闘牌雀鬼・宮永達也の麻雀記 (黄昏の旅人)
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県大会予選編
1話


始めて咲の物語を書いたので、少し不安ですがご了承下さい。


俺の名前は、宮永達也。

 

ごく普通の清澄高校1年生。

 

 

「お~い達也!こっちだ、こっち!」

 

「判ってるよ京。そんなにデカイ声出すな」

 

 

俺は、学食のおばちゃんから豚カツ定食を受け取り、俺の名を盛大に叫びながら手を振る友人の下に向かった。

 

 

「うん?京は食べないのか?」

 

 

対面に座る様にして豚カツ定食の乗ったトレイを置きながら目の前に座る友人【須賀京太郎】を見ると、スマホを弄りながら何かを待っている様子だった。

 

 

「俺のはなぁ~」

 

 

京太郎が、そう言いかけると……。

 

 

「はい、京ちゃん!!レディースランチ!!」

 

 

ドンっと音を立てながらトレイを置く女子生徒に目線を向けると、頬を膨らませながら京太郎を睨み付けるのは、我が妹の【宮永咲】だった。

 

 

「おっ!サンキュー咲!」

 

「なんだ、京のパシリか咲?」

 

 

俺のその言葉で漸く俺の存在に気付いた咲は………。

 

 

「ねぇ、聞いてよ達ちゃん!京ちゃんてね、このレディースランチが食べたいが為に、わざわざ私を学食に呼んだんだよ!」

 

「だって、あまりにも今日のレディースランチが旨そうだったからさぁ………」

 

 

そう言って、嬉しそうにレディースランチを頬張る京太郎の姿に、俺は溜め息を吐くしか出来ないでいた。

 

 

「まぁ、咲。京の事は今に始まったもんでもないから………諦めろ。それに嫌なら断れば良いのでは?」

 

「そ、それは、そうだけど…………」

 

「そんな事言ったてよ………頼める奴って俺には咲しか居ないしなぁ………」

 

「きょ、きょ、京ちゃん!?」

 

 

京太郎の何気ない一言で、咲の顔は真っ赤になっている。

奴は、純粋に『頼めるのが咲しか知らないから』と思って言ったのだろうが、咲に取っては『俺には咲しか居ない!』と変換されたのだろう。

 

まぁ、昔から咲は京太郎に想いを寄せている節があるし、天然ジゴロの京太郎の言葉となれば尚更だろ。

 

身体をクネクネしながらトリップしている妹を余所に、京太郎はスマホを弄りながら食事をしていた。

 

 

「京、食べながらスマホを弄るなよ。行儀が悪いぞ!」

 

「んぁ?あぁ、すまん。今、良いところだったんでな!」

 

 

そう言って京太郎はスマホの画面を俺達に見せた。

 

そこには『麻雀の役』が3つ程あり、下の方には『満貫:12,000点』と表示されていた。

 

 

「お前、麻雀なんて出来たんだな?」

 

「あぁ、やっと全ての役を覚えたばかりだけどな!けど………麻雀って面白いのなぁ!」

 

「私、麻雀って嫌い………」

 

 

先程までトリップしていた咲が、スマホの画面を見た後に俺と京太郎の会話を遮る様に呟く。

 

 

「えっ?咲、お前麻雀出来んの?」

 

「出来るちゃ出来るけど…………私は嫌い。何時も家族麻雀で負けていたんだもん……」

 

「へぇ~。まあ咲は達也と違って何をやらせてもダメだからな?じゃあ、咲が出来ると言う事は達也も?」

 

「まぁ、それなりにな。と言うか俺は家族打ちでは、もっぱら観戦していただけだし、咲や親父達と打ったのは数える位しかない」

 

 

そう、よく宮永家では家族で『家族麻雀』を打っていた。

その頃の俺達は、まだ小学校低学年だった。

プロ級の腕前を持つ両親に加えて、麻雀の素質に目覚め始めていた姉と俺達は一緒に麻雀を打っていた。

 

我が家では、何事を決めるにも麻雀で決めていた。

おやつや小遣いは勿論、家族旅行の行き先や欲しい物のおねだりまで麻雀で決めていた。

 

