一発ネタ(天上天下×fate) (幸海苔01)
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一発ネタ(天上天下×fate)
宗一郎様は最強。
統道学園。
良くも悪くも名高いこの学園のとある三年生の教室前に、二つの人影が在った。
一人は少し小柄な背丈に金色に染まった髪を持つ少年。もう一人は大柄かつ、この国では珍しい、黒色人種とのハーフであり、ドレッドヘアを持つ少年。
「ボブ、これは必要なことなのか?」
小柄な少年がそう呟く。
「ああ、そうだ」
大柄な少年がその言葉にそう返す。
「そうか」
そんな彼らに対して、不審に思ったのか、近くの三年生の一人が少し脅してやろうと言う気持ちも込め、二人に声をかける。
「よお、新入生!!ここがどこか判ってんのかコラァ!!」
それに対して、金色に染まった髪の少年が答える。
「統道学園における、三年生の教室の一つのはずだが?違うのか?」
しかし、その少年の確認の言葉に答えるよりも先に、その三年生が
「その前に挨拶が先だろう。ボブ牧原だ」
三年生に宙を舞わせた張本人こと、大柄な少年である、ボブ牧原がそう口を開く。そして、金髪の少年もまた、ボブに続くように口を開く。
「私は凪宗一郎。ただの朽ち果てた
その言葉とともに、蹂躙が始まった。
▼▼▼
それから少しして、謎の襲撃者に手がつけられないとの連絡を受け、小学生ほどの小さな背丈の少女と、その彼女を担いでいる、一般的な背丈の少年の二人組が現地へと向かっていた。その二人の名は、棗真夜と高柳雅孝。柔剣部という部活に所属している、この学園内でも有数の実力者である。
そんな二人が向かう道中には、まさしく死屍累々といった有様で、三年生の不良たちが廊下に転がっていた。
「すごいですね。これ全部あの二人が…?」
その様子を見て、少しだけ驚きを滲ませた声で雅孝はそう呟く。
「うむ。なかなか元気がよい」
それに対し、真夜はその背丈と容姿に見合わぬ口調でそう返す。
やがて、暴れている襲撃者こと、ボブと宗一郎の二人が視界に入る位置にまで近付き、真夜はそれまで担がれていた雅孝の肩から飛び降りる。
そして、二人のうち、真夜により近い場所にいた宗一郎の下へと向かい、言葉を発する。
「小僧ども、お主らが強いのはよう判った。もうそこらで拳を収めよ。さもなくば、儂が直々に相手をせねばならぬが?」
その言葉に、宗一郎は手を止め、ちらりと真夜へ目を向ける。
対して、目を向けられた真夜は不敵な表情を浮かべ、
「言っておくが、儂は強いぞ」
と言い放つ。
その言葉を向けられた宗一郎はと言うと、特段表情も変えず、確認事項を読み上げるような平坦な口調で、相方であるボブに問いかけた。
「ボブ、この学校に飛び級制度はあったか?」
「知らん!」
宗一郎の問いかけに対し、にべもなくそう返す、ボブ。その間、彼は不良を殴る手を一切止めていない。
「儂はこれでも十七歳じゃっ!」
宗一郎の言葉に、少し怒りを滲ませた口調で吐き捨てる真夜。それから溜息を少し吐いたかと思うと、
「まあよい。姿形が気になるというのなら、少しは戦りやすくしてやるわい」
そう呟き、
「練氣硬丹下精神凝範殺万物妙夫神天道是立陰陽地道是立柔剛呼」
「「「おおっ、出た!待ってました!」」」
同時に謎の文言を唱えたかと思うと、真夜の体のあらゆるところが成長し始め、それを周囲が囃立てる。その中に微妙に下心が入った視線があるのは、宗一郎の勘違いではなさそうだ。何せ、真夜の胸が成長した時に、一際歓声が大きくなったのだから。
そうして現れたのは、顔立ちもさることながら、たわわに実った果実を持つ、美しい肢体の少女。
「統道学園三年、棗剛真流皆伝、棗真夜、参る!」
しかし、そんな真夜の変化に、少しも驚いた様子を見せない宗一郎。あくまでもその変化に対し、一言、
「ふむ」
と漏らすだけであった。
ただ、流石に目の前で起きたことに信じられないのか、相方であるボブに再度確認を取る。
「ボブ、一つ聞くが、小学生程の背丈がいきなり成長し、高校生ほどの少女に変化することはあるのか?」
「知らん。あるんじゃないのか?」
ボブは変わらず、他の不良の相手をしつつ、再度にべもなくそう返す。
そんな彼の言葉に納得したように頷きつつ、宗一郎は静かに、
「そうか」
と言うだけに留めた。
「棗流功氣煉法弐十参。儂ほどの達人ともなればこのぐらいの身体操作など造作もない」
「ふむ、理屈は分からんが、存在する以上、認めなければおかしな話だろう」
「驚かせ甲斐の無いやつじゃのう…」
真夜はそんな宗一郎の反応にどこかつまらなさそうに答える。
そんな真夜の言葉に何を返すわけでもなく、構えるでもなく、立ち尽くし、静かに彼女を見据える宗一郎。
宗一郎の表情や視線に、何一つ変化がないことにどこかやりにくさを感じつつ、真夜は一つ溜息を吐き、
「今日は今から新入生の歓迎会でカラオケに行くことになっておる。悪いが、とっとと終わらさせてもらうぞ」
その言葉とともに、ゆらり、と彼女の姿がぶれた。
――瞬間、真夜の姿が消えたかと思うと、既に宗一郎の目の前で木刀を横薙ぎに振り抜こうとしていた。
一瞬の動作。静から動。まさしく達人と呼ぶに相応しい一撃。
それで身の程知らずの新入生の命運が決まるはずであったし、それが当然だと周囲も思っていた。
しかし、
「侮ったな、剣士」
その木刀は宗一郎の左肘と左膝に挟み込まれるようにして、受け止められていた。
「なんじゃとっ…!?」
真夜だけではなく、周囲の表情も驚愕に彩られる。
確かに真夜は全力ではないし、本気も出してはいなかった。だが、手を抜いていたわけでもない。
ある程度とは言え、きちんと力を込めた振り抜きであったはずだ。にもかかわらず、受け止められた。
しかし、彼女は達人。受け止められたと見るや、素早く剣を引き、宗一郎から離れるように、後ろに退く。宗一郎もまた後を追うことなく、構えを解かないままに、静かに彼女を見据える。
(この儂が、実力を読み違えた!?)
