Fate/last night《完結》 (枝豆畑)
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第一話 始まりの夜

注意:初投稿なので不安と訂正箇所で満ちています。暖かく見守ってあげてください。主は臆病です。


Prologue

 

 

 

(私は一体…)

頭でも打ったのだろうか、私の意識は朦朧としていた。

先刻の宝具同士のぶつかり合い。火力では我が聖剣が騎英の手綱を上回っていたはずだ。

…ならばなぜ、今こうして私は倒れている?なぜ士郎が、私の目の前でアゾット剣を振りかざしている?

 

…そう、たしかにライダーの宝具だけではセイバーは倒されなかっただろう。いやむしろ、倒されるべきはライダーのはずだ。しかし、その運命は士郎の投影によりセイバーのエクスカリバーの威力を弱めることで覆された。

(あぁ、そうか…。私は負けたのか。)

 

刹那、胸に衝撃が走る。

目の前には涙を流す元私のマスター、胸に刺さるはアゾット剣。

 

(強くなりましたね、士郎)

ただ一言、言葉に出そうとするがそれは今消えようとしていく意識の中で掻き消された。

(それすらも…もう叶わないのですね…あぁ…私は…)

「あ__と__セイ__お前____度も__」

士郎が何を言っているのか、もはや今の私には聞き取れなかった。

 

…こうして私の第5次聖杯戦争は、幕を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衛宮切嗣は今まさに、此度の聖杯戦争で己の使い魔にして勝利への最大の鍵となるサーヴァントの召喚の準備に取り掛かっていた。

 

「ねぇ切嗣、本当にこんな単純な儀式でサーヴァントを召喚できるの?」

「あぁ、サーヴァントそのものを召喚するのは術者じゃなくて聖杯だからね。マスターとなる僕たち魔術師は、サーヴァントを維持できるだけの魔力があればいいんだ。…それにしても」

 

切嗣は祭壇の上に設置した聖遺物に目を向けた。

 

「まさか本当に、こんな規格外な物をアハト翁は見つけてくるとはね。」

「これほどの聖遺物があるんだもの。これなら間違い無く彼の"騎士王"を召喚できるわ」

 

そうだ、これで騎士王さえ召喚すれば、此度の聖杯戦争、アインツベルンの勝利は揺るがないものとなるだろう。

 

(問題は僕のやり方に騎士王が口出しする可能性があるということだが、大丈夫だろう、策も練っているしね。)

 

そして切嗣は、水銀で描いた魔法陣に間違いがないか入念にチェックを終え、いよいよサーヴァントの召喚のための詠唱を始める。

 

「___告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この理にに従うならば答えよ」

描かれた魔法陣に神秘がやどり、光を放つ。

「___誓いをここに。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者___」

側でアイリスフィールに見守られながら、最後の言葉を紡ぐ。

「___汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ_!」

 

目映い光に包まれ、視界を一時的に失う。

(召喚は…成功したのか?…いや)

間違い無く、そこにいる。通常ではかんがえられないほどの神秘と魔力を纏った存在が、そこに。

 

「__問おう」

 

ソレがゆっくりと目を開きながら言葉を放つと同時に、切嗣とアイリスフィールはソレの姿を確認した。だが二人はどこかその者の姿に違和感を覚えた。なぜなら____

 

「__君が私の」

 

なぜならソレは、想像していたような騎士や王の格好をしてるわけでもなければ、西洋人独特の顔付きをしているわけでもなく_

__

 

 

「__マスターかね?」

 

 

それは誰もが考えるような騎士王の容姿には程遠い、紅い外套を身に纏い、白髪で褐色の肌をしていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか、Fate/last night の記念すべき第一話兼プロローグ。
私としては「え、これが(いろんな意味で)プロローグ?」としか言いようがありません。
不定期更新になると思いますが第二話を見かけたときは優しい気持ちで見てあげてください。


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第二話 瞳

目が、痛いです
それでは第二話、どうぞ


___暖かくね


 

 

 

 

 

「__問おう。君が私のマスターかね?」

 

皮肉気な笑みを浮かべながら、紅き武人は問う。

 

「ぁ…あぁそうだ、僕が君のマスターの衛宮切嗣だ。」

 

「衛宮…切嗣…」

 

「早速ですまないが幾つか質問がある。君はブリテンの騎士王、アーサー・ペンドラゴンで間違いはないね?該当するクラスは、セイバーだと思うんだが…」

 

するとそのサーヴァントは、ふむ、と呟き少しだけ困ったような顔をした。

 

「あー、マスターそれなんだがね。」

 

「なんだ?」

 

「察するに、君たちはアーサー王を召喚するつもりだったらしいが、残念だが私は私が生前アーサー王であったと記憶していない。ついでに言わせてもらうならばセイバーですらない。」

 

「なっ…!」

 

こいつは今、なんと言った!?召喚に失敗したのか!?だが召喚に使用したのはあの聖剣がの鞘だ。彼の騎士王を召喚するのにこれ以上の聖遺物があるだろうか。

 

「…じゃあ君の真名とクラスを聞かせてくれないか?」

 

戸惑いを隠しつつ、落ち着いた声で再び切嗣は問う。

 

するとサーヴァントは再び、ふむ、と呟き同じように少しだけ困ったような顔をした。

 

「度々申し訳ないのだがねマスター。どうやら召喚に不備があったらしい。生前の記憶が霧がかかったように思い出せない。従って真名すら思い出せない。クラスはどうやら今回はキャスターとして召喚されたようだ。」

 

切嗣は顔をしかめた。真名が思い出せないだと?そんな馬鹿な話があるわけ…

ふと、切嗣は己の手の甲にある令呪を見つめる。

(ダメだ…こいつはこんな下らないことに使うべきではない…)

キャスターの方を見てステータスの確認をする。

 

(どれも平均かそれ以下…それにこいつ、キャスターのくせに魔術のランクも特別高くもない。だが…)

 

「まぁ真名に関しては思い出したら聞かせてもらうとしよう。キャスター、ならば君の宝具について聞かせてもらおう。」

 

そう、宝具だ。どんなにステータスが恵まれてなくても宝具さえ強力ならば大きな問題にはならない。いやむしろ、宝具さえ強力ならば聖杯戦争においては大きなアドバンテージになる。

 

「その件なんだがねマスター。残念なことに私は宝具すらも思い出せないんだ。」

 

すまないがね、と言うと再び皮肉気な笑みを浮かべた。

 

「貴様…!!」

 

ふざけるな、と怒鳴ろうとするとアイリが後ろから手を握る。

 

「落ち着いて切嗣。確かに私たちは本来召喚する予定だったアーサー王は召喚できなかったわ。でもキャスターだって、聖杯を掴むために召喚に応じたサーヴァントじゃない。きっと力になってくれるはずよ。そうよねキャスター?」

 

「そちらの貴婦人のほうがどうやら話がわかるようだ。勿論だとも。君たちが聖杯を望む限り、君たちの邪魔をする敵は私が蹴散らそう。それに…」

 

キャスターはアイリから切嗣へと視線を移す。

 

「見たところ我がマスターは正面から敵を打つようなタイプではないと見た。生憎私もそちらの戦い方の方が好ましくてね。その点に関してはどこぞの騎士王よりも君には私の方が相応しいと思うが。」

 

どうかね?と言わんばかりにこちらを見る。

 

「ふん、まぁいい。そういうことならば僕もそのほうが助かる。だがキャスター、君が僕たちに何か隠し事をしている限り、僕は君のことを信用するつもりはない。いざとなったら令呪だって惜しむつもりはない。わかったか?」

 

やれやれとキャスターは溜め息をつく。

 

「了解した。」

 

地獄へ落ちろマスターと言いそうになったが、これ以上の揉め事はごめんだ。

 

 

 

 

 

(私は一体…)

頭でも打ったのだろうか、私の意識は朦朧としていた。

 

(ここは…柳洞寺か?)

 

「____!!!」

 

__なぜ、まだ生きている?

 

ふと胸部を確認する。

 

「傷が…消えている?」

 

(私がまだ生きているということは、桜はまだ生きているのか…)

 

取り敢えず自身の状態の確認をする。

 

 

(魔力_問題なし。宝具_解放可能。外傷_特になし。だが)

 

ふと、自分の肌を見る。生気はなく、鎧もまた黒く悪の象徴かと言わんばかりに染まっている。

 

「聖杯とまだ繋がっている…」

 

やはり桜はまだ生きているということか。だが妙だ。ここは柳洞寺。あれほどにまで溢れていた聖杯の気配が今はしない。

 

__ここは、私が最後に記憶した柳洞寺ではない。

 

「ならば一体ここは…いや、それよりなぜ私はまだ生きている…?」

 

ひとまず、黒き騎士王は柳洞寺を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

ふと、キャスターは城の窓から外を見る。

一面を雪で真っ白にした景色の中には、我がマスターの姿が。

そしてその横には…

 

「イリヤ…」

 

「どうかしたの?キャスター」

 

突然声をかけられ思わず肩をピク、と動かす。

 

「今何か言わなかった?」

 

聞かれていなかったか、と思わず息をつく。

 

「アイリスフィール、あまりサーヴァントを驚かさないでくれたまえ。」

 

「あら、英霊ともあろう御方が、ただ声を掛けられただけで驚くなんてなんだか可笑しいわ。」

 

ふとキャスターの視線の先にアイリスフィールも目を向ける。

そこには森のとば口でじゃれ合う父娘の姿が。

 

「切嗣のああいう側面が、意外だったのね?」

 

「いや、意外というわけでもないがね。あぁやって見ると、どうやら私は心底マスターに嫌われているらしい。」

 

満更でもない様子でキャスターが答えると、アイリスフィールは苦笑した。

 

「えぇ、でもそれって私、あの人があなたに似ているからだと思うわ。なんでも日本ではそういうのを同族嫌悪って言うらしいじゃない?」

 

ふふ、とアイリスフィールは楽しげに言った。

 

「ふん、ならば聞くがねアイリスフィール。私とあの男の、一体どこが似ていると言うのかね?」

 

「そうね、もちろん見た目とかそういうのじゃないんだけど、私はやっぱり目が似ていると思うの。二人とも遠慮なく言わせてもらうと、冷酷っていうか、常に物事の奥を見つめているような感じがするんだけど」

 

「___その瞳の奥には、常に誰かを思っていて、優しいんだけど、それでいて少し寂しいような___」

 

「………!!」

 

「気を悪くさせるつもりなんてないのよ。でもやっぱり私はそう思うかな。初めて私が切嗣と会った時なんて、もっと凄かったのよ?もう本当に、幽霊にでもなりかけてるんじゃないかしらって思うくらい。」

 

キャスターはなにも言わず、ただ窓の外を眺めている。

 

「あなたには、あの人はどう見えるの?」

 

「…そうだな。少なくとも私と似ているとは思えないし、思いたくもないな。」

 

するとアイリスフィールはそう、と少し嬉しそうにうなずいた。

 

「__キャスター、お願い。あの人の理想を、願いを叶えてあげて。いえ、あの人の願いは私やイリヤの願いでもある。貴方だけが頼りよ。どうか、お願い__」

 

なにを考えていたのか、数秒の沈黙のあとキャスターは口を開いた。

 

「あぁ、全力を尽くそう。」

 

ただ一言、そう呟き、紅きサーヴァントは再び外を眺め始めた。

__その瞳は、どこか遠くを見つめている。

 




まさかの本日再び投稿です。
来週はないのかな?うん?
お気に入り登録してくださったかた、本当にありがとうございます。
まだまだ未熟ですが、どうかこれからもお楽しみください。


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第三話 開幕

ネタは出てくるんです。
書きたいこともたくさんあるんです。




まとまらないんです。


 

 

(やはりここは……いや、今というべきか)

 

夜の冬木を、黒い影が駆け抜ける。昨日、柳洞寺で気がつき、そして今夜状況把握を兼ねてこの町を騎士王は見て回っていた。

 

(第4次聖杯戦争…つまりは第5次から10年前の冬木市だ)

 

__たどり着いたそこは、冬木市民会館。そう、そこは第4次聖杯戦争にてセイバーが聖杯を破壊し、 聖杯から溢れた泥によって辺りの住宅を焼き尽くし た場所だ。だがそこには、当たり前のように市民会館があり、辺りの住宅街もいつも通りの夜を過ごし ていた。

 

「__間違いない。私は今、10年前の冬木にいるのだ。まだ聖杯戦争は始まってこそいないがそれも時間の問題だろう。それにしても」

 

__なぜ私はここにいるのだ。まさか__

 

「まだ、私は聖杯を欲しているとでもいうのか…?」

 

__そうか、つまり私はまだ自らの心の中の甘えを捨て きれていなかったというわけか。

 

「ならば私は、聖杯を手に入れ"この世全ての悪"を 呼び起こし、再び絶望に身を委ねるまでだ。」

 

黒き騎士王は、そうして再び夜の闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

切嗣の考えもあって、アイリスフィールとは別々で冬木の地に来ていた。

 

 

キャスターは冬木に着くなり、

 

「戦場となるこの地を下見しておきたい。」

 

とか言い残しどこかへ行ってしまった。魔術師のサーヴァントのくせに、単独行動のスキルを所持していたことには驚いたが。そんなわけで切嗣は本当の意味で一人、町を歩いていた。

 

(3年前にも1度此処には来ていたが、大分変わっているな。)

 

 

 

やがて冬木の新都にあるビジネスホテルにたどり着いた。衛宮切嗣はこのホテルで部下と合流することになっていた。

 

「昨夜、遠坂邸で動きがありました。」

 

久宇舞弥は切嗣達より先に冬木に入り、他のマスターに動きがないか偵察していた。

 

映像には、遠坂のサーヴァントと思わしき者が、 白い仮面の…おそらくアサシンであろ う、アサシンを圧倒的火力で蹂躙していた。

 

「できすぎているな。舞弥、このサーヴァントのマスターに動きは?」

 

「アサシンのマスターは、昨晩のうちに協会が保護しました。名前は言峰綺礼と。」

 

言峰綺礼、切嗣が以前からマークしていた人物で あった。

 

「言峰綺麗…。舞弥、協会にも使い魔を放っておいてくれ。それから、僕が預けておいた物は…」

 

 

 

 

 

 

ランサーは誉れ高き騎士の英雄だ。彼が此度の聖杯戦争に望むのは、ただただ主への忠誠のみ。その主であるケイネスが聖杯を欲するというならば、彼は聖杯を主にもたらすべく全力を尽くすのみだ。

 

だからこそ彼は、いち早く主へと己の実力を示したかった。

 

夜になり辺りの人通りも絶え、戦う場所には打ってつけであろうこの倉庫街でさながら挑戦者を待つかの如く、ランサーは挑発的に殺気を放っていた。ランサーにとっては初戦となるのだ。願わくば、己の実力を主に見せつけるに相応しい猛者が、この誘いに乗って欲しいものだが__。

 

 

ふと、ランサーの前方に一つの黒い影が現れる。

 

(__サーヴァントか……!)

 

その風貌が、なによりその身から放たれる膨大な魔力が、人を超越した存在であることを証明している。

 

「よくぞ来た。今日一日においてこの俺の誘いに乗った猛者はお前ただ一人。どいつもこいつも今日は下手に出るばかりだ。」

 

一方黒いサーヴァントは、何も言わずただランサーを睨み付けるかのように立つのみ。

 

「その研ぎ澄まされたかのような闘気……セイバーとお見受けするが、如何に?」

 

するとそのサーヴァントは、かかってこい、とでも言わんばかりに剣を手に取り、ランサーの方へと構えた。

 

「ふん、何も言わぬとなるとあまり感心しないがな。なるほど、我らがサーヴァントが交えるは言葉などてはない、己の腕で十分であったか…!!」

 

 

__こうして、第4次聖杯戦争最初の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラ、ラ、ライダぁ~!な、なんだってこんなとこに来なくちゃ行けないんだよぅ!」

 

ライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットは今、高さ50メートルを誇る冬木大橋のアーチの頂きにいた。

 

「まぁ落ち着け坊主、貴様は余のマスターであろう。もちっとシャキッとせんか。」

 

__その横に座すは朱色のマントを風に靡かせる大男。彼こそが此度の聖杯戦争においてライダーのクラスで現界したサーヴァントである。

 

「先から気配を振り撒いておる奴がおるが…あれは明らかに誘っておる。そのうち痺れを切らしたマスターが奴に仕掛けるやもしれん。余はそれを期待しておるのだ。」

 

「じゃあなんだよお前、今日は相手の情報を探るのが目的ってことか。」

 

なるほど、てっきりこのサーヴァントのことだ、真っ先に敵の挑発に乗るばかりかと思っていたがどうやらそうではないらしい。こいつもこいつなりに策を考えているのか。

 

「馬鹿者め、他のやつらが集まってきたところをまとめて相手をした方が手っ取り早いではないか。」

 

「なっ……」

 

豪放に笑うライダーを前にしてウェイバーは先程の自分の考えを撤回する。

 

「あぁ、もう帰りたい…ここから降りたい…」

 

「まぁそう言うな。それに、どうやらようやく状況も動き出したようだぞ?」

「__!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスター、状況が動き出したぞ。』

 

キャスターが切嗣へと念話を送る。

 

「場所は?」

 

『新都の港近くの創庫街だ。2体サーヴァントがいるが、仕掛けてきたのランサーのようだ。』

 

「わかった。こちらからは取り敢えず使い魔を飛ばしておく。キャスター、お前は無理をしないように。初戦から目立った行動をする必要はないからな。」

 

『あぁ、それは別に構わないがね。それでは、無理はしない程度に行動させてもらおうか。』

 

フン、とあの男は皮肉気な笑みを浮かべているのだろう、と思いつつキャスターとの念話を切嗣は終了した。

 

 

 

(思ったよりも早く状況が動き出したか…。)

 

__ともあれ、一度ぐらいは自分の手駒の力量を見極めておくのもいいだろう。

 

(__では、お手並み拝見といこうか。紅い魔術師さん__)




どうも、SHIKIGamiです。
このペースで書いてたら大変なことになります。
次回から戦闘シーンが始まると思うと冷や汗が止まりませんね。本来の予定ではもう第三話で戦闘に入ってるはずなんですが逃げちゃいました。
少しずつですが読んでくださる方が増えています。感謝感激。
相も変わらず駄文ですが、これからもお楽しみください。


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第四話 参戦

昨日の夜寝落ちして更新できませんでした。

申し訳ありません。

どうぞ


 

 

 

『ランサーとセイバーと思われるサーヴァントが戦闘を開始しました。』

 

 

アサシンと感覚を共有している言峰綺礼は、宝石通信機を通して遠坂時臣に状況を伝える。

 

「ふむ…。ついに始まったか。すまないな綺礼、引き続きアサシンに現場の偵察をさせてくれ。」

 

『承知しております。…ところで話は少し変わるのですが。』

 

「なんだね?」

 

『先日、時臣師のアーチャーの召喚を最後に、冬木市内での7体のサーヴァントの存在を確認したと申し上げましたが…。どういう訳か、バーサーカーのクラスの召喚が行われていないのです。』

 

「__なんだと?」

 

『ええ、ですが確かにサーヴァントはこの冬木に7体現界しています。師よ、これは推測に過ぎないのですが、おそらく"イレギュラー"クラスのサーヴァントが召喚されたのではないかと。』

 

「イレギュラークラス…。なるほど、確かに前回の聖杯戦争でもイレギュラークラスのサーヴァントが召喚されたと記録に残っている。ならば、それが今回も呼ばれていてもあり得るというわけか。報告、感謝するよ綺礼。」

 

(イレギュラークラスのサーヴァントか…。もしそうだとしたら、一体どんな英霊が…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦況はランサーが攻勢となっていた。

 

「はぁっ!」

 

ランサーは双槍の使い手である。両手で長槍と短槍を振るうという常軌を逸脱した戦法だが、それでもなおランサーは攻撃の手を緩めることはない。いやむしろ、斬り結ぶ度に槍を振るうその速度は増しているほどだ。__だが

 

「__ッ!!」

 

いくらランサーが槍を突こうとも、その切っ先がセイバーに届くことはない。。ランサーが槍を振るえば振るうほどその速度が増すように、セイバーも同様、その剣の冴えに磨きがかかる。手数と速度で勝るランサー相手に、セイバーは剣技のみで対応し続けているのだ。

 

此度の聖杯戦争、ランサーはただ主に聖杯を捧げるだけのためにこの槍を振るおうと決めてはいたが、初陣にしてこれ程の強者と巡り会えたのだ、思わずランサーは笑みを浮かべる。

 

「大した腕だ。我が双槍を前にしてただの一撃も与えられんとはな。ましてやあれほど剣を振るっておきながら息の一つあげもしない。とにかく賞賛を受け取れセイバー、俺はお前のような猛者と剣を交えることができて光栄だ。」

 

すると、今まで一言も発しなかったセイバーがようやく口を開いた。

 

「それは謙遜というものだ。槍を二本も扱いながらも尚衰えることのない槍捌き。見事だランサー。」

 

なんだ、喋れるではないか、とランサーは呟いた。

 

「どうだかな。見たところセイバー、その様子ではまだ本の少ししか力を出していないようではないか。あまり甘く見ないでいただきたい、次は全力で獲りにいかせてもらう。主よ!どうか宝具の開帳の許可を頂きたい!」

 

すると、どこから冷淡な声が響き渡る。

 

「いいだろう。そこのセイバー、どういうわけかステータスが見えないが、間違いなく難敵だ。速やかに始末しろ。__宝具の開帳を許す。」

 

その言葉を待っていたと言わんばかりに、ランサーは槍に巻き付けていた呪符と思わしきものを外した。

 

「感謝します、我が主よ…!」

 

その手には赤と黄色の、まるで薔薇のような色をした二振りの呪槍が握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__感じる。

 

__感じる。これは、サーヴァントの気配。

 

黒の騎士王は、その気配の感じる方向へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__驚きはどちらのものだったか。

 

__セイバーの剣が、折れたのだ。

 

__先程まであれほどランサーの槍と剣戟を交わしていたセイバーの剣が、ただのランサーの突きを往なしただけで。

 

 

「__ッ!?」

 

 

急いでセイバーはランサーと距離をとる。

 

「そうか、その槍は魔を断つ能力を持っているのか……!」

 

そう、セイバーが先程まで使っていた剣はそもそも、ランサーの持つ槍の神秘に耐えられるようなものではない。ではなぜ先程まではランサーと斬り結ぶことができたのか?

 

それは、セイバーの宝具によるものである。

__"騎士は徒手にて死せず"__

かつて、丸腰で敵と戦わざるを得なくなってしまった時、楡の枝で敵を倒したという逸話が元のとなった宝具である。これによりセイバーは、手にしたおよそ武器として認識できる物全てを、Dランク相当の宝具として扱うことができるのである。

 

先まで使っていた剣は、彼のマスターがセイバーの真の宝具を使うまでの繋ぎとして与えたものだ。

セイバーの宝具によりその剣も疑似宝具とされていたのだが、なるほど、ランサーの真の力を開放した赤槍の前ではただの剣に過ぎないのである。

 

「なるほど、どうやらその槍は私の能力と相性が悪いようだ。それに_」

 

__瞬間、それはまるで流星かの如くセイバーへと降り注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずいなぁ、こいつは非常にまずい。」

 

橋の上で二人のサーヴァントの様子を見ていたライダーがううむ、と唸る。

 

「なんだよライダー、一体向こうで何が起こってるんだよ。」

 

「ランサーの奴めが、決めにかかりに宝具を使いよった。どうやらその宝具、セイバーにとって相性が悪いようでな。さらに余と同じように様子見に徹していたほかのサーヴァントの奴めが、窮地に追いやられたセイバーに攻撃を始めたようだ。」

 

「何言ってんだよライダー、何もしないで他のサーヴァントが脱落するんだったらそれって好都合じゃ…」

 

「何を言っておるか!」

 

ライダーは立ち上がり言った。

 

「古今東西、異なる時代の英雄豪傑と矛を交える機会など滅多にない。ましてやそれが六人もいようとあらば、一人たりとも逃がす手はあるまいて。」

 

ライダーは獰猛な獣のような笑みを浮かべながら続ける。

 

「ましてやあのセイバーとランサー。あのような胸を熱くさせる猛者が、余と一戦も交えずに脱落するなどあってなるものか!」

 

「何を言っているんだよお前はッ!?聖杯戦争でそんなこと言ってたらヒギャッ!!」

 

ウェイバーの言葉は、ライダーのデコピンによって途切れた。

 

「馬鹿を言うでない。聖杯戦争には勝つ。勝利してなお滅ぼさず。制覇してなお辱しめぬ。それが真の征服である!」

 

ライダーはそう言い放つとキュプリオトの剣を腰から抜き、フンッ、と振りかざした。すると何もなかった空間からどこからともなくライダーの"戦車"が具現化する。

 

「いくぞ坊主!我らも戦をはじめようではないかっ!」

 

「わかった!わかったよ全く!いいけどあまり変な真似しないでくれよ!」

 

ウェイバーはデコを押さえながら、涙目で叫んだ。

 

「ハッハッハ!よいぞ坊主!それでこそ余のマスターであるっ!」

 

 

 

 

 

 

__こうして初戦の夜は、過激さを増していく__




読んでいただきありがとうございます。

こんにちはSHIKIGamiです。

なんかランサーたちのくだりくどいですね。

すっきりまとまらない。

戦闘シーン書けない。

黒セイバーでてこない。

早く出したいのに。

次話で黒セイバーには暴れてもらう予定です。

たぶん大丈夫ですよね?


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第五話 乱戦 前編

遅くなりました。

どうぞ


 

 

 

__もちろん、それは流星などではない。

 

 

はるか数km離れたビルの屋上から放たれたキャスターの無数の矢は、無慈悲にも武器を失ったセイバーへと降り注ぐ。

 

__だが

 

 

「む…仕留め損ねたか。…いや、元よりこのようなもので殺せるような敵だと思ってはいなかったが…。」

 

その矢は全て、当たることなくセイバーが"素手"で掴み取っていた。

 

「少しばかり、武人にしては芸達者過ぎやしないかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「困ったものだ。武器を失ったと思えばこの様だ。それに、ようやく武器を手に入れたと思えば、これは矢か。私には扱えない。」

 

セイバーは掴み取っていた矢を捨てた。"騎士は徒手にて死せず"は武器と認識できる物全てを疑似宝具とすることができるが、それは彼が手にしている間のみである。矢はもちろん武器であるが、矢とは放つものだ。放ち手から離れた瞬間、それは宝具の神秘を失う。

 

「おのれ…アーチャーか!我らの一騎討ちに水を差した のは!」

 

ランサーは怒りを現にし、槍を握る手に力を込めた。

 

「セイバーの首級はこのランサーが頂く!邪魔をするというならば貴様を見つけ、即刻切り捨ててくれようぞ!」

 

『なにを言っているランサー。今こそセイバーを倒すチャンスではないか。直ちにセイバーを倒せ。』

 

どこからともなく、あのランサーのマスターの冷淡

な声が響き渡る。

 

 

「主よ、そこなセイバーは必ずや私が討ち取って見せます。故にどうか、セイバーとの決着は尋常に…」

 

『令呪をもって命ずる。あのサーヴァントの援護をしろ。』

 

瞬間、ランサーの槍がセイバーへと噛みつかんばかりに襲いかかる。

 

セイバーはそれを難なく後ろへ下がることで避ける。ランサーの槍はアルファルトを粉砕した。

 

「すまない、セイバー…!」

 

ランサーの顔は苦渋に満ちていた。

 

「なに、元来これは戦争だ。君のマスターの判断は最もだ。だがねランサー、どうやら君にとっても敵は一人ではないらしい。」

 

 

 

 

 

「赤原を往け、緋の猟犬_"赤原猟犬"!!」

 

 

 

 

 

咄嗟にそれをランサーは避けたが、それはランサーの左腕へと食らいついた。

 

「クッ…!」

 

「どうやら我ら二人は、奴にとっての絶好の的らしい…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんなのだ一体…アーチャー以外のサーヴァントが、弓を使うだなんて…。」

 

時臣が驚くのも無理はない。彼のサーヴァントはアーチャーである。故に今セイバーとランサーと戦っているのはアーチャーではないサーヴァントとなる。

 

ふと、時臣は先程の綺礼の話を思い出す。

 

(まさか…イレギュラーとはこいつのことか?)

 

「綺礼、このサーヴァントは見つかっているか?」

 

『申し訳ありません。先程からアサシンをもって全力で捜索しているのですが、おそらくかなりこの地から離れたとこから攻撃をしているようで…。まだ見つかっておりません。』

 

「そうか、いやすまない綺礼。君は本当によくやってくれている。」

 

『ありがとうございます。引き続き、アサシンに捜索させてみます。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、一体なんなのだこれは!」

 

ランサーは困惑していた。先程放たれた矢は、確かにランサーの左腕を抉りとった。通常ならこれで矢は勢いを失い、地面にでも落ちるはずだ。だがどうだろうか、矢は今もなおランサーとセイバーへと襲いかかる。例え避けても矢は軌道を変え、さながら獲物を追い続ける猟犬かの如く、再び的を狙い続ける。

 

「これでは埒があかないな。」

 

ふと、セイバーが矢の方向を見、足を止める。セイバーも先程からランサー同様にあの矢に狙われていた。避けることに徹していたのだが、どういうわけか突然立ち止まったのだ。

 

「セイバー…?」

 

矢は通常では考えられない軌道を描き、セイバーへと襲いかかろうとする。その速度は正に神速。サーヴァントである彼らでさえもようやく避けることができるほどの速さ、ましてや普通の人間には目で追うことすら叶わないだろう。

 

それを、セイバーは掴み取った。

 

「…やっと止まったか。やれやれ、なんて恐ろしい矢だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…馬鹿な。あれすらも捕らえたか、あの男は。参ったな。これでは矢による攻撃は効かないか。」

 

キャスターは遠く離れたビルの屋上から再び様子を伺うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

「見事だセイバー。俺にとっては先の矢などより、お前の腕が恐ろしい。」

 

キャスターが攻撃の手を止めたためか、ランサーへの令呪は効力を失っていた。

 

「だがセイバー、お前の窮地という状況は何一つ変わってはいない。いつまでも丸腰のままでいるわけではあるまい?お前の真の宝具を出してはどうだ?さもなくば打ち合うことなく死ぬぞ、セイバー。」

 

ランサーの左腕は既にマスターからの治癒により治っている。

 

「…」

 

「ならば、力づくでいかせてもらうまで!」

 

__しかし、ランサーがいざセイバーへと構えようとしたその瞬間、雷光と共にそれは訪れた。

 

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 

眩い閃光、雷鳴すらも圧するほどの猛々しい咆哮。落雷の如く現れた戦車は、その緊張を粉砕した。

 

「双方剣を収めよ。王の御前である!我が名は征服王イスカンダル!此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスをもって現界した!」

 

そしてその御者台の主は、高らかにこの聖杯戦争において最重要に秘匿すべきことを言い放った。

 

「なにを言ってやがりますかお前は!」

 

ウェイバーは頭を抱えて怒鳴った。

 

「セイバー、それにランサーよ。先の戦い実に見事であった。そこでだ、我が軍門に是非貴様らを迎え入れたい。聖杯を余に譲り、ともに世界を征服しようではないか。」

 

これには、セイバーもランサーも呆れた。

 

「私には、私の望みがある。その誘いには乗れない。」

 

「我が忠誠を誓うべき主断じて貴様ではない。断る。」

 

「…待遇は応相談だが?」

 

「「くどい!」」

 

参ったなぁとライダーは頭をかく。

 

「なにを言ってるんだよお前は!そんなの無理に決まってるだろ!」

 

「物は試しだろう。」

 

「試しで真名をばらすな!」

 

『そうか、よりによって君か。』

 

ウェイバーの怒りをライダーが諌めていると、どことなく怒りの籠った声が響き渡る。

 

「ッ!!」

 

『どこぞ誰が血迷って私の聖遺物を盗んだかと思えば、君だったのかねウェイバー君。君は凡才なりに平凡な人生がお似合いだと思っていたが、よりにもよって聖杯戦争に参加するとはねぇ。そうだ、君には私が特別授業をしてあげよう。魔術師同士の戦いというものを、身をもって知るといい。』

 

ウェイバーは戦慄した。魔術師からの死の宣告がこれほどにまで殺意的とは_

そんな怯えるウェイバーを擁護するかのように、征服王が声をあげる。

 

「聞けば魔術師よ、貴様はどうやら本来余のマスターとなるはずだったようだが…。いかんなぁ、こそこそ隠れていることしかできないような臆病者に余のマスターは務まらぬ。余のマスターとは、共に戦場を駆け抜けることのできる戦士でなくてはならん!」

 

さらにライダーは声を荒くした。

 

「それに、まだいるであろうが。闇に紛れてこそこそしている輩が。あれほど胸を熱くさせる戦いをしておきながら、よもや惹かれて来たのが余だけとはあるまいて。情けないのぅ。腰抜けだわな。英霊が聞いて呆れるわい。」

 

「聖杯戦争に招かれし英雄どもよ!今ここに集うがいい!それでもなお姿を現さぬような臆病者は、征服王の怒りを逃れられぬものと知れ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まずいですね。』

 

「あぁ、まずい。」

 

時臣にも綺礼にも、この挑発を見逃すことのできないだろう英雄に心当たりがあった。

 




今回は前編と後編に分けるつもりで書いたため、少し長めです。

後編もよろしくお願いいたします。

黒セイバーですか?

後編ですよ、後編(汗)


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第五話 乱戦 後編

後編です



どうぞ


その黄金の王は、ライダーが吠えたてた直後に現れた。

 

まさかライダーの招集に反応する奴がいるとは、という思いと同時にウェイバーはその男の眩い光に息を呑んだ。

 

「あ、あいつは…!」

 

そう、この男は遠坂邸にてアサシンを圧倒的な火力で蹂躙したあの黄金のサーヴァント。

戦力で言えば確かにアサシンは最弱であるが、それでも英霊を圧倒したあのサーヴァントは並のサーヴァントではない。何より、その纏っているオーラが自ずと男の力を示している。

 

「よもや我を差し置いて王を称するような雑種がいようとはな」

 

「難癖つけられてもなぁ、余は世界に名高い征服王イスカンダルに他ならぬのだが…」

 

黄金の男はライダーを真紅の双眸で睨み付ける。

 

「たわけが。王を称するのはこの世界において唯我一人。他のそこらの雑種などと一緒くたにするな、雑種。」

 

「ふん、見たところキャスターでもバーサーカーでもなさそうだが、貴様はアーチャーか?」

 

するとランサーが素早く反応した。

 

「なに、お前がアーチャーか!?ならば我らの決闘を邪魔したのは貴様か!」

 

「黙れ槍兵。確かに我をクラスに当てはめるとするならばアーチャー以外なかろう。だが、貴様らのような雑種ごときにこの我が手を下すわけなかろうが」

 

「ならばアーチャーよ、王を称するならば貴様も名乗りを上げてはどうだ?」

 

アーチャーはその言葉に殺意を覚えた。

 

「__王たる我に向け、雑種風情が問いをかけるか?」

 

アーチャーの左右の空間にまるで水面かのような歪みが生じる。そしてその次の瞬間には、数多の刃の煌めきが出現していた。

 

「そのような不届き者、生かしておく道理などない」

 

その姿に、圧倒されない者がいただろうか。出現している武器全てには、紛れもなく神秘が宿っている。

 

この時セイバーは、マスターにアーチャーを攻撃しろと命じられていた。だがセイバーは既に先の戦いでかなりの魔力を消耗していた。今は万が一に備え魔力を温存しておく為にも戦いは避けていた。

 

「王に対してのその無礼、死をもって償うがいい。」

 

黄金の王は、今にもその力を放とうとしていた。

 

__刹那、それは現れる。

 

 

 

「目障りな光だ…趣味が悪い。」

 

それはコンテナの上から突然と聞こえてきた。

 

アーチャーはその方向へと目をやる。

 

「貴様、今なんと言った?」

 

それは屋上から飛び下り着地した。影で隠れていたその姿が、月と黄金の光によって照らされる。

 

セイバーはその姿を見るや、衝撃が走った。

 

「なぜだ…なぜ、あなたがそのような…」

 

__それは、どこまでも邪悪に染まった黒い鎧を纏った騎士であった。顔はヘルムによって確認できないが、手にした持ち主の心を写し出すかの如く、剣は禍々しく黒い光を帯びている。

 

「聞こえなかったか黄金。貴様のその装飾が悪趣味だと言ったのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん…だと…」

 

突如現れたその黒き騎士に驚愕したのは、セイバーだけではない。

 

「なぜ君がここに…いや、なぜ君はそんな姿に…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その発言、我が誰かを知っていてのものだろうな…ならば生かしておけん、失せるがいい

!!」

 

アーチャーの号令と共に、数多の武器が黒き騎士王へと降り注ぐ。

 

「ふん…出直せ!」

 

それに対して騎士王は剣を振るった。__瞬間、振るったその剣は膨大な魔力を帯び巨大化した。放たれたおよそ16の武器は全てその魔力の渦に飲まれ弾き飛ばされていった。

 

「な…」

 

驚愕のあまり、ウェイバーは声を漏らした。

 

「なんなんだよあのサーヴァント…出鱈目だ…!! 」

 

「ふむ…おい坊主、あやつはサーヴァントとしてはどのくらいのモンなのだ?」

 

ウェイバーはその黒き騎士のステータスを確認する。

 

「確認できないセイバーを除いてだけど…この場にいるどのサーヴァントよりもステータスじゃ上回っている…」

 

 

 

「今度はこちらからいくぞ、黄金の王」

 

その言葉とともに騎士王が手にするその剣に、先程とは比べ物にならないほどの魔力がこもる。

 

「まずい坊主、一旦離れるぞ!」

 

ライダーの声が響き渡り、その場にいた者たちはアーチャーと騎士王を残し距離をとる。

 

一方のアーチャーは更なる武器を放とうとしていた。__その数およそ32

 

「あまり調子にのるなよ…雑種!!」

 

「__"約束された"」

 

アーチャーはその財を一斉に放った。

 

「__"勝利の剣"!!」

 

瞬間、禍々しい暴力がアーチャーへと解き放たれる。暗黒の光は32の武器を全て飲み込み、アーチャーへと襲いかかった。

 

 

 

 

「__ほう、ただの装飾華美の鎧かと思っていたが、性能の方は一流であったか」

 

先に口を開いたのは騎士王のほうであった。その先には所々破壊された黄金の鎧を纏ったアーチャーが片膝を付きながらも生きていた。

 

「己…王の鎧に…許さん、許さんぞ…雑種!!」

 

放った武器が全てあの黒い光の暴力に飲み込まれる前に、アーチャーは己の財宝の中から幾つかの盾を展開していた。それでもあの黒い光は勢いを失わず、盾を破壊しついにはアーチャーをも飲み込んだのである。

 

「貴様…生きては返さんぞ!!」

 

 

 

 

 

 

「なんなのだ、あのサーヴァントはッ!!」

 

時臣は混乱していた。黒い騎士が突然現れたと思えば、ギルガメッシュといきなり戦闘を始めた。そこまではまだいい。__だが

 

「なんなのだあの力は!」

 

その戦闘も、終始あの黒い騎士が圧倒していた。

 

『師よ、先程の宝具ですが。確かにあの黒い騎士は『エクスカリバー』と言っていました。ということは、あのサーヴァントの真名は彼の"騎士王"かと』

 

「ブリテンの騎士王…アーサー王」

 

『はい、察するにあのサーヴァントが今回現界したイレギュラークラスと思われます。それより師よ、ギルガメッシュは本気です。さらに"王の財宝"を放とうとしています。』

 

宝石通信機から聞こえる綺礼の実況の声に、時臣はさらに頭を抱えた。

 

ギルガメッシュの全力はこんなところで動員すべきものではない。宝具の連続使用も、敵陣営への能力の露呈となってしまう。それもあんな未知数のサーヴァント相手となっては…。

 

ギルガメッシュを律するには令呪を頼る他ない。ただ三回の__実質的には二回限りの強制命令権を、こんな序盤で使用するわけには__

 

『導師よ、ご決断を』

 

通信機の向こう側から、綺礼が催促する。

 

時臣は己の右手の甲を、歯噛みしながら見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

憎悪に満ちていたアーチャーの顔が、ふと何もない空間へと向けられた。

 

「時臣め__大きく出たな」

 

アーチャーは新たに展開していた64の財宝を消した。

 

「命拾いしたな騎士王…」

 

先程まであれほど殺意に満ちていた真紅の双眸にも、すでにその気は失せていた。

 

「雑種ども、次会うときまでにはその有象無象を間引いておけ。我と見えるの真の英雄のみでいい」

 

そう言い放つとアーチャーは実体化を解き、黄金の粒子と共に姿を消した。

 

「ふん、逃げたか…まぁいい」

 

騎士王は剣をアスファルトに突き立てた。

 

「どうやらアーチャーのマスターは、アーチャー自身ほど剛毅ではなかったようだな」

 

だがそんなことを言っている場合ではない。まだそこに脅威は残っている。

 

「おいそこの、先の戦いでその剣を"エクスカリバー"と呼んでいたが…お前が彼の名高い騎士王か?」

 

ライダーは先程とはうって変わって真面目な声色で話しかけた。

 

「ふん、だとしたらなんだというのだ。想像と違うことに失望でもしたか、征服王?」

 

「…いや、なんと呼べばいいのか迷っただけだ。では騎士王よ、此度は如何なクラスをもって現界した?」

 

それを聞くと騎士王はようやくこちらへと目を向けた。

 

「__私にはクラスなどない。ただそこに聖杯があるからこの地に喚ばれただけだ。サーヴァントにそれ以上の理由などいらないだろう。」

 

「クラスが…ないだって?」

 

ウェイバーはまたしても驚愕した。このサーヴァントは何を言っている?全部無茶苦茶だ…!

