運命の眷属 (正直者ライアー)
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背景 Dear sir

 身体が熱い。虫の知らせと似た不安感に襲われて目を開いた。瞬間、視界に映り込むのは火。恐怖を驚愕が凌駕して、叫びになる声が逆流して息が詰まる。取り敢えず逃げなければいけない。そうして黒煙に包まれる家の中を走って玄関を出た。熱い夜風が頬を撫でる。辺りを見回すと全面赤い。燃えて崩れ落ちる家々。おかしい。眠る前までは静かでなにもなかった筈だ。狼狽えていると空を黒く大きな影が覆った。見上げるとそこには黒く巨大な龍が飛んでいる。立て続けに起こる最悪に腰を抜かして地面に座り込む。すると自分を指す声が響いた。声の方向には自分の母親と父親。父は鎧を身に纏い、剣を握りしめている。

 

「マリア。ハールを連れてはやく行くんだ。マリア、ハール。愛している」

 

父は母と母に抱えられた僕の頬にキスをする。そして振り向く。そこには先程の黒い龍。

 

「まぁ待て、黒龍。俺を殺さなきゃここは通れんぞ」

 

 

 

 

 

 暫く逃げただろうか。金縛りのように僕を縛っていた恐怖が薄れた頃だった。またあの咆哮が耳に飛び込んだ。そして振り向くとそこにはあの黒い龍。先程と違って何本か牙と爪は折れていて、口元には血が付いている。そしてその血が誰のものなのかはもう既に分かっていた。

 

「そう上手くはいかないわよね。ハール。先に行ってなさい。もう走れるはずよ」

 

「でも、、、」

 

行きたくない。母と一緒にいたい。逃げようとしない僕を切り裂くべく黒い龍は爪を振り下ろした。額から大きく切り裂かれ右目は潰れる。母は僕の名前を叫びながら自分の前に立つ。

 

「はやく行きなさい!!!」

 

涙を流しながら、掠れた声で叫ぶ母から無理矢理顔を逸らして走り出した。堰を切ったように流れでる血の混じった赤い涙を振り撒き、声にならない叫びを上げながら小さな身体で走る。決して後ろは振り返らない。

 暫く走り、見知らぬ森の中に入り、追ってくる気配も無くなり、足を止めると身体がふらついた。目が回り、その場に倒れ込む。もう十分逃げた。もう十分苦しんだ。これが悪い夢であって欲しい。そうでないのなら、自分も死にたいと思う中、焼けるような右目の痛みに顔を歪める。痛みに包まれた中、意識の底へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪い夢であって欲しかった。目覚めればまたいつものように朝ごはんが有って、家事をする母がいて、仕事の支度をする父がいて欲しかった。そして二人にいつものようにおはようと言って、頭を撫でられたかった。

 だけど開けた視界は半分しかない。これは悪い夢などでは無く、紛れもない現実だ。 

しかしそうだとしたらここは何処なんだろう。心が落ち着くようや不思議な匂い。それに僕は柔らかいベッドに横になっている。錯乱していて記憶は曖昧だが自分は森の中で倒れたはずだ。

 

「あら?起きたのかしら?」

 

 右側から女性の声が聞こえる。首を右に倒すとそこにいる女性が見えた。

 

「森の中で倒れていたから私が抱えてきたのよ。危険な者ではないわ。安心して」 

 

感謝を口にしようとするが声が出ない。

 

「無理はしなくていいわ。気持ちは伝わるから」

 

「ねぇ、君、村の人よね?」

 

ゆっくりと頷く。女性は僕の頭を撫でた。

 

「可哀想に。こんなに小さいのに」

 

「みんな!彼が目が覚めたわ。来て頂戴」

 

女性がそういうと二つの足音の二人の話し声が僕に近寄る。そして僕の目の前には三人の女性が並んだ。

 

「紹介するわ。私はウルド。よろしくね。この子はヴェルダンディ」

 

「、、、よろしく」

 

「この子はスクルド」

 

「よろしくね!」

 

「君、帰る場所がないんでしょう?それならここで暮らしなさい。部屋も有るし食べ物の余裕もあるの。それに私達君みたいに可愛い弟が欲しかったの。私達の家族になりなさい」

 

家族も失ってひどく傷つけられた後に包帯のように優しく自分を包む温かさに涙が溢れ出た。

 

「寂しかったのね」

 

再び頭を撫でられる。誰とも知らない女性達だがそこに母と父と同じものを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハールはそのまま三人の元で日々を暮らした。そして彼女らが神だと知るも兄弟のように仲良く対等に暮らした。剣と弓の稽古に勉学。力と技と智を高めながら日々を過ごし、時に笑って時に泣いて。怒る時もあったし、それ以上に喜ぶ時も沢山あった。沢山の感情に触れて、彼女達と同じく優しくなって、強くなって賢くなった。やがてハールの身長は伸びて、声は低くなって顔つきは精悍になった。そうして彼が18の誕生日を迎えた日の事だった。

いつもは賑やかなリビングは静まり返っていた。

 

「みんな。誕生日を祝ってくれてありがとう。話がある。これは僕がずっと前から決めていたことだ。十八になったら、って決めてたことだ」

 

「なに?言って頂戴」

 

不安げに言うウルド。ハールは深呼吸をして、ウルド同様に不安そうにしている彼女達の前で言った。

 

「僕はオラリオに行く」

 

彼女達は少し驚いた。そしてまたウルドは不安そうに言った。

 

「それは君一人だけで行きたいってこと?」

 

「いや。そういうわけではないさ」

 

すると三人はどこか安堵した様子を見せる。疑問符を浮かべるハールにウルドは言った。

 

「それなら、私達も連れて行きなさい」

 

「え??良いのかい?」

 

ハールは驚いてそう言った。

 

「みんなはここに居たいのかと思ったんだけど、良いのかい?」

 

「私達はここに居たいんじゃなくて、ずっとみんなで居たいのよ。ハール。君さえ良ければ私達も連れて行って。ね、そうよね」

 

ウルドがそういうとヴェルダンディとスクルドの二人も笑顔で頷く。ハールは自分だけ真面目になって、覚悟していたことに馬鹿らしくなって笑った。

 

「そうだよな。みんな一緒じゃなきゃね」

 

「ハールは冒険者をしたいの?」

 

ハールはヴェルダンディにそう頷く。すると三人は顔を見合わせて笑った。

 

「それなら提案があるんだ!」

 

次にスクルド。三人で同じことを考えて話す姿をみるとまるで台本でもあるかのようだ。

 

「提案?」

 

「ええ。前にオラリオの冒険者は神の眷属になり、背中に恩恵を刻んでもらうって話したわよね」

 

ハールは頷いた。

 

「私達の眷属になりませんか?」

 

三人は笑顔でそう言った。この三人から貰った恩恵。それはそれは強そうだ。恩恵自体はどの神に刻んでもらっても変わらないのだろうけど、どの神に刻んでもらうよりも気持ちや想いというものが籠もっているのだろう。

 

「是非、お願いします」

 

また笑い合う。そして四人でオラリオに行くことを決意したのだ。

   



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オラリオ

そびえ立つ白亜の巨塔。飛び交う賑やかな声。森の中で暮らしていた時にはなかったものがそこには有る。ハールはただ驚くままにその光景を見つめた。そんなハールの肩をウルドが叩く。

 

