アリナの妹 (時間遡行者)
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1話

私はアリナ・グレイの妹。

 

「ほらさっさと持ってきなさいよ。いまサイコーにクールなアートができそうなんだから。」

 

いつも仕事を押し付けてくる大嫌いな姉が。

 

「は、はい。」

 

「はぁ、アンタっていつも遅い。私の最愛の妹なんだからアタシのためにもっと働きなさいよ。」

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

毎日毎日この繰り返し、元よりやりたいとは言ってないのに。

 

私がいるところはホテル・フェントホープ。マギウスという集団の本拠地だ。どういうことをするのか知らないけど、姉がそこでやらなきゃいけないことがある、って言って中学生の頃に姉と一緒にここに来た。私は姉のアシスタントとして手伝えと言われたのではっきり断ったが、アンタの面倒はもう見ない、と脅されて仕方なくやっていた。

 

フェントホープには私と姉以外に3人いる。灯花ちゃんとねむちゃんとみふゆさんだ。灯花ちゃんは顔見知りで、ねむちゃんは親しくはないが私が一人になるとすぐくっついてくるのでうっとおしい。みふゆさんは私のことを心配してくれる優しい人だ。

 

3人とは前までよくしてくれたが、私が中学2年になったばかりの時、姉が突然アトリエに来て欲しいと言われて行ってみたら、部屋に閉じ込められ、それから今まで過ごした。食事は水と乾パンのみ。学校にもしばらく行っていない。体が持たない毎日が続いた。

 

「アンタに仕事をやらせてあげてるんだからきびきびしなさいよ。」

 

もう我慢の限界だった。狭い部屋で一定のことしかできない毎日はもうしたくない。だから前みたいにはっきり言った。

 

「姉さんは何も感じないの?」

 

「は?」

 

「姉さん、私よりも絵のほうが好きなの?姉さんは私のことを褒めてくれない、思ってくれない。私に話してくれることなんて自分が描いた絵のことばっかり。もういや、出ていく!」

 

「ちょっと!待ちなさい!」

 

私はドアを開けて一心不乱に走った。一度も後ろを見ず、まっすぐに。

 

でも、

 

「おやおや、部屋から出ちゃダメだよ。」

 

この声は!しまった。姉よりもめんどくさい子に会っちゃった!

 

「ねむちゃん、何でここに?」

 

そこにいたのは、柊ねむと黒羽根たちだった。本当なら灯花ちゃんと会議室にいるはずなのに。

 

「当然だよ。この、ホテル・フェントホープは、ボクが作ったウワサで、マギウスの翼の本拠地だからね。」

 

「意味がわからないよ?」

 

「この本拠地に何かあったら、一瞬でわかっちゃうからね。まあ、駆けつけてみたらキミを見つけたんだよ。」

 

ねむのちゃんの口は微笑んでいる。やっぱり姉と同じものを感じる。そう、言葉で表すなら、

 

狂気

 

私は一歩も動けなかった。黒羽根たちに囲まれて怖じ気づいた。そして、いきなり目隠しされて何かを飲まされた。

 

「さあ、帰りなさい。」

 

睡魔が襲う中で、微かにねむちゃんの声が聞こえた。

 

 

 

ふと目が覚めた。目をこすって周りを見たら、

 

「! ここは!」

 

すぐにわかった。ここは姉のアトリエで、また戻って来てしまったのだと。でも、目の前にはまたもや知っている人がそこにいたのだった。

 

「あなたは…。」

 

「…やはり、戻って来たのですね。」

 

「! みふゆさん!」

 

そうだ、この声は梓みふゆさんだ。

 

「ここにいるということは、またアリナさんたちにやられたんですね。」

 

「そうなんです。もう姉の言いなりになりたくなくて。だから逃げ出したんです。それから、」

 

今まであったことをすべて隠さず話した。

 

「やはりそうでしたか。わたしはもう限界です。私に考えがあります。」

 

「考え?」

 

「はい、あなたを逃がす考えを。」

 

突然、みふゆさんはこう言って私にその考えを教えてくれた。

 

そうして行った所は更衣室だった。すると、みふゆさんは

 

「このフードを被って下さい。」

 

そう言っていつの間にかもってた手提げ袋から黒羽根が着てるフードを取り出した。

 

「あなたを黒羽根のチームに入れます。10分後にここを出る予定なので、ここから出ることができたなら、あなたの力で黒羽根たちを倒して下さい。そうすれば、あなたは自由になれます。」

 

「私の力で?」

 

お姉さんもみふゆさんもそうだけど、ここにいる人たちは皆“魔法少女”と呼ばれる。彼女たちはそれぞれの願いを何でも叶え、常人にはない特別な力を使うことができる。私の力は嫌いなものを排除する力。周りのものを無効化することができる。これを使えば外に行けるらしい。

 

「みふゆさんはどうするんですか?」

 

「わたしも近いうちにここを出ます。しばらくの間、一人でいれますか?」

 

「一人じゃ何もできないです。」

 

「それなら、調整屋に行って下さい。あなたのチームはその辺りを巡回します。倒した後、調整屋の場所を書いた紙を頼りにして下さい。」

 

そう言うと、みふゆさんのポケットから紙切れをもらった。これが調整屋までの地図だ。ここまでしてくれたので、こうなったら…

 

「うまくいきますか?」

 

「私のことを信じて下さい。」

 

今、みふゆさん以外に信用できる人はいない。逃げないとまたあの生活に逆戻りする。逃げれたとしても居場所がない。でも、ここから出ていくことを決めた以上、やってみせる。

 

「わかりました。行きましょう!」

 

迷っている時間はなかった。私たちはすぐさま準備してチームに入った。

 

そして、やっと外に出た。

 

だが、尋常じゃない雨が降っていた。そんな中、作戦を始めた。

 

「とんでもない雨だな。」

 

黒羽根のリーダーの言葉と同時に力を使った。すると、皆が一瞬にして意識を失った。

 

「これでよし。」

 

とにかく走る。みふゆさんの地図を頼りに目的地まで走る。やっと外に出たから生きてみせる。

 

「ここから、調整屋まで!」

 

もう少しで入り口、やっと着く。

 

そう思った矢先、突然体が重くなった。

 

「な…なんで…」

 

足がいうことをきかない。手も動けない。自由がすぐ近くにあるのに、届かない。

 

ダメ、ここで倒れちゃ……。

 

 

                                     

                                                                                                                                                                                                                                 




初めまして。時間遡行者です。初投稿ですが最後まで見て下さりありがとうございます。不定期更新ですが、宜しくお願いします。


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2話

ご意見、ご要望お待ちしています。


沈んでいく。朧気な記憶の中、目に映ったのは様々な色。赤、青、緑、紫、あらゆる色が別の色に侵食していく。

 

「きれい。」

 

触れてみたくて手を伸ばした。その時、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「アリナが溶かすから!」

 

姉さんだ。そう思った時にはもう逃げられなかった。私の体に太い棒が当たった。一気に底までいき、身動きができなくなった。

 

「アハハハハハ!!」

 

高笑いが響く中、段々と息ができなくなった。

 

 

 

「!」

 

ふと、目が覚めた。体に異変はないか確かめたが問題はなかった。ほっとしていたらドアが開く音がした。

 

「みたまさん、やちよさん、起きてますよ。」

 

「見たところ問題は無さそうね。」

 

「えぇ、ホントによかったわぁ。」

 

会ったこともない女の子が3人が私のところにやって来た。

 

「あなた、名前はわかる?」

 

ピンク髪の女の子が私に話しかけた。

 

「私は…。」

 

自己紹介しようと思ったら、突然ドアを開けるとは思えないような音がした。

 

「お待たせ!最強魔法少女・由比鶴乃。ただいま見参!」

 

なんか騒がしい女の子が突進するかのようにやって来た。

 

「あ!起きたんだね。じゃあご飯食べて元気出して。」

 

岡持ちからチャーハンを出して私の口に無理矢理入れようとした。

 

「あの、食べるので起こしてもらえませんか。」

 

鶴乃さん以外の3人が上半身を持ち上げてくれた。そして、久しぶりにご飯を食べた。具材がでかかったので食べ応えがあった。

 

食べ終えて彼女たちから自己紹介された。

 

「私は❬環いろは❭。よろしくね。」

 

ピンク髪で制服を着ている彼女が環いろは。無垢な笑顔がまぶしい。

 

「❬七海やちよ❭よ。よろしく。」

 

青ワンピースに水玉がある青髪の彼女が七海やちよ。無愛想な顔をしていて怖い。

 

「調整屋の❬八雲みたま❭です。あなたのような魔法少女に安心と安全をお届けするわ。」

 

白髪で喪服のような衣装を着ている彼女が八雲みたま。笑顔を見せてるが、何だか浮いてる。

 

「私は神浜の最強魔法少女・由比…」

 

「由比…鶴乃?」

 

「おぉ、私って有名?」

 

「さっき自分で言ってたじゃないですか。」

 

「あ!そうだった。ふん、ふん!」

 

いろはさんと同じ制服を着た鶴乃さんは笑顔でごまかした。

 

「それで、あなたは?」

 

「えっと…。」

 

皆優しそうだけど名前を教えるべきだろうか。助けてくれたのは感謝してるけど、魔法少女の存在を知ってるし、まだ彼女たちの素性がわからない。もしかしたら彼女たちに利用されるかもしれない。

 

「………。」

 

悩みに悩んだが、結局決断を下せなかった。

 

「もしかして、名前が言えない事情があるのかしら?」

 

「やちよさん。単純に名前を忘れてしまったのかもしれません。」

 

やちよさん?

 

「マギウスの手下かもしれないわね。」

 

「あったばっかりの人になんてこと言うんですか!」

 

「そうでなくとも情報が得られるかもしれないわ。わたしにこの子を預かってもいいかしら?」

 

「…何をするんですか?」

 

「事情聴取よ。」

 

そう言って、突然私の腕をつかんで強く引っ張った。

 

「きゃ!」

 

地面に足を引きずりながら、やちよさんは離そうとしなかった。

 

「ちょっと、やちよちゃん。」

 

みたまさんもこう言って止めようとしたが、止まろうとしなかった。しかし、

 

「だったら、アタシがこの子を見る。」

 

手を差しのべてくれたのはいろはさんでもみたまさんでもない。鶴乃さんだった。

 

「鶴乃、どきなさい!きっとこの子がマギウスの在処を知っているはずよ。います…」

 

「ししょー、アタシが面倒を見るから安心して。」

 

「ちょっと!」

 

「大丈夫。信じてよ。」

 

「………………わかったわ。」

 

やちよさんは手を離した。動悸がして落ち着かない。そんなとき、

 

「アタシは最強の魔法少女だから、皆の味方だよ」

 

そう言って、私を背中にのせてくれた。

 

「万々歳にこの子を置いてくる。皆くる?」

 

「私は行くよ。」

 

「…私は行かない。先に帰るわ。」

 

 

 

こうして、万々歳に鶴乃さんといろはさんが来た。

 

「ごめんね。いきなり連れて行かれそうになって怖かったでしょ?」

 

「はい、助けてくださりありがとうございます。」

 

「やちよさんはマギウスの本拠地を探していてるのに必死だからついあんな態度になったけど、本当は優しい人なの。だから、気にしないで。」

 

「ししょーはマギウスの本拠地を探していてるからね。」

 

私は落ち着いて疑問に思ったことを訊いてみた。

 

「なぜ、マギウスを追っているんですか?」

 

「マギウスがこの神浜に何かしようとしているの。それを止めるためにマギウスと戦ってるの。」

 

マギウスが何か企んでいる?私は名前しか知らなかったけど、お姉さんたちは何かしようとしてるってこと

ね。なんであれ、一応、私もマギウスの一人だからここは嘘をつくほうがいいかも。

 

「そういえば、名前、何て言うの?」

 

「❬梓ゆき❭です。きへんに辛いと書いて梓。ひらがなで、ゆきです。」

 

「じゃあ、ゆきちゃん。」

 

「はい。」

 

「なんであそこで倒れてたの?」

 

「私は魔女狩りをしていたのですが、魔女の結界に入ろうとしたら茶色のフードを被った集団に囲まれたんです。それで、予想以上に苦戦して調整屋に行こうとしたら気を失ったのです。」

 

「そうだったんだね。」

 

「これからどうすんの?帰る家はある?」

 

鶴乃さんが心配そうに問いかけた。マギウスが帰る家です、て言えないなぁ。

 

「家に帰りたくないんです。」

 

「何かあったの?」

 

「…家族とケンカしました。ご飯もほぼ食べてないです。」

 

あの日までのことは今でも思い出す。あまりにも苦しい毎日だった。

 

「…じゃあ万々歳で働く?」

 

「えっ?」

 

「あたしおところで働こうよ。賄いつきで部屋も貸してあげるよ!」

 

「でも…。」

 

今断ったらもう私が隠れる場所なんかないだろう。できるだけ外にでないようにして黒羽根やマギウスたちに見つからないためにここは甘えよう。

 

「わかりました。お願いします。」

 

「よし、決まりだね。」

 

今日から私は万々歳のアルバイトとして過ごすことになった。そして、マギウスと対立する始まりでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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3話

ご意見、ご要望お待ちしています。


いろはさんたちと会った次の日から、私は万々歳でアルバイトをしていた。注文を受けては配膳するの繰り返しで毎日へとへとだった。ある日、朝の開店準備を終えた時に自室に戻ったら鶴乃さんが話しかけた。

 

「ゆきちゃん。バイトはどう?」

 

「あ、鶴乃さん。アルバイトって疲れますね。」

 

「そのうち楽しさがわかるよ。もっと頑張ろう。」

 

「…はい。」

 

正直に言って働きたくない。あくまで黒羽根たちやマギウスから隠れるためにバイトをしてるだけで仕事する必要はないと思う。私は何のためにアルバイトしてんだろう。

 

「はぁ…ここから出たくない。いっそのことサボろう。」

 

私はサボるために二度寝した。

 

 

 

 

一方、鶴乃たちは…。

 

「そろそろ開店時間だね。鍵開けるよ!」

 

鶴乃の声が部屋中に響いた。

 

「おう、頼んだぞ。」

 

奥の調理室から聞こえた声は鶴乃の父親だ。今日も万々歳はいつもどうり開店する。父親の了解を得て鶴乃はドアを開けた。

 

「んー、今日も全力で頑張るぞー!」

 

青空に向かって気持ちよく叫んだ。そして、大きく背伸びした。

 

「鶴乃ー、ちょっと手伝ってくれ。」

 

「はーい。」

 

鶴乃の朝のルーティンを終えて父親を手伝いに調理室に向かった。

 

「フェリシアちゃんとゆきちゃんを起こしてきなさい。」

 

「ゆきちゃんはもう起きてるよ。降りてきてないの?」

 

「いや、みてないな。二度寝でもしてるんじゃないか?」

 

「とりあえず、起こしにいってくる。」

 

鶴乃は二人がいる二階に上がった。

 

 

 

 

「………。」

 

私は目を開けた。目覚まし時計を見たら午前9時を差していた。

 

「…よく寝た。」

 

二度寝したからぐっすり眠れた。起きたついでにスマホでゲームしよう、と思ったらドアが開いた。

 

「ゆきちゃん、そろそろ仕事だよ。今日も気合い入れよー!」

 

…毎日こうやって私を呼ぶ。声がでかいのですぐ起きてしまう。関わると面倒だから適当に具合が悪い、て言えば休ませてくれるかな?

