戦姫絶唱シンフォギア フロウレスエナジー (魚介(改)貧弱卿)
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第1話 転生

シンフォギアって描くの難しいらしいですので
挑戦するスタイル!

多分超絶不定期更新になるので、あんまり期待せずにお待ちください


「ええっと…ここはどこでしょう?」

 

とりあえず、といった様子で辺りを見回す少年、

 

「…どこを見ても真っ白、

こんな空間は知らない、俺の居たはずの家ではない…ということは…」

 

少年は一人で呟くと

ゆっくりと息を吸い、

 

「寝るっ!」

 

まさかの爆睡に入った

ほとんど倒れるように寝転がり

真っ白な床?に伏せて

そのまま目を閉じ、寝息を上げ始める

 

「ちょっと!寝ないでください!」

空間から突然出現した白い服の謎の女性は、やや慌てた様子で伏せている少年を揺すり始めた

 

「貴方にはちょっとどころじゃなく

面倒な説明と事案があるんです!

起きてくださいお願いします何でもしますからあっ!」

「ん?今何でもするって」

「言いました!言ってますから早く起きてください!」

 

必死な様相で翠色の髪の女性が呼びかけると、伏せていた青年はむくりと上体を起こし

 

「じゃあ放置して、おやすみ」

「だめですぅ!」

 

すぐにパタリと伏せ直して寝始めてしまった

 

「こらあっ!寝ないでください!」

「寝かせておいてくれよ」

「ダメって言ってるじゃないですか!

とにかく説明しますよ!」

 

そう言い放った女性は

青年を揺するのをやめて今度は口を動かし始める

 

(話が長い…よくわからない…説明するなら専門用語のようなものは出来るだけ排除すべきだと何故わからないのか…)

 

概要すると女性は自らを神、又はそう呼ばれる存在と近しいものと名乗り、

事故的に全く別の世界に介入してしまった存在(ノイズ)炭素転換()されてしまった青年を自分の管理している世界に転生させるというものだが

 

女性の説明には

『ギア』『聖遺物』『フォニックゲイン』など様々な、部外者である青年にはよくわからない用語が混ざり、結果として説明そのものをもボカしてしまっていた

 

故に青年は半ばから聴講を放棄して

眠っていたのだが…

「説明も済ませましたし!転生しますね?

シチュエーションを選んでください!」

 

「……シチュエーション?」

 

(ヤッベェ説明全然聞いてない…)

「とりあえず太古か、現代か、未来かで選んでください」

「現代一択」

 

青年は慎重だった

太古では生活レベルが違いすぎて危険であり、未来では逆に相互理解に手間取る上、常識知らず扱いや、下手をすれば警察、又は類似する機関のご厄介である事を瞬く間に考察し、現代を選択したのである

 

「了解しました!…とりあえず

人間では脆いので〜どうしましょうか

 

そうです!完全聖遺物を器にしちゃえばいいんですね♪それじゃアレを使って…ちょっと弄ればそれで良しっと!

それじゃあ転生します、GOッ!」

 

軽く女性が手を振ると同時に

真っ白だった空間に色が付き

 

青年の下の床が突然消え

 

「のぁぁぁああわぁぁぁぁっ!」

 

青年を落下させた

 

「…行ってらっしゃい

…ごめんなさい、私に出来るのはここまでです、管理外の世界にノイズの位相干渉を招いてしまった責任は、私がとります……

願わくば、あのストーカーの目を覚ましてあげてくれるといいのですけど」

 

女性は笑顔のままで目を閉じて、その身を何もない白い空間へと溶かして行った

 

「貴方の次の人生に、幸多からんことを」

 

 

 

一方、落下中の青年はというと

 

「…………」

 

落下時間が長すぎて半分気絶状態にあった

 

 

「………………」

 

そして、ついにその時が訪れた

 

「……ふぎゅっ!」

 

延々と落下してきた青年は

ついに地面に叩きつけられたのだった

「ぬっがぁぁぁっ!頭ぁぁっ!」

 

空気抵抗と重力加速度が等しくなるより遥かに高い高度から思いっきり全身を叩きつけられ

そこらを転がり回る程度で収まっているのは大分おかしいが、まぁその辺は最初の保護的なもの、と納得して

 

痛みを堪える青年

 

「………ぬぅ…」

(まだジンジンと痛むが、転生お約束の保護機能が中途半端だったのか…)

 

なんとか立ち上がる青年

 

彼自身に知る由もないが、そこは

某県の山のなかであり、

 

大声を出そうが転がり回ろうが

各国の情報衛星にだって注目されはしないので、情報秘匿的観点(ある意味)では安全を保障されている場所である…

 

どうも落下転生お約束の機能はそこに集約されてしまっているようだ

 

「…ぐふっ、、ふぅ…仮にここが元いた世界の現代に近い環境、世代だというのなら…どこかに交番…いや

無戸籍は危険すぎる…

 

ネットカフェか?…財布財布…」

 

ポケットの中を漁り、

二桁程の札がある事を確認して

どう遣り繰りするかを考える青年

 

(身分のない俺は現代では安全を保障されていない、交番でも無戸籍とバレれば対応は一気に落ちる、そもそも無戸籍の人間は()()()()()()()()()()んだ

一旦どこかの紛争地域か未開発の土地に密航して、国籍を取得(ねつぞう)してから日本に帰化という形にするか?)

 

そこまで考えてから、

即座に思考を捨てる青年

 

(ダメだ、密航するには捕まるリスクが高すぎる、海外便は場所によるが警備が厳しい、船便で移動=長期的に潜伏

なんてするのは以ての外、泳ぐのは無理

まず地形や潮流を把握して良いタイミングを待った上で体力と運任せになる上に

向かった先で人に見つかりゃオジャンだ

対馬から日本海縦断でも遠すぎる)

 

そもそも仮面のバイク乗りとかスーパーなレンジャーでもなければトライアスロン選手でもない青年にそんなことができる体力があるはずがない…

 

(手段は二つ、徹底隠蔽でホテル暮らしか放浪生活(移動型ホームレス)だ……どこかで

秘密結社とかに属して

戸籍を捏造してもらうってセンもあるっちゃあるが、そりゃ無理筋だ)

 

青年はさっさと行動方針を決定した

「とりあえず人に会う、話はそこからだ」

 

この世界の勝手ってもの

をまず知らなくちゃならない

 

「………遠い…」

 

どうも彼が人と遭遇するのは

しばらく後になりそうだった



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第2話 鳴かず飛ばず

潜伏、事情説明回です…内容がないよぅ…早く原作に介入したいよぉ


「…結局はネットカフェ泊まりか…」

 

流石に厚顔にも泊めてくれ、なんて言い出せるような人物はいなかったようだが

 

確認できた点はいくつかある

 

まずなこの世界、そこそこ平和であり

転生先としては悪くなかった

ということ

 

(前提としてまず、『緋弾のアリア』や『ブラックブレット』もっと古いのだと『妖界ナビ・ルナ』や『結界師』のような殺伐系世界線ではまず生存できない自信がある、その点ことこの世界は

いわゆる一般人が一般人としてちゃんと生存している分、分相応に生きるのなら問題はない

 

就職が絶望的である事を除けば)

 

究極的に言えば『職業』は全て自称であるため、プロデューサーだろうが提督だろうがゴッドイーターだろうがサラリーマンであろうが

そう名乗ることはできる…実態が伴うかは別として

 

FXで株やったり、

田舎で個人営業所でも開いていれば

なんとか誤魔化せそうではあるが

 

「…せっかく街中まできて田舎へ

ってのは無理があるよな…まずは」

 

コンビニに入って、電話帳をパラ見し

求人誌を買って…無料なのだが

それだけ済ませて、店を出ると

 

雑踏を通り抜け、人の流れを頼りにショッピングモールに寄った青年は、フリースペースで手元の資料を読み漁り、一応の周辺地名を把握した

 

地名や近くの駅を把握するのに便利だ、電話帳や求人誌というものは

 

「一応だが、その辺を考えて…

といったところか」

 

適度に人口密集地域に住んだ方がいいかもしれない

 

(それに聖遺物がどうの、なんて

道行く人に訪ねられるような内容とは思えない

 

何かしらの形で世界の裏側に干渉しているのだろうそれに関する情報を如何に集めるか…)

 

どうしようもない事を悩みながら

青年は電話帳で書いてあった住所の記憶通りに24時間営業のネットカフェへたどり着き

 

「いらっしゃいませ!何時間分のご利用ですか?」

 

「六時間だ」

まずは夜を明かすことを優先した

 

時刻は既に午後11時、6時間と聞いた店員はすぐに夜明かしだと察したらしく

毛布を青年に渡した

 

「実にありがたい話だ…」

 

今後も継続的に使いたくなるくらいに

ありがたいと思っている

 

ネットカフェでも変わらずに情報収集に励む青年

いや、インターネットを使える分として

むしろ勢いは増している

 

ネットで地図検索を繰り返し、

周辺の地形、地名を記憶と照合したり

 

スレ民の話を観察したり

人気アニメの流動などのサブカル周辺を確認したり、世界的な常識の変化を探した

 

「ツヴァイ…ウィング…」

 

(今人気なユニットらしいが

………もしかしたら、違うかもしれない、あの世界じゃなく、別の可能性世界線であってくれ…!)

 

そう、この二人、

天羽奏と風鳴翼の二人のユニット

ツヴァイウィングとは

青年の記憶の中でも特にアレな世界線のうちの一つに引っかかってくる名前だった

 

「シンフォギア世界とか…

ふざけんじゃねぇ…」

 

青年はこの世界のことを、ほんのさわりくらいしか知らない、具体的には

第1〜第2期くらいまでしか知らない

その後の展開は把握できていない

 

どころかその知識すらも朧げである

 

「クソッ!アドバンテージが薄い!」

 

そう、現状1モブである以上、このモブ厳世界では青年には生存力が足りない

 

幸いにして、まだ奏は死んでいない

ライブ(死亡)まで、まだ猶予はある

 

この世界でハッピーエンドを目指すなら

死んでも構わないキャラクター…いや、本来死ななくてはならないキャラクターだが

 

青年は、平和だった()()の記憶通りに、お人好しとして行動を決意した

 

一番最初の原因、『フィーネ』が目論む『ネフシュタンの鎧の起動』を止める事を

 

「いける…かどうかわからんが

一応、聖遺物がどうの、というのはわかった…フォニックゲイン…だったか?

 

アレはたしか………ええっと…

アレだ!歌のエネルギー的なアレ!」

 

小声で叫びながら

俺は情報を整理し直す

 

まず、敵であるノイズについて

思い出す限りの情報を羅列する

 

(まず、殺傷圏内に入った人間を炭素転換して自壊する存在である、なんか普通の物理攻撃が効かない

倒すにはシンフォギアか同様の現象を起こせる聖遺物を使うか、少なくとも街一つ並みの被害を前提とした飽和攻撃で圧殺する、

でもそもそも普通のノイズはそこまでする価値がない

炭素転換は自壊を代償にする

つまり、ノイズの出現数≧被害者数が基本原則である

シンフォギアなら普通に触れるし炭素転換されない

 

以上の論からするに

最善策は速やかに周囲の人間を避難させて

自壊を待つかシンフォギアで撃破する事

 

だけど逃すにも問題がある

原作で主人公がイジメにあったのはそれが理由だった

 

「避難者同士で押し合い、殺しあう…それが問題か…」

 

ここがシンフォギア世界とするなら

原作にはできるだけ干渉せずに穏やかに過ごすか、それとも原作に介入しまくって死亡予定枠キャラを助けておくことで

原作難易度を下げる事だ

 

「前者の利点は『運が良ければ一度も危険に遭わない事』欠点は『運が悪ければ死ぬ』上に『どこかで原作乖離が起きたら詰む』

 

後者の利点は『本来死亡するキャラが生きていてくれる』そこから連鎖的に『装者が増える=本来出るはずだった被害が減る』『俺以外が起こす原作乖離にリアルタイムで対応できる』

 

欠点は『ある程度以上の原作乖離が起きると未来がわからなくなる』事と『キャラ減らしに更なる拍車がかかる可能性がある』事」

 

個人の安全性としては

二課に接触する分、OTONAに守ってもらえる可能性が生まれる+装者の防衛対象に入る+フィーネ(敵ボス)に接触できるという辺りから

後者がオススメだ

 

 

(というかこれ後者一択だろ)

 

問題点としてはフィーネ+クリスに消される可能性大という辺りがあるが、青年は気づいていない

 

(よし!原作介入しながら

できるだけ穏便に行こう)

 

とりあえず掲示板巡りでツヴァイウィングのファン歴が長い方々に取り入ることから始めた青年であった



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第3話 根本の失敗

「…3・5・1か」

 

 

あれから一週間程経ったのだが

 

今、青年は……競馬場に来ていた

 

もちろん賭博カスではなく

生活(ネカフェ)費を稼ぐ為である

 

「こんなことして金稼ぎとはねぇ」

真っ当に就職できない以上

こういった方法は金策の一つではある

 

運転免許も持っていない…前世と姿が違うから持っていても意味がない青年は

手っ取り早く金を得る方法として

競馬を選んだのだった

 

「…これは有難いんだが…転生特典…なのかねぇ」

 

実を言うと、青年は来るたびにある程度の金額を稼いでいたのだが

どうも正確に当たるのだ

 

この体は結構高性能であるようで

予知じみた運と少なくともオヤジ狩り集団五人くらいなら叩き返せるスペックを有していた

 

「兄ちゃん毎回稼いでんなぁ

その運、俺にも分けてくれよ」

「爺さん、運じゃなくて実力だよ

そもそも爺さんは大穴狙いすぎなんだ」

 

話しかけて来たのは、

来るたびに居るお爺さん

 

歳が幾つなのかもわからない程に歳をとっているように見える

「ワシはまだまだ現役じゃあ!男なら大穴狙わんかい!」「それで儲けを出そうとするのは間違いだよ爺さん」

 

確率が低いから倍率が出るのに

毎回かけてたら大損である

 

青年はなんとなくわかる

と言って、これには賭けないほうがいい、こっちに賭けてみよう、なんて気分で当てるのだが

爺さんは全くの楽しみ優先な賭け方をしている

 

当たる気がしない…それでもチラホラ当たるあたり、勝負師としての運は出てるようだ

 

「じゃあそろそろ、俺は帰るよ」

 

青年は換金を済ませてさっさと

移動して、ネカフェへと戻る

 

3日で別の場所に乗り換え、さらに別のネカフェに泊まるを繰り返して移動して

稼いだ金でバッグとスーツケースを購入

コインランドリーと銭湯で身綺麗を保つ

という収入以外は完全にホームレスな生活を続けている青年は、徐々に生活圏を移動しながら

ツヴァイウィングのライブを待っていた

 

のだが、この日は少し

様子が違った

 

「ノイズだぁぁっ!」

 

絶叫と同時に、黒い炭が舞った

 

様々な形、様々な性能を持つノイズ達が天空や地上より出現した

 

「ぅぉぁああっ!」「たすけてぇぇ!」

 

悲鳴とともに、さっきまで命だったものが辺り一面に転がる

 

逃げ惑う人々の流れと同時に

それを押し込むように人を圧するノイズ達

 

「マズイなぁ」

運が悪かったが故の死の危険を味わいながら、青年は離脱ビル上に籠る事を選択

遮二無二路上を抜けようとする人間の流れから自然に出て、手頃なビルに入り

 

階段ダッシュする

 

「ここで死んでたまるかっての!

まだライブいけてねぇんだぞぉっ!」

 

全力ダッシュで階段を駆け抜けて

5階、即ち屋上へと抜ける、

 

そこに

 

飛行型(フラスト)ノイズが襲来する

 

「禿げガァっ!死に晒せっ!」

 

突進してくるフラストノイズを辛くも避ける

 

しかし、ノイズはまだまだ多い

 

「俺単独で狙うなんてひどくありませんか?おかしいと思いませんか、あなた」

 

必死で回避し、

時には実体化した瞬間のノイズに

全力投擲の石をぶつけて動きを止め

なんとか切り抜けて

 

しかし、そこまでだった

 

屋上のドアが開く…そこにいたのは

人型ノイズ

 

「なにいっ!」

 

そして、驚愕の一瞬を突かれ

フラストノイズの突撃を食らう

 

「ぬがぁっ!」

 

突撃の威力を存分に受けて

()()()()()()()

 

「は?」

 

(どうなってやがる!人間が炭素転換されるのは確かに見た!その理に従うなら俺も転換されてるはず!

なのに俺はなぜ死んでいない?!)

一瞬で目まぐるしく思考を巡らせる青年

 

「だが、生きてる!」

俺は再び突進してくるフラストノイズを

コンクリ壁のすぐ前に陣取って迎え撃ち

 

ギリギリで回避する事で

相手が存在比率を変える前にコンクリ壁に激突させて動きを止め、更に実験を行う

 

「せえらっ!」

思いきりぶん殴ったのだ

 

果たせるかな…ノイズに触れた俺の右手は

炭素転換される事なく、

ノイズは炭となって消えた

 

(俺がカウンターすれば…攻撃できるのか?)

 

一度の実験で効果証明には早いと考えた青年は更に実験を繰り返そうとして

 

「危ないぞ!離れろっ!」

強烈な声に、咄嗟に下がる

 

直後に、大槍がコンクリ床に突き刺さる

 

当然の如くノイズを貫いて

 

「まぁったく…そこの人?無理せずに隠れておきな」

「…わかったよ」

 

現れたのは天羽奏、勝利の撃槍(ガングニール)の…現状唯一の適合者

 

「君は…いや、なんでもない!頑張ってくれ!」

「はいよっ…じゃあ頑張りますかぁ」

 

憎悪に塗れた槍は、

再開されたその歌声に応えて

唸りを上げた

 

戦闘BGM:

 

【STARDUST∞FOTON】

 

歌いながら槍を大きく引き絞り

投擲する

 

投げられた槍は大量に増殖し

多数のノイズを消し炭に変えていく

 

「うぉ…大迫力…」

 

青年が冗談めかして笑った瞬間、

謎の鈍痛が右腕に走る

 

「ぐぅっ…ぬぁ…いってぇぇ」

 

思わず声を上げた青年に、残存していたノイズが集り…

「隠れとけって言ったろ」

 

ガングニールに貫かれた

 

「ノイズ反応消失、戦闘終了です」

 

高性能イヤーが、インカム音声をキャッチし

それを理解したと同時に

 

(モブ厳世界で…生き残った…)

貴重な生存者枠に入った、という実感が湧く

そして

 

ご存知黒服さん達の御来訪である

「お手数ですが、ご同行願います」

「…アッハイ…」

 

すごくゴツい手錠的なもの?を付けられた青年はそのまま車で輸送され…

(リディアンの地下ですね分かります…

特定災害対策二課…でよかったかな?まぁ詳しくはどうでもいいけど)

 

無言のまま謎のエレベーター(カ・ディンギル)に詰め込まれて超速降下を体験して

「………ぬぁぁーーーっ!」

 

慣れた様子の職員の間で一人みっともなく叫ぶ

 

その後生気のない表情で話しと

誓約書の説明を聞き、

とりあえず同意して……

 

(この時間軸ってことは、まずセレナ死亡確認だよな…ついでに響、未来の存在確認、これ重要

あとほかの転生者がいないか)

 

考え込みながら歩いていると

 

「きゃっ!」

「おわっ」

 

人にぶつかってしまったようだ

「すいません、大丈夫ですか?」

体勢を崩して尻餅をついている女性…

 

『櫻井了子』と書かれたネームカードを首から提げた女性に、反射的に右手を差し出し

 

(どう見てもフィーネですねわかります

…ヤッベェ死ぬ!俺死んだ!)

 

内心絶望的な表情だが、ちゃんと心配げな顔を維持している辺り

なかなかメンタル強めである

 

「…ありがとう、ちょっと上の空だったわ」

「ここ多分地下ですよね?」

「あっ、上手い」

 

散らばってしまった書類を集めて渡し

「はい、どうぞ…これで全部かな?」

「ちょっと多すぎてわかんないけど、まぁ後で見直せばわかるわ、せっかくだし一緒に来る?」

 

この時、フィーネには本当に他意はなく

純粋な行動だったのだが、青年には地獄に引きずり込もうとするかのような巨大な腕が幻視された

 

「コーヒーくらいなら淹れるわよ?」

「ぜひに」

 

青年はここしばらく飲めていない

ブラックコーヒーを求めて

櫻井女史の研究室にお邪魔することにした

 



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第4話 二課に来ないか?

ぁぁぁ!戦闘が描きたいいぃ!


「貴方はここについてどのくらい知ってる?」

この一言から、話は急激に発展した

 

二課からノイズについて、ノイズからシンフォギア について、シンフォギアから聖遺物について、聖遺物から月の呪詛について

 

一部聞いちゃいけない話しもあった気がするが、まぁ聞いてないことにしよう

 

「でね、北欧神話系とかの聖遺物は

名前の確認からすでに難しいんだけど、ガングニールは奏ちゃんに適合したからすぐにわかったの」

 

「なるほど、適合者の歌から逆算することが可能なんですね」

「そう言う事よ!」

左手のコーヒーカップを揺らしながら

人指し指を青年に向ける了子

 

「随分な聞き上手なのね、もうこんな時間だわ…そうだ♪」

コーヒーカップを置いた了子は

俺に向けて微笑みながら問う

 

「ねえ、貴方今何歳?貴方さえ良ければだけど、研究部門でココに来ない?貴方となら良い物が作れそうな気がするの!」

「俺と、ですか?」

 

聞き返されて、コクンと頷く了子

「…俺は…」

 

今何歳か、なんて把握していない

前世の年齢と違ってこの体は若い…

前世も19だったけど

 

「……あーっと、西暦で20〇〇生まれだから…」

「今15歳ね?となると少し先の話になっちゃうけど、貴方なら大歓迎よ!」

了子は最後に握手を求め、応じた青年が右手を差し出す

 

「じゃあ未来の同僚としてよろしく!」

「よろしくお願いします、聖遺物研究の第一人者さん」

 

笑顔で握手を交わした二人は

そのまま別れて

 

「で、民間人なのにほっつき歩きすぎですよ」

 

壁の陰から出現したOGAWAに注意された

「あはは…すいません、櫻井さんにぶつかっちゃって、そのままつい話し込んじゃって…」

「全く、機密事項の説明と確認だって手間なんですよ?送迎の車だって必要ですし」

「え?それいります?だってここ

リディアン音楽院の地下ですよね?」

 

「!!?」

感情を揺るがせるものの、

一瞬で動揺を隠したOGAWA

 

(あ…ヤベ、やっちまった

ついハイになって言っちまった…)

 

本来なら、青年はまだここがリディアンの地下であることは知らないはずなのだ

 

「どう考えたらそうなるんです?」

「え?だって…人間コンパスの技能持ちなので、曲がった回数と移動距離を覚えていただけです

 

それに地下なのは採光窓も換気窓も無い時点ですぐ分かりますし」

 

今考えた理由を説明して、緒川さんを見ると

やはり驚愕の表情になっていた

 

「凄まじい技能…惜しい…」

 

なにか小声で言っているが

なにを言っているのかは…聞こえている

 

「いえ、そこまで知られてしまった以上は、通常の措置で解放というわけにも行かなくなりましたし、」

OGAWAが悩み始めた直後

 

「どうしたこんな所で」

 

それは訪れた

 

「君は?」

青年を視線を合わせる大男.そう

OTONAの異名を取る元祖SAKIMORI

シンフォギア世界最強の男

風鳴弦十郎そのひとである

 

「…えっと、」

「現地で保護された民間人…な筈なんですけど…」

OGAWAが言葉を濁す

それを不審と取った弦十郎は

「どういうことだ?」

緒川に問いを続ける

 

「と、とりあえず…」

チラッと青年を一瞥する緒川、その僅かな所作で察したか、弦十郎は青年を別室に移動させて

緒川と会議室?らしき部屋に入る

 

(多分場所が割れたとか身元不明とかって話だろうな…あぁ、暇だ…)

しばらく面倒ごとが確定している青年は

諦めた顔で椅子の背に身を預けて…

 

「imyuteus ameno-ha bakiri tron」(イミュテェウス アメノーハ バキリトロォン)

だったわなぁ、と笑いながら

出来るだけ高めな声で翼の天羽々斬の聖詠を真似てみる

 

………当然何が起こるわけでもない

 

「croitzal ronzell (クロイツァー ロンゼェル) gungnir zizzl」 (ガン グニールズィール)

 

今度はガングニール奏version

もちろん、何も起こらない

 

そもそも、聖詠はギアを起動するための詠唱であり、ギアのペンダントが無ければ意味がない

 

俺の背後にペンダントが分解するイメージが浮かぶこともなく、もちろん謎空間も出ない

 

「………はぁ、まぁ期待はしないが

そもそも、あの格好はちょっと無いし」

 

考えるにギアは露出的観点から女性向けであり、男性の装着を想定していない…

 

「ガングニール(マリアversion)ならまだしもアガートラムとか装着する男がいてたまるか」

 

超小声で呟きながらぼーっとしていると

その部屋に入ってきたのは、

先程別れたはずの櫻井女史

 

「あら?貴方だったの、話題の人物は」

「話題?ですか?」

 

青年が怪訝な表情を浮かべて、

いかにもそれらしく偽装した声音で問う

 

「話題よ、今緒川くんと風鳴司令が保安部と会議中の」

「……おう…」

 

「男の子でしょ?変な声出さないの…さて、今は暇だし…どうしようかしら?」

「……」

 

青年は記憶持ちであるが故に

コイツがフィーネであることを知っている、だが、ここで口に出せば

OTONAが介入する前に殺さ(やら)れる

思わせぶりな口調の了子に

どう答えるべきかを考え…

 

「そうね、反応良かったから

聖遺物について話そうかしら?」

「ぜひよろしくお願いします」

 

了子(フィーネ)はペラペラと聖遺物について、それを改造して作ったFG式回天特機装束(シンフォギア )について

その起動に必要な聖詠について

事細かく、詳細に説明してくれた

 

「つまるところ、シンフォギア起動に必要なのはある程度以上の適合率と精神性なのよ、前者が足りなければギアが応えない、後者が足りなければ装者たり得ない

 

お分かりいただけた?」

「ええ、男性が使えない=ビジュアルが偏るってのは織り込み済みだったんですね」

 

実はフィーネ、この時点で

イチイバル、天羽々斬、ガングニールの

シンフォギアのイラストを青年に見せているので、不自然な指摘では無い

 

「え?…あぁ、男の子だもんね

つい視線が寄るのかしら?」

「…いえ、なんでも」

ニヤニヤしている了子(フィーネ)…性格の悪さが滲んでいるが、

 

机に半身を乗り出して顔を近づけ

圧力をかけながら言う

「実を言うと、男の子でもノイズと戦う方法がないわけじゃ無いのよ?

レゾナンス(ResoNance)式回天特機装束…まぁ構想だけの未完成品だけどね」

 

「…?男でも使えるんですか?」

「理論上ね、でも精神力を消耗しすぎて倒れるだけよ」

 

笑いながら軽く手を振る了子

 

そこへ

 

「失礼するぞ」

OTONAのご入室である

 

「君、ここが何処にあるか当てたらしいな」

「え?リディアンじゃ無かったんですか?」

「いや、その通りだ…まぁ残念ながら、そのおかげで君は特級の機密に触れてしまった事になる

通常の措置で解放とは行かなくなってしまった

 

と言うことでだ…君、二課に来ないか?」

 

「ここに、ですか?」

「そうなる、まだ子供だと言うのに、一生檻の中、というのは流石に忍びない

 

ついでに…君の周辺について調べさせてもらったのだが…まるでわからない

挙句痕跡すらないんだ」

 

真剣な表情でこちらに視線を送ってくる弦十郎

 

「君の名前、住所、家族構成と言った基本データから、医療の観点からの情報も、住基ネットも、プリペイドカードなどの購入履歴、クレジットカード作成履歴、銀行口座まで一切のデータがない

 

これは本来言えないが、駅の券売機のカメラなどにも過去一月以上一切写っていない

君に関しての情報が、まるで抜け落ちたように存在しないんだ」

 

 

「君は一体、何者なんだ?」

「…僕は………何者なんでしょうね

 

ただ一つ言えることは…無戸籍の人間は、政府にとっていない事になっている」

 

無表情のまま、淡々と答える

 

「それだけですよ」

 

青年の姿は、まるで亡霊であるかのように茫洋として、目を離せば消えてしまいそうなほどに儚げだった




次回!返答は…
デュエルスタンバイ!


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第5話 答えは……

「身分の一切を証明できないこの身でも、受け入れるというのなら、その時は」

 

青年はふわっとした笑顔を浮かべると

「よろしくお願いします」

 

そう、言い切った

「そうか!受けてくれるか!

よし!………とはいえ、まずは対外的に君の身分を用意しなければならないな」

 

OTONAは流石の反応で思考を再開し

身分の作成を提案してきた

 

「無戸籍はいろいろ面倒ですからね」

笑いながら応じる青年

 

「無戸籍だったの?!」

「はい、出生届が出されてないので」

 

この世界では提出されていないため

たしかに無戸籍ではある

 

嘘ではない…ただし100パーセント

真実でもない

 

「うむ…特異災害対策機動部二課

司令官として受け入れる、これは保安、人事、営業、機動部、司令、研究室の四部門二室の総意として決議済みだ

 

…ところで君、名前はなんというんだ?」

「………僕は…」

 

 

前世の名前を安直には使えない…

確か、この世界は名前に音楽関係が入ってると死なないんだったよな?

 

奏は例外

 

拍木統慈(カシワギ トウジ)、歳は15です」

 

名前は前世の名前の読みを流用した当て字であるが、苗字は拍子木から取ったものだ

 

(これで生き残る!)

名前から既に死にそうなのだが

モブ感を漂わせる名前を出して生存を誓う青年=統慈

 

「そうか、もし名もないと言われたら、俺の養子ということにでもして置こうかと思っていたが、良かった」

 

流石にKAZANARI姓は勘弁である

 

統慈如きがSAKIMORIになどなれるはずがない

「…僕としてはそちらの方が良かったかもと思いますがね?…まぁどちらでも変わりはしませんが」

 

「む、まぁ、君が変わることはないだろうな、まぁ、話はそれだけだ

正式に身分を用意してからニ課に所属してもらう事になるから

今後しばらくは出られんが、それも戸籍と身分を用意する までの間だ、辛抱してくれ」

 

「えぇ、構いませんよそのくらい

もともと無戸籍の非合法民(モグラ)でしたし、地下は慣れています、それにここは、面白い話が聞けそうです」

 

統慈が笑う、それは先ほどのボヤけた笑顔とは違う、明るく、優しい微笑みだった

 

「ねぇ、さっきから私が空気なんだけど?その辺りに配慮は必要よね?」

 

隣から伸びてきた腕が統慈の首を捉えて、抱き寄せる

「ほぉら、私がメインヒロインですよ〜?」

「ンなわけあるか!」

 

どっちかというとラスボスである

統慈の頭を撫でながら刷り込みのようにメインヒロインは私〜と囁く了子

流石に嫌になって藻掻く統慈

 

「なんだかなぁ…」

呆れたような目でそれを見ている弦十郎

…ちょっと不憫である

 

「研究室側としては引き取りに同意していたけど、この子の立場はどうなるのかしら?私の預りでも良いのよ?」

 

「いや、特別所属という形になるな

彼自身、身体能力には光るものがある、鍛え上げればそこそこ以上になるだろう

 

強襲なんてやらせる事は無いと思うが営業以外の3部門と司令、研究の二室の五種類の業務はどれも人手が足りんと訴えるし

しばらくはどこに適性があるかを見極めるために全部を回ってもらう事になるだろう」

 

「わかったわ、研究室側として

彼は欲しかったけど…一番適性があるところに居た方がいいわよね」

 

大人として物分かり(ひきぎわ)良は(見極め)を見せる了子は

統慈を離して、

 

「そういえば、部屋の割り当てとかはどうするの?地下施設だし、そんなに空いてないわよね?」

「そこは一応用意してあるぞ、

拍木君、付いてきてくれ」

 

そのあと、普通に部屋に案内された後

OTONAは

 

「殺風景だが、最低限の生活用品は置いてある

…元々は仮眠室のような使い方をされていた部屋だから少し狭いが、許してくれ」

「いえいえ、寝られれば十分ですよ」

 

「そうか、明日あたりに君の職場、生活についての説明を行うから、今日はゆっくりとしていなさい

 

予定はあるかな?」

「いえ、今日は日雇いバイトは入れていないので、大丈夫ですよ」「うむ、ではまた明日だ」

 

OTONAは爽やかに去っていった

 

…どうあがいても暑苦しいが

 

その後、なぜか再び来た了子に押されて

部屋で聖遺物の話になった…

 

(話しすぎだろ…)

「ブリーンシンガメンは北欧のフレイアの首飾りとされているのだけど、この形[炎の黄金珠]または[燃え盛る玉の首飾り]はブリーンシンガメン自体が燃えているのではなく、その形状を示すのだとすれば

輝夜姫が求めたとされる[龍の首の珠]と一致するのよ、炎の穂先の形をした珠と表現するか、水滴型と表現するかで洋の東西で別れるのが興味深いけど

 

[黄金の勾玉]型であるとすれば

どちらも同じ形になるわ、美を与える物であり、首飾りであり、絶世の美女が求めたとされる点も一致する

 

[龍の首]が何を示すかは…おそらく異国人でしょうね、つまり[聖遺物・ブリーンシンガメン]を[五宝・龍の首の珠]とすれば、ほかの五宝も自然と読めてくるわ」

 

その後、据え置きの時計で11時になるまで話は続いて居た…

 

何なのこの人…

 

「久し振りにここまで語れたわ♪」

テンションを上げたフィーネ嬢は一部異端技術(ブラックアート)までバラしている事に気付いていなかった

 

(一杯のコーヒーとは釣り合わなかった…まぁ異端技術のことも聞けたし、linkerの材料と調合法まで聞けたから良しとしよう)

正確には『LiNKER』であるが、統慈は普通に間違えている

 

「完全聖遺物の話とシンフォギアの話とlinkerと…まぁいろいろありがとうございました」

「いいえ、こっちこそ

楽しく話せたわ ありがとう」

 

去っていく了子を見送りながら

ベッドに倒れこむように寝る

 

「っばぁぁー、疲れる!」

完全に素が出ている統慈は笑いながら背を立て直し、『やっと原作に一枚噛めた』という小さな達成感とともに右手を握る

 

そこに…OTONA襲来

「そういえば、明日検査等も行うつもりだ、レントゲン撮影や採血等も行うからな

もし何か異常があったら知らせる、場合によっては相応の措置をとるから、了承を取る必要があってな」

「わかりました、よろしくお願いします」

 

一瞬にして表情を殺した統慈の声は

全くもって平然としており

統慈は自身のハイスペックなボディに感謝する事になった




次回、精密検査
ライディングデュエルアクセラレーション!


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第6話 精密検査

翌朝になり、6:30

 

統慈は職員がセットしていたらしい目覚まし時計に起こされた

 

「…クソ…最悪な目覚めだ…」

騒がしいアラームにガンガンとノックされる頭蓋は鈍痛を発し、尚更に動きを鈍らせる

 

「仕方ない…起きる」

 

無理矢理に体を起こして

伸ばした腕で目覚まし時計を止める

 

普通にボタンノックで止まってくれるタイプだった

 

「ごぁぁあ…はぁ」

 

統慈は部屋を出て、ゆっくり歩き

すれ違う人に挨拶しながら

司令室を目指す

 

「失礼します」

「…おう!来たか!」

「はい」

 

 

司令室に入ると、そこにはOTONAと

了子、緒川、さらにSAKIMORI(予定)

ノイズ絶対殺すウーマンという

初期メインキャラ勢揃い、

 

そして、一番驚くべきは

 

「なんで5部門の部長級が揃ってらっしゃるんですかね…」

 

そう、人手が足りないという全部門、全ての部長級が揃っているるのだった

 

「お忙しいことで、全く」

 

小声で呟く統慈

 

「いやいや、全くもって忙しいですよ」

背後からの声、それは緒川の声だった

 

「フロント側兼任のオペレーターですからね、ツヴァイウィングのマネージャー業も忙しいですし、仕事量も比例して増えるってものですよ」

 

「お疲れ様です」

 

背後から歩いて来た緒川の語り

その表情は完璧に平常だが、やはり本人的には疲れているのだろう

 

「さて、今日は各部門への挨拶とある程度の機械操作の説明…と行きたかったところですが

検査や就業時間等の説明が先に入ります」

 

自分が先導しますので、と歩き始めた緒川に統慈は慌てて追従する

 

営業以外の5部門への挨拶に1時間以上かかるとは思わなかった

 

「…以上で終わり、にはなりませんよ?

これから公的身分の説明と就業時間、環境の説明、書類の作成と検査…まぁいろいろありますから」

 

笑顔で言い切る緒川に、はやくも帰りたくなる拍木

 

「書類までは……終わった…」

結局5時を超えてしまった

「………仕方ないか…」

 

緒川の移動が早すぎて常に駆け足で追いかけるような状態だったが、

まぁそれも終わりだ

 

「最後に、検査ですよ

身体検査と内科検診、最後に採血、こちらもだいたい1時間で終わりますよ」

 

緒川が忍者じゃなくて悪魔に見えて来た

 

「それじゃあ検診始めるわね」

「よろしくお願いします」

 

検診を受けに医務室に移動した統慈を待っていたのは、原作に登場しない…と言っても描かれていないが存在は示唆されている役職だった

医務官の女性、名前を悌 明美(オモカゲ アケミ)

 

その姿は、黒髪ストレートロングのほっそりとした、165くらいの身長

その容姿は、前世の統慈の母親とまったく同じだった

 

(表情を取り繕う技術は上がってるよなぁ)

 

驚愕を取り繕いながら

検診を受ける、まずは問診から始まり

脈拍、血圧測定、寄生虫検査

そして採血へと進む

 

「じゃあちょっと痛いですけど

我慢してくださいね」

無言で頷いて、左腕を出す

 

「はい、おしまいです…あとはこっちで機械検査するからね、帰って大丈夫よ」

「わかりました」

 

席を立って、袖を戻し

部屋に…いや、司令室に向かう

 

「もう夜ですよ、18時ですよ…」

採血で血液量が減ったからか、書類がどうこうに気をすり減らしたか

ぼーっとする頭を抱えて入室

 

その瞬間

「それでは!新たな仲間!拍木統慈君の歓迎会を始めるぞ!」

「…………は?」

 

フリーズした

「さぁ、今日の主賓、席にどうぞ」

「…はい」

 

とりあえず誘導に従って席に座り

クラッカーの炸裂音に軽くビクつく

 

「そういえば…」

(宴会好きだったなこの人、今思い出したよ)

 

この人は格闘どころではないバトルスタイルの印象が強すぎて前線に出ないのに前線指揮官として認識していたからである

 

「せーの!」

《就任&誕生日おめでとう!》

 

(…………は?誕生日?たしかに覚えていないとは言ったがそれはこの体の話であって……ダメじゃん)

 

自分で混乱して自分で納得するという器用な行動をとりつつ、表情は平常に保ち

「みなさん、ありがとうございます」

とりあえず一つ、コメントを送る

 

「主賓入場のサプライズも終わった事だし、サッサと食おうか!」

二課も忙しいと言いつつわざわざ司令室の大改装までしておきながら食事とは、全く恐れ入るが

それ自体は嫌いじゃない

「とりあえず…乾杯の音頭を風鳴司令にお願いします」

「おいおい、俺が取っていいのか?…まぁいいか!統慈の就任を祝って、乾杯!」

《かんぱーい!》

 

みんながみんなテンション高い訳ではないようで、流石に冷静に、もう飽きた、という目をしているものも居る

逆に毎回楽しんでいるような奴もいる

 

(個性的な職場だなぁ…まぁ戦闘中に歌うくらいだし、それもそうか)

 

統慈は手元のシャンメリーで乾杯に応じる

……流石に未成年に酒を飲ませるような公的組織はないようだ

 

「まぁ、いいか」

 

………結局パーティは22時くらいに自然と解散になり、弦十郎率いる有志が二次会に繰り出していった

 

一方統慈は部屋に戻り、未だ殺風景な部屋をどう綺麗に保つかを考えていたりする

統慈、実は片付けられていない部屋や秩序立てられていない数式などが大っ嫌いであり

即刻正そうとするタイプなのだが

 

収納に対して物数が多いと

どうも部屋内装側に露出してしまうものもある訳で…そういったものを避けられないホコリなどからどう保護するかと悩んでもいる

 

「ようやく一日終わった…この調子でやってはいられないぞ、疲れ果てる…」

 

そう言い残して、統慈の意識は闇に沈んでいった



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第七話 偶然

統慈は翌朝に

とりあえず司令室に向かう

 

「この世界は不用意に歌えないからちょっと辛いよなぁ…おはようございます」

 

「あぁ、おはようございます」

今日は生活用品の買い出しと、事務の予定だ

(ゲッター+SEED+マジンガーの大人勢に四六時中監視されてんのは生きた心地がしないよなぁ)

 

ただでさえニンジャだったり超人だったりするオペレーターや武器開発に携わるラスボスがいる二課だ

 

安全ではあるかもしれないが

そんな所にいては人間性が死ぬ

 

「んじゃあー買い出しの方に行ってきます」

「おう、緒川が付いてるから何かあったら遠慮なく言ってくれ」

「はい」

 

結局OGAWAは外せなかったようだが

諦めることにした統慈は

エレベーター(カ・ディンギル)に乗り込み

超高速昇降するエレベーターに重力加速度の勉強をさせられた

 

「ぬぉぉぉつ!わすれてたぁぉっ!」

最後のぉっ!は突然停止したエレベーターの中で若干浮いたから出た謎の声である

 

「はぁ、はぁ、よし、大丈夫」

統慈はゆっくりと息を整えて、

シンフォギア世界の厳しさを実感しながら

学院の外に出る

 

呼吸すらも満足にできないとは流石モブ厳である

 

「生きてれば勝ちだ、

さぁて、まずは衣類と家具系を買うから…ニ○リかコスト○か、ヨーカ○ーとアリかもしれないな」

 

軽く頭の中で計算しながら

道を想起し、なかなか遠いので

統慈はまずレンタルバイクを借りることにした

 

効率を考えたら車がいいのだが

コストが高いため金銭の浪費につながるし、そもそも免許がこの世界で適用できるか分からないからである

 

「さて、チャリレンタル…は」

約1.5キロほど離れているが、まあまあ歩く程度で収まる距離である

 

「よし、行こうか」

……………三時間後

 

「帰りましょう、早く、疲れた」

統慈はチャリを返却し、

重い荷物を持って移動していた

 

「あの、大丈夫ですか?重そうですけど」

「…僕なら大丈夫ですよ、

このくらい 平気、へっちゃらです」

 

無理に笑顔を作りながら声の主人へと振り返り…立花響(主人公)と目があった

 

「お父さんとおなじ……」

「んじゃあ僕はこれで」

 

コイツに関わるとロクなことが無い、と考えてさっさと立ち去る統慈

 

紛うことなきクズの所業である

 

「あ…名前、聞き忘れちゃった」

 

呟く響を置いてさっさと立ち去る

「…………立花響(主人公)…」

 

(危なかった…あのままいたら

確実に絡まれていた)

心の中で派手に深呼吸しながら

さっさと離れる

 

 

(ネフィリムをネフィ/リムにしたりするお仕事がのこってるんだからな、原作開始前から無闇矢鱈に介入すると針穴通し並みの精度で精密に生き残ってる響が死ぬ可能性大だし)

 

大きく言えば、

原作開始前に響が死ぬルートは

ノイズの襲撃、交通事故の二つなのだが

これは原作開始まで響を放置していれば

確定回避される現象である

 

ライブでガングニールの破片が刺さるまでは絶対に無事なのである

 

「一応、まぁ、用は終えたし」

さっさと急いで帰る

多少荷物の重量が統慈の腕に堪えるが、その程度はこの場を素早く離れることに対して何の優先度もないのだから

 

「…よし、帰り着いた」

 

(またカ・ディンギルか…)

これで何度も何度も往復するのは

精神的によろしく無いと思う統慈だが

それを愚痴ったところで

どうにかなるようなものではないため

黙して乗り込む

 

「せめて最小限の使用で済ませたい…」

 

必死で落下に耐えて、下に降りる

「ようやくだ…」

 

湧き上がる吐き気を抑えながら

荷物を抱えなおして部屋へ戻る

 

「お疲れ様でした」

部屋に入ってから、自分と

緒川さんに礼を言う

 

「こちらこそ」

 

藤尭さんと友里さんにも

帰った旨を伝えないといけないため

荷物を置いて司令室へ向かう

 

「お二方、お疲れ様です

ただいま帰りました」

 

「あぁ、おかえりなさい」

「おかえり、統慈君」

もっとも、軽く挨拶を取るだけで済ませたが

 

その後はすぐに事務の方に行き

書類の処理を教えてもらった

…教わっただけで17:30を過ぎて

終業時間を超えてしまった

 

「…今日はもう遅いから部屋に帰りなさい」

「はぁい、わかりました」

 

書類処理で半日終わったなんて

不甲斐ないことだ…

 

(すまない、本当にすまない)

統慈は帰れと言われてしまった手前

無理に残業をするわけにも行かず

そのまま部屋に帰った

 

翌朝

 

「とりあえずリディアンまで繋がる徒歩用階段を発見する事を目的としよう」

 

…統慈は絶望的な表情で高速エレベーターを味わって死んだ目になっていた

 

それも一往復分である

やったことそのものは了子(フィーネ)のおつかいでコーヒーを買いに行っただけであるが

 

司令に少しは外に出ろと言われた際

蒼白な顔になったのは誤魔化せなかったようだ

 

「だからって外に放り出すのは…ダメだろ…」

 

統慈は路上を散策しながら呟く

…そして、その奇妙な音を聞いた

 

それは雑音

 

それは警告

 

そしてそれは、絶望の音

 

「ノイズ!」

周囲に突然出現するノイズ達

 

統慈は拳を固めて…

「すぐに離れてください!ノイズです!」

全力で叫んだ

 

一拍遅れて、悲鳴が響きわたる

一斉に道路を抜けようとする人達

 

ノイズから離れるために他の人を見殺しにして、自分は生き延びようとしている

………

 

(生物として強靭な個体が生存するのは当然な事だ…それを咎めることはない…筈だ)

統慈は無意識のうちに一歩ずつ

前へと踏み出し始める

 

ノイズが獲物を見つけて、一斉に殺到する

 

「来い…俺の元へ……来い!」

 

統慈自身はなぜか炭化しないことは

先日の戦闘で確認されている

……なぜかは不明だが、現状一番被害を少なく抑えるのはそれを利用することで

被害を統慈だけに一極集中する事だ

 

「はぁっ!」

押し殺した声とともに

ノイズに拳を叩きつける

 

腹を撃ち抜かれた人型(アイロン)ノイズは炭へと成り果てて消えた

 

「…ふっ!せぇっ!」

実体化の瞬間、確実に、一撃

全力を叩き込む

 

そこまでしてようやく撃破できる

尋常ならざる集中と認識力を要求されるその繊細極まる作業を続け

ある程度ノイズを消して

 

避難が大方終わったところで

「imyuteus ameno habakiri tron」

 

翼の聖詠が歌われる

統慈ノイズの群れの中から急いで離脱し

翼の視線から隠れる

 

一方的な蹂躙が、幕を開けた瞬間だった



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第8話、原作の足音

一瞬にして、カタがついた

ただ一人で全てを薙ぎ払って行くその姿はまさに剣…なのだが、

まだ彼女は相方を失っていない

つまりはコレが彼女の素という事なのだが

 

………それにしても強くないだろうか

「ドラクエの適正レベル倍オーバーみたいな蹂躙だった…」

 

統慈が引き合いに出したのは、1ターンキル連続で作業になるアレである

 

「お疲れ様、翼さん(ズバババン)

 

「あ、貴方は…?」

「最近二課に配属された…拍木統慈だよ

字が分かりづらいけど、

拍子木(ひょうしぎ)って書けばいいよ」

 

笑顔で歩み寄り、翼の手を取った

 

「お疲れ様、守ってくれて、ありがとう」

 

避難は済んでいるため

目撃者はいなかったが、

いかに年下に見える少年が相手であろうと

これはコレで悪質なメディアの手に掛かれば、もしや恋人!?とばかりにセンセーショナルなスキャンダルになりかねないネタであるので

 

翼はさっさと手を離す

 

「…うん、お疲れ様

遅れてごめんなさい」

「いいや、最速で駆けつけてくれたんだろ?なら遅いと責めるのは筋違いだよ」

 

統慈は軽く翼を励まし

被害者(すみのかたまり)の身元確認を図る

 

せめて最後に、

遺品だけでも届ける為である

ノイズに襲われた人は顔や体型で特定できるような状態の死に方をしないため

身元確認は難しいが

財布や免許証などから少しずつ身元を破り出そうとしていると、

 

「あとは我々が引き継ぎます」

「お疲れ様でした」

 

黒服の方々…

一課所属の現場検証班である

実働の方の担当である一課、情報担当兼、表に出やすい一課では扱い辛い兵器…シンフォギア運用によるノイズ駆除を行う二課

 

と分担している以上

やはりぶつかるところはあるようで

一課と二課の所属員がバッティングすると、まれに管轄外に口を出すなと諍いになるのだが

 

現場検証班や捜索員さんに限っては

シンフォギア装者など、

二課人員に接する機会が多い為

むしろ仲は良い方だ

 

「お疲れ様です…翼さんも」

「はい、お疲れ様でした…拍木さん」

「了解、お送りします

 

といっても、車使えないんで

緒川さん呼ぶんですけどね」

 

体を張ったジョークでおどけてみせる統慈だが、残念ながらタイミングも場所も良くない

翼の側もあまり笑える気分ではないようで、緒川さんが来るのを二人して待つ…必要はなかった

 

「もう着いてますよ、車回しましたから、最低限のガードは宜しくお願いします」

「了解」

 

統慈の声は明るいが、実際の表情は暗い

「最低限のガードって言われちゃいましたし、とりあえずは僕がお付きをやるんですかね…緒川さんと違って俺はニンジャじゃ無いんだけどなぁ」

 

「仕方ありませんよ、

あの人は次元が違いますから」

 

「あはは、っと、もう来ましたよ」

「はい、もう来てますよ」

 

背後の陰から出現する緒川さん

流石エリートマネージャーだ

 

「じゃあ後は僕がお送りします…何してるんです?統慈くんも来てください」

 

「えっ」

「何がえっですか、車使えるならまだしも、15歳の少年を放り出してなんかいられませんよ」

「…拍木さん、早く来てください」

 

翼さんからも言われてしまった

「じゃあ、すいません、お世話になります」

 

そのあと、流れで助手席側に乗って

一緒にリディアンの地下まで送ってもらった

 

「ぇぅぅ…まいかい…これだよ…」

「慣れないとキツいですよね、お疲れ様です」

 

(防人語じゃない翼さん…)

統慈にとっての翼さんは大体防人語の謎の語彙を振り回す人なのだが

現時点ではまだ防人に目覚めていないため、普通に女の子らしい口調をしている

 

いくつかの運命分岐を乗り越えれば

そのままの口調でXVまでたどり着くことも可能であるが、最寄りの分岐点は現状において

奏生存or死亡ルートの分岐であり

まだ当分先である

 

「死ねる…まぁ、頑張るんですけどね」

 

姿勢を直して深呼吸して

 

「あっ、コーヒー…買ってきたのに…」

 

ノイズによる突然のサプライズで無くしてしまった…こういう時は災害保険降りるんだろうか

 

(まぁ、仕方ない

正直に言おう…あと、まずは

司令にノイズの出現と現場に居合わせた人間からの報告があるからそれをやってかないと)

 

統慈は気を取り直して

司令室に向かった

 

 

 

翌日

 

「コーヒー買い直しかよ…当然だけど」

 

インスタントもついに切れたため

ショッピングセンターに再度購入に来ていた

 

「ついでにちょっと服も揃えないとなぁ」

 

この体は別段貧相と言うわけではないが、筋骨隆々というわけでもないので、普通にフリーサイズでいいと思うのだが

 

どうも了子さん曰く

自分の体に合った服を着ているほうが良いらしい

 

(うるせえよ裸族…なんて思っちゃいないがな)

1期にサービスシーン…という名の拷問を叩き込んだあのフィーネの助言なんて聞きたくはないようだ

 

「えっと、インスタントの奴とコーヒー豆の奴、両方指定されてるんだよなぁ」

 

どうもコーヒーにこだわりがあるようだ

 

目的のブツを買い終えて引き上げようとするその時、少女の泣き声がショッピングモールに響く

 

「……チッ!…」

 

統慈は軽く舌打ちしながら

騒がしく泣く少女に歩み寄る

「…おい」

「うぇぇぁぇぁ!」

 

「おい」

「ぴぃいぇぇぇん!」

 

「おい!」

「うぇぇぇぇええええん!」

「もう泣くなバカ!」

 

泣き叫ぶ甲高い声を止めるために少女の頭を押さえる

「何があったか、話せるか?」

 

統慈がいくら声をかけても

ますます泣き叫ぶばかりの子供に

人は遠のいていく

 

そこへ

「あの、大丈夫ですか?」

 

立花響(主人公)…参戦!

