ゼロの使い魔の奇妙な冒険 (不知火新夜)
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登場人物・スタンド紹介

◎主要登場人物紹介

平賀(ひらが)才人(さいと)

年齢:17歳(召喚時)

身長:173cm

体重:60kg

スタンド:シルバーチャリオッツ

服装:ジョニィ・ジョースターのコスプレ衣装(召喚時、本人曰く普段着)、花京院典明のコスプレ衣装(本人曰く礼服)

性格:原作と比べると(平常時は)極めてクールで冷静、思慮深い。よく「ジョナサンの純粋さ、ジョゼフのコミカルさ、承太郎のクールさ、仗助の熱さを併せ持っている」と言われる。

備考:ルイズによって原作通り召喚された、日本の高校生…なのだが、物凄いジョジョオタクで、ジョジョの単行本を「道徳の教科書」と言い張る、口癖が『次にお前は「○○」と言う』『てめー今○○を何つったぁ!?』『○○を××だとぉ!?』『有りのまま今起こったことを(ry』『オレェ?』『やれやれだ…』『だが断る』、私服が全てジョジョのコスプレセット、等の逸話がある。

好きな女性のタイプは「胸の大きい大和撫子」、好物はテリヤキバーガー。

召喚の際、一緒に巻き込まれた『矢』が右手を掠った事でスタンド使いとなる(尚、ガンダールヴのルーンはシルバーチャリオッツにも適用される)。

 

○ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール

年齢:16歳(召喚時)

身長:153cm

スタンド:キラークイーン

備考:使い魔召喚の儀式で才人を召喚したトリスティン魔法学院の生徒…なのだが、才人と一緒に召喚した『矢』が右腕を掠めた事でスタンド使いとなる。

 

◎スタンド集

○シルバーチャリオッツ

破壊力:A スピード:A 射程距離:C 持続力:A 精密動作性:A 成長性:A

特殊能力

装甲解離:シルバーチャリオッツの装甲を外す。これによって防御力を犠牲にスピードを大幅に上げる事が出来る。今作ではまだ未使用。

とっておき(ラストショット):レイピアの刀身を発射する。今作ではフーケを狙撃するのに使おうとしたがリスクを考慮して見送った為、まだ未使用。

・?????:ジョジョ本編では使えなかった筈の、謎の能力。

才人のスタンド。ジョジョ本編ではジャン・ピエール・ポルナレフのスタンド。今作ではガンダールヴのルーンの影響で表記上のステータスがスタープラチナ並になっている。

 

○キラークイーン

破壊力:A スピード:B 射程距離:D 持続力:B 精密動作性:B 成長性:A

特殊能力

・第1の爆弾:手で触れた物体を「爆弾」に変化させる。今作ではフーケのゴーレムの一部分を『触ったものを爆発させる』爆弾に変化させ、爆破消滅させた。

第2の爆弾(シアーハートアタック):左手の甲から、熱源を追尾する爆弾を放つ。今作では貴族派が放った傭兵の集団を一網打尽にした。尚、ルイズの意志でスタンド使いにも聞こえる様に喋る。

第3の爆弾(バイツァダスト):人間に「取り付いて」爆発する爆弾。今作ではまだ未使用で、発動条件や能力などの詳細不明。

ルイズのスタンド。ジョジョ本編では吉良吉影のスタンド。

 

○クレイジーダイヤモンド

破壊力:A スピード:A 射程距離:D 持続力:B 精密動作性:B 成長性:A

特殊能力

・触れた物を『直す』能力:人体や物体の傷や破壊を『直す』。ただし本体を直す事は出来ない。今作ではヴァリエール領からの手紙から、動物たちの怪我を治している姿が良く目撃されているらしい。

カトレアのスタンド。ジョジョ本編では東方仗助のスタンド。

 

○ザ・フール

破壊力:B スピード:D 射程距離:D 持続力:C 精密動作性:B 成長性:A

特殊能力

・砂を自由自在に操る能力:スタンド自体が砂と同じ性質である為、砂を用いてあらゆる姿に変形出来る。今作ではエレオノールが意識しては使っていないが、スタンドの暴走の影響で周囲に砂をまき散らしていた。

エレオノールのスタンド。ジョジョ本編では犬であるイギーのスタンド。今作では人間であるエレオノールに合わせて人型になった為、スピードが犠牲になった代わりに細かい挙動が出来る様になっている。

 

○ウェザーリポート

破壊力:A スピード:B 射程距離:C 持続力:A 精密動作性:E 成長性:A

特殊能力

・天候操作:天候や空気を局地的にも広範囲にもわたって操作出来る。今作ではヴァリエール領からの手紙から、カリーヌの風の魔法とのコンビネーションを模索している姿が良く目撃されているらしい。

カリーヌのスタンド。ジョジョ本編ではウェザーリポート(ウェス・ブルーマリン)のスタンド。

 

○パープルヘイズ

破壊力:A スピード:B 射程距離:C 持続力:E 精密動作性:E 成長性:A

特殊能力

・殺人ウィルス:両手の拳に3個ずつ、ウィルスを内包したカプセルが仕込まれており、殴ると割れて飛び散る。このウィルスは呼吸や皮膚からの接触で感染し、直ぐに獰猛に増殖して代謝機能を停止させ、僅か30秒で内側から腐る様に殺す。ただし光に弱い。今作ではまだ未使用。

ヴァリエール公爵のスタンド。ジョジョ本編ではパンナコッタ・フーゴのスタンド。

 

○パールジャム

破壊力:E スピード:C 射程距離:A 持続力:A 精密動作性:E 成長性:A

特殊能力

・食べた人の病気を『治す』能力:本体が作った料理や食材に潜入し、それを食べた人のあらゆる病気や怪我以外の体の不調を、尋常じゃないスピードで治す。今作ではまだ未使用…だが、カトレアの治療に用いるとの事。

アンリエッタのスタンド。ジョジョ本編ではトニオ・トラサルディーのスタンド。

 

○エアロスミス

破壊力:B スピード:B 射程距離:A 持続力:C 精密動作性:E(視認時:C) 成長性:A

特殊能力

・二酸化炭素レーダー:二酸化炭素に反応し、点でその位置を知らせてくれる。

ウェールズのスタンド。ジョジョ本編ではナランチャ・ギルガのスタンド。



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第1章
1話


あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

俺は『ジョジョの奇妙な冒険オールスターバトル』を手に入れる為に行きつけのゲームショップに向かっていたと思ったら、何時の間にか地べたで寝ていた。

な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何をされたのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

ザ・ハンドだとかスティッキー・フィンガーズだとか、そんなチャチなもんじゃ、断じてねぇ。

もっと恐ろしいものの(ry

「…あんた誰?」

 

何かすげぇ可愛い女子らしき声で現実に引き戻された俺は、一先ず状況を確認してみる。

此処に至るまでは、一応はさっきの通り。

そういや、俺の真正面に姿見みてぇな物体がふよふよと浮かんでいて、放置という訳にもいかずどかそうと触った途端、物凄い勢いで引っ張り込まれた…

余りの勢いだったが、俺のお気に入りの服で、今も着ている「ジョニィ・ジョースターのコスプレセット」は傷1つ無い。

流石ジョニィ・ジョースターの服、荒野という悪条件だろうと、タスクの切れ味を常に浴びながらも平気って訳か。

で、引っ張り込まれた俺は、黒だか白だか、赤だか青だか紫だか、もうとにかく多彩な色が入り混じった空間を漂っていたら先に真っ白な光が広がっていて、

 

そこに、ダァァァァァイヴ!

 

した、で冒頭に戻る。

しかし、周囲を確認しようにも砂煙が酷いな…なんかむこうに物凄くデカい建造物があって、近場には何十人かいそうな人影が見えるんだが…

だが酷かった砂も次第に晴れ、周囲の様子が少しずつ鮮明になってきた、ら、

 

俺の目の前に、さっきの声の主らしい超綺麗な少女が、こっち見ていた。

 

俺、平賀才人、17歳のジョジョオタクな高校3年生。

女性のタイプは「胸の大きい大和撫子」。

目の前の超綺麗な少女は、Perfectとは言い難いながらも、合格点はあげても良い位の、そんな存在だ。

 

ピンク髪?撫子の花はそもそもピンクだろうがっ!

目も黒くない?大和撫子=日本人というのは、酷い人種差別だなっ!

ちっぱい?これからに十分期待が持てるじゃねぇかっ!

そんな些細な事を全て吹き飛ばしてくれる魅力が、この少女には、あるっ!

 

「俺はサイト。サイト・ヒラガだ」

 

ただ流石にさっきの質問に答えないままというのは第一印象を悪くするだけ、俺の女性評はひとまず置いて、なんかフランスにいそうな外見だったから名前の方から答えた(聞こえて来たのが日本語だったろって突っ込みは無しだぜ?)。

答えつつも、改めて状況確認の為に周囲を見回す。

俺が寝ていた地べたはどうやら、周囲の草原から数十センチ陥没したクレーターみたいな物だった(なんで出来ているかは気にしない)。

人影らしき物が見えた所に目を移せば、やはりそこには沢山の人だかりがいた。

良く見ると俺と同年代、或いは若干前後する位の同じ様な服装の少年少女ばっかりで、唯一の例外といったら頭が寂しくなっている中年男性だけ、そして皆マントを羽織っていて、右手には杖らしき物を握っている。

ああ、ハリーポッターとかクイズマジックアカデミーに出てくる魔法学園みたいな感じだな。

建造物があったと思しき所にも目を向けてみる。

するとそこには、まるでお城の様なでかさを誇る石造りの建造物が…お…オレェ?

 

「なんかさっきと状況が変わり過ぎじゃねぇぇぇ!?」

「きゃぁ!?な、何急に叫んでいるのよ、この平民!」

 

OK、一先ずは落ち着け平賀才人。

目の前の美少女もびっくりして目を白黒させているじゃあないか。

…ん、今彼女、『平民』とか言っていなかったか?

平民って誰の…いや、俺の混乱の叫びに反応しての事だから俺だろ。

 

「『ゼロのルイズ』が『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出したぞっ!」

「流石ルイズ、俺達が出来ない事を平然とやってのける、そこに痺れる笑えるぅ!」

 

更に周りも美少女を馬鹿にするかの如く囃し立てる過程で俺を『平民』と見ているみたいだ。

お前ら、後でシメる。

ともかく、俺をわざわざ『平民』と呼ぶからには『平民』以外の存在がいる、という訳で。

更に見回せば、人だかりの中に炎を纏ったデカいトカゲやら、生まれてこの方見た事が無いと言って良いモグラのデカいバージョンやら、挙げ句の果てにはドラゴンっぽいのまで…

…断言しよう、俺、中世ヨーロッパらしい世界観の、正に『ファンタジー』な世界に召喚されちまったみたいだ…

…帰れんのかな?

 

「ミスタ・コルベール!やり直しをお願いします!」

「ミス・ヴァリエール、それは出来ない相談だ」

 

俺がそんな一見すると中二病丸出しな結論を出していたら、ルイズと呼ばれた俺を召喚したらしい美少女と、コルベールと呼ばれた中年教師(恐らくそうだろ)が口論を繰り広げていた。

 

「どうしてですか!」

「春の使い魔の儀式とは神聖なる儀式だ。此処で召喚した『使い魔』によって、今後の君達の進むべき道が決まると言っても過言じゃ無いんだ。それをホイホイと変更を認めれば、この儀式の神聖さに関わる話になるのだよ」

「だからって、平民を使い魔にするなんて聞いた事がありません!」

 

話の流れから、『平民』である俺を召喚した事は物凄く異例で、且つルイズにとっては余程不満らしい。

…確かに俺はジョジョオタクである以外は周りとそんなに変わらねぇ高校3年生だ。

ドラゴンやら、サラマンダーやらと比べるべくも無く見劣りするだろう。

…だが、モグラとかとまで比べて且つ見劣りする結果、というのは頂けない。

どんだけ『平民』を下に見ているんだこいつら。

だが教師コルベールの話から、一度召喚するともう変更は出来ず、召喚した奴(ルイズにとっては俺)を使い魔にするしか無いらしい。

…いや、召喚された側の都合も考えろよ。

 

「…わかりました」

 

やがて観念したかの様にルイズは肩を落とし、だが直ぐに意を決したかの様に俺を見据えてきた。

…その意志の強さ、正に大和撫子だぜ!

 

「感謝してよね、平民のあんたが貴族にこんな事されるなんて、普通ありえないんだから…!」

「あー…まぁ、宜しくな」

 

ルイズにとっては不満だろうが、俺はこんな美少女の使い魔っていうのも悪くないかな、とあっさり受け入れていた。

これがコギャルっぽいビッチだったり、何より男だったりしたら受け入れるってレベルじゃねぇぞ!

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 

詠唱らしきフレーズを読み上げるルイズ、そうか、これが俺を使い魔にする魔法な訳だな。

詠唱を終えると同時に杖を俺の頭にコツ、と置き、そして…って…!

 

ズギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!

 

契約って…キスだったのか!?

そりゃぁ、この世界では普通ありえないよな、見た目はともかく『平民』の俺と、『貴族』のルイズのキスなんて。

いやはや、役とk…いやいやいやいや…!

 

「っ!?」

 

等と今のルイズには到底聞かれる訳にはいかないバカなことを考えていた俺だったが、突如左手に襲い掛かる強烈な熱さで、思考を中断せざるを得なくなった。

 

「な、なんだ!?この猛烈且つ、力を送り込む様な熱さは!?」

「すぐ終わるわ。使い魔の『ルーン』が刻まれているだけ…っつう!?」

 

ああ、成程そうなのか…って!

熱い!物凄く熱い!滅茶苦茶熱い!だがこの熱さ、苦痛だけでなく、俺に膨大なエネルギーを与えている様な…

凄い…力が…漲ってくる!

…ん、そういえばルイズが短い悲鳴を上げていた様な…!

 

「どうした、ルイズ!」

「分からないわよ!急に何かが下から飛んできて、右手を…」

 

見ると、何か鋭い物体が掠めたのか、ルイズの右手に僅かばかりの切り傷があった。

だが出血は全く無いし、放っておいても大丈夫だろう。

…ん、待て、『下から飛んできて』?

咄嗟に周囲を確認してみると、そこには…

 

「…矢?」

 

そこには何故か、矢じりだけの『矢』があった。

…そういえば此処に召喚される前の空間で何か飛んできて、それが俺の右腕を掠めた様な…

いや…まさか、な。

 

「ふむ…珍しい形のルーンだな。少しメモさせて貰うよ」

 

そんな考えが過る内にルーンの刻み込みが終わった様だが、その形状を珍しがった教師コルベールが、俺の左手の甲をまじまじと眺め、紙…みたいな物に羽ペンでメモしている。

…気色悪っ!

 

「さてと、これで春の使い魔の儀式を終了する!今日は残りの授業時間を全て使い魔との親交を深める時間とする!解散!」

 

メモを終え、周りの生徒達にそう告げた教師コルベールは、空中に『浮き上がって』城らしき建造物へと向かって行く。

…まあファンタジーな世界だからな、人が、というか魔法使いが、空飛ぶのは常識か。

それを追うかの様に周囲もまた飛んでいく。

 

「ルイズ、お前はその使い魔と一緒に歩いてこいよ!」

 

みたいなセリフを残して。

…喧嘩売っているのか?

 

「さて、ルイズ…俺達はどうしようか?」

 

先程の中二病全開な結論が、人が空飛ぶ等といった魔法で証明されはしたが、もっと詳しく、この世界について知っておきたい。

そう思い、ルイズに指示を仰ぐが、彼女の返答は…その…

 

「ふん!さっさと私の部屋に行く…わ…きゃぁぁぁぁぁ!」

 

彼女の返答は俺の予想を大きく外れた。

…何故に叫ぶ。

 

「きゅ、急にどうした!?」

「あ、ああああんた、あんたの後ろ!」

「へ、後ろ?」

 

思いっきりテンパっているルイズに従い、後ろを振り向くと、

 

「…オレェ?何で…シルバーチャリオッツが?」

 

そこには、ジョジョ第3部『スターダストクルセイダーズ』に登場するスタンド使い『ジャン・ピエール・ポルナレフ』のスタンド『シルバーチャリオッツ』がいた。

…挙げ句、俺が気付いたのに合わせて、レイピアを持っていない左手で俺に敬礼していた。

試しにこのシルバーチャリオッツを、俺の中に戻る様イメージすると、それに従うかの様にシルバーチャリオッツは消えた。

それで直感した。

此処へ召喚される際に俺の右腕を掠め、ルイズの右手を傷つけたのは間違いなく『矢』であり、

 

俺とルイズは、スタンド使いとして覚醒してしまったという事を。



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2話

突如ハルケギニアに召喚されたり、スタンド使いとして覚醒したりした才人。この後本来なら主人となったルイズから色々な説明を受けるのだが、既に『本来』からは大きく離れているっ!


「今までの話から考えると、俺はルイズの『サモン・サーヴァント』とか言う魔法によって、使い魔になるべく此処に召喚された。で、『コントラクト・サーヴァント』とか言う魔法によって、俺はルイズの使い魔になった。この左手に刻まれているルーンがその証拠。こんな感じで良いか?」

 

あれから突如現れたり消えたりした俺のスタンド(状況からしてそうだろ)『シルバーチャリオッツ』の様子にテンパるルイズを宥め、話を聞く為に彼女の部屋へ行く事になった。

そこ、女子の部屋に何ずかずか入っている!とか言うな、事は重大なんだからな。

 

「ええそうよ…物凄く不本意だけどね…」

「悪いな、初キスが俺で。…で、俺の現状はこれで大体分かったが…此処は何処だ?」

「はぁ、此処を知らないなんて一体どんな田舎から来たんだか…良いわ、教えてあげる。此処はハルケギニアでも知らない者はいない、トリスティン魔法学院よ!」

「…質問を変えるか。この世界が何と呼ばれていて、この、トリスティン魔法学院…だったか?は、どの国に属するんだ?」

「いやあんた本当に何処から来たのよ…仕様が無いわね…この世界はハルケギニアと呼ばれていて、このトリスティン魔法学院は、トリスティン王国の領内の学校よ。で、私はそのトリスティン貴族の中でも最も王家に近い家柄のラ・ヴァリエール侯爵家の娘よ!分かった?」

「OK、ありがとう。ルイズが物凄く由緒正しき家柄だと言う事も含めて説明ありがとう」

 

聞いてない事(とは言え何気に重要かもな)も含めて情報を提供してくれたルイズ。

つまり、

 

この世界『ハルケギニア』にはトリスティンを含めた幾つかの国家がある

→トリスティンにある(恐らく国立の…どうでも良いかそれは)トリスティン魔法学院では毎年春に使い魔召喚の儀式がある

→そこでルイズが『サモン・サーヴァント』を唱えた

→その効果で異世界の俺の目前に姿見みたいなゲート登場

→俺吸い込まれる

→俺ハルケギニアに転移

→ルイズの『コントラクト・サーヴァント』で俺使い魔に(今ココ)

 

という事か。

 

「そっちの質問に答えてあげたんだから、こっちの質問にも答えなさい、サイト」

「おっと、そうだったな。で、まず何が知りたいんだ?」

「さっきの銀色の騎士の事よ。さっきの様子見ていると、アンタの物みたいね。あれ一体何なの?」

 

まぁ、そうだよな。

 

「その事だが、その前に1つ言っておくべき事がある。よく聞いてくれ。信じるかはともかく」

「何よ急に」

「さっきお前、何処から来たんだ的な事を言っていたよな。俺は…

 

この世界の人間じゃあない。」

 

…沈黙が真っ先に来るのは覚悟の上だ、それこそが健全な反応だからな。

 

「…はぁ?何言ってるのアンタ?ていうか『お前』はやめなさい、ご主人様に向かって」

 

ですよねー。

だが『スタンド』を説明するにあたってこれを言うのと言わないのとでは結果が大いに違う…と思う。

言わずに説明すればどうなるか…多分『魔法の一種』と誤解するかもしれない。

 

「で、さっきの質問に戻るが、あれは俺のいた世界で『スタンド』と呼ばれている物で、人間とか、犬とか、ネズミとか…とにかく、生きとし生ける全ての物が持っている精神力、それを形ある物に具現化した物だ」

「精神力を…それ『魔法』じゃないの?」

 

ほらやっぱり。

 

「いや違う…と思うな。スタンドは、はっきり言ってしまえば生物1つ1つの『個性』その物で、故に全く同じと言っていいスタンドは基本的に存在しないし、逆に生物1個体に対してスタンドは1つだけだ。魔法はそれと全く逆…だと思う。この世界に降り立ってまだ数時間だが、俺みたいな生物を召喚したり使い魔を契約したり、挙げ句には空を飛んだりを皆がやっている…言ってしまえば精神力を用いた『技術』だろうか?」

「精神の『個性』…つまり性格とかを現した物の訳ね。成る程、よく分かったわ。で、スタンドには他にどんな性質があるの?」

 

俺の解釈の下での魔法との比較だったが、どうやらスタンドについて理解してくれたようだ、助かる。

 

「まあ一言ずつ説明するとこんな感じだな。

 

1、スタンドは本体であるスタンド使いの意思で動く。

2、スタンドはスタンドを持つ者にしか見られない。

3、スタンドはスタンドでしか触れない。

4、スタンドが傷付くと、本体も同じ様に傷付く。

5、スタンド使いが死ぬとそのスタンドも消え、スタンドがやられるとそのスタンド使いも死ぬ。

6、スタンドの強さと本体からの距離は反比例する。

7、スタンドの能力は本体によっては成長する。

8、スタンド使いとスタンド使いは互いに引かれ合う。

 

一応例外も存在するが、以上だ」

「ちょ、ちょっと待って。スタンドはスタンドを持つ者にしか見られないって言っていたけど…アンタのスタンド…だと思うけど、あの銀色の騎士、さっき私見たわよ!?まさか…」

「それを今から説明する。一先ずルイズ、眼を瞑って深呼吸するんだ」

「はぁ?な、何よ急に」

「良いから早く。話が進まない」

「わ、分かったわよ…すぅぅぅぅ、はぁぁぁぁ…」

 

スタンドとは精神力、これはさっき説明した通り。

ならば気持ちを落ち着かせ、精神力が高まった状態でなければ上手く具現化出来る筈が無い。

話の腰を折ってまでルイズに精神統一みたいな事をさせるのは、そういう意図があってだ。

…尤も俺も、スタンドについてはジョジョで得た知識はあれど、実際にスタンド使いになってまだ数時間の頭でっかちなのだが。

 

「よし、落ち着いた様だな…そしたら自分の心か頭の中を覗き込む様にイメージして見ろ。そこに今までいなかった筈の生物だか何だか分からねぇ奴がいる筈だ」

「急に適当になったわね…コイツの事かしら?猫みたいな顔したピンク色の」

「そう、それがルイズのスタンド…え、今なんて?」

「だから、猫みたいな顔したピンク色の人っぽい奴よ。何よ、コイツじゃないの?」

「いや、それで合っている…」

 

猫みたいな顔したピンク色の…まさか…な。

 

「そしたらそいつに『起きなさい』とか『出て来なさい』とか、とにかくこっちに出る様に働きかけるんだ」

「分かったわ」

 

俺の指示に頷くと同時に、ルイズの周囲は何かオーラが吹き上がるかの様な威圧感が起こる。

今まさに、ルイズのスタンドがこのハルケギニアに降り立とうとしているかの様に。

そして、

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 

ルイズのスタンド、今まさに姿を現…し…た…

 

「き、キラークイーン…まじ?」

 

見間違える筈もない。

ルイズが言った通り、猫を擬人化したらこんな顔になりそうな容姿。

所々にドクロのアクセサリーを纏った筋肉質な体つき。

両手にはめられた手袋らしき物。

そして、これまたルイズが言った通りの、ピンク色っぽい身体の色合い。

間違いない、ジョジョ第4部『ダイヤモンドは砕けない』のラスボスである吉良吉影のスタンド『キラークイーン』だ…!

 

「ふう、これで良いの?」

「ああ…ルイズ、後ろを振り向いてみろ」

「後ろに私のスタンドが、きゃぁ!?」

 

真っ当なリアクションをありがとう。

しかしジョジョ全体でも屈指の強さを誇ると言って良いキラークイーンを、スタンドを知って間もないルイズが、出ろと命令するまで留まらせるなんて…凄い精神力だな。

正に大和撫子だぜ!

 

「わぁ…綺麗…」

「それがルイズのスタンド『キラークイーン』だ。スタンドの中でも高水準の身体能力もさることながら、『爆発』に関する特有の能力を持っている、トップクラスのスタンドだ…て、あれ、ルイズ?」

「ば…爆発…」

 

爆発、と聞いた途端、それまでキラークイーンの彫刻と思しき端正な容貌に見とれていたのが一転して凹んでいますと言わんばかりにテンションが下がったルイズ。

…爆発、に何か思い出したくもない過去でもあるのか?

 

「…まあ良いわ。でもスタンドなんて今まで聞いた事も無いし、この目で見たのも今日が初めてよ。それがどうして急にスタンド使いになれたのか、そこも聞きたいわ」

「分かった。そういえばルイズ、さっき何かが『下から』飛んできて右手を引っ掻いたと言っていたよな。実はそれがスタンド使いになる切っ掛けの一つであり、俺が異世界から召喚されたという証拠でもある」

「…ああ、そういえばそんな話していたわね」

「これが、ルイズの右手を引っ掻いた物で、傷付けた生物をスタンド使いに覚醒させる物体、『矢』だ」

 

そう言いつつ、先程回収した『矢』を見せる。

…ちなみに、異世界から召喚された、というのは一応本当だ。

実際、元の世界からハルケギニアへと渡る途中のあの訳が分からない空間でゲットしたのだから。

 

「…これがスタンド使いになれる物?単なる矢じりにしか見えないけど?」

「まあそう言うのも無理は無いが、実はこれ、スタンド使いの資格がある存在に反応してそっちへ向き、飛んでいく性質がある。ルイズが『下から』引っ掻かれたのも、この性質による物だ」

「へぇ、これがねぇ。あ、ところで、スタンド使いの資格が無い存在には反応しないの?」

「へ?あ、いや、その、だな…」

 

…あの事実を話すべきだろうか…?

話したら最後、半殺しは覚悟しなければならない気がする。

だがルイズは絶対、話すまで追求の手を止めないだろう。

 

「何?まさか私に隠している事実があるの?包み隠さず話しなさい!これは命令よ!」

 

実際に言い逃れは許さんと言わんばかりの雰囲気だし…腹を括るか。

 

「実はな…資格がない存在が『矢』で傷つけられると…」

「傷つけられると、何なのよ?」

「…どんなに軽い傷であろうとも死n」

 

ごすぅ!

 

「ばいつぁだすとっ!?」

「このバカ犬ぅぅぅぅ!じゃあ何!?私がスタンド使いの資格が無かったらあたし今既に死んだの死んだって事でしょふざけんじゃないわ主人に無理やり命の綱渡りをさせるとかどんな神経してんのよあんたはぁ!」

「あいだだだギブギブ!いや本当に申し訳ありませんでしたこちらの不注意でご迷惑をお掛けして申し訳ありませんだからキラークイーンで4の字固めはマジ勘弁してというか何でプロレス技知っているのぎにゃぁぁぁ!」

 

-----------―

 

「ま…まぁ他にもスタンド使いになる方法はある。生まれつきだったり、『矢』の原料が取れる『悪魔の手のひら』って所に行ったり、後は血縁者がスタンド使いとして覚醒したり…勿論資格次第だし、最初の2つは、少なくともこのハルケギニアでは無いと解釈して貰っても構わない。スタンドについては以上だな」

「ええ、良く分かったわ」

「じゃあこっちから最後の質問。使い魔の役目についてだ」

「使い魔の役目は主に3つよ。まず1つ目は、使い魔は主人の目となり耳となる…つまり感覚の共有だけど…無理みたいね」

 

出来たら出来たで、それプライバシーの侵害だから。

つくづく人権のかけらも感じられないルールだな、使い魔って。

 

「2つ目は、使い魔は主人の望む物…例えば秘薬の材料とか…を主人の代わりに持ってくるんだけど…あんたそんなの分かる?」

「悪い、無理だ」

 

出来たら出来たで、俺はおつかいに行く子供かっつーの。

 

「3つ目、そしてこれが一番重要な事だけど、使い魔は主人を守る盾となる、つまり護衛ね…でもシルバーチャリオッツの能力を聞くとメイジ相手には心許ないわね…」

 

すいませんね、微妙な能力のスタンドで。

 

「まあでも、メイジ同士の戦いは戦争でもなければそうそう起こらないし、モンスター相手なら十分期待出来る、そこは頼むわよ、サイト」

「…分かった、まあ期待してくれ」

 

今しがたメイジには…と言われたばかりだからかイマイチ期待されているのか分からねぇが。

 

「さて…色々話していたら疲れたわ、おやすみ、サイト」

「…もうこんな暗くなったのか…そうだな…お休…」

 

就寝の意思を告げるルイズに返事をしようと振り向く…が、そこには、

 

「…何…してんの、ルイズ?」

「?寝るから着替えるのよ」

「いや、それは見れば分かる。俺が言いたいのは、何故人前で着替えているのか、て事だ」

「?あんた使い魔でしょ?」

 

そう…俺の目の前でさも当然と言わんばかりに服を脱ぎだしたのだっ!

しかも俺と話している最中でも服を脱ぐ手を止める様子は、全く無いっ!

その為に服で隠れていたルイズの『真珠の様な』と表現して良い素肌やら、『肝心の所まで』が付くもののスマートな体躯やらが俺の目の前で神秘的な輝きを…じゃなくて!

 

「ルイズ…良い女がそんな事する物じゃ無いぜ…」

「!いっ?」

 

ずどぉぉん!

 

「口動かす前に足動かして外出ろぉ!」

「すいません今出ますぅぅぅぅぅぅ!」

 

何とか分かってくれたか…キラークイーンの背中への蹴飛ばし1発と引き換えに、恥じらいを覚えた様だ。

 

「…良いわよ、入って」

「…分かった」

 

着替えを終えたらしいルイズの呼び出しに従い、入室する…もう驚かねぇぜ、例えネグリジェ姿でも。

 

「…そういえばルイズ、俺の寝る所は?」

 

と、ここで就寝の時間となった今の時点で一番重要な事実に気が付いた。

…そう、寝る所が見当たらない…いや、無くは…無いな、部屋の真ん中に、山盛りの藁が積まれている。

…OK、使い魔と言ったら普通は動物が出てくる物だ、そこは良いや。

 

「動物が出る物だと思っていたからそれしか用意してないわ。あんた暫くそこで寝なさい。ご主人様のあたしを無理やり死の綱渡りをさせた罰よ!」

「…分かった、本当すいません」

 

…未だに根に持っていたのか、それも当然だが。

 

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「…月が2つ…それも青と赤…か」

 

ルイズが寝静まった後、俺は何となく外が見たいと思い、部屋の窓から景色を眺めていた。

その空にあった青い月と赤い月…2つもある月は改めて俺が異世界に来たのだと思い知らされた。

今日は…本当に色々な事があった。

本来なら『ジョジョの奇妙な冒険オールスターバトル』をゲットして承太郎を選んでオラオラしたり、仗助でドラララしたり、DIOで無駄無駄したりetc…の予定だったが、今日を境に俺の人生は正に180°変わった。

ルイズの『サモン・サーヴァント』によってこのハルケギニアの地に降り立ち、その過程でスタンド使いに、主人であるルイズ共々覚醒した。

短く纏めるならこんな感じだが、その実言い切れない程のサプライズがあった。

これからもそれは続く、もしかしたら一生。

…そう思うのは、そもそも俺が、というか異世界の人間が『召喚』された事自体がイレギュラーである事、そして使い魔と主人は、どちらかが死ぬまで共にある、というルールだ。

この手の異世界転生の創作物で、元々帰る手立てがあったり、結果的に帰れたりするのが主流ではあるが、現実は小説よりも奇なり、あくまでそれは創作上の話だ。

 

「宜しくな、ご主人様」

 

…まあ、この世界でも明るく楽しくやって行きますかね。

そんな決意をし、俺は既に寝息をあげているルイズに、そう声を掛けた。



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3話

激動の連続であった春の使い魔召喚の儀式から一夜明けた今、才人とルイズの使い魔と主人としての日常がスタートしようと、していた…!


余りに衝撃的な展開の連続だったあの1日から一夜明けた今、俺の目覚めは視界に映る見慣れない石天井と、背中に感じる藁の感触だった…ああ、夢じゃなかった訳だな、昨日の展開は。

さて、俺のご主人様の様子は…と、

 

「…やれやれだ、まだ寝ているのか。お寝坊さんなこった」

 

貴族、それも由緒正しき家柄故か、天蓋の付いたベッドでスヤスヤと寝息を立てている我がご主人様、ルイズの姿があった。

全く、学生という身分なのに規律ってものがなってないな…ま、そのお蔭でルイズの可愛い寝顔が見られて眼福眼福、な訳だが。

でも、何時までも寝かしていては明らかな寝坊、ルイズが咎を受けてしまう。

 

「ほら、ルイズ。朝だぞ、起きろ」

「……うーん……」

 

身体を揺さっても起きる気配が無い…結構眠りが深いタイプの様だな。

 

「…起きないと朝食の時間過ぎるどころか遅刻だぞー」

「……んー……」

 

お決まりの脅し文句を使っても反応は変わらない…漫画じゃあ無いんだからそりゃそうか。

よし、こうなったら、

 

「レロレロレロレロ」

「うわぁぁぁぁ!?」

 

がばっ

 

よし、耳元レロレロ(擬音)作戦大成功!