まだ、その頃の咲は姉の照姉に憧れを抱いており、姉の様に強くなろうと一生懸命に麻雀を打っていた記憶がある。

 

数年が経ち、咲の実力がみるみる上昇し、勝つ機会が増えた頃に異変が生じ始めた。

 

突如咲は、常に±0の成績で終える様に成っていた。

そんな咲に、姉と母親は激怒した。

 

激怒する2人に親父は狼狽え、咲自身も泣きながら俺の背中に隠れる始末だった為に、俺は咲の為に声を荒げた。

 

 

「2人供、いい加減にしろよ!咲が何したって言うんだよ!たかが麻雀で、家族関係がギクシャクするなら麻雀なんてやらない方が良い!」

 

 

その頃の俺は中学年だったとは言え、身長は姉より高く力もそれなりに付いていた為に、俺は目の前に在る麻雀卓を蹴り飛ばした!

 

それ以降、我が家では麻雀をする機会が無くなり、母は仕事を理由に姉を連れて東京に行ってしまった。

 

 

 

「なんだ2人供麻雀出来たんだな!んじゃさぁ、放課後にちょっと付き合って欲しい所が在るんだけど?」

 

「放課後?それに何処へ行くって言うんだ京?」

 

「いやさぁ、面子が足らないんだよ」

 

「えっ、面子って?」

 

 

咲が驚きながら京太郎に訪ねると、京太郎は白い歯をキラッと光らせて答えた。

 

 

「ふふん!麻雀部」

 

「ふぇ!?」

 

「なっ!?この学校に麻雀部何て在ったのか!?」

 

「旧校舎の最上階に部室が在るんだ!そして、俺も今や麻雀部員なんだぜ!」

 

 

その答えに俺は盛大に溜め息を吐くしか出来なかった。

 

誘われたのが俺だけなら、適当にあしらってやり過ごす事も出来ただろうが、問題は咲だ。

 

咲は頼まれると嫌と言えない体質だし、何より京太郎の頼みとあれば尚更の事。

 

まぁ、恐らく京太郎は俺達の実力を自分と同等だろうと思って言ったんだろうが。

 

 

「はぁ~仕方ない。放課後、お前達の教室に行くから待っていろ」

 

 

俺は、そう言ってトレイを持って席を後にした。

 

この出来事を切っ掛けに、俺達兄妹の止まった歯車が再び回り始めるとは思いもよらずに…………。

 



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2話

HRが終わり俺は、咲達が居る教室へと向かった。

 

 

「待たせたな京、咲」

 

「おっ!来た来た。じゃあ行くぜ咲!」

 

「あっ!ちょっと待ってよ京ちゃん!」

 

 

意気揚々と先頭を歩く京太郎に、小走りで後に続く咲の背中を見ながら俺も彼等の後を付いて行く。

 

京太郎の先導に続く俺達は、本校舎の裏手に在る古びた旧校舎に辿り着いた。

 

旧校舎の中に入ると、隙間風だろうか窓ガラスがガタカダと音立てる度に、咲は驚き俺の背中にしがみつく。

 

 

「た、達ちゃん………」

 

「怖がる事無いよ咲。単なる隙間風だから大丈夫だ」

 

 

怖がる咲にしがみつかれながら階段を昇り最上階に辿り着くと『麻雀部』と書かれたプレートが壁に張られた脇の扉の前に立ち止まる京太郎は此方に振り向き。

 

 

「ようこそ、清澄高校麻雀部へ。お姫様、王子様」

 

 

どこぞの王族貴族に仕える執事の様に迎え入れる京太郎。

 

 

「何がお姫様、王子様だボケ!」

 

「痛ッ!!軽いジョークだろ!ジョーク!」

 

 

下げている京太郎の頭の脳天に軽く肘打ちを咬ます俺に、後ろで見ていた咲はクスクスと笑い、京太郎は涙目になりながら部室の扉を開け放つ。

 

 

「お~い!カモ連れて来たぞ!」

 

「誰がカモだ!カモはお前だろ京」

 

 