 

「鶴乃さん。」

 

「どうしたの?ゆきちゃん。」

 

「今日は朝から頭が痛くて…。」

 

「え?大丈夫?」

 

「い…いや…うぅぅぅ…。」

 

「! 今日は休んでいいよ。安静にしててね。」

 

そう言って鶴乃さんは部屋を出ていった。案外単純だったのでかえって申し訳ないが休めるならいいか。

 

「さぁて、ゲームしよっと。」

 

私はスマホでゲームをし始めた。しかし、

 

「おう、ゆき、一緒にアルバイトしよーぜ!」

 

あ、うるさい人がもう一人いた。深月フェリシアさんだ。紫の髪で長すぎるツインテールをしている鶴乃さん並みにめんどくさい万々歳のアルバイト店員だ。

 

「フェリシアさん。」

 

「なぁなぁ、早くしよーぜ。今日働かないと賄い抜きにされちまうよ。」

 

「ごめんなさいフェリシアさん、今ちょっと…くっ…。」

 

「おい、大丈夫か。」

 

「…今日は休みます。鶴乃さんにはもう言ったので。」

 

「お、おう。」

 

フェリシアさんは暗い顔をして部屋を出た。

 

「やっと一人になれた。」

 

ついにスマホでゲームする時間がとれた。しばらくログインできなかったけどどうなっているんだろう。そう思いながらゲームした。

 

 

 

 

気付かないうちに、夜まで遊んでしまった。フェント・ホープにいた頃はずっと姉さんに付きっきりだったから遊ぶ時間もなかったし、いろんな新機能があって夢中になりすぎた。

 

「さて、そろそろ寝ようかな。」

 

壁掛け時計は21:00を差していた。明日も理由つけてサボろう。そう思って寝ようとした瞬間に、

 

「縺�m縺ッ」

 

不思議な音が聞こえた。部屋中を見渡しても何もなかった。

 

「落ち着かないなぁ。」

 

私は窓を開けて夜空を見て気持ちをリラックスしようとした。

 

「ん、なにあれ。」

 

ひらひらとちいさい光が漂っている。すると、その光が私のところにせまってきた。

 

「これは、蝶々?」

 

光の正体は蝶だった。でも、なぜ蝶が光ってるのだろう?そもそもここには蝶はいないはずなのに。

私は手を伸ばした。すると、突然蝶は逃げていった。

 

「待って!」

 

あまりに珍しかったので寝間着のまま追いかけた。

 

 

 

商店街や家の間を通って追ってきたらやっと蝶が大人しくなった。

 

「や…やっとだ。」

 

「繝昴ャ繧ュ繝シ」

 

「ん?」

 

またこの音だ。と思った矢先、蝶が襲いかかってきた。

 

「!」

 

とっさに魔法少女に変身した。私は蝶に向かって音波を放った。そしたらすぐに消えた。

 

「ふん、なんともありません。」

 

強がったが暗闇からまだ来る。1匹、2匹、数えられないくらい多くの蝶が群がって私に突進してくる。

 

「群がっても無駄!もっと強いの行きます。」

 

「縺翫▲縺ア縺�」

 

今度は両手で音波を放った。たちまち蝶は落ちていった。

 

「ふふん、まだまだ行けますよ。」

 

第二波が来た。光る蝶がさっきよりもより多くやって来た。

 

「もう一発、喰らいなさい!」

 

気合いを入れてもっと強力な一撃を放った。

 

「はぁぁ!」

 

蝶は一部を残して空高く翔び、急降下して私の体に張り付いた。

 

「この!近づかないで!」

 

私は蝶を手で振り払ったが、その間に蝶が身体中にとまった。そして、ホタルのような強い光を出した。

 

「うぅ、熱い…。」

 

ヒーターの中にいるような熱さだ。耐えられそうにない。力もどんどん入らなくなって地に足をつけてしまった。その時、

 

「まさかこんなところにいるとはな。これは昇格待ったなしだな。」

 

「うそ、なんで。」

 

暗闇からやって来たのは黒羽根だった。でも、私からすると不思議だった。黒羽根たちはホテルフェント・ホープの防衛のために街にはでないようにしているって姉さんは言ってたのになぜここにいるのか。そして、なぜ私の居場所がわかったのだろう。

 

「さて、フェント・ホープに戻れ。さもなくば仲間をやるぞ。」

 

仲間がいることもわかっている?

 

「あなた、なんでそんなに知っているの?」

 

「この蝶が教えてくれたのさ。」

 

「蝶?」

 

「この蝶はお前だけを追うだけに存在する“ウワサ”なんだ。」

 

「“ウワサ”?何ですかそれ?」

 

「そんなもの知る必要あるか?私はマギウスのお三方からこの“ウワサ”をつかっていいからお前を連れてこい、報酬は昇格だ、と仰せたので快く受けただけだ。」

 

マギウスは本気で私を捕まえる、ということか。

 

「私を連れてったってなんの利益はないです。むしろ、あなたは姉さんに消されますよ。」

 

「ほう、私が殺される、と?」

 

「そうです。」

 

「言い逃れするんだったらもっとマシな嘘をつけよ。まあ、逃がしはしないがな。」

 

私は知っている。姉さんがいままで黒羽根に何をしたのかを。姉さんのアトリエにきた黒羽根たちは容赦なくソウルジェムを砕かれる。こんな恐ろしい光景を何度も見たからわかる。

 

「信じてください!あなたは姉さんに騙されている。」

 

「あのさ、姉さん、って誰のことだよ。」

 

「アリナ・グレイです。」

 

「アリナ様?冗談言うなよ。妹なんていないぞ。」

 

「え?」

 

「そもそも、この依頼はねむ様から行き受けたのだ。アリナ様は関係ないだろう。というかあんた誰?」

 

冗談であってほしかった。仮にもマギウスの一人だったのに数週間で忘れ去られているなんて。でも、逆にそうあってくれて良かったと思った。

 

「どういうことですか?」

 

複雑な気持ちになりながら訊いた。

 

「どういうことって…。」

 

質問に答えようとした時に、暗闇から足音が聞こえた。

 

「てりゃーーーー!」

 

気合いの入った声で上空から大きな剣が現れ、一思いに黒羽根の背中を叩き切った。

 

「ぐはぁ…。」

 

黒羽根は膝をついて倒れた。

 

「大丈夫か。」

 

露出の激しい黄色の髪の魔法少女が悪い意味であまりにも絶妙なタイミングで助けてくれた。

 

「あなたは?」

 

「❬十咎ももこ❭。神浜の魔法少女だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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4話

ご意見、ご要望お待ちしています。


夜が明けて、私は❬十咎ももこ❭という魔法少女と一緒に近くの公園で事情聴取された。

 

「真夜中に何で外にいたんだ?」

 

十咎さんは怪訝な顔つきで私に訊いた。

 

「夜に光る蝶が飛んでるのを見て、追いかけたら黒羽根にやられそうになったんです。」

 

「そこでアタシが来た、と。」

 

「はい。」

 

顔を下にして答えた。

 

「アンタ、どこの魔法少女?ここの魔法少女ではなさそうだね。」

 

「いろいろあって鶴乃さんのところでアルバイトしてます。」

 

「鶴乃?もしかしていろはの仲間か?」

 

「仲間、というより顔見知りです。」

 

「ほぅ、そうかそうか!なら良かった。変に疑って悪かったな。ここ最近、隣町の魔法少女が無断で支配区域を抜けるヤツらがいるから警戒してたんだ。」

 

「隣町の魔法少女がなぜ支配区域を抜けているのですか?」

 

「事情はいろいろだが、ある町では魔女が激減してグリーフシードが取れなくなり無断で神浜に来て魔女狩りしているんだ。魔法少女を殺してグリーフシードを奪うヤツもいるらしい。運が悪いとアンタもタダじゃ済まないから気をつけてくれ。」

 

「わかりました。」

 

魔女がいなくなっているのはいいことだけど、グリーフシードは魔法少女にとって大切なもの。無断とはいい、彼女たちは生きるために必死になっている。だけど、私も魔女を排除するかわりに願いを叶えた魔法少女。自分の領域の魔女は自分たちのものだ。

 

「そうだ、せっかくだしこのまま万々歳に連れていくよ。鶴乃たちにも伝えないとな。」

 

「私はやめときます。」

 

「どうしたんだよ。何かあったのか?」

 

「あっ…えっと…。いろいろあって万々歳には行きたくないです。」

 

「いろいろ、て何だよ。」

 

「それは…。」

 

言えなかった。鶴乃さんやフェリシアさんに嘘をついてずる休みしてたなんて。それに、今帰ったら鶴乃さんに叱られる。どうしても万々歳に戻りたくなかった。

 

「じゃあ、ウチに来るか?少し落ち着いてから一緒に万々歳に行こう。」

 

「…お願いします。」

 

ももこさんは私の手を握って引っ張った。

 

 

 

 

数分して、ももこさんの家にやって来た。親は仕事でいなかったので居間で一息ついた。

 

「少しは落ち着いただろう。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

ももこさんが注いでくれた緑茶を一息に飲んだ。

 

「そんで、万々歳に行きたくない理由を言ってくれるか?」

 

私にここまで優しくしてくれたのに何も言わずに出ていくのは申し訳ないと思った。だから、ももこさんに万々歳であった経緯を話した。

 

「なるほどねぇ。あのさ、やっぱり万々歳に戻ったほうがいいんじゃない?鶴乃は多分オマエのこと心配してると思う。オマエも正直に言って反省するべきだよ。」

 

「そうですよね。鶴乃さんにちゃんと謝りたいです。」

 

「だったら今すぐ帰ろう。」

 

「…そうですね。そうします。」

 

隠れらる場所は万々歳しかない。一度謝って素直にバイトしよう、と思った。そして、一人で帰る事にした。

 

「ももこさん、黒羽根にやられそうになった私を助けてくれたのはすごく感謝してます。これからは迷惑かけないように注意しますから心配しないで下さい。」

 

私は玄関まで行ってドアを開けようとした。でも、ももこさんは居間のドアから顔をだし私に言った。

 

「後悔だけはすんなよ。」

 

私はそれをきいて外に出た。。そして、後ろを見ずにひたすら走った。ところが、

 

「いてっ。」

 

通行人の背中にぶつかってしまった。その上、

 

「いてて…あれ?ゆきちゃん!こんなところにいたの?」

 

不幸にも、鶴乃さんだった。

 

「つ…鶴乃さん…私…。」

 

突然すぎて目の前で話すのは恥ずかしかった。ついさっきももこさんのアドバイスもらったばっかりだけどサボったことについて叱られたくはなかった。でも、ちゃんと伝えなくちゃいけないからはっきりと言おう。

 

「ごめんなさい、私、鶴乃さんに…。」

 

「やっと会えたー!もう本当に心配してたんだから。」

 

鶴乃さんは私を強く抱きしめた。突然すぎてびっくりしたが今なら言える。

 

「ごめんなさい。私、嘘ついたうえにマギウスにやられそうになったりして…。私、恩を仇で返すようなことをして…。」

 

おぼつかない言葉でも鶴乃さんに謝罪したかった。許されなくていいと思ってた。でも、鶴乃さんは女神のように優しい最強の魔法少女だった。

 

「いいの、いいんだよ。一緒に万々歳に帰ろう。」

 

まさか抱きたいほど心配されるなんて思っていなかったが、許してくれた。こんなに大切にしてくれる人なんてフェント・ホープにはみふゆさんだけだった。だから、今は嬉しかった。

 

「鶴乃!どうしてここに?」

 

そんな中、バットタイミングでなぜかももこさんが血相かいてやって来た。

 

「ももこさん。ゆきちゃんを探してたんです。」

 

「ゆき、て誰?」

 

「この子ですよ。」

 

そういえばいままでももこさんに自己紹介していなかった。

 

「あれ、さっきの子じゃん。」

 

「どういうことですか?」

 

「その事も含めて、まずはみんなを万々歳に集めてくれ。」

 

「うん。ゆきちゃん、行こう。」

 

鶴乃さんは私の腕を掴んで走った。私はつられて走った。

 

 

 

 

夕方になって、万々歳にいろはさんにやちよさん、ももこさんが、二階からフェリシアさんが来た。そして、厨房の下で見え隠れしてる緑の髪の子がいる。

 

「ゆきちゃん、戻ってきてくれて良かった。」

 

「鶴乃から連絡をくれたときはどうしたかと思ったわ。」

 

二人とも私を心配していたようだ。

 

 

「皆さん、お騒がせして申し訳ございません。」

 

「謝らなくてもいいよ。ゆきちゃんが無事なら何ともないよ。」

 

「でも、謝罪させてください。いままでのことを。」

 

私はももこさんに言ったことを全員に話した。ももこさん以外は驚いた顔をした。

 

「“ウワサ”が活発化してるわね。より一層注意したほうがいいわ。」

 

「蝶が襲ってくる“ウワサ”って聞いたことない。新しくできた“ウワサ”なのかな?」

 

「それよりも、私はどうなるんですか?出ていかないといけませんか?」

 

「もう、それはもういいよ。最強の魔法少女はどんなことがあっても仲間を見捨てないんだよ!」

 

「許してくれたことだし、気を落とすなよ。これからは精一杯やればいいだけなんだから。」

 

「…ありがとうございます。」

 

やっと皆に謝れた。私の心がすっきりした。それよりも、皆“ウワサ”って言ってるけど何のことだろう?

