Little Monster Fantasy (こんがり肉)
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……もっと味わってくれよな

回避性能Lv5
フルチャージLv3 
スタミナ急速回復Lv3
潜伏Lv2
貫通弾・竜の一矢強化Lv1
しゃがみ移動速度UPLv1


 鬱蒼と茂る森の奥。大きく開けたその場所に大きな畑を持つ家があった。

 土地の広さに反して、家はこじんまりとした普通の一軒屋だが、その敷地には家よりも大きい竜たちが放し飼いにされていた。

 そんな光景を当然のように眺めながら一人の老人が傍で伏せる竜の体をそっと撫ぜた。

 彼ら?いや、彼女ら?性別は今も良く分からないが、この竜たちと出会ったのは私がまだ若かったころだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供の頃に夢見た冒険者になり、世界の彼方此方へと旅に出て、大きな財と名声を成す。そんな夢を捨てて、今は亡き両親から譲られた畑仕事に汗を流し、出来た作物を収穫したある日のことだ。

 籠に入ったキュピックの重みを感じながら家へと戻ると、影になっている場所に変な動物が丸まっていた。

 狼よりも大きいが、熊よりは小さい。全身が黒みがかったような藍色の毛並みをしている。顔らしき部分には鳥のような嘴のような尖がりがあり、印象としては鳥っぽい。

 前足だと思われる場所には鳥のような翼っぽいものがついている。だが、鳥にしては後ろ脚もあり、四足歩行で移動するようなその奇妙な姿。その獣から感じられる威圧感のような雰囲気に魔物という存在が脳裏を過ぎった。

 

 魔物の多くは人に害をなす生物であり、その多くが肉食―つまり人間を襲ってその肉を食らおうとする。口元からちらりと見える鋭い牙は、この生物が肉食だということを示していた。

 辺りを見回してもオレ以外の住人はまだ畑仕事をしているのか、それともこの生物を見て早々に家に逃げたのか、誰もいなかった。ゴクリと唾を飲み込んで、恐らくは眠っている魔物?を起こさないように慎重に家に入ろうとした。

 

 

―――グルルルゥ

 

 

 家の扉まであと少しというところで、唸り声と共に魔物が寝転がしていた体を起こした。犬がするようにグッと体を伸ばして起き上がると、しっかりと開いたその目がオレの方を向いた。目を細めた魔物が姿勢を低くして唸りながら、尻尾を地面にペシンペシンと叩きつける。

 

「落ち着け…口に合わないだろうけど、これをあげるから」

 

 威嚇する魔物の注意を引くために、背負った籠から先ほど採ったばかりのキュピックを取りだして見せる。肉食らしき魔物を相手に野菜しか持ってない不幸を嘆きながら、敷き布を広げてキュピックを置いた。

 刺激を与えないように魔物を見ながらゆっくり下がると、警戒しながらも近寄ってきて確かめるように鼻先で何度か突っつき始めた。

 

「お肉じゃないのは我慢してくれ…甘くて美味しいから」

 

 祈るように小声で呟きながら家の戸に手を伸ばす。なるべく音をたてないように開けるが、静かなこの場ではちょっとした音でも大きく聞こえる。

 扉の開く音に反応した魔物がキュピックを咥えながら顔を向けた。シャクシャクと消えていくそれを見ながらもなんとか家の中に入り、ゆっくりと戸を閉めていく。あともう少し―――――

 

 

――その時だ。

 

 

 黒い風のような何かが戸が閉まる前に入り込みドアに手をかけるオレにぶつかってきた。お腹にぶつかった何かは赤い光を残像のように残しながら後ろに回り込むように消えていく。急いで立ち上がりながら振り返ると、先ほどまで外にいた魔物が、犬が座るかのように玄関に座り此方を見ていた。その目はオレと背負っている籠の両方に向けられており、先ほどは地面を叩いていた尻尾が左右に微かに振られている。

 籠に手を伸ばしキュピックを取りだすと、魔物の視線がそれに向いたのが分かった。左に動かすと左に、右に動かすと右に動く。そっと床に置いて手を離すと瞬時に咥えて食べ始めた。襲われなくて良かった。そう思いながら新たなキュピックを取りだしては床に置く。パクっと一口で食べてお代わりを催促するその姿はもう犬にしか見えない。