 

「うん、この子が泣いちゃっててさ

話を聞こうにも答えてくれないんだ」

 

向いてないのかなぁ…などと呟きながら後を任せようとしてそっと離れる統慈

 

その瞬間

 

「ん!」

突如泣き止んだ少女が統慈の服(青チェックの白いカッターシャツ)の裾を掴む

 

どうも離すつもりは無いようだ

「…仕方ないか…」

統慈は暗い表情で呟いて

無表情を作り直す

 

その間に響は少女の前に屈みこんで視線を合わせ

 

「えっと、お名前は?」

「…みらい」

 

少女から情報を得ていた

鳥居大路未来(とりいおおじ みらい)ちゃんね、うんオッケー」

 

なかなかぶっ飛んだ名前だった

 

「じゃあみらいちゃん、お姉さんとお兄ちゃんが一緒にお父さん探してあげるね」

「うん!」

 

その流れはあまりにも自然で

巻き込まれていることに気づかない程だった

 

「っておい!僕はどうして巻き込まれているんだ!?」

「一緒に探してくれないの?…」

 

目に涙を浮かべながらこちらを見つめる少女の声に屈した瞬間だった



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第9話 響と

響といっしょに

子供を連れて歩くこと数分…

 

 

「パパ!ママ!」

子供というのは現金なので

両親を見つけた途端に繋いでいた手を離して走り出し、親の元へと飛び込んで行く

 

「………」

「よかった…見つかったんですね」

「…よかったな」

 

一瞬言葉を詰まらせて

沈黙していたなんて言えなかったようだ

 

娘を抱きしめる両親を見ながら笑う響

「あのね、あのお姉ちゃんとお兄ちゃんが一緒に探してくれたの!」

 

子供が何事か言っているうちにさっさと退散させてもらおうとして振り向く統慈に後ろから声がかかる

 

「このお礼は必ず!」

「……っ?!いえ、結構です」

 

父親の方が統慈に詰め寄り、

手を取って握り、意地でも離さん

とばかりに力を込めてくる

 

「そう仰らずに!ねっ!」

「………はぁ」

 

チラリと隣を見れば響も似たような事になっていた

 

「………結局、万札押し付けられてしまった…」

「ええっと…」

 

家族が去った後、使い道に困る金を抱えて困惑する統慈と響だったが

「なぁ、アンタ」

「ふぇ?私ですか?」

 

「あぁ、そうだよ…ちょっとそこのファミレスでも寄らない?」

 

大胆にも主人公を誘う統慈

 

ちなみに、この時の統慈の頭の中はすでにストレスで焼き切れているため、自分が何をしているかほぼわかっていない

 

「…アッハイ」

そろそろ昼頃であり、響個人としてはふらわーで食べるつもりだったが食欲に負けたようだ

 

フラフラと知らない男について言ってしまうあたり、防犯的意識に欠如を感じる

 

「さて、ついて来てくれたな

万札出すから、そこそこの量なら食えるだろうし、遠慮しないでね」

 

テーブル席の対面で笑いながら

響にお品書きを渡す統慈

 

ちなみに、軽く話しながら聞き出した情報によると、響は休日に服を買いに来ていたらしい…それで雑貨コーナーあたりまで来ているのは謎だが

大型のショッピングモールだし

色々回りたくもなるのだろう

 

(運命の修正…とか言わないよね?)

「そっか…じゃあ災難だったかな?

引き止めちゃって」

「いえ!また会えたので、

むしろお話できて嬉しいですよ」

 

(笑顔の響…あぁメンタルが…)

 

浄化されている統慈は置いて

真面目に話を続けると、

今日は小日向未来…393は家族と一緒にお出かけだそうだ

 

まだライブ事件前であるのに

一緒にいない理由はわかった

 

「俺もなんか頼むか…」

さっさとメニューを見て、即決し、

響に確認をとってボタンを押す

 

「パルマ産生ハムピザひとつ、

ミラノ風ドリアとガーリックポテトをひとつずつ

ドランクバーを2つ、デザートに

コーヒーゼリーを一つ」

 

2500円程度に抑えるようだ

 

響はドリンクバーをセット注文された事で更に上乗せを考えて…流石に悪いかと思い直したようだ

 

「ええっと、まずは…」

 

色々と注文しつつも、

ちゃんと予算内に収めているあたり

頭の回りも遠慮もある

 

本当に遠慮なく注文するなら

焼肉屋のような形態でなくファミレスでは店を変えて梯子する所までセットとなる

 

「以上でよろしいですね?」

「「はい」」

少々顔を引きつらせながらも

注文を確認して引っ込んで行くバイト青年を見送り、ちょっと憐れむ

 

あれはまず注文内容の再確認を要求されてしまうだろうからなぁ

 

「さて、まぁ注文は済ませたが

君の方の話が続きだったね」

 

ライブ前ということは、

13歳程度なのだが、なぜかすでに15歳前後と言われてもおかしくは思わない身長を持っている響に、軽く話を促す

 

「ええっと、どこまで話したっけ?」

「ツヴァイウィングがどうこうまでだよ」

 

この時期ということは、

そろそろライブがあるころ…というかライブまでに残る時間は既に三週間であるが、

統慈は全くもって知らない

 

「私じゃなくて、未来が誘って来たんだけど、ライブがあるんだって」

「…ほう」

 

「チケット余っちゃったって言われてね、一緒に来る?って」「なるほど」

 

(まさか…まさか…ね)

()()である可能性を考えて統慈が冷や汗を流していると、先ほどのバイト青年が料理を運んで来た

 

「失礼します、こちら…」

 

大量すぎて5、6往復することになった青年は、最後の方はもはや辛そうだった

「…料理きたぜ、食べようか」

「はい!」

 

「「いただきます」」

 

二人して手を合わせて、それだけ言い切った後はもう目の前の料理に集中する響

 

………

1時間後

 

「「ごちそうさまでした」」

 

7:3くらいで響が食べていたが

ちゃんと予算内に収まっている

やっぱり良い子だ

 

「…ふぅ……ってもう結構経っちゃってる!」

「…あ、そういえば1時間くらい過ぎてるな、どうする?直帰するかい?」

「はい!、あ、その前に」

 

統慈に向けて携帯を出してくる響

「連絡先!交換しましょ!」

「…良いけど」

 

支給品の青い無地デザインのガラケーにはセンスの欠片もないため、あまり見せびらかすようなものではないのだが

 

「はい、これで良いかな?」

「はい!」

 

ピロリン!という音とともに

空メールが届く、

それを電話番号に登録して

 

「よし、オーケーだ、掛けるよ?」

「はい!」

 

確認のために一回電話をかけ

響と繋がることを確認して

 

「ありがとうございました!」

「…またね」

 

支払いを済ませて店から出る

もう2度と来るなと言わんばかりの目でこちらを見るレジ店員をよく見ると

先ほどのバイト青年だった

 

「ご利用ありがとうございました」

 

事務的な挨拶も声が乾いている

 

「じゃあ響ちゃん、お別れだよ

俺も帰るから

……知らない男に声かけられても付いて行っちゃダメだよ?」

「行きませんよ、失礼です」

 

「…俺にホイホイ乗せられてたのに」

「それは…!

だって知らない人じゃないですし」

 

むっとした表情になる響

「…名前素性も知らない奴は知らない人で良いんだよ、んじゃな」

 

「…はい、さようなら」

 

統慈は今度こそコーヒーを持って

響と別れ、リディアン地下のニ課本部に帰った

 

「………!!?!」

統慈は今更ながらに『僕何やってるの!?』と混乱しているようで、

翼と奏の二人(ツヴァイウィング)がせっかくいるのにライブの事を確認し損ねていた



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第10話 ついに始まる原作時間

なんか皆さん、絶唱させたいみたいですね…

わかりました、

次のアンケートでルート分岐です!


その後、廊下を歩いていた翼さんに確認すると、三週間後にライブがある事を聞き出せた

 

「ネフシュタン…そろそろか」

 

奏から関係者枠用の特別席…なんてチケットを渡されてしまったのは誤算だった様だが

 

「良いって良いって、どうせ他に渡す相手なんていないんだから、遠慮なく受け取っときなよ」

「…なら、お言葉に甘えて」

 

という一幕で押し切られてしまったのだ

 

まぁ、これは奏の説得力が高いからであり

別段コミュ力に問題があるからではない

 

「…そういえば、1話でクリスを確保できる可能性もあったんだよなぁ…すまない…」

 

ブツブツと呟きながら移動して

部屋に着く

 

「さて、そういえば軽く用意してた食品もあったよなぁ……えっと…奏さんにお返しでも差し入れとこう」

 

軽く用意…という名の冷蔵庫詰め込みである

 

家庭用サイズのものだが、

その中には色々と食品が詰まっていた

 

「ええっと、まずは

ジューサーで粉砕したリンゴ500グラムとトマト250グラムに、こちらは荒く賽の目切りにしたゴーヤを投入、これを濾過機に静かに注いで…」

 

『ルル・アメルでもお家で出来る!カストディアン流栄養ドリンクの作り方』

 

というキチ手引き(魔道書)に従い

手を進めて行く統慈

 

「蒸留済みの純水一リットルの煮立った湯に泥を落とした高麗人参を沈めて火を止め、適温になるまで待ったあと、湯の中で玉ねぎを出来るだけ細かく薄切りにする…時間かかるなぁ」

 

コンロの火を止めたあと、手引書のページをめくる統慈は、一瞬にして白目を剥いた

 

「これ平行作業あるんかい」

 

とりあえず生卵をボウルに割り入れ、当日の朝日を浴びたカミツレの花から直接触れずに採集した花冠を浮かべて

そうこうしているうちに

湯の温度が下がってきたため、手順A側に戻る

 

「………ふっ、終わった…」

 

出来るだけ薄くいちょう切りした玉ねぎを引き揚げて、その湯の中に塩を5グラム入れて…

 

湯が水になった頃に

Bに浮かべたままのカミツレの花を引き揚げて、これに刻んだ生姜の汁を加えてかき混ぜつつ、低温で保持し

………

 

 

もしこの状況をサンジェルマンが見たら、懐かしい…とばかりに感想を零すだろう

 

それくらい昔の錬金術じみた手順の複雑な加工を施した結果、統慈の目の前には小麦色に輝くペットボル一本分くらいの液体が精製されていた

 

「苦労に対して生成量少な過ぎない?

これ本当にカストディアン流なの?」

 

了子から借りた本だから、レシピに間違いはないと思うが、こんな事をいちいちやるのはかなりの苦労になる

 

まぁ、写真?通りの色、量の液体が生成されたのだから、成功と見て間違い無いだろう

 

これをあらかじめ買っておいた水筒に入れて…

 

「よし!栄養ドリンク完成、奏さんに渡そう」

 

ちなみに、味の方はそこそこ良好で

エール(イギリスの方で生産量の多いいわゆる黒ビール)に蜂蜜と僅かな渋みを足したような味

 

「といっても僕はエール(黒ビール)飲んだ事ないけど…まぁ、良いか」

 

十分に差し入れに持っていける味である事を確認したあとは

奏さんを探す旅である…

 

「奏さん、どちらでしょうか」

「ん?奏か?奏なら」

 

司令室にいた風鳴司令に聞けば一発だった

 

「訓練室にいる筈だ、もうじきライブだからな、LiNKERを断っているから、訓練も短時間にしているだろうし」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

(まずいぞ…linker無しの戦闘は負荷が激しい…それをずっと続けているともなれば)

 

まぁリンカーを使ったら使ったで毒の蓄積が起こるのだが、それを差し引いても体を壊すリスクが高いので

 

戦闘可能時間が短くなる→奏死亡までのタイムが縮む→ライブでの死者が増える

という悪夢の連鎖を少しでも削りたい統慈からすれば決して歓迎できる行動ではない

 

そもそも栄養ドリンクの差し入れだって

体調を整えておいてくれれば

気休め程度でも体を保たせることが出来るかもしれない、という打算である

 

「こうなったら…」

 

まぁ、統慈に出来ることは、訓練を減らす事を進言する程度である

「奏さん、いらっしゃいますか?」

 

訓練室に到着して、扉をノックする

 

(防音だろうから無駄かもしれないけど)

とりあえず、マナー的にノックはしておく

 

案の定無視されているようなので

サッと扉をあけて中に入り

 

「失礼します」

 

「ん?どうした?」

運良くツヴァイウィングの二人が一緒に出てくるところだったようだ

 

 

「はい、奏さんにチケットのお返しでも、と思いまして、栄養ドリンクの差し入れです、了子さんにレシピを貰ったやつなので、効果は保証できます」

 

水筒を差し出して、にっこりと笑顔を作る

 

奏は翼にニヤつかれながらも水筒を受け取って

 

「ん、ありがと、貰っとくよ」

 

「あぁ、ついでにそれ、鮮度が命らしいので早めにどうぞ…水筒の方は後でまた受け取りますので」

 

サッと出て行く統慈を見送った

 

「…で?どうするの?」

「決まってるじゃん、貰うよ」

 

パキュツという音を立てて

水筒の蓋を開けた奏は

 

そのまま中身のドリンクを一気飲み

「…んっ、結構おいしいじゃん」

 

渋みと甘みと…と味ごとにまぁ複雑な表情をしながら飲みきった後、一言コメントとともに、統慈に水筒を返すために外へ出ていった

 

「……もう、ファンからもらったチョコとか全部食べる性格は変わってないなぁ…」

 

翼も微笑を浮かべながら

奏を追って訓練室を出た

 

 

そんな事を三週間毎日続けて

ついにライブ当日の朝になった

 

ライブ会場のゲート列前で響を出待ちする不審者が一人

通報されそうになりながら

頑張って待機を続けているのだった



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第11話 ライブ開始

生死比率、15:1で奏生存ルートに突入です



「未来どこ?私もう会場だよ?」

 

電話で遥か彼方の友人に質問している響の声、間違いない、これは響の最初期ボイスだ

 

ごめん、行けなくなっちゃった

とでも言われているのだろう

 

響の通話が終わるまで、少しだけ待ち

響が電話を切ったタイミングで話しかける

 

「ん、立花じゃん、どうしたの?

なんか困りごと?」

「?…!統慈さん!なんでここに?」

 

「あれ?言ってなかった?チケットもらったから俺もライブ観客って」

 

「言われてません!」

 

響は叫んだ直後に、

周りの視線に気づいて黙り込む

 

「一緒に行こうか?席はどうなってる?」

「席はE-35です」

 

「うわ結構遠い…まぁ仕方ないか」

「統慈さんは何処なんですか?」

「僕?僕は向こうの…おっと、列動くぞ」

結構早く列が流れ出したため、

響の手を引いて歩く

 

「んじゃ、僕は向こうだから」

 

物販コーナーでサイリウムだけ購入して

手を振りながら爽やかに分かれる

 

もうじきあれが始まる

…その前に、俺はネフシュタンを保管している部屋に行き、強奪を止めるか

上にとどまって出来る限り被害を減らすか

それを決めなくてはならない

 

選択の時だ

 

(僕は…)

 

A【ネフシュタンの保管室へ向かう】

B【上に、留まる】

 

(上に、留まる)

ネフシュタン起動強奪ルートはつまり

原作通りルートでもある

序盤どころか時系列的過去で乖離を大きくすれば二年後には大問題になる可能性もあり得る

 

前提ルートを変化させないで

出来るだけ人を助けたほうが良いだろう

 

「幸い、死者の人数を減らす為に

奏さんのlinkerは持ってきてる

………最悪でも、絶唱までの時間を伸ばすくらいにはなる!」

 

統慈は階段を上りながら、

鞄の中を確認する

 

その中には

保冷剤とともにLiNKERが入っている

「よし」

 

俺はボックス席に座って、その瞬間まで

二人の姿を見届けることにした

 

そして、ついに

「始まったか…!」

流れるイントロは逆光のフリューゲル、そして、歌声と共にカウントダウンが始まる

 

観客の光らせるサイリウムとの真ん中に、ピンクと青の両翼が、ツヴァイウィングが降りて来る

 

歌う二人を見つめながら

同時に観客の持つ空気と、とある席を注視する

 

奏の声が、元気よく

まだまだ行くぞー!と宣言した直後

 

「今っ!」

会場が突如爆発する

 

そして、次々と現れてくるノイズの群れは

観客たちに襲いかかる

 

その時点で判断の早いやつらは走り出したが、やはり、逃げようとする連中は次々にノイズに炭にされて行く

 

統慈の元にも、ノイズは押し寄せるが

「…っ!」

最小限の動きでカウンターを叩き込み、サイリウムを短剣のように操ってノイズを殴り倒す

 

「…やはり、来る!」

 

Croitzal ronzell (クロォイツァ ロンゼェル)gungnir zizzl(ガングニール ヅィール)

Imyuteus ameno (イミュテーウス アメノ)habakiri tron( ハバキリ トロン)

 

翼と奏はそれぞれの歌を歌いながら

互いのポジションを把握し合い

それぞれ別の場所で戦う

 

統慈も必死で避難誘導を行い

なんとか道を整える

 

何体かのノイズをサイリウムで殴り飛ばしてしまったのは気のせいとしてもらうしかないが

 

STARDUST∞FOTONや

LAST∞METEORでノイズを消し飛ばして行く奏

 

そして、それを崩れかけて人気の消えた観客席から、呆然と見つめている響

 

「やばいっ!」

統慈はノイズをサイリウムで殴りながら

全力で走り出した

 

観客席の上、関係者用のボックスシートに残された鞄、その中のLiNKERを取る為に

 

群れをなすノイズを躱し

時に殴り崩して進む

 

「ようやく、届いた!」

ついに鞄を掴んだその瞬間、

足元が崩れ落ちた

 

「ぬぉぉあああっ!」

 

ずがらがらがらっ!と轟音とともに

観客席の崩落に巻き込まれる統慈

 

そして、地面に叩きつけられると

同時に意識を失いかける

 

「ぐぎゅつ!」

 

体を叩きつけられて、衝撃で痺れている

しかも最悪なことに、叩きつけられた衝撃でアンプルが割れて、LiNKERを失った

 

「駆け出せっ!」

 

奏の声が遠い…

 

そして、遥か彼方では

奏が限界時間を超えて尚、槍を振るって響を助けようとしている

 

ガングニールの鋭い風切り音

そう、これは終わりの合図

 

「…っ、…!」

 

ガラリ、と瓦礫が崩れる

鋭いもの重いもの、そして軽く崩れるもの

 

種々様々なものが背を打ち、

統慈を押しつぶそうとする

 

しかし

「!っ!」

 

無理矢理に体を起こし、

統慈は足を動かす

 

その瞬間、ガングニールが砕ける

「うぁあぁあああっ!」

 

奏の声と共に、砕けた破片が飛散し

響に、地面に、背後の壁に突き刺さる

 

「おい!死ぬな!」

倒れた響に駆け寄る奏、

 

「目を開けてくれ!」

 

響に呼びかける声

「生きるのを諦めるな!」

 

それに気づいたか、響はゆっくりと目を開き

 

それに安堵した奏は、最後の歌を決意する

 

「いつか、心と体を全部空っぽにして…」

 

槍を携え、響の前に立つ奏

 

「思いっきり、歌いたかったんだよな…」

 

ノイズの群れは、

大型小型入り混じる、比類なきものであり

もはやLiNKERの一本や二本で変えることはできない状況、故に、一人でも多くを活かすために

 

赤き天の鳥は

自らの死を歌うと決めたのだ

 

「今日は、こんなにたくさんの連中が聞いてくれるんだ…だからあたしも、出し惜しみ無しでいく」

 

必勝を謳う大槍を、高く天に掲げ

崩れゆくその槍の陰で

零す涙は、誰の目にも映らない

 

「とっておきのをくれてやる…【絶唱】」

 

それは、彼女の絶唱

過去に囚われた緋色の鳥が最後に歌う

高く奏でる明日の調べ

 

「Gatrandis babel ziggurat edenel」

 

シンフォギアの機能を最大限に発揮する代わりに、装者自身も危険にさらすその歌を、奏は高らかに歌い上げる

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl」

 

(ダメだ!歌っては!)

「いけない奏!歌ってはダメェッ!」

 

覚悟の撃槍は天高くを指し示し

相方の声にも、全く揺らぐことはない

届かない声にも、揺るがない

 

「Gatrandis babel ziggurat edenel」

 

最後の一節を目前に、響がつぶやく

「歌が…聞こえる…」

 

莫大なフォニックゲインが

崩れかけたアームドギアを介して、半ば無理矢理に増幅され、循環し

奏自身を傷つけながら膨れ上がっていく

 

その悲しき歌が、響へと届いたのだ

(そうさ…命を燃やす、最後の歌)

 

「Emustolronzen」

 

その瞬間に、

統慈の目の前が真っ暗に染まる

 

(何がリンカー持ってきただ…

何が避難誘導だ…結局、何も変えられてない!ただ安穏と流されてただけじゃないか!)

 

(ならば、何を求める?)

(護れる力だ!絶望の中でも、大切なものを護れる力だ!)

 

(ならば、何処に求める?)

(何処でもない!()()()に!)

 

「fine-el」

 

(ならば目覚めよ、その力の名は

終末を封じし絶望の鍵匣(レーギャルン)

 

「zizzll…」

Laegyalun(レーギャルン)!」

 

奏が血を吐きながら笑うと同時に、

叫ぶ

 

自ら壊れようとしている槍を壊させないために、炎を封じる魔匣は目覚めた

 

贄は既に此処にある

〈捧ぐは不死鳥(ヴィヴゾニィル)、炎の尾羽は此処に在り〉

 

絶唱によって生まれたフォニックゲインを

全ての力を、反動を

全ての炎を飲み込んで

 

匣はその鎖を解く

 

「そんな…!」

奏の携えた勝利の撃槍(ガングニール)は今度こそ崩れ去り

同時に奏は気絶して倒れる

それを鍵としたように

 

匣の鍵穴の隙間から、僅かな光が溢れ出た

ただそれだけで

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

統慈の右腕に宿った完全聖遺物

終末を封じし絶望の鍵匣

レーギャルン、覚醒の瞬間であった



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第12話

その後、焼き払われたノイズ達が再出現することはなく、事態は速やかに収拾した

 

「…奏はLiNKER無しでの長時間戦闘の負荷と絶唱のバックファイアで意識不明、翼も左手に火傷、ネフシュタンの鎧は喪失、ライブ観客にも被害が出た…最悪に近い結果だ」

 

「…ライブに於いての被害は

死者.行方不明者3000人以上、もはやどうしようもないほどに大規模です」

「くっ…」

 

「…ネフシュタンの鎧を失ってしまったのは大きいわね…ノイズに対する新たな対抗策として有力視されていただけに、政府側も厳しい対応をしてくると思うわ」

 

「あぁ、それはわかっている…」

 

意気消沈する二課主要メンバー達

「………」

 

そこへ、

「司令」

 

翼さん登場である

「奏も、多数の死者も、ネフシュタンの鎧も全て、守りきれなかった私の責任です」

 

「翼っ!?」

 

いつに無くキリッとした表情の翼さんは

なんの逡巡も無くそう言い放つ

 

同時に

「ノイズの反応を検知!」

けたたましいサイレンが鳴り、藤尭が叫ぶ

「本部より距離1200!」

 

「近いな!」

「迎え撃つ!」

 

風鳴二人の、全く毛色の違う声と共に

二課は素早く警戒態勢に移行し、唯一現存する装者である翼が迎撃に向かった

 

 

「……僕、結局何も言われなかった」

 

(レーギャルンも奏さんの絶唱って形にされてたし、結局、奏さんは意識不明、

響も、多分欠片が刺さってる

 

でも、被害者の数は、多分大きく減った)

 

原作よりも奏さんが技連発する時間が長かった為、ノイズによる直接の被害者数はガタ落ちであり、かつ

さりげなく混ざっていた緒川さんや統慈達の連携した避難誘導で効率的に避難を進められた為

死者、行方不明者を含めた被害者数は原作の3割程度まで下がっていた

 

「まぁ、助けられた人も居るだけ、よしとしよう…きっと、誰もいなかったらもっと被害は大きかったと思うし」

 

非番なので、部屋で一人呟きながら

寝っ転がる

 

「ネフシュタンの在り処はわからないけど

雪音クリスの存在はわかる

 

二年後のお出ましを待ってるよ…」

 

 

翌朝

 

いつまでグダグダやってんだ早く切り替えろとばかりにノイズが発生し、素早く討伐され…さらに出現したノイズが討伐され…を繰り返して

 

いつのまにか二課は

いつもの空気を取り戻していた

「お疲れ様でした」

「お疲れ様です」

 

「さて、今日は研究室にいくの…

頑張ってね?」

「はい、ありがとうございます」

 

友里さんからの声に返事をしながら

司令室を出る

やることといえば単純だが…

内容はLiNKERの製造?である

 

「…どちらかといえばあれは調合だよなぁ…薬物だし、取扱資格取ってないんだけど…」

 

そんなことは了子にとっては

問題になり得ないようで、さっさと薬剤師と毒劇物取扱資格の認定証?を渡されてしまった

 

「…まぁ、仕方ないか…」

 

今日も今日とてlinker調合…

だけではすまなかった

 

「今日はシンフォギアのメンテナンスを実施するわ、貴方にも出来るようになってもらうからね」

「……ハイ……」

 

統慈はどこを目指しているのだろうか

それはもはや作者にすらわからない…

(メタ)

 

複雑すぎるシンフォギアのメンテナンスを聞きかじったあと、いつものようにノイズ警報を聞く

 

「またか…最近多すぎんよ〜」

「私に言われても…」

 

いくらできる女でも、元凶だから減らすわけには行かないので、それはさすがに仕方ないと言わざるを得ないようだ

 

「まぁ、色々できるようになれば

生存率も上がるわよ、若人(わこうど)なんだから頑張りなさい」

「はーい…」(お前が出してるクセに)

 

まぁモブは死んでも仕方ないし

実際有名な作品でもモブは次々に死んでいく、具体的にはクウガ

 

「…さて、あとはギアを起動状態から還元するだけよ、やってみて」

「…了解…えっと、sleepye-s (深く 眠れ )

ageyes gungner(ガングニールの鎧) zizzll(強制執行)

 

キュィィンという音とともに、光のリングに分解したガングニールギアがペンダントに戻る

 

ちなみに、正確には

基底状態返還 ギア:ガングニール 執行コードであるらしい、音声起動の理由は統慈は知らないが、聖詠と対を成す詠唱である

 

もちろんテンポなども各ギアの聖詠と同じ

 

「よしっ、良好ね…でも、これは使用者が意識不明状態だし、保管庫行きかしら」

「保管庫ですか、まぁ仕方ないですね」

 

「そうね〜」

 

二人してのんびり話しているうちに

天羽々斬のギアを使った翼が戦っているのだが、そんな事は今は関係のない事だ

 

「…さて、僕は上がりですかな?」

「ええ、今日はもうすることもないし

研究自体も大詰めだから、あとは私一人でなんとかするわ、上がっちゃって良いわよ」

 

「お疲れ様でした」

それだけ聞いて、

さっさと研究室を去る統慈

 

ちなみに、研究室には頻繁に行っており

正式な配属先はオペレーターにもかかわらず、研究室に出入りできるI.Dカードも持っている

 

「…まぁいっか」

 

そんなことは気にせずに、統慈は、もう慣れてしまったエレベーターで外に出て

その足でふらわーに向かった

 

「今日は響と予定があってな…

早く上がれてよかったよ」

 

しばらく時間を過ごした後

立花響を迎えて、夕食を取る

 

「で、その後どうだ?…ライブ以来だけど」

「うん、あのライブの後、すぐに学校でイジメが始まってね」

「…おう」

やはりイジメはあったようだ

 

「大丈夫ですよ、平気へっちゃらです」

「そうか、なら良いんだ」

 

(ホントは大丈夫じゃないんだろ?)

「まぁ、辛くなったら…いや、辛くなくても僕には現状報告くらいおくれよ、何せ同じ生還者同士、お互いに助け合おうじゃないか」

「…はい!」



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第13話

「生存者同士…とはいったものの

生存を掴み取ったものか、死に取り残されたものか、そして、他者から生存を奪いとったものか

この分類がわかれるからなぁ…」

 

そしてそのうち、責められるべきものは

いない

 

生存を奪い合うのは生物として当然なのだ

それは人間であろうと、動物であろうと

生きようとする者にはあって当然の戦いであり、より強かな方が生き残る

 

「それが自然の摂理だ…

それを責める権利は誰にもない」

 

統慈は二課の本部施設内の自室へと帰り

ゆっくりと呟く

 

「やはり、どうしようもない」

 

再び呟く、どうにかする方法が

どうしても出てこない

 

そもそもイジメを解決する事はできない

イジメとは表面上なくなったようでも、対象やアプローチを変えて続行されるゲームなのだから

 

イジメっ子達は自分が優位に立っている、いじめている内は呑気なものだ

自分たちが優位であり、自分たちが正義であり、そして自分たちが勝者なのだから

 

そもそも、イジメという形で認識しておらず、ただふざけていただけ、遊んで、楽しんでいただけ、ちょっと無茶振りしてからかっているだけ

 

そう考えているものだ

それがどれだけの負担を強いているか

どれだけ尊厳を傷つけているか

想いを踏み躙り、心を切り刻んでいるか

考えもせずに、残酷に、楽しげに

笑っているのだから

 

いじめられる側は悲惨だ

結局、イジメられているという事は変えられない、教科書は泥水に浸され、靴や制服は何処かへ捨てられ、悪戯電話は悪意を持って繰り返される

実話であるが、こういう時に於いて

女子の行動力というのは存外に高い

 

「…まぁ、せめて少しでも、他者に寄りかかるくらいは出来るようになってもらおうか」

 

(俺も介入が必要なら動くしかない…それに、聖遺物融合例?としては確か

ギアの核になっているガングニールの欠片が肥大化して体内から壊されるんだったか?

それも、シェンショウジン以外でどうにか出来る方法を探したいところだ)

 

もう夜も遅い…そろそろ眠らなくては

 

「…よし、寝よう」

対策を考え付かないからとりあえず睡眠に走るクズの鑑だった

 

「もう朝か…」

ちなみに俺の職業(偽装)は学生であり

その所属は私立リディアン音楽院

「…絶対に何か間違ってるんだよなぁ」

 

毎回女装してる訳ではない。そもそも

登校義務は免除されている

 

「なぜ制服なんて用意されてるんですかね…」

恐らくは緒川さんの差し金であろう

 

「学校なんて前世で通い飽きたっての」

笑いながら机の上に置かれた制服を眺める

 

「しかも女装じゃねえかよ…」

 

そう、その制服は

紛う事なき女子用制服

 

そもそもリディアンは女子校であるため

制服といえば全て女子用である

 

「僕に女装しろって?泣いていいよね?

それじゃあ泣くね」

 

半笑いを崩さずに

しばらく呼吸もなく言い切った後

やたら上手な嘘泣きを始める

 

「二年間もコレは厳しいぞ…」

 

誰にも笑顔の無い夜は過ぎていく

 

 

「おはようございます〜…はぁ…」

寝ぼけた声で挨拶しながら

リディアンの制服を纏った統慈はため息をついた

「案外可愛いじゃない」

「よしてくださいよ了子さん」

「なんでよ、可愛いものに可愛いと言って何が悪いの?」

「その可愛いものは可愛いと言われることに忌避感を覚えているのでこれ以上精神的な負荷をかけないでください」

 

統慈はなんとか了子から逃れるために身をよじるが、その動きにすらもぴったりと追随され、結果的には悪あがきに終わる

 

「ほらほら逃げない、いくら髪型はウィッグでごまかすと言っても、綺麗に結うには時間も手間もかかるのよ?」「僕は地味でいいんです!」

 

「可愛いものを飾らないのは罪よ!」

ゴリゴリに押されて最終的には

 

「…………」

「うふふふっ、これよ!

これがやりたかったのよ!」

 

完全にオモチャ扱いされていた

 

「もうやだ…なんで僕がこんな事を…」

「とは言っても、歳的には高校生だし

学歴中卒は厳しいわよ」

 

「だからなんでリディアンなんですか!わざわざリディアンじゃなくったって良いでしょうに…」

 

統慈は泣き言を言いながらも

大人しく髪を結ってもらい…

 

「始めまして、転校生の拍木旋音(かしわぎりんね)です…終わりで良いですか?」

 

統慈はもう諦めていた

しかし、環境はそれを許さない

 

「それで良いわけないでしょ!」

「まだまだ聞きたい!」

「お話ししよー!」

「スリーサイズは?」

 

「答えません!」

 

一部セクハラを除いて

質問に一つづつ答えさせられる事になってしまった統治の明日はどっちだ



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第14話 学園にて

「リディアン 一期生旋音(リンネ)…ねぇ、これが僕の名前ですか?」

 

「もちろん♪それ以外だれが名乗るのよ」「了子さん」

 

一瞬の躊躇も隙もなく即答する統慈は、冗談だ、と呟いて下を向く

 

「はぁ………」

 

間違っても『泣きそうになっている』とは言ってはならない表情をして

統慈は発声練習を開始する

 

「A……A〜」

「だーめ、低すぎるわよ、それじゃあ疑われるわ」

 

「A〜」

「今度は高くすることに集中しすぎ、音量が足りない」

「A〜っ!」

「声量が増えても旋律を乱してはいけないのよ、はい、もう一回」

 

なぜあーだけで4回もリテイクを食らうのかといえば、偏に『女性として違和感のない歌声』かつ、『普段の声に近い音』を維持しなくてはならない

音楽を重視する学校ゆえの問題があるからだ

 

「A〜…」

「うん、いい感じ、じゃあそれを維持できるようにもうちょっと長めに」

「A〜〜」

「最初に戻ってどうするの?また声が低くなってるわよ?」

 

その後しばらく練習を続けて、学校に違和感を悟られないレベルの声帯操作術を身につけ

ようやく編入の手続きに向かい

学期の途中から編入という、新規参入には些か目立ち過ぎる格好で

女生徒として通うことになってしまった統慈

 

「……はぁ…(美声)」

 

ため息すらまともにつけない、と嘆く統慈に、新たなクラスメイトに沸く

姦しい連中が集ってくる

 

「ねぇねぇ!旋音ちゃんの好きな歌手って誰?」「ズバリ!編入の理由は?」

「随分スタイル良いけど、本当に生おっぱい?盛ってない?」

 

実際は確かに盛っている

だが、少女Cが求めているような貧乳が盛った結果のサイズではなく

ゼロから作りあげたサイズである

嘘も突き通せば誠、了子さんの技術によって、その偽乳は徹底的に凝っているらしい

 

スリーサイズ(実測)は

上からB…よそう、悲しくなってくる

 

w57だけは自身のそのままの数値であるが、それもまた意味はない

 

身長156であるため

理想サイズに大体一致している

というわずかなポイントも

今の統慈には嘲笑っているようにしか聞こえないだろう

 

「一つ一つ答えますからね、皆さん、少し落ち着いてください」

「あぁごめんごめん」

「ちょっと熱くなってたね〜」

「めんごっ♪」

ABはまだ許す、だがC、お前はダメだ

とばかりのオーラを纏う統慈(リンネ)

 

「ええっと〜…」

その後、質問が連発され続けて話が進まないと判断されるのだった

 

 

 

翌朝、火曜なので

当然のごとく登校するのだが

その前に朝のひと時だ

 

「やはりコーヒーはブラックに限る…なんて言えれば良いんだけど…」

 

とはいえ流石に女子高生がブラックコーヒーを良い顔で飲んでる訳にもいかない

女子高生とはもっとこう、キャラメルマキアートとか、カフェモカとかそういった甘ったるいものばかりを飲んでいるものだ

 

「…いや、流石に偏見かな?」

高校時代には年中コーラ飲んで騒いでる不良女子だっていたし、そう言う奴に限って

体型はきっちり維持している

 

…成績は知ったことではないが

「さて…行くか」

 

一緒に帰ろー?といってくれた女子はいたが、統慈の帰る家などない

という事で、適当に駅あたりまで引っ張って、電車で帰る振りをして、二駅目で対向車に乗り換えてiターンで戻るのだ

 

適当に考えた割には効率的な手法であり、帰り道でばったり会ったりしなければ

なんの問題もないし、時間を結構ズラす事でニアミスを回避する事が出来る

 

「いつものエレベーターか…」

若干憂鬱になりながらも

学校内直通エレベーターで登校して

職員に紛れている(…というかほぼ全員)二課の人員に鍵を開けてもらい

 

さっさと教室へ向かう

 

「…よしっと(美声)」

風鳴翼の一年下、立花響の一年上

という微妙な年齢設定故に、クラスメイトに原作登場人物はいないと思われる

 

いたとしても、

もはや統慈は覚えていないので

一切全く関係はない

 

授業自体は恙無く終了したので

さっさと帰宅…とはいかないらしい

 

 

警報が鳴り響き…ノイズが出現した

「マズイなぁ…」

 

俺のleagyarnは使いこなせでいないし、そもそも単独で戦闘したことがない俺に、大したライフセービングは出来ない

 

「だが…死なせるわけには…!」

 

これ以上の犠牲を出すわけには行かないと、俺は集団で現れたノイズに向かって突進した

 



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第15話 聖詠

「燃えろ…俺のコスモっ!」

 

有名な漫画の代表的なセリフを叫びながら突進した統慈は

 

左手を握り、思いっきり叩きつける

 

無論、雑魚ノイズとて即死するわけではない、統慈はパンチ一発でコンクリートを粉砕するようなパワーをしているわけではないからだ

 

 

「死に晒せえっ!」

 

倒れるまで何発でも、

拳を、そして脚を撃ち込む

 

ノイズに触れられる俺ならば

シンフォギア無しでも生身で戦闘できるのは確かだが、それを他の存在に悟られるわけには行かない

 

映画で見た動きのような『魅せるアクション』は不要だ、只々コンパクトに、素早く、身に隠して、致命の一撃を放つ

 

動きの理想は仮面ライダーコーカサス

そのクロックアップ時の動きだ

 

仮面ライダーコーカサスは主人公ライダーのカブト同様、待ち受ける(カウンター)タイプのライダーだが、クロックアップ時は打って変わって、獰猛な格闘戦スタイルを取る二面性もある

 

その動きの真似…

じみたもので打ち掛かる

 

「フッ!セェヤッ!」

右ストレートからの膝蹴り、地面についた手で体を回して反転キック

 

一応、腕は折れないように気をつけているが、相手はノイズだ

体表はそれなり以上に固い

 

再び拳を撃つ、撃つ、撃つ

心拍でタイミングを取りながら

息が上がらないスピードで格闘を続け、ノイズ警報で人が去るのを待つ

 

一度、二度、三度、

ノイズを打つたびに、波紋が広がる

それは未だ形を持たない始まりの音

 

「ゼエエェェッ!」

 

最後の一撃とともに離れ、炭化するノイズを見届けることなく次へ向かうが

 

「多いな…」

路上という地形上、

一体一体相手をしていられないというのに、ノイズはかなりの数出て来ている

 

「っ!」

 

その時、捉えた、捉えてしまったのだ…路地に座り込んだ少女に襲いかかるノイズを

 

「ウォォォッ!」

道を塞ぐノイズを足蹴にして

飛び越えて、今まさに少女に触れる寸前のノイズへと到達した統慈は

 

「ゼエエェェッ!」

着地を考えず、左足による飛び回し蹴りを叩き込む

 

真横に弾かれたノイズは、すぐさまに炭化せずとも、少女を襲う事は叶わず

 

「生きてるか?」

統慈は少女へと手を差し伸べる

「……?」

 

炭にされることを覚悟して、目を瞑っていた少女は、そこに希望の光を見た

 

「生きてるならそれで結構、そんなお年で死になさんなよ…そこで待ってな

もうじき、正義のヒロインズが来てくれるからよ」

 

統慈は笑顔で少女の頭を撫でる

 

「僕はちょっとアレだけど、もっとちゃんとした組織の人たちが来るからさ

それまで生き延びなさい

最低限くらい私が庇ってあげよう」

 

そう言い切って、律儀に待っていたノイズを打ち飛ばし、壁へと叩きつける

 

「リズムは整った…」

 

波紋は満ち、決意は為された

音は生まれ、形は得た

旋律は歌となって鳴り響く

 

Sealder leagjarn nshel tron(絶望を封じる箱を開け)

 

囁くように、詠う

 

その瞬間、腕から炎が湧き上がり

糸のように、鎖のように

俺へと巻きつき、同時に実体を得る

 

黒い鏈と弓道着に近い装甲

右足は黒い鎧状のアーマー

左足は鉄鎖が巻きついたような赤と銀

 

「うわっ、なんだこれ…いや、だいたいわかる…レーギャルンの装甲形態…だな」

 

「全然使い方とか分からないが…やるしかないっ!」

統慈は前方に跳躍すると、そのままノイズへと体当たりする

 

「よし!これでも倒せる!」

もともとノイズの外殻は武道家が数発殴るなりすれば砕ける程度の装甲しかない

攻撃が当たらないのが問題なのだ

 

確実に当てられる上に火力も出る今のレーギャルン=統慈には余裕の相手

 

「フッ!セイ!ハッハイイッ!ヤアッ!」

 

鎖製の装甲のお陰で拳と足を痛める心配も無いので、全力で打ち込む

周辺のノイズ全てを引き込むような勢いで

「権限起動:9/1定率 積層変成-物理力体」

 

装甲の表面が剥離して、炎へと還元される

鎧に纏っていた炎を拡散させ

それを烈火の弾丸として射出する

 

「使い方は分かる…何をすればいいのか、どれくらい残量があるのか…」

 

頭の奥の方に、炎の量を示すゲージのようなものがあり、それが教えてくれるのだ

あとどのくらいの時間、この炎を燃やせるのかを

 

「……世界 焼く 炎の刃 封ずる この鍵と を以 て」

 

湧き上がるのは殺意と敵意

絶望的な圧力を伴って、内側から溢れ出す力

 

外部からの干渉など、たった一度、起動の種火一つで充分

それは世界を焼き尽くす炎を

内に秘する匣なのだから

 

「はっ!」

大きく跳躍して、ビルの五階ほどに着壁

左手を突き出して

 

「権限起動9/1…解錠」

 

背後に九つの黒い勾玉が浮かび

右下の一つだけが赤く染まる

 

Shiny-leagjarn(シャイニー-レーギャルン)

 

赤く染まった勾玉が鍵となり、さらに召喚された匣の錠を開く

突き出された左手に沿って

その鍵穴から炎が放出された

 

《ズドォオォン!》

「……これで、終…」

 

足場としていた壁を抉りとりつつ

反動に耐えた統慈は、路上に戻り

 

着地した瞬間に、装甲が強制解除される

「ぐぅ……っ…」

 

ノイズは粗方一掃したが、

それでもまだ数十体は残っている

 

「なぜ、急に強制解除が…」

今さっきまでの暴力のツケとでも言うのか、急激に力が失われて行く

 

「クソッ!大技は軽率だったか!」

 

力を失った俺へ、ノイズが殺到し

imyuteus ameno habakiri tron(イミュテゥス アメノ ハバキリ トロン)

 

蒼ノ一閃が全てを断った

 

「そこの少女、立てるならば下がって」

 

スタイリッシュ防人登場である

見られていたかと一瞬心配もするが

 

「民を、国を守るは防人の務め!」

気づいている様子はない

 

「よかった…(認識能力)ガバガバだ

 

……ふぅ、はぁ…よし!」

 

深呼吸とともに、立ち上がる

さっきの強制解除は息切れ的なものだったのかもしれない

 

「…sealder leagjarn nshel tron(絶望を封じる箱を開け)

 

火種を投じ、再び装甲を展開しようとするが…

「応えない…?」

 

火種となる歌にも反応はない

 

「…考えてる暇はない!」

ノイズは生身でも殴れるのだから

近づいてきたノイズは皆殴る

 

流石に素手で殴るのは走者の前では危険なので、文房具のハサミを包帯でカバーしてナックルガードがわりに仕立て、それで左腕をガードして殴る

 

「…他の人もこのくらい出来るっ!」

 

鉄扉重ねて殴る人とかも居た!と心の中で叫びつつ、ノイズをバカスカ殴り倒す統慈

 

「…ハァッ!」

 

理論としてはシンフォギアの周囲にいるノイズは皆、強制的に実空間に引きずり出されるので、位相差障壁は無効化される

そうなれば通常兵器とて火力になる

 

繰り返すが通常兵器がノイズに対する上での欠陥とは

『攻撃が効かない』のではなく

『攻撃が当たらない』が故に火力足り得ない事である

 

当たらなければどうという事はない

つまりは当たりさえすれば致命傷なのだ

 

「ギガノイズ…!」

 

小型や人型のノイズを壊し切ったあたりで、唐突に出現したのは

大型ノイズ

 

「ふっ!」

 

それに慌てることもなく遥か高みへと跳躍した翼は…

「天ノ逆鱗」

 

巨大な刃を召喚し、それを蹴りつけて

ギガノイズを頭上から串刺しにした

 

