鈴木善治の昔話 (あずきシティ)
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浦島善治

原作は浦島太郎です。


昔むかし、あるところに海岸がありました。

 

「おう!金出せや!!オラァ!」

「とりあえずジャンプしてみ、ホラ!」

「亀の頭ちぎるぞ!!大人しく出すもん出せや!!」

 

そこではガラの悪い子供役の大人たちがウミガメをいじめていました。

そこに現れたのは一応、主人公の浦島善治でした。他の作品では鈴木善治として生きる、とりたてて特徴のない男です。年齢や社会的地位は高校生が基本ですが場合によってはフリーターなどに変化する都合の良い主人公です。

 

「やれやれ、まさか名字が浦島になるとはなぁ。まぁ名字を残されて鈴木太郎になるよりはマシだったか。」

ブツブツと呟きながら散歩していると、亀がいじめられている現場に遭遇しました。

 

「オラァ!金出せや!!」

「ひぃえぇ!?そんな……!」

亀は未だにカツアゲされ情けない声を上げています。

浦島善治はめんどくさかったので、そのままスルーしようとしましたが、亀に見つかってしまいました。亀は流暢な日本語で浦島善治に話しかけます。

 

「そこの旅のお方!!私は見ての通り困ってるんだ!助けてくれ!」

浦島善治は一瞬、迷いましたが亀を見捨てることにしました。

「自分でなんとかしな。」

「そんなこと言わないで!助けてくれたら何でもしますから~!」

「ん?今、何でもって?……ってノるかよ!めんどくせぇ!」

「そんなぁ……」

 

亀は頼みの綱がなくなりましたが、見かねた悪ガキ役の怖いお兄さんが浦島善治に話しかけます。

「おい兄ちゃん!ちょい待ちや」

浦島善治は恐怖で足がすくんでしまいます。

「な……なんでしょうか?」

「な?亀が困ってるのに兄ちゃん、それでええんか?」

「……!」

「浦島は亀助けるんやろ!?なぁ!?」

「っ……は、はい!」

 

恫喝を受けた浦島善治はつい亀を助けることに合意してしまいました。

なんで、こんなことに……スキを見て逃げてやる!そんな風に浦島善治は考えたかもしれません。

 

怖いお兄さんが現れた!

怖いお兄さんが現れた!

怖いお兄さんが現れた!

 

「なんだ……なんで急にRPG風なんだ!?」

 

怖いお兄さんA HP124000/MP700

怖いお兄さんB HP360000/MP550

怖いお兄さんC HP530000/MP980

 

「なっなんだこのパラメーター!?」

 

鈴木善治 HP220/MP12

「俺弱すぎだろ!!こんなの選ぶコマンドは決まってる!」

 

攻撃

魔法

→逃げる

アイテム

 

浦島善治は逃げようとした。しかし回り込まれてしまった。

怖いお兄さんAの攻撃

浦島善治に23674のダメージ!

浦島善治は倒れてしまった。

 

 

こうして浦島善治は亀の罠にハマり老化することもなく、全治3日のケガだけで済みましたとさ。

 

めでたしめでたし



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金の斧

原作はどぶろっくの・・・じゃなくて、金の斧です。


昔むかしあるところに、鈴木善治という木こりがいました。

彼は仕事中、うっかり手を滑らせて、その辺の池に斧を落としてしまいました。

「なんということだ!私は大事な斧を落としてしまった!あれがなければ仕事が出来ず、生活が立ちゆかなくなってしまう!」

鈴木善治は慌てて池から斧を拾おうとしましたが、薄汚い池の底は見えず無理に入れば二次遭難の危険もあることから斧を拾うことを断念しました。

 

すると突然、池は光り出し中からおっさんタイプの神様が現れました。

「あっ神様!?」

「そうだ私が池の神だ!」

「神様、私はうっかり手を滑らせ大事な大事な斧を池に落としてしまった。このままでは生活が出来ず飢え苦しんでしまうだろう。」

「なんということだ。それは大変だな」

 

神様は感嘆し、そして2つの斧を取り出しました。

 

「お前が落としたのはこの金の斧か?それともこの銀の斧か?」

「いえ私が落としたのは普通の斧です。金の斧でも銀の斧でもありません。」

「なんと正直者でしょう!感動した!」

 

正直な鈴木善治に感動した神様は涙を流しながら言いました。

「心が正直なあなたには特別に……」

「おっ……」

 

鈴木善治も人間です。高いものが手に入るとなれば多少色めき立ったりします。

「金の斧と銀の斧をあげる……」

「金の斧と銀の斧をあげる……?」

 

 

「代わりに大きなイチモツをあげよう!」

 

 

 

「え?」

「大きなイチモツをあげよう!銭湯でみんなが二度見する、大きなイチモツをお前に授けよう!」

 

 

 

 

 

「……。おい神様」

「どうした?良いだろ」

「あのな……下ネタだとかスベってるとか色々言いたいことはあるけどな……」

「あるけど……大きなイチモツが欲しい?」

「じゃなくてパクりだろうが!!」

「えっ?」

「『えっ?』じゃねぇ!!大きなイチモツをあげようってネタTVで見たわ!!キングオブコントで見たから結構みんな知っとるわ!!」

「くっ……」

「だいたいな!!今回のナレーターは女性だろ!さっきからドン引きして黙ってるからな!」

「はっ!?確かに……」

「台本形式でも無いのにセリフばっかりって読みづらいからな!!どうすんだよコレ!!!」

「わ……私はどうすれば……」

「んなもん決まってるだろ……斧返せや。」

「わ……分かった。お前に」

「お前?」

「鈴木善治様に……この斧を返そう」

「だけじゃないよな?」

「……正直者な鈴木善治様には金の斧と銀の斧もあげよう。」

「ん。よろしい。じゃ斧は全部俺のものな。」

 

