ダンジョンでブラフマーストラを放つのは間違っているだろうか (その辺のおっさん)
しおりを挟む

番外編
番外編


皆様、新年明けましておめでとうございます

昨年の10月から投稿を始め、まだ至らぬことも多いですが、昨年、皆様から頂いた感想がとても嬉しく感じました。本年も頑張りたいと思います



なんか思い付いたので番外編です。短編3つです

以外と年末時間がとれた・・・ネタは思い付いた内に書いた方が良い




え?イシュタル?・・・知らない方ですね



-カルキによるオラリオ経済テロ-

 

「すまないが、この『カドモスの泉水』20L買い取ってくれないか?」

 

とある日の午後、【ディアンケヒト・ファミリア】にやって来た見知らぬ男が『カドモスの泉水』を大量に持ってきたことに【ディアンケヒト・ファミリア】は大混乱になった

 

「……通常なら1Lで1200万ヴァリスですが」

 

動揺しながらも応対した【ディアンケヒト・ファミリア】団長アミッド・テアサナーレは誉められるべきであろう

 

「そうか、ではその値段で買い取ってほしい・・・それから、この『カドモスの皮膜』とカドモスの魔石もそれぞれ買い取ってほしいのだが」

 

「ッツ!?そ、それでは、それぞれ850万ヴァリスで…」

 

追加でドロップアイテムを懐から取り出した男に驚愕しつつも、商業系ファミリアの義務を果たそうと買取価格を提示するが

 

「1150」

 

男はドロップアイテムの買取価格をアミッドが提示した値段よりも吊り上げる

 

「以前、『カドモスの皮膜』を【ガネーシャ・ファミリア】が買い取った価格だ。妥当であろう」

 

「初めて来た方にお得意様と同じ価格で買い取るわけにはいきません、900」

 

「悪いが、自分が今住んでいるのは【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)だ、1100」

 

なんとしても安く買いたいアミッドと無表情の男が互いに価格を譲らず緊張感が張り詰めるなか、ふぅと男が息をつき

 

「ならば、仕方がない…1000でどうだ?」

 

どこか疲れたような男に、それならばとアミッドは頷き、契約成立ですねと言って、奥から金を持ってこようとすると

 

「では、『カドモスの皮膜』と魔石、合計40個、買い取ってくれ」

 

ドサリと机に置かれたドロップアイテムと魔石にアミッドは卒倒し、『アミッドさん!?』と【ディアンケヒト・ファミリア】の団員達が慌てふためき、アミッドを介抱し、何とか気を取り戻したアミッドであったが

 

「さ、流石に5億ヴァリス以上も払えません…私達の高級回復薬(ハイ・ポーション)精神回復薬(エリクサー)、解毒薬で賄ってもよろしいでしょうか…」

 

泣きそうなアミッドに男は「それでもいい」とだけ告げて、早く持ってくるように促す

 

「では、また来る」

 

それだけ言い残して男は3億ヴァリスと高級回復薬(ハイ・ポーション)精神回復薬(エリクサー)、解毒薬を軽々と持ち上げ帰っていく男の後ろで

 

「今日だけで大赤字です…うぅっ…」

 

アミッドと【ディアンケヒト・ファミリア】の団員達がさめざめと泣いているのであった

 

***

「戻ったぞ」

 

【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)に戻ったカルキは数日間ダンジョンに潜った戦利品である2億ヴァリスの大金と【ディアンケヒト・ファミリア】の薬品を【ガネーシャ・ファミリア】の団員達の前に並べる

 

「ば、馬鹿な……」

 

団長であるシャクティが呆然とするなか、ガネーシャは苦笑をして

 

「今頃、ディアンケヒトは卒倒しているだろうな!」

 

カルキが本気を出せばこうなるのは当然だと笑うが、団員達は神の恩恵をもらっていないと公言する男が深層に行っていたことに驚愕するなか

 

「明日からは数日、ヴァルガングドラゴンを狩ってこよう」

 

更に下の階層へ向かうと言うカルキに、【ガネーシャ・ファミリア】の団員達からのカルキの評価は只の居候から完全にヤバい奴となっていた

 

***

『【ディアンケヒト・ファミリア】借金漬けになる』

 

たった一日で【ディアンケヒト・ファミリア】が借金を負ったということにオラリオ中がざわつくなか、数日後、【ヘファイストス・ファミリア】にも借金を負わせる悪魔が忍び寄っていた

 

「すまないが、ヴァルガングドラゴンのドロップアイテムと魔石を買い取ってほしい」

 

数時間後、数億ヴァリスの大金と魔剣と最高級の武器を抱えて去っていくカルキと後ろで「借金…」とさめざめと泣く【ヘファイストス・ファミリア】の団員達と大量の素材にどんな武器を打とうかワクワクしている椿がいたことは言うまでもあるまい

 

***

「はぁ!?『カドモスの皮膜』が120万ヴァリス!?」

 

【ディアンケヒト・ファミリア】でティオネが叫ぶが、アミッドは最早『カドモスの皮膜』にはその程度の価値しかないと切り捨てる

 

「私達、【遠征】で命懸けで採ってきたんだけどー」

 

「それでもダメです」

 

ティオネがぶーたれるが、アミッドは頑として譲らない

 

「アミッド…何か理由でもあるの?」

 

アイズが不安げに尋ねるが、「大丈夫です」とアミッドは返し、これ以上交渉しても無駄だと感じたティオネは「だったら他のファミリアに頼むわ」と交渉を止めるが

 

「……アミッド、頑張ってね」

 

「……はい」

 

今、【ディアンケヒト・ファミリア】のドロップアイテムの買取価格と薬品の値段は数週間前の10分の1まで値下げしている。供給過多のせいでここまで値段を下げなければ儲けが出ないらしい。その事を分かっているティオネ達が店からでていくと、アミッドは1人溜め息をついて思い悩む

 

「(これも全て、あの男のせいです…そういえば一週間ほど来ていませんね……)」

 

もしかしたらもう来ないのかもと淡い期待をしていたアミッドだったが

 

「アミッドさぁん!アイツが来ましたぁ!?」

 

「!?」

 

【ディアンケヒト・ファミリア】の団員が泣きながら飛び込んで来るのを見てアミッドはゴクリと喉をならし、ここ最近、素材を供給過多にしている男の登場に身構える

 

「……久しぶりだな、今回は『カドモスの泉水』2Lと『カドモスの皮膜』を3個、『毒妖蛆(ポイズンウェルミス)の体液』を3Lほど買い取ってくれ」

 

「(今回は少ない…?)わかりました、1200万で買い取りましょう」

 

今回はやけにドロップアイテムが少ないことを不思議に思うアミッドであったが、気にすることもなく、奥から最早僅かばかりとなったファミリアの資金を持ってくると

 

「どうやら、供給過多で迷惑をかけてしまったようなので、これからは、ドロップアイテムは他のファミリアでも換金することにした」

 

そういい残し、男が【ディアンケヒト・ファミリア】から出ていった後、オラリオ中の商業系・鍛冶系ファミリアから「借金だぁー!?」「ファミリアの資金がぁ!!」「破産だぁぁぁぁ!」と阿鼻叫喚が聞こえてきてアミッドは力なく地面に座り込むのであった

 

***

その後、オラリオはスーパーデフレに突入し、破産した商業系・鍛冶系ファミリアとドロップアイテムを安物にされたロキ・フレイヤ両ファミリアを含む探索系ファミリアがカルキ・ブラフマンに戦争を仕掛け、カルキから一方的にボコボコにされ、主神がカルキによって天界に送還されてしまうのだが、それは別の世界の話………

 

 

 

 

 

-カルキのトラウマ-

 

「はぁ~っ」

 

夕方のギルド本部、受付嬢のミイシャは深い溜め息をついていた。普段であれば、そんな同僚を嗜める隣に座るエイナも嗜める気配すらない

 

それは、今、ミイシャが担当している男性、カルキ・ブラフマンについてミイシャが悩んでいるからだ

 

カルキ・ブラフマンとミイシャとエイナが出会ったのは、【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)前に、説明と武器の購入のためギルドに訪れたカルキを担当したのがミイシャであり、エイナはベルの担当であるため、戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加することになった恩恵を貰っていないというカルキに善意で「頑張って下さい」と声をかけたのだが

 

蓋を開けてみれば、カルキは【アポロン・ファミリア】の団員レベル2を含む100名以上を蹂躙したのである

 

【神の鏡】に映る映像を通して蹂躙劇を見てしまったミイシャとエイナは返り血一つつけず蹂躙したカルキの強さに震え上がってしまった

 

さらには神々もカルキのことを『常識のないイキリ野郎』から『常識外れのヤベー奴』として扱っており、ギルドでもあまり関わりたくない人物となっているのだが、3日前にカルキがギルドを仕事を探しに訪れたのだ

 

無論、ある意味危険人物かもしれない男の担当など誰もしたくはなかったのだが、以前、カルキの担当をしたということでミイシャに白羽の矢が立ったのである。がミイシャが悩んでいるのはそこではなく

 

「また喋れなかったぁ~」

 

そう、ミイシャが悩んでいるのはカルキとのコミュニケーション不足であった

 

「……また話せなかったの?」

 

何でもカルキの地下水路での仕事が始まってから2日、午前と午後の報告の計4回話す機会があったのだが、あまり上手くいかなかったらしい

 

「確かに信頼関係を気づくのは大事だけど……」

 

どうしてそんなに話すことに固執するのか尋ねるエイナに

 

「えっ?だってカルキさんって顔、結構カッコいいじゃん?」

 

コテリも首をかしげるミイシャにエイナは呆れるが、ミイシャは「明日は今日よりもっとカルキさんと話してみせる!」と意気込むのだった

 

***

次の日の昼前、ミイシャは自分の担当している冒険者から相談を受けていた

 

その冒険者の獣人の少女は、ファミリアの先輩に連れていってもらった中層でモンスターの攻撃を受け、ダンジョンに恐怖を感じてしまっていてこのままでは冒険者を止めることになるとのことで、ミイシャもどうしようかと悩んでいるのだ

 

結局、結論は出せず、ミイシャと獣人の少女の間に重い空気が流れつつ相談室から出ると

 

「すまない、今良いだろうか」

 

午前の分の薬剤を散布し終えたカルキがやって来たのである

 

「(あっ……)」

 

これはカルキとのコミュニケーションを取るチャンスかもしれないとミイシャはカルキに事情を説明すると

 

「恐怖を感じてしまっていることの何がおかしい?」

 

「「えっ……?」」

 

【アポロン・ファミリア】相手に無双した男の言葉とは思えない返答にミイシャだけでなく獣人の少女も驚いた声を出すと、カルキは「これは持論だが」と前置きをして

 

「人間は誰しも恐怖を感じるのが当然だ、そして、戦場において、その恐怖に勝てるかどうかが問題なのであろう」

 

カルキの答えに獣人の少女は「それならば」と気合いを見せるが「だが」とカルキは付け加えるように

 

「だからと言って、ただ闇雲に突っ込んで行くのは只の蛮勇であり、それは唾棄すべきモノであろう。心には恐怖を持ちながら、いつ、どこで、ほんの僅かな勇気を振り絞れるかが重要なのだ」

 

「……よくわかりません」

 

首をかしげるミイシャと獣人の少女に

 

「要するに、『恐怖は常に持ち、足を半歩下げろ、蛮勇をするな、一歩踏み出す勇気を出す場面を間違えてはならない』ということだ」

 

そう説明するカルキに、ふとミイシャは、神々が『常識の外れのヤベー奴』としているカルキに問いかける

 

「じゃ、じゃあ、カルキさんにも怖いことってあるんですか?」

 

ミイシャの疑問を獣人の少女も思っていたのだろう。尻尾を振って興味津々であった。そんな二人の少女に「あるぞ」とカルキはアッサリと答える

 

「えっ!ど、どんなことですか?」

 

野次馬根性丸出しにするミイシャだけでなく、ギルドの職員達も聞き耳を立てている

 

「(上手く誤魔化すか)……自分がまだ師匠の元で武術修行をしていた17歳の時、基本的には食事を師匠の奥方が作って下さっていたのだが、ある日、師匠のご同輩のお方と修行していた際、修行に熱中して昼食をすっぽかしてしまって、せっかく作って下さった料理が冷めてしまったことを奥方が悲しまれて…な」

 

「……何があったんですか?」

 

思い出したくもないという雰囲気のカルキに獣人の少女が緊張しながら続きを促すと

 

「………奥方を悲しませたと激怒した師匠が、自分が修行していたところに弓矢を持ち、背中に武器を担いで殴り込んで来てな・・・その時の師匠があまりにも恐ろしくて、それ以来、飯前には理由がない限りは修行を何がなんでも早く切り上げるようになった」

 

苦笑しながら答えるカルキに、ミイシャと獣人の少女だけでなく、聞き耳を立てているギルドの職員達も、【アポロン・ファミリア】を蹂躙した男の割りと情けない話に、つい吹き出してしまった

 

「いや、本当にあの時は消されるかと……まぁ、いいだろう…少女よ、お前はまだ若い、こういう職業は死ななければ勝ちだ。そこは忘れるなよ」

 

念を押すように言うカルキに獣人の少女は先程と違って明るい顔になり、ギルドから出ていく。

 

そして、相談に乗ってくれたカルキのことをミイシャは「やっぱりイイ人だ」と思い、それ以降、カルキと雑談をするようになるのであった

 

***

「ところで、カルキさんは『お前はまだ若い』って言ってたけど、何歳なんですか?」

 

「………24だが?」

 

「カルキさんも充分若いじゃないですかぁ!?」

 

「そうか?」

 

「……私と5つしか変わりませんよ?」

 

「…そうか……」(←もっと年下だと思っていた)

 

 

 

 

 

-戦争遊戯if~カルキがベルを鍛えた場合-

 

ヒュアキントスに勝つためにベルがアイズに再び鍛えてもらおうと【ロキ・ファミリア】の所に向かおうとしていると

 

「いや、ベルは自分が鍛えよう」

 

そう言ってカルキがベルの首根っこを掴み、持ち上げたのである

 

「ええっ!!大丈夫なのかい!?カルキ君!?」

 

不安げなヘスティアに「まあ、半人前くらいにはなれる」とカルキは答えてベルを担いで去っていったのであった

 

***

オラリオの城壁、以前ベルがアイズに鍛えてもらった場所にカルキとベルは来ていた

 

「では、始めるとしよう」

 

「は、ハイッ!」

 

どこか緊張しているベルにカルキは簡単に「一年だけ修行をしよう」と告げ、ベルはどういうことか理解ができないという顔をするが

 

「まあ、大人しくしていろ、良い考えがある…いくぞ『偉大なる時間よ、爰に廻れ(マハーカーラ・シャクティ)』!」

 

「へ?うわぁぁぁあ!」

 

二人は光に包まれ、しばらくの間、音信不通になるのであった

 

***

「ベル君…」

 

6日後、行方知れずの己の眷属のことを心配するヘスティアであったが

 

「神様!」

 

自分に呼び掛けるベルの声にパァッと顔を明るくしてヘスティアが後ろを振り返ると

 

「えーと、……誰?」

 

「ええっ!?僕です!ベル・クラネルです!」

 

「………マジ?」

 

背中のステイタスを見ると確かにベルであることにヘスティアは驚愕する

 

「神様!僕、絶対に勝ちます。そして、このオラリオに戻ってきます!」

 

そう宣言して走ってシュレーム古城へと向かうベルをヘスティアは呆然と見送ることしか出来なかった…

 

***

戦争遊戯(ウォーゲーム)前日、【ヘスティア・ファミリア】へと移籍したヴェルフと命、助っ人として参加したリューと合流したベルは

 

「……ベルだよな?」

 

「ベル殿ですよね?」

 

「クラネル…さん?」

 

何故か微妙な反応をする3人に泣きたくなったが、自分はかなり強くなったことを伝えると「だろうな」としか答えが返ってこないことに、ちょっと凹んだりした

 

次の日の正午、戦争遊戯(ウォーゲーム)の開始と同時に現れたのは

 

2Mを超す巨大な体躯と鍛え上げられた鋼のような筋肉、そして着ている服は腰布一枚の大男であった

 

『いや!誰ええええええええええええ!!!』

 

『神の鏡』を見ていたオラリオにいる誰もがツッコミをいれるなか、ヘスティアと【ヘスティア・ファミリア】の眷属のみが乾いた笑みを溢す

 

 

 

 

この後、ベルが滅茶苦茶無双した




後書きついでに補足を

カルキによるオラリオ経済テロ

カルキがオラリオに来るのが一年早く、尚且つ「仕事しろ」とガネーシャ・ファミリアから煽られ、何も考えずにダンジョンに突っ込んだ場合に起こるルート

数ヵ月に一つ手に入るかどうかのドロップアイテムを一気に数日おきに数十個持ってきたらスーパーデフレになっちゃうよねって

その後、「一つのファミリアに売るな」と言われたため、カルキがオラリオ中のファミリアに売り付けたためスーパーデフレに………

なお、作者はモンハンで狂走エキスマラソンしているときに思い付いた模様



カルキのトラウマ

元ネタはFGOの某キャラの幕間の物語

話に出てきたのは、それぞれ
師匠→シヴァ
奥方→パールヴァティー
師匠の同輩→ヴイシュヌ
です。

パールヴァティーを悲しませたとしてカルキとヴイシュヌの元に殴り込んで来たシヴァは、第3の目を開き、ヴィジャヤとパーシュパタアストラを手に持って、背中にパラシュとトリシューラを担いで来て、カルキは必死に謝ったが「私ではなくパールヴァティーに謝れ!」と怒られ、ヴイシュヌが何とか取り成している間にパールヴァティーに文字通り必死に謝り許してもらったとのこと

また、ソーマ、ガネーシャ、カーリーに同じ話をしたところ「何で生きているんだ?」「ヴイシュヌに感謝だな!」「シヴァを怒らせて宇宙から消されないとか、ある意味で偉業じゃな」とコメントされ、カルキは苦い顔しか出来なかったという



戦争遊戯if

もしもベルを鍛えたのがアイズとティオナではなくカルキだった場合のボツネタ

この時のベルのイメージはFateのヘラクレスです

この後、ベルへの攻撃に捲き込まれそうになったカサンドラをベルが救い「やだ…かっこいい」とトゥンクさせ、歓楽街に行けば「やだ…大きすぎる…」と一升瓶並みのベルのクラネルを見た春姫とアマゾネス達を発情させ、ヒキガエルが美女となり、ヒロイン争いに参戦し、ゼノスとのゴタゴタではロキ・ファミリアを圧倒して「ベル(アルゴノゥト君)…強すぎ…」とアイズとティオナをトゥンクさせ、リューと裸で抱き合えば「く、クラネルさん…あ、当たってます…」と『これ、挿入ってるよね?』的な展開になる原作以上のハーレム野郎となります

ちなみに、この状態のベルでもカルキはベルのことは半人前扱いです(ブラフマーストラを放たないため)







次回予告

「……祭りですか?」

カルキとタケミカヅチが激突し、更地となったダイダロス通りの復興としてガネーシャ・タケミカヅチ主催でお祭りが催されることになった。各々のファミリアが巨大で派手な山車や神輿を造り、熱気が高まるなか

「……フフフ…」

祭の裏で暗躍する旅人の神と一部の女性陣

「あ、あれは……!」

祭当日、自慢の眷属達に派手な神輿を担がせ乱入してきた戦女神

オラリオの漢達が褌姿で熱く激しく盛り上がるなか、祭の裏で暗躍するヘルメスと女性陣の目的とは!祭にサラシと褌姿で神輿の上にガイナ立ちしながら乱入してきたフレイヤの真意とは!

そして、ラウル、ヘディン、ヘグニは声もなく慟哭する

『……もう、お婿に行けない…』

次回 『キャラ大崩壊!ドキッ!漢だらけのオラリオ大漢謝祭』

2020年投稿………未定!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編2

ウーム、進めたいだけどこっちの方が(2ヶ月近くかかって)纏まったので投稿

前回の番外編のあとがきの予告は嘘予告ですのでご容赦を




~前日譚 白兎との出会い~

 

ドゴォッ!!とナニカが山一つを消し飛ばし天から降ってきた

 

「…………ヴィシュヌ神よ、出来ることならば、もう少し穏やかにしてほしかった」

 

未だ立ち込める砂埃の中からヴィシュヌへ愚痴を言いながら出てきたのは、10年ぶりに下界へと戻って来たカルキだった

 

「(しかし、『オラリオには神やその眷属が増えすぎたから不要と思った神と眷属を間引け、そしてそのオラリオで時代を担う『英雄』を見つけ見届けろとは…………)」

 

ハァとため息をつくカルキであるが、無理はないだろう

 

確かに神々の武器と『奥儀』を修行の末に身に着けたカルキであるが、カルキは自分をいまだ未熟であると捉えており、天界にあるシヴァの領土の片隅を借り、2年間独りで修行をしていたのだが

 

唐突にやって来たヴィシュヌが『ちょっと今からタバコ買いに行ってこい』と言わんばかりにポイっとカルキを天界から下界へと放り投げたのである

 

「とりあえずは、このシヴァ神とヴィシュヌ神、ブラフマー神からの手紙をオラリオにいるというガネーシャ神に届けるか…‥……」

 

そう呟いたカルキは、数時間ほど歩いた先で見つけた村でオラリオの場所を聞き、オラリオへ向かい歩き始めた

 

***

「さて、どうしたものか…………」

 

下界にやってきてから3日後、不眠不休で移動したカルキはオラリオに到着し、【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)に直行し、ガネーシャに手紙を渡そうとしたのだが、外部のオラリオの外から来た人間を勝手に本拠(ホーム)にいれるわけにはいかないと【ガネーシャ・ファミリア】の見張りをしていた団員に止められ、「それもそうか」とその団員に手紙を渡し、また来ると去ったカルキであったが、一つ問題が発生していた

 

「寝泊まりするところがないな」

 

基本的に文無しのカルキ・ブラフマン、旅をしているときは野宿でよかったが、いざ、人々が経済活動を行う都市部に入れば、文無し男はこのオラリオにいるどの人間より強くても、どうしようもないのである。

 

仕方がないので、どこかに寝泊まりできるところはないかと歩いていると、とある路地裏に見るからに廃墟の協会があった

 

「まあ、雨風がしのげれば問題はあるまい」

 

そう思い、暫くその廃教会でゆっくり過ごしていると

 

「むうッ!?誰だい!?君はッ!ここはボクとベル君の愛の巣だぞぉッ!!」

 

「か、神様………」

 

夕方になり、カルキの目の前に現れたのは、騒がしい女神と人のよさそうな白兎を彷彿させる処女雪のような白い髪と紅い眼が特徴の少年が現れ、その少年が僅か数か月後には『英雄』の第一歩を踏み出すことをここにいる誰もまだ知る由もなかった

 

 

そして数日後、団員から偶々貰った手紙に書かれた神の名前を見てガネーシャが驚き、大声で叫ぶことになることも誰も知らない

 

 

 

IF異端児編 カルキVS【ロキ・ファミリア】(ボツ案に色々設定を加えた奴)

 

「ベル、こんな取るに足らん道化共(【ロキ・ファミリア】)など捨てておけ、早くあの竜女(ヴィーヴル)を、お前の獲物を追ったらどうだ?」

 

地上に現れたモンスター、竜女(ヴィーヴル)をかばうように【ロキ・ファミリア】やオラリオの人々と相対した今何かと話題の期待の新人、【未完の英雄】(リトル・ルーキー)ベル・クラネルに人々から軽蔑と敵意の視線が集中する中、その男は現れた

 

「カルキ・ブラフマン…………」

 

フィンは目を細め、その男の名を呟く。その男をフィンは怪人(クリーチャー)ではないかと疑っている男である

 

が、この世界では、カルキはベル達と暮らしており、【ガネーシャ・ファミリア】で居候せず、オッタルと闘っていないうえに、アポロンを『太陽神にふさわしくない』と評したが戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加していないため【アポロン・ファミリア】を塵殺しておらず、【イシュタル・ファミリア】とのゴタゴタも「ベルが乗り越えるべき」としていたため、神々やオラリオの人々にとってはカルキはただの『常識を知らないイキリ野郎』、『ベル・クラネルの金魚のフン』扱いであり、特に何も警戒されていない男である………もし、カルキが少しでも実力の一端を見せていれば、一部の神がカルキを警戒していたのだが、そんなことは誰にも神でさえ分からないのである

 

「いや……よくよく考えればこのオラリオにいる者の殆どが道化以下の愚物の集まりか………『人工の英雄』などというつまらん小人族(パルゥム)やら『武人』を勘違いした阿呆な猪人(ボアズ)に復讐に取りつかれ感情の一切をそぎ落とした馬鹿者(精霊の血を引く者)、そしてその者達を『次代の英雄』と称える下界で真贋の違いも分からなくなくなった神々と人々………これらを『愚物』と言わずして何というのか」

 

嘆かわしいと首を振るカルキにベルも冒険者も民衆も状況を見守っていた異端児(ゼノス)も神でさえも誰もが絶句し、沈黙が一瞬、オラリオを包むと

 

「ふざけないでくださいッ!!」

 

「?」

 

【ロキ・ファミリア】の冒険者の中からカルキが名も知らぬ一人のエルフの少女が前に出てカルキを睨む

 

「私が、私達が尊敬する団長や憧れの人、ちょっと悪ふざけが過ぎるけど誰よりも私達のことを思ってくれている主神………そんな方々を貴方から2度も批判される筋合いはありませんっ!」

 

そう宣言したエルフの少女に同調するようにオラリオの人々から「そうだ!」とか「『神の恩恵』を貰ってもいない癖に!!」、「調子に乗るな!」とカルキを非難する声が次々と上がるが

 

「………クッ」

 

『?』

 

顔を伏せ、何かを耐えるようなカルキに神々はニヤニヤと笑い、人々は疑問に思い、ヘスティア達は不安げに見つめる中

 

「ク……フハハハハハ!いや、すまない!!前言を撤回しよう!お前たちは『愚物』などではない!己と相手との『差』すら測れぬ真の『道化』の集まりだ!!いや、これはまだまだ自分も未熟だ!こんなことにも気付けなかったとはな!!」

 

そう大笑いするカルキであったが、後ろでウィーネが槍から抜け出すとベルに「早く追え」と笑いをかみ殺しながら促し、誰もベルを追わせないように一歩前に立ちはだかる

 

「カルキ君………君、ロキの所が怖くないのかい…………?」

 

「ヘスティア神よ…ッ、少なくとも自分は『武』に魅了され、『武』を磨く者……ならば『国』や『世界』、『神』でさえも相手取るのに臆しはすまい。ましてや、たかが借り物の力しか持たぬ者達をどうして恐れることが出来るだろうか……っ」

 

そう呆然と呟いたヘスティアの言葉を耳ざとく捉えたのかカルキは笑いを堪えながら答え、【ロキ・ファミリア】に向かい

 

「いや、流石は『道化の女神』の眷属だ、その在り方も『道化』だった!いや、これは認めざるをえまい!今後はお前達の『二つ名』の前に枕詞として『道化の』とつけた方がいいぞ!」

 

「「────────ッツ!!」

 

そう笑いながら言うカルキにベートとティオネがキレてカルキに向かっていく…………が

 

「随分と遅いものだ」

 

「「…………………」」

 

『え……………………?』

 

ドサリと鈍い音を立てて地面に力なく横たわるのはカルキではなくベートとティオネだった

 

「別にあの方の依頼通り、間引いてもいいのだがな………道化相手に全力を出しては己の度量が知れるというものだ」

 

そう言うとカルキは気絶したベートの腰に装備されていた双剣を抜くと、片方は【ロキ・ファミリア】に、もう片方は、バベルの最上階────フレイヤに向け

 

「────────だが、あまり手を抜けばインドラ神より叱責を受けよう……………それ故に多少は相手をしてやる……………さあ、誰から来る?」

 

そう不敵にカルキはオラリオの2大【ファミリア】に宣戦布告した

 

 

 

 

芸は身を助く? カルキの異世界談義

 

「そういえば、カルキさんってギルドに仕事を探しに来た時、接客も出来る・楽器も弾ける・歌も歌える・踊れるって聞いた時、色々出来るって思ったんですよね…………あれってどこで習ったんですか?」

 

「む?ああ………それは…………」

 

カルキがタケミカヅチとオラリオで大暴れしてから約一か月、その間に色々あったが、それはまたいつか語る時があるとして、今、カルキはギルド本部で仕事に追われるミイシャに話しかけられていた

 

「まあ、『武』を磨く者であっても、色々と身につけなければいけないことがある…………ということだ」

 

「……………?」

 

こんな話ができるぐらいの関係に戻るまで、カルキがガネーシャから習ったという奥儀DO☆GE☆ZAを受付嬢にしたり、「あれはカルキやタケミカヅチが悪いのではなくインドラが悪い」と神々が(無理矢理)人々に説いていたり、カルキがミイシャの仕事を手伝ったりと色々あったのである

 

そうどこか遠い目をして言うカルキに野次馬根性を刺激されたミイシャは聞きたいと話をせがみ、偶々ギルドに来た右腕にギプスをつけたベルまで巻き込まれ、カルキの話を聞くこととなった

 

***

ふむ………そうだな、自分が天界で修行をしていたことは知っているだろう?天界では神々は好き放題に力を使えるせいか、世界の壁を切り裂いてこことは全く違う世界に繋げてしまったり…………ということが大神クラスの戦いでは良く起こるのだ

 

もうわかるだろう?あの『リグ・ヴェーダ』の神々はそのほとんどが大神級の神格と実力を持っていて、よく戦争をしているせいで世界の壁を切り裂くなんて頻繁に起こっていて、自分も巻き込まれていたのだ

 

…………む?どうしたベル────────ああ、こちらに戻ってくるときは大抵ブラフマー神かヴィシュヌ神が戻してくれていた、今では自力でも戻ってこれるがな…………

 

話を戻すぞ…………………その別の世界────神々は『異世界』と呼んでいるが、大抵、その世界では自分達の言葉は通じないことが多い、というより基本通じないものだ

 

これが戦場だったらまだいい、戦っているどちらも倒せば静かに出来るからな…………何?例だと?そうだな………極東の言葉で『海軍』と書かれていた極東の城のような建物があった島で背中に『正義』と書かれたコートを着ていた軍隊と立派な白い髭を蓄えた老人が率いていたであろう集団が戦っていた場所に落ちたことがってな、まあ、中々楽しめたが………うん、両方とも無理矢理黙らせてな

 

そこには自らの体をマグマや氷、光に変えられる人間がいて、珍しいこともあるものだと感心した………アスラ神ヴィローチャナ神の偽物を少し痛めつけたら、そこそこ強い老人と一緒に向かってきたので、マグマと氷に変わる人間はアグニ神の炎で焼いて、光に変わる人間はせっかくだからスーリヤ神の光に飲み込ませた………ああ、誰も殺してはいない、死なない程度に痛めつけたのだが、その場にいる誰もが興奮状態だったのでな、静かにさせようと両方とも相手取って静かにさせて1時間ほど迎えが来るのを待っていたのだ

 

まあ、他にもいろいろな異世界があったが、お前たちが引いているのでここまでにするとしよう

 

ただ、一番の問題は、煌びやかな服を着た美男美女が大勢の前で歌って踊っているステージに放り込まれた時でな…………ここでは、『武』なぞ役に立たん、そんなときに、歌を歌うか踊るか、楽器を弾くかでどうにか誤魔化す必要がある…………つまるところ、神々の理不尽に巻き込まれる事が多くて、色々と出来るようにならざるを得なかった…………というだけの話だ

 

***

ミイシャとベルから『カルキさんも凄い苦労なさったんですね…………っ!』とあったかい目で見られたカルキは微妙な顔しか出来なかったが、ふと、ベルを見て、自分が2ヶ月程いて、偶々言葉が通じたがゆえに、接客をせざるを得なかった世界にいた兎(?)について思い出す

 

「……………結局、あの老人の魂が宿っていた白い毛玉のような生物は何だったのだろうな」

 

気付けば兎になっていたと主張する老人に、どういうことかと驚いたことを思い出したカルキであったが、まあ、今も息子や孫の少女と仲良くしているのであろう

 

「久しぶりにコーヒーでも飲むか」

 

そう言ってコーヒー豆を買いに行くカルキであった

 




前日譚

いつか書こうと思って早、半月………いやー、時間がたつのが早い!やっと書けましたわ(なお出来ていたのは2月だった模様)


IF異端児編

色々な偶然が重なちゃったIFのお話、この後、ガネーシャとタケミカヅチと1対1対1のトリプルデートをする羽目になるカルキとオラリオに合掌
そして、すなまい、レフィーヤ、お前動かしやすいんや…………本当にすまんの、悪いと思っているからお詫びとしてシヴァ神に会わせてあげるね!!

異世界談義

「そうだ!異世界転移モノ書こう!!」とノリと思い付きで書いた………後悔も反省もしている

感想の方で仏教について書かれている方多いけど、そんな仏教系って聖☆お〇いさんとかセイヴァーとか西遊記系とかしかないやんけ…………いや!大仏になれる奴おるやんけ!!

というわけで、ドーモ、センゴク=サン、インドです

時系列
カルキ20歳頃
  ↓
シヴァ神とインドラ神の喧嘩でまーた別世界行ったわw
  ↓    
ファッ!戦争中やんけ!
  ↓
いちいち相手するのが面倒なので逃げてる途中で黒い大剣持ってる奴発見
  ↓
せっかくだからと不意打ちして武器getして両方から危険視される
  ↓
オイ、そのヴィローチャナ神っぽいの何だ?ん?
  ↓
センゴク=サン、理不尽な言いがかりで半殺しに
  ↓
センゴク=サンを守ろうとおじいちゃん、犬、猿、雉をはじめとした白コートの皆さんカルキに攻撃・敗北者さん、息子とその弟が巻き込まれると部下と一緒にカルキを攻撃
  ↓
正当防衛成立、カルキ、各キャラにブラフマーストラ、赤鼻、3、女帝、オカマ、ワニ、グラサン等々、巻き込まれる
  ↓
気付けば全員返り討ちに、そこにやって来たゼハハハさんと愉快な仲間たち、暇つぶしでカルキに嬲られる
  ↓
迎えが来たので帰宅

こんな感じです

歌ったり、踊ったり、楽器弾いたりは皆さんがお好きなアイドルアニメで、ご想像ください…………あのアニメのライブシーンで唐突に現れるインドォを…………



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編3

あかん……ダンメモの3周年イベントで本編書き直しですよ…………

ならば仕方がない!某オサレ漫画がアニメ化するから番外編だ!!………てなわけで番外編です。ごめんなさいね!





本当はシャクティの妹や【アストレア・ファミリア】を天界でインドラがレ〇プしたってことにしてリューさん曇らせたろって思ったけど………一時的にボツで!!(良心が痛んだ)


某オサレな世界編

 

「………なんだ?こいつらは………」

 

カルキは混乱していた

 

始まりはラクシュミーが「私達も他の領域みたいに神々同士仲良くすべきだと思うの」と言い出し、その提案にパールヴァティー、サラスヴァティ―、ガンガーといった女神たちが同意したことが発端であった

 

あれよあれよという間に会場やら何やらが女神たちによって設けられ、パールヴァティー、ラクシュミー、サラスヴァティーに甘いシヴァ、ヴィシュヌ、ブラフマーが協力し、他の女神達もそれぞれ親しい男神たちをその宴会場に招待したのだ

 

『奥儀』を3つ修め、シヴァの領土の一角を借り、修行していたカルキもパールヴァティーから手伝いを頼まれ、二つ返事で了承し、会場の設営や料理の準備をしていた

 

そして、宴会当日、女神たちの面子もあってかインドラやスーリヤ、ヴァルナにアグニ、ヴァーユといった面々が集い、宴が進み、珍しく何事もなく終わる

 

…………ということはなく案の定

 

「てめぇ!!そりゃあどう意味だアグニ!!」

 

「フン……言葉通りだ……そんなことも分からんとはな……お前の頭は風の様に軽いようだ」

 

「殺す!!」

 

まさかのヴァーユとアグニがドンパチを始めてしまい、会場は途端に普段通りの様相になった所に

 

「貴様等………」

 

ラクシュミーの面子をつぶされたと怒り狂ったヴィシュヌが珍しく参戦、空間を切り裂き、その裂け目にたまたま席を外し、プリヴィティーの作った料理を取りに行っていて、戻って来たカルキが巻き込まれた………というのが先程カルキの身に起きた出来事である

 

***

「何だ……この摩訶不思議奇天烈集団は………」

 

カルキがちょっとだけキャラ崩壊しているのも無理はないだろう

 

「(ああ、またいつもの『異世界』という奴か)」と思って目を開けてみたらそこにいたのは奇天烈な格好をした2つの集団

 

「(まだヴィシュヌ神から『片腕の黒トカゲ討伐して来い』と言われて放り投げられた世界の方がマシとはな………)」

 

あそこも中々強烈………というか『メェーーン!』と何かにつけて言っている顔の深い………というか特徴的すぎる奴が強烈すぎて他を覚えていないのだがと思い出していると

 

「?」

 

「なん……だと……!」

 

いきなり光弾が飛んできたので素手で掴んだら、筒を持った男だけでなく、髭を生やした4,50代の男、上半身がマントだけの変態、フードで隠れているが右腕そのもの、癖毛の男が驚愕していた

 

「………?」

 

何故この集団は驚いているのか分からず、ふともう一つのカルキの右側にいる集団………色のついた本当に見えているのか分からない眼鏡をかけた男、ガラの悪そうな男、ふくよか……すぎる(?)女性と見た目だけはアスラ神の様に腕の多い女性────左側の集団に負けず劣らずの奇天烈集団にカルキは困惑する

 

「それに………ここは天界、いや冥界か?」

 

「「「!!?」」」

 

どうにも自分のいた天界に近しい雰囲気を感じポツリと漏らした言葉に2つの集団は反応する

 

「ああ‥……言葉が通じるのか、ならば良い、自分は戦うつもりはない、巻き込まれただけだから……人の言葉は最後まで聞くべきではないか?」

 

「ッ!鞘伏を止めta………!」

 

背後からいきなり切りかかられたのでチャンドラハースを取り出し止めれば今度はこちら側が驚愕している

 

「くどいようだが、こちらとしては、この奥から2つほど感じられる『神もどき』なぞに興味もなく戦う気も『殺せぇ!!』………ほう、頭目は髭の男か」

 

どうやら『神もどき』という言葉に反応したらしい髭の男が号令をかけると同時に、マスク男、右手が向かってきて、片眼の男が筒をこちらに向けてくるが

 

「………」

 

「何………?」

 

何となく向かってこなかった男の方が面倒になると感じたカルキは癖毛の男の首を斬撃を飛ばして切り落とし、向かってきた連中も一瞥もせず一瞬で両断する

 

「………悪いがこの場にいる者全てを敵とみなすが覚悟はいいな?」

 

カチャリと音を立て三日月刀を持ち直したカルキの姿に残った者達は生唾を飲み込んだ

 

***

「何故だ!何故未来を変えてもお前を殺せない!!お前の力を使えさせないようにできない!お前の刀を壊せる未来が見えない!!お前は、お前の刀は一体………!」

 

「ほぅ、未来を見て、変えられるのか……だが生憎だったな、自分を殺せないのはお前達の『技』が自分より劣り、自分より『遅い』だけ、未来をどれだけ変えようが自分が反応できれば問題はない、それに自分が使っている炎やこの刀は神々より試練を超えた褒美として賜ったもの……真の『神』を『もどき』のお前が好き勝手出来るわけがないだろう?」

 

「ふざけるな……ふざけるなぁ!!」

 

ものの数分で髭の男に率いられていた集団は地に伏していた………というより

 

『万物貫通する~』→「そんなことは鍛えれば才のない自分でもできる。何ならお前以上の攻撃を見せてやろう」

 

『致死量が云々~』→「ああ、アムリタに比べたら毒なんて大したことではないし、アグニの炎で全身燃やして解毒すればいい」

 

『神の尺度が~』→「お前ごときが『神の尺度』なぞ語るな!!(滅多切りにしながら)」

 

「神経が云々~』→「少し面倒だ……アグニの炎で自分ごと辺り一面を焼こう」

 

などというカルキからしたら当然のこと………相手側からしたら無茶苦茶理論により何度復活しても瞬殺される………ことの繰り返しであった

 

「(フゥ)………これ以上は無意味か」

 

「な……に………?」

 

カルキがため息をつき、手を前に出し、目を閉じる

 

「だが……未来を変えられるのも厄介だ……『破壊』することにしよう」

 

「それは……どういう……」

 

最早、部下は心を折られ、自分自身何度も何度も殺された男は意味が分からずカルキを睨みつける

 

「オーム・ナマ・シヴァーヤ…………さあ、シヴァの炎で消えることを誇るがいい」

 

カルキの足元から青い炎が噴き出し、容赦なく敵対していた者達を焼き払う

 

「なんだッ!これは!!私の見る未来が壊れていく……こわれ………」

 

「ああ、未来を『破壊』しただけだ………当たり前のことを言うな」

 

「ふざけ……」

 

それが『神もどき』の最後の言葉だった………まあ、その部下たちの断末魔は毒使い以外聞くに堪えないものだったのでスルーしたが

 

「さて………」

 

『神もどき』とその部下を殺害したカルキは、次にもう一つの集団に向き合い問いかける

 

「先ほど切りかかってきたが………お前たちはどうする?」

 

***

「ふむ………ここは噂で聞いた極東の城に近い………のか?空中に浮く城とはな」

 

結局あの後4人が敵意むき出しで向かってきたので、あっさりと頭から両断したカルキはフラフラと歩いていた

 

「よッ!!」

 

「?」

 

さてこれからどうするかと思っていた矢先、目の前に禿頭の鐘馗髭を生やした男が現れる

 

「さてさて、お主がユーハバッハを倒したことには感謝するが………小僧が随分はしゃいでくれおったのぉ」

 

「そうか、あの男はユーハバッハというのか、名も聞かずに悪いことをしたな」

 

何処からか巨大な筆を取り出し、恐ろしい顔と殺気を向けてくる禿頭の男を気にした様子もなく顎に手を当て能天気ともとれることを話すカルキに

 

「小僧風情が不届きも大概にせい…………罰を当てるぞ」

 

「『もどき』風情が罰を当てられるはずがないだろう?」

 

そう首を傾げるカルキに禿頭の男の掌底が襲い掛かった

 

***

「どうした?終わりか『もどき』?」

 

「小僧………人間風情が………!」

 

ものの数分で地面に膝をつく禿頭の男、確かに千里吹き飛ばす掌底や「裏破道」とかいう手刀は見る物があったが、所詮あの神々には遠く及ばないと判断したカルキが全て左手一本で止め、右手で2発ほど腹に拳を入れた…………ただそれだけであった

 

「ふむ………『もどき』とはいえ、やはり『神』に名乗らぬのは礼を失するか?」

 

一方で割と能天気なことを呟いていたカルキは「うん」と一つ頷いてから

 

「本来は戦う前に行うことであったのだろうが、今させてもらおう………自分はカルキ・ブラフマンという、『もどき』とはいえ神よ、貴方の名を聞きたい」

 

名乗ったカルキに「墓穴を掘った」と嗤う男は「兵主部一兵衛」と名乗り返す

 

「(名は極東……やはりここは『異世界』の極東の天界か冥界か?)」

 

当たらずも遠からずの考察をするカルキに気付かれぬよう己の得物である『一文字』を手にした和尚(カルキは気づいているが)に向き合い

 

「なるほど…ではもう差も分かっただ「黒めよ『一文字』!」……おい」

 

いきなり巨大な筆で黒くされたカルキが少し怒気を超えながら和尚にツッコむが、和尚はそれに気付かず

 

「儂はこの瀞霊廷の全てに『名』を付けた『真名呼和尚』!貴様が名を儂に名乗った時点で貴様の負けよ!!────真打・しら筆一文字」

 

「いや、少しは人の話を……「この刀は一文字で塗りつぶされたものに新たな名を刻むことが出来る……カルキ・ブラフマンよ……貴様はこれより『蚊』よ、こざかしい羽音をたてながらうっとおしく飛び回る虫けらこそお主に……」『もどき』風情が」

 

「………?」

 

そこまで言って、和尚はカルキの雰囲気が変わったことに気付く

 

「『もどき』風情が神々より授かった『ブラフマン』という名を奪うなど不敬だけでなく、神々から名乗ることを許され…………なにより!なにより!!今は亡き父母より授かった『名』を!『奪う』などと抜かすかぁ!!!!!」

 

「ッ!!」

 

激高しただけで一文字で塗りつぶした筈のカルキが『黒』の中から現れ、手には三日月刀ではなく斧を持ち、一歩歩くごとに空間をきしませ、霊王宮にヒビを入れる

 

「貴様……一体……?」

 

「最早、問答する気も、慈悲も、容赦も一切ない………貴様の四肢を斬り、臓腑を全て引きずり出し、首をはねた後、この宇宙から消し去ってやろう!!」

 

次の瞬間、霊王宮の半分以上が消滅した

 

 

 

7年前、とある日のこと

 

「………」

 

天界の地面にあおむけで寝転がる青年────17歳のカルキがいた

 

「あと少し、3年修行してようやく『奥儀』の『形』が見えてきた………あと少しだ」

 

その周囲には失敗した跡であろう、様々な大きさのクレーターが出来ていた

 

「よし!休憩は終わりだ!早速修行の続きを………む?」

 

空を見上げると、一匹の鳥が旋回しており、その鳥が一通の手紙をカルキにポトリと落とす

 

「………ヤマ神からか」

 

手紙の送り主は冥府神ヤマからであり、そこには『内密で来てほしい』との旨が書かれており、首を傾げつつもカルキはヤマの元へ向かった

 

***

「来たか」

 

「はい、只今参上しました」

 

数十分後、カルキはヤマに恭しく礼をしていた

 

「うむ……早速ですまないが一つ我が頼みを聞いてほしい……いや、これも一つの我からの『試練』だと捉えてくれ」

 

「はい、何なりと」

 

「うむ……ではカルキよ、人の身でありながら天界へと至りし者よ、今からインドラの領地へ向かい、オラリオで死したガネーシャの眷属であった少女の魂をここへ連れてくるがいい」

 

「は、確かに………え?」

 

死した魂は冥府神や死を司る神のもとに送られる………筈なのだ、それなのに何故インドラ神のもとに死した魂があるのか問うと「何かしらの手違い」という答えが返ってきた

 

「そんなことが起こりうるのですか……?」

 

「稀にだがな……大概は他の神が自分の所に渡しに来るのだが………」

 

そう言いながらヤマは「俺ん所に死んだ奴が来たんだがよぉ!人の形保ってて、そこそこよさそうな女だし、溜まってたからちょっと遊ぶわ!!ガネーシャの眷属だったみたいだし、別に好き勝手したっていいだろ!」とインドラが言っていたことを思い出しため息をつく

 

「我がいけば良いが、ただでさえここ最近、オラリオから多くの魂が天界に来ていて輪廻の輪に戻すことが忙しい、他の神に頼めばもれなく殺し合いだ……だからカルキよ、インドラからこっそり魂を取り返しに行ってくれないか?バレたら我の指示だったと言って良い」

 

「承りました、さっそく出発します」

 

「ああ……頼んだ」

 

***

「さて………これからどうするか………」

 

インドラの都アマーラヴァ―ティーへと着いたカルキはどうしたものかと思案する

 

「ヴァイジャヤンタは広すぎる………この中から探すとなるとめんど……いや手間がかかる」

 

「うーむ」と考えるカルキであったが、考えても仕方がない、ここは運だめしだと塀を乗り越え侵入すると

 

「「あ………」」

 

そこにいたのは髪を短く切りそろえた美しい少女………魂が人の形をしていたのでこの少女がヤマから連れてくるように言われていた少女だとカルキは悟る

 

「こんなことってあるぅ!?」

 

「え?あなた誰!?あなたも私に酷いことをしようと………?

 

「そんな訳あるか!!………あっ」

 

「きゃあッ!いきなり何を!!?」

 

「すまないが、説明は走りながらする!インドラ神にバレた!!」

 

驚く少女を抱きかかえ、すぐさま塀を乗り越え、走り出したカルキの背後から、抱こうと思っていた女を連れ去られ、「何だぁ?あいつも年ごろってか!?ハハハハハ!!良し!それなら俺が試練を与えてやる!お前等!カルキを追えェ!!」という声が聞こえた

 

この後、インドラの配下の神々から追われながら、ヤマの元に少女を送り届けたカルキだった………




某オサレ編
『未来が視えて未来を変えられる』(ドヤア)

→「だったらその未来を全て『破壊』すればいいな?」

『名前を奪って新しい名前を与える』

→「お前ごときが父母から授かり、神々から名乗ることを許された名を奪うと抜かすか!!」(激昂)

どんなチートもインドの前では霞む…………仕方ないね

なお、実は本編でカルキの激昂が書けそうになかったのでここで書くことを作者が思いついたために和尚が犠牲になった模様………すまぬ

────その後、霊王宮にやって来たストロベリーさんと愉快な仲間たちが見たものは
・跡形もなくなったユーハバッハと親衛隊
・頭から真っ二つに両断された零番隊4名
・四肢を斬られ、内臓を引きずり出された挙句首のない和尚
・の首を左手に持ち、右手に血の滴るパラシュを持った返り血まみれの男
がいたとかどうとか


7年前のとある話

カルキさん17歳の時のお話、この後、移動中に何故かラッキースケベが多発した………(インドラのせいだろ?byなぜかいい笑顔のヴィシュヌ

なお、カルキさんこの時の少女の姉が居候先の団長とは知らない模様



オマケ  カルキさん異世界犯罪履歴一覧

・海軍本部破壊及び海軍兵士多数殺害・傷害
・アルバレスト皇帝及び恋人殺害
・霊王宮並びに瀞霊廷破壊
・猥褻物陳列罪(3件)
・某国本土攻撃
・器物損壊罪(多数)

コメント:「沐浴中に巻き込まれた挙句、生中継されたことも考慮してほしい………」

追記
なお、霊圧とか持ってないが故にあっという間に溺れて首を指で斬られる卍解を持っている総隊長と目からのブラフマーストラを弾き返せる斬魄刀を持つ相性の悪い副官がいるらしい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編 『歌いながら戦う?理解出来んぞ!!』前編

以前書いたシェム・ハ死す編

長くなりそうだぅたので前後編に…………

許してください!何でもry


バチンと、世界から弾かれた感覚が全身を襲った

 

「………またか」

 

が、世界から弾かれた、当の本人であるカルキは腕を組みながら呟くほどには、すこぶる冷静であった

 

「しかし、先ほど、僅かに見えたが、ガネーシャ神やタケミカヅチ神も巻き込まれていたな……同じところに落ちれば良いのだが」

 

オラリオで色々あったことで、ブラフマーから「そんなに暴れたいなら世界の狭間に空間を造ってやんよ」とカルキがブラフマーが創造した空間を授かったのが昨日の夜

 

空間を授かったことをガネーシャ神に報告したら、「え?そこでは『神の力』使いたい放題だって!?」と、テンションの上がったガネーシャが「じゃあ、今からタケミカヅチ誘ってくる!」と言い出したのが今朝の出来事である

 

そして、つい先ほどまで、『神の力』使いたい放題のガネーシャとタケミカヅチの神々の戦いを傍から眺めていたことを思い出しつつ、カルキはその身を任せ、自由落下していく

 

「ああ‥‥どの世界でも夜にきらめく星々は変わらず美しいな…‥…は?」

 

天界で修行していたころ、よく神々の戦いに巻き込まれて飛ばされた『異世界』で夜の空を見上げるたびに思うことを、現実逃避まじりに呟いたカルキは、頭を動かし「やはり月も変わらぬ美しさなのだろうか」と思い、その世界の月を見た瞬間、呆けた声を上げる

 

が、思わずといった調子で珍しくカルキが呆けた声を上げたのも無理はない

 

本来であれば夜の暗闇に覆われた空に儚くも美しい光を放ち、美しい円を描いているはずの月が、一部が崩れ去り、その破片が周辺を漂っている異様な月が目に映ったからである

 

そして、カルキが呆けた声を出した理由はもう一つある、それは

 

「まさか‥‥ここは、あの歌う痴女達がいる世界か?」

 

そう、以前にカルキはこの世界に飛ばされたことがある。そこは、カルキが『痴女』と称し、カルキから報告を受けたヴィシュヌですら困惑した表情を浮かべた、歌いながらきわどい珍妙な鎧を着ていた少女達と会ったことのある世界だからである

 

「2度来るのは初めての経験だ……いや、まずはガネーシャ神達と合流するのが先か」

 

そう言ってカルキは眼下にあった極東風の建物へと激突した

 

***

────鎌倉 風鳴本家────

 

「むぅっ!」

 

「今のは!?」

 

屋根で対峙していた風鳴訃堂とS.O.N.G司令風鳴弦十郎は突然空から落ちてきたナニカに、動きを止め、土煙に目を凝らすと同時に護国の鬼は顔を屈辱に歪め、OTONAは驚愕に染まる

 

「(おや?この白髪の男は以前みたな………?)」

 

‥……その一方でカルキの方は、全く気にしていない様子ではあるが

 

「夷狄が‥‥…一度ならず二度までも風鳴の地を荒らすかっ!!」

 

数ヶ月前、フラリと現れたカルキに手傷一つ負わすことも出来ずに、一方的に叩きのめされた訃堂は、片に付いたホコリを払い、どこか疲れた雰囲気を醸し出す男に憤怒の表情で睨みつけ、

 

「くっ………まさかここで現れるとはっ………!」

 

他方、同じく数ヶ月前に、その男の埒外じみた力を目の当たりにした弦十郎は、この場からどのようにして離れるかを思考する

 

「(目の前にいるのは、『神の力』を宿したティキ、パヴァリア光明結社の幹部と局長、そしてギアの適合率を上げ、装者の力を集めた響君を一撃で戦闘不能にし、反応兵器すら目から放った光線で消し飛ばし、その余波で米国の3分の2、2発目で露国と中国を中心にユーラシア大陸全土で未曽有の死者を出した不審人物………しかも、それらも実力の底とは限らない………どうする…………)」

 

が、男の方はそんな2人を無視し、片に付いた埃を軽く払った後、興味すら示さず立ち去ろうとする

 

「待てぇい!!」

 

「待てっ!」

 

しかし、2人は男を去らせまいと吠える

 

護国の鬼は男に今まで鍛え上げた技など無駄だと言わんばかりに向けられた眼に屈辱を晴らすため、少女たちを導く男は、男の向かおうとしている先にいる兄と部下たちを守るため、卑怯とは思いながらも後ろから襲い掛かる

 

「qdt、b4e4sgi、ztbsf@t@t@……33、p@vmud…q@Zqt?」

 

そう男が小さく呟くなやいなや、男が腕を振るうと、訃堂と弦十郎は吹き飛んだ

 

***

「………(ああ、思い出した、あの白髪の老人、以前この世界の情報が欲しくて丁度よさげな屋敷を見つけたので入ったらいきなり襲い掛かって来たから、両手両足を折ったのだったな………ならばここはあの屋敷か」

 

こちらに飛びかかってきた2人を軽く払ってからカルキは、ふとあの白髪と白髭の老人にはあっていたことを思い出しながら、歩きつつ、ふぅと小さくため息をつく

 

「さて……これからどうするか」

 

はっきり言って、この世界では自分への評価は最悪だろうとカルキは判断する。言葉は通じず、自分達を一方的に叩きのめした男……‥そんな男に手を差し伸べる物がいたら、余程の阿呆かお人好し、あるいは相当な傑物であろう

 

「?」

 

そんなことを思いながら、2人を吹き飛ばした先に何の気なしに向かったカルキは、そこでカルキは何やら言い争っている初老の男と青い髪をした少女を見かける

 

「(男の方は知らないが、あの青い髪をしたのは確か、痴女の一人だったか?)」

 

やがて、初老の男性が、少女に何かを諭すと、後ろから現れた茶髪の男性に何事か叫び、ネクタイを取り、上着を脱ぐと、近くに転がっていた白髪の老人が手にしていた刀を握り、カルキを睨む

 

「ああ、そういうことか………」

 

そうカルキはフッと微笑ながら呟く、あの初老の男性の眼は、家族を守ろうと死ぬ覚悟を決めたそれである。恐らく、否、間違いなくあの初老の男性はあの痴女の父親なのだろう、その瞳には、例え己が死しても娘を守ろうとする気概が感じられた

 

「ならば………その意気に自分も全力を以って応えるとしよう‼」

 

そう言って、カルキは虚空からチャンドラハースを取り出し、手に取り、構えた

 

***

「お父様ぁ!!」

 

勝負は一瞬、男が振るった凶刃は容赦なく正確に八紘の首に吸い込まれ、はね飛ばし、首から上が無くなった胴から鮮血が噴水のごとく勢い良く吹き上がり、周囲を朱に染める

 

風鳴本家に翼の絶叫が響き、その光景を見ていた弦十郎達は顔を強張らせ、映像を見ていたS.O.N.Gの面々は顔を思わず背け、目を強く閉じる

 

「………」

 

男は持っている三日月刀を軽く一振りし、刃についた血をはらうと、右頬についた僅かな傷を左手の甲で拭い、僅かに口角を上げる

 

「貴様ァァァァ!」

 

激昂した翼がギアを纏い、男に斬りかかるが、男は武器を使うどころか、僅かに体を動かすだけで、斬撃を躱していく

 

「そんな…………」

 

それどころか、切り札として使ったアマルガムの攻撃ですら、男に片手一本で止められるという現実に、その場にいる誰かが呆然とした声を上げるしかできない中、地面が揺れ、シェム・ハとユグドラシルが姿を現した

 

***

「………また神もどきか?」

 

「遺憾である、我が名はシェム・ハ、貴様ら人が仰ぎ見る唯一の神である」

 

思わずといった拍子でカルキが呟くと、まさかの返答があったことにカルキは僅かに眉を上げる

 

「侮るな人間、それより、貴様、何故失った統一言語を話せる、この世からそれは失われたものだ」

 

「ふむ…何故と問われれば、それは自分がこの世界の者ではないから、ということが正しいだろうな」

 

「ほぅ……」

 

カルキの答えに興味を持った様子を見せるシェム・ハは

 

「だが、貴様もヒトだというのであれば我の下に跪け、失いし統一言語を話す者よ、それが摂理である」

 

そうカルキに己の配下になるように迫るが

 

「断る」

 

「何………?」

 

にべなく断ったカルキにどういう意味かと問うシェム・ハにカルキは人差し指を眼前に立て

 

「生憎だが、自分が恐れ敬うのは『あの御方々』のみだ………それにな」

 

「?」

 

「『あの御方』の炎で焼かれ、肉体を完全に宇宙より『破壊』されたならまだしも、肉体を失っただけで、依代がなければ復活できない紛い物以下のゴミに礼をするほど、自分の頭は軽くはないのだ」

 

「貴様……ぁ!」

 

完全に舐めきっているとしか思えないカルキの答えと態度に、激昂するシェム・ハの攻撃と、それを迎え撃つカルキの一閃がぶつかりあった

 

***

───同時刻 某県 調神社───

 

「ほぅ!ここはアマテラスにトヨウケ、スサノオを祀っているのか!ならば俺を………いや、タケミカヅチを祀っている社もあるのだろうか?」

 

「ええ、鹿島神社という…………写真を持ってきましょうか?」

 

「ああ!ぜひ頼む!!」

 

神社の裏にある宮司が使っている部屋にタケミカヅチはいた

 

「(しかし、まさか異世界に来たかと思えば、極東、しかも俺達と同じ名を持つ神とは……いや、良き縁だ)」

 

例え異世界でも己を祀っている社があると、偶々、空から落ちた神社の宮司から聞いたタケミカヅチは機嫌よく、宮司から出されたキッシュを摘む

 

「さぁ、これが鹿島神社です」

 

「こ、これは!」

 

タケミカヅチが驚くのも無理はないだろう、写真に写っている己と同じ名の神を祀っている神社は荘厳であり、己の社とは比べ物にならないほど立派なものであったためだ

 

「くっ…うっ、うぅ………」

 

「な、泣くほどですか!?」

 

「いや、済まない、宮司よ………うぅっ、異なるとはいえ、ここまで立派な社を建ててもらえるとは………もし、こんな立派な社に住んでいれば、桜花、命、お前達に苦労はさせなかったものを………うぅぅ!」

 

「………何事かは分かりませぬが、今夜は飲みましょう、私も付き合いますから」

 

「か、忝ない…………」

 

そうして、武神と神に仕える男の夜は互いの境遇を語り明かしながら、ゆっくりとふけていく

 

***

───同じくお好み焼き屋ふらわーにて───

 

「うむ!このガネーシャ、『お好み焼き』なるものを初めて食ったが、これは旨い!気に入ったゾウ!」

 

「ふふっ、嬉しいねぇ」

 

「しかし、女将よ、本当に良いのか?俺は無一文、もしも連れと合流出来れば良いが………」

 

「まぁ、それは私の奢りってことで……ね?」

 

その慈愛に満ちた、ふらわーのおばちゃんの言葉に、心を打たれたガネーシャは立ち上がり、号泣しながら

 

「うおおおん!ガネーシャ心から感謝!!まさにこの女将の心こそ!ガネーシャだぁ!!」

 

「うふふっ、面白い方だねぇ」

 

その後、やってきた3人の女子高校生と何故か意気投合した『群衆の神』は、異世界の夜を楽しんでいた

 

***

─────その一方で

 

「お…………の……れ…………………」

 

風鳴訃堂から逃れたシェム・ハは、地に伏し、今まさにカルキによって、依代の少女ごと殺されようとしていた

 

「怪物共め………使い物にならん…………」

 

そして、シェム・ハの周りには、中途半端な怪物から完全なる怪物へと作り変えられたノーブルレッドが、カルキによって、無残にも倒れている

 

「やはり、所詮は紛い物、あの偉大なる方々には遠く及びもしないな」

 

そう右手で三日月刀を持ちながら歩いてくるカルキに

 

「なめ………るなっ!……」

 

「!」

 

倒れていたヴァネッサがカルキの足元にナニかを投げると、カルキの体が光に包まれ、姿を消す

 

「ク………ハハ………良くやった………これで、これで我に逆らう者無し………フハ……フハハハハハ!」

 

カルキをこの場から地球の裏側へとテレポートさせ、勝利を確信し、高笑いするシェム・ハは知らない

 

今、この世界には、今、テレポートさせた男より、余程狂った神が2柱いることを

 

そして、その神の1柱の所属している神々よって、既に己の同胞達は殺されており

 

シェム・ハ自身の望みすら、嘲笑われ、無残に己が死して行くことを

 

未来を視ることが出来ず、未来を求める神は、己の運命をまだ知らない




カルキ「………何で言葉通じるのですか?」

ガネーシャ・タケミカヅチ「「神だから」」

カルキ「………oh」




ちなみに真実を知ったカルキ

「え!あの男が父親ではなかったのか!?」←加減/ZEROでチャンドラハースを振り切った男


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オリ主紹介

本文で特徴だし忘れていたのでここでダンまちっぽくかきます


本文でオリ主の特徴を書き忘れていたのでここでダンまちの巻末にあるステータスっぽくかきます

 

***

【カルキ・ブラフマン】(24)

所属:無所属(とあるファミリアに居候中)

種族:人間(男)

職業:無職(ある神からの依頼有)

到達階層:49階層(58階層まで消失)

武器:長柄の斧、三日月刀、弓矢、眼からの光線(?)

所持金:0ヴァリス(居候しているファミリアの主神から小遣いとしてもらっている)

 

ステイタス

Lv0(そもそも神の恩恵を貰っていない)

 

装備

≪長柄の斧≫

修行をつけてくれた神から授かった長い柄の斧、イモムシ型のモンスターの腐食液を受けても溶けない

噂によると同じものを居候しているファミリアの主神も持っているとかいないとか

≪三日月刀≫

修行中に神が「修行の一環でとある山揺らせ(意訳)」という試練を達成した際に授かった刀、残念ながらモンスターの群れでは使われなかった

≪弓≫

全ての修行を終えた記念として授かった弓、オリ主曰く「一番使いやすい」とのこと

ただし使い方を誤ると被害がヤバくなるのであまり使うなと言われているらしい

≪矢≫

「古代のドラゴンが復活した、おまえが討伐してみせろ(意訳)」というとある武神からの試練を達成したときに授かった武神の矢

なお、一矢しかないので撃てるのは一射のみ

≪服≫

オラリオで買った(買わせた)布製の服

勿論、ただの市販品の布製なので防御性能はない

イメージとしてはインドの民族衣装

 

数週間前にフラリと迷宮都市オラリオにやってきた黒髪黒目の男、その後、とあるファミリアに居候をしているがそのファミリアに所属している団員からの評価は底辺である(いつもオラリオ中をフラフラしているか座禅を組んでいるかしかしないため)が、そのファミリアの主神からの頼み(極東の神から教えてもらった土下座)で居ついていることを渋々認めている

 

基本は素手による徒手空拳だがどこかから取り出す長柄の斧、三日月刀、弓矢も使う

また、眼から光線が出るとかでないとか

 

 

カルキ・ブラフマン曰く「神の恩恵は貰ってないが、とある神からある特権を貰ってるし、やわな稽古や修行、試練(という名の神々からの無茶ぶり)の踏破はしていないからダンジョンに潜っても大丈夫」とのこと

 

また、気づきにくいが、のどの付近が黒い「とある薬を飲んだからな」とは本人談

 

***

こんな感じでしょうか

 

あと、インド神話に詳しい人は気づいたかもしれませんがこのオリ主、インド神話に出てくる最強の僧侶と羅刹王のハイブリットです。あと居候しているファミリアもわかりそう

 

 

まあ、インド神話ってこのくらいぶっ飛んでなきゃね

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本編
第1話


読み専のくせして初投稿、あらすじにも書いてますが駄文です


ダンジョン49階層、通称「大荒野」そこは、その名の通りに見渡す限り一面灰色の荒野が広がり、そこにはダンジョンに生息しているモンスターの群れが跋扈していた。

 

本来であれば、この階層にまで来ることができるのは、迷宮都市オラリオでも最上位の【ファミリア】だけであり、そのうち、オラリオでトップクラスの【ファミリア】とされる【フレイヤ・ファミリア】、【ロキ・ファミリア】が普段【遠征】でこの階層に来る。しかし、それはそのファミリアの中心となるメンバー総出で行われる、つまり大人数で来るはずなのだが、今日、この49階層に来たのは、武器を持たず、防具もつけていないたった一人の男であった。

 

男は、「フーッ」と一息吐くとどこからか取り出した自身の武器であろう斧を右手に持ち、ゆっくりと歩きだし、少しずつ走り出し、49階層にいる数百匹はいるであろうモンスターの群れに突っ込んでいった。

 

***

(精霊どもが騒ぐから見に来れば……何だ、こいつは……)

 

恐怖という感情がない怪人(クリーチャー)であるレヴィスが恐怖を覚えるのも無理はないだろう。なぜなら、ここまでの深層に単身で来たことがあるのは、オラリオひいては世界最強と謂われる【猛者】(おうじゃ)オッタルだけだったからというだけではない。

 

その男は、持っていた柄の長い斧を用いて49階層にいたフィモールとブラックライノスの群れを全て一人で倒すと、レヴィスが呼び寄せ下層から登ってきたイモムシ型のモンスターとしばらく戦っていたが、途中、大跳躍をし飛び上がったと思うと、使っていた斧を左手に持ち替え、右手で顔を覆い何かを呟いた瞬間

 

眼から光線が放たれ、49階層に大穴が開いた

 

 

その威力はすさまじく、59階層に根付いた『精霊の分身』は無事のようだが、58階層まではごっそり消滅してしまったようだとレヴィスは本能で感じ取り、そのまま、まだ十分に育ち切っていない『精霊の分身』(デミ・スピリット)がいる59階層に行くのではないかと警戒した。

 

しかし、その光景を作り出した男は、何事もなかったかのように、奇跡的に残っていたいくつかの魔石とドロップアイテムを拾うと、そのまま、レヴィスが隠れている上層への階段へと向かって歩き出した。

 

そして、それを見たレヴィスがしたことは、今後の計画にとっての危険分子の排除ではなく、自身の怪人(クリーチャー)としての全能力を使った逃走であった。

 

(決してあの男とは事を構えるものか)

と心に決めながら

 

***

第一級冒険者並みかそれ以上の実力を持つ怪人(クリーチャー)に恐怖を与えたとは知らない男は、その日のうちには上層へともどり、(なお帰還する途中、双頭の竜(アンフィス・バエナ)を倒してしまっている)そして、ギルドの職員にばれないようにこっそりとダンジョンから地上へと帰還した。

 

「うーん、いくら『神の恩恵』(ファルナ)を貰ってないからダンジョンに入ることが禁じられているとはいえ、やはり、たまには動かないと鈍る、黙ってダンジョンに潜り体を動かすのもいいことだ」

 

と呑気に伸びをしながら言うこのカルキ・ブラフマンという男、現在、ある神から依頼を受けてオラリオに来たとあるファミリアの居候である。




読んでいただきありがとうございました。ここおかしいよとかこここうしたほうがいいよとかここ誤字があるとかぜひ教えてください(露骨なコメント稼ぎ)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話

えーと、3000を超すUAとお気に入り登録ありがとうございます、家に帰ってきて確認して驚きました。

完全見切り発車で不慣れですがこれからも頑張っていきたいと思います。(震え声)


夕方、ダンジョンから地上に戻った冒険者や、仕事を終えた人々が多くなり、混雑している大通りを49階層から数時間で地上に帰ってきたカルキ・ブラフマンは自分が居候しているファミリアの本拠(ホーム)へと向かって歩いていると

 

「んん?そこにいるのはカルキ君じゃあないか!久しぶりだねぇ!」

 

「ああ、ヘスティア神、ご無沙汰しております」

 

「ええっ!なんだい、その他人行儀な挨拶は、何日か一緒に住んでいたのにぃ!」

 

声をかけてきたのはロリ巨乳神ことヘスティアであった。実は、カルキは迷宮都市オラリオにやってきた当初、寝泊まりする場所がなかったので、たまたま見つけた廃教会で寝泊まりしようかとしていたところ、そこを本拠(ホーム)としている【ヘスティア・ファミリア】と鉢合わせしてしまい、主神(ヘスティア)は反対したが、お人好しの眷属が主神(ヘスティア)を説得して何日かの間一緒に住んでいて今でも関係は良好である。

 

「それにしても、君は相変わらずオラリオ中をフラフラしているのかい?ボクは心配だぜ、このまま君が居候先から追い出されないか」

 

「ははは、実際に居候先から追い出されたあなたに言われると説得力が違いますね」

 

「ぐはあぁ!ううっ、今はちゃんと働いているのにぃ」

 

などとお約束のやり取りをした後、「ベル君も久しぶりに君とご飯を食べたがっていたよ」「ほう、奢ってくれるのかな?」「なんでさ!」という他愛もない話をして、ヘスティアと別れ、今現在、居候をしているファミリアの本拠へと向かって歩き出したのである。

 

***

ヘスティアと別れ、しばらく歩くと、白い塀に囲まれた敷地内に30Mはくだらない象の頭を持つ巨人像が、胡坐をかいてデンと座っているという珍妙な建造物が見えてきた。そう、ここが現在、カルキが居候している【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)『アイアム・ガネーシャ』である

 

巨人像の股間の中心にある入口に向かっていくと、入口の警備をしていた【ガネーシャ・ファミリア】の団員が胡乱な目でカルキを見るがそんなことは気にも留めずに、まっすぐ建物の中に入っていき、途中、すれ違う団員たちから非難する目線を受けながら目的の部屋の前についた

 

(コンコン)「ガネーシャ神、カルキだ、今大丈夫だろうか」

 

「おお!大丈夫だ!入っていいぞ!」

 

入っていいかどうか聞くと部屋の中からやたら大きい声が聞こえてくる、そしてこの声の主こそこのファミリアの主神ガネーシャであった。許可を得たので部屋に入ると、そこには【ガネーシャ・ファミリア】の団長であるシャクティ・ヴァルマがいたが、カルキが入ってくると、カルキをにらみつけて部屋から出ていった。しかし、カルキは気にした様子もなく、部屋の椅子へ座った

 

「ふむ、たった数日でずいぶんと嫌われてしまったようだ」

 

「ふむ!それはお前が目的も言わず毎日フラフラしているせいではないか!」

 

「……つい先程、似たようなことをヘスティア神にもいわれたな」

 

ヘスティアと同じようにお約束を言ってからカルキはいくつかの魔石を出してガネーシャに換金してもらう、本来はギルドの換金所か各商業系のファミリアで換金するのが一般的なのだが、カルキは『神の恩恵』(ファルナ)を貰っておらず、ギルドに冒険者として登録していないためこうしてガネーシャから換金しているのだが、事情を知らない団員たちからすると、主神(ガネーシャ)から金をせびっている居候に見えてしまうため、嫌われる一助となっているが、当の本人達(カルキとガネーシャ)は何一つ気付いていないのである。換金を終えると、ガネーシャが思い出したように言ってきた。

 

「そういえば!ヴィシュヌからの依頼は達成できそうなのか!カルキ!」

 

「『オラリオで世界を担う英雄を見つけろ』か、難しいな、ピンとくる奴にいまだに会えていないのが現状だ、最悪の場合、もう一つの依頼にシフトしないといけないかもしれない」

 

「それはやめてくれ!「群集の主」である俺としてはその依頼は大!反!対!だ!」

 

「そうだろうな、まあ、気長にやらせて頂こう」

 

そういって、換金した金をポケットにいれてカルキは部屋を出ていく、【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)にある食堂で夕食をとってもいいのだが、夕方、ヘスティアとの話を思い出し、あのお人好しの眷属でも夕飯に誘うかと少し薄暗くなったオラリオへ繰り出していった。




こんな感じでいいんでしょうか、もっと増やしたほうがいいのか手探りなので不安です

感想でも書かれていましたが、オラリオが消し飛ぶのではないかとされていますが、ま、まあ、一応、対人用とか対神用のブラフマーストラもあるということで一つ納得していただけたらなと
………いつになったら放てるのか全くの未定ですが



ソード・オラトリア関係ないから触れなくてもいいよねって思ってたけど、カーリー神インド神話やんけorzどうしよう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話

初めて評価がつきました。ありがとうございます

ここはこうしたらいいよ等の意見募集中です。何分、初投稿なもので


日が沈もうとし、暗くなり始め、うっすらと満月が輝き、魔石灯の明かりがつき始めたオラリオの大通り、ガネーシャから魔石を換金してもらったカルキは、先刻出会った女神の本拠(ホーム)へと向かっていると、少し離れたところから

 

「あ、カルキさーん」

 

自分が向かっている方向から自分を呼ぶ声がしたので、声のした方向をみると、丁度、自分が夕飯に誘おうかと思っていた白い髪と紅い眼が特徴でどことなく白兎を彷彿させる少年がこちらに向かってくるのが分かった。この少年こそ、【ヘスティア・ファミリア】の唯一の眷属でしばらく一緒に暮らしたことのあるベル・クラネルである。久しぶりに会うカルキに嬉しそうなベルの呼びかけに片手を上げて答えつつ、ふと疑問に思ったことを聞く。

 

「ベル、久しぶりだな……ベル一人か?」

 

そう、ベルの主神であるヘスティアがいないのである、実は、ヘスティアは自神の唯一の眷属であるベルをちょっと、いや、かなり溺愛しており、それは、カルキが一緒に住むことになる前も「ここはボクとベル君の愛の巣だぞぉ~!」と反対していたのだ(ただし、すぐに一緒に住むことを認め、カルキを迎え入れたが)そしてその溺愛っぷりは今も変わらないため、カルキはベルが一人でいることを疑問に思ったのであった

 

「いや、実は……」

 

何でも、ベルのステイタスを更新し、ステイタスの上昇が凄いことになっていることを話した後、怒りはじめ、バイト仲間との打ち上げがあると言って出て行ってしまったらしい、ちなみに怒った理由はわからないそうだ

 

「(ふむ、これは何か気に入らないことでもあったな、恐らくスキル関連で)そうか、実は今日、バイト終わりのヘスティア神にあったので偶には一緒に夕飯でもと思っていたが、それなら仕方がないな、ベル、一緒に夕飯でもどうだ」

 

「じゃあ、今日、僕が行こうと思っていた店に行きませんか?一人だとちょっと不安で」

 

どうやら行きたい店があるようなので一緒に行くことにしたのだが、その店は酒場のようで、どうしてその酒場に?と聞くと、今朝、落とした魔石をその酒場の女店員に拾ってもらい、さらには昼飯ももらったので、そのお礼も兼ねてその酒場で夕飯を食べるつもりらしい……が

 

「(いや、明らかに騙されているぞ、ベル)」

 

明らかにその女店員に騙されて、カモになっている白兎のお人好しっぷりに頭痛がしたが、この少年、無類のお人好しの上、このオラリオに来た理由が訳すると『英雄譚に憧れ、ダンジョンに女の子との出会いを求めて』である。そして、そんな女性に幻想を抱いている少年に残酷な事実を教えるのが正解であろうか、否、それは少年が自分で気づくことが正解であるとカルキは思っている。まあ、オラリオに来た理由が妙に子供っぽく面白いと感じたからカルキもベルに目をつけているのであるが

 

そこから店につくまでここ最近のベルの話を聞いていたのだが、どうやら2日前、ダンジョン5階層でミノタウロスに襲われ、【ロキ・ファミリア】の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインに助けられたらしく、さらには一目惚れをしてしまったらしい

 

「(やれやれ、ベルはあんな堕ちた復讐者のどこがいいのやら)」

 

カルキが内心呆れていると

 

「……ここ、だよね」

 

とベルが言ったのでどうやら件の酒場についたようである。その酒場は『豊穣の女主人』、『豊穣』ということで美と豊穣を司る面倒な女神(フレイヤ)を思い出し、カルキは嫌な予感がして、ベルに話しかけようとすると

 

「ベルさんっ、あら?そちらのお方は……?」

 

どうやら一歩遅かったらしい、ベルが店員に捕まってしまった

 

「あ、えっと、この人は」

 

女性に耐性を持っていないベルがかわいそうなので自己紹介しようとその店員を見ると、やはりというかその店員からは例の女神(フレイヤ)とのかなり深いつながりを感じられた

 

「カルキ・ブラフマンだ、今日はベルの相伴にきたんだが、迷惑だったか?」

 

「いえいえ、迷惑だなんて、私はここの店員のシル・フローヴァです」

 

お互い目が笑っていない自己紹介をすると「お客様2名入りまーす」と酒場の隅に当たるカウンター席へと通された。隣ではベルとシル、そしてここの女将が何やら面白いやり取りをしていたが、カルキは酒場で働いている店員を観察していた。なぜなら、ここの制服と思われる服を着た店員は行ったり来たりせわしなく働いているが、その特徴として、従業員のすべてが女性であり、そのうち何人かは、武器を使う者特有の歩き方をしていたからだ

 

「(ほう、あの猫人(キャット・ピープル)は槍、黒い方はナイフであの人間は徒手格闘で二人とも暗殺者(アサシン)、あっちのエルフは刀、いや木刀か?……やはり、普通の酒場ではないな)」

 

間違いなくワケ有りな女性従業員が働く酒場に面倒ごとが起こりそうだ、いやそれはそれで世界を担う英雄の卵に会えるかもしれぬと思っていると

 

「あんた、ウチの子供に色目使って注文しないってんなら店の外にぶっ飛ばすよ」

 

恐らくはこの酒場の女将であろうドワーフににらまれてしまったようだ、まあ、普通に戦っても勝つのはカルキだが、ここは酒場、注文せず店員を観察していた自分に非があると思い、ベルに何を頼んだのか聞くとパスタを頼んだという答えが返ってきたので自分も同じものを注文し、酒は二人とも頼まなかったが女将が勝手にエールをドンっとカウンターに叩きつけたのでベルと苦笑いしつつ乾杯し、暫くベルと話しながら待っていると山盛りのパスタが出され、さらには注文していないはずの魚の姿焼きまで出てきて、やはりベルは騙されたな(カモにされた)と思いつつ、それぞれカルキが3分の2、ベルが半分ほどパスタを食べたところで

 

「楽しんでますか」

 

「圧倒されてます」

 

「まあ、料理が美味しいし、楽しんでいるといえば楽しんでいるな」

 

横からスッと諸悪の根げ、否、シルがやってきてエプロンを外して壁際にあった丸椅子をとってベルの隣に陣取り、「いいのか」と女将に視線を送ると口を吊り上げながら顎をあげたのでどうやら許されているらしい、そのままベルとシルの会話を聞いていると女将の名前はミア・グラントといい、元冒険者で【ファミリア】の主神から許可を得て半脱退状態であるらしい。あの女神(フレイヤ)がそんなことをよく許したなと思ったが、シルが酒場で働いているのは要約すると『人を通して新しい発見があり、心が疼くから』らしい、まあ、あの女神(フレイヤ)にかかわりがある者なのでそうしているのだろうと思っていると

 

「ご予約していたお客様のご来店ニャ!」

 

定員である猫人の少女が招き入れた団体様がやってきたかと思うと、ベルの顔が真っ赤になったかと思うとカウンターに顔を伏せてしまった。シルも混乱しているようだが一体何が起こったのやら




追記

カルキとシルが会話しないのは、カルキがシルとフレイヤが何かしらの関係があると気付いたことをシルが気付いたためです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話

ブラフマーストラは武器や眼から放たれるだけではない





今回、アンチ・ヘイトと感じられる箇所があります、不快に思った方は申し訳ございません


『豊穣の女主人』に団体様がやってきてから、隣に座っているベルは耳まで真っ赤にしてカウンターに突っ伏してしまっている。最初、カルキは何事かと思ったが、入ってきたとある人物でどうしてベルが突っ伏しているのかが分かった

 

「ほら、起きろベル、例の【剣姫】がいるぞ」

 

「いや、カルキさん、そ、そんなこと言ったってぇ」

 

そう、やってきたのは【ロキ・ファミリア】だったからだ、どうやら、ベルはあの人数の中から目ざとく【剣姫】を見つけたためこうなってしまったらしい、ダンジョンに女の子との出会いを求めてオラリオに来たくせに、女性に対して超が付くほどの奥手、そんな矛盾を持った少年がベル・クラネルという人物である。

 

「【ロキ・ファミリア】の皆さんはうちの常連さんなんです。彼等の主神であるロキ様に、私たちのお店がいたく気に入られてしまって」

 

傍から見るとおかしいベルの様子に気付いたシルがこっそりベルに教えている。そして、ベルの視線を追ってみると、ベルは周りの女性には目もくれず【剣姫】だけをカウンターに突っ伏しながら凝視していた。よくもまあそんな器用なことができるものだとある意味感心していると

 

「そうだ、アイズ!お前のあの話をきかせてやれよ」

 

酔っぱらっているのであろう、唐突に狼人が話し始めた

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ⁉そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」

 

「ミノタウロスって17階層で襲い掛ってきて返り討ちにしたらすぐ集団で逃げていった?」

 

「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に上っていきやがってよっ、俺たちが泡食って追いかけていったやつ!こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ~」

 

なるほど、5階層でベルが遭遇したミノタウロスは【ロキ・ファミリア】が逃がしたしまったと、そしてそのことを恥じるわけでもなく、酒の肴にすると……

 

「そんでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえガキが!」

 

駆け出しの何がおかしいのか、誰しもが駆け出しの頃はあるだろうに……

 

「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際まで追い込まれちまってよぉ!可哀想なくらい震え上がっちまって、顔を引きつらせてやんの!」

 

狼人の・・・はて、名前は何だっただろうか、オラリオに来た頃に【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】についてはある程度は調べたが、取るに足らない小物しかいなかったので忘れたな……とカルキが少し考えている間に、話は進んでしまっていたらしく「アイズたん萌えー」とか笑い声や少し言い争う聞こえてくる。そして

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」

 

とうとう我慢できなくなったのか隣にいたベルが店の外に飛び出していった。「ベルさん⁉」とシルも追いかけていったが、追いかけてどうするのか、追いついた後の慰めなんてただベルのプライドを傷つけるだけだというのにと思いつつ、残った魚の姿焼きでも食べようかとカルキが手を伸ばすと、

 

「あなたは追いかけないのですか?彼はあなたの連れでは?」

 

カルキの斜め後ろから店員であろうエルフが聞いてきたので

 

「追いかけてどうしろと?今、慰めの言葉をかけることの方が侮辱だろうに」

 

「何を当たり前のことを」と返すと、そのエルフはフッと笑った、いや、何が面白いのかと疑問に思っていると

 

「おいおい!兄ちゃん!正直に言えよ!【ロキ・ファミリア】が怖いって!」

 

あの狼人と同じように酔っぱらっているのであろう、別のテーブルからからカルキに対してそんな言葉が聞こえた

 

………怖い?誰が?自分(カルキ・ブラフマン)が【ロキ・ファミリア】を恐れていると思われている?そのことに気付いたカルキは唐突に笑い始めた

 

「フッ、ハハハ!自分が!【ロキ・ファミリア】を恐れる!?あんな取るに足らない小物の連中を!?いや!これは中々面白い冗談だ!ハハハ!」

 

あまりにも大声で笑いすぎたのであろう、今や、『豊穣の女主人』はカルキの笑い声だけが響いていた

 

「ほぉ?ええ度胸しとるなぁ?自分?」

 

だが、自分の【眷属】(ファミリア)を馬鹿にされたロキは黙っていられず、神の力(アルカナム)を解放しつつ、カルキに迫るが、カルキは臆した様子もなく、

 

「いや、すまない、ロキ神よ、だが、自分が【ロキ・ファミリア】を恐れない道理がちゃんとあるのだから、それは仕方のないことだろう?」

 

「ほぉ?どんな道理なんや?ゆうてみい」

 

どうやらさらにロキ神を怒らせてしまったらしい、もう周りはカルキ以外ロキの迫力に負けて何もできない状況なので、ゆっくりと椅子から立ち上がり、カルキは語りだす。

 

「ではロキ神よ、敢えて問おう、何故古代の人々は恐怖の象徴として(ドラゴン)を選んだと思う?モンスターは他にもいたにもかかわらずだ」

 

「……はぁ?」

 

唐突な質問にロキが答えに窮していると、カルキは【ロキ・ファミリア】の面々が座っているテーブルの間を歩きながら、朗々と語り始めた

 

「答えられないのなら教えよう、それは、(ドラゴン)には、人が及びもしない賢い頭脳、爛々とした(まなこ)、劫火を放つ巨大な口、どんな防具でもたやすく切り裂く鋭い牙と爪、禍々しい全身を覆う統一された色の鱗、そしてその鱗に覆われた巨躯、どこまでも飛ぶことの出来る翼、地面に降り立てばその場所から一歩も動かすことが出来ず、後退をしない強靭な脚、どんな人間でも一撃で殺すことの出来る尾、これらをもって(ドラゴン)は古代の人々から畏怖され、恐怖の象徴となったのだ」

 

「だが」、と一拍おいて

 

「もし、今、自分の目の前に、作り物の頭、復讐心で曇り切った(まなこ)、笑うことしかできない口、折れた牙と爪、ころころ色の変わる鱗、蛇か蜥蜴のような貧弱な体躯と人一人殺せない程の細い尾、縛られ、どこにも飛べない翼、偶にしか前に出ず、突っ立ているだけの脚、こんな(ドラゴン)が目の前にいたら、恐怖は微塵も感じられないだろう?……つまりはそういうことなのだロキ神よ」

 

このカルキの言い草に、ロキも、【ロキ・ファミリア】の面々も、周りの客も、『豊穣の女主人』の女将と店員も誰もが呆然として静まり返る中、フッとカルキは笑うと

 

「しかし、ここは酒場だ、酒場とは誰もが楽しく酒を飲む場であり、このような雰囲気にしてしまったことは自分に非があるだろう」

 

そう言うと自分の懐から持っていた金貨の入った袋を出して、近くにいたエルフの店員に渡し

 

「これは、迷惑料も入っている、ただ、出ていった連れは無類のお人好しだから数日後には代金を持ってくるだろう」

 

と言ってと堂々と『豊穣の女主人』から出ていった

 




言葉によるブラフマーストラ

豊穣の女主人でロキ・ファミリアをボコるSSは数あれど、言葉でボコるのはこれくらいではなかろうか、まあ、インド神話はたとえ話多いよねって



ドラゴンのたとえ話のイメージとしては、
作り物の頭→フィン
復讐心で曇り切った眼→アイズ
笑うことしかできない口→ティオナ
折れた牙と爪→ベート
ころころ色の変わる鱗→ティオネ
蛇か蜥蜴のような貧弱な体躯と尾→ロキ・ファミリアの団員
縛られ、どこにも飛べない翼→リヴェリア
偶にしか前に出ず、突っ立ているだけの脚→ガレス
となっています。ロキ・ファミリアファンの皆さん、気分を害されたらすみません、何でもry


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話

お気に入りが100件を超えました………マジですか……いろいろと至らぬことが多いかもしれませんが、これからも頑張りたいと思います



あと、感想の返信でも書きましたが、自分はロキ・ファミリア好きですよ、ただ、好きなキャラには曇ってほしいというか、その……ね?


『豊穣の女主人』を出たカルキは、先刻の【ロキ・ファミリア】の面々を思い出していた

 

「(あの例え話ではわかりづらかったか?ほとんどの団員は呆然としていたが……いや、何人かは気づいていたか)」

 

あのたとえ話を聞いた者たちはほとんどが呆然としていたが、年長者であり、頭の切れる部類の【勇者】(ブレイバー)【九魔姫】(ナイン・ヘル)【重傑】(エルガルム)は今の自分たちを指していることに気付いたのであろう、苦虫を噛み潰したような顔をしていたし、簀巻きにされ、吊るされていた【凶狼】(ヴァナルガンド)【怒蛇】(ヨルムガンド)【大切断】(アマゾン)の双子の姉妹は、自分(カルキ)を親の仇のように睨みつけていたが、他の団員は何を言っているのかわからないという顔をしていた。

 

「(だからといって、変わることだけが正解というわけではないが)」

 

そう、人間は変わるものであるが、初志貫徹という言葉があるように真っ直ぐ自分が決めた道を進むことで成し遂げられることもあるのだ、だからこそ、変わることが正しいとも、変わらぬことが正しいとも言えないというのが事実であるとカルキは捉えているが

 

「(あれらは今のままだとただの英雄の踏み台にしかならないな)」

 

などと考えていると

 

「待って」

 

「……【剣姫】か」

 

どうやら、自分を追いかけてきたらしい【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインに呼び止められたので、「(そういえば、先程もベルを追いかけようとしていたな)」と思い出し、振り向く

 

「どうしてあんなことを」

 

と問いかけてくるが、カルキとしては、その少女の瞳に映っているものが仲間を侮辱された怒りだけではないと気付いていた

 

「(ふむ、復讐者だと思っていたが……何だ、ただの迷子だったか)」

 

カルキには今の【剣姫】は、夜の暗闇の中で親とはぐれ、蹲って泣いている迷子にしか見えなかったのである。いやはや、そんなことも分からないとは自分もまだまだ未熟だなと自嘲していると

 

「……何がおかしいの?」

 

どうやら自嘲した笑みが顔に出ていたらしい、これでは本当に未熟だなと思いつつ、まずは少女が動揺するであろう言葉を放つ

 

「なに、復讐者だと思っていたが、ただ己が今したいことすら理解していない迷子だったかと」

 

「!?」と明らかに動揺した少女は僅かに視線を逸らし、その少女に「それに」と続け、カルキは最も動揺するであろう言葉を投げかけた

 

「どれだけ高位の精霊の血を引いている者でも堕ちる時はどこまでも堕ちるものなのかとな」

 

「ッ!それをどうして!?」

 

動揺した目でアイズがカルキを見たとき、すでにカルキは第一級冒険者ですら認識できない速度でその場を移動していた

 

***

「さて、ベルはどこにいるかな」

 

迷子(アイズ・ヴァレンシュタイン)から離れ、カルキはとある建物の屋上にいた。ベルを探しているのは、もし、ベルが先ほどの一件で【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)に戻って泣いているようなら英雄の見込みはなく、ダンジョンに潜っているようなら蛮勇であるが見込みが多少はあると判断するためである。

 

「ふむ、どうやら本拠には帰っていないか……付近にはいないようだし、蛮勇(ダンジョン)の方か」

 

まあ、見込みはあるようだとひとりごち、その蛮勇でも見に行くかと思い、移動しようとしたが、いい加減先ほどから感じる視線に鬱陶しさを感じて

 

「それにしても、あまりにも無遠慮に見すぎだな、あの女神は」

 

そう呟いてカルキは、屋根の一部を立ったまま砕き、舞い上がった破片を手に取ると、一言小声で「ブラフマーストラ」と唱え、破片をバベルに向かって投擲した。

 

***

「本当に、何者なのかしら……あの人間(ヒューマン)

 

バベルの最上階で、オラリオ最大派閥【フレイヤ・ファミリア】の主神フレイヤはカルキを見ながらつぶやいた。その人間を見つけたのは数ヶ月前、何の気なしにオラリオを眺めていたフレイヤは、たまたまその人間を見かけた

 

「(魂の色が見えない……?)」

 

魂の色が見えるはずの自分(フレイヤ)が人間の魂の色が見えなかった、それとも神に見せないように何かしらの術を持っているのか……

 

「ッ!!??」

 

今バベル最上階から見下ろし、覗き見ている不思議な人間を初めて見たときのことを思い出し、屋根にいるその人間を見ていると、次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

あまりの痛みに椅子から落ちたフレイヤ、そして物音を聞き、何事かと主神の部屋に入ってきた【フレイヤ・ファミリア】の団長【猛者】(おうじゃ)オッタルは、左肩を抑え、血を流し蹲っているフレイヤを見て、「フレイヤ様!?」と動揺しつつも、すぐに止血を行い、近くにいた従者を呼んで治療の手はずを整えていく、そして治療を受けながら、フレイヤはそばにいるオッタルに話しかけた

 

「オッタル、あの男の実力を測りなさい、多少手荒な真似をしてもいいわ」

 

「御意」

 

短く返事をし礼をしたオッタルであったが、その瞳には己が敬愛する主神を傷つけた人間(カルキ・ブラフマン)に対する憤怒の炎が燃え盛っていた

 

***

ダンジョン6階層、『豊穣の女主人』から飛び出したベルは、気づけば、足を踏み入れたことのない新階層へと降り立っていた。初心者殺しとされるモンスターのウォーシャドウを倒し、ただ、無我夢中で戦い、ボロボロな状態のベルは、はっ、はっと息を荒げ、次に生まれてくるモンスターを待っていたが、

 

「何をやっている?」

 

突然後ろからカルキに声をかけられ、バッと振り返ると、

 

「カルキさん!?ここはダンジョンですよ!?危ないです!!」

 

などと慌てたように言い、その自分より他人を心配するどうしようもないお人好しな姿に、思わず苦笑いしつつ、

 

「さっきの酒場での一件、どう感じた?」

 

そう問いかけると、下を向き、唇をかみしめ、

 

「悔しいです……」

 

苦々しい表情でたった一言言うだけだった。しかし、その「悔しい」という一言からは、

狼人の言を肯定してしまう自分(ベル・クラネル)

何も言い返すことができない自分(ベル・クラネル)

彼女(アイズ・ヴァレンシュタイン)にとって路傍の石にしか過ぎない滑稽な自分(ベル・クラネル)

彼女(アイズ・ヴァレンシュタイン)の隣に立つ資格を欠片も所持していない自分(ベル・クラネル)

その全てが堪らなく悔しいと感じられる一言であった。それを聞き、カルキは「ふむ」と頷くと

 

「だが、今のお前の行為はただの蛮勇だぞ」

 

残酷ともいえる言葉を突き付けた。「!?」と驚いているベルであったが、カルキは諭すようにベルに語り掛ける

 

「何を驚くことがある、今のお前は、自分への怒りで周りが見えていない、さらには恐怖を微塵も感じていないだろう、そんな奴はすぐに死ぬぞ」

 

と言うと、「?」と頭に疑問符を浮かべ、首をかしげるので、やれやれと首を振り、人差し指を立てて、顔の前に持ってきて、ベルを諭す。

 

「いいか、『勇気』のみでは蛮勇であり、『恐怖』に竦むだけでは臆病だ。だが、ここぞという場面での『勇気』は勇敢となり、戦いの中での『恐怖』は緊張感となり、自分を助けるものだと、少なくとも自分はそう教わったぞ」

 

カルキがベルに自らの師匠ともいえる神から教えられたことを諭していると、ダンジョンの壁が壊れ、数体のウォーシャドウが出てきたかと思うと、さらには、出入り口付近にはモンスターの目が光っていた

 

「さて、ベル、いいタイミングでモンスターも出てきてくれたことだし、お前の英雄としての素質を見せてくれ」

 

そう言って笑いかけると、ベルはコクリと頷き、モンスターの群れへと駆けていった。

 

***

その後、明け方まで戦い続け、満身創痍になったベルを【ヘスティア・ファミリア】の本拠まで運んで、ヘスティアにベルを預けたのだが、その際、「・・・僕、強くなりたいです」と言ったその姿に英雄の産声だなと感じつつ、今度、ヴィシュヌ神に報告に行かないとなと思いながら、居候先である【ガネーシャ・ファミリア】の本拠に帰ったカルキであった。

 




インド神話のお約束である炎の矢の雨を降らせて森を焼くという試練、どうしようか『セオロの密林』を「クエスト×クエスト」のついでに焼くわけにもいかないし・・・と思って、ダンメモの動画をあさっていたら、いい具合のエルフの森のイベントを見つけました・・・コノモリヤイテモイイカナ(ダディャーナザン風に)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話

お気に入り登録200越えありがとうございます。これからは頑張って文量増やしていきたいと思います



イシュタルガチャ38連(呼札込)の結果、オジマン、ナイチンゲール、狂スロ、ジェーン×3
……S.イシュタル来ず!!


………いや、何とも言えないガチャとかマジ止めて


 

「居候なのだから少しは働くか我々の仕事を手伝え!」とは、カルキが【ガネーシャ・ファミリア】の団長である【象神の杖】(アンクーシャ)シャクティからベルを【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)に送り届け、【ガネーシャ・ファミリア】の本拠地へと帰って来た時、開口一番に言われた言葉である。

 

「(いや確かに朝帰りはしたが、何をそんなに怒っているのか)」とカルキは思ったが、「ついて来い」とこちらが同意もしていないのに身を翻し、歩いていくシャクティの後姿を見て、どうやら、団長殿は『神の宴』と『怪物祭』(モンスターフィリア)という2つのイベントが立て続けに行われるので、そのストレスでイライラしているのだろうという考えに落ち着き、まあ、自分は居候だしなと納得し、シャクティについて行くことにした。

 

「このくらいの仕事なら『神の恩恵』(ファルナ)を貰っていないお前でもできるだろう」

 

ついて行った先の大広間で、シャクティからモップとバケツを渡され「一人でこの広さを?」と聞くと、「後で追加をよこす」と言われたので、大広間の床を一人でゴシゴシとモップで掃除をしていると、「俺が!ガネーシャだあぁぁぁ!」と大広間の扉から、モップとバケツを持ってガネーシャが入ってきた。どうやら、追加の一人はガネーシャ神のようだなと思っていると、

 

「邪魔だから居候と一緒に大広間の掃除でもしていろと言われた!」

 

………どうやら厄介払いをされただけのようだ

 

暫く一人と一柱で掃除をしていたが、ふと今度【ガネーシャ・ファミリア】主催で行われるイベントの裏の意味を思い出したのでカルキはガネーシャに問う

 

『怪物祭』(モンスターフィリア)いや、『怪物との友愛』(モンスターフィリア)だったな」

 

「……異端児(ゼノス)か」

 

実情を知っているカルキに普段とは違う真面目な雰囲気をまとうガネーシャをじっとカルキは見ていた

 

「人語を話し、対話を望み、闘争を避けようとする怪物達(モンスター)、そんな怪物達(モンスター)との融和という危険性(リスク)貴神(あなた)はどう思う?どうなると思っている?」

 

スッと何かを見極めるような真剣な眼差しで問いかけると

 

「ぶっちゃけ、わからん」

 

………うん、まあ、そういう答えしか返ってこな「ただ」

 

「本当に、異端児(ゼノス)が、いや、怪物達(モンスター)が闘争を望まず、共存を願っているというのならば」

 

一呼吸置いてから、モップを投げ捨て、ビシィ!と親指を立て、白い歯を見せながら

 

「俺は!【群集の主】(ガネーシャ)を止めて【群集と怪物の主】(ネオ・ガネーシャ)となろう!!」

 

そう堂々と宣言する姿に、感服していると、

 

「だから!ヴィシュヌを含むあの神々への説明はお前に任せたぞ!カルキ!」

 

「……一番厄介なのは自分に押し付けるのだな」

 

その後、やってきた【ガネーシャ・ファミリア】の団員とともに大広間の掃除をして、明日の『神の宴』の準備を手伝うカルキであった

 

***

『神の宴』当日、カルキは、普段の服から【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちと同じ服に着替え、象をモチーフにした仮面をつけ給仕(ウェイター)の手伝いをしていた。

 

「(流石は、【ガネーシャ・ファミリア】、オラリオにいるほとんどの神が揃っているな)」

 

『神の宴』に参加する神が多ければ多いほど、そのファミリアの規模が分かるとはよく言ったものだとカルキは思いながら、宴に参加し、好き勝手に話す神を給仕ついでに観察するが、

 

「(しかし、予想はしていたが、自分が知っている、あの神々と比べると『神格』の低い神が多いものだ、高いのはあそこで旅人の神(ヘルメス)に絡まれている武神(タケミカズチ)くらいか……)」

 

以前ガネーシャから「決してあの神々と『神格』を比べてはならんぞ!」と言われていたことを忘れ、つい『神格』を自分が知っている神々と比べてしまい呆れていると

 

「むっ!そこの給仕君!踏み台を持ってきてくれ!早く!」

 

声をかけられ、その声と見知った姿に仮面の下で苦笑しつつ

 

「……ヘスティア神、タッパーは必要ですか?」

 

「なーんだ、カルキ君だったのか、大丈夫だ、タッパーは自分で持ってきている」

 

そう、カルキに声をかけたのは、顔なじみであるヘスティアであった。ヘスティアは、出されている料理を小動物のように頬いっぱいにして食べながら、ベルへの土産であろう、タッパーに料理を詰め込んでいく

 

「(となると、この会場でガネーシャ神を除くと『神格』の高い神はこの竈の守り神(ヘスティア)武神(タケミカズチ)ぐらいか)」

 

この会場では唯一ドレスを着ておらず、立食形式(タダメシ)ということで恥も外聞もなく料理をむさぼっている(ヘスティア)は『竈の炎』を司ると同時に『不滅』も司っており、そのためこの会場では1,2位を争うほど『神格』が高い神なのである。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ヘスティアとしばらく話していてもよかったのだが、別の所から、給仕を呼ぶ声がするので、一礼をしてヘスティアから離れ、暫く給仕の仕事をこなしていたが、やがて、ヘスティアがいた辺りに神だかりができ、【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちがおろおろしていたので何事かと思い、近づいてみると、巨乳(ヘスティア)貧乳(ロキ)が「んぎぎぃぃぃぃぃ!」とお互いの頬を引っ張り合っていて、どちらが勝つかという神々の賭けが始まっていた

 

「仮にも神なのに何故恥をさらすのか」

 

思わずカルキは呆れ、言い争っている女神の傍まで近づき、ムンズッと首根っこをつかみ(その際、両女神から「グエッ」という蛙がつぶれたような声が聞こえたが気にしない)、そのままブンッと男神の群れに投げ込み、「やれやれ」と戻ろうとすると

 

「あら?どこに行こうとするの?」

 

先日、無遠慮に自分を見ていた女神(フレイヤ)から呼び止められ、「(面倒な神に絡まれた…)」と思いつつも振り返ると

 

「この前は、随分と刺激的な夜だったわ、今度ぜひお礼をさせてね?まあ、お礼をするのは私ではないのだけれど……ウフフ…」

 

などと笑っていない眼でいうので、内心ため息をつきつつ、

 

「そうですか、良き刺激になったのなら僥倖です、お礼は楽しみに待っていることとしましょう」

 

そう言ってこちらは薄く微笑しながら返す。なにやらきな臭い雰囲気になって来たぞとほかの神々が感じ、一部の神は面白いことになりそうだと楽しむというこの大広間に漂う緊張感は唐突に終わりを迎えた。

 

カルキの後ろからやってきたシャクティがカルキの頭を叩き(痛くない)、フレイヤに非礼を詫び、そのままカルキを大広間から引きずっていってしまったからである。これには神々も呆然とし、ただ見送るだけしかできなかったが、このオラリオでまた一波乱あるだろうと感じさせる出来事であったということはこの場にいたすべての神々が感じたことであった。

 




それにしてもいつになったらダンジョンでブラフマーストラを放てるのか、もういっそのこと題名を「オラリオでブラフマーストラを放つのは間違っている」にすればいいのではと思う今日この頃


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話

書いてる途中で、データ消えるとやる気なくしますよね…


『神の宴』で都市最大派閥の主神(フレイヤ)に対し、喧嘩を売るような真似をした居候を大広間から引きずり出した【ガネーシャ・ファミリア】団長のシャクティは、普段からの鬱憤も相まって、カルキに対し、激怒していた。

 

「貴様!一体どういうつもりだ!『怪物祭』には他派閥の協力が不可欠だというのに!」

 

と別の個室でカルキの胸ぐらを掴みながら、カルキに詰め寄るが、詰め寄られている本人は全く気にしていないように

 

「いや、自分はただ挨拶を返しただけだが?」

 

「―――――――ッ!いい加減にしろッ!」

 

あまりにも自分の居候先への迷惑を考えてもいないカルキの態度に、とうとう堪忍袋の緒が切れそうになるシャクティであったが「まあ、待て、事情は知っている」といわれ、「何……?」といぶかしげな視線を向けるとそっとカルキはシャクティに誰にも聞かれぬよう耳元で小声で話しかける

 

「『怪物祭』ではなく、『怪物との友愛』なのだろう?いずれ異端児(ゼノス)という異常(イレギュラー)が表に出たときの保険として」

 

「なっ!?、どうしてそれを!?」

 

明らかに動揺し、胸ぐらを掴んでいる手の力を緩めるシャクティに対し「それに」と続け、

 

「仮に自分が関わっていようといまいと関係なしに、あの女神(フレイヤ)は何かしでかすだろうな」

 

サラリと言ってのけるカルキは乱れた襟を直しながら、シャクティから離れる。

 

「……明日、ガネーシャと共に説明してもらうぞ、居候」

 

こちらを睨むシャクティに「了解した」と返すカルキだった。

 

***

次の日、『怪物祭』を翌日に控え、【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちが準備の最終段階でせわしなく働いている中、【ガネーシャ・ファミリア】の主神であるガネーシャの自室で、ガネーシャとカルキ、シャクティが机をはさんで向かい合って座っていた。

 

「……で?どうして居候が異端児(ゼノス)について知っている?」

 

「俺が話した!」

 

「………」

 

誰が見ても不機嫌なシャクティに対し、馬鹿正直に答えるガネーシャ、我関せずのカルキという、ある意味この数週間で見慣れた光景がそこにはあったが、今回ばかりは納得のいる説明が欲しいのか、シャクティは「ガネーシャ!」と詰め寄る。どうしたものかとガネーシャが隣に座るカルキを見ると、カルキはコクリと頷き、話を促す。本人の了承が取れたとしてガネーシャはシャクティに事情を話し始める

 

「実はな、カルキはオラリオ外のとある神から依頼を受けてこのオラリオに来たのだ。そして、その神にはオレはどうあっても逆らえない、そのため、カルキにはいろいろ話したというわけだ」

 

普段とは違う真面目な雰囲気でガネーシャは説明するが

 

「なるほど……と納得できるか!オラリオ外部の神からの依頼!?オラリオの情報を外部に漏らすな!それに、もしこの居候が襲われて異端児(ゼノス)のことが他派閥に知れたらどうするつもりだ!」

 

どうやら、さらに火に油を注ぐ結果になってしまったようである、シャクティが烈火のごとく怒ってしまった。だが、ガネーシャは全く気にしていない様子で

 

「安心しろ!シャクティ!あの神々はそう簡単には介入してこない!それに……」

 

一呼吸置いて

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

などと他人が聞けば狂ったのかと思うようなことを言い出す

 

「何を言い出すのか「では、手合わせしてみるか?」……なに?」

 

「寝言は寝て言え!」と言いたかったシャクティだったが、その前に今まで黙っていたカルキが横槍を入れる。するとカルキは立ち上がって

 

「今は9時過ぎ、ならば、昼飯前には終わるだろう」

 

などふざけたことを言い出し、

 

「むっ!だがあまりシャクティに重傷は負わせないでくれよ!明日の『怪物祭』に影響が出る!」

 

「了解した、ガネーシャ神」

 

ガネーシャもカルキとシャクティが手合わせすることが決まっているかのように話し、仕方なく手合わせの準備をしていると、どこかで手合わせする話が漏れたのか何人かが「団長!あの居候に灸をすえてやってください!」と声をかけられ、苦笑しつつも

 

「……どこで手合わせをするつもりだ?」

 

そうカルキに問うと

 

「まあ、ダンジョンだろうな」

 

どこか少し困ったような呆れたような答えが返ってきた。そして互いに準備を終え(カルキは防具も武器も持っていないが)、【ガネーシャ・ファミリア】の本拠の出入り口の門まで来たカルキとシャクティは

 

「では行くとしよう」

 

カルキがそう言ったかと思うと、シャクティを小脇に抱え、「おい!離せ!」という抗議を無視して、誰もが認識できない速さでダンジョンに潜ってしまったため、こっそりついて行こうと見張っていた【ガネーシャ・ファミリア】の団員や敬愛する女神からの命令でカルキを見張っていた【猛者】(おうじゃ)が待ちぼうけを食らってしまったのは完全な余談である

 

***

「さて、ここならば地上に影響はないだろう」

 

カルキが言うこの階層は37階層、通称『白宮殿』(ホワイトバレス)、本来であるならば階層主であるウダイオスがいるが、今は【ロキ・ファミリア】によって倒され出現期間外(インターバル)であるために広い空間が広がっているだけである。

 

「馬鹿な……一時間もかからずに『下層』だと…!?」

 

ありえない状況に驚愕しているシャクティに対し、「では、始めようか」と声をかける。声をかけられたシャクティは、目の前にいる男への警戒心を最大まで上げて、得物である槍を構える。だが、それに対してカルキは一切の構えを見せない

 

「……何故構えない?」

 

シャクティが問うが、カルキは答えずまるで「仕掛けてこい」と言わんばかりであり、ならば、こちらからと一気に加速し、全力の鋭い突きを放つが

 

「な…に……」

 

全力で放った突きは、カルキの左手人差し指と中指によって止められていた。さらに、槍を動かそうと思ってもピクリとも動かすことが出来ない、すると、カルキは急にパッと槍を離し、「終わりか?」と眼で語り掛けてくる

 

「――――――――ッ、なめるなっ!」

 

シャクティは今、目の前にいる男が自分より遙か高みにいることに気付いていた、しかし、今まで自分が冒険者として積み上げてきた『技と駆け引き』ならばと高速で移動しながら槍をふるい、カルキに攻撃を仕掛けていくが、その全てがカルキに躱され、一回も当たらない、さらに、戦っているうちに、ある事実に気付く

 

「(一歩も動かせていない!?)」

 

そう、カルキは左足を軸にしながらその場から一歩も動いていなかったのである。それでも、シャクティは数十分カルキを攻め続けていたが、

 

「ふむ、どうやら余計な客が来たようだ」

 

唐突にカルキが38階層に続く階段を見て呟いたので、何事かと思い、そちらの方を向くと、数十体のスパルトイとオブシディアンソルジャーの群れが近づいてきており、迎え撃とうとすると、カルキがすっと前に出て、

 

「手合わせをしてみて、あなたが磨いてきた腕は分かった、その今まで積み上げてきた武に対して敬意を表し、一つ、奥儀を見せよう」

 

それだけ言うと、カルキは右手で顔を覆い、

 

「これはシヴァより授かりし武の奥儀!ブラフマーストラ!」

 

真言を唱え顔から手を離すと、カルキの目から出た光が真っ直ぐにスパルトイとオブシディアンソルジャーの群れに飛んでいったかと思うと、大爆発が起こりその全てが消滅し、ダンジョンの壁には奥は見えないほどの巨大な穴が開いていた

 

「では、帰るとするか」

 

呆然としているシャクティをまた小脇に抱えて帰ろうとしたその時、

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

 

叫び声をあげ、【災厄】ジャガーノートが現れた

 

「……ふむ、どうやらダンジョンを壊しすぎたようだな」

 




やっとタイトル回収、まあ、ダンジョンぶっ壊したらこうなるよねって


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話

もう、一気に一巻終わらせてもいいよね


オッタルの話し方これでええんか………


追記
お気に入り350越えありがとうございます


時計が12時を少し過ぎた頃、【ガネーシャ・ファミリア】の主神、ガネーシャの自室の扉がコンコンと叩かれ、「入っていいぞ!」と室内から返事があり、その扉が開かれ、ダンジョンから戻ったカルキが入ってくる。

 

「む?カルキ一人だけか?シャクティはどうした?」

 

「いや、実は……」

 

一人で戻ったことに疑問を感じたガネーシャはカルキに自派閥の団長について問うと、カルキはバツの悪そうな顔をして、先刻ダンジョンであったことを話し、今現在のシャクティの状況を説明する

 

「なるほど!つまり、ダンジョン37階層でブラフマーストラを放ってダンジョンを破壊してしまい、それによって産まれたジャガーノートをカルキが素手で引き裂くというあり得ないことを見せつけられ、精神的に参って今は自室で休んでいる……ということだな!」

 

「ああ、その認識で構わないと思う、本人と部屋の前で別れたとき、そう言っていたからな」

 

中層以降でダンジョンの修復が追い付かないほど破壊された時産み出されるダンジョンの免疫機構、その階層に存在するものを全て排除することから大神ウラノスによって【破壊者】の意味を持つ名前を付けられたモンスター、驚異的な俊敏性、鋭い爪による桁違いの破壊力、さらには魔法を反射するという能力、あまり長くは存在することはできないという弱点はあるが、階層主以上の力を持ち、5年前産み出されたときは、その場に居合わせた【アストレア・ファミリア】と【ルドラ・ファミリア】を襲撃、たった二人を除いて両ファミリアの団員を殺しつくしたということから【厄災】、【抹殺の使徒】とも称される文字通りの怪物、それがジャガーノートである。

 

―――――だが、そんな怪物をカルキはいともたやすく返り討ちにしてしまった。ブラフマーストラによって破壊されたダンジョンから産み出されたジャガーノートは己の使命に従い、階層にいたカルキとシャクティに襲い掛かった。しかし、カルキはジャガーノートの高速攻撃を一歩もその場から動くことなく迎撃、拳一発で怪物を地面に挨拶させ、手刀の形にした両手を頭部に突き刺し、手首を捻って、「フッ」と一息吐き、そのままジャガーノートを左右に引き裂いた後にはジャガーノートだった灰しか残ってはいなかった。

 

そして、そんなカルキの埒外ともいえる実力を目の当たりにしたシャクティは、一度ブラフマーストラで折られた戦意を喪失、否、それどころか心ここにあらずという状態になってしまったので、カルキはそんな彼女をダンジョンに来た時と同じようにわきに抱え、【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)へと戻ったのだが、「私は精神的に疲れたから休む……」とだけ言うと、部屋にこもってしまったため、仕方なく、カルキだけがガネーシャのもとに来たということが今回の顛末である。

 

「事情は分かった。……しかーし!オレは明日の『怪物祭』(モンスターフィリア)にシャクティは必要だからやりすぎるなと忠告していた筈!何故その忠告を無視したんだ!」

 

「いや、自分は普通に戦っただけだが?」

 

「まさかの認識の違い!!」

 

そう、カルキとしては普通に戦っただけなのだ……それがオラリオの常識外の強さを持っていたとしても

 

「まぁ、そういうことなら仕方ない!オレは今から落ち込んでいるシャクティをはげましてこよう!」

 

というなやいなや、ガネーシャは部屋を飛び出していった。ポツンと一人残されたカルキは、次はもう数十体追加できれば体を動かすにはちょうどいい数だなとジャガーノートと戦った際のことを思い出しながら、ガネーシャが自派閥の団長を励まし、戻ってくるまで瞑想でもしていようと足を組み、瞑想を行い、ガネーシャが部屋に戻ってくるのをを待つのであった。

 

後日、正義の妖精と白兎がジャガーノートとの決戦を制した後、下の階層から数十体のジャガーノートを引き連れたカルキが乱入、カルキが数十体のジャガーノートを次から次へと倒していく姿に「僕(私)達の戦いはいったい……」と心を折られかけるという事態になることはまだ誰も知らない。

 

***

『怪物祭』当日、年に一回行われる【ガネーシャ・ファミリア】主催の闘技場で行われるモンスターを調教を見世物としている催し、しかし、その裏に隠された本当の意味をオラリオに住む人々の多くは知らず、白兎は酒場で忘れ物の財布を預かりながらも己の主神と出店を回り、美の女神は道化の女神と会った後、偶々視界に入った白兎と戯れようと暗躍し、道化の女神は美の女神と会った後「デートやぁ」と【剣姫】(自分のお気に入り)と出店を回り、その眷属であるアマゾネスの双子姉妹と【剣姫】を慕う妖精の少女が闘技場付近でその二人を待っていたり、とそれぞれが催しを楽しんでいる中で

 

カルキはダイダロス通りの路地裏で一人の猪人(ボアズ)と相対していた

 

「(さて、どうしたものか)」

 

カルキが思うのも無理はないだろう、朝というより、少し前(美の女神の肩をぶち抜いた)から自分を探るような視線を感じていたことは確かであり、その正体が【フレイヤ・ファミリア】の団長であるということも気づいてはいた。しかし、いい加減鬱陶しく感じたので、わざと路地裏に入り、仕掛けてくるかどうか探ったら本当に出てくるとは思っていなかったのである。

 

「それで、自分に何か用だろうか?少し前からコソコソ覗き見ているのは分かっていたが……それとも主神と同じように、お前も人を見ることが趣味なのか?」

 

黒いバイザーをつけ、漆黒の戦闘衣を身に纏い、大剣を装備する【フレイヤ・ファミリア】の団長【猛者】(おうじゃ)オッタルに問えば、

 

「あの方からは……」

 

「?」

 

「あの方からは、貴様の実力を測れと言われたが、俺はあの方を傷つけた貴様を絶対に許さん……ここで死んでも文句は言わせん」

 

こちらの問いかけには答えず、大剣を振り下ろしてくる猪人の攻撃からカルキはヒラリと躱し、建物の屋上に飛び上がると、大剣の一撃によって破砕され、砂埃がいまだ舞っている路地裏を見ていると砂埃がはれ、バイザーに隠れて見えないが憤怒の感情を宿した眼をしている【猛者】がこちらを見上げているので見下ろしながら再度問う

 

「【猛者】よ、お前は、「武人」だと聞いた。ならば敢えて問おう、お前がこの世で最も美しいと思うものはなんだ?」

 

「決まっている、この世で最も美しいのはあの方(フレイヤ様)だ」

 

堂々と答えるオッタルに対し、眉間に少ししわを寄せ何か思案するカルキ、そのカルキの姿を“隙”と捉えたのであろう、オッタルは跳躍し屋上にいるカルキに対し大剣を振り下ろす。がその渾身の一撃ともいえる攻撃をカルキは容易く片手でオッタルの腕を掴み、放り投げる。上手く隣の屋上に着地したオッタルに対しカルキはさらに問いかける。

 

「では、重ねて問おう、あの女神(フレイヤ)の本質は風だ、どこにも留まらず誰の元にもとどまらない、あれは誰かを己のものにしようとしても誰のものにもなる気はない一方的な女神だ、そんな女神にどうして心酔することが出来る?」

 

どこかカルキは試すような見極めるような口調でオッタルに問いかける、それに対し、オッタルは薄く笑みを浮かべながら答える

 

「そんなことは貴様に言われずとも知っている。だが、届かぬとわかっていても俺は手を伸ばし続けるのだ。大地に立つ限り風が失われることはなく、もし風が焦がれる空が現れたというのならば大地に立つ自分は見上げることしか出来ずとも俺は手を伸ばし続けよう」

 

そうした愚行を今まで都合6度超えてきたのだからと言外に語るオッタルに対し、

 

「……なるほど、ようやく納得がいった。【猛者】いや、オッタルよ、お前は「武人」ではなく「求道者」だったのか」

 

カルキはどこか納得した口ぶりでオッタルのことを「武人」ではなく「求道者」とした。そのことに対し、「何故だ」とオッタルが疑問を口すると

 

「当然だろう?「武人」であるならこの世で美しいものを「女神」とは答えないからな……だが、「武人」としては認められなくても「求道者」としてならば認めよう。もし、お前が女神以外の答えにたどり着いたらその時はお前を「武人」と認めよう」

 

そう返すカルキに「なにを……」と返したオッタルにカルキは右手を前に出して

 

「だが、どうやら今日はここまでのようだな。どうも、とある神を怒らせてしまったらしい」

 

「なに……?」

 

オッタルが疑問に思うと同時にその周辺にだけ猛烈な風が吹き荒れ、どういった原理なのか不明だがカルキのみが飛ばされてゆき、その場には大剣を持ったオッタルだけが残されていた。

 

***

突然の風に吹き飛ばされ、オラリオの市壁にたたきつけられたカルキは、自分を吹き飛ばし、市壁に叩きつけた犯神について心当たりがあった

 

「確かにあの女神を“風”と称したが、そこまで怒る必要はないと思うのだがな……風神(ヴァーユ神)よ」

 

天界にいるにも関わらず、自らの権能を使い、カルキを吹き飛ばした神に対してつい文句を言ってしまったカルキはゆっくりと立ち上がり、ノロノロとダイダロス通りを歩いていると人だかりを見かけた。その人だかりがやけに興奮しているのとその中心から見知った気配がするので近づくと、自分と同じように今着いたのであろう、【剣姫】とその主神のロキが近くの人に話しかけていることに気付き、話を盗み聞きすると、どうやら白髪赤眼の兎のような少年がシルバーバックを倒したらしい

 

「(なるほど、ベルが……いや、これはあの女神の戯れなのだろうが)」

 

とこの騒ぎの背後にいるであろう女神に呆れつつも

 

「(路地裏の英雄か……)」

 

奇しくも【剣姫】と同じ感想を抱いたカルキだった。

 




ジャガーノートは犠牲になったのだ……インドの犠牲にな………


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話

スカディ引けました、これでマーリン、孔明と揃った・・・


からQP集めなきゃ(使命感)




お気に入り400件、ありがとうございます!


