黒の剣士に憧れし者 連載中止 (孤独なバカ)
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プロローグ

「おはよう。ハジメ。」

「おはよう。昴。」

 

 月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。

それは飯塚昴も例外ではなく幼馴染の南雲ハジメも同様にうんざりしながら、いや俺たちはさらに面倒なことを控えているためにうんざりしながら授業が始めるギリギリに登校する

 

「ハジメまた徹夜かよ。」

「うん。お父さんの仕事手伝っていたから。」

「……お前の親父さん。夜遅くまでプログラム組み立てさせるなよ。」

 

俺は呆れ半分同情半分でハジメを見る

 

「でも、僕は楽しいから。」

「そりゃ自分の趣味を仕事にできたらなぁ。」

 

ハジメは趣味を人生の中心に置くことに躊躇いがない。なにせ、父親はゲームクリエイターで母親は少女漫画家であり、将来に備えて父親の会社や母親の作業現場でバイトしているくらいなのだ

 

「昴は?」

「俺はいつも通りだな。今日も工事現場に直行。」

「……本当に僕の家に来ないでいいの?」

 

心配そうに俺を見るハジメ。というのも俺は一年前の春に両親を事故で無くしており、しばらくはハジメの家でお世話になっていたのだが、今は一人暮らしをしている

貯蓄は結構あるものの節約や貯金をするにこしたことはないし一応大学までは出る予定だからな

 

「まぁバイトは苦じゃないしな。卒業したら正社員になってくれって頼まれているくらいに順調だぞ。」

「……相変わらずの有能っぷり。」

「有能ってそんなんじゃないけどな。」

「お母さんが今度の土曜日空いているかって。」

「やる。」

 

家事をやるだけで1日飯付き3万とかかなりお徳なバイトだしな。

そうしながらアニメの話や色々な話をしながら教室に入る。

その瞬間、教室の男子生徒の大半から舌打ちやら睨みやらを頂戴する。女子生徒も友好的な表情をする者はいない。無関心ならまだいい方で、あからさまに侮蔑の表情を向ける者もいる。

この空気も慣れたもんだな

極力意識しないように自席へ向かうが、毎度のことながらちょっかいを出してくる者がいる。

 

「よぉ、キモオタ!また、徹夜でエロゲか?」

 

声を掛けてきたのは檜山大介といい、毎日飽きもせず日課のように俺たちに絡む生徒の筆頭だ。近くでバカ笑いをしているのは斎藤良樹、近藤礼一、中野信治の三人での大体この4人が頻繁に俺たちに絡む。基本的無視しているのでどうでもいいのだが

ニコニコと微笑みながら一人の女子生徒が俺たちのもとに歩いてきている。このクラス、いや学校でも俺たちにフレンドリーに接してくれる数少ない例外であり、この事態の原因でもある。

 

「昴くん、南雲くんおはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

「おはよう。香織。」

 

白崎香織という、学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍もない美少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。

 

「お、おはよう白崎さん。」

 

ハジメも挨拶をするといつものようにざわざわし始める。

まぁ白崎は俺たちに構おうとする。元々人気があったのが災いしとばっちりをくらっているんだよなぁ。

バイトの関係上時々だけど居眠りしているし、弁当を基本的に持っていていないのでそれが面倒見のよさから香織が気に掛けていると思われている。

すると嬉しそうにする香織に俺たちは軽い会話をする。視線は痛いし昨日は一日中バイトだったから眠いけどせっかくの好意を無下にすることはないだろう。ハジメは慣れてはいないけど。

すると三人が後ろから近づいてくる

 

「飯塚くん。南雲くん。おはよう。毎日大変ね」

「香織、また二人の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」

「全くだぜ、そんなヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

三人の中で唯一朝の挨拶をした女子生徒の名前は八重樫雫。香織の親友件グループのまとめ役でもある。ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークである。切れ長の目は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコイイという印象を与えているらしい。

俺から見たらかっこいいっていうよりも可愛いって思うのだけど。まぁクラスに知らせていない俺の両親が二人とも死んでいるってことを知っている一人でもある。あとは白崎。

次に、些か臭いセリフで香織に声を掛けたのが天之河光輝。いかにも勇者っぽいキラキラネームの彼は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だけど自分の都合のいいように考え話を聞かないっていう俺からかなりあいしょうが悪いやつだ。

 最後に投げやり気味な言動の男子生徒は坂上龍太郎といい、光輝の親友だ。短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、百九十センチメートルの身長に熊の如き大柄な体格、見た目に反さず細かいことは気にしない脳筋タイプである。

 

「おはようさん。八重樫。てかお前もこいつらの世話大変だな。」

「ちょっと昴。おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

 

俺は皮肉いっぱいに。謙遜しているハジメは少しジト目を向けながら俺の方を見ていると

 

「それが分かっているなら直すべきじゃないか? いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

 

天之河はそう忠告する。やはり、俺たちは香織の厚意を無下にする不真面目な生徒として映っているようだ。

まぁどうでもいいが。

 

「知るか。俺には俺のやり方がある。生憎今のスタイルを変える気はないし。お前らの都合に合わせるつもりはない。」

 

俺はぶっきら棒に答えるとすると睨む天之河

そして無自覚の爆弾がさらに落とされた

 

「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、二人と話したいから話してるだけだよ?」

「……八重樫悪い。後から飲み物奢る。」

「えぇ。いちごオレね。」

 

頭を抑える八重樫を気遣い飲み物の差し入れを決めると

 

「え? ……ああ、ホント、香織は優しいよな」

 

どうやら天之河の中で香織の発言はハジメに気を遣ったと解釈されたようだ。

 

「……ごめんなさいね? 二人共悪気はないのだけど……」

 

 この場で最も人間関係や各人の心情を把握している八重樫が、こっそりハジメに謝罪する。ハジメはやはり「仕方ない」と肩を竦めて苦笑いするのだった。

 

「……はぁ。今日も面倒な1日になりそうだな。」

 

俺は溜息を吐くと空を見る

こんな日ものどかに晴れている空を羨ましく思った

 

 

教室のざわめきに、ハジメが目覚めると俺は軽くノートでパンとハジメの頭を叩く

 

「おはよう。馬鹿ハジメ。お前少しはノート取れよ。」

「……うん。」

 

目をこすりながらハジメは10秒チャージの栄養補給を終えるともう一眠りつくハジメ。

たく。と思いながら俺はどっかぶらつこうと思い俺は席から立とうとすると

 

「昴くん今日昼食一緒に食べないかな?」

 

すると香織が話しかけてくる

 

「いや。いいや。今日は俺は飯抜きだからな。」

「ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当、分けてあげるね!」

「いや。いい。お前こそ細いんだから少し肉つけとけよ。体調崩して寝込んでも知らないぞ。」

「それ飯塚くんだけには言われたくないよ。」

 

確かにそうだな

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。せっかくの香織の美味しい手料理を食べるなんて俺が許さないよ?」

 

爽やかに笑いながら気障なセリフを吐く光輝にキョトンとする香織。

 

「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」

 

「「ブブッ。」」

 

多分素で聞き返している香織に思わず八重樫と俺が吹き出した。

正直痛いと思っていたので的を得たツッコミに俺はツボに入ってしまい笑いが止まらなくなり腹が痛くなる

しかし次の瞬間俺は笑いを止め一瞬で顔が引きつる

 

俺の目の前、天之河の足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたからだ。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様――俗に言う魔法陣らしきものを注視する。

その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。

 

「みんな外に逃げろ。」

 

俺の声に全員が硬直が溶ける。未だ教室にいた愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。



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転移

光が治まると俺は急に体の感覚が研ぎ澄まされた様に感じそして何かにお祈りしている人が周囲を囲っている

周りを見るとクラスメイトが周辺を見回しておりその様子に俺は頭を抱える

これ異世界転移か

ハジメは両親の影響からか男子もののライトノベルなども数多く読んでいて時々俺もそれを読みにハジメの家に読みにいくことがあるので知っていた

よくよく周囲を見てみると、どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。

最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。周りには同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。

ハジメ、八重樫、香織は何が起こったのか分かってないのか座り込んで周辺を見回している。全員怪我はないらしい

すると法衣集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

 そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。

 

 

イシュタルの話をまとめるなら戦争に参加してほしいってことだ 

この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。

魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。

それが、魔人族による魔物の使役でバランスが崩れ、人類の危機ってことだ

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

俺は話を聞きながら溜息を吐く。テンプレと呼ばれる展開に少しだけワクワクしているのが半分

……人を殺すことを推奨してくる教会が信用できなくなっていた

すると突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。愛子先生だ。

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

ぷりぷりと怒る愛子先生。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師で非常に人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿はなんとも微笑ましく、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられる生徒は少なくない。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

愛子先生が叫ぶけど

 

「……呼ぶ魔法はあっても帰す魔法がないってことだろ。」

 

俺はおそらく正解だろう答えにたどり着く。すると一瞬イシュタルはこちらを見ると

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

 

愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 

帰れないとかそんなことを言い出しパニックになりだすが俺は結構落ち着いていた

未だパニックが収まらない中、天之河が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 ギュッと握り拳を作りそう宣言する。俺は何を言っているんだと思ってしまう

同時に、彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。天之河を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

 

といつものメンバーは賛同する。

 

「……こりゃ、無理だな。」

 

俺は少し言おうとしたことを諦める。せめて女子や戦争に参加したくない人を排除したかったんだけどなぁ。

俺は気がついていた。イシュタルが事情説明をする間、それとなく天之河を観察し、どの言葉に、どんな話に反応するのか確かめていたことを。

世界的宗教のトップなら当然なのだろうが、油断ならない人物だとイシュタルを見るのだった。



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ステータス

翌日から訓練と座学が始まった

まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。

不思議そうに配られたプレートを見る俺達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

なるほど、ステータスが身分証明書ってことになっているのか

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

へぇ〜と思い俺はとりあえず針に刺し血を擦り付けてみる

 

飯塚昴 17歳 男 レベル:1

天職 剣士

筋力 200

体力 50

耐性 20

敏捷 300

魔力 20

魔耐 20

 

技能 二刀流 隠密 気配感知 直感 投剣 無属性魔法適正 限界突破 言語理解

 

 

……テンプレだな。しかも戦争に向いていないような気がするのは気のせいだろうか

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

するとメルド団長が説明を始める。どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

なんかゲームでいう熟練度システムに似てるな。まぁ努力は苦手じゃないし大丈夫だろう

 

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

なるほど。つまり優遇されるのはこういう戦闘系天職なんだろうな

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

まぁ予想はしてたけど、攻撃特化型だよなぁ。

剣士の時点で戦闘系二刀流技能しかない時点でブラッキー先生ルートは確定だし

 

メルド団長の呼び掛けに、早速、天之河がステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……

 

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

うん。チートって言うべきか。特徴がないって言うべきか器用貧乏で収まりそうな匂いがする

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

「いや~、あはは……」

 

団長の称賛に照れたように頭を掻く天之河。

その後も普通に進行していく

そしてハジメの番になるとその団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」

 

どうやらハジメは非戦闘職らしい。

 

「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系? 鍛治職でどうやって戦うの?メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」

「低脳だな。」

 

バカ達の笑い声に俺は少しうざったるそうに呟く

 

「は?」

「馬鹿か。戦う必要がないだろ?天職がなければまぁ分かるけどそれでも元々俺達の世界って戦争がない世界だぞ。それなら鍛治師として生きていけばいいんじゃねーの。それだからギャンギャンうるさい馬鹿ってことで女子から人気がないんだよ。」

「……お前、調子乗ってない?」

「自分の顔を鏡見てみたら。」

 

するとピリリと流れる殺気に俺軽く笑う

 

「…こらー!喧嘩は止めなさい!」

 

すると愛子先生が止めに入る。まぁこれを予測しての挑発なんだよなぁ

 

「南雲君、気にすることはありませんよ! 先生だって非戦系? とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんからね!」

 

 そう言って「ほらっ」と愛子先生はハジメに自分のステータスを見せた。

 

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

天職:作農師

筋力:5

体力:10

耐性:10

敏捷:5

魔力:100

魔耐:10

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

 

「食物チートじゃねーか。」

 

俺はつい突っ込んでしまう。いや突っ込んでしまった俺は悪くはないだろう。

ハジメは死んだ魚のような目をして遠くを見だした。

 

「あれっ、どうしたんですか! 南雲君!」

 

とハジメをガクガク揺さぶる愛子先生。

確かに全体のステータスは低いし、非戦系天職だろうことは一目でわかるのだが……魔力だけなら勇者に匹敵しており、技能数なら超えている。糧食問題は戦争には付きものだ。ハジメのようにいくらでも優秀な代わりのいる職業ではないのだ。つまり、愛子先生も十二分にチートだった。

 

「あらあら、愛ちゃんったら止め刺しちゃったわね……」

「な、南雲くん! 大丈夫!?」

 

 反応がなくなったハジメを見て雫が苦笑いし、香織が心配そうに駆け寄る。愛子先生は「あれぇ~?」と首を傾げている。相変わらず一生懸命だが空回る愛子先生にほっこりするクラスメイト達。

 

なお。俺と遠藤はステータスを見せることもなく何故か話は進んでいったのであった。



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いじめ

二週間後

 

俺は両手にある片手剣を振るい八重樫に突撃する

数週間ながら件二刀流の剣筋は誰よりも重く、そして早い剣に成長していた

 

八重樫も一本で捌こうとしているのだがそれでも手数とステータス的に押し切れてしまう

そして俺は剣を弾き飛ばすと八重樫の首に剣をあてた

 

「一本だよな。」

「えぇ。」

 

俺は少し苦笑し二つの剣をさやに入れる

今のステータスは

 

飯塚昴 17歳 男 レベル:10

天職 剣士

筋力 400

体力 100

耐性 40

敏捷 600

魔力 40

魔耐 40

 

技能 二刀流[+剣舞] 隠密 気配感知 直感 投剣 無属性適正 限界突破

 

「しかし、速くて重いわね。」

「防御系が弱い分攻撃特化だからな。ほれ。」

 

俺は水筒に入れてきた水を渡す。八重樫はそれを受け取ると飲み始め、俺は自分の分のものを飲み始める

 

「でも、あなたよく二つの剣なんてうまく操れるわね。普通単調化しやすくて剣筋がみだれるはずなんだけど。」

「あんまり言いたくないけど黒の剣士に憧れていた時があって。その名残かな。元々家が道場だったわけあって剣術は元々叩き込まれていたわけだし。」

 

飯塚流。今は昔の教え子が広めているわけだが嘗ては八重樫流と飯塚流は結構友好のある剣術だった

俺は剣道に才能はなくてやってなかったのだが、遊びでやった二刀流が中々様になっていたことから二刀流を真剣にやらされていたので途中からスポーツチャンバラの道に変更になっていた。

まぁ両親が死んでからも時々やっていて、知名度は低いけど全国大会3連覇中だった

 

「そういえば南雲くんは?」

「図書館プラス例の物を用意してもらっている。一応俺も控えに欲しいし。一つは完成したけどコスト的にも重いからな。」

「ファンタジーって言いづらいのが難点ね。」

「そんな余裕がないから言っているんだけどな。」

 

ハジメにも自衛ができる方法を与えていた方がいい

 

「精神的にも最弱って結構くるからな。錬成も考えれば戦闘に使えないことはないけど魔力消費がでかすぎる。」

「……錬成って戦闘に使えるの?」

「元々触っている無機物を変化できるのが錬成の技能だからな。使えるさ。」

 

元々剣や運動が苦手なハジメだからこそ多分思いつくんだと思うけど

 

「てか香織いい加減隠れてないで出てくれば?」

「……へ?」

 

さっきから隠れている香織の方を向く。何もないように見えると思うがしっかりと気配感知に反応している

 

「……うぅ。」

 

すると香織が観念したかのように出てくる

 

「香織。一体いつから。」

「い、いやさっき来たところ。」

「こいつ一戦目の最初から隠れていたぞ。」

「……ちょっと待って。あなた。」

 

多分こいつも気づいているのだろう。八重樫一回言いかけたことを止める

最近ずっと視線を感じ毎回同じ気配だったので一回確かめたら香織だったので毎回付けてきたのが香織だと判明した

……こいつストーカーに近い行動をしている

 

「隠れるくらいなら出てくればいいじゃねーか。全員知った仲だし。」

「うぅ。でも。」

「でもも何もないでしょ?香織。」

 

正論を二人から言われる香織に俺は溜息をはく

 

「それで何の用だ?何か言いたいことがあっただろ?」

「飯塚くんと話そうと思っていたんだけど。雫ちゃんが一緒にいたから。」

「あ〜。」

 

そういえばそうだな

最近八重樫とほとんど同じ訓練をしているし、自主練も八重樫でいつの間にか八重樫とペアで行動してたからな

それじゃなければハジメと例の物の開発を手伝っているのだがそういえば香織と話す時間が取れてなかったのか

 

「……そういえばいつの間にか飯塚くんと行動するのが当たり前になっていたわね。」

「俺と八重樫はアタッカー。香織はヒーラーだから連携が大事な方を優先されるんだよなぁ。」

 

実際連携で俺と八重樫は最大評価を得ておりパートナー認定をされている。

だから集団行動でも八重樫ばかり組んでいることから男子や女子からの嫉妬が集まっていた

 

「……まぁ、晩飯は一緒に食うか。ハジメも誘って。」

「南雲くん?」

「あぁ。なんというか嫌な予感がするんだよ。近いうちにとんでもならないようなことが起こる気がして。」

「……」

 

二人は黙り込んでしまう。それが俺の直感スキルのことを知っているからだろう

すると不意に直感スキルが反応して気配感知を使った方がいい気がする

俺は使うと四人が一人に対して囲んでいる状況が感知できた

 

「ちょっとついて来てくれ。」

 

真剣な声に八重樫と白崎は首を傾げながら頷くと気配にあった方に歩いていく

するとそう言って、蹲るハジメに四人組がリンチしている姿が見られた

 

「何やってるの!?」

 

その声に「やべっ」という顔をする檜山達。それはそうだろう。その女の子は檜山達が惚れている香織だったのだから。

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど、俺達、南雲の特訓に付き合ってただけで……」

「南雲くん!」

 

檜山の弁明を無視して、香織は、ゲホッゲホッと咳き込み蹲るハジメに駆け寄る。ハジメの様子を見た瞬間、檜山達のことは頭から消えたようである。

 

「特訓ね。それにしては随分と一方的みたいだけど?」

「いや、それは……」

「言い訳はいいからさっさと失せろ。これ以上やるなら俺が相手になるけど?」

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

 三者三様に言い募られ、檜山達は誤魔化し笑いをしながらそそくさと立ち去った。香織の治癒魔法によりハジメが徐々に癒されていく。

 

「あ、ありがとう。白崎さん。」

 

苦笑いするハジメに香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

 

「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

「いや、お前が言ったら多分逆効果だから。それよりも遠回しにいじめるような人は嫌いって伝える方がいいだろうな。」

「どうして?」

 

いや、虐めの原因が嫉妬とかから来ているからな。お前の

 

「……まぁ、俺のとばっちり食らっているんだよなぁ。俺が強くなければ多分方向性は俺にくるだろうし。」

「……どういうこと?」

「あぁ。なるほど。そういうことね。」

 

香織は純粋だから通じないのだろうけど、やっぱり気がひけるんだよなぁ

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

「悪い。お前ばっかりに押し付けさせて。」

 

 渋い表情をしている香織を横目に、苦い顔をすると俺と苦笑いしながら雫が言う。それにも礼を言うハジメ。

 

「ほら、もう訓練が始まるよ。行こう?」

 

ハジメに促され一行は訓練施設に戻る。香織はずっと心配そうだったがハジメは気がつかない振りをした。流石に、男として同級生の女の子に甘えるのだけはなんだか嫌だったのだろう。

 

訓練施設に戻りながら、ハジメと俺は、本日何度目かの深い溜息を吐いた。

 

 

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルド団長は野太い声で告げる。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

ついに来たかと俺は少し気合いを入れる。ざわざわと喧騒に包まれる生徒達の最後尾でハジメは天を仰いでいた

まぁ俺も少し動き始めるか

そういうと隠密スキルを使いクラスメイトから離れていった。



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夜の会合

俺たちはメルド団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者達のための宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

 

「ハジメ。もう寝るのか?」

「うん。ちょっと疲れたから・」

 

しばらく、借りてきた迷宮低層の魔物図鑑を読んでいたハジメだが、少しでも体を休めておこうと少し早いが眠りに入ることにした。学校生活で鍛えた居眠りスキルは異世界でも十全に発揮されるらしい

 

「んじゃ魔物図鑑貸してくれ。俺も見ておくから。」

「うん。それじゃあお休み。」

 

すると居眠りスキルは今日も好調らしくすぐに寝息を立て始めるハジメに苦笑し俺はそれを読み始める

 

「……やっぱり直感の不安感は抜けないな。」

 

俺は軽く溜息を吐く

この訓練で何かが起こるのかわからないし

 

「……どうしようか。」

 

俺は気楽に寝ているハジメに俺は溜息を吐く

一応こっそり冒険者ギルドに登録し食料と砥石と予備の武器を買い揃えた。

宝物庫に眠っていた何故か分からないが放置してあったのでパクってきた空間に物を入れられる魔道具の中に入れてある

もちろん投擲用の剣も一緒に買ってある

……後から様子見ついでに軽く運動しておくか

と思った矢先だった

トントンとノックの音が聞こえる

 

「昴くん、起きてる? 白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

 なんだ?と、俺はは慌てて扉に向かう。そして、鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

「……」

 

俺はその姿に少し見とれてしまう。バイトとかが第一だった俺は恋愛なんてさっぱりだった俺でもさすがに刺激が強い

 

「昴くん?」

「えっ。あっ。悪い。なんか用か。」

「ううん。その、少し昴くんと話したくて……やっぱり迷惑だったかな?」

「別にいいけど。ハジメ寝てるから静かにな。」

 

俺はそういうとドアを開き部屋に招き入れる

 

「うん!」

 

 なんの警戒心もなく嬉しそうに部屋に入り、香織は、窓際に設置されたテーブルセットに座った。

俺は手慣れたようにティーパックのようなものから抽出した水出しの紅茶モドキだが。香織と自分の分を用意して香織に差し出す。

 

「ん。」

「ありがとう。」

 

やっぱり嬉しそうに紅茶モドキを受け取り口を付ける香織。窓から月明かりが差し込み純白の彼女を照らす。黒髪にはまるで本当の女神のようだ。

 

「……はぁ。んでなんのことだ?」

 

俺が聞くと香織はさっきまでの笑顔が嘘のように思いつめた様な表情になった。

俺はなんとなく不安げな表情を浮かべると

 

「明日の迷宮だけど……昴くんには町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから! お願い!」

 

すると香織はそんなことを言い出す

 

「……理由を聞いていいか?」

 

香織は突拍子ないことが多いが何か理由がないとそんなことを言い出すことはない

そう思っている

 

「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……昴くんが居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」

 

 その先を口に出すことを恐れるように押し黙る香織。落ち着いた気持ちで続きを聞く。

 

「最後は?」

 

 香織はグッと唇を噛むと泣きそうな表情で顔を上げた。

 

「……消えてしまうの……」

「……」

 

確かに不吉な夢だ。しかし、所詮夢である。それでも、俺も同じような経験がしたことがあった

 

「悪い。それはできないな。」

「……」

「っていうよりも家族をおいていけないんだよ。一応俺はハジメに恩だってあるし、それに身内のゴタゴタの時に庇ってくれたのはハジメの家だったしな。」

 

俺は直感でハジメに何かが起こることが分かっている。親しい者を守る。それが家の流儀だった。

 

「…てかお前なら俺のこともハジメのことも守れるだろ?」

「え?」

「香織は治療師だろ?治癒系魔法に天性の才を示す天職。何があってもな……たとえ、俺が大怪我することがあっても、香織なら治せるよね。その力で守ってくれよ。それなら、絶対俺たちは大丈夫だ。それに」

 

俺は少しだけ目線をそらし

 

「……ここに居たらお前と八重樫が守れないだろうが。」

 

俺は自分でも恥ずかしいと思う言葉に頰を掻く。

元々友達のために俺は剣を振るうのであってこの世界が別にどうであっても関係はない

 

「……変わらないね。昴くんは。」

「何が?」

 

香織の言葉に訝しそうな表情になる。その様子に香織はくすくすと笑う。

 

「昴くんは、私と会ったのは高校に入ってからだと思ってるよね? でもね、私は、中学一年の時から知ってたよ」

「……?」

 

あったことあったか?

俺は少し考え一つだけ引っかかっていたことが思い浮かぶ

 

「あっ。もしかしてナンパされていたあの時の少女か。」

「えっ?覚えていたの?」

 

いや、思い出した。そういえばどこかで見たことがあると思ったんだよ。

 

「あぁ。結構覚えている。ちょっと漫画で見たやり方で助けたから。ってそれがよく俺って分かったな。あの時俺は警察に電話かける振りしただけで名前も何も話してなかっただはずだと思うけど。」

「助けてくれた人の名前くらい覚えているよ。それに高校二年生の時もお婆さんを南雲くんと助けていたでしょ?」

「……そんなことあったか?」

「私がその時見た昴くんは南雲くんが土下座して昴くんがクリーニングのお金を払っていただけだしね。」

「……あぁ。そういえばあったな。」

 

ハジメの厨二時代か。それなら少し覚えているな

俺も黒の剣士に憧れていたのもあり。ちょっと恥ずかしい時期と重なっている

 

「ちょっと恥ずいな。結構黒歴史かも。」

「なんで?むしろ、私はあれを見て二人のこと凄く強くて優しい人だって思ったもの」

「……は?」

 

俺は耳を疑った。そんなシーンを見て抱く感想ではない。

 

「だって、二人共。小さな男の子とおばあさんのために頭を下げてたんだもの」

 

あぁ。そういうことか

 

「うん。強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光輝くんとかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし……でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、私は怖くて……自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった」

 

別にそれが間違っているわけではない。それが普通なのだ。

この世のほとんどが理不尽で固められている。平等社会って言っているものの弱いものは強いものに従うしかないのだ

 

「だから、私の中で一番強い人は昴くんなんだ。高校に入って昴くんを見つけたときは嬉しかった。工事現場で働いているときは驚いたけど。」

「……給料一番高いんだよ。今できる仕事では。」

「うん。でも、雫ちゃんも私も。昴くんのことを心配しているんだよ。だからかな、不安になったのかも。迷宮でも昴くんが何か無茶するんじゃないかって。不良に立ち向かった時みたいに……でも、うん」

 

香織は決然とした眼差しで俺を見つめる。

 

「私が昴くんを守るよ」

 

その決意を受け取る。真っ直ぐ見返し、そして頷いた。

 

「それなら俺もお前を守らないとな。」

 

俺はそういうと頰を緩ませる

 

それからしばらく雑談した後、香織は部屋に帰っていった。

……八重樫のことも心配だったのだがまぁ、今日はいいか。

俺は眠りに着く。香織が俺たちの部屋を出て自室に戻っていくその背中を無言で見つめる者がいたことを知らないまま。



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トラップ

 現在、俺達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた

ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。 

しばらく経つとメルド団長が受付を終えたらしく行くぞといい中に入る

それから迷宮の旅が始まった

 

迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

隊列を組みながら進むと広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

すると気配感知に反応がある

 

「敵襲。およそ20匹くらいだな。」

 

その言葉の後壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

気持ち悪。と思わざるを得ないがとりあえず地を蹴る

俺は青い剣と緑色の剣を抜くとスピードに乗り突っ込んでいくと俺はその勢いのまま二刀でラットマン3体の切り捨てる

パーティー内で一番のスキルなしで火力を稼げるのは俺だから飛んだオーバーキルらしい。

そして数分後には戦闘が終わり歓声をあげるクラスメイトの中俺は気配感知をふんだんに使い警戒を怠らない

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調よく階層を下げて行った。

そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着りつき軽く小休止に入る

 

「ハジメ。飯食おうぜ。」

「うん。いいけど。いいの?」

「いいだろ。というよりもこれ以上視線が限界。」

 

暇な時間は香織が話かけてくるので周囲の男子に睨まれることが多かった

 

「そういや、白崎さんと話しているけど。」

「ん〜。いや。なんか日頃の話かな。ハジメと何話しているとか。」

「……あはは。白崎さんらしいね。」

 

俺はそういうとハジメが笑う

その笑顔を見ても、感覚がなくならない

何でだ?と思いつつ香織の方を向く

すると目線でどう?と言われた気がしたので俺は首を横に振る

 

「どうしたの?」

「いや、何となく嫌な感じだなって思ってな。」

「やめてよ。昴の勘はあたるんだから。」

 

まぁ技能にあるからな。俺

ふと視線を感じて思わず背筋を伸ばす。ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線だ。今までも教室などで感じていた類の視線だが、それとは比べ物にならないくらい深く重くつい俺は剣に手を触れてしまった。

 

「どうした?」

 

メルド団長の声に俺はハッとなり剣から手を離す

 

「いや、視線を感じて。」

「視線?」

「……いや。何でもありません。」

 

俺は剣を離すと俺は座るとハジメも感じたのか目線を見回す

香織の言っていた嫌な予感というもの感じる

一行は二十階層を探索する。

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。

二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

すると気配を感知すると俺は止まり剣を抜く。

 

「4、いや5体か?」

「ふむ、多分擬態を使っているからだろう。それを見抜くだけの気配感知を持っているとは。」

 

笑いながら言っているけど。俺は息を吐き精神を落ち着かせる

するとその直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

「八重樫。八重樫と俺は次中衛として動いた方がよさそうだぞ。彼奴ら咆哮持ちだから無理に全員が近づいたら後衛に抜けてくるはずだ。」

「……了解。」

 

陣形を整えると天之河と坂上が前衛に上がる

すると天之河が何でって顔で一瞬気を逸らした

 

「おいバカ前見ろ。」

「やべぇ。」

 

天之河に飛びかかってきたロックマウントの豪腕を坂上が拳で弾き返す。

すると数体のロックマウントはこっちに抜けてきた。

 

「あのバカ。」

 

八重樫が小さく呟く。少し怒りの混じった声に俺も頷く。

実際この連携は訓練でもやっていたはずだ

ロックマウントの腕が振り下ろされそうになると俺はそれを二つの剣で弾き返すと重い衝撃に顔をしかめる。

 

「八重樫。スイッチ。」

 

俺はその直後背後に飛ぶと弾いた腕の方から八重樫が走ってくる

そして無駄のない動きで全てを切り捨てていく。

相変わらず間近で見ると無駄のない剣筋に少し憧れてしまうのは無理もないだろう

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

すると前方からそんな声が聞こえるが俺と八重樫は範囲外にいたので硬直することなく次の動きに取り掛かった

 

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた

香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けたがここでロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫った。

 

「ひぃ。」

「おいおい。詠唱やめてたら意味ないぞ。」

 

俺は宙に飛びロックマウントに狙いを絞り

 

「飯塚流剣術。奏刀。」

 

俺は空中で両手の片手剣を奮い、8連撃を無属性魔法でサポートして放ち、敵一体を戦闘不能に追い込む。

 

「えっ?」

「守ってやるっていっただろ?そんなことも忘れたのかバカおり。」

「ば、バカじゃないもん。」

「突っ込むところそこなの?」

 

全員が呆気にとられているが

 

「後から全員説教だから覚えとけ。」

「うげぇ。」

「鈴ちゃんそれ女の子が出したらダメな声だよ。」

 

とまったりしかけた時

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

「……何やっているんだあいつは。」

 

俺はため息を吐く。そして笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する天之河。

 

「それにしても飯塚は本当に初めてなのか?冷静でいい判断だし。今後はお前に指揮を頼んでも良さそうだな。」

 

するとメルド団長の言葉に俺は少し苦笑してしまう。まぁ、ダンジョン自体は初心者だけど、隠密を使って俺はこっそり夜中に冒険者ギルドで稼いでいたツケができたのであろう。

 

 その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「グランツ鉱石だな。珍しい。」

「あ〜確か結婚指輪とかに使われる鉱石ってハジメが言っていたな。」

「素敵……」

 

 香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。すると少しだけ目線が合うと顔を真っ赤にして背けてしまった。

さすがにここまでわかりやすいと意識するなって言われるのも無理な話だろうな

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長! トラップです!」

「ッ!?」

 

 檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

 メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 部屋の中に光が満ち、俺達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

「いつぅ。」

 

と俺は小さく呟くと立ち上がり剣を抜き周辺を見る。俺達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。俺達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

 それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

雷の如く轟いた号令にクラスメイトは移動しかけるが

 

「……いや。囲まれてます。戦闘準備。」

 

俺の気配感知には大型のモンスターと多数のモンスターが沸くのが分かっていた。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

――まさか……ベヒモス……なのか……



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ベヒモス

小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。

そして反対側は 十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現したからだ。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……

 

メルド団長が呟いた〝ベヒモス〟という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

 

 その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

俺は瞬時に判断する

 

「俺たちはあっちに向かった方がいいだろうな。正直なところ俺以外の攻撃は多分通らないって言っていいだろうし。俺が普通に戦ってもかすり傷程度だろう。」

「じゃあメルドさんたちを見捨てろっていうのか?」

「そう言っているんだよ。」

 

俺の言葉に勇者パーティーの全員が俺の方を見る

 

「ここじゃソロかマルチじゃないと回避することは難しいんだよ。ここで群がっていても無駄だ。ただの役たたずでしかない。」

 

正論だった。

 

「悪いけど。ソロだったらこの中で一番強い俺でも勝てる可能性はほぼないんだぞ。限界突破使って10回に一回勝てればいい方だ。」

「っ。」

「いいから退くぞ。それくらいの見極めくらいはつけろ。」

 

正直ここで痛い目をみないとこれ以上は同じようなことを起こし続ける可能性があった。

其のことを理解したのであろう八重樫は少し呆れたような、怒ったような表情をしていたが

 

「私もここは引いた方がいいと思うわ。」

 

俺に賛同をくれる。状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴むが。

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとな」

 

 しかし、坂上の言葉に更にやる気を見せる天之河。

 

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

「雫ちゃん……」

 

 苛立つ八重樫に心配そうな香織。

どうしようかと思ったとき

 その時、一人の男子が天之河の前に飛び込んできた。

 

「天之河くん!」

「なっ、南雲!?」

「南雲くん!?」

 

 驚く一同にハジメは必死の形相でまくし立てる。

 

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」

「そんなこと言っている場合かっ!」

 

ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに思わず硬直する天之河

でもいつも怒らないからこそ其の分威力は高い

 

「あれが見えないの!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ!」

 

天之河の胸ぐらを掴みながら指を差すハジメ。

 

 その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。

 

 訓練のことなど頭から抜け落ちたように誰も彼もが好き勝手に戦っている。効率的に倒せていないから敵の増援により未だ突破できないでいた。スペックの高さが命を守っているが、それも時間の問題だろう。

 

「一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

 

その言葉に俺も少しハッとする。そういえば視野が減ってベヒモスのことしか考えてなかった

 

「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」

「下がれぇーー!」

 

〝すいません、先に撤退します〟――そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

 

暴風のように荒れ狂う衝撃波が襲う。咄嗟に、ハジメが前に出て錬成により石壁を作り出すがあっさり砕かれ吹き飛ばされる。多少は威力を殺せたようだが……

そしてそれと同時に俺は覚悟を決めた

 

「天之河10分間だけ稼いでやる。」

「……は?」

「限界突破で攻撃に当たらないように回避に集中する。香織はメルドさんたちの回復を早くして後方に待機。ハジメ。悪いちょっと力を貸してくれないか?」

「えっ?」

 

俺が作戦を伝える。早口ながらも危険がつきものだけどそれでもそれしか道がない。

 

「……うん。できると思うけど。」

「それなら何分くらいか?」

「もって10分くらいだと思う。」

「それなら俺がペースを守れば15分は稼げるな。」

「ちょっと待って。それって。」

「八重樫。分かるよな。」

 

多分分かっている。分かっているはずだけど理解したくないんだろう

涙が出ているが押し切らせてもらう

 

「やるしかないんだよ。お前らは先に戻れ。お前ら次第で俺たちの寿命は握られているんだから。」

「……悪い。任せた。」

 

意外にもいちばん早く行ったのは坂上だった。

そして俺も同時にベヒモスに向かって地を蹴る

そしてガキンと鈍い音が聞こえ手に衝撃が伝わる。

ベヒモスが完全に力押しで勝てると思ったのだろう。でももう一つの刃がベヒモスの頰を削った。

 

「キャン。」

 

となぜかベヒモスが悲鳴が可愛いことを気にせずに回避に挑む

 

「限界突破。」

 

俺は唱えるとスピードを上げちょくちょくピンで攻撃しながら回避に専念していく

元々単調な攻撃パターンなので避けるのは簡単だ。

普通の突進か赤熱化しかない。

 

「……あれ?」

 

なんか負ける要素なくね?

と思った矢先にその思考を追いやる。

限界突破を使っているだけで今は余裕で避けられているわけだ

そしてきっちり7〜8分くらいだろうか

 

「ハジメ。スイッチ。」

 

足元がふらつく。どうやら限界が近いらしいので声を上げる。

 

「吹き散らせ――〝風壁〟」

 

 詠唱と共にバックステップで離脱する。

 

 その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前まで俺がいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫は〝風壁〟でどうにか逸らす。

 

「――〝錬成〟!」

 

 石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直してしまうからだ。

 

そして俺が休息しながらハジメと一緒に離脱するためにぎりぎりまで回復に努めながら向こうの様子を見る

しばらくすると遂に全員が包囲網を突破したのがみえた。手荷物を軽くするために宝物庫に剣を入れる

 

「後どれくらいある?」

「後半分くらいかな。錬成。」

 

体力も少しは回復したので俺も走れるようにはなるだろうしな

チラリと後ろを見るとどうやら全員撤退できたようである。隊列を組んで詠唱の準備に入っているのがわかる。

 

「タイミングは任せる。俺が守りながら隙を狙って走るぞ。」

「うん。それじゃあ次のタイミングで。」

 

俺はそして走る準備をして

 

「錬成。」

 

の声を聞いた瞬間走りだした。

俺たちが猛然と逃げ出した五秒後、地面が破裂するように粉砕されベヒモスが咆哮と共に起き上がる。 再度、怒りの咆哮を上げるベヒモス。ハジメを追いかけようと四肢に力を溜めた だが、次の瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。

夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている。

 

いける。

限界突破でかなりのステータスダウンがあるとしても走り抜ける自身はあった。

……とそこで俺はとっさに反応と魔力が抜かれたのを感じハジメを突き飛ばした。

 

「えっ?」

 

驚いたように俺を見るハジメだが俺はすでに吹き飛ばされた後だった。

 

「ゴフゥ。」

 

痛みで俺は顔をしかめ口からは血を吐き出してしまう。

誰だよハジメを狙って魔弾を放ったのは。

俺が感知したのは火球がハジメの方に飛んできたところだった。俺はハジメをかばった後魔弾がそのまま直撃して、限界突破の後遺症も合わさって動けそうにない

冷や汗と痛みで俺は蹲ってしまう。

多分アバラをやられたな

ベヒモスが近づいてくるのを感じる。でももう立ち上がれる気はしなかった。

 

ハジメ。逃げて。

ごめん。香織約束守れなかった

 

一つの願いともう一つ後悔を残しながら

血の熱と体の痛みから逃れられるために俺は意識を失った。



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目覚め

……これで治ればいいんだがな

しばらく寝ていたような気がする

俺は瞼を開ける。

 

「……」

「……おっ!!起きたか?」

 

すると俺の目の前に白髮の片手がない少年がいた

俺は目をこするとすると意識が覚醒していく

 

「……誰?」

 

俺は自然と声が出ていた。

 

「……気づかないのか?」

 

すると聞き覚えのある声のような気がした

 

「……もしかしてハジメか?」

「あぁ。」

 

簡単な言葉だが俺は少し目をこする

 

「ここは?」

「わからん。落ちたから迷宮内だと思うが。」

 

俺はとりあえず生きていたことにホッとする。

すると俺は安心したのか飢餓感が押し寄せ

 

「ぎゅるるるる。」

 

ハジメにも聞こえるくらいの大きな腹の音がなるのが分かる

 

「……」

「ごめん。さすがに腹減った。」

 

俺はそういって宝物庫から携帯食料を取り出す。

 

「……は?」

「王国からパクってきた。お前も食うか?」

 

俺はハジメに一つ渡す。水は隣にあることからハジメはこれで食いつないでいたのだろう

 

「お前時々とんでもないことをやらかすな。」

「信用できないし嫌な予感はあったからな。」

 

俺はそういうと携帯食料を食べ始める。そうして俺はハジメに現状を聞き始めた

 

 

 

「魔物を食べたらステータスが上昇か。」

 

ハジメに聞いたところ俺はおよそ20日間意識が戻らなかったらしい。

 

「多分聞いた症状だと超回復で間違いはなさそうだな。」

「超回復?」

「筋トレなどにより断裂した筋肉が修復されるとき僅かに肥大して治るという現象だ。骨なども同じく折れたりすると修復時に強度を増すんだよ。んで毒の魔物と神水で内側から細胞を破壊していき、神水で壊れた端からすぐに修復していく。その結果、肉体が凄まじい速度で強靭になったんじゃないか?」

 

なるほどなと頷くハジメに俺は少しため息を吐く

 

「……悪い。助かった。」

「あぁ。別にいいが。」

「言っとくけどあの判断は俺は後悔してないからな。」

 

俺は言い切る。

 

「誰よりもあの場面でお前だけは現実を見れていたし。何度あの場面に遭遇したとしても俺はハジメを頼る。それしか生き残る道がなかったからな。謝る方が失礼だろ。」

 

俺は言い切るとハジメは驚いたようにしている。

すると照れ臭そうして目をそらす。

 

「これからどうするんだ?」

「ん。まぁ。俺も魔物食うしかなさそうだな。一応剣は宝物庫に入れてあるし。砥石がいらないからな。」

 

と俺はあるものを見つける

 

「完成してたんだな。それ。」

「ん?あぁ。一応な。」

 

ハジメの手には銃が握られている

 

「……まぁ、とりあえず俺も食ってみるか。腹はさすがに膨れていないしな。」

「あぁ。肉は余っているものが少しあるからそれを食べろ。」

「了解。」

 

とハジメに委ねさせて俺は魔物の肉をハジメから渡される

するとお腹が空いていることもあり、急に食欲が湧いてきて俺は思いっきり食べる。

まずい。

一言でいうならその一言だ

それでも俺はそれ以上にまずい食べ物を食べたことがあるので平気なのだが

すると3分くらいで全部食べきってしまうするとその時だった

 

「あ? ――ッ!? アガァ!!!」

 

 突如全身を激しい痛みが襲った。まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。

 

「ぐぅあああっ。こ、これがっ――ぐぅううっ!」

 

 耐え難い痛み。自分を侵食していく何か。だけど俺はこれを受け止め神水を飲む

 

「……」

 

ただハジメは俺を見ている。それは温たく。信頼している目で。

それなら応えるしかない。俺は痛みに立ち向かうことを決心するとまた細胞が破壊されたような激痛が自分の目で確認する

 

数時間後。やがて、脈動が収まり俺はぐったりと倒れ込んだ。服の下には今は見えないが赤黒い線が数本ほど走っているがハジメとは違い頭髪はなぜか黒いままである。

 

「……いてぇな。」

「大丈夫か?」

「あぁ。平気。おっとステータスっと。」

 

と俺はステータスを開くと

 

飯塚昴 17歳 男 レベル:20

天職 剣士

筋力 600

体力 150

耐性 60

敏捷 900

魔力 200

魔耐 200

 

技能 二刀流[+剣舞] [剣技] 隠密 気配感知 直感 投剣 限界突破  魔力操作 胃酸強化 天歩[+空力][+縮地] 無属性適正 言語理解

 

「……あぁ。マジで強くなれるらしいな。てか悪い。腹減ったからもう少しあるか?」

「お前まだ食うのか?」

「なんか今日まじで腹減っているんだよ。なんか食い足りないし。まぁ最悪狩にでればいいか。体慣れさせたいし。」

 

剣は感覚が大事だしなぁ。

 

「お前なんか呑気だな。」

「生きてるだけ御の字だろ?俺絶対死んだと思ったし。それに。」

 

俺は約束した少女の顔を思い出す

 

「香織に会うまでは絶対死ねない。」

 

一度破りかけた約束は生きていたことより続行だ。あいつは俺を守るって言っていたから責任感は消えていないはずだ。

 

「それに好意を向けられた奴にさすがに目を背け続けてたしな。」

「気づいていたのかよ。」

「俺そこまで鈍感じゃねーぞ。」

 

少し苦笑してしまう。あんなにわかりやすい奴多分いないはずだ

 

「……会いたいな。」

 

ポツリと呟く。そして俺は剣を握る

 

「……はぁ。とりあえず行くか。」

 

どこにとは言わない。お互いにもう分かっているだろう。

 

「とりあえずどうするんだ?」

「この層のボス的な奴を倒しにいく。」

「は?」

 

俺はつい聞き直してしまった

寝起き直後でボス戦ですか。

 

「まぁいいけどさ。」

 

と俺も渋々ついていくことにする。マッピングできてないところに一人ボッチだと俺は絶対に迷うし、ハジメの今の姿はちょっぴり心配だしな。

 

「任せた。」

「あいよ。」

 

軽く拳を合わせると俺は少し前で進む。

真のオルクス大迷宮の探索が始まった

 

なおボスのクマみたいな奴は俺がパディを決めハジメのレールガンですぐに倒したことでハジメが俺にぶーたら文句を言ってきたことを記載しておく。



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裏切り

結局二日間の捜索の上、上に上がることのないことがわかった後は俺がゲームのダンジョンの終着点には宝とワープできる魔法陣があるのがお約束だよなって言ったことにより攻略することが決定する

もうあれから何日経ったのであろうか。時間の感覚は既にないので、どれくらいの日数が過ぎたのかはわからない。それでも、驚異的な速度で進んできたのは間違いない。

その間にも理不尽としか言いようがない強力な魔物と何度も死闘を演じてきた。

例えば、迷宮全体が薄い毒霧で覆われた階層では、毒の痰を吐き出す二メートルのカエル(虹色だった)や、麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾(見た目モ○ラだった)に襲われた。常に神水を服用してその恩恵に預からなければ、ただ探索しているだけで死んでいたはずだ。

まぁ今のステータスを見れば一目瞭然なのだが

 

飯塚昴 17歳 男 レベル:70

天職 剣士

筋力 1900

体力 1500

耐性 500

敏捷 2400

魔力 900

魔耐 900

 

技能 二刀流[+剣舞] [+剣技][+神速] 隠密 直感 投剣 限界突破  魔力操作 胃酸強化 天歩[+空力][+縮地] 豪腕 夜目 遠見 気配感知 魔力感知 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 無属性適正 言語理解

 

「んであの空間どうする?」

 

肉を食べながら俺はハジメに聞く。

 

「さぁな。さながらパンドラの箱だな。……さて、どんな希望が入っているんだろうな?」

 

自分の今持てる武技と武器、そして技能。それらを一つ一つ確認し、コンディションを万全に整えていく。全ての準備を整え、ハジメはゆっくりドンナーを抜いた。

 

 そして、そっと額に押し当て目を閉じる。覚悟ならとっくに決めている。しかし、重ねることは無駄ではないはずだ。ハジメは、己の内へと潜り願いを口に出して宣誓する。

 

「俺は、生き延びて故郷に帰る。日本に、家に……帰る。邪魔するものは敵。敵は……殺す!」

 

俺は少しだけ苦笑いしてしまう。俺も香織に会いたいから何も言えないけど邪魔をする奴は容赦をしないことには賛成だ。

 

扉の部屋にやってきた俺たちは油断なく歩みを進める。特に何事もなく扉の前にまでやって来た。近くで見れば益々、見事な装飾が施されているとわかる。そして、中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれているのがわかった。

 

「? わかんねぇな。結構勉強したつもりだが……こんな式見たことねぇぞ」

「マジか?」

 

ハジメは自らの能力の低さを補うために座学に力を入れていた。もちろん、全ての学習を終えたわけではないけど。魔法陣の式を全く読み取れないというのはおかしい。

 

「…あぁでもこれって指定モブを討伐したらここを通れるみたいな奴じゃないか?」

「なるほどな。」

「なるほどなって言いながら触るの止めろや。」

 

 

――オォォオオオオオオ!!