 

こうして鈴木善治は金の斧も銀の斧も普通の斧も全て持って帰りました。

 

 

「ふぅ……ナレーターも戻ってきてくれた……」

 

神様も安心のご様子でした。

 

 

さて、このやりとりの一部始終を遠くから覗き見ていた男がいました。

 

「なるほど……あの池に斧を投げ捨てると神様が出てきて好きなものをくれるのか……大きなイチモツとか言ってたな……」

 

この男の名は水原。鈴木善治と違いフルネームが明らかにすらなっていない時点で色々とお察しではありますが、彼は、鈴木善治と神様のやり取りを遠くから見ていたのであまり詳しい内容は分からないまま誤解していました。

 

鈴木善治が池を去ってから、水原は急いで池に向かい、斧を池に投げ込みました。

「あー大事な斧を落としてしまったー」

水原が棒読みで騒ぐと池から神様が出てきました。

「池にモノを投げ捨てたのはお前か」

「投げ捨てたんじゃなくて落としてしまったんです!」

「そうか……」

神様は既にさっきの一件で気分も落ち込んでいました。一応、テンションは低いまま語りかけます。

「で、お前が落としたのは……」

すると水原は食い気味に言い放ちます。

「大きなイチモツをください!」

 

上機嫌だったさっきとは異なり、今はテンションの低い神様。そんな気分が乗らないため神様は真面目に対応しました。

「大きなイチモツ?」

「大きなイチモツをください!私は見ての通り、顔は良くない。性格もクズ。おまけに収入だって大したことない!このままだったら一生童貞だ!イチモツだけが女を振り向かせる最後の手段なんだ!大きなイチモツを私に授けてください!」

 

 

神様は正直のベクトルを間違えた水原に優しくお説教をします。

「イチモツの大きさは大事かもしれないが、それは相手があって愛があってのこと。仮に大きな大きなイチモツを持っていても、相手がいなければ意味はない。イチモツは最後の条件であって、それ以前で足切りされたら意味はないんだ。」

そう語った神様は、水原になにも渡さずに、帰ってしまいました。

そして水原は、斧もわずかに持った希望もすべて失い、池のほとりで1人寂しく泣くのでした。

 

 

めでたしめでたし。



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かぐや姫 Aパート

原作は竹取物語です


今となっては昔のこと、竹を取って色々なものを作り、それで生計を立てているジジイがいました。

 

「ジジイじゃねぇ!まだ好青年って年齢だ!」

えぇ……。彼の名は鈴木善治。これといった特徴は無い竹を取る男でした。

「ったく……体力使う仕事なのにジジイじゃ務まらんだろ。」

 

普通の天気の普通の日、今日も彼は竹を取りに野山に向かいます。

野山に分け入って、しばらく作業をしていると、金色に光る竹を見つけました。

「うわぁ……ベタなの出てきたよ……」

彼は困惑しました。切ったらどんな展開になるかを知っていたから、ではなく

「これ、竹をうまく切らないと中の人を切ったりしてお蔵になっちゃうよな……。」

そう、中の人を傷付けず竹を切るには相当な技術が必要で、彼にはうまくやれる自信がなかったのです。とは言っても、このままではらちがあかないため、鈴木善治は前回に取得した金の斧を取り出しました。

 

「万一に万一のことがあっても、この金の斧なら供養にもなるだろう。あーあ……こんなことならセラミックの斧も追加でもらっとけば良かったな。」

セラミックの斧が果たしてちゃんと切れるのか甚だ疑問ですが、それを言い出すと金の斧も疑問です。ただ今回はうまくいきました。

パカッと竹は割れて中からそれはそれは美少女が出てきました。

「おはようございます。」

竹から出てきた美少女は礼儀正しく鈴木善治に挨拶しました。

「おぉ……ネタ的にゲテモノでも出てくるかと思ったら、普通に綺麗な人が出てきたな……」

「とりあえず見ての通り、帰る家とか無いので連れて帰ってください。」

「お、おう……」

竹から出てきた美少女の意外に鋭い眼光に鈴木善治はついお持ち帰りすることにしてしまいました。

 

 

 

「ただいまー」

「おじゃましまーす……って、誰もいないじゃないですか。なんで『ただいまー』って挨拶したんですか」

「ん?一応、妻がいるんだよ」

鈴木善治はそういうと秋葉原にありそうな等身大パネルをタンスから出しました。

「えっ?二次嫁?そういうタイプの人に私は誘拐されたんですか?ロリコンですか?」

「ちげぇよ。一応、話の展開上はジジイとババアの2人が必要だろ。でも俺は独身だからって言ったらこれ渡されたんだよ。邪魔になってしょうがないけど捨てるのも人目にはばかるからタンスに入れてんだよ」

鈴木善治は私の用意した許嫁は気に入らなかったようです。

 

「で、私の名前はなんですか?」

「おぉ……いつまでも竹から出てきた女とは呼べないしな……うーん……俺、竹で家具作って売ってる家具屋だから、『かぐや姫』なんてどうだ?」

「もうちょっとマシな名前無いんですか?家具屋って……IKEAみたいにオシャレでもないのに……」

「IKEAみたいなのが良かったのか?じゃあ『池谷 かぐや』で通称『かぐや姫』だな」

「……まぁいいですよ。どうせこの名前、あんまり使いませんし」

かぐや姫が呆れ顔になる鈴木善治のネーミングセンスが露呈しました。

 

 

 

さて、そんなかぐや姫は既に結婚できる年齢くらいには成長していたこと、昔話ということで昔の世界で今より結婚年齢が若いこともあり、すぐに街で噂になりました。

そして求婚に来た男性とお見合いをすることになりましたが……

 