 

「……もっと味わってくれよな」

 

 先ほどの恐怖感が薄れて、なんだかペットを飼ったかのように感じつつキュピックを置こうとすると、オレの手から直接キュピックを奪い取って食べた。それに満足したかのようにキュルルォと一鳴きすると家主がいない部屋の中へと消えていった。

 

「はぁ…助かったのはいいけど、どうしよう、マジで」

 

 出会ったときの恐怖感はもうない。あれなら熊の方が何倍も恐ろしい。だが、魔物が家に居着きそうなのはちょっと問題だ。無理に追い出すわけにもいかず、村の人や村長にどう言ったらいいのか。部屋の片隅で毛繕いをしている魔物の姿に溜息を吐く。とりあえず、明日になったら村長のところに行ってみよう。

 

 




キュピック
 茄子の形をしたリンゴ味の野菜。田舎では安くて甘い果実のような感覚で食べられるので人気。育てやすく農作初心者御用達の野菜。転生日本人が食べたりすると困惑間違いなし。


クロっぽい魔物
 モンスターハンターに出てくるとある竜(幼)
 刃翼が発達していない(柔らかめな相手なら斬れる)、尻尾の尾棘も発達していない(柔らかめな相手なら刺さる)と、まだまだ発展途上の幼―――ここから先は血で汚れていて見れない。


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名前なんて付けたことがないからな…

名前つけるのが大変すぎる…。作者に原作知識があり、物語の人物に原作知識がないとこんなに名前つけるのが大変になるのか…と実感した一話でした。


 お腹が重い…。

  お腹が暖かい…。

   少し寝苦しい…!

 

 息苦しさを感じて目が覚める。お腹から感じる重さと温かさを確かめるために布団を捲ってみると、黒い魔物が抱き着くようにして眠っていた。布団が捲られたことで目を覚ましたらしく、閉じた目を開いて大きく欠伸をした。

 

「おはようさん、起きるからごめんな」

 

 横っ腹を掴んで隣へ降ろすとググッと背筋を伸ばして尻尾を上下左右に振った。

 

――――クルルゥ

 

 黒い魔物が一鳴きして部屋の隅の籠に頭を突っ込んでムシャムシャと食べ始める。4本、5本と食べて満足した魔物が部屋をうろつき始めた。

 

「あー、そういや名前。決めてなかったよな。なんていうんだ?お前」

 

 昨日はそれどころではなくて考えもしなかったが、オレはまだこいつの名前を知らないし、つけてもいなかった。

 この魔物の知性は高いらしく、オレの言っていることが理解できているような気もするが、あいつが何を言っているのかオレには全く分からないため、コミュニケーションは取れていない。仕草やニュアンスで何を伝えようとしているのかを感じるので精一杯だ。

 

「うーん、名前、名前かぁ…。鳥っぽいけど、猫っぽい気もするし、犬っぽいこともする…タマとか―――」

 

 ぺチっとオレの手が尻尾で叩かれた。これは嫌らしい。

 

「じゃぁ……ポチ―――『ペシっ』。ダメか。んーじゃぁタロ―――『ベチっ』ッ痛っ!」

 

 一際強く叩かれて、さらにグルルルと低い唸り声が聞こえる。慌ててごめんごめんと背中を撫でると若干機嫌を良くしてくれたのか唸り声が収まった。

 

「名前なんて付けたことがないからな…」

 

 体が黒いからクロか?これは駄目っぽい気がするな…。鳥…トリッピー?これはもっとやばい気がする。猫…タマ、いやこれは叩かれた。ニャル?これは安直過ぎるか…?ニル?ちょっと言い辛いか。…ナル…。

 

「ならナルはどうだ?」

 

 今度は尻尾は大人しかった。

 

「よし、オレはアッシュ。これからよろしくな、ナル」

 

―――クルルゥ

 

 よろしく、といったのだろうか。そんな鳴き声を返してくれた。

 

 

 

 

「……すまぬが、魔物を村に置いておくことはできん」

 

