機動戦士ガンダム・ギンガ (ノザ鬼)
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呼応

 えっと…。

 某声優さんが、ウルトラマンに続き仮面ライダーの【ギンガ】の声を担当されました。

 もうかなり、前になりましたww


 でぇぇぇぇぇ!

 ウルトラマン、仮面ライダーときたら…。

 この次は【ガンダム】しか!!!

 そう、思い付いたら書き出してました…。

 が!!!

 その時に書いてたものも中途半端な状態でした…。

 とりあえず、書いてたものを終わらせてから…。

 で、書いてたら時間がかかりましたw


 また、始まりの第一話だけですが…。

 よろしければ読んでやってください。



 人類が宇宙を新天地とし進出して、はや幾年…。

 

 

 ある時。

 

 突然、発表されたモビルスーツ。それは、画期的な発明であった。

 それは人の型をしているばかりか、動きまで人と同じと人々を驚かせた。

 

 

 モビルスーツは、瞬く間に宇宙開拓の中心となり、急速に行き渡る。

 スペースコロニーに必要な資源の採掘から、建造まで多岐にわたり活躍した。

 

 

 宇宙開拓の裏で、地球連盟政府が治安維持の目的でモビルスーツを主戦力とした軍備を増強させていたのは、あまり人々には知られてはいなかった。

 

 

 

 そして…。

 

 十数年の時が流れた。

 

 

 

 現在。

 

 開発も進み、7番目のスペースコロニーが建造されていた。

 その名を、サイド07(オー・セブン)。

 

 その中域。

 

 

 そこは…。

 

 狭い空間。

 

 そこを大小様々なランプが光り彩る。

 

 

 曇る。

 

 晴れる。

 

 それはヘルメットのバイザーで見える呼吸。

 そう、この狭い空間はコックピット。

 

 

 資源衛星。

 

 採掘用にスペースコロニーの近くへと人の力で移動させられた岩の塊。

 

 その表面。

 

 太陽方向の反対側。つまり、影の部分。

 

 そこに、へばり付き隠れる三つの人影。

 それは人の形をしてはいるが、大きさが違う。

 

 見れば誰もが【モビルスーツ】だと答える。

 

 同じ暗い緑の色と形なのは、量産機と容易に推測できる。

 

 

 不意。

 

 その内の一機が資源衛星を蹴り、

『ふわり』

 宇宙空間に効果音を出し泳ぎ出した。

 

 後の二機もタイミングを合わせ続く。

 

 

 

 同刻。

 

 

 太陽光。

 

 それは巨大なミラーにより作られた昼。

 

 ここは、サイド07の1番地(1番コロニー)内。

 

 

 走る…。

 

 足。

 

 走る…。

 

 感覚。

 

 勢いを靴の裏で、

『ザザザザーーー!』

 音と共に殺す。

 

 物理法則に則り、軽いウェブの黒髪が前に流れる。

 

 止まり、

「!」

 首だけを振り返る青年。

 

 そして、次の物理法則に則り、髪の毛が遠心力で広がる。

 

 気付き足を止め、

「どうした?」

 振り返りながら、

「ギンガ?」

 声をかける少し前を行く青年。

 

 ギンガと呼ばれた青年は、

「いや…。」

 進行方向へ首を戻し、

「何でもない。」

 前の青年に、

「オルト。」

 返した。

 

 

 彼、ギンガについて少し描写をしておこう。

 

 顔立ちは、亜細亜圏。髪と同じ瞳の色は黒。

 精悍(せいかん)な顔立ちは、エネルギッシュだと主張している。

 

 

 

 ついでと言ってはなんだが…、オルトについても少しだけ。

 

 茶色の短髪にメガネ。

 印象は【普通の人】が特徴的。

 

 

 オルトと呼ばれた青年は、両手を胸の前で、

「だったら…。」

 一瞬交差させ、

「早く行こうぜ。」

 外へと開く仕草で、

「見損ねちゃうぜ。」

 急かした。

 

 その声は、

「あぁ…。」

 ギンガの右の耳から左の耳へ、

「解ってる…。」

 抜けた。

 

 ゆっくりと首を、

〘今のは…。〙

 巡らせ、

〘確かに…。〙

 何かを、

〘俺を呼んだ…。〙

 確かめるギンガ。

 

 再び、走り出し、

「ギンガ!」

 首だけで振り向き、

「置いてくぜ。」

 宣言するオルト。

 

 首を、

〘気のせい…。〙

 左右に振り、

〘だな…。〙

 自分に言い聞かせ、

「解った。」

 走り出すギンガ。

 

 

 直ぐにギンガが追い付いたのは、オルトが心配し速度を緩めていたからである。

 

 並び走り、

『ジーッ』

 そんな音を出し、オルトはギンガを頭の上から足の先まで視線を送った。

 

 その意味に気付き、

「なんだよ。」

 恥ずかしさからか、

「気持ち悪いな。」

 ぶっきらぼうなギンガ。

 

 その対応に目が、

「本当に。」

 優しく、

「大丈夫そうだな。」

 笑うオルト。

 

 

 ダッシュ。

 

 それは、恥ずかしさを隠す、

「置いてくぞ!」

 ギンガの裏返しの行動。

 



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待人

 

 あの坂を登れば…。

 

 ギンガとオルトの目的の場所が見える。

 

 

 そこには、既に約束したメンバーが待っている。

 

 

 ギンガが、

「遅ーい!」

 声をかけるよりも、

「約束の時間過ぎてる!」

 先に文句を付けた女性。

 

 その女性に対するギンガの形式通りの、

「ごめん。」

 謝罪は、

「レイカ。」

 本当に怒ってないと解っていたから。

 

 レイカと呼ばれた女性の瞳の奥の、

「本当に…。」

 真意は、

「ギンガは時間にルーズなんだから…。」

 会えた喜びに溢れていた。

 

 もう一度、

「だから。」

 形式的な、

「ごめん。」

 謝罪を、

「って。」

 繰り返すギンガ。

 

 赤く血色の良い頬を、

「折角…。」

 膨らませ、

「私が教えてあげたのに。」

 そっぽを向くレイカ。

 

 うんざり。

 

 他の面々は、こんな二人のやり取りを見慣れているのか止めるどころか、見てもいない。

 

 唯、一人を除いて。

 

 間に、

「二人とも…。」

 割り込む、

「喧嘩しちゃ駄目だよ。」

 見るからに気の弱そうな青年。名をギリニオと言う。

 諍(いさか)いを嫌うが故に巻き込まれる、俗に言う[損な性格]であった。

 

 視線を送り、

「ギリニオ!」

 一喝、

 『ギロリ!』

 目力が効果音を、

「ギンガには言わないと駄目なのよ!」

 皆に聞かせるレイカ。

 

 背筋に冷たいものを、

「いや…。」

 感じ、

「ほら…。」

 それでも、

「だから…。」

 考えるギリニオ。

 

 レイカに浮き出た、

「あん?」

 十字の怒りマークが声にも付き、

「だから…。」

 顔を何倍にも見せ、

「何!」

 無言の脅迫となる。

 

 背筋を流れる幻の汗は、

「なんでも…。」

 恐怖を増幅させ、

「無いです…。」

 ギリニオの全身を縮み上がらせた。

 

 レイカの、

「解れば…。」

 胸の前で、

「よろしい!」

 組んだ両腕は、

「ねぇ…。」

 相手をやり込めた、

「みんな…。」

 勝者の証。

 

 同意を求め向いた先にレイカが見たものは…。

 

 無人の場所。

 

 先程まで、他のメンバーが待っていた場所。

 

 

 擬音を出し、

『キョロキョロ。』

 レイカが、

「みんな、何処へ?」

 皆の姿を求める。

 

 振られた視線が、

「あっ!」

 目的の人物達を、

「いた!」

 探し当てる。

 

 右手で、

「ちょっと!」

 皆の背中を、

「待ちなさいよ!」

 掴む様に差し出す。

 

 だが、背中は遠く。掴んだのは虚空。

 

 先に行く三人。

 

 うち、一人がゆっくりと、

「遅れちゃうよ…。」

 首を向けギリニオとレイカに理由(わけ)を言う。

 

 その人物の名前を、

「フゥー!」

 怒りを込め呼ぶレイカ。

 

 レイカの横を駆け抜けた影が、

「待ってよ…。」

 声を出しギリニオとなる。

 

 レイカの、

『ピクッ!』

 左目が、

「待ちなさいよ!」

 釣り上がり、

「置いてくなんて酷いじゃない!」

 怒りを表す。

 

 前を行く三人に、

「待ってよ…。」

 追い付くギリニオ。

 

 踏み出す右足と共に、

「待ちなさいよ!」

 声を出すレイカ。

 

 そして、前の四人の背中に、

「あなた達だけで…。」

 悪態を、

「行っても駄目でしょうが!」

 付く。

 



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ニアミス

 

 サイド07の1番地(1番コロニー)の宇宙港のある円筒の中心部。

 ここを軸として回転している無重力の場所。

 

 

 浮いた体は、

『スーッ』

 ノーマルスーツで空気を切り音を出す。

 

 通路を移動用のレバーで進む男性。

 

 バイザーの奥の顔は、如何にも不機嫌である。

 

 それは表情ばかりか、

「ったくよ!」

 声にも出ていた。

 

 通路に響く大きな独り言。

 

 悪態に歪む顔に、

「やってらんねえってのぉ!」

 態度。

 

 聞かせるのは、

「工期が遅れてるじゃなくて…。」

 自分。

「最初から無理な工期だってえの!」

 怒りを空いている左の拳に握り込む。

 

 

 終わり。

 

 そこは暗く切り取られた出口。

 

 移動用のレバーを離し、

『ふわり。』

 身体を出口へと、無重力に泳がせる。

 

 それは、

『ビュン!』

 音を出し目の前をかすめた。

 

 見開かれた目が、

「うおっ!。」

 驚きを、

「何だ!?」

 湛える。

 

 その背中に向け、

「この!」

 挙げた右腕は、

「野郎!」

 怒りと細やかな抗議。

 

 だが直ぐに、

「作業用のモビルスーツ入れるなら…。」

 諦め、

「教えろってえの!」

 一人ぼやく男性。

 

 

 ぽつん。

 

 今、男性がいるのは通路。

 

 先程まで、移動していた通路とはサイズが異なる。

 

 そう、大型の通路である。

 

 主にモビルスーツが使用するので、モビルスーツ専用とも呼ばれる。

 

 不用意に人間用の通路から、大型の通路へ飛び出し、激突の既(すん)で助かったのだ。

 

 

 震え。

 

 怒りが炎が冷め、恐怖が全身の温度を下げ凍り付かせる。

 

 冷静さを取り戻し、

「危なかった…。」

 今の出来事を振り返り、

『ブルブル。』

 身を震わせた。

 

 そして…。

 

 小さくなる大きな背中へ、

「でも…。」

 首を傾げ、

「見た事無いタイプの作業モビルスーツだな…。」

 疑問を投げかける。

 

 不意に、

「こんな事…。」

 思い出し、

「してらんねぇ!」

 慌て腰のハンドルに手を、

「あーぁ。」

 掛け、

「忙しい!」

 スイッチを押し背中のラウンドムーバーを点火し、

「ちくしょうめ!」

 仕事の現場へ向かった。

 

 

 

 遡る事、約十分前。

 

 コロニー回転軸。

 

 ハッチ宇宙側。

 

 四つの人影。

 

 内、大きい方はモビルスーツ。資源衛星に居た三機である。

 

 小さい一つはノーマルスーツ。身体にフィットするタイプのパイロットスーツである。

 

 そのパイロットスーツの人物が、外壁の一部を開き、何かを接続していた。

 

 外壁から伸びるコードの先に金属の箱。

 我々が知るアタッシュケース程のサイズのものの中に何かの機械が収められている。

 

 右手が、

『ブィーン。』

 スイッチに触れ、

『ウィーン。』

 真空へ疑似の音を響かせる。

 

 そして、投影される光のパネルはディスプレイを兼用していた。

 

 光のパネルを上を走る右手は、その機械を操作していると判る。

 

 何故なら、光のディスプレイの表示が目まぐるしく変わっていたからである。

 

 

 続く作業…。

 

 

 不意に手を止める。

 

 作業終了の証として、光のパネルの中央に赤で縁取られたプログレスバーが出現した。

 

 そして、プログレスバーの空白を時間が右へと領域を増やしていった。

 

 

 暫時。

 

 バイザーの濃さに邪魔され、外からは見えない瞳が見つめるプログレスバーの進行の終わりを待つ。

 

 

 緑転。

 

 プログレスバーを縁取っていた赤が緑へと変わる。

 

 ヘルメットが、

『ニヤリ。』

 笑った。

 

 いや、実際はそう見えただけだ。

 

 それは、この作業が上手くいったと体が発した雰囲気であった。

 

 

 接続していたコードを外し、アタッシュケースへと収納。

 

 後に、

『パタン。』

 閉じ作業を終了とした。

 

 足の裏が、

『コン。』

 外壁を蹴り、

『ふわり。』

 体を泳がせる。

 

 そして、開いていたモビルスーツのコクピットへと帰還した。

 

 

 そして、ハッチが、

『バタン。』

 また、真空へ疑似の音を出し閉じる。

 

 光る一つの目が、

『ブォン!』

 モビルスーツの動力炉の再点火と呼応する。

 

 それを合図に、

『ブォン!』

 残りの二機も続く。

 

 

 パイロットスーツの人物が乗り込んだモビルスーツが、

『ギュイン。』

 小さく疑似の音を出し動き出す。

 

 屈めた体から伸ばした手が、回転方向と文字の書かれたハンドルを掴む。

 

 掴んだ手首から先が、[OPEN]と書かれた方向へきっかり二回転(720°)回る。

 

 直ぐ横の隔壁が、

『グォーン。』

 振動を伴い、

『ウォーン。』

 疑似の音と共に左右に開く。

 

 そして、コロニー内部へと続く奈落(ならく)が現れた。

 それはモビルスーツが通れる大型の通路である。

 

 主に背中と脹脛(ふくらはぎ)の部分にバーニアの火が灯り、モビルスーツを宇宙の曲芸師に変えた。

 

 三機のモビルスーツが順に身体を捻り、コロニー内部への奈落へ身を投げた。

 

 

 このモビルスーツが、作業員とニアミスを起こしたのである。

 



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ターミナル

 

 サイド07の1番地(1番コロニー)宇宙港の外れにある軍専用の港。

 

 

 自動化進み、民間では最低人数で運用されているターミナル。

 

 だが、軍のターミナルともなれば事情は異なる。

 

 

 【感(かん)】

 

 そう呼ばれる人間にしか持ち得ない未知のセンサー。けっして、機械では再現できない。

 

 故に、自動化の機械以上に人間が対応している。

 

 

 そんな軍用ターミナルの一角。

 

 警備ボックスの扉を開き、対応しているのは二十歳(はたち)そこそこの兵士。

 

 対応させたのは、

「父のハムロを、お願いします。」

 レイカ。

 

 

 ギンガ達一行が向かったのは、ここであった。

 

 

 兵士が、

「本人確認します。」

 目線で、

「そこへ。」

 指すのは、ボックスの外に取り付けられた専用のパネル。

 

 毎度の通過儀礼だと、無言で右手を差し出すレイカ。

 

 兵士の方も、顔見知りとはいかないまでも、見知った顔といった対応であると傍目にも判る。

 

 パネルが乗せられた、

『ピピッ。』

 レイカの右手を感知し、

『ウィーン。』

 読み取りを始めた。

 

 同時に監視カメラが顔認識と共に網膜の虹彩認証を始めていた。

 

 

 完了の音と共に、

『ピッ!』

 ボックス内のディスプレイに[確認完了]も文字が浮かぶ。

 

 視線で、

「少し…。」

 ディスプレイを確認し、

「お待ちを。」

 受話器に手を伸ばす兵士。

 

 レイカの浮かぶ、

「?」

 表情がいつもと違うと語る。

 

 兵士の、

「はい。」

「はい。」

「解りました。」

「では…。」

 やり取りを傍らで見つめるレイカ達四人。

 

 受話器を置く音の、

『ガチャリ…。』

 余韻を待ち、

「ハムロ博士ですが…。」

 兵士が、

「シャトルで先行して、コロニーへ入られているそうです。」

 レイカに告げた。

 

 一瞬の間。

 

 見開かれた目が、

「えっ!?」

 レイカの驚きを強調する。

 

 レイカのその目が、

「現在は…。」

 落ち着く間を取り、

「研究施設だそうです。」

 答える兵士。

 

 無意識に、

『コクリ。』

 頷(うなづ)き、

「解りました…。」

 了解したレイカ。

 

 そして…。

 

 振り向き、

「お父さんは…。」

 説明したが、

「新型の軍艦に乗ってないって…。」

 尻すぼみで声が小さくなっていた。

 

 思わず、

〘おい!〙

 心の中で、

〘軍の機密がだだ漏れじゃないか!〙

 突っ込む兵士。

 

 ゆっくりと、

「残念…。」

 フゥーと呼ばれていた男性が短く反応。

 

 先のレイカとのやり取りの事を、

「新型の軍艦…。」

 気にした風もなく、

「見たかったなぁ…。」

 軽く残念がるギリニオ。

 

 前髪を、

「まっ…。」

 掻き揚げ、

「色々と事情あるだろうから、仕方ないさ。」

 ポーズを決めるオルト。

 

 

 ギンガの結んだ口が、

「…。」

 静寂を語り。

 

 そして…。

 

 レイカの左手に持ったバックを、

『ジーッ。』

 見詰めた視線が音を出す。

 

 間。

 

 皆に、

「なら…。」

 笑顔で、

「研究施設に行こうぜ。」

 投げかける。

 

 いの一番にギリニオが、

「そうだね。」

 乗った。

 

 その発想は無かったと、

「おーっ!」

 フゥーが目を見開く。

 

 斜に構えたオルトが、

「皆が行くなら、仕方ないね。」

 まんざらでもないと賛同する。

 

 皆へ、

「じゃあ…。」

 視線を送り、

「決まりだ。」

 最後に、

「レイカも良いね?」

 同意を求めたギンガ。

 

 突然、

「う…。」

 振られ、

「うん…。」

 驚きよりも、

「いいよ…。」

 喜びを隠す為に、

『ギュッ…。』

 持っていたバックを抱きしめるレイカ。

 

 その意味に、

「じゃあ…。」

 気付いていたのか、

「直ぐに…。」

 気付いていないのか、

「行こうぜ。」

 歩き出すギンガ。

 

 後に続く、オルト、ギリニオ、フゥー。

 

 一人、立ち尽くしたまま、

「ギンガ…。」

 背中を見詰めるレイカの顔には、喜びが浮かぶ。

 