 

「自己PRと志望動機をどうぞ」

「えっ……あっ……がっ……学生時代にぼっ、ボランティアかっ活動に……」

「はい、もう結構です(営業スマイル)」

「……あっ……」

「次の方ー。3分したらノックして入ってきてください。」

 

 

 

「って面接じゃねぇか!?」

「こういうのやってみたかったんですよ」

「はぁ……相手方の男性が気の毒だなぁ……」

「鈴木さん……実はそんなこと思ってないでしょ?」

「バレてたか……」

 

こんな風にかぐや姫に求婚に来た男性は大概、軽くあしらわれていき、かぐや姫と鈴木善治は2人でそれなりに面白おかしく暮らしていたのでした。

 

 

 

 

求婚に来た男性はろくなのがいなかったということもあり、毎日適当にあしらっては楽しく過ごしていたかぐや姫と鈴木善治でしたが、ある日、やってきた男性はこれまでの貴公子(笑)な男性たちとは異なるものでした。

「失礼します!」

そのハキハキした第一声に2人は察しました。この求婚者、ただ者ではない。というか、どっかで見たことがあるような気がしています。

「とりあえず自己紹介をお願いします……」

「はい、私は○○××(個人情報保護のため伏せ字にしております)と申します!職業は帝を少々……、貴女を宮中に迎え入れたく、馳せ参じました。」

「えっ……?……帝!?!?」

そう、やってきたのは帝でした。圧倒的な上級感にかぐや姫は急に色気づいたかのようになりました。

「なぜ、帝様が私なんかに……。」

「かぐや様、噂通りの美しいお方だ。」

なんとなく会話が成り立っていないような感じもありますが、鈴木善治もこの縁談が成り立てば相当の地位や富を得られると思うと、そんなことは気にもなりません。

「今すぐにでも!決めましょう!」

かぐや姫はお金に釣られたのか何に釣られたのか、即決即断でゼクシィと婚姻届を取り出しました。

「うん!これが一番幸せだ!これで行こう!」

鈴木善治も正常な判断力を失っている上に、本人が良いなら良いかとオールOKみたいです。

「お気持ちは嬉しいのですが、まずは初顔合わせということで、ひとまず結婚を前提としたお付き合いをさせていただければ……」

意気揚々とやってきた帝は、逆に何故か及び腰です。この3人が3人ともにホントの愛はあるのでしょうか……。

 

 

 

「♪ピロン」

その時、かぐや姫のスマホからSNSの着信音が鳴りました。縁談がうまくいって欲しい鈴木善治が咎めますが、何か変です。

「おいおい、マナーモードにしとけ……ってアレ?LIMEなんてやってたのか?」

「えっ……やってたけどこっちの人と交換した記憶が無い……」

何やら不思議な事態が起こっているようです。

「僕は構いませんので、どうぞ」

帝にそう促されLIMEを確認することになりました。

そのLIMEのメッセージを読んだかぐや姫はみるみるうちに青ざめていきました。そしてかぐや姫の告白は始まります。

「……実は言わなければならないことがあります。私はこの地球の人間ではありません。実は月からやってきたのです。」

 

 

「えっ!?」

 

2人が首を傾げる中、かぐや姫は告白します。

「月の世界から来ました。というか、来させられました。」

「色々聞きたいことはあるが『来させられた』って?」

「はい……お恥ずかしながら、月の世界で多少悪いことをしまして、無期限で地球に送られることになりました。こちらで言うところの無期懲役っていうのですね。」

帝はドン引きするわけでもなく話を聞きます。

「無期……つまりある程度の条件を満たしたから、もうええわ、ってことで帰ってこい、と?」

「はい……」

「戻りたいんか?」

「いえ、こんないい玉の輿……じゃなくて男性と出会えたのに、この縁を切りたくはありません。」

「……分かった。俺はなんとかして月に帰るのを邪魔する。詳しい日取りが分かったら教えてくれ」

帝はそう言うと一礼して足早に去っていきました。

 

 

 

 

帝が帰るといつもの鈴木善治とかぐや姫の2人ですが、いつものような面白おかしい雰囲気ではありませんでした。

 

「なぁ……月で無期懲役って何やったんだ……?」

「えーと……器物破損・公務執行妨害・住居不法侵入・詐欺・私文書偽造・業務上横領……」

「もういい。」

「そうですか。」

「で、その島流しで地球か……」

「さっき無期懲役とは言いましたけど、地球とはちょっと概念が違うんですよね。なんというか罰でというよりは、社会奉仕活動的な?勉強してこい的な側面が強いんですよね。で、月の役人がアイツは十分だって思ったら連れ戻されるみたいな?」

「そんな多分極秘情報バラして良いのかよ。」

「宇宙人系の話にありがちな記憶消されるタイプなんでいろんな意味で大丈夫ですよ」

「お、おう……それでそのお迎えとやらはいつ来るんだ?」

「明日です。」

「急だな!?」

「はい、何がもういいと思われたんでしょうね」

「さぁな……」

鈴木善治はこう言いながら、うっすらと月の役人がこのタイミングで呼んだ意味に気付いたみたいです。しかしそれは口には出さず、心に留めとこうとしました。

ただ、それでは心理描写がろくにされない今作では読者に伝わらないため、ナレーターの私が勝手に説明します。

鈴木善治が思うに、月の役人はかぐや姫に傷つくとはどういうことか教えたかったのでしょう。金に目がくらんだとはいえ、帝というすばらしい相手にもめぐり逢い、まさしくこんなタイミングです。理不尽な力による別れ……そんな心の傷から人の痛みや悲しみをわかってほしい。そう思って期限を切らず、このような形を取ったのだろう。鈴木善治はそんな風に考えました。

 

が、答えは出ませんよ。月の役人が何を考えているかなんて誰にも分かりません。ただ確実なのは、明日にはもうかぐや姫は月に帰ってしまうということでした。

 

 

 




Bパートに続く!! 