 

 突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡る

 

俺は剣を抜きすぐさま戦闘に移せるよう警戒し

ハジメはバックステップで扉から距離をとり、腰を落として手をホルスターのすぐ横に触れさせいつでも抜き撃ち出来るようにスタンバイする。

 

 雄叫びが響く中、遂に声の正体が動き出した。

 

「まぁ、ベタと言えばベタだな」

 

 苦笑いしながら呟くハジメの前で、扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している。

 

「一体任せた。」

「あいよっと。」

 

俺は地を蹴り右のサイクロプスに斬りつけようとした時だった

 

「あっやべ力入れすぎた。」

 

豪腕によって力を入れすぎた剣撃が飛ぶと

一撃で剣撃がサイクロプスに直撃し真っ二つに割れる。

 

「ふむ、約二十秒か。ちょっと遅いな……巨体のせいか?」

 

するとハジメも瞬殺したらしく俺とハジメは少し苦笑してしまう

 

「とりあえず肉は後からとるとして。」

「魔石だろうな。」

 

俺は剣を取り解体すると魔石を一つハジメの方に投げる

ハジメは窪みにピッタリとはまり込んだ。直後、魔石から赤黒い魔力光が迸

ほとばし

り魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。

 

「すげぇな。」

 

思った以上の異世界の技術にハジメも頷く

少し目を瞬かせ、警戒しながら、そっと扉を開いた。

扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっているようだ。ハジメの〝夜目〟と手前の部屋の明りに照らされて少しずつ全容がわかってくる。

中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

 

「……ってあれ?気配感知に反応がある。……っ人か。」

「何?」

 

ハジメは俺の方を見る。気配感知は俺魔力感知についてはハジメが展開するのが基本の形になっていた。

 

「どうする?」

「どうするって言っても通るしかないだろう。邪魔するのだったら殺す。」

「はいはい。どうせ後始末は俺ですよっと。」

 

俺はそう言って入ると上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗いている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

「……だれ?」

 

かすれた、弱々しい女の子の声だ。

 

「……どうする?」

「まぁ助けてもいいし。封印している女子を助けてこの後控えている集団の戦に備えるか。見捨てるか。」

「ま、待って! ……お願い! ……助けて……」

 

 女の子は必死だ。首から上しか動かないが、それでも必死に顔を上げ懇願する。

 

「まぁ普通だったら断るべきだろ。こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような奴を解放するわけないだろう? 絶対ヤバイって。見たところ封印以外何もないみたいだし……脱出には役立ちそうもない。」

「……ぐぅのねも出ないな。」

 

見捨てることがほぼ確定だな

 すげなく断られた女の子だが、もう泣きそうな表情で必死に声を張り上げる。

 

「ちがう! ケホッ……私、悪くない! ……待って! 私……」

 

 知らんとばかりに扉を閉めていき、もうわずかで完全に閉じるという時、ハジメは歯噛みした。もう少し早く閉めていれば聞かずに済んだのにと。

 

「裏切られただけ!」

 

俺とハジメは手を止める。十秒、二十秒と過ぎ、やがて扉は再び開いた。そこには、苦虫を百匹くらい噛み潰した表情のハジメが扉を全開にして立っていた。

 

 ハジメとしては、何を言われようが助けるつもりなどなかった。こんな場所に封印されている以上相応の理由があるに決まっているのだ。それが危険な理由でない証拠がどこにあるというのか。邪悪な存在が騙そうとしているだけという可能性の方がむしろ高い。見捨てて然るべきだ。

でも俺としては助けるべきだと進言した。ハジメは今は生き残ることと俺のことしか考えてみてないように見えた。どうであって俺とハジメは家族なんだから当たり前なんだが

それでも、こうまで心揺さぶられたのは、やはりどこかで割り切れていない部分があったのかもしれない。そして、もしかしたら同じ境遇の女の子に、同情してしまう程度には前のハジメの良心が残っていた

だから俺は少し迷うことなら助けてやるべきだと。数十秒の間に告げた

 

「裏切られたと言ったな? だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」

 

俺たちが戻って来たことに半ば呆然としている女の子。

 

 ジッと、豊かだが薄汚れた金髪の間から除く紅眼でハジメを見つめる。何も答えない女の子にハジメがイラつき「おい。聞いてるのか? 話さないなら帰るぞ」と言って踵を返しそうになる。それに、ハッと我を取り戻し、女の子は慌てて封印された理由を語り始めた。

 

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

俺はそれは聞いた覚えがあった

 

「……本で読んだな。確か吸血姫がどんな体でも再生ができ魔力を操れることができるって。」

「……(コクコク)」

「殺せないってなんだ?」

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「……そ、そいつは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

「これ優秀な魔法使いゲットできねぇ?数日前俺たち物理抵抗力が高い魔物に1時間くらい戦っていたし。吸血鬼は血が飯だからな。」

 

俺がそういうとハジメも少し考え

 

「悪いが。」

「了解。警戒は俺がしておくから。」

 

俺は魔力感知も使い全力で警戒する

ハジメはそれを無視して錬成を始めた。

 

 ハジメの魔物を喰ってから変質した赤黒い、いや濃い紅色の魔力が放電するように迸る。

しかし、変形するはずの立方体は、まるでハジメの魔力に抵抗するように錬成を弾いた。迷宮の上下の岩盤のようだ。だが、全く通じないわけではないらしい。少しずつ少しずつ侵食するようにハジメの魔力が立方体に迫っていく。

 

「ぐっ、抵抗が強い! ……だが、今の俺なら!」

 

 ハジメは更に魔力をつぎ込む。詠唱していたのなら六節は唱える必要がある魔力量だ。そこまでやってようやく魔力が立方体に浸透し始める。既に、周りはハジメの魔力光により濃い紅色に煌々と輝き、部屋全体が染められているようだった。

ハジメは更に魔力を上乗せする。七節分……八節分……。女の子を封じる周りの石が徐々に震え出す。

 

「まだまだぁ!」

 

 ハジメは気合を入れながら魔力を九節分つぎ込む。属性魔法なら既に上位呪文級、いや、それではお釣りが来るかもしれない魔力量だ。どんどん輝きを増す紅い光に、女の子は目を見開き、この光景を一瞬も見逃さないとでも言うようにジッと見つめ続けた。

ハジメは初めて使う大規模な魔力に脂汗を流し始めた。少しでも制御を誤れば暴走してしまいそうだ。だが、これだけやっても未だ立方体は変形しない。ハジメはもうヤケクソ気味に魔力を全放出したのだろう。

それでいい。

それでいいんだよ。

人の為に働け。

どんな残酷なことでも

人を想いやる心だけは残してやってほしい。

俺は手榴弾型ロケットランチャーを構える。魔力によって気配が完全に起きたのを感じていた

10分で蹴りをつけるぞ。

そういうと俺は上空に向かってロケットランチャーを放ちそして俺は飛ぶ

 

「飯塚流剣技聖天。」

 

 

俺は鋭い一撃を放つと手応えを感じるけど

 

「かたぁ!!」

 

多分傷一つ付いてないぞこれ。

 

「ハジメ。上空に敵反応あり。物理攻撃力が高すぎる。一度引こうぜ。」

「っ。了解。」

「この人は。」

「そんなの後だ。とりあえずずらかるぞ。」

 

と俺たちは逃亡戦に入ることになった

 

 

俺は剣をしまいメグファイアーを両手に構え射撃する

俺もほぼ100%当てられるようになったせいで。というよりハジメより両手持ちの射撃の腕は高いので両手持ちに射撃を鍛えているのだ

最大威力の秒速三・九キロメートルの弾丸がサソリモドキの頭部に炸裂する。

一方、ハジメは足を止めることなく〝空力〟を使い跳躍を繰り返した。その表情は今までになく険しい。ハジメには、〝気配感知〟と〝魔力感知〟でサソリモドキが微動だにしていないことがわかっていたからだ。

それを証明するようにサソリモドキのもう一本の尻尾の針がハジメに照準を合わせた。そして、尻尾の先端が一瞬肥大化したかと思うと凄まじい速度で針が撃ち出された。避けようとするハジメだが、針が途中で破裂し散弾のように広範囲を襲う。

 

「ハジメ。少し追いすぎだ。少し引け。」

 

 ハジメは苦しげに唸りながら、ドンナーで撃ち落とし、〝豪脚〟で払い、〝風爪〟で叩き切る。どうにか凌ぎ、お返しとばかりにドンナーを発砲。直後、空中にドンナーを投げ、その間にポーチから取り出した手榴弾を投げつける。

サソリモドキはドンナーの一撃を再び耐えきり、更に散弾針と溶解液を放とうとした。しかし、その前にコロコロと転がってきた直径八センチ程の手榴弾がカッと爆ぜる。その手榴弾は爆発と同時に中から燃える黒い泥を撒き散らしサソリモドキへと付着した。

いわゆる〝焼夷手榴弾〟というやつらしい。タールの階層で手に入れたフラム鉱石を利用したもので、摂氏三千度の付着する炎を撒き散らす。流石に、これは効いているようでサソリモドキが攻撃を中断して、付着した炎を引き剥がそうと大暴れした。その隙に、俺はドンナーを素早くリロードする。

 

「多分弱点は熱だな。タールで焼き尽くすか?」

「無茶言うなよ。ここでやったら一酸化中毒で全員死ぬぞ。仕方ないここで切り札を切れ。」

「はいはい。」

 

俺は少し睨み限界突破を発動する

加速していくと広範囲に針が放たれるが最低限はハジメが落としてくれる

 

「飯塚流剣術奏刀。」

 

俺は足を目掛けて放つと思った通りその攻撃を予想してなかったのかポトリち地に落ちる

 

「ハジメ。」

 

と叫んだその時だった

 

吸血鬼は、おもむろに立ち上がりサソリモドキに向けて片手を掲げた。同時に、その華奢な身からは想像もできない莫大な魔力が噴き上がり、彼女の魔力光なのだろう――黄金色が暗闇を薙ぎ払った。

そして、神秘に彩られた魔力色と同じ黄金の髪をゆらりゆらゆらとなびかせながら、一言、呟いた。

 

「〝蒼天〟」

 

 その瞬間、サソリモドキの頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。

直撃したわけでもないのに余程熱いのか悲鳴を上げて離脱しようとするサソリモドキ。

だが、奈落の底の吸血姫がそれを許さない。ピンっと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られる。青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、逃げるサソリモドキを追いかけ……直撃した。

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

ナイス。

心の中で声援を送り

 

「覇剣。」

 

と俺は熱で溶けたところを正確に切り落とす。やがて、サソリモドキがゆっくりと傾き、そのままズズンッと地響きを立てながら倒れ込んだ。



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ユエ

「悪いな。」

 

サソリモドキを倒した俺達は、サソリモドキとサイクロプスの素材やら肉やらをハジメの拠点に持ち帰った。

その巨体と相まって物凄く苦労したのだが、最上級魔法の行使により、へばったユエに再度血を飲ませると瞬く間に復活し見事な身体強化で怪力を発揮してくれたため、二人がかりでなんとか運び込むことができた。

なお俺は限界突破の後遺症で全く動けなくなったんだが

どうやら吸血姫はユエといいハジメが名付けたらしく何処かの国で月っていうらしい

俺はへぇ〜と一つ知識が増えたところで、消耗品を補充しながらお互いのことを話し合っていた。

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

「……マナー違反」

「お前失礼の文字を覚えようぜ。」

 

三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされていたはずだ。実際、ユエも長年、物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚はほとんどないそうだが、それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。二十歳の時、封印されたというから三百歳ちょいということだ。

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

「……私が特別。〝再生〟で歳もとらない……」

「うぉ。不老不死か。」

 

聞けば十二歳の時、魔力の直接操作や〝自動再生〟の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。

ちなみに、人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。

ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。

なるほど、あのサソリモドキの外殻を融解させた魔法を、ほぼノータイムで撃てるのだ。しかも、ほぼ不死身の肉体。行き着く先は〝神〟か〝化け物〟か、ということだろう。ユエは後者だったということだ。

なんというか力を持ちすぎた人の定だろう

ユエは全属性に適性があるらしい。本当に「なんだ、そのチートは……」と呆れるハジメだったが、ユエ曰く、接近戦は苦手らしく、一人だと身体強化で逃げ回りながら魔法を連射するくらいが関の山なのだそうだ。もっとも、その魔法が強力無比なのだから大したハンデになっていないのだが。

 

「それで……肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」

「……わからない。でも……」

 

 ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。

 

「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者?」

 

 聞き慣れない上に、なんとも不穏な響きに思わず錬成作業を中断してユエに視線を転じる俺たち。ハジメの作業をジッと見ていたユエも合わせて視線を上げると、コクリと頷き続きを話し出した。

 

「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属のこと。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

「……へぇ〜。」

 

なんかかっこいいと思ったのは内緒だ

 

 ユエ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。

その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

 

「……そこなら、地上への道があるかも……」

「なるほど。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか」

「んじゃどっちにしろ攻略がメインになるのかな。」

 

と俺は苦笑する

 

「……ハジメ、どうしてここにいる?」

 

 当然の疑問だろう。ここは奈落の底。正真正銘の魔境だ。魔物以外の生き物がいていい場所ではない。

 

 ポツリポツリと、しかし途切れることなく続く質問に律儀に答えていくハジメ。

 

 ハジメ自身も会話というものに飢えていたのかもしれない。面倒そうな素振りも見せず話に付き合っている。ハジメがなんだかんだでユエには甘いというのもあるだろう。もしかすると、ハジメが目的のためには本当の意味で手段を選ばない外道に落ないための最後の防波堤に、ユエがなり得るということを無意識に感じているのかもしれない。

ハジメが、仲間と共にこの世界に召喚されたことから始まり、無能と呼ばれていたこと、ベヒモスとの戦いでクラスメイトの誰かに裏切られ奈落に落ちたこと、魔物を喰って変化したこと、爪熊との戦いと願い、ポーション(ハジメ命名の神水)のこと、故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついたことをツラツラと話していると、いつの間にかユエの方からグスッと鼻を啜るような音が聞こえ出した。

「なんだ?」と再び視線を上げてユエを見ると、ハラハラと涙をこぼしている。ギョッとして、ハジメは思わず手を伸ばし、流れ落ちるユエの涙を拭きながら尋ねた。

 

「いきなりどうした?」

「……ぐす……ハジメ……つらい……私もつらい……」

「まぁ最大の被害者は昴なんだけどな。」

 

どうやら、ハジメのために泣いているらしい。ハジメは少し驚くと、表情を苦笑いに変えてユエの頭を撫でる。てか完全に俺はユエの眼中にないよな。

 

「気にするなよ。もうクラスメイトのことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」

「まぁ、俺も香織と八重樫以外は正直どうでもいいけど。」

「誰?」

「友達だよ。」

「白崎はお前のこと好きだと思うけどな。」

「知っている。」

 

すると俺は苦笑する

 

「……帰るの?」

「うん? 元の世界にか? そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。……色々変わっちまったけど……故郷に……家に帰りたい……」

「……そう」

 

 ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

「……私にはもう、帰る場所……ない……」

「……俺もだな。」

「昴も?」

「俺も一年前に両親亡くしているんだよ。」

「……そう。」

 

ハジメがすると苦笑して再度、ユエの頭を撫でた。

 

「あ~、なんならユエも来るか?」

「え?」

 

ハジメの言葉に驚愕をあらわにして目を見開くユエ。涙で潤んだ紅い瞳にマジマジと見つめられ、なんとなく落ち着かない気持ちになったハジメは、若干、早口になりながら告げる。

 

「いや、だからさ、俺の故郷にだよ。まぁ、普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど……今や俺も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし……あくまでユエが望むなら、だけど?」

 

 しばらく呆然としていたユエだが、理解が追いついたのか、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。

 

「お前も。多分俺の母さんも父さんも心配していると思うぞ。家族なんだし。」

「……そうだな。」

 

俺は少し苦しながらに笑う。未だに俺はあのことについて引きずっているのだ。

 

「とりあえず飯にしようぜ。俺は肉を焼いてくるから。」

 

まぁ気を使って俺はとりあえず二人っきりにさせようか

 

「ついでにユエの血はハジメのでいいか?」

「うん。」

「なっ。」

 

ということで奈落の底でのんびり過ごしている俺たちがいた



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寄生

「だぁー、ちくしょぉおおー!」

「……ハジメ、ファイト……」

「お前は気楽だな!」

「二人だけじゃなくて俺もいるんだけどな。」

 

猛然と草むらの中を逃走していた。周りは百六十センチメートル以上ある雑草が生い茂りハジメの肩付近まで隠してしまっている。ユエなら完全に姿が見えなくなっているだろう。

そんな生い茂る雑草を鬱陶しそうに払い除けながら、ハジメが逃走している理由は、

 

「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」

 

二百体近い魔物に追われているからである。

ハジメ達が準備を終えて迷宮攻略に動き出したあと、十階層ほどは順調よく降りることが出来た。ハジメの装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、ユエの魔法が凄まじい活躍を見せたというのも大きな要因だ。

全属性の魔法をなんでもござれとノータイムで使用し的確にハジメと俺を援護する。

ただ、回復系や結界系の魔法はあまり得意ではないらしい。〝自動再生〟があるからか無意識に不要と判断しているのかもしれない。もっとも、俺たちには神水があるのでなんの問題もなかったが。

 

「邪魔。」

 

俺はまた花が生えたモンスターを切り捨てる。

最近またレベルが上がっているので最近人間というのもバカらしくなってきた。

最近ストレスを抱えることが多い。というのも

 

「あ~、ユエ? 張り切るのはいいんだけど……最近、俺、あまり動いてない気がするんだが……」

 

 ユエは振り返ってハジメを見ると、無表情ながらどこか得意げな顔をする。

 

「……私、役に立つ。……パートナーだから」

 

どうやら、ただハジメの援護だけしているのが我慢ならなかったらしい。

確か、少し前に一蓮托生のパートナーなのだから頼りにしているみたいな事を言ったような、と、ハジメは首を傾げる。

その時は、ユエが、魔力枯渇するまで魔法を使い戦闘中にブッ倒れてちょっとした窮地に陥ってしまい、何とか脱した後、その事をひどく気にするので慰める意味で言ったのだが……思いのほか深く心に残ったようである。パートナーとして役立つところを見せたいのだろう。

 

「はは、いや、もう十分に役立ってるって。ユエは魔法が強力な分、接近戦は苦手なんだから後衛を頼むよ。前衛は俺の役目だ」

「……ハジメ……ん」

「あのいちゃつくのやめてくれませんかね?戦闘中ですよ。お二人さん。」

 

このバカップルである。ハジメに大事なものができたのはいいんだけど戦闘中関わらずいちゃつくのは勘弁してほしい

 

 そうして、生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長二メートル強の爬虫類、例えるならラプトル系の恐竜のような魔物がいた。

 

 頭からチューリップのような花をひらひらと咲かせて。

 

「……かわいい」

「……流行りなのか?」

「……」

 

 ユエが思わずほっこりしながら呟けば、ハジメはシリアスブレイカーな魔物にジト目を向け、有り得ない推測を呟く。

 

 ラプトルは、ティラノと同じく、「花なんて知らんわ!」というかのように殺気を撒き散らしながら低く唸っている。臨戦態勢だ。花はゆらゆら、ふりふりしているが……

 

「シャァァアア!!」

 

 ラプトルが、花に注目して立ち尽くすハジメ達に飛びかかる。その強靭な脚には二十センチメートルはありそうなカギ爪が付いており、ギラリと凶悪な光を放っていた。

俺たちは回避するとハジメは 〝空力〟を使って三角飛びの要領でラプトルの頭上を取った。そして、試しにと頭のチューリップを撃ち抜いてみた。

 

 ドパンッという発砲音と同時にチューリップの花が四散する。

 

 ラプトルは一瞬ビクンと痙攣したかと思うと、着地を失敗してもんどり打ちながら地面を転がり、樹にぶつかって動きを止めた。シーンと静寂が辺りを包む。ユエもトコトコとハジメの傍に寄ってきてラプトルと四散して地面に散らばるチューリップの花びらを交互に見やった。

 

「……死んだ?」

「いや、生きてるっぽいけど……」

 

 ハジメの見立て通り、ピクピクと痙攣した後、ラプトルはムクッと起き上がり辺りを見渡し始めた。そして、地面に落ちているチューリップを見つけるとノッシノッシと歩み寄り親の敵と言わんばかりに踏みつけ始めた。

 

「え~、何その反応、どういうこと?」

「……イタズラされた?」

「いや、そんな背中に張り紙つけて騒ぐ小学生じゃねぇんだから……」

「やっぱ弱いな。」

「何が?」

「いや、やっぱり迷宮の敵にしたら弱すぎると思わないか?」

 

俺の声にハッとする二人

 

「多分寄生だな。花が付いている魔物が寄生されていると思っていいだろう。」

「さすが参謀。」

「……なかなかやる。」

「お前ら。とりあえず無視して本株さがすぞ。」

 

と冒頭に戻るんだが

ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 

 と、地響きを立てながら迫っている。背の高い草むらに隠れながらラプトルが併走し四方八方から飛びかかってくる。それを迎撃しつつ、探索の結果一番怪しいと考えられた場所に向かいひたすら駆けるハジメ。ユエも魔法を撃ち込み致命的な包囲をさせまいとする。

 

カプッ、チュー

 

 俺が睨んだのは樹海を抜けた先、今通っている草むらの向こう側にみえる迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの洞窟らしき場所だ。

なぜ、その場所に目星をつけたのかというと、襲い来る魔物の動きに一定の習性があったからだ。ハジメ達が迎撃しながら進んでいると、ある方向に逃走しようとした時だけやたら動きが激しくなるのだ。まるで、その方向には行かせまいとするかのように。このまま当てもなく探し続けても魔物が増え続けるだけなのでイチかバチかその方向に突貫してみることにしたというわけである。

どうやら、草むらに隠れながらというのは既に失敗しているので、俺たちは〝空力〟で跳躍し、〝縮地〟で更に加速する。

 

 

 

「ユエさん!? さっきからちょくちょく吸うの止めてくれませんかね!?」

「……不可抗力」

「嘘だ! ほとんど消耗してないだろ!」

「……ヤツの花が……私にも……くっ」

「何わざとらしく呻いてんだよ。ヤツのせいにするなバカヤロー。ていうか余裕だな、おい」

「……フラグにしか聞こえないんだけど」

 

力が抜けるんだけど。こんな状況にもかかわらず、ハジメの血に夢中のユエ。元王族なだけあって肝の据わりかたは半端ではないらしい。そんな風に戯れながらもきっちり迎撃し、ハジメ達は二百体以上の魔物を引き連れたまま縦割れに飛び込んだ。

縦割れの洞窟は大の大人が二人並べば窮屈さを感じる狭さだ。ティラノは当然通れず、ラプトルでも一体ずつしか侵入できない。何とかハジメ達を引き裂こうと侵入してきたラプトルの一体がカギ爪を伸ばすが、その前にハジメのドンナーが火を噴き吹き飛ばした。そして、すかさず錬成し割れ目を塞ぐ。

 

「ふぅ~、これで取り敢えず大丈夫だろう」

「……お疲れさま」

「そう思うなら、そろそろ降りてくれねぇ?」

「……むぅ……仕方ない」

 

 ハジメの言葉に渋々、ほんと~に渋々といった様子でハジメの背から降りるユエ。余程、ハジメの背中は居心地がいいらしい。

 

「さて、あいつらやたら必死だったからな、ここでビンゴだろ。油断するなよ?」

「ん」

「……はぁ。コーヒーブレイクしたいなぁ。」

 

甘ったるくて仕方がない

しばらく歩くと気配感知に反応がある

全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできたのだ。ハジメとユエは一瞬で背中合わせになり、飛来する緑の球を迎撃する。まぁ俺は一人で追撃しているわけなんだけど

 

「ユエ、おそらく本体の攻撃だ。どこにいるかわかるか?」

「……」

「ユエ?」

 

と俺はその瞬間ユエの頭に刀である一点だけを切りつけた

 

「えっ?」

「やっぱり寄生されていたか。変なフラグ建てやがって。」

「悪い。助かった。」

 

多分この緑の球は神経毒だろう。俺は耐性があるから平気だから

 

「ちょっくらヤってくるわ。」

 

俺は神速で加速しアルラウネやドリアード等という人間の女と植物が融合したような魔物がRPGにはよく出てくる。俺の前に現れた魔物は正しくそれだった。もっとも、神話では美しい女性の姿で敵対しなかったり大切にすれば幸運をもたらすなどという伝承もあるが、目の前のエセアルラウネにはそんな印象皆無である。

 

「まぁ死ね。」

 

俺は剣を奮うと一瞬で全てを切り捨てる

これで任務は終了だ

 

「ふぅ。」

 

と俺は少しため息を吐く

……流石にこいつは食う気になれないなぁ。

そんなことを思いながら



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ヒュドラ

「やっとここまできたか。」

「そうだな。」

 

次の階層で最初にいた階層から百階目になるところまで来た。その一歩手前の階層でハジメは装備の確認と補充にあたっていた。相変わらずユエは飽きもせずにハジメの作業を見つめている。というよりも、どちらかというと作業をするハジメを見るのが好きなようだ。今も、ハジメのすぐ隣で手元とハジメを交互に見ながらまったりとしている。その表情は迷宮には似つかわしくない緩んだものだ。

ついでに俺は軽くモンスターの肉を食べながらのんびりしている

ちなみに今の俺ののステータスはこうだ。

 

飯塚昴 17歳 男 レベル:87

天職 剣士

筋力 5000 

体力 3900

耐性 1000

敏捷 7500

魔力 2000

魔耐 2000

 

技能 二刀流[+剣舞] [+剣技][+神速][+精神統一] 隠密 直感 投剣 限界突破  魔力操作 胃酸強化 天歩[+空力][+縮地] 豪腕 夜目 遠見 気配感知[+範囲拡大] 魔力感知 空間把握 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 金剛 威圧 念話 無属性適正 言語理解

 

ハジメよりもステータスは高いことから多分職業次第でステータスの変化の違いがあることが予想されることを見てハジメが少し凹んでいたのだが

 

「んじゃいくか。」

「了解。」

 

全ての準備を終えた俺たちは、階下へと続く階段へと向かった。

その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。

 

 

「技術は分からないけど幻想的だな。それと奥に行ったら大きな部屋らしきものがある。一応この地域はセーフティーゾーンだから警戒しないで良さそうだぞ。」

「そうなのか?」

「感知で感じた辺りではな。」

 

俺はすでに警戒を解いていることからハジメたちも解いたらしい

二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「……これはまた凄いな。もしかして……」

「……反逆者の住処?」

 

 いかにもラスボスの部屋といった感じだ。実際、感知系技能には反応がなくともハジメの本能が警鐘を鳴らしていた。この先はマズイと。それは、ユエも感じているのか、うっすらと額に汗をかいている。

 

「ハッ、だったら最高じゃねぇか。ようやくゴールにたどり着いたってことだろ?」

「まぁ邪魔するものがいるのなら殺して食うだけだろ。」

「……んっ!」

 

と扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

その瞬間、扉とハジメ達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

「どうやらラスボス戦らしいぜ。」

「おいおい、なんだこの大きさは?」

「……大丈夫……私達、負けない……」

「当たり前だろ。」

 

俺は剣を握り魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにする。光が収まった時、そこに現れたのは……

 

体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

「うぉ。かっけ。」

 

不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光がハジメ達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気が叩きつけられた。

 

悪いが先手はもらうぞ

 

俺は白色の首に走りこんでいくと黄色の文様の頭がサッと入り込む

 

「邪魔だ。」

 

俺は両手の剣で切り落とそうとすると黄色に直撃する。しかし硬くてきれないことから多分防御力が優れているんだろう。すると白い光が包み込んだ。すると、まるで逆再生でもしているかのように頭が元に戻った。白頭は回復魔法を使えるらしい。

 

「……やばっ。ハジメ黄色首は盾役っぽい。俺が惹きつけるから白いやつから殺せ。ヒーラーだ。」

「っ了解。」

 

念話でハジメに送る。やっかいな奴は俺が全部引き受けるのが最近多くなっている

俺が黄色頭と戦闘をしていると次第にこっちに来る首の数が多くなっているのを感じる

回避に専念していると俺は諦めたように呟いた

 

「限界突破。」

 

初っ端使うのはもったいないって言っているべきではなく本当にピンチだった

それでも数はどんどん増えていき俺に襲いかかる数はすでに5体になっていた

俺は直感だよりに避け続ける。それほどに攻撃密度が高く俺が攻撃する暇がなくなっていた

やばいなと冷や汗をかいたところだった

 

「〝緋槍〟! 〝砲皇〟! 〝凍雨〟!」

 

 矢継ぎ早に引かれた魔法のトリガー。有り得ない速度で魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と鋭い針のような氷の雨が一斉にヒュドラを襲う。

 

「おせぇよ何してたんだよお前ら。」

「……ごめん。美味しかった。」

「……」

 

吸血か?まぁそれならいいけど

 

「とりあえずやられてないんなら頼む。俺限界突破使っているから。」

「……ん。任せて。」

 

「クルゥアン!」

 

 すると近くの柱が波打ち、変形して即席の盾となった。どうやらこの黄頭はサソリモドキと同様の技が使えるらしい。もっとも規模は幾分小さいようだが。

ユエの魔法はその石壁に当たると先陣が壁を爆砕し、後続の魔法が三つの頭に直撃した。

 

「「「グルゥウウウウ!!!」」」

 

 悲鳴を上げのたうつ三つの頭。黒頭が、魔法を使った直後のユエを再びその眼に捉えるが。

 

「おせぇよ。」

 

俺がその隙に三つの頭を真っ二つにする。

 

「ハジメ。」

 

「任せろ。」

 

 ハジメが〝纏雷〟を使いシュラーゲンが紅いスパークを起こす。弾丸はタウル鉱石をサソリモドキの外殻であるシュタル鉱石でコーティングした地球で言うところのフルメタルジャケットだ。シュタル鉱石は魔力との親和性が高く〝纏雷〟にもよく馴染む。通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こした。

 

ドガンッ!!

 

 大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共にフルメタルジャケットの赤い弾丸が、更に約一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられる。その威力はドンナーの最大威力の更に十倍。単純計算で通常の対物ライフルの百倍の破壊力である。異世界の特殊な鉱石と固有魔法がなければ到底実現し得なかった怪物兵器だ。

発射の光景は正しく極太のレーザー兵器のよう。かつて、勇者の光輝がベヒモスに放った切り札が、まるで児戯に思える。射出された弾丸は真っ直ぐ周囲の空気を焼きながら黄頭に直撃した。

黄頭もしっかり〝金剛〟らしき防御をしていたのだが……まるで何もなかったように弾丸は背後の白頭に到達し、そのままやはり何もなかったように貫通して背後の壁を爆砕した。階層全体が地震でも起こしたかのように激しく震動する。

 

「終わったな。」

 

俺は剣をしまおうとすると

 

「ハジメ!」

 

 ユエの切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれたユエの視線を辿ると、音もなく七つ目の頭が胴体部分からせり上がり、ハジメを睥睨していた。思わず硬直するハジメ。

 

「ヤベェ。」

 

俺は全速力で向かおうとすると

 

全身が急に重くなったように感じる

 

やばっ。効果が

 

俺はすると体が重くなり意識を失っていく

そして暗闇の中に吸い込まれていった。



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大迷宮の終着地

体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。これは、そうベッドの感触である。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、目がさめる

 

「……」

 

覚醒しきらない意識のまま俺は少しだけ驚く

 

「生きていたのか。」

 

俺は少しだけ安心の安堵の気持ちになる

とりあえず多分ユエとハジメが運んでくれたのだろうと思い俺は少しボーとすると

 

「いっ。」

 

体の全身から痛みが押し寄せ体に激痛が走る。

 

「起きたか?」

 

するとハジメの声が聞こえる。するとそこにはハジメとユエの姿があった。

 

「よう。ハジメ。ってかなんか全身の節々が痛いんだけど。」

「……あぁ。多分限界突破の派生の副作用じゃないか?ステータス見させてもらったけど。覇潰が追加されていたからな。」

 

ステータスをみると確かに追加されていることから無意識的に使っていたのだろう。

 

「まぁ、それでここは?」

「どうやらここは解放者の住処らしい。」

 

するとハジメは説明をし始める。

この迷宮の創造者、オスカー・オルクスが魔法陣に残していた記録映像から、この世界の真実が語られた。

この世界の争いは初めから神の遊戯として作られたものであり、反逆者と呼ばれる人達はそんな神を殺そうとしていたがその神の策略により真実を知らない周りの人間達を巧みに煽動し、逆に反逆者を追い詰めた。

七人の反逆者いわゆる“解放者”は散り散りとなりながらも各地で迷宮を作り上げ、その攻略者に自身の神代の魔法を授けるという手段を取ったとの事。

そして神代魔法としての生成魔法をてにいれたことを

 

「神代魔法か。」

 

俺はベッドから起き上がり体の淵が痛いまま話を聞く。

 

「それでどんな魔法なんだ?」

「魔法を鉱物に付与して特別な鉱石を作れる魔法だな。」

「は?」

 

俺は思わず息を呑んでしまう。つまりアーティファクトを作れる魔法ってことか。

 

「それでなんだが俺とユエはしばらく滞在しようと思うんだが。」

「それは賛成。俺たちも強くなったとはいえ今後は大迷宮に挑み続けると思うしな。それにしてもなんかハジメ雰囲気が変わった?」

「は?」

「なんというか大人っぽくなったっていうか。先を越されたってような。」

 

なんとなく言葉にしていくとあることに気づく

 

「ハジメ?ユエは?」

 

そうだユエがいないのだ。するとハジメが目を逸らす

すると少し顔を赤く染めていることから。俺はニヤニヤとハジメの方を見た

 

「へぇ〜俺が寝込んでいる間に大人の階段登ったのか。」

「……お前その言い方は。」

「へぇ〜よかったじゃん。くっついて。」

「……まぁな。」

 

少し照れくさそうにしているハジメに少し暖かい目でみてしまう。

幸せそうなハジメに俺は笑顔を送るのだった。

 

 

「お〜いできたぞ。」

「……む〜。」

「おっ。相変わらず美味そうだ。」

 

あれから50日が経ち俺は料理を振る舞う。ユエもハジメも料理ができないので俺が食当番をしていた

まぁ、さすがに一人暮らし生活が長かったこともあり、俺はまんべんもなくその才能を発揮していた

料理、洗濯、掃除。

俺は色々こなしながらサポートしていった。

 

とりあえず今のステータスというと

 

飯塚昴 17歳 男 レベル:???

天職 剣士

筋力 20390

体力 15039

耐性 5030

敏捷 30291

魔力 15093

魔耐 15093

 

技能 剣術 二刀流[+剣舞] [+剣技][+神速][+精神統一][+武器破壊][+黒の剣士] 隠密 直感 投剣 限界突破[+覇潰]魔力操作 胃酸強化 天歩[+空力][+縮地] 豪腕 夜目 遠見 気配感知[+範囲拡大][+特定感知] 魔力感知[+特定感知] 熱源感知[+特定感知] 気配遮断[+幻踏]錬成 家事  毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 金剛 威圧 念話 氷結 無属性適正[+効果上昇] 生成魔法 言語理解

 

レベルは100を成長限度とするその人物の現在の成長度合いを示す。しかし、魔物の肉を喰いすぎて体が変質し過ぎたのか、ある時期からステータスは上がれどレベルは変動しなくなり、遂には非表示になってしまった。

それと一番驚いたのはサソリを食べた時に錬成を手にいれたことだろう。

 

「とりあえずもうそろそろでようぜ。もう流石に飽きた。」

「お前は白崎に会いたいだけだろ?」

 

ニヤニヤしているハジメだけど

 

「でも日本に帰る以上迷宮に潜らないといけないだろ?それにもうステータス俺上がらないんだよ。」

 

事実俺はもうどんな魔物を食べてもレベルもステータスも変化しないようになっていた。

 

「……ハジメよりも強い。」

「耐久以外はな。」

「それよりも剣がチートだろ?生成も完全に俺レベルだろ?」

「俺魔法適正あるはずなのになぜか属性魔法の覚えが悪かったからな。こういった神代魔法に適正が傾いているんだと思うぞ。」

 

実際魔法適正は高かったものの無属性魔法という誰もが見たことのない魔法を覚えることになった。

ハジメの作った武器に自分で生成魔法でエンチャントをつけるのが基本のパターンだ

 

「まぁ剣には虹色カエルの神経毒と蛾の麻痺毒を加えたし。予備の武器は氷結と石化それと恐慌だからなぁ。」

「殺意高すぎるだろ。」

「……鬼」

「鬼はお前だろうが。作ったのはハジメだろ?」

 

まぁおかげでハジメすら当たるとまずいバケモノ剣ができたわけだが。

なお、恐慌は精神体を斬る剣であって前にユエが取り憑かれたときの対策である。

精神的な攻撃をずっと永遠に見せ殺さないようにする拷問用の

 

「それよりも黒の剣士が嫌なんだけど。八重樫から絶対からかわれると思うんだが。」

「……それは。」

「でも隠密系能力にボーナスつくんだろ?」

「……剣士っていうより暗殺者。」

「すげぇ言われようだな。まぁ事実だし強いから外せないけどな。」

 

黒の剣士はスピード補正に気配遮断と隠密の成功確率を30%上がるという化け物補正を持っている

 

「まぁそれはお前らもだろ?武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろうしな。」

「ん………」

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「ん……」

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれないぞ」

「ん……」

「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

「今更……」

「同感。」

 

俺は肉を噛みちぎる

 

「俺たちは絶対に日本に帰る。」

「俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう」

「ん。」

「もうせっかくだし飯食ったら出ようぜ。今から行ったら丁度地上は朝だ。準備はできているんだろ?」

 

すると全員が頷く。

そして準備をして暫くした後に俺たちは共に地上への転送用の魔方陣を起動する。

すると洞窟であったことにハジメが突っ込みをいれると俺たちは反逆者の隠れ場だったんだから隠すのは当たり前だろうと突っ込みを入れたのでなんとも閉まらない形でここからでるのだった。



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脱出

ヒロイン入ります


「戻ってきたぞ、この野郎ぉおおおおおおおおおおおッ!!」

「んっーーーーーーー!!」

「……」

 

ハジメとユエは当然の流れのようにそのまま抱きしめ合い、くるくると廻り始める。

 

「はぁ。しゃーなし。」

 

ハジメたちがこんなんなので俺は紫と黒の剣を構える

気配感知には多数の魔物が引っかかりしかも囲まれている

このバカップルはどうでもいいので俺は息を吐き

高速で地を蹴った

 

とりあえず切れ味を確かめてみるか

俺はとりあえず剣を構え

 

「飯塚一刀流剣術覇刀。」

 

魔力の塊を乗せた剣撃が放つ。魔力消費がなくても剣撃を10mは飛ばすことに成功しておりライセンの大迷宮では俺主体の攻略になることが決定していた

するとバターみたいに切れるんだけど。

 

「幾ら何でも弱すぎないか?」

 

俺は切りごたえのないどころか一撃で倒れる敵に対して突っ込んでしまう。

すると声が聞こえていたのか知らないが俺に囲んで押し寄せて来る敵を威圧で黙らせる

 

「死ね。」

 

俺は斬り刻むと俺は少し息を吐く

これでとりあえずは蹴散らすことに成功したらしい。

俺は魔石を取りハジメの所に戻ると

 

「お前どこにって早くないか?」

「てめぇらがいちゃついているから周辺の敵を蹴散らしてきたんだよ。強さ。多分オルクスの大迷宮の勇者たちの方の90層くらいじゃないか?」

「てかお前刀なんて使えたんだな。」

「剣道は合わなかったけど元々居合とかは才能はあったらしいからな。少しは真剣は振ったことがあるんだよ。」

 

俺は刀を鞘に入れる。俺の利点は剣を多数操れることだ。

 

「さて、この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……どうする? ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

「……なぜ、樹海側?」

「いや、峡谷抜けて、いきなり砂漠横断とか嫌だろ? 樹海側なら、町にも近そうだし。」

「……確かに」

「とりあえず調味料くらいは買いたいなぁ。一応いくつか宝物庫に食料は入れてきたけど一週間ぐらいしか持たないぞ。」

 

とりあえず移動するか

右手の中指にはまっている〝宝物庫〟に魔力を注ぎ、魔力駆動二輪を取り出す。

ハジメ作の地球のガソリンタイプと違って燃焼を利用しているわけではなく、魔力の直接操作によって直接車輪関係の機構を動かしているので、駆動音は電気自動車のように静かである。

しばらく魔力駆動二輪を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧である。少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようだ。もう三十秒もしない内に会敵するだろう。

その向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある。双頭のティラノサウルスモドキだ。

だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女と必死にその少女を守ろうとしているウサミミの少女だろう。

 

「……何だあれ?」

「……兎人族?」

「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」

「んなわけないだろ。元々温厚な性格だから樹林に潜んでいる種族って本には書いてあった。」

「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」

「……悪ウサギ?」

「それならもう一人のウサギはなんだよ。短剣。あれ結構業物だと思うぞ。」

 

ハジメとユエは首を傾げながら、逃げ惑うウサミミ少女を尻目に呑気にお喋りに興じる。助けるという発想はないらしい。

すると戦っているウサギをみると

 

「は?」

 

俺はありえない現象に目を見開いてしまう

 

「やべぇ。あの戦っているウサギの気配全く掴めない。」

「……なっ?お前がか。」

 

ハジメが驚く。索敵に関してはこの中で一番俺が優れているのだ

 

「単純に無意識かもしれないけどこいつ純粋に隠密が俺並にあるぞ。」

「わぉ。それはやばいな。」

「……凄い。」

「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

 滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろにはもう一匹双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。

 

「うわ、モンスタートレインだよ。勘弁しろよな」

「……迷惑」

「お前ら。」

 

やはり助ける気はないらしい。必死の叫びにもまるで動じていなかった。むしろ、物凄く迷惑そうだった。まぁ正直同感だけど。助ける気がないと悟ったのか少女の目から、ぶわっと更に涙が溢れ出した。一体どこから出ているのかと目を見張るほどの泣きっぷりだ。

 

「まっでぇ~、みすでないでぐだざ~い! おねがいですぅ~!!」

「お姉ちゃん動かないでそいつ殺せない。」

「……なんでそのネタ知っているんだ。って」

 

ティラノは一匹討伐されていたところだった。っていうよりも持っている短剣に炎が纏っている

 

「固有技能か。」

「それもかなりの量の魔力を持っているらしいな。」

「……残念ウサギはともかく強いウサギは助けるべき。」

「はぁ。ちょっと斬ってくる。」

 

俺は少し刀を持つ。威力を抑えてちょっと控えめに

刀を握り居合のポーズをとり一瞬で斬り捨てた。

 

「えっ?」

 

鞘にしまうとティラノは真っ二つに斬れるがまだ死んではおらず動いている。

 

おっ。死んでいないのかそれならもう1撃。

と俺はもう一度居合を放とうとすると白眼を向きバタンと倒れる

 

「し、死んでます...そんなダイヘドアが一撃なんて...」

 

残念なウサミミ少女は驚愕も表に目を見開いている。どうやらあの双頭ティラノは〝ダイヘドア〞というらしい。

 

「大丈夫か?」

 

俺は声をかけると強いうさ耳少女は頰を赤く染め

 

「王子様!?」

「は?」

 

ぶっ飛んだことを言い始めたウサギに俺は頭を抱えそうになった。



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ユキの苦悩

「王子様!?」

「は?」

 

目の前の少女は何を言っているのだろうか。俺は少し頰を引きつってしまう

熱っぽい視線や状況から俺は頭を掻く

 

「いや、違うからな。てかお前は。」

「あっ。失礼しました。ぼくは兎人族ハウリアの長の娘ユキ・ハウリアと言います。先ほどはお姉ちゃんを助けていただきありがとうございました。」

 

どうやら礼儀はきちんとしているのだけど

目がキラキラしている。

どうやら助けたので憧れや妙に補正がかかって見えているらしい。

 

―――― アッーーーー!!