 はたと…。

 

 喜びの表情を消し、

『ブルブル。』

 顔を左右に振る。

 

 それは、否定…。

 

 いえ…。

 

 本当は、恥ずかしさ。

 

 ギンガに見透かされた、父親に会いたかった、との心の中の思いに。

 

 故に、

「あなた達!」

 共に、

「待ちなさいよ!」

 父親の着替えの入ったバックを、「私が行かないと駄目でしょう!」

 抱きしめる力と声は強かった。

 



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入港

 

『ボッ!』

 点る、

『ボッ!』

 光が、

『ボッ!』

 断続的に繰り返し、真空の宇宙(そら)へ疑似の音を出す。

 

 それは、小さく噴射された姿勢制御バーニア。

 

 入港速度まで減速した艦を、接岸の速度へと減速させる。

 

 そして…。

 

 揺れを伴い、

『ガコン!』

 接岸アームが艦の巨体を受け止める音は、その内部に響き渡る。

 

 ブリッジ内に、

「接岸完了!」

 女性オペレーターの声が響く。

 

 

 その声に頷き、右手は鍔の部分へ、左手は制帽の上部やや後ろへ。

 

 制帽の位置を、再度正す。

 

 その後、軽く握った左手が作る虚空へ、

「うん。」

 喉の調子を整える音を吐き出す。

 

 右手は肘掛けに備え付けられたマイクを、握った左手の代わりへ持ち上げる。

 

 そして、

「皆、ご苦労であった。」

 労いの間を取り、

「本艦の試験運行は無事終了である。」

 続け、

「次の試験航海に向け、直ちに作業に移行。」

 強く、

「まだ、慣らし運転も半ばであろうが、各所のチェックを怠らぬよう、くれぐれも頼むぞ。」

 一息、

「以上、艦長より。」

 マイクのスイッチを離しオフにする。

 

 戻すマイクを視線が追うのは、まだこの艦(ふね)に不慣れだと仕草が語る。

 

 正面に向き直りながら、

「例の作業はどうなっている?」

 ブリッジ内へ、疑問を投げる艦長。

 

 自分の前のモニターから目線を外さず、

「現在、確認中です。」

 答える女性オペレーター。

 

 短く、

「うむ…。」

 答えたが、

〘流石、精鋭を揃えたと言うところか…。〙

 内心は、

 〘指示を出さずとも、自分の仕事が解っている〙

 感心した。

 

 傍らに目をやると、副艦長が各所からの報告に対応し指示を出していた。

 

 その様子に、軽く首を左右に振り、

〘優秀過ぎるのも、考えものだな。〙

 心の中で苦笑い。

 

〘何故? そんな事を思う?〙

 

 自らに投げかけた疑問。

 

 それは、穏やかな心の水面を揺らす微風。

 

 揺らぎ…。

 

 ざわつき。

 

 自分自身でさえ、その正体を知らない。

 

 だが、確かにそこにある何か。

 

 

 いつの間にか、左腕を肘掛けに立て、頬杖を付いていた。

 

 そして…、

『コン…。』

 リズムを、

『コン…。』

 取りながら、

『コン…。』

 右人差し指で肘掛けを打つ。

 

 そのまま聞いているのに、聞いていいない状態の深みへと落ちて行く。

 

 

「………。」

 

「艦……。」

 

「艦長…。」

 

 浮上。

 

 呼ばれ、現実の水面へと意識が引き上げられる。

 

 頬杖を外し、

『ブルブル。』

 音が出る程に首を左右に振る。

 

 声の主へ、

「すまない。」

 目をやり、

「何かね? 副艦長。」

 聞き直す。

 

 その表情は、

「いえ…。」

 心配だと言い、

「どうか、されたのかと…。」

 声も同意だと表す。

 

 気付く、

「ああ…。」

 心の中に、

「胸騒ぎがするのだよ…。」

 生まれたものの正体は、

「何も起きなければ良いのだが…。」

 軍人としての感なのだと。

 

 その声に、

「胸騒ぎですか…。」

 乗る不安の感情。

 

 根拠もあった。

 

 人類が宇宙進出の後に報告された事案。

 到底、現代の科学では証明できない、超感覚とでも言うべき事件の数々。

 

 

 例として…。

 

 家族の怪我を離れた場所から察知した。

 

 直前でキャンセルした、乗るはずのシャトルが事故を起こした。

 

 等、数えきれないほどであった。

 

 

 思い出す、

〘確か、超感覚を軍事転用する研究機関が秘密裏に設立された噂もあったな…。〙

 副艦長。

 

 それを読み取り、

「気にしないでくれ…。」

 右の口角を上げ、

「私の…。」

 誤魔化す笑いの、

「思い過ごしだ。」

 艦長。

 

 受け、

「解りました。」

 こちらは、

「艦長。」

 少し開いた目で笑う。

 

 もう一度、

〘私の思い過ごしだ…。〙

 心の中で、

〘そう、思い過ごしだ…。〙

 反復する艦長。

 



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発見

 

 スペースコロニー回転中心構造体内部付近。

 

 ハッチに三つの人影。

 

 モビルスーツではなく、ノーマルスーツ。

 更に詳しく言えば、パイロットスーツであった。

 それも、ヘルメットは脱がず、バイザーを下ろしたままの状態。

 こちらからは、顔が見えないと言う事。

 

 その内の一人は、コロニーの外壁で作業していたあの人物ある。

 他の人物と見分けられる程の身体的特徴は無かったが、他の二人が個性的であり過ぎた。

 

 一人は、背が低く作業していた人物よりも頭一つ分小さく、全体的にふっくらとしている。

 俗に言う、小太り体型。

 特に目を引くのは、お腹周りである。

 以降、【小太りの人物】と呼称。

 

 一人は、背が高く作業していた人物よりも頭二つ分は大きく、がっしりとした体格をしている。

 大入道と言うのは、こう言う人物なのだろうと思える。

 特に目を引くのは、腕の太さである。

 以降、【背の高い人物】と呼称。

 

 この二人に比べたら、コロニー外壁で作業していた人物は普通と評価される。

 以降、【普通の人物】

 

 

 三人が居るハッチの後方にある大型通路の後方。

 この人物達とよりも、小さく見える三つの人影。

 それはモビルスーツ。大きさから考えて、かなり離れていると思われる。

 三機はコクピットのハッチを開いたまま片膝を付き、その大きな機体(からだ)を丸くしていた。

 

 

 三人は、ハッチに陰に身を隠し、作業を開始する。

 

 

 小太りの人物が、手にしていたアタッシュケースを床へ降すと共に胡座(あぐら)をかく。

 

 開く。

 

 中からは、以前使ったものとは異なる機械が顔を出す。

 

 小太りの人物は、蓋に収められていた[銀色の折り畳み傘]を開き、三脚を取り付け、小型の[パラボラアンテナ]とした。

 

 受信面と思われる方をコロニー内部に向け床へと置き、機械とケーブルで繋ぐと設置作業完了とした。

 

 儀式。

 

 癖。

 

 左肩へ右手を乗せると、

『コキコキ。』

 音が出る程に首を左右へ傾ける。

 

 次は、

『ボキボキ!』

 指を鳴らすのは、もはやお約束。

 

 十本の指を、

『ワキャワキャ。』

 節足動物の足の動きの如く動かし、儀式を終える。

 

 そして、アタッシュケースに収められた機械のスイッチをおもむろに入れた。

 

 機械の表面を彩る光と共に、

『ブーン。』

 低く唸る様な音が、はっきりと聞こえた。

 そう、ここには音の波を伝える空気がある。

 

 宙に映し出されたパネルに指を掛けると、作業を開始した小太りの人物。

 

 

 普通の人物と背の高い人物は、小太りの人物の作業と儀式を尻目に、通路の出口ギリギリのラインへ立つ。

 

 そして、それぞれが手にしていたモノで目の位置のバイザーへ当てる。

 それは、我々が知る【双眼鏡】に酷似していた。

 以降、【双眼鏡】と呼称。

 

 それに両手を添え固定する。

 

 双眼鏡を通した視線がコロニーの内部、居住スペースへと向けられた。

 

 添えた指を動かす度。

 

 音と共に、

『ウィーン』

 レンズの焦点が動き、

『カシャ!』

 シャッター音に、

『ズィー。』

 録画音を奏でた。

 

 そのレンズに映るのは、スペースコロニーの生活者の日常…。

 

 街を行き交う車。

 

 街を行き交う人達。

 

 生活という営みであった。

 

 

 不意。

 

 アタッシュケースの中の機械が、

『ピピッッッ!』

 小太りの人物の操作に答えた。

 

 バイザーの奥の見えない口元か、

『ニヤリ。』

 形を作り、音を出した。

 

 目はディスプレイに表示されたデータを追う。

 

 

 コロニーの内部を見ていた二人も、機械音に惹き付けられる。

 

 双眼鏡を外し、

『コン。』

 小太りの人物の方へ、

『コン。』

 低重力の中を弾み寄る。

 

 

 小太りの人物の後ろから行われた仕草は、

『どれどれ。』

 そう語る。

 

 小太りの人物を中心にして右に背の高い人物、左に普通の人物。

 

 三人がバイザー越しにパネルの表示を覗き込む。

 

 忙しく切り替わるパネルは、

『ピッ!』

 音と共に、一つの結果表示で止まる。

 

 その結果を見詰める三人。

 

 

 暫時。

 

 

 普通の人物は、先程の位置へ一目散に弾み走る。

 

 小太りの人物は、また指を動かしパネルの操作を開始。

 

 背の高い人物は、首を巡らせコロニーへ視線を送る。

 それは、普通の人物の背中へと移動し見詰めていた。

 

 

 逸(はや)る気持ちが、そのまま行動に出る。

 

 通路の縁ギリギリに足を止めるが早いか…。

 手にしていた双眼鏡を構えるが早いか…。

 双眼鏡を通した視線をコロニー内部へと向けた普通の人物。

 

 

 右から左へ。

 

 上から下へ。

 

 高速移動する景色。

 

 それは、目的の場所を探る行為の経過。

 

 

 不意。

 

 景色と共に動かしていた張本人も止まる。

 

 双眼鏡のレンズに映るのは、高いフェンスに囲まれた広い敷地の施設。

 

 右の指が、

『ギュィィン。』

 双眼鏡のスイッチを操作する。

 

 ズームアップ。

 

 レンズが遠くの焦点を、目の前に近くに寄せた。

 

 

 作業中。

 

 それは、聞こえるはずの無い怒号が聞こえるほどに、忙(せわ)しげに行き交う人々。

 

 追跡。

 

 作業者を追う視線が、見付けた巨大なトレーラー。

 

 荷台に掛けられたその大きさに見合うサイズのシートは、下にあるモノを隠すはずが、凹凸によりモノを目立たせていた。

 

 驚きは、

〘見付けた!〙

 身体を硬直させ、心を踊らせた。

 

 暫時。

 

 命令が軍人としての挟持(きょうじ)を思い出させる。

 

 だが、視線を送る双眼鏡の遥か奥の瞳に、

『ニヤリ。』

 浮かんだ野心の炎。

 

 そう、出世欲が勝った瞬間であった。

 

 

 踵(きびす)を返す力を反動に換え蹴る床。

 近くまで来ていた背の高い人物の横を風の速さで駆け抜ける。

 

 更に、つま先を支点に全身をバネとして、加速し速度を増す。

 

 それは、小太りの人物の横を過ぎ去った後に風を土産にするほどであった。

 

 向かう先には、駐機する三機のモビルスーツ。

 

 

 呆然。

 

 唖然。

 

 遠ざかる普通の人物に向けた体に、伸ばした腕。

 その仕草は、

『待て!』

 全身で語っていた。

 

 頭から、

『!』

 出たマークは、普通の人物の意図を理解した証。

 

 取り出した丁寧さとは、真逆の乱暴さでパラボラアンテナをアタッシュケースの蓋へ押し込む小太りの人物。

 

 直後、背の高い人物に向かい、

『来い!』

 左腕で合図した。

 

 そのまま、立ち上がる勢いで床蹴り、遥か先の小さく見える普通の人物の背中を追う。

 

 その後ろを、少し遅れ背の高い人物が追っていた。

 

 

 

 小太りの人物が追いついたのは、普通の人物がモビルスーツを起動させ歩み出した後だった。

 

 慌てコクピットに潜り込み起動させるが、今度はモビルスーツの背中を追う羽目になった。

 

 

 際(きわ)。

 

 コロニー内部と中央構造体の境に立つモビルスーツ。

 その瞳の単眼が、双眼鏡に映った施設へ向けられた。

 

 そして、コロニー内部へとモビルスーツを、今は上になっている居住エリアに向かって降下させた。

 

 

 続く二機が降下を始めたのは、居住エリアが下になっていた頃であった。

 



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終焉

 

 不意。

 

 それは、

『!』

 第六感を刺激した。

 

 そして、足を止めるギンガ。

 

 その背中へ、

「どうしたんだ?」

 声をかけるオルト。

 

 それは、

「なんでも無い…。」

 問い掛けの返事か、自分自身への否定か。

 

 右足から歩みを再開させるギンガ。

 

 思い出す、

〘まただ…。〙

 先程の事。

 

 考える心が、

〘……。〙

 作る静寂の声。

 

 気付く、

〘最初の声は、俺を「来い!」って呼んだ…。〙

 違いに、

〘けど、今のは俺に「来るな!」って…。〙

 困惑する。

 

 

 歓声。

 

 右人指しで、

「あれじゃない!」

 施設を指しながら、

「ほら!」

 大声を上げるギリニオ。

 

 ギリニオに近い方の耳を、

「うっさいわね!」

 塞ぎながら、

「言われなくても!」

 顔をしかめ、

「分かってるわよ!」

 負けない程の大声を出すレイカ。

 

 どこ吹く風。

 

 そんな言葉を顔に出し、

「一番!」

 駆け出すギリニオ。

 

 フゥーのそれは呼び掛けではなく、

「待って!」

 駆け出す合図。

 

 遅れ、

「あっ!」

 オルトも、

「待って!」

 駆け出す。

 

 一瞬の唖然、

「あ!」

 三つの背中に、

「待ちなさいよ!」

 駆け出す合図を、

「あなた達だけ行っても駄目でしょ!」

 放ち駆け出すレイカ。

 

 どこかで見た平和ないざこざの光景が繰り返される。

 

 

 小さくなる背中に視線を送りながら、空虚を見るギンガは未だ考え事の最中であった。

 周りに誰も居なくなった事にも気付かず。

 

 答えの無い、

〘俺は…。〙

 問答は繰り返され、

〘どうかしたのか?〙

 ただ漠然と歩くだけのギンガ。

 

 

 

 ギンガの歩みは続く…。

 

 そして…。

 

 小さく四人が見え、

「おーい!」

 大きく響く、

「ギンガ! 早く来こいよ!」

 皆の声。

 

 一歩、二歩、三歩、

「早く!」

 前に出ながら、

「来なさい!」

 両手で口の前に、

「ギンガ!」

 声を増幅させる筒を作るレイカ。

 

 

 そんな皆の姿に、

〘考えても仕方ないか…。〙

 ギンガ自身が答えを出した。

 

 皆への合図に上げる右手と、

「お…。」

 開く口。

 

 

『シュルルルルルル。』

 

 

 ギンガの声を、遮る爆音。

 

 それは平和な時の終わりを告げた。

 

 

 反射。

 

 音の出処へ向いたギンガの目に映るのは…。

 

 長い煙の尾を引く円筒形のモノ。

 

 実物を見るのは初めてだが、その正体を知らない者は少ないであろうモノ。

 

 【ミサイル】

 

 それは、そう呼ばれた。

 

 

 軌道をギンガの視線が追いかける。

 声にならない、

「!?」

 悲鳴をギンガの喉が上げる。

 

 長く尾を引く【ミサイル】の行き先が、ギンガにそうさせた。

 

 残っていた左腕も上げ、

「逃げろぉぉぉぉ!」

 渾身の大声も上げ、

「みんなぁぁぁぁぁ!」

 両腕で合図を送る。

 

 

 皆はそれぞれが腕を上げ、遠くてもはっきりと判る笑顔でギンガを呼ぶ。

 そう、彼等は今だ日常の中にいたのだ。

 

 

 一発のミサイルが起こす…。

 

 爆音。

 

 爆光。

 

 爆風。

 

 それが、手を振る皆を巻き込み、日常の終わりを告げた。

 

 

 両腕で顔を庇い、

「くっ!」

 ミサイルの余波に耐えるギンガ。

 

 足の裏と人工の地面が作る摩擦が抵抗し、僅かに後ろへ下がるだけで体制を維持させた。

 

 

 鳴る!