カルキが風神(ヴァーユ)によって吹き飛ばされた時、自らの眷属と共にモンスターに追いかけられ必死なヘスティア以外のオラリオにいるすべての神々が確かに下界に介入してきた風神(ヴァーユ)の権能に気付き天を見上げた。

 

「カルキ…ヴァーユを怒らせたのか……?」

 

群集の主(ガネーシャ)は何者かによって逃げ出したモンスターへの対処を自派閥の団員に指示しながら誰にも気づかれずに呟き

 

「何故…ヴァーユが……」

 

『月と酒』を司る酒神(ソーマ)は趣味である酒造りの手を止め、前髪に隠れた眼を開いて天井を見上げ

 

「ヴァーユが介入してきた、ということは……」

 

極東の武神(タケミカズチ)はこのオラリオにあの領域の神々の関係者がいると確信し、急に天を見上げた姿を不思議に思ったのかこちらを見ている己の眷属に「何でもない、さあ、祭りを楽しむぞ!」と声をかけつつも内心ではその人物と手合わせすることを望み心躍らせ

 

「ヒヒヒッ、おいおい、面白いことでも起こるのかぁ~」

 

人工迷宮(クノックス)に潜む愉快神(イケロス)はこのオラリオで起こるかもしれない波乱に思いをはせ

 

「うーん、大丈夫なのかなぁ、エニュオの計画ってやつ」

 

闇派閥(イヴィルス)の主神となっている死の神(タナトス)は今後についての不安を覚え

 

「ば、馬鹿な…これでは私の『狂乱』(オルギア)が……」

 

酔っているはずの酒と狂乱の神(デュオニュソス)は酔いが覚めるほど顔を青ざめ

 

「ふん、あの神々のことなどどうでもいい、今はフレイヤだ……」

 

フレイヤに嫉妬するもう一人の美の女神(イシュタル)は興味なさそうにしつつも声が上ずり

 

「はん!あいつらの一柱が介入しようとアタシにゃ関係ないね」

 

嘯く貧窮の女神(ぺニア)は動揺を隠すように持っている酒を一気に飲み干し

 

「うーむ、もし今後もあいつらが介入するとなると金儲けどころでは……」

 

祭りにかこつけてアコギな商売をしている医神(ディアンケヒト)は今後、あの領域の神々が介入しないことを願い

 

「うむ…人間(子供たち)に被害がなければいいが……」

 

善良な医神(ミアハ)は人に被害が出ていないか心配し

 

風神(ヴァーユ)か…太陽神(スーリヤ)でなくて良かった……」

 

恋多き神(アポロン)は『神格』が高すぎる同じ太陽を司る神が介入したのではないことに安堵し

 

「むぅ…」

 

寡黙な鍛冶神(ゴブニュ)は錬鉄していた手を止め天を睨み

 

「どうなってるの!?」

 

≪ヘスティア・ナイフ≫を打ち終え、一息ついていた赤髪の鍛冶神(ヘファイストス)は動揺を隠しきれず

 

「う、嘘やろ…なんであの領域の神が……」

 

食人花を倒してアマゾネスの双子と別れ、残りの逃げ出したモンスターを【剣姫】と追っている、天界にいた頃に太陽神(スーリヤ)武神(インドラ)の喧嘩に面白半分でちょっかいを出し、その二柱から消滅させられる一歩手前まで殺されかけ、あの領域の神々の恐ろしさを骨の髄まで嫌というほど叩き込まれた道化の女神(ロキ)は震え上がり

 

「あの人間が…いえ、まさかね……」

 

自分を傷つけた人間があの領域の関係者ではと思った美と豊穣の女神(フレイヤ)だったがそんなことはありえないだろうと首を振り、今、格上の存在と向き合っている白兎に興味を移す

 

「ウラノス…?」

 

「まさか、あの神々の一柱が介入してくるとは……」

 

ギルドの奥、祈祷を捧げる「最高神」とも称されるウラノスは話しかけてきた黒衣の魔術師からの問いかけを半ば無視して、あの領域の神々が今後も介入してくる可能性について思い悩む

 

この神々以外の神々も期待、不安、動揺といった三者三様の反応を示す。ヴァーユが権能を使ったのはほんのわずかな時間であり、オラリオに住む人々は何も感じなかった。しかしオラリオにいる神々はこのオラリオに間違いなくあの神々の一柱が介入してきたという事実に少なくともこのオラリオで近いうちにナニかが起きるだろうという確信と不安を持ったのである。

 

***

その夜、とある裏通りにあるひっそりとした酒場にカルキは向かっていた。その酒場につくと「どうぞこちらに、お連れ様方はお待ちになられています」と通される。ガネーシャに呼び出されたためこの客が一人もいない酒場に来たカルキであったが、どうやら待っているのはガネーシャだけではないらしいと店の一番奥にある個室に入ると

 

「おお!待っていたぞ!カルキ!!」

 

「ガネーシャ…少し静かにしろ……」

 

そこにはガネーシャと前髪で目を隠した神がいた。カルキはガネーシャに「この神は・・・?」と問うと「ソーマだ」と返って来たのでなるほどそういうことかと納得し挨拶する

 

「お初にお目にかかるソーマ神よ、自分はカルキ・ブラフマンという」

 

「知っている…先ほどガネーシャからお前がこのオラリオに来た理由も聞いた」

 

どうやらこちらのことはある程度ガネーシャから聞いたらしい、そうなると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「それで、今日の昼間感じたヴァーユの権能についてだが……」

 

「うむ!何をやったのだ?カルキ!」

 

やはり呼び出されたのは昼間、自分がヴァーユの権能によって吹き飛ばされた一件のようだとカルキはため息をついて答える

 

「なに、フレイヤ神の本質を“風”と例えたらヴァーユ神を怒らせてしまったようだ」

 

その答えを聞いたガネーシャとソーマはさらに大きなため息をつくと、

 

「大山鳴動して鼠一匹とはこのことか……」

 

「いや、炎や太陽、雷霆と称さなかっただけマシだったと考えた方がよいのではないか?もし風ではなくこれらに例えていたらいったいオラリオにどれだけの被害が出ていたかわからんぞ!」

 

どこか呆れたような安堵したような何とも言えない雰囲気となり呼び出されたことについての説明は終わったのでカルキが退出しようとすると

 

「まあ、待て!せっかくソーマが神酒を持ってきてくれたのだ!カルキよ、一つ付き合ったらどうだ!」

 

「私が造った…最上の神酒だ」

 

「神二柱から誘われては断る道理もないか……」

 

ガネーシャとソーマの神二柱から誘われては断れるはずがないと暫くガネーシャとソーマと杯を交わすカルキであった。

 

***

次の日、カルキは【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)の庭に生えている木の下でヨーガの体勢を取り瞑想していた。その姿を見て【ガネーシャ・ファミリア】の団員は「また働きもせずに・・・」と呆れていたが今回はガネーシャだけでなく団長であるシャクティまでもがカルキを擁護するので何事かと首をひねっていた。

 

その頃、カルキの魂は下界にはなく天界にあった。しかしその魂ははっきりとカルキの姿をしており、またしっかりとした足取りで目的の神々がいる場所に向かって歩いている。そして暫く歩いた後、カルキは体の前で両手を合わせ一礼する。

 

「偉大なる三柱神(トリムルティ)、並びにリグ・ヴェーダの神々よ、カルキ・ブラフマン、ここに参上しました」

 

恭しく挨拶をすれば、そこにはオラリオにいる神々とは比べ物にならない程の高い『神格』を持った神々が次々に音もなく現れる。その神々に対し、カルキは再び両手を合わせ、一礼してから

 

「では、オラリオで見つけた世界を担う可能性のある英雄と人語を話し、対話を望み、闘争を避けようとするモンスターの通称、異端児(ゼノス)についてのご報告をさせていただきます」

 

カルキはこの数ヶ月間で見つけた世界を担うことになるであろう英雄の卵と下界の可能性の一つとされる異端児(ゼノス)についての報告を神々に始めるのであった。




いや、本当にカーリーどうしよう・・・


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話

うーん、どうもダンまち本編を読み返してみると2~3巻が一か月たってない………


オリ主瞑想しとるし……天界行っちゃったし……


せや!もう一気にメインヒロインのとこまで行けばええやん!ってことで3巻入ります





ベル君………成長早すぎん?(今更)


カルキがヨーガの体勢を取り瞑想し、魂が天界にある頃、オラリオでカルキの正体について最も近づいていたのは美と豊穣を司り都市最大派閥を率いる女神フレイヤであった。

 

「……もう一度聞くわ、本当にあの人間が『とある神を怒らせた』と言ったら風が吹き荒れ、その人間を吹き飛ばしたの?」

 

「間違いありません、フレイヤ様」

 

「そう……ありがとうオッタル、いい情報だったわ…あと、もうあの人間には関わらないようにアレン達にもそう伝えて」

 

自らの眷属であるオッタルから報告を受けたフレイヤはその美貌をわずかに歪め、「下がっていいわよ」と言ってオッタルを下げさせ、椅子から立ち上がり、窓際まで寄ってじっと考える

 

「(まさか本当にあの人間が『リグ・ヴェーダ』の神々と何らかの関係が……?)」

 

昼間、ヴァーユの権能を感じた際に自分が思ったことが当たっていたということに驚きつつ最悪の事態を考えていた

 

「(まさかあの人間『リグ・ヴェーダ』の神々だけでなくあの三柱神(トリムルティ)とも関係がある…)なんて………考えすぎね」

 

思わず自分が考えた最悪の事態を「そんなことはないだろう」と思い直し、今はあの真っ白な魂を持つ少年(ベル・クラネル)について考えようとする

 

もし本当にあの人間と三柱神(トリムルティ)に何らかの関係があり、とある奥儀を修め、神造武器を授けられていた場合、冒険者もごく一部を除いた神々もその人間に並ぶ強さを持っておらず、かの神々が介入するまでもなくオラリオに住まう全ての人間と神々はなすすべもなくたった一人の人間に滅ぼされるという事実から目を背けて

 

***

瞑想を終えたカルキの瞼がゆっくりと開く、久しぶりに当たる光に目を細めていると、こちらに向かってくる気配があるのでその方向を見るとゆっくりとした足取りでガネーシャが来ていた

 

「今回は随分と長かったな!カルキ!まさか20日も瞑想を続けるとは!……やはり異端児(ゼノス)について荒れたか?」

 

最後の方は小声で聞いてくるガネーシャに対し

 

「そうか、今回は20日もかかったか……いや異端児(ゼノス)については荒れなかった。むしろ今までの下界の常識を『破壊』し新しい常識を『創造』させ、『維持』できるならばと三柱神(トリムルティ)は認め『怪物との友愛』(モンスターフィリア)についても賛成してくれた」

 

その答えにガネーシャは安心する。あの三柱神(トリムルティ)異端児(ゼノス)の存在を認めるならばこちらも大手を振って行動できるというものであるがそうなると疑問が出てくる

 

「ならば何故こんなに長くかかったのだ?天界で一体何があった?」

 

今回瞑想を行いカルキの魂が天界にいたのは20日、普段ならば数日で下界に戻るはずなのに今回は異常と言っていいほど天界に長くいたのだ。そのことについて疑問に思ったガネーシャが尋ねると

 

「いや…スーリヤ神がいの一番に認めたから……な」

 

どこか疲れた表情で答えたカルキにある神のことをガネーシャは察する

 

「あっ……インドラか」

 

そう、異端児(ゼノス)についての報告は三柱神(トリムルティ)がその存在について認め『怪物との友愛』(モンスターフィリア)についても賛成し、これならばと思い『リグ・ヴェーダ』の神々にも意見を求めたところ、いの一番に太陽神であるスーリヤが「太陽は常に平等に全てを照らし生命を育むもの、そこには人もモンスターも関係はないだろう」と異端児(ゼノス)について認め賛成したのだがその意見を聞いた途端、武神であるインドラがそんな存在は認められないとスーリヤの意見に対して大反対したのである

 

実はこの太陽神スーリヤと武神インドラは好敵手であると同時に不俱戴天の敵でもあり、しょっちゅう喧嘩という名の殺し合いを行ない、どちらかが右に行けば一方は左に、片方が正義につけば片方は悪にというような形で常にお互いに張り合っている間柄なのである。さらにタチの悪いことにこの二柱、自分たちの戦いに三柱神(トリムルティ)の一角、維持神ヴィシュヌを除いた第三者の介入を極端に嫌っていて、以前カルキが試練の1つとしてこの二柱の喧嘩の仲裁をしようとして逆に二柱と戦う羽目になったこともあり、また、これはカルキも知らない話であるが、ずっと前には天界のトリックスターと称されるロキがこの二柱の喧嘩に面白半分でちょっかいを出した結果、インドラのヴァジュラで黒焦げにされ、太陽に磔にされて燃やされた挙句、スーリヤの戦車で引きずられた後インドラのヴァーナハ(神の乗り物)の白象アイラーヴァタに踏みつぶされ、一応は殺さないように加減はしていたそうなのだが消滅一歩手前まで痛めつけられ、主神であるオーディンやトールの必死のとりなしによって許されたということもあったのである。

 

そんな二柱がよりにもよってこのタイミングで喧嘩を始めてしまい、他の神々が止めさせようとすると「お前たちは黙っていろ」と言わんばかりに二柱から攻撃が飛んできたことにカチンと来たらしい炎神アグニや先日下界に介入した風神ヴァーユ、医神アシュヴィン双神、技巧神トヴァシュトリ、アスラ神ヴァルナ、冥府神ヤマ、財宝神クベーラ、司法神ダルマ、蛇神ナーガといった『リグ・ヴェーダ』の神々までもが喧嘩に乱入、さらには三柱神(トリムルティ)の一角である破壊神シヴァまでもが「楽しそうだ」と参加する大喧嘩となってしまい、その結果カルキは天界に往復で2日、喧嘩が終わるまで18日間の計20日も滞在しなければならなかったのである。

 

「ガネーシャ神よ、あの二柱の仲の悪さはどうにかならないのか」

 

「無理だな!あの二柱の仲の悪さは折り紙付きだ!それこそロキとヘスティアのようなものだろう!」

 

「あの二柱の関係とは比べものにならないのだが?」

 

どうやらガネーシャからすればスーリヤとインドラの関係とロキとヘスティアの関係はそう変わらないらしい。「やれやれ」と呆れつつ固まった体を伸ばしながらふと思ったことをカルキは話す。

 

「もし、スーリヤ神とインドラ神が人間との間に子供をもうけたら、あの二柱の仲の悪さまで引き継がれそうだな」

 

「ハッハッハッ!体からバキバキ、ゴキゴキ鳴ったらいけない音が鳴っているぞカルキ!あの二柱に子供が出来たらならばそうなるかもな!ハッハッハッ!」

 

腰に手を当てながら大笑いするガネーシャに「いや、笑えないのだが……」と思うカルキであった。

 

***

さて、凝り固まった体をほぐすには体を動かすしかないのだが、そうなると十二分に体を動かせる場所はダンジョンである

 

が、ガネーシャに天界であったことや天界でヴィシュヌに追加の依頼を受け、それがオラリオ外での依頼であるため旅支度やオラリオ外に出る許可申請書類の作成をせねばならずその準備に2日かかり、準備も終わったのでオラリオの大通りを歩いていると

 

「なあ、知ってるか、今、【猛者】が17階層にいるらしいぜ」

 

などという会話が耳に入ったのでこっそりと盗み聞きすると、どうやら【猛者】が17階層に駐留し何やらミノタウロスと戦い続けているらしい、いや、あれは調教(テイム)しているんだ、おそらく【遠征】に向かう【ロキ・ファミリア】を待ち伏せている等の噂が流れていたが、カルキはオッタルの目的をすぐに見抜いた

 

「(なるほど、どうやらあの女神(フレイヤ)がベルに課そうとしている試練というわけか、ならばいっそ利用してやろう)」

 

フレイヤやオッタルがベルがミノタウロスにトラウマを持っていることをカルキも気づいていた。だからこそフレイヤはベルにミノタウロスをぶつけようとしていると判断できる。

 

()()()()()()()、つまらない女神の試練ではなく、()()()()()()()()()()()()()()とカルキは考えたのである。

 

「(さて、今からミノタウロスを鍛えないとな)」

 

そう思ったカルキはすぐにダンジョンに向かったのであった

 

***

封じ込めていた大型のカーゴから自分を解き放った冒険者数人をここ数日で自分を鍛えたあの猪人(ボアズ)から渡された大剣と技で肉片に変えたミノタウロスは荒い息を吐きながら次の獲物を探そうと動き出した。すると

 

「なるほど、このミノタウロスがあの求道者が鍛えていたものか」

 

こちらに近づきながら自分に声をかける者がいる。そちらの方を見てみると、あの猪人よりは小さい黒髪黒目の男、防具はつけておらず武器も持っていない、ならば新しい自分の獲物だと大剣を振りかぶり男に向かって振り下ろすが

 

「ふむ、どうやらある程度は鍛えられているようだ」

 

思わず猛牛は目を見開く、そこには自分の一撃を左手の人差し指と中指で挟んで受け止めた男が立っていたからである。とっさに後ろに飛んで距離をとったがそれでも一瞬で詰められると野生の本能で感じ取った

 

この男は自分よりあの猪人よりも強い遥か格上の存在であると

 

『ヴ、ヴォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!』

 

だが猛牛は自らを鼓舞するように咆哮を上げ格上の男に向かっていく、そんな猛牛を真っ直ぐ見ながら

 

「さて、一夜漬けでどこまで鍛えられるか……」

 

薄い笑みを浮かべながらカルキは猛牛を鍛えるのであった




ダンまちの押しも押されぬメインヒロインは紐神でも小人でも狐人でも正義の妖精でも酒場の町娘でもペタンコアマゾネスでも金髪女剣士でも美の女神でもなくあの猛牛だと思う


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話

気付けば2桁………


うーん、ミノの強化これでええんか………


星4交換バサランテにしようかなと考えていた矢先に呼札1枚できたので段蔵ちゃんにしました。

幕間楽しみです


深夜、ダンジョンに潜る者はおらず、今ダンジョン13階層の広間には『フーッ、フーッ』と猛牛の吐く息の音しかしない

 

「どうした……終わりか?」

 

その猛牛と向かい合う男はもう既にミノタウロスを鍛えて数時間経っているにもかかわらず()()を片手で持ち上げ肩に担ぎながら余裕の態度を崩さずダンジョンの地面に膝をついたミノタウロスを見下ろしていた

 

『ヴ、ヴォォォ…』

 

()()()を地面に突き立て、ミノタウロスは目の前にいる自分を9階層から13階層へと叩き落した男を睨みつける。その闘志の消えていない怪物の眼を見た男がニヤリと嗤ったような気がしたミノタウロスは咆哮を上げ再び男へ襲い掛かるが

 

「やはり怪物、学習しないか」

 

男はつまらなそうに言うとミノタウロスが認識できない速さで飛び廻し蹴りを突っ込んでくるミノタウロスの頭部に放ちミノタウロスを壁に叩きつける。ダンジョンの壁に叩きつけられたミノタウロスは力なく崩れ落ち意識をなくすのであった。

 

***

「(さて、これはどうしたものか)」

 

カルキは悩んでいた。あの求道者が鍛えていたミノタウロスを見つけ鍛えることを邪魔されないように下の階層へと叩き落したのは良かったのだが、一向にこの怪物は「技と駆け引き」というものを学習しないのである。大剣はただ使えるだけで突く・斬る・払うの3つの基本すらなくただ勢いに任せて振り下ろすだけで、これではレベルの低い冒険者でも次にどのような攻撃が来るのか判るほどの拙さであったため大剣を取り上げ、その巨体を生かした攻撃の出来る武器をと思っていたら地面から両刃斧を取り出したためそれを使うならばとしばらく手を抜いて様子を見ていたのだが、あくまでも使うことが出来るという範囲であって技が一つもないのである。カルキは「うーん」と左手を口に当てながら

 

「(分かってはいたことだが技は覚えない……となるとこの巨体の重さをどれだけ武器に乗せられるかだが)」

 

ちなみに武器に自らの体重を乗せるということもある意味一つの技であり、武器を使う際に共通する基本中の基本の技なのだが「え?そのくらい教えなくても出来るでしょ」とカルキにとって武術の師匠であるシヴァは技と認識していなかった為、何も教えずカルキもシヴァと修行しているうちに勝手に出来ていたので人間相手どころかモンスター相手にどう教えたらよいのか分かっていないのである。

 

暫くの間カルキがどう教えたものかと悩みながら大剣の手入れをしていると、どうやら意識を取り戻したらしいミノタウロスが起き上がったので再び鍛えようと向き合うと

 

『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

とミノタウロスが大咆哮を上げるとその体躯が()()へと変わったのである。

 

「ほう…」

 

モンスターが見せた変化にはカルキも多少の興味を示す。漆黒となったミノタウロスは咆哮を上げながら今までとは比べ物にならない速さでカルキへと突貫しするが、その突貫をいとも容易く避けたカルキの横を通り過ぎた瞬間に右腕が斬り飛ばされていた

 

「なるほど、力と速さ、打たれ強さが多少上がったか。まあ、これなら技がなくても今のベルなら脅威になるだろう」

 

簡単に右腕を斬られ、激痛に膝を折ったミノタウロスに対してカルキは再び向き合い

 

「では、休憩は終わりだ………来い」

 

そう言って大剣を構えたカルキに漆黒のミノタウロスは再度決して傷一つつけることの出来ない相手に向かっていくのであった

 

***

朝、道化師のエンブレムが刻まれた団旗の下、【ロキ・ファミリア】は深層への遠征に出発し、バベルの最上階に座す美の女神は「————さあ、見せてみなさい?」と白兎の冒険を望み、その従者は主の望みを果たそうと暗躍し、何も知らない白兎は普段通りにサポーターの小人族(パルゥム)の少女と共にダンジョンへと向かう中

 

「やはり、一晩ではあの程度が限界か」

 

などとひとりごちるカルキは9階層の通路にいた。結局、あれからあのミノタウロスを一晩鍛えたが体躯が漆黒となり、力、速さ、打たれ強さが上がっただけで技は一つも覚えず、武器の扱い方が多少マシになったという有様であった。

 

「(こんなことなら【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちがモンスターを調教(テイム)しているところを見ておくべきだったか……)」

 

らしくもなく後悔するカルキであったが、調教とは普通はモンスターに技を教えるということはしないので「そんなことはしないぞ!」といつもならガネーシャからのツッコミが入るところである。

 

「さて、どうやらベルもダンジョンに入ったようだ……他は無視しろ白髪の少年を襲え殺しても構わない……わかったな」

 

『ヴォ…』

 

カルキの言葉に同意するように漆黒隻腕の猛牛は声を出し、そのまま正規ルートの広間の一つに向かう。その後ろ姿を見ながらカルキは呟く

 

「さあベルよ、お前の『英雄の素質』を見せてみろ……」

 

戦って生き残れば良し死ねばそれまでの器と言外に語るカルキは物事を見極める際のヴィシュヌと同じ表情であるとその場に三柱神(トリムルティ)を知っている神がいればそう評していた筈の表情であった

 

***

最初に白髪の少年が漆黒隻腕の猛牛を見た時その瞳に浮かんだのは恐怖、サポーターであろう少女に突き飛ばされ、正気を取り戻しミノタウロスと向き合い魔法を乱発する。そのある種みっともないと称される姿をカルキは通路に隠れて眺めていた

 

「(初動は最悪だったが、すぐに戦意を取り戻したか……それにしても見境なく魔法を打ちすぎだろう、アレは間違いなく初速が早い代わりに威力が低い、確実に的確に当てなければ意味がないのに……恐怖に飲まれているか)」

 

いっそ残酷といえるほど冷静にカルキは今のベルの動きを評する。案の定、ミノタウロスには傷一つ負わすこともできておらず、それどころかミノタウロスが振り下ろした両刃斧が地面をうがちすぐ下の階層が見えるほどの大穴を開け、その衝撃だけで数十M(ミドル)も飛ばされ、壁に叩きつけられるという有様であったがそれでもベルは立ち上がったがその眼は絶望に染まってしまっていた。

 

「(さて、ここからどうする……?)」

 

広間に別の通路から入り、ミノタウロスに恐れをなして逃げ出した冒険者に気付きながらカルキはベルを少し驚きながら眺める。技や駆け引きがない力任せの攻撃、一晩だけとはいえ自分が鍛えた怪物の攻撃をベルは紙一重であるが確かに躱して見せたのだ、ならば後はどれだけ恐怖に飲まれずに一歩前に出れるかどうかだがどうにもその一歩が出ずにただミノタウロスの攻撃から逃げ回っているだけになっている。が、それが功を奏したのであろう、ベルに突っ込んでいったミノタウロスはその突進を躱され、そのまま壁をぶち破りながら別の通路に行ってしまったのである

 

「(やはり獣は獣か)」

 

カルキがミノタウロスに対して思わず呆れているとベルがサポーターの少女に向かって叫んだ

 

「リリ、逃げて!」

 

「(!?)」

 

ベルの余裕のない悲痛な叫びを聞いて思わずカルキは目を開く

 

「(この状況で仲間に「逃げろ」というのか「逃げよう」ではなく)」

 

暫くやり取りをしていた二人であったが、リリと呼ばれていた少女は顔がくしゃと歪めてベルに背を向け走り出す。しかし、ベルは逃げずにミノタウロスがいる方向を睨みつけている。そう、「逃げろ」と「逃げよう」というのは似て非なる言葉なのである。しかもベルから感じられるのは自分が逃げたら彼女が死ぬ彼女を死なせたくないけど逃げたい生きたいというぐちゃぐちゃな感情であった。

 

するとすぐに先ほど突き破った壁からミノタウロスが出てきたのを見てベルは右腕をプロテクターに突っ込み短剣を抜剣し、ミノタウロスと向き合う。が、やはり力の差は歴然でどうにか逃げ回りながらやり過ごすという先ほどとあまり変わらない光景が繰り広げられた。

 

「(どうやら覚悟は決まったようだ、ならばこの後はどうするベル……?)」

 

カルキはベルが少女を逃がすために戦うと覚悟を決めたことについては満足したが、その後どうなるのか、どうするのかについて興味が移っていた。勝利するなら最上、隙を見て逃げ出し己の未熟を恥じ自らを鍛え上げ再び挑もうとするのも良し、だが誰か助けが来てその人物にすべてを任せ戦っているミノタウロスを倒してもらうとするならばここで骸となるのが良い、とカルキが考えていると、先ほどベルが逃がした少女が走っていった通路の先から何者かが戦っている気配が感じられた。

 

「(ふむ、邪魔をされたら厄介だな、少し見に行ってみるか)」

 

そう思ったカルキは戦っている一人と一匹の近くに持っていた大剣を投擲した後、その通路へと向かった

 

***

「(―――――抜けた!)」

 

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインは都市最強冒険者【猛者】オッタルの横を駆け抜けた。遠征の途中、7階層ですれ違ったパーティから漆黒隻腕のミノタウロスに白髪の少年が襲われていることを聞き、居ても立っても居られず、隊列から離れ向かった9階層で【猛者】オッタルの妨害を受け、自らの魔法(エアリアル)を使用した一撃も純粋な力で止められ、後から自分を追いかけてきてくれたファミリアの仲間であるティオネ、ティオナ、ベートがオッタルを抑えてくれたおかげで抜けられたのだが

 

「……復讐者か」

 

耳元で声をかけられたと思った瞬間、首を掴まれたかと思うと急に浮遊感を感じ、投げられたと分かったのは受け身も取れず地面に叩きつけられ、後からやってきた【九魔姫】リヴェリアに受け止められた時だった。

 

「アイズ!?」と驚きアイズに駆け寄る仲間や無表情だが通路の奥を警戒しているオッタルがにらみつける中、ゆっくりとアイズを投げ飛ばした人物が通路の暗闇から現れる

 

「お前は……」

 

オッタルが少し驚いた声を出すがそれは【ロキ・ファミリア】の幹部たちも同じ気持ちになった。なぜならその男は約1ヶ月前、自分達【ロキ・ファミリア】相手に大胆不敵な物言いをした人間だったからだ。

 

「なるほど、何者かが戦っている気配を感じたから来てみれば……求道者と【ロキ・ファミリア】だったか」

 

などとここにいる第一級冒険者などさしたる脅威ではないと謂わんばかりにやってきたのは『豊穣の女主人』でアイズが隠していることを言い当て、【ロキ・ファミリア】に喧嘩を売るような言動をしたベルの連れの男(カルキ・ブラフマン)だった。




次回

『オッタルさん胃に穴が開く(物理)(仮)』


追記
お気に入り件数が500超えました

ありがとうございます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話

ベル君オラリオに来たの半年じゃなくて半月前だったわorz………

色々書きなおしました

アイズの話し方がわからん!これでええんか……?(2度目)




「(どういうこと……?)」

 

この場にいる都市最強冒険者を含む第一級冒険者達が通路の奥から現れた(カルキ・ブラフマン)に対して警戒心や敵意、殺意を抱く中、たった一人だけその場で動揺し困惑していた者がいた

 

「(この人は、『神の恩恵』を貰っていないはず……)」

 

自分と特訓していた白兎とその主神から今自分を放り投げた男についてそのように聞いていたアイズ・ヴァレンシュタインは今、自分の常識では考えられないことが起こったことに混乱していた

 

***

そもそも、今、【ロキ・ファミリア】の面々が目の前に現れた男に対して凄まじいほどの敵意や殺意を向けているのは『豊穣の女主人』でその男が話したドラゴンの例え話が自分たちのことを暗喩していたことを酔いが覚めたベートとティオネが気付き、「俺が折れた牙と爪だと…情けねえってか!」「ころころ色の変わる鱗…誰が一貫性がないだとぉ!」と完全にキレてしまい、なんとか二人を宥めようとしたティオナもキレている(ティオネ)から「てめぇは『笑うしか能がねぇ』って言われてんだぞ!」と少し違ったニュアンスで言われ「むー、それは何だか嫌だ」と嫌悪感を示し、他の団員たちも自分たちが言外に『弱い、弱すぎる』と言われていたことに気付いたラウルやアキから伝えられたため、『あの酒場であった男は会ったら絶対ボコボコにしてやるorブッ殺す』という雰囲気が【ロキ・ファミリア】内で出来ていたからである。

 

幸い(?)その男とその居場所はすぐに分かった。男の名前はカルキ・ブラフマンといい、オラリオに来たのは一ヶ月たつか経たないかで【ガネーシャ・ファミリア】に「ガネーシャ神宛だ」と手紙を渡し、一週間後、ガネーシャの自室で二人きりで何事か話し合った後部屋から出てきたガネーシャが「明日からカルキもここに住むぞ!」と言い、説明を求めてもはぐらかし続けるガネーシャに抗議した団員たちに対して極東の武神から教わったという極東に伝わる最終奥儀DOGEZAをして【ガネーシャ・ファミリア】で居候することを認めてもらったらしいのだが

 

「あんな穀潰しのことなんて話すことはない」

 

とは【ガネーシャ・ファミリア】の副団長【赤戦の豹(パルーザ)】イルタ・ファーナにティオナがカルキ・ブラフマンについて尋ねた際に返って来た答えである。また、他の団員にもカルキ・ブラフマンという男について尋ねてみると『最悪の居候』、『ガネーシャに金をせびるクズ』、『いい加減働くか派閥の仕事を手伝え』、『数日間木の下で動かないの止めろ』、『とうとう団長までアイツのやる事を認めてしまった』等々、最低の評価しか聞こえてこないので、こんなクソ野郎に馬鹿にされたのかと怒り狂ったベートやティオネを中心とした一部の団員たちが最悪【ガネーシャ・ファミリア】の本拠地(ホーム)にまで乗り込んでカルキ・ブラフマンに痛い目を見せてやろうと意気込んでいたのだが

 

その団員たちを半ば力ずくで黙らせたのは【ロキ・ファミリア】の団長であるフィン、副団長のリヴェリア、最古参のガレスといった【ロキ・ファミリア】の顔ともいうべき人物たちであった。フィンは団員たちに『他派閥の本拠地に乗り込むことはルール違反であり、さらには都市に住む人々から信頼の厚い【ガネーシャ・ファミリア】と戦争することにもなる』『たかが批判されただけ、それも同業者ではなく一般人に怒り狂ったとなれば派閥や冒険者ひいてはオラリオの名誉にかかわる』この二つを徹底して団員たちに説き、『自分達は一切気にしていないのに勝手に行動する気か?』と半ば脅すような形で無理矢理沈静化を図ったのである。そのことにほとんどの団員は「団長たちがそこまで言うのなら」と渋々納得したが、やはりベートやフィンに固執しているティオネ等はカルキに対しての怒りが収まらなかったのである。

 

その一方でアイズは数日前、カルキ・ブラフマンについて特訓をつけてあげていたベルとその主神であるヘスティアからとある情報を得ていた

 

「恩恵を貰ってない……?」

 

「はい、カルキさんはそう言ってました」

 

数日前、特訓の休憩中に、ふと、アイズはカルキのことを思い出し、一緒に『豊穣の女主人』に来ていたベルにカルキについて聞いてみるとそのような答えが帰って来たので、一体どういうことなのだろうかとアイズはコテリと首を傾げる。あの夜、自分は確かに動揺していたが、それでも一瞬で自分の前から消えたと錯覚させるほど早く動ける人物が『神の恩恵』を貰っていないはずがないと思って特訓を見学していたヘスティアにも尋ねると

 

「うん、カルキ君は恩恵を貰っていない、本人から聞いたからね」

 

との答えに思わず疑った顔をしてしまったのであろう、「むっ、なんだい?その顔は」とヘスティアがプンプンと怒り始め

 

「当り前じゃあないか、神の前で人間(子供たち)は嘘をつけないんだぜ」

 

豊かな胸を揺らしながら「ふふん」と胸を張り自慢げに語るヘスティアにそれもそうだと納得したアイズは休憩を終え特訓を再開したのだが、だとするなら、今、ダンジョン9階層にいて、レベル6の自分が受け身をとれない程の速さで放り投げた目の前にいる人物は何者なのであろうか

 

「(あの子とヘスティア様が嘘をついていた?でもあの子が嘘をついているようにはとても……)」

 

思わずベルとヘスティアが嘘をついていたのでは?と思ったがすぐにそんなことはないと思いなおす。神は分からないが、あの純粋な白兎が一応(ロキ)の言動である意味鍛えられている自分を騙せるほど器用ではないとこの一週間でアイズは感じ取っていた。

 

「(ううん、今はそれよりもあの子を)」

 

既に通路の奥からは戦闘の音が小さくなってきており、恐らく今だ戦っているであろう白兎を助けることが先決だとアイズは立ち上がり、自分を奥に通さないように妨害をしてくるであろう【猛者】とカルキを見るのであった。

 

***

「(何者かが戦っているとは感じたが、まさか求道者と【ロキ・ファミリア】とは……)」

 

求道者や【ロキ・ファミリア】の幹部から発せられている敵意や殺気を軽く受け流しながらカルキは悩んでいた。復讐者の少女をつい放り投げてしまったが、何故あの少女がそこまでベルを助けようとするのか分からないが、ふとベルから聞いた話を思い出した

 

「(そういえば、ベルは5階層でこの少女にミノタウロスから助けられて一目惚れしたと言っていたな・・・ならば行かせた方が良かったか、さてどうする……)」

 

アイズにベルを助けに行かせ、ミノタウロスをアイズに任せるようなら英雄の器ではないとし、伸ばされた手を払いのけて自分であの怪物と向き合うのならば英雄の器であると見極められたかと少し後悔し、もし、後者をベルが選択した際、今、目の前にいる者たちがその行動にどのように影響されるのかということにも興味がわいたので「はぁ…」と一つため息をついてから

 

「(仕方がない、通すか)……この奥に行きたいのならば行けばいい、自分は邪魔をしない」

 

そう言うと自身はダンジョンの壁に半身を預け腕を組んで、敵対する意思がないことを示す。そんなカルキにその場にいる第一級冒険者たちはカルキが何を考えているのか分からずその場から動かなかったが「行かないのか?」と目で聞いてきたカルキにアイズだけが反応し、奥の広間に向かおうとし

 

「ぅぅおおおおっ!!」

 

アイズを奥へ行かせまいとオッタルが大剣を薙ぎ払うが、カルキが足元に落ちていた長剣を蹴り飛ばして大剣に当てオッタルの手から大剣を弾き飛ばす。その光景に誰もが驚愕するが、一直線に通路の奥に行くアイズを追いかけてベートとティオナ、ティオネがすれ違いながらカルキを睨みつけて横を通って行き、その場に残ったのは、カルキ、オッタル、フィン、リリの治療をしているリヴェリアだけであった。

 

「……フィン、リヴェリアお前たちも行け…お前たちを止められなかった我が身の未熟だ」

 

暫く黙っていた後フィンとリヴェリアに話しかけながら大剣を拾い上げるオッタルにそれならばとフィンとリリを抱え上げたリヴェリアはカルキの横を通る際に

 

「あの酒場で言われた一言はなかなかクるものがあったよ。だが()は曲げられなくてね」

 

厳しい顔で横を通り過ぎる小人族(パルゥム)の団長に「意固地だな」と肩をすくめるカルキに対し

 

「いずれあの酒場でのことの落とし前はつけさせてもらうぞ」

 

やはりエルフの誇りとやらが許せなかったのであろう、リヴェリアはカルキを睨みながら奥へと進んでいく。そんな二人を見送った後、カルキは今だ動かないオッタルに問う

 

「どうした?何故どこにも行こうとしない、お前の女神から出された仕事はおわっただろう?」

 

半ば挑発しているようなカルキの物言いであったが、オッタルはそれを聞き流してカルキと向き合い

 

「あの方からは貴様とこれ以上関わるなと言われているが……あの方が望んでいることを引っ掻き回した貴様を許せぬ」

 

大剣を構え、下級冒険者ならばそれだけで戦意を折られるほどの殺気を向けてくるオッタルに対し

 

「そうか…」

 

とだけ返し、カルキは少し離れたところにある刀を拾い上げ、オッタルに向き合うと、拾い上げた刀を数回感触を確かめるように振ってから

 

「では……少しだけ遊んでやろう」

 

刀をオッタルに向け、明らかに都市最強冒険者を格下にみているとしか思えないカルキの言動に

 

「ッツ!嘗めるなっ!」

 

激高する都市最強冒険者が振り下ろす大剣とカルキが振る刀が激突し、その衝撃だけで通路のいたるところにヒビを入れた

 

***

「アイズ・ヴァレンシュタインに、もう助けられるわけにはいかないんだっ!」

 

あの時と同じように【剣姫】から助けられた白兎は自分の前に立っている少女を自分の背後に押しやり、ナイフを構え漆黒隻腕の猛牛と対峙する。

 

その眼には絶望も恐怖も感じられず、ただ真っ直ぐな情熱をもって立ち向かう。

 

素早い動きは猛牛を上回り、猛牛から短剣を折られたら、いつの間にか自分たちの近くに刺さっていた大剣を地面から引き抜き、その重さに振り回されながらも両刃斧と打ち合う。

 

幸い大剣は上手に整備されているのか何合打ち合っても漆黒の猛牛を斬っても刃こぼれ一つしなかった。両刃斧を叩き落して大剣による三連撃を体に叩きこむと後退した猛牛は突撃体勢を取る。それを見て大剣を構えなおし迎撃する。

 

猛牛の突撃を真正面から受けて大剣は砕けるが、ベルはそのまま猛牛の懐に潜り込みヘスティア・ナイフを抜刀、猛牛の腹に突き立て

 

「ファイアボルト!」

 

砲声する。ただ目の前にいる強大な敵を倒すためだけ、ただそれだけのために何度も砲声する都合10の砲声を上げたところで猛牛の体は限界を迎えたのか爆散しそこにはモンスターの灰と魔石、ドロップアイテムの角と立ったまま気絶しているベル・クラネルだけがその激闘の跡を雄弁に語っていた

 

***

「ほう、ベルは勝ったか……やはりあの復讐者を行かせたのは間違ってはいなかったな」

 

どこかうれしそうな様子で()()でほかの戦いの様子に気を配ることの出来る余裕があるカルキに対して

 

「…ッツ!」

 

都市最強冒険者はたった数分の戦いで既に満身創痍であった。頭から大量の血を流し右目は閉じており、装備していた軽装のプレートアーマーごと真一文字に胸を深く切られ、左手は指先から肩口まで真っ二つにされ、全身は先ほど【剣姫】の魔法で出来た裂傷を的確に上から傷に沿って斬られたためズタズタにされている

 

今は右手で持った大剣を地面に突き刺し倒れないようにするのがやっとの有様であった

 

「では、ベルの方も終わったことだから地上に戻るとしよう」

 

オッタルに背を向け、持っていた刀を地面へ捨てて、石ころを一つ拾い上げてから、そのまま地上に向かおうとするカルキにオッタルは都市最強と呼ばれている意地と都市最強派閥を率いる団長としての矜持をもってカルキに向かっていく

 

「ウオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

モンスターの咆哮と聞き違えるほどの大音声を放ち、全身から血を流しながら突貫するオッタルが残された力を振り絞り大剣を大上段に構えた瞬間

 

「!?」

 

ゴボッとオッタルは大量の血を吐き膝から崩れ落ちる。オッタルは自らの腹部に穴が開いていることを感じ、いつの間に振り返ったのか、()()()()()()()()()、腕を下した姿のカルキを見ながら意識を失って腹に空いた穴から血を吹き出しながら前のめりに倒れた。

 

そんなオッタルに対しカルキは前のめりに倒れ背中を地面につけなかったことを好ましく思いつつも

 

「求道者よ、お前がもし本当に武人を名乗り自分の前に立ちたいならばせめて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を修めてから挑むべきだったな」

 

意識を失い倒れているオッタルを見下ろしながらカルキが呟いた言葉は誰にも聞こえることなくダンジョンの暗闇に消えていった




今回は戦わなかった方々ですが、ゼノス編で一方的に蹂躙されるのはどっちなんでしょうね(微笑)

追記
お気に入り件数600件超えました

ありがとうございます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話

ダンメモのイベントは国が相手のようで………

ベル君、ブラフマーストラでも一発キメとく?





あと、申し訳ございません、ちょっと独自設定を入れさせてもらいます。

ダメだと思ったら感想の方にお願いします


意識を失い倒れているオッタルから背を向け地上へ向かおうとするカルキは数歩歩いてから、はたと気付く

 

「(……ここに求道者を置いて行っていいのか?)」

 

敗者に手を貸すのはその者の誇りを汚すものではないかと考えたカルキであったが、ベルが試練を乗り越えた今、恐らく動けないベルとサポーターらしきリリと呼ばれていた少女を運んで【剣姫】と【ロキ・ファミリア】の幹部の誰かがもうすぐやって来ることは容易く予想できる

 

「(もし都市最強と呼ばれているこの男が倒れ自分がいないとなるとな……)」

 

間違いなく自分がオッタルより強いことが【ロキ・ファミリア】にバレる。そうなると間違いなく面倒ごとになるとカルキは思い至った

 

「(それに、あの女神(フレイヤ神)への警告になるかと思って求道者と戦ったが……)」

 

どうやらあの色ボケ女神(フレイヤ)はベルとミノタウロスの戦いに夢中で自分の眷属のことは全く見ていなかった、否、自分が率いる派閥の最強眷属(オッタル)が負けるはずがないと思っていなかったから見なかったというのが正しいのか自分の後ろにいる神々についての答えを出していたにもかかわらず聞いていなかったのである

 

「(この求道者もわずかに息があるようだが【フレイヤ・ファミリア】の本拠(ホーム)に投げ込むわけには…となるとあの酒場しかない訳だが)」

 

あの女神への牽制にはなるだろうと、カルキはわずかに息のあるオッタルを左肩に担ぐと地上に戻るべく歩き出した

 

が、その場に残った血だまりはそのままであったので、カルキが去った後、気絶したベルとリリを運んできたアイズとリヴェリアがその血だまりを目撃した結果、【ロキ・ファミリア】の間に【戦争遊戯】(ウォーゲーム)でカルキが姿を現すまで「カルキ・ブラフマン重傷or死亡説」が流れていたのは余談である

 

***

「そーいや、白髪頭で思いだしたけど結局あの連れは何者(ナニモン)だったんだニャ?」

 

唐突に思い出したかのようにベルの連れの男について店の仲間に質問したのは『豊穣の女主人』の店員で栗毛の毛が特徴の猫人(キャットピープル)の女性アーニャ・フローメルである

 

「そういえばそうニャ、あの少年と同じ【ファミリア】ってわけでもないみたいニャ」

 

「ほーら、そこの猫二匹サボってるとまたミア母さんにどやされるよ」

 

昼の修羅場が終わり、夜の仕込みへと移ろうかとしているのに仕事もせず呑気に聞いてくるアーニャに答えた二人の女性は黒髪の猫人クロエ・ロロ、そして質問にかこつけてサボろうとしているバカ猫を注意しているのは人間(ヒューマン)のルノア・ファウストである

 

「だって、結局あれから白髪頭はシルに昼飯たかりに来るのにアイツはあれから一度も来てないニャ、不思議に思うのは当然ニャ」

 

「確かにおかしいけど…」

 

「きっと、酔った勢いで【ロキ・ファミリア】に喧嘩売ったことに気付いて今頃は部屋の隅っこでブルブル震えてるニャ、ニャハハハハ!」

 

「…ハァ」

 

つい仕事の手を止めて話してしまうワケあり酒場三人娘に小さなため息をつきながら近づいてきたのはエルフの少女リュー・リオンだ。ちなみに【ロキ・ファミリア】との一件の際、カルキは酔っておらず素面である

 

「何ニャ?リュー、お(ミャー)もあの男が何者(ナニモン)なのか気になるのかニャ?」

 

「いいえ、それより」

 

こちらに来たエルフも自分たちと同じようにベルの連れが気になっているのかと尋ねるアーニャにリューは否定しながら、店のある一方向を指差す

 

「「「?」」」

 

三人が頭に疑問符を浮かせてリューが指差した方向を見てみると

 

「いつまでサボってくっちゃべってんだい!このバカ娘共ォ!!」

 

「「「ヒイイイイイイイイッ!」」」

 

案の定、店主のミアに三人揃ってどやされ、そんな光景を見て笑いあう他の店員たち

 

そんな普段通りの『豊穣の女主人』の日常であったが、唐突に中庭に出るための裏口がドンドンと叩かれ、その場にいる全員が一体何事かと思う中

 

「チッ、一体誰だい?裏口なんて叩く奴なんてアーニャ、ちょっと見てきな」

 

「了解ニャ」

 

こんな時間に酒場の入り口から入らず裏口叩く奴なんて碌な奴じゃないとミアはアーニャにみてくるように言い、アーニャは軽い足取りで裏口へと向かう

 

「ハイハーイ、どちら様ですかニャ?」

 

「……確か槍使いの猫人だったか」

 

「ニャニャニャ!お、お(ミャー)は!」

 

扉を開けたら今まで噂をしていた奴がいた。そんな状況になったらアーニャでなくても驚くであろう、しかし、アーニャにとっては聞き捨てならないことを目の前にいる男はサラリと述べたのである

 

「……お(ミャー)、ミャーが槍使いってどーいう意味だニャ?」

 

眼を細め、返答次第によっては…という雰囲気を纏うアーニャに男はその殺気を軽く受け流しながら

 

「見たらわかるだろう?そんなことは」

 

さも当然のことのように言う目の前の男にアーニャの警戒心は最大まで上がっているが、そこに「なんだなんだ?」と他の店員もやって来た

 

「ふむ、丁度いいか…例えば、今来た黒髪の猫人は短剣、人間(ヒューマン)の方は徒手空拳で二人とも暗殺者、そこのエルフは木刀を使った高速戦闘……合っているだろう?」

 

「「「!?」」」

 

自分の得物と戦闘スタイルを言い当てられたクロエ、ルノア、リューは男に対しアーニャと同じように警戒心をあらわにする

 

「なんだい?アンタ、ウチの娘たちを脅そうってかい?いい度胸してるねぇ?」

 

店の奥からは怒りを露わにミアが出てくるが、男は全く気にした様子もなく

 

「どうしてそうなるのか分からないが……実は頼みがあってきたのだが、良いだろうか」

 

「へぇ…人にもの頼む態度じゃあないね」

 

頬を引きつらせながら言うミアに

 

「なに、大したことではない、この求道者の治療をと思ってな、ここはフレイヤ神、ひいては【フレイヤ・ファミリア】とも近しいだろう?」

 

そう言って、床に投げ捨てられた人物を見て『豊穣の女主人』の店員達はミアを含めて目を見張る

 

「……お【猛者】」

 

声を出すことが出来たのは誰だっただろうか、都市最強冒険者が全身から血を流し、腹には穴が開き、意識を失い倒れているという現実にその場の誰もが一言も発せない中

 

「では、頼んだ」

 

とだけ言って男は背を向けたかと思うと、今だ呆然としている店員達を尻目にふっと蝋燭の灯が消えるように店員達の前から消えるように移動したのであった

 

***

ようやく正気を取り戻した『豊穣の女主人』の店員達がオッタルの治療を慌てて始めた頃、カルキは【ガネーシャ・ファミリア】の本拠へ向かいながら、ふとあの酒場にいたエルフについて思い出していた

 

「(そういえば、あのエルフの行動がきっかけになってルドラ神は天界に送還されたのだったな)」

 

元々、このオラリオにいた分霊(わけみたま)であるルドラを通してシヴァはこのオラリオを視ていたのだが、その【ルドラ・ファミリア】は闇派閥(イヴィルス)を名乗り、5年前ダンジョン内でとあるファミリアを罠に嵌め、その際に産まれ落ちたジャガーノートによって壊滅させられたそのファミリアの生き残りの復讐によって眷属を壊滅されたためルドラは天界に還され、その眷属を壊滅させたファミリアの生き残りというのがあの酒場にいるエルフであるとカルキは調べていた

 

「(まあ、それで自分がオラリオに来ることになったのだがな)」

 

つい自分がこのオラリオに来ることとなったきっかけを作ったエルフを思い出したカルキはそのエルフがいたファミリアについて考える

 

「(しかし『正義』を掲げるファミリアとはな……『正義』なぞ生まれや立場、組織、国、時代そういったもので誰かに受け継がれることもない常に移り変わる危うさを含んだ只の価値観でしかなかろうに)」

 

別にカルキは『正義』を掲げることを過ちだというつもりは微塵もない、だが、『正義』とはあくまでも価値観でしかない。時代が変わり価値観が変われば『正義』など簡単に変わるものである。そして行き過ぎた『正義』は『悪』となる危うさも含んでいる

 

恐らく、そのファミリアも『何が正義なのか』という考えを常日頃から討論し、考えていたのであろう、そしてジャガーノートに襲われた際はエルフを生き残らせることが『正義』と称し笑って散ったのであろう。その結果、生き残ったエルフは復讐者となり『正義』と称した凄惨な事件を起こし、このオラリオで『悪』とされる・・・なんと皮肉の効いた結末だろうか

 

「(……まあ、もういない者たちのことをを考えても詮のないことであるか)」

 

最早この世にいない者のことを語っても意味はない、生き残った者だけが正義は語れるとカルキが考えているとどうやら【ガネーシャ・ファミリア】の本拠についたらしい

 

「おお!戻ったか、カルキ!どこに行っていたんだ?」

 

ビシィ!とポーズを決めながら問いかけるガネーシャに苦笑いしながら「ダンジョンだ」と答えると、「そうか!」と納得しながら、懐から一枚の紙を出し、カルキに渡す

 

「これがオラリオの外に出る時の通行許可証だ!……それでオラリオ外での依頼とは何だ?」

 

そう小声で聞いてくるガネーシャにカルキは天界へ赴いた際、ヴィシュヌからの依頼をガネーシャに話す

 

「行先は闘国(テルスキュラ)…パールヴァティー神の分霊であるカーリー神があまりにも好き勝手しすぎだから灸をすえてこい…ということらしい」

 

ヤレヤレと少し呆れた様子で話すカルキは、翌日には闘国(テルスキュラ)へと旅立った




ルドラはシヴァと、カーリーはパールヴァティーと同一視されている→せや!シヴァとパールヴァティーの分霊にしたろ!という安直な発想

もし、カルキがオラリオで暴れて豊穣の女主人にも被害が出たら、自分の過去の行動によってカルキがオラリオに来たと知ったリューさんはどんな顔をするんでしょうかねぇ(ゲス顔)

ちなみにルドラは天界に還った後、恥をかかせたということでシヴァに消されました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話

【悲報】ベル君救出編・黒ゴライアス編にオリ主参加せず


タグで追加しましたが作中最強はオリ主ではなくインド神話の神々です


なんか原作キャラが愉快な性格になっちゃってますがそこは独自設定ってことで


カルキが闘国へ向かってオラリオから旅立った2日後、オラリオでは

 

「ヒャッハーッ!神会(デナトゥス)だー!!」

 

オラリオの中心部にある白亜の巨塔『バベル』の30階で3か月に一度開かれる会合、『神会(デナトゥス)』が行われ、参加条件はLv2の冒険者が【ファミリア】にいることである。普段はLv2以上の冒険者の二つ名を決める『命名式』で新しくLv2になった冒険者がいる神や暇を持て余した神が参加するのが普通なのだが、今回はオラリオにいるほぼ全ての神々が参加しており、眷属がいないはずの困窮を司る女神や以前、闇派閥ではないかと疑われたこともあり、あまり公の場に出てこない神まで参加していた。

 

「第ン千回神会(デナトゥス)の司会進行役はうちことロキや!よろしくな!」

 

『イエー!!』

 

ロキが神会を開催する挨拶をすると周りにいる乗りのいい神々によって喝采で包まれた。

 

「よぉし、サクサクいくで。まずは情報交換や、面白いネタ報告するもんおるかー?」

 

神会(デナトゥス)の主要目的である情報交換をロキが促すと

 

「ハイハーイ!今日此処に来ていないソーマ君がギルドに警告食らって、唯一の趣味を没収されたそうです!」

 

『なんだってぇー!』

 

そんな話題を皮切りに一気に会場は騒がしくなり、その話題に飽きたと思えば別の神が挙手し、新しい情報のやり取りをし、ふざけた話題から真面目な話題まで好き勝手に意見を述べ、ゲラゲラ笑いあう。ここまで見ればいつも通り、普段の神会(デナトゥス)と変わらないのだが、今回はある一柱を除いて神々がある話題を誰が切り出すのかとお互いに牽制しあっていた。やがて、その話題を誰も出さず、収拾がつきそうにもなかったが、「よし一回黙れ!」と司会が一喝すると、周囲の声はすぐに静まり返った

 

「うっし。まとめとくと、今気にしなきゃいかんのは王国(ラキア)の方やな。一応ギルドに報告しとく。まぁウラノスのジジイのことやから、独自に情報は掴んでそうなもんやけど、ここにいる一部のもんの【ファミリア】は招集かけられるかもしれんから、よろしくな?」

 

『了解』

 

今までの話題から重要なことだけ纏めてロキはギルドに報告するといってその報告に異論はないと他の神々は頷いた。やがて話題も尽きてきたのか、口数が減り、話し合いの勢いが収まってくるとロキが「あぁ、そや。うちの方からも一つ、ええかー?」とロキが切り出してきたので「あのことか!?」と神々は身構えたが、ロキのはただ極彩色のモンスターと闇派閥の残党についての牽制であり、それに乗じてガネーシャが「俺が!ガネーシャだ!」といってから、『怪物祭(モンスターフィリア)』での不手際を謝罪し、18階層で殺された眷属について涙ながらに話しその涙に周りの神々も神妙な顔になるが最後の最後に「腹上死など羨ましい!」と場をしらけさせてしまったが、あの話題ではなかったため、今回は誰もあの下界に介入してきた神については話さないのだろうと思っていた。

 

「んじゃ、お楽しみ『命め「すまない、少しいいだろうか?」……なんや?タケミカヅチ?」

 

いよいよ神会(デナトゥス)の本題であり、上位ファミリアの主神たちのお楽しみである『命名式』に移ろうかとロキが進行しようとすると、それを遮るようにタケミカヅチが手を挙げる。「まさか…」と他の神々がタケミカヅチを見る中、タケミカヅチは話だす。

 

「ゴホン。貧乏ファミリアの主神である俺が意見を言うのもと思って黙っていたが、誰も聞かないので俺が聞こうと思う。・・・ここにいる神々も感じただろうが『怪物祭(モンスターフィリア)』の時、確かにこの下界いや、このオラリオにあの『リグ・ヴェーダ』の神々の一柱である風神ヴァーユが介入してきた。ガネーシャ、お前…ヴァーユが介入してきた理由を知っているんじゃないか?」

 

『(タケミカヅチがいったああああああああ!?)』

 

「(え!?あのヴァーユが介入したの!?)」とその時ヴァーユの介入どころではなかったヘスティアを除いたフレイヤやロキを含む神々が思わず心を一つにする中、

 

「さあ?俺は知らんぞ!むしろあのヴァーユが介入したことに驚いたのは俺も同じだからな!」

 

「ほう?俺はてっきり天界で同郷であるお前なら何か知っていると思ったんだが」

 

「いや、残念だがヴァーユとは同郷だが神格がヴァーユの方が高いのと俺がシヴァの傘下だったこともあってあまり積極的には交流がなかったのだ!」

 

そう言いながらお互い獰猛な笑みを浮かべ牽制しあう二柱にその場にいる神々、フレイヤやロキでさえ話に割って入れないのは天界最強とも称される三柱神(トリムルティ)の一柱、破壊神シヴァの傘下であるガネーシャと特異すぎる極東、その極東の武神タケミカヅチという間違いなくこの場にいる神々の中でも上位を争うほど高い神格とこの場の神々では遠く及ばない武術を修めている二柱から放たれている神気と殺気に誰もが怯えているためである。

 

ちなみに、この場で最も神格が高くこの二柱を止められる可能性のあるヘスティアは天界での暗黙の了解を守っているのと普段は寛容・温厚で天界から付き合いのある貧乏神仲間であるタケミカヅチの知られざる一面を見たのと二柱から放たれている殺気が恐ろしいのとで隣に座っているヘファイストスにしがみつき涙目で震え上がってしまっている。

 

「そうか……いや、俺は『怪物祭』の夜にガネーシャがソーマと一緒にとある酒場を貸し切りにしていたという噂を聞いたからてっきり、そこで情報の交換をしていたと…ソーマはお前やヴァーユと同郷だったよな、ガネーシャ?」

 

「ああ!確かにあの夜ソーマと飲んだが、それは元々、同郷のよしみで神酒を飲ませてくれるという約束をしていたからにすぎん!まさかだとは思うが…それだけで俺にヴァーユについて問うているのかタケミカヅチ?」

 

『(頼む!もう誰でもいいからこの二人止めてええええええ!!)』

 

もはや、二柱から放たれる神気と殺気にによって神々の前に出された飲み物の入ったコップやバベルの窓ガラスは割れ、机や床、壁、柱、天井のいたるところに亀裂が入ってしまっており、つい『バケモノ揃いのリグ・ヴェーダと特異すぎる極東には手を出すな』という天界での暗黙の了解を無視して誰でもいいから今も獰猛な笑みを浮かべているガネーシャとタケミカヅチを止めてほしいとその場にいる神々はお互いを見るが見られるとお互い目を逸らすというのを繰り返す中

 

「いや、そうだったのか俺の勘違いだったか。しかし、もしリグ・ヴェーダの神々いや、三柱神(トリムルティ)とも関係のある人間がいるというのなら、ぜひとも手合わせを願い(殺し合い)たいものだと思ってな」

 

「なに!そんな人間がいたら俺としても手合わせを望んでいるところだ!」

 

「それもそうだな、ガネーシャ!」

 

「ああ!俺はガネーシャだからな!」

 

「「フフフ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」」

 

『ヒイイイイイイッ!!』

 

「もう、いい加減にしろぉ!」

 

『ヘスティア!?』

 

神々の心が一つになる中、やはりこの二柱を止めたのはヘスティアであった。

 

「タケもガネーシャもなんだい!?そんな簡単にあのリグ・ヴェーダの神々は下界に介入しないことは分かっているだろう?それにあの神々は天界にいるんだ!関係のある人間なんているわけがない!」

 

机をたたいて椅子から立ち上がり、フンス!と鼻息を荒くしつつ足をガクガクと震わせながら言うヘスティアの言葉に「まあ、ヘスティアのいうことにも一理あるか」とフッと神気と殺気を消すタケミカヅチと同じように神気と殺気を消すガネーシャをみて、ロキは間髪入れずに

 

「そ、それじゃあ、お楽しみ『命名式』や!」

 

『イ、イエー!!』

 

無理矢理その場の空気を換えようとして『命名式』を始めることを宣言し、周りの神も空気を読んで盛り上がる。その後は先ほどの空気もどこへやら、【ヘスティア・ファミリア】の世界最速兎(レコードホルダー)を巡ってフレイヤとロキが言いあうことはあったが、普段通りの『命名式』が行われ、痛い二つ名を眷属に貰った神々の阿鼻叫喚が響き、今回の神会(デナトゥス)も終わりを迎えたのだった。

 

***

神会(デナトゥス)から12日後、ダンジョン18階層では

 

「こっ、こっ、この度は助けていただいてっ、ほほほほ本当にありがとうございましたっ………!?」

 

中層に進出した日に怪物進呈(パス・パレード)を貰い、生き延びるために下の安全階層(セーフティーポイント)である18階層を目指して決死行を続け、【遠征】の帰りに異常(イレギュラー)に遭って18階層で足止めをされていた【ロキ・ファミリア】に助けられたベルはファミリアの幹部に呂律の回らない状態で感謝の意を述べる

 

そんな無茶をしでかした白兎(ルーキー)を面白いとガレスは笑い、そんなガレスをリヴェリアがたしなめ、団長のフィンはベルが緊張しないように軽口をたたく。そんな雲の上の存在の軽口にベルの緊張が少しだけ和らいでいると

 

「ところで、ベル・クラネル、君はあの男…カルキ・ブラフマンについて何か知っていることはないかい?」

 

「え?カルキさんですか?えーと……」

 

それとなくカルキのことを聞くフィンに素直にベルは自分の知っていることを答えていく。しばらく話をしてからベルはアイズと共に天幕から出ていき、【ロキ・ファミリア】の首脳陣だけが残った後、フィンが口を開いた

 

「結局、真新しい情報はなかったか……」

 

「フィン、こういうのも何だが、何をそんなにあの男を気にするのだ?」

 

「そうじゃ、あの酒場での言い方は気に障ったが、あの若造は恩恵を貰っていないから目くじらを立てるなといったのはお主じゃろう?」

 

カルキに関する新しい情報がなかったことを残念がるフィンにリヴェリアとガレスは疑問を呈する。なぜそこまであの酒場で自分たちにケンカを売るような真似をした男を気にするのかとそしてそれにこたえるようにフィンは答える

 

「…リヴェリア、ガレス、実はね、【遠征】前に少し気になる情報を得たんだ」

 

「情報?」

 

「ああ、なんでも……『怪物祭のとき、ダイダロス通りにある食人花が出てきた地下水路の近くを歩いているカルキ・ブラフマンを見かけた』という情報をね」

 

「「!?」」

 

フィンからもたらされた情報に驚くリヴェリアとガレス、そんな二人にフィンは続けて

 

「さらに今回の【遠征】で遭遇した黒フードの怪人(クリーチャー)、リヴェリアの魔法からまるで消えたように逃げたあの怪人(クリーチャー)と同じようにあの男もアイズの目の前から消えて、ロキの神気に怯えた様子もなく、さらにはLv6のアイズですら受け身が取れない程の技のキレ、リヴェリアから報告を受けた大量の血痕から推測されるオッタルとの戦闘、そんなことが出来るのがただの人間だとは到底思えない」

 

「まさか…」

 

「ああ、僕はあの男は怪人(クリーチャー)ではないかと疑っている」

 

「なるほど……あり得ない」

 

カルキ・ブラフマンは怪人(クリーチャー)ではないかというフィンの考えをリヴェリアはバッサリと否定する

 

「もし、あの男がオラリオの崩壊を望んでいる怪人(クリーチャー)だというなら、あの男が居候している先の神ガネーシャが許さないはずだ。それに、神ヘスティアもオラリオの外から来たということを嘘ではないとしたのだろう、この二つの事実と証言がある限りあの男が怪人(クリーチャー)だということを証明できん」

 

「じゃがのう、リヴェリア、もし一旦外に出て、それからまたオラリオに入れば「オラリオの外から来た」という言葉は嘘にはならん、それに恩恵を貰っていないのにあのオッタルと闘えるとも思えん。存外、奴らも一枚岩ではなく、あの男はオラリオ崩壊を阻止すべく動いていて、神ガネーシャとそういう取引をしているから居候をしているという可能性も捨てきれんぞ」

 

少し後ろで言い合う二人にフィンは振り向き

 

「まあ、今は証拠が何もない状況だ、それにあの男に正体を探っていることがバレたら元も子もない、あの男については接触を最小限にして正体を探っていくことにしよう」

 

その言葉に同意するようにリヴェリアとガレスは頷き、【ロキ・ファミリア】の首脳陣たちはカルキ・ブラフマンへの警戒を強めた

 

***

ベルが【ロキ・ファミリア】に助けられる数日前、闘国(テルスキュラ)では悲惨な蹂躙が行われていた

 

「………どうやらカーリー神は不在のようだな」

 

そうカーリーの自室と思われる部屋で長柄の斧(パラシュ)を片手で持ちながら呟くカルキの周辺の建造物はすべて両断され崩壊し、辺り一面には血を流し、絶命したアマゾネスが転がっており、生き残っているのは子供と戦意が折れて震えているアマゾネスのみという有様だった。

 

「無駄足になってしまったか……カーリー神について尋ねても誰も共通語(コイネー)を理解するものがいないとはな」

 

海に浮かぶ小舟の上からどこからともなく手にした(パラシュ)を横に振って、闘国(テルスキュラ)を両断し、乗り込んだ後、襲ってくるアマゾネスを返り討ちにしたのまでは良かったのだが、カーリーの居場所を尋ねても、言葉が通じず、しらみつぶしに探してようやくカーリーの宮殿と自室を見つけたのだがカーリーは国外にいるらしく、完全に無駄足であったとカルキは嘆く

 

「(まさか……ヴィシュヌ神はカーリー神が不在であることを知っていたのか?)」

 

思わずため息をついてしまったカルキであったが、宮殿の隅で震えていたアマゾネスにゆっくりと「カーリー」と言いながら地図を見せると震えながら指をさす

 

港街(メレン)か…完全に行き違いだったな、これも試練ということか?ヴィシュヌ神よ」

 

そう言って、闘国(テルスキュラ)から出ていったカルキは乗ってきた小舟に乗って、帆を広げると、どこからともなく吹いてきた風が船をメレンへと運んでいった




どうやってロキ・ファミリアと絡ませようかとした結果、カルキを怪人と誤解させる羽目に、某キャラだってバレなかったんだからイケるやろ!!

………うん、無理矢理なのはわかってる

タケミカヅチやガネーシャはもう掘り下げないだろうしエエやろと……違ってたらごめんなさい

次回 『メレン吹っ飛ぶ』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話

FGOのメンテ長いな、あのzeroイベントの時のメンテ期間思い出したわ



話し方これでええんかなぁ………?


お気に入り登録700件超えありがとうございます


カルキが闘国(テルスキュラ)でカーリーがメレンにいるという情報を得て闘国(テルスキュラ)を出国して数日後の夜、もうメレンの目と鼻の前まで来たカルキだったが、問題が発生していた

 

「(感じる神気は3、一つは海岸沿いにある岩の洞窟の中、一つは同じ場所にいて街はずれの洞窟か)」

 

カーリーの神気は知らないが、パールヴァティーに近しい神気を海岸沿いにある洞窟の中から感じられるのでカーリーはそこにいることは分かるがそれよりカルキが疑問に思ったのは

 

「(しかし、何故目の前の船や海岸沿いの洞窟、メレンの街中で多くのアマゾネスの気配がする……?)」

 

目の前の船やカーリーのいる洞窟、メレンの街から感じられるアマゾネスの気配の多さに「カーリー神はどれだけ眷属を連れてきたのか」と少し呆れたカルキであったが、よくよく気配を探ってみると目の前の船や岩の洞窟からはアマゾネスのみの気配しか感じられず、メレンの周辺では様々な種族とアマゾネスがいるのが分かった

 

「(まあ、『灸をすえろ』という依頼だから闘国(テルスキュラ)をあのようにしたが……どうやらかなりの数を連れてきていたようだな)」

 

そう、カルキがヴィシュヌから出された依頼は『カーリーが調子に乗っているのが目に余るから灸をすえろ』というもので別にカーリーを天界に送還しろとか消滅させろというものではない。そのためカルキは警告程度として闘国(テルスキュラ)を攻撃したのである。後はそのことをカーリーに伝えるだけだと思っていたのだがカーリーは国におらず、仕方がないのでメレンに来たのだが、どうやらカーリーは国からかなりの数を連れて来ていてメレンでいざこざを起こしているようだとカルキは勘違いしていた

 

実際は、【カーリー・ファミリア】は船の上と海岸の洞窟で『儀式』を見守っているだけで、メレンで【ロキ・ファミリア】の女性団員と闘っているのは【イシュタル・ファミリア】なのだが、流石に誰がどの神の眷属までかはカルキも判別できないので、ただメレン周辺でアマゾネスが暴れているということしか分かっていないのである

 

「(とはいえ、こんな所でカーリー神への挨拶代わりにブラフマーストラを放ってはオラリオまで被害が出るな……あの船をカーリー神のいる所に落とした後で海岸の洞窟とメレンの中間あたりにヴィジャヤで一射打ち込んだ後、カーリー神に会いに行けば良いだろう)」

 

メレンとオラリオは3(キロル)しか離れておらず、そんなところでリグ・ヴェーダの神々に倣って挨拶代わりのブラフマーストラを放ったら間違いなくオラリオ、ひいてはオラリオにあるソーマの酒蔵に被害が出る。そうなればガネーシャとソーマと関係が悪化してしまい、最悪の場合、この二柱を相手取らなくてはならなくなる。

 

別にカルキはこの二柱が相手であっても負けることはないのだが、あくまでも【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)で団員の反対にもかかわらずカルキを住まわせてくれているのはガネーシャの好意からであって、そのガネーシャがオラリオの平和と安寧を求めるというのならば自分もガネーシャの許しが出ない限りはオラリオにあまり被害を出すような真似はしてはいけないとカルキは考えている。

 

そして、おそらく自分が仕入れた情報通りなら、おそらく目の前の船と洞窟で『儀式』と称した殺し合いをしており、メレンにいるのはその『儀式』の邪魔をさせないため暴れているのだとカルキは判断した。・・・ならば船をカーリーのいる所まで移動させ、その後、洞窟とメレンの中間あたりにヴィジャヤで一射打ち込み、何人か吹き飛ばせばいい、それで『灸をすえた』ということになるだろうと

 

「では、そろそろ始めるとしよう」

 

ポツリと一言呟くと、目の前に迫ってきた船を蹴り飛ばし、カーリーのいる近くに落とした後、どこからともなく現れたシヴァ神から授けられたヴィジャヤを手に取ると、自身の魔力で作った矢をあてがえ、弓から放たれた矢が海岸沿いの洞窟とメレンの中間へと真っ直ぐ飛んで行き、矢は寸分たがわず狙った場所に落ちると

 

爆ぜた

 

「ふむ、挨拶はこれくらいでいいだろう」

 

夜の暗闇に溶け込めるよう黒い旅人用のローブを身に纏い、カルキは衝撃で使い物にならなくなった小舟からカーリーがいるであろう洞窟へと水面を歩くように移動していった

 

***

「ッツ!なんや!今のは!?」

 

食人花をオラリオの外に密輸していたカラクリを明らかにして、その中心であった人間を愛しすぎた神ニョルズからあらかた事情を聴き、これからオラリオから呼んだ【ロキ・ファミリア】全員でカーリーの所に乗り込もうとしていたロキは急に起きた轟音と地震に膝をつき、何が起きたのかと洞窟を出ると

 

「………は?」

 

思わず呆けた声を出してしまう。しかし、それも仕方のないことであろう。ロキと同じように洞窟から出てきたロキの眷属は顔を青くし震え、ニョルズとその眷属のロッドの顔は絶望に染まっている。

 

「………嘘やろ」

 

ロキ達が見たのは、メレンから少し離れたところに半径が数百(ミドル)はあるであろう大きさのクレーターができ、メレンの街は見る影もなく瓦礫の山が広がっているという地獄のような光景が広がっていた。

 

「メ、メレンが…俺たちの街が………」

 

うわごとのように呟き、力なくその場にへたり込むロッド。そんな眷属の姿を見て、ニョルズはぐっと唇をかみしめた後、メレンに向かって走り出す

 

『ニョルズ(様)!?』と驚いた声を上げるロキとロッドにニョルズは

 

「街にはまだ俺の眷属が生きている!それにまだ助けられる奴もいるかもしれない!」

 

そう言ってわき目もふらずに走るニョルズに続くようにロッドも走り出す。ロキも自分の眷属はまだ誰も死んでいないことは与えた恩恵の数が減っていないことで分かっているのだがメレンの人々を見捨てるのも寝覚めが悪いとして眷属と共にメレンへと走り出していた。

 

***

「な…にが……」

 

よろよろと立ち上がったアイズは一瞬で瓦礫の山となったメレンの街を見て呆然としていた。周囲には【ロキ・ファミリア】と【イシュタル・ファミリア】の気絶した団員たちが倒れ伏しており、瓦礫の近くからは家族がまだ中にいるのであろう、助けを求める悲痛な叫びが響いていた。

 

「か、火事だー!!魔石に引火したぞー!」

 

「ッツ!」

 

建物が崩れた拍子に引火したのであろう、目の前の瓦礫の中が爆発して炎が燃え上がっていた。今も使えない自分の魔法()では仮に使えていたとしても被害を抑えられないと唇をかんでいると

 

「どこを見てるんだぁ~い」

 

「!?」

 

背後からヒキガエル…【イシュタル・ファミリア】団長フリュネ・ジャミールが襲い掛かり、それを受け止めるアイズ、周りの被害などお構いなしに自分に襲い掛かって来るヒキガエルと【剣姫】の戦いはオラリオから【ロキ・ファミリア】の増援が来るまで続いたのだった。

 

そして、その近くには奇跡的に気絶を免れた【イシュタル・ファミリア】の団員たちがいた。

 

「ちっ、あのヒキガエル……」

 

自分達にも被害が出ているのが分からねえのかと腕の骨を折る大怪我をしながらも悪態をついているのは【イシュタル・ファミリア】の団員アイシャ・ベルカである。彼女はこちらを不安そうに見てくる狐人(ルナール)や仲間の団員たちに指示を出していく

 

「レナはあたしとここで春姫を守れ!サミラ達は気絶している連中さっさとたたき起こせ!それが終わり次第オラリオに戻るよ!」

 

団長よりも的確な指示を出す姉御肌のアマゾネスにほかの団員たちはコクリと頷きメレンで気絶している仲間の元へと散らばっていった

 

***

「【ウィン・フィンブルヴェトル】!」

 

額から血を流しながら、リヴェリアはこれ以上被害が出ないように自身の凍結魔法を駆使し炎を凍らせているが、その顔からは焦りの感情が隠しきれずにいた

 

「(圧倒的に人員が足りていない!)」

 

【ロキ・ファミリア】も【イシュタル・ファミリア】も関係なく気絶している者をたたき起こし、【ニョルズ・ファミリア】の協力やギルド支部長ルバート、街長ボルグも馬車馬のように使ってどうにか瓦礫の下に埋もれた者を救助し、これ以上炎が広がらないように消火をするが、あまりにも被害の範囲が広く、これだけの人数では手が足りないとリヴェリアは理解していた

 

「(フィンやガレス達はまだ着かないのか……っ)」

 

主神の策でこのメレンへと【ロキ・ファミリア】全員で向かってきているであろう団長や仲間が到着するまで何とか一人でも多く助けようとエルフの女王は今自分にできる最善を選び、指示を出しながら自らも魔法を使い続けた

 

***

「何が起こった!?」

 

恐らくメレン周辺にいる神の中で最も混乱しているのはカーリーであろう。バーチェとティオナの『儀式』を観ていたら、急に月明かりがなくなったと思ったら洞窟の広間の上空から自分たちの乗ってきた船が落ちてきて、誰もが呆然としている中、船から出てきたアルガナとティオネや船にいた者達を見てお互いの妹たちは何があったのかと問うても皆一様に「わからない」と言い、最早『儀式』どころではないという雰囲気になっていると

 

「――――ッツ!皆!伏せろぉ!」

 

何かが飛んでくると感じたカーリーが叫んだ次の瞬間、爆風と轟音が襲い、洞窟の壁は崩壊し、生き埋めにされた者、壁に叩きつけられ気を失った者とその場には誰も立ってはおらず、とっさに神の力を使い身を守ったカーリーだけが取り残され、壁が消し飛んだ洞窟からは瓦礫の山になったメレンと巨大なクレーターだけが見えていた

 

「このかすかに感じられる神気はシヴァ…?ま、まさか、何者かがアレを……いや、そんなことはあり得ぬ………」

 

あの奥儀を放てるものが人間にいるはずもなく、ましてや神造兵器を使う人間などと・・・とカーリーが考えていると

 

「流石はパールヴァティー神の分霊であるカーリー神、この弓が何か分かったご様子」

 

「誰じゃ」

 

音も気配もなく忍び寄っていた漆黒のローブを着た男にカーリーは向き合うと顔を強張らせる。否、正確に言うとその男が手にしている弓を見た瞬間に顔を強張らせた

 

「ば、バカな…ヴィジャヤじゃと……?あり得ぬ!それはシヴァ以外の神がましてや人が使えるような代物ではない!」

 

「いえ、この弓は自分がシヴァ神から賜ったものであります」

 

そうサラリととんでもないことを言う男に驚愕するカーリーだったが、そんなカーリーを無視して「では本題と行きましょう」と男は話始め、ヴィジャヤを肩にかけ、両手を胸の前で合わせ一礼すると

 

「では改めて、我が名はカルキ・ブラフマン、今宵、カーリー神の前に参上したのはヴィシュヌ神からとある依頼を受けたためであります」

 

そう言って顔をあげたカルキをじっとカーリーは見つめていた




メレンとオラリオって30㎞じゃなくて3㎞しか離れてなかったんか・・・近っ!ブラフマーストラ放ったらもれなくオラリオにも被害出るやんけと思ったのは内緒


前回のタケミカヅチはあれでよかったんか………?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話

FGOのボックス………走るべきか走らざるべきか………



アストルフォはカワイイなァ(お目々グルグル)



「各自準備ができ次第メレンへ急げ!到着次第リヴェリア達と協力して街の住人の救助を最優先にしろ!」

 

数時間前、主神から「【ロキ・ファミリア】全員でメレンに来い」という指示が書かれた手紙をメレンから運んできた団員のアキと呼ばれている猫人アナキティ・オータムから貰い、オラリオの市壁の天辺で団旗を翻し、団員たちが集合するのを待っていたフィンであったが、団員たちが集まり始めたと思った矢先に起きた轟音と地震、思わず膝をつき一体何が起きたのかと顔を上げてみるとメレンから3KM離れたオラリオでも確認できるほどの巨大なクレーターができ、炎も上がっているため、予定を変更、各自準備ができ次第メレンへと向かわせていた。

 

「おい、フィン!何が起きてやがる!?」

 

「来たかベート、すまないけど先行しているガレス達に合流してくれ、大変だとは思うが……」

 

「チッ」

 

やって来たベートの問いかけを無視するように先行しているガレス達と合流してほしいと伝えると舌打ちをしながらも直ぐにベートは走り出してメレンへと走っていった。それからこちらに来た団員たちに回復薬(ポーション)を買いに走らせ、他の団員たちに的確な指示を出していく中、メレンの方向を睨み先ほどのベートと同じことを内心呟く

 

「(一体、何が起きている…)」

 

***

終末(カルキ)じゃと……?」

 

己の前に現れた男が名乗ったのはリグ・ヴェーダの神々の間で「終末」の意味を冠する名前、そんなことをあのシヴァやヴィシュヌ達が許すはずがないとカーリーは疑うが

 

「ええ、本来は両親から貰った名ですがその『終末』を名乗るにふさわしくなるようシヴァ神やヴィシュヌ神から鍛えられましたよ」

 

遠い眼をしながら、どこか懐かしい思い出を語るような雰囲気のカルキにカーリーは「あ、此奴、相当無茶振りされたな、主にヴィシュヌに」と察してしまったが、それはそれ、これはこれである。カルキを試すように神気を解放しつつ

 

「それで、何故お前は妾の前に現れたのじゃ?しかも『儀式』の邪魔までしてくれて…のぉ?」

 

カーリーから放たれる神気を軽やかに受け流しながらカルキはヴィシュヌからの言伝を伝える

 

「貴神の前に現れたのはヴィシュヌ神から『カーリーが調子に乗っているから少し灸をすえてこい』と命じられたため、闘国(テルスキュラ)に赴き、壊滅させましたが貴神が不在であったため、ここまで来た次第であります。また、『儀式』についてはパールヴァティー神から『儀式を行いたくない者には行わないようにせよ』というお考えを聞き及んでおります」

 

「そんなこと言ったら皆手を挙げて『儀式』をしたくないと言うにきまっとろうが!と普通なら怒鳴っているところであるが妾の大元が言うなら仕方がないか…殺し合いはさせんようにしよう、そうヴィシュヌに伝えておけ」

 

「では、そのように三柱神(トリムルティ)に報こ「ふざけるな!」………」

 

フラフラと立ち上がった【カーリー・ファミリア】の頭領姉妹の姉Lv6であるアルガナはその眼に憤怒の炎を宿しながらカルキを睨みつけた

 

「男、それも人間(ヒューマン)の男が勝手に我らの神聖な『儀式』を汚した挙句、我らの国に口出しするか……」

 

彼我の実力差もわからないような愚かな女にカーリーもカルキも呆れるがカーリーは「ふぅ」とため息をついて

 

「では、カルキとやら、殺さぬ程度にアルガナと闘え」

 

思わず「いいのか」という顔をするカルキであったがカーリーは嗤いながら

 

「よい、此奴の心を折らねば『儀式』を続けると言い続けるじゃろう…お主がいるということは今後はあの神々が下界に介入するということ…まだ妾も消されたくはないのでな」

 

「ただし」と前置きして

 

「例え聞き分けのない者であっても妾にとっては愛おしい眷属(子供達)じゃ、お主が破壊した闘国(テルスキュラ)と今まで殺した妾の眷属(子供)はヴィシュヌの命令だと納得はしてやる。だがこれ以上殺せば……」

 

「妾が貴様を殺してやろう」

 

凄まじいほどの殺気を放ちながら睨みつけるカーリーにカルキは一礼しアルガナと向き合う

 

「そういうことだ…いつでもいいぞ」

 

「ッツ!ふざけるな!!」

 

叫びながら自分に向かってくるアルガナをカルキは冷ややかな目で見ていた

 

***

「うぅ…、!ティオネ!?」

 

いったいどのくらい気を失っていたのだろうか目を覚ましたティオナはすぐに自分の姉のティオネを探した

 

「…うっさい、静かにしろ馬鹿ティオナ」

 

どうやら自分とほぼ同時に目を覚ました姉の変わらない言い方に安堵したティオナだったが

 

「ようやく目を覚ましたか……しかし姉妹揃って寝顔も国を出た幼い頃から、ちっとも変わっとらんのぉ」

 

「「カーリー!?」」

 

今だ起き上がれていない姉妹の顔を覗き込むカーリーに2人揃って飛び起きるが、カーリーは笑って手を振りながら2人に告げる

 

「そう構えんでよい、もうお主ら姉妹のことからは手を引こう、それに闘国(テルスキュラ)での殺し合いの『儀式』も止めじゃ」

 

「ほれ、お主らもバーチェ達を手伝え」と言いながら背を向けるカーリーを呆然と眺めていたが、「ほれ、早ようせい」と急かされ、生き埋めにされたアマゾネスを救助しているバーチェ達【カーリー・ファミリア】の手伝いに駆り出される姉妹であった。

 

***

「で、クソチビ。どうしてそう聞き分けが良くなったんや?」

 

未曽有の被害が出たメレン壊滅の2日後の夜、ニョルズが食人花や魔石を混ぜた撒き餌を隠していた洞窟に椅子と机を運び込み、簡易の話し合いの場を設けたロキとニョルズ、カーリーと今後のことについて話し合い、メレンの復興に船が壊れて闘国に帰れない【カーリー・ファミリア】も協力することで合意し、ロキからの『ヒュリテ姉妹から手を引くこと』『身内同士での殺し合いをしないこと』の2つの条件をあっさりとカーリーが飲んだことに疑問を呈するロキにカーリーは

 

「なに、妾はもうあの姉妹に興味はない。それにバーチェはアルガナを恐れておったし、もはやアルガナは使い物にならん。別に元々『殺し合いたくない』と言っていれば妾は殺し合いはさせておらん。ただそういうことを言う奴が今までいなかっただけじゃ」

 

とだけ言い、さらには自分たちを呼んだのは【イシュタル・ファミリア】であること、【イシュタル・ファミリア】には『隠し玉』があることをペラペラとはなし、「妾が言えるのは以上じゃ」と言って立ち去るカーリーをロキもニョルズもただ見送ることしか出来なかった

 

「ああ、もう妾はアルガナもバーチェにも、ティオネやティオナにも興味はない」

 

臨時のキャンプに戻りながら口が裂けるほど嗤うカーリーは3日前の夜、自分の前に現れた男、カルキ・ブラフマンが話したカルキがオラリオに来た理由を思い出していた

 

「あの三柱神(トリムルティ)とリグ・ヴェーダの神々に認められ『終末(カルキ)』を名乗ることを許された人間…しかもオラリオに来た理由がヴィシュヌから『世界を担う英雄を見つけること』と『オラリオに増えすぎた神と冒険者のうち不要と判断したものを間引け』という依頼を受けたからとは、ククク…『維持』を司るヴィシュヌらしい依頼じゃ」

 

もし後者の依頼をカルキが実行した際、いったいどれほどの人や神々の逃げ惑う悲痛な叫びが聞けるだろうか、どれほど建物や人が破壊される音が聞けるだろうか、そのどのような音よりも甘美で荘厳な音を想像するだけで嗤いが止まらず、それだけで達してしまいそうだとカーリーは嗤う

 

「クク…クハハハハハハハハハハ………」

 

闘争と殺戮を司る女神の狂気じみた嗤い声はカルキによって瓦礫の山となったメレンの暗闇へと吸い込まれ消えていった

 

***

「なるほど、それでヴィジャヤを使ったと……」

 

その夜、カルキは以前ソーマと会った酒場でガネーシャとソーマに今回の顛末について説明していた。壊滅し、かなりの死傷者が出たメレンほどではないが、オラリオにも空振によってガラス窓が割れたり、地震の揺れで転んだり、物が落ちてきて軽傷を負ったという被害が出たため、カルキが二柱に謝罪したのである。

 

「だが、威力は抑えて放ったのだろう?そこまでヴィジャヤを使いこなしているなら上出来ではないか」

 

神酒を飲んでから話すソーマに「まあ、一理ある」と同意するガネーシャ。そう、本来ならヴィジャヤの一射でメレンどころかオラリオ否、この大陸全土すら消滅させようと思えば可能なのだ。が、()()()()で済ませたのはカルキがヴィジャヤを使いこなしている証拠であるとガネーシャとソーマは判断していた

 

「……神二柱の寛大な御心に感謝しよう」

 

改まって感謝し頭を下げるカルキにそんなに畏まらなくていいとガネーシャとソーマは顔を上げるように言い、一人と二柱で話し合いメレンの復興やら諸々ことはギルドに任せるということに決めた

 

「それにしても、この状況で『神の宴』を開くとはな…」

 

暫く黙って神酒を飲んでいると、ふと思い出したように懐から取り出した招待状をひらひらとさせるソーマに

 

「恐らくはあれだけのことがあってもオラリオは揺らいでいないとしたいのでは?」

 

「カルキのいうことにも一理ある!それに少しでも多くの情報が欲しいのだろう!」

 

「無難に考えればな…」

 

ソーマの含みのある言い方にカルキとガネーシャが疑問に思っていると、ソーマは今の自分の派閥の状況を話し始める

 

「つまり、要約すると、今の【ソーマ・ファミリア】は神酒中毒しかおらず、団長は神酒を勝手に売り払い、【アポロン・ファミリア】と何やらコソコソと動いていて、闇派閥(イヴィルス)の残党とも接触した可能性があると……どうしてそうなるまで放って置いたのか」

 

「しかも闇派閥(イヴィルス)の残党とは……見損なったぞ!ソーマ!」

 

「こちらの管理不足は認める…だが神酒を飲んでもカルキは平気ではないか」

 

「いや、それは自分は以前ブラフマー神から与えられた霊薬(アムリタ)を飲み干す試練を踏破したからであって普通は神酒を飲んだら廃人になるのだが」

 

それからしばらく【ソーマ・ファミリア】についての話となり、今の団長は機会があれば更迭し、派閥の管理体制を整えるという話で纏まり、お開きとなった

 

***

次の日、カルキが歩いていると

 

「カルキ君じゃあないか!」

 

子犬のようにカルキに小走りで近づいてきたのはヘスティアであった

 

「いやー、実はね、今晩アポロンが開く『神の宴』があるんだけどさー、ちょっとボク達の本拠(ホーム)の留守番を頼みたいんだよ」




アポロン逃げてー!インドが牙をむいてくるぞぉー!