 

するとそんな声が聞こえてくる

 

「お姉ちゃん!!」

「うぉ。」

 

きっかり十秒後、グシャ!という音と共にハジメ達の眼前に墜落した。

 

「お前ら何やっているんだよ。」

「……ん。昴は大きい方が好き?」

「……悪いどういう意味かわからん。」

 

本当に大きいってどういう意味か分からない。

 

「......ハジメはおっきい方が好き?」

「......ユエ、大きさの問題じゃあない。相手が誰か、それが一番重要だ」

「あぁ。そういうことか。ハジメは大きいものの方が好きだぞ。コレクションに大きいのばっかり入っているし。」

「すばる!!」

 

ついでに俺はあまり気にしないしハジメもそれを知っているので反論できない。

 

「アイツ動いてるぞ......本気でゾンビみたいな奴だな。頑丈とかそう言うレベルを超えている気がするんだが......」

「........................ん」

「てか身体強化だろ?そうじゃないと説明がつかないし。……ってそういや亜人族って魔力を持っていない種族だよな?」

 

いつもより長い間の後、返事をしてくれたことにホッとしている

と、ズボッという音と共にシアが泥だらけの顔を抜き出した。

 

「うぅ〜ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに......」

「お姉ちゃんが余計なことを言うからでしょ。申し訳ありません。お姉ちゃんが残念で。」

「ちょっとどういうことですかユキ。」

「話が進みやしねぇ。」

 

「はぁ〜、お前の耐久力は一体どうなってんだ? 尋常じゃないぞ......何者なんだ?」

 

ハジメの胡乱な眼差しに、ようやく本題に入れると居住まいを正す残念ウサギ。バイクの座席に腰掛けるハジメ達の前で座り込み真面目な表情を作った。もう既に色々遅いが......

 

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は......」

 

そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子の双子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、姉の髪は青みがかった白髪、妹の方はうさ耳が丸みがかかり雪のように純白だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。

 

当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。

 

「んでバレてフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たところを帝国兵に捕まったか。」

「はい。さすがにボクだけじゃ物量に押し切られてしまって。」

「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

 最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。どうやら、シアは、俺たちと同じ、この世界の例外というヤツらしい。

 

「断る」

 

ハジメの端的な言葉が静寂をもたらした。何を言われたのか分からない、といった表情のシアは、ポカンと口を開けた間抜けな姿でハジメをマジマジと見つめた。そして、ハジメが話は終わったと魔力駆動二輪に跨ろうとしてようやく我を取り戻し、物凄い勢いで抗議の声を張り上げた。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと! 何故です! 今の流れはどう考えても『何て可哀想なんだ! 安心しろ!! 俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ! 流石の私もコロっといっちゃうところですよ! 何、いきなり美少女との出会いをフイにしているのですか! って、あっ、無視して行こうとしないで下さい! 逃しませんよぉ!」

 

「あのなぁ~、お前等助けて、俺に何のメリットがあるんだよ」

「メ、メリット?」

「帝国から追われているわ、樹海から追放されているわ、お前さんは厄介のタネだわ、デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後どうすんだよ? また帝国に捕まるのが関の山だろうが。で、それ避けたきゃ、また俺を頼るんだろ? 今度は、帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってな」

「うっ、そ、それは……で、でも!」

「俺達にだって旅の目的はあるんだ。そんな厄介なもん抱えていられないんだよ」

「そんな……でも、守ってくれるって見えましたのに!」

「……さっきも言ってたな、それ。どういう意味だ? ……お前の固有魔法と関係あるのか?」

 

 一向に折れないハジメに涙目で意味不明なことを口走るシア。そう言えば、何故シアが仲間と離れて単独行動をしていたのかという点も疑問である。その辺りのことも関係あるのかとハジメは尋ねた。

 

「え? あ、はい。〝未来視〟といいまして、仮定した未来が見えます。もしこれを選択したら、その先どうなるか? みたいな……あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……そ、そうです。私、役に立ちますよ! 〝未来視〟があれば危険とかも分かりやすいですし! 少し前に見たんです! 貴方が私達を助けてくれている姿が! 実際、ちゃんと貴方に会えて助けられました!」

 

あぁだからか。見えましたっていうのは

 

「そういやユキは?」

「ボクは気配を薄くしたり、早く走ることができることかな。後は自分の武器に属性を付けられることができる。」

「あぁ。なるほど。」

 

俺はそれでユキが使えることを認識すると

そしてハジメの方を向き

 

「ハジメ、連れて行こうぜ」

「昴?」

「ハジメ、連れて行こう」

「ユエ?」

「!? 最初から貴女のこといい人だと思ってました! ペッタンコって言ってゴメンなッあふんっ!」

「……バカ姉がすいません。」

 

シアを殴り頭をペコペコ下げるユキに少し同情してしまう。

残念な姉を持つと大変なんだなぁ。と思いつつも俺は理由をいう

 

「「……樹海の案内に丁度いい」」

「あ~」

 

確かに、樹海は亜人族以外では必ず迷うと言われているため、兎人族の案内があれば心強い。樹海を迷わず進むための対策も一応考えていたのだが、若干、乱暴なやり方であるし確実ではない。最悪、現地で亜人族を捕虜にして道を聞き出そうと考えていたので、自ら進んで案内してくれる亜人がいるのは正直言って有り難い。

 

「あまり力に頼っていると痛い目に見るぞ。穏便に行けるんならそっちの方がいいだろ?もし敵なら潰せばいいんだし。」

「……大丈夫、私達は最強」

 

するとハジメは苦笑をし

 

「そうだな。おい、喜べ残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ。」

 

セリフが完全にヤクザである。しかし、それでも、峡谷において強力な魔物を片手間に屠れる強者が生存を約束したことに変わりはなく、シアは飛び上がらんばかりに喜びを表にした。

 

「……よかった。僕だけじゃ限界があったから。」

 

安心したように息を吐くユキ。そういえばユキは穏便な兎人族なのになんであんなに剣筋がよかったのか気になった。

 

「あ、あの、宜しくお願いします! そ、それでお三人のことは何と呼べば……」

「ん? そう言えば名乗ってなかったか……俺はハジメ。南雲ハジメだ」

「飯塚昴。」

「……ユエ」

「ハジメさんと昴さんとユエちゃんですね」

「ユエは吸血鬼だからお前よりずっと年上だぞ。」

「えっすいません。ユエさん。」

 

まぁとりあえず

 

「ユキは俺の後ろに乗れ。ハジメはシアを連れてけよ。」

「なんでだよ。」

「いや。だってもう座っているし。」

 

本当にいつの間にか移動しているんだよなぁ。

 

「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……この乗り物? 何なのですか?」

「あ~、それは道中でな」

 

そう言いながら、俺たちは魔力駆動二輪を一気に加速させ出発した。悪路をものともせず爆走する乗り物に、シアがハジメの肩越しに「きゃぁああ~!」と悲鳴を上げた。地面も壁も流れるように後ろへ飛んでいく。

 

「気持ちいい。」

 

後ろの少女はなかなか度胸がいいのか少し驚きながら楽しんでいるみたいだったが

説明しながら俺はユキと話すと

 

「えっそれじゃあ昴さんも固有魔法が使えたり、魔力を操れたりするんですか?」

「あぁ。といっても俺はどれくらい異常なのかよくわかってないんだけど。」

 

するとユキは自分のことについて話始める

 

ユキとシアは小さいころから集落の外では魔力を持っていたせいで魔物みたいに扱われていたらしい。その度にシアと涙を流し続けた日々が続いていたらしい。でも母親の英雄の話を聞きユキより孤独になるために魔物と戦う決心をした

ユキは分かっていたのだ。いつか自分たちのことがバレてフェアベルゲンを追放。もしくは自分達が処刑をされることを。

自分は処刑されてもいい。でも同じ境遇のシアだけは守りたかったらしい。

自分の特別を家族の為に使えるなら。っと

 

「……あはは。結局は100人近くいたみんなも半分近くもいなくなりましたけどね。」

 

自嘲気味に笑うユキに俺は何も言えないでいた。

さすがにこの少女の境遇は笑える立場にはなかったのだ

ユキは必死に家族を守りたくて自分の嫌いなところを全面に使った

それでも家族を守れなかった苦しさは多分思ってもいない苦痛だろう

しばらく無言で重い空気は漂いながら俺たちは兎人族のいる場所へと急いだ



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帝国兵

「こんなあっさり。」

「俺ばっかり魔物を倒していたから鬱憤が溜まっていたんだな。」

 

俺たちはハジメがハイベリアという魔物を洗い始めに殺している姿をみて苦笑気味に話していた

 

「シア! ユキ!無事だったのか!」

「父様!」

「パパ。」

 

真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。はっきりいってウサミミのおっさんとか誰得である

 

「ハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか......父として、族長として深く感謝致します」

 

そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。

 

「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ? それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに......」

 

カムは、それに苦笑いで返した。

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから......」

 

俺は少しだけ羨ましく感じる。ユキはあぁ言ってはいるけれどちゃんと愛されて育ったのだろう。

 

「……どうしたの?」

「いや。俺の両親死んだからなんかこういうのいいなって思っただけだよ。」

 

ユエも同じように思っているのか頷く。孤独っていうのは本当に辛いのだ。ユエがどれだけ辛かったのか俺には予想もつかないのだが愛されている二人をみて羨ましいと思ってしまう

 

「……守りたいか。」

 

『私が昴くんを守るよ』

 

すると不意にそんな声が聞こえたような気がした。実際聞こえるはずがない声に俺は少し声を失ってしまう。

 

「……あいたいなぁ。」

 

ポツリと自然に言葉が出てくる。

するとハジメとユエが微笑ましそうに見てくると俺は目線をそらし照れたほおを隠した。

 

 

そうこうしている内に、一行は遂にライセン大峡谷から脱出できる場所にたどり着いた。俺が〝遠見〟で見る限り、中々に立派な階段がある。岸壁に沿って壁を削って作ったのであろう階段は、五十メートルほど進む度に反対側に折り返すタイプのようだ。階段のある岸壁の先には樹海も薄らと見える。ライセン大峡谷の出口から、徒歩で半日くらいの場所が樹海になっているようだ。

 

「帝国兵はまだいるでしょか?」

「ん? どうだろうな。もう全滅したと諦めて帰ってる可能性も高いが……」

「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら……ハジメさんと昴さん……どうするのですか?」

「? どうするって何が?」

 

 質問の意図がわからず首を傾げる俺に、意を決したようにシアが尋ねる。周囲の兎人族も聞きウサミミを立てているようだ。

 

「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵……人間族です。ハジメさんと同じ。……敵対できますか?」

「残念ウサギ、お前、未来が見えていたんじゃないのか?」

「はい、見ました。帝国兵と相対するハジメさんを……」

「だったら……何が疑問なんだ?」

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」

「別に敵なら殺すし、味方なら助ける。それだけだろ。」

 

俺の発言にハジメも頷く

 

「いいか? 俺は、お前等が樹海探索に便利だから雇った。んで、それまで死なれちゃ困るから守っているだけ。断じて、お前等に同情してとか、義侠心に駆られて助けているわけじゃない。まして、今後ずっと守ってやるつもりなんて毛頭ない。忘れたわけじゃないだろう?」

「うっ、はい……覚えてます……」

「だから、樹海案内の仕事が終わるまでは守る。自分のためにな。それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間族だろうが関係ない。道を阻むものは敵、敵は殺す。それだけのことだ」

「な、なるほど……」

 

 何ともハジメらしい考えに、苦笑いしながら納得するシア。

 

「でも10日間は霧が濃くて迷宮にはいけないと思うよ。」

「……どういうことだ?」

「大樹の周囲は特に霧が濃くてね、亜人族でも方角を見失うだよ。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければいけないんだ〜。確か次に行けるようになるのは十日後だったはずだよ。......亜人族なら誰でも知っているはずだけど.」

「「あっ」」

 

ユキの言葉にカムとシアは まさに、今思い出したという表情をしていた

 

「まぁユキが思いだせたんだから別にいいだろ。てか父親や姉よりもしっかりした妹。」

「「うっ。」」

「残念うさぎ。」

 

 一行は、階段に差し掛かった。ハジメを先頭に順調に登っていく。帝国兵からの逃亡を含めて、ほとんど飲まず食わずだったはずの兎人族だが、その足取りは軽かった。亜人族が魔力を持たない代わりに身体能力が高いというのは嘘ではないようだ。

 

 そして、遂に階段を上りきり、ハジメ達はライセン大峡谷からの脱出を果たす。登りきった崖の上、そこには五十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、俺達を見るなり驚いた表情を見せた。 だが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した。

 

「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」

 

するとユキの方を見ると驚き武器を構える

 

「小隊長。こいつですよ。セイ隊長を殺した兎人族は。」

「何?」

「白い悪魔だと?」

「こいつだけは気をつけろ。最悪殺してもいい。」

 

 帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、ようやく俺たちの存在に気がついた。

 

「あぁ? お前誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」

「ああ、人間だ」

「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

「「断る。」」

 

俺とハジメは同時に答える。

 

「……今、何て言った?」

「断ると言ったんだ。こいつらは今は俺のもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」

「てか自分の力量くらい武人ならば分かれよ。」

 

 聞き間違いかと問い返し、返って来たのは不遜な物言い。小隊長の額に青筋が浮かぶ。

 

「……小僧たち、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

「十全に理解している。あんたらに頭が悪いとは誰も言われたくないだろうな」

「てかお前らに命令されるほど弱くはないつもりだけど。」

 

スっと表情を消す小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気で俺たちを睨んでいる。

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃんえらい別嬪じゃねぇか。てめぇらの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやる」

「へぇどうするんだって?」

 

俺は一瞬の抜刀術を使い小隊長の四肢を切り落とす

 

「ぎゃぁぁぁ。」

「てめぇは四肢を切り落として何もできない中でゆっくり部下が死んでいくのを楽しんでもらおうか。」

 

返り血を浴びながら笑顔を向ける

するとハジメもその合図と共に一発の破裂音で頭部が砕け散ったからだ。眉間に大穴を開けながら後頭部から脳髄を飛び散らせ、そのまま後ろに弾かれる様に倒れる。

何が起きたのかも分からず、呆然と倒れた兵士を見る兵士達に追い打ちが掛けられた。

ドパァァンッ!

一発しか聞こえなかった銃声は、同時に、六人の帝国兵の頭部を吹き飛ばした。実際には六発撃ったのだが、ハジメの射撃速度が早すぎて射撃音が一発分しか聞こえなかったのだ。

突然、小隊長を含め仲間の頭部が弾け飛ぶという異常事態に兵士達が半ばパニックになりながらも、武器をハジメ達に向ける。過程はわからなくても原因はわかっているが故の、中々に迅速な行動だ。人格面は褒められたものではないが、流石は帝国兵。実力は本物らしい。

剣と銃声はとことんなり響きむしろ、兵士は悪い夢でも見ているのでは? と呆然としながら視線を彷徨わせた。

 

「うん、やっぱり、人間相手だったら〝纏雷〟はいらないな。通常弾と炸薬だけで十分だ。燃焼石ってホント便利だわ」

「そこかよ。」

「ひぃ、く、来るなぁ! い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か! 助けてくれ!」

「殺気を見せたんだ簡単に死ねると思うなよ。」

 

俺はせっかくだし神経毒を含んだ剣で刺すとすぐさま白く泡を吹き始める

 

「迷宮やっぱりやばいな。」

「た、頼む! 殺さないでくれ! な、何でもするから! 頼む!」

「そうか? なら、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが……全部、帝国に移送済みか?」

 

 ハジメが質問したのは、百人以上居たはずの兎人族の移送にはそれなりに時間がかかるだろうから、まだ近くにいて道中でかち合うようなら序でに助けてもいいと思ったからだ。帝国まで移送済みなら、わざわざ助けに行くつもりは毛頭ないだろう

 

「……は、話せば殺さないか?」

「お前、自分が条件を付けられる立場にあると思ってんのか? 別に、どうしても欲しい情報じゃあないんだ。今すぐ逝くか?」

「ま、待ってくれ! 話す! 話すから! ……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」

 

 〝人数を絞った〟それは、つまり老人など売れそうにない兎人族は殺したということだろう。兵士の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族達。俺は、その様子をチラッとだけ見やる。直ぐに視線を兵士に戻すともう用はないと瞳に殺意を宿した。

 

「待て! 待ってくれ! 他にも何でも話すから! 帝国のでも何でも! だから!」

「死人に口無し。」

 

俺は刀を振り下ろす

 

「黙って死ね。」

 

 息を呑む兎人族達。あまりに容赦のない俺の行動に完全に引いているようである。その瞳には若干の恐怖が宿っていた。

 

「ありがとうございました。僕たちを助けてくれて。」

 

するとユキが俺たちの方を向き頭を下げる。

その眼差しは恐怖も何もなくただ感謝の気持ちを伝えていた。

 

「……別に。そういう依頼だったからな。」

 

ハジメがぶっきら棒に話す。

 

「それでもです。ボクたちはあなたたちに命を救われました。その恩は絶対に忘れません。」

 

……真剣に頭を下げる少女に俺は素直に感心を覚える

 

「……ハジメ。むず痒いかもしれないけど受け取っておけ。」

「あぁ。分かっている。」

 

俺はそういうとハジメも純粋な好意に受け取ったらしい

ハジメは、無傷の馬車や馬のところへ行き、兎人族達を手招きする。樹海まで徒歩で半日くらいかかりそうなので、せっかくの馬と馬車を有効活用しようというわけだ。魔力駆動二輪を〝宝物庫〟から取り出し馬車に連結させる。馬に乗る者と分けて一行は樹海へと進路をとった。



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攫っていくぞ

 七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱える【ハルツィナ樹海】を前方に見据えて、ハジメが魔力駆動二輪で牽引する大型馬車二台と数十頭の馬が、それなりに早いペースで平原を進んでいた。

 

俺の後ろにはユキが乗っており俺たちのことを聞いてみたいということだったので俺たちのことについて話していた

 

「……そうですか。」

 

迷宮のことを話し終わるとうさ耳を倒し目を瞑っている

俺は大体ハジメと念話石を使ってお互いの推測を話していた

 

「……やっぱり出て行くつもりだったのか?」

「…はい。お姉ちゃんと相談していたんです。元々二人とも異端の力を持っていて自分がいる限り、一族は常に危険にさらされます。今回も多くの家族を失ったので。次は、本当に全滅するかもしれないですし。」

 

すると隠し事が通用しないと思ったのであろう。ユキは本当のことを話していく

最悪、二人でも旅に出るつもりだったが、それでは心配性の家族は追ってくる可能性が高い。しかし、圧倒的強者であるハジメ達に恩返しも含めて着いて行くと言えば、割りかし容易に一族を説得できて離れられると考えたのだ。

 

「でも大迷宮に挑戦する以上ぼくじゃ足手まといですよね。」

「……」

「ぼくは結局何も守れなかった。特別な力を持っているのに。ぼくのせいで今回も家族を。」

 

すると後ろで悔し涙を流すユキに言葉をかけることはできない

……なんでだろう。既視感がある

俺はあの時奈落に落ちた日のことを思い出す

多分ハジメも気づいている

あの火球はハジメの方を向けて放たれた

放たれたけどそれでもあれはハジメを殺そうとして放たれた魔法ではない

俺は絶対にハジメをかばうことが分かっていてハジメを狙ったのだ

 

「…っ。」

 

その瞬間俺は気づいてしまった。

こいつは俺に似ているのだ。

家族を守りたくて

その腕を磨いて

それでも守れなくて

 

胸の中にある悔しさや憎しみは誰にも見せない。

だから誰かに頼るしかなかった。

 

「……」

 

気づかなきゃよかった。

二輪バイクに跨りながらまた重い空気の中で俺たちはハルツィナ樹海へと道を急いだ

 

 

樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。

 

「それでは、ハジメ殿、昴殿。ユエ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。お三人を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

「予定じゃ同じ兎人族の村に滞在するんだろ?許可おりるのか?」

「はい。そこは抜かりなく。」

 

それなら別にいいけど

俺はユキを背負いながら苦笑してしまう

泣き潰れていつの間にか寝てしまったユキは力強く俺の背を話さなかった。

小さな体にはどれだけの重い過去を背負ってきたのか予想もできない。

でも。こいつは守ってやりたくなったのだ

ただのわがままだなのは分かっている

 

「はっはっは、ユキは随分とスバル殿を気に入ったのだな。そんなに懐いて……ユキももうそんな年頃か。父様は少し寂しいよ。だが、スバル殿なら安心か……」

「……」

「どうしたスバル。」

「……ハジメ。こいつ連れて行ったらダメか?」

 

俺の言葉にハジメは驚く。

 

「……理由は?」

「ねぇよ。ただ見過ごせなくなったんだよ。こいつは一つ間違うと本当に壊れる。多分今までも魔物を殺したりハウリアの為に本当に尽くしてきたんだろうよ。なんか。俺らしくもないと思うけどこいつが壊れてしまうのは嫌なんだよ。」

「……本当に珍しいなお前がそんなに心配するって。」

「……悪いか?」

「俺達の目的は七大迷宮の攻略なんだ。おそらく、奈落と同じで本当の迷宮の奥は化物揃いだ。お前じゃ瞬殺されて終わりだよ。だから、同行を許すつもりは毛頭ない。でもお前はそれを知っていているんだろ?」

 

俺は頷く。

 

「10日間時間がある。俺はこいつをとことん鍛える。だから俺たちはここで別れて修行に当てていいか?それでユエに一度でも攻撃を当てられたら同行を許してくれないか?」

「……私に?」

「だってこの中で迷宮攻略最低ラインってどう考えてもユエだろ?」

「……うっ。」

 

俺とハジメはアーティファクトと魔物を食ったおかげでかなりのステータスの差がある

だから手加減をしないといけなくなるのだ。

 

「それが最低条件。生憎俺はユキならそれができると確信している。」

「……あぁ。それなら構わない。」

「……ハジメ!?」

 

ユエは驚いたようにしている。

 

「元々スバルが頼むことは珍しいんだよ。それに嫌ならユエが当たらなければいいだけだろ。」

「……」

 

まぁ今のままじゃ当てることは愚かとしかいいようがないけどな

 

「それとカムさん。娘さんもらって行くんで。異論反論は認めないので。」

「えっ?」

「んじゃ。10日後。ユエは念話石でルールは伝えるから切るなよ。」

 

と俺は嵐のように話すと俺は急いで森の中に入っていく。

 

俺の感知の特訓と合わせてがんばりますか。

 

 

「……ってことでお前には俺が直々戦闘訓練をすることにしたから。」

「へ?」

 

ユキの声が驚きの声だったことにまぁ仕方がないかと思う

 

「……えっとどうして?」

「お前が寝ている間にハジメ達は無事っていうよりもハウリア族の安泰を約束してくれたらしい。」

「……ほんとうですか?」

「ハジメの話では『ハウリア族は忌み子シア・ハウリア、ユキ・ハウリアを筆頭に、同じく忌み子である南雲ハジメの身内と見なす。そして、資格者南雲ハジメに対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、南雲ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする』ってな。まぁ奴隷みたいのは気にくわないけど。」

「……」

 

するとへたぁと座り込むユキ

なお俺も長老会議は聞いていたのだが。……その場にいなかっただけマシだったと言っておこう

 

「でも終わってないんだよ。俺たちがハウリアと交わした約束は、案内が終わるまで守るというものだ。じゃあ、案内が終わった後はどうするのか。ハウリアは悪意や害意に対しては逃げるか隠れることしかできない。そんなお前等は、遂にフェアベルゲンという隠れ家すら失った。つまり、俺たちの庇護を失った瞬間、再び窮地に陥るというわけ。」

「そんな。」

「だから今はあっちはハジメが鍛えるらしい。」

「……えっ?」

「ついでにシアはユエが見ることになっている。んで俺はお前ってこと。まぁ完全にユエが不機嫌だったからな。助けられた恩義で好きになったってことだろうな。元々ハジメの方をよくみてたから惚れるのも時間の問題だと思っていたし。」

 

俺はそういうと剣を握る

 

「……ついて行くためにあいつはお前と同じルールを。それもあいつは組手でっていうお前よりも厳しいルールを受け入れた。」

「っ!!」

「つまりお前は一回当てれば勝ちなんだけどシアは組手で傷を一つつけないといけない。その意味が分かるよな?」

 

あいつは覚悟を決めたってことだ

 

「別に俺たちについてこなくても構わない。ただ。このままだったらお前は居場所がなくなるだろう。だから鍛え上げる。9日かけてハウリアのリーダーにも。俺たちの背を預けられるようにな。」

「……」

「もう一度聞く。お前はやる気はあるか?」

 

するとユキは頷く。覚悟を決めた目で俺の方を見るのだった。



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未来

あれから9日が経ち俺たちは約束の集合場所まできていた

結果的にユキの訓練は5日間で済んだ

 

というのも1日一回ユエと模擬戦を行うって言ったのだが呆気ないほど簡単にユエが負けたのである。

ユエ曰く全く気配も魔力を感じなかったらしくその後のシアの特訓で憂さ晴らしをしていたらしい。

足に身体強化をかけたユキは特化型で俊敏に身体強化でハジメレベルまで速さが上がった。

俺以上の隠密と気配遮断そして1万以上のスピードに完膚無きまでにユエは何もできなかったのである

まぁそれを念話石でハジメに話したところ絶句で声がでなかったらしいがいい拾い物だと喜んでいたが

 

「……えへへ。王子様」

「……こいつノン気だな。」

 

俺は苦笑しユキの頭を撫でる。そのクリアした後は俺とユキはのんびりしていた。今も俺の隣で寝ているのは戦闘訓練を行ってぼこぼこにしてやったので傷だらけなんだがそれでも幸せそうだ。

 

「……つーか。俺も最低だな。」

 

自覚はあった。同類に感じてしまったから親近感が湧いてしまったのであろう。

こいつのこと好きだと自覚するのは遅くはなかった。

 

「……はぁ。」

「どうした?」

 

すると最初に来たのはハジメだったらしい。

 

「何でもない。ただ大切なものが増えただけ。それ以上は何もない。」

「……そうか。」

「お前らの方はどうなんだよ?確かハウリア族の訓練だろ?」

 

すると目を逸らすハジメに少し嫌な予感がする

 

「……まぁ上手くはいったよ。 ただなぁ……ちょ~とだけ性格が変わってるかもしれないが……そこはほら。」

「……おい。すごく嫌な予感がするんだが。お前何をした。」

 

 と俺は責めているとユエとシアが到着した。全く正反対の雰囲気を纏わせているユエとシアに訝しそうにしつつ、ハジメは話を変えるべく片手を上げて声をかけた。

 

「よっ、二人共。勝負とやらは終わったのか?」

 

二人が何かを賭けて勝負していることは聞き及んでいる。シアのために超重量の大槌を用意したのは他ならぬハジメだ。シアが、真剣な表情で、ユエに勝ちたい、武器が欲しいと頼み込んできたのは記憶に新しい。ユエ自身も特に反対しなかったことから、何を賭けているのかまでは知らなかったし、聞いても教えてもらえなかったが、ユエの不利になることもないだろうと作ってやったのだ。

実際、ハジメは、ユエとシアが戦っても十中八九、ユエが勝つと考えていた。奈落の底でユエの実力は十二分に把握している。いくら魔力の直接操作が出来るといっても今まで平和に浸かってきたシアとは地力が違うのだ。

だがしかし、帰ってきた二人の表情を見るに、どうも自分の予想は外れたようだと内心驚愕するハジメ。そんなハジメにシアが上機嫌で話しかけた。

 

「ハジメさん! ハジメさん! 聞いて下さい! 私、遂にユエさんに勝ちましたよ! 大勝利ですよ! いや~、ハジメさんにもお見せしたかったですよぉ~、私の華麗な戦いぶりを! 負けたと知った時のユエさんたらもへぶっ!?」

 

身振り手振り大はしゃぎという様相で戦いの顛末を語るシア。調子に乗りすぎて、ユエのジャンピングビンタを食らい錐揉みしながら吹き飛びドシャと音を立てて地面に倒れ込んだ。よほど強烈だったのかピクピクとして起き上がる気配がない。

 

「でどうだった?」

「……魔法の適性はハジメと変わらない」

「ありゃま、宝の持ち腐れだな……で? それだけじゃないんだろ? あのレベルの大槌をせがまれたとなると……」

「……ん、身体強化に特化してる。正直、化物レベル」

「……へぇ。俺達と比べると?」

 

ユエの評価に目を細めるハジメ。正直、想像以上の高評価だ。珍しく無表情を崩し苦虫を噛み潰したようなユエの表情が何より雄弁に、その凄まじさを物語る。ユエは、ハジメの質問に少し考える素振りを見せるとハジメに視線を合わせて答えた。

 

「……強化してないハジメの……六割くらい」

「マジか……最大値だよな?」

「ん……でも、鍛錬次第でまだ上がるかも」

「おぉう。そいつは確かに化物レベルだ」

「てか良く考えたらこいつユエの魔法を耐え抜いていたからな。化け物レベルとは思うけど。ユキとならどっちが強い?」

「ユキ。」

 

即答だった。

まぁ、正直俺も最近は限界突破を使わないと避けきれないからなぁ。火力がないのはちょっとネックだけど

 

「……ん〜。」

「あっ。起きたか?」

「おふぁようございましゅ〜。」

「顔洗ってこい。目覚めるぞ。」

「ふぁい。」

 

と寝ぼけ眼をこすりながらユキはとことこと水のある方に向かう

 

「……ユキ懐いてますね。」

「懐いているっていうよりも好いてくれているんだろ?」

「お前そういうの本当に敏感だよな。」

「敏感ってより直感に全て反応するからな。」

「「あぁ。」」

 

ついでに直感は樹海でも作用することが判明し俺は行きたいところに直感で行動することができる

するとシアが動いた

 

「ハジメさん。私をあなたの旅に連れて行って下さい。お願いします!」

「断る」

「即答!?」

 

まさか今の雰囲気で、悩む素振りも見せず即行で断られるとは思っていなかったシアは、驚愕の面持ちで目を見開いた。

 

「ひ、酷いですよ、ハジメさん。こんなに真剣に頼み込んでいるのに、それをあっさり……」

「いや、こんなにって言われても知らんがな。大体、カム達どうすんだよ? まさか、全員連れて行くって意味じゃないだろうな?」

「ち、違いますよ! 今のは私だけの話です! 父様達には修行が始まる前に話をしました。一族の迷惑になるからってだけじゃ認めないけど……その……」

「その? なんだ?」

 

何やら急にモジモジし始めるシア。指先をツンツンしながら頬を染めて上目遣いでハジメをチラチラと見る。あざとい。実にあざとい仕草だ。ハジメが不審者を見る目でシアを見る。傍らのユエがイラッとした表情で横目にシアを睨んでいる。俺は今頃気持ち悪い笑顔をしているのだろう

 

「その……私自身が、付いて行きたいと本気で思っているなら構わないって……」

「はぁ? 何で付いて来たいんだ? 今なら一族の迷惑にもならないだろ?それだけの実力があれば大抵の敵はどうとでもなるだろうし」

「で、ですからぁ、それは、そのぉ……」

「……」

 

 モジモジしたまま中々答えないシアにニヤニヤしてしまう。

 

「ハジメさんの傍に居たいからですぅ! しゅきなのでぇ!」

「……は?」

 

あわあわしているシアを前に、ハジメは鳩が豆鉄砲でも食ったようにポカンとしている。

 

「いやいやいや、おかしいだろ? 一体、どこでフラグなんて立ったんだよ? 自分で言うのも何だが、お前に対してはかなり雑な扱いだったと思うんだが……まさか、そういうのに興奮する口か?」

「誰が変態ですか! そんな趣味ありません! っていうか雑だと自覚があったのならもう少し優しくしてくれてもいいじゃないですか……」

「いや、何でお前に優しくする必要があるんだよ……そもそも本当に好きなのか? 状況に釣られてやしないか?」

 

ハジメは、未だシアの好意が信じられないのか、いわゆる吊り橋効果を疑った。今までのハジメのシアに対する態度は誰がどう見ても雑だったので無理もないかもしれない。だが、自分の気持ちを疑われてシアはすこぶる不機嫌だ。

 

「状況が全く関係ないとは言いません。窮地を何度も救われて、同じ体質で……長老方に啖呵切って私との約束を守ってくれたときは本当に嬉しかったですし……ただ、状況が関係あろうとなかろうと、もうそういう気持ちを持ってしまったんだから仕方ないじゃないですか。私だって時々思いますよ。どうしてこの人なんだろうって。ハジメさん、未だに私のこと名前で呼んでくれないし、何かあると直ぐ撃ってくるし、鬼だし、返事はおざなりだし、魔物の群れに放り投げるし、容赦ないし、鬼だし、優しくしてくれないし、ユエさんばかり贔屓するし、鬼だし……あれ? ホントに何で好きなんだろ? あれぇ~?」

「正論すぎて草が生える。」

 

ついに笑いが堪えきれず笑ってしまう。

 

「と、とにかくだ。お前がどう思っていようと連れて行くつもりはない」

「そんな! さっきのは冗談ですよ? ちゃんと好きですから連れて行って下さい!」

「あのなぁ、お前の気持ちは……まぁ、本当だとして、俺にはユエがいるって分かっているだろう? というか、よく本人目の前にして堂々と告白なんざ出来るよな……前から思っていたが、お前の一番の恐ろしさは身体強化云々より、その図太さなんじゃないか? お前の心臓って絶対アザンチウム製だと思うんだ」

「誰が、世界最高硬度の心臓の持ち主ですか! うぅ~、やっぱりこうなりましたか……ええ、わかってましたよ。ハジメさんのことです。一筋縄ではいかないと思ってました」

 

 突然、フフフと怪しげに笑い出すシアに胡乱な眼差しを向けるハジメ。

正直同感なんだけどなぁ

 

「こんなこともあろうかと! 命懸けで外堀を埋めておいたのです! ささっ、ユエ先生!スバルさん お願いします!」

「は? ユエ?スバル?」

 

ユエは、やはり苦虫を百匹くらい噛み潰したような表情で、心底不本意そうにハジメに告げた。

 

「……………………………………ハジメ、連れて行こう」

「いやいやいや、なにその間。明らかに嫌そう……もしかして勝負の賭けって……」

「……無念」

「まぁ、俺は元々別にいいんだけどな。面白そうだし。それに覚悟を決めて命がけの賭けに勝ったほどの努力をして、その壁を壊したんだ。迷宮でも活躍はできると思うし。それに関わってしまった分見捨てるって選択肢は元々ないんじゃないのか?」

 

ハジメは、ガリガリと頭を掻いた。

 

一度深々と息を吐くとシアとしっかり目を合わせて、一言一言確かめるように言葉を紡ぐ。シアも静かに、言葉に力を込めて返した。

 

「付いて来たって応えてはやれないぞ?」

「知らないんですか? 未来は絶対じゃあないんですよ?」

 

 

「危険だらけの旅だ」

「化物でよかったです。御蔭で貴方について行けます」

 

「俺の望みは故郷に帰ることだ。もう家族とは会えないかもしれないぞ?」

「話し合いました。〝それでも〟です。父様達もわかってくれました」

 

「俺の故郷は、お前には住み難いところだ」

「何度でも言いましょう。〝それでも〟です」

 

 シアの想いは既に示した。そんな〝言葉〟では止まらない。止められない。これはそういう類の気持ちなのだ。

 

「……」

「ふふ、終わりですか? なら、私の勝ちですね?」

「勝ちってなんだ……」

「私の気持ちが勝ったという事です。……ハジメさん」

「……何だ」

 

 もう一度、はっきりと。シア・ハウリアの望みを。

 

「……私も連れて行って下さい」

 

 見つめ合うハジメとシア。ハジメは真意を確認するように蒼穹の瞳を覗き込む。

 

 そして……

 

「………………はぁ~、勝手にしろ。物好きめ」

 

 その瞳に何かを見たのか、やがてハジメは溜息をつきながら事実上の敗北宣言をした。

 

「……よかった。」

 

ユキがうれしそうに姉の勇気を讃える。その頭を俺はゆっくりと撫でた

 

 

「えへへ、うへへへ、くふふふ~」

 

 同行を許されて上機嫌のシアは、奇怪な笑い声を発しながら緩みっぱなしの頬に両手を当ててクネクネと身を捩らせてた。それは、ハジメと問答した時の真剣な表情が嘘のように残念な姿だった。

 

「……キモイ」

 

 見かねたユエがボソリと呟く。シアの優秀なウサミミは、その呟きをしっかりと捉えた。

 

「……ちょっ、キモイって何ですか! キモイって! 嬉しいんだからしょうがないじゃないですかぁ。何せ、ハジメさんの初デレですよ? 見ました? 最後の表情。私、思わず胸がキュンとなりましたよ~、これは私にメロメロになる日も遠くないですねぇ~」

 

 シアは調子に乗っている。それはもう乗りに乗っている。そんなシアに向かってハジメとユエは声を揃えてうんざりしながら呟いた。

 

「「……ウザウサギ」」

「んなっ!? 何ですかウザウサギって! いい加減名前で呼んでくださいよぉ~、旅の仲間ですよぉ~、まさか、この先もまともに名前を呼ぶつもりがないとかじゃあないですよね? ねっ?」

「「……」」

「何で黙るんですかっ? ちょっと、目を逸らさないで下さいぃ~。ほらほらっ、シアですよ、シ・ア。りぴーとあふたみー、シ・ア」

「お姉ちゃんうっさい。」

「……うぐぅ。」

「辛辣だな。」

 

そんな風に騒いでいると(シアだけ)、霧をかき分けて数人のハウリア族が、ハジメに課された課題をクリアしたようで魔物の討伐を証明する部位を片手に戻ってきた。よく見れば、その内の一人はカムだ。

 

シアがさっきのことを報告しようとしたのだろう。しかし話しかける寸前で、発しようとした言葉を呑み込んだ。カム達が発する雰囲気が何だかおかしいことに気がついたからだ。

 

「ボス。お題の魔物、きっちり狩って来やしたぜ?」

「ボ、ボス?と、父様? 何だか口調が……というか雰囲気が……」

 

 父親の言動に戸惑いの声を発するシアをさらりと無視して、カム達は、この樹海に生息する魔物の中でも上位に位置する魔物の牙やら爪やらをバラバラと取り出した。

 

「……俺は一体でいいと言ったと思うんだが……」

 

ハジメの課した訓練卒業の課題はクリアはしていたらしい。だが眼前の剥ぎ取られた魔物の部位を見る限り、優に十体分はある。カム達は不敵な笑みを持って答えた。

 

「ええ、そうなんですがね? 殺っている途中でお仲間がわらわら出てきやして……生意気にも殺意を向けてきやがったので丁重にお出迎えしてやったんですよ。なぁ? みんな?」

「そうなんですよ、ボス。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした」

「きっちり落とし前はつけましたよ。一体たりとも逃してませんぜ?」

「ウザイ奴らだったけど……いい声で鳴いたわね、ふふ」

「見せしめに晒しとけばよかったか……」

「まぁ、バラバラに刻んでやったんだ、それで良しとしとこうぜ?」

「あの、みんな。」

 

ユキの言葉も通らずにただ呆然としてしまう

 

 それを呆然と見ていたシアは一言、

 

「……誰?」



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豹変

「ど、どういうことですか!? ハジメさん! 父様達に一体何がっ!?」

「お、落ち着け! ど、どういうことも何も……訓練の賜物だ……」

「いやいや、何をどうすればこんな有様になるんですかっ!? 完全に別人じゃないですかっ! ちょっと、目を逸らさないで下さい! こっち見て!」

「……別に、大して変わってないだろ?」

「貴方の目は節穴ですかっ! 見て下さい。彼なんて、さっきからナイフを見つめたままウットリしているじゃないですか! あっ、今、ナイフに〝ジュリア〟って呼びかけた! ナイフに名前つけて愛でてますよっ! 普通に怖いですぅ~」

「……みんな。怖い。」

「ユキ?おいしっかりしろ。」

 

俺も気になってはいたのだがそれでも夢の中に現実逃避を仕掛けているユキを起こすことに専念する

埒があかないと判断したのか、シアの矛先がカム達に向かった。

 

「父様! みんな! 一体何があったのです!? まるで別人ではないですか! さっきから口を開けば恐ろしいことばかり……正気に戻って下さい!」

 