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かぐや姫 Bパート

翌朝、いよいよかぐや姫が帰る日がやってきました。

「なぁ、帝がいたときも話してたが、かぐや姫は月に帰りたいのか?」

「正直、帝はまぁまぁ……なんですけど帰りたくないのは確かにありますね……」

「ならしょうがない。俺もとりあえず頑張ってみるかな」

 

そんな会話をしていると家のインターホンが鳴ります。

「いよいよ来ましたよ」

 

そう、このインターホンこそが月の役人みたいです。

「よし、ひとまずかぐや姫は押し入れに隠れておけ」

「え?」

「かぐや姫の代わりにこの等身大パネルを差し出す!」

「それは大事な嫁ですよね?」

「だから俺にその趣味は無いって。勝手に用意された等身大パネルくらいくれてやる!」

 

鈴木善治が等身大パネルを連れて玄関に向かう間もインターホンは鳴り続けます。玄関のドアを開けると黒いスーツ姿の人が数十人立っています。一番、前にいた偉そうな人物が鈴木善治に話しかけました。

 

「おはようございます。月署の者です。通称名 池谷かぐやさんいらっしゃいますよね?」

 

月の役人は何やら公印がつかれた難しそうな書類を鈴木善治に見せながら問いかけます。

 

「はい、います。」

「令状も出ています。池谷かぐやさんは強制送還しますので、身柄を引き渡してください。」

 

鈴木善治は促されるままにかぐや姫…、ではなく等身大パネルを取り出し、あたかもそれがかぐや姫のように扱いました。

 

「かぐや姫……向こうに行っても達者でな……。俺のこと、忘れないでいてくれよ。」

「……。」

 

当たり前ですが、等身大パネルが返事をすることはありません。

 

ですが、これに反応したのは月の役人でした。

 

「これはこれは……AKIBA'S TRIP-THE ANIMATION-の伝木凱にわかちゃんじゃん!にわかわいい!にわかわいい!」

「あっ……」

「こんなところでにわかちゃんに会えるなんて~……で、かぐや姫は?」

「ぢからこの子がかぐや姫……」

「いやいやそれは違いますよ。」

「じゃ……じゃあかぐや姫はウチにはいません!ウチにいるのはこの子だけです!」

「『この子』『この子』って……」

「なんだよ……」

「にわかちゃんを誰に断って『この子』呼ばわりしとるんじゃボケェ!!!」

 

月の役人は何かのスイッチが入ったのか、いきなりキレ始めました。そして……

 

「この家にいるのは分かってるんだ!!探せ!!!かぐや姫を確保しろ!!!ついでににわかちゃんの等身大パネルも差し押さえろ!!」

 

月の役人がそう号令すると後ろに控えていた手下っぽい大量の役人たちが鈴木善治の家に流れ込みました。等身大パネルは接収され、鈴木善治は人混みに揉まれながら抵抗を試みましたが、無駄でした。

 

かぐや姫が隠れた押し入れの方から月の役人たちの声が聞こえます。

「見つけたぞ!!!」

「確保!確保!!」

「午前8時5分確保!」

 

鈴木善治はその声を聞き、脱力してしまいました。そのまま人混みが家の外に流れ出る形になり鈴木善治も押し戻され、外へ。そしてかぐや姫も外に出されました。家の外にはいかにも空を飛べそうな車が数十台、待機しており、このまま月へ帰ってしまいそうでした。

 

「待ってくれ!かぐや姫は地球の暮らしを気に入っている!このまま残しておいてはもらえないだろうか!」

 

鈴木善治はそう叫び、月の役人に訴えかけましたが、その声は役人には届きませんでした。何故なら突然、大きな爆発音が聞こえ、迎えに来ていた月の車らしきものが爆破され始めたのです。

 

「な、なんだ!?」

 

月の役人もこれには慌てているようです。

 

「帝が邪魔をしにきたのかも……」

 

かぐや姫がそうポツリとつぶやくと、今度は月の役人めがけて大砲から発射されただろう大きな弾丸が飛んできました。

 

 

「伏せろ!!」

 

聞こえてきた声は帝でした。それに反応しかぐや姫と鈴木善治がうまく抜け出すと、弾丸は月の役人たちに直撃し大爆発しました。

抜け出して遠くを見ると、そこには戦車が大量にこちらへ攻撃しながら向かってきています。

 

抜け出した先には帝もいて、昨日以来の3人顔合わせとなりました。帝は昨日の丁寧な感じではなく、素のような感じで言います。

 

「月に帰るのを邪魔しに来た。あそこに来てるんは陸上自衛隊の戦車や。相手は月の役人やし地球の法律やら人権は関係ない。徹底的に叩きのめす!」

 

そんなカッコいいセリフを言ってるそばからバンバンと爆発が続きます。

 

「それだけやない!頭上を見ろ!」

 

帝に促され空を見上げると多数の戦闘機が来ています。

 

「航空自衛隊のE15戦闘機に在日米軍のメスプレイもお出ましや。四方八方から潰したんで」

 

なんということか地上からの攻撃に加え、上空からも攻撃され月の役人たちも手も足も出ないようでした。

 

大爆発が起き、これで月の勢力は一掃されたかに見えました。

 

 

 

「やったか……」

 

 

鈴木善治から自然とそんな声が漏れます。

 

 

が、その場で倒れていた月の役人たちぞろぞろと立ち上がります。

「この程度で倒したと思わないでください。」

強キャラ感ある月の役人に対して帝は言います。

「思ってないわ!上を見ろ!」

帝が上空を指さすと、空からミサイルが降ってきました。

そして戦闘機からの爆撃とともに大爆発を起こします。

「北から飛翔体も飛ばしてもろうた。」

 