『キーーン。』

 ギンガの耳の奥。

 

 収まる爆発と共に踏み出す右脚はギンガを疾走へと加速させる。

 

 瞳の奥に焼き付いた、今の瞬間を思い出し、爆心地へと向かう。

 

 

 山。

 

 ギンガが辿り着いた元はモノだった瓦礫の積み重なり。

 

 振る首は、

「レイカ!」

 呼ぶ人物を探す。

 

 しかし、声は…。

 

『ドウ!』

 

『ドウ!』

 

『ドウ!』

 

 続く非日常の音に掻き消された。

 

 

 その音を例えるなら、映画などで聞く銃の発射音を何倍にもしたものが近いと思われた。

 

 そして、発射音に続くのは…。

 

『ボン!』

 

『ボン!』

 

『ボン!』

 

 破裂音であった。

 

 

 それは、

「くそ!」

 見付けられない自分に言ったのか、

「どこだ!」

 それとも、

「レイカ!」

 邪魔する音に言ったのかギンガ自身にも分からなかった。

 

 

 鞄。

 

 それは、不意にギンガの目に入った。

 

 瓦礫の陰から覗いた、あのレイカが手にしていたものが。

 

 叫ぶよりも、

「レイカ!」

 早く駆け出していた。

 

 

 安堵。

 

 瓦礫を回り込み見えた、鞄を力強く握り締める持ち主。

 

 駆け寄り、

「レイカ!」

 片膝立ちで、

「おい!」

 抱き抱え、

「レイカ!」

 覆い被さる様に見つめ下ろすギンガ。

 



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安堵

 

 霞む。

 

 ミサイルが起こした衝撃は、視界と意識に霞をかけた。

 

 それは…。

 

 どこか、遠くで…。

 

「………!」

 

 次第に…。

 

「……カ!」

 

 近付き…。

 

「…イカ!」

 

 耳元で…。

 

「レイカ!」

 

 怒鳴り声に変わる。

 

 

 焦点。

 

 虚ろに空ろを見る瞳が、影を落とすものにピントを合わせ始める。

 

 その正体を、

「ギ…。」

 口に、

「ンガ…。」

 する。

 

 

 安堵。

 

 それは、

「レイカ!」

 ギンガが、

「大丈夫か!」

 浮かべた表情。

 

 しかし、

「私…。」

 意識の、

「どうしたの?」

 ピントは合わないレイカ。

 

 ギンガの喜びが、

『ギューッ!』

 音を出し、

「レイカ!」

 強く抱き締める。

 

 二人の一瞬の硬直。

 

 そして、その行為に反応するレイカ。

 

 爆煙に薄汚れてはいるが、

「ちょ!」

 透き通る様なレイカの白い肌を、

「何するの!」

 一気に、

「ギンガ!」

 桜色へと染め上げた。

 

 脳が命令する拒絶の強さとは、

「離しなさいよ!」

 反対に心の声は、

「ギンガ!」

 振り解く力を弱くしていた。

 

 我に、

「ごめん…。」

 返り、

「レイカ…。」

 力を緩めるギンガ。

 

 そして、レイカの意識に掛かっていた霞がゆっくりと晴れていく。

 

 今の状況が、

「何が起きたの?」

 掴めず、

「ギンガ。」

 辺りを見回すレイカ。

 

 消える安堵の表情は、

「ミサイル…。」

 真顔を、

「攻撃だ…。」

 レイカに向ける。

 

 暫時。

 

 それは、言われた事を整理するまでに要した時間。

 

 もう一度、

「えっ!?」

 周囲を見回し、

「ミサイルって…。」

 自分の居た場所を確認した。

 

 唖然。

 

 呆然。

 

 驚愕。

 

 その他の複雑な表情がレイカの顔を埋め尽くした。

 

 そして…。

 

 一つに纏め上げた。

 

 ゆっくりとギンガへ、

「ねえ…。」

 向き直り、

「みんなは…。」

 口から出た言葉は力無く、

「どこ…。」

 質問の答えを知っていると自らが語る。

 

 返答に躊躇い、

「みんな…。」

 見た場所は、

「は…。」

 黒焦げたクレーター。

 

 ゆっくりと、

「あそこに…。」

 目を閉じ、

「居た…。」

 同じくゆっくりと左右に首を振る。

 

 次にレイカの、

「嘘…。」

 肌を染め上げたのは、

「嘘よ…。」

 血の気の引いた青。

 

 素早く…。

 

 ではなく、強い否定の、

「そんなの…。」

 速度で、

「嘘よ!」

 首を振るレイカ。

 

 掴む両肩に、

「落ち着け!」

 優しい力を、

「レイカ!」

 込めるギンガ。

 

 ゆっくりと上げた瞳に目の前の青年を映し、

「ギ…。」

 開いた口から、

「ン…。」

 呼ばれる名前。

 

 それを遮る、

『シュルルルルル。』

 あの音。

 

 それは…。

 

 ギンガの視線の先。

 

 レイカの背中側の向こう。

 

 そう…。

 

 研究施設へと、

『ドドドウォォォォォ!』

 着弾した。

 

 遅れ、

「くっ!」

 二人に、、

「レイカ!」

 届く爆風をレイカを抱き締め庇い、一人受けるギンガ。

 

 静寂。

 

 それは、音の落差が作り出した偽物。

 

 緩めた両腕の中のレイカに視線を、

「無事か?」

 落としながら確認するギンガ。

 

 抱き締められ丸くなった背中を伸ばしながら、

「だ、大丈夫…。」

 答えるレイカ。

 

 そして、ゆっくりと、

「今のは…。」

 原因を起こした場所へ、

「何?」

 首をめぐらせるレイカ。

 

 上げた声と共に、

「あっ!」

 見開いた目が、

「お父さん!」

 驚きと共に理解したと語る。

 

 上がる煙は、研究施設からであった。

 

 

 ネコ科の動物の如き動きは、

「お…。」

 ギンガの反応を超え、

「父…。」

 抜け出した腕から、

「さん!」

 レイカを疾走へと加速させていた。

 

 遅れ走り出すギンガは、

「レイカ!」

 前を行くレイカの背中を追う。

 



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動揺

 

 

 艦内。

 

 叫ぶ、

『ギュオーン!』

 サイレン。

 

 幾度も、

『ギュオーン!』

 繰り返される。

 

 それは、艦内に流れる警報。

 

 艦長が開いた口が、

「何事だ!」

 声を作る前に、

「このアラートは!」

 副艦長の怒号が飛ぶ。

 出しそびれた声を飲み込み、オペレーターの女性へ視線を送る艦長。

 

 モニターを凝視したまま、

「コロニー内部での爆発を確認…。」

 映し出された情報を報告するオペレーター女性。

 

 怪訝そうな、

「爆発だと?」

 表情に、

「事故か?」

 声の副艦長。

 

 パネルの操作を、

「いえ…。」

 続け、

「事故ではなく…。」

 モニターに表示された[ONLINE]の文字を確認し、

「大型モニターに出します!」

 会話の内容と共に切り替えたオペレーター女性。

 

 一斉に、天井の大型モニターが皆の視線を釘付けにする。

 

 

 燃える街並を煙る空気が灰色に染める。

 

 それはまるで…。

 

 この惨劇を隠しているかの様でもあった。

 

 

 影。

 

 立ち込める煙をスクリーンにして、蠢く黒いモノ。

 

 また、

「なんだ?」

 副艦長が先に口を開く。

 

 目の前のモニターを確認し、

「切り替えます!」

 オペレーターの女性が対応した。

 

 一画面目、

『カチャ。』

 

 ニ画面目、

『カチャ。』

 

 三画面目、

『カチャ。』

 

 そして、映し出された黒い影の正体は…。

 

 副艦長の、

『ゴクリ。』

 固唾を飲む音が、

「モビルスーツだと!」

 驚きを強調した。

 

 大型モニターから目を、

「何処の所属だ!」

 離さず聞く副艦長。

 

 間を開けず、

「該当ありません!」

 答えたのは言われる前からの対応。

 

 切り替えの素早さは、

「在中軍は!」

 流石の副艦長。

 

 答えたのは、

「現在、出撃準備中との回答です。」

 男性のオペレーター。

 

 向き直り、

「艦長…。」

 極めて冷静な顔で、

「本艦の部隊の出撃許可を…。」

 聞く副艦長。

 

 目の前に出した小型モニターから目を離さず、

「うむ…。」

 返す生返事。

 

 もう一度、

「艦長!」

 呼ぶ副艦長。

 

 今だ、

「準備が…。」

 意識は、

「終わり次第、出撃で…。」

 小型モニターに釘付けの艦長。

 

 答えるは、

「はっ…。」

 敬礼の、

「了解しました!」

 副艦長。

 

 それは、

「ところで…。」

 話の流れを変える合図を

「所属不明のモビルスーツ付近の[ONLINE]のカメラの映像を全部表示できるかね?」

 オペレーターに出す艦長。

 

 声で答え、

「やってみます。」

 残りは作業を始めたオペレーターの女性。

 

 

 作業中。

 

 時折、

『ピッ!』

 電子音で鳴くコントロールパネル。

 

 

 一瞬の手を止め、

「出ます。」

 次に押すキーに結果を委ねるオペレーターの女性。

 

 天井の大型モニターが碁盤の目に切り取られた。

 小さく刻まれた枠、その一つ一つに映し出される現在の様子。

 

 それを、無言で眺める艦長。その姿は、物思いにふけるであった。

 

 暫時。

 

 流れる状況報告と電子音が艦橋の静寂を彩る。

 

 

 不意。

 

 開いた口が、

「ブラックアウトしているモニターは破壊されているのか?」

 考えが纏まったとも語る。

 

 返答よりも早く、

「確認します。」

 手が動くオペレーターの女性。

 

 また、流れる状況報告と電子音が艦橋に静寂を作る。

 

 暫時。

 

 作業が実を結び、

『ピッ!』

 結果の表示を音で知らせた。

 

 読み上げる、

「無線カメラの損傷ではなく、通信エラーの様です。」

 オペレーターの女性。

 

 ため息の、

「ふうむ…。」

 交じる返答に、

「では…。」

 ゆっくりと間を取り、

「無線カメラとモビルスーツの位置を地図上に出せるかね?」

 問う艦長に浮かぶ表情は複雑であった。

 

 背を向けたままのオペレーターの女性は、

「やってみます。」

 その表情を見る事なく作業にかかる。

 

 三度、流れる状況報告と電子音が艦橋に静寂を作る。

 

 

 暫時。

 

 オペレーター女性の苦闘が続く。

 

 発した声は、

「出します。」

 苦闘の勝利者。

 

 その声に促され、天井モニターへ視線を移す艦長。

 

 

 映し出された地図上に、謎のモビルスーツと無線カメラの位置が表示される。

 

 無線カメラの位置に注釈線が入り、その捉えた映像が小さく映し出されているのは、オペレーターの優秀さの証であった。

 

 

 暫時。

 

 見詰め、考える艦長。

 

 そして…。

 

 その表情に、

「うむ…。」

 付けられた名前は、

「やはり…。」

 渋い顔、

「か…。」

 

 そして、

「『ふーっ…。』」

 声とも、音とも区別のつかないため息。

 

 決意。

 

 そう語る顔で、

「モビルスーツを中心とした無線カメラの障害範囲は何メートルだ?」

 オペレーターに向かい問う艦長。

 

 返答よりも、

「確認します。」

 先に手が動いていたオペレーターの女性は、

「直径約百メートルの範囲です。」

 直ぐ様答えた。

 

 艦長の前屈みから、

「百メートルか…。」

 膝に肘を置き立て顔の前で組む姿は、物思いにふけると表現される。

 

 

 艦橋に漂う雰囲気は、その場の全員にある言葉を連想させた。

 ただ、一人艦長を覗いては…。

 

 

 

 



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父娘

 

 鼻を刺す臭いの成分。

 

 あちらこちらで上がる炎が吐き出す黒い煙が、その正体であった。

 

 

 小走りで左右に体ごと向きながら、

「お父さーん!」

 当てた左手を拡声器にして、

「何処ぉ!」

 大声に変換するレイカ。

 

 その後を、

「ハムロ博士!」

 見守る様に、

「居ますかー!」

 追い掛けるギンガ。

 

 危険だと判っているが、レイカの性格を知っているギンガは見守るを選択する。

 

 

 今だ聞こえる爆発音。

 

 小さな音は、遠くだと安堵。

 

 大きな音は、近くだとヒヤリ。

 

 その中を掛ける二人。

 

 

 広場。

 

 レイカには、そう見えた。

 

 上階が崩れた建物の角を曲がった先で遭遇した場所。

 

 その一角。

 

 車の周りに動く人形。

 

 いえ…。

 

 車はトレーラーと呼ばれる大型サイズのもので、距離感が狂い人間が人形に見えていた。

 

 ちなみに、これがあの【普通の人物】が見付けたトレーラーである。

 

 

 大きな身振りで、

「代わりの車はないのか!」

 作業服の人物へ詰め寄る白衣の人物。

 白衣の人物に関しては、声で男性と判断しても差し支えはないが、まだこの距離だと百パーセントではないので、人物と呼称している。

 

 その言葉の通りに牽引するトレーラーが、一目で動かないと判る程に壊れていた。

 

 考える作業服の人物の前で、

「武器は後でいい!」

 振る両手が、

「機体を最優先しろ!」

 『早くしろ』と付け加えていた。

 

 

 レイカが判断したのは、

「お父さん!」

 声と雰囲気。

 

 声を上げるよりも、脚が反応し駆け出させていた。

 

 当然、その後を追うギンガであった。

 

 

 走り寄るレイカとギンガ。

 

 

 その間。

 

 白衣の男性は、

「モビルワーカーを回せ!」

 先程とは違う作業服の人物に、

「大至急だ!」

 指示を出す。

 

 入れ替わり。

 

 作業員が立ち去ると同時に、

「お父さん!」

 その背中へ声を掛けるレイカ。

 

 開いたファイルから目を離さず、

「何をしに来た…。」

 冷たく言い放つ。

 

 その言葉に、

「心配で…。」

 凍り付き立ち尽くすレイカ。

 

 博士の上げた顔は、

「何をしている!」

 作業員への、

「それは後回しでよいと言ったろうが!」

 苛立ち。

 

 手を…。

 

 いや…。

 

 目をファイルから離した事で、

「ここは、危険だ…。」

 冷静さを取り戻し、

「シェルターへ避難しなさい。」

 背中越しに心配した。

 

 その背中へ、

「お父さんは…。」

 声を掛けるレイカ。

 

 振り向くと、

「私は心配ない。」

 両手を肩に置き、

「だから、避難しなさい。」

 掛けた声は父親になっていたハムロ。

 

 その事に気付き、

「お父さんも…。」

 凍り付いた体が、

「一緒に…。」

 溶けるレイカ。

 

 振り向き、

「すまない…。」

 向けた視線は、

「今は、ここを離れるわけにはいかないのだ…。」

 トレーラーへ。

 

 俯き、

「お父さんは!」

 震える肩は、

「家族と研究と…。」

 怒りの、

「どっちが大切なの!」

 現れ。

 

 ゆっくりとレイカに向き直り、

「お前達には…。」

 真剣な表情で、

「すまないと思っている…。」

 対峙し、

「だが…。」

 また、首を巡らせ、

「これは…。」

 視線を、

「全人類の未来に係る事なのだ。」

 トレーラーへ向けた。

 

 

 



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奈落

 

 

 傍観者。

 

 少し離れた場所で、二人の会話を聞いていたギンガ。

 

 博士の言葉に、

〘全人類の未来?〙

 釣られ、

〘こいつが?〙

 トレーラーの荷台へ視線を向ける。

 

 

『ドクン!』

 

 心が発する音が、心臓で増幅され全身へ、波紋の様に伝播する。

 

『ドクン!』

 

 二度目。

 

『ドクン!』

 

 三度目。

 

 それは、

〘なんだ…。〙

 どこかで、

〘この感覚は…。〙

 感じた事のある…。例えるなら【懐旧】。

 

 

「……。」

 

「…み。」

 

「君!」

 

 意識が心の中へと深く潜っていた。

 

 呼ばれている事にも気付かない程に。

 

 レイカ越しに、

「君は…。」

 博士が声を

「確か…。」

 かけていた。

 

 小さい頃にレイカの家に遊びに行った時に会ったきりだが、博士の顔に覚えていると書いてあった。

 

 それが、嬉しく自然と笑顔が生まれたギンガ。

 

 

〘!〙

 

 心の中で誰が叫ぶ。

 

 その声に反応し、

「モ…。」

 振り向く、

「モビルスーツ…」

 ギンガ。

 

 緑色の巨体に光る一つ目が笑う。ギンガには、そう見えた。

 

 その手の銃口が放つ光が、狙っているぞと笑いかける。

 

 咄嗟。

 

 無意識。

 

 例えるなら、その辺り。

 

 振り向き、

「危ない!」

 レイカと博士へ警告するギンガ。

 

 

 マズルフラッシュ。

 

 そんな単語が付けられた事象。

 

 放たれた弾丸は、そのサイズなら砲弾。

 

 飛。

 

 爆。

 

 風。

 

 それが起こしたもの全てが、三人をもて遊ぶ。

 

 

 体をかがめ、身を守るギンガは転がる。

 

 背中側で起きている事に対応できなかったレイカは立ち尽くす。

 

 博士は立ち尽くすレイカに覆い被さり、地面へと伏せる。

 爆風を一身に浴び、消え行く意識の中で娘を心配する。

 

 

 コロニーの回転による人工重力は、ギンガに下を教える。

 

 転がる勢いが、

「くっ!」

 緩やかに減り、

「このぉ!」

 足が地面を捉える。

 

 手もならう。

 

 その姿を四つん這いと呼ぶ。

 

 立ち上がるギンガに、湧き上がる感情。

 

 それは…。

 

 怒り。

 

 それは、突如として訪れる【死】に対するものなのか…。

 

 はたまた、それを訪れさせたモノへの感情なのか…。

 

 睨む先は、緑色のモビルスーツ。

 

 そいつは、ゆっくりと歩を進めると共に大地を揺らす。

 

 それは、こちらへと向かって来る行為。

 

 

 またも、光る銃口がこちらへ向けられ、死の宣告をする。

 

 

 突如。

 

 咄嗟。

 

 この二つは、どの時代でもセットなのだろう。

 

 

 炎を吐き出し、煙の尾を引く小型円筒形のモノが、モビルスーツの光る一つ目へと迫る。

 

 これは、突如。

 

 元を辿れば、バギーカーの荷台に立つ兵士が肩に構えたロケットランチャーから放たれたと判る。

 

 

 響く警告音。

 

 パイロットが、モニターの小窓に映る飛翔体を認識と同時に右手を掛けているレバーを引く。

 

 その動きに反応しモビルスーツが回避行動を行う。

 

 これは、咄嗟。

 

 左手で一つ目を庇いながら、身をよじる。

 

 装甲で覆われていない場所へのピンポイント攻撃を行った兵士の判断は正しかった。

 

 

 爆発。

 

 

 たたらを踏むモビルスーツ。

 

 それは…。

 

 咄嗟の回避行動がバランスの限界を引き下げ、爆発が後押しした結果であった。

 

 

 倒壊音。

 

 それは、転倒を防ごうと手を付いた建物がモビルスーツの重量に耐え切れず上げた悲鳴。

 

 

 与えられた時間。

 

 それは、兵士が作ったつかの間。

 

 それを知ってか、

「レイカ!」

 視線を、

「博士!」

 二人へ移すギンガ。

 

 走り寄り。

 

 覆い被さる博士へ、

「大丈夫ですか!」

 軽く揺すり確かめる。

 

 朗報。

 

 返答は、

「うっ…。」

 うめき声。

 

 更に視線をレイカへ向ける。

 

 苦しそうにだが、僅か動く唇は生の証。

 

 心の中で、

「二人共、生きてる…。」

 胸を撫で下ろすギンガ。

 

 

 悲報。

 

 その喜びを、

「駄目だ…。」

 否定する現実が、

「二人、一緒には運べない…。」

 ギンガに突き付けられた。

 

 自分の無力さに苛まれ、

「どうしたら…。」

 折る膝は地面へ音と痛みを伴いながら落ちる。

 

 そして、頭を項垂れる。

 

 

 無限。

 

 一瞬。

 

 時間の感覚は観測する人間が基準になる。

 

 前者は、ギンガから。

 

 後者は、他人から。

 

 そんな、時間の後。

 

 ゆっくりと上げる頭。

 

 その先に、

「お前か…。」

 見るのは、

「俺に、話かけていたのは…。」

 トレーラーの荷台のモノ。

 