 縋り付かんばかりのシアにカムは、ギラついた表情を緩め前の温厚そうな表情に戻った。それに少し安心するシア。

しかし現実はそう甘くはなかった

 

「何を言っているんだ、シア? 私達は正気だ。ただ、この世の真理に目覚めただけさ。ボスのおかげでな」

「し、真理? 何ですか、それは?」

「この世の問題の九割は暴力で解決できる」

「やっぱり別人ですぅ~! 優しかった父様は、もう死んでしまったんですぅ~、うわぁ~ん」

 

 ショックのあまり、泣きべそを掻きながら踵を返し樹海の中に消えていこうとするシア。しかし、霧に紛れる寸前で小さな影とぶつかり「はうぅ」と情けない声を上げながら尻餅地を付いた。

小さな影の方は咄嗟にバランスをとったのか転倒せずに持ちこたえ、倒れたシアに手を差し出した。

 

「あっ、ありがとうございます」

「いや、気にしないでくれ、シアの姐御。男として当然のことをしたまでさ」

「あ、姐御?」

 

 霧の奥から現れたのは未だ子供と言っていいハウリア族の少年だった。その肩には大型のクロスボウが担がれており、腰には二本のナイフとスリングショットらしき武器が装着されている。随分ニヒルな笑みを見せる少年だった。 そんなシアを尻目に、少年はスタスタとハジメの前まで歩み寄ると、ビシッと惚れ惚れするような敬礼をしてみせた。

 

「ボス! 手ぶらで失礼します! 報告と上申したいことがあります! 発言の許可を!」

「お、おう? 何だ?」

 

 少年の歴戦の軍人もかくやという雰囲気に、今更ながら、少しやり過ぎたかもしれないと若干どもるハジメ。少年はお構いなしに報告を続ける。

 

「はっ! 課題の魔物を追跡中、完全武装した熊人族の集団を発見しました。場所は、大樹へのルート。おそらく我々に対する待ち伏せかと愚考します!」

「あ~、やっぱ来たか。即行で来るかと思ったが……なるほど、どうせなら目的を目の前にして叩き潰そうって腹か。なかなかどうして、いい性格してるじゃねぇの。……で?」

「はっ! 宜しければ、奴らの相手は我らハウリアにお任せ願えませんでしょうか!」

「う~ん。カムはどうだ? こいつはこう言ってるけど?」

 

話を振られたカムは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると願ってもないと言わんばかりに頷いた。

 

「お任せ頂けるのなら是非。我らの力、奴らに何処まで通じるか……試してみたく思います。な~に、そうそう無様は見せやしませんよ」

 

どんな洗脳魔法を使ったんだよっと言いたくなるくらいの変わりように俺すら軽く引いてしまう

 

 族長の言葉に周囲のハウリア族が、全員同じように好戦的な表情を浮かべる。自分の武器の名前を呼んで愛でる奴が心なし増えたような気もする。シアの表情は絶望に染まっていく。

 

「……出来るんだな?」

「肯定であります!」

 

 最後の確認をするハジメに元気よく返事をしたのは少年だ。ハジメは、一度、瞑目し深呼吸すると、カッと目を見開いた。

 

「聞け! ハウリア族諸君! 勇猛果敢な戦士諸君! 今日を以て、お前達は糞蛆虫を卒業する! お前達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない! 力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる! 最高の戦士だ! 私怨に駆られ状況判断も出来ない〝ピッー〟な熊共にそれを教えてやれ! 奴らはもはや唯の踏み台に過ぎん! 唯の〝ピッー〟野郎どもだ! 奴らの屍山血河を築き、その上に証を立ててやれ! 生誕の証だ! ハウリア族が生まれ変わった事をこの樹海の全てに証明してやれ!」

「「「「「「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」」」」」」

「答えろ! 諸君! 最強最高の戦士諸君! お前達の望みはなんだ!」

「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」

「お前達の特技は何だ!」

「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」

「敵はどうする!」

「「「「「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」」」」」

「そうだ! 殺せ! お前達にはそれが出来る! 自らの手で生存の権利を獲得しろ!」

「「「「「「「「「「Aye、aye、Sir!!」」」」」」」」」

「いい気迫だ! ハウリア族諸君! 俺からの命令は唯一つ! サーチ&デストロイ! 行け!!」

「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」」」」」」

「うわぁ~ん、やっぱり私の家族はみんな死んでしまったですぅ~」

 

ハジメの号令に凄まじい気迫を以て返し、霧の中へ消えていくハウリア族達。温厚で平和的、争いが何より苦手……そんな種族いたっけ? と言わんばかりだ。変わり果てた家族を再度目の当たりにし、崩れ落ちるシアの泣き声が虚しく樹海に木霊する。流石に見かねたのかユエがポンポンとシアの頭を慰めるように撫でている。

そうと関わらず戦場に向かっていくハウリアに軽く舌打ちをするのだった

 

 

「ほらほらほら! 気合入れろや! 刻んじまうぞぉ!」

「アハハハハハ、豚のように悲鳴を上げなさい!」

「汚物は消毒だぁ! ヒャハハハハッハ!」

 

 ハウリア族の哄笑が響き渡り、致命の斬撃が無数に振るわれる。そこには温和で平和的、争いが何より苦手な兎人族の面影は皆無だった。必死に応戦する熊人族達は動揺もあらわに叫び返した。

 

「ちくしょう! 何なんだよ! 誰だよ、お前等!!」

「こんなの兎人族じゃないだろっ!」

「うわぁああ! 来るなっ! 来るなぁあ!」

 

「なんか言うことはないか?ハジメ。」

 

俺はジト目でハジメを見る。俺たちは木の上でハウリアと熊人族との戦いをみていた

俺はとあることをハジメに説教をした後に実際にその戦いの姿を見させることが一番効くことだと思い戦場に出ていた

 

「……悪かったよ。」

「……容赦ないですね。」

 

叱った内容が内容なので俺はため息を吐く

 

「当たり前だ。畜生道に落ちさせるためにハウリアをハジメに任せたわけがない。確かに強くなりたいと願った。でもいきなり強さを与えたら暴走することをハジメは知っているはずだ。この世界に召喚された時にハジメは才能がなくてイジメられていたんだから。」

「……あぁ。」

「その話本当だったんですね。」

「強いものも最初から強いことはありえない。」

 

俺はそういうと全員がこっちを見る

 

「最初は全員弱いんだよ。それが夢や気持ち願望がある。強くなりたいって気持ちと才能があればいくらでも強くなることはできる。それをシアが証明しただろ?」

「でも、才能は必要なんだよな?」

「魔物を食わない限りはな。才能がなければそりゃ意味ないだろうし。」

 

厳しいだろうが事実だ

 

「才能があるからハウリアも勝機があった。それを理解していたからハジメはこの戦法を選んだわけだしな。ただ戦わないからこうなる。ハウリアは昔のハジメみたいだから余計にイラってきているんだろ。」

「ハジメさんがですか?」

「あぁ。こいつ元々小さい頃から、人と争う、誰かに敵意や悪意を持つということがどうにも苦手だったから、誰かと喧嘩しそうになったときはいつも自分が折れていたんだよ。自分が我慢すれば話はそこで終わり。喧嘩するよりずっといいって。」

 

すると三人とも驚いてハジメの方をみる

 

「……お前は昔の俺の方がよかったのか?」

「それは時と場合によるだろ。ただ俺はハジメの間違っていると思ったら指摘するし。合っていると思ったら賛同する。性格が変わろうが見た目が変わろうが俺にとってはハジメは親友だ。それは今も昔も変わらないさ。」

「……お前な。よくそんな恥ずかしいセリフ言えるよな。」

「別にいいだろ。見知った仲なんだし。それでどうするの?俺は目が覚ます為にはユキかシアが止めるべきだと思うけど。」

 

俺はそういうとユキとシアが頷く

 

「もちろん。そうするよ。」

「はい。」

 

というとシアが巨大な鉄槌と共に天より降ってきた挙句、地面に槌を叩きつけ、その際に発生した衝撃波で飛んでくる矢や石をまとめて吹き飛ばした

 

「……お前どんな武器をあいつに持たせているんだよ。」

「他にも木を引き抜いて私に投げてきたりした。」

「……うわぁ。」

 

さすがに少し戦い方に引いてしまう

 

「もうっ! ホントにもうっですよ! 父様も皆も、いい加減正気に戻って下さい!」

 

 そんなシアに、最初は驚愕で硬直していたカム達だが、ハッと我を取り戻すと責めるような眼差しを向けた。

 

「シア、何のつもりか知らんが、そこを退きなさい。後ろの奴等を殺せないだろう?」

「いいえ、退きません。これ以上はダメです!」

 

 シアの言葉に、カム達の目が細められる。

 

「ダメ? まさかシア、我らの敵に与するつもりか? 返答によっては……」

「いえ、この人達は別に死んでも構わないです」

「「「「いいのかよっ!?」」」」

「いいに決まっているだろう?殺意を向けて来る相手に手心を加えるなんて心構えでは、スバルさんの特訓には耐えられないからね。それにボクは子供の時に甘い考えは全部捨てたよ」

 

するとユキが他のハウリア族を全て捕縛し帰ってくる

 

「……そういえばユキの火を纏っていたのは?」

「付加魔法だった。勇者パーティーの時に見覚えがあったしな。だから攻撃魔法ではなく遊撃って形の中衛型だな。俺が持っている武器にもエンチャできたくらいだから。」

「……アーティファクトに付加できる付加師かよ。」

 

すげぇなとハジメが呟く。勇者くらいしかアーティファクトにパフを付与できる奴はいなかったしな

 

「そんなの決まってます! 父様達が、壊れてしまうからです! 堕ちてしまうからです!」

「壊れる? 堕ちる?」

 

 訳がわからないという表情のカムにシアは言葉を重ねる。

 

「そうです! 思い出して下さい。ハジメさんは敵に容赦しませんし、問答無用だし、無慈悲ではありますが、魔物でも人でも殺しを楽しんだことはなかったはずです! 訓練でも、敵は殺せと言われても楽しめとは言われなかったはずです!」

「い、いや、我らは楽しんでなど……」

「今、パパ達がどんな顔しているかわかるかい?」

「顔? いや、どんなと言われても……」

 

 ユキの言葉に、周囲の仲間と顔を見合わせるハウリア族。ユキは、ひと呼吸置くと静かな、しかし、よく通る声ではっきりと告げた。

 

「……まるで、ぼく達を襲ってきた帝国兵みたいだよ。」

「ッ!?」

 

すると全員が頭をガツンと叩かれたようにしている

そして目線にはこの隙逃げようとしている熊人族がいたので

 

「どこに行こうとしてんだ?」

 

俺は俊敏任せに先回りをし剣を下に突き刺す。

 

「話が終わるまで正座しとけ。お前らは負けたんだから。敗者が敗者らしく捕虜になってもらうぞ。」

「クソ。人間どもが!!」

 

すると一人の熊人族が俺に向かって殺気を向ける

 

「スバルさん。」

 

俺は静かに息を吐き刀を抜刀し一瞬で首を刈り取る。

 

「悪いけど俺はハジメみたいに手加減できないからな。」

 

殺気を漏らした以上は殺すことが前提だ。

すると剣筋が見えなかったのだろう明らかに動揺している。逃げ出そうと油断なく周囲の様子を確認している熊人族に、霧から出たハジメは〝威圧〟を仕掛けて黙らせた。ガクブルしている彼等を尻目に、シア達の方へ歩み寄るハジメとユエ。俺もそっちへと向かう

 

ハジメはカム達を見ると、若干、気まずそうに視線を彷徨わせ、しかし直ぐに観念したようにカム達に向き合うと謝罪の言葉を口にした。

 

「あ~、まぁ、何だ、悪かったな。自分が平気だったもんで、すっかり殺人の衝撃ってのを失念してた。俺のミスだ。うん、ホントすまん」

 

 ポカンと口を開けて目を点にするシアとカム達。まさか素直に謝罪の言葉を口にするとは予想外にも程があったのだろう

 

「ボ、ボス!? 正気ですか!? 頭打ったんじゃ!?」

「メディーック! メディーーク! 重傷者一名!」

「ボス! しっかりして下さい!」

「お前日頃の態度見直せよ。」

 

この反応に俺は呆れたようにしてしまう

ハジメは、取り敢えずこの件は脇に置いておいて、一人の熊人族のもとへ歩み寄ると、その額にドンナーの銃口をゴリッと押し当てた。

 

「さて、潔く死ぬのと、生き恥晒しても生き残るのとどっちがいい?」

 

あぁ俺は何を言いたいのか分かったため頭を抑える

やろうとしていること完全にやくざじゃねーか。

 

「……どういう意味だ。我らを生かして帰すというのか?」

「ああ、望むなら帰っていいぞ? 但し、条件があるがな」

「条件?」

 

 あっさり帰っていいと言われ、レギンのみならず周囲の者達が一斉にざわめく。後ろで「頭を殴れば未だ間に合うのでは……」とシアが割かしマジな表情で自分の大槌とハジメの頭部を交互に見やり、カム達が賛同している声が聞こえる。

そろそろ、マジで止めるべきだろうと思ったけどユキがこっそりこっちにきたので俺は放っておくことにした

 

「ああ、条件だ。フェアベルゲンに帰ったら長老衆にこう言え」

「……伝言か?」

 

 条件と言われて何を言われるのかと戦々恐々としていたのに、ただのメッセンジャーだったことに拍子抜けするレギン。しかし、言伝の内容に凍りついた。

 

「〝貸一つ〟」

「……ッ!? それはっ!」

「で? どうする? 引き受けるか?」

「悪いけどお前らの自業自得だ。あんたの部下の死の責任はあんた自身にあることもしっかり周知しておけ。ハウリアに惨敗した事実と一緒にな。早く決めないんなら5秒ごとに一人ずつ殺していくからな。」

 

そう言ってイーチ、ニーと数え始めると熊人族は慌ててしかし意を決して返答する。

 

「わ、わかった。我らは帰還を望む!」

「そうかい。じゃあ、さっさと帰れ。伝言はしっかりな。もし、取立てに行ったとき惚けでもしたら……」

 

ハジメの全身から、強烈な殺意が溢れ出す。もはや物理的な圧力すら伴っていそうだ。ゴクッと生唾を飲む音がやけに鮮明に響く。

 

「その日がフェアベルゲンの最後だと思え」

 

後ろから、「あぁ~よかった。何時ものハジメさんですぅ」とか「ボスが正気に戻られたぞ!」とか妙に安堵の混じった声が聞こえるが、取り敢えずハジメに任せよう。

霧の向こうへ熊人族達が消えていった。それを見届けると

 

「ユキ悪い。」

「へ?」

 

俺はユキを持ち上げると念話石でハジメに一言入れる

 

『ユキは何もしてなかったから先に大樹に向かっておく。思いっきりヤレ。』

『サンキュー。』

 

その後俺は顔を真っ赤にしたユキを連れ先に大樹に向かうと後ろから大きな悲鳴が聞こえてきたのは何も聞かなかったことにしよう。



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新たな旅立ち

「……ってことで今の攻略することは無理そうだぞ。」

 

大樹に来たハジメたちに俺は報告をする

 

大樹を調べていると石版があり窪みが空いていたのでそこにオルクスの指輪を嵌めると文字が浮かび上がり

 

〝四つの証〟

〝再生の力〟

〝紡がれた絆の道標〟

〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

と書かれていた。このことより4つ以上の大迷宮の攻略と再生魔法がここの攻略の鍵になるのではないかと考えたのだ。

 

「はぁ~、ちくしょう。今すぐ攻略は無理ってことか……面倒くさいが他の迷宮から当たるしかないな……」

「ん……」

 

ここまで来て後回しにしなければならないことに歯噛みするハジメ。ユエも残念そうだ。しかし、大迷宮への入り方が見当もつかない以上、ぐだぐだと悩んでいても仕方ない。気持ちを切り替えて先に三つの証を手に入れることにする。

ハジメはハウリア族に集合をかけた。

 

「いま聞いた通り、俺達は、先に他の大迷宮の攻略を目指すことする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。お前達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。そういうわけで、ここでお別れだ」

「ボクもスバルさんのところについて行くから。ここでお別れだね。」

 

するとユキの言葉にハウリア族はよかったなとか色々揶揄われているのだが笑顔で返していくユキの姿があった。そして、チラリとシアを見る。シアは頷き、カム達に話しかけようと一歩前に出た。

 

「とうさ「ボス! お話があります!」……あれぇ、父様? 今は私のターンでは…」

 

 シアの呼びかけをさらりと無視してカムが一歩前に出た。ビシッと直立不動の姿勢だ。横で「父様? ちょっと、父様?」とシアが声をかけるが、真っ直ぐ前を向いたまま見向きもしない。

 

「あ~、何だ?」

「ボス、我々もボスのお供に付いていかせて下さい!」

「えっ! 父様達もハジメさんに付いて行くんですか!?」

 

 カムの言葉に驚愕を表にするシア。シアが聞いてなかったってことは本当に知らなかったんだろう

 

「我々はもはやハウリアであってハウリアでなし! ボスの部下であります! 是非、お供に! これは一族の総意であります!」

「ちょっと、父様! 私、そんなの聞いてませんよ! ていうか、これで許可されちゃったら私の苦労は何だったのかと……」

「ぶっちゃけ、シアが羨ましいであります!」

「ぶっちゃけちゃった! ぶっちゃけちゃいましたよ! ホント、この十日間の間に何があったんですかっ!」

 

何だ、この状況?

俺は苦笑してしまう。しかし俺たちは蚊帳の外でただ見ているだけだ

 

「却下」

「なぜです!?」

 

 ハジメの実にあっさりした返答に身を乗り出して理由を問い詰めるカム。他のハウリア族もジリジリとハジメに迫る。

 

「足でまといだからに決まってんだろ、バカヤロー」

「しかしっ!」

「調子に乗るな。俺の旅についてこようなんて百八十日くらい早いわ!」

「具体的!?」

 

なお、食い下がろうとするカム達。しまいには、許可を得られなくても勝手に付いて行きます! とまで言い始めた。このまま、本当に町とかにまで付いてこられたら、それだけで騒動になりそうなので仕方なく条件を出すハジメ。

 

「じゃあ、あれだ。お前等はここで鍛錬してろ。次に樹海に来た時に、使えるようだったら部下として考えなくもない」

「……そのお言葉に偽りはありませんか?」

「ないない」

「嘘だったら、人間族の町の中心でボスの名前を連呼しつつ、新興宗教の教祖のごとく祭り上げますからな?」

「お、お前等、タチ悪いな……」

「そりゃ、ボスの部下を自負してますから」

「自業自得だ。」

 

頬を引きつらせるハジメ。ユエがぽんぽんと慰めるようにハジメの腕を叩く。次に樹海に戻った時が面倒そうだと天を仰ぐのだった。

 

「ぐすっ、誰も見向きもしてくれない……旅立ちの日なのに……」

「お姉ちゃんどんまい。」

 

 傍でシアが地面にのの字を書いていじけているが、ユキ以外誰も気にしなかった。

 

 

 

「ハジメさん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」

「あ? 言ってなかったか?」

「聞いてませんよ!」

「……私は知っている」

「ボクもスバルさんから教えてもらったよ?」

 

むっと唸り抗議の声を上げるシア。

 

「わ、私だって仲間なんですから、そういうことは教えて下さいよ! コミュニケーションは大事ですよ!」

「悪かったって。次の目的地はライセン大峡谷だ」

「ライセン大峡谷?」

 

現在、確認されている七大迷宮は、【ハルツィナ樹海】を除けば、【グリューエン大砂漠の大火山】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】である。確実を期すなら、次の目的地はそのどちらかにするべきでは? と思ったのだ。

 

「いやライセン大峡谷にも七大迷宮があると言われているからな。シュネー雪原は魔人国の領土だから面倒な事になりそうだし、取り敢えず大火山を目指すのがベターなんだが、どうせ西大陸に行くなら東西に伸びるライセンを通りながら行けば、途中で迷宮が見つかるかもしれないだろ?」

「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか……」

「お姉ちゃんもう少しは自分の力を自覚しようよ。僕たちも谷底の魔物もその辺の魔物も変わらないよ。ライセンは、放出された魔力を分解する場所だから僕たちが主戦力になるんだし。」

 

「……師として情けない」

「うぅ~、面目ないですぅ」

 

 ユエにも呆れた視線を向けられ目を泳がせるシア。話題を逸らそうとする。

 

「で、では、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか? それともこのまま、近場の村か町に行きますか?」

「出来れば、食料とか調味料関係を揃えたいし、今後のためにも素材を換金しておきたいから町がいいな。前に見た地図通りなら、この方角に町があったと思うんだよ」

「というよりステータス隠蔽しとけよ。俺らステータスバレると面倒くさいんだから。」

「おう。了解。料理はお前任せだからな。」

「……むぅ」

「ボクも手伝うよ。よくお姉ちゃんと料理やっていたから。」

「私も手伝います。」

 

料理は俺担当は変わらないらしい。まぁ二人が料理ができることができるのはしっているしなぁ

 

 数時間ほど走り、そろそろ日が暮れるという頃、前方に町が見えてきた。俺とハジメの頬が綻ぶ、奈落から出て空を見上げた時のような、〝戻ってきた〟という気持ちが湧き出したからだ。

そうやって俺たちは街へと急いだ



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ブルッグにて1

遠くに町が見える。周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町だ。街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある。おそらく門番の詰所だろう。小規模といっても、門番を配置する程度の規模はあるようだ。それなりに、充実した買い物が出来そうだ

 

「……機嫌がいいのなら、いい加減、この首輪取ってくれませんか?」

 

 街の方を見て微笑むハジメに、シアが憮然とした様子で頼み込む。シアの首にはめられている黒を基調とした首輪は、小さな水晶のようなものも目立たないが付けられている、かなりしっかりした作りのもので、シアの失言の罰としてハジメが無理やり取り付けたものだ。何故か外れないため、シアが外してくれるよう頼んでいるのだがハジメはスルーしている。

まぁさすがに魔物を食べるクレデターって聞いたらさすがにきれるよな

 

「あれ?ボクはつけなくていいの?」

 

どうやら本当の理由に気づいているユキは首を傾げる

 

「あぁ。俺名義でなんとでもなるから大丈夫だな。」

「……?」

 

そろそろ、町の方からもハ視認できそうなので、魔力駆動二輪を〝宝物庫〟にしまい、徒歩に切り替える。流石に、漆黒のバイクで乗り付けては大騒ぎになるだろう。もちろんステータスも隠蔽済みだ。

道中、シアがブチブチと文句を垂れていたが、やはりスルーして遂に町の門までたどり着いた。案の定、門の脇の小屋は門番の詰所だったらしく、武装した男が出てきた。格好は、革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男がハジメ達を呼び止めた。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

 規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。ハジメは、門番の質問に答えながらステータスプレートを取り出した。その隙に俺はユキと手を繋ぐ。するとえっって小さく呟くユキに軽く合図をする

 

「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」

「ふ〜ん。」

 

門番がユエとシアとユキにもステータスプレートの提出を求めようとして、二人に視線を向ける。そして硬直した。みるみると顔を真っ赤に染め上げると、ボーと焦点の合わない目でユエとシアを交互に見ている。ユエは言わずもがな、精巧なビスクドールと見紛う程の美少女だ。そして、シアも喋らなければ神秘性溢れる美少女である。ユキも二人ほどではないが元々美人の枠に入る。ってつまり、門番の男は3人に見惚れて正気を失っているのだ。

 

ハジメがわざとらしく咳払いをする。それにハッとなって慌てて視線をハジメに戻す門番。

 

「さっき言った魔物の襲撃のせいでな、こっちの子のは失くしちまったんだ。こっちの兎人族は……わかるだろ?」

「そっちの兎人族は?」

「同じくといいたいけど。多分裏の奴隷商。檻の中に入れられていたんだよ。そこを助けたってわけ。これでも緑だし。」

 

俺はギルドカードを見せると驚いたようにしている

 

「……なるほど。んで奴隷として売りに来たのか?」

「いや?普通に家事ができるから手伝いとして雇おうと思ってな。」

「ほう。珍しいな。」

 

亜人族の場合ふた通りの扱いがある

一つ目は奴隷として扱うこと。

そして二つ目。それも冒険者の少数にいることだが冒険者のパートナーとして連れていくことだ。

 

「俺の家は元々獣人差別はなしの家で育ったからな。家で普通の獣人が働くとかよくあったぞ。」

「……なるほどな。冒険者の毛筋なら仕方ないか。」

「そういうことだ。」

「まぁいい。通っていいぞ」

「ああ、どうも。おっと、そうだ。素材の換金場所って何処にある?」

「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」

「おぉ、そいつは親切だな。ありがとよ」

 

 門番から情報を得て、ハジメ達は門をくぐり町へと入っていく。門のところで確認したがこの町の名前はブルックというらしい。町中は、それなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアドほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。

 

「お前よくそんな情報知っていたな。」

 

ハジメが驚いたようにしているが

 

「俺は剣さえあれば戦えるからな。王都にいる時から夜中王宮から抜け出して冒険者ギルドで依頼を受けていたんだよ。」

「……お前。」

「夜は警備かなり薄いからな。侵入経路も確立してたし。」

 

ジト目で見るハジメにシアが涙目でこちらを見てくる

 

「どうしたんだ? せっかくの町なのに、そんな上から超重量の岩盤を落とされて必死に支えるゴリラ型の魔物みたいな顔して」

「誰がゴリラですかっ! ていうかどんな倒し方しているんですか! ハジメさんなら一撃でしょうに! 何か想像するだけで可哀想じゃないですか!」

「……脇とかツンツンしてやったら涙目になってた」

「まさかの追い討ち!? 酷すぎる! ってそうじゃないですぅ!」

「最終的に肉だけ取るために三枚下ろしにおろしたからな。」

「酷すぎますよ!!」

 

怒って、ツッコミを入れてと大忙しのシア。手をばたつかせて体全体で「私、不満ですぅ!」と訴えている。

 

「これです! この首輪! これのせいで奴隷と勘違いされたじゃないですか! ハジメさん、わかっていて付けたんですね! うぅ、酷いですよぉ~、私達、仲間じゃなかったんですかぁ~」

「あのなぁ、奴隷でもない亜人族、それも愛玩用として人気の高い兎人族が普通に町を歩けるわけないだろう? まして、お前は白髪の兎人族で物珍しい上、容姿もスタイルも抜群。断言するが、誰かの奴隷だと示してなかったら、町に入って十分も経たず目をつけられるぞ。後は、絶え間無い人攫いの嵐だろうよ。面倒……ってなにクネクネしてるんだ?」

 

話を聞いている内に照れたように頬を赤らめイヤンイヤンし始めた。ユエが冷めた表情でシアを見ている。ユキは頭を抱えている

 

「も、もう、ハジメさん。こんな公衆の面前で、いきなり何言い出すんですかぁ。そんな、容姿もスタイルも性格も抜群で、世界一可愛くて魅力的だなんてぇ、もうっ! 恥かしいでっぶげら!?」

「すみません。お姉ちゃんがこんなんで。」

「お前シアに容赦ないんだな。」

 

顔めがけて膝打ちとかかなりえげつないんだが

 

「あっ。それとユキ。」

 

俺は小さな宝石が複数埋め込まれているチョウカーを渡す。

 

「一応念話石と特定石が組み込んであるから、必要なら使え。直接魔力を注いでやれば使えるから」

「念話石と特定石か?」

「あぁ。さすがに奴隷扱いするのは嫌だったからな。アクセサリーとしてハジメに作ってもらったんだよ。」

 

これは実際俺のわがままといえる

 

「……せっかくだし普通の女の子としてこの街を見てこい。もし連れ出されたりしたらそいつらを潰しに行くから。」

「っ!!」

 

すると涙を目に貯めるユキ。カムから聞く機会があってよかったよ

ユキはまるで男のように育ってきたらしい。

誰にも知らないで魔物を狩ったり長老として育てるべく英才教育を受けている。

だから口調も自然男口調になるのは当たり前だったのだが

女性としておしゃれや幻想的な物語に憧れたらしい

本当にどこぞの剣士みたいだなっと思ってしまう

 

「……む〜今違う女のこと考えなかったかい?」

「……」

 

少し怖いんだけど事実なので黙り込む

 

「そういやまず金だよなぁ?少しは持っているけどそんなに俺持ってないぞ?」

「樹海か奈落のやつを売ればいいだろ?」

「……それもそうだな。」

 

そんな風に仲良く? メインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。

俺たちは看板を確認すると重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。

 

 

ここの冒険者ギルドはおとなしいな

王都の冒険者ギルドが荒くれ者達の場所というイメージだったので意外に清潔さが保たれた場所に少し驚いてしまう。俺たちが入ると冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ、見慣れない5人組ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線がユエとシアとユキに向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。

 

カウンターには笑顔を浮かべたオバチャンがいた。恰幅がいい。横幅がユエ二人分はある。どうやら美人の受付というのは幻想のようだ。地球の本職のメイドがオバチャンばかりという現実と同じだ。ハジメは別に、美人の受付なんて期待していたのでまだ足りないのかと冷たい視線を送る。

 

「両手に花を持っているのに、まだ足りなかったのかい? 残念だったね、美人の受付じゃなくて」

 

 ……オバチャンは読心術の固有魔法が使えるのかもしれない。ハジメは頬を引き攣らせながら何とか返答する。

 

「いや、そんなこと考えてないから」

「あはははは、女の勘を舐めちゃいけないよ? 男の単純な中身なんて簡単にわかっちまうんだからね。あんまり余所見ばっかして愛想尽かされないようにね?」

「……肝に銘じておこう」

「資材の売却とそこのハジメのギルドの登録を頼む。」

 

俺は千ルタを宝物庫から取り出しおばちゃんに渡す

 

「……ギルドに登録するといいことがあるのか?」

「買収が1割高くなったりギルドと提携している宿や店は一~二割程度は割り引いてくれる。移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするから登録はしといた方がいい。樹海くらいソロで行動できる腕前があるんならな。」

 

俺はそういって樹海で獲った物を差し出す

 

「これ買収頼む。」

「ほお。とんでもないね。確かお前さんは緑だろ?」

「元々旅人だからな。上に上がれば指定依頼とかも嵩むし自由気楽にしているってことだ。実力的には金はあることを自負しているぞ。」

 

女性陣やハジメからのジト目が刺さる。嘘は言っていないから大丈夫だ

 

「やっぱり珍しいか?」

「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」

 

それからオバチャンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は二人合わせて八十八万七千ルタ。かなりの額だ。

 

「ところで、門番の彼に、この町の簡易な地図を貰えると聞いたんだが……」

「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。

 

「もしかして書記持ちですか?」

「おや鋭いねぇ。」

「地図を書く時には有能ですからね。でも戦闘能力もちの書記はなかなかいないですしね。」

 

こういう時は何も聞かないのがギルドの鉄則だ。

 

「そうか。まぁ、助かるよ」

「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その三人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」

 

オバチャンは最後までいい人で気配り上手だった。ハジメは苦笑いしながら「そうするよ」と返事をし、入口に向かって踵を返した。ユエとシア、ユキも頭を下げて追従する。食事処の冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後まで女性陣を目で追っていた。

 

 

 

もはや地図というよりガイドブックと称すべきそれを見て決めたのは〝マサカの宿〟という宿屋だ。紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後が決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。

宿の中は一階が食堂になっているようで複数の人間が食事をとっていた。ハジメ達が入ると、お約束のようにユエとシアに視線が集まる。それらを無視して、カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

 

「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」

「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」

 

 ハジメが見せたオバチャン特製地図を見て合点がいったように頷く女の子。

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

「一泊でいい。食事付きで、あと風呂も頼む」

「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが。」

「この時間帯で2時間でいいか?」

 

俺がいうと全員が頷く。「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、日本人としては譲れないところだ。

 

「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋と三人部屋が空いてますが……」

「二人部屋と三人部屋一部屋ずつ。」

「……ダメ。二人部屋3つで」

 

するとそんなことを言い出す

 

「……私とハジメ、ユキとスバルで一部屋。シアは別室」

「ちょっ、何でですか! 私だけ仲間はずれとか嫌ですよぉ! 三人部屋でいいじゃないですかっ!」

「俺もシアは勘弁だけど男女別でいいんじゃねーのか?」

 

俺は最初からそう頼んでいたのだが

 

猛然と抗議するシアに、ユエはさらりと言ってのけた。

 

「……シアがいると気が散る」

「気が散るって……何かするつもりなんですか?」

「……何って……ナニ?」

「ぶっ!? ちょっ、こんなとこで何言ってるんですか! お下品ですよ!」

「……ボクは部屋割りあまり気にしないけどさっさと決めてくれないかな?少し街をスバルさんと見て回りたいんだ。」

「まぁ。俺は買い出しいくし料理の材料を買いに行くから別にいいんだけどな。」

「……お前が抜けるとストッパーいないんだが。」

「お前に惚れている女くらい自分で何とかしろよ。」

 

と俺はため息を吐く。それで妥協点としてユキと俺、ハジメとユエとシアの部屋にすることによって何とか落ち着いたんだが

……この言葉を俺は死ぬほど後悔することになるとは思いもしなかった



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ブルッグにて2

結局昨日は街どころかバカ達を止めるために俺とユキは奮闘しお互いにぐっすり寝てしまい結局翌日俺たちは買い物をすることになったのだが。

 

「次右な」

「……スバルさん。それどこで買ったの?」

 

ジト目で俺の方を見るユキ。俺の手には露店で買った大量の食品があった。

 

「いや。少し小腹が減ったからな。」

「さっき朝ごはん食べたよね?」

「動いている分腹減るんだよ。とくに暴走を止めるとな。」

 

俺はそういうとここか思い足を止めると

 

「えっ?」

「あっ!」

「やっぱか。」

 

キャサリンさんの地図には、きちんと普段着用の店、高級な礼服等の専門店、冒険者や旅人用の店と分けてオススメの店が記載されており、とある冒険者向きの店ある程度の普段着もまとめて買えるという点が決め手の店に訪れていた。なので

 

「ユエ達もやっぱここか?」

「……うん。スバルも行くの?」

「いや、女子の買い物は長いっていうのが常識だからな。食材買ってこようって思って。ユキの送り迎えだけ」

「ぼくが買いたい服全部買っていいって言っていたから。」

「あ〜ずるいです!!」

「あんな。お前とは違って信用できるからな。一応ここリーズナブルな点も他の人に好かれているし。」

 

多分値段の点も問題ないだろう。一応30万渡してあるからな。

 

「後から念話石で連絡くれ。鍋とか見て回るから。」

「分かりました!!」

「……ん。」

 

と俺はその後道具屋や食物を数点集めた後に連絡が来る

 

「スバルさん。終わったよ。」

「あぁ。って遅かったな。」

「少し迷っちゃった。お金のこともあるし。」

「……」

 

本当こいつ優しいよなぁ。気配りもできるし。本当にいい嫁になりそう

 

「……なぁシアとユキ交換しないか?」

「ハジメさん!?」

 

念話石でハジメがそういうことをいうくらいに

俺はそうやって元にいた服屋に戻ると白いワンピースを纏っているユキが恥ずかしそうにしていた。

 

「ん。終わったか。」

「う、うん。それでどうかな?初めてワンピースってものを着てみたんだけど。」

「似合っているんじゃないか?可愛いし。」

 

するとプスーと顔を茹で蛸みたいになったユキに少し苦笑する

 

「行こうぜ。もう少し時間あるらしいから後は街を見て回ろう。」

「う、うん。」

 

するとユキは俺の隣に来て腕を絡ます。断ることもないので後はゆっくりと街の中を探索することになった。

 

 

「「ただいま。」」

「お疲れさん。必要なものは全部揃ったか?」

 

ハジメとシアとユエはすでに出る準備は終わっているらしい

 

「一応な。後これ。差し上げ。」

「おっ。気がきくな。」

「……あっ。」

 

俺は適当に買ってきた差し入れを渡す。

 

「少し調味料の料理そこまで食べてなかったからな。タレも少し濃いめにしてもらったぞ。からかったらパンと一緒にホットドッグみたいに食えば結構いけるぞ。」

「サンキュー。いや〜腹が減っていたからな。助かった。」

「……む〜。」

「完全に忘れてたですぅ。」

 

すると美味しそうに頬張るハジメに苦笑してしまう

 

「そういえばこれはユキにだな。」

 

すると青い短剣を渡す

 

「これは?」

「俺が作った短剣だよ。世界一軽い鉱石と呼ばれているピスクロチウムを使って作ってもらった。内蔵しているのは俺の神速。ステータスの1割の俊敏が上がるはずだ。」

「今の俺にはこれくらいが限界だが、腕が上がれば随時改良していくつもりだ。これから何があるか分からないからな。ユエとスバルのシゴキを受けたとは言え、たったの十日。まだまだ、危なっかしい。その武器はお前らの力を最大限生かせるように考えて作ったんだ。使いこなしてくれよ? 仲間になった以上勝手に死んだらぶっ殺すからな?」

「ハジメさん……ふふ、言ってることめちゃくちゃですよぉ~。大丈夫です。まだまだ、強くなって、どこまでも付いて行きますからね!」

「任せてよ。戦闘には自信あるから。」

 

二人は覚悟を見守りながら俺たちは頷く。

次に向かうのはライセン大迷宮

そこに向かって俺たちは歩き始めた



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ライセン大迷宮1

「…お〜い。できたぞ。」

「今日も何も見るからなかったね。」

 

ため息を吐く。もう街を出てから5日経っており谷底から見上げる空に上弦の月が美しく輝く頃、ハジメ達はその日の野営の準備をしていた。

 

「はぁ~、ライセンの何処かにあるってだけじゃあ、やっぱ大雑把過ぎるよなぁ」

 

 洞窟などがあれば調べようと、注意深く観察はしているのだが、それらしき場所は一向に見つからない。ついつい愚痴をこぼしてしまうハジメ。

 

「まぁ、大火山に行くついでなんですし、見つかれば儲けものくらいでいいじゃないですか。大火山の迷宮を攻略すれば手がかりも見つかるかもしれませんし」

「まぁ、そうなんだけどな……」

「ん……でも魔物が鬱陶しい」

「あ~、ユエさんには好ましくない場所ですものね~」

「ぼくは自分にかけるには問題ないけどね。」

「俺の空間把握もオルクスの時も外からは分からなかったから多分生成魔法で隠蔽はつけているだろうしなぁ。」

「だろうな。」

 

そんなこと言いながら俺たちは雑談を続け就寝の時間になる。最初は俺とハジメが見張りの時間だ。

その日も、そろそろ就寝時間だと寝る準備に入るユエとシアとユキ。テントの中にはふかふかの布団があるので、野営にもかかわらず快適な睡眠が取れる。と、布団に入る前にシアがテントの外へと出ていこうとした。

 

「どうした?」

「ちょっと、お花摘みに」

「谷底に花はないぞ?」

「ハ・ジ・メ・さ~ん!」

 

デリカシーのない発言にシアがすまし顔を崩しキッとハジメを睨みつける。ハジメはもちろん意味がわかっているので「悪い悪い」と全く悪く思ってなさそうな顔で苦笑いする。ぷんすかと怒りながらテントの外に出て行き、しばらくすると……

 

「ハ、ハジメさ~ん! ユエさ~ん!スバルさ〜ん ユキ!!大変ですぅ! こっちに来てくださぁ~い!」

 

 と、シアが、魔物を呼び寄せる可能性も忘れたかのように大声を上げた。

 

……なんだ?と思い全員が眠気をこらえシアの声がした方へ行くと、そこには、巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれ掛かるように倒れおり、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。シアは、その隙間の前で、ブンブンと腕を振っている。その表情は、信じられないものを見た! というように興奮に彩られていた。

 

「こっち、こっちですぅ! 見つけたんですよぉ!」

「わかったから、取り敢えず引っ張るな。身体強化全開じゃねぇか。興奮しすぎだろ」

「……うるさい」

「……どうしたんだよ。」

「うぅ眠いよ。

 

 はしゃぎながらハジメとユエの手を引っ張るシアに、ハジメは少し引き気味に、ユエは鬱陶しそうに顔をしかめる。シアに導かれて岩の隙間に入ると、壁面側が奥へと窪んでおり、意外なほど広い空間が存在した。そして、その空間の中程まで来ると、シアが無言で、しかし得意気な表情でビシッと壁の一部に向けて指をさした。

 

〝おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪〟

 

 

「「「「は?」」」」

 

四人の声が重なる

 

「……なんじゃこりゃ」

「……なにこれ」

 

二人がそう思うのも無理はないだろう。シアだけが興奮したようにしている

 

「何って、入口ですよ! 大迷宮の! おトイ……ゴホッン、お花を摘みに来たら偶然見つけちゃいまして。いや~、ホントにあったんですねぇ、ライセン大峡谷に大迷宮って」

 

 能天気なシアの声が響く中、俺何とも言えない表情になり、困惑しながらお互いを見た。

 

「……ユエ、スバル。マジだと思うか?」

「嘘だと思いたいけど本物だろうな。」

「…………………………ん」

「根拠は?」

「「ミレディ。」

 

〝ミレディ〟その名は、オスカーの手記に出て来たライセンのファーストネームだ。ライセンの名は世間にも伝わっており有名ではあるがファーストネームの方は知られていない。故に、その名が記されているこの場所がライセンの大迷宮である可能性は非常に高かった。

 

「何でこんなチャラいんだよ……」

 

 そう言う理由である。オルクス大迷宮の内での数々の死闘を思い返し、きっと他の迷宮も一筋縄では行かないだろうと想像していただけに、この軽さは否応なく脱力させるものだった。

 

「でも難易度は結構高そうだぞ。空間把握が捉えたけど。これマッピング不可だ。迷宮が少しずつ変化している。」

「何?」

「でも、入口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし……」

「おい。バカそこは。」

 

ガコンッ!

 

「ふきゃ!?」

 

 〝入口になっている〟そう言おうとしたら、シアの触っていた窪みの奥の壁が突如グルンッと回転し、巻き込まれたシアはそのまま壁の向こう側へ姿を消した。

 

「まるで昔のスバルの屋敷みたいだな。」

「忍者の家系なんだからしかたないだろ?……こりゃ物理トラップの線だろうな。」

「……魔力は分解されるから?」

「だろうな。」

「とりあえず行こうよ。お姉ちゃんが心配だし。」

 

一度、顔を見合わせて溜息を吐くと、シアと同じように回転扉に手をかけた。

扉の仕掛けが作用して、全員を同時に送る。すると

 

ヒュヒュヒュ!

 

 無数の風切り音が響いいたかと思うと暗闇の中を何かが飛来してきたのを俺とユキは躱す。夜目〟はその正体を直ぐさま暴く。それは矢だ。全く光を反射しない漆黒の矢が侵入者を排除せんと無数に飛んできているのだ。

俺は剣を抜き飛来する漆黒の矢の尽くを叩き落とした。

 

〝ビビった? ねぇ、ビビっちゃた? チビってたりして、ニヤニヤ〟

〝それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ〟

 

「「「「……」」」」

 

全員の内心はかつてないほど一致している。すなわち「うぜぇ~」と。

ハジメもユエも、額に青筋を浮かべてイラッとした表情をしている。そして、ふと、ユエが思い出したように呟いた。

 

「……シアは?」

「あ」

 

ユエの呟きでハジメも思い出したようで、慌てて背後の回転扉を振り返る。扉は、一度作動する事に半回転するので、この部屋にいないということは、ハジメ達が入ったのと同時に再び外に出た可能性が高い。俺は回転扉を作動させると

シアは……いた。回転扉に縫い付けられた姿で。

 

「うぅ、ぐすっ、ハジメざん……見ないで下さいぃ~、でも、これは取って欲しいでずぅ。ひっく、見ないで降ろじて下さいぃ~」

 

何というか実に哀れを誘う姿だった。索敵能力で何とか躱したのだろうでも

 

「そう言えば花を摘みに行っている途中だったな……まぁ、何だ。よくあることだって……」

「ありまぜんよぉ! うぅ~、どうして先に済ませておかなかったのですかぁ、過去のわたじぃ~!!」

「……お姉ちゃん。」

 

さすがに漏らしてしまったシアに引くユキ。でも

 

「……手強いな。」

 

俺の言葉にみんなが頷く。そしてシアの着替えが終わり石版をみてシアがきれるといった騒ぎを見て

 

「ミレディ・ライセンだけは〝解放者〟云々関係なく、人類の敵で問題ないな」

「……激しく同意」

「面白そうだけどな。」

 

ライセンの大迷宮は、オルクス大迷宮とは別の意味で一筋縄ではいかない場所のようだった。



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ライセン大迷宮2

シアが、最初のウザイ石板を破壊し尽くしたあと、俺達は道なりに通路を進み、とある広大な空間に出た。

そこは、階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくごちゃごちゃにつながり合っており、まるでレゴブロックを無造作に組み合わせてできたような場所だった。一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっているかと思えば、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がっていたり、二階から伸びる階段の先が、何もない唯の壁だったり、本当にめちゃくちゃだった。

 

「こりゃまた、ある意味迷宮らしいと言えばらしい場所だな」

「……ん、迷いそう」

「ふん、流石は腹の奥底まで腐ったヤツの迷宮ですぅ。このめちゃくちゃ具合がヤツの心を表しているんですよぉ!」

「……気持ちは分かるから、そろそろ落ち着けよ」

「お姉ちゃんみっともないよ。」

 

 未だ怒り心頭のシア。それに呆れ半分同情半分の視線を向けつつ、ハジメは「さて、どう進んだものか」と思案する。

 

「……ハジメ。考えても仕方ない」

「俺が前で行くしかないだろうな。」

「そうだな。慎重に進むか。」

 

と俺が直感で魔力を抜かれた

 

「回避。」

 

ガタンとハジメの下で音がなり

 

シャァアアア!!