 

「い、いったい何事!?何が起こったのよ!?」

「お早うさん、ご主人様」

「…あんた、誰?」

 

おいおいそれは無いだろ、人を異世界から呼び出しといて…

 

「ルイズ、お前の使い魔だよ。全く、しっかりしてくれよ」

「あ、そうだった…じゃなくて!ちょっと、起こし方を考えなさいよ!何なのアレ!」

「起こし方を考えた結果がアレ。普通にやっても起きなかったしな」

「で、でも…!…まあ良いわ。見張り」

「はいよ、了解」

 

名詞しか無い命令(恐らく)だったが、早い話が「外出て待っていろ」という事だろう。

ここで漫画とかだと中世ヨーロッパの貴族は着替える際に召使とかに服とか持ってこさせたりする物だが、そこもキラークイーンがいるし、俺がわざわざやる事もあるまい、今後も。

 

「お待たせ、さっさと食堂に行くわよ」

「了解、ご主人様」

 

見張りを始めて数分、昨日見た(恐らくはここの制服だろう)服装に着替えたルイズが部屋から出てきたので、俺達はその食堂に向かおうとする、と、

 

ガチャ

 

「あらおはよう、ルイズ」

「…おはよう、キュルケ」

 

隣の部屋からルイズと同学年らしい女子生徒が出てきたのを見るや否や、ルイズの表情があからさま、と言って良い程険悪になっていく。

その原因と言ってもいい、キュルケと呼ばれたその女子は、俺と同じ位の長身に褐色の肌、赤毛のセミロングにエキゾチックと表現できる顔つき、そして物凄くデカいと言って良い胸が特徴的だ。

そう、胸はデカい、が、何か明らかにビッチ臭がする。

女性のタイプは「胸の大きい大和撫子」な俺、ビッチなぞ問題外である。

胸の大きさを考慮しても29点のPoor、再試験を受けるにも値しない(ちなみにルイズは昨日会った時点で71点のGood、俺が今まで会った女性で初めての一発合格だ!流石俺のご主人様)。

…そんな俺の馬鹿みたいな女性評はさて置いて、明らかに不機嫌な様子のルイズとは対照的に、キュルケの方は何の事は無いと言わんばかりに余裕綽々だった。

 

「あら、そこの平民があなたの使い魔?」

 

ルイズは答えない、それどころか不機嫌オーラの濃度が増してきている様に見える。

…頃合いだな。

 

「ああ、そうだ。俺は才人。サイト・ヒラガだ。それじゃあな。ルイズ、此処で油売って無いで、早く行くぞ」

「へ、あ、わ、分かったわよ!」

 

一先ずキュルケとの会話を早々に打ち切り、ルイズを引っ張り込む。

…そう判断したのは、ルイズが不機嫌の余りキラークイーンでキュルケをぶっ飛ばしはしないだろうかという危惧もあっての事だが…正直、キュルケの言動と態度が、俺にとっても不快だからだ。

…彼女は、『気高き飢え』を知らない。

『気高き飢え』…ジョジョ第7部『スティール・ボール・ラン』の主人公、ジョニィ・ジョースターが常々口にしていた言葉で、俺はそれを『充足する事無く、貪欲に己を高め続ける意志』とか『飢えを共にする者を労わる想い』と解釈している。

ルイズにはそれがあって、キュルケにはそれが無いのは、さっきの態度等にも大きく表れている。

キュルケの態度は、人の痛みを全く知らないと言わんばかりに平気で相手を傷つけられる、そんな感じだった。

…正直、ルイズは当然だが、俺もシルバーチャリオッツを使ってビンタしてやろうかとも少し思った。

だが此処では平民として扱われている俺が、貴族らしいキュルケを張り倒せばどうなるか、それは火を見るより明らかって奴だ。

その事から無理矢理ルイズをひっぺがした訳だが、むこうはさして気にしてない様子で、それが唯一の安堵である。

 

「余程あの女子の事がいけ好かないみたいだな、ルイズ…まあ俺もそう思うが」

「ええ、そうでしょう!あのゲルマニアの野蛮人め!ツェルプストーの色ボケめ!」

 

そこから何を聞かされたか、についてはゲルマニアという国について、ルイズの家族であるヴァリエール家とキュルケの家族であるツェルプストー家の因縁について(ルイズの解釈を)延々と、とだけ言っておく。

まあそんな感じで俺達はルイズの言っていた食堂に着いた訳だが、

 

「…でかい上に豪華絢爛って奴だな…流石は貴族の食堂って訳か…」

「どう?アンタの世界でもこんな食堂は無いでしょう?メイジはほぼ全員が貴族、故にトリスティン魔法学院では貴族たるべき教育を存分に受けるのよ。だから食堂もまた貴族の食卓に相応しい物でなければならない、という事よ」

 

何ていうか…広すぎだろう…

『アルヴィーズの食堂』という名前のこの食堂(ちなみにアルヴィーズの由来は、壁に像として鎮座している数体の小人らしい)、百人並んでもダイジョーブ!とか聞こえてきそうな巨大なテーブルが3つも並んで尚、通路には大きな余裕があり、陸上競技のトラック位は有りそうだ…

その広い空間の何処もかしこも、派手さこそ控えめではあれど豪華さが丸分かりな装飾が飾られ、テーブルもまた高そうな蝋燭や花で彩られ、フランス料理のフルコースでも此処までは…と言わんばかりの量と質の料理の数々を余計美味しそうに見せている。

…初めて見た奴なら誰だってよだれズビッ!だな、俺もそーなった。

 

「分かった?本当ならアンタみたいな平民がこの『アルヴィーズの食堂』には一生入れないのよ。感謝してよね」

「いや待てルイズ、そう言う位なら俺入らない方が良くないか?」

「何言っているのサイト?アンタ護衛でしょ?傍に待機してないで何処に待機するって言うのよ?」

 

その余りの豪華さに場違いな感を覚えて退室した方がと提案した俺だったが、護衛としての役目を出され、それもそうだと納得した。

 

「分かったならさっさと椅子を引いて。気が利かないわね」

「はいよ」

「あんたは隣のよ」

 

ルイズの指示に従って椅子に座らせつつ、俺も隣に座るとそこには…ルイズ達のと比べて…少なくとも量的には明らかに及ばないがそれでも俺にとっては十分な量の(ルイズ達の方が多すぎるんだよ)バランスの取れたフルコースが待っていた。

これがスープとパンだけ、となれば文句の1つや2つが出ていたであろうが、護衛は身体が資本、というのを心得ていた故なのか、その気遣いには俺に文句どころか感心の言葉しか浮かばせなかった。

…それ故に後ろで生徒Aをキラークイーンがドロップキックしていた光景なんて俺は全く見ちゃいねぇぜ、え、何で知っているか?は、Top Secretだぜ。

 

------------

 

そんなルイズの気遣いでまた俺の彼女への好感度が上がった(余談だが食事前のお祈り…日本での「いただきます」だな…があるかと思ってルイズに聞いてみたが、余りに長ったらしい文言なので戸惑ったのは此処だけの話)朝食も終わり、授業を受けるべく教室へ入る俺達。

流石に使い魔である俺の席なぞ無いと思い他の生徒の使い魔が待機している後ろに行こうとしたが、「護衛のポジションは傍でしょ」というルイズの一言により、隣で突っ立っている事になった。

しかし…本当に俺以外いねぇな、人間の使い魔って。

皆モグラやらサラマンダーやら…正にファンタジーだぜ…

そんな感慨に耽っていると程無く、1人の中年位の女性教師が入ってきた。

 

「皆さん初めまして、今年から貴方達の担当を担う事となりました、『赤土』のシュヴルーズです」

 

物腰が柔らかそうな、所謂学校の先生のイメージに合う人と言って良いだろうそのシュヴルーズと名乗った教師は、教室を眺めつつ、

 

「皆さん、春の使い魔召喚は大成功の様ですね。このシュヴルーズ、春の新学期に様々な使い魔達を見るのが楽しみなのですよ」

 

と声を掛けていたが、

 

「おや、結構風変わりな使い魔を召喚した様ですね、ミス・ヴァリエール」

 

その目が俺とルイズの方を向いて若干驚いた様な口調で話すと…周囲の空気が変わった…気がする。

 

「おいゼロのルイズ!召喚出来ないからってその辺をほっつき歩いていた平民を連れてくるなよ」

 

カチン

 

「違うわ「おいそこの」」

 

さっきのキュルケとの件で湧いていた不機嫌が再燃して来たので、ちょっと鼻をあかしてやるか。

 

「この左手のルーンが見えないか?これこそ俺がルイズの使い魔である証拠って奴だ…えーと「風邪っぴきのマリコルヌよ」そうそう、風邪っぴきのマリコルヌ殿」

「何だとこの平民!貴族である僕にそんな口聞いて許されると思っているのか!ゼロのルイズもその平民に何吹き込んでいるんだ!」

「先生!風邪っぴきのマリコルヌが私を侮辱しました!」

「だから風邪っぴきじゃない!風上のマリコルヌだ!ゼロのルイズ!」

「お黙りなさい!ミスタ・マリコルヌ!」

 

こちらを侮辱する様な発言をしやがったマリコルヌとか言う奴を挑発してやったら案の定食いつき、そして教師シュヴルーズによって(恐らく魔法だろう)赤土で口を塞がれるという制裁を受けた、ざまぁw

まあそんな些細な事もあったが授業は平常通り始まる。

周囲の様子から、内容はどうやら1年の時に習った事のおさらいらしい。

曰く、魔法には大別して『火』『水』『風』『土』の4つの系統と、今は無い伝説の系統『虚無』がある。

教師シュヴルーズはその中で『土』を専門とするらしい。

土って事は…重力を操作したり、土砂を飛ばしたり、或いは錬金術みたいなので石ころを金とかプラチナに変えたり…といった感じか?

そしてそれぞれの系統は本人の才能と努力如何で重ね掛けされ、一番下からドット、ライン、トライアングル、スクウェア…といった感じでランクアップしていく。

土の基礎と言える魔法『錬金』も、スクウェアともなれば金をも作り出せるらしい…尤も教師シュヴルーズはトライアングルらしく、『錬金』で石ころから作り出したのは真鍮だった(何故に合金の方が簡単なんだ、と思ったが、恐らく物質の比重が関係しているのかも知れないな)。

ふと此処で思い出した。

今朝からメイジが互いの名を呼ぶ際、その前に何かしらの渾名が付いているのを度々聞いた。

あのビッチだったら『微熱』、マリコルヌとか言っていた奴は『風邪っぴき』、教師シュヴルーズもまた自己紹介の際に『赤土』と渾名を付けた。

そしてこの渾名、専門とする系統と深い関係にある様に思える…まだあのビッチや教師シュヴルーズでしか確認していないが。

そして同じく系統と深い関係にあるのが使い魔…教師コルベールがそう言っていたのだから間違い無いだろう。

 

さて、ルイズの系統は、何だ?

 

俺という前代未聞な存在が召喚された事、渾名が『ゼロ』である事…正直此処からどんな系統なのか想像もつかない。

シルバーチャリオッツは白銀の騎士、ならば錬金を扱える土系統か…いや、俺がスタンド使いとなったのはサモン・サーヴァントで現れたゲートに入ってから、つまりルイズの使い魔が俺だと内定してからの話だ、その線は薄いだろう。

…む、もしやルイズのスタンドであるキラークイーンから、火の系統では?

キラークイーンは爆発を司るスタンドだ、爆発の際、物凄い高温の熱気と爆風が発生する。

それにキラークイーンの特殊攻撃『シアーハートアタック』は『熱』を頼りに敵を追尾する。

熱となれば火、その線が濃いかもしれない…!

…だがそれなら何故俺?

俺の特徴はと聞かれれば、根っからのジョジョオタクであったり、自他ともに認める熱血漢であったり、テリヤキバーガーが好きだったりする位か。

…火で当てはまる要素が薄すぎるんだが。

 

「それではミス・ヴァリエール。前に出て、錬金して見せて下さい」

 

考え込んでいると、錬金の実践にルイズが駆り出される事となった。

…丁度良い、これで良い結果が出れば少なくともルイズには土の系統への適性がある、と確信出来るし、俺が呼び出された訳もシルバーチャリオッツとの関係で辻褄が合う。

本当にベストタイミングだなと思った、が、

 

「先生、危険です!」

「そうです、ゼロのルイズの魔法を使わせるなんて!」

「止めてください!」

 

途端に騒ぎ出す教室…一体どうしたと言うんだ…?

 

「どうしたのですか皆さん?ミス・ヴァリエールは大変勤勉な生徒だと聞いていますよ?」

「ゼロの由縁を知らないからそんな事が言えるんです!」

 

教師シュヴルーズが疑問を口に出すも、抗議は止まらない…だから一体何なんだ…?

 

プッツーン

 

ふと、そんな音が聞こえた様な気がした、と共に、

 

「私、やります!」

「お願い、本当にやめてルイズ」

 

ルイズが立ち上がって教師シュヴルーズの下へと向かう。

 

「ミス・ヴァリエール。頭に作り上げたい金属を思い描き、それと共に詠唱を刻むのです。いいですね?」

「はい!」

 

如何にも張りきっていますと言わんばかりの返事と共に錬金の詠唱を始めるルイズ。

…と同時に他の生徒達が一斉に、避難訓練の様に机の下に潜り込んだ…お前ら、いい加減に…!

 

どごぉぉぉぉん!

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

ルイズが石ころに向けて錬金を唱えたら、石ころが金属ではなく爆弾になった。

な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

イオだとかファイアBOMだとか、そんなチャチなもんじゃ、断じてねぇ。

もっと恐ろしい(ry

 

「また失敗しやがって!」

「何でゼロのルイズが魔法使うと毎回爆発するんだ!」

 

そして理解した、『ゼロ』の意味…魔法成功率『ゼロ』…と言う事を…同時に、怒りが込み上げてきた…!

ルイズがゼロだった事にでは無く、ルイズをゼロだという理由だけで罵倒するこいつらに…!

歯噛み!握り拳!やらずにはいられないッ!

この状況下で何も出来ないでいる自分に荒れているッ!クソッ!



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4話

ルイズの爆発魔法によって色々と騒動が巻き起こる状況の中、才人は一人、怒りに震えながらも決意を新たにしていた。そして、その後…


「…何か言いなさいよ」

「…」

 

あの後騒ぎを聞きつけた教師陣によって、教師シュヴルーズが気絶したり、俺以外の使い魔どもが阿鼻叫喚の騒動を引き起こしたりといった状況を収拾、原因となったルイズ(と使い魔である俺)に罰として教室の後始末を命じた。

…先程から聞くに堪えない生徒達のルイズへの罵倒が原因で、怒りのタコメーターが振り切れかけている俺は、片付けに集中する事でそれを抑えつけようとしている。

…ルイズから話を振られているのは分かっていたが、正直、答える余裕は無かった。

 

「…分かったでしょ?私の渾名である『ゼロ』の意味が。魔法成功率『ゼロ』って意味よ」

「…」

「…ヴァリエール家の娘として恥じないメイジにならなきゃって、生まれつきの病気で寝込んでいるちぃねえ様を元気にしたいって、そう思って幼い頃からずっと努力してきたの」

「…」

「…出来るだけ多く知識を得たかったから座学も頑張ったし、いつかは使える様になると信じて魔法も沢山練習した。何度吹っ飛ばされても、それでも諦めなかった。諦めたくなかった」

「…」

「…なのに、なのにどんな魔法を唱えても、結果はいつもあんな『爆発』しか起こらない!系統魔法はおろか、簡単なコモン・マジックすら『爆発』で終わる!他に無い失敗例だったし、お母様達も原因を調べてくれたけど、結局は何の手がかりも無かったわ!」

「…」

「昨日の春の使い魔召喚で、やっとの思いで初めて成功したかと思ったら、召喚されたのは微妙なスタンドが使えるだけの平民であるアンタだし、それと同時に私が使える様になったスタンドまで『爆発』しか取り柄が無い!私には『爆発』しか個性が無いと言われた様な物よ!」

「…」

「…アンタだって、アンタだって本当は私を馬鹿にしているんでしょ?『ゼロのルイズ』だって、見下しているんでしょ?そんな私の使い魔になった事、後悔しているんでしょ?」

 

プッツーン

 

…俺の堪忍袋の緒が切り裂かれた音が聞こえた気がした…もう…限界だっ!!!

 

「アンタさっきから黙ってないで「ふざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!」!?」

 

ふざけんな、ふざけんなよ、こんな馬鹿な現実があってたまるかっ!

 

「お前も、お前の同級生も、さっきからお前の事何つったぁ!?お前が、ルイズが、俺のご主人様が、ゼロだとぉ、能無しだとぉ!?ふざけんじゃねぇよ!良いかルイズ!スタンドは本体であるスタンド使いの意思で動くと昨日説明したが、それはそのスタンドを御せる程の強い思いがあってこそだっ!思いの弱い奴がスタンド使いになった所で勝手な行動を起こさせ、逆に精神的に脅かされるのがオチだっ!スタンドの性質が凶暴であればある程それも顕著で、お前のキラークイーンは、俺が見てきたスタンドの中でも飛びぬけて強く、そして残忍な奴だった!スタンドのスの字を覚えた程度の奴が1日程度で思い通りに出来る代物じゃあ断じてねぇ!それをお前は呼び出すまで大人しくさせてみせたっ!それだけお前には物凄く強固な思いを持っているって事だっ!魔法だってそうな筈だっ!魔法については一朝一夕の知識しか無い俺だが、あの爆発からは、何か知らねぇが物凄く膨大な力を感じたっ!あんな凄い爆発が失敗な訳があるかっ!絶対別の、もしかしたらこの世界が知らないだけかも知れねぇ魔法が発動したに決まっている!それを使えるルイズが、ゼロの筈がねぇ!お前も周りも、そしてこの世界の理屈も、お前を全っ然理解していねぇだけだっ!」

「え…?」

 

ルイズは、其処までの意志を持って、ずっと必死に頑張って来たんだ。

爆発に巻き込まれる前の教師シュヴルーズが「大変勤勉な生徒」と言う迄も無く、その努力は、僅かながら張りを訴える肩肘からひしひしと伝わっていた。

その意志を持って、重ちーを爆殺し、承太郎や仗助、億泰や康一と互角以上の戦いを披露した吉良吉影のスタンドであるキラークイーンを、しっかりと制御して見せているのだ。

そんなルイズがゼロなら、それは吉良吉影の強さの否定=俺の恩師達の強さの否定だ。

それは断じて我慢ならねぇ!

 

「ルイズ、確か『メイジの実力を計るならまず使い魔を見ろ』って言葉が、この世界にはあったよな?」

「…え、えぇ」

「ルイズはゼロどころか、物凄いメイジだ。俺がそれを証明して見せらぁ」

「…」

「それでもお前をゼロのルイズだと罵倒する奴がいるんなら、

 

その時はこの平賀才人が直々にぶちのめすっ!」

 

…ああ、何だかすっとしたぜぇ。

 

「…う」

「何だ?どうしたんだ、ご主人様?」

 

「…あり…がとう…」

 

泣いていた。

俺の喚き散らす様な説教と決意を聞いたルイズは、今までの鬱屈を流すかのように、泣いていた。

 

「今までずっと頑張って来たんだし、これからもそうな筈…だから今は休んでいろ」

「…う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

こうなったら使い魔である俺、いや、事情を知っている誰でも、今彼女にすべき事は唯一つ。

彼女がその人生で負った心の負傷と疲れを、癒す手立てが何か考え、それを実践する事だ。

 

------------

 

「…やれやれだ、癇癪持ちのご主人様を持つと、大変だな…尤も、元気になったから良しとするか」

 

あの後、正気に戻ったルイズに「主人に怒鳴る使い魔なんて前代未聞よ!罰としてごはん抜き!」と怒られてしまい、その状態で食堂に入る訳にもいかなかったので、こうして食堂の扉の前でルイズの帰りを待っていた、ら、

 

「あの…どうしたんですか?」

 

恐らくこの学院で働いているらしい、メイド服を着た女性が通り掛かり、声を掛けてきた。

 

「ん?…ああ、俺はサイト・ヒラガ。ご主人様の帰りを待っている」

「サイトさんですか。私はシエスタって言います。…ご主人様って事はもしかして、ミス・ヴァリエールが召喚した平民の…」

「俺そんなに噂になっているんだ…異例とは言え、其処まで騒がれるとはな…」

 

シエスタと名乗ったその少女は(俺位の年だし、この表現で間違い無いだろ?)杖やマントの類が無い事から恐らく貴族でもメイジでも無いだろう。

この世界では他にまだ見ていない、しかし日本人ではお馴染みの黒髪と黒い眼、ちょっと低めな鼻筋と、美人と言うよりは可愛い系と言った方が良いかな…そんな顔立ち、胸はルイズとあのビッチの間位か?

そしてその立ち振る舞いとか雰囲気とかからは可憐さと言うか、優しさと言うか…まあ一言で言うなら癒し系な第一印象を抱かせる…ルイズにはあった芯の強さがイマイチ感じられないのは残念だが、それでも79点、Greatだぜ…!

 

「ところで…さっきミス・ヴァリエールの帰りを待っていると聞きましたが…どうして食堂前で?」

「…それが檄を飛ばしたらご主人様の逆鱗に触れたらしく、昼食無しを通告されて…」

「まあ!それはお辛いでしょう。こちらにいらして下さい」

 

そう告げるや否や腕を引っ張るシエスタに連れられるまま、俺が案内されたのは、食堂の裏の厨房。

あの質量共にオーバースペックな食事を何百人ものメイジ(+俺)分作らなければならないのだ、結構な人数が、俺のイメージより広めの空間を飛び交うが、それでもかなりの忙しさだ。

…シエスタに勧められるまま隅の椅子に座らされたが、良いのか?

そんな俺の葛藤を他所に、シエスタはシチューが盛られた大きめの皿を俺の前に差し出してくれた。

 

「料理の余り物で作ったシチューですけど…」

「ありがとうな、忙しい中」

 

礼を言いつつ、差し出されたシチューを一口食べる、と、

 

「…旨いな、朝の料理も流石だったが、これはまた違った旨さだ…」

「あ、ありがとうございます!私が作ったのですが、喜んでくれて何よりです」

「え、シエスタが、こんな短時間で?」

 

これは驚きだ、俺がこの厨房に入ってから何分も経っていない筈だが…。

それはともかく、この世界に来て、いや生涯初の女の子の手料理に俺のスプーンは進み、あっという間に完食した。

…手料理も上手いなんて、かなり高得点だぜ!

 

「ごちそうさま。旨かったな」

「良かったです。お腹が空いていたら何時でも来て下さいね」

「ありがとう…でも此処までお世話になって何もしないのも申し訳無いな。何か手伝える事無い?」

「い、いえ良いですよ!それよりもミス・ヴァリエールとの待ち合わせの方を…」

「俺の主義に反するんだよ。何か手伝って欲しい事があれば言ってくれよ」

「そ、そしたら、デザートを配るのを手伝ってくれますか?」

「はいよ、了解」

 

俺が手伝いを申し出ると、一度は断ろうとしたシエスタだったが折れて、ケーキの配膳を頼んで来た。

勿論了解した俺は、早速取り掛かる事に。

その途上、

 

「なあギーシュ!今度は誰と付き合っているんだよ!?」

「誰が恋人なんだ?ギーシュ!」

「付き合う?僕にそんな特定の女性はいないよ。薔薇は多くの人を楽しませる為に咲くのだから」

 

何て言うか、キザったらしい金髪の生徒と、その周囲の生徒が恋バナで花を咲かせていた。

具体的には、キザな金髪を周囲が冷かしていた。

…阿呆らしい、さっさと終わらせるか。

と思い配膳台に目を移そうとしたら、その金髪の近くに紫色のガラスの小ビンが落ちているのが見えた。

…コイツが落としたのか?一応聞いておくか。

 

「なあ、これが落ちていたが、知らないか?」

「む、それかい?…い、いや知らないよ?」

 

違うのか?と一瞬思ったが、

 

「む、その香水は…もしやモンモランシーの香水じゃないか!?」

「この鮮やかな紫色っ!正にモンモランシーが調合している香水だっ!」

「これが近くにあった…つまりモンモランシーがギーシュへ贈った物だな!」

「つまりギーシュは今、モンモランシーと付き合っている、と」

「ち、違うんだ!良いかい、彼女の名誉の為に言っておくが…」

 

周囲の追及に何やらテンパるギーシュと呼ばれた金髪…これは何かあるな。

と、思って直ぐ、

 

「ギーシュ様…やはりミス・モンモランシーと…!」

「待ってくれケティ!彼らは誤解している、僕の心の中に住んでいるのは君だけ…」

 

パシィン!

 

「その香水が何よりの証拠ですわ!さようなら!」

 

ケティと呼ばれた茶髪の、恐らく1学年下(マントの色が違うのでそうだろう)の女子生徒が問い詰め、去り際にビンタ1発が入った…修羅場か、此処は?

と思ったら今度は金髪を2つのロール状にした同学年の女子生徒がやってきて、

 

「誤解だよモンモランシー!彼女とはただ「やっぱりあの1年生に手を出していたのね、ギーシュ?」お願いだよモンモランシー、君の素敵な笑顔を僕に見せて」

 

ドバドバドバドバ

 

「嘘つき!最ッ低!」

 

またも言い訳を言おうとするギーシュにワイン(何であるんだ?トリスティンではお酒は15歳からなのか?)を頭からぶっ掛けて去って行った。

 

「ふふ…薔薇の花の良さが伝えられなかったみたいだな」

 

…うわぁ、浮気発覚して尚悪びれていないぞコイツ、関わりたくねぇ人種だな。

と決意してケーキ配膳に戻ろうとしたが、

 

「待ちたまえ、君。君の軽率な行いで2人のレディの名誉が傷つけられたんだが、どうしてくれる?」

 

…何で俺が呼び止められる?何で追求されなきゃならない?

 

「オレェ?何言ってんの、アンタ?俺は落し物の小ビンに見覚えがあるか聞いただけだ。あんな反応をしては、突っ込んでくれ!と言わんばかりだぞ?」

「そうだギーシュ!お前が悪い!」

「リア充燃やされろ!」

「もしくは溺れ死ね!」

「むしろ木端微塵にされろ!」

「いっそ石でボコられろ!」

 

俺の真っ当な反論に周囲も同調するが(途中から僻み入るが)、ギーシュの怒りは収まっていない様子。

 

「む?…そういえば君は確か『ゼロのルイズ』が呼び出した平民だったね」

 

プッツーン

 

「成る程、『ゼロのルイズ』が呼び出したが故に貴族への礼も『ゼロ』という訳「てめー今、ルイズの事」」

 

「何つったぁ!?」

 

ごすぅぅぅぅぅぅ!

 

「がっ!?…あ…!」

「な!?一体どうしたんだギーシュ!?」

「何だ急に崩れ落ちて!?」

 

ルイズを、俺のご主人様を『ゼロ』だとぉ…!?

よーし…シルバーチャリオッツによる腹への掌底だけで済ますのは止めだ。

…徹底的に、ぶちのめすっ!

 

「てめー…表に出ろ」

「ぅ…がはっ…どうやら君は…貴族に対する…礼を知らないらしい…ごほっ…丁度良い…礼儀と言うものを…教えてやろう…ヴェストリの広場で…待っている…」

「ヴェストリの広場だな…腹下し治しながら待っていろ」

 

そう言い残し、ギーシュは取り巻きに連れられて外へ出た…ヴェストリの広場へと向かって行く様だ。

 

「サ、サイトさん…あ、貴方殺されちゃう…!」

「…あー、シエスタ。悪いがこう言う状況だからケーキの「貴族様を、本気で怒らせたら…」配膳…」

 

残りを頼むと言おうとしたのだが、言いだす前に逃げ出してしまった。

…まあいい、デザートどころではない状況だろうしな。

っと、今度はルイズが、俺のご主人様がこっちに向かって来るな。

 

「ちょっとサイト!アンタ何勝手にギーシュと決闘の約束してんのよ!?」

「おお、ルイズ。丁度良い所に来たな」

「何呑気な事言っているのよ!?早くギーシュに謝って来なさい!」

「悪いがご主人様の命令でもそれは無理だな。こればかりは…俺とルイズの名誉に関わる話だ」

「良い!?平民はメイジに絶対勝てないの!幾らアンタに『アレ』があるからって、『アレ』が平民と大して変わらなかったら同じよ!」

 

『アレ』は恐らくシルバーチャリオッツの事か。

確かに人並みの力、俺から半径10メートル内でしか動けない行動範囲、キャストオフ能力のみの特殊能力…スピードこそあれど、それ以外は普通の人とそう変わらない身体能力だろう。

だがシルバーチャリオッツ、いや、全てのスタンドには、普通の『人』とは明らかに違う性質があるっ!

同じく精神力を糧とする『魔法』を使うこの世界でもそれは健在なのを既に証明した今、勝機はあるっ!

それに…!

 

「言っただろうルイズ。お前が『ゼロ』じゃあ決して無いという事を俺が証明する、お前を『ゼロ』と罵る奴は、この平賀才人が直々にぶちのめすっ!とな…これがその第一歩だっ!」

 

そう言い残し、

 

「準備OKだ。ヴェストリの広場への案内を頼む」

「こっちだ、平民」

 

恐らく見張りとして残っていたギーシュの取り巻きの案内で、ヴェストリの広場で向かう事にした。



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5話

ついに始まる、才人とギーシュの決闘!原作とは違ってシルバーチャリオッツを持つ才人だが、果たして勝機は…


トリスティン魔法学院北側に位置するらしい、ヴェストリの広場。

北以外の三方を塔で塞がれているからか真っ昼間だと言うのに微妙に薄暗い。

だからそんなに人が入らない前提の簡単な手入れしか施されていない様だが、俺とギーシュの決闘を聞きつけたのかやけにギャラリーが多く、歓声もそれ相応に大きかった。

…まあ大方貴族に口答えした平民がノされるのを待ち構えている口だろうが、今にその歓声…悲鳴に変えてやるよ。

 

「諸君!決闘だ!」

 

俺がギーシュと対峙するポジションに入るや否や、キザったらしく薔薇の造花を掲げ、それに呼応するかの様に観客の声も大きくなる。

どうやら腹下し(掌底打ち)は治した様だ、これも魔法が成せる業って奴か。

…今はその自惚れに浸っているがいいさ、直ぐにそのウザい顔をフルボッコにする予定だしな。

 

「逃げずに来た事は褒めてやろうじゃないか」

「はっ、こっちから吹っ掛けたんだ、逃げる訳がねぇ」

「減らず口もそこまでだ、君には少し貴族への礼儀という物を教えて上げよう」

 

とこっちを挑発する物言いをしつつ造花を構えるギーシュに反応し、俺もシルバーチャリオッツを、俺に重ねる様に発現して、レイピアを構える右腕に重ねる様にして右拳を突き出す。

…さっきの腹への掌底は腹下しで誤魔化しはしたが、同じ手はそうそう通じない。

今度は小賢しい手を使っただとか変な能力があるだとか、因縁付けであっても追及が及ぶだろう。

故に、俺と重ねて置く事でレイピアの剣撃を、俺の右パンチで何とか誤魔化せる様にしておく。

と、誤魔化し方を試してみたら…何だ、この感覚は?

あの時と似ている…そう、ルイズとのコントラクト・サーヴァントでルーンが刻まれた、あの時と。

あの痛みはもう無いが、力を漲らせる様な、燃え上がらせる様な熱はあの時と一緒。

これが…最高に『ハイ』って奴かっ!

いける…いけるぜ…これなら目前のキザったらしい馬鹿貴族をノすのも簡単だなっ!

 

「僕はメイジだ。故に魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」

「はっ、当然だ。逆に聞くが、魔法以外にどう戦うんだ、貴族って奴は?」

「…どうやら僕を怒らせたい様だね…!来い、『ワルキューレ』!」

 

それを知ってか知らずか、俺の挑発に簡単に乗ってくれたギーシュが造花を振りかざし、1枚の花弁が地面へ落ちるや否や、そこから女戦士っぽい外見の青銅で出来ているっぽい像が出て来た。

…ギーシュの系統は土、か…やっぱゴーレム使うんだな。

 

「僕はギーシュ。『青銅』のギーシュだ。だからこの青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」

「なら俺も名乗るか。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、サイト・ヒラガ…てめーに武器は必要無ぇ。この拳でぶちのめすっ!」

「…貴様っ!」

 

…正確にはレイピアだがなっ!

そんな突っ込みを心の中でしつつ、突進してきたワルキューレを、前進しつつ迎え撃つ。

その俺の様子を嘲笑したのか、クスクスと言った感じの声が聞こえる。

…まぁルイズ以外はシルバーチャリオッツが見えていないのだし、俺が右拳を構えている様にしか見えなければ笑うのも当然か、それがどうした、と。

…その笑い、一瞬で凍り付かせてやるっ!

 

「オラァ!」

 

ドギャァァァァァン!

 

「「「なっ!?」」」

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

俺はシルバーチャリオッツの剣で、ワルキューレの剣を弾こうとしたら、何故かワルキューレがホームランされ、挙げ句木端微塵になった。

な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何をしたのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

スーパーサイヤ人だとかアランカルだとか、そんなチャチなもんじゃ、断じてねぇ。

もっと(ry

 

「な…何を…した…!」

「二度言うつもりは無いが…まあ良い…俺は拳でぶちのめしただけだ」

「嘘を付くな!唯の平民の拳で僕のワルキューレが木端微塵になる筈が…答えろ!これは命令だ!」

「何度聞こうが結果は同じだ。てめーの木偶の坊は俺の拳でぶちのめされる程度だって事だ」

 

俺ですら驚いているのだから、他の連中は一瞬だけザ・ワールドが発動したかの様に静まり、直ぐに恐怖するかの様な叫びが広まる。

ましてや当事者のギーシュにとってはそれも絶大だろう。

押し問答を繰り広げつつ接近する俺に戦慄でも覚えたか、しゃにむに杖を振り回し、ワルキューレを量産する。

その数6体、1対1ではどうにもならないから集団戦って奴か、やれやれだ。

 

「わ、ワルキューレ!その平民を串刺しにしろ!」

 

ギーシュの号令で各々の武器を構えつつこっちに突進して来るワルキューレ達。

…だが…やけに遅いな、まるでメイドインヘブンで『加速された世界』について行けなくなった生物たちみたいだぜ。

 

「オラァ!」

 

最初の掛け声と共に前方に突き出して最初の一体を吹っ飛ばし、

 

「無駄ぁ!」

 

次の掛け声と共に右側を薙ぎ払って、次の一体を吹っとばしつつもう一体巻き添えにし、

 

「ドラァ!」

 

更なる掛け声と共に柄の部分で、何時の間にか回り込んだ様なポジションにいた一体を殴り付けて粉々にし、

 

「去りやがれっ!」

 

最後の掛け声で二体纏めて袈裟斬りにしてやった。

 

「次にお前は、『この平民風情がっ!』と言う」

「こ…この平民風情が…はっ!?」

「そう…その傲慢と慢心が」

 

最後に残ったのはギーシュ、お前だけだっ!

 

「最大の敗因って奴だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ドゴシャァァァァァァァァァァァァァァ!

 

「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺のアッパーカットが見事に決まり、宙を舞うギーシュ。

その際、杖として使っていた造花が手を離れたが、俺は抜け目無くそれを回収し、こっそり隠す。

確かメイジは決闘の際、杖を地べたに落としたら負けとかいう暗黙のルールがあるらしいからな、ここで落とされては、コイツをフルボッコにする大義名分が失われちまう。

それに、

 

グイッ

 

「まだ勝負は終わっちゃあいないぜ?」

「ひぃっ!ま…参っ」

 

バキィッ!

 

「がはっ!?」

「降参は無しだ、場が白けちまう。勝敗を決める権利があるのはなぁ…審判か勝者になる奴だけだっ!」

 

ドガッ!

 

「てめーが!」

 

ボゴッ!

 

「泣きじゃくるまで!」

 

ズドォン!

 

「俺は!」

 

ごすぅ!

 

「殴るのを!」

 

ぐしゃぁ!

 

「止めないっ!」

 

メメタァ!

 

「オラオラオラオラ…」

 

ドガガガガガガガガ!

 

「オラァ!」

 

これで…止めだっ!

 

がしぃっ!

 

「もう止めて!」

「…何のつもりだ?女」

 

だが止めの一撃は、後ろから来た1人の女子生徒によって止められた…この金髪の縦ロール…ああ、さっきギーシュを振ったモンモランシーとかいう2年生か。

 

「もう勝負は着いているわ!彼は…ギーシュはもう戦えないわ!」

「何を言っている?メイジは杖を地面に落としたら負けという暗黙のルールがあるらしいな…だがコイツの杖…落ちていないぞ?」

 

正確には俺が持っているがなっ!

 

「それに…アンタはコイツの浮気にキレて、あんな酷い文言で振ったんだ…今更何故庇う?」

「そ、それは…とにかくもう止めなさい!これは命令よ、平民!」

 

だが断る、と、もし止めたのが彼女やケティでなければ言っていた(それが例えルイズであろうと)が…白けた。

 

「おい、モンモン。1つ言っておく」

「私はモンモランシーよ!ふざけた間違いを「今更そうやって必死こいて気遣う位なら、一時の怒りであんな振り方をするんじゃねぇ!」え、え!?」

「ギーシュがした事は、確かに許される事じゃあねぇ。被害者であるアンタなら尚の事だ。だがな、振った相手を、こうやってボコボコにされるのが耐えられない位、未練タラタラだったんだろう!気があったんだろう!だったら浮気を責める前に、浮気したい気にさせない位に自分の魅力を高めやがれっ!」

「は、はいっ!」

「そしてギーシュ!」

「う…あ…」

「ハーレムは男のロマンだ、とかいう事については否定するつもりはねぇ。だがな、隠れてこそこそとやっていたんじゃあ、それは単なる浮気だっ!付き合っている女への最大の裏切りだっ!今こう言われて尚、ハーレムを夢見るんならな、いっそ皆纏めて愛してやると声高に叫ぶ位の図々しさを持ちやがれっ!それが出来ないんなら、ちゃんと本命を1人見つけて、そいつだけを全力で愛しやがれっ!」

「は…はい…!」

 

やれやれだ、さっきまで徹底的にフルボッコにしてやろうと思っていた奴に、絶対許さないと思っていた連中の一角に、まさか説教する事になるとはなぁ…と。

 

「後、ルイズと此処にいるモンモランシー…最後にケティに誠心誠意謝罪しろ。てめーはそれだけの侮辱行為を彼女たちにしたんだ。いいなっ!」

「わ…分かった!」

 

ルイズへの謝罪を取り付けたは良いが結局、決闘は最後の方が有耶無耶になっちまったみてーだな。

まあ良い、これでメイジであるギーシュを、平民にして使い魔である俺が圧倒したという情報は瞬く間に学院中に木霊するだろう。

必然的に俺の強さ、危険度は上がり、それ即ち主人であるルイズの評価に繋がる。

もうルイズをゼロだと言わせない、言ったら即座に俺の撲殺劇が幕を開ける…む?

 

「貴様っ!見ているなっ!」

 

何やら背後から、遠くから覗き見するかの様な視線を感じたので、振り向きつつ威嚇したが、そこには何も無かった。

…気のせいか?