「行くわよ。取り敢えず本拠になる建物を買うか建てるかするまでの宿を探すわよ。出来るだけ安くて長く泊まっても大丈夫そうなところね」

 

 みんなで頷いて重い鞄を背負いながら歩き出した。自給自足の生活をしていた森の家にいてお金を使うことは殆ど無い。そして行商の人に作物や編んだ服を売ったりするとお金は貯まっていく。結果的にファミリアの本拠の土地を買って、建築してもらえる程の金額を持っていた。だから盗まれないようにする為大きな鞄の中身がお金だとは気づかれないようにして歩く。すると後ろから喧しい声が聞こえてきた。

 

「その背中はー、、ウルドたん!!」

 

後ろから駆けてくる赤い髪の女性。そして女性はウルドに思い切り飛びついた、と思ったらウルドは見事に女性を躱し、女性は地面に顔をくっつけピクピクと痙攣している。

 

「、、、大丈夫ですか?」

 

半ば引きながら手を差し出す。女性はそれにしがみついて身体を起こした。

 

「もーウルドたんのいけずー。ってのは冗談や。久しぶり。ウルドたんにヴェルたん、スクルドたん」

 

「ええ久しぶりね」

 

ウルドがロキから差し出された手を握って上下に振る。

 

「ハール。これは私達の神友のロキ。オラリオで最強ファミリアの一つの主神よ。ロキ。この子は私達の弟で眷属のハール」

 

ウルドがそれぞれを紹介し合い、ハールとロキは握手をした。

 

「眷属っつうことはついにノルン・ファミリア結成か。ええなぁ。おめでと」

 

「ありがとう」

 

立ち話はなんだからとおすすめの酒場へと案内された。

 

 

 

 

 

 ロキに案内されて一行は豊饒の女主人なる酒場へと入った。夜は沢山の冒険者が利用する酒場、昼間は食堂として人気のその酒場の特徴はボリュームのある食べ物と従業員の全てが女性だということ。これは冒険者、特に男性冒険者から利益が出るわけだと納得しながら席についた。

 

「ノルン・ファミリア結成おめでとう!乾杯!」

 

スクルドの音頭に合わせてビールジャッキをぶつけ合う。

 

「、、、ロキの眷属は?」

 

「今遠征中や。あー。早く帰って来んかなぁ」

 

慈愛に満ちた表情。それはまるで母のようだった。

 

「天界にいた頃のロキが今の貴方をみると驚くんじゃないかしら」

 

「そんなに変わったか?」

 

「ええ。変わったわよ」

 

ウルドはロキに向かって優しく微笑んだ。その姿も母のように見える。当たり前といえば当たり前だ。ロキもウルドも眷属を家族として大切にしているから。

 

「そう言えば宿とホームを建てる土地と大工を探してんよな?」

 

「ええ。そうね」

 

「土地はギルドに行って良いところ選んで買ったらウチんとこ来ぃ。ウチから建築をゴブニュんとこに頼んでやるわ。で、宿についてやけどウチの知り合いがやってる宿があってな、そこに入るときにウチの名前とこの紙を出しとき。少し安くなるはずや」

 

そしてロキはポケットから出した適当な羊皮紙にペンでサインを書いて渡した。四人は喜び、それぞれお礼を言った。

 そして昼間だというのに沢山飲んだあと、ハールは酔い潰れたヴェルダンディを、ウルドはスクルドを背負いつつ紹介された宿へと入る。木造のいかにも歴史のありそうな年季の入った宿。経営している人のいい老人にロキのサインを出して鍵を貰い、部屋を開けた。古びているものの綺麗でそこそこ広い。ベッドなどは丁寧に手入れをされている。荷物を一通り起き、旅の汗を流すためにシャワーを浴びるとウルドは酔い潰れて眠る二人を叩いて起こした。

 

「二人とも起きなさい。ほら、恩恵刻むわよ」

 

酒を飲んだらいつも目覚めの悪い二人だが恩恵と聞くと直ぐに飛び起きた。

 

「普通なら一人の主神だけど私達は三人で一人の主神なんだよね?どうやって恩恵刻むの?」

 

スクルドが不思議そうに首を傾げてそういう。

 

「、、、誰が刻んでもいい。更新するときもそう。だから誰か一人が刻めばいい。けど全員が恩恵を刻む様子を見ていないといけない、、らしい」

 

博識なヴェルダンディの説明に皆が納得したように頷く。

 

「じゃあステイタス更新はかわりばんこでいこうよ!今日はウルドでいいよね、ヴェル?」

 

「うん。私はお酒で目が回ってるから手元が狂いそうだからウルドでいいよ」

 

ハールは既に上着を脱いでベッドにうつ伏せになっている。そしてウルドは顔を赤くしながらハールの背に乗った。

 

「流石に毎日鍛えていればこうなるわよね」

 

バキバキの筋肉がついた背中を眺めたウルドはそういう。そして、人差し指を針で刺した。白い指から流れる血。それをハールの背中に落とす。赤い血はハールの背中に落ちると沢山の神聖文字を刻み赤く光った。ウルドはそれを羊皮紙に写す。

 

「成功したわ。これがハールのステータスよ」

 

羊皮紙を皆で囲む。

 

 

 

 ハール・ノルン・レガリア

 

Lv1

 

力:I 0

耐久:I 0

器用:I 0

俊敏:I 0

魔力:I 0

 

魔法

 

スキル

【憤怒】

大罪なり。留意せよ

 

 

 

レベル1でステイタスは全てIの0。魔法はなし。しかし、妙なスキルが一つ。憤怒、説明文の大罪とは七つの大罪のことについて示しているのだろうか。特に効果はないようで留意せよとしか書いていない。四人して首を傾げる。

 

「まぁこれで晴れてハールも冒険者だね!」

 

「、、、おめでとう。一杯稼いでね」

 

「鬼だな」

 

どっと起こる笑い。そんな中ハールの脳内を憤怒という文字がぐるぐるとループしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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蘇る

 薄暗いけど思っていたよりは明るい。敵は醜悪だけど思ったよりは強くない。ギルド支給品の質の悪い両手剣を片手で扱い敵を斬る。今自分がいるこここそダンジョン、冒険者の夢だ。

 取り敢えずは雑魚を倒してお金を稼がなければいけない。といってもそこまで切羽詰まっているほど貧困なわけではないのだが、お金はあった方がいいに決まっている。長年、毎日沢山の時間剣と弓を触ってきた自分にとってこのゴブリンとかいう小さく醜悪な敵は相手にならず、強敵を求めてさらに階層を降りたい気持ちに駆られるがギルドのアドバイザーにも初日だからと二階層以降の階層の立ち入りは禁止されていたため大人しく雑魚を狩っていた時だった。突然、耳を劈く咆哮が響いた。この雑魚が出すとは思えない咆哮だ。剣を構えて警戒すると遥か後ろに気配を感じた。

 それは咆哮をあげながら自分に駆け寄って来る。この階層には合わない極めて異質な雰囲気。2メートル以上の屈強な体躯に牛の頭。手には棍棒を持っていて既に誰かを殺したのか、血がついていた。今までとは違う様子や違う種類の敵が現れたら逃げろと主神達やアドバイザーは言っていた。これは逃げても良いのだろうか。初級冒険者が沢山いるこの場所でこのモンスターを野放しにして良いのだろうか。そう考えた瞬間身体は動き出した。両手剣を脇にとって駆ける。牛頭のモンスターはもう一度咆哮をあげて棍棒を構えた。そして互いに武器を振る。モンスターの棍棒とハールの両手剣は火花を上げてぶつかる。ハールは怯むことなくもう一度剣を振るとモンスターの棍棒がモンスターの手から離れた。ハールはその隙を見逃すことなく呆気にとられたようなモンスターの首を剣で断った。