 レイカと博士を一瞥する目に宿る決意の光。

 

 ギンガの踏ん張る脚が大地を蹴り、駆け出す。

 

 手を掛けたトレーラーの梯子は、軽々とギンガを上に登らせる。

 

 

 トレーラーの荷台の中央付近。

 

 身をかがめ、カバーシートを掴む。

 

 頬をすぼめ、

「ふーっ!」

 深呼吸は、心の準備。

 

 一気。

 

 それは、

『バサァァァァァ!』

 カバーシートと大気が奏でたBGM。

 

 

 奈落。

 

 

 ギンガの脳裏に浮かんだ現れたモノの名前。

 

 全てを落とす穴。

 

 そこに躊躇わず、

「くっ!」

 飛び込むギンガ。

 

 

 

 



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目覚め

 

 そこには、程よい硬さの座り心地の良い椅子が用意されていた。

 

 更に、小さな灯りで作った瞬きが歓迎した。

 

 その奈落の名前は【コクピット】と言う。

 

 使う者と使われた者を地獄へと落とす匣(はこ)。

 

 

 ギンガの脳裏に、

【パンドラの匣】

 浮かんだ言葉が身震いを誘発し恐怖を演出した。

 

 それを否定したのは無意識。

 

 伸ばした右の人差し指が、並ぶスイッチの一つを入れた。

 

 ハッチと呼ばれる蓋がコクピットを外界と遮断し、密室空間を作り上げた。

 

 一瞬の暗闇がギンガを包む。

 

 目の前に起き上がるコントロールパネルの灯る光が点滅し、何かの要求を始めた。

 

 そこに伸びる右手は、それが決まり事だと知っていた。

 

 そっと触れたパネルが手の形を縁取る。

 

『パッ!』

 そんな音を出しコクピットが、目を覚ます。

 

 不規則で、

『ピッ…。』

 順番に点る光が、

『ピッピ…。』

 次第に匣の中を、

『ピッピッピ…。』

 満たしていく。

 

 

『○☓△□●✖▲■…。』

 おそらくは言葉。

 

 驚き引いた右手が、パネルを再びギンガに見える様にする。

 

 聞き返すは、

「何だ?」

 人の性。

 

 返答は、

『ピッ…。』

 音の後に、

『言語変更。』

 先程と、

『修正完了。』

 同じ声のアナウンス。

 

 続き、

『遺伝子にパイロット情報の一部を検知。』

 

 気付く、パネルに映し出されている暗闇に浮かぶ光の渦。

 

 知っている名前で、

「星雲?」

 その渦を呼ぶ。

 

 その言葉を聞かなかったかの様に、

『正式なパイロットと認証。』

 アナウンスは淡々と続けた。

 

 暫時。

 

 それは、アナウンスの内容を理解するまでに要した時間。

 

 振る首は、

「パイロットって…。」

 コクピット内を見回す。

 

 その結果は…。

 

 驚き。

 

 見開いた目が、

「知っている…。」

 その衝撃の大きさとなる程に。

 

 半開きの口から、

「何で、俺は…。」

 自分への、

「見た事もないものを知っているんだ…。」

 問い。

 

 答えはのは、

『その質問の解答を…。』

 先程と同じ、

『私は持ちません。』

 アナウンスの声。

 

 驚きの顔を、

「今…。」

 違う驚きが、

「私って…。」

 上書きし、

「お前は、誰だ!」

 声の出処を探し首を振る。

 

 つぶさに、

『私は【ギンガ】…。』

 答えるのは、

『このモビルスーツ【ガンダム・ギンガ】の制御AI…。』

 アナウンスの声。

 

 三度目の上書きは、

「ギンガ…。」

 驚きを通り越し、

「俺と同じ名前?」

 無表情に近くなる。

 

 またも、

『その質問の解答を私は持ちません。』

 同じ答えだが、

『ただ、遺伝子にパイロット情報があるという事です。』

 続きがあった。

 

 その返しが、

「AIなのに…。」

 ギンガの表情に、

「人間みたいな答え方する?」

 異なる驚きを浮かび上がらせた。

 

 頭の中を、

〘俺の知らない間に技術は進んでいるって事か?〙

 考えが巡る。

 

 

 

『アラート!』

 

 警告音の響が、コクピット内を埋め尽くす。

 

『アラート!』

 

 警告色の赤が、コクピット内を染め上げる。

 

 続き、

『敵モビルスーツ接近。』

 アナウンス。

 

 そして、正面の壁が風景に変わる。

 

 映し出されたのは天井。

 

 円筒形コロニー特有の寝転がった状態で見える空の街並み。

 

 音と、

『ピッピ。』

 共に注釈線が指す風景の一部。

 

 それに釣られる視線。

 

『熱源…。』

 アナウンスを遮る音と振動。

 

 訂正。

 

 音は、爆音。

 

 振動は、強振。

 

 体を支える場所を探した両手は、

「クッ!」

 この為に用意されたのではないかと思えるレバーを握る。

 

 左右に振る首は、

「今のは?」

 無意識にモニターの向こうに原因を探る。

 

 当然の様に、

『敵モビルスーツの攻撃です。』

 答えるAI。

 

 恐怖が全身を駆け巡り、

「俺は…。」

 具体的な、

「死ぬのか…?」

 イメージへと昇華される。

 

 

 トリガー。

 

 引き金。

 

 スイッチ。

 

 その辺りであろう言葉で形容されるもので、遺伝子に組み込まれた記憶が蘇える。

 

 それが、本人の無意識を刺激した。

 

 その痕跡が、瞳の奥に映した星雲であったのだが、誰も見る者はいない。

 

 押し込むレバーが、

『グィ!』

 目覚めろと音を出す。

 

 踏み込むペダルが、

『グィ!』

 立ち上がれと音を出す。

 

 全身を震わせる規則的な小刻みの鼓動が、モビルスーツから人間へ伝わる。

 

 それは【目覚めの時】の合図。

 



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あの日

 

 物思いにふける艦長の脳裏に蘇るのは、あの日の事。

 

 

 

 月面都市フォン・ブラウン。

 

 そこに隣接する軍事基地。

 

 

 降下するエレベーター。

 

 その匣は、貸し切りであった。

 

 こんな時、階数を表示するパネルを無言で見つめるのは人の性。

 

 

 停止と共に、

『ポーン』

 軽い音で到着を知らせた。

 

 開いた扉の先は、薄暗い廊下。

 

 人通りどころか、人の気配さえ無い。

 

 一瞬の躊躇の後に、足が体を匣の外へと運ぶ。

 

 

 廊下の先の角を幾つか曲がり、

「こんな場所があったのか…。」

 口の中で感想を言わせた場所。

 

 そこが指定された部屋。

 

 

 右の人差し指をインターホンへかけ、口を次に出す言葉の頭文字に整える。

 

 音が、

『フォーン。』

 来たと伝える。

 

 音が、

『ガシャ。』

 解ったと返した。

 

 肺から送られた空気が、喉で声に変換される。

 

 その直前。

 

 インターホンからの、

「入りたまえ。」

 命令。

 

 口は、

「はい。」

 違う形となった。

 

 自動扉の開閉音が、

『ウィーーン。』

 入室を許可した。

 

 

 掲げた右腕の、

『バシッ!』

 形が対峙する人物への敬礼を作る。

 続き、口が形を整え始める。

 

 

 またも。

 

 その言葉が、

「堅苦しいのは…。」

 口の形を、

「無しでいこう。」

 変えさせた。

 

 そして、

「はい…。」

 同じ言葉を変換した。

 

 

 違和感。

 

 この部屋に入ってから感じる何か。

 

 無意識に始まる自問自答と目の動き。

 

 目の前のソファーセットにか?

 

 奥の執務机の上官にか?

 

 その横の女性秘書官にか?

 

 それとも、部屋の全体にか?

 

 それぞれに、質問と共に送られる視線。

 

 だが、答えるものなどいない。

 

 

 人懐こい。

 

 軍人よりも営業職のサラリーマンと言った雰囲気。

 年は艦長よりも少し若いが、全体的に丸いフォルムは小太りと言われる。

 

 そんな上官が執務机から立ち上がり、

「かけたまえ。」

 ソファーを勧めた。

 

 この言葉が自問自答の終了宣言となった。

 

 そして無意識に、

「失礼します!」

 堅苦しくするのは軍人としての性。

 

 ソファーへ腰を下ろすと同時に、

「コーヒーでよいかね?」

 聞いてくる。

 

 考える間もなく、

「はい。」

 反応で返していた。

 

 首を秘書官へ向け、

「コーヒーを二つ頼むよ。」

 命令ではなく、お願いをした。

 

 無表情で、

『こくり。』

 軽く頷き了解とした秘書官は、向きを変え、

『くるり。』

 部屋の隅へ頼まれたコーヒーを入れに行く。

 

 その後ろ姿を無意識に視線で追う艦長。

 

 

 その声で、

「艦長職。」

 視線を戻すと目の前に上官が腰を下ろしていた。

 向ける顔の表情は、

「就任おめでとう。」

 声と共に優しい笑顔の上官。

 

 咄嗟に、

「ありがとうございます。」

 返すのも軍人の性。

 

 

 重圧。

 

 プレッシャー。

 

 気迫。

 

 鬼気。

 

 放つ気の質が、

 「さて…。」

 変わり、室内を満たす。

 

 

 前のめり。

 

 それは艦長の身体が反射的に防御の姿勢を取った結果であった。

 

 

 部屋の空気に何か異質なモノが混じり、粘りを伴い重くなる。

 

 そんな時間が静寂と共に流れる。

 

 凛と響く女性の声が、

「失礼します。」

 時間を動かし音を戻した。

 

 陶器独特の音を出し、

『カチャン。』

 置かれる湯気を上げるカップ。

 

 艦長へ勧め、

「冷めない内に…。」

 自分も手を伸ばす上官。

 

 言われ、

「はい。」

 手を伸ばす艦長。

 

 熱い一口。

 

 驚き。

 

 その味もあるのだろうが、何よりも自分の口の中が乾いていた。

 

 染み渡る水分は、砂漠に降る雨の如く口の中を潤していく。

 

 そう、緊急が口の中から喉を干上がらせていたのだと知る艦長。

 

 その表情を、

「合成だが…。」

 見てか、

「いけるだろう?」

 笑みかける。

 

 しかし、放つ重圧に似た雰囲気は変わらない。

 



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レポート

 

 単に、

『カチャン。』

 ソーサーに置かれたカップが出した小さな音。

 

 合図。

 

 ソファーにかけたまま、

『チラリ。』

 鋭い視線を送り、間とする上官。

 

 ゆっくりと前かがみの両膝に、

「本題に…。」

 乗せた両肘を立て、

「入ろうか。」

 手を組む。

 

 よく見るポーズ。

 

 

 空調で温度と湿度か管理されているはずの部屋。

 

 だが…。

 

 下がる温度。

 

 乾く空気。

 

 その両方を肌で感じる艦長。

 

 

 釘。

 

 それも特大。

 

「これから話す事は…。」

 

「一切、記録に残す事も許されない。」

 

「一辺のメモにもだ。」

 

「君の記憶にだけ残す事を許される話だ。」

 

 ゆったりと取る間で、言葉を心に刺し止めていく。

 

 

 返答の代わりに軽く頷く艦長。

 

 

 満足げに、

「よろしい。」

 その目が笑う。

 

 そして、

『ふーっ。』

 ひと呼吸。

 

 

 切り出しは、

「あれは…。」

 小さく。

 

「第二次月資源調査の時の事だ…。」

 

 思い出す、

〘第二次だと、ダークサイド側か?〙

 艦長。

 

「調査地点七十八番…。」

 

「人類は異文明と初の接触した。」

 

 飲んだ固唾が喉を鳴らし、

『ゴクリ。』

 部屋を響として走り回らせた。

 

「後に【モビルスーツ】と呼ばれるモノを発見したのだ。」

 

 理解を超えた話は、

「えっ!?」

 驚きを通り越し、混乱の領域へ思考を到達させた。

 

 送る視線で、

『チラリ。』

 艦長の表情を監査。

 

「驚くのも無理はない。」

 そこには、

「私も最初に知った時は同じ表情だったろうからな。」

 軽い作り笑いが浮んでいた。

 

 それは、

「はぁ…。」

 曖昧な相槌。

 

 それを見る目は、

「発見したものを研究し我々が使っているモビルスーツが造られたのだよ。」

 明らかに艦長の反応を楽しんでいた。

 

 

 それは、

「ちなみに…。」

 作為的に、

「だ…。」

 作られた間は…。

 

「学者先生達は、発見されたモビルスーツを…。」

 

「遺物【Relic(レリック)】」

 

「未知【X(エックス)】」

 

「原型【Original(オリジナル)】」

 

「発見場所【78】」

 

「それを組み合わせ【RX‐O−78】と呼んでいたがね…。」

 

「まあ…。」

 

「あれだ…。」

 

「私も、便宜上【RX-O-78】と呼ぶがね。」

 

 呆れたと言葉に込めていた。

 

 

 内容に緩急を付け際立たせた、上手い話し方である。

 

 

 

「【RX-O-78】が、月にあった意味は解らないが…。」

 

「【RX-O-78】が、存在する意味は一目瞭然だった。」

 

 

 二人の間に、

『…。』

 沈黙が流れ間となる。

 

 

 切り出したのは、

「戦争…。」

 艦長。

 

 相槌は、

「うむ…。」

 上官。

「戦闘用の機体。それが見た者、全ての意見だ。」

 

 

 眉唾もの。

 

 当然、そんな言葉が艦長の頭を過る。

 

 その表情を読み取ったかの様に、

「研究が進み…。」

 秘書官へ一瞬、送る視線が、

「【RX-O-78】の内部データにアクセスできた…。」

 合図となり近付いて来る。

 

 そっとテーブルに、

「これを…。」

 紙束を纏めたファイルを置く秘書官。

 

 

 頷き、

「拝見します。」

 艦長の右手がファイルを開く。

 

 そこには、手書きのレポート。

 

 右隅にクリップで留められた化学反応で現像された一枚限りの写真。

 

 

 釘付け。

 

 レポートを読み進める艦長の紙を捲る音が、

 

『パラリ。』

 

『パラリ。』

 

『パラリ。』

 

 この部屋を静寂で満たす。

 

 

 一枚のレポートを読み終えたタイミングに、

「お代りをどうぞ。」

 入れたての香りで刺激するコーヒーが置かれた。

 

 手を、

「ありがとう…。」

 伸ばす艦長。

 

 覚えているのは、最初の一口。

 

 いつの間にか、飲み終えていたコーヒー。

 

 だが、レポートの内容が喉を干上がらせる程に緊張させていた。

 

 温かい一口が、

「ふう…。」

 艦長の…。

 

 いや、部屋全体を一息付かせた。

 

 

 そして…、

 

『パラリ。』

 

『パラリ。』

 

 また、レポートを読み耽る艦長。

 



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『パタン。』

 

 その音が、示すのは〔終わり〕。

 

 そう、読み終えたのだ。

 

 艦長の心に、音と共にレポートが余韻を残しながら。

 

 

 レポートの内容に引かれ、前のめりの身体を頭からゆっくりと起こす艦長。

 

 上げた視線が、

「どうかね?」

 目の前の上官とぶつかる。

 

 

 ゆっくりと行う瞬きで、

「そうですな…。」

 間を取る艦長。

 

「人としては、とても受け入れられない…。」

 伸ばした語尾は、

「が。」

 否定となる。

 

 それは上官の、

「が?」

 短い質問となる。

 

 その目に、

「軍人としては、受け入れます。」

 誇りと意志を宿す艦長。

 

 上官の口元が、

『ニヤリ。』

 作る形が音を出し、

「よろしい。」

 目が宿す光が、

「上層部が選んだだけはある。」

 愉しいと笑う。

 

 視線が先行し、

「アレを…。」

 首が追従する。

 

 その先の秘書官は、

『こくり。』

 無言で頷き、

『カツカツ。』

 向かったのは執務机。

 

 

 屈み、

『カチャカチャ。』

 昔ながらの鍵で引き出しを開け、取り出す黒のアタッシュケース。

 

 ソファーの二人は、その一連の動作に視線を送り続けた。

 

 

 アタッシュケースを抱え、こちらへ向かってくる秘書官は、二人の視線を全く気にする風もなく歩みを進める。

 

 

 向かい合う艦長と上官の間のソファーテーブルの上に、

『スーッ』

 持ってきた秘書官が音を出しアタッシュケースを置いた。

 

 

 我々が知るアタッシュケースのロック部分二箇所に、

『ピッ!』

 それぞれの親指を、

『ピッ!』

 当て指紋を認証させる上官。

 

 方法は違えど、

『ガチャ!』

 同じ音で開いた。

 

 その中身を見せる様に、

「これを…。」

 艦長へ向ける。

 

 視線を、

「これは?」

 落としながら疑問を口にする。

 

 瞳の奥に、

「そうだな…。」

 悪戯する子供の、

「例えるなら…。」

 輝きを、

「鍵。」

 宿し答えた上官。

 

 鍵と言われたものを、

「鍵…。」

 見詰めながら、

「ですか…。」

 その真意を確かめる様に繰り返す艦長。

 

 その反応に、

「それも…。」

 満足したように、

「【パンドラの箱】のね。」

 続けた上官。

 

 はっと、顔と共に上げた視線は、

「まさか…。」

 上官とぶつかる。

 

 更に、

「そのまさかだよ。」

 愉しそうな表情を浮かべた。

 

 見開いた目は驚きを、開いた口元は呆れを、それぞれが浮かべ複雑な表情となった艦長。

 

 話はゆっくりと、

「艦長が着任する新造戦艦は…。」

 表情もゆっくりと、

「正に【パンドラの箱】なのだよ。」

 共に固く、現実味を帯びる。

 

 また、視線を鍵と呼ばれたものに落とし見詰める艦長。

 

 それは透明な合成プラスチック製で、我々の知る名刺程の大きさ。

 見る角度によって、薄っすらと基盤プリントの幾何学模様が透けている。

 我々が思う想像するものとは全く違う宇宙世紀の鍵であった。

 

「それを使えば…。」

 先程まで艦長が呼んでいたファイルへ、

「その内容が…。」

 一瞬、

「公開される。」

 視線を送る上官。

 

 見開いた目は、

「まさか…。」

 更なる驚きと、

「敵ですか!?」

 直感。

 

 一瞬、

「敵と証(しょう)すには…。」

 浮かんだ表情は、

「時期尚早かもしれんがな…。」

 複雑。

 

 鋭く刺す視線が、

「敵ではないと?」

 上官の表情から情報を読み取ろうとする。

 