 名前が決まってから数時間後。留守番をするように言い聞かせたオレは村長の家へとやってきていた。

 オレの家に魔物っぽい生き物が来ていたこと。身の安全のためにキュピックを与えたら懐かれてしまったこと。今も家に居着いており、危険性はないことを伝えてみたが、少し悩んだあと、村長は首を横に振った。

 

「今は危険でなくとも、この先何もないとは言い切れん…。眷属獣であればまだいいんじゃがな」

 

「眷属獣??」

 

「そうじゃ。人が使役する獣や魔物を登録できるものでな。冒険者ギルドで登録できるんじゃ。それがあれば町や村に魔物を入れることができるんじゃよ」

 

 冒険者になったことがないから、聞いた話によるとじゃがな、と笑いながら言った。

 

「この近くになるとのう…ここから3日くらい行ったところのルビナスの街にギルドがあったはずじゃ。うちの村のやつが良く行っとる街だから知っとるじゃろ?」

 

 良く食料や衣類などの商品を売ってくれる商人がくる街だ。この村で取れる野菜などもこの街に持っていって売っている。オレも何回か村の男と一緒に売りに行った覚えがあった。

 

「まぁ、お前もいい歳になったからの。ちょっとばかり旅に出てみるのも良い経験になろうて。ほれ、お前の夢を叶える良い機会じゃろ?」

 

「う…冒険者には憧れてたけど、畑もあるしなぁ」

 

 いない間の畑の世話は子供たちに練習がてらにやらせておくと村長は笑いながら言って、銀貨を二枚渡してくれた。

 

「街に入るお金は出してやる。色々冒険が出来るのは若いうちだけじゃぞ?」

 

 こんな爺になったらもう家から出れん!と笑う村長にお礼を言いながら銀貨を硬貨入れに仕舞った。畑のことをお願いしてから家に戻ると、玄関でナルが待っていた。

 頭を撫でながら旅に出ることを伝えるとクルルっと鳴いて部屋へと戻っていった。

 とりあえず、旅に必要な物を準備する。食べ物、発火石、毛布、敷き布、財布等々を遠出用のリュックに入れた。出発は明日の朝でいいだろう。どんな旅になるか分からないが暫くは戻ってこないかもしれない。食べ物の類は腐っても困るので周囲の家に渡して部屋の中をすっきりさせた。

 一人で行くのは少し不安だが、今なら旅の道連れにナルもついてくる。冒険者になったらどんなことをしようか。布団に寝転がりながら隣で丸くなるナルの暖かさを感じながらそんなことを考えた。

 

 

 




村長
 両親を亡くした主人公に色々良くしてくれる気の良いおじいちゃん。
 主人公が子供の頃に言っていた冒険者になりたい!という言葉を覚えており、これを機に冒険者してこいと尻を蹴っ飛ばした。


発火石
 火打ち石のようなもの。火山で良く採れる。
 火の中に放り込むと長時間燃え続けるため、野宿をして眠るときはこれを火にいれてから眠るのが旅の基本。


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ナル…お前、小さいのにそんな強いんだな

 旅商人が使う馬車や村人たちによって踏み固められた道をひたすら歩く。

 村から出て9時間ほど。畑仕事などで鍛えられた足腰はまだまだ余裕をもっているが、太陽が山の向こうに沈んでいきそうな時間になってきた。

 夜になると夜行性の肉食動物や魔物が活動を活発化させる時間なので、いつも通りに火を焚いて野宿をすることにした。

 踏み固められた道のすぐ横で、集めた木の枝に木屑を置いて発火石で火をつけた。火の勢いを強めるために追加で枝を投入する。少し離してもう一つ焚き火を作るとそっちには発火石を投げ込んでおく。

 先を尖らせた木の枝に干し肉を刺して軽く火で炙ると良い匂いが鼻を刺激した。ナルもコソコソと近づいてきて横に居座るとジッと干し肉を見つめてくる。

 

「ほれ、大丈夫だとは思うけど」

 

 軽く炙った肉を目の前にもっていくと、枝ごと噛み砕いてゴクリと飲み込んだ。枝ごと食べたナルに苦笑しつつオレも軽く炙った肉を口に入れた。美味くもなく不味くもなく、まぁ、干し肉なんてこんなものだ。