戦争遊戯編改めスーリヤ介入編

—追記—
お気に入り登録800件を超えました

登録ありがとうございます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話

婦長とアストルフォのちょっとしたメタ発言………いいよね





「似合ってるぜ、ベル君。恥ずかしがらなくて大丈夫さ」

 

そわそわとするベルにヘスティアは気楽そうに告げる。が、ベルは気恥ずかしさだけでなく自分たちの本拠(ホーム)に留守番を頼んだ人物についても申し訳なさそうにしていた

 

「でも、神様、カルキさんに僕たちの本拠(ホーム)の留守番を頼んでしまっても良かったんでしょうか……?」

 

そう、『神の宴』に参加するため本拠(ホーム)に誰も残っていないというのは非常にまずい、ということで誰かに留守番を頼まなければならなくなったのだが、偶々出会ったからという理由でカルキにヘスティアが留守番をお願いしたのだ。苦笑しつつも留守番を了承してくれたかつての同居人に留守番を任せ、自分たちは宴を楽しんでいいものなのだろうかとベルは考えていた

 

「なぁに!大丈夫さ!美味しいお土産を持って帰ったらきっとカルキ君は喜んでくれるさ!」

 

ドレス姿だというのに手にしているのはカルキへのお土産を詰めるためであろう、タッパーを持っているヘスティアにベルだけでなく一緒に来たミアハやナァーザもつい微笑を漏らした

 

「さあ、エスコートを頼むぜ、ベル君?」

 

「は、はいっ!」

 

ヘスティアから差し出された手を恐る恐る取ったベルは、緊張で思わず息をのむ。意を決したように前を向くと足を一歩踏み出し、周囲に倣い、ヘスティアとナァーザ、2名の女性をミアハと共にエスコートして【アポロン・ファミリア】主催の『神の宴』が行われる建物の中へと足を踏み入れていった

 

***

「(アポロン神か………確かソーマ神のファミリアの団長と接触していたと言っていたが…)」

 

【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)である廃教会の地下室で一人留守番を頼まれ、留守番をしているカルキはふと昨夜、ソーマが言っていたことを思い出し、アポロンという神について考えていた

 

「(確かアポロン神はスーリヤ神と同じ太陽を司る太陽神だったはず…しかし、何故かスーリヤ神はアポロン神を毛嫌いしていたな…あれは何故だ……?)」

 

スーリヤは基本的には万人の在り方を受け入れる神である。また、寛容な神の一柱でもあり、実際、カルキが先日天界に赴いた際、異端児(ゼノス)という存在を争う意思がなく太陽(スーリヤ)を見てみたいと思っている怪物達というある種、下界の常識を壊す危険性を持つ者達ですらその存在をリグ・ヴェーダの神々の中でいの一番に認めている。

 

また、神は自分以外の同じものを司る神を敵対視する傾向があるがそんなこともせずアマテラスやルーといった他の太陽神とも友好的な関係を築いている程寛容なのである。さらには、施すことを善としており、例え自分と初対面のものであろうと困っているものがいれば手を差し伸べる正に生命を育み、あまねくものを平等に照らす太陽そのものと言っても過言ではない神である。

 

「(恐らく、インドラ神が困っていたとしても日頃のことなど関係なしに手を差し伸べ、自分がかつてヴィシュヌ神の試練としてインドラ神とスーリヤ神の喧嘩の仲裁に赴き『邪魔をするな』と攻撃され二柱を相手取った後、謝罪をしに行ったら逆に謝罪され自分を認めてくださった程の神があそこまで嫌う理由は何だ……?)」

 

つい誰もいない廃教会の地下室で一人で考え込んでしまうカルキであった

 

***

「あ、あのっ、ヘルメス様っ」

 

「?どうしたんだい、ベル君?」

 

ヘルメスから『三大冒険者依頼(クエスト)』の悲願『黒龍の討伐』と15年前このオラリオの最強だったゼウス、ヘラファミリアについて聞いたところでベルはここ最近、神々がヒソヒソと話している言葉についてヘルメスに聞こうとしていた

 

「ここ最近、神様たちが話している『リグ・ヴェーダ』って何ですか?」

 

「え?あ、えーと…説明していいのかなぁ」

 

軽い気持ちで聞いたはずなのに、何とも言えない表情をするヘルメスにどうしたのだろうかと疑問に思うベルだったが、やがて話す決心がついたのか先ほどより真剣な顔になってヘルメスは話し出す

 

「まあ、わかりやすく言うなら天界にいる、とある神々が所属している集団の名前かな」

 

「神様たちの集団の名前……?」

 

「ああ、オレやヘスティア、ヘファイストスなんかは『オリンポス』っていう集団に所属しているし、ロキやフレイヤ、ミアハは『アースガルズ』の所属って感じで、まあ、領地の近しい神々が集まって組織みたいなものを天界で作っているのさ」

 

「じゃあ、その『リグ・ヴェーダ』というのもその一つなんですね」

 

「ああ、ただ『リグ・ヴェーダ』は異質でね」

 

「異質?」とベルが首を傾げるとヘルメスは「まあ、前提から教えよう」と話を続ける

 

「神々の中で神格が高く実力のある神は『大神』と呼ばれている。まあ、オレ達『オリンポス』ならさっきも言ったゼウスやヘラ、今はギルドにいるウラノスなんかがそう呼ばれていて、だいたい各集団に一柱か二柱は少なくてもいるんだが…」

 

手元のワインを一気に飲み干す。まるで飲んででもいなければやっていられないという雰囲気のヘルメスに自分はヤバいことに首を突っ込んでしまったのではないかと今更ながら焦るベルにヘルメスは続けて

 

「『リグ・ヴェーダ』には『大神』と呼ばれる神はいないんだ」

 

思わず「………へ?」という間抜けな声を出すベルに「どういう意味かわかるかい?」と目で聞いてくるヘルメスに

 

「ええと、神格が高くて実力のある神様が『大神』って呼ばれていてそう呼ばれる神様がいないってことはその…神格の低い神様たちの集まりなんですか……?」

 

『大神』と呼ばれる神がいないということは神格の低い神々の集まりではないのかと聞くベルに首を振ってヘルメスは答える

 

「いいや、違うぜベル君、むしろその逆さ」

 

「……逆?」と首を傾げたベルが何かに気付き、「まさか」という顔をするベルにヘルメスは頷く

 

「そう、『リグ・ヴェーダ』の神々は全員の神格・実力が『大神』(クラス)、分霊や傘下の神々ですらオレ達の神格を上回る文字通り規格外のバケモノ集団なのさ」

 

ゴクリと喉を鳴らし緊張するベルにヘルメスは所属している神々を教えていく

 

「創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌ、天界最強とも称される破壊神シヴァの三柱からなる三柱神(トリムルティ)を筆頭として、神々の王と呼ばれ最強の武神とも名高い武神インドラ、そのインドラと好敵手にして不俱戴天の間柄である太陽神スーリヤ、その二柱と互角以上に戦える炎神アグニや風神ヴァーユ、さらにはプラフーダ、ヴィローチャナ、マハーバリ等の大神(クラス)と言っても過言ではない神々を傘下にしているアスラ神ヴァルナ、神すら消滅させる武器を作り上げる技巧神トヴァシュトリ、この他にも冥府神ヤマ、司法神ダルマ、医神アシュヴィン双神、財宝神クベーラ、蛇神ナーガ等の最高神格を持つ神々が毎日のように喧嘩という名の殺し合いを行い鎬を削り合っている………そんな集団なのさ『リグ・ヴェーダ』ってのはね」

 

「じゃ、じゃあ、ここ最近神様たちが話をしてるのは………」

 

「まあ、これは内緒なんだが」と前置きしてヘルメスはベルの耳元に近づき小声で今、オラリオにいる神々が危惧していることを小声で教える

 

「実は『怪物祭』の時にリグ・ヴェーダの神々の一柱、風神ヴァーユがこのオラリオに天界から介入してきて、これからあの神々が介入してくるんじゃないかって皆不安なのさ」

 

自分がシルバーバックと闘っていた時そんなことが起きていたなんてとベルは驚き、ふと湧いた疑問をヘルメスに聞く

 

「……もし、その『リグ・ヴェーダ』の神々がこのオラリオに来たらどうなるんですか……?」

 

「まあ、敵と認識されたら、『リグ・ヴェーダ』の神々一柱だけでこのオラリオは……滅ぼされるね、なすすべもなく」

 

***

「ただいま!!カルキ君、これは君へのお土産だ!あぁーっ!!何のつもりだあの変態(アポロン)めぇ~!!!」

 

『神の宴』から帰って来たヘスティアが随分不機嫌で自分にお土産であろう料理が詰められたタッパーを3つ渡した後、蟹股で自室に戻る女神の後姿に「いったい何があったのか」と一緒に行っていたベルに聞くと「ええと…」と気まずそうに答えた

 

「なるほど、【アポロン・ファミリア】は最初からベルを己のモノとするために動いていて、それにベルは綺麗に嵌められたと……」

 

「うぅ…す、すみません…」

 

「いや、別に責めてはいないのだが」

 

大体の概要を聞き、アポロンの執着心に呆れつつ、何故スーリヤがあそこまでアポロンを嫌っているのかようやく理解した

 

「(なるほど……他者に施すことを善とするスーリヤ神と気に入った者を手元に置きたがり、他者のモノであれば力づくでも奪い取るアポロン神、確かに対称的だ・・・さらには自分より神格が低い太陽神………これは流石のスーリヤ神も嫌うだろう)————ッツ!」

 

「あの…カルキさん?」

 

どうやら驚かせてしまったようだ。不安そうに聞いてくるベルに苦笑しつつ

 

「なに、気にするな、それよりも、どうする?おそらく【アポロン・ファミリア】は明日の朝には仕掛けてくるぞ」

 

「えっ!?」

 

「気付いてなかったのか」と冒険者とはいえ年相応に甘いベルに仕方がないと思いつつ、

 

都市部での逃げ方を教えて仲間との合流ポイントを決めさせ、へスティアに協力してほしい旨を書いた手紙を一筆書いてもらい

 

それを【ミアハ・ファミリア】と【タケミカヅチ・ファミリア】に届け、ベルから教えてもらったリリルカ・アーデとヴェルフ・クロッゾに会いに行き、ベルが決めた合流ポイントを伝え、【アポロン・ファミリア】の襲撃に備える手伝いをした後

 

【ガネーシャ・ファミリア】の本拠に戻ったカルキはすぐに瞑想を始めた

 

「いや、流石に唐突に頭の中に話掛けられると驚くのだがな……スーリヤ神よ」

 

カルキが瞑想を始めて数分後、カルキの精神世界の中に入ってきたのは本来、天界にいるはずの太陽神スーリヤであった

 

「それで、一体自分に何用でしょうか。スーリヤ神よ」

 

そう胸の前で両手を合わせ一礼をするカルキにスーリヤはある命令を出したのであった




ダンまの劇場版を見るたびに思う。


アルテミスの弓とヴィジャヤってどっちが強いんだろうって





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話

礼装落ちない病にかかった………




誰か礼装恵んでください…………(ガクっ)


カルキが瞑想を終え、ゆっくりと目を開けるとそこには【ガネーシャ・ファミリア】の団長であるシャクティがいた

 

「……お前は何者なんだ居候」

 

どうやら第一級冒険者である自分を圧倒してみせたカルキが何者なのか気になっていたらしい。真剣な顔で見てくるシャクティに苦笑しつつカルキは答える

 

「なに、自分はただ、人の身で神のいる座にたどり着きそこで修行しただけの人間でしかないな」

 

「それは一体どういう………?」

 

カルキの答えに困惑するシャクティの隣をスルリと抜けて部屋を出たカルキは【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)から出ていき先ほど与えられたスーリヤからの命令を全うすべく動き出す。

 

『リグ・ヴェーダ』の一柱、太陽神スーリヤが介入するという最大の異常(イレギュラー)、【アポロン・ファミリア】崩壊の序曲は人間も神々でさえも気づかないうちに既に始まっていたのだ

 

***

だが、何事にも例外というものが存在している。その崩壊の序曲に気付いたのはオラリオにいる神々の一柱ではなくただの少女、【アポロン・ファミリア】の団員カサンドラ・イリオンだった

 

「ダフネちゃん、もう止めよう、アポロン様を説得してヘスティア様に謝ろう…」

 

昨夜、アポロンがヘスティアからベルを奪い取るため【戦争遊戯(ウォーゲーム)】を申し込み、それをヘスティアが断ったため、協力を取り付けた他のとある【ファミリア】と共に【ヘスティア・ファミリア】を襲撃すると決まった時からしきりに止めるように言ってくるカサンドラに同僚のダフネ・ラウロスはため息をつく

 

「何?また夢?」

 

カサンドラは『予知夢』を見ることが出来ると言ってはばからない。そして誰にも信じてもらえない。それは目の前にいるダフネも同様であり

 

「まあ、一応その内容ぐらいは聞いてあげる。どんな夢を見たのよ」

 

「ぅんと……傷ついた兎さんが月の光を得て、太陽を飲み込もうとするんだけど、その後ろからもっと大きな太陽が現れてその太陽から出てきた怪人が太陽を真っ二つにするっていう…」

 

「そうよね、夢はそれくらい荒唐無稽じゃないとね」

 

「ダ、ダフネちゃ~~~んっ」

 

「しつこい。さっきから先手ばかり取られているんだから、さっさと行くよ」

 

何故か先手を取られ続ける味方にイライラしつつ、ダフネはカサンドラを引き連れてベルを追走した

 

***

「…で、結局ベルは格上の相手に挑んでやられた挙句、サポーターは【ソーマ・ファミリア】に連れていかれたと」

 

「す、すみません、都市部での逃げ方を教えてくれたのに…」

 

「いや、責めているわけではない、むしろ好ましく思っている」

 

都市部での逃げ方…つまり大通りに敢えて出て、大勢の人を巻き込みながら逃げ回り、魔法や物陰からの奇襲を防ぐという方法を「他の人たちに迷惑がかかるから…」と裏通りを通って合流しようとしたが格上の冒険者と接触、敗北して【ミアハ・ファミリア】の団員ナァーザ・エリスイスや【タケミカヅチ・ファミリア】の力を借りて何とか逃げおおせたベルとヘスティアは合流したベルのパーティーメンバーと一緒に逃げていたが【ソーマ・ファミリア】が協力していることに気付いたサポーターが投降したと橋の下で合流したカルキはベルから報告を受けていた

 

自分達の危機だというのに、他人に迷惑をかけるわけにはとお人好し精神を発揮して危ない道を突っ走り、自分より投降したサポーターを心配する白兎を「やはり面白い」と評価しつつ、スーリヤからの命令を受けているカルキは裏道でさてどうするかと考えていると

 

「で、ベル、昨日も夜遅くに俺の所に来たコイツは誰なんだよ」

 

黒い着流しを着て大剣を担いだほのかに精霊の気配を漂わせる青年に「そういえば自己紹介がまだだったか」とカルキは向き合い

 

「カルキ・ブラフマンだ、ベル達とは…まあ数日の間、同じところに住んでいた仲だな」

 

「そ、そうか、俺はクロッゾ、ヴェルフ・クロッゾだ。ヴェルフって呼んでくれ、苗字嫌いなんだ」

 

「(なるほど魔剣鍛冶師の…)そうか、ではこれからよろしく頼む」

 

改めて自己紹介するある意味で緊張感のない2人をよそに何やら話し合っていたベルとヘスティアであったが

 

「いたぞ!橋の下に隠れているぞ!!」

 

【アポロン・ファミリア】に見つかり、ヴェルフが迎え撃とうとするが

 

「もう怒った!!ベル君!ヴェルフ君!カルキ君!ボクは腹をくくったぞ!!」

 

「「「?」」」

 

急に大声を出したヘスティアに何事かと思う3人であったがそれを無視して

 

「西南だ!西南を目指せ!!」

 

そういってペシペシとベルを叩くヘスティアに促され西南へと向かった先にあったのは【アポロン・ファミリア】の本拠(ホーム)であった

 

「こ、ここは…」

 

「おいおい…」

 

「ほぉ…」

 

三者三様の反応をする中、「戦いに来たんじゃない!どけどけ!しっ、しっ!」と団員を追い払いながら敷地に入るヘスティアに倣って入っていくと、館からアポロンであろう、月桂冠を被った神気を感じさせる人物が出てきて、ヘスティアとのやり取りの後、ヘスティアは近くにいた小人族(パルゥム)から手袋を貰いアポロンの顔面へと渾身の力を込めて投げつけ宣言する

 

「上等だっ!受けて立ってやる!戦争遊戯(ウォーゲーム)を!!」

 

その言葉を聞き、醜悪な笑みを浮かべたアポロンは

 

「ここに神双方の合意はなった―――諸君、戦争遊戯(ウォーゲーム)だ!」

 

『いえええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!』

 

そう宣言した途端、庭の木や茂みから神々が現れ、ベルやヴェルフ、【アポロン・ファミリア】の団員たちが驚く中、カルキだけは

 

「(何故ヴィシュヌが『間引け』といったのか分かった気がするな、さて、アポロン神に問うてみるか)」

 

今だニヤニヤと笑うアポロンへ問おうとしたカルキであったが

 

「すまない『ギルドに戦争遊戯(ウォーゲーム)の申請をしろ!』すまな『臨時の神会(デナテュス)も開くぞ!他の神々(ヤツら)も招集だ!』すまn『漲ってきたーっ!!』すま『久々の(まつり)やー!』…………」

 

飛び交う興奮する声。娯楽好きの神々によって辺りはあっという間にお祭り騒ぎとなり、カルキの声はアポロンに届きそうにもないと思ったカルキは殺気をベル達以外に無差別に放つ

 

「………黙れ」

 

『―――――ッツ!?』

 

カルキの放った殺気に中てられ、【アポロン・ファミリア】の団員たちは気絶し、殺気を中てられていないベル、ヴェルフ、ヘスティアでさえ膝をつき、騒いでいた筈の神々は首を落とされる幻覚を見せられ押し黙る

 

「な、何が……」

 

混乱しているアポロンに瞳が黒色から宝石のような美しい紅色になったカルキは一歩ずつ近づき問いかける

 

「アポロン神よ、一つ問おう、貴神は太陽を司る神で間違いないな?」

 

「あ、ああ、そうだ、私は太陽と芸術を司る神だとも」

 

「では、重ねて問おう、太陽とは即ち、この世のあまねく生命を育むものであり、それは即ち『施し』である。なのに何故『施し』の真逆である『他者からの略奪』を行おうとする」

 

真正面に立ち、まるで見定めるようにアポロンに問いかける人間の迫力に呑まれ周りの神々は何も言えずに黙ってしまう。アポロンが何か言おうとする前に「自分の問いかけに答えるのが先だ」と目の前の人間から無言の圧力を受けアポロンは答える

 

「それは私がアポロンだからだ!私は美しいものを人間(子供達)を心から愛している!そしてその美しいものは自分の手元に置いて愛でたいと思っている!それだけだとも!!」

 

「そうか……そのためには嫌がる者や他人の眷属であっても手段は問わないと?」

 

「ああ!そうだ!私は欲しいものは何が何でも手に入れる!そして手に入れたら最後の一瞬まで愛し続けよう!そのためならばどんな手段を使ってでも奪って手に入れてみせよう!!」

 

そう言い切るアポロンをじっといていたカルキはやがてこの場にいる誰もが驚愕する一言を言い放つ

 

「なるほど…ああ、やはりそうなるか………アポロン神よ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

後ろで「え、ちょ、カルキ君何言ってるのぉ!」と叫ぶヘスティアや唖然とする神々を無視して踵を返し、瞳が黒色に戻ったカルキはベル達に「行くぞ」と促し、堂々と【アポロン・ファミリア】の本拠(ホーム)から出ていった

 

***

【アポロン・ファミリア】の本拠(ホーム)から出た後、「なんてこと言っているんだい!」とカルキを怒るヘスティアを無視するように「これからどうする?」とベルに聞くと

 

「……あの人に…ヒュアキントスさんに勝ちたいです」

 

真っ直ぐな瞳でこちらを見てくる白兎にヘスティア、ヴェルフはコクリと頷き各々これからどうするかを話す

 

「ベル君、一週間、ボクが何とかして時間を稼いでみせる…だから、その間に何としても強くなってくれ」

 

「ヘスティア様、リリスケの救出には自分も…」

 

「いや、ソーマ神は問題ないだろうな」

 

サラリとサポーターについては問題ないと言い切るカルキに「それはどういう…」と言いかけた3人にフッと笑い

 

「まあ、お前が英雄たる器なら軽々とあの程度の者は超えてみせろ、ベル」

 

それだけ言うとフラリと【ソーマ・ファミリア】の本拠(ホーム)へと向かって歩き出すカルキであった

 




ちなみにこの作品でのオラリオの強さ順は


ソーマ・ガネーシャ≒タケミカヅチ・神造武器使用カルキ>>>オラリオにいる神々>>(絶対に超えられない壁)>>冒険者

となっています。

アポロンと問答しているとき、カルキにはスーリヤが憑依していました………後は分かりますよね

―追記―
お気に入り登録900件超えました

ありがとうございます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話

感想をいただいて気付いたのですが、この作品、インド神話なのに踊っていない!!

………なんということだインドなのに


今回、またキャラ崩壊しているけどお許しください




「ひ……は……あ…………」

 

【ソーマ・ファミリア】が独自にダイダロス通りに所有している酒蔵、ソーマが神酒づくりを行っている部屋で一人の小人族(パルゥム)の少女が自分の目の前で己が所属している主神によって行われた惨劇に恐怖で体を震わせていた

 

「……リリルカ・アーデ」

 

「…ひゃ、ひゃい……」

 

主神であるソーマから起伏の少ない声で自分の名前を呼ばれた少女は声を震わせ裏返しつつも何とか返事をする。しかし、そうなるのも無理はないだろう。今、彼女が座り込んでいる近くにあるのは、両足があらぬ方向に曲がり、力なく床に倒れ伏す自分をここに拉致した【ソーマ・ファミリア】の団長ザニスと辺り一面には血の海が広がり、数分前までは【ソーマ・ファミリア】の団員達だった肉片が転がっているのだから

 

***

「(ベル様……)」

 

昨夜、急にやってきた男に「ベルが明日の朝、【アポロン・ファミリア】の襲撃を受ける」と言われ、その人物に合流ポイントとして指定された場所でヴェルフと共に待機したが、少年が格上の【アポロン・ファミリア】の団長と接敵し、敗北。協力していたファミリアと少年を助け出し、逃走を続けていたが、少年を襲っている者達の中に【ソーマ・ファミリア】もいると気付き、自分がいることが【ソーマ・ファミリア】が襲う口実となっていることに気付いたリリ自らが所属している派閥の団長であるザニスに投降の意思を示した。

 

――――――あの優しく温かい彼等の側に、汚い自分がいてはいけなかった!自分を呆然とした顔で見送るしかできない少年の顔を思い出し、涙を眼の縁に溜めながら【ソーマ・ファミリア】が所有している酒蔵に連行されたのが数時間前、そこで主神であるソーマに報告をするからとザニスや他の団員数十名と共にソーマの前に引き出されたのだが

 

「ザニス、お前を団長から更迭し、牢屋へと入れる」

 

報告を言う前にソーマは椅子に座りながらいつも通りの起伏の少ない声でザニスを団長の座から外すことを伝える。その場にいる誰もが唖然となるが「聞こえなかったか?」とソーマは続ける

 

「ザニス、お前が神酒を横流しして、不当な利益を得ているのは知っている。そして【アポロン・ファミリア】に手を貸し他のファミリアに迷惑をかけたこと、闇派閥(イヴィルス)の残党と何らかの取引を行おうとしているのも気づいている。……更迭するには十分な理由だ」

 

「く、クソッ!今まで何も興味を示さなかったくせに……!」

 

淡々とザニスを更迭する理由を話すソーマに悪態をついて逃げ出そうとするザニスに

 

「どこへ行く……」

 

「ぐあっ!」

 

ソーマが声をかけた瞬間、ザニスの両足があらぬ方向へ曲がり、床に叩きつけられる

 

「私が…神が眷属(人間)のことを見通せないと思っていたのか…図に乗るな」

 

ただ椅子に座って話しているだけなのに全身を握りつぶされるような圧迫感を感じさせるソーマの殺気にその場にいる誰もが押し黙り、ソーマから直に殺気を向けられているザニスは既に白目をむいて気絶している。しかし、どこにでも愚か者はいるもので

 

「それで…ソーマ様、次の団長はいったい誰に………?」

 

ヘヘッと笑いながらソーマに聞く団員やその周りにいる数十人の団員たちからは、次は自分たちが神酒を独り占めにできるのではという考えが透けて見えた・・・がそれに気づかないソーマではない

 

「……やはり、ヴィシュヌがカルキに命じた通り、『間引く』ことが必要か」

 

「………へ?」

 

何事か呟いたソーマに反応した瞬間、一瞬でその場にいた【ソーマ・ファミリア】の団員数十人が主神の手で動かぬ肉片にされ、辺り一面が血の海となる。そして何が起きたのか分からず呆然としているリリにソーマが声をかけ、現在へと至るのである

 

***

「リリルカ・アーデ、外にいるチャンドラを呼んで来い、そしてザニスを牢屋に入れろ」

 

「は、はい……」

 

「お前が自らの死を偽装していたことについては私の管理不足であるとして不問としよう、ただし、派閥の面子もある。数日お前もザニスと同じように牢屋で謹慎を命じる」

 

己の非を認めたソーマに驚きつつも、リリはあの白い少年がどうなったのか知りたくて声をかける

 

「あ、あの、ソーマ様……」

 

「もし、何かを望むならば謹慎が終わってからにしろ、そして試練を踏破したら望みは聞いてやろう」

 

こちらの言うことは一切聞かず「早くしろ」と急かすソーマに「……わかりました」とリリは部屋を出てチャンドラを呼びに行く。どうやら目的の人物はすぐに見つけられたようで主神の部屋に入ってきたドワーフは部屋で行われたであろう主神による殺戮にギョッとした顔になるが元団長のステイタスを封印し終わった主神から「連れていけ」と命令されたので、今だ気絶している元団長と少女を牢屋へと連れて行った

 

「それで、事の顛末はどうなった」

 

何もない虚空にソーマが話しかけると部屋のバルコニーがひとりでに開き、バルコニーの外で待機していたカルキが部屋に入ってきて今回の騒動の結末と今後の予想される動きを話す

 

「【ヘスティア・ファミリア】が【アポロン・ファミリア】からの戦争遊戯(ウォーゲーム)の申し込みを受け、臨時の神会(デナテュス)が開かれるようです。また、【ヘスティア・ファミリア】はソーマ神の眷属である小人族(パルゥム)の少女を気にかけているようで、恐らくは改宗(コンバーション)を願うかと」

 

「そうか……何日後にヘスティアはこちらに来ると予想する?」

 

「ヘスティア神が一週間は引き延ばすと言っていたので恐らくは3日後かと」

 

カルキからの報告を受けて「ふむ…」としばらく考えたソーマは考えが纏まったのかカルキに

 

「では3日後の神会(デナテュス)に顔を出してヘスティアにこちらに来るように話そう………それでスーリヤは何と言っていた?」

 

少し驚いた表情をするカルキに「気付かないとでも思ったか?」とソーマが意地の悪い笑みを浮かべて聞いてきたのでカルキは苦笑しつつも

 

「自分がスーリヤ神から言われたのは『アポロンは自らと同じ太陽神を名乗るにはふさわしくない、どうせ消滅しても1万年たてば復活するのだから消滅させよ』とのことでした。」

 

スーリヤからカルキに出された命令にアポロンはよほどスーリヤを怒らせたようだとソーマは思うが「まあ、私には関係ないことだ」と言って部屋から出ていこうとして、途中で何かに気付いたように振り返ると

 

「ああ、すまないが、カルキ、この部屋の掃除と後始末を頼んだ」

 

それだけ言うと部屋から出ていったソーマに残されたカルキはため息をついて

 

「いや、ソーマ神よ、他人に後始末を押し付けるのならば初めからしないでほしかったな」

 

一人部屋に残されたカルキは黙って黙々とソーマが起こしたことの後始末をするのであった。

 

***

3日後、バベル30階の広間で行われている臨時の神会(デナテュス)に仮病を使ってサボっていたヘスティアがようやく参加、戦争遊戯(ウォーゲーム)の形式と両【ファミリア】が勝った際お互いに要求することについて決める話し合いが行われ、くじ引きの結果、人数の多さが有利になる『攻城戦』となってしまい、ヘスティアがドンっと机を叩く中、勝利を確信したのか

 

「では、攻め手は君に譲ろう、ヘスティア!ああ、それと私のことを太陽神にふさわしくないなどと抜かしたあの男も参加させろよ!私の眷属達によってあの男がボロ雑巾のようになるのを見るのが今から楽しみだ!!」

 

自分に恥をかかせた男をオラリオの見世物にしてやろうとするアポロンに

 

「ちょっ、カルキ君は恩恵を貰っていない!ただの一般人だ!!」

 

焦るヘスティアがカルキが恩恵を貰っていないことを言ったため、3日前、カルキに首を落とされる幻覚を観させられたことも忘れて、『恩恵貰ってないのにイキッてる奴とか』『常識ねぇの?マジでバカかよ』と周りの神々がゲラゲラとここにいないカルキを嘲笑する中、ロキとフレイヤはそのイキリ野郎と神々が嘲笑する男について考えていた

 

「(確かに普通に考えたらただ世界を知らないイキっとる奴や、でもフィンが言う通りなら、あの酒場で喧嘩売ってきた奴は怪人(クリーチャー)って可能性がある。ここは戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加させて化けの皮はがしたる)」

 

「(オッタルをあそこまで一方的にボロボロにすることの出来る男……まさか本当に三柱神(トリムルティ)と…?ここは参加させて様子を見た方がいいわね)」

 

その後、【ヘスティア・ファミリア】にはオラリオ外部から一名だけ助っ人を呼んでいいこと、カルキを参戦させることが決められ、これで終わりかと思われた時、唐突に広間の扉が開けられソーマが入ってきた

 

「あれれ~?ソーマ君は今頃参加ですか~?」

 

『ギャハハハハハハ!』

 

「……………」

 

今頃やって来たソーマに神々が笑う中、ソーマは何も反応せずヘスティアのもとに近づく

 

「…………ヘス……ティア?」

 

「ああ、そうだよ、なんだい?」

 

急に話しかけてきたソーマに少しヘスティアが動揺するがそれを無視するかのように

 

「お前の眷属とパーティーを組んでいたリリルカ・アーデについて話がしたい、後で私の【ファミリア】が所有しているダイダロス通りにある酒蔵に来い」

 

それだけ言うと帰ろうとするソーマに「まあ、待てよ」と近づいてきた神がソーマの肩に手を置くと

 

「気安く触れるな」

 

「……へ?ギャ、ギャアアアアアァァァッ!俺の腕がああああああ」

 

ソーマに肩を置いた神の手がソーマによって引きちぎられていた

 

「貴様らのような神格の低い神が何故私と対等だと思っている」

 

少し怒気を含んだ言葉をソーマが発した瞬間、数ヶ月前、同じ場所でガネーシャとタケミカヅチが放った神気に匹敵するかそれ以上の神気がソーマから発せられ、ガネーシャ、タケミカヅチ、ヘスティア以外の神が机や床に強制的に突っ伏される

 

「ちょっ、これはルール違反だろう?ソーマ?」

 

必死に神々が定めたルール違反であるとヘルメスが床から顔を上げながらソーマに抗議するが

 

「……何故、私より神格が低い神が定めた決まりを私が守らなければならない?」

 

あまりにも傲慢に言い放つソーマに神々が唖然としていると

 

「そこまでだ!ソーマ!!」

 

「そうだな、俺達が言えた義理じゃないが、これはやりすぎだ」

 

ソーマの神気に屈しなかったガネーシャとタケミカヅチが神気を放ちソーマの神気を抑え込み相殺する。流石に武神二柱相手は厳しいと判断したソーマは神気を消して、どうしたらいいのか分からずオロオロしているヘスティアに

 

「必ず来い」

 

とだけ最後に言い残して部屋から出ていった

 

***

「で、何やったんや、あのソーマの奴の変わりようは?」

 

ソーマが去り、しばらくたって落ち着きを取り戻した広間でロキが普段と違うソーマについてロキが誰にでもなく疑問を呈すると神々はソーマと天界で同郷であったガネーシャを見る

 

「うむ!説明するとだな、俺が!ガネーシャだっ!!」

 

ビシイッ!!っとポーズをとるガネーシャに胡乱げな神々の視線が集まる中、「ゴホン」とガネーシャは咳払いして

 

「まぁ、そうだな、俺も久しく忘れていたが、ソーマは今でこそ酒造りにしか興味のない神だと認識されているが、元々『リグ・ヴェーダ』の神々の間ではインドラ、アグニに次ぐ神格の高さを有していた神で性格はさっきのように傲慢だったからな、あれが本来のソーマの神気と本質…といったところではなかろうか」

 

ハッハッハ!と大笑いするガネーシャに『リグ・ヴェーダ』の神々のバケモノっぷりを知っている神々は『ヤベェよ、ソーマ怒らせたら絶対ダメな神だよ、消されちまうよ』と震え上がり

 

「え?ボク今から会いに行くんだけど…………」

 

涙目で呟いたヘスティアにヘルメス、ヘファイストス、タケミカヅチ、ミアハが優しくポンっと肩を叩き、戦争遊戯(ウォーゲーム)の相手であるアポロンや普段から犬猿の仲であるロキ、ベルを狙っているフレイヤからも同情と憐れみを含んだ視線を貰い

 

「ベ、ベルくぅ~ん」

 

思わず今も強くなるために【剣姫】と特訓しているであろう自分の眷属の名前を呼んでしまうヘスティアであった

 




ソーマはもう本編で出番ないから好き放題盛ってもいいよねって


本編再登場したらどうしよう………



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話

お気に入り登録が1000件を超えました…………マジですか………

最初に「ダンまちにインド神話って影薄いよね」ぐらいの気持ちで読専の癖に書き始め3桁いったらいいなぐらいだったんですが………

登録本当にありがとうございます。これからもいろいろ至らぬところも多いと思うのでその時はぜひ感想にでも書いてください


「うぅ…ソーマに言われて来たけど…ソーマが『リグ・ヴェーダ』では元々3番目に神格が高かっただなんて知らなかったよぉ……」

 

「だが、あのサポーターはベルにとって、今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)の勝利に必要な人物なのだろう?」

 

「うん、皆、協力してくれ」

 

神会(デナテュス)終了後、ダイダロス通りにある【ソーマ・ファミリア】が所有している酒蔵のある敷地の入り口前で泣き言をいうヘスティアと「ヘスティアとリリが心配だから」とミアハ、ヴェルフ、ナァーザ、【タケミカヅチ・ファミリア】のカシマ・桜花、ヤマト・命、ヒタチ・千草、ヘルメス、【ヘルメス・ファミリア】の団長アスフィ・アンドロメダといった面々が集まる中

 

「よし、行こう」

 

ヘスティアが意を決したように前を向いたと同時に扉が開き、全員が身構えるがそこにいたのは意外な人物であった

 

「ようこそ、ヘスティア神、ソーマ神は既に一室で待っています。どうぞ、こちらに」

 

「ええっ!?カルキ君、なんで【ソーマ・ファミリア】の酒蔵に君がいるのさ!?」

 

笑みを浮かべながらヘスティア一行を出迎えたのはカルキで勝手知ったように案内しようとする元同居人にヘスティアが驚いた声を上げるが

 

「いや、ソーマ神とは多少の付き合いがあって、それに自分は『ソーマ神は問題ない』と言ったはずだが」

 

サラリと告げるカルキに「じゃあ、もっと早く助けてくれても良かったじゃないかぁ!」と怒るヘスティアをスルーして自己紹介してから案内するカルキに全員の自己紹介を終え、中立を標榜しているヘルメスとその団長であるアスフィ以外はおとなしくついて行き、とある部屋の前でカルキが立ち止まり、ドアをノックすると「入れ」とソーマの声がしたため、カルキがドアを開けてヘスティア達を部屋へと通す

 

「来たか…案内ご苦労だったカルキ」

 

「ヘ、ヘスティア様…皆様…」

 

部屋には長机が一つと奥に座ったソーマと手前側に座ったとリリだけがいて、その他の【ソーマ・ファミリア】の団員たちは見かけられなかった。「カルキ、すまないが椅子を持ってきてくれ」とソーマがカルキに頼み、隣の部屋からカルキがミアハの分の椅子を持ってきたところでヘスティアとミアハにソーマが座るように促す

 

「ソーマ、サポーター君についてだが…」

 

「わかっている。【ヘスティア・ファミリア】に改宗(コンバーション)してほしいのだろう?」

 

こちらの意見をいう前にあっさりと改宗(コンバーション)について話したソーマにこれならばと思ったヘスティアであったが

 

「以前に本人から別の【ファミリア】へ改宗(コンバーション)したいという意思は聞いていた。確かに、今までのリリルカ・アーデの境遇は私の【ファミリア】の管理に問題があったということで私が彼女に何かいえる資格はない」

 

「じゃ、じゃあ」

 

期待した目でヘスティア達はソーマを見るが

 

「だが、それと同時に、私は下界の人間(子供達)に失望している」

 

『え……?』

 

「当然だろう?()()()()()()()()()()()で醜く争う者達にどうして失望しないと思える?」

 

そう言うとソーマはカルキに指示を出し、それに頷いたカルキは別の部屋から酒壺を持ってきてソーマに渡す。ソーマがおもむろにその酒壺を開けると室内には芳醇で甘美な酒の香りが漂い、その香りをかいだだけで、ヴェルフ達は足元がおぼつかなくなり立っていられず座り込み、神であるヘスティアやミアハでさえクラリと酩酊し頭を揺らす。そんな姿にソーマは酒壺のふたを閉め

 

「……これが本当の『ソーマの神酒』だ。私が下界に来てから作ったのはこれのまがい物でしかない…私には眷属に報酬として渡すものはこれしかなかった、だが、私の眷属は簡単に酒におぼれ、我先に手に入れようとし、お互いを蹴落とす醜い争いを行い始めた」

 

故に下界の人間達に失望したのだと語るソーマに誰も反論できない。今、本当の『ソーマの神酒』を知ってしまった以上、確かにまがい物の神酒に溺れる眷属を見れば下界の人間(子供)に失望してしまうのも理解してしまったからだ

 

「だが…」

 

『?』

 

「リリルカ・アーデ…お前がこのまがい物に溺れず、己を律し、他者に意思を委ねず、自分の望みが薄っぺらいものではないということを証明するならば…出来たならば、私は、お前の望みを聞き入れ改宗(コンバーション)を許可しよう」

 

再びカルキに命じて出来損ないの神酒と杯を用意させ、杯に注ぎリリの前に差し出すソーマの姿は、リリの知っている茫洋とした姿ではなく、己の眷属の真偽を見極めようとする正に神格の高い神の姿であり、思わずゴクリと喉を鳴らすリリであったが、やがて決心がついたのか杯に口をつけた

 

***

結果、リリルカ・アーデは神酒に溺れなかった。一口飲んだ瞬間、杯を落とし、机に伏し、視点が定まらず「――――――ぁ、は」と絶頂の声を出した少女に所詮はその程度と判断したソーマが立ち去ろうとし、椅子から立ち上がり背を向けた時、確かな意思をもって少女は主神に訴えたのだ

 

「私はあの人を助けたい」

 

そう訴えた少女の目からは涙がこぼれ、更に少女は泣きながら自分はきっと今この時のために生まれてきたのだと、この時のために間違いを積み重ねてきたのだと、今度は自分が自分を助けてくれた人を助けたいと主神に自らの思いの丈をぶつける

 

「そうか…分かった、改宗(コンバーション)を認めよう」

 

神酒に溺れず、自らの思いをぶつけてきた眷属にソーマはどこか満足したように頷くと改宗(コンバーション)を認め、ヘスティアを促し改宗(コンバーション)をその場で行ったのであった。

 

その後、神会(デナテュス)で決まったことをヘスティアが真剣な顔でカルキに伝える

 

「ごめん、カルキ君、君も戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加することが決まってしまった」

 

改宗(コンバーション)が終わり、正式にリリルカ・アーデが【ヘスティア・ファミリア】所属になった後、事の顛末を見届けていたカルキにヘスティアが申し訳なさそうにカルキに伝えたのである。自派閥の都合に巻き込んでしまったことに申し訳なさそうにするヘスティアに「アポロン神にケンカを売ったのは自分なのだから気にしなくていい」と伝え、それぞれの思いを胸に部屋から出ていく者達を見送り、少しソーマ神に用があるからとカルキだけが部屋にソーマと残ったのである。ただ、その後「少し付き合え」とカルキはソーマから杯を渡され、本物の『ソーマの神酒』を飲むことになってしまったのだが

 

「しかし、まさかまがい物とはいえ神酒にあらがえるとはな…」

 

「それこそ、神々の言う所の『下界の未知(可能性)』というものだろうに」

 

そう言いながら酒を酌み交わす一柱と一人は最後にヘスティアが残していった話題には触れずに静かに本物を味わっていると、こちらに近づいてくる神の気配を感じ扉を見ていると

 

「そう!俺が、神酒の香りにつられてやって来たガネーシャだ!」

 

大きな音を立てて扉を開けて入ってきたガネーシャにソーマはため息をついて新しい杯を用意し神酒を注ぐ、杯になみなみと注がれた神酒を駆けつけ一杯と言わんばかりに一気に飲み干したガネーシャはカルキへと向き合い

 

「【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)にお前も参加することが決まったぞ!」

 

「……それは先ほどヘスティアから伝えられた」

 

「何いっ!」

 

カルキが返す前にソーマが呆れた口調で既にヘスティアから聞いていたことをガネーシャに伝えると「そうだったのか!いやぁ、すまん!」と大笑いするガネーシャに「そんなことを聞きに来たわけではないのだろう?」とカルキが視線で問いかけ、ガネーシャは真剣な雰囲気となり

 

「……スーリヤとヴィシュヌは何と言っていた?」

 

やはりソーマと同じように3日前カルキにスーリヤが憑依していたことは気づいており、また、この3日の間にカルキが天界に赴き、『ソーマの神酒』を取りに行った際、ヴィシュヌから何かしらの命令を受けていると確信しているらしい。流石はガネーシャ神だとカルキは敬服し答える

 

「スーリヤ神からは『太陽神にふさわしくないものを消滅させろ』と言われ、ヴィシュヌ神からは『もし、ベル・クラネルが真に世界を担う英雄になりうるならばこの程度は試練と呼べないだろう、故に決着はベル・クラネルに任せろ』との命令でな」

 

どこか困ったような疲れたような雰囲気のカルキに二柱は「ふむ…」と考え

 

「ならば、戦争遊戯(ウォーゲーム)にはあまり積極的には参加せず、スーリヤに急かされれば参加し、終わった後にアポロンは消滅させればいいだろう」

 

「うむ!それならばどちらの命令も果たせる、それにもうギルドで発表されたから伝えるが今回は『攻城戦』、お前が戦えば城の一つや二つ簡単に吹き飛ばせるだろうしな!」

 

神二柱の意見とほとんど同じ考えであったカルキは同意する。カルキとしては【アポロン・ファミリア】にはアポロンに心酔している者と無理矢理眷属にされている者と別れているという認識であり、後者の者達を前者と一緒くたにして『間引く』訳にはいかないので『間引く』のはアポロンとそれに心酔する者達であるが、それも戦争遊戯(ウォーゲーム)後であり、その最中にはしないと決めていてそれはスーリヤも同意するだろうが、もし、スーリヤが介入すると想定できる中で最も最悪な事態になる

 

「インドラ神まで来てしまったらな…」

 

そう、あまりカルキが静観しすぎれば恐らくスーリヤは【アポロン・ファミリア】を消滅させようと【ヘスティア・ファミリア】に手を貸そうとして下界に介入してくるだろうがそうなれば間違いなくスーリヤと何かにつけてお互い張り合っているインドラが【アポロン・ファミリア】に手を貸すことは容易に想像できる。そうなれば城一つどころか大陸、否世界崩壊の危機になることは間違いないだろう

 

「それはそれで見物だろうがな…」

 

「まあ、お前の動きを見ても三柱神(トリムルティ)や『リグ・ヴェーダ』と関係あることに気付くのは武神であるタケミカヅチくらいだろうがな!」

 

スーリヤとインドラが下界に介入してくるのも自分の背後に誰がいるのか明らかになるのも面白いと嗤いながら言う神二柱に呆れつつ杯をあおるカルキであった

 

***

次の日、カルキはギルドへと行き、戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加する説明を聞き、神造武器を使うわけにもいかないので武器として槍と弓矢をそれぞれ5000ヴァリスで買い、受付嬢の小柄な人間(ヒューマン)とハーフエルフの女性から何故か励まされ、オラリオを出発、数時間後、『攻城戦』で使われるシュリーム古城にいる盗賊団数十人を【ガネーシャ・ファミリア】が制圧する前に肩慣らしとして皆殺しにした後、近くの森でベル達が来るのを待っていたのだが

 

「……随分と増えたな…あのサポーターはいないようだが」

 

「あはは…」

 

改宗(コンバーション)したのであろう、6日前一時的に行動を共にしたヴェルフ・クロッゾと酒蔵で会ったときは【タケミカヅチ・ファミリア】と名乗っていた少女ヤマト・命、何故かいる酒場の女店員の覆面をしたエルフまでいたのである。ここにはいない元【ソーマ・ファミリア】団員リリルカ・アーデは【アポロン・ファミリア】の団員の一人に変身魔法で成りすまして城に潜入中らしい。

 

「なるほど…しかし、何故ベルに手を貸すのだ?普通に考えればこちらが圧倒的に不利だというのに?」

 

そう問えばヴェルフは「ベルのためなんだから当然だろ?」と呆れたように言い、命は「私はベル殿に返さねばならない恩義がありますから」と真っ直ぐに答える2人を見て「善い人に恵まれたな」とベルに笑いかけるとまるで自分のことのように嬉しそうにするベルに頷き、こちらを警戒した目つきで見てくる覆面のエルフが作戦を話し始める

 

***

戦争遊戯(ウォーゲーム)当日、オラリオは尋常ではない熱気と興奮に包まれていた。冒険者や一般の人たちも今日ばかりは仕事を休み、今か今かと始まるのを朝早くから今日だけ特別に開いている酒場に集って待ち受ける。悪乗りした神々によって【アポロン・ファミリア】対【ヘスティア・ファミリア】と常識のないイキリ野郎の戦争遊戯(ウォーゲーム)は大々的に宣伝され、どちらが勝利するか各酒場では賭博が行われ、冒険者のほとんどは【アポロン・ファミリア】に神やベルのことを知っている冒険者は【ヘスティア・ファミリア】に賭ける。そして神々は【ヘスティア・ファミリア】に協力しているイキリ野郎がどれだけ無様になるかを楽しみにしていたが

 

「さぁて、化けの皮がはがれるか……見物や」

 

「うふふ、アポロンには悪いけどあの男を知るために全滅してもらおうかしら」

 

「さて、スーリヤがどう動くか…」

 

「俺が!ガネーシャだっ!」

 

ロキとフレイヤはカルキの正体を探り、ソーマはスーリヤが介入し、あわよくばインドラとの戦闘を見ながら神酒を飲むことを望み、ガネーシャはギルドの前に造られた特設の舞台で叫ぶ。

 

正午を前に控え、ヘルメスが神の力(アルカナム)の行使の許可をウラノスに求め、荘厳な声が許可を出し、神々が一斉に指を弾き鳴らし、オラリオ中に『鏡』が出現し、オラリオは沸き立つ。オラリオにいるすべての者達の視線が『鏡』に集まり

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)―――――――開幕です!!』

 

後に最も多くの死者を出したとされる悲惨な戦争遊戯(ウォーゲーム)が幕を上げた

 




最初は戦争遊戯開始と共に城壁が太陽によって焼かれてオラリオが『………ゑ』っていう流れで行こうかなって思っていたけど書いてる途中で「あれ?スーリヤがヘスティアについたらインドラがアポロンにつくんじゃね?ベル君にヴァジュラ飛んでくんじゃね?」となったので没になりました



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話

もうイベントが終わりに近いのに3連続礼装ドロップ


………今じゃねーだろうよ!!




「では、あなたは私と共に昨夜決めたように城壁を壊し、敵の半分を引きつけます」

 

未だ自分を警戒している覆面のエルフと共にカルキは戦争遊戯(ウォーゲーム)開始前に動き出す

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)前日の夜、作戦会議を開いた【ヘスティア・ファミリア】は覆面の冒険者がカルキと『クロッゾの魔剣』をもって城壁を壊し、東に移動し敵の半分を引き付け、その隙に壊した北の城壁から命が潜入、変装したリリがワザと残った半分を命へと回し、自滅覚悟での足止め、その後、リリが西の城門からベルとヴェルフを入れてベルが総大将であるヒュアキントスとの一騎打ちに持っていく…つまりは短期決戦の電撃戦をとることを決めていた

 

「すみません、カルキさん…一番危険な役を押し付けてしまって」

 

『クロッゾの魔剣』は強力で恩恵を得ていない者でもある程度戦える…カルキの本当の実力を知らないベルは申し訳なさそうに危険な役目をカルキと援護をするリューに押し付けてしまうことを謝るがカルキは気にした様子もなく

 

「気にするなベル、それより、あの程度の相手に負けるなよ」

 

「はい、僕はあの青年()に…ヒュアキントスさんに勝ちたい………勝ちます!」

 

真っ白な情熱()を瞳に宿らせ宣言するベルに面白いと笑いつつ、つい「まあ、あの程度の城はブラフマーストラを使わずとも一撃で吹き飛ぶのだがな…」と呟いてしまい、「ブラフマー……?」と反応するベルに「気にするな」と苦笑する

 

昨夜あったことを思い出していたら城壁の前まで来ていたらしい。隣から注意を促す声がかけられる

 

「……もう敵の前ですが」

 

「ああ、わかっている」

 

正午と同時に鳴らされた銅鑼の音と共に始まった戦争遊戯(ウォーゲーム)、始まってすぐにカルキとずっとカルキを警戒しているリューは昨夜の打ち合わせ通り【アポロン・ファミリア】が守るシュリーム古城の北側から攻撃を開始しようとしていた

 

「私は今もあなたを…あの血だらけになった【猛者(おうじゃ)】を運んできて、少し見ただけで私たちの得物と闘い方を言い当てたあなたを警戒している」

 

「だろうな、昨日からお前は自分をそういう目で見ている」

 

「ですが、今だけは、ベルさん達の勝利のためにあなたを守りましょう……始めてください」

 

「(この程度の強さの者に守られる必要などないが……)そうか、では始めるとしよう」

 

そう言うとカルキは『クロッゾの魔剣』を振るい攻撃を開始した

 

***

『おおーっと!【ヘスティア・ファミリア】!!まさかの速攻だぁ!これは短期決戦狙いかぁ!?』

 

ギルドの前に用意された特設の舞台で【ガネーシャ・ファミリア】の団員【火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】自称喋る火炎魔法イブリ・アチャーが実況する中、

 

「(ちっ、魔剣使っとたら怪人(クリーチャー)かどうかわからんわ)」

 

「あら、魔剣を使うの?少し期待外れね」

 

「まあ、あれなら丁度良い手加減だな」

 

「(どうかこのままスーリヤが介入しないように…)あれは、ガネーシャか!!」

 

ロキとフレイヤは正体がわからぬことに不満を覚え、ソーマは今がちょうどいい手加減だと評価し、ガネーシャはスーリヤが介入しないことを望みつつ、戦争遊戯(ウォーゲーム)を盛り上げようとしていた

 

「うーん、やっぱりそう簡単には尻尾は出さないか」

 

「あん?フィンそりゃどういう意味だ」

 

【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)『黄昏の館』の幹部が集まった一室で、≪神の鏡≫に映っているカルキの闘っている姿を見て何気なく呟いたフィンの言葉にベートが反応し、他の幹部達もフィンを見る中、不確定のことを言うわけにもいかないフィンは「なんでもないさ」と茶を濁し再び映像へ視線を戻す。そんなカルキをまるで敵のように見るフィンにアイズ達は違和感を覚えるのであった

 

***

「(ほう、あのサポーター…リリルカ・アーデだったか?随分上手く誘導したものだ、まさか本当に敵の半分をこちらへと向かわせるとは)」

 

北から東へと移動しながら魔剣での攻撃を続けていたカルキは城門から出てきた50名程の【アポロン・ファミリア】を見て上手く誘導したものだと感心する。…彼女はサポーター業を止めても舞台女優にでもなれるのでは?と緊張感のない感想を抱いていると、手元で使用限界を迎えた魔剣が壊れた。それを見て【アポロン・ファミリア】を率いてきた小隊長(エルフ)が指示を出す

 

「アポロン様をコケにした奴だ!囲って潰せ!!」

 

こちらに来た50人のうち、30名がリューに向かい、20名がカルキを囲む中、カルキはギルドでガネーシャから借金をして購入した普通の槍を装備し向き合う

 

「アポロン様を太陽神にふさわしくないなどと…報いは受けてもらうぞ!」

 

こちらに来た小隊長(エルフ)に率いられた【アポロン・ファミリア】の団員達が怒りを露わにカルキを一斉に攻め立てる中、槍捌きと体捌きだけでその攻撃を躱すカルキ、それは傍目から見れば冒険者に囲まれて必死に攻撃を受け流しているようにも見えた

 

***

「ぬぅあ~!カルキ君は恩恵を貰ってないんだ!20人で囲むなんて卑怯じゃないか!!」

 

「フハハハハ!残念だがこれはルールだヘスティア!仮にあの男を殺してしまったとしても何も私の眷属(子供達)は悪くないぞ!!」

 

バベル30階ではヘスティアが恩恵を貰っていない一般人に大人数で攻撃していることに卑怯だと憤慨し、アポロンが自分を太陽神を名乗るのにふさわしくないとコケにしてくれた男を自らの眷属が囲んでいて、もし、うっかり殺してしまってもルール上は問題ないと高笑いする。

 

そんな2柱と今も≪神の鏡≫に映っている映像の中で囲まれているカルキもとい常識のないイキリ野郎を見て、これなら化けの皮がはがれるかもしれないとロキはニヤリと笑い、ヘファイストスは憐れみと心配の視線をカルキへと向け『何秒持つと思う~?』『バッカ、あのイキリ野郎君がかわいそうだろぉ?』『ギャハハハハハハ!!』とカルキを嘲笑する神々の声が響き渡っていた。

 

「はんっ、大口叩いてあのザマとは情けねえな」

 

「ちょっとベートうるさい、ねえ団長?……団長?」

 

ベートが【アポロン・ファミリア】に囲まれ構えもせず躱しているだけのカルキを情けないと評し、ティオネがベートを黙らせようとしフィンに同意を求めるがフィンからの反応はない。それどころかガレス、リヴェリアまでもが鏡に映るカルキを真剣な眼差しで見ていることに【ロキ・ファミリア】の若い幹部たちは首を傾げた

 

「(……確かに彼は切り札である魔剣を失くし、20人に囲まれ構えもせずに必死で躱しているように見える…だがこの違和感は何だ?)」

 

鏡に映るカルキは囲まれ、確かに窮地に陥っているように見える。だが、フィンには今のカルキからは余裕を感じられ、それどころかワザと反撃していないようにも見えていた。また自分には気づけない『何か』があるように感じられ、違和感を覚えるフィンであるが、チラリと横を見ればどうやらガレスやリヴェリアも同じように違和感を覚えているらしい。真剣な表情で鏡に映るカルキを凝視していた

 

フィンやガレス、リヴェリアといった第一級冒険者に違和感を覚えさせるカルキの戦い方を正しく認識し、カルキの実力が図抜けていることをオラリオで気づいたのはやはり武神であるタケミカヅチだけであった

 

「桜花、千草、お前たちも命の応援もいいがあの男から決して目を離すな、あいつの技量は間違いなくこのオラリオの中で並び立つ者のいない遙か高みに立っているぞ」

 

タケミカヅチの言葉にどういう意味かわからず首を傾げる眷属に「まあ、仕方がないか」とタケミカヅチは説明し始める

 

「まずは左足をよく見てみろ…あいつは左足を軸にして右足だけを動かし、槍捌きと体捌きだけですべての攻撃をいなしている。それだけではない、相手の攻撃をいなした際、次の攻撃をする相手が常に自分の正面に来るように相手の動きを全てコントロールしている。……その卓越した己の技量を、誰にも気づかせないように技を振るい、年季の入った者だと違和感を感じるが決して自分の技量には気付かせないように偽装し、『武』を司る神でないとその技量の神髄に気付くこともできないというレベルまで鍛え上げられた技量を平然と今のあいつは披露している……こんなことが出来る人間がこのオラリオに、いや、下界にいると思うか?」

 

武神の言葉に驚き、確かによく見てみるとその通りであることに気付いた眷属達は鏡に映る男と武神の言う卓越した技量に戦慄する。その一方で武神はカルキの背後にいる神々に当たりをつけていた

 

「(……おそらくあの男はかなり手加減をしている。それに、あの槍捌きと体捌きは偽装しているが間違いなくカラリパヤット…つまりあの男の背後にいるのは『リグ・ヴェーダ』の神々ということか……チッ…ガネーシャの奴、あの時この男の存在を隠していたな)」

 

カルキの背後には『リグ・ヴェーダ』の神々がいることを確信しつつ、数週間前の神会(デナテュス)では『そんな人間はいない』と言っていたガネーシャに内心舌打ちをし、その男と手合わせ(殺し合い)をしてみたいと心の底から願うタケミカヅチであった

 

***

一方、シュリーム古城での戦いは佳境を迎えていた。事前に決めた作戦通り、北の壊れた城壁から命が潜入、変装したリリが【アポロン・ファミリア】の残った半分を向かうように誘導、自爆覚悟の魔法を行使しつつ、完全に死角となった西の城門をリリが開け、ベルとヴェルフを場内に引き入れることに成功し、後は一気に【アポロン・ファミリア】の総大将ヒュアキントスをベルが打ち取れば【ヘスティア・ファミリア】の勝利である

 

「(ふむ…このままいけばここで【アポロン・ファミリア】を間引かなくても良くなるな、終わった後にアポロン神を消滅させればスーリヤ神の命令を果たせ)――――――ッツ!?」

 

未だ一人も倒さず、躱し続けていたカルキであったが急に動きを止め、何やらブツブツと呟くカルキに【アポロン・ファミリア】だけでなくリューも動きを止めてしまう。しばらく何か考えるそぶりを見せたカルキは【アポロン・ファミリア】を真っ直ぐに見据えて問う

 

「ああ、どうやら時間切れのようだ、…すまないがこの戦争遊戯(ウォーゲーム)に参加している【アポロン・ファミリア】の中でアポロン神に無理矢理眷属にされ、アポロン神に不満を持つ者はいるか?」

 

唐突なカルキの問いにうろたえる【アポロン・ファミリア】の団員達のなかで、すぐに正気を取り戻した小隊長のエルフのリッソスが怒声を上げる

 

「確かに我らはアポロン様が見初められ眷属にした!だが心の奥底では複雑な心境のダフネや悲観的なカサンドラとは違い、我らはアポロン様に忠誠を誓っている!」

 

カルキは激高するエルフを一瞥し、他の者達の反応を確認するがその場にいる者達はエルフの言うことが当然だという雰囲気を確認し

 

「では、ダフネとカサンドラとは誰だ?特徴があれば教えてほしい…その者達は見逃そう」

 

不敵な物言いをするカルキにその場にいる誰もが唖然とし、オラリオでは神々が『イキリ発言キター!!』とカルキを嘲笑する中、リューがカルキにここにいる【アポロン・ファミリア】の団員の中で2人だけが女性であり、その2人であることを伝えると

 

「では…その2人と小人族(パルゥム)、ベルの相手の…ヒュアキントスだったか?その者達だけは生かすこととしよう」

 

カルキの言い方に怒りを覚えたリッソスがカルキへと攻撃しようとした瞬間、一瞬で距離を詰めたカルキから首をへし折られ、力なく両腕をたらす

 

「悪いが早く終わらせろと急かされたのでな……始めるとしよう」

 

カルキの宣言により一方的な蹂躙劇の幕が上がった




カルキさんスーリヤさんに急かされ本格的に参戦決定

あと最初間違えて魔剣で小人族吹っ飛ばして「あ、これリリやんけ」ってなって書き直したのは内緒


次回『1万年後までごきげんよう』(cv中尾〇聖さんで)

この元ネタ知らない人も多いやろなぁ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話

買ってしまった……ポケモン最新作

トレーナー兼マスター兼赤ちゃん騎士君etcて………

この後はサクラ大戦も予約してあるし…

あー、今年中に2期分終わるかな?


「……え?」

 

《神の鏡》に映っている男の手によって起きた事態に声を発することが出来たのは、【アポロン・ファミリア】の団員か、【ヘスティア・ファミリア】の助っ人のエルフであろうか、それとも≪鏡≫を通して観ているオラリオの住人か神かその眷属であろうか

 

『神の恩恵を貰っている者といない者とでは天と地ほどの力の差がある』という下界の、否、神々も認める一般常識

 

そのため、今、「神の恩恵を貰っていない」と公言し、それが嘘ではないと嘘を見分けることの出来る神が認め、「常識のないイキリ野郎」と神々が嘲笑していた男があっさりとレベル2の冒険者の首を真正面から掴んでへし折って殺したという事実にとある神々を除いて誰もが黙ってしまっているのだ

 

***

「では、始めよう」

 

リッソスを殺した後、軽く言ったカルキに正気を取り戻した【アポロン・ファミリア】の団員達とリューがカルキを見た瞬間、カルキは槍を振るい、既にリューによって倒され地に伏せさせられていた者を含む49人の首をはね飛ばす。首がなくなったことで血が首元から噴水のように吹き出し、その周辺が噴き出た血によって真っ赤に染まり、近くにいたリューも返り血を浴び赤く染まる中、返り血一つ浴びていないカルキは城壁の上にいる弓兵の一人へ槍を投擲した後、城壁へと飛び移る。

 

放たれた槍は真っ直ぐに心臓を貫き弓兵は絶命、隣にいる【アポロン・ファミリア】の団員が恐慌状態に陥る中、城壁へと飛び移り刺さっている槍を素早く引き抜いたカルキはその団員の喉元に槍を突き刺し、首をはね飛ばす。槍を持ち直すと

 

「……次」

 

そう短く言葉を残して南の城壁へと移動するのをただ眺めているだけのリューであったが、我に返り、辺りを見回すとカルキによって引き起こされた惨劇を見て、たとえ敵であってもこれ以上の殺戮は認められないとカルキを止めようと走り出していた

 

***

「どういうことだヘスティアァ!あの男は神々(我々)の恩恵を貰っていないんじゃあなかったのか!?」

 

バベル30階、今も次々に自らの眷属がイキリ野郎に殺されていることを感じて錯乱するアポロンは隣で戦争遊戯(ウォーゲーム)を観戦していたヘスティアの胸ぐらを掴み上げ怒鳴り散らす。そんなアポロンに「そ、そんなことボクだって知りたいさ!」とヘスティアも言い返し、さっきまで『何だ今のおおおおおお――――――――――ッ!?』『無詠唱!?』『呪文なしであの威力とかー!!』『あの人間(ヒューマン)欲しいいいいい―――――!!』と詠唱されずに放たれたベルの大砲撃にはしゃいでいた神々は未知の出来事に誰もが動揺し黙ってしまう中

 

「(首を真正面から掴んで殺害か……ディオニュソスの眷属(子供)やハシャーナが殺された方法と同じやな……)」

 

ロキはカルキがリッソスを殺した方法が怪人(クリーチャー)の殺し方と同じであると考えるが、同じことはフィン達でもやろうと思えばやれるのでカルキが怪人(クリーチャー)であると決めつけるのは早計であるとも考える

 

「(ちっ、なんや、この何とも言えんモヤモヤは……)」

 

最初はカルキの化けの皮をはがしてやろうと意気込んでいたロキであったが、次第に化けの皮をはがすと怪人(クリーチャー)やエニュオどころかもっとヤバいナニかが出てくると神の直感がささやいていることにこの場にいる誰にも気づかれないように舌打ちをするロキであった

 

オラリオ中の神々や人間がカルキによって起こされた殺戮劇に混乱し、恐怖する中、そんな凄惨な光景を見て

 

『美しい』

 

と評したのはフレイヤ、ソーマ、ガネーシャ、タケミカヅチであり、その言葉にオッタル、チャンドラ、イブリ、桜花と千草といった眷属達はギョッとした顔で己の主神を見るが四柱は

 

「あら、オッタル、殺戮も私が司る『戦いと勝利』の一つよ、それを『美しい』としないことの何がおかしいというの?」

 

「何故驚くチャンドラ、この振るわれる技をそれによって生み出される光景を肴にすればどんな水でも銘酒になるというものだ」

 

「ああ!これは!あいつらとの喧嘩を思い出させる美しく、素晴らしい技だ!これを見て『怖い』と思うならお前もまだまだということだなイブリ!」

 

「桜花、千草、あいつの振るう槍をよく見てみろ、恐ろしいほど正確に急所を神速の速さをもって刺し穿ち、突き穿ち、切り払う。この技を見て『美しい』と感じなければ武神・武人は名乗れんよ」

 

何を当たり前のことをと言外に言う己の主神に神々と人間との価値観の違いを改めて認識させられた眷属達は震え上がると同時に神にここまで言わせるあの男は何者であろうかという疑問が湧いたのは言うまでもない

 

***

「……どうやら、ベルの方はまだ続いているようだ」

 

2分も経たずして先ほど宣言した4人以外の【アポロン・ファミリア】の団員を蹂躙したカルキはベルの大砲撃によって崩壊した中央塔の瓦礫の一つに腰掛け、ベルとヒュアキントスの戦いを眺めていたが、やがてベルの左拳がヒュアキントスに突き刺さり、30M程吹き飛ばした後、ヒュアキントスは大の字に大空と太陽を仰ぐ。

 

ここに【ヘスティア・ファミリア】対【アポロン・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)は【ヘスティア・ファミリア】側軽傷3名、【アポロン・ファミリア】側重傷1名、軽傷2名、死者106名という最高の大番狂わせ(ジャイアントキリング)と最悪の死者数を出して終了した

 

「……あなたは何者ですか」

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)終了後、カルキの首元に小太刀を突き付けながら問うリューに慌てるベルを抑えてヴェルフ、命、リリも厳しい眼で文字通り【アポロン・ファミリア】を殺しつくしたカルキを睨む

 

「何やら1週間前にも【ガネーシャ・ファミリア】の団長から同じことを聞かれたが…何、自分はただの人だ」

 

「ふざけるな!神の恩恵を貰っていないただの人間が冒険者、それもレベル2を含む上級冒険者を100人以上をたった1人でしかもただの槍と技量だけで殺せるはずがない……!」

 

どこかの酒場で「何してるの(ニャ)、リュー!!」と絶叫している店員達がいる中、カルキが自分を小馬鹿にして、はぐらかしていると感じたリューは小太刀に力を籠め、さらにカルキを睨むがにらまれた方はまったく気にするそぶりも見せず

 

「何、神の恩恵を貰わずとも強くなる方法などいくらでもあるということだ…そうだな、例えば『モンスターが魔石を喰らって【強化種】となるように人に魔石を埋め込み、人とモンスターの混合種となる』とかな……」

 

「――――――ッツ!!あなたはそうだと!?」

 

「さて…どうだろうな?」

 

「「「「な―――――――ッ!?」」」」

 

ニヤリと笑うカルキにおぞましいと嫌悪を示すエルフとそんなことがと絶句するリリ、ヴェルフ、命であったが、

 

「カルキさん……それ前も僕と神様に同じこと言って神様に嘘だって言われてましたよね?」

 

「……ベル、人の冗談を真面目に返さないでくれ」

 

ベルに以前、全く同じことを言ったことがあることを暴露され珍しく気まずそうな顔をするカルキに誰もがポカンとする中

 

「一緒に住んでいたころに恩恵貰っていないならって僕と神様がファミリアに誘ったことがあって、その時に同じことを言ってたんだ」

 

「では…先ほどのは全て嘘であると……?」

 

命が確認するように聞くとベルが頷き、全員呆れてしまい「まあ、誰しも隠したいことの1つや2つはあるさ」と苦笑いしながらヴェルフが言ったため、何とかなったがカルキはこっそりため息をつきつつ

 

「(やはりこの言い訳はダメだな…余計な誤解を生んでしまう……)」

 

『シヴァ神に弟子入りしてリグ・ヴェーダの神々からの試練を踏破したからだ』と馬鹿正直に言うわけにもいかないカルキが以前に思いついた言い訳であったが、どうにも余計な誤解を生みそうなので、もう2度と使うものかと思っていると、後始末として【ガネーシャ・ファミリア】の団員達がやって来たので怪我をしているベル達を預け、一人誰にも聞かれずに呟く

 

「…後はアポロン神を消滅させるだけか………」

 

だが、このカルキの言い訳が本当に余計な誤解を招いていたとはカルキ自身知らぬことであった

 

***

『――――――――ッツ!?』

 

そう、カルキの言い訳は間の悪いことに≪鏡≫が消える瞬間の出来事であり、ベルが嘘だと指摘するところが入らず、ほぼ全ての≪鏡≫が【ヘスティア・ファミリア】を映さず今回の総評をしているガネーシャか激怒しているヘスティアからオラリオ追放を言い渡されているアポロンを映している中、【ロキ・ファミリア】の幹部が集合している部屋ではカルキとベルを注視し【ヘスティア・ファミリア】を中心に観ていたためガネーシャの総評を映しておらず、カルキの言い訳を【ロキ・ファミリア】の幹部たちが聞いてしまい、本当に余計な誤解を生んでいたのである

 

「ど、どういうことっすか……?」

 

「まさかあの赤髪の怪人(クリーチャー)や団長達が53階層で遭ったていう黒衣の怪人(クリーチャー)と同じ……?」

 

「肯定も否定もしていないっていうのがね……」

 

第二級冒険者で【ロキ・ファミリア】の2軍メンバーのラウル、レフィーヤ、アキが動揺を表し、他の第二級冒険者も同じように動揺を隠せない中

 

「ハッ、そんなモン関係ねぇ、向かってくるってんならブッ殺すだけだ」

 

「珍しく意見があったわね……とにかく、敵になるってんなら容赦はしないってことよ」

 

「でもさー、だとするなら【ガネーシャ・ファミリア】に神様が居候させてるっておかしくない?」

 

「…………」

 

動揺するラウル達とは対照的にベート、ティオネは敵対するなら容赦はしないと公言し、ティオナはカルキが怪人(クリーチャー)なら【ガネーシャ・ファミリア】に居候しているのはおかしいと疑問を呈し、アイズは無言であるが、心の中では純粋な白兎を魔の手から救わなくては!!と意気込んでいる

 

「まさか、フィンの考えが外れておらんかったとはのぅ……」

 

「だが……アキも言っているように奴は肯定も否定もしていない。奴を怪人(クリーチャー)だと決めつけるのは早計だ」

 

以前フィンが話したことが外れていなかったことに髭をさすりながら呆れる声を出すガレスに、カルキが怪人(クリーチャー)だと決めつけるには早計で危険だと周りを諫めるリヴェリア。そして、しばらく考え込んでいたフィンがゆっくりと口を開く

 

「今はまだ彼が怪人(クリーチャー)であることを決めつけるのは危険だ。それに彼に僕達に敵対する意思は感じられないから放っていいだろう。あと、こちらからは絶対に手は出さないように」

 

そう最後を強調して言うフィンに【ロキ・ファミリア】の幹部たちは同意し、頷くのであった

 

***

戦争遊戯(ウォーゲーム)終了3日後、惨劇が行われたシュリーム古城の中庭には、オラリオを追放されたアポロンとオラリオの警告を無視してアポロンに付いてきたヒュアキントスをはじめとした元【アポロン・ファミリア】数人の姿があった。

 

「ああ!我が愛する眷属(子供)達よ!私はこれからはお前達を弔うためにここに住むことにした!どうか天界で魂を洗われた後、別の姿になったとしても再び私の前にその姿を見せてくれ!私は何百年、何千年、何万年と待とう!!」

 

泣きながら叫ぶアポロンにヒュアキントスと元団員達は恭しく傅き

 

「アポロン様、我らも命尽きるまでお側に……」

 

「ああ、そうだな、ありがとう感謝しよう我が愛しの「残念だが、命尽きるのは今この時だ」………え?」

 

何者かの声が聞こえたと思うと、どこからともなく飛んできた矢によってヒュアキントスを含む数名の首と胴体が射落とされ泣き別れる

 

「あ…あ、ああ…ヒュアキントス……?皆……?う、うああああああああああ!!!?」

 

思わず地面に座り込み、足元に転がってきた、ついさっきまで生きていた自分の眷属の首を抱えアポロンは錯乱する

 

「おのれっ!おのれっ!誰だっ!私の最後の眷属を殺したのはぁッ!!」

 

ヒュアキントスの首を抱えたまま周囲を睨みつけるアポロンの前に足音を立てることなく片手に三日月刀(シミター)を持った男が現れる

 

「き、貴様ぁッ!あれだけ我が眷属を殺しておきながらッ!さらにヒュアキントス達までぇッ!!」

 

アポロンの前に現れたのは、自分を太陽神を名乗るにふさわしくないと不敬にも言い放ち、3日前、このシュレーム古城で【アポロン・ファミリア】の団員106人を殺したカルキ・ブラフマンであった

 

「う、うわあああああああッ!!」

 

自棄になったアポロンは左手でヒュアキントスの首を抱えながら右手に短剣を握ってカルキへと襲い掛かる……が

 

「……ギャアアアアアァァァあああ!!!?わ、私の腕ええええぇぇッ!!」

 

カルキは簡単にアポロンの右腕を斬り飛ばし、叫び散らすアポロンを蹴り飛ばして城の建物の壁に叩きつける。ようやくカルキの持つ三日月刀(シミター)からわずかに感じられる神気に気付いたのか顔を青ざめる

 

「ば、馬鹿な!神造武器だと!?そんなものを人間が使えるはずが……」

 

「ソーマ神にも言ったがそれこそ『下界の未知(可能性)』だろう……ただ、今回はアポロン神を消滅させろという命令だからわざわざ使っているのだがな」

 

何やら同じことを言っているような気がすると愚痴をこぼすカルキであるがアポロンは最後の一言に反応する

 

「私を消滅させろという命令だと!?出したのは誰だ!ヘスティアか?フレイヤか?それともヘルメスか!?」

 

「いいや、どれも違うな」

 

「ならば……!」

 

どうにも出てきそうにないのでカルキは天に上る太陽に手をすっと手のひらを差し出し、

 

「貴神を消滅させろと命令したのは……天界にいるスーリヤ神だ」

 

「……はぇ」

 

間抜けな声を出すアポロンにカルキは一つ一つ事実を突き付けていく

 

「貴神に自分が問うた時、自分にはスーリヤ神が憑依していた。そして貴神の太陽神としての在り方について聞いたスーリヤ神はアポロンは太陽神を名乗るにふさわしくないと判断し、自分にアポロン神を消滅させろと命令を出した……今回は、ただそれだけのことだ」

 

まあ、心酔していた者達を間引いたのは別だがと心の中で思いつつ、呆然としているアポロンを無視し、カルキは空中に三日月刀(シミター)を放り投げると横に回転し始め、光輪(チャクラム)のような軌跡となっていく

 

「ま、待ってくれ!頼む1万年も消えたくない!頼む!この通りだ!」

 

地に頭をつけ命乞いをするアポロンにカルキは何も言わず

 

「さあ、受け取るがいい、神を消滅させる不滅の刃!ブラフマーストラ!!」

 

右手を振り下ろすと回転していた三日月刀(シミター)が飛んでいき、アポロンの胴体を分かち、そのままブーメランのように返って来た三日月刀(シミター)を上手く右手で掴む

 

「あっ……」

 

分かたれた上半身が地面につく瞬間、アポロンは黄金に輝く光となって消えていく。アポロンを消滅させた後、左手の手のひらに小さな火種を出してフッと息を吹きかけると火種が劫火となりヒュアキントスたちの死体を焼き尽くす

 

「……終わったな」

 

そう言って踵を返したカルキはオラリオへと戻りつつ、ここ数日、先送りにしていて、今直面している問題をポツリとこぼす

 

「さて…どうやって借金を返済しようか……」




アポロンさんがようやく消滅しました……これで皆さんのご期待に添えられているかどうか不安ですが………

タケミカヅチ盛りすぎたなーって思ってたらダンメモのイベントでまさかの一度見た技は神の力なしでも見抜けることが明らかになったタケミカヅチ……どういうことなの?

わかってます、わかってますとも、どうしてもゼノス編でロキ・ファミリアと戦わせられなくて無理矢理に誤解させてるんだってことは………わかっているんですよ!!

実はオリ主は基本文無しなので今現在借金持ち


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話

ポケモンが一段落したので今度は風呂場に体が勝手に動く隊長になってきます

そしてFGOの2部5章配信間近ですね、ゼウスは一体何をやらかしたのか………(風評被害)


気付いたらお気に入り登録が1500件を超えて1700件も超えていました

登録ありがとうございます






「借金総額401万ヴァリスか………」

 

スーリヤからの命令に従いアポロンを消滅させた次の日、カルキは一人オラリオのとある通りを歩きながらポツリと呟き、これからどうやって返済しようか考えていた

 

カルキの借金は【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)前にギルドから買ったそれぞれ5000ヴァリスした槍と弓矢の代金をガネーシャから借りたというだけではない。以前、闘国(テルスキュラ)にヴィシュヌから命令され赴いた際、海を渡った時に使用した小舟や、旅人用のローブ、着替え、水・食料、オラリオを出る際の許可証発行のための手続き金などもカルキは【ガネーシャ・ファミリア】というよりガネーシャから借りていたのである。

 

更には今回の戦争遊戯(ウォーゲーム)前、カルキは肩慣らし・武器慣らしと称してシュリーム古城にいた盗賊団数十人を皆殺しにしていたのだが、この盗賊団、前からオラリオに討伐依頼が出されており、今回、『攻城戦』の場所を確保するついでに【ガネーシャ・ファミリア】にギルドから制圧指令が出されたのだが、【ガネーシャ・ファミリア】の団員達が地下道を掘って古城に出た時には既にカルキによって皆殺しにされた後であったため、死体だけを回収しギルドへと報告したのだが、『その死体が盗賊団かどうか確認できない』とギルドは依頼を達成したとは認めず、それどころか【ガネーシャ・ファミリア】に違約金の支払いを命じた挙句、支払われるはずの依頼料をギルドの懐に入れたのである。

 

無論、カルキはそんな行いをしたギルドに激怒し、シヴァから授かった長柄の斧(パラシュ)を持ち、ギルドに殴り込んで主神であるウラノス及び一部のギルド職員を間引こうとしたのだが、ガネーシャから、ウラノスの祈祷が無くなればダンジョンから地上にモンスターが進出すること、違約金云々は元々そういう契約であったこと、異端児(ゼノス)についてはウラノスを中心に取り組んでいることを説明されたため、「ガネーシャ神がそこまで言うなら」と渋々引き下がり、今後何かあれば、ギルドも間引く対象に入れつつ

 

「元はと言えば、自分が盗賊団を皆殺したのが原因…ならば、本来支払われるはずの依頼料、ギルドから命じられた違約金、地下道を掘るのに使った道具等の補填、これらは自分が補うのが道理だろう」

 

そのように決めたカルキは改めて自分の借金を計算した結果、総額401万ヴァリスとなったことを思い出しながら、一人寂しくオラリオの通りを歩いているのである。

 

***

「(やはり、手っ取り早く済むのはダンジョンか…しかし深く潜りすぎてはオラリオの経済に余計な影響を与える、だからといって浅い階層では効率が悪い…さて、どうしたものか……)」

 

カルキからしてみれば今からこっそりダンジョンに潜って魔石やドロップアイテムを400万ヴァリス分集め、それをガネーシャに渡せばいいのだが、浅い階層ではあまり高く売れる魔石やドロップアイテムは少なく時間がかかり、加減していたとしても魔石ごと消し飛ばしてしまうことも多く効率が悪い。

 

だからといって、深層に行けばいいというわけではない。51階層にいるカドモスや58階層のヴァルガングドラゴンといったモンスターならば加減すれば魔石は残り、ドロップアイテムも効率よく採取できて一気に借金返済どころか貯金できるのだが、深層まで行ける【ファミリア】は限られていて、今現在、深層に行ける上位の【ファミリア】は【遠征】には行っておらず、『この深層域の魔石やドロップアイテムは誰が取って来たのか』と大騒ぎになることは間違いない。

 

さらには、もしカルキが数日、深層に留まって延々とカドモスやヴァルガングドラゴンといった深層域のモンスターを狩り続け、一気に大量の魔石とドロップアイテムを換金すればオラリオの需要と供給のバランスは崩壊しオラリオの経済に多大な悪影響を与えるのは容易に想像できる

 

「確か極東の言葉に『あちらを立てればこちらがたたず』というのがあったな」

 

上手く言ったものだと感心していると、今からダンジョンに向かうのだろう、ベルと新しく【ヘスティア・ファミリア】に入団した面々がこちらに向かって歩いてきているのが分かった

 

「ほう、パーティーとしては様になったようだな」

 

「あ、カルキさん…えっと……」

 

「……?」

 

何故か妙によそよそしいベルにどうしたのかと疑問に思っていると、

 

「気にしなくてもいいですよカルキ様、ベル様はあなたとリュー様が戦争遊戯(ウォーゲーム)での報酬を受け取らなかったことを気にしているだけですので」

 

「リリスケ程金に汚くはないが……本当に良かったのか?【アポロン・ファミリア】から奪った財産から報酬を貰わないで」

 

「ええ……自分達は新しく得た本拠(ホーム)に色々と自分達の要望した改修を行ったりしているのに」

 

本人たちがいらないと言っているのだから気にしなくていいのにとリリが、申し訳ないと思っているのか頬を掻きながらヴェルフが、肩をすくめながら命がベルのどこかよそよそしい態度をフォローする

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)の結果、【ヘスティア・ファミリア】は【アポロン・ファミリア】の全財産を得て、助っ人として参加したカルキとリューに報酬を支払おうとしたのだが2人とも「これから何かと金が必要になるだろう」と報酬の受け取りを断っており、カルキが【アポロン・ファミリア】を蹂躙したとはいえ、報酬を支払っていないのはとベル、ヴェルフ、命は気にしていて、そんなお人好しな仲間に金銭面で多少汚いと言われようともしっかりせざるを得ないリリが叱っている。というのが今のというより今後の【ヘスティア・ファミリア】の雰囲気らしい

 

「なるほど、そういうことならば報酬ついでにいくつか聞きたいことがある」

 

「は、はいっ、何ですか?」

 

「実はな……」

 

そういうことならばとカルキはベルに質問し、頼られたことが嬉しそうなベルはカルキの質問へ答えていくのであった

 

***

ベル達と別れたカルキはしばらくした後、オラリオに広がる地下水路にいた

 

「なるほど、これは……酷いな」

 

ベルになるべく安定して稼げる仕事はないかと尋ねるとギルドが日雇いの仕事を紹介してくれるとのことだったので、ならば、その日雇いの仕事をしながら、こっそりダンジョンに潜り中層から下層で数日掛けて借金を返済すればよいと思い立ち、ギルドへと赴き、戦争遊戯(ウォーゲーム)前にカルキを励ました小柄な人間(ヒューマン)の受付嬢(何故かカルキに怯えていた)から斡旋してもらった仕事のため、地下水路へと赴いたのである

 

「ふむ、地下水路の害虫・害獣駆除のための薬剤散布か…こんなに臭いのならば誰もしないのも道理だな」

 

カルキが請け負ったのは『地下水路の害虫・害獣駆除のための薬剤散布』で1週間で25万ヴァリスという簡単な仕事にしては破格の報酬が支払われるものであった。

 

………ちなみに、このような仕事に数十万の報酬が支払われるのは、地下水路は暗い、臭いときて、冒険者に頼もうとしても報酬が低いと断られ続けていたので報酬が吊り上げられていった結果である。

 

地下水路と一口に言っても上水・下水に分かれており、カルキが今いるのは下水の方であり、案の定というかそこら中で黒光りする例のアレやら鼠やらが走り回っていたので殺虫・殺鼠剤を撒きながらしばらく歩き、貰っていた薬剤を撒き終わったらギルドへ行って報告、その後、夜になってからこっそりダンジョンに潜ってモンスターを手加減しながら屠り、奇跡的に残った魔石やドロップアイテムを回収し、ガネーシャに持っていき、借金の返済に充てるということを暫く続けることとなったのである。

 

***

そんな生活を続けて数日後、午前中の分の薬剤を散布し終えたカルキはギルドでシャワーを浴び、消臭袋で臭いを落とし、午後の分の薬剤を貰うと、ギルドにハーフエルフの受付嬢と共にベルが何やら思い悩んだ顔でやって来たので声を掛け、その受付嬢とベルの悩みを遮音性の高い相談室で聞くことになったのだが

 

「しょうかぁ~ん?」

 

ハーフエルフの受付嬢…エイナ・チュールが軽蔑の眼差しを浮かべ、怒気の気配を漂わせる中

 

「ベルよ、『英雄色を好む』といって英雄神とも謂われるどこぞの武神(インドラ神)は好色が過ぎることから『下半神』と仲の悪い神々(スーリヤ神やヴァルナ神)から揶揄されるが……いくら英雄に憧れているからといってもそこまで真似することはないぞ?」

 

「カルキさん、そんなこと言ってないで助けて下さいよぉ!!」

 

恐らく内心ではハラハラと涙を流しているであろう、がっくりと肩を落としているベルにカルキは諭す。勿論、ベルが夜遊びなんてことが出来る性格ではない……というよりも、夜遊びをする度胸などベルには微塵もないことは重々承知した上でからかい半分で言っているのだが、それどころではないベルがカルキに助けを求めていると

 

「じゃあキミはっ、夜の街で遊んじゃったて言うの!?」

 

「ちちちちちちちちち違いますうっ!?」

 

「……仲が良いな、まるで姉弟のようだ」

 

どうやらエイナの方が先に限界を迎えたらしい。目を吊り上げて勢い良く立ち上がり声を荒げるエイナに完全に圧倒され慌てふためく反応を見せるベルにカルキは微笑ましいと他人事のように自分に火の粉が降りかからないようにするのであった。

 

その後も、傍から見ると、まるでイケないことをしでかした弟を叱る姉と姉にバレたことに焦る弟のような、頬や耳まで真っ赤にしたエイナと対称的に顔色を真っ青にしたベルの掛け合い(漫才)をカルキは眺めるのであった。

 

それから暫くして「まあ、頑張れ」とベルの肩を軽く叩き、相談室からカルキが去った後、【イシュタル・ファミリア】についてエイナから説明を受け終わったベルはふとカルキの言っていた英雄神とその仲の悪い神々について思い出した

 

「(……あれ?カルキさんが言ってたインドラ、スーリヤ、ヴァルナって確かヘルメス様が言ってた神様達だったような……?)」

 

この後、ベルは以前世話になった本屋の手伝いをするのだが、その際、合流したヘスティアにその神々のことを聞くと「えええええっ!?ベ、ベべべベル君ッ!どこでその神々の名前をッ!?」と完全に動揺を隠しきれず、「いいかい!?その神々のことは他の神々、特にタケには絶対に内緒だぜ!!」と珍しく厳命し、カルキがその神々のことを言っていたことを伝えると「な、なんでカルキ君が……?」とヘスティアが真剣な顔で悩むことになったのは完全な余談である

 

***

ヘスティアが自分について真剣に悩んでいることなど知らないカルキは再び地下水路へと戻り、今回は上水だから臭いは気にしなくてもいいだろうと団子状の薬剤を置きながら歩いていると

 

「……なんだこれは?」

 

地下水路の壁の一部がまるで何かの入り口のように開いており、上部は何故か凍らされていて奥を覗けばまるで迷路のようになっていた

 

「(これは明らかに人工物……薬剤はもう置き終わっている、それになにやら戦闘の気配がある…………行ってみるか)」

 

もう薬剤も全て置き終わり、戦闘の気配もするので、ならば入ってみようとカルキは闇派閥(イヴィルス)の潜む人口迷宮(クノックス)に入っていった

 

「(……どうやらここは何十年、何百年と造り続けられてきた人工物のようだ)」

 

カルキはスタスタと迷路のような道を気配を探りながら迷わずに歩いて行く。そこで気づくのはここは恐らく数年ではなく何十年、何百年単位で作られた人工物。ここまで作り続けたことを

妄執と貶すべきか受け継いできたことを称えるべきかどうか少し迷うがカルキはこの迷宮を探っていく

 

「……どうやらここはダンジョンを模しているようだ」

 

誰にも聞かれることなく、カルキは階段を下りながらポツリと呟く。しかもよく探ってみれば、迷路には正解の道が1つだけあることが分かり、この迷路を製作した人間(?)は何かしらの信念を抱いていたことが分かった。

 

「来るか…」

 

唐突にカルキが呟くとスッと後ろに下がる。すると壁の一部が爆ぜ、巨大な輪郭が姿を見せる。それは、鋼色の体皮をした牡牛型のモンスター、だが他の牡牛型と違うのはその額に当たる部分に女体の上半身がついていることであった

 

「この気配は……精霊か?」

 

カルキがこの摩訶不思議なモンスターが精霊であると判断した途端、そのモンスターがカルキに向かって突っ込んできた

 

「やれやれ……」

 

地下水路から外れた地下迷宮でカルキとモンスターに堕ちた精霊『穢れた精霊』との戦いが始まった




~おまけ~
カルキが何も考えずに深層に突っ込んだ場合

探索系ファミリア「この深層域モンスターのドロップアイテム1500万でどうや?」

商業系ファミリア「1200万ならええで」

探索系「まあ、それでいいわ」

商業系「まいど~」

カルキ「深層でカドモスをマラソンしてきたから魔石とドロップアイテムを1200万で数十個ずつ買い取ってくれ」

商業系「ええっ!数億ヴァリス吹っ飛ぶやんけ!!」

カルキ「また来る」

数日後
カルキ「今度はヴァルガングドラゴンをマラソンしてきたから魔石とドロップアイテムをそれぞれ1300万で数十個ずつ買い取ってくれ」

商業系「は、破産すりゅううぅぅぅぅぅぅ!!」

探索系「ファッ!深層域のモンスターのドロップアイテムの価値めっちゃ落ちとるやんけ!なんでや!!」

となってオラリオの経済大崩壊させる経済テロリストになってしまうことに………

ベルのことをお人好しと称する癖にカルキも大概であるという



ドーモ、イヴィルス=サン、デミ・スピリット=サン、カルキ・ブラフマンデス


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話

FGO2部5章には間に合った……さあ、ゼウスはナニをやらかしたのか楽しみだなぁ!!


ネタバレになるのかどうかわからないですがフレイヤさんって本気出しても宇宙焼けないなんて大したことないですねって思った自分はインド神話に毒されてる


お気に入り登録が2000件を超えました………ってマジですか…………ありがとうございます




人造迷宮(クノックス)で【ロキ・ファミリア】は赤髪の女怪人(クリーチャー)レヴィスと対峙していた

 

「手負いのお前等などわけない。ご所望なら、食人花(モンスター)も呼んでやる」

 

レヴィスは今の【ロキ・ファミリア】は自分の敵ではないと余裕を見せる。対する【ロキ・ファミリア】からは余裕が一切見られない。それは、闇派閥(イヴィルス)の罠によって分断され、団長(フィン)は戦闘不能、毒に侵された者、腕が砕かれている者等、アイズの魔法()によって集合できたものの、幹部も下位団員達も全員が満身創痍であり、胸にある魔石が砕かれない限りほぼ不死身のレヴィスとアイテムにも限りが見えていて、体力は底をついている。それでも武器を構えレヴィスと対峙していると

 

広間の壁面が爆ぜた

 

「え?」

 

レヴィスを含めたその場にいる誰もが反応できない中、視界一面に映る鋼色の体皮をしたナニかがこちらに向かって飛んでくるのを見て、レヴィスやアイズ達が驚愕し、息を止める中、

 

「逃げろおおおおおおおおっ!!」

 

ただ一人反応できたガレスが叫び、我に返ったアイズ、ベート、ティオネ、ティオナ、ラウル達が反応できなかった下位団員達を引きずって、残っていたアイテムを全てを放り投げて撤退する

 

「なっ!雄牛型(グガランナ)だとっ!?……な!?これは……」

 

その場に残ったレヴィスは超硬金属(アダマンタイト)製の壁を数十枚ぶち抜いて吹っ飛んできた『精霊の分身(デミ・スピリット)』に驚愕し、次に『精霊の分身(デミ・スピリット)』が半死半生であり、何者かに蹴られた跡があることに気付き、『精霊の分身(デミ・スピリット)』は自らの意思でここにやって来たのではなく何者かによってここまで蹴り飛ばされてきたことに戦慄する

 

「(一体何者が……ちっ、アリアの『風』に他の『分身』共まで盛っている……そちらの方が今は問題か)」

 

この巨体をここまで数十枚の壁をぶち破るほど蹴り飛ばした者も気になるが、今はアイズの『風』に反応し盛ってしまった他の『分身』を宥めることの方が重要だとして身を翻すレヴィスはある意味この場での最適解を選んだといっても過言ではないだろう。なぜなら、レヴィスが【ロキ・ファミリア】が撤退していった通路と丁度真逆の通路へと向かっていったすぐ後に、ここまで精霊の分身(デミ・スピリット)を蹴り飛ばした人間が広間へとやって来たからである。

 

「……今、人とモンスターの混じった気配をした何かが去っていったな?」

 

そう、ギルドから貰った薬剤を散布し終え、たまたま見つけた入り口からこの人造迷宮(クノックス)へと侵入したカルキ・ブラフマンが広間へと壊した壁から入ってきたのである

 

***

カルキが『精霊の分身(デミ・スピリット)』を圧倒している中、そんな光景を見て、怒りを隠さずに闇派閥(イヴィルス)の主神となっている男神に詰め寄っている女神がいた

 

「これはどういうことだっ!タナトスッ!あの『天の雄牛』はあの【アポロン・ファミリア】を壊滅させた男に傷一つつけられないどころか圧倒されているじゃないかッ!!」

 

「いやいや、待ってくれ、イシュタルッ!これは俺にも予想外っていうか」

 

「なにぃッ!!」

 

憎い女神(フレイヤ)との戦争に備え、もう一つの切り札とこの『天の雄牛』を準備していたイシュタルは、『天の雄牛』を【ロキ・ファミリア】にぶつけ、第一級冒険者とどれだけ戦えるのか確認したかったため、タナトスはエニュオのとっておきという『精霊の分身(デミ・スピリット)』がどれだけの力を持っているか知りたかったため、『天の雄牛』を解き放ったのだが、いつの間にか人口迷宮(クノックス)に入ってきていた先の戦争遊戯(ウォーゲーム)で【アポロン・ファミリア】を壊滅させた男と遭遇(エンカウント)、いくらレベル2を含む冒険者106名を蹂躙した奴であろうと数秒後には肉片になるだろうとニヤニヤと笑っていたのが数分前のこと

 

蓋を開けてみれば、『天の雄牛』の突進は男の左手一本で軽々と止められ、モンスターと融合した精霊の上半身が放つ雷の魔法はまるで蜘蛛の巣を払うかのように男が腕を払うと霧散し消えていく。ならばと巨体に雷の魔法を身に纏って突進すればこれも軽々と止められ、それどころか逆にその巨体を放り投げられ壁を壊し、男がその巨体を蹴り飛ばせば何十もの壁を突き破ってレヴィスと【ロキ・ファミリア】が対峙している広間まで蹴り飛ばされたのである

 

「というか、あの男はいったい何者!?俺知らないんだけど!あんな化物ォ!!」

 

「ヘスティアがあの男は神の恩恵を貰っていないと言っていたが……やはり嘘だったか」

 

「ええ…?それはないでしょ?だってあの竈の女神(ヘスティア)だぜ?」

 

などと不毛としか言いようのないことをイシュタルとタナトスが言い合ううちに、水晶に映る男は倒れている『精霊の分身(デミ・スピリット)』に近づき、雄牛型のモンスターの額にある女形の精霊の上半身をあっさりと引きちぎって殺し、そのまま何かを思い出したかのように壊した壁から誰の目にも止まらない速さで走って出ていった

 

***

「(……ついモンスターと融合した精霊という珍しいモノを見てしまって遊んでしまったな、今やるべきことを見失うとは………情けない)」

 

精霊の分身(デミ・スピリット)』を簡単に殺したカルキはつい珍しいモノを見つけてしまったから遊んでしまったと元来た道を走りながら反省する

 

そう、今カルキがするべきことは不思議な人工物を調査することではなく借金の返済であり、既に夕方前の時刻であることは体内時計で把握している。ちなみにギルドへの報告は午後の分は明日の朝でも良いと小柄な受付嬢ミイシャ・フロットからは告げられていたが、やはり、報告はその日のうちにすべきであろうと考えていたカルキは夕方にその日の報告をしていたので、その時刻に遅れてはならぬと走っているのである。

 

「……では、今日はこれで」

 

「はいっ!今日もお疲れさまでした!」

 

結論から言えばカルキは夕方には間に合った。途中で撤退中の【ロキ・ファミリア】を追い越したものの、【ロキ・ファミリア】の団員達はただ一陣の風が吹いた程度にしか知覚できず、カルキもこの程度の場所で満身創痍になっている者達にかまっている暇などないと無視していたのである

 

「あの~、カルキさん」

 

「なにか?」

 

報告を終え、こっそりダンジョンに潜ろうとしていたカルキにカルキの担当になってしまっているミイシャが声を掛ける。最初のうちは【アポロン・ファミリア】を神の恩恵なしに蹂躙したカルキに怯えていたミイシャだったがここ数日でカルキに慣れ、このように話しかけることも出来るようにはなったのである

 

「昨日、カルキさんが申請していたダンジョンに入る件なんですけど、明日には許可が下りるそうですよ」

 

実は昨日の昼、「カルキさんはダンジョンには潜らないんですか?」と別のギルド職員に聞かれたため、自分は恩恵を貰っていないのでダンジョンには潜れないことを伝えると

 

「あんなに強いんだから多分、申請したら許可は下りると思いますよ」

 

………それでいいのかギルド職員…とはカルキは思わず、今まで黙ってこっそりダンジョンに潜っていたが、人目を気にせずに正々堂々とダンジョンに潜れるならばそちらの方がいいだろうと許可申請書類を書いてギルドへ提出していたのである

 

「そうか、例外を認めてくれたこと感謝する……そういえばこのオラリオで麝香のする…歓楽街にいる神は何者であろうか?」

 

「ふえぇっ!歓楽街ですかぁ!?えーと……イシュタル様ですけどぉっ…カルキさんもそういうトコロに興味があるんですか……?」

 

顔を赤くしつつ答えるミイシャに「女性にこの手の話題を急に出すのは悪手だったか……」と反省するカルキは配慮が足りなかったと謝り、ギルド本部からそそくさと立ち去る。ギルド本部から出たカルキはミイシャから得た情報からあの人口迷宮にいたであろう女神について考える

 

「(あの入り口と通路、そしてモンスターと融合した精霊からはかすかに麝香の香りと神気を感じた……歓楽街の女神イシュタルか……)」

 

その夜はカルキはダンジョンへ行かず、ガネーシャとソーマを【ソーマ・ファミリア】の所有する酒蔵へ呼んでイシュタルとモンスターと融合した精霊について話そうと決めたのであった

 

***

「ふむ、モンスターと融合した精霊か……全く知らん!初耳だ!!」

 

「それよりもこのダイダロス通りの地下にそんな人工物があったとはな、……そちらの方が驚きだ」

 

「自分よりずっと長くこのオラリオにいるガネーシャ神とソーマ神でも初耳か」

 

カルキから地下に広がる人工物とモンスターと融合した精霊のことを聞いたガネーシャとソーマは、2つとも初耳であると頷き返す。特に自分の酒蔵を何年も前に建てていたソーマは恐らく数百年は造り続けられていたであろう人口迷宮の存在に驚いている様子であったが、口に手を当て考えていると、ふと何かを思い出したようでポツリと呟く

 

「そういえば、ザニスが闇派閥(イヴィルス)の残党らしき男と接触していたのも地下水路だったな……」

 

自分のファミリアの前団長であるザニスがなにやらコソコソとしていたのは地下水路であったとソーマが言うと

 

「ということは闇派閥(イヴィルス)の残党とやらがあの地下の人工物を利用しているわけか……」

 

「むうううっ!まさか残党が精霊を使うとはっ!しかし……【ロキ・ファミリア】が満身創痍とはな、余程その地下迷宮は厄介な代物らしい」

 

「カルキは無傷だがな……まあ、あの程度の実力しかない雑魚なのに嘗めてかかった結果だろう。死人が出ようとそれは自業自得というものだ」

 

カルキは冷静に分析し、ガネーシャは残党だからといって油断はできないと気を引き締めつつ、【ロキ・ファミリア】が満身創痍だったことを聞き、地下迷宮が厄介なものであるとするが、ソーマはどこまでも傲慢に【ロキ・ファミリア】の自業自得だとバッサリとガネーシャの意見を杯をあおり酒を飲みながら切り捨てる

 

「それと……入り口と通路、モンスターと融合した精霊からはかすかに麝香の香りと神気が感じられたな」

 

カルキが暗に闇派閥(イヴィルス)の残党とつながっているであろう女神のことを言うと、ガネーシャは厳しい顔になるがソーマは面白いとニヤリと笑い

 

「ならばカルキよ、その女神はヴィシュヌの依頼通り間引いたらどうだ?」

 

「ソーマよ、間引くのはいいが、あの女神はあの領域の神々から甘やかされている……最悪、我々『リグ・ヴェーダ』と『アヌンナキ』との戦争になるぞ?」

 

カルキにヴィシュヌから言われているように間引けと言うソーマにガネーシャは最悪の事態を憂慮するが、ソーマはそれが面白いのではないかと笑う

 

「それに…あそこと戦争すれば久しぶりにガーンディーヴァも使えるだろうしな」

 

「……これは伝えて良いのか判断できないが…今、あの弓はアグニ神が持っているはずだが?」

 

「何?ヴァルナではなくアグニだと?」

 

カルキの言葉にと反応するソーマに今はガーンディーヴァを所有しているのはソーマが貸し与えたヴァルナ神ではなくアグニ神であると天界で修行していた時にアグニが使っていた弓について説明すると「天界に戻ったらヴァルナと一戦交えなければな」と舌打ちをした後に物騒なことを言うソーマにやはりあの神々と根本的には同じだなと改めて感じ、深く大きなため息をついたガネーシャからはイシュタルを間引く際、歓楽街を消し飛ばすのは許可するがオラリオ全体には被害を出さないことを注意された。

 

その後、暫く酒を飲んでカルキとガネーシャは【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)へと戻ったのだが、カルキは自分より遥かに強く、ガネーシャは自分の主神であるが、行先を誰にも告げずフラリと出ていったきり酒臭く帰って来た一人と一柱を見て、それはそれこれはこれと【ガネーシャ・ファミリア】の団長であるシャクティから揃って怒られるカルキとガネーシャであった

 

 




~おまけ~
カルキ「そういえば地下で人とモンスターの混じった気配を2つ感じたが・・・本当に存在したのだな・・・人とモンスターの混合種」

ガネーシャ・ソーマ「「嘘から出た誠は流石に草」」



さあ、これで厳選と風呂場に体が勝手に向かうのと2部5章と年末イベントを心おきなくやれるぞ

-追記-
LB5章クリアしました・・・インドがアトランティスを蹂躙しました…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話

スマホでの初投稿……いや、打ちづらい……

改めてシンフォギアを見てるけど、シェム・ハの行動ってAUOとそのズッ友激オコ案件だよねって………

あと、返信でも書きましたが実はカルキはオラリオに3ヶ月もいません、それどころかその内1ヶ月は天界に行ったり、テルスキュラに行ったりしているせいで実質2ヶ月しかオラリオにはいないため、フィルヴィスと遭遇していません。もし、遭遇していたら別の言い訳を使っていました………つまり、間が悪かったんですよ



 

「……終わり?」

 

「はい、カルキさんが此方の予想以上に早く薬剤を散布してくださったので」

 

地下に造られた人工物でモンスターと融合した精霊と戦った2日後、午前の分の薬剤散布を終え、午後の分をギルドに貰いに来たカルキはミイシャから仕事が終了であることを聞いていた

 

「勿論、報酬はきちんと出ますし、さらに早く終わらせたということで5万ヴァリス上乗せされて……さらに!ジャジャーン!これがダンジョンに潜る特別許可書でーすっ!」

 

6日前はカルキに怯えていたミイシャであったが、今では怯えた素振りも見せず、普段と同じ明るいテンションでカルキに特別許可書を渡し、報酬はカルキが居候している【ガネーシャ・ファミリア】に渡すことを説明するミイシャに便宜を図ってくれたことへの感謝を伝えると

 

「いやいや、私は何もしてませんよ。実は内緒なんですけど、ガネーシャ様とシャクティさんが『カルキならダンジョンに潜っても大丈夫だ』って言ったから発行出来たんですよ」

 

「……そうだったのか…」

 

こんなにも早くに許可が降りるのには誰かから何かしらの便宜があったことは予想していたカルキであったがガネーシャだけでなくシャクティも便宜を図ってくれていたことにカルキは少し驚いていた

 

「あの一柱と一人には頭が上がらないな」

 

とてつもなく真剣な顔をして言うカルキにミイシャは少し吹き出しつつ、直ぐに真面目な雰囲気となり

 

「ダンジョンに潜ることが出来るのは明日からです……どうか死なないで下さい」

 

「……ああ、善処しよう」

 

カルキはブラフマーからの試練として不死の霊薬(アムリタ)を飲みほしたことがあるので不死であり、色々と神々の試練を越えていて深層のモンスター程度では傷一つ付かないのだが、善意で言ってくれるミイシャに微笑みを浮かべつつ答えるのであった

 

仕事が終了し、手持ち無沙汰になったカルキは【イシュタル・ファミリア】について調べようとギルドの資料庫に無断侵入し、しばらく調べた後大通りを歩いていた

 

「(【イシュタル・ファミリア】は完全にクロだな……間引くか)」

 

そうと決めたら、いつ実行し、その際なるべく大事にならないように間引くかが重要になるのでどのようにするか考えながらこっそりとダンジョンへと向かっていった

 

***

「………というわけなんだ」

 

その夜、とある酒場、ヘスティアはヘファイストスとミアハを呼び出し、自分が今最も悩んでいることを相談していた

 

「ま、まさかあのソーマと一緒にいた人間(子供)があの『リグ・ヴェーダ』の神々と関係があるとは」

 

「いくらなんでも考えすぎじゃない?……でもタケミカヅチを呼ばなかったのは正解ね」

 

「うん、この件に関わらせたらタケはヤバい」

 

そう、普段であればタケミカヅチも呼ぶのだが、今回は呼んでいない。これは仲間外れというわけではなく、もし、タケミカヅチを呼んで、カルキとリグ・ヴェーダが関わりがあることをタケミカヅチが知れば間違いなく大惨事になってしまうからである

 

ラキアにいる戦神のアレスや戦争と勝利を司る戦女神の側面を持つフレイヤはあくまでも第三者の戦いを眺めることを好むが自分では戦うことはない、しかし、武神は戦神とは違い戦いを眺めることも好むが、それ以上に自らも極めた武をふるい、殺し合うことを好むのである。そしてタケミカヅチは戦神ではなく武神……つまりは………

 

下手をするとオラリオが滅ぶ

 

もし、タケミカヅチが今、ヘスティア達が話している人物のことを聞けば、間違いなくタケミカヅチは嬉々として己の得物を持ち、【ガネーシャ・ファミリア】に殴り込みをかけ、カルキと殺し合いを始めるであろう

 

そして、神々が定めた下界のルールなど無視して神の力を解放し、周りの被害なぞ知ったことかと大暴れし、カルキと戦うのは必定である

 

本来、下界のルールでは神はある一定の力を使えば天界へと送還されるのだが、武神というものは好き勝手に神々が定めたルールを歪めることをしょっちゅう天界でもやっていたのだ(特にインドラが)

 

なお、タケミカヅチは普段は温厚・寛容な善神であるが、あの神会(デナトゥス)で見せたようにその本質は他の武神達と何ら変わりのない、何処までも自分勝手で強者と戦いたがる神の一柱なのである

 

「それだけじゃない、実はベル君とエルフ君が言ってたんだ…カルキ君が『あの程度の城はブラフマーストラなど使わずとも一撃で吹き飛ぶ』って言っていたって」

 

「「!?」」

 

まさかと思い、ベルやリューにカルキが他に何か言っていなかったかを聞いていたヘスティアが2人から聞き出した天界にいる神々なら知っている、とある神々の奥義を伝えると、これ以上になく驚く2柱に後ろからやけに明るい声が掛けられる

 

「まったく……俺抜きで何をやってるんだ?お前ら?」

 

その声の主は今、この場に呼んでいない神であり、その姿を見てヘスティアが声を震わせながら名前を呼ぶ

 

「や、やぁ、タケ……」

 

「おう」

 

そこには、片手を挙げ明るい声とは逆に血まみれのタケミカヅチがいたのである

 

***

「ふーっ、やはり、運動した後の酒は旨いな」

 

何でも、裏通りで少女を性的に襲おうとしていた冒険者を神気を消しながら注意し、向かってきたところを返り討ちにしたらしい

 

が、レベル2の上級冒険者だったので大して強くなかったからつまらんとカラカラと笑い、返り血を浴びて赤くなりながら盃をあおるタケミカヅチにヘスティア、ミアハ、ヘファイストスがドン引きしているなか「ん?安心しろ、こんな姿は桜花や千種には見せられん、帰りがけに何処かで洗うさ」と笑いながら手酌で酒をつぐタケミカヅチに意を決してヘスティアが話しかける

 

「あ、あのさ、タケ……」

 

「カルキ・ブラフマンの背後にリグ・ヴェーダの神々がいることか?」

 

「ど、どうしてそれを!?」

 

これにはミアハもヘファイストスも驚いたようでバッとタケミカヅチを見るが、タケミカヅチはため息をつくと

 

「まったく……桜花達もだがお前達も『神の鏡』の映像で分からなかったのか?」

 

その言葉に「?」となる三柱に「まぁ、お前達は武神ではないしな」と苦笑いしてタケミカヅチは説明をし始める

 

「俺がカルキとリグ・ヴェーダに繋がりがあると断定したのはカルキの戦い方を見たからだ、あの動きは上手く偽装していたが基本的にはカラリパヤットであり、ブツブツと呟いていた際に口許で『スーリヤ神』と動いていたからな」

 

簡単に言うタケミカヅチに流石は武神だと感心しながらも、いや、そうじゃないと首を振って真剣な顔をする三柱にタケミカヅチは笑いながら手を振り

 

「安心しろ、今はカルキ・ブラフマンとは戦わないさ」

 

その答えに心底安心したのか、ホッとした顔をした三柱は今後どうするのかを話し合う。が、タケミカヅチは盃をあおりながら別のことを考えていた

 

「(しかし、あの男、つまらない真似をしてくれたものだ…もしもあの時スーリヤから急かされるのを無視していればスーリヤがヘスティアに手を貸し、アポロンにはインドラが手を貸すために下界へと介入しただろうに…)」

 

カルキがブツブツ呟いていた時、『スーリヤ神よ、どうか介入するのはやめて欲しい、直ぐに終わらせる』と言っていたことを、タケミカヅチは口の動きだけで見抜いていた。そして、すぐにカルキは【アポロン・ファミリア】を蹂躙し始めた。ということは、スーリヤはあの時下界に介入しようとしていたことになり、そうなればスーリヤと何かと張り合っているインドラも介入するのは当然である。いや、もしかしたら下界にあの二柱が降りてきていたかもしれない

 

「(もし、そうなっていれば、インドラとどちらが真の雷を司る武神であるか決める戦いが出来たものを……)」

 

しばらくは様子を見ることに決めたらしいヘスティア達を眺めながら内心では大きく舌打ちをしながら自棄になったように酒をあおるタケミカヅチであった

 

***

次の日、カルキはダンジョン前で偶々出会った【ヘスティア・ファミリア】とダンジョンに潜っていた

 

「にしても……まさかあの頭の硬いギルドが許可を出すとはなぁ」

 

「そうですねぇ、ま、私たちにとってはカルキ様は実に都合の良い…コホン、心強い助っ人です」

 

「あー、ハハハ…すみませんカルキさん」

 

「まあ、そんなことはどうでもいいではありませんか!さぁ!行きましょう!!」

 

何やらテンションの高い命に疑問を覚えたカルキは何があったのかとベル達に問うと、どうやら命の友人のサンジョウノ・春姫という少女が歓楽街で娼婦をしているらしい。が、その身請け金として300万ヴァリスが必要であるのだが、今回、冒険者依頼(クエスト)として報酬金100万ヴァリスのアルベラ商会からの依頼を受けたらしい。一気に身請け金の3分の1が報酬になっていることで、命は舞い上がり、張り切っているらしいのだが………

 

「(いや、どう考えても怪しすぎるだろう)」

 

この依頼に裏があることを怪しんでいるのはヴェルフとリリだけで、ベルは何の疑いも持っておらず、命に至っては早く友を身請けして自由にしてあげようと意気込んでいるため全く怪しんでいない状況に頭痛を覚えるカルキであったが、友達のために必死になることは尊い行いであると切り替え、ベル達と14階層の食料庫(パントリー)へと向かうのであった

 

その後、案の定、というより当然のごとく100万ヴァリスの依頼は罠であり、ベルと命が【イシュタル・ファミリア】のアマゾネス、戦闘娼婦(バーベラ)に拐われたが、【イシュタル・ファミリア】が増やしていた食料庫(パントリー)周辺のモンスターを一瞬で片付けたカルキは

 

「……まさか、向こうから喧嘩を売ってくるとは思わなかった」

 

と地上に戻った後、それだけ言い残してヴェルフとリリと別れて何処かに去り、恐らくは歓楽街に行ったことを2人から聞いたヘスティアはイシュタルを心の底から憐れんだのであった

 

***

「そう、イシュタルがあの子を…」

 

「如何いたしましょう、フレイヤ様」

 

「ええ、そうね…潰すわ」

 

バベル最上階、オッタルの代わりの女性団員から報告を受けたフレイヤはイシュタルを潰すことを決めるが、歓楽街に到着した際、この世の地獄を拝むことになることをまだ【フレイヤ・ファミリア】の構成員やフレイヤ自身、まだ知らないことであった

 




シンフォギアって米国がが中東から戦争のドサクサに紛れて、聖遺物を持って帰ってきたんだよな?だったら、中東の大英雄アーラシュの弓のシンフォギア装者の女オリ主つてアリなんじゃね?って思ったけど「ステラァァァァァァ!」して死ぬ未来しか見えなかったので止めた


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話

恐らくはこれが2019年最後の投稿です

10月末に投稿を初めて約2ヶ月、色々と至らないこともありましたが、来年も頑張りたいと思います

それでは皆様、良きお年を

~その辺のおっさん~


カルキは歓楽街に向かう途中、意外な神物から声を掛けられた

 

「久しぶりじゃの、カルキよ」

 

「……カーリー神よ、貴神に礼を」

 

何故かオラリオに護衛もつけずにいるカーリーにカルキが恭しく道の真ん中で一礼をし、何故オラリオにいるのか問うと、カーリーはカラカラと笑いながら

 

「今から殺戮を行うのであろう?ならば殺戮を司る女神である妾がここにいるのは当然じゃ」

 

どうやら神の勘とやらでカルキが【イシュタル・ファミリア】を蹂躙することを感じ取ったらしい。チョイチョイと手を動かし、自らの足元に傅くように促すカーリーにカルキは恭しく傅くと、カーリーはカルキの頭に手をかざし

 

「今宵の殺戮を殺戮を司る妾が認めよう…お主に祝福あれ」

 

「カーリー神からの祝福、確かに頂きました」

 

カーリーから祝福を受けたカルキは再び歓楽街へと足を進め、その後ろ姿を見てカーリーは心底愉快であると言わんばかりに嗤う

 

「ああ…今宵は大量の血が流れ、心地よい涙と悲鳴が奏でられる良い夜になろう、イシュタルよ、せめて妾を楽しませる玩具となってくれ…ククッ、クハハハハハハハハ!!」

 

***

一方、【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)では【タケミカヅチ・ファミリア】に事情を説明して来てもらい、ベルと命が【イシュタル・ファミリア】に拉致されたこと、殺生石と狐人(ルナール)との関係性が明かになっていたが、ふと、疑問を感じたリリが何故かとある人物について話さないヘスティアに問いかける

 

「ところで、ヘスティア様、なんでカルキ様については何も仰らないんですか?」

 

あの方も歓楽街に向かわれたそうですがとリリが付け加えると、ヘスティアは「なんて余計なことを…」とまるでこの世の終わりを迎えるような顔となり、その場にいる全員がどういうことかと疑問に思っていると、ヘスティアの真向かいに座るタケミカヅチが急に立ち上がり

 

「そうか……カルキ・ブラフマンが動いたか」

 

それだけ言うと、桜花や千草を置いて部屋から出ていってしまったタケミカヅチに誰もが不思議に思うなか

 

「え、えらいことになったぁ!み、皆ぁ!タケを止めるんだぁ!!」

 

ほら!早く!!と何故か必死な顔をするヘスティアに急かされるヴェルフ、リリ、【タケミカヅチ・ファミリア】の面々は慌ててタケミカヅチを追いかけ、歓楽街へと向かうのであった

 

***

「……儀式はどうなっている?」

 

歓楽街にある【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)女主の神娼殿(グレート・バビリ)」で煙管をふかせるイシュタルは側にいる自派閥の団員に問うと順調であると返ってきたことに満足する

 

「(まさか、ベル・クラネルは魅了を無効するとは…だが、この儀式さえ終れば、あの忌々しいフレイヤを引きずり下ろせる。その後にゆっくりと魅了してやれば良い)」

 

そう思いながら煙管をふかせるイシュタルであったが、唐突に自室の扉が勢いよく開けられ、別の団員が「イシュタル様!」と飛び込んで来た

 

「か、歓楽街が、燃えています!」

 

「何ぃ!?」

 

窓に映る歓楽街の光景は普段と同じだというのに嘘をついていると感じられない団員の報告にイシュタルは自室の窓を開けると、歓楽街は業火に包まれていて、娼婦達の泣き叫ぶ悲鳴が聞こえてきた

 

「我々も消火しようとしているのですが、水をかけても砂をかけても火が収まる気配がなく……イシュタル様?」

 