 

「やった、、、」

 

緊張が急に切れて座り込んだ。疲れてはいるが脳を満たすアドレナリンのせいで頭は冴えて身体はよく動く。ハールは首を断たれたモンスターの死体と力に耐えきれずに持ち手から折れた両手剣を交互に見た。その時、誰かの叫び声が響いた。使える武器を持ってはいなくてもハールの身体は動いた。

 

 

 

 

 

 ダンジョンに来たのは今日が初めてだ。しかしまるで歩き慣れた道を駆けるかのように叫び声の位置とそこへの行き方は分かった。目の前の角を曲がれば目的地だ。全速力で走るとそこには先程のモンスター、そして壁に追い詰められた白い髪の少年がいた。

 ハールはモンスターに飛びつき、その首を腕で締め、首を折るために力を掛けた。

 

「逃げろ、少年!早く!」

 

 少年はいきなり現れた自分の姿を見て唖然としている。

 

「逃げろと言ってる!はやく行け!」  

 

暴れ回るモンスター。ハールは振り落とされないようにしっかり腕を固め、歯を食い縛りながら力を込める。すると、視界に金の真っ直ぐな髪が入り込んだ。遠い昔、僕はその髪を見たことがあるような気がした。

 その瞬間モンスターの抵抗は無くなった。飛び散る鮮血。腕を離して地面に降りた。白い髪の少年はトマトのように真っ赤になり、自分も銀の髪を赤に染めた。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

自分達に向かって金の髪の少女はそう言った。ハールが礼を言おうとした時、横の少年は奇声を上げて逃げ出した。首を傾げるハールと少女。そして響く笑い声。 

 暫く唖然としていた二人はハッとし、ハールは少女にお礼を言った。

 

「助かりました。ありがとうございます」

 

「大丈夫です。貴方はレベル1の冒険者、、ですか?」

 

「はい」

 

返事をすると少女は驚いたような反応を見せた。

 

「怪我はないですか?」

 

身体を確認するが目立った傷は無い。なんとか無傷で済んだようで少し安心しているとぞろぞろと沢山の足音と話し声が聞こえてきた。

 

「アイズ。この階層のミノタウロスは全て討伐出来たかい?」

 

「うん。この階層に来たのは二体だけ。一体は私が倒したけどもう一体は誰かが倒したみたいで通路に倒れていた」

 

「あの頭のない死体か。ギルド支給品の両手剣の柄が近くに落ちていたから誰か初級冒険者が倒したんだろうね。その冒険者が無事だといいよ」

 

やってきた集団の先頭にいる金髪の小人族の男性と少女は話している。ハールは礼も言えたし立ち上がろとすると青年の声が聞こえた。

 

「おいトマト野郎。待てよ」

 

トマト野郎と言われてすぐ自分のことだと分かった。服も血で真っ赤になり、髪ですら真っ赤に染まっている姿はトマトとしか例えようが無かったみたいだ。ざわざわとうるさかった場が静まり全員がハールとその青年へと目を向ける。

 

「なんでしょう?」

 

「お前、レベルは?」

 

「、、、1です」

 

「お前、名前は?何処のファミリアだ?」

 

「ノルン・ファミリア所属、ハール・ノルン・レガリアです」

 

「聞いたことねぇファミリアだな」

 

「さっきのは無謀だったんじゃねぇのか?」

 

自分でもそう思っていた。一度倒したことのある敵とはいえ素手で殺しにいくなど無謀にも程がある。

 

「、、、まぁ逃げ出すよりかはマシだろうけどよ」

 

青年はボソボソと何かを呟いた。

 

「もう行って良いですか?」

 

「ああ。行け」

 

そうして背中を向けて歩き出そうとすると少女は自分を呼んだ。

 

「ハール、、さん。私、アイズ。アイズ・ヴァレンシュタイン。前にどこかで会いましたか?」

 

ハールはそう言われて記憶を遡る。森の家には割と来客は多かったからその内の誰かだろうか。それにしても脳内にこの少女の記憶は無かった。

 

「すみません。覚えていません」

 

「そう、ですか。すみません。変なこと言って」

 

「いえ。そう言えば僕の主神のノルン様はロキ様の神友だそうで。貴女の主神にどうかよろしくお願いします」

 

そう言い、礼をして歩き出した。今度は自分を止めるものは居なかった。

 

 

 

 

 

 地上で魔石の換金を終え、宿に戻る。

 

「おかえり。ハール。怪我はないかしら?」

 

「怪我は無いが剣が折れた」

 

「やっぱり実力に合った剣を使わないとダメかしら」

 

換金したお金をウルドに渡すと突き返された。

 

「それはハールが稼いだお金だから貰えないわ。ハールが好きなように使いなさい」

 

「分かった。それなら貯めて剣を買う金にするよ」

 

ウルドは微笑んで頷く。

 

「そう言えば、今日は外食にするわ」

 

「そうか。どこに行くんだ?」

 

「この間ロキに案内してもらった店よ」

 

 そして日は落ち、四人で豊饒の女主人の扉を潜った。沢山の冒険者の視線を浴びる。その多くはハールの右目、生々しい傷へと向かう。ずっと前に受けた傷のはずなのにそれはついさっき受けた傷のように生々しく残ってた。

 

「ハール。どうしたの?」

 

ヴェルダンディが様子の変化を感じたようで尋ねてきた。口数が少なく基本的に控えめなヴェルダンディだがその分家族のことをじっくりよく観察しているようで少しの異変でも正確に気づく。

 

「いや。やっぱり視線が気になるな。オラリオに入った時からだが」

 

「気にしなくて良い。ハールは綺麗」

 

「ありがとう。ヴェル」

 

だからこうして毎回勇気をくれるのも元気をくれるのもヴェルダンディだったりするのだ。

 四人で揃って席ついて料理を頼んだ時だった。

 

「ご予約のお客様ご来店でーす!」

 

 店員がドアを開けるとそこからはこの間見た神がいた。

 

「あれっロキじゃん」

 

「奇遇でしたね」

 

ウルドとスクルドがそう話すのが耳に入る。ぞろぞろと入ってくるロキファミリアの団員。そして冒険者の騒ぐ声がより一層強くなったと思って見るとそこにはアイズが居た。そして歩くアイズと目が合った。

 ロキファミリアが全員席につき、乾杯をして好き放題食べ出すとウルド達はロキへと向かっていく。ロキの眷属達とも話をしながら酒を飲むウルド達をみなハールは一人で食べるアイズの横に座った。

 

「こんばんは。アイズさん」

 

「こんばんは。ハールさん」

 

「奇遇でしたね」

 

「うん」

 

運ばれてきた酒を口に運ぶ。

 

「それお酒ですか?」

 

「ああ。そうですよ」

 

「ハールさんって何歳ですか?」

 

「18ですね」

 

「私より2歳歳上、、、。あの普通に話していいですよ。さんもいりません」

 

「分かった。アイズ。やっぱり敬語は慣れないな。アイズも普通に話してくれ。さんもいらない」

 