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6話

決闘にてギーシュを圧倒した才人。そんな彼に、様々な困難が振りかかるっ!※重大なアンチキュルケが入っています。キュルケファンの方は回れ右をおすすめします。後で「な、何をするだぁぁぁぁぁ!許さん!」と言われても困りますw


昼休みの決闘にて俺がギーシュをフルボッコにしてから、色々と騒動めいた事が起こった。

まずは、

 

「ちょっとサイト、あれどういう事よ!シルバーチャリオッツは人並み程度の力しか無いって言ってたでしょ!明らかに嘘じゃない!」

「あーそうだったな。けどあれは俺も驚いた。その認識で剣を弾こうと思ったらまさか本体を吹っ飛ばしたからな…もしかしたら使い魔のルーンと関係有るんじゃあ無いか?」

「ルーン?…確かにルーンには、使い魔に何らかの能力を与えるけど…だけど普通の平民が青銅の塊を吹っ飛ばすまで力を強化するルーンなんて聞いた事無いわよ!」

「俺みたいな人間の使い魔自体、聞いた事無いだろう…それと同じだと思うがな」

 

想像を絶する強化が成された俺(とシルバーチャリオッツ)について、ルイズから追求された事。

…これは俺ですら驚くような事だ、予想は容易い。

次に、

 

「貴様ら、見ているなっ!」

「きゅい!?」

 

メイジであるギーシュをノした俺の事が学園中に広まり、俺を影から睨む様な視線が感じられた事。

中には『使い魔は主人の目となり、耳となる』という法則からか、使い魔を介した視線も混じる。

…大方『ドット程度(どうやらギーシュは土のドットらしい)を倒した位でいい気になるな平民の癖に』とか『メイジに刃を向ける危険分子めがっ!』といった意味合いだろうが、これはそもそも、そのつもりでノしたんだ、むしろ(後述する事態以外は)望む所って奴だ。

…だが、

 

「さぁ『我らの拳』!存分に飲み食いしてくれよ!シエスタ!恩返しといっては何だがちゃんと運んでやれよ!」

「はいっ!マルトーさん!」

 

夕食時『アルヴィーズの食堂』に入ろうとした俺をシエスタが無理矢理引っ張って行き、厨房まで連れていかれたと思ったら…何故かパーティーめいた盛り上がりが待っていた。

何でもこの学院の料理長であるマルトーさんは大の貴族嫌いで、平民である俺が貴族を一方的にノした事でえらく気に入ったらしい。

…ちょっとその言い分にカチンと来た(主に大の貴族嫌いを表現する所)ので、

 

「その大っ嫌いな貴族の1人であり、俺の主人であるルイズが罵詈雑言を浴びせられるのが我慢ならなかった…それが理由でもか?」

 

と、意地悪めいた物言いをついしてしまった、が、

 

「聞いたかお前ら!『我らの拳』は自分の主が悪いように言われるのが我慢出来なくてそいつをノした!この様に、達人ってのはな、自利自欲の為に腕を振るうんじゃあないっ!誰かの、大切な人の為に腕を振るうんだっ!分かったなっ!」

「「はいっ!達人は自分の為では無く、誰かの為に腕を振るう!」」

 

と、逆に盛り上げた格好になった…何か複雑だな…

 

「あ、あの…サイトさん。さっきはすいませんでした…逃げ出したりして…」

「シエスタか…別に良いさ。俺がシエスタの立場だったとしても、同じ事していただろうし。それより、ケーキの配膳ほっぽり出して悪かったな。あの後どうした?」

「あ、はい。全て配膳しましたよ。尤も…それ所ではありませんでしたけど」

 

ですよねー。

しかしまあ改めて間近で見ると、本当に良い娘だよな。

学院に仕える使用人だからって事情もあるだろうが、細かい所にも気配りが及ぶし、胸は…脱いだら凄いんじゃあないかっ!?

 

「ヒューヒュー!2人きりで良い雰囲気作っちゃってっ!お似合いだねぇ!」

「「ヒューヒュー!カップルになっちゃいなよっ!」」

「え、ちょ、何言っているんですか皆さん!」

「…カップル、ねぇ。シエスタみたいな良い女が彼女なら人生バラ色だな」

「え、良い女って…さ、サイトさんも何言っているんですかもぅ!」

 

こんな感じで、宴はヒートアップして行く…

だが俺は知らない、これがまだ今日の騒動の、前半部分の様な物でしか無かった事を…

 

------------

 

「あ゛ー…初めての酒は、がぶ飲みする物じゃあ無いな…今頃遅いが…」

 

結局、シエスタに勧められるままワインを飲みまくり、出されたご馳走を食べまくり…要は暴飲暴食をした俺は、完全に酔っ払っていますと言わんばかりの千鳥足でルイズの部屋を目指していた。

何とか腹からのリバースを回避し、ルイズの部屋のある階にたどり着いたが、そこに、

 

「きゅるきゅる」

「お前…あのビッチの使い魔か」

 

でかい火トカゲが待ち構えていた。

この階に部屋を持つ女子で、こいつを呼び出せるとしたら、火の系統であるあのビッチしかいまい。

…大方、酔い潰れている様を確認してから、汚物は消毒だっ!てか?…やれやれだ。

 

「きゅるきゅる」

「おいてめー何しやがる、服が破けるだろうが、てかそもそも足引っ張るな!」

 

メメタァ!

 

「ぎゅるっ!?」

 

酒が入ったせいで気が短くなったのだろうか、ジーンズの袖をくわえて無理矢理引っ張り出した火トカゲに腹が立った俺は即座にシルバーチャリオッツを発現させ、その腹部を足蹴にしてやった。

だが尚もジーンズをくわえ(今度は恐る恐るといった感じで)引っ張ろうとする火トカゲにぷっつんしそうになった俺は再びシルバーチャリオッツにキックの構えを取らせ、

 

「余り私のフレイムを苛めないで下さらない?」

 

突如ある一室のドアが開き、そこからあのビッチが顔だけ出して俺に注意した。

…誰が苛めるだぁ?人を闇討ちすべく使い魔をけしかけたのはアンタだろうが。

 

「…何の用だ?俺は酒のせいで気が短くなっている。下らない用ならギーシュの二の舞にするぞっ!」

「…フレイムを使ったのは御免なさい…思えば警戒して当然だったわね…お詫びに私の部屋にいらっしゃらない?」

「…悪いが、ご主人様を待たせる訳には行かねぇ…明日にしてくれ…」

「待って、少しで良いから」

 

そう言って飛び出してきたビッチ…もう面倒くさいからキュルケと呼ぶか…キュルケの恰好は…下着だけだった。

…成る程、正攻法では無く色仕掛けって訳か…やれやれだ…

 

「帰れ、そして服を着ろ」

「あら、つれないわね。そんなにルイズの事が大事?」

「…ルイズは俺のご主人様だ、大事にしておかしな事があるか?」

「そんなに肩肘張っていると疲れるわよ。それより私の部屋でそれを癒さない?」

「何時寝首を掻かれるか分からない場所の方がよっぽど疲れると思うがな」

「もう、分からない?女性が夜に男性を部屋に連れ込むとしたら用は一つでしょ?

 

私、貴方に恋しているの!」

 

…オレェ?

 

「貴方の決闘での姿、凄く恰好良かったわ!ギーシュのゴーレムを素手で捻じ伏せるそのパワー!誰が相手であろうと全力を尽くすその姿勢!モンモランシーに水を差されても悪い顔せず、女のあるべき姿を説く器の広さ!ギーシュに、男が恋に対してすべき覚悟を説いたその恋愛観!あれを、まるで伝説のイーヴァルディの勇者の様な姿を見せられた瞬間、私の心に火がついたの!情熱っ!そう、『恋』という名の情熱よ!」

 

…これこそ予想外の事態その2だった。

…使い魔による監視の目は多数あれど、こんな突如起こった様な好意の目はコイツだけじゃあねえか?

だが、

 

「悪いがキュルケ、アンタが俺にどんな感情を持っていようが勝手だが、俺はこれっぽっちもアンタへの好意は無い。他を当たってくれ。そのなりなら幾らでも相手はいるだろ?」

「もう、意地悪。でもそこも良いわ!」

「いい加減人の話を聞け。使い魔に休日は無いんだ。早く休みたい」

「ほんの数分で良いの!私が此処まで情熱を燃やすのは貴方だけよ!」

「アンタがそうでも俺は違う。悪いがアンタの想いに答える気は無い」

「ふふっ主人のルイズに義理立てしているの?良いじゃない、あんな男っ気の欠片も無いルイズなんて」

 

プッツーン

 

「…今…」

「あら、やっとその気になって…く…れ…」

「ルイズの事何つったぁぁぁぁぁぁ!?」

 

ヒュン!

 

「ヒッ!?」

「ルイズが魔法の素質『ゼロ』だとぉ!?」

「そ…そんな事一言も」

「今確かに聞こえたぞゴルァァァァァァ!」

 

ドギャァ!

 

「ぎゅるぅっ!?」

「フレイム!?」

 

不愉快だ…明らかに好意を寄せている奴にさせて良い筈が無い気分だ…

 

「4点…Poorだ…再試験を受けるにも値しない…」

「え…?」

「ルイズの言う通り…ツェルプストー家は牛の糞の様な家だな…嗅いだらゲロ以下の匂いがプンプンしそうだ…!」

 

そう言い残し、俺はルイズの部屋に入った。

これ以上こんな奴と付き合っていたら、それでこそ大暴れだ、ルイズの為にもそれは避けないとな。

 

「悪い…遅くなったな、ルイズ」

「サイト、今物凄い物音と叫び声がしたけど、アンタの仕業?」

「まあ…そうだな。部屋の前にキュルケと、その使い魔がいた。なんでも決闘の時の姿に惚れたらしく、俺に色仕掛けなぞ仕掛けやがった」

「はぁ!?あの色ボケツェルプストーめ!私の使い魔を誘惑だなんてふざけんじゃないわ!」

「大丈夫だ、あんな最低な奴の色仕掛けなんて乗る訳が無い」

「あ…そ、そう…まあ、それは良いとして…大変な事が起こったわ」

「どうしたんだ、ルイズ?」

 

俺とキュルケに何が起こったか、俺が夕食時に何していたかを殆ど聞かずに切り出したルイズの顔は、真剣そのものだった。

…ルイズの性格からしてそんな事は異例だと思う、それだけ重大な事態が起こっているんだな…

 

「さっき…ヴァリエール領にいるお母様から手紙が届いてね…」

 

その手紙の詳細はこうだ。

昨日の午後、突如としてルイズの家族の周りに人の様な異形が現れた。

突然の事態に杖を構える等して威嚇するも、動く気配が全くと言って良い程無い。

しかもこの異形、家族の側を離れない様について来るし、その姿が家族以外は…領外からやって来る役人等はおろか領内の使用人ですら…見る事が出来ないという。

そしてその翌日には、アカデミー(魔法について研究している機関…要は研究所らしい)に勤めているルイズの一番上の姉にも似た様な現象が確認され、挙げ句彼女が歩いた後が砂塗れになってしまうらしい。

家族皆に同じ現象が見られるが故、もしかしたらルイズにも同じ事が起こっているかもしれないから気を付けてほしい、と手紙はそこで締められた。

こ、これは…!

 

「ま、まさかルイズ…」

「ええサイト、そのまさかで間違いないわ。これは…」

「「スタンド!」」

「アンタ昨日、スタンド使いになる方法の1つとして、血縁者がスタンド使いになる事って説明したわよね?…その法則が当てはまって、私の家族皆がスタンド使いになった…そういう事よ」

 

な、何てこった…!

スタンドの存在を知らないルイズの家族がスタンド使いになっただけじゃあ無く、もしかしたらスタンドを制御出来ず、暴走させるかも分からない…そういう事か…!

 

「サイト、こうしちゃいられないわ!幸い明日は虚無の曜日、休みよ。朝一でヴァリエール領に帰って、スタンドの事をお母様達に伝えるわ!良いわね!」

「了解だ、ルイズ!」

 

万が一暴走したら、スタンドの知識の無いこのハルケギニアで混乱が起こるのは、コーラを飲んだらゲップが出るっていう位確実だっ!

何としてもそれは避けないと…!



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7話

ヴァリエール領にいるルイズの家族がスタンド使いとして覚醒した…それを母カリーヌからの手紙で知ったルイズと才人は、大急ぎで里帰りする事に。そこに待ち受けるスタンドは…


翌日の太陽がやっと少し顔を出した時間、俺とルイズは校門前に繋がれている2頭の馬の前にいた…昨日ルイズから家族の事で帰省する事が決まって直ぐに、シエスタに頼んで臨時に手配して貰った物だ、ルイズの実家と学院まで徒歩だと数日掛かるらしいからな。

…遠距離の移動手段が馬だと聞いた時には、空飛ぶ箒みたいなのは無いのかと一瞬突っ込もうとしたが、その場合シエスタ達みたいな平民は大いに不便してしまうだろうし、俺にとっては…むしろ好都合だ。

何故なら、

 

「そういえばサイト、アンタ乗馬の経験は?というかアンタの世界って、馬はいるの?」

「ああ、いるさ。それに乗馬は趣味だ」

 

尤も当初はジョジョ第7部『スティール・ボール・ラン』のジョニィ・ジョースターやジャイロ・ツェペリ、ディエゴ・ブランドーの真似で始めたのだが…いざやってみると面白くて嵌った。

周囲からも筋が良いと言われて一時は競馬のジョッキーを目指そうかなと本気で考えたが…身長が僅かにオーバーして挫折した。

 

「それより此処からルイズの実家までどの位なんだ?」

「馬車だと半日位だから…急げば6時間位ね」

 

早足でも6時間か…状況からして少しでも時間が惜しかったが、流石の俺でも6時間も騎乗して走らせ続けた経験は無い。

思いっきり飛ばして着いた時には腰痛めてダウン、等となったら本末転倒だ。

向こうがどんなスタンドを持っているか分からない上、こっちのスタンドはどっちも近距離パワー型。

万が一、片方がダウンしたらストッパーが機能不全に陥るし、無茶は出来ない。

 

「準備は良い?行くわよ!」

「了解だ、ルイズ!」

 

------------

 

「着いたわ、此処よ」

「…オレェ…想像とは段違いにデカくねぇ?Greatだぜ…」

 

日が真上に昇りかける時間に、ルイズの実家に到着した…が、このデカさには俺も絶句した。

貴族、それも公爵(いちばんうえ)であるルイズの実家だ、相当な大きさだろうと想像こそしていたが…これは予想外だ…バッキンガム宮殿でやっと互角と言って良いデカさである…貴族の城でこれなのだから、国王の城は、俺の世界の歴史的建造物等比較にならないかも知れない。

 

「?何呆けているのよ?入るわよ、時間が無いの」

「あ…ああ、分かっている」

 

そんな俺の驚愕を知らず、急かすような呼びかけをするルイズに従い、敷地内へと入る。

 

「お、お帰りなさいませルイズお嬢様!随分と急なお帰りでございますな」

「ええ。着いて早々だけど、お父様に言伝を。『今ヴァリエール家に起こっている現象について良く知る者を連れてきました』と伝えなさい」

「は、はい!かしこまりました!」

 

出迎え(公爵の家だし、使用人とか執事とかを多く雇っているだろうな)の遅さを気にする事無く、ルイズは早急に、執事と思しき初老の男性に指示を出す。

さて、何が出るか…手紙の内容からしてザ・フールらしきスタンドが1体いる事は推測出来るが、それ以外のスタンドは分からない。

全て人と思しき異形と言っていたが…ハイエロファントグリーンやストーンフリー等、変形出来る奴もいる、油断は禁物だ。

 

「お待たせ致しました。こちらへ」

「分かったわ。行くわよ、サイト」

「了解だ、ルイズ」

 

戻って来た執事の誘導で城へと入る…さて、此処からは戦場になっても、何ら可笑しくはねぇ。

気を引き締めないと…な。

 

「お父様、手紙の件について良く知る者を連れ、只今戻りました」

「おお、ルイズか…入ってくれ」

「はい、只今」

 

中から聞こえて来た、恐らくルイズの親父(公爵家の長なんだし、ヴァリエール公爵と呼ぶか)らしき声音の呼びかけに応じ、ルイズがドアを開けた…ら、

 

びゅぅん!

 

「うおっ!?」

「きゃぁっ!?」

「なっ!?止まれ、異形!」

 

突如、ヴァリエール公爵のスタンドらしい存在が俺達に向かって突進、パンチを繰り出してきたっ!

何とか回避に成功こそしたが…まさか新たなスタンド使いである俺達の気配に毒されたか…って、

 

「な、パープルヘイズだとっ!?」

 

紫色を基調とした菱形を並べた様な模様の身体。

頭に兜の様な物を身に着け、常に涎を垂らした獰猛な顔付き。

両手に組み込まれている、カプセルの様な容器。

…間違いない、ジョジョ第5部『黄金の風』の主人公ジョルノの味方として登場する、パンナコッタ・フーゴのスタンド『パープルヘイズ』だ、こいつは危険すぎるっ!

 

「シルバーチャリオッツ!奴を止めろぉ!」

「キラークイーン!援護して!」

 

尚も襲い掛かるパープルヘイズだったが、そのパンチはキラークイーンによって抑え込まれ、その隙を着いたシルバーチャリオッツが羽交い絞めした事で場は収まった。

危なかった…危うく俺達3人揃って、殺人ウィルスの餌食になる所だった…

 

「お前達…お前達の側にも、私達と同じ様に異形が…それにお前達、その異形に指示を出し、挙げ句に従わせていた様だが…」

「その事について、お母様達にも知らせなくてはならない事があります。お父様、直ぐにお呼び願えますか?後…使用人達には人祓いをお願いします」

「分かった…直ぐに呼ぼう」

 

ルイズのお願いによってヴァリエール公爵が呼び出してから程無く、家族らしき3人の女性が入ってくる。

やはりルイズの家族と言うだけあって、皆キレイだが…その話は後だ、今は大真面目な場面だからな。

 

「それじゃあサイト、説明をお願いするわ」

「了解だ、ルイズ」

「その前にルイズ…彼は一体何者ですか?今回の事を知っているのもそうですが、身なりからして平民の様ですし、貴方とはどういう関係なのですか?」

 

おっと、そこを突っ込んで来たか。

まあいい、どの道此処から説明しない事には話が繋がらないからな…

 

「まずはそこから説明します…これをご覧下さい」

 

そう言いつつ、顔の前に左手…使い魔のルーンが刻まれた左手…をかざす。

 

「「…使い魔のルーン!?」」

「はい。俺の名はサイト・ヒラガ…一昨日、ルイズのサモン・サーヴァントによって、このハルケギニアとは何もかもが違った世界から召喚された使い魔です」

 

------------

 

「スタンドの主な特徴については以上です。ご理解頂けましたか?」

「異世界から持ち込まれた、精神の個性が具現化した存在…俄かには信じられませんが…」

「だが此処まで理詰めされた仕組み、一昼夜で空想出来る物では無い。私達に起こった事とも殆ど合致している…」

 

余りに突飛な話の切り出しだったが故、納得も理解も難しいかと思ったが、案外すんなり納得してくれた…ここら辺は流石、ルイズの家族だな。

 

「此処からはそれぞれのスタンドについて説明します。宜しいですか?」

「うむ。よろしく頼む」

「はい。まずは俺のスタンド、シルバーチャリオッツ。見た目の通り騎士のスタンドで、目にも止まらぬ素早さで剣撃を繰り出します。鎧を外す事により、残像が出来るほど素早さが上昇する一方、パワーは人並み…だった筈です」

「筈…とはどういう事ですか?」

「昨日、とあるメイジと決闘を行った際、そのメイジが呼び出した青銅のゴーレムを、剣の一振りで吹き飛ばし、挙げ句木端微塵にしました」

「剣の一振りで…そんな馬鹿な!」

「俺も驚きました…もしかしたらこのルーンが関係しているのかもしれません」

 

そりゃあ驚くよな…単なる平民が、メイジが召喚したゴーレムをいとも簡単に吹き飛ばすなど、一見ありえない話だからな。

 

「次に、ルイズのスタンド、キラークイーン。人を遥かに凌駕するパワーもさることながら、最大の持ち味は3種類の『爆弾』を操る事です。1つ目は、左手で触れた物を任意のタイミングで爆破する爆弾。2つ目は、熱源を追いかけて爆発する爆弾。3つ目は、本体…ルイズの事です…を殺そうとした敵に取り付いて爆発する爆弾です」

「爆弾を操る…色々とルイズにぴったりですね…」

 

それを言わないで欲しかったな…

 

「次に、公爵様のスタンド、パープルヘイズ」

「ああ、こいつか。先の2体と比べて随分と禍々しく、野蛮な印象を与えるが…」

「パープルヘイズは、キラークイーンとほぼ同等の身体能力を持ちますが、最大の持ち味は両拳に仕込まれたカプセルに入っている殺人ウィルスです。これに一度感染すると、僅か30秒で内側から腐る形で死に至ります」

「わ、僅か30秒だと!?何というスタンドだ!」

「勿論、ウィルスは猛毒ではありますが弱点もあります。それは光に滅法弱い事です。ルイズから聞きましたが、ライトという発光体を生み出すコモン・マジックがあるそうですね。仮にカプセルが割れても、直ぐにライトを発動すれば対処は可能です」

「そ、そうか…驚かせるでない」

 

他にも『抗体』を使えば感染しても治るのだが、抗体の概念がこのハルケギニアにあるか疑問だし、下手に混乱させる訳には行かない。

…それはともかくルイズ曰く『私達に対しては親バカ』なヴァリエール公爵からは、パープルヘイズが生まれる様な要素は認められない。

フーゴは神童と言える頭脳と、暴力的な本性があったが故に生まれたのだが。

 

「次に、カリーヌさんのスタンド、ウェザーリポート」

「ウェザー…天候に関わるスタンド、という事ですか?」

「はい。ウェザーリポートは、周囲の天候と空気を操作する事が出来るスタンドです。雨を降らせたり霧を発生したり、空気の刃を作ったりと、色々な事に使えます。純粋な身体能力もキラークイーンやパープルヘイズと、ほぼ同等です」

「風の系統と通ずる所が多いですね」

 

ルイズの母であるカリーヌさん、既に50を越したとの事だが、その綺麗さは色あせておらず、その気高くもお淑やかな雰囲気とピンク色の髪も相まって流石ルイズのお母さん、という印象を与える…何だかリサリサ先生みたいだな。

そして属性は『風』のスクウェアで、30年前にはマンティコア騎士団の団長に就き、そのチートとも言える強さは今でも伝説として語られているとの事。

こっちは逆に、ウェザーリポートは正に生まれるべくして生まれたスタンドと言って良いだろう。

 

「次に、エレオノールさんのスタンド、ザ・フール」

「ちょっとどういう事よ、フールって!私が馬鹿だと言いたいの!?」

「い、いや、そのフールではありません!とある占いに使うカードの1枚に、天才や自由を暗示する絵柄があります。そのカードの名にちなんでザ・フールと名付けられているのです。ザ・フールは砂で出来たスタンドで、自由自在にその姿を変形させる事が出来ます。俊敏な動作は得意ではありませんが、どの様な形状にも再現できますよ」

「な、成程…ゴーレムに似ていますね」

 

お、おっかねぇ…ルイズの癇癪持ちはこの人譲りじゃあないか?

だがそれを含めてもやはり美人で流石に家族だなあと感じる…もう27歳で何度も婚約に失敗しているらしいが、相手の男は相当見る目が無いか我慢が足りないな。

属性は土のスクウェアらしく、こちらもまた生まれるべくして生まれたスタンドだろう。

 

「最後に、カトレアさんのスタンド、クレイジーダイヤモンド」

「ダイヤモンド…綺麗な名前ですね」

「クレイジーダイヤモンドは、キラークイーンをも上回るパワーと、シルバーチャリオッツに次ぐスピードを併せ持ちますが、最大の持ち味は、触ったものを『直す』事です。傷ついた物体や人体は勿論、バラバラになった物体の一部分に触れただけでも完全に直す事が出来ます」

「完全に直す…だと!?そしたらカトレアの病気も…」

「いえ…病気は治せません。あくまで傷付いたものを直す事が専門ですし、それに本体であるカトレアさんを直すことはそもそも出来ません」

「そ、そうか…望みが生まれたと思ったのだが…」

 

幼い頃から持病を抱え、外出はおろか城内を歩き回る事すらままならないというカトレアさん。

一応土系統の魔法は得意らしいのだが、魔法を使うにも身体への負担が大きいらしく、それを治したいという想いこそがルイズ(と、エレオノールさん)の『黄金の意志』を育んだというのは、どれだけ運命は皮肉なんだ…

とはいえカトレアさんからはそんな運命に悲観する様子は殆ど見受けられず、その柔和な雰囲気と全てを抱き留められるかの様な母性は、やはり家族だなと感じる綺麗な顔立ちと、ヴァリエール家髄一と言える爆乳とマッチして…94点のExcellentだ…!

クレイジーダイヤモンドは、彼女の優しさを体現した、ピッタリなスタンドだ。

 

「こうしてその力量を聞くと、魔法にも引けを取らない力を持っているのだな、スタンドとは」

「それに才能なき者はその姿を見る事も叶わず、欲に駆られて手を出そうとすればその欲によって身を滅ぼす…あり方こそ逆ではありますが、魔法と似た所が多いですね」

 

しかしだ、と突然立ち上がったヴァリエール公爵。

その姿からは一切の反論を許さないと言わんばかりの強烈なオーラが発せられていた…この毅然とした立ち振る舞い、貴族の、上に立つ者の鑑と言えるな。

 

「魔法と良く似たこの力、一度知ってしまえば放っておく様な存在などいまい。必ずやその力を研究し、あわよくば自分の欲の為に利用する連中が出てくるであろう。その魔の手は我らに、いやもしかしたら我らと少しでも関係がある者にも及ぶやも知れぬ。よいか皆。此度聞いた話は、一切他言はならぬ!それに、余程の事が無い限りはスタンドの存在を仄めかす様な振る舞いはならぬぞ!特にエレオノール。お前はアカデミーに籍を置く存在。仮に知られてしまったらまず真っ先にお前が研究の標的となる!殊に気を付けるのだぞ!良いな!」

「「「はい!」」」

 

ヴァリエール公爵からの警告の言葉は、それが守られなければどうなるかを、聞く人全てに思い知らせる程の重みがあった。

けれどこの時の俺達は知らなかった。

スタンド使い同士は惹かれ合う運命にあり、それはつまり、スタンド使いは生きている間、他のスタンド使いとの関わり合いが延々と続く運命にある事。

俺達しかスタンド使いがいない筈のハルケギニアであろうと、それは変わらないという事を。



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8話

ヴァリエール領でのルイズの家族(この世界のスタンド使い)との初対面…それを終えた才人とルイズは…何故かトリスティンの城下町にいた。何故なら…


空が、夕焼け独特のオレンジ色に染まるまであと少しと言えるこの時間、俺達はトリスティンの城下町に寄り道していた。

というのも、

 

「折角だから城下町に寄り道してアンタ用の剣を買うわよ」

 

というルイズの一言からだ。

何でまた急に、と一瞬思ったが、

 

「シルバーチャリオッツは剣を使うスタンドでしょ?本体のアンタが剣を使わなかったら恰好が付かないわ」

 

と、その理由を言われて納得した…ポルナレフもアヌビスを使っていた(正確には操られていた)時があったし、持っていて損になる事は無いだろう。

…それにしても、

 

「これで大通りか…結構狭いんだな…」

「これで狭いの?アンタの世界って、どれだけ道広いのよ?」

 

トリスティンの城下町でも特に大きい区画らしいブルドンネ街に来ていた俺達だが、その道幅は大通りと言うには明らかに狭かった。

目測だと大体5m位か…俺の世界なら大通りと言うより古き良き商店街、の方がしっくり来るな。

 

「そうだな…大通りと言える道は大体20メイルは下らないな。中には44メイルの所もある」

「は、はぁ!?いや本当にどれだけ道広いの!?」

 

メイル、というのは此処ハルケギニアでの長さの単位だ。

ただ呼び方が変わっただけで、実質的にメートルと変わらない。

他にもより細かいサントという単位もあるが、それもセンチメートルと一緒だ。

キロメートル?…それは分からねえな。

 

「まあ、それは置いて…それより、財布はちゃんとあるわよね?まさか取られていない?流石のアンタも魔法を使われたら一発なんだから、そこ気を付けなさいよ」

 

俺の世界の道路事情に驚愕していたが直ぐに正気に戻ったルイズからの忠告が、俺は少し気になった。

この世界ではメイジ=貴族だった筈、その貴族がスリだと…?

それが本当なら、貴族の風上にも置けない奴だ…貴族の誇りが、『黄金の意志』が無いのかっ!

 

「待てルイズ、魔法を使うのはメイジだけの筈。そのメイジが窃盗に魔法を使うだと?」

「メイジにも色々あるのよ。何か罪を犯したり、家の事情で追い出されたりして、平民に落とされた貴族がいるの。平民メイジという存在で、傭兵とか犯罪者になったりするのよ」

 

その反感からルイズに聞いてみたが、どうやら貴族といえど皆が皆、ルイズ達ヴァリエール家の様に貴族である事の誇りや責任を感じている訳では無い様だ。

その成れの果てが、あんな罵声を平気で浴びせるルイズの同級生であり、平民メイジなのだろう。

どの世界でも、『腐敗社会』の言葉は付き纏うのか…殊にこのハルケギニアは、今の様な社会が形成されてからもう6000年も経過してしまっている…それも必然なのかもしれない。

 

「まあともかく分かった、気を付ける…ところで、武器屋はどの辺なんだ?」

「えーと…ピエモンの秘薬屋があそこだから…あった、あそこよ」

 

ルイズが指差した先には、剣が交差して描かれている看板が立て掛けられた、いかにもな店があった。

ルイズ達貴族はともかく平民は読み書きを教わる機会が少ないらしく、それに配慮しているのだろうが…いかにも過ぎる、ドラクエの世界か此処は?

 

「貴族の旦那、ウチは真っ当な商売をしていまして、目を付けられる様な事は決してs」

「何を勘違いしているの、客よ」

「ほう、こりゃあ驚いた、貴族が剣を!坊主は聖具を、兵隊は剣を、貴族は杖を、そして国王陛下はバルコニーからお手をお振りになるのが相場だというのに!」

「話は最後まで聞きなさい、使うのは私じゃなくて、コイツ。私の使い魔よ」

「忘れておりました。昨今は貴族の使い魔も剣を振るうそうです」

 

…胡散臭いな。

裏通りに位置する立地、質素を通り越して少しボロくなっている店の建付け、やや雑多に並べられた武器の数々、そして調子の良い問答の店主…何から何まで胡散臭すぎる。

こういうタイプの店は大概ぼったくり価格で売り付けたりするのだが、一方で物凄い掘り出し物が見つかるかもしれないケースもあるから始末が悪い。

…特にルイズは買い物のかの字も知らなさそうだし向こうもそう見るだろう、俺が気を付けないと前者になりかねないな。

 

「レイピアみたいな物は無いか?無ければ片刃の剣を頼む」

「はい、ただいま」

 

なるべく俺が交渉役となる様仕向けなければと判断し、切り出す。

対応した店主が奥に入って1分後に持ってきたのは、全体に装飾が施されたレイピアだった。

 

「従者様のご要望の物で一番と考えますが…これはどうですかね?」

「へえ、綺麗な剣ね。でも大分細いわね、折れちゃいそうだわ」

 

確かに俺の要望と大分ピッタリだが…ルイズの言う通り、耐久性に問題ありそうだ。

装飾が柄や鍔といった強度的に問題が無い部分までなら気にしなくても良かったのだが、刀身全体にまで及んでしまっている。

彫り込むタイプであれば強度が失われてしまうし、上乗せするタイプだと重量バランスが崩れてしまう。

装飾剣としてならば問題は無いのだろうが…正直俺好みじゃあ無いな。

…そもそもレイピアにそれを求めるな、という突っ込みは勘弁してくれ。

シルバーチャリオッツの戦闘スタイル上、これが一番イメトレしやすいんだ。

 

「実はですね、それは最近、貴族様に人気の剣でございます」

「貴族に人気?それはどういうこと?」

「最近、城下町を盗賊が荒らしまわっておりまして、万が一の防衛の為に宮廷の貴族の方々の間で下僕に剣を持たせるのが流行っておりましてね。その際にお選びになるのがこの様な綺麗な剣でして」

「へぇ…」

 

仮にそうなっても一撃必殺位にしか使えないと思う…ただ見た目は良いので体面を保つのには最適だな。

 

「駄目だな、強度が足りなさそうだ。装飾とかはともかく、強度的に酷使に耐え得る物が良い」

「へへぇ、それなら…」

 

そう言って再び奥に入って1分後に持ってきたのは、

 

「これなんてどうですかい?この店一番の業物でして。従者様の要望には少し外れますがね」

「うん!やっぱりこういうのよ!」

 

何て言うか…全体的に宝石が散りばめられた両手剣だった。

 

「コイツを作り上げたのはかの有名なゲルマニアのメイジ、シュペー卿でして、刀身には固定化の魔法も掛かっておりやすんで、従者様の期待にも十分応えてくれる代物ですぜ!」

 

固定化が掛かっているのか…確かルイズの話だと、固定化が掛かった物体はその状態を維持し続けるんだとか…つまり剣なら割れたり錆びたりしにくくなる、という訳だな。

装飾剣としても見栄えはする…所謂クレイモアに近い形状なのが残念だが。

 

「で…幾らなんだ?」

「これ位上等な物ですからねぇ、2000エキューで。新金貨でしたら3000枚ですかね」

「随分高いわね。立派な家と、森付きの庭が買えるじゃないの。もう少し安くならないの?」

「勘弁してくだせぇ。こればっかりは売上にアカがついちまいますぜ」

 

「はっ!少しばかり目が利くじゃあねぇかとちょっぴり期待した俺の馬鹿っ!そんな安物に引っかかる奴だったとは見損なったぜっ!」

 

な、なんだ、急に男の怒鳴り声がっ!

その声のした方向に俺とルイズは振り向くも、そこには雑多に置かれた剣の数々だけが…まさかっ!

 

「おい…そんな所に隠れて随分と器用だなてめー。俺に怒鳴るとは、喧嘩でも吹っ掛ける積もりか?」

 

普通なら隠れる事など不可能に近いスペースしかないその剣の数々。

だが、ハングドマンやマン・イン・ザ・ミラー等、スタンドの中には物体に潜り込める能力を持つ奴だっている。

似た様な性質のある魔法でも、それは不可能ではない筈だ。

声の主は、恐らくそれを使ってこの剣のどれかに潜り込み、入って来た奴に夜襲をしでかすつもりかも知れねぇ。

だがああも堂々と存在を見せつける行為をするとは、余程自分の腕に自信があり、それを以て俺に決闘でも挑みたい心かもな。

その勝負…乗ってやろうじゃあないかっ!

 

「おい、どの剣に潜んでやがるっ!何時までも隠れてないで、さっさと出て来やがれっ!」

「おいおい、そう急くなよ、俺は此処だ。そして俺は隠れるつもりなんざ無いぜ?」

「これか?これが…お前か?」

「おぅ。しかし随分と早く見つけたもんだ。さっきまでは見損なっていたが、案外捨てた物じゃあねぇな、アンタ」

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

俺は剣の中に潜んでいるであろう奴を手あたり次第に探していたら、見つけたのは『喋る』剣だった。

な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

アヌビスだとかハングドマンだとか、そんなチャチなもんじゃ、断じてねぇ。

もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ…!

 

「それ、インテリジェンスソード?へぇ、珍しい物を置いているわね」

「へぇ、いかにもそいつは意思を持つ剣、インテリジェンスソードでさ。剣に意思を持たせるなんざ、一体誰が考え出したんでしょうかねぇ。こらデル公、お客様に失礼な口聞いてんじゃあねぇ!」

「はっ、本当の事を言っただけだぜ?」

 

意思を持った剣…か、流石は魔法が世界の根幹を担う世界、グレードだぜ…

それによく見れば片刃で、刃渡り120cm位か…反りはそんなに無い様だが、所謂野太刀みたいな感じだ。

所々、いや全体的に錆びは浮いていてボロボロな印象を与えるが、造りはしっかりしている様でその武器としての威圧感は中々の物だ。

レイピアでは無かったがそれでも、俺の所望とピッタリだ…が、

 

「ん、おめぇさん、『使い手』か?それにおめぇさんの後ろにいる銀のk」

「よしルイズ、これにしよう(ルイズ!コイツ、スタンドが見えているぞっ!)」

「それが良いの?…まあ良いわ(は、はぁ!?嘘でしょ!?直ぐに口封じしないと!)」

「店主、コイツの値打ちは?…ああ、そうそう、その前に静かにさせねぇと値打ちが聞こえねぇ。黙らせる方法は無いか?」

「あ、はい。コイツは鞘付きでして、入れて置けば静かになりやす」

「お、おいおめぇさん!無視してないで俺の質問にk」

 

チン!