「スゲェ……」

圧倒的な戦闘経験値を見せつけられる形となったが、それもまた勉強としたようだ

 

「ふぅ……」

SAKIMORIがゆっくり呼吸しているうちに、俺は現場を離れて

後ろの少女の方へ向かう

 

「…怪我はないか?」

「うん、大丈夫だよ、()()()()()

 

「……お姉ちゃん?」

統慈は身を見回して…

「あ………」

 

自分が下校中に事態に巻き込まれたことを思い出した、そう、未だ統慈は

女装とメイクを解いておらず

外見的にはかなりの美少女のままなのである

 

「ありがとう、お姉ちゃん」

「………はぁ…」

 

統慈は素早く頭の中で声質を調整して

 

「あなたが無事でよかった、あなたは生き延びてくれた、それだけよ、

…それじゃあ、さようなら」

 

さっと身を翻して

ビルの中に隠れ、ウィッグを外して髪留めのゴムを取り、髪型を戻す

 

「服は…ええっと、仕方ないか」

 

臨時徴用ということで、ビルにあったアパレルショップ(無論無人、炭入り)のシンプルなシャツ、ジャケットとジーンズを購入

足回りはローファーでごまかす

 

決して軍資金がギリギリという訳ではない

 

「これでも5000円はしちゃうんだよね…はぁ…」

 

値段を見てパッと計算した額をレジに置いて…非常に問題ではあるが

ICチップのついたタグはハサミで切って外す

 

「商品だけどごめんね…」

 

正規の購入処理ではないというと盗難品そのものであり、したがって現在の立場的に統慈は窃盗犯なのだが、これはあくまで災害であるノイズ関連のモノから離れるための緊急的な処置であるからして

緊急避難の原則が適用できるものと判断したらしい

 

「とりあえず格好は繕った、制服の方は…どうしようかな」

適当に隠してしまうのも問題だと思うし、かといって女子用の制服を持って現役学生の前をうろちょろすれば、なぜその制服を?と呼び止められてしまう可能性大だ

そのカバンを調べられれば

教科書や弁当以外の(バレたらヤバい)代物が隠し通せるとは思えない

 

「はぁ………」

 

(よし、あとは二課スタッフとして素知らぬ顔で黒服側に参加すれば良い)

 

なかなか無理のあるヴィジョンだが

それ以外に大きな策が無い事ので

結局はそういうことになる訳だ

 

「あとは、技術力」

 

結局、誤魔化し勝負となり、二課のI.D.カードでゴリ押したところ、なんの問題もなく

ノイズ警報を聞いて現場判断のもと被害を減らすべく急行した避難誘導員

 

程度の扱いで終わってくれた

全方位に顔を広げていた上に、全部門に顔を出していたお陰かもしれない

 

「お疲れ様でした」

「あとは我々、作業員が引き継ぎますので、初期対応、ありがとうございました」

 

「こちらこそ、無用な混乱を招いてしまって申し訳もありません、ありがとうございました」

 

深々と頭を下げてから、すぐに歩き出す…風鳴翼に引っかけられない限り

問題はないはずだ

 

「よし、これで突破だ」

 

 

翼さんの隣を通り抜けて

俺は二課へと戻った




ちなみに、主人公の聖詠の読みは
シルダーレイガァールン ネシェルトロン

前半イチイバル、後半イガリマのテンポで歌っております


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第16話 軋む心

「……はぁ、よし」

 

自室に帰ってから、統慈は頭の中に残っている状況をリプレイする

 

「俺の聖詠…俺の力か…あれが」

 

戦力としてあまりにも貧弱な炎

しかもまるで使いこなせていない

 

挙げ句の果てには大技を空撃ちして強制解除?なんて事だ

 

これじゃあ戦力としてカウントできない、むしろお荷物だろう

 

「鍛えないと…もっと、強く」

 

最終目標はクリスのイチイバル

『MEGA DETH QURTET』より広範囲、高火力での焼灼攻撃

火力砲台型であるイチイバルの大技を超えるレベルの火力を使用できれば

一発限りとはいえそれなりの鍵にはできる

 

「まずはそこまでたどり着く…!」

 

まずは、この力の解析から始めるべき、と定めた統慈は立ち上がり…

しかし、どこへ行くでもなく立ち尽くす

 

「忌々しいが…」

そう、異端技術に関しては、現状において頼れる人物はいないので、

最悪の選択肢、フィーネを頼る

を取るほかにない

 

とはいえそっくりそのまま話しても意味はない、どこらか利点はない

 

リスクならいくらでも上がるが、利点はまるでない…なので上手い事

誤魔化しながら

アウフヴァッヘン波形やらなにやらの隠蔽を行う必要があるのだ

 

「やることは山積みか…」

 

ため息を一度付き、重苦しい気分を払おうとして、結局ななもできなかった統慈は

まずは一度寝ることにした、

 

翌朝になり

「司令」

 

まずは、風鳴弦十郎司令の元へ向かった統慈は、今まさに司令と向かい合っていた

 

「いきなり言うのも失礼と思いますが、お願いがあります…強くなる方法、教えてください」

 

「うむ…突然だな、どうかしたのか…いや、先日のノイズ発生の現場、あそこに君もいたんだったな…避難誘導しか出来ない自分に打ちひしがれ、力を求めた、と言ったところか」

 

「その通りです、シンフォギア装者でもない自分にはノイズを倒すことはできない

でも、少なくとも避難民の安全確保の為に、出来ることはある

しかしそれも、体力が無ければ叶わない…僕はあの事件に居合わせて

自分の体力の無さに気付かされました

ですから、自分の知る限り最も『強い』大人である司令を頼って来ています」

 

「なぜそこで体力の話から強さの話にすり替わったのか分からないが…まぁ、そこは君の中の解釈なのだろうな…」

 

「筋力があれば避難中に転んだ人を抱えて走れますし、持久力と筋力の総合的な表現はやはり『強さ』だと思うので」

 

持論を展開しながら司令の方を見遣る統慈、しかし、司令の表情は暗い

 

「結論から言うと

俺は君を鍛えることはできない」

「何故ですか?」

 

「時間が足りないのだ、現状、シンフォギア装者は翼一人、その翼もメンタルバランスが取れていない、それだけでなく

新たに適合する可能性のある人物の捜索、秘密の情報組織としての体面付け

各方面への対応や勢力争いの回避

最高責任者である俺でなければ対処できない問題も多い、それらに圧殺されている中で君の稽古を満足に見られるとは思えない」

 

すまない、の一言と共に

頭を下げられてしまった

 

「いえ、無理な頼みであることは百も承知ですから、お構いなく…あ、司令」

「なんだね?」

 

席を立った統慈は、クルリと首だけで反転して、司令の方に視線を向ける

 

「司令の特訓の方法だけでも教えてください、鍛え方の参考になると思うので」

「…参考になるとは思えんのだが…まぁいい、俺の鍛え方はな…

飯食って映画見て寝るッ!男の鍛錬なんざ、それだけで十分!」

 

「全く参考になりませんでしたありがとうございました」

 

首をくるっ、と戻した統慈は

そのまま司令室を出て、研究室へ向かった

 

「例のカストディアン流栄養ドリンクも作ってきたし、とりあえずは一杯呷るか」

 

ポキュ、という音と共に、わりかし安い給料で買った水筒を開ける

 

「うん、まぁまぁな味」

 

一気飲みを終えた後、研究室に入る

ちゃんとIDは研究室に入れるものだ…というか統慈はどのセクションでも入れるカードキーだ

 

「…失礼します」

「ん?統慈君?どうしたの」

「どうもこうもありませんよ、ノイズ被害に遭ったんです、そりゃ凹むよ」

 

めっちゃ凹んでるアピールをしておく

 

「はぁ…まぁ、そんな境遇なら仕方ない…かしら?…私自身は直接襲われた事はないけど、ノイズについては嫌という程調べたし

見識なら貸せるわよ?」

 

こっちに顔を向けないままにぬけぬけと言い放つ櫻井女史(フィーネ)

 

「ノイズを殺せる方法が欲しいです」

「無理ね、あぁ、でも」

 

「でも?」

「シンフォギア装者のノイズを実空間に引きずり出す能力の影響下なら

ノイズを通常火力で撃破することもできるわ、それでなくても

ノイズだって、向こうから一方的に接触する事はできないんだから

接触する瞬間にはこっちからも物理攻撃が有効よ、その一瞬を狙えれば、だけど」

 

つまり、論外と言っているわけだが

それは統慈も知っている

 

「あとは…ノイズの自壊制限時間まで逃げ延びることかしらね?こっちなら実現できるんじゃないかしら」

 

「意味ないですね…あ、そうだ」

「なに?」

 

統慈のフリに、向き直る了子さん

 

「アウフヴァッヘン波形の記録装置って、最近どうなってますか?なんか司令が

新規適合者を探す〜って言ってたので、あれ使えないかな?と」

「ターナウトリコーダー?あれはちょっと使い方が違うのだけど…ん?でも

ちょっとまってね」

 

頭の中で何かを考えているらしい時が過ぎて行き、了子さんはパッと目を開く

 

「できるわ!感知する波長をガングニールに合わせれば『ガングニールの波長』に共振する、つまりガングニールの適合者になりうる人物を発見できる!すごいじゃない!」

 

バッと手を取られて振られた

「私にすら無かった発想!これで適合者を探し出せる確率が上がる!お手柄よ!」

 

「は…はぁ…」

 

惚けた声を出す統慈

 

「早速計画書に纏めなきゃ!ごめんねちょっとまって…ターナウトリコーダーの調整手伝ってくれる?」

「はい!」

 

上手いことリコーダーのデータを見る機会が得られた統慈は、パッと

最近のデータに目を通して…

 

「新規10件、全てがアメノハバキリ?どういうことだ?」

 

そこに、レーギャルンや

アンノウンと書かれた項は無かった

 

「観測されてない…のか?」

「どうしたの?早くこっちこっち!」

 

「あっはい!」

 

思考を進める間も無くパシられて走ることになる統慈、しかし、その頭の中には

レーギャルンは観測されていない、という事実がしっかりと残っていた

 


 

「よし!」

「終わった…」

 

日が暮れようという頃になって

ようやく調整を終えた統慈と了子は、未だ研究室にいた

 

「ちょっと人使い荒いですよ…」

「頑張れ男の子!」

 

「女装して女学院に通ってるんですがねぇ…誰のせいだと」

「もちろん自分でしょ?」

 

取りつく島もなかった

 

「はぁ……」

 

ため息をつきながら、研究室を辞して

掏り取ったファイルを自室に持ち込む

 

「ええっと?これは…」

フィーネとしての研究資料らしいファイルは、さまざまな情報に溢れているが

いくつかの欠落も伴っている

 

「…これだと、シンフォギアの制限の数が三億もある理由がまるでわからん…

しかもそんな高性能にするから負けるんだよ…」

 

しかし、幾らかのシンフォギアの設定、性能の評価などが書かれた辺りや、ノイズの情報が書かれた辺りは有効に活用できるだろう

 

「ん?これは…」

 

統慈が見ているのは

聖遺物の共鳴についての情報が書かれた項

 

「…えっと…?」

 

完全聖遺物は人間の音を必要としない…辺りは読み飛ばされ、聖遺物のかけらの力を増幅するために、特定波長(聖遺物の波長)と共振する…というあたりを読み込んで

 

「とりあえず、写本にするか」

 

必要な情報をノートの裏側に書き込み始める統慈だった

 

 

翌朝

 

「だぁるい…こんな時のために

カストディアン流栄養ドリンク」

 

やっぱり謎のドリンクをゴクゴクと飲んで体力を水増しして、写本を見直す

 

「シンフォギア が女性じゃないと使えない理由、固定化されたエネルギーで装甲を作る関係上、それだけのエネルギーに耐えられる肉体が必要で、それが実現できるのは女性だけ

 

って事で良いのかな?」

 

頭の中で理論を分解し観察し、再構成して、それでやっと理解する

 

細かい事は置いておいて、

大枠はそれで良いのだろう

 

「よし!学校行かなきゃ…はぁ」

 

もう女装に慣れてしまったことを自覚しつつ、それでも嘆く統慈であった

 

「おはようございます…」

 

そうして退屈な日中は過ぎ

5時ごろにようやく学校を出て…

「夕食はお好み焼きにしよう」

 

前に響に勧められた、ふらわーに行く

 

「さて!…ん?あれは」

 

統慈が見かけたのは、

ふらふらと歩いている響

 

「響?」

 

「………」

「響!」

「………」

 

「響っ!」

 

「っ!?あ…」

「どうしたんだ?そんなぼうっとして」

 

「…っ!」

突然、響きが泣き出した

 

「どうしたんだ本当に!?突然泣き出すほど悲しい事があったのか?」

「…みくが…みくがてんこうしちゃって…ぐすっ…私…一人になっちゃった…」

 

恥も外聞もなく泣く少女と

その隣の男。

 

どう見ても泣かせたのは俺である

 

「響っ!?」

 

「ふぇぇん!」

「あぁもう!ガキみたいに泣くなよ」

 

とりあえず響を衆目から隠すために

路地へと向かった

 

「響、落ち着いたかい?

…涙を止めるには、一度眠るのも手だが、思いっきり泣いて、枯らしてしまうのも手だと言う

俺でよければ受け止めよう」

 

格好をつける統慈だったが、あまり格好良くはない…ここが顔面偏差値の差である

 

 

それはそれ、

響には格好良く見えていたのだろう

 

「じゃあ、一緒にいて」

「あぁ、良いよ、俺でよければ」

 

その後しばらく話を聞き、響を家に送った

 

「…そろそろマズイか…?」

 

響がいじめられている頃、なのはわかるが、これはそろそろ父親が失踪する時間だと思う

 

やはり失踪後の足取りは把握していた方がいいかもしれない

 

「響、今後も定期的にメンタルケアと面談を実施しないと危険か…」

 

ゆっくりと『統慈』という存在を

意識に組み込んでおかないと、環境ストレスからの圧力で折れてしまいそうだ

 

「…スケジュールの調整はしておく」

 

頭の中で、予定を調整しながら

統慈は部屋へと戻るのだった



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第17話

「そうか、親友が、何も言わずに転校…ね」

 

あれから何日か経ったのだが、統慈は響と定期的…というより毎日会っており、その話を聞きながら状態を確認、メンタルケアを行っていた

 

「…はい…」

「響、大丈夫だ、僕がついてる

君は一人じゃない、手を離されはしない、それに君の親友とやらも

君が信じた友人が、そんな非道を望んでするわけがない、なんらかの事情があるか

そもそも、正規の手段が阻害されている可能性もある

 

とにかく僕が確認してみるよ」

 

また発作を起こしかけた響に声をかけて、落ち着かせてから、ゆっくりと身を離す

 

「…転校先、転出先は確認できるかもしれないが、公権を乱用するわけにはいかないからな、いちいち考えなきゃいけないのも考えものだ」

 

そっと頭から背中に手を回して

ゆっくりと撫でる

 

あくまで優しくだ、性的な意味はない

それに可哀想なのは…統慈の性癖ではない

 

「大丈夫、君は一人じゃないよ」

徹底的に甘い言葉をかけて蕩かそうとしているわけじゃありません

 

「頼っても、いいんですか?」

「もちろん」

 

「負担になるかも」「君からだったら大歓迎だよ」

 

「迷惑に」「なる訳ないだろ?」

 

なんども逃げ道を潰して、

周到な蜘蛛のように巣を張って

蝶を優しく捕まえる

 

「落ち着いたね…それじゃあ僕は戻るからまた今度、さよならっ」

 

とりあえず響と別れた統慈は

すぐさまに司令に

『ライブ事件が禍根を残している』事をしっかりと伝えたところ

 

なんと司令は突然の事ながらにやってくれた…やらかしたのだ

 

ツヴァイウィングライブ事件被害者の会を立ち上げ、その再就職支援組織と同時に、ポストとなる会社まで立ち上げたのである

 

当初から不動産業から財務コンサルタントまでの多角的な業務をやっているが

やがては機械生産まで手を出すそうだ

 

「さっすがぁ…」

お偉い方もこれには驚いたのか

急遽招集がかかったが、これにも堂々と対応していたらしい

 

さすがOTONAと言うべきだろう

 

「…大人は強い、これ常識な?」

 

笑いながら統慈も登校準備(女装)を進めるのだった

 

「最近一人で女装できるようになったからなぁ…」

 

数週間も経つと、自分の格好を作るのも必要になってくるので、統慈は早めにメイクやウィッグの整え方などを習っていたのだ

 

「…よし、オーケーですガングニール!」

 

それは空耳であるとは誰も指摘してくれなかった、そもそも誰も知らないのだから当然だが

 

「…拍木旋音、出撃します」

 

統慈は今日もリディアンに向かうのだった

 

 

余談になるが、統慈は体育の授業全てを欠席することになっている…見学もするが

とにかく体そのものだけは誤魔化せないため、体操着や水着は流石に諦める他ないのだ

 

「体育全部欠席は流石に怪しいよ…

自分でもそれくらいわかるって」

 

自覚はしているようだが、これも必要な事、頑張ってほしい

 

「……はぁ」

 

今日もミステリアスな雰囲気が出ている、完璧な美少女である

 

「……なんで音楽が5単位もあるのかなぁ」

 

「週5音楽って、他の学校じゃあり得ないよね?」

「そりゃまぁ、リディアンは音楽院ですし?学院ってことはミッションスクールですから、特殊な授業があってもおかしくないと思いますよ?」

 

女子A.Bが話しかけてくる

ちなみに、全員旋音の友達を自称しているが、正体は知らない…知っていたらまずい

 

「そうですよね、えぇ」

 

「学費安いから来たのに、こんなに毎日毎日歌わされてたら喉壊れちゃうよ…」

 

1年は早くもヘタりがちだが

2年以上はもう慣れたもの、と行った表情である、むしろ他の学校よりも授業の進みが早いので、そっちに苦労しているレベルで

 

「あ、今日学食行かない?

私弁当持って来てないんだ」

「…別に良いですけど」

「私のものを分けてあげましょうか?」

 

Aに渋々ながら同意する統慈と

同調するB

 

結局、三人揃って学食に向かったのだが、カレーパンはすでに売り切れていた

 

「…はぁ」

「人気メニューですし、仕方ありません」

「人が多い時は、もう取られてると考えた方が良いよ…潔く諦めよう」

 

その日一日中、Aは授業に身が入らなかったという

 

「んで、登下校中にまでノイズか…」

 

すぐさま司令に連絡をかけて

避難誘導を行う旨を伝え…

 

「オラァッ!」

 

通信を着るや否や、ノイズに殴りかかる

 

sealder leagjarn nshel tron(絶望を封じる箱を開け)

 

「ハァッ!…変わった!」

 

右腕から殴りつけて、左腕、足と乱撃を仕掛け、次々に装甲が装着する

 

「フッ!」

最後に頭突きでヘッドギアを装備して

全身の装備換装が完了する

 

「…今回は近接だけでっ!」

 

前回は大技を使ったが故に強制解除を起こしてしまった、なら使わないという条件下での自分の戦闘力を調べよう、ということだ

 

統慈にしては頭を使っているが

実戦縛りというかなりキツい縛りが付いているので、あまり変わっていない

 

精密な検証ができていない以上

体感どの程度

という差に過ぎないのだから

 

「………ふっ!」

戦闘しながら、時間を計る

自分の戦闘継続可能時間の限界を測定するつもりなのだろう

 

「…まだやれる…」

 

呟く声は、前回記録を超えた証

約3分を超えてなお、

そのギアは歌もなしに衰えを見せていなかった

 

「頑張れる…」

 

拳は振るわれ、鎧は解けて炎の剣を形成し

 

「…戦えるっ!」

 

振り下ろされた炎は、

全く抵抗を感じさせずにノイズを切り裂いていく

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

最後に炎を吹き上げて大きく跳躍

「権限起動:9/1定率 積層変成-物理固体」

 

炎が形象化して、

足に接続された大剣を形成

 

天の逆鱗と同じようにライダーキックのポーズをとり

 

「うぉらぁぁっ!」

 

爆発とともに、ノイズの山が消し飛んだ

…剣は炎に還元されて消滅し、統慈の装甲に戻ってきた

 

洋風な擬似:アメノハバキリ(P・A)戦法は一応の成功を見たようだが、まだ装甲は解除されていない

 

なので

 

「今度は…っ!」

遥か遠くから、歌声が聞こえた

それはつまり、()()()()()()

なので、統慈は諦めてさっさと装甲を解除し、レーギャルンを腕の中に戻し

今回はちゃんと入っていた

(以前の緊急装備以降、警戒してずっと入っている)私服に着替える

 

それとほぼ同時に

 

「…拍木!ノイズはどこだ?」

「もう殆ど炭です!近くにはいないようですが…」

 

「了解、こちらで探すからここに居てくれ」

「わかりました」

 

たしかにもう殆ど炭だ

なにせ統慈がやったのだから

 

翼さんにはもう仕事はないと言えるだろう

 

「…まぁ、終わりかな」

 

一日に数度もノイズ(災害)が現れるような事など、ないと言っていいだろうし

万一あっても、近くの正規職員に押し付ければいい話だ

 

彼らはノイズから逃れる訓練もしているし、十分に生き残れるだろうから

なんの心配もいらない

 

統慈は、のんびりと翼さんを待つことにした



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第18話

「で、どうでした?いましたか?」

 

「いや、周囲にノイズはいなかった…ところどころに残骸らしき炭の塊は残っていたが…それだけだ」

 

「そうですか…被害者の処置はもう、こっちの人員で対処済みです

お疲れ様でした」

 

しばらくしてから帰ってきた

翼さんにお辞儀をしてから、統慈はその場を離れ、徒歩でリディアンの裏側から入り直して、二課に戻った

 

「…はぁ……」

 

頭の中では考えごとを続けているが

外面的には、何度も何度もノイズに遭遇する己の身を嘆いているように見えるので、周りの大人たちから若干の心配のこもった目で見られている

 

もっとも、統慈はそれに気づいていない

 

(チェンソーみたいに刃をギザつかせた構造の剣を作って撫で斬りにすればより大きく傷をつけられるかもしれん…いや、そもそも人体を相手に攻撃するわけじゃないんだ、スペツナズナイフみたいに刃を射出して刺すのも良い…)

 

頭の中では次の実験に備えた

試験構想を練っていたようだ

 

 

「拍木はいるか?」

 

その声と共に部屋がノックされ

慌てて扉を開く統慈

「いますよ〜?どなたでしょう…司令」

 

「おう!」

 

ドアを開けたその裏にいたのは

我らがOTONA、

この二課の司令官、風鳴弦十郎だった

 

「最近、君が初動対応をやる事になったノイズ群は二回、ほぼ連続でだ…今後も、もしかすればあるかもしらん、それに両方ともシンフォギア装者()が到着する前にほぼ全滅しているからな…それなりの時間耐えて、避難誘導を続けていたんだろうし、精神的な負担もあると思ってな」

 

「それで直接顔を見にきたんですか?」

「あぁ、平たく言えばそうなんだが…それだけじゃないぞ」

 

その表情を見て、何事かと言えるようなことではないと察した統慈は

即座に弦十郎を部屋に入れる

 

「どうぞ、なにもない部屋ですが

それでも茶くらいは出せますよ」

 

「すまんな、気を遣わせて」

「いえ、気にしないでください」

 

統慈はさっと調理台の方に向かい

その裏の棚からガラスのコップを取り出す

 

「緑茶にしますか?紅茶にしますか?」

「緑茶で頼む」

「はい」

 

手早く湯を沸かして、パック品ではなく茶葉から緑茶を淹れる統慈、その手際は悪いとは言えない程度に滑らかで、慣れているように見える

 

「…」

「どうぞ、安物ですが」

「もらおう」

 

一人分というのもそれはそれで礼を失するという事で、ついでに統慈自身の分も淹れられた茶は、やはり強く湯気を立てており、熱湯で手早く煮出した手抜きである事を如実に伝えているのだが

 

それでもわざわざ茶を淹れるあたりを若人なりの気遣いと感じたのか、

感心したような表情になる弦十郎

 

「しかし、今話に来たのはそれではない、一応だが、この話をしておこうと思ってな…」

「何の話ですか?」

 

弦十郎の言葉に興味を示す統慈、そこへ切り出されたのは

 

「以前言われた、稽古の話だ

俺が多忙故に断らせてもらったが、あの話は今でも有効か?」

「はい、もちろんです」

 

「蒸し返すようだが…もし良ければ、引き受けさせてくれないか?」

「ありがとうございます」

 

深々と頭を下げる統慈に

逆に渋い顔になる弦十郎、

 

「最近ノイズの出現回数は目に見えて増えている、君がそれに遭遇した場合

まず逃げるのではなく

避難を誘導しようと動くこともおおよそわかった、であればやはり

君自身が言っていたように、鍛えておくことも重要だと思ってな…幸い

事業は増えたが、そこに優秀な人材が集まってくれてな?

 

仕事はきっちりこなした上で手が余っているからとこちらの仕事にも手を貸してくれている、お陰で俺も手が空いたという訳だ」

 

「なら!」「あぁ、俺で良ければ、な」

「こちらこそお願いします」

 

深く頭を下げる統慈、しかし

 

「少し調べて見たが、俺の鍛錬は…少々、世間一般で言う身体強化の訓練とは掛け離れているようだ、それでもいいのか?」

 

確認のような言葉が放たれる

 

「もちろんです!」

それに即答した統慈は

弦十郎司令の事をこう呼んだ

 

「よろしくお願いします、()()!」

 

それは奇しくも、シンフォギア本編において主人公、立花響が用いたものと同じ呼び方だった

 

「ふっ、師匠か…俺は厳しいぞ?」

「望むところですよ」

 

笑顔で握手する司令と統慈

…統慈の腕はメリメリと音を立てているが、やせ我慢で表情を守っている

 

「よし、そうと決まれば君用の特訓メニューを立てよう、俺と同じでは成り立たんだろうし、真っ当な身体強化の訓練を積まなくてはな

 

茶、うまかったよ、ではこれにて失礼する」

 

弦十郎司令はそのまま帰って行った

「………はぁ………」

 

一方残された統慈は悲鳴をあげる腕を押さえながら、最近新しくもらった冊子に書いてあったところの

『ルル・アメルでもお家でできる!カストディアン流鎮痛剤の作り方』に従って作っていた鎮痛剤を飲む

 

正確には痛みを和らげているのではなく、痛覚を伝達させないようにしているだけらしいが、それでも焼け石を冷やすことは出来る

 

「水でも大量に掛ければ焼け石を冷ます、塵も積もれば山…っても、栄養ドリンクと併用してしっかり治さないとなぁ…」

 

カストディアン流栄養ドリンクと、同じくカストディアン流の鎮痛剤、どちらも成分は薬草や野菜、生薬の類から抽出しているので、もちろんながらに合法

 

決して違法行為ではなく

単なる調理である、凄まじいほどの手間と負担はあるが、それだけである

 

「…今日は寝よう…」

 

起きたら明日の分の栄養ドリンクを作る事を心に決めながら統慈は眠りにつくのだった



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第19話

お待たせしました


「腕は…痛くないけど…」

 

翌朝目覚めた統慈の腕は腫れていたり、赤くなったりもしていない、まぁ加減されていたのもあって

痛い程度にすんでいたからの話だろう

 

「よし、学校だ」

 

痛みの引いた腕を存分に使って化粧と女装を施し、素早く仕事を終えて

声のチェックに入る統慈

 

もう慣れて来ている

 

Gatrandis babel(ガァランディスバァーベェル) ziggurat edenel(ジィグラッド.エェデナール)

Emustolronzen fine(エミュストォ ロンゼンフィーネ) el baral zizzl(エルバァラルツィール)

9Gatrandis babel(ガァランディスバァーベェル) ziggurat edenel(ジィグラッド エェデナァール)

Emustolronzen(エミュストォーロン ゼン) fine el zizzl(フィー ネル ツィーーール……)

 

「よし完璧だ」

 

統慈はこれを以て

声調整を完了して

 

髪を再確認してから学校へと向かった

髪型の乱れはウィッグバレにつながるからね、仕方ないね

 

「…行ってく…行ってきます」

 

部屋を出るときには既に口調すらも用意したものに切り替えて、統慈は『拍木旋音』を演じていた

 


 

「…で、帰ってきたら」

「帰り次第司令室に来てくれって伝言がきてるわ、()()()()()♪」

「やめてください了子さん」

 

すぐ脱ぐ巫女さんとお話しする間もなく、司令室に連れて行かれるのだった

 

「おう、来たか」

「ただいま戻りました、司令…この格好のままでよかったんでしょうか?」

 

「構わんよ、むしろそれが普段着なんだから、そのままで十分動けるようにならないとな!」

 

とてつもない脳筋理論で

女子制服のまま動けと言われた統慈

彼の明日はどっちだ

 

「それでは早速、これを見てくれ」

 

勘違いを招きそうなその言葉と共に提示されたのは時間割表

 

「すごく…偏ってますね」

 

映画鑑賞3時間(おそらく二時間半ぐらいのものを見るため)にその他基礎筋トレ1時間

どう見てもありえない

 

これでも原作的にはだいぶ譲歩した方である

 

「うむ、筋トレに偏りがあるが、これはまぁ、全身バランスよく鍛えるために、まずは『鍛えられる筋肉』を作るということで、背筋、腹筋、上腕筋、大胸筋、大腿筋を基礎レベルにまで到達させるためだ」

「以前の身体測定と同時に行っていた筋力テストでおおよその数値を出してるわ

週に一度はデータ測定して

トレーニング負荷と成長率の記録を作るから、しばらくはこれで頑張ってね」

 

フィーネもなぜかノリノリで協力しているようだが、本当に意味不明だ

 

なぜ映画鑑賞が入っているのかは統慈にはわからないだろう

 

「わかりました、ではこれで

今日からでいいんですよね?」

「あぁ、まずは映画鑑賞だ

これで筋力の使い方を学ぶといい」

 

「…了解しました」

 

此処から地獄の映画鑑賞が始まった

 


 

「よし!それじゃあ少し早いが

筋トレの方に移るぞ」

 

エンドロールまできっちり見た上で

かなり眠気が来ている統慈に

やる気に満ちた声がかけられる

 

「…了解しました」

「まずは100メートル流しで行くぞ、ウォームアップだ」

「了解です」

 

移動した先のフィールドで軽く走った後、腿上げや背筋、腹筋などを限界までやらされ

 

「…よし!大体のデータは揃ったな

高校生基準の新体力テストに照らし合わせると…投擲は5点、シャトルラン6点、それ以外は概ね7点、長座体前屈は10点だな」

 

出た数値は体育会系の学校の平均値ぐらいだった

 

「…はぁ……はぁ……」

 

全力は尽くしていても

やはり生来苦手な事はある、ソロモンの杖は393に任せておくべきだろう

 

「此処から最低オール10点を取れるように半年で鍛える!相当負荷が掛かるが、普段の体育を欠席しているツケだと思えばなんという事は無いだろう!」

 

「…大問題ですよそれ…」

 

統慈は聞こえないようにそっと呟くのだった

 


 

「旋音、最近なんかぼーっとしてること多いよね?」

「わたくしには分かりますわ…

普段生活面でも成績面でもきっちりしている彼女が隙を見せる…この流れ

 

男ですわ!」

 

「おー…とこ?………は?!

旋音に男!?どういう事だし!

旋音は同族(非モテ)じゃないの?」

「無論あの子だってそれは自覚してる筈、でもそれでも!やっぱり彼のことが気になって仕方がない!認めたくないのに…悔しい!でも想っちゃう!恋とはそんなものなのですわ!」

 

なお、統慈は高負荷筋トレのせいで疲労が激しく、鎮痛剤も栄養剤を併用してなお肉体の疲労が抜けないほど疲れているせいで脳が満足に働いていないだけである

 

ちなみに、生成には複雑な手順が要求されるので、フィーネ(了子)が作っている

 

流石に訓練後の時間で作れと言うには酷すぎる手順であるから残当でもあるが

 

「私は男なんて作ってないんだけど…大丈夫だよ、授業は受けてるし

体育は見学だけど…その分も動いてるから」

 

嘘は言っていない、『その分』が唐突かつ過剰すぎることを除けば、だが

 

「ならなんで急に?」

 

「そのジム通いがかなり響いてるだけです…ふぁっ」

 

唐突なあくびを抑えて、眠気を堪えつつ必死に授業に集中する旋音

 

「今の可愛い声何ぃ?」

「…これはバ○ブ仕込まれてますわ」

「どこの筋肉鍛えてんのよ…」

 

何やら邪推を呼んでいるようだが

断じてそんな事はない

この年頃の女子はそう言う妄想が激しいだけである

 

「…なんか違うことを考えられている気がします…」

 

旋音とてそれは察しているのだが

言えば言うほど騒がれることもまた知っているので、その辺りは自然と下火になることを願って無視することにした

 

そして、翌年の春になり

そんな噂は(本人の巧みな情報操作によって)消え果てていた




いや…とうとう原作開始まで間もない時間ですね…(適当感)


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第20話

順当に単位を落とした体育を除いて

すべての教科で80以上の点数を出して一応進級に成功した柏木旋音

 

だが、やはりというかなんというか

彼に現れた身体的な強化は

一般的な筋トレ程度のレベルに収まり、OTONAのレベルには至っていない

 

「まぁ仕方ない…かしら?」

 

この一年ですっかり板に付いている女装も、もう誰の手も煩わせずに

一人で、極めて短時間のうちにできるようになっていた

 

「さて、帰りましょっか」

「はいよ?…今日メック寄る?」

「寄りません、夜に用事があるから、その仕込みで早めに寝るのよ」

 

さっと誘いを遮って

不自然にならない程度に情報を隠したセリフを置いて、そのまま鞄を取る

 

その動作もなんとなく力任せだった昔とは違い、力の向きや勢いなどを制御して

女の子らしく、

上品な動きになっている

 

フィーネは何を努力しているのだろうか

 

「…それじゃあ、帰りますよ」

「はいはーい、で、詩歌達は誘うの?」

「詠奈だけよ、二人はたしか今日委員会の集会があったはずだから」

「そっか…んじゃっ!」

 

荷物を詰め込んだ鞄をガバッと持ち上げるのは、琴乃詠奈(17)

 

かつて友人A(仮称)とされていた

現友人である

美居歌葉(17)

成瀬詩雅(16=遅生まれ)

 

とともに四人でよく一緒にいる

というか、女子の連帯意識は基本的に強く、基本自由時間は一緒にいる

 

「みーちゃんもシガも忙しいんじゃ一緒になるのは二人だけか…寂しいねぇ」

「そうね…一人よりはマシだけど

やっぱりみんな揃ってこそよね」

 

「あーやめやめ!明日一緒に帰れば良いじゃん!辛気臭い空気は出荷よー」

 

「…クスッ…」

「あ!笑った!よし!

今日のスマイルゲット!

…それじゃあ帰ろっか」

 

つい笑ってしまった旋音に指を突きつけてから自分も笑い出す詠奈

 

一仕切り笑い合ったあとに

一緒に教室を離れて

そして共に駅へと向かう

 

「それでね…」

 

詠奈の出す話題は尽きないが、

旋音とて女子向けの話題はちゃんとチェックしている、そんなところでボロを出すわけには行かないからであるが

実を言うと

半分以上、単純に友人達との話が楽しいからもっと話したいと考えているのが原因である

 

「それじゃあ、ここで」

「うん、じゃまぁ…また明…」

 

『また明日』なんの変哲もないその言葉、しかし今日に限ってその言葉は中断された

 

「ノイズ!」

 

詠奈を庇って押し倒し路上を転がって、すんでのところでその手から逃れる二人

 

「…来たか」

原作開始後一番わかりやすい目印である、ツヴァイウィングのライブ後

2年後の新年度のタイミング

 

ノイズ襲来が響の融合症例:ガングニール・ギアの覚醒を告げるその時が

ようやく来た

 

「でもそれより…まずは」

「…なにあれ…なんなの…」

「ノイズです、詠奈!逃げて!」

 

詠奈を強引に立たせて

同時にノイズの方を確認する

(よかった、まだ会話フェーズだ)

 

ノイズの行動として、よく空気を読む

ちゃんと会話中であることを察して待ってくれているのだろう

 

「…早く逃げなさい、詠奈!」

「だからなんなのよ…急に出てきて…なんでノイズ?なんで?」

 

完全に恐慌状態を起こしている詠奈は旋音の話を聞きはしない

 

「…仕方ない」

 

故に選択した、

戦うか逃げるかの二択を

 

「こっちに!」

 

強引に詠奈の手を引き

無理やり走り出す

 

追ってくるノイズを見させないように頻繁に声をかけながら、全力で走り

 

足が限界に来たらしい詠奈が座り込みかけたところで、鞄を放り捨てて詠奈を背負う

 

「んんっ!」「きゃっ!?」

 

「今は逃げることが先決!」

 

語尾や語調の修正はこんな時でも切らさないが、それでも焦りながら

OTONAレベルには至っていない程度の速度で走る

 

体力はあるが、さすがに高2女子一人をそのまま背負ってフルマラソンなんて出来るような自衛隊員レベルの体力ではなく

 

「く…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

ついに肉体側が悲鳴を上げ始めた

「もうやめてよ…置いて行って

置いてけば一人で逃げられるでしょ!?なんでよ!」

「…はぁ…はぁ…置いてく?…はぁ…バカな…事を……」

 

既にノイズに囲まれている状態

変身していなくてもノイズに接触できる統慈=旋音が単独ならともかく、

詠奈が助かる道はない

 

「でも」

「『だっても』『でも』もない!友達だから!その一言で十分だよ!

 

友達を助けるのにそれ以上の理由はいらない!私が一人で逃げたところで!

 

それで私は助からない!友達を見捨てて逃げた卑怯者になって!それで私は!明日笑っていられないから!」

「旋音…」

 

そこでようやく、ノイズが動き出す

再びの二択、今度の選択は…

 

「クラスのみんなには、内緒だよ?

 

sealder leagjarn nshel tron(絶望を封じる箱を開け)

 

右腕から湧き上がる炎が糸を紡ぎ

炎の織布を形成して全身を覆う

それと同時に知覚が拡張された

 

詠奈の方に炎を伸ばして炎の壁で周囲を囲い込み、ノイズが侵入しないように防御した

 

「…殲滅する

 

権限起動:1/9定率 積層変成物理力体」

 

早口と同時に装甲の炎を伸ばして

Rosso=fantasma(ロッソ=ファンタズマ)

 

炎の槍を形成、槍を鞭のように伸張して縦横無尽に撃ち放つ

 

「…ぅぉぉぉっ!」

 

声の偽装を敢えて解き

全力で大暴れする

 

ノイズは未だ数が減らないが

それでも統慈の炎は衰えない

自重しない統慈は自分がスカート姿であることすら忘れて、身長より長い大槍を振るう

 

「やれる…勝てるぞ…

Rosso=fantasma!」

 

再度炎を注ぎ込み、サイズを引き上げて、巨大な槍を斧槍(ハルバード)に変えて

大きく振り回し、さらに巨大化させて

 

「horizontal=wave」

 

視界のノイズを横薙ぎの一撃で完全に撃滅する

 

「…ふぅ…」

 

ノイズ被害と言い張るには明らかに派手すぎる破壊痕が残ってしまったが

友達を守るためなら誤差であろう

統慈は即座に装甲を解除して

炎の障壁を解く

 

即席だがこれの技名は

muro di fuoco(防火壁)…解除」

 

さすがにファイアウォールでは直接的すぎると思ったのか、イタリア語で誤魔化している

 

ほかはほとんど英語なのに

ロッソ=ファンタズマとモーロ ディ フォーコだけはイタリア語なのは

何故なのだろうか

 

「詠奈!」

そこにいた詠奈は…気絶しているのか、倒れていた

 

「っ!」

 

otona塾で習った救命技に則りすぐさま呼吸と心拍を確認して…異常がない事を知り

大きく息をついて落ち着く

 

そして統慈は…再び詠奈を背負って

駅を離れることにした

 

幸にして携帯はポケットに入っていたので、投げ捨てた鞄を探す必要もなく

先に救援を呼んでから…現場を離れる、詠奈の家は把握しているので、そこまで送ろうというつもりだ

 

「…はぁ…ついてない…」

 

結局、帰宅予定の時間に

大幅に遅れてしまった統慈は響の加入パーティーに顔を出すことすらできずに

意気消沈して寝入るのだった



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第21話

「…はぁ」

 

統慈、翌日学校に遅刻

 

昨夜に遅く帰ってきてはすぐに不貞寝した挙句に翌朝学校に遅刻とは

醜態ここに極まれりである

 

「…まぁ、仕方ないか」

 

ノイズだから仕方ない

これは意外と昔からある価値観なのだが、『ノイズ』という名前は意外と知られておらず『認定特異災害』として指定されている存在

という名目でのみ、高い知名度がある

 

ちなみに、天然のノイズはフィーネ曰く『10年一度の偶然』レベルで珍しいらしいが、フィーネは任意でノイズを呼び出す道具を(停止状態だが)所持しており

 

クリスを騙してそれをネフシュタンの鎧と共に起動させて使用する

 

10年一度という割に

フィーネがソロモンの杖で召喚した物以外にも各所に頻繁に現れているとは言ってはいけない

 

「よし」

 

もう慣れきった女装で登校しつつ

学校に電話を入れて…もう連絡されていたようで、あっさりと電話を切る統慈

 

「ノイズ被害の心労で…って、それむしろ休む言い訳だと思うんだけど…」

 

どうも緒川さんの心労とは

20分遅刻程度のものであるらしい

 

流石NINJYAなだけある

 

「まぁ良いや、いそご…」

 

otona塾で鍛えた脚で…上着の裾やスカートに気をつけつつ走る、無論

全力ストライドとはいかない

女子力のある走り方のために速度を犠牲にしているが、それてもある程度は早いといえる走りだった

 

「…到着!」

 

時刻は8:40

まだショートホームルーム前

少し遅刻程度の話に収まっているようだ、うまく交渉すれば遅刻判定すら出ない可能性もある

 

のだけれど

そんな皆勤賞狙いのようなことはしていないので、普通に職員室に寄る

 

「失礼しまーす」

「はいよ、話は聞かせてもらっているから、構わないよ…災難だったね」

 

「はい、ノイズが…目の前で…」

 

此処の学校の先生も、ほぼ全員が二課の息のかかった人物なので、この問答も正直に言えばほとんど茶番であるが、一応やっている

 

「…それじゃあ、私は教室に…」

「いってらっしゃい」

 

名前を覚えてもいない

英語の先生に送り出されて

教室へと向かう統慈=旋音

 

「失礼します…すいません、遅れました」「はいよ、話は聞いたから

気にしなくて良いよ」

 

軽いお小言だけを聞いて席につき、そこからは黙りこむ、心労が理由で遅れてきたやつが急に明るく振る舞い出しても心配を誘うだけだろうから

ある意味正解な行動ではある

 

「…大丈夫?」

「大丈夫ですよ…私は」

 

俯きながら、軽く頷く

(無論ほぼ演技)

 

「詠奈ちゃんも巻き込まれたって聞いたよ?」

「はい、一緒にいたので

詠奈と二人で逃げました」

 

普段ならそこらで、

愛の逃避行などと茶化されるのだが

命が掛かっている局面故にか、誰も騒ぐようなことはない

 

「…それで、詠奈は?」

「家に送りましたよ?…なんとか、と言った有様ですが逃げ延びましたから」

 

しっかりと答えておく

そこで回答を誤ると人殺し呼ばわりされるので、情報は秘匿したままのほうが

本来なら良いのだが

むしろ不自然に隠すのも危険であるので、敢えてしっかりと答える事にしたようだ

 

「…おつかれさま」

「はい…疲れました」

 

さっさと机に突っ伏してつかれているアピールをしておき、授業中もそれでやり過ごした

 

「帰ろう…」

 

結局、朝以外はなんの変化もなく

やや旋音のテンションが低い程度の話で処理されてしまったらしい

 

「…よし」

 

一人呟きながら頭の中で時系列や場所をピックアップし始める統慈

これからもやる事がある以上

先の事を考えておくに越した事はない

 

とはいえ、統慈の機記憶は不完全な穴だらけの代物、イベントなど

時間軸的に先のものに絞ると

ノイズが出現して響がガングニールを纏う、ガングニール=響とアメノハバキリ=翼が戦う→OTONA登場の三つと

 

ドスケベスーツのクリス登場→アーマーパージだ!(イチイバル装着)およびデュランダル輸送作戦の響暴走程度である

 

クリスのネフシュタンについては無力化する算段がつくものの、イチイバルにはそれは効かないし、どうせ原作通りのルートにならなければクリスは脱落してしまう、それはいくつかの状況で必要な彼女の火力が使えないということになり

 

最高のルートで進んでも三期GXの最終戦(VS覚醒キャロル)で詰んでしまうことを意味する、無論大概の場合ではそれ以前に一期の最終戦(VSネフシュタン=フィーネ)での月破壊が達成されてしまうだろうし、そこから連鎖的にシェム・ハ登場である

 

一期のギアでは出力が足りなすぎてシェム・ハに負けてしまうだろうし、そもそもシェム・ハは倒せてもそこらの人間を依代にして無限に復活するのだ

エクスドライブでもどうにもできない事はある

 

「よし」

 

二度目の呟きが上がると同時に

統慈=旋音は立ち上がり

 

いつのまにか終わっていた授業の内容をノートに残しながら、同時に

別のノートに作中の時間軸やフィーネの元から引っ張り出してきた聖遺物の研究についてのデータ、櫻井理論の論文から抜き出してきた文章やグラフデータの写真(無論紙にコピーしたもの)を書きつけたり貼ったり、見る間に余人が見れば黒歴史となるだろうノートを作り上げる

 

放課後になるころには

時間軸的にだけでなく、聖遺物の研究結果的にも、国家機密的にも、そして旋音の尊厳的にも誰にも見せられない黒歴史ノートが完成するのだった

 

そこに記されたのは

大雑把ながらに未来の記録となるフローチャート、おおむね原作通りだが

奏が生存しているという

明らかにズレたポイントがある

これが後にどう響くか、これが問題となるだろう

 

チャートはあまり先の未来まで伸びてはいないが、取り敢えず知っているイベント

予測できるイベント、および

フィーネの都合上どこかで起きるだろうイベントは確保している

 

…マリアの全裸生中継を録画するための努力の結晶であるだなんて統慈の口が裂けても言わないだろう、まぁどちらにせよ当分先の出来事だが

 

「アレは衝撃的すぎるイベントだからなぁ…」

一人仮想カラオケ中継中にギアボッシュートされて強制解除→服戻らずの流れをやらかしてしまうマリアの幸の無さやいかに

 

「帰りましょっか…」

 

今日ばかりはそっと二課に帰ると、その直後…

 

「サイレンっ!?」

ノイズ警報が響き渡った

 

「このタイミングで…アレか!」

 

部屋に帰って真っ先に飛び込んだベッドから飛び起きた統慈はそのまま部屋を出て

エレベーター(カ・ディンギル)で外へ向かう

そして、それと同時刻

 

響が決意も持たないまま(翼主観)

ガングニールを使って飛び出して行くのを見届けた緒川さんはため息をついて

 

「なんで装者同士、仲良くできないものなんですかね…」

 

などと呟いていた



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第22話響の変化

「…っ!」

 

飛び出していった響と、それを追うと同時にノイズ殲滅のために駆ける翼

二人の動きは全くバラバラで共闘意識など微塵もない

 

そして、当然ながら

統慈のことなどまるで考えていない、どころか思考の片隅にすら存在していない

かたや力を振り回すだけに必死になり、かたやノイズを殺す(正確には破壊する)ことしか考えていない

 

それでは意識は隙だらけだ

当然、統慈が介入するのに邪魔などはいらない

 

sealder leagjarn nshel tron(絶望を封じる箱を開け)

 

起動させたレーギャルンを纏い

その場で待機する

 

無論、この後のイベントで発生するはずの余波をかわすための展開であり

戦闘目的でもなければ、テストでもないのだが、嫌な気配が滲み出ている空間で素面でいることもできずに着装しただけである

 

「…………………」

 

統慈の表情はやや怒り寄りの興味

と言ったところだが

その目で見ているのは年端もいかない…というほどでもない美少女達

お巡りさんこいつです

 

「…今だ!」

 

小さく呟く統慈、その視線の先には

ロクな狙いも付けずに天ノ逆鱗をブッパする翼の姿があった、そう

OTONAの介入待ちである

 

「……よし!」

 

OTONAが翼の繰り出す天ノ逆鱗を止める…言うは易し行うは難しの典型であろうが

本当に素手でシンフォギアの攻撃を止めたのである

 

当然ながら爆風が巻き起こるが

仮にもシンフォギアを装備しているだけあって、統慈にその影響はない

 

そしてそれをやり過ごしたと判断した瞬間に、統慈はレーギャルンを解除した

OTONAにバレるのを防ぐためである

 

OTONAは時に気配を察知してくる

OTONAは5期の翼がアマルガムを使わざるを得ないほどの攻撃力を持つ

OTONAは完全聖遺物装備のフィーネを撃退する継戦能力がある

OTONAは攻撃特化のギアでも軽くいなす技量がある(なおジジイ限定)

 

これだけスペック山盛りのOTONAが(たとえ一期序盤とはいえ)出てきているのだ

警戒に力を費やす事を惜しいとは考えないのが最善であろう

 

 

「帰るか」

 

ちゃんと原作通りにシーンが進展した事を見取った統慈は素早く帰還するのだった

 


 

「…ふぅ……」

 

ベッドに戻った統慈は

とりあえず今日のの鍛錬は中止になるかと考えて、自分の分+響の分の

カストディアン流(ry

を作成開始し、リンカーの調合法を確認したり、調整のシュミレーションをしたりと色々やっていた

 

のだが、結局帰ってきたOTONAは何事も無かったかのように普段通り鍛錬を宣言した為、疲弊した体で走り回ることになり映画鑑賞中に寝落ちしてしまうのだった

 


 

翌朝 ピピピピー!と煩く鳴る目覚まし時計の音で起きた統慈は、すぐさまに自分の状態を確認して、旋音のままである事を知り、それならそれで、とすぐに登校して行った

 

「のだけれど…」

 

特にすることもなく、原作開始後の貴重な時間を無駄に過ごしているという焦りだけが蓄積する

 

「とにかく、私が今するべきことは…眠」

 

統慈は眠ってしまった

 

のだが、さすがに起こされ

眠い目を擦りながら(メイクは崩さないように)授業を受けることになった

 

「旋音?大丈夫?」

「ん、大丈夫……」

 

「全然大丈夫じゃないじゃん…全く…いいよ、明日ノート見せてあげるから今日は寝てな」

「ふぁぁすぁぅ…」

 

もはや真っ当に返事すらせずに眠る旋音は、その二時間後の体育の授業になってようやく起こされるのだった

 

その後、帰宅した統慈はまず

カストディアン(ry

を飲んだ後、身体的な能力の向上のための訓練をこなし、映画を見て

宿題に追いかけ回された後に寝た

 

 

その後、本当にその後…

 

「また、フラワーにきているわけだ」

「はい!」

 

なぜか統慈は響と『ふらわー』に来ていた

 

しかも、お好み焼きを食べるという本来の目的から外れた、そう…いわば

談話目的での会合である

 

「で、急に呼び出されたんだが

何があったんだ?」

 

「実はですね…わたしは今、ちょっと悩んでることがあって」

「ふむ」

 

響は人に頼るのが苦手だ

分担的に任せることはあっても、行動自体を他者に頼ることは珍しい

 

のだが、やはり信頼の賜物か

悩み事や不安などを素直に言ってくれるようになっていた響は、なぜかふらわーでだが

相談という形でそれを打ち明けてくれた

 

のだが、はっきりと言わせてもらおう

原作改変のバタフライエフェクトである

 

「つば…えっと、最近出会った知り合いの人と、あんまり打ち解けられなくて

昨日、昨日いろいろと…その、怒られちゃって…」

「下を向くのは勝手だが

その前に情報をおくれ、まずは何があって怒られたか、どのように怒られたか、真意はその人にしかわからないが推測はできるからな」

 

適当な事を言ってより詳しい情報を書き出そうとしているが、統慈は既に知っているので、やっている事は答え合わせどころかカンニング済みのテストの採点に近い

 

「えっと…あの…」

 

隠し事の苦手な響は事情をうまく説明できずにいるが、そこを読み取っている振りをして

統慈は響の耳元に囁く

 

「二課だろ?」

 

それだけで、響は驚愕の表情をする

「大丈夫、俺も二課の所属だ」

 

遂に明かされた…というか、今まで知らせるタイミングに巡り会えなかった情報が

遂に響にわたり、そして

響も情報漏洩のリスクがなくなった事で、真っ当に話せるようになった

その結果…

 

「アームドギア…か」

「はい…」

 

響は、問題に直面していた

そう、シンフォギア最高のセリフと言う議論の時に、必ず上がってくるセリフ

『繋ぐこの手が、私のアームドギアだ!』これは三期GXでのセリフ

つまり、アームドギアが手である事を、統慈は知らないのである

 

「まぁ今は出なくても

それは強い意志が有れば出るんだろ?