帝の本気により、尋常じゃない爆発が起きましたが、それでも煙の中から平然と月の役人たちが出てきました。

 

 

「……汚い花火だ……」

月の役人は有名なセリフを何か間違った形で言いました。

「さて、そろそろ弾切れでしょう。池谷かぐやさんをこちらに渡してもらえますか。」

月の役人は冷徹に言います。鈴木善治はそれに対して

「おい!本人の意志は無視なのか!?」

と訴えましたが、月の役人は突き放します。

「これはもう決まってしまったことなのです。」

 

趣旨が趣旨だけに仕方ないと思いつつも鈴木善治はどうにかしようと思いましたが、ここで策が思いつかないのが、凡人らしいところです。

「嫌です。私、帰りません。」

かぐや姫も口頭で抵抗します。

「帰るまでが罰則です。必ず帰ってもらいます。」

「融通の効かないヘボ役人……」

 

 

月の役人はかぐや姫と距離を縮めてきます。ここで動いたのは絶対権力者の帝でした。

「遠距離からの爆撃や飛翔体が効かんなら、そこより近づけば斬る!」

帝はどこからともあれ日本刀を取り出し構えました。

「……困りましたね。」

月の役人は歩きを止めました。これでかぐや姫を守ったかと思いましたが……

「こうなれば、月の術を使うしか……」

月の役人はそんなことを言いながら、中二病全開なポーズを取りました。

「えっ、あっ……え?」

すると、かぐや姫が動揺し始めました。

帝と鈴木善治が確認すると、なんとかぐや姫が浮いています。

「はっ!!!」

月の役人が怪しげなポーズで月を指さすと、かぐや姫はなんと月まで飛ばされていき、その場から姿を消してしまいました。

 

 

「あっ……な……えぇ?」

鈴木善治はその事実を受け入れられず、その場に崩れ落ちてしまいました。

 

「おい!!そんな技使うなら最初から使えや!!!陸上自衛隊、航空自衛隊、在日米軍、北の飛翔体とか全部要らんかったやんけ!!!!」

 

帝はそんな風に叫びましたが、月の役人はガン無視しながら鈴木善治に近付いてきました。

 

「受刑者に対して管理、教育のご協力ありがとうございました。こちらは謝礼です。」

 

そういうと月の役人は鈴木善治に白い粉薬を渡しました。そしてここまでの冷徹っぷりが嘘のように

「今日の仕事は終わったぜ!!お疲れ~~!!!さぁ飲みに行こう!!!!」

と叫びながら、他の役人を引き連れ、月に帰って行きました。それも空を飛べそうな車を破壊されたのに、普通に飛んで帰ったのです。

 

 

 

後に残されたのは帝と鈴木善治だけでした。

 

茫然としながらも鈴木善治は聞きます。

「帝さん……この薬があれば月にいけたりするんですかね……」

「無理やろな。原作では不老不死の薬やけど、白い粉やからシャブちゃうか。かぐや姫を忘れさせる月の技術ってことやろ……」

「かぐや姫以外のものまで失いそうですね……。」

「ダメ絶対……また逮捕されるで」

「またって俺は一回も捕まってないし一回めキメてませんよ。別の人と勘違いしてるんじゃないですか?」

「それはそうと、俺謝らなあかんことがある」

「帝さん……が?」

「実はな……俺、既婚者や。」

「はい?」

「暇やからこの企画に参加しただけなんや。じゃあな」

そういうと帝は特に何事もなかったかのように帰ってしまいました。

 

 

 

 

後に残された鈴木善治が茫然と当たりを見渡すと、帝の活躍で家も仕事場だった野山も、焼け野原になっていました。

 

 

 

 

「……せめて、かぐや姫だけでも残っていてくれたらな……」

 

 

 

そう呟いた鈴木善治は、その時初めて、親子なのにかぐや姫に自分と別の名字をつけた意味に気づいたのでした。

 

 

 

 

 

めでたしめでたし。



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はなさか善治さん

原作は はなさかじいさん です。


昔むかし、あるところに鈴木善治という人が住んでいました。

彼は水原ぽちという犬を飼っていました。どうやら鈴木善治のネーミングセンスは名字と名前の両方を付けたがる模様です。

 

ある日、彼らが散歩をしていると急に水原ぽちが立ち止まり、そしてクルクルとその場を回りながら言います。

「ここ掘れワンワン。ここ掘れワンマン。1人で掘るからワンマンワンワン」

水原ぽちは何やら訴えかけますが、普段から水原ぽちには虚言癖があるため、鈴木善治は無視しようとしました。しかしいつもと違い、水原ぽちはしつこかったのです。

「本当に何かあるのか?」

「あるんだワンワン。掘るんだワンマン。」

「そこまで言うなら自分で掘ったら良いだろ。」

「この犬の姿じゃスコップは持てないワンワン。」

「お前の『持てない』はモテないの方だろ。」

「それもあるけど、今回だけは信じて掘ってほしいワンワン」

「あーもう分かった分かった。分かったから大声で『掘る』『掘る』言うな。誤解されるだろ。」

 

ついに根負けした鈴木善治は近所の地下鉄建設現場からシールドマシンを借り、水原ぽちが言ったあたりを容赦なく掘りました。

すると掘ったところから神様が現れました。神様は神々しく輝きながら鈴木善治に話します。

「大きなイチモツを」

「いらねぇよ!!それじゃねぇよ!」

「えぇ……」

「とっとと金銀財宝よこせコラァ!」

 