 

すると、先程まで黙っていたセイバーが震えるような声で騎士王に話しかけた。

 

「王よ…なぜです…なぜあなたがそのような姿に…」

 

「ほう、その声はランスロット卿ではないか。此度の聖杯戦争では狂気に呑まれることはなかったか。」

 

それを聞いたライダーとランサーは驚いた。円卓の騎士の2トップが揃って同じ聖杯戦争に参加していたからだ。

 

「あれほど尊き理想を抱いていたあなたがなぜ…」

 

「それは違うぞランスロット卿、理想を抱き、それに殉じたからこそ真の絶望を知ることができるのだ。それに私は気付いただけだ。」

 

「そんな…」

 

「もうじき夜明けだ。今日のところはここで終わりにしよう。だが次会う時はそれが貴様らの最期だ。」

 

それだけ告げると、騎士王はどこかへと消えていった。

 

「…では坊主、我らも帰るとするか」

 

「あ、あぁ」

 

『ランサー、今宵はここまでだ。』

 

「御意」

 

そうしてライダーは戦車にのり去っていき、ランサーも霊体化して消えていった。

 

 

 

__残されたのは湖の騎士ただ一人

 

 

「王よ…あなたの理想は正しかったはずだ。それが、絶望に繋がるだなんてあるはずがない。円卓の誰もが貴方の理想に憧れていた。教えてください…貴方は、その目で何を見てきたというのですか…?」

 

 

__こうして、聖杯戦争最初の夜が幕を閉じた。

 

 




今回の話も前回同様長めです

ようやく黒セイバー登場ですね

代わりにランサーとエミヤの影が薄くて…

次回の更新は諸事情により遅くなると思います

申し訳ありませんが、次回までしばらくお待ちください

では


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第六話 因縁

どうもお待たせいたしました



どうぞ


 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…っぐ!!」

 

 

倉庫街から少し離れた路地裏に、間桐雁夜は壁に背を預け座り込んでいた。

 

 

「雁夜…!」

 

その横で彼のサーヴァントであるセイバーが、主の身を案じ霊体化を解き体を支えようとする。

雁夜の体は、刻印虫によって蝕まわれている。セイバーに魔力を供給する度、その体は蟲によって貪り尽くす感覚に陥るのだ。

 

「セイバー…なぜあの時、俺の指示に従わずアーチャーを攻撃しなかった…!」

 

雁夜はそう言って、まだ視力を失っていない右目でセイバーを睨み付けた。

 

「雁夜…あの時私は既にランサーとの戦いで魔力を消耗していました。また、いざという時の為にも魔力は温存しておくべきだと考えたのです。実力が未知数のアーチャー相手に、わざわざ戦いを挑むというのは得策とは言いがたいでしょう。それに…」

 

「…」

 

「雁夜の魔力供給は、決して充分とは言えません。長期戦になればなるほど、私は不利になるでしょう。なによりも、貴方の体のことを考えてはやはり…」

 

「っ…!!」

 

雁夜はそれを聞くと、悔しげに顔を歪めた。己の未熟さ故に、マスターとして行動することはおろか、サーヴァントに全力で戦わせることもままならない。

 

「お前に全力で戦わせてやれないということについては謝る。だが俺の体のことは…いい。どうせ長くなんてないんだからな。…でも、俺はなんとしてでも聖杯を獲らなきゃならないんだ。じゃなきゃ、桜ちゃんを救えない…。魔術師だなんて馬鹿げたことに、あの娘をこれ以上巻き込むわけにはいかないんだ…!」

 

「雁夜…ですが」

 

「うるさい!サーヴァントならマスターの命令に従え!…っぐぁ!」

 

声を荒くした瞬間、彼の体内にいる刻印虫が暴れだした。

 

「わかりました。ですから雁夜、これ以上は体に響きます。ひとまずどこか体を休めるところへ行きましょう。」

 

そう言うとセイバーは雁夜に肩を貸し、路地裏を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャスターは切嗣が拠点とするビジネスホテルの屋上で一人佇んでいた。幸いここは廃れたホテルだ、人気はないので実体化しても問題ない。

 

「アルトリア…」

 

先程の戦いにて、最後に現れた黒き騎士王。

 

__例え彼女がどのような姿になろうとも、どんなに時が経ち記憶が磨耗しようとも、その姿だけは鮮明に思い返すことができるだろう。だからこそ…

 

「なぜ君があんな姿に…あれではまるで…」

 

「キャスター」

 

ふと気が付くと、後ろには彼のマスター衛宮切嗣がいた。

 

「なんだねマスター」

 

キャスターは切嗣へと振り返った。

 

「先の戦い、ご苦労だった。初戦だったが多くの敵サーヴァントの情報が入手できた。」

 

「…それで、本当に聞きたいことはなんだね?」

 

そう言われ、切嗣は先程と打って変わって極めて冷酷な声で答えた。

 

「…キャスター、お前は一体何者なんだ?」

 

切嗣は確かにキャスターの戦果を評価していた。白状すれば、それは期待以上の物だったと言うべきだろう。だからこそ、その一方で疑念が深まる。

 

「お前はセイバーとランサーに向けて、一つの矢を放った。そのときお前は確かに"赤原猟犬"とその矢を呼んでいた。あれは北欧の英雄ベーオウルフの物だ。ならばお前の真名はベーオウルフか?…いや違う、"赤原猟犬"は剣だ。それをお前は剣としてではなく矢として使用した。なにより、ベーオウルフが魔術師のサーヴァントになるわけない。」

 

そう言って切嗣はキャスターを睨み付けた。

 

「__答えろキャスター!」

 

キャスターはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

 

「マスターが察するように、私はベーオウルフではない。確かに私はベーオウルフの剣"赤原猟犬"を使用した。だがあれは本物ではない。私はねマスター、生前見た刀剣の類いならばそれを贋作として使用することができる。それが私の、魔術師《キャスター》のサーヴァントとしての能力だ。」

 

それでもなお、切嗣はキャスターを睨み続けている。まだ、答えるべきことがあるだろうと。

 

「すまないマスター、私はまだ自分の真名を思い出せない。」

 

「…そうか」

 

嘘だ、と切嗣は心の中で呟いた。こいつはまだ何か隠している。

 

__あの黒き騎士王、アーサー・ペンドラゴンが姿を見たとき、こいつは明らかに動揺していた。ならこいつは、セイバー__ランスロットと同じ円卓縁の英雄なのか?だからこそ解らない。円卓の騎士とベーオウルフの伝説とではあまりにも接点が無さすぎるのだ。

 

(キャスター、お前は一体何者なんだ…?)

 

これ以上聞いても、こいつはおそらく答えないだろう。深まる疑念を胸に仕舞いつつ、切嗣はもう一つの用件をキャスターに話始めた。

 

「まぁいいだろう。話は変わるがキャスター、今からランサーのマスターの拠点を叩くことにする。」

 

そうして切嗣はその概要をキャスターに話した。

 

「ほう、それは実にシンプルでスマートな作戦だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冬木の町を一望できるこの高級ハイアットホテルの一室に、ケイネス達はいた。

 

「ランサー、出てこい」

 

「は、お側に」

 

ケイネスは苛立ちを明らかにした声で続けた。

 

「ランサー、今夜貴様は一体何をした?誇るべき戦果を上げたか?マスターである私にその実力を見せつけるのではなかったか?」

 

「…」

 

「宝具を開帳してもなお、敵サーヴァントの首級はおろか有利な立場にいながらセイバーにただの一撃も当てられやしなかったではないか。違うかランサー?」

 

「…その通りでございます、我が主よ。」

 

「ふん、フィオナ騎士団が聞いて呆れるというものだ」

 

「っ!主よ!」

 

「黙れランサー!貴様は私に誓ったはずだ!聖杯をこの私に捧げると!それがどうだ、令呪一つ費やしても何もできやしなかったではないか!ふざけるのも大概にしろ!」

 

「いいえケイネス、ランサーは何も悪くないわ」

 

その声の主はケイネスの許嫁、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリだった。

 

「むしろ間違えていたのはケイネス、あなたのほうじゃなくて?」

 

「ど、どういうことだねソラウ」

 

はぁ、とソラウは溜め息をもらし言葉を続けた。

 

「敵サーヴァントの情報も何も無いのに、いきなり倒すなんていくらランサーが強くてもそんなの無茶だわ。仮にセイバーを倒しても、消耗仕切ったところを他のサーヴァントに狙われたら一体どうするつもりだったの?令呪に関してもそう。セイバーを襲ったサーヴァントは、セイバーだけでなくランサーをも標的としていた。あなたがもう少し判断力に長けていれば、令呪だって消費することはなかったはずよ。そうよねケイネス?」

 

「…っ!」

 

先程はランサーに怒鳴り散らしていたケイネスだが、ソラウだけは例外だった。彼女はケイネス・エルメロイ・アーチボルトが唯一愛した女性だったからだ。

 

「確かに、今宵の戦いでは私にも落ち度があった…」

 

「それに、まだランサーは真名も"必滅の黄薔薇"の能力も明かしていない。これなら次の戦いで敵の意表を突くことも可能よ。それを貴方は…」

 

「ソラウ様、どうかそこまでにしていただきたい。騎士として主へのこれ以上の侮辱は見過ごせません。」

 

今までただ黙っていたランサーはここにきて口を開いた。

 

「そ、そうね…御免なさいケイネス。少し言い過ぎたわ」

 

ケイネスはソラウの態度の急変に気付いていた。そしてふと、ランサーの右目の下の黒子を見やる。乙女を惑わすディルムッド・オディナの『魅惑の黒子』。名家の血を継ぐソラウならば、この程度の呪いなら抵抗できるはずだが…

 

ふと部屋の中に防災ベルの音が鳴り響く。

 

「どうやら、敵襲のようだな。ランサー、下の階に降りて敵を迎え撃て。」

 

「は」

 

「お客人にはケイネス・エルメロイの魔術師工房をとっくり堪能してもらおうではないか。ソラウ、魔術師の私の力を今こそ見せてあげるよ」

 

「えぇ期待しているわ。神童とまで呼ばれた貴方の実力、私にみせてちょうだい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切嗣はケイネスが拠点としているホテルの爆破の準備を終え、キャスターに念話で呼び掛けた。キャスターはケイネスがいるホテルの向かいにあるビルにいる。そこはケイネスのいるホテル32階を見張るには絶好の位置である。作戦としては、切嗣がホテルを爆破し、それでもなお、何らかの手段をとってケイネス達が生きていたらキャスターが狙撃をして仕留めるというものだ。予定では舞弥にこれを担当してもらうのだったが、キャスターがあれほど正確な射撃を可能とするならば、万が一を考え彼にこの役を代わってもらうことにした。そして舞弥は今、明日の朝日本に到着するアイリを迎いに行っている。

 

「準備完了だ。そちらは?」

『問題ないとも。いつでも構わない』

 

それを聞き、切嗣は迷いなく起爆スイッチを押した。

 

瞬間、冬木で一番の高さを誇るそのホテルは成す術もなく崩壊した。辺りが一層騒がしくなり、避難者や野次馬達はパニックに陥る。しばらく時間が経ち、ようやく騒ぎにも一段落ついた頃、切嗣はキャスターに確認をとった。

 

「キャスター、何か動きは?」

 

『ないな。おそらく瓦礫の下敷きにでもなったんだろう』

 

 

 

 

 

 

ホテルの爆破を見届け、キャスターは32階の様子を見る。

 

『キャスター、何か動きは?』

 

「ないな。おそらく瓦礫の下敷きにでもなったんだろう」

 

言葉ではそう口にするが、念のためだ、もうしばらく様子を見ることにしよう。

 

__その瞬間だった。

 

「っ!?」

 

キャスターは咄嗟に干将を投影し、振り向く前ににそれを弾く。キャスターの頭部を狙って飛来してきたそれは、一振りの短剣だった。

 

「ほう、アサシンの投擲を防ぐとはな」

 

__その声に、覚えがある。キャスターはゆっくりと振り返り、その声の主を見やる。

 

「察するにキャスターのサーヴァントのようだが、弓だけではなく剣をも使いこなすか」

 

「貴様は…」

 

__そこにいたのは数体のアサシンを引き連れた…

 

「言峰…綺礼…!!」

 

__一人の、迷える神父であった。




お待たせいたしました。今回も長めになっております。

黒セイバーがもうすぐ夜明けだとか言ってたくせに、バリバリ切嗣たち行動しちゃってます。そこはあえて突っ込まないでください。

さて次回も更新がいつになるかわかりません。申し訳ありません。

2月は少し忙しいんです。3月から書き始めれば良かったとか思ったり思わなかったりします。

こんな感じですが次回もよろしくお願いします。


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第七話 苦悩

お久しぶりです

謝罪に関しては後書きで

それではまず本編をどうぞ


 

「ほう…私のことを知っているのか」

 

__あぁ、嫌と言うほどにな

 

「建物をこうも派手に爆破するとは…常識を弁えてほしいものだ」

 

キャスターは一人話す言峰を睨み続けた。

 

「なに、別に私はお前に用はない。単刀直入に言おう__お前のマスター、衛宮切嗣はどこにいる?」

 

「…」

 

「答えぬか…だがこれでお前のマスターは衛宮切嗣であるというのは間違いないようだな」

 

「フン、敵を目の前にしておきながら随分と口が達者なものだ。」

 

キャスターは双剣を構えた。

 

「…願わくば、今ここでサーヴァント同士の争いは避けたいのだが」

 

「先に仕掛けてきたのはそちらのほうだろう。ところで言峰綺礼、貴様は何故それほどに衛宮切嗣に固執する?」

 

綺礼はゆっくり瞼を閉じた。

 

「私は己の求めるものが何なのか、いや己が何なのかすら分からない。かつての衛宮切嗣は私と同じ迷い人だった。だがやつは、アインツベルンで何かを得た。故に私は問いたいのだ。お前は、そこで何を得たのかを」

 

キャスターはそれを聞くと鼻で笑った。

 

「何がおかしい__!」

 

「とんだ勘違いだな。衛宮切嗣と貴様とでは天と地ほどの違いがある。」

 

「なん…だと…?」

 

「貴様の願いを叶えるなら、それこそ聖杯を求めるべきだろう。ま、そうはさせんがね」

 

「お前は、私の何を知っているというのだ!」

 

「なにもかも知っているさ。嫌と言うほどに」

 

(なにを…言っているのだ…!?)

 

キャスターは構えた剣を投じ、一番近くにいたアサシンを切り捨てた。

 

「戯れはここまでだ。私も倒せる敵を前にして見逃すほど甘くはないのでね」

 

「まてキャスター、私の質問に答えろ!」

 

瞬間、言峰綺礼にキャスターが矢を放った。だがそれは一人のアサシンの犠牲により防がれた。

 

「ッチ、数だけは一人前だな」

 

再びキャスターは矢をつがえる。

 

「綺礼様、ここはひとまず撤退しましょう。他のアサシンが時間を稼ぎます。」

 

女型のアサシンは綺礼の返事を聞く前に綺礼を抱えビルを飛び降りた。

 

「…っ!」

 

(いつか、必ずまた__!)

 

綺礼は抱えられ飛び降りる際、キャスターと目があった。

 

その目は、かつての衛宮切嗣と同じ目だった。

 

 

 

 

 

 

 

ことを後に、綺礼は教会の私室の扉を開いた。そこには、己の師のサーヴァントたるアーチャーが寝そべっていた。

 

「なにをしているのだ、アーチャー」

 

「なに、退屈しのぎに来たまでよ。時臣めはつまらない男でな。それに、弟子の酒のがなかなかのものが揃っているではないか」

 

クツクツと笑いながらアーチャーは答えた。

 

「…アーチャー、お前は聖杯に何を望む?」

 

「…ふん?」

 

質問を受けると、アーチャーは興味が湧いたのか体を起こし、ワイングラスから綺礼へと視線を移した。

 

「なぁに、特に願いがあるわけではない。ただそこに財宝があるならば俺のものだというだけだ。それよりなんだ綺礼、聖杯に興味でも湧いたのか?」

 

「…私は、自分の望みがなんなのかわからない。だがキャスターが、聖杯を手にすれば分かると言ったのだ。そして衛宮切嗣と私は違う人間だとも」

 

「ほう…?なるほど確かに聖杯があらゆる願いを叶えるならば、その程度の望み簡単に叶えるだろう。むしろ釣りがくるほどだろうよ。だがいいのか綺礼。お前が聖杯を求めるということは、師である時臣への裏切りということでもあるのだぞ?」

 

「…」

 

綺礼はそれに対して無言で返した。だがその言葉のない言葉には、苦悩で満たされていた。

 

「フハハハハ!良いぞ綺礼、貴様には興味が湧いてきたぞ?その苦悩の行く末、我が見届けてやろうではないか!」

 

そう言うとアーチャーはグラスの中を空にし、長椅子から立ち上がった。

 

「また来るぞ綺礼。我もお前の求めるものとやらは分かる。だがそれは己で聖杯をつかみ、己でその身をもって知るがいい。その時が来るまで、俺は俺の好きなようにやらせてもらうとするか」

 

そう告げると、アーチャーは黄金の粒子を纏いながら霊体化した。

 

言峰綺礼は思う。真に答えを知るべき男はアーチャーではないと。だが、それは衛宮切嗣でもないだろう。己が真に問うべき男はあの紅きサーヴァント、キャスターなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その廃工場に、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトはいた。

 

「おのれアインツベルンのドブネズミめ…!」

 

自分が聖杯戦争における工房としていたハイアットホテルの爆破。こんな魔術の秘匿からかけ離れたことをするのはあのアインツベルンの雇われマスター以外にいるはずがない。

 

「…ふん、だがまぁいい」

 

たしかに工房は爆破され、持参してきた魔術礼装のほとんどもそれに巻き込まれてしまった

。だが、ケイネスが真に頼りにしている最強の魔術礼装『月霊髄液』は未だ健在である。ケイネスたちが爆発に巻き込まれることなくこうして生きているのも、この『月霊髄液』があったおかげなのだ。

 

「…ランサー、出てこい」

 

「…は、お側に」

 

「標的はアインツベルンだ。明日にでも奴らの根城に仕掛けるぞ」

 

「承知しました、我が主よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりね、キャスター」

 

「あぁ、まぁそんなに日は経ってはいないのだがね」

 

町の郊外の森にあるアインツベルン城では、今朝到着したアイリスフィールを加え四人が集まっていた。

 

「つまり切嗣、当分の方針としてはこの城に攻め込んできたマスターの排除ということで間違いないのだな?」

 

切嗣は城の地図を眺めながら答える。

 

「あぁ、そのほうがやりやすいからね。少なくとも、ランサー陣営…つまりケイネス・エルメロイ・アーチボルトたちがもしも生きていたら、仕返しするために間違いなく僕たちを最初の標的にするはずだ。早ければ今夜にでもね」

 

「なるほどな、だがアイリスフィールたちはどうするのだね?」

 

「あぁ、アイリにはこの森に敵が来たら知らせてもらうためにまだここに残っててもらう。その後は舞弥と一緒に用意してある別の拠点へと城の裏から逃げてもらう。それよりもキャスター、この視界の悪い森ではお前の弓は不利になるが…」

 

「いや、問題ない。それに関してはこちらでなんとかするさ。私は城の外で敵サーヴァントの相手を、マスターは城内で敵マスターの相手をすればいいんだろう? 」

 

「あぁ、そういうことだ。ほかに質問がなければとりあえず会議はここまでだ。」

 

 

 

 

 

 

 

部屋には、アイリスフィールと切嗣だけが残っていた。

 

「ねぇ切嗣…」

 

アイリスフィールは外を眺める切嗣に声をかける。

 

「アイリ、僕は逃げないよ」

 

その言葉にアイリ少し驚いたが、同時に安心した。

 

「僕はなんとしてでも聖杯を手に入れる。そして僕の理想を実現させる。」

 

「えぇ、貴方なら必ずできるわ。そしたらあの娘を…城に残されたイリヤをお願いね…?」

 

切嗣はそれを聞くと振り返ってアイリスフィールを強く抱き締めた。

 

「あぁ、必ず僕たちのイリヤを迎えに行くさ…必ず…」

 

そうして切嗣はアイリスフィールにそっと口付けをした。

 

 

 

 

しばらく時間が経ち、アイリスフィールの魔術回路に森の結界の術式の異変が伝わってきた。

 

「切嗣…!」

 

「…来たか」

 

切嗣の表情はかつての魔術師殺しの顔つきに戻っていた。

 

「それじゃあ行ってくるよアイリ…」

 

「えぇ…いってらっしゃい、切嗣…」

 

 

 

__こうして、聖杯戦争のさらなる戦いが幕を開ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうもお久しぶりですそしてごめんない

予定よりも更新が大分遅くなってしまいまことに申し訳ありません

思っていたよりも用事が長引いてしまいまして汗

おそらく今後も複雑な予定が続いてしまっているので、更新も不定期になるかと思います

ですが必ず完結はさせます。というかしたいんです。

皆様には大変迷惑をかけてしまうことと思いますが、どうか今後もlast nightをよろしくおねがいします


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第八話 誇り

どうも


どうぞ


 

 

 

 

 

 

ランサーは森を駆け抜ける。鬱蒼とした森は、どこも同じような景色だ。だがランサーには己が走るその先にあるサーヴァントの気配を確かに感じ取っていた。

 

(この殺気は、あの時の港の倉庫街のものと同じ。ならばこの先にいるは…)

 

先日の戦いにて、ランサーはマスターに令呪を使用させながら、敵サーヴァントの首級は愚か、何一つ戦果をあげることができなかった。その上、マスターとの関係はさらに悪化してしまった。

故にランサーは今、名誉を挽回するためにも敵サーヴァントを討つことを強く望んでい。

 

ランサーが走るその足を止めたのは、木々に囲われた広場に入ったその時だった。

 

「!!」

 

ランサーのあと一歩手前という場所に、矢が3本刺さった。

 

「…やれやれ、私も腕が落ちたものだ」

 

同時に、紅きサーヴァントが影から姿を現した。

 

「…1つ聞くが、貴様はキャスターのサーヴァントか?」

 

「違うと敵に情報を与えるつもりは毛頭ないが…どちらにせよ消去法でそうなるか。」

 

「ならばキャスター、俺とセイバーの一騎打ちを邪魔したのも貴様か?」

 

するとキャスターはランサーの問いを鼻で笑った。

 

「フン…邪魔、とはいったいなんのこだろうか?あれほど周囲に気を撒き散らしておきながら、敵に狙うなとでも言うのかね?」

 

「貴様…!」

 

「それともあれか、騎士道や英雄としての誇りに反するとでも言いたいのか。あぁ、それはすまない。生憎私はそんなもの持ち合わせていなくてね。そんなものに縛られていては、真実を見失ってしまう。」

 

「なんだと…」

 

ランサーは驚愕した。世に名を刻んだ英雄どもの中に、誇りを持たぬものがいようとは。

 

「兎に角、これは戦争だ。戦に自分の都合を押し付けていては、勝てるものも勝てなくなってしまうだろう。」

 

「…っ!!」

 

 

__それは、今のランサーをそのまま形にしたような言葉だった。

 

「…戯れが過ぎたな。ランサー、敵の陣地に入ってきたんだ。殺されても文句はあるまい?」

 

ランサーはそれに対しキャスターを睨みつけた。

 

「ふん、承知のこと。こちらとて貴様の首を獲るために来ているんだ。それに…」

 

ランサーは両手に槍を具現化させ、キャスターへと矛先を向けた。

 

「それに、貴様とはどうやら馬が合いそうにない。遠慮無くいかせてもらうぞ。魔術師が敵前に姿を現したこと、後悔するがいい…!」

 

「…フン」

 

キャスターもそれに答えるかのように、両手に双振りの短剣を握った。

 

「これは忠告だが…」

 

そして、にやりと笑みをうかべて言う。

 

「敵は肩書きだけで判断しないことだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうかしたのですかマダム?」

 

アイリスフィールと久宇舞弥は、切嗣が戦っているだろう城から離れ、もう1つの用意してある拠点へと身を移そうとしていた。

 

「…えぇ、新たな侵入者みたい。そしておそらく、そいつは言峰綺礼よ」

 

「!!マダム、それは…」

 

驚愕と焦燥を顔にうかべる舞弥に対し、アイリスフィールは優しく笑った。

 

「でも大丈夫。切嗣なら心配いらないわ。だから、ここはあの人を信じてあげて?」

 

舞弥は少し戸惑ったが、しばらくするどアイリスフィールに同意した。

 

「そう…ですね。切嗣が、まけるはずがない。」

 

「えぇ、だから大丈夫。さぁ舞弥さん、行きましょう」

 

そして二人は、アインツベルンの森を後にした。

 

 

__この時、確かに言峰綺礼は森に侵入していた。だが、彼が求めているものは今は衛宮切嗣ではない。彼は、ランサーとキャスターが戦っている方向へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『キャスターとランサーが戦闘を開始しました。』

 

 

森を走る綺礼に、アサシンはそう伝えた。

 

先日のハイアットホテルの爆破の後、言峰綺礼は衛宮切嗣のサーヴァント、キャスターと対峙した。その際、キャスターは自分が求めているものが何かを知っていると言っていた。

…根拠はない。根拠は全くないのだが、何故か綺礼にはキャスターの言葉が真実だとしか思えなかったのだ。

 

「分かった。手を出す必要はない。そのまま監視を続けろ。だが…万が一、ランサーがキャスターを倒しそうになったら、全力でそれを阻止しろ」

 

『わかりました』

 

(私は、問わねばならない。私が、一体何なのか、何を求めるのかを…)

 

 

 

 

 

 

 

 

状況は拮抗していた。リーチで勝るランサーがキャスターをずっと攻め続けてはいたが、なかなかその一手を決められずにいた。

 

一方でキャスターもランサーが大振りの技を繰り出そうとすれば、その隙を突かんばかりに剣を振るっていた。

 

「ッ!貴様、本当にキャスターのサーヴァントか!槍兵と剣で戦うことのできる魔術師など、聞いたことがない!」

 

「魔術師でも、必要ならば剣だって弓だって手にとるさ。それともなんだね、白兵戦ならば勝機があるとでも?」

 

「フン、いやどうやら俺はお前を甘く見ていたようだ。謝る」

 

「謝ることはない、むしろもっと魔術師の剣を味わっていくといい」

 

「は、それはありがたい…!」

 

そして二人は再び剣戟を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

かつての、自分が知っている第4次聖杯戦争ではない。

 

 

ランスロットがセイバーとして召喚され、そして何よりも、自分がイレギュラーとして現界している。

 

「一体、なぜ…私は…」

 

黒き騎士王は少し考えたが、やがて1つの結論にたどり着く。

 

「何を考える必要があろうか。そこに聖杯があるのだ。敵が誰だろうとも切り捨てるまでのこと」

 

そして、黒き騎士王は行動に移った。

 

間違いなくサーヴァントがいる、自分もよく知る地へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

ランサーは果敢に攻めていたその手を止め、キャスターから距離をとった。

 

「どうかしたのかねランサー」

 

ランサーはキャスターの問いに答えようか躊躇したが、顔を苦渋に満たせながら答えた。

 

「我が主が危機に瀕している…どうやら、俺を残してそちらの本丸に切り込んだらしい」

 

するとキャスターは皮肉げな笑みを浮かべた。

 

「ほう…つまりは私のマスターにやられかけているといることか。いや、我がマスターも中々やるじゃないか」

 

ランサーはそう言うキャスターを睨み付けると、左手に持っていた短槍に巻かれた呪符をはがした。

 

現れたのは黄色い禍々しくも美しい槍だった。

 

キャスターはそれを見つめた。

 

「ゲイ・ボウ…ランサー、やはり君の真名はフィオナ騎士団、輝く貌のディルムッド…!」

 

「俺の槍を見ただけで、俺の真名を見破るとは…つくづくお前には驚かされる」

 

キャスターは手に持っていた双剣を消した。

 

「なるほど、宝具を使って俺を倒し、マスターを助けに行くということか。」

 

「そういうことだ。悪いなキャスター、時間がない。お前にはここで退場してもらう…!」

 

そう言うとランサーは両手に槍を構え、地面を蹴りあげた。

 

同時にキャスターは己の経験から、あの槍に対抗できるモノを検索する。

 

あの双槍に負けないリーチが必要だ。

 

あの双槍を圧倒する威力が必要だ。

 

あの双槍に対抗する手数が必要だ。

 

「!!」

 

ランサーの目に映ったのは、右手に体格に不釣り合いな石斧を掲げるキャスターの姿。

 

見る者を圧倒するそのあまりに巨大な大剣が、接近するランサーを叩き潰さんと言わんばかりに振り下ろされようとする。

 

「っ!!はぁぁぁぁっ!!」

 

対するランサーも己の全身全霊をもって槍に神秘を灯す。

 

 

 

「貫け、必滅の黄薔薇!」

 

「全工程投影完了_________」

 

「抉れ、破魔の紅薔薇!」

 

「_________是、射殺す百頭」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうもお久しぶりです

最近忙しくてなかなか更新が進みません

でも必ず完結はさせますよι(`ロ´)ノ

今回は原作を読み返さずに書いてしまった&深夜に眠い目をこすりながら書いたので若干のグダグダ感が気になりますね汗

次回はなんとかします


それではまた










あ、先生のくだりはカットで(^^


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第九話 螺旋

今回は物語の核心に迫ります?よ




どぞ


 

 

 

膨大な魔力の奔流、激しい閃光。辺りにはまだ魔力の粒子が残留している。

 

激しい宝具同士の激突の末、先に口を開いたのはキャスターの方だった。

 

「破魔の紅薔薇に必滅の黄薔薇…まったく、そちらの国では槍には厄介な能力が付くのが定石なのかね?」

 

そう呟くと、キャスターは右手をダラリと力なく下げ、手にしていた巨大な石斧を地に落とした。そして石斧は役目をと言うように、魔力の粒子となり消滅した。

 

キャスターの右腕は、裂けたように肩から肘にかけて大きな傷ができていた。そこからは血が吹き出ていて、キャスターの顔から余裕を奪っていた。

 

…では、ランサーは?

 

 

 

 

「…っく、ぐぁ…」

 

ランサーは苦悶を洩らし、玉のような汗を流していた。

 

…ランサーの足元は、真っ二つに折れた破魔の紅薔薇が転がっていた。

そして本来ならばそれを握っているべきランサーの右腕は、肩から先が千切り取られたかのように無くなっていた。ランサーの足元に、血で出来た水溜まりが徐々に広がっていく。

 

__先の宝具同士の激突で、キャスターの宝具の威力の大きさを悟ったランサーは、己の右腕を盾にしたのだ。そして必滅の黄薔薇でキャスターの右腕に傷をつけ、相殺しきれなかった残りの斬激は、狙いを定められなくなり、ランサーに当たることはなかった。

 

ランサーは肩で呼吸をしながら、キャスターの方を見た。

 

「…っぐ、お互い傷の大きさは違えども、剣をとれるか否かでは同じこと…それでは自慢の弓も扱えまい?」

 

キャスターは右手の状態を確認する。

 

(腱が…切られている…。あの状況下で、あの男は腱を狙って切ったというのか…)

 

この腱を切ったのは必滅の黄薔薇。あの呪槍を破壊するか、担い手であるランサーが消滅しなくてはこの傷は癒えない。

 

「やってくれる…たしかに、これでは私は戦えないな。そしてこれからマスターを救出に行くだろう君の脚に、魔術師である私は追い付けないだろうさ」

 

キャスターはやれやれ、と首を振るとそのままなにも言わずにランサーから目を反らした。

 

「…キャスター、次こそはお前を倒す。それまで、精々片腕で生き残ることだ。」

 

そう言うとランサーは、右腕の傷みを堪えつつ、主を救出すべく城へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁぁあぁぁぁああぁッ!!」

 

切嗣の礼装、起源弾の餌食となったケイネスは、体のいたるところから血を吹き出し、そしてついに倒れた。

 

(これで一人目…)

 

止めを刺そうと切嗣は銃口をケイネスに向ける。

 

だが切嗣が引き金を引こうとしたその瞬間、切嗣とケイネスとの間に男が割って入ってきた。

 

「チィッ!」

 

切嗣はその男…ランサーに向け銃を放った。だが相手はサーヴァント、現代の重火器程度では傷ひとつつけることはできない。

 

(キャスターはなにをしている…!)

 

 

ランサーは全ての弾丸を軽く槍で往なすと、切嗣へと顔を向ける。

 

「貴様を今ここで殺すことがどんなに容易いことか、貴様も魔術師ならば分かるだろう。だが今は事を急いでいる。__次に会うときは必ず、貴様を、そしてあのキャスターを殺す。」

 

その時切嗣は、影に隠れていたランサーの全貌を見た。

 

右腕は抉れたように無くなり、絶え間なく血が吹き出している。口ではああ言っているものの、その美貌には余裕は無く、苦渋に満ちていた。

 

そしてランサーは器用に左腕でマスターであるケイネスを抱えると、窓から飛び降りて行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『キャスターとランサーは戦闘を止めました。互いに右腕に重傷を負っています。ランサーはアインツベルン城へ、キャスターは未だに移動していません。』

 

綺礼もアサシンと視覚を共有していたのでわかってはいたが、改めてアサシンから報告を受けた。

 

「そうか。それでは今からそちらに向かう。キャスターが移動しないよう、足止めをして…」

 

『綺礼様、ご、ご報告があります』

 

綺礼が言葉を紡ぎ終わる前に一人のアサシンが綺礼の前に現れた。

 

「…なんだ?」

 

綺礼は尋ねた。

 

『黒の、黒の騎士王が、こちらへ…キャスターの元へと向かっています。』

 

「なんだと!」

 

綺礼は焦りを露にして声を荒くした。

 

「なんとしてでもそいつを止めろ!騎士王に、キャスターを殺させるな!」

 

今のキャスターは手負いの状態だ。もし黒の騎士王と対峙してしまったら、間違いなくキャスターは殺されてしまう。

 

(私は問わねばならない…!今やつに死なれてはならんのだ…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャスターは右腕の状態を改めて確認する。

 

(やはり今のままでは戦闘はままならないな。当分の標的はランサーか…)

 

必滅の黄薔薇による傷は癒えることはない。サーヴァントにとってこれは、エーテル体を維持するための魔力を常に消費することを意味する。

 

「厄介な呪いだ、まったく……!?」

 

キャスターは息を呑んだ。膨大な殺気が、とてつもない早さでこちらへと向かってくる。

 

「…っ!この気配は…!」

 

キャスターは気配の向かってくる方角を見やる。

 

(今来るか…アルトリア!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(サーヴァントの気配が1つ消えた…これはランサーか)

 

走りながら黒の騎士王は記憶を辿った。そうだ、あの時ランサーをマスターを助けさせるために見逃したことがあった。

 

「……」

 

騎士の誓い…そんなもののために、私はかつて敵を見逃したのだ。

 

(では残っているほうは…?)

 

感じたことがある気配だ。だが思い出せない。

 

「……」

 

あと数秒もすれば敵の元へ着く。だがなんなのだろうか、この気配は。何処と無く胸騒ぎがするのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

近づいてくる、彼女が。

 

あと数秒もすれば、対峙することになる。

 

 

 

 

 

(…来たか!!)

 

現れたのは黒い甲冑に身を包んだ一人の騎士王。

 

あぁ、忘れるはずがない。どんなに記憶が摩耗しようとも、彼女のことだけは思い出すことができる。それが、たとえどんな姿になっていようとも…

 

「やれやれ、困ったものだ。こうも連戦続きだといくら私でも体がもたんよ。」

 

内心の焦りを隠し、キャスターは皮肉気な笑みを浮かべる。

 

「…そうか、この気配はお前のものだったか。」

 

黒の騎士王は呟くようにそう言うと、キャスターへと目を向けた。

 

「アーチャー、今回のお前のクラスは何だ?」

 

「!!」

 

(なぜ、それを知っている!?)