 

危なかった…昼頃にヴァリエール公爵からスタンドが知れ渡ってはならんと言われたばっかりだと言うのに、早速バレる所だったぜ…何としても確保しとかねぇと…

 

「そいで、値段ですね。ソイツなら100エキューで十分でさぁ」

「100エキューね」

 

丁度100エキューが手元にあった為、難なく購入(かくほ)出来た。

…まあ正直な事を言えば俺達からぼったくろうとした事が許せなかった為、脅迫紛いに交渉しようかとも考えたが、売らねぇよと言われたらアウトだ、此処ばかりは下手に出るしかねぇ。

 

「マジックアイテムの類だから、魔力に似た力で構成されるスタンドが見えていたのね…危なかった…」

「本当だぜ…だがその為に100エキューも使わせちまったな…悪い…」

「別に良いわよ、一応は剣を手に入れたんだし…でもこんなボロ剣だと使い物になるのかしら…」

 

本人が口を利けない状態であるのを良いことに、ボロクソに言いまくる俺達。

でもよくよく考えたら、これは案外掘り出し物かも知れない。

まず、意思を持っていて、喋るという点。

スタンドの中にはスパイスガールやエコーズのACT3、セックスピストルズの様に本体とは独立した意思を持ち、且つ喋る事が出来る奴が存在する。

それらに共通する長所は、本体の良い話し相手となり、精神的な成長を促す事。

戦闘面でも3人寄れば文殊の知恵、では無いが本体が行動する上で重要なサポーターになる事だ。

次に剣その物。

柄も含めると150cmもあるその図体に違わずかなりの重量があり、背中に背負っていても結構な重さを感じる。

この重さという点は『素早い剣捌きが出来ない』という短所がある一方で『重量を活かした強引な叩き切りが出来る』という長所にもなる。

シルバーチャリオッツの得物はレイピア、突き刺しや斬り裂きは出来ても、そこは専門分野ではなく、カバーする上でもベストマッチしている。

錆びついているのはマイナスだが、こういう使い方なら大したハンデにならない。

それに…コイツが俺を『使い手』と言っていた事。

初対面である筈の俺をいきなり『使い手』と、まるで見知った様な呼び方をしていた。

つまり、コイツと俺…いや、俺に近しい存在とかつて密接な関係があった事を暗示していると思う。

何が言いたいのかと言われるとそれは、俺がこの世界に来た理由を見つける上で重要であるかもしれないという事であり、

 

ルイズが果たして、どんな才能を持ったメイジなのか、を知る上でも重要かもしれないのだ。

 

と、1人この剣について評価を下していると、

 

「つ、ツェルプストー!?それに、ミス・タバサも!?」

 

隣のルイズの驚きの声に即座にその視線の先に振り向く、と、そこには、

 

「ヴァリエール…それにサイトも…良かったわ、話があるの…」

 

何やら憔悴しきった顔のキュルケと、タバサと呼ばれた水色の髪の、ルイズ達の同級生がいた。



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9話

城下町にてデルフリンガーを購入した才人達。さあこれから学院に戻ろう、という時に鉢合わせたキュルケとタバサ。彼女たちは、一体…?※キュルケ救済(?)回です。


「用があるならさっさとしなさいよね、ツェルプストー。私達は馬で来たから早く帰らないといけないんだけど」

「…」

 

ルイズの棘のある催促にも黙りこくったままのキュルケ、その顔は何処か思い詰めた様子が伺える。

…やれやれだ、てっきりあんなボロクソに言われて可愛さ余って憎さ百倍、ではないが反感募らせて襲撃を企てて来るかと思ったが、やけにしおらしい。

何時もの彼女を知る奴がいたら目を疑いそうだ、俺も少し戸惑っている。

 

「…私、貴方達に謝らないといけないわ」

「は、はぁ!?どういう風の吹き回しよ、アンタ?」

 

そしてその末に今の様な謝罪の言葉が出たら絶対に驚愕するに違いない…実際にルイズは素っ頓狂な声を上げている。

だがそれを意に介す事無くキュルケは言葉を繋げる。

 

「昨日の決闘での姿でサイトに一目惚れして、彼をその気にさせようと、帰って来た所を狙って誘惑していたの。けど余りにつれない態度に想いがヒートアップして、何が何でも気を引きたいってアプローチを激しくして、思わずルイズへの悪口が出たわ…そしたらサイトは、物凄い怒りを見せて私を罵倒したの…『女として最低』『ツェルプストー家は糞貴族』ってね…凄いショックだったわ。今まで恋敵の女に罵倒されたり、襲撃されて返り討ちにしたり、公の場で裸に剥かれたりした事はあったわ…けれど、惚れた男にあそこまで罵倒されるのは初めてだった。原因は直ぐに思い当ったわ…私がルイズの悪口を言って、それでサイトの怒りを買った…私がアプローチしても常に使い魔としての役目しか口に出さなかったし、ギーシュが『ゼロのルイズ』と言った瞬間に怒鳴り散らしていたし、そこに辿り着くのも簡単だったわ。簡単だったけど…納得は出来なかった。そもそもあの時『男っ気が無い』と言っただけで『ゼロのルイズ』とは一言も言ってなかった。それに他の連中は絶対に侮辱の意味を込めて言うだろうけれど、私は口にするにしてもそんなつもりは微塵も無かったわ。ただちょっとからかいたかっただけ。あそこまで怒らせるとは全く想像してなかったわ。考えているうちに訳が分からなくなって、朝になったら問い詰めようと思ったけど、もう夜明けには用事で学院を出た後だった。案外、タバサならアドバイスくれるかなと思って、朝食の後に昨日の事を話して聞いてみたの。私の何がいけないのって。そしたら言われたわ…皆が皆、そう受け止めるとは限らない。彼は典型的なその『受け止めない、受け止められない』タイプ…てね。タバサから聞いたわ…昨日の爆発の後片付けの時、ルイズを激励していたのよね。タバサも微かにしか聞こえていなかったけど、ルイズには『黄金の精神』があるとか何とか言っていたじゃない。よく分からないけど、それこそサイトがルイズを慕う理由かも知れなくて、それを侮辱される事を、例えそんなつもりじゃなくても何より嫌っているみたいだって、指摘されたわ。そしたら私は何て最低な女なんだって…あそこまで罵倒されても仕方がないって思い知らされたわ。そして、どうしても謝りたくて、もしかしたら城下町にも来るんじゃないかって思い当って、ずっと待っていたの」

 

…やれやれだ、余程甘やかされて育ってきた様だな…俺にあそこまでボロクソに罵倒されるまでそれに気が付かないとはな…尤も、この社会ではそれも仕方の無い事かもな。

 

「御免なさい…私、貴方達の気も知らないで今まで酷い事をしてきたわ。今更謝って許される事じゃないのは分かっているわ。特にルイズは、両家の因縁もあるし。でも、それでも謝らせて欲しいわ。本当に、御免なさい」

「…ルイズ、こう言っているみたいだが、どうする?」

「…」

 

今まで、といっても俺がキュルケに会ったのは昨日だ。

俺がコイツへ抱く反感は、ルイズを自覚が無いまま傷つけた事、それに尽きる。

つまり俺に謝られても、ルイズが嫌だと言えば許し様が無い。

…逆に言えば、ルイズがうんと言えば俺も許すつもりである訳だが。

 

「…謝るなんて、アンタらしくないわね、ツェルプストー。明日はウィンディ・アイシクルでも振って来るんじゃないかしら?分かったなら何時も通りにしてなさい、良いわね」

 

…ルイズの返答は皮肉だらけであったが、遠回しに、彼女を許すと言っている様だ。

なら俺も彼女をとかく言うつもりはない。

 

「…分かったわ、ルイズ。それとサイト…1つ聞かせてくれるかしら?貴方が言っていた『黄金の精神』って、一体何?ルイズが持っていて、貴方を引き付けるそれって、一体何なの?」

 

謝罪から間髪置かずに俺に問いかけるキュルケ、その目はさっきの憔悴が嘘の様にキラキラという擬音が聞こえてきそうな、真剣な物だった。

…話すべきかな、俺が異世界の人間だって事を、俺を此処まで育ててくれた『ジョジョ』を。

ルイズに目線で指示を仰ぐが、彼女もまた気になっていたのか、同じくキラキラな目だった。

…まあ、良いか。

 

「まず、ルイズやヴァリエール家の人達には伝えてあるが…俺はこのハルケギニアの人間ではない」

「ハルケギニアの…?どういう事?」

「…遥か東方…ロバ・アル・カイリエの人間という事?」

「いや、遥か遠く…という意味とは少し違う。月がたった1つ、白い物しか無かったり、魔法の存在自体が現実に無かったり…ハルケギニアとは全然違う、所謂異世界から俺はルイズによって召喚されたんだ」

「月が1つだけで、魔法の存在自体無い…!?嘘でしょ…?」

「あたしも最初聞いた時には信じられなかったわよ。でも(スタンドについての)話を聞いて納得したわ」

「…それに彼の服装は、ハルケギニアではまず見られない…その考えに至るのも可笑しくは無い」

「元いた世界では俺はルイズ達の様に学生だったんだが、まあその話は後な。で、その世界には、俺にとって恩師といえる存在がいた。『ジョジョ』という渾名で呼ばれた、何人もの戦士達だ」

 

といっても現実の話では無い、漫画の中の存在だ(だから間接的・現実的に言えば俺の恩師はジョジョの作者である荒木比呂彦先生なのだが)。

だがジョジョの単行本の数々は、俺にとっては下手な道徳の教科書よりも為になり、いつしか俺にとって人生のバイブルになっていた。

そしてその主人公であるジョナサン・ジョースター、その孫のジョセフ・ジョースター、更にその孫の空条承太郎、ジョセフの年の離れた息子の東方仗助、ジョナサンの身体を乗っ取ったディオの息子のジョルノ・ジョバァーナ、承太郎の娘の空条徐倫、パラレルの世界のジョナサンであるジョニィ・ジョースターといった『ジョジョ』達や、彼らと共に冒険し、戦いを繰り広げた仲間達に憧れ、名言の一つ一つに感銘を受けた…良くTVに出ている政治家とか起業家とかが、好きな歴史上の人物を答えたりそれに関するエピソードを答えたりするが、俺にとってのジョジョは、正にそれだ。

今思えば俺、平賀才人を平賀才人たらしめる物の9割はジョジョだと思う。

前いた世界では俺の性格を『ジョナサンの純粋さ、ジョセフのコミカルさ、承太郎のクールさ、仗助の熱さを合わせた感じ』と、同じくジョジョ好きのクラスメートが言っていた事も、それを裏付けていると考えている。

 

「ジョジョ達は常に、大切な存在を想い、周囲を想い、どんな苦難にも逃げずに向き合い、真正面から立ち向かった…これこそが『黄金の精神』だと、俺は思っている。そしてルイズ達ヴァリエール家の皆からも、それを感じ取れた…これこそ俺がルイズを主人として慕う訳であり…ルイズが侮辱されれば我慢ならなくなる最大の理由だ」

「『黄金の精神』…それが、私に…?」

「良く…分からないわ…でも、ルイズをそこまで慕う理由だけなら分かるわ」

「我慢ならなくなる訳も。彼女への侮辱は恩師への侮辱も同じ、という事」

 

恩師を敬う事の大切さ、これもその恩師の1人である仗助から学んだ事だ。

幼い頃、ディオ(ジョナサンの身体を乗っ取っていた)のスタンド覚醒に伴う体調不良の際に助けてくれたリーゼントの学生…その出会いこそが仗助を仗助たらしめている物だ。

その象徴であるリーゼントを侮辱する事は仗助にとって恩師を侮辱すると同じで、自らの人格否定、人生の否定でもある。

今の俺なら、ルイズを侮辱するのはジョジョを侮辱するのと同じ…という事だ。

 

「…私、貴方が言う『黄金の精神』がどんな物かは良く分からないけど…いつかは分かりたい、私の物としたいわ!そして何時かは貴方の気を引かせるに相応しい女になって見せる!それまで待っていて!」

「は、はぁ!?立ち直った途端、結局はそうなるのこの色ボケツェルプストー!」

「ルイズ…サイトを此処まで慕わせる貴方をもう下に見るのは止めるわ。これからはこの恋における最大のライバルと見なすわよ!覚悟しなさい!」

「こ、恋って、だから何を言っているのよアンタはぁ!」

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

俺は俺の思いを全て打ち明けたら、何時の間にか修羅場になっていた。

な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

SchoolDaysだとかShuffleだとか、そんなチャチなもんじゃ、断じて(ry

 

------------

 

そんな修羅場もあって、俺達が学院へと戻れたのはもう日が暮れてしまった後だった…が、

 

ドォォォォォォォォン!

 

「今の音…何だ?」

 

ハルケギニアに来て最初の虚無の曜日は、まだ終わって無かった。



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10話

ルイズの家族のスタンド使いとしての覚醒、デルフリンガーとの出会い、キュルケの突然の謝罪と決意表明等、才人の最初の『虚無の曜日』はイベント続きだった。しかし、まだ終わっていない…!


「ルイズ、あれもゴーレムかっ!?ていうかデカ過ぎるんですけどぉ!?」

「あの大きすぎる土で出来たゴーレム…まさか、土くれのフーケ!?」

 

本塔の裏手側にある中庭で俺達が目にしたのは、その本塔に匹敵するデカさの土製のゴーレムだった。

先程俺が微かに聞いた轟音は、このゴーレムが塔の壁をぶん殴る音みたいだ。

だがこんな夜更けに何でこんな大掛かりな騒ぎを…!

 

「ルイズ、確か土くれのフーケって、最近トリスティンを荒らしまわっている泥棒の事かっ!?」

「え、ええ、そうよ!でも何で堂々と此処に…!まさかっ!?」

 

土くれのフーケ。

このトリスティンの貴族の屋敷等を襲う神出鬼没の大泥棒らしい。

どんなに強固な防壁も錬金によって脆く崩れ去り、固定化が掛かっていようと30メートルものデカさを誇る土のゴーレムによる力技で押し通す。

そして潜入したら真っ先に価値の高いマジックアイテムを盗み、「○○、確かに頂戴いたしました 土くれのフーケ」というメッセージを残して去っていく。

その手口から土のメイジ、そしてスクウェアにも匹敵するんじゃあないかっ!?という位の実力を誇る手練れだと推測できる。

さっきあのボロい大剣(デルフリンガーとかいう名前らしい)を買った際にも、盗賊が出没するとか言っていたが十中八九、土くれのフーケの事だろう…メイジ、それもスクウェア相当の手練れ相手に普通の剣で対抗するというのは甘く考え抜き過ぎじゃあないか?

ともかく、そんな大泥棒がこの学院に大胆にも力技で押し入ろうとしているという事は…!

 

「ルイズっ!あのゴーレムがぶん殴っている所に何かあるのかっ!?」

「あそこは宝物庫よ!あそこには沢山のマジックアイテムや歴史的な文化財が入っているの!きっとフーケはそれを狙っているんだわ!止めないとっ!」

「マジかっ!て、お、おいルイズっ!?」

 

言うが早いか、ルイズは杖を手にフーケのゴーレムへと突っ走って行った…おい、無謀過ぎるだろっ!

 

「な、何を考えているんだルイズ!危ないだろっ!」

「迷っている暇は無いわ!土くれのフーケはあたし達が捕まえて見せるっ!」

「無茶が過ぎるだろ!相手はスクウェア相当じゃあないかっ!?ていう程の手練れだぞっ!少なくとも人を連れてこないと返り討ちにされるっ!」

「人を呼んでいる間に逃げられるわ!私達2人で捕まえて見せるのよ!」

 

言うと同時に俺を振り切り、ルイズは再び突っ走って行く…あぁ、仕方無いな全くっ!

ルイズを放っておけず、俺も向かう事にしたが…どうする、噂によればフーケのゴーレムは30メートル位で、今目にしているのも同じ程度、更にそれを操るフーケらしき人物は肩に乗っかっている。

此処からじゃあシルバーチャリオッツでは明らかに届かない…一応とっておき(ラストショット)はあるが、まだ1回も試していないし、おまけに夜中では狙いが定まらない…ゴーレムの腕伝いに斬りかかるか?

いや、それは危険度が高すぎる、いくらルーンによる身体強化の恩恵があれど腕に飛び乗れる位のジャンプ力までは期待出来ないし、そもそも警戒されて腕に乗れないだろう。

どうする、どうする俺…!

 

「ファイヤー・ボール!」

 

ぼごぉん!

 

ゴーレムの近くに到着した俺が最初に見たのは…魔法を詠唱する『フリ』をして、キラークイーンにドロップキックをさせているルイズの姿だった。

流石にパワーは十分だったキラークイーン、ゴーレムの左太腿に当たる部分にデカい風穴を開けたのは良かったのだが、直ぐに散った土が集まって修復されてしまう…回復力も尋常じゃあないのかっ!

 

「だったらそこよっ!ファイヤー・ボール!」

 

キラークイーンのパワーを以てしても効果が薄いと分かるや否や、今度は『本当に』詠唱しつつ、左手を突き出していた…!

そうか、あの爆発魔法でフーケの周囲に『熱源』を作り、そこにシアーハートアタックをぶち込むって算段かっ!

流石だぜルイズ、ほぼ無謀に近い状況下でも逃げず、勝つ為の道を見つけ出す…正に『黄金の精神』を体現しているぜっ!

 

ドォォォォォォォォン!

 

「行っけぇぇぇぇぇ!」

 

ヒュン!

 

爆発魔法の発動から間髪置かずにシアーハートアタックを発射するルイズだった…が、

 

「ファイヤー・ボール!」

 

ドォォォォォォォォン!

 

「「え…?」」

 

突如現れた第三者が放った火の玉と、それに釣られたシアーハートアタックが相殺してしまった。

 

ドゴォン!

 

悪い事は続く。

殴打の嵐に耐えきれなくなったのか、宝物庫の壁がとうとう壊れてしまい、フーケの侵入を許してしまった。

これは、まずいな…

 

「きゅ、キュルケ!?それにミス・タバサも!?」

「貴方達の戻りが遅いから様子を見て来たけど…まさかフーケが学院に…」

「狙いは宝物庫のマジックアイテム。出て来る所を狙い撃t」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 

「く、崩れるぞっ!離れろ!」

「なっ!?きゃぁ!」

 

どごぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!

 

更に続く。

先程の火の玉を放った主であるキュルケとタバサと合流したのもつかの間、フーケのゴーレムが突如崩れたのだ。

 

「けほっけほっ!だ、大丈夫か、皆?」

「え、ええ…寸での所で逃がすなんて…」

 

土煙が晴れると、ルイズが言った通りそこにはフーケの姿は無かった…逃げられたか…!

 

------------

 

土くれのフーケが学院の宝物庫に侵入し『破壊の杖』というマジックアイテムを盗み出した。

そのニュースは瞬く間に学院中に伝わり、翌朝には大変な騒ぎになっていた。

で、その様子を目撃していた俺達4人が事情聴取の為に学院長室に呼ばれた訳だが…入って来た時には教師陣による責任の擦り付け合いが繰り広げられていた。

やり玉に上がっていたのが一昨日の授業の担当だった教師シュヴルーズで、どうやら昨日の当直だったらしいが…その様子を見るに殆どの教師が当直をサボるのが当たり前だった様だ。

その場はオールド・オスマンと呼ばれた学院長…長い白鬚と白髪で、所謂賢者と言える見た目をしたじいさんだった…によって一喝されて治まったが、物凄く見苦しい…こんな連中がヴァリエール家の方達と同じ貴族だというのが信じられない…養豚場の豚の騒ぎの方がまだ聞くに堪えられるという物だ。

 

「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」

「この『3人』です」

 

…俺は入っていない訳ね、まあ良いが。

教師コルベールの紹介に促される様に、ルイズはその時の様子を説明した。

まあ多少は掻い摘んで(主にスタンドで攻撃した部分)の物だったが、十分伝わっただろう。

 

「そういえばミス・ロングビルの姿が見当たらないのう。一体どうした事じゃ」

「そ、そういえば朝から姿が見えませんな…」

「失礼します!」

「ミス・ロングビル!何をしていたのだね!この緊急事態に!」

 

ふと学院長の秘書らしいミス・ロングビルと呼ばれた存在の姿が無い事が話題になるも、それを見越したかの様に1人の女性…緑色のセミロング、黒いスーツを身に纏ったキツめの美人といった容貌だった…が入って来る。

 

「申し訳ありません。その件について独自に調査していたもので」

「調査をしていた?仕事が早いのう。それで結果は?」

「はい、フーケの居場所が分かりました」

 

!…トリスティン中の貴族の屋敷を荒らしまわる稀代の大盗賊をあっさり見つけ出した、だと?…本当なら只者どころの話じゃあねぇな、『本当』なら。

 

「本当かの、それは?どうやって突き止めたのかね?」

「近くに住んでいる農民から聞き取りを行った所、近くにある森の廃屋に入って行った黒ずくめのローブの男を見たそうです。恐らく彼こそがフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」

「黒ずくめのローブ?それこそフーケです!間違いありません!」

 

…随分とまあ突っ込み所満載だな、秘書ロングビルの情報も、それに簡単に釣られる教師陣も。

だが『平民』扱いの俺が突っ込んでも誰も聞きゃあしないだろうし、下手に口出しして睨まれれば、とばっちりを食うのは主人であるルイズだ…黙っておくか。

 

「そこは近いのかね?」

「はい。馬を飛ばせば大体4時間といった所です」

「直ぐにでも王宮に報告を!」

「ミスタ・コルベール、王宮に知らせる時間は無い。その間にフーケに逃げられれば事じゃ。故にこの件は我々魔法学院の者だけで解決する!」

 

…こりゃあまた物凄くストレートに事が運ぶな、まるでパーマンみたいな子供向けのヒーロー漫画だ。

此処まで筋書通り過ぎる上に誰も突っ込まないとか…此処の教師は貴族として持つべき誇りも締めるべき頭のネジすらも無いのか、それとも…

 

「それでは捜索隊を結成する。我こそはと思う者は、杖を掲げよ!」

 

…と思ったが、最低限は締められていたのか、オールド・オスマンの志願を募る一声にノリと勢いで杖を掲げるのは誰一人いなかった…いや、この場合は腰抜けなだけ、か?

 

「おや、どうした?おらんのか!?我こそがフーケを捕まえ、名を上げようと思わんのか!?」

 

煽る様な一喝にも杖を掲げるのは誰1人…いた、それも俺の中で一番上げるだろうなと思った存在が。

 

「ミス・ヴァリエール!貴方は生徒ではありませんか!」

「誰も掲げないではありませんか!」

 

ルイズだ。

それに反応した教師シュヴルーズが諌めようと声を荒げるが、毅然とした様子で放たれたルイズの反論に只々押し黙るだけだった…そんなKYな突っ込みする位なら最初から立候補しろよ。

とはいえルイズが上げたのなら、といったドミノ倒しの様に、

 

「ミス・ツェルプストー!君まで!」

「ヴァリエールには負けてられませんわ!」

 

キュルケも掲げた…昨日の凛としたルイズへの宣戦布告は一時の物では無い様だな…その切っ掛けが俺なのは複雑な気分だが。

そして更に、

 

「タバサ?貴方は良いのよ?関係ないのだから」

「心配」

 

タバサもまた、杖を掲げた…心配なのは恐らくキュルケの事だろう、2人は親友らしいからな。

 

「オールド・オスマン!彼女達は生徒です!学院として生徒を危険な目に晒す訳にはいきません!」

「では君達が行くかね?」

「い、いえ、体調が優れないので…」

 

尚も食って掛かる教師陣だが、オールド・オスマンの突っ込みに直ぐ尻込みしてしまった…やっぱり、腰抜けだったか、はぁ…

 

「彼女達は敵を、フーケを見ている。それにミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士だと聞いておるが?」

「本当なの、タバサ?何で今まで黙っていたの?」

「騒がしくなる」

 

シュヴァリエというのは王室から与えられる称号の1つで、一言で言えばメイジとしての実力を評価されると与えられる物らしい。

学生で既に持っているのは極めて珍しいのか、教師陣やキュルケの驚き振りが相当な物だった。

…ルイズよりも年下に見える(けれど同学年)身で、既に国から一目置かれている実力…人は見かけによらないとは、正にこの事だな。

 

「ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も強力だと聞いているが?」

 

…余り気分の良い話では無いが、トリスティン王家とも繋がるヴァリエール家と先祖代々(色んな意味で)ドンパチし合う家柄なのだ、並外れた名門で無ければ今頃は既にお家断絶している筈である。

 

「ミス・ヴァリエールは…トリスティン王家にも繋がるヴァリエール公爵家の息女で、将来有望なメイジと聞いておる。その使い魔は、平民でありながらもグラモン元帥の息子であるギーシュ・ド・グラモンと決闘し、素手だけで圧倒したという噂だが」

 

あァんまりだァァ!HEEEYYYY!るるルイズゥゥゥのォォォォ紹介がァァァァァ!

 

「そうですぞ!何せ彼はガンd」

「ミスタ・コルベール!」

 

…ん?何か教師コルベールが言いかけたな?

ガン…?ガン…ダム?ガン…スリンガー?ガン…スパイク?

 

「魔法学院は、諸君らの努力と貴族の義務に期待する。是非ともフーケを生け捕りにして見せるのじゃ!」

「「「杖にかけて!」」」

 

…勿論、ルイズが行くと言うのなら使い魔である俺も当然行くし、捕まえて見せる。

そう心に誓い、ルイズ達が杖を掲げたのと同時に、背負っていたデルフリンガーの鯉口を切った…日本刀ではないのでこの表現は少し可笑しいか?



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11話

学院内に『土くれのフーケ』が侵入したっ!才人とルイズはこれを止めようとするも、マジックアイテム『破壊の杖』は盗まれ、逃げられてしまう。そして翌朝に結成される捜索隊に加わる才人とルイズ達…もう、逃がしはしないっ!


俺とルイズ、キュルケとタバサ、そしてロングビルの5人…そう、土くれのフーケを確保する為に派遣された面々…は、奴が潜伏していたであろう森の廃屋に、屋根無しの馬車で向かっていた。

中々のチョイスである…其々馬に乗って、でははぐれる面子が出かねないし、同じ馬車でも屋根付きだと奇襲の際に咄嗟の行動が取れないからな。

…それにしてもこの女、妙に違和感があるなぁ…さっきの言動といい、オールド・オスマン付きの秘書というそれなりに責任の重いポジションに就いているのに今こうして手綱を握っている…確か日本の自動車による送迎の場合、運転手は立場的に一番下の奴が務めるべきだった筈だし、馬車も違わねぇ筈だが…

 

「ミス・ロングビル、手綱なんて付き人にやらせれば良いじゃないですか」

「良いのです、私は貴族の名を無くした者ですから」

 

同じ事をキュルケも思っていたのか疑問を投げ掛けるも…その返答は余りに意外、それは『貴族では無くなった』!

…イマイチ底が知れねぇ所はあるがそれでも重罪を平気で犯すような破綻振りは微塵も感じられねぇし、もしさっき言っていた事が本当であればその能力は物凄く高いと推測出来る…尤もそうで無ければオールド・オスマン付きの秘書になどなれる筈も無いっ!

…貴族の座を追いやられる様な存在では決してありえない筈なのだ。

 

「え?だって貴方はオールド・オスマン付きの秘書なのでしょう?」

「ええ。ですがオールド・オスマンは貴族や平民だという事に余りこだわりを持たないお方なので」

「差し支えなければ、事情をお聞かせ願いたいわ」

「やめときな、キュルケ」

 

謎が深まるばっかりだったが、今ロングビルの素性をあれこれ考えても仕方ない、今は土くれのフーケを確保する事が先決なのだ。

それに…あそこまで有能だろうロングビルが追い出される等、相当な事だ。

そう思い、俺はそれを聞き出そうとするキュルケを止める。

 

「昔の事を根掘り葉掘り聞く物じゃあ無いぜ?人には1つや2つ、トラウマがあるもんだ」

「あらダーリン。暇だからお話しようと思っただけよ?」

「…俺はお前をハニーと呼んだ覚えは微塵もねえし、今現在は呼ぶ様な存在じゃあねぇ。そんな存在になりてぇなら…自分の言動1つ1つが誰かを知らねぇ内に傷つけているという事を自覚しな」

「わ…分かったわ、気を付ける」

「ちょっとサイト、何キュルケと気軽に話しているのよ!キュルケも私の使い魔が何ですってぇ!?」

「想い人よ、悪い?まだ私の片思い中ですけどね」

「ちょっと注意しただけだ…あ、そうだルイズ」

「な、何よ?」

「…ちょっと話がある。耳を借りるぜ」

 

俺とルイズ、そしてキュルケの間の口論の最中にふとルイズに伝えるべき事を思い出し、ルイズを呼び出す。

突然の呼び出しに若干戸惑うルイズであったが、俺の口調に並々ならぬ雰囲気を感じ取ってくれたか、素直に耳を貸してくれた。

…そしてそれと同時に俺とルイズの周りの音声が聞き取れなくなる…どうやら他の3人の内の誰かが気を使ってサイレントを掛けてくれたらしい。

その好意に今は甘え、ルイズとの内緒話を始めた。

 

------------

 

それから数時間後、俺達が乗った馬車は深い森に入った…此処が、フーケが潜伏している森らしい。

 

「此処から先は徒歩で行きましょう」

 

ロングビルの提案で皆揃って馬車を降り、進んでいく。

…しかし昼前だというのに薄暗いな…まあ単純に木が密集しているからなのだが、この状況で襲撃されでもしたら厳しいな。

こんな薄暗さでは狙いを定めるのも一苦労だし、俺も刀剣をふるのに気を使わなければならない。

キュルケの火の魔法では周囲への被害が計り知れないし、ルイズの爆発魔法は…言うまでもない。

だが一方で、あんなデカいゴーレムを操るには狭すぎるし、岩とかを飛ばすにも草や落ち葉で音を察知されそうだ。

そこら辺も考慮してのチョイスだろうから…何かしらの罠が道中に隠されているか、今の状況とはまるっきり違う空間…例えば木が広範囲に渡って生えていない空地とか…に、ロングビルが言っていた廃屋があるのかも知れない。

と、考えていると…後者が的中した様だ、大分開けた空間があり、そこに件の廃屋があった。

 

「私の聞いた情報だと、あの中にいるそうです」

 

ロングビルが補足するが、中に誰かがいる様な気配は感じられない。

流石に察知されてもうトンズラされたか、或いは罠が掛けられているか、もしや両方か…しかしあれ以外に手掛かりと言えるものは何1つない以上、調べる以外の選択肢は無い。

 

「此処は偵察兼囮を出すのがセオリーだよな。で、誰を出すか…ああ、俺って訳ね、分かりましたよ」

 

うっかり何をすべきか口走ってしまった為に「言い出しっぺだから」と言わんばかりの視線でその偵察兼囮となった俺だが…まあ最善策ではあるな。

此処は正直フーケのホームだと言っても過言では無いのだ、こちらは初めて入ったばかりで勝手が分からない一方、向こうは少なくとも何時間かは潜伏して周囲を把握している。

いたらの話だが、こちらの準備が整わない内に奇襲を掛けるなど容易い事、詠唱に時間が掛かるメイジなら余計だ。

その点俺は(ルイズもだが)スタンドがあり、突然の攻撃にも、少なくとも身を守る位なら出来る。

そう思いつつシルバーチャリオッツを発現させ、廃屋から姿が見えない様に身を隠しつつ接近していく。

…1分経つか経たないか位で廃屋に辿り着いたが、此処まで罠らしい兆候もフーケらしい気配も全く感じられない。

やっぱりトンズラしちまったか、或いは奇襲の気配を廃屋の中から伺っているのか…いずれにせよ、覚悟を決めるかっ!

 

ドォン!

 

「覚悟しやがれっ!…ちっ居ないか」

 

デルフリンガーを構え、ドアを蹴破りつつ引き抜き突きつけるが、フーケの気配は無く、罠が発動したらしい反応も感じられない。

…逃げられたか、そう判断した俺は後方のルイズ達にOKのサインを出す。

 

「私は周囲の様子を探ってきます」

 

ルイズ達が廃屋に入って来る中、ロングビルだけは周囲を探ると言い、その場を去る…まあ、良いか。

 

「それにしても…本当にこんな所にフーケが潜伏していたのかしら?」

「同意。使用していた雰囲気が感じられない。恐らく一時的な物」

「それに中は隠れる場所なんざ1つも見掛けねぇし、隠れ家には正直向かねぇな。ミス・ロングビルの言葉通りだったとしても、入って直ぐに出ちまったのかもな…お?」

「どうかしたの、サイト?」

 

廃屋の中を探していたら、ふと他のと比べて真新しい感のある箱が見つかった。

もしかしたらこの中に、フーケの手がかりになる様な物が…って、

 

「破壊の杖」

「随分とあっけないわね」

「何で盗んだ物だけ残して去ったのかしら…不自然極まりないわね…」

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

俺はフーケの手がかりが入っていないかと箱を調べたら、入っていたのはロケットランチャーだった。

な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

デウス・エクス・マキナだとかご都合主義だとか、そんなチャチなもんじゃ(ry

 

「お、オレェ…何でこれが入っているの…しかも『破壊の杖』て…」

「これについて知っているの、サイト?あ、まさか、貴方の元いた世界にあった凄い宝物だとか!?」

「はしゃぐんじゃあ無いわよキュルケ!今はフーケを追っているんでしょうが!」

「今は何故これがあるかと、フーケの所在を探るべき」

 

これについても物凄く気になるが、その話は後にしようと考えたその時、

 

ドォォォン…!

 

「きゃぁ!」

「な、何、いったい!?」

 

直ぐ近くに巨大な足音らしき轟音…まさかフーケのゴーレムかっ!

そう判断し、俺達4人は外へと飛び出すが、そこに待ち受けていたのは、

 

グシャア!

 

さっきまで居た廃屋をグーパンチ一発でお釈迦にした、フーケが操っているらしいゴーレムだった。

 

「ファイヤー・ボール!」

「エア・ハンマー」

 

それを見るや即座に得意の魔法を発動するキュルケとタバサだったが…あの巨体ではびくともしなかった。

 

「無理よ、強すぎるわ!」

「戦略的撤退」

 

効かないと判断した2人が即座に撤退しようと後ずさりするが…そういやぁルイズの姿が見えないな…まさかっ!?

 

「行っけぇぇぇぇぇぇ!」

 

ドグァ!

 

「やっぱりいやがったかっ!全くっ!」

 

ゴーレムの背後に回り込み、キラークイーンに体当たりさせるルイズの姿がそこにあった。

 

「何してんだルイズ!無茶が過ぎるぞっ!逃げろっ!」

「嫌よ!フーケは私が捕まえて見せる!あいつを捕まえれば、誰ももう私をゼロのルイズとは呼ばないでしょ!」

 

分かっているのかルイズは…幾らキラークイーンの破壊力がAだからって、周りに大量の土がある状況下では無い様な物だし、シアーハートアタックはキュルケがいる以上、無闇には使えない。

俺のシルバーチャリオッツだってあんな回復力の前では、こっちが根負けする方が明らかに早い。

第一そんな事は昨日の時点で理解している筈だ…それを何でだ!

 

「サイト…アンタ昨日言っていたわよね?私には、アンタの恩師である『ジョジョ』達と同じ『黄金の精神』を持っているって。大切な存在を想い、周囲を想い、どんな苦難にも正面から向き合い、逃げずに立ち向かう、そんな揺るぎない意志があるって!私が此処で背を向けて逃げ出す何てしたら、それはジョジョに対する、これ以上にない侮辱よ!アンタの今までの生き様を、存在自体を真っ向から否定する事よ!それだけは絶対に嫌!ちょっとばかりの困難で背を向けるなんて貴族じゃない!使い魔の誇りすら守れないなんて貴族じゃないわ!」

 

!…ルイズ、そこまで俺を、ジョジョを考えての事だったのか…だったらこの平賀才人、逃走も躊躇も容赦もせんっ!ご主人様と共に、あのゴーレムを直々にぶちのめすっ!

 

「行くぜルイズ!」

「勿論よっ!」



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12話

フーケの隠れ家にて『破壊の杖』を見つけ出した才人達だったが、そこへフーケのゴーレムが襲撃して来たっ!その強大さに撤退を試みるキュルケとタバサだが、ルイズだけは退かなかった。その背には貴族としての誇りと、ジョジョ達と通ずる『黄金の精神』を背負っていたっ!


「無駄ァッ!」

 

ドゴォン!

 

キラークイーンの突進でゴーレムの左腕が削られ、

 

「無駄ァッ!」

 

ズバァッ!

 

シルバーチャリオッツと俺の斬撃で右脚が両断され、

 

「「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」」

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!

 

それでも尚、回復するその体躯を無駄無駄ラッシュで削って行く。

一見、無駄無駄と連呼している俺達の方が無駄な事をしているとしか見えないこの光景、しかしながら此処に打倒ゴーレムの秘策がある。

 

キラークイーンの第一の爆弾。

両手に触れた物を爆弾に変え、左手に組み込まれた起爆スイッチを押す事で爆発させられる。

最後の爆発の後に、最初に触れた物しか爆発出来ないというデメリットはある(シアーハートアタックは別)が、最大の特徴は『触れた物自体を爆発させる』か『触れた物ではなく、それに触った物を爆発させる』か任意に選ぶ事が出来る。

そう…『触れた物ではなく、それに触った物を爆発させる』爆弾を起点に、その爆発因子をゴーレムの身体中に撒き散らし、馴染ませてから爆発させる…これが今の行動の真意だ。

放っておけば俺達のラッシュによって、ゴーレムが削られ消える運命にある以上回復させない訳には行かず、回復させれば爆弾化した土くれが因子を身体中に撒き散らし、全身が爆発する…既にフーケは詰んでいて、尚且つ奴はそれに気づいていないっ!