消火したくても何故か消えない炎を報告する【イシュタル・ファミリア】のアマゾネスの団員は呆然とするイシュタルに疑問を覚えるが、イシュタルはもはや心ここにあらずの状態になっており、この歓楽街を燃やし尽くそうとする業火とこの炎を司るとある神の名前を呟く

 

「そ、そんな、この炎は……」

 

***

何とかタケミカヅチに追い付いたヘスティア達は何故か見張りのいない歓楽街の門を開けると、そこに広がっていたのは

 

首のない【イシュタル・ファミリア】団員の死体、燃え盛る業火によって燃やされ崩れ落ちる建物、炎に焼かれ、崩れ落ちる建物に巻き込まれ逃げ惑い助けを求めて泣き叫ぶ娼婦と娼館の店員達

 

まさに神々が言うところの地獄を地上に再現したと言っても過言ではない光景が、つい数日前にヴェルフ達が訪れた歓楽街は見るも無惨な姿になっていた

 

「ッツ!ふざけろ……っ」

 

「命!春姫!」

 

呆然とヴェルフが呟きながらベルと新しい仲間を、桜花は幼馴染2人の身を案じて炎へ飛び込もうとするが

 

「!?、ダメだっ!2人共っ!!」

 

後ろからヘスティアが2人の服の裾を掴んで炎に触れないように引っ張る。泣きそうな顔で必死に引っ張るヘスティアにヴェルフも桜花だけでなく、どういうことかとリリや千種、【タケミカヅチ・ファミリア】の団員達も不思議そうな顔で見る

 

「だって…だってあの炎は……」

 

***

ヘスティア達が歓楽街に到着する少し前、歓楽街では【フレイヤ・ファミリア】の団員達が突然足元から吹き上がった業火に対処していた

 

「チッ…どうなってやがる」

 

【フレイヤ・ファミリア】副団長【女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)】アレン・フローメルが水でも砂でも消火できない炎に悪態をつき

 

「まさか、魔法すら当たったとたんに燃やす炎があるとは…」

 

「……………」

 

自分達の魔法が炎に当たった途端に燃やされるという、異常事態に【白妖の魔杖(ヒルドスレイブ)】 ヘディン・セルランド、【黒妖の魔剣(ダインスレイブ)】ヘグニ・ラグナールは驚愕しつつも、自分達の女王が来る前に何とかしようと魔法を打ち続ける

 

「何故か消えない」

「炎に触れたら武器も魔法も燃やされる」

「どういうことだ?」

「俺が知るか」

 

会話をするかのように話す【炎金の四戦士(ブリンガル)】ガリバー兄弟は炎に自分達の得物を燃やされ困惑する

 

 

オラリオ最強派閥とされる【フレイヤ・ファミリア】の幹部や団員達が揃って消火一つ満足に出来ない中

 

「……どう、いう…こと…なぜこの炎が……?」

 

突如自分達の後ろから聞こえてきた鈴の音のような声に振り向くと、そこには怯えた表情のフレイヤが佇んでいた

 

「フレイヤ様?」

 

満足に消火一つ出来ず、イシュタルの元に主神を連れていけない不甲斐なさを詫びようとしていたオッタルは、今のフレイヤのおかしさに気付き声をかける

 

そして、3柱の女神は歓楽街を焼き尽くさんとする森羅万象、この世の有りとあらゆる物を焼き付くし、一切の不浄を焼き払う業火の正体を呟く

 

『アグニの炎』

 

 

***

「……ふむ、どうやら気づいたようだ」

 

【イシュタル・ファミリア】の団員の首をはねたカルキはアグニの炎にイシュタル、ヘスティア、フレイヤの3柱の女神が気づいたことを感じとり、「ならば」と歓楽街と【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)周辺に展開していた認識阻害の結界を指を一つ鳴らして解除する

 

「(殆どの【イシュタル・ファミリア】の団員は間引いた…さて……イシュタルを間引きに行くか、…うん?)」

 

頭上からボロボロな命が落ちてきたので、軽く受け止めたカルキは、命を地面に置いて「ふむ…」と何かを思い出したかのように懐から黄金に輝く首飾りを取り出す

 

「スーリヤ神からアポロン神を消滅させた褒美として頂いた物だが……まぁ、いつか返してもらえば良いだろう」

 

トヴァシュトリが天界最硬とも讃えられるスーリヤの鎧を加工して造り上げた首飾りを命にかける。

 

すると、命の体に出来ていた火傷や傷が勝手に治っていく。そのことに満足げに頷いたカルキは再び、イシュタルの元に歩を進めていくのであった

 

***

『歓楽街が燃えている』

 

カルキが歓楽街周辺に展開していた認識阻害の結界を解除したため、歓楽街が燃えていることに気づいたオラリオは人も神も大混乱に陥っていた

 

「ま、まさか…【フレイヤ・ファミリア】?」

 

ギルドでは、天に届かんとする業火の正体を知らないエイナが、【イシュタル・ファミリア】と敵対し攻められるファミリアはそれしかないと呟き

 

「う、嘘やろ………」

 

「…どういうことだ………」

 

歓楽街を焼き尽くすアグニの炎を見てロキ、ヘルメスは戦慄し、他の神々も『ヴァーユに続いてアグニまで介入するのか…!』と普段とは違い恐怖し、炎の正体を知らぬ団員達が疑問に思うなか

 

この光景を見て酒を飲み、心から楽しんでいる神が3柱だけオラリオにいた

 

「ククッ…ハハハハハハハハハ!!良い!良いのぉ!血が川のように大地に流れ!涙と悲鳴が大気を震わせておる!最っ高じゃあ!クハハハハハハハハ!!!」

 

「カーリーほどではないが、まさか紛い物の神酒でも、これ程の銘酒になるとはな……」

 

「ソーマの言うとおり確かに銘酒だ!それにアグニの炎とは懐かしいな!天界で戦ったことを思い出すぞ!」

 

少し高い建物の屋上で歓楽街で起きている惨劇を眺め、笑いながら酒を飲むカーリー、ソーマ、ガネーシャにバーチェ、チャンドラ、シャクティは己の主神、特にガネーシャは本当に今まで自分達が知っている姿と違うことに戦慄する

 

「…ガネーシャ、あの男、カルキ・ブラフマンは何者なのだ」

 

意を決してガネーシャに尋ねるシャクティに、言っていなかったのか?とカーリーとソーマがガネーシャを横目で見ると、仕方がないと溜め息をついたガネーシャはカルキの正体をシャクティに話す

 

「シャクティ、カルキは…いや、カルキ・ブラフマンという男はな、齢14でこの世で最も高い山に登り、天界最強と讃えられる破壊神シヴァへと弟子入りし、武術を修め、『リグ・ヴェーダ』の神々からの試練を全て踏破し、神造武器を使用することを許可され、我らの言葉で『終末』を意味する『カルキ』を名乗ることを許され、偉大なる者(ブラフマン)を姓として与えられた正に人外の傑物と言ってもいい人間なのだ」

 

誇らしげに語るガネーシャに

 

「あれは我ら(神々)の領域…いや、大神の領域にまで入っておろうなぁ」

 

「カルキと比べれば冒険者なぞ赤子同然だしな」

 

ガネーシャの情報を補足するように語るカーリーとソーマはこの殺戮劇が愉快であると笑う

 

カルキの実力をある程度知っていたつもりのシャクティであったが、改めてガネーシャが以前話していた『オラリオの冒険者と神々がカルキと戦っても傷一つつけられない』という言葉に偽りがなかったのかと戦慄し、あの時、カルキが本気を出さず、今、自分が生きていることを心底運が良かったと感じるのであった

 




新アイテム【黄金の首飾り】

・形のイメージとしてはFateのカルナがFGOのバレンタインイベントでのお返し礼装であるピアスの片一方を10センチくらいの大きさにして、チェーンが付いていて首に掛けられるようになっている
・製作者(?)はトヴァシュトリ、材料はスーリヤの鎧の一部を削ったもの。かつてスーリヤの光を加工し、武器や防具を造ったヴィシュヴァカルマンに対抗して職人魂を発揮した結果、出来ちゃった一品
・身に付けているだけでどんな傷でも完治させ、即死レベルのダメージをおっても蘇生する。擬似的な不死になれる
・この後、ウィーネを見に【ヘスティア・ファミリア】のホームに来たヘファイストスはこの首飾りを偶々見つけてしまい昏倒、首飾り一つでヘスティア・ナイフを100本打ってもお釣りがくる価値があるらしい




Q,私の炎は使わないのか?byシヴァ

A,丁重にお断りしますbyカルキ



Q,タケミカヅチ様随分大人しいですね

A,桜花達がいるから暴れられない…無念


今回の被害者は多分、カルキと戦い損ねたタケミカヅチと【イシュタル・ファミリア】のホームに進撃出来なかった【フレイヤ・ファミリア】

逆にMVPは間違いなくヘスティア、少しでもタケミカヅチがカルキが歓楽街にいることを伝えていたらカルキvsタケミカヅチになっていたし、ヴェルフと桜花がアグニの炎に突っ込んで行ってたら灰も残らなかったため








あ、イシュタル様年越せた………


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話

おかしい・・・何度書いてもレナが死ぬ・・・こんなことは許されない・・・


どんなにオリ主の強さを盛っても、パラシュラーマやビーシュマお爺ちゃん、ドローナ師範、クリシュナ、激怒アシュヴァッターマンに勝てなさそうなのは何故なのか・・・

追記
感想で意見を頂き色々書き直し始めました






お気に入り登録が2500件を超えました

ありがとうございます




歓楽街は今だ燃え続けている。そんな中、カルキが展開していた認識阻害の結界が解除されたため、この事態に気付いたアイシャ達は混乱していた

 

「ッツ!どうなっているんだい!?」

 

アイシャがそう叫んでも、今まで普段通りの歓楽街の光景であったのに、急に天すら燃やさんとする勢いの業火が建物や人々を恩恵を貰っていようといまいと関係なく、容赦なく焼き払い、逃げ惑う娼婦や【イシュタル・ファミリア】の冒険者達の涙と悲鳴が響き渡る地獄のような光景に戦いなれているはずの【イシュタル・ファミリア】の戦闘娼婦(バーベラ)でさえ、誰もが答えられず呆然とするなか「うわぁぁぁあ!!」と泣き叫ぶ一人の戦闘娼婦(バーベラ)が向かって来たのに気付き、何が起こっているのか聞こうとしたが

 

「アイシャ!た、助け…」

 

助けを求める言葉は最後まで続かず、首を後ろから何者かによって切り飛ばされ、モノ言わぬ肉塊となったファミリアの仲間に誰もが戦慄していると

 

「……随分と集まっているな」

 

つい先程、レベル3の冒険者を殺したにも関わらず、平然として通路の暗闇からゆったりとした足取りで出てきた一人の男にアイシャ達は驚愕する

 

「……『百人斬り』か?」

 

「ほう、いつの間にかそんな異名が付いていたのか……あの程度の戯れが自分の実力の底だと思われるのは不愉快なので、そんな異名は願い下げだが」

 

【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)を経て、カルキに一部の冒険者の間で付けられた非公式の異名を呟くサミラであったが

 

「何ボケッとしてる!レナ!サミラ!春姫を連れて逃げな!」

 

『!!』

 

大朴刀を構え、決死の覚悟でカルキの前に立ったアイシャが激を飛ばし、逃げるように叫ぶ

 

「(ちっ、あの小僧の覚悟が本物かどうか見てみたかったが……)」

 

恐らく、目の前にいる男に挑んだら死ぬとアイシャは覚悟を決めていたが、カルキは目を細めると

 

「そうか、その娘が春姫か……」

 

ハァと一つ溜め息を吐いて「命拾いしたな」とだけアイシャ達に告げて、ヒラリと中庭へと飛び降りていき

 

「……何だったんだろう…」

 

そう呟いたレナに答えられる者は誰もいなかった

 

***

中庭へと飛び降りて、そこにいた2、3人の【イシュタル・ファミリア】の団員の心臓を槍で貫いたカルキは、自分の目を疑った

 

「……まさかヒキガエルが話すとは」

 

そう、目の前に、巨大な人の言葉を話すヒキガエルが現れたのである。……いや、これはガネーシャから聞いていた異端児(ゼノス)ではないかと考えていると

 

「ああん?お前、アタシの美しさに惚れたのかぁ?ゲッゲッゲ!」

 

どうやら、ヒキガエルにしか見えない自分の事を美しいと思っているらしい。さらには自分の事を【イシュタル・ファミリア】の団長と名乗るではないか・・・何ということだろう、まさか群衆の主(ガネーシャ)怪物と群衆の主(ネオ・ガネーシャ)になる前に、イシュタルはネオ・イシュタルになっていたのである

 

「気絶させガネーシャの元へ連れていくか……いや、団長だというならば間引くべきか……」

 

ブツブツと真顔で呟くカルキに無視されていると思ったフリュネは怒り、手にしている大斧を振りかざし、カルキに振り下ろすが、カルキはその攻撃を簡単に避けて

 

「……ふむ…この気配は人間だな、間引くか」

 

ようやく、フリュネが異端児(ゼノス)ではなく人間だということに気付いたカルキが槍を上段から振り下ろすと、フリュネとその奥にある【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)ごと両断され、第一級冒険者レベル5のアマゾネスは簡単に命を落としたのである

 

***

「タンムズ!?タンムズ!?」

 

カルキが【イシュタル・ファミリア】を蹂躙する一方で次々に減っていく眷属の気配、目の前で本拠(ホーム)を両断され、崩れていく建物に巻き込まれ、生き埋めにされていくお気に入りの男性団員を、ただ見送ることしか出来ないイシュタルは半狂乱に陥り叫び散らす

 

「グガランナはっ!春姫はっ!儀式はどうなったぁ!!」

 

最早、自分を守る者もおらず、周囲には自分を決して逃さぬとアグニの炎が燃え盛るなか、狂ったようにイシュタルは喚き続ける姿はまるで地獄の業火に燃やされながらも救いを求めもがき続ける罪人のようであった

 

「何故っ!何故、私がこんな目にぃぃぃぃぃ!」

 

だが、地獄でも救いの手は差し伸べられる

 

「……貴神がイシュタル神か」

 

本来、『終末』の意味を冠する名をもつカルキがイシュタルの前に現れたとき、イシュタルにとって、この瞬間だけはカルキの存在が地獄に天から落ちてきた一本の蜘蛛の糸のように見えたという

 

***

「フ…レ…イヤ…さ…ま…」

 

「…クソ…がっ…」

 

「ぐっ、があっ…」

 

「う…ぁ…」

 

「「「「…」」」」

 

 

歓楽街を見下ろせる建物の屋上、ガネーシャ達が殺戮を眺めながら酒宴をしていた場所で、【フレイヤ・ファミリア】の幹部達は死屍累々となっていた

 

「まさか、お前ごときが私の楽しみを…酒の邪魔をして無事でいられるとでも思っていたのか……なぁ、フレイヤァ……?」

 

そして、その主神であるフレイヤの顔を地面に押し付け、頭を踏みつけながらグリグリと足を動かし、普段の雰囲気とは似てもにつかぬソーマがいた

 

数十分前、建物の上にガネーシャ、ソーマ、カーリーがいることに気付いたフレイヤがそこに向かうように眷属達に指示をし、向かったのは良かったのだが、そこにいたのは

 

歓楽街の惨劇を肴に嗤いながらソーマの神酒を飲み、此方には目もくれないガネーシャ、ソーマ、カーリーと自らの主神をどうすればよいのか分からずオロオロしている各々の眷属という光景が広がっていたのである

 

いくらフレイヤが声を掛けても全く反応しない3柱に、自分の主神を無視されるということへの我慢の限界を超えたアレンが3柱の持っていた杯を叩き落としたのだが、その瞬間、オッタルの腹がなくなり、アレンは両足の太腿を切断され、ヘグニとヘディンは喉を潰された挙げ句、両手足を切られ、ガリバー兄弟は上半身と下半身を分断されたのである

 

そしてそんな彼らの敬愛するフレイヤは大剣を片手に持つソーマによって地面に這いつくばらされているのである

 

「下界に降りて、『美の神』と『都市最強派閥』などと持て囃され調子に乗っているのか……その程度の神格で随分と偉くなったものだな?」

 

自分で戦う力も持っていない雑魚の神風情がと怒気を隠さないソーマから放たれる殺気にあてられ、先程までもがいていた【フレイヤ・ファミリア】の幹部とバーチェ、チャンドラ、シャクティは既に白眼を向いて気絶してしまっているなか

 

「(ここまでソーマが怒るのはいつ以来かの?)」

 

「(確か、新年を祝う神々の集りでインドラとスーリヤが誰が最初に料理を食べるかで喧嘩を初めて、その喧嘩の余波でソーマが持ってきた酒瓶が割られた時以来ではないか…?)」

 

「(あの時はどうやって収集をつけたんじゃったか…)」

 

「(あまりにも昔過ぎて覚えていないな…)」

 

怒れる神に祟りなしとフレイヤを助けようともしないカーリーとガネーシャはヒソヒソと話すが、このままではソーマがフレイヤを殺してしまうと危惧し、ここらでお開きにしようと提案する

 

「チッ…」

 

興が冷めたと舌打ちして不機嫌そうに去っていくソーマと、そんなソーマに苦笑しながら気絶した自分達の眷属を担いで去っていくガネーシャとカーリーをフレイヤはただ呆然と見送ることしか出来なかった

 

***

「お、お前は……?」

 

アグニの炎の中から平然と現れた男に驚愕するイシュタルは、【アポロン・ファミリア】を蹂躙した男は何者なのかと問いかける

 

「では、名乗りましょう。自分はカルキ・ブラフマン。ヴィシュヌ神からの命により、このオラリオに来た人間です。」

 

律儀に自己紹介をするカルキに、イシュタルは錯乱し、喚き散らす

 

「ヴィシュヌだと!?只の人間が天界にいるはずの神に会えるはずがない!アグニの炎に耐えきれる訳がない!つまらん嘘を吐くな!!」

 

「……神ならば人間が吐く嘘を見抜けるはずですが?」

 

あくまでも冷静に諭すカルキを見てイシュタルはカルキが嘘を吐いていないことに気付き、顔をみるみる青くさせていく

 

「ば、馬鹿な……嘘を吐いていないっ!何故オラリオにこんなバケモノがいる!何故アグニの炎の中を平然としていられる!何故こんな真似をした!私を、私を誰だと思っている!美の神イシュタルだぞ!!」

 

「では、一つずつ答えましょう。まず、自分は以前、試練の一つとしてアグニの炎に七日七晩焼かれるという試練を踏破し、アグニ神より炎を授かりました。次にオラリオに来たのは先程申し上げた通りヴィシュヌ神からの命令です」

 

イシュタルの問いに淡々と答える目の前の人間にイシュタルは今まで自分のしてきたことなど忘れたかのように「こんなことをされる覚えはない!」と叫ぶが

 

「貴神はこのオラリオの地下に潜む闇派閥(イヴィルス)と繋がっている。それに、ギルドで調べさせて貰いましたが、随分と好き勝手なさってきたようで……そして、今日、ダンジョンで己の眷属を使い、自分に攻撃してきた。それだけで充分な理由になるでしょう」

 

最早、問答は必要ないと詰め寄るカルキに逃げようとするイシュタルであったが、勝ち誇ったように笑い始める

 

「ならば神である私を殺すか?出来るわけがない!!下界における人間による神殺しは大罪だ!それにお前は武器を持っていない!それでどうやって私を殺すというのだ!」

 

お前には何も出来まい、この後ギルドへと駆け込み、こいつを罰して貰おうと考えるイシュタルに

 

「生憎と、自分はヴィシュヌ神から『オラリオには増えすぎているので不要と判断した神を間引け』と命じられているので神を殺したとしても罪には問われません」

 

イシュタルの希望を潰したうえで

 

「それに…自分に()()()()()()()()

 

そういうとカルキは足元にある小さな瓦礫を一つ拾うと

 

「オーム ブラフマティー…」

 

真言を唱え、瓦礫を異形の矢へと変え、イシュタルに向けて投擲するように構える

 

「ハッ、ハハハハ…お前は真のバケモノだ…」

 

イシュタルは乾いた笑いしか浮かべることしかできず、諦めたように立ち尽くす

 

「では、ヴィシュヌ神からの命を果たさせて頂く・・・行け!ブラフマーストラ!!」

 

異形の矢をカルキが投擲すると、矢は真っ直ぐに飛んで行きイシュタルの首を落とす

 

胴体と首が泣き別れ、ゆっくりと地面へと落下していったイシュタルだったモノは地面に落ちると光に包まれ、ドンッと光の柱となって天へと昇る

 

歓楽街を支配していた女神はアッサリと天に送還されたのである

 

***

イシュタルを間引いた後、指を一つ鳴らしてアグニの炎を消すとカルキは眼下を眺め、囚われていた狐人の娼婦をと檻から救いだした白兎が抱き合う光景をを眺めていた

 

「娼婦とは英雄にとって破滅の象徴、それ故にどの英雄も娼婦を遠ざけ、ましてや、救おうともしなかった」

 

が、眼下にいる白兎は救ってみせた。誰も手を差し伸べようとも救おうとしなかった娼婦という存在を

 

「英雄とは、ただ強ければ良いという訳ではない…つまるところ、後世まで語り継がれるのは最初と最後の英雄だけ……フッ…ベル、お前はある意味で語り継がれる英雄としての資格を得たぞ……」

 

眺めている自分に気付いたのであろう。此方を見てくるベルに「良くやった」と口だけ動かし、踵を返すと、カルキは歓楽街だった場所を朝日に照らされながら去っていった

 




【急募】ソーマを原作ソーマに戻す方法


歓楽街が滅んだ後、つまりはソードオラトリア8巻、ベートと酒場でエンカウントして

「人間、どれだけ強くなろうとも、守れるのは目の前にいる1人多くて2人だ。ましてや、自分から守りたい者を遠ざけて、自分から遠ざけた先で守りたかった者が死んでしまったら何の意味もないだろう?」

と煽って、逆上したベートの攻撃を避けて

「何故怒る?・・・ああ、自分の考えを理解してくれていた女でも自分の手の届かない場所で亡くしたか?狼人?」

とカルキにはベートの地雷源でタップダンスして欲しい今日この頃


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話

フィン「ティル・ナ・ローグ」

オッタル「ヒルディスヴィーニ」

リヴェリア「レア・ラーヴァテイン」

アイズ「リル・ラファーガ」

他冒険者「す、凄い……これが第一級冒険者の力……」

カルキ「フッ」(←通常攻撃で同等かそれ以上の威力)

火力の差はこんな感じ……え?理不尽すぎる?………インドだから仕方がない







…こんなんでホイホイとブラフマーストラなんかブッパ出来るわけがないんだよなぁ………



何者かによって歓楽街が襲撃され、そのほぼ全てが灰燼に帰した次の日

 

歓楽街を支配していた大派閥(イシュタル・ファミリア)の消滅…ひいては歓楽街の消滅はオラリオに多大な影響を与え、被害を被っているのは冒険者、【ファミリア】、商人、ギルド、神々と例を挙げれば枚挙に暇がない

 

ギルドはこれ以上の混乱を避けるため、犯人捜しよりもまずは後始末が最優先として、歓楽街跡地の後始末をほぼオラリオ全ての【ファミリア】へと命令を出し、その中にはガネーシャ、フレイヤ、ロキの【ファミリア】といった大派閥の団員達の姿もあった

 

『酷い……』

 

更地と化した歓楽街を見た【ガネーシャ・ファミリア】の団員達は、歓楽街がここにあったことを確かに示す建物が、歓楽街周辺の出入り口と真っ二つに両断されつつも奇跡的に燃え残った【イシュタル・ファミリア】の旧本拠(ホーム)跡地とその周辺の建物しかないことに呆然と呟く

 

「これを…これを見聞きしながら嗤っていたのか……」

 

歓楽街の東西南北に4つある歓楽街の出入り口は、この惨劇を引き起こしたと思われる犯人によって内側から開けられず外からしか開けられないよう細工されており、犯人が決して【イシュタル・ファミリア】及びその関係者を歓楽街から逃すつもりがなかったことを無言で語っている。そしてヘスティアとフレイヤの両【ファミリア】が開けた2つの門周辺の遺体は首がなかったり胸を抉られ殺されている戦闘娼婦(バーベラ)の死体が多かったが、これらは生き残った【イシュタル・ファミリア】の者達にこの死体が誰なのかが分かるだけマシであり、それ以外の死体は劫火によって白骨化するまで焼き尽くされており、更には、そのほとんどが出入り口周辺にまるで外に助けを求めるかのように折り重なっていたのである

 

この光景を見てギルドの職員は呆然と佇み、生き残った元【イシュタル・ファミリア】の少女達は力の抜けたように座り込んで涙ぐむ、そんな様子を見て、イルタや【ロキ・ファミリア】の【超凡夫(ハイ・ノービス)】ラウルは、せめて骨だけでも骨壺に入れて弔ってあげようと手に取ると、軽く触れただけで骨はサラサラと灰になってしまい、「あいつらは骨も残らないってのか…」と【麗傑(アンティアネイラ)】アイシャは歯を食いしばり、赤い血が出る程拳を強く握りしめる

 

「(この惨劇を見て何故神々は…ガネーシャは笑えるのだ……)」

 

シャクティは、否、ここにいる者達の中でシャクティだけが2日前の惨劇の全容を知っていた。この惨劇を引き起こした犯人は自分達【ガネーシャ・ファミリア】の居候であるカルキ・ブラフマンであり、その男は自分達冒険者など歯牙にもかけぬほど遥か高みに立ち、人という枠組みを超えて神の領域までたどり着いている可能性があること、そして……この惨劇を心の底から楽しんでいた神が三柱がいて、そのうちの一柱はオラリオにいる神々の中でも善性の神とされている自分たちの主神ガネーシャであることを

 

「団長?」

 

「(もし…次このようなことがあれば、私は…)」

 

自派閥の団員から話しかけられていることにも気付かず、考え込むシャクティは10年以上付き合いのあるガネーシャの変貌ぶりに困惑しつつも、もし今回のようなことが再びカルキによって引き起こされ、ガネーシャがその惨劇を楽しむならば、例えカルキによって一撃で殺されようともカルキに挑み、自らの死をもってガネーシャを諫めようと誓うのであった

 

***

『タケミカヅチ様の様子が変?』

 

歓楽街で春姫を救出した際、炎が一瞬で消えた歓楽街の通りで、無傷…それどころか魔力暴発(イグニス・ファテゥス)をした際の精神疲弊(マインドダウン)もなく、完全回復している命が新しく【ヘスティア・ファミリア】の仲間になった春姫と挨拶をするベル、リリ、ヴェルフ、そして幼馴染である春姫と旧交を温めている桜花、千草に相談してきた

 

「そうなのです……。自分が挨拶に行った時、普段通りに振る舞っているのですが、どこか気落ちしているような……」

 

しゅん…と肩を落とし、不安げな命に『うーん…』とベル達は悩む

 

「そ、そういえば命ちゃんの首飾り、すっごく綺麗だね」

 

「はい、何故かあの夜自分に架けられていたのですが、あまりにも綺麗というか、神々しいというか…でもとても気に入っているのです」

 

暗い雰囲気になっている命をなんとか励まそうとする春姫が命が首から下げている首飾りのことを話すと「あ!」と千草が声を上げ

 

「もしかしたら、命がどこの誰とも知れない方から綺麗な首飾りを貰ったことに嫉妬しているのかも!」

 

「良かったね!命ちゃん!」

 

「えー?あのタケミカヅチ様ですよ?むしろ『そうかぁ…命ももうそんな歳かぁ…』ってしみじみと話すんじゃないんですか?」

 

「ちちち千草殿っ!春姫殿っ!リリ殿もっ!」

 

先ほどまでの暗い雰囲気はどこへやら、キャッキャッとはしゃぐ女性陣を横目に何が何だか分からない鈍感な男性陣は「?」と首を傾げるが、「まあ、明るくなったからいいか」と笑いあう

 

「………んで?実際のところどうなのさ?タケ?」

 

微笑ましい光景から少し離れた所でヘスティアが実際のところどうなのかタケミカヅチに問いかける

 

「いや、なに…不機嫌というよりも、その…自己嫌悪というか‥‥‥‥な」

 

「はぁ!?何だい?それ?」

 

意味わからんとヘスティアは呆れ「ボクはあっち行ってるよ」とベル達の元へと向かっていく。そんなヘスティアの背中を見ながらタケミカヅチは「ハァー…」とこの2日間何度目かのため息をつく

 

「(まったく、こんなに自分が狭量だったとは………)」

 

そう思いながらタケミカヅチの視線は命の胸元…正確に言えば黄金の首飾り、否、スーリヤの鎧の一部をトヴァシュトリかヴィシュヴァカルマンが加工したであろう首飾りへと向かわせる。そう、タケミカヅチはどこの誰とも知れない奴から娘のように思っている命が高価そうな物を貰ったから不機嫌なのではなく、自分以外の神のモノを命が身に着けていることに嫉妬していることに気付き、自己嫌悪へと陥っているのである

 

恐らく、あの首飾りを傷ついていた命に架けたのはカルキであり、それは善意からの行いであり、命を救ってくれたことを感謝しなければならないのだが、タケミカヅチの胸中には何とも言えない感情が渦巻いていた

 

「(いやはや、俺自身が情けなく思える……今ならスサノオの気持ちもわかるな)」

 

タケミカヅチが思い出すのは、かつて天界にいた頃、同郷のスサノオが自分の娘のように可愛がっていたスセリがオオナムヂの所に行ってしまった際、スサノオは普段の荒々しさはどこへやら、一日中部屋に引きこもり酒を飲み、飲んだくれていたのを見かねて同じ武神の誼として励ましに行ったのだが「お前に俺の気持ちが分かってたまるか!馬鹿野郎!!」と殴られ、そのまま取っ組み合いの喧嘩をしたのだが、今ならあの時のスサノオの自分の娘ともいえる存在を他の(おとこ)の元にやった気持ちが分かるような気がした。そして命は、自分の家族はどの神にも渡さんぞと決意する

 

「(よし!今度、借金をしてでも命に武器を買ってやろう!あの首飾りと比べると価値はないに等しいが、それでも大切なのは気持ち()だ。うん、そうしよう)」

 

せっかくなのだから一年後、自分の【ファミリア】へと戻って来る命のために無事で自分の元に帰ってくるように願掛けとして雌雄一対の剣にしよう、そして長剣()の方を自分が持ち、短剣()の方は命に預けようと決心する

 

「(あー…それに今度、ヘスティア達に謝らないとな)」

 

そう決心したところで、ふと、今度余計な心配をかけさせてしまったであろう、ヘスティア、ヘファイストス、ミアハに謝らなければとタケミカヅチは思い出す。

 

あの日、あわよくばカルキと手合わせ(殺し合い)をと思っていたタケミカヅチであったが、少し離れた屋根の上で本質丸出しにして酒を飲んでいるソーマ、カーリー、ガネーシャの三柱の気配を感じ取ったタケミカヅチ(ヘスティアはヴェルフと桜花を止めるのに必死で気付いていない)は、惨劇を見ながら嗤い、更にはたかだか杯を落とされた程度で大人げなく【フレイヤ・ファミリア】の幹部たちを半殺しにしたソーマを見て、一周回って冷静になったタケミカヅチは、下界で、家族のいるオラリオで、ああはなるまいと思ったのである。

 

また、タケミカヅチは武神であるが、それと同時に地震を鎮める国家鎮護の神でもあり、強者と闘うのであれば神々が定めたルールなど無視して暴れるのだが、それ以上にタケミカヅチが戦わなければならないのは国家や都市、ひいてはそこに住む無辜の民に危害を加えようとする超常の邪悪な存在である

 

明らかにカルキという男は人間という枠を飛び越えた圧倒的な強者であり、超常の存在であるが邪悪な存在ではない。歓楽街での惨劇も先に喧嘩を売ったのはイシュタルであり、殺戮も他の神からの依頼や殺戮を司る神からの祝福を受けているのであればその殺戮は正当化され、タケミカヅチが戦わねばならない邪悪な行いとはならないのである

 

「天界にいれば、ぜひ一戦交えてみたかったな…」

 

惜しいと思いつつ、今は、再び会えた少女と自分の家族と共に旧交を温めることの方が大切だと思い、微笑を浮かべ、はしゃいでいる自分の大切な家族とその仲間、神友の輪へとタケミカヅチは歩みを進める

 

「いやー、それにしてもこの首飾りは綺麗だねぇ!……あっ!これを売ったら多少は借金返済に……!!」

 

首飾りの素材に気付かずヤバいことをことを口走るヘスティアに「ダメですよ!!」と総ツッコミが入るが

 

「いや……その首飾りの素材に気付いていないのか、ヘスティア…………………」

 

別の意味で神友に呆れ果ててしまうタケミカヅチであった

 

***

「……エニュオ?」

 

その夜、普段何かあれば貸し切りにしている店が休みで【ソーマ・ファミリア】所有の酒蔵も仕込みの最中で使えないため、仕方なく、『焔蜂亭』でカルキとガネーシャはソーマから情報を得ていた

 

「ああ、それが奇跡的に一命をとりとめた【イシュタル・ファミリア】の生き残りから聞き出した闇派閥(イヴィルス)の残党と結託しオラリオを滅ぼそうとしている黒幕の名だ」

 

何故か笑いをかみ殺しながら黒幕を伝えるソーマに、何故そんな情報を得ることが出来たのかと珍しく小声でガネーシャがソーマに聞くと

 

「……なに、歓楽街の跡地で【フレイヤ・ファミリア】の団員共が何やらコソコソしていたので後をつけてみたら、案の定【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)で生き埋めにされていたレベル4のタン何とかを運び出していたのでな、そのまま【フレイヤ・ファミリア】の本拠(ホーム)に行ってフレイヤをおど…頼み込んでその男から話を聞きだした」

 

もう完全に昔に戻っちゃてるソーマに「うわぁ…」とドン引くガネーシャであったが、それよりも黒幕の名前が明らかになったことを喜ぶが

 

「しかし…エニュオか、知らん名前だな、そんな名前の奴は下界にいる神々、いや、天界にいる神にもおらんぞ?」

 

「……まるで双六で6の目を出したら5戻るマスだった時のようだな」

 

しかし『エニュオ』という黒幕の名前が分かっただけでも十分だろうとガネーシャとカルキは判断するが、ソーマは『エニュオ』という名前が余程可笑しいのかその名前が出るたび机に突っ伏し笑いを堪えている様子であった

 

「ソーマよ、何がそんなに可笑しいのだ?」

 

いい加減不思議に思ったガネーシャが問いかけるとソーマは笑いをかみ殺しながら

 

「ガネーシャ、よく考えてみろ、『エニュオ』とは我々神々の言葉で『都市の破壊者』という意味だ……都市の『破壊者』だぞ?いくら今、カルキを通してシヴァがこのオラリオを視ていることを知らないとはいえ…なあ?」

 

もう耐えきれぬとばかりにソーマはクスクスと笑い始めるが、カルキとガネーシャは諫めることもなく「あー、成程」とソーマの意見に納得してしまう

 

カルキによって天界に送還されたイシュタルがフレイヤを嫌っていたように、神とは自分と同じモノを司る神を嫌う傾向が強い、そしてそれは天界最強と恐れられる破壊神シヴァも例外ではない

 

つまりはシヴァもシヴァ以外の『破壊』を司る神を嫌うのだ。しかし、天界最強の異名は伊達ではなく、シヴァは都市や国、大陸や世界を破壊するなどは容易いものであり、星の破壊、更にはこの宇宙を破壊し、『不滅』という概念すら破壊し、第三の目を開きシヴァの炎で焼き払えば1万年経てば復活できる神でさえ、この宇宙から消滅させ2度と復活することはない規格外の破壊神なのである

 

勿論、他の『破壊』を司る神々にシヴァ程の破壊の権能と同等、もしくはそれ以上の力を有している神など存在するはずもなく、天界で神々に殺し合いをさせ、トリックスターと恐れられていたロキでさえ、『破壊』を司る側面を持つ女神であったが、ちょっとでもシヴァに睨まれては文字通り消されると圧倒的に格上のシヴァを恐れ、自らを『道化の女神』であるとして『破壊の女神』の側面を隠していたのである

 

だというのにこの『エニュオ』を名乗る神(?)はシヴァが視ていることも知らずに『破壊者』などと名乗っているのだ。それ故、ソーマはエニュオはつい先日、スーリヤを怒らせカルキによって消滅させられたアポロン以上の自殺志願者であると嘲笑しているのだ

 

「流石にシヴァ神自ら来ることはないと思うが?」

 

「というか、そうなったらシヴァの神気だけでオラリオ…いや、下界にいる者のほとんどが肉片になるのだが…?」

 

思わずシヴァが下界にルールやら諸々を『破壊』して第三の目を開き完全武装した状態で降りてくる最悪の未来を予想してしまい震え上がるカルキとガネーシャであったが、流石に考えすぎかと笑っていると

 

「…明日も神酒の仕込みがある、ここで俺は帰ろう」

 

机に大量のヴァリス金貨を置いていき店を出るソーマに必要ない分を返そうとするカルキにガネーシャは笑いかけ、これは先日俺達を楽しませた褒美だから受け取って今日は旨い飯でも喰えと肩を叩いて明日も早いからと店から出ていく。偶には旨い物でもたらふく食べてほしかったのだろう、カルキはソーマとガネーシャの好意を素直に受け取り、暫く『焔蜂亭』の料理と紅玉(ルビー)を煮詰めたかのような蜂蜜酒に舌鼓をうっていると

 

「例えば――――――周りにいるこの雑魚どもを、酒の肴にしたってなぁ!」

 

店の喧騒を飲み込むほどの大声が響き、その声のするテーブルの方向を見ると、【ロキ・ファミリア】の牙と爪の折れた狼と哀れな復讐者がいた

 

「ふむ、どうやらあの狼人(ウェアウルフ)酔っているようだな」

 

この程度の酒に飲まれるとは……随分と情けない犬だと内心で嘲笑いながら蜂蜜酒を口にするカルキであった




都市の破壊者(笑)「なんか…悪寒が……」




地雷を踏み抜かれたベートや母親の風を「(ヴァーユと比べて)大精霊の風も大したことはないな」と風を軽く止められ絶望するアイズでも愉悦は感じられるが、それ以上に愉悦を感じられるのはカルキにインドキャッチプ○キュア躍りながら穢れた精霊倒され、15年掛けた計画を簡単に潰されて、絶望しながら消滅させられるディオニュソスを見せられて、今まで自分のしてきたことが無意味となり、高潔なエルフでも悍ましい怪人でもなく、ただの雑魚モンスターとして処理されるフィルヴィス




















………を見せつけられるレフィーヤだと思う


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話

実は前話の感想の返信を返しているときに気付いたのですが、エニュオさん『破壊者』名乗ってシヴァに喧嘩売った挙句、下界に狂乱を求めて秩序の崩壊を望んでるって某維持神にも喧嘩売っちゃってね?

あれ?ここだとエニュオさん、アポロン以上の自殺愛好家になってるような‥‥?



なお、ガネーシャとカルキはシヴァに目がいってて一切気付いていない模様


「(まあ、こういう場所で喧嘩はつきものだが……)」

 

目の前でベートと元【イシュタル・ファミリア】の戦闘娼婦(バーベラ)達の騒ぎが起こり、皿や椅子、血の欠片が飛び交う中、カルキは我関せずと気配を消して注文していた料理と酒を楽しんでいた

 

「(‥‥‥中々に美味だったな、ガネーシャ神やソーマ神がここにしたのも納得だ……うん?)」

 

食事を終え、満足していると、こちらに向かって一人のアマゾネスが吹き飛ばされてきたので仕方なく飛んできた方に蹴り返すと、飛んでいった先で別のアマゾネスにぶつかり店の壁を突き破って外に出て行ってしまった

 

『なっ…』

 

店にいたベート、アイズ、アイシャを含む全員が驚愕し動けなくなる中、蹴り飛ばした本人は空になった皿をテーブルの隅に置いて何事もなかったかのように蜂蜜酒を一口飲んでいるが、注目されていることに気付き

 

「ああ、こちらに来たから返しただけだ、気にするな」

 

喧嘩の続きでもしたらどうだと促すカルキの存在に今頃気付いたのか店のあちこちから「『百人斬り』だ…」「今、飛んでってた奴ってレベル3だよな…」「じゃあ、アイツってレベル4なのか…?」「ハァ!?じゃあ神々が嘘ついてたってのかよ」などと店内から動揺する声が聞こえてくる一方で喧嘩をしていたベートとアイシャ、さっきまでオロオロしていたアイズはカルキを敵のように睨みつける

 

「ふむ、どうやら興を醒めさせてしまったようだ、これは自分に非がある。大人しく出ていくとしよう」

 

そう言って店から出ていこうとするカルキに

 

「待てよ」

 

敵意を込められた声に振り返るとベートがカルキを睨みつけていた

 

***

「何か用か狼人(ウェアウルフ)?」

 

やれやれといった風に声を掛けるカルキの様子をベートは気に入らないのか

 

「てめぇ、あの赤髪の女の仲間か…?」

 

最早、敵意どころか殺気を放つベートに誰もが震える中

 

「(……赤髪の女?…自分が知っているのは【ガネーシャ・ファミリア】の副団長だが、彼女は自分を嫌っているし、そもそも自分は【ガネーシャ・ファミリア】の団員ではない……)いや、違うな」

 

「……そうかよ、じゃあ、てめぇは何の目的でここにいるんだ?あ?」

 

ベートの問いかけの意味が分からないカルキであるが、その答えをベートだけでなくアイズも聞き逃さないようにしていることに気付いたが、困る事でもないが誤魔化して「とある神からの命令だ」と答えると2人の顔つきが険しいものになるが、それは無視して

 

「では、こちらからも一つ問おう狼人(ウェアウルフ)、お前は先ほどから弱者を嫌う発言をする。それは何故だ?誰しも、それこそお前にも弱者であった時があるはずなのにな」

 

「‥‥ああ?」

 

どうやら、こちらと問答をする気はないらしい。これでは、あの求道者の方が話を聞く人間の部類になるなと苦笑いしつつ

 

「一匹狼を気取るか…知っているか狼人(ウェアウルフ)、一匹狼というのは人間から見れば孤高の存在と思われているが、その実態は群れの中で唯一生き残ったか、群れから追い出されたか……とにかく己の群れを無くした哀れでやせ細った狼らしいぞ?」

 

「ッツ!!」

 

激高したベートが殴り掛かり、アイズがベートを止めようとするがカルキはヒラリと躱し、店の外に出て暫く走り人通りのない裏通りまで移動して人払いの結界を張り、ベートと対峙する

 

「(ここまで激高するということは図星か…ならば弱者を嫌うのはかつての己を見ているように感じるからか)‥‥‥存外しつこいな」

 

どこまでも冷静にベートを分析するカルキにベートは襲い掛かるが軽く足を払われて地面へと激突する寸前で体勢を立て直し拳を放つがあっさりと躱され、カルキに腕を掴まれ放り投げられる

 

「クソがああああああああ!」

 

着地してすぐに叫びながらこちらに突っ込んでくるベートにカルキは一歩も動かずに軽く体を横にずらし顔面を掴むと一歩前に足を出してそのまま地面へと叩きつける

 

「がっ…」

 

衝撃で意識が飛んだベートであったが自分の触れられたくない()に触れた……間違いなく自分相手に手加減をしている目の前の怪人(クリーチャー)擬きへの怒りに突き動かされるまま起き上がるが、カルキは既にベートのことなど、どうでもよくなっているようで、家の屋上に飛び乗り、立ち去ろうとするので「待ちやがれぇ!!」と叫ぶが、カルキはため息をついて見下ろし

 

狼人(ウェアウルフ)、お前自身気付いているだろうが、人間はどれほど強くなろうとも己の手で守れるのは、せいぜい目の前か隣にいる1人か2人だけ……ましてや、自分から守りたいと思う者を自分から遠ざけ、自分の手が届かぬ先で守りたかった者が死んでしまえば、それこそ何の意味もなく、見殺しと変わらんぞ?」

 

「黙りやがれッ!」

 

まあ、目に映るすべての人間を救う者はそれこそ『英雄』と呼ばれるものだがそんな者はそう居ないがなと心の中で思うカルキに堪忍袋の緒が切れたベートが跳躍し、再び襲い掛かるが

 

「ハァ…」

 

ベートが屋上に着地するより早く、カルキも空中へと身を翻しベートへ裏拳を腹に手加減して打ち込み、再び地面へと叩き落す

 

「ク…ソがっ……」

 

それでもまだ起き上がろうとするベートにカルキは「ふむ」と口に手を当て

 

「何故そこまで激高する………ああ、最近、己の考えを理解してくれていた心優しい女でも己の手の届かぬ場所で亡くしたか狼人(ウェアウルフ)?」

 

「ッツ!?てめぇええええええええ!!」

 

ベートの反応に図星だったかと肩をすくめたカルキは、ベートを見下ろしながら

 

「余計なことを聞いたことは詫びよう、だがな、お前がその傷に真正面から向き合い、己がどうするべきか決められない限りはお前は一生そのままだぞ狼人(ウェアウルフ)?」

 

「んだとぉ…」

 

ベートに冷たい眼を向け、それだけ言って踵を返して一瞬で消えたカルキにベートはただカルキがいた場所を睨みつけることしかしかできなかった

 

その後、【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)に戻ったカルキは【ガネーシャ・ファミリア】の団員達から「またコイツは働いていないのか」と非難の目を向けられ、ベートは自分に纏わりついてきた天真爛漫な少女に歓楽街跡地へと連れていかれるのであった

 

***

次の日の朝、ベル達の所にでも行こうかと思っていたカルキだったが、知っている赤髪の女、もとい【ガネーシャ・ファミリア】の副団長イルタから「人手が足りないからお前も遊んでないで手伝え」と歓楽街跡地の後始末へ駆り出され、カルキが歓楽街を消滅させた犯人であることを知っているシャクティは苦い顔をし、ガネーシャは自分のしたことの後始末だなと笑っている頃

 

「この呪い、私が殺します」

 

「‥‥‥頼む」

 

【ディアンケヒト・ファミリア】の施設の奥にある商談部屋でアミッドとリヴェリアが人造迷宮(クノックス)で【ロキ・ファミリア】を苦しめた『呪詛具(カースウェポン)』の対策、解呪薬について話し合っていたところに「アミッドさんっ!」と【ディアンケヒト・ファミリア】の団員が飛び込んできた

 

「どうしましたか?」

 

「入院している【猛者(おうじゃ)】が…………」

 

それだけで察したのかため息をついて「失礼します」とリヴェリアに謝り、病室に向かおうとしたアミッドだったが

 

「【戦場の聖女(デア・セイント)】とリヴェリアか…………」

 

「「!?」」

 

腹部に包帯を巻き多少見知っているリヴェリアが今まで見たこともない姿のオッタルが奥から現れたのである

 

「ッツ!!いくら貴方がオラリオ唯一のレベル7で高い耐久のステータスがあると言っても僅か数ヶ月の間に2度も腹部を欠損するほどの大怪我を負っているのです!せめて一週間は安静にと…!」

 

もう大丈夫だと治療の礼を言うオッタルにまだ安静にしているよう注意するアミッドと【ディアンケヒト・ファミリア】の団員達を万能薬(エリクサー)高級回復薬(ハイ・ポーション)を使えば問題ないと半ば無視するように出ていこうとするオッタルに、ようやくオッタルが重傷という衝撃から立ち直ったリヴェリアはアミッド達の言い分が正しいとオッタルに説いて納得させてから何事かと問いかける

 

「それで…お前にここまでの重傷を負わせたのは何者だ?」

 

「むぅ…」

 

本来であればそんなことを言う義理はないのだが、アミッドの言うことを無視して勝手に退院しようとした手前、どうにも弱みを握られた気がしてならないオッタルは大人しくあの日、歓楽街で、そして自分達【フレイヤ・ファミリア】に何があったかをリヴェリアに話す

 

「馬鹿なッ!あの惨事を見ながら神ガネーシャが笑っていただとッ!!」

 

「…………嘘ではない、あれは確かにガネーシャだった」

 

一般人程度の力しかないはずのソーマが【フレイヤ・ファミリア】の第一級冒険者の幹部達を一瞬で半殺しにしたこと以上にリヴェリアを驚愕させたのは、オラリオにいる神々の中でも屈指の善性を持つ神格者であり、常にオラリオの人々に寄り添い5年前まで続いていた闇派閥(イヴィルス)との戦いではロキ・フレイヤの両【ファミリア】や今は壊滅してしまった【アストレア・ファミリア】と共にギルド側の【ファミリア】として戦った【ガネーシャ・ファミリア】の主神であるガネーシャの豹変ともいうべき姿であった

 

「お前が疑うのも無理はない、俺達もあのガネーシャを見た時、本当に自分たちが知っているガネーシャなのかと目を疑ったからな」

 

「…………まさか」

 

そこでリヴェリアは何故ガネーシャが豹変してしまったのかと考え、ふと、最近【ガネーシャ・ファミリア】で居候をしていて、とある酒場で【ロキ・ファミリア】との因縁があり、【ファミリア】内で「怪人(クリーチャー)では?」との疑いのある男が頭をよぎる

 

「豹変の理由はカルキ・ブラフマンか…?」

 

最近、【ソーマ・ファミリア】の酒蔵にも出入りしているという情報のある男の名をつい口に出したリヴェリアに

 

「あの男とは関わらぬ方が良い」

 

「…………どういう意味だ」

 

仮想敵派閥の団長からの意見に眉を寄せるリヴェリアにオッタルは【ロキ・ファミリア】の【遠征】の途中、白兎が猛牛を倒したあの日、カルキが都市最強冒険者である自分を遊ぶように一方的に嬲り、腹に穴をあけたことを話して最後に

 

「あの時、もしあの男が本気で戦っていたら俺はここにいない……間違いなく今このオラリオ最強はあの男…カルキ・ブラフマンだ」

 

その嘘偽りなく真剣に語る武人の言葉にリヴェリアは何も返せずただ病室には沈黙が広がるのであった

 

***

まさかの自分で焼き尽くした歓楽街跡地の後始末を自分でするという、とんだマッチポンプをしてしまった日の夜、カルキは歓楽街周辺…否、オラリオのあちこちから漂う不穏な気配に気づく

 

「(これは…殺気か、それもこの雰囲気は暗殺者(アサシン)か?)」

 

オラリオ中に展開し気配を殺しているであろう暗殺者(アサシン)の人数を気配だけで把握し、少し考える

 

「(………この暗殺者(アサシン)達の狙いは何だ?)」

 

人数は把握できても目的と標的がわからない以上どうしようもないなと考えるカルキであったが、やがて「ああ口封じか」と納得する。イシュタルは闇派閥(イヴィルス)の残党と繋がっており、そのイシュタルがカルキによって天界に送還された、ならば闇派閥(イヴィルス)の残党は自分たちの情報を他派閥に渡さないよう口封じをすることは容易に想像できるのである

 

「となると、狙いは【イシュタル・ファミリア】の生き残りか……」

 

暗殺者(アサシン)達の狙いと目的を把握したカルキであったが、仮に暗殺者(アサシン)を今から数人倒しても直ぐに他の暗殺者(アサシン)が動いたらどうしようもないので、どうしようか思案していると

 

「あ……」

 

目の前にアイズと見慣れぬエルフの少女が現れ、2人とも此方に気付いたらしく少し驚いた声を出して佇んでいる

 

「(確か…【ロキ・ファミリア】はあの地下迷宮にいたな。ということは闇派閥(イヴィルス)とも何かしら敵対しているということ‥‥)」

 

地下迷宮から出ていく際に【ロキ・ファミリア】を追い越したことを思い出したカルキは忠告だけはしておこうとした

 

「あの‥‥」

 

「………【イシュタル・ファミリア】の生き残りには注意しておくことだ」

 

千の妖精(サウザンド・エルフ)】レフィーヤが何か話そうとしていたがカルキはそれを無視するかのように自分の言いたいことだけ話すと振り向き立ち去ろうとする

 

「え?それって…」

 

どういうことかわからず意味を問いかけようとするレフィーヤとアイズに振り向いたカルキは「それくらい自分達で考えろ」と言わんばかりの視線を送り雑踏の中に消えていった

 

***

「成程!【イシュタル・ファミリア】の生き残りを狙う暗殺者(アサシン)か!」

 

その夜、【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)のガネーシャの自室には、ガネーシャとシャクティがカルキに呼び出され、今オラリオに暗殺者(アサシン)が展開していることについて聞かされていた

 

「数は50程、既にオラリオ中に展開していて、おそらくは明日の明け方にも仕掛けるだろうな」

 

あくまでも冷静に状況を判断するカルキに「むぅ…」と顔を歪めるガネーシャとカルキを警戒しつつもその情報が嘘ではないとガネーシャが話したため信じているシャクティであったが、やがてガネーシャは顔を上げて真剣な雰囲気になると

 

「シャクティ、お前は今からイルタ達と元【イシュタル・ファミリア】の団員達が今はどこの【ファミリア】に所属していて今どこにいるのかをを調べ、分かった端から誰にも気づかれぬように警護しろ。それから、万能薬(エリクサー)高級回復薬(ハイ・ポーション)の準備‥‥だけでは不足だな、氷雪系と炎熱系の魔導士達にも直ぐに動けるように待機させておけ、もし居場所を把握できず、襲われたとしても急行して息があれば、薬を用いて体力の消耗を抑えつつ、傷口を凍らせるか焼いて塞ぎつつ迅速に【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院に運べるように手配しておいてくれ」

 

的確なガネーシャの指示に「わかった」と頷くシャクティに「頼んだぞシャクティ!」と普段通りに返したガネーシャはカルキの方を向くと

 

「カルキよ、これは本来、我々の、ひいてはオラリオの問題‥‥だがどうか力を貸してほし…」

 

「その必要はない!!」

 

カルキに助力を求めようとしたガネーシャの言葉を遮り、大声で拒否したシャクティにガネーシャとカルキは何事かと眉を顰めるが、シャクティは何かを決意した眼差しでガネーシャとカルキを睨みつけ大きな音を立てて扉を閉めて部屋から出ていくのであった

 




ガネーシャ「ところで、どうして俺達には暗殺者のことを詳しく教えたのに【ロキ・ファミリア】には詳しく教えなかったのだ?」

カルキ「実はロキ神のことをインドラ神が嫌っていてな、あまりロキとその眷属に肩入れすると自分にヴァジュラが飛んでくる」

ガネーシャ「うわぁ…」

ちなみにカルキはオラリオに向かう際、ロキとその眷属とドンパチするならアイラーヴァタとヴァジュラ、ヴァサヴィ・シャクティ貸すよとインドラに言われています。ただし、カルキ自身は使う気はさらさらありません(え?なんでかって?そんなのオーバーキルになるからですよ)




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話

ふぅ、今回も危うくレナを殺すところだった…ベートとレナのコンビはダンまちでも好きな組み合わせなんだけどなぁ…なんでなんだろうか




【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)は深夜にもかかわらず、団員達が駆け回り慌ただしさに包まれていた

 

「急げっ、急げぇー!」

 

「魔導士の待機と万能薬(エリクサー)高級回復薬(ハイ・ポーション)の準備完了しましたっ!」

 

「倉庫にあった漆黒色のローブは必要枚数ありました!」

 

団長であるシャクティからもたらされた「オラリオに闇派閥(イヴィルス)の残党及び暗殺者(アサシン)が潜んでおり、元【イシュタル・ファミリア】の団員達を狙っている」という情報に、初めは誰もが半信半疑であったが鬼気迫るシャクティの様子から偽りではないと確信し、5年前まで続いていた闇派閥(イヴィルス)との一般人すら巻き込んだ悲惨な抗争を知っている団員たちを中心に決して被害は出さないと都市の平和と安全を守ることが使命だと【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちは全力を持って当たろうとしていた

 

「まだ、元【イシュタル・ファミリア】の冒険者達の居場所は分からないか?」

 

その喧騒の中で冷静に報告と指示を出すシャクティの雰囲気に【ガネーシャ・ファミリア】の団員達は飲まれてしまっていた。確かにシャクティは普段から何かと騒がしい【ガネーシャ・ファミリア】の中でも冷静沈着であるが、今日はさらに冷静さの中に鬼気迫る迫力があり、団員たちは、オラリオの平和と秩序を乱す闇派閥(イヴィルス)が許せないのだろうと思い、ならば自分たちはその思いを少しでも叶えてあげようと奮起していたがシャクティがここまで鬼気迫っていたのは、団員達が思っている理由以外にもあった

 

「(決してあの男に介入などさせん……)」

 

シャクティの脳裏によみがえるのは、あの日、カルキによって燃やされる歓楽街と劫火に逃げ惑う人々の姿であった

 

「(ガネーシャはあの男に協力してほしいと頼むようだったが‥‥あの男の言うことが正しければ暗殺者(アサシン)はオラリオ中にいる。ならば、このオラリオが歓楽街のようになるかもしれないということではないかっ!)」

 

カルキやガネーシャが聞けば苦笑しながらその辺りの分別はあるぞと否定するところであるが、シャクティはカルキの桁違いともいえる強さに恐怖とガネーシャがカルキが歓楽街の時のように暴れることを許容してしまうのではないかという不安を抱いていた

 

「姉者!ほとんどの元【イシュタル・ファミリア】連中の所在は掴んだ!姉者の言う通りその周辺に怪しい連中もいたぞ!!」

 

「マジで団長の言うとおりだった訳かよ!!闇派閥(イヴィルス)の残党どもめ!こうなったら俺の火炎魔法の業火の渦で焼き尽くしてやるぜええええええええええええええ!!」

 

「ちょっ、イルタさん、これ隠密作戦なんですから静かにしないと、あとイブリうるせぇ!!」

 

隠密作戦だというのに騒がしい団員達にため息をつきつつもシャクティは指示を出す

 

「奴らは夜が明けると同時に仕掛けてくる‥‥一人も犠牲者を出すなっ!!」

 

***

「おい!どうなっている!!何故【ガネーシャ・ファミリア】が……ぐあああああっ」

 

明け方、一斉に元【イシュタル・ファミリア】の団員達を襲撃しようとしていた暗殺者(アサシン)と彼らの雇い主である闇派閥(イヴィルス)の残党である【タナトス・ファミリア】は逆に【ガネーシャ・ファミリア】の団員に急襲され混乱していた

 

「一人たりとも逃すなっ!」

 

シャクティの号令に合わせて【ガネーシャ・ファミリア】の団員が暗殺者(アサシン)に一斉に襲い掛かり、無力化していく。それでも傷を負ってしまう者が出てくるが、傷に不治の呪詛(カース)がかかっていることに気付いた【ガネーシャ・ファミリア】の団員達は既に待機させていた魔導士たちによって一時的に傷を凍らせた後、迅速に【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院へと運んでいく

 

が、やはり短い時間では把握しきれなかった者達もおり、さらには闇派閥(イヴィルス)からの増援が襲撃に参加したことで、次第に【ガネーシャ・ファミリア】だけでは手が足りなくなっていく

 

「くっ、まさか増援とはっ‥‥」

 

「おいっ!他の【イシュタル・ファミリア】の団員の情報を知っているだけ言え!!」

 

「うるさいっ!今思い出してるんだよっ!!」

 

まだ犠牲者は出ていないが、闇派閥(イヴィルス)の増援、それも全員が不治の呪詛(カース)を付与されている武器を持っていることにシャクティの表情は苦渋に歪み、イルタと襲われていたところを助けた後、事情を話し協力を取り付けたアイシャが言い合いながら10人以上の暗殺者(アサシン)と【タナトス・ファミリア】の団員と戦う中、今度は【ガネーシャ・ファミリア】に増援が現れる

 

「【九魔姫(ナイン・ヘル)…【ロキ・ファミリア】かっ!!」

 

「すまない、遅くなった」

 

丁度いいタイミングでの援軍にイルタ達【ガネーシャ・ファミリア】の団員達が喜びの声を上げ巻き返し、一気に戦況は【ガネーシャ・ファミリア】有利になっていくが、戦況が落ち着き、サミラが合流したことで冷静になったアイシャが何かに気付いたように顔を上げ呟く

 

「レナ‥‥」

 

「何っ!?」

 

「レナだ‥‥」

 

未だ【ガネーシャ・ファミリア】で把握していない元【イシュタル・ファミリア】の団員の名前が出たことに驚くシャクティを無視してアイシャは走り出す

 

「レナがヤバい!」

 

***

「犠牲者はなし、軽傷多数、重態はこの娘だけか……」

 

「ッツ!ここは関係者以外立ち入り禁止です。直ぐにご退出を」

 

【ディアンケヒト・ファミリア】が経営する治療院内の重傷・重体者専用の治療室に音もなくフラリと現れた男にアミッドはすぐに出ていくように注意するが、男はその言葉を無視するかのようにベッドに寝かされ、不治の呪詛(カース)によって負わされた負傷により虫の息になっているアマゾネスの少女の元に近づいていく

 

「まあ、アシュヴィン双神もお許しになるだろう」

 

男はそう呟くと懐から小瓶を取り出し蓋を開けると、寝かされている少女を無理矢理起こす

 

「何をしているのですっ!!」

 

勝手に治療室に入ってきた挙句、今にも命の灯が消えてしまいそうな患者に不審な液体らしきものを飲まそうとする男にアミッドは叫び、周囲の【ディアンケヒト・ファミリア】の団員達も慌てて男を取り押さえようとするが、男は彼・彼女らを一瞥することもなく、小瓶に入っている液体を少女に呑ませると

 

「ば、馬鹿な‥‥」

 

アミッドが呆然と呟くが、それも無理はないだろう、男が少女に薬を飲ませた途端、少女を蝕んでいた呪詛(カース)は跡形もなく消え、傷も完治したのである。これにはアミッドも【ディアンケヒト・ファミリア】の団員達も絶句する

 

闇派閥(イヴィルス)の残党たちが使用する呪道具(カースウェポン)、それに付与されている不治の呪詛(カース)を解呪するための秘薬は今だ完成しておらず、今は、この少女の体力を何とかアミッドの回復魔法や万能薬(エリクサー)高級回復薬(ハイ・ポーション)をもちいて維持しつつ秘薬の完成を待つしか方法はなかったのに急にやって来たこの男がナニカを飲ませただけで解呪され、傷が完治したのだ。驚くなというのが無理な話である

 

「な、何故お前のような…‥‥いや、人間がその薬を持っている」

 

動揺しているアミッド達を現実に返したのは、治療室の出入り口に立ち、団員達が今まで見たこともない険しい顔をした自分たちの主神ディアンケヒトのようやく絞り出したと感じられる声が静かな部屋にやたら響いた時であった

 

「ああ、この薬は貴神が想像している御方から自分が授かった物、ならば自分が持っていても不思議なことはないでしょう?」

 

何を当たり前のことをと言外に言う得体のしれない男にディアンケヒトは恐怖さえ覚えるが、男はディアンケヒトに一礼すると「どうかこのことは他言無用でお願いしたい」と言うとそのまま呆然とする彼らを一瞥することもなく、この部屋に来た時と同じように音もなく消えるるのであった

 

***

「結果的には犠牲者はなし!うむ!最高の結果だな!!」

 

闇派閥(イヴィルス)によるアマゾネス襲撃事件から2日後、【ガネーシャ・ファミリア】の主神ガネーシャはシャクティから事件の最終報告書を受け取り満足そうに頷いていた

 

『敵を騙すには味方から』ととある少女は死んだということにされていたが、そんなことはなく、ほとぼりが冷めるまで【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院の奥で閉じ込められていただけであり、他の襲われて傷ついていた元【イシュタル・ファミリア】の団員達も【ガネーシャ・ファミリア】の迅速な措置と【ディアンケヒト・ファミリア】所属の治療師(ヒーラー)と薬師達の努力の甲斐あって秘薬は完成し、無事に解呪され傷一つなくなり、元の生活へ戻っていた

 

「ロキの所からは何故カルキが闇派閥(イヴィルス)の襲撃を知っていたのかと聞かれたが……まあ、言い訳はどうにか上手くなったな!!」

 

アマゾネス襲撃事件が起こる前、アイズとレフィーヤに分かりにくい忠告をしたカルキが何故元【イシュタル・ファミリア】の団員が狙われることを知っていたのかと【ロキ・ファミリア】から【ガネーシャ・ファミリア】に質問状が来たが、たまたま元【イシュタル・ファミリア】の団員達をつけている怪しい男達がいたからと言い訳をして【ロキ・ファミリア】もこれ以上はと思ったのか詳しく突っ込んでこなかったことをガネーシャは笑いながら振り返る

 

「ガネーシャ、あの男は‥‥カルキ・ブラフマンはどこだ?」

 

「?カルキならばこの2日、部屋でヨーガを組み、瞑想しているが?」

 

唐突にカルキのことを聞いてきたシャクティにガネーシャは首をひねりながら答え、「まあ、そろそろ終わる頃だろう」と付け足すと「そうか」とだけ言ってシャクティは部屋から出ていき、部屋にはガネーシャがポツンと一柱だけ残されていた

 

「あの武神(インドラ神)はロキ神のことを嫌いすぎではなかろうか‥‥‥…」

 

丁度同じ頃、カルキが居候している部屋でカルキは瞑想を終えてこの2日を振り返る。

 

まずは薬を使用したことへのアシュヴィン双神への報告、これはアシュヴィン双神がカルキが以前のような使い方ではなく人を救うために使用したことを喜び何も言わなかったのですぐに終わったのだが、問題は唐突にカルキの精神に入ってきたインドラであった

 

インドラ曰く、自分とスーリヤの喧嘩中に地面を泥にしてアイラーヴァタとスーリヤの戦車が嵌っていたのを見て嗤っていたクソ女神の眷属なんぞに忠告するとは何事か、闇派閥(イヴィルス)だか『穢れた精霊』だかエニュオだか知らんからそれらを滅ぼすついでに皆殺しにしろということであった

 

無論、そんなことは出来ないとカルキは断ったのだが、インドラの機嫌は直らず、今度ロキの眷属と敵対するならばインドラ自身が介入し、味方をしようものなら、どうなるか分かるなと軽い脅しをかけられ、今後どうしたものかと深く大きなため息をつく

 

カルキがやれやれと首を振ってから外を見ると既に西日が差しこんでおり、晩飯でも食べるかと立ち上がると同時に自室の戸を叩く音がするので入ってもいいと返すとシャクティが入ってきた

 

「‥‥謝罪と礼を言う」

 

「何の話だ?」

 

部屋に入ってくるなり頭を下げるシャクティに本当に何のことか分からないカルキであったがシャクティは顔を上げ

 

「お前が我々が最後まで居場所が分からなかったせいで重態となったレナ・タリーを救ったとアミッドから聞いた‥‥意固地になってお前の手を借りなかったことの謝罪と我々の不手際の後始末をしてくれた礼だ」

 

「ああ、それならば気にするな、こちらがそちらへの借りを返したと思えばいい」

 

他言無用だといったはずだがなと内心シャクティに話したアミッドという人間に舌打ちしつつも気にするなと答えるカルキに「借り…?」とシャクティは疑問を漏らす

 

「自分がダンジョンに入るための特別許可証をギルドが発行する際に口添えしたのだろう?今回はその礼だ」

 

机の中から特別許可証を取り出し、ひらひらと動かすカルキに「ああ…」と思い出したかのように声を上げたシャクティに

 

「それにな」

 

「?」

 

「お前が『犠牲者は一人も出さない』と一見、荒唐無稽な理想を叫んだ時、そして実際に一人も犠牲者が出ないように奮戦していた時には手を貸そうと決めていた」

 

あっさりと言うカルキに「それはどういう…?」とシャクティが聞くと、ふぅと一息ついてカルキは話す

 

「確かに、自分という異物(イレギュラー)はいた。だが、お前は、いや、お前たちは誰一人犠牲者を出さないという『理想』を掲げ、実際にやり遂げ『現実』にしようとしていた……ならば、それに少し手を貸そうと思うのは当然ではないか?」

 

それに自分が救わなくても解呪の秘薬は間に合いそうだったがなと付け加えるカルキにシャクティはフッと笑うと

 

「お前は本当に分からん男だな」

 

そうカルキを褒めているのか貶しているのか分からない言葉をかけた後、カルキを見て

 

「お前のその埒外の強さにも興味が湧いた。夕食はまだだろう?【ガネーシャ・ファミリア】の行きつけの店があるからそこでお前がどんな修行をしていたのか聞かせてもらおうか」

 

探るような目つきで晩飯に誘うシャクティに

 

「…………あまり修行のことは思い出したくないこともあるのだが?」

 

「ほぅ?お前の青ざめた顔が拝めるのか、それは旨い酒が飲めそうだな?」

 

「趣味が悪いぞ…」

 

そう言って二人で夜のオラリオに繰り出す姿をたまたま【ガネーシャ・ファミリア】の団員が目撃してしまい、『まさかシャクティ団長はあの居候のことを‥‥‥!?』というとんでもない誤解が生まれてしまったのは余談である

 




新アイテム【アシュヴィン双神の薬】
・カルキが医神アシュヴィン双神から授かった小瓶に入った薬…………という名の蜂蜜。甘さ控えめらしい
・一滴だけで呪いや怪我を一瞬で解呪もしくは治癒させるが、カルキ自身は一々懐から出して蓋を開けるよりもアグニの炎で(アポクリファのカルナみたいに)自分の体を焼いた方が早いとしているため半分死蔵していた
・ちなみに薬以外の使い方をしたのは2回、2回とも【ヘスティア・ファミリア】で一緒に暮らしていた時であり、1回は夕食のスープの隠し味として、1回はヘスティアがいない時、朝食がパンだけだったのを見かねて普通の蜂蜜としてベルに分けてベルがパンに塗って食べた



以前、あとがきで書いたシンフォギアでアーラシュの弓を聖遺物にした女オリ主…………何回考えてもステラァァァァァ!して死ぬ未来しか見えないのは何故なのか


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話

日常である8巻どうすればええんや…………せや!もうダイジェストで行こう!!


そういえば、8巻でフレイヤとロキが馬を使っているラキア軍を見て呆れていたが、ここだと

「ほぅ…馬を使うのは弱い証拠だと………ならばシヴァ神の炎を馬の形にして引かせるトヴァシュトリ神から造っていただいた自分の戦車と一戦交えるか?それとも、スーリヤ、ソーマ、ヴァーユ…どの神の戦車で轢かれたいか選べるぞ?何なら他の神々のヴァ―ハナであるナンディン、ガルダ、ハンサ、アイラーヴァタ…どれか借りて連れてこようか?」byカルキ

という事態に…………どうしてこうなった?


元【イシュタル・ファミリア】の団員襲撃事件から数週間、カルキの周辺はこれといった事件もなく平和であった。というのも、つい最近、オラリオに対しラキア王国が攻め込んだ『第六次オラリオ侵攻』があったのだが、カルキはガネーシャから「お前が参戦したらラキアの軍が消滅どころか地図を書き換えることになるから」と参戦を遠慮され、ならばとベル達【ヘスティア・ファミリア】と再びダンジョンにでも行こうかと思っていると

 

「歓楽街復興の人手が全然足りないんですぅ~!手伝ってくださいぃぃぃ!!」

 

大通りで偶々出会った顔馴染みのギルド職員……というよりカルキの担当になっているミイシャから文字通り泣きつかれてしまい、今だ借金を全額返済していないこともあり、仕方がないのでラキア王国がオラリオから撤退する数日間、自分で焼き払った歓楽街の片づけに従事していたのである

 

その間にオラリオにラキア王国から入り込んでいたスパイの両手足を折って一纏めにして放置していたり、ラキア王国の主神アレスによるヘスティア拉致事件(その際、そもそもベルの主神なのだからとベルに任せようとしたが、ガネーシャから手伝ってほしいと依頼されたものの、神々から借りられるヴァ―ハナがナンディンとガルダだったのでガネーシャが取り消した)ということもあったが今のカルキにとっては些末事である

 

「(インドラ神の問題もどうにかなったからな)」

 

そう、今のカルキの心を軽くしているのは、つい先日、カルキが寝ていると夢枕にヴィシュヌが現れ、今のオラリオではロキとその眷属達は影響力を持っているため、問題が起きた時にはロキの眷属達と多少は協力しなければならないことをインドラに説き、インドラも納得したということを伝えに来たのである

 

「(流石はヴィシュヌ神だ‥‥‥)」

 

このヴィシュヌからの神託はカルキにとって最高の神託であり、その喜びようは、朝起きたらすぐにガネーシャにこのことを伝えに行き、どこからともなく流れてきた音楽に合わせてガネーシャと共に喜び傍から見た人間達にとっては奇怪な踊り(インドキャッチ・プ〇キュア)を部屋を飛び出し中庭で踊るぐらい喜んだのである

 

確かに今、カルキと【ロキ・ファミリア】はいい関係ではない。むしろ半敵対関係にあるともいえるが、【ガネーシャ・ファミリア】も関わっている闇派閥(イヴィルス)の残党やエニュオにつての問題や異端児(ゼノス)についてなどロキの眷属達と関わる機会はある可能性がある。それなのにカルキが敵対すれば天界から下界でのルール諸々を捻じ曲げインドラがアイラーヴァタに乗りヴァジュラを持ち、配下のマドラ神群を引き連れオラリオに介入する。もしくは、ロキの眷属達に協力をして天界からカルキに向かってヴァジュラが飛んできて、その余波でオラリオが消し飛ぶ………という事態はカルキもガネーシャも避けたい事態であったのだ

 

だが、カルキがインドラに諫言してもインドラは聞き入れないことは明白であり、仮にインドラと対等な立場であり、インドラと同じようにロキから喧嘩の邪魔をされたが、ロキのことを既に許しているスーリヤに説得を頼んでも、そのまま言い合いになり普段通りの喧嘩という名の殺し合いに発展するのは目に見えている。

 

「(わざわざヴィシュヌ神から説得してもらうわけにもと思っていたが、まさかヴィシュヌ神自らインドラ神を説得していただけるとは)」

 

武神らしく我が強く他の神々の意見を一切聞かないインドラが唯一話を聞くのがヴィシュヌであるが、ヴィシュヌは『維持』を司り、破壊神シヴァや創造神ブラフマーと並ぶ三柱神(トリムルティ)の一柱で、オラリオにいる神々とは隔絶した格と実力を持っている神であり、カルキにとって『武』の師匠がシヴァであるなら、ヴィシュヌはカルキが使う人払いの結界や認識疎外の結界といった『呪術』や『秘術』の師匠になるのだが、そう簡単に物事を頼める神ではないのである。だからこそ今回ヴィシュヌがインドラを説得したことはカルキとガネーシャにとって僥倖以外の何物でもなかったのである

 

「しかし…何故ヴィシュヌ神はエニュオについてやたら調べろと仰っていたのか」

 

夢でやたらエニュオについての情報を欲しがっていたことを疑問に思うが、恐らくシヴァが自分以外の神が『破壊者』を意味する名を名乗る愚かな神にブチ切れないか心配だったのであろうと結論付けたカルキはエニュオについての情報収集を深夜まで行っていたのである

 

「(まあ、エニュオを名乗る神は天界に送還された後が地獄だろうが……)うん?」

 

エニュオを名乗る神は天界に還った後シヴァに消されるなと思っていると、少し離れた夜の路地裏で人目を気にしながら移動しているベルもとい【ヘスティア・ファミリア】を見かけ、何故かフードを目深にかぶった人影を怪しいと思い、気配を殺し後をつけてみると、やはりというかその人影は本来ダンジョンにいるはずのモンスター、竜女(ウィーヴル)であった

 

異端児(ゼノス)か‥‥」

 

耳を澄まし、会話を盗み聞きしていると、どうやらその竜女(ウィーヴル)は知能があり、人語を話しているようでカルキはその竜女(ウィーヴル)は以前ガネーシャから聞いていた理性のあるモンスター異端児(ゼノス)であると判断する

 

「ガネーシャ神とシャクティに報告しておくか」

 

深夜であるがあの一柱と一人ならば異端児(ゼノス)についてだと説明すれば話を聞いてくれるだろうと【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)へと足を向けるカルキであった

 

***

異端児(ゼノス)と【ヘスティア・ファミリア】が接触したか…………」

 

「ハァ…………」

 

カルキからの報告に「うーむ」と腕を組んで唸るガネーシャと蟀谷に片手をやり大きなため息をつくシャクティにカルキは深夜にすまないと謝るが、ガネーシャもシャクティも事が起きる前に情報を得られたことは良かったと返す

 

「それで…これからどうするガネーシャ?」

 

起きてしまった事はどうしようもないので、これからどうするのかをシャクティはガネーシャに問うとガネーシャはふぅと一息ついてからカルキの方を向いて問う

 

「カルキから見て【ヘスティア・ファミリア】は異端児(ゼノス)をどのようにすると思う?」

 

「あれは異端児(ゼノス)を保護していた……未知の状況に混乱はするだろうが、あのお人好しの性分の主神(ヘスティア)眷属(ベル達)だ、危害は加えないと判断できる」

 

もしかすれば異端児(ゼノス)が【ヘスティア・ファミリア】に馴染むかもしれないぞと笑うカルキに「それはそれで問題なのだが」とシャクティが苦い顔をするなか

 

「恐らくはギルド…ウラノスも【ヘスティア・ファミリア】が異端児(ゼノス)と接触したことは把握済みだろう、直ぐに動かないのは深夜だからかそれとも【ヘスティア・ファミリア】を見極めたいのか……とにかく明日の朝一番にウラノスの元に報告するとして、ウラノスも今は様子見という判断を下すだろう、ならば俺達も様子見に徹するべきだろうな」

 

そう締めくくったガネーシャにシャクティとカルキは頷き、それぞれの部屋に戻る。その途中、ふとカルキは気付いた

 

「(そういえば、異端児(ゼノス)のことは三柱神(トリムルティ)並びにリグ・ヴェーダの神々が既に知っていることをウラノス神に言ってはいなかったな)」

 

ウラノスに直接会うことは不可能ではないが、もれなく力づくになるのでそれだけは避けねばならないが、ウラノスには唯一、私兵とも呼べる魔術師(メイガス)がいることをガネーシャから聞いていたことを思い出す

 

「(確か……フェルズだったか?かつては『賢者』と呼ばれていた)」

 

かつて魔導大国で『賢者の石』―――――永遠の命の生成に唯一成功したとされる最高位の魔術師(メイガス)、ただし『賢者の石』は『賢者』が主神に生成の報告をしに行った際目の前で破壊され、その後『永遠の命』という妄執に取りつかれた『賢者』は不死の秘法を編み出し、その反動で肉と皮が腐れ落ち、醜悪な姿、生きる亡霊となった……とされている

 

「(試練で飲み干した霊薬の副作用とはいえ不死の自分は気に入らないだろうな)」

 

彼(?)からすれば天界でブラフマーからの試練としてアムリタを飲み不死の存在になっている自分は気に入らない存在であろうなと思いつつも明日フェルズと接触することを決めてベッドに入り眠りについた

 

***

「…………」

 

ギルド本部の最奥、ウラノスのいる『祈祷の間』に続く薄暗い廊下、正確には職員にも知られていない隠し通路に漆黒のローブに身を包んだ影が動く、ギルド職員の間で噂される『亡霊(ゴースト)』その正体こそかつての『賢者』のなれの果てフェルズであった

 

「使い魔で【ヘスティア・ファミリア】を監視か、成程、ガネーシャ神の仰る通り様子見に決めたようだ」

 

「ッツ!?」

 

知っている存在がほとんどいないはずの隠し通路で唐突に話しかけられたフェルズは話しかけてきた者がいるであろう方向を振り向くと闇の中から男が現れる

 

「………『百人斬り』カルキ・ブラフマンか」

 

「申し訳ないが、自分も貴方と同じで名前が異名のようなものですからその二つ名は願い下げです」

 

カルキに対して警戒心をあらわに身構えるフェルズに戦う意思は欠片も持っていないことを示すために両手を上げると「何が目的だ?」と問うてきたので

 

「いえ、異端児(ゼノス)のことを三柱神(トリムルティ)並びにリグ・ヴェーダの神々に報告し、三柱神(トリムルティ)とスーリヤ神がその存在を認めたことをウラノス神に伝えておいてほしいということだけですので」

 

事後報告になったことを詫びるカルキに意味が分からないフェルズは「それはどういう…?」と聞くが「では」と言い残し姿も気配も消えたカルキに彼の方が亡霊(ゴースト)のようだと思いながらウラノスがいる『祈祷の間』へと再び歩き始めた

 

***

「あれがガネーシャの言っていた異端児(ゼノス)か……不思議なものだ、モンスターに知性があり、言葉を話すとは」

 

「うむ!どうやら良い関係を築けそうだが……どうなると思うソーマ!」

 

「私に聞くな……」

 

【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)竈火(かまど)の館』から少し離れた高い建物の屋上でガネーシャとガネーシャから話を聞いたソーマが【ヘスティア・ファミリア】を本拠(ホーム)の中庭でオラリオで何かと話題の新人(ルーキー)ベル・クラネルと狐人(ルナール)の少女が異端児(ゼノス)竜女(ヴィーヴル)と戯れているのを観察していた

 

「しかし、見れば見る程下界の幼子と変わらんな」

 

「ああ、俺も実物……赤い帽子をかぶり流暢に話す『ゴブリン』をウラノスから見せられた時は唸ったものだ」

 

「……よく受け入れられたな」

 

「なに!異端児(ゼノス)達がモンスター達が闘争を望まず対話を望むというのならば俺は【群集の主(ガネーシャ)】を止めて【群集と怪物の主(ネオ・ガネーシャ)】になればいいと思っただけだ!!」

 

そうのたまうガネーシャにソーマは人間(子供達)から遠い(自分)と違って人間(子供達)に近いお前らしいとらしくもなく感心する

 

その後も中庭を動きながら天真爛漫な笑顔で笑う竜女(ヴィーヴル)と【ヘスティア・ファミリア】の眷属の姿を観察し、まるで年の離れた兄妹・姉妹のようだと二柱は思っていると背後に音もなくカルキが現れソーマとガネーシャに礼をせずにスタスタと歩き竜女(ヴィーヴル)と【ヘスティア・ファミリア】の観察に参加する

 

「で?お前はどう見ている………………()()()()

 

そうソーマが問いかけるカルキの眼は、アポロンに問答をした時のように黒色から宝石のような美しい紅色に変わっていた

 




カルキとガネーシャが中庭で踊っていた際、(無意識のうちに)ガネーシャ・ファミリアの団員達とどこからかやって来たソーマも一緒にキレッキレな動きで踊っています


フェルズは男なのか女なのか……ちょっと骨盤見せてくれませんか?



おまけ  ヘスティア拉致事件(裏)

ガネーシャ「すまん!ヘスティアがアレスに拉致された!お前も空からヘスティアを追ってくれ!!」

カルキ「ベルが追っていったのだろう?ならば自分の主神は自分で助けるべきでは?」

ガネーシャ「そこを何とか!このとーり!!」

カルキ「是非もないか…………すまないガネーシャ神、今借りられるヴァ―ハナがナンディンとガルダしかないらしい」

ガネーシャ「………やっぱり無しで!!」













忘れてはいけない、ヴィシュヌがインドラを説得したのは「『ロキの眷属達』とカルキが敵対もしくは協力しても介入しない」であってロキ個神と敵対or協力した場合どうなるかは一切言及していないことを


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話

荷物を全て配達し終えました………種火の量がエライことに……新しいガチャ回さなきゃ(使命感)




カルキに憑依しているスーリヤとガネーシャ、ソーマが【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)の中庭でベルと狐人(ルナール)の少女と戯れている竜女(ヴィーヴル)の少女を観察している頃、ギルド本部の最奥、『祈祷の間』と呼ばれている部屋でギルドの真の主ウラノスは唯一の私兵とも言えるフェルズからの報告に祈祷を中断し思わずといったように普段祈祷している椅子から立ち上がっていた

 

「……本当に…本当にカルキ・ブラフマンという男がその神の名を…その神々の名を語ったのかフェルズ………」

 

「あ、ああ、確かにカルキ・ブラフマンは『三柱神(トリムルティ)』そして『リグ・ヴェーダの神々』、『スーリヤ神』という神を語っていたが……それがどうかしたのかウラノス?」

 

「あり得ん…あの領域の神々はまだ天界にいるはず……それを何故…人間が知っている………」

 

フェルズはカルキ・ブラフマンが語った神々の名前に全く聞き覚えがなかったが、ウラノスとの付き合いが既に数百年になるフェルズが見たこともない程ウラノスは動揺していた

 

「まさか…………怪物祭(モンスターフィリア)の時のヴァーユの介入や歓楽街を燃やし尽くしたアグニの炎は……だが、何故ヴァーユは下界に介入した……それに人間がアグニの炎に耐えられるはずがない……」

 

「ウラノス?」

 

口元を片手で抑えブツブツと呟きながら考え込むオラリオの創設神にフェルズは声を掛けるが反応はなく、完全に思考の海に入ってしまっている

 

「もし、あの神々のうち一柱でもオラリオに介入してきたとして、対抗出来るのは、私とあの神々(リグ・ヴェーダ)と同郷であるソーマ、ガネーシャ、武神であるタケミカヅチ、『不滅』を司るヘスティアぐらいか……?だが、私やヘスティアではあの神々が誇る武の技量には遠く及ばない、ソーマやガネーシャ、タケミカヅチならば互角に戦えるであろうが、ソーマとガネーシャは戦いを面白がって協力を要請しても協力してくれるかどうか怪しい。タケミカヅチは間違いなくあの神々との一対一の戦いを望むだろう……」

 

「ウラノス!」

 

せめて天界でも武闘派とされていた寡黙な男神(ヴィ—ザル)正義と秩序の女神(アストレア)月と貞潔の女神(アルテミス)辺りでもいればと嘆くウラノスに珍しく大声を上げたフェルズにようやく反応する

 

「ああ…すまないフェルズ、それで【ヘスティア・ファミリア】は異端児(ゼノス)とどのように接している?」

 

「今のところは良好だといっていい、今も中庭で戯れているよ……これからどうなるかは分からないが」

 

使い魔のフクロウから送られてくる光景から竜女(ヴィーヴル)の少女と【ヘスティア・ファミリア】は今のところ良い関係を気付いているとフェルズは判断したことにウラノスは今のところの問題はこちらであるとして椅子に座り報告を聞く

 

「そうか…彼らが『彼等』の希望になればいいが……」

 

本当に介入してくるかどうか分からない神々のことに悩むより今は【ヘスティア・ファミリア】がどう動き判断するかを注視すべきだとウラノスは判断し、これからしばらくは【ヘスティア・ファミリア】を監視するようにフェルズに依頼する

 

「……カルキ・ブラフマンはどうする?」

 

ウラノスをここまで動揺させる情報を持ち、ギルド本部の隠し通路を把握していた男をどうするかと問うフェルズにウラノスはしばらく考え

 

「監視はつけるな……いや、敵対する、もしくはそれと捉えられてしまうような行為を一切行うな……最悪、それらの行為が敵対する意思があるとして、あの闘いたがりの神々へのオラリオに介入する口実になるかもしれん」

 

最悪の事態を想像するウラノスの神意をフェルズは完全には把握できなかったが「わかった」と同意しウラノスの前から去り、祈祷の間に静寂が訪れ、ウラノスは独り言ちる

 

「……まさか人間が天界に辿り着きあの神々と何らかの関係を持ったとでもいうのか……?ならばカルキ・ブラフマンという男は神々(我々)の想像を超えた埒外の存在だ………」

 

今自分が想像していること‥‥つまりはあの神々が使うとある奥儀をカルキ・ブラフマンという人間が使えるということになれば、カルキ・ブラフマンという人間の強さ・実力は間違いなく『神の恩恵』を受けた冒険者達では遥か遠く及ばず、神々でさえ戦えるものは最上級の神格を持っている神か武神と呼ばれる神や神々の中でも武闘派とされる神だけではないかとウラノスは考える

 

「いや、流石に考えすぎか……」

 

ウラノスが呟いた言葉は『祈祷の間』の闇に吸い込まれていった

 

***

「他者を傷つけ謝罪し怯えるか……本当に幼子と変わらんな」

 

中庭でベルと春姫というらしい狐人(ルナール)の少女と戯れる竜女(ヴィーヴル)の少女を観察しているとき、ベルに抱き着きたがり、じゃれついていた竜女(ヴィーヴル)の少女の爪がベルの腕をかすめ、傷つけ血が流れた

 

観察していた三柱はベルと竜女(ヴィーヴル)の少女がどうするのかと観察していると、竜女(ヴィーヴル)の少女は目に涙を浮かべ、震える手を胸に隠す。それは人を簡単に傷つけてしまう己の手に少女自身が怯えているようであった

 

「うむ!確かに生まれたばかりとはいえ、ソーマの言うとおりだ!が!それ以上に驚くのはベル・クラネルの行動だな!!」

 

確かに人を傷つけ、それに泣き、怯える竜女(ヴィーヴル)の少女は幼子と変わらないと思ったがそれ以上にソーマとガネーシャ、スーリヤを驚かせたのは、その後のベル・クラネルの行動であった

 

「確かにカルキが目を付けただけのことはある‥‥‥まさか傷ついているにもかかわらず爪ごと包み込み、笑いかけるとはな」

 

後はその無償の行為を他人の眼があるところで出来たら本物だと声も口調も変わったカルキ‥‥‥スーリヤが呟き、ため息をつくと

 

「それにしても、何故あの下半神(インドラ)はこの者達‥‥‥異端児(ゼノス)がいることを許容できないのか……嘆かわしいことだ」

 

やれやれといったように首を振るスーリヤに「それはお前が異端児(ゼノス)を許容しているからでは?」と何かとスーリヤとインドラが張り合っているから今回もその延長だろうよと思うが、そんなことは言わないソーマとガネーシャであったが、ふと、ソーマが何かに気付いたようにスーリヤに声を掛ける

 

「そういえば、お前がカルキに入っている間、カルキの魂はどこにあるのだ?アポロンに問答した時のようにカルキの体にカルキの魂がある気配が感じられないのだが?」

 

そういえばそうだとガネーシャも思い、スーリヤを見ると「ああ」とスーリヤは反応し

 

「今頃、天界で自分以外の神が『破壊者』を名乗っていることをヴィシュヌ経由で知ったシヴァに色々と報告しているのではないか?」

 

恐らくシヴァは下界で自分以外の神が『破壊者』を名乗っていることを怒っているだろうなと付け加えるスーリヤに「うわぁ」とソーマとガネーシャは今頃天界でシヴァに報告しているであろうカルキに心から同情した

 

その夜、スーリヤがカルキの体から去り、天界に戻った後、天界で何があり、シヴァから何を聞かれたのかとソーマとガネーシャが尋ねても「………生きた心地がしなかった…………」とだけしか言わず遠い眼をして、思い出したくもないといわんばかりのカルキにソーマとガネーシャはポンっと肩に手を置くことしか出来なかった

 

***

5日後、【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)で春姫と戯れる竜女(ヴィーヴル)の少女…ウィーネを見にミアハ、タケミカヅチ、ヘファイストスが集まっていたが三柱とも唖然としており、ヘスティアが「やっぱり何も心当たりはないかい?」と聞いても三柱とも首を横に振るだけであった

 

「何か知っているとしたら………ギルドかしら」

 

「………確かに、今の我々より何かを知っている可能性がある」

 

「…………」

 

都市の管理機関であり、ダンジョンの管理者でもあるギルドであればエイナやミイシャ達末端の職員には知らされてすらいないダンジョンについての独自情報―――――機密情報として『喋るモンスター』の情報があるかもしれないとヘファイストスとミアハは考えを話すがタケミカヅチは黙って何かを考えているようであった

 

「?どうしたんだい、タケ、さっきから黙って」

 

「うん?ああ、恐らくギルドと同じようにこのことを知っているかもしれない奴らについて考えていただけだ」

 

『!?』

 

タケミカヅチのまさかとしか言いようのない考えにその場にいた誰もが驚き、タケミカヅチを見るがタケミカヅチは「やめておいた方がいい」と首を振る

 

「な、何故ですかタケミカヅチ様!もしかすればウィーネ殿の詳しい情報が得られるかもしれないのに!」

 

「お願いしますタケミカヅチ様っ!」

 

ウィーネと親しくなった命と春姫が教えてほしいと頼むがタケミカヅチは「ダメだ」と拒否するが

 

「………タケ、お願いだ教えてほしい」

 

タケミカヅチを真っ直ぐ見据え教えてほしいと少しでもウィーネのためになる情報が欲しいと目で語り掛けるヘスティア達にタケミカヅチは根負けしたのか「絶対に探りを入れるなよ」と前置きして

 

「…………『喋るモンスター』について何らかの情報を持っていると考えられるのは、ソーマ、ガネーシャそしてカルキ・ブラフマン……こいつらだろう」

 

「えっ、カルキさんですか?」

 

タケミカヅチが告げた意外な人物の名前にベルが間抜けな声を上げ、ヴェルフ、リリ、命もベルと同じような顔をし、カルキを知らない春姫とウィーネは首を傾げるが、カルキがリグ・ヴェーダの神々と繋がっていることを知っているヘスティア、ミアハ、ヘファイストスは顔を険しくさせる

 

「ちょっと…まさかあの神々が関わってるっていうの?」

 

「それは…ギルドに探りを入れるより危険だぞ」

 

「タケェ…いくらなんでもそれは無理だよ」

 

カルキの背後にいるあの神々にケンカを売るような真似なぞやった日には……と苦い顔をするヘファイストス、ミアハ、ヘスティアに「だから言っただろう?」とタケミカヅチが問いかけ頷くしかないヘスティア達をみて重苦しい空気が流れる中

 

「な、なら!交渉として私の首飾りを渡してみたら良いのではないでしょうか!!とても綺麗ですし、きっとソーマ様やガネーシャ様、カルキ殿も話ぐらいは聞いてくれるはずです!!」

 

そう言って部屋から「これならば金ですし相当の価値があるはず!」と命が持ってきた黄金の首飾りを見て

 

「でもそれは命君のお気に入りだろう?そこまでしなくても、もしかしたらダンジョンに手掛かりがあるかもしれない」

 

と返したヘスティア以外は「あちゃー」という顔のタケミカヅチ、瞠目するミアハ、そして

 

「ふぅ‥‥‥」

 

と一つ息を吐いてパタリと倒れ気絶したヘファイストスに『ヘファイストス(様)-!?』と【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)は大騒ぎとなり、「と、とにかく、ヘファイストスの看病はボク達でするから、ベル君たちはダンジョンで手掛かりを探してくれぇー!」とヘスティアが指示を出し、ベル達は慌ただしくダンジョンへと向かう準備をするのであった

 

***

「…………あの首飾り、お前が渡したな」

 

昨日と同じ建物の屋上で早朝から【ヘスティア・ファミリア】を観察していたソーマ、ガネーシャ、カルキであったが、黄金の首飾りによる騒動を見て、あの首飾りについて察しのついたソーマが前髪で隠れた眼でカルキをジトリと視ると

 

「歓楽街での一件で死にかけている彼女が降って来たので緊急措置として首に架けました」

 

一切悪びれもなく言うカルキにソーマはため息をつき呆れ、ガネーシャは物惜しみしない奴だと笑う

 

「ガネーシャ、分かっているのか?あの首飾り一つで貧しい小国ならば一つは買える程の価値があるのだぞ?」

 

「なに!スーリヤならば後生大事にするより誰かに施すことを善とする…そうだろう、カルキ!」

 

「ええ、先日、あの首飾りを造ったトヴァシュトリ神からは叱責されましたがスーリヤ神からは何も言われませんでした」

 

そういう問題かと聞くソーマにそういう問題だろうとガネーシャとカルキは答えるが、それよりもとカルキは話を変え

 

「流石は武神であるタケミカヅチ神ですね、気配を消して視線も感じられないようにしていた筈でしたが」

 

「恐らくはこちらが一瞬タケミカヅチを見た時に気付いたのだろうがな……」

 

「うむ!やはり極東の神は我々と違ってイカれているな!!」

 

ほんの一瞬視線を感じただけで視線の正体を把握してみせたタケミカヅチに感服・感心するカルキ、ソーマ、割と失礼なことを言うガネーシャであったが、準備を終え、ダンジョンに向かう前に、とある酒場のエルフに助っ人を頼みに行こうとしているベル達をみて

 

「…………カルキ、事態はいつ動くと思う?」

 

「遅くても明日、早ければ今日にも動くかと」

 

「シャクティにそれとなく準備をするようには言ったが……どうなるか」

 

恐らく近いうちに何かが起きると二柱と一人は確信に近いモノを感じ取っていた……そしてその確信はその日の夕方、当たることになる




クソッ!どうしたら自然に『ご注文はインドですか』を躍らせることが出来るんだ……このままだとカルキが一人でダイダロス通りで人に見られながらHo〇 Limitをヴァーユの風を色々な方向から吹かして、サビの爆発はインドラの雷、アグニの炎、スーリヤの光のド派手エフェクトで歌って踊ることになる……






今回の被害者はウラノスとヘファイストス、なおヘファイストスの場合は間接的であり直接的には命のやらかしの模様


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話

いつの間にかお気に入り登録が3000件を超えていました……マジですか……ありがとうございます

ダンメモのガネーシャのストーリーをYouTubeで見たんですが……やっぱりダンスしてましたね流石インド




「ヘスティア、あんたの眷属(子供)はアレをどこで手に入れたの?」

 

ベル達がウィーネの情報を求めダンジョンに向かった後、【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)で気絶したヘファイストスは目を覚ますとすぐにヘスティアに詰め寄っていた

 

「ど、何処でって…歓楽街での事件の時、アグニの炎が消えたからベル君と命君を探しに行って、気絶していた命君を見つけた時にはもう首に架かっていたから‥‥」

 

「命がアグニの炎に包まれていながらも無事だったのはあの首飾りの加護があったからだな」

 

「しかし、アレはある意味あの竜女(ヴィーヴル)よりも問題になる代物だぞ?」

 

「そうね‥‥‥とりあえず他の神にバレないようにしないと」

 

しどろもどろに答えるヘスティアに何故気絶していた命があのアグニの炎の中で無事だったのかをタケミカヅチが説明し、ミアハは首飾りがウィーネ以上の爆弾であると憂慮し、これからどうするべきかとヘファイストスと話し合っていると

 

「…………ところでどうして皆あの命君の首飾りを問題視してるんだい?」

 

「「は……?」」

 

さっきからどうしてヘファイストスとミアハが命の首飾りを気にしているのか全く分かっていないヘスティアが聞くとヘファイストスとミアハは質問の意味が分からないとばかりに間抜けな声を出しタケミカヅチは「まだ気づいていなかったのか……」と片手で頭を抱える

 

「あ、あんた…それ本気で言ってるの!?」

 

「ヘスティア……」

 

「な、なんだよっ!二人揃ってボクを残念なモノを見るような眼をしてっ!!」

 

「いや、これはヘスティアよりヘファイストスとミアハの方が正しい」

 

胡乱げなヘファイストスとミアハにヘスティアは抗議するがタケミカヅチまでヘファイストスとミアハの味方をしたことでヘスティアは「ボクが悪いってのかい!?」と叫ぶが

 

「そりゃあ、あの首飾りに使われている素材に気付かないお前が悪い」

 

「ハァ!?どういう意味だいタケ!?」

 

「いや、一目見ればわかるだろう…」

 

「むきーっ!」とタケミカヅチとミアハの言葉に怒るヘスティアであったが、蟀谷を抑えていたヘファイストスがヘスティアに説明をする

 

「いい?あの首飾り、アレに名前を付けるとしたら『スーリヤの首飾り』よ」

 

「…………はい?」

 

何故そこで天界で最もヤバいと言われている神々の集団である『リグ・ヴェーダ』の中でも最上位クラスの神格と実力を持つ太陽神の名前が出てくるのか分からないヘスティアにタケミカヅチは深いため息をついてから

 

「首飾りに使われている素材は天界最硬と讃えられ、あの破壊神シヴァでさえ破壊困難と謂われ、天界にある全ての神造武器を集めてもその価値に及ばないとまでされている『スーリヤの鎧』の一部だぞ?」

 

「…………えっ」

 

最早理解できないという(宇宙猫)顏をするヘスティアをよそにヘファイストス、ミアハ、タケミカヅチは話を続ける

 

「しかし、一体どのようにしてあの『スーリヤの鎧』を削ったのか…」

 

「それはたぶん、スーリヤ自神が削ったのだろう、自分の鎧くらい自分で削れなくては意味がないだろうしな」

 

「それで製作者はトヴァシュトリと……一部だけとはいえどれだけの価値があると思ってんのよ……」

 

片手で頭を押さえ、呆れるヘファイストスにタケミカヅチは感心したように

 

「ほう!造ったのはあのトヴァシュトリだったか!俺は素材は分かったがトヴァシュトリかヴィシュヴァカルマン、どちらが造ったかまでは分からなかったな」

 

「そこは鍛冶神だからな、誰が造ったかなど我々が見るよりヘファイストスの方が詳しいのだろう」

 

それでどれほどの価値だ?と聞くタケミカヅチとミアハにヘファイストスは「たぶんだけど…」と前置きして

 

「私が打った『ヘスティア・ナイフ』…あれを100本打ってもまだおつりがくるぐらいの価値はあるわね‥‥‥」

 

「間違いなく、命にあの首飾りを架けたのはカルキ・ブラフマンだろうが……そこまでの価値がある物を簡単に他人に渡すとはな」

 

「ふぅ‥‥」

 

命の持っている首飾りの本当の価値を認識させられたヘスティアは先ほどのヘファイストスと同じように気絶するのであった

 

***

「…………本当に事態が動いたな」

 

夕刻、【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)から抜け出した竜女(ヴィーヴル)の少女を眼下に眺めながらソーマが呟く

 

「幼子は突飛な行動をするから眼を離すなとは言いますが……」

 

「ここまで幼子と変わらないとは盲点だったな!」

 

やれやれとどこか呆れながら首を振るカルキと苦笑するガネーシャは厄介な事態になったことを苦々しくもいつつも、どう動くべきかを直ぐに考え始める

 

そう、今だ本拠(ホーム)に戻っていないベルを除いた【ヘスティア・ファミリア】が目を離しているうちに竜女(ヴィーヴル)の少女は【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)からオラリオの街へ走って出ていったのである

 

「こうなっては仕方がない……カルキ、あの竜女(ヴィーヴル)を追え。俺は本拠(ホーム)に戻りシャクティに事情を話してこよう」

 

「あの竜女(ヴィーヴル)の存在がバレた時はどうするカルキ?」

 

「その時は【ヘスティア・ファミリア】の元本拠(ホーム)に一時的に隠しましょう。あそこならばそう簡単には見つからず、【ヘスティア・ファミリア】だけが分かるかと」

 

そう言うと漆黒のローブを着て顔まで隠したカルキが音もなく移動し姿と気配を消しながら竜女(ヴィーヴル)の少女を追い、「では事が起こったらヘスティアにそれとなく伝えるか」とソーマはヘスティアを尾行し、ガネーシャは不測の事態に備えるべく動き出した

 

***

「(ウィーネッ‥‥!)」

 

カルキ達が動き始めて少し経った頃、【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)からウィーネがいなくなったことに気付いたベル達は慌ててウィーネを探していたのだが、とある通りでモンスターが見つかったと聞き急いで向かうとウィーネが無数の飛礫を浴び目に涙を浮かべており、それを見た瞬間、ベルの全身が発火し、身を挺してでもウィーネを守ろうとファミリアの仲間が止めようとするのも聞かずに人垣をかき分け涙を流すウィーネの元に駆け付けようとしたのだが

 

「な、なんだっ!?」

 

「か、風がっ!!」

 

突然、ウィーネの周辺に強風が吹き荒れ、人々が風で吹き飛ばされ周囲の壁に叩きつけられたかと思うとウィーネのすぐ隣に漆黒のフードを身に着け、顔の見えない人物が現れ、ウィーネを片手で抱え上げ路地裏へ走っていったのである

 

「ッツ!!」

 

ウィーネを目の前で攫われたベルは頭に血が上ったのか直ぐに漆黒のローブの人物を追いかけようとすると、後ろから襟首をつかまれ「グッ」と声を上げ自分の邪魔をした人物が誰なのか振り向くと

 

「神様‥‥?」

 

『ソーマ(様)!?』

 

いつの間にかベルの後ろにいた神らしき人物にベルは混乱するが、前髪で目を隠す男が身を知っているヘスティア達はその神の登場に驚いた声を上げるが、ソーマは一切反応することなく小声でベル達に話しかける

 

「(あの竜女(ヴィーヴル)はカルキがお前たちの以前の本拠(ホーム)に連れて行った……)」

 

『(!!)』

 

意外な情報にベル達が驚く中、「早く行け」とばかりに顎をしゃくるソーマにベルは「ありがとうございます!」と告げ走っていき、【ヘスティア・ファミリア】の面々もソーマに礼を言った後【ヘスティア・ファミリア】の元本拠(ホーム)へと素早く移動を始めた

 

***

「……………」

 

「…………ここまで怯えられると流石に傷つくな」

 

【ヘスティア・ファミリア】の元本拠(ホーム)『教会の隠し部屋』に着いたカルキは脇に抱えていた竜女(ヴィーヴル)の少女を下したのだが、竜女(ヴィーヴル)の少女は降ろされた途端、カルキから急いで離れ少し埃のかぶったベッドの陰に隠れ涙目でカルキを見ながら怯え、自分がベルの知り合いだと言っても信じてもらえず、カルキもどうしていいか分からずじまいであり、ベルがここに来るのをただ待っているしかないという状況になってしまっていた

 

「(しかし…どうしたものか)」

 

ガネーシャ達が人間の領域を飛び越え、神の領域にまで入っていると称賛する武を誇り、大抵のことは卒なくこなすカルキであるが、子供…特に幼い子供の相手は苦手であり、どうしたらよいものかと暫く途方に暮れていると

 

「ウィーネ!」

 

「ベルッ!」

 

扉をすごい勢いで開けて入ってきたベルを見てウィーネというらしい竜女(ヴィーヴル)の少女はベッドの陰から身を乗り出し、ベルに抱き着きに行こうとするが、ウィーネとベルの間にカルキがいるせいでしり込みしていることに気付いたカルキが「やれやれ」と首を振り、横に動くとようやくベルに抱き着きすすり泣き始めた

 

「ベル、この竜女(ヴィーヴル)…ウィーネについてはお前に任せる、大いに悩んでお前がどうしたいかを決めろ」

 

【ヘスティア・ファミリア】以外に効果のある人払いの結界は張っておこうとだけ言って部屋から出ていくカルキに小さな声で「ありがとうございます…」というベルに気にするなと振り返らずに手を振り地下から地上へ出るとヴェルフ達も丁度着いたところだったので、ベル達が地下の部屋にいることを伝えるとそれぞれカルキに礼を言って地下の部屋へと入っていく

 

「カルキ君」

 

「何でしょうかヘスティア神よ」

 

地下の部屋に入っていくヴェルフ達を見送った後、ガネーシャ達に報告しようとするカルキにヘスティアが呼びかける

 

「…………君達は…ううん、君の背後にいるあの神々は何を考えている?」

 

「やはり気付かれましたか‥‥いや、確信に至ったのはタケミカヅチ神のおかげでしょうか」

 

最早、自分の背後にいる神々のことなど隠す必要などないとするカルキに「あの神々のヤバさは分かっているだろう‥‥っ!」と真剣な顔のヘスティアにカルキは暫く考え

 

「まあ、あのウィーネと呼ばれている竜女(ヴィーヴル)を排除する気はありませんとだけ」

 

「そうかい……いや、そのことだけでも今は十分だよ」

 

短いやり取りであったがウィーネを守ろうとするヘスティア達と敵対することはないと言うカルキにホッとするヘスティアに「では」とカルキは去りヘスティアはその後ろ姿を見ているが、出入り口付近で「ああ」と今思い出したようにカルキが振り返り

 

「ヘスティア、お前の眷属であるベル・クラネルのことカルキだけではなく私も見極めるとしよう」

 

「この声はっ……スーリヤ!?」

 

自分の眷属がリグ・ヴェーダの神々の一柱に目を付けられていることに驚くヘスティアにフッと笑いカルキはガネーシャ達にウィーネのことを報告しに戻るのであった

 

***

ベル達が【ヘスティア・ファミリア】の元本拠(ホーム)に集まった頃、【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)『黄昏の館』の執務室でロキ、フィン、ガレス、リヴェリアが集まって話し合っていた

 

「…………ロキ、それは一体どういうことだい?」

 

人工迷宮(クノックス)』攻略に必要とされる『鍵』…『人工迷宮(クノックス)』に存在する『扉』の開閉に必要とされる魔道具(マジックアイテム)『ダイダロス・オーブ』は未だ見つからず、団員達に命じて都市外及びダンジョン内にある人工迷宮(クノックス)の出入り口を押さえ、30階層までの食人花の生産工場の発見と撲滅を続けているが闇派閥(イヴィルス)が籠城の構えをしているせいもあって芳しい成果は上げられていない。歓楽街跡から【フレイヤ・ファミリア】が人を運び出し【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)跡地から何かを探していたという情報から『ダイダロス・オーブ』を所持していると思われるフレイヤへロキが探りを入れてもフレイヤはとぼけるだけであり交渉は難航、最悪『抗争』も辞さない状況になっていた

 

そこに数日前、ロキが団員達に『カルキ・ブラフマンへの敵対行為及び一切の接触を禁止』を厳命したことに【ロキ・ファミリア】の最高幹部たちも混乱していた

 

「ロキもあの男は怪人(クリーチャー)の可能性があると納得していた筈だが?」

 

「うーん、そうなんやけどなぁリヴェリア、ウチはそいつが『自分は怪人(クリーチャー)だー』って言ってるところは見とらんから本当か嘘か分からんし、今ウチが想像していることが当たっとたらカルキちゅう奴は冒険者や怪人(クリーチャー)以上の化物や」

 

「?それはどういう意味じゃロキ?」

 

確かにリヴェリアが持ってきた情報―――――都市最強レベル7【猛者(おうじゃ)】オッタルをカルキが嬲るように半殺しにしたとを聞いたときはフィンもガレスも驚愕したがカルキが相当な数の魔石を喰らい力をつけた怪人(クリーチャー)であるならばレベル7に匹敵もしくはそれ以上あってもおかしくはないと考えたのだが、その報告を聞いた途端、ロキは「まさか…」とだけ呟き慌てたように【ロキ・ファミリア】の団員達にカルキ・ブラフマンへの敵対及び接触禁止を厳命したのである

 

「カルキ・ブラフマンちゅう奴とオラリオにおる神で特に親しくしとるのはガネーシャとソーマ、そしてオッタルからの『歓楽街の惨劇をガネーシャ、ソーマ、カーリーが楽しんでいた』と『怪物祭(モンスターフィリア)の際、突如吹いた『風』にカルキ・ブラフマンが吹き飛ばされた』という情報、そしてアポロンのトコでアイツが神々(ウチら)にすら『死』を錯覚させる程放った殺気、レナちゃんが言っとった歓楽街を燃やし尽くした『炎』の中で【イシュタル・ファミリア】の団員を殺していたという情報……………どうにもカルキ・ブラフマンの背後に『あの神々』の影が見えててな」

 

そんなことはあり得ん筈なんやけどなぁと薄く目を開け天井を見上げるロキにロキの神意が読み取れないフィン達はお互いを見て僅かに首を傾げるがロキは何かに怯えるかのように見えることだけは三人とも理解できた

 

「……あの神々相手にしてウチの眷属()を亡くす訳にはいかん……」

 

かつて天界で他の神の領土まで消し飛ばしながら殺し合いを楽しんでいたとある神々を思い出しながらロキはポツリと呟くのであった




あれ?前回から1日も進んでないような……?あれれ~おかしいぞぉ~?