 

「ところで、“ウワサ”って何ですか?」

 

「神浜に伝わるうわさが形になったものだよ。“絶交ルール”がその一つだよ。」

 

「今回倒した“名無し人工知能”もその一つだったのよ。」

 

うわさが実現して迷惑をかけている、ってことか。

 

「マギウスの翼も関わってるかもしれないな。」

 

「マギウスの翼!?」

 

「どうした?そんなに驚いて。」

 

「いえ何も。」

 

マギウスの翼、と聞いてびっくりした。まさかマギウスたちが”ウワサ”を使って神浜を乗っ取ろうとしてるんじゃないだろうか。もしそうだったら姉さんも関わっているはず。あの蝶も“ウワサ”らしいし姉さんやねむちゃんに居場所を知られただろう。となれば、

 

「あの…もしよかったら私も“ウワサ”の調査に参加させてください。」

 

「一緒に行ってくれるの?」

 

いろはさんが少し驚きながら喜んだ。

 

「私、“ウワサ”についてもっと知りたいです。」

 

「良かった。人手が増えればより解決が早まりますね。やちよさん。」

 

「ええ、ここからもっと詳細に調べるわよ。みんな。」

 

「はい!」

 

「じゃあ、アタシが知ってることをまず話すよ。」

 

マギウスは何をしでかすのか、この目で確かめるため、万々歳で作戦会議を始めた。ところで、緑の髪の子がどこにもいないけどどうしたんだろう。

 

 

 



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5話

ご意見、ご感想よろしくお願いします。


万々歳にいろはさんとやちよさん、鶴乃さん、フェリシアさん、そしてももこさんが集まった。ももこさんの情報を元にこれからどうするか会議することにした。

 

「まずはアタシが知ってることを話すよ。」

 

ももこさんの情報とは領域から逃げた魔法少女を見つけた、ということだ。私は事前に聞いたが、ここで詳細に話してくれた。

 

「このことで問題になっているのは“二木市”だな。そこでは魔法少女同士でグリーフシードを取り合っているらしい。」

 

「魔法少女同士で争うなんて…。」

 

「いろは、心配してる暇なんかないわ。きっとこれもマギウスがやったことに違いないわ。」

 

「ししょーの言う通りだよ。マギウスの動きを止めればそんな争いはなくなると思う。」

 

「あぁ、オレたちでマギウスをブッ潰そうぜ!」

 

皆がマギウスを追うのに必死になっている。本当だったら無理矢理にでも止めるだろうけど、もともと私が行きたい、って言った訳ではない。姉さんが勝手に連れてきただけなんだから潰れて当然だ。

 

「いろはさん、私が二木市に行って真相を突き止めてみせます。安心してマギウスの居所を探って下さい。」

 

マギウスはいろはさんたちが何とかするだろう。ならば、もう一つの異変を解決していろはさんたちに貢献しよう。

 

「ゆきちゃん、黒羽根とちがって魔法少女と戦うことになるんだよ。あまりけがをさせない、って約束できる?」

 

「わかってますよ、いろはさん。同じ魔法少女ですからもし戦うことになっても極力傷つけないようにします。」

 

手加減はするつもりだけど実際にできるかどうか不安だ。光る蝶を追い払ったときはそんなことなかったけど、魔法少女同士となると姉さんといた時のことを思い出してしまう。

 

「それならアタシもついていくよ。ゆきだけじゃ危ないからな。」

 

ももこさんが行ってくれるなら大丈夫かも。私も暴走しないようにきをつけないと。

 

「ももこさん、ありがとうございます。」

 

こうして、私とももこさんで更なる情報を得るため二木市にいくことが決まった。いろはさんたちは神浜市西部で“西のボス”に会って情報を得ることにした。

 

「それじゃあ、二チームに別れてマギウスの尻尾をつかむわよ。」

 

「はい!」

 

やちよさんの号令で会議は終了した。

 

 

 

そのあと、ももこさんは二木市に行く準備をした。私の分の運賃はももこさんが払ってくれるらしい。電車を乗り継ぎして結構な時間をかけて二木市についた。

 

「何か神浜市とそんなに変わらないな。」

 

「ファストフード店もゲームセンターも神浜市にあるものと同じですね。」

 

「まずはファストフード店で何か食べるか。」

 

私たちは目の前にあったファストフード店に入った。空いている席にコートを置いてバーガーセットを頼んで席で食べながら話した。

 

「さて、どこから調べるか。」

 

「この道の反対側にあるゲームセンターに寄ってみませんか?」

 

「何でゲームセンターなんだよ。」

 

「子供が楽しめるところといえばゲームセンターではないでしょうか。現地の魔法少女が一番いると思います。」

 

「なるほど、一理あるかもしれない。いってみよう。」

 

ももこさんは突然立ち上がった。

 

「待って下さい。ハンバーガー食べ残してるじゃないですか。」

 

「そんなこと言ってる場合か!」

 

「ゲームセンターに魔法少女がいるかどうか分からないじゃないですか。焦ると大事なことを見逃しますよ。」

 

「お、おう。」

 

私はももこさんを落ち着かせて一緒にハンバーガーを食べた。

 

 

 

それから私たちは近くにあったゲームセンターに向かった。入り口から右にUFOキャッチャーがまるで富士山の樹海のようにどこまでも続いている。左にはリズムゲームの筐体がいくつも設置されていた。

 

「ここは手分けして魔法少女を探そう。」

 

「私は左に行きます。」

 

ももこさんは相づちをうった。

 

辺りを警戒しながらゆっくり歩いた。魔法少女がいる可能性が一番高い場所だから、最悪一人いると思った。そして、僅かに気配を感じた。

 

「ここにいるはず。」

 

気配を辿ると女の子が身軽なステップで踊っていた。青い髪のツインテールで見たことのない制服を着ていた。曲が終わり、深呼吸をして平らな踏み台から降りた。彼女は私に気づいて近づいてきた。

 

「あなたも魔法少女?」

 

いきなり放った一言があまりにも衝撃過ぎて一瞬言葉を失った。初めて会った相手なのにどうしてわかったのだろうか。

 

「…どうしたの?」

 

「は!…ええと、そ、そうです。はじめまして…。」

 

唐突な質問に素直に答えてしまった。

 

「おぉ、当たった~。わたし、運にも恵まれてるかも~。」

 

意味不明なことを言っているがここで心を落ち着かせた。

 

「あなたは二木市の魔法少女ですか?」

 

「うん。そうだよ~。」

 

「あの…ここには魔女がいないって本当ですか?」

 

「あなた、どこから来たの?」

 

「神浜市です。」

 

そう言うと彼女は横に目を向けた。

 

「神浜ねぇ〜。あなたは知らないんだ〜。魔女は神浜に持ってかれたの。」

 

「持ってかれた?何を言って…。」

 

「詳しいことは夜になってから話しましょう。またここに来てくれる〜?」

 

彼女はなぜか曇った顔をしてこちらを見た。なぜか解らないけど、夜にここにくれば今起きている事件のことで詳しく教えてくれるかもしれない。

 

「わかりました。」

 

「じゃあ、待ってるよ〜。」

 

私は頷いて後ろを向いたらいつの間にか魔法少女が道の端に立っていた。

 

「私たちはどこにでもいる。油断はするなよ。」

 

私はつばを飲み込んで来た道を帰った。

 

「ここに来た以上逃がす訳には行かないな〜。このボーナスゲーム、絶対に成し遂げてみせる。そう、ニ木市の魔女をかっ攫ったのは神浜市の魔法少女。あの子を人質にしようかな〜。」

 

不敵な笑みを浮かべながらリズムゲームの台に再び乗った。

 

私が戻って来た時にはももこさんがいた。

 

「ゆき、何かあったか?」

 

「ももこさん、ここを離れましょう。話があります。」

 

私はももこさんの手を握って逃げるように走った。

 

「お、おい!」

 

ただひたすらに走ってゲームセンターを後にした。

 

 

 

一方、その頃。

 

「全く、ももこったらなにしてんの?ワタシたちを置いてきぼりにして。」

 

夕焼けが差し込む電車に揺られながら、水色髪の少女はブツブツ言った。

 

「いろはちゃんから聞いたけど、2人はニ木市にいる、って聞いたよ。」

 

弱々しい声で茶髪の少女が言った。

 

「ももこだけ勝手にどっか行くなんてサイテー。どうしようもないバカね。」

 

「ももこちゃんだけじゃないよ。ゆき、っていう女の子も一緒にいるんだよ。全然会ったことないけど。」

 

「そんなヤツ、どうでもいいわ。ももこを連れて来るだけでいいわ。」

 

「そんなこと言わないでよ。その子はいろはちゃんたちが知ってる魔法少女らしいから一緒に連れて来ないと怒られちゃうよ。」

 

「ふん、わかってるわよ。今のは冗談よ。」

 

茶髪の女の子は彼女を疑った。

 

「ねぇ、もしかして忘れてたんじゃない、ゆきちゃんのこと。」

 

「忘れてたワケではないわ。ももこを最優先に連れて帰ることがワタシたちの目的よ。ホントにゆき、っていう魔法少女なんかどうでもいいのよ。」

 

「ももこさんのことをすごく心配してたもんね。今日何度もももこさんのこと心配してたでしょ?」

 

「別に心配なんかしてないわ!あんなヤツ、ほっといたって自分でなんとかするわよ。」

 

水色髪の女の子は顔を真っ赤にして下を向いた。

 

「2人とも、無事でいればいいんだけど…。」

 

茶髪の女の子は2人を心配した。自分も争いの渦中に巻き込まれるとも知らずに…。

 

 

 

 



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6話

夕日が街の至るところを照らし、ビルのガラスが光を反射して夕日色に染まり幻想的な景色が広がる頃、私とももこさんは駅の構内のベンチでゲームセンターで起きたことを話した。

 

「ニ木市の魔女を神浜の魔法少女が奪った?なんだよそれ。」

 

「やっぱりそんな反応しますよね。私もよく分からないんです。そもそも魔女と魔法少女は対立の関係なのに“奪う”ことなんてできるんでしょうか?」

 

「できるはずがない。魔法少女が魔女を統率するなんてこと聞いたことも見たこともない。」

 

「ももこさん、この街は何かおかしいです。ゲームセンターで会ったあの子が何かヒントを持っているのは間違いないです。今から会いに行きます。」

 

「待てよ!一人で行くのはあまりに危険すぎる。アタシも付いていく。」

 

「一人で来て、と言われたんですよ。ももこさんは来ちゃいけません。」

 

「アンタのことが心配なんだよ。」

 

「でも…。」

 

ももこさんが心配するのは当然だとここで話す前に分かっていた。でも、ついていく、と言ってもどうすれば。もう迷ってる暇はないのに…。その時、改札の向こう側から見知らぬ人が2人、ももこさんを呼ぶ声がした。

 

「ももこー。探したわよー。」

 

「ふえぇ〜。良かった、二人ともいるね!」

 

一人はももこさんを、もう一人は私も心配していたようだ。

 

「レナ、かえで!なんでここにいるんだよ。」

 

どうやらももこさんはの知り合いのようだ。

 

「あの、この人たちは?」

 

「あぁ、神浜市で一緒に魔女狩りをしてる信頼してる仲間だよ。」

 

この二人も魔法少女なのか。

 

「アンタがゆき?」

 

突然話しかけてきたのは水色のツインテールをした女の子だ。

 

「はい、《梓ゆき》です。」

 

「ももこを巻き込んでなにしてくれてんの?」

 

「え?」

 

初対面なのに何か知らないけどすごく怒ってる。というか不審者扱いされてないか?

 

「アンタのせいでアタシたちはこんな遠いところまで来ることになったじゃない。それに、ももこまで連れて何をしたいの?」

 

とんでもない言われようだ。信じくれるかわからないがとにかく事情を話そう。

 

「落ち着いてください。私はももこさんと一緒にこの街の異変を調べに来たんです。」

 

私は二人にこれまで何があったのか事細かに話した。すると、ももこさんと同じセリフを言った。

 

「…信じられませんよね。」

 

「そんなこともできるんだね。」

 

茶髪の女の子が目を丸くした。

 

「まぁ、事情はわかったわ。レナも手伝うわ。」

 

レナ、という水色の髪の女の子は納得してくれた。その上、手助けしてくれるようだ。

 

「かえでさん、異変解決のため力を貸してください。」

 

「わ…私も全力でサポートするよ!」

 

「ありがとうございます。」

 

これで作戦が立てやすくなった。でも、ももこさんは浮かない顔をしていた。

 

「レナ、かえで、この先何があるか分からない。帰るんだったら今のうちだぞ。」

 

ももこさんは二人のことを心配した。確かにあの魔法少女はどんな能力を持っているのか分からない。ももこさんが案ずることも不思議ではない。しかし、かえってお節介なのでは?聞くのも野暮な気がした。

 

「それでも、二人をほっといて帰れないよ。」

 

「レナも同じよ。それに、魔女を奪った、ってのも気になるわ。」

 

二人の決意は固まった。

 

「そうか、じゃあ見つからないようにして作戦を立てよう。」

 

 

 

日が落ちて街が暗闇に包まれた頃、私はゲームセンターに行った。計画どうりにいけばいいと思いゲームセンターのドアを開けた。すると、向こうにはあの魔法少女がいた。

 

「おぉ!来てくれたんだね〜。」

 

「ニ木市で起こっていること、教えて下さい。」

 

「え〜、もっとしゃべろうよ〜。」

 

「神浜市は私の住んでいる街なんです。ニ木市と神浜市が関係してるなら黙ってはいられません。」

 

「はぁ、つれないね〜。じゃあ、話すよ。」

 

やっと聞ける。私はつばを飲んで覚悟を決めた。

 

「まず、わたしは“プロミスド・ブラット”の一人、《笠音アオ》よ。わたしたちはニ木市の魔女を奪った神浜に復讐して浄化システムを奪うのが目的。今まで傷ついた仲間たちのためにも必ず成し遂げたい。そう思ってるの。」

 

“プロミスド・ブラット”、聞いたことない名前だ。

 

「もともと3つのチームに分かれていたんだけど、いろいろあって3人のリーダーが集まった。そこでわかったの、黒いフードをかぶった魔法少女が魔女を誘導していたこと、そしてその魔法少女は神浜のひとだったってことをね。」

 

黒いフード、マギウスの手下たちの仕業だったのか。多分、アオさんはマギウスと神浜の魔法少女が対立してることを知らないはず。

 

「その黒いフードをかぶった魔法少女、私知ってます。」

 

「あの人たちを知ってるの?」

 

「はい、マギウスは神浜で魔女を育てている悪い組織なんです。」

 

「マギウス、ねぇ。」

 

アオさんは不思議そうな顔をした。腑に落ちないところがあったのだろうか。

 

「アオさん、信じてください。マギウスに狙われてケガした魔法少女もいるんです。良ければ協力してください。目的は一致してます。」

 

とにかく神浜の魔法少女全員がやったことじゃないことをわかってほしい。揉め事を増やしたくない。

 

「信じるか信じないかというと…。」

 

アオさんは私に近づいた。

 

「わたしは信じない。」

 

どうして。マギウスが糸を引いているのは分かってくれたと思ったのに。

 

「そもそも、マギウス、って本当に存在する組織なの?聞いたことないよ。」

 

「だから、悪いそ…」

 

「悪い組織、って何?わたしたちはそんなの知らない。でたらめに言ってるとしか思えない。」

 

「でたらめじゃないんです。魔女なんか奪ったって私達の得にはなりません。」

 

「もういいよ。とにかく、神浜を脅す材料としてあなたをここで捕まえるね。」

 

そう言うと、辺りに魔法少女が大勢来て私を囲んだ。これ以上何言っても耳をかさないだろう。

 

「私はこんなところで立ち止まってる暇なんかありません!レナさん!」

 

「仕方ないわね。」

 

筐体の影から一人出てきてアオさんを身動きできないように拘束した。

 

「どうして、あなたは誰!?」

 

「いつからレナを仲間だと思ったの?」

 

すると、姿を変えレナさんになった。

 

「レナさんの能力は他の人物に変身する能力、そして私の能力は…」

 

ドアの前にはももこさんとかえでさんがいた。

 

