仮面ライダージオウ外伝 ひとりぼっちの裏の王 (タコわさび)
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「きえないキオク 2019」

仮面ライダージオウ本編終了後の加古川飛流の活躍を描きました。1部自己解釈有りです。


この本によれば·····普通の高校生 加古川飛流(かこがわひりゅう)、彼には魔王にして時の王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

作り直された世界で彼に残されたのは深い悲しみと怒りだけだった。そんな彼は再びアナザージオウの力を手にするが·····おっと、ここから先は皆様には少し過去のお話

 

そう言うと裏逢魔降臨録(うらおうまこうりんろく)と書かれた重厚な本を閉じ、謎の男は暗闇に消えていった。

 

これは怒りと憎しみで生きてきた彼が仲間を知るかもしれない物語

彼の選択次第で光を掴み取れるかもしれない物語。

 

「きえないキオク 2019」

 

 

 

目覚ましの音で彼、加古川飛流は目を覚ます。いや、少し語弊があったかもしれない、何故なら彼は半年前からまともに眠れてないからだ。

ベットから起きそのまま顔を洗いに洗面所に向かう。鏡を見る度に自分に腹が立つので、加古川家の洗面所に鏡は無い。

顔を洗い終わって制服に着替え、光ヶ森高校に向かう。

「行ってきます」そう言って扉を閉める、加古川飛流が出たあとの家にはもう誰も居ない。

 

 

この世界は1度作り直されてる、そんな事を周りにいる人間に伝えたらどう思うだろうか?加古川はいつも登校途中そんなことを思う。そして彼はこの世界が1度作り直されてるという事を真実だと信じてる。

別に彼は頭がおかしい訳では無い、彼は今日から遡ること半年前に思い出したのだ。

自分が今生きてる世界は作り直された物だと、そして思い出した。自らの両親を奪った10年前のバス事故、その事故の原因の1人である常磐ソウゴ(ときわそうご)という男を。

 

最初に思い出したのは常磐ソウゴという名前だけだった、しかし、日が経つにつれ作り直される前の世界の記憶が戻っていった。同じ事故で両親を失ったにも関わらず“家族”を持つことが出来た常磐ソウゴに対する嫉妬、常磐ソウゴが仲間を得た事、その仲間と共に仮面ライダーとして戦ってた事、自らがスウォルツという男によって力を得て、常磐ソウゴと戦った事、他にも自分の欲望の為に世界をめちゃくちゃした事。全て思い出した。

 

もし、今、前の世界でスウォルツから手に入れた力を持っていたら·····醜く歪んでいるまるで自分の鏡のようなあの力があれば·····

「フッ····」

彼は思わず吹き出した、半年前から何度この事を考えているのだろうか、もう無駄だと知っているのに。

たとえ あの歪んだ力を再び手にしたとしても彼、加古川飛流が戦うべき相手は、その命を奪おうとした相手はもう作り直されたこの世界には居ないのだから·····

 

と言っても、常磐ソウゴ自体は今の世界にも存在する

それどころか加古川と同じクラスにいる。しかし、その常磐ソウゴは加古川の知る常磐ソウゴとは少し違っていた。

前の世界では未来から後の魔王になる常磐ソウゴを倒す為に来てた明光院ゲイツとツクヨミ、この2人が何故かクラスメイトになっており、常磐ソウゴと仲良さそうにしている。そして何よりも違うのが彼ら3人には、というより、加古川以外の人間は前の世界での記憶が無いらしい。

何度か常磐ソウゴ等に声を掛けたが彼らはあくまでただのクラスメイトとして加古川に接する、本当に忘れてしまった、本当に忘れられてしまった·····そう考える度何故か胸の奥が締め付けられるようだった、加古川飛流はまだこの気持ちの名前を知らない。

 

そんなことを考えながら歩いていると加古川飛流のそして常磐ソウゴ等が通う光ヶ森高校に着いた。

 

ちょうど彼が正門を通ろうと来た時、反対の方面から常磐ソウゴと楽しそうに話してる明光院ゲイツとツクヨミの姿が見えた、その姿はどこからどう見ても普通の高校生だった。とても世界を作り直した魔王には見えない。

「あ、加古川おはよう」

その挨拶を受けて加古川は何も返せなかった、ただ学校の反対側に向かって走り出した。

 

 

そのまま加古川は家には帰らなかった、誰も居ない家に帰って何になる?復讐の対象がいない学校に通って何になる?半年間我慢してきた思いが何故か込み上げてきた。両目から涙をボロボロこぼしながら、その唇を血が出るほど強く噛み締めながら彼は行く宛もなく街をさまよった。

そのままどれくらい時間が経ったのだろう。

歩き疲れてその足を止めた時にはもうすっかり日が暮れていた、何をしているんだ俺は·····そんなどうしようも無い思いが胸から離れない。

このままいっそ死んでしまおうか·····そんな事を考えた時、前触れもなく女性の悲鳴が聞こえた。彼はその悲鳴を聞いてすぐに走り出した。逃げたのではない、むしろ悲鳴の方向へ走っていった。

別に加古川飛流に誰でも助ける正義感がある訳でもない、ただ今の状況から脱したかった。それだけである

彼は全てを失っても生きたかった、加古川飛流は今を失いたくなかった。

 

 

「もうひとりのキング2019」

 

 

 

 

加古川飛流が走って向かった場所は少し前まで使われてたであろう工場の跡地だった、加古川が聞いた悲鳴の主はそこにいた。

20歳前後くらいに見える女の子が怪物に襲われている、その怪物は人間のような見た目をしていながらその容姿は大きく歪んでいる、そして加古川はその怪物を知っている。

「アナザー····ライダー?」

何故ここに、この世界にアナザーライダーがいる?そんな疑問を持つ暇もない。アナザーライダーは女の子を今にも食らいつきそうな勢いで壁際まで追い込む。

「くそ! うわぁぁぁぁ!」

そんな雄叫びにもならない叫びを上げながら足元に落ちていた鉄パイプをアナザーライダーの頭目掛けて思い切り振り下ろす。少しは効いたようで、アナザーライダーは少しよろめいたようだ。

「早く!何してる、早く逃げろ!」

加古川がそう叫ぶと女の子は声を出さずに頷いてうろたえながら逃げていった、アナザーライダーはその真緑の肌とは対象的な真っ赤な瞳で加古川を睨みつける。

 

あぁコイツはアナザーアギトか·····加古川がそのアナザーライダーの姿をハッキリと認識した時にはアナザーアギトは加古川に飛びかかる。

何をしているんだ俺は·····アナザーライダーに鉄パイプなんかじゃ敵わないことは分かっていた、見ず知らずの女の子を助けたかった?自分が?

「違うな···俺は死にたかったのか」

彼はそう呟いて自分を納得させた、その時点でアナザーアギトに対する抵抗を辞めた。アナザーアギトは一瞬不思議そうに加古川を見たがすぐに加古川を捕食しようとカチャカチャと音を立ててその口を開く、あぁもうどうでもいいや加古川飛流はここで自らの人生を終わらせようとした。

 

「死んでしまっては困るな、我が魔王」

そんな声が響くと同時に謎の衝撃波でアナザーアギトが吹き飛ばされる、驚いて加古川が衝撃波の放たれた方向を見るとそこには、重厚そうな本を片手で持っている男が立っていた。

「ウォズ·····?」

加古川は不思議そうに呟く。

「常磐ソウゴの手下のお前が何故ここにいる?なぜ俺を助けた!」感情のままにウォズに怒鳴りつける。

「手下ではなく家臣なのだが·····まあ、そんな事はどうでもいい」呟きながらウォズは加古川に近付いてくる。

「なに、ひと時でも我が魔王となった君だ、見殺しにするわけには行かないのでね」

そう言うとウォズは加古川に丸型のアイテムを渡す。仮面ライダー達の力が込められた懐中時計型のアイテム、ライドウォッチだ。

だが、ウォズが渡したウォッチには何者も写っていない

「ブランクウォッチか·····俺に戦えと?」

加古川はブランクウォッチを受け取らない。

「あぁ、その通りだ君に死んでもらう訳には行かないからね」その瞬間、加古川は察した。

このウォズの目は俺にアナザージオウの力を渡したスウォルツと同じ目、俺のことを利用しようとする目·····

加古川はブランクウォッチとようやく立ち上がったアナザーアギトを交互に見る。

いいだろう·····次は逆に自分が利用してやる、そう決意しウォズからブランクウォッチを受け取る。

ブランクウォッチを加古川が力強く握ると。

《ジ・オーウ》低い声でそう響いた、続いて天面のスイッチを押すと、加古川の腰部分に真っ黒なベルトが現れた。

「変身!」

そう叫びながらベルトの右側のスロットにアナザージオウウォッチを差し込む、《ジ・オーウ!!》の声と共に加古川の体が真っ黒なオーラに包まれる、オーラが晴れるとそこから現れたのは、薄汚れた白色の皮膚に上半身にはシルバーにピンクのラインが入った鎧。

その顔はまるで無理やり仮面を剥がされたように皮膚と歯が露出している。額部分には2時55分を指す時計の針がある。

「祝え!」ウォズが声高らかに叫ぶ

「全アナザーライダーの力を引き継ぎ、過去と現在をしろしめす裏の王者その名もアナザージオウ!今再臨の時である」

ウォズの祝いを横目に加古川飛流もといアナザージオウは真っ直ぐとアナザーアギトを睨みつける。

「さぁ我が魔王、存分に戦われよ」

ウォズが一歩後ろに下がる

「あぁ、言われなくてもな」

そう言うアナザージオウの両手には、いつの間にかまるで時計の短針と長針のような剣が握られていた。二つの剣を構えながらアナザーアギトに向かって走り出した。

 

 

その後ろでウォズが不敵な笑みを浮かべた事を加古川は知る由もない。



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「こうさするセカイ2019」

この本によれば·····普通の高校生加古川飛流、彼には魔王にして時の王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

作り直された世界で彼は再びアナザージオウの力を手にし、突如現れたアナザーアギトを撃破する。

そんな彼をウォズは我が魔王として招き入れるが·····おっと、ここから先は皆様には少し過去のお話

 

そう言うと裏逢魔降臨録と書かれた本を閉じてウォズは暗闇に消えていった。

 

「こうさするセカイ2019」

 

 

加古川飛流がアナザージオウに変身してアナザーアギトと交戦してる最中、加古川に助けられた彼女はひたすらに走っていた。アナザーアギトに切り裂かれた左手の痛みも気にしない程がむしゃらに走っていた、今は化け物のことも、助けてくれた青年がどうなったかも彼女にとってはどうでもよかった、ただ家に帰りたかったのだ。

「ふむ、アナザーアギトから逃げ切ったか·····やるな」

そんな野太い声で彼女を呼び止めた、目の前にたっていた大柄な男は彼女を見下ろすように睨みつけている。

「こっ来ないで!」

直感でこの男が危険だと察知したのだろう怪我をした左手を庇いながら後ろに下がる、だが

「いや、お前の意見は求めん!」

男は何故か彼女の後ろに立っていた。そして、アナザーアギトのウォッチを彼女の背中に押し付ける。

「いやだ、もういやァァ!」

そんな悲痛な叫びと共に彼女の体はアナザーアギトに変身した。

「今からお前がオリジナルだ、コピーを葬ってこい」

その言葉を受けると彼女は先程自分がいた廃工場えと向かう。

 

 

少し時を遡り、廃工場ではアナザージオウとアナザーアギトの戦闘が終わろうとしてた。

「クソ、何でこんなにしぶといんだ!」

そう愚痴を吐きながら両手に持っている2本の剣を1つに繋げて斬りつける。

「グァァァ!」

鳴き声を上げながらアナザーアギトが爪で剣を防御する、咄嗟にアナザージオウは剣を2本に分離させて片手で爪を抑えながら、もう片方の剣でアナザーアギトの身体を斬りつける。

「ウグウァァ!」

深く斬られたのだろう、アナザーアギトが後退りする

その瞬間を見計らって剣を1つに繋げる。

「これで、終わりだ!」

1つに繋げた剣をまるで時計のように大きく回し、剣が妖しげな色に発光する。剣をアナザーアギトの腹部に突き立て、貫通する!

「グァ·····ァゥ」

少し叫んだ後アナザーアギトはガクッと力が抜けたように崩れ落ち、爆発しながら消えていった。

「はぁ·····はぁ·····」

荒れている呼吸を落ち着かせながら、アナザージオウは加古川飛流の姿に戻る。

「ウォズ!出てこい、説明をしてもらうぞ!」

加古川がそう叫ぶと、物影に隠れていたウォズが顔を覗かせる。

「素晴らしい戦いぶりだったよ、我が魔王。とても半年ぶりには見えなかった」

 

「そんな事はどうでもいい、教えろ 何故俺だけに前の世界の記憶がある?何故俺はアナザージオウに変身できた?何故アナザーライダーがいる?」

加古川がウォズを睨みつけながら言う。

「落ち着きたまえ我が魔王、質問は一つずつにして欲しいね。それよりも、彼女の対応の方が先じゃないのかい?」

ウォズがそう言いながら廃工場の入口の方を見る、つられて加古川もそちらを向くと、そこには先程加古川がアナザーアギトから助けたはずの女の子が苦しそうに歩いてきてる。

「あんた何してる?逃げろと言ったろ、戻ってくるな」

彼女はそんな加古川の言葉を聞いていない、というより

「言葉も届いてないようだね」

ウォズが言う。

「うぅ·····ウガァァァ!」

悲鳴とともに彼女の体がアナザーアギトに変身する。

「アナザーアギトだと!」

加古川はウォズの方を見る、しかし

「やるしかないようだ、我が魔王」

アナザーアギトは躊躇せずに加古川の方に走ってくる。

「クソっ!」

加古川はアナザージオウのウォッチを腰に押し当て、アナザージオウに変身する

「ガァァァァァァ!」

襲いかかるアナザーアギトの両腕を抑えながら。

「おい!ウォズ、このアナザーアギトを倒したらどうなる!」

置いてあったドラム缶のようなものに腰掛けながらウォズが答える。

「どうなる·····とは?なんの事だい」

腕を振りほどかれ肩をアナザーアギトに殴られながら言う。

「このアナザーアギトを倒したらさっきの女はどうなると聞いている!」

少し考えてからウォズが答える。

「ふむ·····アナザーライダーを倒しても変身者は無事だよ、と言いたいのだか、それは前の世界のルールだ。今回は色々と混じっているからね·····どうだろうか」

何発かアナザーアギトから打撃を受けながらもアナザーアギトの両腕を再び拘束しながら。

「混じっている?まあ、いい!」

両腕の拘束を解いてアナザーアギトを蹴り、距離をとる。

「ウォズ!ブランクウォッチを渡せ、持っているだろ?」

そうウォズに要求すると、ウォズは不思議そうに。

「ブランクを?確かに持っているが、何をするつもりだい?」

ウォズからブランクウォッチを受け取りながら。

「分からないなら、こうするしかないだろ!」

そう言いながらアナザージオウはアナザーアギトに一直線に走って行く、そのまま腰にタックルする形で突っ込む。

「まさか·····我が魔王」

ウォズの考えた通り、加古川はブランクウォッチをアナザーアギトに押し付ける。

「アナザーアギトの力だけを吸い取るつもりか·····」

ブランクウォッチが発光する、アナザーアギトは自らの力を吸い取られまいと、アナザージオウを引き離そうと抵抗する。

その腕を切り裂かれ、体に膝蹴りを喰らい、顔を何度も殴られてもアナザージオウは、加古川飛流はアナザーアギトを離さない。やがてアナザーアギトから力が抜けていく、ウォッチにアナザーアギトの力が写ったのだ。