残念ながらベル君にスーリヤだけじゃなくインドラやヴィシュヌも興味を持っちゃってるんですよ
‥‥‥…ヘスティアはベルをインドの魔の手から守り切れるのかこうご期待!!(嘘)



ベル・オッタル「強くなりたい………」

カルキ「そうか、ではまず、神の恩恵を封印してアグニの炎に一時間焼かれろ、次に自分がヴィマーナに乗って矢を放ちながら追いかけるから一日逃げ続けろ……まずはそれからだ」

ヘスティア・フレイヤ「り、理不尽すぎる………」

カルキ「もう体も出来てたからって七日七晩アグニの炎に焼かれたり、自動追尾してくる矢を放たれた自分よりはマシ」



ちなみにカルキはオッタルのことを報告してません。もし、上手く報告出来なかった場合

「は?下界に『おうじゃ』を名乗り『覇王』を冠する武器を使う奴がいる?………随分とフレイヤの奴は調子乗ってやがるな」

と、とある下半神がアイラーヴァタに乗って突っ込んで来た挙げ句

「何故報告しなかった」「こうなることが目に見えていたからです」「……手を貸そう」と下半神vsカルキwithスーリヤ(inオラリオ)のイベントが発生します

(なお、ガネーシャとソーマ、カーリーは笑いながら見学する模様)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話

ダンメモのゴブリンスレイヤーコラボ

………うん、出禁キャラだな(最悪、出目関係なしにダンジョンごとゴブリンを吹き飛ばしたり、あっちの神である≪幻想≫とかを(出目によっては)コロコロしに行きそうだし)


実はカルキの立ち位置としては会社の一番若造の下っ端が、本社からオラリオ支社に出向してきたイメージ




「有翼のモンスター?」

 

もたらされた情報を、フレイヤは尋ね返す

 

「はい、夕刻、街に有翼のモンスターが現れ、黒いフードで顔を隠した何者かによって連れ去られたとのことです」

 

「…………その何者か誰か分かる?」

 

「いえ、そこまでは」

 

「そう……」

 

街にモンスターが現れ、何者かが連れ去ったことに僅かながらの興味を示したフレイヤであったが、直ぐに興味を失くしたのか別の質問をオッタルに問いかける

 

「アレン達は大人しくしている?」

 

「はっ、【ソーマ・ファミリア】を潰すと息巻いていましたが、フレイヤ様の上意ということで一応は不満を持ちつつも大人しくしています」

 

歓楽街炎上の際、ソーマによって半殺しにされた【フレイヤ・ファミリア】の幹部たちは【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院で入院していたのだが、ガネーシャ、ソーマ、カーリー、特に自分たちの敬愛する主神であるフレイヤを踏みつけたソーマに対して不満を抱いており、さらに火に油を注ぐ事件が起きた

 

そう、『ソーマによる【フレイヤ・ファミリア】殴り込み及びフレイヤ脅迫事件』である

 

歓楽街炎上の次の日、歓楽街跡地で【フレイヤ・ファミリア】の団員が旧【イシュタル・ファミリア】の本拠(ホーム)後で奇跡的に生きていた【イシュタル・ファミリア】の生き残りであるタンムズを偶々発見し、自分達の本拠(ホーム)にこっそり運び込んだのだが、そこに「何をコソコソ運び込んでいる」とソーマが本拠(ホーム)の門を蹴り飛ばしやって来たのである

 

白昼堂々行われた神の襲撃に【フレイヤ・ファミリア】の団員達も慌ててソーマを止めようとしたのだが、第一級冒険者の殺気など比較にならない程の殺気をぶつけられ、白目をむいて気絶し、更にはフレイヤの首元にいつの間にか団員から奪った剣を突き付け、フレイヤと個室でタンムズから何事か情報を聞き出したのち去っていくソーマを【フレイヤ・ファミリア】の団員達は呆然と見送ることしか出来なかったのである

 

そして勿論のことながら【フレイヤ・ファミリア】の幹部たちがその事件があったことを知ったのは、【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院から退院した後だったのだが、「フレイヤ様を踏みつけた挙句、剣を突き付けるか」とオッタル達【フレイヤ・ファミリア】の幹部達は怒り狂い、『【ソーマ・ファミリア】を完膚なきまでに潰す』と息巻き、【フレイヤ・ファミリア】の総力をもって【ソーマ・ファミリア】との『戦争』を行おうとしていたのだが、それをフレイヤが止めたのである

 

「そう、それならいいわ……けど、絶対に敵対行為を行わないようにね」

 

そう言ってワインを一口飲むフレイヤにオッタル「恐れながら」と意見を述べる

 

「確かに我々は神ソーマに不覚を取りました。しかし、かの神の【ファミリア】の団員は弱く、我々が負けるとは「オッタル」………」

 

オッタルの意見を遮るフレイヤにオッタルは「出過ぎた真似でした」と謝るがフレイヤは微笑み

 

「貴方達が私のためを思ってくれているのは嬉しいわ……でもソーマとガネーシャ、そしてカルキ・ブラフマンと事を構えるのはダメよ」

 

貴方達(私の大切な眷属)を失いたくないものと言うフレイヤに「………御意」とオッタルは答え部屋から出ていく。部屋に残ったフレイヤは再びワインを一口飲んで、闇派閥(イヴィルス)の残党の黒幕は『エニュオ』を名乗る神であるとタンムズから聞いた時のソーマの言葉を思い出す

 

『エニュオか……フッ…ハハハハハ!これは面白い…いくらあの神がこのオラリオ見ていることを知らないとはいえ、よりにもよって神々(我々)の言葉で『都市の破壊者』…『破壊者』を名乗るとは………あの神の炎でカーマのように二度と復活できない程焼かれたいらしい』

 

暗い笑みを浮かべたソーマの言葉はフレイヤを恐怖させるには十分すぎるものであった。間違いなくソーマがいう「あの神」とは破壊神シヴァであり、最悪の場合あの天界最強ともいわれるシヴァの破壊の権能がこのオラリオを襲うということである。

 

「ソーマは正気……?」

 

シヴァの権能の恐ろしさは天界で同郷であるはずのソーマの方が身に染みているはずなのにと心底面白いと笑みを浮かべるソーマを思い出し、椅子から立ち上がり、夜の帳が下り、魔石灯の明かりが彩るオラリオを不安げに眺めた

 

***

「…………何故自分はギルド本部にいるのだろうか」

 

おかしいとカルキは首を傾げる。確か自分はウィーネを保護し、【ヘスティア・ファミリア】と合流させた後、ソーマとガネーシャに会い、ウィーネについて報告した後、有翼のモンスターについて様々な情報が錯乱しているオラリオを歩き回り情報収集をしていた筈である……それなのに何故、槍を持ち、夜のギルド本部で茶を飲みながらゆっくりしているのだろうか

 

「え?だってイルタさんが『もしもの時はこいつを盾にしろ』って……」

 

カルキの真正面で書類仕事を一旦止めて、コテリと首をカルキと同じ方向に首を傾げて答えるのは、本日、ギルド本部で夜勤のミイシャである(余談であるが彼女の机の上にある大量の山のように積み上げられた書類を見てカルキはオラリオに来て初めてちょっと引いた)

 

「護衛はいらないと思うが?」

 

「ええぇ~!?カルキさん酷いですっ!今日の夕方に『有翼のモンスター』が出て、この前は『バーバリアン』が地下水路で見つかってて、もし私がギルド本部で夜一人でモンスターに襲われたらどうするんですかっ!?」

 

ゴーストの噂もあってただでさえあんまり夜勤したくないのにとプンスカ怒るミイシャに『有翼のモンスター』の正体を知っているカルキは杞憂であると深いため息をつく

 

‥‥‥そう、今、夜のギルド本部にカルキがいる理由、それは「ギルド本部で夜勤をしているミイシャの護衛」である

 

ギルドに『街に有翼のモンスター出現』の一報が入ったのは通常業務が終わった後であり、よりにもよって今日に夜勤のシフトが入っていたミイシャは慌てた。既に親友のハーフエルフ(エイナ)は帰宅していてこのままではこのギルド本部に夜一人だけで過ごさなければならない

 

恐怖が天元突破しかけたミイシャは偶々ギルド本部前を歩いていた【ガネーシャ・ファミリア】副団長のイルタに泣きつき、護衛を頼んだのだが「今忙しい」とけんもほろろに断られていたところに偶然カルキが通りかかり、イルタが「おい、居候お前暇だろう、武器はやるからミイシャの護衛をしろ」と半ば護衛をカルキに押し付け、ミイシャには「もしもの時はこいつを盾にしていいぞ」と【ガネーシャ・ファミリア】のある意味最強の居候を押し付けた結果、今に至るのである

 

「むぅ~、ダンジョンに恩恵なしで潜っているカルキさんに聞くのはなんかおかしいですけど、カルキさんはモンスター………『怪物』が怖くないんですか?」

 

頬を膨らませながら聞いてくるミイシャに「ふむ」とカルキは考え一つ頷くと

 

「そもそも、ダンジョンにいる『モンスター』は便宜上『怪物』と言うが、真正の『怪物』ではないからな」

 

「えっ!?」

 

どこか達観した雰囲気のカルキにミイシャは驚いた声を上げるが「まあ、そうなるな」とカルキは苦笑し

 

「では質問だ、『怪物とは何だ?人間と違ったどのような特徴がある?』」

 

右手の人差し指を立て、片眼を閉じて問題を出すカルキに「ええと」と慌てながらミイシャは考え

 

「あっ『鋭い爪と牙を持っている』!」

 

「おや?それだと狼人(ウェアウルフ)猫人(キャットピープル)といった人間(ヒューマン)と違って爪と牙を持つ獣人やライオンや犬といった獣も広義の意味では『怪物』ということになるぞ?」

 

「うええっ!?あっ!『凄く力が強い』!!」

 

「ふむ、それではドワーフや虎人(ワ―タイガー)猪人(ボアズ)といった『力』に特化した獣人、クマやゾウなど人間など膂力が及ばない動物は『怪物』になるが?」

 

「じゃ、じゃあ、『炎を口から出す』!」

 

「うん、確かにそれは人間や動物には出来ないことだな」

 

ミイシャの答えに頷いたカルキに「やった」と小さくガッツポーズするミイシャであったが

 

「だが、口からは出せないが、手からはエルフやハーフエルフなら魔法として炎を出せるし、神の力(アルカナム)を封印されていない神々ならモンスターの炎なぞ遥かに威力を上回るほどの炎を使う神がいるだろうな」

 

「あうっ!?」

 

攻撃されたわけでもないのに胸を押さえて机に突っ伏したミイシャにやれやれと茶をすするカルキであったが、「じゃあ」と顔を上げたミイシャが問いかける

 

「カルキさんの考える『怪物』って何ですか?」

 

「なに、簡単だ『言葉を話さないこと』『正体不明であること』『不死身であること』の3つだ、ダンジョンにいるモンスターは言葉は話さず、今も詳しいことが分からぬ正体不明であるが不死身ではないから、真正の『怪物』ではないということだ」

 

「じゃあ、もしモンスターが話したらどう感じるんですか?」

 

唇を尖らせながら聞くミイシャに「(異端児(ゼノス)については話さない方がいいな)」と思いつつ

 

「自分はあまり動じることはないが、間違いなくほとんどの者は『恐怖』より先に『嫌悪』を感じるだろうな、それだけ『モンスターが話す』という衝撃は大きいはずだ」

 

「えー、私なら言葉を話すモンスターがいたら気絶しちゃいますよぉ」

 

だって『恐怖』や『嫌悪』より先に『驚愕』で頭がこんがらかりますからねとエヘンと胸を張り自慢するミイシャにカルキは少し目を丸くしつつ

 

「…………そういう考えもあるのか」

 

どこか感心したようなカルキに「ちょっと馬鹿にしてます!?」とミイシャはかみつき、「いいや」と否定するカルキに詰め寄り、「じゃあ仕事を手伝ってください」といい笑顔で告げられ、何故か翌朝までミイシャの仕事を手伝わされるカルキであった

 

***

「これは‥‥‥参ったな」

 

【ヘルメス・ファミリア】の主神の執務室で椅子に深く座りながらヘルメスは団員から渡されたとある男についての報告書を手に取り眺めて呟く

 

「ただでさえ、人工迷宮(クノックス)異端児(ゼノス)の問題で手一杯だってのに、それらすら霞ませる爆弾だ‥‥‥」

 

頭を抱え、既に人払いを済ませた執務室で深いため息をつくヘルメスは天井を見上げ、団員からのカルキ・ブラフマンについての報告と自分が今までに得たカルキについての情報を纏めていく

 

「(団員からの報告だと出身はオラリオよりも東にある世界で最も高い山の麓にある神官の家に生まれ、神官の仕事を手伝うより武器を振るうことを好んでおり、13の時に両親を病で亡くした後『世界で最も高い山に登り天界にいる神に弟子入りする』といって行方不明になった後、約10年後にオラリオにフラリと現れ、主に【ヘスティア・ファミリア】とガネーシャ、ソーマと親しく、【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】の戦争遊戯(ウォーゲーム)で恩恵を貰っていないはずなのにレベル2を含む冒険者106名を数分で塵殺、アイシャからの情報だと歓楽街をアグニの炎が燃え盛る中で【イシュタル・ファミリア】の団員を殺して回っていたことから歓楽街炎上の犯人である可能性が高いと…………)」

 

最早こうなってしまえばカルキ・ブラフマンの背後にリグ・ヴェーダの神々がいることは確定だなとヘルメスは再び大きなため息を吐く

 

「下界の未知(可能性)異常事態(イレギュラー)で済ませられることじゃないな」

 

そもそも下界で最も高い山に登ったからといって天界に辿り着ける可能性など無いに等しく、仮にたどり着けたとしても、他の神々ですら耐えることがやっとのリグ・ヴェーダの神々の絶大な神威を例え恩恵を貰っていたとしても人間が真正面から受け止められるはずがないとヘルメスは思うのだが、恐らくカルキ・ブラフマンという人間はヘルメスの想像を超え、あの神々の神威を浴びても人の形と魂を保ったということであろう

 

「(もし、彼を利用しようとしたり、排除しようとすればあの神々とオラリオの全面戦争は避けられない……だが、今のオラリオには俺を含めて戦闘向きの神が少ない)」

 

自神の目的を果たすためには最悪、オラリオを去ったヴィ—ザル、アストレアも呼び戻す算段も考えるヘルメスであった




怪物云々のくだりをプロットで書いてたらFGOアニメのラフムの考察と駄々被りした件‥‥‥散々悩んでまあいいかと(わざわざ空の境界見直したのにorz



シンフォギアのアプリでヴィマーナが出たそうな……シンフォギアとインド神話のコラボいけるぞ




カルキに泣きついて振り回し、ちょっと引かせて、自分の仕事の手伝いをさせるミイシャはある意味作中最強キャラ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話

ちらほらと核地雷がオラリオに埋まっていることに気付き始めた一部の神々、さあ、誰がこの地雷の爆破スイッチを押すのか!




「随分と混乱しているな」

 

翌朝、早朝からずっと慌ただしく行き来するギルド職員をロビーのソファーに座り、出されたお茶を飲みながら眺めカルキは呟く

 

結局、あれからミイシャの溜まった仕事(3ヶ月前の書類もあった)を朝まで手伝わされ、朝になってギルドに出勤してきたエイナに見つかり、ミイシャは「外部の人間に仕事を手伝わせるなんてっ!」と怒られ、カルキにはカルキが「そこまでしなくても…」と思うくらい謝られ、一睡もしていないからと仮眠室に通され、寝る必要はないがせっかくの厚意を無駄にするわけにもいかないので数時間眠り、現在に至るのである

 

「しかし…たかが一匹のモンスターにここまで神経質になるとはな………」

 

今もギルドの受付で「どうなっているのか」とヒステリック気味に叫ぶ男女の対応をしている受付嬢に少しばかり同情していると

 

「む、ベルか」

 

「あ……カルキさん…………」

 

見知った気配が近づいてきたので振り返ってみればどこか落ち着きのないベルがギルド本部を訪れていた……が

 

「ベル、もう少し堂々とするべきだ、今のお前は誰にでも『自分は何か隠し事をしています』と言っているようなものだぞ?」

 

「うええぇぇぇっ!?本当ですか?」

 

「いや、肩をすぼませ、視線を左右に動かすどころか首を動かしながら辺りを見回している奴がいたら誰だってそう思うだろう…………」

 

「じゃ、じゃあ、今まで僕はそんな風に見られてたって……」

 

自分の挙動不審さに今頃気付いたベルに軽くため息をつくカルキであったが、ふとあの異端児(ゼノス)について思い出したのでソファーから立ち上がり、ベルの耳元に近づき小声で話しかける

 

「(そういえば、あの竜女(ヴィーヴル)…ウィーネだったか?あれからどうした?)」

 

「(あれから夜遅くになってからウィーネを人目につかないように隠しながら僕たちの本拠(ホーム)に戻りました)」

 

「(そうか……)」

 

「(えっと……やっぱり戻らなかった方がよかったですか?)」

 

ウィーネを【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)に戻したことについて少し考えるカルキにベルが不安そうにするが、「それは問題ない」とカルキは答え

 

「(……消臭の匂い袋(アイテム)はどれほど使った?)」

 

「(ええと、リリ達と一緒に念入りに使いました)」

 

「(それは……悪手だな)」

 

臭いを消したことを悪手というカルキに「えっ?」とベルが驚いた声を上げ、周りにいる人々が何事かとこちらを見てくるので何事もなかったかのように振る舞い、完全にこちらに向けられる視線が無くなって暫くしてから簡単に説明する

 

「(いいか?追手には間違いなく鼻の利く獣人…狼人(ウェアウルフ)犬人(シアンスロープ)猫人(キャットピープル)あたりが来る、確かに消臭の匂い袋(アイテム)を使えば匂いが消え、鼻は誤魔化せる…だが、それと同時にそこで不自然に匂いが途切れていたら、そこでモンスターをかくまっていた証拠になるぞ?)」

 

「(あっ……)」

 

理性のない獣でさえ、不自然さを感じれば罠に気付くものだと諭され、自分達のミスに気付いたベルは顔を青ざめるが、今もあの教会跡には人払いの結界が張ってあるので不自然さを感じてもどこの【ファミリア】が使ってたかは思い出せない、もしくは大したことはないと思うようにしていることを伝えると安心した雰囲気になっていると

 

「あっ、ベル君とブラフマン氏」

 

こちらに気付いたのか受付カウンターの奥からからベルとカルキにエイナが声を掛けてきたので「呼び出されたのか?」とベルに聞けば頷いて「じゃあ」とエイナの元に行くベルを見ながら考える

 

「(あのウィーネが異端児(ゼノス)であることはギルド上層部…ウラノス神やフェルズは知っているはず、それに、昨日の騒動で今だオラリオ中が混乱しているというのに直ぐに接触してきたということは考えられるのはこの混乱に乗じているか、もしくは何かしらの問題があるということ‥‥‥)」

 

そこまで考えてふとこのオラリオに誰もが気付かぬうちに張り巡らされた迷宮のような人工物と、そこに潜んでいる残党について思い出す

 

「(……なるほど目的は分からないが闇派閥(イヴィルス)の一部、もしくはそれに近しい【ファミリア】が異端児(ゼノス)を狩っているか、利用しているか、それならばここまで性急なことも納得できる)」

 

暫く様子を見ていると、どうやらベルはエイナに呼び出されてギルド本部に来たようで、以前、ベルの歓楽街朝帰り事件で一緒に入ったこともある面談用ボックスへと通されていくので、今回も一緒に入ろうとするとエイナは少し複雑そうな顔をする

 

「あの‥‥ブラフマン氏は今回は……」

 

「なに、分かっている。大方、極秘の強制任務(ミッション)だろう?それもギルド上層部からのな……」

 

「「!?」」

 

あっさりと言うカルキにベルとエイナが驚くが「ほら、早く入れ」とボックスに押し込められ、混乱する二人を無視してカルキはベルを部屋の隅に移動させ肩を組みながらしゃがみ、顔を近づけ小声で話しかける

 

「(間違いなく強制任務(ミッション)は『【ヘスティア・ファミリア】全員でダンジョンにウィーネと一緒に向かえ』だろうが、あの受付嬢は無関係だ慌てなくてもいいだろう)」

 

「(ッツ!?じゃ、じゃあギルドは……)」

 

「(自分達だってお前達がウィーネを匿った次の日から観察していたんだ、ギルド上層部はウィーネをダンジョンから連れ出したことにすぐに気づいていて今まで観察していただろうな)」

 

「あ、あの、ベル君?ブラフマン氏?」

 

面談用ボックスに入るなり、隅に移動し何やらコソコソ話し合う野郎2人(ベルとカルキ)にエイナが怪訝そうな顔をして何事かと問いかけるが「気にするな」とカルキに返され、ベルは覚悟を決めたようにエイナから封書を受け取り、開けていいか尋ねた後、ゆっくりと封を切る

 

「――――――ッツ!!」

 

どうやら自分が話した内容と同じだったようだとカルキはベルの反応を見て判断し、自分も見ていいかエイナに尋ねるが

 

「えっと……流石に【ヘスティア・ファミリア】でないブラフマン氏が見るのはちょっと……」

 

そう申し訳なさそうな顔で断られてはカルキもそれ以上無理強いはできず、大人しく引き下がる。そう、カルキはどこぞの我が強すぎる神々のように自分の意見を無理矢理押し通そうとはしないのである

 

「(まあ、自分が考える通りならヘスティア神に直接接触するだろうしな)」

 

間違いなくベル達が出払った後、ヘスティアだけでウラノスと接触させ異端児(ゼノス)について説明するだろうと確信するカルキであった

 

***

「ハアッ…ハアッ……クソッ!!何だってんだあの野郎はッ!」

 

深夜、人工迷宮(クノックス)で息を上げながら悪態をつくのは片腕を失くし、腹から左腕を生やしている【イケロス・ファミリア】の【暴蛮者(ヘイザー)】ディックス・ベルディクスと【イケロス・ファミリア】の団員数人である

 

彼等は、ウラノスやフェルズが危険視している異端児(ゼノス)を狙っている狩猟者(ハンター)であり、今回は竜女(ヴィーヴル)を匿っているであろう【ヘスティア・ファミリア】を見張っており、夜に【ヘスティア・ファミリア】が竜女(ヴィーヴル)を連れてどこかに行こうとしていたので後をつけ、襲撃しようと画策していたが、その途中で逆に襲撃され、20人近くいた第二級冒険者のほとんどを殺されたのである

 

「ハアッ……ハアッ…ディックス、ありゃあ……ゼエッ…間違いない、『百人斬り』だぜ……あの戦争遊戯(ウォーゲーム)で【アポロン・ファミリア】を壊滅させた‥‥‥」

 

「くそったれ‥‥‥あんなの第一級冒険者以上じゃねえか‥‥途中で【ヘルメス・ファミリア】に譲ったみてえだから逃げ切れたけどよ‥‥‥」

 

まず犠牲になったのは【ヘスティア・ファミリア】をディックス達より先行していた5人の獣人であった。いきなりその5人の首が無くなり鮮血が噴水のように吹き上がったかと思うと、その場にいたのは手刀を振りぬいたであろう『百人斬り』がおり、動揺するディックス達を無視するように「なるほど……どうやら狩猟者のようだ」というなやいなや、数(ミドル)ある距離を一瞬で詰め、ディックスの左腕を引きちぎり、その腕をディックスの腹に突き刺したのである。何が起こったのか分からないディックスの周りにいた団員4名は次の瞬間には物言わない肉片と化し、それを好機ととらえたのか【ヘルメス・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】の【象神の杖(アンクーシャ)】がディックス達を襲撃したが、ディックス達にとっては幸いなことに、【ヘルメス・ファミリア】と【象神の杖(アンクーシャ)】を確認した『百人斬り』はディックス達を【ヘルメス・ファミリア】と【象神の杖(アンクーシャ)】に任せるかのように夜の闇に消えたのである。

 

そのため、ディックス達は命からがら逃げきり、その襲撃と呼ぶにはあまりにも一方的であった殺戮劇に生き残った【イケロス・ファミリア】の団員達は震え上がっていたが

 

「……あの野郎はともかく【ヘルメス・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】が嗅ぎまわってるってことは俺らの密輸はバレてるって考えた方がいい…………ってことはギルドもかよ、ちっ、面倒くせぇ」

 

「ど、どうするんだディックス?怪物共(モンスター)の『巣』は分からねぇし、ギルドが嗅ぎまわってるんだったらよ」

 

「…………何はともあれ、まずは傷をいやすことだ…こんなに面白いことを今更止められっかよ」

 

それにだいたいの『巣』のある階層の目星はついたしなと吐き捨てるディックス達は人工迷宮(クノックス)で次の行動の準備を始める

 

***

「どうやらヘスティア神も来たようだな」

 

ベル達の後をつけていた不審者たちを襲撃し、シャクティ達が来たので不審者たちは彼女らに任せ、『祈祷の間』に続く隠し通路で気配を殺しヘスティアが来るのを待っていると、暫くするとヘスティアを連れ、フェルズが隠し通路にやってきて、通路の最奥に辿り着くとフェルズが壁に手をやりヒラケゴマと唱えると閉ざされていた扉が完全に開くと開けた空間――――――『祈祷の間』へと続き、フェルズに促され、ヘスティアが入っていく後ろからカルキもこっそり入る

 

「(流石は『大神』と称されるウラノス神だ……神威を封印しているにもかかわらずあの神々と変わらぬ雰囲気がある)」

 

神威を封印しているにも関わらずオラリオにいる神々とは比較にならない程の神威を発するウラノスに思わず感心するカルキであったが、ヘスティアとウラノスが異端児(ゼノス)について話し始めたので聞き耳を立てる

 

「(なるほど……どうやらガネーシャ神から聞いていたこととそう変わらないらしい………しかし、『強烈な憧憬』とは………ごく稀に幼少期のうちであれば前世のことを覚えている………などという例もあるらしいが、それと似たようなものか?)」

 

暫く考えるカルキであったが、ウラノスは自神の見解を述べる。それは、輪廻転生―――――――――即ち、『魂』の循環がダンジョン内で起こっているということである。これにはカルキも驚いたが、どうやらウラノスに何か言いたい神がいるようなので体を渡す

 

「――――――それで?何故ダンジョンで『魂』の循環が起こったと考える?なあウラノス?」

 

「「!?」」

 

『祈祷の間』の暗闇から現れたカルキにヘスティアとウラノスは驚くがそんな二柱を無視して、カルキに憑依している神は問いかける

 

「『魂』の循環とは即ち、我ら冥府神や死神の天界での仕事だ……それが何故ダンジョンで起こっている。お前の見解はどうなっているウラノス?」

 

「この声と雰囲気、君はヤマかい?」

 

「まさか、天界でも屈指の仕事人(ワーカーホリック)であるお前が介入してくるとは」

 

「そんなことはどうでもいい、早く話せ」

 

驚くヘスティアとウラノスのリアクションなぞどうでもいいとばかりに急かすヤマに、もしここにガネーシャがいれば「相変わらずだな!」と笑い話になるのだが、ガネーシャはいないのでウラノスは「ふぅ」と一息ついてから見解を話す

 

「恐らくは千年の永き時を経てモンスターに『変化』が起こり始めている。それがモンスター達の強い憧憬、願望………あるいはダンジョンの意思か」

 

「なるほど、『古代』から幾星霜、永き時を経ての変化か‥‥‥」

 

それならば致し方ないとため息をつくカルキもといヤマにヘスティアとウラノスはヤマがここで怒り暴れなくて良かったと安堵し、そういえばとヘスティアがカルキの方を向き

 

「ところでカルキ君はまさかだと思うけど神造武器やあの奥儀を使えるなんてことは…………っていないぃ!?」

 

既に音もなくカルキが『祈祷の間』からいなくなっていることに気付いたヘスティアの叫びが『祈祷の間』に響くのであった

 

***

「(さて……ベル達の所にでも行ってみて実際の異端児(ゼノス)を見に行くか)」

 

『祈祷の間』を抜け出し、誰にも気づかれずギルド本部を通過したカルキはダンジョンに今から潜り、ベル達の気配を探りながら異端児(ゼノス)と接触しようと考え、ダンジョンの入り口に向かって歩いていたのだが

 

「……おい」

 

「?」

 

ダンジョンの入り口、『バベル』の前でカルキを待ち構えていたかのようにシャクティがおり、カルキに話しかけてきた

 

「少しお前とガネーシャに話がある…本拠(ホーム)まで来い」

 

「いや、自分は……」

 

「いいから来い!!」

 

何やらご立腹のようなのでこれは大人しくついて行った方が自分というよりガネーシャのためになると悟ったカルキは大人しくシャクティと【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)に戻るのであった

 




カルキに目をつけられた【イケロス・ファミリア】の明日はどっちだ!?


おまけ カルキの今日のスケジュール

朝までミイシャの護衛(手伝い)→エイナの厚意を受け取り仮眠→ギルド本部で情報収集

→ベルと会う→ガネーシャに事情説明→ベル達にバレないように待機→ベル達を追う不審者たちを襲撃

→隠し通路に移動してこっそり『祈祷の間』に侵入→ダンジョンに行こうかと思ったらシャクティに連行される(今ここ)

カルキ「やる事が……やる事が多い……………」(走りながら)


次回 カルキ、シャクティの前で正座


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話

ちなみにやたらガネーシャ・ファミリアと仲が悪いのは、初対面の時、団員達の動きと魔法を見たカルキが「ああ、(あの神々と比べて)大したことはないな」と言ってしまったからです(ガネーシャは苦笑していた)

ちなみにですがカルキはブラフマーストラとその上位互換を修め、修行を終えるまで8年かかっています。それに対してアルジュナは5年でブラフマシラストラと天界にある武器を全て使えるようになり、カルナは2~3年(下手すりゃ1年)で全ての奥儀を修めているので、彼らに比べると才能は劣る感じですね……………うん、あの兄弟ヤバい








カルキ「極東のイタコのようにホイホイ憑依しないで頂きたい」

ヤマ・スーリヤ「いや、だって今の下界で起きてる事は自分の仕事(面子)に関わることだし………」

下半神「そろそろ、俺も下界見てみるか」(フラグ)


「えっと……イルタさん、何ですか?あれ?」

 

「私が知るわけないだろう!?」

 

「ガネーシャ様は不憫に思えるが、あの居候はざまぁみろってんだ!」

 

ザワザワと【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)の食堂は朝から騒がしかった

 

それは、普段のように一部の団員逹が朝から騒いでるという訳ではなく、食堂で正座させられて

 

『私は報告・連絡・相談を怠りました』

 

『私は団長に連絡すべきことを連絡しませんでした』

 

とそれぞれ書かれたプラカードを首から下げたカルキとガネーシャが朝早くからおり、その姿を遠巻きに見ながら何事かと話しているからである

 

「………何故こんなことになったんだろうな」

 

俺がガネーシャだ

 

「普段と違って随分声が小さくないか?」

 

「お前それにガネーシャも………本当に反省しているのかっ!!」

 

ざわつく団員逹をよそに能天気な会話をするカルキとガネーシャにシャクティの雷が落ちる

 

どうしてこうなったとカルキは深夜にあったことを思い出していた

 

***

「正座」

 

深夜、ダンジョンの入り口である『バベル』からガネーシャの執務室に連れてこられたカルキは腕を組んだシャクティに言われ、いきなり正座の説明された後、正座させられた

 

「も…もう足が限界だゾウ…………」

 

「ガネーシャ神は一体いつから正座とやらをしているのだ?」

 

執務室の真ん中でカルキの隣で正座をしながらプルプルと冷や汗をかきながら震えているガネーシャに思わず顔をわずかに歪めシャクティに問うカルキであったが「お前がそんなことを気にするのか」と逆に聞かれる

 

「それで、いったい何の用だ?自分としては今から異端児(ゼノス)と接触し、情報を得たかったのだが?」

 

「ほぅ……今回自分がしでかした事について自覚がないと言いたいのか?」

 

どうやらさらに地雷を踏んでしまったらしく、怒りの増すシャクティにどうしたものかとカルキは自分が何をしてしまったのかを考える

 

「(加減を誤ってベル達をつけていた者たちを殺してしまったことか?いや、これは)………襲撃した後、お前たちに任せて何も言わず去ったことか?」

 

「違う」

 

「ふむ…ではやはり、加減を誤り、ベル達をつけていた者達を殺してしまったことか?」

 

「根本的なことだ!!」

 

狩猟者(ハンター)を殺してしまった事でもシャクティ達に任せてさっさとどこかに行ってしまった事でもないと怒るシャクティにカルキは僅かに首を傾げるとシャクティの雷が落ちた

 

「何も言わずに勝手に行動したことだ!!【ヘスティア・ファミリア】が異端児(ゼノス)を保護していることは私もお前から聞いていたよな?ならば、【ヘスティア・ファミリア】がギルドの強制任務(ミッション)でダンジョンに向かうことを私にも報告することがスジというものではないか?」

 

「いや……ガネーシャ神には報告したが?」

 

「…………実際に動くのはガネーシャではなく我々(ガネーシャ・ファミリア団員)だがな?」

 

「…………」

 

確かに、ソーマはカルキと出会ってから昔の傲慢な性格に戻ってしまっているため、自分より格下の神々が定めたからと下界のルールを無理矢理捻じ曲げて神威を使ったり、【フレイヤ・ファミリア】の本拠(ホーム)に突撃したりと割と好き勝手にしているが、それは【ソーマ・ファミリア】が大派閥でなく、団員のレベルも低いためであり、第一級冒険者の多くが所属し大派閥である【ガネーシャ・ファミリア】の主神であるガネーシャはソーマのように軽々と好き勝手には行動できず、先日起きた闇派閥(イヴィルス)残党によるアマゾネス襲撃事件の時のように実際に動くのはガネーシャではなく、専ら団長であるシャクティをはじめとした【ガネーシャ・ファミリア】の団員達なのである

 

ちなみにであるがカルキは【ガネーシャ・ファミリア】の居候であって【ガネーシャ・ファミリア】に所属しているわけではないのでシャクティに報告する必要はないと判断したため報告しなかったのだが、そのことを言えば余計に火に油を注ぐことになるのでカルキは言わない。カルキは聡いのである

 

「確かにお前の言い分が正しいな……」

 

「理解してくれたようで何よりだ」

 

ではこの話はこれで終わりだなと立ち上がろうとしたカルキの肩にそっとシャクティは手を置き

 

「どこに行くつもりだ?まだお前への罰は終わっていないぞ?」

 

「…………何?」

 

「反省の証しとして明日、一日はガネーシャと共に本拠(ホーム)の食堂で正座をしていろ」

 

その時のシャクティの顔はカルキに一矢報いたと言わんばかりの大人げないとてもいい笑顔だったとガネーシャは後に語る

 

***

というわけで、カルキとガネーシャは【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)の食堂で正座しているのである

 

「しかし、何故この罰を大人しく受けたのだカルキ?」

 

「まあ、向こうの言い分に一理あると感じたから……だろうか」

 

「なるほど!今回はシャクティに軍配が上がったといったところか!」

 

呵々大笑するガネーシャに「またシャクティ団長にどやされますよ」と青年団員(モダーカ)がガネーシャに苦笑しつつもつっこむ

 

「なに!こうでもしていなければ足が痺れているのを我慢できそうにないからな!誰か話し相手になってくれ!いや!なってください!!」

 

「あー、シャクティ団長が椿さんから教えてもらったっていうソレ(正座)キッツいですからねぇ…」

 

「ああ!正直もう昨日からだからけっこうキてる!!変わってくれないかモモヒキ!!」

 

「お断りします!あと、自分の名前はモダーカですっ!!」

 

そんな騒がしいガネーシャの隣で涼しい顔をしているカルキが面白くないのかイルタがこっそりカルキの足裏をつついていた

 

「おい、居候、お前なぜ何も反応しない、私が以前、姉者から罰として正座をした時はとてつもない苦痛だったんだが?」

 

「そういわれてもな、自分はこれ以上の苦行をしたことがあるのでこの程度では苦痛とは思わないだけだ」

 

「おいおい!嘘つくもんじゃないぜ!居候!俺も団長から『騒がしい』ってそれをさせられたが、そりゃあ、足が痺れて痺れて大変だったんだぜええええええええ!!」

 

「イブリうるせぇ!というか、それこそガネーシャに聞けばいいんじゃ」

 

「うむ!カルキは嘘をついていない!全く堪えていないな」

 

『な、何だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

ガネーシャがカルキの言葉が嘘ではないと認めたことで【ガネーシャ・ファミリア】の団員達は大騒ぎになる

 

「いやいやいや!正座して涼しい顔してるって何!?痛覚ないのか!?」

 

「いや、ちゃんと痛覚はある、ただこの程度では苦行とは呼べないというわけだ…モダーカ」

 

「そんな無茶苦茶な理由があってたまるか!?あと自分はモダーカだ!……あ、初めて正しく名前呼ばれた」

 

さらにざわつく【ガネーシャ・ファミリア】の団員達を置いて、ガネーシャは「ああ、入門するときのアレも中々大変だろう」と納得する

 

「始め枯葉を食し、最初の1ヶ月は3日に1回果実のみを食し、2ヶ月目は6日に一度、、3ヶ月目は2週間に1度、4ヶ月目は空気だけで耐え、両腕を天に向かって捧げ、支えもなしに足の爪先で立ち続ける苦行か……苦行中に何度走馬燈を見たことか」

 

「しかし、それを齢14で踏破したのだろう?十二分な偉業だと思うぞ?」

 

「…………その後の修行の方がもっと厳しいものだったから霞みかけているがな」

 

頬を引きつらせ、遠い目をしながら天界で修行していたころを思い出すカルキにガネーシャは「あいつらの試練という名の無茶振りは大変だっただろう!」と大笑いするが、その苦行の内容を聞いていた【ガネーシャ・ファミリア】の団員達は全く笑えず、ドン引きしてしまっており、【ガネーシャ・ファミリア】内でのカルキの評価は『恩恵を貰っていないのに何故か冒険者顔負けの実力を持つ癖に働かない居候』から『何かよくわからんけどヤベー奴』になってしまうのであった

 

***

「それで?どこに行くつもりだ?」

 

「…………2日前、お前が殺した連中の所属が分かったらしいのでな、当事者であるお前にも来てもらうことになっただけだ」

 

「ふむ‥‥‥」

 

次の日、一日中正座させられていたのにも関わらずケロリとした顔でスタスタ歩くカルキがシャクティと共に向かっているのはとある裏通りにある隠れ家的な酒場である。どうやらそこで【ヘルメス・ファミリア】から情報を得るらしく、足のマッサージを20秒程しただけで復活したガネーシャから「カルキも行ってくれ」と言われたのでカルキとシャクティは向かっているのである

 

 

「…………ここだな」

 

どうやら目的の酒場についたようであり、シャクティが店主に何事か告げると、2階に通され、階段を上ると、2階は狭く、確かに密会するにはうってつけの場所であった

 

「来ましたか【象神の杖(アンクーシャ)】と……確かカルキ・ブラフマンでしたか」

 

「アスフィと知り合いだったのか?」

 

「ああ、戦争遊戯(ウォーゲーム)の前にあったことがある」

 

「ええ、では挨拶はこれぐらいにして、今回の件についてですが……………」

 

どうやら異端児(ゼノス)について【ヘルメス・ファミリア】もある程度ウラノスから聞いてその存在を困惑しながらも把握しているようであり、アスフィ達が調べたところによると、どうやらこのオラリオから各国の物好きな王侯貴族に異端児(ゼノス)が裏ルートを通して売られて、それが闇派閥(イヴィルス)の残党の主な金策となっていること、そしてその金策を行っているのが、2日前カルキによって団員を殺された【イケロス・ファミリア】ということであった

 

「そうか……確かに【イケロス・ファミリア】は以前闇派閥(イヴィルス)の疑いがあったが証拠不十分で曖昧なままだったな」

 

「ええ、しかし、既に【イケロス・ファミリア】はギルドに登録された本拠(ホーム)から引き払っており、今本拠(ホーム)にしているのは恐らく……」

 

「地下にある迷路のような人工物か」

 

「なっ…!どうしてそれを!?」

 

カルキが何の気なしに言った「地下にある迷路のような人工物」という言葉にアスフィが驚くが、カルキは「以前、地下水路で殺鼠剤を撒く仕事をしていた時に見つけた」と答え、眼鏡をずり下すアスフィに「こいつの事を真面目に考えるだけ無駄だ」とシャクティがフォローしていると

 

ガラァン、ガラァン!!

 

「「「!?」」」

 

突然鳴り響いたけたたましい鐘の音にカルキ、シャクティ、アスフィは何事かと店の外に飛び出すとギルドからの緊急警報が響き渡る

 

それは、ダンジョン18階層にある『リヴィラの街』が()()()()()()()()()によって壊滅し、それに伴いモンスターの大移動を確認したという放送であり、放送するハーフエルフの狼狽する声の後、全市民及び、全冒険者のダンジョンの侵入が禁止され、全【ファミリア】に各本拠(ホーム)での待機がギルドから発令された

 

「すまない、私は本拠(ホーム)に戻り、ガネーシャの指示を仰ぐことにする」

 

「ええ、私もヘルメス様の元に」

 

そう言い残してシャクティとアスフィが行動を開始する中、一人残されたカルキは

 

「さて…この騒動、一体どうなるか‥‥‥いや、ベルの真価を問う騒動になるかな‥‥‥…」

 

そう呟くと一応、詳細な情報でも集めておくかとギルド本部に向かって歩き出した

 




書き終えて気付きましたが、ベルくんが4ヶ月でレベル3か4になるのとほぼ同じ期間、同じ年の頃にオリ主はずっとつま先立ちしながら立ちっぱなしだったんだなって……(まあ、アルジュナの苦行パクっただけですが)


しかし、他の作品ではフィルヴィスを救済する作品が多いのに容赦なく本編と同じ末路になりそうです。いや、自分は愉悦部ではないですよ?


































よく言われることですがベルとレフィーヤが対比になっていると自分は考えます

一見、人に見えるウィーネとフィルヴィスと出会い、人(ベル)を傷つけた鋭い爪と人を殺し続けてきた穢れた手をベルもレフィーヤも手を取り、交流をする…と言う所までは同じ

しかし、真の姿となり、醜悪な姿となるウィーネとフィルヴィス、ここでベルはウィーネの姿や自分に攻撃してくることにも関わらず、手を伸ばし、その手を取り、そっと抱きしめ笑顔を向ける。対してフィルヴィスが自らに埋め込まれた魔石を見せた時に初めて手を取った時のように手を伸ばせなかった(伸ばさなかった)レフィーヤ

そして、その結末は、ベルには奇跡が起こり、ウィーネを救い、失うことはなかったが、レフィーヤは結果的にはフィルヴィスを救うことは出来たかもしれないが、失うこととなった

例えモンスター、怪人という違いがあっても、ウィーネに手を伸ばし続けたベルとフィルヴィスに手を伸ばせなかったレフィーヤ、そしてその結末、この辺りを上手く書けたらいいなと思います


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37話

FGOで清少納言が来てくれました‥‥‥ジャンヌは来なかったけどなぁ!!


お気に入り登録が3500件を超えましたぁ!?ありがとうございます!!



ダンまちを読み返すとベル君だいたい4ヶ月でレベル4になって、もうレベルアップ間近って……いくら成長を飛躍させるスキルがあるからって速すぎん?


カルキがギルド本部に到着したとき、ギルド本部のロビーは阿鼻叫喚の巷と化していた

 

「(ふむ、『下層』から種族がバラバラの武装したモンスターが攻めてきたか……これは異端児(ゼノス)の仕業ということか‥‥?)」

 

ギルド本部のロビーで壊滅したという『リヴィラの街』から命からがら逃げてきた冒険者たちが話している内容を聞き耳を立てつつ整理していきカルキはそう判断する

 

「(しかし…誰もモンスターの移動ばかりに眼がいっていて、少し考えれば感じる違和感に気付いていないのは少し愚かとしか言いようがないな)」

 

床に座り込む負傷者、窓口に向かって怒鳴り散らす冒険者、その間を慌ただしく動き回るギルド職員を眺めながら嘆息していると、金髪の少女剣士と白兎を彷彿とさせるカルキが目つけた少年を見かけた

 

「ぁ――――――――エイナさん!」

 

ギルド本部を走っている担当アドバイザーを見つけたベルがアイズと共に駆け寄るのを見て、カルキは気配を殺しつつ、こっそりと盗み聞きすると、どうやらギルドは『武装したモンスター』の対処を【ガネーシャ・ファミリア】に一任し、その他の【ファミリア】は各本拠(ホーム)で待機させ、状況次第で動かすということらしい。言外にここにいては邪魔になるエイナから告げられたベルはアイズと顔を見合わせ頷き、アイズが一足先に【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)に戻るために走り出し、ベルも続こうとエイナに会釈し、走り出そうとしていると

 

「――――――えっ!?」

 

「?」

 

ベルの後ろで、不安そうな顔のミイシャから何事か耳打ちされたエイナが驚いた声を上げ、その声にベルが反応し振り返ると、愕然とした姿のエイナがベルを引き留め、何事か伝えた後、ベルがギルド本部の奥に向かうのを見て、やはり異端児(ゼノス)もしくは【イケロス・ファミリア】が今回の騒動だと確信したカルキはベルを不安そうに見送るエイナとミイシャに音もなく近づき声を掛ける

 

「ウラノス神はベルに何と?」

 

「うわひゃあ!?」

 

「ブ、ブラフマン氏!?」

 

突然背後に現れたカルキにミイシャが変な叫び声をあげ、エイナは大きく肩をはねさせ、いつのまに…と呟きズレた眼鏡を直すとすぐにギルド職員の顔になり

 

「…………ブラフマン氏、放送の通り、貴方もダンジョンに入らず【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)で待機していてください」

 

「そう言われてもな、自分は【ガネーシャ・ファミリア】の団員ではないので冒険者ではない、それにオラリオ市民でもないからな」

 

「えっと……つまり?」

 

「ギルドの警報は聞くつもりはないということだ」

 

「っ!?しかしっ!」

 

ギルドの警告を聞く気などさらさらないと言わんばかりのカルキにエイナは柳眉を吊り上げ、流石のミイシャもカルキに何か言いたげであったが、カルキは詰め寄るエイナの前に手を出し、彼女達の機先を制して

 

「自分がどのように動こうがウラノス神は口出ししないだろう…………それに今回の騒動は異常事態(イレギュラー)でもなく、一部の人間の行いのせいだろうしな」

 

「「えっ……?」」

 

「一度落ち着いて考えてみろ、本来武装するはずのないモンスターが人間の作った武器を装備している、それはつまりモンスターに理せ…いや、何者かがモンスターを捕えていて調教(テイム)していて、そのモンスターが逃げ出した……と考えられないか?」

 

「そ、そんなこと…」

 

「しょ、証拠はあるんですかっ!?」

 

片眼を閉じ、小首をかしげ腕を組んで聞いてくるカルキにエイナは愕然とし、ミイシャは動揺を隠せず大声を出してギルド本部中の注目を浴びてしまい、気恥ずかしそうにただでさえ小さい体を縮こませる姿にカルキはため息をつきつつ

 

「証拠というなら、この状況そのものが証拠だ。いくら冒険者が『恩恵』を貰っていて逃げ慣れているとはいえ、街が壊滅したのに怪我人ばかりで死人が少なすぎる」

 

「た、確かに、前回のリヴィラの街が壊滅したときは偶々【ロキ・ファミリア】がいたから犠牲は出ませんでしたが……」

 

「で、でも今回は逃げ遅れた人もいて…その人たちはもう……」

 

「その『逃げ遅れた冒険者』が今回の騒動の原因だろう、先程、【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院に連れていかれたエルフがギルド職員に話していたぞ『怪物共はまるで誰かを探しているようだった』とな、獣でさえ人間の顔を覚えるのだ、モンスターであるなら自分達を捕えていた人間の顔ぐらい覚えるのではないか?」

 

「わ、私、班長に報告してきますぅ!」

 

「あ!ちょっとミイシャ!?ああ、もうっ!すみませんブラフマン氏、失礼しますっ!」

 

慌てて彼女たちの班長である犬人(シアンスロープ)の班長に報告しに行くミイシャと彼女を追いかけるエイナを横目に、カルキはやれやれと首を振ってもう得られる情報もないと判断しギルド本部から去った

 

***

都市は揺れ動いていた

 

竈の女神から理性を持つモンスターについて聞いていた薬師の神、極東の武神、鍛冶の女神は険しい顔となり、【群集の主】を標榜する象面の神は慌ただしく眷属達が行きかう前庭で佇んでいたところに、使い魔のフクロウが運んできた密書を見て口をつぐむ。美の女神は風のように縛られることもなく自由に『バベル』へと眷属である猪人(ボアズ)を従者のように従えながら向かい、道化の女神は蚊帳の外に置かれていることを少し気に喰わないとしつつも、自分達が追っている事態のきっかけになるやもしれないと思うのと同時に何か起きることを期待し、うっすらと眼を開け口端をわずかに吊り上げる

 

「ひひひひひっ………!!しくじったのかぁ、ディックスゥ…………!」

 

期待、不安、興奮、神々が三者三様の反応を示す中で『ダイダロス通り』にあるひときわ高い建物、街並みを一望できる場所で眷属の『獣の夢』を見ることに愉悦を覚える男神は愉快そうに笑う

 

今日が下界で過ごす最後の日になることも知らずに

 

そして神々はこのオラリオに真の規格外がいることを知ることになる

 

「ベル君を18階層の討伐隊に組み込むぅ!?」

 

「「「はぁ!?」」」

 

「はえっ!?」

 

【ヘスティア・ファミリア】本拠(ホーム)『竈火の館』でリヴィラの街壊滅の一報を聞いた【ヘスティア・ファミリア】の面々は、21階層で聞いた異端児(ゼノス)達の『願い』、即ち人類との共存とは何だったのかと疑問に思うが、ヘスティアが異端児(ゼノス)を狙う密猟者が何らかのかかわりがあることを口にし、密猟者が異端児(ゼノス)の逆鱗に触れる何かが起こったと確信する

 

が、いつまでたっても団長であるベルが戻ってこず、皆が不安を覚え始めた時、ギルドから派遣された職員が指令書を持ってきて、ギルド本部でベルがエイナから聞いた強制任務(ミッション)の最低限の情報――――――――各【ファミリア】は本拠(ホーム)で待機していることという指令にいらだちと不安を隠せない中、ヘスティアだけが指令書に巧妙に隠された【神聖文字(ヒエログリフ)】を大声で読み上げ、リリ、ヴェルフ、命が声を揃え、春姫だけが遅れて肩を跳ね上げる

 

「何を考えているんだ、ウラノス……!」

 

「恐らくはウラノス神はベルを見極めるつもりかと」

 

「「「「!?」」」」

 

ヘスティアの独り言に【ヘスティア・ファミリア】以外の人物の声がしたことに驚く面々をよそにいつの間にか本拠(ホーム)に無断侵入(命がギルドの人間を応対している間に勝手に入った)していたカルキに「どういうことだい?」とヘスティアが険しい顔で問うと

 

「ウラノス神はベルがただ状況に流されているだけの子供か己の意思で己の道を切り開く者か、そして人と異端児(ゼノス)達の架け橋のような存在になれるかどうか……それを見極めるために討伐隊に組み込んだかと」

 

「…………それは君もウラノスと同じ考えということでいいのかな?」

 

普段の親しみのある雰囲気とは違い、高い神格を有する神独特の何処か荘厳な雰囲気のヘスティアに普段ならばベルについて何かとヘスティアにかみつくリリやその姿を見て笑うヴェルフ、命、春姫がその姿に呑まれ何も言えなくなる中

 

「正確に言えばこの自分は本体が秘術で作った分身ですが、そのように考えてよろしいかと」

 

「そうかい‥‥‥ベル君はもうダンジョンに出発しているかい?」

 

「いえ、ですが、もうそろそろダンジョンに向かう頃かと」

 

「わかった、教えてくれてありがとう‥‥‥皆、行こう!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

カルキの分身と問答したヘスティアはすぐに顔を上げ、眷属達と共に戸締りも忘れ総出で本拠(ホーム)を飛び出す。そして彼らを見送ったカルキの分身はまるで空気に溶け込むように消えたのであった

 

***

「来たか」

 

強制任務(ミッション)を受け、『バベル』の警護と討伐隊…異端児(ゼノス)保護のためにダンジョン18階層に派遣されたため眷属が誰もいなくなった【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)に一柱だけ残り腕を組みながら何事かを考えていたガネーシャが呟くと音もなくカルキが現れ、ガネーシャの前に来て恭しく跪く

 

「今回の騒動…裏にいるのは【イケロス・ファミリア】だな」

 

「はい、どうやら異端児(ゼノス)の我慢が限界になったか、逆鱗に触れたか…そのどちらかかと」

 

「だが、異端児(ゼノス)には仲間を思いやるという心があることがこの一件で明らかになった……これを喜ぶべきかどうか分らんがな」

 

そう珍しく自嘲した笑みを浮かべ「【群集と怪物の主(ネオ・ガネーシャ)】への道は遠いな」と呟いたガネーシャはカルキに向き合い

 

「お前は今回どう動く?」

 

「一応はベルがどう動くか、自分の信念を曲げずに貫けるかどうか見極めようかと、そして本当に異端児(ゼノス)に理性が、人の心があるのかどうかも見極めるべきかと」

 

2日前は残念ながら見極め損ねましたのでと言うカルキに

 

「おいおい、そんなことを言うとまたシャクティに正座させられるぞ!俺が!!」

 

とガネーシャは笑って返した後、真剣な顔になり

 

「見極めにダンジョンに行くついでだ………カルキよ、ただ『獣の夢』に身を任せ己の快楽に興じる愚かな【イケロス・ファミリア】と眷属が堕落していくことを止めぬ主神イケロスをこのオラリオから間引け‥‥ヴィシュヌからの命令だけでなくこのガネーシャも許す……好きにしろ」

 

普段の明るく朗らかなガネーシャからは想像できない程冷たい声を出し、ガネーシャを知っている者がその場にいれば本当に今この場所にいるのはあのオラリオにいる神々の中でも屈指の『善神』とされているガネーシャなのかと恐れおののくであろう声と下された指令を受け

 

「ガネーシャ神その命令、このカルキ確かに承りました」

 

カルキは淡々とガネーシャに答え、一陣の風と共にガネーシャの前から消えるのであった




クリシュナがハーレムの奥さんたちを満足させるために分身するんだから一人くらい分身したっていいじゃない!!




カルキ「分身すれば力が半分になる?そんなわけないだろう?そんな欠陥のある術を誰が使うものか」

???「…………いっそ殺せっ!!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話

in天界

維持神・太陽神・冥府神「さて……この事態どう動くかな……………」

下半神「……………は?『最強』を名乗ってるのがロキとフレイヤの所だと?」




inオラリオ

カルキ「……………何か悪いことが起きそうな気がする」

ソーマ・ガネーシャ・カーリー「何か愉快なことが起こる気がする!!」




オラリオの中心部———————中央広場(セントラルパーク)にオラリオ中の注目が集まっていた。広場にはギルドから待機命令を出されたが何か情報が欲しいと集まった冒険者だけでなく、未知の出来事に心躍らせ野次馬根性ではしゃぐ神々、モンスターの地上進出に恐れ不安げな民衆、彼らが注目しているのは広場の中で最も屈強な冒険者の集団——————【ガネーシャ・ファミリア】の精鋭達だった

 

「――――――調教(テイム)!?討伐対象を!?」

 

が、その討伐隊の間には動揺と困惑によるざわめきが広がっていた

 

「どういうことだ!今は緊急事態ではないのか!?」

 

「そ、それが主神(ガネーシャ)様からギルドからの密書を手渡されて…………………ご、極秘に行えという指示が」

 

主にイルタと名前を『ナントカ』と呼ばれ「自分はモダーカですっ!?」と突っ込むモダーカを中心に不可解かつ、理不尽なギルドの指示にイルタを中心に言い争いが起こる中、さらに自称『喋る火炎魔法』、【ガネーシャ・ファミリア】のお祭り男のイブリが火に油を注ぐ真似をし、

 

「イブリ黙れ!?お前は地上居残り組だ!!」

 

「うわあああああああああああっ!!聞いてねえよおおおおおおおおおおおおおおお皆頑張れええええええええええええええええええええええええええッッ!!」

 

「お願いですから冷静になってくださいっ!?あとイブリうるせぇ!!」

 

イブリの言動がイルタの激昂に拍車をかけ、お祭り騒ぎ——————————【ガネーシャ・ファミリア】恒例の光景ではあるが今はそんな場合ではないとモダーカや他団員達が慌てふためき、周囲のオラリオ市民達の間に若干不安そうな空気が流れるが

 

「イルタ、落ち着け、他の者達もだ」

 

騒がしい【ガネーシャ・ファミリア】の中で唯一冷静なシャクティが口を開くとあれ程騒がしかった【ガネーシャ・ファミリア】の団員達が静かになる

 

「ガネーシャは何と言っていた?」

 

「ギ、ギルドの指示に従えと………」

 

「そうか…………」

 

【ガネーシャ・ファミリア】の団員達の中で唯一、ガネーシャから異端児(ゼノス)について聞かされており、【ヘスティア・ファミリア】が異端児(ゼノス)を匿っていて、【イケロス・ファミリア】が異端児(ゼノス)をオラリオ外に売りさばいていることを知っているシャクティは少し目を伏せた後、顔を上げ

 

「モンスター達には調教(テイム)を施す。殺さず、生け捕りにしろ」

 

「姉者、いいのか!?」

 

「私達の主は【群衆の主(ガネーシャ)】だ。彼を信じ、彼について行く。違うかイルタ?」

 

とある男のせいで天界にいた頃の『善神』とは言えない闘争や殺戮を楽しむ性格に戻りかけているガネーシャのことはイルタ達には伏せつつ、彼らのガネーシャへの信頼と忠誠を喚起させることに心苦しく思いつつも「出発する、準備しろ!」と命令を出し、団員達が鬨の声を上げる中、シャクティはふと、先程別れた【ガネーシャ・ファミリア】の居候を思い出す

 

「(そういえば、あの男、今回はどう動くのか…………)」

 

暴れたら間違いなく自分達ではどうしようもない男がこういう状況で全く姿を見せないことに不安を覚えつつも、今はこの事態を鎮静化する方が先決だと、ダンジョンを睨み、準備が終わったと団員から報告を受け

 

「出るぞっ!」

 

シャクティの号令と共に第一級冒険者を含む【ガネーシャ・ファミリア】の精鋭たちへ一際膨れ上がる民衆の声援が響き渡る中、

 

「なるほど…どうやらベルはサポーターに扮して参加するようだな………賢者の策か」

 

『バベル』を封鎖する【ガネーシャ・ファミリア】の居残り組が柵の代わりになっているにも拘らず、冒険者やオラリオ市民、神々ですら気付かない隠形術を使い、堂々と『バベル』に侵入したカルキは『バベル』の中から、中央広場(セントラルパーク)での喧騒を眺める

 

「しかし……あの後ろにいる3人は何が目的だ………?」

 

【ヘルメス・ファミリア】の団長、歓楽街にいた春姫と一緒にいたため、見逃した【イシュタル・ファミリア】の団員だったアマゾネス、【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)の際、ベル達【ヘスティア・ファミリア】の助っ人としてカルキと共に参戦した『豊穣の女主人』の店員であるエルフ…………正直、何故姿を消し、【ガネーシャ・ファミリア】の後をつけているのか分からない一団にカルキも疑問に思いつつ

 

「まあ、放って置いていいだろう」

 

()()()()()()()しかない3人がどう動こうと問題はないだろうと判断したカルキは、ダンジョンに突入する【ガネーシャ・ファミリア】と3人の後ろを追いかけていった

 

***

「ベル君………」

 

「ベル………」

 

「ベル殿…」

 

【ガネーシャ・ファミリア】が出発した中央広場(セントラルパーク)、【ガネーシャ・ファミリア】にサポーターの変装をして紛れ込み、ダンジョンへと向かったベルの後姿を見送った【ヘスティア・ファミリア】の面々が不安げに『バベル』を見ている中

 

「リリルカ・アーデ…………」

 

「ソ、ソーマ様!?」

 

「こんっ!?」

 

いつの間にかソーマが【ヘスティア・ファミリア】の面々の後ろに来ており、ソーマの接近に気付かず、唐突に背後からソーマに話しかけられた元【ソーマ・ファミリア】の団員だったリリが驚き、春姫が特徴的な声を上げ、ヘスティア、ヴェルフ、命がギョッとしていると、ソーマは顔の前に人差し指を立て、静かにするようにジェスチャーで伝えると

 

「付いて来い…………」

 

それだけ言うと、こちらを一瞥することもなく路地裏に向かって歩き出したソーマをヘスティア達は慌てて追いかけるが、何故か一定の距離までしか追いつけないでいると

 

「おお、ヘスティアではないか!朝ぶりだな!!」

 

『ガネーシャ(様)!?』

 

ソーマについて行った裏路地にいたまさかの神物に【ヘスティア・ファミリア】の誰もが驚きを隠せずにいる中、以外にもソーマが口を開き

 

「リリルカ・アーデ、俺の【ファミリア】の元団長ザニスを覚えているか?」

 

「え、ええ、覚えていますが……」

 

何故、今、ソーマが半殺しにした元【ソーマ・ファミリア】の団長の名前が出てきたのか分からないリリが首を傾げ、そもそもザニスのことを知らないヘスティア、ヴェルフ、命、春姫が首を傾げ、リリがザニスの特徴を説明すると、ヘスティアとヴェルフが「あー、あの時サポーター君(リリスケ)を連れて行った」と納得し、命と春姫に簡単な説明をし終えるとヘスティアが代表してソーマに尋ねる

 

「それで、その君の所の元団長がどうしてこのタイミングで出てきたんだい?」

 

「うむ!俺にも説明してくれソーマ!!」

 

実はソーマから何も説明を受けていなかったガネーシャもヘスティアの問いに乗じて質問すると

 

「実は俺も昨日ザニスから聞き出したばかりなのだが、どうやらザニスはこの騒動………人の言葉を話し、理性のあるモンスター、異端児(ゼノス)について以前から【イケロス・ファミリア】を通じて知っていたようでな」

 

『!?』

 

「ふむ、それで?」

 

動揺する【ヘスティア・ファミリア】をよそにあくまでも冷静なガネーシャが続きを促し

 

「ザニスはリリルカ・アーデの『変身魔法』を利用して異端児(ゼノス)をおびき出し、【イケロス・ファミリア】が捕まえた後、俺の【ファミリア】が所有する酒蔵のある『ダイダロス通り』から秘密裏にオラリオ外の物好きな者共に売り払い金を稼ぐつもりだったようでな」

 

「なるほど、そういうことか」

 

「ちょ、ちょっと待って………どういうことだい!?」

 

ソーマの説明を聞き、ニヤリと笑うガネーシャにヘスティアが何のことかわからず叫ぶと

 

「つ、つまり、そのザニスという御仁が【イケロス・ファミリア】と共にウィーネ殿やグロス殿達を狙っていて」

 

「【ファミリア】の団長という立場を利用して秘密裏に【ファミリア】で造った酒と一緒にオラリオの外に売ろうとしていたということは」

 

「『ダイダロス通り』に【イケロス・ファミリア】、敵のアジトに通じる道があるってことですね!!」

 

命、ヴェルフ、リリがつなぐように説明するとヘスティアと春姫が「な、なるほど………」と感心すると

 

「どうして眷属がここまで説明しないと分からないのだ……………?まあ、いい‥……今から『ダイダロス通り』を調べようと思っているのだが…………来るか?」

 

ソーマの問いに「愚問だな!!」とガネーシャはポーズをとりながら答え、ヘスティア達も力強く頷くと『ダイダロス通り』へと向かうのであった

 

***

時を少し巻き戻し、カルキがガネーシャからイケロス及び【イケロス・ファミリア】の殲滅を命じられた頃

 

「ロキ……あの人と敵対したらダメってどういうこと………?」

 

【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)『黄昏の館』にある一室、ギルドからの指令で本拠(ホーム)で待機している【ロキ・ファミリア】の幹部が集まる部屋で意を決したようにアイズがロキに質問していた

 

「んー?まあ、もしものための保険や、保険」

 

「えー?何それー?」

 

アイズの質問をはぐらかそうとするロキにティオナが文句を言うが、彼女の言葉は【ロキ・ファミリア】の幹部の総意であった

 

「チッ…ロキがどう言おうが関係ねぇ、あの野郎には借りがある………一発殴らねえと気が済まねぇ」

 

「ベート程じゃあないけど、私も一発腹に膝を入れたいわね………よくも私の団長を馬鹿にしてくれやがったものよ」

 

「ベ、ベートさんもティオネさんもロキがああ言ってるんだし止めた方がいいっすよ……」

 

カルキによって地雷を踏みぬかれた挙句、手を抜かれたうえ、放り投げられ地面に2回叩きつけられたベート、『豊穣の女主人』の一件を今だ根に持っているティオネをラウルが宥めているのを見て

 

「じゃがのう、ロキよ、『豊穣の女主人』の一件でベートやティオネだけでなく団員達のカルキ・ブラフマンへの敵意は強いぞ」

 

「ガレスの言う通りだ、今は抑え込めているが、次にあの男が火をつければ我々でも押さえられないかもしれない」

 

【ロキ・ファミリア】を馬鹿にされて怒るということは、ある意味では【ロキ・ファミリア】に愛着を持ってくれていることになるので良いことではあるのだがなと、古参幹部であるガレスとリヴェリアがロキにカルキと敵対することを禁止した意図を説明させようとすると、ロキは観念したように大きくため息をつくと

 

「………………恐らく、いや、間違いなくカルキ・ブラフマンと闘えばウチら【ロキ・ファミリア】とあの色ボケのところ……【フレイヤ・ファミリア】が同盟を組んでも一方的に蹂躙される……いいや、このオラリオにいる全ての冒険者、一般市民、ソーマ、ガネーシャ、タケミカヅチを除いた神の力(アルカナム)を解放した神々が相手になっても良くて相打ち、最悪全滅させられる…………そんくらいの差があるわ」

 

『………………………は?』

 

ロキのカルキ・ブラフマンへの過大評価というしかない評価に【ロキ・ファミリア】の幹部たちは固まるが、フィンだけは顔を険しくし、ロキが数日前に話していたことから懸念していたことを問う

 

「ロキ‥……それはつまり、カルキ・ブラフマンは怪人(クリーチャー)の【上位存在】ということかい?」

 

『ッツ!?』

 

フィンの話した懸念に【ロキ・ファミリア】の幹部達は凍り付くが

 

「いいや、怪人(クリーチャー)やない、普通の人間や」

 

「じゃ、じゃあ、やっぱり『神の恩恵』を貰って………」

 

「いいや、レフィーヤ、()()()()()()()()()()()()()()()、レフィーヤが朝持って来たこの【ヘルメス・ファミリア】からの密書の内容が……あの胡散臭い男神(ヘルメス)の考えが正しいなら、カルキ・ブラフマンはこの数千年、誰も成し遂げたことのない偉業を成し遂げ、神々に認められた真の傑物や」

 

レフィーヤに答えたロキは手に持っている【ヘルメス・ファミリア】からの密書――――『カルキ・ブラフマンは人の身で天界に至り、『リグ・ヴェーダ』の神々の誰かに弟子入りし、他の神々とも何らかの関係を持った可能性がある』という一見信じられないような内容を思い出し、顔を険しくさせるのであった

 

***

ロキがカルキの実力に限りなく正解に近くまで気付き、ソーマとガネーシャ、【ヘルメス・ファミリア】が『ダイダロス通り』で【イケロス・ファミリア】のアジトを探して、ロキの話の衝撃から持ち直した【ロキ・ファミリア】が『ダイダロス通り』で何かが起きると確信し、隠密行動をし始めた頃

 

「しまった……………」

 

ダンジョン18階層にある『リヴィラの街』、武装したモンスター、異端児(ゼノス)によって廃墟となった冒険者の街には、今、立っている人間はカルキしかおらず、倒壊した建物に巻き込まれた逃げ遅れ、建物の下で呻く冒険者や、異端児(ゼノス)に殺された【イケロス・ファミリア】の死体が転がり、リヴィラの街周辺では武装したモンスターとモンスターが殺し合いをしている中で、【ガネーシャ・ファミリア】の精鋭やベル、三人組の影は姿かたちもなく、カルキは自分のしでかしたことに気付き、珍しく呆然とした声で呟く

 

「ベル達を追い抜いていた…………‥……」

 

 




カルキ「ベル達は行ったな………ふむ、鍛錬ついでに壁でも走りながら行くか」

ベル・ガネーシャ・ファミリアの皆さん・アスフィ・リュー・アイシャ「今、風が吹いたような………?」

18階層

カルキ「あれぇー!?」←追い抜いていたことに気付いた

カルキさん、どうやらベルやゼノスを見極めようと思って気が逸ったらしく、やらかした模様




ロキさん、知ってますか?この人(カルキ)、ブラフマー神から『一部を除く神々、精霊及びその眷属からの攻撃無効化』っていう祝福貰ってんですよ(なお、ガネーシャ、ソーマ、タケミカヅチ、インドの神々は問答無用で祝福を貫通してくる模様)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話

感想の返信の方でも書きましたが、インド神話や他の神話でもよくある(?)ようにカルキはやらかす時はやらかします(例:カーリーへの挨拶代わりにメレン崩壊)


そして、男同士なら下ネタもポロっと言うし(インドラのせい)、ガネーシャやソーマ辺りが「一戦どうだ?」と手合わせに誘うと嬉々として乗っかります。冷静そうに見えて割と戦闘狂の部類です(番外編のオラリオ経済崩壊IFはその一端)





あと、全く関係ないですけど、北欧神話でニョルズとフレイヤって親子なんですね(ニョルズが親)………ちょっ、ダンまちでの神の親子関係どうなってんだよ(まぁ、ディアンケヒトとミアハとかウラノスとゼウスとヘスティアが何も説明されていないので親子姉弟の関係自体ないんでしょうが)


闘争が来る

 

 

白き光は竜の娘をかばい道化の眷属、都に住む者達と相対する

 

 

獣の夢を好む神は人が放つ日輪の極光を宿す不滅の刃の前に森と共に消える

 

 

それを天より眺める雷の武神は人に神の槍を授ける

 

 

その槍を見し下界に下りし武神、昂りて人と打ち合う

 

 

人と神の闘争に民と異形はなすすべもなく街は恐怖する

 

 

忘れるな求めし光は下界に下りし万能の者の多さであり、白き光が竜を助く時

 

 

群集の主、月と杯、闘争と殺戮、彼の神々の助けなくば都は滅ぶ

 

 

心せよ、其は破壊の神に認められし人と極東の武神の闘争――――――――

 

 

***

「―――――――――――――――――――――――ッツ!」

 

【ミアハ・ファミリア】の本拠(ホーム)『青の薬舗』、ギルドから『待機命令』を出され、待機していた【ミアハ・ファミリア】に所属する少女カサンドラは、ついうたた寝をしてしまい、そのわずかな時間で『予知夢』を見て飛び起きた

 

「(何?今の…………)」

 

カサンドラはいつも『予知夢』を見てきた。しかし、その『予知夢』が告げる『破滅』は自分とその周りの『破滅』だけであったのが今回はオラリオという迷宮都市そのものの『破滅』を見たのである

 

「オラリオが人と神の戦いで滅ぶ…………?」

 

「カサンドラどうしたの?」

 

「もう、また例の『夢』って奴?」

 

呆然とカサンドラが呟くと、団長であるナァーザとカサンドラと同じように【アポロン・ファミリア】から【ミアハ・ファミリア】に改宗(コンバーション)したダフネがそれぞれ尋ね、後ろではうたた寝したカサンドラに毛布を掛けてあげようとしていたミアハがいた

 

「あ、あのね、ダフネちゃん、団長さん、オラリオで神様が人の放った太陽の光を宿した()()()()で殺されて………」

 

カサンドラは見た『予知夢』を何とか彼女たちに伝えようとするが

 

「………カサンドラ、あんた分かってんの?人間(ウチら)が神を殺せるわけないじゃん」

 

「うん、そもそもが間違ってる」

 

『下位の存在である人間は上位の存在である神を殺せない』という下界の絶対のルール、即ち、神殺しの大罪を犯せる人間などいるはずがないとカサンドラの夢の内容を否定するダフネとナァーザであったが

 

「待て………今の『夢』詳しく聞かせてほしい」

 

「「ミアハ様!?」」

 

カサンドラの『夢』の内容の続きを促す真剣な顔のミアハにナァーザとダフネは驚くが、彼女たちを半ば無視するようにミアハはカサンドラの『夢』の話に聞き入り、『破壊の神』と聞いた途端、顔をサッと青ざめて震えたかと思うと

 

「ナァーザ!今すぐにヘファイストスの所に行きヘファイストスに『カルキ・ブラフマンとタケミカヅチが戦う可能性がある』と伝えてくれ、カサンドラはヘスティアのもとに行き同じことをヘスティアに伝え、ダフネは【タケミカヅチ・ファミリア】の本拠(ホーム)に向かいタケミカヅチの動きに注意してくれ、私はギルドに行き、ウラノスに何としてもこのことを伝えてくる」

 

そう言うなやいなや本拠(ホーム)を飛び出していったミアハを見送った後、残された彼女たちはしっかりと本拠(ホーム)の戸締りを確認した後、それぞれミアハの指示に従うのだった

 

***

ダンジョン18階層にある『リヴィラの街』に【ガネーシャ・ファミリア】やベル、よくわからない3人組を、ついうっかり追い抜いてしまったことに気付いたカルキはすぐに隠形の術を使い、モンスター達…‥異端児(ゼノス)に気付かれないように隠れたのだが

 

「(……………………遅いな)」

 

カルキが隠形の術を使い始めて30分、正直な話カルキが早すぎただけなのだが、ベル達は今だに影も形も見えず、ベル達が来るまで一人ポツンとダンジョンで体育座りしていても仕方がないので、『リヴィラの街』へと向かい、情報を集めることにしたカルキは隠形を維持しながら廃墟と化した『リヴィラの街』へと向かうと

 

「同胞ヲ何処ヘ連レ去ッタ!?言エ、人間!!」

 

「(なるほど……あれが異端児(ゼノス)か」

 

18階層に響くモンスターの鳴き声に混じり、片言の人語が聞こえたため、そちらに向かうと片言の人語を話す石竜(ガーゴイル)が両足をつぶされた冒険者に詰め寄っており、情報を得るには都合が良いとこっそりと近づき、聞き耳を立てる

 

「シラバックレルナ!!貴様カラハ臭ウ、人蜘蛛(ラーニェ)ノ『毒』ノ香リガ!!」

 

「っ…………!?」

 

「同胞ノ遺シタ意思ガ、貴様等ヲ薄汚イ畜生ダト言ッテイル!!」

 

どうやら、石竜(ガーゴイル)に顔先まで詰め寄られ、上下から体内の水を出している冒険者は【イケロス・ファミリア】に所属している狩猟者(ハンター)のようであり、“ラーニェ”という単語に聞き覚えはないが、恐らくは【イケロス・ファミリア】に殺された異端児(ゼノス)の名前だろうと推測する

 

「(しかし、どうやら人語を話すのはそこにいる石竜(ガーゴイル)蜥蜴人(リザードマン)、赤い帽子をかぶった小鬼(ゴブリン)歌鳥人(セイレーン)辺りか………)」

 

周囲のから響くモンスターの鳴き声に混じり微かに聞こえてくる人語を聞き逃さなかったカルキはすぐに人語を話しているモンスターを把握し、その数と種類を確認する。そして、異端児(ゼノス)に指示を出しているのが主に石竜(ガーゴイル)蜥蜴人(リザードマン)であり、この2体が異端児(ゼノス)達のリーダー格であると気付いた

 

「(なるほど、理性がある故に、集団を指揮する者がいて他の者はその指示に従うというわけか、ふむ、この辺りは人間と変わらんな…………うん?)」

 

上も下もビショビショに濡らした【イケロス・ファミリア】の狩猟者(ハンター)から【イケロス・ファミリア】のアジトが東端の森にあることを無理矢理聞き出した石竜(ガーゴイル)が「持っていないお前等ではたどり着けない」と同じ回答を続ける【イケロス・ファミリア】の狩猟者(ハンター)とこれ以上の問答は無意味と判断したのか石の相貌を歪め、手を下そうとしていた

 

「うむ、それは困るな」

 

「グオッ!?」

 

『!!?』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とはいえ、後から来るであろう事情を知っているシャクティに一人くらいは【イケロス・ファミリア】の狩猟者(ハンター)がいたことを残さないといけないと感じたカルキが石竜(ガーゴイル)を数十(ミドル)投げ飛ばし、投げ飛ばされた石竜(ガーゴイル)は背中をしたたかに打ったことで苦悶の声を上げ、その他の異端児(ゼノス)狩猟者(ハンター)は急に出てきた人間に驚き、異端児(ゼノス)は警戒するように身構えると

 

「ふむ、勘違いしてもらっては困るな異端児(ゼノス)達よ、自分はこの男を助けたわけではない、後から来る【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者に引き渡すためだ」

 

『!!?』

 

腕を組み、苦笑しながらいう人間に異端児(ゼノス)達は自分達が理性のある存在だと知っていると言っている人間の言うことを信じていいものかとお互いに顔を見合わせていると

 

「…………東端の森に向かわず、ここに長居していると、【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者たちが来るぞ?」

 

その言葉を聞き、石竜(ガーゴイル)蜥蜴人(リザードマン)は互いを見やり、頷くと仲間たちを連れて、東端の森に向かい始める。その先で、モンスター同士でぶつかり合う音が聞こえ始めると、カルキは放心している狩猟者(ハンター)に向き合うと、何かに気付いたかのように顔を上げ、南にある18階層と17階層をつなぐ通路を見て呟く

 

「…………やれやれ、今頃着いたか」

 

カルキの到着から遅れて約1時間、ようやく【ガネーシャ・ファミリア】とベルがダンジョン18階層に到着したのだった

 

***

「リヴィラが………!」

 

暗い通路から出てきたベルは、討伐隊の中で唯一息を切らしながら壊滅したリヴィラの街を眺めて呆然と呟いていたが、【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者たちはすぐに行動を開始しようとしていた

 

「団長ここからは………ってええ!?」

 

「いや、待て―――――姉者あれをって………何故あの居候がいる!?」

 

シャクティから指示を聞こうとしたモダーカが驚いた声を上げ、誰よりも早く武装したモンスターに気付いたイルタがシャクティに報告しようとして、武装したモンスターのすぐ近くに足が潰されている冒険者の近くで悠然と佇むカルキに気付き怒声を上げる

 

「武装した有翼のモンスター………一体いつの間にここにいるんだアイツは」

 

武装したモンスターが真東にある大森林に向かっているのを確認しつつ、モンスターを追う気配すらない最強の居候にシャクティはため息をつきつつ

 

「部隊を2手に分ける、私は一時アイツと会う、モモンガ、少人数で私と来い」

 

「はい!あと、自分はモダーカです!!」

 

「残りの者は森へ追え!私も後から合流する!」

 

もう【ガネーシャ・ファミリア】のなかで自分の名前を正しく呼ぶのはあの居候だけなのでは…?と思うモダーカを連れ、シャクティは壊滅したリヴィラの街へと先行して向かうとこちらに気付いたカルキが右手を挙げ

 

「来たか……すまないが、この男、引き取ってくれ」

 

「そこにいるのは今回の騒動の被害者か?」

 

シャクティが来るなり、足元にいる男を引き取れと言うカルキに救助した逃げ遅れた冒険者かと尋ねると

 

「いいや、【イケロス・ファミリア】だ」

 

「そうか……モモンガ、この冒険者は今回の騒動の鍵になる男だ、どこか適当なところに縛っておけ」

 

「ああ、ちょっと待て、消臭の道具(アイテム)で毒の臭いを消して…………とこれでいいだろう」

 

追いついてきたモダーカ達に【イケロス・ファミリア】の生き残りを確保させた後、再び姿を消していたカルキにため息をつき、イルタ達が戦っているであろう東端の森に向かうシャクティだった

 

***

「(あの【イケロス・ファミリア】の団員は【ガネーシャ・ファミリア】に任せるとして……………ベルはどこにいる?」

 

18階層の大森林を素早く移動するカルキがベルを探していると、ベルが蜥蜴人(リザードマン)と何やら口論している様子を確認したので再び隠形の術を使い近づいて行き、話を聞くと、どうやらベル達【ヘスティア・ファミリア】と共に暮らしていた竜女(ヴィーヴル)、ウィーネが【イケロス・ファミリア】によって拉致され、多くの異端児(ゼノス)が殺されたことが事の発端であると分かった

 

「(これはガネーシャ神が言っていたように異端児(ゼノス)には『他者が傷つけられたからこその怒り』があるということの証明になったな)」

 

そんなことを呑気に思っていると、ベルは蜥蜴人(リザードマン)………リドというらしい、異端児(ゼノス)に拒絶され、あの酒場の店員に助けられていた

 

「(異形の者に自分のことを思って拒絶され、エルフからは一旦地上に戻るように言われたか…………さあ、竜女(ヴィーヴル)のことを蜥蜴人(リザードマン)達に任せて地上に戻るか、それとも拒絶されても手を伸ばし、他人に任せることを良しとせず自らも助けに行くか……………………どうする、ベル…………………………?)」

 

ベルが差し出されたエルフの手を取るか否かカルキは見定めるようにじっと陰から眺めていた

 




カサンドラの夢はこれでいいかな…………?



タケミカヅチ「オラリオでは戦わないと思ったけど、まだ誰にもそのことを言ってないからセーフ!!」


走れミアハ・ファミリア!君たちの動きにオラリオが壊滅するかダイダロス通りだけが壊滅するかが掛っている!!

作中最強がミイシャならカルキの天敵はカサンドラ(何故か行動が夢で見られるため
)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話

あれ?なぜか幕間的な話になってしまったぞ?おかしいな、いつになったらダンジョンでブラフマーストラ放てるんだろうか


やはり、この題名「オラリオでブラフマーストラを放つのは間違っているだろうか」に変えた方がいいのではなかろうか


眷属の見た『予知夢(破滅の未来)』を聞き、最悪の状況が起こるかも知れないと気付き、急いでギルド本部に到着したミアハは、今だウラノスに会えずにいた

 

「すまぬがウラノスと会わせてくれないか?時は一刻を争うのだ」

 

「こ、困ります神ミアハ、まだ各【ファミリア】への待機命令も解除されていませんので本拠(ホーム)にお戻りください」

 

「そこを曲げて頼む、この通りだ」

 

ギルド本部のロビーで困り切った様子のエイナと押し問答を続け、受付嬢に必死に頭を下げるミアハの珍しい姿に、他の受付嬢も何事かと遠巻きに眺める中、

 

「「「「ミアハ(様)!!」」」」

 

そこに息を切らせながら飛び込んできたのはナァーザ、ダフネ、カサンドラ、ヘファイストスだった

 

「ミ、ミアハ様、【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)に誰もいなくてっ…………」

 

「【タケミカヅチ・ファミリア】の方も本拠(ホーム)はもぬけの殻だった………」

 

無駄足だったとカサンドラとダフネの報告に「そうか……」と苦い顔しかできないミアハに

 

「ねぇ、どういうことなの?」

 

そう聞くのは、自派閥の本拠(ホーム)で待機していたところに駆け込んできたナァーザからの情報に驚いて合流したヘファイストスである

 

「どうしてあの人間とタケミカヅチが戦うのよ?何か根拠でもあるわけ?」

 

「うむ………このカサンドラの見た『予知夢(ゆめ)』がな………………」

 

「ちょっと!まさかだけど、たかが『夢』が根拠だっていうんじゃないでしょうね!?」

 

いくらミアハがお人好しで、自分の眷属とは言え『夢』という曖昧なことを信じたのかと非難するヘファイストスであったが、ミアハはヘファイストスを真っ直ぐに見て

 

「…………確かに、普段であれば『疲れているのだろう』と言って、眷属の『夢』を信じることはないだろう」

 

「だったら…………」

 

「だが………このオラリオにあの神々と何かしらの関係がある人間(子供)がいて、その『夢』の中に『不滅の刃』、『雷の武神』、『破壊の神』という言葉があったとしたら?」

 

『?』

 

「ッ!!?」

 

「私は、眷属(カサンドラ)の『夢』を…………いや、カサンドラを信じよう」

 

ミアハが言った聞き覚えのない単語に人間のナァーザとダフネ、ギルドの職員たちが首を傾げる中、唯一、この場でそれらの言葉の意味を知っている神であるヘファイストスだけは顔を青ざめ、エイナに今すぐウラノスに会わせるように詰め寄り、様子のおかしい2柱にギルドの職員たちはさらに混乱し、ギルド長であるロイマンまで出てくるほどの混乱の坩堝と化したところに

 

『構わない………ロイマン、ミアハとヘファイストスを通せ』

 

ギルド本部にウラノスの声が響き、仕方なくギルド職員たちはミアハとヘファイストスをウラノスがいる『祈祷の間』に通すことになった

 

***

「(手を払い、己の意思を曲げなかったか………)」

 

ダンジョン18階層で、酒場の店員のエルフから差し出された手を断り、東端の大森林に途中で合流した漆黒のフードを纏う人物─────フェルズと共に異端児(ゼノス)達を追うベルを後ろから今度は追い越さぬように気を付けながらカルキは隠形しながら追跡していると

 

「(気配が消えたな………)」

 

森に到着したベルと賢者が突然消えた異端児(ゼノス)を探す中、森の東端、階層の壁まで着いたが、異端児(ゼノス)の姿がなく、忽然と気配まで消えた異端児(ゼノス)にカルキでさえ疑問に思っていいると、ベルが、リューから貰った小鞄(ポーチ)から球体の道具(アイテム)を取り出すと、まるでその道具(アイテム)に導かれるようにそびえたつ岩壁の一角に辿り着く

 

「(………あの【イケロス・ファミリア】の狩猟者(ハンター)が『持ってないお前等ではたどり着けない』と言っていたが、あれが辿り着くための道具(アイテム)ということか)」

 

カルキは先ほど石竜(ガーゴイル)に【イケロス・ファミリア】の団員が言っていた言葉を思い出していると、フェルズがベルを下がらせ、魔力の塊で岩壁を攻撃すると人工物の通路が現れた

 

「………!!」

 

「これは………」

 

「(うん?この通路どこかで……………?)」

 

ベルとフェルズがダンジョンから現れた人工物に驚き、カルキはこの人工物をどこかで見たことを思い出していると、ベルの持っていた球体が【イケロス・ファミリア】の団員が言っていた『鍵』だということを証明する出来事が起きる

 

「信じられない………こんなものがダンジョンに?」

 

フェルズに促されたベルが人工物に近づき、球体の道具(アイテム)を恐る恐る突き出すと、何もない壁が、ベルが持っている球体の道具(アイテム)と呼応するように動き始め、迷路のような明らかな人の手で作られたであろう通路の入り口が現れたのである

 

「…………………………」

 

フェルズが呆然と呟き、カルキも黙ることしか出来ず、ベルの運の良さというか巡り合わせの良さに何とも言えない顔しかできなかったが、ベルとフェルズが通路の暗闇の中に入っていくのを見て、再び追跡を再開する

 

「(やはり………この人工の通路はあの地下水路にあった人工迷宮と同じか、どうりで見覚えがあるわけだ)」

 

通路に入り、一時的にベル達の追跡を止め、詳しく通路の壁を観察しているとこの人工物の通路と以前、カルキがモンスターと融合した精霊と闘った地下水路にあった人口迷宮と同じものであると気付く

 

「(これで闇派閥(イヴィルス)の残党と【イケロス・ファミリア】が通じているのは明白だな………)」

 

ガネーシャに報告することが増えたなと思うカルキは、ベルとフェルズの気配を探り、追跡を再開するのであった

 

***

「ねぇ………ガネーシャ、ソーマ、一つ聞いてもいいかな?」

 

「………なんだ?」

 

「どうした?ヘスティア、そんな口ごもって!!」

 

ダイダロス通りで【イケロス・ファミリア】のアジト及び、その主神イケロスを探すソーマ、ガネーシャ、【ヘスティア・ファミリア】の面々であったが、ダイダロス通りは迷路のようになっているため、道に迷うことも多く、あまり上手く捜索出来ていなかったところで、意を決したようにヘスティアがカルキと親しい2柱に質問をした

 

「ボクは………ううん、ボクとタケ、ヘファイストス、ミアハ、ウラノスはカルキ君が君たち『リグ・ヴェーダ』の神々と何かしらの関係があることを知っている──────【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)の時、スーリヤが介入しようとしていたことも、カルキ君がスーリヤ、ヤマを、天界にいる神をその身に憑依させられることも」

 

「ほう………」

 

「それで、何が聞きたいのだ、ヘスティア?」

 

ニヤリと笑うソーマとガネーシャに【ヘスティア・ファミリア】の面々が恐怖を感じ震え上がる中、ヘスティアは真っ直ぐに2柱を見据え

 

「彼を…………カルキ君をこのオラリオに向かわせたのは誰だい?ボクはどうしてもあの世界を『維持』するためなら『死』や『殺戮』すらも良しとするあの神を思い出すんだ」

 

核心に迫ったヘスティアの問いにソーマもガネーシャも笑って「ヘスティアの想像している通りだ」と答える

 

「ッ!!じゃあ、カルキ君は天界で君たちが使う『奥儀』も神造武器も使えるということかい!?」

 

自分が想像していた最悪が当たってしまっていたことに動揺するヘスティアにソーマとガネーシャは笑いながら

 

「まぁ、カルキが言うには8年もかかった自分には『才』がないらしいが」

 

「人間が天界に至り、我らの『奥儀』と武器を授けられた時点で十二分なのだがな!」

 

そう答え、ヘスティアが絶句しているところに、リリが恐る恐る尋ねる

 

「あの………先ほどから何の話をしているのですか?リリ達にはさっぱり…………」

 

ヘスティアが【ファミリア】のメンバーを見ると、神の会話についていけていない、ヴェルフ、命、春姫は何が何だか分からないという顔をしており、説明すべきかどうか迷っていると

 

ガラァン、ガラァン!!

 

『!?』

 

今日2度目になるギルドの大鐘楼が鳴らされ、【ヘスティア・ファミリア】はもちろん、ソーマとガネーシャも空を見上げる中

 

『ギルドから緊急連絡です、オラリオにいる全【ファミリア】に対して、ギルドは強制任務(ミッション)を発令します!!強制任務(ミッション)の内容は「【イケロス・ファミリア】の主神イケロス、【タケミカヅチ・ファミリア】の主神タケミカヅチの身柄の確保」です!オラリオの全【ファミリア】は各本拠(ホーム)での待機及び都市城壁の警備の任務を解除、このミッションを受けること………ギルドの主神ウラノス様からの通達です!!』

 

ハーフエルフの少女が伝えるギルドの通達にオラリオにいる神々はニヤつき、冒険者と民衆は首を傾げるが次の通達にニヤついていた神々は顔を青ざめる

 

『ウラノス様からの通達はもう一つ、「オラリオ存亡の危機である、このオラリオに決して『雷の武神の槍』を顕現させるな」とのこと!』

 

***

「ヤバいヤバいヤバいヤバいってぇ!!」

 

「急げえ!!イケロスとタケミカヅチを探せぇ!?」

 

「死にたくない消えたくない死にたくなぁい!!」

 

ウラノスの通達に普段ならバカ騒ぎをするはずの神々が錯乱し、自分の眷属に急いでイケロスとタケミカヅチを探すように指示し、眷属達は困惑する中

 

「オッタル、ヘルン、今すぐに都市城壁の警備に向かったアレン達とダンジョンに向かわせたアルフリッグ達を呼び戻して、ギルドの指示に従わせなさい」

 

「はっ」

 

「はい」

 

従者の様に傍に控えていた都市最強冒険者と眷属一の苦労人の少女を見送りながら都市最強派閥を率いるフレイヤは他の眷属達にも指示を出し

 

「ええい!よりにもよってインドラのバカかい!!」

 

本拠(ホーム)から飛び出し、『ダイダロス通り』に向かった自分の眷属達と合流すべくロキは走りながら悪態をつく

 

「ただでさえ問題があるっちゅーに………」

 

かつて天界にいた頃、インドラとスーリヤの喧嘩に自分の領地を吹き飛ばされ、腹いせに2柱のいる地面を泥に変え、泥に乗り物が嵌り困惑するインドラとスーリヤを嘲笑ったら、その2柱から半殺しにされ危うく消滅一歩手前まで痛めつけられたことのあるロキは自分の眷属を守るべく走り

 

「どういうことだウラノス…………!」

 

オラリオにいる神々の中でウラノスからの依頼でイケロスを追っていたヘルメスは天を見上げ呟く、イケロスの身柄を秘密裏に確保できれば、異端児(ゼノス)の存在は表に出ることはないはずなのに、全【ファミリア】を率いる神々に『インドラの槍』を示唆してまでイケロスの身柄を確保するように命令を出すのはどう考えても悪手でしかない

 

「それに、どうしてタケミカヅチまで………?」

 

しかもイケロスだけでなく、タケミカヅチの身柄も確保せよという命令に疑問を覚えるがふと、眷属に調べさせた人間のことを思い出す

 

「まさか………カルキ・ブラフマンか………?」

 

ほとんどの神々が混乱する中で笑う神々もいた。その神々は、混乱する【ヘスティア・ファミリア】の近くでニヤリと不敵な笑みを浮かべるソーマとガネーシャであり

 

「ヒヒヒッ、一体何が起きるってんだぁ?」

 

ダイダロス通りを見下ろす高い塔に陣取るイケロスと

 

「クハハハハハ!『インドラの槍』か!これはまた懐かしいのぉ!!」

 

『神の感』でメレンからオラリオに従者もつけずに勝手に入ってきたカーリー

 

「そうか……『インドラの槍』ヴァサヴィ・シャクティ、恐らくその槍を振るえるのはカルキ・ブラフマンか…………」

 

建物の上に立ち、眼下で「タケミカヅチ様!?」「さっきまで一緒にいたのに!?」と自分を探す眷属達を眺めながらタケミカヅチは凄絶な笑みを浮かべながら独り言ちる

 

「命、桜花、千草、お前達…………すまん、お前たちがいるオラリオでは暴れないと思っていたが、このオラリオであのインドラの槍を見られるというのならば、カルキ・ブラフマンがあの槍を使えるというのなら…………俺はその槍を振るう人間と闘ってみたい!!」

 

武神の本質には勝てんと一人で宣言するタケミカヅチは眷属達に背を向け、誰にも見つからないように逃走を始めるのだった

 




今更ですけど、もう原作にインド神話の神様出ませんよね??でたらこの話終わるんですけど………(震え声)

タケミカヅチ様はさっさと出頭してどうぞ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話

感想の方でオラリオ崩壊するのでは?っていうのがありましたが安心して下さい!!インドラの槍は真名解放しなければただの槍ですから!!ええ、何の問題もありませんとも!!


オデュッセウスの宝具………うん、あれは持ち帰っちゃう、パリス君は悪くないよ…………だってあんなの見たらテンション上がるよ………男の子だもん




ダンジョンに造られた人工物は『人工迷宮(クノックス)』という。始まりは千年前、今はギルドの主神であるウラノスが天界から下界に下りてきた際に初めて『恩恵』をその身に刻み、神の眷属となった人間の一人、名工……否、『奇人ダイダロス』、彼は『バベル』等のオラリオの礎となる建造物を建築した人間であったが、彼はダンジョンに入ったことで変わった、いや、『魅せられた』

 

ダンジョンの世界の最果てにある『大穴』にある『神秘』に、人の及ばない森羅万象が包まれた混沌の『美』に

 

そして、彼はこの『美』を超えようとした。『大穴』が円錐状に広がっているのならば自分の『作品』はそれを覆うように『凹型』に、道を誤り、常人には理解できぬ作品を作り『奇人』と嘲笑われ、人々のウラノスの前から消えた

 

────────人の手に余る領分であろうと知ったことか

 

────────必ずやそれを超克してみせる

 

────────神ですら至らぬ領域であるというのなら、まずは神を持超えてやろう

 

彼を動かすのは、最早、地下迷宮を超えるもう一つの『世界』を造るという執念だった。しかし、その執念は半ばでついえることになった。それは人間として当然の結末、そう彼にも決して避けられない『終わり』が寿命という『死』という終わりが来た

 

が、その男は最後にその執念を手記に残し、自身の名を冠する自身の血を継ぐまだ見ぬ子孫にある種の『呪い』として自身の執念を『妄執』として残した

 

そして彼の子孫たちは初代ダイダロスの妄執に『血の呪い』にとらわれ千年間誰にも気づかれない間に先祖の妄執の産物である『人口迷宮(クノックス)』を闇派閥(イヴィルス)の手を借りながら造り続けていたのである

 

***

「(先祖の妄執にとらわれ『獣の夢』にその身を任せる子孫か)」

 

先程侵入した人口迷宮(クノックス)の行き止まりらしき場所でダイダロスの子孫【イケロス・ファミリア】の団長ディックスの話を聞きながら隠れる場所がないので隠形の秘術を使いながらカルキは冷めた目で『獣の夢』にその身を任せる【イケロス・ファミリア】の団員達を眺める

 

「(まあ、初代ダイダロスには親近感を覚えるがな)」

 

人の身で至らない領域に辿り着こうと、神すら超克しようとしようとした執念はカルキ自身、今だあの神々に届かないであろう『武』を鍛えようとしているのである意味ではカルキと初代ダイダロスは同類である

 

が、初代ダイダロスはその執念を妄執に変え、子孫に呪いとして押し付けたとカルキは評した

 

「(だが、その果ては闇派閥(イヴィルス)と手を組み、オラリオの闇が潜む『悪の巣窟』となり果てるか………)」

 

カルキは芸術というものには疎い方であるが、自分が極めようとしている『武』と違い『美』とは他者に認められなければ無価値であろうにと嘆息する

 

「(挙句、子孫は『血の呪縛』に抗うことを止め、『獣の夢』にその身を任せ、醜き『獣』となり果てるか)」

 

ディックスの使った呪詛(カース)【フォベートール・ダイダロス】により、狂乱状態となり、暴れまわる異端児(ゼノス)、【イケロス・ファミリア】の団員と闘うフェルズ、そしてディックスと切り結ぶベルを眺めるのであった

 

***

『神ヘルメスが神イケロスの身柄を確保しました、近くにいる冒険者はギルド職員と共に神イケロスの身柄を神ヘルメスから引き取りに行ってください』

 

「やったああああああああ!」

 

「ナイス!ヘルメス!!」

 

「後はタケミカヅチだけだぁ!!」

 

ギルドからの放送の内容に神々は『ウオオオオオオオオオ!!』歓喜の声を上げる。『インドラの槍』がオラリオに顕現するかもしれないというとんでもない爆弾に普段ならばふざける神々が本気になり、神、冒険者、神から協力するように頼まれた民衆がタケミカヅチの捜索が行われている中

 

「うええっ!?全ての業務を中止してタケミカヅチ様の捜索ですかぁ!?」

 

「そ、そんな!ダンジョン内での『モンスターの大移動』については………!?」

 

「そうですよ!!それ『有翼のモンスター』の件だって………」

 

ギルド上層部……ウラノスの無茶苦茶な命令にギルドは大混乱に陥るが

 

「ええい!そんなことを私に言うなっ!!これはウラノス様からの命令だっ!!」

 

ギルド長ロイマンが一喝し、ギルド職員に的確な指示を出し

 

「ヘルン、今すぐにミアの所に行ってなんとしてでもミアとアーニャもタケミカヅチを探すように説得してきて」

 

「はい」

 

フレイヤは半脱退状態の元団長とその元団長が開いている店でウェイターをしている元団員まで呼び出すことを団員達の反対すら無視して言い

 

「フィン!闇派閥(イヴィルス)人口迷宮(クノックス)も今は無視や!とにかくタケミカヅチを探せぇ!!」

 

「わかったよ、ロキ」

 

『ダイダロス通り』にこっそり展開していた【ロキ・ファミリア】の団長であるフィンと合流したロキは今はタケミカヅチを探すように団員達に連絡するようにフィンに命令を出し

 

「あ、あれ?ソーマとガネーシャは!?」

 

「さ、さっきまで一緒だったのに………!」

 

「消えたぞ!?どうなってんだ!!」

 

「み、皆さん、おおおお落ち着いて、いい今はタケミカヅチ様を探さないと………!」

 

「はわわ………‥」

 

ギルドからの緊急放送でイケロスとタケミカヅチの身柄を確保するように通達が来てどういうことかと驚いていた【ヘスティア・ファミリア】の面々だったが、ふとソーマとガネーシャを見ると2柱は忽然と姿を消しており、更に困惑していた所に

 

『ヘスティア(様)!!』

 

「「命!!」」

 

「ヘファイストス!!」

 

「【ミアハ・ファミリア】の皆様!?」

 

「椿か!?」

 

「桜花殿!千草殿まで!!」

 

【ヘスティア・ファミリア】と合流したのは、自派閥の団長を連れたヘファイストス、【ミアハ・ファミリア】の面々、タケミカヅチを探していた【タケミカヅチ・ファミリア】の団員たちであった

 

「ヘファイストス、ミアハ、どうしてタケも捜索するようにウラノスが、それに『インドラの槍』ってどういう………」

 

「………タケミカヅチが神の力(アルカナム)を解放して闘う可能性があるからだ」

 

『!!?』

 

ミアハが苦い顔で説明するとその場にいた【ヘスティア・ファミリア】と【タケミカヅチ・ファミリア】、椿が驚くが

 

「で、でも、タケミカヅチ様は神の力(アルカナム)を封印されているのでは………?」

 

「いいや、春姫君、たぶん……ううん、間違いなくタケはそのルールを破る」

 

春姫が下界では神は力を封印していて一定量力を行使すると天界に還されるのではと下界の常識で問いかけるがヘスティアはそれを否定する

 

「ええ………間違いなくタケミカヅチは下界でのルールを破る………無理矢理ね」

 

「ある意味では『武神』らしいというか……………」

 

苦い顔で補足するヘファイストスとミアハに

 

「で、ですが!タケミカヅチ様がそんなことを………そんなことをするはずがありません!!」

 

幼い頃から苦楽を共にし、親のいない自分達に親代わりの様に接してくれたタケミカヅチの姿を知っている命の意見に【タケミカヅチ・ファミリア】の団員たちが頷くが

 

「……………普段であればな、だが、今のオラリオにはタケミカヅチにとって最高の『餌』がある」

 

「ええ……カルキ・ブラフマンという存在と『インドラの槍』が顕現する可能性………タケミカヅチが『家族』より『闘争』を選ぶには十分な理由よ」

 

「そ‥…んな………」

 

ミアハとヘファイストスの指摘に千草が泣きそうな声をだすが

 

「まあ、『武神』っていうのはそんなもんだぜ、自分と並ぶもしくは上回る実力のある神がいれば所かまわず周りの迷惑なんて顧みずに殺し合いを始める……ましてや自分に並ぶかもしれない実力を持つ人間なんて『武神』のタケから見れば最高の殺し合い相手だろうね」

 

ヘスティアのどこか達観した神としての意見に【ヘスティア・ファミリア】も【タケミカヅチ・ファミリア】、【ミアハ・ファミリア】も黙り込むことしか出来なかった

 

***

地上が大騒ぎになっている頃、人口迷宮(クノックス)では動きがあった

 

「(さあ、どうするベル?その竜女(ヴィーヴル)を殺すか?それとも己の意思を貫くか…………)」

 

ディックスの手により、額にある紅石を奪われ、人のような姿から、7(メドル)はあろう体躯となり、下半身は大蛇のように変形し、背中からは灰色の対の翼が生え、その瞳には理性のない獣の眼をした怪物の醜い姿となったウィーネに吹き飛ばされ、向き合うベルをカルキは見定めるように眺める

 

「(さあ、どうするベル?………その竜女(ヴィーヴル)()()()()()()()()()?)」

 

ベルはまだ気づいていないようだが、カルキはウィーネの唸り声が『ベル』と唸っており、本来、竜女(ヴィーヴル)は紅石を奪ったものを探して暴れるはずが、紅石を持っているディックスには襲い掛からず、今のウィーネはまるでそれよりも大切な何かを探すように、醜悪な姿になり果ててもベルを探している

 

「(ここまで来たのは成り行きだろう?ならば、今がお前の答えを出すその時だ)」

 

ウィーネに何度も吹き飛ばされても、それでもウィーネに近づこうとするベルをディックスや【イケロス・ファミリア】の団員は嘲笑い、フェルズは苦渋に染まった声を出すしかできない中、カルキはベルがどのような答えを出すか見守る

 

「……じょう……ぶ」

 

ウィーネの振り下ろした爪がベルを捕え、直撃を浴びたベルの体が沈み込むが、仲間(ヴェルフ)の鎧がウィーネの爪を止める

 

「………だい、じょうぶ、だよ?」

 

「(ほう………)」

 

ベルは、笑った

 

痛みに耐え、眼に涙を浮かべながら、カルキが見たウィーネの爪で傷ついた時の様に

 

『────────』

 

竜が震える

 

「僕は、いるよ……」

 

血を流すことも構わず、ベルは肩に食い込んだ爪を右手で握りしめ、その指を包み込む

 

「大丈夫だよ、ウィーネ………」

 

硬直した異形の躰を醜い顔をそっと胸に抱きよせる

 

『────────』

 

その光景にディックス、【イケロス・ファミリア】の団員、フェルズが立ちつくし、息をのみ、言葉を失う中

 

「ああ────やはり面白い」

 

カルキは思わず声を出し、笑った。

 

────────ならば一つベルに問わねばなるまい

 

錯乱したウィーネがベルを突き飛ばし、ベルが再びウィーネに駆け寄ろうとしたところを白けたとディックスがベルを襲い、ベルが咄嗟に回避しようと体を投げ出した瞬間

 

「では────ベル、お前に問おう」

 

「てめえは…………!」

 

「カ、カルキさん……?」

 

ディックスが突き出した槍の穂先を指一本で止めたカルキにディックスが戦慄し飛びのき、ベル、フェルズ、【イケロス・ファミリア】の団員が突然現れたカルキに呆然とするなか、カルキはベルに向き合い

 

「ベルよ、モンスターはモンスターだ、人間ではない…………ならばお前はモンスターを助ける義理を────────価値をどこに見出した?」

 

じっとベルを見つめ答えを聞こうとするカルキに呆然としていたベルはその双眼に光を宿し、カルキを真っ直ぐに見ると

 

「誰かを救うことに人間も『怪物』も関係ありません!!」

 

何処かベルを試そうとしているカルキにベルは決然とした眼差しで見返し

 

「助けを求めています!!」

 

それだけは救う事実であると吠え、言い放つ

 

「ただ────それで十分です!!」

 

これが他でもない自分の────ベル・クラネルという人間の意志であると吠えたベルに後ろでディックスが『偽善者』だの『兎ではなく蝙蝠』だのとベルを嘲笑するがカルキはその言葉をすべて無視し

 

「────────そうか」

 

そうどこか満足げにニヤリと笑った

 

***

「ぐわあああああっ!!」

 

「ぎゃあああああっ!!」

 

「お、お止め下さいっ!どうか!どうかぁあ!!ぎゃあっ!?」

 

冒険者とギルド職員の悲鳴が『ダイダロス通り』の一角に響き血だまりに沈み、彼等を襲った犯神は手についた彼らの血を舐めながら愚痴をこぼす

 

「チッ………加減はしてやっているというのに大げさじゃのう…………」

 

オラリオでも少ない第2級冒険者とギルド職員を襲ったのは勝手にオラリオに侵入したカーリーであった。カーリーが彼らを襲った理由はただ一つ…………そう、『ヘルメスが確保したイケロスの身柄をギルド本部に運んでいた』からである

 

「おいおい………闘国(テルスキュラ)の主神サマが俺に何の用だよ………」

 

カーリーがギルドに捕えられた自分を助ける理由が思い当たらないイケロスが口角をヒクヒクと動かしながら血に濡れた『闘争と殺戮』の女神に問いかけると

 

「決まっておろう?始まる『宴』の余興の準備じゃ」

 

カーリーの意味の分からない答えに「余興の準備だぁ…?」とイケロスが疑問に思うとカーリーはイケロスの右足に手を添えたかと思うと、太ももから下を引きちぎった

 

「ガッ………グアアァァァァァァァァァァッ!!?」

 

「クハハハッ!!決まっておろう!妾は『インドラの槍』が見たい!だがな……『インドラの槍』は真名解放しなければただの槍じゃ、それにインドラの奴が渡さなければ槍を見ることもかなわん」

 

「グッ……それが……それが俺と何の関係があるって………」

 

「なぁに………簡単なことよ、まずはお主をカルキに『不滅の刃』をブラフマーストラをもってこの下界から去らせる」

 

「なっ………!」

 

獰猛な笑みを浮かべながら言うカーリーにイケロスが驚愕しているとカーリーは続けて

 

「そうなれば間違いなくロキにフレイヤ……いいや、オラリオはカルキを脅威とみなし、何も知らぬ人間達はカルキに武器を向ける。そうなればのう?ただでさえロキとフレイヤが『最強』を名乗っていることに不満を持つインドラがカルキに武器を『インドラの槍』を授けるであろう?さらにはこのオラリオにいるタケミカヅチがカルキと一戦交えるではないか」

 

イケロスを見ず早口で語るカーリーにイケロスは恐怖し逃げようとするが、カーリーに左足を引きちぎられ移動できなくさせられる

 

「ああ……お主はそのための『贄』じゃ………ウラノスなどに渡すわけがなかろう?」

 

ニタァと笑いかけるカーリーに対して

 

「ヘルメス!ヘスティア!ウラノス!ヘファイストス!た、助けてくれ…………頼む……誰か誰かああああああ!」

 

「ヒヒヒッ………ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」

 

イケロスの助けを求める声はカーリーの笑い声に消され2柱は『ダイダロス通り』の闇に消えるのであった

 

 




あれ?なんかカーリーが勝手に動いてる…………あっれぇー?