「レナとゆきに指一本触れさせない。」

 

「特定の人物にばれず、かつ無制限で伝達できる能力!」

 

ももこさんは大勢の魔法少女を悉くなぎ払った。そうしてできた道にかえでがつっこみアオさんとレナさんのところまで行った。

 

「ご…ごめんなさい!」

 

持っている杖から太い蔓がでてタイミングよくレナさんがアオさんを開放して地面に貼り付けた。

 

「くっ、こんなことで…。」

 

「アオさん、ごめんなさい。あなたの味方にはなりません。」

 

私達は真っ直ぐにドアに向かって走った。

 

「ももこさん、もう大丈夫です。」

 

「あぁ、わかった!」

 

そして4人揃って駅まで走った。追ってくる影はなく、脱出に成功した。

 

 

 

駅についたあと、ちょうど電車に乗ることができた。

 

「結局、あまり情報が手に入らなかったな。」

 

ももこさんは残念そうに顔を下にした。

 

「《プロミスド・ブラット》、一体何者だったのでしょう?」

 

「何はともあれ、いつも以上に警戒したほうが良さそうね。」

 

「いつかまた、会うのかな?事情も知らずに…。」

 

「そうなったとしても、私は正面から戦いますよ。」

 

「ゆき、男らしいぞ。」

 

「ももこさん、そういうのいらないです。」

 

ももこさんの会話で皆が和んだ。神浜に戻ってマギウスを追わないと。私は興奮を抑えながらそう思った。

 

 




投稿が遅れて申し訳ございません。ご意見、ご感想お待ちしてます。


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7話

アオさんと遭遇した後、なんとか神浜に戻ってきた。その日はもう暗くなっていたので万々歳に帰って寝床についた。次の日、いろはさんとやちよさんがやって来てももこさんと話した。後で聞いたところ、全員に伝えておきたいことがあるのでやちよさんのところに集まってほしい、とのこと。

 

「集まってほしい、て何があったんですかね?」

 

「わからない。けど、やちよさんたちに何か収穫があったのかもしれない。」

 

「いい話であればいいんですけど…。」

 

マギウスが動くのもプロミスド ・ブラッドが動くのも時間の問題。どうか変な気を起こさないようにしてほしいけど、マギウスのほうが早く動くだろう。

 

「私もついてきてもいいですか?」

 

「あぁ、もちろんだ。」

 

 

 

 

「うそ、信じられない。やちよさんのお家って本当にここなんですか?」

 

見るからに大きな家だ。いや、これはマンションだ。この部屋の主人がやちよさん、っていうのがまたやちよさんの正体を分からなくさせる。

 

「やちよさん、って一体何者ですか?」

 

「やちよさんは親子で❬みかづき荘❭経営してたんだよ。いまはいろはたちの拠点なんだけどね。」

 

「だったらいままでなんで万々歳で作戦会議したんですか?」

 

「それは…。」

 

話しているうちに正面のドアから一人出てきた。

 

「あらももこ、もう来たのね。あら?」

 

出てきたのはやちよさんだった。そして、私のほうを見た。

 

「ゆき、あなたも来たのね。」

 

「こんにちは。」

 

「早くいらっしゃい。話したいことがいろいろあるから。」

 

やちよさんはドアの向こうに消えていった。それについで、ももこさんと私はなかに入った。

 

部屋のなかは鮮やかだった。大きなカーペットが一枚あり、ガラス張りの正方形テーブルにアンティークのようにかわいらしいソファー、さまざまな形をしたランプ、調理器具が一通り置いてあるキッチン、確かにこれはマンションではなくホテルだ。

 

「すごく、きれいです。」

 

「あら、ここにくるのは初めてだったかしら?」

 

「いままで来たことないですけど。」

 

「ゆきはずっと万々歳で働いていたからそもそもやちよさんがホテルを経営したことをさっきまで知らなかったんだよ。」

 

「そう、じゃあそこのソファーに座っててちょうだい。」

 

ももこさんと私は二人掛けのソファーに腰を下ろした。しばらくして、ドアからぞろぞろひとがやって来た。

 

「やちよさん、お待たせしました。」

 

「ししょー、来ましたよー。」

 

「やちよー。どこにいるんだー?」

 

「お邪魔します。」

 

いろはさんと鶴乃さん、フェリシアさんと……誰?

 

「みんな揃ったようね。じゃあ始めましょう。」

 

 

 

「まずはわたしから。十七夜から西側でマギウスの動きが活発化してるようだわ。ずっとこっちにいるのかと思ったら既にあっちでは根をはってたようね。」

 

「十七夜さんのところでもマギウスが動き始めたのか。いよいよ面倒くさくなるな。」

 

「こちらも、マギウスの対策を念入りにしないとすぐにやられるわ。」

 

「どうにかして止めないと…。」

 

いろはさんは心配した。それよれも十七夜、って誰なんだろう。私はこっそりももこさんに耳打ちした。

 

「ももこさん。」

 

「なんだよ。」

 

「十七夜さん、って誰ですか?」

 

すると、ももこさんはぎょっとした顔をして私にアイコンタクトした。

 

「知らなかったのかよ!」

 

突然大声で叫んだ。

 

「どうしたの?ももこ。」

 

「い…いや、何でもない。」

 

ももこさんは再び耳打ちした。

 

「十七夜さんは神浜市の西側を統括するボスだよ。そんで、やちよさんは東側を統括するボスだよ。」

 

「えぇ!」

 

カルチャーショックのような感覚になった。いままでにない高く大きな声を出してしまった。

 

「もうっ、ゆきまでどうしたの?何かあったの?」

 

「い…いや、何も…。」

 

「二人とも、しゃきっとしなさい。緊急事態なのにどうしてそんなに楽観的なの?」

 

私とももこさんは首を横にして黙った。

 

「もう。とにかくこれからすることは…。」

 

やちよさんは何もなかったように話を進めた。

 

「後で細かく教えてやる。」

 

「…はい。」

 

 

 

それからやちよさんは得た情報を私たちに言った。西のボスである十七夜さんが全面協力してくれるらしい。そして、見滝原の魔法少女がマギウスの仲間になってしまったそうで、その仲間がマギウスの捜索を手伝ってくれるそうだ。

 

「まあ、こんなかんじかしら。何か質問ある?」

 

「あの、見滝原の魔法少女、って誰なんですか?」

 

「まどかとほむら、っていう子よ。」

 

「二人はマミさんを探してるんだけどマギウスに捕まった、て言われたの。」

 

全く知らない人だけど協力してくれるなら助けなくちゃ。

 

「それで、誰からそれを知ったんですか?」

 

「…アリナよ。」

 

「え?」

 

「アリナ・グレイよ。」

 

「姉さんが…。」

 

「何だって?」

 

「!、いえ、なにも。何も言ってません。」

 

「今日のあなた、なんかおかしいわよ。」

 

「ゆきちゃん、どうしたの?何かあるならわたしに…。」

 

「結構です。気にしないで下さい。ちょっと具合が悪くなったんで先に万々歳に帰ります。」

 

私はいろいろな感情が溢れて自分でも何がなんだかわからなくなった。気持ちを整理するため一度帰りたい。そう思った。

 

 

 

 

鶴乃さんのお父さんに鍵を開けてもらって自分の部屋に戻った。

 

「姉さんが…私を…狙ってる。」

 

いつか来るだろうとわかってたが神浜市全体に影響がでるなんて。本気で私を探してる。

 

「姉さん、私は絶対にフェント・ホープに戻りはしない。」

 

そう決意したとき、向こうから光る何かがこっちに来る。

 

「あれは。」

 

そう、あの光る蝶だった。私はソウルジェムを構えた。だが、

 

「繧ケ繝医�繧ォ繝シ…繝代Φ…」

 

何かつたえたそうな感じだった。日本語(?)が聞こえたきがする。

 

「繝√く繝ウ…アリ縺ェ…いも…繧�。」

 

「何?なんで言葉が聞こえるの?」

 

そのとき、

 

「そこにいる…アリナ…かわいい妹…。」

 

「!」

 

あぁ、やっとわかった。懐かしくて恨めしい私の姉さんだ。

 

「アリナのオンリーワンの作品。ここにいたのネ。」

 

「姉さん。」

 

「もうアンタから姉さんていう筋合いはナッシングなんだケド。」

 

「どうしてこんなことしてるの?狙いは私を連れて帰ることだけじゃなかったの?」

 

「アリナ的には一番のプロブレムはそこなんだケド、マギウスが求めていることは魔法少女たちを救済することなんだヨネ。」

 

「私が聞きたいのはどうして魔法少女たちを救済しようとするのか、っていうことだよ。姉さん。」

 

「理由?そんなの知らない。」

 

「知らない?嘘つかないで。」

 

「だって興味興味ないカラ。」

 

「どうして?」

 

「そんなことより忠告しとくネ。」

 

「そんなこと、って…。」

 

「この蝶はねむが勝手に作ったウワサなんだヨネ。」

 

「ねむが?ねむがウワサを作ってるの?」

 

「そ。ねむがウワサを作って黒羽根たちがコントロールする、ってワケ。」

 

「そうなんだ…。」

 

フェント・ホープにいたときは単に本が大好きなひとだとしか認識がなかったけど、そんなことができるのか。

 

「んで、忠告きく?」

 

「うん。それで?」

 

「この蝶がアンタをストーキングしてるから気をつけて、っということ。」

 

「ずいぶんと優しいね。姉さんはいままで優しくしてくれたことなかったのに。」

 

「これでも優しくしてるんですケド。ねむの行動が最近怪しかったカラ、何か隠してると思ったらラこれだった。ホント何考えてるんだか…。」

 

「…一応その忠告は受けとるよ。でも、あなたたちのやってることはもうお見通しなんだから。」

 

「ホントにそう思ってるの?」

 

「?」

 

「まあ、いいか。じゃあせいぜい生きててね。」

 

蝶は一瞬で消えてった。姉さん、何をしようとしてるの?

 

 




遅れてしまいすみません。今日から再開します。


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8話

次の日の朝、昨日の夜に突如現れた光る蝶と姉さんの発言について考えてみた。

 

「姉さん、私に何を伝えたかったんだろう?」

 

これまでのことを整理しよう。マギウスはウワサ、っていうねむちゃんが作っている魔女のようなもの。あの蝶もねむちゃんが作ったものだが、ねむちゃんが勝手にやったことで、姉さんがそれをジャックして私のところにやって来た。

 

『…一応その忠告は受けとるよ。でも、あなたたちのやってることはお見通しなんだから。』

 

『ホントにそう思っているの?』

 

『?』

 

よりマギウスのやりたいことがわからないけど、きっともう私たちを排除するタイミングをうかがっているにちがいない。

 

「…。」

 

私は二度とフェント・ホープには帰らない。この思いは決して何があっても揺るぎはしない。

 

 

 

朝ごはんを食べるために一階にきた。すると鶴乃さんが私に気づいた。

 

「ゆきちゃん!おはよー!」

 

「おはようございます。」

 

「そこのテーブルにチャーハンおいてあるから食べててね。」

 

「わかりました。いただきます。」

 

「召し上がれー。」

 

部屋の端っこにチャーハンが置いてあった。見た目だけは美味しそうなチャーハンだ。

 

「いただきます。」

 

私はチャーハンを食べた。やっぱり味が濃すぎるような気がする。毎回毎回食べるたびにご飯の甘さより醤油のしょっぱさが勝ってくる。こんなのを毎日食べている。

 

「…ごちそうさまです。」

 

文句を鶴乃さんに直接言うことはないが、あのときに比べれば何倍もましだ。

 

「ふふん、お粗末さまです。どう?おいしかった?」

 

「えぇ、おいしかったです。」

 

「えへへ、ありがとう!」

 

本音を隠したまま今日も店を開ける準備をする。

 

 

 

お昼、お客さんが来やすい時間帯になった。だが、

 

「………。」

 

誰もいない。こういう日がたまにあるが最近3日間これが続いている。

 

「誰か来てくれないかなぁ。」

 

私は軽いため息をした。そんな時、

 

ガラガラ…

 

やっと誰か来た、っと思ったら 、

 

「鶴乃ちゃん、いる?」

 

来たのはいろはさんだった。

 

「いろはさん、どうかしたんですか?」

 

「ゆきちゃん!鶴乃ちゃんいる?」

 

「はい、厨房にいると思います。」

 

「呼んできてくれないかな?」

 

「あ、はい。」

 

何がなんだかわからないけど、とりあえず連れてこよう。

 

「鶴乃さん、いますか?」

 

「?、ゆきちゃん。どうしたの?」

 

「いろはさんが鶴乃さんを呼んできてほしい、っと言ってます。」

 

「え?わかった。今すぐ行くから。」

 

そう言うと鶴乃さんはすぐに下に降りていった。

 

 

 

鶴乃さんと一緒に一階のレジカウンターに待っていたいろはさんと合流した。

 

「鶴乃ちゃん。」

 

「いろはちゃん、何かあったの?」

 

「それがね…。」

 

「?」

 

いろはさんは突然黙ってしまった。

 

「いろはさん?」

 

「みふゆさんがみかづき荘に来たの。」

 

「え?みふゆさんが?」

 

「え?みふゆさんが?」

 

私と鶴乃さんのしゃべるタイミングがぴったり合った。

 

「?」

 

「?」

 

「?」

 

二人は私に向かって首をかしげた。私はわけがわからず首をかしげた。

 

「ゆきちゃん?」

 

「なんでみふゆさんのこと知ってるの?」

 

「あ。」

 

やらかしてしまった。つい声が出てしまった。

 

「そ…それは…。」

 

「ゆきちゃん、ちゃんと話して。」

 

「ま、待ってください。私は―」

 

「ゆきちゃん、もしかしてマギウスの―」

 

「違うんです!私は…。」

 

こうなっては仕方ないか。少しだけ本当のことを言おう。

 

「私は…私は、みゆきさんに助けられたんです。」

 

「!?」

 

「うそ!?」

 

プライドとかそんなものは無かった。ただ、テンパってしまっただけ。マギウスが関わっている以上、避けられない運命だと自覚していた。だけど、まさかこんなときに言うことになるとは。

 

「実は、私…私は、アリナ・グレ―」

 

「いろは!」

 

こんなときに誰かがやって来た。

 

「やちよさん?」

 

息を切らしながらやちよさんがいろはさんに近づいてきた。

 

「もう、なにしてんの。戻ってきて。」

 

「いやでも、待ってください。」

 

「待ってられないわ。さあ、早く。鶴乃もゆきもみかづき荘に来て。」

 

せっかく決心ついて話そうと思ったのに…。でも、言うタイミングがずれてよかった。

 

 

 

今日はなんかドタバタしてるなぁ。そう思いつつみかづき荘に呼ばれた。

 

「いろは、万々歳にいる三人を連れて来て、って言ったじゃない。」

 

「あの、やちよさん。わたしはちゃんと万々歳に行―」

 

「どうでもいいわ。」

 

「えぇ…。」

 