 上官は、

「断言はできん…。」

 おくびにも出さず答えた。

 

 

『ゴクリ。』

 艦長の固唾を飲む音が合図であった。

 

 室内を静寂が満たし、時間を止めた。

 

 

 それを、

「故に…。」

 打ち破るったのは、

「現場に判断を任せる。」

 上官。

 

 またも、

「なるほど…。」

 鍵を一瞥し、

『ゴクリ。』

 全ての事を心の中で飲み込んだ艦長。

 

 

 深く掛けたソファーより、立ち上がる上官。

 

 反応は早く、一瞬遅れで立ち上がる艦長。

 

 キリリと、

「これより、新造戦艦にてコロニー07へ向かい。」

 真顔は、

「専用モビルスーツを搬入。」

 軍人そのもので、

「後に、試験運用開始を命ずる。」

 あれ程に、

『バシッ!』

 堅苦しさを嫌っていた上官の敬礼は重かった。

 

 返す敬礼は、

『バシッ!』

 軍人として、

「了解しました!」

 全てを、

「これより、新造戦艦にてコロニー07へ向かいます!」

 受け入れたとの証。

 

 屈めた身体から伸びた腕が、アタッシュケースの蓋を閉める。

 そして、その鍵に自分の両親指の指紋を登録し施錠とした。

 

 

 開く扉を背にし、

『バシッ!』

 上げた右腕が、

「失礼します!」

 敬礼を作る。

 

 部屋を出た艦長の、

『ウィーン。』

 余韻を自動扉が引き継いだ。

 

 

 

 



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一時(ひととき)

 

 その声と共に差し出された、

「ほら…。」

 芳しいカップ。

 

 その手の先には、鋭い視線に変わった秘書官だった女性。

 

 見詰めていた自動扉から、

「ありがとうございます。」

 視線を落とし受け取る。

 

 一口。

 

 広がる苦味が、一段落の終わりを告げた。

 

 一息。

 

 そんな時間が部屋を満たす。

 

 そして…。

 

 ゆっくりと首を、

「よろしかったのですか?」

 巡らせた先に、

「大尉殿…。」

 投げかけた。

 

 一口飲んだカップを、

「何の事だ?」

 離しながら視線を落とす大尉と呼ばれた女性。

 

 次に体の方向を、

「【鍵】の事ですよ。」

 変え、

「押し付けて、良かったのかと…。」

 向き合う。

 

 

 残ったカップの中身を、口の中に解き放ち香りで満たす。

 そのまま、目を閉じ堪能する。

 

 まるで会話等無かったかの様に、ゆったりと取られた間。

 

 そして、ゆっくりと開かれた目に、

「存在しない人間には…。」

 微笑を讃えた口元は、

「責任は取れんだろう?」

 愉しそうに見えた。

 

 出たのは、

「はぁ…。」

 ため息か同意か、

「確かにそうですが…。」

 曖昧であった。

 

 新たな切り出しは、

「だが…。」

 含みを持ち、

「責任を取れるように動くのが…。」

 一瞥する瞳の奥の、

「これからの我々の仕事だ。」

 光は鋭かった。

 

 気付き、

「そ、そうですな。」

 はっとする。

 

 そして、緩めた口元が、

「それに…。」

 再度微笑へと変わり、

「あの艦長なら大丈夫だ。」

 悪戯っ子の表情になる。

 

 目と口元が、

「ほう?」

 知りたいと、

「何故です?」

 言葉以上に語る。

 

 言葉と共に、

「あの艦長…。」

 送る視線は、

「この部屋に違和感を感じていたぞ。」

 冷ややかであった。

 

 上げた声と、

「えっ!?」

 共に見開いた目は、

「気付きませんでした。」

 驚いたと言った。

 

 そして、部屋の中を見回し確認するが、不自然な所は見付けられず。

 

 

 変化。

 

 少し下ろした、

「中佐。」

 瞼の奥から、

「貴様は…。」

 放つ視線は、

「まだまだだな。」

 愉しげに笑う。

 

 乾いた笑いは、

「ははは。」

 恥ずかしさを、

「そうみたいですな。」

 隠す。

 

 戻る視線の、

「しかしだ、この部屋のこしらえを…。」

 鋭さは、

「用意した部署の者に喝を入れてやらねばな…。」

 束ねる者の責任感。

 

 驚き、

「えっ!?」

 上げる声に、

「それは…。」

 慌てる台詞。

 

 その姿を、

「何かね?」

 楽しむ瞳。

 

 暫時。

 

 その表情は、

「これを…。」

 思い付いたと語り、

「用意したって事で!」

 見せるカップ。

 

 視線を、

「これかね?」

 香りを含む湯気を上げる漆黒の液体に落とす。

 

 それは、

「そうです!」

 屁理屈でも、

「合成とはいえ…。」

 勝ちを、

「急ごしらえで、これを用意した功績に免じて…。」

 もぎ取ろうとする意志。

 

 今だ、

「ふむ…。」

 鼻腔を擽(くすぐ)る香りが、

「…。」

 十分な説得材料となる。

 

 一口。

 

 また、カップの中身を口の中にを香りと共に広げた。

 

『ゴクリ。』

 

 それは、喉を楽しませながらゆっくりと落ちて行った。

 

 口から遠ざかるカップに、

「これに、免じて…。」

 視線を送り、

「今回は許してやろう。」

 口元に浮かべる表情は愉しげであった。

 

 勝ち取った勝利を、

「ありがとうごます。」

 言葉にし、

『ゴクリ。』

 美酒の代わりに、苦いコーヒーで口を満たした。

 

 その様子を見る目は、微笑んでいた。

 

 そして、最後の一口。

 

 広がった香りは、口が別れが名残惜しいと寂しがり、待っていた喉は出会いを喜んだ。

 

 

 それは、

「さて…。」

 終わりの始まり。

 

 目の輝きが、安らぎから任務へと移行する。

 

 見据えられ、

「これから、忙しくなるぞ。」

 表情が軍人へと変化した。

 

 無意識に、

「はい。大尉。」

 表情が閉まっていた。

 



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対峙

 

 それは、

『ウォウォウォン。』

 機械の心臓の鼓動。

 

 それは、

『グィンインイン。』

 機械の筋肉の軋み。

 

 

 揺れないメインモニターは補正された結果。

 

 揺れる椅子はアブソーバーが吸収しきれない結果。

 

 それぞれが違和感を与えながらも、一体となる。

 

 

 巨体の身じろぎが、

『ピチッ!』

 覆い隠していたカバーシートのワイヤーを引き千切る。

 

 トレーラーの荷台より、

『グウォ。』

 左足が地面へ下りる。

 

 同じく、

『ギギィ。』

 左腕を地面を掴む。

 

 そのまま捩(よじ)り、

 『ゴゴゴ。』

 久々に動かす機体(からだ)は鈍(なま)っていると軋む。

 

 

 ゆっくりと…。

 

 確実に…。

 

 そして…。

 

 力強く!

 

 立てた両の脚は大地を踏む。

 

 

 

 一方。

 

 瓦礫に埋もれた一つ目の巨人。

 

 それは、まるで神話の出来事。

 

 ただ、違うのは目の前の出来事と言うことである。

 

 自らの力で、瓦礫を押し退け立ち上がる一つ目の巨人。

 

 

 武器を構え、右と左を往復する一つ目は何かを探す仕草。

 

 そして…。

 

 中央より、やや右よりで止まった一つ目。

 

『ニヤリ。』

 

 モビルスーツに感情があったなら、一つ目はそう笑っただろう。

 

 目の奥のカメラが自分を攻撃した、憎きバギーカーを捉えていた。

 

 一つ目の視線に連動し、巨大な銃口が追う。

 

 

 ドライバーは車の軽さを活かし、的を絞らせない蛇行運転。

 

 荷台でロケットランチャーを構える兵士は、

〘今度こそは!〙

 その思いを狙いにする。

 

 

 パイロットは、小賢しい奴とモビルスーツが持つマシンガンの狙いを付ける。

 

 

 兵士とパイロットの互いがトリガーに掛ける指が照準とシンクロ。

 

 偶然…。

 

 否!

 

 必然。

 

 同時に、引かれるトリガー。

 

 巨大な銃口が、

『ドウッ!』

 火を吹く!

 

 四つ正方形に並んだ発射口の、

『ボウッ!』

 次の出番が火を吹く!

 

 交差する弾と弾。

 

 

 互いは狙いを外した。

 

 だが、それぞれは違う意味を持っていた。

 

 

 モビルスーツへ放たれた弾は、外れたのではなく外された。

 

 パイロットの意志に反応した機体が、飛来したロケット弾を交わした結果であった。

 

 その後、モビルスーツの後ろのビルへと着弾し一角を破壊した。

 

 

 バギーカーへ放たれた弾は、外れたのではなく避けられた。

 

 ドライバーの意志に反応した車は、着弾地点を避けた結果であった。

 

 しかし!

 

 その威力は、着弾した地面の周囲ごとバギーカーを宙へと飛び散らせた。

 

 そして…。

 

 バウンドする毎に、原型を留めなくなる。

 

 最後は、上を向いたタイヤが虚しく空気を回し続け、やがて動かなくなる。

 

 

 笑う。

 

 それは、一つ目の表情を表す的確な言葉。

 

 五月蝿い蚊を退治した様にスッキリしていた。

 

 そして、思い出した。

 

 全身で、そう言いながら見をよじり、本来の目的方向へ向く。

 

 

 驚愕!

 

 一つ目の奥に映る映像が、機体とパイロットの両方を硬直させた。

 

 そこには、トレーラーの荷台に寝ていたはずの標的が立っていたる!

 

 パイロットは、バギーカーに気を取られた事を後悔する様に、

『ギュゥ!』

 操縦桿を再度握り直した。

 



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重み

 

 何処か別の世界で、慌ただしく対応する艦橋のクルー達が近付いて来る。

 

 そう、艦長の現実に…。

 

 そして…。

 

 視線を落とした先の見詰める左の手の平。

 

 そこに残る感触はアタッシュケースの重さではなく…。

 

 世界の運命を左右する【パンドラの箱】の重さだった。

 

 

 遠くで、

「…。」

 響く。

 

 それは、

「…長。」

 次第に。

 

 近付き、

「艦長。」

 呼び掛けとなる。

 

 声の主へ、

「すまない…。」

 視線を向ける艦長。

 

 咎める事も無く、

「正体不明のモビルスーツは、現在三機。」

 淡々と、

「確認されました。」

 報告する副艦長。

 

 顎を右の親指と人差し指で、

「スリーマンセルか…。」

 掴み、

「セオリー通りだな…。」

 考える姿の艦長は、何処か上の空であった。

 

 

 そのまま…。

 

 艦長は、顎を掴んだままで。

 

 副艦長は、話し掛けたままで。

 

 そこだけが時間が止まる。

 

 

 再び、

「ふむ…。」

 動き、

「世の中に[まさか]は無いか…。」

 一人で納得する艦長。

 

 表情にも、

「どう言う意味でしょう?」

 理解不能だと出る副艦長。

 

 質問の答えだと言わんばかりに、

『フッ…。』

 ゆっくりと副艦長に視線と共に不敵な笑みを送る艦長。

 

 その笑みに…。

 

 視線の奥の瞳に…。

 

『決意。』

 

 そのものを見る副艦長。

 

 

 艦長の右手が、肘掛けに装備されている小型コントロールパネルへ伸びる。

 

 思い出す暗証番号。

 

 それをゆっくりと確実に打ち込む。

 

 終えると同時に、

『カシャ。』

 小さな音と共に、肘掛けの下側が二十センチメートル程、前方にスライド。

 

 そこに見えたのは、名刺を平置きにした窪み。

 そう、あの鍵が収まる場所。

 

 

 襟元のボタンを外し、首に掛けられていたチェーンを手繰(たぐ)る艦長。

 

 そして、現れるアノ鍵は透明なケースに入っていた。

 

 徐(おもむろ)に、

『バリッ!』

 力を込めケースを割る。

 

 それは、二度と戻れない今との決別の様でもあった。

 

 その行為が、

『コトリ…。』

 音を出し、アノ鍵を窪みに収めた艦長。

 

 

 待っていた。

 

 確かに、そう言っていた。

 

 窪みの周りから幾つもの薄い緑の光の筋が伸び、鍵の内部にプリントされた基盤を走り回る。

 

 やがて、光が中央に鍵の中央に収束し、緑の光の円を作った。

 

 

 点滅。

 

 それは、緑の光の円が行う確認作業。

 

 

 変色。

 

 緑が、赤に!

 

 その色が伝えるイメージが、周囲に緊張をもたらす。

 

 

 点滅。

 

 それは、赤の光の円が行う確認作業。

 

 

 散る。

 

 赤の光が、緑の光が通って来た回路(みち)を逆に走る。

 

 それは、同じく鍵の中を駆け巡ると、窪みの外へと走り出る。

 

 

『カチン。』

 

 小さく響く音が、飛び出た肘掛けの一部を元の位置に戻したと報告する。

 

 

 表示。

 

 一番大きな艦橋の天井に取り付けられているものを始め、部屋の呼び出しインターホンに至るまでの大小のサイズ、用途にかかわらず艦内の全てのモニター画面に、それは起きた。

 

 表示された進行状況を示す円形のゲージ。

 

 円形なのだが、プログレスバー。

 

 その中央にあるのは鍵穴のアイコン。

 上部が円形、下部が三角形でお馴染みのアレ。

 

 

 進行を現れしているであろう目盛が、進み面積を増やしていく。

 

 

 ALL一色。

 

 何とも変な合成語ではあるが、この言葉通りに円形のプログレスバーを、赤が染め上げる。

 

 

 目の前のモニター画面を何事かと、

「えっ!?」

 見ていたオペレーターの女性が上げた驚きの悲鳴。

 

 

 プログレスバーの中央の鍵穴のアイコンが、突如消えた。

 

 同時に、ブラックアウト。

 

 それが、同じく全てのモニター画面で起きていた。

 

 

『ブォーン。』

 

 低い唸りを伴う音と共に再起動されたモニター画面。

 

 否。

 

 再起動されたのは、この戦艦そのもの。

 

 そして、画面に表示される…、

 

 【P.R.M .T.E】

 

 の文字。

 

 それを確認し、ゆっくりと頷き肘掛けの受話器へ伸びる右手。

 

 ストッパーの外れる、

『カチャリ…。』

 小さな音が艦橋内に響き、

『カチッ』

 艦内放送のスイッチが入れられた。

 

 次の言葉の頭文字の形に口が開き、肺より送られる息に備える。

 

 徐に始め、

「艦長より全クルーへ。」

 間を取り、

「艦長より全クルーへ。」

 繰り返した。

 

 響くのは人の発するもの以外の音。

 

 それ程に、重みのある口調だった。

 

 間をリズムとした話方は、内容にリアリティを持たせる。

 

「現在より、【パンドラの箱】の情報を解禁とする。」

 

「これは、全人類の未来に関わるものである。」

 

「加え、本艦は指揮艦としての任務に付くことになる。」

 

「各自、更新されたデータに即時対応しろ。」

 

 考えれば無理難題であるが、誰一人として異論を唱える事なく、モニターに向かった。

 

 

 戻す受話器が、

『カチャ。』

 ストッパーに収まり、艦内放送を終える音。

 

 だが、それは…。

 

 【パンドラの箱】の底に、残されているはずの[希望]を願いながらも、不安な未来の海原へ漕ぎ出した音でもあった。

 

 

 体は無意識に、両膝に立てた腕の先で指を組み顎を乗せた艦長。

 

〘それにしても…。〙

 

 その姿は、考え事をしていると語る。

 

〘【P.R.M .T.E(プロメテ)】とは、なんとも皮肉の効いた名前だな…。〙

 

 口元が、

『フッ…。』

 皮肉の効いた、

〘我々、人類が異文明の高度な英知を盗んだ咎人(とがびと)なのだな。〙

 笑いを浮かべる。

 



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立つ

 

 

 天を向いていたカメラの視点が、機体の駆動音と共に次第に水平へ向けられる。

 

 そして、椅子の背もたれに掛かっていた重力が座面へと移行した。

 

 踏みしめた両の脚が大地を捉え、

『ビコーン。』

 両目が完全起動状態を示す輝きを放つ。

 

 

 合う。

 

 二つの目と、一つの目の奥のレンズの視線がぶつかる。

 

 

 音を出し、

『ピピピッ!』

 画面に表示させたと知らせる。

 

 そこには、目の前のモビルスーツに注釈線が付き、詳細なデータがあった…。

 

 

 名前:Uka−Z(HMS−066)

 所属:帝国軍

 ……

 …

 

 

 が!