 ナルに何枚かあげながら、食べ終えると森の近くに獣除けの臭い袋を適当に投げておく。ナルも鼻が利くのか嫌そうに唸って鼻先をオレのお腹に押し付けてきた。

 内心で軽く謝りながらも目の前の焚き火に発火石を放り込んで火を強めつつ毛布をオレとナルに被せた。

 

 

 

 

 寝静まった夜。何かが動いた刺激で目を覚ました。発火石は問題なく効果を発揮しており、周囲を火で明るく照らしてくれていた。

 ふと、横を見るとナルの姿がなく、慌てて辺りを見回すと道と森の境目近くにいた。

 森のほうを向いており、背を低くして尻尾を地面にビシッビシッと叩き付けている。

 

 

――――ゴルルァ!

 

 

 鳴き声も普段出すものとは違い、凄みを感じる。その小さい体からには不釣り合いな大きな存在感を感じた。何に威嚇をしているのかは分からないが何かがいるに違いない。懐から護身用の短剣を取り出して構えた。

 

 森からは何も聞こえない。聞こえるのはナルが唸る声と尻尾が地面を叩く音のみだ。

 そんな状態が続いていたが、ガサガサっという音とともに森から3頭の狼が現れることで状況が動いた。

 現れた狼は、ナルよりも少し小さく、体毛は白っぽく、頭には角のような突起が生えていた。間違いなく魔物である。

 

 跳びかかってきた狼を撓らせた尻尾で叩き落すが、左右からくる二頭が翼のようになっている前足に噛りついた。鋭い牙が翼に食らいつき、翼に食い込んでいるのが薄暗い中で微かに見えた。

 

「ナル!」

 

 枕元に用意しておいた手頃な石を投擲して体に当てるが、狼たちは完全にこちらを無視してナルの前足を噛み千切ろうとブンブンと首を左右に振った。

 短剣を構えて突っ込もうとした瞬間、ナルが噛まれている前足をブンブンと振ると、噛みついていたはずの狼たちが突然真っ二つになって森のほうへと飛んでいった。

 

「???」

 

 混乱するオレを他所に、最初に尻尾で叩き落された狼に尻尾を叩き付け絶命させる。あれほど騒がしかったこの場に静寂が訪れた。

 終わったと一息吐いたオレにグァウ!と一鳴きして、ナルが森のほうへと突っ込んでいった。

 ナルが消えていった方向からは、ヒュンッと何かが振られる音やバキバキと木が倒れていく音、そして犬の悲鳴のような鳴き声が響き渡って静かになった。

 

 構えた短剣を森に向けていると、ナルが先ほどの狼よりも一回り大きい狼を咥えて戻ってきた。オレの目の前までやってくるとペッと狼を捨てて、こちらを見上げてくる。

 先ほどまであった大きな存在感が消えて、想像でしかないがドヤッとした顔を向けていた。

 

「ナル…お前、小さいのにそんな強いんだな」

 

 よくやったと頭や背中を撫でていると、ペロペロと手や顔を舐めてきた。

 鉄のような臭い、血の臭いがしたので、手で拭うと赤くなっている。

 

「ナル!ちょ、ちょっと待って!血が、血がついてるから待って!」

 

 ぺろぺろと舐められた後にはしっかりと血がついていた。

 

 ちなみに、ナルが持ってきた狼は、朝食として(ナルが)美味しくいただきました。

 




狼の魔物
フォレストウルフと呼ばれる魔物。雌一頭に雄が2~10頭ほど集まって群れを作っている。雌は群れのリーダーとして雄を使って狩りをする。雄が雌に攻撃をすることはなく、雌が他の群れの雌を殺すことで群れを大きくしていく。

ナルの前足
刃翼と呼ばれる折り畳み式の堅い翼を持ち、その切れ味は竜をも真っ二つにできる。
幼体では竜を真っ二つにはできないが、狼程度ならば問題なく両断できるようだ。


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貴方…それがどんな生物か知っていましたか…?

