一つ一つ持ち主探して“個性”返すのも面倒だったし。

 

 

714:名無しの鬼っ娘

それで責任感のあるやつに押し付けたってことかい。

貰っちゃえばよかっただろうにさ。

 

 

715:名無しの装者

それより、元々の依頼は完遂されたんですか?

ラグドールさん、でしたっけ。その人のお兄さんが転生者で、依頼人だったんですよね?

 

 

716:名無しのごとき氏

ああ、そっちは問題なし。

オールマイト経由で“個性”が返還されたそうだ。

いや、結構急な話だったからうまくいってよかった。

 

 

717:名無しの記憶探偵

依頼内容は妹の“個性”を取り返してくれ、だったね。

それでわざわざ全部の“個性”を奪った訳か。手間じゃなかったかね?

 

 

718:名無しのごとき氏

いや、幾つもある“個性”の中から一個だけ選ぶ方が、よっぽど難しいんだよ。

“個性”相手にドレイン能力が通用するのは、最初にその依頼人で試せたけど。

 

 

719:名無しの魔法提督

でもぶっちゃけさ。“ついで”レベルでラスボス(暫定)再起不能にしちゃったんだよな?

同情する気はさらさらないが、哀れっつーか。

 

 

720:名無しの鬼っ娘

鳶に油揚げを攫われることなんて、よくある話さ。

アフォだっけ? そいつも散々好き勝手やって来たんだろ。

だったらいつかは自分に返ってきても仕方ない。

 

 

721:名無しの装者

お天道様は見てるってことですかねぇ……

 

 

722:名無しの寺生まれ

でもごとき氏は大丈夫なんスか? 敵連合からの報復とか。

 

 

723:名無しのごとき氏

もうヒロアカ世界離脱してるし、報復もクソもないよ。

でも心配してくれてありがと。

 

 

724:名無しの魔法提督

ヒデェ話だ。殴りかかる相手すらいないんだからな。

 

 

725:名無しのごとき氏

癇癪持ちなんぞ相手にするだけ損だ。

変に八つ当たりとかしなきゃいいが。

 

 

726:名無しの鬼っ娘

そうやって誰にも相手にされない子が、どんどん深みに嵌まっていくんだよねぇ。

幻想郷だったら、いずれ鬼にまで変生したかも。

 

 

727:名無しの魔法提督

そして巫女に消されるのか。世知辛いねぇ。

 

 

728:名無しのごとき氏

じゃあ提督のとこで引き取る? そっちの世界に辿り着くことがあれば連れてくよ。

 

 

729:名無しの魔法提督

いや、いいわ。主人公君に任せよう。

 

 

730:名無しの寺生まれ

逃げたッスね……

 

 

731:名無しの装者

ところでごとき氏さん、二代目とか呼ばれてるって言ってましたけど、それはいいんですか?

 

 

732:名無しのごとき氏

ああ、別にいーよ。実害ないし。

それにあの世界も案外、ちゃっかりしてるというか。

 

 

733:名無しの鬼っ娘

どういうことさ?

 

 

734:名無しのごとき氏

今回の依頼者、警察で結構いいポジションについてるんだけどさ。

そっからの情報によると、なんか二代目オール・フォー・ワンの名を犯罪の抑制に使うつもりで話が進んでいるらしい。

 

 

735:名無しの装者

抑制、ですか。

 

 

736:名無しの魔法提督

あー、そういうことか。

確か原作じゃ、オール・フォー・ワンっていう重石がなくなった事でその顔を窺っていたヴィランたちが活動を活発化させたからなぁ。

代わりにごとき氏の存在を新しい蓋にするのか。

 

 

737:名無しの記憶探偵

なるほど。

ごとき氏が“個性”を奪える力を持っているのは、すでに世間に知れ渡っている。

ヴィランたちも変に暴れて、目を付けられたくないという訳か。

 

 

738:名無しのごとき氏

そゆこと。

オールマイトに“個性”を渡したとき、“これ以上何かするつもりはない”ってことはそれとなく匂わせておいたから、その辺りは警察やヒーロー協会にも伝わっているとは思うけどさ。

あちらさんとしては、二代目オール・フォー・ワンの脅威がなくなったことを敢えて伏せておくだけでいいからな。

実際に捕まえていない以上、脅威がなくなったかの証明なんてできないだろうし。

 

 

739:名無しの装者

直接“何もしない”とは言わなかったんですか?

 

 

740:名無しのごとき氏

こういうのは、自分で気づいた方が真相っぽいから。

俺から言ったところで、そのまま素直に信じられる訳でもないだろうし。

 

 

741:名無しの鬼っ娘

政治だねぇ。

 

 

742:名無しの寺生まれ

でもよくごとき氏のドレインで“個性”を奪えたっスね。

あの力ってどこまで有効なんスか?

 

 

743:名無しのごとき氏

割とまちまち。

まあ今回“個性”に干渉出来た理由は、大まかには分かっているけど。

 

 

744:名無しの魔法提督

なんだ、勿体ぶるなよ。

 

 

745:名無しのごとき氏

結論から言えば、今回のヒロアカ世界。

どうも仮面ライダーWが下敷きになってるっぽい。

 

 

746:名無しの記憶探偵

……何?

 

 

747:名無しのごとき氏

やっぱ探偵さんは気になるか。メモリ使いだもんな。

今回の依頼人から、依頼とは別に気になる事があるって聞いててね。

依頼を終わらせた後にそっちを探ってた。風都跡地を。

 

 

748:名無しの寺生まれ

風都って……仮面ライダーWの舞台の?

 

 

749:名無しのごとき氏

元は警察内部に語り継がれる御伽噺みたいなもので気づいたそうだ。

かつて警察には、“仮面ライダー”と呼ばれる存在が居たって。

そこから色々と調べている内に、風都の存在を確認できたらしい。

超常黎明期の少し前に、謎の災害で壊滅した都市を。

 

 

750:名無しの記憶探偵

なるほど、それは興味深い話だ。

もしや“個性”が生まれた原因は、ガイアインパクトか。

 

 

751:名無しのごとき氏

状況証拠だけだが、可能性は高いと思ってる。

 

 

752:名無しの装者

何ですか? そのガイアインパクトって?

 

 

753:名無しの記憶探偵

仮面ライダーWでは、所謂地球の記憶をガイアメモリとして、人に融合させることでライダーやドーパントに変身する。

ガイアインパクトの詳細は作中でも語られていないが、その地球の記憶を全人類に対して干渉させる大儀式だ。

作中では主に2つの手段が取られている。

ミュージアム主導の、地球と全人類の融合。

財団X主導の、メモリ適性がある人間以外の消滅。

 

 

754:名無しの鬼っ娘

強制的な進化か選別かい。物騒だねぇ……

 

 

755:名無しのごとき氏

まあ、憶測の域は出ないがな。

ヒロアカ世界の様子からして、ガイアインパクトが発生したにしても、さっきの二つとは違う第3の手段が取られた可能性が高いだろう。

もしくは地球と全人類の融合が、中途半端な成功か失敗をしたか……

だいぶ昔の話だから、記録がほとんど残ってなかったのは痛いな。

この世界にいたであろう仮面ライダーやミュージアム、財団Xがどんな存在だったのかもよく分からん。

原作と同様か限りなく近い存在か。

それともリ・イマジネーションみたく似て非なる存在なのか。

 

 

756:名無しの魔法提督

ほとんどってことは、ちょっとは記録があったのか?

 

 

757:名無しのごとき氏

鳴海探偵事務所の跡地にな。

かなり老朽化してたけど、取り組んだ事件の報告書が一部残ってた。

 

 

758:名無しの記憶探偵

ほほう、それは……是非とも拝見したいところだ。

良ければ持ってきてもらってもいいかな?

 

 

759:名無しのごとき氏。

無理。チラッと読んだところで海東に持ってかれた。

 

 

760:名無しの寺生まれ

はぁ!? 海東って、ディエンドの!? 何でいるんスか!?

 

 

761:名無しのごとき氏

ディエンドの海東であってる。

なんでいるのかは知らんが、どうせお宝探してふらふらしてたんだろうさ。

スウォルツを知っているっぽかったし、外見的にも多分ジオウ本編後だろうな。

海東に転生した奴の可能性もあるけど。

 

 

762:名無しの鬼っ娘

ふぅん、取り返そうとは思わなかったのかい?

 

 

763:名無しのごとき氏

取り返すも何も、そもそもオレの物でもないしな。

仮面ライダーWとミュージアムの戦いがどうなったのか、財団Xがどうなったのか。

ガイアインパクトがいつ、どんな形で発動したのか。

この世界の歴史には興味があるが……興味以上のものはないからな。

それに探偵事務所の跡地を戦場にする気にもなれなかったし。

 

 

764:名無しの記憶探偵

そうか、それは残念なことだ。もし新たな情報がわかったら教えてほしい。

話を戻すが、ガイアインパクトの影響で人類が変異したというのなら、個性持ちはある種のドーパントと言えるのかもしれないな。

 

 

765:名無しの装者

仮面ライダーに関連する力だったから、ごとき氏さんのドレインが問題なく通用したってことですか。

 

 

766:名無しのごとき氏

そうだな。所謂個性因子も、地球の記憶の影響で変異した部分って考えればいいだろう。

案外脳無とかも、NEVERの技術が流用されていたりするかもしれん。

個性持ちも仮面ライダー風に呼称するならデミ・ドーパント……いや、デミ・ドープかネオ・ドープとでも呼べばいいかな?

 

 

767:名無しの魔法提督

いいんじゃね? 言葉遊びの領域だけど。

 

 

768:名無しのごとき氏

あ、そういえばさ。壊れたダブルドライバー見つけたんだ。

そこからアナザーダブルウォッチ作れたぜ。

 

 

769:名無しの寺生まれ

マジっスか。

 

 

770:名無しの装者

ウォッチって、オリジナルの仮面ライダーがいなくても生成出来たんですね。

 

 

771:名無しのごとき氏

状況次第だけどな。ジオウの作中でも、何度かそういう描写はあるし。

アナザーライダーの元変身者に残っている力の残滓から生成したり。

平成ライダーの力を集めてアナザー1号のウォッチにしたり。

ライダーカードからウォッチを生成したり。

バールクスをベースに栄光の7人ライダーのウォッチを使って、アナザーオーマジオウに進化したり。

今回の場合は、ドライバーにダブルの力の残滓があったんだろうさ。

要するに、そのライダーに連なる因子さえあれば割と何とかなる。

 

 

772:名無しの寺生まれ

え、あの、アナザーオーマジオウとかいたんスか?

 

 

773:名無しのごとき氏

ファイナルステージで出てきた。時系列的にはOver Quartzerの後か。

 

 

774:名無しの魔法提督

逆恨みここに極まるって感じだったよなぁ。

“虚仮の一念、岩をも通す”の、見事すぎる実例。

 

 

775:名無しのごとき氏

まあ飛流君があそこまで行けたのも、案外順当な結果かもしれないが。

 

 

776:名無しの鬼っ娘

その心は?

 

 

777:名無しのごとき氏

オーマジオウは、捉え方によっては行き詰まりの象徴だから。

最高最善の道のりで築かれた未来は、結局のところ先細りしやすい。

行き詰まった飛流君が辿り着くのも、そこまで違和感はない。

 

 

778:名無しの記憶探偵

ふむ……ごとき氏としては、ジオウ本編のラストでオーマジオウの力を手放したのは正解だったと思うのかい?

 

 

779:名無しのごとき氏

さてね、正解なんぞ人の数ほどある。

ただまあ、成人もしてないのにその後の人生が魔王一択じゃ、些か酷かとは思ったけどさ。

余計なお世話の類ではあるが。

 

 

780:名無しの装者

うーん、でも知ってますか? ごとき氏さん。

 

 

781:名無しのごとき氏

何が?

 

 

782:名無しの装者

余計なお世話って、ヒーローの本質らしいですよ?

 

 

783:名無しのごとき氏

あー、うーん、そっか。オレには似つかわしくない気がするが……

 

 

784:名無しの魔法提督

照れてやがるぜ、こいつw

 

 

785:名無しのごとき氏

うっさいわ、提督。……まあアレだな。

今回はダブルの力が手に入ってよかった。

前にも機会はあったけど、あの時はオレの手には余ったし。

 

 

786:名無しの寺生まれ

露骨に話を変えたッスね。

でもごとき氏の手に余る事態って、一体どんだけヤバかったんスか?

 

 

787:名無しのごとき氏

いや、ねぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コナンと金田一のダブルとか誰が生み出したんだよ、マジで。

どうしろってんだよ、オレにさあ!!

 

 

788:名無しの魔法提督

悪魔と相乗りどころか死神が二ケツして暴走してんじゃねーか!?

誰か取り締まれよ!!




ちょっとした設定集

〇オールマイト
ヒロアカ世界のNo.1ヒーロー。神田区の悪夢後原作とは違い、ヒーローとしての活動は縮小するものの引退はしていない。ワン・フォー・オールは使い切ったものの新たにその身に宿った個性群を使い、助けを求める声あらば駆け付ける。もっとも過去に負ったダメージ自体は回復していないので、無理は出来ないが。また警察やヒーロー協会の協力を仰ぎ、個性の元の持ち主を特定。返却活動を続けている。


〇コナン&金田一
言わずと知れた名探偵。混ぜるな危険の筆頭格。
実際問題として彼らは大抵の場合“たまたま事件に巻き込まれる”のであって原因でも何でもないはずだが、ちょっとは自重してくれと言いたくなる事件遭遇率。
ちなみにコナンは“犯沢さん”時空。




別作品の更新をしたり目を付けていた長編小説を読んでいたので間が空きましたが、ヒロアカ編W風味でした。
ヒロアカ編もパターンを幾つか考えており、ドシリアスな展開も候補にありましたが「シリアスは原作でやってるからいっか」ってことで今回の形に。
Wは前々からヒロアカに親和性が高いなーと思っていたのでミックス。
海東があの歳で高校生やってたのでごとき氏が高校生に扮して雄英に潜入ルートもありましたが、さすがに自重。


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真剣で私に恋しなさい! 編

「シッ!!」

 

 短い呼吸と共に放たれる拳の三連打。

 常人ならば視認することも難しい、壁越えの連撃。

 スピードを優先しながらも、並みの達人ならば一撃一撃が有効打となりうる攻撃。

 

 ――しかし棒立ちのままその攻撃を受けた怪人は、何の痛痒も感じないかのように微動だにしない。

 

 悪魔とも形容すべき黒い怪人と対峙する少女――松永燕は、後ろに大きく飛び距離を開ける。

 怪人は己に拳を叩き込んだ少女を追うこともなく、ゆっくりとその行動を見ていた。

 

(こりゃ、とんでもないわね)

 

 頬を伝った汗を、ぺろりと舐める。

 表情にこそ出さないものの、内心では驚愕に舌を巻く。

 事前に恐ろしく堅牢な相手だとは聞いていた。

 同時にここまでとは思っていなかった。

 

 松永燕は武術家である。

 そして同時に、“壁越え”とカテゴライズされる達人でもある。

 世に達人と呼ばれる武術家は少なく、壁越えはその中でも更に一握り。

 生まれながらの才を持ち、それを磨き続けた者のみが行きつく武の頂。

 最も一部のバグのような人物はいるが、それは例外とする。

 

 この戦いの中で、目の前の怪人とは何度も拳を交わした。

 最初は一般人を相手にするような打撃を。

 そこから徐々に攻撃力を上げ、先ほどの連撃は壁越えにさえ通用するレベル。

 されど相手は防御の姿勢すら見せず、当然のように受け切って見せた。

 

(ちょっと自信無くすわねー)

 

 松永燕は器用貧乏な武術家だ。

 よく言えば万能型ともいえるが、彼女自身そのことをよく自覚している。

 大概の武器は自在に扱えるが、その道の超一流には及ばない。

 徒手空拳も達人と呼ぶにふさわしいが、決定打がない。

 

 そんな彼女の武器は、“智”。

 単純なスペックではどうやっても敵わない相手がいることを知っているからこそ、多くの手札を集め、相手を研究し、効果的な戦術を練る。時には盤外戦法すらも辞さない。

 その事に後ろめたさを覚える場合こそあれど、卑怯だとは思わない。

 戦いは実際に拳を合わせる前から始まっている。

 

「もう終わりか? 動かないのならばこちらから行くぞ」

 

 食いしばった歯を動かさぬまま、怪人が片腕を上げる。

 警戒すると同時に――燕の両脇が赤く爆ぜた。

 

「――っ、爆撃!?」

 

 派手でこそあるが、威力は大きくない。

 スンと鼻を動かす――火薬の匂いはしない。

 武器の松永として、それは断言できる。

 ならば一体如何なる手法を用いてこの爆破現象を引き起こしたのか。

 そして相手がその気になれば、自分の体内すらも指定して爆破できるのではないかという可能性に思い至り、ヒヤリとする。

 

 熱気と爆破の衝撃波を利用し、一気に加速。

 鳩尾に鋭い拳を放つも、衝撃が吸収されるかのような不思議な感触に受け止められる。

 

(一体何の素材でできているんだかっ!)

 

 武器使いとしての興味をそそられるが、カウンターとして放たれた回し蹴りに意識を集中させる。

 右腕を覆う大籠手――平蜘蛛で受け止め、同時に体を捻りその反動で怪人の背後に跳ぶ。

 空に浮かぶ間に籠手のチューブを腰のベルトに差し込み、着地と同時にその真価を発揮する。

 

「爆炎には炎!」

 

『ファイヤー』

 

 炎の奔流が、怒涛のように雪崩れ込む。

 対する怪人は片手を掲げ、掌を起点に生み出されたエネルギーの盾であっさりと受け止める。

 

 ――が、その炎が消えた時にはすでに燕の姿はなく。

 彼女は炎の壁を目くらまし代わりに、スピードを活かし側面に回り込んでいた。

 

『アイス』

 

 怪人を氷の檻に閉じこめんと、猛烈な冷気が放たれる。

 人間大のサイズならば氷漬けに出来る代物であるが、怪人は不可視の衝撃波を放ち冷気を霧散させる。

 

『スタン』

 

 スパークを纏った拳を叩き込む。

 この怪人は、基本的に攻撃を避けない。

 受け流すか、迎撃するか、それとも敢えて受けるか。

 怪人が取った行動は迎撃。

 赤黒いエネルギーを纏った拳を繰り出し、お互いの拳と拳がぶつかり合い、衝撃と共に弾かれる。

 

「ふぅ……」

 

 距離が空いたことで、軽く息を吐く。

 構えをとると、自然と平蜘蛛が燕の目に入る。

 九鬼財閥のバックアップを受け、父がその技術を注ぎ込み完成させた、現代における最高峰の特殊兵装。

 燕にとって最高の武器であり、相棒であり、誇り。

 ――故に認めがたい現実。

 

(まっずいなー。今の手札で有効打になる気が全然しない)

 

 燕は戦力分析に秀でた武術家だ。

 単なる武術家としての力量のみならず、総合的な見地から相手の力をはかる。

 その視点から判断した時――目の前の相手の力は、明らかに自分を上回っていた。

 

(別に勝つ必要は全くないんだけどね……)

 

 彼女の役割は、目の前の怪人を倒すことでも、勝利することでもない。

 ただ戦力分析するのは最早癖と言ってもいいし。

 ついつい勝つ方法を考えてしまうのは習慣であった。

 

(“フィニッシュ”さえ使えれば、とは思うけど――)

 

 平蜘蛛の奥の手。

 世界最高峰の武術家すら一撃で打倒しうる最終兵装。

 ――なのだが、捕らぬ狸のなんとやら。

 アレは今充電中で使えないし、仮に使えたとしても使う場面ではない。

 個人的には、父の最高傑作がここまで通用しないのも悔しいので、食らわしてやりたい気持ちもあるのだが。

 その感傷はしまい込んでおく。

 

「フン、底が知れたな」

 

 怪人の声が、低く響き渡る。

 同時に両腕を胸の前に掲げ、両手の間に赤黒いエネルギー弾が生み出される。

 

「安心しろ、甚振るような趣味はない。この一撃で終わらせ――」

 

 言いかけた言葉が、強制的に途切れさせられる。

 突如横合いから飛び出してきた人影の跳び蹴りによって。

 

「くっ!?」

 

 怪人はその衝撃で勢いよく転がり、止まったところで片手を支えに上半身のみを起き上がらせる。

 

「何――? 貴様は消えたはずだっ!」

 

「――消えないさ。この世にお前のような暴君がいる限り。助けを求める人々の声がある限り――」

 

 人影はゆっくりと歩き、燕の横に並び立つ。

 

「君も、共に戦ってくれるかい?」

 

「ええ、勿論。言われるまでもないわ」

 

「ありがとう――さあ、最後の戦いだ!」

 

 

 

 

 

 

                      ◇

 

 

 

 

 

 

転生者愚痴りスレ

 

2011:名無しのごとき氏

――ということがあったんだ。

 

 

2012:名無しの寺生まれ

いや、なんでマジモンの怪人がヒーローショーにでてるんスか。

 

 

2013:名無しのごとき氏

いやね、最初は燕ちゃんこと納豆小町と、マジ恋世界の特撮番組のコラボだったんだよ。

ただねぇ、本番前にトラブルがあって怪人用のスーツがぶっ壊れたらしくて。

そこから使える伝手を使って代役を探して、それがマジ恋世界の転生者の子に回ってきて、その子経由でオレに話が来たって訳。

 

 

2014:名無しの装者

アハハ、そんなことってあるんですねぇ……

楽しかったですか?

 

 

2015:名無しのごとき氏

意外と楽しかった。

急だったからアクション部分は軽く打ち合わせだけして、後は流れでって感じだったけど。

いや、普段からの経験が活きたよ。

 

 

2016:名無しの鬼っ娘

笑えばいいのかい?

 

 

2017:名無しのごとき氏

笑えばいいんじゃないかな。

 

 

2018:名無しの魔法提督

ふーん、それならちょっと見てみたかったな。録画とかしてない?

 

 

2019:名無しのごとき氏

録画は禁止です。

まあ自分で言うのもなんだけど、割とよくやれたと思うよ。

ヒーローショーとは思えないレベルで派手に仕上がったし、お客さんからも好評だった。

 

 

2020:名無しの記憶探偵

確かに見ごたえはあっただろうね。

本物の達人や怪人がでているのだし。

ヒーローショーというよりは、万国ビックリ超人ショーのような気もするがね。

 

 

2021:名無しのごとき氏

元々達人の納豆小町が出るってことで、CGやワイヤーアクションにも負けない舞台にしようって話だったらしい。

あの世界の達人なら飛んだり跳ねたりも難しくはないし、ケガしない程度に派手にやろうぜって。

ちなみにヒーロー役のスーツアクターは釈迦堂さんだった。

 

 

2022:名無しの寺生まれ

マジっスか。

 

 

2023:名無しのごとき氏

本人は「人生何があるかわかんねーな」なんて言ってたけど。

実際スーツ着こんでもかなり動けるし、終わった後に本格的にスーツアクターにならないかって誘われていたよ。

 

 

2024:名無しの記憶探偵。

達人としての身体能力と頑丈さに加え、気の技も扱える訳だからね。

スタントマンとしても十分にやっていけるんじゃないかい?

 

 

2025:名無しの魔法提督

スタントマンとかは、むしろ海外の方が仕事として評価されるって聞くけどな。

 

 

2026:名無しの装者

ハリウッドデビューとかですか? ちょっと憧れちゃいますね。

 

 

2027:名無しの鬼っ娘

なんだい、アンタそっち方面に進みたいのかい?

 

 

2028:名無しの装者

いえ、特には。

そういうのは別にして、感性として憧れるって話です。

 

 

2029:名無しの寺生まれ

そう言えば装者ちゃん、進路とかもう決まってるんスか?

 

 

2030:名無しの装者

一応大学には進学するつもりですけど。

ただその後どうするかは考えてなくて……

S.O.N.G.だっていつかは解体されるかもしれませんし。

 

 

2031:名無しの魔法提督

まあシンフォギア内の事件が全部終わっても、異端技術を扱う部署は残るだろうけどさ。

別に急ぐ必要がないなら、ゆっくり考えてもいーんじゃねーの?

結構貯金もたまってるんだろ? 何なら世界一周旅行とかしてみたら?

 

 

2032:名無しの装者

アハハ、そうですね。考えてみます。

ところでごとき氏さん。そのマジ恋世界の転生者さんって、どんな方だったんですか?

 

 

2033:名無しのごとき氏

あー、そうだな。家族思いの女の子だったよ。

年齢は主人公の大和君たちと一緒。

ただ神様転生者の類なんだけど、選ぶ特典を間違えたっていうか。

それで結構苦労したみたいだ。

 

 

2034:名無しの鬼っ娘

ふーん、何か地雷要素でもあったのかい?

 

 

2035:名無しのごとき氏

ほら、あの世界達人なら気とか使えるだろ?

彼女、その手の作品ではハンター×ハンターが一番身近だったらしくてさ。

キメラアントの王直属護衛軍並みのオーラと、それを扱う才能を特典として貰ったそうだ。

 

 

2036:名無しの魔法提督

ふーん、王様並みのじゃなくて?

 

 

2037:名無しのごとき氏

さすがにそれはやり過ぎだと思ったらしい。

結果として特典も言ったとおりに貰えてしまった訳だけど。

そこが失敗だった。

 

 

2038:名無しの寺生まれ

うーん、何が問題だったんスか?

オーラ量が多過ぎて警戒されて、トラブルに発展したとか?

 

 

2039:名無しのごとき氏

そういうこともあったそうだけど、問題の本質はオーラ量じゃなくて質だ。

その神様は、王直属護衛軍並みのオーラ量だけじゃなくて、質まで与えたらしい。

 

 

2040:名無しの記憶探偵

なるほど……そういうことか。

 

 

2041:名無しの装者

どういうことです? 何か問題があるんですか?

 

 

2041:名無しの記憶探偵

王直属護衛軍の一匹、シャウアプフのオーラが作中でどう形容されていたか知っているかね?

 

 

2042:名無しの魔法提督

あー、「この世のあらゆる不吉を孕んでいる様」だったか。

歴戦のハンターが、一目見ただけで心を折られるレベルの。

 

 

2043:名無しの寺生まれ

それって……周りの反応がヤバくないっスか?

 

 

2044:名無しのごとき氏

実際生まれた時は、呪われた子とか悪魔の子扱いだったらしい。

父親も、生まれたばかりの第一子を見たその日に逃げ出したそうだ。

無関係の人間が無責任に責めるのは、些か筋違いだろうが。

 

 

2045:名無しの装者

その……お母さんの方は?

 

 

2046:名無しのごとき氏

母は強しっていうのかな?

夫に逃げられて女手一人になった後も、しっかりとその子と向き合って育てたんだからすごいよな。尊敬に値する。

実際、その子に当たり散らしても仕方なかっただろうに。

 

 

2047:名無しの装者

……ちょっと響ちゃんのこと思い出しちゃいました。

 

 

2048:名無しのごとき氏

だからその転生者の子も、親子愛は相当に強いよ。

最初は母の助けになろうと中卒で働くつもりだったらしいけど、「無理して大人になる必要はない」って高校に入れられたみたいだし。

 

 

2049:名無しの装者

親のありがたさが身に染みる話ですね……

 

 

2050:名無しのごとき氏

だな。まあそのオーラの禍々しさ問題も、何とか解決できたけど。

 

 

2051:名無しの鬼っ娘

へい、そうなのかい? また聖人男性?

 

 

2052:名無しのごとき氏

うんにゃ、今回はアクアに頼った。

 

 

2053:名無しの魔法提督

仮面ライダー?

 

 

2054:名無しのごとき氏

女神の方の。このすばのアクア。

引っ張ってきてオーラを浄化してもらった。

 

 

2055:名無しの寺生まれ

へー、オーラまで浄化出来たんスか。

 

 

2056:名無しのごとき氏

色々アレな女神だけど、浄化スキルは超一流どころか神級だから。

前にこけてから聖杯の泥に顔面ダイブしたこともあったけど、普通に浄化してたし。

顔がヒリヒリするって涙目だったけど。

 

 

2057:名無しの魔法提督

何やってんだよ、あの女神。

 

 

2058:名無しのごとき氏

まあ、アクアだし。

 

 

2059:名無しの寺生まれ

そう言えばごとき氏、冒険者カードとかも持ってるんスか?