 

 今のギンガに読む余裕は無かった。

 

 焦り。

 

 戦いの緊張が目の前のモニター越しに、圧力となってギンガへ浴びせられる。

 

 

 一つ目がゆっくりと上げる、

『ギラリ。』

 銃口が音を出す。

 

 

 思わず、

「ぶ、武器は!?」

 声を上げるギンガ。

 

 モニターの風景が、

『ピピピピッ』

 網状の光で分割される。

 

 俗に言うスキャン。

 

 そして…。

 

 答えるも、

『右前方のトレーラーに、専用のビームライフルとシールドがあります。』

 ギンガ。

 ただし、モビルスーツのAI。

 

⚠今後は、人間の方を只の【ギンガ】と、モビルスーツの方を【AIギンガ】と称します。

 

 続け、

『肩のビームサーベルは使用可。』

 

 咄嗟の、

「くっ!」

 声と、

『グイッ!』

 共に操縦桿を押し込むギンガ。

 

 意識はトレーラーへ行き、

『頭部バルカン…。』

 AIギンガのナビゲーションは聞いてはいないギンガ。

 

 

 泳ぐ。

 

 一つ目のモビルスーツが、ターゲットのモビルスーツの反応の早さに、銃口を合わせきれない。

 

 

 驚き。

 

 踏み出しから、トレーラーの荷台へ伸ばした腕が掴むビームライフルとシールド。

 

 その手際は、ギンガの知るどのモビルスーツよりもスムーズであった。

 

 

 右腕に装備されたライフル。

 

 画面に[オンライン]の文字が表示され、【ターゲットマーカー】が現れる。

 ビームライフルは、その状態を表す緑の光が点らせた。

 

 

 左腕に装備されたシールド。

 

 画面に[オンライン]の文字が表示され円形の【ゲージ】が現れた。

 シールドは、その状態を表し灰色の表面を赤く色付かせた。

 

 

 モビルスーツ乗り。

 

 そんな言葉が、ベテランでは無いにしても、戦いを掻い潜ってきたという自負が遅れた反応を取り戻させる。

 

 その一つ目が、

「させるか!」

 そう叫び…、

 

『ドウッ!』

 

『ドウッ!』

 

『ドウッ!』

 

 引かれたトリガーに、コンマ遅れ銃口を反応させた。

 

 

 機体を、

『ドゥン!』

 媒体として、

『ドゥン!』

 音と、

『ドゥン!』

 振動をギンガに伝える。

 

 それは、

「くっ!」

 食いしばる声。

 

 その後ろで、

『機体のダメージはゼロ…。』

 流れるアナウンスをギンガは聞いていない。

 

 そして、行われたのは極自然な反応。

 

 いや、反射。

 

 操作する操縦桿の動きが、画面のターゲットマーカーにつぶさに伝わる。

 

 コクピットで引かれた、

『カチッ。』

 トリガーの音が、

『ドウ!』

 まさに引き金となり、銃口から光の柱が放たれれる。

 

 ビームは持つ熱量で周囲の大気をプラズマ化させ、一直線に伸びる。

 

 

 命中。

 

 ターゲットは反応出来ず、その光の柱を受けた。

 

 ただし、左腕と左肩から下がったシールドへ。

 

 融解。

 

 そして…。

 

 爆発。

 

 シールドが飴細工の様に溶け、内側に装備されていたミサイルの残弾が誘爆した。

 

 ビームの威力は、その爆発をも消し飛ばす。

 

 そして…。

 

 その圧力に耐えられなくなった両脚は、立っていることを止めた。

 

 

 

 

 不満。

 

 飽き足らぬ。

 

 食い足らぬ。

 

 破壊し足らぬ。

 

 それがビームの威力。

 

 

 そして、新たな目標(ターゲット)を見付ける。

 

 ビル。

 

 それが、名前。

 

 一瞬。

 

 それでも、よく持ったと褒めるべきだと…。

 

 

 複数のビルを融解させたビームは、その威力のままに大地を抉(えぐ)る。

 

 大地は、その下の隔壁へ警告を伝える間もなく蒸発し、コロニーは巨大な穴を穿(うが)たれた。

 

 

 満足。

 

 久々の獲物を堪能したビームは、宇宙(そら)を駆け、果(はて)へと消えて行った。



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野心、再び

 

 

 見開いた目。

 

 小刻みに上下する頬。

 

 小さく開かれた口。

 

 総じて、放心状態。

 

 

 自分の行為で起きた事が、許容量を遥かに超えていた。

 

 

 [惨劇]

 

 まだだ。

 

 [人災]

 

 足りぬ。

 

 [厄災]

 

 

 暴風。

 

 穿たれた穴より、真空がコロニー内に満ちる空気を吸い出す息吹の風。

 

 それは、正に!

 

 風穴。

 

 

 そこから…。

 

 木が…。

 

 車が…。

 

 そして…。

 

 人が!

 

 無慈悲な真空の空間へと放り投げられた。

 

 

 ようやく、

「そ、そんな…。」

 絞り出す声は、

「つ、つもりは…。」

 自らの行為を正当化しようと努力する。

 

 その後ろで、

『銃口誤差補正完了。』

 AIギンガのアナウンスが流れる。

 

 

 

 急激な気圧の変化に、自分の仕事を思い出す備え付けの装置。

 

 風船。

 

 それは、開いた口が吐き出す命を守る白い玉たち。

 

 吸い出させる速度と同じ速さで穿たれた風穴に向かう。

 

 破裂。

 

 群がる白い玉たちが歓声を上げ、仕事を始める。

 

 それは、粘るゲル状に変わり、互いに手を繋ぐと風穴を塞いでいった。

 

 風穴だったものを穴に変える。

 

 更に白い玉は押し寄せ、穴だったものに変えると、装置は満足げに、白い玉を吐き出すのを止めた。

 

 そう、空気と命の流出は止まった。

 

 

 

 空。

 

 その先に見える、天井の街並み。

 

 ビームの圧力は、左腕を消し飛ばし、モビルスーツを後ろへと転倒させていた。

 

 

 後悔。

 

 遠心力による人工重力を背中に感じながら、自分の軽率な行いを悔やむ。

 

 そして、思い出す自分達の任務を…。

 

 ターゲットの偵察。

 

 只、それだけ。

 

 だが、出世の欲望に駈られ大きな手柄を上げようと得られたのは、自機の左腕大破であった。

 

 

 数時間。

 

 数分。

 

 数秒。

 

 否!

 

 一瞬。

 

 それは、我を取り戻すまでに要した時間。

 

 操縦桿を引き、

『グォォォン。』

 モビルスーツの上半身を少し起こす。

 

 視界。

 

 正確には、一つ目の奥のカメラから繋がるコクピットのメインモニター。

 

 そこに、浮かんだ疑問の答えが映る。

 

 ビームライフルを構えた状態のままに、ただの像の様に微動だにしないターゲットのモビルスーツ。

 

 それが、今だ自分の機体が健在な理由であった。

 

 そして、一つ目の奥に新たな疑問が浮かぶ。

 

 故障か?

 

 否。

 

 稼動状態を示す両目に、全身各所の輝きも健在であった。

 

 

 鳴る、

『ピピピッ。』

 告知音。

 

 友軍機の接近をメインモニターが、小窓を開き背面の状況を映しだす。

 

 正確には、接近するのは一機。もう、一機は離れた場所から全体を見渡している。

 

 この状況を表す[潮時]の言葉が浮かぶ。

 

*[潮時]は、物事をするのに良い時期。チャンス。

 

 再び、

〘まだ、やれる!〙

 点る野心の炎。

 

 半ば融解したマシンガンを離し、自由になった右腕で人工の大地を掴み、身を捩る。

 

 立て直し。

 

 片腕でバランスを保ちながら、両の脚を立てて行く。

 

 片膝立ち。

 

 ようやく、左膝を地面に押し当て、右膝を立てた。

 

 残った右腕を、

『グイッ。』

 音を出し引き上げる友軍のモビルスーツ。

 

 その助けで、行程を省略し立ち上がる。

 

 無くした左腕が、

『グラッ…。』

 機体を偏心(へんしん)させ、直後バランサーが働き機体を安定させた。

 

 同じ擬音だが、

『グイッ。』

 方向が違えば、

『グイッ。』

 意味が異なる。

 

 友軍機が引くのは後ろ。

 

 それは、引き上げの合図であった。

 

 この状況を考えれば、当然であろう。

 

 体を捻り反動を付け友軍機の腕を、

『ガィーン。』

 払う金属の擦れる音が響く。

 

 拒否。

 

 その仕草であった。

 

 

 払った右腕の先…。

 

 右手が、腰の後ろへと回され視界から消える。

 

 再び現れた右手が握っていたのは…。

 

 腕よりも少し短い棒の先に、扇状の塊が付いた得物(えもの)。

 

 それは、我々が知る【斧】と酷似していた。

 

 

 踏み出す右足。

 

 追い、越える左足。

 

 繰り返され、速度が増していく。

 

 そう、駆けているのだ。

 

 肩口に構えた【斧】に威力を付ける為に。

 

 

 突き出した左腕の先に開かれた掌。

 

 それが、意味するのは古今東西[待て!]である。

 

 そう、駆け出した右腕だけのモビルスーツの行為を止める仕草。

 

 しかし、その仕草で止まるものが殆ど居ないのは、最早セットであるとも言える。



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 叫ぶ、

[アラート!]

 警報音。

 

 続き、

『敵モビルスーツ接近!』

 AIギンガが鳴らす警鐘。

 

 

 逃避していた世界からギンガを現実へ引き戻した。

 

 眼前に迫る、

「うわぁぁ!」

 モビルスーツがモニターの八割を占めた。

 

 一つ目が、

『もらった!』

 そう輝く。

 

 操縦桿に込めた力が扱う右腕通して、ビームライフルに伝わる。

 

 反射的に、

「駄目だ!」

 抜く力は、

「この武器は強力過ぎる!」

 トリガーから、

「また、コロニーが…。」

 離した。

 

 

 死神はモビルスーツ。

 

 振り上げる鎌は斧。

 

 それは、ガンダム・ギンガの命を狩る為に。

 

 

 隙き。

 

 迷う心が、瞬の遅延を作る。

 

 

 開幕。

 

 振り下ろされる斧。

 

 振り上げられる盾。

 

 攻防戦は、十分な体制を取れなかった盾の負けで始まった。

 

 

 斧はその威力で盾を押し込み支えの腕ごと体へ、ぶち当てる。

 

 そのダメージが、

「くっ!」

 機体を媒介にしてギンガを揺らす。

 

 直ぐ様、

『装甲へのダメージ軽微。』

 続き、

『内部構造体へも軽微なダメージ確認。』

 アナウンス。

 

 盾を支える腕に、

『スッ…。』

 かかる圧力が音を出し抜けた。

 

 直後!

 

 今までにない衝撃が、

『グワッン!』

 機体と共にギンガを四歩後ろへと歩ませた。

 

 またも、

『装甲へのダメージ軽微。』

 同じ内容の、

『内部構造体へも軽微なダメージ確認。』

 アナウンス。

 

 下がり、見えたのは敵モビルスーツのこちらへ伸ばした右脚とその足の裏。

 

 蹴り。

 

 それが敵モビルスーツより放たれていた。

 

 

 幸運。

 

 常に逆転する幸と不幸。

 

 喰らった蹴りの威力が作った距離がギンガに時間を与える。

 

 

 右の蹴り足が大地に降ろされ、重心を乗せられると踏み足へ変わる。

 

 フリーになった左足が次の踏み足となり、機体を加速させる。

 

 

 また、モニターを敵モビルスーツが占め始める。

 

 ギンガの視線が、

「駄目だ…。」

 コクピットから見えないはずのビームライフルへと向く。

 

 選んだのは、

「シ…。」

 左手の、

「シールド!」

 盾だった。

 

 

 それは…。

 

 十分な体制で差し出された盾と、

『グワァァァァァン!』

 助走を威力に換えた斧との共演。

 

 不服。

 

 斧を振り下ろしたものは、

〘気に入らぬ!〙

 音を失敗と感じ、

〘今度こそ!〙

 斧を振り上げる。

 

 

 盾を構えたものは、

「他に…。」

 音を成功と感じ、

「武器は無いのか!」

 声を張り上げる。

 

 答える、

『現在使用可能装備…。』

 AIギンガは、

『表示します。』

 メインモニターに小窓を開く。

 

 そこには、簡易的なガンダム・ギンガの全身像がワイヤーフレームで描かれていた。

 

 次に注釈線が走り、装備の状態を表示して行く。

 

 追うギンガの視線が、

「ビームサーベル!?」

 一つの装備で止まる。

 

 決断は、

「これなら!」

 早く、

「いけるか?」

 迅速に行われる。

 

 自分の罪から逃れる様に、

『ズドン。』

 手を離したビームライフルは、その形の窪みを地面に作る。

 

 そして、空いた右手は救いを求め肩口に装備されているビームサーベルへ伸びる。

 

 鯉口を切る。

 

 鞘の本体より少し浮き上がったビームサーベルは準備万端と抜かれるその時を待つ。

 

 掴む右手が引き抜く!

 

 ピンク色の刀身が形成と共に、

『ブォォォォォン』

 低い羽音の唸りを上げる。

 

 

 夢中。

 

 意識が向かない代表の例え。

 

 盾へと振り下ろす斧に、

『この!』

 集中し、

『この!』

 心で叫んでいた。

 

 そう…。

 

 その後ろで行われていた反撃の狼煙を見落としていた。

 

 

 手応え。

 

 操縦桿を通した、

『いける!』

 斧の感触。

 

 ほんの少し…。

 

 そう、ほんの少しだけ…。

 

 余剰に付けた振り被り。

 

 時間にして、コンマ・ゼロ以下。

 

 

 無意識が、

〘今だ!〙

 誘(いざな)い、

「このぉぉぉぉぉ!」

 腕に込められた力が操縦桿に伝わる。

 

 

 対決、再び。

 

 振り下ろされる斧。

 

 振り上げられる盾。

 

『ガィィィィィン!』

 

 盾の勝利。

 

 

 再び。

 

 振り下ろされる斧。

 

 振り上げられる盾。

 

 二度目の攻防戦は、十分な体制を取れなかった斧の負けだった。

 

 その差は、言わずもがなコンマ・ゼロ以下であった。

 

 不十分な速度と威力は盾により、斧そのものへと返される。

 

 そのベクトルは、肩の付け根を支点とし斧に弧を描かせた。

 

 更に、「まだ足りぬ!」と機体の重心へと襲いかかる。

 

 その事に、失った左腕が手を貸していたのは言うまでもない。

 

 よろけ。

 

 そう呼ばれる現象を誘発した片腕のモビルスーツ。

 

 その事態を収拾する為に、バランサーが全ての機能を取られる。

 

 

 容赦…。

 

 いや…。

 

 余裕の無い一撃。

 

 跳ね上げられた斧が、体を引っ張っるその時。

 

 右足の踏み込みから、

「いけぇぇぇぇぇ!」

 水平に繰り出された一閃。

 

 それが左脇から、

『クワァァァァァッ…。』

 入り…、

 

 

 最初に来たのは熱。

 

 次は、壁の破損。

 

 そして、知る死神の刃は美しいピンク色だと…。

 

 それが、モビルスーツを斬り裂き、ノーマルスーツへと届く。

 

 悲鳴。

 

 それを聞いたピンク色の刃はあざ笑い、自らの発する羽音でかき消した。

 

 

 …、

『ザシャン!』

 右脇へ抜けた。



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 重力。

 

 それは人工であれ、等しく作用する。

 

 跳ね上げさせられた右腕へ、

『従え!』

 重力が命令を出す。

 

 パイロットと言う主を失い、更に支える下半身から分断された上半身は素直に従った。

 

 ゆっくりと右側から、

『ズドン!』

 地面へ落ちた上半身は、

『ズシン!』

 軽くバウンドし仰向けで安定した。

 

 

 どれほどの集中力が、

「はぁ…。」

 肩で息をさせたのか、

「はぁ…。」

 額に滲む汗も、答える者のいない問い掛けをする。

 

 極自然に、

「やったのか?」

 ギンガの口から出た質問。

 

 答えるは、

『動力の停止を確認。』

 AIギンガ。

 

 

 祝砲…。

 

 否!

 

[アラート!]

 

 砲撃!

 

 それがガンダム・ギンガの機体を揺らす。

 

 メインモニターに注釈線が、

『ピピピッ!』

 砲撃主のモビルスーツのデータを表示する。

 

 それは、片腕を失ったモビルスーツを引き起こした場所に立ち、援護の位置としていた。

 

 

 仲間を殺られた感情が、

[憎しみ]

[仇]

[恨み]

 一つ目の奥に浮かぶ。

 

 

 白兵武器に対して、有利な射撃の距離。

 

 新たなマズルフラッシュが、弾丸を放ったと知らせる。

 

 着弾。

 

 それがガンダム・ギンガを、

「クッ!」

 揺らし、

「このぉ!」

 ギンガを揺さぶる。

 

 操縦桿に込めた力が、

「これなら!」

 機体の左腕に防御を指示した。

 

 構えた盾が砲撃を受け、

『ドゥ!』

 機体の揺れを少し軽減する。

 

[アラート]

 

[アラート]

 

 続き、メインモニターに新たな注釈線が浮かび、

『ピピピッ!』

 地面の落としたビームライフルを指し、状況を打破する選択肢を表示した。

 

 思い出す、

「駄目だ!」

 先程の惨劇に、

「コロニー内では使えない!」

 指示を拒否するギンガ。

 

 張り上げる声は、

「他に武器は無いのか!」

 怒りに近い。

 

 答えるは、

『ピピピ…。』

 メインモニターに開く小窓。

 

 揺れに耐えながら、

「使えるのは…。」

 追うギンガの視線。

 

 止まるは、

「こいつか…。」

 緑色の表示。

 

 

 突然、

『ポン!』

『ポン!』

『ポン!』

 響く音。

 

 その音に反応し、カメラが寄ったとメインモニターの小窓がアップ画像を開く。

 

 見たままを、

「狼煙?」

 口にするギンガ。

 

 

 一つ目が右横に可動範囲の目一杯に、

『グゥイン。』

 移動し、注目したと語る。

 

 

 舌打ち。

 

 一つ目のパイロットの口が苛立つと音を出す。

 

 狼煙の正体。

 

 それは信号弾。

 

 意味は《撤退》。

 

 

 意識…。

 

 いや…。

 

 視線がモニターの信号弾へと反れた僅かな時間。

 

 それが、隙きに変わる。

 

 

 無意識。

 

 動かしたのは…。

 

 パイロットか?

 

 それとも、モビルスーツか?

 

 

 押し込む操縦桿。

 

 構える剣(ビームサーベル)と盾(シールド)。

 

 踏み込むペダル。

 

 背後のブースターが吐き出す炎が推力へと変わる。

 

 引かれるトリガー。

 

 人間で言う[こめかみ]付近に、断続的に点る光。

 

 そして、光は放出され弾丸へと変わり一つ目を襲う。

 

 その様子を第三者視点で見ると、ガンダム・ギンガが一つ目へと突進しながらの頭部射撃武器による攻撃であった。

 

 

 後悔。

 

 戻した視線が捉えたのは、無数の光弾。

 

 パイロットは、間に合わないと知りながらも防御の体制をモビルスーツに指示した。

 

 

 着弾がダメージに変わり、一つ目を揺らす。

 

 それが、連続で起きる。

 

 

 舌打ち。

 

 これは、自分の迂闊(うかつ)さに行われた行為。

 

 同じ行為でも、意味が異なる。

 

 

 更に踏み込んだペダルが、

「うぉぉぉぉぉ!」

 背後のブースターへ喝を入れ、

「行けぇぇぇぇぇ!」

 機体を加速させる。

 

 

 そして、始まる新たな対決。

 

 振り上げたビームサーベル。

 

 構えるシールド。

 

 

 頂点まで達したビームサーベルは、

「そこだぁぁぁぁぁ!」

 遠心力を纏い威力を増しながら振り下ろされる。

 

 

 袈裟懸け。

 

 そう呼ばれる斬撃。

 

 剣(ビームサーベル)は間に合わなかった盾(シールド)を嘲り笑い、モビルスーツの左の肩口へ、その灼熱の刃を喰い込ませた。

 

 そのまま斜めに斬り進む。

 

 

 放電。

 

 機体を食い破る死神の光に負けたとエネルギーを、その切れ目から血の代わりに流す。

 

 

 出口。

 

 そこは、右の脇腹辺り。

 

 進むビームサーベルが斜めに胴体を横断し終えた場所。

 

 

 離れる。

 

 ビームサーベルの軌跡が作った裂け目が、自重によりゆっくりと広がっていく。

 

 その距離を埋める様に放電が強くなる。

 

 

[アラート!]