 

 そんな刃が滑るような音を響かせながら、左右の壁のブロックとブロックの隙間から高速回転・振動する円形でノコギリ状の巨大な刃が飛び出してきた。右の壁からは首の高さで、左の壁からは腰の高さで前方から薙ぐように迫ってくる。

俺とユキは余裕を持って、ハジメは後ろに倒れ込みながら二本の凶悪な刃を回避する。ユエは元々背が小さいのでしゃがむだけで回避した。シアも何とか回避したようだ。

 

「……完全な物理トラップか。魔眼石じゃあ、感知できないわけだ」

「魔眼に頼りすぎだアホ。」

「はぅ~、し、死ぬかと思いましたぁ~。ていうか、ハジメさん! あれくらい受け止めて下さいよぉ! 何のための義手ですか!」

「いや、あれ相当な切れ味だと思うぞ? 切断まではされないだろうが、傷くらいいれられたかもしれん。今は金剛使えないからな」

「き、傷って……装備と私、どっちが大事なんですかっ!」

「……まぁ、無事だったんだ。いいじゃねぇか」

「ちょっ、なんではぐらかすんですかっ! 嘘ですよね? 私の方が大事ですよね? ね?」

 

 誤魔化すハジメに、掴みかからんばかりの勢いで問い詰めようとするシア。そんなシアにユエが言葉の暴力を振るう。

 

「……お漏らしウサギ。死にかけたのは未熟なだけ」

「おもっ、おもらっ、撤回して下さい、ユエさん! いくらなんでも不名誉すぎますぅ!」

「でもお姉ちゃん漏らしたでしょ。」

「うぅ。」

「ユキは平気そう。」

「こういうトラップは特訓の時にスバルさん普通に仕掛けてくるので。」

 

俺は目線を逸らす。殺す気は無かったので模擬刀とかを使用していたが特訓場所にトラップ。それもお手製のやつを仕込んでいたのもありユキは慣れているはずだ。

 

「俺も直感があるから結構余裕だな。元々俺はスタイル変えなくても脳筋アタッカーだし。問題はライセンではないな。」

「技能の差が結構響いているな。」

「……なぁこれ思ったんだけど。死ぬ確率があるのってウサギコンビだけじゃね?」

 

そして、ユエには〝自動再生〟がある。トラップにかかっても死にはしない。となると……必然的にヤバイのはシアとユキだけである。そのことに気がついているのかいないのか分からないが、シアのストレスが天元突破するであろうことだけは確かだった。

 

「あれ? ハジメさん、何でそんな哀れんだ目で私を……」

「強く生きろよ、シア……」

「え、ええ? なんですか、いきなり。何か凄く嫌な予感がするんですけど……」

 

 

 

トラップに注意しながら更に奥へと進む。

 

「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。こう、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ」

 

 階段の中程まで進んだ頃、突然、シアがそんなことを言い出した。言葉通り、シアのウサミミがピンッと立ち、忙しなく右に左にと動いている。

 

「お前、変なフラグ立てるなよ。そういうこと言うと、大抵、直後に何か『ガコン』…ほら見ろっ!」

「わ、私のせいじゃないすぅッ!?」

「!? ……フラグウサギッ!」

「もう何度目!!」

「……やべぇ。下に結構いるな。」

 

嫌な音が響いたかと思うと、いきなり階段から段差が消えた。かなり傾斜のキツイ下り階段だったのだが、その階段の段差が引っ込みスロープになったのだ。しかもご丁寧に地面に空いた小さな無数の穴からタールのようなよく滑る液体が一気に溢れ出してきた。

 

「ユキ。」

「スバルさん。」

 

俺はすぐに天歩を使うとユキが飛びついて来るのと同時に俺も大きく飛ぶ

俺たちは回避したもののハジメ達は落下してしまったので少しゆっくりと空を歩いていく

 

「何やってんだお前ら。」

「……お前何で空歩使っているんだよ。」

「お前ら追いかけにきたからに決まっているんだろ。ほらさっさと行くぞ。」

 

魔力回復薬を飲みながら進む

 

その後もトラップの応酬とうざい文でハジメたちを追い込んだ後最初の部屋に戻され

 

〝ねぇ、今、どんな気持ち?〟

〝苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?〟

〝ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ〟

 

といううざい文によりシアのストレスが突破しレッキレッになったのっはいうまでも無かった



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ライセン大迷宮3

 

ライセンの迷宮に入ってから今日でちょうど一週間がたった。その間も数々のトラップとウザイ文に体よりも精神を削られ続けた。

食料は潤沢にあるし、身体スペック的に早々死にはしないのが不幸中の幸いだ。休息を取りながら少しずつ探索を進めている。その結果、どうやら構造変化には一定のパターンがあることがわかった。空間把握とマーキングを利用して、どのブロックがどの位置に移動したのかを確かめていったのだ。

そして、俺達は、一週間前に訪れてから一度も遭遇することのなかった部屋に出くわした。最初にスタート地点に戻してハジメ達を天元突破な怒りを覚えさせてくれたゴーレム騎士の部屋だ。ただし、今度は封印の扉は最初から開いており、向こう側は部屋ではなく大きな空間がある

 

「ここか……また包囲されても面倒だ。扉は開いてるんだし一気に行くぞ!」

「んっ!」

「はいです!」

「了解。」

「分かったよ。」

 

ゴーレム騎士の部屋に一気に踏み込んだ。部屋の中央に差し掛かると、案の定、ガシャンガシャンと音を立ててゴーレム騎士達が両サイドの窪みから飛び出してくる。出鼻を抉いて前方のゴーレム騎士達を銃撃し蹴散らしておく。そうやって稼いだ時間で、俺達は更に加速し包囲される前に祭壇の傍まで到達した。ゴーレム騎士達が猛然と追いかけるが、間に合いそうにない

しかし、今までとは違いゴーレム達はも扉をくぐって追いかけてきたからだ。しかも……

 

「なっ!? 天井を走ってるだと!?」

「……びっくり」

「重力さん仕事してくださぁ~い!」

「すげぇ。やってみたい!!」

「……ぼくも。」

 

追いかけてきたゴーレム騎士達は、まるで重力など知らんとばかり壁やら天井やらをガシャンガシャンと重そうな全身甲冑の音を響かせながら走っているのである。

 

「どうなってやがるんだ?」

「神代魔法だろうな。重力か空気を操る魔法だろう。でもすげえな。」

「何がだ?」

「一歩間違えればどっちにしろゴーレムごと多分ぶっ壊れるはずなのに綺麗に保っている。よほどの使い手じゃないとこの迷宮が成り立たないってことだ。」

 

俺の言葉にユエも頷く。同じことを思っていたらしい。

猛烈な勢いで迫ってきたゴーレム騎士の頭部、胴体、大剣、盾を屈んだり跳躍したりして躱していく。通り過ぎたゴーレム騎士の残骸は、そのまま勢いを減じることなく壁や天井、床に激突しながら前方へと転がっていった。

 

「おいおい、あれじゃまるで……」

「ん……〝落ちた〟みたい」

「重力さんが適当な仕事してるのですね、わかります」

「……そんな事言っている暇ないだろ。これ囲まれるぞ。」

 

ハジメ曰く俺は見てないが再構築できるらしい。

 

「ハジメ使っていいか?」

「あぁ。全員耳塞げ。」

 

俺が宝物庫から十二連式の回転弾倉が取り付けられた長方形型のロケット&ミサイルランチャー:オルカンでを取り出す。ロケット弾は長さ三十センチ近くあり、その分破壊力は通常の手榴弾より高くなっている。弾頭には生成魔法で〝纏雷〟を付与した鉱石が設置されており、この石は常に静電気を帯びているので、着弾時弾頭が破壊されることで燃焼粉に着火する仕組みらしい。

 

「ん」

「えぇ~何ですかそれ!?」

 

バシュウウ!

 

 そんな音と共に、後方に火花の尾を引きながらロケット弾が発射され、狙い違わず隊列を組んで待ち構えるゴーレム騎士に直撃した。

次の瞬間、轟音、そして大爆発が発生する。通路全体を激震させながら大量に圧縮された燃焼粉が凄絶な衝撃を撒き散らした。ゴーレム騎士達は、直撃を受けた場所を中心に両サイドの壁や天井に激しく叩きつけられ、原型をとどめないほどに破壊されている。再構築にもしばらく時間がかかるだろう。

一気にゴーレム騎士達の残骸を飛び越えて行く。

 

「ウサミミがぁ~、私のウサミミがぁ~!!」

 

 ハジメ達と併走しながら、ウサミミをペタンと折りたたみ両手で押さえながら涙目になって悶えているシア。兎人族……それは亜人族で一番聴覚に優れた種族であるからこそ一番辛いのでしょう

 

「だから、耳を塞げって言っただろうが」

「ええ? 何ですか? 聞こえないですよぉ」

「……気が抜ける。」

「……ホント、残念ウサギ……」

「お姉ちゃんは昔からこうでしたから。」

 

呆れたようにしているユキ。ユキはしっかりと防いだらしい

 

「全員飛ぶぞ。」

 

 ハジメの掛け声に頷く背後からは依然、ゴーレム騎士達が落下してくる。それらを迎撃し、躱しながら俺達は通路端から勢いよく飛び出した。

 

身体強化されたハジメ達の跳躍力はオリンピック選手のそれを遥かに凌ぐ。世界記録を軽々と超えてハジメ達は眼下の正方形に飛び移ろうとした。

 

 が、思った通りにいかないのがこの大迷宮の特徴。何と、放物線を描いて跳んだハジメ達の目の前で正方形のブロックがスィーと移動し始めたのだ。

 

「なにぃ!?」

「空力。」

 

俺は全員の足元に足場を作ると一気に魔力が抜かれる。

 

「もう一度飛ぶよ。」

 

ユキの声に全員がもう一度ジャンプをする

未だに離れていこうとするブロックに追いつき何とか端に手を掛けてしがみつくことに成功した

 

「ナイスだ。スバルとユキ。」

「……流石。」

「魔力結構抜かれたけどな。」

「スバルさん回復薬。」

 

俺はユキから受け取りそれを飲みほすと俺は魔力を引かれる

 

「全員避けろ。」

 

すると怒涛もないくらいにゴーレム達が押し寄せ戦闘に入る。そして何度か繰り返し

 

「くそっ、こいつら、重力操作かなんか知らんが動きがどんどん巧みになってきてるぞ」

「……たぶん、原因はここ?」

「あはは、常識って何でしょうね。全部浮いてますよ?」

 

シアの言う通り、周囲の全ては浮遊していた。

俺達が入ったこの場所は超巨大な球状の空間だった。直径二キロメートル以上ありそうである。そんな空間には、様々な形、大きさの鉱石で出来たブロックが浮遊してスィーと不規則に移動をしているのだ。完全に重力を無視した空間である。だが、不思議なことにハジメ達はしっかりと重力を感じている。おそらく、この部屋の特定の物質だけが重力の制限を受けないのだろう。

 

「ここに、ゴーレムを操っているヤツがいるな。」

 

ハジメの推測に俺たちも賛同するように表情を引き締めた。ゴーレム騎士達は何故か、ハジメ達の周囲を旋回するだけで襲っては来ない。取り敢えず、何処かに横道でもないかと周囲を見渡す。ここが終着点なのか、まだ続きがあるのか分からない。だが、間違いなく深奥に近い場所ではあるはずだ。ゴーレム騎士達の能力上昇と、この特異な空間がその推測に説得力を持たせる。

次の瞬間、シアの焦燥に満ちた声が響く。

「逃げてぇ!」

「「!?」」

 

俺はとっさに飛び退いた。運良く、ちょうど数メートル先に他のブロックが通りかかったので、それを目指して現在立っているブロックを離脱する。

直後、

 

ズゥガガガン!!

 

 隕石が落下してきたのかと錯覚するような衝撃が今の今までいたブロックを直撃し木っ端微塵に爆砕した。隕石というのはあながち間違った表現ではないだろう。赤熱化する巨大な何かが落下してきて、ブロックを破壊すると勢いそのままに通り過ぎていったのだ

 

「……うわぁ。殺意高。」

 

感知出来なかったわけではなかった。シアが警告をした直後、確かに気配を感じた。だが、落下速度が早すぎて感知してからの回避が間に合ったとは思えなかったのである。

 

「シア、助かったぜ。ありがとよ」

「……ん、お手柄」

「えへへ、〝未来視〟が発動して良かったです。代わりに魔力をごっそり持って行かれましたけど……」

「生きていただけマシだよ。本当に死んだと思った。」

 

俺たちは冷や汗を垂れると改めて戦慄を感じながら、俺は通過していった隕石モドキの方を見やった。ブロックの淵から下を覗く。と、下の方で何かが動いたかと思うと猛烈な勢いで上昇してきた。

 

「おいおい、マジかよ」

「……すごく……大きい」

「お、親玉って感じですね」

「ボスだな。気を引き締めろよ。」

 

目の前に現れたのは、宙に浮く超巨大なゴーレム騎士だった。全身甲冑はそのままだが、全長が二十メートル弱はある。右手はヒートナックルとでも言うのか赤熱化しており、先ほどブロックを爆砕したのはこれが原因かもしれない。左手には鎖がジャラジャラと巻きついていて、フレイル型のモーニングスターを装備している。

巨体ゴーレムに身構えていると、周囲のゴーレム騎士達がヒュンヒュンと音を立てながら飛来し、ハジメ達の周囲を囲むように並びだした。整列したゴーレム騎士達は胸の前で大剣を立てて構える。まるで王を前にして敬礼しているようだ。緊張感が高まる。辺りに静寂が満ち、まさに一触即発の状況。そんな張り詰めた空気を破ったのは……

 

「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

「「「「「……は?」」」」」

 

そんなゴーレムのふざけた挨拶だった

 



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ミレディ戦

 凶悪な装備と全身甲冑に身を固めた眼光鋭い巨体ゴーレムから、やたらと軽い挨拶をされた。頭がどうにかなる前に現実逃避しそうだった。俺以外も、包囲されているということも忘れてポカンと口を開けている。

そんな硬直する俺たちに、巨体ゴーレムは不機嫌そうな声を出した。声質は女性のものだ。

 

「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ」

「いや……まぁいいや。」

 

突っ込むのもなんだし俺は少し苦笑する

 

「そいつは、悪かったな。だが、ミレディ・ライセンは人間で故人のはずだろ? まして、自我を持つゴーレム何て聞いたことないんでな……目論見通り驚いてやったんだから許せ。そして、お前が何者か説明しろ。簡潔にな」

「あれぇ~、こんな状況なのに物凄く偉そうなんですけど、こいつぅ」

「まぁ。これくらいのミニゴーレムくらいなら何とかなるしな。」

 

実際蹴散らせる実力はもっているしな

 

「ん~? ミレディさんは初めからゴーレムさんですよぉ~何を持って人間だなんて……」

「オスカーの手記にお前のことも少し書いてあった。きちんと人間の女として出てきてたぞ? というか阿呆な問答をする気はない。簡潔にと言っただろう。どうせ立ち塞がる気なんだろうから、やることは変わらん。お前をスクラップにして先に進む。だから、その前にガタガタ騒いでないで、吐くもん吐け」

「お、おおう。久しぶりの会話に内心、狂喜乱舞している私に何たる言い様。っていうかオスカーって言った? もしかして、オーちゃんの迷宮の攻略者?」

「ああ、オスカー・オルクスの迷宮なら攻略した。というか質問しているのはこちらだ。答える気がないなら、戦闘に入るぞ? 別にどうしても知りたい事ってわけじゃない。俺達の目的は神代魔法だけだからな」

 

ハジメがドンナーを巨体ゴーレムに向ける。ユエはすまし顔だが、俺、ユキ、シアの方は「うわ~、ブレないなぁ~」と感心半分呆れ半分でハジメを見ていた。

 

「……神代魔法ねぇ、それってやっぱり、神殺しのためかな? あのクソ野郎共を滅殺してくれるのかな? オーちゃんの迷宮攻略者なら事情は理解してるよね?」

「質問しているのはこちらだと言ったはずだ。答えて欲しけりゃ、先にこちらの質問に答えろ」

「こいつぅ~ホントに偉そうだなぁ~、まぁ、いいけどぉ~、えっと何だっけ……ああ、私の正体だったね。うぅ~ん」

「簡潔にな。オスカーみたいにダラダラした説明はいらないぞ」

「あはは、確かに、オーちゃんは話が長かったねぇ~、理屈屋だったしねぇ~」

 

 巨体ゴーレムは懐かしんでいるのか遠い目をするかのように天を仰いだ。本当に人間臭い動きをするゴーレムである。ユエは相変わらず無表情で巨体ゴーレムを眺め、シアは周囲のゴーレム騎士達に気が気でないのかそわそわしている。俺とユキは武器に手をかけ警戒している

 

「うん、要望通りに簡潔に言うとね。

 私は、確かにミレディ・ライセンだよ

 ゴーレムの不思議は全て神代魔法で解決!

 もっと詳しく知りたければ見事、私を倒してみよ! って感じかな」

「結局、説明になってねぇ……」

「ははは、そりゃ、攻略する前に情報なんて貰えるわけないじゃん? 迷宮の意味ないでしょ?」

「それもそうだな。簡単でいいじゃんか。」

 

俺は少し笑う

 

「お前の神代魔法は、残留思念に関わるものなのか? だとしたら、ここには用がないんだがなぁ」

「ん~? その様子じゃ、何か目当ての神代魔法があるのかな? ちなみに、私の神代魔法は別物だよぉ~、魂の定着の方はラーくんに手伝ってもらっただけだしぃ~」

 

多分解放者の一人の名前を告げる

 

ミレディ・ゴーレムに死んだはずの本人の意思を持たせ、ゴーレムに定着させたようだ。

 

「じゃあ、お前の神代魔法は何なんだ? 返答次第では、このまま帰ることになるが……」

「ん~ん~、知りたい? そんなに知りたいのかなぁ?」

「……」

 

イライラしているハジメに俺は多分ミレディの本性をさぐる

 

「知りたいならぁ~、その前に今度はこっちの質問に答えなよ」

 

 最後の言葉だけ、いきなり声音が変わった。今までの軽薄な雰囲気がなりを潜め真剣さを帯びる。

 

「なんだ?」

「目的は何? 何のために神代魔法を求める?」

「元の世界に戻るため。っていえばいいか?元々俺とハジメは違う世界からの人間だ。だから元の世界に帰るべく神代魔法を探しているわけだ。」

 

俺が答えるとミレディ・ゴーレムはしばらく、ジッと俺とハジメを見つめた後、何かに納得したのか小さく頷いた。そして、ただ一言「そっか」とだけ呟いた。と、次の瞬間には、真剣な雰囲気が幻のように霧散し、軽薄な雰囲気が戻る。

 

「ん~、そっかそっか。なるほどねぇ~、別の世界からねぇ~。うんうん。それは大変だよねぇ~よし、ならば戦争だ! 見事、この私を打ち破って、神代魔法を手にするがいい!」

「脈絡なさすぎて意味不明なんだが……何が『ならば』何だよ。っていうか話し聞いてたか? お前の神代魔法が転移系でないなら意味ないんだけど? それとも転移系なのか?」

「応える気がないってことだろってことで先制攻撃。」

 

俺はそういうと挨拶がわりロケット弾をぶっぱなした。

 

ズガァアアアン!!

 

 凄絶な爆音が空間全体を振動させながら響き渡る。もうもうとたつ爆煙。

 

「やりましたか!?」

「……シア、それはフラグ」

「気配も魔力も感知した。攻撃が来るぞ。」

 

煙の中から赤熱化した右手がボバッと音を立てながら現れると横薙ぎに振るわれ煙が吹き散らされる。

 

 煙の晴れた奥からは、両腕の前腕部の一部を砕かれながらも大して堪えた様子のないミレディ・ゴーレムが現れた。ミレディ・ゴーレムは、近くを通ったブロックを引き寄せると、それを砕きそのまま欠けた両腕の材料にして再構成する。

 

「ふふ、先制攻撃とはやってくれるねぇ~、さぁ、もしかしたら私の神代魔法が君のお目当てのものかもしれないよぉ~、私は強いけどぉ~、死なないように頑張ってねぇ~」

 

 そう楽しそうに笑って、ミレディ・ゴーレムは左腕のフレイル型モーニングスターを俺達に向かって射出した。投げつけたのではない。予備動作なくいきなりモーニングスターが猛烈な勢いで飛び出したのだ。おそらく、ゴーレム達と同じく重力方向を調整して〝落下〟させたのだろう。近くの浮遊ブロックに跳躍してモーニングスターを躱す。モーニングスターは、ブロックを木っ端微塵に破壊しそのまま宙を泳ぐように旋回しつつ、ミレディ・ゴーレムの手元に戻った。

 

「やるぞ!ミレディを破壊する!」

「んっ!」

「了解ですぅ!」

「分かったよ。」

「はいはい。」

 

俺はそういうと剣を抜く

 

ハジメの掛け声と共に、七大迷宮が一つ、ライセン大迷宮最後の戦いが始った。

 

 大剣を掲げたまま待機状態だったゴーレム騎士達が、ハジメの掛け声を合図にしたかのように一斉に動き出した。通路でそうしたのと同じように、頭をハジメ達に向けて一気に突っ込んでくる。

 

「はい残念。」

 

俺は一瞬で刀で分解されないうちに剣撃を飛ばし数十体のゴーレムを巻き込んでいく

二刀流とは違い正しい振り方で俊敏が攻撃のキモとなる刀は俺には合っていたのでハジメに作ってもらったのが幸いしたらしい。八重樫ほどではないが綺麗な剣筋を描く

 

「あはは、やるねぇ~、でも総数五十体の無限に再生する騎士達と私、果たして同時に捌けるかなぁ~」

 

 嫌味ったらしい口調で、ミレディ・ゴーレムが再度、モーニングスターを射出した。シアが大きく跳躍し、上方を移動していた三角錐のブロックに飛び乗る。ハジメは、その場を動かずにドンナーをモーニングスターに向けて連射した。

同時に、上方のブロックに跳躍していたシアがミレディの頭上を取り、飛び降りながらドリュッケンを打ち下ろした。

 

「見え透いてるよぉ~」

「ユキ。」

「はいはい。」

 

と一閃して何度も切りつけるユキ。

高速で移動するユキは一見同じスピードに見えるが緩急をつけて攻撃している

 

「どりぃあああーーー!!」

 

ドリュッケンで、遠心力もたっぷり乗せた一撃をミレディ・ゴーレムに叩き込んだ。

 

ズゥガガン!!

 

 咄嗟に左腕でガードするミレディ・ゴーレム。凄まじい衝突音と共に左腕が大きくひしゃげる。しかし、ミレディ・ゴーレムはそれがどうしたと言わんばかりに、そのまま左腕を横薙ぎにした。

「きゃぁああ!!」

「シア!」

 

 悲鳴を上げながらぶっ飛ぶシア。何とか空中でドリュッケンの引き金を引き爆発力で体勢を整えると、更に反動を利用して近くのブロックに不時着する。

 

「はっ、やるじゃねぇの。おい、ユエ。お前、あいつに一体どんな特訓したんだよ?」

「……ひたすら追い込んだだけ」

「……なるほど、しぶとく生き残る術が一番磨かれたってところか」

「生き残ることが一番大事だからな。俺も正直殺す気でユキを鍛えたからな。」

 

遠目にシアとユキがピョンピョンと浮遊ブロックを飛び移りながら戻ってくるのを確認しつつ内心感心する

ハジメは、〝宝物庫〟からガトリング砲メツェライを取り出す。そして、俺はロケットランチャー(手榴弾)をとりだしダメージを与えて行くことにする

 

ドゥルルルルル!!

 

ドゴン!!ドゴン!!

 

瞬く間に四十体以上のゴーレム騎士達が無残な姿を晒しながら空間の底面へと墜落した。時間が経てば、また再構築を終えて戦線に復帰するだろうが、しばらく邪魔が入らなければそれでいい。

 

「ちょっ、なにそれぇ! そんなの見たことも聞いたこともないんですけどぉ!」

「手榴弾の作り方覚えておいて正解だったな。」

 

家が忍者屋敷だったこともあり、覚えたくないのに爆発物を覚えた俺。なお危険物取扱の試験を二年になったら取るつもりだった。

 

「ミレディの核は、心臓と同じ位置だ! あれを破壊するぞ!」

「んなっ! 何で、わかったのぉ!」

 

再度、驚愕の声をあげるミレディ。

 

「飯塚流剣術水月。」

 

俺は魔力を纏わずに二刀流で切り刻むが

 

「硬いな。これアザンチウムか。」

 

少し傷をつけるくらいにとどまる。

 

「おや? 知っていたんだねぇ~、ってそりゃそうか。オーくんの迷宮の攻略者だものねぇ、生成魔法の使い手が知らないわけないよねぇ~、さぁさぁ、程よく絶望したところで、第二ラウンド行ってみようかぁ!」

 

ミレディは、砕いた浮遊ブロックから素材を奪い、表面装甲を再構成するとモーニングスターを射出しながら自らも猛然と突撃を開始した。

 

「ど、どうするんですか!? ハジメさん!」

「まだ手はある。何とかしてヤツの動きを封じるぞ!」

「……ん、了解」

「足止め頼むぞユキとユエ。今度はアザンチウムでできた刀で切り込むから。」

「任せて。」

「スバル主体で攻める他なさそうだな。」

「シアもアタッカー手伝え。確実に削っていく」

「はい。分かりました。」

 

火力不足を危惧して高速移動で俺とユキは高速移動していく。ユエとシアが迫り来るモーニングスターを回避すべく近くの浮遊ブロックに飛び移ろうとする。しかし、

 

「させないよぉ~」

「やば回避。」

 

 ミレディ・ゴーレムの気の抜けた声と共に足場にしていた浮遊ブロックが高速で回転する。俺は直感でギリギリ避けられたものの他の奴はバランスを崩してしまう

 

そこへ狙いすました様にミレディ・ゴーレムがフレイムナックルを突き出して突っ込んだ。

 

「くぅう!!」

「んっ!!」

「うっ。」

 

 直撃は避けたものの強烈な衝撃に、女性陣の口から苦悶の呻き声が漏れる。

すれ違い様にユエは〝破断〟をミレディ・ゴーレムの腕を狙って発動し、シアはドリュッケンのギミックの一つである杭を打撃面から突出させて、それを鎧に突き立て取り付いきユキもそれに付随する

 

そのまま左の肩から頭部目掛けてドリュッケンをフルスイング。そしてユキは

 

「ごめんね。」

 

手榴弾ピンを抜きそしてすぐに回避しようとすると

 

 

「「きゃあ!」」

 

 悲鳴を上げるシアとユキ。俺はそして空力を使いユキを回収する。シアの方はハジメが回収していたので大丈夫だろう

 

「スバルさん。」

「一度体制整えるぞ。焦ってダメージ与えにいったら相手の思う壺だ。」

 

と抱きかかえて近くの島に飛び降りた時だった

 

「ハ、ハジメさん!?」

「もっかい逝って来い!」

 

 義手に装填されたショットシェルがガシュンという音と共にリロードされ激発する。発生した衝撃の反動で回転するハジメは、その遠心力を利用してシアをミレディ・ゴーレムに向かって投げ飛ばした。

 

「こんちくしょうですぅー!」

 

敵に向かって特攻させられるという何ともやりきれない状況に、自棄くそ気味な雄叫びを上げながらドリュッケンを構えるシア。

若干、ミレディも引いているようにしているが俺も攻撃に移る

 

「飯塚流抜刀術一強。」

 

たった一振りで右腕に大ダメージを与え下方から水のレーザーが迸り、先ほど入れられた切れ込みに寸分違わず命中した。そして、その傷口を更に抉り切り裂いて、遂にミレディ・ゴーレムの右腕を切断した。

 

「ナイスユエ。」

「……してやったり」

 

 そう言ってほくそ笑んだのは、もちろんユエである。

 

「っ、このぉ! 調子に乗ってぇ!」

 

ミレディが、イラついた様子で声を張り上げた。

両腕を失ったミレディが何故か、周囲の浮遊ブロックを呼び寄せて両腕を再構成することもなく、天井を見つめたまま目を強く光らせている

 

「みんな降って来るよ。」

 

ユキが冷静にいうと俺らは全員上を向く

その直後、それは起こった。

空間全体が鳴動する。低い地鳴りのような音が響き、天井からパラパラと破片が落ちくる。いや、破片だけではない。天井そのものが落下しようとしているのだ。

 

「っ!? こいつぁ!」

「ふふふ、お返しだよぉ。騎士以外は同時に複数を操作することは出来ないけど、ただ一斉に〝落とす〟だけなら数百単位でいけるからねぇ~、見事凌いで見せてねぇ~」

 

この空間の壁には幾つものブロックが敷き詰められているのだが、天井に敷き詰められた数多のブロックが全て落下しようとしているのだ。一つ一つのブロックが、軽く十トン以上ありそうな巨石である。そんなものが豪雨の如く降ってくるのだ。

 

俺は〝瞬光〟落ちくる死の欠片の一つ一つを明確に認識できるようにすると最短ルートでユキと合流する

 

「ユキ。後は隠蔽しながらアシストに回るぞ。」

 

この岩の塊に絶対に俺とユキは捕まらない自信がある。ユキも余裕がないので頷くだけだったがすぐに行動に移った。

 

どうやらミレディはハジメ達に集中しているらしい

 

『ユエ。俺とユエ凍らせるから詠唱して準備してろ。最後任せたシアとハジメ。』

『……了解。」

 

巨石群の落下に呑み込まれ地に落ちていた浮遊ブロックが天上の残骸と共に空間全体に散開するように浮かび上がる。としばらくして落下がやむ

 

「う~ん、やっぱり、無理だったかなぁ~、でもこれくらいは何とかできないと、あのクソ野郎共には勝てないしねぇ~」

 

ミレディは、どうやら死んだと思ったらしい。いい思い過ごしだ。

 

「そのクソ野郎共には興味ないって言っただろうが」

「えっ?」

 

驚愕と僅かな喜色を滲ませた声を上げて背後を振り返るミレディ。

 

 そこには、確かに、荒い息を吐き、目や鼻から血を流してはいるものの五体満足のハジメが浮遊ブロックの上に立ってミレディを睥睨していた。

 

「ど、どうやって……」

 

 自分の目には確かに巨石群に呑まれたように見えたハジメが、目の前にいることに思わず疑問の声を上げるミレディ。そんな彼女に、ハジメは、ニィと口の端を吊り上げて笑う。

 

「答えてやってもいいが……俺ばかり見ていていいのか?」

「えっ?」

 

 先程と同じ口調で疑問の声を上げるミレディ。だが、その疑問は、直後、魔法の直撃という形で解消された。

 

「〝破断〟!」

 

 ユエの凛とした詠唱が響き渡り、幾筋もの水のレーザーがミレディ・ゴーレムの背後から背中や足、頭部、肩口に殺到する。着弾したウォーターカッターは各部位の表面装甲を切り裂いた。

 

「こんなの何度やっても一緒だよぉ~、両腕再構成するついでに直しちゃうしぃ~」

「いや、そんな暇は与えない」

 

 振り向きもせず余裕の雰囲気でユエの魔法を受けきったミレディ・ゴーレムに、ハジメがアンカーを打ち込みながら一気に接近する。片手にはシュラーゲンを持っている。

 

「あはは、またそれ? それじゃあ、私のアザンチウム製の装甲は砕けないよぉ~」

 

ハジメに取り付かれ、胸部にシュラーゲンを突きつけられても撃ちたきゃ撃てば? と言わんばかりだ。周囲の浮遊ブロックで妨害しようともしない。それも当然といえば当然だろう。何せ、ハジメの武器がミレディ・ゴーレムの装甲に歯が立たないことは実証済みである。その為、ミレディは、この段階で代わり映えしない攻撃手段を選んだということから、万策尽きて悪足掻きをしていると判断した。

 

「ナイスだスバル。」

 

ハジメの言葉と共にシュラーゲンからスパークが走り、電磁加速されたフルメタルジャケットモドキがミレディ・ゴーレムの胸部をゼロ距離から吹き飛ばす。轟音と衝撃にミレディ・ゴーレムが弾かれ吹き飛ぶ。

 

「こ、こんなことしても結局は……」

「ユエ!スバル。」

 

 ミレディの言葉を無視して、ハジメがユエの名を呼ぶ。すると、跳躍してきたユエが更に魔法を発動した。

 

「凍って! 〝凍柩〟!」

「冷たい空気で全てを凍え。氷結。」

 

ユキのパフが分解する前に俺たちは動きを止めるためにこの魔法にかける

「なっ!? 何で上級魔法が!?」

 

 驚愕の声を上げるミレディ。ユエが上級魔法である氷系統の魔法を使えたのは単純な話だ。〝破断〟と同じく、元となる水を用意して消費魔力量を減らしただけである。あらかじめ、ミレディ・ゴーレムを叩きつけるブロックを決めておき水を撒いておく。そして、隙をついてミレディ・ゴーレム自身の背面にも水を撒いておく。最初の〝破断〟はそれが目的だ。

 

俺もユエも仲間の魔晶石を使っての攻撃でさすがに息が上がる

 

体を固定されたミレディ・ゴーレムの胸部に立ち、ハジメは〝宝物庫〟から切り札を取り出す。虚空に現れたそれは全長二メートル半程の縦長の大筒だった。外部には幾つものゴツゴツした機械が取り付けられており、中には直径二十センチはある漆黒の杭が装填されている。下方は四本の頑丈そうなアームがつけられており、中程に空いている機構にハジメが義手をはめ込むと連動して動き出した。

 

ハジメはそのまま、直下の身動きが取れないミレディ・ゴーレムをアームで挟み込み、更に筒の外部に取り付けられたアンカーを射出した。合計六本のアームは周囲の地面に深々と突き刺さると大筒をしっかりと固定する。同時に、ハジメが魔力を注ぎ込んだ。すると、大筒が紅いスパークを放ち、中に装填されている漆黒の杭が猛烈と回転を始める。

 

キィイイイイイ!!!

 

 高速回転が奏でる旋律が響き渡る。ニヤァと笑ったハジメの表情に、ゴーレムでなければ確実に表情を引き攣らせているであろうミレディ。凶悪なフォルムのそれは、義手の外付け兵器〝パイルバンカー〟である。〝圧縮錬成〟により、四トン分の質量を直径二十センチ長さ一・二メートルの杭に圧縮し、表面をアザンチウム鉱石でコーティングした。世界最高重量かつ硬度の杭。それを大筒の上方に設置した大量の圧縮燃焼粉と電磁加速で射出する。

 

「存分に食らって逝け」

 

そんな言葉と共に、吸血鬼に白木の杭を打ち込むがごとく、ミレディ・ゴーレムの核に漆黒の杭が打ち放たれた。

 

ゴォガガガン!!!

 

 凄まじい衝撃音と共にパイルバンカーが作動し、漆黒の杭がミレディ・ゴーレムの絶対防壁に突き立つ。胸部のアザンチウム装甲は、一瞬でヒビが入り、杭はその先端を容赦なく埋めていく。あまりの衝撃に、ミレディ・ゴーレムの巨体が浮遊ブロックを放射状にヒビ割りながら沈み込んだ。浮遊ブロック自体も一気に高度を下げる。ミレディ・ゴーレムは、高速回転による摩擦により胸部から白煙を吹き上げていた。

……しかし、ミレディ・ゴーレムの目から光は消えなかった。

 

「ハ、ハハ。どうやら未だ威力が足りなかったようだねぇ。だけど、まぁ大したものだよぉ?四分の三くらいは貫けたんじゃないかなぁ?」

「知っているさ。それだけじゃ貫けないってことは。」

 

俺は軽く笑い合図を出す

 

「やれ! シア!」

 

 ハジメは、〝宝物庫〟に杭以外のパイルバンカーをしまうと、ミレディ・ゴーレムの胸部から勢いよく飛び退いた。 代わりに現れたのは、ウサミミをなびかせ、ドリュッケンを大上段に構えたまま、遥か上空から自由落下に任せて舞い降りるシア

 

「チェックメイト。」

 

ドゴォオオ!!!

 

 轟音と共に杭が更に沈み込む。だが、まだ貫通には至らない。シアは、内蔵されたショットシェルの残弾全てを撃ち尽くすつもりで、引き金を引き続ける。

 

ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!