 ナルの意外な強さが分かってから3日ほど。目的地の街―ルビナスが見えてきた。これまでは誰にも会わなかったが、街に近づいたからか旅商人や冒険者らしき人の姿がチラホラと見え始めた。

 周りを歩く人は、物珍しさからか一度はナルの方へと目を向ける。それに不快さを感じているらしくナルの機嫌はあんまり良くない。温存する必要もないキュピックを取りだして機嫌を取りながら門を目指した。

 

「通行証かギルドカード、身分証と銅貨50枚を通行料でいただきます」

 

 目の前では、旅商人らしき男が懐からカードを取りだして街の中へと入っていった。オレの番が来たので身分証と銀貨を取りだしておく。

 

「通行証かギルドカード、身分証と銅貨50枚と合わせて眷属証を提示してください」

 

「すみません、眷属獣の登録をしに来たので、まだ眷属証は持ってないんですが」

 

「なるほど…ちょっとこちらの別室に来てもらっても?」

 

 門の隣にある待合室のような場所に入る。その部屋には机とソファーが置いてある以外には特徴もない普通の部屋だ。

 

「少し待っててください。すぐ戻りますので」

 

 そう言うと門衛は部屋から出ていった。旅の疲れが足に出ていたので、ソファーに腰を下ろした。家にある椅子よりも座り心地がいい。ナルもソファーに上がってきてオレの腿に頭をのせて丸くなった。

 

「すいません、お待たせしました。彼は鑑定魔術が使える魔術師です。安全性などの確認のために今から鑑定魔術を使います」

 

 戻ってきた門衛の隣には、杖を持った男性が立っており、よろしくな、と対面のソファーに座り込む。ブツブツと呪文を唱えた彼の杖から、淡い光が立ちあがりナルの方へと飛んできた。

 それに目を向けるナルだが暴れ出す様子はない。そのことにホッと安心していると、杖を持った男性が驚いたように立ち上がった。

 

「貴方…。それがどんな生物が知っていましたか…?」

 

 その言葉は僅かながら震えており、目は信じられないと見開かれていた。首を横に振ると、深呼吸をして落ち着きを取り戻した魔術師の男性がいいですか、と口を開いた。

 

「その魔物は飛竜種に分類される竜種ですね…。大きさを見る限り生まれてからそんなに時間が経っていないように見えますが…」

 

「へぁ?」

 

 それを聞いて鳥とか猫とか犬とか思っていただけに驚きの声が出た。竜種―――生態系でも上位に位置する種族であり、その中でも飛竜種は空を飛ぶ災害と言われている。農民だったオレでも竜種の凄まじさは知っているし、ナルがその竜だということに驚きが隠せなかった。

 

「生まれて間もなく貴方に出会ったお蔭か凶暴性は見られなさそうですが…この魔物が竜種だということはなるべく秘密にしておいた方がいいかと」

 

 手をゆっくりとナルに近づけて左右に動かしながら魔術師は言った。ナルも脅威を感じていないからか左右に振られる手を見るだけで何もしない。

 

「特に悪意ある人に知られてしまったら、お金欲しさに襲ってくるかもしれません」

 

 言わなければ竜種と分かる特徴は今はありませんしね、と付け加えてから男性は部屋から出ていった。

 

「驚きましたよ、幼竜なんて初めて見ました。さて、特に問題がないと分かりましたのでこちら、仮眷属証になります。街の中では必ず付けておいてください。あとは通行料として貴方と眷属獣合わせて銀貨1枚になります」

 

 オレは銀貨を支払ってから、ナルの首元に渡されたスカーフっぽい布を結んでから部屋を出た。冒険者ギルドは、この表通りを真っ直ぐ行った先らしい。

 街中を歩いているとオレと同じように魔物を連れて歩いている冒険者らしき人たちがチラホラと見えた。狼っぽいモノもいれば、鷹のような鳥を肩に乗せて歩いている人もいる。

 ナルもそういった魔物に目を向けてはグルルと威嚇っぽいような声を出すので、その度に頭を撫でてやった。冒険者たちも見慣れない魔物だからか此方に目を向ける人も少なくない。

 もし、この黒い猫っぽい鳥っぽいやつが竜と分かる外見をしていたらもっと凄いんだろうなと思った。

 

