毒蛇は再び羽ばたく (ゼノモフ)
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プロローグ

熱出して家でゲームしようとしたら消耗戦がマッチングしないんでキャンペーンやってたら書きたくなったアレです。
バイパーの口調よくわかんないし素顔でてないんでやりたい放題やります。


 IS学園。

 突如姿を現し、現行の兵器の最先端へ躍り出たパワードスーツであるIS(インフィニット・ストラトス)を学ぶための巨大な高校。また、ISは女性にしか操縦できないという欠陥があるため、この学園に在籍する生徒も例外1人を除き全員が少女である。

 

 そのIS学園の1-1の教室。入学の日、31名の生徒と2人の教師がいるその教室では、SHR(ショートホームルーム)だけで既に2度の騒ぎが起こっていた。

 

 1度目は担任である織斑千冬によるもの。IS競技で世界一の実力を持つ彼女は、ISを学ぶ少女たちにとっては憧れの対象なのだ。彼女が姿を現すや否や、教室は黄色い歓声に包まれた。当の本人は傍迷惑そうに……あるいは汚物でも見るかのような目をしながら騒ぎを止めて見せた。

 2度目は唯一の男性操縦者たる織斑一夏。先程言った例外であり、世界でも唯一ISを動かすことのできる男性だ。ルックスもよく、織斑千冬の弟ということもあり、女子たちの注目を集めていたが───その中でなんとも残念な自己紹介をしてしまい、教室中をズッコケさせた。

 

 そしてSHR(ショートホームルーム)も終わりを告げようとしている今、3度目の騒ぎが起ころうとしていた。

 

「諸君、静粛に。何も知らせていなかったが、このクラスにもう1人生徒が加わることになっている」

 

 静粛に、とは言うが相手は華の女子高生。箸が転んでも共有したがるお年頃。その疑問を存分に周囲の人間と分かち合っていた。

 千冬はと言うと、心底呆れたような面をしている。自分がこのくらいの年頃の時はこんなに馬鹿だったか、と、そう言う表情だ。

 

「静粛に、と言っただろうに……。まあいい、入れ」

 

 ガラ、と横開きの扉が開き、1人の()が教室に入ってくる。

 当然、クラスには衝撃が走る。一夏に続きもう1人の男性IS操縦者が見つかったとすれば、大ニュースだ。彼の時のように、報道機関は日夜写真付きでその名を広め、ネットでも彼の名を見ない日はないはずだ。だと言うのに、彼を知る者は生徒の中には1人もいない。

 彼が歩を進めるたびに騒めきは加速し、教壇の隣で止まった時には最高潮に達していた。

 女子の殆どは驚きと期待の混じった顔。男子である一夏は"仲間を見つけた! "と、驚きと同時に喜びの混じった顔だ。

 

「自己紹介を」

「ああ」

 

 "返事ははい、だ"千冬の言葉を完璧に無視した男がジロリと教室を見やる。北欧系の彫りが深い顔立ちだ。どこか険しいその表情は、言葉を選んでいると言うよりも、教室の人間を吟味しているように見える。

 彼は隅から隅までを見渡し、ようやく口を開いた。

 

 

「俺はバイパー。趣味は……空を飛ぶことだ」

 

 

 よろしく、と言ったか言わなかったか。彼はそれだけ言ってさっさと空いている席に座ってしまった。

 クラス内の彼の第一印象が『イケメンな不思議ちゃん』に固まった。

 

 

 ♢♦︎♢

 

 

「で、結局貴様は何者だ? どこから来た?」

「何度も言っている。俺はバイパー、傭兵だ。惑星タイフォンで爆発に巻き込まれたと思ったら……ここにいた」

 

 

 私───織斑千冬は、頭が痛くなるような思いをしていた。2月という受験シーズン、教師にとっては凄まじく忙しいこの時期に、面倒ごとが2つ転がり込んできたのだから。

 

 1つ目は自分の弟のこと。私の弟はISを動かし、世界中から身分と、場合によっては命を狙われる立場となった。あの馬鹿を保護するための手続きや各機関からの圧力に追われ、脳みそがパンクしそうになっていたところだ。

 