「分かった、ハール。、、ねぇ、ハール?」

 

「どうした?」

 

あの時、アイズに昔に会ったことがないかと聞かれた時、自分は覚えていないと言った。しかしこの少女とは何か話した事があるような気がする。それほどまでに自然に話せるし、アイズと名前を呼んだことだって何度もある気がした。

 

「あのミノタウロスを倒したのってハールだよね?」

 

「ああ。そうだよ。僕だ。首を切った時に速さに耐えきれなくて剣が割れてしまってな。だから二体目のミノタウロスとは素手で戦ってたのさ。あの少年を見殺しにする訳にはいかないしね」

 

そう言うとアイズはくすりと笑った。ずっと無表情で話しているから急に笑い出すとは思わずハールは意外と感じながらアイズを見る。

 

「ハールって面白いね」

 

「そうかな?」

 

「うん。普通は素手で向かってかないしあんな風に倒そうとは思い付かない」

 

この笑顔をハールは見たことが有った。遥か底に眠る記憶が段々と蘇る。

 

「アイズ、、。思い出したよ。やっぱり僕達は会ったことがある」

 

「思い出すの遅い。ハールっていう名前の違う人かとも思ったし本当に忘れられてたなら、もう思い出してもらえないなら悲しいと思った」

 

ハールはアイズに謝る。酒を口にしながら昔の話をする。

 

「最初森の中に倒れているアイズを僕が見つけてあの家に運んだんだよな」

 

「うん。そう」

 

「で、酷い怪我しててウルド達と治療したな」

 

「あの時はまだ私6歳だった」

 

「そうだな。で剣の稽古している僕を見て私もやりたいって言ってよく一緒にやってたよな」

 

話せば話すほど失われていた昔の記憶が蘇って鮮やかに色をつけていく。そう話しているとダンジョンで会ったあの狼人の青年の声が聞こえた。

 

「そういえばアイズ!あの話してやれよ!」

 

「あの話って?」

 

「トマト野郎の逃げた方のやつの話だよ!その場にいたもう一人が素手でミノタウロスに向かってくあいだずっと怖がっててよぉ」

 

「すんでのところでアイズが細切れにしたんだけどよぉミノタウロスのクッセェ血浴びてトマトみたいになっててなぁ。それにうちの姫様助けたやつに逃げられてやんの」

 

「ありゃ傑作だったぜ」

 

その声を聞いてハールは先ず周りを見回した。そして白い髪と震える肩を見つけて困ったように眉間を押さえた。

 

「ハール。ごめん。ミノタウロスが逃げたのは私達のせいなのに」

 

「いや。僕は別にいい。けどそこに逃げ出した方のトマト野郎くんがいるんだ」

 

アイズはハールが指を指す方向を辿る。まだわぁわぁと騒ぐ狼人の青年。するとその少年は徐に立ち上がり、そのまま走り出し店を出て行った。

 

「どうしよう、、、」

 

「と、いうかアイズが謝ったり悩んだりする問題ではないだろ」

 

もう一度狼人の青年の方向をみると同じファミリアの団員からは既に制裁が加えられていて縄で吊るされて、他の団員やロキ様、それにウルド達に指を指されて笑われていた。

 彼らを一瞥すると自分は立ち上がる。そして自らの主神たちにそれそろ帰らうと声を掛ける。

 

「もう帰るの?」

 

「ああ。もう十分に食べたし飲んだしな」

 

「、、、そう」

 

「久しぶりに話せて楽しかったよ。また会おう。アイズ」

 

そう言い歩き出した。そして宿に着いたハールは主神達をベッドに寝かすと森の家から持ってきたナイフと弓矢を持って静かに部屋を出た。向かうのはダンジョン。恐らくダンジョンにあの少年はいるんだろう。

 

 

 

 

 

 あの白い無垢な魂とは違う全てを吸い込むような漆黒の魂。それは私の視線までもを終わりの無い深淵へと吸い込んだ。

 

「ああ。貴方が欲しい」

 

 

 



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宴を終えて

 もうそろそろ日を越してしまいそうな深夜、ハールは本日2度目のダンジョンを急ぎながら進む。進路を阻むモンスターは矢で射抜き、魔石も拾うこと無く急いで走るとそこには点々と誰かが狩ったモンスターの魔石が落ちていた。ハールはそれがあの少年が戦った痕跡だと見抜き、弓に矢を違えて駆け出す。すると戦闘音が聞こえてきた。そして少し開けた場所に少年は居た。ここはダンジョン六階層。少年の身体は傷だらけで、まるで幽霊のようなモンスターに囲まれてもなお必死にナイフを振っていた。しかし彼の周りにモンスターはどんどん増えていく。そろそろ助太刀に入っても良いだろうと考えたハールは弓の弦を引き絞って直ぐに狙いを定めると弦から手が離れた。矢を放つと直ぐに次の矢を番えて放つ。ごく数秒の間に何本もの矢が放たれ、その全てがモンスターの頭部を的確に射抜いた。残り一体となった敵を少年は切り刻むと一言凄いと呟いてハールを見た。

 

「少年。傷がすごいな。これを使え」

 

そしてポーションを投げる。少年はそれを一気に飲み干した。

 

「ありがとうございます。それとこの間もありがとうございました。すみません。助けてもらったのにお礼も言わず、、、」

 

「まぁ気にするな。トマト野郎同士、仲良く助け合おうじゃないか」

 

そう言うと彼は笑みを浮かべた。

 

「僕、ヘスティアファミリアのベル・クラネルと言います。よろしくお願いします」

 

「僕はノルンファミリアのハール・ノルン・レガリアだ。気軽にハールと呼んでくれて構わないよ」

 

そう言い、少年に手を差し出した。差し出された手を少年は握るとハールは上下に振った。

 

「ベルのレベルはどのくらいだ」

 

「1です。ハールさん、お強いんですね。この前もさっきも、、、」

 

「お世辞はよしてくれ。僕だって君と変わらないレベル1だ」

 

「ええ!?尚更驚きました」

 

「それと敬語もよしてくれ。普通に話してくれて構わないよ。さんもいらない」

 

ハールは弓の弦を麻ぐすねで擦りながら話す。

 

「大きな弓だね」

 

「極東の弓だからな。色んな弓を使ってみたらこいつが一番使い難かったからこいつを使ってるんだ」

 

「使い難かったから?」

 

「ああ。そうだ。使い難かったから上手く扱えるようになりたいって言うのと使えるようになれば凄い強いと思ったからこいつを使い続けてる。教えてくれるひとも居たしな」

 

そんなことを話しているとベルが唐突にハールに正面を向いた。

 

「あの。お願いがあります。僕、強くなりたいです!ハールみたいに。戦い方を教えて下さい」

 

「僕に言うよりもう少しレベルが高い人に言った方が良いんじゃないのか?」

 

「ハールはレベルは僕と同じだけどもの凄く強い。それに筋肉をみて思ったんだけど沢山努力をしたんじゃないかな。今の弓のやつだって誰にだって出来るものじゃないし実際レベル2の弓使いだって出来る人はいないんじゃないかと思う。それにあのミノタウロスの時、アイズさんが来てミノタウロスは倒れたけどあのままでもハールは倒せてたと思う。だからハールは凄い。そんなハールに僕は教えて欲しいんだ」

 

「ベル、、、そうか。、、、丁度敵が湧いてきた。ナイフを構えろ。ベル。僕が戦い方を教えよう」

 