 

キャスターは驚愕をこらえきれず、黒の騎士王の問いに答える。

 

「…なぜ、それを知っている」

 

騎士王はそれに対してつまらなげに答えた。

 

「知っているものは知っている。聖杯戦争で貴様と会うのは2回目だ。」

 

「なん…だと…?」

 

キャスターは考える。黒の騎士王は、アーチャーとしてのあの●●●●●を知っている。

 

つまりは…

 

「__君は、第五次聖杯戦争を知っているのか…?」

 

 

 

 




こんにちはSHIKIGamiです

いよいよ黒セイバーです

やっと出てきました


話は変わりますが…

画展空の境界

いやー感動しました

月の珊瑚

ホロウリメイク

SNアニメ化リメイク

なんだか今年の型月は熱いですね

それでは


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第十話 思惑

どうも、記念すべき?第10話です




どぞ


「………」

 

黒の騎士王はキャスターの問いに答えることはなく、邪悪に染まった聖剣の柄を握り直した。

 

「その沈黙は、肯定として受け取っていいのかね」

 

「………」

 

「フン、ならば尚更わからんな。私が知っている騎士王は…」

 

瞬間、騎士王がキャスターへと斬りかかる。キャスターはこれを左手の莫耶で受け止める。

 

「私が知っている騎士王は、今の君のような在り方ではなかった…!」

 

キャスターは騎士王の腹部に蹴りを入れ、騎士王との距離をとる。

 

「…どうやら私と貴様とが経験した第五次聖杯戦争は、別物のようだ。」

 

騎士王はいたって冷酷な声でそう言った。

 

「平行世界…?なるほど、そういうことか。だが教えてくれないか?なぜ君は、そのような姿に…?」

 

騎士王はフッ、と不敵に笑った。

 

「なぜ貴様がそのようなことに拘るか…まぁいい、答えてやろう。」

 

「__私はとある経緯で聖杯と繋がりを持った。そして私は聖杯の正体を知った。憎しみ、呪い、あらゆる悪を知った。あぁそうだ、私は生前理想に生き、理想を追い、そして理想に殉じた。だからこそわかる。真の絶望を。…あぁキャスター、貴様にわかるか?英雄とは憎まれ、疎まれるのが本分だったのだ。」

 

「そうか、やはり君は“この世すべての悪“に…!」

 

キャスターはそれを聞くと、一人言のように呟いた。

 

「戯れが過ぎたな、キャスター。どちらにせよ、貴様はここで終わりだ」

 

そう言うと、騎士王は再び剣を構えた。

 

「ック…」

 

キャスターは苦悶に顔を歪ませた。

 

だがその瞬間、

 

「!!」

 

今まさに間合いをつめようとしていた騎士王の足元には、数本の短剣…ダークが刺さっていた。

 

「これは…アサシン!!」

 

複数のアサシンが騎士王を取り囲んだ。それはまるで、キャスターを守るかのように。

 

(言峰綺礼…)

 

「暗殺者ごときが…!全て、切り捨ててくれる…!」

 

騎士王は殺気を、魔力を放ち、アサシンたちに斬りかかる。

 

暗殺者には騎士王の一撃を避けることも、受け止めることもできない。だがそれでも、キャスターが逃げるだけの時間は稼げる。

 

キャスターはそれらを見届けることなく、その場をあとにする。

 

言峰綺礼に助けられる。彼にとってはこれは皮肉だが、まだ脱落するわけにはいかない。

 

(やらねばならないことが、山ほどできてしまったな…)

 

ただ、キャスターは思う。この聖杯戦争は、あの第五次聖杯戦争同様に狂っていると。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ坊主よ」

 

マッケンジー宅の2階、部屋で先程まで煎餅をかじりながらテレビを見ていたライダーだが、急に真面目な声でウェイバーに話しかけてきた。

 

「な、なんだよ急に」

 

ライダーは起き上がるとテレビを消し、神妙な顔でウェイバーの方へ向いた。

 

「昨日の戦から思っておったのだが、この聖杯戦争、どうにもきな臭い。」

 

「え?」

 

ウェイバーが驚きの声を漏らすと、ライダーも無言で頷いた。

 

「あの騎士王…あいつは本当に、“この聖杯戦争“に喚ばれたサーヴァントなのか?」

 

ウェイバーには、ライダーの言っている意味がわからない。

 

「どういうことだよ?」

 

「どういうことも何もないわい。余が言ったそのままの意味よ。やつは自分にはクラスが無いと言っておったな?その時点で、既に聖杯戦争というルールから逸脱しておるではないか。なにより…」

 

言いかけて、ライダーは困ったように顔を曇らせた。

 

「なにより、なんだよ?」

 

あのライダーがこんな顔をするのを、ウェイバーは初めて見た。故に、その言葉の続きが気になる。

 

「これは余の勘に過ぎんのだが…なにより、あの騎士王には何かまだ裏がある。それも、とてつもなく大きな裏が、な」

 

「?」

 

ますます、ライダーの言っている意味がわからなくなったウェイバーは、改めてライダーが言ったことを頭の中で整理する。

 

この聖杯戦争は普通ではなくて、騎士王は普通のサーヴァントじゃなくて、騎士王には重大な裏があって…それはつまり、

 

「つまり、どういうことだ?」

 

考えてみても、全く意味がわからなかった。

 

「そも、言ってしまえば本当に聖杯とやらがあるのかすらわからんからなぁ」

 

「え?」

 

「まぁいいわい、この話の続きはまた今度だ。それより坊主、戦の支度だ」

 

そうすると、先程までTシャツにジーパン姿だったライダーは、気が付けば征服王としての服装にもどっていた。

 

「戦ってお前、どうする気だよ!?」

 

「これはあくまで余の持論だが…」

 

フフン、と得意気な顔でライダーは話す。

 

「一番強いやつを倒せば、それより下の連中は余の軍門に入りたいと思うであろう?」

 

「んなわけあるはずミギャァッ!」

 

反論するウェイバーをデコピンで制し、ライダーは言葉を続ける。

 

「そういうわけで、今宵はあのアーチャーめを殴りに行くぞ!あの圧倒的な火力、そして騎士王の一撃を受けても尚倒れぬ打たれ強さ、まさに強者!」

 

そう言うとライダーは窓から身を乗りだし、キュプリオトの剣を振りかざす。切り裂かれた空間からは、ライダーの自慢の戦車が姿を現した。

 

「もう…いやだ…」

 

ウェイバーはでこをさすりつつ、涙を目に浮かべながら御者台に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

言峰綺礼は、既にアインツベルンの森から脱し、教会の自室へと戻っていた。

 

騎士王との戦い…いや、一方的な虐殺と言うべきか、その時連れていたアサシンはほとんど失った。

 

「どうした綺礼、えらく今日は不機嫌だな。求めていた答えは見付からなかったか?」

 

さも当然かのように、英雄王は綺礼の自室に居座っていた。ソファで寝そべりながら、くつくつと笑みを浮かべる。

 

「………」

 

「なぁに、そう気にやむな。答えは、自ずと見えてこよう。魂が求めるものとはな、例えそれが無自覚であっても惹き付けられてしまうものだ。まぁ、自覚しているお前にとっては、惹き付けられるというよりも惹き付けるというほうが相応しいか」

 

「求めているものがなにか、わからないというのにか?」

 

アーチャーはそれを聞くと意味深な笑みを浮かべる。

 

「以前にも同じ質問をしたな、お前は。まぁいい。なぁ綺礼よ、ひょっとしたらもう既にお前は答えを得ているのかもしれんぞ?」

 

「な…に…?」

 

綺礼はそれを聞くと、アーチャーを睨んだ。

 

「そう怖い顔をするな。ただ単に、お前は答えを得ていても視えていないだけかもしれんと言ったのだ。」

 

「…そんなもの、ただの屁理屈と変わらん。お前の言葉遊びに付き合っている暇などない」

 

「そうかもしれんがな、我は間違ったことは言っていない。どちらにせよ、お前が己の在り方に悩む姿は、我にとって最高の酒の肴よ」

 

笑いながらそう言うとアーチャーは立ち上がった。

 

「どこへ行くのだ?」

 

「なぁに、今の我は気分が良い。雑種の戯れに付き合ってやるまでのことよ。」

 

そう言うと、アーチャーは霊体化しいなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

「期待など毛ほどもしていなかったが…この程度か。全く、手応えのない…。」

 

アサシンの集団を瞬く間に斬り捨てると、黒の騎士王はこの周囲に既にキャスターがいないことを悟り、アインツベルンの森をあとにした。

 

「………」

 

騎士王は、先程のキャスターとの会話を思い出す。

 

『私の知っている騎士王は、今の君のような在り方ではなかった…!』

 

「…っ!!」

 

あの言葉を聞いたとき、間違いなく自分は苛立っていた。なぜだ。自分は既に絶望に身を委ねたはずなのに、あの男の言葉を聞いた時、自分の闇に染まった心が揺らいだ。

 

「次は、必ず斬り伏せる…!」

 

__これはあくまで勘だが、騎士王はあのキャスターこそが、此度の聖杯戦争において己がこの手で倒すべき最大の宿敵である、と判断したのだ

 

 

 

 

 




どうもお久しぶりです。SHIKIGamiです

特筆すべきことは今回はとくにないのですが、久し振りにハーメルンに投稿されているfateの作品を読まさせていただいたらですね、

もうどれも面白いのなんのですよほんと。

ちょっと日本語おかしくなってますね。

実は恥ずかしながら私、プリヤを未だに読んでいないのですが。

読んじゃおうかな…!



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第十一話 真実

どうもお久しぶりです


どぞ


 

「ほほう、余の呼び掛けに答えるとは。やはり王を名乗るならばそうでなくちゃあるまい!」

 

ライダー___征服王イスカンダルは血に飢えた獣のように笑い、自慢の戦車に乗り敵であるアーチャー___英雄王と対峙した。

 

「我の王気を辿ってここまで来たのは貴様であろうが。それに、貴様のような不埒な蛮族がよもや王を名乗っていようとあるならば、これを罰するのも真の王である我の務めよ。」

 

英雄王は玲瓏な笑みを浮かべ、その真紅の双眸で戦車の手綱を握る大男を見据えた。

 

「フフン、思いの外乗り気で好都合だわい!」

 

「おい、ライダー!」

 

御者台からライダーのマスター、ウェイバー・ベルベットが声を裏返しながらも叫ぶ。

 

「お前、何か勝算はあるのかよ!相手はあのアーチャーだぞ!?」

 

「さぁどうだかな。アーチャーめも恐らく余と同じく奥の手を隠しておる。」

 

「な、なんだよそれ!?奥の手!?」

 

ライダーはニヤリと笑う。

 

「余は征服王であるが故に、立ちはだかる敵は全て制覇する!坊主、今から余の“覇道“が何たるか見せてやろう!」

 

ウェイバーは、ライダーのその力に満ち満ちた言葉に、諦めと共に何故かその覇道を信じてみたいと思った。

 

「あぁもう、分かったよ!絶対に勝てよお前!」

 

「応よ、それでこそ余のマスター!」

 

ライダーは手綱を振るうと、轟轟と神牛がアスファルトを蹴り上げ、戦車は蹂躙という名の疾走を開始する。

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 

 

 

 

「雑種めが、王などと自称するなよ。何より…」

 

アーチャーは掲げた手を振り下ろした。

 

「__王は、二人もこの世に要らん」

 

__瞬間、数多の煌めきが降り注ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインツベルンの城から数キロ離れた郊外に、切嗣はいた。

 

(ケイネス・エルメロイ・アーチボルトを仕留め損ねたのは誤算だったが…マスターもサーヴァントもあの状態では、今後まともに戦うことはできないだろう。だが今は…)

 

「…そこにいるんだろキャスター、出てこい」

 

すると切嗣の背後に、紅い外套を纏った男が現れた。

 

「すまないマスター、ランサーを取り逃がしてしまった。挙げ句の果てには奴の片腕を獲るのと引き換えに、こちらも片腕を獲られてしまった。ランサーを倒さないことには、私は戦うことができそうにない」

 

「そうか…だがもうランサーたちの居場所は調べがついているから、やろうと思えばいつでも潰せる。」

 

切嗣は煙草に火をつけながら振り返り、キャスターを睨み付けた。

 

「さすがだなマスター。仕事が早くて何よりだ」

 

切嗣は、そんなキャスターのお世辞に応じることなく静かに煙を吐き出し、呟くかのようにキャスターに問いかける。

 

「記憶は…まだ戻らないのか?」

 

キャスターは先程まで浮かべていたニヒルな笑みから一転して、伏し目がちに答えた。

 

「それがねマスター、分からないんだ」

 

「…何?」

 

キャスターは切嗣へ逃げるように背を向けると言葉を続けた。

 

「仮に私が記憶を取り戻してたとしよう。だがそれが、その記憶が私には正しい物なのか、あるいは真実なのかが分からないんだ」

 

正確には分からなくなってしまった、と言うべきかもしれんがね、と呟くとキャスターは再び切嗣へと振り返った。

 

「私の言っていることが無茶苦茶だということは承知している。だが…」

 

「信じろとでもいうのか?」

 

キャスターの言葉を遮るように、切嗣は言った。

 

「マスターである僕に隠しごとをしているサーヴァントを信じろというのか?」

 

「……」

 

キャスターは俯いたまま、何も答えない。

 

すると切嗣は、右手を静かに掲げた。そこには、マスターがマスターである象徴。サーヴァントへの絶対命令権を可能とする証があった。

 

「待て切嗣!」

 

キャスターが焦り混じりの制止の声をあげだ。

 

「令呪をもって我が傀儡に命ず__」

 

だが、その声も虚しく響くだけであった。

 

「__キャスター、己の真名とその真の目的を明かせ__!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教会の前では、激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

ライダーの戦車『神威の車輪』は天地構わず駆け巡り、その神牛の怒濤の蹄で、その最高神の力の具現でもある神の雷で、英雄王に一撃を加えんと肉薄していた。

 

「ぬぅっ!」

 

だが、それらは全て英雄王には届かない。なぜなら、彼が放つ幾多もの刀剣が、戦車の軌道を妨害し、尚且つライダーもろとも戦車を貫かんとしていたからだ。

 

「チィッ、全く厄介な能力だわい!」

 

だがそれでも戦車は止まらない。止まったところで、アーチャーの宝具に串刺しにされるだけだ。ライダーはさらに戦車を加速させ、アーチャーの周囲を再び旋回する。

 

 

「おいおいライダー、もう少し我を楽しませよ。的当てなどしてる場合か?」

 

アーチャーはその余裕の表情を崩すことなく、むしろ笑みを浮かべ、己の隙を探るために旋回を続けるライダーの戦車へ向け宝具を放つ。

 

 

 

「あわわわわわ!死ぬ!ライダー!なんとかならないのか!?」

 

ウェイバーは気を抜けば意識が飛んでしまいそうな中、御者台の手すりに必死にしがみつき掴まりながら叫んだ。

 

「方法はあるんだがな。こいつが一か八かでな。成功すれば奴に泡吹かせてやれるんだが…」

 

「…失敗すれば?」

 

ウェイバーは内心その答えを分かっていた上で問いかけ、ライダーはフフン、と鼻息を荒くしそれに答えた。

 

「まぁ、奴に貫かれて死ぬだろうな。」

 

「…やっぱり!」

 

ウェイバーは涙目になり叫んだ。

 

「だがやらなけりゃこのまま奴の的になるだけだぞ?」

 

「このまま逃げてたって、どうしようもないだろ!?いいよ!お前に僕の命を預ける!」

 

「ンハハハハハハッ!坊主!やはりお前は余のマスターにふさわしい!」

 

ライダーは手綱をにぎる力を強くする。

 

「だが坊主!この作戦はお前の力も必要なのだ!」

 

「…?」

ライダーは作戦の内容をウェイバーに話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺礼、状況は?」

 

時臣は己のサーヴァントの勝手な行動に溜め息をつきたいところだった。

 

『ライダーとの一進一退が続いております。アーチャーは全力を出してはいないかと』

 

時臣はそれを聞いてひと安心した。誰が見ているか分からない状況で、英雄王に奥の手を晒されては困るからだ。

 

「そうか…綺礼、君はライダーに戦車以外の切り札があると思うかね?」

 

『どうでしょう…師よ、ここでアサシンをしかけるのですか?』

 

「うむ…そうしたいところだが…綺礼、なにか問題でもあるのかい?」

 

どこか否定気味な声に時臣は問いかけた。

 

『いえ、構わないのですが。どうでしょうか、アサシン全てを使わずに、数人は残しておいては?』

 

「どういうことだね?」

 

『はい、未だ拠点が絞られていないキャスター陣営や、騎士王というイレギュラーがいる以上、アサシンの能力はまだ必要かと』

 

時臣はなるほど、と呟いた。

 

「確かにそうだ。ではアサシンに関しては君に任せよう。ありがとう綺礼」

 

『いえ、ただ必要なアサシンを集めるのにも多少時間が…!!』

 

綺礼の声が途中で途切れた。

 

「どうした?何かあったのか?」

 

『失礼しました。…師よ、ライダーたちに動きが』

 

「…!!綺礼、感覚の共有を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつまで同じことを繰り返しているのだ?いい加減飽きてきたぞライダー」

 

アーチャーは不満気に言う。手を掲げ、先程までよりもさらに多くの宝具を出現させた。

 

「戯れはここまでだ。失せるがいい」

 

 

 

「坊主、仕掛けるぞ!」

 

「あぁ、頼むぞライダー!」

 

 

 

 

「ん?」

 

アーチャーが幾つもの宝具を出現させると、どういうわけかライダーの戦車はアーチャーに背を向け逃げるように走り出した。

 

「おのれライダーめ、逃げるつもりか…!」

 

アーチャーは怒りを顕にし、具現させた宝具を一斉に放った。

 

「王である我を前にしての無礼、万死に値するぞ…!」

 

 

 

「かかったぞライダー!」

 

「おうよ、ギリギリまで引き付けるぞ!」

 

英雄王に背を向けた戦車のすぐ後ろからは、刀剣の刃の雨がが襲いかかろうと追いかけてきている。

 

その距離、十数メートル

 

「まだかよライダー…!」

 

その距離、数メートル

 

「もう少し辛抱せい!」

 

その距離、5メートル

 

「…!!」

 

その距離、3メートル。もはや、どう足掻いても、奇跡でも起きない限り避けることのできない宝具の雨。

 

「今だ!坊主!」

 

 

 

 

 

 

 

__そう、奇跡でも起きない限り。

 

「令呪をもって汝がマスター、ウェイバー・ベルベットが命ず__!」

 

その距離、数センチメートル

 

「__ライダー!アーチャーの後ろに回り込め!」

 

 

 

 

「…バカな、消えただと!?いや……!!」

 

アーチャーは、瞬時に状況を判断する。

 

「令呪…!!雑種ごときが小癪な真似を……!!」

 

振り返ると、先程まで己から逃げていたはずのライダーの戦車が。

 

「貰ったぞアーチャー!」

 

戦車は先程までとは比較にならないほどの魔力を、覇気を、轟雷を纏う。

 

 

 

「__これぞ征服王がイスカンダルの覇道の証__彼方にこそ栄え在り__いざ征かん! 遥かなる蹂躙制覇!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりですSHIKIGamiです

4、5月と私にとって忙しいシーズンに入りました。

今回はなんとか合間をぬっての更新となります。

次回更新は時間があれば5月末、無ければ6月頭となります。

更新を待っているかたには申し訳ないです。

それでは、また


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第十二話 告白

どうも


どうぞ


「う、うわぁぁぁぁぁぁあ!? 」

 

 

突然のことだった。激走していた戦車の御者台から投げ出され、ウェイバーとライダーは宙を舞う。ライダーはそれでも空中でウェイバーの手を掴み抱き寄せ、地面への落下からの衝撃から守り、庇うようにして地面を転がった。

 

「おい坊主!大丈夫か!?」

 

数メートル転がったところでようやく止まり、ライダーは己のマスターに声をかけた。

 

「いてててて…なんだよ一体、何がおこって…!?」

 

ウェイバーは腰を擦りながら体を起こし、己の体の状態を確認する。幸いにも、ライダーが庇ってくれたせいか軽い掠り傷程度しかなかった。

 

「おい、ライダー…?」

 

自分の安全を確認し、ふとライダーへと顔を向ける。ライダーの顔は、この聖杯戦争が始まってからウェイバーが始めてみる焦りの表情だった。ウェイバーは恐る恐るその視線の先へと自分も目を向けた。

 

「お、おい…あ、あれって…!!」

 

__そこには、悠然と佇むアーチャーと、先程まで自分とライダーを乗せていた戦車を引いていた、アーチャーの握った()()()()()()二頭の雷牛がいた。

 

「ど、どうなってんだよ!?」

 

二頭の雷牛は、一見何の変哲もないその鎖に脚や首を縛られ自由を奪われていた。どうやらライダーとウェイバーは、あの鎖によって急停止した戦車から慣性によって投げ出されたらしい。

 

「…この鎖は、かつて天の牡牛をも捕らえた天の鎖。これに捕らえられたものは、例え神であろうとも逃がるることはできん」

 

「天の牡牛って…じゃあいつの真名は…!!」

 

__英雄王ギルガメッシュ。ギルガメッシュ叙事詩に名を残した、かつて古代ウルクを治めた人類最古の英雄。

 

ギルガメッシュが鎖を軽く引いた。たったそれだけの動作で二頭の雷牛は振り回されるように引き摺られ地面を転がる。ウェイバーは思った。その鎖がかつて、地上に降り立つだけでその地に七年間の飢饉をもたらすと言われた天の牡牛を捕らえたものならば、あの二頭の雷牛を捕らえることなどそれに比べればどれほど容易いことかと。

 

二頭の雷牛は鎖に繋がれたまま、立ち上がることもできずただただ鼻息を荒くする。そしてその雷牛を囲うかのように周囲の空間が水面の如く歪み始めた。そしてそこからは古今東西、有りとあらゆる宝具の原典が顔を覗かす。

 

「さぁ…!!」

 

英雄王が号令と共に手を振りかざすと、一斉にそれらは放たれた。瞬く間に二頭の雷牛は体中を貫かれ、抵抗することもできずに串刺しとなった。

 

「あぁ…」

 

ウェイバーは、二頭の雷牛と戦車が魔力の粒子となって消滅する様子を、ただただ言葉にならぬ声を洩らしながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん…だって…?」

 

切嗣はくわえていた煙草を落とした。

 

__今、こいつは何と言った…?

 

「…私の真名は…英霊エミヤ…この時代より後…すなわち…未来の英雄」

 

令呪に抵抗しようとしているためか、キャスターの声は途切れ途切れだった。

 

「エミヤ…だって…?未来の英雄…?」

 

切嗣は混乱した。キャスターの思わぬ答えに、脳がついてこない。

 

「エミヤ…って、お前は、僕に、何か…」

 

単語を繋げるように切嗣は言った。

 

「何か、関係があるとでも言いたいのか?ならば教えてやる。答えはイエスだ」

 

キャスターも吹っ切れたのか、先程とは打って代わってスラスラ話した。だがやはり、その言葉にはどこか裏がある。

 

「教えてくれ…僕とお前は一体何なんだ?」

 

切嗣の言葉に熱が籠る。そうだ、殺し屋に過ぎない自分と、英霊となったこの男には一体どんな繋がりが__

 

「生憎だが、それに関しては答える気はない」

 

「なに…?」

 

「私は令呪に従ったはずだ。それ以上のことは答える気はない」

 

切嗣は拳を握りしめる。

 

「ふ、ふざけるな!そんな言い訳が通じる訳が…!」

 

「ならばもう1つ、令呪でも使うがいい!だがお前に、喉から手が出るほど聖杯を欲している貴方に!それができるか!?それも、己のサーヴァントの素性を知りたいがためだけに!」

 

キャスターは声を荒くした。その剣幕に、切嗣は思わず後退りをする。

 

「…いや、すまないマスター。私もどうかしてしまっているようだ」

 

切嗣も謝ることはなかったが、キャスターの言葉で失っていた冷静さを取り戻した。

 

「…キャスター、僕が聖杯を欲していると言ったな」

 

キャスターはそれを聞くと、あぁ、と答えた。

 

「お前は、僕の願いをどう思っているんだ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を、みた。

 

それは、一人の男の物語。

 

主君を、忠義を、仲間を裏切り、愛を選んだ男の悲しき恋の物語。

 

忠義と愛、決してその二つが相容れることはなく、その矛盾のために数えきれない程の命が失われた。

 

やがて主君は、その犠牲に耐えることができなくなり男と和睦する道を選ぶ。

 

それは男が最も望んでいたこと。忠義と、愛と、二つの道を進むことができるのだ。

 

__だが、そんなにことが上手く運ぶはずがない。

 

男は、主君の嫉妬により、助かったはずの命を落とす。

 

だが男は、そんな主君を恨むことなどなかった。元はと言えば、その怒りの原因を作ったのは己ではないか。そうでありながら、どうして主君の怒りを理解できないことがあろうか。

 

男は、決して己の人生を否定などはしない。

 

__あぁ、だが、だがそれでも、もう一度だけ、やり直しではなく、別の人生を歩めるならば__

 

 

 

 

 

 

「__俺は主の騎士として、主のために、主への忠義を貫き通すためだけにこの命を捧げよう__」

 

 

 

 

 

 

__男の名はディルムッド・オディナ。愛と忠義に生き、それ故に自らを破滅させた男であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今のは、ランサーの…」

 

ランサーの、生涯の一部始終。そして最後のはランサーの、ディルムッド・オディナの現世においての心からの願い。かつてランサーは自分に言った。『騎士としての面目を果たせればそれで良い。願望機の聖杯はマスター一人に譲り渡す』と。その言葉を、ケイネスは信じてなどいなかった。それはかつて、ランサーが主君の婚約者を奪った裏切り者であったからだ。ましてや、その魔貌は、自分の婚約者であるソラウにまで影響を与えているようだ。そんなサーヴァントの言葉を、信じることができようか。

 

__だが

 

 

 

 

『__俺は主の騎士として、主のために、主への忠義を貫き通すためだけにこの命を捧げよう__』

 

 

 

 

ランサーのその心の叫びに、偽りなど感じなかった。否、あるはずなどがないのだ。それが、ランサーが召喚に応じた真の理由なのだから。

 

 

 

「………」

 

 

 

ふと、ケイネスは自分の体、もとい手足に感覚が全く無いことに気付いた。

 

「私は…たしかにあの時月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)で防いだはずだ…」

 

考えられる理由は二つ。

 

一つは、あの男が放った銃弾が、物理的な力で月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を突破し、それでもってケイネスの体を貫いたということ。

 

もう一つは、あの男が放った銃弾が、物理的な力ではなく、魔術的概念によって月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を通して自分に干渉してきたということ。

 

前者はありえない。あの時ケイネスは、自分が考えうる限り最高の力をもって月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)の自律防御を発動させた。たかだか拳銃から放たれた弾丸ごときで、破られるはずがない。

 

__ということは

 

「私の…体は…」

 

「気が付いたようね」

 

気がつけば、すぐそばには許嫁であるソラウがいた。

 

「ソラウ…」

 

「ケイネス、貴方は敵にやられたのよ。間一髪のところをランサーが助けてくれたお陰で命を落とすことはなかった。でも__」

 

「魔術回路が…もう使えないんだろ…?」

 

「…え?」

 

ソラウは、ケイネスの言葉に思わず驚いた。知っているなら、ケイネスという魔術師ならば、もっと激しく落胆すると思っていたのだが。

 

「それくらい、私にだってわかるさ。さっきから魔術回路に魔力を通そうとしても、何もできないんだからな…」

 

だがよく見ると、ケイネスは涙を流していた。目尻に涙をため、少しずつそれが頬を伝う。

 

しばらくしてソラウが口を開いた。

 

「でも、まだ聖杯戦争は終わっていないわ。ランサーは生きているし、私がいる限り現界させることは可能よ。だからケイネス…」

 

ケイネスは、視線だけをソラウへと向ける。

 

「ケイネス、貴方の令呪を私に頂戴?」

 

「な…!?」

 

「私が貴方の代わりに聖杯を手にいれて、貴方に聖杯を捧げるわ。ね?だからお願い」

 

いつになく、ソラウは優しい口調でケイネスを諭す。

 

「令呪は…渡せない」

 

それでもケイネスは否定する。

 

 

 

 

「その通りでございます」

 

 

 

 

「ランサー!?」

 

ソラウが思わず大声を出した。

 

「ソラウ様、そこまでにしていただきたい。我が主はケイネス様ただ一人。たとえそれがソラウ様の頼みであっても、ケイネス様が許さない限り私は同意することはできません」

 

ランサーはそう言いと、ケイネスへと近付いた。

 

「申し訳ありません!我が主よ!」

 

するとランサーはケイネスへと跪いた。

 

「私が…不甲斐ないばかりに…!」

 

それは、ランサーの本心であった。主がこんなことになる前に救うことができなかった、己の力量不足だと嘆いているのだ。

 

「ランサー、その腕は…」

 

「これは、キャスターに…」

 

ランサーは恥じるかのように言った。

 

「そうか…」

 

結局のところ、自分もランサーも、勝つことができなかったということ。その事実がだけがケイネスの心へと叩きつけられた。

 

「…ソラウ様」

 

ランサーは跪いたまま、ソラウの名を呼んだ。

 

「…あなたが私に抱いている感情は、偽りのものです」

 

「「!?」」

 

その言葉に、ケイネスもソラウも息を呑んだ。

 

「ラ、ランサー…?」

 

ソラウは、握る手を震わせていた。

 

「ソラウ様…貴方だって本当は気付いているはずです。それが、偽りのものだと」

 

「やめて…」

 

「私は生前、この呪いの貌ゆえ、同じ経験をしております。そしてそれは、結果的に彼女を…グラニアを悲しませることになってしまった。…それでも私は、過去の自分が間違っていたなどとは思いません。いや、思いたくないのです」

 

「おねがい…やめて…」

 

ソラウの頬を涙が伝うのを、ケイネスは見た。だが、それでもランサーは言葉を続けるり

 

「ソラウ様…貴方には言っておきましょう。私はきっと、貴方をこのままでは破滅の道へと誘うことになってしまいます。ですから今ここで言わせて頂きます」

 

「おねがいだから…」

 

__だがそんなソラウの訴えも虚しく響くだけ__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__私は、貴方を愛さない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうもお久しぶりです

とりあえず一段落ついたので更新しました

さんざん引っ張っといて切嗣エミヤ進展少ないorz

構成下手で本当に申し訳ありません

今後は少しずつ更新のペースを上げていきます

これからもよろしくお願いいたします

それでは


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第十三話 主と騎士

どうも



どぞ


「恒久的な世界平和…それがお前の望みだったな」

 

あぁ、と切嗣は答える。そう、それが衛宮切嗣が聖杯に託す望み。万能の願望機たる聖杯にまで頼らなければ叶わない望み。

 

 

「そうだな…誰もが望み、誰もが叶えられない願い。私もかつて似たような理想を()()()()()()()()

 

「何…?」

 

意外だ、と思った。この男が、世界の平和を理想としていたことがあったとは。

 

「たしかにその願いは、万能の願望機ならば叶えることも可能だろう」

 

あぁそうだとも、だからこそ聖杯を手に入れなければ__

 

「__だが、聖杯では叶えられないだろう」

 

「__!!」

 

切嗣はキャスターを睨みつけた。

 

「…どういうことだ、キャスター。聖杯は万能の願望機のはずだ」

 

キャスターはそれを聞くと嘲るようにニヤリと笑う。

 

「…そうだな。ここでひとつ、衛宮切嗣に呪いをかけてやろう。」

 

切嗣はその言葉に悪寒がした。冷たい汗が切嗣の頬を伝う。

 

「衛宮切嗣、お前ならば他のマスターを殺し尽くし、最後まで勝ち残るだろう。そしてお前は聖杯も手にし、こう願う。『恒久的な世界を』とな」

 

「…当然だ。僕は聖杯を必ず手にいれる」

 

切嗣はキャスターを睨みつける。だがキャスターは少しも怯むことはなく、言葉を続けた。

 

「ではここで問題が発生する。万能の願望機である聖杯が、恒久的な世界平和を叶えたならば__なぜ未来には俺が、英霊エミヤが存在する?」

 

「…なん、だって?」

 

切嗣の思考が停止する。そして無意識にその言葉の意味を、キャスターへと聞き返していた。

 

 

 

否、本当は理解していた。

 

 

 

 

「__平和な世界に、英雄なんて存在しない。衛宮切嗣、お前の望みが叶うことがないことを、俺という存在が証明している」

 

「……ぁ」

 

言葉が出ない。抱いていた理想を、エミヤという存在が否定する。あぁ、なんという皮肉だろう。己の望みを叶えるべく召喚した英霊が、己の望みと矛盾する存在だったのだ。

 

だが、それでも__

 

「__それでも、お前は聖杯を手にいれようとするだろう。そうでもしなければ、衛宮切嗣は衛宮切嗣でいられない。いいだろう、止めはせん。己の目で確かめるがいい。己の望みが、叶わないということを…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切嗣がそれを最後まで聞いていたかはわからない。…いや、聞いていたはず。だが、今はそれでいいのだ。キャスターはそう思うと、その場を後にしようとした。

 

「待て」

 

キャスターの話を聞き項垂れていた切嗣が、去ろうとするキャスターを呼び止める。

 

「僕は…まだ…お前の目的を…聞いていない」

 

額に汗を浮かべながら、切嗣は声に力を込める。理想を否定された今の切嗣

には、声を出すことをもままならない。

 

キャスターはそれを聞くとそうだったな、と切嗣へと振り返った。

 

「私には、聖杯に託す望みはない。ただ__」

 

「?」

 

キャスターは俯きがちに言った。

 

 

 

「___を___ければ_____」

 

 

「__!!」

 

 

 

令呪の縛りがなくなったキャスターは、どこかへと去っていった。

 

一人残された切嗣は、煙草の火をつけた。

 

 

 

 

 

「英霊エミヤ…お前は、いったい何者なんだ 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい雑種、自慢の戦車は見ての通り我が破壊したが、万事休すか?」

 

アーチャーはどこまでも冷酷なその瞳で、ライダーを睨みつけた。

 

ライダーは立ち上がると、頬をボリボリとかいた。

 

「あっちゃぁ…しくじったかぁ」

 

「おまっ、そんな呑気なこと言ってる場合かよ!?」

 

ウェイバーは焦っていた。ライダーの主力兵器(宝具)であった戦車が、アーチャーによって破壊されてしまった上、そのアーチャーと未だ対峙しているのだ。

 

「どうすんだよぅ、ライダー…」

 

「そうさなぁ、まずはマスターをこそこそと陰から殺そうとしている輩から相手にしてやるか…!」

 

そういうと、ライダーはキュプリオトの剣で何かを弾いた。

 

「え…」

 

弾かれたそれは、短刀の刃。同時に、白い髑髏の仮面が闇夜を背景に姿を現す。

 

「な、なんでだよ!なんでアサシンが…!」

 

そして仮面は、ライダーとそのマスターを囲うように、幾つも姿を現した。

 

「こんなに、たくさん…!?」

 

動揺するウェイバーに対し、ライダーはマスターを守るべく、堂々とアサシンらに対峙する。

 

 

 

「おのれ時臣…余計なことを…!」

 

アーチャーは一方で、この采配をしたであろう時臣に苛立った。

 

「王たる我の裁きに、暗殺者風情が手を出すとはな…!」。

 

 

 

ライダーはその様子を見て、これがアーチャーによる計らいではないと判断する。

 

 

 

 

「__ふん、ならば遠慮はあるまいて」

 

 

 

 

__刹那、灼熱の風が吹き荒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソラウは、その場でただただ泣いていた。

 

そう、彼女は知っていた。この思いが、ランサーの呪いによる他動的なものだということを。

仮にも魔術師である彼女なら、抵抗することだってできた。だが、それでよかった。かつて経験したことのないこの思い。こんな経験は、ソラウにとって初めてのこと。

 

故に、その呪いを甘んじて受け入れた。そして、ランサーを己のものとしようとした。

 

だがその願いも、他のだれでもなく、ランサーによって拒まれた。

 

 

 

 

『私は、貴方を愛さない』

 

 

 

 

( __あぁそうだ、所詮は私一人の勝手な夢に過ぎなかった)

 

 

 

 

「馬鹿…みたい」

 

呟くようなソラウの言葉を、ケイネスは聞いた。

 

「ソラウ…」

 

泣き崩れるソラウに声をかけるも、何と言えばいいのかケイネスには分からない。

 

それでも__

 

「ソラウ…すまなかった」

 

「え…?」

 

それでもケイネスは、ソラウに謝らなければいけない。

 

「ランサー…ディルムッドの、記憶を見たんだ。彼と、グラニアとの物語を…」

 

グラニアは王族の娘であるため、フィン・マックールとの婚約を余儀無くされる。そこにはもちろん、本人の意思はない。ただ、政略結婚という縛りがあっただけ。

 

ソラウは一流の魔術師の家系に生まれたが、後継者に選ばれたのは兄であった。残されたソラウにはもはや魔術師としての価値はなく、さらに優秀な子孫を残すための道具、言ってしまえば商品であった。結果としてケイネス・エルメロイ・アーチボルトの婚約者となったのだが__。

 

ケイネスは思う。__果たして、そこにソラウの意思はあったのか。

 

「私は、愚か者だ。愛した人のことを、何も知らない」

 

すまなかった、とケイネスは言う。

 

「やめてケイネス。謝るのは私の方。それに私は、貴方との結婚に不満なんてなかったわ。」

 

ソラウは涙を拭うと、ケイネスへと近付いた。

 

「…ねぇケイネス、貴方は私をどうするの?」

 

先程とは違う、裏の無い優しい声でソラウはケイネスの耳元で囁く。

 

「私は…」

 

ケイネスはソラウと目を合わせる。

 

 

 

「__私は、それでも君を愛しているんだ。だから、きっと君を振り向かせてみせる。どうか、それまで待ってて欲しい」

 

 

 

ソラウはそれを聞くとくすりと笑った。

 

「そう、ロード・エルメロイも馬鹿なのね」

 

そしてケイネスの手を握る。

 

「いいわ、待っててあげる。だからまずは聖杯を__!!」

 

「__!!」

 

 

 

__瞬間、二人は感じ取った。膨大な魔力の台風が、近付いてくる感覚を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は…!」

 

ランサーは内心、己の運の無さを呪った。

 

ソラウへの告白の後、ランサーはケイネスとソラウを二人きりにせんと外の見張りをしていた。

 

 

 

 

「ランサー、その腕はどうした?フィオナ騎士団が一番槍が、聞いてあきれる」

 

 

 

だがそこ現れたのは、邪悪なほどに黒く染まった鎧を纏った騎士の王。

 

「っ!!」

 

普段のランサーならば、強者との遭遇はこの上ない喜びであり誉れである。

 

だが__

 

(万全ではない今戦えば、俺は間違いなく殺される)

 

それはすなわち、主へと聖杯を捧げることができなくなることを指す。そして最悪な場合この邪悪な騎士王は、主もろとも殺すかもしれない。

 

(時間を稼ぐ…いや、それでもケイネス様達が逃げられるほど稼げないかもしれない…!)

 

ランサーは、己の非力さを憎んだ。自分にもう少し、力があればと。

 

「ランサーッ!」

 

「!?主よ!」

 

気配を察知したのか、ケイネスが車イスに乗って廃倉庫から出てくる。

 

 

 

 

「ッく、よりにもよってあの騎士王が…!」

 

ケイネスは歯噛みする。サーヴァントもマスターも万全ではない今、あの黒き騎士王と戦ってなおかつ勝つのは不可能である。

 

(令呪なら…!いや、無理か…!)