 2つ目は……目の前のこの男のこと。無許可での立ち入りを禁じられ、また強固な警備を持つこの学園の敷地内にて倒れていたそうだ。地下の取調室へ連行し、目覚め次第取り調べを開始したら、宇宙開発により発見された遥か宇宙の星から来たなどと嘯き始め、どれだけ詰めても改める気配はない。この学園で保管されているISについても存在自体を知らぬ存ぜぬと抜かすと来た。

 もちろんIS意外にも学園には様々な機密が保管されている。身分不明のこの男をこのまま帰らせることはできない。ましてや、戦闘服など着ているのだから尚更解放するわけにはいかない。ここで全て洗いざらい吐かせて、然るべき機関へ受け渡さねば。

 

 いや、いっそ殺して刻んで海に流してしまうのが一番楽で円満な解決方法か……

 

 ……いけない、疲れすぎて思考が暗黒に向かっている。

 もみ消すのは簡単だろうが私は高校教諭……人道に背くべきでは……しかし……

 

「気が狂ったフリでもしてしらばっくれるつもりか」

「いや……狂ってなどいない。俺はタイフォンでの戦闘に参加して、敗れ、瀕死のところをアークの爆発に巻き込まれて……死んだはずだ」

「ふん、タイフォンとやらで死んだ男がどうして地球にいる? 化けて出たか?」

「それが全くわからない……タイフォンは宇宙の果ての開拓中域にある惑星だ。地球との行き来はワープ機能を持った宇宙船が必要に……」

 

 

 そいつ(バイパー)は途中で口をつぐみ、何かを考え込むような素振りをしだした。先程まで私を見つめていた灰色の瞳は、緩く組まれた己の指を睨んでいる。この男、外見こそ私の弟と変わらない15ほどの少年であるが……その瞳の奥には歴戦の強者がいるようであった。

 全くもって未知、私が警戒を高める中でそいつは再度口を開いた。

 

 

「ワープ、そう、ワープだ。アークの崩壊によるエネルギーの奔流が、何かしらのキッカケでワープホールを作って見せた……」

「……馬鹿らしい話だな」

「そうあり得ない話ではない。アークはフロンティア中域で発見されたエネルギー加速装置だ。俺たちは依頼主がアークを使って核エネルギーを増幅し発射するまでの間、アークを護衛する任務に就いていた……」

「そのアークとワープの間になんの関係がある?」

「爆発の直前、俺たちを妨害した敵のパイロットがアークを破壊したんだ。その時にアーク内部で増幅されていたエネルギーが放出され、周囲を破壊した。そして恐らく……パイロットはその爆発の真ん中からワープで逃れた。その影響で、放出されたエネルギーがただの爆発からワープホールへと形を変えた。惑星が吹き飛ぶようなエネルギーが歪な形でワープホールに変換されたんだ。俺が宇宙開発すら始まっていない過去か、異世界の地球までぶっ飛ばされても……おかしくはない」

 

 ふざけるなと掴みかかりたい気持ちと、もうそういうことにして今日のところはお終いとしたい気持ちがある。

 正直言って、この男が嘘を言っているようには感じられない。私もまた世界中を飛び回り、汚い人間の内面を見透かす術も知っている。その私の目を持ってしても、だ。

 本気で自分の言っていることを信じている狂人、というのが最有力候補だが。

 

 

「では……バイパーよ、1つテストをしようか」

「テスト?」

「ああ、テストだよ!」

 

 

 言い終わるが否や、取り調べ用のテーブルを奴の方へひっくり返す。

 自分の妄想に浸るだけの人間ならば、世界最強の名を持つこの私に手も足も出ないことだろう。抵抗してきたとしても……締め上げてしまえば真実を話す筈だ。幸い、この部屋にカメラはない。

 

「ほう」

 

 奴は眉ひとつ動かさず、倒れかけのテーブルを私の方へ蹴り飛ばして見せた。凄まじいスピードで迫るテーブルを跳んで躱し、着地と同時に顔面めがけ回し蹴りを繰り出すが、手応えはない。身を低く、攻撃をかわしたそいつは、硬く拳を握りしめ突きを放つ。

 

「なるほど、悪くない」

「なんのつもりだ。尋問は終わりで拷問のお時間か?」

「いやなに、強者は拳で語らうものだろう」

 