 

「あぁあああああ!!」

 

 シアの絶叫が響き渡る。これで決めて見せると強烈な意志を全て相棒たる大槌に注ぎ込む。全身全霊、全力全開。衝撃と共に浮遊ブロックが凄まじい勢いで高度を下げていく。

そして、轟音と共に浮遊ブロックが地面に激突した。その衝撃で遂に漆黒の杭がアザンチウム製の絶対防御を貫き、ミレディ・ゴーレムの核に到達する。先端が僅かにめり込み、ビシッという音を響かせながら核に亀裂が入った。

地面への激突の瞬間、シアはドリュッケンを起点に倒立すると、くるりと宙返りをする。そして、身体強化の全てを脚力に注ぎ込み、遠心力をたっぷりと乗せた蹴りをダメ押しとばかりに杭に叩き込んだ。

シアの蹴りを受けて更にめり込んだ杭は、核の亀裂を押し広げ……遂に完全に粉砕した。

ミレディ・ゴーレムの目から光が消える。

 

「お疲れさん。」

 

俺の言葉で全員の気が緩み座り込む。

七大迷宮が一つ、ライセン大迷宮の最後の試練が確かに攻略された瞬間だった。

 



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ミレディ

「やったじゃねぇかシア。最後のは凄い気迫だった。見直したぞ?」

「……ん、頑張った」

「えへへ、有難うございます。でもハジメさん、そこは、〝惚れ直した〟でもいいんですよ?」

「直すも何も元から惚れてねぇよ」

「ユキもお疲れ。地味だけど支援助かった。」

「…攻撃ではみなさんより劣るからね。」

 

まぁでも今回のMVPは間違えなくシアだな。、最後の場面で、どうしてもシアの止めが必要という訳ではなかった。パイルバンカーが威力不足だろうことは予想がついていたし、それを押し込む手段もあった。だが、温厚で争いごとが苦手な兎人族であり、つい最近まで戦う術を持たなかったシアが一度も「帰りたい」などと弱音を吐かず、恐怖も不安も動揺も押しのけて大迷宮の深部までやって来たのだ。最後を任せるというのもありだろうとハジメは考え俺に念話石で曖昧にだけど伝えた。

結果は上々。凄まじい気迫と共に繰り出された最後の一撃は正直、俺さえ見惚れるほど見事なものだった。シアの想いの強さが衝撃波となって届いたのかと思うほどに。

 

「ふぇ? な、なんだか……ハジメさんが凄く優しい目をしている気が……ゆ、夢?」

「お前な……いや、まぁ、日頃の扱いを考えると仕方ないと言えば仕方ない反応なんだが……」

「ユキやシアはこの迷宮で認められたんだよ。ユキはこの中で偵察とか戦闘外ではかなりの活躍だったし、シアはこの活躍。どう見たって認めざるを得ないだろうな。」

 

俺は苦笑する。 未だ頬を抓っているシアのもとへユエがトコトコと歩み寄っていく。そして、服を引っ張り屈ませると、おもむろにシアの頭を撫でた。乱れた髪を直すように、ゆっくり丁寧に。

 

「え、えっと、ユエさん?」

「……ハジメは撫でないだろうから、残念だろうけど代わりに。よく頑張りました」

「ユ、ユエさぁ~ん。うぅ、あれ、何だろ? 何だか泣けてぎまじだぁ、ふぇええ」

「……よしよし。」

 

最初はユエの突然の行動に戸惑っていたシアも、褒められていると理解すると、緊張の糸が切れたのかポロポロと涙を流しながらユエにヒシッと抱きつき泣き出してしまった。やはり、初めての旅でいきなり七大迷宮というのは相当堪えていたのだろう。

 

「ユキもよく頑張ったな。」

「……ボクも頭。」

「はいはい。」

 

俺は軽く優しくユキの頭を撫でる

何ともいえない暖かい空気が流れるけど

 

「あのぉ~、いい雰囲気で悪いんだけどぉ~、そろそろヤバイんで、ちょっといいかなぁ~?」

 

 物凄く聞き覚えのある声。ハジメ達がハッとしてミレディ・ゴーレムを見ると、消えたはずの眼の光がいつの間にか戻っていることに気がついた。咄嗟に、飛び退り距離を置くハジメ達。

 

「いや。敵意はねえよ。迷宮はあの時にクリアしたはずだ。多分オスカーの時にあった最後の言葉みたいなものだろう。」

 

俺がいうとハジメとユエがあぁと頷く

 

ハジメが、少し警戒心を解きミレディ・ゴーレムに話しかける。

 

「で? 何の話だ? 死にぞこない。死してなお空気も読めんとは……残念さでは随一の解放者ってことで後世に伝えてやろうか」

「ちょっ、やめてよぉ~、何その地味な嫌がらせ。ジワジワきそうなところが凄く嫌らしい」

「で? 〝クソ野郎共〟を殺してくれっていう話なら聞く気ないぞ?」

 

ハジメの機先を制するような言葉に、何となく苦笑いめいた雰囲気を出すミレディ・ゴーレム。

 

「言わないよ。言う必要もないからね。話したい……というより忠告だね。訪れた迷宮で目当ての神代魔法がなくても、必ず私達全員の神代魔法を手に入れること……君の望みのために必要だから……」

「全部ね……なら他の迷宮の場所を教えろ。失伝していて、ほとんどわかってねぇんだよ」

「あぁ、そうなんだ……そっか、迷宮の場所がわからなくなるほど……長い時が経ったんだね……うん、場所……場所はね……」

 

ポツリポツリとミレディは残りの七大迷宮の所在を語る

 

「以上だよ……頑張ってね」

「……随分としおらしいじゃねぇの。あのウザったい口調やらセリフはどうした?」

 

 ハジメの言う通り、今のミレディは、迷宮内のウザイ文を用意したり、あの人の神経を逆なでする口調とは無縁の誠実さや真面目さを感じさせた。戦闘前にハジメの目的を聞いたときに垣間見せた、おそらく彼女の素顔が出ているのだろう。消滅を前にして取り繕う必要がなくなったということなのかもしれない。

 

「あはは、ごめんね~。でもさ……あのクソ野郎共って……ホントに嫌なヤツらでさ……嫌らしいことばっかりしてくるんだよね……だから、少しでも……慣れておいて欲しくてね……」

「おい、こら。狂った神のことなんざ興味ないって言っただろうが。なに、勝手に戦うこと前提で話してんだよ」

「戦わなくちゃいけなくなるってことだ。」

 

俺がいうとハジメはこっちを向く

 

「オスカー曰く俺たちは駒だ。それなら自分の不都合なことならばまず排除しにかかるのが神だろう。」

「うん。スバルくんのいう通り……戦うよ。君らが君たちである限り……必ず……君達は、神殺しを為す」

「……そりゃあ、俺の道を阻むなら殺るかもしれないが……」

 

ミレディは、その様子に楽しげな笑い声を漏らす。

 

「ふふ……それでいい……君は君の思った通りに生きればいい…………君の選択が……きっと…………この世界にとっての……最良だから……」

 

いつしか、ミレディ・ゴーレムの体は燐光のような青白い光に包まれていた。その光が蛍火の如く、淡い小さな光となって天へと登っていく。死した魂が天へと召されていくようだ。とても、とても神秘的な光景である。

 

 その時、おもむろにユエがミレディ・ゴーレムの傍へと寄って行った。既に、ほとんど光を失っている眼をジッと見つめる。

 

「何かな?」

 

囁くようなミレディの声。それに同じく、囁くようにユエが一言、消えゆく偉大な〝解放者〟に言葉を贈った。

 

「……お疲れ様。よく頑張りました」

「……」

 

それは労いの言葉。たった一人、深い闇の底で希望を待ち続けた偉大な存在への、今を生きる者からのささやかな贈り物。本来なら、遥かに年下の者からの言葉としては不適切かもしれない。だが、やはり、これ以外の言葉を、ユエは思いつかなかった。

 

 ミレディにとっても意外な言葉だったのだろう。言葉もなく呆然とした雰囲気を漂わせている。やがて、穏やかな声でミレディがポツリと呟く。

 

「……ありがとね」

「……ん」

 

 ちなみに、ユエとミレディが最後の言葉をかわすその後ろで、知った風な口を聞かれてイラっとしたハジメが「もういいから、さっさと逝けよ」と口にしそうになり、それを敏感に察したシアに「空気読めてないのはどっちですか! ちょっと黙ってて下さい!」と後ろから羽交い絞めにされて口を塞がれモゴモゴさせていたのだが、幸いなことに二人は気がついておらず、厳かな雰囲気は保たれていた。

 

「……さて、時間の……ようだね……君達のこれからが……自由な意志の下に……あらんことを……」

 

 オスカーと同じ言葉をハジメ達に贈り、〝解放者〟の一人、ミレディは淡い光となって天へと消えていった。

辺りを静寂が包み、余韻に浸るようにユエとシアが光の軌跡を追って天を見上げる。

 

「……最初は、性根が捻じ曲がった最悪の人だと思っていたんですけどね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」

「……ん」

 

 どこかしんみりとした雰囲気で言葉を交わすユエとシア。だが、ミレディに対して思うところが皆無の男、ハジメはうんざりした様子で二人に話しかけた。

 

「はぁ、もういいだろ? さっさと先に行くぞ。それと、断言するがアイツの根性の悪さも素だと思うぞ? あの意地の悪さは、演技ってレベルじゃねぇよ」

「ちょっと、ハジメさん。そんな死人にムチ打つようなことを。ヒドイですよ。まったく空気読めないのはハジメさんの方ですよ」

「……ハジメ、KY?」

「ユエ、お前まで……はぁ、まぁ、いいけどよ。念の為言っておくが、俺は空気が読めないんじゃないぞ。読まないだけだ」

「……それにハジメが言っている意地の悪さ。今後も続きそうなんだよなぁ。」

「……どういうこと?」

 

そんな雑談をしていると、いつの間にか壁の一角が光を放っていることに気がついたハジメ達。気を取り直して、その場所に向かう。上方の壁にあるので浮遊ブロックを足場に跳んでいこうと、ブロックの一つに三人で跳び乗った。と、その途端、足場の浮遊ブロックがスィーと動き出し、光る壁までハジメ達を運んでいく。

 

「……」

「わわっ、勝手に動いてますよ、これ。便利ですねぇ」

「……サービス?」

 

 勝手にハジメ達を運んでくれる浮遊ブロックにシアは驚き、ユエは首をかしげる。ハジメは嫌そうな表情。ユキも何か気づいたようだ。

 

そして運んできた先には

 

「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」

 

 ちっこいミレディ・ゴーレムがいた。

 

「「……」」

「やっぱり。」

「ほれ、みろ。こんなこったろうと思ったよ」

「……ぷっ。」

 

その後シリアスな雰囲気をバカにされたユエとシアによる一方的な虐殺を終えた後

 

魔法陣の中に入る俺達。今回は、試練をクリアしたことをミレディ本人が知っているので、オルクス大迷宮の時のような記憶を探るプロセスは無く、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。

 

「これは……やっぱり重力操作の魔法か」

「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は一応重力魔法。上手く使ってね…って言いたいところだけど、君とウサギちゃんたちは適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」

「やかましいわ。それくらい想定済みだ」

「それとは比べてそこのスバルくんはかなりの適正だね。多分一週間もすれば物にできると思うよ。まぁ、ウサギちゃんたちは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。君は……生成魔法使えるんだから、それで何とかしなよ。金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ」

 

適正ありと聞いて俺は少しワクワクする。どうやらやっとまともな魔法を使えるようになるらしい。

なぜかシアが落ち込んでいるが

 

「おい、ミレディ。さっさと攻略の証を渡せ。それから、お前が持っている便利そうなアーティファクト類と感応石みたいな珍しい鉱物類も全部よこせ」

「……君、セリフが完全に強盗と同じだからね? 自覚ある?」

 

否定できない。俺はため息を吐くと 歪んだニコちゃんマークの仮面が、どことなくジト目をしている気がするが、ハジメは気にしない。ミニ・ミレディは、ごそごそと懐を探ると一つの指輪を取り出し、それをハジメに向かって放り投げた。パシッと音をさせて受け取るハジメ。ライセンの指輪は、上下の楕円を一本の杭が貫いているデザインだ。

ミニ・ミレディは、更に虚空に大量の鉱石類を出現させる。おそらく〝宝物庫〟を持っているのだろう。そこから保管していた鉱石類を取り出したようだ。やけに素直に取り出したところを見ると、元々渡す気だったのかもしれない。何故か、ミレディはハジメが狂った神連中と戦うことを確信しているようであるし、このくらいの協力は惜しまないつもりだったのだろう。

 

「おい、それ〝宝物庫〟だろう? だったら、それごと渡せよ。どうせ中にアーティファクト入ってんだろうが」

「あ、あのねぇ~。これ以上渡すものはないよ。〝宝物庫〟も他のアーティファクトも迷宮の修繕とか維持管理とかに必要なものなんだから」

「知るか。寄越せ」

「あっ、こらダメだったら!」

「ハジメやめとけ。」

 

俺はハジメを止める

 

「ミレディ曰くここは迷宮なんだろ?勝利報酬的にはかなりの報酬だし、利益も十分。それに俺の直感が使い物にならないどころか、ここでもらうと不利益になるって出ている。」

「……ちっ。俺はただ、攻略報酬として身ぐるみを置いていけと言ってるだけじゃないか。至って正当な要求だろうに」

「それを正当と言える君の価値観はどうかしてるよ! うぅ、いつもオーちゃんに言われてた事を私が言う様になるなんて……」

「ちなみに、そのオーちゃんとやらの迷宮で培った価値観なんだけどな。」

「オーちゃぁーーん!!」

 

なんかかわいそうだなミレディ。ホロリときていると

 

「はぁ~、初めての攻略者がこんなキワモノだなんて……もぅ、いいや。君達を強制的に外に出すからねぇ! 戻ってきちゃダメよぉ!」

 

 今にも飛びかからんとしていたハジメ達の目の前で、ミニ・ミレディは、いつの間にか天井からぶら下がっていた紐を掴みグイっと下に引っ張った。

 

「「「?」」」

 

まぁさすがに今回はやりすぎだからな。止める気はない。

 

「てめぇ! これはっ!」

 

ハジメは何かに気がついたように一瞬硬直すると、直ぐに屈辱に顔を歪めた。

白い部屋、窪んだ中央の穴、そこに流れ込む渦巻く大量の水に押し流される

 

「嫌なものは、水に流すに限るね☆」

 

 ウインクするミニ・ミレディ。ユエが咄嗟に魔法で全員を飛び上がらせようとする。この部屋の中は神代魔法の陣があるせいか分解作用がない。そのため、ユエに残された魔力は少ないが全員を激流から脱出させる程度のことは可能だろうけど

 

「〝来…〟」

「させなぁ~い!」

 

ミニ・ミレディが右手を突き出し、同時に途轍もない負荷がハジメ達を襲った。上から巨大な何かに押さえつけられるように激流へと沈められる。重力魔法で上から数倍の重力を掛けられたのだろう。

 

「それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~」

「ごぽっ……てめぇ、俺たちゃ汚物か! いつか絶対破壊してやるからなぁ!」

「ケホッ……許さない」

「殺ってやるですぅ! ふがっ」

 

『……どう見てもこっちが悪役なんだよなぁ。』

『そうだね』

 

俺とユキは思いっきり息を吸って潜っていく。

ミレディの部屋に手紙を投げつけて

 

その後迷宮の最奥に、「ひにゃああー!!」という女の悲鳴が響き渡った。その後、修繕が更に大変になり泣きべそを掻く小さなゴーレムがいたとかいないとか……

 

激流で満たされた地下トンネルのような場所を猛スピードで流されていた。息継ぎができるような場所もなく、ひたすら水中を進む。何とか、壁に激突して意識を失うような下手だけは打たないように必死に体をコントロールした。

と、その時、俺達の視界が自分達を追い越していく幾つもの影を捉えた。それは、魚だった。どうやら流された場所は、他の川や湖とも繋がっている地下水脈らしい。ただ、流される俺達と違って魚達は激流の中を逞しく泳いでいるので、追い越して行く。

しばらくたつと光が見えそして

 

「ゲホッ、ガホッ、~~っ、ひでぇ目にあった。あいつ何時か絶対に破壊してやる。みんな。無事か?」

「ケホッケホッ……ん、大丈夫」

「ゲホっ。ごほっ。お前ら少しは自重しろ。」

「う〜せっかくの服が濡れてしまったじゃないか。」

「ユキお前そこなのか?ってシアは?」

 

俺が聞くとみんなが探し出す

 

「シア? おい、シア! どこだ!」

「シア……どこ?」

 

 呼びかけるが周囲に気配はない。ハジメは、急いで水中に潜り目を凝らす。すると、案の定、シアが底の方に沈んでいくところだった。意識を失っている事と、ドリュッケンの重さのせいで浮くことができないのだ。

 

「ちょっと助けてくる。」

 

俺はハジメに縄を投げた後息を吸い一気に潜る。そしてシアを担ぐと固定をし縄を引く。するとハジメが引っ張ったのか分からないがすぐに地上へと上げられる

 

シアを引きずりながら岸に上がる。仰向けにして寝かせたシアは、顔面蒼白で白目をむいていた。

 

「ゲホっゲホ。容態は?」

「心臓と呼吸が止まっている。ユエ、人工呼吸を!」

「……じん…何?」

「あ~、だから、気道を確保して…」

「???」

 

ハジメの説明に首を傾げるユエとユキ。もしかして心肺蘇生というものがないのかもしれない。怪我をしているわけでもないし、水を飲んでいるところに更に水分を取らせる訳にもいかないので神水は役に立たない。

いつから意識を失っていたのかわからないが、一刻を争うことは確かだ。ハジメは、意を決してシアに心肺蘇生を行った。

 

「えっ?」

 

ユキが顔を真っ赤にしている。本当に心肺蘇生ってものがないんだな。

 

「ケホッケホッ……ハジメさん?」

「おう、ハジメさんだ。ったくこんなことで死にかけてんじゃッん!?」

 

 むせながら横たわるシアに至近から呆れた表情を見せつつも、どこかホッとした様子を見せるハジメ。そんなハジメを、ボーと見つめていたシアは、突如、ガバチョ! と抱きつきそのままキスをした。まさかの反応と、距離の近さに避け損なうハジメ。

 

「んっ!? んー!!」

「あむっ、んちゅ」

 

シアは、両手でハジメの頭を抱え込み、両足を腰に回して完全に体を固定すると遠慮容赦なく舌をハジメの口内に侵入させた。シアの剛力と自身の体勢的に咄嗟に振りほどけないハジメ。

俺は宝物庫に入れてあったスマホでこっそりと撮影ボタンをおした

 

「わっわっ、何!? 何ですか、この状況!? す、すごい……濡れ濡れで、あんなに絡みついて……は、激しい……お外なのに! ア、アブノーマルだわっ!」

 

 そこへやって来たのは妄想過多な宿の看板娘ソーナちゃん。そして「あら? あなたたち確か……」と体をくねらせながらするおかまに。そして、嫉妬の炎を瞳に宿し、自然と剣にかかる手を必死に抑えている男の冒険者達とそんな男連中を冷めた目で見ている女冒険者だった。

 

「あんっ!」

 

 思わず喘ぐシア。一瞬、緩んだ隙を逃さず、ハジメはペイッ! とシアを引き剥がすとそのまま泉に放り込んだ。

 

「うきゃぁああ!」

「ゆ、油断も隙もねぇ。蘇生直後に襲いかかるとか……流石に読めんわ」

 

俺は宝物庫にスマホをなおし苦笑する

 

「うぅ~酷いですよぉ~ハジメさんの方からしてくれたんじゃないですかぁ~」

「はぁ? あれは歴とした救命措置で……って、お前、意識あったのか?」

「う~ん、なかったと思うんですけど……何となく分かりました。ハジメさんにキスされているって、うへへ」

「その笑い方やめろ……いいか、あれはあくまで救命措置であって、深い意味はないからな? 変な期待するなよ?」

「そうですか? でも、キスはキスですよ。このままデレ期に突入ですよ!」

「ねぇよ。っていうかユエ。お前も止めてくれよ」

「……今だけ……でも、シアは頑張っているし……いや、でも……」

「ユエ~? ユエさんや~い」

 

「……ぼく達忘れられてないかい?」

「元々メインはあいつらだしなぁ。見ているだけじゃ面白いからいいんじゃね?」

 

俺とユキはそういうと笑い合う。結果、自分達のいる場所が、ブルックの町から一日ほどの場所にあると判明し、町に寄って行くことにした。クリスタベル(オカマ)の馬車に便乗させてくれるというので、その厚意に甘えることにする。濡れた服を着替え、道中、色々話をしながら、暖かな日差しの中を馬の足音をBGMに進んでいく。

 

いつのまにかどんなことでも笑顔がやまない。いいパーティーになっていた



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次の街へ

あれから一週間が経ち

 

「おいもうそろそろ行くぞ。」

 

俺が声をかけると全員が頷く

 

「それで次はどこに行くんですか?」

 

シアが聞いてくる。そういえば最終決定先は伝えてなかったな

 

「とりあえず商業都市フューレンかな?ギルドで金稼ぎながら素材を売る方向で。大迷宮攻略っと言っても生活費五人いるだけあって結構かかっているしな。」

「まぁ妥当だな。」

「とりあえずしばらくは一般人に紛れることがいいだろうな。」

「無理に教会に目をつけられるっていうのが最悪だろうしな。」

 

俺は少し考え

 

「とりあえず依頼も受けてきたから。明日、モットーユンケルって人の護衛。俺とハジメのパーティー登録も済ませてふたり分の枠が余っていたし、少しくらいが商人とのコネを作ったほうがいいしな。」

「……お前よく考えているな。」

「経済的な問題で結構厳しいんだぞ。さすがに迷宮で取れた奴は売れないし。迷宮行くたびに赤字になるんだよ。魔力回復薬結構高いし。」

「「「「あぁ。」」」」

 

と事情を話したら納得したらしい。俺が戻ってからもギルドの仕事を受けていたことは全員しっているので話は早い。

 

「後キャサリンさんからなんか書類と伝言。ハジメにトラブル多そうだから町の連中が迷惑かけた詫びのようなものをくれた。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せたら身分証明みたいなものになってくれるらしい。」

「あの人何者だよ。」

 

知らないけど結構上の人だろうな

ハジメに書類を渡して俺は笑う

新たな旅に少し楽しみになっていた

 

 

そして翌日早朝。

 

「お、おい、まさか残りの5人って〝スマ・ラヴ〟と”黒の王子”なのか!?」

「マジかよ! 嬉しさと恐怖が一緒くたに襲ってくるんですけど!」

「見ろよ、俺の手。さっきから震えが止まらないんだぜ?」

「いや、それはお前がアル中だからだろ?」

「……王子様。」

 

ユエとシアの登場に喜びを表にする者、股間を両手で隠し涙目になる者、手の震えをハジメ達のせいにして仲間にツッコミを入れられる者俺が依頼で助けた女性など様々な人がいる

 

「黒の王子?」

「……俺が受けた依頼でとある村を助けたら女性の一人から王子様って言われたのがきっかけで広まったんだよ。」

 

4日前に受けた依頼でゴブリンに襲われた村の調査をした時に俺がいった村はオークみたいな魔物をいた為に冒険者も思いもよらないことに悲鳴をあげていたのだが。俺が一瞬で討伐したことと、助けたタイミングが悪すぎたのでよばれるようになったのだ。

 

「……てかスマ・ラブって俺のいない時にお前らは何やっているんだよ。」

「「「「……」」」」

 

四人が目を逸らす。

こいつら。マジで何をしたんだ?

すると商人がこっちに来る

 

「君達が最後の護衛かね?」

「ああ、これが依頼書だ」

 

 俺は、懐から取り出した依頼書を見せる。それを確認して、まとめ役の男は納得したように頷き、自己紹介を始めた。

 

「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のランクは未だ緑だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」

「…ユンケル? ……商隊のリーダーって大変なんだな……」

「お前栄養ドリンクとなんもその人は関係ないぞ。」

 

俺は呆れたようにすると

 

「まぁ、期待は裏切らないと思うぞ。俺はハジメだ。こっちはユエとシア」

「俺は一応リーダーのスバルだ。そっちはユキ。」

「それは頼もしいな……ところで、この二人兎人族……売るつもりはないかね? それなりの値段を付けさせてもらうが」

 

 モットーの視線が値踏みするようにシアとユキを見た。商人の性として、珍しい商品に口を出さずにはいられないということか。

 

「あんな。ユキとシアは大切な仲間だぞ。売るわけないだろうが。」

「……首輪をつけているのにですか?」

「ま、あんたはそこそこ優秀な商人のようだし……答えはわかるだろ?」

 

モットーが更に俺たちに交渉を持ちかけるが、対応はあっさりしたものだ。モットーも、実は俺たちが手放さないだろうとは感じていたが、それでもシアとユキが生み出すであろう利益は魅力的だったので、何か交渉材料はないかと会話を引き伸ばそうとする。

やはりあっさりしているが、揺るぎない意志を込めた言葉をモットーに告げる。

 

「攫おうもんならどこぞの神ですら相手になる。」

「例え、どこぞの神が欲しても手放す気はないな……理解してもらえたか?」

「…………えぇ、それはもう。仕方ありませんな。ここは引き下がりましょう。ですが、その気になったときは是非、我がユンケル商会をご贔屓に願いますよ。それと、もう間も無く出発です。護衛の詳細は、そちらのリーダーとお願いします」

 

すごすごと商隊の方へ戻るモットーを見ていると、周囲が再びざわついている事に気がついた。

 

「すげぇ……女一人のために、あそこまで言うか……痺れるぜ!」

「流石、決闘スマッシャーと言ったところか。自分の女に手を出すやつには容赦しない……ふっ、漢だぜ」

「いいわねぇ~、私も一度くらい言われてみたいわ」

「いや、お前、男だろ? 誰が、そんなことッあ、すまん、謝るからっやめっアッーー!!」

「……」

 

愉快な護衛仲間の愉快な発言に頭痛を感じたように手で頭を抑えた。

 

その後旅は順調に進み、一度魔物の大群が来たのだがユエの魔法で一撃で倒し他ので何の問題のなく特に何事もなく、一行は遂に中立商業都市フューレンに到着した。

フューレンの東門には六つの入場受付があり、そこで持ち込み品のチェックをするそうだ。俺達も、その内の一つの列に並んでいた。順番が来るまでしばらくかかりそうである。

 

「す〜す〜。」

「寝てるな。」

「何時ものことだ。てか俺の膝枕なんか誰得だよ。」

 

馬車の屋根で、俺に膝枕気持ち良さそうに寝ているユキに興味ありげにユエに膝枕をされ、シアを侍らせながら寝転んでいたハジメのもとにモットーがやって来た。何やら話があるようだ。若干、呆れ気味にハジメを見上げるモットーに、ハジメは軽く頷いて屋根から飛び降りた。

俺たちは適当に雑談をしながら話し合う。これからの予定とかについて話していると

強烈な殺気が誰に向けられた

するとその殺気に当てられユキも目が覚め軽く警戒する

 

「大丈夫ハジメだ。」

「……そっか。」

「何かあったんですかね?」

「どうせ。アーティファクトを譲ってくれって頼まれそれを断ったら俺たちに危害が及ぶとか言われたんだろ?ユンケルさん冷や汗かいてるし。」

 

後から聞いたことによるとあっていたらしい。奴隷の件は確実に諦めるのは確かだったから予想はつきやすかったけど。

まぁ視線も集めているのでこれからも波乱を帯びるだろう。そんなことに俺は苦笑しざるを得なかった。



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ギルドにて

中立商業都市フューレン

 

 高さ二十メートル、長さ二百キロメートルの外壁で囲まれた大陸一の商業都市だ。あらゆる業種が、この都市で日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでも大陸一と言えるだろう。

 

「賑やかだなぁ。王都よりも賑わいはあるんじゃないか?」

 

中央区の一角にある冒険者ギルド:フューレン支部内にあるカフェで軽食を食べながら俺たちは話し合う。

モットー率いる商隊と別れると証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドにやって来た。そして、宿を取ろうにも何処にどんな店があるのかさっぱりなので、冒険者ギルドでガイドブックを貰おうとしたところ、案内人の存在を教えられたのだ。

そして、現在、案内人の女性、リシーと名乗った女性に料金を支払い、軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていたのである。

 

「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

「なるほどな、なら素直に観光区の宿にしとくか。どこがオススメなんだ?」

「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

「そりゃそうか。そうだな、飯が上手くて、あと風呂があれば文句はない。立地とかは考慮しなくていい。あと責任の所在が明確な場所がいいな」

「連れが目立つからな。結構巻き込まれるんだよ。」

 

俺は説明するとそして、納得したように頷いた。確かに、この美少女3人は目立つ。現に今も、周囲の視線をかなり集めている。特に、シアとユキの方は兎人族だ。他人の奴隷に手を出すのは犯罪だが、しつこい交渉を持ちかける商人やハメを外して暴走する輩がいないとは言えない。

 

「しかし、それなら警備が厳重な宿でいいのでは? そういうことに気を使う方も多いですし、いい宿をご紹介できますが……」

「ああ、それでもいい。ただ、欲望に目が眩んだヤツってのは、時々とんでもないことをするからな。警備も絶対でない以上は最初から物理的説得を考慮した方が早い」

「ぶ、物理的説得ですか……なるほど、それで責任の所在なわけですか」

 

 完全にハジメの意図を理解したリシーは、あくまで〝出来れば〟でいいと言うハジメに、案内人根性が疼いたようだ、やる気に満ちた表情で「お任せ下さい」と了承する。そして、ユエとシアの方に視線を転じ、二人にも要望がないかを聞いた。出来るだけ客のニーズに応えようとする点、リシーも彼女の所属する案内屋も、きっと当たりなのだろう。

 

「……お風呂があればいい、但し混浴、貸切が必須」

「えっと、大きなベッドがいいです」

「ぼくは何もないよ。ただ観光区のパンフレットがもらえるところがいいけど。」

 

少し考えて、それぞれの要望を伝える三人。なんてことない要望だが、ユエが付け足した条件と、シアの要望を組み合わせると、自然ととある意図が透けて見える。

 

「……俺もないなぁ。一人部屋があればその部屋に泊まりたいけど。」

 

それから、他の区について話を聞いていると、俺達は不意に強い視線を感じた。特に、シアとユエ、ユキに対しては、今までで一番不躾で、ねっとりとした粘着質な視線が向けられている。

俺とハジメがチラリとその視線の先を辿ると……ブタがいた。体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にもわかるいい服を着ている。

そのブタ男は重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら真っ直ぐ俺達の方へ近寄ってくる。どうやら逃げる暇もないようだ。

リシーも不穏な気配に気が付いたのか、それともブタ男が目立つのか、傲慢な態度でやって来るブタ男に営業スマイルも忘れて「げっ!」と何ともはしたない声を上げた。

ブタ男は、俺達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエとシアをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかったハジメに、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。

 

「お、おい、ガキども。ひゃ、二百万ルタやる。この兎どもを、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

「うっさい黙れ。」

 

俺は軽く威圧を放つとひっと小さな声を上げる

 

「ユエ、シア、ユキ行くぞ。場所を変えよう」

 

ハジメは女性陣に声をかけて席を立つ。リシーが「えっ? えっ?」と混乱気味に目を瞬かせた。リシーが俺の殺気の効果範囲にいても平気そうなのは、単純にリシーだけ〝威圧〟の対象外にしたからだ。

 

「先行ってろ。うっとうしいから迷惑行為としてギルド本部に報告する。多分爵位ありの人間だ。殺すよりも絶望を見せた方がいい。」

「お前鬼だろ。」

 

だが、〝威圧〟を解きハジメたちがギルドを出ようとした直後、二人の大男がハジメ達の進路を塞ぐような位置取りに移動し仁王立ちした。ブタ男とは違う意味で百キロはありそうな巨体である。全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士といった風貌だ。

 

その巨体が目に入ったのか、ブタ男が再びキィキィ声で喚きだした。

 

「そ、そうだ、レガニド!ゼリファー そのクソガキを殺せ! わ、私を殺そうとしたのだ! 嬲り殺せぇ!」

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

「やれぇ! い、いいからやれぇ! お、女は、傷つけるな! 私のだぁ!」

「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」

 

どうやら、レガニドとセリファーと呼ばれた巨漢は、ブタ男の雇われ護衛らしい。ハジメから目を逸らさずにブタ男と話、報酬の約束をするとニンマリと笑った。珍しい事にユエやシア、ユキは眼中にないらしい。見向きもせずに貰える報酬にニヤついているようだ。

 

俺が剣を抜こうとした時に

 

ゼリファーの首筋にユキの短剣が向けられた。ナイフを当てられゼリファーの首筋からは血が垂れている

 

「……仲間に手をだそうっていうんならぼくが相手になるよ。あの四人は手加減とかしらないし。」

「い、いつのまに。」

 

ユキの動きは本当に素早く簡単に補足されたゼリファーを簡単に押さえつける。

 

「アホ殺すかよ。」

 

俺はそして銃弾を回すとトリガーを引く。

すると銃弾から放たれるトゲ付きの針がゼリファーに刺さる

 

「……なんだ。なんか眠く。」

「ただの麻酔弾だ。殺しはしねーよ。しばらく眠っとけ。」

 

そうやって俺は銃をしまう。

 

「舞い散る花よ 風に抱かれて砕け散れ 〝風花〟」

 

ユエのオリジナル魔法第二弾〝風爆〟という風の砲弾を飛ばす魔法と重力魔法の複合魔法だ。複数の風の砲弾を自在に操りつつ、その砲弾に込められた重力場が常に目標の周囲を旋回することで全方位に〝落とし続け〟空中に磔にする。そして、打ち上げられたが最後、そのまま空中でサンドバックになるというえげつない魔法だ。

空中での一方的なリードによるダンスを終えると、レガニドは、そのままグシャと嫌な音を立てて床に落ち、ピクリとも動かなくなった。実は、最初の数撃で既に意識を失っていたのだが、知ってか知らずか、ユエは、その後も容赦なく連撃をかまし、特に股間を集中的に狙い撃って周囲の男連中の股間をも竦み上がらせた。苛烈にして凶悪な攻撃に、後ろで様子を伺っていたハジメをして「おぅ」と悲痛な震え声を上げさせたほどだ。

そして俺とハジメは歩き豚の元に向かう

 

「ひぃ! く、来るなぁ! わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ! ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

「……地球の全ゆるキャラファンに謝れ、ブタが」

「仲間を侮辱したぶん報いは受けてもらうぞ。」

 

ハジメは、ブタ男の名前に地球の代表的なゆるキャラを思い浮かべ、盛大に顔をしかめると、尻餅を付いたままのブタ男の顔面を勢いよく踏みつけた。

 

「プギャ!?」

「ハジメ離れろ。」

 

俺はそうやって少し離れ助走をつけハジメが離れた瞬間豚を蹴り飛ばした。

 

「おい、ブタ。二度と視界に入るな。直接・間接問わず関わるな……次はない」

 

というと俺たちは溜息を吐く。敵意がないとわかるとさらに追い討ちをかけようとしたハジメを止める

 

「追撃はやめとけ。これ以上はもっと面倒くさくなる。」

「ちっ。」

「……てめぇらも覚えとけ連れに手を出したら。そいつらみたいになるぞ。」

 

すると頷く冒険者たち。

 

「じゃあ、案内人さん。場所移して続きを頼むよ」

「はひっ! い、いえ、その、私、何といいますか……」

 

 ハジメの笑顔に恐怖を覚えたのか、しどろもどろになるリシー。その表情は、明らかに関わりたくないと物語っていた。それくらい、ハジメ達は異常だったのだ。何となく察しているが、また新たな案内人をこの騒ぎの後に探すのは面倒なので、リシーを逃がすつもりはなかった。ハジメの意図を悟って、ユエとシアがリシーの両脇を固める。「ひぃぃん!」と情けない悲鳴を上げるリシー。

ギルド職員が今更ながらにやって来た。

 

「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

 

そうハジメに告げた男性職員の他、三人の職員がハジメ達を囲むように近寄った。もっとも、全員腰が引けていたが。もう数人は、プームとレガニドの容態を見に行っている。

 

「そうは言ってもな、あのブタが俺の連れを奪おうとして、それを断ったら逆上して襲ってきたから返り討ちにしただけだ。それ以上、説明する事がない。そこの案内人とか、その辺の男連中も証人になるぞ。特に、近くのテーブルにいた奴等は随分と聞き耳を立てていたようだしな?」

 

周囲の男連中を睥睨すると、目があった彼等はこぞって首がもげるのでは? と言いたくなるほど激しく何度も頷いた。

 

「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので……規則ですから冒険者なら従って頂かないと……」

「とは言っても被害者はこっちであいつは殺すって言っていた。何もしてなかったら俺たちは殺される可能性だってあったんだぞ?冒険者規則では確かこちらの被害に合いそうな時になった時ばかりは反撃は許可されていたはずだが?」

 

俺がそういうと職員が溜息を吐く。

 

「とりあえず起こすか。痛みでも数発与えれば起きるだろ。」

 

とハジメが言った時

 

「何をしているのです? これは一体、何事ですか?」

 

 そちらを見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目でハジメ達を見ていた。

 

「ドット秘書長! いいところに! これはですね……」

 

 職員達がこれ幸いとドット秘書長と呼ばれた男のもとへ群がる。ドットは、職員達から話を聞き終わると、俺達に鋭い視線を向けた。

また面倒ごとかと思うと俺はまた溜息をつくしかなかった

 



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取引は有利なうちに

ドット秘書長と呼ばれた男は、片手の中指でクイッとメガネを押し上げると落ち着いた声音で俺に話しかけた。

 

「話は大体聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね。やり過ぎな気もしますが……まぁ、死んでいませんし許容範囲としましょう。取り敢えず、彼らが目を覚まし一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが……それまで拒否されたりはしないでしょうね?」

「なんで?元々俺たちは被害者だぞ。言っとくけどギルドの体制で爵位のあるやつをここまでほったらかしにしたのも原因だと思うが?多分初犯じゃねーだろ。かなり手慣れていたからな。」

 

するとうっと苦い顔をするドット

 

「悪いが1日。それが限界だ。それ以降だったら俺たちは受け付けない。というよりもかなり手加減した方だ。これでも俺たちはかなり譲歩した方だと思うけどな。それが認められないんだったらブラックリストに入れてもいいさ。ギルドと敵対することとなってもな。」

 

その言葉にドット秘書長はかなり言葉を紡ぐ。

 

「……しかし。」

「しかしもクソもねぇんだよ。なんでてめぇらの都合に合わせなければならないんだよ。ほったらかしにしといて被害者が被害を受けようとして反撃した。それだけだろ。本来ならお前らも何もいう資格はないはずだ。身元の証明ならブルック支部のキャサリンって人から身分証明を見せようか?」

「……本当ですか?」

「ほらこれだ。」

 

代わりにと渡された手紙を開いて内容を流し読みする内にギョッとした表情を浮かべた。

そして、ハジメ達の顔と手紙の間で視線を何度も彷徨わせながら手紙の内容をくり返し読み込む。目を皿のようにして手紙を読む姿から、どうも手紙の真贋を見極めているようだ。やがて、ドットは手紙を折りたたむと丁寧に便箋に入れ直し、ハジメ達に視線を戻した。

 

「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが……この手紙が差出人本人のものか私一人では少々判断が付きかねます。支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか? そうお時間は取らせません。十分、十五分くらいで済みます」

「それくらいなら構わない。わかった。待たせてもらうよ」

「職員に案内させます。では、後ほど」

 

 ドットは傍の職員を呼ぶと別室への案内を言付けて、手紙を持ったまま颯爽とギルドの奥へと消えていった。指名された職員が、ハジメ達を促す。ハジメ達がそれに従い移動しようと歩き出したところで、困惑したような、しかし、どこか期待したような声がかかった。

 

「あの~、私はどうすれば?」

「あ〜悪い。付き合ってくれないか?報酬は後から弾むから。ついでにここのカフェは俺たち持ちで構わないし。それと今いる客、全員の分こっちが払うよ。」

「「「「えっ?」」」」

 

すると全員が驚いたようにこっちを見る

 

「迷惑賃だ。さすがにそこの豚のせいとはいえ俺たちにも責任はあるからな。営業の迷惑行為と食事の邪魔をした分だと思ってテーブル一つに3万ルタまでは出してやる。」

 

「「「「「「ありがとうございます。」」」」」」

 

すると冒険者のお礼に手をひらひらと振る。

 

 

ハジメ達が応接室に案内されてから、きっかり十分後、遂に、扉がノックされた。ハジメの返事から一拍置いて扉が開かれる。そこから現れたのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性と先ほどのドットだった。

 

「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。ハジメ君、スバル君、ユエ君、シア君、ユキ君……でいいかな?」

 

簡潔な自己紹介の後、俺達の名を確認がてらに呼び握手を求める支部長イルワ。俺たちも握手を返しながら返事をする。

 

「ああ、構わない。名前は、手紙に?」

「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている……というより注目されているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」

「トラブル体質……ね。確かにブルックじゃあトラブル続きだったな。まぁ、それはいい。肝心の身分証明の方はどうなんだ? それで問題ないのか?」

「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」

 

 どうやらキャサリンの手紙は本当にギルドのお偉いさん相手に役立に立ったようだ。随分と信用がある。キャサリンを〝先生〟と呼んでいることからかなり濃い付き合いがあるように思える。ハジメの隣に座っているシアは、キャサリンに特に懐いていたことから、その辺りの話が気になるようでおずおずとイルワに訪ねた。

 

「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」

「ん? 本人から聞いてないのかい? 彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が」

「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~」

「……キャサリンすごい」

「只者じゃないとは思っていたが……思いっきり中枢の人間だったとはな。ていうか、そんなにモテたのに……今は……いや、止めておこう」

「お前失礼だな。」

 

俺は呆れてしまう

 

「まぁ、それはそれとして、問題ないならもう行っていいよな?」

 

 元々、身分証明のためだけに来たわけなので、用が終わった以上長居は無用だとハジメがイルワに確認する。しかし、イルワは、瞳の奥を光らせると「少し待ってくれるかい?」とハジメ達を留まらせる。何となく嫌な予感がするハジメ。

 

 イルワは、隣に立っていたドットを促して一枚の依頼書を俺達の前に差し出した。

 

「実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」

「断る」

 

 イルワが依頼を提案した瞬間、ハジメは被せ気味に断りを入れ席を立とうとする。ユエとシアも続こうとするが、続くイルワの言葉に思わず足を止めた。

 

「ふむ、取り敢えず話を聞いて貰えないかな? 聞いてくれるなら、今回の件は不問とするのだが……」

「それでも断る。何度も言っているがそっちの落ち度のせいでこっちは被害を受けたんだぞ?それに本心を隠しながらの依頼なんて怪しいとしか言いようがない。とてつもなく高難易度や貴族がらみだろ?」

 

俺の直感が反応していることから確実にそうだと言える。

 

「……言っておくがこの件は元々不問にするのが当たり前なんだよ。もし、正確な手続きをするならおよそ一ヶ月くらいはかかるはずのものを不問にする。つまりそれくらいの依頼を受けさせようとしているっていうのはさすがに怪しいと言っても過言ではないと思うが。ついでに俺は嘘を見抜く技能を持っているから隠し事はできると思うなよ?」

 

するとイルワは苦い顔をする。

つまりそれが正論だったことを意味する

 

『お前容赦ないな。』

 

念話石で送られてくる言葉に俺は返答する

 

『一応交渉をこれから仕掛けようと思うからな。とりあえず依頼を受けて恩を売るぞ。』

『受けるのか?』

『シア、ユエ、ユキの冒険者カードとギルドをバックにつけること。情報の漏洩を漏らすのをなくすのが目的だしな。運が良ければシアとユキは本格的に奴隷に見られないで済む可能性もある。』

『……えげつない。』

『…あの、ハジメさん?』

『言っとくけど交渉はスバルに任せておけば大丈夫だ。こいつ、昔から容赦ないから』

『……スバルさん無茶だけはしないでくださいね。』

『分かってるさ』

 

と念話石で会話を終える

 

「だけど、それ込みでいくつか無茶なこっちの提案を受けてくれた場合俺たちはその依頼を受ける。」

「……なんだって?」

「一つ目。俺たちはほぼ確定的に教会から異端者扱いされる。その時にギルドは俺たちのバックをつくこと。二つ目。シア、ユキ、ユエのステータスプレートを発行しそれは内密とすること。3つ今後シア、ユキ、ユエに関するトラブルにギルドは一切関わりを持たないこと。以上だ。」

 

するとキョトンとするイルワ。

 

「……話を聞くじゃなくて依頼を受けるのかい?」

「それ位じゃないと信用できないだろ。悪いけど俺たちの事情を話してもいいし。俺たちは教会とほぼ確定的に対立する。というよりも俺たちのことを多分気づいているとは思うけど。……俺とハジメは王国から事故で死んだとされた勇者で。勇者よりも早くオルクス大迷宮を攻略して地上に出てきたっていえばいいか?」

 

するとイルワの目が変わる。

 

「それは本当の話かい?」

「嘘だと思うなら王国か教会に聞いてみればいい。事故で亡くなったのは剣士の飯塚昴と錬成師の南雲ハジメの二人ってな。」

 

するとイルワは少し溜息を吐く

 

「教会と敵対するのはほぼ確定なのかい?」

「あぁ。生憎この世界の秘密を知ってしまった俺とハジメはイレギュラーとして扱われるだろうからな。」

「……これ以上踏み込んだら私も危ないってことかい。」

「生憎な。知らない方がいいってこともあるぞ。知りすぎたら。教会がすぐに動き出すだろうしな。」

 

これ以上ない脅しに溜息を吐く。これ以上は本当にまずい話になるのでこれくらいが情報の開示を防ぐべきだろう。

 

「犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう……これ以上は譲歩できない。どうかな」

「あぁ。それで十分だ。」

 

俺はこれが引き時だと思いそれで譲歩する。俺が目配せをするとハジメが声をかける

 

「んで依頼は?」

 

するとイルワが少しずつ話し始める

 

「今回の依頼内容だが、そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」

 

 イルワの話を要約すると、つまりこういうことだ。

 

 最近、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされた。北の山脈地帯は、一つ山を超えるとほとんど未開の地域となっており、大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没するので高ランクの冒険者がこれを引き受けた。ただ、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになった。

この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物らしい。クデタ伯爵は、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていたそうなのだが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ。

 

「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど手数は多い方がいいと、ギルドにも捜索願を出した。つい、昨日のことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」

「……ちょっと待ってくれ。それをなんで俺たちに頼もうと思ったのか聞いてもいいか?」

 

俺がそこが気になるところだった

 

「さっき〝黒〟のレガニドを瞬殺したばかりだろう?迷宮の攻略者でもあるし。それに……ライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」

「!何故知って……手紙か?だが、彼女にそんな話は……」

 

ハジメが騒然としているが

 

「ごめん。お姉ちゃんがキャサリンさんに話してたよ。」

 

ユキの証言により明らかになる

 

ハジメが、シアに胡乱な眼差しを向ける。

 

「え~と、つい話が弾みまして……てへ?」

「……後でお仕置きな」

「!? ユ、ユエさんもいました!」

「……シア、裏切り者」

「二人共お仕置きな」

「まぁ、結果ここではその余っている素材も売ることができるから結果オーライだろ。」

 

俺がそういうと宝物庫の中に入れてあった素材を出す

 

「これ一応一部だけど迷宮の深部の素材だ。協力関係を結ぶってことで数点寄贈する。素材の状態もかなり上質なまま取れたからな。」

「いいのかい?」

「裏切らなければ有名になった時俺たちの名前を使ってくれてもいい。ギルドにも協力関係を譲ってくれた場合迷宮攻略の素材を優遇するってギルド本部に伝えておけ。」

「……君は本当に頭が回るね。」

「ギブアンドテイク。協力関係を結ぶのであれば俺たちも優遇をするのが取引の基本だと思うけどな。」

 

すると苦笑しイルワがお手上げだとばかりに笑う

 

「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、できる限り早く捜索したいと考えている。」

「明日か今日そのまま出てもいいんじゃないか?俺夜間運転するから。」

「お、おう。お坊ちゃん自身か遺品あたりでも持って帰ればいいだろう?」

「ハジメ君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい……宜しく頼む」

 

 イルワは最後に真剣な眼差しで俺達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる。そうそう出来ることではない。それもかなり脅していた人物に向けてだ。キャサリンの教え子というだけあって、人の良さがにじみ出ている。

そんなイルワの様子を見て、俺達は立ち上がると気負いなく実に軽い調子で答えた。

 

「あいよ」

「了解。」

「……ん」

「はいっ」

「分かったよ。」

 

その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、俺たちは部屋を出た。

 

ハジメたちにジト目でずっと見つめられながら。



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再会

広大な平原のど真ん中に、北へ向けて真っ直ぐに伸びる街道がある。街道と言っても、何度も踏みしめられることで自然と雑草が禿げて道となっただけのものだ。この世界の馬車にはサスペンションなどというものはないので、きっとこの道を通る馬車の乗員は、目的地に着いた途端、自らの尻を慰めることになるのだろう。

 

「気持ちいいなぁ。やっぱ。」

 

80kmは出ているだろう魔力駆動二輪で並びながら走る。風圧についてはアーティファクトで阻害しているので絶好のツーリング日和と言える。

 

「まぁ、このペースなら後一日ってところだ。ノンストップで行くし、休める内に休ませておこう」

 

どうやらシアが寝ているらしい。ハジメの言葉通り、ハジメ達は、ウィル一行が引き受けた調査依頼の範囲である北の山脈地帯に一番近い町まで後一日ほどの場所まで来ていた。このまま休憩を挟まず一気に進み、おそらく日が沈む頃に到着するだろうから、町で一泊して明朝から捜索を始めるつもりだ。急ぐ理由はもちろん、時間が経てば経つほど、ウィル一行の生存率が下がっていくからだ。しかし、いつになく他人のためなのに積極的なハジメに、ユエが、上目遣いで疑問顔をする。

 

「……積極的?」

「ああ、生きているに越したことはないからな。その方が、感じる恩はでかい。これから先、国やら教会やらとの面倒事は嫌ってくらい待ってそうだからな。盾は多いほうがいいだろう? いちいちまともに相手なんかしたくないし」

「……なるほど」

 

実際、イルワという盾が、どの程度機能するかはわからないし、どちらかといえば役に立たない可能性の方が大きいが保険は多いほうがいい。まして、ほんの少しの労力で獲得できるなら、その労力は惜しむべきではないだろう。

 