 

 メインモニターの文字が赤く強く点滅し、その光でギンガの顔を染める。

 

 目の前のモビルスーツを映したモニターに赤い注釈線が走り警告を出す。

 

 そして、円で形成されたグラフが現れた。

 

 その歪な円の形が熱の放出量を示し、色が温度を表していた。

 

 見詰める円グラフと、

「これは…。」

 その向こうのモビルスーツ。

 

 

 直後。

 

 袈裟懸けに分断されたモビルスーツが光になった。



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見る

 

 少し前…。

 

 

 音と共に、

『グゴゴゴゴッ』

 軽い揺れが艦橋へ届く。

 

 反射的に、

「今のは!?」

 声に出す艦長。

 

 その声を背中で、

「震源はコロニー内…。」

 聞きながら、

「と思われます…。」

 答える女性オペレーター。

 

 その指が操作パネルの上を滑るように、

「映像、出します。」

 タッチする姿はピアニスト。

 

 先程のアップロードの影響がある中、クルーは良く対応していた…。

 

 が…。

 

 多少の混乱は否めない。

 

 

 天井のメインモニターに、

「録画です。」

 映る映像と共に女性オペレーターの説明が入る。

 

 そこに映るのはモビルスーツ同士の戦闘。

 

 艦長の開く口と共に、

「あれは!?」

 見開いた目は驚いたと語る。

 

 その視線は、

「何故…。」

 トリコロールカラーのモビルスーツに、

「動いている…。」

 注がれていた。

 

 そして、

「パイロットの情報は…。」

 誰でもなく、

「無いか!」

 艦橋のクルー全員に問う。

 

 

 コントロールパネルの上を走る指は反射的…。

 

 いや…。

 

 訓練の賜物であった。

 

 そして、

『ピッ!』

 答えるモニター。

 

 表示を目で、

「今だ…。」

 追いながら、

「該当者無しです。」

 読み上げる女性オペレーター。

 

 その回答に、

〘何が起きた?〙

 答えの無い自問自答の艦長。

 

 次のトリコロールカラーのモビルスーツの行動に、

「な、なにぃ!」

 驚きで椅子から腰を浮かす艦長。

 

 その脳裏に浮かぶのは、あの日の会話…。

 

 

 エアコンの音だけの室内に、

『パラリ…。』

 時折、響く資料を捲る音。

 

 読み進む視線が、

「この出力は…。」

 止まる程のデータ。

 

 目の前に差し出された資料へ、

「あぁ…。」

 視線を落とし、

「未知のテクノロジーの成せる技…。」

 呆れ顔を、

「と、言ったところだろうな…。」

 作る上官。

 

 ゆっくりと頷く艦長に合わせ、

「この出力だと…。」

 間を取り、

「使える場所が限られる…。」

 続ける。

 

 もっともだと、

「確かに…。」

 また、

「コロニー内等で使えば…。」

 頷く、

「大惨事になりましょうな…。」

 艦長。

 

 

 その行為が、

「まさか…。」

 もたらす結果が、

「使うだと!」

 顔に出る艦長。

 

 

 そして…。

 

 放たれたビームの光が、受光の限界を超えモニターはホワイトアウト。

 

 放たれたビームの熱が、カメラの耐久の限界を超えブラックアウト。

 

 その後は、ノイズの乗る黒い画面となった。

 

 それが、先程の艦の揺れの正体だと艦橋内のクルーは知り驚き、唖然とする。

 

 

 浮いた腰を椅子へと着地させ、

「ライブ映像は出せるか?」

 指示を出す艦長。

 

 その声に、

「やって…。」

 心を、

「みます…。」

 こちらへと戻す女性オペレーター。

 

 

 コントロールパネルと格闘する事数分。

 

 少し張った声と、

「出します!」

 共に押すキー。

 

 

 天井のモニターに[LIFE]の文字を右隅に飾り付けた映像が映し出された。

 

 ノイズの乗る、遠くで向かい合う二体のモビルスーツの戦いが映る。

 

 それを見たクルーは、先程の録画からは時間が経過していると誰もが思った。

 

 何故なら…。

 

 トリコロールのモビルスーツの足元に転がる胴体を横一文字に斬り裂かれ、真っ二つに分断された残骸を確認出来たからである。

 

 そして、皆が注目したのは…。

 

 盾を構えたトリコロールのモビルスーツへ、緑のモビルスーツがマシンガンで攻撃をしている場面だった。

 

 詳細を知りたいと思うのは、

「もう少し寄れないか?」

 艦長だけでは無い。

 

 目の前のモニターに視線を落とし、

「現状が、最大望遠です…。」

 データを読み上げる女性オペレーター。

 

 残念だと声に含み、

「そうか…。」

 ビームライフルの威力を目の当たりにした諦めもあった。

 

 

 響く、

『ピピッ。』

 電子音が、

『ピッ!』

 この場に静寂を作り出す。

 

 

 一度目は、

『ポン!』

 気を引く。

 

 二度目は、

『ポン!』

 疑問を浮かべる。

 

 三度目は、

『ポン!』

 正体を知る。

 

 信号弾。

 

 即座に、

「どこのだ!」

 艦長の一声。

 

 食い気味に、

「データありません!」

 答える女性オペレーター。

 

 その回答が、

〘この状況を解っていてなら…。〙

 考えに、

〘当然の準備だな…。〙

 気を取られる艦長。

 

 

 誰ともなく、

「あっ!」

 誰からも上がった声。

 

 それは、状況とモビルスーツが同時に動いたからであった。

 

 

 信号弾の介入という要素が二体のモビルスーツの運命を決めた。

 

 

 信号弾に、隙きを作った緑のモビルスーツ。

 

 信号弾に、勝機を見出したトリコロールのモビルスーツ。

 

 

 バーニアから伸びる炎がトリコロールのモビルスーツを加速させ、間合いを自分のものとする。

 

 出遅れた緑のモビルスーツは、盾を構えるがコンマ遅い。

 

 結果、袈裟懸けにされた緑のモビルスーツ。

 

 

 艦橋内に響く、

「お、おーっ!」

 勝者へのどよめき。

 

 

 その斬り口から血ではなく、放電の様なエネルギーを噴出させながら、ゆっくりと二つになる緑のモビルスーツ。

 

 上がる声は様々たが、

「あっ!」

「おっ?」

「げっ!」

 全て同じ意味であった。

 

 

 そして、生まれた光…。



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 吐き出したのは、

「ふう…。」

 緊張の残り香と安堵のため息。

 

 食いしばった目と固く閉じた上下の歯をゆっくりと解放する。

 

 それで一安心し、

「生きてる…。」

 もう一度、言葉で確かめる。

 

 

 ほんの少し前…。

 

 

 光は生んだモビルスーツを贄(にえ)にして急成長した。

 

 熱量に膨張を伴う現象。

 

 爆発。

 

 それが付けられた名前。

 

 

 咄嗟。

 

 盾を構え、目の前で起きる現象へ対応する。

 

 極限まで育ったそれは、

『ズドドドドォォォォォン!』

 断末魔を上げた。

 

 

 一瞬の始まり。

 

 だが、収まるまでは数秒を要した。

 

 

 元の位置から、モビルスーツの足で大地に作らされた二本の電車道。

 

 それが、爆発の威力を無言で物語る。

 

 

 ゆっくりと下げた盾の、

「えっ…。」

 向こうに広がる光景に、

「これは…。」

 固まるギンガの表情。

 

 そこは…。

 

 自分が異なる場所へと連れて来られたのではないか?

 

 そう、錯覚する光景。

 

 だが…。

 

 見覚えのある建物。

 

 正確には、建物だったもの…。

 

 見覚えのある施設。

 

 正確には、施設だったもの…。

 

 それらが、元の場所だと主張していた。

 

 

 突如。

 

 体の内部から、

「うっ!」

 込み上げるものを、

「おっ!」

 両手で口の中へ押し戻すギンガ。

 

 だが、その本流は止まる事なく出口である口へと押し寄せる。

 

 手の平で作った堰(せき)は、いとも簡単に破られ、

「うえぇぇぇぇぇ!」

 強い酸の味を口に残し、

『ドバドバババ』

 床へとぶち撒けた。

 

 口に残る酸の味にか、

「うぅ…っ。」

 目の前の現実に苦しむのか、

「うぅ…。」

 苦悶の声は、

「うぅふっ…。」

 いつしか嗚咽に変わっていた。

 

 その状態を冷静に、

『パイロットのコンディションレベル低下。』

 判断するAIギンガ。

 

 それを体現する様に、ビームサーベルが短くなって行くのは偶然であった。

 

 己の罪を知ったギンガは、

「俺の…。」

 その両腕で自分の肩を抱き、

「せいだ…。」

 防御反応でシートの上で、膝を曲げ体を丸める。

 

 そして、起動状態のまま物言わぬ彫像となるガンダム・ギンガ。

 

 

 

 同刻。

 

 艦橋内。

 

 緑のモビルスーツが、

「誘爆だと!?」

 生んだ光の正体を口にした艦長。

 

 幸いしたのは、爆心地からの距離。

 

 カメラは最大望遠であった為に、爆発の影響は少なく画面の揺れだけだった。

 

 

 誰もが気になる事を、

「どうなった!?」

 代表する艦長の台詞。

 

 

 爆炎が巻き起こした爆煙を濃くする人型の影がゆっくりと現れる。

 

 前のめりだった体を、

「ふぅ…。」

 背もたれへと深く預け、

「無事だったか…。」

 安堵のため息と共に言葉を吐き出す艦長。

 

 

 そこへ、バージョンアップさせたオペレーションシステムで、

「ミノフスキー粒子の濃度低下!」

 表示されたデータを、

「通信状態回復しつつあります!」

 読み上げる女性オペレーター。

 

 その言葉に返された艦長の視線に、

「おそらくは…。」

 詳しいデータを、

「敵モビルスーツのロストと…。」

 目で追い、

「爆発での濃度の低下だと思われます。」

 答えた女性オペレーター。

 

 その答えに、

〘ミノフスキー粒子か…。〙

 両手を胸の前で組み、

〘あらゆる電波を妨害とは…。〙

 知らず知らず苦笑いを、

〘厄介なものをばら撒いてくれる…。〙

 浮かべる艦長。

 

 その姿に、

「か、艦長…。」

 一瞬の間を、

「どうされますか?」

 開けていた副艦長であった。

 

 答えの代わりに、

「残りの敵モビルスーツは?」

 副艦長を一瞥しする艦長。

 

 直ぐ様、

「現在…。」

 モニターで確認し、

「確認できません…。」

 報告する女性オペレーターだが、

「が…。」

 区切る語尾。

 

 それに艦長も、

「が?」

 短く返す。

 

 シートを回転させ、

「私の推測ですが…。」

 艦長へと向き、

「このデータから考えられるのは…。」

 送る視線は、

「コロニー内には居ないと思われます。」

 自信に満ちていた。

 

 右手で顎を掻きながら、

「ふむ…。」

 考え、

「なるほど…。」

 女性オペレーターへと、

「ミノフスキー粒子の特性が逆に存在を教えると…。」

 視線を送る。

 

 頷きが、

『コクリ。』

 音を出し答えた女性オペレーター。

 

 艦長のその顔に付けられた名前は…。

 

 渋い顔。

 

 そして、俯き加減に顎を掻く。

 

 それは、

「さて…。」

 切り替えの出だし。

 

 ゆっくりと上げた艦長の顔には、

「我々に残された時間は…。」

 決断が、

「如何程か…。」

 見て取れた。

 

 艦長の独り言に思えた台詞に、

「確かに…。」

 副艦長も、

「本隊が、いつ来るかですな…。」

 同意する。

 

 副艦長を、

「では、急ぐとしよう。」

 一瞥し、

「民間人の救助と避難を優先し出来る限り人を回せ。」

 頷くクルーへ、

「ガンダムはどうだ?」

 指示を出す。



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沸く

 

 

 ベストタイミング。

 

 そこへ、艦長へ振り返りながらの、

「通信繋がりそうです!」

 通信オペレーターの女性の声が響く。

 

 コントロールパネルを滑る手が、

「繋がります!」

 演奏を思わせる。

 

 その言葉で、通信専用に設けられた中型モニターが艦橋のクルー全員の視線を独り占めにした。

 

 

 映し出されたブロックノイズと共に、

『ガッ!』

『ピッ!』

『ガーッ!』

『ピーッ!』

 音声ノイズがスピーカーから吐き出させる。

 

 テレビ放送なら、電波状態のマシなチャンネルへ変えるだろう状態であった。

 

 だが、誰一人として目の耳を離さなかった。

 

 暫時。

 

 続くブロックノイズの画面。

 

 響いたのは、

『ゴクリ…。』

 その空気に耐えられなかった誰かの喉の音。

 

 

 それはゲームの様に…。

 

 ノイズである色とりどりのブロックが集まり形に成り始める。

 

 唐突に現れる画面のブロックノイズがよりゲーム感を増していた。

 

 

 そして、モニターに映るのはモビルスーツのコックピット。

 

 呼びかける、

「聞こえますか?」

 通信オペレーターの女性。

 

 しかし、

『うぅ…。』

 答えは無い。

 

 それに、

「嗚咽?」

 気付く艦長。

 

 映るコックピットの映像の下の部分に時折映る動くもの。

 

 その二つが艦長の中で、

「モビルスーツとそれに付随するものの回収をさせろ!」

 指示をさせた。

 

 反応は、

「はっ!」

 素早い副艦長。

 

 クルーに向き直り、

「出せものは全て出せ!」

 右腕の振りと共に、

「モビルスーツもだ!」

 指示を出す副艦長。

 

 

 再び艦長に向けた顔に浮かぶは、疑問の表情。

 

 軍人として、上官の命令は絶対であるが疑問を持たない訳ではない。

 

 副艦長へ、

「あのパイロット…。」

 視線を、

「あれは素人だ…。」

 向け、

「暫くは使い物にならん。」

 説明する艦長。

 

 その説明を確かめる様に、

「はあ…。」

 向けた視線で、

「なるほど。」

 確かめた通信モニター画面で自分を納得させた副艦長。

 

 そして、切り替え完了と言わんばかりの声を、

「回収部隊の準備はどうだ!?」

 クルーへ飛ばす。

 

 反応は、

「モビルスーツの装備に、もう少し時間が掛かるそうです!」

 素早い女性オペレーター。

 

 それは、

「チィッ!」

 声でなく音。

 

 副艦長の口の中で生まれた不満が人の耳に聞こえる形をとったものであった。

 

 更に苛立ちが、

『ズカズカ!』

 大股歩きの形と音となる。

 

 歩み寄った女性オペレーターから、

「貸せ!」

 マイクと一体型のヘッドホンを乱暴に取り上げ、

「回収作業だ!」

 怒鳴り上げ、

「装備は要らん!」

 顔を、

「そのまま出せ!」

 赤く染める副艦長。

 

 この時…。

 

 女性オペレーターの体が副艦長から離れる方向に傾いていたのを、見ていた艦長の口元は確かに笑っていた。

 

 と…、後に証言したのは、その状況を見ていたクルーだった。

 

 

 突如、

「なにぃ!」

 声を荒らげる副艦長。

 

 何事かと皆が向くのは条件反射であった。

 

 この場の視線を一身に集めた副艦長は、

「ごちゃごちゃ…。」

 マイクではなく、

「言わずに!」

 ヘッドホンへ向かって、

「直ぐに出せ!」

 怒鳴り上げた。

 

 この時、クルー達は確かに見たと…。

 

 副艦長の真っ赤な顔で熱せられた、蒸気が頭から噴き出した。

 

 そう、証言した。

 

 

 死語で例えるなら…。

 

 瞬間湯沸かし器の様な性格。

 

 今風ならば…。

 

 キレやすい性格。

 

 一瞬にして、冷静な感情が沸騰し怒りのマグマが噴火する。

 

 幸いだったのは、怒鳴り声の音量のおかげでマイクは難無く拾い伝える事が出来た。

 

 怒りのエネルギーは全て放出され、再び静なる水面(みなも)へと戻る心。

 

 我に返る副艦長。

 

 その顔をゆっくりと朱に染める。

 

 先程の怒りの色がどす黒い赤なら、こちらは恥ずかしさの桜色。

 

 

 右手を軽く握り作った虚構へと、

『コホン』

 その気持ちを吐き出し隠す副艦長。

 

 それは、合図…。

 

 いえ、どちらかと言うとスイッチ。

 

 艦橋のクルー全員が、一斉に自分の仕事に戻った。

 

 こういう時の対応を心得ていたのである。

 

 そう…。

 

 皆が…。

 

[見なかった事にした!]