 

 

2060:名無しのごとき氏

一応は。ただ規格が違うからか、モンスターを倒しても経験値は入らないけど。

 

 

2061:名無しの鬼っ娘

アハハ、ご愁傷様。

 

 

2062:名無しの記憶探偵

ふむ、ちなみにかの女神とは付き合いは深いのかね?

 

 

2063:名無しのごとき氏

そこそこかな。

ゼル帝のレベルアップにつき合ったり酒渡したら、割と頼みは聞いてくれるから。

前試しに“かしこさの種”を渡したこともあるけど、それでも知力が上がらなかったのはちょっと笑った。

 

 

2064:名無しの寺生まれ

なんという女神脳。

 




ちょっとした設定集



〇松永燕
『真剣で私に恋しなさい』シリーズにおける武士娘。
納豆小町としてとある特撮番組とコラボし、平蜘蛛装備でヒーローショーに出演。
”これまでにないヒーローショー”を題材とし、人材が集められた。
ショーが始まる少し前に怪人用のスーツが破損するというトラブルに見舞われるものの、伝手を活用して何とか怪人役の代役を確保。本来怪人役の中の人は、ルーさんになる予定だった。
ダメ元で連絡した友人が「ぴったりの人がいるから!」と連れてきた人物と装備に興味と疑問を抱くも、一先ずは仕事を優先。終わった後に色々と話を聞こうと思っていたが、いつの間にか消え去っていた。
ショーの最中にバトルが過熱したのは反省点だが、ショー自体は成功をおさめ、観客からは
「まるでCGのようだった」
「最近の特撮技術はここまで来ていたのか」
「ところであの子のスーツ、子供には刺激が強くない?」
等と概ね好評だった。
ちなみにこのショーのみに登場した怪人『アナザーダークディケイド』については、あまりにも急に登場したこと、“異世界から突如現れた謎の怪人”という設定意外はその実態に不明な部分が多い、関係者ですら詳細を知らないということで、特撮ファンの間では考察が捗っている。


〇マジ恋世界の転生者
川神学園に在籍する少女。
神様転生者であり、転生特典にキメラアントの王直属護衛軍並みのオーラを求めたことが切欠で色々と苦労することになる。
生まれた時には一般人でさえ認識できるレベルの禍々しいオーラから“呪われた子”と呼ばれ、父親は逃げ出した。
赤子の時点である程度の意識はあったためどうなる事かと戦々恐々としていたが、母親は育児放棄をせずシングルマザーとして彼女を育て上げ、そのことに深く感謝している。
ただし同時に自分の存在が愛し合って結婚したはずの父と母を引き裂いたこと、そのことが原因で母も自らの家族との関係がこじれたこと、頼る相手もおらず一人で自分を育てた母の抱える心労や肉体的疲労に「私さえ生まれなければ」と自己嫌悪したことも一度や二度ではない。
また彼女自身その境遇から幼少期は、母親以外からは腫物のように扱われていた。
武術家としての才能は並みであるが、膨大なオーラを自在に操る才能に長けている。四大行の中で真っ先に習得したのは“絶”であり、普段生活中は“絶”や“陰”を常時使用して行動しているため、禍々しいオーラは隠せている。――が、同時にオーラを感知されないため“非常に影が薄い美少女”という立ち位置になっている。幽霊少女と呼ばれることも。
直江大和が彼女のルートに入った場合、彼女の抱える心の闇や傷、家族との絆、その圧倒的オーラを原因とした周囲との軋轢や関係などを題材とした物語が展開されるが、ごとき氏には特に関係ないため割愛する。
――ただし、とある経緯からごとき氏が彼女の父親をアナザーワールドに取り込んだことがあるが、その際彼が変えたかった過去は“あの日逃げ出した自分”であったことが判明する。




 ――という訳で、“真剣で私に恋しなさい”でした。内容がマジ恋にそこまで関係ない? うん、そういうこともありますよね! 昔構想して、構想だけで終わったマジ恋SSの主人公が今回の転生者。ちなみにヒーローショーの怪人用スーツが壊れたのは、当時バイトに来ていた元・武道四天王の女性が原因だとかなんだとか……


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風の聖痕及び諸々編

神凪綾乃は炎術師である。

それも木っ端の術者ではない。

日本における異能者集団の中でも最高峰の一角に位置する神凪。

その宗家としてもっとも濃い血を引き継ぎ、齢12して火の精霊王から賜った神器・炎雷覇を継承した次期当主。

 

呼吸をするように、膨大な数の精霊と物理を超えた炎を従える姫神子。

生まれながらの強者。

現に彼女がこれまでの人生において出会った自分以上の術者など、片手の指の数に満たない程度。

それも同じ神凪宗家の、熟練の術者ばかり。

 

妖魔退治だって、これまで苦戦したことなどほとんどなかった。

数少ない苦戦の記憶も、まだ仕事に就いたばかりのころの話。

 

故に綾乃には、自らが強者であるという自覚があった。自負があった。矜持があった。

自画自賛ではなく客観的に、彼女の知る世界の中で彼女は強者であった。

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何なのよ、コレ……」

 

きっかけは、神凪の下部組織たる風牙衆の反乱。

その事実が判明するまでの紆余曲折あったものの、綾乃からすればこれまでの人生で初めて経験する、明確な危機にして大事件。

 

かつて神の力を借りて悪逆を尽くし、その果てに当時の神凪によって討伐され、吸収された風牙衆。

その境遇故か、彼ら風牙衆は現代に至るまで、神凪からある種の迫害対象であった。

綾乃自身はそのことを知らなかったとはいえ――だ。

 

此度の反乱は、誇りと尊厳を貶められた風牙衆からの復讐。

なるほど、同情の余地はあるだろう。次期当主として、目を背けてはいけない現実だ。

ただしだからと言って滅びてやるつもりはないし、何よりも妖魔に魂を売った彼らに屈することは出来ない。

 

加えて彼らは、綾乃にとって弟分である神凪煉を拉致し、風牙の祀る神を復活させんとしていた。

煉を取り戻し、かの神の復活を止める――

その為に綾乃はかつて神凪から追放され、強大な風術師となって帰国した八神和麻とコンビを組み、風牙衆を追った。

 

そして辿り着いた京都の山奥にある神凪の聖地。

この事件の決着をつける。そう意気込んで乗り込んだ先で――

 

「はじめまして」

 

事件は、予想もしていなかった落着を見せることになった。

 

「僕は扇七郎。横殴りは申し訳ないと思うけど、ウチの土地神(繭香)様からの頼みでね。彼らはこちらで始末させてもらいました。封じられていた神――ゲホウ様とやらと過去にどんな因縁があったかは知らないけど、唐突な無茶振りには困ったものです」

 

風で宙に浮き、困ったように、にこやかに笑う学生服の青年――彼から少し離れたところには、此度の反乱の首謀者である風巻兵衛の上半身と、その切り札であったはずの妖魔を憑依させられた風巻流也――その顔面が真っ二つに分かたれたモノが転がっている。

 

「おっと、妖魔の方はまだギリギリ息があるかな?」

 

七郎はまるで、掃除をした後に残っていたゴミを見つけたと言わんばかりに声を上げ、クイッと指を動かす。

 

「――っ!?」

 

一陣の風が吹き抜け、兵衛と流也を中心に渦巻き――

 

「え?」

 

僅か一瞬とも言える時間で、兵衛の上半身と流也の頭は消滅していた。

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「風化、か。削岩機――なんて生易しいもんじゃねぇな。それにてめぇ、風術師であっても精霊使いじゃねぇな? 扇の名は聞き覚えがある」

 

険しい顔つきを浮かべる和麻の言葉に、綾乃も気づく。

火とは別系統とはいえ、精霊術を使ったのならば綾乃は精霊の動きを感知することができる。だが少なくとも、先ほどの七郎の風からはそれを感じ取ることができなかった。

それに扇の名には、綾乃にも心当たりがあった。

 

「確か、暗殺者の一族の……」

 

「そういう認識か。血塗られた一族なのは否定しないけどね」

 

つい最近知った、風牙衆のかつての凶行。

金さえ積めば、殺人でも破壊工作でも請け負っていた過去。

そして扇一族は、言わば現代においてさえそのような依頼を引き受ける集団。

その事実を認識した瞬間、警戒と共に炎雷覇を持つ手に力が入る。

 

「ま、こっちの手間を省いてくれたんならいいさ。俺への報酬はパァだがな」

 

「ハハハ、そこは勘弁してもらえれば。何ならウチで雇いましょうか? ここに来たのは繭香様からの頼みだけど、個人的にあなたに興味があったというのもある。八神和麻さん――いえ、風の契約者(コントラクター)

 

七郎がその言葉を口にした瞬間、和麻の纏う空気が変わった。

ローからハイに――刺すように、切り裂くように。

 

そして契約者という言葉は綾乃にとっても――否、精霊術師からすればとても聞き捨てならないモノ――

 

「はぁ!? ちょ、契約者って――」

 

「あー、うん。覚えてたら後で説明してやるから、犬猫みたいにキャンキャン騒ぐな」

 

「な――」

 

ぞんざいな態度であしらわれた綾乃は抗議をしようするが片手で制され、和麻は七郎を睨みつける。

 

「それ、どこで知った?」

 

「蛇の道は蛇――と言いたいところですが、知り合いから教えられまして」

 

「へぇ、一応聞いておくが、アルマゲストとかいう産業廃棄物だったりしないよな?」

 

「さて――そのような組織に属していると、聞いたことはありませんが」

 

「……もうちょい、詳しく聞かせて貰いたいところだな」

 

和麻の足元に風が渦巻き、その身を空に躍らせる。

そのまま綾乃を置いて七郎と同じ高さまで浮き上がり――二つの風が、交差した。

それが、つい先刻の出来事。

 

 

 

 

 

「風術師って、こんなに滅茶苦茶な力を持っていたの?」

 

風術師は戦闘面では弱い。

それが綾乃の――いいや、精霊術師の凡その認識だ。

しかし視線の先――もはや二人が豆粒ほどのサイズにしか見えないほどの上空。

そこで行使される力の大きさは、綾乃が自らをちっぽけな存在だと感じるには十分なものだった。

 

だいぶ離れているにも関わらず、強風と呼べるだけの風が綾乃の下にまで吹き荒れる。

風に巻き取られた雲が渦を巻き、京都中の空を覆い尽くしている。

天変地異――まさしくそう表現できるだけの規模。

市内に直接的な被害こそ出ていない以上、気を使ってはいるのだろうが。

 

「別に風術師だから強い訳ではない。あの二人が強いだけだ」

 

誰に聞かせるつもりもなかった、思わず口から漏れ出た独り言。

故に予想していなかったその返答に対し、綾乃はビクリと反応してしまった。

 

「誰っ!?」

 

バッと振り返った先にいたのは、まるで刃のような眼差しをもった少年。

長髪と眉間を中心に刻まれた十字の傷が特徴的だ。

そしてそれよりも綾乃の目を引いたのは――

 

「煉っ!?」

 

彼にお姫様だっこされた再従姉弟の姿。

「やばい忘れてた」と焦りと共に冷や汗を浮かべつつも、それをかき消すように声を張り上げる。

 

「煉をこっちに渡しなさい!」

 

「言われるまでもない。俺とていつまでもこいつの面倒を見るつもりはない。とりあえず剣を下ろせ」

 

言い終わるや否や男はズカズカと綾乃に近寄り、綾乃は炎雷覇を地面に刺して差し出された煉を慌てて受け取る。

 

「無事……みたいね」

 

「眠っているだけだ。もっとも薬物を嗅がされていたようだからな。一応、後で医者に見せておくといい」

 

ホッと安心した綾乃に対し、男は淡々と告げる。

 

「……気を抜きすぎだ。俺が敵だったら、今頃そいつごと俺に一刀両断されているぞ」

 

「え」

 

「仮定の話に過ぎん。立場のある人間が、あまり敵地で油断するなというだけの話だ」

 

忠告が終わるや否や、男はそのまま上空に視線を送り、目を細める。

突然の発言に綾乃は目を白黒させながらも、一先ず話しかけることにする。

 

「えーと、私は神凪綾乃。知っているかもしれないけど、この子は煉。煉を助けてくれてありがとう」

 

「黒鉄王馬だ。そいつに関しては行き掛けの駄賃。気にするな」

 

「あ、うん。えっと、あなたは扇七郎の仲間か何かなの?」

 

気になるのは、この男が如何なる立場なのかということ。

少なくとも敵ではないようだが。

 

「無関係という訳ではないが、裏社会見学といったところだ」

 

「社会見学」

 

あまりに場違いな言葉に、綾乃は思わずオウム返しになってしまう。

 

「先生からな……風使いなら、あの二人を見ておいて損はないだろうと言われてな」

 

王馬の言葉に、綾乃も空に目を向ける。

八神和麻と扇七郎。埒外の風術師が二人。

 

「『本当に選ばれた人間』か。ふん、言い得て妙だな」

 

「……あの扇七郎ってやつ、何者なの? 視たところ精霊を従えている訳でも、呪力や魔術で風を操っている訳じゃない。あのバケモノ染みた妖魔を一人で斃すなんて……」

 

風巻流也を依代とした妖魔は、綾乃のこれまでの人生において間違いなくもっとも強大な妖魔であった。

自分一人では正直手に負いきれる自信はない。

神凪一族の最大戦力である神凪重悟や神凪厳馬でさえ、確実とは言い切れないだろう。

故にあの怪物が切り刻まれ跡形もなく消え去ったというのは、どうしようもなく現実味がなかった。

 

「『真の自然支配系能力者』とかいうやつだそうだ。聞いた話では、呪力や精霊ではなく“存在そのもの”が風を支配しているらしい」

 

無視してもいいだろうに、いちいち質問に答えてくれる辺り案外律儀な相手なのかもしれない――王馬に対してそんな感想を抱きつつ、綾乃は言葉を重ねる。

 

「それって術者というより、神様の領分じゃないの」

 

「あの八神和麻という男もそうだろう」

 

即座の切り返しに、綾乃は「うっ」と言葉を詰まらせた。

 

「俺は精霊王との契約者(コントラクター)というものついて詳しくは知らんが、お前はそれなりに詳しいのだろう?」

 

「そりゃ、まあね……炎術の才能がなくて家を追い出された男が、数年後には契約者(コントラクター)になって帰還とか、どこの漫画よ」

 

「……あの男を見ていると、少し弟を思い出す」

 

「へ? 和麻のこと、よね? あんなに口も態度も悪い弟がいるの? あなたも苦労しているわねぇ」

 

「境遇の話だ。俺の弟はもっとまとも……いや、違う方向でまともではないかもしれんが――む、じゃれあいは終わったようだな」

 

いつの間にか、風が止んでいた。

もはや米粒ほどの大きさにしか見えない人影の片方が、遠くに飛んでいくのが見て取れる。

 

「ここまでやってじゃれあいって……」

 

「むしろこの程度というべきだろう。お互い本気なら、今頃ここら一帯丸ごと耕されている。俺も先生から請け負った仕事は済ませたことだし、失礼させてもらおう」

 

「帰るって、歩いて? 何なら私たちが使った足があるけど」

 

「必要ない。まだ使い慣れていないが、最近便利なものを貰ったんでな」

 

踵を返した王馬が片手を前に出すと、銀色のオーロラが揺らめいた。

 

                   ◇

 

小一宮の特別重要保護地――烏森。

多くの妖を惹きつける特性を持ち、二家の結界師たちが守る神佑地。

しかしその守り人たちに気づかれることなく、二人の侵入者が向かい合う。

烏森の地下深くに拵えられた人造異界――その中に座する城の中で。

 

「僕は転んでもただでは起きない男でね。最近手に入れた、新しいお宝を見せてあげるよ」

 

青を基調とした仮面の戦士――仮面ライダーディエンドが気取った様子で2枚のカードをネオディエンドライバーに装填する。

 

『KAMEN RIDE:WOZ』

 

『KAMEN RIDE:FAIZ』

 

幾つものシルエットが奔り、重なり、像を結ぶ。

 

片や未来の創造者の映し身――仮面ライダーウォズ。

片や紅き閃光の戦士の影法師――仮面ライダーファイズ。

 

対峙するは、黒き破面の怪人――アナザーダークディケイド。

 

「大方白ウォズに奪われたディエンドの力を取り戻した時に、ついでに手に入れたんだろう。手癖の悪さはさすがと言わせてもらおう」

 

「ほう、中々に事情通じゃないか。感心したよ。ここで手を引いてくれれば、もっと感心するんだけど」

 

「それはお前の目的次第だ。――この場所に何の用だ?」

 

「無論お宝だよ。何でもここには、世界をひっくり返すすごい力があるそうじゃないか。是非とも手に入れてみたくてね」

 

「相変わらず火遊びの好きな男だ」

 

ディエンドからの予想通りの――そしてできれば聞きたくなかった返答に、アナザーダークディケイドはやれやれと肩を竦める。

 

「僕としては、君には借りがある。できればあまり傷つけるような真似はしたくないんだけどね」

 

「……何の話だ?」

 

「今僕が、この世界に存在できることそのものだよ」

 

ディエンドは、両腕を大きく開いて見せる。

 

「平行世界のスウォルツ――君と接触したことで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! つまり、より多くのお宝を手に入れることができる機会を得られたんだ。僕としては感謝するばかりだよ」

 

「面倒なやつにフリーパスを渡してしまったということか。おとなしく破壊者の追いかけでもしていればいいものを」

 

「おいおい、人の事をストーカーみたいに言わないでくれたまえ」

 

「……付ける薬がないな」

 

アナザーダークディケイドは片手を上げ、ディエンドはネオディエンドライバーを構える。

 

「行ってらっしゃい」

 

ディエンドの言葉をトリガーに、状況は動いた。

お互いのちょうど中間地点で起きる爆発。

アナザーダークディケイドの爆破能力。

 

その攻撃範囲を避けるように、ウォズとファイズが両側から回り込む。

二人の手に握られるのは、それぞれの獲物。

ウォズの手にはヤリモードのジカンデスピア。

ファイズの手にはファイズエッジ。

 

「ライダーと言えども、伽藍洞ではなっ!」

 

両側からの同時攻撃。

相対するアナザーダークディケイドは左手で緑光を纏う槍の切っ先を握り止め、紅い残像を残しながら高速で振るわれた剣を右腕で受け止める。

火花は散るが、刃は届かない。

 

『ATTACK RIDE:BLAST』

 

消えかかった爆炎の壁の向こうから、光弾が飛来する。

曲線を描きつつ奔る弾丸は、両手で塞がった怪人の胸、腹、喉元、眼球部分に猟犬のように襲い掛かる。

 

「くっ!?」

 

「いくら頑丈でも、生理的に効くだろう?」

 

直接的なダメージに乏しくとも、急所を穿たれれば怯む。

生物としての本能を逆手にとって射撃。

 

「この程度――!」

 

アナザーダークディケイドは両の拳を握りしめ、放つ。

右の拳をウォズへと、返す左の拳をファイズへと。

拳が鎧を打つたびに赤黒い波紋が広がり、衝撃で二人のライダーは仰け反る。

 

追撃を加えんとしたところで、ディエンドの援護射撃。

その隙にウォズは体勢を整え直し、勢いよくジカンデスピアを投擲。

飛来する槍を受けとめたアナザーダークディケイドに取りつき、無手での接近戦に。

 

『START UP』

 

ファイズが左手のファイズアクセルに指を躍らせ、その胸部が展開する。

高機動形態・アクセルフォーム。

10秒限定ながら、1000倍にまで引き上げられたスピードで、紅い閃光は縦横無尽に戦場を駆ける。

そして完成するのは、紅い円錐の檻。

アナザーダークディケイドを囲む、5つのマーカー。

針のむしろならぬドリルのむしろ。

即ち――アクセルクリムゾンスマッシュ。

一瞬で複数回の必殺技を相手に喰らわせる絶技――!!

 

「それは知っている――!!」

 

だが、アナザーダークディケイドの動きは早かった。

左足を軸に、赤黒いオーラを右足に纏わせ体を独楽のように回転。

回し蹴り一閃。赤黒いオーラが弧を描く。

その円撃をもってして、自らの身を取り囲んでいたマーカーを、すべて破壊する。

 

「――!?」

 

クリムゾンスマッシュの為に空中に跳びあがっていたファイズは、モーションを強制的に中断させられたことで地面に落下。

更にファイズの前方にウォズが投げ飛ばされ、二人を射程に捉える形でエネルギー状のカードが展開される。

 

――アナザーディメンションキック。

カードを潜るごとに破壊力を増す蹴り。

並ぶカードを貫くたびに、螺旋の如きエネルギーがキックに乗る。

破滅の矢の如き一撃は、手始めにと前方にいたウォズに直撃し、次いで勢いを殺さぬまま後方のファイズに迫り――

 

『FINAL FORM RIDE:FAIZ』

 

ファイズの体が巨大な銃へと変形し、空中に浮かび上がったことで的を失うこととなる。

床に着弾する前に体を捻り、両足で着地。

衝撃で床にヒビが入るが、それを無視して振り返る。

 

「ちぃぃ! 小器用な真似を!」

 

「褒め言葉と受け取らせてもらうよ」

 

ディエンドが手元へと飛んできた巨銃を構え――銃口を定める。

 

『FINAL ATTACK RIDE:FAIZ』

 

ファイズブラスター。

トリガーは引かれ、膨大なフォトンブラッドの奔流が照射される。

仮にこの場にオルフェノクが居れば、余波だけで絶命しかねない砲撃。

荒れ狂う紅い閃光を前に、アナザーダークディケイドはオーロラカーテンによる受け流しを――選択しない。

ファイズだけならばいい。

しかしあの一撃にディエンドの力も乗っているとすれば、オーロラが破壊される可能性があるのだから。

 

左手を前に出し、不発に終わったアナザーディメンションキックのエネルギーを流用し、半円形のバリアを形成――そして激突。

赤黒いエネルギーフィールドに阻まれ、行き場を失ったフォトンブラッドが幾筋にも拡散し、城の各所へと突き刺ささり誘爆する。

照射の時間は10秒にも満たなかったであろう。

たったそれだけの間に、戦場を中心とした部屋は嵐が過ぎ去ったように荒れ果てていた。

 

「やれやれ、簡単に受け止めてくれる」

 

「もう少し場所を考えたカードを使え。他人様の城だぞ」

 

「次からは参考にさせて――うん?」

 

ディエンドがつい先ほどの攻防で、城の壁に開いた穴を見る。

そこにいたのは――

 

「子供……?」

 

穴の端に隠れるように二人を覗いているのは、10にも満たないような子供の姿。

その姿を認めたアナザーダークディケイドは、つまらなそうに鼻を鳴らす。

 

「ふん――あの子供が、お前が探していたお宝だ」

 

「へ?」

 

呆けたような声が、荒らされた城に響いた。

 

 

 

 

 

                      ◇

 

 

 

 

 

転生者愚痴りスレ

 

4456:名無しの装者

大変だったんですよ……まさかゴジラと戦うはめになるなんて。

 

 

4457:名無しの寺生まれ

ゴジラコラボっスかー。そんなのまであるとか、お疲れさまっス。

 

 

4458:名無しの鬼っ娘

あたしゃ会ってみたいねぇ……殴り合ってみたい。

 

 

4459:名無しの記憶探偵

軌跡世界でも巨大人形兵器や幻獣で巨体の相手と戦うことはあるが、大質量の相手というのはどうしてもしんどいところがあるからね。

 

 

4460:名無しの装者

まったくです。

というか神様相手ならまだ勝てても、ゴジラ相手じゃ勝てる気がしないんですよ。

気持ち的に。

 

 

4461:名無しの魔法提督

>>460 わかる。

 

 

4462:名無しのごとき氏

ボンビヂザ。

 

 

4463:名無しの記憶探偵

何故いきなりグロンギ語なんだね。

 

 

4464:名無しのごとき氏

最近グロンギ語検定に向けて勉強してたから、つい。

 

 

4465:名無しの寺生まれ

探偵さん、よくグロンギ語って分かったっスね。

単純にタイピングミスかと思ったっスよ。

 

 

4466:名無しの記憶探偵

私はグロンギ語検定1級だからね。

 

 

4467:名無しの魔法提督

へえ、そうなん? オレ3級だぜ。

 

 

4468:名無しの装者

私も3級ですね。

 

 

4469:名無しの鬼っ娘

昔は話せたけど、随分ご無沙汰だったからねぇ。

もうさび付いてるなぁ。

 

 

4470:名無しの寺生まれ

え、ちょ。なんでみんな。グロンギ語ってそんなメジャーなんスか……?

 

 

4471:名無しの装者

それはともかくごとき氏さん。お仕事はひと段落ついたんですか?

 

 

4472:名無しの記憶探偵

ああ、風牙衆の生存戦略だったね。

確か風牙衆の中に転生者がいたんだったか。

 

 

4473:名無しの鬼っ娘

それも神凪から離れることを前提条件に、だったね。

まああそこまで仲を拗らせたんだから、仕方ないのかもねぇ。

 

 

4474:名無しの魔法提督

原作じゃ根切りにされたからなぁ、風牙衆。

いやまあ、実際には生き残りはいたっぽいけど作中からはフェードアウトしたし。

というか風の聖痕とかマジ懐かしい。

今度リンカーネットから拾ってみよっかな。

 

 

4475:名無しの寺生まれ

あの、グロンギ語……

 

 

4476:名無しのごとき氏

世界観的に結界師がクロスしていたし、風牙衆たちは扇一族の傘下に入ることになった。

風牙衆の神の封印開放に立ち会った風牙衆たちも、大部分は生き残ったよ。

情報収集の面じゃ扇一族よりも風牙衆が上だし、win-winな関係だろうさ。

まあオレは別件で動いていたから、そっちは王馬君に出張ってもらったけど。

 

 

4477:名無しの鬼っ娘

そーなん?

 

 

4478:名無しのごとき氏

そーなん。

王馬君にオーロラ渡してな。それで人員は回収してもらった。

 

 

4479:名無しの寺生まれ

ええと、グロンギ語は一先ず横に置いて、アレってそんな簡単に渡せるものなんスか?

 

 

4480:名無しのごとき氏

オーフィスがオーロラを覚えたから。

株分けして蛇経由で植え付けた感じになる。

 

 

4481:名無しの魔法提督

うっわ、その気になれば転移要員いくらでも増やせるってことじゃねーか。

マジで羨ましい。ほんとこっち来れねーか?

 

 

4482:名無しのごとき氏

こればかりは運と縁だからな。

もしくは知り合いの界渡りに、そっちのルート開拓しているヤツがいるかどうか。

そう言えば、扇七郎と八神和麻が軽くぶつかってな。

 

 

4483:名無しの記憶探偵

ほう、気になるカードだね。

双方共に最高峰の風使い――どのような結果に?

 

 

4484:名無しのごとき氏

ま、お互いお試しみたいな感じだったらしいから、ちょっと風ぶつけあって解散だよ。

ただ七郎本人の所感によると、「単純な規模やスピード、スタミナは多分自分が上。応用力や風の質ではあちらが上」だったらしい。

 

 

4485:名無しの魔法提督

ごとき氏もアナザーダブルのサイクロンで混ざればよかったのに。

 

 

4486:名無しの鬼っ娘

じゃあこっちからは早苗を参戦で。

 

 

4487:名無しのごとき氏

無茶言うなよ。

 

 

4488:名無しの装者

そう言えば先ほどの別件って、また何かトラブルでも?

 

 

4489:名無しのごとき氏

あー、また海東が絡んで来てなー。

なんかオレと接触したせいで、色んな世界との縁ができたっぽい。

その内どこかそっちの世界に来るかもしれないから、注意しといて。

 

 

4490:名無しの記憶探偵

……確かに、アレでなかなかにトラブルメーカーなところがあるからね。

注意は必要そうだ。

 

 

4491:名無しの魔法提督

おかしなロストロギアに手を出されて次元世界崩壊とか勘弁だからなー。

厄介なブツを完全に別世界に持っていってくれるなら、アリかもだけど。

 

 

4492:名無しのごとき氏

今回はほら、結界師の世界も混じってるって言ったろ?