なら、立花の心持ち次第だ

少なくとも古来『出したい』じゃあ出ないから、何かの一念を決める必要があるけど」

 

「じゃあ!」「気にする必要はない、それだけだよ」

 

統慈は『結局それらしい武器が出てくることがなかったからなくても十分だろう』

程度にしか考えていないが

実は的を得ているのだった



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第23話

待たせたな!


「…さぁて、まずはどうするか」

 

やっぱりそれらしいことを言って体を鍛えさせる、と言うのが一番いいだろう

と単純なごまかしを頭に思い浮かべた統慈は、適当なことを言って響を空き地に連れ出し、

 

全力で殴られていた

 

「よぉし、そのまま打ってこい!」

「はい!」

 

そもそも中高生女子相手にボディビルダーのような筋トレは無理があるので、

必然的に『近接格闘戦に必要な筋肉』の筆頭である上腕筋を集中的に鍛えるトレーニングを行うことになり、最初に提案したのが…ランニングと腿上げ、そしてこのミット打ちだった

なおミットは二課の支給品である

 

さて、一番に言い出したこのミット打ちだが、目的は主に2つ

1、響の現在の体力レベルを確認して、それがどれだけ活用できているかを見る

2、響が打てるパンチの威力を測定し、シンフォギア装備時の響のパンチ威力を推測する

 

おまけとしては、響のパンチの癖を見ておき、敵対してしまうときには回避しやすくすることが挙げられる

 

…これは統慈の利点を挙げただけだが

それでも3つも出てくる

それだけで十分だろう

 

「えっと、普通にやってましたけど、これにどんな意味があるんでしょうか?」

 

「体力と身体能力のおおよその測定!疲れたら言ってくれよ?」

「はい!わかりました!」

 

その後しばらくして、黙々と打ち込んでいた響からの声が上がる

「もう動けません…」

「バカか、動けなくなるまで動くな

疲れてから体力は戻らないんだぞ」

 

響の手を引いて立たせて

軽い体を抱き上げる

 

「きゃぁぁっ!何やってるんですか!」

「運んでるだけだ、騒ぐかよ」

 

響を呼び出す前に置いておいた簡易イスに座らせる

 

ちなみにこれは二課の備品

…というか、持ち主が『いなく』なった椅子である

 

「落ち着くのには体を休めることがよい、あとこれ」

 

響にペットボトルを渡した統慈は、同じ黄金色の液体が入ったペットボトルをもう一本出して軽く呷る

 

「…こいつはいわゆる栄養剤でね、疲労回復に良いんだよ」

 

ただの栄養剤であり、薬物は一切ない

……忍殺的な意味合いではなく

本当に薬物も化学物質も入っていないのだ

純然たる自然産の生薬の力である

 

「…いただきます…………」

 

少しずつ飲んでいる響の姿は非常に可愛いのだがそれは置いて

 

「ぬるいです…」

「キンキンに冷えてると体に悪いんだよ、だからあんまり冷やしてはいない

んで、飲みきったか?」

「はい!」

 

元気の良い返事に、統慈は笑う

 

「んじゃそれ返してくれ

10分休憩だ、ゆっくりな

呼吸を整えるだけじゃなく、自分の体の状態を把握するのも重要だぞ」

 

 

軽く言っているが、自分の体の状態を完璧に把握するなんてことは一流のアスリートや武道家がようやくできるような技である

当然ながら中高生の女の子に求められるようなことではない

 

「…………10分経過、休めたかな?」

「はい!」

 

響の元気の良い返事に、

統慈は破顔しながら立ち上がる

 

「よし、じゃあ今の限界を調べよう

今は『体力の限界』から無理やりに回復した『付け焼き刃な状態』だから、当然すぐに疲れる、それは筋肉の断線とかで出力自体が最大から落ちているせいだから、気にしなくて良いけど

把握しておく必要があるんだ

自分がどれだけ動けるのか、自分の肉体はどれだけ頑張れるのか、それを知らずには鍛えられないからな!」

 

説明しながら

響を引っ張り

 

「ランニングからだ、今はどれだけ走れるかな?」

「頑張ります!」

 

ちなみに、三キロで足が動かなくなった

 

「まぁ、マシな記録だな、お疲れ様…これあげるから、風呂上がりに飲みなさい」

「はーい……」

 

目から光が消えている響に

カス(ry の水筒を渡す

 

「疲労回復、体力増進、代謝活性の効果があるから、当然ながら体温は上がるし、一時的に体力を消耗する、本当に疲れてる時は無理に使わない方がいい

 

トレーニング程度なら問題はないけどね」

 

「はひ……」

「帰り道、送ろうか?」

「お願いします」

 

流石に俺は車を使えないので

緒川さんを経由してエージェントを呼び、エージェントに車を出してもらった

 

「えっと…良いんでしょうか

こんな車なんて出してもらって」

「良いんだよ、シンフォギア装者は現状二人しかいない、その片方の自主トレーニングなんて邪魔できるわけもないし、送迎くらいあって良い」

 

結局そのまま家まで送り

ちゃんと夕食は食べるように念を押したあと、響と別れる

 

 

「で、エージェント・リンネ

よかったんですか?」

「エージェント・マスダ、その質問は意味をなさないよ…送迎自体についての可否なら、事前にシンフォギアの要項を読み漁ってお上に確認をとっているし、訓練についてなら僕はあくまで繋ぎ、一般自衛官程度のレベルに鍛えるだけだよ」

 

「……そうですか」

「エージェントとして、我々には責務がある、職場だけではなく私生活にまで

だから僕は私生活の一部として、立花響を鍛えることにした、それでは不満かな?」

 

「….いえ、それでは私はこれで」

「あ、待ってくれ」

 

「……」

「僕も基地に戻るから、ついでに乗せてってくれる?」

「………はぁ……わかりました」

 

最後だけは、少し締まらなかった



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第24話 兆し

「響ちゃんは…大丈夫かね…」

 

ため息をついた統慈は、しかし

あっさりと考えることを切り上げ

今後の予定を立て始めた

 

フィーネ曰く、ここからストーリーは加速する

 

ネフシュタンの鎧、ソロモンの杖ともに覚醒済み、そして時期に二課を襲撃する予定、シンフォギア装者を撃破できればそのままデュランダルを強奪、カ・ディンギルを起動

出来なければ時期を延長して再トライ、それでも出来なければ二課からデュランダル自体を動かして強奪させる予定

 

虎穴に入らずんば虎子を得ずとは言うが、いくらなんでも虎子が転がり込んで来すぎている

 

情報は毒にも薬にもなる

今の統慈にとっては…どうなのだろうか

 

「さて、と……」

 

取り敢えずの用意として

奏に渡すカス(ry を作り

奏の居室へ向かう

 

「失礼しまーす…天羽さんいますか?」

「はいはい、居るよー

開けて良いから入って」

 

返事をもらった後、言われた通りに扉を開けて部屋へと入る統慈

 

「はい、失礼します

…今日の分の栄養ドリンクですよ

まぁいつもの奴ですけど」

「あいよ〜…なぁ、統慈?」

 

「ん、なんですか?天羽さん」

 

奏にそっとボトルを手渡した統慈は

唐突に問われ、それに応える

 

「あたしの体、全然回復しないし

二年間も掛けてるんだしさ、もうあたしはガングニールの装者じゃない

戦えない、それにもう、まともに歌うこともできない、戦士でも歌姫でも居られない

そんなあたしが、ここにいて良いのかな…ってさ」

 

「そっくりそのまま僕にも言えますね

そもそも僕が調合している物なんですから、それでダメージの後遺症が消えないと言われるのなら、それは僕が無能であることの証明ですよ、そんな無能がこの二課に居て良いわけがない

それでも、僕はここにいる

そもそも『人が居る』事に理由がいりますか?」

 

ゆっくりと諭すように声をかける

 

「奏さんはいっぱい頑張って

戦えなくなるまで戦い抜いた戦士なんです、それを責めることはない

そもそも戦えなくなるまで戦うなんて、普通は出来ないんですよそんな事

だから、そんなありえない偉業を為した奏さんを称賛する事こそあれ、責めることはないでしょう」

 

ことさらにゆっくりと

あやすような優しい声で

その心を絡め取る

 

「そぅ…か、そうだよね…うん

ありがとう、なんか、元気出たよ」

「病は気から、とも言いますし、人って意外と気合でなんとかしますからね

その調子で頑張って治ってくださいな」

 

「おうっ!」

「はい、それじゃあ僕はもう行きますね」

 

そう言って部屋を出た統慈は

まず、フィーネのもとに向かい

 

「…シンフォギアのメンテナンスについて?…えぇ、別に資料くらいならいいけれど

今メンテナンスが必要なギアはないわよ?…ガングニールも休眠中だし、アメノハバキリは先月メンテしたから」

「資料の方だけでいいので、見せてください」

 

「…えっと、どこにしまったかしら

この棚の…ここね」

 

資料の棚から取り出された複数のファイルを預かり、統慈のデスク(最近置かれたもの)の上に積んで…

 

「♪〜」

 

鼻歌と共にファイルを開く

櫻井理論の論文やそれに関する研究記録などは大概読んでいるが、それとこれとは話が違う

エネルギーの物質化なんていうあり得ないはずの現象を起こしてみせるシンフォギアの、表に出せない研究記録

それは統慈にとって、宝の山にも等しいものだった

 

「…シンフォギアの資料って、他にもありましたよね?」

「いろいろあるけど、どれにする?」

 

「じゃあ徹夜で全部読みます!」

「おっ?一晩で全部読み切るつもりかにゃ?」

 

「やってみます!やらせてください!」

「…お主がそこまでいうなら良かろう…読んでみるが良い!」

 

フィーネと即興の師弟ごっこをしながら、大量の資料を借り受け、時折コーヒーを飲んだり、友里さんが作ってくれたサンドイッチを食べたりしながら、無数の資料の半分ほどを読み切るのだった

 

そして

 

「やった…やりきったぜ…真っ白にな…」

 

翌朝、無数のファイルの山に囲まれて沈む姿があったという

 

 


 

 

「んで、だよ!」

 

分裂型のノイズの出現により

『流星群を見る』という約束をフイにされた響が見るからに不機嫌な様子でノイズを殴り潰していく様子を…統慈は間近で見させられていた

 

「生態融合型、イレギュラーギア…ねぇ」

 

そう、響のシンフォギアは、他の誰とも異なる唯一の点として、奏のアームドギアの欠片が増幅する事で発生する、肉体の中に融合する形で存在するシンフォギア

 

そして、それはもちろん

聖遺物と人間の身体的融合を意味していて

 

櫻井了子が作ったのではない

『天然製』と呼べるギアなのだ

 

「…だからこそ、既存のシンフォギア5機との相違点の調査が必須

そのためには…」

 

「ハァァッ!」

 

目の前でノイズを殴る響を眺めながら

そのフォニックゲインやエネルギー、各種起動状態を確認していく

 

「戦闘でのデータ採取が不可避」

 

「セイヤァァッ!」

 

葡萄のような種を背負った分裂型ノイズがその体を爆散させ、後続のノイズを生み出す

その勢いは凄まじく、俺の方にまで押し寄せてくる

 

しかし

 

「フッ!ハッ!」

 

響は格闘技の動きを使いこなしているし、俺自身だってそう簡単には死んでやらない

 

「統慈さん!逃げてください!」

「ところがぎっちょん!」

 

アイロンノイズが変形し突っ込んでくる

その軌道を読み切り

 

シャツの裾が焦げるくらいで回避する

なにもこいつらは一瞬で全てを炭素化できるわけではない、炭素転換は多少なりとも時間がかかるのだ、そしてその時間が十分に得られなければ

炭素転換は結局部分的なもので終わる

 

「これなら…!」

 

危険な回避方法を繰り返す統慈に

響の方が痺れを切らして突進

ノイズを一気に全滅させるべく暴れ回る

 

「見たかった…」

 

それを嘲笑うかのように逃げ回る分裂型ノイズ、

 

「未来と一緒に、流れ星見たかった!」

 

全力で叫んでいる響を見つめて

手元の端末を握り直す統慈

 

そして

 

突進と打撃を繰り返す響

その顔に、すでにいつもの暖かさは無い

 

「お前たちが…争いのない世界を

なんでもない日常を…否定すると…言うのなら!」

 

エヴァの暴走のような荒い動きで

力任せにノイズを引きちぎっていく響

もはや戦いにおける技量など微塵もない

ただ力をぶつけているだけのような狂気的な姿だ

 

そして

 

「…適合係数が跳ね上がっている…?」

 

響のガングニール・ギアの出力が上がっている、どころか内包するエネルギーすらも

臨界寸前にまで上っていた

 

「ウゥァァゥ…!」

 

一体のノイズを叩き伏せ

そのまま頭に見える部分を踏みにじる響き

 

しかし、そこに爆発が襲う

 

「ッ!」

 

危なげもなく防御する響だが

天井に空いた大穴から

分裂型が一体、地上へと逃げる

 

その直後

 

天空からアメノハバキリをまとった翼が飛来し、分裂型を一刀両断した



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第25話

「翼さん!」

 

その後、響は何事もなかったかのように表情を元に戻して、最後のノイズを始末した事を確認した

 

「……お疲れ様でした」

 

統慈もデータの回収を終えて

モバイルPCの画面を閉じる

 

「面倒なことになったな」

 

『生体融合型のシンフォギア』という

現在響が纏い、そして融合深度を深めているギアについて、統慈が感想を漏らした

 

「このシンフォギア……いや、シンフォギアとすら呼べない『何か』は

確実に浸食を進めている」

 

過去知っていたデータによると

2期で物理的に出現するまでは精神的な影響くらいしかなかったはずだが

今こうして精密に観測すると、やはり侵食自体はすでに発生していて、戦えば戦うほどに進行している様だ

 

「どうしようもないか……」

 

今鎧の核となっている破片は、心臓のすぐそばに刺さっているメイン破片2つ

その周辺にある微小片8つ

合計10個の破片群である

 

現状では特段の影響はないとはいえ、それをただ放置するわけにもいかない

闇雲に取り除こうとするわけにもいかない

それは『戦姫絶唱 シンフォギア』という作品において、ガングニール・響は確実に必要な存在であるからだ

 

フィーネを倒すためにも、未来を助けるためにも、S2CAのためにも60億の絶唱をやるためにも、世界を救うのには響の(ガングニール)が必要なのだ

それを抜いてしまえば『特異性のない一般人・立花響』は群衆の中で輝きこそすれ、所詮(ヒロイン)にはなれない(モブキャラ)となり

 

同時に、世界はフィーネの野望に崩される

 

「……詰まないためには、まず」

 

統慈がフィーネを超えるか、それに準じるほどの知識を身につけて

カ・ディンギルを相当期間に渡って復活不能なほどに破壊するか

もしくは、世界中のフォニックゲインに匹敵するエネルギーで強制的にオーバーロードを発生させ、デュランダルごとカ・ディンギル自体を自爆させる

 

「……いや、カ・ディンギルは無限のエネルギーを放出するデュランダルをエネルギー源にできるくらい許容量が多い、下手は打てない」

 

キャパシティを見誤れば普通にエネルギーを充填するだけになってしまう

フィーネに利用されるのは御免だ

 

「あぁもう……」

 

突き詰めれば純粋な暴力で横から殴る他にないという事だ

 

「仕方ないか……!」

 

統慈が立てた作戦はこうだ

 

まず浮上する前、エレベーターシャフト状態のカ・ディンギルに細工をする

具体的には片側のシャフトの骨を折っておき、浮上と同時に自重でピザの斜塔状態にする

それでもまだ問題ない状態なら外殻をさらに爆破して倒壊させる

 

骨を折るだけならば、レーギャルンの熱を持ってすれば十分だろう

 

サブプランとして、外殻どころか芯材の砲塔だけで全くブレなく直立を維持し切った場合

小型のカ・ディンギルを量産し、電柱や建物の柱か何かに潜ませてエネルギーパイプをカ・ディンギル本体と繋げる事で本体のエネルギーを拡散させ、発射不能に陥らせた上で、分散したそれをフィーネ自身にぶつける

 

元が月を穿つためのエネルギーである、分散したとて地上の馬鹿女一人を焼くくらい訳はない

 

ちなみに、小型化ディンギルの用意は一応している

 

基礎設計は済ませているし

そもそもとしてエレベーターシャフトは非常階段からいくらでも観察できる

 

素材がオリハルコン云々というわけもなし

内部に電子回路があるわけでもない

 

「寒……」

 

不意に吹き抜ける風が風にあたり

統慈は一旦思考を切り上げて帰る事にした

 


 

「はい、響ちゃん」

 

カストディアン流栄養ドリンクを響に渡して、統慈も同じものを呷る

味は……なんというか、あまり旨くはない

 

「栄養ドリンクが美味しいわけがあるかって事だよなぁ……」

 

ため息をつきながら、響に視線を移した統慈

 

「で、なにか深刻に考えるようなことでもあったのかい?君が居るにしてはずいぶん遅い時間じゃないか」

 

現在時刻は18:00

学校の帰宅時間を過ぎかけている

統慈は立花家の門限がいつか知らないが、仮にも若い少女が夜に出歩くのは良くないことのように思えるようだ

 

「大丈夫ですよ、ほら私

ガングニールの装者なんで、まだまだ鍛えなきゃなーって」

「……無理をし過ぎだ、鍛えるのはいいが、体に負荷をかけすぎるのは良くない

逆に筋肉が死んでしまうぞ」

 

「えっ?!そうなんですか!?」

「そうだ、医学は多少齧った程度の俺だが知っている事もある

無理をしすぎると根本的に修復不可能なほどに傷ついた筋肉が生まれ、それは機能を喪失したまま容量上限だけを持っていく害悪と化す

つまり、無駄な見せ筋だな

これがあっても意味がない、だからそうならないようにうまく休まなきゃいけない」

 

統慈はそっと響の元に寄って、手を取り

そのまま軽く引く

 

「明らかにオーバーワークだ、強引にでも休ませるぞ」

 

戦力が上がるのはいいが、下がるのは容認できない統慈としては、ここで響を休ませるべきだと判断したのか、そのま施設の外部まで手を引いて歩く

 

エレベーターシャフトの前で手を離し

 

「さぁ、ここからは一人で帰りなさい」

「えっ?じゃあ拍木さんは?」

 

「僕は、ここから出られないから」

 

統慈は出来るだけ強い笑顔を作って答える

 

「ほら、早く行きなよ」

「……わ、わかりました」



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第26話

とりあえずまず、響と別れた統慈は

その後

 

研究室に来ていた

 

「……」

 

無言で置かれていたガングニール・ギアのペンダントに触れた統慈は

その中に宿る意思に対して問いかける

 

お前は一体何がしたいのだ?

響に力を背負わせた理由はなんだ?

 

さまざまな問いを投げかけても

なにも帰っては来ない

 

「……ダメか」

 

適合者ではない統慈では

その言葉を聞くことは叶わない

統慈ではどんなにリンカーを過剰投与しても同じだろう、適合率以前に全く適性が存在しない、そんなものでは強制的な手段でさえ伸ばしようがないのだ

 

「どうしようもない……クソッ!」

 

統慈は一頻り悪態をつくと

そのまま部屋へと帰り、小型カディンギルの作成に手をつけるべく設計図の用意を始めた

 

「パーツはダミー企業を通して民間に発注できるものばかり、真鍮・青銅、鉛と卑金属が大半なのがありがたいよ」

 

チマチマとごまかして貯めてきた競馬での利益はすでに億のケタに到達している

やろうと思えばダミーの人物を社長とした新会社とて立ち上げられるだろうが

それは危険すぎる

なにより派手に動けば財政や海外の連中に感づかれる可能性もある

アメリカが敵として関与する以上、世界経済に関わるのは危険であるし

機械系の企業は既に飽和状態であることは知っている

無駄なことはできない

なので

 

「既存の企業を使おうってことだよ」

 

統慈は凄まじい記憶力とフィーネの理論から導き出したカ・ディンギルの設計図とその素材を仕様として発注することで民間に大量のパーツを作らせて

ダミーの工場に納入させてそこで組み立てたミニ・ディンギル(仮)を多数設置する計画を立てていた

 

そしてその努力は今羽ばたく

 

「あ、もしもし私株式会社ホリ金属の山城と申します、えぇ、以前お願いしていた……」

 

少々締まらないが

全てを1人でやり遂げる必要がある以上、こうなってしまうのは仕方がないのだ

 

「ありがとうございます、それでは失礼します」

 

電話を切って、一息

あとはダミーのオフィスからFAXを送るだけとなった統慈は、少し息を吐くべく

部屋の外へと出て

 

「あら、内職はおわった?」

「え''」

 

了子(フィーネ)と出会すのだった

 

「それを見るに終わったのね?あるいはひと段落付いた、と言ったところかしら?

でも、終わりかけの時や完成した直後が一番危険なんだから、ちゃんと気をつけなさいよね?」

「はい、気をつけます!」

 

統慈は全力で手元の紙束(設計図)を隠しながら不自然にならない程度に走り、リディアンの外へ向かい

 

「…ねぇバレてる?アレバレてる?ねぇ」

 

1人で呟きながらこそこそと車を調達してダミー企業のオフィスに到着

ファックスを送信したあと、書類の原本はシュレッダーと酸で完全に破却した

直接見られたわけではないし

流石に透視能力があるわけでもないはずなので、フィーネに対する策としてはオリジナルの完全破却とコピー流失の抑制で事足りるはずだが

 

「……心配極まる!」

 

統慈は走って車まで戻るのだった

 

「で、何やったたの?

お姉さんに話してみなさい?」

「うぇ?……えっと

ちょっとした金属加工の細工物を、男物のチェーンアクセとか、作ってくれるっていう会社があったのでそこに依頼を出したんです

自分で設計したので、ちよっと手間がかかりましたけど」

 

「それで夜更かししてたってわけね?

ダメよ?あんまり手元のことにばかりこだわってちゃ

本質や本当にやりたいことを見失ってしまうわ

それに若人が生活サイクルを崩すとロクなことがないってのはホントのことなんだからね?」

「はい、痛みいります

今日はもう寝させてもらいます」

 

どうやら本当に見られてはいなかったようだ

さすが警戒対象外なだけはある

 

「……ふぁ……」

 

一応作りあくびを出してその辺りを演出しつつ、全力で誤魔化した統慈は

そのまま部屋へと帰っていった

 

「…………」

 

圧倒的恐怖と冷や汗を隠しながら

 

「はぁ……」

 

念のため、手元の書類や紙束を隠して

代わりに聖遺物関連の研究にまつわる情報の束を机に乗せて、誰が見ても

『櫻井女史の助手としての勉強中の机』

に見えるように偽装する

 

「よし」

 

ここまでしてから、ようやく統慈は眠りについた

 

「……」

 

翌朝、むくっと起き上がった統慈は

もしかしたらの恐怖に怯えながらも思考を切り替えて了子の元へと向かい

その技術を吸収するべく勉強を始めた

 

そもそも聖遺物の研究において、後のウェル以外はフィーネより前に出るものはいない

それならまずは先方から出来る限りの知識を知らねばならない

原作で強引な手段を取らざるを得なかった場面でも、知識があればなんとか出来る部分も生まれようというものだ

 


 

ガングニールの新旧奏者

奏と響の遭遇

世界を塗り替えることすら成し得るその2人の遭遇は

 

いつのまにかおこっていた

 

「奏さん!あの!」

「…………」

 

「えっと、とりあえず座れよ」

 

未来と流星群を見られなかった響はちゃんと暴走を抑えたのだが

その後精神が不安定になってしまったらしいためしばらくメンタルケアという名のカウンセリングと身体の状態分析をやっていたのだが

そこにいつも通り栄養ドリンクを奏さんに届けに行く統慈が通りすがり

前日に響に渡した容器と同じものであることから

 

①同じ飲み物(栄養ドリンク)を作っている

②それ(栄養ドリンク)を届ける人物がいる

③同じ立場(統慈の弟子)の人がいる?

④会いたい!

 

という4プロセスの思考の下

統慈の後をついてきて

統慈がドリンクを渡したところで相手が奏さんだったことに気づいた響が叫びを上げて

会えなくスニークミッションは失敗してしまった……というところだ

 

(いたたまれない……)

(いたたまれない……)

(奏さん!奏さん!)

 

(こいつ直接脳内にッ!?)

 

仕方がないので奏が響とその付着物(統慈)を部屋に上げて

適当に機を見て帰すつもりだったのだが

ここに来て響がツヴァイウィングのファンだったことが災いしてしまい

 

事件以来重体とされていた奏が普通に出てきたことで頭の中がオーバーフローしている響による『何をすればいいのかわからないけどとにかく何かしなくてはいけない』という謎の思考で行われる無限の話しかけがその機会を奪っていた



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第27話 夜半

「……」

 

今現在、統慈は難題に直面していた

 

「……」

「……」

 

夜半、しばらく欠かしてしまった自分の特訓のために公園で素振りをしていたら

二課付近を漁りに来ていた雪音クリス(きねくり)と正面からぶつかってしまったのである

 

「……とりあえず、ジュース飲むか?」

「……もらう」

 

統慈は適当に缶ポカリを購入したところで売り切れたので、隣にあった130円のKOMORI-KNIGHTなる缶飲料を購入

初めて見るやつなので統慈自身が飲むことにした

 

「はい、どーぞ」

 

缶蓋を開けてからポカリをクリスに渡す

指先のパワーが足りないと缶を開けられない仕様は統慈も小学生くらいの時にだいぶ苦労したので、そのあたりは気遣いだ

 

「あぁ」

 

適当に選んだだけあってよくわからないものに当たってしまったようで

炭酸のきついアクエリ、というよくわからない感想を抱く統慈

 

「ごっほっ!……うぅ……」

 

喉に炭酸を入れて咽せた統慈と

その様子をみて

 

「ふふっ!」「おい今笑っただろ!げほ!」

 

咽せている最中に強引に声を出したせいでさらに喉を詰まらせる統慈

 

「なぁ、アンタ」

「ん?」

 

「アタシは……うん、

世界を平和にするのが夢なんだ

そのために、明確な方法をくれた人がいて、そのチャート通りに努力してきた」

 

「……」

「でも、最近なんかよく分からなくなってきた、アタシがやってきたのは

『喧嘩をやめろ』って言って上から殴るような事でさ」

 

「……」

「でもそれじゃ結局、アタシが暴力を振るってるんだよ」

 

淡々と、聞きの姿勢をみせる統慈に

しずかにクリスは語る

 

「アタシは暴力を振るってきたし

痛み以外には暴力を止める手段を知らない、だから無差別にそれを振りまいてきた」

 

「でもさ、こないだこんな事があったんだ

『見たところ同じくらいの歳の男の子と女の子がいて、女の子が泣いていて、女の子に男の子が話しかけている』その状況を見てアタシは、『女の子がいじめられて泣いている』と判断した

でも実際は『2人は兄妹で、迷子になって心細くなって泣いた妹を兄が慰めている』だったんだ」

 

「そうか」

「そう、んでアタシは『女の子を虐めんな』って、兄の方にゲンコツ食らわしちゃってさ、そしたら妹の方が止めに入ってきたんだよ

『お兄ちゃんを虐めないで』ってさ

それって結局、アタシ1人が悪いわけで」

 

表情を変えず、軽い笑顔のままで

クリスは缶飲料を飲み干して

再び語り始める

 

「っぱ……つまり、アタシ1人が勝手にイジメだと判断して『暴力を振るった』

そこにはアタシ以外の『暴力』は存在しないのに

じゃあ、たとえアタシ以外全ての暴力が無くなっても、アタシという『力』がある限り『暴力にさらされる無力な子供』は生まれてしまうんじゃないかって思ったんだ」

「そうだな……」

 

ため息と共に、目線をクリスへと向けた統慈は持論を語り始める

 

「結局、暴力を人から排除することは不可能だ、たとえ四肢を引きちぎって脊髄と脳味噌をえぐり取り、それを水槽に浮かべても、それが意思を有する限りは暴力を行い得る、それは全て『意思』を以って行われるからだ」

「なっ!!」

 

力の否定による平和の実現

それは『圧倒的な兵器による恐怖政治』に終始するがゆえに、兵器を握るものの暗闘が生まれ、兵器そのものは右往左往と揺れ動く

それを平和と呼ぶのだろうか

 

「一言『死ね』と、言う必要すらもない、思い浮かべるだけでそれは立派な攻撃になる

水槽の中でも人は攻撃的になれる

だから、暴力を以って暴力を制することは不可能だ、本質的にはね

なぜなら暴力による支配は必ず恐怖を必要とするからであり、恐怖を排するために人は反抗的に……『攻撃的に』なるからだ」

「…………」

 

一転して、今度は統慈が攻勢に回り

雄弁に語り出す

 

「人は常に手を取り合えるわけではない

言葉を交わせば毒を吐き、拳を交わせば血反吐を吐く、だがそれでも

ごく少数の人間たちなら、同じ方向を向いて走るくらいの事はできるよ」

「そいつは……なんでだ?」

 

「運良く波長が近くて、仲の良い

相性の良い人物同士でより集まっている場合と、組織的に行動している場合だよ

前者は互いに協力した上で行動することができる、『同一の敵』に対処するために強調する。

反対に後者は『報酬と労働』の関係に基づいて上の指示に従う」

「なるほど」

 

つまり、手を取り合える姿勢の人同士なら

それは手を取り合うことができる

ということか。

 

程度の曖昧な理解ではあっただろうが、クリスは統慈の論に理解を示す

 

「じゃあアタシは最初から間違ってたのか

人類がみんな手を取り合うために、『暴力の排除』を目指した時点で」

「そうかもな……だが、俺はその意志を崇高であると認める、無論応援しよう

……非暴力的な手段を取る限りは」

「それじゃ意味ねえじゃねえか!」

 

最初から暴力以外の手段を知らず

それ以外を取って来なかった少女を相手に非暴力的な手段など存在しない

ゆえに応援にも意味はない

 

「まぁ、そんな事だよ、お後がよろしいようで」

「あ、おい!」

 

「あとは自分で決めなさいな

自分で動かなきゃ意味ないよ?」

 

統慈はとっくに空になっていた缶をゴミ箱に放り込み、そのまま走って去って行った

 

「……なんだよアイツ……変なの」

 

クリスもまた、自分の手元に残った空き缶を握って、呟いた



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第28話 握るモノ

「響君!緊急出動だ!」

 

翌日の日暮、午後6時ごろになって

響は特異災害対策機動部隊2課の本部に居た

 

「ノイズ 出現、止まりません!前の規模よりも大きいです!」

「場所特定、出ました!

本部付近、南方面2キロ!」

 

「聞こえたか響くん!」〈はい!〉

 


 

轟音を上げるエレベーターで飛び上がった響はそのまま外へ走って行き

 

Balwisyall (バルウィシャル)Nescell (ネスケル)gungnir(ガングニール) tron(トロン)

 

シンフォギアを起動するための聖詠(はじまりのうた)を歌う

 

夕暮れの闇の中に、黄色の閃光が溢れ

それは世界を塗り替えた

 

光のリングが響を覆い、その服を原子レベルで分解して全裸に剥いて

その上でインナーごと装甲が展開

体内から溢れ出すガングニールの装甲が一瞬にして装備され、着地した響は正拳で二連突き

 

「フッ、ハッ!」

 

本来の響の初期変身バンクと比べると

やや表情と動きがキリッとしているきらいはあるが、それもまたよし、と言うべきだろう

 

「行きます!」

 

跳躍して、常人の数十倍のスピードで飛び出した響、そのまま猛ダッシュで現場へと向かった

 

〈今翼も現場に向かっている!

到着まではしばらく掛かるがその間は持ち堪えてくれ!〉

 

「了解です!」

 

弦十郎の声が通信用のイヤーマフから流れる

その情報だけを的確に抜き取った響は一言で返しながら先を急いだ

 


 

「…………」

 

『まるで死んだ様な目だ』

もし今の自分を見たら、そう評するだろうという目をしている自覚を持ちながら

それでもソロモンの杖を振る

 

どうしようもない事実が、そこにあるから

 

「これしか無いんだ……これしか!」

 

誰もいない夜の公園にノイズを出現させたクリスは、そのまま何もせずに時間を待った

 

「はぁぁっ!」

 

その声が聞こえるまでは

 

「やっと来たかよシンフォギア(にんきもの)!」

 

召喚されたあとは棒立ちだったノイズに飛び込み、拳を叩き込む響と

その様子を眺めながら、ネフシュタンの鎧を纏ったクリス

 

二年前のあの日より、出会うことの定められた2人が出会った

本来奈良ありえない、歪な形で

 

ノイズを殴っていく響を見つめるクリスと

クリスの視線に気付く事もなくノイズを狩り取る響、そして響がノイズをあらかた殲滅する

 

その瞬間を狙って

《NIRVANA-GEEDN》

 

ノイズの方を見ていた響に

直撃する光弾、そのまま吹き飛ばされる響は

しかし空中で体勢を整えて即座に復帰、そのままクリスの方へと向かう

 

この世界では初対面となる2人の遭遇は

本来とは僅かに違う形で行われた

 

「なに!?」

「吹っ飛べ!」

 

再びNIRVANA-GEEDNが放たれるが、これに響は危なげなく対処していく

 


 

その頃、司令室では、正面大モニターに

《code:NEHUSHTAN》

と大きく表示されていた

 

「馬鹿な……ネフシュタンの鎧だと!

現場に急行するぞ!なんとしてでも鎧を確保するんだ!」

 

二課の弦十郎が動き始める、

それと同時に

 

響の方にも、エンジン音が聞こえ始める

翼の駆る大型バイク(使い捨て)が爆音を鳴らしながら突っ込んできたのだ

 

それを回避するクリスと響

そこに悠々と着地した翼だったが、響と向かい合う存在を見て驚愕に目を見開く

 

「馬鹿な!ネフシュタンの鎧だと!?」

「だったらどうだってんだぁ?」

 

「それは二年前、私の不手際で奪われたもの、ならば私の手で取り戻すまで!」

 

「やめてください翼さん!

相手は人です!同じ人間です!」

 

今にも襲い掛かるといった様相を見せた翼に、響が飛びついて阻止する

 

しかし、

「「戦場(いくさば)で何をバカな事を!」」

 

向かい合う2人のどちらにもそれを否定されてしまう

 

「むしろ、貴方と気が合いそうね」

「だぁったら仲良くじゃれあうかぁ?」

 

その言葉とともに振るわれたムチは

響ごと翼に回避を強いて、やむなく響は跳び下がって翼から離れる

同時に翼は跳躍して空中から攻撃を仕掛けるが、それもムチによる切り払いで流される

 

このままでは埒が開かないとばかりに思考を切り替えて、接近戦を仕掛ける翼だが

クリスもネフシュタンの鎧の力を引き出している、そうそう負けることはない

回避どころか受け止めて反撃すらしてみせる

 

「くっ!これが完全聖遺物のポテンシャル!」

「全部ネフシュタンの力だなんて思わないでくれよなぁ……まだまだこんなもんじゃねぇぞ!」

 

クリスは洪笑をあげながら

さらにスピードを上げたムチの一撃を放つ

唸りをあげながら迫るムチの速度はシンフォギアによる水増しを得た翼の認識を凌駕し

 

躱された

 

「なにぃ!?テメェどうやって躱した!

ふざけたアニメじゃねえんだぞ!」

「知れたこと……ムチの軌跡など、貴様のその目が雄弁に語っている!」

 

「てんめぇ……」「翼さん!」

 

「お前はお呼びじゃねえんだよ!

コイツらでも相手してな!」

 

響が翼に声をかけるが、それに反応したのは翼ではなくクリス

そしてソロモンの杖を以って開かれた扉から召喚されたのは拘束能力の高い大型モデル

 

「ノイズが……きゃぁっ!」

 

驚愕した一瞬を突かれて、ノイズが吐き出した例の粘液にまみれる響

(無事ノルマ達成)

 

その一瞬の手間を突いて翼が斬りかかるが、やはりクリスがスペックで上まわる事実は変わらない

そのまま装甲で受け止められ、弾かれてムチに絡めとられて吹き飛ばされ、そのまま頭上から踏みつけられる

 

「のぼせ上がるな人気者!誰も彼もが構ってくれるなと思うんじゃねぇ!この場の主役と勘違いしてるなら教えてやる。狙いはハナっからコイツを掻っ攫う事だ!

鎧も仲間も、アンタには過ぎた物なんじゃねえか?」

 

シンフォギアによる防御機能が全身に及んでいなかったらそのまま踏み潰しているほどの力でアイドルを踏みつけて、人をバカにしてせせら笑うクリス

 

「そうだ…アームドギア!わたしにもアームドギアが必要なんだ!

出ろ!アームドギア!」

 

翼の窮地を目の当たりにした響が

それを救うために思考を巡らせていた



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第29話 絶唱 天羽々斬

「鎧に振り回されている訳では無い…この強さは本物…!」

 

「ここでふんわり考え事か?」

 

挑発的なセリフとともに、クリスが攻勢に出た

 

距離をとってノイズを召喚

多数のノイズで押しつぶそうとしてくる

 

それに対抗して対多数殲滅技である

千ノ落涙を展開した翼がイニアシチブを取り、そのまま蒼ノ一閃を放つ

しかしそれに対してクリスはノイズを盾としたばかりか、ムチでしたたかに打ち付け、攻撃の光を掻き消す

 

正規適合者であっても消耗戦は不利と判断した翼は接近戦に勝機を賭けて突っ込み

NIRVANA GEDONがそれを迎撃する

翼は手にした刀で受け止めるも

そのエネルギー量に押されて吹き飛ばされる

 

「ふん、まるで出来損ないだ」

「……たしかにわたしは、出来損ないだ……この身を一振りの剣と鍛えてきたはずなのに、あの日、無様に生き残ってしまった。出来損ないの剣として、恥を晒してきた」

 

応じた翼の瞳には、たしかな覚悟

刀を地面に突き立てて、それを支えに立ち上がる

 

仮にも武の道に進む者なら誰もが怒鳴りつけるような無作法、しかし今だけは許されるだろう

 

「だが、それも今日までの事…奪われたネフシュタンを取り戻す事で、この身の汚名を濯がせて貰う!」

 

「そうかい?脱がせるものなら脱がせ…?!」

 

疲労を演出して油断を誘い

相手が近づいたところを討つ『疲れの太刀』

卑しき剣だが、それもまた技

 

翼は疲れの太刀に影縫を隠し

騙し討ちに成功したのだ

 

「こんなもんであたしの動きを!…っ!!まさか…お前…!」

 

クリスは翼の狙いに気づいた

そして空には満月が登っている

 

「月が覗いてる内に…決着を付けましょう…」

 

「歌うのか……絶唱……!」

 

翼が仕掛けたのは単なる足止めではなく

秘中の秘、シンフォギア最後の一撃たる奥義へと繋ぐための足止め

 

エネルギーの増幅率を大きく高め、聖遺物と共鳴する詩を歌ってフォニックゲインを放出することでシンフォギアの出力を跳ね上げ

限界以上の一撃を実現するその技の名を『絶唱』

 

 

翼は未だにアームドギアを顕現させる事もできずに足掻いていた響に振り返り

 

「防人の生き様、覚悟を見せてあげる……あなたの胸に焼き付けなさい!」

 

Gatrandis babel(ガァトランティス ヴァーヴェル) ziggurat edenel(ジッグルァト エディエナァル)

 

天に掲げた(おのれ)を下ろして

クリスへと歩み寄る翼

 

Emustolronzen(エムストォロンゼン) fine el baral zizzl(フィーネエル バッラァルツィール)

 

ソロモンの杖を用いてノイズを召喚しても、何を成すこともできず

クリスはただ翼を見つめる

 

Gatrandis babel (ガァトランティスヴァーヴェル)ziggurat edenel(ジッグルァト エディエナァール)

 

響は未だに拘束されたまま

それでもその有様を目に焼き付けた

 

Emustolronzen(エムストォロン ゼェン) fine el zizzl(フィーネール ツィール………)

 

本来の仕様では有り得ない

自爆同然のその(うた)

 

シンフォギアが歌に応え

己の力を解き放つ

心の具象化たるアームドギア(さや)を捨てて

命すらも投げ捨てた、乾坤一擲の一撃を

神剣の至高、日本神話の最高武神

荒ぶる三貴神、須佐男尊が用いた刀

絶刀・天羽々斬が閃いた

 

「よせ!ヤメルォオォ!」

 

叫ぶクリスに向かって微笑む翼

しかし

その眼、口元は笑うどころか血を溢れさせ

 

光が周囲を焼き尽くした

 


 

 

「翼!大丈夫か!」

 

やや経って後、弦十郎が運転する車が遅まきながらやって来て、

中から弦十郎達が降りてくる

 

「私とて…人類守護の務めを果たす防人…こんな所で折れる剣じゃありません…!」

 

強がるような言葉とともに

振り向く翼は全身から流血し、

さらには目と口元から未だ止まらぬ血を流し、さらには瞳孔を明らかに異常に拡大させていた

 

「翼さぁぁぁん!!」

 

倒れた翼に、響の絶叫は届かなかった

 


 

今作初の絶唱顔披露イベントです!

後には主人公もこうなる(以前の選択肢で統慈君が絶唱顔するのは確定しているので)

 

さて、次の選択肢はこちら



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第30話

「デュランダル輸送作戦!?」

 

「そうだ、先日……

広樹防衛大臣が何者かに殺害された

これを受けて、二課で保管している完全聖遺物『デュランダル』をよりセキュリティに秀でる永田町地下『記憶の遺跡』へ移送する作戦を立てた」

 

「それを実行するのが明日ってわけ」

 

血のついたケースを抱えたまま

フィーネは白々しく言い切り

なんとも言えない顔になる

 

一方響は

 

「……えっと、その、私あんまり記憶力に自信ないんだけど……そこにいるのは……」

 

困惑する響をよそに

座席から立ち上がった初老の男性は

笑顔で響に挨拶をしてくる

 

「あぁ、はじめましてだね

私は広樹浩一、日本国()防衛大臣だ」

 

「やっぱりぃいいっ!?」

 

響の混乱する様子は非常にかわいいのだが、これを長く鑑賞しているわけにもいかない

というわけで、了子(フィーネ)・統慈師弟が説明を始めた

 

「ルートは20本ほど想定したのだけれど……」

「デュランダルが狙われるのは明白な以上、これが最適だと判断した」

 

2人の声と共に、正面モニターに表示されたのは

 

「高速道路を丸ごと……」

 

「そう、名付けて『天下の往来独り占め作戦』!」

「デュランダル輸送作戦プランAだ、高速道路を使うのはカーブが少ないから見通しが利きやすいことと、狙われる方向を壁で狭める利点

そして、走行場所を民間人から引き離す目的がある、高速道路なら一般道と違って危険物もほとんどないし店舗や通行人が被害に遭うこともない

……某地震みたいに高速道路の橋梁を丸ごと薙ぎ倒されれば別だが

 

それに、車で輸送するために

輸送車両の運転は了子さん、同行・保護対象輸送を僕、護衛に同乗する響の3人と後続車に小川さんと藤尭さんが来てくれる」

 

「え?藤尭さんも?」

「あぁ、そうだよ畜生!

なんで僕が行かなきゃいけないんだよ〜っ!」

 

ヤケ気味の藤尭を宥めるように、友里が間に入る

 

「ダメですよそんなこと言っちゃあ、ウチだって人員不足なんですから」

「僕は小川さんとは違うんだよ!

司令みたいにはならないって!

ノイズの目の前に飛び出すなんて無茶だよぉ」

 

「そのために!いろいろ用意してるんです、我々の異端技術(ブラックアート)はシンフォギアやこの二課そのものであることを忘れないでください

車で運ぶことを前提として(大型化しても)いいなら位相差障壁無効化(チューニング)システムなんて簡単ですよ、ノイズだってアサルトライフルで殺せますって!」

 

まぁ普通に考えて二課の中で唯一の一般男性かつ常識人なオペレーターで

おそらく二度と行われないであろう偉業、K2の標高を下方修正する男である

 

ちなみに、広樹防衛大臣が飲んでいるのはいわゆるあったかいものだ

 

「……ともあれだ、まず作戦参加者全員でのシュミレーションが必要だ

シチュエーションはいくつか想定してあるから、それを元に訓練を行うぞ!

幸いこれはまだ余裕がある作戦、訓練する時間はある!藤尭!お前も現場に出るんだ、訓練はお前も参加だぞ!」

「はっはい!」

 

「……藤尭さんは動かなくていいですよ、万一僕と了子さんが死んだ時に

ケースごとデュランダルを掻っ攫って

藤尭さん(デュランダル)だけが逃げ切るためのアシなんですから」

 

一応補足すると

統慈達輸送車両組が全滅した場合

藤尭達後続組が輸送を続行するために

機動力に長けた緒川さんを後方に配置して、そのまま逃げるために運転手として藤尭を置いているのだ

 

危険度こそ高いが、それでも

直接戦闘するよりは遥かにマシだろう

 

「そんなこと言われても困るって!