アナザーアギトは元の女の子、沢木雪菜に戻り気を失っている。

 

アナザージオウが手にしていたブランクウォッチはアナザーアギトのウォッチに変化していた。

「おめでとう我が魔王、まずは1つアナザーライダーの力を手にしたね」

加古川がボロボロになりながら変身を解除したのを見ると、ウォズが問う

「しかし、何故直接倒さなかったんだい?まさか彼女の身を案じたのかい?」

前の世界であんなに残酷なことをした君が?と言わんばかりウォズは加古川の顔を覗き込む、若干目を逸らしながら答える。

「あぁ、そうだ」

すかさずウォズが返す。

「何故?」

加古川は息を整えながら答える。

「俺が救った命くらい俺に守らせろ、ただそれだけだ」

ウォズと手にしているアナザーアギトウォッチををみながら言う。

「それよりも、何故アナザーライダーがいる?今度こそ答えてもらうぞ」

ウォズは手にしている裏逢魔降臨録のページをめくりながら。

「それに関しての答えは簡単だ、世界が混ざってしまった。もう1人の我が魔王によってね」

加古川はそう聞くと眉をピクリと動かして。

「もう1人の我が魔王?常磐ソウゴか·····」

その顔には明らかに怒りの表情がみてとれる·····ウォズは溜息をつきながら。

「とりあえず、その傷を癒したらどうだい?ボロボロじゃないか」

「あぁ、そうさせてもらう」

 

そんなやり取りをする2人を廃工場の外から眺めている人物がいた。沢木雪菜をアナザーアギトに変身させた大柄な男である。

「あの女なら適任だと思ったのだが·····大した力にならなかったな。まあ、いい次こそは見ていろ·····常磐ソウゴ、お前の意見など二度と求めん」

悔しそうに拳を握りしめながら、大柄な男は暗闇に消えていく。




かくして、アナザーアギトの力を手に入れた加古川飛流はウォズと行動を共にする。
再び常磐ソウゴと接触を果たすのだが·····


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「消失ヒーロー2019」

この本によれば·····普通の高校生 加古川飛流、彼には魔王にして時の王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

アナザーアギトの力を手にした彼はウォズから世界の真相を知ることになる。

そして、再び我らが魔王 常磐ソウゴと接触を果たすが····

おっと、ここから先は皆様には少し過去のお話

 

そう言うと裏逢魔降臨録を数ページ捲って、ウォズは姿を消す。

 

 

「消失ヒーロー2019」

 

 

 

廃工場での戦闘から少し時は進む。

「はぁ·····」

先程の戦闘で疲弊したのだろう、加古川飛流は浅いため息を吐きながら自宅のリビングにある椅子に腰を下ろす、椅子は加古川の座るものを入れて3つある、その内2つの椅子はもう10年程誰も触れてない椅子だ。

加古川に気を使ったのかどうなのか、ウォズは椅子には座らずに加古川の斜め前に立っている。

「さて、我が魔王 少し落ち着いてきたようだし、さっきの質問に答えようか?」

加古川は机に並べた自らのアナザージオウライドウォッチとアナザーアギトライドウォッチを見つめながら問う。

「あぁ、まずなんで俺とお前だけ前の世界の記憶がある?」

ウォズは手にしている裏逢魔降臨録のページを眺め、目線を加古川に移して言う。

「我が魔王、それは違うよ」

「違う?」

すかさず加古川が反応する

「前世界の記憶があるのはキミと私だけではない、個人差はあるようだが·····アナザーライダーになった者なら記憶があるはずだ」

その言葉を受け取りながら加古川は少し考える。

「·····!!」

加古川の反応を見てウォズが。

「おや?早くも気付いたようだね」

加古川は考えながら喋る。

「アナザーライダーになった者に記憶が戻るなら、スウォルツはどうなる?あいつも前世界の記憶を持っているなら·····」

加古川は恐る恐る口を開く、まさかの可能性を考えながら·····

「なぁウォズ、さっきのアナザーアギトを作ったのは前世界の記憶を待っているスウォルツか?」

ウォズは嬉しそうに両手を広げながら言う。

「素晴らしい!その通りだよ、我が魔王」

アナザーアギトの発生に納得がいったのか、加古川は次の質問に移る。

「俺がアナザージオウに変身できた理由は?俺はこの世界でスウォルツに会ったことなんてないぞ?」

ウォズはまだ少し嬉しそうに。

「君の中に残っていたアナザーライダーの力が引き出されたまでの事だ」

と、さも当たり前のように言う、その答えを受け取りながら加古川は少し考えてから。

「さっき言ってた世界が混ざったってのは、どういう意味だ?この世界は·····」

1度唾を飲み込んでその名前を口にする。

「この世界は常磐ソウゴが作り直したんだろ?それぞれの世界に分けたんじゃないのか?」

そう、加古川は知っている。

常磐ソウゴこと最低最悪の魔王にして時の王者「オーマジオウ」と スウォルツことアナザーディケイドとの決戦の後、常磐ソウゴが世界を作り直し、それぞれのライダーの世界線に世界を分けた事をただ、見ていた。

ある意味では世界の終わりを·····

「そこなんだ、今回の問題は」

ウォズは軽いため息をつきながら言う

「もう1人の我が魔王の力が薄まってるといえばいいのか·····もう1人の我が魔王はこの世界では仮面ライダーの力を失っている」

加古川は静かに聞く。

「前世界を作り直し、我が魔王は普通の高校生となってしまった。

その結果、我が魔王はライダーの力を失いオーマジオウが分けた世界が再び混ざりあっている」

常磐ソウゴがライダーの力を失っている事は既に知っている、だからこそ。

「何故だ?」

加古川は続ける。

「なぜ常磐ソウゴは、ライダーの力を失っている?」

ウォズは苦い顔をしながら。

「これに関してはもう1人の我が魔王が、そう作り直したのだろう·····ライダーの力を持たない、普通の高校生としての常磐ソウゴを」

加古川は椅子から立ち上がって。

「もういい、分かった。常磐ソウゴは普通の高校生として、仲間と一緒にいる世界を作った。そのせいで世界が混ざっているとも知らずに、その可能性を考えずに」

歩き出した加古川を見て。

「どこへ行くんだい?」。

振り返らずに加古川は答える。

「もう寝る。明日、常磐ソウゴに接触する」

加古川はボソッと「身勝手な奴だ」と呟いて、寝室に向かった。

「身勝手なのはどちらもだと思うんだけどね·····」

そんな独り言を呟いてウォズはどこかに消えた。

 

その夜加古川は夢を見た。常磐ソウゴ、仮面ライダージオウと黒いローブを纏った青色のライダーが共闘してる夢を·····

 

 

 

次の朝、いつもより早く家を出て常磐ソウゴを待ち伏せするために通学路で仁王立ちしてると後ろからウォズが話しかける。

「もう1人の我が魔王と接触してどうするつもりだい?」

加古川はその問いに答えない、答える前にソウゴが現れたからだ。

目前で仁王立ちする加古川にソウゴが気付く。ソウゴが口を開く前に。

「常磐ソウゴ、俺はこの世界を元に戻そうと思う」

「·····は?」

ソウゴは意味がわからないと言った顔をする、しかし、加古川は続ける

「お前が高校生ごっこを続けるなら、お前が仮面ライダーとして戦わないなら俺がやる。」

加古川は1呼吸おいて。

「お前がやらないなら、俺が世界を救ってやる」

「さっきから何を言って·····」

ソウゴの言葉を最後まで聞かずに加古川は背を向け歩き出した。

 

 

現状仮面ライダーが誰一人として存在しない不安定な世界を、まがい物の仮面ライダーの力を持つ加古川飛流は今を前に進めるために歩き出した。

 

 

 

光ヶ森高校に下校のチャイムが鳴る、常磐ソウゴは教室の机に頭を着けて項垂れている。

「ソウゴ大丈夫か?やはり早退した方が良かったんじゃないのか?」

一日中そんな調子だったソウゴを心配しているのだろう、ソウゴのクラスメイトにして現柔道部部長の明光院ゲイツは声をかける。

「う〜大丈夫、熱があるわけじゃないから」

ソウゴは顔を上げずに答える。

「ねぇゲイツ」

「じおうって知ってる?」

ソウゴは頭を抱えながら、ゲイツに問う。

「じおう?なんだそれ?」

「いや、知らないならいいよ」

ソウゴは再び机にひれ伏してしまう。

ちょうどその時教室に入ってきた長い黒髪の少女はソウゴの元に歩いてきて。

「ソウゴー調子はどう?」

「見ての通りだツクヨミ、朝から変わらん」

ソウゴの代わりに答えたゲイツにツクヨミと呼ばれた少女はソウゴのカバンを持ちながら。

「とりあえず帰ろ?明日も良くならなかったら、病院に行って休みましょ」

「·····ねぇツクヨミ?じおうって知ってる?」

「じおう?なにそれ?」

ツクヨミはゲイツと同じ反応を返す。

「いや、知らないならいいよ。うん、帰ろう」

 

今朝にクラスメイトの加古川飛流と会話した時から、頭の中にじおうと言う単語が離れず、ずっと頭痛がする。

深く気にするのをやめて、立ち上がり2人の肩を借りて帰路に着く、そんな3人を校舎の屋上からウォズは眺めていた。

 

ウォズの手元の裏逢魔降臨録がまた1ページ捲られた·····



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「とまらないジェラシー2019」

この本によれば·····普通の高校生 加古川飛流、彼には魔王にして時の王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

常磐ソウゴに世界を救うと宣言した彼は、アナザーライダーの手がかりを探す、そこに新たなアナザーライダーの影が忍び寄り·····おっと、ここから先は皆様には少し過去のお話

 

ウォズはブランクライドウォッチを握りしめながら、足早にどこかえ消えた。

 

 

「とまらないジェラシー2019」

 

常磐ソウゴと対話した日の昼下がり加古川飛流は自宅にて、ここ半年間目を通さずに溜めていた新聞紙に目を通していた。

「やぁ、我が魔王 何をしているんだい?」

家に入れた覚えのないウォズがなぜか2階から降りてくる、しかし加古川はウォズの神出鬼没さにもう慣れたのだろう。

「ここ半年間の事件を調べている」

新聞紙から目を離さずに赤ペンで1つの記事に丸をつけ、丸をつけたものだけで重ねていく。

「ふむ、アナザーライダー絡みの事件を探しているのかい?」

加古川は手をとめずに。

「あぁ、お前の持っている本を見せてもらえれば1発なんだがな」

ここでようやく加古川はウォズに視線を移す。

「残念だがそれはできない、この本を君がみて未来が変わる可能性があるからだ」

「·····だろうな、そんな楽な近道なんてあるわけないか」

そう言うと、加古川は再び作業に戻る。

「我が魔王、ひとつ聞いてもいいかな?」

丸をつけ終わり、次の新聞紙を広げながら 。

「なんだ?」

「いや、なんというか·····君がさっき言っていたことは本当かい?」

どうやら気になる事件がなかったようで、丸をつけずに次の新聞紙に移りながら。

「さっき言っていたこと?どれの事だ?」

ウォズは少し間を置いてから

「世界を救ってやる。お前がやらないなら俺がやる。これは本当·····というか本心なのかい?」

加古川は一瞬手を止めたが、すぐに作業に戻りつつ答える。

「あぁ、本当だし本心だ」

一呼吸置いてから

「常磐ソウゴが救わないなら代わりに俺が世界を救う。その後に見せつけてやるんだ、記憶を取り戻した常磐ソウゴに。」

加古川は手を止めて。

「お前が救うはずだった世界は俺が救った、お前がやった事は俺にでも·····誰にでも出来ることなんだ。お前は特別な王様なんかじゃないって」

ウォズは加古川の横顔を見つめながら慎重に話す。

「それは·····何故だい?」

「何故?決まってるだろ、あいつを壊すためだ」

「·····壊す?」

「色々な人を犠牲にして、世界を自分の好きなよう書き換えて、今更お友達と高校生ごっこしているあいつを·····王様気取りの、ヒーロー気取りのあいつの役割を奪ってやる」

いつの間にか手元の新聞紙を握りしめてたのに気付いて加古川は新聞紙を放す。そんな加古川を見てウォズは呟く。

「私からは怒りではなく嫉妬に見えるがね」

「は?」

「いや、聞き取れなかったならいいさ」

ウォズは裏逢魔降臨録を閉じて

「さぁ、気を取り直そう。まずはどの事件から調査するんだい?」

加古川は少し腑に落ちないようだ、しかし気にするのを辞め。

「まずは近場からだな」

そう言って加古川が指を指したのは新聞紙ではなく、OREジャーナルというネット記事だった。どうやら、新聞紙以外にも目を通してたらしい、そのネット記事にはこう書かれていた 。

 

 

「「()()()()()()()()()()()()()!()!()!()」」

 

 

「ふむ、ではさながら探偵のようにその事件を調査しようか」

ウォズはそう言いながら既に歩き出してい加古川の後ろを着いていく·····

 

 

 

昼下がりの午後3時、怪人の情報を得るために加古川飛流は風都に降り立っていた。

東京都に隣接しており、立地的に風が吹くことから風車発電で街の電力の大部分をまかなっている別名エコの街。さて、ここからどう怪人の正体を掴むのか·····

 

 