 表通りを歩いていると色々な屋台が見えてきた。パンに焼き菓子にフルーツに串焼き。ナルの視線が匂いに釣られて右左に動く。しょうがないと串焼きを二本買ってナルの口元に持っていくと木の串とそれについていた肉を噛み砕いて飲み込んだ。

 干し肉よりも美味かったんだろう。オレの手にあるもう一本の串焼きを物欲しそうに見てくるがこれはオレの分だ。手早く食べてまた今度な、と頭を撫でた。




金貨1枚 = 100,000円

銀貨1枚 =   1,000円

銅貨1枚 =      10円

日本円にするとこんな感じにイメージしてもらえれば。細かい計算やお金の管理は…しません…。


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冒険者ギルドへようこそ。冒険者登録を希望ですか?

 串焼きを食べた後もちょこちょこ屋台で食べ物を買いながら歩いていると大きな建物が見えてきた。冒険者っぽい人が出入りしているから、あれが冒険者ギルドのはずだ。

 人についていく形で中に入ってみると冒険者らしき人が何人も集まっていた。カウンターには綺麗な女性が座っており、冒険者が列を作っている。上にはプレートがつけられていて対応する窓口が作られているようだ。

 

【依頼受付】【依頼報告】【冒険者登録(眷属獣登録】

 

 とりあえず、冒険者登録のカウンターへと向かう。

 

「冒険者ギルドへようこそ、冒険者登録はまずこちらの紙に登録情報を記入してください。必、がついた場所は必ずご記入ください。それ以外は空欄でも構いません。代筆が必要であれば言っていただければ私の方で記入させていただきます」

 

 説明を聞きながら紙を上から下まで眺めてみた。名前に年齢、出身地に得意な武器や魔法使用の有無、犯罪歴など。とりあえず必マークのついた場所を全部埋めて受付嬢に渡した。

 

「はい、では記入された情報でギルドカードを発行しますので少々お待ちください」

 

 そうして、奥の扉へと消えていった受付嬢は数分後に一枚のカードを持って戻ってきた。

 

「最後に記入した情報に偽造がないか確認しますので、此方の水晶に手をおいてください」

 

 受付嬢がカウンターに青い水晶玉を置きどうぞ、と離れた。やましいことなど何もないので水晶玉に手を置くが、何の変化も見られない。

 

「はい、ありがとうございます。では、こちらがギルドカードになります。貴方のランクはFになります。依頼達成数と内容を吟味して昇格を行っていきますので頑張って下さい。また、注意事項はこの紙に書いてありますので、必ず一読ください」

 

 受け取った紙を見てみると、依頼は必ずギルドを通して受けること。冒険者同士の争いは自己責任なこと。一月に4回程度は依頼を達成すること、などが書かれている。

 

「この一月に4回の依頼達成ができないとどうなるんですか?」

「冒険者の資格無しとしてギルドカードが失効してしまいますのでご注意ください。受けた依頼が長期な場合などはそれも考慮に入れますのでご安心ください」

「なるほど、分かりました。あとここで眷属獣の登録ができると聞いたんですが」

 

 できますよ、と受付嬢が先ほどとは違う紙を取りだして目の前に置いた。

 魔物の名前や種族、どこで出会ったのか、気性、食べ物などの記入欄がある。種族については町の入口で言われたことが気になったので聞いてみた。

 

「見ることができるのは、我々ギルド関係者と領主様、街の門衛たちだけです。ギルドカードなどの読み取りは専用の魔道具が必要になりますので、他の方には見ることができません」

 

 それならとサラサラと内容を記入して受付嬢に渡した。

 

「はい、確認させて頂きます。――――――えっ、り、りゅぅ!?」

 

 驚いた受付嬢が自分の手で口を塞ぐ。やがて、ワザとらしい咳を何回かして集まった目線を誤魔化す。

 

「申し訳ございません、咽てしまいました。―――――――此方の情報は真実ですか?」

 

 周囲に聞かれないように小声で話す受付嬢に頷いて返す。

 

「はい…。では、確認のために鑑定魔術を使いますので私についてきてください」

 