それまでは確かに、間違いなくどこぞの
しかし、真夜が攻撃を放った瞬間、明らかに雰囲気が変化した。それは他ならぬ宗一郎が実力を隠していた何よりの証拠。彼もまた、彼女と同じく『達人』であったということだ。
「やれやれ、面倒な『牙』を抜かせてしまったかのう…」
知らず知らずのうちに、真夜の額から汗が一筋流れ、頬を伝う。相手は真夜に実力を悟らせない強者だ。生半可な攻撃は通じないどころか、手痛いしっぺ返しを喰らうことになる。
宗一郎と真夜。二人の間には、ピリピリとした緊張感が漂う。
しかし、互いが踏み込み、戦闘が始まるーー前に宗一郎は構えを解いた。そして、
「ここまでだ。退くぞ、ボブ」
短く相方にそう告げた。それに対しボブはそれまで一度として止めなかった、不良を殴る手を止めた。
「OK。思ったよりも遅かったな」
「そうでもない。実際に獲物は釣れた」
特段、何かしら感情が乗るわけでもなく、ボブの言葉にそう返す宗一郎。その言葉に少しだけ大仰に肩を竦め、溜息を吐くボブ。
「俺としてはあまり釣れて欲しくなかった、獲物だがな」
皮肉げにそう嘯きつつ、どこか楽しそうな笑みを浮かべるボブ。宗一郎もその言葉に返そうとしたところで、
「勝手に終わらせるでない!」
焦れたようなその声とともに、真夜の木刀が振るわれ、宗一郎を襲った。
「ッ!!」
瞬間的に腕を交差させ、防ぐ宗一郎だが、さすがに相手も退くものだとばかり思っていたところの予想外の一撃であったため、直撃は防いだものの、威力までは殺しきれず、廊下の窓ガラスを突き破ることとなった。
その先は外。宗一郎の身は建物より放り出されることとなった。
「げっ!!」
(し…しまった!力加減…間違えた!)
先ほどの緊張とは別の汗を額から流す、真夜。その顔には明らかな焦燥が浮かんでいた。
その表情に少しばかり疑問を持ちつつも、どこか気楽な口調で真夜に言葉を投げかける。
「心配いらねえよ。この程度の高さから落ちて、くたばる程ヤワな奴じゃねえ」
ちなみにボブたちが暴れていた階数は屋上を除けば最上階。常人なら打ち所が悪ければ死ぬような階層である。下手をしなくても骨折は確実である。
しかし、真夜もまた宗一郎の身を心配したわけではない。
思わずといった様子で窓から身を乗り出し、その視線の先にあったのが、柔剣部のシャワー室のある場所を見事に貫いていたからであった。
▼▼▼
「…」
ところ変わって、宗一郎。シャワー室を貫き、素早く己の置かれた状態を把握。
そして、特に異常がないことを確認し、真夜を迎え撃とうとしたところで、はた、と改めて気付く。今自分がどこにいるのかを。
流れる水音。タイル貼りの床。
ーーそして、成長した姿の真夜にも負けぬほどの美しい肢体の少女の、裸体。
「……」
「…あ……」
そう、シャワー室である。
宗一郎は表情を変えるでもなく静かに、対して少女は少し呆然としたように。
互いの視線が交差する。
そして、次の瞬間、
ーー宗一郎の唇と少女の唇が一つに重なり合った。
「亜夜ーッ!!」
それから少し遅れて、宗一郎が貫いた穴から飛び込んできたのは、先程まで宗一郎と対峙していた棗真夜。いつの間に戻ったのか、その背丈は小学生ほどのものに戻っていた。
そこからさらに遅れて、どこか焦ったような様子の雅孝も息を切らしつつ、真夜とは違い、きちんと出入り口から姿を現す。
そして、それと同時に、宗一郎の唇から離れ、亜夜と呼ばれた、美しい肢体と顔立ちを持つ黒髪の少女が口を開く。
「私と、結婚してください…」
雅孝に衝撃が走った。
そんな亜夜の言葉に、真夜は心底疲れたように溜息を吐き、
「やれやれ…遅かったわ…」
どこか諦めたようにそう呟いた。
そして、亜夜の言葉を受け、宗一郎はーー、
「一つ訊ねるが。それは激しくか。それとも優しくか」
真顔でそう返した。
…彼もまたこの状況に、割と混乱していたのかもしれない。
▼▼▼
そして、この日を境に、彼こと
また、これこそ、彼ら柔剣部の伝説の始まりでもあった。
宗一郎様は最強。
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