全滅前提なんてあり得ないでしょ

響ちゃんお願いだ守ってくれっ!」

「ええっと……」

 

あまりに情けない懇願にちょっと引く響をよそに、粛々と話が進んでいくのだった……

 

「たのむよぉぉおおっ!」



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第31話 異端の力

現在統慈は訓練の合間の時間に

奏の部屋に来ていた

先のネフシュタンの鎧には奏も翼と共に関わっている、そもそも例のライブそのものがネフシュタンの鎧の起動実験なのだから

その関係者に対する説明義務を果たすため

統慈はこうして栄養ドリンクを渡すと同時に話しているのである

 

「で、翼さんは昏睡というわけです

幸い、初期対応の応急処置が間に合ったので大事には至りませんでしたが重症です

……長く歌い続けてノイズと戦って

コンディションを落としながらあの完全聖遺物とも戦った、という状況からは『幸い』と言えるでしょう」

 

「んなセリフで納得できっかよ!」

「うあわぁっ!」

 

襟首掴み上げられてそのまま揺さぶられる統慈は情けない声を出しながら

窒息を冷静に防止して

奏はそれを容認しながらも揺さぶり続ける

 

「お前は戦えないってのはわかる!それは無理する部分じゃない!でも翼が大怪我して寝込んでるんだったら!お前は翼を優先しろよ!

なんでこんなところに来てんだよ!」

 

「仮に翼さんを優先して、ここに来ずにずっと病室にいたら……ぐぅぇ

僕が翼さんに怒られます!

僕が考える翼さんなら、こういう時に『いつも通りにしろ』っていうと思いますからっ!」

 

「…………チッ!」

 

心底不服、といった表情のまま

その腕を下ろす奏

ようやく足が地面についた統慈は呼吸を整える

 

「奏さんの分の栄養ドリンクは今日も作りましたんで、飲んでくださいね

飲んでくれないとすぐに効果が薄れてしまうので、ちゃんと飲んでくださいね!」

 

統慈が繰り返し念を押したように

カストディアン流栄養ドリンクは薬効が長く持たない、作り置きはできないのだ

 

「分かってるよバカ!これ飲んだら

翼の見舞いに行くぞ」

 

「……わかりました」

 

「お前もくるんだよ統慈!」

「えっ?」

「早くしろっての」

 

いうが早いかグビグビと水筒の中の薬液を飲み始める奏

その視線はすでに病棟のほうを見据えている

 

「アタシのガングニールはもう使えないけど、代わりに響が出るんだろ?

なら余り時間でガングニールの装者としての心構えってやつを叩き込んでやる

ガングニールを名乗る以上、半端は許さねぇからな」

「……それ僕に言われても僕はブラックアートの」「お前がサポーターするんだからお前もやれ」

 

「…………」

 

どうやら特訓には統慈も付き合わされるようだ

 


 

その一日後

 

「……よし、作戦開始!」

 

腕輪と腕時計を二重につけた左腕を見ながら、作戦の開始を宣言し

統慈は車に乗った2人と一緒にデュランダル輸送作戦を開始する

休眠状態ながら聖遺物の中でも特に強力な『完全聖遺物』である『輝剣(デュランダル)

その実体は尽きることのない無限のエネルギーを供給する第一種永久機関であり

聖遺物としての特性は『無限』と『力』

持ち主に力を与え、同時に剣自体の攻撃に用いられるエネルギーも天井知らずに増幅していく

 

一方仮想敵のネフシュタンの鎧の特性は『無限』と『再生』である

その力はダメージによる損傷で失われたパーツを修復する能力に集約される

パーツの延長線に存在する使用者の肉体も修復するのだが、この際の再生もパーツ同様の交換方式であるため肉体を聖遺物が侵食する

ちなみに鞭パーツも『再生』によって『短くなった部分が回復する』ことで伸びる

 

敵が使う『ソロモンの杖』の能力は『空間接続』『王権』

現状ではノイズを操る聖遺物という認識だが

本来はバビロンの宝物庫の扉の開閉を司る鍵であり、同時にそこで製造されるノイズのマスター権である

 

「……来たか!」

 

考え事をしているその時に車付近のコンクリート舗装路面が爆発する

こうなるということは下方向……つまり地下から攻撃しているのだろう

 

次々に爆発する路面、爆走する車を追うように、爆破地点と車の相対位置はぴったり同じ

それと全く別の地点に爆発が起こり

先に行っていた護衛の車が吹き飛ばされる

 

彼我の時速は80キロ、到底無事とは思えない

 

「このままではいけない、追いつかれますよ!」

〈先には薬品工場がある!そこに逃げ込めッ!〉

 

通信機越しに聞こえる司令の声に

今度は隣で了子(フィーネ)が叫ぶ

 

「弦十郎君?ちょっとヤバいんじゃない?この先の薬品工場で爆発したら!デュランダルは!」

 

完全聖遺物とはいえど、破壊力に特化したデュランダルは防御力を持たない

比較的脆い聖遺物だ

一般によく囁かれる『不壊』特性を持つのは『アダマン』系列の素材を用いた神鉄武装の類やデュランダルと同じ匠の手で作られた聖遺物、霊槍ドゥリンダナでありデュランダルは破壊できる

まして聖遺物としての機能を発揮していない休眠状態では、素材である『帝金』と『涙の結晶』の物理耐性すら満足ではないため、叙事詩ローランの歌の一幕よろしく大理石に叩きつければ破壊する事はできるだろう

ましてや車ごとの爆発に巻き込まれれば

どうなるかは明らかだ

 

「分かっている!さっきから護衛車を的確に狙い撃ちしているのは、ノイズがデュランダルを損壊させないよう、制御されてると見える!」

 

その言葉に了子は舌打ちをする

 

〈狙いがデュランダルの確保なら、敢えて危険な地域に滑り込み、攻め手を封じるって作戦だ!〉

 

「勝率は!?」

〈思いつきを数字で語れるものかよ!〉

 

熱く語られる名台詞と共に

工場のそばへと車が滑り込む

先行していた数車両は全滅

後ろにいる藤尭が運転する車は無事だが

名も無きエージェント達は犠牲となった

 

「っ!まずいっ!」

 

了子の慌てた声と共に目の前が爆発

衝撃の影響で車の前輪が浮き上がり

そのまま半回転

派手にスライディング着地を決めてしまう

 

「響ちゃんシートベルト外して!」

「了解っ!」

響は逆さ吊りの姿勢でガチャガチャと手元のベルトを外そうとするも、なかなかうまくいかない

一方了子はというと、今まで何本もベルトを外してきたからなのか

手際良く脱出し、響の代わりに特殊保管トランク(新幹線に轢かれても中のワイングラスが割れない代物)をかかえる

 

統慈も後部座席から脱出して最後に残される響

 

「外れないぃっ」

 

「響ちゃんギア纏って!それなら原子分解で外せるからっ!」

「わかった!Balwisyall nescell gungnir tron」

 

了子の言葉を聞いて聖詠を歌った響の服と、同時に車の座席やらシートベルトやらダッシュボードの一部やらまでまとめて粉々に原子分解されて消え、それと同時に響がギア装着時のエネルギーを利用して車を爆砕、脱出した

 

マンホールから出現するノイズ

空中に現れるノイズ

どこからか出現するノイズ

視界を埋めようと言わんばかりの数のノイズばかりが溢れかえる

 

「よし!はぁぁぁうわっ!」

 

響は格闘ポーズで覚悟を決めて走り出すが

その直後に重心を崩して転んでしまう

 

「ヒールが……邪魔だッ!」

 

かかとの部分を思い切り踏みしめて自らヒールを折り、スニーカータイプにする事で

『状況を受け入れてその環境で動けるようにする』のではなく『状況を否定することで環境そのものを改善する』

 

しかし、そんなことをしている隙にノイズが飛来し

 

「フッ!」

 

了子が響の前に立ち塞がり

体を槍状に変化させたノイズを薄色のバリアで弾き飛ばした

 

その死角から鳥型ノイズが吐き出した液体を今度は後ろに回り込んだ統慈が♾型をしたオレンジ色のバリアでガードする

 

「響ちゃん、頑張って」

 

カキンと言わんばかりの音と共に突撃してきたノイズを弾き飛ばしたフィーネバリアと違って

統慈のバリアは敵の攻撃を受け止めるに留まったが、それで十分

 

「藤尭さん!ケースをっ!」

通信機に向かって叫び、そのまま了子が置きっぱなしにしたケースを投げ飛ばす

 

それを緒川さんが空中でキャッチし

 

「うわっ!」

 

突然至近距離に出現したノイズに炭化されかけて体勢を崩した

それは()()()()()

通常透き通る無色であり

一定の連続空間に固定化する事でオレンジ〜青に彩飾される通常のそれを逸脱した

過去に例のない黒色のノイズだった

 

「まずい!アレはダメよ!緒川くん離れてッ!」

「くっ!」

 

全力で逃げを打つ緒川さんの速度にすら追随するスピードで、黒いノイズが走る

「間に合えっ!」

 

響は統慈とフィーネの間から飛び出して

その黒いノイズに拳を叩きつけようとするが

 

「効いてないッ!」

「やはりか!」

 

殆どが躱され、当たっても凄まじき硬度を持った体表で弾き返され、まるで意味を成していない

 

「統慈くん目を閉じてっ!」

 

了子が目を金色に輝かせながら

左腕に火球を形成し

 

黄金(アルス)……錬成(マグナ)!」

 

なりふり構わない全力で

黒いノイズを攻撃する

 

実体化している以上は物理攻撃全てが等しく有効であるはずなのに

明らかに凄まじい威力を秘めていた火球『古の黄金錬成術(アルスマグナ)』の直撃を受けてなお、その黒いノイズには有効打たり得なかった

 

「統慈くん最大火力よ!クリスッ!」

「チッ!せっかく隠れてたのに呼びつけやがってぇっ!」

 

血相を変えた了子が叫んだその先から出現する、白と銀(ネフシュタン)の鎧を纏った薄雪色の髪の少女

雪音クリス

 

統慈も万一のために用意された

了子製の異端技術(ブラックアート)の一端

『メビウスの腕輪』を握りしめる

 

その腕輪に秘められた機能は完全聖遺物と同等……とは言えないが『無限』と『炎』の特性

デュランダルの増加量とは比べるのもおこがましいが、それでも熱エネルギーを無限に増加させる第一種永久機関だ

 

「了解……開放ッ!」

 

中央下部の球体を回転させ

その中で飽和しているエネルギーを遠心力で引き出す、取り出された炎のエネルギーが放射状に溢れ出す

 

「バーストッ!」

 

炎が高密度に凝集したオレンジ色の光線が、一直線に左腕から放出される

 

「アルスマグナッ!」

「チッ!ぶっ飛べぇッ!」

 

黄金の火球とピンク色のプラズマ球が同時に発射され

黒いノイズを押しつぶさんばかりのエネルギー量を持って押し寄せる

 

それにたじろいだか

黒いノイズは両腕を突き出して耐える姿勢を取り

エネルギーの奔流を抑え込もうとする

 

「持ってけダブルだ!」

そこに唯一連射が効くクリスのダメ押しが入り

物質化するほどのエネルギーの塊が爆発する

 

その温度は五十万度にも達し

プラズマが飛散する

巻き込まれた一般エージェントやノイズ達は苦しむまもなく焼失して消える

 

核爆発に巻き込まれたようなもので

姿形も遺品の一つも残らない

 

「はぁ……やったか!?」

 

「あっおい!」「止しなさい!」

 

2人がクリスを制するよりも早くそのフラグは回収され

 

ほぼ無傷の黒いノイズが出願する

クリスの真後ろに

 

「何……」

 

その直後、クリスの上半身が落下して

ぐちゃりと重い音を立てた

 

「バーストッ!」

 

統慈は振り返るよりも早くエネルギーを解放して爆発させ、そのすぐ隣にいた黒いノイズを吹き飛ばす

 

「まずいわね……統慈くん時間を稼いで!私はネフシュタンをどうにかするわ!」

「りょ!」

 

ネフシュタンの鎧の特性上

傷は治癒するというより『欠損した部分を補填する』が正しい

多少の切り傷や刺し傷、火傷ならばともかく、体の半分近くが丸ごと喪失したとなれば

その損傷にネフシュタンがどう対応するかは未知数

 

故に了子は再生能力に任せて強引に人型の聖遺物を作るのではなく、ネフシュタンを除去してから切断されてしまった下半身と上半身を繋ぎ直すことを選び

ひとまずクリスの上半身を抱えて離脱した



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第32話 デュランダル起動

「……とはいったものの」

 

「全くどうにかなる予感がしませんッ!」

 

響と隣り合う統慈はすぐさまメビウスの腕輪からエネルギーを開放

炎を全身に纏って装甲にするが、やはり反応した黒いノイズによって炎を削られ

回復が追いつかなくなるほどのダメージを受ける

 

「うぐぁぁっ!」

「統慈さん!」

 

しかし、よそ見をしている余裕はない

吹き飛ばされながらも統慈は根性で響に呼びかけた

 

「響ちゃんは攻撃に集中して!

防御は僕に……任せて!」

 

「……はいッ!」

 

響が歌う歌を聴きながら

全力で立ち上がり

 

メビウスの腕輪のエネルギーを再び開放して、それを取り込む

 

「突き出破れえええっ!」

 

解放されたエネルギーは渦を巻き

炎として溢れ、そして炎を封じる匣の中のソレと共鳴し始める

エネルギー解放、封印一部反転

 

解放率1/9+n%over不定率

限定超過

 

「バーストっ!」

 

圧縮されたエネルギーが通常空間に解放されて爆発を起こし、同時に解放された熱が炎の槍として急激に伸長していく

 

しかし、黒いノイズはこれを回避し

「はぁぁぁッ!」

 

その着地の隙に響が飛びかかって、その拳を打ち付ける

歌のエネルギーをチャージした溜め技としての一撃は、響の場合に限っては絶唱並みの威力を発揮して

……なんの効果も得られなかった

 

「嘘っ!」

「響ちゃん!」

 

炎の壁で黒いノイズの視界を遮り、そのまま飛び込んで響を回収して下がる統慈

 

しかし、ここまで十分なインターバルを取りもせずに幾度も繰り返してきたエネルギーの連続解放のせいで一時的に炎が枯渇し、人造聖遺物『メビウスの腕輪』の機能が停止する

 

「クソッ……」

 

響は出力を上げた一撃のバックファイアを受けて状態が悪化し、

統慈もメインアーム兼防御手段兼隠蔽道具の機能が喪失したことで実質無力化される

 

「あわわわっ……!」

 

響が慌てた声を上げるが

統慈はもう隠蔽など諦めたと言わんばかりにレーギャルンを起動しようとして

 

その瞬間、飛来した光の矢が黒いノイズにブチ当たる

 

「これは!」

「遅くなったわね!復帰したわ!」

 

Gatrandis babel(ガトランディスバァーベェル) ziggurat edenel(ジィッグルエッド.エェデナール)

Emustolronzen fine(エミュストォ ロンゼンフィーネ) el baral zizzl(エルバ ラルツィール)

 

一気に歌い上げられる詠唱

それはシンフォギアの、シンフォギアたる所以

了子(フィーネ)によって調整された

聖遺物としての力を解放するための定型詩(うた)

 

9Gatrandis babel(ガトランディスバァーベェル) ziggurat edenel(ジィグルノエッド エェデナァール)

Emustolronzen(エミュストォーロン ゼン) fine el zizzl(フィー ネル ツィーーール)

 

 

個々の聖遺物ごとに異なるそれを

フィーネの異端技術によって揃え、複数の聖遺物の能力・特性を揃えて共用することを可能とした歌

その名を絶唱

 

「ぶっ飛べクソノイズッ!」

 

口の悪いスラングじみた叫びと共に

ピンク色の光が解放される

 

「無茶なことを……」

 

体調どころか体の調子(物理)すら最悪であろうクリス、そしてシンフォギアの奥義である絶唱はうかつに使えば死を招くバックファイアを伴うものだ

となれば傷口が開く云々で済むような問題ではない

 

「大丈夫、問題ないわ

バックファイアのことなら気にしないで

適合率が高い正規適合者のクリスなら、今の状態のバックファイアはないにも等しいわ」

 

「どうやってそんなことを可能としたんですか!それにアレはイチイバルのギアじゃないですか!」

「私だって驚いたわよ、ネフシュタンの鎧の使い手が、まさかイチイバルのギアの適合者だったなんてね?でもほらそこはLiNKERの力よ

もともと適合率の高い正規装者にLiNKERブチ込んで適合率をさらに引き上げた、それだけの話よ」

 

エクスドライブにも近いほどの力を振りまいたクリスのイチイバル

流石にそれほどの力を受けてなお無傷とはいかなかったのか、黒いノイズの体表にヒビが入っている

 

「ここまでやってやっとコレかよ!」

「続けて歌いなさい!クリスッ!」

 

「わかってんよ!」

 

再びフォニックゲインを引き上げるための歌を始めるクリス、しかし

自分に致命傷を負わせる可能性のある相手を放置するほど、敵も愚かではない

 

黒いノイズはその程度の賢しさは備わっているのか、異様な速度でクリスへと迫る

 

「ふっ!」

 

了子の展開したバリアは一瞬後に軽々と破られ

その魔手に了子が貫かれるまさにその瞬間

 

「あぁぁああぁぁあッ!」

 

響が飛び上がって空中で加速

神足を以て割り込んでくる

 

絶唱のフォニックゲインに

直前まで撒き散らされていた光と熱のエネルギー、由来は違えど同じ力

収束・誘導を特性とする響のガングニールが己の力へと転化できないわけがない

 

その特性によって一時的に膨大な力を纏い

擬似的に限定解除に近い力を発揮して

アンカージャッキを伸張させた響は、爆発的な威力を拳に注ぎ込み

 

「ぜりゃぁぁっ!」

 

重い声と共に、黒いノイズを吹き飛ばし、さらに追撃を仕掛ける

 

吹き飛ばされた黒いノイズが()()した場所の付近に、破壊された保存ケースと

その中に覗く石色の柄

響はそれを咄嗟に掴み取り

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

限定解除を起こすほどのエネルギーを無理やりに注ぎ込む

 

それは並みの歌姫が一生をかけて歌い続けてでも届かないほどの膨大な旋律

まさに贄として申し分ない音色

注ぎ込まれた(ちから)に応えて、輝剣デュランダルが起動する

 

「ガァァァッ!」

 

絶叫と共に、響が輝きに満ちた剣を振り下ろした



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第33話 暴走する/薬害への第一歩

クリスは何年という時間をかけて起動に成功した完全聖遺物

いかにフォニックゲインを増幅するシンフォギアといえど、その絶対量の多さは尋常では済まされない

 

しかし、クリスはシンフォギアの奥義である絶唱を使い、通常の何倍にもフォニックゲインを引き上げ

響がそれをさらに増幅しながら注ぎ込んだことでシンフォギア×シンフォギアの相互増幅が発生して、倍を遥かに超える量のフォニックゲインが流入

休眠状態にあった完全聖遺物、輝剣デュランダルの覚醒を引き起こしたのだ

 

「ガァァァッ!」

 

 

響が振り下ろしたデュランダルの一撃がノイズを両断し、そのまま工場の外壁を丸ごと切断

工場の内側に何かあったのか、凄まじい轟音と共に爆発する

 

「ヴァァア!ガァァァッ!」

 

全身を黒く染めた響が絶叫を上げながら握ったデュランダルを振り回して

轟然と熱閃が溢れる

 

「まずいぞあのバカ!」

「デュランダルが……暴走……ッ!」

 

「藤尭さん!」

「りょーかいいっ!」

 

これ以上の被害を避けるために全力で逃げを打つ藤尭と、それに追随する緒川さん

デュランダルを咄嗟に投棄した緒川さんは、響の助けもあってカルマノイズから逃げ切っていたのだった

 

「チッ……しょーがねぇな

バカの目を覚まさせるくらいはやってやんよ!」

「ウァァアアアッ!」

 

クリスが構えた銃に反応して

響が突撃、輝剣デュランダルを振り回して攻撃する

 

完全聖遺物の中でも攻撃特化のデュランダル、攻撃型同士とはいえ、シンフォギア ・イチイバルの核は質量が少ない破片に過ぎない

 

「出力が足りませんよ!」

「LiNKERも過剰投与寸前、これ以上は投与できないわよ」

 

技術屋同士とてこうも危機に晒されれば冷静沈着とはいかない

しかし、ここで焦っていても仕方がない

 

「よく聞いて統慈君

シンフォギアは外部から制御できる」

 

「外部……?」

 

 

「ええ、そうよ

フォニックゲインを大量に流し込んでやれば、ギアの支配権を奪うことができるの

そのためには近距離で歌う必要があるけれど」

「しかし、僕が歌ったところでフォニックゲインの発生量なんてたかが知れている

ましてやまともな状態ではない『響ちゃんのギア』はその機能が『機能するか』どころか『存在するか』すら怪しいじゃないですか!」

 

「いいえ、必ずあるわ

だって響ちゃんのギアは奏ちゃんのギアから派生したもの、奏ちゃんのガングニールギアは

彼女が無茶をしすぎないように出力を下げる過大反動防止の機能が存在する

その機能は外部から起動できるものよ」

 

「いやそもそも了子さんがやるべきじゃないですか?」

 

「いいえ、わたしにはフォニックゲインに対する適性があまりにもなかったの

ブラックアートの研究者として大成できたのはこの『何にも適性がない代わりに何にもミスマッチが起こらない』性質のおかげでもあるけれどね」

 

「そりゃあたいしたものですね」

「えぇ、本当に

……歌についてだけど、歌の本質は『心を伝える』こと、音程や旋律は付属品に過ぎないわ

フォニックゲインは『心を込めた歌』によって発生するの、あなたの心、気持ちをぶつけて見せなさい!」

 

了子がそう言い切った瞬間

クリスが吹き飛ばされてくる

 

「うおわっ!」

「あぐぅっ!」

 

思い切り吹き飛ばされてきたクリスが統慈に直撃し、統慈はそれを必死に抱き留める

 

「大丈夫……?」

「んなこと言ってる場合か!くるぞ!」

 

メビウスの腕輪の再チャージが完了していることを確認して、そこから炎を引き出す

 

「大丈夫!もうチャージは完了した

此方からいくぞッ!」

 

左腕から炎を吹き上げて

左手を握り、顔の右横に

 

炎の剣先が出現したところで腕を左下に引き下ろし、そこから刀身が伸びていく

刀を鞘から抜くように、炎光の剣を出現させた

 

「はぁぁぁっ!」

 

「バカ!無茶すんな!相手は完全聖遺物だぞ!」

「ウガァァァァアッ!」

 

シンフォギアによる身体能力の底上げがなされた上に、それを完全聖遺物の力で増幅する

言葉にすれば単純で、いかにも脆弱に思えるがそれは錯覚

実際のシンフォギアの身体能力強化はかなり強力で、一飛びでビルへ飛び乗るレベルの強化を可能とする

 

それがさらに嵩増しされた暴走形態

もはやヒトの領域にない動きの響は、その暴走のままにデュランダルを振り回した

 

しかし

「ふっ!」

 

カシャン、カシャンとガラスのような音を立てて、光の剣は一太刀受けるごとに砕けながらもデュランダルの一撃を防ぎ、受け流していく

時間をかければ優劣は決まるだろうが

少なくとも、いまこの瞬間は拮抗している

 

「歌いなさい統慈くん!

お仕着せの歌詞なんかじゃない

あなた自身の歌を!」

「ミサトさんじゃないんですよこのっ!」

 

炎は無限ではあるが、その出力を上げ過ぎればやがてガス欠を起こす

しかし炎光の剣を維持するには相当量の炎が必要

 

先ほどの大解放(バースト)のような無茶なエネルギー放出ではないが

あまり長くはもたない

 

「すうっ……」

 

俺は頭の中をひっくり返して

全力で歌詞を思い出した



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第34話 鏡よ

「すぅっ……!」

 

統慈は吸い込んだ息を声帯に通し

歌詞を探しながらデュランダルを受け流す

 

力任せに振り回されるデュランダルは殺意と敵意に満ち溢れ、力を漲らせている

流石にガラスのように砕けてしまう炎光の剣では張り合いがないのか、その驚異的な破壊力を万全には発揮できていないが

それでもなお統慈を了子(フィーネ)ごと斬り殺して余りある威力だ

 

「……クソッ!」

 

戦闘中に頭の中で歌詞を編み出せるほど統慈の頭はイカれていない

デュランダルに対する防御に集中しすぎて歌える状況ではないのだ

 

「ヴァァアァァァァァアァァアッ!」

 

絶叫と共に、響が剣を振るう

その瞬間

 

「オラァァァッ!!」

 

クリスのビームキャノンが直撃した

 

底上げはあくまで攻撃力、防御力の上昇はあれど、それが主眼というわけではない

シンフォギアの攻撃を直撃させれば流石に無傷とはいかない

響はその衝撃でわずかに体勢をくずし

 

統慈は更に姿勢を崩すべく柔術による組討ちを仕掛ける

 

「!」

 

その瞬間、響の胸に輝くギアペンダント

ウィトルウィウス的人体図同様に、概念的な人体を表した形態を示すそれから

旋律が流れ込んでくる

 

重低音と同時に金属の擦れるような音

何かの軋む音、そしてどこかからの声

 

(目覚めし者よ、すでに与えられた身に

なにを求める?)

 

(当然、力を!助けなきゃいけない人を!助けられる力を!)

 

統慈はその声に答えて願う

 

(ならばどこに求める?)

(この身この腕、この心にだ!)

 

それはあの時と同じ声

統慈の内の存在の声

 

(ならば目覚めよ、その力の名は

力殺しの盾鏡(テシュカトル)

 

遂に目覚めた、二つめの統慈の力

 

それと同時に、完全聖遺物である統慈自身がギアに触れたことによって

共鳴現象(デュオレリック)が発動する

 

それは響と統慈のシンフォギア(ガングニール)と|完全聖遺物のシンクロ

 

暴走状態にあり、制御されていないギアから統慈に主導権が流れ

 

【You count the medals 1,2 and 3 Life goes on Anything goes Coming up OOO】

 

力強いドラムとシンバルの音が聞こえて

統慈はその瞬間に記憶から歌詞を引き当てた

 

「要らない持たない、夢も見ない

フリーな状態... それもいいけどッ!」

 

響から離れ、デュランダルを今度は受け流すのではなく完全に躱し

再び至近距離に入って膝を取り、無理やりにデュランダルを振るうことを防止しながら強引に歌を続ける

 

【こっから始まるThe show we're waiting for Count the medals 1,2 and 3】

 

「運命は君 放っとかない

結局は 進むしかない!」

 

デュランダルを避けられ、強引に突破することも叶わないと悟ったか、響の動きが変わる

デュランダルに頼った剣術紛いのそれから、獣じみた四肢を駆使した動きへ

 

【未知なる展開 Give me energy Count the medals 1,2 and 3】

 

「大丈夫明日はいつだってブランク

自分の価値は 自分で決めるものさ」

 

ガングニールギアの供する旋律は強く統慈の歌を支えて、統慈の纏うフォニックゲインは徐々にその量を増していく

 

【オーズ!オーズ!オーズ!オーズ!】

「Come on! Anything Goes! その心が熱くなるもの 満たされるものを探して」

 

密着状態での至近距離ではもはやデュランダルは役立たず、そう考えてこのまま押し切ろうとした直後に左肘を打ち込まれて咄嗟に離れ

着地してジャンプ

 

「 Life goes on! 本気出して戦うのなら 負ける気しないはず! 」

 

空中で解放したメビウスの腕輪の炎をブースターにして加速、そのまま両足でのドロップキックを叩き込む

 

「とっ……セイヤァァアァツ!」

「うぐォアア!」

 

ブースターをつけた飛び蹴りを響はデュランダルではなく自身の腕で受け止めて

その瞬間、統慈の右腕から煙が吹き出す

 

「ア ァァア……あぁぁぁ!」

 

煙に巻かれた響がガクガクと痙攣して

獣としか思えない様相を見せて暴れていた響の暴走状態か治っていく

 

「ああ……あっ……」

 

がくん、と完全に意識を失って倒れた響のギアが解除され、統慈を駆り立てていた旋律は途切れる

 

「……よし……」

 

崩れ落ちる響を受け止めた統慈は

そのまま響をお姫様抱っこで運んで

 

無事な車がないことを思い出して軽く絶望した

 


 

使用楽曲コード: 172-0420-8



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第35話

「響ちゃん……大丈夫かな」

 

統慈の腕から吹き出した煙、それがもし毒ガスであれば既に命はないであろう

だがもちろんそんな事はない

健康的な肌色のままの響は、特に苦しそうでもなあ平常通りの呼吸をしている

 

「……帰還するか」

 

デュランダルは弾き飛ばした瞬間に

異常な軌道を描いて天高くに飛び去ってしまったし、どこに落下しても自重や衝撃で自壊するだろう

 

「了子さん、車はどうですか?」

 

周囲を見回し、響きを抱えたまま少し歩き回って出来る限りの遺留品を探しては見たが、さすがに爆風によって消し飛んでしまったようで、何かのかけら以外は残っていない、と肩を落とす統慈とそれに問われて車に一瞥をくれる了子(フィーネ)

 

「ダメね、もう一回ひっくり返す算段もつかないし、そもそも派手に吹っ飛ばされててフロントがグッチャグチャ

これ高価かったのに……まぁ仕方ないか

経費で落ちるかしら」

 

「随分あっさりしてますね、じゃあ僕はエージェントの遺体捜索して帰りますね」

「遺体捜索は1課に任せなさいな

響ちゃんに風邪引かせる気?」

 

睨みをきかせてきた了子(フィーネ)に竦める首もないとでもいうかのように無表情のまま、統慈は響に視線を移し

 

「帰ろうか、響ちゃん」

 

その言葉に応えるものはいなかった

 

 

 

その後、フィーネの館では

クリスとフィーネがテーブルを挟んでいた

 

「……はぁ……まさかカルマノイズが現れるなんてね」

「なんなんだよあの黒いノイズ!

それにあの力!」

 

『強い力』に執着を見せるクリス、それを嘲笑うかのように知識でマウントを取るフィーネ

 

「覚醒した完全聖遺物の力、特に攻撃特化のデュランダルの一撃なら

問題なくカルマノイズも屠ることができたわ、これは大きな進歩、そして発見よ

さぁクリス、またネフシュタンを使ってしまったし、今度はちょっと大規模になるから服を脱いで」

 

「チッ……」

「チッじゃないの、強引な手法で無理に戻したんだから、後になって体を壊しても知らないわよ?」

「あぁもうわかったよ!脱ぎゃいいんだろ!」

 

「ええ、大人しくしていればいいのよ」

 

嫌そうにするクリスを無理やり磔刑台に括り付けてバリバリと電気を流し始める

これは何もただ拷問のような行為をしているだけではなく、ちゃんと理由がある

ネフシュタンの鎧の力を使って

細胞を置換したはいいが、その細胞が全身を侵してしまえば意味がない

もちろんその対策は用意されている

ネフシュタンの鎧は高圧電流に弱く

電撃を受ければその機能を停止してしまうのだ、それを利用してフィーネはクリスの体内に残ったネフシュタンの細胞を停止させているのである

 

「うぐぁああぁああぁぁあっ!」

 

ガクガクと痙攣しながら絶叫を上げるクリスと、その体内のネフシュタンの細胞の状態を確認しながら、フィーネはその様子を見つめるのだった

 

 

 

統慈は自分の部屋で、右手に握ったそれを見て笑っていた

 

「よし」

 

あの黒いノイズの攻撃で砕けたネフシュタンの鎧、その破片の散らばったうちの一つ

遺留品を探す中でそれを発見した統慈は、大胆にも握ったままで戻ってきていたのだ

 

「……これがあれば……」

 

『ネフシュタンのシンフォギア』を作ることができる、その一言を飲み込んで統慈は笑う

 

「響ちゃんは大丈夫かな」

 

エージェントは何人か殉職してしまったから顔見知りは減ったが、彼らはエージェント

特殊部隊員である以上は死ぬ用意くらいいつでもできている

だから敢えて悼むようなポーズはしない

 

「さて、学校に行かなきゃ」

 

統慈は速やかに女装を済ませて

一頻り声の調整と容姿の確認を終わらせて

 

リディアンへ登校時間ゼロのダイレクト登校をするのだった

 

「おはようございます」

 

扉を開けて、一応お上品に一言

そしてその直後にクラス内の何箇所から上がる声

 

「おっはー!」

「あ、おはよう」

「はろはろーん!旋音ーちゃーん!」

 

「りんねーちゃん……?」

「旋音の新しい渾名っ!」

 

「また増えたんですかもう……」

 

くだらない会話をしながら

日常を噛みしめて……

 

「拍木旋音って正直覚えづらい名前だよね〜」

「わかるけどちゃんと覚えてください!」

 

やっぱりツッコミ役に徹することになるのだった

 



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第36話

「…カメラがぶっ壊れてたのと緒川さんがそれどころじゃない事態だったのがよく働いたか」

 

「ん?どったのりんね」

「え、なんでもありませんよ?

次の数学の授業のこと考えていただけです」

 

「あー……数Aか、次

山崎に目ぇつけられてたもんねー」

「はい、なぜか嫌われてしまっていて……」

 

どうでもいい事を話題にして

話をごまかして、そのまま退散する旋音

 

そしてそのまま放課後になり

リディアン から二課拠点へ直帰する

 

 

〈拍木君!ノイズを検知した!〉

 

突然の警報と共に、司令からの連絡が入る 

 

〈既に警報は出しているが、装者のオペレートの支援を頼む!〉

「わかりましたっ!」

 

統慈は速やかに(一般的なスピードでの)全力で駆け出し

司令室までたどり着いた

 

「響ちゃんのオペレートは私が担当します!藤尭さんはノイズの方を!

友里さんは避難誘導の統括指揮をお願いします!」

「わかったわ!」

「最初からそのつもりだよ!」

 

長い髪を靡かせながら

椅子を無視してコンソールの前に立ち

そのままキーボードを打鍵する

 

 

起動したのはアウフヴァッヘン波形感知のためのレーダーと自作のプログラム

そしてギア装者の視界を画面に投影するカメラ機能を起動する

自分のコンソールの半面に響のギアのカメラを呼び出そうとして

響にはペンダント自体が存在しないことを思い出してやめる

 

そして

 

「アウフヴァッヘン波形感知!波形照合イチイバルですっ!」

 

旋音が叫んだその瞬間

メインモニターに『lCHAIVAL』が表示されて

 

モニター上に表示されたマーカーの周囲のノイズマーカーが一斉に消滅する

「これは……!」

 

イチイバルのギアを纏ったクリスが戦闘を開始したことを察知した友里さんと藤尭さんが2人でその位置特定とカメラ接続を目指す

 

響と違って正規のシンフォギアであるイチイバルにはカメラが搭載されている

それはシンフォギア・イチイバルの設計資料を読み漁って得た既知の情報だ

 

共通規格のカメラが存在するなら

無線接続だってできるはず

 

「響ちゃんは連絡取れてますか!?」

「ダメ、音信不通のままよ!」

 

現場に向かっている司令の代わりに友里さんが答えた言葉に焦りながら

キーボードを再び打鍵

 

今度はシンフォギアの位置特定のための捜索用レーダーに切り替えての再起動だ

これで響のガングニールギアも感知できる

 

「……!」

 

廃ビルの中、大型ノイズのすぐそばの反応、紛れもなくガングニール=響

しかし、動きが妙だ

ガングニールはその場から動いていないのに対し、大型ノイズはそこから離れていっている

通常、ノイズが召喚されればどんな個体であろうと『人から遠ざかる』ことはない

考えられるとすれば

『より大きなエサを追っている』から、結果として響から離れているという可能性だ

 

「いけない!」

 

響はガングニールギアもあるし、そう簡単に死ぬようなことはないが

装者でもなく、異端技術に携わる技術者でもない一般人では、ノイズに触れれば即死してしまう

響に計画しなければならない

 

「移動速度は時速訳30キロ……車並み!?」

そのまま動き続けているため、車か何かで逃亡を試みていると思われるが

流石にノイズから逃げ切るというのは無謀だ

 

「響ちゃん、聞こえる?!」

 

通信を試みても不通

やはり無視されているのか、端末自体がどこかに放置されているということだ

 

「響ちゃん!」

何度呼びかけても通じない

もはや旋音にできることなどないというべきだろう

 

しかし

そこで諦めていては一般人(モブ)に過ぎない

ただ蹂躙されて死にゆく定めのモブとは違い、旋音には闘う余地がある

 

起動した自作プログラムがようやく動き、対ノイズ位相差障壁無効化機能をもった調律システムのなり損ないが発動する

 

シンフォギアに搭載されたそれは完成品であり、シンフォギアのフォニックゲインを流用する形で発動するが、統慈の作ったこれは未だ未完成

炭素転換までは無効化できず

物理攻撃を有効にするだけに収まり、レーダーのアンテナを流用しているのに対し

効果規模は半径約2キロと小さい

 

そしてこれを起動している時はアウフヴァッヘン波形感知レーダーとノイズ感知レーダー、その両方が使用不能に陥ってしまう

シンフォギアの位置は一応わかるが

だからといって本部の機能そのものを削ってまですることがこの程度に収まってしまうような失敗作を、それでも動かした理由は

 

「司令の物理攻撃が有効になる、それだけで十分でしょう!」

 

風鳴弦十郎(人類最強)の存在に他ならない

 

「司令!やっちゃってください!」

〈応っ!〉

 

現場に既に到着している司令が攻撃を行い、ノイズを少しずつだが潰していく

そして、1分が過ぎて

 

「まもなく効果時間限界です!

司令は退避してください!」

 

レーダーを利用した急造の流用品のため、あまり長く起動させていては回路が破壊してしまう可能性がある調律機能が安全装置の時間限界を迎え

その機能を停止する

同時にレーダーが復活した

 

「……響ちゃんっ!」

 

その直後、響のレーダーアイコンが高速で動き始める

 

先ほどの大型ノイズの反応はほぼ同じスピードで移動しているが、それを探すように大ジャンプを繰り返しているようで、レーダー上のアイコンが一定しない

 

「響ちゃん!お願いだから聞いてっ!」

 

ギアを展開している響になら

ギア装者の視界カメラと通信機能が使える

しかし、それにすら応答しない響

 

「どうにかしないと……!」

 

何度再接続を試みても同じ

街頭スピーカーをジャックするのは確実性が薄いし時間がかかり過ぎてしまう

着実に近づいて入るようだけれど

その距離はまだ遠い

せめて遠距離攻撃手段を有するギアならばともかく、響ちゃんのギアは格闘特化型

 

「こうなったら!

……Voicen chorus (ヴァイケン ショーラス)gungnir zizzl(ガングニール ヅィール)

 

もうヤケと言わんばかりの勢いでシンフォギア強制励起、機能接続のコードを音声起動した

繊細かつ緻密な音域コントロールで正確にコードを辿った上で十分量のフォニックゲイン、そして向こうにこの旋律が届いていることが大前提だが

幸いにもそれら全てがクリアされ

 

「強制接続!響ちゃん!!」

「はっ!?……だれ!?」

 

「響ちゃん聞こえる!?応答して!」

「は、はい!」

 

無理やりに響と音声回線をつなげることに成功した

 

「角度修正正面、右2度、

着地姿勢は2.1.今!」

 

旋音の声と同時にジャッキを起動させた響が路面を踏み潰して跳躍

 

「そのままもう一度!すぐに大型ノイズが見つかる!」

「はい!」

 

そして響が未来を追いかけていた大型ノイズを撃ち抜いて撃破し

シンフォギアが解除されたことで通信接続も解除される

 

「……ノイズ全消滅確認……」

 

「すぐに捜索隊を出します!」

「一課に人員派遣を要請します!」

 

藤尭さんと友里さんが互いに事後処理を始める中、統慈はそちらには関われないため

席を外してその状況が落ち着くのを待つのだった……



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第37話 わんにゃん

「……響ちゃん、大丈夫かい?」

 

「はい、なんとか……未来も助けられましたし……」

 

だいぶ疲労困憊と言った様相の強い響

しかし苦労で済んでいるあたり、この頃から凄まじい体力を秘めているようだ

 

「よし、それじゃあ僕は今回の件を振り返ってみるよ……と、その前に

なんで通信に出てくれなかったの?」

 

「え?通信ですか?」

「通信機、渡していたはずだろ?

いや持ってなかったのは分かってるんだけどさ、携帯端末はちゃんと携帯してくれよ

何のためのポータブルだい?」

 

「……すみません」

「よろしい、まぁ今回はそれで済んだとはいえ、次回になにがあるか分からない

気をつけておくれ」

 

どうやら響はガングニールの通信機能すら無意識にカットしていたらしい、これは響の凄まじい集中力と想いに応えるシンフォギアの基礎機能が組み合わさって生まれてしまった痛ましい事故というわけだ

 

「はぁ……私呪われてるかも……」

 

「次は気を付けておくれよ?」

「はーい!」

 

響を嗜めながら自費で買ったお菓子を与える統慈、それに食いつく響

まるで主人の手から餌を食う犬か何かのような有様だった

 

 

 

「はぁ……クソッ……なんでこんな事に……」

 

一方クリスの側では

過去に廃ビルとなって以降人のいない古いビルに潜り込み、その中に身をひそめていた

 

「……」

 

クリスの脳裏に過ぎるのはふらわーの店主や一時とはいえ言葉を交わした未来、そして立花響のイメージ

 

「生き延びていれば今頃は飯でも食ってんのかね……ハハッ」

 

自分の飯すら危ういのに他人の心配などしていられない

そんな意味なのか、それともただ単純に自らの境遇を哀れんでか、嘲るような声を上げるクリス

 

「……」

 

そして、運命の時が来た

 

「ほらよ」

 

ガサリという、ポリ袋特有の音がなる

それに身構えたクリスが視界に収めたのは

目の前に立つ巨漢の姿

 

「応援は連れてきていない

俺1人だ、君の保護を命じられたのは、もう俺1人になってしまったからな」

 

床に座ってレジ袋の中からアンパンを取り出す巨漢に鋭い目を向けるクリス

 

「バイオリン奏者、雪音雅律とその妻声楽家ソネット・M・ユキネが、難民救済のNGO活動中に戦火に巻き込まれて死亡したのが8年前。

残った1人娘も行方不明となった

その後の国連軍のバルベルデへの介入によって事態は急転する。現地の組織に囚われていた娘は発見され保護、日本に移送される事になった」

 

「…………」

 

自らアンパンと牛乳を少し食して、毒味をやってみせる

 

そこまでしなければ食わないと、確信しているからだ、仮ににもゲリラ組織にいたクリスはそこそこの教育と同時に武器だけでなく振る舞いにも矯正を受けている

ガサツな言行は単なる気質ではなく、ゲリラの連中に由来している

 

「ふん、よく調べているじゃねえか

だがねぇ、そういう詮索……反吐が出る」

 

 

「当時の俺たちは適合者を探す為に

音楽界のサラブレッドに注目していてね、天涯孤独となった身元引き受け先として手を挙げた

ところが少女は帰国直後に消息不明……俺たちも慌てたよ、当時の二課から相当の捜査員が駆り出されたが、この件に関わった者の多くが死亡或いは行方不明という最悪な結末で幕を引く事になった」

 

人馴れない野良猫が噛み付くように

牙を剥き出して叫ぶクリス

 

「何がしたいオッサン!」

 

そんなクリスの問いに巨漢、いや

特機部二の司令官、風鳴弦十郎は表情を殺したまま応える

 

「俺がやりたいのは…君を救い出す事だ、引き受けた仕事をやり遂げるのは『大人の務め』だからな」

 

「ふん!大人の務めときたか!余計な事以外はいつも何もしてくれない大人が偉そうに!!」

 

キレたと言わんばかりに一声叫んで

そのままビルを飛び降りてギアを纏い、底上げされた身体能力で去っていくクリス

 

「……無念……」

 

拳を握りしめて、呟く弦十郎

今なら、いやいつからでも

一度捕捉してしまえば日本中どこであっても追随できるはずの肢体を持ちながら

去りゆくその背を追おうとはしなかった

 


 

「……来たか」

 

アメリカからの特殊部隊

それが今回の客の正体だ

 

つい先日までクリスと共に暮らしていた屋敷に土足で踏み込んでくる連中を見遣って

了子(フィーネ)はため息をつく

 

窓ガラスを破り、カーテンをレールごと打ち壊し、カーペットに足跡を付けてテーブルを蹴倒す

そんな見事な作法を見せつける連中に吐き気を催した、と言わんばかりの表情だ

 

「この家をよくよく汚してくれるものだな、貴様ら」

 

「手前勝手が過ぎたな、業突く張りの頭デッカチ」

 

隊長らしき人物がそう吐き捨てると共に、了子(フィーネ)に銃を向ける

 

異端技術(ブラックアート)の深淵を、覗いてすらもいない青二才のアメ公(アンクルサム)が…!」

「撃て!」

 

隊長の指示に従い、部隊のメンバーたちが発砲する

 

しかし、『十数丁のアサルトライフルに狙われている』そんな程度で死んでいては先史文明の巫女は務まらない

 

「甘いんだよチェリーボーイ」

 

難なくピンク色のバリアで防ぎ

そのまま反撃に転じる

取り出したのは

「ついに起動した完全聖遺物グロウノス(時刻む鎌)、この鎌は鋭いぞっ!」

 

原作に存在しなかった、完全聖遺物の一つ

 

度重なる絶唱のフォニックゲインや戦場跡に残留したエネルギー、そして擬似聖遺物の生み出す力でようやく封印解除に成功した完全聖遺物

その名はグロウノス

 

時と歴史を刻む神、クロノスの所有する漆黒の大鎌である

 

「仕留め」

 

隊長が一言を言い切るよりも前に

その首は既に断ち切られていた

 

そして、連鎖する音と共に

そこにいた隊員全員の身が崩れ落ちる

 

首を切られた者、胴を断たれた者

背が砕かれた者、縦に割られた者

 

さまざまな状態で、みな同時に倒れた

 

「……クリスとの思い出も残っているのだが……仕方ないか」

 

そしてその直後

フィーネの姿は、まるで最初からいなかったかのように掻き消えた



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第38話

「ん、とうちゃーくっ」

 

フィーネが時間を切り裂いて瞬間移動した先は

二課の本部

正確にはそのエレベーターシャフトたる『カ・ディンギル』の中枢部だ

 

「それじゃー……はじめましょ」

 

繋いだコネクターから光のラインが走り、カ・ディンギルが起動する

 

聖遺物と同様の異端技術を持って作られた擬似聖遺物、その集合たる『複合擬似聖遺物構造体』であるカ・ディンギル

真の完全聖遺物であるデュランダルを核としながらもデュランダルの力に溺れぬ増強装置や収束機などを備えて山のような規模の砲身を伸ばすそれは、今まさに仮初の役から解き放たれ

真の姿を世に顕そうとしていた

 

「……流石に悪いかしらね」

 

右手に握られていた鎌の柄を離し

軽く動かした次の瞬間

そこにあったのは金の大剣

 

時間を切り裂いて保管先から持ってきたデュランダルだ

 

「んで……と」

 

炉心にデュランダルを据え付け

その機能を動かして

ソロモンの杖を構える

 

「まずは陽動を」

 

ソロモンの杖が呼び寄せるノイズは今回

大型の爆撃タイプと一般量産機に二極化した

 

「……特機部二もこれでサヨナラね」

 


 

「ノイズの反応を検知!ソロモンの杖によるノイズ召喚であると思われます!」

 

二課のレーダーが反応し、即座にノイズの位置を表示する

 

「位置は本部から東に7キロ、商店街周辺です!」

「よし、装者は2人共出撃!現場にヘリを回す、響君はそれに!