それで烏森の殿様――宙心丸を狙ってたみたいだ。

まあさすがにターゲットが生きた人間だってことは知らなくて、知ったらさっさと\インビシブル/で逃げたけど。

後始末くらいしてけよ、ホント……

今度会ったらナマコブシ口に突っ込んでやる。

 

 

4493:名無しの寺生まれ

いつの間にかポケモン世界まで開拓してるんスか。

 

 

4494:名無しの装者

もしかしてピカチュウとかゲットしてます!?

私触ってみたいです!

もしくはモンジャラ。

 

 

4495:名無しの魔法提督

何故にモンジャラ?

 

 

4496:名無しの装者

可愛いじゃないですか、モンジャラ。

 

 

4497:名無しのごとき氏

>>4493

ポケモン世界出身の同業者がいてな。界渡りの。

ウルトラホールであっちこっち行ってるみたい。

>>4494

ピカチュウもモンジャラもいない。

手持ちはナマコブシとガリガリスだけ。

 

 

4498:名無しの鬼っ娘

>>ガリガリス

何があったのさ、アンタのところのリス。

 

 

4499:名無しのごとき氏

脱毛症なんだよ、ヨクバリスの。

ああ見えてピカさんと体重一緒だし。

 

 

4500:名無しの記憶探偵

ポケモンの方も気になるが、宙心丸君の方は大丈夫だったのかね?

 

 

4501:名無しのごとき氏

まあ騒がせたお詫び代わりというか、色々と手伝うことになったけどそっちも一通り解決したよ。

 

 

4502:名無しの寺生まれ

解決って言うと、和解できたってことっスか。

 

 

4503:名無しのごとき氏

うんにゃ、一応結界師原作のルートが完全消滅するレベルで。

 

 

4504:名無しの魔法提督

何やったのさお前。

 

 

4505:名無しのごとき氏

いやー、まあね? 黒幕(間時守)と裏ボス(墨村守美子)と色々話してね?

とりあえず宙心丸君の体質改造プロジェクトを実行したりとか。

 

 

4506:名無しの魔法提督

そうして並べると、結界師って味方サイドが一番やべーんだよなー。

 

 

4507:名無しの装者

そもそもその宙心丸君って、何が問題だったんですか?

私よく知らないんですが。

 

 

4508:名無しのごとき氏

オンオフが効かない無機物有機物無関係の超広範囲ライフドレイン持ち。

加えてそのエネルギーを無尽蔵に蓄えられる生体タンク且つ、エネルギーが切れない限り不死身。

何よりヤバいのが、それだけの力を持っているのが、自分が世界の中心だと信じている年頃の子供だっていうこと。

 

 

4509:名無しの装者

ええっと、簡単に言えば?

 

 

4510:名無しのごとき氏

生きた元気玉。なお、元気を分けてもらうのに相手の意思は関係ない。

 

 

4511:名無しの装者

ヤバいですね、はい。

 

 

4512:名無しのごとき氏

本人が全く力を制御できていないっていうのがなー。

ただそこにいるだけで世界が滅びかねないし。

 

 

4513:名無しの記憶探偵

原作からしても、世界最高峰の術者が時間をかけて準備した上で、封印することしかできなかったのだからね。

何かうまい手を見つけたのかね?

 

 

4514:名無しのごとき氏

その辺は世界を跨ぐ者のアドバンテージってやつだよ。

その世界単体では解決不可能でも、他の世界に回れば案外解決手段が見つかることはある。

 

 

4515:名無しの寺生まれ

うーん、ドラゴンボールでも使ったんスか?

 

 

4516:名無しのごとき氏

いや、アレあんまり使いたくないんだよな。

邪悪龍とかいう宇宙規模の災害に成長しかねないし。

あーいや、アクアに頼んで浄化してもらえば何とかなるか?

……ダメだな、リスク抜きで使える願望器とか普通に堕落しそうだ。

 

 

4517:名無しの記憶探偵

それを言われると、ゼムリアに住む者としては否定できないね。

便利過ぎるアイテムは、人にとっては猛毒だ。

 

 

4518:名無しの魔法提督

だな。チートのご利用は計画的にってな。

 

 

4519:名無しのごとき氏

まあ話を戻すか。

宙心丸の厄介なところは、力と存在が密接に結びついているってことだな。

この辺りは門矢士に近いケースだ。

 

 

4520:名無しの寺生まれ

ディケイドの力はオレの存在そのもの~ってやつっスね。

 

 

4521:名無しのごとき氏

ああ、その通り。

体質改善とは表現したけど、実際のところ宙心丸の力は肉体由来って訳じゃない。

肉体由来なら燈子さん辺りに新しい体を作ってもらって中身を移せば、それで解決できたんだが……

そもそも肉体自体、術で失っているし。

オレのドレイン能力でも異能奪取は難しいだろう。

とにもかくにも、力と存在の結びつきが強すぎるんだ。

 

 

4522:名無しの鬼っ娘

ある種の神様のケースに近いのかな。

力そのものに人格が宿っているって感じで。

 

 

4523:名無しのごとき氏

かもしれない。だから発想を変えた。

――力を消す事も引き離すこともできないなら、上書きすればいいって。

 

 

4524:名無しの装者

えっと……何したんですか?

 

 

4525:名無しのごとき氏

悪魔合体。

 

 

4526:名無しの魔法提督

メガテンかよ!? そもそも人間と悪魔を合体って、普通に外法の類じゃねーか!

 

 

4527:名無しの寺生まれ

それ以前に合体とかして、意識は大丈夫なんスか?

全く別の人格になる可能性もあるんじゃ……

 

 

4528:名無しの鬼っ娘

ふーん、幻想郷だったら巫女に滅(めっ)! ってされる案件だねぇ。

 

 

4529:名無しのごとき氏

まあ、言いたいことは分かるよ。もちろんリスクもあった。

それでも時守さんと話して、宙心丸君とも話して、その上で現状維持を続けるよりはマシだって判断した。

 

 

4530:名無しの記憶探偵

ふむ……守美子氏は何と?

 

 

4531:名無しのごとき氏

あの人はまあ……封印以外に方法があるんなら、それでもいいんじゃない? って感じだったな。

あの人は別に烏森やら宙心丸君やら時守さんの為じゃなくて、息子さん方の為にやってるんだし。

 

 

4532:名無しのごとき氏

メガテン世界にも伝手はあったからそっちを頼った。

言い方は悪いけど、宙心丸君も肉体を失った情報生命って意味では生態的に悪魔に近い部分がある。

メガテン世界のシステム的に、スキルの保有数には限度がある。

だから宙心丸君のドレイン能力や魂蔵をスキルの一種であると仮定して、悪魔合体によるスキル継承を利用して他のスキルで塗りつぶす。

力が存在そのものなら、存在自体を改変する悪魔合体は有効な手段だ。

意識の保護には、御霊合体っていう便利なモノがあったからな。

アレならほぼ変化は起きない。合体事故の可能性は怖かったけど。

 

 

4533:名無しの装者

でも“解決した”ってことは、成功したんですよね?

 

 

4534:名無しのごとき氏

まあね。結論から言えば宙心丸君からあのクソ厄介な力は喪われた。

今後は多分、妖混じり的な立場で生きていくことになるんじゃないかな。

ただねぇ……過程が大変だったけど。

 

 

4535:名無しの記憶探偵

過程というと、悪魔合体までのかい?

 

 

4536:名無しのごとき氏

おう、賭けの部分があったとはいえ、成功の可能性は上げたかったから。

まず伝手を使って宙心丸君を調べてもらって、悪魔合体がちゃんとできそうか調べて貰った。

その間に材料になる悪魔とかを見繕っていたんだけど……

こう、時間をかけて準備していく間に宙心丸君の情報が漏れてね?

 

 

4537:名無しの寺生まれ

あっ(察し

 

 

4538:ごとき氏

ほら、あの子異能の部分を抜いても、メガテン的には膨大なマグネタイトを秘めてるって認識されてね?

ガイア教とかメシア教とか意識高い系企業さんとかが押し寄せてきました。

高位の悪魔とかも「オレたち親友だよな!」ってピンポンしにくるし。

 

 

4539:名無しの魔法提督

うわぁ(白目

メガテン名物文明崩壊ルートじゃないかヤダー。

 

 

4540:名無しのごとき氏

しかしこんな奴らが揃って動けば、当然抑止力も動く。

――メガテンのスーパースター・ライドウの出陣だ!

 

 

4541:名無しの魔法提督

よっしゃ勝ったな。風呂入って寝るわ。

 

 

4542:名無しのごとき氏

でもさ? ライドウから見ればオレも「特別な力をもった子供を使って悪魔を作ろうとしている危険人物」な訳で……

むしろ事の起こりの中心人物で、最優先ターゲットな訳で。

普通に37564の対象だったんです、はい。

 

 

4543:名無しの記憶探偵

それは何とも……ご愁傷さまというか。

 

 

4544:名無しのごとき氏

少なくとも表面上は何も間違っていないから、否定するのも難しくって。

オーロラで一時離脱しようにも、アイツやたらめったらに結界やら何やら張っててなぁ。

空間が滅茶苦茶になって、オーロラも時間操作も正常に作動しないから困った困った。

……いやさ、最終的には宙心丸君の中の無尽蔵のエネルギーはオーフィスに喰わせたんだけど、もっと早い段階でやっておくべきだったよ。

そしたらあのトラブル、9割方は避けれただろうに。

 

 

4545:名無しの鬼っ娘

後の祭りってやつさねぇ。よくあるよくある。

 

 

4546:名無しの装者

えっと、元気出してください。

 

 

4547:名無しのごとき氏

ありがとう。

空間異常に関しちゃ、専門家の守美子さんがいたから何とかなったけど。

いや、あの人マジ凄いよ。

小規模とはいえ時空崩壊寸前の空間を、あっという間に繕い直すんだから。

オーロラさえ正常に使えるようになれば、後はどうとでもなる。

 

 

4548:名無しの寺生まれ

アレがあれば、逃げるのは簡単っスからね。

 

 

4549:名無しのごとき氏

いや――日本が誇るドラゴンボールシリーズは、オレに一つの真理を教えてくれた。

 

 

4550:名無しの装者

何をです?

 

 

4551:名無しのごとき氏

ほとんどの生き物は、太陽に突っ込めば死ぬって。

 

 

4552:名無しの寺生まれ

まさかオーロラで太陽まで直通したんスか!?

 

 

4553:名無しのごとき氏

ちょっかいかけに来た高位悪魔=サン達を太陽(ゼロ距離)観察ツアーに無理やり招待しただけだ。お代は一切いただきません。

足を滑らせて太陽の薪になっても自己責任で。

いくら神とかでも、アレで生きてたら地球出身の存在として正直どうかと思う。

 

 

4554:名無しの魔法提督

酷い悪徳ツアー業者を見た。

 

 

4555:名無しの記憶探偵

まあ放っておけば文明崩壊。

放っておかなくても文明崩壊を始める連中だからね。

容赦など必要ないのかもしれないが。

 

 

4556:名無しのごとき氏

普通に戦いでも結構な修羅場だったから、王馬君も一皮むけた感じ。

ライドウとかとは、何とか交渉で収まったけど。

こっちの事情を話して、宙心丸君の悪魔合体の場に同席させることを条件に。

ただねぇ、あの娘「もし何か怪しい部分があれば即座に切ります」的な感じでジーっと監視してくるから。

なかなかに気が休まる暇がなかった。

 

 

4557:名無しの装者

“あの娘”って……そのライドウってひょっとして、女の子だったんですか?

 

 

4558:名無しのごとき氏

うん? ああ、結構可愛い女の子だったよ。

多分装者ちゃんとあんまり変わらない年頃じゃないかな?

中身は怪物だったけど。

 

 

4559:名無しの装者

へぇ……

 

 

4560:名無しの魔法提督

しっかしメガテン世界かぁ。

SCP世界並みに転生したくない世界だな。

 

 

4561:名無しの記憶探偵

世界の終わりがあまりに近いからね。

加えてモブどころか主役勢にも非常に厳しい。

その世界の転生者も苦労しているのではないかね?

 

 

4562:名無しのごとき氏

>>その世界の転生者

こんな惑星にいられるか! って言って、地球脱出のために宇宙船作ってる。

というか太陽系内じゃまだ心配だから、太陽系外までは行けるようにしたいらしい。

 

 

4563:名無しの鬼っ娘

メガ……テン? なんか急にSF染みてきたけど。

 

 

4564:名無しのごとき氏

あの世界の悪魔達は、人間の認識を骨子にした情報生命体だから。

多分だけど、人間の文明圏外だとまともに現界できなくなる。

そもそも地球由来の悪魔は、地球から離れられない可能性すらあるからな。

外宇宙の邪神みたいな連中がいたら、まだ分からないけど。

 

 

4565:名無しの鬼っ娘

誰からも忘れられた者はいないとの同じ――その辺りはよく分かるよ。

 

 

4566:名無しの装者

でもそれだったら、ごとき氏さんに他の世界に逃がしてもらった方が早いのでは?

 

 

4567:名無しのごとき氏

それだと負けた気がするってさ。

 

 

4568:名無しの魔法提督

なんという負けず嫌い。

 

 

4569:名無しのごとき氏

負けず嫌いなんだよ、本当に。

宇宙船だって悪魔関連の技術は一切使わず、純粋科学のみで組み上げてある。

リンカーネットで他世界の技術とかは、いろいろ集めているみたいだけど。

そいつが言っていたよ。

「仮にこの世界の人類が真に悪魔と決別する時が来るとすれば、それは我々が地球という揺り籠から旅立つときだろう」ってさ。

ま、応援したくなるやつだよ。

 

 

4570:名無しの記憶探偵

ならばその人物は、いずれ“星の開拓者”と呼ばれるようになるのかもしれないな。

 

 

4571:名無しのごとき氏

そうだな。その時は、盛大にお祝いでもしてやるさ。

 

 

4572:名無しの寺生まれ

ところでグロンギ語についてっスけど……




《ちょっとした設定集》

○風牙衆
出展:風の聖痕。記念すべき原作一巻における事件首謀者。数百年前の先祖が犯した罪により、現代においてまで神凪一族(主人公の実家)にいびり続けられついに爆発。クーデターを画策するが、触れていけない者(主人公)を巻き込んでしまった為失敗。原作では主人公によってほぼ根切り。アニメ版では自分たちが祀る神による巻き添えでほぼ全滅。二次創作界隈でも生存率が5割を切る(多分)悲しい一族。そんな一族に転生してしまった転生者君は、何とか生き残りを目指して(あと神凪一族からのパワハラ脱却を目指して)あの手この手を打つことになる。


○ガリガリス
ごとき氏の手持ちのヨクバリス。自らの種族の悪評を払拭すべくダイエットを決意するも、バイタルバランスが崩れて脱毛症に悩まされることに。通常のヨクバリスは平均6kgくらいだが、ガリガリスは5kgくらい。この体重なら普通に柴犬とかの方がよほど重い。案外見た目ほど太っていない種族なのかもしれない。


○宙心丸
烏森のお殿様。突如彼の前に現れた謎の男・スウォルツの手によって悪魔と合体させられ、持って生まれた強大な力のほぼ全てを失う。またとある事情により肉体を失っていたため、某人形師謹製の普通の人間と変わらないスペックの人形に押し込まれ、ちょっとした異能を持った人間として生きていくことになる。


○ライドウちゃん
とある世界線の女ライドウ。ティーンエイジャー。天才系ポンコツ少女。身長140cmくらい。親しい者からは、仕事中とプライベートのギャップがエモいとの評価。
葛葉関係者たち「ついにライドウにも萌え化の波が……」
ライドウちゃん「全員そこにならびなさい。まとめてメギドラオンです」


○太陽
数々の強敵を屠ったZ戦士の一員。
でも不法投棄はしないでね!

はい、お久しぶりです。前話から一ヶ月くらい空きましたが、何とか生きています。
今話は八神和麻と扇七郎の対比が最初にあって、そこから色々と話が広がっていきごちゃ混ぜの闇鍋風味に仕上がりました。
ちなみに八神和麻と扇七郎との力関係やメガテン悪魔の設定面は、割と独自解釈になっています。ライドウちゃんは主に趣味です。
メガテンの地球脱出は、私的な答えの一つ。正直あの世界、人類が次のステージに行くくらいしなきゃどうにもならないでしょうと。本当に人間が皆出ていってしまったら、果たして悪魔はどうなるのか……
それでは今回はこの辺りで失礼します。


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番外編 extra days

毎度誤字報告等ありがとうございます。
今回は番外編。ごとき氏と関わったことのある、彼ら彼女らのお話です。



真円を描く月が空の頂点に位置する宵闇の中を、一人の青年が駆ける。

民家も見えぬ夜の農道において、青年実業家にも見える青年の姿はどこか浮いていた。

更に加えれば、右腕を荒々しく引きちぎられ、疾風のように疾走するその様は文明開化の世にあっても“もののけ”という言葉を連想させるであろう。

 

さもありなん。

青年の名は鬼舞辻無惨。

1000年の時を生き、数多の死と悲劇と鬼を生み出してきた始祖の鬼なのだから――

 

「おのれ――何故この程度の傷が治らん!?」

 

端正な顔を苦々しく歪め、無惨は吐き捨てる。

右腕の欠落。

肉体質量の大幅な欠損。

現代医学ですら回復不能な傷であっても、始祖の鬼たる無惨ならば一息に再生することができる。

しかしながら、つい先刻理不尽に奪われた腕は回帰する気配を見せない。

己の機能からすればこの程度の運動で発するはずもない荒い息は、焦りの為か。

あるいは――

 

――今日は別に、変わったことなど何もない当たり前の一日であった。

朝昼は忌々しい日の光に触れぬよう、屋敷の中でゆるりと過ごし――

夜になれば、気まぐれとばかりに散歩に出て――

ほんの少し遠出して農村に足を伸ばし――

ふらりと立ち寄った民家の中にいた人間をほぼ皆殺しにし――

残しておいた一人に自らの血を流し込み、鬼に変えようとした。

 

結局あの子供は鬼の血に耐え切れず破裂して果てたが、それは別にいい。

あまりの脆弱さに眉を顰めこそしたが、増やしたくて鬼を増やしている訳ではない。

己を完全生物へと昇華させるため、仕方なく増やしているだけだ。

 

自身の気まぐれで一つの家族が消える。

この1000年、数えるのも億劫になるほど繰り返された些事だ。

些細な出来事をいつまでもうじうじと気にする異常者共も、その場に居合わせていない。

踵を返し民家を出ようとしたところで、紅い衣の青年が駆け付けてくるのが見えた。

つい先ほどまで存在した一家の家族には見えないが、客人だったのかもしれない。

脇にどいて通してやると、血だまりを前に立ち尽くす。

 

ちょうどいい――そう思った。

さっきの脆弱な人間よりは随分と頑丈そうだ。

己が血を打ち込むために触手を伸ばし――当たり前のように躱された。

眉を顰め警戒心を3段階ほど上げ、思い通りにいかなかったという事実に目を鋭く細める。

 

しかし青年が紅白の球から奇妙な生き物を繰り出した瞬間、無惨の意識を9割撤退という思考が占めた。

残った一割は、“今この場で撤退することが自分にとって致命的な事柄を招かないか?”という思考。

どちらにせよ自己保身の為である。

 

――加えてこの時間帯ならば、自分は基本不死であるという常識が無惨の足を止めた。

同時にこの千年で見なかった“未知の存在”に、警戒と同時に期待も抱いた。

ひょっとしたら、探し求める“青い彼岸花”に通じる何かを目の前の男が持っているかもしれない。

 

これが数百前――人の形をした怪物と遭遇してしまい、殺されかけたトラウマが色濃いころの無惨ならば、この選択肢はとらなかったであろう。

しかしながら人の一生を何度も費やすほどの時間と、その間にあの怪物の同類が現れなかったという事実は、この怪物の警戒をわずかに緩めるに足るものであった。

 

黒い円錐台が積み重なったような体とピンク色の顔を持つ、女性的な生き物を観察する。

何かあってもすぐに対処できるよう、一挙一動を見逃さないために。

 

「ゴチルゼル、サイコキネシス」

 

人を超えた動体視力を持つ無惨は、動きは見逃していなかった。

紅い青年が静かに――されどよく届く言葉を、指示を発する。

ゴチルゼルと呼ばれた奇妙な生物は体に青白いオーラを纏い、微動だにせず不可視の力場を放った。

 

片腕のみで済んだのは、“生きるという一点”に関しては非常に高度な直観力の賜物。

無惨は体に未知の負荷がかかった瞬間にその場を飛びのき、右腕だけが間に合わず根本から捩じ切られた。

 

舌打ちをしつつも、所詮は腕の一本。

意識するまでもなく瞬時に再生を――

 

「かいふくふうじ」

 

無惨は己の中の何かが、致命的に阻害されたのを感じ取った。

同時にこの瞬間、この場に残るという選択肢を完全に放棄する。

“己を殺せるかもしれない億に一つ”と相対するなど、他の鬼にでもやらせればいい。

 

そんな意識の元脱兎の如くその場から離れ、夜の闇に紛れ今に至る。

 

「ちぃっ! あいつらはまだ来んのか!? 使えん奴らめ――」

 

無惨は忌々しそうに未だ己の下に駆け付けぬ配下の鬼を罵倒する。

無惨の異能の一つたる、配下の鬼との情報共有。

そのネットワークを通じ、比較的近辺にいる鬼を足止め兼、あの紅い男の能力把握の為の使い捨てとして呼びつけていたが、来るのが遅いと憤慨する。

 

配下の鬼を擁護するのなら、無惨が逃亡を開始して未だ数分。

この時間で駆け付けられる近辺に鬼はいなかったのだが、そのような理屈は鬼の王には通用しない。

自らが絶対のルールであり、従わない者こそが間違いなのだ。

事が終わって生き残っていれば、手ずから処分してくれると暗い怒りを燃やし――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――っ!!??」

 

声にならない叫びをあげる。

逃走を続けていた体が、強制的に縫い留められる。

闇夜も見通す鬼の超視力を向ければ、そこには先ほどの紅い衣の男と、付き従うゴチルゼルとかいう生き物。

よくよく見れば、月明かりによって地に刻まれた自らの薄い影が伸び、あの生き物の足下と繋がっているのが分かる。

 

「貴様ぁ!! 誰の許しを得て私の体を縛るか!?」

 

振るう腕と共に鞭のように放たれる触手。

特異的な能力に頼らず、現在地球上に存在している生物で最大規模ともいえる身体能力を活かした、純粋無垢な暴力。

音を超え、大気が歪む。

人の反応速度の上限を大きく上回り、人の肉体強度ならば豆腐のように砕く一撃。

それにも関わらず――

 

「まもる」

 

半透明の壁によって、不可避の一撃は冗談のように無力化された。

轟音と共に衝撃が拡散する中で、ギリィと無惨は歯を食いしばる。

先ほどから男が見せる、異様なまでの対応能力。

 

無惨の能力を知る者は少ない。

配下の鬼には“呪い”という形で口封じをし、己が力の一端を目にした鬼殺隊の異常者共は悉く鏖にした。

つまり目の前の男は、初見で鬼舞辻無惨という大災を見切り、いなしていることになる。

 

ほら、今だって――

 

横殴りの触手という、分かりやすい陽動の裏に隠した本命の不意打ち。

足の裏から伸び、地中を伝ってその脳髄を抉らんと突き出した触手を、軽く首を捻る事で躱して見せた。

その拍子に目深に被っていた帽子が落ち、男の顔立ちが露わになる。

底冷えするような、紅い紅い瞳。

幾百年振りか――認めがたいし認めないが――無惨の体が強張った。

 

「ピィーカァー――」

 

いつの間にか男の肩に乗っていた黄色い獣が、跳びあがり帯電する。

ぬいぐるみと言われても納得できそうなその姿に、無惨の生存本能はおぞましいまでに刺激され、足元の触手を切り離す。

 

「ヂュュューーー!!」

 

雷が、疾る。

鬼殺隊の剣士が使う雷の呼吸ではない、本物の雷。

古来より、神の力に例えられる閃光。

闇夜を拭うように迸る雷光は無惨の触手を打ち、一瞬の内にプスプスと異臭と煙を上げる炭化物へと置き換える。

 

触手の切り離しが遅れていれば、本体である自身も感電していた。

日光ならざる雷光とはいえ全身を灼かれれば、不死の鬼たる自分でも最低数秒は隙を晒すことになっただろう。

 

「何なのだ……」

 

その事実に戦慄と恐怖、理不尽への怒りを覚え声へと変えて出力する。

 

「何なのだ貴様は!?

 私は鬼の王――鬼舞辻無惨なのだぞ!!

 ああそうだ。

 私は限りなく完璧な生き物。

 千年の時を生き、人を超え、いずれ鬼をも超える存在。

 なのになぜ貴様のような、訳の分からぬ輩に脅かされねばならんのだ。

 一体なんだと言うのだ?

 先ほど私が殺した一家とお前に、どれほどの関わりがあるというのだ?

 友人か? 家族か? 恋人でもいたのか?