こうして鈴木善治は水原ぽちのおかげで金銀財宝を手に入れることができました。

これを見ていたのが、近所に住む富士山というおじいさんです。富士山は名前が示すようにおおらかで、優しそうな顔をしたおじいさんでしたが、その本性はとても怖い人だったのです。

 

富士山は鈴木善治の家に来ました。

 

「こんにちは、鈴木さん」

「あ、どうも……」

「最近、運動不足でね~。運動ついでにお宅のワンちゃんのお散歩に行ってきますよ」

「ありがとうございます……」

 

とそれっぽいことを言いながら、鈴木善治から水原ぽちを預かりました。

 

 

 

「さぁ鳴け!!!」

「ポン!!チー!!」

「そっちの鳴くじゃない!!どこに財宝があるんだ!?」

「ひ、ひぇぇ……」

 

鈴木善治の家から少し離れた場所では、虐待のような光景が繰り広げられています。本性を現した富士山が水原ぽちを恫喝しているのです。

「ひぃ……こっここ掘れワソワソ!!」

気圧された水原ぽちは適当に地面を指差し、そこを掘るようにいいました。

「おっしゃ!ここやな!!!」

意気揚々と富士山はそこを掘りましたが、出てきたのは割れた食器やガラス片などのガラクタでした。

「おい!どういうことや!!○すぞ!!!」

富士山はまた水原ぽちを恐喝します。特に最後の一言が怖かった水原ぽちはなんと、まだ手を下されてもいないのに、ショックで死んでしまいました。

 

 

「申し訳ありませんでした。」

「いえいえ、富士山さんのせいじゃないですよ。アイツ日頃から不摂生してましたから。こちらこそ看取っていただきありがとうございます。」

「そう言っていただけると救われます。水原ぽちくんは偶然とは言え、大変ショックでした……。」

富士山は水原ぽちの亡骸を一応、連れて鈴木善治のもとに帰り、恐喝のショックで亡くなったのではなく、たまたま散歩中に急性心不全で亡くなったと説明し、鈴木善治からも納得をえました。

 

富士山が帰ったあと、鈴木善治は考えました。

 

「水原ぽちの骨を拾ってやる義理は無いしな……まっ、庭に埋めとくか。」

そうして行政への届け出やペット霊園への奉納などはされず、水原ぽちは鈴木善治の家の庭に埋められました。

 

数週間後、水原ぽちを埋めた庭には大きな木が生えていました。

「なんだこれ。いつ生えてきたんだよ……ってか日当たり悪くなるし最悪だな……」

洗濯物が乾きにくくなったのを嫌った鈴木善治はその大木を切り倒しました。

「回収もめんどくせぇなぁ……」

行政に引き取りに来てもらうのをめんどくさがった鈴木善治はこの切り倒した大木で臼を作りました。

その臼を使って鈴木善治が餅を作ったところ、餅から金銀財宝が出てきました。

「おぉ……こいつはやべぇ……俺、今回は大金持ちじゃん!」

気をよくした鈴木善治は、臼でしこたま餅をつきましたが、欲を出し過ぎたのか、そのうちに金銀財宝は出なくなりました。

 

 

 

しかし、この様子を富士山は覗き見していました。

富士山は思います。

「俺があの犬を殺したおかげで金銀財宝を手に入れられたのに、独り占めしやがって!」

どうやら金銀財宝を鈴木善治が独り占めしたことが気に食わなかったようです。

富士山は深夜の鈴木善治宅に忍び込み、例の臼に火をつけて燃やしてしまいました。

 

翌朝、鈴木善治が庭を見ると臼は灰となってしまっていました。

「まっ、もう金銀財宝も出なくなったしいいか。」

経済状況に余裕の出た鈴木善治は心にも余裕があり、臼が燃やされたことも、おおらかに受け入れました。さらにポジティブにとらえるようにしました。

「行政に引き上げに来てもらうことを考えたら、こうなった方が楽だな。灰になったわけだし、あとはどっかにばらまいて無かったことにしてしまおう。」

 

そう言って鈴木善治は灰のうち半分くらいを持って家を出ました。

すぐ近くの公園に枯れ木を見つけた彼は、その枯れ木に灰をかけることにしました。

「どっかで見た話にこんなのがあったなぁ……。枯れ木的なものに花的なものを咲かせましょう的な……」

そう言いながら、灰をかけると本当に枯れ木から桜が咲き始めました。

「おぉマジか……。」

 

 

鈴木善治はこの季節はずれの桜に大変、喜び写真を撮ってSNSにアップさせました。すると案の定、バズりましたが怖くなった鈴木善治はアカウントを消去しました。

しかし、この桜画像は大きな話題となり、ついには帝の耳にも届きました。帝はこの桜を咲かせた男を探すよう部下に指令しました。

 

 

「あの灰を手に入れれば……」

そう考えたのは事情を知る富士山でした。富士山はいつもの優しそうな顔で鈴木善治に接近します。

「おはよう。鈴木さん、この灰はゴミかい?」

「えぇ。ちょっとね」

「なんだったら僕が代わりに始末してあげようか?」

「いいんですか!ぜひお願いします!」

鈴木善治は普段、テレビを見ない上にSNSのアカウントを消去したため、例の灰がそこまでの話題になっているとは一切、知りませんでした。

 

 

灰を手に入れた富士山は意気揚々と帝のもとへ乗り込みました。

「ほ~桜を咲かせる魔術師は貴殿か」

「はい、お探しいただき光栄です。」

「じゃあ、早速見せてみぃ」

帝は富士山に枯れ木から桜を咲かせるよう指示し、富士山は枯れ木に灰をかけました。

 

 

が、もちろん桜は咲きません。焦った富士山は謝ります。

「あ……れ?………すいません!間違えました!」

「ハッハッハッ!!素直に過ちを認めるその心意気や良し!!」

打ち首を覚悟した富士山でしたが、なんと帝に気に入られるという超展開となりました。

 