「でもそれだけではないんですよね。」

「聞いたところによるとこれから行く町は湖畔の町で水源が豊かなんだと。そのせいか町の近郊は大陸一の稲作地帯なんだそうだ」

「……稲作?」

「おう、つまり米だ米。俺の故郷、日本の主食だ。こっち来てから一度も食べてないからな。同じものかどうかは分からないけど俺とハジメにとっては懐かしい味になりそうだし。」

「ぼくも食べてみたいです!!」

「……ん、私も食べたい……町の名前は?」

 

米にテンションが上がりそういえば伝えていたことを忘れてた。ハジメも同じだったのか、ハッと我に返ったハジメは、ユエの眼差しに気がついて少し恥ずかしそうにすると、誤魔化すように若干大きめの声で答えた。

 

「湖畔の町ウルだ」

 

 

ギルドで依頼を受けた冒険者と報告した後俺たちは今日は早めに寝るってことで宿屋に直行していた

そしてご飯の時間になると自然と足が進む

 

「ご飯♪ご飯♪」

「お前浮かれすぎだろ。」

「だって白ご飯だぞ。久しぶりにパンから解放される。」

 

俺は断然パンより白飯が好きなので楽しみだ

 

「なんか子供っぽいですね。」

「こいつご飯に関してはかなり厳しいからな。」

「これからの飯のレパートリーも増えるから楽しみにしとけよ。」

「それは楽しみだね。」

「……悔しいけど。美味しい。」

 

とだべりながら話す

 

「でもハジメさん。私を放置してユエさんと二人の世界を作るのは止めて下さいよぉ。ホント凄く虚しいんですよ、あれ。聞いてます? ハジメさん」

「聞いてる、聞いてる。見るのが嫌なら別室にしたらいいじゃねぇか」

「んまっ! 聞きました? ユエさん。ハジメさんが冷たいこと言いますぅ。」

「……ハジメ……メッ!」

「へいへい、てかユキとスバルは同じ部屋だろ?不満はないのかよ。」

「別に。こっちは普通に話して寝るだけだからな。俺は夜間でも稼ぎにいくことが多いし。」

「……スバルさん時々すぐに気配消してどこかにいっちゃうから。」

 

と話していると急にカーテンが開く

俺たちはぎょっとしてそっちを見てしまうとそこには

 

「南雲君!飯塚君」

「あぁ? ……………………………………………先生?」

「……うわぁ。」

 

俺は少し溜息を吐く。そういえば先生の職業は作農師だったな。

 

「南雲君、飯塚君……やっぱり南雲君と飯塚君なんですね? 生きて……本当に生きて…」

「いえ、人違いです。では」

「へ?」

 

これは酷い。俺は別に話してもいいがハジメは無視する気満々のようだ。

 

「ちょっと待って下さい! 南雲君ですよね? 先生のこと先生と呼びましたよね? なぜ、人違いだなんて」

「いや、聞き間違いだ。あれは……そう、方言で〝チッコイ〞て意味だ。うん」

「それはそれで、物凄く失礼ですよ! ていうかそんな方言あるわけないでしょう。どうして誤魔化すんですか? それにその格好……何があったんですか? こんなところで何をしているんですか?何故、直ぐに皆のところへ戻らなかったんですか? 南雲君! 答えなさい! 先生は誤魔化されませんよ!」

「はいはい。そこまで。ハジメ、その返しは例え先生の告白してきた人たちが全員ロリがつく人だったとしてもそこまでにしとけ。」

「なんでそんなこと知っているんですか!!」

 

マジだったのかと少し引きながらも俺は少し笑う

 

「ほら、先生もハジメも他のお客様の迷惑になるから。先生とりあえず落ち着いて。ハジメもさすがにその返しはないぞ。」

「うっせほっとけ。」

 

少し拗ねたようなハジメに苦笑する

 

「先生もさすがにハジメって分かったのはいいんですけどせめて他の人のこと考えましょうよ。だからいつまでたっても大人ぶった子供みたいにクラスのみんなにからかわれるんですよ。」

「うぅ。」

 

俺はそういうと全員が俺の方を向く。まぁこういう時の俺は滅多に見せてなかったしな

 

「すいません、取り乱しました。改めて、南雲君と飯塚君ですよね?」

「ああ。久しぶりだな、先生」

「お久しぶりです。」

「やっぱり、やっぱり南雲君と飯塚君なんですね……生きていたんですね……」

 

 再び涙目になる愛子に、ハジメは特に感慨を抱いた様子もなく肩を竦めた。

 

「まぁな。色々あったが、何とか生き残ってるよ」

「よかった。本当によかったです」

 

それ以上言葉が出ない様子の愛子を一瞥すると、ハジメは近くのテーブルに歩み寄りそのまま座席についた。それを見て、ユエとシアも席に着く。シアは困惑しながらだったが。ハジメの突然の行動にキョトンとする愛子達。ハジメは、完全に調子を取り戻したようで、周囲の事など知らんとばかりに、生徒達の後ろに佇んで事の成り行きを見守っているフォスを手招きする。

 

「ええと、ハジメさん。いいんですか? お知り合いですよね? 多分ですけど……元の世界の……」

「別に関係ないだろ。流石にいきなり現れた時は驚いたが、まぁ、それだけだ。元々晩飯食いに来たんだし、さっさと注文しよう。マジで楽しみだったんだよ。知ってるか? ここカレー……じゃわからないか。ニルシッシルっていうスパイシーな飯があるんだってよ。想像した通りの味なら嬉しいんだが……」

「……なら、私もそれにする。ハジメの好きな味知りたい」

「あっ、そういうところでさり気ないアピールを……流石ユエさん。というわけで私もそれにします。店員さぁ〜ん、注文お願いしまぁ〜す」

「あっ。俺もそれにしよっと。」

「ぼくも。」

 

「南雲君、飯塚君まだ話は終わっていませんよ。なに、物凄く自然に注文しているんですか。大体、こちらの女性達はどちら様ですか?」

「依頼のせいで一日以上ノンストップでここまで来たんだ。腹減ってるんだから、飯くらいじっくり食わせてくれ。それと、こいつらは……」

「……ユエ」

「シアです」

「ハジメの女」「ハジメさんの女ですぅ!」

「お、女?」

 

 愛子が若干どもりながら「えっ? えっ?」とハジメと二人の美少女を交互に見る。上手く情報を処理出来ていないらしい。後ろのクラスメイトも困惑したように顔を見合わせている。いや、男子生徒は「まさか!」と言った表情でユエとシアを忙しなく交互に見ている。徐々に、その美貌に見蕩れ顔を赤く染めながら。

 

「おい、ユエはともかく、シア。お前は違うだろう?」

「そんなっ! 酷いですよハジメさん。私のファーストキスを奪っておいて!」

「いや、何時まで引っ張るんだよ。あれはきゅ『南雲君?』……何だ、先生?」

 

こっそり隠密を使い緊急脱出をする

 

「……面白い人だね。」

「まぁな。いじりがいがある人だな。」

 

俺はハジメに全部押し付けて笑いながらそのやりとりを見るのであった

 

 



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仲間の思い

 

散々、愛子が吠えた後、他の客の目もあるからとVIP席の方へ案内された俺達。そこで、愛子や園部優花達生徒から怒涛の質問を投げかけられつつも、ハジメは、目の前の今日限りというニルシッシル(異世界版カレー)。に夢中で端折りに端折った答えをおざなりに返していく。

Q、橋から落ちた後、どうしたのか?

A、超頑張った

Q、なぜ白髪なのか

A、超頑張った結果

Q、その目はどうしたのか

A、超超頑張った結果

Q、なぜ、直ぐに戻らなかったのか

A、戻る理由がない

 そこまで聞いて先生が「真面目に答えなさい!」と頬を膨らませて怒る

俺は気配遮断をふんだんに使い話の輪から抜け出しニルシッシルを食べている

その様子にキレた騎士がいた。拳をテーブルに叩きつけながら大声を上げた。

 

「おい、お前! 愛子が質問しているのだぞ! 真面目に答えろ!」

「今食事中だろ?おとなしくしてろよ。」

 

俺が忠告すると顔を真っ赤にした。そして、何を言ってものらりくらりとして明確な答えを返さないハジメから矛先を変え、その視線がユキとシアに向く。

 

「ふん、行儀だと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ? 少しは人間らしくなるだろう。」

 

すると俺も、ハジメも箸を止める。ユキやシアのうさ耳が少し垂れて顔もしゅんとしている

よく見れば、他の騎士達も同じような目でシアとユキを見ている。

 

「……はぁ。ユキ。気にすんな。」

 

俺は頭を撫でてやると少し涙目になっている。今まで俺たちや周りの人に恵まれていたために差別用語などは言われたことがなかったはずだ。

冷ややかな目を送る

 

「何だ、その眼は? 無礼だぞ! 神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」

「……小さい男。」

「……異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」

 

すると剣を抜く騎士に俺とハジメが目があう。それが開始の狼煙になった

俺とハジメが同時に引き金を引くと 

ドパンッ!

乾いた破裂音が全体に響きわたり、同時に、今に騎士の頭部が弾かれたように後方へ吹き飛ばした

 

「……いい加減にしろよ。」

 

俺の冷たい声プラス威圧を乗せて騎士に向ける

 

「てめぇらが亜人に差別をしようがユキやシアは俺の仲間だ。傷つけようとしたやつは地獄を見せる。」

「俺は、あんたらに興味がない。関わりたいとも、関わって欲しいとも思わない。いちいち、今までの事とかこれからの事を報告するつもりもない。ここには仕事に来ただけで、終わればまた旅に出る。そこでお別れだ。あとは互いに不干渉でいこう。あんたらが、どこで何をしようと勝手だが、俺の邪魔だけはしないでくれ。今みたいに、敵意をもたれちゃ……つい殺っちまいそうになる」

 

わかったか? そう眼で問いかけるハジメに、誰も何も言えなかった。直接、視線を向けられた騎士は、かかるプレッシャーに必死に耐えながら、僅かに頷くので精一杯だった。

 

「……たく。」

「……スバルさん。」

「はぁ。気にするなとは言わない。これがこの世界の普通だろ?でも俺はお前のうさ耳は可愛いと思うぞ。」

「っ!本当?」

「てかお前はもうちょっと自分に自信をもて。毎回理性を削られるんだよ。必死に我慢している俺の身にもなれ。ついでにハジメもシアのうさ耳時々もふもふしているらしいぞ。」

「……ハジメのお気に入り。シアが寝てる時にモフモフしてる」

「スバル!?ユエッ!? それは言わない約束だろ!?」

「ハ、ハジメさん……私のウサミミお好きだったんですね……えへへ」

 

するといつもの調子に戻る俺たち。やっぱりこの二人は笑顔が似合うんだよな。

軽く視線を感じるがガン無視しているとすると一人の騎士がこっちにくる

 

「南雲君と飯塚君でいいでしょうか? 先程は、隊長が失礼しました。何分、我々は愛子さんの護衛を務めておりますから、愛子さんに関することになると少々神経が過敏になってしまうのです。どうか、お許し願いたい」

 

どうでもいいので俺は溜息を吐きガン無視を決め込んでハジメも黙って手をヒラヒラと振るに止めた。

 

「そのアーティファクト……でしょうか。寡聞にして存じないのですが、相当強力な物とお見受けします。弓より早く強力にもかかわらず、魔法のように詠唱も陣も必要ない。一体、何処で手に入れたのでしょう?」

 

ハジメが、チラリと騎士を見る。そして、何かを言おうとして、興奮した声に遮られた。クラス男子の玉井淳史だ。

 

「そ、そうだよ、南雲。それ銃だろ!? 何で、そんなもん持ってんだよ!」

「銃? 玉井は、あれが何か知っているのですか?」

「え? ああ、そりゃあ、知ってるよ。俺達の世界の武器だからな」

 

 玉井の言葉にチェイスの眼が光る。そして、ハジメをゆっくりと見据えた。

 

「ほぅ、つまり、この世界に元々あったアーティファクトではないと……とすると、異世界人によって作成されたもの……作成者は当然……」

「俺だな」

 

ハジメは、あっさりと自分が創り出したと答えた。

 

「あっさり認めるのですね。南雲君、その武器が持つ意味を理解していますか? それは……」

「この世界の戦争事情を一変させる……だろ? 量産できればな。大方、言いたいことはやはり戻ってこいとか、せめて作成方法を教えろとか、そんな感じだろ? 当然、全部却下だ。諦めろ」

 

あらかじめ用意していた言葉をそのまま伝えたのだろう

 

「ですが、それを量産できればレベルの低い兵達も高い攻撃力を得ることができます。そうすれば、来る戦争でも多くの者を生かし、勝率も大幅に上がることでしょう。あなたが協力する事で、お友達や先生の助けにもなるのですよ? ならば……」

「なんと言われようと、協力するつもりはない。奪おうというなら敵とみなす。その時は……戦争前に滅ぶ覚悟をしろ」

 

ハジメの静かな言葉に全身を悪寒に襲われ口をつぐむ騎士。

先生が執り成すように口を挟む。

 

「チェイスさん。南雲君には南雲君の考えがあります。私の生徒に無理強いはしないで下さい。南雲君も、あまり過激な事は言わないで下さい。もっと穏便に……南雲君は、本当に戻ってこないつもり何ですか?」

「ああ、戻るつもりはない。明朝、仕事に出て依頼を果たしたら、そのままここを出る」

「どうして……」

「俺たちの居場所は今はここなんだよ。」

 

俺の言葉に先生はこっちを見る

 

「俺もハジメも大切な人がいてその人を守ることで精一杯なんだよ。俺らにとってはこの世界は地獄でしかない。勝手に連れ去られて虐められて死にかけて。そんな中でも大事な仲間、ハジメに限ったら恋人ができたんだぞ?先生ならどう思う?恋人や仲間のことを侮辱されて、下心満載で話しかけられて。ついでに戻ってこいだ。」

「そ、それは。」

 

俺は少し威圧を込め本心を叫ぶ

 

「バカにするのも大概にしろよ。」

 

低く冷たい声がこの部屋に響く

 

「言っておくけど俺もこの世界はどうでもいいしな。今の居場所はそこにはない。それだけだ。」

 

俺は立ち上がり少し溜息を吐く。

 

「んじゃご馳走さん。」

 

席を立つとそれに続いて全員が立ち上がる。

そして俺たちは二階に向けて歩きだした。

 



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夜中の会合

深夜に入り俺はハジメの指示で俺は先生の部屋に忍び込むことになっていた

まぁこの時間にやってきたのは情報が結構危ない内容他の人に見られたくないのと俺自身聞きたいことを聞くのにちょうど適しているからだ。

 

だからといって気分は強盗や不法侵入者の気分だけど

 

無属性魔法のアンロックを使い鍵を開けると百面相してる先生の姿があった

 

「よっ先生。」

「ッ!?」

 

 ギョッとしてこっちを見る先生に笑いが込み上げてくる

驚愕のあまり舌がもつれながらも何とか言葉を発する先生の問いに答える。

 

「い、飯塚君? な、なんでここに、どうやって……」

「どうやってと言われると、普通にドアからと答えるしかないんだけど。」

「えっ、でも鍵が……」

「魔法で開けられるしな。無属性魔法アンロックっていうんだけど。多分オリジナル。」

 

魔力を固体化させその型を回し鍵替りにしただけだ

 

「こんな時間に、しかも女性の部屋にノックもなくいきなり侵入とは感心しませんよ。わざわざ鍵まで開けて……一体、どうしたんですか?」

「ん〜なんか失礼なことを考えられた気がするけどまぁいいや。まぁ、そこは悪かったよ。他の連中に見られたくなかったんだ、この訪問を。先生には話しておきたい事があったんだが、さっきは、教会やら王国の奴等がいたから話せなかったんだよ。内容的に、アイツ等発狂でもして暴れそうだし」

「話ですか? 飯塚君は、先生達のことはどうでもよかったんじゃ……」

「どうでもはよくないだろ。俺が言っていたのはあの騎士達に向けてだ。ハジメは本心かもしれないけどさすがに同郷のやつを見過ごせるほど俺は腐ってはないけどな。まぁ戻らない理由と聞きたいことがあったし情報交換をしようって思ってな。」

 

そして俺は本題に入る

 

「……今から話す話は、先生が一番冷静に受け止められるだろうと思ったから話す。聞いた後、どうするかは先生の判断に任せるけど。」

 

と俺はオスカーから聞いた〝解放者〟と狂った神の遊戯の物語を話し始めた。

 

ハジメ曰く神の意思に従って、勇者が盤上で踊ったとしても、彼等の意図した通り神々が元の世界に帰してくれるとは思えなかった。魔人族から人間族を救う、すなわち起こるであろう戦争に勝利したとしても、それはそもそも神々が裏で糸を引いている結果だ。勇者などと言う面白い駒をそうそう手放す訳が無い。むしろ、勇者達を利用して新たなゲームを始めると考えた方が妥当であると考えたらしい。

俺は仲が良かった二人は気になるところだがハジメはクラスにいい思い出はほぼないだろう

俺が言った通りクラスメイトはどうでもいいのだ。

先生の行動原理が常に生徒を中心にしていることを。つまり、異世界の事情に関わらず、生徒のために冷静な判断ができるということだ。そして、日本での慕われ具合と、今日のクラスメイト達の態度から、先生が話したのなら、きっと彼女の言葉は天之河達にも影響を与えるだろうっと

 

「ってことだ俺たちが奈落の底で知った事はな。まぁ本当か嘘かの判断は先生に任せるよ。」

「もしかして、二人はその〝狂った神〟をどうにかしようと……旅を?」

「いや、俺たちは帰還の方法に目処がついたからそうしているだけ。旅はそのためのものだよ」

「本当ですか!!」

「大迷宮の攻略が鍵だとみているな。俺とハジメが落ちたのはあんなちっぽけではなくて本当の大迷宮。今日の様子を見る限り、行っても直ぐに死ぬと思うけどな。あの程度の〝威圧〟に耐えられないようじゃ論外だと思うけど。」

 

俺はそう告げると先生は微妙な顔になる。まぁ戦力外って伝えているもんだしな。

 

「んじゃこっちの質問に入るけど。……八重樫は大丈夫か?」

「えっ?」

「香織のことも気になるけどあいつなら落ち込む暇すらあれば俺達のことを探しに今も、オルクス大迷宮で戦っているだろうしな。俺は香織が強いことは知っている。精神的にも行動的にも多分あいつはクラスの中で芯が一番強い。その点八重樫はその逆だ。あいつは強そうに見えてかなり脆い。女子で唯一の前衛職であり自分の手で生命を殺す感触を直で触れなければならない。」

 

俺も未だに感触だけは消すことはできない

それがどれだけ辛いことなのかも俺は知っている。

 

「八重樫だって女子だぞ。みんなに頼られようが前線にたっていようが。甘える人がいなければいつかは崩壊する。八重樫の弱さはそこだよ。八つ当たりしたり、弱音を吐いたり。あいつの弱いところは誰も見たことがない。多分今もそうしていると思うけど。……あのままじゃあいつか俺みたいに一回壊れるぞ。」

「っ!!」

 

経験談を含んだ断定に先生は驚く。先生は嫌となく俺の個人情報を知っているはずだ。

……だからこそ俺の中三の二学期の状態については知っているのだろう

 

「……今まで通り八重樫さんは前線に立っていると思います。もちろん白崎さんも。オルクス大迷宮は危険な場所ではありますが、順調に実力を伸ばして、攻略を進めているようです。時々届く手紙にはそうありますよ。」

「そっか。」

 

俺は小さく呟く。とりあえずは二人は無事ってことに頰が緩む

 

 

「あっ。ついでに死因ってどうなっているんだ?」

「それは……一部の魔法が制御を離れて誤爆したということになっています。」

「あ〜やっぱり今日の玉井達の態度から予想はしてたけど事故ってことになったか。あれはれっきとした俺を狙っての殺人だったのに。」

「えっ?」

「魔弾が完全にハジメに向けて誘導された魔弾だった。多分俺じゃあ当てられないと思ってハジメに撃ったんだろうな。俺と香織の会合が誰かに聞こえていたんだろうけど。」

「ちょっと待ってください。それって本当のことですか?」

「あぁ。おかしいと思わないか?幾ら何でも上手く行き過ぎだと。ぶっちゃけ俺は犯人も特定しているし、ハジメにもそのことは伝えている。」

 

顔面を蒼白して硬直する先生に忠告する

 

「……人ってそんなに善人だけじゃねーぞ。嫉妬で人一人殺すようなヤツだ。まだ無事なら香織に後ろから襲われないよう忠告しといてくれませんか。」

 

俺は手のひらを振り先生の部屋を出る。そして隠密と気配遮断を使い自分の部屋に向かうのだった。



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自分のこと

朝早くに俺たちは旅支度を終えウルの町の北門に向かう。そこから北の山脈地帯に続く街道が伸びているのだ。馬で丸一日くらいだというから、魔力駆動二輪で飛ばせば三、四時間くらいで着くだろう

 

ウィル・クデタ達が、北の山脈地帯に調査に入り消息を絶ってから既に五日。生存は絶望的だ。万一ということもある。生きて帰せば、イルワの俺達に対する心象は限りなく良くなるだろうから、出来るだけ急いで捜索するつもりだ。幸いなことに天気は快晴。搜索にはもってこいの日だ。

 

幾つかの建物から人が活動し始める音が響く中、表通りを北に進み、やがて北門が見えてきた。と、ハジメはその北門の傍に複数の人の気配を感じ目を細める。特に動くわけでもなくたむろしているようだ。

朝靄をかきわけ見えたその姿は……愛子と生徒六人の姿だった。

 

「……何となく想像つくけど一応聞こう……何してんの?」

 

ハジメが眼になって先生に視線を向ける。一瞬、気圧されたようにビクッとする先生だったが、毅然とした態度を取るとハジメと正面から向き合った。

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」

「却下だ。行きたきゃ勝手に行けばいい。が、一緒は断る」

「な、なぜですか?」

「単純に足の速さが違う。先生達に合わせてチンタラ進んでなんていられないんだ」

「お前それじゃあ分からないだろうが。実物を見せたほうが早いだろ?」

 

俺は誰もいないことを確認し宝物庫から魔力駆動二輪を取り出す。すると驚く先生たちだったが

 

「理解したか? お前等の事は昨日も言ったが心底どうでもいい。だから、八つ当たりをする理由もない。そのままの意味で、移動速度が違うと言っているんだ」

 

 魔力駆動二輪の重厚なフォルムと、異世界には似つかわしくない存在感に度肝を抜かれているのか、マジマジと見つめたまま答えない先生。そこへ、クラスの中でもバイク好きだったはずの相川が若干興奮したようにハジメに尋ねた。

 

「こ、これも昨日の銃みたいに南雲が作ったのか?」

「まぁな。それじゃあ俺等は行くから、そこどいてくれ」

 

すると先生は引くどころか逆にハジメの方の耳元に言って何かを呟く。俺は聞こえないが昨日の話からねれなかったのであろう。目元に化粧で隠された濃いクマがあるのが分かった。

 

「わかったよ。同行を許そう。といっても話せることなんて殆どないけどな……」

「構いません。ちゃんと南雲君の口から聞いておきたいだけですから」

「はぁ、全く、先生はブレないな。何処でも何があっても先生か」

「当然です!」

 

 ハジメが折れたことに喜色を浮かべ、むんっ! と胸を張る先生。

 

「……ハジメ、連れて行くの?」

「ああ、この人は、どこまでも〝教師〟なんでな。生徒の事に関しては妥協しねぇだろ。放置しておく方が、後で絶対面倒になる」

「ほぇ~、生徒さん想いのいい先生なのですねぇ~」

「まぁ、そうだろうな。空回りやドジは多いけど昨日の話をしたら絶対食いつくと思ったよ。」

「…でもどうするの?さすがにこの人数は乗れなくないよね?」

「俺が4輪運転するしかないだろ。人数的にギューギューだと思うが。荷台に乗れば全員乗れるだろ。」

 

ハジメも頷くと俺は魔力駆動二輪を宝物庫にしまうと、代わりに魔力駆動四輪を取り出した。

 

「はよ行くぞ。席割りは勝手に決めろ。」

 

と俺は運転席へと向かい運転をするため操作を一通り確認するのであった。

 

 

運転席には俺が乗り、隣の席には愛子が、その隣にハジメとハジメの上にユエが乗っている。先生がハジメの隣なのは例の話をするためだ。まだ他の生徒には聞かれたくないらしく、直ぐ傍で話せるようにしたかったらしい。

ついでに後ろの座席はシアとユキ、園部と菅原が乗っている

そしてしばらく運転しているとハジメと先生の会話が佳境を迎える。

当時の状況を詳しく聞く限り、やはり故意に魔法が撃ち込まれた可能性は高そうだとは思いつつ、やはり信じたくない先生は頭を悩ませている。心当たりを聞けば、ハジメは鼻で笑いつつ全員等と答える始末。

そして悩んでいる先生はいつの間にか眠ってしまい。俺の膝へと眠り込んでしまった。

 

まぁ俺たちの原因だしなぁ

どうしたものかと迷った挙句、そのままにすることにした。何せ、先生の寝不足の原因は、自分の都合で多大な情報を受け取らせた俺たちにもあるのだ。これくらいは、まぁ仕方ないかと思いつつ運転を続ける

 

「……二人とも、愛子に優しい」

「……まぁ、色々世話になった人だし、これくらいはな」

「……ふ~ん」

「ユエ?」

「……」

「ユエさんや~い、無視は勘弁」

「……今度、私に膝枕」

「……わかったよ」

「何で俺が膝枕しているのにお前らがいちゃつき始めるんだよ。」

 

二人の世界を作るハジメとユエに俺が突っ込むと、そんな二人を後部座席からキャッキャと見つめる女子高生、そして不貞腐れるウサミミ少女二人。

これから、正体不明の異変が起きている危険地帯に行くとは思えない騒がしさだった。

 

北の山脈地帯

 

標高千メートルから八千メートル級の山々が連なるそこは、どういうわけか生えている木々や植物、環境がバラバラという不思議な場所だ。日本の秋の山のような色彩が見られたかと思ったら、次のエリアでは真夏の木のように青々とした葉を広げていたり、逆に枯れ木ばかりという場所もあるらしい

その麓に四輪を止めると、しばらく見事な色彩を見せる自然の芸術に見蕩れた。女性陣の誰かが「ほぅ」と溜息を吐く。先程まで、生徒の膝枕で爆睡するという失態を犯し、真っ赤になって謝罪していた先生もさすがに鮮やかな景色を前に、彼女的黒歴史を頭の奥へ追いやることに成功したようである。

ハジメはその間に無人偵察機を飛ばして探索する

 

 おおよそ一時間と少しくらいで六合目に到着した俺達は、一度そこで立ち止まった。理由は、そろそろ辺りに痕跡がないか調べる必要があったのと……

 

「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか……けほっ、はぁはぁ」

「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか……愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」

「うぇっぷ、もう休んでいいのか? はぁはぁ、いいよな? 休むぞ?」

「……ひゅぅーひゅぅー」

「ゲホゲホ、南雲達は化け物か……」

「先生はともかく何で戦闘職組がそんなにへばっているんだよ。」

 

俺は呆れたようにしていると少し溜息をつく。そういえば俺たちはステータス上かなりの差があることをすっかり忘れてた。

そして休憩場所として立ち寄った川でハジメが険しい顔をした。

 

「川の上流に……これは盾か? それに、鞄も……まだ新しいみたいだ。当たりかもしれない。行くぞ」

「ん……」

「はいです!」

「うん。でも先生さんと生徒さんたちは限界みたいだけど。」

 

すると休憩をする暇もなかったしな

 

「はぁ。まぁ先生はしゃーないだろ。とりあえず先生は背負っていくから。」

「えっ?悪いですよ。」

「いいから。これ以上遅れると迷惑だし。」

「……うぅ。すいません。」

 

とそういえばと俺はおかしいことに気づく。

 

「ハジメ。そういえば気配感知をフルに使っているんだけど未だに魔物すら感知してないんだけど。」

「そういえば一度も戦闘はなかったよな?」

「確か魔物の群れがいるからこそ俺たちは呼ばれたはずなのにさすがに一度も魔物がいないっていうのはさすがにおかしいとは思わないか?」

 

すると全員がハッとする

 

「……何か嫌な予感がするな。」

「同感。それも面倒ごとの予感がプンプンする。」

 

と俺たちは警戒を強めながらたどり着いた先にはハジメが無人偵察機で確認した通り、小ぶりな金属製のラウンドシールドと鞄が散乱していた。ただし、ラウンドシールドは、ひしゃげて曲がっており、鞄の紐は半ばで引きちぎられた状態で、だ。

注意深く周囲を見渡す。すると、近くの木の皮が禿げているのを発見した。高さは大体二メートル位の位置だ。何かが擦れた拍子に皮が剥がれた、そんな風に見える。高さからして人間の仕業ではないだろう。ハジメの指示を受け俺、シア、ユキ全力の探知を指示しながら、自らも感知系の能力を全開にして、傷のある木の向こう側へと踏み込んでいった。

先へ進むと、次々と争いの形跡が発見できた。半ばで立ち折れた木や枝。踏みしめられた草木、更には、折れた剣や血が飛び散った痕もあった。それらを発見する度に、特に愛子達の表情が強ばっていく。しばらく、争いの形跡を追っていくと、シアが前方に何か光るものを発見した。

 

「ハジメさん、これ、ペンダントでしょうか?」

「ん? ああ……遺留品かもな。確かめよう」

 

 その後も、遺品と呼ぶべきものが散見され、身元特定に繋がりそうなものだけは回収していく。どれくらい探索したのか、既に日はだいぶ傾き、そろそろ野営の準備に入らねばならない時間に差し掛かっていた。

未だ、野生の動物以外で生命反応はない。ウィル達を襲った魔物との遭遇も警戒していたのだが、それ以外の魔物すら感知されなかった。位置的には八合目と九合目の間と言ったところ。山は越えていないとは言え、普通なら、弱い魔物の一匹や二匹出てもおかしくないはずで、逆に不気味さを感じていた。

しばらくすると、再び、無人偵察機が異常のあった場所を探し当てた。東に三百メートル程いったところに大規模な破壊の後があったらしい。俺たちはハジメの指示を受けその場所に急行した。

そこは大きな川だった。上流に小さい滝が見え、水量が多く流れもそれなりに激しい。本来は真っ直ぐ麓に向かって流れていたのであろうが、現在、その川は途中で大きく三つ抉れており、小さな支流が出来ていた。まるで、横合いからレーザーか何かに抉り飛ばされたようだ。

そのような印象を持ったのは、抉れた部分が直線的であったとのと、周囲の木々や地面が焦げていたからである。更に、何か大きな衝撃を受けたように、何本もの木が半ばからへし折られて、何十メートルも遠くに横倒しになっていた。川辺のぬかるんだ場所には、三十センチ以上ある大きな足跡も残されている。

 

「ここで本格的な戦闘があったようだな……この足跡、大型で二足歩行する魔物……確か、山二つ向こうにはブルタールって魔物がいたな。だが、この抉れた地面は……」

「とりあえずまずはほっとこう。一応下流で捜索しこれ以上見つからないようだったら降りるしかないだろうな。」

 

するとハジメが頷く。引き際に関してはそれが限界だろう

ハジメは、無人偵察機を上流に飛ばしながら自分達は下流へ向かうことにした。ブルタールの足跡が川縁にあるということは、川の中にウィル達が逃げ込んだ可能性が高いということだ。ならば、きっと体力的に厳しい状況にあった彼等は流された可能性が高いと考えたのだ。

ハジメの推測に他の者も賛同し、今度は下流へ向かって川辺を下っていった。

すると、今度は、先ほどのものとは比べ物にならないくらい立派な滝に出くわした。ハジメ達は、軽快に滝横の崖をひょいひょいと降りていき滝壺付近に着地する。滝の傍特有の清涼な風が一日中行っていた探索に疲れた心身を優しく癒してくれる。と

 

「いた。気配感知に引っかかった。一人だけだけど人間だな。場所は……あの滝壺の奥だ」

「生きてる人がいるってことですか!」

 

シアの言葉に頷く。先生達も一様に驚いているようだ。それも当然だろう。生存の可能性はゼロではないとは言え、実際には期待などしていなかった。ウィル達が消息を絶ってから五日は経っているのである。もし生きているのが彼等のうちの一人なら奇跡だ。

 

「ユエ、頼む」

「……ん」

 

 ハジメは滝壺を見ながら、ユエに声をかける。ユエは、それだけでハジメの意図を察し、魔法のトリガーと共に右手を振り払った。

 

「波城 風壁」

 

すると、滝と滝壺の水が、紅海におけるモーセの伝説のように真っ二つに割れ始め、更に、飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われた。

 

「ユキ、行くぞ。」

「はい。」

 

そして機動力が高い俺とユキが洞窟の中に入る

洞窟は入って直ぐに上方へ曲がっており、そこを抜けるとそれなりの広さがある空洞が出来ていた。

俺とユキが先頭でその空間の一番奥に横倒しになっている男を発見した。傍に寄って確認すると、二十歳くらいの青年とわかった。端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は青ざめて死人のような顔色をしている。だが、大きな怪我はないし、鞄の中には未だ少量の食料も残っているので、単純に眠っているだけのようだ。顔色が悪いのは、彼がここに一人でいることと関係があるのだろう。

仕方ないし起きなければ身元の確認が取れないので俺は軽くその男性の頰を軽く叩く

するとイタタと声をあげ目覚める男性に俺たちは声をかけた

 

「お前が、ウィル・クデタか? クデタ伯爵家三男の」

「いっっ、えっ、君達は一体、どうしてここに……」

 

状況を把握出来ていないようで目を白黒させる青年に俺がギルドカードを見せる

 

「冒険者ギルド所属のスバルだ。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。」

「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」

「俺だけじゃないけどな。」

「スバル。居たか?」

 

するとハジメ達が遅れてやってくる。

 

「はい。居ましたよ。」

「ってことだ。詳細を聞いて後から遺留品についても報告したい。詳細を頼む。」

 

ウィルの話によるとウィル達は五日前、ハジメ達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。

漆黒の竜だったらしい。竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の竜に挟撃されていたという。

ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。

 

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」

 

洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。誰も何も言えなかった。顔をぐしゃぐしゃにして、自分を責めるウィルに、どう声をかければいいのか見当がつかなかった。生徒達は悲痛そうな表情でウィルを見つめ、先生はウィルの背中を優しくさする。ユエは何時もの無表情、シアとユキは困ったような表情だ。

でも死にかけたことある俺たちからいうとそれがすごくイラってくる。ハジメは、ツカツカとウィルに歩み寄ると、その胸倉を掴み上げ人外の膂力で宙吊りにした。

 

「生きたいと願うことの何が悪い? 生き残ったことを喜んで何が悪い? その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」

「だ、だが……私は……」

「死んだ方からしたら助けた奴が死んだほうがよっぽどの無念だろうよ。お前には未だ心配してくれる家族がいるんだろ?それならまずは家族の元に帰ることだけ考えておけ。」

「それでも、死んだ奴らのことが気になるなら……生き続けろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは……今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう」

「……生き続ける」

 

 涙を流しながらも、ハジメの言葉を呆然と繰り返すウィル。ハジメは、ウィルを乱暴に放り出した。

先程のウィルへの言葉は、半分以上自分への言葉だった。少し似た境遇に置かれたウィルが、自らの生を卑下したことが、まるで「お前が生き残ったのは間違いだ」と言われているような気がして、つい熱くなってしまったのである。

俺もハジメも経験があるからこそ言えることだ。俺にはもう家族はいないけどハジメには待っていてくれている人はいるだろう。

だからこそ疎外感を覚えてしまうし羨ましいって思ってしまう

俺はどうだろうか?

誰かが俺が死んだ時悲しんでくれるだろうか

分からない。

時々生きている意味さえ分からなくなる

そんなことを考えていると

 

「……大丈夫ですよ。」

 

すると先生が背伸びをしながら俺の頭を撫でる。

 

「ちょ。先生。なんすか。」

「大丈夫です。飯塚くんはもう一人じゃないんです。南雲くん、ユエさん、シアさん。ユキさんだって居ます。クラスでは白崎さんや八重樫さんだって心配しています。……もちろん私だって君の味方です。」

「……」

 

すると俺は少しキョトンとしてしまう。

 

「飯塚くんはもう少し周りのことだけではなくて自分のことを心配するべきだと思います。確かに君のご両親はすでに亡くなっています。でも自分のことに大事に思っている人がいるんじゃないのですか?」

「……」

 

クラスメイトが俺の方を驚いたように見るが俺図星を突かれいたためなくなってしまう

 

「君は優しい。でも少しばかり自分の事を気にするべきだと思います。自分の居場所を作るのに精一杯かもしれませんが。それでも今、大切な人が側にいませんか?飯塚くんを心配してくれる人がいるんじゃないですか?」

 

分かっている。そんなことは分かっている

でも改めて言われると、結構効くものがあった。

 

「……いっ。」

 

俺はパンと背中を思いっきり叩かれる。耐久値が高いのでダメージがないのだが

 

「…先生さんのいう通りだよ。いつも無茶や危ないことは僕たちが居ない時にこっそりやっているのも汚れ役を引き受けているのもスバルさんでしょ?」

「まぁ、キャサリンさんから夜中に特別危険な依頼を受けていることは聞いてましたしね。」

「……もうちょっと私たちを信用すべき。」

 

するとこことぞばかりに追い打ちを食らわせてくるみんなに苦笑してしまう

 

「……はぁ。守られてばっかで俺が言える事じゃないが、お前は俺の家族だろうが。簡単に死んだりしたら地獄の先まで追いかけてまで生き返させるからな。」

「……いやテメェが死んだらダメだろ。」

 

俺は軽く突っ込みを入れる。

 

「……はぁ。まぁ善処する。」

「それ絶対しない奴だろ。」

 

何とか皆気を持ち直し、一行は早速下山することにした。日の入りまで、まだ一時間以上は残っているので、急げば、日が暮れるまでに麓に着けるだろう。

 

 ブルタールの群れや漆黒と純白の竜の存在は気なるが、それはハジメ達の任務外だ。戦闘能力が低い保護対象を連れたまま調査などもってのほかである。ウィルも、足手まといになると理解しているようで、撤退を了承した。他の生徒達は、町の人達も困っているから調べるべきではと微妙な正義感からの主張をしたが、黒竜やらブルタールの群れという危険性の高さから愛子が頑として調査を認めなかったため、結局、下山することになった。

 

 だが、事はそう簡単には進まない。再度、ユエの魔法で滝壺から出てきた一行を熱烈に歓迎するものがいたからだ。

 

「グゥルルルル」

 

 低い唸り声を上げ、漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせながら空中より金の眼で睥睨する

……それはまさしく〝竜〟だった。



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黒龍戦

 その竜の体長は七メートル程。漆黒の鱗に全身を覆われ、長い前足には五本の鋭い爪がある。背中からは大きな翼が生えており、薄らと輝いて見えることから魔力を纏っているようだ。

川に一撃で支流を作ったという黒竜の残した爪痕を見ているので、それなりに強力な魔物だろうとは思っていたが、実際に目の前の竜から感じる魔力や威圧感は、想像の三段は上を行くと認識を改めた。奈落の魔物で言えば、ヒュドラには遠く及ばないが、黒竜は九十層クラスの魔物と同等の力を持っていると感じるほどだ。

 

ウィルの姿を確認するとギロリとその鋭い視線を向けた。そして、硬直する人間達を前に、おもむろに頭部を持ち上げ仰け反ると、鋭い牙の並ぶ顎門をガパッと開けてそこに魔力を集束しだした。

 

キュゥワァアアア!!

 

 不思議な音色が夕焼けに染まり始めた山間に響き渡る。脳裏に、川の一部と冒険者を消し飛ばしたというブレスが過ぎった。

 

「ッ! 退避しろ!」

 

 ハジメは警告を発し、自らもその場から一足飛びで退避した。ユエやシアも付いて来ている。だが、そんなハジメの警告に反応できない者が多数、いや、この場合ほぼ全員と言っていいだろう。

 

「アタッカーはシアとスバル。ユエとユキは防御に回れ。」

「了解。」

 

ハジメの指示に俺たちは前に出る

 

ブレスを吐く竜が一直線に放たれた。音すら置き去りにして一瞬でハジメが出した大盾に到達したブレスは、轟音と共に衝撃と熱波を撒き散らし大盾の周囲の地面を融解させていく。

 

その隙に俺は高速で移動するとがら空きの上空から自分に重力魔法をかけ落下を加速させて思い切り拳を叩きつける

 

「グゥルァアアア!?」

 

元々攻撃を止めるために使ったのでブレスをやめさせることが目的だった。その目論見は成功って言っていいだろう。

 

「スバルさん、飛んでください!」

 

俺はその言葉に思いっきり飛ぶとその後ろからシアが追撃を加えるところだった。

 

地面に磔にされた空の王者は、苦しげに四肢を踏ん張り何とか襲いかかる圧力から逃れようとしている。が、直後、天からウサミミなびかせて「止めですぅ~!」と雄叫び上げるシアがドリュッケンと共に降ってきた。激発を利用し更に加速しながら大槌を振りかぶり、黒竜の頭部を狙って大上段に振り下ろす。

 

ドォガァアアア!!!

 

「ヤバ、シア飛べ!」

「えっ?」

 

地面にめり込むドリュッケンを紙一重のところで躱している黒竜の姿があった。直撃の瞬間、竜特有の膂力で何とか回避したらしい。黒竜は、拘束のなくなった体を鬱憤を晴らすように高速で一回転させドリュッケンを引き抜いたばかりのシアに大質量の尾を叩きつけた。

 

「あっぐぅ!!」

 

 間一髪、シアはドリュッケンを盾にしつつ自ら跳ぶことで衝撃を殺すことに成功するが、同時に大きく吹き飛ばされてしまい、木々の向こう側へと消えていってしまった。

 

「マジかよ。」

 

と思ったところだった。

一回転の勢いのまま体勢を戻すと、黄金の瞳でギラリと俺たち素通りして背後のウィルを睨みつけた。

まるで強制概念があるかのように

 

「……闇魔法か?この竜ウィルを殺すような洗脳を受けていやがる。」

「それ本当か?」

「あぁ。てか普通俺にタグ向くだろ。明らかにウィルだけを狙っていやがる。このまま狙わせてその間に強力な攻撃を食らわせるか。」

 

キュゥワァアアア!!