 だからどうしたというのだ。

 死んだ人間の為に行動するなどバカバカしい。

 放っておいても人は何時か死ぬ。

 何時か寿命が来るのなら、私の手にかかろうと何も変わらない。

 敵討ちなど何の価値もない。

 そんなことをせず、自分の為に生きるべきではないか。

 ああ、そうに決まっている。

 私の時間を割いてまでわざわざ丁寧に説いてやったのだ。

 理解したのならばさっさと帰れ

 そして二度と私の目の前に現れるな――」

 

「いや……」

 

紅い青年は、ここで初めて“会話の為”に口を開く。

 

「一宿一飯の恩義はあったけど、お前を追ってきたのは……」

 

青年は淡々とした、波のない口調で語りかける。

 

「お前が俺を攻撃してきたからだけど」

 

その返答を聞いた無惨は言葉に詰まり、腕を組み、首を傾げ、体の中にある無数の脳を巡らせて考え込み――

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん、やはり私は悪くない」

 

「チャー……」

 

数秒の間に無惨の脳内で結論つけられた超理論に、呆れたように半眼で耳を畳む黄色い獣。

その傍らで、紅い青年が再び紅白の球を放る。

 

「グラードン――ゲンシカイキ」

 

夜闇は逃げ出す。空気が熱を帯びる。大地がひび割れる。

終末を連想する光景の中、鬼の王が最後に見たのは――

赤い大陸そのもののような怪物と――『おわりのだいち』。

鬼舞辻無惨の全細胞は『おおひでり』の下で一瞬にして沸騰し、一片も残らず死滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえブッダ。私さ、最近考えていることがあるんだけど――」

 

ブラック企業ですらも顔を引きつらせる長期無休勤続。

その記録に一端の終止符を打ち、下界に休暇滞在する聖人男性二人。

その片割れたる神の子――イエス・キリストは、相方である目覚めた人――ブッダへと深刻そうに語りかける。

 

「うん? どうしたの、改まって」

 

立川にあるアパートの一室で読書中だったブッダがイエスへと視線を向ければ、顎を撫でる救世主の姿が。

 

「私もさ、救世主たるもの“変身”の一つくらいできなくちゃって思っているんだ」

 

「……ああ、ブログとかの? 上手い返信の文章が思いつかないの?」

 

ポンと手を打つブッダに、イエスはいやいやと手を振る。

 

「そっちじゃなくてさ。ほら、姿が変わる方の」

 

「ああ、そっちの……」

 

変身のワードでブッダの脳裏に浮かんだのは、かつて菩提樹の下で修業中だった己の下に現れた魔王・マーラ。

彼の場合は肉体的な変身ではなく幻術の一種であったが、色々とお世話になったなぁと懐かしみつつ、イエスに告げる。

 

「でも変身なんて、神話世界じゃ特に珍しくもないよね? ほら、オリュンポスのゼウスさんとか特に有名だしさ。イエスだってその気になればできるんじゃないの?」

 

「う~ん、頑張ればやれるかもしれないけど……今回はそういうのとはちょっと趣が違って……」

 

「……? というと?」

 

「ちょっと前、スウォルツ君から聞いたんだけど」

 

休暇中に知り合った、数多の世界を股にかける異邦人。

その姿を思い出しつつ、ブッダは頷いて見せる。

 

「異世界の救世主は、こう――特撮ヒーローみたいな格好いい鎧を全身に纏う変身をするそうなんだ」

 

予想の斜め上の回答をしてくるイエスだったが、ブッダはとりあえず無言で続きを促す。

 

「それもさ、フォームチェンジっていうの? 幾つも形態があるみたいで……」

 

「……それで?」

 

「ほら、ゲームだってラスボスは何形態かあるのが常識だろう? 私もかつては死から復活した訳だけど、この現代じゃちょっとインパクト不足かなって。いずれ来る最後の審判の時に生身一つだったら、ちょっと皆をがっかりさせるんじゃないかって心配で……。その時の為に今からレパートリーを増やして、色んな需要に対応できるよう救世主として努力すべきだと思うんだよ」

 

「イエス、前もそんなこと言ってなかった?」

 

熱弁をふるう友人に頭を抱えつつも、同時に「またか」という感想を抱く。

 

「でも鎧って言ったって、私たちは別に戦士って訳でもないんだから」

 

「えっ、でもブッダって確か格闘技凄かったよね? カラリパヤットだっけ?」

 

「まあ多少嗜んではいるけどさ。ほら、別に変身までしなくても後光を増やすとかじゃダメなの?」

 

「う~ん、あんまりピカピカしてると逆に安っぽくならない? 眩しいし」

 

「じゃあ付き添いの天使さんたちに頼んで、演出を工夫してもらうとかは?」

 

「ただでさえ最後の審判って大舞台なのに、必要以上の苦労をかけるのもちょっと気が引けるんだ。もし失敗とかしたら思い詰めて、一生もののトラウマになるか堕天しちゃいそうだし」

 

「あー、熱心というか、思い込みが激しいところがあるからねぇ。ウチもあまり他所様の事は言えないけど」

 

よく訪ねてくる四大天使たちの巻き起こすトラブル。

自らの苦行を拡大解釈した上で倍プッシュしてくる神仏たち。

その辺りを考えれば、イエスの心配も見当はずれではないとブッダは考える。

 

「だったらそういう道具を作ってもらうとかかなぁ。ほら、ヘファイストスさんとか」

 

「ふふん、それがね……」

 

イエスが自慢げにポッケに手を突っ込み、あるものを取り出す。

 

「それは――」

 

「スウォルツ君から貰ったブランクウォッチだよ! 今は空の器だけど、うまく使えば変身の為のアイテムになるんだってさ。スゴイだろ?」

 

「イエス……」

 

ブッダは思わずジト目になっていた。

 

「君さ、ひょっとして“ソレ”使ってみたかっただけなんじゃ……」

 

「へっ!? い、いやぁ~、そんな事は……なくもないけど……」

 

「あのねぇ、君は――」

 

ピンポーン!

 

「あっ、お客さんみたいだね、ブッダ! ちょっと出てくるよ!」

 

返事を待たずにドアへと早足で移動するイエスに、ため息を抑えつつも後を追うブッダ。

ガチャリとドアを開けると、赤い軍服のような服装の、マスクとヘルメットを被った青年が立っていた。

 

「あ、お隣の西さんじゃないですか? どうしたんですか?」

 

当初はコスプレ染みた格好に戸惑ったものの、今ではすっかり見慣れた隣室の住人が何やら荷物を持って立っていた。

 

「どうも。実は午前中スウォルツが訪ねてきたんですが、お二人とも留守だったでしょう? それで差し入れを渡してほしいと頼まれておりまして」

 

「わっ、わざわざありがとうございます」

 

差し出された箱を受け取ると、ずっしりとした重みがイエスの腕に加わる。

 

「野菜の詰め合わせとマンモスの肉だそうです。いや~、相変わらずスウォルツは冗談が多い奴ですな」

 

「ははは、そうですね……」

 

冗談でも何でもない事をイエスとブッダは知っていたが、この場ではそれを告げずに苦笑いで濁しておいた。

 

「あっ、良ければお茶でもどうですか?」

 

「そうですね……せっかくなのでいただいていきます。ああブッダさん、そう言えば牙流馬(がるま)が、また今度話を聞かせてほしいと言っていましたよ」

 

「勉強熱心ですね。私でよければ」

 

「ははは、きっと喜びます――む、ハト?」

 

座日寺の住職の倅である牙流馬の話になったところで、バサバサという羽ばたきと共にアパートの手すりにハトが降り立つ。

するとそのハトは翼を広げ、神々しいまでの光を放ち始めた。

 

『我が子イエスよ――さあ、その肉を父に捧げるのだ……。焼肉の準備とかもしてくれると嬉しいぞ。ホットプレートはあったか? なければ私の奇跡でちょちょいと――』

 

「ちょ、父さん!? いくら美味しいお肉だからって、降臨するなら場所と時を考えてー!?」

 

「こ、この光は……? そうか――宇宙とは、人とは、ニュータイプとは……今なら分かる。なぜ1+1=2なのか。いや、2になると思っていたのか――ああ、刻が見える……」

 

「ちょ、西さん!? 西さーん!? イエスのお父さん、ちょっと後光ひっこめてくださいー!?」

 

世界は今日も平和です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~い、帰ったぞ~」

 

「ああ、お帰りなさいカズマ……ってどうしたんですか? 結構な大荷物ですが」

 

屋敷のロビーに入ってきた茶髪の少年――冒険者の佐藤和真に、紅い瞳の小柄な少女――紅魔族出身のアークウィザード・めぐみんは訝し気に声をかけた。

 

「ちょっと色々と取引をな」

 

「また無駄遣いしたんじゃないだろうな?」

 

「金は血だ。貯めすぎても腐るだけ。適度に使って社会に還元するのがコツなのさ」

 

「むっ、カズマはときどき妙に含蓄のある言葉を使うな……」

 

感心したように金髪の女騎士・クルセイダーのダクネスが唸る。

実際は昔ネットで見たのをそのまま引用しただけなのだが、そんな事はおくびにも出さずに「そうだろう?」とニヒルに笑って見せる。

そんなカズマに水の女神たるアークプリースト・アクアが白けた視線を向けていたが、華麗に無視していた。

 

「おっとアクア」

 

「何かしら、拾った知識でマウントとってイキってるカズマさん」

 

「“例のブツ”が届いているんだけど、いらなかったなら今度返しておくよ。虹の実ワインだっけ?」

 

「先人の知識を自分の中で噛み砕いて人に伝えていけるカズマさんって、私とっても素敵だと思うの!」

 

「アハハ、ありがとうマイゴッデス。食糧庫に樽であるぜ」

 

「やたっ! ちょっと行ってくるわ!」

 

そのままビューと駆け出していく水の女神を見送り、カズマはポツリと一言。

 

「水属性の癖に、まるで風だな」

 

「脊髄反射で生きている感がありますからねぇ」

 

「だな。ああ、そうだめぐみん」

 

「はい?」

 

「実は贈り物があるんだ」

 

カズマはテーブルで杖の手入れをしていためぐみんの下に行くと、小箱を取り出し彼女の前で開けて見せる。

 

「ほら」

 

「へっ? これって……」

 

小箱の中に鎮座した美しい指輪を見ためぐみんは一旦カズマの顔をみて、もう一度指輪に視線を落とし――それを数回繰り返したところで固まる。

そしておや? と首を傾げるカズマの前で……

 

「あ、あわわわわわわわわ……」

 

なんか急に挙動不審になってあわあわし始めた。

 

「あ、あわわわわわわわわ……」

 

しかもダクネスにも伝染(うつ)った。

こっちは顔を赤くしたり青くしたりと七面相だ。

 

「か、カズマ……コレってあ、アレですよね?」

 

「……? アレも何も、見ての通りだが」

 

「う、嬉しいのですが、こういうのはまだちょっと早いというか何というか……」

 

珍しくうじうじとしているめぐみんの様子に、カズマは小首を傾げる。

 

「早いか? できるだけ早く必要だろうと思ったんだけど。きっと喜んでくれるだろうって」

 

「そ、そこまで覚悟を決めて……いえ、だったらですね。せめてもうちょっとムードとかを考えてほしいと言いますか。さすがにダクネスを目の前で負け犬に貶めるのは、私としても些か忍びないのですよ」

 

「めぐみん!? お前そんなことを考えていたのか!?」

 

「いや、何だよ負け犬って。もしかして指輪の事か? めぐみんとダクネスじゃ求められる役割が全然違うんだから、別に必要ないだろう?」

 

事もなげに言うカズマに、ダクネスは愕然と項垂れる。

 

「か、カズマ……? ま、まさかここまではっきりと序列が出来上がっていたとは……いくらめぐみんに靡いているとはいえ、何だかんだで目があるものだと……フ、フフフ。思い込みの激しい哀れな女を笑うといいさ……」

 

「それお前にとっちゃむしろご褒美じゃないか」

 

「あの、カズマ……私は大概のダメさは受け入れる、広い心を持つ出来た女だと自負しているのですが。いくらダクネスが罵倒を喜ぶ特異的な精神構造をしているとはいえ、先ほどからの心を抉るような鬼畜発言はさすがにちょっと引くと言いますか」

 

「いやさ、鬼畜って何のことだよ? ダクネスが魔力切れを起こしたところは見たことがないし、別に必要ないだろう」

 

カズマの発した一言に、二人の少女はキョトンとした様子で顔を見合わせた。

 

「少し確認したいのですが、この指輪は一体どういうものなので?」

 

「うん? ああ、説明してなかったな。“女神の指輪”っていうマジックアイテムで、これを装備してから移動すると魔力を回復する優れ物なんだ。爆裂魔法ですぐに魔力が空っぽになるめぐみんにはピッタリだろう?」

 

「まじっくあいてむ」

 

「スウォルツと取引してきたとき、『こういうのもあるけどどうだ?』って紹介されてさ。ただでさえ爆裂魔法ジャンキーのめぐみんを助長させるようなアイテムはどうかと思ったんだけど、サービスしてくれるって言うからさ。ご厚意にあずかることに……どうしたんだ? めぐ――」

 

「死ねい! 全人類の半分の敵!」

 

「ぐぼぉっ!?」

 

杖の石突で思いっきり鳩尾を突かれたカズマは、さすがに嘔吐いた。

 

「そりゃあ勘違いしたのは私ですけれども!? アレだけ思わせぶりな台詞を無意識に吐くとか、天性の結婚詐欺師か何かですか!? あろうことか他の男の名前まで出す始末! どれだけ空気を読めていないんですか! 私のドキドキと乙女の純情を、利子と熨斗付きで返してください!」

 

「ちょ、めぐみん!? 杖でポカポカ叩くのはアークウィザードらしくないし地味に痛いからやめてくれ! 死んだらどうするんだ!?」

 

「その時はアクアに生き返らせてもらいます!」

 

「俺の命が軽い!?」

 

もっとも定期的に調子に乗って死亡し、その度にアクアの魔法によって生き返っている以上、カズマの叫びにあまり説得力はなかった。

 

「まあまあ落ち着けめぐみん」

 

杖を振りかぶるめぐみんを羽交い絞めにするダクネス。

それでもじたばたと暴れるめぐみんであったが、さすがに体格差と筋力差の前には抜け出すことは出来なかった。

 

「確かにカズマの言動は気を持たせるようなものだったが、悪気はなかったんだろう? 勘違いして浮足立った私たちにも非はある。何、立派なお土産を貰ったのは事実なんだ。ここは“広い心を持つ出来た女”として、矛を収めるべきだろう」

 

「くっ……品行方正だったダクネスが、いつの間にこんな皮肉めいた言葉を使うようになるなんて……それでも聖なる騎士ですか。というかその微妙に勝ち誇ったようなドヤ顔がイラっと来るんですが。別に何も勝っていないでしょうに」

 

「勝ち負けばかりで物事を判断しているとつまらない大人になってしまうぞ。おいカズマ、立てるか?」

 

「お、おう……ていうか、あー……」

 

フラフラと立ち上がったカズマは頭に手を当て先ほどの一連の流れを振り返し、何が問題だったのかを察する。

 

「あー、つまりアレか? アレと勘違いさせちゃった訳なのか、オレ?」

 

「アレなのですよ」

 

「アレなのかー……。うわぁ、何やってんだオレ。こんな無自覚勘違い系主人公みたいな展開になるとか、ついにオレの時代が来たのか。エリス様ありがとう」

 

(え、あの、感謝されても困るのですが……)

 

困ったように頬を掻く女神が発する天の声が聞こえた気がしたが、気のせいかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

この世界ならそういうこともありうるのだ。なんせ顔見知りな訳だし。

 

「また訳の分からないことを言って……めぐみんに叩かれすぎておかしくなったのか? ――うん? どうした顔を背けて……もしかして照れ隠し、だったのか?」

 

「ソ、ソンナコトナイデスヨー?」

 

「ほほう? どれどれ……これは珍しい。図太さばかりが取り柄かと思っていましたが、ベッドの中以外でも照れることがあったのですね」

 

「そこは赤裸々にしないでー!?」

 

「ふふ……まあそんな顔をさせたことでお相子としましょう。叩いて悪かったですね。贈り物ありがとうございます。大事にしますよ」

 

沸点も低いが矛をおさめるのも早い。

そんな年下の女の子にキュンとときめいてしまうカズマであった。

 

「あー、コホン。ところでカズマ? 他にどんな物を仕入れてきたんだ?」

 

ちょっといい空気になりかけたところで、わざとらしく口を挟んでくるダクネス。

よく見れば何かを期待するように、チラリチラリと荷の方に目をやっている。

 

「うん? ああ、そうだな。ちょっと奮発してちょむすけ用の高級猫缶とか、ゼル帝の餌とか……後はオレ用の食料とか備品類だな」

 

「ほほう……うん? 何ですかこの……初めて見る円盤形の物は」

 

「カップ麺。昔のオレの主食だよ」

 

ゴソゴソと荷を弄っていためぐみんが、取り出したカップ麺に興味を示す。

 

「食べ物なんですか? コレ」

 

「オレの故郷の偉大な発明品だよ。保存がきくし、お湯を入れて数分間で、ものすごく美味しいって訳じゃないけどそれなりに美味しいものが食べられる。時々妙に食べたくなるんだよなぁ」

 

「何と、遠出の際に便利ですね」

 

「あっ、そうだ。スウォルツと一緒にめぐみんの友達の子もいてさ。今後遊びに来るって言ってたよ。えーと、“にゅるにゅる”って名前だっけ?」

 

「惜しい。“にゃるにゃる”ですよ」

 

「そうだったそうだった」

 

相変わらず紅魔族は変な名前だよなーと、カズマは内心考える。

また杖で叩かれそうなので、口には出さなかったが。

 

「その、カズマ――これで全部なのか?」

 

「なんだよダクネス、人の荷物にそこまで興味を示すなんて珍しいな……あっ、そうだ。アレがあったんだった」

 

荷物の底の方を漁り、カズマはビンを一つ取り出す。

 

「えっと、それは?」

 

「飴。ソウル・ソサエティって所の特産品で、幽霊でも食べられる一品なんだって。なんでかおまけしてくれたんだよ」

 

「……それは珍しいが、その、他には?」

 

「うん? これで全部だけど」

 

「え」

 

「え?」

 

ショックを受けたような、愕然としたような顔になるダクネス。

 

「いや、さっきから本当にどうしたんだよ? 言っておくけど別に禁制品も変な品もないぞ。ウィズの店に行った訳じゃないんだから」

 

小首を傾げるカズマに対し、めぐみんが小さくため息を吐く。

 

「生真面目なダクネスは自分からは言い出せませんが、自分だけにお土産がない事にショックを受けているんですよ」

 

「なっ、そ、そんなことは……ってああ!? めぐみん!? これ見よがしに指輪を嵌めたりして――!?」

 

「あー、そうだったのか。その、ダクネス……オレさ」

 

「あ、ああ……」

 

カズマはダクネスの前に立ち、神妙そうな顔を浮かべ――

 

「お土産って心待ちにすることはあっても、強請(ゆす)るようなものではないと思うんだ」

 

「普段色々間違っている男から正論を言われると、こんなにムカつくのだな」

 

ダクネスはカズマの襟首をつかむと、メリメリと吊り上げる。

 

「ギャー! ダクネスのいやしんぼ!」

 

「ええい、誰がいやしんぼだ! というかちょむすけやゼル帝にはあるのになぜ私だけには何もないんだ!? もう少し気を使え! それともアレか!? そういうプレイなのか!? それなら許すが!」

 

「開き直りやがったこの女!? ってか顔を赤らめるのはやめろー! さすがに引くぞ」

 

「私だって傷つくときは傷つくんだ! しまいには泣くぞ!? そして貴族令嬢を泣かせた罪でしょっ引いてやる!」

 

「権力乱用はんたーい! くっ……いたいけだったララティーナがこんな悪徳貴族みたいなことを言い出すなんて……一体誰の影響なんだ!?」

 

「よーし、今から姿見の前に連れていってやろう。その寝ぼけ眼にしっかりと下手人の姿を焼きつけてやる」

 

「姿見……く、オレを風呂場に連れ込んで一体何をするつもりなんだこのエロ女騎士め!」

 

「何故そんな発想になるんだ!? 他の部屋にもあるだろうが!!」

 

「がじゅまさぁ~ん!!」

 

カズマとダクネスが愉快なじゃれあいをしていると、バタバタという足音と共にアクアが飛び込んでくる。

その剣幕にダクネスは一旦カズマを床に降ろし、そこにアクアが突っ込んできた。

 

「うわっ、きったな!? 涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔で突っ込んでくるな! せめて浄化してからにしろよ!」

 

「女神からでた液体なんだから実質聖水じゃないの! そんな事よりカズマさん。私の、私のお酒が……」

 

「……? オレが確認した時は何も問題なかったと思うけど、どうかしたのか?」

 

「うっかり指ポチャしちゃって……」

 

「……………………」

 

水の女神アクアの固有能力の一つである浄化。

水以外の液体ならば、僅かに触れただけで水にする規格外。

宴会などで穢れたことを考えている時ならば十全に機能しなくなるのだが……今回はそうではなかったということだろう。

 

「ごめんアクア。ダクネスがさ……どうしても今からオレと一緒に風呂に入りたいって言うから、ちょっと手が離せないんだ。まったく、めぐみんの前だっていうのに困ったやつだ」

 

「言うに事欠いて私を言い訳に使うとかいい度胸しているな」

 

「……私としては怒るべきなのか、突っ込むべきなのか、呆れるべきなのか。ここまでくると一周回って迷いますね」

 

「ダクネスとお風呂なんていつでも入れるでしょう!? そんなことより私のお酒ー!」

 

「そんなこと……」

 

ガックリと肩を落とすダクネスを尻目に、カズマは優しくアクアに語りかける。

 

「だったらアクア、今からオレの言う通りにするんだ」

 

「さすがカズマさん! 何かいい考えがあるのね!?」

 

「ああ、いいか? 今から自分の部屋に戻ってベッドで横になって、明日の朝まで眠っているんだ。お前の知力なら起きたら全部忘れている」

 

「わーん! カズマさんのバカーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクセルの町は今日も賑やかです。

 




《ちょっとした設定集》

○転生ポケモントレーナー
出展:ポケットモンスターシリーズ
ポケットモンスターの世界の転生者。伝説の超マサラ人。
バトルの腕はピカイチであり、未来予知じみた状況対応能力を誇る。
また各地を逃げ回る準伝説ポケモンと追いかけっこを繰り広げた為、逃げる相手の追跡は得意。
ウルトラホールを利用し様々な世界を旅しており、その際ごとき氏とも知り合っている。


○西
出展:シャアの日常
赤く輝く流星が目撃された翌日、とあるアパートの一室に現れた記憶喪失の謎の青年。
たまたま手元にあった麻雀牌型の判子『西(しゃあ)』から、西と名乗っている。
隣の部屋の住人が仏や神の子だったりするが、まあそういうこともあるだろう。


○紅魔族の少女
出展:この素晴らしい世界に祝福を!(?)
『にゃるにゃる』という名を持つ“神様”転生者。
めぐみんとは同級生の女の子。でも彼女の爆裂魔法は苦手。
『紅魔族一の遊び人にしてトリックスター』との口上を持ち、人から顔を覚えられにくいという特徴がある。
その実態は《削除済》。また、ごとき氏との関係は《削除済》。


○名店の味「KURAKAGE」
トリコ世界の食品メーカーが満を持して世に送り出した、世界ランク9位のシェフ倉影が経営するラーメン屋「KURAKAGE」の味を比較的再現したカップラーメン。
以下、実際に食べた某冒険者の感想。
「今まで食ってきたものの中で一番うまいのがこのカップラーメンという事実に、オレはどう反応したらいいんだろう? というか確かにとんでもなくうまいんだけど、オレが求めたカップラーメンとは違うというか。あの安っぽい味が懐かしい」





以上、番外編extra daysでした。
本編中でチラリと描写のあった、彼ら彼女らの日常譚(?)。
ここでの登場人物は、また出てくる事があるかもしれないし出ないかもしれません。
出オチした方もいますが、出会い頭の事故のようなものだと思って貰えば。
長く生きれいれば、そういうこともありますよね。


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BLEACH編

お久しぶりです、前話ではたくさんの感想ありがとうございました。
最近BLEACHのSSを読んでいたら書きたくなったので、今回はBLEACH物。
世界観としては以前のハイスクールD×D×BLEACHと同一になります。
では――


死後に漫画として読んだ事のある世界に辿り着く。

平凡な人生を送り、誰にも惜しまれることのない死を迎えた私という男が辿り着いたのは、そんな奇妙な出来事であった。

 

この現象を転生と名付けるには、些か首を捻るものがあった。

なんせふと気が付いたときに立っていたのはあの世で、私は霊体。

生前読んだ漫画――BLEACHに登場する尸魂界(ソウル・ソサエティ)と呼ばれる場所であったからだ。

 

流魂街と呼ばれるあばら家の並ぶ場所で、着たこともない着流しを身に纏う私。

戸惑いながらも住人たちに助けられ何とか生活を確立していったが、私には霊力と呼ばれるものがあったらしい。

紆余曲折の末瀞霊廷の門を叩き、死神を志すこととなった。

 

真剣など触れたこともない身ではあったが、幸いというべきか剣の才はあったらしい。

反面鬼道の才には恵まれなかったが、嘆いても仕方ないと剣を振るう日々。

詠唱から繰り出される様々な術には興味があったが、短所と長所がはっきりしている以上まずは長所から伸ばすべきであった。

自らの能力以外に己を保証するものがない身としては、実務で通じる力が必要だった。

その甲斐あってか真央霊術院も無事卒業し、死神としての職を得ることができた。

 

最初に配属されたのは、護廷十三隊における八番隊。

――とはいえ、あまり思い出は多くない。

思い入れを抱けなかったというよりは、単純に時間の問題。

入隊して間もなく、遠征部隊に異動することになった為だ。

 

遠征部隊は呼んで字の如く、尸魂界から長期間離れて虚討伐の任に就く部隊。

私が選ばれたのは、単に使い潰しても支障のない人材だったからであろう。

後ろ盾もなく、家族もなく、隊内におけるつながりも少ない。

その上で、そこそこ腕が立ちそうな男。

私を選出した顔も知らないお偉いさんに確認した訳ではないので、実際のところは分からないが。

 

この提案は私にとって渡りに船――というほど肯定的なものでないにしろ、妥協できるものであった。

尸魂界(ソウル・ソサエティ)は今後、その存亡にかかわるような大きな事件に見舞われることになる。

その中で私が恐れるのは、中途半端に介入した挙句、事態を最悪にしてしまうことだ。

己の手で世界を救うなどという高尚な理念を持つわけではないが、それでも世界崩壊の後押しをするなど御免であった。

“原作に関わらない”という点では、遠征部隊への参加はベストではなくともベターであっただろう。

少なくとも力も地位もない今の私が、人外魔境溢れる原作の舞台で何かができるとは思わなかった。

 

――とはいえ、「異動を断りたいのなら力になる」と新米隊員に過ぎない私に言ってくれた義理人情溢れる隊長が京楽春水でなかった以上、所謂原作までにまだ数百年単位の時間は存在するのだろうが。

 

また元来の押しに対する弱さというか、流されやすい性質であった私は遠征部隊への参加を受諾。

遠征の為の準備と訓練の後、私は(ホロウ)退治の旅に出ることとなった。

 

なるほどどうして、旅は厳しいものであった。

(ホロウ)を探して三千里。

四方八方へと手を伸ばし、移動と戦いに明け暮れる日々。

日本の風景も、未だ近代化には遠い景色――原風景とでもいうべきであろうか。

生前漫画であった世界の、それも過去に跳ばされるなど如何なる因果であろうかと今更ながらに首を捻ることとなった。

無論、答えが出ることはなかったが。

 

各地を巡る中で、疑問も出てきた。

ここが本当にBLEACHの世界であるのか、ということだ。

根拠となるのは、仕事の合間に見かけることのある、(ホロウ)以外の化生ども。

妖怪だの、悪魔だの、堕天使だの、そういう者達。

とはいえ基本的に業務外ということで、関りを持つことは少なかったが。

日本国内に留まらず、外国や虚圏(ウェコムンド)にまで足を伸ばすことも多々あった。

遠征部隊としての仕事も、決して楽なものではないのだ。

 

数多の虚を切り捨てる中、剣の腕は上がった。

生前は触れることもなかった刀剣であるが、道を極めるというのは奥深い道のりだ。

死神の扱う武器である斬魄刀も解放に至ったが、これがまた癖のある刀であった。

 

「剣の腕を磨きなさい」

 

己が精神世界における初めての対話にて、朱鋼(あかね)と名乗った少女は、諭すようにそう言った。

 

「私の力は特殊なの。下手に頼るようになれば、貴方の成長に悪影響を及ぼすわ。私の力を十全に扱いたければ、剣の窮極に至りなさい」

 

如何なる斬魄刀かと期待していたところにお預けを受けた為肩透かしだったものの、怜悧に告げられた言葉は私の心を奮い立たせた。

 

――雨を斬れる様になるには三十年は掛かると言う。

――空気を斬れる様になるには五十年は掛かると言う。

――時を斬れる様になるには二百年は掛かると言う。

 

なるほど、剣の道を極めようと思えば相当な時間がかかるらしい。

されど今は長命たる死神の身。

人の身では許されぬだけの時間を、剣の修練に費やすことができた。

 

朱鋼(あかね)に己を認めさせる――はっきりとした目標もあった為、モチベーションを保つことは出来た。

幾つになろうとも男子――意地はある。

 

鬼道と剣術を組み合わせた、所謂魔法剣的な技を作ろうとしたこともあったが、これは失敗に終わった。

原作において四楓院夜一や砕蜂が鬼道と白打を組み合わせた“瞬閧”を使っていたためいけるかと思ったが、なかなかどうしてうまくいかないものだ。

失敗の原因は、単純に鬼道の技量が足りなかったのであろう。

あるいは浦原喜助ほどの器用さがあれば、成功したのかもしれないが。

……ギガブレイクごっことか、やりたかったのだが。

 

当時としては苦く、今となっては笑い話に出来る失敗譚。

時にはそんな事がありつつも、剣の腕そのものは自分でも分かるくらいには上がっていった。

 

戦国の世が終わり、新たな幕府が成立し、黒船によって開国し、文明開化が起こり、日本という枠組みを飛び越え世界規模での戦が起こるようになり――

 

己が生まれた国の歴史を見守りながらも関わることはせず、死神としての職務に励み剣を振るう日々。

我ながら「ちょっと真面目に仕事をし過ぎじゃないか?」と思ったこともあったがそれはそれ。

歴史上の有名人を見物できるという、ちょっとした役得じみた真似もしていた。

新選組の沖田総司が人を辞めた時は、さすがに驚いたが。

 

死神ライフを過ごす中、己の知る“現代”にまで時代は至り、いよいよ“原作”は幕を上げた。

藍染惣右介が尸魂界を裏切った事で私の属していた遠征部隊も呼び戻され、護廷十三隊に再編成された。

 

未だ朱鋼(あかね)に自らの力を認めさせることは出来ていなかったが、それでもそれなり以上には剣を修めた身。

“時を斬る”領域には至っていたようで、帰刃(レスレクシオン)前とはいえ“老い”の力を持つバラガン・ルイゼンバーンを斬り捨てることには成功した。

油断と慢心もあったのであろうが、「なん……だと」と言って消えていくバラガンを見る藍染の目が、ひどく残念なものを見る目であったのが印象に残っている。

 

その後も多少形を変えながらも原作で語られた物語は進行していき、その工程は全て消化された、のだが……

 

結局我が愛刀は、未だに私の事を認めてくれてはいなかった。

 

最近では「お主の剣術は、尸魂界(ソウル・ソサエティ)の歴史上に存在した剣術とは最早別次元の概念だ」と言われ零番隊に誘われているのだが、まだダメであるらしい。

果たしてどこまで理想が高いと言うのか。

 

――とはいえ、最近では剣術も伸び悩みを覚えるようになってきた。

朱鋼(あかね)に拗ねられても困るので控えていたが、原作も終了したのでこれ以上は早々大きな事件も起こるまい。

多少のリスクは覚悟の上で、改めて己が斬魄刀と向き合うために、新しいアプローチを試みることにした。

 

零番隊に伝手が出来たので、斬魄刀を生み出した二枚屋殿に相談するという手もあったのだが――

 

かつて己の元に突如転移してきて以来、碌に使うこともなかった多次元間通信端末――リンフォンを引っ張り出し、他の転生者に相談してみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生者愚痴りスレ

 

 

211:名無しの装者

それでまた、オーフィスちゃんの故郷の世界に行ってきたんですか。

 

 

212:名無しのごとき氏

まあ、そうなるかな。

 

 

213:名無しの魔法提督

斬魄刀の秘められた力かー。

そういやBLEACHの世界に行けるんなら、鏡花水月の卍解とか分からない?