「それよりも、いろはから聞いたかしら?」

 

「みふゆさんがここに来たこと?」

 

「そうよ。マギウスのリーダーが直々に来るなんてとても怪しいわ。」

 

「リーダー、って誰ですか?」

 

「…みふゆよ。」

 

「みふゆさんが…。」

 

驚きはしなかった。姉さんやねむちゃんのいる組織にいるんだもん。ただ、不思議だった。マギウスのリーダーが何故あれほど私を心配してくれたのか。

 

「なんでみふゆさんが来たんですか?」

 

「魔法少女を救済することについての講義を開催する、って言ってたわ。」

 

「講義、って。」

 

「どうするんですか?師匠。」

 

「かなり怪しいけど、またとないチャンスだと思う。たから、わたしは行くわ。」

 

「わたしもやちよさんと行きます。ういのこともわかるかもしれないから。」

 

「うい、って誰ですか?」

 

「わたしの妹なの。わたしはういを探すために魔法少女になったの。」

 

「それがいろはさんの叶えたい願いですか。」

 

「あなたたちはどうする?」

 

「あたしはついていきますよ。ししょー。ゆきちゃんはどうする?」

 

私はみふゆさんに会うべきだろうか。会ってしまったらみふゆさんが余計に心配してしまうだろう。私にはみふゆさんに会う資格なんてない。

 

「やめときます。」

 

「どうして?」

 

「私は…絶対にみふゆさんに会いません。」

 

「へ?」

 

「…ももこさんたちと魔女狩りの約束があるので。」

 

「そ、そうなんだ。わかった。」

 

「じゃあ、決まりね。」

 

「ごめんなさい。皆さん。」

 

「いいの、いいの。頑張ってね。」

 

「はい。それでは。」

 

私は階段を昇って自分の部屋に戻った。

 

そのあと、

 

「どうしたのかしら、ゆき。」

 

「最近、ゆきちゃんの様子がおかしいんです。」

 

「鶴乃ちゃん、何か知ってるの?」

 

「マギウスの作戦会議した時、アリナさんのことを言ったら動揺してたの。なんでだろう?」

 

「アリナと何か関係があるのかしら?」

 

「そうなると、マギウスのことを知ってる可能性がありますね。」

 

「でも、マギウスに襲われたことがあって、それがトラウマになってるんじゃ…。」

 

「いまは憶測でしかないけど、近いうちに彼女の尻尾が掴めるわ。」

 

「やちよさん、まだ疑ってるんですか?」

 

「…疑うことができる条件がまだあるよ。」

 

「鶴乃?」

 

「いろはちゃんがここに来た時も、みふゆさんのこと知ってるかのようだった。」

 

「そうだった。みふゆさんとの関係もあるのかな?」

 

「わからないけど、彼女には何か裏があるわ。」

 

「ゆきちゃんのことも心配だけど、いまはマギウスの思惑を阻止することが優先だと思います。」

 

「…そうね。この事はわたしたちだけの秘密にしておきましょう。フェリシアやさなに言うと面倒なことになるかもしれないし。」

 

「そうしましょう。」

 

「わかりました、ししょー。」

 

「じゃあ、私は先に帰るわ。明日の夕方にみかづき荘のラウンジに集合して。」

 

「さようなら、ししょー。」

 

「鶴乃ちゃん。」

 

「どうしたの?いろはちゃん。」

 

「…ゆきちゃんのこと、よろしくね。」

 

「…任せて。最強の魔法少女は何でもできるんだから。」

 

「やっぱり、鶴乃ちゃんは頼りになるね。」

 

「ありがとう。」

 

「じゃあ、わたしも帰るね。」

 

「じゃあね。いろはちゃん。」

 

そして、鶴乃一人になった。

 

「ゆきちゃん…わたし、心配だよ。」

 

 




明けましておめでとうございます。ご意見、ご感想よろしくお願いします。


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9話

次の日、鶴乃さんとフェリシアさんは、みかづき荘にいるやちよさんに会うために万々歳を出た。一方、私はいきなり頼んだのにもかかわらず快く受け入れてくれたももこさんたちと魔女狩りに行くことにした。

 

「ごめんなさい。私も講義を受けに行きたいんですけど。」

 

「ううん、むしろマギウスに直接会いに行くから危ないよ。」

 

「じゃあ、お気をつけて。」

 

「ゆきちゃんもね。」

 

鶴乃さんは店の出入り口から出て出掛けて行った。出掛ける、っていうほど軽いものではないけど。

 

私は鶴乃さんを見送り、自分の部屋で準備をした。

 

 

 

ももこさんからの連絡によると、集合は夕方になってからももこさんの家に集合することになった。それまでは何もすることがなかった。

 

「ふぅ…。」

 

退屈でため息が出た。一人になるとフェント・ホープにいた前の頃を思い出してしまう。

 

そう、あれは病院に姉さんが行ってしまったときだ。

 

『姉さんは…姉さんはどうなったんですか?』

 

『…姉さんは無事よ。』

 

『!、よかった。』

 

『一緒に待ちましょう。』

 

姉さんが突然倒れて、救急車に乗せられたときはびっくりしたけど無事ならよかった。私はそのときには看護婦と一緒にいた。でも、そう思ったのはそこまでだった。姉さんの病室に行ったときのことだっだ。

 

 

『姉さん、大丈夫?』

 

『…。』

 

『うぅ、姉さん。』

 

ベットに寝たままの姉さんを前にして何もできない私が悔しかった。この頃の姉さんはとても優しかった。スーパーに行けばいくらでもお菓子を買ってくれた。怪我やインフルエンザになったときはずっと看病してくれた。いいところを挙げるのならいろいろとあった。

 

『姉さん…起きて…起きてよ…。いつもみたいに…私に…笑顔をみせてよ…。』

 

そのとき、ドアから女性がやって来た。

 

『ゆきちゃん、ここにいたの。』

 

『高田さん。どうしたんですか?』

 

高田さんは姉さんを担当してる看護婦だ。ときどき、姉さんの様子を見に来てくれる。

 

『…まだ目覚めないのね。ゆきちゃんは毎日来てえらいはね。わたしにもほしかったわねぇ。』

 

『いえ、当然のことです。それよりも、何故ここに来たんですか?』

 

『あぁ、そうだったわね。…ゆきちゃんに伝えたいことがあるの。』

 

『はい?』

 

そう言って高田さんは私を連れて外に出た。

 

『実はね、ゆきちゃんのお姉さんは見たことのない病気にかかってるの。』

 

『見たことのない病気?』

 

『そうなの。今までに知られることのない病気になっちゃったの。』

 

『…助けられますよね?』

 

『大丈夫、わたしたちが何とかするから。』

 

高田さんは笑顔で答えた。でも、無理に笑っているのがよくわかった。

 

数日後、病院から姉さんが起きた、という連絡をもらった。急いで姉さんの病室に向かった。

 

『高田さん!』

 

『ゆきちゃん。アリナさん、妹さんが来てますよ。』

 

『う…ん。』

 

『姉さん!大丈夫?』

 

『アリナの…もうひとつの…ボディ。』

 

姉さんは私に優しく触れた。

 

『姉さん。』

 

『はぁ…パーフェクトな…フェイス。』

 

次は私の顔に触れた。私は驚いて姉さんの手を触った。仄かに温かかった。

 

『大丈夫…アリナは…。』

 

「…姉さん。」

 

今では敵どうしなのになぜかあのときのことを思い出してしまった。

 

「ゆきちゃーん。」

 

そのとき、一階から声が聞こえた。そして、気づいたら日が落ちようとしていた。

 

「!、はい。」

 

私はとっさに立ち上がり一階に降りた。

 

「あ、ももこさん。」

 

「まったく、全然来ないと思ったらまだここにいたのか。」

 

「ごめんなさい。」

 

待っていたのはももこさんだった。思い出にふけている間に約束の時間をとっくに過ぎていた。

 

「準備はできているのですぐ行きましょう。」

 

「ああ、いこう。」

 

 

 

日は完全に落ち、星空もでない真夜中、私とももこさんは外で魔女を探した。

 

「なあ、何でいきなりアタシに連絡をくれたんだ?」

 

「いろはさんたちがマギウスの根城に向かうそうで私は万々歳に待ってるように言われたんですけどどうしてもじっとできなくてももこさんに頼ったんです。」

 

「なるほどねぇ。一緒に行きたくなかったのか?」

 

「敵のアジトに行くから危ない、って。」

 

「そっか。」

 

本当はみふゆさんに会いたくないからだけどももこさんに言う必要がない。

 

「実はさ、ちょっと聞いたんだけど講義に参加するんだって?」

 

「えぇ、直接みふゆさんが来た、って言ってました。」

 

「何でこんなときに。」

 

そういえば、あのこと聞いてなかったな。

 

「あの。」

 

「どうした?」

 

「この前、やちよさんは東のボスだ、って言ってたじゃないですか。」

 

「ああ、前に約束してたな。やちよさんは神浜市の東側を統括する魔法少女で十七夜さんは西側を統括する魔法少女だよ。」

 

「へぇ。」

 

「昔は二人が領地をめぐって争いが起きたんだ。そのときはあたしと鶴乃も巻き込まれたんだ。」

 

「ももこさんと鶴乃さんは昔から魔法少女として生きてきたんですか?」

 

「そうだな。それでいろいろとあって戦争は和解、という形で幕を引いたんだ。」

 

「そんなことがあったんですね。」

 

そんなことを話しているうちにシルエットが二つあった。

 

「あ!やっと来たよ。」

 

「アンタたち、遅すぎなんだけど。」

 

そこにいたのはいつか助けてくれたレナさんとかえでさんだった。

 

「すみません、遅くなっちゃいました。」

 

「あれ?あのときの子だね。」

 

「あ。ホントだ。」

 

「こんばんは。あのときはありがとうございました。」

 

「よし、そんじゃ行くか。」

 

私たちは魔女の反応があるほうへ向かった。

 

 

 

 

数時間後、魔女の結界を見つけた。

 

「ここが魔女の結界。」

 

魔女と戦ったことはあるもののやっぱり緊張する。

 

「ゆきちゃん、大丈夫?」

 

ももこさんが心配してくれた。

 

「はい、大丈夫です。」

 

「さっさとかたをつけましょう。他の魔法少女に奪われる前にね。」

 

「そうだね、行こう。」

 

私たちは結界に入ることを決意した。

 

 

 

結界の中は摩訶不思議な光景があった。草木が生い茂り、青空がみえている。ただ、それらがまるで油絵のような感じだ。

 

「不思議な空間ですね。」

 

「アンタ、魔女狩り初めてじゃないわよね?」

 

「そうですけど…。」

 

「だったらなんでそんなこと言うのよ?」

 

「いや、でも…。」

 

「ちょっと待って。何かいる。」

 

いきなりももこさんがみんなを止めた。

 

「どうしたんで…は!」

 

「あそこにいるのは…。」

 

目の前にいたのは見たことのある姿だった。

 

「どうして?」

 

信じられなかった。聞き覚えのある声がした。

 

「久しぶりだネ。アリナだけのビューティーなボディ。」

 

「…あのときの蝶。」

 

いたのはねむちゃんが作ったという魔女より数倍大きい光る蝶が羽と足を縛りつけられたまま壁に張りついていた。

 

「間違いない、ここの結界の主だ。」

 

「今回は案外すぐに見つかったわね。」

 

「ふえぇ…大きすぎるよぉ…。」

 

「あんな大きいなんて、信じられない。」

 

すると、蝶から声が聞こえた。

 

「よく来たネ。正直にいえば、まだ来てほしくなかったケド。」

 

「!、アリナ!」

 

「アッハ、アリナのミュージアムにウェルカム。」

 

「ここで何をしてるんだ?」

 

「もちろん、アリナの作品を神浜のみんなに届ける準備をしてるんだよネ。」

 

「何を考えてるのか知らないけど、アンタをここで止めるわ。」

 

「邪魔させない。まだ制作段階だケド、解放しちゃえ。」

 

すると、縛りつけた紐がほどけて、蝶は大きく羽をひろげた。強い風が体全体にあたる。

 

「みんな、耐えてくれ。」

 

蝶は私たちに目を向けた。

 

「じゃ、あとはヨロシク。」

 

蝶はいっそう明るくなった。

 

「みんな、来るぞ。」

 

蝶はまっすぐここにやってきた。

 

 

 

 

 

 

 




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10話

長い間、縛られ続けた巨大な蝶は他のウワサや魔女よりも強い恩恵を受けた。どういうことかというと、このウワサはアリナの妹、ゆきを監視し誘拐するためだけに作られたねむ渾身のウワサなのだ。すなわち、ねむもアリナ並みに心配しているのだ。

 

「ゆき、君はいまどこにいるんだい?ケガしてなければいいんだけど。」

 

他人を心配するのは普通のことだ。だが、この二人は愛の強さゆえに対立することになる。一人はねむ、もう一人は…。

 

「心配なんかしなくていい。アリナの妹なんだからイージーに死なない、そう思うでしょ?」

 

そう、アリナ・グレイだ。

 

「そうだね、アリナの妹なら心配はいらないかもしれないね。」

 

「そうネ。ねむだって心配するヨネ。あのウワサを使って、ネ。」

 

「…何をいっているんだい?」

 

ねむはズレた眼鏡を直した。

 

「アリナは知ってるの。ねむがアリナ達が知らないうちに勝手にウワサを作って野に放ったことを。エビデンスはもうアリナの手の中にあるカラ。」

 

「君も困っているんだろう?だったらこの話は内密にすべきだ。」

 

「へぇ、開き直るんだ。」

 

「あの子もマギウスの一人だ。仲間を見捨てることはできないよ。」

 

「仲間?ソークレイジー。アリナは姉なの。妹とはかけがえのないファミリーだから、勝手に仲間だなんて言わないでほしいんですケド!」

 

「気を鎮めてよ。君だって黒羽根たちから妹を虐待してる、って報告があったよ。灯火やみふゆたちに知られたくないならお互いここで話したことを外部に漏らさないよう約束しよう。」

 

「みふゆには言ってほしくないんですケド…。」

 

「なら、契約しよう。」

 

「契約、なんてキュウベエじゃあるまいし。」

 

このとき、アリナとねむの関係は崩れはじめ、互いの譲れない妹への愛を燃やし、この二人すらも考えられなかっただろう結末に至ることになるとは知るはずもないだろう。

 

 

 

「ゆき、こっちだ!」

 

「ももこさん!」

 

「ふゆっ!」

 

「うっ…。」

 

突進してきた蝶は私たちの頭をギリギリのところを飛んだ。

 

「また来るぞ。」

 

勢いそのままにこっちに帰ってきた。と思ったら、

 

「まずい、みなさん、身を固めて下さい。」

 

「どういう…。」

 

答える時間を与えず、蝶はその大きな羽を羽ばたかせ台風の中にいるかのような強風を生んだ。

 

「ぬわっ!なんだこの風は。」

 

「冗談じゃないわよ。こんな力、どこからでてんのよ。」

 