 

 

 

 

 それからハールによるベルの訓練は長く続き、今二人は朝陽が昇る様子を拝みながら人の少ないオラリオを歩いていた。やがて分かれ道が来て二人はお互いにさよならと言うと各々の寝床へと帰って行く。クタクタの身体でハールは歩き、宿に着くとこっそりと自分の部屋を開けた。すると、飛び蹴りが飛んできた。

 

「ハール!何やっての!?心配したんだからね!」

 

「どこに何しに行ったのかは予想ついたけど、心配させないで」

 

当たり前といえば当たり前だが二人は既に起きていたらしい。ハールはスクルドの飛び蹴りを大人しく受けて二人に感謝と謝罪を述べる。しかしもう一人の姿が見当たらない。

 

「ハール。お帰りなさい。先ずは言う言葉があるのではないかしら?」

 

雪の千倍冷たい風に背中をなぞられた気がしてぶるりと震えた。ハールの視界の先には笑みを浮かべるウルドがいる。しかしその笑みは鬼が可愛く思えてしまうほど怖い。ハールは静かに死を悟り眼を閉じた。

 

「楽には死なせないからね?」

 

 数時間後ハールが疲れに疲れ切っていたのは彼の自業自得だろう。

 

「ほんっとに心配したわ」

 

説教を終えたウルドはハールに抱き付く。そしてスクルドも同じように飛び込んで来てヴェルダンディは少し顔を赤くしながら姉妹と同じように抱きつく。

 

「本当に済まなかった」 

 

「ほんとだよ!!ハール、後で市壁の上に来なさい!罰として私達が流した涙の分血を流してもらうわ!みっちり稽古してあげる」

 

「妥当ね」

 

「ウルドに同感」

 

これこそハールが何かしでかした時の罰。スクルドとの鬼の特訓だ。普段は割と手加減してハールと剣や弓の稽古をするスクルドだがこの罰の場合は本気で打ち込んでくる。刃を潰した剣や木刀を使うため死ぬことは無いがめちゃめちゃ痛いしキツい。ハールはもう一度死を覚悟した。

 

 



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ノルン

 ハールは市壁の上で長い木刀を構えた。そして振るわれる剣戟を木刀で受ける。一瞬のうちに見えた次の攻撃への予備動作と勘と発せられるごく僅かな殺気を頼りに攻撃をギリギリで防ぐ。しかし間に合わずに何度かは攻撃をもらう。

 

「遅い!」

 

スクルドとの訓練が始まって10年以上。未だに勝てたことはない。それどころか不変の神のはずなのに僕が強くなるのと同じペースで彼女の方も強くなっていっている気がする。そうこう考えていると腹部に衝撃が走った。自分は腹を抱えて倒れ込む。瞬時に呼吸を整え、痛みを抑え込んで立ち上がる。

 

「うん。それでいい!休憩はまだだよ!さぁ来て!」

 

 もう一度、今度は自分が先手となって木刀を振る。そしてその全てをスクルドは難なく捌き切る。

 切りかかっては倒れ、切りかかっては倒れ。身体中が痣だらけになった頃、市壁の上を何者かが訪れた。

 

「誰?」

 

スクルドはそう言って確認しに行く。するとスクルドは騒ぎ出した。ハールは何事かと立ち上がってスクルドのもとに駆け寄るとそこにはアイズがいた。

 

「アイズ!!久しぶりー!!」

 

「こんにちは。スクルド様。ハールもこんにちは」

 

前にアイズが森の家に居た時にアイズはハールと共にスクルドに剣を習っていた。アイズは疲れ切って座っているハールを見る。

 

「ハール、何かしたの?」

 

 ハールが何かをやらかした時はこんな風にスクルドに絞られると覚えていたらしくアイズはそう言った。ハールは自嘲気味に頷いた。

 

「スクルド様、私も参加していいですか?」

 

「いいよ!寧ろ来て!」

 

「アイズ、僕は君にも何かしたのか?自覚がない」

 

「私、怒ってるから。また会おうって約束したのにそれもなにもかも忘れてたこと、、、」

 

「あれは本当に済まなかった」

 

膨れっ面のアイズにそういう。しかしアイズは自分のもつ剣の鞘を構えて、ハールに向かってはやく構えろと合図するだけだった。

 渋々立ち上がったハールは木刀を構える。するとアイズは消えた。瞬間ハールは自分に迫る殺気を感じて木刀でアイズの攻撃を弾いた。

 

「今の、防がれると思ってなかった」

 

「伊達にスクルドとやりあってないさ」

 

アイズの攻撃は段々と苛烈さを増していく。手加減なしの本気に近づくアイズに対抗するためにハールは感覚を研ぎ澄ませる。そして渾身の力で振るわれたアイズの一撃を受け止めた時、ハールの力に耐えきれなくなった木刀が破れた。戦うのをやめ、駆け寄ってきたスクルドと木刀を見る。

 

「木刀がハールに追いつけなくなった、、、」

 

アイズはそう分析して言う。

 

「そう言えばこの間ダンジョンでも剣破ってた。武器は実力に合ったものを使った方が良い。ハールはレベルは1だけど武器の扱いとか戦い方はもうレベル5って言ってもおかしくない。それならもう第一級武器を持ってても良いと思う。そのくらいの強さが有れば試練も乗り越えて直ぐに私にも追いつくだろうから」

 

スクルドも納得したようで頷く。

 

「それは私も同じこと思ってた。実力の割に使ってる武器が貧弱すぎるってさ。安い武器使って何度も買い換えるよりは良い武器使ってずっと使い続けた方が良いよね。やっぱりコスト的にも、武器的にも何度も買い換えるのって良くないし」 

 

 木刀が破れたということと、結構な数の攻撃を受けたということで稽古は終了した。

 ハール達はアイズと別れ、宿に戻るとスクルドはすぐさまウルド達に武器の提案をした。ウルド達も同感だったようでハールの武器を買うこと直ぐには決定し、ハールはシャワーを浴びて着替えると四人で家を出た。

 

 

 

 

 

 オラリオで武器といえば、大抵はヘファイトス・ファミリアを思い浮かべるだろう。あとは少しマイナーなとこでゴヴニュ・ファミリアだろうか。ハール達はバベルを自動昇降装置で登っていた。すなわち向かう先はヘファイトス・ファミリアである。

 自動昇降装置は自分達の目的地につき、開いた扉を潜るとそこには煌びやかな光景が広がっていた。光り輝く鎧や剣。豪華な装飾が施されたそれを横目にみつつ進んでいくとそこには深紅の髪の女神がいた。

 

「ヘファイトス、こんにちは」

 

「ウルドにヴェルにスクルドじゃない!久しぶりね!」

 

自分はヘファイトスと呼ばれた神に礼をする。

 

「ウルド、この方は?」

 

「ああ。私達、ノルンの唯一の眷属よ」

 

「こんにちは。ヘファイトス様、ノルンの眷属のハールと申します」 

 

「ヘファイトスよ。よろしく。貴方達がオラリオでまた暮らすのは何年ぶりかしら?」

 

ヘファイトスと三人は昔話をする。そしてウルドは言う。

 

「で今日はこの子の武器を見に来たのよね」

 

「ハール君?よね?レベルはどのくらいなの?」

 

「1です」

 

ハールがそう言うとヘファイトスは驚いた。

 