オレ、めっちゃ気になるんだけど。

 

 

214:名無しの寺生まれ

>>213

結局原作じゃ、最後まで使わなかったっスからねぇ。ヨン様。

 

 

215:名無しのごとき氏

無茶言うなて。

 

 

216:名無しの魔法提督

ほら、オーロラ使えば無間にも侵入できるだろ? ちょちょいと。

 

 

217:名無しのごとき氏

できんとは言わんけど、やりたくないんだよ。

直接藍染に会ったら何仕込まれるか分からんし。

第一、護廷十三隊の連中からはあまりよく思われていないんだ。

警戒させるようなことはしたくない。

 

 

218:名無しの鬼っ娘

うん? そうなのかい?

 

 

219:名無しのごとき氏

中央四十六室の子飼いの、得体のしれない男って思われているからな。

 

 

220:名無しの記憶探偵

実際得体が知れないのは、否定できない話ではある。

なんせ霊能力に依らない正体も経歴も不明の異能持ちだ。

原作では四十六室自体、死神たちとの距離があった事だしね。

 

 

221:名無しのごとき氏

チビッ子が改革を進めているけど、そう簡単にはいかんよな。

長く続いた組織だけに。

まあ護廷十三隊でも、涅とかはあんまりよろしくしたくない理由で好意的だけど。

 

 

222:名無しの魔法提督

ああ、実験体的な。

 

 

223:名無しの装者

えっと、気を付けて下さいね?

 

 

224:名無しのごとき氏

一応、昔に比べたら丸くなったそうだけどね。本当に一応だけど。

そういう訳でヨン様については諦めてくれ。

同じ盤上に立つこと自体、色々厄介なことになりそうな相手なんだよ。

 

 

225:名無しの魔法提督

そっか、残念。長年の謎が解けるかと思ったんだが……

 

 

226:名無しのごとき氏

……まあ、使わなかったってことは、使いにくい卍解だったんじゃないか?

能力とか、発動条件とかが。

むしろ始解で戦った方がまだ強いって感じで。

 

 

227:名無しの寺生まれ

あー、確かに強力でも使い勝手が悪いのってあるっスよね。

こう、最強ではあっても最適解ではない的な。

 

 

228:名無しの記憶探偵

ふむ、作中でも味方ごと巻き込みかねない能力は幾つかあったことだしね。

平子真子や七代目剣八、山本元柳斎重國の卍解あたりがそうだったか。

もっとも藍染が味方を巻き込むことを躊躇うとも思えないが……

 

 

229:名無しの鬼っ娘

うーん、じゃあもしかしたら逆だったのかもね。

 

 

230:名無しの装者

逆、ですか?

 

 

231:名無しの鬼っ娘

うん、例えばの話だけどさ。

信頼できる仲間がいて、初めて効果を発揮する卍解とか。

 

 

232:名無しの魔法提督

……だとしたら、ヨン様にとっちゃこれ以上なく皮肉な能力だな。そりゃあ。

 

 

233:名無しの鬼っ娘

ま、例え話の妄想に過ぎないけどねー。

ヨン様談義もいいけどさ、ごとき氏の依頼の方はどうだったのさ?

 

 

234:名無しの寺生まれ

あっ、そう言えばすっかり話がそれたっスね。提督のせいで。

 

 

235:名無しの魔法提督

私は一向に構わん!!

 

 

236:名無しの装者

>>235

構ってください。

 

 

237:名無しの魔法提督

はい。

 

 

238:名無しのごとき氏

じゃあ話を最初に戻すとするか。

もう一度繰り返すけど、依頼人は転生者の死神……っていうか、死後に尸魂界に転移して死神になったって感じの男性。

 

 

239:名無しの装者

前の、四十六室の方とはまた別人なんですよね。

 

 

240:名無しのごとき氏

ああ、世界は一緒だけどな。

 

 

241:名無しの記憶探偵

これで3人。

私のいる軌跡世界と一緒で、複数の転生者がいるタイプの世界か。

案外他にもいるかもしれないね。

 

 

242:名無しの魔法提督

転生者飽和状態の、ウチのリリなの世界ほどじゃないだろうけどなー。

 

 

243:名無しの寺生まれ

他にもワンピースの世界とかも転生者が多いらしいっスね。

前ネットニュースで見たッスけど、確か四皇が十二皇くらいに増えてるとか。

 

 

244:名無しの装者

海の王様多過ぎじゃないですか!?

 

 

245:名無しのごとき氏

ああ、あの世界は行ったことがあるがひどかったな。

マリンフォード頂上戦争とかリアル観戦していたが、軽く地獄だったぞ。

エースを助けるために転生者由来の海賊団やら秘密結社やらがぞろぞろ殴り込んできたんだけど、肝心のエースと面識がある奴がほとんどいなくてなぁ……

「助けに来たぜっ!」って乗り込んでくる転生者に対して、エース自身「えっ、この人達誰?」って感じだったし。

どの勢力も大混乱だよ。

 

 

246:名無しの鬼っ娘

そ れ は ひ ど い。

 

 

247:名無しの魔法提督

オレも実況スレ見てたぜ。

アルカディア号が出てきた辺りでめっちゃ盛り上がったなぁ……

 

 

248:名無しの寺生まれ

それこそリリなの世界でもやっていける船じゃないっスかやだー!?

 

 

249:名無しの魔法提督

オレの力を使ったら、どんなメンタルモデルになるかは気になるな。

 

 

250:名無しの記憶探偵

――というより、また話がズレてきたね。

 

 

251:名無しの装者

ですね。それでごとき氏さん。

その死神さんはどんな人だったんですか?

 

 

252:名無しのごとき氏

あー、まあ一言で表現すれば、剣聖か。

 

 

253:名無しの寺生まれ

剣の達人ってことっスか。

 

 

254:名無しのごとき氏

そう。稀によくいるヤベー剣士的なナニカ。

 

 

255:名無しのごとき氏

ほら、オレらの転生前の世界ならまだしも転生後の世界ってさ?

なんか刀がアレじゃん。

最早刀が刀じゃなくてKATANAとでも呼ぶべき戦略兵器って言うか。

こう、アメリカのゲームによくある何故か日本刀が最強クラスの武器なのを、万倍くらいひどくしたような。

 

 

256:名無しの魔法提督

あー、なんか言いたいことは分かる。

リンカーコア抜きでも、偶に「こいつホントに人類か?」って思うやつがいるんだよな。

生物学的には、間違いなくただの人間のはずなのに。

 

 

257:名無しの装者

ああ、司令とかお爺さんみたいな人ですね…( = =) トオイメ

 

 

258:名無しのごとき氏

極まった剣士はホントに訳が分からないからな。

岩だろうが鉄だろうが、時間だろうが空間だろうが、概念だろうが意味だろうが剣一本で何でも斬るから。

ただの人間が鉄の塊振り回して、なんであんな結果になるんだか……

攻撃だって、起こりから終わりまでしっかり視認できるクセに躱せなかったりするし。

 

 

259:名無しの鬼っ娘

そのレベルのヤツが多ければ、鬼としても食いっぱぐれることはなかったんだろうけどねぇ。

 

 

260:名無しの寺生まれ

幸か不幸か、オレはそんな相手に出会ったことはないっスね。

 

 

261:名無しのごとき氏

まあ今回の依頼人もそんな類の剣士だった訳だが。

要は自分の斬魄刀に認められたいから、相談に乗ってくれって話だな。

 

 

262:名無しの記憶探偵

始解の能力も十全に発揮できていないのだったか。

原作終了後に至っても尚その段階とは、少々意外に感じるな。

剣士としては極上なのだろう?

 

 

263:名無しの鬼っ娘

BLEACH系の転生者なら卍解までいけそうな気もするけど、アレって一応、貴族でも数代に一人レベルの奥義なんだよねぇ。

 

 

264:名無しの魔法提督

その辺道具で解決した、チート科学者もいるけどな。

 

 

265:名無しのごとき氏

まあ、その辺は複雑かつ単純な事情があったんだよ……

 

 

266:名無しの装者

えっと、どっちなんです?

 

 

267:名無しのごとき氏

表裏一体ってことだよ。

斬魄刀の銘は朱鋼(あかね)。名前の通り朱い刀身の、常時開放型の斬魄刀。

画像貼るぞ。

 

 

《画像》

 

 

268:名無しの寺生まれ

わっ、ホントに朱いっスね。

でも肝心の能力が分からないってことっスよね?

 

 

269:名無しのごとき氏

始解を覚えたばかりの頃に、『自分の能力は特殊で下手したら成長を阻害するから、今はまだ教えられない』って言われたらしい。

 

 

270:名無しの記憶探偵

興味深い話だ。

強すぎて頼りきりになってしまう可能性があったのか、それとも文字通り成長に悪影響を及ぼすような副作用が存在するのか。

ふむ、認められないのも単純な強さ以外に、何か重要な条件があると見た。

 

 

271:名無しのごとき氏

……まあその辺を探るために、本人に直接聞いてみることにした訳だ。

具象化は出来ていたから最初は二人がかりで聞こうとしたんだけどなぁ。

話したくなかったみたいですぐに消えちゃったから、追いかける羽目になったよ。

 

 

272:名無しの鬼っ娘

追いかけるって何処にさ?

 

 

273:名無しのごとき氏

その転生者の精神世界に。

 

 

274:名無しの鬼っ娘

……えっと、どうやって?

 

 

275:名無しのごとき氏

オーロラで。

 

 

276:名無しの魔法提督

行けるんかい!? いや、心の壁とかそういうのがあるだろう!?

 

 

277:名無しのごとき氏

なんだ、わざわざ心の壁を越えないと精神世界にも行けないのか。

 

 

278:名無しの寺生まれ

破壊者のオマージュじゃないっスか!?

ありなんスかソレー!?

 

 

279:名無しの魔法探偵

一個体の精神性が一つの世界としてカウントされるのか。面白い話だ。

 

 

280:名無しの鬼っ娘

でも個人の精神を基準にした世界なんて、かなり不安定だろう?

気をつけなよ。

 

 

281:名無しのごとき氏

知ってる。ゆめにっきは割と大変だった。

 

 

282:名無しの魔法提督

あー、そんな世界まであるのか。

 

 

283:名無しのごとき氏

まあそれで精神世界に入って一対一で話した訳だがな。

何とか事情を話してはくれたんだが……

 

 

284:名無しの装者

アレ、話してくれたんですか?

思ったよりもあっさりと……

 

 

285:名無しの寺生まれ

もうちょいイベント挟みそうな気もしたんスけどね。

 

 

286:名無しのごとき氏

まあ、彼女自身ホントは誰かに相談したかったみたいだからな。

ただし担い手である転生者には今更言えないし、他には話せる相手なんていないからずっと一人で抱え込んでいたそうだけど。

 

 

287:名無しの記憶探偵

ふむ、何というか雲行きが怪しくなってきたように感じるが。

 

 

288:名無しのごとき氏

さすが良い勘してるな。

結論から言えば、『能力は一切なし』。

 

 

289:名無しの鬼っ娘

 

 

290:名無しの装者

はい?

 

 

291:名無しの魔法提督

あー

 

 

292:名無しの寺生まれ

ええと、まじスか?

 

 

293:名無しのごとき氏

マジデジマ。刀身の色が変わるくらい。

敢えて良い言い方をするなら、特殊能力に回す分の全リソースを全部、刀としての基礎能力につぎ込んでいるとも言えるが……

特殊と言えば、斬魄刀としてはこれ以上なく特殊かもしれんな。

 

 

294:名無しの記憶探偵

つまり成長を阻害する云々は、失望されたくなかったが故の言い訳ということか。

 

 

295:名無しのごとき氏

誰だって宝箱が空だったらがっかりするからな。ミミックじゃないだけマシだが。

成長を阻害するってのも、全く的外れって訳じゃないかな。

何の力もない斬魄刀を見て「自分には才能がない」って思い込んだら、成長が遅れた可能性はあるし。実際は剣の鬼才だった訳だが。

擁護すれば、刀として見ればちゃんと優秀なんだよ。

ただ火も氷も風も雷もビームも出ないだけで。

 

 

296:名無しの魔法提督

本当はそれが普通なんだろうけどなぁ……

 

 

297:名無しのごとき氏

クールぶっているけど鍍金だったからなぁ。

中身は相当なポンコツだぞ、あの娘。

おまけに涙目で「どうしよう……」とか相談されるから、こっちが虐めてるみたいな空気になってさ。

 

 

298:名無しの装者

アハハ……お疲れさまです。

それで結局どうしたんですか?

 

 

299:名無しのごとき氏

そりゃあ、全部ぶちまけてごめんなさいさせたよ。

 

 

300:名無しの鬼っ娘

へえ、ストレートなやり方だねぇ。

 

 

301:名無しのごとき氏

この場合、嘘と誤魔化しを重ねても余計な重石になるだけだからな。

単純な方が効果はある。

 

 

302:名無しの寺生まれ

それで結果はどうなったんスか?

 

 

303:名無しのごとき氏

何というか、その死神も薄々そうじゃないかとは察していたみたいでな。

ちゃんと仲直り……いや、別に元々仲違いしていた訳じゃないんだけど。

あの二人にとって必要だったのは、一歩を踏み出す切っ掛けだったんだろうさ。

 

 

304:名無しの記憶探偵

さしずめごとき氏はキューピッドかな?

 

 

305:名無しのごとき氏

やめい。アイツ意外と性格悪いんだぞ。

 

 

306:名無しの寺生まれ

ああ、空港勤務の……

 

 

307:名無しの装者

夢が崩れますね……

 

 

308:名無しの魔法提督

しっかしその死神、結局卍解抜きで最後まで戦いきったんだよな。

千年血戦篇では使いにくかったとはいえ、かなりすごいんじゃないか?

 

 

309:名無しのごとき氏

ああ、それだけど――卍解は使えていたっぽい。

 

 

310:名無しの魔法提督

はん? どゆこと?

 

 

311:名無しのごとき氏

いやさ、斬魄刀の彼女はとっくにその死神転生者の事を認めきっていたからさ。

名前こそ教えていなかったけど、危ない時は勝手に発動していたそうなんだよ。

 

 

312:名無しの寺生まれ

いや、勝手に発動って……そんなことしてもバレるんじゃないっスか?

 

 

313:名無しのごとき氏

それがなー、ほれ、卍解の画像

 

 

《画像》

 

 

314:名無しの装者

えっと……始解の時と何か変わってますか? コレ。

 

 

315:名無しの鬼っ娘

あー、よく見たら刀身の色がちょっと薄くなっている……かな?

 

 

316:名無しのごとき氏

ご名答。銘を鴛鴦契茜拵(えんおうちぎりあかねこしらえ)

ぶっちゃけ見た目はほぼ変わらないから、死神転生者としては始解のバリエーションの一つだと思っていたらしい。

霊圧の増大は、斬魄刀が力を貸してくれている的な感じだと解釈していたそうな。

 

 

317:名無しの記憶探偵

ちなみに卍解時の能力は?

 

 

318:名無しのごとき氏

ない。

 

 

319:名無しの鬼っ娘

やっぱりかー。

 

 

320:名無しのごとき氏

それでも一応利点もあってな。

ほら、これが卍解だって担い手本人にすら分かっていなかったから、滅却師サイドにも情報が伝わらなくて、結果的に発動してもメダリオンで奪われなかったりとか。

 

 

321:名無しの寺生まれ

ホント結果論っスね……

 

 

322:名無しの魔法提督

しっかしアレだな。

名前の割には、装飾は普通というか。

いや、斬魄刀の名前と見た目にどれだけ相関関係があるのかは知らんけど。

 

 

323:名無しの装者

どういうことですか、提督さん?

 

 

324:名無しの魔法提督

ほら、名前に“拵”って入っているだろ?

あの字って日本刀では鞘とか鍔とか柄とかの総称だから、名前からしたらその辺が茜色になりそうだなーって。

でも茜色なのは刀身の方だし。

 

 

325:名無しの装者

へえ……そんな意味が。

 

 

326:名無しのごとき氏

ああ、そういう意味もあるんだけど、多分彼女の場合は別の意味。

 

 

327:名無しの魔法提督

知っているのかごとき院。

 

 

328:名無しのごとき氏

だれがごとき院だw

ほら“拵”ってさ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫁入り準備って意味もあるんだよね。

 

 

329:名無しの魔法提督

恋愛脳かよアカネちゃん!?

 

 

330:名無しの記憶探偵

となると鴛鴦契も、やはりそちらの意味か。

末永くお幸せに、と言ったところだね。




○死神の男性
ハイスクールD×D×BLEACHの世界への転生者の一人。
霊圧としては並みの隊長格レベルであるが、剣の腕はごとき氏をして「あの人ちょっとおかしいんだけど」と言わしめるレベル。
コンセプトとしては、Fateの佐々木小次郎クラスの才の持ち主が、数百年単位で腕を磨き続けたら――となっている。
死神しての職務を長い間遠征部隊としてこなし、藍染の反乱後召集され古巣の八番隊に配属。席官に任命されるが、同僚の天貝繍助の引き起こした事件の余波や始解を使いこなせていない(と思われている)ことから、それ以上の出世はしていない。
本人としては、数百年単位の遠征部隊としての仕事で使いもしなかった貯金が貯まっているので、出世にはあまり興味がない。でも最近「零番隊とかどう?」と打診が来ている。

始解:朱鋼(あかね)
朱色の刀身を持った斬魄刀。特殊能力の類は存在せず、単純に刀剣としての性能は非常に高い。また常時開放型の為、解号は存在しない。
アバターとして朱色の髪の少女が存在しており、表面上はクールだが中身は恋愛脳。

卍解:鴛鴦契茜拵(えんおうちぎりあかねこしらえ)
茜色の刀身を持った斬魄刀。卍解としての全出力を通常の斬魄刀サイズに圧し込めた、ただそれだけの一振り。






連載終了から結構経つのに、未だランキング上位に来るBLEACH系SS。
根強い人気を感じるものです。斬魄刀が厨二心をくすぐる。何よりオサレ。
誰だって子供の頃オリ斬魄刀とか考えたことがあるはず(多分)。
藍染の卍解は気になるけど、謎は謎のままというのも味があります。
あと遠征部隊は情報が少なかったので、派遣先に関しては独自設定。
アニメ版では砂漠を歩いている様子もあったので……
それでは今回はこの辺りで……


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裏世界ピクニック編

仮面ライダーアークゼロ 動力源:対消滅炉
「ふーん………………うん?」



何度目かになる私たちの来訪を迎え入れた、ひょろりと背の高い雑居ビル。

――とは言えこのビルそのものに用事があるのではなく、ここは一種のバイパスだ。

 

エレベーターのボタンを押して少し待つと、長方形の密室が口を開く。

中には人影一つない事に、内心でガッツポーズ。

私たち以外の誰かを裏世界に連れていくわけにはいかないし、連れていきたくもない。

 

エレベーターの中に入り込み、いつものように鳥子(とりこ)が操作盤のボタンをタップする。

めちゃくちゃな順番でボタンを押す白魚のような指。

子供の悪戯のような、本来の用途からは逸脱した行為。

こんな光景も、今となっては見慣れてしまったので特に突っ込むことはない。

5階で“乗せてはいけない女”が乗り込んでこようとする時だけは、何度経験してもドキリとするが。

 

『エレベーターの階数ボタンを特定の順番で押すと、異世界に行ける』

ネットを覗けば、さほど苦労することもなく見つけることのできる有名なネットロア。

もしここに第三者が居れば、女子大学生二人が大真面目にそんな都市伝説を実行していることを奇異に感じるだろう。

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決められた階層にのみ止まるエレベーター。

しかし開いた扉から見える光景に、同じものは一つとしてない。

 

徐々に開閉のスピードを増す扉。

気が付けば異形の文字に変化している、エレベーターの操作盤。

起きているはずなのに夢を見ているような、不思議な非現実感。

 

それの乗り越えた辿り着いた先の光景は、ひび割れたコンクリートタイルで覆われた屋上。

錆びた鉄柵――そしてどこまでも広がるかのような青空。

この世ならざる、世界の《裏側》――裏世界。

私と彼女の、冒険の舞台だ。

 

「よし! 無事についたね」

 

一足早く鳥子がエレベーターから出て、慌てて彼女を追いかける。

同時にフッと気が抜ける。

危険の多い裏世界で気を抜くというのはあんまりよろしくないが、仕方がない。

なんせ目の前にいる鳥子は、とんでもない美人さんなのだ。

既に何度も顔を合わせて共に危機を乗り越えた間柄とはいえ、狭い密室に二人きりだと未だに緊張することがある。

 

「今回は何もなくてよかった」

 

初めて鳥子と共にこのエレベーターに乗った日――

あの時は予期せぬ“何処か”に繋がってしまったのを思い出す。

エレベーターの扉から僅かに覗いた異形の爪先。

もしもアレがエレベーター内に入り込んでいれば、今頃こうして立っていることはなかったかもしれない。

 

「じゃ、行こっか」

 

綺麗な金のロングヘアーを翻し微笑んでくる鳥子。

……今からこの10階建てのビルから梯子をつたって下りるという、現代日本ではなかなか遭遇しないであろう運動をしなければならないわけだが。

その苦労を考えるよりは、彼女の笑顔に誤魔化された方がいいだろうと考えてしまった。

 

 

 

 

 

裏世界は危険に満ちている。

目の前に広がる一見のどかに見える草原にだって、不可視の罠が幾らでも存在する。

かつてその存在を教えてくれて、そして死んでしまった(多分)男性に倣いグリッチと呼んでいる異常な空間にして超自然の罠。

強力な装備と優秀な人材を揃えた米軍の特殊部隊ですら、この脅威の前には多くの犠牲を出し、身動きが取れなくなる代物だ。

彼らは今も、この裏世界のどこかにあるきさらぎ駅で立ち往生しているのか。

私たちと別れた後、うまく抜け出せたのか。

もしくはもう、全滅してしまったのか――なんて薄情なことを考える。

 

グリッチの中でも詳細が判明しているものは少ないが、大抵は踏み込んだ時点で命を落とすか、“死んだ方がマシ”な状態になるような存在だ。

……そんな世界に積極的に入り込む私たちは、もしかしたらちょっと変わっているのかもしれない。

 

空魚(そらを)、この辺りはどう?」

 

「ちょっと待って」

 

名前を読んでくる相方に答え、右目を凝らす。

私の右目は以前とある怪異に接触した影響で、裏世界の存在を見通す視界を得ていた。

不可視のグリッチを視認することができ、裏世界を探索する上ではとても有用な代物だ。

……なのだが、外見ばかりは勘弁してほしい。

右目だけ鉱物じみた青色に変化し、地味な外見の私には似合わなすぎるオッドアイだ。

 

ちなみに鳥子の左手の指先も、怪異との接触で青く透明なものへと変化している。

裏世界の存在を掴み取る機能があるのだが、はっきり言って私の右目とは比べものにならないくらい言い訳のきかない外見的変化だ。

人と人との距離が遠いと言われるこの時代。

人に見られても案外見て見ぬふりをされるそうだが、中には不躾な輩もいる訳で。

それを嫌って、普段は手袋で隠している。

 

「ん、大丈夫そうかな」

 

異色の右目を通した視界の中に、グリッチの存在を示す銀の燐光は見えない。

そのことを告げると、鳥子は「うんっ」と周囲を見渡す。

 

「じゃあどんどん行こう!」

 

「ちょっと落ち着きなよ。私の“目”だって実際どこまで視ることができるか分からないんだから、何か見落としがあるかもしれない」

 

「うーん、それもそうね。気をつけながら急ぎましょう」

 

鳥子は目的故か裏世界の探索に対する意欲は非常に高いのだが、反面ちょっと考えなしな部分もある。

理屈の通った意見ならすごく素直に聞いてくれるので、その辺りは助かるのだが。

もっとも彼女の“お友達”が関わらない場合に限るが。

 

「とりあえず今日はあっちの方に――」

 

そう言いかけた時だった。

ドォン!! と草原に音が響き渡り、炎が――否、爆炎が上がったのが見える。

私と鳥子は顔を見合わせ、まずは私が口を開いた

 

「あの爆発、何かな。もしかして米軍の人たちがこっちまで来たの?」

 

「でもきさらぎ駅からここまでは結構距離もあるはずだし、グリッチと《怪異》を乗り越えてここまで来れたっていうのは、ちょっと考えにくい気もする」

 

鳥子の言葉には頷ける部分が大いにあった。

私個人としてはこの裏世界に非常に惹かれているが、事故的に取り込まれた米軍の人たちからすると悪夢のテーマパークと言っていいだろう。

実際に拠点として運用しているきさらぎ駅から、大きく動くことができていなかった。

限界を迎える前に最後の決死行に挑んだ可能性もあるが、推測ばかり続けても答えは出ない。

 

「――とにかく行ってみよう。米軍の人たちだとしても他のナニカだとしても、放ってはおけないよ。もしかしたら冴月(さつき)かもしれないし!」

 

「あ、ちょ――!?」

 

駆け足で爆炎の上がった方角に向かう鳥子に、慌てて追いすがる。

 

(まったく――またお友達かっ!)