加古川が風都に着いてから1時間が経過した複数の住民から得られた証言はこうだ。

夜中に人を襲っている怪人を見た、4つ目の怪人が夜な夜な人を殺して回ってるらしい、 怪人は風都タワーの近くに出没するらしい·····

1時間で得れた証言はこれだけだった。

「おい、あんたら」

加古川は座っていたベンチをちょうど横切った2人の女子高生にぶっきらぼうに話しかける

「·····なに?」

そんな加古川を警戒したのか、2人の女子高生は怪訝そうな顔で加古川を見る

「最近風都を騒がしている怪人について調査してる、何か知らないか?」

どうやら加古川は雑談などする気は無いらしい。

「怪人?あぁ、それなら大丈夫だよ」

女子高生2人は安心しているように答える。

「大丈夫?何故だ?」

「だってこの街には探偵がいるもの」

「は?·····探偵?」

「うん!」

2人揃って元気に答える、加古川は呆れたように

「なんで探偵なんかに怪人事件が解決できると思うんだ?」

そう言うと2人は不思議そうに顔を見合わせてた。

「さぁ?なんでか分からないけど、大丈夫って思うの!」

加古川は少し考えて2人に言う。

「その探偵ってやつにはどこに行けば会えるんだ?」

片方の女子高校生は自分たちが歩いてきた道を指さして

「この先にあるかもめビリヤード場って所の2階に事務所があるよ」

「そうか、分かった感謝する」

2人の女子高生に礼を言うと加古川はかもめビリヤード場に向かった。

 

 

加古川が腰を下ろしていたベンチから5分ほど歩いた所にかもめビリヤード場はあった、そこの2階に鳴海探偵事務所はあった。

加古川が扉を叩くと中から慌ただしい音がして、一人の女性が飛び出してきた。藤色のロングヘアの美しい女性が飛び出してきた、加古川は彼女を一瞥したあと

「お前が探偵か?」

しかし、彼女はその問いには答えずに深いため息をついた。

「·····私は探偵じゃないよ」

そう言って扉を完全に開けた、どうやら入室の許可を得たらしく加古川は鳴海探偵事務所に入る。

「翔太郎だと思ったのに」と何やら呟いていた。そんなことを気にせずに、加古川は聞く。

「探偵たちはどこにいる?お前が探偵じゃないならお前はなんだ?」

「·····私はときめ、ここの探偵の助手だよ」

一呼吸置いてから彼女、ときめは

「探偵は1週間前から帰ってないの、だから私がここを守ってるのよ」

「1週間前?」

加古川は持っているスマホに保存してあるOREジャーナルのページを開く

「風都の怪人が現れたのもちょうど1週間前·····」

お茶を出そうとしたときめを止めて、加古川は立ち上がった。

「十分だ、感謝する」

「え、あ、うん。夜は気を付けてね·····」

ときめからの忠告を受け、鳴海探偵事務所を出た加古川は、ときめの忠告とは逆に夜を待った。

 

 

 

それから時間は進み、深夜の1時を回った頃風都の中心とも言える風都タワーに加古川飛流は、居た。

「うわぁぁぁぁ!」

そんな悲鳴を聞いて加古川は悲鳴の元に向かう、40くらいの男性が襲われていた·····風都の怪人に。

 

その怪人は体の真ん中にツギハギがあり、右半身は濁った緑、左半身は真っ黒の体。顔には正面と耳の部分に合わせて目が4つある。

「アナザーダブル!」

加古川がそう叫ぶと自らの名前を呼ばれて反応したのか、アナザーダブルが加古川に標的を変える。

ポケットからアナザージオウライドウォッチを取り出して、起動させる。

アナザージオウになった加古川を反射して移していた自動販売機にそこには居ないはずの何者かが移り、鏡の中で笑っていた。



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「2人の探偵2019」

この本によれば·····普通の高校生 加古川飛流、彼には魔王にして時の王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

風都にてアナザーダブルと遭遇した彼は忍び寄るもう1人のアナザーライダーに気付かなかったそして彼は探偵と思わぬ形で出会うことになるが·····おっと、ここから先は皆様には少し過去のお話

 

 

「2人の探偵2019」

 

 

アナザーライダーはウォッチを埋め込めばどんな人間でも変身することが出来る、そして、アナザーライダーの戦闘力というものは変身者に大きく左右される。

全てのアナザーライダーを従えた経験のある彼から言えば今戦ってるアナザーライダーはかなり強い部類に入る。

 

「うぉぉぉぉ!」

雄叫びを上げながら加古川飛流もといアナザージオウは、両手に持った白い双剣を振り下ろす。

しかし、アナザーダブルは腰の部分のステンドグラスで出来ているバックルを手でなぞると左半身の黒かった部分がシルバーに変わり、その手にはロッドが持たれている。

ロットで双剣を弾かれ、無防備になったその胸にアナザーダブルの乱づきを受ける。

「クッ!」

アナザージオウは少し距離をとるために後ろに跳ぶ。

しかし

「ニガサン·····」

アナザーダブルがバックル部分をなぞると右半身が暗い黄色に変わる。

突然ロッドがアナザージオウの方に伸びてきた。

「グァァ!」

双剣でロッドを防ごうとしたが、腹部にヒットしたらしく、アナザージオウは体制を崩す。

間違いない。加古川は確信した、このアナザーダブルの変身者はアナザーダブルの·····すなわち仮面ライダーダブルの力を知っている。

「お前は何者だ!仮面ライダーダブルを知っているのか?!」

加古川の問いにアナザーダブルは答えない。

「·····するナ」

伸びていたロットが戻り、体の色が最初の緑と黒に戻る。頭を苦しそうに抱えながら

「俺に質問するナァぁァぁアぁぁ!!!」

そう叫びながら苦しそうに悶える。

「なんだ?」

加古川は異変に気づいたが、これをチャンスと取ったようで、アナザージオウは腰のベルト部分を右から左になぞると黒と赤が混ざったエネルギー波がアナザージオウを包む、アナザージオウが跳躍し、エネルギーを足に纏い、アナザーダブルに蹴りを放つ。

 

突然どこからか放たれた火球がアナザージオウに直撃する。

蹴りの姿勢をとっていて無防備になった胴体を焦がすかのような衝撃にアナザージオウは体制を崩し、地面に落ちる。

火球が直撃した胴体を抑えながら、アナザーダブルの方を見ると、そこにアナザーダブルの姿は見えなかった·····

「クソっ!」

アナザーダブルに逃げられたことを悟り、ベルトのアナザージオウウォッチを引き抜いて、加古川は変身を解除する。

「ううぅ·····」

変身を解除した加古川の頭に「「キィィィィン」」と甲高い音が響く。

甲高い音のせいで酷い頭痛に襲われた加古川は近くの壁沿いに座り込んでしまった。

 

1分ほどすると、甲高い音が止んだ。

そこで加古川は気付く、自分が座っている場所のちょうど目の前に“鏡”が置いてあることに。

ちょうど一般の家庭の洗面所に置いてある鏡と同じくらいの大きさだろう。

·····なぜこんな所に鏡が?明らかに不自然に立てかけられてるそれに加古川は警戒しながらも近づく。

一瞬鏡の向こう側に誰かがいた気がした。

目の錯覚か?そんなことを考えると同時に加古川は後ろから何者かに押された。

何者かに押されて、加古川は()()()()()()()()

 

 

 

気を失っていた加古川は意識を取り戻す。とは言っても、彼が意識を失っていたのはほんの数分だろう。

当たりを見渡すと加古川は言葉にできない違和感を覚えた、どこだここは?

頭を抑えながら気を失う寸前の記憶を呼び起こそうとする。

「目が覚めたようだね?」

 

加古川の思考を遮るように優しい声がした。

声の方を見ると、加古川の頭の方向に少し小柄な男がたっていた。

差し伸べられた手を取らずに、加古川は1人で起き上がる。小柄な男はその右手にウォズを連想されるような分厚い本を持っていた。

「目が覚めたか?お前、ここがどこか分かるか?」

小柄な男の仲間だろう、黒いジャケットと同じく黒いハット帽が印象的な男が近寄ってきた。

ここで加古川は違和感の正体に気づく、周りの看板、いや、もしかしたら建物の造形さえも。

「·····鏡写しになっている?」

戸惑う加古川を見て。

「その様子だとお前も巻き込まれた·····って感じか」

1度咳払いをして

「俺の名前は左翔太郎(ひだりしょうたろう)、この風都を守る探偵さ」

翔太郎は加古川の近くにいる小柄な男の方を見て。

「そいつは園咲来人(そのざきらいと)俺の相棒だ」

来人と呼ばれた彼は持っている本を開きながら翔太郎に言う。

「翔太郎、ここ1週間彼以外には遭遇しなかった·····やはりここは鏡の中の世界と決定して間違いないんじゃないかい?」

翔太郎はバツが悪そうな顔をして。

「だから、鏡の中の世界なんてある訳ないだろ?」

「しかし、翔太郎?そうは言えない状況になってきたんじゃないかい?」

「いい加減にしろよ?来人 そんな非現実的な物ある訳ねぇだろ」

「ほぉ?いつも無茶を言う君の口からそんな言葉が聞けるとわね?」

喧嘩寸前の2人に加古川は言う。

「いや、来人の言う通りだ。ここは鏡の中の世界·····ミラーワールドだ」

断言する加古川に翔太郎は不審な目で見て

「なんでそう言いきれる?」

知っている、加古川はこの場所を。来るのは初めてだが、存在は知っている·····

「あぶねぇ!」

口を開こうとする加古川に向かって翔太郎が叫ぶ。

翔太郎のおかげで加古川は自分に向かってくる火球に一瞬早く気付けた。

 

間一髪生き延びた加古川が火球の飛んできた方向を見ると。

赤と銀で構成されたどこか中国を思わせる鎧、その顔は鉄仮面をグチャグチャに潰したようにおぞましい。

右手には加古川の身体など簡単に避けるであろう大剣が、左手には真っ赤な龍の頭が着いている·····

 

「やはり、アナザー龍騎か」

加古川はアナザージオウライドウォッチを構え、天面のボタンを押し、起動する《ジ・オーウ!!》

加古川は翔太郎と来人に言う。

「下がっていろ」

加古川は真っ黒なオーラに包まれて、アナザージオウに変身する。

「·····ドーパント?」

翔太郎は無意識に口にする、それに対して来人も

「いや、ドーパントじゃない。もっと別のなにかだ·····」

「ドーパント?俺は何を言っている、何だそれは?」

翔太郎は混乱してるようにアナザージオウを見る。

「うぉぉぉぉ!」

アナザージオウは時計の針を模した双剣でアナザー龍騎に襲いかかる。

剣が大きい分アナザー龍騎の方が一撃は重いだろう·····

しかし、アナザージオウは双剣の手数でアナザー龍騎を圧倒する。

「グゥゥァァァ!!」

アナザー龍騎は左手の龍頭から火球を発射する。

アナザージオウは火球が放たれる寸前で龍頭を切りつけ、火球の発射先を地面に向ける。

「グゥゥゥァ!」

アナザージオウの連撃にアナザー龍騎が押されてるその時、何発かのエネルギー弾がアナザージオウに直撃する。

「誰だ!」

発射先を見ると、そこには右が緑色、左が暗い青色になっているアナザーダブルが銃のようなものをアナザージオウに向けて立っている。

「クソっ!アナザーダブルか!」

「ダブ·····ル?」

翔太郎はアナザージオウの言葉を聞いて、頭を抱える。

来人もだ·····

その様子に加古川は気付いた、まさか·····加古川はある可能性を考え始めていた。

「ニガサン·····」

アナザーダブルがバックルをなぞると、右側が赤色、左側が黒に変わる。

その両拳に炎を纏いアナザージオウに殴りかかってくる。

「クッ!暑っ·····この!」

来人が叫ぶ。

「その形態に近接戦は危険だ!」

来人の助言を受け、アナザーダブルから距離をとる。

「おい!あんたら!これを握ってみろ」

そう言うとアナザージオウは両腕に着いているホルダーから何者の力も篭っていないブランクライドウォッチを2人の方向に投げる。

 

翔太郎はブランクウォッチをキャッチして

「何だこれは?」

「翔太郎、僕にも見せておくれ?」

来人がブランクウォッチに手を添える、その時

《ダブル!!》

来人と翔太郎が手を添えた時、光を放ちブランクウォッチが変化する。

 

光が収まると、翔太郎の手には何かを差し込むふたつのスロットが2つある機械、手のひらサイズの黒色のUSB端子のようなものが。来人の手には手のひらサイズの緑色のUSB端子のようなものがあった。

 

「·····翔太郎?僕達はどうやら忘れていたようだね」

来人が理解したように口を開く。

「あぁフィリップ、今は目の前の俺達もどきを倒すぞ?」

それを聞くと来人·····いや、フィリップは翔太郎の隣に立ち、手に持ったガイアメモリを構える。

「行くぜ?フィリップ」

翔太郎はそう言って、先程の機械·····ダブルドライバーを腰に押し付ける。

ベルトが左側から展開されバックルになる。

同時に、フィリップの腰にも同じものが展開される。

翔太郎もガイアメモリをかまえ、翔太郎がガイアメモリのボタンを押す。

 

《ジョーカー!!》

フィリップも合わせてガイアメモリのボタンを押す。

《サイクロン!!》

ガイアメモリの起動音が鳴り

「「変身!」」

 

2人が叫び、フィリップがガイアメモリをベルトに差し込む、と同時にフィリップは倒れ翔太郎のベルトのスロット部分にサイクロンメモリが送信される。

サイクロンメモリを押し込み、自分のジョーカーメモリも装填し、スロットを展開する。

《サイクロン!ジョーカー!》

ベルトから名乗り音とメロディーが流れ、翔太郎の体は右半身が明るい緑、左半身が黒色、頭にはwの形のツノ·····仮面ライダーダブルに変身した。

風が吹き荒れ、仮面ライダーダブルのマフラーがなびく。

翔太郎とフィリップ、2人の声でダブルは言う。

 

 

「「さぁ、お前の罪を数えろ!!」」



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「鏡の中の英雄2019」

この本によれば·····普通の高校生 加古川飛流、彼には魔王にして時の王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

ミラーワールドにてアナザー龍騎とアナザーダブルと対峙する彼は仮面ライダーダブルの力を借り、アナザーライダー達を撃破することに成功する。

そんな彼に近づく人物が1人·····おっと、ここから先は皆様には少し過去のお話

 

そう言うとウォズは常磐ソウゴ達を少し離れた所から見つめていた·····

 

「鏡の中の英雄2019」

 

 

 

 

「やはりあの二人が仮面ライダーダブルか·····」

加古川飛流もとい、アナザージオウは吹き荒れる風の中立っている仮面ライダーを見ながらつぶやく。

「ウォオォ!」

アナザーダブルがアナザージオウに殴りかかる!しかし、《サイクロン!トリガー!!》そんな音が響くとダブルの体は青と、緑に変わりその手には青色の銃が握られている。

まるでつむじ風のように速い銃弾がアナザーダブルの動きを止める。

「俺らモドキは任せろ!」

ダブルの左目が赤く点滅して翔太郎の声が響く、加古川はそれに納得したようで。標的をアナザー龍騎に絞る。

「ウウゥ·····」

アナザー龍騎がそう唸ると左手の龍頭から炎が漏れ出す。その時!アナザージオウの額の時計の針が光の残像をまとい1回転する。

「お前の未来は·····見える!」

加古川の脳内にビジョンが浮かぶ、アナザー龍騎が龍頭の炎を剣にまとわせて、燃える斬撃を飛ばしに来るビジョンが!