 

この距離では恐らく、令呪を使おうとした瞬間にランサーを差し置いてケイネスが殺される。

 

今のランサーとケイネスでは、時間を稼ぐことも逃げることもできない。

 

その時だった。

 

「騎士王よ、頼みがある。俺の命はくれてやる。だから、我が主たちには手を出さないで頂きたい…!」

 

「ランサー…」

 

ケイネスは、そこに英雄の、騎士の姿をみた。己の命を、プライドを棄ててまで、主の命を守ろうとする騎士の姿を。

 

だが__

 

「それは約束できない。必要とあらば殺すだろう、そして必要でなければ殺さないだろう」

 

騎士王はそれでも冷酷に、残酷な言葉を返した。

 

「くッ、おのれッ、それでも騎士か!?」

 

「黙れディルムッド・オディナ。生前主を裏切った貴様に、騎士道を語る資格など無い」

 

「……ッ!!」

 

ランサーは騎士王を睨み付けると、ケイネスへと声をかけた。

 

 

「ケイネス様、どうかお逃げください。このディルムッド・オディナ、必ずやケイネス様達が逃げる時間を稼ぎます。ですが申し訳ありません。どうやら、私はここまでのようです。主に聖杯を捧げることができなく…」

 

「いいんだ、ランサー」

 

「え…」

 

その時、ケイネスの令呪が光を放つ。

 

「令呪をもって命ずる。ランサー、己の忠義を全うしろ…!」

 

「!!」

 

さらに令呪が輝きを増す。

 

「重ねて命ずる。ランサー、その忠義を主である私に見せろ…!」

 

二画の令呪は、ランサーの魔力を増幅させた。

 

「主よ…なぜ…」

 

ランサーはケイネスへと振り返った。確率はほぼ0に等しいが、あるいは逃げることもできたかもしれない。

だからこそ疑問なのだ、なぜ、逃げないのかと。

 

「愚問だな、ランサー。私は聖杯に選ばれたマスターだ。最後まで戦う義務がある。そうだろう?」

 

ケイネスはフン、と笑うと傍らにいたソラウに声をかけた。

 

「ソラウ、今のうちに逃げるんだ。君だけなら、逃げきることができる」

 

だがその言葉をソラウは拒否する。

 

「なにを言っているのケイネス、ランサーに魔力を供給しているのは私よ?なら私だってマスターだわ」

 

「ソラウ…」

 

それでも、ソラウの足は恐怖故に震えていた。

 

ケイネスはそんなソラウの手を、少ししか自由のきかない手で握りしめた。

 

 

 

「主よ…本当に申し訳ありません。ですが…」

 

ランサーはゲイ・ボウを出現させながら、ケイネスに言った。

 

 

 

 

 

「私の(マスター)が、貴方で良かった……!!」

 

 

 

 

 

黒き騎士王と対峙するランサーの頬には、涙が流れていた。

 

「待たせたな騎士王よ!もう迷いなど無い!貴様の首級は、このディルムッド・オディナが頂く!」

 

対する騎士王も地に突き立てたその黒き聖剣を抜き放ち構えた。

 

「良い闘志だ…舌が踊る」

 

ランサーはそれを聞くと腰を低く構えた。

 

「いざ…!」

 

ランサーは、とても片腕とは思えないような覇気で、さながら豹の如く駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、他愛もない」

 

果たしてランサーは、何度騎士王と切り結ぶことができただろうか。それは恐らく、数えきれるほどの剣戟だっただろう。それでもランサーは十分に戦った。

 

心臓を貫いた聖剣をランサーから引き抜くと、騎士王はその血を振り払った。

 

地に倒れるランサー。だがその表情は、穏やかでとても満足そうなものだった。

 

魔力の粒子となり、ランサーは消滅した。

 

「ランサー…」

 

ケイネスは、ソラウを握る手を強くする。

 

騎士王が近付いてくる。

 

「所詮は片腕の槍兵。まったく、手応えのない」

 

ケイネスは殺られる、と思った。

 

しかし__

 

ふと、騎士王が足を止める。そして視線の先をケイネスとは別の方向へと向けて、不敵に微笑む。

 

「ほう…まさか貴様から私を呼ぶとはな…」

 

そう呟くと騎士王は、ケイネスなど興味が無くなったかのように、どこかへと去っていった。

 

 

 

 

 

 

「生き残った…のか…?」

 

ケイネスは呆けたように呟いた。

 

ソラウは膝の力が抜けたのか、そのまま地面へと座り込んだ。

 

「生き残ったのね…私たち」

 

ケイネスは一度深呼吸をすると、ソラウに言った。

 

「帰ろう…倫敦へ…」

 




どうも、久しぶりの一週間更新です

なんかソラウとケイネスが…ねぇ?

いや、これは私の二次創作ですから、お気になさらずに。

さて、久しぶりの主人公登場です。

ここからが後半?です。前半より短いと思いますけど汗

原作で言えば4巻あたりだったはずです。




ここから先は本作とは関係ないのですが

Apocrypha新刊…

大変面白かったのですが







えっと、ノロケ?


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第十四話 慟哭

どうも



1週間更新続いてます



いいですね




どぞ


教会前も静寂に包まれ、聞こえるのは周囲の木々が風に揺られる音だけだ。

つい先程までそこにいた数えきれないほどの暗殺者たちは、月明かりに照らされた石畳の広場の中央にはすでに影すらも残されていない。

 

「ふん…幕切れは興醒めだったな」

 

ライダーはそう呟くと、アーチャーへと目をやった。

 

「どうだ英雄王、今宵はこれまでにせんか?」

 

黄金の王はなにやら不機嫌そうな瞳でライダーを睨んだ。

 

「フン…我とて興が冷めたわ。戯れはこれまでだ、()()()。貴様は我の気が向いたらまた相手をしてやる」

 

「ほほう、そいつは楽しみだわい」

 

アーチャーは霊体化し、姿を消した。

 

ライダーはそれを確認すると、キュプリオトの剣で空間を切り裂いた。戦車はもうないが、切り裂かれた空間からはライダーの愛馬が姿を現した。

 

ライダーは手綱を引き、未だに呆然と立ち尽くしている己のマスターを呼ぶ。

 

ウェイバーは呼ばれてようやく意識がはっきりとし、ライダーの手を借りてブケファラスへと跨がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんという…ことだ…」

 

遠坂時臣は、まさかライダーがあのような規格外の宝具を所持しているとは思わなかった。

 

『自立した英霊の連続召喚…宝具としての能力も、桁違いです』

 

通信を通して綺礼が言う。

 

「英雄王の乖離剣と同格…まさかあんなものを隠し持っていたとはな…」

 

冷静さを取り戻し、時臣は頭の中を整理する。

 

「だがこれで、ライダーの対策も可能になった。アサシンの大多数を失ったが、それに釣り合うくらいの結果は得たわけだ。感謝しているよ、綺礼」

 

『いいえ。それよりも師よ、残りのアサシンが、例の黒の騎士王を見つけました』

 

「…なんだって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、聖杯戦争の初日にほぼ全てのサーヴァントが集結した港の倉庫街。

 

黒の騎士王は、サーヴァントの気配を辿ってここまで来たのだが__

 

「貴様の方から私を呼ぶとは、探す手間が省けた…サー・ランスロット」

 

騎士王は獲物を見付けた獅子の様に、ヘルムの下で冷酷な笑みを浮かべた。

 

「…お待ちしておりました、王よ」

 

街灯に照らされ、姿を現したのは黒い鎧に身を包んだ湖の騎士(セイバー)

 

「この様な形とはいえ、まさか貴方と再び相見えるとは思ってもおりませんでした」

 

そう語るセイバーに、騎士王はほう、と呟いた。

 

「願ってもない…何せ私が聖杯に託す望みとは、アーサー王、貴方にかつての過ちを裁いていただくことなのですから…ですが」

 

セイバーは兜越しに、騎士王を見つめる。

 

「私が裁かれるべきは、今の貴方ではない…!王よ…!何故その様な姿に…!あれほどにまで理想を求めていた貴方が…!なぜ…!」

 

掠れるような、それでも尚力強い声でセイバーは叫んだ。

だが騎士王はそれにも動じることはなく、淡々と答える。

 

「何度も同じことを言わせるな、湖の騎士。理想を求め、理想に殉じ、その先にある絶望を知ったのが今の私だ。すなわち、これが私のあるべき本来の姿だったわけだ」

 

「何を…貴方は…!」

 

斬、という音をたて騎士王が黒き聖剣をコンクリートへと突き立てる。

 

「黙れ。いつまでつまらん御託を並べる気だ。貴様も聖杯に招かれしサーヴァントならば、言葉ではなく剣で語るがいい」

 

そう言うと騎士王は、目にも見えるほどの黒く禍々しい魔力を放出する。

 

「っ!…いいでしょう。ならば王よ、今宵は私が貴方の過ちを正します」

 

そういうとセイバーは、握っていた剣に魔力を通し、己の仮染め宝具とした。

 

「フン、裏切りの騎士が、王の過ちを正すだと…?」

 

騎士王は、突き立てていた聖剣を抜き放ち、セイバーへと切っ先を向けた。

 

「ほざけ、ランスロット卿。礼儀を教えてくれる…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ!セイバーのやつ、時臣のサーヴァントじゃない上に、よりにもよってあの騎士王とおっ始めやがった…!」

 

間桐雁夜は、蟲を通してセイバーと騎士王との戦闘を視ていた。

 

「…っく!あぁぁぁぁあ!!」

 

セイバーへの魔力の供給のため、身体の刻印蟲が暴れまわる。

 

「くそ!俺は早く時臣を殺らなきゃいけないってのに…!ふぐっ!あぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、キャスター?」

 

切嗣たちよりも先に拠点をアインツベルン城から民家の武家屋敷へと移していたアイリと舞弥は、屋敷の片付けをしていた。

 

そこへキャスターが戦闘を終えたのか、姿を現した。

 

「切嗣はどうしたの?」

 

マスターよりも先にサーヴァントが戻ってきたことを不思議に思ったのか、アイリはキャスターへと訊ねた。

 

「なに、彼も無事だ。我々は勝った」

 

キャスターは倒したのは我々ではないようだがね、と心の中で付け足した。

 

「それよりアイリスフィール、何か手伝うことはないかね?」

 

「そうね…じゃあ結界を張るのを手伝ってもらおうかしら?」

 

 

 

「これでいいのか?アイリスフィール」

 

「ええ、問題ないわ」

 

屋敷の庭にある土蔵の中に、人間大の陣を描くとアイリは背伸びをした。

ふと見ると、キャスターがアイリが描いた陣を何やら神妙な顔で見つめていた。

 

「キャスター…どうかしたの?」

 

「いや…何でもないさ。よくできている。これなら10年経っても問題なく発動する」

 

キャスターはいたって真剣に答えたつもりだったが、アイリは何故かクスクスと笑っていた。

 

「私はなにか、おかしなことでも言ったかね?」

 

「ごめんなさいね。でも10年経ってもって、サーヴァントがそんな未来のこと言うなんて可笑しいじゃない?」

 

アイリはひとしきり笑うと、キャスターの方を見た。

 

「ねぇキャスター、貴方に渡しておきたいものがあるの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁっ!」

 

「ふっ!」

 

重なる剣戟。セイバーと騎士王は互いに拮抗し、剣が弾かれ合う度に熾烈な火花が飛び散っていた。

 

「遅いっ!」

 

しかし、剣が持つ神秘の差か、それとも単なる保有魔力の差か、セイバーの剣は騎士王の渾身の一撃により弾き飛ばされた。その衝撃によりセイバーの体勢も大きく崩れる。

 

「!」

 

「散るがいい!」

 

騎士王はセイバーの兜ごと叩き斬らんとばかりに、聖剣を力任せに降り下げた。

 

「チィッ!」

 

だが相手は彼の湖の騎士。英霊となった今でもその無窮の武練に衰えは無く、騎士王の聖剣を両手で捕らえ、直撃の寸前で受け止める。

 

「!?」

 

騎士王はさらに力を籠め押しきろうとしたが、聖剣にセイバーの魔力が流れ込むのを感じ取った。

 

「フン、相変わらず手癖が悪いな…!」

 

騎士王は剣を握っていた片方の手を離すと、セイバーに向けその手から禍々しい魔力を放出する。それはさながら、獲物に喰らいつく獅子の如くセイバーの腹へと噛みついた。

 

「ぐあっ!」

 

魔力放出の直撃をくらったセイバーは大きく吹き飛ばされた。

 

「手にした物を自分の物とするその能力…人の妻に手を出した貴様には相応しい力だ」

 

「…!!」

 

セイバーは身体を起こすと手近にあった電柱を引き抜いた。そしてそれを破城槌の如く構えると、騎士王へと突進した。

 

「くだらぬ!」

 

騎士王はそれを軽く剣で往なし、さらに追撃を加えようと剣を振るった。

 

「くっ!?」

 

だが弾き飛ばされたのは騎士王のほうだった。剣で往なした様に騎士王には見えたが、それはセイバーがタイミングを合わせ減速したにすぎない。大きな隙が出来たように見せかけ、その実セイバーが本命の一撃を弾かれないよう確実に与えるために力を溜めていたのだ。結果として、セイバーの大きなスイングは騎士王の脇腹へと直撃させた。

 

「…フン、だが軽いな、ランスロット卿」

 

しかし騎士王は剣をコンクリートへ突き刺し、杖のようにすることでその一撃を耐えた。

 

「王よ…思い出してください。円卓の誰もが、騎士の誰もが、貴方が愛した民草が…誰もが貴方を理想の王としていた…!そんな貴方が、なぜ絶望に身を委ねるのですか!」

 

「くどい。貴様に何がわかるか」

 

騎士王は苛立ちを顕にし怒鳴った。

 

「ランスロット卿…以前私に「王は人の心が解らない」と言って、円卓を去った奴がいたな」

 

「王よ…!」

 

ランスロットは思わず悲痛の声を漏らした。

 

「あぁそうだ…あの男は正しかった。私は人の心が解らない。考えてみれば簡単なことだ。王であるために人の心を棄てたこの私に、人の心を理解できるはずがない…!」

 

騎士王は剣を握る力を強くした。

 

「そんなことだから私は国を滅ぼしたのだ。だがここで矛盾が生じる。王であったが故に国を滅ぼしたならば、私は一体どうすればいい…?」

 

「…っ!!」

 

「ならば、絶望に身を捧げるしかない。私にはその義務がある。私の浅はかな理想のために散った命たちのためにも…!」

 

騎士王は剣を構えた。

 

だがセイバーは構えようとしない。

 

「それは違う…!私だって、ガヴェイン卿だって、モードレット卿だって…貴方に仕えた時からその様な覚悟はできていた…!」

 

剣を構えていないセイバーに、騎士王は容赦なく斬りかかる。

 

「く…」

 

セイバーは後ろへ大きく跳躍することで直撃を免れたが、聖剣の一撃は肩へと斬りつけられていた。

 

「五月蝿いぞランスロット卿…!」

 

騎士王は剣についた血を払い、セイバーを睨み付ける。

 

「剣を構えろ、ランスロット卿。偽りの剣などではなく、貴様の本当の剣(アロンダイト)を出せ」

 

騎士王はさらにセイバーへと斬りかかる。

 

「王の過ちを正すのも騎士の務め…かつて私は貴方を裏切ったが、それでも私にはその義務がある…ならば__」

 

ギィン、と騎士王の一撃がセイバーにより弾かれる。

 

「ほう…ようやくその気になったか…!」

 

手に握られていたのは無毀なる湖光(アロンダイト)、ランスロットという騎士の真の宝具。

 

 

 

 

「ならば__例え貴方を()してでも、私は貴方のその絶望を絶ちきって見せる…!」

 

 

 

 

 

 

__戦いは、さらに加速する。




どうも、SHIKIGamiです

いやアイリ、夜中に片付けするなよ

とかいうつっこみは無しの方向でお願いします

…だって片付けないとねぇ?

引っ越しの時と同じですよ



さて、ようやく黒セイバーに進展がきました

ここからが本当の意味での本編です

忘れてないですよね?主人公は彼女ですよ?

紅茶はあくまで引き立て役うわごめんなさい石投げないでください


あと今別作品のプロットを構成中だったりします

Fate/last night の外伝?的な感じになるのでしょうか

発表はもちろん本編が無事完走した後の予定です

もう一度言いましょう。完走した後です。

大丈夫だ。俺ならちゃんと完走できる。

__例え、更新が遅くとも




それでは、また


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第十五話 困惑

どうも、一週空いてしまいました




どうぞ


「はぁぁぁぁ!!」

 

セイバーが振るう剣は、先程にも増して力も早さも上がり、騎士王に肉薄する。無毀なる湖光(アロンダイト)を握るセイバーは、ステータスに補正がかかりその身体能力はマスターにより弱体化しているにも関わらず、セイバーの名に相応しい、まさに一級の値となっている。

 

「___は」

 

それでも黒の騎士王は敏捷で劣る中、セイバー相手に一歩も引けをとらない。上下左右、あらゆる方角から振るわれるセイバーの剣を、騎士王は息を上げることなく弾き返している。

 

「っ!」

 

それでもセイバーは騎士王に接近し、ひたすら剣を振るう。否、セイバーにはこれしかできないのだ。無毀なる湖光(アロンダイト)により他の宝具が使用できない今、セイバーに残された攻撃手段はひたすら騎士王に一撃を与えんと剣を振るうことしかないのだ。すなわちそれは、聖剣の担い手である彼のアーサー王相手に、純粋な剣技で戦わなくてはいけないことを意味する。だが何も考え無しに、セイバーはただ一心不乱に剣を振るっているという訳ではない。セイバーが絶え間無く攻め続けることにより、セイバーの宝具、すなわち聖剣の解放(約束された勝利の剣)をする隙を与えていないのだ。

 

「___ふん」

 

だが騎士王もただ剣を防ぐことにしびれを切らしたのか、セイバーの剣を弾き返すのと同時に、騎士王はセイバーへと聖剣を袈裟に振りかざした。

 

「くっ…!」

 

咄嗟にセイバーは左の手でそれを防いだ。直撃は免れたものの、聖剣の一撃はセイバーの鎧ごと左腕を切り裂いた。

 

「攻めるばかりで、判断が鈍っているぞ…!」

 

そこから騎士王はセイバーを蹴り飛ばした。セイバーは大きく吹っ飛び、地面を転がる。

騎士王はそれを見ると、まるで虫ケラを見て嘲笑うかのようにふん、と一蹴した。

 

「いや、こうして憂さを晴らしておけば、貴様ら騎士共も大人しく私に従っていたというわけか?」

 

だが騎士王は、そこで身体の違和感に気付いた。見れば、己の左腕もセイバー同様、鎧ごと切り裂かれ血が流れていた。

 

「ランスロット…貴様!!」

 

セイバーは立ち上がると再び剣を構え、そして騎士王へと斬りかかった。

それに応えるかのように、騎士王もセイバーへと駆け出した。互いの剣が衝突し、盛大な火花が飛び散る。騎士王は左手を負傷したのにも構わず、怒濤の如くセイバーへ剣を振り下ろす。無毀なる湖光(アロンダイト)は竜の因子を持つものに絶大な効果を発するが、騎士王はそれを膨大な魔力を纏うことで無理矢理補っていた。

 

「っぐ!!」

 

一方のセイバーは、騎士王の一撃を剣の腹で受け弾いた。しかし左腕を負傷したためか、剣が言うことを聞かず、バランスを崩してしまった。

 

「そこだ…!」

 

騎士王は追撃を加えようと剣を振るった。だが、セイバーはバランスを崩したのにも関わらず、その強靭な足腰と身体能力で体をひねり、騎士王の一撃を受け流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、最優の名は伊達ではないな」

 

時臣はアサシンの視角情報を綺礼を通して共有していた。

 

『えぇ、ですが…』

 

「うむ…」

 

たしかに、セイバーは最優の名に恥じない強さを誇っている。では、そのセイバー相手に一歩も引けをとらない、いやむしろ互角以上に戦っているあの騎士王は一体何だというのか。

 

「ブリテンの赤き竜、アーサー王…」

 

時臣は、このイレギュラーとも言えるサーヴァントこそが、己のサーヴァントたるギルガメッシュに立ちはだかる敵と判断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい切嗣、無事でよかった…!」

 

切嗣が戻った頃には、既に屋敷の片付けはほとんど済んでいた。

 

「あぁ、ただいまアイリ。どうだい?君が気に入ると思ってここを拠点に選んだんだ」

 

「えぇ、とっても素敵。気に入ったわ」

 

アイリは切嗣へと微笑み、切嗣もそれに微笑み返した。

 

「…ところでアイリ、キャスターは?」

 

しばらくして切嗣は、アイリへと質問した。

 

「…彼なら、今はこの家の見張りをしているわ」

 

「そう、か…」

 

アイリはそこで切嗣の不自然さに気付いた。

 

「キャスターと、何かあったの?」

 

切嗣の不安定な心を気遣うように、アイリスフィールは優しく語りかけた。

 

「大丈夫だよ…アイリ。君が心配することなんてないさ」

 

切嗣はアイリスフィールを安心させるために、アイリスフィールに微笑む。だが、アイリスフィールにはそれが強がりで、心ここにあらず、といったようにしか見えなかった。

 

「__さっき、ランサーのサーヴァントの消滅を確認したの」

 

「…!!アイリ、それは…」

 

アイリスフィールは頷き、言葉を続けた。

 

「きっとこの先、さらに脱落するサーヴァントは増える。そして私も、どんどん私の、アイリスフィールとしての機能も無くなっていくわ。わかっていたことだもの。私だって私なりに覚悟はできてるつもりよ?でも…」

 

アイリスフィールは背伸びをして切嗣の首に手を回した。

 

「でも、貴方のそんな哀しそうな顔を見ていたら、とても不安になるの。私がいなくなった後、切嗣がちゃんと幸せに生きていけるかどうかが…」

 

「…!!」

 

切嗣は何も言えなかった。ただアイリスフィールの瞳から目をそらさないでいることが精一杯だった。

 

「大丈夫よ切嗣。心配しなくていいのは貴方の方。だって私は、いつだって切嗣の味方だから…切嗣が正しいと思ったことは、きっと私にとっても正しいと思えることだもの」

アイリスフィールは切嗣を抱き寄せると、優しく口付けをした。気が付けば切嗣の頬には、一筋の涙が流れていた。

 

「アイ…リ…僕は…」

 

切嗣はアイリスフィールを強く抱き締めた。己の不安を、紛らすかのように。抱き締める腕は、震えていた。

 

アイリスフィールの頬にもまた、一筋の涙が流れた。アイリスフィールも切嗣の不安ごと包み込むように、優しく抱き締め返した。

 

その晩、二人は離れること無く抱き締めあったまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

セイバーは片膝をつきつつも、剣を支えに再び立ち上がる。

 

「ほう…流石は湖の騎士と言ったところか、サー・ランスロット?」

 

対する騎士王の鎧にも、所々ではあるが傷ができていた。それでも、騎士王にはまだまだ余力があった。

 

「えぇ、これでも曲がりなりにも貴方に仕えた騎士ですから…!」

 

皮肉気に言葉を吐くと、再びセイバーは駆け出した。セイバーは剣を大きく振り下ろした。だがそれを騎士王は剣を使うこと無く首を傾けることで軽々と避ける。

 

ピシッ、と音をたてて騎士王のヘルムに皹が入る。当たった訳ではない。先の戦闘で限界がきていたものが、今のセイバーの剣の風圧によりその限界をこえたというだけのことだ。

 

騎士王の金色に濁ったその双眸が、ゆらりと湖の騎士の姿を捉える。

 

「王よ…」

 

悲痛の声をセイバーが漏らす。騎士王は聖剣に魔力を纏った。騎士王の膨大な魔力を帯びた聖剣は、喰らいつかんとでも言うようにその切っ先をセイバーへと向けられた。

 

「吼えろ…!」

 

無造作に振るわれた一撃からは騎士王の魔力が溢れ出し、大蛇が地を這うかのようにセイバーへと襲いかかった。セイバーはそれをギリギリで避けた。だがそれが湖の騎士の運の尽きであった。

 

「…ぐぁっ!!」

 

避けた先には騎士王が既に回り込み、騎士王が放つ魔力がセイバーを捕らえた。左手に纏われた魔力はセイバーの首を締め上げ、大柄なその体を軽々と持ち上げた。セイバーは抵抗しようとした。だが、彼に残された魔力はもうほとんど無く、現界を維持するだけで精一杯だった。そんなセイバーに抵抗する力が残っているはずがなく、気付けばアロンダイトも強制的に消滅していた。

 

「…お…王よ…私は…私……は……!!」

 

消え入るような声で、セイバーは騎士王へと叫んだ。

 

「終わりだランスロット卿…貴様がどう足掻いたところで、もう何もかも無駄なのだ」

 

それはこの状況のことを言っているのか、あるいは騎士王を正そうとしたセイバーのことを言ったのか。だがセイバーのそんな思考も虚しく、騎士王が振り下ろした聖剣は深々とセイバーの胸へと潜り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

「…!?」

 

 

 

 

 

騎士王は、そこにあるはずのセイバーの亡骸が無いことに気が付いた。だが騎士王が状況を把握するのにそう時間は必要なかった。

 

「令呪による空間転移…仕留め損ねたか…」

 

セイバーは己の聖剣を見た。聖剣の切っ先には、セイバーを斬ったことを示すように夥しい量の血が付着していた。騎士王は仕留め損ねたことに苛立ちを覚えつつ、聖剣の露払いをした。

 

 

 

 

『王よ…思い出してください。円卓の誰もが、騎士の誰もが、貴方が愛した民草が…誰もが貴方を理想の王としていた…!そんな貴方が、なぜ絶望に身を委ねるのですか!』

 

 

 

 

湖の騎士の言葉が、騎士王の脳内に響く。

 

「五月蝿い…これが真の私なのだ…」

 

 

 

 

『私が知っている騎士王は、今の君のような在り方ではなかった…!』

 

 

 

 

そして以前、紅い魔術師(キャスター)が言った言葉が過った。

 

「…五月蝿いと、言っている!!」

 

騎士王は、近くにあった電柱へ怒りをぶつける。聖剣に一閃されたそれは、音をたてて崩れ落ちた。

 

「何故…私はこんなにも苛ついている…?」

 

セイバーを殺し損ねたからか、いや違う。かつての自分を、騎士王の内なる光を思い出したからだろうか。

 

「っ!!」

 

だが騎士王には、どれも違うような気がした。では一体、何が…?

 

「私は間違ってなど、いない」

 

騎士王は苛立ちを押さえ、そこで考えることを止めた。騎士王はその場を後にし、夜の冬木を駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったか…」

 

『ええ、終わったようですね』

 

時臣ははぁ、と息をつき、紅茶を一口飲んだ。

 

「しかし、彼の騎士王とはいえまさかここまでとはな…」

 

時臣は騎士王とセイバーの戦闘を見て、その圧倒的な力を改めて痛感した。

 

『先日のギルガメッシュとの戦闘といい、今のセイバーとの戦闘といい、このサーヴァントにはまるで魔力が無限にあるかのように思います』

 

「うむ…これはギルガメッシュとはいえ、対策が必要かもしれないな」

 

だがまだ、時臣には余裕があった。それは、ギルガメッシュの真の宝具(乖離剣)の存在があったからだ。

 

「常に余裕をもって優雅たれ…」

 

時臣は自分にそう言い聞かせると、紅茶を再び口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ…かぁ…ぁ…」

 

雁夜は気が付けば間桐の地下室にいた。

 

「おぉ、ようやく気が付いたか」

 

目の前には間桐家の当主__間桐臓硯がいた。

 

「ぅ…あ…?」

 

「なぜ貴様がここにおるかと言いたいのか?カカッ!感謝せい。野垂れ死にかけておった貴様を、儂がここまで連れてきてやったのよ。それより貴様のサーヴァントもこっぴどくやられたのう?」

 

事実、今のセイバーには実体化することもままならない。雁夜が令呪を使わなければ、騎士王の聖剣はさらに深くまで潜り込み、セイバーの霊核を破壊していただろう。

 

「なに、あのサーヴァントは破格の力を持っておる。半人前のお主が負けるのも無理はないわ。むしろ儂は、あのサーヴァントと戦いながら生き残った貴様に褒美を与えようと思っておる。ほれ」

 

臓硯は杖の先で壁にもたれ掛かっている雁夜の顎をクイとあげると、その口に何かを放り込んだ。

 

「ぁがぁ…!?」

 

「カカッ!それは桜の純潔を奪った蟲に儂が()()()()()()()ものよ。これで貴様の魔力不足も改善される。この優しい老いぼれに感謝せい…!」

 

「ぅぁ…ぁぁ…」

雁夜はそんな己の非力さに、掠れるような声で涙をこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『師よ…ぜひご報告しておきたいことが』

 

「…?…なんだい綺礼」

 

『騎士王の後を付けていたアサシンによりますと、騎士王は柳洞寺の奥へと進んでいったそうです』

 

時臣はそれを聞くと、紅茶を淹れていた手を止めた。

 

「柳洞寺…?」

 

『ええ、何でも柳洞寺の裏に洞穴のようなものがあり、そこへ騎士王は入っていったそうです』

 

ガシャン、と時臣の手からカップが落ち、床に落ちて割れてしまった。

 

『師よ、どうしたのですか?』

 

「いや、そんなはずがない…そんなはずが…」

 

時臣は、額から冷たい汗が流れるのを感じた。




こんにちは、SHIKIGamiです

いかがだったでしょうか

今回は注目すべき点はいくつかあるのですが

まぁそれは置いておきます

最近疲れが取れない日々が続いております

おまけに梅雨

暑くなって参りましたね

皆様も体調管理に気をつけてください

作者は熱があるようです



それでは


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第十六話 記憶

またもや遅れました







どぞ


 

「綺礼、アサシンはあと何人残っている…?」

 

時臣の焦りを隠しきれていない様子が、通信機先からでも綺礼には感じられたり

 

「はい。その洞窟の入口に二人、私のいる教会に一人で三人です」

 

「では綺礼、入口にいるアサシンはそのままその場で監視させておいてくれ。決して中には入れずにだ」

 

「…?…わかりました」

 

綺礼は時臣の指示の意図がわからず疑念を抱いたが、指示には従うことにした。

 

「師よ、なにかその洞窟には心当たりが…?」

 

「うむ…」

 

綺礼の質問に対し、何やら時臣は困惑しているようだった。しばらくの沈黙の後、ようやく時臣は口を開いた。

 

「いや、君には話しておくべきかもしれないな」

 

「…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「くうっ…うぅ…うっ……」

 

数時間が経過し、間桐臓硯の与えた蟲の効果もあったのか雁夜の魔力も回復しつつあり、あれほど体内で暴れていた刻印蟲も今では不気味なまでに落ち着いている。

 

「俺は…俺はっ……!!」

 

だが流れる涙は止まることを知らず、雁夜の瞳は赤く腫れ上がり、握る拳からは爪が掌に食い込み血が滲み出ていた。

 

『雁夜…』

 

そのそばで、セイバーが霊体化した状態で語りかけた。

 

「くそっ…くそくそくそぉぉぉっっ!!」

 

だが雁夜はその呼び掛けに応えることなく、踞ったまま床を殴っていた。

 

『雁夜…申し訳ありません…』

 

「俺はっ…聖杯を勝ち取るどころか…自分のサーヴァントを制御することすらできやしない…!それに俺は…!桜ちゃんを救うどころか…!俺は…!俺はっ…!…うぅ…うぁぁぁぁっ!」

 

『…っ!雁夜…!』

 

悲しみと屈辱に嘆き叫ぶ雁夜を、セイバーはただただ見ていることしかできない。たしかに半人前である雁夜が、一級のサーヴァントであるセイバーを完全に制御するのは不可能である。事実、此度の聖杯戦争におけるセイバーの能力値は、本来のそれよりも下回っている。それでもセイバーが魔力の消費を抑えれば、戦うことは充分に可能である。しかし先の騎士王との戦いにおいて、セイバーは魔力を抑制すること考えずに戦っていた。因縁の相手であったが故の、セイバーの犯した過ちであった。それが結果として、騎士王への事実上敗北にも繋がったのだ。

 

「そもそも俺には無理だったんだ…俺は…桜ちゃんを救うことはできない…聖杯戦争で勝つことなんて…!」

 

『!!…雁夜、それは…!!』

 

それは違うと、セイバーは言葉に出せなかった。今の雁夜には、セイバーが何を言っても届かない。

 

「セイバー…あとどれくらいで回復する…?」

 

『…1日もあれば戦闘に問題はありません。今の雁夜からは、以前よりも大幅に魔力供給の質が上がっています。ですがそれは…』

 

「いいんだ、セイバー…」

 

「…」

 

雁夜は左胸に手をあてると、忌々しそうにそれを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なぁ、ライダー。さっき言ってたことなんだけどさ…」

 

隠れ家にしているマッケンジー宅に着き、自室に戻るとウェイバーは言った。

 

「うん?なんだ坊主」

 

「この聖杯戦争がおかしいって言ったろ、お前。それに、聖杯があるかもわからないって…」

 

ウェイバーはベッドに横になり、天井を眺めながらそう言った。

 

「おう、それがどうした?」

 

「どうしたって…!」

 

ウェイバーは体を起こした。

 

「本当に聖杯が無かったらお前、どうすんだよ!?」

 

「ふん、そうさなぁ…」

 

ライダーはウェイバーの方へと振り返り、顎髭をかくと言った。

 

「余はこの聖杯戦争を降りる」

 

「な…!」

 

意外であった。征服王ともあろう者が、こうもあっさりと戦いを放棄すると言うことが。

 

「余は生前、そういった "在るか無いか知れぬモノ"を追い求め、結果として多くの仲間を死なせた。余はな、もうそういった与太話で誰かを死なすのは嫌なんだ」

 

「それって…」

 

そう、ライダーは今自分を死なせたくないと言ったのだ。

 

ウェイバーはなにも言い返せなくなり、再びベッドへと身を投げた。

 

「なんだよ…それ…」

 

ライダーはそれを聞くとフフン、と喉を鳴らした。

 

「心配するな坊主。余は負けぬ。それにどちらにせよ、坊主を死なせやせんわい。約束だ」

 

ニッと笑うと横になっているウェイバーの頭を掻き回した。

 

「わっ、おいやめろって!」

 

「ハハハッ!よし、明日もまた一暴れするぞ坊主!」

 

「おい、勝手に決めんなって!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『つまり、その本当の意味での聖杯である"大聖杯"がそこにあると』

 

「うむ…そういうことなんだが」

 

長い話を終え、喉が乾いた時臣は淹れ直した紅茶を一口飲んだ。

 

「…大聖杯のことを、ましてやそれが柳洞寺の円蔵山にあるということを知っているの遠坂、間桐、アインツベルンの御三家だけのはずなんだ。しかし…」

『…騎士王がその龍洞を知っていた以上、何者かが関わっている可能性があるということですか?』

 

時臣が考えていたことを、綺礼が口にする。

 

「うむ…そう考えるのが妥当だ…」

 

時臣ははぁ、とため息をついた。

 

「しかし、一体何者なんだ…間桐もアインツベルンも、マスターとサーヴァントは判明している以上繋がりのある可能性は低い。やはり第三者の存在感か…。何より、このような聖杯戦争そのものに関わる大きな問題が発生した以上、早急に調べる必要があるな。…綺礼、明日は私と一緒に、柳洞寺に来てくれないか?」

 

『えぇ…ですがよろしいのですか?私と師が手を組んでいることが…』

 

「構わない。そんな場合ではなくなってしまったようだ。取り敢えず綺礼、明日騎士王が龍洞を出たのをアサシンが確認したら、私に連絡してほしい」

 

『わかりました。師よ、ギルガメッシュはどうするのですか…?』

 

それを聞くと時臣はううむ、と呻いた。

 

「彼にだけは、大聖杯の秘密を…聖杯戦争の真実を知られては不味い。この件に関しては我々だけで解決しなくてはいけない」

 

『…わかりました。それでは、また』

 

「うむ、すまない」

 

時臣は通信を切ると頭を抱えた。

 

「この聖杯戦争は、狂っている…」

 

先程床に落として割れてしまったティーカップを見つめながら、時臣は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんだ、ここは…)

 

そこは、地獄だった。空には黒い太陽。辺り一面には炎が走り、所々からは呻き声のようなものが聴こえていた。

 

切嗣は状況を把握しようとしたが、なにもわからなかった。

 

しばらくすると、一人の亡霊のような男が近づいてきた。

 

『よかった…本当に、よかった…!』

 

その男は瓦礫にもたれ掛かっていた少年に手を差しのべるとボロボロと涙を溢して喜んだ。

 

(なんだ…これは…)

 

その男は、衛宮切嗣であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『…子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた』

 

縁側で、衛宮切嗣は隣に座る少年に言った。

 

(やめろ…)

 

赤毛の少年はそれを聞くと、不機嫌そうに言い返した。

 

『なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ』

 

『うん残念ながらね。ヒーローは期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ。そんなこと、もっと早くに気が付けば良かった』

 

(やめろ…それ以上先を言うな…!)

 

切嗣は理解した。この少年が、かつてのキャスターだということを。そしてこの先自分が言うであろうことも。

 

(頼むから、止めてくれ…!)

 

『そっか…ならしょうがないな。しょうがないから、俺が代わりになってやるよ。任せろって、じいさんの夢は、俺がちゃんと叶えてやるから__』

 

(あぁ…あぁ…!!)

 

『そうか。ああ、安心した』

 

(あぁぁぁぁぁぁ!!)