 

 当然、艦長もである。

 

 一件落着。

 

 



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開く

 

 

「開きます…。」

 

 それは、その場の全員に向けた言葉であった。

 

 

 タブレット端末の操作する音と共に、

『ピッ!』

 長く伸びるコードの先に指示を送り込む。

 

 反応し、

『プッ…。』

 軽く浮き上がると、

『ガコッ!』

 一旦止まり、

『シュー…。』

 限界まで開いたハッチ。

 

 そして、囲んでいたメンバーの口から、

「うっ!」

「げふ!」

「ぐっ!」

「げっ!」

 飛び出す言葉は違えど、同じ事を言っていた。

 

 開いたハッチが巻き起こす空気の流動によって運ばれた臭い。

 

 それが囲む者たちへ届いた。

 

 

 皆が顔を背(そむ)ける中で、

「チッ!」

 一人踏み出し、

「やっぱりか…。」

 ハッチの奥へと身を滑り込ませるパイロットスーツの人物。

 

 その背中へ、

「少尉…。」

 声をかけるタブレットを操作していた技術者。

 

 その顔には、『申し訳ない』と、はっきり書いてあった。

 

 首を、

「気にするな…。」

 巡らせ、

「慣れている。」

 軽くウインクで答える少尉。

 

 コックピットの奥へ、

「おい!」

 呼びかける。

 

 無反応。

 

 こちらは舌打ちで、

「チィ!」

 無反応に短く答える。

 

 そして…。

 

 仕方ないと右腕を伸ばし、

「おい!」

 服を掴むと、

「出ろ…。」

 低重力を利用し、

「よ!」

 外へと引っ張り出した。

 

 手を離すタイミングで、

『ふわふわ…。』

 逆向きに力を加え、

「誰か!」

 引っ張った勢いを殺し、

「こいつにシャワーと着換えを。」

 その場に、

「頼む。」

 浮かせる少尉。

 

 囲みの中から、

「了解しました。」

 一人のスタッフが頷き、

「少尉。」

 引き受けた旨を伝える。

 

 次は自分の体を、

「ふぅ…。」

 コックピットから出し、

「こっちも大変だな…。」

 中へと視線を送った。

 

 そこは、吐瀉物(としゃぶつ)とその臭いが充満したコックピットの内部。

 

 手近なスタッフの肩へ、

「悪いが…。」

 右手をかけ、

「こっちも頼む…。」

 労い、床を蹴る少尉。

 

 手慣れた…。

 

 いえ…。

 

 足慣れた強さで反動を、

『ふわり。』

 推進力に換え低重力の宙へ体を踊らせた。

 

 その背中へ、

「少尉。」

 声を、

「どちらへ?」

 かけるスタッフ。

 

 反応し、

「回収の仕事の…。」

 首を捻り、

「続きだ。」

 ウインクと共に返した。

 

 

 

 

 遡る事…。

 

 約ニ時間前。

 

 突然の[アラート]。

 

 艦内に、

「これは演習では無い!」

 響く、

「繰り返す!」

 アナウンスに、

「これは演習では無い!」

 回転する非常灯。

 

 

 そして…。

 

 出撃命令。

 

 辺りを、

「おいおい…。」

 見回すのは、

「マジかよ…。」

 誰もがやる事だと知る少尉。

 

 

 駆け付けたロッカールームには、

「少尉…。」

 先客が、

「敵襲でしょうか?」

 パイロット用のノーマルスーツに着替えていた。

 

 自分のロッカーの扉を、

「解らんが…。」

 開き、

「そうだろうな。」

 ノーマルスーツに手をかける少尉。

 

 先客は、

「解りました。」

 ジッパーを閉め、

「先に行きます。」

 ヘルメットを掴んだ。

 

 先ずはノーマルスーツに、

「俺も…。」

 右脚を通し、

「直ぐに行く。」

 奥へと押し込む少尉。

 

 扉へと、

「はい!」

 床を蹴りながら答えた先客。

 

 

 着替え向かう途中で見た光景は、ここモビルスーツ格納庫でも同じであった。

 

 混乱…。

 

 までは、行かないが…。

 

 ごたついている。

 

 

 自機のコックピット前まで、一気に壁を蹴り宙を泳ぎ出す。

 

 そこで作業するスタッフに、

「お疲れ。」

 声をかける少尉。

 

 タブレットから、

「少尉殿。」

 首を声の方へ向けるスタッフ。

 

 モビルスーツの方を見ながら、

「どうだ?」

 聞く、

「出られるか?」

 少尉。

 

 口が答える前に、

「もう少しかかります。」

 表情に出るスタッフ。

 

 それは残念ではなく、

「そうか…。」

 無理もないと思う少尉。

 

 

 そこへ【パンドラの匣】の解放。

 

 

 更に、ごたつく現場。

 

 

 そして、新たな指示。

 

 回収作業。

 

 

 それから、約三十分後。

 

 トリコロールカラーのモビルスーツを、格納庫へと運び込んだ少尉。

 

 

 モビルスーツを片膝立ちで仮駐機させた後に、コックピットから滑り出す少尉。

 

 ヘルメットを、

「どんな奴か…。」

 脱ぎながら、

「顔を拝んどくか。」

 ハッチを蹴り宙へ泳ぐ少尉。

 

 

 少尉が近付くと、トリコロールカラーのモビルスーツのハッチ付近には、スタッフが集まり作業を開始していた。

 

 

 タブレットと格闘するスタッフは、ようやく勝利を確信した。

 

 そして…。

 

「開きます…。」

 

 



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再会

 

 

 自動扉が、

『ウィーン。』

 音を出し、

「連れてまいりました。」

 入室を許可した。

 

 扉の開く演出に若い兵士が敬礼で現れる。

 

 そこは、ブリーフィングルームと呼ばれる部屋。

 

 若い兵士が後ろの人物を、

「入りたまえ。」

 促(うなが)し部屋へと誘導する。

 

 

 歓迎は…。

 

 突進!

 

 声が、

「ギンガ!」

 先か、

『ドンッ!』

 衝撃が先か…。

 

 無重力が、ぶつかる二人を一つにし宙へと浮かせた。

 

 どこか遠くへと行っていた意識が、胸元の顔へとゆっくりと注がれる。

 

 知っていた…。

 

 そして…。

 

 その顔に、その人に、

「レイカ?」

 付けられた名前を呼ぶ。

 

 その声に安心したのか、

「良かった…。」

 目の堰(せき)を越え、

「無事で…。」

 涙が溢れ出し、無数の宙へ光の珠を作り出す。

 

 疑問を口にし、

「どうして…。」

 更に疑問が、

「ここは…?」

 浮かぶギンガは、

「僕は…?」

 辺りを見回した。

 

 それは古来より、

『ウッ、ウン!』

 注意を引くために使われる人造の音。

 

 まんまと音に引かれ、

「貴方は?」

 出処の人物へ向いたギンガ。

 

 鋭い視線を、

「この艦(ふね)の艦長だ。」

 返答と共に絡みつかせる。

 

 言われれば、纏う雰囲気は軍人…。

 

 それも練磨(れんま)の気を放つ兵(つわもの)であった。

 

 

 気付き、

「ここは艦の中ですか!?」

 驚くギンガ。

 

 広げた両手は、

「ちゃー。」

 明らかに大袈裟で、

「覚えちゃいないか…。」

 その後に右手で、

「やっぱり…。」

 顔を被うパイロットスーツの男。

 

 思い出した様に、

「ごめんなさい…。」

 謝り離れるレイカ。

 

 その顔は羞恥の桜色に染まっていた。

 

 

 天井に軽く右手を当て反動にし、『トン…。』

 床へと降り立つギンガとレイカ。

 

 

 あらため、ギンガが見回す室内には…。

 

 艦長。

 

 その横に、似た雰囲気を持つ男性…。

 おそらくは…。

 この艦の偉い人なのだろうと、容易に想像が付く身なりと雰囲気を纏っている。

 

 そして…。

 

 パイロットスーツの男。

 

 

 両手を肩の高さで開き、

「たくよ…。」

 顔を背け、

「俺を覚えてないなんてよ…。」

 軽口を開く。

 

 当然の、

「貴方は?」

 返しをするギンガ。

 

 向き直り、

「俺はな…。」

 少し上げた左頬は、

「お前さんの乗ったモビルスーツをここまで運んで…。」

 笑っていたが、

「コックピットから出してやった男だ。」

 ただ、瞳の奥は軍人の鋭さだった。

 

 一番に反応した、

「モビル…。」

 瞼(まぶた)は見開かれ、

「スーツ…。」

 驚きの表情を浮かべる。

 

 

 熱酸!

 

 それは、体の内部から出口である口へと駆け登る。

 

 ギンガの記憶が拒絶反応を起こした。

 

 ギンガの右手が、

『うっ!』

 出口を塞ぐ。

 

 またも、

「おいおい…。」

 軽い口調で、

「こんなところで吐くなよ…。」

 蔑(さげす)んだ視線を送る。

 

 慌て、

「大丈夫!」

 背中へ、

「ギンガ!」

 手を回し擦(さす)るレイカ。

 

 

 口を塞いだ右手に、腹に当てた左手…。

 そして、丸めた背中を武器に胃から登る酸と戦うギンガ。

 

 その姿に、せめてと右手を添えるレイカ。

 

 暫時、続く攻防戦。

 

 

 終了の合図は、

「はぁ…。」

 肩で息を、

「はぁ…。」

 始めたギンガ。

 

 そして…。

 

 項垂れ、

「……。」

 声にならない、

「……。」

 声で呟く。

 

 それが、

「何!?」

 聞こえたと、

「なんて言ったの?」

 聞き返し、顔を近付けるレイカ。

 

 今度は耳に、

「僕の…。」

 はっきりと、

「せいだ…。」

 届くギンガの声。

 

 言葉は、

「なんの事?」

 理解出来たが、

「ねえ!」

 意味は判らないレイカ。

 

 答える口は、

「僕が戦ったから…。」

 乾き、

「人がいっぱい死んだんだ…。」

 目は虚ろを見る。

 

 その答えに、

「ギンガ…。」

 レイカは、ただ一言。



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苛立ち

 

 パイロットスーツの男がギンガへ、

『スーッ…。』

 近付ける体と伸ばした右手が音を出す。

 

 髪の毛を掴む、

『グッ!』

 右手が音を出し、

『グィ!』

 項垂れた頭を起こす。

 

 自分の顔の前に、

「何様のつもりだ!」

 ギンガの顔を、

「小僧!」

 引っ張り上げた。

 

 ギンガの両手が、

「な…。」

 髪の毛を掴んだ手を、

「何を…。」

 掴み返すのは自然な反応。

 

 

 パイロットスーツの男が左へ首を巡らせ、

『ちらり…。』

 見る先に座る艦長。

 

 送られた視線の問いかけに、

『コクリ…。』

 無言で答え、頷く艦長。

 

 左の口元が、

『にやり。』

 許可を得たと笑う。

 

 

 眼前に、

「いいか! 小僧!」

 ギンガの顔を寄せ、

「人が死んだのはな…。戦争だからだよ!」

 睨むパイロットスーツの男の顔は鬼気迫る。

 

 髪を掴まれたままでも、

「そんな屁理屈…。」

 左右に首を振り否定するギンガ。

 

 

 苛立ち。

 

 眉間に寄せた皺(しわ)が、

「だったらよ!」

 何よりも、

「これを見ろよ!」

 感情を表し、

「お前が戦わなかったら…。」

 掴んだ髪の毛ごと頭の向きを変え、

「この娘(こ)は生きてここには居なかっただろうが!」

 レイカの方へ突出す。

 

 レイカの僅かに後ろに下がった顔に張り付いた、

「んっ!?」

 見開かれた目に半開きの口は驚きであった。

 

 予期しない出来事で見詰め合った二人。

 

 レイカの頬が、

『ぽっ!』

 音を出し桜色に染まった。

 

 そして次は…。

 

 お決まりの、

「…。」

 下を向く仕草。

 

 

 髪の毛を掴んで固定される顔を、

「それは…。」

 無理矢理にパイロットスーツの男へ、

「そうかもしれないけど…。」

 動かし向けるギンガ。

 

 腕に入る力が、

『グイ!』

 音を出し、

「失ったものを数えるな!」

 ギンガの顔を、

「救えたものを数えろ!」

 目の前に引き寄せる。

 

 引っ張られる髪が、

「そ、そんな事できない…。」

 苦痛だとギンガの顔を歪ませる。

 

 更に加えられた力が、

「いいか!」

 ギンガの顔を上に向け、

「出来るか、出来ないかを聞いているんじゃない!」

 浴びせかけるように、

「やれと言っているんだよ!」

 言葉を放つパイロットスーツの男。

 

 苦痛から、

「それなら…。」

 怒りへ、

「あなたが戦えば良いじゃないか!」

 ギンガの表情が移行する。

 

 引きつる左側の目と口元が、

「あぁ!?」

 腹立たしさのサインだと、

「出来たら…。」

 雄弁に語り、

「やってるよ!」

 言葉は吐き捨てるパイロットスーツの男。

 

 その意味が、

『ぽかーん』

 解らないと口が音を出し、

「?」

 頭からお約束の文字を出す。

 

 噛み締めた、

『ギリギリ』

 口元が、

「あのモビルスーツを動かせたのは…。」

 悔しさを、

「お前が初めてなんだよ!」

 磨り潰す。

 

 意味の理解が、

「えっ!?」

 驚きとなり声に出る。

 

 左手が、

「だからな…。」

 ギンガの前に掲げられ、

「動かせたお前が…。」

 握りられ、

「人類を守るんだよ!」

 振り下ろされると共に開放される。

 

 その圧と、

「!?」

 重さに、

「!?」

 押されるギンガ。

 

 食いしばる目が、

「俺らのモビルスーツで何処まで戦えるか…。」

 苛立つと言い、

「だがな…。」

 開いた目が、

「あのモビルスーツなら十二分に戦える!」

 冷静に状況を語る。

 

 いつの間にか、掴まれた髪の毛が開放されている事にも気が付かないギンガ。

 

 

 

 



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始まり

 

 

 ギンガの浮かんだ、

「なんだ?」

 表情に、

「不安そうだな…。」

 目を細め、

「小僧…。」

 口元が笑うパイロットスーツの男。

 

 見透かされた心に、

「そ…。」

 焦りが、

「そんな事は…。」

 言葉に出るギンガ。

 

 向ける、

「安心しろ…。」

 視線が、

「鍛えてやるよ。」

 鋭さを増し、

「死ぬほどな。」

 残忍な笑いが口元に浮かぶパイロットスーツの男。

 

 言い返す為に開いた口が

「……。」

 言葉を発する…。

 

 直前。

 

 上からの目力が、

「い!」

 ギンガの言葉を、

「い!」

 押さえ込み、

「な!」

 区切った単語が圧をかけた。

 

 ギンガは、身も心も萎縮していた。

 それは、目の前のパイロットスーツの男が放つ軍人が放つ独特の気に圧(お)されいたのであったと知る由もない。

 

 

 不意に、

『ビクッ!』

 流れる空気に、

『!?』

 驚いた時にはパイロットスーツの男は目の前から消えていた。

 

 次にギンガが捉えたパイロットスーツの男は、

『スーッ。』

 身体を扉の方へと蹴り泳がせていた。

 

 伸ばした左腕の先で手の平が壁を捉える。

 そのまま、肘を曲げながら蹴った勢いを殺して止まる。

 

 空いていた右手は、

『ウィーン。』

 扉の開閉スイッチを押す。

 

 外に待機していた兵士…。

 

 先程、ギンガを連れて来た兵士が気が付き扉へと向く。

 

 目線を、

「こいつ等に、ノーマルスーツを頼む。」

 ギンガとレイカに送るパイロットスーツの男。

 

 伸ばした背筋は、

「はい!」

 上官への礼儀。

 

 顎で、

「小僧には…。」

 ギンガを、

「パイロット用を…。」

 指すパイロットスーツの男。

 

 左手の敬礼は、

「了解しました。」

 小さく宇宙式。

 

 

 右腕で、

「おい。」

 来いと、

「付いて行け。」

 二人を呼ぶパイロットスーツの男。

 

 ギンガの視線に、

「何だ?」

 気付き、

「不服か?」

 刺す視線で返すパイロットスーツの男。

 

 負けじと、

「小僧じゃない!」

 睨み返し、

「ギンガだ!」

 声を張るギンガ。

 

 釣り上げた、

「解ったよ…。」

 左の目尻が、

「小僧。」

 笑う口元を強調する。

 

 ギンガの一気に登る血の気が、

「こ…。」

 口から言葉として吹き出す。

 

 

 食う。

 

 ギンガの続く言葉を案内を頼まれた兵士が、

「こちらへ」

 割り込み、その場を納めた。

 

 睨む事で反論としたギンガが、扉から出て行く。

 そして、レイカも続く。

 

 それは、

「あっ!」

 思い出した合図だと、

「終わったら小僧は格納庫だ。」

 ちらりと艦長へ送る視線は、

「娘さんは、ブリッジへ。」

 確認の仕草。

 

 艦長の頷きが、

『コクリ。』

 小さく音と許可を出す。

 

 兵士が、

「了解しました。」

 少尉に向き直り了承した。

 

 

 

 パイロットスーツの男の右手が、

『ウィーン。』

 開閉スイッチを操作し、二人が消えた通路を扉で部屋と隔てる。

 

 ため息混じりに、

「ふぅ…。」

 吐く息は一段落したと言う。

 

 そのパイロットスーツの男の背中へ、

「憎まれ役…。」

 労いの言葉を、

「悪かったな…。」

 投げかける艦長。

 

 ゆっくりと、

「なーに。」

 振り向き、

「憎まれるのは慣れてますよ。」

 微笑むパイロットスーツの男。

 

 右の口元を上げる、

「そうだったな…。」

 艦長も、

「シゴキの鬼少尉殿。」

 笑っている。

 

 パイロットスーツの男のそれは、

「さて…。」

 流れを変える合図。

 

 先程までの穏やかな表情が、

「ふむ…。」

 消えると共に浮かぶ厳しい顔の艦長。

 

 見据えたパイロットスーツの男に、

「背負わせてしまいましたね…。」

 浮かぶ表情も、艦長と同じであった。

 

 返す、

「残念だが…。」

 艦長は、

「そのようだ…。」

 言葉と合わせるようにゆっくりと瞬きをする。

 

 右手で、

「後は…。」

 顎を掻き、

「どれだけ生存確率を上げられるか…。」

 目を瞑り、

「ですかね…。」

 ゆっくりと首を左右に振るパイロットスーツの男。

 

 同意する声は、

「頼んだぞ…。」

 低く、

「少尉…。」

 気分と共に沈んでいた。

 

 答える声は、

「任せて下さいださい…。」

 戯け、

「なんせ、俺は…。」

 明るく、

「鬼少尉ですから。」

 皮肉が込もっていた。

 

 声ではなく、

『ニヤリ…。』

 表情が答えの艦長。

 

 

 素早い動きで、

「では!」

 敬礼し、

「シゴイてきます!」

 扉の開閉スイッチを、

『ウィーン。』

 押すパイロットスーツの男。

 

 艦長の答えは、

『ビシッ!』

 敬礼。

 

 小さく壁を、

『グィ。』

 押し、

『コンッ。』

 床へ付けた足で蹴り出し廊下へ身を踊らせたパイロットスーツの男。

 

 閉まる扉を、

『ウィーン。』

 暫く見詰める艦長。

 

 

 一息、

「ふぅ…。」

 いや…。

 ため息で一段落とした艦長は、椅子に深く身を預ける。

 

 そして、

「終わりの始まりか…。」

 自分へ、

「いや。大人として未来へ残さねばならないな…。」

 言い聞かせた。

 

 その言葉に、

「そうですな…。」

 無言のままだった副艦長が相槌を入れた…。

 

 

 

 

 

 これは、少年【ギンガ】と同じ名前を持つモビルスーツ【ガンダム・ギンガ】の物語である。

 

 後に、黒歴史の再来と呼ばれる戦争を生きた少年少女の記録…。

 

 伝えよう…。

 

 未来へ。

 

 

 

 

 

 機動戦士ガンダム・ギンガ

 

 蜜柑…。

 




 書き終わってみて…。

 代わり映えしないストーリーになってしまった…。

 と…。

 改めて自分の想像力の無さを思い知りました…。

 後、途中で行き詰まり…

 TRPGのシナリオ書いてたのは内緒ですww


 そんな小説を先後まで、読んでいただきたい方に感謝し、執筆の励みにします。

 ありがとうございました。


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