アナザー龍騎は龍頭の炎を剣にまとわせて、アナザージオウに斬撃を飛ばす!

その斬撃は既に未来を見たアナザージオウに軽くいなされ大きな攻撃をした事でがら空きになった胴体に双剣の乱撃が直撃する!

「グゥゥ·····ユウに」

アナザー龍騎がなにか呟くが気にせずにアナザージオウは双剣を繋げて一本の長剣にする。

「これで·····終わりだ」

長剣を時計を描くように振り回す。そうすると剣が紫と黒のオーラを纏う。

「エイユに·····」

アナザー龍騎は残っている力を振り絞るように立ち上がりアナザージオウに斬り掛る!しかし·····

「その未来も見えている!」

長剣の片側でアナザー龍騎の剣を受け止め、もう片側でアナザー龍騎を下から斬りあげる!

攻撃を受けた後アナザー龍騎は事切れたように倒れる。

何も言わずにアナザージオウはホルダーからブランクウォッチを取り外しアナザー龍騎の体に押し付ける。

徐々にブランクウォッチがアナザー龍騎ウォッチに変わる。

変身を解除した加古川に向かって、先程までアナザー龍騎だった人物、東條悟は加古川の持つアナザー龍騎ウォッチに手を伸ばす。

「僕は·····英雄にならないと·····っ!」

しかし戦いのダメージのせいだろう、東條は立ち上がることすらままならないようだ。

完全に敗北した今でも英雄に縋っている東條の姿を加古川は少し虚しそうに眺めていた。

「やはり、そいつでは役者不足だったか」

威圧感のある声でそう言い放つ、見るからに大柄で紫の服をまとっている男が加古川に近づいてくる。

加古川はその男を知っている。

「·····久しぶりだな、スウォルツ」

スウォルツ·····前世界での騒動の元凶であり、加古川にアナザージオウの力を与え、加古川を棄てた人物だ。

「ふん、アナザー龍騎ウォッチを手に入れたか·····」

加古川の持っているアナザー龍騎ウォッチを見て、鼻で笑うように言う。

「まぁいい、そいつはお前にくれてやる」

「随分余裕があるな、何かいい事でもあったのか?」

加古川が探りを入れようとすると。

「グァァ!!ァァァ!」という短い叫び声と共に爆発音が響く、仮面ライダーダブルがアナザーダブルを撃破したらしい。

加古川はスウォルツよりもアナザーダブルウォッチの回収を優先したようで、先程仮面ライダーダブルと別れた場所に走り出す。

「1つ!忠告してやる」

走り出した加古川を引き止めるようにスウォルツが言う。

「この世界のルールが戻りだしている、帰るなら早くした方がいいぞ·····」

そう言うとスウォルツは彼の後ろの空間に現れたグレー色のカーテンのような物に入って、姿を消す。

一瞬立ちどまるが加古川は仮面ライダーダブルのものに向かった。

 

加古川が到着すると仮面ライダーダブルの2人は既に変身を解除していて、動かなくなったアナザーダブルを見下ろしていた。

アナザーダブルに加古川は近づいて、ブランクウォッチを押し付ける。

すると、《ダブル!!》の音と共にブランクウォッチがアナザーダブルウォッチに変化する。

アナザーダブルの変身が解除され、そこに2人の男女が現れる。

赤い革ジャケットを着ている男の方を見て翔太郎は驚いたように言う。

「照井!?」

もう1人の女性に対してはフィリップが

「·····所長?」

どうやらアナザーダブルにされていた2人は知り合いらしく、結果赤い革ジャケットを着ている男、照井竜を翔太郎が、もう一人の女性 照井亜樹子をフィリップが肩に手を貸す形で立ち上がる事にしたらしい。

「さて、帰るか·····」

当たり前のように言う加古川に翔太郎は聞く。

「帰るって·····どこからだよ?」

加古川は少し離れた所に不自然に置いてある鏡を指さす。

「あの鏡から帰れるはずだ、俺もあそこから来た」

「あぁ·····分かった」

加古川の言葉を信用したらしく、そう言うと翔太郎達は照井夫婦を連れて、鏡に向かっていった。

 

翔太郎達が鏡の中に吸い込まれ、元の世界に戻った後加古川はアナザー龍騎の変身者、東條悟の元に向かった。

東條は倒れていた場所から移動して、風都タワーにもたれかかる形で座っていた。

「元の世界に戻る方法を見つけた、お前は帰らないのか?」

加古川の問いに東條は力なく答える。

「·····もういいんだ、僕は英雄になれなかった」

東條の言葉を聴きながらも、加古川は彼の方に手を回し立ち上がらせる。

「英雄?お前は英雄になりたかったのか?」

加古川に半分引きずられながら東條は言う。

「全部思い出したんだ·····僕は英雄になれなかった、誰にも勝てなかったし、結局最後は死んじゃった」

「·····そうか、お前は1回死んだのか」

ウォズの言う通り、世界がめちゃくちゃに混ざってるなら死んでる人間が生き返っている·····そんなこともあるだろう。そう思い加古川は東條の話を聞く。

「そうだよ、結局誰にも勝てなくてその後なんでかな·····トラックに引かれそうになった親子を庇って死んだんだ」

「そうか」

東條の話を聞きながら加古川は鏡の前に着いた。

「ここを通れば元の世界に戻れる」

加古川のその言葉を聞いて、東條は1人で立つ。

「僕は戻らないよ、英雄に·····英雄になれなかった僕が戻っても意味なんてない」

加古川は不思議そうに首を傾げる。

「何言ってるんだお前?」

その瞬間、加古川と東條の体から光の粒子が少しづつ溢れ出す。スウォルツの言っていた通り、ミラーワールドのルールが戻り、人間は長い間ミラーワールドに居られない。

あと数分で2人の存在は消え、ミラーモンスターという異形でミラーワールドは覆われるだろう·····

加古川はそれを知っている、消えかけてながらも続ける。

「お前はその親子を助けたんだろ?その命を使って」

東條はうつむいたまま答えない。

「俺にはよく分からないが·····誰かの為に行動出来るならそれは英雄って言うんじゃないか?」

東條は加古川の顔を見る、歪んでいながらも真っ直ぐな目を

「そして、その英雄をこの世界では」

加古川はブランクウォッチを東條に手渡す。

「仮面ライダーって言うらしいぞ?」

東條がブランクウォッチを手に取ると《タイガ!!》の声と共にブランクウォッチがカードケースのようなものに変化する。

青空のように深い青に真っ白な虎のマークが輝いている。

東條は膝から崩れ落ち啜り泣くが、加古川に引きずられ鏡に吸い込まれる。

 

元の世界に戻ると、そこには翔太郎とフィリップが加古川を待っていた。

「やっと帰ってきたか、遅かったから心配したんだぜ?」

翔太郎がそう言い、フィリップは加古川の傍で泣いている人物を興味深そうに見ている。

「彼は?」

「こいつは気にするな」

加古川は東條が持つカードケースを見て言う。

「こいつはただの仮面ライダーだ」

翔太郎はよく分からなそうに言う。

「まあ、いいさ 今回は助かった。もし何かあったら頼ってくれ仮面ライダーは助け合い·····だからな」

そう言って2人の探偵は家族を支えながら、ときめが待つ探偵事務所に帰っていった。

翔太郎の言葉に呆然としてる加古川に東條が泣きやみ立ち上がる。

「僕もよく分からないけど、英雄に·····仮面ライダーになってみるよ。」

「ありがとう」と小さい声で感謝を伝えつつ東條はこの世界で生きてるであろう、恩師の元に向かった。

翔太郎の言葉から加古川は我に返って薄く笑った。

仮面ライダー?俺が?·····違うな

「俺はただの怪物だ」

1人そう呟いて加古川は誰も待っていない家に帰る。

 

 

その後、鏡の中で異形と戦う琥珀色の戦士の都市伝説が流れたのはまた別のお話·····



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「戦士と怪物2019」

この本によれば·····普通の高校生 加古川飛流、彼には魔王にして時の王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

アナザーダブルとアナザー龍騎の力を手にした彼は次の事件の調査に向かうが、そこで一人の戦士と遭遇して·····

おっと、ここから先は皆様には少し過去のお話

 

 

ウォズは持っている裏逢魔降臨録を見て少し微笑んだ。

 

 

「戦士と怪物2019」

 

 

 

 

左翔太郎らと別れた加古川飛流は家に向かう。

次のアナザーライダーの力を手にする為に·····

 

家に帰る途中で翔太郎に言われた事は気にしないと決めた、今はそんな事に囚われてる場合ではないと彼は判断した。

家の玄関を開けるとすぐ目の前にウォズが立っていた。

「おかえり、我が魔王」

加古川はリビングに向かいながらウォズに言う。

「しばらく見なかったな、どこに行っていた?」

加古川の3歩ほど後ろを歩きながらウォズは答える。

「私にも色々とやる事があるのでね·····」

「·····そうか」

加古川はぶっきらぼうに答えて机の上に置いてある新聞紙たちに再び目を通す。

「次はこれにするか」

〈長野県の巨大怪物!!〉とその記事には書いてある。

「我が魔王?何故それにするんだい?」

ウォズは少し焦ったように加古川を止める。

加古川は不思議そうに聞く。

「なんだ?何か問題でもあるのか?」

ウォズは少しためらいながら言う。

「その·····今の君にはまだ早いかと思うよ?」

だが、そんなウォズの制止を振り切って

「そんな事言っても、いずれは全てのアナザーライダーの力を手に入れなければいけない。先も後も関係ないだろ?」

そう言う加古川に諦めたようにウォズは

「分かった、我が魔王。君がそう言うのなら」

「あぁ、昨夜は疲れたから少し寝る」

そう言い残し加古川は自らの寝室に向かった。

「全く我が魔王には困ったものだ·····」

誰も居なくなったリビングでウォズはため息をついて、どこかに向かった。

その手には他と少し形が違うウォズライドウォッチが握られていた·····

 

 

加古川が眠ってから少し時間が経った昼過ぎに彼は目覚めて、長野県に向かう為に家を出ようとした。

結果として彼が長野県に辿り着くことは無かった、そして彼は対峙する。新たなアナザーライダーと1人の戦士に·····

 

 

家の扉を閉じ外に出た瞬間、加古川は唖然とした。

家から少し離れた場所の上空に彼が追おうとしていたアナザーライダーは居た。

まるで昆虫を無理やり人型に歪ませて、赤い装甲を付けたかのようなおぞましい怪物の様な姿·····アナザークウガである。

離れた場所でも加古川が認識できたのは、アナザークウガが10メートルはある体躯を持ち、その背中から生えてる羽で飛行しているからだ。

 

一瞬あまりに唐突な出現に唖然とした加古川だったが、考えるよりも今はアナザークウガの元に向かうのが先だと判断して、走り出した。

上空から火球を放っているアナザークウガの元に、いくつもの悲鳴が飛び交う場所に·····

 

現場は彼が思っている以上に過酷だった。

上空から人間を狙って火球を、時に直接昆虫のような手で捕獲し捕食しているアナザークウガ、泣き叫ぶ人々、立ち向かおうとして喰われる人、誰かの亡骸に縋っている人·····

加古川は似たような光景を知っている。

かつて自らが常磐ソウゴに復讐するために世界を作り変え、ソウゴの関係者達のみをアナザーライダーと対峙させ襲わせた。

しかし、それでも·····それだとしてもこれは

「惨すぎる·····ッ」

瞬間加古川はアナザージオウに変身して、アナザークウガの未来を見る。

「うおおぉぉ!」

未来を見た彼は走り出した、見た未来でアナザークウガに食べられるはずの目の前の子供を助けるために。

「クシャァァァア!!」

間一髪口を開けて地面に向かってきたアナザークウガの喉元に剣を突き立て、アナザークウガが怯んでる隙に子供を抱え救出する。

自らの獲物を取られたアナザークウガはアナザージオウに向かって火球を放つ。

その火球を背中で受け、アナザージオウは倒れてしまった。

両手から子供を離し。

「行け!早く逃げろ!」

そう叫ぶアナザージオウに子供は心配したように

「でも·····」

「うるさい!早く走れ!!」

子供は涙目になりながら何も言わずに、背中を向け走り出した·····

アナザージオウが振り返るとアナザークウガがすぐそこまで迫っていた。

先程の一撃を受けてもう反撃する力も残っていない·····

彼は諦めたかのように力を抜いた。

 

結局俺は半端止まりか·····スウォルツの言う通り、王の資格なんてものは俺には無かったのか·····そんなことを考えて彼は目を瞑った。

 

数秒してから違和感に気付く。

全く痛みがやって来ない、もうとっくに食べられてるはずなのに·····

恐る恐る目を開けるとそこにはアナザークウガと戦う1人の戦士がいた。

真っ赤な胸の装甲と肩の装甲、クワガタ虫のような大きな金色の角が特徴的な1人の戦士·····

 

「仮面ライダー·····なのか?」

アナザージオウがそうつぶやくと同時に赤い戦士の飛び蹴りを受けたアナザークウガは羽を広げ空に飛び去って行った。

 

飛び去って行ったアナザークウガの姿が見えなくなると、赤い戦士はアナザージオウの方に向かってく。

見た目からして自分の事を怪物だと思っているのだろう、今攻撃を受けるのはまずいと思い、加古川は変身を解除した。·····まあ、怪物であること自体は間違いいではないが。

「まて、俺は違う·····」

加古川のそんな言葉を受け取り、赤い戦士も変身を解除する。

赤い戦士の皮膚が一瞬で人間のそれに変わった。

そこには優しそうな笑顔をうかべる青年が立っていた。

「俺は五代雄介、クウガだよ。よろしく!」

「·····クウガ?」

加古川は今更ながら気付く、この男が仮面ライダークウガである事に·····

「さっきの見てたよ、子供を助けたよね?」

五代は倒れたままの加古川に手を伸ばしながら

「君もクウガなの?よろしくね!」

「··········違う」

加古川は落胆したように肩を落とした。

 

 