 

そう言うと、満足げな笑みを浮かべ、衛宮切嗣は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

__こうして、切嗣は一人の男の生涯を見ることとなる。

 

__彼が救った少年が英霊となるまでに至る、一つの、衛宮切嗣にとっては耐え難い人生の歩みを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうもお久しぶりです。SHIKIGamiです。

今回は短いです。

次回への伏線のためだけのような回ととらえてください。

エミヤの過去を切嗣ようやく見ます。

エミヤの過去は結構私の独自解釈多め?です、はい。

それでは



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第十七話 英雄

お久しぶりです




どぞ


 

 

『__問おう、貴方が私のマスターか』

 

月に輝く金砂の髪、少年の前に凜と佇む一人の騎士。

 

姿に違いあれど、少年が召喚したそれは間違いなくあの騎士王であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは、切嗣も知っているアインツベルンの城だった。

 

『衞宮士郎ッ!』

 

アーチャーと呼ばれたサーヴァント__衞宮切嗣の召喚したそれに酷似したその男が、少年の名を呼ぶ。

 

『なんだ、アーチャー!』

 

『■■■■■■■■ッ__!!』

 

相対するは鉛の巨人。そして背後に立つその主は雪のような、不適な笑みを浮かべる一人の少女。

 

『衞宮士郎、これ以上は足手まといだ!今すぐ凜とセイバーを追え!』

 

『なっ、俺はまだ戦える!』

 

そう言うと少年は、どこからともなく両手に黒と白の中華剣を出現させた。

 

『……』

 

紅い騎士は、その姿を静かに見つめた。

 

『衞宮士郎…貴様はこれから先、俺と同じ道を歩むだろう』

 

『__!!』

 

『正義の味方なんぞという概念に縛られ続け、なお走り続けた。得たものなんぞなにもない。価値のない自己満足だけだ。だが__』

 

『がぁッ!?』

 

少年は気が付けば宙を舞っていた。それが紅い騎士によって蹴り飛ばされたものによるのだということは遅れて気づいた。

 

『…だが今の貴様になら、何かを変えられるかもしれん』

 

そう言うと紅い騎士は、少年が握っていたものと同じ剣を出現させ、それを放り投げた。剣は天井を破壊し、崩れ落ちたそれは少年と紅い騎士らとの間に壁を成した。

 

『アーチャーッ!』

 

『さらばだ、衞宮士郎__お前なら彼女を、救えるかもしれん』

 

『!!』

 

少年はそれを聞くと、森へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

そして度重なる激しい戦いの末、聖杯戦争は幕を閉じる。

 

 

 

 

 

『__士郎、貴方を愛している』

 

 

 

 

 

 

 

それから月日は流れた。

 

 

 

 

 

 

今にも崩れそうなその洞窟内にいるのは白髪の一人の青年__衞宮士郎と、彼に抱えられている一人の女。

 

『桜…すまない、俺は桜を救ってやれなかった…』

 

『そんなこと…ないです。だって先輩、こうして最期に私を見てくれた…私、それだけで嬉しいんです』

 

『桜…』

 

『先輩、あの聖杯戦争が終わってからどっか行っちゃって、どんどん私が知らないところで先輩は変わっていっちゃって……先輩はまだ、セイバーさんを追いかけているんですね』

 

少年はそれに対し、小さくあぁ、と呟いた。

 

『ふふ、嫉妬しちゃうなぁ…羨ましいな…でも、それで良いんです。きっとセイバーさんが先輩の…今にも壊れちゃいそうな先輩の心を支えてるんだと思います。それは、私にはできないんですよね…』

 

『桜…ごめん、本当にごめん』

 

『謝らないでください先輩、こんな我が儘な私のために泣いてくれるだけで、桜は幸せです。__さよなら先輩、どうか先輩が__』

 

『桜…!!』

 

だがすでに彼女は息をしていなかった。彼女の胸に刺さっていた剣を、青年は涙を流しながら消した。

 

『…なぁ、セイバー。愛した民を国のために殺した時、信じた騎士に裏切られた時、お前はこんな辛い思いをしてきたのか?セイバー、俺には耐えきれないよ…』

 

青年は足元に横たわる、彼にとっては家族同然であった女の亡骸を見る。

 

『…いや、この悲しみを…お前はきっと乗り越えてきたんだ。俺もがんばらなきゃ…お前のところに追い付けない…』

 

青年はそう言うと、目前に禍々しく聳えるこの聖杯戦争の元凶を見、一振りの聖剣を投影した。

 

 

 

 

 

 

 

 

『久しぶりだな、遠坂』

 

『衞宮君、あなた…』

 

ロングヘアーの深紅のコートを着たその女は、青年の変わり果てた姿を見て驚愕した。

 

『そう、やっぱりあなただったのね…』

 

『遠坂、前もって言っておくけど…』

 

『止まるつもりはない、でしょ?わかってるわよそんなことぐらい。貴方の師匠だったんだから』

 

それを聞くと青年は困ったような笑みを浮かべた。女はそんな姿が変わり果てた青年の、かつてと変わらない仕草に複雑な表情を浮かべた。

 

『遠坂、桜のこと…すまなかった』

 

青年がそう言うと、女は少しうつむいた。

 

『あの娘だって、きっとわかってた。魔術師ならば覚悟していたはずよ。同情のつもりなら余計なお世話』

 

それを聞くと青年は少し寂しそうにそうか、と呟いた。

 

女はそんな青年を見ていて耐えられなくなったのか、声を荒くして言った。

 

『衞宮君、気付いてるだろうけど私は今日、貴方を止めるために来たの。口で言ってもどうせ聞かないんだから力ずくで貴方を止める。それが師であった私にできることなの』

 

女はそう言うと、コートの中から大きなルビーの宝石の付いた一つの杖と、一振りの奇怪な剣を取り出した。

 

『俺のプレゼント、使ってくれてるのか』

 

青年はその剣を見ると、少し嬉しそうに微笑んだ。

 

『…えぇ、ありがたく使わせてもらってるわ』

 

その剣はかつて青年が、師であった女の元を無断で去った時に残したものだった。

 

『でも悪いけど遠坂、俺はやっぱり進まなくちゃ…』

 

『もしかして、貴方まだセイバーのことを…?』

 

青年は頷いた。

 

『…そう、そういうこと』

 

刹那、青年と女を囲むように、炎の渦が舞い上がる。

 

『だったら私も、本気で貴方を止める…!!』

 

 

 

 

 

 

 

『待ちなさい!衞宮くん!』

 

あらゆる剣刀(宝具)が、女の周りに檻のように突き刺さっていた。

 

先ほどまで女の手にあった剣は、檻の外にいる青年の足元に転がっていた。

 

『ごめんな、遠坂』

 

青年は、ボロボロだった。身体のいたる部位からは血が流れ、それでも青年はすまなさそうな表情を浮かべた。

 

対する女の方は剣の檻に囲われてはいるものの、身体には傷の一つもなかった

 

『本当にごめん。じゃあな、遠坂。今までありがとう』

 

青年は最後にそういうと、その場を立ち去ろうと歩き始めた。

 

『待てって、言ってるでしょ!!』

 

女は叫んだが、それでも青年の歩みは止まらない。

 

『邪魔よ、この!』

 

女は自身を囲う剣にガントを打ち込んだ。だが、贋作ではありながらも宝具である剣らには傷ひとつつかない。

 

『どけっ!このっ!このぉっ!』

 

女は涙を流しながら、剣を殴りつけた。女の綺麗な手からは血が流れ出た。

 

『お願いだから止まってよ!衞宮くん!魔術協会が!聖堂教会が!貴方を今に殺しに来る!だから止まってよ!死んじゃうのよ!?衞宮くん!』

 

すると青年はそれを聞いて、立ち止まって振り返った。

 

『あぁ、やっばり遠坂は優しいんだな…』

 

そう言って微笑むと青年は再び歩きだした。

 

その最後の微笑みは、涙で赤く腫れ上がった女の瞳に深く焼き付いた。

 

『どうして…』

 

女はそれ以上、何も言えなくなった。そしてその青年の微笑んだその顔が、女が見た青年の最後の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__そこは戦場。

 

__辺りには幾つもの亡骸と、数々の剣。

 

__そして中央に立つ男は、満足げな笑みを浮かべた。

 

__身体中を、無数の剣に貫かれて。

 

 

 

 

 

 

 

『__待っててくれ、セイバー。すぐに追い付いてみせるさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと目の前にあるのは妻のアイリスフィールの顔だった。

 

「目が覚めた?切嗣」

 

「あぁ…」

 

「泣いているわ、切嗣」

 

「あぁ…」

 

切嗣は妻の身体を抱き締めた。

 

「アイリ…ごめん。本当にごめん」

 

「大丈夫よ切嗣。私はいつだって貴方の味方よ?だからどうしたのか、話して

?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここに今、葵さんはいるんだ」

 

間桐雁夜は、禅城の屋敷を前にしてそう呟いた。

 

『…雁夜が愛したという女性が、ここに…?』

 

霊体化したセイバーが、そう言った。

 

「あぁ、そうだ。すぐ、近くに葵さんがいるんだ…でも」

 

雁夜は嗜虐気な笑みを浮かべた。

 

「俺はもう、葵さんに会う資格はないんだ」

 

『雁夜…』

 

「気付いたんだ。桜ちゃん助けるっていう俺の願いって、結局は俺が葵さんを好きだからっていう理由なんだよな。時臣を倒して、葵さんを自分のものになんて考えたことだって何回もあるんだ。でもさ…」

 

雁夜は葵と桜と、そして凛の姿を思い浮かべる。

 

「…やっぱり、俺には無理だ」

 

雁夜はそう言うと、禅城の屋敷を去っていった。

 

『いいのですか、雁夜…』

 

「あぁ、これでいいんだよ。でもまだ、聖杯戦争が終わった訳じゃない。作戦を考えるぞ、セイバー」

 

『…わかりました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話す…話すけど、少し待ってほしい」

 

切嗣はそう言うと立ち上がり、何やらでかける仕度を始めたを

 

「この目で、確かめなきゃいけないんだ…」

 

「切嗣…?」

 

切嗣はコートを羽織りながら言った。

 

「だから、待っていてくれアイリ。全てがわかったら、全て君に話すから」

 

「私は行っちゃ、ダメなのね…?」

 

「あぁ、ごめん…アイリ…」

 

アイリは少し考え、それからしょうがない、といった表情を浮かべた。

 

「必ず君に話すから…」

 

そう言うと、切嗣は屋敷を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(確かめなくちゃいけない…)

 

切嗣は思った。もしも、あの記憶が全て真実ならば…

 

(柳洞寺…円蔵山…)

 

 

 

 

 

 

 




こんにちはお久しぶりです

エミヤさん、オリ設定満載です

HFとか、UBWとか色々期待していただいていた皆様には申し訳ないです

Fateルートの改変モノでした

さて、原作のエミヤと違う点というのは、士郎(エミヤ)がセイバーの過ちを正した後にエミヤとなった?ところですね。なんか日本語おかしいですね

UBWからの士郎やエミヤの台詞から、生前のエミヤはセイバーを救うことができなかったようなんです。

そこが本作との違いでしょうか。

なんかうまく説明できなくて申し訳ないです

本作のエミヤの説明はまた別話でもある(はず)のでお待ちを

オリジナルが入ったので、多少辻褄が合わなくなるのも覚悟しております

でも更新は続けますので

それでは






__すみませんでした


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第十八話 王道

遅れました




どうぞ


「はぁ…ダメかぁ」

 

ウェイバー・ベルベットは大きなため息をついた。

 

「おい、坊主。一体何をしているんだ?」

 

まるで科学の実験でもしていたのか、様々な器具を前にして項垂れている己のマスターを見て眉を潜めた。するとウェイバーはなにも言わずに、ただ水の入っている試験管を指差した。

 

「それは…余がとってきた川の水か?」

 

そうだ、とウェイバーはうなずいた。

 

「魔術の痕跡がないか調べてみたんだけど…ダメだ。なんも反応がなかった」

 

「ほほう…」

 

ライダーは神妙な顔になって試験管をつまみ上げそれを見た。

 

「なんだよ…」

 

ウェイバーは敵の陣地の手がかりを掴めなかったことに苛立っていたのか、不機嫌であった。

 

「いやいや、ようやく坊主も魔術師らしいことをしたではないかとな」

 

「余計なお世話だ!まったく」

 

そういうとウェイバーは鞄の中からなにやら箱のようなものを取り出し、さらに丸めていた地図を広げた。

 

「おう、今度は一体なんだ?」

 

ウェイバーが箱の中から取り出したものは、魔術的概念が加えられた、所謂ダウジングの振り子であった。

 

「霊脈を調べるんだよ。もっともここは御三家の遠坂が管理している土地だから、調べたところであんまり意味ないって話なんだけどさ」

 

そう言うとウェイバーは振り子を地図の上に垂らし、一言詠唱を呟いた。振り子はまず、遠坂邸の付近で反応した。

 

「まぁ、当然かな…」

 

続いて間桐邸付近、言峰教会と振り子は反応した。

 

「御三家に監督役の拠点なんか、わざわざ調べなくても…!?」

 

ウェイバーが再びため息をつこうとした時だった。振り子が、今までとは比較にならないほど大きく反応したのだ。

 

「なんだよ…これ…!」

 

不気味なまでに揺れる振り子を見て、ライダーも怪訝そうに顔をしかめた。

 

「場所は…柳洞寺…?なんだってこんなところが…」

 

ウェイバーは眉をひそめ振り子を置くと、地図上の柳洞寺の文字をじっと見つめた。ライダーはボリボリと顎髭をかくと、フフンと喉を鳴らした。

 

「ま、行ってこの目で確かめるしかないわな…」

 

「あぁ…」

 

それにしても先程の異常なほどの振り子の反応。ウェイバーはどこか胸騒ぎがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柳洞寺の境内、円蔵山の地下空洞の入口から少し離れた場所に、時臣と綺礼はいた。

 

「だが…やはりおかしい」

 

時臣は呟いた。

 

「おかしいとは…?」

 

「うむ。聖杯とは無色のもの。悪にも善にも染まらぬからこその万能の願望器。しかし、あの騎士王は明らかにおかしい。無色であるはずの聖杯が、なぜあのような姿で騎士王を喚んだのか…私にはあれが本来の騎士王の姿とは思えない。明らかに悪に犯されているとしか…」

 

「……!!…師よ、騎士王に動きが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__ほほう、こいつは…」

 

柳洞寺の付近の上空にて、宙を駆けるブケファラスに股がりながらライダーはそう呟いた。

 

「な、なんだよ急に」

 

「感じぬか坊主、我らへ接近するこの殺気を…!!」

 

「…!!」

 

ウェイバーは息を呑んだ。そうだ…これは以前にも感じた__

 

「来るぞ…!」

 

轟、という魔力の暴風と共にそれは現れた。黒き聖剣を携えた、その名も高き騎士の王。

淀んだ金色の瞳は、ブケファラスに股がった征服王の姿を捉えた。

 

「久方ぶりだな、征服王…!」

 

騎士王はそう言うと聖剣を振りかざした。途端、目に見えるほどの黒い魔力の一撃が、宙にいるライダーたちへと襲いかかった。

 

「坊主、歯を食い縛れ!」

 

ライダーはそう叫ぶと手綱を振るい、馬を急降下させその一撃を避けた。馬は地上に脚を着け、ライダーは騎士王の方を見た。

 

「フン、騎士王ともあろう者が、随分と手荒い挨拶をしてくれるではないか」

 

ライダーはそう言うとブケファラスの首にしがみついているウェイバーの肩に手を置いた。

ウェイバーは閉じていた目をゆっくりと開くと、前方に構える彼の黒き騎士王を見、そして己の背筋が凍り付くのを感じた。

 

「征服王、自慢の戦車はどうした」

 

「いやそいつがなぁ、アーチャーの奴にだなぁ…」

 

そんな中、ライダーは気恥ずかしそうに頭を掻いていた。

騎士王はそれを聞くとフン、とつまらなそうに息をついた。

 

「なぁ騎士王よ、余も幾つか尋ねたいことがあるんだが…これは聖杯戦争に携わる者として聞くが、柳洞寺といったか、この地の霊脈が余のマスターが言うには異常だと言うんだが。騎士王、貴様は何か知っているか?」

 

だが騎士王はなにも答えなかった。

 

「答えぬか…ふん、まぁそれもよかろう。ではもう一つ、今度は聖杯戦争に携わる者としてではなく、征服王である余が同じ王である騎士王に尋ねる…」

 

ライダーは鋭く騎士王を睨み付けた。

 

「__貴様、何故堕ちた?」

 

ウェイバーには分かった。先程のライダーの問いには何も応じなかった騎士王が、その言葉を聞いた瞬間に、ほんの僅かではあるものの殺気を鈍らせたのを。

 

「バーサーカーならばとは思ったが、違うな。貴様は自分にはクラスがないと言った。何より、貴様は自分の意志でその姿をしている。本来の騎士王ならば、それはさぞかし清廉潔白、まさに戦場の華であったろうよ。だが今の貴様はなんだ?王でありながら、何故そのような_」

 

「黙れ」

 

ライダーの言葉を、騎士王の声が遮った。ウェイバーは先程よりも何倍にも膨れ上がった騎士王の殺気を、体中が痛む程に感じていた。

 

「まさか貴様の口からそのような世迷いごとを聞くとは思わなかった。征服王、貴様の下らぬ話を何度も聞くつもりはない。これが私だ。私の本来の、あるべき姿だ。」

 

騎士王が聖剣の切っ先をライダーへと向ける。

 

「目障りだ。切り伏せてくれる…!!」

 

「…やはり、貴様とは争うしかないようだな」

 

ライダーはそう言うと、腰からキュプリオトの剣を抜いた。

 

「__王とは」

 

ライダーを中心に、風が吹き荒れる。

 

「王とは、たとえそれが善であろうが悪であろうが、いかなるモノからの干渉を受けず、染まらず、己が王道を歩む存在。__それが、王である!」

 

砂塵が巻き起こり、焼けつくような大砂漠が広がる。

 

「__集え我が同胞よ!今宵はこの堕落した騎士の王に、我らが歩んだ王道を刻み付けるのだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいセイバー、本当にこの方角なのか?」

 

間桐雁夜は言った。すると彼の背後に、漆黒の鎧を身に纏った男__セイバーが姿を現した。

 

「えぇ、間違いありません。以前のような戦車に乗ってはいませんでしたが、確かにあれはライダーでした。それに…」

 

「…なんだ?」

 

「…ライダーの行った方角に、もう一つのサーヴァントの気配…騎士王です」

 

「…そうか」

 

雁夜は、先日セイバーが騎士王との戦闘で、雁夜の命令に応じずに暴走した時のことを思い出した。セイバーもそれを分かっていたのか、何やら申し訳なさそうに言った。

 

「二度と、あのような醜態は晒しません」

 

「…いや、お前を制御しきれていなかった俺にも問題はあった。でも今の俺なら、お前を万全の状態で戦わせてやれる」

 

「雁夜…」

 

「行くぞセイバー」

 

雁夜はそう言うと、セイバーの指示した方角へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「調子はどうかね?アイリスフィール」

 

切嗣が発ってから時は流れ、キャスターがアイリの前に姿を現した。

 

「えぇ、何も問題はないわ…」

 

アイリはどこかぎこちない笑みをキャスターへと向けた。

 

「…マスターがどこかへ向かった向かったようだが…なにか知らないかね?やれやれ、サーヴァントに何の相談も無しに行動されては困るんだがな」

 

参ったものだ、と呟きながらキャスターはフッと笑った。

 

「…アイリスフィール?」

 

だがすぐに、アイリの様子がおかしいことにキャスターは気付いた。

 

「あの人…切嗣、泣いてた…」

 

「…どういうことかね?」

 

アイリは震える体を抑えるように、両手で自身を強く抱き締めた。

 

「昨日帰ってから、切嗣はずっと不安定でずっと泣いていたわ。寝ているときだって。そして起きたら、何かに操られたかのように出ていって…その時、あの人は私に『ごめん』って…」

 

「……」

 

「ねぇキャスター?貴方は何か知っているんでしょう?」

 

「…あぁ」

 

しばらく沈黙が続き、キャスターがようやく口を開いた。

 

「…君には、真実を知る権利がある」

 

「え…?」

 

「…アイリスフィール、一緒に来てもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、その入口ですか…」

 

「うむ…」

 

騎士王が発ったとのアサシンからの報告を受け、時臣と綺礼は大聖杯が設置されている地下空洞への入口に来ていた。

 

「綺礼、アサシンはこの入口の付近で監視させておいてくれ」

 

「わかりました」

 

「それにしてもこの洞窟内から流れてくる空気、何かおかしい」

 

「えぇ…普通ではありません」

 

時臣は眉をひそめた。やはり妙だ。何か異常な事態が起こっていることには間違いない。

 

その時だった。

 

「綺礼様」

 

綺礼の背後にアサシンが姿を現した。

 

「こちらへ向かってくる者が」

 

「なに…?サーヴァントか?」

 

「いえ…」

 

時臣たちがやって来た方向とは逆の方向から、その男が姿を現した。

 

「お前は…!」

 

黒いコートを羽織った男__衞宮切嗣が、時臣と綺礼へと歩み寄る。

 

「遠坂時臣だな…?」

 

綺礼は咄嗟に身構えた。__だが

 

「言峰綺礼、妙な真似はするな。僕の部下が、隠れてすでに君たちの命を狙っている。僕を殺すのは容易だが、その時は君たちも死ぬ」

 

「貴様…」

 

切嗣は綺礼に構うことなく、時臣の方へ振り返った。

 

「遠坂時臣、アインツベルンの代理マスターとして聞く。お前は大聖杯についてどこまで知っている?」

 

「…なぜこの場所を?」

 

時臣は内心焦ってはいたが、毅然とした態度で切嗣に質問した。

 

「質問に答えろ、遠坂時臣。さもないと殺す」

 

切嗣は時臣を睨み付けた。

 

「…大聖杯が聖杯戦争の核であるということとしか知らない。この目で直接見たことはおろか、この洞窟へ入ったことすらない」

 

「…そうか」

 

切嗣はしばらく沈黙すると言った。

 

「…まず僕は、君たちが僕に何かしない限り、君たちに危害を加えるつもりはない」

 

「な…!!」

 

その言葉には、時臣も綺礼も思わず驚愕した。

 

「何なら強制(ギアス)を使用しても構わない」

 

「…待て。こちらの質問にも答えてもらおう」

 

時臣は冷静さを取り戻し言葉を続けた。

 

「騎士王については知っていると思うが、先程その騎士王がこの洞窟から出てきた。何か知らないか?」

 

「師よ…!!」

 

綺礼は、時臣がこちら側の情報をこの男に公開したことに思わず声をあげたが、時臣はそれを制止した。

 

「…それは本当か?」

 

「本当だ」

 

再び切嗣は何かを考え、それから口を開いた。

 

「…事態は一刻を争う。遠坂時臣、すぐにでも大聖杯の元へ行かなくてはいけない」

 

「…それは、どういうことかね?何か知っていると言うのか?」

 

時臣は尋ねた。

 

「自分の目で確かめたほうが早い。それは僕も同じことだが」

 

「……」

 

時臣はしばらく考えた後、口を開いた。

 

「わかった。では、アインツベルンと遠坂は一時休戦としよう」

 

「…話が早くて助かる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうもお久しぶりです。SHIKIGamiです。
更新遅れてしまい申し訳ありません。
おまけに時間かけたくせになんか微妙な終わりかたに…

話は変わりますが

アニメ化はUBWだったとは…!
これはびっくりでした。
おまけにhfが映画化だと…!?

今年の型月はやはり熱いですね。
まだ先のことではありますが
楽しみが増えてなによりですね。



それでは


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第十九話 否定

お久しぶりです



どぞ


「ねぇ、キャスター…どこへ行くの?」

 

アイリスフィールは、自分を抱き抱えながら疾走するキャスターに訪ねた。それでもキャスターはそれに答えることなく、ただただ走り続けた。

 

長い沈黙の後、ようやくキャスターが口を開いた。

 

「…アイリスフィール、君の身体はあとどれくらいが限界なのかね?」

 

「え───」

 

アイリは息を呑んだ。このサーヴァントは、その意味を理解しているのだろうか。

 

「言い方を変えようか…()()()()()()()()()()()()()()()アイリスフィールでいられなくなる?」

 

「どうして…どうしてそれを知って…!!」

 

キャスターはフッと笑った。

 

「これでも、魔術師(キャスター)のサーヴァントなのでね。それとなく分かるものさ…いや」

 

キャスターはそこまで言うと、独り言のように呟いた。

 

「…私にも、君と同じようなホムンクルスの家族がいたんだ」

 

「…え?」

 

アイリは困惑した。この男はホムンクルスではない。それは自分でさえ分かることだ。ではなぜこの男はそのようなことを言うのだろうか。──だが

 

「…その人は、どうなったの?」

 

何故だろう。他にももっとたくさん聞きたいことがあるのに、アイリは一番にそれが気になったのだ。

 

キャスターはそれを聞くと立ち止まり、抱えていたアイリをゆっくりと下ろした。

 

「すまない…私には、どうすることもできなかった…」

 

キャスターは顔をしかめながら、アイリにそう言った。アイリは、なぜキャスターが自分に謝るのかわからなかった。しかし、今まで見たことのない表情を浮かべながらそう言うキャスターを見ると、何も言えなくなった。

 

「ごめんなさい…つらいことを思い出させてしまったわね…」

 

キャスターはそれを聞くと、さらに顔をしかめた。

 

「よしてくれ…君に謝られることではないんだ」

 

「いえ…」

 

キャスターは一度目を瞑り、そして開くと口を開いた。

 

「話をもとに戻そう、アイリスフィール。君はあとどれくらいが限界だ?」

 

「…あと一人か二人吸収したら、満足には動けない。それ以上は、きっと…」

 

アイリは寂しげにうつむいた。

 

「なるほど…一か八かといったところか」

 

「…?」

 

「アイリスフィール、聖杯戦争は今夜、私が終わらせる。聖杯戦争そのものをだ。だから君が、アイリスフィールでいられるうちに君に聖杯戦争の真実を見せる」

 

「…!?キャスター、それはどういう…!」

 

そう言うと、キャスターは再びアイリを抱えて駆け出した。

 

「言っただろう、真実を見せると…おそらく、切嗣がいる場所だ」

 

「切嗣が…?」

 

「もうすぐだ…!?」

 

キャスターが再び足を止めた。

 

「どうしたのキャスター…?」

 

場所は柳洞寺付近。キャスターは静かにアイリを下ろした。

 

「すまないアイリスフィール。どうやら、そう簡単に事はいかなさそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──吹き荒れる灼熱の風

 

──砂漠を照りつける太陽

 

──弓形に広がる無窮の蒼天

 

黒き騎士王の前には、征服王であるライダーを中心に出現した『王の軍勢』

 

「フン…」

 

それでもなお騎士王は物怖じすることなく、黒に染まった聖剣を構える。

 

「ライダー…」

 

不安げに、己のサーヴァントを見上げるウェイバー。

そんなウェイバーを案じたのか、ライダーも険しくしていた顔を緩め微笑んだ。

 

「心配するな、坊主」

 

ライダーはそう言うと再び騎士王へと目を向けた。

 

「まぁ、ただでは済みそうになさそうだわな…」

 

「…我がサーヴァントよ、ウェイバー・ベルベットが令呪をもって命ずる」

 

ウェイバーは手を掲げると、刻まれた令呪が光を放つ。

 

「必ず、この戦いに勝て」

 

瞬間、ライダーの纏う王気(オーラ)が力に満ちる。

 

「坊主…」

 

ウェイバーはライダーの顔を見上げた。

 

「…お前まで、そんな弱音吐いてどうすんだよ!お前の王道を見せつけてやるんだろ!?」

 

ライダーはそれを聞くと、フフンと喉をならした。

 

「流石は余のマスター!そうだ、そうだとも!」

 

ライダーは吼えるように声を上げると、キュプリオトの剣を掲げた。

 

「聞いたか益荒男どもよ!今宵の敵は、此度の戦において他の英霊共と比べても最大級の力を持っておる!しかし!我らが覇道の前には、たとえ相手がいかなる敵であろうとも怯むことはない!」

 

ライダーは剣の切っ先を騎士王へ向けた。

 

「騎士王の歪んだ王道に我らが歩んできた道を見せつけてやるのだ!それが我らの勝利となろうぞ!」

 

ライダーの怒濤の掛け声に、後ろに控える軍勢も閧を上げる。

 

「さぁゆくぞ!」

 

ライダーが先陣を切り、軍勢もその後に続くようにして駆け出す。

 

『AAAALaLaLaLaLaie!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雁夜!私の後ろへ!」

 

「なっ!?」

 

柳洞寺の付近で、セイバーが実体化しながら叫んだ。

 

──その瞬間

 

「…フン、そうか。貴様がまだ残っていたか」

 

アイリスフィールを抱えた、紅い外套を身に纏ったサーヴァントが姿を表した。

 

「あれが…アインツベルンのサーヴァント…」

 

雁夜が、紅い男を見てそう呟いた。その男──キャスターは、アイリを下ろすと二人の方を見た。

 

「その通りだとも、間桐雁夜…そして、サー・ランスロット」

 

『!!』

 

セイバーと雁夜は驚愕した。雁夜はともかく、セイバーの真名まで知られていたのだ。

 

「そう驚くことはないさ。あれほど派手に暴れていたんだ。あれで真名を隠していたつもりかね?」

 

「な…」

 

「…隠れて見ていたということですか」

 

──先日の騎士王とセイバーの戦い。

 

たしかに、あの戦いを見ていればセイバーの真名も明らかであろう。

 

「人聞きの悪い言い方はよしてくれ。戦争で情報収集をするのはおかしいとでも?」

 

フッとキャスターは笑った。

 

「貴殿は…キャスターとお見受けするが、如何に?」

 

セイバーは残りのサーヴァントから、紅いサーヴァントのクラスを推測する。

 

「フン、今さらそんなことを隠してもしょうがないか」

 

キャスターはそう言うと、アイリに後ろへ下がるよう目で指示をする。

 

「すまないアイリスフィール。少し時間がかかるかもしれん」

 

「…大丈夫よキャスター。私の命、貴方に預けます」

 

「…任された」

 

キャスターはその手に二振りの中華剣を出現させる。

 

「魔術師のサーヴァントが、剣の英霊である私に剣で挑むのですか…?」

 

セイバーは驚いたように言った。

 

「やれやれ、魔術師は白兵戦に勝機がないとでも…?」

 

キャスターは肩をすくめ、呆れたような表情を浮かべた。

 

「そうですか…」

 

「セイバー、全力で戦え!」

 

雁夜は、セイバーにアロンダイトの使用を許可する。

 

「…わかりました。しかし、呉々も無理のないように」

 

セイバーはそう言うと、一振りの剣をその手に握った。瞬間、セイバーを覆っていた黒い霧のようなものが消え、セイバーの全貌が明らかになる。

 

セイバーは剣を構え、キャスターの方を見た。

 

「1つ、質問がある」

 

キャスターも剣を構えながら言った。

 

「君は、騎士王をどうするつもりかね?」

 

「なぜ、貴殿がそのような?」

 

キャスターはニヤリと笑った。

 

「なに、まだ君が彼女の過ちを正そうとなど考えてたならば、それはとんだお門違いだと思ってね」

 

「…どういう意味です?」

 

セイバーの声色が少し曇る。それに対しキャスターはやれやれ、と呟いた。

 

「言わなくてはわからないかね?君に、彼女は救えないと言っている」

 

「──!!貴殿に何が──!!」

 

「…あぁわかるとも、少なくとも君よりはな」

 

「!!」

 

セイバーは剣を構え直し、その切っ先をキャスターへ向けた。

 

「…だから、君にもわからせてやるさ」

 

キャスターも腰を落とし、低く構えた。

 

「騎士なんぞに、彼女は救えないことを…!!」

 

 

 

 

──刹那、剣戟の火花があがる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久しぶりです。名前変えました枝豆畑です。

本当に久しぶりに書いたので、すこし文章に違和感あるかもしれませんが次回までにはなんとかします。手抜きとかじゃないです。いや本当に。

ちょっと今回は進展がなくてちょっとあれですね。

近いうちにまた更新します。(うそつけ)

それでは、また


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第二十話 救い

ども




遅くてごめんなさい



どぞ


「はぁぁぁぁっ!」

 

セイバーの振るった横薙ぎの一閃。キャスターはそれを器用に剣の腹で受け流しながら、片方の剣をセイバーの首筋めがけて振るった。

 

「──!」

 

セイバーは体を反るようにしてそれを避け、キャスターから距離をとった。

 

「…なるほど、確かに貴殿は剣を振るうに値する腕の持ち主だ。それにそれは、才能ではなく貴殿による武練の賜物。キャスターには惜しい」

 

「…生前、厳しい師がいたもんでね。才能の無かった私に、剣というものを教えてもらった」

 

キャスターはフッと笑った。そして再び剣を構える。

 

「フッ…!」

 

キャスターが間合いを一気に詰め剣を振りかざすと、セイバーはそれを受け止めずに後退することでその一撃避けた。

 

「生憎、時間があまり無いものでね…!」

 

「そうですか…ならば剣を振りながら私の質問に答えてもらいます」

 

セイバーは剣を握り直すと、キャスターへと斬りかかった。

 

「何故…!私では王を救えない…!?」

 

ガキン、と鈍い音をたてながらキャスターの双剣はその一撃を受け止める。

 

「フン、愚問だな。むしろ私は、何故裏切りの騎士である君が、そうまでして彼女に固執するのか聞きたいものだ…!」

 

セイバーは弾かれた剣の軌道をそのままに再び剣を振るう。

 

「私の願いは、王にこの身を裁かれること…!」

 

キャスターは舌打ちをすると、腰を捻りながら左上からきた剣を受け流す。

 

「だが、今のようなあの王に裁かれることを私は望んだのではない…!」

 

セイバーはそのまま剣に力を籠める。

 

「何故、王があのような姿になってしまったのかは分からない…ただ…」

 

体勢の悪いキャスターはその重みに耐えきれず、大きくバランスを崩した。

 

「もしも…もしも、あの丘に…国の結末に絶望し、その身を悪に委ねたとしたならば…!」

 

セイバーは剣を振りかざす。

 

「元凶でもある私には、その事実に耐えきれない…!」

 

「……ッく!」

 

直撃は避けられたものの、セイバーの一撃はキャスターの左肩に傷を負わせた。

 

「…!キャスター…!」

 

アイリは一瞬遅れて、キャスターに治癒をかける。

 

「…すまない、アイリスフィール。だが、これ以上の魔術の行使は君の命に関わる」

 

すなわちキャスターは、これ以上は助けるなとアイリに言ったのだ。

 

「キャスター…」

 

キャスターはゆっくりと立ち上がると、再び剣を構えた。

 

「…なるほどな、つまりは自分のためという訳だ」

 

「……ッ!」

 

セイバーは駆け出した。そしてキャスターと剣戟を交わす。

 

「たしかにそうかもしれない…!たが、私が王に…!かつて誰もが理想とした王に戻ってほしいという望みに、偽りはない…!」

 

「フン…!そうかもな!だがそれも、結局は理想と名の変えたただの押し付けに過ぎん…!」

 

キャスターはそう言うと、受けていたセイバーの剣を左に委ね、右に持った剣をセイバーへと振りかざした。

 

「…何故です。貴殿こそ、なぜそこまで我らに…?」

 

セイバーは左手でキャスターの一撃を捉えるとそう言った。

 

「…一つ、良いことを教えてやろう」

 

「…?」

 

互いの剣が拮抗し合う中、キャスターは言った。

 

「騎士王があのような姿になったのは、君の言う『国の結末に絶望したから』などという理由ではない」

 

「な…」

 

「つまり君の考えは全てお門違いということだ…!」

 

キャスターはそういうと、セイバーの腹部を蹴り飛ばした。

 

「ッ!…ではなぜ…なぜ、王はあのような姿に…!」

 

セイバーは、崩れた体勢を立て直すと叫んだ。

 

キャスターは何かを考えるかのようにしてしばらく目を瞑り、そして瞼をゆっくりと開くと言った。

 

「…それはおそらく、未熟者であった私のせいなのだろう」

 

 

 

 

 

 

 

「「AAAALaLaLaLaLaie!!」」

 

征服王の咆哮とともに、数え切れないほどの軍勢が一斉に駆け出した。

 

 

 

「…数による暴力、か」

 

騎士王は構えていた剣を握り直した。瞬間、騎士王の身体中を膨大な魔力が駆け巡る。騎士王の周囲では砂嵐が巻き起こり、さながら騎士王を中心に竜巻が起こっているかのようだった。

 

「…くだらない。いいだろう、数だけでは覆すことの出来ない、本当の暴力を見せてやろう」

 

轟、という音をたてて、黒き聖剣が唸りをあげた。

 

 

 

 

「おい、ライダー…!あれって…!」

 

前方の騎士王を見て、ウェイバーは息を呑んだ。暴風の中心に、剣を構える騎士王。

 

「不味いって!…あんなのまともに喰らったら…ラ、ライダー…?」

 

ウェイバーの呼び掛けに応じることなく、そのまま馬を駆り続けるライダーに、ウェイバーは焦った。

 

騎士王のあの構えは、以前ギルガメッシュに放ったあの宝具の構えだ。いくらライダーでも、直撃を受ければ敗北は免れない。

 

それでもなお馬を駆り続けるライダーに、あるいは作戦でもあるのだろうか。

 

「──!!」

 

その時だった。騎士王の纏う魔力が、全て剣へと集まるのをウェイバーは感じた。

 

「ラ、ライダー!!」

 

 

 

 

「…征服王、その総てを打ち砕く」

 

騎士王はフッと笑うと、聖剣が黒き魔力を帯び巨大化する。

 

「──我が旭光に飲まれるがいい」

 

騎士王が、その巨大な暴力を掲げ、そして振りかざした。

 

 

「"約束された───勝利の剣""!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう…ことですか」

 

セイバーは困惑していた。

 

「…騎士王は…いや、彼女の理想は、そんなことでは倒れない」

 

「…!!」

 

「あるとしたら、それは恐らく本当に覆すことの出来ない、何か外的要因のせいだろう」

 

キャスターはゆっくりとセイバーへ歩み寄る。

 

「それに俺は、心当たりがあるという訳だ」

 

「それは、なんだというのですか…?」

 

キャスターはフッと笑った。

 

「答えるつもりはない。これ以上は役者が多すぎるのでね」

 

「…そう、ですか」

 

セイバーは沈黙した。

 

「遅すぎた、とは思わないのかね」

 

「なに…?」

 

「生前彼女を救うどころか、彼女を結果的に裏切ることになった君が、死んで英霊となった今になって"王を救う"と考えている。それを君は、遅すぎたとは思わないのかね?」

 

セイバーは剣を構えた。それに対して、キャスターも同様に剣を構える。

 

「たしかに、おこがましい考えかもしれません。──ですが」

 

「…ッく!?」

 

セイバーは、キャスターとの間合いを一瞬で詰め、キャスターへと斬りかかっていた。

 

「──貴殿に、何が分かるというのだ!!」

 

セイバーの力任せの一撃は、キャスターの防御ごと弾き飛ばすには充分だった。

大きく吹っ飛ばされたキャスターは、塀に背中から衝突した。

 

「…やれやれ、手荒な騎士だ」

 

キャスターは口から血を吐き出すと、立ち上がった。

 

「…形として見せなくては、分からないか…」

 

セイバーは追い討ちをかけるように、キャスターへと駆け出した。

 

「─I am the bone of my sword(体は剣でできている).」

 

キャスターは弓を投影すると、セイバーへと矢を放った。

 

「─Steel is my body(血潮は鉄で),and fire is my blood(心は硝子).」

 

「これは…!!」

 

セイバーはそれを咄嗟に避けたが、足元に刺さった矢を見て、以前もこのようなことがあったことを思い出した。

 

「─I have created over a thousand blades(幾度の戦場を越えて不敗).」

 

「この感覚は、一体…?」

 

アイリは、キャスターから今までとは違う魔力の流れを感じた。

 

「─Unaware of loss(ただの一度の敗走はなく). Nor aware of gain(ただの一度の勝利もなし)

 

その時だった。キャスターを中心に、剣が突如として出現した。

 

「─Withstood pain to create weapons(担い手はここに独り)

 

「こ、これは…!?」

 

広がり続ける剣の出現に、今まで沈黙していた雁夜も声をあげた。そして冷静さを取り戻したセイバーも、雁夜を庇うようにしてキャスターと相対する。

 

「─waiting for one′s arrival(剣の丘で鉄を鍛つ).」

 

誰もが、驚愕していた。

 

「─I have no regrets This is the only path(ならば、我が生涯に意味は不要ず)

 

──その、無数の剣と

 

 

My whole life was(この体は)─"Unlimited Blade Works(無限の剣でできていた)"」

 

 

──その、キャスターの世界に

 

 

 




お久しぶりです。枝豆です。

近頃なかなか執筆の時間が厳しくなっておりましてと、まずは言い訳です

遅くても2週間に一回は更新したいですね…

いきなりですがFateアニメ、やったー!やりましたね!

とか言っておきながらこれ(last night 書いてたんで小生、まだ視聴しておりませぬ汗

みーたーいー

話はさておき本編へ

キャスターの詠唱は、士郎のほうになっております。

理由はたくさんあるのですが、解釈は皆様にお任せ致します。

質問などあれば感想欄でお答えはいたしますので

それでは


追記

エミヤさんの台詞はランチャーさんのオマージュ



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第二十一話 光

おひさしぶりです




どぞ


轟と音をたて、聖剣の一撃がライダーへと襲いかかる。

 

だが、その時だった。

 

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

 

「──!!」

 

王の軍勢の右翼側が、ライダーとウェイバーの前へ乗りだし──

 

「──ぁ」

 

その黒い暴力に呑まれた。

 

「ふんっ!」

 

だがその一瞬、兵たちが聖剣に呑まれるその一瞬に生じた僅かな隙に、ブケファラスは聖剣の範囲から脱する。

 

「うぅわっ!」

 

ブケファラスの大きな跳躍に、ウェイバーは声をあげる。

 

そして自分たちが数秒前にいた場所を振り返り見る。そこは、聖剣の一撃により焦土と化し、その横にいた多くの兵士たちの姿は無く、その全てが消滅したことを示すように魔力の粒子が散っていた。

 

「…間一髪だったな」

 

ブケファラスの手綱をとりながら、ライダーが言った。

 

「間一髪だったって…お前…」

 

ウェイバーが声を震わせながら、焦土と化した場所を指差した。

 

「みんなが…お前の仲間が、僕らのために…」

 

誰かを守るために、自らを犠牲にする。ウェイバーはそれを目の当たりにした。王の軍勢により喚ばれた兵士は皆過去の英雄である。つまり過去に既に死んでいることに違いはない。その事実をウェイバーは頭の中では理解しているが、目の前で誰かが死ぬことが、ましてや自分たちを守るために犠牲になったという現実に、ウェイバーは恐怖で体が震えていた。

 

「ウェイバーよ…」

 

ライダーが口を開いた。

 

「王とは獰猛で、残忍で、己の野望のためならば如何な犠牲をも問わぬ…例え、それが大切な余の臣下(盟友)であってもな」

 

「そんな…!」

 

「だがそれでも、こやつらはその事実を受け入れ、余の臣下として共に駆け抜けてきたのだ。余について来たやつらはそんな馬鹿どもばかりだ…だからこそ」

 

「……」

 

「だからこそ、命を懸けようという余の臣下たちの意気込みに、報いてやらねばならん」

 

ライダーは騎士王に向かって叫んだ。

 

「なぁ騎士王よ。貴様の自慢の騎士共は、貴様のために命を捨てられたか?」

 

 

 

 

 

「…」

 

征服王の質問に対し思考する。

 

騎士達は、自分のために命を捧げてくれただろうか。

 

もちろん、王のためにとその身を犠牲にしてくれる騎士もたくさんいただろう。

 

だが、全てがそうとは騎士王は思わなかった。

 

─もしも自分が生前、征服王のような暴君だったらどうだろう?