「きっと姉さ…アリナがありったけの魔力を注ぎ込んだに違いありません。私たちで止めましょう。」

 

「じゃあ、どうしろっていうんだ。」

 

「それは…。」

 

そうこうしてるうちに、レナさんとかえでさんが吹き飛んでしまった。

 

「いやぁ!」

 

「ふええぇぇぇ…。」

 

「レナさん!かえでさん!」

 

すると、風がいきなり止んだ。

 

「あれ?、!」

 

次はなにするかと思いきや、黄色い粉が周りの視界を奪った。そして、

 

「うっ!」

 

「がはっ!」

 

腕や手がかゆくなって赤くなった。

 

「なんだこれ。」

 

あまりに痛かったのでつい音波をだして何とかしようと攻撃してしまった。すると、視界が広くなり敵が見えた。

 

「サンキュー、ゆきちゃん。」

 

「え?、あ、はい。」

 

突然、感謝されてびっくりした。そして、レナさんとかえでさんを呼んだ。

 

「レナさん、かえでさん、大丈夫ですか?」

 

「えぇ、問題ないわ。」

 

「だ、大丈夫だよ。」

 

全員の無事が確認できた。

 

「くそ、あの羽から発生する風をなんとか止めなければ勝ち目はないか。」

 

「そうなると、あの羽をもう一度縛りつけないといけませんね。でも、どうすれば…。」

 

そうこう言ってるうちにまた突進してきた。

 

「伏せろ!」

 

ももこさんのとっさの一言で全員がぎりぎりかわすことができた。

 

「くっ、どうしたら…。」

 

「わたしが使う植物の力で動きを封じられれば倒せるんじゃないかな。」

 

「かえでさん。」

 

どうしようもない状態の中で、かえでさんに考えがあるようだ。

 

「植物のツルを身体中に巻き付ければ倒しやすくなるんじゃないかな?」

 

「そんなことできるんですか?」

 

「そうか、それならいけるかもしれない。」

 

「だったら、私があの木にぶつけます。そのあとにかえでさんはツルで身体中を拘束して、ももこさんがトドメを。レナさんは私と一緒に蝶を誘導してください。」

 

「あぁ!」

 

「うん!」

 

「わかったわ。」

 

3人とも快く私の作戦に賛同してくれた。こうして3人と一緒にいると心地がいいと思うようになった。

 

蝶は性懲りもなく突進する。ここから反撃の始まりだ。

 

「レナさん、お願いします。」

 

「いくわよ。」

 

レナさんは無数の鏡を召喚した。そして、一枚の鏡の上にのり、蝶に向かって槍を投げた。すると、他の鏡からも同じ槍がでて、上手いこと木の近くに誘導できた。

 

「次は私が!」

 

蝶は地面すれすれに飛んでいる。ここで、私は音波で木にぶつけた。蝶はその衝撃でひるんだ。

 

「かえでさん、お願いします。」

 

「えい!」

 

かえでさんは蝶の周りから植物のツルが出てきた。ツルは蝶の体に絡み付いて身動きができなくなった。

 

「やったぁ!」

 

「チャンスです、ももこさん!」

 

「ももこ、やっちゃいなさい!」

 

ももこさんは大きくいびつな大剣を持ち、一直線に走った。

 

「これで、とどめだあぁぁ!」

 

大きく振りかぶった大剣は、蝶の体を切り裂いた。

 

「………。」

 

蝶は断末魔の叫びもなく消えた。私たちは勝つことができた。そして、辺りの不思議な空間が現実の風景に変わった。

 

「やったな、ゆきちゃん。」

 

ももこさんが私の肩に手をのせて優しく笑った。

 

「ゆきちゃんのおかげであの蝶を倒すことができたね。」

 

「アンタの作戦がなかったらうまくいかなかったかもしれないわね。」

 

レナさんとかえでさんも微笑みながら背中にふれた。

 

「みなさん、ありがとうございます。」

 

私はお礼を言った後、疑問だったことを聞いてみた。

 

「あの、今さら言うことじゃないんですけど…。」

 

「?、どうした?」

 

「なんで私を信じてくれたんですか?レナさんとかえでさんのように長くいたわけではないのにどうして?」

 

すると、3人はぽかん、とした顔をした後にももこさんは大笑いした。私は驚いた。

 

「それはね、仲間だからだよ。」

 

ももこさんが放った言葉は私の胸に深くささった。

 

「ゆきちゃん、あたしたちとゆきちゃんはもう他人じゃないんだよ。遠慮したりしなくていいんだ。あたしたちはゆきちゃんを歓迎するよ。」

 

「ももこさん…。」

 

「そうだよ、ゆきちゃんはお友達というより親友だよ。レナちゃんもそう思うでしょ。」

 

「はぁ?そ…そんなわけ…ま、でも、仲間になりたいなら?、別にいいけど?」

 

「みなさん、ありがとうございます!」

 

魔女の結界でピンチになったけど、ももこさんたちが私を信じてくれて、仲間が何かがここに来てやっとわかった気がする。私たちは手をとって帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




先週、重度の風邪にかかって、急遽休むことにしました。楽しみにしてくれる皆様、申し訳ございません。


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11話

とある場所、とある部屋、チームみかづき荘とマギウスの初めての講義。マギウスが用意した『記憶ミュージアム』にて、マギウスの目標としている『魔法少女の解放』について詳しく話された。結果として、マギウスはチームみかづき荘を説得することがてぎず、チームみかづき荘はここから逃げるために、黒羽根からの妨害をはねのけて、やっとのことで逃げることができた。しかし、

 

「………。」

 

「………。」

 

「………。」

 

「へぇー、あのベテランたちの中から3人をこっちのチームにいれたのネ。」

 

「マギウスが目指しているものをちゃんと伝えられたはずなのに。でも、あの5人から3人を仲間にできたんだから上出来だよね。」

 

「油断はできないよ。環いろはたちはどんな苦難でも立ち上がってきた人だ。こういうときこそ力が発揮するんだよ。ぼくたちもより気を引き締めないと。」

 

「油断はしないよ。でも、環いろはを倒すのは今のうちなんだよ。こうなったら、徹底的にやってもう二度とマギウスに歯向かえないようにするんだから。」

 

「灯火、きみの果てしない探求力は目を見張るものがある。それゆえに、功を焦りやすいその性格はそろそろ直したほうがいいよ。」

 

「ねむはチャンスだと思ってないの?ここで環いろはを倒さなきゃまたわたくしたちの邪魔をするのは明白だよね?」

 

「そうだけど、わかっているだろう?彼女たちはしぶとい。それよりも、面倒なことが起きそうだけどね。」

 

ねむはアリナを見た。アリナはむすっ、とした顔で帽子を深くかぶった。

 

「?」

 

灯火はなぜねむがアリナを見たのか不思議に思った。

 

「では、次は戦力を削いだ環さんたちを迎えにくるんですね。」

 

ねむのそばにいたみふゆがひっそりと言った。

 

「まあ、アリナはアリナだけのベストアートができるのなら何でもいいけど。」

 

「そうだね、お互い叶えたい夢があるもの。それを実現しなくちゃ!」

 

目標を再確認している最中。みふゆは心のなかで心配していた。

 

(もうマギウスは歯止めが利かなくなっている。やっちゃん、ゆきちゃん、どうか無事でいてください。いざとなれば、わたしは…。)

 

「みふゆ、どうしたの?」

 

「いえ、何もありません。ちょっと今日は頑張りすぎたかもしれません。申し訳ないですが、先に休ませてください。」

 

「…そうだね。みんなよくがんばってくれた。ぼくたちも休憩しよう。」

 

皆は笑顔でその場を後にした。しかし、みふゆはしんみりした顔で立っていた。

 

「みふゆ、いきましょう。」

 

「あ、はい。」

 

皆はわかっていた。マギウスにはどうにかしてでもあの魔女を呼び出す算段をつけなければ、いずれこの計画は白紙にもどってしまう。なので、強硬手段もとらなければならないだろうと。そして、みふゆだけは知っていた。今のマギウスは計画は実行できないと。

 

 

 




今回は前置きです。次回から本格的にマギウスとチームみかづき荘の全面対決が始まります。


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12話

姉さんが操っていた巨大な光る蝶をなんとかももこさんたちと倒すことができた。なぜそこに蝶がいたのか。なぜそのウワサを姉さんが操ることができたのか。謎は残るものの、それを追及するための材料があまりにも足りない。でも、少しずつマギウスのやりたいことがわかってきた。

 

「ゆきちゃん。」

 

私を捕まえるためのウワサを作ってまで、

 

「ゆきちゃん。」

 

私を探している理由は、

 

「ゆきちゃん!」

 

「えっ?」

 

「どうしたの?さっきからずっと呼んでるのに。どうしたの?」

 

「い、いえ。」

 

「?」

 

しまった。全く気づかなかった。今は一旦考えるのを止めよう。

 

「ごめんなさい。ちょっと疲れちゃってうとうとしてました。」

 

「大丈夫?」

 

「ゆきちゃん、コーラ飲むかい?水分補給ついでに気分転換しよっか。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

とっさにももこさんからコーラをくれた。炭酸は別に嫌い、というわけでもないのでありがたくいただくことにした。だけど、このコーラいつ買ったんだろう?

 

「今回はすごく苦戦したから疲れるのは当たり前だよ。今日はすぐに寝なよ。」

 

「はい、そうします。」

 

「わたしももうへとへとだよぉ。」

 

「かえではレナよりも体力ないから仕方ないわね。」

 

「ひ、ひどいよぉ。レナちゃん。」

 

レナさんはかえでさんをおちょくった。こんなことをよく言っているが、ももこさん曰く、レナさんとかえでさんはいつもあんな感じだが実際、仲がいいそうだ。

 

「じゃあ、私はこっちの道なので。今日はありがとうございます。」

 

「ウチらで良かったらまた声をかけてよ。いつでも歓迎するからさ!」

 

「じゃあね、ゆきちゃん!」

 

「…また来なさいよ。」

 

「では、さようなら。」

 

 

 

星がみえるほど澄んだ夜、私がいなくてはいけない場所、万々歳に戻ってきた。私は鶴乃さんから事前にもらった合鍵で正面のドアを開けた。

 

「ただいま戻りました。」

 

誰もいないのについ癖で言ってしまった。とりあえず、お風呂に入ることにした。しかし、

 

「…お湯が冷たい。」

 

おかしいと思った。いつもなら鶴乃さんが私よりも先にお風呂に入るため温かいはずだ。

 

「仕方ない、自分でお風呂を焚こう。」

 

私はお風呂の追い焚きボタンを押した。

 

「とりあえず、部屋に行って着替えを持ってこよう。」

 

私は自分の部屋に行った。

 

部屋に入ってタンスの一番下を開けた。ここには鶴乃さんが着ていた古着が多く残っていた。鶴乃さんは

 

「サイズが合うかわからないけど、ゆきちゃんが嫌じゃなければ使ってもいいよ!」

 

と言われ、遠慮なく使っている。誰かのものを借りることは少し嫌だが優しくしてくれてる以上、着ない、と言うのは失礼だし、なにせシャツやズボンなどの衣服はあのとき着ていた服以外フェント・ホープに置きっぱなしにしているからむしろ助かったと思っている。

 

「それにしても、鶴乃さんはどこにいるんだろう。」

 

不安ではあるが、鶴乃さんは強いのはよくわかっているので心配することはない。多分、相当強い魔女と接戦を繰り広げているのだろう。

 

「ふあぁぁ………。」

 

すごく眠い。もう寝よう。

 

「鶴乃さんを探すことはできない。はぁ、疲れた。」

 

そして、私は布団と厚い毛布に挟まって寝た。

 

 

 

次の日の朝、眠気がなくなって久しぶりにゆっくり寝れて気分がよかった。でも、枕元にあったデジタル時計を見た瞬間、私はとんでもないことに気づいてしまった。

 

「嘘でしょ?」

 

何かの冗談なのか。目をこすってもう一度見た。

 

「…9時を過ぎている。」

 

9時を過ぎた。これが示す意味はもう既に万々歳は開店してしまっている、ということだ。

 

「し、しまった。早く着替えないとお父様にしかられてしまう!」

 

私は焦りながらタンスを開けた。タンスの端に入れておいた仕事用の服を着て急いで階段を降りた。

 

「すみません、寝坊しました!」

 

朝一番の大声で反省を述べた。しかし、

 

「あれ?」

 

厨房には一生懸命に中華鍋をかき回しているお父様の姿がなかった。その上、オーダーされた食べ物を食べてもらった後、点数をつけてもらっている鶴乃さんの姿もなかった。

 

「今日は確か営業日だったような……。」

 

おかしい。今日はいつもどうりに注文を取りに行って、お父様に伝えて、それを配膳する。そのはずなのにどうして誰もいないの?そう考えている時、ちょうどお父様が降りてきた

 

「おや、ゆきちゃん。おはよう。」

 

「あっ、おはようございます。」

 

「今日も自分ので起きてきたのかい?」

 

「はい、そうです。ところで、今日は万々歳を開かないんですか?」

 

「ん?今日は休みだよ。」

 

「休み?言ってましたか、そんなこと。」

 

「あぁ、そういえばゆきちゃんに伝えていなかったね。」

 

「はい?どういうことですか?」

 

「それがね、鶴乃が昨日から帰っていないんだよ。」

 

「え?」

 

衝撃的な発言だった。まさか。そんなはずがない。

 

「ほ…本当ですか?」

 

「残念だけど、本当なんだ。その証拠に、居間のところにある靴箱を見てみろ。」

 

そう言われ、靴箱を見てみた。

 

「これは…確かにそう考えられますね。」

 

靴箱には鶴乃さんがいつも履いている靴が見当たらない。こんなことって…。

 

「ゆきちゃんは心当たりないかい?」

 

「いいえ、鶴乃さんとは別行動だったので。」

 

「そうか、残念だ。」

 

こっちも残念だ。まさか鶴乃さんが行方不明になるなんて全く思ってもいなかった。

 

「私、鶴乃さんを探してきます。」

 

私はいてもたってもいられず家を飛び出した。

 

「あっ、待ちなさい。」

 

その言葉に気づかず、私は街に出た。

 

 

 

つい外に出たけど、鶴乃さんがいそうな場所なんて全く思い付かない。どうしよう。

 

「あれ、ゆきちゃん!」

 

「!、いろはさん。」

 

そこにばったり会ったのはいろはさんだった。

 

「どうしたの?こんなところで一人で歩いてたから心配して声かけちゃった。」

 

「そ…それが…。」

 

「?」

 

「鶴乃さんが…鶴乃さんがいなくなってしまったんです。」

 

私はいろはさんにこう言った。すると、いろはさんはしんみりした顔をしてこう言った。

 

「鶴乃ちゃんはね、」

 

「いろはさん、鶴乃さんの居場所を知っ…。」

 

「マギウスに捕まったの。」

 

「え?」

 

「鶴野ちゃんはマギウスに捕まっちゃったの。」

 

「………。」

 

そんな、嘘でしょ。

 

「ゆきちゃん…。」

 

「そ、そんなわけないじゃないですか。さ、さ、最強の魔法少女ですよ、鶴乃さんは。」

 

「…わたしたちがマギウスの講義を受けた後、マギウスと黒羽根たちと戦ったけど鶴乃ちゃんたちがマギウスの罠にかかって仲間になっちゃったの。」

 

「う、嘘…。」

 

突然頭が空っぽになった。鶴乃さんがいなくなったことがとてもショックで、悲しくて、辛い。

 

「ゆきちゃん!どうしたの?しっかりして!」

 

私は、いろはさんたちに迷惑をかけた。私があのとき、いろはさんたちと一緒に行けば私が犠牲になるだけでよかった。私が姉さんたちの前にいたら、絶対にこんなことになるとはなかったはず。後悔。後悔しかなかった。こんな後悔、やりなおせるならやりなおしたい。でも、決断することも、後悔することも、何もかもが遅すぎた。こんな自分、許せない。許すもんか。

 

「ゆきちゃん!ゆきちゃん!………。」

 

「ゆきちゃん!!!」

 

…ごめんなさい、みふゆさん。地獄を抜け出したと思ったんだけど、やっぱり地獄だったよ。いや、みふゆさんもマギウスだから恨む相手か。

 

 

 

その女は完全に意識を失った。マギウスに恨みをもったまま、彼女どうやって立ち向かうのか?はたして、彼女は初めてできた仲間を救うことができるのか?