「1?それは本当かしら?」

 

「えっと、どういうこと?」

 

スクルドが不思議そうに尋ねる。

 

「今まで沢山の武器を欲しがる冒険者を見てきたから感じるんだけど、彼雰囲気

というかそういうものがレベル1とはかけ離れているから」

 

一同は再び頭に疑問符を浮かべた。

 

「レベルを偽る意味はないし貴方達が嘘をつくとは思えないから彼がレベル1なのは本当だと思うわ。でも彼、相当強いわよね?ステイタスとか抜きにした話よ。取り敢えず応接間に案内するわ。久しぶりに会った友のその眷属にならお茶くらい出すわ」

 

一行はバベルに設置されたヘファイトス・ファミリアの応接間に移動した。そしてそこで紅茶を飲みながら話す。

 

「それはそうね!貴方達の訓練を何年間も毎日受けてたら強くなるに決まってるわね!でもそれなら生半可な武器なら壊れてしまうわね」

 

ヘファイトスは笑いながらそう言った。

 

「この間ギルドの剣も割ってた」

 

「そう、、、試してみる価値はあるわね。少し待っていて頂戴」

 

ヘファイトスは何かをボソリと呟いたあとにそう言って席を外した。そして15分ほど待っていると再び部屋の扉が開いてヘファイトスが戻ってきた。しかしヘファイトスは布に包まれた長い何かを重そうに持ってきた。ハールが持つのを変わり、ヘファイトスの示した場所にそれを置いた。

 

「貴方の得物、両手剣と言ってたわよね」

 

「はい」

 

「それならこれを振ってみてくれないかしら」

 

ハールはヘファイトスが持ってきた布に包まれた何かが武器だと気付いて、その布を開いた。

 そこには両手剣があった。何の飾りもない、ごく普通の両手剣。

 

「それは私の打った未完成の両手剣なのよ。そこにまた鉄を足したりして仕上げると完成品の武器になるんだけど、この両手剣、普通に持つと他の武器となにも変わんないだけどいざ振ろうとしてみると重すぎて誰も振れないし構えることすら出来ないのよ。ロキ・ファミリアのレベル6の冒険者も挑戦みたけど振れなくてね。かなり特殊な素材を使っているのと最高の出来しているだけに捨てるにも捨てられなくて」

 

ヘファイトスの説明を聞いたハールは恐る恐る両手剣の柄を握る。言われた通り、剣が地面とくっ付いてるのかとも思えるくらいに重い。そしてそのまま体全体を使って持ち上げようとした時、一瞬腕が捥げるくらいの尋常じゃない重さを感じたがその直後、剣は振るうのに一番丁度いい軽さになって持ち上がった。ハールはそれをいつものように片手に持ち替えて振ると、空気を切り裂く音を鳴らした。

 

「嘘、、、」

 

ヘファイトスは驚いている。自分の主神達も話を聞いたあとだからか、驚いていた。

 

「重くないかしら?」

 

「とても丁度良いです。重心も自分が好きな所にあります」

 

「分かったわ。その剣は貴方にあげる。というか貴方に使って欲しいわ。ただで上げると問題になりそうだから1000ヴァリスだけ貰おうかしら。安い武器と同じくらいの値段ね。あとはさっき行った通り、その剣は未完成だから仕上げていくわよ。ねぇ、貴方達」

 

ヘファイトスは両手剣を火で熱しながら三人を呼んだ。

 

「貴方達の髪の毛を一本ずつ、貰えないかしら。少し特別な作り方をしたいのよ」

 

「一本なら別に良いわよ」

 

そう言い三人が一本ずつ髪の毛をヘファイトスに渡すと、それを既に真っ赤になった両手剣に乗せて、槌で叩く。

 

「この剣の名前、何にするの?」

 

ヘファイトスはハールにそう聞いた。ハールは既に決めてあったのか即答した。

 

「ノルン、にしたいです」

 

両手剣の名前を言うとヘファイトスは微笑む。

 

「最高の名前ね」

 

そう話している内にヘファイトスが打つ両手剣は光り輝いた。そして光りは段々と強くなり、太陽よりも明るい光を一度放つと、姿を変えた両手剣があった。ヘファイトスはそこに何かを刻み水で冷やす。

 

「出来たわよ。貴方、いえ貴方達の剣。あと加工料で100000ヴァリス頂くわ。素材が全て無償で受け取ったものだから安く済んだわね。この素材をもし買ってたとすれば、3億ヴァリスは下らないわ」

 

「ヘファイトス、本当にそれだけで良いの?」

 

3億という数字に驚きつつウルドはそう聞くが、ヘファイトスは汗を拭いながらええと言う。ウルド達は101000ヴァリス、持ってきた鞄から取り出して払う。

 ハールはやけに手に馴染むそれを鞘に納めて言う。

 

「いつか、この剣のお代は返すよ」

 

ハールがそういうとヴェルダンディが首を振った。

 

「かなり遅くなったハールの誕生日プレゼントだから返す必要はない。ハール、誕生日おめでと」

 

ハールは18の誕生日に欲しいものは何かと聞かれて別になにもいらないよと答えたことを思い出した。

 

「ハール、誕生日おめでと!」

 

「私からも。改めて誕生日おめでとう。ハール」

 

三人で賑やかに歩く。剣は、ノルンは背中で夕陽を受けて輝いていた。

 

 

 



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波乱の怪物祭

ハール・ノルン・レガリア

種族:ハーフエルフ
身長:186cm
体重:65kg
特徴:銀髪、灰色の目、白い肌、左眼下の泣きぼくろ
性格:真面目


 朝、目を覚ましたハールは気持ち良さげに身体を伸ばすといつも通り顔を洗って既に起きていたウルドの作った朝食を4人で談笑しながら食べ、歯を磨くといつも通り軽い装備に身を包んだ、わけではなくいつもと違ってスラックスをはき、長袖の白いワイシャツに身を包んだ。今日のダンジョン探索は休みだ。

 

「みんなーはやくー」

 

「少し待って」

 

「スクルドは気が早いわね」

 

 ハールと同じように少しだけお洒落をした四人が集まる。今日のダンジョン探索が休みな理由。それは、、、

 

「じゃあいきましょうか」

 

「怪物祭、楽しみだね!」

 

「何か美味しい物あるかな」

 

「今日は僕が奢るよ」

 

そう。怪物祭だ。

 ハール一行は賑わう都市を歩く。そして屋台をみて美味しそうなものが有れば買って食べる。

 

「実際にガネーシャファミリアがモンスターをタイムするまではまだ少し時間があるわね」

 

「まぁこんなに屋台有れば大丈夫大丈夫!」

 

「ハール、あれ買って」

 

ハールは貪欲なヴェルダンディに屋台へと連れて行かれ串焼きを二本買ってヴェルダンディと一緒に食べていると、いきなり背中がゾッとした。何か嫌なものにみられている感覚。違和感を感じつつも4人でまた進もうとしたとき、急に人の流れが逆流し出した。

 

「モンスターだ!!」

 

その声が聞こえ、ハール達は一度人の少ない脇道へと入った。

 

「今の声、聞こえた?僕がすること、もう分かるよね?」

 

「うん」

 

三人は口を揃えて返事をした。

 

「スクルドは家に帰って僕の両手剣を取ってきてくれ。重いだろうけど済まない。ウルドとヴェルダンディはギルドに行って怪我人が運ばれてきたらその手当てを手伝ってあげてくれ」