 軽口を叩きながらも、動きが鈍ることはない。蹴れば躱され、殴れば受け流される。私の目に狂いはなく、この男は確かに極上の戦士だ。

 鋭いフックを腕で受ければ、ビリビリと痺れるような感覚がある。

 同格の人間と殴りあうのは初めてかもしれない。私は最早……ときめいてすらいた。私の攻撃の回転が早まりとともに、奴の攻めもまた熾烈になっていく。

 

 決着がつく気配はなく、嵐のような攻防が繰り返される。

 

「ふ……ふふ……! やるじゃないか!」

「パイロットだからな!」

 

 殴り合いの最中、奴の左のガードが上がった瞬間。私は前方へ回転するように跳び、蹴りを放つ。縦型の胴回し回転蹴りは、確かに奴の顎を打ち据えた。膝をつくそいつを尻目に立ち上がる───瞬間、眼前に拳が現れた。不意を突かれたか! 

 回避は不可、ガードも間に合わない! ならば迎え撃つ! 

 硬く握り締められた拳に、全力の頭突きを見舞う。凄まじい痛みと衝撃、脳みそが揺れる感覚の中で"ガチン"という嫌な音が響いた。

 

「石頭め……!」

「策士だな! 貴様!」

 

 揺れる視界の中、右拳をさすり、恨めしそうにこちらを見やるバイパー。合格だ。

 

「貴様に部屋を与えてやろう。軟禁用の部屋だ。出入りは出来んが最低限の生活はできる。処遇が決まるまではその部屋とこの取調室を行き来してもらおう」

「なんだ、拳骨が堪えたか?」

「馬鹿を言え。手錠をかけさせて貰うぞ」

 

 バイパーを後ろ手に拘束して扉を開ける。そいつは特に抵抗することもなく、私の少し前を歩く。

 が、部屋を出て3分程度が経った時、唐突に口を開いた。

 

「……待て、変な声がしないか?」

「声だと?」

「ああ、女の声だ」

 

 そいつの言う女の声とやらは、私の耳には聞こえなかった。超人的な聴力でもあるのか、あるいは狂人ゆえに何かしらの電波をキャッチしてしまったのか。

 

「この部屋……そうだ。この部屋には何がある?」

「答える必要は……いや、ISがある筈だ。研究資料としてのISが一機保管されている」

 

 得体の知れない男に情報を与えるのは得手ではない。

 しかし彼が正確にISのある部屋の前で止まったのが引っかかった。学園内に侵入の形跡はなし、ハッキングの記録もない。この男がこの部屋を知る術はなかった筈。ならばあるいは……

 

「なあ、この部屋に……」

「いいだろう。入れてやる」

 

 心底驚いたような面を見せてくれた。

 もちろん考えなしの行動ではない。もしも、仮にだ。仮に彼がISと通じ合い、動かすことができたとしたら。彼の後の処遇を決めるのが随分と容易になる。

 その上この(世界最強)の弟と、ぽっと出の何の後ろ盾もないこの男ならば、どちらが身柄を求める研究機関や軍隊の標的になりやすいか……行ってしまえば、私はこの男を弟を守るための囮に使ってやろうかと思っている。

 

 幸いなことにこの部屋の中にあるISにはプロテクトがかかっている。仮に乗れたとしても動かすことはできない。

 

 

「これが……」

 

 

 扉を開けると、そこには鎮座する鎧のようなものがあった。

 待機形態のIS。型としてはフランス製のラファール・リヴァイヴだが、研究のために装甲が削られてスリムな外見になっている。

 

「手を触れて見ろ。プロテクトがかかっているから搭乗できたとしても動かすことはできん」

「……いいんだな?」

「構わない。ほら、手錠を解いてやった」

 

 バイパーは迷うことなく踏み出し、右手をラファールの装甲へ触れる。

 

「……何も起きない、か」

「待ってくれ。声が明瞭になってきた」

 

 目を閉じる。ISと語らっているのか、あるいはただの時間稼ぎか。

 なんにせよ、この私がここで見ている。不審な真似はさせない。

 

「……信じられないことが起きている」

「なんだ?」

「こいつは……俺の愛機だ。俺と同じようにアークのワープに巻き込まれて記録だけが吹き飛ばされ……このISに定着した」

「……馬鹿らしい」

 

 期待外れだ。そろそろ引き剥がしてやろうと思ったその時、眩い光が部屋を包む。青白く力強い光。

 

 

「ノーススター……俺たちは再び空を……」



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