それから少し時は進んで、加古川は仮面ライダークウガこと五代雄介と一緒に喫茶店ポレポレで食事をしていた。

「君は食べないの?ここのカレー美味しんだよ」

「·····いや、俺はいい」

そう返して加古川はコーヒーをすすりながら、目の前の男を観察する。

五代雄介·····聞いた話が確かなら彼は平成の時代の1号のはずだ。

しかし、目の前の彼は優しい笑顔を浮かべる人の良い青年にしか見えない。

とても平成の始まりの戦士には·····

「お前は」

先に口を開いたのは加古川だった。

「お前はさっきなんで俺の事をクウガだと言った?」

五代は口に含んでるカレーを飲み込み答える。

「さっき子供を助けてたでしょ?だから、俺と同じで変身して戦う人かなって」

数秒黙ってから加古川は

「俺の見た目は化け物にしか見えなかったはずだ、それに子供を助けたってのも偶然だったらどうするつもりだった?」

加古川はあくまでも子供を助けたのを認めないらしい。

「たとえ君が見た目通りの怪物で、子供を助けたのも偶然だったとしても」

五代は水を1回飲んでから。

「例えそうでも、1度話し合いしないと分からないでしょ?」

そう言って笑顔をうかべる五代を見て加古川は1つの事を確信した。

こいつは戦士なんかじゃない·····ただの平和ボケしたバカだと。

「そうか·····」

加古川は席を立って、店を出ようとする。

「待って待って、どこに行くの?」

慌てたように五代も席を立って、加古川に追い付く。

「さっきのアナザーライダー、怪物を探す。そして倒す」

「そういう事なら、俺も協力するよ。味方は多い方が心強いでしょ」

そう言って五代は笑顔になりながら、サムズアップポーズをする。

加古川は軽くため息をつきながら考えた。

こんな平和ボケした男に戦いなど無理だろう、着いてきても五代が怪我をするだけ。さっきのも偶然に違いないと。

「着いてきてどうするんだ?あのアナザークウガにも話し合うのか?」

加古川は小馬鹿にしたような言い方をする。

「いや、話し合わない。あいつは命を奪いすぎた」

そう言ってまっすぐ前を向いた五代の瞳に先程の人の良い好青年の印象はなかった。

そこに映っていたのは明らかな戦士の風格·····

加古川は一瞬怯んだが、次の瞬間には五代はさっきまでの好青年に戻っていた。

「分かった、一緒に行こう」

加古川は五代雄介と言う人間に興味を持ち始めていた。

加古川は初めて人の戦う理由を知りたいと思っていた。

「ありがとう、じゃあ行こうか。これ以上人の笑顔が消えない様にね」

 

かくして、1人の戦士と1人の怪物は共通の目的のために少しの間行動を共にする·····この出来事が加古川にどんな影響を与えるか、それはまだ誰も知りえない。



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「戦士と戦士2019」

この本によれば普通の高校生 加古川飛流、彼には魔王にして時の王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

五代雄介と行動を共にする彼は新たな戦士と共にアナザークウガを撃破するのだが、そこに現れたのは衝撃の人物で·····おっと、ここから先は皆様には少し過去のお話

 

 

「戦士と戦士2019」

 

 

 

 

「改めてよろしく、2019の技を持つ男五代雄介、クウガだよ!」

喫茶店ポレポレを出た後、そう言って五代は加古川飛流に握手を求める。

「あぁ、加古川飛流 アナザージオウだ」

そう言って五代の握手に答える、五代は加古川に笑顔を向けながら満足そうにしている。

「君はいつもどうやってアナザーライダー?って奴らを探しているの?」

五代が加古川に問う。

「基本的に噂話を頼りにするが·····あれだけ大きいんだ、そのうち見つかるだろう」

実際に今回の記事のようにアナザークウガは長野県に留まっていなかった、その失敗を彼は悔やんでるようだった。

「それじゃダメだよ!」

五代は強く否定する。

「それじゃまた傷付く人が出てきちゃう、だから次は食い止めなきゃ·····」

加古川は五代の事を見つめながら言う。

「しかし、どうする?一応俺にはアナザーライダーを察知する能力があるが、そこまで範囲は広くない·····おまけに変身してない状態だと見分けがつかない」

「分かった」

五代は数歩前に進む、何か思いついたらしい。

五代が腹に両手をかざすと、そこには中央に大きな石がはめ込まれたベルト状の器具·····アークルが浮かび上がる。

五代が目を閉じて気合を入れるとアークルの中央が緑色に変わり、一瞬で五代が緑色のクウガになる。

10秒ほどして五代は変身を解除する。

その間加古川は黙って五代を見ていた·····

「分かった、向こうの山の方にアイツの羽音がした」

そう言いながら五代は少し離れた山の方向を指さす。

どうやら緑色の姿は聴覚が敏感になる姿らしい、と加古川は解釈する。

「じゃあ行くか」

加古川が歩き出した所で五代は加古川を呼び止める。

「待って、さっき君が助けた男の子だけど無事にお母さんの所に辿り着いたみたいだよ」

五代の緑色のクウガはアナザークウガのは音と同時に先程加古川が助けた子供の声も拾ったらしい。

「·····そうか」

 

 

それから小一時間ほどして2人は山中にてアナザークウガを探していた。

ここに来るまでに2人の間には数言の会話しか無かった。大体が五代が加古川に質問して、それに加古川が答える形だ。

ただ、一つだけ加古川が五代に質問した事がある。

「五代雄介、お前はなぜ戦う?戦いが嫌いなんだろ?」

「それは·····俺はクウガだからだよ、選ばれたから」

五代は足元のコケに転びかけて答える。

選ばれたから·····それが五代雄介の戦う理由なのか?加古川が考えてると。

「それに·····もし、クウガに選ばれてなくても俺は戦うよ」

「·····なぜ?」

「涙より笑顔の方がいいじゃない」

五代は笑顔を加古川に向けながら言う。

「誰かを助けて笑顔にする。望んでなくても、その力を手に入れた俺は幸せものだと思う」

五代の言葉を聞いて加古川は俯いて何かを考えてる。

2人が歩を進めながら加古川が口を開いたちょうどその時、2人の目前にアナザークウガが現れた。

2人は咄嗟に近くの木の影に身を隠す、アナザークウガは疲弊しているのか飛行をやめて座り込むように大木にもたれかかっている。

加古川が小声で話す。

「あいつに特に有効なのはお前のクウガの力だ、俺が奴の気を引いてる隙にお前が一撃を叩き込め」

五代は小さく頷く、加古川は木の影に身を隠しながら移動しアナザークウガの目前に姿を現す。

アナザージオウウォッチを起動して腰に現れたベルトに装填する。加古川はアナザージオウに変身し、五代は渾身の一撃を与える為に集中を高める。

先に仕掛けたのはアナザージオウだ、双剣を出現させながら足元に向かって走り、虫のように細いアナザークウガの脚を斬りつける。

「グキャァァアァ!!」

脚を切り裂かれアナザークウガは叫びながら飛び上がる。

アナザージオウに向かって火球を3発打ち出す、それをギリギリでかわして右手に握っていた短い方の剣をアナザークウガに向かって、投げた。

いや、投げたと言うより撃ち込んだと言うべきか。

ともかくアナザージオウから放たれた剣は狙い通りアナザークウガの左の羽根に命中する。

片翼を傷付けられバランスを失ったアナザークウガは地面に打ち付けられる。

「グキァァァヤアァャ!!」

先程より激しい叫び声を上げてアナザークウガはその両手に当たる部分でアナザージオウを掴もうと必死に手を伸ばす。

しかし、そこまでの未来は読めている。

腕の動きを避けながら

「喰らえ!!」

アナザークウガの右手に長い方の剣を貫通させ地面に固定する。

「今だ!!」

加古川が叫ぶと共にアナザークウガの後ろの木の影から五代が姿を現す。

五代の腹にはアークルが既に出現していて、中心部分は赤く輝いている。

右手を斜め前に掲げ。

「変身!」

風が唸るような音と共に五代の体が赤いクウガ、クウガ マイティーフォームに変身する。

 

「はぁぁぁ·····」

クウガの右足にエネルギーが集まる·····と、その時アナザークウガの動きが止まった。

「!?待て、五代!」

一瞬

たった一瞬にしてアナザークウガが上空に飛翔する。

その姿は先程までと違い腕が4本になり、全体が黒く歪んでいる容姿だ。

アナザージオウが与えたはずの羽と脚の傷は一瞬で治っている。その瞳は全てを飲み込むブラックホールが如く暗闇だ。

 

「「え?」」

一瞬の事で2人とも唖然とした、何が起こったのか分からなかった。

あれはアナザーアルティメットクウガ?なぜいきなりパワーアップした?ダメだ、まずい·····考えてる暇はない。

「オれが ·····クウガだぁぁアァぁ!!!!」

アナザーアルティメットクウガはそう雄叫びをあげるとクウガに襲い掛かる。

虫の様に指先が2つに分かれてるその手でクウガの首を締め上げるように持ち上げる。

「グッ·····グガァァ」

クウガが苦しそうに悶える、まずい·····アナザーアルティメットクウガと体格差がありすぎる。

「クソ·····どうすれば」

《アタックライド ブラスト!!》

力強い声が響きアナザーアルティメットクウガの頭部に数発の弾丸が打ち込まれ、バランスを崩しクウガは上空から地面に少しよろけながら着地する。

「五代!無事か?」

駆け寄ってきたアナザージオウの手を借りつつクウガが立ち上がる。

「オレがァァ空我ダあぁアぁァァァ!!!」

アナザーアルティメットクウガは体制が崩れながらもクウガを再び掴みかかろうと襲ってくる。

《アタックライド スラッシュ!》

先程と同様の声が響くと襲ってくるアナザーアルティメットクウガが何かに斬りつけられたように地面に落ちる。

すると先程居なかった戦士が姿を現す、透明化の能力でも使っていたのだろうか·····

マゼンダピンクと黒のツートンカラーに白色のラインが入っている体、マゼンダの顔にまるでバーコードのように黒のラインがあしらわれている。加古川は彼を知っている。思わずその名前を呟く。

「·····ディケイド」

少し後ろで呆然としてるクウガとアナザージオウを見て。

「なるほど、クウガか·····大体分かった」

そう言うと手に持っている四角い銃の持ち手をたたみ、そこからカードを取り出す。

腰の部分のマゼンダピンクのベルト、ディケイドドライバーの端の部分を引っ張り中央部分を回転させそこにカードを入れる。

《カメンライド クウガ!》

一瞬でディケイドの体がクウガに変わる。

「お前ら、よく聞け」

クウガとアナザージオウを指さしながら言う。

「さっき斬りつけた時に目を潰した、クウガの反応が2つになってやつは混乱しているだろう」

アナザーアルティメットクウガの方を見ると、本当に目が見えないようで苦しそうにもがきながら。

「喰うがァァ!空我ああぁ!!クウガァァあアぁ!」

「ほら、さっさとやるぞ」

アナザージオウの肩を叩きながら言う。

「奴の頭部に俺たち3人のライダーキックを当てる、それで終わりだ」

「·····分かった!」

突然現れたディケイドに困惑しながらもクウガは頷きキックのためにパワーを貯める。

アナザージオウもそれに続く。

「俺がァァあウァ喰我ァァ!!?!?」

《ファイナルアタックライド ク!ク!ク!クウガ!》

ディケイドクウガ、クウガ、アナザージオウの3人の渾身のライダーキックが直撃する。

「オre·····グゥが·····」

言葉にならない言葉を発しながらアナザーアルティメットクウガは力尽きる。

すかさずアナザージオウは駆け寄ってブランクウォッチを押し付ける。

《クウガ!》ブランクウォッチはアナザークウガウォッチに変わり、そこには傷だらけで倒れた1人の青年がいた。

「迷惑をかけたな、そいつは俺の連れだ」

変身を解除したディケイドもとい、門矢士はそう言いながら倒れた男の安否を確認している。

「その人は大丈夫なの?」

同じく変身を解除した五代が近ずいてくる、どうやらアナザークウガだった人物の命に別状はないらしい。

加古川が士に問う。

「誰だ?そいつは」

「こいつは小野寺ユウスケ·····こいつもクウガだ」

もう1人のクウガ·····?そんな疑問を加古川が口に出そうとした時、五代の言葉に遮られる。

「そっか、その人も誰かの笑顔のために戦っていたんだね」

士は続ける。

「しかし、コイツはクウガとして認められなかった」

「え?」

「小野寺ユウスケはクウガではない、偽物だってな·····まあ、言ってたヤツらに悪気はなかっただろうが」

五代は少し怒っているような声で士に聞く。

「認めなかったって·····誰に?」

「まあ、誰にと言われれば·····みんなにと言ったところか·····勿論コイツを嫌ってない奴らも居ただろうがな。散々言われてコイツの心も限界だったんだろう、そんな時にアナザーライダーの力を与えられた·····と言ったところか」

 

士は気を失っているユウスケを抱えながら五代に向かって聞く。

「お前はどう思う?皆が言う通りコイツは偽物だと思うか?·····本当のクウガじゃないと思うか?」

その問いに五代は答える、先程まで究極の闇に飲まれていたもう1人のクウガを見つめて。

「俺は·····俺は偽物とか本物とか、先に出たとか後に出たとか関係ないと思う。誰かの笑顔の為に戦ったなら·····彼はクウガなんだと思う」

五代の答えを聞いて一瞬驚いたような顔をした士だったが、ユウスケを背負いながら後ろを向いて言った。

「フッ·····そうか、コイツが聞いたらさぞ喜ぶだろうな」

そう言うと士は灰色の時空の歪み·····オーロラカーテンをくぐるように消えていった、士に抱えられたユウスケの頬に雫が伝ったように見えたのはきっと加古川の見間違えだろう·····




そういえばTwitterやってます。
アカウント名タコわさび(躁鬱)又は#加古川飛流を救いたい で検索かけてくれると嬉しいです。


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「真っ赤な車の正義漢2019」

普通の高校生 加古川飛流、彼には魔王にして時の王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

2人のクウガを見届けた彼は新たなるレジェンドに出会う事になるが·····おっと、ここから先は皆様には少し過去のお話

 

そう言って足早に立ち去ったウォズの手元には2つのアナザーライドウォッチが握られていた。

 

 

 

「真っ赤な車の正義漢2019」

 

 

 

アナザークウガを撃破した山を下山した2人の男、平成最初の仮面ライダー五代雄介と我らが加古川飛流、2人は別々の方向に進むらしく加古川は自らに家の方に、五代は全くの逆方向に歩を進めようとしていた。

「ありがとう、今回は助かったよ」

そんな五代の感謝の言葉を聴きながら、助けられたのはこちらの方だと加古川は言う。

「またどこかで会ったらお礼させてね」

どうやら五代は本気で加古川に恩を感じてるらしい。

「そうだな·····じゃあ今度あった時はあの喫茶店のカレーでもご馳走してくれ」

加古川が冗談で言ったのかはさておき五代はそれを快諾した。

 