絶望的としか言えなかったあの状況下でもこの画期的な結論を導けるルイズは本当凄ぇな…俺はここに断言するぜ、ルイズは、このハルケギニアの歴史に燦然と輝くメイジになるっ!

 

「今よ、サイト!」

「よし、分かった!」

 

そして、

 

「覚悟しなさいっ!土くれのフーケ!」

 

カチッ!

 

ちゅどぉォォォォォォォォォォォォン!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

30メートル級のデカさを誇るフーケのゴーレム、その全身が爆発するともなれば…その破壊力は凄まじいでは済まされなかった。

互いのスタンドに捕まって後方へ飛ばせた俺達でもその爆風から逃れる事は叶わず、空地の外の木々と共に木の葉の如く吹き飛ばされた。

スタンドの身体能力に物言わせた踏ん張りで何とか(吹っ飛んだ瞬間の)打撲程度で済んだが、

 

「けほっけほっ!ちょっとルイズ、一体何なのあの爆発は!少しは加減しなさいよね!」

「うるさいわねキュルケ!フーケのゴーレムを一撃で消し飛ばして見せたんだから結果オーライよ!」

 

それ以外は…危うくと言った感じだった。

タバサこそ自分の使い魔である風竜にしがみついていたので事なきを得たが、乗っていたは良いが爆発による衝撃に耐える最中に振り落されてしまったらしいキュルケは…色々と擦りむいていた。

そしてもう1人、

 

「い、一体何が起こったのですか!?」

 

爆発その物こそ食らっていなかったみたいだが、それによって吹っ飛ばされた木々はそうでもなかったのか、所々切り傷を負ったロングビルが帰って来る。

さて…どう出るか、な…

 

「あの廃屋の中に『破壊の杖』を見つけました。そしたら同時にフーケのゴーレムが襲ってきたのです。ですがそれも私の魔法で木端微塵にしました」

「そうでしたか…それで、『破壊の杖』は何処に?」

「此処に」

「そしたら…それをこっちに寄越して貰おうかね」

「「え?」」

「そこっ!動くんじゃあないよっ!」

 

ルイズが『破壊の杖』を手に歩み寄ると同時に豹変し確保、こちらに杖を突きつけるロングビル、いや、

 

「ミス・ロングビル…貴方が、土くれのフーケ…!」

「ご名答。それにしてもアタシのゴーレムをいとも簡単に木端微塵とはやってくれるじゃあないかい、『ゼロ』のルイズ。お蔭でアタシの計画が台無しだよっ!」

「け、計画…?」

「ええ、折角だし説明しましょうか。これを盗み出したはいいけど使い方自体は全く知らなかったのよ。どんなに良いマジックアイテムであろうとその使い道が分からなければ宝の持ち腐れ、安く買いたたかれるのがオチって訳。だからこれをアンタ達に一旦渡して、そこにゴーレムを向かわせる事で使わせようとしたのに…アンタのせいで結局分からず仕舞いよっ!」

 

ちっ…そういう訳か…!

 

「けど、まだ諦めた訳じゃあ無いよ。そのアンタがこうしてノコノコと捕らわれてくれた。その使い魔はどうやら『破壊の杖』を知っている様子。これがどういう意味か…分かるね?」

「まさか…『破壊の杖』について話せ、話さないならルイズの命は無いって訳かっ!?」

「ご名答。直ぐそこまで理解してくれるとは流石だねっ!アンタだって主人として慕っているこの小娘を失いたくは無いでしょう!この小娘の行く末を見ていきたいんでしょう!だったら…さっさと話した方が自分の為だよっ!」

 

「だが断る」

 

「「なっ!?」」

「簡単だ…此処で話した所でその効果を実践してそのまま皆殺しという寸法だろう。その手には乗らないぜ。それに…詰んでいるのはてめぇの方だ」

「はっ何を言い出すかと思えば」

 

ドシャァッ!

 

「あぐっ!?な、何だい一体!?」

 

ギリギリギリ!

 

「がぁぁ!?アタシの腕が、腕がぁ!?」

 

バキィッ!

 

「な、杖がっ!?」

 

傍目から見れば、

フーケが突然転んだ

→うつ伏せだが杖を持った右腕だけ上げた恰好のまま動かない

→持っていた杖が突如折れた

→現在進行形で痛がっている(今ココ)

という奇怪な光景が繰り広げられていた。

だが俺とルイズの目には、

フーケの背後に回り込んだキラークイーンが足払いと踵落としを同時に繰り出してうつ伏せに転ばした

→そのまま腕ひしぎ十字固めに移って身動きを取れなくした

→更に空いていた左腕で杖を粉砕した(今ココ)

という光景がしっかりと映っていた。

 

「天下の大泥棒も、案外大した事ないわね。相手の力量も策略も理解せずに、勝った気でいるなんてね。良い言葉教えてあげる。相手が勝ち誇った時、既にそいつは敗北している…サイトの恩師の名言よ。今のアンタが、正にそうね」

「が、あ、な、何を…」

「1つ教えてあげるわ。アンタがベラベラと話す迄もなく、サイトはアンタが土くれのフーケではないかと、予感していたの。尤も…黒とは言い切れなかった様だけど」

 

------------

 

俺とルイズがひそひそ話をしていた所までバイツァダストする。

 

「ルイズ…あのロングビル、もしかしたら『土くれのフーケ』その物かも知れねぇぞ」

「なっ!?急に何言い出すのよアンタ!?ミス・ロングビルが『土くれのフーケ』!?寝言は寝て言いなさいよっ!」

「しっ!声が大きい…って、今周囲にサイレントが掛かっているんだったな。それはともかくとしてだ、俺も当てずっぽうでそんな大それたことは言わねぇぜ。そう考えたのは…色々と不自然な点があったからだ」

「不自然な点…一体何処に有るの?」

「まず1つ…フーケの隠れ家が学院から馬で4時間も離れている場所にあり、ロングビルは其処を、物音で目覚めてから早朝の教職員の緊急会議まで…多く見積もっても8時間余りで見つけ出して帰って見せたって点だ」

「8時間余りで帰って見せた…あっ!」

「そう…そこまで余白の少ない時間で成し遂げるには、土くれのフーケの後を執念深く追い続けなければ無理だ。だがロングビルはこう言った…『近くの農民に聞いた』。こんな説明が出来るとしたら…鋭いヤマ勘でフーケの大体の居所を察知出来、たまたま近くに、幸運にもフーケの姿を見る事が出来た農民が通り掛かった時だ。そんな事、天文学的とも言える確率だ」

「た、確かにね」

「2つ目は同じく『農民に聞いた』という点だ。その時間帯、俺のいた世界で『草木も眠る丑三つ時』と言われているぜ。このハルケギニアにおいて、こんな時間帯に起きて出歩かなけりゃならねぇ奴といったら、要所を守る衛兵位の物だろう?」

「言われてみれば、ますます怪しいわね…」

「だが、完全に黒とは言えねぇ。仮にフーケだったとして、何故自らの隠れ家に招待するのか、その理由が皆目見当もつかねぇ。今はあくまで『一番怪しいな』程度だ」

「分かったわ。気を付ける」

 

------------

 

「…で、一先ず怪しく見ている素振りを見せず、泳がせる事にしたんだが…まさかルイズ自らゴーレムをぶっ飛ばすとか言い出すとは思わなかったぜ。まあ結果オーライだったがな」

「どう?『ゼロ』のルイズ達の掌の上で踊らされた感想は、レディ?」

「…最悪だよ…このアタシが、『土くれのフーケ』と恐れられたこのアタシがこんな小娘に良いようにされていたとはね…」

 

未だキラークイーンがホールドしていて動けないフーケを前に、今までの鬱憤を晴らすかのように皮肉たっぷりに応対するルイズ…その目からは『ゼロ』と言われていた自分に対する劣等感は薄まっている様に感じた。



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13話

見事に土くれのフーケを捕まえた才人達は、意気揚々と学院に帰る。そこに待っていたのは…


「しかし、ミス・ロングビルが土くれのフーケだったとは…信じられん…」

 

ロングビル、いや、土くれのフーケを捕まえ、学院へと戻った俺達は真っ先にオールド・オスマンに事の顛末を報告した。

それを聞くなりやけに苦い顔をするオールド・オスマン…話によると偶々訪れた居酒屋で働いていたロングビルを見掛け、尻を触る等のセクハラをしても嫌な顔しなかったらしいので秘書に誘ったらしい…全く、やれやれだぜ…

 

「ま、まあともかく君たちは良くぞフーケを捕まえ『破壊の杖』を取り戻してくれた。この件で、君たちの『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出す事にした。追って沙汰が来るじゃろう。といってもミス・タバサは既に持っておるから、精霊勲章の授与の申請にしておく」

「本当ですか!?」

「ああ、君たちはそれだけの事をしたのじゃから」

 

失態の誤魔化しのつもりか、3人を褒め出し、今回の活躍を宮廷に報告すると伝えたオールド・オスマン…それにキュルケは驚いた様に声をあげ、タバサも礼のつもりか首を縦に振るが、

 

「…オールド・オスマン。サイトには何も無いのですか?」

「残念ながら彼は貴族ではない」

「そ、そんな!」

 

ルイズだけは複雑そうな顔で俺への対応に異を唱える…やれやれだ、気遣いは嬉しいがな。

 

「俺は構いませんよ、主人を守るのが使い魔の仕事ですから」

「そ、そうかの。彼もそう言っておるのじゃし、この話はそこまでじゃ。さて、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。『破壊の杖』もこうして戻ってきたし、その立役者たる君達が主役。しっかり着飾って来るのじゃぞ」

 

俺の言葉に、完全には納得していないながらも引き下がるルイズ達は、外に出ようとしたが、

 

「サイト?」

「ああ、ルイズ。先に行ってくれ。ちょいとオールド・オスマンに聞きたい事があるんだ」

 

心配そうな顔したルイズ達だったが、構わず行かせた。

 

「ふむ…どうやら私に聞きたいことがおありの様じゃな。まあ爵位を与えられぬせめてもの詫びじゃ。何なりと聞こう」

「ありがとうございます。ではまず…あの『破壊の杖』を何処で手に入れたんですか?あれは俺の故郷でよく使われる武器なんです」

「何と!?じゃが…君の故郷とは一体?」

「ルイズ達には既に伝えていますが…俺はこのハルケギニアの人間ではありません。ルイズの『サモン・サーヴァント』によって、いわゆる『異世界』から召喚された者です」

「い、異世界から!?成る程…それなら辻褄が合う」

 

俺が異世界出身だと分かり一瞬驚くも、直ぐに納得した様子を見せるオールド・オスマン…一体何なんだ、て言うか、まだ質問に答えて貰って無いが。

 

「あ、いや、すまぬ。『破壊の杖』の出所じゃったな。あれをくれたのは、私の命の恩人じゃ。今から数十年前の事、とある用事で森を散策しておった私は、ワイバーンに襲われたのじゃ。余りに不意な事で詠唱する事も叶わず、絶体絶命のピンチじゃったが…そこを救ってくれたのが、『破壊の杖』の持ち主じゃ。彼は『破壊の杖』を2本所持していて、その内の1本でワイバーンを吹き飛ばしたのじゃが、ばたりと倒れてしまった。酷い怪我を負っていたのじゃ。私は彼を学院に運び込み、手厚く看病したが…」

「死んだ…そういう事ですか?」

「うむ…私は彼が使った1本を彼の墓に埋め、もう1本を宝物庫にしまい込んだ。恩人の形見として。彼はベッドの上で、死ぬまでうわ言の様に繰り返しておった。『ここは何処だ。元の世界に戻りたい』と。もしかしたら彼は、君と同じ世界の人間じゃったのかも知れぬな…じゃが、彼が何処からどうやって来たのか、それは結局分からず仕舞いじゃった。すまぬ」

「そうですか…」

 

…やれやれだ、俺の世界にある筈の物がこっちにあって、前にも俺のいた世界からハルケギニアに飛ばされた奴がいたと分かって、帰る手筈が整うかと思ったが、その持ち主は既にこの世にはいなくて、足取りも掴めないまま、か。

 

「もう1つ。早朝に教師コルベールが俺をガン…と呼ぼうとしていましたね。あれは一体?」

「…やはり聞かれておったか。そしたら順を追って話すかのう。春の使い魔召喚の儀の際、ミスタ・コルベールが君のルーンをスケッチしておったであろう。あれについて調べておったらの、驚くべき事がわかったのじゃ」

「驚くべき事…それは一体?」

「それはガンダールヴのルーン。伝説の使い魔のルーンじゃ」

「で、伝説の!?」

「そうじゃ。ガンダールヴは始祖ブリミルの使い魔の1体で、主人の命を守るべく、ありとあらゆる武器を使いこなし、襲い来る敵を容易く撃破したそうじゃ。曰く『神の盾』もしくは『神の左手』という。ミスタ・グラモンとの決闘、君も気づいておろうが『遠見』の魔法を通じて見させて貰った。素手にも関わらずあの圧倒振り、そして私達の遠方からの視線をあっさりと察知した、感の鋭さ…正にガンダールヴであると確信したのじゃ」

 

これに、そんな力が…だが同時に『そうみたいだな』とも思える。

ギーシュとの決闘以来、シルバーチャリオッツと重なる様にして構えるとあの最高にハイな感覚が蘇って来る。

それに青銅で出来たギーシュのゴーレム『ワルキューレ』を、レイピアの一振りでホームランした…俺の知っているシルバーチャリオッツでは、そんな芸当は不可能だ。

だがこのガンダールヴのルーンで、シルバーチャリオッツもまたパワーアップしたとしたら…

そして魔法について殆ど知らない俺が、『遠見』による監視に気付ける程に感が冴えていたとしたら…大体の説明がつく。

…む、待てよ?確か始祖ブリミルは、今では失われた『虚無魔法』を使っていたらしいな。

その使い魔であるガンダールヴに俺がなったとしたら…まさか、ルイズは…!?

 

「何故君が異世界からこのハルケギニアに、ガンダールヴとしてミス・ヴァリエールによって召喚されたのか…分からない事は山積みじゃが、私なりに力を尽くそうと思う。安心して欲しい、私はお主の味方じゃ、ガンダールヴよ」

 

俺がそんな考えを巡らせている事を知ってか知らずか、オールド・オスマンはそう言うや否や、突然立ち上がり、地べたに膝を着いた…まさか…?

 

「我が恩人の杖を取り戻してくれて、ありがとう…!この恩は、絶対忘れぬ…!」

「…!」

 

数分前まで、良くいる好色な管理職キャラかと思っていた俺を殴りたい。

確かにそういった一面こそあるが、彼はヴァリエール家以外に初めて見た、紛う事無き『貴族』だった。

貴族や平民といった身分に関係なく気にかけ、上に立つ者としての義務と誇りを忘れない…無意識にオールド・オスマンと敬称を付けて呼んでいたのも、それを感じ取ったからかも知れない。

 

「お主が何故このハルケギニアに降り立ったのか…私なりに調査に力を注ぐつもりじゃ。しかし…」

「見つからない可能性もある、と?それは最初から覚悟している事ですよ」

「そうかの…なぁに、お主の世界とは勝手が違いすぎるであろうが、此処も住めば都じゃ」

「ははは…まあ言えていますね。ルイズも良くしてくれますし」

「そうか、ミス・ヴァリエールとも上手くやっているかの。それは良き事じゃ」

「あ、そのルイズが待っているのでこれで失礼しますね」

「うむ、吉報を待っておるのじゃぞ」

 

------------

 

何時も食事をとっているアルヴィーズの食堂の上階にあるホールにて行われていた『フリッグの舞踏会』。

普段は皆同じ制服の生徒達や教師陣も、この日ばかりはと言わんばかりに着飾り、豪華な料理が盛られたテーブルの周囲で歓談したり、中央のダンスステージで音楽に合わせて踊ったりしていた。

で、俺はと言うと…

 

「相棒、中で食わねえのか?てか、何だその服?」

「パーティーは初体験でな、勝手が分からねぇ。それにこれは俺の正装だっ!」

 

ジョジョ第3部にて承太郎と共に旅をした『花京院典明』が着ていた緑色の学ラン、茶色の革靴をしっかりと着こなし、バルコニーでワインを飲んでいた…これを選んだのは簡単だ、このハルケギニアに呼ばれた際に唯一持っていた正装(らしき物)が、これだったからだ。

そういえば、ルイズは遅いな…女の子の支度は時間が掛かると言うが、それにしても遅い…ルイズと同じ時間に支度を始めたと思うキュルケやタバサは既に来ている(そしてさっきキュルケからダンスの誘いを受けたが断った)というのに。

と、思っていたら、

 

「ヴァリエール公爵の息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢の、おなーりー!」

 

門に控えていた衛兵の大仰な呼び出しで、来た事に気づき振り向いた…ら…

 

「ブラボー…おぉ、ブラボー…」

「馬子にも衣装って奴「てめー今ルイズの事なんつったぁ!?」あべしっ!?」

 

ふざけた事を抜かすデルフリンガーはさておき、舞踏会にやって来たルイズのその姿は、何時も以上に綺麗で、それこそダイヤモンドの様に輝いていた。

パレッタで纏められた、長い桃色の髪。

可憐さを表現したかの様な白いパーティードレス。

高貴さを強調する白い、肘まである長い手袋。

そのどれもが、ただでさえ神々しいと言えるルイズの綺麗さをより高みへと押し上げている様だった。

…実際、これまで歯牙にも掛けないどころか『ゼロ』のルイズと罵倒していた男子生徒共が盛んにダンスの申し込みをしていた…やれやれだぜ。

しかしルイズはそれを軽くあしらいつつ、真っ直ぐに歩みを進めていた。

そこにいたのは…

 

「あら、此処にいたのね」

「おおルイズ…随分と綺麗だな、本当に」

 

お、オレェ…

 

「どうして俺の所に?踊らないのか?」

「…踊る相手がいないのよ」

「…そうか」

 

さっきまでダンスを申し込んでいた奴らは例外なく、今までルイズの事を『ゼロ』だと罵倒していたのだ。

それが今回のフーケ討伐で一番頑張って、そしてこの舞踏会で綺麗さに磨きを掛けた途端に心変わりである…俺だってルイズの立場に置かれたら、絶対に断っている所だ。

と、思っていた俺の目の前に、ルイズがすっと手を差し伸ばした…これって…

 

「わたくしと踊って下さいませんこと、ジェントルマン?」

 

その手を見て思わず前に向き直った俺が目にしたのは、顔を赤らめつつも俺に一礼し、ダンスに誘うルイズの姿だった。

その姿は…今迄俺が目にしてきたルイズの姿の中でも一番と言える位綺麗で…愛らしかった。

…ご主人様にそこまでされて、素気無く断るのは使い魔じゃあねぇ!

 

「俺で良ければ…喜んでお受けいたします、レディ」

 

何時もなら絶対言わない様な気取ったセリフでルイズの手を取る…と、勇んで出たは良いのだが、俺ダンスやった事無いんだよな…キュルケの誘いを断ったのは、その点もあったからだと言うのに、何恰好付けているんだ俺…

 

「初めて?なら私に合わせて」

「分かった」

 

それを察したのかフォローしてくれたルイズ…はぁ情けねぇな俺…

…だが始まってみると、ルイズが合わせやすい振りにしてくれたのか思ったよりスムーズに踊れている…やってみると、楽しい物だな。

 

「ねぇサイト…やっぱり、帰りたい?元の世界に」

「まぁ…な。俺にも家族やダチはいる…今頃心配しているかも知れねぇ」

「そう…よね。やっぱり…帰りたいよね…」

「だが…ルイズがどんな力を持ったメイジなのか、どんな可能性があるのか、何が出来るのか…それが分かるまでは帰らない」

「え…?」

「この数日、お前の使い魔としてずっとお前の事を見てきた…そして1つ分かった事がある。お前は、このハルケギニアの歴史に名を刻む、そんな凄ぇメイジになる。その一端を見届けないまま帰ったら…俺は絶対に後悔すると思う」

「…」

 

家族やダチには悪いが、当分はまだルイズの使い魔として頑張るつもりだ。

例え今日明日中に帰る方法が見つかったとしても…まだだ。

 

「ありがとうね、サイト」

「ん?どうした、急に?」

「その…あの時、私を必死な感じで励ましてくれたじゃない」

「ああ、あの時か。必死も何もあれは正直俺もマジギレしていたしな…要点しか覚えてねぇや」

「何よそれ、人を怒鳴り散らして置いて…でもやり方がどうあれ、あそこまで必死に私を励ましてくれたのは初めてだった。あの事があったから…ずっと忌み嫌っていた私の失敗魔法にも向き合う事が出来た。キラークイーンを使って何が出来るか、真剣に考える事が出来た。あの事が無かったら、フーケを捕まえる事は出来なかったかも知れないし、こうしてアンタとダンスを踊る事も無かったかもね」

「そうか…使い魔として、役に立った様で何よりだ」

「もう…ずっとそうね、事ある毎に使い魔使い魔って」

 

それまでダンスを踊りつつ、寂しそうにしたりにこやかにしたりして話していたルイズの表情が、少し不機嫌そうになった…ど、どうした?

 

「それじゃあまるで、私がアンタの主人じゃ無かったら助けなかったと言っている様な物じゃない。それとも、本当に私の使い魔だから助けてくれたの?」

 

ああ…そういう事か、そりゃあそうだよな。

 

「誰か困っている奴を助けるのに、理由なんていらないさ。それが俺の尊敬する…ジョジョだ」

「…そう」

 

俺はジョジョによって育てられたと言っても良い…そのジョジョによって育てられた正義の心故に、例えルイズと何の接点が無かったとしても、迷わず助け、励ましていたと思う。

ハルケギニアに来る前まではそんな漫画の様な展開等そうそう無かったから確信出来なかったが、今はそう思う、そう言い切れる。



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第2章
14話


ハルケギニアへの召喚、スタンド使いとしての覚醒、ルイズの使い魔としての契約、ギーシュとの決闘、ヴァリエール家でのスタンド騒ぎ、デルフリンガーとの出会い、キュルケとのいざこざ、フーケ討伐、フリッグの舞踏会…才人にとって、様々な出来事が巻き起こった一週間(という名の第1巻+α)だった。そして今また、新たなる出来事が…


フーケを捕まえてから数日経つかたたないか位の今、ルイズ、及び使い魔である俺の評価はうなぎ上りだった。

それに最も貢献したのは、フーケのゴーレムを一撃で爆破してみせた事だろうが、俺がギーシュとの決闘でボコボコにし、ルイズを馬鹿にした奴はボコボコにしてやるとメッセージを発したのも功を奏したのだろう、それらを経てから表だってルイズを『ゼロ』呼ばわりする奴は見掛けず、逆に恐れられているかの様に目を避けるのが多くなった。

それに対して俺は特に何とも思わなかった…こっちが下と見るや傲慢になる癖してちょいと脅した位で態度を豹変させる様な奴らの評価なんぞに浮かれてもしょうがないからな。

だが一方でルイズはここ最近…何やら複雑な表情を浮かべていた。

…何かあったのか?そういえば最近…何か懐かしい夢を見た、とか言っていた気がするが。

まあ、それはともかくとしてだ、

 

「ヤァッ!」

 

ビュン!

 

俺は今学院の中庭で、先程放り投げて宙を舞う枯れ枝に向けてデルフリンガーを居合抜きし、薙いだ。

その枝は地面に着くその瞬間、

 

パカン

 

綺麗な断面で真っ二つになる。

更に、

 

「フッ!」

 

ヒュン!

 

デルフリンガーの、その抜き身の本体を真上に放り投げ、

 

クルクルクルクルクルクル…

 

背負っていた鞘を左手で掴みつつバトンの様にスピンさせ、

 

バッ!

 

チィン!

 

上に掲げると同時に、刀身を下に落ちて来た本体が納まる。

格ゲーマニアなら知る、サムライスピリッツの主人公、覇王丸が勝利ポーズで見せた曲芸である。

…何で俺がこんな事をやっているのか、と言うと、

 

「使い魔の品評会?」

「そうよ。2年生は全員参加なの」

 

ルイズの話によると、その年度の2年生が召喚した使い魔を全校にお披露目するイベントとの事だ。

その場で使い魔の個性を活かした芸が披露され、その出来栄えを評価するのだとか。

…それを説明するルイズがやけにハイテンションな為か、まくし立てる様な口調だったので、

 

「やけにテンション高いな。何かあるのか、その品評会に?」

「その品評会に、トリスティンの王女様であるアンリエッタ姫様が直々に観覧しに、この学院を訪れる事になったのよ!」

 

…成る程、この国のトップの展覧試合という訳か、そらぁテンションも上がるな。

ルイズの話だとアンリエッタ姫は、既に亡き先代の国王の1人娘、国王亡き後のトリスティン国民にとっての象徴で、その美しい容貌と清純で慈愛に満ちた人柄から人気が非常に高いとのこと。

ヴァリエール公爵家の娘であるルイズも幼い頃、姫の遊び相手をしていて、王家に取り入る等の欲とか無しに、純粋に敬意と友情を抱いていたそうだ。

…テンションの高さがより納得出来た、この国の象徴的存在とかの前に、深い尊敬と友情を抱いている存在の前でヘマを冒す訳には行かないからな。

俺としても、王国のトップだとかの前に、幼かった頃とはいえ共に遊び、今でもルイズに尊敬と友愛の想いを抱かせる方の前でヘマは出来ない、が…

 

「でもどうするのよ?シルバーチャリオッツは、スタンドはお父様に止められているし、アンタ他に何か特技あるの?」

「まあそこだよな。何を演目にするか、そこが問題だ」

 

そもそもスタンドは見世物じゃあない、仮に口止めされていなくとも、ルイズはそんな提案をしなかっただろうし、提案されても『だが断る』でバッサリする所である。

それに、

 

「だが安心しろ。俺には他にもかくし芸がある。コイツを使って、な」

「お、俺の出番か、相棒?」

 

俺の力は何もシルバーチャリオッツだけでは、スタンドだけではない。

フーケを捕まえたあの日、オールド・オスマンから伝えられたルーンの力。

始祖ブリミルの使い魔の一角、『神の盾』『神の左手』ガンダールヴ…そのルーンが、俺にもある。

ガンダールヴはあらゆる武器を使いこなし、その類稀な身体能力で敵をバッタバッタと倒して行き、ブリミルの身を守ったとの逸話が残っている。

その『あらゆる武器を使いこなす』力…それをかくし芸として活用するなら…

 

「はぁ~、相棒の世界にはこんな芸があるのか。面白れぇ所なんだろうなぁ」

「まあ、な。これは結構メジャーな奴なんだが」

 

そして冒頭にバイツァダストする。

ちなみにデルフリンガーには、俺のいた世界の事や、ハルケギニアに来た経緯、そしてスタンドについて教えてある(し、それについて固く口止めしている)。

その時の驚き様と言えば、仗助がトニオの料理を食べた億泰の変貌ぶりを見た時位だったなw

…まあそれは良いとして、どうやらガンダールヴの効果は『武器を使う時』に発揮する様だ。

背負っているデルフリンガーで居合抜きするにはどうするか、放り投げたデルフリンガーをどの位置で鞘を構えれば落下の勢いで納刀されるか…思い描く次の行動1つ1つ、最適な動作に導いてくれる様な感じだった。

グレードだぜぇ、コイツは…

…そういえば1つ、デルフリンガーの驚き具合に気が向いて聞きそびれていた事があった。

それは、

 

「そういやぁデルフリンガー…お前、俺の事を『使い手』とか言っていたよな。まああの時はお前がスタンドを見ていた事に頭一杯だったから気づくのが遅れたが」

「ああ、そういやぁそうだった。俺もあん時、相棒やその主人である娘っ子の他に2人、スタンドとかいう奴も見えたが、透けていた事におでれぇた物だから言うのが遅くなっちまった」

 

幾らスタンド使いでも、発現していないスタンドを見る事は出来ない…それを『透けている』とは言え見る事が出来たのは、スタンドと魔法共に『精神力』によって力を成す故だろうか?

…おっと話が逸れた…俺が気になっている事、それはコイツが俺を『使い手』と呼んだ事。

思い当たる節はある、それは『ガンダールヴ』…というか、これしか思い当たらない。

だがそれならデルフリンガーは一体どんな剣なのだろうか?

 

「いやな、ずっと昔にお前さんみたいな奴に握られて、一緒に戦った…様な気がするんだ」

「気がするんだ…って、随分とまぁ曖昧だな」

「仕方ねぇだろ。俺が何時から此処にいるのかすら忘れちまったんだからよ」

 

幾ら名刀といえど何百年の時を経てもまともに使える奴は殆ど無いと言って良いし、千年も経てば大抵は土の中に埋もれ、原型を留めなくなっている物だ。

記憶もコイツの言った通りで、人間でも何十年という時を重ねれば、記憶と言うのは薄れてしまう物だ、インテリジェンスソードであるコイツでも、例外では無い。

ガンダールヴが活躍したのも今から6000年前、もし当時デルフリンガーが存在して、当時のガンダールヴが使っていたとしてだ、そこまでの年代を経てしまえば、固定化が掛けられていようと効果は弱くなっているに違いなく、現存する訳が無いし、してもそれを示す証拠は見つけられないだろう。

だが今それが、錆びだらけとは言っても使用に十分耐えられる頑丈さを持って俺の手元にあるのなら…

…駄目だ、考えたら考えるだけで複雑になってくる、止めだ。

 

「まぁ、その話は追々考えるとしようぜ」

「あいよ、気長に待とうって奴だな」

 

------------

 

そしてアンリエッタ姫が学院に来る時までキングクリムゾンする。

その様子は、最高に豪華絢爛って奴だった。

まず姫が乗っているらしい馬車は、その造りは勿論だとして、引っ張っているのがユニコーンだった…此処でもファンタジー路線に則っていたとは、グレートだぜぇ…

それを取り囲む、騎士団らしき集団もまた立ち振る舞いや服装等々、華麗さと威厳に満ちていた。

そしてその道の両脇に、片膝付いて出迎えるこの学院の生徒や教師陣…これは、ルイズは勿論俺達使い魔も同じだ…の緊張と歓喜に満ちた雰囲気…

それらは全て、今は馬車の中で到着を待つ姫の地位と人望の高さによって成し得ていると言えるだろう。

…そんな、大名行列ですら足元にも及ばない姫の出迎えの行列に感心していると、既に馬車は到着し、通るであろう赤絨毯が敷かれ、後は馬車から降りるのを待つだけとなった。

そして、

 

ガチャ

 

とうとう、その扉は開かれた…

 

バァーーーーーーーーーーン!

 

艶のある紫掛かった長髪、王国のお姫様のステレオタイプと言うべき清楚な顔立ち、すらりと均整のとれた体躯を最大限にアピールする純白のドレス、それに隠されながらも存在を主張する巨大な胸…

まだその人となりを全て理解した訳ではないが、それでももう俺は答えを出せる…91点のExcellentだ…!

俄然燃えて来た…やってやるぜ、姫の為に、ルイズの為に、最ッ高の『剣術』をなっ!



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15話

使い魔品評会にトリスティンの王族であるアンリエッタ姫が観覧する事となりテンションが上がるルイズ達学院の生徒。才人もまたその人となりを見聞きして俄然やる気になったっ!


品評会本番の時ッ!

今回、主賓として招かれたアンリエッタ姫は最前列中央に陣取り(主賓なのだから当然だが)、その周囲を騎士団の中でも指折りらしい面子が警護し(国王の血筋なのだからまあ当然といえる)、その周りに教師や他の学年の生徒が観客として鎮座していた。

そんな中での品評会、他の参加者達もさぞや、姫様に素晴らしい演目を披露しようという意気込みや、失敗は許されないという緊張に満ちている、かと思ったが…

 

モンモランシーの使い魔らしきカエルは、彼女が奏でるバイオリンの旋律に合わせて華麗(?)なダンスを披露していた…見た目だけに目を瞑れば素晴らしい物だろう。

キュルケの使い魔であるサラマンダーのフレイムは、その場で火を噴いていた…今回は使い魔の特徴を見せる物だし、オーソドックスながらこれも十分なアピールになるだろう。

タバサの使い魔である風竜は、アクロバティックな飛行を見せつけた…今回のライバルになりそうだな。

だがギーシュの使い魔であるデカいモグラ…てめーはダメだ。

意外、それは『ギーシュ共々薔薇塗れになってポーズを取っていた』…やれやれだ。

さて、俺達の番だな。

 

「頑張りますか」

 

そう意気込み、俺とルイズは舞台へと上る。

 

「彼が私の使い魔で、名をサイトと言います。種族は…人間です。それじゃサイト、始めて」

「了解…それでは、我が故郷に古くから伝わる剣術をお見せしましょう」

 

俺の種族を言うのに少し溜めた様な素振りがあったのは、やはり前代未聞且つ悪い意味で『どうなんだ?』という意識があったからだろう…まあそれはいいとして、ルイズに促され、俺は早速、練習の成果を見せる。

 

------------

 

結論を言うと、演目が終わった直後に鳴り響いた拍手の嵐に手応え有りと感じたが、しかし優勝はタバサの風竜(シルフィードと言っていたな)となり、俺は2位だった…派手さで負けたか。

それはまあ良いとして…さっきからルイズの様子がおかしい。

お出迎えや品評会、その後の夕食を経て部屋に戻ってからというものの、頬を赤らめて呆けていると思ったら急に顔をブンブンと振って慌てる、の繰り返しで、何度か声を掛けたが、反応しているのか怪しい。

その豹変ぶりと来たら、バイツァダストの効果で取り付かれた奴といい勝負だ。

まさか…最近言っていた夢と関係でもあるのか?

と、思っていると、

 

コンコン

 

こんな夜更けだというのに来客を知らせるノックが聞こえる…一体誰だ、こんな時間に。

その音で弾かれた様に部屋のドアを開けようとするルイズの一方で、俺は背負っていたデルフリンガーの柄を掴み、警戒を怠らない。

そんな俺を置いてルイズが開けたドアから入って来たのは…

 

「あなたは?」

 

怪しい…怪しすぎる、と一発で分かる服装をした女性…だと思う。

純白のドレスからして高貴な存在だというのは分かるが、その上にフードを目深にかぶっている為にその顔は分からない。

更には右手に、水晶をはめ込んだ杖を持っていて、人目を警戒する様に、空いていた左手でドアを後ろ手で閉める等、行動もまた…怪しい。

挙げ句に、閉め終わるや否やその杖を振り、その杖から粉状の光が出る…これで確信した、この女が只ならぬ存在だと言うのは、コーラを飲めばゲップが出るっていうくらい確実ッ!

 

「待ちなさいサイト!…これは、探知魔法(ディテクトマジック)ですね?」

「ええ。何処に目が光っているか、聞き耳を立てられているか分かりませんからね」

 

だがその気配を察知したルイズが俺を止め、しかも敵意の欠片も無くその女と話をする…何でそう呑気に出来る、まさか知り合いか?

その疑問は、その女がフードを脱いだ瞬間、氷解した。

 

「やはり…姫殿下!」

「お久しぶりです、ルイズ・フランソワーズ」

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

俺は部屋に入って来た怪しい女が何か変な事を起こさないか警戒していたが、入って来たのはアンリエッタ姫様だった。

な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

お忍びだとか夜逃げだとか、そんなチャチな(ry

 

「ああ、ルイズ!懐かしいわ、ルイズ!」

「い、いけません、姫殿下。こんな下賤な場所へお越しになられるなんて」

「そんな堅苦しい行儀は止めて!貴女と私はお友達じゃないの!」

「そ、そんな畏れ多い事…昔は幼少ゆえ、姫殿下には無礼な振る舞いをしてしまい、申し訳ありません」

 

途端に展開される『かつての親友との感動の再開ッ!』というシーンタイトルが付きそうな姫様とルイズ、2人だけの世界。

だがその実態は…片やその感動を精一杯味わいたいっ!といわんばかりの不自然にも見えるハイテンションさを発揮する姫様、片や王族と貴族という建前から礼節をわきまえざるを得ない為に困惑した様子のルイズ…余りに対照的だった。

…どう突っ込めば良いんだ?と、困惑気味な俺を差し置いて、姫様とルイズの話は続く。

ルイズが俺にも話してくれた幼少時代の思い出から始まり、その後現在に至るまでの事、そして最近のフーケを捕縛した事に話が移った所で、

 

「ところで…そちらにおられるのが、貴女の?」

「あ、は、はい。サイト・ヒラガと言います。俺がルイズの」

「まあ、貴男がルイズの恋人ですか!随分と頼もしそうなお方を選ばれたのですね」

 

ドギャァァァン!