 

さぁ、これからだよ。ゆき、いや、…。

 

 

 

 




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13話

「ふっ、ふっ、ふっ。」

 

「あははははぁ…。」

 

「あーはっはは!」

 

誰かの笑い声を聞いて私は目を開けた。真上には暗闇が続いていて、砂嵐が起きていた。

 

「ここは?」

 

私は地面に手をつけて起き上がった。

 

「うわ!」

 

私はその瞬間、思いもよらないことが起きていた。私はその場に浮いていた。でも、立つことができた。

 

「どうなっているの?」

 

とにかく不思議だった。何もかもが理解ができなかった。

 

「ふふふっ…。」

 

目の前の暗闇からヒールの音と共にこの笑い声がした。

 

「…もしかして、そこにいるの?姉さん。」

 

「見つけたぁ。アリナだけのキュートな妹。」

 

「姉さん!」

 

そこにいたのは姉さんだった。

 

「なんでここにいるの?みんなはどこに行ったの?」

 

「ふーん、他の魔法少女を探してるんでしょう?」

 

「…何か知っているんでしょ。すぐに答えて!」

 

「魔法少女はみんな、いなくなっちゃった。」

 

「え?」

 

「そう!誰もいないの。あなたの大事な人たちもね。」

 

「まさか、鶴乃さんやももこさんも…。」

 

「…あはははは!」

 

「何が面白いの?みんなあなたのせいでいなくなっちゃったのに。」

 

「アリナのせい?何を言ってるの?」

 

「どういうこと?」

 

「これはアリナがやったことじゃない。全部アナタのせい。」

 

「私が何をした、って言うの?」

 

「アナタは何も覚えていないの?アナタはそのパワーで魔法少女をみんな消し去ったってワケ。」

 

「!」

 

「マーベラス!もうエキサイトしちゃうよネ。アナタが信頼していた仲間たちを自分の手で殺っちゃうなんて。あぁ…なんてオモシロいストーリーなの!」

 

「そんなことはない。」

 

「はぁ?」

 

「そんなはずがない!」

 

私はすぐに魔法少女に変身して姉さんに殴りかかった。

姉さんの顔にストレートパンチが効いた。しかし、突然黒い煙がでてきて私の周りを包み込んだ。

 

「悔しかったらアリナたちのところに帰ってくればいいネ。神浜のどこかにいるから。」

 

「絶対にあなたを倒してやる。必ず、必ず!」

 

次第に煙が濃くなり、視界が奪われた。

 

 

 

また、目を覚ました。ぼやけた目に映った天井はあまりにもきれいだった。少なくとも万々歳じゃない。私の部屋はカビがいろんなところについていて、寒い。でも、ここは清潔で窓際なのに暖かい。

 

「ここは?」

 

とにかく、ここから出てお礼をしに行かないと。

 

「あら?もう起きたの?」

 

「え?」

 

声の主はやちよさんだった。

 

「やちよさん、どうしてここに?」

 

「どうして、っていろはに頼まれたからよ。」

 

「いろはさんがやちよさんに?」

 

「いろはがあなたが突然気を失ったから、って言って一緒に病院に連れていったのよ。」

 

「そうなんですか。ありがとうございます。」

 

「あなた、何故いろはに近づいたの?」

 

「別に近づいた訳じゃ…。」

 

「これ以上、わたしたちに関わらないで。」

 

「え?」

 

「ももこたちから聞いたわ。マギウスのウワサに苦戦したそうね。」

 

「………。」

 

「ねぇ、何でわたしたちに付いていかないの?」

 

「それは…。」

 

「ずっと思っていたのよ。わたしたちにじゃなくてももこたちのチームに入りたがるのは何故か。わたしは考えたの。あなたはマギウスなんじゃないか、っと。」

 

「………。」

 

「わたしたちはマギウスと直接会った。でも、あなたは一緒に行くことなくももこたちと行動した。何故そうしたのか。それは、あなたがマギウスの翼だからよ。マギウスからももこたちと行動を共にして情報を漏らそうと思ったんでしょ。」

 

「そんなことは…。」

 

「そうでなければ、わたしたちと一緒に行くはずよ。目的は一緒だからね。」

 

「違い…。」

 

「それに、証拠もある。」

 

「!?」

 

「さなが言ってくれたわ。あなたがマギウスの翼にいた、って。」

 

「さな?誰ですか?」

 

「アリナと関係を持っている魔法少女よ。彼女はアリナによって捕らえられていたから、マギウスの情報の一部がわかるのよ。」

 

「待って下さい!さな、っていう人は知りません。何かの勘違いです。」

 

「どうかしらね。いつかあなたは真実を言う時が来るわよ。今言わなかったこと、後悔するわよ。」

 

そういい残してやちよさんは病室を出ていった。

 

「何だったんだろう?あの人やっぱりヘンなひとだなぁ。」

 

さっきの夢もやちよさんのあの発言も、いったいなんだったのだろうか。そう考えてるうちにまたドアが空いた。まだ言い足りなかったのか?

 

「ゆきちゃん!」

 

「いろはさん。」

 

やってきたのはいろはさんだった。

 

「ゆきちゃん、大丈夫?突然倒れたから心配したんだよ!」

 

「あの、さっきやちよさんがお見舞いに来てくれたんですが、私をここまで運んでくれた、って…。」

 

「うん。やちよさんや辺りの人たちが助けてくれたの。わたし一人じゃ何もできなかったよ。」

 

「そうだったんですか。」

 

やちよさんが言ってたことは本当だったんだ。なんか、みんなに迷惑かけてばっかりだなぁ。私って本当は邪魔者なのかな?

 

「ところで、ゆきちゃん。」

 

「はい?」

 

いろはさんはあらたまった顔をして私に話しかけた。

 

「ゆきちゃんは、マギウスなの。」

 

「!」

 

信じられなかった。いろはさんは私の味方だと思ったのに!

 

「別にね!疑っているわけじゃないの。やちよさんが直接聞いてきて、って無理矢理言われたの。わたしは全くそんなこと思ってないよ。」

 

「………。」

 

一瞬びっくりしたが、やはりやちよさんか。

 

「やちよさんに伝えてください。」

 

「え?」

 

「退院したら、決着をつけましょう、って。」

 

 

 

 

 




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14話

午後0時15分、病室で昼食を摂った。献立はご飯、わかめと豆腐の味噌汁、ほうれん草のおひたし、ちくわの磯辺揚げ、ウーロン茶、こんにゃくゼリーだった。正直に言うと、今まで生きてきた中でも一番まともで安心する献立だった。万々歳でも仕事した後にまかないを食べるが、もともと食が細いこともあって残しがちだった。というより、口に合わない。他の人からみたら、

 

『精進料理じゃん。』

 

、と言われるだろうけど、シンプルで味が薄い食べ物が私は好きだ。

 

(さな。なぜか私のことを知ってるようだけど、本当に誰なのかわからない。私のいた場所にその子がいたとするのならば知ってるはずなんだけど…。)

 

考えても仕方がない。とにかく、やちよさんに間接的にあんなことを言ってしまったのは謝らないといけない。私としたことがつい躍起になってしまった。

 

「梓ゆきさん。」

 

そんな考え事している間にナースのお姉さんがやってきた。

 

「調子はどうですか?」

 

「えぇ、大丈夫です。」

 

「それはよかった。ところで、さっきゆきさんの診断結果が届いたの。」

 

「はい。」

 

「ただの高熱だから今日中に退院できるみたいですよ。」

 

「そうですか。」

 

「本当によかったですね。あ、服や靴などはいろはさん、という人が持ってきましたよ。」

 

「あ、わかりました。…少しの間でしたがありがとうございます。」

 

「ふふっ、ゆきさんはすごく礼儀がいいですね。」

 

「あの、そういう性格なんです。」

 

「将来、デキる女性になりそうね。」

 

「はぁ…。」

 

訳のわからないことを言ってるのはさておき、すぐに着替えていろはさんに会いに行かないと。すると、

 

「ゆきちゃん。」

 

やってきたのはいろはさんだった。

 

「退院できるって?」

 

「え、えぇ。」

 

「じゃあ、一緒にみかづき荘に行こう。万々歳よりもわたしたちのところにいたほうが安全だよ。」

 

「でも、やちよさんは許してくれるでしょうか?いろはさんに伝えてください、と言っておいてなんなんですけど…。

 

「…そのことは伝えてないよ。」

 

「え?」

 

「そんなこと、伝えるわけないでしょ。」

 

「そ、その、すみませんでした。」

 

「とりあえず、みかづき荘に行こう?鶴野ちゃんを助ける方法をみんなで考えよう!」

 

「…はい。」

 

迷惑をかけてしまった。いつかはやちよさんとじっくり話す時間があればいいのに、と思ってたからこのチャンスを見逃すわけにはいかない。ああいうこと言ったけど、ちゃんと説明しなくちゃいけないと思った。なんにせよ、さな、というマギウスとかかわりがある魔法少女に私の正体を勝手に暴かれたのだから、もう逃がしはしないだろう。

 

「じゃあ、着替えてきます。」

 

私はカミングアウトすることを決意し、みかづき荘の魔法少女たちと共にすることにした。

 

 

 

着替えを終えて、私はもう一度自分がいた病室に戻った。

 

「お待たせしました。」

 

「うん、じゃあいこうか。」

 

いろはさんは私に向かって手のひらを見せた。

 

「手をつなぎながらね。」

 

初めて言われた。姉さんとは一度も言われたことがないことをいろはさんが初めて言われた。

 

「いろはさん。」

 

「?」

 

「行きましょう。」

 

私はいろはさんの手をとって病室を出ようとした。

 

「あら、もう帰るんですか?」

 

「はい、改めてありがとうございました。あなたといろはさんたちのおかげでなんとかなりました。」

 

「わたしたちからすれば当然なことをしただけですよ。お大事に。」

 

「…はい!」

 

ナースさんに最後のあいさつをし、私といろはさんは病院の出入口を出た。すると、

 

「…待ってたわ。」

 

入り口にやちよさんがいた。

 

「!、どうして?」

 

「退院する、っていろはから聞いたからここで待ってたのよ。」

 

「…そうですか。」

 

「わたしがさっきのナースさんから電話をもらったとき、やちよさんが一緒に行く、って言うから付いてきたの。」

 

「そんなことよりゆき、あなたには今疑いがかかっているわ。」

 

「やちよさん!またそんな事を言って。きっとさなちゃんの勘違いですよ。何度もみんなで話し合ったじゃないですか。」

 

「さなが言っていることは確かだと思うわ。アリナやみふゆたちを知ってたし信用していいと思うわ。」

 

「そんな…。」

 

「みふゆがマギウスにいることがわかった以上、どうにかしてみふゆを連れてこないといけないのよ。」

 

「…一つ疑問があるんですけど。」

 

「何?」

 

「なんでそんな必死にマギウスを探してるんですか?みふゆさん、っていう人を救うためですか?」

 

「そうよ。みふゆはもともとわたしと一緒にいたのよ。なのに、いまはマギウス、っていう危ない組織の幹部だなんて。」

 

「みふゆさんにとってみふゆさんは大切な人だったんですね。」

 

「今でもそうよ。」

 

「私、実は鶴乃さんにもフェリシアさんにも言っていない秘密があるんです。」

 

「?」

 

「?」

 

このタイミングで話さないといけない。そう思った。だから、ここで真実を言わなきゃいけない。

 

「私は…そのみふゆさんに救われたんです。」

 

「!」

 

「!」

 

「そして、私はマギウスの一人、アリナ・グレイの妹なんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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15話

「私はマギウスの一人、アリナ・グレイの妹なんです。」

 

「!」

 

「!」

 

「本当なら最初に拾ったくれたときに言うべきでした。だけど、マギウスと戦うことになったから言えなくなった。『マギウスの一人だからかばってほしい。』なんて、絶対に信じてくれない。そう思ってた。でも、みんなは突然やってきた私を心配してくれた。みんな優しくしてくれた。」

 

「ゆきちゃん…。」

 

「だからこそ、巻き込みたくなかった。もし本当のことを言ったら余計に心配するんじゃないか、姉さんと同じように執拗に追いかけてくるだろう、って。私があそこで倒れてたのはみふゆさんがあそこから逃がしてくれたから、必死で逃げたからなんです。」

 

「………。」

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…本当に…ごめんなさい。」

 

私は泣き崩れた。マギウスとみかづき荘の魔法少女がこれほど激しく争うとは思っていなかった。よりにもよって一番お世話になった鶴乃さんがいなくなったことが悔しくてしょうがない。マギウスの黒羽根に追われるのも、姉さんのてのひらで踊らされたのも、何とかも、全部、私のせいだ。いままでやってきたことをやり直したいほど私自身を恨んでいる。もっと早く相談すれば…。

 

「ゆき。」

 

「はい。」

 

「やっと正直に話してくれたわね。」

 

「私を許してください、なんて言いません。やちよさんもずっと私を目の敵にしてたんでしょう?今のうちにとどめをさしたほうがいいですよ。みんなのためですからね。」

 

そう、今更命乞いなんて無意味に決まってる。だったら潔く消えてなくなればいいんだ。これで姉さんの呪縛から解き放される。

 

「…そんなことはしないわ。」

 

「え?」

 

「今の話を聞いてやっとわかったわ。あなた、やっぱりマギウスに追われているのね。」

 

「やっぱり、って前から気づいていたんですか?」

 

「あなたが『マギウス』という単語を言うたびに怯えているのがよくわかったわ。」

 