 

「分かったわ。行きなさい、ハール」

 

ハールは駆け出した。そして悲鳴の方向への向かっていく。ハールは屋根の上を走り、巨大のそれに踵を振り下ろした。死に損なったモンスターは呻き声を上げながら拳を振るが、ハールは顔に回し蹴りを当てるとモンスターは静かになって倒れた。近くにあった折れた木材を拾って腹を突き刺して穴を開けてそこから魔石を取るとモンスターは黒く霧散した。

 ハールはそこから踵を返して再び走り悲鳴の方向に向かうとそこには見たことのない蛇のようなモンスターが居た。そして蛇のような、花のようなモンスターに向かい合うのは四人の武器のない冒険者。既に人数が足りているかと思われたかモンスターに押されているようで、ハールが加勢しようとすると何者かが飛んできてハールは抱えた。

 

「ありがとうございます、ってハール!?」

 

「アイズか!?あれはなんだ!?」

 

「分からない。ただ、物凄く硬い、、!素手では倒しきれない」

 

そう話していると蛇のモンスターが魔法を使おうとしている少女に突っ込んでいく光景が見えた。ハールはアイズを下ろすと全速力で駆け出すが時すでに遅し

し。蛇はハールの目の前でエルフの少女の身体を貫いた。速度を落とさずに少女に駆け寄り、抱えてモンスターの追撃を避けながら退く。

 

「アイズ!あの子だれ?」

 

「とてつもなく速いわね」

 

そして比較的安全な所に来たハールはポケットを祈りながら探る。すると手が小瓶にあたった。勢いよく、それを取り出すと案の定、そこにはポーションがあった。ハールは急いでそれをエルフの少女の傷口にかける。

 

「君、無事か?」

 

「は、はい。なんとか。貴方は誰ですか?」

 

「僕のことなんかはどうでもいい、取り敢えず意識がはっきりしたら加勢してほしい」

 

そう言ってハールはまたモンスターの所へと向かう。するとスクルドの声が聞こえた。

 

「ハール!ハールの武器!取ってきた!取って!」

 

スクルドは力を込めてハールの重い両手剣を投げた。ハールはそれをつかまえると鞘を抜いて片手で持った。そして蛇はハールに反応して飛びかかってくるが、それを全て斬った。

 

「ナイス!!」

 

蛇は少し勢いを弱めるが、斬られた分はすぐに再生してまた暴れ出した。

 

「魔法しかないか!!」

 

そういうとハールは先程の少女の所へと駆け寄る。

 

「君、魔法が使えるのか?」

 

「はい。使えます」

 

「済まない。力を貸してくれ」

 

そういうとハールは少女を片手で抱え、もう片手に両手剣を携えて走り出した。

 

「何をするんですか!?」

 

驚いた少女はそういう。

 

「こいつは多分魔力に反応する。さっき君が魔法を使おうとした時にも君に飛び込んだし、僕がこの剣を抜いた時にもあいつは向かってきた。だけど純粋に斬って殺そうとすると埒があかない。だから魔法でやるのが手っ取り早い。それに魔力に敏感に反応するということはそれ程弱いということだろう。だから僕が君を抱えて攻撃が当たらないように避けたり捌いたりするから君は魔法を詠唱してくれ」

 

「でも、、、」

 

「やれ!!君にしか出来ないんだろ!!」

 

声を荒げた。すると少女はハッとした表情を浮かべ、次にその表情は凛とした表情へと変わった。

 

「私は、、私はレフィーヤ・ウィリディス!!ウィーシェの森のエルフ!!神ロキと契りを交わした、このオラリオで最も強く最も誇り高い偉大なファミリアの眷属!!」 

 

ハールは飛びかかってくるモンスターを全て斬り落とす。その姿がレフィーヤに更なる安心感を与えた。

 

「安心しろ。君は死なせない」

 

「【ウィーシェの名のもとに願う】」 

 

植物達はレフィーヤに集中する。ハールは更に多くなったモンスターを斬る。

 

「【森の先人よ 誇り高き同胞よ 我が声に応じ草原へと来たれ 繋ぐ絆 楽宴の契り 円環を廻し舞い踊れ 至れ 妖精の輪 どうか 力を貸して欲しい エルフ・リング】」

 

詠唱を終えたレフィーヤの周りには美しい魔法陣が完成されていた。ハールはそれに一瞬目を奪われた。

 

「【終末の前触れよ 白き雪よ 黄昏を前に風を吹け 閉ざされる光 凍てつく大地 吹雪け 三度の厳冬 我が名はアールヴ 】」

 

ハールは蛇の無数の首を踏み台にして駆け上がった。そして地面を見下ろすようにして視界内に向かってくる蛇を捉えた。

 

「【ウィン・フィルベルト】」 

 

レフィーヤがそう叫ぶとレフィーヤから強力な氷魔法が射出されそれを全体に浴びた蛇は尽く氷漬けになっていた。レフィーヤを抱えたまま安全に着地するとレフィーヤをゆっくりと下ろして自分は剣を鞘に納めた。

 そしてすぐに歩き出そうとする手を誰かが掴んだ。

 

「あのっ!」

 

ハールは振り返る。自分の手を掴んだのは先程の少女だった。ハールは首を傾げる。

 

「お名前、お名前を教えて下さい!」

 

顔を紅くして少女は言う。

 

「そう言えば名乗ってなかったな。失礼した。僕はハール・ノルン・レガリア。ノルン・ファミリア所属だ。レフィーヤさん、で合ってるよね。よろしく」

 

ハールはレフィーヤと握手をする。

 

「凄い魔法だったよ。それに綺麗だった」

 

レフィーヤはその優しく儚げなな表情に更に顔を紅くした。するとアイズがハールのもとに寄って来た。

 

「やぁ。アイズ」

 

「ハール、武器変えた?」

 

「ああ。ヘファイトスファミリアで買ったよ」

 

「少し、振らせて」

 

ハールはアイズに剣を手渡す。アイズは重みを感じながらも柄を掴むと更に重みが増してアイズは剣を落とした。

 

「重い、、、」

 

やはり完成品になっても自分が使い込んでも尋常ではないほど重いと言う性質は変わらないらしい。すると喧しい声が寄って来た。

 

「ねぇねぇねぇねぇ!!君すごいね!!」

 

「ティオナ、うるさいわよ」

 

「えーだって本当に凄かったじゃーん」

 

「でもうるさい。ごめんなさいね。私、ティオネ・ヒリュテ。こっちのうるさいのはティオナ・ヒリュテ。ロキファミリアよ。よろしく」

 

「ハール・ノルン・レガリア、ノルンファミリアです。よろしく」

 

「ねぇその剣、ガレスが試してみたけど持てなかった剣じゃない?」

 

ティオナがそう言った。アイズのように興味津々な目をするティオナにも剣を渡すが柄を持った瞬間に落としてしまった。

 

「ハールは片手で持ててるのに、、、」

 

「自分に合った武器を使えってアイズが言ってたよ」

 

ハールはアイズの頭をくしゃっと撫でる。が、すぐに自分がしたことに気づいた。

 

「っすまない。つい昔の癖で」

 

「ううん。いいよ。できればもっと、、、」

 

最後は何と言ったのかハールには聞こえなかった。

 

「そう言えばその剣、魔力を感じたけど何か仕掛けとかあるの?」

 