翼は自前のバイクだ!」

 

「了解!」「はい!」

 

2人は慌ただしく出て行き

統慈はレーダーに視線を釘付ける

それと同時に藤尭さんと友里さんのオペレーター2人がそれぞれのコンソールに向かい

司令はインカムを構える

 

避難誘導のために一課に連絡を飛ばし、別室でノイズのデータをより詳細に解析したりと色々と騒がしくなる室内

 

そして、未だに姿を現さない了子(フィーネ)

 

「了子さんがいないのは何故ですか!?」

「櫻井女史とは何故か連絡が取れない!今は現場に集中しろ!」

 

「はい!」

 

ノイズの飛行型である『フラストノイズ』その上位機に位置する飛行型爆撃式、型式名

『ノイズ・クロスセイル』

大型ノイズの中でも特に戦い辛く、戦闘が成立し辛い敵である

そもそもこいつは動きが遅く、戦闘力自体はほぼない

しかしこいつはノイズ生産機構を体内に有し、常時小型ノイズの生成を行なっているため

実質的にこいつがいる限りノイズが無限に湧くといういわば移動工場なのだ

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

無数のノイズが舞う空に

聖詠(はじまりのうた)が響く

 

そして

 

「はぁっ!せいやぁっ!」

 

拳と脚を駆使してノイズを打ち砕く

ガングニール=響

 

さらに、刀を様々に変形させ

押し寄せるノイズの群れを次々に一刀両断するアメノハバキリ=翼

 

「装者両名、戦闘開始!」

「オペレーションスタート!」

 

慌ただしくギアのカメラや周辺の監視カメラまで使った状況の記録を始め

統慈もまたそれに追従する

 

騒がしい周囲の音をまるっきり無視して

自分の仕事を始めたのだった

 


 

「頭上を取られる事が、こうも立ち回り難いとは!」

 

 

「空飛ぶノイズ…どうすれば…!」

 

「臆するな立花!防人が後退れば、それだけ戦線が後退するという訳だ!!」

 

遠距離攻撃手段を持たない響は

バンカーによる反動跳躍でしか空中の敵に立ち向かう事ができない

翼の攻撃である『千ノ落涙』もこの数相手には多勢に無勢、かといって『蒼ノ一閃』では射程不足と連射できないという弱点が晒される

空中を悠々と飛ぶノイズ・クロスセイルを相手に、2人は完全に攻め手を欠いていた

 

「こうなったら!」

 

響が拳を握り

「まさか絶唱を使うつもりか!よせ立花!」

「違います……はぁぁぁっ!」

 

拳に収束するエネルギーは実体化せず

光のままに渦を巻く

 

「せやぁぁぁっ!」

 

エネルギーを拳に乗せて()()()()()

そのエネルギーによる狙撃でノイズを数体纏めて吹き飛ばすした

 

「こうするんですッ!」

「……呆れる程の非効率な使い方だ」

 

「でもこれしかありません!」

 

〈よしなさい響ちゃん、無理をしすぎると体を壊す、それよりバンカーを使って衝撃波を飛ばす形にして見なさい

翼さんはすみませんが分割したアームドギアの投擲で少しずつ削ってください!〉

 

「了解だ」

「やってみます!」

 

無論統慈に戦術指揮など取れるわけは無いが、そんな自傷じみた攻撃の乱発を許すわけにはいかない

融合ギアはエネルギーの消耗を回復するために響自身の肉体を削いでいくからだ

 

そしてしばらく経つ頃

「全然減らない……」

「弱気になるな!常に勝利への道を見つめ続けるんだ!

幸いお前も私もリンカーを使わない正規装者、時間には余裕がある!」

 

編隊単位で突撃してきた尖兵に

響が突っ込んで連撃を入れ

その隙を狙った遠隔型を翼がシャットアウト

 

しかし戦闘のテンポは常に一定では無い

そこに絶対はないのだから

 

「翼さん!なんかおっきいのが!」

「分かっている!あれは……ギガノイズ!」

 

陸上型制圧式

汎用型の一般機の上位機に当たる格闘力の高い大型ノイズ、ギガノイズ

原作では存在しなかったが、ここでは現れてしまった

 

「くっ……やれるか立花!」

「はいっ!」

 

拳にエネルギーを収束させ

アンカージャッキを展開した響が飛び上がり

ギガノイズの拳に自分のそれを合わせるように殴りつけた

 

体の中心まで一気にブチ抜かれたギガノイズは炭と化して崩れ散るが

やはりその数秒とて穴が開けば防御が間に合わなくなってしまう

 

「まずいッ!ハァァッ!」

 

蒼ノ一閃を放ち、響をねらった空中のフラストノイズ群を討つも数は減らず

雲霞の如き機体数で今度は翼に向けて突撃してくる

 

大技を使った直後の翼には

それを迎撃しきるだけのフォニックゲインはもはや残されておらず

響もギガノイズの体を打ち抜いたばかりで翼のそばに戻れない

つまり、()()

 

「ぶっ飛べコウモリもどき!」

 

突然聞こえた口の悪いシャウトと共に

フラストノイズが打ち払われた

 

「何っ?!」

 

ダメージ覚悟でカウンターを狙っていた翼がタイミングをスカされてよろめきながらも視線を火線のもとへ向ける

 

「クリスちゃん!?」

 

そこにいたのは赤い鎧を纏った銀髪少女

間違いなく雪音クリスだ

 

「お前らの助っ人になったつもりはねぇ

アタシはアタシで好きにやらせてもらうぜ!」

 

いうが早いか連射するは4連砲身のガトリングガン、重量級の武装を振り回して空中のフラストノイズを相手に滅多打ちを始める

 

「オラオラオラオラッ!ぶっ飛べぇぇっ!」

 

トリガーハッピーか何かのように

嵩に懸かって撃ちまくるクリス

しかし、戦力は偏った側に補充されるモノ

クラスに群がるノイズが増えてきて

響がフォローに入ろうとするが、クリス自身がそれを拒むかのように全方位攻撃を行う

 

「クリスちゃん!」

「うるせぇすっこんでな!」

 

「一人で戦っているつもりか!」

 

「あたしはいつだって独りだ。こちとら仲間と馴れ合ったつもりはこれっぽっちもねぇよ!」

 

響を振り払うように攻撃を続けるクリス、その様子に対して怒声を上げた翼に

さらに大きな声で切り返す

 

「確かにあたし達が争う理由なんてないかもな、だからって争わない理由もあるものかよ!こないだまでやり合ってたんだぞ!そんなに簡単に人と人が…」

 

クリスの手を響が両手で取って、そっと包み込む

 

「出来るよ!誰とだって仲良くなれる。」

 

しかし、無理に爆発をすり抜けて急接近してきた挙句に戦闘中に的を集めて、しかも攻撃の手を緩めるような愚行をしたツケはすぐに支払わされる

 

飛行型爆撃式ノイズ

小型のフラストノイズに対して中型と呼ぶべき、人より少し大きい程度の翼鳥型ノイズ『ノイズ・グリュフス』が突撃してきたのだった

 

「立花っ!」

 

「ぇっ!?」

 

ずぱちゅん

 

そんな音と共に、ノイズ・グリュフスは空中でチリと化した

 

「……ふぅ……」

 

息をついたのは、緒川さん

 

「投擲術です、気にしないでください

僕は避難誘導に戻ります」

 

位相差障壁を無効化されているとはいえノイズ、その速度は尋常ではないはずだが

緒川さんはそれを的確にボールペンで射抜いて、そのまま去って行った

 

「……しゃあねぇ、一気にカタをつけるぞ」

「まさか絶唱を使う気か!?」

 

「バーカ!あたしの命は安物じゃねぇ!ギアの出力を引き上げつつも、放出を抑える

行き場の無くなったエネルギーを臨界まで溜め込み、一気に解き放ってやる!」

 

「だがチャージ中は丸裸も同然、これだけの数をする状況では、危険すぎる!」

 

先ほどまさに大技を空撃ちさせられた翼が反対するが

 

「そうですね、でも私達がクリスちゃんを守ればいいだけの事!」

〈イチイバル・ギアの照準補正はこちらで行います、ロックオンサイト提示

これより誤差修正を行う〉

 

響がクリスの前に立ち塞がり

唯一手が空いていた統慈がクリスのイチイバルに遠隔から接続する

 

誘導を担当する統慈に対し

クリスはいらん事するな、と言いたげな表情になるが、数百のスプレッドミサイルまで制御できるとは思わず、自力で制御するために集中する

 

(どいつもこいつも頼まれてもいねえ事を……こりゃ引き下がれねぇじゃねえか!)

 

MEGA DETH QUARTET

一斉射(FIRE)

 

巨大な四連装ミサイルと二基のガトリング

そして廃部から展開した小型ミサイル

 

しかし、高まるフォニックゲインに危機を察知したか、ノイズ・クロスセイルが4体同時に大型ノイズを投下する

 

もはや爆発寸前のエネルギーに急かされ

まともに狙いも付けずにトリガーを引くクリス

もはやノイズ・クロスセイルを落としても大型ノイズを撃ち落とすことは叶わない

はずだった

 

〈……行きます!〉

 

各方面に飛翔したミサイルが一斉に外装をパージして、クラスター弾の如く拡散する針のような小型弾体を射出

 

それらは挙動・軌道を変化させるだけに留まらず攻撃の内容すらも変化して

飛行型遠隔系ノイズ『ノイズ・キロプテラ』を叩きつぶし、その体を貫通してノイズ・クロスセイルを爆散させる

 

そしてその瞬間

 

「ノイズ出現!位置……二課本部直上!」

 

友里さんの叫びが耳に届き、同時に

通信で響たちにも流れた

 

「急ぐぞ!」

「はいっ!」「クソがっ!」

 

シンフォギア装者達は、急ぎリディアンへと向かった



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第39話

「司令官、僕も行きます!」

「ダメだ!」

 

すかさず制する弦十郎に、しかし統慈はすでに応手を打っていた

 

「僕はノイズの位相差障壁を無効化できる装置を扱えます!それはリディアンのコントロールセンターを使わなきゃ操作できない!」

「……仕方ない……行ってこい!」

 

生存率に直結するノイズ撃破能力

それに必要な位相差障壁の無効化を行うことができる人材として、必要という大義名分を掲げた統慈を前に、さすがに遮ることもできなかったか

弦十郎は道を開ける

 

「はい!行ってきます!」

 

統慈は開いた道を走り出した

 


 

「ノイズよーっ!」

「はやくシェルターにうが……」

 

「うわぁぁっ!……」

 

アサルトライフルとフラッシュバンで武装した1課の部隊がノイズ出現の渦中にあるリディアンに踏み込み、その中にいた生徒・教師達の避難を推し進めるが

やはり犠牲者が出てしまう

 

「逃げてください!地下シェルターに早く!」

「どうなってる訳?学校が襲われるなんてアニメじゃないんだからさ…。」

 

「みんなも早く避難を!」

 

連れ立った友人3人に、未来が避難をする様に言う

 

「小日向さんも一緒に!」

「先に行ってて。私、他に人がいないか見てくる!」

 

未来はそう言うと、走り去っていた。

 

「君たち、急いでシェルターに向かって下さい!」

 

一人の機動部隊隊員が3人に声をかける

その瞬間、オレンジ色に発色した一体のノイズが突撃形態で襲い掛かり

隊員を炭の塊へと変換する

 

「オラァァァッ!」「うごぁっ!」

 

寸前に隊員はドロップキックで吹き飛ばされた

 

「はやくシェルターに!あまり長くは逃げ切れません!」

「は、はいッ!」

 

恐怖に突き動かされる3人の脚は滑らかだった

 

 

 

「誰か!残っている人はいませんか!?」

 

取り残された人間を必死に捜索する未来

しかし、ノイズあふれるこの環境

すでに生きている人間を発見するのは困難であろう状況で、入り組んだ廊下を抜けなければならないという構造を持つ校舎に残ったのは

愚かという他にない行動だった

 

「学校が…響の帰ってくる所が…!」

 

未来は絶望の表情を浮かべ、ノイズ達にリディアンが壊されていく様を見ている事しか出来なかった

その時、ノイズが校舎の窓ガラスをぶち破り壁に張り付いた

 

そして未来を見つけると一斉に飛びかかってくる、しかし、次の瞬間割り込んできた男性が未来を抱えて突撃を躱した

 

飛び込んできた男性は、緒川慎次

 

「ギリギリでした。次、上手くいく自信は無いですよ。」

 

しかし、次次に入り込んでくるノイズは2人を見つけて狙いを定めた

 

「走ります!」

 

逃げの一手を打ち、未来を抱えたまま走り出す緒川

 

「はい。リディアンの破壊は、以前拡大中です。ですが、未来さん達のおかげで被害は最小限に抑えられています。これから未来さんをシェルターまで案内します。」

 

地下への入り口に入ったところで緒川は素早く弦十郎と連絡を取り始める

エレベーターの扉を閉じ

地下へと移動しながら状況を説明する

 

その時…突如エレベーターの天井が破られた

 

「やはりあなたが…櫻井女史…いや…フィーネ!」

「ほう?気づいていたか、案外鈍間の無能ばかりではないようだな」

 

睨み合う二人と、緒川の背に庇われた未来

 

そして、エレベーターが到着する。ドアが開いたと同時に飛び出した緒川はフィーネから距離を取って拳銃を取り出し、3発分発砲する

弾丸はフィーネの胸に命中するが、その身を貫く事能わずに床へと落ちた

 

「やはりネフシュタンの鎧…!!」

 

緒川は自らの無力を嘆くように歯を食いしばる

 

フィーネはかつてクリスが纏っていたネフシュタンの鎧を纏っていたのだった

聖遺物の力で優位を取ったフィーネは撃たれながらの攻防で伸縮する鞭を使って緒川を拘束し、締め上げる

 

「うぐあぁぁっ!!」

「緒川さん!」

 

「未来さん…逃げ…るんだ!」

 

緒川は未来に逃げるように促し

フィーネももはや小娘一人に拘泥するような状況ではないと見逃すように背を向ける

しかし未来は逃げずにフィーネの背中に体当たり

衝撃は大したものではなかったが、気分を害されたか未来に振り向くフィーネ

その鋭い視線に思わず未来は怯んでしまう

するとフィーネは緒川の拘束を解き、未来に近寄る。

 

「麗しいなぁ……お前達を利用してきた者を守ろうと言うのか?」

 

「利用?」

未来はその言葉に問い返すが

 

「何故二課本部がリディアン地下にあるのか。聖遺物に関する歌や音楽のデータをお前達被験者から集めていたのだ。」

 

フィーネは未来の唇を親指でなぞりながら言う。

 

「その点、風鳴翼という偶像は生徒を集める為によく役立ったよ。ハハハハハ…!」

 

気絶している緒川を鞭で放り捨て

いつでも殺せるとばかりに余裕を見せているフィーネ、しかし

 

「……死ね」

 

フィーネが扉を破ったエレベーターシャフトを飛び降りてきた統慈が鋭い風切り音と共に延髄狩りで首を圧し折って吹き飛ばした

 

爆発的な運動エネルギーが解放され

床は悲惨な状態に成り果ててエレベーターシャフトは本来の機能を半ば喪失してしまったが、その衝撃で未来は弾き飛ばされ

分断されて地面に転がるフィーネの首という惨劇を目にすることはなかった

 

「……再生か」

 

ぐちゃりという生々しい音を立てながら再生するフィーネの首

 

「随分と乱暴に扱ってくれるじゃないか我がシューラー(愛弟子)

 

ゴキゴキと首を回して調子を確かめながら余裕の表情のフィーネに対し

統慈は無表情のまま答える

 

「生憎、師匠はパツキンじゃなかったものでね……!」

 

統慈は啖呵を切ったと同時に擬似聖遺物を解放、メビウスの腕輪が唸りを上げる

 

「ならインストラクションだ、レディーの扱いというものを教えてやろう」

「ボケた婆さんの扱いなら熟知してるんだ……ぜ!」

 

狭い空間では鞭は自在とは言えない

だがそれでも完全聖遺物のスペックは神威を持たない擬似聖遺物如きを凌駕して余りある

 

流星の如きエネルギー弾を爆炎が撃ち消して

揺影を走らせる光の槍が展開した板壁に防がれ、連射される光球は煙に巻かれて消滅する

 

「この……しぶとい!」

「ふふっ……いい加減に寝ろッ!」

 

フィーネが展開したAsgardでシールドバッシュを放ち、衝撃に吹き飛ばされて通路を奥へ移動しながらも、統慈はそれを好機としてメビウスの腕輪をバースト

 

「炎光剣……!」

「ええい!止めをくれてやるッ!」

 

地面を転がって片膝をつきながら

光の剣を展開した統慈に対し

フィーネは時を切り裂いて背後に回る

 

「遥か過去に埋没するがいい!」

 

黒く、光すら停止する時間の中で輝く鎌

完全聖遺物グロウノスが振り抜かれた

 



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第40話 

「グロウノスの能力は時間操作

……遥か過去に飛ばしてやったが、どこに行ったかは分からんよ……な!」

 

「もう容赦はせんぞ!了子君ッ!」

 

瞬間移動してきて全開モードの拳を振り切った弦十郎は、しかしその拳が不可解な感触を受けたことに驚愕する

 

「時間を停めたのだ、その拳も停まろうというもの」

 

「なんだと……時間をッ!?」

「そう、この完全聖遺物の力でな!」

 

しかし、弦十郎もただやられるだけではない

少なくとも防御に関してはたかが打撃無効程度の属性でしかないと判断し、

瞬時にフィーネの後ろに回り込んで拳を叩き込む

 

「甘い」

 

瞬きほどなれど、そこに『時』が掛かれば

それはグロウノスの前に永遠と同義である

 

「くっ!」

「人の身で聖遺物に迫るほどの力を見せる、やはり危険だな」

 

再びの瞬間移動で距離を取った弦十郎に対してつぶやかれる言葉は

呆れたと言わんばかりのもの

 

その言葉が終わるより早く弦十郎の拳が空を切る

 

咄嗟に躱したフィーネの鎧

その一部が砕けるが、すぐに修復されてしまった

 

「むっ……」

「はぁっ!」

 

空気の壁を破って音を超え、鍛錬によってさらに磨き上げた拳、それを不完全とは言え聖遺物に頼らない自力で回避されたことに驚愕する弦十郎

しかし、その瞬間

フィーネが時を切り裂いて瞬間移動し鞭で攻撃する

 

「肉を削いでくれる!!」

 

鞭を振るったフィーネだが、

それも虚しく、背後からの一撃は掴み取られ

そのまま引き込まれて体勢を崩してしまう

 

「ふんッ!」

 

拳がフィーネに突き刺さり、ネフシュタンの防御を貫通してそな身にダメージを通した

 

「完全聖遺物を退ける…どう言う事だ…!?」

 

フィーネは異端技術を用いた訳でもないような生身の人間が何故これほどの力を持つのか分からなかった

その問いに弦十郎は答える

 

「飯食って映画観て寝るッ!男の鍛錬は、そいつで十分よッ!」

 

「馬鹿な事を言うなぁぁっ!」

 

激昂のままにフィーネが使ったソロモンの杖

しかしノイズが出現するためのゲートを開くより前に蹴りによって発生したショックウェーブで弾き飛ばされ、杖は天井に突き刺さる

 

 

「っ!!」

 

その瞬間に弦十郎が飛びかかり

 

「ノイズさえ出てこないのなら、どうとでもなるはずだッ!!」

 

弦十郎は拳を浴びせようとする

その瞬間

 

「弦十郎君!」

 

「ッ!」

 

弦十郎に一瞬、迷いが生じた

それをフィーネが見逃さない訳がない

グロウノスを使用して時間を切り裂き、瞬間移動でソロモンの杖を回収したフィーネは、そのまま鎌で弦十郎を斬りつけた

 


 

「くぅぁっ!?」

 

了子(フィーネ)と戦っていたはずの統慈は

なぜか突然、開けた野原に転がっていた

 

「こんな馬鹿なこと……!」

 

空間転移の類を疑い、周囲を見渡す統慈

しかし、周囲にはフィーネどころか真っ当な建物すら見えない

「……これは……」

 

フィーネの攻撃を警戒するのをやめて

周囲に生えた草に目をやる統慈

 

「ネコジャラシや小麦に似ているが……穂が小さい……いやこの時期ではまだ小麦の穂が出るはずはない!まさか違うもの……?」

 

「どうしたの?」

「うわっ!?」

 

屈み込んでいた統慈の横から声がかかり

そちらに視線を向けると

 

「……?」

 

長い金髪をポニーにまとめた少女の姿

「大丈夫?」「……あぁ、大丈夫……だと思う」

 

少女に応えると、その子は心配そうな表情から笑顔になった

 

「ねぇ、あなたどこから来たの?」

「僕かい?……僕は……多分だけれど、とても遠いところから、それだけだよ

ここがどこなのかも分からない」

 

しかし、そこから続く言葉に

再び表情を曇らせる少女

 

「それは……大丈夫じゃないわね

どこから来たのかも分からないのでは、生活もままならないのではなくって?」

「恥ずかしながらその通りだよ

ここはどこなのか、教えてくれるかな?」

 

「えぇ、ここは神の都バビロニア

の郊外にあるカラの原よ……と言っても分からないわよね?じゃあついてきて

神様にあなたの過去を見てもらいましょう、そうしたらきっと、どこから来たのか、何があったのかも分かるはずよ」

 

少女は統慈に背を向けて歩き出し

統慈もそれについていく

 

「分からないこと、知りたいことがあったら質問してね?私もなるべく積極的に説明するけれど、私に取っては当然でも、あなたには分からないこともあると思うわ」「わかった、お願いしよう」

 

若干機嫌の良さそうな少女についていくと

30分ばかり歩いて、なんだか歴史ありげな感じの巨大な壁が見え始めてきた

 

「バビロニアってあんな感じになってたのか……」

「外壁はバビロニアの誇る4重防衛機構の一つ、概念障壁(メダレナ)

ほかにも物理障壁(フィダレナ)反撃装甲(カウテラス)、最後は私にも分からないわ」

「なんか格好いい名前だね」

 

「あら、あなたもそう思うの?

私も格好いいと思うわ、あなたとは仲良くできそうね」

 

ニコニコと形容するような笑顔を浮かべた少女は、草原の途中で止まって左手を前に出す

 

「止まって、バビロニアの障壁は視覚的に見える範囲だけじゃなくて、多次元に亘って存在するわ……だから」

「つまり、さっき言っていた外壁の……」「そう、概念障壁(メダレナ)はここまで広がっているの、私は認証が通るけれど、あなたを入れてあげる権限はないわ……少し待っていてね」

 

そっと手を伸ばした少女の指先から波紋が広がり、少女の姿が消失する

 

「……」

 

姿が消えた事に一瞬焦ったものの

統慈はすぐに思考を切り替える

 

(バビロニアとか見慣れない植物を見るに……おそらくここは過去の世界、あるいはシンフォギアとは違う世界、どちらにせよ元の世界に帰らなきゃいけない、まずは違う世界に飛ばされてきた原因を探らなきゃいけないな)

 

思考は続くが、やはり時間または世界線境界面を超えてきたのは『そういう聖遺物の効果』としか思えないというもの、自然と方法より、タイミングや意図を考えるように動く

 

(環境を見るにおそらく超古代文明の時代にまで遡ってきている

時間を飛ばす聖遺物で過去に戻ったとするならおそらく一般摂理における時間の連続性に違反した地点に時空が歪んでいるポイントがあるはず

そこに行けば……いや、また歪んだ時の中に漂流すれば今度はどこにたどり着くかわからない、それこそ滅んだ世界とかについてしまったら仕方がないな……)

 

危険極まる世界漂流など不可能と判断した統慈は思考を切り替える

 

「……」

 

(まず言葉は通じるというだけだが利点は得た、現地住民の協力も得られた

まずは一旦拠点を構築して、十分に情報を得る他にない……!)

 

その瞬間、目の前の空間が揺れて

 

「おにいさん!連れてきたよー!」

「……はじめまして」

 

少女と緑色の髪の女性が現れる

 

「あ、こちらこそはじめまして

先程は言えませんでしたが、私の名は統慈といいます」

「ご丁寧にありがとう、私はカストディアンの一人、文明開化員のトト」

「私は契約者のフィーネ!」

 

「……まず、一つ教えてもらっていいだろうか」

「もちろん、貴方の質問に答えよう」

 

緑髪の女性はトトと名乗ったのに対し

明らかに聞き捨てならない名前を名乗った金髪少女

 

「名を、フィーネ、そう言ったな?」

「ん?うん!私はフィーネだよ!」

 

(となるとやはりここは過去の可能性が高い、もしかして使った聖遺物は時間を巻き戻す機能に特化していて、『いつ頃に戻すか』は設定できないようなものなのか……?)

 

「ではトージ、貴方に問います

『貴方はどこから、如何にして来ましたか?』」

 

「場所はリディアン、道は不明、おそらく遥か未来から」

 

「……真理を解き明かす権能ですらこれですか……どうやら本当に違う時代から迷い込んでしまった客人のようですね、仕方ない

労働者階級としての扱いでよければ、私の権限で人民登録を行います

どうしますか?」

 

「ではそれでお願いします」

「承りました、フィーネ」「はい!」

 

フィーネがプラ板のような薄い板を俺に渡してくる

 

「個人認証付きの携帯端末よ!貴方には生体埋め込み式の認証ができないから

代用の身分証としてそれが機能するわ、それじゃあこっちに来て……ほら、ここに触れて」

 

言われるがままに波紋を揺らめかせる端末表面に触れて、一瞬ピリッとした感覚を味わう

 

「個人認証完了よ、登録ができたらもうゲートは倒れるから、一緒にいきましょ!

バビロニアの都を案内してあげるわ!」

「……フィーネ、あまり迷惑をかけてはいけないよ?時間渡航が禁忌指定されているのはあなたも知っているはずよ」

 

「は、はい!」

「トージ、貴方もあまり連れ回されるままではいけない、ちょんと主体性を持ちなさい

自分を支配できない人間は周囲を支配できないのですから」

「はい」

 

やたら含蓄のある諺のようなものを聞かされながらフィーネ(幼体)に引き回される

やがてはフィーネが勤めることになるという神殿や、普段の勉学につかっているという学舎

古い見た目の市場など、様々な場所を見て回る

 

フィーネ(幼体)が言うには

この街はアヌンナキがもたらした技術によって作られ、人間たちがその中を満たしたということ

外壁や主要建造物の内部には複雑な構造やら金属やらが見られた割に

市場は笊籠に果物を乗せるような典型的な発展途上国の様相であったのは

支配階級と被支配階級の文明力の差が原因であったらしい

 

「なるほど……」

 

「私は大人になったら巫女になって

神様と人の間に立つの!

契約者(つむぎあいあわせるもの)っていうのは神と人との中間でそれぞれを繋ぎ合わせる大切な仕事なのよ!」

「……」

 

その果てが気狂いの露出狂なのだから笑い者だが、それで構わないのだろうか

 

「トト様のところに戻りましょ

あの方はとても優しくて頭がいいの、きっと子供たちのためにおやつを用意しているところだわ!」

「……ありつけるといいけど」

 

統慈はこの時代の『おやつ』が如何なるものなのかも知らなければ

そもそも早くに帰るつもりだったので食べる気はなかったが、フィーネに手を引かれてトトの祭殿へと向かう

 

「あぁ、まっていましたよ二人とも

さて皆、彼はトージ、別の時間軸から来た旅人だ、あまり長くは留まらないだろうけれど

ちゃんとご挨拶しなさい」

 

「「「「はーい!」」」」

 

そこには……割と数の多い子供達がいて

トト神の指揮の下に集団で向かってくる

 

「はじめまして、僕は統慈という

先ほど言われた通りの旅人だ」

 

「ボクはカーボ、よろしく!」

「はじめましてトージさん、私はネルと言います」

 

「我が名はリンデ、ジークリンデである

跪くがいい!」

「……馬鹿」

 

トト神がリンデの頭を叩くのに時は掛からなかった

 

「えっと……私は……」

「どうぞ」

「あっはい、私はフライアと申します

よろしくお願いします」

 

なぜか神と人の名前を両方聞く

いや、トト神が隔てなく育てているということか

 

「……ユピター」「よろしく、ユピター君」

 

ジュピターは木星神

フレイアは金星神

ジークリンデ、ジークフリートの歌に出てくる戦乙女の末裔だったか?

カーボはおそらく音楽記号のダ・カーボ

 

「以上が私の教える子達だ、今は4名だけだが、2年前まではもう6名いたぞ

その6名はそれぞれが自分の道に進んでいったがね」

 

「……」

 

「さて、話を戻すぞ

皆、今日からはトージも共に学ぶことになる、心しておけ

トージ、まずはあなたの学力がどの程度かを判定する必要がある、私から問題を出すので回答して欲しい」

「わかりました」

 

話はかなり長引いた



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第41話 天穿つ塔

ソロモンの杖とネフシュタンの鎧を両方装備し、遂に姿を現したフィーネの指揮に従って

カディンギルがエレベーターシャフトとしての機能を放棄し、地上へと姿を現した

 

「リディアンが……っ!?」

 

翼は半壊した校舎の上に立つ了子の姿を見つけた

 

「櫻井女史…」

 

「フィーネ!お前の仕業か!?」 

 

怒りの声を上げるクリスの言葉に反応して

 

「フフフフフ…ハハハハハ!!!」

 

悪戯がバレたかの様な顔をして高笑いをするフィーネ

 

 

その頃、弦十郎は復帰した緒川と共に

オペレーター組を回収し、地上へと向かっていた

 

「防衛大臣の殺害手引き…デュランダルの強奪…そして、本部にカモフラージュして建造されたカ・ディンギル…俺達は全て、櫻井了子の掌の上で踊らされていた」

 

自分達が全てフィーネに利用されていた事を悔やみながら緒川に肩を貸してもらいながら懐中電灯で照らしながら暗い廊下を歩く弦十郎達。

 

「イチイバルの紛失を始め、他にも疑わしい暗躍もありそうですね」

 

「了子さんにとって、全てが野望の為に使い捨てる手駒でしかなかったんでしょう…」

 

緒川達は唯一残った脱出口である手動開閉のみの防火扉からの脱出を目出して

二課本部の廊下を進んでいく

 

 

 

 

「そんな……嘘でしょ…嘘ですよね?!そんなの嘘ですよね!?だって了子さん私を守ってくれました!」

 

響は信じられなかった、目の前にいるのは今まで自分を支えてくれた人だ

そんな人がノイズを使ってリディアンを襲うはずがない。信じたくなかった

 

脳裏に浮かぶあの時自分をノイズからバリアを出して守った事、嘘だと言って欲しい

 

「あれはデュランダルを守っただけの事。

希少な完全状態の聖遺物だからね」

 

フィーネは響の言葉を切り捨てる。

 

「嘘ですよ!了子さんがフィーネと言うのなら、じゃあ…本当の了子さんは?」

 

「櫻井了子の肉体は先だって食い尽くされた、いや、意識は12年前に死んだと言っていい。

超先史文明の巫女、フィーネは遺伝子に己が意識を刻印し、自身の血を引く者がアウフヴァッヘン波形に接触した際、その身にフィーネとしての記憶・能力が再起動する仕組みを施していたのだ。

12年前、風鳴翼が偶然引き起こした天羽々斬の覚醒は、同時に実験に立ち会った櫻井了子の内に眠る意思を目覚めさせた。

その目覚めし意識こそが私なのだ。」

 

つまり、櫻井了子の中に12年前からフィーネの魂が宿っていたのだ。

 

「貴方が、了子さんを塗り潰して…」

 

「まるで、過去から蘇る亡霊…!!」

 

「フフフフフ…!フィーネとして覚醒したのは私1人ではない。歴史に記される偉人…英雄…世界中に散った私達は、パラダイムシフトと呼ばれる技術の大きな転換期にいつも立ち会って来た」

「シンフォギアシステム……!」

 

「そのようなもの、為政者からコストを捻出させるための副需品に過ぎぬ」

 

「お前の戯れに、奏は命を散らせたのか!?」

「あたしを拾ったり、アメリカの連中とつるんでいたのも、そいつが理由かよ!!」

 

激昂する二人だが、それもどこ吹く風と言わんばかりに余裕綽々な様子を見せるフィーネには通じない

 

「そう!全てはカ・ディンギルの為!」

 

原作ではここからカ・ディンギルが出てくるが、本作では既に出ているので

フィーネは大きく手を振り上げて塔を指した

 

「これこそが地より屹立し、天にも届く一撃を放つ荷電粒子砲 カ・ディンギルッ!」

 

 

「カ・ディンギル…こいつで、バラバラになった世界が1つになると?」

 

「ああ。今宵の月を穿つ事によってな。」

 

そう

フィーネの狙いは月をカ・ディンギルで撃ち抜く事だ

 

「月を!?」

「穿つと言ったのか?」

「何でだ!?」

 

3人には理解できない

いや、因果が繋がらない

それもそのはず、そもそも人類の不和とは月に由来するもの、それを知らない現代人には理解できるはずがない

 

「私はただ、あのお方と並びたかった…

その為にあのお方へと届く塔をシンアルの野に建てようとした。

だがあのお方は、人の身が同じ高みにいたる事を許しはしなかった

あのお方の怒りを買い、雷霆に塔は砕かれたばかりか、人類は交わす言葉まで砕かれ

果てしなき罰…バラルの呪詛をかけられてしまったのだ」

 

フィーネの言葉に3人は黙り込む。

 

「月が何故古来より不和の象徴として伝えられてきたか・・・それは!月こそがバラルの呪詛の源だからだ!人類の相互理解を妨げるこの呪いを、月を破壊する事で解いてくれる!そして再び世界を一つに束ねる!」

 

光に満ちた砲身に目を向けたフィーネにとっては、シンフォギア装者達は既に眼中にない

しかし、その背に向けて怒りを放つものがいた

 

「呪いを解く…?それは、お前が世界を支配するって事か?安い!安さが爆発しすぎてる!」

「永遠を生きる私が余人に歩みを止められることなどありえない」

 

笑いながら振り向くフィーネに対して

3人は聖詠を以て相対し

 

「Balwisyall nescell gungnir tron」

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

「Killter Ichaival tron」

 

3人がギアを纏い、色とりどりの光と共に臨戦態勢に入った

 

 

クリスはフィーネにミサイルをブチかまし、周囲に被害が出る事も顧みずに撃ちまくり

弾幕を張ってフィーネの注意を集中させ

射程攻撃をもたない響が突撃するための足がかりを作る、同時に翼は飛び上がり

空中からの奇襲を狙う

 

響の突撃に対応して鞭を飛ばしたフィーネは、その片手間に鎌を振るって時を斬り

NIRVANA GEEDONを連発する

 

「うわぁぁっ!」「ぐぅぁぁっ!」

 

至近距離にいた響と翼はそれをモロに受け

凄まじい爆音と共に吹き飛ばされる

 

朦々と上がる煙の中で、クリスは己のギアを拡大して砲台を構築し

ミサイルを撃ち放つ

 

フィーネは向かってくる一撃には機敏に対応し、そのミサイルを迎撃するが

「もう一発は!?」

 

空中にクリスを運ぶ二発目のミサイルには対応しきれなかった

 

「クリスちゃん!?」

「何のつもりだ!?」

 

「だが足掻いたところで所詮は玩具!

カ・ディンギルの発射を止める事など!」

 

「Gatrandis babel」

 

「 ziggurat edenal」

 

大きく飛び上がり空中でミサイルを乗り捨てたクリスが歌を変える

 

「この歌…まさか!」

「絶唱!?」

「何だと…!?」

 

「Emustolronzen fine el baral zizzl」

 

涼やかに、軽やかに

少女が歌う、終焉の歌

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal」

 

少女は自らの両手に握った(ギア)

自らの死の引き金を引いた

 

大きく、夜空に広がる蝶の羽

 

「Emustolronzen fineel zizzl」

 

光が収束し、巨大に伸長した砲を中心に

数千に至る流星が降り注いだ

 

カ・ディンギル

超大口径の荷電粒子砲であるその一撃を

力を束ねた光の雨が迎え撃つ

 

「ハァッ」

 

ニチャァ、と言わんばかりに笑みを浮かべるフィーネ、クリスの絶唱は本来広域殲滅型

それを一点収束させての一撃では

元来から一点を撃ち抜くためだけに造られたカ・ディンギルこ攻撃力には及ばない

 

少しずつ、クリスの構えるバスターライフルにヒビが走る

リフレクターは過剰負荷に砕け

ギアそのものも、同時にクリスの命も擦り減っていく

 

そして、ついに

光条の雨は光の槍に貫かれて散った

 

「クリスちゃぁん!」

 

響の叫びよりも早く、動力を失ったイチイバルが落下していく

 

光の槍は空を駆け抜けて

月の一部を削ぎ取った

 

「し損ねた!僅かに逸らされたのか!?」

 

クリスは墜落の一瞬

全力を以って行っていた射撃を中断

アームドギアを放棄して、リフレクターを全面展開、砕け散るまでの僅かな時で

荷電粒子の光を僅かに屈折させることに成功したのだった

 


 

「ここで、私は暮らしています

トージくんは男の人で一般階級だから向こうの方の生活区画で暮らすことになるね」

「わかった」

 

フィーネ幼体から幾らかの説明を受け終わり、業務やらなにやらの合間に

商人の困りごとやちょっとした力仕事などの解決をしていると、少しずつ評判が上がっていき

そしてついには

 

「トージ、ちょっとウチの柵直してくれよ

木組みが緩んじゃってるみたいでさー」

「もう何度も何度も……自分でやってくださいって前に言ったでしょう?」

「そんなー」

 

「トージィ!家の電気回線って直せるかー?」

「直せますけど、物によりますね

一度見せてください」

「おっ、頼んだぞー?」

 

「トージくん、一緒にカフェに行かない?

今日、ちょうど空いてるんだ」

「わかりました、午後からで良ければ」

「もちろん!」

 

「トウジさん、また遊びを教えてください!」「ん、ベイゴマはもう飽きたか?

じゃあ今度はベイブレードをだな……」

「なにそれ?」

「こうやって三つに分解できるコマを使うんだ、ワンセットのコマと違って頭・胴・足を組み合わせる事で機能や動き方を積み替えることができるぞ、さぁ3.2.1.ゴー……シューッ!」

 

「なぁトージネジ山の部分を考えないネジ一本の体積ってどう計算すればいいんだ?」

「ネジの先端部分の円錐+ネジ山の最外径を直径とした円柱+ネジ頭の体積です

円形のネジ頭なら円柱、六角なら六角柱で

この場合なら円ですね、

直径8ミリの高さ14ミリの円柱と先端角90°で底面の直径8ミリの円錐と直径15ミリ高さ3ミリの円柱」

「お、おう」

 

金鉱の鉱山夫という職業からは早々に足を洗って便利屋となっていた

 

そして

 

「トージは居ますか?話があります

今後の人生にも関係する重要なことです」

「居ますよ、それでお話とは」

 

「貴方を私の契約者として選びたい」

 

「契約者……?フィーネのような、ですか?」

「そう、フィーネはエンキの契約者です

カストディアンはそれぞれ一人ずつ、ルル・アメルの中から専任の契約者を選ぶことができる

そしてその仕事は」

「神と人を繋ぐ鎹、という事ですね」

 

トージはついに、トト神自らが出向いてスカウトをかけるほどの存在となった

 

門戸を叩いてきたトト神に応対する統慈に対して、単刀直入に語った内容は紛う事なきスカウト

神と人の間に立ち、その間を繋ぐ楔

神に民意を、人に神託を

それぞれもたらし、その意思を擦り合わせる役としてのスカウトである

「それで、お答えは頂けますか?」

「もちろん、お受けいたしますと言いたい所ですが、しかし、僕には帰るべき場所があります」

 

トト神は目を閉じて、再びゆっくりと開く

 

「……無論、貴方は時の果てにある別の場所から飛ばされてきた

それは承知している、ですが

それで良いのではありませんか?

別の時へと流れ着いた者はその時空で一生を終える事も多い、そろそろこの時間軸も、貴方にとって住み良いものとなっているのではありませんか?」

 

その言葉は、毒

間違いなく強力な毒

事実として、かつて過去に飛ばされてきた時よりも遥かに『馴染んで』いるのは確かだ

この時代の、この世界の人間として過ごすのもまたとても良いのだろうと、統慈は思えているだろう

 

「しかし、それでも帰りたい

僕はあの場所で、やるべきことがある」

 

「……分かりました、ですが覚えておいてください、私は貴方を選んだということを

……さて、クロノス神のもとへ向かいますよ」

「え?どういう話ですか?文脈がわからないんですが」

「分からないもなにも当然です、実を言うと、私はここ二年間ずっと、

貴方を試していたのですよ

最後はともかく、その過程は最高でした

ロクに労働者としての経験も教育もないながらに下層階級の労働者という身分を押し付けられて右も左も分からない場所に放り込まれた貴方は、それでいて尚腐ることなく輝き続けてすぐに労働階級を抜け出した

次になにをするかと思えば商人達の中に飛び込んでいき修理や相談を受ける職を『創造』し、ついには神々の間にまで名の聞こえるほどに成り上がって見せた

最後はアレでしたが、私から貴方に褒賞を与えるには良い頃合いではあります

時を司る神であるクロノス神なら貴方の元いた時空を探り当てるくらいは容易いでしょう」

 

楽しそうに笑う緑の髪の神は

指を遙か彼方へと向ける

 

「ge ttle」(扉あれ)

 

一言、それだけで空間が開く

 

「さぁ、一歩踏み出せばそこは神殿

貴方が別の時間軸に戻るというのなら踏み出しなさい、止まるのなら背後の家に帰りなさい」

 

「無論」

 

統慈は躊躇なく、未来へと歩を進めた



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第42話 戦いの中で

「お前、臭いな」

「え?」

 

一歩踏み出したその直後、出迎えに掛けられたのは明らかに不機嫌そうな言葉

 

「狂った時間の臭いがプンプンする

まったくゲロ以下だ」

「えぇっ?!」

 

慌てて服の襟を掴み上げる統慈

しかし残念ながらそれは無意味だ

 

「お前自身の体臭という意味ではなく、お前の時間がねじ曲がっているのが原因だ

こりゃ随分と酷くやられたな」

「……」

 

黒い長衣を纏った男は笑う

 

「だがまぁ、これは馴染みのある臭いだ

俺と同じ臭いだ……つまり、俺のグロウノスが使われているということだ」

 

話がまったく理解できない統慈は黙り込む

時を切り裂く鎌であるグロウノスは統慈のいた時間軸では確かにフィーネが使用しているので、クロノス神の予測は当たっているが、統慈がそれを知る由もない

 

「我ら亡き未来に於いて、我らの力が振るわれた……つまり、我らの遺産を奪い用いる者がいるというわけだ、墓守もいなくなるほどの凄惨な未来なのか、それともなんかの所以があったのかは知らんが、あまりにも忌まわしい」

 

「……」

「おっと、置いて行っちまってたな

悪い悪い、俺のクセなんだよ……

とりあえずお前は俺の力で元いた時空に返してやる、だがそりゃあ『一度切れた縄を結い直す』ようなものなんだ、つまり、どういうことかわかるか?」

「はい、形態や位置にズレが、もっというのなら戻る時代に変動があるという事ですね?」

 

統慈の答えに満足したのか、明るい表情になるクロノス神

 

「そう、その通りだ

俺がスッパリ切ってやったものならともかく、そんな悪趣味で適当な状態なものをキレイさっぱり元通りとはいかない

だから戻ると言っても完全に元の場所・時間とはならないが、それでも良いか?」

「はい、それでもです」

「よし、よく言った」

 

表情をさらに緩めたクロノス神が右手をかざす

その瞬間、右手の中に見覚えのある大鎌が現れた

 

「お前に縁のある場所と時を探す必要がある、お前が最初に気づいた場所に連れて行け」

「はい」

 

そうして統慈は都市を出て

外の草原へと向かった

 

「……」

 

星の満ちる空は天の彼方まで透明で

草原の視界を遮る物は何もない、故に

 

「……ほら、聞こえてきた」

 

彼方から聞こえる音色が届く

 

〈Gatrandis babel〉

 

〈ziggurat edenal〉

 

「まさか」

それは間違いなく、クリスの絶唱

月を穿つ光の槍を食い止めるため

人と世界を守るために歌われた詩

 

「さぁ、お前も歌え、それがお前の縁となる」

「わかりました……!」

 

満ちるフォニックゲインに導かれ

何者でもない者が歌い出す

 

 

〈Emustolronzen fine el baral zizzl〉

  「Emustolronzen fine el baral zizzl」

 

僅かに逸れた音、しかし続く歌詞の間に同調を済ませて

 

 

〈「Gatrandis babel ziggurat edenal」〉

 

〈「Emustolronzen fineel zizzl」〉

 

完全にシンクロした絶唱が、時を超えて二人を繋いだ

 

「行くぞ!」

 

クロノス神が大きく鎌を振り被り

それと同時に振り下ろす

 

漆黒の刃は統慈を袈裟懸けに切り裂いて

それと同時に、統慈の姿は掻き消えた

 


 

「自分を殺して月への直撃を阻止したか……ハッ無駄な事を……」

 

どこか投げやりに、放り捨てるように放たれる言葉

 

それは確かに心に届いたのだろう

誰より優しい少女の逆鱗に

 

「見た夢も叶えられないとは…とんだグズだな」

 

そう思い込もうとするかのような言葉

自分に向けたその言葉は

なによりも鋭い刃となって響の心を切り刻み、その目覚めを触発した

 

「笑ったか……命を燃やして大切な物を守り抜く事を……お前は無駄とせせら笑ったか!!」

 

激情と共に刀を再び生成した翼が

フィーネに向けて言葉を投げる

 

それより僅かに早く

フィーネに向けて、響が飛び出していく

全身を漆黒に染めた暴走形態、その禍々しいカタチをとって、

もはやヒトの言葉など無用と言うかのように獣の唸りを上げ、フィーネを殺すために飛び出していく

 

 

「立花!」

 

「もはや人にあらず

それは人の形をした破壊衝動」

 

響は獣の如く四つん這いになって

牙を剥き出し、翼の静止に応じるそぶりもない

 

フィーネはASGARDを展開して防ごうとするが、鋭い一撃がバリアを突き破らんと刺さり、ヒビが走っていく

 

砕ける一瞬の隙にカウンターを入れたフィーネは、しかしその手応えに驚愕しながら退いた

 

「グロウノスの刃をも通さない

これが神殺兵装の力ということか」

 


 

「二課のシステムは完全に制圧されている

でも、二課のそれに同期しないオリジナルのスタンドアローン機なら話が違う

……この時空にも、きっと……あった」

 

物理的に回線を切り替えて

ブラックアウトしたコンソールを本来の役目から切り離し、違うモノへと繋ぐ

 

カタカタとキーボードを打つ音は止まり

続いて高らかに一つ鳴った

 

「メラム-ディンギル、起動」

 

聖遺物構造体であるカ・ディンギル

その力の根源であるデュランダルから供給されるエネルギーの注入先が変更され

全く違う場所へとエネルギーが急速に散逸する

 

もう撃たれてしまった一発目はともかく

二発目の発射には相応の時間を稼ぐことができる、そう確信して、その人影は席を立ち

続いて居住区画へと走り出した

 

「なぁ、手……貸してくれないか」

「わかりました、外に向かうんですね、一緒に上がりますよ」

「あぁ、頼んだ」

 

闇に閉ざされた地下深く、彼女はその手を取って

共に光差す道へと進む

 


その頃、シェルターでその様子を見ていた弦十郎達は…

 

「どうしちゃったの響!元に戻って!」

 

「もう終わりだよ私たち……学院がメチャメチャになって……響もおかしくなって……」

 

板場が震えながら呟く

その言葉に反論するために、未来もまた口を開くが、

 

「終わりじゃない!響だって私達を守る為…」

「あれが私達を守る姿なの!?」

 

今の響は確かに、ただ暴れ狂う獣にしか見えない、そこに人類を守る戦士としての姿など見えるはずもないのだ……だが、それでも

 

「私は響を信じる」

 

未来は強く答えた

たとえ獣にしか見えなくても、誰よりも優しい少女のあり方を信じるが故に

だが

 

「私だって響を信じたいよ……

この状況を何とかなるって信じたい、でも……でも…でも……もう嫌だよ…!誰か何とかしてよ!怖いよ!死にたくないよ!助けてよ!響!」

 

希望の光を見失ったヒトの心は余りに脆い

 


 

フィーネを吹き飛ばした響はそのまま近くにいた翼に襲い掛かり

翼は咄嗟に防ぐものの刀を折られ

すぐさまに作り直した刃をも折り取られていく

 

しかし翼もさるもの

折られはしても砕かれはしない

根本から砕けてさえいなければ、アームドギアは何度でも作り直すことができる

翼は絶望的な状況で消耗戦を続けていく

 

 

「どうだ?立花響と刃を交えた感想は。お前の望みであったなぁ風鳴翼」

 

フィーネは翼に向けて馬鹿にした様に言い放った

そして奇妙な光と共に顔の傷が再生していく

 

「人の在り方すら捨て去ったか…!」

「私と1つになったネフシュタンの鎧の再生能力だ、面白かろう?」

 

完全に再生を終えたフィーネが笑い

それと同時にカ・ディンギルの二発目を指示する

翼が動き出したカ・ディンギルを見上げて

 

「そう驚くな、カ・ディンギルが最強最大の兵器だとしても、ただの一撃で終わってしまうのであれば兵器としては欠陥品

必要がある限り何発でも撃ち放てる、その為にエネルギー炉心には不滅の刃デュランダルを取り付けてある。

それは尽きる事の無い無限の心臓なのだ」

 

腕を上げるフィーネ

今まさしく撃ち放たれようとしている二本目の光の槍

 

しかし

 

「何故だ!?」

 

急速にカ・ディンギルの光が失われていく

 

「まさか、デュランダルが!しかし炉心に立ち入ることなど出来るはずがない!」

「立花!」

 

動転して狼狽えたフィーネの隙をついて響の元へと飛び込む翼

 

「立花、私はカ・ディンギルを止める

だから」

 

しかし、言葉はただ響を猛らせるのみ

 

翼に響の腕が突き刺さり

胸元から血が湧き溢れる

そして翼は響を抱きしめた

 

「これは、束ねて繋がる力の筈だろう……

奏から受け継いだ力を、こんな事に使わないでくれ……」

 

影縫い

非殺の刃が閃き、響の影を縫い止め

そして響の暴走は徐々に収まっていく

 

「待たせたな」

 

翼はフィーネを見つめ

 

「何処までも剣と行くか…」

 

フィーネは鞭を構える

 

「今日に折れて死んでも、明日に人として歌う為に、風鳴翼が歌うのは……戦場ばかりでないと知れッ!」

「人の世界が剣を受け入れる事などありはしない!」

 

翼の心からの言葉を、フィーネが否定した

それと同時に、翼は決意する

大恩ある櫻井了子はもはや亡く、ここにいるのは過去の亡霊であり

それを殺さねばならないと

 

フィーネの鞭を刀身で防ぎ

そのまま振り抜いての一撃

当たり前のように再生していくのを尻目に天ノ逆鱗を発動、巨大な両刃剣が生成され

 

「ぐぁぁぁっ!」

 

その質量で以って再生能力を上回らんとする

しかし、相手は完全聖遺物

所詮欠片にすぎないシンフォギアの力で真っ向から上回るなど夢のまた夢

 

それが、本当にただそれだけの行動であるのなら

 

「フッ!」

 

炎鳥極翔斬、両手に展開した剣をブースターに変え、翼はそのまま空へと飛び立つ

 

「狙いは最初からカ・ディンギルか!」

 

剣に潰されながらフィーネは翼に鞭を振るい、伸長した鞭が翼に追いつき、その肩を貫いた

 

「やはり、私では……」

 

走馬灯にも似た記憶が迸るなか

口をついた弱音

だが、

 

「私は……負けられない!