 

「ブレス来るぞ!」

「禍天」

 

その魔法名が宣言された瞬間、黒竜の頭上に直径四メートル程の黒く渦巻く球体が現れる。見ているだけで吸い込まれそうな深い闇色のそれは、直後、落下すると押し潰すように黒竜を地面に叩きつけた。

 

「ナイスユエ。」

 

俺は高速旋回しそして宝物庫から連続式のロケットランチャーを取り出す

 

「派手に逝け。」

 

俺がトリガーを引くとひれ伏している竜にミサイルが飛び回り大きな爆発を起こすとすぐさま二丁のドンナーを取り出し引き金を引く

 

定期的に起こる銃声が高速旋回をしている中で響きわたっているのを聞くに

 

ハジメもレールガンを連射しているのであろう雷光を纏う射線が見えた。

 

「ユエ、ユキ!ウィルの守りに専念しろ。こいつは俺らがやる。」

「ん。任せて!」

「わかった。」

 

ユエとユキがいる以上、ウィルの安全は確保されたと信じて攻撃に集中する。黒竜は空中に上がり、未だユエが構築した防御壁の向こうにいるウィルを狙って防壁の破壊に集中している。しかし、火炎弾では、防壁を突破できないと悟ったのか再び仰け反り、口元に魔力を集束し始めた。

 

「はっ、ここまで無視されたのは初めてだ……なら、どうあっても無視できないようにしてやるよ!」

 

ハジメはドンナーをホルスターにしまうと、〝宝物庫〟からシュラーゲンを虚空に取り出した。即座に〝纏雷〟を発動し、三メートル近い凶悪なフォルムの兵器が紅いスパークを迸らせる。黒竜は流石に、ハジメの次手がマズイものだと悟ったのか、その顎門の矛先をハジメに向けた。ハジメの思惑通り、無視出来なかったようだ。

 

「はい残念。禍天」

 

俺はニヤリと笑い、黒竜の頭上に直径四メートル程の黒く渦巻く球体が現れる。地べたに這い蹲らされた黒竜は、衝撃に悲鳴を上げながらブレスを中断する。しかし、渦巻く球体は、それだけでは足りないとでも言うように、なお消えることなく、黒竜に凄絶な圧力をかけ地面に陥没させていく。

すると虹色の極光が走り、黒竜の頭部が突然弾かれた様に仰け反る。しかし、致命傷には程遠かった。ブレスの威力に軌道が捻じ曲げられたようで、鋭い牙を数本蒸発させながら、頭部の側面ギリギリを通過し、背後ではためく片翼を吹き飛ばすに止まった。

 

「グルァアアア!!」

 

 痛みを感じているのか悲鳴を上げながら錐揉みして地に落ちる黒竜。ハジメは、ブレスを回避するために〝空力〟で空中に退避していたのを幸いに、更に空中で逆さまになって〝空力〟〝縮地〟を発動。超速を以て急降下し、仰向けになっている黒竜の腹に〝豪脚〟を叩き込んだ。

 

「飯塚流剣術水月。」

 

すると二刀の剣が直撃する。もはやリンチである

斬って殴ってを同じところに加えていく耐えるように頭を垂れて蹲る黒竜の口元からはダラダラと血が流れ出している。心なしか、唸り声も弱ってきているようだ。

 

 黒竜は、俺を脅威と認識したのか、ウィルから目を離し俺たちに向けて顎門を開いて火炎弾を連射した。さながら対空砲火のように空中へ乱れ飛ぶ火炎弾。しかし、その炎はただの一撃も俺たちに当たることはなかった。〝空力〟と〝縮地〟を併用し、縦横無尽に空を駆ける俺たちは、いつしか残像すら背後に引き連れながら、ヒット&アウェイの要領で黒竜をフルボッコにしていく。

 

「クルゥ、グワッン!」

 

 若干、いや、確実に黒竜の声に泣きが入り始めている。鱗のあちこちがひび割れ、口元からは大量の血が滴り落ちている。

 

「てか耐久力高すぎるんだろ。」

「俺がとどめを刺す。スバルも離れてろ」

 

軽く悪態を付くとハジメはバイルバンカーを取り出す。アンカーを射出し、アームで黒竜を固定する。そして、〝纏雷〟を発動した。

 内蔵されたアザンチウムコーティングの杭が激しく回転し始め、パイルバンカーが紅いスパークを放つ。このまま行けば、重さ四トンの杭が容赦なく黒竜を貫き絶命させるだろう。

 

 だが、〝窮鼠猫を噛む〟という諺があるように、獣は手負いの時こそが一番注意しなければならない。それは黒竜も同じだった。

 

「グゥガァアアアア!!!」

 

 黒竜の咆哮と共に、全方位に向けて凄絶な爆風が発生した。純粋な魔力のみの爆発だ。さらに、一瞬にして最大級の身体強化を行ったようで唯でさえ強靭な筋肉が爆発的な力を生み、パイルバンカーを固定するアンカーを地面ごと引き抜き、同時に盛り上がった筋肉がアームをこじ開けた。そして、ハジメを振り落とすように一瞬で反転する。

 

「ユキ、シア。」

「任せて。」

「は、はいですぅ」

 

シアは、その意図を悟って、築かれた氷の城壁を足場に大きく上空へ跳躍すると、今度こそ外さないと気合を入れ直し、自由落下と、ショットシェルの激発の反動を利用して隕石のごとく黒竜へと落下した。

ユキはその横で火力不足なのでハジメに作ってもらったアサルトで追撃する

シアの、大上段に振りかぶった超重量のドリュッケンが、さらに魔力を注がれて重量を爆発的に増加させる。そして、狙い違わず黒竜の脳天に轟音を立てながら直撃した。

 黒竜は、頭部を地面にめり込ませ、突進の勢いそのままに半ば倒立でもするように下半身を浮き上がらせ逆さまになると、一瞬の停滞のあと、ゆっくりと地響きを立てながら倒れ込んだ。

 

「やっと終わったか。」

「でも完全に死んだわけじゃないな。黒竜の頭部は表面が砕け散り、大きくヒビが入っているものの、完全には砕けてない。」

「うげ。どんだけ頑丈だよこいつ。」

 

俺は苦笑いするとどうするか迷うところだった

ハジメが、黒竜の背後から近寄ってくる。とどめをさすことに決めたようだ。ちょうど、上空に飛ばされたパイルバンカー用の杭がハジメと黒竜の間に突き立った。

ハジメは、地面に深々と突き刺さる杭を〝豪腕〟も利用して引き抜くと肩に担いで黒竜の尻尾の付け根の前に陣取った。そして、まるでやり投げの選手のような構えを取る。手には当然、パイルバンカーの杭だ。

 

「お前まさか。」

 

俺は冷や汗を垂らす

 

 全員が、ハジメのしようとしていることを察し、頬を引き攣らせた。鱗を割るのが面倒だからといって、そこから突き刺すのはダメだろうと。ハジメの容赦のなさにユエとシア以外の者達が戦慄の表情を浮かべているが、ハジメはどこ吹く風だ。

 

 そして遂に、ハジメのパイルバンカーが黒竜の〝ピッー〟にズブリと音を立てて勢いよく突き刺さった。と、その瞬間、

 

〝アッーーーーーなのじゃああああーーーーー!!!〟

 

 くわっと目を見開いた黒竜が悲痛な絶叫を上げて目を覚ました。本当なら、半分ほどめり込んだ杭に、更に鉄拳をかましてぶち抜いてやろうと考えていたハジメだが、明らかに黒竜が発したと思われる悲鳴に、流石に驚愕し、思わず握った拳を解いてしまった。

 

〝お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~〟

 

 黒竜の悲しげで、切なげで、それでいて何処か興奮したような声音に全員が「一体何事!?」と度肝を抜かれ、黒竜を凝視したまま硬直する。

 

 どうやら、ただの竜退治とはいかないようだった。



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変態竜

〝ぬ、抜いてたもぉ~、お尻のそれ抜いてたもぉ~〟

 

 北の山脈地帯の中腹、薙ぎ倒された木々と荒れ果てた川原に、何とも情けない声が響いていた。声質は女だ。直接声を出しているわけではなく、広域版の念話の様に響いている。竜の声帯と口内では人間の言葉など話せないから、空気の振動以外の方法で伝達しているのは間違いない。

俺はどういうことかと首を傾げていると

 

「お前……まさか、竜人族なのか?」

 

 〝む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。偉いんじゃぞ? 凄いんじゃぞ? だからの、いい加減お尻のそれ抜いて欲しいんじゃが……そろそろ魔力が切れそうなのじゃ。この状態で元に戻ったら……大変なことになるのじゃ……妾のお尻が〟

 

「竜人族?」

 

俺は聞いた事ないことに首を傾げる

 

「……なぜ、こんなところに?」

 

 ハジメが自分に呆れている間に、ユエが黒竜に質問をする。

 

〝いや、そんなことよりお尻のそれを……魔力残量がもうほとんど…ってアッ、止めるのじゃ! ツンツンはダメじゃ! 刺激がっ! 刺激がっ~!〟

 

俺は首を傾げながら話を聞いているとどうやら何か喜んでいるように聞こえる竜に一歩下がる

 

「滅んだはずの竜人族が何故こんなところで、一介の冒険者なんぞ襲っていたのか……俺も気になるな。本来なら、このまま尻からぶち抜いてやるところを、話を聞く間くらいは猶予してやるんだ。さぁ、きりきり吐け」

 

どうやら竜人族は一度全滅した種族らしく俺は小さくへx〜って呟く。

 

〝あっ、くっ、ぐりぐりはらめぇ~なのじゃ~。は、話すから!〟

 

 ハジメの所業に、周囲の者達が完全にドン引きしていたがハジメは気にしない。このままでは話が出来なさそうなので、ぐりぐりは止めてやるハジメ。しかし、片手は杭に添えられたままだ。黒竜は、ぐりぐりが止まりホッとしたように息を吐く。そして、若干急ぎ気味に事情を話し始めた。その声音に艶があるような気がするのは気のせいだろうか。いや気のせいではないだろう。

 

〝妾は、操られておったのじゃ。お主等を襲ったのも本意ではない。仮初の主、あの男にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ〟

 

「どういうことだ?」

 

〝うむ、順番に話す。妾は……〟

 

黒竜の話を要約するとこうだ。

 

 この黒竜は、ある目的のために竜人族の隠れ里を飛び出して来たらしい。その目的とは、異世界からの来訪者について調べるというものだ。詳細は省かれたが、竜人族の中には魔力感知に優れた者がおり、数ヶ月前に大魔力の放出と何かがこの世界にやって来たことを感知したらしい。

 

 竜人族は表舞台には関わらないという種族の掟があるらしいのだが、流石に、この未知の来訪者の件を何も知らないまま放置するのは、自分達にとっても不味いのではないかと、議論の末、遂に調査の決定がなされたそうだ。

 

 目の前の黒竜は、その調査の目的で集落から出てきたらしい。本来なら、山脈を越えた後は人型で市井に紛れ込み、竜人族であることを秘匿して情報収集に励むつもりだったのだが、その前に一度しっかり休息をと思い、この一つ目の山脈と二つ目の山脈の中間辺りで休んでいたらしい。当然、周囲には魔物もいるので竜人族の代名詞たる固有魔法〝竜化〟により黒竜状態になって。

 

 と、睡眠状態に入った黒竜の前に一人の黒いローブを頭からすっぽりと被った男が現れた。その男は、眠る黒竜に洗脳や暗示などの闇系魔法を多用して徐々にその思考と精神を蝕んでいった。

 

 当然、そんな事をされれば起きて反撃するのが普通だ。だが、ここで竜人族の悪癖が出る。そう、例の諺の元にもなったように、竜化して睡眠状態に入った竜人族は、まず起きないのだ。それこそ尻を蹴り飛ばされでもしない限り。それでも、竜人族は精神力においても強靭なタフネスを誇るので、そう簡単に操られたりはしない。

 

 では、なぜ、ああも完璧に操られたのか。それは……

 

〝恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……〟

「……それって魔法をかけられているにも関わらずずっと寝てたってことだよね。」

 

 全員の目が、何となくバカを見る目になる。黒竜は視線を明後日の方向に向け、何事もなかったように話を続けた。ちなみに、なぜ丸一日かけたと知っているのかというと、洗脳が完了した後も意識自体はあるし記憶も残るところ、本人が「丸一日もかかるなんて……」と愚痴を零していたのを聞いていたからだ。

その後、ローブの男に従い、二つ目の山脈以降で魔物の洗脳を手伝わされていたのだという。そして、ある日、一つ目の山脈に移動させていたブルタールの群れが、山に調査依頼で訪れていたウィル達と遭遇し、目撃者は消せという命令を受けていたため、これを追いかけた。うち一匹がローブの男に報告に向かい、万一、自分が魔物を洗脳して数を集めていると知られるのは不味いと万全を期して黒竜を差し向けたらしい。

 

「まぁ理屈は合うよな。」

 

俺の言葉に全員がこちらを見る。

 

「ロープの男。多分同級生の誰かには間違えないだろうな。この話が本当であればの話だが。戦っている俺たちなら分かるけどオルクスの90層レベルじゃない。ラスボスレベルの強さだ。ユエ。お前の適正でティオを操れるようになるにはどれくらい掛かる?」

「……できない。そもそも魔物を操るのは弱い個体でも数体が限度。」

「……そんなに難しいのか。」

 

ハジメのつぶやきは俺も同意見だった。全属性持ちの魔法の天才が言うことに間違いはないだろう

 

「……ふざけるな」

 

 事情説明を終えた黒竜に、そんな激情を必死に押し殺したような震える声が発せられた。皆が、その人物に目を向ける。拳を握り締め、怒りを宿した瞳で黒竜を睨んでいるのはウィルだった。

 

「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」

 

〝……〟

 

 対する黒竜は、反論の一切をしなかった。ただ、静かな瞳でウィルの言葉の全てを受け止めるよう真っ直ぐ見つめている。その態度がまた気に食わないのか

 

「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」

 

〝……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない〟

 

 なお、言い募ろうとするウィル。それに口を挟んだのはユエだ。

 

「……きっと、嘘じゃない」

「っ、一体何の根拠があってそんな事を……」

「……竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は〝己の誇りにかけて〟と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに……嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」

 

それは俺らにも言えることだった。嘘じゃない。俺もハジメも確実にそう言い切れるはずだ。

 

〝ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは……いや、昔と言ったかの?〟

 

 竜人族という存在のあり方を未だ語り継ぐものでもいるのかと、若干嬉しそうな声音の黒竜。

 

「……ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」

 

〝何と、吸血鬼族の……しかも三百年とは……なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は……〟

 

「ユエ……それが私の名前。大切な人に貰った大切な名前。そう呼んで欲しい」

 

 ユエが、薄らと頬を染めながら両手で何かを抱きしめるような仕草をする。ユエにとって竜人族とは、正しく見本のような存在だったのだろう。話す言葉の端々に敬意が含まれている気がする。ウィルの罵倒を止めたのも、その辺りの心情が絡んでいるのかもしれない。

 

「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」

「殺されるほうが悪いんだろ。」

 

俺はそういうと全員が俺の方を見る

 

「冒険者っていうのはいつも危険と隣合わせの仕事だ。魔物と戦い。その報酬を得る。今回の件は強い魔物の群れの発見情報があったにも関わらず依頼にウィルを連れていった。それが一番の問題だろう。油断。慢心。一歩間違えれば死ぬところだ。先生たちだって俺たちが居なければ確実に死んでいたわけだしな。そういう運だって冒険者には大切だ。……死人に口無し。残酷だけど死は冒険者をやっている以上は覚悟しておかないといけない。」

「……そうだね。ちょっと言い方は少しキツイだろうけどボクも同じ意見だよ。確かにティオさんだって悪いとは思うし責任がないとは言わないけど。どんだけ頑張ったって負けは負け。殺すか殺されるかのやりとりをしている訳だから。死んだ方にも責任があると思うし、弱い自分が一番責めるべきだと思うよ。」

 

俺とユキは残酷だけども正論を言うとウィルは目を伏せる

でもこれが冒険者である以上鉄の鉄則なのだ

 

「ウィル、ゲイルってやつの持ち物か?」

 

 そう言って、取り出したロケットペンダントをウィルに放り投げた。ウィルはそれを受け取ると、マジマジと見つめ嬉しそうに相好を崩す。

 

「これ、僕のロケットじゃないですか! 失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」

「あれ? お前の?」

「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」

「マ、ママ?」

 

俺は少し首を傾げる

 

「いやその中身二十代前半だろ?お前の母親にしたら若すぎないか?」

「せっかくのママの写真なのですから若い頃の一番写りのいいものがいいじゃないですか」

「……えっと。」

 

俺が聞くとまるで自然の摂理を説くが如く素で答えられた。その場の全員が「ああ、マザコンか」と物凄く微妙な表情をした。女性陣はドン引きしていたが……

ちなみに、ゲイルとやらの相手は〝男〟らしい。そして、ゲイルのフルネームはゲイル・ホモルカというそうだ。名は体を表すとはよく言ったものである。

 

そしてウィルが落ち着いたところで黒竜を殺すかとなった時

 

〝操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか〟

 

「いや、お前の都合なんざ知ったことじゃないし。散々面倒かけてくれたんだ。詫びとして死ね」

 

 そう言って義手の拳を振りかぶった。

 

〝待つのじゃー! お、お主、今の話の流れで問答無用に止めを刺すとかないじゃろ! 頼む! 詫びなら必ずする! 事が終われば好きにしてくれて構わん! だから、今しばらくの猶予を! 後生じゃ!〟

 

ハジメは冷めた目で黒竜の言葉を無視し拳を振るおうとした。だが、それは叶わなかった。振るおうとした瞬間、ユエがハジメの首筋にしがみついたからだ。驚いて、思わず抱きとめるハジメの耳元でユエが呟く。

 

「……殺しちゃうの?」

「え? いや、そりゃあ殺し合いしたわけだし……」

「……でも、敵じゃない。殺意も悪意も、一度も向けなかった。意志を奪われてた」

「ぶっちゃけ俺も殺すのは反対だな。」

 

俺はそう言うとハジメは俺の方をみる

 

「お前は敵ならば殺す。敵じゃなければ殺さない。そうやってきただろうが依頼だから相手にしていただけで元々は殺意は一度も向けなかった。ウィルだけを狙っていたのは意志を奪われており、刷り込まれた命令を機械の如くこなしていたに過ぎないだろ。」

「……それに自分に課した大切なルールに妥協すれば、人はそれだけ壊れていく。黒竜を殺すことは本当にルールに反しない?」

 

そしてハジメが考えていると

 

〝いい雰囲気のところ申し訳ないのじゃがな、迷いがあるなら、取り敢えずお尻の杭だけでも抜いてくれんかの? このままでは妾、どっちにしろ死んでしまうのじゃ〟

 

「ん? どういうことだ?」

 

〝竜化状態で受けた外的要因は、元に戻ったとき、そのまま肉体に反映されるのじゃ。想像してみるのじゃ。女の尻にその杭が刺さっている光景を……妾が生きていられると思うかの?〟

 

「うわぁ。」

 

ユキが声を漏らす。どの意見に同感だったのかシアを含めた女性陣はお尻を押さえて青ざめている。

 

〝でじゃ、その竜化は魔力で維持しておるんじゃが、もう魔力が尽きる。あと一分ももたないのじゃ……新しい世界が開けたのは悪くないのじゃが、流石にそんな方法で死ぬのは許して欲しいのじゃ。後生じゃから抜いてたもぉ〟

 

……今聞き捨てならない言葉が聞こえた。

俺は完全に隠密と気配遮断を使い我関せずって感じに隠れる

 

ハジメは空いている方の手で黒竜の尻に刺さっている杭に手をかけた。そして、力を込めて引き抜いていく。

 

〝はぁあん! ゆ、ゆっくり頼むのじゃ。まだ慣れておらっあふぅうん。やっ、激しいのじゃ! こんな、ああんっ! きちゃうう、何かきちゃうのじゃ~〟

 

 みっちり刺さっているので、何度か捻りを加えたり、上下左右にぐりぐりしながら力を相当込めて引き抜いていくと、何故か黒竜が物凄く艶のある声音で喘ぎ始めた。ハジメは、その声の一切を無視して容赦なく抉るように引き抜く。

 

ズボッ!!

 

〝あひぃいーーー!! す、すごいのじゃ……優しくってお願いしたのに、容赦のかけらもなかったのじゃ……こんなの初めて……〟

 

 そんな訳のわからないことを呟く黒竜は、直後、その体を黒色の魔力で繭のように包み完全に体を覆うと、その大きさをスルスルと小さくしていく。そして、ちょうど人が一人入るくらいの大きさになると、一気に魔力が霧散した。

 

 黒き魔力が晴れたその場には、両足を揃えて崩れ落ち、片手で体を支えながら、もう片手でお尻を押さえて、うっとりと頬を染める黒髪金眼の美女がいた。腰まである長く艶やかなストレートの黒髪が薄らと紅く染まった頬に張り付き、ハァハァと荒い息を吐いて恍惚の表情を浮かべている。

 

「なんてこった。こいつは凶悪だ。」

「これがふぁんたずぃ〜か〜」

「くそ、起きてくれ、起きてくれよ。俺のスマホ。」

「……何というか自分を含めて男子ってろくな奴がいないな。」

「あそこの人たちより随分マシだと思うよ。」

 

俺とユキはジト目でクラスの男子をみると

 

 

「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」

 

 ティオ・クラルスと名乗った黒竜は、次いで、黒ローブの男が、魔物を洗脳して大群を作り出し町を襲う気であると語った。その数は、既に三千から四千に届く程の数だという。何でも、二つ目の山脈の向こう側から、魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているのだとか。

魔物を操ると言えば、そもそもハジメ達がこの世界に呼ばれる建前となった魔人族の新たな力が思い浮かぶ。それは愛子達も一緒だったのか、黒ローブの男の正体は魔人族なのではと推測したようだ。

しかし、その推測は、ティオによってあっさり否定される。何でも黒ローブの男は、黒髪黒目の人間族で、まだ少年くらいの年齢だったというのだ。それに、黒竜たるティオを配下にして浮かれていたのか、仕切りに「これで自分は勇者より上だ」等と口にし、随分と勇者に対して妬みがあるようだったという。

と、そこでハジメが突如、遠くを見る目をして「おお、これはまた……」などと呟きを漏らした。聞けば、ティオの話を聞いてから、無人探査機を回して魔物の群れや黒ローブの男を探していたらしい。

 

 

「こりゃあ、三、四千ってレベルじゃないぞ? 桁が一つ追加されるレベルだ」

 

 ハジメの報告に全員が目を見開く。しかも、どうやら既に進軍を開始しているようだ。方角は間違いなくウルの町がある方向。このまま行けば、半日もしない内に山を下り、一日あれば町に到達するだろう。

 

「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」

 

慌てているようで的確だな。俺は先生のすべきことに素直に感心を覚える

案外評価は少ないけど一番見えているのは先生なんだなっとみていると

 

「あの、ハジメ殿とスバル殿なら何とか出来るのでは……」

 

 その言葉で、全員が一斉にハジメの方を見る。その瞳は、もしかしたらという期待の色に染まっていた。ハジメは、それらの視線を鬱陶しそうに手で振り払う素振りを見せると、投げやり気味に返答する。

 

「そんな目で見るなよ。俺の仕事は、ウィルをフューレンまで連れて行く事なんだ。保護対象連れて戦争なんてしてられるか。いいからお前等も、さっさと町に戻って報告しとけって」

「保護対象連れて、大群と戦争なんかやってられない。仮に殺るとしても、こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない。特に俺たちもティオとの戦いで魔力回復薬も結構減ったし。あんまり得策ではないな。」

「まぁ、ご主じ……コホンッ、彼らの言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」

 

ハジメの呼び方が少しおかしい気がしたが無視をするのが一番だろう

 

ティオが、魔力枯渇で動けないのでハジメが首根っこを掴みズルズルと引きずって行く。実は、誰がティオを背負っていくかと言うことで男子達が壮絶な火花を散らしたのだが、それは女子生徒達によって却下され、ティオ本人の希望もあり、ハジメが運ぶことになった。

面倒くさそうに顔をしかめると、いきなりティオの足を掴みズルズルと引き摺りだしたのだ。

愛子達の猛抗議により、仕方なく首根っこに持ち替えたが、やはり引き摺るのはかわらない。何を言ってもハジメは改めない上、何故かティオが恍惚の表情を浮かべ周囲をドン引きさせた結果、現在のスタイルでの下山となった。

 

まぁ一応作戦だけは考えておくか。



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信じろ

 魔力駆動四輪が、行きよりもなお速い速度で帰り道を爆走し、整地機能が追いつかないために、天井に磔にしたティオには引切り無い衝撃を、荷台の男子生徒にはミキサーの如きシェイクを与えていた。

その時、ウルの町と北の山脈地帯のちょうど中間辺りの場所で完全武装した護衛隊の騎士達が猛然と馬を走らせている姿を発見した。

俺はそんなのに構っている暇ないので高速で魔力を消費しながら運転していると先生がサンルーフから顔を出して必死に両手を振り、大声を出してデビッドという騎士にに自分の存在を主張する。

 

「デビッドさーん、私ですー! 攻撃しないでくださーい!」

 

シチュエーションに酔っているのか恍惚とした表情で「さぁ! 飛び込んでおいで!」とでも言うように、両手を大きく広げている。

正直言って気持ちが悪いので俺は問答無用で魔力を思いっきりつぎ込んだ

距離的に明らかに減速が必要な距離で、更に加速した黒い物体に騎士達がギョッとし、慌てて進路上から退避する。

魔力駆動四輪は、笑顔で手を広げるデビッド達の横を問答無用に素通りした。愛子の「なんでぇ~」という悲鳴じみた声がドップラーしながら後方へと流れていきそして、次の瞬間には、「愛子ぉ~!」と、まるで恋人と無理やり引き裂かれたかのような悲鳴を上げて、猛然と四輪を追いかけ始めるのだった。

 

「飯塚君! どうして、あんな危ないことを!」

「騎士の笑顔が気持ち悪かった。」

「飯塚くん!!」

「……ん、同感」

「それに止まっている暇はないだろ?先生。止まれば事情説明を求められるに決まってる。そんな時間あるのかよ? どうせ町で事情説明するのに二度手間になるし」

「うっ、た、確かにそうですけど……」

「明らかに気持ち悪くて魔力を込めましたよね。いいぞもっとヤレ」

「だからなんでネタ知っているんだよ。って突っ込んでしまった。」

 

といつも通りの俺たちに少し苦笑してしまう。ウルの街まで後数時間だ。

 

 

ウルの町に着くと、悠然と歩くハジメ達とは異なり先生達は足をもつれさせる勢いで町長のいる場所へ駆けていった。ハジメとしては、先生達とここで別れて、さっさとウィルを連れてフューレンに行ってしまおうと考えていたらしいが、むしろ先生達より先にウィルが飛び出していってしまったため仕方なく後を追いかけた。

俺はその間に買い出しである。ユキと、屋台の串焼きやら何やらに舌鼓を打ちながらコメや香辛料などを買い込みその後冒険者ギルドに向かう

 

すると丁度話が纏まったのか場は無言になっているところだった

 

「話が終わったか?」

 

俺が声を上げるとすると先生は俺の方を見る

そして

 

「飯塚君。南雲君なら……君たちなら魔物の大群をどうにかできますか? いえ……できますよね?」

 

すると真剣な顔でこっちを見る先生に俺はキョトンとしてしまう

 

「いやいや、先生。無理に決まっているだろ? 見た感じ四万は超えているんだぞ? とてもとても……」

「でも、山にいた時、ウィルさんの南雲君なら何とかできるのではという質問に〝できない〟とは答えませんでした。それに飯塚くん〝こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない〟とも言ってましたよね? それは平原なら殲滅戦が可能という事ですよね? 違いますか?」

「よく覚えているな。」

 

さすがに苦笑してしまう。俺のヒントにちゃんと気づけたらしい。

 

「二人とも。どうか力を貸してもらえませんか? このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」

「……意外だな。あんたは生徒の事が最優先なのだと思っていた。色々活動しているのも、それが結局、少しでも早く帰還できる可能性に繋がっているからじゃなかったのか? なのに、見ず知らずの人々のために、その生徒に死地へ赴けと? その意志もないのに? まるで、戦争に駆り立てる教会の連中みたいな考えだな?」

 

ハジメの揶揄するような言葉に、しかし、先生は動じない。その表情は、ついさっきまでの悩みに沈んだ表情ではなく、決然とした〝先生〟の表情だった。

 

「……元の世界に帰る方法があるなら、直ぐにでも生徒達を連れて帰りたい、その気持ちは今でも変わりません。でも、それは出来ないから……なら、今、この世界で生きている以上、この世界で出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を、少なくとも出来る範囲では見捨てたくない。そう思うことは、人として当然のことだと思います。もちろん、先生は先生ですから、いざという時の優先順位は変わりませんが……」

 

一つ一つ確かめるように言葉を紡いでいく。

 

「南雲君、あんなに穏やかだった君が、そんな風になるには、きっと想像を絶する経験をしてきたのだと思います。そこでは、誰かを慮る余裕などなかったのだと思います。君が一番苦しい時に傍にいて力になれなかった先生の言葉など…南雲君には軽いかもしれません。でも、どうか聞いて下さい」

 

 ハジメは黙ったまま、先を促すように先生を見つめ返す。

 

「南雲君。君は昨夜、絶対日本に帰ると言いましたよね? では、南雲君、君は、日本に帰っても同じように大切な人達以外の一切を切り捨てて生きますか? 君の邪魔をする者は皆排除しますか? そんな生き方が日本で出来ますか? 日本に帰った途端、生き方を変えられますか? 先生が、生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、帰ったとき日本で元の生活に戻れるのか心配だからです。殺すことに、力を振るうことに慣れて欲しくないのです」

「……」

「南雲君、君には君の価値観があり、君の未来への選択は常に君自身に委ねられています。それに、先生が口を出して強制するようなことはしません。ですが、君がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てるその生き方は……とても〝寂しい事〟だと、先生は思うのです。きっと、その生き方は、君にも君の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから……他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。元々、君が持っていた大切で尊いそれを……捨てないで下さい」

 

するとしばらく考えハジメはこっちを見る

俺は手を振ってそれを返すと少し苦笑したように笑った

 

「……先生は、この先何があっても、俺の先生か?」

 

 それは、言外に味方であり続けるのかと問うハジメ。

 

「当然です」

「……俺がどんな決断をしても? それが、先生の望まない結果でも?」

「言ったはずです。先生の役目は、生徒の未来を決めることではありません。より良い決断ができるようお手伝いすることです。南雲君が先生の話を聞いて、なお決断したことなら否定したりしません」

 

なるほど言質とって先生と対立するのを防いだか

これで敵が。いや先生が味方だと判断すると分かりやすいな

 

「スバル。」

「あいよ。ユキ。行くぞ。」

「うん。分かった。」

 

そして俺達は立ち上がる

 

「?南雲くん?」

「流石に、数万の大群を相手取るなら、ちょっと準備しておきたいから。話し合いはそっちでやってくれ」

「南雲くん!!」

「俺の知る限り一番の〝先生〟からの忠告だ。まして、それがこいつ等の幸せにつながるかもってんなら……少し考えてみるよ。取り敢えず、今回は、奴らを蹴散らしておくことにする」

 

 そう言って、両隣のユエとシアの肩をポンっと叩くと再び踵を返して振り返らず部屋を出て行った。ユエとシアが、それはもう嬉しそうな雰囲気をホワホワと漂わせながら、小走りでハジメの後を追いかけてゆく。

 

「俺は話し合いに参加するよ。さすがに連絡が漏れて仲間を殺しましたとかなったら後味悪いし。ユキは街の人に話して事情を伝えてくれ。女性や商人などは保険をかけて避難命令。至急にな。」

「分かったけど。」

「園部。お前からも事情を話せ。勇者パーティーの名を使う。」

「わ、分かったわ。」

「ギルド長は護衛と一応であるけど冒険者を集めてくれ。予備の戦力としておいておきたい。」

「りょ、了承した、」

「先生は……ってたく。」

 

俺は軽く先生の頭を叩く。先生がどこか後悔の念を抑えていた

 

「先生、暗い顔すんなよ。あれが最善策だよ。俺よりもずっと上手いやり方でハジメに他者を思い遣ることと力に溺れないってことを指し示した。……まぁ俺から言ってもよかったけど誰か俺以外にもハジメの間違いを指摘できる人がいたほうがいいからな。いい薬だろ。」

「でも。」

「……信じとけ。」

 

俺の言葉に先生はこっちを見る

 

「後悔するくらいだったら前線に出さなければよかったより、結果が出なかった時に後悔しろ。ここで先生に生徒の決断を後悔するっていうのは先生の流儀に反するだろ。危険な場所に出させてしまったって後悔するよりも、これが最善策だと思うことがハジメにとっても。俺にとっても味方になるってことではないのか?」

 

すると先生はキョトンとしている

そして俺は他のやつに指示を出していき、そして戦争をする準備に追われた



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豊穣の女神

「ハジメこっち終わったぞ。」

「こっちも丁度終わったところだ。」

 

 町の住人達には、既に数万単位の魔物の大群が迫っている事が伝えられている。魔物の移動速度を考えると、夕方になる前くらいには先陣が到着するだろうと。

当然、住人はパニックになった。町長を始めとする町の顔役たちに罵詈雑言を浴びせる者、泣いて崩れ落ちる者、隣にいる者と抱きしめ合う者、我先にと逃げ出そうとした者同士でぶつかり、罵り合って喧嘩を始める者。明日には、故郷が滅び、留まれば自分達の命も奪われると知って冷静でいられるものなどそうはいない。だが、そんな彼等に心を取り戻させた者がいた。先生だ。ようやく町に戻り、事情説明を受けた護衛騎士達を従えて、高台から声を張り上げる〝豊穣の女神〟。恐れるものなどないと言わんばかりの凛とした姿と、元から高かった知名度により、人々は一先ずの冷静さを取り戻した。

 避難組は、夜が明ける前には荷物をまとめて町を出た。現在は、日も高く上がり、せっせと戦いの準備をしている者と仮眠をとっている者とに分かれている。

 

「飯塚くん準備はどうですか?」

 

するとハジメと話していた先生がこっちを見る

 

「ん。少し飯だけ食っときたいけど他は大丈夫だ。」

「ご飯ですか?」

「今まで炊き出しで俺はずっと飯作っていたんだぞ。さすがに少し腹は減るだろ。」

「あぁ。そういえば。おにぎりくらいしかないですが。」

「もらっていいか?ちょっと俺は最後捕まえに行かないとまずいから。」

 

俺は先生から5つほど受け取るとすると今度はティオが前に出る

 

「ふむ、よいかな。妾もご主……ゴホンッ! お主に話が……というより頼みがあるのじゃが、聞いてもらえるかの?」

「? …………………………………………………………ティオか」

「お、お主、まさか妾の存在を忘れておったんじゃ……はぁはぁ、こういうのもあるのじゃな……」

 

そういえばいたなこいつ

 

「んっ、んっ! えっとじゃな、お主は、この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」

「ああ、そうだ」

「うむ、頼みというのはそれでな……妾も同行させてほし…」

「断る」

「……ハァハァ。よ、予想通りの即答。流石、ご主……コホンッ! もちろん、タダでとは言わん! これよりお主を〝ご主人様〟と呼び、妾の全てを捧げよう! 身も心も全てじゃ! どうzy」

「帰れ。むしろ土に還れ」

 

両手を広げ、恍惚の表情でハジメの奴隷宣言をするティオに、ハジメは汚物を見るような眼差しを向け、ばっさりと切り捨てた。それにまたゾクゾクしたように体を震わせるティオ。頬が薔薇色に染まっている。どこからどう見ても変態だった。

 

「そんな……酷いのじゃ……妾をこんな体にしたのはご主人様じゃろうに……責任とって欲しいのじゃ!」

 

 全員の視線が「えっ!?」というようにハジメを見る。流石に、とんでもない濡れ衣を着せられそうなのに放置する訳にもいかず、きっちり向き直ると青筋を浮かべながらティオを睨むハジメ。どういうことかと視線で問う。

 

「あぅ、またそんな汚物を見るような目で……ハァハァ……ごくりっ……その、ほら、妾強いじゃろ?」

「まぁ強かったね。」

 

それに異論がないと俺も頷く

 

「里でも、妾は一、二を争うくらいでな、特に耐久力は群を抜いておった。じゃから、他者に組み伏せられることも、痛みらしい痛みを感じることも、今の今までなかったのじゃ」

 

 近くにティオが竜人族と知らない護衛騎士達がいるので、その辺りを省略してポツポツと語るティオ。

 

「それがじゃ、ご主人様と戦って、初めてボッコボッコにされた挙句、組み伏せられ、痛みと敗北を一度に味わったのじゃ。そう、あの体の芯まで響く拳! 嫌らしいところばかり責める衝撃! 体中が痛みで満たされて……ハァハァ」

「……悪いお代わりもらえないか?」

「えっ。ってもう全部食べ終わったんですか?」

「っていうかよくこんな状況で食べられるね。」

 

呆れたような声に苦笑してしまう。結構ガチでお腹が減っていたのもあり食が進む

 

「……つまり、ハジメが新しい扉を開いちゃった?」

「その通りじゃ! 妾の体はもう、ご主人様なしではダメなのじゃ!」

「……きめぇ」

 

ハジメの本心からの罵倒にはぁはぁしているティオ

 

「それにのう……」

 

 ティオが、突然、今までの変態じみた様子とは異なり、両手をムッチリした自分のお尻に当てて恥じらうようにモジモジし始める。

 

「……妾の初めても奪われてしもうたし」

 

その言葉に、全員の顔がバッと音を立ててハジメに向けられた。ハジメは頬を引き攣らせながら「そんな事していない」と首を振る。

 

「妾、自分より強い男しか伴侶として認めないと決めておったのじゃ……じゃが、里にはそんな相手おらんしの……敗北して、組み伏せられて……初めてじゃったのに……いきなりお尻でなんて……しかもあんなに激しく……もうお嫁に行けないのじゃ……じゃからご主人様よ。責任とって欲しいのじゃ」

 

すると俺もシアもユエもユキまでもあれはちょっとと思い事の真相を知っているにもかかわらず目を逸らす

 

「お、お前、色々やる事あるだろ? その為に、里を出てきたって言ってたじゃねぇか」

 

 ユエ達にまで視線を逸らされてしまい、苦し紛れに〝竜人族の調査〟とやらはどうしたと返すハジメ。

 

「うむ。問題ない。ご主人様の傍にいる方が絶対効率いいからの。まさに、一石二鳥じゃ……ほら、旅中では色々あるじゃろ? イラっとしたときは妾で発散していいんじゃよ? ちょっと強めでもいいんじゃよ? ご主人様にとっていい事づくしじゃろ?」

「変態が傍にいる時点でデメリットしかねぇよ」

「……八重樫今度あったらパーティーに誘おうかなぁ。これ以上リーダー張れる自信ないんだけど。」

 

とふざけたような話をしていると

 

「! ……来たか」

 

 ハジメが突然、北の山脈地帯の方角へ視線を向ける。眼を細めて遠くを見る素振りを見せた。肉眼で捉えられる位置にはまだ来ていないが、ハジメの〝魔眼石〟には無人偵察機からの映像がはっきりと見えているのだろう

 

「数は?」

「五万から予定よりかなり早いが、到達まで三十分ってところだ。数は五万強。複数の魔物の混成だ」

「それならなんとかなるか。残弾はちょっと気になるけど。鉱石まだ残っているか?」

「問題ねぇよ。今回の作戦お前とユキがかなり大切になってくるからな。」

「了解。」

「任せてよ。」

 

と俺はロケランを。ユキはスナイパーレーダーと呼ばれるものを取り出す

 

「あ、あの。……君たちをここに立たせた先生が言う事ではないかもしれませんが……どうか無事で……」

 

俺は軽く手を振る

ハジメ達以外には、ウィルとティオだけだ。

 

 ウィルは、ティオに何かを語りかけると、ハジメに頭を下げて愛子達を追いかけていった。疑問顔を向けるハジメにティオが苦笑いしながら答える。

 

「今回の出来事を妾が力を尽くして見事乗り切ったのなら、冒険者達の事、少なくともウィル坊は許すという話じゃ……そういうわけで助太刀させてもらうからの。何、魔力なら大分回復しておるし竜化せんでも妾の炎と風は中々のものじゃぞ?」

 

自己主張の激しい胸を殊更強調しながら胸を張るティオに、ハジメは無言で魔晶石の指輪を投げてよこした。疑問顔のティオだったが、それが神結晶を加工した魔力タンクと理解すると大きく目を見開き、ハジメに震える声と潤む瞳を向けた。

 

「ご主人様……戦いの前にプロポーズとは……妾、もちろん、返事は……」

「ちげぇよ。貸してやるから、せいぜい砲台の役目を果たせって意味だ。あとで絶対に返せよ。ってか今の、どっかの誰かさんとボケが被ってなかったか?」

「……なるほど、これが黒歴史」

「それを二度も俺は目の前で見たんだけどな。てかその雰囲気で渡すの嫌なんだけどユキ。」

 

俺は指輪を一つ投げる

 

「これは?」

「俺の氷結を使える用にした指輪。攻撃魔法を使えなかったけど、この魔法陣の指輪なら使えるようになるはずだ。ハジメで実験したら普通にできたしな。」

 

魔法の属性が全くないハジメでもできたのでユキでも範囲攻撃を覚えるのはかなり有効打になり得る

 

「……悪いな。せっかくの一族のことが一旦落ち着いたにも関わらずお前を争いに出してしまって。」

 

するとユキはキョトンとして俺の方を見る。俺はずっと気にしていたんだよなぁ。

正直ユキは俺が連れてきたことになっている

だから本当は俺はユキに正直戦闘に出したくないのだ。

そして何を言いたいのか分かったのだろう。

 

「……良いですよ。ぼくはただあなたの側に立っていたいだけなんですから。それに、ぼくもちゃんと香織さんにスバルさんがちゃんとけりをつけたんなら。……ちゃんと参戦しますから。」

「…覚悟しておくよ。ちゃんと答えも出す。待たせているのも悪いと思っているしな。」

 

そうして俺は少し笑う。多分俺は最低だ。自覚はしている

自覚はしているし、多分ハジメみたいに一人の人を好きでいられる自信はすでにない。

 

「……ありがとうな。」

 

俺は少し苦笑しユキの頭を撫でる

 

「……いちゃつくなよ。」

「別にいいだろ。……てかお前にだけは言われたくない。」

 

俺は少しため息吐きそして気を引き締める

 

遂に、肉眼でも魔物の大群を捉えることができるようになった。〝壁際〟に続々と弓や魔法陣を携えた者達が集まってくる。大地が地響きを伝え始め、遠くに砂埃と魔物の咆哮が聞こえ始めると、そこかしこで神に祈りを捧げる者や、今にも死にそうな顔で生唾を飲み込む者が増え始めた。

 

「んじゃやるか。」

 

それを見て、俺とハジメは前に出る。錬成で、地面を盛り上げながら即席の演説台を作成する。そして俺は剣を持ち上げ全員の視線が自分に集またことを確認すると、すぅと息を吸い天まで届けと言わんばかりに声を張り上げた。

 

「聞け! ウルの町の勇敢なる者達よ! 私達の勝利は既に確定している!」

 

 いきなり何を言い出すのだと、隣り合う者同士で顔を見合わせる住人達。俺は、彼等の混乱を尻目に言葉を続ける。

 

「なぜなら、私達には女神が付いているからだ! そう、皆も知っている〝豊穣の女神〟愛子様だ!」

 

 その言葉に、皆が口々に愛子様? 豊穣の女神様? とざわつき始めた。護衛騎士達を従えて後方で人々の誘導を手伝っていた愛子がギョッとしたように俺を見る

ハジメの台本を思い出しながら俺は声をさらに大きくはっきりと出し

 

「我らの傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない! 愛子様こそ! 我ら人類の味方にして〝豊穣〟と〝勝利〟をもたらす、天が遣わした現人神である!我らは、愛子様の剣にして盾、彼女の皆を守りたいという思いに応えやって来た! 見よ! これらが、愛子様により教え導かれた私の力である!」

 

俺はそして放物庫から大型のレーダー銃を、取り出し地上の第一隊に、ハジメは虚空にシュラーゲンを取り出し、銃身からアンカーを地面に打ち込んで固定した。そして膝立ちになって構えると、町の人々が注目する中、些か先行しているプテラノドンモドキの魔物に照準を合わせ……引き金を引いた。

俺のレーダーは白い熱線いわゆる超強力型バーナーと言ってもいいだろう、熱線に触れた魔物はチリ一つ残らず焼け落ちる

紅いスパークを放っていたシュラーゲンから、極大の閃光が撃ち手の殺意と共に一瞬で空を駆け抜け、数キロ離れたプテラノドンモドキの一体を木っ端微塵に撃ち砕き、余波だけで周囲の数体の翼を粉砕して地へと堕とした。

そして一通り終えると俺は最後の締めに取り掛かる

 

「愛子様、万歳!」

 

 俺が、最後の締めに愛子を讃える言葉を張り上げた。すると、次の瞬間……

 

「「「「「「愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳!」」」」」」

「「「「「「女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳!」」」」」」

 

ウルの町に、今までの様な二つ名としてではない、本当の女神が誕生した。どうやら、不安や恐怖も吹き飛んだようで、町の人々は皆一様に、希望に目を輝かせ先生を女神として讃える雄叫びを上げた。遠くで、先生が顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。その瞳は真っ直ぐ俺に向けられており、小さな口が「ど・う・い・う・こ・と・で・す・か!」と動いている。

俺はそれをガン無視するとユキの方を向き

 

「……まぁこれくらいでいいか。ユキ地面凍らせて進行スピード落とすぞ。」

「うん。了解。」

 

「「氷結」」

 

俺が唱えるとするとおよそ数キロ範囲で地面が一斉に氷に覆われる。

そして貼り終えると俺はハジメと目が合い剣を上げる

 

「攻撃開始。」

 

俺が剣を振り下ろすと開戦の火蓋が切られたのだった。



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