 

そして……

「お主……他に何か面白い話はないか?」

帝と富士山はお友達になりました。

 

 

 

 

金銀財宝ざっくざくで悠々自適な生活を送っていた鈴木善治でしたが、ある日突然、スーツのヤバそうな集団が来訪しました。

「鈴木善治さんですね。あなたを脱税の容疑で逮捕します。」

「えっ!?」

鈴木善治は金銀財宝により得た利益などを一切、申告も納税もしておらず、脱税と見なされ逮捕されました。

裏で富士山が帝に密告したことから判明した脱税事件でしたが、鈴木善治は投獄され、その事実を知ることはありませんでした。

 

 

めでたしめでたし。



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こぶとり善治さん

昔むかしあるところに鈴木善治という男がいました。彼は顔に大きなこぶがありました。

「このこぶ醜いよなぁ……うまく取れたらいいんだが……さすがに自宅の鎌でスパッと刈るわけにはいかないよなぁ……」

そんな風に思いながら、彼はいつものように山へ芝刈りに行きましたとさ。

 

めでたしめでたし。

 

「終わるな!!」

 

 

と鈴木善治からツッコミが入りましたので、やっぱり続きます。

 

彼は今、ツッコミを入れた時うっかり足を滑らせてしまいました。そして転倒して意識を失います。

数時間後に目を覚ましましたが、間が悪いことに雨が降り始めました。

 

「やっべ……どっかで雨宿りを……!」

鈴木善治はたまたま近くにお堂があり、そこに避難しました。お堂の中は薄暗く誰もいません。

「おじゃましまーす。……って誰もいないのか。とりあえず……」

彼はお堂の隅っこで一息つきます。

「雨止まないなぁ……」

数時間ほど待っていた鈴木善治でしたが最終的には雨は止まずに居眠りしてしまいました。

 

 

 

「……!やべぇ……寝ちまったぜ……」

 

鈴木善治が目を覚ますと、なんと鬼が周りを取り囲んでいました。

「おっ!やっと起きたぜ……」

鬼も気づいたようで鈴木善治は大変、怖く思いました。いつからいたのか、最初から気づいていたのか、逃げることは出来るのか、もしかして取って食い殺されるのではないか、と様々な不安が頭をぐるぐると回り始めます。そして鬼が次にどういう行動に出るのか注視していましたが、こう着状態に陥ってしまいました。

しかし、このままではよからぬことになりそうだと感じた鈴木善治は、異文化コミュニケーションの基本は挨拶であると思い出し、思い切って挨拶をしてみました。

「おっ……お邪魔しています……」

「邪魔すんねんやったら帰って!!」

このどっかで聞いたことのあるボケを入れられました。鈴木善治はボケなのか本気なのか迷いましたが、外は未だに土砂降りで帰るまでに遭難しそうな勢いであったことからイチかバチかでツッコミを入れることにしました。

「はいよー……ってなんでやねん!外土砂降りやないか!」

「おぉ!ナイスツッコミ!!こんないい定番のツッコミしてくれる奴、ひさびさや!!」

鬼たちは普段、逃げられるたり恐れられることが多いため、人間と話すことも少なく、鈴木善治のド定番のツッコミに大変、喜びました。

 

そしてその後は、鬼たちが酒を飲み、歌って踊り大宴会となり鈴木善治も、内心は怖くなりながらも、その場にあわせて楽しそうな雰囲気でやり過ごしました。

オールでカラオケ大会となり、夜が明け朝になりました。

鬼たちは鈴木善治に金銀財宝をプレゼントしながら言います。

「お前のおかげで、今日はおもろかったわ!これは礼や!また今晩も来いよ!また来るように、その顔面のアクセサリーは預かっとくからな!」

そう言うと鈴木善治の顔面のこぶを取り上げてしまいました。

 

内心、恐怖でいっぱいだった鈴木善治はやっと開放された安心感と、こぶが取られ本来のまぁまぁ整った顔になったという達成感から、二度と鬼のもとには行かないと決意します。

 

 

しかし、鬼には「また来い」と言われており、それを無視するのも怖かった鈴木善治は奇策に打ってでることにします。

 

彼はバイト先のワクドナルドで自腹でビックマックセットを軽減税率のテイクアウトで買います。

そしてそれをUbaber Eatsに配達させることにしたのです。

「どうも~お世話になってます~Ubaber Eats配達員の水原です~」

「お世話になってます。ワクドナルドの鈴木です。これをこの住所まで配達お願いします。あと『鈴木善治の代理です』と伝えてもらえますか?本当は俺が行かなきゃならんかったんですが、ちょっと事情があっていけなくなったんすよ」

「分かりました!鈴木善治さまの代理とお伝えですね!」

「よろしく頼むよ」

こうして、鈴木善治は配達員を鬼の元へ向かわせました。

 

 

 

この後、鈴木善治は鬼から追われることもなく、平和に暮らしましたとさ。

 

 

めでたしめでたし

 

 

 

 

「そういえばあの水原さんって配達員見なくなったなぁ……やめたのかなぁ……」



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シンデレラ

原作はシンデレラです。
日本の昔話以外からでも持ってきますよ~。


昔、むかしあるところにシンデレラという美少女がいました。彼女の母親は不幸にも亡くなってしまい、父親は再婚しましたが、その再婚相手と連れ子はとてもひどい人格の持ち主でした。