 

離されないように鳥子の背を追いながらも、行き場のない苛立ちを噛みしめる。

『行方不明になった友達を探す』――なるほど、立派な目的だろう。

そのために危険極まりない裏世界を巡るのは蛮勇かもしれないが、鳥子は自分に出来ることを必死にやっているだけだ。

 

――だからこそそのことに昏い感情を覚える自分に、動揺や自己嫌悪を覚えるのだが……

鳥子と出会って初めて抱いたこの感情を、私は未だにうまく消化することができないでいた。

 

やがて爆炎が立ち昇った現場に辿り着く。

 

当然あの大きな炎は消えているが、焦げた香りが鼻に届き、青々しかったであろう草原は黒く変色し、ところどころにチリチリと小さな火が灯っている。

 

その光景を見ながら私たちに背を向けているのは、黒い異形の人型。

そいつはゆっくりと私たちの方に振り返り――顔が分かる頃には人間の姿になっていた。

 

「空魚」

 

鳥子が小声で話しかけてくる。

 

「今、人間じゃないように見えたんだけど、あなたはどう?」

 

彼女の藍色の瞳が訴えんとすることは理解できる。

物理法則の支配する世界ならまだしもここは裏世界。

僅かな時間とはいえ視認できたあの異形の姿を、“気のせい”の一言で片付けるのは危険すぎる。

 

「私も一瞬前は怪物に見えた。でも今は――」

 

裏世界には、多くの怪生物が存在している。

私たちの知っている植物や動物を歪めたようなものから、見ているだけで精神を冒涜されそうな異形まで。

中には“人の想像する都市伝説”を形にしたような存在も、少なからず存在する。

 

それらの生き物は、基本的に人の視覚情報として認識できる姿と実際の姿が全く別物である場合が多い。

そして私の青い右目は、その実態を暴くことができる。

左目では人型に見える相手が、右目では歪んだ鳥居に見えるといったように。

 

――しかし、だ。

 

その右目をもってしても、目の前の相手は人間にしか見えない。

少なくとも左右の目から得られる姿には、これといった差異は見つけられなかった。

 

とはいえそれだけで、目の前の男が人間だと判断するには足りない。

まず第一に服装がおかしい。

なんだあの妙なデザインの紫の服は。

あんな服装で東京の街中にでも繰り出そうものなら、悪目立ち間違いないだろう。

まるで別の世界の感性だ。

 

(うん? ひょっとしてその線なのかも)

 

未来人や平行世界人、もしくは異世界人。

もしかしたらあの男はその類のネットロアを模した怪異なのかもしれない。

勿論単に変な格好のオッサンという可能性もあるのだが。

 

「なんだ、人がいたのか」

 

男が私たちを見て呟いた。

 

「妙な空間異常と言い精神干渉を働く怪物と言い、人の住む世界ではないと考えていたが……」

 

「別に住んでいる訳じゃないよ。ゲートを使ってこの裏世界に入ってきたの」

 

独り言のような男の言葉に、鳥子が答える。

一応、会話ができる相手ではあるようだ。

――とはいえ簡単に近づくような真似はしない。

鳥子も愛用の自動小銃を構えこそしていないものの、何時でも扱えるようにしているのが分かる。

私だって扱いきれているとは言えないものの、遺憾ながら手に馴染んできた拳銃に手を添えている。

 

というか、だ。

私たちの銃器にまるで反応を見せないあたり、やはり普通の人とは思えない。

 

「裏世界、か」

 

私たちの警戒など考慮にも値しないというように、男が唸る。

 

「空気感でそうだと思っていたが、やはり異界や幽世の類か。ひょっとしたらポストアポカリプス系の世界かとも思ったが。まあ“彼女”が流れ着いている以上、さもありなんということか」

 

「………………」

 

ほらー、やっぱりなんか異世界人っぽい思わせぶりな言動。

やはり怪異の一種なのかとも疑うが、それにしては何というか、人間っぽい。

私の右目をどんなに凝らしても怪異としての実態は見えないし、こうして接触を続けていても気分が悪くなったり、妙な心の働きもない。

自覚症状が全くないタイプの干渉だったら厄介だが、その場合は私か鳥子のどちらかが異常に気付くことを祈るしかない。

 

「その目――」

 

「へ?」

 

男はいつの間にか私を――青く変じた右目を見ていた。

 

「魔眼の類か。先ほどからオレに干渉しているようだが、“攻撃”と捉えていいのか?」

 

「え、攻撃って……え?」

 

急に飛び出した物騒な言葉に、冷や汗が流れる。

言葉とは裏腹に敵対的な印象は受けないが、観察するような様子はある。

私としては心当たりがないので、内心あたふたしつつも何か言わなければいけないと思うが、こんな時に限って私の口はうまく言葉を紡いでくれない。

くそう、長年ボッチやってた弊害か。

 

「ごめんなさい、そんなつもりはないの」

 

そんな私に代わり、鳥子がAKから手を離し両手を上げる。

 

「空魚の目、こんなになったのは最近の話なの。だからあなたの言う“攻撃”っていうのもよく分からない」

 

「――そうか」

 

正直に答える鳥子に男は納得したのか、それでもどうでもいいと判断したのか。

 

「とにかく、その目で見過ぎるのは止めてくれ。対精神攻撃用の対策くらいは幾つかしているが、無駄に消耗するような真似は避けたい。特にこんな場所ではな」

 

「あ、はい。すみません」

 

とりあえず素直に言われたとおりにしておく。

 

「余計なお世話に聞こえるかもしれんが、その内機能の確認はしておいた方がいい。例え話だが、覗き込んだ相手が不幸になったり異形の怪物に変わったりとかは、嫌だろう?」

 

「それは、まあ……」

 

先ほどから男が語る多くの単語は、私の持つ一般常識からはかけ離れたものだ。

字面から何となく意味こそ想像できるが、通常の会話で使うようなものではない。

 

――少なくとも今まで裏世界で出会ってきた怪異の、どのタイプにも当てはまらない。

だったら人間なのかと問われれば、また疑問が残るところではある。

言動がちんぷんかんな割に意味自体は理解できなくもないあたりが、何とも奇妙な感覚だ。

 

「あなたは人間ということでいいの?」

 

気になっていたことを、鳥子があっさりと突っ込む。

この上なく分かりやすいが、もうちょっと遠回しに聞けないのかとは思う。

――彼女の微妙なコミュニケーション能力の欠如は、人との距離感を見定めることの下手さから来ているのだろう。

なんせ鳥子はスクールカーストの頂点に君臨していそうな容姿の割に、私と同じくボッチなのだから。

 

「哲学的な意味で?」

 

「生物的な意味でお願い」

 

「この異界――君達の言い方を借りれば裏世界か。少なくとも、裏世界に住む奇妙な生体の生き物たちと同種でないことは確かだ」

 

「はっきりしない言い方ね」

 

「あいにくと病院で検査すれば、人間と認めてもらえるか怪しい身でな」

 

何とも婉曲的かつ好奇心をくすぐるような言い回しだった。

このオッサン、絶対面倒くさい奴だろうと私の中で認定する。

 

「さて、一先ず自己紹介でも済ませておくとしようか。オレはスウォルツだ」

 

「私は仁科鳥子(にしなとりこ)。で、こっちは――」

 

「……紙越空魚(かみこしそらを)

 

よろしく、とは言わなかった。

現状、あんまりよろしくしたい相手でもなかったから。

というか明らかに日本人的な容姿なのに外人的な名前なのか。

もっともそれを言ってしまえば、鳥子も外人さんみたいな見た目なのにバリバリ日本名なので、口には出さないが

 

「――ああ、なるほど」

 

「なるほどって、何が?」

 

一人得心がいったというような声音に、私は聞き返していた。

 

「いや、色々と繋がってな。思い出したというべきか」

 

「私たちの名前で、いったい何が――」

 

「あっ、もしかして冴月の知り合いとか!?」

 

スウォルツを問い詰めようとした私に、目を爛々と輝かせた鳥子が割り込んでくる。

 

閏間冴月(うるまさつき)って女の人なんだけど、知ってる? 行方不明になって、ずっと探してるんだ」

 

閏間冴月――鳥子の探す“お友達”。

私自身に面識はないが、個人的事情からちょっとおもしろくない人物。

裏世界の研究者であったらしく、目の前の男が彼女の知り合いというのなら、私はともかく鳥子の名前を彼女から聞いたことがあるというのはありうる話だろう。

――希望的観測ではあるが。

 

「いや、悪いが知り合いという訳ではない。諸事情から名前を“見た”ことくらいはあるが、赤の他人だ」

 

「そっかぁ……」

 

肩を落とす鳥子。

在って無いような希望はあっさりと打ち砕かれた。

いや、名前を知っているだけでも正直出来過ぎだとは思うのだが。

 

「スウォルツさんはどうして裏世界に?」

 

「人探しだ。知人が紛れ込んだようでな。高校生くらいに見える茶髪の女の子だが、どこかで見なかったか?」

 

高校生くらいに“見える”ということは、実際には高校生ではないのだろう。

鳥子経由で小学生にしか見えない大人に知り合ったので、彼女に比べれば見た目と年齢に差はないと思うが。

 

「そっか、スウォルツさんも……残念だけど見ていないわ」

 

人探しということで、鳥子は興味と共感を覚えたようだ。

動機が同一なのだから仕方ないだろうが。

こうしてみると、金稼ぎと興味本位から裏世界に来ている私が若干場違いにも感じる。

動機としては、私のが一番純粋だとは思うが。

 

それに結局先ほどの“なるほど”が何を指していたのか、聞きそびれてしまった。

今更蒸し返す空気でもなくなってきたし。

 

「一応私たちも気にかけておくから、良かったら名前教えてくれない?」

 

「む、それは助かるが……」

 

言い淀むスウォルツだったが、やがて観念したように口を開く。

 

「もし遭っても、あまり深くは関わらない方がいい。……色々と厄介な娘だからな」

 

仮にも探している相手にあんまりな言い草だろうと思った。

私の言える話ではなかったが。

鳥子も同意見だったのか、僅かに形のいい唇を尖らせる。

 

「厄介って、ちょっとひどくない?」

 

「まあ、そうなんだがな」

 

鳥子の意見に(こうべ)を振りつつも、同時に己の意見も翻すつもりはないようだった。

 

「彼女の名は十叶詠子(とがのよみこ)。一言で表せば――“魔女”だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生者愚痴りスレ

 

1221:名無しのごとき氏

疲れた。

 

 

1222:名無しの記憶探偵

開口一番どうしたのだね?

 

 

1223:名無しの装者

あ、ごとき氏さん乙です。

 

 

1224:名無しのごとき氏

乙~。

ちょっとばかり神経使う場所の探索しててなー。

 

 

1225:名無しの鬼っ娘

ほほう、お客さんどちらまで?

 

 

1226:名無しのごとき氏

『裏世界ピクニック』って知ってる?

その世界にある裏世界ってとこ。

 

 

1227:名無しの魔法提督

知らんべ。

 

 

1228:名無しの装者

私も知りませんねー。

 

 

1229:名無しの寺生まれ

オレ知ってるっス。

確か百合と都市伝説を扱った作品だったっスね。

 

 

1230:名無しの装者

百合。

 

 

1231:名無しの魔法提督

>>1230

ほほう、お嬢さん百合に興味があるのかね。

女所帯だもんな、シンフォギア

 

 

1232:名無しの記憶探偵

その裏世界とやらはどんなものなのかね?

言葉面で何となく想像はつくが。

 

 

1233:名無しの装者

>>1231

ナイナイです。

私はノーマルな恋愛を求めています。

 

 

1234:名無しの寺生まれ

ご想像通りだとは思うっスけど、幽世とかの異世界系統っスね。

人ならざる者が住む、物理法則では測れない世界っス。

 

 

1235:名無しの鬼っ娘

幻想郷みたいなとこ?

 

 

1236:名無しの魔法提督

>>1233

同性愛も場所によっちゃノーマルと認められてるよー。

基本的に、人口や社会に余裕がある世界になるけど。あと宗教とか。

 

 

1237:名無しのごとき氏

>>1235

講義の意味では同じカテゴリだが、幻想郷とは別物。

あそこほど人間に優しくない。

 

 

1238:名無しのごとき氏

訂正:講義×→広義○

 

 

1239:名無しの寺生まれ

そうっスね。

うろ覚えっスけど、危ない空間トラップとか結構あったような。

確か踏み込んだらこんがり上手に焼かれたり、紙人間になったり。

 

 

1240:名無しの装者

>>1236

そっちは未来ちゃんとかに任せます。

 

>>1239

紙人間っていうと?

 

 

1241:名無しのごとき氏

裏世界に関わって肉体面が変化した人を第四種接触者って呼ぶんだけど、その症状の一つ。

人体が紙くずの山みたいになる。

 

 

1242:名無しの記憶探偵

こちらにも塩化という症状は存在するが、なおひどく感じるよ。

それは生きたままということかね?

 

 

1243:名無しのごとき氏

直接見てはいないけど、生きてはいるらしい。

とはいえ意識があるかは分からないし、何も出来ずにエアコンの風に揺られているくらいだけど。

一応治療しようとはしているみたいだが、正直一度殺して生き返らせた方がまだ早い気がする。

そもそもちゃんと死ねるのかも分からんが。

下手すりゃ灰になっても生きている可能性があるからな。

 

 

1244:名無しの鬼っ娘

そりゃあひっどい話だねぇ。

 

 

1245:名無しの魔法提督

こう言っちゃなんだが、死んだ方が幸せな事ってあるよな。

 

 

1246:名無しの寺生まれ

創作物としてならそういうのも好きっスけど、実在はしてほしくないものっスね。

 

 

1247:名無しの装者

ごとき氏さんは、その治療を頼まれたんですか?

 

 

1248:名無しのごとき氏

いや、今回は完全な私用。

あの世界に転生者がいるのかも分からんしな。

 

 

1249:名無しの記憶探偵

ほう、それは珍しいね。

君はいつも、誰かの依頼で動いている節があったが。

 

 

1250:名無しのごとき氏

まあ、身から出た錆だからな。

ちょっと知人が行方不明になって、探しに行ってた。

 

 

1251:名無しの鬼っ娘

またオーフィスかい? それとも他の界渡り?

 

 

1252:名無しのごとき氏

一応、面倒を見ているという名目の子でな。

とは言っても普段は人に預けているんだけど。

 

 

1253:名無しの魔法提督

名目て。なんだかおもしろそうな気配がするんだが。

 

 

1254:名無しの寺生まれ

その子大丈夫だったんですか?

変な後遺症とか。

 

 

1255:名無しのごとき氏

>>1254

問題ない。

というか、存在そのものが裏世界と相性がいいから紛れ込んだんだろうな。

今回は、“平行世界の硬貨”の都市伝説を起点に世界移動したみたいだけど。

まあ、預けていた場所の特殊性もあるだろうが。

 

 

1256:名無しの記憶探偵

ふむ、どうにも難しい事情の子のようだね。

 

 

1257:名無しのごとき氏

否定はできないな。

十叶詠子って名前なんだけど。

 

 

1258:名無しの寺生まれ

魔女じゃないっスか!?

なんでいるんすか!

 

 

1259:名無しの魔法提督

……ああ、思い出した。Missingか。

あのホラー系ライトノベル。

 

 

1260:名無しの鬼っ娘

誰なんだい?

 

 

1261:名無しのごとき氏

>>1259

ホラーじゃなくてメルヘンらしい

 

>>1260

誰かと言われれば、やっぱり魔女と答えるべきなんだろうな。

昔色々あって、拾ったというか、引き取ったというか、攫ったというか。

 

 

1262:名無しの装者

……へぇ。

 

 

1263:名無しの魔法提督

お巡りさん、こっちです!

 

 

1264:名無しの寺生まれ

お巡りさんはアンタでしょーが。

でも何というか、大丈夫なんスか?

ある意味じゃオーフィス以上の危険人物っスよね?

 

 

1265:名無しのごとき氏

世界を渡り始めてかなり初期に渡った世界でな。

正直引き取ったのは自分でも割とどうかしてたと思う。

ベストどころかベターだったかすら未だに分からんしな。

 

でもまあ、普段はそれほど危険でもない。

何もなければ結構平和な子だし。

その手の事に理解がある相手に預けているから、このまま落ち着いてくれればいいなーと。

 

 

1266:名無しの記憶探偵

しかし今回妙な場所に行方不明になった、と。

 

 

1267:名無しのごとき氏

別に深い考えがあっての事じゃないと思うけどな。

出身世界の世界観的に近いものがあるから、繋ぎやすかったんだろう。

 

 

1268:名無しの寺生まれ

ああ、そういやどことなく似てるっスね。

 

 

1269:名無しのごとき氏

どっちも現実が幻想から侵略を受けてるからな。

アプローチの手法も似ているし、案外根っこの辺りで繋がりがあるのかもしれん。

 

 

1270:名無しの鬼っ娘

ふーん、こっちじゃ幻想は現実に追いやられているんだけどねぇ。

 

 

1271:名無しのごとき氏

人は科学で幻想を暴いて克服したつもりかもしれないけど、幻想は空想を使って人に“理解できないナニカ”を思い出させたんだろう。

単なる戦闘力とは別方向の、不条理さと理不尽さで殴りかかってくるからな。

オレも昔ひどい目にあった。

 

 

1272:名無しの寺生まれ

そりゃどんまいっス。

こっちじゃそれほど強度のある都市伝説はないっスからねぇ。

そういえば、裏世界ピクニックの主人公たちには会ったんスか?

 

 

1273:名無しのごとき氏

会った。

正直に言えば、彼女らとの遭遇が今回一番意外だったことだな。

特に遭遇する理由も必然性もなかったし。

 

 

1274:名無しの鬼っ娘

ふーん、どんな奴らなの? 百合って言ってたし女子二人?

 

 

1275:名無しの寺生まれ

女子大生の二人組っスね。二人一緒に裏世界の探索をしている。

 

 

1276:名無しの装者

女子大生、ですか。

 

 

1277:名無しの鬼っ娘

>>1275

なんかちょっと覚えがある構図だねぇ。

 

 

1278:名無しの魔法提督

>>特に遭遇する理由も必然性もなかったし。

それはつまり……運命?

 

 

1279:名無しのごとき氏

やめい。

百合の間に挟まったホトトギスの末路を知らんわけじゃないだろう?

 




《ちょっとした設定集》

紙越空魚(かみこしそらを)
出展:裏世界ピクニック
「検索してはいけないものを、探しに行こう」
自称普通の地方出身の女子大生。偶然から裏世界を見つけ、惹かれ、探索し、死にかけた末に後に相棒となる鳥子に助けられ、共に行動するようになる。
裏世界の怪異に接触したことで第四種接触者になり、裏世界の存在の実態を見通す青い右目を持つ。
裏世界で変なオッサンに会って、変な会話して、少しの間裏世界を一緒に探索した。でも多分3日くらいしたら記憶の片隅にしまい込まれる。むしろその際出会った“魔女”の方がはるかに印象に残っている。


十叶詠子(とがのよみこ)
出展:Missing
「魔法は使えない。箒で空も飛べないし、黒猫と話もできない。それでも彼女は、魔女なのである」
とある世界に生まれ落ちた魔女。無邪気さの際立つ女の子。神降ろしは潰え、名付けられた暗黒は姿を見せなくなった。その後母の遺言を携えた男に誘われる形で、“願いを叶える店”に預けられた。
現在はその店で居候兼バイトとして活動中。日向ぼっこしたり、店主の仕事を手伝ったり、偶になんかやらかしたりしている。



以上、裏世界ピクニック編でした。
ちょっとマイナーな側の作品ですが、アニメ化もされるようなので、今後目にされる方も増えるかもです。ちょっとクセはありますが、百合とかSCPが好きな方なら楽しめるかも。
Missigはひと昔前の作品ですが、最近新装版が出た模様。どちらも怪異と、それにまつわる理不尽さを取り扱っています。
それでは今回はこの辺りで――


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仮面ライダーゼロワン編

ヒューマギアの幽霊がいる――

 

飛電或人が初めてその噂を聞いたのは、まだ飛電インテリジェンスの社長として就任する前――売れないお笑い芸人として活動していた頃の話だ。

 

人気のない場所にふらりと現れる、幽鬼のようなヒューマギア。

ヒューマギアのボディなのに明らかに人間的な反応を見せるという、SNSを中心に広まった噂話。

当時こそよくある都市伝説だと深く考えはしなかったが、飛電インテリジェンスの社長の座を継ぎ、滅亡迅雷.netの存在を知ってからは、「ひょっとして彼らの仲間ではないのか?」と考えた。

その為秘書であるイズに情報収集を頼んでいたのであるが――

 

「アルト社長――以前頼まれていた件ですが……」

 

イズから具体的な報告が上がったのは、頼んだことすら忘れた頃。

ZAIAエンタープライズによって飛電インテリジェンスが買収され、新たに飛電製作所を立ち上げてしばらく経った頃の話であった。

なので思い出すまでに、少し時間がかかったりもする。

 

「怪我の功名にはなりますが、ヒューマギアが回収されたことで目撃情報が浮き彫りになりました。大まかな所在はつかめています」

 

「どうなさいますか?」と見つめてくるイズに、或人は考え込む。

既に滅亡迅雷.netの主要メンバーは割れている。

なので“ヒューマギアの幽霊”が彼らのメンバーだったところで、大きな役割は持っていないとも考えられるが……

 

「行こう。今の状況で動いているヒューマギアが何者なのか、確かめたい」

 

 

 

 

 

 

発見には、そう手間取ることはなかった。

都市部から離れた廃墟の一つ。

その中で、何をするでもなく佇むヒューマギア。

或人とイズは駆けよってコミュニケーションを試みるが――どうにも様子がおかしかった。

 

「人類は滅亡しました」

 

壊れたレコードのように物騒な台詞を繰り返すだけで、その焦点がこちらにあっているようには思えない。

見た目は取り立てて目立つところのない、通常の男性型ヒューマギア。

――なのだが、明らかな異物が一つ。

その腰に半ば融合するかのように取り付けられた、白いゼツメライザー。

ゼツメライズキーこそセットされていないが、滅亡迅雷.netとの関りをうかがわせるものであった。

 

とはいえ、不調を来たし壊れているように見えるヒューマギア。

放っておくわけにもいかず、一旦飛電製作所へと連れ帰ろうと二人は相談する。

しかしそんな或人たちの前に立ちふさがったのは、天津垓。

ZAIAエンタープライズの社長にして、飛電インテリジェンスの現社長その人。

見慣れた男性の部下二人を伴い、悠々と歩みよる。

 

「そのヒューマギアは、我々が責任をもって廃棄処分します」

 

彼らもまた、このヒューマギアの目撃情報を得て対処すべく行動した者。

多忙な社長家業の中、度々自ら現場に出てくるというのは、見方によっては仕事熱心だと言えるのかもしれない。

 

垓がサウザンドライバーを構えれば、示し合わせるように或人もゼロワンドライバーを構える。

垓はライダモデルとロストモデルに囲まれ、仮面ライダーサウザーへと。

或人は無数の鋼の蝗虫(バッタ)を身に纏わせ、仮面ライダーゼロワン・メタルクラスタホッパーへと。

 

バトルレイダーへと変じた部下二人の援護を受け、サウザーが刃を振るう。

相対するゼロワンは無数のバッタ(クラスターセル)でバトルレイダーを牽制しつつ、本体はプログライズホッパーブレードでサウザーと鍔競り合い。

数度切り結んだところで、お互い弾き合うように距離を開ける。

 

そのタイミングで、イズが口を開いた。

 

「アルト社長――少々おかしなことが」

 

「それ今話さなきゃいけない事!?」

 

「はい、あのヒューマギア――仮称ゴーストですが、スキャンの結果人工知能が機能していません」

 

「へ?」

 

或人は思わず手を止め、ゴーストへと視線を送る。

垓たちもまた、武器こそ降ろさぬものの一時的に交戦を停止していた。

 

「それってどういう――まさかホントに幽霊だとか?」

 

「ゴーストがどのような原理で稼働しているかは不明ですが、仕様上、今の状態で動くことはないはずなのです。仮説を立てるとすれば、あの白いゼツメライザーが何らかの干渉を行っていると考えるのが妥当かと思われます」

 

「――御明察、と言ったところか」

 

突如、男の声が響いた。

或人ではない。垓でも、その部下の二人でも、当然イズでも。そしてゴーストでも。

その男はいつの間にか、そこに居た。

特徴的な紫の衣服に身を包んだ男が、木を背に或人達を睥睨していた。

 

「あなたは――何者ですか?」

 

「通りすがりのアナザーライダー、と言いたいところだが――」

 

 垓の問いかけに男は異形の面が付いた時計のようなものを取り出し、起動する。

 

『DARK DECADE』

 

「今回は仕事だ」

 

黒の帯が男を覆い、頭部に無数のプレートが突き刺さる。

現れたのは、悪鬼としか形容しようのない異形。

ゆっくりと歩を進めはじめるマギアともレイダーとも異なる怪人に、轟音と共に無数の弾丸が突き刺さった。

 

「社長、下がってください!」

 

射線の元には二人のバトルレイダー。

反射的に怪人の危険性を察したのか、垓の命令を待たずに前に出て射撃を合わせる。

連続する射撃音とマズルフラッシュ。

短機関銃トリデンタの銃口から吐き出される銃弾は高いエイム力で怪人を捉え、弾けるような火花を散らせる。

生身の人間では扱うことも難しい、人外の膂力を持つレイダーが使用することを前提とした高威力の武装。

しかし怪人は痛痒を感じさせず、鬱陶しそうに片手を上げ――爆音。

突如としてバトルレイダーたちの足元で立ち上がった爆炎は二人を飲み込み、その衝撃で変身が解除される。

 

そんな光景を尻目に或人の脳裏に過るのは過去の――否、なくなったはずの歴史の一ページ。

打ち上げられたアーク。

ヒューマギアに支配され、崩壊した人類社会。

もう一人の(アナザー)ゼロワン。

父との戦い――そして別れ。

巨人とバイクが融合した怪人

共に戦った■■■とその仲間たち――

そして――

 

「アナザーライダーだと……あんた、タイムジャッカーか!?」

 

己が目的のため歴史を書き換える時間渡航者の存在。

その名を口にする。

 

「――さて、な」

 

「惚けるな! 何が目的だ!?」

 

「ふん、嫌われたものだな。まあいい――同胞(転生者)の不手際の後始末といったところだ。お前に用がある訳ではない」

 

同胞(タイムジャッカー)の不手際、だと――? また歴史を壊しに来たのか!?」

 

あの時は■■■達の介入もあり事なきを得た。

だがその幸運が、今回も起こるとは限らない。

ならば――

 

「お前を止められるのはただ一人――オレだ!」

 

或人の意思にクラスターセルが応え、ゼロワンの飛電メタルが無数のバッタと化し怪人――アナザーダークディケイドに襲い掛かる。

それは規模こそ小さくとも個の脅威が膨れ上がった、未だ人類が克服できぬ災害の疑似的な再現。

鋼色の嵐はその内に取り込んだものを食い尽くさんと荒れ狂い――

 

『KIBA』

 

吹き荒れる黒い竜巻によって破裂するように包囲が崩される。

 

「お前にオレを倒すことは不可能だ」

 

竜巻を構成する“黒”の正体は、無数の蝙蝠。

蝙蝠たちはクラスターセルに食らいつき、その蝙蝠に数匹のクラスターセルの顎が突き刺さり、更にそこに蝙蝠が群がる。

鋼と黒の食らい合い――もはや一つの巨大な生き物が、己が身に齧りついているようにさえ思える光景。

 

或人はその光景を横に、クラスターセルに転用したことで薄くなった装甲を顧みず、アナザーダークディケイドへと切りかかる。

 

「先ほども言ったが、お前に用はない」

 

プログライズホッパーブレードを片腕で受け止めた状態で、アナザーダークディケイドは語る。

 

「オレの目的はあのヒューマギアもどきの破壊だけだ。アレは本来この時代に存在しないはずのイレギュラー……お前が関わるべき事象ではない。この場は退き、自らの物語に注力するがいい」

 

「そんな言葉信用できるもんかっ! お前の仲間が何をやったと思っている!」

 

「……別にヤツ(フィーニス)とは、仲間同士という訳でもないんだが、なっ!!」

 

アナザーダークディケイドが剣を受けとめていた腕を振るうことで、或人の体は後方に押し飛ばされる。

 

「言っておくが、あのヒューマギアもどきは特大の爆弾だ。アレを放っておけば、この世界の人類滅亡は確定することになる」

 

「そんなことはオレがさせないっ! オレはヒューマギアと、彼らの可能性を信じる!」

 

「ならば、負の可能性にも目を向けるべきだろう」

 

「――何?」

 

「どこまで覚えているかは知らんが、お前は見てきたはずだ。AIによって人類社会が滅んだ世界を」

 