 

「ち、ちちちちち違いますッ!彼は私の使い魔ですッ!」

「はは…ルイズみたいな格別な女性が恋人なら大歓迎なんですがねぇ」

「ア、アンタも何悪乗りしているの!」

 

品評会で俺の演目を最前列で見たとは思えない、グレートなマジボケですぜ、姫様…

 

「本当に凄いわね、ルイズ。人を使い魔として召喚しただけでなく、あの土くれのフーケを、そのゴーレムを彼と2人だけで圧倒して捕縛するなんて。それに品評会での素晴らしい演目…友として、これ程誇らしい事は無いわ」

 

姫様の絶妙過ぎるボケに振り回される俺達だったが、

 

ヒュン!

 

「キャッ!?」

 

その瞬間、俺達限定でザ・ワールドされた…

 

「何かしら?風で物が飛んだのでしょうか?」

 

突如聞こえて来た僅かな風切り音と、その正体が頬を掠めた事にビックリした姫様が、その原因を気に掛ける声で正気に戻った俺が、その正体を探ると…

 

コロコロ…

 

矢、だった。

その瞬間、血の引ける思いとはこの事だろうなと言わんばかりの感覚を覚えつつ、ルイズの方を向くと…同じみたいだ、顔が物凄く青ざめている。

ま さ か

 

「おや?そちらにいる銀色の騎士みたいな方は」

「ひ、姫殿下ぁ!何も言わずに部屋の周りにサイレントをお掛け下さいませぇ!」

「サイレントをぉ!サイレントをぉぉお願いしますぅぅぅ!」

「は、はい!」

 

いきなり豹変した俺達の只ならぬ様子を察してくれたか、慌てつつもサイレントを唱えてくれた姫様。

あ、危ねぇ…まさか姫様がスタンド使いとしての才能を持っていたとは…

 

「姫様、今から申し上げる事は、他言は一切なりません。これは元々、俺とルイズ達ヴァリエール公爵家の中でのみ共有すべきだった秘密なのです」

「姫殿下、サイトの説明で無礼に思う事がありましたらお許しくださいませ。ですが、余りに突飛に思える事であっても、全て事実なのです」

「は、はい」

 

そして始める、ルイズ達ヴァリエール公爵家の皆に話したのと同じ説明を。

 

------------

 

「サイトさんが、このハルケギニアとは何もかも違った世界の出身で、召喚と同時に持ち込まれた矢によってルイズ達ヴァリエール公爵家の面々はスタンド使いとなった…この様な感じで宜しいでしょうか?」

「はい。余りに突飛で、俄かには信じられないでしょうが…」

「いえ、矢で攻撃されるまで何の気配も感じられなかったのに、攻撃されたら突如現れたシルバーチャリオッツもそうですが、サイトさんの身なりも恐らくハルケギニアでは存在しないであろう物…信じるには十分です」

 

姫様は、あっさり信じてくれた様で、スタンドの扱い方を聞いてきたので実践に移ることにした。

すると、

 

「これでしょうか?なにやら野菜を繋ぎ合わせた様な外観ですが」

 

野菜を繋ぎ合わせた…まさかっ!?

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 

赤や黄色、緑が入り混じった独特の色合い。

トマトの様な頭部と胴体を兼ねた部分に刻まれた、ジャック・オ・ランタンの様な特徴的な顔付き。

そこから突き出る、ズッキーニを模した丁髷みたいな物体と、一対の前足。

これは、これは…第4部に登場するイタリア料理人トニオ・トラサルディーのスタンド『パールジャム』だっ!

 

「ルイズ…もしかしたらカトレアさんの病気…治るかも知れねぇ」

「え!?ほ、本当なの!?」

「あぁ、本当だ。まあ詳しい説明は姫様と一緒にな」

「こ、これが私のスタンドですか。ちょっと…変わっていますね」

「はい。姫様のスタンドは『パールジャム』と言いまして、

 

あらゆる病気を治す力があります」



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16話

使い魔品評会が行われた日の夜、ルイズの部屋にアンリエッタ姫が、警戒心丸出しで訪ねて来た。しばし思い出話にはなを咲かせる彼女達だが、そこを『矢』が急襲っ!アンリエッタ姫はスタンド使いとなったっ!


「パールジャムはその身体の一部が、病を治したい人の体内に入り、その人が抱える病の患部を取り除いて全く新しい物に作り替える事によって、病を治す事が出来るスタンドです」

「病の患部を取り除いて全く新しい物に…?つまりそれを使えばちぃ姉さまも…!?」

「ちぃ姉さま…?もしやルイズ、貴女の2番目の姉であるカトレア殿の事ですか?あの…不治の病で苦しんでいるという?まさかこのパールジャムというスタンドに、それが治せると言うのですか!?」

「はい。どんな病気でも、それこそ治療法が見つかっていない病気であっても、です。ただ…」

「ただ…?何なのよ?」

「その…治る際に起こる『ある事』が…余りにおぞましい物で…」

「お…おぞましい『ある事』…ですか?それは一体どの様な…」

「…目に疾患を抱えている人なら『本当に』滝の如く涙を流し、歯が悪い人ならその歯が全て銃の弾の如く発射された後に新しい歯が生え、内蔵が悪い人ならその内蔵が体内から飛び出してから新しい物が作られる…そういった光景です」

「ちょっ!?それ本当に大丈夫なの!?」

「大丈夫だ、問題ない。実際にその状態に置かれている人は、実は何も感じ無い」

「ほ、本当に大丈夫なんでしょうね…」

 

見た目だけで言えば思いっきりかけ離れてはいるが、その人間性や、ルイズ曰く水のトライアングルらしいメイジとしての才能…それらを考えればアンリエッタ姫様にピッタリのスタンドだ…調理の経験は流石に無いだろうが。

…スタンドについての説明が一段落した所で、ふと、姫様が何故ルイズの部屋を、人目を忍ぶ様に訪ねてきて、挙げ句に入って早々に探知魔法を使うという所業に出たのかが気になった。

 

「それはそうと姫様、どうしてこちらへ?周囲への警戒心丸出しでルイズの部屋をお尋ねになったのです。幼馴染に会いたいだけ…何て事は無いでしょう?」

「はい、そうでした…今から話す事は、誰にも話してはなりません」

 

挙げ句に口外厳禁…か、これは重大な裏がありそうだな…

 

「その話は俺が聞くと不味いでしょうか?ならば俺は部屋の外で待っています」

「いえ、そのまま。メイジにとって使い魔は一心同体。席を外さなくても結構ですよ」

 

使い魔である以前に異世界人である俺がこの場でルイズと一緒に聞くのはどうかとも思ったが、姫様は同席を許してくれた。

…だが、その口調に影が差したかの様に重苦しく感じたのは気のせいか?

 

「私は…ゲルマニア帝国の皇帝、アルブレヒト3世に嫁ぐ事になりました」

「ゲルマニア!?あの、野蛮な成り上がりの国に!?」

 

ははは…酷い言われ様だな…まあでも、ルイズから見ればそうなんだろうな。

ゲルマニア帝国は、此処トリスティンを始めとした『始まりの4大国』よりも後に建国された国らしく、そこでは貴族による合議政治が行われているらしい。

国家元首である、姫様が言っていた皇帝という存在もその代表という位置づけでしか無く、他の国のトップが『陛下』と呼ばれるのに対してアルブレヒト3世『閣下』と一般的には呼ばれているとか。

そしてルイズが以前の説明の時に最も嫌悪していた点が…『平民も金で貴族になれる』という制度。

そこは流石に『嫌悪しているルイズの方を』おいおいと思った…トリスティン以外の国は分からないが、少なくとも此処ではオールド・オスマンやルイズ等の一部を除いた貴族の、平民への扱いは物凄く悪い。

俺はルイズの使い魔であるという事もあって、そこまでじゃあ無いがそれ以外…例えばシエスタ達の扱いを見ると『奴隷』に対する様なそれなのだ。

その理不尽な扱いを改善したいと思い立ち、必死に成り上がろうとする努力を『野蛮』と言って嫌悪するのは、現代の日本で生まれ育った俺にはどうも我慢ならない。

だがルイズの言い分にも一理ある。

ルイズ達『真っ当な貴族』が持っている『黄金の精神』…それは人に教えられただけで簡単に身に着く物では無い。

幼い頃から心身共に教わり、その意味を思い知る出来事を潜り抜けながら時間を費やしていく…そうする事で少しずつ、自然と身についていく物だと思っている。

ゲルマニアの平民達が、貴族に成り上がる過程でその道のりを歩んでくれればそれがベストなのだが…制度的にそれは期待できない。

俺をそう思わせた制度、それは『金で貴族の地位が買える』という事。

ルイズの話だと、それに必要な金は一番下の地位でも日本円で換算すれば億のハードルを軽く超えるクラスだという。

当然そこまでの金を稼げる奴となれば…商人か盗賊、それも一度に大量の利潤を得られるような方面だ。

貴族ですら大半は身についていないというのに、そんな奴らに身に着けられるとは…正直思えない。

仮にそれを持った奴が貴族にのし上がったとしても、周囲はほぼ確実に『平民からの成り上がり』と見る。

そこで周囲とズレた…『黄金の精神』を持っていない奴らとズレた言動をしていれば、直ぐに追い落とされるのが関の山って奴だ。

 

「それはそうですが…ルイズ、今のアルビオンの状況は分かりますか?」

「確か…『聖地奪還』を掲げて決起した貴族派とそれを鎮圧しようとする王党派の間で内乱が起き、今にも王党派が押し潰されそうになっているとか…」

 

アルビオンというのはトリスティンと同じく『始まりの4大国』の一角で、何とそれは雲の上にあるとか…原理からしてONE PIECEの空島みたいな物か?

空中に浮いている事と関連しているかは不明だが飛行船の製造能力や、ドラゴン等の飛行能力のある大型の使い魔を操る術等に長けており、航空戦力は他の国を軽く凌駕しているらしい。

もしその戦力の半分近くでも貴族派に流れ、それが健在のままだったとしたら…

 

「アルビオン王党派が潰れれば次はトリスティンが狙われ、それを防ぐ為にゲルマニアと同盟を…という訳ですか?」

「ええ…その条件として、私がゲルマニア皇帝に嫁ぐ事となったのです」

 

有り体に言ってしまえば、政略結婚て訳か…そりゃあ、気も沈むわな。

王族とはいえ姫様は、今現在は実権を持っていない身の上だし、トリスティン自体も他の大国と比べて国力は弱いらしい。

婚姻に関する自由などあったもんじゃあ無い。

 

「ですが、その同盟をアルビオン貴族派は良しとせず、それを妨げられる様な材料を探しているとの情報を得たのです…」

「ま、まさか姫殿下…その様な材料が、存在すると言うのですか…!?」

「おお始祖ブリミルよ…この不幸な姫をお救い下さい…」

 

まあ、そうなるわな…そして姫様のリアクションからしてその材料は存在してしまっているらしい。

だが、俺は此処でさっきから気になっていた姫様のオーバーアクション振りが、再び気に掛かった。

幾ら幼馴染との再会だからって、幾ら理不尽な政略結婚を結ばされるからって…此処までオーバーなアクションをしないと収まらない物なのだろうか?

ましてやそのオーバーなアクションをしているのは『黄金の精神』を持っていると俺は見ている姫様だ…その時々の感情は疑い様も無いが、振る舞いは余りに不自然過ぎる。

 

「その材料は…以前、アルビオンのウェールズ皇太子殿下にしたためた1通の手紙なのです。ラグドリアン湖の精霊に誓って、婚儀を約束する、という主旨の。幼い頃の約束とはいえ、これがゲルマニアに渡ってしまえば私に二心ありと見られ、同盟を破棄されてしまうに違いありません。そしてその手紙は今、ウェールズ様の下にあります」

 

はは、成程な…これで合点がいったぜ…

 

「つまり、その手紙を貴族派が手にしてしまう前に、ルイズと俺がアルビオンに渡ってその手紙を手に入れて姫様にお届けする…その依頼の為に此処へお尋ねになられたのですね?」

「い、いえ決してその様な事ではありません!貴族派と王党派が戦乱を繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険な事、頼める訳がありません!ただ、ただ1人心を許せるルイズに、打ち明けたかっただけです」

「いえ姫殿下!このルイズ、例え地獄の釜の中であろうと、龍のアギトのなかであろうと、姫殿下の命とあらば「待ちなルイズ!」きゃぁっ!?」

「さ、サイトさん?」

 

全く、姫様も案外あくどい事を考えるな…こりゃあ『黄金の精神』じゃあ無く『暗黒の意志』かもしれねぇな…

 

「姫様、1つお聞きしたい義が御座います」

「ちょっとサイト!ご主人様の話遮って、しかも姫殿下を問いただすなんて無礼にも程が」

「良く聞きなルイズ!本当に信用に足る配下っていうのはな、どんな命にもハイハイと従うイエスマンの事じゃあねぇ!重大なる間違いを起こしそうだと感づいたら面と向かって諫言出来る奴の事を言うんだ!」

 

ルイズの母、カリーヌさんが正にそうだと俺は思う…トリスティンの先代の王が亡くなった折、何時まで経っても喪に服したままだったマリアンヌ太后殿下を、武装した身なりで引っ張り出したらしいからな。

 

「ルイズと姫様の仲を疑う余地は無いと俺は思っていますし、姫様のトリスティンに対する御心への疑いも持ち合わせておりません。パールジャムは慈愛と純真なる心を司っているスタンドだと俺は思っています、これまでの姫様の言動を偽りだと疑う気は微塵もありません。不自然なまでに大仰なリアクションでルイズの同情を引き、この件を承諾させようとしたのも、トリスティンの太平を願っての事でしょう?」

「サイト、その物言いは無礼過ぎるわ!」

「待ってルイズ!…はい、サイトさん、その通りです。私ったら最悪な女ですね、唯一人の親友であるルイズを騙して危険な目に合わせようとするなんて…」

「いえ、それを咎める気は更々ありません。あそこまでしなければならないというのは、ルイズ以外に信用に足る知り合いがいない事の裏返しでしょう?それは良いのですが…此処からが本題です。

 

その信用できる唯1人の親友であるルイズを、恐らく失う事になる…それに対する覚悟は出来ていますか?」

 

ルイズと俺が向かうかも知れない所は、ハルケギニアでも髄一の航空戦力を持つアルビオンの、国力を二分した争いが繰り広げられている場所なのだ。

幾らフーケを圧倒したルイズと俺でも、相手のスケールが違いすぎる。

極秘任務だから人員は期待できないし、2人揃ってスタンドは近距離パワー型だ。

激戦区に足を踏み入れたら最後、魔法によるオラオララッシュの餌食だ。

トリスティンに帰還できる確率は、余り高いとは言い難い。

そして、姫様にとって唯1人信用できる親友であるルイズを失うという事は…

 

「これから姫様が向かう先は、野蛮だと言われているゲルマニアです。今までいたトリスティンとは全く風習が違うでしょうし、そこでの諸々の自由は厳しく制限されるでしょう。その地で、本当に頼れる人を全て失って、恐らくは一生を過ごさなければならない…そんな地獄の様な未来へ足を踏み入れる覚悟が、姫様、貴女にはおありですか!?」

「っ!」

 

…やれやれ、少し言い過ぎたか…だがこうでも言わなければ、その『心からの』真意は聞き出せまい。

俺の恫喝とも言える問い掛けに暫く黙りこくってしまったが、

 

「本当は…思いを寄せていたウェールズ様でなく…ゲルマニアのアルブレヒト3世になど…嫁ぎたくなどありませんし…それを成し遂げる為の…こんな依頼…ルイズには…頼みたくありません…!仮にトリスティンと…ゲルマニアが同盟を成し遂げ…アルビオン貴族派を…防いだとしても…私がトリスティンに…我が故郷に…帰る機会は限られているでしょう…!もしルイズまで…いなくなってしまったら…私は孤独な身で…ゲルマニアで一生を…過ごさなくてはなりません…!そんな未来に…どう希望を見出せば良いのか…見当も付きません…!」

 

…泣きじゃくりながら、心からの叫びを上げていた…その想い、どれだけの物だったか、現代の日本で人並みの生活をして来た俺の想像を軽く凌駕しているだろう。

姫様だって、生まれが違えば俺達と同じ年代の女子学生だったかもしれないのだ、その女子学生だったかもしれない存在には今、『トリスティン王国の存亡』という、余りに大きすぎる重量物が伸し掛かっている。

 

「ですが…これもトリスティンを…私の故郷を守る為です…!このトリスティンを、トリスティンにいる民を、何と引き換えても、守りたいんです!その為の覚悟は、全て出来ていますっ!」

 

けれど姫様は、その重量物を真正面から受け止めたっ!

素晴らしい…やはり姫様は『黄金の精神』を持った御方だっ!

 

「ブラボー…おお…ブラボー…!姫様の想いと覚悟、身をもって感じました…!」

「姫殿下の御心…その想いに答える事程、誉な事はありません!今回の任務、このルイズに是非お任せを!」

「俺も喜んで今回の件、承ります!」

「ありがとう、ルイズ、サイトさん…!私は貴女達の様な存在に巡り合えて、幸せです…!」

 

こうして、ルイズと俺はアルビオンの地へ赴く事となった。



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17話

アンリエッタ姫からの依頼の内容、それは『アルビオン皇太子、ウェールズから手紙を貰う事』。二つ返事で快諾しようとするルイズを止め、才人はその覚悟を問いただしたが、アンリエッタ姫の決意は強固だった!それに感じ入った才人とルイズは、改めて依頼を快諾し、アルビオンへと向かう事となった。


「はぁい、サイト、ルイズ。遅かったじゃない」

「やれやれ、待ちくたびれたよ」

「…」

「お、オレェ…」

「あ…アンタ達…」

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

俺はアンリエッタ姫様の昨日の指示の下、早朝に待ち合わせ場所である校門前に来たが、そこにいたのはキュルケとタバサ、そしてギーシュだった。

な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

ストーカーだとか盗聴だとか、そんな(ry

 

「なんで此処にいるのよぉ!?」

 

ルイズの絶叫が、空しく響いた。

 

「いやぁ、昨日の夜に女子寮へ向かう人影を見かけたんだけど、その姿が昼間に見たアンリエッタ姫殿下と瓜二つだったんだ!後を追わない理由など無いだろう!」

「さらっとストーカーの事実をバラしてんじゃあねぇ!」

「へぶぁ!?」

 

姫様をストーカーしたという事を堂々と告げたギーシュ(変態)を、納刀されたままのデルフリンガーでフルスイングした俺は悪くない。

悪いのはこのかっ飛ばされた変態(ギーシュ)の方だ。

 

「えーと、話続けて良いかしら?…それでね、ギーシュがその人影を追って、ルイズの部屋に入ったのが見えたからその様子を伺おうとしたみたいだけど、鍵は掛かっているしサイレントも何故か掛かっていたから中の様子は全く分からない。途方に暮れていたギーシュを私達が捕まえて尋問したら、その話を聞いて『何かあるわね』って思ったの。で、その姫様らしき人影がいなくなってから暫くしたら…これからどうするのか詳細は全て聞かせて貰ったわ。それで先回りしたって訳よ」

「アンタもさらっと盗聴の事実をバラすんじゃあ無いわよ!」

「盗聴とは人聞きが悪いわね、聞こえただけよ?貴方だって、姫様からの極秘任務だからって、サイトと2人きりで逢引だなんて、ズルいにも程があるわよ」

「あ、逢引って何言ってるのよこの色ボケ女ぁ!姫殿下からの任務って言っているでしょ!」

 

その口ぶりは盗聴していると言っているのと同じだぞ…はぁ、仕方ないか…

 

「今更忘れろって言うのも無理があるし、口封じともなれば色々とカドが立つ…なんなら、同行するか?」

「は、はぁ!?アンタ何言って」

「流石はサイトね!主人の反対があっても大局的に物事を判断出来る!そこにシビれる惚れるぅ!」

「宜しく」

「あいたたた…ま、まぁ任せたまえ!このギーシュ・ド・グラモン、必ずや姫殿下の密書を皇太子殿下の元へ届け、手紙を敵の手から守り抜いて見せよう!」

 

お前はお呼びじゃあ無いんだが…まあ良い。

 

「ところで、姫様が同行させるって言っていた人はどうしたのよ?遅いじゃない」

「…確かにそうだな。まだ日の出までは少しばかり時間はあるが…」

 

…そう、姫様は昨日の指示の折、騎士団の中でも指折りの実力を持つ存在を1人、同行させると言っていた。

確かにフーケ捕縛の立役者となった俺とルイズではあるが、2人揃って未成年、交渉事となれば不安は大いにある。

スタンドの実力は姫様も理解はしてくれたが、これまた2人揃って近距離パワー型、遠くからマシンガンの如く飛来する魔法相手では分が悪い。

かと言ってこれは極秘任務、1個中隊でも付けよう物なら早々にばれてしまう(キュルケ達は完全なイレギュラーだが)…故の人選となったのだが。

 

「…アルビオンの状況からして1秒でも時間が惜しい、姫様もそれを分かっての人選の筈だが…む!?」

 

その時こちらへ向かう様に、一筋の風切り音が響いた…敵襲か!?

 

キィン!

 

「…誰?」

 

咄嗟にデルフリンガーを掴んだ俺だが、その前にタバサが『エア・カッター』で相殺した為、被害は無かった。

それと同時に攻撃が放たれたであろう方向を睨むタバサに合わせて警戒すると、

 

「僕は敵じゃない。姫殿下に同行を命じられた者だ…すまない、姫殿下の情報と比べて人数が多すぎると思って、早速敵に漏れたんじゃないかと警戒していてね。でもその中に婚約者の無事な姿を見て敵じゃないと安心したよ」

 

恐らく20代中盤位の声と背格好をした長身の羽根帽子を被った男が現れた…婚約者?…誰の事だ?

その疑問は、その男が帽子を脱いで自己紹介をして、氷解した。

 

「女王陛下直属の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長のジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵だ」

「ワルド様!?」

「…その様子だとルイズの婚約者なの?随分と精悍な方ね。でも私はサイトの様な年若くワイルドな外見と、どっしりと老成された雰囲気を併せ持った方が好きよ!」

 

色ボケに走るキュルケは置いて…まさかルイズに婚約者がいたとはな。

しかし片やルイズは16、片やワルドと名乗ったその騎士は少なくとも26は超えている…年の差カップルを否定する気は無いが、ワルドの方は騎士となってもう10年近くは経っている筈。

その間に、他に縁談の1つや2つはあっても良い筈だが…

 

「久しぶりだな、ルイズ!僕のルイズよ!」

「…お久しぶりでございます」

「相変わらず軽いな君は!まるで羽根の様だ!」

「…お恥ずかしいですわ」

 

周囲の目など気にしないと言わんばかりにルイズに駆け寄り、抱き上げた様子から昔馴染み、それも結構仲良しな様だ…まさかコイツ、ロリコンの気があるのかっ!?

 

「彼らを紹介してくれないか?どうやらまだ警戒されているようだ」

「そ、そうですね…まず、使い魔のサイトです。本来ならサイトと2人の予定だったんですけど」

「サイト・ヒラガだ。宜しくな、ワルド子爵」

「君がルイズの使い魔か…最初に君の事を姫殿下から聞いた時は色々と信じられなかったけど、その面構えに油断無き振る舞い、あの土くれのフーケをルイズと共に捕縛したのも納得だよ」

 

…待て、今コイツ何つった?『最初に君の事を姫殿下から聞いた』…だと?

ギーシュをフルボッコにしたという噂、フーケを捕縛したという噂、昨日の使い魔品評会での演目…俺の事を知る機会なら幾らでもあった筈だがな…

 

「彼女たちは私のクラスメートです。何処かから聞きつけたみたいで、『仕方なく』同行させる事になったのです」

「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーです。キュルケって呼んで欲しいわ」

「タバサ」

「ぎ、ギーシュ・ド・グラモンです。宜しくお願いします」

「まあ、予定が逸れたが、宜しく頼むよ…さて、時間が惜しい。早速出発する事にしよう。おいでルイズ」

「待ちな、ワルド子爵」

 

そんな俺の疑問をよそに他のメンバーの紹介も済み、ワルドが出発の準備に取り掛かる様呼びかけたが、その際ルイズ抱えたまま、恐らく使い魔であろうグリフォンに乗ろうとしたのを止めに入った。

 

「どうしたんだい、使い魔君?」

「アンタとルイズの足は、そのグリフォンか」

「そうだとも。婚約者が移動を共にするんだ、何も変わった事は無いだろう?」

「ああ、無い。無いが…そのグリフォン、3人乗れるか?だったら乗せてくれ」

「ちょ、ちょっとサイト!昨日の事といい今の事といい、無礼過ぎるんじゃないの!?」

「まあまあルイズ、彼にもそれを言い出す訳があるのだろう…それで、どうしてだい?」

「俺はルイズの使い魔だ。使い魔は常に主人の身を守らなくてはならない。アンタの実力を疑うつもりは毛頭ないんだが、どんな時でもルイズを守れる状態でなければ、使い魔として立つ瀬が無い」

「成る程、見上げた忠誠心だよ。だけど僕のグリフォンは2人まで。此処は僕にその役目を、ルイズを守る役目を譲ってくれないかい?」

「…了解」

 

未だにこの男を信用してはいないが、これ以上食って掛かっても仕方が無い。

ルイズの護衛の役目は一先ずワルドに任せる事にし、俺はタバサのシルフィードに、その主人であるタバサとキュルケ、ついでにギーシュと一緒に乗る事となった。

そして、2体の使い魔は、空を舞った…!



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18話

アンリエッタ姫から密命を受けた才人とルイズだったが、それをキュルケとタバサ、ギーシュが聞きつけてしまった。仕方なく同行させる事にした彼らの前に現れた協力者は、ルイズの婚約者と名乗るワルドだった。


俺達6人で構成されたアルビオンへの潜入部隊は、何事も無くアルビオンへの船が出ているという、ラ・ローシェルという港町に到着したが、

 

「お、オレェ…幾らアルビオンが空にあるからって、こんな険しい山ん中に港町とはグレートだぜ…」

 

そう、そのラ・ローシェルは険しい山道を抜けた先にある渓谷の間にあった。

恐らくアルビオンとの距離をなるべく少なくし、1回の移動に掛かる費用を抑えようとした結果、此処に出来たのだろう、そのエコロジーな思想は俺達の世界でも通ずるから見当はついたが…此処まで交通の便が悪いとなると客入りが期待出来ないんじゃあないか?1回の移動に対する費用を重視し過ぎて費用対効果…この場合は客の収容率か…がおろそかとなっては笑えない。

 

「一先ず、宿で休憩するとしよう。僕達はその間に桟橋で交渉に当たって来るよ」

「了解」

「分かりました」

「ええ。さぁ、サイト行きましょう?」

「分かった…って何時から引っ付いて良いと言った?」

「キュルケ!サイトから離れなさい!」

 

やれやれだ…先が思いやられるぜ…

 

------------

 

「船が出ないだと?」

「ああ…アルビオンに渡る船は明後日にならないと出せないそうだ」

「急ぎの任務なのに…」

「足止めという訳ですか…」

「ちょっと、どういう事よ?」

「訳が知りたい」

 

ワルドとルイズが桟橋での交渉から帰ってきたが、その結果は困った様な表情の通り、直ぐにはアルビオンに行けない、という物だった。

こちとら急ぎの任務だというのにどういう事だ…

 

「明日の夜には月が重なる『スヴェル』の月夜だ。その翌朝、アルビオンがラ・ローシェルに最も近づく。その日じゃないと出せないそうだ」

「成る程な…出来るだけ短い航路で、経費を抑えたいって訳か」

「そういう事だ。だから今日明日は此処で泊まる事にしよう」

 

ほら来た、こんな辺鄙な場所を港町にした弊害が…大方乗客がそう集まらず、苦肉の策として経費を安く出来るタイミングにしか運航しなくなったのだろう…やれやれだ…。

とはいえ今その辺に文句を言っても仕方が無い、向こう2日間はこのラ・ローシェルで足止めか。

ワルドも踏ん切りがついた様に、鍵束をテーブルに置きつつ、部屋割りを指示した。

 

「部屋割りは次の通りだ。キュルケとタバサ、ギーシュとサイト、僕とルイズがそれぞれ同部屋だ」

「ちょ、ちょっとワルド!?だめよ、私達まだ結婚していないじゃない!」

 

その指示に激しく動揺したのはルイズだ…気持ちは分からないでもない、まだ結婚前の身分だと言うのに、婚約者とはいえ男女が2人きりというのは精神衛生上宜しくない物、ましてやルイズはヴァリエール公爵家の令嬢だ、その辺りの教育は厳しくされている筈である…え、俺?俺はそれ以前に使い魔だからな…

とはいえそれも「大事な話があるんだ」とのワルドの押しには勝てず、2人は足早に部屋へと行く…まあ、今日ばかりはルイズの事を任せても良いだろう、仲の良さは既に見ているし、戦闘能力も姫様の推薦とあらば相当な物の筈だ。

 

------------

 

「おはよう、使い魔君」

「…おはよう、ワルド子爵」

 

物凄く久々に、ハルケギニアに来てからなら初めてベッドでの寝心地を味わった朝、俺達2人が泊まる部屋に意外な来客があった、ワルドだ。

大方、ルイズの事について何か話があるのだろうが…丁度良い、俺としてもルイズが結婚したとならば、新たなる主人になる存在だ、昨日の『大事な話』がどういった物か気になっていた所だしな。

 

「ちょっと話があるけど、良いかい?」

「ああ、構わない。俺もアンタに聞きてぇ事があったからな」

「そしたら、僕は失礼します」

 

ギーシュが空気を読んだのか去り、早速切り出そうとしたが、

 

「君は伝説の使い魔、ガンダールヴなのだろう?」

 

ワルドの方が切り出し…その内容は俺を驚愕させた…!

 

「な、何でそれを…!?その話は俺とオールド・オスマンと教師コルベールしか知らない筈…!」

「僕は歴史と強者に興味があってね。牢獄に囚われていたフーケを尋問した際に君の、君の使い魔のルーンの事について知ったんだ。それでそのルーンについて王立図書館で調べたら、ガンダールヴに辿り着いた、という訳さ」

 

…待て、今コイツ何つった?フーケを尋問して俺のガンダールヴのルーンの事を知った、だと?

確かにフーケはロングビルとしてオールド・オスマン付きの秘書だったのだ、教師コルベールの報告を聞き出しても可笑しくはないし、ワルドは姫様直属の騎士団の長、重大な犯罪のを取り調べを担当していても不自然な点はない。

だがコイツは昨日、俺の事を姫様から聞いて初めて知ったと言っていた、この点が大いに矛盾している。

何故こんなちぐはぐな話を展開する必要がある…俺の、ワルドへの不信感が増した瞬間だった。

 

「それにだ、ルイズから聞いたけど異世界から召喚されたそうじゃないか」

「…良く信用する気になったな、そんな普通は与太話にしか聞こえない事を」

「ルイズは自分の使い魔の事の様な重大な事案に嘘は吐かないさ、僕はそう信じている。それに君の服装はこのハルケギニアでは全く見掛けない物だ。信憑性は大きいどころじゃないよ」

 

そんな俺の不信感を知ってか知らずか、話を続けるワルド…それにしてもキュルケやタバサといい、このワルドといい、異世界から来た事をあっさりと受け入れるな。

ルイズ達ヴァリエール公爵家の方達や姫様は、スタンドという信じざるを得ない重大な要素があったが、ワルド達にその要素は無い…だというのに、此処まであっさりと信じられるのも可笑しな話だな。

 

「正直な所、凄い興味があるんだ。異世界出身だという君と、伝説と言われたガンダールヴ…それを以て土くれのフーケをルイズと一緒に捕縛した、その実力を。手合せ願えるかな?」

「…良いだろう、互いに実力を知るのも悪くない」

 

何かと思えば試合か…まあ、ワルドの、ハルケギニアのメイジの実力を見るには充分すぎる位に良い機会だ。

これまで戦って来たメイジはギーシュとフーケの2人だけ…ギーシュは弱すぎたし、フーケも実質、戦った相手はそのゴーレムで、それも実際に倒したのはルイズだ。

おまけに2人揃って土のメイジ、その他に見た魔法はと言えば…キュルケが使っていた火の魔法に、タバサが使っていた風の魔法、後はルイズの爆発魔法くらいだ。

ここらで、トップクラスのメイジと手合せしてその実力を計るのも良いかもな。

 

「中庭に練兵場がある。付いてきてくれるかい?」

「勿論だ」

 

------------

 

「それで…開始の合図はどうするんだ?まさかどっちかに決定権があるとか、そんなフェアじゃねぇ事は言わねぇよな?」

「勿論さ。それにこういう立ち合いには、それなりの作法がある。介添人がいなくてはと思って、さっき呼んでおいた。そろそろ来る頃だから、彼女に合図をやって貰う事にしよう」

 

俺達が泊まっている宿『女神の杵』の中庭にある練兵場。

先程、決闘を申し込まれて受けて立った俺と、その相手であるワルドは此処で、ワルドが呼び出したらしい介添人の到着を待っていた。

俺は準備体操をしつつ、ワルドは周囲の様子を伺いつつ。

 

「ところで使い魔君、この練兵場なんだけどね…遥か昔、まだ貴族達が…君の言う『黄金の精神』を失っていなかった時に、貴族同士の決闘の場所として良く使われていたんだ」

「ワルド子爵、貴族同士の決闘は法で禁じられていた筈じゃなかったか?その時にはまだって奴か?」

「まあね。で、その理由で多かったのが、婚約者を巡る争いだったそうだ」

「…まさかルイズを介添人として呼んだのはそれが理由か?やれやれだ…」

 

ワルドがふとこんな話を始めた真意が分かった俺、その目線の先には、こっちに向かって来るルイズの姿があった…さっきの話を踏まえるならば、使い魔である俺と婚約者であるワルドのルイズを巡る争い、という演出をしたかったのか…やれやれ、悪趣味だ。

 

「来いって言うから来てみれば…アンタ達、何しているのよ?」

「いや何、彼の実力を試してみたくなったんだ」

「俺としても、姫様に仕える騎士の実力がどれ程の物か見たくてな」

 

どうやら何で呼ばれたのか教えられていない様だ…まあ、教えたら来る訳が無いか。

と思っていたら、

 

「珍しくルイズが早起きしているから、気になってつけて来たけど…面白そうじゃない」

「…眠い」

「サイトとワルド子爵の手合せか…これは見物だ…!」

 

…野次馬根性丸出しの2人+無理やり引っ張られた被害者1人がやって来た…見世物じゃあ無いんだが。

そんな思いで苦笑いを浮かべる俺とは対照的に、むしろ歓迎すると言わんばかりにワルドは、

 

「さて、観客も介添人も来た事だし、始めようか。ルイズ、開始の合図は任せたよ」

「え、わ、私!?」

「お手並み拝見」

「サイト頑張ってぇ!」

「アンタ人の使い魔に何勝手に声援送っているのよ!」

「良いじゃない、応援して何が悪いの?」

 

場を取り仕切ろうとするが、その後の展開は何時も通りのカオスだった…何だか萎えるぜ。

 

「…ともかく、全力で掛かって来たまえ!」

「おう、望む所だ!」

「あ、ええと、始め!」

「行くぜっ!」

 

ルイズの開始の合図と共に飛びかかる…今回はあくまで手合せだ、相手を無力化させれば良い…その最も効果的な手段は、杖を弾き飛ばして魔法を使えなくする事。

ならば狙うは、レイピアの様な形状をしたワルドの杖っ!

 

「オオラァ!」

 

がきゃぁっ!

 

「く…重い…僕が押されているとは…これも伝説の使い魔のルーンが成せる業か…」

「流石は騎士様といった所か。ハルケギニアに来てから見たメイジは皆、接近戦の『せ』の字すら知らなさそうな奴らだったが…アンタは別の様だ」

 

ワルド本人に斬りかかるフェイントを交えつつ、突き出されていた杖を打ち落とそうとしたが、流石に読めていたのか或いは最初からそのつもりなのか、両手を使ってそれを受け止めた…だがその杖が少しずつ下がっている辺り、押し負けている様だ…体格的に勝るワルドを押し込むとは、デルフリンガーの重さに因るものなのか、それともガンダールヴのルーンの効果なのか…まあどっちもだろう。

 

「勿論だとも。魔法衛士隊のメイジは皆、ただ単に魔法を唱える訳じゃあ無い。詠唱さえも戦いに特化されている。杖を構えたり、突き出したり…そういった仕草や動作の隅々をまるで剣の様に行いつつ詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本さ」

「…は、今のは大変勉強になったが…戦いによそ見は厳禁だっていう基本は習わなかったみたいだな!」

 

ブオン、ガァン!

 

ドガッ!

 

「つぅ!」

 

ワルドが唐突に喋りだした隙を突いて峰打ちと左ミドルキックを打ち込む。

峰打ちこそガードされたがミドルキックの方は手応えがあった、吹っ飛ぶ勢いで間合いを開けられてしまったが脇腹を抑えた様子からダメージ有だな。

 

「くっ!お喋りが過ぎたか…しかし僕とて『閃光』の二つ名を持つメイジ!負けはしないっ!」

 

ワルドの、その気合と共に、反撃が来る…く、速い…!