 

─自分の理想を、騎士達と共に追いかけることができたならば?

 

「─国は、滅びなかった」

 

騎士王は聖剣を構え直した。

 

「世迷いごとだ…!」

 

再び、聖剣に膨大な魔力が帯びる。

 

騎士王は、自分が苛立っていることに気付いた。そしてそんな自分に怒りを覚える。

 

「来るがいい、征服王」

 

騎士王の怒りはそのまま魔力となる。

 

「──"約束された"」

 

轟と音をたて、再び聖剣が黒く輝く。

 

「"勝利の剣"──!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは…固有結界」

 

セイバーが口を開いた。

 

「これが…キャスターの心象風景なの…?」

 

アイリスフィールは、自分の頬に涙が伝うのを感じた。

 

「なんて…寂しい…」

 

キャスターのこの孤独な世界に、アイリスフィールは涙を流したのだ。

 

──無限の剣、迸る炎、空には巨大な歯車

 

──この世界の支配者たるキャスターは、剣に囲まれながら佇んでいた。

 

「…その通りだ」

 

閉じていた瞳をゆっくりと開くと、キャスターは言った。

 

「一人の男が、ただひたすら走り続けたどり着いた世界」

 

ゆっくりと、キャスターはセイバーへと歩み寄る。

 

「貴殿は…一体…」

 

「…フン、君はそればかりだな」

 

キャスターは皮肉気な笑みを浮かべる。

 

「貴殿は私のことを心まで見透かすかのように知っている。なのに私は貴殿のことが何一つわからない…」

 

「…そうだろうな。ただ、君は分かりやすい」

 

キャスターは手をかざした。すると、それに連れられるように地面に突き刺さっていた剣が宙へ浮かぶ。

 

「…!!」

 

剣軍はセイバーへと刃を向けた。

 

「往け…!」

 

キャスターの号令と共に、剣の雨がセイバーへと降り注ぐ。

 

「…!!」

 

セイバーは剣を構え、それらを弾く。

 

「っく!おぉぉぉぉっ!」

 

その数えきれないほどの必殺の数々に、セイバーは神速で対応し続ける。

 

「──はっ!」

 

そして最後に、身の丈程の巨大な剣を殴るように弾き飛ばすと、キャスターもほう、と声を漏らした。

 

「見事だ。流石は湖の騎士といったところか」

 

そしてキャスターは一本の剣を出現させ、先程と同じようにセイバーへと放った。

 

「っ!?」

 

セイバーはそれを弾いた。しかし弾かれて足元に落ちたその剣を見て驚愕する。

 

「これは…"無毀なる湖光"(アロンダイト)!?」

 

キャスターの放った"無毀なる湖光"は静かに消滅した。

 

「その通り。今私が放ったのは君の剣の"贋作"だ」

 

「なんだと…?」

 

担い手であるセイバーには分かる。キャスターが贋作と呼んだ今の剣が、限りなく真に迫っていることを。

 

「宝具の贋作を作り出すなんて…そんな…」

 

アイリスフィールも驚愕する。宝具とは、その担い手である英雄を英雄たらしめる象徴。そのオリジナルに限りなく近い贋作を作り出すということがいかに規格外であることか。

 

「では…ここにある剣も全て…」

 

「あぁ、私が作り出した幻想に過ぎん」

 

セイバーは剣を構えた。

 

「たしかに…これほどにまで真に迫った物を作り出すことは賞賛に値するでしょう。しかし、貴殿が私に見せたかったのは、ただの貴殿の幻想という訳ですか…?」

 

セイバーは言った。

 

「…たしかに、ただの幻想かもしれん」

 

「──っ!!」

 

セイバーは剣を握り直し、必殺の構えをとる。

 

「だがその幻想の中にも、答えはある」

 

「──?」

 

キャスターとセイバーが立つ間に、魔力の粒子が集まり形を成す。

 

「そ…そんな…それは…!!」

 

それは剣となり、姿を現した。

 

墓標の如く突き刺さる剣の中で、一際強い輝きを放つ黄金の剣。

 

「…それは…それは王の…!」

 

「…"勝利すべき黄金の剣"(カリバーン)。かつて騎士王の失われた剣」

 

キャスターは黄金の剣に近づくと、それを地面から引き抜いた。

 

「…何故、貴殿がそれを…!」

 

「…」

 

キャスターはセイバーの問いに応じること無く、剣を構える。

 

「っ!!」

 

セイバーも剣を再び構え直す。

 

「…だが、それも貴殿の幻想に過ぎない…!!」

 

セイバーは言った。

 

「その通りだとも。この剣も、私の作り出したものだ。だが侮るな湖の騎士、これは私一人が作り出したものではない」

 

「…!?」

 

「来い!サー・ランスロット!」

 

キャスターの持つ"勝利すべき黄金の剣(カリバーン)"が、その輝きを増す。

 

「っ!!はぁぁぁぁぁ!!」

 

セイバーも、"無毀なる湖光(アロンダイト)"に己が最大の魔力を籠め、必殺の一撃を放つべく駆け出した。

 

「おぉぉぉぉぉ!!」

 

キャスターも駆け出し、二人の間合い一瞬にして詰められる。

 

膨大な魔力が渦となり、二人を囲った。

 

互いの宝具のレンジに互いが踏み込み、真名を解放する。

 

「──"無毀なる(アロン)"」

 

「──"勝利すべき(カリ)"」

 

「──!!」

 

その時、セイバーはキャスターの剣が放つ光の中で、それを見た。

 

──"勝利すべき黄金の剣(カリバーン)"を握るのは褐色の紅き武人ではなく…

 

(あぁ…)

 

──赤毛の少年と、その横にいるのは

 

(そうですか…)

 

──かつての、騎士の王

 

(それが、貴方の得た答えなのですね…)

 

「──"黄金の剣(バーン)"!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事か、坊主」

 

ライダーに声をかけられ、ウェイバーはゆっくりと目を開いた。

 

左翼の軍勢は、右翼同様ほぼ壊滅していた。

 

「騎士王のやつめ、鼻から兵を狙ってきおったわい」

 

苦々しげに、ライダー言った。

 

「また、仲間を随分と死なせてしまったな…」

 

いつもの覇気とは程遠く、ライダーは呟いた。

 

ウェイバーは腕にある令呪を見た。

 

(これを使えば、もしかしたら騎士王を倒せるかもしれない…)

 

しかしそこで、先日のアーチャーとの戦いが頭を過る。

 

(失敗したら、今度は本当に…でも)

 

「ライダー、令呪を使おう」

 

ウェイバーは令呪をかざした。

 

「…アーチャーのやつの時と同じようにやるつもりか?」

 

ウェイバーは黙った。失敗したら死ぬ。それは互いに分かっていた。

 

「ふん…見違えたぞ坊主。それが意味することを分かっていながら、なお恐れぬか」

 

「馬鹿言え。僕だって死ぬほど怖いさ。でも、これ以外方法がないんだよ…!」

 

ウェイバーの声は震えていた。

 

「あぁ、それでいい」

 

ライダーは笑った。

 

「え…?」

 

「…ミトリネス!」

 

ライダーが叫ぶと、一人の兵士が姿を現した。

 

「王よ」

 

ライダーは頷くと、ウェイバーの体をつまみ上げた。

 

「な、なにするんだよって、うわぁ!」

 

宙を舞い、ミトリネスと呼ばれた兵士に抱かれる。

 

「ライダー!どういうつもりだよ!」

 

馬を駆り並走しながら、ウェイバーは叫んだ。

 

「すまんなぁ坊主。余も心外この上ないんだが、仕方ないのだ」

 

「何言ってるんだよ!令呪を使えば…!」

 

ミトリネスの駆る馬が、ライダーから少しずつ遠ざかる。

 

「余はなぁ、もう、そんなあやふやな物で誰かを死なせるのは嫌なんだ…それに」

 

ライダーが微笑んだ。

 

「征服王たる余は、臣下との約束を守らねばならんのだ」

 

「臣下って…それに約束…?」

 

「"坊主を死なせやせん"とな、だから余は、今確実に守れるものを守る」

 

「!!」

 

そんな約束を、したかもしれない。いや、自分はあれをライダーの一人言程度にしか認識していなかった。

 

「勝手なこと言うなよ!おい!ライダー!」

 

前方には、再び聖剣を構える騎士王の姿が見える。

 

「生きろ、ウェイバー…!」

 

ライダーはそういうと、ブケファラスをさらに加速させる。

 

「待てよ…ライダー!!」

 

騎士王が宝具の真名を解放する声が響く。

 

次第に小さくなるライダーの姿に、ウェイバーは手を伸ばす。

 

しかし、一瞬空間が歪んだと思うと、気が付けば辺りは灼熱の砂漠ではなく、柳洞寺の境内の林の中だった。

 

ミトリネスはウェイバーに一礼すると、静かに消滅した。

 

ウェイバーは腕にあった令呪を見る。残された一画には以前のような力は無く、ライダーとの魔力のパスも感じられない。

 

「…ふざけんなよ」

 

ウェイバーの体は震えていた。

 

「僕が…もっと早く令呪を使っていれば…あいつだって!」

 

令呪の跡をウェイバーは握りしめる。

 

「僕は…何もできなかった…!」

 

その時、林の奥から人影が姿を現した。

 

「!?」

 

銃を構えたその人物は、ライダーではなかった。

 

「貴方は…ウェイバー・ベルベットですね」

 

その人物は髪を短めに切り揃えた目付きの鋭い女性だった。

 

「サーヴァントは…いないようですね」

 

「殺せよ…」

 

ウェイバーが口を開いた。

 

「ライダーはもういない。僕は負けたんだ。でも、それでも僕はマスターだ!お前、聖杯戦争の関係者だろ!?だったら、敵である僕を今殺せよ!」

 

ウェイバーは、自分がこんなに大きな声を出せるとは知らなかった。

 

「…それは、できません」

 

「…!!」

 

その女性は、銃を下ろした。

 

「指示により、私は今出来る限りの人を救うように命令されています。故に、貴方を殺すことは出来ない。ここは危険です。サーヴァントがいないなら、即刻に去りなさい」

 

女性はそういうと、再び林の奥へと姿を消した。

 

ウェイバーは急に足に力が入らなくなり、地面に膝をついた。

 

(生きろ、ウェイバー…!)

 

「…!!」

 

ライダーが最後に言った言葉が、ウェイバーの中で蘇る。

 

「死ねるわけ…ないじゃないか…」

 

地面に、涙がこぼれ落ちる。

 

「死ねるわけ、ないじゃないかよ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つ!」

 

ライダーは消滅し、固有結界は解かれた。

 

黒き騎士王は片膝を突き、息をあげる。

 

短時間における連続した宝具の使用。騎士王の魔力はほぼ無限に等しいが、それでも聖剣の解放には体に大きな負担がかかる。

 

騎士王は征服王と、その兵士たちの姿を思い出す。

 

それにかつての自分と、騎士たちの姿を重ね合わせた。

 

「…っ!!」

 

苛立ちを覚える。絶望に身を委ねたはずのこの身が、あのようなものでその心が揺らぐなどあり得ない。

 

「…!!」

 

その時、騎士王は突然飛来してきた()()を弾いた。

 

それは、宝具の原典。

 

「随分と顔色が悪いな、騎士王?」

 

黄金の粒子と共に、その男が姿を現す。

 

「いや、元からだったか?」

 

クツクツと笑みを浮かべ、英雄王が騎士王と相対する。

 

「黙るがいい、黄金…!」

 

騎士王は体勢を立て直すと、剣を構えた。

 

「フン、相変わらず気に食わんやつよな。そう死に急ぐな、貴様はこの我が手ずから始末してやる」

 

「は、傷つき逃げていった男が、よく喚く」

 

「戯け、あまり調子に乗るなよ雑種」

 

英雄王はそう言うと、なにやら歪な形をしたものを取り出した。それを空間に向けまるで鍵を開けるかのような動作をすると、膨大な魔力が溢れだした。

 

「さぁ、目覚めよエアよ…!」

 

英雄王は、空間から奇怪な形をした剣を取り出す。そして、エアと呼ばれたそれは、英雄王が構えると渦を巻くように刀身が回転しだした。

 

「…!!」

 

騎士王も聖剣を構える。なにより騎士王の直感が、あの剣の異常性を感知した。騎士王の聖剣に、膨大な魔力が纏う。そして英雄王の剣からも、回転がさらに加速し魔力が迸る。

 

「失せるがいい、雑種」

 

英雄王がそういうと、エアから赤い魔力の渦が溢れだした。

 

「──"天地乖離す(エヌマ)"」

 

騎士王の聖剣からも、黒き魔力が轟々と唸りをあげた。

 

「──"約束された(エクス)"」

 

「──"開闢の星(エリシュ)"!!」

 

──赤い暴風と

 

「──"勝利の剣(カリバー)"!!」

 

──黒き旭光とが、衝突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも、枝豆です

なんか3週間?くらいサボってしまいました。

いや、この期間も個人的に色々あったんですよ。

と話は本編へ


ライダー消滅。ちょっと今回は批判覚悟

なんかちょっとうーん、てなりますよねはい。冷や汗

とセイバーも地味にフラグ。銃を構えた女性はまぁいいやさん。

分かりにくくてすみません。

以下アニメ


!?

ランサーが、めっちゃ動いとる

バーサーカーが踊った!?←

イリヤそんなに強かったのん!?

いや、アニメ素晴らしい。

イリヤ髪の毛だけであんなことできたのか…

ア●ャ子ネタにされそう

…来週も楽しみですな!

あ、あと今後3週間更新が少し厳しいです。
まことに申し訳ありません
もう少し予定がはっきりしたら活動報告に載せますのでよろしくお願いします


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第二十二話 望み

寝落ちしました。本当に申し訳ありません





どうぞ


「何故…ですか…?」

 

片膝をつき、血を吐き出すとセイバーは言った。

 

「…何故、殺さなかったのですか?」

 

セイバーの呼吸は荒く、傷口からは夥しく血が流れ出している。

 

「フン…」

 

一方のキャスターは、黄金の剣を片手にセイバーを見下ろす。

 

「手を抜いたつもりも、情けをかけたつもりも毛頭ない。…だが」

 

キャスターはアイリスフィールと、そして間桐雁夜へと視線を写した。

 

再びセイバーへと目を向けると、キャスターは言う。

 

「こちらにも事情があってね。なにより…」

 

キャスターは手にしていた黄金の剣を、片膝をつくセイバーの前へ突き刺す。

 

「この剣は、彼女のものだ。私には扱いきれん」

 

キャスターがそういうと、役目を終えたその剣は魔力の粒子となり消滅した。

 

「そう、ですか…」

 

「君の方こそ何故だ?なぜあの時剣を止めた?君ほどの腕ならば避けることは愚か、私を殺すことも可能だったと思うんだがね」

 

それを聞くと、セイバーは力なく笑った。

 

「ははは…何を言うかと思えば…」

 

セイバーは己の剣を杖に、ゆっくりと立ち上がった。

 

「私では王を救えない…それなのに貴方までがいなくなってしまったら…誰が、あの御方を救うのですか…?」

 

「…」

 

「感謝、します。この身は、貴殿()によって裁かれた」

 

セイバーはそう言うと、雁夜の方へ向かう。

 

「フン…」

 

しばらくして、キャスターもアイリスフィールの方へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負けたのか、セイバー」

 

答えは分かっていたが、雁夜はそうセイバーへ言った。

 

「申し訳ありません、雁夜…」

 

「いや、いいんだ」

 

満身創痍のセイバーを見、雁夜は言った。

 

「もう、戦えないんだろう?」

 

「…今は、雁夜からの魔力供給で辛うじて現界を保っている状態です」

 

「…そう、か…」

 

雁夜はそういうとはぁ、と一つため息をついた。

 

「俺にはやっぱり、無理な話だったんだ」

 

「雁夜…!それは違います!」

 

セイバーの否定に応じず、雁夜は何か思考する。

 

そしてしばらくの沈黙の後、雁夜は口を開いた。

 

「行くぞ、セイバー」

 

「…雁夜…まさか…!」

 

「あぁ」

 

雁夜はそういうと、右手で己の胸のあたりを掴む。

 

「セイバー、俺の願いを叶えろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、アイリスフィール。時間がかかりすぎた」

 

キャスターはそう言うと、アイリへと歩み寄る。

 

「えぇ、大丈夫よキャスター…ただ」

 

「!!」

 

キャスターが近くに来たその瞬間、アイリの体がぐらりと傾く。

 

キャスターがそれを、ギリギリのところで抱き止める。

 

「アイリスフィール!!」

 

「ううん、やっぱり、あまり時間がないみたい」

 

新たにライダーの魂を吸収したアイリは、すでに人間としての昨日の大半が失われつつある。

 

「っ!」

 

キャスターはアイリに負担のかからないように素早く抱き抱えると、先を急いだ。

 

「ねぇ…キャスター?」

 

キャスターの腕の中で、アイリが消え入るような声を出す。

 

「…あまり、喋らない方がいい」

 

キャスターはそう言ったが、アイリは言葉を続ける。

 

「貴方は、やっぱりアーサー王と関係があるの…?」

 

「…あぁ、あるさ。隠していてすまなかった」

 

キャスターがそう言うと、アイリはやっぱり、と言って微笑んだ。

 

「貴方にとって、大切な人だったのね…?」

 

今度は、キャスターは何も答えなかった。

 

それでもアイリは満足したかのように、キャスターに、微笑むのだった。

 

「─!!」

 

境内に入り、キャスターが足を止める。

 

「キャスター…?」

 

「すまない、アイリスフィール」

 

キャスターは言った。

 

「もう少しだけ、私に時間をくれないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これは一体…!?」

 

薄暗い洞窟を進んだ先、そこにあるべきのものは無色の万能の願望器。しかしそこにあったのは、人間にすぎない切嗣達でさえ、その気配だけで異常性を理解できるほどの邪悪の塊。

 

あらゆる不の感情が渦巻き、気を抜けば意識を持っていかれそうになる。

 

「これが…大聖杯だというのか…!?」

 

あまりの光景に、時臣の頬を大量の汗が伝う。

 

「っ!」

 

切嗣も、大聖杯のその姿を目の当たりにし、声を失う。

 

「どういうことだ…!?何故、大聖杯がこのような!?」

 

「…大聖杯は、あらゆる悪に汚染されている」

 

「…!?」

 

「"この世全ての悪(アンリ・マユ)"。60年前…つまり第三次聖杯戦争において、アインツベルンが召喚したサーヴァントだ。召喚されたのはそれこそゾロアスターの悪神ではなかったが、そのサーヴァントを大聖杯が取り込んだ結果がこれさ」

 

「なんだと…」

 

切嗣はそう言うと、時臣へ振り返った。

 

「君たちがアインツベルンを恨もうが憎もうが構わない。僕には関係ない話だからね…だが、今この状況で最優先すべきことはそんなことじゃない」

 

切嗣はもう一度大聖杯へと目を向けた。

 

「…遠坂時臣。ご覧の通り、聖杯の正体はこんな邪悪なものだ。君がどんな願いを持っていたか知らないが、僕はこいつを破壊する」

 

「待て…何故、そこまでこの聖杯について知っている…?」

 

「そんなことは今はどうだっていい!」

 

切嗣が怒号をあげる。

 

「選べ、遠坂時臣!僕に協力してこいつを破壊するか、"この世全ての悪(アンリ・マユ)"をこのまま誕生させるか!」

 

「…っく!」

 

その時、綺礼が口を開いた。

 

「師よ…!入り口のアサシンの反応が途絶えました…!」

 

 

「「!!」」

 

 

すなわちそれは、何者かがこちらへ迫って来ているということ。

 

 

──否、既に目前にまで来ていた。

 

 

「…探したぞ、時臣」

 

 

切嗣たちの目の前で、その黄金のサーヴァントが姿を現す。

 

 

「王であるこの我に何の断りもなしに、何をしている?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「カカカッ!雁夜、また随分派手にやられたようだのう?」

 

間桐の地下の蟲蔵。間桐臓硯は現れた雁夜に向け言った。

 

「情けないのう!まだ桜のほうが役に立つかもしれんのう!」

 

臓硯の横には、気を失いぐったりとしている間桐桜の姿が。おそらく、今日も魔術の修行という名の臓硯による拷問を受けたのだろう。

 

「…」

 

雁夜は何も言わずに、ただ臓硯を睨み付ける。

 

「ふん、つまらんやつよ…なぁ雁夜よ、儂にそのセイバーを寄越さんか?何やら不穏な空気がしてのう、儂直々に出向いてやらんといかんようでな。心配するな。儂ならまだセイバーをどうにか扱える。

なに、ただとは言わん。儂が聖杯をとったら、桜を解放してやるぞ?ん?どうだ?」

 

「…黙れ、爺」

 

ここでようやく、雁夜が口を開いた。

 

「…セイバー」

 

雁夜の呼び掛けに応じ、セイバーが姿を現す。

 

「フン、頭の固いやつめ。サーヴァントで儂を殺す気か?おぉ、怖いのう!」

 

カカカッ、と雁夜を嘲るように臓硯が笑う。

 

「爺、間桐はもう終わりだ」

 

そう言うと、雁夜は令呪の刻まれた手をかざした。

 

「…?」

 

「令呪をもって、間桐雁夜がセイバーに命ずる」

 

令呪が、光を放つ。

 

 

「俺の心臓ごと、間桐臓硯を殺せ」

 

 

──刹那、鈍い音を響かせて、セイバーの剣が雁夜の体を貫いた。

 

「…おぉ、おぉおおぉぉぉぉお!!」

 

臓硯が叫び声をあげる。

 

「雁夜あぁぁぁぁぁ貴様ぁぁぁぁ!!」

 

「は…気付いて…ないとでも…思ったのかよ…?」

 

雁夜が心臓を貫かれた状態で、目前で苦しむ臓硯を見る。

 

「大方…死んだ後…お…れの…体を使うつもりだった…んだろな」

 

臓硯が雁夜に与えた桜の純潔を奪ったという刻印蟲。あれこそが、雁夜の肉体を奪うために臓硯が仕込んだ、臓硯の本体だったのだ。

 

「上手く…隠れ、ても……腐った、臭いまでは…隠せて…なかったみたい…だな…」

 

息を荒くして、雁夜は言った。

 

「おぉぉぉぉおぉおおお!!」

 

 

ボロボロと、臓硯の体を形成していた蟲たちが崩れてゆく。

 

「雁夜ぁぁぁぁ!!」

 

手を伸ばす臓硯。しかし、その手は雁夜に届くことはなく。

 

「あぁ…あぁ…あぁ…」

 

蟲たちが完全に崩壊し、その500年に及ぶ人生の幕を閉じた。

 

「がはっ…!」

 

がくりと膝をつき、そしてそのまま倒れる雁夜。それと同時に、雁夜の胸を貫いていた剣も消滅する。

 

「雁夜…!」

 

駆け寄るセイバー。雁夜の体からは血液が溢れ出す。

 

「ありが…とうな…セイ、バー…俺は…間桐…勝ったんだ…」

 

「えぇ…えぇ…!貴方は勝ったのです…!」

 

「はは…そう、か…」

 

雁夜がそう言うと、腕にあった最後の令呪が光を放つ。

 

「…」

 

雁夜は何か言おうとしたが、言葉にはならず、しかし令呪はセイバーに魔力を与えた。

 

「…雁夜!」

 

セイバーは雁夜の名を呼んだ。しかし雁夜は既に息絶えていた。

 

「貴方は…強かった…」

 

開いていた雁夜の目を閉じ、セイバーは立ち上がる。

 

「この手で主を殺めたなんて…私はつくづく騎士として失格ですね…」

 

雁夜から令呪によって与えられた僅かな魔力。

 

「私の望みは…もうありません。ならば…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──、──────。』

 

誰かの声がする。

 

『───、────────。』

 

その声に、覚えがある。絶望に染まった今の私でも、忘れることはなかった。

 

『───。』

 

立ち去る気配。それと同時に、私の中で眠っていた意識が目を覚まそうとする。

 

「し、ろう……?」

 

目を覚ますと、そこには誰もいなかった。

 

「ぐっ…!」

 

体が動かない。回復はしつつあるものも、英雄王から受けた一撃は騎士王の体をズタズタに引き裂いたのだ。

 

「私は…何を…」

 

聞こえてきた声。それがこの時代にはいるはずのない、かつてのマスターの声に思えたのだ。

 

「……」

 

まだ、体は動けそうにない。しかし、騎士王は体の感覚に妙な違和感を覚える。

 

「…これは、どういうことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王よ…これは!」

 

「聖杯が何であれ、これは我のものだ。勝手な真似は許さん…!」

 

ギルガメッシュがそう言うと、ギルガメッシュの周りの空間が歪み宝具の原典が顔を覗かした。

 

「時臣…貴様は目障りだ」

 

そしてそれらは、時臣へと襲いかかった。

 

「…アサシン!」

 

しかし、突如として現れたアサシンが剣群から時臣を庇った。

 

「…」

 

綺礼の令呪によって呼び出された最後のアサシンは、そうして消滅した。

 

「ふん…綺礼か。余計なことを…」

 

ギルガメッシュが、綺礼へと視線を写す。

 

「綺礼…お前はいつまでそいつらの肩を持つ?」

 

「なに…?」

 

「口元が歪んでいるぞ…?」

 

「…!!」

 

ギルガメッシュはそう言って不敵な笑みを浮かべると、再び時臣へと殺気を移した。

 

「悪いな、時臣。貴様の態度は嫌いではなかったんだがな」

 

新たな宝具の原典たちが出現し、時臣たちへ向けられた。

 

「お待ちください、王よ!」

 

「黙れ」

 

時臣の必死の懇願も虚しく、ギルガメッシュが剣群を放とうとした。

 

──その時

 

「がっ…!」

 

時臣の腕に、何かが突き刺さる。

 

「"破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)"」

 

「──!?」

 

その言葉と同時に、剣とも矢とも言い難いそれは消滅した。

 

「令呪が…!?」

 

時臣は、自分から令呪の感覚が無くなったことに気付く。

 

「なぜ…!?」

 

「──令呪は無くなった。君を縛る者は無くなったんだ。それでも、その男を殺す必要はもう無いのではないかね?」

 

その声と同時に、アイリを腕に抱き抱えたキャスターが姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ただいま」

 

呼びベルの音が鳴り、遠坂葵は玄関の扉を開いた。

 

「どちらさま……え…」

 

そこにいたのは、間桐雁夜だった。

 

「雁夜君…?どうして……!!」

 

そしてその腕に抱かれていたのは、髪が変色し、やつれきった桜だった。

 

「桜っ!!」

 

時臣から、桜に関わらないようにと言われそれを守ってきた。しかし、変わり果てた娘の姿を見て、葵は耐えられなくなった。

 

「桜…!桜…!」

 

雁夜から桜を受けとると、葵は涙を流しながら桜を抱き締めた。

 

「お母…さま…?」

 

眠っていた桜は目を覚まし、自分が抱き締められていることに気が付く。

 

「ごめんなさい…!ごめんなさい…!」

 

「お母さま…!」

 

状況を飲み込めないまま、しかし母の温もりを感じ、桜も涙を流した。

 

「もう、離さないから…!」

 

葵はそう言うと、再び強く桜を抱き締めた。

 

しばらくしてふと、顔を上げた。

 

「雁夜君…?」

 

そこにいたはずの雁夜の姿は無かった。

 

「雁夜君…!」

 

──名前を呼んでも、反応はない。

 

──ただ、魔力の粒子の輝きが、風に漂い流されていくだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




おひさしぶりです。

やっと一段落ついたので更新ということです。

臓硯にハッピーエンドは訪れませんでした。期待していた人がいたら申し訳ないです。

アニメFate全然が3週間分くらい見れていないので、今日こそ見ます。

それでは、また


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第二十三話 真贋

あけましておめでとうございます





どぞ


「やれやれ…私に黙ってこんなところまで来て、挙げ句の果て万事休すといったところか」

 

キャスターはそう言うと切嗣を見た。

 

「まったく、世話の焼けるマスターだよ」

 

「キャスター…僕は…」

 

切嗣は何か言おうと口を開いた。しかし、それをキャスターは制止する。

 

「積もる話はあるのだろうがね。そんな話をする時間も我々には残されていないようだ」

 

キャスターはそう言うと、抱えていたアイリスフィールを切嗣に託し、ギルガメッシュの方へ向かった。

 

「アイリ…!!」

 

「切嗣…あれが、聖杯なのね…?」

 

「…!!」

 

「私の中の何かが…聖杯に惹き付けられる…」

 

「駄目だアイリ、あれは僕たちが求めていた聖杯なんかじゃない…!」

 

切嗣の悲痛な叫びに対して、アイリは力無き笑みを浮かべる。

 

「大丈夫よ切嗣…分かってる。貴方の妻ですもの…」

 

「アイリ…」

 

アイリを支える切嗣の震える手に、アイリは優しく手を重ねる。

 

「僕は…聖杯を破壊する…」

 

「…」

 

「すまないアイリ…僕は…」

 

「あの娘を」

 

切嗣の言葉を、アイリの一言が遮る。

 

「あの娘を、お願いね」

 

「…あぁ、勿論だ。イリヤは、僕が必ず…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雑種…この我の邪魔をするとは…死ぬ覚悟はできていような?」

 

ギルガメッシュはその怒りに満ちた双眸でキャスターを睨み付けた。

 

「邪魔とは心外だな。君の手を汚さないように、私なりに君のマスターを消す手助けをしたつもりだったんだが…英雄王?」

 

「…ほう」

 

ギルガメッシュは今度は愉快そうに笑った。

 

「…一目見ただけでこの我の真名を見破ったか。雑種にしてはなかなか骨のあるやつよ」

 

「なに、君ほど出鱈目な存在は過去にも未来にも二人といないというだけさ」

 

そういうと、ギルガメッシュはほう、と呟いた。

 

「サーヴァントが未来を語るか…」

 

「…」

 

「雑種にしてはなかなか興味深い奴よ…決めたぞ、貴様に免じて皆殺しは止めだ」

 

「!!」

 

「そこの人形(アイリ)を置いていけ。さすれば他の雑種は見逃してやろう」

 

「なっ…!」

 

ギルガメッシュの言葉に、切嗣が声をあげた。

 

「ふざけるな!」

 

その瞬間、切嗣とアイリのすぐ近くに刀剣が突き刺さる。時臣と綺礼にも同様に。

 

「誰が発言を許した、雑種」

 

ギルガメッシュの紅い瞳が、切嗣を捉える。

 

「勘違いするなよ雑種、我が貴様らを殺すのが如何に容易いか。時臣から令呪を奪ったからといって、我が貴様らを殺さない道理はない」

 

「…っ!!」

 

するとアイリが、切嗣の頬へ手を伸ばす。

 

「行って、切嗣」

 

「駄目だ、アイリ!!僕は聖杯を破壊する!!君を置いて逃げるなんて…!!」

 

「違うわ切嗣…切嗣は逃げるわけじゃない…」

 

アイリは切嗣の目から流れる涙を拭った。

 

「切嗣の命は…もう、切嗣だけのものじゃないの…」

 

「…!!」

 

「私はもう助からないから…あの娘を…イリヤを迎えには行けないから…切嗣まで何かあったら、イリヤはどうなるの?」

 

「…それは、駄目だ。それだけは…」

 

アイリはそれを聞くと微笑んだ。

 

「だからお願い、切嗣。私と、貴方のサーヴァントを信じて…?」

 

「その通りだ」

 

「…!!」

 

気がつくと、すぐ側にキャスターが姿を現した。

 

「君の代わりに私が残る。なに、心配はいらないさ。これでも、君よりは上手くやれる自信はある」

 

「キャスター、僕は…!!」

 

じいさんの夢は(聖杯は)俺がちゃんと叶えるから(私が破壊する)

 

「…!!」

 

そう言ったキャスターの姿は、切嗣がかつて夢で見た、あの少年の姿と重なった。

 

「そうか…」

 

だから、切嗣は迷いを捨てた。

 

「なら、安心した…」

 

「…ふん」

 

「切嗣…」

 

アイリが切嗣を名を呼ぶ。

 

「私、切嗣に会えて幸せだったよ」

 

切嗣はそれを聞くとアイリに口付けをし、そして強く抱き締めた。

 

「アイリ…!!」

 

 

 

「アイリを…聖杯を頼む」

 

「…あぁ」

 

そういうと、切嗣は令呪を掲げた。

 

「令呪をもって命ずる。キャスターに、最大限の魔力を」

 

令呪の一画が消えると同時に、キャスターの体に魔力が迸る。

 

「重ねて命ずる。キャスター、僕の願いを叶えろ」

 

切嗣がそう言うと、最後の令呪の一画は輝きを失った。

 

「あまり、具体的ではない望みは意味を成さないんだがね」

 

キャスターはそう言うとニヤリと笑った。

 

「行け、切嗣 」

 

キャスターがそういうと、切嗣は望みを全て己のサーヴァントに託し、その場を去る。

 

 

 

 

 

 

「すまない、衛宮切嗣」

 

大空洞を後にし、時臣が体を綺礼に支えられながら頭を下げた。

 

「僕は、僕の望みを叶える」

 

「…」

 

そう言うと、時臣は綺礼に大丈夫だと告げ、肩を借りずに立ち上がった。

 

「君のサーヴァントは、何者だ?」

 

時臣はそう訪ねた。

 

「…僕にも、わからない」

 

切嗣はそう言うと、歩き出した。

 

「ここから離れた方がいい。危険だ」

 

「…?」

 

「どうした」

 

切嗣は振り返り訪ねた。

 

「綺礼が…いない…」

 

「…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様、どういう了見だ?よもやこの我に勝とうなどと思ってはいるまいな?」

 

この場に残ったキャスターに対し、ギルガメッシュはそう言った。

 

「なに、マスターの命令とあっては仕方ない。令呪まで使われては負けるわけにはいかないのでね」

 

「戯けが… !」

 

ギルガメッシュの背後に、数多の宝具の原典が出現する。

 

「…投影(トレース)開始(オン)

 

キャスターが詠唱をすると、一つの弓と奇怪に捻れた剣が手元に現れた。

 

「せいぜい足掻けよ…!」

 

ギルガメッシュが手を掲げ、降り下ろすと原典らは一斉にキャスターへと襲い掛かった。

 

キャスターはそれを右へ左へと避け、そして上空高く跳び上がった。

 

I am the bone of my sword(我が骨子は捻れ狂う)…」

 

捻れた剣が矢へと姿を変え、ギルガメッシュへと狙いを定める。

 

「偽・螺旋剣!!」

 

放たれた矢は、稲妻の如くギルガメッシュへと襲い掛かる。

 

「図に乗るなよ…」

 

ギルガメッシュは再び刀剣を放つ。キャスターの放った矢はそれらに呑まれ威力を失ってしまった。

 

しかし__

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

「なっ…!!」

 

キャスターがそう呟くと、勢いを失い落下していた矢が爆発した。

 

爆風はギルガメッシュを飲み込み、キャスターは着地した。

 

「やはり、この程度では…」

 

キャスターは舌打ちした。

 

「なるほどな…贋作に含まれた魔力を放ったというわけか…」

 

爆風の中からギルガメッシュの声が響く。

 

「だが贋作者よ。所詮贋作は贋作。本物に勝てるとでも…?」

 

そしてギルガメッシュは、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

「もう…駄目みたいね…」

 

アイリは、そう呟いた。夫の前では見せなかった涙を流し、アイリは言葉を紡ぐ。

 

「お願いキャスター、あの人の願いを…」

 

アイリは感じた。人としての機能が、既に無くなっていることを。

 

「あぁ…切嗣…」

 

ドクン、と音が響いた。アイリの体が、アインツベルンの聖杯の器として機能しだす。

 

回収された英霊の魂は4つ。機能するには充分だ。

 

 

 

 

 

 

「見ろ、贋作者」

 

クツクツとギルガメッシュが笑みを浮かべ、方向を顎で指した。

 

「…!!」

 

キャスターは、この異様な空気を過去に感じたことがある。

 

「アイリスフィール…!!」

 

だが既に遅い。アイリスフィールの体からは既に、アイリスフィールという人格は失われ__

 

「ほう…」

 

ギルガメッシュは愉快そうに笑う。

 

アイリスフィールの体の上に、黄金の杯が浮いている。

 

「やはり遅かったか…!!」

 

キャスターは、かつての仇敵に出会ったかのようにそれを見__

 

「聖杯…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして再び、剣を手に取った。




あけましておめでとうございます。枝豆です。

更新かなり遅くなりました。諸事情により12月頭から年末年始にかけて色々と御座いまして。

これから再びぼちぼち更新をしていきたいなと思っています。

ただ下書きとか何もしてないからまた遅くなりそうではありますが…

Fateのアニメもまだライダー登場のあたりでストップ状態。なんてこったい。

あとなんでしょう。strange fakeですかね。実は小生読んだことがない。

コミケ行った人はもう持ってる?のかな?あやふやではありますが。

めっちゃ早く読みたい…



久しぶりに文書くといろいろつらいですな。ミスがまだありそうなので後々修整していきます。

それでは、これからも本作をよろしくお願いします。


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第二十四話 再開

お待たせしました






どうぞ


(…)

 

英雄王が放った必殺の一撃。あれはまさしく、その名に違わぬ世界を切り裂くほどの威力であった。騎士王が放った聖剣の輝きでさえ、その一撃に飲み込まれてしまったほどだ。

 

確かに、あの時の自分は消耗していた、と騎士王は思う。征服王との一戦で、騎士王は連続して三回も宝具を使用した。いくら底無しの魔力を持っていたとしても、騎士王にかかる負担は大きい。だからこそ、万全ではない常態でのあの英雄王との一戦は敗北しても仕方ないかもしれない。

 

(…だからこそ、おかしい)

 

そう、だからこそおかしいのだ。"英雄王のあの一撃を身に受けたはず自分が、今こうしてほぼ無傷の常態でいる"ことが。いくら騎士王が再生能力に優れていようが、英雄の切り札と呼べる必殺の一撃を受けては、少なくとも一日は回復に徹していなくてはその身を滅ぼすことになる。ましてや彼の英雄王の宝具となったら、間違いなく致命傷になるはずだ。だが騎士王は、今こうして立ち上がり、その気になればこの町を破壊し尽くすことすら容易なほどにまで回復している。

 

(…)

 

騎士王は知っている。致命傷を瞬時に治す力を。ましてやそれはかつて騎士王自身が身に付けていた能力。だがそれは、今の騎士王には失われた神秘。

 

(だがこれは…)

 

その時、騎士王は感じ取った。大きな魔力の反応を。

 

「ありえないことだが…」

 

騎士王に一つの可能性が浮かび上がったが、直ぐ様その可能性を否定する。

そして騎士王は再び戦地へと駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見ろ贋作者…これが聖杯だ」

 

ギルガメッシュは愉快そうに笑う。

 

「こんな醜悪なモノを求めあい、殺しあっていたとはな。いや、魔術師という連中は道化の集まりであったわけよ。…愉快だと思わんか?」

 

「…っ!遅かったか!」

 

予期していたことではあった。英霊の魂を4つも回収すれば、アイリスフィールの担った器は聖杯としての機能を開始してもおかしくはない。そこにはアイリスフィールの姿はなく、禍々しくも美しい黄金の聖杯があった。

 

聖杯からは黒い泥が溢れだし、キャスターとギルガメッシュの立つ場所を囲むようにして流れる。

 

キャスターは、あの泥に触れてはいけないということを理解する。あれは英霊の天敵だ。触れたら最後、おそらく英霊であるこの身は泥に呑まれ、聖杯に取り込まれてしまうだろう。

 

キャスターの頬に汗が伝う。対するギルガメッシュは、まるで新たな玩具を見つけたかのように嬉々と笑う。

 

「…っ!」

 

キャスターはギルガメッシュへと駆け出し、干将と莫耶を投影しそのまま斬りかかる。ギルガメッシュはそれを避けつつ、己の宝物庫から鎌のような刀剣を取り出した。

 

「刈り取れ…!」

 

そのまま鎌はキャスターの足元へと一閃したが、キャスターはそれを双剣で受け流す。キャスターは再び剣を構え、ギルガメッシュへと接近する。

 

「小癪な…」

 

ギルガメッシュの取り出した柄の長い鎌は、肉薄するような接近戦には不利である。対するキャスターの双剣は、刀身の短い分相手との距離が狭ければ狭いほど小回りが効いて有利に立ち回ることができる。

 

ギルガメッシュは宝物庫から二、三程の宝具を出現させ、それを上空からキャスターへと放つ。

 

「…!!」

 

キャスターは後退し、そして双剣をギルガメッシュへと放った。しかしそれらはギルガメッシュに当たることなく、弧を描きながらギルガメッシュの横を通りすぎた。

 

「どこを見ている…?」

 

距離を放したギルガメッシュは、追い討ちをかけるべく再び宝具を放った。キャスターはそれらと同じ宝具を投影して放ち迎撃する。

 

天の鎖(エルキ・ドゥ)よ…!」

 

ギルガメッシュがそう唱えると、歪んだ空間から出現した鎖がキャスターの右腕を捕らえた。

 

「…!!」

 

天の鎖は、神性を持つものに対して絶対的な拘束力を持つが、神性を持たないキャスターにとっては単なる鎖であり、一瞬身動きがとれなくなる程度のものである。しかしその一瞬が、英霊同士の戦いでは決定的な隙となってしまう。

 

「散るがいい」

 

ギルガメッシュが手を構えると、背後に幾多の宝具が顔を覗かせ、ギルガメッシュの指示を今か今かと待っている。

 

ギルガメッシュが手を振りかざそうとしたその時だった。

 

「ふん…詰めが甘いぞ、英雄王…!!」

 

「…!!」

 

キャスターがそう言った瞬間、ギルガメッシュは背後を振り返った。見れば、先程キャスターが放った双剣が、ギルガメッシュの目前へと迫っていた。

 

「ッ!」

 

片方はギルガメッシュが手に持っていた鎌で叩き落としたが、もう片方の干将はギルガメッシュの黄金の鎧へと噛みついた。しかしそれでも大した傷にはならず、ギルガメッシュはキャスターへと振り返った。

 

「ふっ…!!」

 

見ると、先程まで宙を舞っていたはずの双剣と同じものをその手にとり鎖を叩き斬った。そして英雄王の射程範囲から逃れようと駆け出した。

 

「戯けが…!!」

 

逃げるキャスターの後を追うように、ギルガメッシュの宝具の原典らは放たれる。

 

「チィッ… !」

 

キャスターは必死で逃げるが、それでも避けきれない分は手に握った双剣で走りながら迎撃する。

 

「クッ…」

 

キャスターの脇腹を、ギルガメッシュの放った長剣が切り裂いた。キャスターの足が止まり、その隙を宝具の原典たちがキャスターへと襲いかかる。

 

投影(トレース)開始(オン)…!」

 

キャスターの詠唱と共に、その手に鎖の付いた奇怪な短剣が現れる。

キャスターは短剣を放つと飛来する剣群へ鎖を絡ませ、それぞれの軌道を僅かにずらした。

剣群はキャスターに当たることなく地面に突き刺さり、キャスターの持つ短剣もボロボロになり消滅した。

 

「…芸達者なやつよな。流石は道化といったところか」

 

クツクツと不敵な笑みを浮かべるギルガメッシュに対し、キャスターは肩で息をする。負傷した腕は戦闘に支障は無いものの、それでもキャスターは未だにギルガメッシュに対して決定打を与えられずにいた。

 

「…!!」

 

ふと、ギルガメッシュと己以外の気配をキャスターは感じ取った。

振り返ると、そこには一人の男が佇んでいた。

 

「言峰…綺礼…」

 

「やはり来たか…」

 

ギルガメッシュは待ちわびたと言わんばかりに呟いた。

 

「ギルガメッシュ…これは、なんだ?」

 

綺礼は、引き絞るような声を漏らした。

 

「なんだとは…わからぬか?」

 

クツクツとギルガメッシュは笑みを浮かべる。

 

「これが、貴様の求める答えだ」

 

「何…だと…?」

 

綺礼は呟いた。

 

「こんな醜悪なモノが、私の求めていた答えだと、お前は言うのか…?」

 

綺礼は自分等の周囲に広がる泥を見渡した。

 

「然り。その醜悪こそが、お前の…いや、お前自身とでも言うべきか」

 

「馬鹿な…」

 

「ならば綺礼よ。貴様は何故笑っている?」

 

「なに…?」

 

ギルガメッシュの放った言葉に、綺礼は自分の顔に手を当て表情を確かめる。

 

(歪んでいる…?)