もう二度と!失いたくないからッ!」

 

炎は蒼く、なによりも熱く

失われた左翼剣などものともせずに

片翼のまま、再び飛んで見せた

 

「立花ァァァァッ!」

 

カ・ディンギルに溜め込まれていたエネルギーは丸ごと吸い尽くされて底を尽いており

爆発するのは翼の握った剣だけ

しかし事前にシャフトを削られ、大きく弱っていたカ・ディンギルはそのまま根本から折れ、倒壊するのだった

 

「翼さん…」

 

「ぁぁぁぁぁぁぁあっ!」

 

 

積年の努力の結晶たる必勝の策

巨大な荷電粒子砲、カ・ディンギルが破られた、その事実に絶叫するフィーネ

 

「ええい!何処までも忌々しい!月の破壊は!バラルの呪詛を解くと同時に重力崩壊を引き起こす、惑星規模の天変地異に人類は恐怖し、狼狽え、そして聖遺物の力を振るう私の下へ帰順する筈だった!痛みだけが人の心を繋ぐ絆!たった一つの真実なのに!それを…それをお前らは!!」

 

だが、フィーネは怒りはすれど

絶望はしない

 

すでに過ぎ去った過去を書き換える力

時の大鎌を手にするが故に

 

「ぁぁああぁぁっ!」

 

時を斬る大鎌が、絶叫と共に振り抜かれた

 



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第43話 戦いの裏で

「電源確保急げ!非常用は長く保たん!」

「自分が行きます!シェルターはお願いします!」

 

「わかりました」

「校舎の方の捜索は任せてください!」

 

一課、二課の区別なく、人は動く

戦いの中に生まれるものから戦えぬ人々を守るため、命をかけて動き続ける

 

「みんな何してるの……無駄なんだってわからないの!?

どうせみんな死んじゃうんだよ!」

 

蹲って泣き噦る少女

 

「ノイズさえいなければ……!」

 

歯噛みする自衛官

 

「生存者をまとめて集めます、急いで

出来る限り守らなくてはいけない!」

 

「捜索の指揮を取る、捜索班の編成を行うぞ」

 

そして統制を取り戻さんと務める司令官

 

血を流し、慟哭し

それでも歌い続ける戦乙女の裏側に

なお暗い戦場は存在した

 

「もうダメだよ……おしまいなんだ

みんな死ぬしかないじゃない!」

 

叫びを上げた少女の背後、赤い髪がゆれる

 

「諦めるな、生きることを

抗うことを諦めるな!」

 

「そうですよ、我々はどんな絶望的な状況でも、奇跡を信じることが許されている

だから最後まで諦めず、生き抜く努力を続けましょう」

 

天羽奏、拍木旋音の二人が

地下深くの二課本部から帰還したのだ

 

「私たちに何が出来るってのよ!

ノイズがバンバン出てきて、わけわかんない事になって校舎も全部無くなっちゃって!

それになにが出来るって言うの!?

どうしてみんな戦うの!?死ぬ為に戦ってるの!?」

 

「おいおい、ここはリディアンなんだぜ?なら直接戦えなくたって、アタシらに出来ることの一つや二つあるだろう?」

 

泣き喚く板場に、奏は笑顔を向けた

遠くに座っていた詠奈は、その言葉の意味に気づいたようで、一言呟く

 

「……応援……ですか」

 

「あ!体育館の方のレコードならまだ生きてるかも……!」

「放送施設がまだ生きていれば

私が回線を繋げてみせます、そうすれば声を送れるかもしれません」

 

旋音は奇しくも原作の緒川と同じ事を考え

しかしそれを否定する声が上がる

 

「配電盤はやられてるからブレーカーを上げないとダメ、でも体育準備室の方は瓦礫で使えなくなっちゃってるわ」

 

「なら、回線を切り替えて地下シェルターの方に、そこからならマスター回線を使えるはずです」

 

原作3女子と未来、そして旋音と奏

6人で地下路を進んでいく

 

「この先に、切り替えレバーがあるの?」

「はい、配線図によるとここが元・回線収束点、要するに電話からスピーカーからあらゆる放送設備や電気回路が集まっている最終到達点です

この先には高圧電源用の発電機もあります」

 

「でもこの扉は……」

 

ガンガン、と叩いてみても見るからに堅い鋼鉄の扉は厳重にロックされており

それが開く気配は全くと言っていいほどにない

 

「クソッ……こんな所で!」

 

奏がガングニールギアを使えるのなら

1秒と掛けずに斬り開くことができる

しかし、今の奏はLiNKERによる適合率底上げの恩恵を失い、ギアを纏うことはできない

 

鍵穴も封印された時に潰されたようで

開く事自体ができそうにない

 

しかし、その扉には

 

「電源確保用のゲート……これなら!」

「でもこれじゃ小さすぎるよ!」

 

小さな枠の部分だけは電線を通す為なのか別に開くことができる仕組みがあった

しかし大扉本体を開くことができない関係上、特に小柄でもない旋音、長身の奏は入ることができない

 

「アタシが行くよ!……大人だと入れなくても、

アタシなら瓦礫の間に入っていける

それに、アニメだとこういうの、ちっこいキャラの役回りだしね……それで響を助けられるなら!」

 

「でもそれはアニメの話じゃない」

 

板場の言葉に反論しようとする未来

だが、板場はそれを振り払った

 

「アニメを真に受けてなにが悪い!

ここでやらなきゃアタシアニメ以下だよ!

非実在青少年にもなれやしない!」

 

纏めた髪を揺らしながら、未来に強い瞳を向ける

 

「この先、『響の友達』と胸を張って答えられないじゃない!」

 

その目に、もはや恐れと怯懦の影はなく

決意を湛えた強い意志の光があった

 

「nice決断です、私もお手伝いしますわ」

「だね、ビッキーが頑張ってるのに

その友達が頑張らないって事はないよね」

 

その意志に同調して

ついて来ていた安藤創世と寺島詩織、そして未来も決断した

 

「……板場さん、聞いてください

貴女の意志はとても尊いものです

確証もない発案一つを根拠に安全な体育館を出てまでここに来て、今また見通しもつかない闇の中に踏み出そうとしている

貴女の勇気を称えます

しかし、蛮勇と勇敢は違う

危険が貴方を脅かす時、周りにいる人を頼る事を忘れてはいけない

隣にいる友達は、貴女にとってどんな存在ですか?守られていて欲しいもの

傷ついて欲しくないもの

だからと言って自分が傷つけばそれは皆の心をも傷つけてしまう」

「…………」

 

真剣な話として捉えたのか

板場も静かに旋音と目を合わせる

 

「友達を守りたいのなら貴女もまた傷つかぬように、賢しく振る舞わなければなりません

どうか、勇敢と蛮勇の境界を見極める知恵を持ってください」

「……うん、行ってくる」

「はい、私は戻って回線をつなぎます!」

 


 

戻ってきた旋音は可能な限りに急いでコンソールからのシステム介入を続ける

 

「……来た、動力OK、校庭の放送用スピーカーはまだ生きてる……!」

 

コンソールの上で

白魚のように美しい指が踊る

 

電気回線をつなぎ換え、物理的な補修を行ってまで出力を通したスピーカーが

放送の準備を完了させ、そして歌が始まった

 


 

「私は!全てを滅ぼす未来を作り出さないために!全てを後に残すために

失われたものを取り戻すッ!」

 

時の鎌を振り抜いて

時間を破り割いて遡る

時間流の連続性と不可逆の原則を冒涜する涜神の一撃が加えられた瞬間

その黒い刃にヒビが走る

 

「なにっ!?」

 

切り裂かれ、劈開した時の流れの中の

停止した世界にヒビが移り広がり

そして砕け散る

 

その時、世界に時の流れが戻った

 

「グロウノスが?!どういう事だ!

なにが起こっている!」

 

理解できない現象

グロウノスは時の中から外れた存在であるが故に破壊できない

決して壊されない永劫不壊の存在

その刃にこうもヒビが入ることなどあり得ない

 

あり得てはならないはずなのに

だというのにそれが目の前で起こっている

あるはずのない現象が行われている

その事実に混乱したフィーネは周囲に流れる力に気づくのが遅れて

致命的な隙を晒してしまった

 

(よ、かった)

 

(私を支えてくれる皆は……いつだって側に……皆が歌ってるんだ…だから……)

 

バキリ、と土塊を砕きながら

地に打ち捨てられた響が拳を再び握る

 

「まだ歌える

 

頑張れる

 

戦えるッ!

 

《You got the qualification》

 

黄金色の旋律が、周囲のフォニックゲイン(祈り)を収束し、力へと変えていく

 

「まだ戦えるというの?!

なにを支えに立ち上がる

なにを握って力と換える!

お前が纏っているのはなんだ

心は確かに折り砕いたはず

なのに何を纏っている!お前が纏っているものは一体なんだ私が作ったものなのか!?」

 

立て続けに疑問文を並べるフィーネ

しかしそれら全ては愚問

 

「シンフォギァァァァッ!」

 

『限定解除』(エクスドライブ)

シンフォギアシステム秘中の秘

高レベルに相転移したフォニックゲインによるシンフォギアの分解再構成

いわば今までのギアにさらに上から装備する形でギアの装甲を増設し

倍率を二重に掛けることで性能上限を超越する圧倒的な出力と負荷の低減を両立する機能

 

リディアンの生徒達、そして誰よりも率先して歌うガングニールの歌姫(天羽 奏)

並の歌姫では一生掛かってもなお足りないほどのフォニックゲインがわずか数秒で生産され、湧き上がり溢れ出したこの空間でだけの

人の祈りが成し遂げた奇跡である



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第44話 人の心の美しさ

「高レベルのフォニックゲインを使ったエクスドライブ……!」

 

フィーネがその現象に驚愕するよりも早く

その手に握られていたはずのグロウノスが無数の欠片に砕けて四散する

 

「ば、バカなっ!?」

 

攻撃を受けてすらないグロウノスが

負荷をかけた訳でもないというのに

ただ砕け散るなど有り得ない

 

「……やっと、戻ってこられた」

 

遙か過去より、クロノス神自身が干渉したのでもなければ

 

「統慈……!なぜ!

お前は過去に放り込んだはず!」

「三千万年前から帰ってきただけですよ

クロノス神の力を借りました」

 

統慈は炎の翼を脚から伸展させて水平に跳躍、そのまま戦場を離脱する

フォニックゲインの溢れ、エクスドライブの発動光でホワイトアウトしている視界にはほとんど何も写ってはいない

 

「どういうこと!何が起こっているというの!?一体これはなんなのよ!」

 

混乱しているフィーネを尻目に

エクスドライブによる新機能で飛翔したシンフォギア3色組は様々な解放された機能を把握していく

 

「みんなの歌声がくれたギアが、私に負けない力を与えてくれる。クリスちゃんや翼さんにもう一度立ち上がる力をくれる。歌は、戦う力だけじゃ無い。命なんだ!」

 

「バカな…ありえない!」

 

響だけなら、有り得なくはない

超高速の再生能力

人間には余る権能ではあれど、神殺兵装の巫女ともなれば握っていて当然でもある

 

だが、だからこそ

翼とクリスまでもがギアを再起動できた事実が理解できない

 

(んなこたどうでもいいんだよ!)

 

クリスはフィーネに対してテレパシーで答えた。

 

「念話までも…!限定解除されたギアを纏って、何が出来る!?」

 

フィーネはソロモンの杖から光弾を放ち、ノイズを召喚した。

 

(いい加減芸が乏しいんだよ!)

 

(世界の尽きぬノイズの災禍は、全てお前の仕業なのか!?)

 

念話による翼の言葉に

即座に同じ念話で応えるフィーネ

 

(ノイズとはバラルの呪詛にて、相互理解を失った人類が同じ人類を殺戮する為に作り上げた自立兵器)

 

(人が…人を殺す為の兵器…?)

 

しかし、その内容はおよそ理解しがたいものだった

 

(その通りだ、ノイズは人の業のカタチ

相互理解を失った人が人を殺すための原始兵器!

古のバビロニアの宝物庫は次元の扉が開け放たれたままでな…使用するコマンダーの居なくなってから三千万年、いまだに生産ラインは動き続けている、溢れかえったそこから迷い込む十年に一度の偶然を、私は必然と変え純粋に力としているだけの事)

 

「このようにな!」

 

念話を打ち切って巨大なノイズを召喚したフィーネ、それに対する響たちは

各々に巨大化した武装を手にして攻撃を始める

 

大型のギガノイズ

全身トゲだらけの大型格闘性能特化タイプ、ありうべからざる者(ノイズ・ハルキネイティオ)

シンフォギアの影響で実体化してなお透明を保つ透き通る殺意(ノイズ・トレンシオ)

大型ノイズの中でも飛行能力も格闘能力も持たない純然たる遠距離特化型、思索する者(ノイズ・スペキュレイシム)

そして高速移動を可能とした小型機、空翔けざる翼(ノイズ・イヌディニス)

 

さまざまな特殊型ノイズたちが呼び出されていき、次々に各々の能力で攻撃を始める

しかし、無意味

エクスドライブモードに入ったギアを前に、いかに種数を揃えたところで一般量産型の個体程度が勝てる道理はない

 

次々に撃破されていくノイズ

完全聖遺物の力で呼び出されたとは言えど『人を殺すだけの兵器』に『人を超えるための鎧』は貫けない

 

それを悟ったフィーネは驚くべき手段に出る

 

「……んぐぁぁっ!」

 

覚醒させたソロモンの杖

その力は『空間接続』と『王権』

ネフシュタンの鎧とは矛盾しない

 

砕けたグロウノスをそのままに

ネフシュタンとソロモンの杖の二つの聖遺物の強引な融合を試みたのだ

 

さらに、ノイズを呼び戻し

融合に不足したエネルギーをその素材で補っていく

 

「ノイズに飲み込まれている……!?」

「いや逆だ!ノイズを取り込んでいる!」

 

そして現れた姿は

もはやエンキ神の契約者たる夕暮れの巫女の姿とは思えない邪悪で害意に満ちたものだった

 

「来たれ、デュランダル!」

 

ソロモンの杖の空間接続の能力で倒壊したカ・ディンギルからデュランダルを回収したフィーネはさらに無限の力を手に入れ、己に取り込んだ二つの完全聖遺物にそのエネルギーを流し込む

 

「逆鱗に触れたのだ。相応の覚悟は出来ておろうな?」

 

その姿、黙示録に語られし赤き竜

滅びと邪法を体現する退廃の姿

バビロンの大淫婦ベイバロン

 

「やぁぁぁっ!」

「オラァァァッ!」

 

響とクリスが形態変化したベイバロン・フィーネに攻撃を仕掛けるが、

 

 

「無駄だ!いくら限定解除されたギアでも、所詮は聖遺物のカケラから作られた玩具!完全聖遺物に対抗出来ると思った大間違いだ!」

 

三つのシンフォギアに対して

三つの完全聖遺物を取り込んだフィーネは、単純な攻撃を無効化してしまう

無限の再生に無限のエネルギーを注ぎ込んで、いくらでも瞬時に再生できるのだ

 

「そこだっ!」

 

しかし、それは完全な無効化ではなく

あくまでも無限の再生による修復

一時的な損壊は起こり得る

 

翼が放った『蒼ノ一閃』によって胴体部、フィーネ本体が存在する位置に風穴を開けられ

それを即座に修復しようとする所をさらに攻撃していく

 

腹の風穴を閉じるべく展開してきたシャッターをレーザー砲によって焼き払い

堆く積もる触手の群れをマイクロミサイルが吹き飛ばす

 

デュランダルとノイズによる反撃に目もくれず

そのまま翼は穴の中へと飛び込んで

 

「デュランダルがっ!?」

 

そして

 

「勝機を逃すな!掴み取れぇぇっ!」

 

吹き飛ばされ

宙を舞ったデュランダル、クリスの拳銃弾がヒットバックでそれを浮かし

響が空中に躍り出て、掴み取った

 


 

「早く、こっちへ!」

 

グロウノスが砕けた直後

統慈は全力で戦場を離脱して

旋音の声に導かれるままにスクラップの塊と化したカ・ディンギルの元へと飛び込んだ

 

「君は……俺?!」

「そ、拍木旋音(カシワギリンネ)、平行同位体の統慈(あなた)

私は……別の時間軸から、完全聖遺物グロウノスの力で時間を遡ってきたの

あの3人を救うために

でも同じ世界に同一存在が二つ以上は『在る』ことができない、さっきのグロウノスのようにね

片方はどう足掻いたって破壊される

だから、もうじき私も消える

その前に必要な情報を残すから、心して聞きなさい」

 

「……わかった」

「よし」

 

一拍、そして次の瞬間

怒涛の情報が溢れる

 

「フィーネはこの展開なら放っておいても倒せるがデュランダルによってベイバロンオプションを破壊した状態でフィーネが生存するとフィーネはネフシュタンのみを切り離して鞭を使って直接欠けた月の破片を地球に落下させようとするので必ず鞭又はネフシュタンの鎧本体を使用不能にする必要があるのと月の欠片の破壊は飛翔能力の都合上必ずシンフォギア装者達が行くことになるが装者達はエクスドライブ状態のギアでも出力不足となるため月の破片を再度微小片に破砕した時点で力尽きて帰還できずに大気圏再突入時に死亡するためそのまえに月の破片にメラム・ディンギルによる攻撃を加えて微小片にまで破砕してシンフォギア装者達を飛ばさせないようにする作戦が最善であると判断する

理解したな」

「了解、だけどそれより……

ソイツの方がいいだろ」

 

メラム・ディンギルのエネルギーはデュランダル由来のそれとはいえ

月の破片を全て破壊しうるだけのエネルギーを有するとはいえない

せいぜいカ・ディンギル1発分のエネルギーであり

しかもそれらは分散配置された砲身から散発的に発射されることになる

長く見ても大気圏が射程減衰を考えた時の限界になるだろう

 

「私の世界にはこれ一本しかなかったし

フィーネの方が所有していた完全聖遺物だったからこの状況は想定になかったわ

……何にせよ、うまくやりなさい」

 

そう言って、グロウノスを手渡してくる旋音

 

「わかった、君の無念は僕が晴らすよ」

 

グロウノスを受け取って

その瞬間

彼女の全身に極彩色の罅が走る

 

「そのまま迷わず……走り続けろ」

 

罅は砕けて、その姿はガラスの破片のように散って消えた

 

その残滓が空気に溶けて消えるのと同時に統慈は駆け出して、今まさにベイバロンを失って吹き飛ばされたフィーネのもとへ向かう

 

「死ね、フィーネ」

「……それだけ言えれば十分か

トージ、強くなった……」

 

首を切り落としてフィーネを殺した統慈は

そのままグロウノスを構える

 

大きく振りかぶって

 

Oe:deus heckt-(何故否定する)

E nes elah feo vilis(彼の名と) Selah pheno tes uhw solit (愛を知る人よ)

Isa da boema (さぁ、ゆりかごより)foton doremren (立ち上がれ)

 

De E nes xeph(目覚めの時は来た)

ende nes xeo(夜は明け)  neightis-l-flow nes nefit r-arsic Sew(暁の曙光が私を傷つけても)

Sew nes fisa cornis xin(はじまりの時を私は歌う)

U sia Sophit, Clar ele,(全ての生まれた)

Selah pheno sia-s Orbie Clar (子供達のために)……

 

歌でも、ことばでもない(ウタ)

 

それは確かに

神の刃(グロウノス)に捧げられ

 

「目覚める時、切り開く未来

生まれる全てに祝福を

死にゆく全てに祝福を

その刃の名はグロウノス」

 

深宵色の刃が輝いた




セラフェノ真言を自力で書こうとすると無茶苦茶な時間が掛かることがよく分かりました
もうしません


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第45話 一期終了

「……よし」

 

月を見上げた統慈は、それが完全な球形を取り戻したことを確認して大きく息を吐く

 

そして、その直後

パリンと軽い音と共にグロウノスは砕け散った

 

「……ヒビ割れた身では解放の反動に耐えられなかったか……クロノス神、すまない」

 

 

あらゆる時間軸に一本しか存在しない時の鎌が破壊されてしまったと言う事は

つまり作り直したり複製したりはもう二度とできないと言う事だ

統慈の一言も当然と言えよう

 

「……」

 

フィーネの骸は灰となって消え

グロウノスの黒い欠片が辺りの灰の上に散って、統慈はそれを拾い始める

 

聖言による拘束解放(アンバインド)……シンフォギアのエクスドライブ同様、完全聖遺物にもリミッターが存在し、それを聖遺物ごとに異なる聖言によって解除する行為

 

ではあるが、『解放』はそれだけで大きなエネルギーを消耗する上、自壊のリスクすらある文字通りのリミッター解除

休止した完全聖遺物を起動にこぎつけるだけでもクリスが年単位でフォニックゲインを注ぎ続ける必要があるというのに、聖遺物のキャパシティを完全に満たした上でさらに喪われた言語である聖言を詠うとなれば誰が扱うと言うのか

 

「覚醒した解放聖遺物は非常に強力ではあるが……これがなんとも……な」

 

砕けて手の中に残った幾らかの欠片を見つめて、統慈は呟く

そして

 

「おーーいっ!」

(フィーネはそっちにいるのか!?)

 

響の叫びとクリスの念話

それらは単純な呼びかけではあるが

なかなかに混乱させてくれる

 

「はーーい!!

フィーネは……いません、おそらく、死亡したものかと」

 

完全な形を取り戻した月を見上げながら

平然と大嘘を吐く統慈

厳密に言えば嘘ではないが、彼が殺した以上はそのそばに撒かれた灰がフィーネの成れの果てである事はわかり切っているし、おそらくどころか確実に死亡している

 

「……帰りましょう、僕たちの帰るべき場所に」

 

もう、フィーネ(了子)はいない

だが、その魂は統慈の中で生き続けている

 

その薫陶は、その知識は

たしかに統慈が引き継いだのだった

 

 

「……一連の事件解決を祝して……とはいかんよなぁ……」

 

「そもそもお腹に穴開けて何言ってるんですかバカですか?」

 

生き残った数名のエージェントが司令を凝視しながら手だけは止めずに仕事を続ける

その奇怪な様子を眺めながら

事後処理に着いた統慈は聖遺物関連の情報を片付けていた

 

「……山崎さん、バカは言い過ぎです

司令はこういう時アホになるだけです」

「アホ?!」

 

「思い切り言われていますよ司令」

 

「……まぁモノも片付かん内から宴会のことなど正に取らぬ狸、アホと言われても仕方ないが……」

 

なんとなくバツの悪そうな弦十郎

そしてツッコミ役不在でひたすら暗いムードの流れる暫定司令室

 

そんな暫定司令室に、シンフォギア装者達が帰還する

 

「……お疲れ様、おかえりなさい」

 

もともとこれを言う役であった了子(フィーネ)の立場を受け継いだ統慈が

3人に話しかける

 

「おう、帰ってきたぜ」

「お疲れさまです」

「うむ、拍木もお疲れ」

 

ギアを解除した3人は全員私服姿だ

強制解除されると服は戻らないのに、自分で解除した時は服が戻ると言うのはシンフォギアノの機能の中でも謎な部分である

 

「……さて、装者達への慰労もしたいところだが、まずは君たちの今後について説明させてもらう」

「司令は休んでてください、というか病院に行ってください」

 

「し、しかし」「医療スタッフとしてドクターストップさせてもらいます、山崎さん、近場の病院に連行してください」「了解しました」

 

サラリと流されて病院に運ばれていく弦十郎を他所に、統慈と友里が説明を始める

 

「まず、あの月を穿った砲撃については既に日本政府に説明を求める声が多数上がっています、シンフォギアを世界に晒すわけにはいかないので、これについてはごまかす方針で行っていますが

どうしようもないものもあります

まぁ都合よく『月の復元現象』なんてのも起こったので、それに対しての話にカモフラージュする形になると思います

そこでですが、シンフォギア装者の皆さんには……雲隠れしていただきます」

 

「雲隠れだぁ?」

「はい、期限は未定ですが、とにかく今は姿を隠していただかなくてはなりません

さもなくば……」

「世界各国から聖遺物目当ての勧誘拉致脅迫賄賂なんでもござれの大セールが周辺人物含めて押し寄せてくるぞ」

 

友里さんの言葉を引き継ぐように

警備部門のトップである山中さんが言葉を繰り出す、それはあまりにも醜い『おとなのせかい』の一端を現すようなもので、思春期の少女たちに見せるような話ではない

よってそれを止めようとしたのだが

 

「彼女達は知るべきだ、己の力とその危険性、そして力に対する責任を」

 

その一言で押し切られてしまう

 

「……わかりました、とにかく

拠点に篭っていればいいんですね?」

「あぁ、詳しくは……まだ後に決まることだが、ウチで確保している拠点の一つにしばらく居てもらうことになる、とは言っても

数ヶ月程度で済むはずだ

流石に『死亡したこと』には出来ないからな」

 

それをやると翼さんは芸能界引退になるし、社会的な影響と多少ではすまない

そもそも国籍が無いクリスはともかく、響もまた日本国籍が抹消されたりすれば困りごとだ

当然学院も退学になってしまう

 

リディアンが丸ごと崩壊した今となっては大した影響では無いように思えるし

就職も国家機関である二課に頼ればなんとかなるだろうが、それでも充分大事である

 

 

 

「……ひとまずはこれだけを、お疲れ様でした」

 

キリッとした表情の緒川さんが最後に締めた



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第46話 二期G編開始

「響〜っ!」

「未来〜ぅっ!」

 

超速でノイズを処理して抱き合う響と未来の二人……一期最終話(1話序盤)でいた無銘墓地に続く坂道なのだが

 

「ひびきぃぃぃぃっ!」

「みくぅぅぅぅっ!」

 

そこには泣きながら響の名を叫ぶ未来と笑顔でそれに応える響の二人っきりの世界が構築されていた

 

「これアタシ達要るか?」

「……あまり言いたくは無いが、邪魔だったか……?」

 

〈いえ、大丈夫です、ノイズ全滅を確認しました、現時点を持って任務を完了と見做します

装者各位は本部に帰還してください〉

 

《了解》

 

「響!やっと帰ってきたんだね!」

「うん!未来を置いていけないからね!

まだ流星、見られてないから!」

 

二人を置いて帰るべきか若干思案するイチイバル=クリス、そして話終わるまで待つ構えのアメノハバキリ=翼

既にガングニールギアを解除した響は未だに感動が去っていないようで

酷く興奮した様子だ

 

「……なんかヤクでもキメてるみてぇだな」

「私もそう見えてきた」

 

ひびみくの醸し出す空気に早くもゲンナリした顔になる二人であった……

 


響達信号機組の帰還からさらに時はすぎ

極秘裏なのは変わらないが二課本部再建や殉職者のリストアップと同時に人員・組織再編、内職と忙しい日々が続いていたのだが

 

「ソロモンの杖がアメリカに輸送……ですか」

「フィーネが強奪する前の所属では、サクリストS(聖遺物:S)はアメリカの所有物だった、もともとフィーネはアメリカをバックにつけていた可能性が高い、という話がこじれたアメリカ政府との密談や政争の結果でもある……悪いが納得してくれ」

 

苦虫を噛み潰したような顔になる数名の職員に、いつもの表情で説く指令

 

「……我々が反抗したところでどうということもできませんし、諦めましょう

月とかフィーネとか装者達のことも含めて

無茶を言われないだけで随分マシになる」

「……そうですね」

 

「輸送後の研究のためにわざわざ担当者が日本に来るってのが最高にバカらしいですけどねぇ……」

「こいつソロモンの杖使ってノイズ出したり死体偽装してそのまま杖パクったりしそうな顔だぜ?本当に大丈夫かよ」

 

エージェント達のくだらない話をよそに

サクリストS ソロモンの杖の輸送計画が実施される

 

「列車での輸送というのも成功率で言えばトントンっちゃあそうではあるんですが、やはり無茶ですよこれ、日本政府のプランが一番だったのでは?」

「超音速の戦闘機で一気に横浜基地まで空輸して引き渡す作戦の事ですか?」

 

作戦全体の統括として参加している友里さんに話しかけると、友里さんは柔らかく微笑んで

「ダミープランはいくつあっても良いものです、それに一見現実性のないプランを使用して敵を欺くというのは良くあることですよ」

 

「はぁ……」

 

もちろんそんな言葉一つで落ち着くはずもなく、心配しながら窓の外を眺める統慈

 

そして

それは現れた

 

「ノイズ……!?」

 

ピリピリと皮膚に痺れるような間隔、それと同時に大きく飛び退く統慈

そして

その瞬間、天井を貫通して頭上から降ってきたノイズが床に直撃する

躱していなければ確実に当たっていた位置だ

 

「きゃぁっ!」

「大丈夫ですか!?」

 

輸送にまでついてきていたDr.ウェルがソロモンの杖を抱えながら、転倒した友里さんに声をかける

 

「まだきます!二人は早く先頭車両に!」

 

現場の最高責任者である友里さんとソロモンの杖輸送担当のDr.ウェルを逃すべく指揮を執る統慈

数人のエージェントが銃を出しているが、やはり効果は薄い

 

「大変です!すごい数のノイズが来てます!」

「明らかにこっちを狙って来てやがる!」

 

ルームに入ってきた響とクリスの言葉通り

もはや空を埋めるほどの数と形容するべきノイズの群れが上空に集っていた

 

「……前の車両に行きましょう!」

「僕がノイズを足止めします」

 

例の如く貨物列車に偽装した運搬車の中に搭載されていた装置を使って位相差障壁に干渉し、その力を無効化しつつ叫ぶ統慈

その声に背を押されてか

足早に立ち去る4人

 

「さぁて……お仕事しますかね!」

 

統慈は左腕に掛けられた腕輪を閃かせ、そこから炎を湧き立たせる

 


 

「多数のノイズの反応に混じって高速で移動する反応パターン?!」

「三ヶ月前、世界中に衝撃を与えたルナ・アタックを契機に、日本政府から開示された櫻井理論、その殆どが未だ謎に包まれたままとなっていますが、回収されたこのアークセプター(聖櫃鍵)、ソロモンの杖を解析し

世界を脅かす認定特異災害ノイズに対抗するべく新たな可能性を模索することができれば……」

 

ソロモンの杖を抱えるが故に手を使うことができないDr.ウェルを中段に、後方のノイズを警戒するべくシンフォギア 装者が後方につき、友里さんが先頭に立って前方の車両へと進む

 

しかしその最中、一番後ろにいたクリスが立ち止まった

 

「そいつは……ソロモンの杖は

簡単に扱っていいモンじゃねえよ」

 

「クリスちゃん……?」

「尤も、アタシにとやかく言える資格はねえんだけどな」

 

顔を背けたクリスの手を背後から響が取って、そのままひっぱる

「うわっ!なんだよお前!」

「大丈夫だよ!」

 

「お前、ほんとにバカ……」

 

顔を再び背けるクリスの頬は、僅かに赤い

 

 

〈すみません!数匹逃しました!〉

 

その直後に統慈の声が通ってさえいなければ、そのままの空気を保っていただろう

 

「了解しました、迎え撃ちます!」

 

弾を確認した友里が拳銃を構える

その銃弾は特別製の擬似聖遺物、魔弾(タスラム)

希少なので上位エージェントと実行班2人の合計20発しかないが、確率操作すらすり抜けて確実に相手を撃ち抜くことができる必中の弾丸、 因果崩壊弾(クリオルニス)である

 

「うわぁぁっ!」

 

Dr.ウェルが悲鳴を上げる中

天井を突き抜けて来たノイズを友里が撃ち、4体のノイズを一発の銃弾で射殺して炭化させた

 

「……ちゃんと効くんですね……」

 

〈技術向上の賜物です!〉

 

「行きます!

Balwisyall nescell gungnir tron」

 

「Killter Ichaival tron」

 

二人は聖詠を歌うと同時に車外へ飛び出して飛行型ノイズ相手に戦い始める

 

「悪雀どもがうじゃうじゃと!」

 

「どんな敵がどれだけ来ようと、今日まで訓練してきた“あの”コンビネーションがあれば!」

 

「アレはまだ未完成だろぉ

実戦でいきなり突っ込もうだなんておかしな事言うんじゃねーぞ」

 

アームドギアのクロスボウを展開したクリスがビーム矢を放って周囲のフラストノイズを牽制射撃

 

無数のノイズは、やはり数を減らしながらも追随してくる

シンフォギアを持ってしてもその速度、数は受けるに難いと言わざるを得ないだろう

 

「やっべ!」「はぁっ!」

 

クリスの矢の拡散範囲外から突撃して来たノイズを響が処理、右拳からの空中回転蹴り(ムーンサルト)で追撃して再度車両に着地する

飛行能力を持たない通常型ギアとは思えない見事な動きにエクスドライブモードを思い出したクリスのボヤきは

 

「ないものねだりはしてらんねぇな!」

 

拡散弾を収束型に切り替えたクリス自身の叫びに打ち消される

拡散弾の角度をさらに大きく取り

今度こそ逃さんとばかりに広角射撃を再開

しかし、それを躱す機影が現れる

 

シンフォギアの攻撃はノイズに対しては特効的な威力を発揮してそれを炭へと還す、しかしその攻撃を躱されてはどうという事も無い

 

「あいつが取り巻きを率いていやがるのか!」

 

鋭角的なターン、通常型とは一線を画した飛行速度、それだけでなく迷彩機能や急停止と言ったさまざまな能力

それは明らかに上級ノイズだった

 

〈まずいですよ……!〉

 

その名はノイズ・ハルファス

巨大なカラスを象った姿は他の上級ノイズすらを凌駕する

 

〈アレはノイズの中でも特に強力なノイズ、まともに相手するのは危険です!

絶唱並みのパワーをぶつけて一気に撃破する必要があります!〉

「えぇ!?そんなに!?」

 

〈そんなにです!他の上級ノイズとは比べ物にならない超級個体(スペリオル)、それがあいつの正体です!〉

 

統慈の声は焦りを隠せない

ソロモンの杖を詳細に解析した統慈の知る知識の中にはそれがどれだけ危険かも含まれているからだ

 

ソロモンの杖を解放した時にのみ顕れるそれは他の上級ノイズとはまるで違う

なぜならそれらは特別製(ワンオフ)であり、現代には失われてしまったさまざまな超技術が盛り込まれた特注品だから

現代に再現された、あるいは解析された異端技術(ブラックアート)ではない

失われたままのロストテクノロジー

例えば空間転移、例えば質量消去、例えば時間遡行、表されるものは数多くそれらの未解析・未再現な超技術が組み込まれたノイズは

カルマノイズのそれとは異なる方向性で、強い

 

「キィイィィィイイィィイイッ!」

 

超高速で動きながらの急速ターン

鋭角的な軌道を繰り返してクリスの拡散攻撃を回避、どころか直撃弾すらもその装甲は無力化していく

 

集束の甘い散弾程度の火力では

ノイズ・ハルファスの装甲は砕けない

 

「クリスちゃん!」

 

響の拳も届かないほどの遠距離、クリスのガトリング砲による制圧射撃も、ノイズ・クロスセイルを砕いたミサイルによる広範囲消却も

全てを無に帰して飛び続ける大鴉

 

その直後

トンネルに差し掛かった列車の上に立つ二人はとっさに身を伏せる

そして

 

「そうだ!師匠の戦術マニュアルによればこんな時は!」

 

響がある戦術を閃いた

 

「ふっふ〜ん、こんな時はね

列車の連結器を外して後ろの車両をぶつける!」

「戦術つったってオッサンが見てる映画のトンチキ拳法の話だろそんなの!

それにノイズ相手に物理攻撃なんて!」

 

「ぶつけるのは車両だけじゃないよ?」

含み笑いと共に、響は前方の車両へと向かい

その連結器を外して

 

「ちょっと待ってくださぁぁぁい!」

「うぇ!?」

「統慈!?バカお前なんでこんなところに残ってんだよ!」

 

最後尾の車両に唯一残っていた統慈が遮蔽扉を開けて飛び出す

とはいえ車両は既に切り離されてしまって

 

「よっと!ごめんなさい!」

 

残された車両に飛び移った響が統慈を抱えて放り投げ

 

「うわぁぁっ!?」

「バカ野郎!!」

 

クリスがアームドギアを放り捨てて受け止める

 

「よっと!」

 

身軽な様子で再び飛び移ってきた響に非難の声を上げようとするが、その真剣な表情に統慈は黙らされ

 

響は列車から跳躍して線路に降りて

右腕のギア装甲部を巨大化させ、さらにアンカージャッキを起動

慣性力で移動してくる後部車両をすり抜けてノイズ・ハルファスが現れた瞬間に

その拳を叩き込む!

 

 

「閉鎖空間で相手の機動力を封じた上、遮蔽物の向こう側から重い一撃、あいつどこまで……」

 

統慈を抱える姿勢のまま呟くクリスは、自分の想定を上回って更に強くなっていく響に驚かされる事になった



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第47話 二期2話

「ではこれにて手続きは完了となります」

「はい、確認しました」

 

現場責任者である友里さんの端末とアメリカ側で用意された電子印鑑による捺印がなされ

正式に輸送任務は終了

このミッション、ノイズが出たにもかかわらずなんと死者は0人となった

 

「……これも技術向上の賜物ですね」

「はい!」

 

感慨深げな友里さんに笑顔で頷く統慈

線路は大破してしまったために貨物列車(に偽装した輸送車両)は置き去りにせざるを得なくなったが、エージェントたちは皆帰還し

そこからしばらく平和が続く事となった

 

「……しっかし静かですね〜街の中には軍人もいないし、一時とはえらい違いだ」

「あぁ、アメリカの戦力は軒並み横須賀に回してんのかもな」

 

「まっ、そんなのもう関係ないんですけどね〜」

 

好き放題に各方面へと聖遺物関連の研究を進めながら統慈は笑う、やはり櫻井理論の欠落部分が記された擬似聖遺物完結晶板(エンタイア・エメラルドタブレット)はありがたかったようで、進捗は大いに加速、本来ならばまだ為されていなかったであろう

擬似聖遺物の少数ながらの生産を可能としていた

 

「アメリカのために割く時間も短く済んだし、僕も頑張らないと!」

 

素早く移動しながら施設内電話を受けた統慈はそのまま固まり

 

「アメ公やりやがったなぁっ!

山口さん!ライブ会場にいるエージェント総動員します!マリアとか言うのが仕掛けてきました!」

「なんだってぇ!?」

 

なかなかのリアクションを見せたエージェントを相手に事情は告げず

二課内からのバックアップ体勢を整えるように指示する統慈、本来なら統慈に指揮権はないが、技術開発部門のセクションリーダーとしての堂々たる振る舞いがエージェントを動かした

 

「現場エージェントは全員自己判断でのタスラム使用を許可!装者はまだですか!?風鳴さんは!」

 

〈ダメです!今シンフォギアを晒せばテレビを通して!〉

 

通信に割り込んできた緒川さんの声が統慈を制止し、同時に現場エージェント側の指揮官として情報を提示する

 

〈こちらから回線を物理的に切断します、通信回復をジャミングしてください!〉「了解しました!」

 

「前崎さん!テレビの電波をジャミングしてください!」

「良いんですか!?そんなの電波法の!」「やれ!」

 

鬼気迫る表情がエージェント・前崎の行動を強要し、そして彼は電波ジャミングを決行、わずかな時間を稼ぐ

 

「翼さん!テレビ回線を止めました!」

〈助かった!〉

 

衆目がなくなった事でようやくシンフォギアを纏った翼さんと同時に会場にクリスが突入し初手から全力と言わんばかりに絶唱の序詞を歌い始める

 

しかしそれはフリ、わざと大きく詠われたそれを耳にした敵は即座に警戒態勢に入り、大きく動いて分散する

それは正しい、シンフォギア装者といえども絶唱に対処するためには一人を犠牲に彼我の絶唱を相殺させるか、大きく動いて攻撃範囲内から脱することが必要となる

戦闘継続のために最適な対処と言っても良い

 

()()()()()()()()

 

考えられる可能性は二つ

シンフォギアを以ってシンフォギアを制する為の戦闘マニュアルを既に持っているか

最低一度は絶唱を歌い、または歌われてその威力を知っているか、と言うところだ

 

「だがイチイバルの広範囲殲滅攻撃型の絶唱を前にして散開するのは悪手だ

敵のマニュアルもまだまだ未完成と見える」

 

現場は戦局を変えてクリスが仮称ピンク、響が仮称緑、翼がマリアを相手にとっての1対1へ、しかし響のパンチ力の高さは敵を上回っていたようで

緑のアームドギアが圧し折られる

ピンクも射撃技ではイチイバルに及ばないのか押され始めていく、

お互いの危機を察したか、集合したマリア達はノイズの中でも危険な増殖タイプのノイズ・フルクリースを呼び出し、自分達は逃げながら周囲全てを巻き込んでの大規模殺戮を決行しようとする

しかし物事はそう上手くは行かないもので

 

〈S2CA、トライバースト!〉

 

3人の装者達が重ねて放った絶唱により増殖型ノイズは丸ごと消し飛ばされたのだった

 

 




ポッキー!(関係ない)


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第48話 二期3話

「武装組織フィーネ……ねぇ」

 

それが本当にかつての個人『フィーネ』と同質の存在だとすれば

フィーネはいまだに転生をしていることになる

しかし違う

なぜならフィーネの魂は完全に『絶望を封じる匣』(レーギャルン)に取り込まれているから

 

だからあの組織フィーネは個人フィーネとは何の関係もない

ただその名前を被っているだけの無関係な組織。

 

「とは言えないよな……」

 

これは統慈の肉体を形成する聖遺物がそれであるから起こった現象であり

これを説明するためには肉体自体が聖遺物という自身の秘密を暴露しなければならない

故に統慈はその説明を諦め

自分だけが無関係な存在であることを知っている状態に任せることにした

 


 

「例の宣言以降、テロ組織『フィーネ』からの要求があったが……日本を含む全ての国がそれを無視している」

 

「国土の割譲……でしたっけ」

「そうだ」

 

「……普通に考えてそんなの一国に要求すればいいだろうに、なぜ全世界に求めたのか

お互いで押し付けあって引き伸ばしまくることは想定外だったとでも言うつもりなのか?」

 

「それとも大使館みたいな小さな飛び地をたくさん作るつもりなんですかね?

そこを飛び回って身を隠すとか?」

「ぶっちゃけそっちの方が目立たね?」

 

エージェント達も紛糾しているが

残念ながら国土の割譲云々など、怪しげな組織が要求したところで誰も応じはしない

国連からの公式声明も要約すれば『せめて国になってから出直してこい』というものだ

 

「…………哀れな」

 

その様子を見ればさすがに統慈にも理解できた

つまるところ、あの3人は何者かにいいように操られているだけの傀儡に過ぎず

3人に適当な大義名分を吹き込んでこの惨状を起こしている何者か(おそらくフィーネ関連)が真の黒幕だ、と。

 

(どうしようもないぞこんなの、早速手詰まりか?……いや、僕は僕でできることを進めなくては……)

 

そこから数日、何の動きもない平静な世界がただ続いた

『フィーネ』がそれを崩すまでは

 

「……偽善者?よくそんなこと言えたな、その子」

「ど、どういうことですか!?」

 

なにやら落ち込んでいた響に尋ねてみると、ピンクの子からなにか言われたらしい

という話になって、そこから出てきたのがそのワード

『偽善者』だという

 

「その子は響ちゃんの事、なんか知ってるの?」

「えっ!?」

 

「その子の言うことは分かったよ

で、その子は響ちゃんの事を知ってるの?得意教科や出身地、年齢・体格とかのパーソナルデータ、両親の馴れ初め、生まれた病院と日時みたいな出生について、現在の家庭環境や精神状態、好き嫌いや健康状態、運動能力の数値、性格や好きな話題とか色々と

あのマリアとやらは芸能活動の上でスリーサイズを公開しているけど

そんな物で人を測れる?」

 

「えっと……その……」

「僕は職業上知ってるデータもあるけど、それが全てではないし絶対基準でもない

そんなことよりここで落ち込んでる響ちゃんとお話をしているこの時間のほうが余程重要で大切だと思う」

 

響は頭からなにかを吹き出しながら俯いている、どうやら情報量が多過ぎて負荷でオーバーヒートしたらしい

 

「だからね、響ちゃん」

「はい!」

 

「何も知らない他人に何を言われても、『そんなこと知るか』とでも言っておけ

繰り言も笑い飛ばせればそれでよし、だよ」

「はいっ!」

 

「あ、あとコミュニケーションを試みるのはいいけれど、武器振り回しながらじゃあ落ち着いて話せる訳ないから、ちゃんと落ち着いて話せる場所で、ね」

「はい!」

 

はいbotと化した響を置き去りにして

統慈は自分の研究室へと戻る

別の未来から来た自分(旋音)のことを考えれば、今後も失敗する未来が発生する可能性はある

その時に切り札となったグロウノスは既に失われてしまっている以上、それだけは絶対に防がなくてはならない

そのために、万全の態勢を整えなくてはならないからだ

 

「……メビウスの腕輪とknight of nightsに隠されたプログラム

メモリの大半を使っているこの意味のないプログラムは……つまり、こういうことだ」

 

メビウスの腕輪は統慈が所有し、

かつてカ・ディンギルを形成していた核の一つ、短剣型擬似聖遺物、knight of nights(暗夜の騎士)彼女(フィーネ)の墓の中にある

 

「分割された意味不明なプログラムの欠片、knight of nightsの能力特性

メビウスの腕輪の特性と機能容量

それは全て、このために」

 

完結晶板(エンタイア・エメラルドタブレット)に記された櫻井理論の欠落を埋める論文の中に暗号的に隠されていたプログラムを走らせたことで

その二つに埋め込まれていたプログラムの欠片が再結合(デフラグメンテーション)

それが現れる

 

空中に描かれた光条によるプロジェクションマッピングは即座に実体化し

一つの擬似聖遺物を作り出した

 

「よしっ」

 

作られたものは紅い結晶を戴く獅子の頭を模した彫刻を有する指輪、『獅子王の紅瞳(the・Lione)

 

それを掴み取って即座に指に嵌めた統慈は、何事もなかったかのように

knight of nightsをテーブルの奥に隠して、すぐにまた歩き出した



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第49話 二期4話

「廃病院に潜入、ですか?」

〈あぁ、今夜中に終わらせるぞ〉

 

〈明日も学校があるのに、夜半の出動を敷いてしまいすみません〉

 

通信で流れる声は司令と緒川のそれ

そして応じるは翼

 

「気にする事は有りません。これが私達、防人の務めです」

 

「まさか街のすぐはずれにあの子たちが潜んでいたなんて……」

 

〈ここはずっと昔に閉鎖された病院なのですが、2ヶ月前から少しずつ物資が搬入されているみたいなんです。

 ただ、現段階ではこれ以上の情報が得られず、痛し痒しではあるみたいなんですが……〉

 

「尻尾が出てないからこちらから引き摺り出すまでだ!」

 

友里の言葉をクリスが奪い、そのまま突入を開始する

「あっちょっと待って!」

「……私たちもいくぞ」

 

翼と響もクリスを追って廃病院へと突入した

 

「僕たちもバックアップに入りますよ」

「あぁ」「了解」

 


 

「さて、おもてなしといきましょう」

 

女の声と共に、ウェル博士がキーボードを叩く

それと同時に赤い霧のような物質が散布され

ノイズが出現する

 

「Balwisyall nescell gungnir tron」

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

「Killter Ichaival tron」

 

廃病院に3人の聖詠が響き

同時に3人ともシンフォギアを装着

ノイズへと突撃する

 

しかし、いつものようにはいかない

ノイズたちは戦術的に統制され、数体の群れで次々に飛び出してくる

前の群れを盾にして身を隠しながらの突進を行い、少しずつ群れ全体が前進してくるのだ

 

「くっ……こいつら!」

 

業を煮やしたクリスが広範囲に薙ぎ払いを行うが、あまり広い訳でもない廊下に並んだノイズたちには十分な効果を発揮できず

翼がフォローに入って漸く反撃に入った

 

しかし

「なんでこんなに手間取るんだよ!」

「ギアの出力が落ちている!」

 

そう、散布された赤い霧は

シンフォギアの適合率を低下させる反調律薬(アンチ・リンカー)

これをまともに吸引してしまったからにはシンフォギアによる戦闘など出来るはずがない

 

「くっ……かくなる上は!」

 

翼が飛び出して攻撃を展開するが

適合率の不足した状態でギアの出力を無理やりに上げたことで重大な反動を受けて膝をつく

 

「これが……奏の受けていた痛みか……!」

 

固まっていたノイズたちを焼き払ったのと引き換えに到底戦闘できる状態ではなくなってしまった

 

「ぶっ飛べ!アーマーパージだっ!」

 

クリスは至近距離に来たノイズを巻き込んで盛大に装甲爆破(アーマーパージ)、ギアの出力を落としつつ負担を軽くした形態を見せる

 

「翼さんを回収してください!」

「了解!」「援護する!」

 

エージェント2人を連れた統慈が装者達に追いついて指示を出す

陣形が崩されている以上、戦闘力の落ちた響たちを前に出すわけにはいかない

タスラムを装弾したエージェント2人と統慈が前に立ってノイズを牽制・撃破しつつ撤退指揮を行う

 

「統慈くん!?」

「響ちゃん、ここは僕たちエージェントがやるよ」

 

シンフォギアさえ使用しなければ関係のないアンチ・リンカーを無視して

奥のノイズを射殺していく統慈

しかし

 

「やっちゃえ()()()()()

 

 

目を覚ました獣が吼えた

 



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第50話 二期5話

「ネフィリム!?」

 

統慈はその名に反応して即座にタスラムを発砲する

 

しかし、うねるタスラムの魔弾は灰白の獣、ネフィリムの爪に弾かれ

そのまま弾を砕かれて終わる

 

「タスラムが!……早く撤退してください!」

 

翼を連れたエージェント2人をさがらせ

響とクリス、そして統慈の3人のみを残す

ネフィリムは下がっていく3人には頓着せず、響と統慈を狙う動きを見せた

 

「はぁっ!」

 

響が拳を突き出し、クリスがレーザーを照射し

それらを受けてなおネフィリムは健在

 

「アームドギアで迎撃したんだぞ!」

「なのになんで!?」

 

「こいつはノイズじゃないんです!」

 

連射されたタスラムが縦横無尽の曲がり、空中に複雑な軌道を描いてネフィリムに迫るが

しかしネフィリムもそれを爪で迎撃し

撃ち落としていく

 

ことはできなかった

 

爪による斬撃の軌道を通りながら、透けるように姿を消したタスラムが爪をすり抜け

その背に出現して直撃したのだった

 

「グギァァ!」

 

初めて入ったダメージらしいダメージ

しかし、有効打には程遠い

 

「タスラムだってタダじゃないってのに!」

 

メビウスの腕輪を解放した統慈が炎光剣で突撃し、その背を周るように最後の一発となったタスラムが奔る

 

「はっ!せい!」

 

ネフィリムの爪と撃ち合う炎光剣

日輪の軌道を描く鋒が爪の描く三日月と衝突し、火花が弾ける

 

「……ぅううぉらぁっ!」

 

爪を切り上げてガードを浮かし

すかさず炎を解放して爆破

爆風と衝撃がネフィリムの腹を打ち据える

 

「グルルゥァァ!!」

 

しかしネフィリムは獣、いかに傷を受けても死なない限り衰えなどない

 

「ギァァッ!」

 

跳躍、壁や天井すらも足場とした超常の疾走を見せたネフィリムは真っ直ぐに響へと突撃し

 

「危ないっ!」

 

割り込もうとした統慈よりも早く響を吹き飛ばしてさらに追撃に入った

 

「ガァァァアアッ!」

 

戦力の落ちた響はまともな防戦も叶わず

攻撃を受けてしまう

 

「ガァァァアヴァオア!」

「きゃぁぁっ!」

 

シンフォギアの防御性能すら貫通したダメージ、そんなものを生身の統慈が受ければ死んでいただろう

 

「解放ッ!」

 

バーストしたメビウスの腕輪からのびる光炎剣をさらに大きく伸ばし、吹き飛ばされて転がる響に当たらないスレスレの軌道で横薙ぎに切り払う

 

「ガァッ!」

 

爆声と共に跳躍したネフィリムが響から離れながら振るわれる剣を回避して

そのまま廊下の先へと飛んでいく

狭い廊下ゆえに統慈の体を盾にクリスの射角から外れたネフィリムはすぐにその主人の元へ

 

「お前はっ!?」

 

「マイネームイズ……日本語でいい?