「いや、それが全く分かっていないんだ。分かっているのは僕以外の人が持つととてつも無い重さに変わって持てないことくらいだ」

 

「、、、そう」

 

「それにしても両手剣片手振りって凄いスタイルね」

 

「私、仲良くなれそう」

 

ヒリュテ姉妹とレフィーヤ、そしてアイズと楽しげ話していると聞いたことのある声が聞こえた。

 

「アイズたーん!!」

 

アイズに飛びつくいつか見た赤髪の女神。

 

「みんな無事やったかー、ってハールたん!!」

 

「ご無沙汰しております」

 

「そんな畏まらんくてええ。ハールたんはアイズたんと知り合いなんか?」

 

「実は随分前に会ってます」

 

「ええ!?そらすごいな!!」

 

そして暫く話してからハールは踵を返した。

 

 

 

 

 

 宿に帰り、ハールはうつ伏せになり、その上にはヴェルダンディが乗っていた。

 

「はい。出来た」

 

そして渡された羊皮紙をみんなで囲む。

 

ハール・ノルン・レガリア

 

Lv1

 

力:F 344

耐久:E 400

器用:E 444

俊敏:F 380

魔力:H:100

 

魔法

 

スキル

 

【憤怒】

大罪なり。留意せよ。

 

【黒龍の残り香】

正:ステイタスの上昇速度の著しい上昇。黒龍にステイタスが近づくほど上昇速度は低下。

逆:傷の治癒速度の著しい低下。ポーション等の効果の低下。

 

 

 

 

 

 「トータル1600オーバーなんておかしいにも程がある。この新しいスキル、君に隠しておいて漏れ出るのを防ぐことも出来たんだけど隠さない方がいいと思ってハールにも知らせておく。絶対他の神にはこのスキルの話をしないこと。分かった?」

 

「魔力が魔法も使っていないのに割と上がってるのもこれの効果?」

 

「ハーフエルフの君の場合は魔力がなかったり魔法がないのがおかしいの。まぁ多分これからしっかり上がるよ」

 

ハールはヴェルダンディに頷いた。

 黒龍ときいて一瞬頭がぼーっとして次に燃えるほどの怒りを感じた。それにこのスキルは明らかにハールに対して挑発をしているようにしか思えなかった。俺の所へ早く来て、両親の仇をとってみろと言っているようにしか見えなかった。

 

 

 

 

 



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計画開始

 波乱の怪物祭も終わり、今日から普通にダンジョン探索に明け暮れる日々、と思いきや今日も今日とても装備を身に纏わず、私服で皆でギルドに向かっていた。

 

「ハール君!みんなで今日はどうしたの?」

 

ギルドに入ると直ぐに自分の存在に気づいたのはピンク色の髪の女性。ハールのアドバイザーのミィシャ・フロットだ。

 

「前に行っていただろう。近いうちにオラリオで買える土地を探してもらいにくると。それだよ」

 

「ああ。それね。もう幾らか見繕っておいたわ。ソファに座って話そ。皆さんこちらに」

 

ミィシャはハールとその主神たちをソファに案内した。

 ソファに座るとお茶と書類が出された。どのくらいの値段の範囲かは予め言っていたから後は広さと位置と値段を考えながらその中から選ぶだけである。

 

「取り敢えず選択肢を3つ程に減らしましょう。そうしたら実際に場所を見に行って最終的に決定ということで」

 

ミィシャがそういうと、四人で顔を見合わせて頷いた。

 

 

 

 

 

 それから三時間程の厳密な審議の末、四つの土地が選ばれた。

 一つ目はオラリオの北側。北側といえば服飾品の店が多くあるかわりに酒場などはあまりなく、それ故に少し静かなイメージがある。問題といえばロキファミリアの本拠、黄昏の館があることだがそれくらいは大したことではない。そう考えていると目的地に着いた。

 

「ここだよ。広さはいいんじゃない?値段も広さの割に安いし」

 

ハールはミィシャのと話しつつ土地を見回す。ロキファミリアの本拠程ではないけど割と豪邸が立ちそうな土地。

 

「広さは良いし雰囲気も良いけど、少しダンジョンと離れているかなぁっていうか周りなんもない!!」

 

他の住宅街と隔絶された土地。土地に木でも植えて囲って仕舞えばもう住宅街とは別だ。

 

「そうかい?僕はこの感じ好きだけどな。住宅街と隔絶された感じ、あの家みたいじゃないか」

 

「まぁそうだけど、、、」

 

「取り敢えずまだ三つ見なければいけない所もあることですし行きましょうか」

 

 二つ目の土地はオラリオの西側にある土地だ。西側は北側と反対で酒場や宿屋で賑わっている。夜になってもあんまり静かにはならないイメージだ。ハール達の宿屋や豊饒の女主人もここにある。そして先程と同様ハール達は目の前の土地を見回した。

 

「広さは先程よりも有りませんがその分値段が格安だね。いろんなお店とも近いし便利じゃない?」

 

「確かにそうだけど少し他の家と近すぎじゃないかしら。これじゃあ本拠じゃなくてもう家だわ」

 

「同感だよ。ここまで近いと夜がうるさそうだ」

 

「賑やかなのは良いことじゃん!」

 

「それじゃあ次行きましょうか」

 

 三つ目はオラリオの南東と南の間に有った。南側には繁華街があり西側よりも夜がうるさい。そのかわりに昼間が静かではあるが。大劇場や賭博場が有名だ。そして南東は迷宮街の異名をもつダイダロス通りや歓楽街がある。

 

「ちょっと待って。今歓楽街って言った?」

 

ヴェルがミィシャの説明を止めた。

 

「はい。言いましたが、、、」

 

「却下」

 

「却下ね」

 

「却下だね」

 

「ええー。選択肢に入れた意味ありました!?」

 

「そうだぞ。ミィシャの言う通りだ。割と広めで良い土地じゃないか」

 

「けど却下」

 

「当然却下ね」

 

「却下だね!!」

 

 謎のハプニング(?)により直ぐに移動となり、ハール達は最後の土地へと着いた。

 最後の土地はオラリオの東側に有った。東側は催しのための観光客や旅人用の区画だ。そのため屋台も多いし闘技場などの建物もある。

 

「土地は広いな。けど値段が安い。何か理由があるのか?」

 

「実はここ所謂事故物件なんですよ」

 

「事故物件?」

 

四人が反応してミィシャを見る。

 

「はい。前、この土地に有った家が家事になってしまって、、」

 

「その家の人は?」

 

ウルドがそうきいた。ミィシャは声のトーンを下げて言う。

 

「残念ながら、、、」

 

「でもそのくらいいいんじゃないか?」

 

「正気?」

 

ヴェルダンディがそう言った。やはり怖いものは怖いらしい。ハールとミィシャは土地をよく見ていたあれこれ話していたが女神陣は怖がっていてみることはなかった。

 全ての土地を見終えた五人はギルドに戻ってきていた。

 

「それで土地は決まりましたか?」

 

「ああ。決まったよ」

 

「一番最初の土地にするわ」

 

「同感」

 

「私もー!!」

 

満場一致で最初の土地に決定した。そして土地を購入する手続きも順調に進み、ギルドを出るともう夜になっていた。この宿に帰るのもあと少しだ。ハールは新しくできるノルンファミリアの本拠を楽しみにしながら目を閉じた。

 



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