 

言峰綺礼は滅多に笑わない。だが確かに、今の自分の頬には皺があり、口は弧を描くように曲がっている。

 

「ふふ、ふははははははは!」

 

突然、言峰綺礼は大声で笑った。

 

キャスターはギルガメッシュを睨みつけた。

 

「英雄王、貴様…!!」

 

「おいおい、我は良心でやったことだ。神父自身が迷っていては、人を導くこともできまい?」

 

「…」

 

言峰綺礼は、泥の泉へと歩き出した。

 

「…!!馬鹿なことはよせ!」

 

キャスターの制止の声も、今の綺礼には届かない。彼は既に答えを得ている。今のかれにとってキャスターには関心などない。

 

「良いぞ綺礼…さぁ、手を伸ばせ…」

 

言峰綺礼は声高らかに笑いながら、泥の中へと潜っていった。

 

「…呑まれたか。いや、宴にはもってこいの見世物であったな」

 

ギルガメッシュは笑った。

 

「…」

 

キャスターは綺礼の沈んでいった跡を見つめる。人の身であの泥に触れたらどうなるかなど、言うまでもない。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

キャスターは弓と、そして一つの剣を投影した。

 

「戯け、何度も同じことを…」

 

ギルガメッシュが手を掲げると背後の空間が歪み、幾多の刀剣の煌めきが顔を出す。

 

「赤原を往け…緋の猟犬」

 

キャスターは弓を構え、ギルガメッシュへと狙いを定める。

そして真名を開放し、矢を放った。

 

赤原猟犬(フルンディング)…!」

 

同時にギルガメッシュも手を振り下ろし、剣群がキャスターへと放たれた。

 

キャスターの放った矢は、剣群に呑まれ軌道がずれる。僅かに残った剣群は、キャスターへと突き刺さった。

 

「ック…!」

 

二つの剣が左腕と脇腹に食らい付く。

 

「避けることを知らぬのか貴様は…!」

 

ギルガメッシュが声をあげる。だが瞬間、ギルガメッシュは驚くべきものを目にする。

 

「なに…?」

 

先程軌道のずれたキャスターの矢が、有り得ない軌道を描きながら再びギルガメッシュへと迫っていた。

 

闘王ベーオウルフの剣・赤原猟犬(フルンディング)

キャスターが狙いを定め続ける限り、何度でも獲物に襲いかかる魔剣。

 

「小癪な…」

 

ギルガメッシュは剣群を放ち、再び猟犬を打ち落とす。そして二、三の刀剣をキャスターへと放った。

 

「…っ!!」

 

二つは体を掠め、一つは右脚を貫いた。

 

「終わりだ…!!」

 

ギルガメッシュがキャスターに止めを刺そうと、宝物庫へと手を伸ばそうとした。

 

 

 

 

 

 

 

__私は、敗れたのだ。

 

__かつてのマスターと、現在のマスターのサーヴァントに。

 

__消えていく意識。朦朧とする感覚。

 

__そんな中、私を生かそうとしているのか、聖杯からマスターを通して魔力が流れてくる。

 

__無駄なことだ。あの一撃は、かつてのマスターの覚悟そのもの。

 

__いかに聖杯といえども、私を再び立ち上がらせることはできない。

 

__赤毛の少年の姿が、脳裏に浮かぶ。

 

__剣となり、守ろうと誓った少年。

 

__あぁ、私は果たして何のために…

 

__元はと言えば、全ては己の油断が招いた結果。

 

__だからこそ、心を失ったはずの己に未練が残るのだ。

 

__万が一に、聖杯が、我が願いを聞き届けるというのなら…

 

__再び、この身が剣を取れるというのならば…

 

 

 

『どんな形でもいい。再び私を、聖杯戦争に…!!』

 

 

 

そんなことを、騎士王は無意識に願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

「…馬鹿な、この気配は…!!」

 

「…!!」

 

ギルガメッシュとキャスターは同時にその気配を感じ取った。

 

ズシリ、と空間が重くなる。殺気というものは、これほどにまで肉体に負担をかけられるというのか。

 

「…おぉぉぉぉ!!」

 

瞬間、黒い弾丸が空洞へ通じる洞窟から飛び出し、黄金のサーヴァントへと斬りかかった。

 

「己ッ…!!」

 

ギルガメッシュはキャスターに放とうとしていた長剣を盾にした。しかしそれでも、騎士王の渾身の一撃を受けきることはできず、ギルガメッシュは宙を舞った。

 

「図に乗るなよ…!」

 

ギルガメッシュは宙を舞ったまま、宝物庫から自身の"最強"の剣を取り出そうとした。

 

__しかし

 

 

「だから、詰めが甘いと言ったのだ…!」

 

 

「!!」

 

気付いた時には既に遅く、赤原猟犬は宙で自由の効かないギルガメッシュの体を貫いた。

 

「おのれ、キャスタァァァァッ!!」

 

そのままギルガメッシュは黒い泥へと落下する。泥は餌を待ちわびたかの如く、手を広げ掴み取るかのようにギルガメッシュの体を包み込み、泥の泉へと引き込んだ。

 

 

 

 

 

 

「ようやくお出ましか…」

 

キャスターは傷口を押さえながら立ち上がる。

 

黒き騎士王はゆらりとその双眸をキャスターへ向け、振り下ろしたままの聖剣を持ち上げ地面に突き刺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも。枝豆です。

日曜までに更新したかったのですが、そこはあしからず。

キャスターたちが戦っているところは、アンコの地下空洞をイメージしていただければと思います。

気が付けば初投稿から一年が過ぎていたのですね。良くも悪くも。

話は変わりますが、strange fake(漫)読みました。

めっちゃ面白いですね。早くも引き込まれますた。

小説版も買ったのですが中々読むタイミングがなく。

次巻が待ち遠しいものです。つか次巻冬って…


アポクリファも終わってしまいましたね。まさかの登場キャラとかに最終巻は驚かされました。
一つの楽しみが無くなってしまい残念です。麗しのジャンヌー


二月末は再び忙しくなるので、それまでにもう一回更新できたらいいのですが(遠い目)

というかもう大分クライマックスですが。



それでは

PS
皆様のご感想に対する返信にて今回の言い訳をしております。


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第二十五話 追憶

お久しぶりです






どうぞ


「ようやくお出ましか…」

 

キャスターはニヤリと笑うと、己の傷の具合を確認する。

 

「お前が…最後のサーヴァントだ」

 

騎士王は聖剣を地面から抜き払うと、その切っ先 をキャスターへと向けた。

 

「…」

 

ふらりと振り返り、キャスターは騎士王へと視線を移した。

 

「聞おう」

 

騎士王は言った。

 

「…貴様はなんだ?」

 

「…どういう意味かね?」

 

キャスターは答える。

 

「知っての通り、私はしがないサーヴァントの端くれにすぎん」

 

「そういうことではない…!」

 

騎士王は言葉に憎悪を含ませ声を荒くした。

 

「前に貴様は、第五次聖杯戦争について私に聞いたな」

 

「…」

 

「何故サーヴァントの端くれに過ぎぬ貴様が、それについて知っている」

 

キャスターは目を細め、騎士王を見据えた。

 

「答えろ、キャスター…!」

 

「その件については」

 

キャスターが口を開いた。

 

「はぐらかしたのは君のほうだろう?」

 

「……!!」

 

騎士王の殺気が増し、騎士王の体に纏う魔力の濃霧が溢れ出す。

 

「ならば私も一つ、聞かせてもらおうか」

 

騎士王は無言のまま、キャスターを睨み付ける。

 

「君が、聖杯に託す望みはなんだ?」

 

騎士王が目を細める。

 

「…望みだと?」

 

ああ、とキャスターは呟いた。

 

「君も聖杯の呼び掛けに応じた身だろう。ならば君にも、聖杯に託す望みがあるのではないかね?」

 

瞬間、轟、と音をたて、騎士王の周囲に魔力の風が吹き荒れる。

 

「絶望に染まった私に、望みなどあるはずがない」

 

「…っく!」

 

そのあまりの風圧に、キャスターも傷だらけの脚に力を籠める。

 

「かつて私は、国王の選定をやり直し、ブリテンの復興を望んだ」

 

「…!!」

 

「くだらん。愚かな望みだ。そのような甘い考えを持つから国が滅ぶのだ」

 

「…愚かだと?」

 

キャスターの呟きに応じることなく、騎士王は言葉を続ける。

 

「この身がまだそのような望みを抱いているというならば、こんな体などこの世全ての悪(アンリ・マユ)にくれてやる」

 

「…なるほど。それが君の望みか」

 

キャスターはそう言うと、その両手に白と黒の中華剣を投影する。

 

「なら、俺たちが戦う理由はそれだけで十分だ」

 

I am the bone of my sword(体は剣でできている)

 

キャスターの足下を中心に、荒野と剣の世界が姿を現す。

 

「そうだろう、()()()()?」

 

騎士王に聞こえただろうか、キャスターは静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

__走って、走って、走り続けた。

 

__そうすれば、いつか俺を待ってくれている彼女に追い付くと思っていたからだ。

 

__根拠なんて必要ない。そんなものが無くったって、俺達はどこかで繋がっている。

 

__そうやって、自分にいつも言い聞かせてきたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「固有結界か」

 

騎士王は、己が今立っているその世界の辺りを見渡す。

 

見渡す限り、剣、剣、剣。そして空には巨大な歯車が噛み合うことなく各々で回り続けている。

 

「これが貴様の世界か」

 

騎士王はこの世界の主に問いかけた。

 

「その通りだ。理想を求め、ひたすら走り続けた男が辿り着いた地。無限の剣の世界とでも言うべきか」

 

キャスターはそう言うと足下に突き刺さった剣を抜き払い、手に取った。

 

「どれもこれも贋作に過ぎんが…」

 

そして、キャスターは手に取ったその剣を手放した。しかし、剣は落下することなく、剣先を騎士王へと向けたまま宙に浮かんでいる。

 

「…往け」

 

キャスターがそう言うと、剣は騎士王へと飛び掛かった。

 

「…」

 

しかしそれは騎士王の一閃により敢えなく切り落とされる。

 

「…くだらん」

 

騎士王がそう言った瞬間には、既にキャスターが目前にまで距離を詰めていた。

 

「はぁっ!」

 

キャスターが剣を振り下ろす。しかしそれは騎士王の聖剣によって防がれる。

 

ならばとキャスターはもう片方の剣を振るう。今度はそれを騎士王は剣の柄で弾き落とした。

 

「…っ!」

 

キャスターは左手に再び剣を投影し、騎士王と切り結ぶ。

 

「その傷で…」

 

鍔迫り合いの最中、騎士王はキャスターの脇腹を見た。英雄王が放った宝具により抉られ、血がキャスターの外套にまで滲んでいる。

 

「よく動く…!」

 

騎士王は片手で握った聖剣でキャスターの剣撃を凪ぎ払うと、もう片方の腕から黒い魔力を放出した。

 

「がっ…!!」

 

魔力の牙はキャスターの脇腹へ噛みつき、キャスターの体から血液を奪う。

 

キャスターはそれを剣で切り裂くと、剣群を出現させ騎士王へと放つ。そしてその隙に距離を騎士王からとった。

 

土煙が辺りを覆い、視界が悪くなる。

 

「…!!」

 

キャスターは左へ跳躍した。その瞬間、キャスターが先程まで立っていた場所から魔力の塊が噴き出した。

 

騎士王は地面に突き刺した聖剣を抜くと、キャスターへと詰め寄った。

 

「ふん…!!」

 

圧倒的なまでの暴力。負傷しているとは言えども、固有結界の中でさえキャスターは防御に徹っさなくては騎士王と渡り合えない。

 

騎士王の一撃を受け止めながら、キャスターは言った。

 

「…なぜ君ほどの人間が、この世全ての悪(アンリ・マユ)に身を委ねた?」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__全ては、己の油断が招いた結果。

 

__己のマスターである少年を守るため。

 

__ただ、私は思うのだ。

 

__あの時、すぐに状況を判断し少年を連れて逃げていれば__

 

__私は、悪に身を委ねずに済んだのではないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れ…!!」

 

横凪ぎの一閃は、キャスターを強く弾き飛ばした。

 

「…っ!」

 

キャスターは直ぐ様体勢を立て直す。

 

「これは、私が選んだ道の結果だ」

 

「…」

 

キャスターは弓を投影し、矢を幾つか騎士王へと放った。

 

「吼えろ…!!」

 

騎士王が剣を振り上げると、同時に魔力の塊が壁のように地面から噴き出した。キャスターの矢は騎士王の魔力に呑み込まれ霧散する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__再開した彼女は、変わり果てていた。

 

__嘗ての理想を捨て、絶望に染まりきっていた。

 

__彼女の理想は、間違っていたが正しかった。

 

__だからそれを愚かだとか、くだらないと言うのは許せない。

 

__それは、傷つきながらも戦い続けた彼女の誇りを侮辱することだから。

 

__だから俺は、許さない。

 

__例えそれが、彼女自身であっても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャスターの放つ矢を避けることなく、騎士王は切り落としながら突き進む。

 

「失せるがいい…!!」

 

騎士王は自身の間合いまで突き進み、その黒き刃をキャスターへと降り下ろした。

 

「おぉぉっ!」

 

キャスターはそれを左手に投影した剣で器用に軌道をずらし、そして間合いをとる。

 

I am the bone of my sword (体は剣でできている)

 

キャスターはその手に黄金の剣を投影する。

 

「……!!」

 

騎士王は中腰に構え、そしてキャスターとの距離を跳躍により縮める。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

キャスターは黄金の剣を大きく振りかざし、そして騎士王へと降り下ろした。

 

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)!!」

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

轟々と音をたて、振り下ろされた黄金の剣と、それを受け止める騎士王の黒き聖剣とがぶつかり合い唸りをあげる。

 

「ふんっ!」

 

「…っ!」

 

激しい鍔迫り合いの末、騎士王は大きく弾き飛ばされる。空中で体勢を整え、くるりと一回転し着地する。

 

黄金の剣は騎士王との鍔迫り合いに勝利したものの、その衝撃に耐えることができなかったのか、パリン、と音をたてて消滅した。

 

「どうした騎士王」

 

キャスターが肩で呼吸をしながらニヤリと笑う。

 

「剣に迷いが生じたぞ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__私は絶望に染まった。

 

__故に、この身には既に望みはない。

 

__あるのは憎悪と絶望のみだ。

 

__では、どうして?

 

__どうして、永久に失われた黄金の剣を振るったこの男の姿が__

 

__かつてのマスターである少年の姿と重なって見えたのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…迷うな」

 

騎士王は己に言い聞かせるようにそう呟くと、その身に纏う魔力を増加させる。

 

「…!!」

 

キャスターは騎士王からさらに距離をとる。

 

騎士王の聖剣を握る手に力が籠る。今までの構えとは違う特徴的な構えに、キャスターは見覚えがある。

 

I am the bone of my sword(体は剣でできている)…!! 』

 

騎士王の増幅した魔力が、聖剣へと流れ込む。おぞましいほどの憎悪が、魔力が、聖剣に纏う。黒い魔力が聖剣を覆うと、それはまるで巨大化したかのようだった。

 

「失せるがいい…我が幻想…!!」

 

大剣となった聖剣を支えるために脚に力がこもる。そしてついに、騎士王が必殺の一撃を解放する。

 

約束された(エクス)__』

 

__だが、その時騎士王は見た。

 

熾天覆う(ロー)__』

 

__キャスターを覆い尽くす

 

勝利の剣(カリバー)__!!』

 

七つの円環(アイアス)__!!』

 

 

__七枚の花弁(最強の盾)

 

 

__そう、それはかつて己の聖剣を破った

 

 

__あの、少年の使用したのと同じもの

 

__そして再び、男に少年の姿が重なる

 

「…っ、あぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

騎士王が吠える。増幅する魔力。

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

一枚、二枚と、キャスターを覆う花弁が消滅する。

 

 

 

 

 

そして最後の一枚となり、膨大な魔力の奔流が二人を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一ヶ月以上お待たせてさせてしまい申し訳ありません。
お久しぶりです。

今回はエミヤのオリジナル要素が濃くでている?と思います。

時間があまりなかったので平日更新になりましたが、そこは御愛嬌。

そろそろ物語もクライマックスに近づいております。

それでもまだ完結には時間がかかりそうですが汗



それでは、また


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―最後の夜― 前編

こんにちは









どぞ


「…っ!!」

 

衝撃の反動によるものか、ダラリと右腕を力無くぶら下げている。

 

激しい土煙が次第に薄れていく。そこには剣先を こちらに向けた騎士王が立っていた。宝具の余波 によるものか、騎士王の前髪は乱れ、それに隠れ て表情を窺うことができない。

 

「…?」

 

騎士王は動かない。 心なしか、先程よりも騎士王の覇気が薄れている ようにも思える。

 

「…それが、貴方の辿り着いた地か」

 

「…!!」

 

無限の剣製、剣戟の極地。青年がひたすら己の道を駆け抜け、そして辿り着いた1つの答え。

 

「…本当に、貴方は愚かだ」

 

英霊、即ちそれは己の魂を世界に売ること。

 

「そんな身体(英霊)になってまで、貴方は何を考えているのですか」

 

キャスターの身体は既に満身創痍。これ以上まともに騎士王と切り結べば、キャスターの身体は限界を越え、自ずと破滅するだろう。

 

「…理由か。フン、さてどうしてだったか」

 

キャスターはやれやれ、と首を傾げる。

 

「ただ今は、止まらないんだ。この身体()が、進まなくちゃいけないと俺を動かす」

 

キャスターはそして困ったような笑みを浮かべる。

 

「だから俺が、君の過ちを正す」

 

「…!!」

 

「いつも迷惑をかけてきたんだ。俺が、そんな理由で無茶する馬鹿だってこと、君も覚えているだろう」

 

瞬間、騎士王の殺気が再びキャスターを包み込む。黒い魔力の濃霧が、騎士王を中心に瞬く間に広がっていく。

 

「来なさい、キャスターのサーヴァント。貴方は私の最後の敵に相応しい」

 

轟々と吹き荒れる風により、隠れていた騎士王の表情が露になる。

 

「その理想ごと、貴方を打ち砕く…!!」

 

そしてその瞳には、今までとは違った感情が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__そうか、これが聖杯がこの身に課した最後の試練

 

__私の最大の障壁を、私が打ち砕く

 

 

__ならばそう、彼こそが、私の最後の敵に相応しい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投影(トレース)開始(オン)

 

キャスターの手に握られたのはやはり、夫婦剣干将・莫耶。頑丈さにかけてはキャスターの知る剣の中においても最高の類だ。

 

鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)

 

騎士王の一撃を、キャスターはその剣で流すように受ける。

 

「…!?」

 

そしてキャスターは、その双振りの剣を弧を描くようにして左右に放つ。

 

 

 

無手になったキャスターの首を刈らんと、騎士王は聖剣を一閃する。

 

「…!!」

 

しかしそれも、先程キャスターは自ら手放したはずの剣と同じ()()で防ぐ。

 

刹那、騎士王は己に近づく死を察知する。

 

 

キャスターにより先程放たれた夫婦剣が、美しい弧を描いて騎士王の喉元へ飛来してきた。背後から接近してくるそれを防ぐことは即ち、一度で同時に双振りの剣撃を凌ぐことに相応する。並みの腕ならば不可能に近い業である。

 

「__!!」

 

しかしそれを、騎士王は当然のように一閃せんと構える。

 

そしてその瞬間を、キャスターは見逃さない。

 

 

「__心技(ちから)泰山ニ至リ(やまをぬき)

 

それと同時にキャスターは己の手に握られた双振りの剣で騎士王へと斬りかかる。

 

ほぼ同時に4つの剣撃。キャスターが作り出した必殺の陣。

 

「__ッ!!」

 

だがそれすらも、騎士王は己の限界を越えんばかりの身体能力でそれらを凪ぎ払い、避ける。

 

恐ろしいまでの戦闘能力、それに加えての持ち前の勘の良さ。錬鉄の英雄の経験に、これほどまでに戦慄するような強敵は未だかつて記録されていない。

 

とはいえ、騎士王の動きが限界に近づけば近づくほど、隙というものも同時に発生する。

 

その隙を突かんと、キャスターは大きく双剣を降り下ろす。

 

「くっ…」

 

苦し紛れの一閃。それにより騎士王はキャスターの一撃を防ぐ。頭ではキャスターの攻撃に追い付いている。しかしそれに対して身体が追い付くことができない。

 

(かつての私なら、あるいは…)

 

頭に浮かんだ余念は、今の騎士王にとっては単なる戦闘の邪魔にしかならない。直ちにそれらを頭の中で振り払い、キャスターに反撃せんと身体を動かそうと意識する。

 

だが、騎士王は直感した。キャスターの必殺は、まだ終わっていないと。

 

「__心技(つるぎ)黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)

 

(二度目…!?)

 

先程斬り払った飛来する二つの双剣(鶴翼)が、今再び騎士王の元へと襲いかかる。

 

干将・莫耶、それは古代中国で、刀鍛冶であった夫婦の名を採った夫婦剣。それらは互いを引き寄せ合うという性質を持つ。

 

キャスターの手に握られた夫婦剣。それに引き寄せられ、もう1つの夫婦剣が再び戻ってくるのも必然。

 

「ッ!!」

 

限界を越えた限界。騎士王の身体は振り向き様に双剣を打ち砕いた。

 

しかし限界を越えたにからには、それに伴ったリスクが存在する。

 

___唯名(せいめい)別天ニ納メ(りきゅうにとどき)

 

剣を握り直そうと、騎士王は神経に脳から指令を送る。

 

…しかしそれも全て後手。この必殺の瞬間を作るためだけに、キャスターは何手も前から布石を作り、そして今に至るのだ。以下に騎士王の常人離れした反応速度を以ても、布石に布石を重ねたキャスターの策には及ばなかった。

 

騎士王の背後には、今までとは異なり、まるで鳥の翼のような形状に巨大化した夫婦剣を構えたキャスターの姿が。

 

(あぁ、貴方は本当に…)

 

 

 

 

__嘗て少年に、身を守るためにと剣術を指南したことがあった。全力の一割も出していない騎士王に、少年は倒す所か一撃も与えることなく返り討ちにされるばかりだった。

 

__今ではどうだ、あの弱かった少年が今まさにこの命を刈ろうと剣を構えている。いかに騎士王が無尽蔵の魔力を保有していようとも、必殺を受けては、文字通り、この身は滅びるのだろう。

 

 

 

 

__両雄(われら)共ニ命ヲ別ツ(ともにてんをいだかず)……!

 

 

 

 

__彼が駆け出す。

 

__私はまだ振り返ることすらできない。

 

__今なら、言ってもいいだろう。

 

__私はきっと後悔している。

 

__あの少年と、共に最後まであの聖杯戦争(第五次聖杯戦争)を駆け抜けることが出来なかったことを。

 

__皮肉なものだ。守ると誓った者に、この身を打ち砕かれるとは。

 

__だが、まぁいい。

 

__後悔はあれど、不思議とそれを受け入れようとしている己がいる。

 

__奇なものだ。この世全ての悪(アンリ・マユ)に、絶望にこの身を委ねたはずなのに、そのような考えを抱くことが。

 

__私は最後まで、理想(わたし)を捨てきれなかったということか。

 

 

 

 

 

 

 

 

カラン、と金属が落下する音が耳に響く。

 

死人にも音が聞こえるのか、など我ながららしくないことを考えた。

 

違う 、この身はまだ生きている。呼吸をし、地に足をつけ立っている。どういうわけか、致命傷所か、傷を受けた感覚すらない。

 

私は音の鳴った方へ視線を向ける。すると、私の左右に、私の聖剣でも、キャスターの使っていた夫婦剣でもない無数の刀剣が、殺気を纏ったまま辺りに散らばっていた。

 

私は振り返る。そこには、やはりキャスターがいた。しかし、額からは玉のような汗が流れ、振り返った私と視線が重なると、力無げに笑った。

 

「ぁ__」

 

思わず私は、震える声を漏らす。彼の背中には、幾つもの刀剣が突き刺さっていた。誰によるものか、なぜ彼が私を庇っているのか、私はそんな混乱する思考の中でも、この状況を理解するのにそう時間を必要としなかった。

 

この光景に覚えがあったのだ。

 

かつて少年は人の身でありながら、鉛の巨人の一撃からサーヴァントであった私を庇った。それはとても愚かで、無謀なことだった。マスターであった少年が死ねば、私も死ぬというのに。

 

だがそれは、私たちがまだ味方同士だった過去の話。

今は私は彼にとっての敵で、彼は私にとっての敵だ。

 

__なのに

 

「どうして…貴方は__!!」

 

 

 

 

 

 

 

__彼女は、あの聖杯戦争(第五次聖杯戦争)を知っている。

 

__そして俺は、彼女に宿った憎悪の原因(この世全ての悪)を知っている。

 

__彼女が、あの泥に呑まれるような失態を犯す筈がない。

 

__彼女のことだ。未熟者のかつての俺を庇って泥に染まったのだろう。

 

__つくづく、自分が嫌になる。

 

__そうと知っておきながら、どうして彼女を放っておけようか。

 

__あぁ、分かっているさ。彼女が俺の知っている()()ではないってことぐらい。

 

__それでも、それでも俺は

 

__彼女を救うと、決めたんだ

 

 

 

 

 

「あぁ、そうとも…俺は愚か者だ。…だから、君を救うのに理由なんて要らないんだよ」

 

振り向き様に、手に握っていた夫婦剣を投擲する。

弧を描いて何者かに接近していったそれは、あえなく無数の刀剣の雨の前に消滅した。

 

__そして

 

「__控えよ」

 

否定を許すことのない声が空洞に響き渡る。

 

「…!!」

 

キャスターは騎士王を突き飛ばした。

 

「__な」

 

刹那、キャスター目掛けて無数の宝具が降り注ぐ。

 

「__フン、最後まで我の邪魔立てをするか」

 

土煙が晴れると、そこにはキャスターの姿は無く、あるのは夥しいほどの血溜まりと、紅い外套の切れ端が漂うばかりであった。

 

何者かが、騎士王へと近づく。

 

「今ので全てを決するつもりであったが…フン、まぁ丁度いい。貴様らは一度では殺し足りん」

 

 

 

__姿を現したのは、人類最古の英雄王・ギルガメッシュ。その紅い双眸が、立ち竦む騎士王の姿を捉えた。




こんにちは、枝豆です。

いよいよクライマックス。本当はまとめたかったのですがこちらの都合により前編後編の二つに分けることに。

次話はおそらくエピローグ込みで投稿の予定です。

分ける可能性もあるのですが。

ぶっちゃけた話エピローグと後日談とかの違いがいまいちピンと来ないので分けようかまとめようかで悩んでまして。うーん、どうしよう。

とりあえず次の更新で物語そのものは完結です。

そう遠くないうちに更新したいのですがどうなるでしょうか。

それでは、どうか最後までお楽しみください


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―最後の夜― 後編

「…臭い(悪臭)が移る」

 

ギルガメッシュはそういうと、泥のついた黄金の鎧を脱ぎ棄てた。

露になったその裸体の胸には、キャスターによって空けられた風穴が痛々しく残されていた。

逆立っていた髪は、泥に濡れたためか下ろされ、暴君然としていた先程までの相貌とは異なり、今の彼は本来の英雄としてのそれに近い。

 

貫かれた胸から流れる血をそのままに、ギルガメッシュはキャスターの立っていた場所に目をやる。自身が放った宝具のが幾つも突き刺さり、そこに広がる夥しい血の痕跡が、その惨劇を物語っていた。

 

 

「塵になったか、あるいは…フン、まぁいい。どちらにせよ死は免れん」

 

キャスターの姿はなく、魔力の気配も感じられない。あれほどの傷を負い、加えて英雄王の宝具を直に受けたのだ。ギルガメッシュの言う通り消滅したと考えるのが妥当だろう。

 

瞬間、剣戟が鳴り響く。

 

「…ほう?」

 

騎士王がギルガメッシュへ聖剣を振り下ろし、ギルガメッシュはそれを宝物庫から取り出した剣で防いだ。

 

「よもやあの男(キャスター)の敵討ちのつもりではあるまいな」

 

「…!!」

 

ギルガメッシュの背後より放たれた三つの宝剣を斬り払うと、騎士王は英雄王から距離をとった。

 

「見てきたぞ、貴様の邪念の正体を」

 

ギルガメッシュはそう言うと愉快げに口を歪め、そして自分の背後に聳え立つ大聖杯を眺めた。

 

この世全ての悪(アンリ・マユ)か。笑わせてくれる」

 

「…何故だ。何故貴様は…!!」

 

騎士王は声を荒げる。

 

「何故染まらぬか、とでも言うのではあるまいな…?」

 

ギルガメッシュは視線を騎士王へと移し、

 

「侮るなよ雑種」

 

そしてその紅き瞳で睨み付けた。

 

「この我を貴様ら凡百の英雄共(雑種)と一緒くたにするな。あの程度の邪悪、飲み干せなくて何が英雄か…!」

 

ギルガメッシュがそう言い放つと、その背後の空間が水面のように揺らめいた。

 

「っ!!」

 

刹那、幾多もの刀剣が弾丸となって放たれる。

 

「何が騎士の王だ。クズめ、王を称する者が、雑念にその身を委ねるとはな。は、笑わせるな」

 

宝剣の煌めきが、さながら流星の如く降り注ぐ。騎士王はそれを神速で対応するが、如何せん数が多いためか、反撃の瞬間を見出だせずにいる。

 

「泥に染まったから絶望した?邪悪に身を委ねたからこそ真実を知る?戯けが、都合が良いにもほどがある。貴様の言う絶望など、己の醜さを隠すための言い訳に過ぎん」

 

「…黙るがいい!!」

 

騎士王は聖剣に魔力を込め、そして振るう。魔力を纏って巨大化した聖剣の一閃は、ギルガメッシュの放った刀剣の雨と相殺される。

 

「ほう…?」

 

ギルガメッシュは消滅した己の宝具に見向きもせずに、息を荒くする騎士王を見つめる。

 

「動揺するか。絶望に身を委ねながら、己を恥じる心は喪っていないというわけだ。さては貴様、泥に呑まれた己に疑念を抱いているな??」

 

「!!」

 

騎士王はギルガメッシュを睨み付けた。

 

「図星か」

 

ギルガメッシュの背後の空間が、再び揺らぐ。幾多もの宝具の原典たちが、主君の合図を待ちわびている。

 

「…つまらん奴だ。悪に染まりながら、悪を拒むか。理に反したその魂、この我が手ずから引導を渡してやろう」

 

ギルガメッシュの手が振り下ろされ、後ろで控えていた刃が一斉に放たれた。

 

「容赦はせんぞ…さぁ、死に者狂いで足掻くがいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉぉっ!」

 

無数の刃が、私に飛来する。

一振りで三つ、四つと、それぞれが必殺の威力を抱いた宝具たちと、私は剣戟を奏でる。

 

「ッ!!」

 

加速する剣戟の中で、斬り漏らした一つの剣が私の肩を掠める。

剣は容易く鎧を裂き、そしてその傷口に私は悪寒を抱いた。

 

「竜殺し…!!」

 

辺りを見渡すと、空間から顔を覗かせるそれらは、どれもが古今東西、竜殺しの伝承を持つ宝具の原典たち。

 

「余興だ…上手くかわせよ?」

 

ギルガメッシュは不敵に冷酷な笑みを浮かべると、一斉に剣群を放った。

 

「…ふっ!」

 

傷を負った箇所に魔力を纏い、強引に身体を動かす。我が二つ名はブリテンの赤き竜。故に、竜殺しの一撃は一つ一つが致命傷となる。

 

ギルガメッシュが放つ剣群には、一瞬たりとも気を抜くことができない。無作為に放っているようでも、この男は着実に私を追い込んでいる。

旋回しながら剣群を払いつつ、男との距離を詰める。

 

「はぁぁっ!」

 

ギルガメッシュの連撃の隙を突き、反撃せんと剣をふるう。

 

しかし__

 

「戯け」

 

「!!」

 

剣を振り下ろす、その直前で足が止まる。

見ると、足元の空間から現れた鎖が足を縛り付けていた。

 

「消え失せろ、雑種…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、そうか。

あの黄金(ギルガメッシュ)の言っていたことはすべて正しかったのだ。

絶望に身を委ねる。そんなことは、都合の良い言い訳に過ぎない。

剣となろうと誓った。守ろうと約束した。

そんな、サーヴァントならば当たり前のことでさえ、私は守れなかった。

守れなかった誓い、果たせなかった約束。

全ての原因は、私の愚かさ故。そんなだから私は泥に呑まれたのだ。

きっとこれが、私に下された(呪い)

だから私は、絶望に染まることで無意識に己を罰したのだ。

絶望に身を委ねた罪を、絶望に身を委ねることで罰する。

あぁ、何て愚かな。矛盾していることなど考えれば分かることだ。

でも、これも間違いだ。

今ならわかる。誓いを守れなかった私が、本当に求めたモノ。

救って欲しい?助けて欲しい?否、そんなことでは私は満たされない。

 

 

__そうだ、私はただ

 

 

 

「…(シロウ)に、裁いて(許して)欲しかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう…まだ生きるか、雑種」

 

声がする。

 

「…ッ!!」

 

体に魔力(チカラ)が上手く伝わらない。目を開くと、私は地面に横たわっていた。

身体中はズタズタに引き裂かれ、地面が傷口から流れ出た血液を吸って湿っている。

記憶を辿る。そうだ、私は鎖に足をとられ、そしてそのままギルガメッシュの放った宝具の原典(竜殺し)に身体中を貫かれたのだ。普段ならあの程度の罠なら気付けていた。それに気付けなかった私は、やはりあの黄金()の言うように動揺していたためか。

 

「ふっ…」

 

己の愚かさに思わず笑ってしまった。

どうやら私は何から何まで見透かされていたらしい。

 

「余裕だな、貴様」

 

ギルガメッシュが苛立ち気に言う。

私は手元に落ちていた聖剣を震える手で掴むと、それを杖にゆっくりと立ち上がる。

魔力を全身に送ろうとするが、竜殺しの呪いがそれを邪魔する。

 