「なぁ五代、一つだけ納得できないことがある聞いてもいいか?」

「いいよ、なんだい?」

少し前から加古川には1つの疑問が残っていた、それはもう1人のクウガ、小野寺ユウスケや門矢士達のことより分からない事。

「俺が作戦を提案した時なんでお前はあんなにすんなり承諾した?」

五代は不思議そうに首を傾げる、加古川は続ける。

「だから、なぜ俺の事を信用出来た?」

加古川のそんな質問に五代はすぐに答える。

「さっき君が助けた子が無事だって伝えた時、君は安心したような嬉しそうな顔をしたでしょ?だからだよ」

五代の答えに加古川は驚いた、自分がそんな顔をしたことも·····誰かを助けて満足していたことも。そして今の今までそれに気付かなかったことも。

「そうか·····そうなのか、俺は嬉しかったのか」

俯いてそう呟く加古川の言葉が聞き取れなかったようで五代は不思議そうに覗き込む。

「いや、なんでもない 大丈夫だ」

顔を上げた加古川を見て、とりあえず体調は良さそうだと五代は理解し。

「そっか、なら良かった!」

「じゃあな、五代雄介またどこかで会ったら」

「うん、じゃあね!」

そう言って五代は加古川家の反対方向に歩き出した。

何気に誰かに別れの挨拶をするというのは数年ぶりじゃないか?そんなことを考えながら、加古川は帰路に着いた。

 

 

加古川が下山ししばらく歩いた所で1台の車に声をかけられた、情熱を連想させる真っ赤な車。左前輪が丸出しになっている特徴がある。

その赤い車·····トライドロンから一人の男が降りてきた。

「きみ、少しいいかな?」

「なんだ?お前は」

「えっとね、こういうものなんだけど·····」

そういうと男は警察手帳なるものを加古川に見せる。

そこには警察庁特状課 泊進ノ介と書いてあった。

「·····警察?」

「少し君に話が聞きたくて、今時間あるかな?」

進ノ介はそう言いながら加古川を観察しているように見えた。

「何の話だ?」

「さっき、君が降りてきた山で爆発みたいなのがあったよね?何か知っている?」

恐らくアナザークウガを撃破した時の爆発か。

「何も知らない」

加古川は涼しい顔で嘘をついた、加古川は嘘をつくのは慣れていた。

「どうして嘘をつくの?」

そして同じく進ノ介も嘘を見抜くのは慣れていた。経験の差というものが出た形になる。

この相手を騙し切るのは不可能だと加古川は悟った、しかしそれならばどうする?まさか全て正直に話す訳にはいかない。

こんな時五代ならどうするのだろう····と加古川が珍しくそんなことを考えている。

「率直に聞くよ、さっきの爆発はロイミュードかい?」

「ロイミュード?」

爆薬の種類か?いや、聞き覚えがある。

人工生命体ロイミュード 仮面ライダードライブが戦った相手·····スウォルツから聞いた話だが。

この男が言っているロイミュードはそれだろう、だとすると目の前の男は少なくとも仮面ライダードライブに近い人物なのか?

「···いや、ロイミュードじゃない」

「そうなんだ」と進ノ介は安心したような表情で言う、しかし、次の瞬間には険しい顔つきになり。

「じゃぁロイミュード以外の怪物が現れたんだね?君はそれと戦っていたんだね?」

怪物は何を隠そう目の前の俺なのだが·····と思ったが面倒くさくなるので加古川は言わなかった。代わりに

「あぁ、その通りだ俺がアナザーライダーを倒した」

まあ、嘘ではない。他の2人のことは言わない。

長引きそうだからだ、加古川は一刻も早く帰って休みたかった。

「そうなんだ、じゃぁ君も仮面ライダーなんだね?」

「··········まあ、そうかもしれないな」

ハッキリとは言わないながらも肯定した、今まで散々否定してきたのに。

「そうかも?」

しかし、その曖昧な言い方が進ノ介には引っかかったらしい。

「·····ッ!」

不味い事になったな、どうにか現状を突破できないか加古川が考えてる。その時ものすごい速さで赤い車が2人の脇を通り過ぎて言った。

さながらスポーツカーの様なスピードに2人は一瞬唖然とする、先に口を開いたのは加古川だった。

「今の、明らかにスピード違反じゃないか?あの速さで人を轢きでもしたらシャレにならないぞ?」

そう言って、加古川は進ノ介に違法車両を追うように促し、自分は帰るつもりだった。

「あぁ、その通りださっきの車を追う!」

よし、どうやら思いどおりにいったらしい。

「何ボーっとしてるの?君も乗って!」

「はぁ!?」

 

結局加古川はトライドロンの助手席に乗ることになり、違法車両を追うことになった。

進ノ介いわく、重要参考人をみすみす逃す訳には行けないし、スピード違反も見逃せないという事らしい。

「なぜ、こうなった···」

加古川は助手席で1人うなだれる、しかし加古川はすぐに前を向く。

過去を必要以上に後悔しても意味の無いことは彼は誰よりも知っている、知っているのだが·····

「加古川君って言ったよね?あいつ恐らく普通じゃない」

ナイーブモードに入りかけた加古川を進ノ介はそんな言葉で引き戻す。

「普通じゃない?」

確かにこの超スピードで走っているのだ、普通じゃない。

車に乗ったことがほとんどない加古川でも明らか違法速度だとわかるくらいだ、時速500キロは出てるんじゃないか?まあ、よく知らないけど。

ふと、隣を見ると進ノ介が何やら深刻な表情で何か呟いている。

「お前、あの車両に見覚えがあるのか?」

「いや、見覚えって言うか···なんかトライドロンに似てるような」

すると突然違法車両が動きを止める。

カーチェイスを初めて3分弱だ、こちらの存在に気づいたのだろうか?

「なぁ、あの車に乗っているのがお前の言ってたロイミュードなら仮面ライダードライブを呼んだ方がいいんじゃないか?」

これは進ノ介がドライブの関係者であるとこを明らかにするための、加古川なりのカマかけと言うやつだった。

しかし、帰ってきた答えは意外なもので。

「ん?俺が仮面ライダードライブだけど?」

「なっ!本人なのか!?」

さすがに予想外だが、これは好機だ。

違法車両に乗っているのがロイミュードなら、進ノ介に戦ってもらえばいい。

「いや、俺はもう変身できないよ?」

「なんだと!?」

·····今日は予想外な事ばかり起きる日だ。

となるとこの場には戦えるのは加古川だけとなる。

そして、加古川は目の前の違法車両には実は見覚えがあった。

扉を開けて中から人型のものが出てくる。

赤いスポーツカーを思わせる外装に、顔には半分機械の鉄肌が露になっている。所々切れた配線が垂れている。

うん、アナザードライブだ。

「あぁ、帰りたい····」

先程までの疲れがどっと押し寄せてきて加古川は再びうなだれる。



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「真っ赤な体の警察官2019」

この本によれば·····普通の高校生 加古川飛流、彼には魔王にして時の王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

警察官泊進ノ介と共にアナザードライブを追う彼は、変身できない仮面ライダードライブと共にこの窮地を脱することは出来るのか。加古川飛流の選択とは·····

おっと、ここから先は皆様には少し過去のお話

 

そう言い終わってウォズが見上げた空の一部が灰色に歪んで、ビルがひとつ消えた。急がなければ·····そう呟いてウォズは足早にどこかに消えていった。

 

 

 

「真っ赤な体の警察官2019」

 

 

 

さて、どうするか。

泊進ノ介は仮面ライダードライブに変身出来ないらしい、そうなると戦えるのは加古川飛流のみだ。

出来れば、変身した姿を見られたくもないしこれ以上疲弊したくもない。

 

しかし、目前のアナザートライドロンからでてきたアナザードライブはゆっくりこちらに向かってきている。

「シ···ニィ···」

何か呟いているように見えるが、どうでもいい。

加古川が必死に頭を回していると、進ノ介は腰のホルダーから拳銃を取りだし。

「君はここにいて、大丈夫俺が何とかするから。」

「は?」

 

加古川が聞き返すより前に進ノ介はトライドロンから出て、拳銃をアナザードライブの方に向けている。

「止まれ!お前は何者だ!ロイミュードか!」

たとえ目前の化け物がロイミュードだとしても、拳銃など何の役にも立たないことは100も承知だった。

では、何故?泊進ノ介は自分を庇う形でトライドロンを降りたのか。加古川にはそれが分からなかった。

だけれども、進ノ介に言わせてしまえばその理由は単純明快。

加古川飛流は市民で泊進ノ介は警察官だからだ。

そう、分からないはずだった。

五代雄介に出会っていなければ。

彼は五代と関わることで学んだのだ、世の中には理屈抜きで人のために戦える人間がいるということを。

故に加古川はいつもの彼より一瞬早く動けた、そしてこの一瞬が確かに進ノ介の命を救う結果になったのだ。

トライドロンの外ではアナザードライブが進ノ介の拳銃をはじき飛ばして首に手をかけていた。

「やめろ!」《ジ・オーウ》

低い起動音が響き一瞬で加古川の姿がアナザージオウに変化し、アナザードライブをタックルではじき飛ばした。

「君は·····」

むせながら進ノ介は疑問を口にする。

一方アナザージオウはアナザードライブとの戦闘に移っていた、アナザードライブから繰り出される高速の拳撃を弾いてかわす。

少し早いが見切れないほどじゃない、そう加古川が思っていた瞬間アナザージオウの脇腹に重い拳がめり込む。

「グガッ·····!」

アナザージオウが少し後ろに仰け反る、その瞬間先程よりも早くなった拳撃がアナザージオウを襲った。

アナザーライダーはオリジナルの能力をコピーしている事がある。シフトアップ(加速能力)それが仮面ライダードライブの固有能力である。

先程からさらに加速し、加速する事で一撃の威力も上がる。

まんまとやられた、加古川は連打を受けてる最中そんなことを考えていた。

「グッ!クソ·····」

アナザージオウが進ノ介の方に吹き飛ばされて転がりながら変身が解除される。

やはりダメだ、アナザーにはオリジナルの力をぶつけなければ。

「泊進ノ介、仮面ライダーになれ·····ドライブに!」

加古川を心配そうに見つめる進ノ介は困惑する。

「でも、もうベルトさんはいないんだ」

進ノ介は唇を噛みながら言う。

「このブランクウォッチを使え、もう一度ドライブになれるはずだ」

進ノ介はブランクウォッチと加古川の顔を交互に見て、決断したように

「これは···分かった、君のことを信じるよ」

進ノ介がブランクウォッチを手にした瞬間、それはドライブウォッチに変化して瞬く間に光の軌跡を描きながら進ノ介の腰部分に装着されドライブドライバーに変化する。

ドライブドライバーの中央の円形部分が発光して顔文字のようなものが浮あがる。

「進ノ介?これは一体···」

そう声を発したのはドライブドライバー本体もとい通称ベルトさんだ。

「ふむ、どうやら緊急事態のようだね」

「あぁ、悪い力を貸してくれるか?」

「もちろんだ、君のためならいくらでも」

ベルトさんがそう言うと進ノ介の手に空中にレースサーキットのような物を作りながら、赤いミニカー ···シフトカーがやってきた。

進ノ介がドライバーの右上部に付けられてる車のキーの様な部分を捻る。

車のエンジンの駆動音の様な音が空間を揺らす。

シフトカーを左手首に巻いてあるシフトブレスに装填する。

「それじゃあ、ひとっ走り付き合えよ!」

装填されてるシフトカーをまるで車のレバーの様に前に倒す。

《ドラーイブ タイプ・スピード!》

ベルトさんの声のシステム音声が鳴ると、進ノ介の体の周りに装甲が現れ進ノ介の体に装着される、トライドロンからタイヤが射出されドライブの上半身に装着された。

「シ・ニィぃぃ!」

大きく振りかぶったアナザードライブの攻撃をかわし、ドライブは後ろに回って蹴りを放つ。

「グ、ガウァニイ」

先程と同じ方法でアナザードライブはドライブに襲いかかった、先程と同じなら避けれるはずだった。

しかし

「クッ」

僅かなうめき声を上げてドライブは少し吹き飛ばされる。

その隙を逃さずアナザードライブが連撃を繰り出してきた、反撃できずひたすらドライブは防御に徹する。

「進ノ介こちらもシフトアップだ」

「わかってる!ベルトさん、でも···っ!」

アナザードライブには隙がなかった。

「クソが··ッ」

「加古川君!無理に動いちゃダメだ!」

《ジ・オーウ!!》

「くぅ、うおおぉ!」

アナザージオウが先程食らわされた腹を抑えながら、自らの短剣をアナザードライブに投げつけ、避けられる。

その一瞬さえあれば十分だった。

「進ノ介!今だ!」

「あぁ、ベルトさん」

ベルトさんのキー部分をまわし、腕のシフトカーを前に倒す。

瞬間、ドライブがシフトアップしアナザードライブとの戦いは変身が解除された加古川には追えない物になった。

《ヒッサーツ!フルスロットル、スピード!!》

大きな爆撃の中でドライブが立っていた、先程までアナザードライブがいたであろう場所には少し焼き焦げた白色のパーカーを着て倒れている人物、詩島剛が倒れていた。

 

 

詩島剛が目を覚ますと隣には自分と同じくトライドロンにもたれかかっていて、手にはアナザードライブウォッチが握られている。

「進兄さん?」

「静かにしろ、今は2人だけにしてやれ」

加古川は剛の言葉を遮る。

ボロボロの2人の反対側に数年ぶりの談笑をしている2人の姿があった。

 

 

「霧子、君の奥さんはどうしてる?」

「あいつは凄いやつだよ···すっかり昇進しちゃってさ、もう完全に上司だぜ?」

「ふむ、彼女は優秀だからな。ところでこっちの世界はどうだい?何か変わったかい?」

「いや、全くだ。ずるい奴も悪いやつもちっとも減らない」

「そうか」

ベルトさんの悲しそうな顔が表示される。

「でも···前よりもいい笑顔で笑う奴は増えたかな」

「そうか、それは良かった」

ベルトさんが笑顔を浮かべる。

「そういえばこの前剛がさ」

進ノ介がそう切り出した所でベルトさんの体を淡い光が包みだした。

「すまない、進ノ介どうやら時間切れらしい」

「·····そうか」

「どうだい?そろそろ私が目覚めてもいい頃合いかな?」

「いや、まだだ、まだ俺達は弱いまんまだ」

「ふむ」

しかしベルトさんの表情は暗くない。

「だから、それまで持っていてくれ。あんたが託してくれたこの世界を必ず守り抜いてみせるから」

「あぁ、任せた····友よ」

淡い光が強くなりベルトさんは光の粒になり、収縮してドライブライドウォッチになる。

名残惜しそうにドライブウォッチを加古川に渡そうとした。

「これは加古川君の物だろ?」

「いや、そのウォッチはあんたが持っていてくれ」

「いいのかい?」

進ノ介はまっすぐ加古川を見つめる。

「多分、あと1回くらいなら使えるはずだ。いざと言う時に」

「····わかった、ありがとう」

そんな会話を交わす2人を、まるで戦友のようだと剛は眺めていた。



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「旅人たち2019」

この本によれば·····普通の高校生 加古川飛流、彼には魔王にして時の王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