くどいですが、インドラの槍は真名解放しなければただの槍





CBCのアルジュナピックアップ……最後のインド鯖を必ず引いてみせる!(アルジュナだけいないカルデア)

-追記-
アルジュナ来ました………これでインド鯖が全部揃った



次回『ある晴れたオラリオで極東の武神とイチャイチャした』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話

次回予告でタケミカヅチとイチャイチャするといったな………あれは嘘だ



期待している方がいるかどうか分かりませんがすみません!!どうしても書きたいことが多くて文量が増えたからキリの良いところで切ります

本当にごめんなさい!!許してください、なんでもしま(ry




「『人も怪物も助けを求めているなら助ける』か………ならばそれを例え他人から非難されようと笑われようと曲げるなよベル」

 

何故モンスターを助けるのかというベルの答えに「面白い」と笑うカルキはベルにその思いを貫いてみせろと語り、ディックス達【イケロス・ファミリア】に向き合うとディックスや【イケロス・ファミリア】の団員達はカルキに怯え生唾を飲むが

 

「しかし、【イケロス・ファミリア】を間引けとガネーシャ神から言われたが………ここで自分が手を下すのは無粋だな」

 

「は?何言って………」

 

『オオオオオオオオオオオオッ!』

 

雄黄の眼から涙を流し、ベルに謝罪と感謝の言葉を絞り出した蜥蜴人(リザードマン)はディックスに向き合うとモンスターの咆哮を上げ襲い掛かり、蜥蜴人(リザードマン)以外の異端児(ゼノス)達も今だ呪詛(カース)にかかったままであるが、【イケロス・ファミリア】の団員達へと襲い掛かっていく

 

「どうやら、お前の意思が届いたようだな………お前はどうする、ベル?」

 

「ッ!」

 

混沌となる人工迷宮(クノックス)部屋(ルーム)を眺めながら膝をついているベルに声を掛けるとベルは立ち上がり、蜥蜴人(リザードマン)の後に続いてディックスに向かっていく

 

「誰も進まず、停滞している状況で誰よりも早く飛び出し、諸人を己が意図せずとも動かす………‥それもある意味では『英雄』たる者の素質か」

 

それが今回は『人』ではなく『モンスター』だったというだけのことかとカルキは蜥蜴人(リザードマン)と共に『悪』を倒そうとするベルを眺めながら嗤った

 

***

「で?『インドラの槍』とは何なのだ、主神殿?」

 

タケミカヅチを『ダイダロス通り』で見かけたという情報を得たヘスティア、ミアハ、ヘファイストスは団員を率いタケミカヅチを探していたところ、【ヘファイストス・ファミリア】の団長である椿がヘファイストスに尋ね、他の者達も同じ気持ちなのか神々を見る

 

「………一言で言うなら天界に存在する神造武器の一つよ」

 

椿からの質問に観念したかのようにヘファイストスが答え

 

「天界で『神々の王』、『最強の武神』と称され恐れられる武神インドラが持つ槍……手にした者に勝利の加護を与え、真名解放すれば、神を消滅させ、世界を焼き払う天界最強を謳われる豪槍だ」

 

それ故に神々はこのオラリオに『インドラの槍』が顕現することを恐れているのだとミアハが補足する

 

「で、でも、どうしてタケミカヅチ様がカルキ様と闘おうとするんですか?」

 

その槍とタケミカヅチが結びつかないとリリが聞くが

 

「………その槍の真名解放をカルキ君が出来る可能性があるからさ」

 

『!!?』

 

人間が神の武器である神造武器を使うという前代未聞の異常事態(イレギュラー)に聞いていた誰もが驚愕する

 

「だから……だから早くタケを見つけなきゃ」

 

そう真剣な顔をしてヘスティアの呟いた言葉は『ダイダロス通り』に吸い込まれていった

 

 

「チッ………これでは準備運動にもならんな………」

 

『ダイダロス通り』の路地裏、刀で肩を叩きながらポツリと呟きながら佇むタケミカヅチの足元には20名近くの冒険者が倒れ伏していた

 

「しかし、やはり第一級冒険者といえこの程度、所詮強者といっても人間の範疇でしかないな」

 

そう言って右足でタケミカヅチが転がすのは【女神の戦車(ヴァナ・フレイヤ)】アレン・フローメルを含む獣人を中心とした【フレイヤ・ファミリア】の斥候部隊であった

 

彼らはフレイヤからイケロス及びタケミカヅチ捜索の命令を受け、『ダイダロス通り』をしらみつぶしに捜索していたところを隠形で姿を消していたタケミカヅチに奇襲されたのである

 

「……………」

 

彼らは誰一人血を流しておらず力なく倒れ伏しており、タケミカヅチが峰打ちだけで彼らを制圧したことを物語っていた

 

「ああ────────カルキ・ブラフマンとの闘争が愉しみだ」

 

そう言い残してタケミカヅチが姿を消した数分後、フレイヤを含む【フレイヤ・ファミリア】の本隊が倒れ伏すアレン達を見つけるのであった

 

***

「…………随分早く終わったな」

 

あっさりと終わった【イケロス・ファミリア】と異端児(ゼノス)の戦いに拍子抜けしたようにカルキが呟きながら、足元に来た【イケロス・ファミリア】が使っていた呪道具(カースウェポン)を拾い上げる

 

結果的には【イケロス・ファミリア】は異端児(ゼノス)達に1分も経たずに塵殺され、一人だけ逃げようとして這いずっていた男はカルキが床を蹴り砕き、散弾のように飛ばして絶命させた。団長であるディックスはベルの一撃を受けて異端児(ゼノス)を閉じ込めていた黒檻に吹っ飛ばされていた

 

「がっっ、あ…………痛ええええええええええええ……………!?」

 

が、どうやらまだ息があるらしい、仕留めそこなったベルに詰めが甘いと少し呆れつつも眺めていると、蜥蜴人(リザードマン)がとどめを刺そうとし、ベルが紅石を取り返そうと参戦し、逃げ惑うことしか出来ないディックスがニヤリと笑うと

 

「────────壊れちまうぜ?」

 

「「ッ!?」」

 

そう言って紅石を懐から取り出すとベル達に突き出し、ベル達は攻撃を中断せざるを得なくなる

 

「そんなに大事か?な…‥‥」

 

『ッ!!?』

 

「はぁ………」

 

紅石を縦穴に投げ込もうとしたディックスだったが、最後まで言うことは出来ず、右腕だけ残してビシャッと子気味いい音を残して辺り一面にぶちまけた血だけを残して消滅し、轟音と共にディックスの後ろにあった超硬金属(アダマンタイト)製の『扉』が崩れる

 

その光景に絶句していたベル、異端児(ゼノス)、フェルズが恐る恐るそのあり得ない光景を引き起こしたであろう人物の方を見ると、拾い上げた呪道具(カースウェポン)を投擲したカルキがため息をついていた

 

「(なんだ……この男は…‥……)」

 

フェルズは内心、このカルキ・ブラフマンという男の底知れぬ実力に恐怖を抱いていた

 

「(ウラノスを驚愕させる神々を知っているだけでなく、なんだこれは………この『扉』は超硬金属(アダマンタイト)製だ……それをただの投擲で壊すなど………そんなことが、そんなことを出来る人間がいるはずがない!!)」

 

しかも、この男はまるでこの程度は簡単にできるといわんばかりの雰囲気を出しており、数百年生きた屍となった自分が見てきた、かつての『最強』、【ヘラ・ファミリア】と【ゼウス・ファミリア】にいたレベル9とレベル8の冒険者すら霞む実力を有していると直感し、現在のオラリオにいや、現在と過去の世界に彼に勝てる人間はいないと戦慄する

 

その場にいるカルキ以外の存在がカルキの埒外の実力を見せつけられ固まっていると

 

『────────アアアアアァ!!』

 

突如叫び声を上げたウィーネが暴れだし、まるで何かを恐れるように何かから逃げるように暴れだす

 

「む………どうやら、あの男の飛び跳ねた血があの竜女(ヴィーヴル)心的外傷(トラウマ)を刺激したらしい」

 

「いや!カルキさん、そんな冷静に分析してる場合じゃ………!」

 

「クッ……リド、グロス、ウィーネを止める!手伝ってくれ」

 

『落ち着け!ウィーネ!!』

 

ベルとフェルズ、異端児(ゼノス)が錯乱したウィーネを落ち着かせようとするが、ウィーネはベルでさえ近づくと恐怖で暴れ、更にはカルキが壊した『扉』に向かって行ってしまう

 

「待って!ウィーネ!?」

 

「────────不味い!?リド、グロス、ここは任せた!!」

 

床に落ちた紅石を拾い、ベルがウィーネを追いかけ、それを見たフェルズがその後を追い、通路に飛び込んでいく。異端児(ゼノス)達はここに残るものとベル達を追うものと呪盾に分かれる中、カルキは彼らを追わず

 

「────────それは一体どういう意味でしょうか」

 

そう呆然と呟いた後、彼等を追って通路に走っていくのであった

 

***

「あーっ!もう、タケの奴は何処に行ったんだっ!?」

 

『ダイダロス通り』にヘスティアの叫びが響く

 

「たぶんですが……タケミカヅチ様は隠形を使っているかと………」

 

「うん、タケミカヅチ様………隠形使ったら私達見つけられないから………」

 

ヘスティアの叫びに命と千草が答え、「そうなのか?」とヴェルフ達が桜花に聞くと桜花は頷き肯定する

 

「これは………本当にタケミカヅチはオラリオのことなど考えずに戦うつもりだな」

 

「ええ………こんなに自己中心的な武神はインドラだけで十分なのに」

 

そう話していると

 

「む────?」

 

最初に気付いたのは椿

 

「────────!」

 

『今のは?』

 

次に気付いたのはレベル2のヴェルフ、命、桜花、千草、ダフネ、カサンドラ、ナァーザ

 

『!』

 

最後に耳をピンと立たせた獣人に化けたリリと春姫が反応すると、人々の悲鳴がはっきりと聞こえる

 

「今のは!?」

 

「とにかく向かうぞ!遅れるなよ!!」

 

何事かと声を上げると椿が先行し、他の者達は遅れないように走りだす。逃げてくる人々とすれ違いながら、流れの元に急行すると

 

「なっ……!?」

 

「モンスター………!」

 

「こんな時にか………っ!」

 

ダフネとカサンドラ、桜花がモンスターが地上にいることに驚愕し、

 

「しかも竜女(ヴィーヴル)とはな………」

 

『『────────ッツ!?』』

 

主神を守るべく素早く抜刀し、構える椿の呟いた言葉にヘスティア、命、ヴェルフ、リリ、春姫、ヘファイストス、ミアハが驚愕する

 

『────────アアアアアアアァッ!』

 

「いかんっ!?」

 

「ミアハ様っ!」

 

こちらを見るなり突っ込んできた竜女(ヴィーヴル)にいち早く反応した椿がヘファイストスを守り、ナァーザが悲鳴を上げる中、竜女(ヴィーヴル)は真っ直ぐに春姫へと向かう

 

「「「春姫(殿)(ちゃん)!!」」」

 

桜花、命、千草が反応の遅れた春姫の身を案じ叫ぶが

 

「ウィーネ様………?」

 

押し倒された狐人(ルナール)の、竜の娘と誰よりも長く触れあった少女はその醜悪なモンスターがウィーネだと確信し、その変わり果てた姿に翠の双眼に涙を浮かべる

 

「────────ウィーネッ!!」

 

そして、さらに暴れようとするウィーネから春姫をかばいベルが飛び込んできた

 

***

「ほう……これは………」

 

カルキが通路を通り、地上に戻った時、やたら騒がしい一角があったので、建物の屋上に飛び移り、移動してみると、そこには

 

槍に縫い付けられた竜女(ヴィーヴル)、その前に立つベル、【フレイヤ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】の幹部たちとその主神をはじめとしてオラリオ全ての【ファミリア】の冒険者とその主神、そしてほぼ全ての民衆が、ギルド職員が向かい合っていた

 

「さあ……どうするベル?他者の評価を気にして『人工の英雄』になるか、『名誉』や『名声』などいらないと『人工の英雄』の椅子など座らないと蹴り飛ばし、己の意思を貫き通す『真の英雄』の『器』となるか…………」

 

ニヤリと笑ってカルキが見ていると、ベルはモンスターを背にし、オラリオに冒険者に対峙した

 

「────────ああ、どうか照覧あれ、ヴィシュヌ神よ………時代を担う英雄になれるかは今だ未知数ですが、少なくともベル・クラネルは『英雄』の『器』だと、このカルキ・ブラフマンが認めましょう」

 

それを見てカルキは天界にいるヴィシュヌに手を広げ報告していると、どうやらウィーネは槍の拘束を解き、ベルは追いかけ、異端児(ゼノス)は冒険者達の足止めをしようと理性のないふりをしながら冒険者達に襲い掛かっていた

 

「しかし、あの状態ではすぐに終わろう………む?」

 

カルキの見立て通り、【フレイヤ・ファミリア】は参加していないようだが、いくら異端児(ゼノス)が《強化種》であるとはいえ、多勢に無勢、どうやら【ロキ・ファミリア】やギルドは討伐ではなく捕獲をしているようであるが10分も経たぬうちに半数が捕獲され、フェルズの作った人形兵(ゴーレム)も破壊され、もう少しで終わろうかとしていたところに

 

『ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

雄たけびを上げながら武装した漆黒の猛牛(ミノタウロス)が現れ、冒険者を蹴散らしていき、【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者達と闘い始めるのを眺める

 

「『強烈な憧憬』を持ったモンスターが異端児(ゼノス)となるか」

 

カルキはあの漆黒のミノタウロスがかつてベルが倒したミノタウロスだと気付いた

 

「『器』を示したベルへの褒美にちょうどいいか………」

 

そう呟いたカルキは建物から飛び降り、ミノタウロスへと向かう

 

***

「ふむ………そのミノタウロス、お前らに殺させるわけにはいかないな」

 

戦場に何故か通った男の声に、その場にいる誰もが反応し、神も、人間もモンスターでさえもその男を見る

 

神々のうち、ヘスティア等のカルキの背後にいる神々を知っている神は顔を青ざめ、何も知らない神は「まーたイキリ発言かよ」と第一級冒険者に勝てるはずがないとニヤニヤと笑い、ごく一部の神は「ようやく来たか」と狂喜する

 

【ロキ・ファミリア】の一部と集まったオラリオの民衆からはカルキに対して先ほどベルに向けられた敵意と害意が向けられるが、向けられている当の本人は全く気にした様子もなく

 

「ああ、気にするな、別に自分が殺そうというわけでも見逃すわけでもない………ただ、褒美にはちょうどいいと思い、つまらん奴らと戦わせるより良いと判断しただけだ」

 

ロキ・フレイヤの第一級冒険者を「つまらない奴ら」と評したカルキに両【ファミリア】から殺気が向けられるが

 

「当然だろう?『英雄の器』たる者と復讐に囚われた阿呆、『武人』の本質もわからぬ愚者、『美の神』に陶酔し、己が最も大切にしなければならないモノを失う馬鹿共に『名誉』と『名声』を求めるだけの紛い物…………どちらを尊ぶかなど考えずとも分かる事だ」

 

当たり前のことを言わせるなと言外に言うカルキに民衆や冒険者達から、「調子に乗るな!」とか「お前なんかあっという間に殺されちまえ」などの罵声が飛ぶ中

 

「フレイヤ・ロキの【ファミリア】が()()なんだよ!!」

 

その言葉を名も知らぬ者が発した瞬間、カルキは反応し

 

「ああ………先ほど『槍を授ける』と仰ったのは、このためですか────────インドラ神よ」

 

『ッツ!?』

 

カルキが言った神の名に神々が顔を強張らせたその時、オラリオの東区画に空からナニカが落ちて東区画が消滅する。その光景に神も人も絶句するが、カルキが右手を突き出すと、その落ちてきたナニカは幾何学模様を描きながら飛び、カルキの手に収まる

 

「クハハハ!懐かしい、懐かしいのォ!!」

 

「ほう………やはり素晴らしいな」

 

「見事なものだ…………さて神酒の用意をしなければな」

 

「ああ────────これは滾る、早く戦いたいものだ」

 

カルキが手にしているのは天にいる神の一柱、その配下の神を従える姿から『神々の王』と称えられる最強の武神が所有する漆黒の刀身をした身の丈を超す大槍、真名解放すれば神を消滅させ、世界を焼き払う天界屈指の威力を誇る神造武器

 

「『インドラの槍』……………」

 

オラリオにいる神々のうち、その槍を見て歓喜するのは4柱のみ、男の実力に気付いていた神々は最悪の事態に唇をかみ、男を嘲笑っていた神々は男の異様さに気付かされ戦慄する

 

カサンドラが見た『予知夢』が実現しようとしていた

 




次回こそタケミカヅチとのラブラブデートです

いや、本当に…………



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43話

戦闘描写が書けないことを悩む………これでええかな?


どこかで躍らせたいがどこで躍らせたらいいのかが分からないジレンマよ…………


「東区画が消滅した!?」

 

「ひ、被害は………?」

 

「恐らく、助かった者は誰も………!」

 

「馬鹿な!?東区画には万に近い人々が住んでいるんだぞ!?」

 

ギルド本部では突然の事態に混乱していた

 

「一体どうなっている!?私の、私のオラリオが」

 

「落ち着け、ロイマン」

 

『!?』

 

騒ぎ立てるロイマンを一言で静めた存在にギルドにいる誰もが驚愕する。なぜなら、そこにいるのは本来、『祈祷の間』でダンジョンへの祈祷を行い、その絶大な神威でモンスターの地上進出を防いでいるギルドの主神ウラノスだったからだ

 

「最早、これ以上の被害を出さないためには私も出るしかあるまい、今すぐにオラリオ全体へ戒厳令を出せ、それから東、西、南区画を放棄、全ての冒険者・民衆を北区画へ避難させ神々の『神の力(アルカナム)』を解放する許可も出し、障壁を造るように通達しろ………急げ」

 

ウラノスからの命令に「はっ」とギルド職員達は答え、直ぐに蜘蛛の子を散らすように動き始める

 

「こうなった以上、どこまで被害を押さえられるか………」

 

そう呟いたウラノスは『ダイダロス通り』に向かって走り出した

 

***

「嘘だろ………」

 

「あのイキリ野郎、人間の姿をした化物じゃねえか………っ!」

 

「それは人間が使っていいもんじゃねえよ………!」

 

『インドラの槍』を持つカルキを目にした神々はザワザワと騒ぎ、冷や汗をかく。今まで「常識のないイキリ野郎」と馬鹿にし、いくらレベル2を含む冒険者を100名殺したとはいえ、第一級冒険者、しかもフレイヤ・ロキの両【ファミリア】にケンカを売る真似をしたのを見て、「あーあ、自分が強いって勘違いしちゃったわけねー、プー、クスクスw」と嘲笑ったら、その「イキリ野郎」が神造武器を使うという『下界の未知』という言葉では片づけられない異常事態(イレギュラー)に戦慄し

 

「まさか、あの槍を本当に下界で見ることになるなんてね………」

 

「おいおい……マジで闇派閥(イヴィルス)も地下勢力も可愛く見えちまうぜこれじゃ」

 

フレイヤとヘルメスは頬を引きつらせながら何とか笑い

 

「何ということだ………っ!」

 

「ねぇ、ヘファイストス……もしも君の『盾』があったら止められるかな?」

 

「一回だけなら防げるけど2発目は無理よ………」

 

最悪の状況になってしまった事にミアハは顔を歪め、ヘスティアはヘファイストスが天界で造った『世界を内包する盾』ならば止められるかどうか聞くが一回だけという答えが返ってくる

 

「あの人間、よりにもよってインドラと繋がっとたか………っ!」

 

ヘルメスから送られてきた密書でカルキが『リグ・ヴェーダ』の神々の誰かとつながっていることを知っていたロキは双眼を見開き、苦渋の表情を浮かべる

 

「………ロキ……あの槍は……アレは……何だ……‥?」

 

そのロキにどうにかという様子でフィンが尋ねる。が、その様子は普段の余裕のある冷静な【ロキ・ファミリア】の団長の姿ではなく、冷や汗をかき、恐怖になんとか耐えている姿であった

 

が、それは彼だけではなくリヴェリアやガレス、アイズ、ベート、ティオネ、ティオナ達【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者だけでなく、オッタル、ガリバー兄弟、ヘグニ、ヘディン、主神の命令で一時的に前線に戻って来たミアといった、今だ戦線に復帰していないアレンを除いた【フレイヤ・ファミリア】の第一級冒険者の面々でさえ、フィンと同じ様子であり、他の冒険者や民衆は恐怖で指一本動かせない有様であった

 

彼らが見るのはカルキが手にしている一本の大槍、槍から放たれる神威は人々を圧倒し、万人を押し黙らせ、その槍の前では下界にある、ありとあらゆる武器は小枝同然であり、防具は薄っぺらい紙で出来ていると錯覚させるほどの威容であった

 

「………………」

 

『ッツ!?』

 

その槍をカルキは軽々と片手で持ち上げ、上段までもっていき、ピタリと止める

 

「ッ!皆!逃げ……!!」

 

次にカルキが何をするのか気付いたヘスティアが叫ぶが、それよりも早くカルキが槍を振り下ろし、槍から放たれた斬撃が走り、フレイヤ・ロキの【ファミリア】が最強だと叫んだ人間とその人間の言葉に同調した民衆が斬撃に呑まれ、肉片も血痕も残さず消し飛び、咄嗟に神々は下界で許される神の力(アルカナム)を解放し、眷属や民衆を守ろうとするが、斬撃の衝撃だけで嵐の中木の葉が舞うように吹き飛ばされた

 

***

「フィン……ガレス………リヴェリア………ロキ………皆………?」

 

瓦礫の山となった『ダイダロス通り』の一角で呆然と辺りを見回し、血を流しながらアイズは呟く

 

「そ…‥んな…………」

 

辺りの建物は全て倒壊していて、土煙の隙間からは、神が天界に送還された際に出る光の柱が立ち、斬撃の跡が地面に残り、斬撃は北区画と北の城壁まで切り裂き、遠くにあるベオル山脈の山の一つが真っ二つにしていることが確認できた

 

「アイズ、無事やったか!」

 

「ロキ!?」

 

喜んだロキの声が聞こえ、そちらを振り向くと両手から血を流したロキと満身創痍の【ロキ・ファミリア】の満面が現れ、一応は無事だったことをアイズは喜ぶ

 

 

「許されるギリギリで衝撃を逸らせるのが精一杯ね……」

 

下界で許されるギリギリの神の力(アルカナム)を使用したフレイヤは息を上げながら、地面に座り込む

 

「フレイヤ様!」

 

その姿にオッタル達が駆け寄り、フレイヤを気遣うが、フレイヤは右手で彼らを制し、

 

「今は、生き延びることだけを考えなさい、あれはただの振り下ろし、次は『技』も使って狙ってくる可能性があるわ」

 

今まで見せたことのない真剣な顔のフレイヤにオッタル達だけでなく、ミアでさえ顔を険しくし、「はっ!」と返事をし、周囲の警戒をする

 

 

「ミアハ、ヘファイストス、皆、大丈夫かい!?」

 

咄嗟にロキやフレイヤの様に神の力(アルカナム)を限界まで解放して、()()()()()()()()()()()()()()ヘスティアが慌てて聞くと「なんとか………」と放心状態のミアハ・ヘスティア・ヘファイストス【ファミリア】の面々が答える

 

「は、初めてヘスティア様を敬おうと思いましたよ………」

 

「むっ、どういう意味だい!?サポーター君!!」

 

『不滅』を司る女神は伊達じゃないだぞぅとこんな状況にもかかわらず、竈の女神は普段通りであった

 

***

「さて……これからどうするか………」

 

左手で口を隠しながらカルキは思案する

 

「既に異端児(ゼノス)は賢者と共にどこかへ行ったし、ロキとフレイヤ【ファミリア】を『最強』だと言った者は消したから後はロキ神とフレイヤ神を天界に還せば最小限の犠牲で済むが………気が乗らんな」

 

フレイヤとロキを天界に還そうとすれば、天界に還すことを阻止しようとする眷属達と闘うことは誰でも予想できるが、戦えばカルキとの実力と武器の差で一方的どころか弱い者いじめになる。それは興が乗らないとため息をつく

 

が、このままインドラを不機嫌にしたままではオラリオにヴァジュラが飛んでくる。そうすれば待っているのはオラリオ崩壊どころの騒ぎではない

 

「いっそ、インドラ神に剣舞でも捧げるか………?」

 

「いいや、その必要はないぞ」

 

思わず出た独り言に答えた存在は髪を角髪にし、腰に刀を差した男神であった

 

***

「こ、今度は何だ!?」

 

突然晴れていた空が雷雲に覆われ、暗くなったオラリオの空を見上げ、誰かが悲鳴を上げ、人々は呆然と空を見上げる

 

「タケ………」

 

その雷雲の正体は、カルキと向かい合うタケミカヅチから漏れ出た神威の影響であると、唯一、その場から動かなかったヘスティア達だけが認識していた

 

「あ、あれが本当にタケミカヅチ様なのですか………?」

 

そう命が呟くがヘスティア、ミアハ、ヘファイストスは無理もないだろうと思う、今のタケミカヅチからは普段の快活な雰囲気はなく、飢えた獣のような雰囲気を纏っていた

 

「初めましてとでも言おうか、カルキ・ブラフマンよ」

 

「インドラ神以外の雷を司る武神……貴神がタケミカヅチ神ですか、話はインドラ神から聞いております」

 

どこか和やかに、しかし、その間には濃密な殺気と闘気が充満し、近くにいるはずのヘスティア達は圧倒され、カルキとタケミカヅチの間に入れない

 

「それで、自分に何用でしょうか?」

 

「ああ、なに、一つ提案があるのだ」

 

「………ほう?」

 

タケミカヅチの言葉にカルキだけでなくヘスティア達も疑問に思う中、タケミカヅチは嗤い

 

「なに簡単なことだ────今から闘争でもどうだ?」

 

『ッツ!!?』

 

「タケミカヅチ!!」

 

タケミカヅチの『提案』に固まるヘスティア達とギルド本部から到着したウラノスが怒るが、タケミカヅチは鼻で笑いながら

 

「おいおい、ウラノス、俺はこのオラリオを守るために『提案』したんだぞ?このままインドラを不機嫌にしたままではオラリオにヴァジュラを投げ込むだろう……そうなればこれ以上の被害が『世界』に出る、それは避けねばなるまい?」

 

「そ、それは……」

 

「それにな、犠牲を最小限にとどめるにはフレイヤとロキの首とその眷属を塵殺することだが、たかがあの程度の連中に神造武器を使うのは(武神である自分)が惜しい、カルキ・ブラフマンも不本意だろう………ならば俺とカルキ・ブラフマンの闘争でインドラを満足させるのが一番だ」

 

一見、カルキを気遣っているように聞こえる意見であるが武神をよく知るウラノス、ヘスティア、ミアハ、ヘファイストスはその魂胆を見抜いていた

 

『それはただお前(タケミカヅチ)が戦いたいだけだろう』と

 

それをタケミカヅチにぶつけてやろうとヘファイストスが思った瞬間

 

「クハハハ!良いではないか!先ほど、うっかりイケロスを殺してしまったから暇でな、その『提案』受けてやれカルキ」

 

「ああ!極東の『技』俺も久しぶりに見てみたいものだ!!」

 

「やるならば早くしろ『戦争』や『稽古』であるならば夜まで打ち合うが『闘争』は日が出ている間だけだ………」

 

「カーリー、ガネーシャ、ソーマ…………」

 

背後から3柱が音もなく現れ、タケミカヅチとカルキの『闘争』が心底楽しみだと笑う

 

「確かに自分もインドラ神より聞いている極東の『技』ぜひ見てみたい、それにフレイヤ・ロキの眷属を塵殺するのも気が乗らない………その『提案』受けましょう」

 

そう言うなやいなや笑みを浮かべながら槍を構えるカルキにタケミカヅチも獰猛に笑い、角髪を束ねていた紐が千切れ、長い髪を振り乱し、刀を抜き、自然体で構える

 

「では────我が名はカルキ・ブラフマン、人の身で天界へと至り、偉大なる『リグ・ヴェーダ』の神々に弟子入りし磨いた我が『武』を極東の武神にぶつけよう!!」

 

「いいだろう!カルキ・ブラフマン!我が名はタケミカヅチ!極東『タカアマノハラもしくはタカマノハラ・タカマガハラ』の『雷』を司る『武神』なり!!」

 

「いざ────────参る!」

 

「来い!!」

 

次の瞬間、カルキとタケミカヅチの姿は掻き消え、カルキの振り下ろした槍とタケミカヅチが振り上げた刀がぶつかり合った轟音と衝撃がオラリオを襲った

 

***

「おい!あれ!!」

 

「嘘だろ………」

 

「なんだよこれは………」

 

オラリオを轟音と衝撃が襲う前、突然暗くなった空に『ダイダロス通り』から吹き飛ばされ、命からがら助かった誰もが呆然としていると、ギルド職員が慌ててウラノスからの通達を伝えると「西と南区画の放棄!?」と動揺が走るが

 

「ッツ!伏せろぉ!!」

 

緊迫した神の声がした瞬間、轟音と衝撃がオラリオを襲い、地面に伏せた人々が恐る恐る顔を上げると、目に飛び込んできたのは、空を追う分厚い雷雲と地面が割れ、あれほどにぎわっていた大通りの建物が次々と倒壊していく様子だった

 

「あ……ああ………」

 

「み、南区画が…………」

 

建物が倒壊したせいで見通しが良くなり、人々の眼には東区画に続き南区画が崩壊したことが映り、その崩壊した南区画で激しくぶつかりあう大槍を振るう者と長い髪を振り乱しながら刀を振るう2つの人影が映る

 

「もう終わりだ…………」

 

そう誰かが力なく呟いた言葉は再び響いた轟音にかき消された

 

***

「(これが……これが極東の『技』か!!」

 

タケミカヅチと打ち合いながらカルキは震え口角が上がる

 

「(インドラ神やスガンダ神から『極東の技は見てると頭がおかしくなる』と聞き及んでいたが、まさか一つの斬撃に三つの斬撃を内包し、全て同時に放つとは!!)」

 

しかもその全てが急所狙いの一撃必殺、当たればいくらアムリタを飲んだカルキでも一撃でも貰えば天界送りは間違いない。更にタケミカヅチは、一瞬で消える踏み込み────次元跳躍を使用した『突き』や、一瞬で納刀したかと思うと、すぐさま自分の首筋に全く軌道の見えない超神速の抜刀術を放ち、カルキはどうにかその技を受け止めていた

 

「(ならば)────────(アグニ)よ!」

 

「!」

 

カルキが槍に炎を纏わせ、威力を底上げさせた一撃をタケミカヅチが防ごうと構えた刀とぶつかり

 

「────ォオオオオッ!」

 

「!?」

 

カルキが咆哮し、タケミカヅチを吹き飛ばす。そしてカルキはすぐに『奥儀』を放つべく右手で顔を覆い

 

「極東の武神の『技』に神々より授かりし『奥儀』で応えよう、ブラフマーストラ!!」

 

37階層でジャガーノートを消滅させたときの様にカルキの眼から光線が放たれ、その光線は崩壊していた南区画を襲い、南区画にある瓦礫を爆発させ跡形もなく吹き飛ばす

 

「………やはり立つか………」

 

が、カルキの眼に映っているのは、左腕を炭化させ、全身がボロボロになりながらも獰猛な笑みを浮かべる武神の姿、一瞬だけ天界に還る光が上りかけるが、タケミカヅチの気合一つで光は霧散し、無傷のタケミカヅチが現れる

 

「ああ────出来ることなら…………」

 

そう惜しむように呟いたカルキは槍を持ち直し、再び極東の武神と打ち合うべく踏み込んだ

 

 




次はタケミカヅチ視点とインド神視点かな………?



いかん、これ終わった後に踊らせてもギャグみたいにしかならん、どうしよう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44話

実は前回、ゼノスが賢者と共にどこかに行ったとカルキが言っていますが、アレはただゼノス達も吹き飛ばされただけです


戦闘描写が短いのはご愛敬ってことで一つ!!お願いします何でも(ry




────────愉しい

 

目の前の人間と打ち合いながら武神は嗤う

 

確かに自分の眷属の成長を見守り、彼等が強くなっていく姿を見ることも、強くなるために自分が稽古をつけている時間もかけがえのない大切な何物にも代えがたい楽しい時間だ

 

だが、今はその時間とは違う愉しい時間だ

 

「ああ────素晴らしい」

 

カルキの放った『奥儀』を()()()()()()()()()()真正面から受けつつ嗤う。まさかあの神々の『奥儀』を下界で、しかも人間が使うことを見る日が来るとは思わなかった

 

「フ……フハハハハハハハハ!!」

 

左手は炭化した、全身も『奥儀』を真正面で受け止めた代償にボロボロになったが、神の力(アルカナム)を使い治そうとすれば、神々が定めた規則(ルール)にのっとり、天界に送還すべく自らの体から光の粒子が出るが

 

「こんな愉しい時の邪魔をするな!」

 

そう一喝し、光を霧散させる

 

「これは『戦争』ではなく『闘争』………ならば、日輪が地の陰に隠れはじめるるまで心ゆくまで打ち(殺し)合おうではないか!」

 

こちらに槍を持って飛翔するかのように向かってくる人間(カルキ・ブラフマン)を獰猛な笑みを浮かべながら極東の武神(タケミカヅチ)は迎え撃つ

 

凄絶な笑みを浮かべる人間と神が互いの得物をぶつけ合うと同時に更地となった南区画がさらに吹き飛ばされた

 

***

「ク、フフフ………フハハハハハ!良い、まさか下界でこれほどの『闘争』を見られるとは思わなんだ!!」

 

目の前で繰り広げられる『闘争』に比べれば、闘国(テルスキュラ)で行い港街(メレン)で行ったカリフ姉妹とヒュリテ姉妹との『儀式』なぞ児戯に等しいとカーリーは嗤う

 

「ああ………これは良き『闘争』だ、俺の『神酒(さけ)』もいつも以上に美味に感じる………」

 

普段は出し渋る神酒の入った酒瓶を次々空にして足元に転がすソーマは満足げに頷く

 

「それにしても、ガネーシャはさっきから随分静かじゃの?」

 

「………………」

 

やはり『群集の主』であるガネーシャにこの光景は愉しめるものではなかったかとカーリーが横目でガネーシャを見ると、何かに耐えるようにガネーシャは俯き、震えているのを見て自分の考えは間違っていたかとカーリーは苦笑し、ソーマはどこか呆れたように嘆息する

 

「ガネーシャ分かっておるじゃろうが…………」

 

「ああ……分かっている………」

 

そう、ガネーシャはカルキとタケミカヅチの『闘争』によって崩壊していくオラリオの街並みを見て怒りを堪えているから震えている────────訳ではない

 

「ああ────俺も立場やしがらみを捨ててあの『闘争』に入れればどれ程愉しいだろうか」

 

カルキとタケミカヅチの『闘争』を眺めながらポツリと呟いたガネーシャの顔はカルキとタケミカヅチと同じように凄絶な笑みが浮かんでいた

 

***

「重傷者に高級回復薬(ハイ・ポーション)万能薬(エリクサー)を優先してください!軽傷者は薬と包帯で対応するか安静にして傷口付近を縛るか氷結魔法を使って一時的に出血を止めて各【ファミリア】の治療者(ヒーラー)が来るまでどうにかして耐えて下さい!!」

 

オラリオ北区画にあるギルド本部の前にある広場で【ディアンケヒト・ファミリア】の団長アミッドの必死な声が響き、動けるものはギルド職員でも冒険者であろうと負傷者の看護にあたるが

 

「アミッドさん!ダメです、薬も包帯も何もかも足りません!!」

 

「西区画から避難してきた方々がさらに増えて………っ、もうギルド本部の広場だけでは収まり切りませんっ!」

 

事態が悪化する一方であることを泣きそうな声で【ディアンケヒト・ファミリア】の団員が報告する。北区画一帯で多人数を横にできる広さのある場所は、北区画の隣にあるバベルがそびえたつ中央広場(セントラルパーク)、ここギルド本部前広場、【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)『黄昏の館』があるのだが、中央広場(セントラルパーク)では神々が神の力(アルカナム)を使い障壁を張り、冒険者や大人や子供関係なしに動ける人間が簡易のバリケードを造り、盾を並べカルキとタケミカヅチがぶつかり合う際に起きる衝撃の余波を防ぐ防波堤となっており、【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)『黄昏の館』は先ほどの一撃により両断され使用不可能となっており、そのため、ギルド本部前の広場に負傷者があふれかえっていた

 

「ッ………ギルド長にギルド本部の中も使えるように申請をっ、新しく来た方々は重傷者と軽傷者に振り分けて下さい!!」

 

一瞬だけ苦い顔をしたアミッドはすぐに指示を出し、自らの『戦い』に身を投じる

 

「レフィーヤ達はまだ戻らないかっ………!」

 

中央広場(セントラルパーク)まで下がって各【ファミリア】と協力し、焼け石に水だと分かっていてもバリケードを造り、盾を並べ、北区画に被害が出ないようにしたフィンは、自分が死地に送ってしまったレフィーヤを含んだ4人の団員が未だ戻っていないことに唇をかむ

 

「幸いにもレフィーヤ達が向かった区域の建物は奇跡的にあの戦いの被害を受けていない………あの子たちが無事ならいいが………」

 

不安げにリヴェリアが呟き、レフィーヤ達が竜女(ヴィーヴル)を追った方向を見る

 

フィン達が知らないことであるが、ベルやレフィーヤがウィーネを追った『ダイダロス通り』の一角の前にガネーシャ達が陣取っており、衝撃の余波やカルキが槍に纏わせた『アグニの炎』を3柱が神威で防いでいたので実はベルやレフィーヤ達がある意味で今のオラリオで最も安全地帯にいたのである

 

「クッソ、あの馬鹿どもめ………」

 

神の力(アルカナム)を使い、被害を防いでいるロキはカルキとタケミカヅチの『闘争』を見ながら悪態をつく

 

「(やけど此処であの馬鹿どもの戦いにちょっかい出すのは最悪手や……手ぇ出したら最期、あの馬鹿どもが『戦いの邪魔をしたから』とこっちを殺しに来る)」

 

そしてロキの考えと他の神々も同じ考えなのだろう、普段ならばふざけて他者の喧嘩で野次馬根性でふざける神が誰も人間と神の戦いに干渉せず、とにかくこれ以上被害が出ないようにしていた

 

「ロキ………」

 

「あぁン?何の用やフレイヤ?」

 

「あなた……あの男、いいえカルキ・ブラフマンの背後にいるのが()()()()()()()()()()?」

 

突然の問いにロキは目を開けどういう意味かとフレイヤに問うとフレイヤは「あの男はアグニの『炎』を使い、怪物祭(モンスターフィリア)でヴァーユの『風』に飛ばされた」と返す

 

「ちょ待て……じゃあそいつらも………?」

 

「それにあの男が『リグ・ヴェーダ』と繋がっているとするなら、この『破壊』をあの『維持神』が許すと思う?」

 

「!!?」

 

それは「否」だとロキは思う、だが、あの『維持』を司る神が、世界を『維持』するためならば戦争も殺戮も良しとするあの神がカルキ・ブラフマンをこのオラリオに向かわせた黒幕だというのならば…………

 

「まさか、カルキ・ブラフマンの背後におるんは────────」

 

「ええ………」

 

「「ヴィシュヌ」」

 

呆然とロキとフレイヤが呟いた神の名前は誰にも聞かれることなく再び鳴り響く轟音にかき消された

 

***

「うぬぁー、いつまでここにいなくちゃいけないんだいっ!!」

 

「文句を言わないで下さいヘスティア様っ!」

 

「ウラノス様とヘスティア様、ヘファイストス様、ミアハ様が動いたら俺達が死にます」

 

今ならばベルを追いかけられるのにとヘスティアが文句を言うがリリが怒り、ヴェルフの意見にその場にいる者全員が頷く

 

「くっ、西区画の一部にも被害が……っ」

 

「これじゃあ、天界と変わらないわね………」

 

とうとう西区画にも被害が出始め、ミアハとヘファイストスが眷属達を守りつつ苦い顔をする

 

「ロイマンたちが住民の避難をさせている………間に合えばよいが………」

 

でも今、ボク達取り残されてる状況だよねぇ!?とヘスティアが叫ぼうとすると、尋常ではない熱風がオラリオに吹き荒れた

 

***

オラリオを尋常ではない熱風が襲う少し前、カルキはタケミカヅチに僅かに押されていた

 

「(やはり武神、ブラフマー神から授かっている『祝福』を抜いてくるかっ……)」

 

本来、ブラフマーから神々や精霊、それらの眷属からの攻撃を受けても無効化する『祝福』を授かっているが、その『祝福』をタケミカヅチは簡単に抜いてきてカルキの体には大小問わずいくつもの裂傷が出来ていた

 

「(────だが……愉しい!)」

 

今の『戦い』は『闘争』である、ならば期限は日が沈み始める時まで、そしてその瞬間は間もなく訪れる

 

「(ならば────この一撃を以って締めとしよう!)」

 

そう決めたカルキはタケミカヅチを吹き飛ばし、跳躍すると槍を逆手に持ち替え弓の弦を引くように引き絞り

 

「…………此れはスーリヤの極光宿る不滅の刃────行け『ブラフマーストラ・クンダーラ』ッ!」

 

「!」

 

投擲した槍に太陽の光と熱が宿り、周囲を焼き尽くしながらタケミカヅチに向かって音すら置き去りにして飛翔していく

 

「────ォオオオオオオオオオオッ!!」

 

タケミカヅチは再び正面から受け止めるが、槍の勢いに負け、ズルズルと後ろに下がっていく

 

「グッ………」

 

一瞬だけ苦渋の表情を浮かべたタケミカヅチに

 

「シッ!」

 

「!?」

 

自ら放った『奥儀』の熱など知ったことかとばかりに地面すれすれで突っ込んできたカルキがタケミカヅチの腹に蹴りを放ち、その蹴りをまともに喰らったタケミカヅチは「ゴフッ」と血を吐きながら飛んでいき、城壁を破って数十KM(キロミドル)飛ばされる

 

「!」

 

飛ばされた先で顔を上げれば目に映るのはここまで蹴り飛ばされたタケミカヅチを自動追尾してきた日輪の極光と膨大な熱が宿る大槍、その大槍を見てタケミカヅチは嗤った

 

そして次の瞬間には大槍がタケミカヅチを襲い、周囲数十KM(キロメドル)を焼き払い、オラリオの西にある城壁を消し飛ばし、西区画の半分を壊滅させた

 

***

「フーッ‥……」

 

大きく息を吐いたカルキが右手をおもむろに伸ばすと幾何学模様を描きながら『インドラの槍』がその手に再び収まる

 

普通であればこれで終わったと誰もが思うであろう、が、カルキは構えを一切崩さず周囲を警戒する

 

「!」

 

カルキが背後を振り向き槍を突き出すと凄まじい衝撃が再度オラリオを襲い

 

「────成程、インドラ神とスカンダ神が『極東の連中は「技」もおかしいがそれ以上にアスラ神達以上にしぶとい』と仰っていた理由が分かりました」

 

「そうか……ならばインドラとスカンダに伝えておけ『我ら極東の『タカアマハラ』は確かにお前等『リグ・ヴェーダ』と比べれば『破壊の規模』と『火力』に劣る、だが、『技』と『意志』で劣っていると感じたことは一切ない』とな!」

 

互いに全身から血を流し、槍の柄と刀の鍔迫り合いをしながら獰猛な笑みを浮かべるカルキとタケミカヅチは同時に後ろに飛び、再び打ち合おうと構えるが

 

音もなく静かに黄昏の空に光の柱が突き立つ

 

『?』

 

その光の柱にオラリオにいる誰もが瞠目し、注目する。それはカルキやタケミカヅチ、ガネーシャ達も同様であった

 

「何だ……これは………?」

 

「神の送還?いや違うな………」

 

黄昏の空を眺めたことで何かに気付いたカルキが構えを解き『インドラの槍』の穂先を下すと、槍から光の粒子が出て来て『インドラの槍』は消える

 

「ああ────時間切れか………それにインドラの奴も満足したようだ」

 

そう言ってどこか惜しむようにタケミカヅチは呟き西の空を見ると太陽が地平の向こうに沈み始めており『闘争』の終わりを告げており、タケミカヅチも刀を鞘に納める

 

「カルキ・ブラフマンよ、次があればその時はお前本来の得物で戦おう。そして一つ言わせてくれ……………よくぞ人の身で、その齢でここまで『武』を磨き上げた。俺は『武神』として率直にお前を称えよう」

 

獰猛な笑みではなく相手を称えるような微笑みを浮かべながらタケミカヅチはカルキを称え、カルキはタケミカヅチに手を合わせ恭しく礼を返すと

 

「自分の方こそ、貴方様のような強き『武神』と槍を合わせ、心躍る『闘争』をしたことをオラリオでの最も誇らしい我が『武』の誉れだと誰かに聞かれた時、そう答えましょう」

 

誇らしげに答えるカルキとその答えにフッと笑うタケミカヅチを称えるように夕日が照らしていた

 

 




カルキとタケミカヅチのデート費用(被害)一覧

オラリオ全体
東区画 消滅(インドラのせい byタケミカヅチ&カルキ)
西区画 半壊
南区画 消滅
北区画 一部被害

死傷者10万以上(神含む)

各【ファミリア】
フレイヤ・ファミリア 本拠消滅
ロキ・ファミリア 本拠両断
ヘスティア・ファミリア 半分消滅
ガネーシャ・ファミリア 本拠の首部分が取れた
ソーマ・ファミリア 本拠一部破損
ミアハ・ファミリア 同上
ヘファイストス・ファミリア 本拠半壊
タケミカヅチ・ファミリア 同上
ヘルメス・ファミリア 同上
ディオニュソス・ファミリア 同上
この他の【ファミリア】にも本拠や関連施設の半壊・全壊・全焼・消滅が確認されている。なお、ソーマ・ファミリアの酒蔵は(丁度ヘスティア達がいたところに近かったため)無事だったもよう

ギルド
ギルド本部 被害なし
闘技場 消滅
バベル 多数のヒビ、一部欠損
本部に被害はないものの、この後、被害確認、地上に現れたモンスターの処理で地獄を見る模様

その他
豊穣の女主人 焼失
民家 半壊・全壊・全焼多数
ラキア王国 領土の3分の1が焦土になった(とばっちり)
セオロの密林とその周辺 イケロスと共に消滅するはずだったがイケロスをテンション            上がったカーリーがうっかり殺しちゃったから被害なし、             やったね!

各コメント
【群集の主】「まあ、この程度で済んだことが奇跡だな!実に良き闘争であった!!次は俺も入れてくれハッハッハ!!」

【月と酒の神】「酒蔵が無事だったので他はどうでもいい、最上の娯楽だった。満足している」

【闘争と殺戮の女神】「もうちょっと長く戦えばよかったものを……なんだかんだ言って奴らは『善性』よのぉ………」

カルキ「これからブラフマー神からの説教らしいので失礼する…………」

【極東の武神】「本来の得物でなかったのが残念だが概ね満足した、次の闘争は本来の得物を使うカルキ・ブラフマンと闘いたい」

神々と人々「どうして……………」(電話猫)

なお、戦ったのは一時間程度だった模様



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45話

パソコンが逝きました………スマホ投稿面倒臭い

私生活バタバタで投稿遅くなります

ー追記ー

って、気づいたらこの作品のお気に入り登録が4000件を超えてるぅぅぅ!‥‥‥‥えっ、マジですか‥‥‥

皆様、ありがとうございます………こんな駄作を思いつきと勢いで書いたアホ作者ですが、皆さんになるべく受け入れられるように頑張ります


「『良き闘争だった』ではないわ!たわけぇ!!」

 

「グウッ!?」

 

「おお……見事な飛び蹴りだ……流石は戦神カーリー」

 

清々しい気持ちでタケミカヅチからの言葉を受け取ったカルキにカーリーの飛び蹴りがカルキに突き刺さり、瓦礫へとカルキが蹴り飛ばされ、髪を紐で纏めるタケミカヅチが何処かズレた評価をする

 

「確かに素晴らしい『技』が繰り広げられた下界では見ることすら叶わぬ『闘争』であったわ………だがのぅ、何故に真名開放しなかった!『奥義』の威力を抑えた!?」

 

キーッとカルキに掴みかかり、前後に激しく揺らすカーリーにソーマとガネーシャが「まぁまぁ」とカーリーを宥める

 

「まあ、カルキは俺やお前と違ってガネーシャと同じ『善性』というわけだ」

 

「うむ!ソーマの言う通りだと思うぞ、そうでなければこの程度では済まなかっただろうしな!」

 

何処か呆れたようなソーマとカラカラと笑うガネーシャであったが、カーリーは納得していないようで、「納得がいかん!」と子供っぽく頬を膨らませていた

 

「………流石にオラリオで天界のようにするわけにはいきませんので」

 

そう申し訳なさそうにカルキが恭しく礼をし、ようやくカーリーは渋々といった様子で引き下がる

 

「うむ!では………踊るか!」

 

「………前々から思っていたが、何故お前らは何かにつけて踊るんだ?」

 

ビシィ!とポーズをとるガネーシャにタケミカヅチが呆れたようにツッコミをいれるが、カーリーもソーマもカルキも「そうだな」とガネーシャの提案に頷く

 

「では、真ん中はカルキだな」

 

「そうじゃのう……では、妾も満足させるような踊りを頼むぞ?」

 

地味にプレッシャーをかけてくるソーマとカーリーにカルキが苦笑しつつ、2柱からの提案を受け入れると

 

「では!ミュージック、スタァートッ!!」

 

見計らっていたガネーシャがポーズを決めながら指を鳴らすと、何処からか軽快な音楽が流れ始め、カルキと3柱の神が踊り始める

 

「……えっと………?」

 

ダイダロス通りに戻ってきたベルは困惑した声しかだせず、呆然と立ちすくむ

 

それは、壊滅した南、東区画と半壊した西区画だが視界に入ったというだけでなく、その瓦礫すらなくなり、更地とかしたオラリオで、カルキとガネーシャ、ソーマ、カーリーだけでなく、【ガネーシャ・ファミリア】、【ソーマ・ファミリア】の団員達がよく分からないキレッキレのダンス(新宝島)を踊っていたのである

 

やはりというか、ベルはついていけず、ただ呆然とその光景を眺めるだけであり

 

「…………一体何なんだろう?」

 

そうつぶやいたベルの言葉の答える者はいなかった

 

 

***

「………音がしない………」

 

バリケードを作った中央広場(セントラルパーク)で、誰かが呟き、人も神々も固唾をのんで見守る中、暫く、戦闘の音が聞こえなくなる

 

「………助かったのか?」

 

誰かがそう呆然と呟いたことにより、次第に自分達が助かったことを実感し始めた者たちが一気に叫び始める

 

「やった!やったあ!助かった!!」

 

「生き残ったぁ!」

 

「万歳!オラリオ万歳!!」

 

助かったことを認識し始めたオラリオに住む冒険者、市民は立場をこの時ばかりは忘れ、お互い目の前にいる者に抱きつき、生きていることを喜ぶ

 

が、神々はこのオラリオに現れた最悪の規格外、カルキ・ブラフマンという存在に恐怖を覚える

 

武神と打ち合い、神造武器を使いこなし、『リグ・ヴェーダ』の神々が好んで使う奥義を使う人間など今まで存在しているはずがない

 

そして、今の、否、現在と過去において、カルキ・ブラフマン以上の力を持つ冒険者など決して存在しない。それどころか、カルキ・ブラフマンと一対一で戦える神など、このオラリオにいる神ではタケミカヅチ、ガネーシャ、ソーマぐらいであろうと戦慄する

 

その現実に神々は自分達の首元に鋭い刃物を突き付けられた気分になるのであった

***

────モンスターが地上に現れ、オラリオの3分の2が壊滅した2日後の正午前

 

「急げ!ギルド本部前だってよ!」

 

「ウラノス様や神々はどんな処分をするんだろう?」

 

「きっと、タケミカヅチ様もカルキって奴もオラリオ追放だろうなぁ」

 

「でもよ、処分を不服だって暴れたらどうすんだよ」

 

処分する瓦礫すらなく、ギルドから出されたテントを仮の住宅としている各【ファミリア】に所属する冒険者や、家を失くした市民達がこのオラリオに潜むモンスターをひとまず置いておいて、ギルド本部前に集まり始めザワザワと騒がしくなる

 

彼らが注目しているのは、オラリオで大暴れしたカルキ・ブラフマンとタケミカヅチへのギルドからの処分である

 

本日は、朝から緊急の神会(デナテゥス)がギルド本部の『祈祷の間』で開かれており、そこでカルキ・ブラフマンとタケミカヅチの処分が話し合われていたのである

 

「おっ、出てきたぞ!」

 

ギルド本部から、一人の職員が出てきてギルド本部前に臨時で建てられた掲示板に神会(デナテゥス)で決められたカルキ・ブラフマンとタケミカヅチへの処分の書かれた紙を貼り出す

 

『…………は?』

 

思わずといった様子で、処分の内容が書かれた紙を見た誰もが呆然と声をだすが、そうなってしまうのも無理はないだろう

 

なぜならば、その紙に書かれていたのは

 

『今回の一件について、オラリオはカルキ・ブラフマンと神タケミカヅチへの責任を一切追求しない』

 

と、実質カルキとタケミカヅチに無罪を言い渡したからである

 

***

「どういうことだっての!」

 

カルキによって両断された【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)跡地で、カルキとタケミカヅチへの処分に納得いかないベートがロキに詰め寄っていた

 

「………どうもこうも、これがウラノスのジジイとウチら(神々)の全会一致の決定や」

 

そう力なく答えるロキに、その場にいた【ロキ・ファミリア】の幹部達は誰もが疑問を持っていると、リヴェリアがロキに問いかける

 

「ロキ、確かに我々とカルキ・ブラフマンとの間には、ロキの行っていた通り、我々がどれだけ一丸になって挑もうとも足元にも及ばない程の実力差がある……だが、今回、我々だけでなく、オラリオ全てに被害が出た、それなのにカルキ・ブラフマンには一切の処分がないとはいくらなんでも道理が通らないのではないか?」

 

リヴェリアの質問に【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者と第二級冒険者が同意するように頷くと、ロキは苦渋の表情で、臨時の神会(デナテゥウス)で何があったのかを話し始める

 

***

─────数時間前、ギルド本部の『祈祷の間』には、早朝からオラリオにいる神々が集まっていた 

 

今回、話し合われる議題は2つ、1つは『地上に現れたモンスターをどうするか』ということ、そして2つ目が『オラリオに壊滅的被害を与えた人間カルキ・ブラフマンと神タケミカヅチ、及びその2人を煽ったソーマ、ガネーシャ、カーリーへの処分』である

 

が、今回、特例として、ウラノスがカルキも参加するようにカルキに伝えたのだが、「申し訳ないが、貴神方よりも優先すべき方から呼び出されたので」とカルキは参加を拒否し、カーリーも「妾は普段はオラリオにおらん」と出頭を拒否し、当事者として参加するのは、タケミカヅチ、ガネーシャ、ソーマだけであった

 

「では、臨時の神会(デナテゥス)を始める」

 

そうウラノスが臨時の神会(デナテゥス)の開会を宣言し、第1の議題である『地上に現れたモンスター』についての報告が行われる

 

地上に現れたモンスターは、【イケロス・ファミリア】が都市外に密輸していたモンスターであると、【ガネーシャ・ファミリア】が18階層で捕縛した【イケロス・ファミリア】の団員からの証言が取れたことをウラノスが報告し、ベル・クラネルの行動については、【ガネーシャ・ファミリア】に臨時のサポーターとして参加しており、若さ故に自分がどうにかしなければならないと思ってしまったのだろうという見解を述べ、それに文句を付ける神は皆無であったことで、この議題は終了となり

 

「さて………次にカルキ・ブラフマンとタケミカヅチについての処分だ」

 

そうウラノスが切り出すと『祈祷の間』がザワリと揺れる

 

「私としては、当事者であるカルキ・ブラフマンと【タケミカヅチ・ファミリア】、2人を煽った主神が率いている【ガネーシャ・ファミリア】、【ソーマ・ファミリア】、【カーリー・ファミリア】に多額の賠償金を請求するか、オラリオを追放処分とするかの2つを提案したいが………何か異論や不服はあるか?」

 

そう『祈祷の間』にいる神々をウラノスが見渡し、神々からは異論がないという雰囲気が出ていると

 

ドガンという音が『祈祷の間』に鳴り響いた

 

『!?』

 

「『異論や不服があるか』だと?異論と不服しかないぞウラノスゥ………」

 

突然の音に神々が驚き、音のしたほうを見ると、そこには机に足を乗せたソーマが怒気を含んだ声で凄んでいた

 

「そもそも、何故我らが罪に問われなければならない?カルキはインドラの命を果たしただけ、我らは『闘争』がしたかった、見たかっただけだ………それだけで罪に問われるのはおかしいだろう?」

 

どこまでも自分たちに「非」はないと傲慢に言うソーマに神々から『ふざけるな』という雰囲気がでるが

 

「そもそも、戦いを煽ることを罪だとするのならば、貴様等とて【ヘスティア・ファミリア】と【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)の前に、やれ『祭り』だの『宴』だのとはしゃぎ、煽っていただろう。それが我らにとってはカルキとタケミカヅチとの『闘争』であっただけに過ぎん、戦いを煽ることが罪だと言うのならば、その時煽っていた者達も罪に問うべきだろう」

 

そう言って神々を見渡すソーマに「今回の件は規模も死傷者も桁違いだろうが!」と一部の神からは文句が出るが、ソーマはその意見を鼻で笑い

 

「ハッ!今回、せいぜい死んだのは数万だろう?そんなものは我々、神にとっては誤差の範囲だ、むしろ、これ程の人間が生き延び、下界では見られぬ『闘争』が下界で見れたのだから別にどうでもいいだろう?」

 

今回の『闘争』に比べれば全て些事であるとするソーマに神々が絶句する中

 

「まあ、戦う前にウラノスやヘスティア達には言ったが、あの時はインドラの奴が見ていたからなぁ、最も犠牲が少なく済むにはロキとフレイヤをカルキが天界に戻すことだったが‥‥‥それとも、お前達はこのオラリオにヴァジュラを投げ込まれダンジョンごと消し飛ぶのがよかったか?」

 

そうタケミカヅチが嗤いながら問いかけ、神々は押し黙るしかない中、それでも一部の神からは「形だけでも罪に問うべき」という意見が出てきて、ソーマとタケミカヅチが舌打ちをしていると「そういえば」と今まで黙っていたガネーシャが口を開き

 

「いやー!すまない!カルキからタケミカヅチに伝言があったのをすっかり忘れていた!ガネーシャ、大!失!態!!」

 

『‥‥‥‥?』

 

突然、何の脈絡もない話の内容にソーマとタケミカヅチでさえも何事かと疑問に思っているとガネーシャはニヤリと笑い

 

「『インドラ神だけでなくヴァルナ神とスカンダ神からも「良き闘争だった」とタケミカヅチ神に伝えて欲しい』とのことだそうだ」

 

『!!?』

 

その後、ウラノスですらカルキとタケミカヅチ、ガネーシャ、ソーマ、カーリーの処分について何も言わず、結局、彼らを罪に問うことはできず、臨時の神会(デナテゥス)はそのまま終わりを迎えたのだった

 

***

「─────っていうのが今回の顛末かな」

 

そう疲れ果てたように言うヘルメスに

 

「‥‥‥‥何ですか‥‥‥それは‥‥‥」

 

思わずといった感じでアスフィは呆然と呟く、今回、カルキとタケミカヅチが暴れた件でオラリオにいる神々だけでなく人々も多大な被害を被った

 

自分の家を、家族を失くした民がいる、自分達の仲間を、本拠(ホーム)を、関連する施設を失くした冒険者が【ファミリア】がある

 

それなのに自分達が知りもしない神の名前が出ただけで、罪に問えないとは、そんな理不尽があってたまるものかとアスフィは憤るが

 

「いいや、これは仕方ないのさ、アスフィ」

 

眷属の思っていることなど手玉に取るようにわかるのかヘルメスは諭す

 

「あの『闘争』はインドラだけでなく、よりにもよってヴァルナとスカンダという神々の中でも最上位の実力者が眺め、認めた。これを俺達が罪に問うと彼らの顔に泥を塗ることになる‥‥‥そして、あの3柱は自分の顔に泥を塗った者に決して容赦しない、俺は、いいや俺達は自分達の命は惜しいし、俺達の眷属を失くしたくないのさアスフィ」

 

そう無力感をにじませながら諭すヘルメスにアスフィもそれ以上の文句は言えず、ただヘルメスを見ることしかできない

 

「全く‥‥‥‥問題だらけだぜ」

 

そう呟くヘルメスを天高く上った太陽が照らしていた

 

 




うーん、スマホ投稿はやり辛い………どうしても短くなるんだよなぁ………

インド版新宝島は合いすぎててねぇ………

あ、勿論アステリオスにやられたはずのシャクティ達も一緒に踊ってますよ







え?神会への参加を断った理由?‥‥‥‥貴方はブラフマーからの呼び出しとウラノスからの呼び出し、どちらを優先しますか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第46話

ここ最近、書きたいことが文章に出来なくなってきたのでかなり投稿頻度は落ちるかもしれません




おっかしいなぁ、刀使ノ巫女の方は直ぐにネタが思いつくし直ぐに文章に出来るんだけどなあ…………


「じゃあ、何だい?アタシらには黙って泣き寝入りでもしてろってのが神様達の決定っていうのかい!?ええ!!」

 

【フレイヤ・ファミリア】の仮本拠(ホーム)のテントで、【フレイヤ・ファミリア】元団長で、今は『豊穣の女主人』の店主であるミアが神会(デナテゥス)から戻った元主神であるフレイヤに噛み付いていた

 

「ええ………貴方やあの子達には悪いけど…………」

 

「ふざけるんじゃないよ!アイツらが暴れたせいで、どれだけの連中が家を、家族を、帰る場所を失くしたと思ってるんだい!」

 

ここに来るまでに家族や家を失くし、泣きじゃくる子供や老人を見てきたミアは「何のための神だい……!」と怒りを表すが

 

「………それでも納得してもらうしかないわ…………」

 

「ッツ!!」

 

「そこまでだ………」

 

それでもフレイヤに食って掛かろうとした元【フレイヤ・ファミリア】団長のミアを止めたのは、現【フレイヤ・ファミリア】団長のオッタルだった

 

「なんだい……?アタシを止めるなんて偉くなったもんだねぇ、小僧?」

 

「今の団長は俺だ………それに今回の件はあの男、カルキ・ブラフマンの危険性を測り損ねた自分にも非がある」

 

あの時、カルキ・ブラフマンに一方的にやられた後、オッタルはカルキの実力をかつてのオラリオ最強派閥であった【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】にいたレベル8とレベル9に相当すると思っていた

 

が、蓋を開けてみれば、カルキ・ブラフマンの実力は彼らが生きていたとしても足元にも及ばない遙か高みにあった

 

「だからってねえ!それであいつらが何の責任も感じずのうのうと過ごしているのが気に喰わないって言うんだよ!!」

 

人として当たり前の怒りを叫ぶミアの声が【フレイヤ・ファミリア】の仮本拠に響き渡った

 

***

「────シッ!」

 

ひらりと木から舞い落ちた一枚の葉が武神が目に見えぬ速さで振り下ろした太刀の一振りで4つに分かれる

 

「────────ッ!!」

 

次に10枚の葉が木から落ち、武神は太刀を十振るうが

 

「……………ダメだなこれでは」

 

切り分けられた葉の数は3()9()、一の斬撃と同時に三つの斬撃を放つ剣技の極致とも呼べる技をタケミカヅチは『神の力(アルカナム)』を一切使用せず、放っていた

 

「カルキ・ブラフマンは『神の恩恵』を受けず、あれ程までの『高み』へと至った…………」

 

思い出されるのはカルキ・ブラフマンが自分に向けて放った『リグ・ヴェーダ』の神々と同じ『武の奥儀』

 

…………ならば、『神の力(アルカナム)』を封印され、『神の恩恵』を授かっていない、普通の人間程度しかない自分であってもカルキの様に鍛えれば自分も神に食らいつける実力にはなれるだろう

 

「『神』に出来て『人』に出来ないことなどなく、『人』に出来て『神』に出来ないことなど、あるわけがないのだからな…………」

 

そう嗤いながら上半身裸で鍛錬をするタケミカヅチを、武神の眷属達は戦慄と畏怖、そしてタケミカヅチが次々と放つ技の美しさに目を奪われるのであった

 

***

「ああ……ありがとうございます『聖女』様、ギルドの方々………」

 

「家も何もかもを失くした私達にも回復薬(ポーション)を分けてくださるなんて………」

 

『インドラの槍』によって瓦礫すら残らなかったオラリオの東区画には、臨時の避難所が設けられ、怪我人には【ディアンケヒト・ファミリア】や【ミアハ・ファミリア】をはじめとした医療系【ファミリア】の回復薬(ポーション)やギルドが急いで開いた食料の無償配給所が出来ていた

 

「すまないがナァーザ、アミッド、最後にそちらの回復薬(ポーション)を向こうの北区画からの避難者に配ってやってくれぬか?」

 

「はい、ミアハ様」

 

「はい、ミアハ様………じゃなくて、どうしてこの女が私たちの所にいるの……!お前は私たちの【ファミリア】じゃないだろ………」

 

「…………ディアンケヒト様が『こちらはワシの的確な指示である程度は落ち着つかせるわぁ!お前はあそこでモタモタしている貧乏【ファミリア】の所に行って実力差を思い知らせてやれぇえ!!』と仰ったので」

 

「………あの爺」

 

「そう言うなナァーザ、ディアンはこの数日、激務のアミッドを比較的落ち着いている私たちが担当しているところに送り、ゆっくりさせたいのだろう」

 

そう優し気にアミッドに微笑みかけるミアハが言うとおり、アミッドはこの2日、重傷・重態者の看護・治療に追われており、一段落してアミッドが休憩していたところに先ほどのセリフを言いながらディアンケヒトがやってきて、アミッドを半ば追い出すように【ミアハ・ファミリア】の所に向かわせたのである

 

事実、アミッドの眼の下にはうっすらとクマが出来ていて、ミアハは「我々薬師が体調を崩してはいかんぞ」とアミッドをいたわり、その際少しばかりアミッドとナァーザの間に普段通りのちょっと険悪な雰囲気になるのはご愛敬である

 

「────あ、ミアハ様」

 

「む?」

 

そこに現れたのはギルドの受付嬢であるエイナとミイシャであった。どうやら彼女たちは無償の配給所の手伝いを終え、見回りをしているらしい

 

「お疲れ様です、ギルドからの要請に応えて下さりありがとうございました」

 

「なに、困った時はお互い様だ………それにタケミカヅチやソーマではないが、私も()()()()()()()()()()()()と思っているからな」

 

『!?』

 

ミアハの聞き間違いかとも思う発言にその場にいる全員が驚き、ミアハを見る

 

「あの……カルキさんって何者なんですか?それにカルキさんの後ろにいる神様達って誰なんですか?」

 

意を決したようにこの中ではカルキと付き合いのあったミイシャがミアハに尋ねる

 

「うむ……我々(神々)だけがカルキ・ブラフマンと『リグ・ヴェーダ』の神々について知っていて人間(子供)達が知らないでは今回の決定は納得いかないだろうしな………少し話すとしよう」

 

そう言ってミアハは彼女たちに『天界でケンカを売ってはいけない連中』と呼ばれている神々について話し始めた

 

***

「────────っていうのが『リグ・ヴェーダ』の神々よ」

 

「……………なんだ、その無茶苦茶な神々は」

 

ダンスしただけで世界が滅ぶ闘争と殺戮の女神、月に笑われたと感じたから牙を折って月に投げつけた群集の主を標榜する神、かつては「天界最強の武神」と呼ばれる神とも鎬を削っていた月と杯の神、3歩歩けば天界を一周できる維持神、修行中「だーれだ?」されたら第三の目が開眼し、自分の修行の邪魔をした神を消した破壊神、ささいなことで世界を滅ぼしかける大喧嘩という名の戦争を繰り広げる武神と太陽神etc…………

 

ヘファイストスから聞いた椿はその神々のスケールのデカさというかヤバさに辟易した口調であきれ果てる。しかも最初の三柱の神はカーリー、ガネーシャ、ソーマというオラリオ近郊のメレンに居着いている女神とオラリオに長年いる神である

 

「しかもあの『インドラの槍』は元々、インドラの不倶戴天のライバルである太陽神スーリヤが『あなたの体から発せられる光が熱いわ』と仲のいい女神サンジュニャーから言われたから己の身から離した光をヴィシュヴァカルマンが、円盤、槍、三叉の鉾、鎧などに加工した神造武器の一つよ」

 

「……………もう話についていけん」

 

そう言って出ていこうとする椿をヘファイストスは引き止められなかった

 

***

「ほう………酒蔵は無事だったか…………」

 

「あ、ああ………どうやらウラノス様やヘスティア様が酒蔵の前にいたようでな…………」

 

ソーマの問いにどことなくぎこちない様子で答えるチャンドラに「そうか………」と返したソーマは「ヘスティアに酒でも送るか」と呟き酒蔵に入る

 

「ああ、せっかくだから人間でも依存せず飲める神酒でも造ってみるか………」

 

そう呟いたソーマは無事だった酒蔵で新しい神酒の仕込みを始めた

 

***

「ふざけるなッ………ふざけるなぁ…………っ!!これでは私の15年の計画がッ!私の望む狂乱(オルギア)があッ………!」

 

薄暗い本拠(ホーム)に自室で狂ったように叫ぶのは『エニュオ』の正体…………ディオニュソスである

 

「なんだアイツは!あんな化物が存在しているなんて想定していないッ!『リグ・ヴェーダ』だとッ!?あいつ等にケンカを売ったらいくつ命があっても足りないどころか消されるじゃないかッ!!」

 

しかも自分が正体を隠すように名乗っているのはエニュオ………『都市の破壊者』を意味する名だ

 

ディオニュソスにとって一番の問題は『リグ・ヴェーダ』の神の一柱である破壊神シヴァ、シヴァも他の神々と同じように自分と同じ権能を持つ神を嫌う傾向がある

 

もし、カルキ・ブラフマンがシヴァと繋がっていてシヴァに自分が『都市の破壊者』………『破壊者』を名乗っていることを知られたら間違いなくシヴァはディオニュソスを殺す………どころかディオニュソスをこの世界から2度と復活しないように己の破壊の権能を使いディオニュソスという存在そのものを消すだろう

 

「だが………計画は既に最終段階まで来ている…………」

 

既に【デメテル・ファミリア】はデメテルへの人質として人口迷宮(クノックス)に運び込み、デメテルも反抗できないように精神を痛めつけた。『インドラの槍』騒動で騒がしかった『ダイダロス通り』で身代わりのぺニアもフィルヴィスに捕えさせ【デメテル・ファミリア】と同じように人口迷宮(クノックス)に監禁した

 

…………‥……が、今となっては早すぎたと悔やむしかない

 

「止まれない…………私は止まれないのだァッ!!」

 

まるで断頭台に一歩づつ上らされる錯覚を覚えながらディオニュソスは叫ぶ

 

***

「……………これは、どうしたものか」

 

【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)にあるカルキの部屋で瞑想を終えたカルキは部屋で一人首を傾げ悩む

 

今回の件で天界に呼び出された後、「お前は私を動かすつもりか」とブラフマーから、「一気に送りすぎだ、加減をしろ」とヤマから説教を貰ったカルキが2柱の前から礼をして去った後、下界に意識を戻そうとしたところにインドラから呼び止められ、「良き『闘争』の褒美だ、1つは愉しめ、もう1つは文句を言ってくる奴に使え」と豪勢な箱を2つ渡され、瞑想を終えた後、確認したところ、1つ目の箱にはスラー酒が入っており、これは問題はなかったのだが、問題は2つ目である

 

「まさか『インドラの矢』とは…………」

 

貰っても使い道のない………というより使ってはいけない神造武器を貰ってしまったカルキは「ウーム」と一人、部屋の中で唸るのであった

 




こんなの貰ってどうしよう………ってなる時ありません!?

あっ、ない………そうですか




ディオニュソス、止まるんじゃねぇぞ……………シヴァはお前の先にいるからよ…………絶対に………止まるんじゃ………ねぇ……ぞ………………




誰かタケミカヅチを原作タケミカヅチに戻す薬持ってません?なんか作者も予期せぬ方向に勝手に行っちゃってるんですけど


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第47話

ああ───書き換えのデータが2回消えた………モチベが何度無くなったことか…………



そんなこんなで始まりましたねFGOの2部5章後半………まあ、諸事情で進めてませんが、双子と神霊は引けました

ピックアップ2は何時だ!!


半壊したが、普段使っていないところが壊れたのであまり大した問題は起きていない【ヘスティア・ファミリア】の本拠(ホーム)では、主神がこの数日、一人の眷属に詰め寄られていた

 

「では、カルキ様はその『リグ・ヴェーダ』と呼ばれている神様達と深い関係があり、ヘスティア様達は以前からその可能性があると知っていたと………どうしてそのことをリリ達に教えてくれなかったのですかっ!!」

 

「ううっ………正論過ぎて言い返せない…………」

 

しっかり者(?)の小人族(パルゥム)の少女に詰め寄られるロリ巨乳(ヘスティア)の「だって、あいつら(リグ・ヴェーダ)に関わったら面倒になるから‥…‥…」という言い訳はバッサリと切り捨てられ、派閥の主神の威厳はなく、小さく縮こまっている

 

「…………それにしても、都市中……いいえ世界中に今回の一件は広がりそうですね」

 

「うん、そうだね…………」

 

そう言って、リリとヘスティアが視線を移すのは、机の上に広げられた情報誌────────正確に言えば、一部の【ファミリア】や商人が販売している数枚重ねの巻物────────には

 

『放たれた脅威。モンスター都市に散る』

 

『【イケロス・ファミリア】の暗躍 ~モンスターの密輸~』

 

地上に進出したモンスターについてや、【イケロス・ファミリア】がモンスターを捕え、都市外に輸出していたことが記事の見出しとして書かれているが、それ以上に大きな見出しになっているのが

 

『神タケミカヅチの本性 ~笑顔の仮面に隠された素顔は残忍?~』

 

『生きる災厄 ~カルキ・ブラフマンとは~』

 

『脅しに屈した神会(デナテュス) ~神が恐れるリグ・ヴェーダの神々とは~』

 

『神と人を煽った神の存在 決して許されることではない』

 

など、カルキとタケミカヅチを非難する記事が多い、ただ、タケミカヅチについては、『文句があるなら俺の眷属を通さずに、直接俺に言いに来い……………その時は剣を以って歓迎してやるさ』と、とある情報紙の質問に答えており、その脅しともとれる記事が載った後はタケミカヅチへの非難は尻すぼみしており、【タケミカヅチ・ファミリア】に対しては、『神の我儘に付き合わされている被害者』という目で見られていた

 

そして、今までの生活を壊されたオラリオ市民の憎しみは、ほぼ全てカルキに向かっていた

 

「(まあ、カルキ君は気にしないんだろうけど…………)」

 

おそらく、カルキは人々が抗議しても『インドラ神に滅ぼされなかっただけマシだろう?』とタケミカヅチやソーマ、ガネーシャが神会(デナテュス)で言ったことを言うだけだろうがとヘスティアは嘆息する

 

「まあ……タケやカルキ君が言うことも事実なんだけどさぁ………」

 

「ヘスティア様?」

 

ヘスティアはカルキが【イケロス・ファミリア】の団員達のような『悪性』ではなく、どちらかというとベルのような『善性』の人間であると知っている。それに、オラリオにいる神々もカルキをオラリオから追放しようとしているのは、いろいろと規格外なカルキやリグ・ヴェーダの神々に対する恐怖から来るものであって、決してカルキに憎しみや恨みがあるわけではない

 

だが、人間(子供)達は、インドラの……ひいてはリグ・ヴェーダの神々の規格外さを知らない。それ故にカルキを恨み、憎しみ、非難するのだろう。

 

ただ、その程度ではカルキをこのオラリオに向かわせた神…………『維持神』ヴィシュヌは動じないだろうし、恐らくカルキとも何かしらのつながりがあるであろうヴィシュヌ以外の三柱神(トリムルティ)、『創造神』ブラフマーは世界を作り直そうとはせず、『破壊神』シヴァも動かないであろう……………が

 

「問題は『餓鬼共すら制御できないのか………嘗められてんなぁ雑魚共が!』って言ってきそうな奴らが見てる可能性があるってのがなあ」

 

そうなれば、天界にいた頃に戻っているタケミカヅチ、ガネーシャ、ソーマがブチ切れ、そのままオラリオで第一次天界大戦勃発である…………せっかくカルキとタケミカヅチの『闘争』を生き延びたのに、巻き込まれて死んだら元も子もない

 

「ウィーネ君達のことも考えないといけないってのに…‥………」

 

どうしてこんなに自分が悩まなくちゃいけないんだと元同居人のやらかしたことにヘスティアは大きくため息をつくと、買い物から命と春姫が帰ってきて、2階からほとぼりが冷めるまで自室で待機────────本人は謹慎だと思っている────────していたベルが降りてきたので、情報誌をこっそりベルの眼につかないように隠す。記事は小さく、隅に位置しているが、その日、『英雄』が『愚者』となったことを伝える記事

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)覇者、【リトル・ルーキー】の暴挙と暴走。失望と失墜』

 

と他の情報紙にも小さく書かれていた

 

***

「神ウラノス!何故カルキ・ブラフマンと神タケミカヅチを無罪にしたのですか!?これではギルドの統治が、オラリオの秩序が…………‥」

 

「…………」

 

ギルドや神会(デナテュス)が『力』に屈して良いのかとギルド長ロイマンがウラノスに訴えるが、ウラノスは沈黙を貫いている

 

「それに地上に現れたモンスターも所在が分からず………こ、これでは…………!」

 

「分かっている………追って指示を出す、下がれロイマン」

 

「し、しかし…………」

 

「下がれ」

 

有無を言わせぬウラノスにがっくりと肩を落として去るロイマンの肩をポンと叩いて、すれ違いで『祈祷の間』にヘルメスが入ってきた

 

「やあ、ウラノス…………ロイマンも大変そうだね」

 

「ロイマンを含め、下界の者達はあの神々のことを知らないからな」

 

「…………というより、あの神々のうち下界に関わっているのがオラリオにいるガネーシャとソーマ、闘国(テルスキュラ)のカーリー、そしてかつての闇派閥(イヴィルス)だったルドラぐらいだからな、知らないことを嘆くことは出来ないさ」

 

しかも、割と大人しかったガネーシャとソーマ、人間達に殺し合いや悪事を働かさせていたが自らは動かなかったカーリーとルドラだったのも、奴らのヤバさが伝わらなかった一端でもあるだろうとヘルメスとウラノスは判断する

 

「んで?これからどうするんだい?」

 

「…………ただ15年前と同じことが…………ロキとフレイヤの【ファミリア】が『都市最強』の座から落ちたということだけだ、騒ぐ必要もない、異端児(ゼノス)については、賞金を出し、冒険者達が纏まることを防ぎつつ、独自に探し出し、ダンジョンへと返すしかあるまい」

 

今のオラリオのパワーバランスとしては、冒険者だけで見れば、未だにロキとフレイヤの【ファミリア】の『2強』が『都市最強』であろう…………が、全ての神々や人間を含めて『都市最強』となるとこの2つの【ファミリア】ではなく、極東の武神タケミカヅチ、リグ・ヴェーダの神の一柱であるガネーシャとソーマ、そして人間でありながら『恩恵』を得ず、天界に辿り着き、神造武器と『奥儀』を使う規格外カルキ・ブラフマンの『4強』であり、さらには、今、メレンにいるカーリーまで含めると『5強』となるのである

 

しかも、このうちの誰かと相手をした場合、オラリオにいる神々が協力しても良くて相打ち、悪くて全滅させられるのである。最早、パワーバランスとは何なのかと言いたくなるほどの『差』があるのが現実なのである

 

「それに、ウラノス、これは恐らくだが…………」

 

「ああ、最悪の想定だが使えると想定している方がいい」

 

そのウラノスの言葉に「だよねぇ…‥………」とヘルメスは最悪の想定にため息をつくが、今回使われなかったことに心底安堵する

 

「カルキ・ブラフマンはあの『奥儀』の上位互換にあたる『技』を…………世界すら、天界すらも滅ぼすであろう2つの『奥儀』を確実に使えるぞ」

 

そのウラノスの声は、『祈祷の間』へと吸い込まれていった

 

***

「あ、あの上位互換の『奥儀』だと……………!」

 

「ああ、恐らく、いや、絶対にカルキ・ブラフマンは使えるはずや………『ブラフマーシラストラ』と『ブラフマンダアストラ』をな」

 

「そんな馬鹿げた話があってたまるか!あの男の一振りが(リヴェリア)最大魔法(レア・ラーヴァテイン)を上回り、報告では、ラキア王国の3分の2を焼き払ったアレを上回る『技』があるとでも!?」

 

カルキの背後にいる神々についてロキから聞いていた【ロキ・ファミリア】の幹部の面々は、その無茶苦茶な神々に呆れ、そしてロキが想定するカルキ・ブラフマンの実力に絶句する

 

「じゃ、じゃあ、あの時の戦いでカルキ・ブラフマンは神様相手に手加減してたってことっすか…………?」

 

『!?』

 

「いや、それはないやろ、ただ、ウラノスのジジイとジャガ丸おっぱい、ミアハの奴とファイたんから聞いた話だと『威力は変わらないが、範囲は絞った』とカーリーのクソチビが言っとったらしいから、そこは加減しとったみたいやけどなぁ」

 

「そ、そんな………‥」

 

ラウルの想定にロキが答えるが、自分達との圧倒的な実力差を思い知らされ、誰もが再び絶句する

 

「………ロキ、じゃあメレンや歓楽街の事件って」

 

「ああ、アイズたんの言う通り、カルキ・ブラフマンの仕業やろ………というかそいつしか出来んわ」

 

何故もっと早く気付けなかったのかと、気付いていればこうはならなずにすんだかもしれないのにとロキは悔しそうに地面を蹴り、苦渋の表情を浮かべると

 

「別にロキのせいじゃないでしょ?」

 

「そうそう、それによく言うじゃん『生きてたらやり直せるって』」

 

とアマゾネスの姉妹が励まし

 

「そうだね、ティオネとティオナの言う通りだ、それに今回の一件でも『ダイダロス通り』は残っている。僕たちのやるべきことは変わらない」

 

「フィンの言う通りじゃ、それに今までのことから考えるに、あのカルキ・ブラフマンはこちらから手を出さなければ何も手出しをしてこないタイプじゃろ」

 

そのためには、まずは地下迷宮(クノックス)攻略の鍵になるであろう存在────地上に現れたモンスターとベル・クラネル────についてどうするべきかを話し始める派閥の団長と幹部をよそにロキは一人考える

 

「(そして問題は、あの脳筋がどう動くかやな…………)」

 

***

「ハァ…‥………」

 

ラキア王国の主神、軍神アレスから呼び出しを受けたラキア王国第2王子マリウス・ウィクトリスク・ラキアは憂鬱であった

 

「オラリオとの戦争で負け、多額の賠償金を払い、多くの兵士が改宗(コンバーション)されて人員が減った所に、国土の3分の2が一瞬で焦土と化すなど…………悪夢としか言いようがない」

 

しかも、その国土を焼き払った光は、オラリオから飛んできたという報告も受けており、恐らく今回の呼び出しは、オラリオから被害を受けたからオラリオに多額の賠償金を払うように通達するか、オラリオにも被害が出ているはずだから再び攻め込むぞという内容だろうと予想がつく

 

「そんな余裕が今のラキアにあるわけないだろうがっ!あの脳筋のバカ神がっ!!」

 

思わず、そんな悪態が出るが、すでに王宮のアレスのいる間についてしまったので気は進まないが、仕方なくアレスに会う

 

「呼び出しを受けて参上しました、何の御用ですか主神サマ?」

 

「おおっ!来たかマリウスっ、よく来たな!!」

 

「(クソ忙しいのにアンタが呼び出したんだろうがっ!!)」

 

完全な棒読みにもかかわらず、アレスはやって来たマリウスを豪快に笑いながら出迎える

 

「早速だがな、マリウス、暫く『遠征』はナシだ!ああ、勿論、オラリオへの『遠征』もな!」

 

「はっ…‥…?えっと、それはどのくらいの間………?」

 

アレスの言うことが理解できなかったマリウスは思わず、聞き返すとアレスは笑いながら

 

「そうだな………少なくとも十年はしないな」

 

「…………!はっ、アレス様の命令、承りました!!」

 

丁度、国土の復興に十年かかると言われていた矢先に十年は『遠征』をしないと言われたマリウスは内心喜び、アレスの間から出ていき、嬉々としてアレスの意思を国中に伝える……………軍神に踊らされていることも知らずに

 

「……………クククッ、『カルキ・ブラフマン』に『リグ・ヴェーダ』、『ブラフマーストラ』か……………フ、フハハハハハ!!これは良い!最高の娯楽だ!ああ、何故この間のオラリオへの侵攻の際に出てこなかったのか!!出てくれば最高の『戦争』になったというのに!」

 

マリウスが去った主神の間でアレスは嗤う、その手に持っているのは、神の勘で、ほんの10日前にオラリオに潜入させたスパイからの報告書であった

 

「あの『奥儀』が使えるというのならば、その上位互換の『技』も使えるのであろう!!いや、これは楽しみだ!!ああ────────こんな娯楽を他者に人間に渡すものか!俺の軍神の剣(フォトンレイ)と奴らの『奥儀』どちらが上か…………競える日が愉しみだ…‥‥………‥ククク、アハハハハハハハハハハ!!」

 

アレスが手にするは、三色の光で構成された剣、天界で「神の懲罰」、「神の鞭」とも呼ばれているその剣を持ちながら『軍神』アレスは、その本性を現しながらただ嗤い続けた

 

***

「…………む?意外と難しいな」

 

カルキは一人、【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)(首の取れた)の自室で何やら作業をしていた

 

「やはり、迷惑をかけている詫びの品だが、武器だけでは味気ない……………そう思って作り始めたのだが中々に難しいな、トヴァシュトリ神のようにはいかないな」

 

その後も暫く作業を続けていたカルキであったが、やがて満足する物が出来たのか、完成品を確認した後、満足そうに頷くと、それを箱に入れて、もう一つの箱を持つと立ち上がる

 

「まあ、この矢は既に一本持っているし、護身用として渡せば良いか」

 

そう言うとカルキはギルド本部に向かって歩き出した

 




テンション上がったアレスさん、この後Y字ポーズしているのを見られる模様


………‥自分は『戦神』とか『武神』をどうしたいんでしょうね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第48話

前回投稿時(オリュンポス攻略前)
「アレスってマルスと一緒かんじゃあ、Y字ポーズさせたろw」

オリュンポス攻略後
「……………どうすんねんコレ」

まさかあんな風にアレスが出てくるとは思わんかった………どうしよ………



時を少し戻して、ギルド本部前にカルキとタケミカヅチへ罪を問わないという張り紙が出された頃

 

「リド、グロス!無事だったか………!!」

 

『フェルズ!それにレイ達も』

 

オラリオ中に張り巡らされた地下水路、『ダイダロス通り』から離れた場所で2日ぶりに合流したフェルズと異端児(ゼノス)達は、お互いの無事を喜んでいた

 

「傷は私が回復しよう………他の異端児(ゼノス)達は?」

 

「合流できたのはこれだけだ‥………」

 

「居ナいのハ、レット、フィア、アルル、ヘルガ、アステリオス、ですカ…………」

 

「…………アステリオスハ兎モ角、他ノ連中ハナ」

 

2日前、カルキの初撃の余波で吹き飛ばされた異端児(ゼノス)達は、それぞれ吹き飛ばされた先でカルキとタケミカヅチの『闘争』────────異端児(ゼノス)達から見れば神と人が起こした災害────────を目撃し、巻き込まれつつも、命からがら地下水路に咄嗟に逃げ込み、水に流される匂いや、僅かな音を聞き分け、どうにかこうにか合流を果たしたのである

 

「にしても…………アレは何だったんだ?フェルズ?」

 

「これは想像だが、あの男……カルキ・ブラフマンの使っていた武器はいわゆる『神造武器』だろうな」

 

「確カ、「神が天界で造った武器」でしたカ?デスガそれは………」

 

「ああ、今まで人間が使ったという例はないといっていい…………全くとんだ化物がいたものだ」

 

「フェルズ………アノ人間ハ敵カ?」

 

「……………おそらく積極的には敵対はしないだろう、どうなるかは分からないがね」

 

カルキと会った時、カルキは異端児(ゼノス)について知っているような口ぶりであったことから、恐らく、居候先である【ガネーシャ・ファミリア】の主神、ガネーシャから異端児(ゼノス)について何かしらの情報を得ているのであろう

 

彼の背後にいる神々がどう異端児(ゼノス)を判断するのかはフェルズには分からないが、せめて異端児(ゼノス)達の想いを、願いを聞き届けてほしいと願うフェルズであった

 

***

生まれながらに飢えていた

 

生まれながらに『光』を知っていた

 

生まれながらに決して勝てない『強者』を知っていた

 

生まれながらに『光』も『強者』も抗えぬ『災害』を知っていた

 

────────────だが、その『光』も『強者』も『災害』でさえも己の同種でも同朋でもなく、『人間』であることを知っていた

 

それは、同種や様々な怪物と闘い、傷ついていた自分を助けてくれた同朋がいうには前世で見た『強烈な()()』だと、それが自分の『願い』なのだと

 

憧れというものは分からなかったが、その『光』が己の『願望』であるとは分かった

 

────────そして、「彼」は同朋を助けるべく進出した地上で『強者』と『災害』を見た

 

『強者』も『災害』もあの暗い場所にはおらず、日の光る地上にいた────────ならば、己の求める『光』もこの地上にいるはずだろう

 

ならば己は『光』と己の『憧憬』と出会うまで死ねない否、死ぬわけにはいかない

 

そう思いながら猛牛は一人、暗い地下水路を歩く

 

己の『憧憬』との再戦を望みながら

 

***

時を今に戻して、オラリオでの惨劇から3日たち、ギルド本部は────────修羅場だった

 

「東と南区画の被害報告は!?」

 

「南区画の生存者リストはまだできていないのかっ!!」

 

「地上に現れたモンスターへの賞金についての各【ファミリア】への通達用紙の作成はどうなっている!?」

 

「神タケミカヅチとカルキ・ブラフマン氏への公式通達文はまだかっ!今日中という話だっただろうっ!」

 

避難してきた民衆や本拠(ホーム)を失くした各【ファミリア】への臨時天幕の支給や、炊き出しについての打ち合わせ、被害者への補償、ウラノスからの命令である地上に現れたモンスターの賞金の準備等々、仕事が山積みであった

 

「うあー、終わんなぁい!この山減ってる!?減ってる気がしないよぉ~」

 

「フロット、口を動かす前に手を動かせ…………」

 

「……………」

 

昨日から徹夜で働いているのに全く減らない書類の山に「うわー」となるミイシャに死んだ目をした犬人(シアンスロープ)の班長がツッコミを入れ、普段であればそうなったミイシャをたしなめるエイナは、情報紙に載っていたベルへの非難が書かれた記事を読んでから仕事に向かっているが元気がない

 

「あー、だが少し休憩するか………俺が飲み物を持ってこよう」

 

「た、大変ですっ!!」

 

暗い雰囲気のエイナを気遣った班長の判断で少しの休憩が取られ、班長が飲み物を取りに行こうとしようと立ち上がった時、ギルド本部に息を切らせて外に出て、被害状況の確認をしていた筈の受付嬢の一人が飛び込んできた

 

『……………?』

 

「こ、ここに……ハァハァ……ギルド本部に………ゼェ……」

 

ただでさえ修羅場だというのに一体何が『大変』なのかとギルド本部にいる職員達が思わず全員手を止めていると、駆け込んできた受付嬢は大声で報告する

 

「カ、カルキ・ブラフマンがギルド本部に向かってきています!!」

 

『なにィ!?』

 

オラリオをたった数時間で半壊どころか全壊一歩手前まで破壊した神と人間の『闘争』を行った人間がギルド本部────すなわち、自分達のいる場所に向かっていると聞いたギルド職員たちは動揺を隠せず、ウラノスの許可が下りないと出せないはずの各【ファミリア】へ救援を要請しようとしたりするなど大混乱に陥るが

 

「待ってください!」

 

『!?』

 

1人の受付嬢の言葉にギルド本部は水を打ったように静まり返る

 

「カルキ・ブラフマン氏の………カルキさんの応対は私がします」

 

「「ミイシャ(フロット)!?」」

 

手を挙げ、カルキの応対に名乗りを上げたミイシャにギルド職員だけでなく、暗い顔だったエイナも驚くが、ミイシャは少し震えながら

 

「わ、私がやります………私がカルキさんの担当受付嬢だから!」

 

そう宣言するミイシャに職員の誰もが、その小柄な背丈が誰よりも頼もしく見える中

 

「………………邪魔だったか?」

 

『!!?』

 

どこか悲壮感漂うギルド本部に真逆の雰囲気で音もなく片手には長い箱を持ったカルキがギルド本部に現れた

 

***

「オオッ!」

 

────────振るわれるのは大斧、圧壊するのは金属の塊

 

【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)の中庭で次々と金属の塊を圧壊しているのは、【ガネーシャ・ファミリア】の主神ガネーシャだった

 

「むう!物足りん!!もっとないのか超硬金属(オリハルコン)超硬金属(アダマンタイト)は!!」

 

「…………あるわけないだろうガネーシャ……………」

 

一体この超硬金属(オリハルコン)超硬金属(アダマンタイト)だけでどれだけの値段になるだろうかとあきれ果てるシャクティと今まで見たこともないガネーシャに怯える【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちがいた

 

「むう……!暴れたりん!いっそのことダンジョンに突っ込んで暴れようかぁ!!」

 

「ダメに決まっているだろう!!」

 

この3日間、暇さえあれば武器を振るうガネーシャにシャクティが怒るが、ガネーシャは全く聞き入れず、大斧、杖、大剣、槍………ありとあらゆる武器を振っていた

 

「くううぅぅ!出来ることなら俺もカルキやタケミカヅチと『闘争』を楽しみたかったなああああああああ!」

 

『え!?ガネーシャ様って戦えるの!?』

 

「眷属から、まさかの発言ッ!」

 

自分の眷属から自分が戦えないと思われていたことにショックを受けるガネーシャであったが、気を取り直して

 

「俺は!少なくともカルキにもタケミカヅチにも負ける気なぞ、さらさらない!」

 

『えぇー…………』

 

「ノオオオオオオオオオオオオ!!」

 

あの大惨事を引き起こした居候と神と自分達の主神が戦えるとは思えない団員達は主神を胡乱げな目で見つめ、ガネーシャはブリッジをしながら嘆く

 

「…………ならば丁度いい、全員構えろ!相手をしてやる!!」

 

『ええぇ!!?』

 

アンタ何考えてんだ!?と団員達が抗議するが

 

「では行くぞオオオオ!!」

 

『ウギャアアアアアアアア!!』

 

つっこんでくる主神に第一級冒険者であろうと簡単に吹き飛ばされ、18階層から戻った団員達はあの猛牛から一蹴された時以上に『死』を感じ、それを眺めながらシャクティは呟く

 

「ハァ…あの男のせいだなこれは」

 

あの男のせいで主神が変わってしまったのか戻ったのかは分からないが厄介なことになったと天を仰ぐのであった

 

「いや!現実逃避しないで助けて下さい!シャクティ団長ォオオオオオオオオオオオオ!?」

 

────────────ガネーシャに吹き飛ばされているモザイクが何か言っているが私は何も聞こえない

 

***

「ききき貴様ァ!カルキ・ブラフマン!どの面下げてギルドに来たのだぁ!」

 

カルキがギルドに来て、遠くでロイマンがカルキに向かって喚いているが、カルキはロイマンを一瞥もせずに

 

「すまないが、少しいいだろうか渡したい物がある」

 

「は、はい、ですが今はボックスがいっぱいなのであちらに移動しても大丈夫ですか」

 

「問題ない」

 

カルキはミイシャのいるカウンターに真っ直ぐ向かうと、持っていた箱をカウンターに置き、渡したいものがあるというが、普段、受付嬢が新米冒険者の相談や担当冒険者との打ち合わせで使うボックスが満員だったので、別の場所で応対してもいいか聞くとカルキは同意し、ミイシャに大人しくついて行く

 

「それで……今日はどんな用ですか?」

 

「ああ、詫びの品を持って来た………自分の担当だから色々と迷惑をかけているだろうからな」

 

「わぁ………綺麗………」

 

そう言いながらカルキが懐から小箱を取り出すと、その中には、象牙で造られた枠の中に美しい紅色の宝石があり、その周りをクジャクとガチョウの羽で飾られたブローチが入っていた

 

「………って駄目です!受付嬢はこういった物を受け取っては………!」

 

「先ほども言ったが、これは詫びの品だ。下心は一切ない」

 

「そこまで言われると複雑ですよぉ!」

 

「………すまない?」

 

一体何が悪かったのかと首を傾げるカルキを見ながらミイシャは思う

 

「(うーん、やっぱり普通の人だよねぇ……)」

 

どうしてもミイシャはカルキを多少の付き合いがあったからとはいえ、情報紙に書かれているような『神に匹敵する人外の化物』には見えなかった

 

「(それにミアハ様が『彼や彼の背後にいる神々、タケミカヅチ達とは価値観が違う』とも言ってたし………うーん)」

 

昨日、ミアハからそう聞いていたミイシャはもしかすれば、今回の一件は自分達からしたら大惨事だが、カルキやタケミカヅチ達にとっては些末事なのではないかと考えていた

 

「……‥‥どうした?」

 

「うええっ!?な、何でもないですよっ!」

 

どうやら考え事が顔に出ていたらしい。カルキが尋ねてきたので慌てて答えると、「そうか」とカルキは深く追及はせず、それどころか気まずそうに眼を泳がせる

 

「…………?どうしました?」

 

ミイシャは首を傾げ、カルキに尋ねるとカルキは持って来た箱を開けると

 

「………短槍ですか?」

 

そこに入っていたのは一本の短槍であった

 

「いや、これは短槍ではなく矢…………神造武器の一つ『インドラの矢』だ」

 

「はあ………って!ええ!神造武器ぃ!?」

 

どうしてそんなものを……!と驚愕するミイシャであったが「まさか……」とカルキを凝視するとカルキは気まずそうに眼を逸らすと

 

「自分も女性に詫びの品としてこういった類(武器)を送るのはいかがなものかと思うのだが………まあ護身用とでも思ってくれ」

 

「いったい何処に護身用に神造武器を使う人がいるんですかぁっ!?」

 

思わずといった調子でオラリオを崩壊一歩手前まで暴れた男に身を乗り出してツッコミを入れる受付嬢に遠巻きに見ているギルド職員から悲鳴が上がるが、カルキはミイシャに怒ることもなく気まずそうに眼を逸らし続けている

 

「なに、相当の使い手が弓で放たねばそこまでの威力は出ないから大丈夫だろう」

 

「え?じゃあ私が使えば…………」

 

「そうだな………まあ、矢を投げてもせいぜい階層主とやらを消し飛ばすぐらいしか出ないだろう」

 

「せいぜいって言葉の意味知ってます!?」

 

「?」

 

再び首を傾げるカルキに「やっぱり、この人と価値観が違いすぎる………!」とカウンターにミイシャが突っ伏していると

 

「………」

 

どこからかカルキに石が飛んできて、それをカルキは難なく掴み、興味なさげに飛んできた方向を見ると、そこには女性がいた

 

「………何か用か」

 

「ッツ!お前の、お前のせいで………私は……私はっ………」

 

恐らく夫か子供を失くしたのであろう、汚れた服を身に着け、涙目でカルキを非難する女性はカルキに死んだ者に詫びろと泣きながら訴えるが

 

「生憎だがそれは無理だ」

 

『!!?』

 

女性の訴えをあっさりと断るカルキにギルド本部にいた誰もが驚愕し、それを見たカルキは話し始める

 

「確かに巻き込まれ死んでいった者達には悪いとは思う、だが、自分はタケミカヅチ神との『闘争』を己の『誉れ』であるとした。それにガネーシャ神やソーマ神、カーリー神だけでなく、天界にいるインドラ神とヴァルナ神、スカンダ神が『良き闘争』だと認めた………ならばその『闘争』に非があったと詫びれば、自分は己の『誉れ』に自ら泥を塗ることになり、『闘争』を認めた神々に対する無礼になろう────────それ故に今回の『闘争』で誰が・何人死んだとしても自分は悪いと思っても詫びることはないということだ」

 

そう言い切ったカルキにその場にいた誰もが何も言えず固まっている中、「ではな」とミイシャに言ったカルキは堂々とギルド本部から出ていった

 

 





久方ぶりにワートリに嵌った………普段は槍のトリガーを使ってる八極拳使い(つまり素手の方が強い)のオリ主を思いついたが……………だれか書いてくれんかなぁ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第49話

ダンまち3期で真のヒロインが来るな…………あれはダンまちのメインヒロインだよなぁ2度も生まれ変わって会いに来るんだから………きっとどのヒロインよりも真っ赤な赤い糸でベル君と繋がっているんだろうなぁ(しみじみ)



あとヘルメスとデメテル……お前らここではドロップキックや精神崩壊どころじゃ済まねえからな覚悟しとけよ(後者はFGOの八つ当たり)


カルキの屁理屈ともいうべき『武』に魅了された者としての理屈にギルド本部にいる誰もがギルド本部から去ろうとしているカルキに話しかけることも出来ず、その後ろ姿を呆然と見送る事しか出来ずにいる中

 

「ちょ……カルキさん!これどうすればいいんですかぁ!?」

 

カウンターから顔を上げたミイシャが慌ててカルキを追おうとするが、

 

「待て!フロット!!」

 

「ギルド長?」

 

ミイシャを呼び止めたロイマンだけでなく、他のギルド職員や冒険者達や市民もミイシャを────正確に言えばミイシャが持っている矢を────恐怖の眼で見ている

 

「あの男の言うことを信じるならばソレは『神造武器』だ………そんな危険な物を一介の受付嬢が持っていていいはずがない………ソレは私からウラノス様に渡しておこう」

 

「え………でも………」

 

確かに神造武器という爆弾をカルキから渡され、困惑していたミイシャであったが、誰よりも近くでカルキの応対をしていたため、カルキが善意100%で自分にこの矢を渡したことを理解していたため、いくらギルド長やウラノスが自分の上司とはいえ、勝手に渡すのはどうなんだろう?と、つい思ってしまったのである

 

「ええい!何を躊躇っている!!いいから渡せ!!」

 

「ギルド長の言う通りだ渡したほうがいいぞフロット」

 

オロオロするミイシャにロイマンが詰め寄り、班長もミイシャに早く渡すように促しているが、一向に矢を渡す気配のないミイシャに我慢の限界を迎えたのか

 

「いいからさっさと渡せ!!」

 

「キャッ!」

 

ロイマンが無理矢理ミイシャから矢を取り上げた瞬間、天からギルド本部に轟音をとどろかせながら雷が落ちた

 

「え……………?」

 

が、その雷によるギルド本部の建物への被害は出たが、死者どころか怪我人すら出なかった。それどころか、ギルド本部に雷が落ちたことに気付いたのは、誰もおらず、雷が落ちたことに、ギルド本部が破壊されていることに気付いてから気付いたのだ

 

「……………」

 

「カルキさん………?」

 

人的被害が出なかったのは、至極単純、誰よりも早く落ちてくる雷に気付いたカルキが立ち去ろうとしていたギルド本部に戻り、いつの間にか手にしている三日月刀で雷を切り裂いたからである

 

「何人やられた!?」

 

「生き残っているのはどのくらいだい!?」

 

すぐに『祈祷の間』から慌ててウラノスとヘルメスが飛びこんできたが、誰にも被害が出ていないことを報告され、心底安堵したように息を吐く

 

「しかし……何故インドラが………?」

 

「それは自分に非があるかと」

 

「!カルキ・ブラフマンか」

 

どこかバツの悪そうな顔をするカルキにどういう意味かとウラノスが問うと少し呆れたようにカルキは答える

 

「恐らくは、自分と彼女以外が己の武器(インドラの矢)を持ったことで()()()()に攻撃してきたのでしょう」

 

「成程………インドラらしいといえばらしいが………」

 

「しかし……もし君が弾いてなければここにいる全員が死んでいたはずだ………!」

 

しかも自分が近くにいるからこの程度なら反応して弾くから大丈夫だろうと思っている一撃であり、自分に対する注意でもあったとカルキはため息交じりで呆れるが、ウラノスとヘルメスは顔を険しくして天を睨み、周りにいるギルド職員達や市民は『さっきのが警告………!?』と戦慄する中「ふむ」と呟いたカルキは床に落ちているインドラの矢を拾い上げると

 

「とはいえ、今回はこういうことを予測できなかった自分に非がある………それ故に…………………うん、これで彼女以外の者がこの矢を使ってもただの矢にしかならないようにした………そして、すまないが手を出してくれるか?」

 

「え?ああ、はい………」

 

拾い上げたインドラの矢に何かしらの細工を施したカルキは「念のため」と称してミイシャを呼んで、手を出させるとカルキとミイシャの足元から光の粒子が現れ

 

「………『契約』を司る神、ミトラに誓う。我、カルキ・ブラフマンはこのインドラの矢をミイシャ・フロットに譲渡する。故に今後、我は彼女よりインドラの矢を奪いし者の親族、その者と契約せし神、その一切をヴァルナ神及びその配下アスラ神と共に塵殺することをここに宣言する」

 

「へ?えーっと…………?」

 

困惑するミイシャと周りの人間達や、とんでもない爆弾にドン引きしているウラノスとヘルメスを置いてけぼりにしてカルキは「これでいいだろう」と言って満足そうに頷くが

 

「いや!良くないよ!?下手するとオラリオにとんでもないバケモノ神達がやってくるじゃないか!!」

 

「カルキ・ブラフマン………貴様オラリオを守りたいのか滅ぼしたいのか一体どちらだ………!」

 

どこかやりきった表情のカルキとは逆にヘルメスとウラノスは青ざめた顔を通り越して青紫色の顔をしてカルキにツッコむ

 

「?必要だと思ったからですが何か問題でも?」

 

「君、オーバーキルって言葉知ってる!?」

 

「もし、ヴァルナやその配下のアスラ神が暴れれば余波だけで3日前以上の被害がオラリオに出ることは確実ではないか………っ!」

 

ウラノスのその一言でようやく何が起こっているのか気付いたギルド本部にいるギルド職員や市民が大騒ぎし始め、収拾がつかない程の大混乱にギルド本部が陥りかける中

 

「た、大変です!!」

 

『!?』

 

そんな騒ぎなぞ知らない都市での業務を行っていたギルド職員が慌てた様子で飛び込んできたことで、その騒ぎは水を打ったように静まる

 

「が、【ガネーシャ・ファミリア】の……本拠(ホーム)で……ゼェ……神ガネーシャと……ハァ…神タケミカヅチが暴れています!」

 

『…………はい?』

 

その報告にギルド職員や市民だけでなくウラノスやヘルメスも呆けた声を出し、カルキも何が起きているのかと首を傾げた

 

***

「「オオオオオオオオオオオオッ!!」」

 

二柱の男神の叫び声が響き、繰り出された拳が互いの頬に吸い込まれ、鈍い音を鳴らすと互いに鼻と口から血を流しながら2,3歩よろめきながら後ろに下がるが、ニヤリと嗤うと、再び殴り合う

 

「……………」

 

その周りには、その光景を遠い目をしながら眺めるシャクティと、ガネーシャによって一撃KOされた【タケミカヅチ・ファミリア】の団長と慌てて彼を介抱する目を前髪で隠した少女をはじめとした【タケミカヅチ・ファミリア】の団員、そしてこの二柱の神を止めようとした【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちを含む冒険者や神が壁や地面に突き刺さり、前衛芸術の様になっていた

 

…………どうしてこうなったかを説明するには数十分前に遡る

 

「ソォい!!」

 

『ギャアアァァァ!?』

 

神の力(アルカナム)を解放せず、恩恵を貰っていない一般人程度の力しかないはずのガネーシャが振り下ろした大斧が【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちをその余波だけで第一級、第二級関係なしに吹き飛ばす

 

「どうしたぁ!もう終わりか!!オレはまだまだ暴れ足りんぞ!!」

 

『いや!ふざけんなよアンタぁ!!』

 

地面に倒れ伏す団員達から主神に対して鋭いツッコミが入り、そろそろ止めるべきだとシャクティが前に一歩出た瞬間、本拠(ホーム)の入り口が開けられ、タケミカヅチが入ってきた

 

「『()の勘』で【ガネーシャ・ファミリア】で面白いことが起こっていると感じたから足を運んでみたら…………楽しそうじゃないか、ガネーシャ?」

 

「おお、タケミカヅチか!お前もどうだ?神の力(アルカナム)なしで一つ」

 

そう言って大斧を動かしタケミカヅチを誘うガネーシャに「ウーム」とタケミカヅチは少し考えた後

 

「いや、その誘いは愉しそうだが得物は止めておこう。流石に昨日の今日で得物を使って暴れたらギルドや都市に住む者達に申し訳ない」

 