レイピア型という形状を活かした杖の連打、その速さはシルバーチャリオッツの剣捌きにも劣らない…一方の俺はスタンドの存在を嗅ぎつけられる様な目立った行動は出来ない以上、それに対応できる素早い斬撃は出来ない。

必然的に、ガードせざるを得なくなる。

おまけに、

 

「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ…」

 

ブツブツと話している様子から、魔法を詠唱している様だ…さっきの言葉は偽りでは無い様だ。

どうする…デルフリンガーではこの速い剣捌きには対応出来ない為、この状況を打開するのは難しいが、だからって詠唱を許していては勝機が薄くなるばかりだ。

ワルド等が使う風の魔法は今の所、共にタバサが使っていた『エア・ハンマー』と『エア・カッター』しか知らない。

この2つとてまともに見た訳では無い上に、ワルドが2つのどちらかを発動させるとは限らないのだ。

そのどちらでも無い魔法が来れば、対処は厳しすぎる。

…考えている時間が多すぎた、ワルドが詠唱を終わらせ、後方へ飛び退く…しまった!

 

「エア・ハンマー!」

 

ゴォォォォォォォ!

 

幸い、発動された魔法はエア・ハンマーだったが…その規模はタバサの比ではなかったっ!

発動と共に響き渡る轟音からして、俺を中心に半径数メートルはありそうだ…流石はスクウェア・メイジといった所か…!

その規模、スピード、タイミング…最悪だ、『俺が』どう動いても直撃コースからは逃れられない。

だが、それなら、

 

ドォン!

 

「な、何っ!?」

「オオオラァ!」

 

カァン!

 

次の瞬間の光景、それは『エア・ハンマーを唱えたワルドの手から杖が無く、その目前には俺がデルフリンガーを振り切った姿』っ!

 

「貴族は杖を落としたら負け…つまり俺の勝ちだ」

「な…何が起こった…!?」

 

ワルド、いや観客達にしても何が起こったか分からないと言いたげな顔だった…まあそうだろう。

さっきまで俺はワルドの剣撃をガードするのが手一杯でしかも、その衝撃で足のバランスが少し崩されていた。

そこに放たれた半径数メートルのエア・ハンマー、通常でも全力で走るか横っ飛びしなければ直撃は回避出来ない規模の大きさ、しかもそれをするには俺の足元は覚束なかったのだ。

だが、

 

「簡単な話だ。俺は前へすっ飛んだだけだ」

「ば、馬鹿な…あの態勢で前へ飛んで回避する等、到底無理な筈…!」

「2度言うつもりはねぇぜ。それが事実なんだ」

 

それは『俺1人』ならの話。

あの時、シルバーチャリオッツに背中から突き飛ばさせたのだ。

これによってエア・ハンマーの直撃を受ける事無く、ワルドとの間合いを詰める事に成功し、そして必勝の一撃が避けられた事で驚愕した隙を突いて、杖の弾き飛ばしを成功させた…事の真相はそれだ。

 

「だが今のはギリギリだった。一瞬でも判断が遅れていたら俺の負けだった…流石は姫様直属の騎士って訳か、今まで戦ったメイジとは格が違っていたぜ」

「お褒めにあずかり光栄…と言うべき所だけど、参った、僕の負けだ。流石と言うべきだな」

「す、凄い…まさかスクウェア・メイジに勝つとは…僕が圧倒される訳だ」

「勝っちゃうなんて流石サイトね!凄く恰好良かったわ!私また惚れ直しちゃった」

「だからアンタは人の使い魔を口説いているんじゃあ無いわよ!」

 

俺とワルドの決闘、それは得る物が沢山あったイベントとなったが…始まる前から終わった後までカオスだった…やれやれだ。



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19話

ラ・ローシェルの街に辿り着いた才人達だったが、船が出るのは2日後、それまで足止めを食う事に。その翌日にワルドに決闘を申し込まれ、それに勝利した才人だったが、そのスクウェアメイジとしての力は想像以上の物だと戦慄を覚えたっ!


ワルドとの決闘後のカオスな状況を何とかした後の夕暮れ時、俺はギーシュと雑談をしていた。

思えばあの決闘以来、まともに話した事は無かったからな、モンモランシー達との顛末はどうなったのか等々、気になっていた事は山ほどあるし、ワルドを除けば、今回同行している奴では一番面識が薄い。

ここいらで、話を交わすのも良い物だな。

 

「それで、あの2人とはその後どうなったんだ?」

「モンモランシーとケティの事かい?あの後2人を呼んで、謝って来たよ。謝った上で、2人を纏めて愛する事にした。浮気者だとか二股だとか、色々言われる事にはなるだろうけど、薔薇は多くの人を楽しませる為に咲かせる花。それを杖とした僕も、そこだけは譲れないさ」

「ふっそうか」

 

堂々と二股を宣言しているギーシュ、常識的に褒められた奴ではないが、その風格は最初に会った時とは段違いに大きくなっていた。

俺との決闘がその切っ掛けとなったか?

 

「けれど以前の僕は、君に指摘された通り浮ついた気分で女子たちを口説いていた。誰彼構わず、ね。薔薇の花の本当の意味を理解していなかったんだ。今思えば、薔薇を語るのも罰当たりだったね」

「そりゃそうだな」

「はは…けれど君に言われて目が覚めたよ。確かに薔薇は多くを楽しませる為にある。だけどそこには浮ついた想いは微塵も無く、唯々愚直に皆を楽しませ、そして茎の棘で外敵から守り通す。それが分かったよ。分かったが故に、モンモランシーとケティ、2人を本気で愛そうと決めたんだ」

「成る程な、良い顔しているじゃねぇか。で、その2人からは?」

「思いっきり平手打ちを食らったよ。でも、それでも良い。そうなるのは覚悟の上さ」

 

薔薇は愚直に多くの人を愛し、そして外敵から守る…か、コイツらしいな。

 

コンコン

 

「む、お客様かな?じゃあ、お邪魔虫は退場しようかな」

「良いのか、此処はお前の部屋でもあるんだぞ?」

「良いさ…おや、ルイズ。何かサイトに用向きかい?」

「…ええ」

 

退室したギーシュと入れ違いに入って来たのはルイズだった。

…まさか今朝の決闘の事で何かあるのか?

 

「サイト…ちょっと良い?」

「ん?…ああ」

 

やけに神妙そうな顔つきだな…どうやらかなり訳ありの様だが…

 

「ワルドと私が婚約者同士だって事は知っているわよね。もう10年も前、私がまだ6歳、ワルドが確か16歳の時に親同士の約束で決まった物だけどね…確かにその時はワルドに並々ならぬ想いは抱いていたけど、その約束以来会ってもいなかったから…正直分からなくて…」

 

…やっぱ政略結婚の類か、まあ予想はしていたけどな。

片やヴァリエール公爵家という由緒ある家柄との関係、片や姫様直属の騎士と契りを結ぶことによる才能あるメイジの輩出…例えヴァリエール家であっても、いやヴァリエール家だからこそ、こういった政治戦略を駆使せざるを得ない、という訳か。

 

「そのワルドからね、結婚を申し込まれたの。この任務が終わったら、結婚しようって。でも彼は急がないとも言っていた。私の心の整理が付くまで、本当に結婚を決意するまで待つって。サイト…どうしたら良い?」

「どうしろって言われてもな…なら聞くが俺が止めろときっぱり言って、それが何の問題も無く通るのか?アイツは絶対に『NO』と言う筈だ。正直何とも言えねぇ」

「何よそれ…答えになってないじゃない…」

 

使い魔であり『平民』である俺が口を挟んで良い問題じゃあない、とりあえず当たり障りの無い解答をしたが…どうもルイズは納得していない様だ…

やけにウジウジして…らしく無いな、全く。

 

「何よアンタ…最近私の夢にしゃしゃり出て来た挙げ句にワルドとの間に入って『ルイズは渡さない!』とか言い出すし」

「いやちょっと待てルイズ、急にどうした!?」

「この所立場を弁えずに姫殿下やワルドに噛みついてやきもきさせるし」

「あ…それは悪かった」

「キュルケとイチャついて腹立たしいし」

「それは誤解だ!アイツが一方的に引っ付くだけだ!」

 

さっきから様子がおかしいな…俯きながら俺に相談事を持ち掛けたと思ったら急に不機嫌になって俺にそれをぶつけて来る…一体どうしたと言うんだ?

 

「私がこうまでアンタに気を回さなくちゃいけないのにアンタは何とも思わない訳!?」

 

っ!…そうか、そうだったのか…俺は何て無神経な奴だったんだろうな…此処までルイズに心配させている事に気付かなくて『黄金の精神』を語れる立場じゃあないな…

思えばルイズも、『黄金の精神』を胸に秘めて真っ当な貴族であらんとする俺のご主人様も、その実まだ16の女子なんだ。

唯でさえヴァリエール公爵家という品格を求められる家の出に、同級生達とは異質の才能に悩んでいる所に、使い魔とはいえ同じ位の年代の、見ず知らずの男子()がその日常に入って来ただけでも気を回さなければならなくなるのに、その俺は(ルイズから見れば)常識知らずの破天荒な奴。

アンリエッタ姫様の件に頭が回って気付かなかったが、ルイズもまた色んな重い荷物を背負わなければならない存在なんだ。

そんなルイズの重荷を理解せずして、何が『黄金の精神』だっ!何がルイズの使い魔だっ!

 

「…悪かった、なら少しだけ。徹底的に悩め。悩んで悩み抜いて、答えが決まるまで待って貰え」

「…」

「それともう1つ。

 

俺はルイズの使い魔だ。お前が結婚したとしてもそれは変わりない。だから困った時は、今日みたいに遠慮なくぶつけてくれ。一緒に悩もう、考えよう、そして答えを見つけよう」

「…うん、分かった」

 

絶対に守って見せる、ルイズを、この華奢な体躯で重い荷物を背負わされながらも、『黄金の精神』を体現しようと頑張る、俺のご主人様を。

そう、俺が決意したその時、

 

ズシーン!

 

「っ!この音は…!?」

「サ、サイトあれ!」

 

突如として響き渡る地鳴りの様な音と、少し暗くなった部屋、その様子に窓を見るとそこには、

 

「ば、馬鹿なっ!確かに投獄された筈っ!」

「土くれのフーケ!何でアンタがっ!?」

「やあ久しぶり。覚えていてくれて感激ね」

 

見間違える筈が無い…緑色のロングヘアー、スーツを纏った長身、そしてその下に鎮座する巨大なゴーレム…俺達が捕縛した筈の土くれのフーケ、本人だったっ!

 

「まさか…脱獄でもしたと言うのかっ!?」

「ご明察。親切な人がいてね、私みたいな才能溢れる美人はもっと世の為に役立たないといけないと言って、出してくれたのよ。それがこの彼よ」

 

フーケが指差した先には、ゴーレムの反対側を陣取っていたメイジらしき風貌の男(白い仮面で覆ってはいたが、体格からして間違いないだろう)がいた。

フーケの言い分からして…まさか貴族派かっ!?

 

「何でそいつがおめーを出したかは後で聞き出せば良いとして…どうやらやられ足りねぇみてーだな」

「今回はそのお礼に来たのよっ!」

「っちい!」

「くっ!」

 

ドガァッ!

 

フーケのゴーレムから放たれたパンチは俺達を部屋ごと襲ったが、咄嗟にシルバーチャリオッツを出して身体を掴ませて退避し、同じくキラークイーンを出して同じ様にしたルイズと共に1階へ避難するが、

 

「くそっ!此処も取り込み中だったかっ!」

「あらサイト、そんなに急いでどうしたの?」

「フーケが脱獄して、お礼参りに来やがった。恐らく目の前の連中と手を組んでいるんだろうな…」

「成る程ね…何やら上から轟音がしたかと思ったら…」

 

1階でも騒乱の最中だった。

話を聞くと、どうやら食事中だったワルド達と、ついさっき降りて来たばかりのギーシュの所に傭兵らしき風貌の連中が急襲して来たらしい。

ワルド達も応戦はするが多勢に無勢、更に相手はメイジとの戦い方を心得ているらしく、テーブルを盾にしたワルド達を追い詰め、魔法を使いそうなら顔を出した瞬間に矢を射る構えだ。

 

「2階でフーケの他に1人、仮面を付けたメイジがいた。フーケを脱獄させたのはそいつらしい。そしてどうやら…アルビオンの貴族派の様だ。くそっバレていたとはな…!」

「悔やんでも仕方無い。その仮面のメイジ、何の系統なのか、実力がどうか、それは全く分からない。だが手をこまねいている場合でも無い。良いかい諸君、この様な任務では半数が目的地にたどり着きさえすれば成功とされる」

 

この状況に歯噛みする俺を窘めつつ、ワルドが状況把握と説明を行うが…半数さえ辿り着ければ、だと?つまりそれは…

 

「囮」

 

その言葉を聞いたタバサが自分とキュルケ、ギーシュを杖で指しながらそう言い、

 

「桟橋へ」

 

俺とルイズ、ワルドを指してそう言うが、

 

「いや、その必要は無い」

「サイト!?」

「向こうの傭兵どもを撃退して脱出すれば後はメイジ2人だけ。戦力が集っていれば追撃はしない筈だ。俺とルイズ、10秒でやって見せる。出来るな、ルイズ?」

「何を言っているんだ君は、幾ら君でもそんな芸当」

「ええサイト、分かったわ。で、どうすれば良い?」

「ルイズまで!?」

 

俺とルイズの2人でならその必要性は無くなる…公爵様の約束に思いっきり抵触するが、四の五の言ってられる状況じゃあ無いのはコーラを飲めばゲップが出るという位に明らかっ!

こういう時こそ、隠密性の高いスタンドの腕の見せ所って奴だっ!

 

「(ルイズ、俺がシルバーチャリオッツで部屋の松明を切り取りつつ傭兵どもの中心に投げつける。その後にルイズはシアーハートアタックを投げ込んでくれ。良いな)」

「(分かったわ!)」

 

ほんの数秒の作戦会議が終わると同時に、俺達の反撃が始まった。

 

スパァン!ヒュン!

 

「うわ!な、何だ!?」

「松明がっ!?こっちに!」

「今だルイズ!」

「任せてサイト!行っけぇ!」

 

『コッチヲミロォォォォォ!』

 

そして部屋中に響き渡る、謎の声…よし、今だ!

 

「脱出するぞ、皆」

「早くしなさい!」

「え、ちょっと待ってサイト、ルイズ!」

「今の声は一体何なんだ!?」

「後ろ、危ないと思う」

「待ちたまえ!」

「お、おい逃がすn」

 

『コッチヲミロッテイッテンダロォォ!』

 

「な、何なんだ一体!?」

「どっから喋ってやがるっ!?」

 

俺達の突然の逃走に矢を射ろうとする傭兵たちの意識を更に攪乱する、謎の声。

そして、

 

チュドォォォォォォォォォォォォォォン!

 

「「「ギャァァァァァァァァァ!?」」」

 

シアーハートアタックの爆発が、俺達の脱出とタイミングを合わせて行われ、それは傭兵たちを『女神の杵』ごと、グツグツのシチューに変えた。



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20話

ギーシュの決意とルイズの葛藤、2人の思いに触れた才人は改めて、使い魔としての決意をする。だがそこへ襲撃して来た土くれのフーケ、貴族派の者らしい仮面のメイジと傭兵集団を退けはしたが、任務の達成が一層困難だという事を思い知らされた。


突如襲撃して来た傭兵の集団をルイズのシアーハートアタックで撃退、仮面のメイジもフーケも追って来ない事を確認しつつ、俺達は桟橋…ある建物の階段を抜けた先にある、四方八方に枝が伸び、その先に船がぶら下がった、中が空洞になっている大樹…へと向かう。

俺達の動向が貴族派に掴まれてしまったのは痛いが、こっちはスクウェアメイジが1人、トライアングルメイジが2人、スタンド使いが2人、結構な規模での襲撃で無ければ対処は出来る。

向こうも規模の大きい部隊をぶつければ大事になりかねないと踏んでいるだろう、これ以上の襲撃は無いと俺達は安心し、桟橋にぶら下がる船に到着した。

まだ出航のタイミングでは無かったが故に渋る船長だったが状況が状況だ、ワルドが風石…風のルーンと魔力が込められた石らしく、船はそれを動力源としているらしい…の魔力の不足分は自分が受け持つ事で交渉は成立、予定より早くアルビオンへと向かう事となった。

で、その途上だが、俺とルイズは揃って、思いっきり質問攻めにあった。

どうして部屋の松明が突如切断されて傭兵の元へ飛んだのか、あの第三者の声は誰なのか、俺達が離れたタイミングを見計らってのあの爆発は何なのか、俺とルイズはどうしてそれを『知っていた』かの様に動けたのか…俺もアイツらの立場だったらそーする。

だが今更ながらスタンド関連の情報はヴァリエール公爵家と俺との重要機密…最近はアンリエッタ姫様との、と加えた方が良い状態だ…である、「ヴァリエール公爵家の皆を敵に回す覚悟の上だろうな?」と脅してやったら一瞬の内に黙り込んだ…皆して青ざめていた様子からしてカリーヌさんの異名『烈風カリン』の最ッ高の恐ろしさは健在って奴だな。

さて…ここからが正念場だ。

先程の襲撃も無傷で切り抜けた俺達だったが、これからも貴族派の奇襲が待ち受けているかも知れない。

また、今から足を踏み入れるは激戦が繰り広げられているアルビオン王国領内、さっきとは敵の規模が違い過ぎる為、まともな衝突は避けたい。

だがしかし、ワルドが船長から聞いた話だと王党派の陣営は既に本拠のニューカッスル城に籠城、貴族派がそれを包囲している状態で、王党派との接触には陣中を突破するしか方法が無い。

ほぼ絶望的な状況…それは正に今だ。

 

------------

 

俺の不安は、アルビオンに上陸する前に現実の物となってしまった。

船がアルビオンに接近したその時、俺がその光景…大地の下半分が、大河から溢れ落ちた水が気化した事で出来た霧で覆われ、正に『雲の上に乗っている』光景だ…に見とれていた時だった。

その進路を妨害するかのように空賊らしき船が数隻立ちはだかり、大砲を突きつけられた為に船長が投降してしまったのだ。

で、俺達はといえば、貴族の乗客、という事で各々の得物…俺はデルフリンガー、ルイズ達メイジは杖…を没収された挙げ句に縛られ、船倉に放り込まれた。

大方、ルイズ達の関係者に身代金でも要求して一儲けしようって算段か、或いは貴族派と一枚噛んでいるか…やれやれだ。

その気になればシルバーチャリオッツをけしかけて縄を切れるし、キラークイーンとのタッグで空賊共を逆に制圧するのも不可能では無いが、大砲をちらつかせている関係上、止めた方がいいな。

そう思案していると、

 

「お前らに聞きたいことがある。もしやお前ら、アルビオンの貴族派の連中かい?」

 

…まさか、後者か?

 

「いやぁ、そうだとしたら申し訳ねぇと思ってさ。俺達はお前たちによって稼げる訳だし、王党派に加わろうとかしやがるアホ共を捕まえればそれこそウハウハだしなぁ。で、どうなんだ?」

 

…やっぱり後者か、此処はどうすべきかな。

馬鹿正直に「王党派への使いだ!」と言うべきか?NO! NO! NO! NO! NO!

それとも条件反射で「はい、そうです」と言うか?NO! NO! NO! NO! NO!

或いは…

 

「誰が薄汚い反乱軍よ!私達は王党派への使いの者よ!私達はトリスティンを代表してアルビオン王室へ向かう大使なんだから!」

「ル、ルイズ!な、何を言っているだァァァァァ!?」

 

…1つ目を迷わず選ぶ奴が居たのを、あろう事か俺のご主人様がそうなのを忘れていた…やれやれだ、そこは状況を読もうか。

…傍にキラークイーンを発現させている辺り、相手がどんな出方をしても切り抜けられると踏んだのだろうが、仮にキラークイーンがいなかったとしても言いそうだ…ルイズは、そんな奴だった。

ギーシュの訛り全開の叫びに表れている通り、恐らく皆そう思っているだろう。

 

「随分とまた正直な奴が居た物だ。その態度なら褒めてやるが、少しは状況を読んだ方が良かったぜ?」

「アンタ達みたいな下賤な輩の為に読まなきゃならない空気なんて無いわ!元よりこんな状況は覚悟の上よ!」

 

尚も食って掛かるルイズだったが、そんな罵詈雑言を真正面から浴びせられている空賊の様子が何かおかしい。

普通なら怒り狂う所を、むしろ感心したかの様な、救われたかの様な笑みを浮かべていたのだ。

まさかとは思うが…

 

「ほぉ…ちょっと待っていろ、お頭に報告してくらぁ」

 

程無く空賊が、船倉に鍵を掛けつつ去って行く。

ルイズの独断専行に俺以外は頭を抱えるばかりだったが、もし俺の直感が正しければ結果オーライとなる…と思う。

そうなれば良いが…

 

「お前ら。お頭がお呼びだ」

 

------------

 

「大使としての扱いを要求するわ。でなければ、アンタ達に話す事など何も無いわ!」

「王党派への使いの者だと言っていたな?あんな明日をも知れぬ連中に、一体何の用事だ?」

「言ったでしょう?話す事など何も無いと!」

「貴族派に付く気は無いか?アイツらはメイジを欲しがっている。礼金も弾むだろうよ」

「死んでも嫌よ、あんな薄汚い連中の下っ端なんて!」

 

空賊に案内されたのは、その頭目がいる部屋だった。

空賊の頭目は如何にもそうだと言わんばかりの風貌で、その部屋のディナーテーブルの上座に座り、周囲に武器を持った数人の手下を控えさせていた。

その前方に案内された俺達だったが、ルイズは早速、頭目に食って掛かった。

で、今現在は押し問答を繰り広げている、という訳だ。

俺達の側はと言うと、今更状況は変わらないと諦めの表情だった。

 

「もう一度言う。貴族派に付く気は無いんだな?」

「答えは一緒、NOよ」

 

念を押すかの様な問いを投げ掛ける頭目と、変わらず拒否の姿勢を示すルイズ…やはりおかしいな、頭目もまた、感心した様な、安心した様な笑みが僅かに浮かんでいた。

そして、

 

「「「はははははははははははははははは!」」」

「ちょ!?何で笑うのよ!?」

「いやぁトリスティンの貴族は、本当にプライド高くていけないな。何処かの国の恥知らずどもに比べれば数百倍もマシだけど」

 

突如巻き起こった大爆笑、急に変わった頭目の口調、急に外しだした帽子と眼帯と『髪の毛』と『髭』、そしてこの後の行動が、俺の疑問を氷解させた。

 

「アルビオンへようこそ、大使殿。私はアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

 

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!

俺達は空賊に捕まっていた筈だが、その頭目は俺達が会う予定だった皇太子様その人だった。

な…何を言っているのか分からねぇと思うが、俺も何が起こったのか分からなかった…

頭がどうにかなりそうだった…

お忍びだとか落ちぶれただとか(ry

 

「ぶっ飛ぶ程…カミングアウト…」

「意外っ!それは目の前の皇太子殿下っ!」

「…」

「ぐ、グレートです、皇太子殿下…」

「こ、こういう時は素数を数え…素数って何だ?」

「お、オレェ…」

 

各々のセリフで、どれだけ意外だったかが分かるだろう?



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21話

アルビオン行きの船に乗り込んだ才人達一行だったが、その船が空賊に拿捕されてしまう。だがその空賊の頭目は、アルビオン皇太子ウェールズ・テューダーその人の変装だったっ!


空賊の頭目が実はウェールズ皇太子様その人の変装だったという、まさかの展開故に一悶着こそあったものの、俺達は皇太子様の案内で彼ら王族のみが知る、ニューカッスル城下に隠された港に船を停泊させる事で(比較的)平穏に目的地に到着する事が出来た…ルイズのあんまりに無鉄砲な行動も吉と出た訳だ。

その中の、姫様から宛てられた手紙が保管されているという皇太子様の自室に、俺とルイズだけが案内された…大所帯で入る程の任務でも無いし、無駄に話が逸れても良く無いからな。

その一角に鎮座する皇太子様の机、そこに置かれた、宝石が散りばめられた小箱を開け、その中から今回、任務の為に回収する手紙らしき物が取り出される。

…余談だが、その箱の蓋の内側にはアンリエッタ姫様の肖像画が飾られ、手紙もまた何百回も読まれたのかボロボロと言っても過言じゃあ無い状態だった…余程姫様を愛しく思っているみてーだな、姫様からの密書を読んで凄く嘆いていた事からも、それが分かる。

 

「これが姫から頂いた手紙だ。この通り、確かに返却した」

「ありがとうございます」

「明日の朝、我が国の船『イーグル号』が非戦闘員を乗せて出航する。それに乗ってトリスティンへ帰りなさい」

 

…非戦闘員『だけ』、だと?つまりそれは…

 

「あの、殿下…差し出がましい様ですが…王党派に、勝ち目は無いのでしょうか?」

「我が軍は三百。一方で貴族派は五万。勝ち目は万に1つも無い。我々に出来る事は、勇敢な死に様を、我らの高き誇りを、連中に見せつけるのみだ」

「殿下の討ち死にされる様も、それに入っている、と?」

「勿論だ」

 

…やはり、皇太子様も、此処に留まる王党派の兵士たちも、最期まで戦うつもりか…!

 

「殿下…失礼をお許し下さい。このお預かりした手紙について、姫殿下からは聞いています。この任務を私に仰せつけられた際の姫殿下のご様子も、尋常ではありませんでした。まるで…恋人を、案じておられる様な…。先程の殿下の物憂げな御顔といい、もしや姫殿下と、皇太子殿下は…」

「ああ、私とアンリエッタは恋仲だった。その動かぬ証拠であるこの手紙が敵の手に渡ったら最後、間違い無くゲルマニア皇室に渡るであろう。そうなればアンリエッタがゲルマニア皇帝に誓う筈の愛は紛れも無い偽物となり、結婚及び同盟の話は立ち消えになる。つまりそれは、トリスティンは貴族派を相手にたった一国で立ち向かわなくてはならないという事だ」

 

そう語る皇太子様の眼、そこには純粋に姫様を愛し、そして姫様を、トリスティンを案じる様子が感じ取れ、皇太子様もまた『黄金の精神』を抱いた方だと俺は感じ取った。

 

「殿下!トリスティンに亡命なされませ!」

 

だから、ルイズが必死に亡命を勧め始めたのを聞いて、

 

「お願いであります。私達と共にトリスティンに「ルイズ!」っ!?」

 

条件反射で彼女を止めた…止めなければならないと思った。

 

「ルイズ…何も言うな…!」

「…サイト…!?」

 

余りに必死な様子が伝わってしまったみたいだ、ルイズがびくついた様に固まってしまった。

 

「それは出来ないよ。姫はそれを望んでいない。亡命を勧める文言は…一行たりとも書かれていない…私は王族故…嘘はつかぬ。姫と私の名誉に誓って…言わせて貰う」

 

おまけに皇太子様の苦しそうに絞り出したその言葉で、何も言い返せなくなってしまった…明らかに嘘だと理解出来たが、それが余計に今迄培われた『黄金の精神』の強さを感じ取ってしまったからだ…ルイズも、そう思ったに違いない。

 

「…君は正直な女の子だな、ラ・ヴァリエール嬢よ。正直で、真っ直ぐで、良い目をしている…けれど、余りに正直すぎるのも使者は務まらない、しっかりしなさい。尤も、我が国が迎える最後の使者には適任過ぎる位だけれども。是非、今夜のパーティーには出席して欲しい。君達は我が王国が迎える最後の客人だ、盛大に歓迎しよう」

 

その憑き物が落ちた様な様子が、余計に痛々しく感じられた…何で、何でこんな状況に陥らなければならなかったんだ、皇太子様は、アルビオンの王党派は…!

 

------------

 

皇太子様の自室から出た俺達は、参加を要請されたパーティーの会場へと足を進めていた…暫くは2人揃って無言だったが、ルイズがふと、俺に話しかけて来た。

 

「…ねぇサイト」

「…何だ?」

「…どうして、どうしてあの人達、死ぬ事を選ぶんだろう…」

「…皇太子様も言っていたが、誇り…いや『黄金の精神』に殉ずる覚悟なのだろう」

「…それは…そうだけど…でも、それは愛する人より大切な物なの?自分の誇りを、『黄金の精神』を守るためには、残された人の事はどうだって良いの…?」

「…それは違うぜ、ルイズ。皇太子様にとっては、アンリエッタ姫様も、同じ位、いや『黄金の精神』以上に大切な物だと俺は思う」

「だったら…何で…!」

「…愛するが故、大切に思うが故、だからだ…俺はそう思う」

「え…?」

 

今のアルビオン王党派の様な状況に置かれつつも、決して諦めずに困難に立ち向かった集団を、俺はジョジョの漫画で見た事がある。

第5部『黄金の風』で、ジョルノが所属していたギャング組織『パッショーネ』を離脱、ジョルノやブチャラティ達『ブチャラティチーム』と終始戦いを繰り広げた、リゾット・ネエロ率いる暗殺チーム。

リーダーのリゾット、ファンからは兄貴として慕われるプロシュート、ブチ切れキャラで知られるギアッチョ、イルーゾォ、ホルマジオ、メローネ、新入りのペッシに、物語が始まった時点で既にパッショーネのボスであるディアボロに殺されたソルベとジェラート…個性的な9人が集まったこのチームは、読んで字の如く組織において邪魔な存在の暗殺を担当、多大なる実績を残しながらも、権限や報酬において余りにも酷い扱いをされ続けて来た。

挙げ句、その状況を危惧したソルベとジェラートが反逆の為にディアボロの正体を探ろうとして処刑され、その余りに惨い姿に、ディアボロ、引いてはパッショーネに逆らう事がどれだけ命知らずかを思い知らされた。

けれども彼らは諦めなかった、ソルベとジェラートの敵を討つ為に、自らの栄光を掴む為に、反逆の機会を伺い続けていた。

そしてディアボロの娘のトリッシュの情報を手に入れた事で遂にパッショーネを裏切り、彼女の警護を命令されたブチャラティチームと幾度となく衝突した。

結局としてディアボロの殺害はおろか、トリッシュの拉致も成し遂げられないまま全滅したが、メンバーのプロシュートの言葉を借りるなら『あともうちょっとで喉に食らいつけるってスタンドを決して解除しない』を、皆実践した。

イルーゾォはパープルヘイズの能力に恐れをなしながらもその使い手であるフーゴ達を追い詰め、ホルマジオはナランチャを襲撃して終始圧倒し、ギアッチョはジョルノとミスタを執念深く追撃、プロシュートはペッシに覚悟を見せつけ、それを見たペッシはその覚悟を持って真っ向から死闘を繰り広げ、メローネは一時トリッシュを捕まえ、そしてリゾットはディアボロの第2人格『ヴィネガー・ドッピオ』をあと一歩まで追い詰めた。

『仲間の栄光』と『トリスティンの平和』…守るべき物、心に抱く物は大きく違えど、皇太子様を始めとした王党派の面々は、暗殺チームの面々と同じ想いだと、俺は思う。

 

「貴族派にとって王党派は、アルビオンを制圧する上で根絶やしにしたい存在に違いない。ましてや皇太子様はその筆頭。もし亡命でもすれば、貴族派は真っ先に亡命先に難癖を付けるだろう。ひょっとしたら宣戦布告の理由に仕立て上げるかも知れない。皇太子様はそれを、トリスティンを戦乱の舞台にする事を良しとしなかったから、あんな嘘をついてまで、亡命を断った…俺はそう思う」

「けれど…それじゃあ残された姫殿下は…最愛の人を失ってゲルマニアに嫁がなくちゃならない姫殿下の気持ちは…!」

「だったらルイズ、お前が姫様の支えになれ。最愛の人を失う悲しみに暮れる姫様を、お前が心身共に支えるんだ」

「…」

 

------------

 

「ちょ、ちょっとサイト、飲み過ぎじゃあ無いかい?」

「酒ッ!飲まずにはいられないッ!この状況下で何も出来ない自分に荒れているッ!クソッ!」

 

トリスティンからの使者である俺達の歓迎と、決起集会を兼ねたパーティの場、そこで俺はヤケ酒をかっくらっていた。

その場で現在のアルビオン国王様であるウェールズ一世が配下の兵士達に亡命を勧めるも、従う兵士が1人もいないその光景に、言い知れない程に複雑な感情が渦巻き、どう対処すれば良いか分からなかったからだ。

三百人程しかいないながらも、誰1人として誇りを、国王様への忠誠を失う事は無く、守るべきものの為に死ぬと分かっている運命へと皆が突っ走るその光景…見るに堪えられなかった。

此処までに揺るぎのない『黄金の精神』を持ち、それを以て王党派の三百人…この反乱が始まったばかりの頃はもっと多かっただろう…の熱き忠誠を一身に受けるアルビオン王国の国王様に皇太子様、そんな方が滅ぼされなければならないなんて…時代とは、人の世とは、どれだけ残酷なんだ…!

 

「確か君は、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔の青年だね。しかし人が使い魔とはね」

「…サイト・ヒラガです。サイト、とお呼び下さい」

 

そんな俺に声を掛ける人物が1人、皇太子様だ。

 

「どうかしたのかい?なにやら陰鬱な様子だが」

「…色々とショッキングな事に出会いましてね」

「確かに、今は戦時中だからね。ところでサイト、明日の結婚式はどうするのかね?」

 

…結婚式?

まさか、ワルドとルイズの事か?

 

「その様子だと、ラ・ヴァリエール嬢から聞かされていないみたいだね。ワルド子爵に頼まれたんだ、決戦前に子爵とラ・ヴァリエール嬢の婚姻の式を挙げる為に、私に婚姻の媒酌をして欲しいと」

 

どういう事だ…?

ルイズから聞いた話なら彼女が判断するまで待つと言っていたんじゃあないのか?

それを今になって急にだと?

一体、何を考えている…?

 

------------

 

翌朝、皇太子様が前方で、俺が前側の長椅子でスタンバイしている礼拝堂。

俺と皇太子様は、新郎となるワルドと、新婦となるルイズの到着を、今か今かと待っていた。

他の面子は誰1人としていない…キュルケ達は先に帰らせたし、王党派の面々は決戦の準備で忙しかったからだ。

程無く、礼拝堂のドアを開けて入場するワルドとルイズ…流石にこの緊急時、派手な着飾りは無理だった(皇太子様も平常時と余り変わらない服装だったし、俺も緑学ランが精一杯だった)が。

 

「では、式を始める」

 

皇太子様の宣言に合わせ、その前方に並ぶワルドとルイズ…だったが、何やらルイズの様子がおかしいな。

さっきから俯き、顔を上げようとしない…一体どうした?

 

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド、汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして妻とする事を誓いますか?」

「誓います」

 

その事を気にする事無く式を続ける皇太子様と、その問い掛けに答えるワルドの声…それでもルイズは顔を上げない…何か、あったのか?

 

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、汝は始祖ブリミルの名においてこの者を…新婦?」

 

ルイズの番になっても顔を俯かせたままの彼女を流石に心配したか、皇太子様が声を掛ける。

 

「緊張しているのかい、ルイズ?しかし何も心配はいらないよ。僕のルイズ、君は僕が守ってあげるよ、永遠に。それをたった今、僕は誓ったんだ…殿下、続きをお願いします」

 

ワルドの説得に、今度は拒絶の意志を示す様に首を振った…まさか?

 

「私、貴方とは結婚出来ない」

「ルイズ!?」

「新婦は、この結婚を望まぬ…という事か?」

「はい…お二方には、大変失礼をいたす事になりますが…」

 

本当にまさか、という展開だった。

ワルドとの結婚を、今はっきりと、ルイズは断った。

それがその場の思い付きでないのは、決意に満ちたその声音が物語っていた。

 

「子爵。誠に気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続ける訳には行かぬ」

 

皇太子様もそれを感じ取ったのか、気を悪くする事無くワルドを諭した。

だがそれを、

 

「…緊張の余り思いが纏まらないのだろう、ルイズ。急な事だったのだからな。そうだろう?君が僕との結婚を拒む訳が」

「御免なさい、ワルド。確かに幼い頃の私は、貴女を想っていた。憧れだったのかも知れないし、恋だったのかも知れない。けれど今は違うの」

 

ワルドは認めようとしない…てめー…!

 

「世界だルイズ!僕は世界を手に入れる!その為に君が必要なんだ!君の『才能』が!君の『能力』が!君の『精神』が!」

 

な、急に何を言っていやがる…まさか…!

 

「ルイズ…君は始祖ブリミルにも劣らぬ凄いメイジとなる…今はまだその『才能』に気付いていないだけなんだ!君の『才能』が必要「てめぇルイズから離れろ!」」

 

メメタァ!