着々とアナザーライドウォッチを集める彼の前に門矢士が現れ加古川に役目を手渡す。そして、終わりは刻一刻と近づいて来るのだった。

おっと、ここから先は皆様には少し過去のお話

 

ウォズの手には小さい茶封筒とアナザーライドウォッチが握られていた。

 

 

「旅人たち2019」

 

詩島剛(しじまごう)を念の為知り合いの医者に見せるとかで、泊進ノ介(とまりしんのすけ)は呆気なく去っていった。

「俺の事はもういいのか?重要参考人とやらでは?」

「いや、大丈夫だよ。疑って悪かった」

そう言いながら進ノ介は深々と頭を下げた、その行為に驚いて加古川が顔を上げるように言う。

「君は紛れもなく仮面ライダーだった、一瞬とはいえ疑ってしまった」

あの怪人の様なアナザージオウの見た目では仕方ないだろうに、進ノ介は本当に申し訳なさそうに言う。

「本当にやめてくれ、あんたは何も謝るような事をしていない」

「ありがとう····良かったら乗っていくかい?」

トライドロンのドアを開けてそう言う。

「いや、家とは逆方向だしな。傷も大したことないから家で休む」

「そっか、助けてくれて···ベルトさんと会わせてくれて本当にありがとう」

感謝の言葉を残すと進ノ介は走り去っていった。

かなり苦戦したがまた1つアナザーウォッチを手に入れた、順調だと加古川は思った。

「挨拶は終わったのか?」

不意に加古川の背後から声がする、振り返ると先程までそこにいなかった人物が立っていた。

マゼンダピンクと黒の二眼レフカメラが印象的なスーツを着た男性、世界の破壊者、ピンクの悪魔、仮面ライダーディケイド数々の異名を持つ男。

門矢士(かどやつかさ)

加古川は咄嗟にアナザージオウウォッチを構える。

「大丈夫だ、今はお前に敵対するつもりは無い」

士のそんな言葉に思わず安堵してしまった後に尋ねる。

「お前は、今回のお前は何者だ?」

仮面ライダーディケイド 門矢士には旅をする世界ごとに役割があるはずだ。

「俺はいつも変わらない、通りすがりの仮面ライダーだ」

「通りすがりは半年も滞在しないと思うんだが?」

「あぁ、その通りだ」

分が悪そうに士は続ける。

「俺はこの世界から出られないんだ、俺のこの世界での役目は終わったはず····なのにな」

「一体なぜだ?」

疑問をそのまま口に出した加古川に対して士は答える。

「恐らくだが常磐ソウゴが世界を作り直し、自らの記憶を無くし仮面ライダーじゃなくなったからだ。」

加古川はソウゴの名前に反応するが士は気にせず続ける。

「今この世界にはこの世界の仮面ライダーが存在しない状態·····だからこそ俺が渡れる世界でもないという事なんだろうな」

「それは災難だったな、それで?どうして俺の前に現れた?」

「お前に()()を渡すためだ」

そう言うと士は何処からか小さめのボストンバッグを取り出して加古川に投げる。

「これは····っ」

中身を確認して、信じられないような顔で士を見る。

「どうしてお前がこれを?」

「気にするな」

それだけ言い残して士が振り向くとそこには灰色のカーテンのようなものが出現していた。

「じゃぁな、加古川飛流しっかりとお前の役目をこなす事だな」

「俺の役目·····」

「あ、そういえば」

加古川は下を向いて考え始める思考を遮るように士が嘲笑を浮かべながら。

「ミラーワールドに転がって行ったお前の表情は中々に傑作だったぞ」

その言葉で加古川は瞬時に理解する、アナザー龍騎との戦いで鏡に向かって加古川を蹴り落としたのは·····

「お前だったのか!?」

最後に加古川を鼻で笑ってから門矢士は灰色のカーテンの中に消えていった。

 

 

「くそ、疲れた」

1人で静かに呟いて加古川は玄関で靴を脱ぎ、横になるために自室に向かった。

「おかえり、我が魔王 ずいぶん疲れてるようだね」

「あぁ、色々あってな」

「そのバッグはなんだい?」

「なんでもない」

ウォズに言葉を返しながら門矢士から受けとった()()の事は言わない方がいいだろうと思った。

「それよりもどうして二階にいる?珍しいな」

「あぁ、まあ、少しね」

ウォズは明らかに言葉を濁した。

「なんだ?言いたい事があるならハッキリ言ったらどうだ?」

「君には申し訳ないのだけど、君がいない間に家を少し調べさせてもらったんだ」

「なに?」

明らかに加古川が不満の表情を浮かべる。

「どうしてだ?」

「少し時間がなかったというか、予想以上に早まったと言うべきか」

加古川には分からない事を呟いた後にウォズは話題を変える。

「その中でこれを見つけたんだ、良かったら受け取ってもらえるかな?我が魔王」

ウォズが手にしているのはどこにでもあるような小さい茶封筒だった。

「中身を見たか?」

「いや、私は見ていない。ただこの本に従っただけだからね」

この本というのはウォズが持っている裏逢魔降臨録の事だろう。

「わかった、部屋で見る」

ウォズから茶封筒を受け取って加古川は部屋に戻って行った。

 

結果から言えば茶封筒の中には手紙が入っていた。

いつなのか加古川飛流の両親が20歳になったであろう加古川に当てた手紙。そこには交互に女性が書いたであろう文字と、恐らく加古川の父親が書いたであろう力強い文字で書いてあった。

『飛流へ

この手紙はお前が大きくなった時に渡そうと思っています。

飛流はどれくらい大きくなったかな?もうお父さん達の背は追い越したかな?

あなたは幼い頃から物事をよく考える賢い子だけど、少し考えすぎる時もあるから私達は少し心配です。

それでも父さん達の自慢の息子だ、飛流ならきっと正しい選択をして生きていってるのだと思います。

私達は普段手紙なんて書かないからおかしな所があったら、ごめんなさい。

最後に2人からです、私達の子供に生まれてきてくれて、ありがとう。

P.S.今でも相当ヤバいんだけど、そっちの父さんはハゲてますか?』

恐らく加古川の何歳かの誕生日に両親が記念として気まぐれで書いたものだろう、そしてこの手紙は加古川に今まで避けてきた現実を自覚させるには十分すぎた。

 

読み終わると加古川は泣いていた、目が覚めて両親が死んでしまったのを告げられた時と同じくらいに。

声を押し殺してすすり泣きながら、様々なことを考える。

父さんの身長なんてとっくに追い越した事

まだ一緒に居たかった事

どうして自分だけ置いていったのか

どうして·····

どうして??

どうして!!

 

気付けば加古川は産まれたての赤ん坊のように声を出して泣き喚いていた、それはまるで10数年ぶりに愛する人達がもうこの世界には居ないことを受け入れたようだった。

 

 

 

その夜彼はまるで母のそばで眠る赤ん坊のように深い眠りについた。

 



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「ジ・アポカリプス2019」

この本によれば、普通の高校生 加古川飛流、彼には魔王にして時の王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

愛する者も、守るべき物も無い世界で彼は己の役目を果たそうとする。そして、終わりはもう、すぐそこまで·····

おっと、ここから先は皆様には少し過去のお話

 

ウォズはどこか申し訳なさそうに熟睡している加古川を見ていた。

 

 

 

「ジ・アポカリプス2019」

 

 

 

 

目を覚まして、顔を洗い制服を着て登校する。

ほとんどの高校生が毎日のように繰り返すこの一連の動作を随分久しぶりのように加古川は感じた。

とは言ったものの彼は授業を受けるために光ヶ森高校に向かう訳では無い。

昨日の手紙は机の引き出しにしっかりとしまっている。

「行ってきます」

そう呟いて前を見て、加古川は歩きだした。

 

 

光ヶ森高校の校門の前で10分ほど待っていると、目当ての男が現れた、この世界の主人公にして時の魔王常磐ソウゴ(ときわそうご)だ。

「加古川?」

先に声をかけたのはソウゴの方だった、先日の事で加古川に不信感を抱いてるのか、若干の距離がある。

「久しぶりだな、この数日楽しかったか?」

ソウゴの横を並んで歩いていた、明光院ゲイツ(みょうこういんげいつ)が何か言おうと口を開こうとする。

「俺は」

しかし、それより早く加古川が喋りだす。

「俺はお前が大っ嫌いだし、それは今でも変わらない」

その並々ならぬ雰囲気にソウゴが後ずさりする。

「今はもっと嫌いだ、お前は自分が選ばれたのにそれを放棄した、何が普通で生きたいだ?ふざけるな!」

周りの生徒たちが一斉に加古川の方を見るが、彼は気にせず続ける。

「だけど、俺には役目があるらしいし·····ここでお前を殺しても嬉しくないし、きっと父さん達もそんなことを望んでない」

ソウゴがなだめる。

「加古川·····落ち着いて?」

「うるさい、だから俺は俺の役目を果たして復讐もする」

加古川がソウゴにブランクライドウォッチを投げつけ、反射的にソウゴはそれを掴む。

「うぅ·····くっ」

ソウゴの記憶が戻ろうとしているのだろう、苦痛の表情をうかべる。

「そうか、まだ足りないのか·····なら」

《ジ・オーウ》

アナザージオウウォッチを起動して、加古川はアナザージオウに変身する。

それを見た瞬間ソウゴの服装にノイズが走って前世界の私服に戻ると同時に

《ジオウ!!》

ソウゴが持っていたブランクウォッチがジオウライドウォッチに変化する。

「アナザー·····ライダー?」

加古川は変身を解除して言う。

「やっと思い出したか?」

「どうして·····!」

ソウゴが加古川を睨みつける。

「場所と日時はウォズに伝えておいた、そこで俺とお前の最後の戦いをしよう」

加古川はまだ悲鳴が木霊する生徒の群れを壊しながら背を向けて歩いていった。

「俺は普通の高校生になったはずなのに·····どうして」

ソウゴのその声は誰にも届かなかった。

 

 

 

 

自室で制服を脱いだ加古川は家の整理をしていた。

もうこの家に戻って来れないだろう、彼は分かっているのだ。

明日自分がソウゴに負けて、ソウゴは仮面ライダージオウとして再臨し、この世界は再び正常に動き出す。

ウォズは初めからそのために動いてたのだろう、加古川をその為の生贄のようなポジションに置いて·····

だからこそ、普通に行きたかった常磐ソウゴを再び世界の中心に戻す、それが加古川の精一杯の復讐なのだ。

「そういえば、まだやる事があったな」

思い出したように自室の机の上に放置してある、門矢士から受けとった小さめのボストンバックを手に取る。

 

その中には複数の住所が書いてある小さいメモ帳も入っていた。

「最後にこれだけやっておくか」

1人そう呟いて加古川は家を出た。

 

 

 

次の日の早朝、加古川は岬に立ってソウゴを待っていた、一般の人間に被害が及ばないようにと思っての事だった。

まさかこんなにも想像通りの場所があるのは、他のライダーの世界と混ざった結果なのか、元から近くにあって加古川が気付いてなかっただけなのか·····そんな事を考えていると、ソウゴ達の姿が見えた。

ちなみに加古川は岬の海側、刑事ドラマでの犯人がいる方と言えばわかりやすいだろうか、そちらに立っていた。

「昨日ぶりだな、常磐ソウゴ」

「あぁ、本当にやるの?」

ソウゴの後ろには彼の仲間であるゲイツとツクヨミ、ちゃっかりとウォズまでいる。

「戦うさ、お前と決着を付ける」

彼の手には進化を遂げたアナザーオーマジオウのウォッチが握られている、加古川自身の精神が成長したからなのか、ウォズが置いていったいくつかのアナザーウォッチが原因なのかは確かではないが。

「·····分かった」

昨日のうちに全ての記憶を取り戻したのだろう、ソウゴはジクウドライバーを慣れた手つきで装着する。

もうソウゴは普通の高校生では無いのだ、そんな彼を加古川は怒りを込めた、だけどどこか哀れなものを見る目で見つめる。

「加古川?君は·····」

ソウゴもそれに気付いたのか、何か言いかけてやめた。

やめたという言い方は語弊がある、言えなかった。

鋭い銃声の後ソウゴは胸から血を流し、呻き声ひとつ上げずに倒れた。

「え」

加古川が驚いたふうに銃声がした方向を見る。

加古川の後ろ、崖から落ちそうな場所に二人の男がたっていた、嫌な笑みを浮かべるスウォルツと仮面ライダーディエンドこと。海東大樹(かいとうだいき)だ。

「ソウゴ!」

ゲイツがソウゴに駆け寄る、未来の世界でレジスタンスとして戦っていた彼にはわかる、()()()