「一番わかりやすいのはみふゆと会うときに今まで以上に驚いていたときよ。みふゆはマギウスの幹部の一人なの。だから、もしかしたらマギウスになにか関係のある人でなにかの理由でマギウスに追われる存在になったんじゃないか、っておもったのよ。」

 

「………。」

 

「図星ね。」

 

「じゃあ、あのとき私に怒ったのは…。」

 

「ごめんなさい。さっきまでずっとあなたを疑っていたのよ。でももういいのよ。あなたが困っているならわたしたちに任せて。必ずあなたのことを守ってあげるわ。」

 

「…やちよさん。」

 

「ゆきちゃん、わたしにも相談して。迷ってたり困ってたりしてるなら力になりたいの。」

 

「いろはさん。」

 

「とりあえず、みかづき荘に行きましょう。鶴乃を助けましょう。」

 

「はい。」

 

やちよさんは私に手を差し伸べた。私はその手を握った。

 

「行きましょう。」

 

「行こう。」

 

私はやちよさんといろはさんと一緒にみかづき荘に向かった。

 

 

 

私たちがみかづき荘についたのは日が沈んだら頃だった。そこに入るとフェリシアさんが入り口で出迎えてくれた。そして、向こうには緑色の髪をした少女がすわっていた。

 

「よぉ、待ってたぜ!あっ、ゆき!」

 

「フェリシアさん…。フェリシアさんにも言わなくちゃいけないことがあるんです。」

 

「?」

 

フェリシアさんにも同じことを話した。すると、フェリシアさんは顔をうつむいた。

 

「オマエ、マギウスの仲間だったのか?」

 

「…はい、そうです。でも、私はマギウスの人たちや黒羽根たちとは関わっていません。みふゆさんは私を救ってくれただけです。」

 

「そうか。」

 

「信じてくれませんか?」

 

「…あぁ。」

 

「!」

 

「ゆきのこと、信じるぜ。マギウスとかいう悪いヤツだったら万々歳で働かないからな。」

 

「…ありがとうございます。」

 

よかった。みんな私のことをちゃんと知ってくれた。これでもう、窮屈におもうことはなくなったんだ。

 

「とりあえず、早く中に入りなさい。」

 

 

 

 

入り口の先にある大きいガラスのテーブルを囲むように座って作戦会議を始めた。

 

「あの、そこにいる緑色の髪をした人は誰ですか?」

 

「この子は二葉さな。 名無しAIのウワサに囚われていた透明人間の魔法少女よ。」

 

「この人が二葉さな。」

 

「………。」

 

「よろしくお願いします。」

 

「………。」

 

さなさんは口を開けてくれない。こうやって話しているのにずっと下を向いてもじもじしてばっかり。聞きたいことがあるんだけどこれじゃあ聞いてくれなさそう。

 

「さなちゃんはすごく恥ずかしがり屋なの。初対面の人としゃべるのは苦手なの。」

 

いろはさんがフォローを入れた。

 

「…さなさん。私はあなたと仲良くなりたいんです。だから、あなたからいろいろ聞きたいことがあるんです。お願いします。どうか教えて下さい。」

 

「………!」

 

さなさんは突然飛び上がって速足で階段を上がっていった。

 

「さなさん…。」

 

「大丈夫だよ。時間をかけて仲良くなろう。」

 

本当に仲良くなれるのかなぁ。

 

「さながいないけど、会議をはじめるわよ。」

 

そうだ、それよりもマギウスと戦う準備をしないと。

 

 

 

 

 

 



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16話

みかづき荘で行方不明の鶴乃さんを探すためにさなさん抜きの作戦会議が始まった。

 

「それで、どうするんだよやちよ。鶴乃がいるところに心当たりは無ぇのかよ。」

 

「正直なところ、全くと言うほど無いわ。」

 

「なんだよ。」

 

「鶴乃ちゃんはどこにいっちゃったんでしょう?」

 

「多分、マギウスの本拠地に幽閉されてるのかもしれません。もしもウワサの拠点にいたとするなら、救出するには簡単に終わってしまうでしょう。」

 

「その本拠地がどこにあるかわかる?」

 

「…わかんないです。あのときは逃げることで必死だったので。」

 

「…どうしたものかしら。」

 

私を含めてみんなが悩んだ。どうしても名案が思いつかない。わかっているのはマギウスが鶴乃さんを捕えたことだが、そんなことは周知の事実だ。

 

「こうなったら…。」

 

「?」

 

「?」

 

「?」

 

突然いろはさんが立ち上がった。

 

「神浜のうわさ全部を調べましょう。きっとどこかに鶴乃ちゃんはいるはず。」

 

「…でも、このあたりのウワサ、って何個あるんですか?」

 

「結構の数があるわよ。」

 

そう言ってやちよさんは派手に飾り付けされたまるで国語辞典のような青い本をみんなの前に出した。

 

「これは?」

 

「あぁ、ゆきにみせるのは初めてだったわね。“ウワサノート”よ。」

 

「“ウワサノート?”」

 

「わたしが今まで集めてきたウワサや都市伝説を書き留めたノートよ。」

 

「へぇ~、こんなにいっぱいウワサがあるんですね。」

 

私はそのノートを手に取って読んだ。見開き1ページ1ページにびっしりとウワサや都市伝説のことを書いてあった。新聞の切り抜きや現地の写真が貼られている。そこに追加情報を入れてより分かりやすくしている。ただ見づらい。元の情報量が多いので追加情報が書いてるのであろう場所は文字が潰れていて読めない。

 

「………。」

 

それにしても、これ全部を調べるには人手が足りなさすぎる。どうすれば…。

 

「とにかく、ここにあるウワサを全て調べましょう。」

 

「…そうするしかないわね。」

 

「やちよさん、こんなに多くのウワサたちをどうやって捌くんですか?」

 

「そうね、神浜の西側は十七夜に相談しましょう。東側はわたしたちとももこたちに協力をあおぎましょう。」

 

「十七夜さんはやちよさんと仲がいいんですよね。」

 

「それは最近のことよ。」

 

「…ならば、この地図を使ってそのウワサのポイントをマークしましょう。」

 

 

 

数時間後、全てのウワサや都市伝説をマーキングした。すると、

 

「あ!」

 

いろはさんが突然大きい声をだした。

 

「どうしたんですか?」

 

「この場所だけなんか空いてないですか?」

 

「あっ!」

 

そのときとんでもないことがわかった。1ヶ所だけウワサや都市伝説がない場所があった。

 

「どういうこと?」

 

「この場所は…病院?」

 

「いろは?」

 

「多分…ここは里見メディカルセンター?」

 

「たしか、ねむたちがいた病院ね。」

 

「え?じゃあもしかして…。」

 

「でも、ここには何もないわよ。」

 

「…でも。」

 

いろはさんはうつむいてしまった。確かに、みふゆさんや姉さんたちがいそうなところではあるけど、ここにいる証明がない。

 

「いろはさん、私も気になりますが一度後回しにしましょう。鶴乃さんを見つけることが先だと思います。」

 

「…うん。」

 

なんとかいろはさんを説得することができた。

 

「とにかく、神浜のウワサなどをくまなく探すわよ。」

 

「………?」

 

あれ?なんでたろう、何かおもいだせそうな…。

 

「ゆき?どうしたの?」

 

「…ゆう…。」

 

「?」

 

「どうしたんだよゆき?」

 

そうだ、あれだ!

 

「遊園地!」

 

「うわ!」

 

「うわ!」

 

「うわ!」

 

「え!?」

 

自分もびっくりしてしまった。

 

「何よいきなり!」

 

「す…すみません。じゃなくて、遊園地ですよ。」

 

「どういうこと?」

 

「私がホテル・フェントホープにいたとき、姉さんがよく行ってたところです。」

 

「それは本当なの?」

 

「姉さんがそう言ったんです。もしかしたらマギウスがそこにいる可能性があります。」

 

「となると、行く理由はあるわね。」

 

「じゃあ、行きましょう。鶴乃ちゃんを助けましょう。」

 

「ええ、そうしましょう。だけど、その前に休みましょう。みんな疲れたでしょう?」

 

ふと壁掛け時計を見たら午後8時ちょうどをさしていた。

 

「なら、鶴乃さんを助けるのは明日の夜ですね。」

 

「みんな、多分明日はこれまで以上に凄まじい戦いになるわ。十分に休みなさい。」

 

「では、わたしはお先に。」

 

いろはさんが立ち上がるとフェリシアさんも立ち上がった。

 

「オレも寝るぞ。マギウスをぶっ潰すために力を蓄えないとな。」

 

いろはさんとフェリシアさんは二階に行った。

 

「あなたはどうするの?」

 

「…明日、姉と決着つけます。」

 

私はそう言い残して二階に行った。

 

 

 

「明日の夜、姉さんに引導をわたしてやる。」

 

絶対に姉さんを倒して、これまでやってきたことを後悔させてやる。待ってなさい、アリナ・グレイ。

 

「みかづき荘のみんなと姉さんを殺ってねむちゃんたちを正気にもどしてやる。」

 

そのとき、私はそっと願った。みんなとずっといたい、っと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、最終回です。


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17話

次の日の夜、マギウスと真っ向勝負する時がきた。これまで何度も何度もマギウスに出会うことができたけど、私のほうから断ってきた。だけど、

 

「もう大丈夫。」

 

胸に手を添えて落ち着かせた。私のことをわかってくれる人たちがこんなにもいた。だから、みふゆさんには悪いけどマギウスに、姉さんの呪縛に、抗おう。

 

「ゆき、準備はできた?」

 

一階からやちよさんの声がした。

 

「はい、OKです。」

 

私は意気揚々と階段を下りた。すると、万々歳のカウンターの前にいろはさんたちがいた。

 

「ゆきちゃん、そろそろだね。」

 

「…私はもう覚悟をしましたから。みんなに迷惑かけないようにがんばります。」

 

「もう、ゆきちゃんたら…。」

 

「その心配はいらないぜ!オレのハンマーでマギウスなんかボコボコにしてやるからな。」

 

「フェリシアさん…。そうですね、フェリシアさんがいてくれれば百人力ですね。」

 

「えへへ…もっと誉めろよ。」

 

この人たちを私が警戒してたなんて、いつかの私に訴えたい。マギウスから逃げてきた裏切り者なのにこれ以上ない親切さがあまりにも嬉しかった。ホテルフェント・ホープにいた時には感じられなかった感情だ。

 

「それじゃあ、みんな準備できたわね。」

 

「「はい!」」

 

「おうよ!」

 

 

 

 

みかづき荘から約1時間、私の思い出にある遊園地の跡地にみんなを案内した。間違いない、あの観覧車に秘密があるはず。

 

「ここですみなさん。」

 

「ここがあやしいのかしら?」

 

「はい、姉さんが言っていたところは確かここです。」

 

「マギウスどころか黒羽根もいないじゃん。どうなってんだよ。」

 

「…いいえ、近くにいますね。…出てきてください!私たちはあなたたちを倒しに来たんです。」

 

すると、私たちの目の前に白羽根が来た。

 

「…ゆき様ですね。今まで何をしていたのですか?」

 

「答える必要はありません。言えることは、姉さんに会いに行くことだけです。」

 

「アリナ様ですか?」

 

「えぇ、だからそこを退いてください。」

 

私は白羽根の肩に手をかけて払った。

 

「ゆきちゃん…。」

 

「やっぱりあなたたちだったのね。いつまでもいつまでもアリナのドールを弄んで、アリナの作品にイージーに触らないでほしいんですけど。」

 

突如、空から聞き覚えのある声がした。

 

「これは…。」

 

その声の主は姉さんだった。

 

「…姉さん!」

 

「そんなアングリーな顔、やっぱアナタは最高のドールね!あのときのアナタとは違うわネ。」

 

怒りが込み上がった。だから私は姉さんに衝撃波を打った。だが、姉さんはするりと避けてしまった。

 

「あはは!せっかく再開したのにハッピーじゃないの?」

 

「そんなわけないでしょ。」

 

緊迫した状態になった。姉さんは私をいち早く取り戻してまた私をいじくり倒すだろう。でも、もう一緒にはいられない。

 

「みなさん、早くあの観覧車に行って下さい!恐らくそこに姉さんが作った結界があるはずです。」

 

「ゆきちゃん!」

 

「「ゆき!」」

 

「さあ、早く。」

 

いろはさんたちは私を横切って走った。

 

「…姉さん、決着をつけましょう。」

 

「ふーん、自分のボディを削ってまで私とファイトしたいんだネ?」

 

「もちろんです。」

 

互いに歩み寄った。

 

「それじゃ、レッツパーティ。」

 

その言葉と共に姉さんの体から何かが産まれた。

 

「………。」

 

黒い物体にいくつものレンズがくっついている。そのレンズから出てくる物体は禍々しく汚れている。これは、魔法少女が唯一魔女にならない方法。“ドッペル”だ。

 

「もう私は姉さんの言いなりにはならない!」

 

私の中から怒りが具現化する。

 

「もう放っといて!」

 

“労働のドッペル。その姿は分銅。そのドッペルは自分の存在意義はアリナ・グレイの仰せのままに動くことだと思っている。しかし、いろはたちと出会ったことで道具のような扱いをした姉に復讐せんと息巻いている。”

 

「あはは!」

 

姉さんは謎の物体を飛ばした。いくつもの物体が私に向かって落ちてくる。

 

「くっ!」

 

負けまいと私は分銅を飛ばした。分銅と謎の物体がぶつかり合っていくつかの分銅が姉さんのところへいった。

 

「ふーん、アリナのドールにしてはやるじゃん。」

 

姉さんは右手を横にふった。すると、分銅をまとめててのひらで潰した。

 

「!」

 

もっと分銅を飛ばした。姉さんが倒れるまで攻撃をやめない。そして、ソウルジェムも濁っていく。

 

「はぁ、こんなものネ。」

 

姉さんも謎の物体を飛ばした。

 

「きゃっ!」

 

不運にも腕に一発当たった。その部分から異臭を放ち体を溶かしていく。

 

「くっ!」

 

「あははは!いいネ!その苦しんだ表情。もっと魅せて。アリナのドールならもっと歪んだ感情を引き出して!」

 

「ああぁぁ…!」

 

「そう、そんな感じ。アリナの妹になったんだからどこにも逃げられないの。もっとアリナのために苦しんで!」

 

嘘…強すぎる。こんな簡単にやられるなんて…こんなこと…。

 

「いい加減ギブアップしたら?アリナには勝てないことわかったでしょ?」

 

想定外に強い。姉さんに勝ってみんなで帰るつもりだったのに…嫌だ…嫌だ…。

 

「じゃあ、帰ろうか。」

 

姉さんは私を抱えた。それから頭がぼーっとして何もできなくなった。

 

「お帰りなさい。」

 

 

 

 

目が覚めると、そこは見覚えのある場所だった。

 

「ここは…。」

 

寝ぼけながら外を見た。

 

「?」

 

どうしてだろう。覚えてるような覚えてないような…。そのとき、ドアが開く音がした。

 

 

 

 

「さぁ、レッツパーティ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今まで見て下さりありがとうございます。


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