私はオーダー・ナイトリーン

そっちは?」

 

座り込んだネフィリムを撫ぜながら

こちらに向けて微笑む女

 

〈名乗るなよ統慈君!〉

(もちろんですよ)

 

「へぇ、トウジくん、ね?」

 

にちゃあ、と言わんばかりに

三日月のように口端を歪めながら

その唇から流れたのは間違いなく

今しがた耳打ちされた言葉

 

「うっそ!」

「聞こえるっての、そんなチャチな通信機でさ、なんで傍受できないと思ったの?

バカみたい!」

 

湧き出すノイズと戦うギア装者を尻目に

嘲るように笑う女

酷く不快なその声(カコフォニー)は統慈を苛立たせる

しかし、冷静を崩す訳にはいかない

 

「……!」

 

最後の一発となったタスラムを撃つか否か

その判断は統慈の手の中にある

 

メビウスの腕輪の解放にかかる予備動作は0.8秒

タスラムを撃つのなら0.2秒

そのどちらも、敵は許さなかった

 

ネフィリムのケージをノイズに運ばせ

撤退に掛かったのだ

 

咄嗟にタスラムを放つが、ノイズ6匹を犠牲に防がれ、そのまま逃走を許してしまう

 

「さいなら〜♪」「待てッ!」

 

廊下どころか窓すら通り抜けて

突如出現したヘリに飛び乗った女

 

「二課本部急速浮上求むッ!」

 

統慈は叫びながらメビウスの腕輪をバーストし、そのまま跳躍

ブースターにした炎の軌跡が空に茜の筋を描き

そして浮上してきた二課本部

()()()()()()の上甲板を足場に再度跳躍する

 

「届けぇぇっ!」

 

超常的な跳躍によってノイズが運ぶケージへと突撃する統慈だが、空中で突如推進を停止し、背面にバリアを展開する

 

「防がれたか」

 

遠くから、呟くような声

被弾の衝撃で軌道をそらされ、海へと落下した統慈を見つめるその視線の主人

マリア・カデンツァヴナ・イヴ

 

「時間通りだね、フィーネ」

「黙りなさい」

 

マリアは笑みを深めたオーダーの顔を嫌悪感にも似た意志を込めた視線で睨みつけながら底冷えするような声で黙らせた

 

そして

 

「deus ele」

 

声が溢れる

 

「De/E nes Cross」



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第51話 二期6話

「……」

 

マリアの目線は遥か眼下、水面に集中していた

 

それでもなお、反射よりも早く攻撃が飛来する

時限式とはいえ正真正銘のシンフォギアの防御性能を、身体強化を上回るほどの勢いで

雷の如く金光を放ちながら飛来したそれは、獅子の幻影を崩しながら突撃してくる

 

「くっ!」

 

マリアはなんとかそれを槍で防ぐが、槍を大きく弾かれて姿勢を崩してしまう

そこに突き立てられる獣の牙

 

「おっと」

 

白衣の女が軽く戯ける様な声で

迫る牙(橙黄の両腕)を捥ぎ取り吹き飛ばした

 

「E nes hec ele!el-maria!」

 

炎で形成された牙が千の火の粉と化して散り

同時に再び飛来するそれ

今度は幻影ではなく実像だ

 

「甘いッ!」

 

マリアがギアの出力を強引に引き上げ、そのまま槍を振り払って統慈を打つ

しかし槍は確かに当たったにも関わらず、統慈は構いもせずに突撃

半身を大きく切り裂かれながらも

マリアの首に手を伸ばし、そのまま細く白い首を締める

 

「あっぐぅぁ……」

 

ミキミキという音と共に筋肉をしめあげ

喉の筋肉と首の血管を拘束することで歌を封じ、同時に呼吸と血流を阻害することで殺しにかかる統慈

 

「あーあー何やってんのさ」

 

一撃、ただそれだけ

統慈の肉体を吹き飛ばすにはそれだけで十分に事足りる

 

「ばーか」

 

パン、パン、パンと軽い音と共に銃弾が放たれ、海へと落下した統慈へ撃ち込まれる

左脇腹から腰元まで斜めに切り開かれた腹の傷に、さらに各所を貫く銃創

激しい出血・体温の低下・衝撃のダメージ

海水を媒介とした雑菌の感染

数え上げればキリがないほどの死因を抱えたまま、統慈は海へと落下する

 

「重りを抱えて溺死しな」

 

にやけた笑いを一度も崩さないまま

女はよろめくマリアと共に姿を消した

 


 

海の底へと沈む

意識は断絶し、記憶は欠落し

肉体は崩壊し、形象を喪失し

それでもなお在り方を変えず

 

「…………」

 

記憶の果て、千万の記憶の底

かつて見た星と夜空よりも暗く

それは深海の虚を覗いた

 

(来れ)

 

 

深海の遥か底、物理距離にして海面から8000メートル

海溝のうちに沈められた古き()()()()()

 

 

(握れ)

 

天空・冥界と並ぶ世界の秘境

宇宙すら見晴らす人類の到達できる限界を超えた深淵の極限環境の中に、それはあった

 

《振るえ》

 

三神のうち、最も影響力の低い神

人に近づかず、人に依らず

己の世界を支配する海の神

唯一無二の独立神格ポセイドンの神器、三叉の大矛《トライデント》

 

数千万の粒子にまで分解されて、完全に原型を喪失しながらも機能をそのままに保っていた矛は漂う手に握られた

 

 

 

投擲、瞬時に再構築された矛が放たれた

海水を支配するその矛が生み出した激流が海の底から水面を貫き、空中へと飛翔して

遥か空の彼方へと飛ぶ

 

 

「うぉっと!……やるじゃん」

 

ネタネタと笑いながら大きく片足を上げることで刺突の軌跡を回避した女は、白衣に穴を開けながらもその肉体に傷一つ残さず

逆にマリアは翻る白衣に遮られ、直前までその攻撃に気づくことなく

シンフォギアの防御を貫通した矛がその脇腹を貫通する

 

「あっ……まいっか」

 

昏倒したマリアを雑に拾い上げた女が

不平不満を吐きながら引きずってヘリの奥へ隠し、そのままヘリは透明になって消えた

 


 

「バカ野郎ッ!」

 

戦闘不能状態で落下していく統慈を追跡し

クリスが海へと飛び込む

響はマリア達の飛び去った跡を睨みつけながら棒立ちになっているため

自分がやるしかないと判断したからだ

 

シンフォギアの機能の一つには

装着者の身体保護が存在する

それは高山や低地といった一般環境だけではなく、湿地のぬめりやアイスバーンの滑り、砂漠の灼熱などといった特殊な環境からも使用者を保護する

無論、深海という特殊環境も

 

「クソッ!海にジャンプなんてしたら落ちるのが普通だろうがバカ!」

 

どれだけ怒鳴り散らしても、シンフォギアが解除されない限りに於いては

水圧も無酸素も問題はない

 

「あの野郎どこ行きやがった!」

 

必死に視界を確保しながら突き進み

統慈が沈んだと思われるエリアへと到着する

 

「おい起きろバカッ!」

 

海流に流されるというほどに時間が経ってはいないが、着水地点から大きく離れた場所で拾われた統慈

海面からの深度は約40メートル、耐圧装備も無しに潜るには深すぎる

 

しかし、統慈に傷は何一つなく

深深度の水圧に曝されたことによる影響も見られない、それどころかシンフォギアの機能による防御を受ける保護圏に入ったとたんに意識を取り戻した

 

「戦況はどうなってる?!」

「はぁ!?テメェ自分の状態くらい弁えやがれ!」

 

「そんな事に構わなくていい

俺よりもまずは敵を見ろッ!」

 

叱責するような声とともに水面への離脱を試みる統慈、しかし所有する擬似聖遺物のうち2つは水中という環境にまるで向いていない

 

空中機動ならまだしも、水中という抵抗の大きいフィールドにおいては

メビウスの腕輪は出した炎をすぐさまに消されて単なる飾りと化してしまう上、獅子の指輪は推進に関する機能を持ち合わせず、レーギャルンを解放しようにも至近距離にクリスがいるという状況では不可能

普通に泳ぐ他にない

 

「くっ!」

 

水圧の厳しい深深度からの急速浮上は圧力の急変動の影響を免れ得ず

人体には非常に危険な行動となる

見かねたクリスはシンフォギアの保護圏に統慈を入れたままゆっくりと浮上する

 

「もう連中は行っちまったよ、それよりお前の方が危ねえんだからもうじっとしとけ」

 

「……不甲斐ない」

 

回収後に多種多様な機械による精密検査を受けるものの、全く何一つとして異常と思われる数値は観測されず、直前に腕を捥がれた幻像の存在もあって結局見過ごされることとなったのだった




ゲスト聖遺物は遥か衛星軌道へと飛んで行きました


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第52話 二期7話 いつもの光景

「拍木さんは大丈夫だったんですか!?」

「大丈夫だよ」

 

その後、念のために休暇を出された統慈は小日向未来と談笑していた

彼女は明るい笑顔のまま奇妙な現象を報告する統慈に対して心配の色を見せるものの、間髪入れずに否定されて落ち着いた顔に戻る

 

「だって俺、怪我してないもの

海に落ちたせいで意識なかったけど、実際重症化するような怪我を負った跡は微塵もなかったし、それに精密検査の結果は……えげつないくらい項目多かったけど、全然大丈夫だったし」

「はぁ……ならよかったです」

 

ため息をつきながら視線を戻した未来におどける統慈

 

「いやぁなんか急にカリウムが足りないって言われてさ、看護師さん何したと思う?」

「え?」

 

「点滴パックに注射器刺してなんか入れたの、しかもその瞬間に中の液体が蛍光色になってさ、めっちゃ毒々しい色なんだよ

それに点滴から液が入ったときめちゃくちゃ痛くてさ、思わず『痛っ!』て言っちゃったくらい」

「普段から不健康だからじゃないですか!バカなんですか?」

 

「うわぁ〜バカって言われたわ〜

こーひーちゃんにバカって言われた〜」

「誰がコーヒーですか!」

 

プリプリと怒る仕草をしているが相変わらず可愛い未来、二課の外部協力者として雇われの身であるため、彼女は現在一部の限定的な機密を除いた基本的情報に対する閲覧権限を持っている

そのため部外者には話せない仕事状況であっても開示することが可能なのである

響達にとっての『ひだまり』である帰るべき場所、日常の象徴たる少女に

ちょっぴり刺激的な話を聞かせながら統慈は笑う

 

二課本部の上階層にあるカフェテリアでの話であった

 

「響達は……怪我とかはしてませんか?」

「だあいじょうぶ、体張るのはエージェントの仕事なんだから怪我なんて僕たちがすりゃいいのさ、響ちゃん達は無事だよ

ちょっと翼さんは無理したけど、それも後遺症が残るような事はなかったし」

 

「そうですか……」

 

ブラックコーヒーをゆっくりと飲みながら話す統慈と、サンドイッチを眺めるばかりの未来

すこしだけすれ違った二人の会話は、しばらく続いた

 

「お前等こんなトコにいたのかよ」

「あ、クリス?」

「クリス……?」

 

「小日向も、ボンヤリしてっと巻き込まれるぞ」

「「え?」」

 

その直後、昼飯時にありつけた人員がカフェテリアに入ってくる

食堂もちゃんとあるが、軽食の提供もあるカフェテリアに来る人も多いのだ

そしてここが規格外に巨大な潜水艦ともなれば

その人員の人数も多い

 

「うわわっ」

「離れようか!」

 

通勤ラッシュ頃の電車のように詰め込まれるというのは流石に女の子にはキツイだろうと判断した統慈は素早くサンドイッチの皿を取って未来を立たせる

 

「なんでクリスがこんな所に?」

「あ?アタシがカフェに居て悪いかよ

たまたま時間が昼に被っただけだ」

 

「そうか……こーひーちゃんはどうする?流石に今から下降りても同じだろうけど」

「そうですね……解散、ということにしましょうか」

 

人の流れ込み方からしておそらく下の食堂も同じような事になっていると察した二人は素早く思考を巡らせ、そしてこれ以上話しては居られないと判断する

 

「それじゃあまたね、こーひーちゃん」

「もう!その呼び方固定しないでくださいよね!」

 

こうして未来とはさらっと別れた統慈だが、クリスはそうも行かなかった

 

「こっち来い」

「うえ?」

 

店を出た途端にぐい、と手を引かれて

統慈は路地の方へと引き込まれる

 

「お前、アイツとずいぶん仲良さそうだったな」

「……そうだね、会えば挨拶するくらいの仲だよ?」

 

「ふーん?」

「……何かあったのか?小日向さんと」

「別に、アイツとは一回だけ会った位だ」

 

わざとらしい突き放すような言い方

その口調から察した統慈はクリスの表情を観察する

 

「そんな様子じゃなさそうだけどな」

「どっ……どうでもいいだろそんな事!」

 

「まぁどうでもいいよ、それで話は?」

「あ?」

 

突然切り出されたせいか、混乱した表情になるクリス

 

「……ないんだ」

「あーもーうっせえ!」

 

とん、と軽い跳躍で距離をとったクリスに対し、聖詠でも使うかと考えた統慈はとっさに強制基底状態返還(シールリリース)のための詠唱を思い浮かべるが、その予想に反してクリスは身を翻して去っていく

 

「……なんだったんだ……?」

 


 

しばらくのち、リディアンにおける学園祭『秋桜祭』が開催されるという話になった

普通なら文化祭といえば11月辺りになるのだが、なぜかリディアンに於いては9月の時期に行われる

 

「ねーねー旋音〜」

「静かにしてください」

 

「つれなーい、可愛くない反応しちゃダメでーす」

 

統慈/旋音はというと、クラスメイトに弄られていた

唐突に学校を休んだりなんなりと多少騒がれる原因を作ったところはあるが、それにしても正当な理由であるために文句をつけられる所以はない筈だが

どうもクラスメイト達にはなにかが見えているらしい

 

「彼はどんな人?」

「イケメン紹介して!」

「お金持ちのイケメン彼氏募集中なんだけどさぁ〜いいの知らない?」

「おまネイチャ」

 

「……私、男の人とあまり関わっている訳ではないのだけど?」

 

「うっそだー!だってイケメンの人と一緒にいたの見たよ!あの時!」

「あの時……?」

 

和葉が滔々と語り出したのは

例のフィーネ事件の折の話

別世界の旋音が緒川達と行動を共にしていたタイミングを見られていたらしい

 

「……全く関係ないではありませんか」

「知らない人じゃん」

 

熱心に騒いでいた数名以外はあの事件の話に冷めた反応を返して

「あのイケメン紹介してよー!」

「だから知らない人なんですって」

 

騒がしい話ばかりが、クラスの中では続いていく

ちなみにクラス全体での出し物はボトルジュースの出店になった

 



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第53話 二期8話

文化祭当日の朝

旋音はパンを咥えて走る……ような真似はせず、優雅に歩いていた

(故)フィーネ氏に教え込まれた仕草は気品ある良家の子女として不足なく

本人の昔からの気質は慎重かつ冷静であった

 

「おはようございます」

「おはようございます」

 

校庭にいた生徒へ笑顔での挨拶

お互いに制服でなければどこぞのお嬢様のお茶会のようで

看板やら骨組みパイプの仮設テントやらが目立つ校庭でさえなければ写真に切り取られても輝くような見事な立ち姿であった

 

「……はぁ……」

 

秋桜祭は文化祭というだけあって

『文化』を奉る催事、祭りの花でもある出店屋台やステージでの演劇や

リディアン最大の学科であるところの音楽を最大限に主張する一大イベント『勝ち抜き歌合戦』が体育館や講堂で開催される

 

その中でもやはり目を引くのは『勝ち抜き歌合戦』だろう

勝ち抜きというだけあってトーナメント形式である他に、飛び入り参加枠という意味不明な存在まで出張ってくる

統慈はそんなことは知らないのだが、『何故か』旋音がクラス代表という事になってしまったがためにこの歌合戦には強制参加となってしまっている

 

旋音の現実逃避はその憂鬱が原因であった

 

「はぁ……」

 

深いため息、相変わらず写りは良いが

その憂いは写らない

 

ため息ばかりついていても仕方がない

意識を切り替えた旋音は教室へと辿り着いて即座に荷物を下ろし

最終調整のために講堂へと向かう

 

「……いつ見てもこれは……」

 

旋音のために用意された『楽器』

パソコンのようなキーボードに鍵盤、さらにフットペダル多数

背部には大きなアンプスピーカーが配されるそれ

一見すれば座席付きのゲーミングPCだが、あくまでも楽器を自称するだけある

そのキーボードは効果音と弦楽器、フットペダルは打楽器、鍵盤はそのままオルガンに対応し、それぞれに合成音を奏でるシンセサイザー

 

いやどちらかと言うと

単身楽団(ワンマンオーケストラ)……」

 

神曲奏界ポリフォニカに親しんだ人ならば基礎的知識として押さえているであろうアイテム、『単独個人による楽団規模の演奏』という矛盾を実現するために楽士達が用いるそれである

 

「なんで私がこんなものを使う事になっているの……」

 

「アタシが頑張ったから!」

「お姉さまが、でしょ!」

 

クラスメイトAこと詠奈の姉が電子楽器関連を手がける人であったらしく

このリディアンの卒業生でもあったという

リディアン自体がお嬢様学校である点あるが、その他にも何人もの父兄や友人がゾッとするほどにたやすく投資してきたり、その道の方が手を貸してくれたりと調子よく進み、最初は普通の電子オルガンであったはずの使用楽器は見事なワープ進化を遂げていたのだった

 

「徐々に進化していくオルガンなんて見たくありませんでしたわ」

「そりゃ調整とか増築とかあるしねー

……まぁちょっとキモい配線とかあったけど」

 

座席に腰掛けてゆっくりと正面を向く

練習はしっかりと積んできた

今回は単なる最終確認に過ぎない

前日までで調整は完璧に済ませている

 

「行きます」

 

次の瞬間、旋音の両手両足が全く異なる動きを見せる

pc画面のキーボードを叩く左手、オルガン鍵盤上へと飛ぶ右手

ペダル8つの中の2つを即座に踏み込む両足

どう文章化されても意味のわからない絵にさらに歌が加わる

 

「生演奏にこだわる意味はなかったのでは……?」

「録音じゃアジがね……だからってこうなるとは思わなかったけど」

 

蜘蛛の足の如き異形の指でも持っているかのような長距離の正確な移動を容易く成し遂げ

高速で次々にキーを押していく

風刺画のショパンもかくやというような動きで五指を繰る旋音の演奏は短く終わり

単身楽団(シンセ)がスリープモードに戻る

 

「よし、準備良しです」

「おーし、じゃあこのまま本番だね」

「午前中は出店の方ですわ、私達も店員さんをやるのですから」

 

詩歌と詠奈の二人と一緒に校庭の方へと戻る

出店のテントは校門に程近く、校舎からもさほど離れていない良立地

本日の天候は快晴、冷えたジュースはテントのクーラーボックスに用意済み

 

そちらの最終確認を行なっているクラスメイト達と合流した後、皆は開会式へと向かった

 

「えー……本日は……」

 

うんたらかんたらと長い話を聞き流しながら、統慈の脳内に巡るのはフィーネと名乗ったマリアの事

 

(流石に単一戦力(シンフォギア)、それも時限式という爆弾を抱えたものが武装蜂起などできるだろうか?

シンフォギアを出ずっぱりにするくらいは通常戦力でも出来るだろうし

米軍を動員されたら時間切れまで粘られて終わりになるだろうことは明らかだ

その事実をさらに上回るような切り札が、最低でもある

ネフィリムは戦力に数えていいだろうが、現状のネフィリムの制圧能力はそう高くは無い

まとめて捻り潰されて終わりだろう

まさか……)

 

「……予備戦力がある?」

 

「ん?どうした?」

 

ふと口をついた呟きに反応したのは隣にいたクラスメイト

旋音は軽く首を振って黙殺し

話に集中するフリに戻る

 

(予備戦力があるとすればそれはあの緑とピンクシンフォギアだけとは思えない

継戦能力の高い機械的武装最低1、完全に状況を傾けるほどの高い殲滅能力を持った武装

核爆弾……?

いや流石にそれは国家非常事態、アメリカの体裁にも関わる事になるだろう

では聖遺物か?

ネフィリムはコスパの悪い『聖遺物を喰う聖遺物』、欠片ならまだしも完全聖遺物級のそれを用意するほどならネフィリムを先にお払い箱にしているだろう)

 

統慈の思考は校長の余りにも長い話で生徒達が貧血を起こしてしまうまで続いた

 


 

「アイツらの『ギアペンダント』

それを奪う……!」

 

一方、その頃緑とピンクの二人組はこのリディアンで行なわれる祭事に潜入していた

 

「拠点を放棄したせいで私たちの用意していたエサはほとんど全滅してしまった

だから、ネフィリムのエサとなる聖遺物を確保しなきゃいけない」

「デース」

 

狙いはクリスと翼の持つギアペンダントだ

しかし、都合の悪い事に

このイベントは統慈にとって既知

なぜと問うならそれは業

そも暁切歌という少女は、統慈のかつての親友の『推し』であったのだ

『ほっそりとしたふとももに縞ニーソがよく映える』だの、『金髪片言ルー語で高音聖詠が耳に残る』だの、『肩アーマーと帽子のブラックマジシャン味が俺に効く』だのと殊に詳細に語ってくれたせいである

 

「貴方達、迷子かしら?」

 

以前のライブ事件で顔が割れている二人

旋音がそれに接触するのも当然と言えた

 

「え?イヤ全然大丈夫デスよ!」

「……切ちゃん慌てすぎ」

 

「そう、私はしばらく余裕があるから

誰かと一緒に回るのも良いと思っていたのだけれど、案外に見つからないものね

これ、私のクラスで出している出店のジュースなの、差し上げるわ」

 

旋音は二人に(出店で押しつけられた)ボトルジュースを押しつけようとするが、二人はそれを渋る

 

「デモ知らないヒトからお菓子を貰っちゃダメってマリアが……」

「そう言っていたの」

 

「……そう?でもお菓子じゃなくてジュースだから大丈夫よ、もし怒られたら私が謝ってあげるわ」

 

「どうしてそこまで?」

 

じっと見つめてくる調に対して

旋音は笑顔で返す

 

「だって貴方達、出店の方を見ているのに何か買おうとするそぶりがないのだもの

それではこの祭日を楽しめた、とは言えないのではないかしら?」

「……別にお金を使わなくても、お祭りを楽しむ事はできる」

 

「出来るわね、でもね、祭りの空気はただ見てるだけじゃ味わえない

形に残って初めてそれは思い出になる

私はそう考えているの、ジュースは飲んでしまえば残らないけれど

貴方達の中にはその記憶が強く残ると思うわ」

 

「……そう」

 

言葉少なく見つめてくる調と

調の後ろからこちらを窺う切歌

旋音の目に映る二人の表情は薄く、その意味はわからない

 

「まぁ言えば私の自己満足よ

私が気分良く過ごすための、ね」

「……偽善者」

 

「そう、私は偽善者よ?だって誰にも『善き』事の基準なんて示せないから

真のそれ無きままに己の善を行うというのなら、それら全ては偽善であり、そう呼ばれるべき」

 

「……」

 

「ミッションスクールの生徒は口喧嘩でそう簡単には負けないのよ、()()()

それじゃあさようなら」

 

むくれる切歌と黙り込んだ調にジュースを見事に押しつけた旋音はそのまま背を向けて立ち去った



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第54話 二期9話

「はーい、いらっしゃいませ〜

ミックスジュース、如何ですか?」

 

「おっ、じゃあ一本貰おうかな」

「ありがとうございます、

お代は200円になります

……フレーバー如何いたしましょうか?

『イチゴ』『レモン』『リンゴ』『ライム』『ミント』『メロン』『ブドウ』と各種取り揃えてございます、単品フレーバーも出来ますが、おすすめは『レモン+ライム』の“清涼(クールブルー)”と『リンゴ+ミント』の“爽快(スカッシュ)”に、『メロン+イチゴ』の“純粋(ピュアリー)”となっております」

 

旋音達のクラスでやっている出店はミックスジュース、フレーバーを混ぜる

いわゆる『ドリングバーで子供がはしゃぐアレ』の出店なのだ

無論、ちゃんと美味になる様な良い組み合わせをお勧めしている

到底飲めない邪悪な液体危険物(ダークマター)を生産する出店ではない

 

「えっと……おすすめのやつをもう一回」

「はい、おすすめは『レモン+ライム』の“清涼(クールブルー)”と『リンゴ+ミント』の“爽快(スカッシュ)”に、『メロン+イチゴ』の“純粋(ピュアリー)”となっております」

 

今度はすこしゆっくりと、より聞き取りやすい様に正確な発音を心掛けながら声を出す旋音

「ん〜じゃあレモンとライムのやつ1つ」

「はい、承りました、清涼(クールブルー)をお一つ、以上のご注文でお間違いないでしょうか?」

「はい」

 

「かしこまりました、しばしお待ちください、それでは失礼致します」

 

ファミレス店員のバイト経験から立板に水の勢いで言い切った旋音はそのままテントの方に行き

この日のために用意されている分量のわかる様になっているボトルにレモンとライムのドリンクを注いでマドラーで軽く掻き回す

 

「……よし」

 

ボトルに蓋をしてストローを添えた旋音は素早くそれを客元へと運ぶ

 

「お待たせいたしました、こちら清涼(クールブルー)となります」

「はい、ありがとう」

 

客の男性にとびっきりの笑顔を見せつけながらそっとボトルを手渡した旋音は

そのままの表情で一歩下がる

 

「ごゆっくり、この祭日をお楽しみくださいませ」

 

一言を添えて深くお辞儀をする

角度は30° 謝意を表す敬礼の角度だ

 

「おぉ……」

 

ちなみに、現在の旋音の格好は

クラシカルなメイド服

いわゆるメイドさんなのだった

 

「君……良いね……」

「ありがとうございます」

 

透明な笑顔と共に出店のテントの奥へと戻る旋音、上品なメイド服と美しい所作が伴うその姿に視線を釘付けにされている客

真実を知らないとは何とも哀れな事だ

 

(さて、二人との接触自体は成功したし、このまま午後まで待つか……)

 

旋音は頭の中で時間を計算しながらメイド服の皺を正して裾を伸ばす

このメイド服も了子(フィーネ)の私物として置いてあった物で、今回のイベントのために引っ張り出してきた秘蔵アイテムの一つである

了子は泣いて良い

 

「りんりん!こっちきてー!」

「え?ちょっと待っ」

 

ぐい、と唐突に引き込まれた先は隣のテント

B組のやっているそこに引っ張り込まれた旋音はそのままフラッシュに目を閉ざす

 

「何なんですか一体!?」

「えへへ〜ほら撮れた」

 

クラスメイトの言子(イイコ)が見せてきたのは唐突に腕を引かれて半分体制を崩した旋音の正面からの写真、あまり写りがいいとは言えない

能面のような貼り付けた表情をしている自分を見つめる旋音

 

「りんりんさぁー?今日ずっとこんな顔だよ?ほらほらスマイルスマイル!」

「私は超古代の光ではないのよ?」

「なあにそれ?さぁさぁスマイルだよ〜!」

 

そう、旋音は周辺事情を気にするがあまり、知らず知らずのうちに自分が楽しむことを忘れていた

だからこそ、今のままではいけないと思っている言子はそれを思い出させる為に一芝居打ったのだ

 

「まぁお仕事だし?いっぱい考えることあるもんね?でもこーいう時くらいは〜

みんなと一緒に楽しんじゃお?」

「……はぁ……お心遣い、というわけですか……ありがたいですけれど、せめてやり方は考えてください」

 

ため息をついた旋音に、笑顔のままの言子は黙して返した

 


一方、仮拠点を失ってしまったマリアとナスターシャ、そしてウェルは一つの部屋の中にいた

港湾の倉庫である

 

『マリアが力を使う度、フィーネの魂が強く目覚めてしまう。

それはマリアの魂を塗り潰してしまう事

そんなのは、絶対にダメ!』

 

『アタシ達がやるデス! マリアを守るのは、アタシ達の戦いデス!』

 

 

自分の為に戦う調と切歌の言葉を思い出す

 

「後悔しているのですか?」

 

ナスターシャが口を開く。マリアは首を横に振り大丈夫と言う。

 

「私は、私に与えられた使命を全うしてみせる。」

 

その瞬間、アラームが鳴り響き、ナスターシャがモニターを起動する

モニタリングされた映像には銃で武装した人間達が映った

 

「今度は本国からの追っ手ですか」

 

「もうここが嗅ぎ付けられたの!?」

 

そう彼らは米国からナスターシャ達を拘束する為に送り込まれた特殊部隊

無名無章のその部隊は紛れもなく『裏』の秘密部隊であった

 

「異端技術を手にしたとしても私達は素人の集団、訓練されたプロを相手に立ち回れるなどと思い上がるのは虫が良すぎます」

 

「ではどうするの?」

 

「踏み込まれる前に、攻めの枕を抑えにかかりましょう、マリア

排撃をお願いします」

 

「排撃って…相手はただの人間よ…! ガングニールの一撃をくらえば…!」

 

ナスターシャの排撃という命令に躊躇するマリア

いくら敵でも相手は人間だ。シンフォギアの攻撃を受ければ確実に死ぬ

 

「そうしなさいと言っているのです

ライブ会場占拠の際もそうでした

マリア、貴女はその手を血に染める事を恐れているのですか?」

 

「マム…私は…!」

 

二人は互いの目を見つめていた

 

 


「さぁ、そろそろお昼ごろですから

私は講堂の方へ向かいます」

「はいはーい、いってらっしゃい」

 

少し経ち、数十本のボトルを捌いた旋音はメイド服のまま歩き出す

行き先はもちろん単身楽団の下だ

そして、丁度そのタイミングで

クリス達と二人組が衝突を起こし、そしてステージへ向かう

 

飛び入りの外部参加枠ながらに高レベルな歌を披露した二人に、講堂全体からの拍手が注がれるのだった



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第55話 二期10話

「なんだあれ?煙?」

「火事かもしれねぇな!」

 

「おい……もう帰ろうぜ……」

 

リディアン に拍手が響くその頃、煙を上げる倉庫の元に中学生頃の子供達がたどり着いていた

 

「見てみようって!」

「おい……」

「なんだよたけし、ビビってんのか!?」

 

少年達は秘匿されるべきその内へと近づいていき、そして見つかってしまった

貴方が深淵を覗く時、深淵もまた貴方を覗く

好奇心の代償はなによりも大きく、そして厳しいものであった

 

「なにを見てるんですかぁ?」

 

女の声、高く、深く、そして柔らかな女の声に誘われ、それを直視してしまう

ソロモンの杖を握った、白衣の女の姿を

 

「死んじゃえよ、モブ」

 

「よせ!少年達は関係ないっ!」

 

嘲るような言葉とともに、ソロモンの杖で召喚されたノイズ達

しかし、彗星の如く迫る一撃がノイズ達を遮った

 

ノイズは展開される瞬間、存在比率が現実側に大きく傾く

その一瞬を狙ったウェルの一撃がノイズを打ち据え、三体のノイズを炭の山へと換えた

 

「逃げるんだ!早くっ!」

 

ウェルは叫びながら自らの杖を抜き

同時に拳銃を左手に持ち替える

 

「え?なんだよなに言ってんだよ!」

「おい逃げるぞ!」

 

タケシと呼ばれた少年は一目散に走り、それに釣られてメガネの少年も走り出した

しかし帽子の少年だけは状況が読めていないのか、ノイズだった炭を茫然と眺めている

 

「君ッ!」

「アハッ!」

 

ウェルが視線を逸らした瞬間、ノイズがウェルの目の前に出現

ウェルを炭化するべく襲い掛かる

が、ウェルはそれを見抜いていたかのように杖を突き込み、その腹部を貫通させることで機能停止に追い込む

 

しかし、少年はそうもいかない

ウェルの目の前にノイズが出現したその瞬間、ノイズに気を取られたウェルが意識を正面に集中させたそのタイミングで

少年の前にもノイズが出現していたのだ

 

「いかんっ!」

「ヒイィイイイィッ!!」

 

杖を正面に突いた姿勢では拳銃は満足に照準できず、たとえ当てたとしてもその裏には少年がいる、少年に銃弾が当たれば重傷を負わせてしまう

ウェルが動けなくなる一瞬を見越した複数のフェイントによる正面奇襲は見事に成功し

少年は無残にも炭へと換えられる

 

「くっ……何故殺したっ!」

「え?そんなの当然見られたからだよ?」

 

ウェルの激しい問いに対して

にへら、と笑ったままの女が何も変わらない鈴のような声で答える

 

「それ以上に理由は必要ないじゃない」

 

戦場に似合わない、華のような笑顔で

 

「……貴様……っ!」

「あら怖いわ、Dr.は私のことがお嫌いなのかしら?」

 

戯けながらも鋭い視線がウェルを打つ

その左手にはソロモンの杖

拳銃の残り弾数は10発、少ない

 

「仕方ない……逃げますよ、ノイズを出した以上は感知されたと思うべきだ」

「そうね、ネフィリムの餌をまた失ってしまう事になるけれど」

「また集める他にない……!」

 

ギリギリと音がなるほどに銃を握り締めながら、それでも世界のために

ウェルは亡骸に背を向けた

 


 

一方その頃、旋音は二人組のすぐ後の立ち位置となってしまったため、

二人が歌い終えたあとという針の筵に座らされながらも演奏を開始する

 

「メイド服……!?」

「あのこすっごい……」

 

遠くからざわつく声が聞こえる

リディアンの学園祭だけあって観客も多く、また姉妹校のファリネッリ男子音楽院からも参加者がいるため男性も少なからずいる、

アニメキャラの仮装やドレスなど、さまざまな服装の参加者はあれど

直前は一般的な服装だっただけに

堂々とメイド服の美少女が登場すればどよめきもあろうというものだ

 

「……」

 

すっと観客席に向かって一礼し、そのまま単身楽団(ワンマンオーケストラ)展開(セット)する

 

右手をキーボードに

左手は鍵盤に、両の脚はペダルへと添えられる

その異様な構えに観客も注目し

最初の一音が奏でられる

 

仮面ライダーディケイドのオープニング曲、Journey through the Decadeが始まった

 

リズムを足で作り、主旋律を片手で奏で、半自動化された伴奏旋律に乗りながら時折に合成音のエフェクトを使ってバリエーションを出す

それでいて歌唱にも手を抜かず、座った姿勢でありながら完璧な男声で歌い上げる

 

十年期を意味するディケイドの名を冠するライダーのオープニングだけあって所々に10番目に関連するワードが入ってはいるが、意味に疑問を持たれるよりも早く歌い終える事でそれらを封殺し、演奏が終了した

 

「…………」

 

機械の中から立ち上がったメイド服の少女は楚々とした動作で一礼し、先ほどまで自分を囲い埋めていた機械と共にステージから袖へと去っていくのだった



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第56話 二期11話

「……緊張した……」

 

死にそうな声と共に息を大きく吐いて、そっと目蓋を押さえる旋音は

そのまま控室の方へと戻るのではなく

後ろに続くクリスを見守ることにした。

 

すっとひとつ、息を吸って

クリスへと目を向ける

じっと見据えたその先で、制服姿のクリスが歌い始めた。

 

 

「……………」

 

無言で見つめるその姿、彼女の揺れる髪と背中

その彼方に見えるのはかつての記憶、闘いあったあの日からの彼女の新しい記憶。

 

「…………」

 

『私の帰る場所』とはよく言ったものだ。

 

「彼女にとって、ここが帰るべき住処、と言うことね」

 

深呼吸して、湧き出す涙を押さえ込み

帰ってきたクリスを迎える。

 

「お疲れ様でした」

「おう、ちゃんと聴いたか?」

 

「はい、もちろんです」

 

言葉はそれだけ、それだけを言って

旋音とクリスは共にステージ裏へと帰る

そしてそれをラストにイベントは終了した。

 


 

「正直勝てるかどうか自信がないデス」

「大丈夫、すぐわかるから」

 

切歌も観客席でボヤくように、今年の歌合戦参加者は全体的にハイレベル

切歌と調のデュエットも例年ならば優勝を狙えたかもしれないが

今年に限っては分が悪い。

 

「この勝負、結局勝てるだろうか?」

「そりゃあ……結果は人それぞれだろうし、なぁ」

 

一方勝負を受けた側の翼とクリスの二人は泰然としている、単純な人数で言えば2対3以上、出場枠も向こうが2人一枠に対して二人で分けている以上は勝率も単純に高い、

そもそもに於いてプロフェッショナルである翼がそう簡単に負けるとは考えられない。

 

それにギアペンダントだけを持っていかれたとしても実戦レベルで適合する使用者などそういない、

イチイバル・ギアに至っては70億人の人類の中で使用可能な適合者がクリス以外にいないことがフィーネによって明らかになっている

つまり逆利用される可能性はゼロに等しいと言うことだ。

 

ここでギアペンダントを失ってもシンフォギア2つという損失は大きいが

あくまでシンフォギアのペンダント2つを渡すだけであり、それらも敵が何ぞする前に奪い返せば良いと言うだけである以上、実質的にこの賭けで失うものはないと言っても過言ではない。

 

「それでは、優勝者を発表します!」

 

歌合戦最終戦の決着、順位発表

そこで選ばれたのは。

 

「雪音クリスさんでーす!」

 

「あ、アタシ?!」

 

ドン!という派手な音とともに優勝者が発表される

それはまぁ予見されていた通りに旋音の隣にいたクリスその人で

それと同時に調と切歌はそそくさと逃げ去っていく、おそらく自分たちのギアペンダントを取られないようにするためであろう。

 

「さぁ、どうぞ表彰台へ」

「お……おう」

 

旋音の言葉に背を押されてようやくステージへと出るクリスに、金箔のメッキされたメダルが掛けられる

その光景を尻目に、旋音は静かに会場を離れて……。

 

「負けちゃったデース……」

「あら?貴女達……さっきの歌合戦に出ていたわよね?」

 

全く無関係な人物を装って二人に接触する

強引な手ではあるが同時に有効な引き留めでもある。

 

「あ……」

 

二人は同時にこちらに顔を向けて、切歌は間抜け面を晒し

それとは対照的に調はキッとこちらを睨み付けてくる。

 

「偽善者……!」

 

「人呼んで偽善のお姉さんとは私のこと」

「お姉さんなんて呼ばないデス」

 

お嬢様らしく少しだけ上体を反らして胸を張りながら片手を胸上に当てるポーズでウィンク、格好をつけながら微笑む旋音

なおあまり格好は付いていない。

 

「さて、なにかお悩みのことでもあるかしら?

随分と思い詰めた顔をしていたけれど」

「あなたに話す事なんてない

……行こう、切ちゃん」

 

引き留めを試みた旋音だが、調がさっさと切歌を引っ張っていってしまう

流石に実力行使で止めるわけにもいかず、それ以上に興味を引くことができないと判断した旋音は諦めて位置情報をエージェントに流すにとどめる事にした。

 


 

「クリスちゃーん!!」

 

ようやくみんなから解放されたクリスが疲れた顔で人混みから抜け出して来た

ところに突撃してきた響(鬼)が襲いかかる。

 

「てめぇ何しに来やがった」

「お祝いッ!」

 

「諦めろ……」

 

こうなった時の響の突進力は異常である

翼はそれを既に悟っていた。

 

 


 

「ついに本国の追手に捕捉されてしまった……」

 

ナスターシャの呟きは重い

もとより帰るべき場所などないといえど、FISは米国組織

その面子にかけて追手は差し向けられる

今回はウェルとオーダーの働きによって撃退したが、次もそうなるとは限らない

そもそも重要な頭脳である二人を矢面に立たせるのは憚られる事だ。

 

「マム!ただいまデース!」

「……」

 

それよりも

 

「二人とも、どこにいっていたのですか」

 

どうやらまずはお叱りの時間のようだ。



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第57話 二期12話

丸一日ぶりに女装を解いて髪をほどき、頭皮をガリガリかきながら思案する統慈

 

「さて……どうするか」

 

ここからの展開はおおよそ分かっている

①ネフィリム襲来

②絶唱

③未来=神獣鏡とフロンティア

 

本来ではこの流れになるはずだ、統慈も1から10までちゃんと知っているわけではないが

それ自体は把握している

しかし、だからといって未来誘拐を阻止することはできないし下手な手出しは最終話の全員絶唱に差し障る恐れがある。

 

「まずいな……」

 

今は本格的な介入は出来る場所が少なく、また強力な敵が牙を剥き出している状況だ

しかし焦ってはいけない

ここで焦れば罠に掛かる。

 

「よし」

 

統慈は頭の中の情報をまとめ、作戦を立て直していく。

 

「まずは……」

 

未来の情報を思い出しながら脳裏にまとめ、それらを具体的な案へと錬成していく

記憶を消費する錬金術だ。

 

「絶唱を減らす」

 

未来で起こる中で最も重要な影響を持つのが響の体内に存在する『奏のガングニールの破片』

それが響の肉体にもたらす影響は大きく、人の限界を超えた変異すらも起こしてしまう

故に、その侵食を抑えるため

少しでも響に掛かる負荷を減らさなくてはならない

そしてそのために最も手っ取り早いのが、とにかくシンフォギア を使わせないこと・フォニックゲインに接触させないことだ

フォニックゲインの極みであるシンフォギアの奥義、絶唱の発動を一回でも減らせればその後の負荷低減に大きな意味を持つであろう。

 


 

「それで、二人に決闘を挑んだ、と?」

「そうデス!」

 

「……あまりのポンコツ振りに頭痛がしてきました、ウェル、これをどうにかしてください」

「いやそれを僕に言われても……

とにかく二人とも、軽挙妄動は慎むべきです、僕らの取り得る手札は限られているんですから」

 

二人の博士はその優秀な頭を限りなく無駄に使うことになったが、オーダーはさっさと出て行き、その代わりにウェルが切歌に正対して諭し始める。

 

「それはわかっている」

「いいえ分かっていません、分かっていたらこんな馬鹿な事はしない筈です

あなた方はロクな勝算もない戦いを挑んで無茶をして、挙句敵陣に突入してよくもまぁ帰ってきたものですよ」

 

「それは……」

「なんです?」

 

切歌を黙らせたウェルはそのまま背を翻して部屋を去っていく。

 

「切ちゃん、帰ろう」

 

臨時拠点を構えたヘリに、静寂が戻った。

 


 

マリアの事件以降、突然のテロに対して社会は騒然としているが

それに対処しようと明確に動いている組織はたった3つ

即ち日本の特機部ニとアメリカのFBI、そして国連直轄インターポールの三組織

それぞれに思惑があり、日本は可能な限り早くこの事件を終息させマリア達を逮捕したニュースを大々的に流して株を上げようとし

アメリカは自分たちの面倒(FIS)を始末しながら日本への内政干渉を強めようとし

国連は日本から出来る限り金を絞ろうとしているわけだ。

 

「…はぁ」

 

ため息を着く、こんな面倒な裏事情なんて知りたくなかった。

 

「ん、どーした」

「クリスさん?」

 

自分のデスク(スチールの安い小型)で項垂れていると、突然後ろから声を掛けられる

振り返ればそこにいたのは小柄な長髪。

 

「いや、悩んでいることがあったんだ

ひとつだけの事なんだが、それがどうにも難しい」

 

「へぇ、なんだよ」

「出来る限り戦わないこと

実力行使に出ないことだよ、

我々は確かにシンフォギアという強大な実力を持っている、けれどそれを実際に運用するのは『それが出来る少女達』であって我々は特に関与しない

だからこそ、僕たちはその力を勝手な都合で振り回すようなことはしたくないんだ

でも世界はそう我儘に出来ていない」

 

ため息と共に吐き出す泣き言は、クリスの一言で流されてしまった。

 

「んな事で悩むなよ、アタシたちがバカみたいだろ」

 

「え?」

「『それが出来る少女』って言ったって、それだけじゃないんだぜ

態々努力してシンフォギアの使い方を勉強したのはなんのためだよ

ノイズ倒すためだろ

でもそれより先にやらなきゃならないことが出てきた、それだけの話じゃねえか

そんな事で一々躊躇すんじゃねぇ」

 

クリスは統慈の背中を叩き、もう一押し

 

「アタシ達はあくまでシンフォギアの装者であって、その力を振り回すことしかできない

だから冷静になって『力の使い道』を決めてくれるアタマが必要なんだよ、分かれ」

 

統慈の乱れ髪を更に掻き回す。

 

「アタシ達を使う事に躊躇はいらねぇからさ、ちゃんと使えよ」

「……わかった」

 

 



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