「いやだ、死なないでくれソウゴ!」

ゲイツの思いとは裏腹に胸から留まることなく血液が溢れ出る。

ウォズは信じられないような顔をして、ツクヨミは絶句して座り込んでしまっている。

「フハハハハ!常磐ソウゴ!これがお前の最後だ」

声高らかにスウォルツが笑っている、海東大樹は灰色のカーテンで既に姿を消している。

「なん·····で」

「ん?」

スウォルツがようやく加古川の方を見た。

「どうして常磐ソウゴを殺した!」

「何を言っている?お前もそれが望みだろ?」

違う、こんなの加古川が望んだ結末じゃなかった。

だからこそ、加古川は動いた。自分の役目を果たすために、ソウゴに駆け寄った。

ここで躊躇していたら、スウォルツに妨害されただろうが、加古川は躊躇なくアナザーオーマジオウウォッチをソウゴに向かって使った。

その瞬間、ソウゴだけの時間が巻きもどるように傷が塞がり息を吹き返した。

アナザーオーマジオウウォッチは静かに崩れ去った。

「加古川·····?どうして」

ソウゴは苦しそうに加古川に問いかける。

加古川はゆっくりと立ち上がりスウォルツを睨みながら言う。

「お前が死んだら、俺の復讐が果たされないからな」

「加古川飛流·····貴様!誰のおかげでアナザーライダーになれたと思っている!!」

スウォルツを睨みつけたまま1歩前に出る。

「誰のおかげで俺は両親を亡くしたんだろうな?」

「フッ貴様の両親など知った事か、まさか俺に逆らう気か?」

スウォルツはまだ余裕ぶっている。

ソウゴは復活した直後で戦う事は出来ないだろう。

「まあ、いい·····常磐ソウゴ!そこで見てろ、貴様の世界が壊れる様をな!」

そうスウォルツが叫ぶと時空が歪み灰色のスクリーンがいくつも浮かび上がりそこに映像が映し出される。

「嘘·····だろ?」

ソウゴが驚愕する、そのスクリーン一つ一つにアナザーライダー達が映し出される。

しかもただのアナザーライダーでは無い、アナザークウガはどす黒く、アナザーアギトは白く輝くなどしてそれぞれのいわゆる最終フォームになっている。

そのアナザーライダー達が人々を襲う様子が映し出され、ソウゴ達は絶望し、スウォルツは勝ち誇っている。

そんな中、加古川飛流の目だけは諦めていなかった。

「大丈夫だ」

そう言う彼の手にはブランクライドウォッチが握られていた。



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「オレのゴール2019」

普通の高校生 加古川飛流、彼には魔王にして時の王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

世界中に現れた最強のアナザーライダー達、スウォルツとの対峙、全てを背負い彼が掴み取る可能性とは·····

おっと、ここから先は皆さんには少し未来のお話

 

 

「オレのゴール2019」

 

 

灰色のオーロラに浮かぶ18のスクリーンには最強の姿となったアナザーライダー達が世界中のあちらこちらで命を蹂躙しているさまが映し出されてる。

 

スウォルツは勝ち誇ったように高笑いし、加古川飛流の背後にいるソウゴ達からはもうどうしようもないと言わんばかりの空気が伝わってくる。

「·····大丈夫だ」

加古川はそう呟いて目前のスウォルツを睨みつける。

と、その時スクリーンの一つに異常が生じる。

先程まで人を捕食していたアナザーアルティメットクウガがのけ反った。

「ん?」

スウォルツも異常に気付いたらしく、スクリーンの方を見る、そこにはアナザーアルティメットクウガと対峙する2()()()()()()が立っていた。

他のスクリーンも同様にアナザームゲンゴーストには仮面ライダーゴーストが、アナザーブラスターファイズには仮面ライダーファイズが、アナザーサバイブ龍騎には仮面ライダー龍騎とタイガが、全てのアナザーライダーの前にオリジナルの仮面ライダーが立ちはだかっている。

 

「バカな!この世界に仮面ライダーが存在してるだと!?」

スウォルツが明らかに動揺し、ソウゴ達の方を見るがソウゴ達も同様に驚いているようだった。

 

全てが混ざりあったこの世界に存在する全ての仮面ライダーにウォッチを配り、仮面ライダーの力を復活させる、それが門矢士(かどやつかさ)から受け取った加古川の役目だった。

 

「だから大丈夫だ」

加古川は力強く言う、まるで生まれて初めて何かを信じられた子供のように。

「この世界には

皆の笑顔を守る為に戦った戦士がいる

人の運命の為に神に逆らった者がいる

平和を願い生き抜こうとした者がいる

人の夢を守るため灰になるまで戦った者がいる

友のために人間である事を犠牲にしたジョーカーがいる

人の世界を守った鬼たちがいる

家族を守るために世界の中心になった者がいる

時の運行を守る為に仲間と共に戦った者がいる

種族の壁を越え平和をもたらした王がいる

いくつもの世界を壊し、世界を救った者がいる

愛する街を守った探偵達がいる

手を伸ばし全てを掴んだ者がいる

友情のために青春を生き抜いた者がいる

希望を守るために自らが希望になった者がいる

自分の信じる正義のために戦った神がいる

止まった世界で2人で戦い抜いた警察官がいる

死してなお英雄たちの魂と共に戦った者がいる

患者を救うため命を懸けた医者がいる

世界を創造して次に繋げた科学者がいる

全ての歴史を受け継ぎ王になった者がいる」

 

「友1人の笑顔のために戦った戦士がいる

堕ちてなお英雄を目指し続けた者がいる」

加古川は一呼吸置いてから叫ぶ。

「この世界には仮面ライダーがいる!」

スウォルツが怒りに震えた眼で加古川を見る。

「貴様····ッなんということをした!」

そんなスウォルツを加古川は嘲笑するように言う。

「なぁ、スウォルツ?本当にお前ごときが仮面ライダーに勝てると思っているのか?」

「う、うぁ、ゥァァアア!貴様ぁぁ!?」

スウォルツは発狂してアナザーディケイドウォッチを自らに埋め込み、アナザーディケイドへと変化する。

加古川はウォズに「俺が時間を稼いでる間に退避しろ」と目で合図を送る、それを受け取ってくれたようでウォズ達は手負いのソウゴを連れて後ろに下がる。

 

 

「貴様ァ加古川飛流!捻り殺してやる!」

アナザーディケイドが加古川に向かって走り出した、ちょうどその時加古川が持っていたブランクウォッチが眩しく光を放ち、アナザーディケイドが後ずさりする。

 

《ヒ・リューーーウ!!》

 

 

加古川が驚愕し、スウォルツはありえないと言いたげな目見る。

「これは·····」

「なぜ!?貴様が·····まさかっ!仮面ライダーになれるというのか!??」

驚きながらも加古川が叫ぶ。

「ウォズ、ベルトを!」

ウォズは動揺しながらも懐からジクウドライバーを取りだし加古川に受け渡す。

《ジクウドライバー!!》

加古川は手に持ったウォッチのカバーをずらして天面のボタンを押す。

《ヒ・リューウ!》

ウォッチをジクウドライバーのスロットに差し込み、構える。

その構えはまるで常磐ソウゴのそれを鏡写しにしたようだ。

後ろには大きな砂時計のような物が映し出されている、一呼吸置いて加古川が叫ぶ。

「変身!!」

《ライダータイム!カーメーンライーダーヒ・リューーーウ!ヒ・リューーーウ!!》

 

時計のベルトのようなエフェクトが加古川を包み、その中からは黒いローブのようなマントを纏った青色の仮面ライダーが現れる。

その顔は仮面ライダージオウに似ているものがあるが、ジオウよりも時計の針のような角が多く、4本ある。

加古川も動揺してはいるが、既に受け入れていた、ここからもまだ自分の役目なのだと。

「仮面ライダーヒリュウ、過去からお前を下し(くだ)に来た。」

「ぬわァァ!ふざけるのも大概にしろオォオ!?」

アナザーディケイドが加古川に襲いかかろうとするが、ウォズの手から放たれた波動に弾かれる。

「少し黙っていてくれないかい?久しぶりなんだ」

そう言うとウォズは1度咳き込んでから、声高らかに唄う。

「祝え!弱き己を乗り越え、過去から現在を統率する新たなる時の王者!その名も仮面ライダーヒリュウ!今、新たな時の王者の誕生である·····」

ウォズの気持ちよさそうな祝いを受け、ヒリュウは1歩前に出る。

「どいつもこいつも、俺の事をバカにしよってぇ!!」

アナザーディケイドが次こそはと襲いかかってくる。

その瞬間、ヒリュウの顔にある4本の時計の針のような角が反時計回りに回転する。

 

アナザーディケイドの拳をまるで()()()()()()()()()避けマントでいなす。

「ヌゥ!?ならば、これでどうだ!!」

そう言うとアナザーディケイドは両手から赤黒い波動の玉を打ち出す。しかし、それさえもヒリュウには届かずに逆にマントに吸収されてそのまま打ち返される。

自分が放った玉と同等の威力の波動弾を食らって、アナザーディケイドが膝を着く。

「俺の力は」

加古川が口を開く。

「俺の力は相手の過去を見るだけだ、だからお前の攻撃方法も分かる」

アナザーディケイドを一瞥して、ヒリュウが言う。

仮面で隠されていてその表情までは分からないが、恐らくスウォルツをバカにするように笑っているのだろう。

「お前、ちっとも成長してないんだな?楽でいい」

どうやらその言葉に怒り我を失ったようで、アナザーディケイドはベルトをなぞって半年前オーマジオウに放ったものと同じ蹴りを繰り出そうとする。

それを見越してヒリュウはベルトの天面のヒューズを押し込みベルトを一回転させる。

《ターイムパースト!》

瞬間、ヒリュウの右足がエネルギーを纏う。

上空から蹴りを繰り出すアナザーディケイドに対してヒリュウは地上から横蹴りをぶつける。

 

大きな爆風の後足元にアナザーディケイドを下したヒリュウが立っていた。

体が崩れだしているスウォルツに背を向け、ヒリュウはゆっくりと距離を取る。

「さよならだスウォルツ、俺の過去」

スウォルツは崩れ去って灰になっていった、同時に18のスクリーンも消えるがそちらは仮面ライダー達が何とかしてくれるだろうと思い加古川は変身を解除した。

 

加古川の目線の先にはゲイツの肩に手を回し何とか立っている常磐ソウゴの姿があった。



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「そして未来へ※※※※」

普通の高校生 加古川飛流、彼には魔王にしてときの王者オーマジオウになる未来など待っていなかった。

仮面ライダーヒリュウとなり、アナザーディケイドを倒し世界を救った彼の行く末とは·····

おっと、ここから先は皆さんには少し未来のお話

 

 

「そして未来へ※※※※」

 

 

 

変身を解除した加古川の目前にはゲイツの肩を借りて立っている常磐ソウゴが真剣な眼差しで加古川を見つめる。

時間にして数分と言ったところだろうが、彼らには10年分の時日に感じたことだろう、ソウゴの両隣にいるゲイツとツクヨミは押し黙っている、どうやらソウゴにこの先の判断を託したらしい。

 

やがて加古川の方から先に口を開く。

「どうする?やるか?」

ヒリュウウォッチを構えて、挑発的に言うがソウゴは冷静に返す。

「やらないよ、加古川飛流、君はこれからどうする気?」

「どうする気だと?」

ソウゴの言葉を反射して彼は戸惑う。

「俺の····俺の役目はここで終わった、お前が仮面ライダーとしての記憶を取り戻して世界の危機は無くなったから·····」

そう事実を確認するように加古川はゆっくりと語る。

「だから俺のする事はもう何も·····無い」

それを受けてソウゴは少し悲しそうな顔をする。

「じゃぁ君のやりたい事は?復讐?」

「復讐·····」

違う、もう加古川の中から汚泥のような憎しみも、マグマのような怒りも無い。

復讐をしても両親が悲しむのだろうと気付いてしまったから、しかし常磐ソウゴに対するモヤモヤとした気持ちが無くなった訳ではなかった。

潮風が加古川を急かす様に吹き付けるから加古川は思っている事をそのままソウゴにぶつける。

「分からない、復讐したいわけじゃない、けどお前に対する憎しみが全く無くなったわけじゃない·····やりたい事なんて俺には」

加古川は己がこの10年間憎しみだけで生きてきたという事を痛感した、それも加古川にとっては両親の死と同様に目を逸らしていたいことだった。

「俺もきっとそうなんだ」

ソウゴは優しい口調で加古川に語り掛ける。

「俺も王様になる夢を取ったらきっと、何も残らない、だけど·····だからこそ、そこから目を背けちゃダメなんだ」

「俺と君は10年前に大切な人を亡くした、もしかしたら俺たちは逆だったのかもしれない·····だから、なんて言うか」

まだ成熟していない若い魔王は必死に言葉を続ける。

 

「俺もたまに思うんだ、自分が一番不幸なんじゃないかって誰かを恨むんだ、でもそこから目を逸らしちゃダメだと思う、自分の中の汚い感情も黒い感情も鏡の中の自分さえも受け入れて前に進んでいかなくちゃ·····汚い自分のままでも歩まなくちゃ」

加古川は俯いたままでソウゴの言葉に耳を傾ける、それは耳を塞ぎたくなるほど彼には聞きたくもない話で事実だった。

それでも加古川はソウゴの言葉を一つ一つ胸に刻む、大人になると言う事は醜い真実から目を逸らさない事なのかもしれないと、加古川は気が付いた。

「それでも、全ても受け入れて·····お前に対する憎しみも何もかも全部抱えても俺の行き先なんてない」

「ねぇ加古川?もし良かったら一緒に学校に行かない?」

「学校??」

「そう、学校、俺たちは普通の高校生なんだからさ·····良かったら一緒に学校に行かない?」

加古川はその気の抜けた返しに思わず失笑する、こちは殺し合うつもりで来たのに登校を促されると言うのは笑えないジョークだ。でも、だからこそ彼は即答した。

「わかった、学校に行こう」

「ただし、少しでも油断をしていたら命はないと思え」

「あぁ、望むところだよ」

挑戦的な加古川の言葉にソウゴは満足そうな笑みで返す。

加古川はヒリュウライドウォッチをポケットにしまって、ソウゴ達と同じ方向に進み始めた。

 

 

そこから10キロメートル程離れたところで二人の男、門矢士(かどやつかさ)海東大樹(かいとうだいき)が仕事をやり遂げたようにソウゴ達を灰色のスクリーン越しで見ていた。

「士?本当にこれで良かったのかい?」

「あぁこれで成功だ、今回は借りを作ったな良くやってくれた」

そう言いながら士が振り向くと空間に灰色のカーテンが浮かび上がり、士が口を開く。

「これでこの世界に仮面ライダーが生まれて、安定したからな、俺は次の世界に旅を続けれる」

灰色のカーテンを潜ろうとする士を海東は追いかける。

「僕もお供しよう、士?次はどんな世界だろうね?」

そんな海東を鬱陶しそうに士はカーテンの向こう側を見ながら言う。

「さあな?どんな世界だろうと俺がいる場所が俺の世界だ」

「俺達の世界って言ってくれると僕としては嬉しいよ?」

そんなじゃれあいをしながら2人は新たな世界に旅立って行った。

 

 

 

かくして、加古川飛流は仮面ライダーヒリュウとなり常磐ソウゴ達と行動を共にすることになる。

まだ歪な絆を育む彼らの前にネオタイムジャッカーと名乗る3人組と共に新たなアナザーライダー達が現れるが?

 

おっとここから先は彼らが己の力で切り開く物語·····

 

 




今回の話で仮面ライダージオウ外伝 ひとりぼっちの裏の王は完結となります、自分のペースが遅いばかりにジオウ完結から1年ほどかかってしまいました笑
何か気になった事など少しでもありましたらコメントして下さると嬉しいです。
あなたは加古川飛流が救われたと思われますか?


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