「そうか!ではこちら(組み手)でどうだ?」

 

「ああ、それはいいなぁ、ぜひカラリパヤットの真髄…………見せてもらおうか」

 

そう言うなやタケミカヅチの姿が消え、ガネーシャの眼前にタケミカヅチの拳が現れる

 

「シッ!」

 

ガネーシャは反応し、その一撃を左手でさばき、右手を握りタケミカヅチの顔面を捕える

 

「フッ」

 

タケミカヅチはその手を掴み一本背負いでガネーシャを投げ飛ばすが、器用にガネーシャは空中で体勢を整えると着地するが、前を向くと既にタケミカヅチの追撃の拳が迫っていた

 

「(先ほどと同じ次元の跳躍を利用した一撃、ここまで接近されれば捌くのは不可………ならば!)」

 

ニヤリと嗤ったガネーシャはカウンターの要領でタケミカヅチの顔面を捉えるが、同時にタケミカヅチの拳がガネーシャの水月を穿つ

 

「「ガアッ」」

 

互いの急所を的確に撃ち抜いた一撃により、口から血を流しながら吹き飛んだ先で武神と群集の主を自称する障害神は凄絶な笑みを浮かべる

 

「(こちらの方が早く放ち、後からカウンターで放ってきたにも関わらず同時に……いや、僅かにガネーシャの方が早く届いたか………まったくこれだから)」

 

「(こちらが先に当てたにも関わらず一切ブレずに急所を穿つか……いや、確か極東の言葉で『肉を切らせて骨を断つ』だったか………まったくこれだから)」

 

「「面白い!!」」

 

そう言うなやいなや二柱の神は再びぶつかり合った

 

***

 

「────────というわけだ」

 

「なるほど、その後ガネーシャ神とタケミカヅチ神を止めようとしたり巻き込まれた結果がこれか」

 

ギルド本部から【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)へと戻って来たカルキはシャクティから事情を聴き「そういうことだったか」と納得する

 

…………正直、こうなった己の主神を止めようとした【タケミカヅチ・ファミリア】の団長や【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちから泣きつかれ巻き込まれた神々、冒険者に憐憫を抱くが

 

「………自分が入れば収拾がつきそうにないからな」

 

「全く持って同感だ」

 

ここにカルキが止めようとしても、かつて『新年の宴で誰が一番最初に飯を食うか』でインドラとアグニを中心にして喧嘩した際に世界の亀裂に巻き込まれ、危ない格好で歌いながら少女たちが戦っていた別世界に行ったときの様に下手をすると今以上の泥沼になる────────もとい、面倒くさくなるのが確定である…………が

 

「おい、混ざりたそうにするな」

 

「……………そんなことはない」

 

「嘘をつくな!さっきから体をウズウズさせていし、笑みを浮かべているだろう!!」

 

「…………」

 

そう指摘され、気まずそうに視線を泳がせるカルキに「まったく……」と呆れたシャクティであったが

 

「それで………コレは何時ぐらいに終わりそうだ?」

 

「まあ夕刻には止めるだろうが、終わる気配が見えなければ『スラー酒でも飲みませんか?』と誘おうか」

 

「そうだな……そうしてくれ、ああ、それと周りにいる神々や冒険者をあそこから離したい、手伝え」

 

「了解した」

 

もう止めるのは不可能と判断したシャクティは放って置こうと判断したのか、前衛芸術と化した神々と冒険者を離すことが大切とした

 

────────案の定、夕刻になってもガネーシャとタケミカヅチは殴り合いを止めず、カルキがインドラからスラー酒を貰ったことを話し、「じゃあ飲もう」とガネーシャとタケミカヅチは殴り合いを止め、スラー酒を飲むことになったのだが、酔っぱらったタケミカヅチが「いいモノ()を見せてやろう」と神の力(アルカナム)を使わずに斬撃を飛ばし、3日前せっかく半壊で残った【ファミリア】の本拠(ホーム)を横に両断することになる

 

そしてその両断された本拠(ホーム)の近くでさめざめと泣く神がいたらしいというのは余談である

 

***

次の日、ベルは、いてもたってもいられず、オラリオの街を見たいとに頼み、ヘスティアと2人で街を歩いていたが

 

「神様……ごめんなさい…………僕のせいで」

 

項垂れながらベルはヘスティアに謝る

 

それは、自分の行いによって人々から敵意・害意を向けられているだけでなく、自分の仲間たちにも同じような敵意や害意を向けられていることに加え、神に己の主神に嘘をつかせてしまった事への罪悪感から出た言葉であったが、「僕のせいで神様にまで迷惑をかけて」という言葉は途中で遮られた

 

「何を言ってるんだい!そもそもオラリオをこんなにしたのはベル君じゃなくてカルキ君とタケ………ううん、人間(子供達)が知らないのに勝手に人間(子供達)に激怒してカルキ君に無茶苦茶な命令をしたインドラが悪いんじゃないか」

 

「あ……あのカルキさんやタケミカヅチ様は…………」

 

「あー、うん、無罪放免だよ………誰だってあのバケモノじみた連中(リグ・ヴェーダの神々)イカれた連中(極東の神々)と事を構えるのは避けたいだろうし、インドラだけでなくよりにもよってヴァルナとスカンダまで出てきたらね」

 

「そう……ですか………」

 

「まあ、そんなことは気にせずに手をつなごうぜベル君」

 

そう言ってヘスティアはベルの手を握る

 

「ちょっと不謹慎だけど、ボクはちょっと嬉しいんだ。最近のベル君は手がかからなくなっていたからね。神の面目躍如という奴さ!」

 

どこかふざけた口調でヘスティアがベルの手を握る。今だに人々の非難の視線はそのままだが、体は先ほどよりも寒くなくなっていた

 

その後、ベルはヘスティアと共にカルキの放った『ブラフマーストラ・クンダーラ』により焼失してしまった『豊穣の女主人』へと向かい、リューに会い、2人の猫人と人間(アーニャとクロエ、ルノア)からカルキに『夜道には気をつけな』という伝言を頼まれ、その殺気に震えながら了承した後、『ダイダロス通り』へと向かった

 

「ここにも冒険者が………」

 

ヘスティア達が陣取っていたため奇跡的にあの『闘争』で残った『ダイダロス通り』には、数多くの冒険者が集まっていた。やはり、ここがダンジョンとこの迷宮街の関係性に薄々気付いているのだろう

 

が、それ以上に多くの冒険者はギルドから懸けられた膨大な懸賞金が目当てだろうと判断し、ウラノスも立場を利用して膨大な懸賞金を提示することで冒険者ひいては『闘争』の余波で財産を失い金欠になっている各【ファミリア】間の協力を防ぎ、包囲網を造らせないことが目的だろうと小声で話し合う

 

だが、それ以上にベルに先程よりも強く自分に向けられている悪意・害意を含んだ視線が向けられ、今にも怨嗟の声が生まれようとしていたその時、冒険者だけでなく、神や市民達がザワリと揺らいだ

 

────────あいつだ

 

────────オラリオをこんなにしやがって…………

 

────────どうせ、あの『神造武器』が凄いだけだろう………絶対に痛い目に合わせてやる………

 

ベル以上の敵意・害意が向けられている男はその視線を気に留めることもなくこちらに向かって歩いてくる

 

「カルキさん…………」

 

が、どこか普段のカルキと違うということをベルは感じた

 

普段のカルキはどこか浮雲のようなどこか自由人のような気風を携えているのだが、今のカルキは雷雲のような、いつ轟雷が落ちてもおかしくない雰囲気であった

 

「……………」

 

「あ、あの………?」

 

スタスタとベルに向かって歩いてきた()()()()()()()カルキが無遠慮にベルをジロジロと見ているせいで、何処か居心地の悪さをベルは感じ、ヘスティアも普段と違う行動をするカルキに声を掛けようかどうか迷っていて、周辺にいる神々や人々も何事かと遠巻きに眺めていると、カルキは顔を上げ、ベルを見下ろしながら

 

「ハッ、コイツ(カルキ)あの馬鹿(スーリヤ)、ヤマ、ヴィシュヌの奴が『面白い奴』と言ってたからわざわざ見に来たが………なんだ?このガキは、ただ覚悟も意志を押し通すだけの力もねぇ雑魚じゃねぇか……………こんな周りの有象無象ごときの目を気にするガキのどこが良いってんだか」

 

「!?」

 

声も口調もがらりと変わったカルキにベルは驚くが、ヘスティアや周囲の神々はその声の主に、今カルキの体に憑依している神の正体を知っていた

 

「………一体君が何の用だい?……………インドラ」

 

「おう、久しぶりだな、ヘスティア………まあ、アレだ、何か俺に文句を言いてえ奴らがいるらしいんでな、わざわざ文句を聞きに天界から来てやったぜ…………んで?覚悟は出来てんだろうなぁ、そいつ等は」

 

オラリオに再び嵐が来ようとしていた

 




インドラ神オラリオに降臨!なお原作通りこの後道化に会う模様


カルキ「(おかしい………ちゃんと歌に合わせて踊った(四諦―エイヴィヒカインド―)筈だし、何処からともなく同じ動きをする者達も現れたから踊りは通じた筈なのに何故敵意を………ハッ!まさかダンスの途中で飛んできていた大きな筒をブラフマーストラで消し飛ばしたり、大きな筒を飛ばしてきたであろう国をブラフマーストラで3分の2ほど焼き払ったからか!?)」

別世界のカルキを見た方々「(こいつ………ヤバい………!)」

この後、攻撃してきた男のような女のような分からん奴を2人パラシュで横に両断して、筒の武器らしきものを向けてきた女を縦に両断した後、やって来た男が角の生えた化物になったので素手で引き裂いたらさらに敵意向けられ、攻撃されたので面倒になって逃げた…………解せぬbyカルキ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第50話


気付けば50話………これからも頑張りますかぁ


今回、せっかく『下半神』って言ってたからと下ネタがあります

不愉快だと思われた方には申し訳ございません。何でもしま(ry






「(ヤバいヤバいヤバい…………)」

 

ヘスティアは目の前にいるカルキであってカルキでない神物との遭遇に内心焦りに焦っていた

 

「(もし、こんなところでただでさえ機嫌の悪そうなインドラの逆鱗に触れたりなんかしたら…………)」

 

最悪、オラリオが────否、世界が滅ぶ

 

『そうなったら創造神であるブラフマーが動くか神の誰かによって「世界の修正力」ってやつで『なかったこと』になるだろ』と目の前にいる神やガネーシャ、ソーマ、カーリーは嗤って答えるだろうが、そもそも、彼等は『世界を滅ぼす奥儀を同じ奥儀で相殺する』だの『ぶつかり合っている世界を滅ぼす奥儀をヨーガで止めた』だのヘスティアからすれば「……どういうことなの」と真顔になるようなことを平然と行うのだ

 

しかも質の悪いことに、『リグ・ヴェーダ』の神々は、このインドラという神も含めて、『戦場での挨拶代わり』などと言って、カルキがオラリオに多大な被害を与えた『奥儀』をポンポン頻繁に使用しているのである………そんな神がこのオラリオで暴れたらオラリオがどうなるかはお察し下さいと言うレベルなのだ

 

そんなバケモノじみた神々の中でも自己中心、他人の迷惑なぞ知ったことかという性格のインドラであるが、ヘスティアだけ被害が出ないようにするなら自神の司る権能や神格、相性、天界の頃の神づきあい諸々でどうにかなるかもしれないのだが、ヘスティアにとって守護すべき者達がいるオラリオに来ていること自体『最悪』の一言に尽きるのである

 

「い……いやいや!インドラ、ちょっと待とうよ!人間(子供達)は君のことを知らないんだ!文句を言うからって………!」

 

「は?何を言ってんだお前(ヘスティア)?」

 

「え………?」

 

てっきり、今もカルキに敵意や害意を向ける人間に対して自らの槍を落としてきたように手をかけるのではないかと危惧していたヘスティアであったが、どうも違うようだと分かると「じゃあ……4日前のあれは?」と思わずインドラに質問する

 

「あ?アレは『フレイヤとロキの【ファミリア】が()()』って戯言を言った馬鹿が神で、それをどいつもこいつも肯定しやがったからこいつ(カルキ)に命じて親切丁寧にその身に教えてやっただけだ………まあ、戯言をぬかしやがったそいつは1万年ぐらい会えなくしてやったが…………というか何で俺が有象無象のクソガキ共の言う言葉をいちいち気にしなきゃならねえんだよ」

 

「あ……そう」

 

「そんなことは当然だろうが」

 

サラっと『天界に還った神を殺した』というインドラにちょっと引くヘスティアであったが、「まあ、インドラだし」と無理矢理納得してから一息ついて

 

「じゃあ、何でこのオラリオに介入してきたんだい。ボ!ク!の!ベル君を見に来たわけじゃないんだろう?」

 

「ああ?、今日わざわざ天界からこいつ(カルキ)の体を借りてまで俺が足を運んだの訳だと?……………本当はソーマの奴に聞こうと思ってたんだが丁度いい、ちょっと小耳にはさんだから教えて欲しいんだがよぉヘスティア────────俺が認めた『闘争』に文句つけた()ってのはどいつだよ?」

 

***

────死んだ

 

5階層でミノタウロスに追いかけられた時、18階層で発生した異常事態(イレギュラー)で階層主ゴライアスの攻撃を受けた時、【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)でヒュアキントスの魔法を受けた時、歓楽街でアマゾネスに追いかけられ(別の意味で)危機になった時、人工迷宮(クノックス)でディックスと闘った時、ベルは何度か死を覚悟したことがある

 

────────が、今回はそれらが全て霞むほどの明確な『死』をベルに実感させた

 

「かっ……うぁ………あぁ…………」

 

カルキという仲介があって発せられた武神の『殺気』───────武神にとってはほんの僅か、つい「うっかり」漏れ出た『殺気』

 

だがその『殺気』を真正面から浴びてしまったベルは呼吸を忘れ、目からは涙を、口からは吐瀉物を流しながら地面に倒れ痙攣していた

 

「インドラァ!!」

 

「おっと、悪いなヘスティア、『つい』洩れちまった」

 

突然倒れて痙攣しているベルと、ベルを慌てながら介抱するカルキに向かって人々が知らない名前を叫ぶヘスティア、ヘスティアを眺めながら苦笑しながら謝るカルキに先ほどから何処か奇異の眼を向けていた民衆も流石に「何事か」とざわついていると、そこにとある【ファミリア】の一団が現れる

 

────【ロキ・ファミリア】だ

 

────【剣姫】に【大切断(アマゾン)】、【怒蛇(ヨルムンガンド)】………【千の妖精(サウザンド・エルフ)】もいるぞ

 

────やっぱりここ(ダイダロス通り)にはなんかあるな

 

そう『ダイダロス通り』にいる民衆や冒険者達が現れた【ロキ・ファミリア】の第一級冒険者を前にそれぞれの想いをひそひそと小声で話しているにいも関わらず

 

「おいおい……この程度でこうなんのかよ、こいつ(カルキ)は14,5の頃に俺の殺気喰らってもその日一日中ゲロ吐くだけで倒れなかったてのによ」

 

「えぇ……カルキ君ェ……じゃない!君の殺気は神ですらビビるのに人間(子供)が浴びたらこうなるのは分かるだろう!?」

 

「あーはいはい、もうしわけございませーん」

 

「何だぁ!その棒読み口調はぁ!?」

 

「だ…だい……じょ…う……ぶ……です………か…み……さま………」

 

「うわああぁん!ベル君、ベルくぅうううん!!」

 

傍から見ればギャグにしか見えないが、何やら必死にベルを介抱しているヘスティアとそれを見ながらどこか呆れているような雰囲気のカルキがいた

 

「「……」」

 

「えっと、あれってアルゴノゥト君とヘスティア様」

 

「と……アイツね」

 

ベルに何か言いたげのアイズとレフィーヤ、カルキに対して敵意を向けるティオネがベル達に近づくと

 

「アイズ、さん……ティオナさんにティオネさん、レフィーヤさんも」

 

「………やあヴァレン何某君にアマゾネス君にエルフ君、申し訳ないけど今忙しいんだ……!(まずいこんな所でロキと会ったら………!)」

 

「ほぉ―ぅ…………」

 

今だ回復しきっていないベル、どこか焦っているヘスティアに第一級冒険者であるアイズ、ティオネ、ティオナは違和感を覚えるが、それ以上にどこか体を舐めまわすような目つきで彼女たちを見るカルキ(inインドラ)に、エルフであるレフィーヤが噛みつく

 

「ッ!何ですか貴方はッ!いくら貴方が私達よりも強いからってアイズさん達にそんな嫌らしい視線を向けてッ!!」

 

「あ?ああ、やっぱりエルフのその潔癖な所は良いなぁ、天界(あっち)に来た奴で何度かヤッたが、嫌がる奴を無理矢理組み伏せて俺の息子を穴にぶち込んだ時に喘がせがいがあるってもんだ」

 

『な、なななな………なーーーーーッ!!!!!』

 

まさかのド下ネタセクハラ発言にレフィーヤだけでなく話を聞いていた【ロキ・ファミリア】、処女神(ヘスティア)初心な白兎(ベル)、話を聞いていた『ダイダロス通り』の民衆や冒険者の女性でさえ顔を真っ赤に(ベルは鼻から血を出した)する中、カルキは気にした様子もなく

 

「ヤッてみれば良いもんだぜ?『たとえ神でも私の誇りは汚すことは出来ません』って気丈に振舞ってた奴が数分後にはアへ顔さらして俺の息子を求めるようになるってのはよ………しっかし、誰の眷属か知らねぇが、後ろにいる連中含めて、まぁそそらせるいい体してんなぁ、残念な奴もいるにはいるが偶にはデカいのだけじゃなく小せえのを揉みしだくってのも乙なもんだ」

 

「(流石インドラ!ゼウス、ポセイドンに並ぶ天界の『下半神』ッ!!だが………そこに憧れるッ!!)」

 

話を聞いていた一部の神は天界でスーリヤや一部の神がインドラへの蔑称として使っている『下半神』とインドラを称しつつ、それだけ自由に振舞える実力を持っているということの証左であると称える

 

「さ……最っ低ですッ!!行きましょうアイズさん、ティオネさん、ティオナさん!!いくら強いからってこんな最低な人と話していたら耳だけじゃなくてもっと大切な所まで穢れますッ!!」

 

「おいおい……イクってよお、そういう意味か?エルフの小娘?」

 

「違いますッ!!」

 

「処女神として言わせてもらうけど流石に酷いよインドラ!?」

 

「うぎぃー!!残念ってどういう意味だぁー!!」

 

次々と出てくるド下ネタの数々にレフィーヤだけでなく処女神として注意するヘスティア、巻き込み事故に遭ったティオネまで騒がしくなり、収拾がつかなくなる中

 

「なんや?皆そんなに騒いでどうし………」

 

遅れてロキがやって来た瞬間、カルキの姿が掻き消え、ロキの顔面に蹴りがめり込み、『ダイダロス通り』の建物が飛んでいったロキによって崩壊した

 

***

「(あ゛ー、スラー酒を飲みすぎたな………二日酔いだ)」

 

【タケミカヅチ・ファミリア】の本拠(ホーム)の長屋の中庭にある石の上で座禅を組み精神統一を行いながら、タケミカヅチは昨日、カルキから誘われスラー酒をガネーシャと共に夜遅くまで飲んでいたことを反省していた

 

「しかし……スラー酒は美味かったな、インドラが好んで飲むのもわか……チッ、インドラの奴め、カルキ・ブラフマンに憑依したな」

 

一瞬、ほんの僅か感じられた殺気に反応したタケミカヅチが得物を持って飛び出しかけたが、インドラの神威は感じられず、カルキに憑依していると判断した

 

「一戦交えるなら憑依ではなく本神と心ゆくまで戦いたいもの…………フッ、いかんな、どうにもあの『闘争』をしたせいか抑えが効かなくなっている………天界ではないというのにな」

 

そう自虐的な言葉を吐きつつも、壮絶な笑みを浮かべるタケミカヅチは再び座禅を開始し、そこにいるのかいないのか分からない程に周囲と同化していった

 

「やれやれ………あれ程『カルキやヴィシュヌにも言われてるから最低限でしか暴れない』と言っていた癖に暴れるのか」

 

まあインドラらしいといえばそこまでだがとガネーシャは嘆息する

 

「昨日の酒宴でうっかり『形だけでも』とカルキとタケミカヅチを罰しようとした神がいると言ってしまったのをインドラが聞いていたのは予想外だったな………ま、俺には関係ないか」

 

今、まさに『ダイダロス通り』でとある女神がボロ雑巾になっっていることを感じながらガネーシャはニヤリと嗤う

 

***

「おいヘスティア、昨日偶々聞いた俺が認めたのにこいつ(カルキ)を罪に問おうとした神ってのはこいつだよな?いや、こいつだな」

 

カルキが片手で顎を持ちながら掴み上げているのは、両手足を砕かれダラリと力なく項垂れているロキであった

 

「こ……の声……インド……ラ……」

 

「『様』をつけろやコラ」

 

「ガアッ!」

 

『ロキィ!!』

 

不機嫌にロキを地面に叩きつけるカルキに【ロキ・ファミリア】の団員だけでなく、このままではロキが殺されると判断した冒険者達が助けようと駆けだそうとするが

 

「駄目だッ!」

 

「神様!どうしてッ!?」

 

「あのままじゃロキが………」

 

それを先ほどから必死にヘスティアが止め、ベルが思わず何故止めるのかと叫び、アイズがヘスティアに詰め寄るが、「いいから!」と無理矢理抑えこみ、キッと決意した表情でカルキに向き合うと

 

「違うよインドラ、ロキはカルキ君を罰しようとはしていない」

 

「……………チッ、どうやらその眼、嘘はついてねえな」

 

「「「ロキ!!」」」

 

仕方ねえと吐き捨てたカルキは掴んでいたロキを無造作に投げ捨て、「しばき損じゃねえか」と舌打ちしながら言って、何処かへと行こうとすると、アイズが前に立ち塞ぐ

 

「どうして…………?」

 

「ああ?どうしてだと?…………決まってんだろ俺がこの雑魚(ロキ)が気に入らねえからだよ」

 

「そんなことで…………」

 

「ハッ、クソみてえな神の【ファミリア】が『最強』って言われててこんなカスが『次代の英雄』ってか………マジでこのオラリオってのは俺を不愉快にさせんな」

 

『!?』

 

たった一言でその場にいた人間は呼吸を忘れ立ちすくむ

 

第一級冒険者が、第二級冒険者が濃厚な死の気配に身をすくませ、武器を構えることも出来ずにただ立ちすくむ

 

────────が、彼等は死ななかった

 

「あ?」

 

次の瞬間、カルキに誰も反応できない速度で矢が飛んできたからだ

 

「…………んだよ、お前かよ」

 

音を置き去りにする矢を軽々と掴んだインドラは古い知人に会うような雰囲気でその矢を放った神に向き合う

 

「カルキいや、インドラ……貴様、俺の酒蔵を壊したらどうなるか分かっているだろうな……………」

 

そこには弓矢を持ち、激怒したソーマが立っていた

 

 





インドラ対タケミカヅチかと思った?残念、ソーマでした!!


前回のあとがきについてですが、実は「番外編で他の世界にお邪魔したことあるってかいたから小説検索の横にある作品群を全部書き出してあみだくじして5個ぐらい適当に決めたろ!」と思い付きで書いたんですよねぇ

結果としてはBanG Dream!、シンフォギア、ダンまち(抜くの忘れたアホ作者)、プリキュア(!)、ロクでなし(以下略)になり、消去法で歌でぶん殴る世界になりました

…………ZENRA局長は犠牲になったのだ……作者の思い付きの犠牲にな………






次回『ぐうたら女神の本気』




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第51話

…………なんだか気付けば1か月経っていた

な、何を言っているのか分からねーが、俺も何を言っているのかがわからねぇ、PSP発掘してCCCして、ローマになって、魔王ノッブ引いて、ボイジャーと紅葉引いてたら、こうなってやがった

………はい、ごめんなさい、サボってました





「うむ……これならば………」

 

その日、自派閥の所有する酒蔵でソーマは満足げに頷いていた

 

「これならば神酒の味はそのままでも子供たちは今までのような神酒の禁断症状は出ないだろう………フッ、存外簡単だったな」

 

とはいえ、大量生産には望めそうにもないのでまずは5壺分ほど仕込み、完成したら、天界で同郷だったガネーシャとカーリー、良き戦いを魅せてくれたカルキとタケミカヅチ、そしてこの戦いからこの酒蔵を結果的とはいえ守ったヘスティアに振舞おうと思っていたところ

 

轟音を立てて酒蔵が崩れ酒壺が木っ端みじんに砕け散った

 

「……………………は?」

 

自身が丹精込めて仕込んだ酒壺が砕け、地面に神酒となるはずだった液体がしみわたっていくのを見て、呆然としていたソーマだったが、やがて微かに感じられる神威にこれをやったのが誰なのか分かると、そのクソ野郎がいる方向を睨みつける

 

「…………まさか………まさか1度ならず2度も俺の酒壺を壊すとは────覚悟は出来ているんだろうな」

 

ブチリと蟀谷から聞こえてはいけない音を鳴らしたソーマはゆらりと軽い足取りで酒蔵を出る

 

「ソ、ソーマ様!?大変です!あのカルキ・ブラフマンが暴れてロキ様を………ヒィッ!」

 

途中、自身の眷属が自分に何かを報告してくるがそんなことは無視をする────今はとにかく憎いあん畜生(インドラ)に一発ぶちかまさなければ気がすまない

 

「チャンドラ…なんでもいいから今すぐに弓と矢を持ってこい、これからあの馬鹿と一戦やるぞ」

 

『は、はいいいいいいッ!!』

 

普段の茫洋とした雰囲気の声と姿のソーマから発せられる凄まじい殺気に、名指しされたチャンドラだけでなく、【ソーマ・ファミリア】の団員達は震え上がり、慌てて自派閥で使っている弓矢を探し始め、数分してから自派閥で最も高価で最上の弓を持って来たが

 

「………遅い」

 

『ヒイイッ!!』

 

恐る恐るといった調子でソーマに弓と矢筒を差し出すチャンドラからひったくり、矢筒を腰に装備し、弓の弦を確認したソーマは団員達を置いてけぼりにして自派閥の敷地を飛び出す

 

────────見つけた

 

ダイダロス通りを轟音が聞こえてくる方向に走って数分、やたら視界の広くなった一角に、ロキの顎を掴みながら持ち上げているカルキが────もとい、カルキの体を使って下界に下りてきた下半神(インドラ)が視界に入る

 

「では………天界にいた頃に倣って挨拶代わりだ」

 

そう言うなやいなや、矢を弓につがえたソーマは己の武技もって、インドラに向かい音を置き去りにするほどの速さとオラリオを跡形もなくを滅ぼしうる威力を持った矢を放った

 

***

「ったくよお?久方振りに会ったってのにどういうつもりだソーマ、オレが止めてなけりゃこのオラリオとかいう所が跡形もなくなくなってたぜ?おい」

 

「なに、懐かしくてなぁ、つい天界での挨拶をしてやっただけだ…………まさかだと思うがこの程度の矢も止められなくなったのかインドラ?」

 

「んな訳ねーだろ、てめえなんざオレがコイツ《カルキ》の体使って丁度いいぐらいのハンデってやつだよ」

 

「ほぉう?武神とはよく言ったものだ、負けると思って言い訳か?」

 

「…………あ゛あ゛?」

 

穏やかな表情と口調でソーマとインドラは話しているが、周りにいる人間と神々はそれどころではない

 

「うわアァァァ!?ベル君!アマゾネス君!ヴァレン何某!気をしっかり持つんだぁ!!?」

 

「ぁ………ぅあ………」

 

ソーマとインドラが垂れ流す殺気と神威に周囲の神々のうち、立っていられるのはヘスティアのみであり、他の神々は地面に膝をつき、必死に意識を飛ばさないように歯を食いしばり、先程「ついうっかり」漏らした程度の殺気とは比べ物にならない殺気にベルは既に意識を失くし、その周辺にいる第一級冒険者であろうと例外なく気を失い、一部の者達は二柱の殺気に耐え切れずに息絶える

 

「当然だ、今のお前の言葉はまるで『(ソーマ)に負けるかもしれないからカルキを言い訳に使う』としか聞こえなかったからな」

 

「酒造りなんぞにお熱になってる阿呆なんぞオレの相手にもならねえって言ってんだよ、腑抜けが」

 

「ハッ、その『腑抜け』に負けたらお前はどうなるだろうな?『最強の武神』の名を同じ権能を持つタケミカヅチにでもくれてやったらどうだ?」

 

『(おい!!これ以上煽るな!?)』

 

オラリオの天気が曇天を通り越してどす黒い暗雲が立ち込め、周囲が大惨事になっていることを気にも留めずインドラを煽りまくるソーマに神々が内心ツッコむ中

 

「(ああ………昔、パールヴァティー達からお茶に誘われて行った先でシヴァとヴィシュヌが睨み合ってたなぁ………)」

 

必死でベル達をその場から引きずって避難させようとしているヘスティアは、どこか遠い目をしながら現実逃避をしていた

 

「…………てめぇ、いい度胸してんじゃねぇかソーマァ……!」

 

「俺の酒蔵を壊しておいて俺がそう簡単に許すとでも思っていたのか?インドラ……!」

 

『ッツ!!』

 

ああ、これは無理だわと神々は直感する

 

ここまで煽られたインドラ(カルキに憑依しているが)は絶対にキレてるだろうし、オラリオの平和や秩序より己の趣味を優先するソーマ、ただでさえ『他神や人間への迷惑?何それ?美味しいの?』な神々の中でもその気が強い神がこうなってしまったらどうなるかは至極単純

 

「「くたばりやがれえええぇぇぇ!!!!」」

 

『『ギャアアァァァあ!!!?』』

 

インドラの拳とソーマの放った矢がぶつかり合うと同時に、天を覆っていた暗雲は割れ、神と人間は容赦なくとある女神とその周辺にいた者達以外は吹き飛ばされた

 

***

「な、なんだ!?」

 

突如オラリオを襲った轟音と衝撃に、地上に進出したモンスターへの警戒────という建前で本当は闇派閥(イヴィルス)から『鍵』を奪おうとしている────『ダイダロス通り』近辺の一角に陣を張っていた【ロキ・ファミリア】は混乱に陥る

 

「先ほどから響いていたナニカを殴る音が途切れたと思ったらこれか………これもカルキ・ブラフマンの仕業か?」

 

「たぶんね…………ロキやアイズ達のことは心配だけど、今すぐに此処を放棄する、全員撤収だ。今は全員生き延びることだけを考えろ」

 

『はいッ!!』

 

自分達の主神が半殺しにされていることを知らない【ロキ・ファミリア】は持つ物も持たずに敗走するように『ダイダロス通り』から逃げ出す

 

「うむ!やはりこうなったか!!」

 

知ってた!とばかりにインドラとソーマの喧嘩の余波に巻き込まれ、空中を舞う神や人間を見ながらガネーシャは呵々大笑する

 

「だが………今回のコレに無辜の民衆が巻き込まれるのはよくないな、ああ、良くない」

 

そう言って斧を肩にかけるガネーシャは嗤う

 

「まあ、余波を逸らすぐらいだ、体を動かすには丁度いい」

 

そう言うなやいなや飛んできた余波を一振りで切り払ったガネーシャは心底楽しそうに笑った

 

「ウォッ!?何だこの揺れは!?」

 

インドラとソーマの戦いの余波は地下にまで届き、地下水路に潜んている異端児(ゼノス)達は混乱に陥る

 

『クッ!此処は頑丈だから崩壊することは無いだろうが…………!』

 

未だ合流できていない異端児(ゼノス)達に不安を覚えるフェルズやリド達に対し、ウィーネは自らの体を抱きしめ、ガタガタと震える

 

「………!何……これ………本気じゃ……ない……」

 

『ウィーネ?』

 

突然ふるえはじめたウィーネに、心配そうに声をかけるレイに、ウィーネはしがみつく 

 

「使っていない…………わからないけど………そう感じる………」

 

『『『?』』』

 

怯えるウィーネの言葉をその場にいる人の言葉を話す異形の怪物達は理解できず首を傾げた

 

***

「フ、フハハハハハ!!酒造りにうつつを抜かした挙句、下界に降りて腕が落ちたんじゃねえかと思ってたがそこそこやれるじゃねえか!ええ?ソーマよぉ!?」

 

「そういうお前は弱くなったか?カルキの体とはいえ『最強の武神』というのは随分安いものだ」

 

「抜かせぇ!!」

 

最初の方こそ互いにキレていたインドラとソーマであったが、数分も経たぬうちにその表情は憤怒から歓喜に変わり、今では互いに数日前、このオラリオで暴れた時のカルキとタケミカヅチと同じ獰猛な笑みを浮かべていた

 

「シッ!」

 

弓に矢をつがえたソーマが一瞬でインドラの懐に入るなやいなや接射する

 

「!」

 

が、そのほぼ零距離から放たれた射撃をカルキの体を使っているはずのインドラは恐ろしい速度で反応し、受け、素手で矢を掴み受け止める…………が

 

「チッ!」

 

勢いだけは殺しきれずにオラリオの城壁をぶち破ってインドラが吹き飛んでいく

 

「さて………次はどうするか………」

 

それを眺めながらニヤリと笑ったソーマを咎める者はその場には誰もいなかった

 

***

「あーー、クソっ、やっぱり人間の体ってのは脆いな、この程度で吹き飛ぶのかよ」

 

ソーマの攻撃の勢いを殺しきれずにとある森まで吹き飛ばされたインドラはそう愚痴る

 

「(つっても、コイツの体だから跡形も残らず……ってことになってねえのは事実だがよ)」

 

さて、どうすっかなーと言いながら立ち上がるインドラに声を掛ける者がいた

 

「き、貴様!何者じゃ!!」

 

「あ?」

 

声がした方を見てみると、そこにいたのは小柄なエルフであった

 

「貴様!人間だな!!ここをどこだと思っている!?ここは大聖樹の森!我らエルフと精霊達が………」

 

「うるせぇ」

 

何やらエルフがごちゃごちゃ言っていたようだが聞く気もなく煩わしかったので、拳を脳天に落とすと頭が潰れたトマトみたいにはじけ飛ぶ

 

「あ、ヤベッ」

 

つい普段の癖でやらかしたことに気付いたインドラであったが時すでに遅し、頭のなくなったエルフの体は首から赤いものをぶちまけながらゆっくりと地面へと倒れる

 

「(あー、やっちまった………これは天界に還ったら『勝手に殺すな」ってヤマの奴が面倒くせぇ)」

 

頭をかきながら面倒ごとが増えたことにため息をついていたインドラであったが、とあることに気付く

 

「?なんだぁ、カスみたいなのしかいないとはいえ、精霊がいるじゃねぇか………こりゃあ、丁度いい」

 

そう言うと近くにいた1匹の精霊を掴むと、弓の弦を引く様に腕を引き

 

「さっきはソーマからだったからな……今度は俺から挨拶してやるよ!!」

 

ニヤリと笑い精霊をオラリオに向けて勢いよく投げ飛ばす

 

「………来るか」

 

互いの攻撃が対消滅していることやガネーシャとタケミカヅチが余波を上空へ逸らしているおかげで奇跡的に最小限の被害で済んでいるオラリオで佇むソーマが空を見上げると

 

数え切れぬほどの無数の炎の矢がオラリオの空を覆いつくし、今にもオラリオに雨の様に降り注ごうとしていた

 

遠くで「うわあああぁぁ!?」「し、死ぬ!!アレ絶対に死ぬ!」「逃げろぉ!?」「どこにだよ!!どこに逃げろってんだよ!?」「ほぅ!これはまた……!」「いやぁ、なんと懐かしい!!」と恐怖と絶望の声が聞こえる(そのなかに歓喜の声が2つほど混じっているが)

 

「精霊でも弾に使ったか?………面白い」

 

冷静に判断したソーマは矢筒から矢を取り出すと弓につがえゆっくりと引き絞り、炎の矢の雨へと矢を向ける

 

「だが………この程度ではな、あまり舐めてくれるなよインドラ……!」

 

ソーマが放った矢は同じように炎の矢の雨と化し、インドラの炎の矢を全て撃ち落とす

 

「さぁ、第2幕といこうか」

 

こちらに恐ろしい速さで向かってきているインドラの気配を感じながらソーマは嗤う

 

***

「あーーッ!!もう!ソーマもインドラも暴れてぇ!!ここは天界じゃないんだぞぉ!!」

 

とある建物の一室でツインテールの小柄な女神は「ウギーッ」と喚いていた

 

「それに、ベル君や恩恵を貰っていない子ならまだしも、どーしてボクがロキやフレイヤ、他の(馬鹿)まで助けないといけないんだい!?」

 

眷属(ファミリア)人間(子供)ならまだしも神本人を助けることには納得いっていないヘスティアは愚痴っていた

 

「そ、そんなことを言わないでくれよ、俺達はヘスティアのおかげで助かってるんだぜ」

 

そうヘスティアを宥めるのは、ベルに会いに行こうとしていて余波に巻き込まれたヘルメスである

 

その数階建ての建物にはヘスティアと今だに目覚めないベルだけでなく、ヘスティアが引きずってあげていたアイズ達、偶々吹き飛んだ先にヘスティア達がいたロキ、余波に巻き込まれ逃げていた【ロキ・ファミリア】の面々、主神の判断により2柱の戦いから必死になって逃げていた【フレイヤ・ファミリア】とその主神、『ダイダロス通り』にいた冒険者や『ダイダロス通り』の住人達などがぎゅうぎゅうになっていた

 

「まあ、竈に火が入っていて、孤児の子達がいる以上、ボクがちょっとだけ神威を使えばこの建物は安全だけどさ」

 

ヘスティアの言葉通り、この建物はインドラとソーマの戦いの余波を受けてもヘスティアの力によりビクともしていなかった

 

「にしたって!あいつ等は本当に頭がおかしい!!なんだい!神の力(アルカナム)を使わずに『技』だけでここまでの被害をだすだなんてッ!!」

 

「(まあ………その『技』の余波を簡単に止めた挙句、この建物を()()って言いきれるヘスティアの神格の高さも大概だけどね…………)」

 

ツインテールを振り回しながら「やっぱりアソコ(『リグ・ヴェーダ』)の連中は!」と怒るヘスティアをどこか呆れたようにため息をつくヘルメスだった

 

***

ソーマが矢を放ち、インドラはソーマが矢継ぎ早に放つ矢をいつの間にか拾っていた誰かが落とした大剣を片手で軽々と振りながら全て弾く

 

大剣に弾かれた矢は西の汽水湖を蒸発させ、北の山脈を抉り、南東にある砂漠を砂の海から炎の海へと変え、点在する小国の人や神は逃げ惑う

 

………が、今の2柱にとってそんなことは『些事』でしかない

 

片や酒蔵を壊されたことに激怒しつつも、やはり数日前の『闘争』に昔の血が騒いでいた『月と盃の神』、

 

片や目の前にいる男神が腑抜けたと思っていたら、蓋を開けてみれば以前と────かつて『武神』である己や『破壊神』、『維持神』、『創造神』、『炎神』、『風神』や己の不倶戴天の好敵手である『太陽神』何かと因縁のある『天空神』といった面々…………他の領域の神々の「大神」と呼ばれている神に匹敵か上回る神々と鎬を削っていた男神が全く変わらぬ実力を持っていることに狂喜する『武神』

 

この2柱の『闘争』の前には神や人が天にいくら昇ろうともその2柱の神が所属する『リグ・ヴェーダ』の神々は人々が、神々が抗議しても嗤ってこう答えるだろう

 

────────『それがどうかしたのか?』と

 

 




おかしい……ヘスティアの本気までいかなかった………これは許さない………

あ、大聖樹の森云々が分からない方はYouTubeでダンメモのイベントを探してください
(実はソーマが焼き払う予定だったんだが残りました、良かったね!!)















そういえば、漫画版のソードオラトリア読んで思ったんですが、リーネって潰れたトマトみたいに真っ赤になって死んでましたねぇ………その姿をカルキが見ていたら【ロキ・ファミリア】に最高の煽りが出来たのに………!!

あ、卑劣様モデルのオリ主に言わせればいいかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第52話

ソーマVS(inカルキの体)インドラinオラリオのイベント中のカルキさん

「…………?(困惑)」

天界で「女心講義」なるものをパールヴァティーをはじめとした女神達から開かれ、ボーッとしていたら吹き飛ばされたの巻(なお、誰も助けてくれなかった模様)




………せや、リューを曇らせたろ!!って思って書いてたらダンメモでアストレア・ファミリアが出てきたせいで書き直すことに……どうすりゃええんや


時を戻して数十分前

 

酒蔵を壊され、怒り心頭のソーマがカルキに憑依しているインドラを煽り、一触即発の雰囲気になっている頃

 

「うんぬぁあああああ!!」

 

勢いよくとある数階建ての建物にヘスティアがベルやアイズ達を巻き込まれなかった他の神々と協力して、どうにかこうにか運びながら倒れこむように座ると、きょろきょろと辺りを見回す

 

「ゼェ………ゼェ……あ、あった………!」

 

ヘスティアが目に映しているのは、小さな竈……即ち、己の司る『権能』たるもの

 

神の力(アルカナム)を使うのはルール違反だけど……今はそんなことも言ってられないよね?」

 

数日前に神友と元同居人が行った『闘争』は、オラリオの────下界への被害を考慮したものであったとあの『闘争』を見ていたヘスティアは、判断していた

 

そして、思い出すのは、かつて天界でよく見た光景

 

────神の力(アルカナム)を使わずとも、武器を振るうだけで天界の山々を切り払い、川の流れを変え、海を干上がらせ、炎の矢が雨の様に降り注ぎ、空間を切り裂き、それが次第にエスカレートしていき、結局は神の力(アルカナム)を使い始め、他の神々の領地に被害を出すだけならまだしも、天界を世界を崩壊させる一撃をお互いに打ち合うあの馬鹿野郎共(リグ・ヴェーダ)の『闘争』

 

それが今、この下界で………オラリオで起きようとしているのだ

 

「サポーター君達はもっと心配だけど…………」

 

「「「「ヘスティアぁ!!早くしてくれェ!!」」」」

 

「ええい!!うるさいっ!!」

 

竈に火を入れようとしているヘスティアの後ろで、気絶した冒険者や『ダイダロス通り』の住人達を避難誘導している神々から声が上がるのを一喝しながらヘスティアは下界でギリギリ許されるレベルの『神の力(アルカナム)』をほんの僅か開放する

 

***

────時を同じくして

 

「ッ!!住民を急いでギルド本部内に避難させろ!神々は『神の力(アルカナム)』を開放して障壁を造れ!!私が許可する!!」

 

「「「ハ、ハハァッ!!!」」」

 

ギルド本部でウラノス自ら指示を出し、最小限の被害で修めるようにギルド職員達が指示に従い蜘蛛の子を散らすように走り出す

 

「皆さん!!落ち着いて!落ち着いてギルド本部に避難してください!!」

 

「慌てないで!ギルド職員の指示に従って!!」

 

が、一方のギルド本部前では、大混乱が起こっていた

 

しかし、それも無理はないだろう、このオラリオを壊滅させた事件からまだ数日しかたっていないのだ、そこにその事件を彷彿させることが起きればどうなるかは赤子でもわかる事態であった

 

「駄目………皆、混乱してる」

 

「そう……」

 

「くっ………」

 

住民の避難誘導にはギルド職員達だけでなく、ミアハ・ヘファイストス・ディアンケヒト・ガネーシャ等の【ファミリア】も協力はしているが芳しくないことにギルド本部近くにある救護所にいるミアハとミアハと合流したヘファイストスは唇をかむ

 

「「「ミアハ様!!」」」

 

「おお!お前たち、避難できたか!………ベルとヘスティア、タケミカヅチはどうした?」

 

ミアハの前に息を切らせながら現れたのは、ヘスティア・タケミカヅチの【ファミリア】の面々、本来ならば、住民や同業の冒険者達から白眼視される彼等だが、今はそれどころではない程混乱していた

 

「ベル様とヘスティア様は外出されていて………まだ帰って来ないんです」

 

「わ、私達はタケミカヅチ様から『俺がどうにかしてやるから避難しろ』って言われて………」

 

リリと千草の答えにミアハとヘファイストスは苦い顔をするが、すぐに相貌を整え、彼ら彼女らに早く避難するように伝えていると、突然、轟音が響き、住民から悲鳴が上がる

 

『何が起きた(の)!?』

 

「瓦礫が降ってきおった………ッ!?」

 

「こ、これは………」

 

「ふざけろっ!!」

 

唯一何が起きたかを分かった椿が呆然と呟き、空を見上げると顔を強張らせ、それにつられた面々が空を見上げると空一面に巻き上げられた大量の瓦礫が避難している住民や冒険者に降り注ごうとしていた

 

「ッ!」

 

せめて僅かでも撃ち落とさんと第一級冒険者である椿やシャクティをはじめとした【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちが魔剣や武器を構えると

 

「ハーッハッハッハ!!トウッ!」

 

『ガネーシャ!?』

 

笑い声と共にガネーシャが飛び出してきて空に向かって拳を放つと同時に空に浮かんでいた瓦礫が全て吹き飛ぶ

 

「安心しろお前達!!瓦礫や余波は全て俺が防ぐ!!だから落ち着いてギルドの指示に従って避難するんだ!そうすれば何の心配もない!!」

 

『おお………!』

 

その堂々とした姿に住民や冒険者だけでなく、【ガネーシャ・ファミリア】の団員たちからも声が上がる中

 

「なぜなら!俺がガネー…む!」

 

ポーズを決めながらガネーシャが自己紹介をしていると、凄まじい威力を持った衝撃がオラリオを駆け、ギルド本部を襲おうとしていることに気付いたガネーシャが身構えるが

 

「シッ!」

 

キンッと鞘から刀を抜いた音が聞こえたと同時に衝撃波は上空へ跳ね上げられ、空を覆っていた雲を消し飛ばす

 

「インドラの奴……加減という言葉を知らないのか」

 

どこか呆れたような口調で刀一本で衝撃を上空に逸らしてみせたタケミカヅチにオラリオの住民は苦い顔をするが、その文字通り神業を見せられた冒険者達はその技量に絶句する

 

「おお!あっちには行かなくていいのか?タケミカヅチ?」

 

「生憎だが、俺は他人の喧嘩に首を突っ込む野暮はしないのでな、今回は人間(子供達)を守るさ」

 

そう軽口を叩きながらコキコキと首の骨を鳴らしながら二柱の男神は飛んでくる瓦礫や衝撃の余波を逸らし始める

 

***

「………うーん、しかしこう見ると本当にカルキ・ブラフマンとタケミカヅチって下界にいやオラリオに気を遣ってたんだなぁ」

 

しみじみと苦笑しながらヘルメスに『ダイダロス通り』の住民たちや冒険者達から非難するような目が向けられるが、神々は「せやな」と同意する

 

今、ヘスティアのおかげで無事な建物の内部ではフレイヤをはじめとした一部の神々によって『神の鏡』が展開されており、インドラとソーマの戦いが映し出されていた

 

「これが神の戦いか………」

 

「「「「頭おかしい」」」」

 

「チッ…」

 

「「……………」」

 

美の神の眷属の幹部である者達はその次元の違いすぎる戦いに圧倒される

 

「これはまた………」

 

「儂等の今までの戦いなぞ児戯か………」

 

「言うなガレス……」

 

「クソっ」

 

道化の女神の眷属は、今も目覚めない仲間の少女と隣に両手両足の骨を折られ、処置を受けている自分達の主神の周りでその光景をかたずをのんで見守る

 

「まったく……これだからあいつ等は……ってヤバッ!?」

 

その場にいる誰もがその数日前、このオラリオで巻き起こった『闘争』を軽く上回る破壊の光景に絶句し、言葉を失う中、あきれ果てた口調でやれやれと首を振っていたヘスティアであったが、『神の鏡』に映ったとある光景に焦りを見せる

 

「「「ッ!!?」」」

 

それに映るのは空一面を覆いつくす炎の雨、そしてその雨をみた神々は一瞬で理解してしまう

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であることに

 

「は……ははっ、これは………また………」

 

どうにかといった様子でヘルメスが乾いた笑いを浮かべるが、他の神々は一切の余裕をなくし、ただ呆然と立ち尽くす

 

が、神々が想定された『最悪』はあっさりとなかったことになる

 

なぜならば、その光景を見たソーマが薄く笑うと弓に矢をつがえ、放つと同時にそのほとんどを撃ち落とし、ヘスティア達の知らない所で極東の武神による一閃、とあるギルド嬢が半ばやけくそで投げた神造武器の矢、「シャクティ!お前達!!よく見ておけ!これが!ガネーシャの!ブラフマーストラだ!!」と象神の眼から放たれた光線によって炎の矢の雨は消え去っていたからだ

 

***

「ハハハハハハハハ!!いいねぇ!下界に降りてどいつもこいつも腑抜けたかと思ってたが、ガネーシャもタケミカヅチの野郎もそこそこはやるじゃねえか!!」

 

「…………」

 

一方、自神が放った炎の雨を全て撃ち落とされたはずのインドラは心底面白いと言わんばかりに笑みを浮かべながら再びオラリオでソーマと戦い始める………が、ソーマの方には余裕がない

 

「インドラ……お前正気か?」

 

「ハッ!何だよ!ここまで滾っておっ立ったんだ!コイツ使わなきゃあなぁ!!」

 

「加減を知らん馬鹿が………ッ!」

 

カルキ…もといインドラが手にしているのは異形の武器…………それはカルキやガネーシャがこのオラリオに向けられることを危惧していたインドラという神が最も好んで使う神造武器の一つ────ヴァジュラであった

 

「おらぁ!どうしたよ!?ソーマァ!戦車乗ってねえとトロいってかぁ!!」

 

「なめるな………ッ!」

 

先程とは違ってインドラが攻めてソーマが防戦一方になっているが、それはソーマの腰に下げている矢筒に入っている矢が5本しかないことに原因がある

 

「(石でも矢に変えればいいがその隙を見せればやられるか………ならば………)」

 

「(ソーマの矢筒にあるのは5本、矢を失くし隙をさらした瞬間にヴァジュラで穿つ……だが、そう簡単にゃあいかねぇ……だったら)」

 

「「(残りの矢でケリをつける!!)」」

 

武神と月と杯の神の考えは奇しくも同じ、ソーマが弓に矢をつがえた矢を向け、インドラが体を捻ればそれは(フェイク)、ソーマの蹴りがインドラを襲うが、それを見越していたかのようにインドラはピタリと体を止め、ソーマの蹴りを躱す

 

「フッ」

 

「!」

 

が、その隙を見逃す程ソーマは甘くない、インドラの無防備な背中に向かって矢を放つが、インドラは器用にヴァジュラを左手に持ち替えて回転させながら背中へ動かし矢をはじく

 

「甘ェ」

 

「チッ!」

 

素早く回転させながらヴァジュラを右半身へと持っていったインドラは、直ぐに左側に回っていたソーマがつがえていた矢の鏃だけを左足を蹴り上げ蹴り飛ばし、右手に持ち替えたヴァジュラを振り下ろす

 

「貰ったぞ」

 

「!?」

 

が、ソーマは僅かに半歩だけ後ろに下がり、鏃のなくなった矢を捨て、2本の矢をつがえ、ソーマが下がったことに気付いたインドラが止めたヴァジュラと放たれるであろう矢を弾こうと手刀にしていた左手を肩口まで正確に射抜き、インドラの手からヴァジュラが離れる

 

「終わりだ」

 

人間(カルキ)の体だろうと関係なく、ソーマは顔に向かって最後の矢を放つ

 

「………しまった、これはカルキの体だった……まあアムリタを飲んでいるからそう簡単には「誰が終わりだと?」…!?」

 

放ってから冷静になったソーマがポツリと呟くと矢をかみ砕き、血を口からダラダラと流しながら獰猛な笑みを浮かべたカルキ……否インドラがいた

 

「オラァ!!」

 

「ガアッ!!」

 

ヴァジュラのなくなった右拳を握り締め、限界まで引き絞られた右手から放たれた一撃がソーマの前髪で半分まで隠れた顔面を正確に捉え、その一撃を真正面から受けたソーマはそのまま、ヘスティア達のいる建物まで吹き飛ばされた

 




インドラ(カルキボディ)VSソーマ完!!………これでいいのか微妙な所ではありますがその辺は作者の文才の無さってことで一つ……・…

お願いします!!何でもry



次回 暇が出来たら書くかもしれない番外編予告

オッス!我シェム・ハ!かーッ!ジジイに閉じ込められてたけど久々の娑婆の空気は旨いぜェ!さっそくこの星で実験だぁ!
………って思ってたら黒塗りの高級外車が突然ぶつかってきた!?中から出てきたのは象の仮面をかぶった奴と角髪の奴、そして斧を持った人間、不敬な者共が我に出してきた示談の条件とは!?
次回『シェム・ハ死す』デュエルスタンバイ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第53話

やっと書けた…………さて、次はいつかけることやら…………




「やれやれ、つくづく無茶苦茶だな」

 

衝撃を刀一本で地上から逸らし上空に打ち上げている極東の武神は嘆息する

 

「確かに神ならば『神の力』を使えば容易く世界なぞ滅ぼせる………とはいえ」

 

そう、神であれば誰であろうとも下界を消し去ることは容易く、ゼウスやアマテラスといった『大神』級ともなれば、下界や天界どころか夜天に瞬く星々すら焼き払い、消し去ることも出来ると言われており、それは絶対の真理である………が

 

「まさか『技』だけで下界を滅ぼせる可能性があるとは………アイツらのイカれ具合は理解していたつもりだったが………いや、だからこそ、だからこそ!アイツらとの『闘争』は悦しいのだ!!」

 

恐らく、否、間違いなく竈の女神が「いや、タケの所の『技』もその辺の武器で斬撃を並行世界から持ってきたり、次元跳躍したり、『無』とか諸々切り捨てるとか大概だよ?」とツッコむであろうことを漏らし、うっすらと笑みを浮かべる男神は2柱の戦いを眺める

 

「が、ガネーシャ………?」

 

ギルド本部前、【ガネーシャ・ファミリア】の団員が呆然とした様子で呟く

 

先程、ガネーシャが使ったのは、数日前、カルキが使った技と同種の────否、やもすればカルキのを上回る威力を持った一撃に絶句していたのだ………が

 

「何を驚いている?お前達。ブラフマーストラは武を修めた者であれば『恩恵』を授かっていようがいまいが誰でも使えるものだ………ましてや俺はカルキと同じようにあの御方から『武』を鍛えられ、『技』を授かったのだ………天界から下界に降り、『全知零能』の身になったところで、その『技』は決して鈍ることはない!」

 

ハッハッハ!!と呵々大笑する象神であるが、他の神々や、オラリオの民衆があっけに取られる中

 

「どうして………」

 

「む?」

 

「どうしてその『技』を!『力』を!あの時!使わなかった!?7年前のあの日や数日前!貴神がその『技』を、『力』を遣えばっ!多くの罪なき人々が死ぬことはなかった!アーディだって………!」

 

今はとある酒場で働いている正義の女神の眷属であったエルフが群集の中から叫び、それに呼応するように7年前を知っている群集達からガネーシャへ無言の非難の視線を送るが、ガネーシャは飛んでくる瓦礫を拳で吹き飛ばしてから向き合い

 

「………7年前の件はあくまでも『人』と『人』の問題………即ちお前達が乗り越えるべき『試練』であり、数日前のことはある種の『けじめ』のようなものだったからな、だが今回は神々の問題だからな、それ故に介入しただけに過ぎないのだ」

 

そう諭すように、だが、人間の意見など聞く耳をもたんと言わんばかりに、『都市の憲兵』の主神は嗤う

 

***

 

『うわあああっっ!?』

 

インドラとソーマの戦いから冒険者と住人達が避難していた建物に恐ろしく速い速度でナニカが轟音ともに壁を突き破ってきたことに悲鳴が上がる

 

「ソーマ………!?」

 

つっこんできたナニカがソーマであるといち早く正気に戻ったヘスティアが自らの近くで止まったソーマの元に近づき、その姿を見ると「ヴッ!」と口を押え、胃からこみあげてきたモノを出さないようにする

 

「神様……一体何が……ウッ!?」

 

先程の衝撃で目を覚ましたベルがノロノロと起き、ヘスティアが見ていたナニカを見るとヘスティアの様に吐き気を催さずとも顔を歪める

 

「こ…これは…………」

 

「ヒッ!」

 

遅れて衝撃から立ち直った冒険者が何事かと見に来るが、彼等も一様にその姿に息をのむ

 

そこにあったのは、顎が落ち、口から異常なほど大量の血を流し、壁をぶち破った衝撃で全身の骨があらん方向に曲がってしまったソーマだったからだ

 

「おいおい……まさかだたぁ思うが、この程度でくたばったのかぁ?ソーマァ……?」

 

『『『ッッッ!?』』』

 

ソーマの痛々しいを通り越して、最早生きているのかどうかさえ不明な姿に、思わずその場にいた誰もが、何か治療をと動き始めた瞬間、後ろから聞こえてきた声に、神も人間も関係なく動きを止める

 

「な…なんで………」

 

どうにかといった様子で声が聞こえた方向に体を向けたベルが、その姿を見て恐怖で声を震わせる

 

「ハッ……生憎だがなクソガキ、コイツの体は俺達の試練を踏破しただけあって、手前ら紛い物と違って頑丈なんだよ」

 

そうベルを否、その場にいる全員を嘲笑するインドラが依り代としているカルキも傍から見れば満身創痍といった体である

 

右手には異形の武器を、左手は肩まで矢が刺さったせいかダラリと力なく下がり、ソーマの矢を止めた口は蟀谷付近まで裂けている

 

が、それ以上にベル達が恐怖したのは、その裂けた口から大量の血が出ているにも拘らず、歓喜の笑みを浮かべ、紅の眼を爛々とさせているカルキの姿であった

 

「それと……神ってもんを舐めすぎだぜ?ガキ」

 

「え………?」

 

そう顎をしゃくったインドラの言葉の意味が分からずにいると、背後から息をのむ声が聞こえ、次にナニカが立ち上がった音が聞こえる

 

「随分と…‥…好き勝手言ってくれる……!」

 

「お?まだヤルってか?フハハハハハ!さあ第3幕といこうや!!ええ!?」

 

「上等だ、貴様こそ後悔するなよ」

 

『神の力』を使い、完全に回復し、長い前髪から見える目を怪しく光らせながら弓を捨て、拳を構えるソーマとニヤリと笑ったインドラが、避難してきた人間なぞ気にしないと言わんばかりに殺し合いを再開しようとしたその時

 

「やめるんだ」

 

『『『────ッツ!!』』』

 

静かに響いた女神の声と神威がオラリオを覆い、インドラやソーマでさえ動きを止めた

 

***

「これは………」

 

突然オラリオを覆った神威に、タケミカヅチは僅かに眉を顰めるが、やがて「ああ、ヘスティアか」と納得する

 

建物から眼前を見下ろして見ると、周囲の人間達だけでなく、神でさえ一歩も動けず、何故か自分の眷属とヘスティアの眷属、酒場のエルフにヘルメスの所の【万能者(ペルセウス)】、一部のチンピラ冒険者がまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()ように見えるが、どうでもいいことかと、その神威の発生源に視線を戻す

 

「こ……れ…は………何だ?」

 

「ヘスティアだな」

 

ガクリと思わず膝をつきたくなるほどの暖かくも重苦しく呼吸すら困難にさせる神威にシャクティが動揺していると、何時の間にやらガネーシャが立っており、落ち着けと背中を優しくなでられた瞬間に重苦しさはなくなり、新鮮な空気を吸おうと息を切らせる

 

「だが、これで終わりだな」

 

「それはどういう…‥…?」

 

意味が分からず、今も眷属だけでなく、その場にいる者達の背中をゆっくりと撫でているガネーシャに聞くと「なに簡単なことだ」と一息ついてから

 

「インドラやタケミカヅチをはじめとした『武神』や『軍神』では、決してヘスティアには勝てないからさ」

 

そうガネーシャは笑った

 

***

「おいおい、勘弁しろよヘスティア、これからがイイ所だろうがよ」

 

「……………」

 

肩をすくめながら、やれやれといった様子でインドラはヘスティアに向き合い、ソーマは無言であるが、何処か不満げにヘスティアに向き合っている

 

「君達こそ、いい加減にするべきだ、ここは天界ではなく下界、ここに多くいるのは神じゃないんだ」

 

ツインテールにしている髪留めは外れ、髪を下ろし、神威を纏ったヘスティアの姿に、その場にいる誰もがその神々しさに息を呑む

 

「それに、今、此処には竈の火が灯り、ボクが守護する孤児の子供達かいる……………即ち、此処はボクの領域であり、ボクが護らなければならない者たちがいるということになる」

 

「「……………」」

 

インドラとソーマがチラリと横目で周囲を確認すると、確かに竈に火が灯り、部屋の奥隅で、シスターらしき女性と抱き合いながら震えるみすぼらしい服を着た少年少女がいた

 

「それでも、此処で戦おうと、ボクの前で子供達を巻き込むようなことをすると言うのなら…………ボクが相手になるぞ!武神インドラ!月神ソーマ!!」

 

「「!?」」

 

まさかのヘスティアの啖呵にインドラとソーマが驚いたような雰囲気になり、周囲の神やベルを含めた人々も、天界でのグータラな姿や、普段の朗らかな姿とは違うヘスティアに目を見張る

 

やがて、数分経ち、誰もが、その場で動けなくなる中、インドラが手に持っていたヴァジュラを消すと、右手で後頭部を掻きながら

 

「チッ………まぁ、『武神』の俺じゃあ『竈の火』を………ひいては『国家守護』を『不滅』を司るヘスティアじゃあ、分が悪い上に、コイツの体じゃあ『神の力』は一切使えねぇ、仕方ねぇか」

 

そう言うと、ソーマへと体を向け

 

「おい、ソーマ、テメェの酒蔵やら今回俺らでぶっ壊した建物は俺とブラフマーで無かったことにしてやる………ここらで手打ちだ」

 

「…………わかった、ここはヘスティアの顔を立てよう」

 

そう、渋々といった様子でソーマは頷き、踵を返すと、自分が突っ込んできた穴から出て行った

 

***

「んじゃあ、俺はウラノスのクソジジイに話でもつけてくっか」

 

ソーマを見送り、そう言って出ていこうとするインドラに未だ厳しい目を向けるヘスティアにニヤリと笑ってから

 

「まぁ、久々に『オリュンポスのぐーたら女神』の本気を見れて楽しかったぜ………折角なら、アストレアやヴィーザル辺りとも殺し合ってみたかったけどなぁ!」

 

『!?』

 

「インドラ…………」

 

「おいおい、そんなに睨むなよ、これが『武神』ってもんだろ?…………おい、随分、生意気なガキじゃぁねぇかよ」

 

呵々大笑するインドラに更に不機嫌さを隠さないヘスティアにヘラヘラと笑うインドラとの間に、突然、震えながら割って入ったベルに、スンッとインドラが真顔になる

 

「ったく………今にもチビリそうになって足どころか体を震わせてる癖によぉ、よくもまあ俺の前に立てんなぁ………なんで立ったよ?ガキ?」

 

「……………」

 

「ダメだ!ベル君!!下がるんだ!!」

 

ヘスティアがベルを後ろに行かせようとするが、ベルはその瞳を恐怖で震わせながらも真っ直ぐにインドラを見ている

 

「おいおい、ダンマリか?」

 

「僕が…………」

 

「?」

 

「僕が神様の『眷属』で『家族』だからです!!」

 

そのベルの答えに、暫く瞠目していたインドラは、次には右手で顔を覆い、

 

「ク……………」

 

『?』

 

「ヒ、ヒャハハハハ!さっきまでの光景を、俺達の領域を見て!テメェの主神とやらがテメェの助けなんぞ必要ないってのに!この場にいる誰もが動けないってのに!それでも一切の偽りなく、俺の前に立つか!!…………ク、ハハハハハハ!!」

 

やがて、数分、たっぷりと笑い転げた後、「フゥー」と一息つき

 

「良いなぁ、こりゃあ、本物の『身の程知らずの大馬鹿』だ、ああ、カルキの奴が『面白い』って言ったのが分かったわ」

 

やっぱり類は友を呼ぶって奴なのかねぇと、もう一人の『身の程知らず』を依り代に下界に介入しているインドラは肩を揺らし

 

「んじゃあ、一つ、俺を笑わせた褒美だ、耳かっぽじって、よぅく聞け」

 

ベルの眼を真っ直ぐに見つめ、言葉を紡ぐ

 

「『英雄』になる資格は、性別、種族、年齢を問わない……即ち『英雄』とは誰でもなれるものだ────そして、『英雄』に『憧れる』のもいい、『なりたい』と思うことも良い、だが『なろう』とはするな、『英雄』に『なろう』とした瞬間、そいつは『英雄』の『資格』を失うぞ」

 

今までの不敵な笑みや相手を見下した嘲笑ではなく、諭すような微笑を浮かべ「ああ、あとこれもだな」と呟き

 

「見果てぬ天に手を伸ばし続けろ、いっそ強欲なまでに落ちてくる実を拾え、何かを失う代わりにナニカを得るなんて下らねえ、全て手に入れるぐらいの気概を持て、そして何度でも己の未熟と無力さに打ちひしがれ絶望しろ────それでも、伸ばし続けてみせろ…………そうすりゃあ、後の連中が勝手に『英雄』とテメェのことを称えるだろうよ」

 

そしてインドラはベルや今だに動けない神々や人間達を無視してギルドへと足を向け、去っていった

 

***

「あぁ~~~~~~っ!!疲っかれたぁ~~~~~~」

 

インドラが完全に立ち去ったことを確認したヘスティアは、そう叫び、インドラやソーマへの愚痴をこぼしながら、ほどけた髪を結びなおしながら、「あとはウラノスに任せよう」と文句を言ってから

 

「それじゃあ、帰ろうかベル君………‥ベル君?」

 

「え?あ、はい……神様」

 

普段通りに明るくベルに声を掛けたヘスティアであったが、どこか他人行儀なベルに少し、しかめっ面になっていると、ベルから後ろを指さされ、「?」を頭に浮かべながら振り返ると

 

「うおっ!?どうしたんだい?皆、そんな頭なんか下げて!?」

 

ヘスティアの目に映ったのは、全員その場で片膝をつき、頭を下げる人間達、しかも、ベルや【ヘスティア・ファミリア】に対してあまりいい感情を向けていなかった者や【ロキ・ファミリア】をはじめとした冒険者達どころか、己の主神である『美の女神』に絶対の忠誠を誓っている【フレイヤ・ファミリア】の幹部たちでさえ、頭を垂れているのだ

 

「ちょ………皆、顔上げて………ね!」

 

先程、インドラとソーマに啖呵を切った女神と同一神物とは思えない程、狼狽するヘスティアであった

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第54話

申し訳ございません、今回、アプリの内容が含まれます。分からない方はyoutubeで探してください…………

あと、ダンメモはいいぞ







16巻…………どーっすかね


「終わったか………今回はヘスティア様様といったところか」

 

ぶつかり合う音も衝撃も無くなったことで、インドラとソーマの戦いが終わったことを悟ったタケミカヅチは、刀を鞘に戻し、そう呟く

 

「(しかし………俺が言えた義理じゃないが、『技』だけでオラリオ近隣にこれだけの被害とは………『神の力(アルカナム)』を使えていればな………フフッ)」

 

建物の屋上から見える景色は、様変わりし、汽水湖は干上がり、北の山は失われ、砂漠は火の海と化していることを、バレない程度の『神の力』を使いながら『千里眼』で見渡し、極東の武神は嗤う

 

「そして、人の身でありながら、俺達神々と並ぶ『技』を修め、今も発展途上のカルキ・ブラフマン………ああ、全く、これだから世界というのは愉快なのだ」

 

そう笑っていたタケミカヅチであったが、笑うのをやめると、スッと目を細め、「来たか」と呟くなやいなや、中央広場の眼前にナニカが、轟音と派手な砂煙と共に降り立つ

 

「ま、俺も行っておくか」

 

トンッと軽い音を立ててタケミカヅチの姿は虚空に消えた

 

***

「よぉ………何百年いや、何千年ぶりだぁ?ウラノスのジジイよぉ………」

 

「インドラ……‥」

 

立ち上った土煙を、右手を軽く振っただけで、人々も一緒に吹き飛ばした()()()カルキの体を憑代にしたインドラが、見下したように声をかけ、ウラノスは厳しい顔ではあるが、あくまでも自然体で臨む

 

「まあ、敢えて単刀直入に聞いてやる………俺が認めた『闘争』を行った者に形でも『罪』を問うとした馬鹿は誰だよ?」

 

『『『────ッ!!』』』

 

「「………」」

 

神の力(アルカナム)』も使わぬただの問いかけ、だが次の瞬間、中央広場に命からがら逃げてきた者たちが感じたのは、『見降ろされている』という感覚

 

確かにカルキの身長は180cmあるが、そうではなく、人々が感じるのはまるで遥か上空から見降ろされているような、自分達とはあまりにもかけ離れた存在から見降ろされている感覚に陥り、膝をつく者が現れる

 

そのなかで、一切動じていないのはギルドの最高神、ウラノスとどこか呆れた様子のガネーシャだけである

 

「おい、答えは?」

 

「……‥それを聞いてどうする?」

 

「ハッ………んなもん決まってんだろうが、今更とぼけんなやジジイ」

 

インドラとウラノスという『大神』(クラス)同士の間に凄まじい程の緊迫した空気が流れ、「しょうがないな」と言った雰囲気のガネーシャ以外は人も神も関係なく、呼吸すら忘れ、意識を失おうにも、その凄まじい空気が意識を失うことすら許されず、ただ立ち尽くすことしか出来ない

 

「ならば私の答えも分かっているであろう────『神の誰が罪に問うたなぞ教えない』………これが答えだ」

 

「へぇ……んじゃあ、聞いてやる、その理由(わけ)は?」

 

「これは下界に降りてきている神々(我ら)の問題、人間を憑代にし、天界にいる貴様の問いに答える必要などありはしない」

 

どこまでも静かに、しかし、明確な否定の回答をウラノスはインドラへと突き付ける

 

その姿はまさにオリュンポスの天空神、『大神』と呼ばれるにふさわしい威厳ある姿に冒険者や住人達が瞠目する────が

 

「成程それがお前の『答え』と………ああ、わかったよ────じゃあ、死ね」

 

インドラの背後から、突然現れた槍の形をした雷が、ウラノスに向けて放たれた

 

***

「………おい、ウラノスを守るたぁ、どういうつもりだ()()()()()()

 

「『どういうつもり』とはこちらの科白だインドラ」

 

誰にも気づかれることなく音もなく現れ、文字通りの神速の抜刀で雷を切り裂いてみせたタケミカヅチに、目を細めたインドラが問いかける

 

「天界じゃあ、テメエらの大神(アマテラスとか)に被害がなけりゃあ、何処の勢力の神が泣きつこうが無視しまくってたテメエがウラノスを守るたぁ、どういう風の吹き回しだよ…………鞍替えでもする気か?」

 

「阿保か、鞍替えするぐらいだったら、自分自身の手で自分の首を撥ねるさ」

 

うっすらと微笑を浮かべながらサラリと恐ろしいことを言うタケミカヅチに人々の背に汗が流れ、「やっぱり極東の連中はイカれてるな!」とガネーシャは呵々大笑する

 

「ま、そんなことは置いてだ…………ウラノスが下界から去れば『祈祷』がなくなり、ダンジョンからモンスターがあふれ出る────ただ、それだけだ」

 

「ケッ、そんな『祈祷』なんざ変わりはいくらでもいるだろうがよ」

 

タケミカヅチは刀を納め、腕を組み、ウラノスを守った理由を話すが、インドラはウラノスの代わりなど、ガネーシャやソーマ、今はオラリオにはいないが、ゼウスやヘラ、アマテラス辺りでも良いだろうと吐き捨てる

 

武神(俺達)であれば、実力さえあれば良しとするだろうさ…‥…だが、人間達(子供達)はそうもいかんだろうよ」

 

「タケミカヅチ………それは、褒めているのか?それとも貶してるのか!?」

 

暗に実力があっても見た目の威厳がなければ人間は動かないと言外に言うタケミカヅチに、思わずガネーシャが突っ込むと

 

「褒めているに決まっている、『祈祷』はヘスティアもやろうと思えば出来るだろが………アイツに威厳を求めるのは間違っているだろう?」

 

「「「……………………ブハッ!!」」」」

 

肩をすくめながら言った全くと言っていい程空気を読んでいないタケミカヅチの軽口に、インドラやガネーシャだけでなく、ウラノスやヘファイストスといった神々や【ヘスティア・ファミリア】の面々が思わずといったように吹きだす

 

彼等の脳裏に浮かんだのは、ギルドの深奥でダンジョンに『祈祷』を行う神秘的な女神の姿…………ではなく、どうしても足の届かない椅子に座り、その身長にそぐわない胸を張り、誰かが来れば屈託のない笑みを浮かべ、子犬の様にはしゃぐロリ女神の姿

 

「おいおい!どうしてくれんだよ!タケミカヅチ!!おま…っ……ウラノス殺せなくなったじゃねぇか!ククク………う…ハハハハハ!」

 

あ―面白ェ、とタケミカヅチの発言がツボに入ったのか、ソーマとの殺し合いで浮かべていた笑みとは違って、心底愉快そうにインドラは笑う

 

「あー、久しぶりに面白れぇ『身の程知らず』でいい気分だった所を不快にしてくれやがったが………まあ、今回はタケミカヅチのバカ話に乗ってやる」

 

「ああ、そうしてくれ、それにな」

 

「「「「…………え?」」」」

 

ウラノスへの興味を失くし、タケミカヅチへと向き合ったインドラに、タケミカヅチは肩をすくめ

 

────た瞬間に、振り向くと同時に、インドラとガネーシャ以外感知できない速さで抜刀、呆然とする神や人々が正気に戻ったのは、人々の後方で「ドンッ」と2本の光の柱が立った時であった

 

「俺とカルキの戦いに難癖をつけた神は、天界へ送った………あとは好きにしろ」

 

「おいおい、随分と気が利くじゃあねえかよ」

 

「お前がこれ以上暴れた結果の下界への被害と神2柱の天界への送還、どちらが最上かなど赤子でも分かろう」

 

『『『…・………っ!』』』

 

サラリと答えるタケミカヅチに神や人々の背にうすら寒い汗が流れる

 

「…………ま、俺としちゃ、こんなクソ下らねえ都市なんざ滅んじまっても別にいいんだがよ」

 

「おい!下らないとはなんだ!下らないとは!!」

 

ケッ、とオラリオをこき下ろすインドラに、ガネーシャが抗議の声を上げるが、「ああ?」と反応し

 

「そりゃあ、そうだろう、5年前まではルドラの奴を通して報告は来てたのを時たま暇つぶしで眺めてたが、特に7年前の件はくだらなすぎたな」

 

「いや……7年前、俺はオラリオにいないんだが………?」

 

「自己満自慰神と踏み台願望嗜虐趣味共に好き放題された挙句に、アストレアのクソアマにデカい顔なんざさせてた時点で、ガネーシャ含めてどいつもこいつもカスなんだよ!!」

 

そのインドラの発言に7年前の『大抗争』を知っている者達からは、僅かに非難を含んだ目が向けられ、特にとある酒場のエルフは、厳しい目を向けられる中

 

「アレはあくまでも『人間達』の問題、オレ達神が介入するわけにはいかないだろうに」

 

「ああ、ガネーシャの言う通りだ」

 

そうガネーシャがインドラを諭し、ウラノスがその意見に同意し、ミアハやヘファイストスといった7年前のことを知っている神々が頷き

 

「インドラ……俺もアストレアのことは多少気に入らないが、お前ちょっとアストレアのことを嫌いすぎてないか?」

 

多少は気持ちは分からんでもないが、とタケミカヅチは苦笑するのをみて、インドラは深いため息をつき

 

「特にあの犬死に大量発生なんざ、怒りを通り越して呆れ果てらぁよ」

 

「?」

 

どういうことかわからんと説明を求めたタケミカヅチに、かくかくしかじかとインドラが説明し、

 

「本当か?」とタケミカヅチが、顔をしかめ、ウラノスやガネーシャに聞くと、神々や当時を知っている人々が頷き、タケミカヅチは片手で顔を抑え、天を仰ぐ

 

「…………っ、何というか………うむ、『冒険者』の、いや、『人間』や他の神々の価値観や尺度でいえば、『名もなき者達への挽歌』なのだろうが………うーむ」

 

「おい、はっきり言ってやれよ」

 

言って良いのかどうかと悩むタケミカヅチに、インドラが煽り

 

「………俺たち『武神』の価値観だと『犬死に』だな」

 

「おい」

 

自神も眷属を失くしているガネーシャがタケミカヅチを非難げな口調で咎めるが

 

「いや、まぁ、本当に彼らが『後達を生かす』ために犠牲になったというのなら、対外的には多少なりとも称えるが、そいつらの中に、『年齢』での諦観があったというのならば、俺はそいつらは『犬死に』だったという評価を下すしかない」

 

珍しく、人間を哄笑するようなことを言うタケミカヅチに、タケミカヅチの眷属達から驚きの感情が向けられ、人間達からも同様の目を向けられる中、コホンとタケミカヅチはわざとらしく咳払いして

 

「では、一つお前達に教えておこう、確かにお前達「人」は我ら不変の神々とは違って、年を取り『老いる』」

 

「そして、無双を誇った肉体も、やがてやせ衰え、骨と皮だけになろう、思い通りに体が動かない時もあるだろう」

 

「「だが」」

 

「「それでも自分の『技』だけは一切の『老い』は無いと、昨日の己より磨かれて『極致』へ至っていると…‥…・…そう吠えるのだ、否、吠えなければならない」」

 

それが『武』に生きる者の心構えであると、2柱の武神は語り、インドラは嘲笑する

 

「それによ、『死んで守った』って奴と『死地で死を覚悟しようともその死地を踏破した』って奴、どちらが『英雄』として世界に名を刻み、俺達神々に称えられるかなんて語るまでもねぇ………冒険者っていう連中が『次代の英雄の卵』ってんなら、そんくらい出来なきゃあな」

 

***

「『死地で死ぬのは有象無象、死地を生き延びた者だけが英雄』か………ま、インドラだけじゃなくアテナも同じこと言うかな」

 

「おい、ヘスティア………」

 

他の神が浮かび上がらせた『神の鏡』に映る光景を見ながらヘスティアは呟き、自神も眷属を失くしているヘルメスがどう言う意味かと問う

 

「まあ……ね、ボクは思わないけど、昔アテナが言ってたよ『先逹から死して守られた者は自身が同じ状況になった時、誰かを守ろうとして死ぬ、だが、先達が死地を踏破し、生きた背を見た者は死地を踏破する………』ってね」

 

まー、その時は話半分しか聞いてなかったんだけどねー。とニヘラっと笑う竈の女神に、ヘルメスと話を聞いていたベルは何とも言えない顔をするのだった

 

***

────同時刻、北方の小国ベルテーン

 

「ク……そ……がぁっ……‥…」

 

どさりと鈍い音を立て、盲目の剣士が倒れ、地面に赤い液体が広がる

 

「て………め…ェ……どういう…腹だよ……アレスゥ…!」

 

「ああ…お前には悪いとは思っているんだ『正直者のヴェーラ』、だが、オレはオレの愉悦を求める心に逆らえん」

 

両手足を斬られ、イモムシの様に蠢き、睨みつけることしか出来ない女神に、軍神は両手を広げ、うっすぺらい謝罪をする

 

「だが、致し方なかろう……オレはアノ男の真髄を見たい……人間でありながら我らの領域に踏み込んだ男の力を……そのためにはオレも骨を折るさ」

 

「ふざ……けんな……っ!」

 

どこまでも勝手な言い分に女神は怒る、彼女の眼に映るのは、三色の光が渦を巻く剣を片手にヘラヘラと嗤う男神

 

その男神の背後に広がっているのは、長くベルテーンに仕えているエルフ、そのエルフの配下の者達、そして少し運命が違っていれば、狐人の少女と絆を育むはずの少女が、

 

………否、ベルテーンの首都に生きる全ての者達が性別・種族に関わらず、物言わぬ肉塊へ帰られ、辺り一面が血の海へと変わっていた

 

「オレ自ら戦うのも良いが……やはり、ここはダンジョンで神を殺してバケモノを生み出し、それをぶつけた方が良い………お前とラシャプはその『贄』だ」

 

そう言って『戦場の狂気』を司る軍神は嗤った




Q.あの人数の中からどうやって切ったの?

A.斬撃飛ばして、自分が斬りたいものだけ斬る………簡単だろう?


Q.どうしてタケミカヅチ様切りかからんかったの?

A.、憑代相手だと『神の力』を使えないからつまらないし、やるんだったら本神相手に本気でやるよなぁ?














――――3ヶ月後――――

デデーン(効果音)

カルキ「フレイヤアウトー!【フレイヤ・ファミリア】全員シヴァキックー(カンペガン見)…………なん……だと……!」

雌猫「えっ、ミャー達も!?」

破壊神「『半脱退』とか関係ないから(アルカイックスマイル)」

ガネーシャ「うん、痛みとか感じないから安心しろ!!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第55話

インドラによる下ネタ劇場第2幕はっじまるよー


苦手な方はスルーして下さいね、申し訳ございません


「よし!話は纏まったな!!…………じゃあ、インドラお前は帰れ!!」

 

「はあ!?なんでだよ!」

 

ビシィッ!という効果音付きで、天を差したガネーシャにインドラがツッコミを入れる

 

「何でって………話は纏まったんだから、カルキに体返して天界に戻るのが道理だろう?」

 

「いや、その理屈はおかしい」

 

何を当たり前のことをと言外に伝えるガネーシャになおもインドラは食い下がる姿を見て、タケミカヅチが「こほん」とわざとらしく咳払いをして尋ねる

 

「………本音は?」

 

「ついでだから適当な女数十人見繕って、数十発ヤッてから帰りたい」

 

『『『『(最っ低の答えだぁぁぁぁぁああ!!???)』』』』

 

タケミカヅチからの問いに、親指を立て、とても清々しい笑みを浮かべ、最低な答えを答えたインドラに、その場にいる神々だけでなく、人間達の心も一致する一方で

 

「…………」

 

「か、神様……顔が!顔が!!」

 

「「「ヘ、ヘスティア(ドチビ)の顔がまるで腐敗した生ごみを見るような目に!!?」」」

 

『ダイダロス通り』の建物で、『神の鏡』を通して、成り行きを見守っていたヘスティア達は、インドラの答えに表情が無くなり、真顔を通り越して女神にあるまじき顔になったヘスティアを中心に大混乱になっていた

 

────が、当のインドラは、気にした様子もなく

 

「いやぁな、せっかく下界に来て、ロキのクソアマをしばいて、ソーマの野郎と久しぶりに愉しめ、面白れぇクソガキがいた…………じゃあ、最後は別の『お楽しみ』と洒落こむのは当然だろうよ」

 

肩をすくめ、一々説明させるなと言わんばかりの雰囲気を醸し出すインドラに

 

ヒクヒクと口角を歪め、「お前やゼウスがそんなんだから『雷』を司る俺まで……」と呟くタケミカヅチや、蟀谷に手をやり、深く大きなため息をつくガネーシャや、目を閉じ何とも言えない表情をするウラノスたちを無視し

 

「特に………うん、そこの、ガネーシャの近くにいる青い髪の女と……そこの飯炊きの格好したエルフを抱きてぇ所だわ、なぁ、今夜「殺すぞ」……おおーっ、怖ッ」

 

顎をしゃくりながら、シャクティとリューを指名したインドラに対し、先程のソーマやインドラと全く引けを取らない程の殺気がガネーシャから発せられ、ヘラヘラと笑いながらインドラは肩をすくめる

 

「まあ、落ち着けよガネーシャ………俺にだって理由があらぁよ」

 

「ほォ………聞こうか………?」

 

『『『(こ、怖い!!!』』』

 

が、そんなガネーシャの殺気なぞお構いなしにインドラが話し始め、普段のハキハキとした快活な話し方でなく、のっぺりとした話し方となったガネーシャに誰もが恐怖心を抱く

 

「実はよ、7年前だったか?……あー、名前は忘れたな、まぁいいや、何かの手違いでよ、俺の領土に下界で死んだ小娘の魂が来てな?しかも人の姿を残してるときた!」

 

「もういい、分かった、死ね」

 

インドラの話を途中で遮り、ガネーシャが殴り掛かるが、その神々であろうが、一発で肉片と化す一撃をインドラは片手で受け止め「まぁ、最後まで聞けよ」と嗤う

 

「なんでもそいつは、格下のガキの自爆でくたばった挙句、体は崩れた建物に巻き込まれて潰れた蛙みたいになったんだが、さぞ清廉な心を持った奴だったのか、珍しくはっきりとした姿をしててな、せっかくだから楽しもうとしたんだがよぉ、カルキの奴から掻っ攫われてな」

 

「…………で?」

 

「しかも、カルキの奴は俺が差し向けた追手も振り切り、偶々見ていたヴィシュヌの奴のお節介で、その娘と組んずほぐれつしたってのに、最後まで手を出さずにヤマの奴に渡して、輪廻の輪に戻しやがってよぉ」

 

「そうか……」

 

「魂の色を見るに、そこの女はその小娘の身内………姉か?まあ、あれだ………『妹でやりそびれたから姉でいいかな』って思ったからよ」

 

「タケミカヅチぃィィイ!!今すぐオレの首撥ねろ!!天界に戻ってこのクソ野郎下半神と戦争だぁぁアアアアアアアアアア!!!!!」

 

「「「お、落ちつけ(いて下さい)ガネーシャ(様)!!」」」

 

親指を立て、いい笑顔でのたまうインドラに割とガチ目にキレたガネーシャが叫び、タケミカヅチやウラノスをはじめとした神々や、【ガネーシャ・ファミリア】の団員達が、自殺しようとするガネーシャをおさえ、暫くその喧騒が続いた

 

***

「インドラ、お前帰れ、いや、帰ってください、マジで」

 

「えー。」

 

疲れ果てた表情で、もはや懇願に近い形でウラノスがインドラに向き合い、その後ろでは

 

「あ、そこ緩い、もっときつく」「もう少し鎖が欲しいわね……椿、持ってきてくれる?」「布はこれくらいでよかろう」「流石にこれだったら大丈夫だろ………?」

 

そう神々が指示しながら、がっくりと気絶したガネーシャを階層主でも縛るのかと言わんばかりの極太の鎖や荒縄で縛り上げ、口には舌を噛み切らないように布を大量に詰めていた

 

────余談だが、ガネーシャを気絶させたのはタケミカヅチであり、暴れ狂うガネーシャのうなじに、誰もが反応できない程の速さで峰打ちを当て、無理矢理黙らせたのである

 

「折角、下界に来たんだから、天界に戻る前に、ちょっとばっかしつまみ食いしたっていいだろうがよ…………あぁ?」

 

「?」

 

突然、片方の眉を上げ、訝し気な声を上げたインドラに、ウラノスが疑問に思うが、インドラは、ウラノスを無視し、固唾をのんで見守る、民衆の方へ向かって歩き始め、人々は自然とインドラから離れる

 

「ぅう~~ん………?」

 

「ヒッ……」

 

やがてその足は、一人の女性ギルド職員の前で止まり、ジロジロとベルの時と同じように無遠慮に頭からつま先まで視て、ミイシャは普段のどこか別の場所を見ているカルキの視線とは違う、好色じみた視線に身を強張らせると

 

「ック………ハハハハハ!!おいおい!カルキの奴!この娘にオレの『矢』を渡したのかよ!?」

 

「…………はぇ?」

 

突然腹を抱えて笑い出したインドラにミイシャだけでなく、その場にいる誰もが呆けていると

 

「あー、いや、この娘を馬鹿にしているわけじゃあねえ、しっかし………パッと見小柄で可愛らしい雰囲気だが、出てるとこは出てて、引っ込んでるところは引っ込んでて……しかも『膜有り』ときた!!ゥハハハ!カルキの奴『いい趣味』してんじゃあねえか!」

 

「「「な、なな…なぁーーーー!!!???」」」

 

恐らく、否、間違いなくカルキがこの場にいれば、即刻否定することをインドラは腕を組み、ニヤニヤと好色的な笑みを浮かべながら宣う

 

「あの野郎、7年前のガネーシャの所の小娘といい、5年前にアストレアのクソアマの眷属の時といい、俺やヴィシュヌが背中押さなきゃ手も出さなかったのになぁ………そうかそうか、こういうのが好みだったか!クハハハハハ!!」

 

「ぁ……あ……!……あ?」

 

片手を顎にやり、どこか下衆な笑みを浮かべる神に、ミイシャは顔を真っ赤にし、パクパクと口を動かすことしか出来ず、エイナをはじめとしたギルド職員達は「えっ、下心はないって言ってたけど昨日のアレってそういう……!?」とカルキがいれば「違う」と否定するであろうことを誤解する

 

「ま、楽しみにしとけよ?カルキの奴も俺程じゃあねぇが夜のアレは『上手い』からよ?」

 

「~~~~~~~~ッッ!!!????」

 

音もなく近づき、肩に手をまわして、ミイシャを抱き寄せて、耳元でささやくインドラの言葉に限界を迎えたミイシャは顔を真っ赤にして「キュウ…」と呟き、ゆっくりと倒れ「「「、「ミイシャぁ(フロットぉ)ーーー!?」」」」とギルド職員が慌てて介抱していると

 

「ん?ああ…?」

 

突然眉をひそめ、けげんな顔をしたインドラであったが、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、ウラノスに向き合い

 

「良かったなぁ、ウラノスのジジイ、俺はもう戻るわ」

 

「「「何ッ!?」」」

 

先程までと打って変わって、天界に戻ると言い出したインドラに、ウラノスだけでなく、タケミカヅチやミアハ達まで驚きの声を上げる

 

「なんでもイシュタルの阿呆が精霊引き連れて、俺達の領域(リグ・ヴェーダ)に攻め込んできたらしいからよ………ま、今度は本物の≪アヌンナキ≫と戦争ってこった」

 

そう楽しそうにインドラは笑うと、「あ、そうだ」と呟き、オラリオの民衆に向き合い────とある酒場のエルフを見据えながら

 

「ああ、ついでだ!イイ事教えてやる!………元々、ヴィシュヌやアイツにここの情報を渡してたのはルドラの奴でな!どこぞのクソ女神の眷属がルドラの眷属ぶっ殺して、ギルドがルドラを天界に還したから、その後窯としてカルキが来たってわけさ!────恨むんならそいつらを恨むこったな!!」

 

エルフの顔が歪むのを視界の端に入れつつ、ひとしきり嘲笑した後、フッと意識を失い倒れ、誰も近づくことが出来ず、遠巻きに見ている中

 

むくりと目の色が赤から黒に戻ったカルキが起き上がり、服についた埃を払い、首や肩を確認するように動かしたカルキは周囲を見渡してから

 

「あー………すまないが、何があったか教えてもらえないだろうか」

 

少しバツの悪そうにそう告げた

 

***

「申し訳ない」

 

「いえいえ!カルキさんじゃないわけですし、顔を上げて下さい!?」

 

ある程度のあらましをタケミカヅチや意識は取り戻したが、がんじがらめに縛られているガネーシャから聞いたカルキは、同じく復活したミイシャに対し、一切の無駄を省いた無駄に美しい所作で素晴らしい五体投地をしていた

 

「おいおい……どういことだよ」「あの男をひれ伏せさせるって……」「え?まさかあのギルド嬢ってめっちゃヤバいとか?」

 

…………ただ、その状況を見て、さらにミイシャに変な勘違いが起こっているが、当の本人たちは一切気にせず、ただただカルキは地面に頭どころか全身を投げ出し、ミイシャはあわあわと慌てていることを暫く続けていた

 

「で?アッチ(天界)からの呼び出しは何だったのだ?」

 

ようやく、拘束から解放されたガネーシャがカルキに問うと、カルキは僅かに首を傾げつつ

 

「えぇと、あまり理解が出来なかったのですが、要約すると『女性に武器を送るとは何事か、女心が分かってない』ということでしたね」

 

「?なんだそれは?」

 

「さぁ?」

 

「「「「(駄目だこいつ等!?」」」」

 

超鈍感男2人(カルキとタケミカヅチ)が首を傾げる中、見ている神々や人間の心が1つになる

 

「あとは、こちらに戻る際にブラフマー神から『今回の件は「なかったこと」にしてやる、あと、暴れたいなら、世界の狭間に『神の力(アルカナム)』使える世界を一つ作ってやるからそこで暴れろ』とのことです」

 

「「マジで!!??」」

 

「はい」

 

カルキの報告にテンションの上がるガネーシャとタケミカヅチをよそに、他の神々は「え?アレ人間(子供)達に見せるの……?」とドン引きしていると

 

「よし!では!ブラフマーの奴のために踊るか!!」

 

「「「は?」」」

 

「そうですね……いいかもしれません」

 

「「「いや、なんでだよ!!??」」」

 

ガネーシャの突拍子もない発言に誰もが困惑し、その馬鹿馬鹿しい提案にまさかのカルキまで賛同したことに、思わずオラリオにいる誰もがツッコむが

 

「よし!今回はオレがセンターでいくぞ!………では!ミュージック、スタァーーーートッ!!!」

 

そのガネーシャの掛け声とともに、何処からか音楽が聞こえてきて、ガネーシャやカルキだけでなく、妹のことで呆けていたシャクティをはじめとした【ガネーシャ・ファミリア】の団員達、何処からともなく現れたソーマと【ソーマ・ファミリア】の団員…・……………だけでなく

 

「おい!リリスケ!?何やってんだ!?」

 

「リリ殿ォ!?」

 

「はわわ……」

 

「私だって分からないですよ!体が勝手に動くんですっ!」

 

「うわぁ!ティオネさんとティオナさんが踊り始めたっす~~~!?」

 

「「「何故ッ!?」」」

 

「あぁ………2人とも元【カーリー・ファミリア】やったからか………」

 

「「いや!止めてなさいよ(よ)!ロキ!!」」

 

と、一部の【ファミリア】を巻き込みながら、|とても理解はできないが凄くキッレキレの動きで踊る《いんどフレンズ・インド人類は繁栄しました・おジャ魔女カーニバル2020》ガネーシャ達を見て、3日前も似たような光景を見せられたベルは『神の鏡』を見ながらつぶやく

 

「…………なんで踊るんだろう?」

 

「ベル君………それは彼らが『リグ・ヴェーダ』の連中だからさ」

 

その呟きに答えたヘスティアにツッコむ者はおらず、ただ、背後で

 

「踊りを止めようとした猛者(おうじゃ)重傑(エルガルム)が吹っ飛ばされたぁー!?」「駄目だ!リヴェリアの魔法で凍らせても壊して出てくる!」

 

と大惨事から目を背けながら『神の鏡』に映る光景を遠い目でみていた

 




なんでも数千年前、『異世界』から『アヌンナキ』を名乗る偽物がやってきて、その偽物が下りたところに領地が近かったガネーシャを中心に37564したとかどうとか

なお、その偽物が流れてきた『異世界』にいったカルキ曰く、「歌いながら戦う痴女がいた」とのこと






Q、カルキの『初めて』は?

A.インドラ神から下賜されたアストレア神の元眷属11人………を(分身して)一晩で相手した


Q,な‥…ぜ………?by覆面エルフ

A.はっきり言って、いらなかったが、『一発やらないと輪廻の輪の中に戻れない呪い』をインドラ神がかけていたから仕方なく………いや、互いに同意はあったぞ?


Q.貴方……覚悟は出来てる?by正義と天秤の女神

A.いったい何の………?ぐふゥ!?(女神のフォークリフトを喰らった)





────天界────

イシュタル「あの男の魂が天界にいる!?よっしゃ!『神の力』全開で精霊引き連れてぶっ殺したる!!」

インドラ・アグニ・ヴァーユ・ヤマ・ヴァルナ・スーリヤ・ヴィシュヌ・スガンダ「「「「「「「「おう、楽しませろや」」」」」」」」

イシュタル「アイエエエぇえええええええ!?」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第56話

トレーナーしたりデータが吹っ飛んだり、ログインできなかったり………今年は厄年か?


随分と遅くなりましたが、新年初投稿です



全く関係ないですけど、「逃げ上手の若君」面白いですね………マイナーだけども知れば知るほどグダグダでわけわからん南北朝時代が舞台で、あの行き当たりばったり軽鬱病初代室町幕府将軍がラスボスで………愉しみですねぇ!!


特に南北朝は九州の近畿との逆転現象と身内のグダグダっぷりが好き






「さて!俺達が踊っている間にブラフマーが『なかった』ことにしたわけだから………改めて問わせてもらうぞカルキ!!」

 

「………?」

 

先程まで破壊されていた建物や道路が踊っている間に、先程までインドラとソーマの『闘争』の跡形どころか、カルキとタケミカヅチが戦った跡まで文字通り『なかったこと』になり、数日前のオラリオとなった光景に、誰もが絶句し、その常識外の光景に辺りを呆然と見回す中、カルキはガネーシャに問い詰められていた

 

「誤魔化すのは良くないぞ!先ほどあのクソ下半神が言っていた!!お前とアーディが組んずほぐれつ、乳繰り合ったと!!」

 

「……そもそもアーディとは誰なのか分からないのだが?」

 

「俺の可愛い眷属だ!!優しくて、可愛くて、割と強引で!えへ、とか自然に言えちゃう感じの!誰に対しても素直で、優しく、皆を笑わせてくれる少女だぁぁアアアアアアアアアア!!!!」

 

「もっと分からなくなったのだが………!?」

 

興奮しているガネーシャに左手で頭を掻き、困惑するカルキであったが、後ろから近づく男装の麗人の気配に反応し、向き合う

 

「……どうした?」

 

「私の……だ」

 

「うん?」

 

「アーディ・ヴァルマは私の…血を分けた妹だ!」

 

「うん!?」

 

伏せていた顔を上げ、「私の妹に何をした!」と叫びながらカルキの胸ぐらを掴みながら睨みつけるシャクティに、「誤解だ」と両手を挙げ、視線を泳がせながら、どう説明すべきかと珍しくしどろもどろしているカルキに、「正直に吐いたほうがいいぞ!」とガネーシャが詰め寄っている

 

怒りが天元突破し、実力差なぞ知ったことかとばかりのシャクティと眷属を傷モノにされたと勘違いしているガネーシャ、女性にこういう話をしていいものかと悩むせいで口ごもるカルキ

 

────────一言でいうならばカオスであった

 

その一か所だけ神も人間も近寄らず、遠巻きに眺めており、巻き込まれたくないという意見で一致していた

 

「さて、帰るか、さ、お前達も解散解散」

 

「「「ええッ!!??」」」

 

くるりと自分のや人々に何事もなかったように向き合ったタケミカヅチに、誰もが驚きの声を上げる

 

「いや、そう言ったてなぁ、もう俺達にやる事ないし、『なかったこと』になったとはいえ、本当に戻ったのか確認も必要だろ?」

 

「それは……」

 

どこか困ったように、肩をすくめるタケミカヅチに、神々も同意しているなか

 

「柔らかかったってどういう意味だァァァ!!!!」

 

ゴッ!という鈍い音と同時にナニカが空に飛んでいき、振り返って見てみれば、そこにいた筈のカルキはおらず、美しいアッパーのフィニッシュを決めたガネーシャと、空を見上げるシャクティをはじめとした【ガネーシャ・ファミリア】の団員達がいた

 

「「「解散!!」」」

 

その光景を見た神々の一言に、誰も文句は言えなかった

 

※※※

一方、同時刻『ダイダロス通り』では

 

「こ、こんなことが………」

 

「これが『神の力』……」

 

同じく、今までの破壊された痕跡すら残さず『なかったこと』になったオラリオの光景に、フィンやリヴェリアでさえ言葉を失くし、絶句している中で

 

「「「(マ、マジか…………)」」」

 

人々とは違う理由で神々は戦慄する、それは『なかったこと』にすることは神であれば神格が低かろうと誰でもできることではある

 

だが、その『なかったこと』にした神が一番の驚愕する理由なのだ

 

「本当にあのブラフマーがたかが都市一つのために動いたっていうのか………!」

 

そう思わずといった様子でヘスティアが呟くのも無理はない

 

確かに天界に存在する各領域において『創造』を司る神はいる………だが、彼等が動くのは極めて稀であり、基本的に彼等が動くのは天界や下界が滅んだ時………

 

具体的には精霊とアーんなことして色々漲ったゼウスが雷で夜に浮かぶ星々ごと世界を焼いたり、エンリルが人間もモンスターも五月蠅いと癇癪起こして洪水起こしたり、なんやかんや色々あってキャパオーバーしたアマテラスが極東の島一つ残して世界を焼き払った時等々

 

はっきり言って、たかが都市一つのために動く神ではないはずの神が動くという正真正銘のイレギュラーにヘスティアだけでなく、ロキやフレイヤでさえ苦い顔をするしかなかったのだ

 

「(これでアノ男と繋がっていると確定した神はブラフマー、ヴィシュヌ、インドラ、アグニ、ヴァーユ、スーリヤ、ヤマね……ゼウスとヘラを追い出したのは間違いだったかしら)」

 

「(神が憑代にしても壊れない肉体と魂を持つ人間…何はともあれ、どーにかして最低でも『奥儀』を使わせんように『縛り』をかけへんと………下界に『神の力』に匹敵する力をノーリスクで使いたい放題なバケモノがおるようなモンやん、コレ)」

 

「(仮定の状況ならゼウスやアルテミス、ヴィ—ザルをオラリオに戻せばカルキ・ブラフマンに対する抑止力になるはずだったが、こうなってくると、この手はあの『戦狂い共』に格好の口実を与えることになる……どうする?)」

 

神々がそれぞれ思案しながら、これからのことについて考えていると

 

「ゴフッ!」

 

「「「!!!???」」」

 

空から降ってきたカルキが『ダイダロス通り』の道の真ん中で跳ね、空中で縦に3回転半してから、もう一度地面に顔面から落ちて、力なくうつぶせで倒れているという突然のシュールな光景に誰もが先程とは別の意味で呆然とする

 

「………………」

 

「「「(あっ、起きた)」」」

 

無言で立ち上がったカルキに、神々は再びナニカやらかすのではと冷や汗を流し、冒険者は武器を構え、『恩恵』を受けていない者達は、怯え、何ごともないことを祈る

 

「………?………!」

 

が、カルキは振り向かず、その場で首や肩を回し、何やら自分の体に違和感を感じたような素振りを見せ、やがて、何かに気付いたようで

 

「うわぁッ!?」

 

「ヒッ!!」

 

「も、燃えたぞ!?」

 

突然、カルキの体から、歓楽街を焼き払った炎がカルキの体を焼いていく

 

その光景に何も知らない民衆は動揺し、悲鳴を上げ、こういったことに見慣れているはずの冒険者でさえ、目を見開き、絶句する中で

 

「ちょっ、マジ!?」

 

「いや、これは引くわー」

 

「改めて思うけど、この男、本当に人間?」

 

「カルキ君ぇ………」

 

カルキが今、何をしているのかを察してしまった神々は、その行為を一切の躊躇なく行ってみせたカルキの精神にドン引きする

 

「フーーーーーッ………」

 

「ちょ、ちょっと待った!?カルキ君、ソーマの所になんで向かおうとするんだい!?」

 

やがて、炎が収まると、ゆっくりと大きく息を吐いたカルキが、再び体の調子を確認するように首や肩を回すと、調子が戻ったのか、神や人々を無視して、【ソーマ・ファミリア】の酒蔵の方向に歩き出した背中に思わずといった様子で、衝撃の光景から誰よりも早く立ち直ったヘスティアが声を掛ける

 

「それより!君何を考えてるんだい!?アグニの炎で自分の体を焼くなんて!精神が焼き尽くされて廃人になるかもしれないんだぞ!?皆ドン引きしてるし!」

 

「………廃人にはならぬよう鍛えていますが?」

 

「違う、そうじゃない」

 

カルキの天然な答えに思わず真顔になってしまうヘスティアであったが、小さくため息をついてから「一体どれだけ大変だったと」と小さく愚痴っていると、「どうして……」と小さく声が聞こえ

 

「どうしてアンタみたいな化け物がオラリオに来たのよッ!ギルドだってルドラ様が『闇派閥』だから!私達の平和のために天界に還しただけだってのに!どうして……どうしてアンタなんかが………っ」

 

そう言って蹲りながら嗚咽を漏らす妙齢の女性に、誰もが何も言えない中

 

「………何か少し勘違いをしていないか?」

 

「「「え?」」」

 

少し首を傾げ、カルキは冒険者達を絶句させる言葉を叩きつける

 

「自分がルドラ神の代わりに選ばれたのは『自分が最も若輩で、実力も上から数えるより下から数えた方が早いから』なのだが?」

 

***

「は………?」

 

そのカルキの発言に反応したのは誰なのか、その場にいる誰かか、もしくは『神の鏡』を通して見ていた者かは分からない

 

だが、そのカルキがサラリと口にした意味を理解したものは、あの『リグ・ヴェーダ』の神々のヤバさを知っている神々しかいないなか、それにカルキは気付いていない様子で腕を組み、

 

「それに自分はインドラの槍を使っていたのに対してタケミカヅチ神は普通の刀で戦っていたのだ……この事だけでも自分よりタケミカヅチ神の方が自分より素晴らしい技量を持っている証拠であり、インドラ神とソーマ神は『神の力』を使わず、『人間』の範疇であれだけの「まだ話は終わってないぞ!!」ゴフッ!?」

 

………が、話している途中で、ガネーシャのドロップキックが綺麗に入り、再びゴロゴロと地面を転がされ、派手な音を立てて建物へとぶつかる

 

「ちなみにオレはッ!上から数えた方が早いという自信しかないッ!!」

 

「うん、知ってた」

 

ドヤァ…と親指を立て、白い歯を光らせ、ポーズを取るガネーシャにヘルメスが遠い目でツッコみをいれ、

人々は、ガネーシャに畏怖する

 

「こ、これがガネーシャの実力………?」

 

「ふざけた神じゃなかったのか」

 

「じゃ、じゃあ他の神も‥…?」

 

「いや、ここまでバケモノじゃあないわ」

 

神々や人々が口々に言いあうのをよそに、服についた埃を払いながら立ち上がったカルキに、「さ、話の続きはソーマの所でといこうか」と微笑を浮かべるガネーシャに、誰も何も言えず、そのまま、カルキの頭を掴んで引きずっていくガネーシャを黙って見送ることしか出来ず、やがて、ギルド前と同じく「解散しようか」と各々の『拠点』や家へと戻っていった

 

***

「なるほど………ヴィシュヌの『呪詛』か、で?『本番』はしていないんだな?」

 

「ええ、『本番』はそういった『呪詛』を掛けられていたアストレア神の眷属とだけ」

 

「ふむ……嘘はついていないか………しかし、あの娘たちも不憫だな、死した後に犯されるとは」

 

「どうせあの馬鹿が、『ファーッ!あのクソ女神の眷属がくたばったか!なら、あのアバズレも天界に来るな、じゃあ目の前でアイツの眷属の喘ぎ声でも聞かせてやろうじゃあねえか』とか言っていたら来ないものだからカルキに下賜した………というのだろう」

 

【ソーマ・ファミリア】のソーマの自室で、ガネーシャとカルキが向かい合って座り、それを嘆息しつつ、神酒を渡すソーマという何とも言えない光景が広がる中で、カルキが必死に説明したことでようやくガネーシャも渋々ながら納得したようだった

 

…………が、カルキは珍しく俯いて神妙な顔で唸るように声を出す

 

「しかし、まさかあの時の少女の姉が【ガネーシャ・ファミリア】の団長とは………ガネーシャ神の眷属だということはヤマ神から伺っていたが、名前を聞いていなかった………」

 

「アーディは、アーディはなぁ、英雄譚が好きで、明るくて、誰にでも優しくて、それでいて「ガネーシャ、その話は6度目だ」……とにかくいい子だったんだ、そんな子がインドラに傷モノにされずに済んだことを喜ぶべきか………うむ、そうだなぁ、そうだよなぁ」

 

「(わ、悪酔いしている)」

 

カルキの後悔に神酒の入った杯を机に叩きつけ、珍しく悪酔いするガネーシャにさしものソーマもたじろぐが、わざとらしく咳払いし、問いかける

 

「それで?例のモンスター共はどうする?」

 

「むぅ、ここは様子見………というより、俺の【ファミリア】としては都市の安全を優先するか」

 

「………自分はベル達がどう動くか観察しつつ、例の地下水路が動くかもしれないので、そちらも調べようかと」

 

机に突っ伏したままガネーシャは答え、カルキは未だ俯きながらソーマの問に答えると、ソーマは立ち上がって扉へと近づき

 

「では、先程までの天界での顛末……もう一度しっかりと説明するといい」

 

「え゛?」

 

ガチャリとソーマが扉を開けると、そこにいたのはシャクティを始めとした【ガネーシャ・ファミリア】の団員達

 

このあと、1から10まで説明して滅茶苦茶謝ったカルキであった

 

※※※

「やあ、初めましてベル・クラネル」

 

「………神……様?」

 

インドラVSソーマというオラリオ崩壊一歩手前の騒動があった次の日

 

各【ファミリア】やギルドが確認したところ、文字通り『なかったこと』になり、未だに混乱の続くオラリオの通りを歩いていたベルに、ベルと年の変わらないような神が声をかけてきた

 

前日の夜にフェルズから手紙をもらい、【ヘスティア・ファミリア】全員で『異端児』をダンジョンへ戻すと決めた矢先、リリとちょっと離れていると間に目の前に現れた神にベルも僅かに警戒する

 

漆黒の河のように長い髪を纏め、蛇や三日月を象った装飾具を身に着け、額には閉じた目がある神は、ベルの態度に苦笑し「まぁ、警戒するよね………うーん、仕方ない、取り敢えず名乗ろうか」と言い

 

「ボクの名前は……まあ色々あるからこれでいいや………マハーデーヴァ………そう呼んでくれたまえ」

 

「マハーデーヴァ様………?」

 

オラリオに来てから聞き慣れない神の名前にベルが首を傾げるのを気にしていないのか、その神はベルを真っ直ぐに見据え

 

「まぁ、ちょっと君が気になってね…………ちょっと話そうか」

 

そう穏やかに微笑んだ




18巻………ヘスティアの声が機械的‥…・…やっぱギリシャはロボだった………?