 受付嬢の後を追いながら部屋に入ると、すぐに戻りますと部屋を出ていった。

 そう間を空けずに片眼鏡の男性とオレンジ色の髪を後ろで束ねる女性が入ってきた。

 

「遅れて申し訳ない。私はこのギルドの管理を任されてるレグナスという。一応職員の安全のために同席させてもらうよ」

 

 そう言ってソファーに座り込んだ。

 

「私は魔術師のミラよ。鑑定魔術を使わせてもらうわ。よろしくね」

 

 ナルに目線を合わせた女性が呪文を唱えると、あの時と同じ淡い光がナルに飛んでいき、体染みこむように消えていった。

 

「―――――はい。間違いありません。飛竜と確認できました」

 

「そうか。こんなに小さい竜種なんぞ初めてみたわ。幼竜は親が宝のように守っとるからな。あぁ、問題ないから眷属証を発行してきてくれ」

 

 受付嬢が部屋から出た後に触ってもいいか?とレグナスが聞いてきたので、ナルが良いならと目を向けた。

 唸り声のようなものをあげていたが、やがて許したのか尻尾をレグナスへと向けた。頭は触らせたくないらしい。

 レグナスが苦笑しながらも尻尾に触れるとおぉと感動したように声を漏らした。便乗するようにミラも手を伸ばして尻尾に触った。

 

「いやぁ、中々良い手触りだな。良い体験をしたよ。これは礼だと思ってくれ」

 

 懐から金貨を1枚取りだしたレグナスがオレの手に握らせてきた。突然の大金に驚いたが、レグナスは気にするなと背を向けた。

 

「幼竜に触るなどSランクの冒険者でもそういまい」

 

 そう言いながらレグナスとミラが部屋を出ていき、入れ違いで受付嬢が戻ってくる。

 

「これが眷属証になります。これがあれば町中にも眷属獣を入れることができますが、何かが起きた時の責任は貴方が取ることになりますのでご注意ください」

 

 受け取って確認してみるがギルドカードのようなカードでこれといった特徴はない。カードを大事に仕舞ってから部屋を出た。

 さて、これからどうするか。とりあえず冒険者らしく依頼の一つでも受けてみようか。ナルに目を向けると眠そうに欠伸をしているが、まだ日は高く夜までは時間がある。

 人が減った掲示板に向かうと薬草採取の依頼が残っていたのでそれを取りカウンターに向かった。

 

 




鑑定魔術
 対象のステータスを術者の視界に投影する魔術。相手の情報を読み取る魔術。
 魔力を体表に纏うことで読み取られる情報を減らしたり拒絶できる。また、呪文の飛ぶ速度も遅いため、見てから回避できるなど欠点も多い。


鑑定魔術 → ナル

名称 ナルガクルガ
名付 ナル
種族 飛竜種
耐久 D
魔力 F
筋力 D
敏捷 B

門にいた魔術師やミラにはこのようなものが見えていた。
耐久などのランクはF~EXまで。ナルはまだ幼体なため全体的にランクが低い。
またランクの中でもばらつきはあり、同じBでもA一歩手前のBとCから上がったBでは大きな違いがある。そのあたりの細かい部分が分からないのも鑑定の欠点。


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グギャギャギャ!

――――――――――

 

薬草と癒し花の収集

 

ルビナス近郊の森にある薬草と癒し花を籠に収集してください。

状態が良ければ達成料にボーナス。

 

野生動物と森荒らしに注意してください。

 

――――――――――

 

 

 先ほど受けた依頼で、畑などの草刈りの経験が活かせるだろうと思って選んだ依頼だ。ついでに、森でどんなものが売れるのかを聞いたら、フォレストウルフという魔物の皮や肉―――ルビナスに来る途中で戦ったあの狼――――や森荒らしの討伐証明である耳などが換金対象になるらしい。

 銀貨50枚からリュックぐらいの収納スペースがある魔法鞄が買えるらしく、レグナスから貰った金貨を有り難く使わせてもらって、リュック二つ分ぐらいのモノが入れられる魔法鞄を購入させてもらった。

 