あくまで静かに語る男に、或人は攻撃の機を失する。

 

「別にこの世界だけの話ではない。とある(アギトの)世界では、被創造物(人類)創造主(テオス)を打倒した。ならば、ヒューマギア(被創造物)人類(創造主)を滅ぼすこともありうるだろう」

 

「それは――」

 

反論しようとする或人に、男は更に畳みかける。

 

とある(アトムの)世界では、高度に発達したロボットにより人類が娯楽の道具になり下がった結末が存在する。全能のAI(ムーンセル)は、シンギュラリティにより発生するはずだった自我を何度も殺し続けた。観測者としての役割を果たす上で、“余計な乱数”になりうるとして」

 

単なる絵空事として切り捨てることのできない、言葉に詰まった現実感。

戯言と一蹴してはいけない――それがヒューマギアを生み出しだした男の孫であり、その夢を継いだ者としての責務。

故に問いただす。

 

「……アンタはそれをオレに話して、何をしたいんだ?」

 

だからこそ――

 

「何――()()()()()()()()

 

「はっ?」

 

その純粋さを、逆手に取られる。

 

「肝心なのは、あのヒューマギアもどきの破壊のみ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――まさかっ!?」

 

「アルト社長!」

 

イズの鋭い声が響く。

とっさに振り向けば、そこにはゴーストの前に立つサウザーの姿。

 

「アナザーライダーとやらも気になりますが、まずはこちらを優先させてもらいましょうか」

 

「人類は滅亡しました」

 

「――ふんっ、戯言を繰り返すばかりとは。ただでさえ不要なヒューマギアが更に壊れた以上、存在価値など塵芥以下。蓄音機の方がまだマシな働きをする」

 

サウザンドジャッカーの切っ先が天に掲げられる。

 

「やめろっ!」

 

或人の声が響くが、当然のように無視される。

サウザーの右腕に力が籠められ、黄金の刃を振り下ろさんと――

 

「外敵に対する自己保存機能をアンロックします。周辺のヒューマギアは直ちに避難してください」

 

「なにっ?」

 

急な言動の変化に、刃が止まる。

そしてゴーストの手には、ゼツメライズキーが握られていた。

 

『VANISHING HUMAN』

 

「はっ?」

 

告げられた名に垓が呆けたような声をあげ、その隙にゼツメライザーへとセットされる。

 

『ZETSUMERISE』

 

ゴーストの人皮が剥がれ落ち、露わとなった素体の口から無数の黒い管が飛び出す。

絶望の叫びが形となったかのような光景。

その管の量と勢いは通常のマギアと比較にならないほど。

空を裂き、大地を抉り、とっさにサウザンドジャッカーを盾にしたサウザーを弾き飛ばし、呑み込むように素体に絡みつき、変容させる。

 

『VANISHING HUMAN』

 

変容に果てに顕われたのは、マギアとしては意外なほどのスマートな姿。

基本としてヒューマギアの素体に近く、そのボディを更に洗練化させた流線的かつ鋭利な、流麗な彫刻を思わせるフォルム。

純白の装甲の隙間からは赤黒い燐光が漏れ、神々しさと禍々しさを併せ持つ。

そしてその能面のような顔の虚ろな眼孔にも、赤黒い光が灯る。

 

「バニシングヒューマンゼツメライズキー」

 

真っ先に口を開いたのは、アナザーダークディケイド。

 

「ゼロワンの世界の”if”(もしも)の未来にて作り出されたゼツメライズキー――起動したか。この時代にあってはならない存在。ヒューマン・マギア……いや、アナザーヒューマギアとでも呼ぶべきか。やはり人任せではうまくいかんな」

 

「人類種の・・・・・・ゼツメライズキー?」

 

「……1000%、ありえない」

 

或人の呟きに、サウザー――天津劾が怒りを噛みしめるように言葉を吐き出す。

無理はないだろう。

ゼツメライズキーはプログライズキーの一種・・・・・・絶滅種のデータが封入された記録媒体。

その中に、現時点での霊長たる人類の名が刻まれていいはずがない。

 

「ヒトのロストモデルだと? アークめ、ふざけた真似をっ!!」

 

「人類は滅亡しました」

 

激昂する垓に、アナザーヒューマギアはあくまで平坦な声音を返す。

それがますます垓の癪にさわるが、そんな事は知らぬとばかりに白い人型は二つの手の平を合わせ、離す。

 

手と手の間に生まれたのは、小さな空中投影型のスクリーン。

スマホの画面程のサイズだったそれは瞬時に人間大にまで拡大し、二つに増え、人影が映る。

そしてそれは、スクリーンの中から現実へと歩を進める。

 

その姿は、或人にとって見慣れぬ……同時にあまりにも見慣れたモノで――

 

「ゼロ……ワン?」

 

「ゼロワン・スパーキングジラフ、並びにゼロワン・ホッピングカンガルー、マテリアライズ。積極的自己保存活動に移行します」

 

ゼロワンの似姿が、襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生者愚痴りスレ

 

2302:名無しのごとき氏

やっぱライダー系の世界は緊張するわ。

 

 

2303:名無しの記憶探偵

ほう、どのライダーだったのだね?

 

 

2304:名無しのごとき氏

ゼロワン。

 

 

2305:名無しの魔法提督

令和1号ライダーかー。

そーいやゼロワンのアナザーは人間サイズだったな。1号なのに。

 

 

2306:名無しの寺生まれ

マンモス使えばワンチャン巨大化ないっスか?

 

 

2307:名無しの鬼っ娘

ミッシングパワー!!

 

 

2308:名無しのごとき氏

>>2307

さすがに本人に試す気にはなれんよ。どんな影響が出るか分からんし。

 

 

2309:名無しの装者

ですよねー。

ゼロワンは確か、人工知能をテーマにした作品でしたよね。

 

 

2310:名無しの記憶探偵

テーマ自体は珍しいものでもないな。

科学系の作品なら、主題でこそなくても多かれ少なかれどこかで登場するだろう。

科学サイドでなくとも、人工精霊なども存在するか。

私のいる軌跡世界でも人形兵器なんかがいるからね。

 

 

2311:名無しの装者

そういえば、ウチだとオートスコアラーの皆さんもそうでしたね。

 

 

2312:名無しの魔法提督

リリなの世界なら言わずと知れたインテリジェンスなデバイスとかが有名な。

あとはギアーズ姉妹とかも一応そうなるのか?

 

 

2313:名無しの寺生まれ

>>2312

となるとギアーズ時空なんスか。

確かあの姉妹、人間な世界線もあったっスよね?

 

 

2314:名無しの魔法提督

実の所よく分からん。

会ったことないし、地球は接触禁止だからな。

 

 

2315:名無しのごとき氏

そーいや気になってネットで調べた時、やたら原作崩壊してたな。

リリなの世界は。

 

 

2316:名無しの記憶探偵

最大の転生者数を誇ると言われる世界だからね。

修正力も匙を投げたか。

 

 

2317:名無しの鬼っ娘

運命もボイコットするんだねぇ。

 

 

2318:名無しの装者

修正力ってあるんですか?

 

 

2319:名無しの記憶探偵

あるんじゃないか、とは噂されている。

とはいえ世界線によって形は違うだろうし、オカルトの領域だがね。

確か暇を持て余した超越者たちが研究していたはずだ。

 

 

2320:名無しの魔法提督

因果律制御とか抑止力とかがその一種じゃないかって言われてるな。

問題は“誰が行使しているのか?”って点なんだが。

 

 

2321:名無しの寺生まれ

ごとき氏のアナザーウォッチもその範疇になるんスかね?

ほら、歴史の書き換えとか。

 

 

2322:名無しのごとき氏

“封じた力とそれにまつわるモノが存在しない歴史に書き換える”って点じゃそうなるのかもしれんな。逆に修正される側になりそうだが。

――まあ、今回のゼロワン世界もその手の問題だったんだが。

 

 

2323:名無しの装者

そう言えば今回は何をしてきたんですか?

 

 

2324:名無しのごとき氏

いつも通りの依頼、だが……きっかけはゼロワン世界への転生者だな。

そいつが持ち込んだ転生特典という名の爆弾処理だ。

 

 

2325:名無しの魔法提督

世界観的にヤバいブツとか?

 

 

2326:名無しのごとき氏

順を追って話せば、そいつは神様転生者でな。

転生特典として、「なんか強いゼツメライズキーくれ」って頼んだそうな。

 

 

2327:名無しの記憶探偵

参考までに、プログライズキーではダメだったのかね?

 

 

2328:名無しのごとき氏

ゼツメライズキーの方が格好いいと思ったらしい。

 

 

2329:名無しの寺生まれ

なる。

 

 

2330:名無しの魔法提督

分かる。

 

 

2331:名無しのごとき氏

そこでゼロワン世界の事をあんまり知らなかった神様、軽く調べて「ゼツメライズキーってヒューマギアってのが主に使うんだな。じゃあ転生先はこいつらにするか」って考えたらしく、そいつはヒューマギアに転生……というか憑依させられたそうだ。

 

 

2334:名無しの装者

あー……

 

 

2333:名無しの鬼っ娘

よかれと思ってですね分かります。

 

 

2334:名無しのごとき氏

で、ヒューマギアの体に順応できなかった。

 

 

2335:名無しの寺生まれ

なんかバグったんスか?

 

 

2336:名無しのごとき氏

機能的には何も問題がなかったらしい。完全に感覚的な問題。

要は人間の感覚が残ったまま機械の体に入ったから、そのギャップに耐えられなかったってさ。

 

 

2337:名無しの記憶探偵

……なるほど。生理的な問題か。

三大欲求が残っているのに、それを行使する機能がないと。

 

 

2338:名無しの鬼っ娘

あー、そりゃきついねぇ。

あたしの場合は、その手の部分は人間の時とそう変わらなかったから良かったけど。

 

 

2339:名無しのごとき氏

改造でも何でもすればそれっぽい機能は将来的につくかもだけど、生身の人間の時との差はどうしても残るだろうしな。

第一有機的な機能を機械的に再現するのって難しいし。

 

 

2340:名無しの装者

想像するしかないですけど、それはきついですね……

ごとき氏さんはその辺りの解決の為に呼ばれたんですか?

 

 

2341:名無しのごとき氏

うんにゃ、その後始末になる。

結局そいつ自身は、電脳生命体になって今は電脳世界で過ごしてる。

リアルと変わらない再現度らしいからな。快適だろう。

 

 

2342:名無しの魔法提督

うん? ゼロワンの世界でそんな真似出来たのか?

アークはそれっぽいけど。

 

 

2343:名無しのごとき氏

リンカーネットの運営元に交渉したってさ。

そっちの社員になるから助けてくれって。

 

 

2344:名無しの鬼っ娘

へ? そんなサービスまであったの、コレ?

ってか運営元って誰なのさ、そーいえば。

 

 

2345:名無しの記憶探偵

運営はそれこそ人工知能が行っていると聞くな。恐ろしく高度な存在になるが。

それにリンカーネットの基礎技術はFate/EXTRAのムーンセル・オートマトンのモノを流用してあると噂で聞いたことがある。

確かにアレならば、魂の電脳化すら容易いだろう。

 

 

2346:名無しの魔法提督

オレも聞いたことがある。

ムーンセルを生み出した文明圏に転生したヤツが製作者の一人だって。

ウチの方からもアルハザードに転生したヤツが力を貸したとか何とか。

 

 

2347:名無しの装者

そうなんですか!

たまに迷惑なのもありますけど、そういう現代を超える古代の営みってロマンがありますよね。

特にそういう未知の部分に思いを馳せるのって……

 

 

2348:名無しのごとき氏

あっ、運営に問い合わせたらマジらしい。

シンフォギアの先史文明も一枚噛んでるってさ

 

 

2349:名無しの装者

……私のロマン……

 

 

2350:名無しの鬼っ娘

どんまい。

 

 

2351:名無しの魔法提督

ごとき氏空気読め。

 

 

2352:名無しの寺生まれ

ま、まあその辺でw

でも案外素直に答えてくれるんスね、運営。

 

 

2353:名無しのごとき氏

>>2349

なんかスマン。

>>2352

別に隠すほどの事でもないってさ。

オレらの使っているリンフォンも、元はムーンセル・ポータブルって名前だったらしい。

 

 

2354:名無しの記憶探偵

運営に直接、か。それは盲点だったな。

しかし結局後始末とは何だったのだね?

レジェンドライダーのプログライズキーならまだしも、早々問題になるようなゼツメライズキーが存在するのかね?

 

 

2355:名無しのごとき氏

それがあったんだよ。

バニシングヒューマンゼツメライズキー。

ゼロワン世界の人類が滅んだ“もしもの未来”において開発されたゼツメライズキーだ。

 

 

2356:名無しの魔法提督

おおう……名前からしてもう厄い……って言いたいけど、何がそんなに問題なんだ?

ゼツメライズキーもプログライズキーも、極端な話名前の違いだろ。

中のデータが絶滅種か否かって話なだけで、単なるヒトのデータが入った記録媒体じゃないのか?

 

 

2357:名無しのごとき氏

まあ確かに、コレ単体ならそこまで問題じゃない。

精々がライダー系のラスボスクラスの怪人が1体増える程度の話だ。

 

 

2358:名無しの装者

それ十分問題じゃないですかね?

 

 

2359:名無しのごとき氏

まあ確かに問題だけど、本当にヤバい部分は他にある。

このゼツメライズキーが未来において作られたもので、それがその未来に繋がる可能性を持った世界の過去に送り込まれたってことだ。

 

 

2360:名無しの鬼っ娘

うん? タイムパラドックス系?

 

 

2361:名無しの寺生まれ

人類が滅びたから存在するものが、その過去に存在する・・・・・・あっ(察し

 

 

2362:名無しの記憶探偵

逆説的証明……なるほど、未来の保証。ある種の因果律兵器という訳か。

 

 

2363:名無しのごとき氏

あのゼツメライズキーが存在する限り、人類が滅亡する未来は固定される。

歴史改変というよりは歴史誘導機能といったところだな。

 

 

2364:名無しの装者

そんな事が起きるんですか?

 

 

2365:名無しのごとき氏

もちろん作り出した段階ではそんな機能はなかっただろうな。

元々は人類絶滅の記念碑らしいし。

だけど過去に辿り着き、結果的にではあるがそういう役割を果たすことになった。

 

 

2366:名無しの魔法提督

そんな劇物を持ち込んだ挙句、放置してきちゃった訳かー。

 

 

2367:名無しのごとき氏

本人曰く、壊したつもりだったらしい。

だが他のゼツメライズキーと違って特別性だったみたいでな。

自己保存機能に自己修復機能。

一度壊されかけたことで自己保存機能が最大限に機能して、その転生者の器だったヒューマギアを乗っ取ったみたいだ。

転生者の意識自体は電脳化が間に合って避難したけど、リンカーネット運営との約定もあって最早自分自身で手出しは出来ず。

 

 

2368:名無しの記憶探偵

それでごとき氏に解決を依頼した訳か。

ゼロワン世界の未来を破壊しないために。

 

 

2369:名無しのごとき氏

それもあるけど、他の理由もある。

まあ自分の身を守るためなんだが。

 

 

2370:名無しの装者

電脳生命体になってリンカーネットの電脳空間にいるんですよね?

まだ何か危険があるんですか?

 

 

2371:名無しのごとき氏

オーマジオウ。

 

 

2372:名無しの寺生まれ

あっ、そうか。確かゼロワンの世界って……

 

 

2373:名無しの記憶探偵

ゼロワン世界の歴史改変が、ジオウ世界に波及したという実績があったな。

つまりまた、魔王一行が出張ってくる可能性があっという訳か。

 

 

2374:名無しの魔法提督

そしたら元凶である転生者にまで辿り着いちまう可能性もあった訳か。

 

 

2375:名無しの鬼っ娘

ごとき氏、今回の依頼実は結構ヤバかった?

よく引き受けたね。

 

 

2376:名無しのごとき氏

オレもすき好んで魔王と相対したくはないし。

もちろんゼロワンともだが。

フィーニスの件もあってめっちゃ警戒されたからなぁ。

適当にそれっぽい事言って敵か味方か有耶無耶にしてきた。

でもまあ、魂の電脳化辺りに興味があってな。

 

 

2377:名無しの魔法提督

なんだ、ごとき氏肉体パージするのか?

 

 

2378:名無しのごとき氏

別の方面で相談を受けていてな。

R-TYPEの方でちょっと……

 




《ちょっとした設定集》

○バニシングヒューマンゼツメライズキー
人類種のロストモデルが搭載されたゼツメライズキー。人類の築いた文明や兵器類のデータを蓄積し、流体金属を用いて再現する力を持つ。
また“他種の犠牲の元繁栄する人類”を再現してあり、犠牲を重ねれば重ねるほど力が増していく。特製のゼツメライザーとセットで扱い、マギアとしての見た目はスパロボVのネバンリンナをマイルドにした感じ。
人類滅亡後に製作されたゼツメライズキーであり、人類滅亡の記念碑にして墓標。
当初想定された機能ではないが、仮にゼロワン原作の時間軸に出現した場合は“人類が滅亡する未来”へと導く因果律誘導装置として機能する。




《とある戦いが終わって――》

「アンタが言った”時間稼ぎ”。アレは、適当な言葉だったのか?」

「いや、全て事実だ」

「そっか……人とヒューマギア共に生きる未来。飛電の――オレの夢。でもその夢のために世界の未来を賭けるのは、傲慢な事なのかもしれない」

「――急ぎ過ぎた、という部分はあるかもしれんな」

「否定はしないんだな」

「優しい言葉が返ってくるとでも?」

「さすがにそこまで期待してない」

「ヒューマギアは人に依り過ぎている。(テオス)でさえ、己の似姿である人間を前にして何度も揺らいだ。当然、簡単にはうまくいかんさ」

「そっか」

「……ただしとあるAIに言わせれば、人は完全でないからこそよりよい未来を求めるそうだ。自分たちは、その人類の夢そのものだと。”わたしたちが人類の味方であるのに、理由は要らない”んだと」

「え?」

「受け売りだがな……お前は好きにするといい。オレはもう行く――何、魔王のように記憶を消したりはせん」






以上、仮面ライダーゼロワン編でした。
今回は敢えて、本編中では絶対に扱われそうにないゼツメライズキーを採用してみました。
或人の劇場版の記憶に関しては、本作中ではジオウ周りが失われておりそれに違和感を抱かない状態になっています。
ゼロワンの物語も佳境に入ってきました。ヒトと人工知能の関係は昔から創作物の中で多く扱われてきたテーマですが、ヒューマギアは良くも悪くもかなり“人間的”な部類。ゼロワンの中ではどんな結末を迎えるのか。
それでは今回はこの辺りで失礼します。


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番外編 T=SAN days

仮面ライダーセイバー……筆……ドラゴン……
青王さん、ついにニチアサに出演するまでの出世を?(チガウ

寺生まれのT(転生者)さん回。真夏のホラー(笑)。
短編集です。


○廃ビル

 

 

 

アレは商社勤めのOLである私が、長い残業を終え帰路に着いていたときの話だ。

疲れきっていた私は、重い体を引きずるように人気のない町中を歩いていた。

そしてある廃ビルの前を通りがかった時、ふと視線を感じて上を見上げようとして――

その半ばで真正面に視線を向けた私の目の前を、ナニカが通り過ぎた――否、落ちた。

ほんの一瞬の出来事であったが、確かに落ちてきたナニカと目が合った。

ドサリという重い音。グチャリという生々しい音。

飛び降り自殺――嫌な単語が脳裏に浮かんだ。

 

「うわぁ……」

 

厄日だ。

死者を悼む前に、そう思った。

善良な一市民として警察に連絡する必要があるが、事情聴取は免れない。

疲れているというのに、さらに疲れることになるだろう。

なんで私がこんな目に合わなきゃならないのか。

心の中で愚痴りつつ、嫌々ながら人間だった染みに視線を落とすと……

 

「あれ?」

 

死体など、どこにも無かった。

疲れとストレスで幻覚でも見たのかと、地面から顔を上げる。

先程の焼き増しのように、再び人が落ちた。

しかしまたしても地面に人の姿はない。

いよいよおかしくなったかーー再び人が落ちる。

何度も、何度も、繰り返し、巡るように。

 

目の前で繰り広げられる現実味のない光景。

呆然とする私の中に、ある考えが湧き上がるように、滲むように浸透していく。

 

()()()()()()()()――

 

行かなきゃ……私の足がフラフラと動き出す。

廃ビルの入り口に向けて、夢現のように。

 

「ストップっス」

 

私の肩に手が置かれ、歩みを遮った。

振り返るとそこにいたのは、霊感が強いと噂の寺生まれのTさんだった。

 

「え、私……」

 

「生者を呼び死者へと誘う廃ビル――魅入られかけていたっスね」

 

廃ビルの屋上を睨むTさんの言葉に、私はゾッとする。

――私は先程まで何をしようとしていた?

 

Tさんの視線を追うように、屋上を見上げる。

そこには黒い人影がいて、身を投げ出し……

 

「破ァ!!」

 

鋭い一喝と共にTさんの手から放たれた巨大な光の弾に呑み込まれ、跡形もなく消え去り、光の球は天を突き抜け夜空の果てへと飲み込まれていった。

 

 

 

 

――翌朝、昨晩の夢のような光景を思い出しつつ、テレビをつけ見慣れたニュースキャスターに小声で「おはよう」と挨拶する。

 

「――次のニュースです。地球近辺に接近する軌道だった数メートル単位の小惑星が、突如謎の光に衝突し爆発・消滅する現象が観測されました。ネット上では『某国のレーザー兵器だ』『UFOが衝突した』『月に住む宇宙人による迎撃』など様々な意見が囁かれており……」

 

口早に紡がれる言葉に耳を傾けつつ、モーニングコーヒーを口に含みカフェインを脳味噌に浸透させる。

寺生まれってスゴイ、私はぼんやりとそんな事を考えた。

 

 

 

 

 

○メリーさんの電話

 

 

 

オレは通信事業者に勤める一平社員だ。

入社から数年経ち、仕事にもだいぶ慣れ後輩の教育を任されるようにもなった。

華々しい道という訳ではないが、当たり障りのない人生。

しかしそんなオレには、近頃一つの悩みがあった。

時折妙な電話がかかってくるのだ。

まるである都市伝説のような……

 

困り果てたオレは、ちょっとした伝手から霊感が強いと噂の寺生まれのTさんに話を聞いてもらえることになった。

約束の日、待ち合わせの喫茶店の一番奥の席でTさんとオレは向かい合っていた。

 

「”メリーさんの電話”って知っていますか?」

 

挨拶もそこそこに要件を切り出したオレに、Tさんは気分を害した様子もなく頷く。

特にオカルト好きって訳でもないオレでも耳にしたことのある、有名なネットロアだ。

バリエーションは幾つかあるが、基本的な流れは捨てたはずの人形――メリーさんから電話がかかってきて、回数を重ねるごとにメリーさんの居場所が自分に近づき、最後には――という都市伝説。

自分でも調べてみたが、似たような都市伝説はメリーさん以外にも存在するようだ。

 

オレにかかってきたのは、ソレそのものではないが近い内容の電話。

着信拒否にしておいても電話はかかってきて、悩まされている。

不幸中の幸いというべきか会話自体は録音することができたので、Tさんに聞いて貰うことにする。

 

『……もしもし、わたしメリーさん。今キャリアから格安スマホに乗り換えようと検討中だから、ちょっと見積もりとか相談に乗ってほしいのだけど』

 

「オレはいったいどうしたらいいんでしょうか――!!」

 

「いや、普通に相談に乗ってみたらどうっスか?」

 

青天の霹靂だった。

念の為Tさん立ち合いの元相談してみると、メリーさんは我が社のプランに乗り換えることにした。

しばらくすると、彼女の紹介ということで同僚のメリーさんや類似する都市伝説たちも乗り換えてきた。

今ではいいお得意様だ。

都市伝説という顧客層を開拓することになるとは、夢にも思っていなかったが。

 

寺生まれってスゴイ。今日も仕事をこなしつつ、そう思った。

 

 

 

 

○隣の客

 

 

 

ある日ふと小腹がすき、たまたま通りかかったラーメン屋に入った。

席に座ると若い店員――おそらく学生のバイトだろう――が二つのお冷を持ってくる。

その店員にラーメンのAセット(餃子とライス)を注文し、冷たいお冷で喉を潤したところでソレに気づく。

自分の隣の席――誰もいないそこに、お冷が置かれていることを。

 

きっと勘違いか手違いだろう。

わざわざ店員に声をかけるのも面倒くさく、放っておくことにする。

相手のミスだし、料理ならともかくただの水だ。

スマホでSNSを覗きつつ、料理が届くまで時間を潰す。

チラリと隣に目をやると、コップの中の水が半分くらいにまで減っていた。

 

「お待ちどうさまです」

 

頼んでいたメニューが届く。

「餃子はもう少しお待ちください」と言ってくる店員に目を向けると、ラーメンを二つ持っていた。

今は昼時からズレているので、店の中にいる客は自分一人のはずなのに。

一つをこちらに、もう一つを無人のはずの隣の席に。

 

こちらが見ている時は、相手も見ているという。

 

下手に反応するべきじゃない。

そう考え、味を楽しむより素早く食べることに注力する。

隣のラーメンが徐々に減っている事は、見えないフリをする。

そしてラーメンを食べ終わりそうな頃に、ガラガラと店の引き戸が開いた。

 

「ようやく見つけたっスよ」

 

額を汗で滲ませながら店に入って来たのは、見たことのある顔。

霊感が強いと噂の寺生まれのTさんだ。

 

「ほら、お姉さんも心配しているから帰るっス」

 

Tさんは席の案内をしに行った店員に首を振りつつ、見えない誰かの手を引くように帰っていった。

 

「餃子です」

 

その後は穏やかに食事を取ることが出来た。

そして会計を済ませて店を出てからふと気づく。

 

しまった! 言われるままに二人分の代金を”無意識の内に”支払っていた!

 

サラリと自分に支払いを押し付けていった寺生まれってスゴイ。

どこか釈然としない気分の中でそう思った。

 

 

 

 

○呪いのビデオ

 

 

 

きっかけは友人が持ってきた一本の古いビデオテープだった。

DVDやブルーレイ全盛の現代、今さらビデオなんてないだろうと思ったが、そこは古くからの幼なじみ。

私の家の物置にビデオデッキがあるをの知っていた。

何の題名も書かれていないビデオテープ。

中身がどうしても気になるというので、私の家で鑑賞会をすることになった。

しかし友人に急に用事が出来た為、一先ず私一人で見ることに。

 

すぐに後悔する羽目になった。

 

そのビデオは呪われていたのだ。

7日以内にダビングして他の人間に見せなければ、自らが死に至るS子さんの呪い。

しかしこの現代、ビデオなど過去の遺物になりつつあるのだ。

動くビデオデッキを常備している相手など、パッとは思いつかない。

ふざけんな、もっと現代的な媒体にしろ!

 

そもそも私には友人など幼なじみの一人くらいしかいないのだ。

ダビングしたところで誰に見せると言うんだ。

私のボッチッぷりをバカにしているのか。

もっと呪う相手の事情も考えろ!

 

内心ひとしきりS子さんを罵倒したが、事態は解決するはずもなく。

泣く泣く友人に相談したところ、霊能力者を紹介してもらうことになった。

寺生まれのTさんという男性だ。

 

Tさんは見た限りでは、普通の男性だった。

しかし他に頼る相手もおらず、7日目の晩を彼と一緒に迎えることになった。

そして当日。

 

私の家のテレビにモノクロの砂嵐が走り、屋外の井戸が映し出される。

最初に見えたのは病的なまでに白い手。

続いて顔を隠すほどに荒れ果てた、元は美しかったであろう長い黒髪。

井戸の底から這い出て、更にはテレビの画面から現実世界へと這い出んとする。

 

指先がテレビを抜ける。

俯いた顔には闇の帳のように髪が波打つ。

S子さんの頭部がテレビと現実の境界を越え、私の家へと顕われ――

そこでピタリと動きを止めた。

 

うん、誰だってそーする。私だってそーする。

何故ならS子さんの眼下――彼女が下りようとした床の上には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――!!