父親がブラック企業勤務で家にほとんど帰らないことをいいことに、家事はすべてシンデレラに押し付け、遊びたい放題だったのです。

「シンデレラ!ここに埃が残って……」

「ません。ツヤツヤのピカピカの拭き上げています。」

「くっ……」

シンデレラは持ち前の胆力で抵抗していましたが、それでも裏から行われる嫌がらせまではどうしようもできませんでした。

ある日、自宅から少し離れたお城で王子様が舞踏会を開くことになりました。

未婚の女性が招待されており、シンデレラの家にも連れ子と合わせて2人分の招待状が届きました。

しかし意地悪な再婚相手はこれをシンデレラに見せず、まさかの自分が舞踏会に参加することにしたのです。

「では舞踏会にいってまいりますね」

「舞踏会……?」

「あれ?言ってませんでした?まぁもう時間なので」

そう言うと再婚相手と連れ子は舞踏会に向かいました。

舞踏会そのものにそこまでの興味は無かったものの、明らかに、はみごにするような仕打ちにシンデレラは非常に悔しく思い、打ちひしがれてしまいました。

そこへ魔法使い水原が出現しました。

「やぁやぁお嬢さん、とってもお困りのようだね」

突然現れた怪しい水原をシンデレラはとても不審に思います。

「なんですか?魔法使いって……?とりあえず不法侵入で警察呼びますよ?」

「ちょっちょっちょっと待って!警察はやめて!ただの魔法使いだから!」

「はぁ……」

若干、憔悴していたシンデレラは通報する元気もあまりないため、仕方なく魔法使い水原の話を聞きます。

「舞踏会に行くのをハミられてツラいんでしょ?」

「はぁ……」

「なので私の魔法で舞踏会に連れて行ってあげよう!と思いまして」

「はぁ……」

どうせ不審者の戯れ言だと思っているシンデレラは反応も薄めです。

「で、どうするんですか?」

「まずは……ほい!瓦町FLAGで買ってきたドレス。これでドレスコードは大丈夫。」

「はぁ……魔法じゃなくて普通に紙袋から出てきましたけど?」

「だって買ってきたんだもん。そりゃ紙袋から出てくるでしょ。あとは……」

「招待状とかありませんよ?カボチャの馬車でも用意するんですか?」

「いえ。あとはこの楽器ケースに入ってください。僕が台車に載せて運びます。」

「楽器ケースって……大丈夫?」

「ちゃんと呼吸出来るように穴は開けていますので大丈夫です。」

「そうじゃなくて……」

「あと時間があまりないので箱の中で着替えてください。10秒前になったらバスタオル投げ込みますんで」

「昭和のバラエティー番組か!……まぁとりあえずそういうことならお城にいきましょうか……」

こうしてシンデレラと魔法使い水原は舞踏会が開かれるお城へと向かいました。

 

魔法使い水原は配送業者に扮して城に突入します。

「お届けものですー」

「はーい、中身は?」

「楽器でーす。」

「楽器かぁ~X線検査はじゃあ要らないな。ヨシ」

城の守衛はシンデレラが入った箱を特に検査もせず、そのまま通しました。

そしていよいよ舞踏会のやっているホールの近くに着き、シンデレラは箱から放出されました。

「魔法使いと言いながら一切、魔法を使わないから心配だったけど、無事に着いたわ。ありがとうございます。」

「なんか余計な一言二言あったけど……まぁいいや」

「では、行って参ります。」

「の前にシンデレラさんよ。12時、夜の12時には必ず……」

「はいはい分かりました。」

「ではお達者で!」

軽い挨拶を交わし、シンデレラと魔法使い水原は別れました。

そしてシンデレラはとても美しく舞踏会では注目の的となり、すぐに鈴木善治王子の目にも留まりました。

王子の鈴木善治は言います。

「俺……じゃなかった。わたくしと踊ってはいただけませんか?」

「いいですよ王子さん」

こうして王子の鈴木善治とシンデレラは踊り狂い楽しい時間を過ごしました。

しかし、しばらくすると、なにかのきしむ音が聞こえてきました。シンデレラは気付きます。

「あ、いけない。もう12時……」

そう呟きましたが、諸般の事情から良縁に恵まれず、この機会をものにしたい鈴木善治の耳には届きませんでした。

 

「あら!こんな時間!私帰らなくては…」

今度はハッキリと鈴木善治に言いました。

「姫!お待ちください!」

鈴木善治はシンデレラの名前を聞き取りすらしていなかったため、とっさに姫と呼びました。が、12時が迫っていたためシンデレラは軽く謝りながらも走って帰ろうとします。

 

鈴木善治はきっとシンデレラがかぼちゃの馬車で来ていただろうと想像し、城の外の大通りへ向かいました。

しかし大通りにはかぼちゃの馬車はいません。仕方がないので鈴木善治は王子の権力を使いかぼちゃの馬車を従者に用意させようとしました。

そこにシンデレラが登場します。先回りされたことに軽く引きながらシンデレラは駆け足で王子の前を通り過ぎようとしました。もちろん、鈴木善治はもうすぐかぼちゃの馬車が来るため時間稼ぎのために声をかけます。

「姫!かぼちゃの馬車には乗らないのですか?」

「ええ、金曜日は午前0時便がありますから…」

シンデレラはそう言って鈴木善治の引き止めをガン無視し大通りに面した小さな駅舎のことでん高松築港駅に駆け込みました。

そして鈴木善治は呆気にとられている中、ことでん琴平線の金曜日午前0時便琴電琴平行きは高松築港駅を定刻で発車していきました。

 

後日、鈴木善治は王子の権力を使ってシンデレラの行方を探しましたが、ガラスの靴などの手がかりが一切なく、金曜日午前0時便は瓦町で長尾線・志度線の午前0時便に接続することから沿線と言っても範囲が広すぎる、さらには招待状を持たずに来たことからどこからやってきたかついには特定出来ませんでした。

 

その後、シンデレラは兼ねてから交際していた一般男性と入籍し幸せに過ごしましたとさ。

めでたしめでたし



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