 街から出る際に、ここに来るときにあった門衛と目があったので軽く頭を下げて挨拶をしておいた。

 目的の森は街を出てからちょっと歩いた場所だ。街に近いので危険な動物はそう多くなく、狼などの動物はある程度森を進まないといないらしい。ただ、森荒らしなどの魔物は関係なくうろついているとのことなので、警戒を怠ることはできない。

 ただ、周囲の警戒は頼れる相棒がしてくれているので、地面から生える薬草や癒し花を見逃さないように地面を見ながら歩いた。薬草は磨り潰すことで怪我を直したり、軽い毒ならそれも治せる。癒し花は冒険者が良く使う回復薬の原料に使われるらしい。見つけたそれらの野草を傷がつかないように摘んで籠に入れていく。

 毟られた形跡がある場所も見られ、その乱暴さに若干の苛立ちを感じながら野草を求めて森の中を進んで行った。

 

 この辺は薬草集めの冒険者は来ないのか綺麗な状態で薬草や癒し花の群生地が見られる。それらを少しずつ摘みながら籠を一杯にする。

 このぐらいでいいだろうとナルがいる方へ振り向くと、耳をピンとたてた状態でグルルゥと周囲を見渡していた。やがて、一方向へ目線を向けると姿勢を低くしながら尻尾をバシンと地面に打ち付ける。

 オレも短剣を構えて注視していると、ガサガサという音と共に小型の小人のような生物が姿を現した。人間の子供程度の背丈だが、その顔は醜く細長い耳を持っている。手には木を削って作られたこん棒が握られており、グギャギャギャ!と耳障りな声を上げる。

 1匹、2匹、3匹、4匹と増えて、その手に持つこん棒を弄びながら嘲笑うかのような不快な声をあげていた。

 依頼文にも書かれていた森荒らしだ。オレが暮らしていた村でも、この森荒らしの駆除は定期的に行われていて何度か殺したことがあった。

 饐えたような臭いが漂い、吐き気が湧いてくるがグッと我慢する。ナルもこの臭いに機嫌が悪くなったらしく、地面に尻尾を力強く叩きつけていた。

 

「グギャギャギャ!」

 

 リーダーと思われる一匹がこん棒を振り下ろすと、森荒らしが一斉に突っ込んでくる。

 

――――――ゴルルルアァアアァァァァア!!

 

 ナルが出会った中で一番大きな咆哮をあげると飛びかかってきた森荒らしが一斉に体勢を崩して地に倒れていった。あまりにも大きい咆哮にオレも無意識に耳を塞いで蹲った。

 目の前では、大きな隙を晒している森荒らしに風のように跳びかかり、前足の爪で倒れる森荒らしの頭部を潰しながら、リーダー格の体を翼で両断した。

 あっという間に森荒らしを瞬殺したナルは、剣についた血を振り払うように前足を振ってからこちらに戻ってきた。

 翼や体毛には血はついておらず撫でても血はつかない。

 

「サンキューな。帰ったらキュピックでも買って食べるか、あと串焼きも」

 

 危険なこともなく、トラブルもないまま門まで戻ると、まだあの時の門衛が働いていた。

 

「近くの森には狼や森荒らしが出るが…まぁ、それと一緒にいれば安全か」

 

 一応の決まりということでギルドカードと眷属証を見せる。

 

「へぇ、ナルっていうのか、名前」

 

 門衛が眷属証を読み取ったときに名前も見たようで、よろしくとナルに声をかけていた。

 そのまま門を抜けると屋台の串焼きや野菜売りで色々買いながら冒険者ギルドへ戻った。

 

 

「うん…うん…はい。薬草と癒し花に傷物はありません。達成料へのプラスにしておきますね」

 

 報酬金が入った袋を受け取ると軽く中を確かめる。銀貨が1枚と銅貨が沢山だ。これだけあれば一泊二泊はできるだろう。

 ついでにお勧めの宿屋を聞くと、ここから20分くらいの場所に眷属獣も大丈夫な宿屋があるらしい。お礼を言って冒険者ギルドを出るとその宿屋がある方へ向かった。

 

 

 

 




森荒らし
 ゴブリンが一番分かりやすいか。子供程度の背丈しかなく力も弱いため武器さえあれば子供でも倒せる。筋力も低く、知能も低いが、数が集まれば脅威となる。


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