ちょっ…………ヘスティア様、なーんで自分かアレスやタケミカヅチでしようとしてたことに似たことしちゃうんすか………どないしよ、いや、いっそ開き直るか?うーむ、どないしよ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第57話

『ダンジョンにRPGを求めるのは間違っているだろうか』より

ベル「やった………クリアだ………」

神々・人々「「「へー、結構面白そう………」」」(『神の鏡』で中継)

???「よくぞ大魔王アイズを倒した、勇者よ……我が野望はここに潰えた」

ベル「………?あれ?なんか嫌なよか…」

カルキ「故にこの言葉をくれてやろう………『死 ぬ が よ い。』」←ヴィジャヤ装備

ベル「ファッ!!??」

神々「「「何だこのクソゲー!!!!????」」」

カルキ「10秒生き残れば第一段階クリア、10の顔と20の腕を持つ姿となる第2形態、インドラの冠、スーリヤの鎧、シヴァの炎で出来た2頭の馬に引かせた戦車、ヴィジャヤ、シミター、パラシュを装備した第3形態を合計30秒生き残ればクリアです」

ヘスティア「………クリアできる奴、いるの?それ」





どうにも前回の最後に出てきた神のことを皆気にしていますが、

………ちゃんと言っているじゃないですか


『ちょっと話をしよう』って



「いい場所があるんだ、付いて来るといい」

 

「あ、ま、待ってください」

 

クルリと踵を返し、ベルを誘うマハーデーヴァと名乗った神にベルは困惑するが、まるで逆らえない水の流れに沿うように神の後を着いていく

 

────そこで、ふとベルは疑問に思う

 

「(人の気配が無くなった………?)」

 

先程まで、自分に向けられているために、感じていた悪意や敵意を持った己を監視する視線、それが、追っている神と会う直前に、一瞬で消えたのだ

 

話しかけられたときは何も感じなかったが、流石にベルも違和感を持ち、直ぐに一つの考えに至る

 

「(こ、これって………何かの罠!?)」

 

そう思うと途端に不安になってくるのが人というものである

 

ベルは何としてでも逃げなければと思い、どうにか理由をつけて逃げ出そうと考えた時、目の前を歩いている神は急に振り返り

 

「安心したまえ、只の『人払い』さ、罠じゃあない」

 

「ッ!!」

 

まるで「考えなどお見通し」と言わんばかりに微笑む男神にベルは戦慄し、背中に冷や汗を流すが、男神は気にする素振りもみせずに、明るい声でベルに語りかける

 

「なぁに、怒っちゃいないさ、君はまだ幼…いや、若い。人から『悪意』を向けられるのなんて初めてだろうし、気が立つのも分かる」

 

「っ…………ごめんなさい」

 

「謝るようなことじゃあない、ああ、それとチャイを用意してあるから飲むと良い、そうすれば多少は落ち着くだろうしね」

 

そう言って、再び歩き始めるマハーデーヴァを名乗る神の後ろを大人しく、しかし、緊張しながらベルは着いていった

 

 

───ただし

 

「おい!あの兎野郎何処に消えやがった!?」

 

「いや、確かにそこを歩いていたんだがよ………」

 

「バカ言え!人間が急に消えるわけねぇだろうがよ!!」

 

「何も見えない!目が!!目がぁぁぁああァァァ!!」

 

…………一部大騒ぎを起こしながら、ではあるが

 

そんなことはつゆ知らず、謎の神についていくベルであったが、やがて男神は、とあるオラリオの裏通りのど真ん中に不自然にありながら、まるでそこにあるのが当然の様に感じる扉に手をかけ

 

「さ、此処だ、入っていいよ」

 

「え…………?」

 

オラリオの裏通りをクネクネと歩いた先にあった扉、その扉を開けたら、そこに広がっていたのは………

 

「ええぇぇェェ!!」

 

「ハッハッハ!良い反応だ」

 

そこに広がるは一面の砂浜、静かに響く波音、そして三日月が照らす夜空に満天の星

 

…………およそこの世とは思えない絶景にベルは驚愕し、あらん限りに目を剥く

 

「立ってるのも疲れるだろ?椅子あるから座りなよ」

 

「えっ!?あっ、はい、失礼します………」

 

「ほら、チャイだ、口に合うかわからないけどね」

 

「あ、ありがとうございます」

 

いつの間にか、目の前には風景にピッタリな木でできた机と揺り椅子が並んでおり、恐る恐る座ると、いつの間にか男神の後ろから荘厳な鎧を着た寡黙な男が姿を現し、何処で淹れたのか、飲み物が入った木のコップを差し出し、慌てていると「気にしなくていいよ」と微笑まれ、恐る恐るゆっくりと飲む

 

「!美味しい……」

 

「ハハハ、やっと笑顔が出たね、パールヴァティーに頼んで用意していた甲斐があったものだ」

 

「あ、ありがとうございます?」

 

「なぁに、気にすることじゃあないさ………じゃ、ちょっと落ち着いてから話そうか」

 

そう言って、揺り椅子でリラックスしている神に影響されたのか、暫くベルはゆっくりと波の音を聞きながら、穏やかな時間をすごしていた

 

※※※

「…………」

 

「リオン………」

 

 

以前に【イケロス・ファミリア】について話した酒場の2階に、アスフィ、リュー、アイシャは情報のやり取りを行うために集まっていた

 

…………が、ほぼ無理矢理アイシャが連れてきたリューだけは昨日から雰囲気が暗い

 

「アンドロメダ………私のせいなのだろうか………」

 

「ッ!」

 

俯きながらポツリと漏らした妖精の問いにアスフィは何も答えられない

 

リューの脳裏に焼き付いて離れないのは、カルキとタケミカヅチの『闘争』の余波で全壊した『豊穣の女主人』の建物の前で、自分達の『家』が無くなったことに涙し、理不尽に奪われたことに拳を震わせる同僚たち………特にアーニャは普段の明るさは一切消え、見ていられない程に憔悴していた

 

そして、リューにとどめを刺したのは『カルキがかつての同朋……死んだはずの【アストレア・ファミリア】の仲間たちに天界で手を付けた』ということ

 

オラリオの平和と安寧のために『闇派閥』と闘い、【ルドラ・ファミリア】の謀略により産み出された『厄災』に命を奪われ、天界でその魂を安らぎ、漂白され、新しい命として輪廻するはずの場所で、彼女たちは純潔さえも汚されたのだ

 

「あーっ、湿っぽい!!これだからエルフってやつは面倒くさい!」

 

「ちょっ!?」

 

ガジガジと後頭部を掻きながら、立ち上がったアイシャにアスフィは驚くが、アイシャはリューの胸ぐらを掴み上げ

 

「じゃあ、アンタはそのままあの野郎に仲間を汚されたままで良いってのか!?アタシだったら一発ぶん殴らなきゃ気がすまないね!!」

 

「………っ!それは…‥!!」

 

そんなことは不可能だとリューは言外に語る

 

『神の力』を使うことなく、目の前で誰も辿り着いていない圧倒的な『技』を見せつけながら飛んでくる瓦礫を一つも人々にいる場所に落とさなかったガネーシャとタケミカヅチ、そして遠目でしか見えなかったが、オラリオどころか大陸を焼き払わんばかりの『闘争』を繰り広げたソーマとカルキの体を依り代にしたインドラ

 

決して人間には届きそうもない領域をまざまざと見せつけ、嫌というほどに思い知らせた4柱に喰らいつける実力を有する男にどうやって一発殴れるというのか

 

「コホン……とりあえず、あの規格外のことは置いておいてください。今は例の『武装したモンスター』について説明させてもらいます」

 

このままでは埒が明かないと判断したアスフィがわざとらしく咳払いをし、今回の『武装したモンスター』について、そして今ベルが置かれている状況について話し始めた

 

***

「ハハハ!!いやぁ、君の祖父は随分とまあ愉快な人物だったんだねぇ!うん、君がおじいさんが大好きだった理由がよくわかるよ」

 

「な、なんか恥ずかしいんですけど………」

 

「いやいや、恥ずかしがることなんてどこにもないじゃあないか!むしろ君がそう思ったことを貫き通せばいいことさ」

 

「………でも、僕はおじいちゃんとの約束を」

 

多少落ち着いてから、ベルはマハーデーヴァからいくつかの質問を受けた

 

何故オラリオに来たのか?オラリオに来てから何を感じ、何をしたのか。そして『何故英雄に憧れたのか』

 

いくつかのやり取りをしていくうちに、ベルは天性のお人好しっぷりを発揮し、ついさっきまでは警戒してたのもどこへやら、普段、ヘスティアや仲間たちに向けるような砕けた話し方へとなっていた

 

が、やはり、先日のことに関しては未だに迷いがあるのか、顔を曇らせる

 

「あっ、ごめんなさい、初対面の神様にこんなことを………」

 

「ふむ………こういうのは本人が気付くべきであまり教えるのは良くないんだが……まあ久しぶりにあの好々爺のことを聞かせてくれたお礼に教えようか」

 

それを見て、少し考えた後、右の人差し指を立てながら、教えるようにベルに語りかける

 

「『英雄になろうとした瞬間、英雄の資格を失う』とはインドラの奴の考えだけど…ま、正しいと思うよ。英雄になろうとする奴は必ず『名誉』や『名声』ってのを求める………そのためには例え自分が正しかろうと、己の信念に反することであろうと、他人から『己の行いがどう思われるか』というのを第一にしてしまう…………つまりは君の祖父の言う『他人に己の意思を委ねる』って奴さ、そんな俗物がいつまでも『英雄』って呼ばれるかい?」

 

「それは…………」

 

「それに『正しい行い』なんてコロコロ変わるものさ、百年前の『正義』と今の『正義』は違うし、今の『正義』は百年後の『悪』かもしれない」

 

何処か冷めた目で虚空を見る男神に、ベルは薄ら寒いものを覚えるが

 

「でもね」

 

「?」

 

「たまーにいるんだよ、『名誉や名声?他人の思惑なんか知ったことか!』って言わんばかりに、その行動が良かろうが悪かろうが、己を曲げずに、突っ走ってボクたちすら驚愕させて世界に名を刻んでみせる『大馬鹿』が」

 

思い出すように目を閉じ、微笑む男神にベルだけでなく、後ろに控えている神も驚いた雰囲気になるが、マハーデーヴァはそんなことを気にする様子もなく

 

「そんでもって、そういう奴らってのは漏れなく強欲で傲慢なのさ………100を拾おうとして周りから馬鹿にされて、でもまた100を拾おうとする、これを強欲と傲慢と言わずして何というのか」

 

その男神の言葉にに何か貫かれたような、天啓を受けたような雰囲気で呆然とするベルを見て、可笑しいのかコロコロと笑う男神であったが

 

背後に控えている男神がそっと耳元へ近づき「そろそろ…」と耳打ちをすると「じゃあ、きょうはここまでかな?」と言ってベルに「お開きにしようか」と笑いかけ、ベルに立つように促す

 

「いや、今日は忙しいのに悪かったね、ベル・クラネル」

 

「いえ…………こちらこそ飲み物まで頂いてありがとう御座いました」

 

「なぁに気にすることはない………じゃ、彼を送ってあげて」

 

一礼して去るベルに「ああ、そうだ」と何かを思い出した男神はベルの背中に向かって声をかける

 

「最後にインドラからの伝言を伝えておくよ………『女神から告白されたらこれ以上無いって次元でこっ酷くフッてやれ!何なら畜生の臓物でも顔面にぶつけてやりゃあもっといい!このインドラが許す!!あの思い上がった腐れ女にゃあそんぐらいが丁度良いだろうよ!!』ってさ」

 

最後の伝言に「は、はぁ………?」と困惑しながらベルは、その空間からオラリオへと戻っていった

 

※※※

「………そんなに彼は気に入らないかな?………スカンダ」

 

ベルが出ていってからしばらく経ち、未だにリラックスした状態で椅子に腰掛ける男神に、鎧を着た神は顔色一つ変えずに進言する

 

「あの者は少しゼウスに影響されすぎています…………それに周りに女が多い……あれではいずれ女関係で破滅しましょう」

 

「ハハハ、そりゃまぁ、育ての親なんだから仕方ないね!」

 

カラカラと腹を抱えて笑う男神に、僅かに不機嫌になり、神威と怒気だけで空間にヒビを入れるスガンダを見ても態度は変わらず

 

「相変わらず『色事』が苦手だねぇ…………でも、いいじゃないかたった一人の女の子の涙を厭い、突っ走る『異端の大馬鹿者』ってのもさ」

 

「…………ゼウスやインドラは好みそうですが」

 

「『男を堕落させるのは酒と博打と女…………だが、酒を知らねば仲間と交わる楽しみは減り、博打を知らねばここぞという際の勝負所に弱く、女を知らねば騙され、子は成せぬ』とも言うじゃあないか」

 

「それは『ある程度の節度を持て』という意味です」

 

ピシャリと言い切ったスカンダに苦笑していたが、スッと目を細め

 

「ま、カルキから聞いていたとおり、彼の本質は『善性』だね………流石はヘスティアといった訳だ。眷属を見る目はある」

 

「それについては同感です………しかし、その『善性』が己の危機を招いているのでは?」

 

「だから、どうなるのか興味があるんじゃぁないか…………彼が負けて、神に踊らされる有象無象なのか、乗り越えて行く『英雄』ってやつなのかをさ」

 

そう薄く嗤う神に、スカンダは小さくため息をつき

 

「それで、天界にはいつお戻りに?」

 

「え?戻んないよ?」

 

「………は!?」

 

「いや、ボク以外に『破壊者』名乗ってる奴がいるらしいじゃん?それにほら、ガネーシャの奴がルドラみたいに鈍ってないか気になるし」

 

「……………」

 

「それにここってさ、ボクが世界と世界の狭間に新しく創った世界だし、誰にも観測されずに下界眺められるから何かと都合がいいんだよね」

 

暫くなんとも言えない顔をしていたスカンダであったが、その男神の神意が硬いのを受けて、何処か疲れたようではあるが一礼し、従うことを宣言する

 

「承りました………我らがマハーデーヴァ(偉大なる神)…………シヴァよ」

 

※※※※

その頃『アイアム・ガネーシャ』では

 

「………カルキよ」

 

「はい」

 

「何故だかさっきから背筋が凍り付くのだが、まさか『あのお方』が動いたなんてことは…………?」

 

「流石にそれは………」

 

「ない‥…と言い切れるか?」

 

「………………」

 

ガネーシャとカルキの間に何とも言えない空気が漂っていた

 

 




『人払い』のために目を『破壊』された人………アミッドでもカルキの持っている薬でも二度と治せないぞ(ニッコリ)


流石は下半神、カルキがうっすらとしか分からなかった『娘』の秘密をチラリと見ただけで相手に気付かれずに看破した模様





「えー?君達が捨てたんだろう?だったらボクたちがどう『処分』しようが君達には関係ないじゃないか」って言いながら笑うシヴァの前に晒される『豊穣の女主人』の妹猫を見て曇るフレイヤと兄猫………見たくない?





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第58話

ダンジョンにブラフマーストラを放つのは間違っているだろうか~オリオンの矢編~


カルキ「…………もしものためにずっとスタンバってました」←体育座り

~~~~完~~~~



……………ダンメモ4周年イベントやってると、ヘスティアのこともっと盛っても良かったなって、アポロン出てきて、18巻でアポロン出てきたらどないしよって


しゃーない、スーリヤ様に出張っていただこうかな





???「やはり美少女猫人か…………いつ出発する?俺も同行する」

シャクラ院………いや、貴方来たら面倒事に

シャクラ院「だが断る」


「いや!本当に『あの御方』が下界に来てないよな!!カルキも何か聞いてるのにオレに黙ってるとかないよな!!?な!?な!?」

 

「いえ、自分も何も聞いておりませんが………」

 

「嘘言ってないのが逆に不安だぁぁアアアアアアアアアア!!」

 

朝っぱらから騒がしい主神とその主神と向き合いながら、口元を手で覆い冷静に応対するオラリオ最強の居候に【ガネーシャ・ファミリア】の団員達は遠巻きに何事かと見やる

 

………が、よくよく見れば分かるのだが、カルキもうっすらと額に冷や汗を浮かべており、実際は冷静どころかガネーシャ並みかそれ以上に焦っているのだが、幸か不幸か誰にも気づかれていないのである

 

「え………まさかだとは思うが、『ガネーシャ鈍ってるなぁ………鍛えなおしてあげようか』とか思われて………いやいや鈍ってはない、そうだこの前だってインドラとソーマの被害防いだし………鈍ってないよな、うん、鈍ってない」

 

「………まさか例の『エニュオ』の正体が未だに分からないことへの叱責………?いや、まだ数日しか経っていないはず………だとするなら理由は他にある………のか?」

 

しかも互いに思考の坩堝にはまっており、会話が成立していない………が、ガネーシャとカルキは至って真面目である

 

「「(あの御方が動くのはマズイ!!)」」

 

ガネーシャもカルキも考えることは全く同じである

 

『あの御方』と相対したとして、ガネーシャは理性も知性もかなぐり捨てれば、どうにかこうにか互角に戦えるが、普段であれば一方的にボコボコにされるのは明白であり

 

カルキに至っては、今はまだ戦えるが、数年前は死に物狂いになって、「傷をわずかでもいいからつける」という『試練』を越えたが、『神の力』を一切使わず、ただの『技』による11日間のぶつかり合いでさえ、カルキは満身創痍、『あの御方』は頬にかすり傷のみという結果なのだ

 

…‥…なお、ガネーシャとカルキの1柱と1人がかりだと、シヴァが相手でもそこそこ良いところまでは行けるのだが、基本的にガネーシャもカルキも1対1しか考えていないのである

 

と、何かに気付いたガネーシャとカルキが思考を止め、その場から飛ぶ様に離れた瞬間

 

「ギャァァァアアアアっ!!」

 

『!!?』

 

突如、【ガネーシャ・ファミリア】の本拠正門が爆発し、全身の骨が折れた哀れな門番が悲鳴とともに、さっきまでガネーシャとカルキがいた場所に地面へと叩きつけられ、ピクリとも動かなくなる

 

「「「な………!?」」」

 

何が起きたのかと【ガネーシャ・ファミリア】の団員達だけでなく、カルキもガネーシャも瞠目し、派手に立ち上った煙を凝視していると

 

「…………ガネーシャ、お主、妾に何か言うことはないか?」

 

「カ………カーリー…………」

 

煙の中からユラァっという効果音付きで出てきたカーリーの幽鬼のような雰囲気に【ガネーシャ・ファミリア】の団員だけでなく、ガネーシャとカルキも冷や汗をかいていた

 

「あ、あの、カーリー神よ、昨日の件ならば……」

 

「なぁに、妾も何が起こったのかは把握しておる、インドラの阿呆がこの馬鹿とやらかしたのだろう?」

 

恐る恐るカルキが声をかけると、カーリーは穏やかな笑顔とともに、引きずっていたナニカを放り投げる

 

『『『ソーマ様!!??』』』

 

その正体が、数日前、オラリオを、大陸一つ消し飛ばしかねない戦いをした神の片方であることに気付いた【ガネーシャ・ファミリア】の面々は驚きとともに、恐怖する

 

「まぁ、アレよ、アレ…………あの時、妾がメレンでどれだけ大変だったか分かっておるかの?」

 

「「「────ッ!!?」」」」

 

ニコリとガネーシャに微笑みかけるカーリーに、向けられていないはずのカルキやシャクティ達が背筋にうすら寒いモノを感じさせられる

 

「いや!だったらガネーシャ関係な……」

 

「八つ当たりじゃ」

 

「Oh………」

 

ニッコリとガネーシャの問いに可愛らしい笑顔でカーリーが答えるが、それがこの世にこんなにも恐ろしいものがあるのであろうかとまでカーリーの実力を知っているガネーシャは思っていると

 

急にカーリーはカルキに視線を向け

 

「それでじゃ、カルキよ」

 

「はっ」

 

「お主、ブラフマーから『神の力』を使える『世界』を貰ったそうじゃな………今開けるか?」

 

「可能ですが?………まさか!?」

 

カーリーが何を言いたいか察したカルキが冷や汗をかく中、「そうじゃの」とカーリーが笑い

 

「ちとその『世界』妾に貸せ」

 

そう言い放った

 

***

「…………なんですって?」

 

「ああ、ベル・クラネルが持っている《ヘスティア・ナイフ》、アレと同じ刀を無償で一本打ってほしい」

 

オラリオのとある酒場、異端児(ゼノス)達をどうするか、【ヘスティア・ファミリア】に協力するか否かを話し合っていた、ヘファイストス、ミアハ、タケミカヅチの3柱は、ある程度どうするべきか決め、ミアハが出ていった後、タケミカヅチがヘファイストスを呼び止めていた

 

…………が、その内容が割と無茶苦茶であったため、ヘファイストスが目を細め、タケミカヅチに詰め寄ったのである

 

「あのねぇ、あのナイフは鍛冶師の矜持に反する2度と打ちたくないモノなの、それは………」

 

「いや、打ってもらう」

 

「なっ………!」

 

頑としてこちらの意見を聞かないタケミカヅチにヘファイストスは呆れ半分、怒り半分のなんとも言えない雰囲気になるが、

 

「まぁ聞け」とタケミカヅチは足元にある鞘に入った刀を抜いてヘファイストスに刀身を見せる

 

「これは、俺がカルキ・ブラフマンと闘争した日に【フレイヤ・ファミリア】の冒険者から奪っ………もとい貰った刀だ」

 

「…………それがどうしたってのよ?」

 

タケミカヅチの刀は鍛冶神であるヘファイストスから見れば取るに足らないものであったが、下界の人間が打った刀としては上物であった

 

「ヘファイストス、俺は《武神》だ、それ故に俺は武器は使い手次第で変わる思うし、俺自身は錆刀だろうが鈍らであろうが『空』を『 』を『原初の混沌』でさえ切れるという自負がある」

 

「……………」

 

タケミカヅチの《武神》としての矜持に《鍛冶神》であるヘファイストスはあまり共感出来ないのか、静かに話を聞く

 

「だが、俺が使うには下界の人間達が打った刀では数回が限度だ」

 

トンっと軽くタケミカヅチが刀身を床に着けると、あっさりと刀身は砕け、破片が辺りに散らばる

 

「ッツ!?」

 

「情けない話だがな、インドラの槍と神々の戦いの衝撃をそらすだけでコレだ……………これではそこらに落ちている小枝と変わらん」

 

そう自嘲気味に笑うタケミカヅチにヘファイストスも僅かに考え込む

 

(──────ただし、その小枝で神々の技量に匹敵する人物が振るった神造武器相手に互角以上に打ち合えるタケミカヅチの技量については考えてはいけない、いいね?)

 

「そして、間違いなく、今後、厄介な連中がカルキ・ブラフマンを通して介入してくるだろう、それ故にお前に一本打ってほしいのさ………………金が無いから無償でな」

 

 

 

───────数分後、「ちょっと考えさせて」と自神のホームに戻ったヘファイストスを見送り、タケミカヅチは椅子に座り天井を見上げていた

 

「(………さて、これで武器は確保できた、後はカルキ・ブラフマンの師匠筋に当たる神が動かないのを期待するだけか)」

 

タケミカヅチの脳内によぎるのは、数日前、己と打ち合ったカルキの背後に見えたとある神の姿

 

その後、インドラとソーマのゴタゴタがあり、その際のインドラの言葉から、殆どの神が、カルキはインドラとヴィシュヌと繋がり、鍛えられたと思っている

 

それは、ヘファイストスやミアハも変わらず、先程こっそり探りを入れるとそのように考えているように感じられた

 

………が、タケミカヅチは違った

 

「(まさか、よりにもよって、修行狂いのあの神が人間を鍛えるとはな)」

 

タケミカヅチは《武神》であり、相手の動きや技をだけで、相手が我流か否か、そして我流でないならば、流派は何処か、師匠は誰かなどは見るだけで手に取る様に解るのである

 

そして、タケミカヅチだけはカルキの師匠とも言える神が誰か理解した…………否、理解してしまった

 

カルキに武を教え、かの『奥義』を授けたのは、天界最強を謳われ、ヘスティアの司る『不滅』すら『破壊』し、不死の神々さえ殺すことの出来る神───即ち、破壊神シヴァであると

 

「(だが、それならカルキ・ブラフマンがガネーシャの所に転がり込んだのも説明できる)」

 

元々、ガネーシャはシヴァの傘下の神の一柱であり、そういう繋がりがあったから、カルキはガネーシャの所にいるのだろうと当たりをつける

 

「まったく、厄介なことだ…………」

 

右手で目を覆うタケミカヅチであったが、その口角は釣り上がり、獰猛な笑みを浮かべていた

 

※※※

「さて…………こちらも動くか」

 

その日の夜、カルキはダイダロス通りに気配を同化させつつ、ベル達【ヘスティア・ファミリア】

 

─────ではなく、【ロキ・ファミリア】の猫人をつけていた

 

あの後、『世界』にカーリーを案内したすると、案の定

 

『お主ら、妾の憂さ晴らしに付き合え』

 

と言われてしまい、『申し訳ないが、ヴィシュヌ神やシヴァ神からやれと言われていることがあるので』とカルキは言い訳、もとい弁明し、ガネーシャを生贄にし

 

『NOOOOOOOOOOOO!!』というカーリーから逃げられないよう押さえつけられたガネーシャの断末魔をバックにカーリーからの逃亡するという、ある意味で偉業に成功したのである

 

その際に、シャクティを始めとした【ガネーシャ・ファミリア】から不安げな空気を感じられたので、『あそこではガネーシャ神も『神の力』使えるから大丈夫だろう……………たぶん』と答え、不安を取り除いてから来たのである

 

「(む…………この猫人、中々に聡い……いや、あの紛い物かな?)」

 

カルキの眼下では、リリが猫人に捕まり、闇派閥をおびき出す手伝いをさせられていた

 

「あれは…………?」

 

闇派閥を拷問して目玉の様な物を奪った猫人が、走り出したのを、再び追いかけていく

 

「(そういえば、ベルも似たようなモノを持っていたな)」

 

そんなことを思っていると、猫人は王妖精と合流し、その鍵を渡し、王妖精が妖精達を率いて地下迷宮へと進行していく

 

「さて…………『都市の破壊者』は見つかるかどうか」

 

音もなく地面に降り、【ロキ・ファミリア】に一切気づかれることなく、カルキは妖精たちを追って地下迷宮へと侵入する

 

「(ダンジョンの10層辺りか…………ほぅ、食人花のプラントもあるのか………っと)」

 

妖精達から着かず離れずの一定の距離を保ちつつ、カルキも地下迷宮を進みつつ、食人花のプラントに感心し、妖精達が気づいていない後ろから迫る食人花を三日月刀で切り捨てる

 

「む、あれは」

 

さらに暫く、追い越さないように注意しながら進むと、通路の扉が開け、赤い髪を短く切りそろえた女が現れる

 

「おお………これが人とモンスターの混ざり物か、いや、気配では分かっていたが本物を見るのは初めてだ」

 

「「「!!?」」」

 

突然、背後から現れたカルキに怪人だけでなく【ロキ・ファミリア】のエルフ達も混乱する中、カルキはそれを無視し

 

「さて…………嘘から出た真、実際はどうなのか見せてもらおうか」

 

シヴァから授かった三日月刀を持ち、赤髪の怪人に笑いかけた




書いててふと思ったのですが

猪人「自他共に認める武人です」

タケ「武人名乗るのんなら女神なんかににうつつ抜かすな!!」

兄猫「都市最速です」

タケ「縮地も使えんようなアホが最速名乗るな」

白妖精「最強の雷属性魔法です」

タケ「へぇ…………(天候変えながら)」

黒妖精「ククク………我が魔剣は斬撃範囲を自由に」

タケ「斬撃飛ばすなんて児戯だろうよ」

4兄弟「「「「無限の連携出来ます」」」」

タケ「別次元から斬撃持ってきて4人いっぺんに切り捨てればいいのでは?(そもそも服脱いだり川で泳いだだけで神が生まれる神話出身)」


…………ちょっと原典回帰するだけでフレイヤやロキの幹部達の完全上位互換なんだよなぁ、そら神々本気出さねぇわな




……………くどいようですが、作者は愉悦部ではありません。

私は、アニメからウマ娘に嵌まり、サイレンススズカ押しになった友人が2期11話で悲しみにくれていたので、

屈腱炎から天皇賞秋を勝った馬だっていると教えてあげて

その天皇賞秋のYou Tubeのリンク先を送ってあげるくらいには心の優しい人間ですよ






~~ダンメモ4周年イベントより~~

紛れもなく、今、下界において、『天の炎』を纏った女神こそ────最強の守護者であると(原文そのまま)


マハーデーヴァ「へぇ………『最強』ねぇ………ククク………アーッハッハッハ!!いいね!イイよ!ヘスティア………いいや今はウェスタかな?いいねぇ!君の『天の炎』ボクが『破壊』してあげようじゃないか!!」←第三の眼開眼&トリシューラ装備



ウェスタ「………帰れ、いや帰ってくださいお願いします」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第59話

色々あって初投稿です


おかしいなぁ、前回のあとがきで何で自分は愉悦部どころか鬼畜扱いされるんやろか?お互いニッコニコで言葉の暴力で殴り合ったんやけどなぁ



Q.どうしてそんなに容赦ないんですか?byオラリオ

A.シヴァ神の眷属だからね、しょうがないね



ダメだ…………ダンメモやファミクロのせいで正義の妖精と兄猫、酒場の店員曇らせたい欲求が止められん、どうすればいいんだ




カルキが人工迷宮へと侵入する数時間前、『ダイダロス通り』に置かれた【ロキ・ファミリア】本陣にて

 

「『本命の作戦』は『武装したモンスター』を囮にして闇派閥残党を人工地下迷宮から釣り出す!」

 

『『『!!』』』

 

「(ほぉ………2面作戦というやつか)」

 

ロキ・フレイヤの両【ファミリア】の主神が、難癖をつけられるのを恐れてカルキを監視していないことをいいことに、カルキは【ガネーシャ・ファミリア】の本拠から誰にも気に留められることもなく抜け出し、【ロキ・ファミリア】の本陣に、忍び込んでいた

 

「(まぁ、利用させてもらおうか)」

 

そして、カルキは難なく人工迷宮の潜入に成功し、目当ての人間と精霊の混ざり物の前に現れたのである

 

「お、お前は…………」

 

カルキが言うところの人とモンスターの混ざり物────怪人レヴィスは、動揺しているのか声が震え

 

「なっ……………!」

 

リヴェリアをはじめとした【ロキ・ファミリア】のエルフ達は驚きと同時に、埒外の化け物への恐怖が混じった声を上げる

 

「何を驚くことがある?お前達とてベル達の後をコソコソ付け回していただろう?それと同じことだ」

 

「くっ………」

 

肩をすくめ、何処か小馬鹿にしたような雰囲気(本人にそのつもりはない)のカルキに何も言えなくなるリヴェリア達には目もくれずに

 

「それに、今回はお前達には興味はない………あるのはお前だ、『混ざり物』」

 

「うッ………!」

 

うっすらと笑みを浮かべて向き合ったカルキに、男が49階層での埒外の惨状を起こした光景を見ていたレヴィスは男の興味が自分にあるということで、アレが己に向けられるということで禍々しい刀を持つ手が僅かに震えていた

 

「(………!馬鹿な……この私が『恐れている』だと………!?)」

 

『堕ちた精霊』の眷属となり幾星霜、レヴィスに『感情』というものはとうに失くしたはずなのに手元が震えていることに気付いたかの彼女は驚愕した

 

「(いや………これは……「何を呆けている?」………ッ!」

 

声を掛けられ、ハッと顔を向ければ、【ロキ・ファミリア】のエルフたちはおらず、そこには自然体で己に向き合う決して勝てぬと本能で理解(わから)させられたバケモノ

 

「ッツ!!食人花(ヴィオラス)ゥゥゥゥうううううう!!」

 

「………」

 

もはやレヴィスの声に余裕はなく、何処か悲痛な悲鳴を上げるかのように食人花へと命令をだし、襲い来る無数の食人花を前に男は表情を一切変えず、迎え撃った

 

 

***

「ちょ………待ってええええええええ!何で!?なんで!?ナンデあんな化け物がこの『人工迷宮』に入ってんのオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

『人工迷宮』のとある『広間』にて、『闇派閥』のタナトスは恐慌状態となり悲鳴をあげる

 

「お、落ち着いてくださいタナトス様ァ!」

 

「落ち着けるわけないじゃん!!たとえヴァレッタちゃんが生きてようとアパテーとアレクトの【ファミリア】が健在でも7年前の『大抗争』の戦力(ザルドとアルフィア)が居たって、『穢れた精霊』が何体いたってアイツ1人に勝てないんだよオオオオオオオオオオオオ!!」

 

ただでさえ、自分たちのアジトに【ロキ・ファミリア】が攻め込んできているという、理解不能な状況の中に、カルキとかいう化け物のイレギュラーがいるのである

 

配下からの報告でカルキという人間の埒外っぷりを解ってしまったタナトスは錯乱しながら喚き散らし、それを宥める『闇派閥』の構成員たちが見ていない水晶には、カルキから背を向け、逃走するレヴィス

 

………を追いながら、レヴィスが足止めのために向けた食人花や水蜘蛛型のモンスターをまるで野菜屑のように手にした三日月刀で切り捨てるカルキが映し出されていたが、誰も気に留めることはなかった

 

***

「リヴェリア様………あの………」

 

「わかっているレフィーヤ、正直、あの男に利用されていたことについては私も思う所はあるが、これはチャンスだ……このまま進むぞ!!」

 

「「「はいッ」」」

 

作戦の始まる前、ロキから『もし、あの男と敵対することがあれば、情けなくてエエ、みっともなくても構わん、武器を捨てて、頭を地面にこすりつけて命乞いをせえ………頼む死なんでくれ』と言われ、目の前に現れた時は、思わず身構えたが、カルキは気にした様子もなく

 

『自分もお前達を利用したんだから、お前たちも自分を利用すればいい』と言わんばかりに、リヴェリア達に『人工迷宮』の別の通路の奥を顎でしゃくり、彼女達には目もくれず、『怪人』へと向かって行ったのである

 

そのどこまでも自分達を格下に見ているような姿に思わないことはないが、その男がここに居ることはつまり、地上では上手くいっていることの証左でもある

 

………………が、地上ではリヴェリアの思惑通りではなかった

 

※※※

「「「う、うわぁぁぁぁああああ!!?」」」

 

『ダイダロス通り』にて、驚愕の入り混じった悲鳴が次々と上がる

 

厚い雲のかかった空から降ってくるのは雨

 

………………ではなく雨の如く無数に降り注ぐ『矢』であった

 

その矢は『ダイダロス通り』にいる全ての冒険者、ギルド職員、一般人、【闇派閥】、【異端児】誰であろうと一切関係なく降り注ぐ

 

「「「くッ!」」」

 

そのうち、フィンやガレス、オッタルといった第一級冒険者達やラウルやアキといった第二級冒険者は武器を構え、次々と無差別に降り注ぐ矢を武器で落としていくが

 

「「「ぐッ!?」」」

 

弾いたはずの矢が空中でクルリと向きを変え、再び向かってくる矢に対処が追い付かず、次第に矢が刺さっていき、対処できない第一・二級冒険者以外の者達が一人、また一人と倒れていく

 

「こ……これは……これはアカンわ」

 

そんな光景を見ながらロキは『ダイダロス通り』が見える高台で独り言ちる

 

「こんなん対処できる神でさえ一部しかおらんのを人間が対応できる訳がない……」

 

「ああ、だが我々でもどうにも………」

 

先程【ソーマ・ファミリア】の酒蔵方向から天へと上がる矢が見えるので、恐らく犯神であるソーマに対して唇をかむが、ロキではあの矢の雨に対して無力なのはロキとディオニュソス自神が痛い程分かっていた

 

今、降り注いでいる矢はただ弾くだけでは向きを変えて襲い掛かる、ならば『弾く』のではなく『撃ち落とす』ことが対処法の1つである

 

────が、神が行使する技を相手にそれを実践するにはただ一つ前提条件にして必須条件がある

 

それは『その技と同じ技、もしくは同等以上の技量をもつこと』である

 

が、そんな条件を満たしている冒険者などいるはずもなく、ましてやオラリオにいる神々でこの条件に当てはまるのはガネーシャとタケミカヅチだけである

 

例外としてヘスティアやウラノス辺りであれば技量はなくとも、大神級の神威を持って防ぐことは容易い

 

だがしかし、悲しいかな、ロキとディオニュソスはそれほどまでの技量も神威もないのである

 

「しかし、何故ソーマが…………」

 

「…………」

 

基本的に他者に無関心なソーマの行動に疑問を持ったディオニュソスの呟きにロキも同じことを思いながらその光景を眺めるしかなかった

 

────────実は、ソーマは自分の本拠近くでのドンパチにイライラしたからだけなのだが

 

※※※

「さて、この場合は……初めましての方がいいのか?」

 

空から雨の様にこちらに降り注ぐ矢を三日月刀の一振りで全て撃ち落とした男が微笑を浮かべながら近づいてくる

 

『ヴ…………ォ……………』

 

「ほぉ、構えるか……だが、自分はお前程度と必要でもないのに争う気は微塵もないぞ」 

 

その姿を見た隻腕の猛牛は、その男が己の記憶に刻まれた『災害』であると、『憧憬』も『強者』でさえも届かぬ遥かな『高み』へと至っている存在であると直感した

 

が、それでも猛牛は『憧憬』に再び相まみえるまでは死ねぬと片腕でありながら斧を構えた

 

そして『災害』はその姿にどこか嬉しそうに、それと同時に『相手にもならない』と言わんばかりに猛牛を前に構えることもなく

 

「お前の『憧憬』を叶えてやろう………ついて来い」

 

そう言うと、クルリと後ろを向く、その無防備な後姿に猛牛は一瞬切りかかろうかと考えた瞬間

 

────斬られた

 

「ああ、すまない、つい反応してしまった………だが、これで分かっただろう?大人しくついてくることだ」

 

「!?」

 

己が右逆袈裟に斬られたのが錯覚だと分かると同時に『災害』は頭だけ振り返り、うっすらと微笑を浮かべながら猛牛に話しかける

 

『ウ゛…………』

 

やがて猛牛は構えていた斧を降ろし、歩き出し、歩きながら飛んでくる矢を軽々と撃ち落としていく男の後ろをついて行く

 

やがて、路地を進んでいき、男はある場所まで止まると、猛牛に目の前に広がる広場を猛牛に見せるように体をずらし、片腕を上げると、とある人物を

 

────正確に言えば広場の向こう側の路地でツインテールの女神と彼の仲間たちと何か話している白髪の少年を指さし

 

「あそこにお前の求める『光』があるぞ」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ』

 

ベルの姿を見た瞬間、咆哮を上げ、突っ込んでいく猛牛を見ながら男は独り言ちる

 

「ベル……別に迷うのはいい、強くなりたいのであれば迷い悩んでこそだ……だが、お前が迷い、足を止めている間に周りの者達に追い越され、先をいかれるぞ…………置いていかれるなよ」

 

と男はそこで言葉を止め、ベルと猛牛の自分達の『闘争』と比べればあまりにも拙い、児戯にも等しい『闘争』を眺めながら

 

「だが少し………お前達が羨ましいな」

 

そうポツリと漏らすと分身である男は朝の近いオラリオへ消えていった

 

***

今日何度目か分からない地下迷宮に轟く超硬金属の壁が壊れる音、醜悪な食人花を壁にしながら、カルキから逃走を続けるレヴィスであったが、それも終焉が来ることは容易に想像出来た

 

「あっ、があっ………!」

 

「怪人………!」

 

『ウオオオッ!?何だ?』

 

「これは………!」

 

が、運がいいのか悪いのか、レヴィスが壁を破壊しながら飛び込んだ広間では、【ロキ・ファミリア】の妖精部隊とフェルズが率いる『異端児』がタナトスの策により相対してしまっている広場であった

 

「ああ……これは厄介な所に出てきてしまったな」

 

「「「ッ!!」」」

 

破壊された壁の奥からゆっくりとした足取りで誰も視認できない速度で食人花を切り捨て、うっすらと笑みを浮かべながら現れたカルキに、襲われているレヴィスだけでなく、一切意識を向けられてすらいないはずの異端児、【ロキ・ファミリア】ですら息をのむ

 

「しかし……まさか自分が『いるはずがない』と思って出まかせのつもりで言ったはずの『混ざり物』が実際にいるとはな」

 

「ま、待て!」

 

「?」

 

ポツリと思わずといった拍子に漏らしたカルキの独り言にリヴェリアが反応し、どういうことかと問いかければ

 

「いや、自分は神ではないから全てを見通す『千里眼』なぞ持ち合わせていない。だからこそ一番『あり得ない』と思っていたことを言っただけだ………まさか本当にいるとは思わなかったがな」

 

「「「はぁ………?」」」

 

『そのせいで、どうやらいらん誤解を招いていたようだが』とどこか気まずそうに言うカルキに、【ロキ・ファミリア】のエルフたちも半ば呆れたような声をあげていると

 

「ァアアアアアアアアアアッ!」

 

「「「!?」」」

 

その体の何処から出たのだろうかと思えるほどの咆哮を上げながら、レヴィスがカルキへ襲い掛かるが

 

「その程度か?」

 

「ガッ……アアアアアアアアアア!?」

 

僅かに右に半身だけ動かし、その場にいる誰もが認識できない程の速さの左裏拳でレヴィスの下顎を軽々と砕くと同時に右手の三日月刀を突きだした瞬間、赤髪の怪人は、轟音を立てながら地下迷宮の壁の崩壊に巻き込まれた

 

「フェルズ、リド………今ノハ………」

 

「………ああ、まるで」

 

「さっきの黒フードと同じ……!」

 

そのあり得ない光景を見させられたリヴェリア達が呆然とする中でリドとグロス、そしてフェルズ達『異端児』たちは、つい先程カルキと全く同じことをしてみせた謎の人物を思い出し、戦慄した

 

***

 

────時をカルキが猛牛と会ったころに戻して

 

「死んでくれ、異端の怪物達」

 

「なっ────」

 

「神ヘルメス、何を!?」

 

『異端児』達の前に自らの眷属を連れて現れた不吉な男神の発言に、何を言われたのか理解できないリドとどうにか返答をしたフェルズに

 

「ああ、全員死ぬ必要はないさ、そうだな」

 

『────チッ』

 

『『『!?』』』

 

ヘルメスが口を開き、『異端児』へと話しかけた瞬間に、地下水路に響いた舌打ち

 

不機嫌さを一切隠していない、侮蔑と軽蔑の混じった音に神が、冒険者が、モンスターが音の出所を探し、辺りを見回すと

 

コツ、コツ、コツと足音をわざとらしく響かせ、その者は現れた

 

「………こいつは………?」

 

「」

 

ヘルメスたちの後ろから現れたのは顔の見えないようにすっぽりと漆黒のフードで覆い、体をフードと同じ漆黒のローブで隠し、右手には一本の槍を持ったナニカだった

 

それでいて、そのナニカはまるで陽炎のような、本当にそこにいるのかあやふやな存在感であり、思わずといった拍子で【ヘルメス・ファミリア】の団員の男が呟いた瞬間

 

「………え?」

 

地下では感じることの出来ない閃光が煌めいた瞬間、彼等の背後にあった視界を覆っていた大壁が音もなく崩壊していた

 

「…………」

 

「ッ!」

 

「いつの間に………!」

 

そして、その場にいる全員が動揺していると、目の前の黒フードが消えたかと思った瞬間には、ヘルメス達と『異端児』の間に音もなく立っていた

 

「君は…………一体?」

 

「」

 

「ッ!何者かは分からないが、心からの感謝を!行こうリド、皆!」

 

理解できない現象が次々と起き、何も考えられず、問うてしまう賢者に、無言で槍を壊した壁の奥を差す黒フードに、思わずといった様子で慌ただしく礼を述べて地下迷宮に入っていくフェルズと『異端児』達

 

「おいおい………何だよそりゃ、俺の計画が台無しじゃあないか………」

 

「」

 

そしてその様子をただ呆然として見送るしか出来ないヘルメスの独り言を背に、『異端児』達は地下迷宮への帰還を果たしたのである

 

そして、現在

 

【ヘルメス・ファミリア】は壊滅していた

 

「「「」」」

 

「ぅ………ぁ………」

 

虎人、犬人、エルフ、小人族………様々な種族から構成される【ヘルメス・ファミリア】の冒険者達は、声もなく意識を失い、団長のアスフィは、左腕を失い、下腹部に深々と槍を刺されていた

 

「」

 

「お前は………誰だ?」

 

己の眷属がなすすべなく全滅し、ただ蹂躙される様を見させられたヘルメスの問いには答えず、黒フードはヘルメスの腹を殴り、黙らせる

 

「」

 

冷たい床に倒れ伏すヘルメス達を一瞥もすることなく、黒フードは地上へと戻る道へと進む

 

そして、地上に出た瞬間に、オラリオ中に轟音と衝撃が襲い、白髪の少年と猛牛の再戦が始まる

 

その光景を路地裏から見ていたナニカであったが、どこからか吹いてきた風にフードが捲れる

 

「………拙い、はっきり言って児戯に等しい────だが、『闘争』においては一の行いが万の言葉に勝る」

 

ベルとアステリオスの戦いを眺めながら軍神たるスカンダは独り言ちる

 

「さぁ、くだらん企みをしていた阿呆は黙らせてやった…………ならば、自分とシヴァにお前の有り様、その全てを示して見せろ小僧」

 

そう言い残し、誰にも気づかれずスカンダは世界の裏側にシヴァが作った世界へと戻っていった




???「壁を壊す方法?槍で砕いただけだ」(溜めなし、音無し、光速で)

Q.どうしてヘルメスに無言なの?

A.………なんでヘルメス風情と言葉交わさなければならん



カルキさん、けっこー笑います────神と闘う時や何かしらを襲うときは(つまり無表情だったベートとオッタルの時は………ね?)



ソーマの技を
同じ技で相殺→ガネーシャ、カルキ、カーリー、スカンダ、マハーデーヴァ、リグ・ヴェーダの皆さん

同等か以上の技量で撃墜→タケミカヅチ、アルテミス・ヴィ—ザル、アストレア、武闘派神及び極東の神々の皆さん

神造武器で対応→アレス、ヘファイストス

神威で封じ込める→ヘスティア、ウラノス、ゼウスなど


あれ?結構いるな……………どういうことだってばよ?



とりあえず数ヶ月間色々書いていたフィルヴィス生存ルートは…………ボツだ!!


理由:神話の都合上ソーマによるNTR(R-18)、カルキ(inインドラ)・ガネーシャによる輪○・  陵○、オラリオ白昼堂々野外プレイ…………こんなの投稿できるわけねーだろ!!

………どうやら自分は疲れていたようですね(白目)


突然のオリ神解説

シヴァ

権能:破壊と再生
身長:自由
体重:気分
好きなこと:修行、苦行、パールヴァティーとの茶会
嫌いなこと:魅了(なんならパールヴァティー以外の『美の神』全て)、自分以外に破壊・破滅を
      名乗る神

※カルキの『武技』の師匠にあたる大神、弟子であるカルキとの実力差としては2年前の時点では『神の力』を封じた状態でカルキと打ち合ってカルキが瀕死になってどうにかこうにか額に1㎜の傷をつけられるくらい
 
 天界ではガネーシャとスカンダを傘下にし、インドラ、ソーマ達とは領土の近しい殺し合い仲間、他の領域の神々からは『絶対に喧嘩を売ったらいけない神』、『天界最強』などと恐れられている

………そりゃあ、数十万年前に突然『パールヴァティー以外の美の神殺すわ』って言いだして各勢力に単身で戦争吹っ掛けた挙句、ゼウス、ウラノス、オーディン、エンリル、アマテラスをはじめとした【リグ・ヴェーダ】以外の全神と精霊相手に全面戦争して、精霊皆殺し、神々の5割殺害、4割重傷負わせて、自分はちょっとした火傷と切り傷だけだったらそうなるよ。
  byヘスティア(前線にい(させられ)たのに軽傷で済んだ1割)

 オラリオに来たのはカルキから報告を受けたベルを見るため。その際、数ある名前の一つである『マハーデーヴァ』を名乗り、12~14歳くらいの少年の姿で接触したが、その姿を見たインドラやヴィシュヌといった古い付き合いのある神々からは
「「「お前………若作りしすぎだろ…………」」」と引かれたらしい













妹猫とどこぞの酒場の店員達、破壊神の供物になるか下半神の玩具(意味深)になるか……………どっちがいい?

フレイナー「……シヴァ………どうしてオラリオに来た……?」

シヴァ「お前が最初に聞きたいのはそんなことか?」

フレイナー「どうして………こんなことを?」

シヴァ「お前と同じだよ」

フレイナー「………な……………な……」

シヴァ「「何で?」ってか?わからないか?お前と同じだよ「ただの気まぐれ」、「神の娯楽」ってやつだ」(後ろで武器持ってスタンバってる群集神・戦神・人間辞めちゃた人)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

60話

前回投稿から半年以上ですか……………

いや、違うんですよ!色々あったんですよ!ハンターしたり、トレーナーしたり、ちょっとホウエンとかジョウトとカントー旅したり


……………申し訳ございませんでしたぁ!!!


満天の星空が広がる空間、そこに2柱の神がいた

 

1柱はただ目を閉じて規則正しくゆっくりと音を立てて安楽椅子に座っている

 

1柱は椅子ではなく机に座り、左手には瓶を、右手には人影の胸部を抱きながらどっかりと腰を下ろしている

 

「………彼は面白いね、周りを熱狂させ、忘れていた『想い』を呼び起こし、前へと進める。さながら『最後の船』といったところかな?」

 

うっすらと微笑を浮かべ、どこか楽しそうに語る男神に片方の男神は左手に持っている酒瓶から神酒を飲みながら答える

 

「まあ、バカなガキが熱を取り戻させる………なんてことは偶にゃああると聞くが、初めて見たわ────チッ、あのクソ阿呆の方があの小僧のこと気にかけてたのが癪に障るな」

 

「スーリヤかい?ああ、そういえばカルキから報告来てから『その少年こそ最後の英雄にふさわしいかもしれないな』って言ってたね」

 

「あー、クソ、思い出したら腹立ってきた………」

 

そりゃ八つ当たりだよ、と呆れながら返す男神は、ふと思い出したかのように話を変える

 

「そういえばインドラ、『アヌンナキ』とのごたごた、あれ結局どうなったのさ?」

 

「あ?ああ、あのアバズレが攻め込んで返り討ちにあってヴァーユの奴にぶち犯された件か?」

 

「そうそう、それ全面戦争いかなかったのかい?アレってあそこの神々から随分甘やかされてるじゃないか」

 

「ぜーんぶあのアバズレのせいにして上手くラクシュミーが纏めた」

 

だから暇になってここに来たんじゃねえかと、愚痴をこぼすインドラに面白そうにコロコロと笑う神であったが、再び、少年と猛牛の『闘争』に視線を戻し

 

「お、ナイフから大剣に変わった」

 

「あーあー、テメェの長所テメェで殺したわ────負け確定、終わったな」

 

「うわっ、インドラひっど」

 

軽く、しかしインドラの言葉を否定することもなく、男神は笑う────それはまるで全てを見通す千里眼を使わずとも、この『闘争』の結末は見えたと言わんばかりに

 

そしてその分かり切った結末が分からず、熱狂するオラリオにいる神々にどこか冷めた視線を向けながら

 

「ほらほら、神も人も誰もかもが少年の勝利を信じてるよ?それなのに負け確定とかあんまりじゃあないか」

 

「そりゃあ、あいつらの見る目がないだけだろうが………やっぱり『アースガルズ』のアバズレのガキは救いようのない愚物だったな、アレの何処が『武人』だ、武器の『合う』『合わない』も分からん癖に名乗るなんて恥ずかしくねぇのかよ、カルキの奴は『求道者』って言ってたが、本当の『求道者』に謝れってんだ」

 

「ま、そこは同感だ」

 

「って、おいおい………足止めて溜めかよ、真正のバカか?」

 

「そこはほら、あれだよ、アレ、『英雄たるもの正面から』ってやつ」

 

「死にかけの牛相手に得意を押し付けてやっとこさ互角の雑魚が相手の土俵に馬鹿正直に乗るなって話だろ、コレ」

 

そして2柱の言う通りに、少年の光は猛牛の突進に敗れ、高く打ち上げられる

 

その光景に誰もが絶句する中、猛牛は雄たけびを上げると同時に、空から落ちてきた少年を再襲し、少年の体を左腕に絡み取り白亜の巨塔へと突っ込んでいき、ダンジョンへと向かって行く

 

「うーわー…………死んだか?小僧」

 

「こらこら勝手に殺さない────さて行こうかな」

 

「あ?何だ、行くのかシヴァ」

 

安楽椅子から立ち上がり、軽く伸びをしてダンジョンへと向かおうとするシヴァにインドラが意外そうに声をかける

 

「ま、頑張った子供にはご褒美をってね」

 

「あ、そ…………俺はここでヘルからかっぱらったロキのところのくたばった三つ編みメガネっ子で楽しんどくわ」

 

「はいはーい………あ、そろそろスカンダ帰ってきそうだからその売女は隠してた方がいいよ」

 

振り返りもせずひらひらと手を振って出ていくシヴァの忠告を無視するかのごとく、インドラは激しく腰を振る気配を背に死んでから純潔を奪われた少女の喘ぎ声が響く空間をシヴァは出ていく

 

***

「………これで良かったんだ」

 

ダンジョン1階層、僅かな月の光に照らされた白髪の少年は仰向けになりながら呟く

 

「敗けて、良かったんだ………」

 

「────本当に?」

 

「────っツ!?」

 

誰もいないはずのダンジョン、自分の独り言に答えた存在にベルは驚く

 

「マハーデーヴァ様………?」

 

「ベル・クラネル、君のソレは本心かな?」

 

「そ、れは………………ッつ!」

 

ベルの頭の方に立ち、見下ろしてくる男神の問いに何か答えようとしたが、言葉に詰まると、右手で顔を覆い

 

「…………嘘、です……」

 

「『勝ちたかった』………かな?」

 

「っ………はい………!」

 

奥歯をかみしめ、鼻を鳴らしながら泣くことを我慢するベルにマハーデーヴァはカルキやガネーシャが見れば2度見するであろう穏やかな笑みを浮かべ

 

「強くなりたいなら今は泣くといい────今君が流すそれは決して恥ずべきことではない『漢』が流す涙だよ」

 

「っ………ふっ、ぁ、うぁぁっ………!」

 

マハーデーヴァの言葉に堰を切ったようにベルの口から嗚咽が漏れ、抑えた目元からは止められるはずもない涙を流す

 

「だが君は幸運だよベル・クラネル、君は今日、インドラとスーリヤのような生涯の『好敵手』を得たんだ………ボクの弟子は結局得られなかったものだからね」

 

「ぅっ………っ………」

 

しゃくりあげ、何も言えなくなるベルに数日前と同じく諭すようにマハーデーヴァは言葉をかける

 

「自分の意志を押し通したいなら『力』を得よ、但しそれは単純な『力』だけではない、己を鍛え知識を得るがいい、そして己の初心を忘れず前を向きづけるがいい。さすればお前の望むものは手に入ろう…………ま、ボクからの有り難い神託だ受け給え」

 

「っ…………はい…………っ」

 

どこか不敵に、それでいて確信を得ているような雰囲気でマハーデーヴァはベルに告げ、何かに気づいたようにふと顔を地上へと向け

 

「おや、ハーフエルフが向かってきているな、そろそろボクは退散しようか」

 

そう言うと、指を鳴らし、何もないダンジョンに扉が現れる

 

「あ、そうだそうだ、ベル・クラネル。悪いけどボクのことは誰にも伝えないでくれないか?ボクの弟子のガネーシャとカルキにも君の主神のヘスティアにもさ」

 

そう言い残し、扉を開けて入っていき、シヴァは下界から去っていった

 

※※※

「さて…………終わりだな『混ざりもの』」

 

「ぐっ………」

 

ベルと神の邂逅の少し前、人工地下迷宮での三つ巴の戦いは終わりを告げていた

 

レヴィスの喉元にはカルキが三日月刀を突き付け、あたり一面には肉片となった食人花と【闇派閥】だったものが散乱しており

 

【ロキ・ファミリア】のエルフたちと異端児の集団は、食人花と【闇派閥】の構成員が襲い掛かった瞬間に地下内で吹き荒れた斬撃を伴う突風から命辛々逃げていた

 

────同時に『逃げられない場所での挟み撃ち』という乾坤一擲の作戦を道端の石ころを蹴飛ばすかの様にカルキに一蹴されたタナトスが頭を抱えているが

 

「さて、『混ざりもの』お前に聞きたいことがある」

 

「な……に………」

 

三日月刀を突き付けたまま、ニコリと笑いながら問いかけてきた埒外の化け物に『赤髪の怪人』は今日何度目か分からぬ恐怖で震える

 

「なに、簡単だな質問だ────『エニュオ』の正体はどこの誰だ」

 

「は?」

 

カルキの問いに思わず間抜けな声を上げるレヴィスであったが、カルキはそれを無視して話す

 

「あの御方が他の『破壊者』などを許すはずがない、神であれば当然、知っていることを下界にいるからと油断したかどうかはわからないが、お陰で自分の首が飛ぶかと思った────故に吐け」

 

途中でレヴィスが口を挟む暇もないほど、早口でどこか苛立ちと殺気を隠さず話すカルキにレヴィスの目と股から温かいものが流れる

 

「で、エニュオの正体は?」

 

「そ、それは……」

 

口ごもるレヴィスをじっと見ると諦めたように瞠目しため息をつく

 

「どうやら、阿呆はこの地下にはいない………地上にいる神の一柱か」

 

「っ!」

 

「見ればわかる。どうやら、お前にこれ以上期待はできそうにないな」

 

そう言うと、レヴィスに止めを刺そうとしたカルキの背後から魔力の塊が向かってきた

 

「どうやら………お前のほうが知っていそうだな」

 

『……………!』

 

が、カルキは『怪人』のお株を奪うように片手で払い、狙いをレヴィスから魔力弾を放ってきた黒ローブへと変える

 

『!!』

 

「追撃は苦手なのだがな………!」

 

その光景を見て、黒ローブの人物が身を翻したと同時に通路に壁が轟音と共に下りてくる

 

が、カルキが三日月を振るうだけで、轟音とともに崩壊する

 

『バケモノがっ…………!?』

 

「なんだ?話せるのか…………ならば尚の事逃がせられないな」

 

『ク……!』

 

一瞬で黒フードを追い越したカルキは、黒フードの仮面を右手で掴みそのまま地面へと押し倒すと、仮面の一部が割れ、特徴的な長い耳が露わになる

 

「ほぅ………エルフか」

 

『!!?』

 

「それにその気配、以前感じた覚えがある…………だとするならば何故、道化の者達といたのだ?」

 

うっすらと獰猛な笑みを浮かべながら問いかけるカルキに、黒ローブのエルフは答えない

 

「答えないか…………だが、剥げば分かろう」

 

『ッ!!』

 

そして、カルキが抵抗するエルフから無理矢理黒フードを破くと

 

「…………?」

 

そこには誰もおらず、カルキの右手に破れた黒フードと趣味の悪い仮面がカラカラと音を立てて転がっていた

 

「………………あぁ、これは見誤ったか」

 

自嘲するような笑みを浮かべ、カルキは顔を抑え天を仰ぐ

 

「っ…………まさか魔力で分身を作れる者がいるとは…………ック………ハハッ…ハーッハハハ!!」

 

何が可笑しいのか、カルキは暫く笑い続けたあと自嘲するように大声で笑う

 

「よく思えばそうだ!己に出来るのだから他者もできる、何故このことを失念していたか!挙げ句赤髪の女には逃げられた!」

 

全くもって情けない、と一時の間嗤った後、一息ついてから

 

「さて…………これで口実が出来てしまったわけだが……………どうするか」

 

そう言い残し、『闇派閥』からなんの妨害も受けず、カルキは人工地下迷宮から出ていった

 

※※※

「……………と、言うわけだ、恐ら『道化の眷属』若しくは『地上にある派閥』のエルフに『エニュオ』の間者が潜り込んでいる」

 

「………………」

 

【ガネーシャ・ファミリア】の本拠の一室、部屋の主が不在の部屋のソファーに向かい合って座る派閥の団長である女性に調べて判明したことを報告していた

 

─────が、相手の反応がよろしくない

 

「…………理解できているか?」

 

「理解はできる…………が、困惑している。まさか【ロキ・ファミリア】か地上にある【ファミリア】に内通者の可能性など考えもしなかった」

 

口元を抑え、考え込むシャクティに対し、カルキは当たり前のように答える

 

「なに、これで【ロキ・ファミリア】に攻め込む口実ができたとでも考えればいい、ガネーシャ神がカーリー神の憂さ晴らしから戻ればすぐに攻め込むか?」

 

なんなら、自分一人でも問題ないぞとうっすらと笑みを浮かべる目の前の埒外の化け物にシャクティは机を叩いて立ち上がる

 

「馬鹿なことを言うな!【ロキ・ファミリア】は『都市最大派閥』だ!それが壊滅などしたらそれこそ『闇派閥』や『エニュオ』とやらの思うツボだ!!」

 

「冗談に決まっているだろう?そんなに怒るな」

 

「ッツ〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

カルキの余りにもたちの悪い冗談に、シャクティはどうしようもならない怒りに見を震わせるが、カルキはそれを手で制して

 

「それに、ある程度の絞り込みもできている」

 

「…………なに?」

 

立ち上がったシャクティが一つ大きく息を吐いて、落ち着いてから座り、カルキに続きを促す

 

「間違いなく、分身をつくったのは『エルフの女』だ………それにあまり『雄』を知らない類のな」

 

「なぜわかる、お前は顔も見れず逃げられたと先程言っていただろう?」

 

「なに、顔を拝もうとフードを履いだとき、体が僅かに強張っていた………あれは顔を見られる恐怖より、どちらかといえば服を剥かれ己の裸体を見られる類のものだった、ということだけだ」

 

「なるほどな…………確かにそれならエルフの女という線も正しいか」

 

サラリと答えたカルキの内容にある一定の納得をしたシャクティであったが

 

「だとしたら、【ロキ・ファミリア】の中にはいないな、ステイタスの更新、ひいては魔法の発現にはは主神の立会いが必要だ…………『闇派閥』と敵対している【ロキ・ファミリア】の団員たちのステイタスは全員ロキが把握している」

 

そう答え、【ロキ・ファミリア】には『内通者』はいないだろうと結論づける

 

その話をじっくり聞き、納得したカルキは暫く考え

 

「ふむ、では地上にいる派閥のどれかということになるわけだが、【ロキ・ファミリア】と親しい派閥はどこになる?」

 

その問いにシャクティは僅かに考え、【ヘファイストス・ファミリア】と【ヘルメス・ファミリア】、【ゴブニュ・ファミリア】の名前を出すが、「いや、待て」となにかを思い出すように

 

「そういえば…………ここ最近、【千の妖精】と親しくしていたエルフの話を聞くな」

 

「…………それは?」

 

僅かに眉をひそめ、問いかけるカルキに答え

 

「確か…………ああ、【ディオニュソス・ファミリア】の【白巫女】だったな」




やったねリーネ、インドラのおかげで『雄』を知れたね!御目出度う!!近いうちに仮初めの肉体与えて狼に会わせてあげるよ!楽しみにね!!

いや、ホント、なんでこんなこと思いついたんすかね……………まあ、今のところで妹猫も仲間入りだけどな!ガハハ





関係ないけど、早く苫小牧大使を育成してぇなぁー。

第8,9レースで同期の貴婦人と爆弾がレコード叩き出す中、沈んでいく歴史を変えてぇ~


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第61話

アストレアレコード……………良かった

いやー、しかし、どこのどいつですかね?こんないい娘達を死後にオリ主に○させたっていう設定にした奴、

碌でもないクズですね、間違いない

正義のために戦った少女達の最後が善悪問わずの純粋な暴力ってのはねぇ
やはり暴力、暴力はすべてを解決する‥‥‥‥!

そしてタケミカヅチ様強っよ!

マジで前線で戦ってどうぞ

まあ、ここだと自ら出てくるんですけどね、あっはっは(笑)



────【ディオニュソス・ファミリア】

 

 オラリオに存在する中堅規模のファミリアであり、主な収入源はダンジョン探索による魔石採取

 

団員数は80名、団長は【白巫女】(マイナデス)フィルヴィス・シャリア、レベルは4で他の団員は専らレベル2

 

団長はかつて闇派閥(イヴィルス)が引き起こした≪27階層の悪夢≫の生き残りであり、先達の団長以下数人が死亡したため団長に就任。

 

 なお、≪27階層の悪夢≫後、フィルヴィス・シャリアと組んだパーティは全滅することから非公式で死妖精(バンシー)とも呼ばれている────

 

「………こんなところか」

 

 ギルド本部の一室で、イスに深く腰掛け、天を仰ぐカルキは【ディオニュソス・ファミリア】について調べた内容を頭の中で整理する

 

 あけ放たれた扉に面した廊下から、チラチラとこちらを不安げな顔で伺うギルド職員を軽く流し見れば、慌てたように去っていくのを苦笑し、カルキは考える

 

 (なお、半ばギルド内でカルキのストッパー扱いのミイシャが休日であり、職員は気が気ではない)

 

 「(黒……とは断言できないな、ギルドにあるような情報だけ見れば、【闇派閥】の被害者でもあり、不運な冒険者ともいえる………が、この『毎回』というのが匂うな)」

 

 本当に運悪く全滅してしまっているのか、口封じのためか、『見てはいけないナニカ』を見てしまったためか………

 

「さて、これからどう動くか………」

 

 先日の件もあり、シャクティやミイシャから『これ以上被害はあまり出さないでほしい』と言われており、書面に起こしていない口約束程度ではあるが、カルキとしては世話になっている以上、最低限は守ろうとしているのである

 

 「む?」

 

 取りあえずは、【ディオニュソス・ファミリア】の本拠を(勝手に)調べようと、ギルド本部を出てしばらく歩いたカルキは、ピタリと道の真ん中で立ち止まる

 

 「……………?」

 

 突然キョロキョロと辺りを見渡したかと思うと、道の真ん中で目を閉じ、突っ立ったカルキに、前の一件も含め、良い感情を抱いていないオラリオの住民から怪訝な目を向けられているが、一切気にする様子もなく

 

 「そこか」

 

 そう呟くと、一切の風を起こすことなくカルキは道から消え、とある建物の屋根に姿を表し、そこで再び目を閉じる

 

 「やはり、これはかの神の残滓…………ガネーシャ神に伝えるか」

 

 未だ狭間の空間でカーリーの憂晴らしに付き合わされているガネーシャに伝えるべく、すべての予定を切り上げら【ガネーシャ・ファミリア】へと戻ることに決める

 

 「…………巻き込まれたくはないがなぁ」

 

 思わずポツリとポツリと出た本音は青空へと消えていったが

 

※※※

 

 『ウオオオオオォォォァァァアアア!!』

 

 『──────────────ッ!!』

 

 「………………」

 

 【ガネーシャ・ファミリア】にあるカルキの居候部屋…………もとい自室から繋がっている世界の狭間にブラフマーが【創造】した【世界】で二柱の神が暴れ、傍らに弓と矢筒を置く一柱の神が暇そうに酒を煽っていた

 

 「……酒造りに戻りたい」

 

 偶に飛んでくる衝撃の余波を片手で払いながら酒を煽るソーマは退屈そうにカーリーの憂晴らし

 

…………最早、カーリーもガネーシャもマジになっているが

 

 を眺めながら、帰って酒を作りたいとボヤきつつ、また酒坏へと酒を注ぐ

 

 「………何かあったか」

 

 振り返らずにソーマが声をかけると、ソーマの背後に扉が現れ、カルキがその空間へと入ってくる

 

 「はい、ガネーシャ神に報告することがあり、参上しました」

 

 「そうか………」

 

 一礼とともにカルキがソーマへと答えると、ソーマは傍らに置いてあった弓に矢をつがえると、カーリーとガネーシャへ向けて放つ

 

 『『!』』

 

 光よりも速く飛んできた矢に反応し、ピタリと固まる二柱の真ん中を矢が通り過ぎると同時に、神々でさえも震え上がるであろう肌を突き刺すほどの凄まじい怒気と殺気が襲う

 

 「カルキから報告らしい…………聞いてやれ」

 

 が、それを一身に浴びているはずのソーマは、それをそよ風のように受け流し、半歩下がる

 

 「ガネーシャ神よ、よろしいでしょうか」

 

 ソーマと入れ替わるようにして前に出たカルキは恭しく膝を付き、両手を合わせ、頭を下げる

 

 『おお!どうした!』

 

 4本の腕を組み、普段通りの豪快な笑みと共にガネーシャが近づいてくる

 

 「はい、『ダイダロス通り』から東へ少し離れた建物の屋上にてスガンダ神の残滓を見つけました」

 

 「なに!?」

 

 カルキからの報告に思わずといった風にガネーシャは身を乗り出し、ソーマとカーリーでさえ、瞠目する

 

 「あの御方が例の件で痺れを切らすのは早すぎる………別件か?」

 

 「そこまでは」

 

 「‥‥‥‥すまんが、その件も内密で調べておいてくれんか?アレが直接下界に介入しているのは少しマズイ」

 

 完全に象頭と化した目を細めるガネーシャからの頼みに「承りました」と頭を下げ、退席しようとするカルキに

 

 「これ、何処へ行くつもりじゃ」

 

 そう声を掛けたカーリーに、カルキだけでなく、ソーマとガネーシャも首を傾げる

 

 「‥‥‥カーリー神よ、何か?」

 

 「うむ、アレじゃ、カルキよ、これから妾と一つ『手合わせ』でもせんか?」

 

 そんなことをサラリと言うカーリーに一人と二柱が何とも言えないような顔をする

 

 「「「‥‥‥何故?」」」

 

 「簡単よ‥‥‥‥カルキ、お主、あの白兎の小僧に僅かばかりの羨望を抱いとるな」

 

 「‥‥‥」

 

 右目を閉じて、いたずらっぽい笑みを浮かべながらカーリーに問いかけられたカルキは、ほんの少し顔を顰める

 

 が、無言というのは、カーリーの問いを肯定しているのと同義であった

 

 「別に責めてる訳では無い‥‥‥‥間違いなくお主の歩んできた『道』は己より格上か格下か───己と同格で共に切磋琢磨する者などおらんのは当然だったろうしな」

 

 ‥‥‥‥それは今後も続いていくであろうと言外に述べるカーリーに、ソーマもガネーシャも無言で同意する

 

 そして何とも言えない表情でいるカルキに、カーリーはニヤリと笑い

 

 「だからこそ‥‥‥お主にそんな感情すら抱けんほどの『上』を妾が教えてやろうというわけよ」

 

 その言葉と同時に、凄まじい神威と闘気が体から吹き出し、青い肌の三面六臂となり、その6本の腕に武器を持つカーリーが顕れる

 

 「‥‥‥カーリー神に感謝を」

 

 ─────ならばその神意を受けなければなるまい

 

 【ディオニュソス・ファミリア】と『エニュオ』の関係性も、何故、スガンダの残滓があるのか、今は全て忘れよう

 

 虚空から取り出した三日月刀(シミター)を持ち、数回軽く振った後、どこか爽やかな笑みを浮かべ、カルキは吠える

 

 「では‥‥‥‥挑ませて貰う!!」

 

 「ああ!受けてやろうぞ!!」

 

 只人は武器を持って駆け、闘神たる女神は嗤いながらその一撃を受け止めた瞬間、世界に轟音が響き渡った

 

※※※

 「俺がガネーシ‥ゲブォファア!!」

 

 「「「ギャアーーーーー!?」」」

 

 「どういうことだー!?」

 

 3日後、バベルで行われている神会(デナトゥス)の一言目で盛大に血を吐いたガネーシャに、神々が何事かと叫ぶ

 

 ロキやフレイヤ、ヘスティア達女神が「うわぁ‥‥‥‥」となり

 

 男神の内何柱が「しゃーねーなぁ」と言いながら後始末を行いながら、何があったのか問いかける

 

 「いや、すまん、3日前まで本気のカーリーと闘っていてな‥‥‥まだダメージが抜けてなかった」

 

 そう言いながら頭を下げるガネーシャの言葉に、音を立て椅子から立ち上がる武神を隣に座るツインテ女神が服を引っ張り座らせる

 

 ────それからは普段通りの神会が続いていき、いよいよ『命名式』となり、神々の爆笑と悲鳴が交差していく中、残り2枚となり、一枚目は神々は笑顔で見るが二枚目を見た瞬間、全員が苦い顔をした

 

 「ベルきゅんはいいんだけどなぁ‥‥‥‥」

 

 「こいつに『二つ名』とかいるの?」

 

 「むしろ、『気に入らない』とか言い出したらヤバくね?」

 

 神会の締め切りギリギリ、土壇場でミイシャが泣きながら作った1枚と紛れ込んでしまった1枚に神々は反応する

 

 「というより、何なのよこれ‥‥‥」

 

 どこか呆れた声でヘファイストスが見ている紙に書かれているのは、カルキの似顔絵とその個人情報である

 

 「特技が『武芸百般』と『大概の事』って‥‥ザックリしすぎだろ」

 

 「現在24歳で14歳から修行始めた‥‥ってことは何?あの『奥義』10年で取得したの?マジ?」

 

 「てか、これ纒めたの誰?」

 

 最後の疑問だけは、ガネーシャが「ミイシャ・フロットという職員らしいぞ」と答えたため

 

 神々から、ギルド職員の可愛らしい雰囲気の少女への感嘆の『スゲェ』という声が漏れ聞こえ

 

 「しかもミイシャちゃん、アイツから『インドラの矢』まで貰ってるんやろ?しかも他人から奪われへんようにミトラと【契約】までしてるて」

 

 「「「マジかよ」」」

 

 「「「‥‥‥‥‥」」」

 

 半泣きで、ミイシャから何が起こっているのかを聞かされた自派閥の魔道士から聞いた情報をロキが話すと、何柱からドン引きした声が聞こえるが

 

 一気に騒がしくなる一方で、タケミカヅチをはじめとした一部の神々は黙って、一心に資料に目を通し続ける中で

 

 「うーん、カルキ君に【二つ名】は付けないほうが良いんじゃあないかなぁ」

 

 『『『!?』』』

 

 ポツリと漏らした独り言が全員に聞かれたヘスティアに全ての神々の視線が向けられ、無言で理由を問われるロリ神は、僅かに眉をひそめため息を一つ吐くと続けて

 

 「ほら、カルキ君って姓を多分ヴィシュヌから貰ってるわけだし、そこに余計なものつけたら嫌がるんじゃないかなぁって」

 

 「まあ、そうだな」

 

 困ったように笑うヘスティアの意見も一理あるとタケミカヅチを筆頭に一部の神々が賛成した

 

 そして、そのまま、その意見が通り、カルキに二つ名がつけられることはなかったのである

 

 その後、ベルの二つ名を決める際に、神々から散々に遊ばれたヘスティアの絶叫が響くのだった

 

※※※

 「ふぅん、つまり君は『偽善者』になることを決めたわけだ」

 

 「はい‥‥‥‥いつかウィーネ達と一緒に過ごす日が来るように」

 

 「そうかい‥‥‥まぁ、及第点ってところかな?」

 

 バベルで神会が行われているのと同時刻、再びどこかから現れたマハーデーヴァに誘われたベルは、以前と同じ場所から現れた扉に入り、以前と同じ空間にいた

 

 そこで再び用意されていた茶を飲んでいると、しみじみとした様子でマハーデーヴァが話し始める

 

 「しっかし、ソーマの奴、完全に昔に戻ったねぇ‥‥‥」

 

 「ソーマ様ですか?」

 

 異端児騒動の際、【ロキ・ファミリア】をはじめとした『ダイダロス通り』にいた冒険者達に  

 

 ────ベル達にとっては最高の援護になった

 

 容赦なく矢の雨を降り注がせた男神の話にベルは思わずといった拍子で、問いかける

 

 「まぁ、アイツとは昔からの付き合いだからね。酒造りに懇到する前までは、よく弓の腕を競ったもんだよ」

 

 「そ、そうなんですね‥‥‥‥」

 

 まさかあのソーマの神業と競えるという目の前の神の発言に内心動揺しまくるベルに男神は笑い

 

 「そりゃあ、僕達の領域の神‥‥‥カルキもだけど基本的に乗り物で駆け、弓を引くのが基本だからね!」

 

 「えっ、カルキさんもですか?」

 

 「あれ?知らなかったのかい?」

 

 元々、あの子が1番得意なのは弓だよと笑いながら答える男神にベルは驚きながら 

 

 「で、でもカルキさんは戦争遊戯のときもダンジョンに行ったときも、この前だって‥‥‥‥」

 

 「まあ、他の武器も超一流で使えるってだけさ、君だって、短剣・ナイフ一つってわけじゃあないだろう?それと同じさ」

 

 「お、同じ‥‥‥‥‥」

 

 「同じさ、ただあの子の場合はそれが神の領域に突っ込んじゃったってだけのね」

 

 「えぇ‥‥‥‥」

 

 余りのスケールの違いにドン引きするベルを見ながら「まぁ、ちょっとならいいか」と呟いた男神は椅子から立ち上がり、ベルの前に立つと

 

 「じゃあ明日、誰にも言わず今日と同じ時間に来なさい、ちょっとだけ『上』を見せてあげよう」

 

 いたずらっぽく笑った男神の言葉にベルは小さく頷いた

 

 




天界時代のタケミカヅチ様inオラリオ暗黒期

えれぇボス「正…」

落ちる首、天界へ強制送還の光

オラリオ&闇派閥&神々『『『えええええ!?』』』

タケ様「問答したいんだったら寺にでも行って来いバカが」

(刀を鞘に納めながら)

~~アストレア・レコード 完~~

そりゃあ…………相手側の総大将が丸腰で突っ立ってて、問答してきたら中世極東島国の常識なら取りあえず首とるよねって

なお、見られて正義の女神や、その眷属に非難されてもどこ吹く風で無視するし

挙句の果てには、闇派閥がドン引き(井戸への毒物、闇派閥の肉盾、洗脳からの自爆攻撃、闇派閥根城への腐乱死体(人間含む)投げ込み、民間人ごとの魔剣攻撃etc………)

極めつけに、行商神から(拷問紛いで)聞き出したどこかの村に住む白髪の少年(抵抗してきた彼の祖父は斬った(不殺だが))を全裸・目隠し・猿轡・磔にした上で静寂の目の前でゆっくりと少しずつ切り刻む模様(え?音による蹂躙?…………音ぐらい切れますが何か?)


オラリオ側&闇派閥&神々「「「外道!!」」」


タケミカヅチ「手段を選ぶな、勝てば正義だ阿呆共」


それを極東の神々に抗議したところ

『えっ?それくらい普通じゃね?何が悪いの??』

と首をアマテラスを含む全神が傾げ、大和竜胆が愕然とするのはご愛敬







えー‥‥‥‥私事ですが、これから滅茶苦茶更新遅くなると思います‥‥‥‥待っていてくれる方がいるとは思いませんがどうか許してください‥‥‥はい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

62話

Q.シルさんの料理食べても平気?

A.アムリタに比べたら大したことはない(震えながら)

???「どぉして比較対象が『薬であり劇毒でもある』なんですかぁ?」

カルキ「‥‥‥‥‥」(目反らし)




‥‥‥‥やっと書けた


「団長ぉ!!今度は【マグニ・ファミリア】から救援要請が来ましたぁぁぁ!?」「シャクティ団長!駄目です!モージ様とマグニ様の殴り合いが止められません!」「救援に入った【黄金の四戦士】が吹き飛ばされましたぁ!?」「巻き込まれた【白妖の魔杖】の眼鏡が割れた!」

 

 【ガネーシャ・ファミリア】の本拠は、モンスターの地上進出騒動以来、毎日のように、一部のファミリアからの緊急支援要請に追われていた

 

 「手の空いた2班と5班を【マグニ・ファミリア】に回せ!【ロキ・ファミリア】にも救援要請を出せ!!他の所はギルドと最悪、【ヘスティア・ファミリア】に頼れ!!以上、散れ!!」

 

  そんな慌ただしい報告を受けるシャクティは額に青筋をわずかに立てながらも、的確に団員たちに指示を出し続ける

 

 …………が

 

「【猛者】と【剣姫】行方不明だそうです!」「またメレンから手薄になった城門を破ってアマゾネス達が入ってきました!?」「ギルドの豚が胃に穴空いて血ぃ吐いて倒れたそうでーす」「ちくわ大明神」「ヘスティア様のバイト誰か替わりに入れる奴いる!?」「わぁ……ぁ………ぁ………」「【ディアンケヒト・ファミリア】の協力得られました!」

 

「はぁ」

 

 シャクティの口から大きなため息が漏れ、頭を抱える。

 

 発端はカルキの体を使ったインドラとソーマの………否、オラリオの住民のことなど一切考慮せずに戦ったカルキとタケミカヅチの『手合わせ』

 

 ほとんどの神や人々がその戦いを恐れる中で、一部の神々がその『熱』に当てられたらしく、神会が始まる前から、こういった被害がちらほら出ていたのだが、神会終了後、さらに酷くなっている

 

「オレが止めに行こうか!?その方がいいと………思うのですがダメでしょうか………」

 

 シャクティの隣で椅子に縛り付けられているガネーシャが嬉々として提案するが、シャクティににらまれ、だんだんと語気が弱くなっていくが、そんな主神を無視して

 

「冒険者はともかく市民に被害は決して出すな!!我々は【ガネーシャ・ファミリア】だ!」

 

「「「応っ!!」」」

 

 団長の檄に、団員たちは大声で応え、本拠を飛び出していく

 

 その様は正しく『都市の憲兵』に相応しいものであった

 

「あれ?オレは…………?おーい、シャクティー?」

 

 その場に取り残された主神の呟きは誰もいない無人の本拠に虚しく消えていったが

 

※※※

 

『すまない………ティオナ、また我々の団員が暴走して………』

 

「あはは………バーチェも大変だね」

 

 申し訳無さそうに肩をすぼませ、小さくなる【カーリー・ファミリア】団長の片割れの姿にティオナも苦笑いしかできない

 

 その奥では、バーチェとティオナの双子の姉が小人の貞操をかけて、殴り合いを始めてしまっている

 

『アルガナは変わった…………只人の男には恐怖するのに、子供か小人にしか発情しないようになってしまった………』

 

 神々でいうところの『しょたこん』なるものになってしまった姉を遠い目をしながらポツリと漏らすバーチェにティオナも同情してしまう

 

「でもさー、どうしてアルガナはあんなになっちゃったのさ」

 

『カーリーが言うには「死への恐怖がアマゾネスの本能を上回った」らしいが………』

 

 笑いながら話すカーリーからの証言では、アルガナは、ティオネと戦っていたガレオン船を放り投げたカルキと、ティオナ達が意識を失っていた間に戦ったらしい

 

 が、カルキに手も足も出ず、顎を手を足を砕かれ、体のあちこちに風穴を開けられ、失神し、命を失いかけたらしい

 

 そして、その度にカルキが懐から取り出した小瓶に入っていた液体をかけられては、再生されて………ということを僅か数分の間に、7回繰り返したのである

 

 結果、アルガナの心は完全に折られ、カルキに対する感情はアマゾネスの本能である強い雄に発情するどころか、屈服や畏怖を通り越して、恐怖へと変わったというのである

 

 そして、メレンへ救援に来たフィンに紳士的な対応をされた結果────小人族でしか興奮できないレベル6のアマゾネスが出来上がったのである

 

『ああ!フィン!抱いてくれ!子供を作ろう!私達の愛の結晶を!!』

 

「ふっざけんなぁァァァァ!!」

 

 アルガナの叫声とディオネの怒号が【ロキ・ファミリア】の【本拠】に響き渡るのを、互いの双子の姉妹はどこか遠い目をして眺める

 

『…………空が青いな』

 

「うん………そうだね」

 

 ご近所から騒音苦情を受けたから来たのであろう【ロキ・ファミリア】の【本拠】に向かってくる疲れ果てた表情の【ガネーシャ・ファミリア】の団員達を見ながら、ティオナとバーチェは心の声が一致する

 

 『ウチの姉がすみません』と

 

※※※

 

「‥‥‥‥うん、良い業物だ」

 

「あら、武神の貴方にそこまで言われるなんてね」

 

 神会終了後、【ヘファイストス・ファミリア】本拠の主神の部屋で、男神と女神が向き合っていた

 

 それも【ヘファイストス・ファミリア】の団員たちに人払いを命じ、神2柱だけでの密会───普通ならば、ロマンスでもはじまりそうだが、そんなことはなく

 

「始めて持つのに手に馴染み、刀身に歪みなく‥‥‥流石は天界随一の鍛冶神だ、ああ、武器に拘りを持たない俺だが、これは良い」

 

「‥‥‥」

 

 ヘファイストス自ら打った刀を軽く振り、鞘へと戻したタケミカヅチの気持ち悪い位のべた褒めにヘファイストスは何処か居心地が悪そうに腕を組む

 

「それで、『銘』はどうするの?せっかく『武神』の貴方が持つんだもの、それ相応の『銘』は必要でしょう?」

 

「あー、その事だがな‥‥‥『無銘』でいこうと思う」

 

「‥‥‥‥ハァ!?」

 

 わざわざ自分に無償で打たせた刀に銘をつけないと言い出したタケミカヅチにヘファイストスは眦を上げて詰め寄り、タジタジになりながら武神は目を真っ直ぐに見つめ返す

 

「私の打った刀には銘をつける価値がないっていうの?」

 

「違う!そうじゃない!!‥‥‥まぁ、あれだ『この刀が何か成した時に銘を付けよう』そう思った」

 

「‥‥‥‥」

 

 極東に『雷切』という刀が伝わっている

 

 元々は別の『銘』があったが、千年以上前、とある武人が空から落ちてきた雷を一刀のもとに切り裂いたことからそちらの『銘』で呼ばれることとなったという伝説が今のなお残っているのだ

 

 「しかも、その武人(こども)は我々が下界に降りる前の人‥‥‥つまりは恩恵なしで『()』を切ったということになる」

 

 だからそれにあやかりたいとタケミカヅチは刀身を光らせ、子供のように純粋な瞳で笑った

 

「あ、そ‥‥‥‥」

 

 普段から『我らの『業』は武器の良し悪し関係ない』と公言し、実際、ぐーたら女神、月女神、鍛冶神の目の前で天界にある大瀑布を切り裂くという、神業を見せた武神の凄まじさを知っているヘファイストスは肩をすくめ、団員が持ってきてくれた飲み物を飲もうとすると

 

「あ、それとついでにだが、廃棄する鉄兜をいくつかくれないか?」

 

「あら?何に使うわけ?」

 

「何、この後コレで様物をしたいと思ってな、桜花や命達だけでなく『猛者』と『剣姫』も来るというから、多めで頼む」

 

「はいはい‥‥‥って何で猛者と剣姫がでてくるのよ!?」

 

 何事もないようにタケミカヅチが言ったことに、動揺を隠せないヘファイストスは再び噛みついた

 

「‥‥‥昨日、朝はやくに突然、『たのもー』という言葉と共に本拠の扉が叩かれてな、何事かと思ったら剣姫が立っていて、話を聞いていたら猛者がやってきてな」

 

 話を聞くに、両者ともに『強くなる』ために【タケミカヅチ・ファミリア】の門戸を叩いたらしい

 

 そしてに2人揃って、それぞれの主神や幹部達にも黙って来たらしく、そのことを問えば、2人揃って「「あっ‥‥‥」」などと供述する

 

 にも関わらず、眼の前の武神は『そういうことならば』と2人の相手を丸一日行い、今からその続きをするというのだ

 

「それをよく許したわね‥‥‥普通だったら問題の原因よ、他所の【ファミリア】しかも幹部どころか首領を鍛えるって」

 

「なに、問題はない。よく言うだろう『バレなければ問題じゃあない』と」

 

「その言葉を言ってバレ無かった例がないのだけれど?」

 

「ははは‥‥‥‥何とかなるだろう‥‥たぶん」

 

乾いた笑いを上げるタケミカヅチであったが、結局、天然娘と不器用猪では、誤魔化すことができず、バレてしまうのは、千里眼を持たない只人の身でわかるはずもなかった

 

※※※

「も、もう嫌だぁーーーーー!!」

 

 激動の一日が終了した夜、とある酒場でこの数日、散々に【ガネーシャ・ファミリア】に連れ回され心の底から出た言葉を叫ぶロリ巨乳女神が一柱

 

「ま、あんたの気持ちもわかる」

 

「うむ、既に噂になっておるぞ『死んだ顔して連行される女神』とな」

 

 ダンッ!と酒の入った木製のジョッキを机に叩きつけ、突っ伏したヘスティアの姿に心から同情するヘファイストスとミアハ

 

 せっかく『神会』で無難かつ名誉を損ねない名前を愛する眷属に付けれて、いち早く教えてあげようと、バベルを出た瞬間に最後の希望を見つけたような目をした【ガネーシャ・ファミリア】の団員を見た瞬間、死んだ魚の眼をしたヘスティアをヘファイストスは忘れられないだろう

 

「もう嫌だ‥‥‥ガネーシャの所の子を見るのが辛い」

 

 この数日、オラリオにいる武闘派な神が暴れるたびに自神のバイト先に『ヘスティア様ぁ!!』と泣きついてくるその神の派閥の眷属や【ガネーシャ・ファミリア】に泣きつかれ、引きづられればこうもなろうと友神は憐れむ

 

「もうこれは仕方あるまい、私やヘファイストスでは止められないし、子供たちではほんの僅かな神威で動けなくなる」

 

「それに、どの神もアンタの言うことなら聞くからこうなっているんだしね」

 

 そう言って励ますが、当の本神は肩を震わせたかと思うと次の瞬間に爆発した

 

「そんな慰めはいらないよ!ミアハやヘファイストスに分かるかい!?ボクが止めたら止めたで『チッ、ヘスティアかよしゃーねーなぁ止めるか』みたいな顔するバカ共を見させられる気分がぁ!」

 

 ヘスティアの脳裏に浮かぶのは普段なら注意されてもヘラヘラ笑って反省の意度など微塵も感じられない軽薄な神ではなく

 

 天界に居たときのような不満タラタラな身勝手極まりない不貞腐れた態度の神である

 

「そりゃあ、子供達にはどうしようもないってことは分かるよ‥‥‥‥分かるけどさぁ」

 

 ヘスティアが頑張って事態を収束させると、ヘスティアに感謝する派閥の眷属や【ガネーシャ・ファミリア】の団員だけでなく

 

 主神同士では中の悪い双子のアマゾネスの妹が抱きついてきたり、そんな妹に呆れながらも頭を下げる姉、ぶっきらぼうながらも礼を言う狼人に、心からの感謝を述べる小人族と王妖精、ドワーフといった面々や

 

 他の神には頭を下げることはないであろう女神の眷属や四兄弟の小人族、黒白黒妖精にまで頭を下げられ感謝されるのである

 

 そんな姿を見てしまえば、ヘスティアとしては自分が頑張らなくてはと思い、求められればオラリオを東西南北せわしなく駆けずり回り、神々を説得し、時に神威で黙らせるのだ

 

‥‥‥‥‥‥が

 

 『悪ぃ‥‥‥‥やっぱ辛ぇわ』というのがヘスティアの本音でもあるのだ

 

「どうして‥‥‥どうしてボクがこんな目に‥‥‥‥」

 

「それは‥‥‥ねぇ?」

 

「うむ、カルキ・ブラフマン、タケミカヅチ、ガネーシャ、ソーマ、インドラのせいだろうな」

 

 「うわぁぁぁぁん!!カルキ君とタケミカヅチのアホー!ソーマとガネーシャのバカー!インドラはゼウスと一緒に去勢しろぉー!」

 

そんなヘスティアの心からの叫びがオラリオの夜に響くのだった




19巻の結果………おめでとう!武神ハッスル√(通称:妹猫処○喪失√)になりました(これにはインドラ様もコロンビア)

さ………色々書き直すか


マハーデーヴァ「え?ボクの出番は?」

フレイヤ「そんなものはないから帰って?」





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

63話

 ドラマCD、良かった………何でしょうね、本当にどうしてここでの【アストレア・ファミリア】はどうしてあんなことになってしまったのか…………

誰が悪いのか!……………インドラだな!良し!!





って、え?タケミカヅチ様?マジで投げれるんすか?え?マジ?




 「うん、時間よりも少し早く来る、いいね」

 

 「は、はい!よろしくお願いします」

 

『神会』のあった次の日、マハーデーヴァと会う空間で完全装備のベルと三叉槍を持ったマハーデーヴァが向かい合っていたが

 

 「あ、あの…………」

 

 「どうしたんだい?」

 

 「そちらの男神様達はいったい…………?」

 

ベルの視線の先にいるのは、椅子に座りゆったりとくつろぐ黒く長い髪を襟首で一つ括りにし褐色の肌に右手の方にはいつでも使えるように棍棒を持っている男神と机に片膝を立てながら腰掛け、短く切りそろえられた漆黒の髪に右手に持った酒瓶から豪快に酒を飲む男神

 

 「ああ、気にしなくていいよ、天界でヒマだから此処に遊びに来たのとスカンダに玩具取られて不貞腐れた暇神共だからね」

 

 「阿呆、もしものためだ」

 

ヒラヒラと手をふるマハーデーヴァに対し、少し呆れたように男神は口を挟む

 

 「お前が勝手に世界の狭間に世界を作った挙げ句に将来有望な人間を招いて『上』を見せるなど………もし『つい、うっかり』で殺したらどうヘスティアに伝えるつもりだ」

 

 「えっ?」

 

 「ちょっと人聞きが悪いなぁ、ベル・クラネルもビビっちゃったじゃあないか、これでもボクはカルキを鍛え上げた実績が」

 

 「私もそうだが、しょっちゅう無茶振りをして死にかけさせた挙げ句、最後の試練とやらで半殺しにしてなければな」

 

視線を露骨に逸らし、わざとらしく口笛を吹くマハーデーヴァに今からどんなことをされるのかとベルが戦々恐々としていると

 

 「案ずるな、もしこの阿呆がやり過ぎだと感じたら私が止めてやる」

 

 「え、ええっ!?」

 

カルキを半殺しに出来るという目の前の神を『止める』と豪語する男神にベルは驚愕を隠せず、大きな声を上げてしまう

 

 「ぷっ、ハッハッハ!ヴィシュヌ全然信用されてないじゃん!うっけるー!いいよぉ、ベル・クラネル最高!」

 

 「えっ!あっ、いや、そういうわけじゃ…………」

 

そんな煽るように笑うマハーデーヴァと神に対しとんでもない不敬をかましたことに動揺しまくるベルを見ながら大きく溜息を吐いて、言葉を続ける

 

 「まあ、私とは初対面だし、信用も信頼もないだろう…」

 

 「ご、ごめんなさいっ!」

 

 「うんうん、素直に謝れるというのは美徳だ」

 

口角を僅かに痙攣しながら言葉を紡ぐヴィシュヌに謝るベルを褒めるマハーデーヴァというなんとも言えない雰囲気になる中

 

 「つーか、いつまでつまらねぇこと言ってんだ、サッサと始めろや」

 

 「ヒッ………」

 

つまらなさそうにしながら手にした酒瓶から直接酒を飲む聞き覚えのある声にベルは驚く

 

 「い、インドラ様………ですよね?」

 

 「お?何だよ、物覚えはいいな。ハハッ褒めてやる」

 

 「あー、ソイツも気にしなくていいよ。スカンダに自分が囲っていた売女突き殺されて不機嫌なだけだからさ」

 

恐る恐るといった様子で、眼の前にいる男神がカルキの体で好き勝手暴れた神であることを聞くベルに、僅かに不機嫌さを消したインドラが笑うのを呆れた様子でマハーデーヴァが答えてから、パンッと手をたたき

 

 「じゃ、始めよっか」

 

 「えっ!えぇっ、は、はいっ!よろしくお願いします!」

 

 「ほらほら構えて構えて、じゃないと…………」

 

 

──────死ぬよ?

 

 「────ッッツ!?ああああっ!!」

 

『ヘスティア・ナイフ』と短剣を構えたベルの脳裏に浮かんだのは三叉槍に首を切られる自分

 

咄嗟に右手に持った『ヘスティア・ナイフ』で防御態勢を取るが、次の瞬間には軽々と吹き飛ばされ、砂浜を何度も跳ねた

 

 「わざと見せたとはいえ、なかなか良い反応だ、『恩恵』のおかげかな?」

 

 「(は、速い…………何も見えなかった)」

 

レベル4の視力でも負いきれないほどの初撃にベルは冷や汗をかく

 

 「(それに何より………動きに『起こり』がない!)」

 

ベルとて多少は対人戦闘の経験はある、だからこそ人の動きには『起こり』があることは知っているし、タケミカヅチから指導を受けていた命からも聞かされている

 

が、眼の前にいる神からはその『起こり』が一切なかった

 

構えもなく、ごく普通に、当然と言わんばかりに行われた攻撃にベルは背筋が寒くなる

 

 「ほらほら、気を抜かぬかない………後ろとられてるよ」

 

 「えっ…………ガッ!」

 

突然背後に現れたマハーデーヴァに驚く暇もなく、何も感じないまま吹き飛ばされ、先程の位置へ戻される

 

 「(な、なんで………?)」

 

油断はしていない、ほんの一瞬考えたが、ベルはマハーデーヴァから目を離していない、それどころか意識すらそらしていない

 

 「(こ、これが『神の力』………?)」

 

 「あ、言っとくけど『神の力』は使ってないよ」

 

 「!?」

 

 「ハッハッハ、良い反応をありがとう」

 

再び背後に現れた男神に自分の考えを読まれたと肩を跳ねるベルにマハーデーヴァは諭すように話す

 

 「ま、唯の物理的移動ってだけの話さ、極限まで『起こり』を無くして、一気に最速まで持っていっただけのね」

 

 「……………え」

 

神々がいう所の『ワープ』を物理的に行った目の前の神に絶句するベルであるが、次の言葉に更に驚くことになる

 

 「んで、いつか君にも使いこなしてほしい『技』でもある」

 

 「はい………?」

 

 「カルキやガネーシャもよく使うし、なんなら多少『武』を齧った神なら大概出来ることだしね」

 

 「え、えええっ!」

 

無理無理無理無理っ!でも、出来たらカッコいいかもと先程の絶技とも呼べる歩法にベルが内心大慌てして固まっていると

 

 「そりゃあ、君の一番の武器はその『脚』だろう?だったらそれを活かす技が使えないとねぇ」

 

 「あ、でも僕には『英雄願望』も……」

 

 「阿呆」

 

ベルが自分の『スキル』について話そうとすると、話を遮ったのはヴィシュヌであった

 

 「ヘスティアの眷属よ、インドラとマハーデーヴァから聞いたが、ミノタウロスとの闘いの時何故足を止め、相手と真正面から闘った?」

 

 「えっと、それが僕の一番威力のある……」

 

 「そこが間違っている」

 

 「え……?」

 

目を丸くするベルに肩をすくめ呆れながらもヴィシュヌは指を指して答える

 

 「いいか、ミノタウロスは傷ついていたことを差し引いたとしてもお前よりも大きく、重さもあった、そこは分かるな」

 

 「は、はい」

 

 「話を聞く限り、途中まではどちらかというと『攻めて』いたのではないか?」

 

 「…………」

 

 「自覚はあるようだな、何故それが出来たか……それは相手にお前の『得意』を押し付けられたからだ」

 

 「あ………」

 

実際、ベルがナイフと短剣の二刀流で戦っていたときは、相手が満身創痍だったとはいえ互角に戦えていたのだ、そのことをヴィシュヌは指摘する

 

 「そこの下半神やマハーデーヴァはワザと相手の得意な武器や戦い方に乗って闘うこともある………どうしてできると思う」

 

 「………」

 

 「答えは単純、『強いから』だ」

 

 「えぇ………」

 

 「当然だ。闘いの基本というものは『自分の得意を相手にどれだけ押し付けられ、いかに相手の得意を押し付けられないか』が大切になってくる」

 

 教師のように諭すヴィシュヌの話を真剣に聞くベルというカルキが見ていれば何処か懐かしさを覚える光景

 

 今も興味なさげに鼻をほじるインドラと何処か不満げなマハーデーヴァを他所にヴィシュヌは続ける

 

 「だが、速さだけでは力が足りないということも事実、ならば動きながらでも『収束』が出来るようになるといい」

 

 「動き………ながら」

 

 「然り、まずは己の動きを0から100へ『起こり』を極力無くすこと、そして動きながらでも『収束』が出来るような鍛錬を行うべきだろうな」

 

 「な、なるほど……」

 

 「って!どーして君が全部話すかなヴィシュヌ!!ソレはボクがしっかりと教えるつもりで………」

 

 「このまま続ければ最悪殺していたぞ、お前」

 

 「ヒッ………」

 

ヴィシュヌに抗議するマハーデーヴァを真正面に見据え、サラリと恐ろしい事を言う神の会話にベルは悲鳴を洩らす

 

 「くっ………あっ、じゃあ『予習』がてら君に『遠当て』を見せようじゃあないか!」

 

 「『遠当て』……ですか?」

 

ヴィシュヌに良いところを取られたマハーデーヴァ出会ったが、汚名返上とばかりにベルに提案する

 

 「そう、真空の刃を飛ばしたり振動で遠くのものを破壊する──君たちなら魔力とやらで代用出来る技さ……というわけだからインドラー、椅子投げて」

 

 「チッ………」

 

不機嫌を隠さない舌打ちと同時に高く上空に放り投げ慣れた木製の椅子がマハーデーヴァが三叉槍を突き出した瞬間には音もなく両断され、地面に落ちる

 

 「  」

 

 「まあ、こんな感じだ、ボクの弟子も好んで使うからね、覚えておいた方がいいよ」

 

近いうちにボクの弟子と戦うかもしれないからねと絶句しているベルに軽くマハーデーヴァが話しかけていると、何かに気づいたヴィシュヌが声をかける

 

 「おい、ヘスティアが近づいて来ているぞ、それに違和感まで感じているようだが」

 

 「おーおー、あのロリ巨乳女神相変わらず勘が鋭いこって」

 

ヴィシュヌが扉の入口を見ながらベルの所属している【ファミリア】の主神の気配を感じ取れば、インドラが感心したように声を上げる

 

 「あら?もう来たの?しょうがないか………」

 

しょうがないと首をふるマハーデーヴァが、虚空に手をかざすと、音もなく扉が現れる

 

 「さてベル・クラネル、『上』は見せた…………あとは君次第だ」

 

 「はい!ありがとうございました!」

 

微笑と共に送り出すマハーデーヴァにヒラヒラと振り向かずに手を振るインドラ、「精進するがいい」とだけ声を掛けるヴィシュヌに礼をいい、ベルはオラリオに戻り

 

 「やぁっと見つけたぞベル君!!どこに行ってたんだぁ!!」

 

 「見つけましたよ!ベル様!いったい誰と朝から会っていたんですか!!」

 

 「えっ!いやっ!ご、ごめんなさぁぁい!!」

 

己の主神とサポーターから、女性と密会していたと誤解されていた

 

※※※

 

 「………あの」

 

アイズは困惑していた

 

が、それも無理のないことであろう

 

何故なら彼女は今、武器を持っていない

 

それどころか、彼女が手にしているのは俗に言う『サイコロ』である

 

そして、彼女の視界の端には、兜に向かって、只ひたすらに刀を振り下ろすオッタルと【タケミカヅチ・ファミリア】の団長の姿がある

 

「えっと…………」

 

どうしてこんな事になっているのかをアイズは困惑しながら思い出す

 

──────昨日のこと

 

 「ほい」

 

 「「「?」」」

 

【ヘファイストス・ファミリア】に用があると午前の手合わせを休みにしたタケミカヅチが、午後に帰ってくると、オッタルと【タケミカヅチ・ファミリア】の団長に古びた兜を投げ渡した

 

 「それと、コレだな」

 

 「「!?」」

 

次に渡したのは『酷い』とアイズが思ってしまうほどに手入をされていない刀

 

こんなもので何をするのかと誰もが思っていると徐ろにタケミカヅチが

 

 「【猛者】、これでさっき渡した兜を『真っ二つに切って』みろ」

 

 「……………は?」

 

意味もわからず、聞き返すオッタルに「いいから、いいから」と兜を3つほど重ねて切るように促し、オッタルも混乱しながらも、刀を大上段に持ち上げてから振り下ろす

 

 「ヌゥン!」

 

思わず、体を反らしてしまうほどの轟音がオラリオ中に響き、誰もが何事かと驚く中、振り下ろした先を見てみると、見るも無惨な砕け散った姿になった兜があった

 

 「では、次に桜花、やってみろ」

 

 「は、はい!」

 

しかし、タケミカヅチはそれに反応することもなく、次に自分の眷属に同じことをやらせる

 

結果としては、ただ、兜がへしゃげただけで終わる

 

 「こ、これになんの意味が………?」

 

一連の事に立ち会っていた【タケミカヅチ・ファミリア】の前髪で目を隠した少女の呟きに、そこにいる3人の意見を代弁する中

 

 「うん、二人共不合格だな」

 

 「「「は?」」」

 

 「おいおい、俺は『真っ二つに切れ』といったはずだぞ?」

 

 「「「!?」」」

 

タケミカヅチが何を言いたいか分かった冒険者達は思わず息を呑む

 

 「お、今『そんなこと出来るはずが無い』って思っただろ」

 

 「いや、しかし、タケミカヅチ様」

 

 「………こんな刀では切れない」

 

 「…………」

 

 「では手本だ、刀を貸してみろ桜花」

 

そう言って兜の前に立ったタケミカヅチは刀を構え

 

 「シッ!」

 

 「「「「!!」」」」

 

 「ほら、切れたぞ『真っ二つに』な」

 

刀の峰で肩を叩きながら、不敵に笑う武神の『技』に誰もが畏怖すら感じていると

 

 「じゃあ、準備ができ次第開始な、で、剣姫は俺と打ち込みで」

 

────────

 

そして、今、アイズはタケミカヅチと向かい合い、タケミカヅチから渡された『花札』という極東のトランプのようなものをしていた

 

 「(これになんの意味があるんだろう…?)」

 

そんな事を思いながら続けていると、ふいにタケミカヅチが声を掛ける

 

 「ところで剣姫、お前………対人戦に秀でて無いな」

 

 「…………!?」

 

半笑いで軽く告げられた武神の言葉に、『ガァーン!』と多少の自信のあったアイズはショックを受ける

 

 「お前の『技』は全てモンスターを狩ることに特化し効率を突き詰めた剣なわけだ」

 

 「!!」

 

そしてどうしたものかと2日目の手合わせをして決めたと言う

 

 「俺はお前の事情は知らん、………だが、お前が超えんとしている相手というのは『人』と『モンスター』の境界があやふやなもの………違うか?」

 

 「そ、れは……」

 

返答に詰まるアイズにタケミカヅチは軽く笑うと「だからこそコレだ」と花札を一枚取ってヒラヒラと動かす

 

 「今から言うのは極論だがな………対人戦というのは詰まる所『賭け事』なのさ」

 

 「?」

 

 「『掛け金』は『己の命』、『手札』は『己の技』、『天運』とは『直感』…………『手札』と『天運』がなければ『掛け金』は無し────つまりは『死』それだけのことだ」

 

 「───!」

 

 「そしてその『賭け』に勝つには────己の全てをその一戦に注ぎ込まなければならん」

 

武神の『神託』ともいえる言葉にアイズは僅かに目を開き固まる

 

 「剣姫、あまり触れられたくは無いだろうが、お前の奥底には『炎』が見える。他の者から見れば否定するであろう『黒い意志』が」

 

 「…………」

 

 「だが、俺はそうは思わん」

 

 「!!」

 

 「それすら『使え』、それも『手札』だ───飲まれす、統べてみろ……お前に必要なのはそれだ」

 

 「───はい」

 

タケミカヅチの言葉に力強く頷くアイズが再び手合わせをしてもらおうと立ち上がったが、「まぁ、待て」とタケミカヅチに止められ、何処か不満げな顔を見せるが

 

 「俺の予想だとそろそろだろう。なぁに気にするな、文字通り『全て』を持ち要らなければ死ぬ相手が出来る……………『猛者』を相手にしていた方が楽だと感じるぐらいにな、だから今は休んでおけ」

 

そう片目を閉じ、肩をすくめながら言う武神に、仕方なく座り、再び花札をするアイズであった

 

※※※

 

 「あ、貴方は………いったい何の用っすか………?」

 

アイズが花札をタケミカヅチとその眷属達と再開し始めた頃【ロキ・ファミリア】の本拠『黄昏の館』の前、慌てて報告してきた門番から引き継ぐ形となり、震える声で、しかし危険人物の目的を問い出すラウルの眼の前で

 

 「カーリー神からの使いで来た…………ヒュリテ姉妹?というのは何処にいる」

 

正門から堂々と入ってきたひと目見て異常な状態であるカルキはそんなラウルに気にした様子もなく、言葉を続ける

 

 「カーリー神からの伝言でな………『ティオナ、ティオネ早う妾の下に来い鍛えてやる』とのことだ」

 

そして『えぇーーっ!?』というラウルの声が『黄昏の館』中に朝から響くのであった

 





リーネはスカンダによってボッシュート(輪廻送り)されました、良かったね



Q.リグ・ヴェーダの皆さんに聞きます。正直、【ロキ・フレイヤ】両ファミリアで欲しい人材は?

A.いらん byシヴァ・ヴィシュヌその他神々
  
  ヘイズ byインドラ

Q.そのこころは?

A.鎖でつないで、手足切り落として回復阻害の呪詛かけておいて回復させれば延々と処女膜ぶち抜きプレイ出来そうじゃね?

ヴァーユ・ソーマなど「「「お前天才!!」」」

スーリヤ・スカンダなど「「「クズ!!」」」

「……っ!…………!!」←蹲りながら笑いを堪えるシヴァ

「(呆れ)」byカルキ






あかん、どうしてもインドの武神が北欧の美神の前で妹猫を◯して、妹猫の喘ぎ声という名の歌を兄猫を聞かせたいという自分がいる………自重、自重


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。