 

「がはぁっ!」

 

野郎…!最初からルイズの力が目当てか…この…貴族の風上にも置けない…タンカスが…!

 

「貴方は私を愛していない…今解ったわ…!貴方が愛しているのは私にあると言っている…ありもしない魔法の才能…それだけで結婚しようだなんて…酷い…こんな侮辱…最悪よ…!」

 

此処にスピードワゴンがいれば間違いなく『ゲロ以下の匂いがプンプンする』とか言われそうな奴に、ルイズを渡してたまるか…!

少しでもルイズに近づけば…シルバーチャリオッツのレイピアの錆びにしてくれる…!

 

「こうまで僕が言っても駄目かい?僕のルイズよ」

「誰が貴方となんか…!」

「そうか…この旅で君の気持ちを掴む為に努力したのだが…仕方ない…目的の1つは諦めるとしよう」

 

目的…だと…!?

 

「この旅における僕の目的は『3つ』あった。その内の2つが達成出来ただけでも良しとしよう。1つはルイズ、君だが…これはもう無理な様だ。2つ目はアンリエッタの手紙。これは手に入れるのはたやすい」

 

2つ目が姫様の手紙…てめーやはり…

 

「そして3つ目…!」

 

バッ!

 

「なっ!殿下!」

「皇太子様!?」

「っ!」

 

それを口にした瞬間、杖を構えつつ皇太子様の方へ飛ぶワルド…まさか、3つ目というのは皇太子様の命って事か!?

まずい、不意を突かれて距離を離された以上、シルバーチャリオッツでも到達する前に皇太子様がやられちまう!

ならば使うか、とっておきを…だが皇太子様に流れる危険もある…!

どうする、どうする…!

 

「死ねぇ!ウェールズ・テューダー!」

 

くっ…だめか…!

 

「行け!我がスタンドよ!」

 

チュドォォォォォォォォン!

 

「がっ…!?」

 

皇太子様の死…それが頭を過ったが、目前の光景は逆、ワルドが皇太子様との間に起こった爆発の直撃を受けて吹っ飛ぶ姿だった。

 

「ふぅ…危なかった」

「あれは…鳥…のスタンド…!?」

「いや…あれは…!」

 

そのワルドを撃退した物の正体、それは皇太子様が突き出す左腕に鎮座する、パステルカラーのプロペラ戦闘機の様な外見をしたスタンド、そう…

 

「エアロ…スミス…!」

「エアロスミス…それがこのスタンドの名前か。ありがとうサイト、君のプレゼントのお蔭だよ」

 

ジョジョ第5部『黄金の風』に登場するパッショーネ・ブチャラティチームのメンバー、ナランチャ・ギルガのスタンド『エアロスミス』だった。



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22話

アルビオンに到着し、アンリエッタからの手紙を受け取った才人達。ルイズはその場で亡命を要求するもウェールズの意志は固かった。そして滞在2日目の朝、急遽ルイズとワルドの結婚式が行われたが、ルイズはそれを拒否。だがワルドはそれを認めないばかりか、ルイズの『力』の為の結婚だったと暴露。そう、ワルドは貴族派のメンバーだったのだ!怒り心頭の才人の隙を突き、ウェールズの命を狙うべく襲い掛かるワルド、だがウェールズの左腕にはスタンド『エアロスミス』があった…!


時間を昨日の夜、皇太子様と会話していた時までバイツァダストする。

俺はルイズとの結婚を強行しようとするワルドの真意を図るのは一先ず置いて、皇太子様と話をしたいと率直に思った。

此処まで誇り高き、そう、ヴァリエール公爵家やアンリエッタ姫様とも引けを取らない、いや凌駕する程の揺るぎない『黄金の精神』を持った皇太子様がこうして追い落とされなければならない今の状況に我慢ならなかったから…

 

「皇太子さまに…お聞きしたい事が御座います」

「そうか、何でも聞くと良い」

「敵は五万、こちらは三百…勝算が無いのは皇太子様も存じておられるでしょう…このまま戦えばどんな運命が待っているかも…それでも何故、戦うのですか?」

「我らの王族としての名誉と、愛する者の地を、命を賭けてでも守るためだ」

 

最初の問いは、するまでも無い確認だったが…やはり皇太子様は『黄金の精神』を持った御方だった。

故に…悔しい…頭にくる…イラつく…我慢ならない…!何でこんな状況に陥らなければならなかったのか…その訳を頭で理解はしても、心が納得するかは別問題だった…これを納得するのは、俺が尊敬するジョジョを否定する事と同じだからだ…!

 

「皇太子様…貴族派は何故、こんな反乱を引き起こしたのですか…!皇太子様の様な誇り高き御方の、愛する者たちの事を本気で案じる御方の下に仕える事に、何の不満があると言うのですか…!」

「…何だか、嬉しい様な、くすぐったい様な、複雑な気分だね。君もまた、主であるラ・ヴァリエール嬢の様に正直で、優しくも誇り高い心を持っている…けれど、誇りや民の為の政治だけでは、臣下は纏められない…正に今がそうだ。我々の敵である貴族派…『レコン・キスタ』はハルケギニア統一を狙っている。遥か東方にある『聖地』の奪還という始祖ブリミルが成せなかった理想を掲げて、それを何時までも成し遂げようとしない国々を粛清するという名目を掲げてだ」

 

始祖ブリミルが夢見た『理想』…つまりは宗教の原理主義か…俺の世界でもそれが無いわけでは無いが…その『理想』はっ!誇りや、平和という、言葉に言い表すのも難しい程に素晴らしい物と比べても大事だと言うのかっ!貴族派…『レコン・キスタ』の奴らにとってはっ!

 

「だが奴等はその目的の為に流されるであろう民草の血を微塵も考えていない。故に、我らは勝てずともせめて勇気と名誉の片鱗を見せつけるのだ。ハルケギニアの王家は、決して弱小ではないと、弱腰ではないと示さねばならぬ。奴等がそれで『ハルケギニアの統一』と『聖地の奪還』を諦めるとは思わないが、それでも我らは勇気を示さねばならぬ、王家に生まれた者の義務として」

 

皇太子様のその揺るぎない決意を聞いて、俺も決意が固まった…

 

「皇太子様、そこまでの決意をお持ちとあらば、それを拝聞しました俺もそれに報いなければなりません…これを、お受け取り下さい」

「これは…矢じり?」

 

俺が差し出した指輪を入れる為のそれの様な『箱』…そこには『矢』が保管されていた。

そう、俺はこの任務を受諾した際に、何かが起こった時の為と『矢』を持ち出していたのだ…スタンド使いを生み出す為では無い、もっと別の為だ。

 

スタンドの、更なる可能性『レクイエム』…その余りの力は、あらゆる概念を支配すると言われている…シルバーチャリオッツ・レクイエムなら『魂』、ゴールドエクスペリエンス・レクイエムなら行動だ。

その力で危機を乗り越え、任務を達成出来ればと持ち出したのだが、まさか今、此処で使う事になるとはな。

 

「これは、俺やルイズ達ヴァリエール公爵家、そしてアンリエッタ姫様が手に入れた、この世界にあらざる力を発現させる物です」

「この世界に…あらざる…?」

 

それに続く様に俺は皇太子様にスタンドについて説明した…今更ながら公爵家との約束に反するが、尽くせる手は尽くしたかったと思ったんだ、この時の俺は。

 

「スタンド使いになる資格を持った者は、この矢に狙われ、そしてその攻撃を受ける事によってスタンド使いに覚醒します。ルイズも姫様も、これが掠めた事でスタンド使いとなりました…無論、俺もです」

「その様な力が、君の世界にあると言うのか…だが今の説明は、公爵家との約定に反する行為…今更、滅びの道に足を踏み入れた私に言っても漏えいの危険は無いが…何故だ?」

「今まで俺がこのハルケギニアで出会ったスタンド使いは全部で6人…ルイズ、ヴァリエール公爵様、カリーヌさん、エレオノールさん、カトレアさん…そして、アンリエッタ姫様。この6人に共通する事、それが皇太子様にもあった…とでも言いましょうか」

「今挙げた6人、そして私に共通する事…まさか『始祖ブリミルの血筋』!?」

 

そう、その一点が、皇太子様をスタンド使いにしようと思い立った点だ。

アンリエッタ姫様と皇太子様は従兄妹同士と聞いていたし、ルイズ達ヴァリエール公爵家は始祖ブリミルの庶子に連なる身の上だという。

スタンド使いの血縁がスタンド使いになる可能性はそれ以外と比べて圧倒的に高い(最たる例がジョースター家だ)のは知っていたが、それにしても始祖ブリミルに連なる身の上の人しかスタンド使いを見ないのも俺にとっては疑問に感じていた。

けれどこのハルケギニアでスタンド使いになる資格の1つがそうだとしたら…

 

「皇太子様の揺るぎない決意を聞きながら、今更亡命を勧める事は出来ません。ですが、万に1つ、億に1つでも可能性があるとしたら…俺はそれに賭けたい。その可能性が、皇太子様、貴方なのです」

「私が…この戦いに勝つ可能性…?」

「はい…!それに、勝つとまでは行かなくとも、勇気や名誉を見せつけるならば華々しく行かなくてはなりません。皇太子様…どうか、万に1つでもあるかもしれない可能性を…捨てないで頂きたい…!」

 

仮に皇太子様がスタンド使いになったとしても、戦況を変えられるかは至難と言って良いだろう、俺とルイズ、2人のスタンド使いがいても戦場を避ける選択を前提としていた事にも現れている。

けれど、俺は『喉に食らいつける』可能性があるなら、決してそれを手放す気は無かった…!

 

「…分かった!君の想い、受け取った!この力で、奴らに目に物を見せてご覧に入れよう!」

「ありがとう…ございます…皇太子様…!」

 

------------

 

「まさか…直ぐに役立つとは思いもよらなかったが、スクウェアクラスのメイジを撃退するとは…凄いな、スタンドという物は」

 

実はレコン・キスタの一員だったワルドの裏切り、そして皇太子様への奇襲…だがエアロスミスは、それをあっさりと返り討ちにして見せた。

 

「レコン・キスタに身を落とした卑しき兵士よ!これが我が王族としての誇りを形とした物だ!…尤も、貴殿の様な身では見る事も叶わぬが…」

「その通りです、皇太子様…さてワルド、てめーには言いたい事が山ほどあるから良く聞きな…!」

 

先程エアロスミスの爆撃を食らったワルドに、皇太子様と共に向き直る俺…てめーはこの平賀才人が直々にぶちのめしてやるから覚悟しな…!

 

「誇りだと?ふざけるな!その様な物で世界を、聖地を回復する事が今まで出来たか!ブリミル亡き後6千年もの間、それg「てめーはもう口を開くな!」」

 

ガシィ!

 

「がっ!?…あ…」

 

尚も喚き散らすワルドを、シルバーチャリオッツで首を鷲掴みにしつつ杖を奪い取り、そして歩み寄る。

 

「この平賀才人はこのハルケギニアでは所謂『異邦人』として通っている…俺の誇りを踏みにじったのと同じ言動をした貴族を罵倒し、足蹴にした事もある…威張るだけで能無しなもんで、力の差を見せつけてやった貴族はまるで人が変わっちまった…上司風を吹かせる様な奴といざこざなんてしょっちゅうよ。だがこんな俺にも、心から忠誠を誓う方が誰かは分かる!それは揺るぎない『黄金の精神』を内に秘めた『真っ当な貴族』といえる方だ!」

 

歩み寄りながらも、俺の本音を、一字一句、噛みしめる様に叫ぶ。

 

「『黄金の精神』とはあらゆる事を想う事ッ!『慈愛』を捨てぬ事だぁッ!系統魔法は『精神』の魔法ッ!貴族の素晴らしさは『精神』の素晴らしさッ!てめーらは、レコン・キスタは『精神』を捨てたッ!タンカスと同類だぁッ!」

 

そして、目前まで来た。

 

「そのタンカスみてぇなてめーは…皇太子様を始めとしたこのアルビオンの王党派の方達の『精神』までも汚そうとしたッ!その為にルイズを、俺のご主人様の全てを否定したッ!その罪の重さは、この世界の誰だって、法律だって分からねえ…だから、俺が裁くッ!」

 

シルバーチャリオッツに、ワルドを掴んでいた手を離させると同時に、俺は拳を、拳で『握っていた物』を突き出す。

それは、

 

「裁くのは『コイツ』だぁッ!」

 

ドズゥ!

 

「がっ!…あ…!」

 

『矢』、だ。

 

ピキ、パキポキ

 

「ぐ!?が、あぁぁぁぁぁ!?」

 

『矢』を突き刺した所からひび割れが広がり、それと共にもだえ苦しみ出すワルド…やはり『外れ』だったか。

 

「てめーが『力』を得る事を、こいつは拒否したという訳だ…どうだ、世界を手に入れる事も夢じゃあ無い力を得る資格がないと判断された、その痛みはッ!」

「ぎゃぁぁぁ…僕は…世界を…!」

 

まだ言うか、コイツ…!

 

「てめーの様なクソッタレにルイズをやらなくて良かったぜ…そうそう、次にてめーは『ガンダールヴ、貴様ッ!』という」

「ガンダールヴ…貴様ぁぁぁぁ!」

 

パァン!

 

「ばわ!」

 

そして、ワルドは散った。

 

「てめーの敗因は…たった1つだぜ…ワルド…たった1つの単純な答えだ…てめーは俺を怒らせた…!」



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23話

ウェールズのスタンド使いとしての覚醒、そこには才人の、ウェールズへの、アルビオン王党派への、『黄金の精神』へのありのままの想いが関わっていた。それを汚された才人は怒りのままにワルドを糾弾、『矢』による拒絶反応を利用して殺害した。


「これが…資格が無い者が『矢』で傷つけられた場合の結末か…どちらに転ぼうと、恐ろしい物だね、『矢』とは…」

 

『矢』による傷が広がり、砕け散ったワルドの末路を見届けつつ、『矢』の恐ろしさを口にする皇太子様…俺も何気に初めてだからな、スタンド使いの資格が無い奴が『矢』で傷つけられた時の結末を見たのは(スタンド使いの資格が無い筈だった広瀬康一はクレイジーダイヤモンドで傷が治ったしな)。

さて…

 

「ところで、どうした物か…君達を何としても手紙ごとトリスティンに帰したい物だが、ワルドのグリフォンはもう使えない、イーグル号は既に出航してしまった…」

 

帰る為の手段が一気に無くなってしまい、途方に暮れる皇太子様…帰還する為の手段が無い訳では無いが、正直それは一か八かの物だ、それも分かる。

 

「ですがこのままニューカッスル城に居てもいずれ敵の総攻撃を受けるのがオチです…こうなったら、強行突破も視野に入れないと…」

「サイト、分かっているの?相手は5万よ。幾ら私達がスタンド使いだと言っても、多勢に無勢よ…」

「分かっている…その為の対策もある…だが、これは…」

「…最後の手段、という訳だね」

「…はい…」

 

言うまでも無く、シルバーチャリオッツの『レクイエム』化だ。

シルバーチャリオッツ・レクイエムが持つ、有効射程内の生物を昏睡状態にさせる能力で、突破を安易に進めるのが目的だが、使った事はおろか見た事すら漫画だけだ(しかもその時ポルナレフは既に死亡、レクイエム化したまま暴走させてしまうという結果を招いた)。

あくまで、最後の手段としてとって置きたいが…使うしか、無いか…?

俺すら途方に暮れようとしていたその時だった、

 

ボコッ!

 

「きゃっ!?」

「なっ!?」

「敵襲かっ!?しかし地中からか…?」

 

礼拝堂の床の一部が突然、上空に土を舞い上げる様に穴が開いたのは。

そしてそこから現れたのは、

 

「コイツ…まさかギーシュの!?」

「え…!?でもアルビオンは空中でしょ!?」

 

なんでギーシュの使い魔、ヴェルダンデが此処に…まさかっ!?

 

「ヴェルダンデ!?此処は一体…あれ、サイトにルイズ、それに皇太子様?」

「て事は、此処は礼拝堂かしら…ギーシュ、早く登りなさい!」

「おかしい…1人、ワルド子爵が足りない」

 

そして更に顔を出したのは『イーグル号』で帰還した筈のギーシュにキュルケ、そしてタバサだった…何が、どうなって…?

 

「あら、ダーリン。実はね、ワルド子爵のグリフォンだと残った3人を乗せるには無理があると思ったタバサと一緒に、シルフィードを飛ばして戻る事にしたの」

「その過程で下から通った方が敵に狙われずに済むだろうというミス・タバサの意見で僕のヴェルダンデが此処まで穴を掘って来たって訳さ」

「…ところで状況は?」

 

まさかの助け舟に安堵しつつ、俺は今までに起こったことをありのまま(ではないか…スタンド関連は伝えなかったのだから)伝えた。

 

「ま…まさかワルド子爵が貴族派だったのか!?」

「どおりで怪しそうな動きがあると思ったわ…」

「どのみち時間が無い、早く」

「…ええ!」

 

余りの展開に驚くギーシュとキュルケを他所にシルフィードへの搭乗を急かすタバサに、躊躇いながらも同意するルイズ…昨日の皇太子様の決意を聞いては、もう亡命は勧められないとルイズも思ったのだろう、その背は悲痛に満ちていた…

だが、

 

「サイト!アンタも早く!」

「…悪い、少し待っていてくれないか?」

「…分かったわ、早くしなさいよ!」

 

俺は、このアルビオンで若干心残りがあった…それを今、振り切って来る。

 

「皇太子様…ご武運を、お祈りしています…!」

「ありがとう、サイト…君がもしこのアルビオンに来ていなかったとしたら、私は今生きていなかっただろうし、生きていたとしても死ぬ『為に』決戦に臨んだだろう…けれど今は違う。死も『辞さない覚悟』で、勝利の可能性を…掴みに行く…!足掻くための策はある、それを成せる力も、今の私にはある…!」

 

それは、どうしても言って置きたかった、皇太子様への、アルビオンの王党派への、激励。

それに応える皇太子様の顔は、勝利への執念からか凛々しい物になっていた…!

 

「サイト…私はこの反乱が起こってから今に至るまで、後悔の日々だった。始まった時には我らの治世が至らなかった事へ、今は兵士や、乱とは無関係の市民達から多大なる犠牲を出した事へ…けれども私はもう唯々後悔する事を止めるッ!今の状況を打開し、乱を鎮圧する事を以てッ!…サイト、これを預かっていてくれ」

 

決意を新たにした皇太子様は、何やら両手をごそごそと動かし、そして何かを差し出すべく、拳にした右手を突き出してきた…ま、まさかこれは…!

 

「は…こ、これは!」

 

皇太子様の右手の薬指にはめられた、アルビオン王家に伝わる指輪『風のルビー』だった…こ、こんな大事な物を、俺に『預かっていてくれ』だって…!?

 

「これは我らの再会を願って、君に預けるッ!

 

生きていたら…また会おう、JOJO!」

「!…はっ!俺が必ずや、守り通して見せます!殿下!」

 

思わず声が張ってしまったが、それすらも直ぐに吹っ飛んた…俺が、JOJO…か…

…決めた、俺は必ず、この風のルビーを守り通すッ!それが…皇太子様との命とあらばッ!

 

「必ずや、必ずやこのアルビオンに戻って参ります、ウェールズ皇太子殿下!」

「ああ、何時までも待っているぞ、JOJO!」

 

そして俺もアルビオンを後にした…必ずこのアルビオンに戻り、殿下にこれを返す事を決意して…!

 

------------

 

Side Wales

 

行ったか…ラ・ヴァリエール嬢も、迎えに来た面々も…ジョジョも。

苦難を共にしてくれた我がアルビオン王党派の後方支援の者達も、愛するアンリエッタの密命を胸に危険を覚悟で飛び込んでくれた使者達も、そして私に未知なる力と勇気をくれた、異世界から来たという偉大なる戦士も去り…今ニューカッスル城に残るは私の他には僅か数百の兵士達のみ。

その一方で周囲を取り囲む貴族派『レコンキスタ』の兵力は5万にも及び、おびただしい数の戦艦と龍騎士も加味すれば単純な数値の倍以上の力があると言って良いだろう。

どうあがいても絶望…普通に考えればそうだろうし、実際にそれは否定しない。

けれどもまだ、勝つ為の策が事切れた訳では無い。

その陣頭近くに君臨するレコンキスタの主力戦艦『レキシントン号』…かつて我が王党派最大級の戦艦に配属された部隊が反乱の先頭に立ち、真っ先に占領を成功させた地に因んでこの戦艦に名付けた、曰くつきの代物だ…それの奪取が、策を成す上での最初の鍵だ。

それだけでも無理難題なのは、今の戦力を考えれば致し方ない事ではあるが、今の私にはそれを成せる手段がある。

我がスタンド『エアロスミス』…ジョジョが元いたらしい世界で飛行機と呼ばれる乗り物を模した形状のスタンドで、私の周囲数百メイルまでを馬すらも引き離せるスピードで自由自在に飛行させ、毎秒数十発、無尽蔵とも言える弾を発射出来る銃と、今ハルケギニアで流通している火薬に換算して数百gもの量を一気に爆発させた位の威力を誇る爆弾によって攻撃出来る。

また、生物が吐く息や、炎が燃え上がりながら吐き出す空気に反応し、我が脳裏に光の点として知らせる探知能力も持っており、実際に私の吐く息に反応してか、私の左目に眼帯の様に張り付く機器からは中心近くで白い光が発せられた夜景らしき物が映し出されている。

だがその様子は平面でしか映せない為、これのみ使った場合で敵が何処にいるかは当てにならないが、そこは私の『遠見』で直接見れば補える。

そしてスタンドは…スタンド使いでなければそれを見る事も、それが発した音を聞くことも叶わない。

これを用いてレキシントン号に奇襲を仕掛け、そして奪取に成功すれば…相手に与える衝撃は計り知れない物になるだろう。

何の気配も無いまま突然周囲の誰か、或いは自分自身が銃で撃たれた様な傷と衝撃を受け、その原因が突き止められないまま第2、第3の被害が発生し、何も出来ぬまま制圧される…その制圧も分からないまま我らを守る様に向きを変え、そしてかつて味方だった方に牙を剥き、また再び気配も姿も音も無き奇襲が始まり以下同文…それが、私が描くこの戦いを勝利する為のヴィジョンだ。

勿論リスクは大きい…私がエアロスミスを動かしている間に誰が私を守るのか、他の戦艦を制圧する間にレキシントン号が再奪取されないか、そもそもニューカッスル城に攻め込まれないか…1つでも間違えれば即終わりだ。

けれど動かなければ、同じ運命が待っている…ならばジョジョが言っていた様に、華々しくも徹底的に足掻く。

我ら王党派と共に戦って散った兵士達、各地で貴族派の動きに怯える民、私を慕い亡命を勧めたアンリエッタ、アンリエッタの密命を胸に必死でその任を果たそうとした使者達、そして…ジョジョの為に。

…さて、そろそろ始めるとしよう。

 

「飛べ、エアロスミス!」

 

ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!

 

我がアルビオン王党派、引いてはハルケギニアの運命を背負った、一筋の明るい色彩の風が今、戦場の空を舞い上がった…!



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24話

戦乱の地、アルビオンからトリスティンに帰還する才人達。そして物語は次の始まりを迎える…


…さて、どうした物か。

ウェールズ皇太子殿下との別れ際に健闘を誓い合い、風のルビーを預かった俺達だったが、『家に帰るまでがミッション』というどっかのゲームの重要人物の名言を思い知る程の状況下に今、直面していた。

尤も、レコン・キスタに捕縛されたという意味では無い、既にアルビオンからは遠く離れ、今はアンリエッタ姫様が待っているであろうトリスティン王宮だからだ。

…そう、俺達を乗せたシルフィードがトリスティン王宮に侵入したのが発端になった。

王宮の庭に着陸した俺達、その周囲には俺達をまるで『養豚場の豚を見る様な』…とまでは行かないが、如何にも不審者発見と言わんばかりの目つきで殺気立っている騎士達が囲んでいた。

まあ確かに何の許可も無く王国の最重要拠点に空から入る等正気の沙汰では無いと今更ながら思うが、それにしても殺伐とし過ぎだし、何より俺達は姫様からの命を受けて任務に当たった帰りである、姫様から少なからず連絡は来ている(任務に触れない程度だろうが)筈だが…

 

「杖を捨てろ!」

 

そんな逡巡を待つ事無く、取り囲む騎士の隊長格らしき男が俺達に向けて大声で命令を発した。

…どうやら連絡にあった連中が俺らだと思っていないのだろうか、それとも連絡そのものがなかったか…俺は前者に賭けたい。

その高圧的な態度にルイズが食って掛かろうとしていたが、タバサに窘められ、皆揃って杖を置いた…俺もついでに、デルフリンガーを地べたに置く。

 

「今現在、王宮の上空は飛行禁止である!ふれを知らんのか?」

 

…今現在、だと?

つまりは何かあった訳だが…レコン・キスタ関連の事か?

 

「私はラ・ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズです。姫殿下にお取次ぎを」

 

状況を打開すべく、ルイズが毅然と名乗り出る。

キラークイーンを油断なく侍らせていたからこそだろうが、それでもその堂々たる態度は流石だった。

 

「ラ・ヴァリエール公爵様の三女殿とな。成る程、母君に良く似ている、して、殿下への要件は?」

「それは言えません。他言は無用との命なので」

「では殿下に取り次ぐ訳にはいかぬ。要件も分からぬまま取り付いた日には我が首が飛ぶからな」

 

…どうやら後者の様だ…やれやれだ、初対面の時のマジボケといい、姫様って意外と天然な所があるな…

ルイズと騎士のリーダーとの押し問答の中で俺が人知れず嘆息していたその時、

 

「ルイズ!」

 

騒ぎを聞きつけてと言わんばかりに響く、一つの聞き覚えのある、ルイズを呼ぶ声…この声は…!

 

「姫殿下!」

 

間違いない、件の姫様だ…!

その声に反応したルイズが一目散に飛び出し、互いに抱き付く…おいおいルイズ、俺達が見ている所だろう…

 

「ああ…無事に帰ってきてくれたのね…ルイズ…!」

「姫殿下…!」

 

…もしもーし、状況を早く説明して下さい、姫様ー。

 

------------

 

程無く誤解を解いてくれた姫様に促され、ルイズと俺は部屋に入り(ギーシュ達は外で待機)、任務の報告をする事となった。

レコン・キスタのスパイだったワルドの裏切り、そしてこの場にいない皇太子殿下…口に出すのが憚られる程の重苦しい旅路だったが、ルイズは一部始終を話した。

 

「まさか…あの子爵が裏切り者だったなんて…私は何という事を…」

「姫殿下…」

 

トリスティンを裏切っていたワルドを使者に選んでしまった事を後悔する姫様に、ルイズは何も声を掛けられない様子だった…姫様の責任では無いのは承知だろうが、それでもルイズの負った心の傷は余りに大きい物だったからな…

今でも簡単に思い出す…あんなに仲の良かったワルド、その振る舞い全てがルイズの『力』の為だと知った時の、柱の男を前にした時のシーザーにも劣らぬあの怒りを。

そしてそれによって皮肉にも、俺は『理解』した…ルイズへの想いを…『黄金の精神』への憧れや使い魔としての忠誠だけじゃあ無い、純粋なる想いを…

 

「やはり…あの方は誇りを選ばれたのですね…私よりも…」

 

そして、この場にいない皇太子殿下へ想いを馳せ、悲痛の声を上げる姫様。

だが、

 

「姫様…それは違います。皇太子殿下は、貴女を選んだからこそ、戦場に残る選択をしたのです。貴女を、此処トリスティンを愛するが故に、残る選択をしたのです。トリスティンに亡命すれば…不利益を被るは姫様だと…」

「しかし…残された私は…どうすれば…!」

「それに、皇太子殿下はまだ亡くなられていませんよ」

「…え?」

 

…これが今一番、この場で言いたかった事だ。

 

「ルイズからも報告がありましたが、俺は皇太子殿下に『矢』を献上した事で、殿下はエアロスミスを操るスタンド使いとなりました。その力を見て、殿下は別れ際にこう決意しました。『死をも辞さぬ覚悟』で、勝利を掴むと。絶対に反乱を鎮圧して見せると。その為の手段、それを成せる力があると…何を根拠に、と言われれば俺に返す言葉はありません。3百対5万、余りに多勢に無勢です。スタンドがいたとして、焼け石に水でしかありません…普通なら。けれど、そう言い放った殿下の眼は、『やると言ったら絶対にやる。絶対に出来る』という眼をしていました。強がりでも自暴自棄でも無く、純粋なる自信でそう言い放ったのです。そして…」

 

言いつつ、俺がポケットから取り出したのは、

 

「これは…風のルビーではありませんか」

「殿下は俺に、こう言って風のルビーを託しました。『暫く預かっていてくれ。いつか必ず、私の下に戻ってきてくれ』と」

「!」

 

俺の脚色が混じってはいるが、大筋は変わりない、その言葉。

それは根拠の無い言葉だったが、俺には疑う余地は無い様に感じた。

 

「姫様…まだアルビオンの戦乱は終わっていません。皇太子殿下の存命を…諦めないで頂きたい…!」

「…はい…!」

 

少しでも客観的に考えれば無茶苦茶で現実味の無い話だったが、姫様はそれでも信じてくれた。

そして事態は、その想いの通りに進んでくれる事になる…

 

------------

 

そして、俺も『或る事』に対する一つの決意をした。

 

「ルイズ」

「何、サイト?」

「平民である俺が貴族のお前に、無礼を承知で言わせて貰う…

 

好きだ」

「!」

 

このハルケギニアに来て、そしてルイズと『コントラクト・サーヴァント』による契約を結んでから、何となく引っ掛かっていた事が一つあった。

俺の、ルイズへ向ける俺の『想い』だった。

最初にルイズを見た時の感想は『結構俺好みな女の子』、そこに、使い魔として契約してから少し話を交わしてからは『真っ当な貴族たらんとする、『黄金の精神』を持った尊敬すべき人』も加る等、俺は最初に会った時からルイズに対して少なからず好意を抱いていた。

お嬢様にありがちな意地っ張りさも結構あるし、自他共に未だに『無才』と思っている(俺は『異才』だと思うがな…)魔法の才能に対して卑屈になっている所もあるが、それらもまた真っ当な貴族たらんと、誇り高き貴族たらんとする想い故だろうと、俺には映った。

 

けれど、そんな思いだけでは説明できない事を、俺は何度も、それも無意識に起こしていた。

ルイズの二つ名『ゼロ』の意味を知り、その事で進むべき道を見失いかけていたルイズに対して、余りの怒りで自分でも何言っているのか覚えていなかったが、怒鳴り散らす様に叱咤した。

ルイズを『ゼロ』と言ったギーシュを、スタンドが見えていないのを良い事に一方的に腹パンをぶちかまし、その後の決闘で暗黙のルールを逆手に取ってフルボッコにした挙げ句、それに割って入ったモンモンに対して無茶苦茶にも程がある説教をした。

初めて酒をかっくらって酔っ払っていたのもあったかも知れんが、やはりルイズを『ゼロ』と言ったキュルケ(聞き間違い?違うな、ありゃあ確かに『ゼロ』と言った)を、貴族の女を殴ればタダじゃあ済まないと言い訳してその使い魔に八つ当たりし、去り際に罵詈雑言を浴びせた。

ワルドの奴がちょっと怪しいという理由だけで、移動の際に無理矢理ルイズの側に行こうとした(結果的にその直感は正しかった訳だが)。

そして、ルイズの想いを踏みにじったワルドを、『矢』の拒絶反応で…殺した。

初めてだった、こんなディオやプッチ神父、ディアボロ位しか平然とやりそうに無い事を、無意識にやったのは。

初めてだった、こんな形容しがたい程の怒りを覚え、そしてそのままに行動したのは。

初めてだった、ここまでの怒りを起こしたのは…

 

今までに起こした事、全てルイズを想う余りに暴走したと言えば『理解』出来る。

今までに起こした事の発端は全て、ルイズに関わる事だったからだ。

けれど…『理解』は出来たけれど…『納得』は出来なかった。

その『想い』が『何』なのか…それが分からなかったからだ。

その答えが、ワルドと対峙した時に見つかったのは何という皮肉だろうか。

あの時俺はこう決意した…『使い魔として…いや、1人の男として、ルイズを絶対に守る。ずっと側にいる』…と。

 

そう、俺はルイズを、俺のご主人様を『1人の女』として好きになったのだ、恋をしたのだ。

決して許される恋ではないのは分かる、このハルケギニアでは俺は平民でルイズは貴族、そもそも俺は使い魔でルイズはご主人様なのだ。

だが、俺がルイズに恋をした、その事は決して揺らぐ事など無い。

例えこの恋が許され無くとも、結ばれる事無くとも、俺の『想い』は、それに尽きるのだ。

 

「ルイズ、俺をこのハルケギニアに召喚してくれたのがお前で、俺のご主人様がお前で、本当に良かった。今の俺の気分は、これまで感じた事が無い位に、最高にハイって奴だ。お前への想いを、こうして実感出来たから。例えこの恋が実る事無くても…無礼であっても、な」

「本当に…本当に無礼な使い魔よ…アンタは…今まで見て来た…他の平民の誰よりも…無礼な奴よ…アンタは…!」

 

そう…か、そうだよな…

 

「初めて会った時からそうだったわ…!平民の分際でサモン・サーヴァントでノコノコと来て、『矢』で私を生命の危機に晒して、恥ずかしげも無く歯の浮くような台詞を言って、貴族の私に向かって怒鳴り散らして、忠告も聞かずに決闘を勝手に受けて、命知らずにも姫殿下を説教した末に泣かせて、ワルドのグリフォンに無理矢理同乗しようとして、そのワルドと勝手に決闘をしでかして、私の悩みを軽く受け流して、お父様との約束を破って皇太子殿下をスタンド使いにして、それでいて…私を誰よりも気遣ってくれて、事ある毎に騎士を気取って、

 

私に、今のアンタと同じ想いを抱かせて、本当に無礼よアンタは!」

 

…お、オレェ?

 

「る、ルイズ?…今、なんて…?」

「聞いていなかったの!?それこそ無礼よ!だから私も…

 

アンタの事が好きなの!アンタに恋しているの!」

 

…本当、なのか…ルイズが…俺を…?

 

「犬みたいな顔なのに今まで会った他の誰も出した事が無い位に精悍で屈強な雰囲気で、私の言う事を聞かない癖していざと言う時は忠誠心丸出しで、平民でありながら誰よりも誇り高くて、心優しくて、勇敢で、手抜きを知らなくて…そう、アンタが『真っ当な貴族』と言っていた私よりも貴族らしくて…そんなアンタに、私は何時しか恋心を抱いたの。けれど私は貴族でアンタは平民、そもそもアンタはこのハルケギニアとは違った世界から私が呼び出してしまった存在、この主人と使い魔という関係も一時的な物でしかないって心に留めていた。この想いも、断ち切らなきゃって、思っていたの。けれど…アンタもそうだと言うなら、もう我慢しないわ。どう、これで分かったでしょ!?分からないというなら何度でも…!」

 

ズギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!

 

「んぅ!?」

「ん…」

 

2度言う必要は無ぇぜ、ルイズ…お前の俺への想い、はっきりと伝わったぜ!

 

「ありがとう、ルイズ…今は、それだけしか言える言葉が無い…」

「ば…バカ…不意打ち…!でも…ありがとう…」

 

------------

 

「ルイズ…ひょっとしたらこりゃあ運命なのかも知れねぇな。ルイズが…周囲が『ゼロ』だ無才だと言うけど俺に言わせれば途轍もない異才を有し、俺とルイズが、サモン・サーヴァントによって開く筈の無い異世界のゲートが開いた事で出会い、そして前代未聞の『平民』の使い魔に俺がなって、そして惹かれあった事…さしずめ…始祖ブリミルが繋げた運命の赤い糸って奴か?」

「運命の…赤い糸…?」

 

何気なく今の俺達を例えた俺の表現に、首を傾げるルイズだったが、やがて少し悲しげな顔に…オレェ、まずったか?

 

「でも…その赤い糸も、私が『ゼロ』で無くなって、アンタが元の世界に帰る手段が見つかったら…切れちゃう…折角始祖ブリミルが繋いでくれた運命が…断ち切れちゃう…!」

 

あ…こりゃあ地雷だった…やっちまった…

 

「サイト…例え元の世界に戻っても…私の事、絶対に忘れないで…私との…どの位続くか分からないけど、このハルケギニアで過ごした日々を絶対に…忘れないで…!」

「ルイズ…勿論だ…絶対に忘れやしない…!」

 

この時俺は、一度はどうすべきか決めていた事柄に対する『答え』が『揺らいだ』。

この『揺らぎ』が、新たな騒動を引き起こすとは考えもせずに。



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