「っぐ!!」

 

それでも自力で立てるほどにまでは身体を修復すると、私はギルガメッシュへと目をやる。

 

「そんな体で、まだ我に刃向かう余力があるか。ある意味感心したぞ」

 

ギルガメッシュはくつくつと笑う。

私は聖剣を握る手に力を込めた。

 

「よもや我に勝とうなどと思ってはおるまいな?」

 

その様子を見ていたギルガメッシュは、空間から一つ剣を取り出すと、投げ矢のようにしてそれを放った。

 

「ッ!!」

 

放たれた剣は皮肉にも、彼の選定の剣の原典である原罪(メロダック)

私はそれを息も切れ切れに一閃する。

 

「はぁっ、はぁっ!」

 

体のバランスが崩れ、倒れそうになるが必死でこらえる。

 

「馬鹿め、我は最古の英雄ぞ。はなから貴様が勝てる道理など無いのだ!」

 

「…黙れ」

 

私がそう言うと、英雄王の嘲るような笑い声がピタリと止む。

 

「何…?」

 

「…黙れと言ったのだ、この下郎…!」

 

ギルガメッシュがその紅い双眸でこちらを睨み付けるが、それでも言葉を続ける。

 

「貴様の言う通り、私は己の醜さを絶望の陰に隠し続けた。おかげで目が醒めたぞ。私はようやく、目をそらしていた現実と向き合う覚悟ができた」

 

聖剣を握り直し、その切っ先をギルガメッシュに向ける。

 

「…」

 

「私はたしかに罪人だ。だがそれを裁くのは、貴様などではない」

 

身体中に魔力を送り込んだ。傷は塞がらない。だが構わない。今はこの聖剣を全力で振るえるだけの力があればそれでいい。

 

「フフ、フハハハハハハハッ!!」

 

「…!!」

 

突然、ギルガメッシュが大声で笑い出した。

 

「実に愉快だ!貴様のような道化は久方ぶりに見たぞ!」

 

ギルガメッシュがそう言うと、彼の背後を覆っていた空間の揺らめきが途絶えた。

 

「良いだろう雑種、ここまで持ちこたえた褒美だ。貴様に、原初の地獄(真の絶望)を見せてやる」

 

ガコンと、まるで巨大な城門が閉ざされたかのような音が空洞に響き渡る。瞬間、ギルガメッシュの手元の空間が歪み、あの(イビツ)な剣が姿を現した。

ギルガメッシュがそれを手にとると、三層に分かれた刀身が凄まじい勢いで回転する。

溢れ出る紅い魔力の奔流が、以前とは比較にならないほどのその込められた魔力の壮絶さを物語っていた。

 

「ッ!!」

 

その余りの凄まじさに、私は目を張る。吹き荒れる魔力の風が、私の頬を切り裂いた。

私も己の聖剣に魔力をこめる。今出せる全ての魔力を、この一撃に捧げよう。

騎士王の魔力が、黒い霧となって騎士王を覆う。力んでいるためか、傷口からは血液が溢れだし

竜殺しの呪いが私の集中力と精神を犯す。

 

二人を覆う膨大な魔力の奔流がぶつかり合い、空間が軋む。

 

 

私は既にあの一撃を受け、一度敗北している。だが、ここで引き下がるわけにはいかないのだ。分かっている。私の犯した罪はもう償えないと。私は、全ての元凶(大聖杯)に目を向ける。あれを破壊すれば、第五次聖杯戦争は起こらない。きっと、私の願い(断罪)は永遠に失われるだろう。

 

 

__それでも、それでもこの行為がいつか、ほんの僅かでも結果としてあの少年の救いになるならば

 

 

「それが、今の私にとっての願い(救い)だ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

「死して拝せよ…!!」

 

ギルガメッシュが迸る魔力を纏いながら乖離剣を構える。

その回転の速度は限界に達し、解き放たれるのを今かと待っている。

 

「…!!」

 

私もそれに応じて、聖剣を必殺に構える。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

全身に魔力を纏い、全身全霊をこの一撃に懸ける。

 

 

 

 

『__天地乖離す(エヌマ)

 

『__約束された(エクス)

 

 

 

 

 

『__開闢の星(エリシュ)!!』

 

『__勝利の剣(カリバー)!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅蓮の魔力の竜巻が、空間を切り裂きながら襲いかかる。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

負けるわけにはいかない。私はありったけの魔力を注ぎ込む。

膨大な黒い魔力の煌めきが、紅蓮の魔力と衝突する。

大地が割れ、空間は裂け、今まさにこの空洞は原初の地獄と化していた。

 

傷口からは血が吹き出し、無尽蔵にあるはずの魔力は今にも枯れ果てそうな勢いだ。

 

「ッ!!」

 

紅い風が体を切り裂く。魔力が体から漏れていくのがわかる。

倒れるな、と脳は言う。しかし身体は限界を訴え続けている。

拮抗していた漆黒と紅蓮の魔力の衝突は、次第に漆黒が押されはじめてきた。

四肢は震え、気を抜けば聖剣も手から落としてしまいそうだ。

聖剣から放たれる魔力の波動が弱まる。じりじりと紅い暴風(地獄)が迫ってくる。

 

貴方なら、どうしただろうか。いや、分かりきったことだ。貴方は、最後の最後まで諦めないことでしょう。

サーヴァントであった私を失い、その私が敵になった。そんな絶望的な状況から、貴方はサクラを救うという目的のために諦めずに、ついにはこの身を打ち倒した。貴方なら、きっと私が死んだあの後にサクラを救ったことでしょう。

 

ならば、私も諦めるわけにはいかない。一時でも、私だって貴方のサーヴァントだったのです。そんな無様な真似だけは、貴方に誓ってする訳にはいかない。

 

「おぉぉ!!」

 

身体に再び力を込める。魔力など関係ない。最後まで倒れるわけにはいかない。

 

__その時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅れてすまない。だが、もう少しだけ耐えてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何…?」

 

ギルガメッシュは目を疑った。

たしかに、殺し損ねた可能性はあった。だが、あの男に与えたのは紛れも無く致命傷。

己が手を下さずとも、時期に消えるはずだった。

だがありえないことだが、あの男はこうして実体として現界している。

 

「良いだろう…まとめて塵になるがいい…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

己の目を疑う。

 

「どうして…!!」

 

そんな余裕など無い筈なのに、思わず声を出す。

だが確かに、そこに彼は立っていた。

拮抗する魔力の渦の間に立ち、手からは花弁の如き盾が展開されている。

 

「…チャンスは一度だ」

 

「…!!」

 

私はこみ上げる感情を抑え、彼の言葉に耳を傾ける。

 

「俺が時間を稼ぐ。その隙に、君が彼を倒すんだ」

 

本来なら七枚あるはずの花弁は、彼の魔力量に影響してかその数は四枚にまで減少している。

 

「何を…!!」

 

無茶だ。この英雄王の一撃を避けて、ましてや倒すなど。

無謀と諦めないとでは意味が異なる。

 

I am the bone of my sword(体は剣でできている) …!!」

 

彼が詠唱を唱える。そしてそこに現れたのは__

 

 

 

「なぜ…貴方がそれを…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、キャスター。貴方に渡したいものがあるの』

 

アイリスフィールはそう言うと、彼女の持ってきたアタッシュケースの一つからそれを取り出した。

 

『アイリスフィール、それは…!!』

 

彼女が取り出したそれに、思わず声を大きくしてしまった。

 

『ふふふ…』

 

アイリスフィールは笑みをこぼす。

 

『?』

 

『やっぱり貴方、これを知っているのね?』

 

『…!!』

 

不覚だった。この女性は妙なところで鋭い。

 

『これを、貴方に預けます』

 

『何を…』

 

アイリスフィールはそれを、俺に渡した。

 

__全て遠き理想郷(アヴァロン)、彼の騎士王の、失われた聖剣の鞘。

 

その鞘は如何なる傷をも癒し、五つの魔法でさえ寄せ付けない最強の守り。

 

『これほどの触媒で召喚されたサーヴァントが貴方ですもの。きっと、貴方はこの鞘と何か所縁がある』

 

アイリスフィールは言う。

 

『だからきっと、貴方が持っていたほうがその鞘にも意味があるわ』

 

『アイリスフィール…』

 

『だからどうか…あの人の、切嗣の願いを叶えてあげて』

 

俺は手にした聖剣の鞘を見る。磨耗し、失われていた記憶が蘇る。

 

『アイリスフィール、俺は…!!』

 

言葉が詰まった。

 

『いや、すまない。何でもないんだ』

 

荒くなった息を整える。

 

『ありがとう、アイリスフィール。この鞘は、きっと我々を勝利に導く』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは、君のものだ。使ってくれ」

 

私の目の前に現れたその鞘を、彼は使えと言った。

 

「でも、私は…!!」

 

__それを、手にする資格があるのか。

 

__憎悪に身を委ね、理想を捨てた私が、今になってこの鞘(理想郷)を扱う資格が。

 

 

花弁が一枚、弾けて消える。

 

「!!」

 

紅き魔力が、再びその距離を縮める。

 

「俺はね、セイバー…!!」

 

彼が口を開いた。

 

「きっとそれを君に渡すために、ここまで来たんだ」

 

また一枚、花びらが散る。

 

「間違ったっていいじゃないか。セイバーが道を間違えたら、俺がその分セイバーの間違いを正す…!!」

 

そしてもう一枚、花びらが散る。

 

「だから、セイバー。もう一度、その鞘を手にとれ…!!」

 

 

 

 

 

 

__最後の花弁が、役目を終える。

 

__その瞬間、目映い光が辺りを包み込んだ。

 

__彼の騎士王が死後、辿り着くとされる幻の大地。

 

__その名は

 

 

 

 

 

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)__!!』

 

 

 

 

 

「行け、セイバー…!!」

 

 

 

 

「なに…!!」

 

突如として現れたその光に、英雄王の放つ魔力の渦が飲まれる。

 

「おぉぉぉぉぉぉ!!」

 

その光の中には漆黒の鎧ではなく、蒼銀の鎧を身に纏った、本来の騎士王の姿が。

 

「…!!」

 

 

 

『__約束された(エクス)

 

 

 

それは既に目前にまで迫っていて__

 

 

 

『__勝利の剣(カリバー)!!』

 

 

 

__聖剣の煌めきは、英雄王をその光に包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それが、貴様の真の姿か」

 

英雄王の口からは、血と共にそんな言葉が紡がれた。

 

「…」

 

私はそれに答えず、聖剣の一撃を受けてもなお立っているこの男へと顔を向けた。

 

「フッ、なるほどな…この我を騙したのだ。たしかに貴様は罪人よ…」

 

英雄王の体が、徐々に魔力の粒子となって消えていく。

 

「よい顔だ…どうやらこの世界()にも、まだ我の手に届かぬ物があったか」

 

そしてついに、その全てが黄金の光に消えた。

 

「さらばだ騎士王よ…いや、今宵は中々に楽しめたぞ」

 

最後には英雄王の声だけが、崩れゆく空洞に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__貴方が…私の鞘だったのですね」

 

私がそう言うと、彼が振り返った。

 

「__シロウ」

 

 

 

 

 

 

 

 

振り返ると、そこには俺のよく知っている彼女がいた。

 

この姿を見れただけで、思わず笑みが溢れそうになる。

 

俺はそれをなんとか抑えると、彼女に言った。

 

「あぁ…だがその鞘は君が持っているべきだ」

 

「えぇ、ありがとうございます。シロウ」

 

彼女が微笑む。

 

あぁ、俺は間違っていなかった。彼女に追い付くために、ひたすら走り続けてきたんだ。彼女のその笑顔だけで、俺は報われる。

 

瞬間、彼女が光に包まれる。

 

 

「これは…!」

 

 

彼女が声をあげた。あぁ、そうか。君はきっと、本来君がいるべき世界に帰るのだろう。

 

消滅とは異なるその光が、徐々にその輝きを増す。

 

「シロウ!私はまだ、貴方に…!!」

 

彼女が何か言 おうとする。だけどきっと、それは今の俺に言うべきことじゃないんだ。

俺は彼女に近付いた。

 

 

「シロウ…」

 

彼女の頭を優しく撫でる。やめてくれよセイバー、俺だって本当は…

 

だから、だから一言だけだ。

 

 

 

「ありがとう、アルトリア…君のおかげで、俺もまだ頑張れる」

 

そう、まだ走り続けなきゃいけない。きっと彼女()が、俺を待っている。

 

「…シロウっ!!」

 

 

そしてついに、光が完全に彼女を包み込むと、彼女は消えてしまった。

彼女はまだ何か言おうとしていたけど、俺はただ、黙って笑顔で見送ることにしたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、最後の大仕事だ」

 

既に空洞は崩れ始めている。あれほどの戦いのあとだ。無理もない。

 

振り返り、俺はそこにそびえ立つ大聖杯に目をやる。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

投影したのはもちろん、彼女の剣だ。

 

俺はそれを、つい先程まで間近にあった本物と比べる。

 

「俺もまだまだだな…」

 

やはり、本物には到底及ばない。

 

俺はその剣に、残しておいた最後の魔力を込める。

 

「…約束は果たすぞ、爺さん」

 

それに、アイリスフィールも…

 

 

 

 

約束された(エクス)__勝利の剣(カリバー)__!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Epilogue 1

 

 

 

 

 

『ここは…』

 

そこは遠坂邸の、時臣師の自室だった。

 

『何…?』

 

そこにいるのはこの部屋の主である時臣師と…

 

『あれは…私…?』

 

そして時臣師がワタシに背を向けたその瞬間、

 

『!!』

 

私は、時臣師の背後から、短剣を突き刺した。

 

『…なんだ、コレは…!!』

 

私が、そう言うと、ワタシが私に振り返って言う。

 

『これが、貴様の願いだ』

 

『…!!』

 

 

 

場面が移り変わる。

 

そこは私もよく知る言峰教会。

そしてそこに立つのは…

 

『父上…』

 

父上が、祭壇に向かって歩いている。

 

そこへワタシが近付いていく。

 

『…よせ、やめろ』

 

父上が振り返る。その瞬間、ワタシの拳が父上の心臓を破壊した。

 

『…なぜ、こんなものを見せるのだ!!』

 

父上は倒れ、ワタシが私に振り返った。

 

『ならば私よ、何故わらっている?』

 

『な…に…?』

 

口元に手をやり、それをなぞる。それは弧を描き、笑っている時のそれだと認識する。

 

『これが、私の願いか…?』

 

私はワタシに問いかける。

 

そうだ、とワタシは答えた。

 

『フフ、アハハハッ!!』

 

そうと分かると、私は思わず声を出して笑ってしまった。

 

『そうか、これが私の願いか!!』

 

本来なら誰もが拒むはずのその事実を、私はすんなりと受け入れる。

 

そうだとも、言峰綺礼は異端者だ。そんなこと、私はとうの昔に気付いていたのだ。

 

 

 

 

そして再び、画面が切り替わる。

 

『…!!』

 

そこは、白い部屋だった。

 

そこには一つのベッドがあり、一人の女性が眠っていた。

 

『クラウディア…』

 

そう、そこにいるのは私の妻。

 

彼女の死が、私が異端だということに気付くきっかけとなった、全ての始まりである。

 

あの時、私は涙を流した。

 

妻を失った悲哀によるものか、妻をこの手で殺せなかったことによるものか。

 

ワタシが、寝ている妻に近付く。

 

『…』

 

そしてその白い首に、手をかける。

 

妻は少し抵抗するが、すぐに力尽きた。

 

私は、自分の口元に再び手を伸ばす。

 

『笑って…いる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと、そこは本来いたはずの空洞だった。

私は泥の泉に浮かんでいる。どういうわけか空洞は既に崩壊を始めていた。

私は、ワタシが妻に手をかけたときのあの映像を思い出した。

「ハハハハハハッ!!」

 

やはり私の魂は歪んでいる。妻を手にかけたことに、こうして愉悦を感じているのだから。

 

『__あなたは、私を愛しています』

 

ふと、かつて妻が私に言った言葉を思い出した。

 

「__だってあなた、泣いていますもの」

 

違う。私はこの手で妻を殺せなかったことに涙を流したのだ。

 

「…!!」

 

だがその時、頬に熱いものが流れるのを感じた。

 

私は恐る恐るそれに手を伸ばす。

 

「…私は、泣いているのか…?」

 

紛れもなく、それは涙であった。

 

「馬鹿な…」

 

私は目を擦る。しかし涙は止まること無く流れ続ける。

 

「そうか…つまり私は」

 

私は、一つの結論にたどり着いた。

 

「…私は、お前()を愛していた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Epilogue 2

 

 

 

 

 

私は聖杯戦争が終了した後のしばらくの間、魔術協会への事後処理に追われていた。

 

幸いにも璃正氏の助力によって聖堂教会が調査を行い、魔術教会に聖杯の真実への理解を得るのにそう時間は必要としなかった。

 

だがそれでも、一ヶ月もかかったわけではあるが。

 

事実上、聖杯戦争は終了した。アインツベルンは大聖杯が破壊されたことにより撤退、間桐は当主である蔵硯と、今回のマスターであった雁夜の死亡により、魔術そのものから手を引くことになった。

 

「間桐…か」

 

協会の調査により分かったことだが、間桐の魔術はもはや異端の域に達していたらしい。

当主がいなくなった今、一体何が行われていたのか詳しくはわからない。

 

…いや、一人いるのだ。

 

桜。愚かだった私が、間桐に養子にと出してしまった娘。

 

協会の調査のためにと、しばらくその身を保護という形で協会へと引き渡していた。無論、葵が監督役である璃正氏共に付き添いで行ったが。

 

今日私は、聖杯戦争が終わって始めて桜と面会する。

 

 

 

 

 

「…」

 

部屋の戸をノックした。

 

「どうぞ」

 

すると葵の返事が聞こえた。

璃正氏の話によると、葵はこの一ヶ月ずっと桜に付きっきりであったらしい。

 

私は息を整え、扉を開いた。

 

そこにはベッドで体を起こしている桜と、その横のイスに座っている葵の姿があった。

 

「ぁ…」

 

桜が私の姿を確認すると、声を漏らした。

 

「桜…」

 

言葉が詰まる。

 

「桜…すまなかった」

 

私は持っていたステッキを置き、頭を下げる。

我が子の行く末を見据えて、間桐の家に桜を養子にと出した。

だがそれは結果として、彼女の幸せになどなるはずがなく、あまつさえ彼女の心を傷付けてしまった。私は、一人の魔術師としても、父親としても失格だ。

謝って許されることではない。だが、それでも__

 

「お父、様…」

 

「…!!」

 

今、何と言った__?

 

「お父様」

 

「桜…?」

 

顔を上げると、桜は涙を流していた。

 

「…お父様っ!!」

 

桜はそう言うと、ベッドから体を乗り出して私の体に抱きついた。

私は葵に目をやる。葵は微笑むと、ゆっくりと頷いた。

 

私はそして、泣いている桜に再び視線を移す。

桜はこんな私をまだ、父として扱ってくれるというのか…?

 

「桜」

 

私は桜の頭を撫でる。葵に似て黒かった桜の髪は、間桐の魔術によって紫色になってしまった。

 

「桜、すまなかった…」

 

私は間違っていた。魔術師がどうだとか、そんなことよりも一人の人間としてもっと大切なことがあったのだ。そんな簡単なことに私は、今になって気付かされることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Epilogue 3

 

 

 

 

 

 

 

「…うぅ」

 

胃がキリキリと痛む。

なぜかというと、僕は今から殺されるかもしれないからだ。

…聖杯戦争が終わった後、僕は魔術協会に帰った。

グレンさんはどういうわけか、僕のことをすごく理解してくれて、英国に行くと言ったらすぐに了承してくれた。マーサさんは少し悲しそうだったけど、僕は暫くしたらまた帰ると約束したんだ。そしたらグレンさんはありがとうって言ったんだけど…どういう意味だったんだろう。

 

話は元に戻るけど、僕は魔術を一から勉強し直そうと思ったんだ。

なぜかっていうと、うん。それは、あいつが、ライダーが僕の使った魔術を褒めてくれたからで。でも、僕にとっては、あんな初歩的な魔術で褒められても嬉しくなんか…いや、どうせだったら、もっとすごい魔術を使って、そしていつか、あいつを驚かせてやろうと思ったんだ。

 

…と思って協会に戻ったのも束の間、僕は何とあのケイネス先生に呼びだされてしまった。

なんでも、先生は聖杯戦争で負った傷のせいで、先生の家は今何かとヤバいらしい。

つまりそれって、大元の原因である(聖遺物を盗んだ)僕のせいでもあるわけなんだ。

 

 

 

「失礼します。ウェイバー・ベルベットです」

 

先生の自室の扉をノックする。

するとどうぞ、という女の人の声が聞こえてきた。

 

「失礼します…」

 

「来たかね」

 

その声を聞いて僕は息を飲んだ。

 

「ウェイバー・ベルベット君?」

 

「ひっ」

 

思わず声が漏れる。

心臓が音を立てているのが分かる。頭が熱い。

 

先生は車椅子に乗っていて、その横には紅毛の女の人が立っていた。

名前はたしか、ソラウ・ソフィアリだったはず。

 

「今日私が君を呼んだのは、なぜだと思う?」

 

「そ、それは…」

 

先生が凄い視線で僕を見てくる。僕は恐怖で足が震えていて、額からは汗が流れ続けている。

 

「ぼ、僕が、先生の聖遺物を盗んだから…っ!!」

 

やっとの思いで言葉を紡ぐ。

 

先生はそれを聞くと眉間に皺を寄せた。

 

「ひぃっ!!」

 

あまりの恐怖に、呼吸と悲鳴が混ざって変な声が出た。

 

「たしかに、君は私の聖遺物を盗んだ」

 

先生は苛立った声で言う。

 

「これは愚かで、許されざることだ。私がその気になれば、君とその一族をこの協会からは破門することだって難しいことではない」

 

鋭い目で先生は僕を睨み付けた。

 

「…ケイネス?」

 

するとソラウさんが、先生を諭すようにその名を呼んだ。

 

先生はそれを聞くとばつが悪そうな顔をし、そして咳払いをした。

 

「だが私はそんなことで君を呼んだのではない」

 

「えっ…?」

 

すると先生は、机の引き出しから何やら紙を取り出した。

よく見ると、それは__

 

「僕の…論文?」

 

それは、かつて先生が下らないと一蹴した僕の論文だった。

 

「改めて読まさせてもらったが…内容はともかく、一つの研究資料としては中々よくできている」

 

「…え」

 

先生はページを再び一通り読むと、僕に言った。

 

「そこでだ。君を私の研究室の助手として採用しようというわけだ」

 

「!!」

 

「君も知っているかもしれないが、アーチボルト家は今人手を必要としている」

 

僕は驚きのあまり口をパクパクしていた。

 

「君にとってもそう悪い話ではないと思うが」

 

先生は言った。

 

「さて、どうするかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Epilogue 4

 

 

 

一仕事を終えて、私は息をついた。

 

監督役としての事後処理を終え、今日は聖杯戦争の参加者であった間桐雁夜の埋葬を、言峰教会で行った。

参列者は遠坂家のみであったが、それでも神父としての仕事は手を抜くことはない。

 

『ありがとう、雁夜君…』

 

葵さんと間桐雁夜との間にあった話は少し聞いていた。

恐らく、これで間桐雁夜の魂も迷うことなく神に導かれることだろう。

 

「はぁ…」

 

未だに消息の不明な息子、綺礼。

時臣君の話によると、彼は空洞で姿を消したらしいが。

 

「せめて、生死だけでも…」

 

聖杯戦争に参加する以上、ある程度は覚悟はしていた。無論、事がすべて上手く運んでいれば、このような事態は起こらなかったのだが。

 

「…?」

 

教会の扉が開く音がする。

 

「こんな遅くに、一体誰が…」

 

自室から出て、聖堂へと向かう。

 

「誰もいない…?」

 

ふと、不自然に開かれた扉に目をやる。

 

風で開いたのかと、閉じるために扉へと近付く。

 

そしてそこにあるものに、私は気がついた。

 

「…これは!!」

 

そこに置かれていたのは、かつて綺礼が愛用していた聖書であった。

 

急いで扉の外へと飛び出し、辺りを見渡す。しかし既に、その聖書の持ち主の姿は無く、ただ月明かりが置かれたそれを照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Epilogue 5

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、キリツグ」

 

月明かりに照らされた縁側で、僕とイリヤは月を眺めていた。

あぁ、なんて綺麗な月なんだろう。そんなことを、僕は思っていた。

 

「キリツグってば、聞いてるの?」

 

「ん?あぁ、ごめんごめん。聞いているよ、イリヤ」

 

「もう、キリツグってばのんびり屋さんなんだから」

 

イリヤはそう言うと、頬を膨らませて僕を上目遣いで見てきた。

僕がイリヤの髪を撫でると、イリヤは少し機嫌を直してくれたのか、鼻歌を歌っていた。

 

「で、話ってなんだい?」

 

「…キリツグは、何で聖杯戦争に参加したの?」

 

イリヤはそんなことを聞いてきた。

 

「うん。そうだね…僕はね、イリヤ。正義の味方になりたかったんだ」

 

「セイギノミカタ…?」

 

僕は言葉を続けた。

 

「誰もが争わない、平和な世界が僕の夢だった。正義の味方になれば、それが叶うと思っていたんだ」

 

「…」

 

イリヤは黙って話を聞いている。

 

「でも、正義の味方に僕はなれなくて、仕方ないから聖杯で願いを叶えてもらおうとしたんだ。だけどね、僕はそこで出会った本当の正義の味方に、僕の願いが間違っているということに気付かされたんだよ」

 

風が吹き、庭の草木が揺らぐ。

 

「願いは、自分で叶えるものなんだ。彼の人生を知って、そう気付かされた。だから僕は、聖杯戦争を終わらせることにした」

 

「ふうん…」

 

「イリヤには…悪いことをしちゃったかもしれないな」

 

僕はつい、そんなことを呟いた。

 

「どうして?」

 

「僕がもう少し早くにそのことに気が付いていれば、アイリを助けることができたかもしれない」

 

再び、風が吹いた。イリヤの髪が風に靡く。

 

「大丈夫だよキリツグ。イリヤ、寂しくないもの」

 

「イリヤ…」

 

「だって今はキリツグがそばにいるし…それにお母様だって、イリヤの中にいつもいてくれるもの。お母様、いつも言ってるよ?キリツグ、ありがとうって」

 

「…!!」

 

__今夜は、本当に月が綺麗だ。

 

「あぁ、そうか…安心した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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All LAST

どうぞ


「士郎は…無事でしょうか」

 

今、後戻りすることはできないとわかっている。

だがそれでも、あの空洞に残った少年の安否がどうしても気にかかる。

 

「彼は強い…きっと生きている…」

 

己にそう言い聞かせ、先を急いだ。

 

その時だった。

 

 

 

 

「__!!」

 

 

 

 

それは、ライダーとすれ違うと、そのまま空洞の奥へと駆けていく。

 

 

 

 

「そんな…どうして貴女が…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崩れ行く大空洞の最奥に、彼女はいた。

 

名をイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 

此度の聖杯戦争におけるアインツベルンのマスターであり、聖杯の真の担い手。

 

天のドレスに身を包んだ彼女は、すべての元凶となったこの大聖杯を閉じるためにここまできた。

 

前方には、肉体の限界を越えながらも、足を引き摺り大聖杯へと歩んでいく少年の姿が。

 

「…」

 

彼を死なせるわけには、いかない。

 

彼はその命と引き換えに、大聖杯を破壊しようとしている。

 

それは駄目だと、彼女は先を急いだ。

 

少年の歩みが止まる。どうやら、ついに歩くことも出来なくなったらしい。それも当然だ。むしろ、あの体で生きている方が奇跡のようなものだ。

 

…その時だった。

 

 

 

「__シロウ!!」

 

 

 

どこからともなく現れた金髪の騎士が、倒れた少年へと駆け寄った。

 

「嘘…どうしてまだ生きているの、セイバー?」

 

イリヤスフィールは己の目を疑う。そこに立っているのは、倒されたはずの騎士王、セイバー。そしてその姿は、聖杯に呑まれ暗黒に染まったものではなく、本来の、美しい鎧姿で現界していた。

 

 

 

 

 

 

 

「イリヤスフィール!!」

 

白いドレスを纏った少女の存在に気付く。

彼女は私の存在に驚愕しているようだが、今はそれどころではない。

 

「イリヤスフィール、シロウが…!!」

 

私はシロウの体を抱き起こす。

そしてその姿に目を疑う。彼の体からは内部より剣が突き出ており、その名を呼んでも虚ろな瞳は虚空を眺めるばかりだ。

 

「肉体の限界を越えた奇跡を行使し続けた代償…シロウの体は、もう元に戻すことはできないわ」

 

イリヤスフィールが近付いてきた。

 

「そんな…シロウは、シロウは助からないのですか!?」

 

そんなことがあってはいけない。彼は、こんなところで死ぬべき存在ではない。

 

「…いいえ、シロウは助かる」

 

「それは本当ですか、イリヤスフィール!!」

 

私は言った。

 

「えぇ。だって、私は聖杯だもの。誰かが願うなら、それを叶えるのが聖杯である私の役目」

 

天のドレスを纏った少女はそう言った。なるほど彼女が聖杯ならば、たしかに願いを叶えることだってできるのだろう。

 

「でもねセイバー、一つだけ聞かせてもらえるかしら?」

 

「…?」

 

少女は言う。

 

「私は聖杯。シロウを救うことだってできるし、貴方が聖杯に託そうとしていた望みだって叶えることもできる」

 

「…!!」

 

「さぁ、サーヴァント・セイバー。貴方が(聖杯)に託す願いは?」

 

私の望み、王の選定のやり直し。私はその願いを叶えるため、世界と契約し何度も聖杯戦争に参加してきた。

 

あぁ、でも、それでも__

 

 

「__迷いなどありません、イリヤスフィール。私は、シロウの命が惜しい。私の過去などよりも、私はシロウの未来に願いを託す」

 

 

少女はそれを聞くと、僅かに微笑んだ。

 

 

「偉いわ、セイバー…ご褒美にその願い、叶えてあげる」

 

「__!!」

 

「私もね、シロウには生きていてほしいの」

 

少女ははそう言うと、私を見て、そしてシロウを見た。

 

「これから行うのは第三魔法・天の杯(ヘヴンス・フィール)。シロウの魂を物質化してその肉体から取り出して、一時的に別の器に移し変える」

 

天の杯…そう、アインツベルンの悲願であり、永遠に失われていた奇跡。

 

「そんなことが…できるのですか?」

 

私はその内容に思わず耳を疑う。

 

「できるわ、だって私は聖杯だもの。だからセイバー、シロウの魂を入れる器が必要なんだけど…」

 

「…!!」

 

 

__シロウの魂を入れる器

 

 

「イリヤスフィール…それは、これでも可能ですか?」

 

私はそれを聞いて、()()を出現させた。

 

「セイバー…それって…」

 

セイバーが取り出したそれは、騎士王より失われたずの聖剣の鞘・全て遠き理想郷(アヴァロン)

 

「えぇ…可能なはずよ」

 

「そうですか…良かった」

 

私はそれを聞くと、安堵する。シロウが救われるなら、これ以上のことはない。

 

__その時だった。

 

 

「__だ、___!!」

 

 

「__シロウ?」

 

 

抱えていたシロウの口から、僅かな声が漏れる。

 

 

 

 

 

「まだ、意識があったんだ」

 

イリヤスフィールはそう言うと、シロウに微笑んだ。

 

「良かった。最期にお兄ちゃんと話せて」

 

「イリヤスフィール…?」

 

私はその発言に疑問を抱いた。最期?一体何を彼女は言っているのか。

 

イリヤスフィールは大聖杯へと歩みを進める。

 

その時、シロウの手が僅かにイリヤスフィールの方へと伸ばされる。

 

「__だ、__、___ヤ!!」

 

「__!!」

 

私はシロウの言葉に耳を澄ます。

 

「…駄目…だ…死ぬ、な、イリヤ…!!」

 

「__な」

 

 

私は咄嗟にイリヤスフィールへと目を向ける。既に彼女は、大聖杯の中枢である魔法陣の前まできていた。

 

 

「あとはお願いね、セイバー。きっと、リンたちが上手くやってくれるわ」

 

 

「イリヤスフィール!!」

 

私は叫んだ。私は既に、彼女が何をしようとしているのかを悟っていた。

 

 

「い、リヤ、イリ、ヤ、イリヤ、イリヤ__!!」

 

 

シロウがついに、少女の名を叫んだ。

 

 

「言ったよね、兄貴は妹を守るもんなんだって。 __ええ。私はお姉ちゃんだもん。なら、弟を 守らなくっちゃ」

 

 

 

彼女がそう言うと、彼女が纏っていた天のドレスが光り輝く。

 

「…!!」

 

「バイバイ、シロウ。それに、セイバーも__」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、何してるんですか。もうすぐ時間ですよ?」

 

桜の声がする。どうやら俺は眠っていたらしい。

 

「ん、あぁ、わるい、桜」

 

目を開くとそこには桜の顔が、困ったような笑みを浮かべて目前にあった。

 

「近いよ、桜」

 

照れるじゃないかと、頬をかいた。

 

桜はそれを聞くと、機嫌が良さそうに微笑む。

 

「だって先輩の寝顔、可愛いんですもの」

 

「あのなぁ…」

 

その時、襖の扉が開いた。そこからはライダーが出てきて、俺らの様子を見て目を細める。

 

「野暮な真似だとは分かっていますが…士郎、桜、そろそろ時間です」

 

「なっ!!」

 

「あ、そうでした!!」

 

桜はそれを聞くと、台所のほうへと駆け出した。

 

「人聞きが悪いぞ、ライダー」

 

「はて、なんの事でしょうか」

 

俺は体を起こし、伸びをする。

 

「時間時間って…今何時さ?」

 

俺はライダーに聞いた。

 

「もうとっくに、正午前です」

 

「!!」

 

そんなに俺は寝ていたのかと、慌てて身支度をする。

 

なんでって、それは…

 

チャイムの音が鳴り響いた。

 

「来たようですね」

 

「悪いけどライダー、出てくれないか」

 

それを聞くとライダーはやれやれ、と玄関へと歩いていった。

 

__そう、今日は遠坂がロンドンから帰ってくる日なのだ。

 

 

 

 

玄関に向かうと、そこには長い髪を下ろし、赤いロングコートに身を包んだ遠坂がいた。

 

「おかえり、遠坂」

 

俺がそう言うと、遠坂はニッコリと笑った。

 

遠坂、いきなりそれは反則だぞ。

 

「ただいま、士郎」

 

彼女はそう言うと、いきなり俺の体をペタペタと触ってきた。

 

「な、なんだよ遠坂…」

 

遠坂はそんな俺の言葉に構うことなく、一通り触ると

 

「うん、馴染んでる馴染んでる。問題は無いみたいね…それに」

 

「…?」

 

遠坂がニヤリと笑う。

 

「…桜とも上手くやってるみたいだし?」

 

「!!」

 

俺は振り返る。そこには顔を赤く染めた桜が立っていた。

 

「お帰りなさい、姉さん」

 

「ええ、ただいま。桜」

 

…うん、まぁいいか。

 

 

 

 

「…」

 

「何そわそわしてるのよ、士郎」

 

俺が黙っていると、遠坂が言った。俺、そんなに顔に出てたか?

 

「貴女も、何隠れてるのよ」

 

遠坂が玄関の外に声をかける。

 

「か、隠れてなど…!!」

 

遠坂が、外の柱の陰から手を引く。

 

「「ぁ…」」

 

飛び出してきたその少女と視線が重なる。

 

少しの、沈黙。俺は息を整え、その少女に声をかける。

 

 

「__おかえり、セイバー」

 

少女はその言葉を聞くと、少し頬を赤く染めて、

 

「__はい、ただいま、シロウ」

 

笑顔で、そう言ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての戦いが終わったあとも、私はこの世界に残った。

聖杯の泥の影響か、魔力には困ることはないようだ。

そして私は、凛の「平行世界」の研究というものにどこか惹かれ、ロンドンにて彼女の使い魔として今は過ごしている。

 

「この子ったら、飛行機に乗ってるときも『日本はまだですか、日本はまだですか』ってずっと言ってくるもんだから」

 

「凛!あなたと言う人は!」

 

まったく、何を言うのですかあなたは。

 

「で、どうなの?久しぶりに会う士郎は…」

 

…その通り。実は今日が私にとって、人としての形を取り戻したシロウに会う初めての日なのである。

 

私は彼の姿を端から端まで眺める。シロウはどこか恥ずかしそうに頭を掻いていた。

 

「…ええ、やはりシロウはその姿が好ましい」

 

 

 

シロウの魂は、イリヤスフィールによって私の鞘へ移された後、何でも封印指定だという人形師が作った、新しい肉体に移された。

 

 

彼の魂と新しい体が馴染むまでに、中々時間がかかった。

凛は既に何度か都合によりシロウに会っていたようですが、私が会うのはこれが初めてなのだ。

 

変わらぬ彼の姿に、笑みが溢れる。

 

シロウもそんな私に微笑み返してくれた。…すると、桜が私に笑みを浮かべる。桜、それはどういう意味でしょうか。

 

 

 

 

「さて、じゃあそろそろ行きましょうか!」

 

凛が立ち上がるとそう言った。

 

 

 

 

 

 

「桜、忘れものないか?」

 

シロウがサクラに言う。

 

「大丈夫ですよ、先輩」

 

外に出ると、風に乗ってきたのか、既に桜の花びらそこかしこに見える。

 

シロウたちが並んで歩いていく様を、私は少し立ち止まって眺めた。

 

 

__きっと、私の罪は償えない。

 

__でも、彼らの姿を見ると、穏やかな気持ちで私の心は満たされる。

 

__この光景が続く限り、私は道を誤ることはないだろう。

 

 

笑い合う、彼らの姿をその目に写す。

 

 

 

 

__あぁ、それはなんて幸せな…

 

 

 

 

 

「何突っ立てるのよ、セイバー」

 

後ろで立っていた私に気付き、私の腕を凛が引く。

 

「あ、待ってください凛!」

 

 

 

___私は既に、理想郷へと辿り着いていた。

 

 

 

 

___だから私は、この巡り会えた運命(Fate)が、永久に続くことを祈るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Epilogue

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

気が付くと、俺は草原に立っていた。

 

風が吹き、草木が揺らぐ。

 

「…!!」

 

その風に乗って、どこか懐かしい香りが漂ってきた。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

 

風が吹いてきたその方へと、俺は無我夢中で駆け出す。

 

感じるんだ。俺が追い続けてきたヒトが、そこにいるって。

 

たどり着いたそこには、俺の思った通り、彼女が立っていた。

 

 

__あぁ、俺は、俺はやっと

 

 

ゆっくりと、彼女に歩み寄る。

 

 

彼女も俺に気付いていたみたいで、振り返ると俺に、あの時と変わらないあの笑顔を見せてくれた。

 

 

 

「__おかえりなさい、シロウ」

 

彼女は言った。

 

「___あぁ」

 

 

___俺はね

 

 

 

「__ただいま、セイバー」

 

 

 

 

___君と話したいことが、たくさんあるんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fin




これにて、作品は終わりを迎えました。

長い間お付き合いいただき、本当にありがとうございます。

元々万人受けするような作品を作っているつもりはありませんでしたが、それでも私にとってはたくさんの方々に読んでいただき、感想もたくさん貰いました。

関係ないかもしれませんが、この作品が偶然にも桜の季節に完結したのも、私は何か嬉しかったです。笑


完結したのは、本当に皆様のおかげです。




何度も言いますが、本当にありがとうございました。







それではまた、どこかで


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