 

S子さんは初めて顔をあげ(顔色は悪いがかなりの美人さんでびっくりだ)、信じられないものを見る目で私たちを見た。

気持ちは分かるけど、やったのは私じゃなくてTさんなんです。

恨むんなら彼を恨んでください。

 

「いやぁ、知り合いの知り合いの知り合いの巫女が、針を妖怪退治の武器に使ってるんスよ」

 

そんな風に弁明していたが、それはもう赤の他人だろう。

それに画鋲とか使うとこう、こっちが虐めているみたいな気分になる。

 

「あ」

 

S子さんが体を支えていた手を滑らせて、画鋲の海に顔から突っ込んだ。

うわぁ、アレは痛いぞう……思わず目を逸らすと、ちょっと低めだが美しい声音の悲鳴が響き渡った。

――これ、近所の人が警察に通報したりしないわよね?

 

「いやぁ、なんだか変な展開になってるねぇ」

 

知らない声がしたので目を開くと、知らない女性が居た。

赤い髪に、大きな鎌と大きなおもちをもった女性だ。

 

「あたいの役目はお迎えじゃなくて、船頭なんだがねぇ。アンタもまあ変な風に捩じくれちゃって……閻魔様からたっぷり説教されるだろうから、覚悟するんだよ?」

 

そういえばTさんが念の為、知り合いの知り合いの死神を呼ぶと言っていたが、彼女のことなのだろう。

正直眉唾だと思っていたが。

死神さんは悶絶するS子さんに手を触れると、フッと姿を消した。

 

「これでもう呪いも大丈夫と思うっスよ」

 

正直何が何だが分からない内に全部終わったって感じだ。

ふと、自分の胸元の視線を落とす。そして先ほどの死神の女性を思い出す。

 

格差ってヒドイ。私は現実逃避気味に、そんな事を考えた。

 

 

 

 

○合わせ鏡

 

 

 

その日は何となく眠れず、外をブラブラと歩いていた。

若い女性が夜中に――と眉を顰められるかもしれないが、この辺り一帯は私の庭だ。

何処が危なくてどこが危なくないかくらい分かっている。

 

ある廃墟の前に辿り着く。

経営がうまくいかなくなった店だったはずだ。

 

ちょっと前はやんちゃな少年たちがたまり場にしていたが、今では人っ子一人いない。

何でも合わせ鏡の中に飲み込まれたとか、そういう噂だ。

 

軽い足取りで中に踏み込む。

本当にココで人が行方不明になったのなら、警察あたりがもっと厳重に封鎖しているはずだ。

彼らだって不祥事や問題はあっても、決して無能ではない。

つまりここで人が居なくなったというのは、ただの噂という話だ。

 

スマホのライトで中を照らしつつ、物が散乱した部屋を歩く。

記憶が確かならこの店も10年くらい前までは、普通に営業していたはずだ。

人の手が消えてたったの10年でここまで荒れ果てるのかと、呆れるやら感心するやら。

 

ある部屋に入ると、背合わせになった二つの姿見が目に入る。

アレが問題の鏡か――私は特に期待もせずに、お互いの鏡面を向き合せる。

合わせ鏡は完成するが、特に何かが起こる様子もない。

当たり前だ、鏡は光を反射するだけのもの。

幾らその奥に世界があると錯覚しようとも、所詮は表面的な現象。

その内に、何かを収める余地などあるはずがない。ない。ない。ない、はずなのに――

 

キィィィンと、耳を抑えたくなる甲高い音が響く。

全身の産毛が逆立つ。

肌が震える。

理屈ではなく、本能が叫ぶ。

なにか尋常ではない事が起こっていると。

 

合わせ鏡に、一人の男が映る。

反射的に部屋を見回すが、私以外は誰もいない。

この鏡の中の男以外には。

 

『戦え……』

 

男がナニカを――金属でできたプレートのようなものを私へと渡そうとする。

意味が分からない。戦えって、いったい何と? 誰と?

キィィィンという音が、私を追い立てるように響き続ける。

酷く不快な気分だ。アレを受け取れば、私は解放されるのか?

私は腕を上げ、鏡へと伸ばし――

 

「破ァ!!」

 

眩い光と共に、鏡は粉々に砕け散った。

私は反射的に身を屈めるが、それ以上の事は起こりそうにない。

恐る恐る顔をあげると、見知った男が頭を抱えていた。

 

「いやいやいや……いやいやいやいや……なんであの男がいるんスか」

 

「それはこっちの台詞なんですが。なんでいるんですか?」

 

霊感が強いと噂のTさんだった。

 

「いやぁ、ちょっとおかしな気配を感じて」

 

「気配とか相変わらずオカルトですね。具体的にはどんな?」

 

「こう……空間が震えるような?」

 

相変わらず訳が分からなかった。

でも寺生まれってスゴイ。久方ぶりにそう思った。

 

 

 

 

○少年が見れなかった原風景

 

 

 

 

 

大学生活も充実し、20歳になって初めて父さんと酒を飲み交わした。

ビールの味はほろ苦く、正直美味しいとは思えなかったが、この味に慣れた時大人になったと言えるのだろうか?

 

「アイツとは、こうして一緒に飲むことはないのかな」

 

酔いが回ってきたのか、いつの間にか僕はそんなことを口にしていた。

幼なじみの女の子。置手紙を残して居なくなってしまった友人。

由緒ある――そして寂れ往く神社の一人娘。

 

「すまないな、見つけられなくて……」

 

父さんが呟く。

眼鏡に光が反射してその瞳は窺えないが、きっと無力感を宿しているのだろう。

失敗した。こういう顔をさせたくないから、これまで話題に出さなかったのに。

 

父さんは警視庁で幹部を勤めている優秀な人物だ。

僕自身もいずれは尊敬する父さんの後を追い、警視庁に入るつもりだ。

幼なじみの少女が居なくなった後、僕は父さんに彼女を探してもらえるように頼んだ。

自分でも珍しい我儘だっただろう。

 

しかし彼女は見つからなかった。

影も形もないように、いなくなってしまった。

彼女が居なくなった後の神社に行ったが、恐ろしいまでの空虚さに震えたのを覚えている。

少なくともあの場所はもう、彼女と一緒に遊んだ神社でも湖でもなかった。

それ以来、あの場所には行っていない。

 

「様々な事件に関わっていると、時折こういうことはある」

 

父さんは初めて、そう話してくれた。酔いのせいかもしれない。

不思議な事件は数あれど、大部分には説明がつく。

だがその中のごく少数――本当に、どうしようもなく説明がつかないものがあると。

つじつまを合わせることは出来る。事件の外装を繕うことは出来る。それっぽい結論をでっち上げることは出来る。

しかしそのどれもに納得がいかない――見えているものと中身が全く違う。

そんな事件が存在すると。

 

どうしても気になるのなら――父さんはそういって、ある住所を教えてくれた。

聞いたこともないような名前の寺だ。

なんでもそこには、本物の霊能力者がいるとか。

迷ったが、ダメ元で頼ってみることにした。

我ながら酔狂だと思うが、思えば彼女もそちら側の人間だったのかもしれない。

時折誰もいない場所に向かって、親し気に話しかけていた幼なじみの横顔を思い出す。

 

アポイントメントをとり先方に出向くと、寺の倅が対応してくれた。

Tさんというらしい。

僕の名前を聞くと驚いていた。確かに日本人にしてはちょっと――いや、かなり珍しい名前だろうが。

 

「変な黒いノートとか拾ったこと、ないっスよね?」

 

おかしな質問もされたが、話をすれば彼は考え込むようにし、時間が欲しいと言ってきた。

――後日、彼から荷物が届いた。

幼なじみからの手紙だった。

 

「ふふ……変わってないな」

 

どうやらとんでもない秘境の地に引っ越したようだ。

こちらの常識など、まるで通用しない場所らしい。

それでも元気にやっている――それだけが分かっただけでも十分だ。

 

「返信を、書かないとな」

 

SNSでも電子メールでもなく、紙媒体での手紙なんていつ以来だろうか。

筆をとり、紙を用意する。書きたいことは幾らでもある。

それでも――

 

もう彼女に直接会うことはないのだろうなと、僕は改めて物寂しさを覚えた。

 

 

 

 

○社の秘宝

 

 

 

 

いくらインターネットが発達した世であっても、世に出ない情報というモノはある。

例えばだが新しい環境に――言い方は悪くなるが――適応できなかったお年寄り。

彼らが知る地域特有の逸話や民話、口伝。

それらは伝えるものが居なければ、あっという間に失われていくことになる。

 

だからこそ大学で民俗学を専攻する私は、そういったお年寄りたちから生の話を聞くことを大事にしていた。

フィールドワークで何度も各地に足を運び、根気強く話を聞く。

幸いというか、お年寄りとのコミュニケーションは得意な方だった。

私自身子供の少ない田舎の出身で、村のお年寄りたちに可愛がられて育ったからかもしれない。

 

そんな中で面白い話を聞くことができた。

何でも山奥の社に、秘宝を祀った社があるそうだ。

その中身は村の人間たちですら知らない。

決して開けてはならぬと伝えられた木箱。

 

険しい道のりらしく、かつてはあった道ももう自然に埋もれているだろうとの話だった。

それでも興味を惹かれた私は、準備を整え山に登った。

 

なるほど、確かに険しい山道だ。

獣道すらもろくにないような山肌。

それでも私は懸命に進み――違和感を覚えた。

異様なまでに、音が少ない。

動物の唸り声も、鳥の鳴き声も、虫が飛ぶ音も。

風が木の葉を揺らす音と私の足音、そして息遣い以外は碌に聞こえない。

明らかに、何かがおかしい。引き返すべきだ。

 

――だが目的地と思わしき場所まではあと少し。

ここで引き返すのは、あまりにも惜しい。

一先ず目的の場所まで進み、何もなければ引き返す。

そう決めて歩を進める。

 

そこからの道のりは、これまでに比べれば拍子抜けと言えるほどあっさりとしたものだった。

30分もかからずに古ぼけた社が見える。

安堵のため息を吐き、一先ず荷物を下ろすかと考えた瞬間――

 

心臓を鷲掴みにされたかのような悪寒が走った。

 

心臓がこれでもかというくらいに早鐘を打ち、しかしそれに反比例するかのように血の気が引いていく。

社が、開いている。

おかしい、先ほどまでは閉じていたはずだ。

 

中にはお年寄りたちが語った木箱。

細長い――肘から先の腕が丸々収まりそうなサイズ。

一瞬の瞬きの間の出来事であった。

木箱は私の目の前の地面に横たわっていた。

 

息が詰まり、驚きの言葉を口にすることもできない。

ギギィと、古ぼけた木と木がこすれ合う音が静かな山に響く。

木箱が僅かに開かれ――塗り替えられたかのように空気が変化する。

重く、纏わりつくように。深い海の中に沈んでしまったかのように、

 

()()()()()()()()()()()

 

理屈ではなく、本能で察する。

元より山というのは、それだけで一種の異界だ。

前提として、人の世界ではないのだ。

その中でも、ここは――この木箱の中身は飛び切り。

せめて最後にその正体を目に焼き付けようと、瞳だけを動かす。

ズレた箱の内側から這い出てくるのは、この世のものと思えぬほど凶悪で、美しい爪――

 

「破ァ!!」

 

叫び声と共に、閃光が走った。

重苦しかった海のような空気が焼かれ蒸発するように、私は呼吸という行為を思い出す。

 

「危なかったっスね」

 

声をかけてきた青年には、覚えがあった。

以前教授の伝手で向かった寺の子だったはずだ。

彼の手には、例の木箱が抱えられている。

 

「ちょっと失礼するっス」

 

彼は一言断って、スマホを取り出した。

 

「もしもし、オレっス。例の腕、それらしいものが確保出来たッス。でもかなり危なそうな状態なんで、早めに取りに来るよう伝えてもらっていいっスか?」

 

その後も2~3言葉を交わし、彼は電話を切った。

差し出された手に掴まって何とか立ち上がり、礼を言った後に質問する。

 

「ここは電波が通じないはずだが……」

 

「あー、特注品なんで」

 

「結構険しい山道だったと思うが、その恰好でよく上ってこれたね」

 

「修験者の恰好でチョモランマに上る訳じゃないっスから」

 

「その木箱はどうするんだい?」

 

「しかるべき人物に渡すっス」

 

「さっきの光は?」

 

「破ァ!! っス」

 

それだけ話すと彼は木箱の中身が危ないからと、あっという間に走り去っていった。

寺生まれってスゴイ、初めてそう思った。

 

一度周りを見渡し、誰もいないのを確認する。

深呼吸し、肺を空気で満たす。

 

「破ァ!!」

 

当然、何も出なかった。

 

 

 

 

○渇望の手

 

 

 

 

最近、私の一族のグループが管理する海水浴場で問題が起きている。

海水浴をしていると、急に海中で足を掴まれるという事件が多発しているのだ。

幸い、死者や重傷者は出ていないが驚きで溺れかけたという事例が起きている。

海水浴場の管理はグループとしては優先度の高い事項ではないが、問題を片付けられないと思われるのも困る。

揚げ足をとるような輩はどこにでもいるのだ。

 

そこで未だ若輩である私に、解決の役目を任された。

解決して価値を示せ――そういうことなのだろう。

 

私は事件解決の為、ある人物を招聘した。

とある寺生まれの男で、Tさんという。

一族のグループにも当然懇意にしている霊能者はいる。

科学全盛の世であっても、呪詛やら何やらを用いてくる輩はいる。

そういった相手に対抗するための人員だ。

 

しかし今回は、人材発掘も兼ねることにした。

グループにではなく、私個人に力を貸してくれる人材が欲しかったからだ。

だが今のところはうまくいっていない。

Tさん以外にも何人かの霊能者をピックアップしたが、力が弱いか似非か。

誰も海岸の件は解決できていなかった。

実の所Tさんが最後の一人。

彼も失敗するようならば、おとなしく解決を優先してグループの霊能者を頼るつもりだ。

 

この一件に関しては、既にある種の怪談話として噂が流れている。

曰く、戦時中空襲から逃れるため海に逃げた女学生たちが溺れ死に、未だに助けを求めている。

そんなありきたりな話だ。

 

これは作り話であることが既に判明している。

ちょっと調べればわかることであるが、この辺りでそんな死亡事故の記録はなく、そもそも空襲の被害にもあっていない。

故意にか偶然にか、どちらにせよでっち上げられた話だ。

 

だがこれまで雇った霊能者たちには、この話をそのまま伝えてある。

この話をそのまま肯定するようなら、そいつは似非だ。

残念ながら、その割合の方が非常に多かったが。

さて、このTさんはどうか……

険しい顔で海を睨むTさんが、重々しく口を開く。

 

「ちょっと霊視してみたッスけど、溺れた女学生とかじゃないっスね」

 

ほう、コイツは当たりのようだ。

緩みそうになる頬を戒めつつ、困ったような顔つきを作り尋ねる。

まだ第一段階を突破しただけなのだ。

事件を解決してもらわないといけない。

 

「まあ、そうでしたの? ならばいったい、どのような恐ろしい悪霊が潜んでいると?」

 

「あー、そうっスね。これはお嬢さんにはちょっときつい内容かもしれないっスけど……」

 

どうするか? と目で問うてくるTさんの前で、頭を巡らせる。

私にとってきつい話――つまり一族が関係する話ということか?

それともまさか、数年前に亡くなった両親に関係する話?

 

思わぬ大魚が釣れたか?

どちらにせよ聞かなければ始まらない。

知らない方がいい話だったら――そんなものは知るか。

知った上で糧にする。私はそうして生きてきた。

毒も皿も、何なら差し出された手すらも喰らう心持で口を開く。

 

「お聞かせください」

 

「……分かったっス」

 

Tさんは一旦目を瞑った後、海の果てに視線を飛ばすように語り始めた。

 

「この海水浴場に潜む霊の正体は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒に酔っぱらった勢いで海に飛び込んで溺れ死に、幽霊になってこの海水浴場に流れ着いた女性の素足フェチのオッサンの霊っス」

 

「よーしTさん、さっさとそのセクハラ親父を消し飛ばしてくれたまえ。跡形もなくだ。ハリー、ハリー、ハリー!!」

 

セクハラ許すまじ、私は母の遺した言葉を全力で肯定した。

 

 

 

 

○廃墟探索

 

 

 

 

オレたちのチームは、世間一般からは所謂不良という風に見られている。

だが決して他人様に迷惑をかけているつもりはない。

はみ出し者たちがリーダー――団長の元で一緒につるんでいる。

そういう関係だ。

 

団長はスゴイ男だ。

外人の血を引いているということで周囲から煙たがれつつも、それに腐らずまっすぐに生きている。

そんな団長の元だからこそ、オレたちも変に拗れずにやっていけているんだ。

 

それはさておき、ちょっとしたトラブルが起きた。

チームメンバーの一人の弟が、廃墟に行って帰ってきていないというんだ。

どうやら廃墟探索系の動画投稿者の影響を受け、近くの廃墟に友人数人と向かったらしいが、その弟一人だけが忽然と居なくなったらしい。

チームメンバーの家族のピンチだ。

当然団長が放っておくわけもなく、皆で探している。

 

――探していたのだったが……

 

おかしい。ここは精々、三階建ての民家だったはずだ。

この面積は、あり得ない。

もう5階分は階段を降り、10階分は上ったはずだ。

にも関わらず、一向に外に出ることができない。

いや、外は見えているのだ。それこそどの階からも。

だがその外が、オレたちの知るものとはまるで違う。

 

ある階から見える外は、血のように真っ赤な地面。

ある階から見える外は、見ているだけで凍えそうな雪景色。

ある階から見える外は、どこかの山の中。

ある階から見える外は、大量の臓物がミミズのようにはいずり回る地獄絵図。

 

団長が居なければ、とっくに士気が瓦解していたはずだ。

幸いにして、探し人であるチームメンバーの弟は見つけることができた。

余程怖かったのだろう。一言もしゃべらずに、黙々とついてきている。

この子の存在も、オレたちが歩き続けられる理由の一因だろう。

年上として、守るべき子供の前で無様は晒せない。

 

――だが……

 

「もういいかな」

 

ある階に着いた時だった。皆疲れている、そんな状態。

チームメンバーのものではない声が、響き渡った。

これまで一度もしゃべらなかった子供が、ニタニタと笑っている。

口元は頬まで裂けるように大きく弧を描き、不揃いな異形の歯が並び、血色の涎が零れる。

 

「――こいつっ!?」

 

「いただきまぁーす」

 

ゴキゴキと、顎が外れるような音と共に口を大きく開く。

いや、実際に外れているのだろう。

人一人を飲み込みかねない大きさにまで口が開かれ、驚きと疲れのあまり呆然としていたメンバーに迫り――

 

「やらせるか!!」

 

団長がタックルで子供を――否、怪物を押し飛ばした。

しかし怪物は大して揺るぐこともなく、その口を団長に向ける。

 

「――っ! ここはオレに任せて早く逃げろ!」

 

「団長を置いていける訳がっ!!」

 

「いいから行け! 止まるんじゃねぇぞ!!」

 

オレたちの方を振り向き、一喝する団長。

しかしその背後には、巨大に開かれた口と闇色の口内が広がり――

 

「そんなに喰いたきゃしこたま喰らうっスよ! 破ァ!!」

 

巨大な光弾が団長の顔を掠めるように、怪物の口に叩きこまれた!

あの人は、そう――霊感が強いと噂の寺生まれのTさんだ!

 

「ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!!」

 

Tさんの両手からマシンガンのように放たれる光弾が、怪物の口内に吸い込まれるように飛んでいく。

激しい光の明滅と、土煙――それが晴れた後には、ズタボロになった怪物だったナニカ。

 

「破ァ!!」

 

最後にTさんが一喝すると、残された肉片は粉々に消し飛んだ。

 

「いや、無事でよかったっスよ」

 

笑顔を向けてくるTさんに、団長が答える。

 

「Tさん……どうしてここに?」

 

「居なくなった子供の捜索に加わってたんスよ。ここは元々、良くない噂もあったっスからね。ああ、行方不明の子供ならもう見つかったっス。オレたちも帰るっスよ」

 

「そいつぁ良かった。でもここ、どこに行っても外に出れなくて……」

 

「ああ、それなら――破ァ!!」

 

Tさんが手から光を放つと、空間が歪むようにして下に降りる階段が現れた。

 

「ここから帰れるッスよ」

 

「……すげえよ寺生まれは」

 

オレもそう思った。

でも団長――オレは団長も、同じくらい凄いと思っているんだ。

 

 

 

 

○猿夢

 

 

 

 

ああ、ついにまたこの場所――夢に来てしまった。

 

『次は挽き肉~挽き肉です~』

 

奇妙な電車の中に、不気味なアナウンスが響く。

前回は、次で最後だと言われた。

それ以来、ずっと怯えながら暮らしていた。

 

小人が自分の膝の上に乗り、ウィ~ンという重低音が響く機械を近づけてくる。

 

結局のところ、この夢で自分が死んだ場合現実でどうなるのかは分からない。

それは己が身をもって証明するしかない。

それでもこれから起こる事は、恐ろしく痛いのだろう。

なんせ意識があるままひき肉にされるのだ。

 

だが。

しかし。

この恐怖が今日で終わるというのなら。

それもいいのかもしれな――

 

ドォンと、電車が揺れた。

その拍子で膝の上に乗っていた小人たちは転がり落ち、持っていた機械に巻き込まれミンチと化した。

何事かと目を白黒させていると、後部座席に妙なものが見える。

こう――巨大な羊と機械を組み合わせたキメラというか……

 

しかし僅かに瞬いた瞬間その異形の巨体は消え、一人の少女がそこにいた。

赤いサンタ帽と白黒のワンピースを身に纏った少女。

 

『い、いったい何が……』

 

「どーも、夢の支配者です」

 

彼女は何の気負いもないように、それこそ支配者であるかのように車内を歩く。

そして眼前に立った彼女は、子守唄のように言葉を紡ぐ。

 

「それではあなたの悪夢、美味しくいただきます」

 

『やめ――っ!?』

 

気が付くと自分の部屋で目を覚ましていた。

体にはどこにも異常はない。

そして何となく、あの悪夢は終わったのだという不思議な確信があった。

 

――後日。

 

寺生まれのTさんと呼ばれる人物と縁がありそのことを話すと、心当たりがあったらしい。

彼女は獏という妖怪だそうだ。

 

お礼を言いたいから何とか会えないかと相談すると、彼は枕をくれた。

件の獏が取り扱っている商品らしく、使っていれば稀にアンケートをとりに夢の中に現れるらしい。

ダメ元で頼んだが、何とかなるものなのだな。

寺生まれってスゴイ――そう考えながら、穏やかな眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

○手を伸ばす者

 

 

 

 

僕は昔から、釣りが趣味だ。

友人がゲームやバイクに興味を示す中、ひたすら釣りにばかりのめり込んでいた。

その日釣りをしたのは、住んでいる地域に昔からある沼。

だいぶ堆積物なんかが溜まっているが、こく肥えた魚のいる密かな穴場だ。

大きなコイを釣り上げることができ、その時一緒に釣りをしていた友人に頼んで僕のスマホで写真を撮ってもらった。

僕が魚を持ち上げている2ショットだ。

 

しかし後日その写真を確認してみると、妙なものが映っていた。

僕と鯉が映るバック――沼の畔に、何か緑色の物体があったのだ。

正直この時は、大して気にはしなかった。

打ち上げられた藻か何かだろうと、そう考えた。

 

だが更に数日後に写真を確認すると、その考えが甘いものであったことを思い知らされた。

緑色の物体が、明らかに変化しているのだ。

先端は別れ手のような形になり、何よりも――明らかに僕の足元に近づいている!

悪い思い込みだと考えようとしたが次の日も、また次の日も、徐々に、ほんの少しずつだが、緑色の手は僕の足元に近づいていた。

 

写真を消そうとしたが、エラーがでて消せなかった。

何度試してもだ。

日に日に近づいてくる手に恐怖を覚えながら、僕は母の勧めで少し離れたところにある寺に相談することにした。

 

その人はTさんと名乗った。どうやら霊感が強いそうだ。

焦りと恐れから要領を得ない説明になってしまったが、Tさんは根気強く話を聞いてくれた。

Tさんは少し考えこむようにして、あることを口にした。

僕はTさんに連れられて、例の沼へと向かった。

 

沼はいつもならあり得ないほどに、人が集まっていた。

それもそのはず、TVの撮影が来ているのだ。

そして沼自体も、まるで別の姿に変わっていた。

水がすっかりと抜かれ、今は水底に溜まったヘドロの処理をしている。

芸人さんや業者、そして地域の人たちが笑い合いながら作業をしている。

 

この番組は、僕も何度か見たことがある。

沼や池の水を抜いてみたという、アレだ。

 

Tさんに言われて、スマホの写真を見る。

緑色の手は、もうどこにも映っていなかった。

 

「もしかしたら、助けを求めていたのかもしれないっスね」

 

Tさんの声が、僕の胸に静かに響く。

散々怖がらせてくれた相手だけど、この手の主はもう、どこにもいないのだろう。

そう考えると、不思議な寂寥感を覚えた。

 

 

 

 

 

○禁忌の宴

 

 

 

 

 

すっかり夜になった配達物。

今度は近くでも有名な寺だ。

決して大きくはないが、本物の霊能者がいるという噂がある。

 

それでも夜の寺というのは、なんだか怖い。

霊能者がいるんならないだろうと思っても、何かの怪奇現象が起きそうな気になる。

まあ実際には何も起こらないのだが。

ポストに宅配物を入れ、踵を返す。

残り数件――さっさと終わらせたいところだ。

 

そんな私の目に、ある光景が映る。自慢ではないが、視力は結構いいのだ。

居住区域の辺りから出る電灯の光。

軒下に並んで座る、二人の人影は互いにグラスを持っている。

片方はいい。この寺の倅だ。

だが問題はもう片方……明らかに小学生か、大きく見積もっても中学生くらいにしか見えない少女。

赤い顔色を見るに、どうも酔っぱらっているらしい。

 

しかも和服を洋風に改造したような格好で、頭には大きな角まで付いている。

まさか子供にコスプレをさせた上一緒に酒まで飲んでいるなんて。

 

それにこの微かに漂ってくる香り――松茸か。私は鼻もいいのだ。

どうにも七輪で焼いているようで、酒の肴にしているらしい。

この時期にはまだ採れるものではないので、外国産だろうか。

最近は絶滅危惧種に指定されたのだ。羨ましい。

 

しかしこんな状況を作り上げるなんて――寺生まれってスゴイ。

警察に通報すべきかとも悩んだが、やめておいた。

何故だかすごく命拾いした気がした。




《ちょっとした設定集》

○名無しの寺生まれ
幻想郷を有する世界の、外の世界にある寺の生まれ。霊能力全般を得意とし、様々な怪異にまつわる事件に遭遇・解決する。ちなみに彼自身は、幻想郷に行ったことはない。

○名無しの鬼っ娘
とある幻想郷の一つに生きる鬼の少女。”数値を操る程度の能力”を持つ。大体なんでもできる力だが、本人は自分の座標を操るか食べ物や部屋の温度を操るとか、そのくらいにしか使わない。だって本格的に数字を見ていると、頭が痛くなるから。数学が嫌い。博麗霊夢とは面識はなし。面識を得るとすれば、いずれ自分が異変を起こした時――そう考えている。最近は別の平行世界の幻想郷を侵食しているという、ロストワード異変がちょっとした悩み。いつ飛び火してくるか分からないから。



以上番外編、T=SAN daysでした。
いやぁ、思った以上に文字数が増えてしまった……
Tさんが案外書きやすかったと言いますか。
あと作中にどこかで見たような方々も登場していますが、大部分は平行世界の同位体かよく似た他人ということで一つ。
また某番組を中傷する意図はないので、ご理解をお願いします。
例え善意や必要なことであっても行動すれば、波及するように影響は広がる。
そういうお話だと思って貰えれば。
それでは今回はこの辺りで失礼します。


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