そう言いなが中に入る京太郎の脳天にチョップを咬ましながら中に入り視線を前に向けると………1台の雀卓とピンク色の髪を2つの赤いリボンでツインテールが特徴的な同じクラスメイトの『原村和』が対面の席に座っていた。

 

 

「あっ!?」

 

「あん?」

 

「お客様?」

 

 

驚く咲の声と同時に、対面に座っていた女子生徒は立ち上がって俺達に訪ねる様に話す。

 

 

「あっ、あの時の………」

 

「えっ!なに、なに、咲。お前、和の事知っているの?」

 

「ああっ!先程、橋の所で本を読んでいた………」

 

「えっ!?観られていたんですか!」

 

 

この会話から察するに、咲と彼女は知り合いと言うより顔見知りに近い間柄だろ。

 

 

「君も麻雀部の部員だったんだね。原村さん」

 

「はい。それはそうと宮永君は須賀君とお知り合いなんですか?」

 

「あぁ、こいつとは小学校からの腐れ縁でね……」

 

「なんだ、達也。和かと知り合いなのか?」

 

「お前は本当に馬鹿か?原村さんと俺は同じクラスだ。知っていて当然だろ?」

 

「あれ?そうだっけ?」

 

「それはそうと、咲。自己紹介したらどうだ?」

 

 

1人蚊帳の外状態に成っている咲に自己紹介する様に促すと、慌てて自己紹介する咲。

 

 

「初めまして、宮永咲と言います。兄が何時もお世話になっております。京ちゃん、須賀君とは同じクラスなんです」

 

「お兄さん?」

 

「あぁ、俺と咲は双子の兄妹なんですよ」

 

「なるほど!道理で似ていると思いました………初めまして、原村和と言います」

 

「自己紹介は終わったな!和は去年の全国中学生麻雀大会の優勝者なんだぜ!」

 

「えっ?それって凄い事なの?」

 

「当たり前だろ!」

 

 

あたかも自分の事の様に自慢する京太郎に、こういった大会が在る事も知らなかった咲は、彼女が何れだけ凄いのか今一解らなかったらしい。

 

 

「凄いじょ!どぉぉぉぉん!」

 

 

そう言いながら小さな袋を持ちながら突入して来た、咲より小柄な女子生徒。

 

 

「学食でタコス買って来たじぇい♪」

 

「又、タコスか?」

 

「ぬっ!やらないじぇい!」

 

「取りゃしねぇよ!」

 

「お茶淹れてきますね」

 

 

な、なんだ?こののほほんとしたやり取りは!?

呆気に取られている俺達兄妹を余所に、小柄な女子生徒は勢い良く咲へと近付き、咲を指差しながら説明しだした。

 

 

「和ちゃんは、本当に凄いんだじょ!去年の全国中学生麻雀大会の優勝した最強の中学生だったわけで!」

 

「はぁ………」

 

「しかも!ご両親が弁護士さんと検事さん!男子にもモテモテだじぇい!」

 

「誰かさんとは大違いだな?」

 

「むぅ………」

 

「お前も人の事は言えんだろう京?ところで君は?」

 

 

軽く咲をディスる京太郎に脳天チョップを咬ましながら、小柄な女子生徒に訪ねた。

 

 

「うん?あぁ、ゴメンだじぇい!私は1年C組の片岡優希。和ちゃんとは同じ中学なんだじぇい!」

 

「へぇ~そうでしたか。俺は、宮永達也。原村さんと同じクラスで、妹の宮永咲とは双子の兄妹なんだ」

 

「み、宮永咲です。どうぞよろしくお願いいたします」

 

「2人供、よろしくだじぇい!」

 

 

片岡さんと軽く挨拶を交わしていると、原村さんが人数分のティーカップが乗ったトレイを持ちながら現れた。

 

 

「あの、お茶出来ました」

 

 

そう言って、雀卓の隅に設置されている2つテーブルにティーカップを置き出す。

 

 

「あれ、部長は?」

 

「奥で寝ています」

 

「じゃ、うちらだけでやりますか。咲と達也どちらが入る?」

 

 

などと勝手に進行し俺達のどちらが参加するのか聞いてくる京太郎に、俺は待ったをかけた。

 

 

「なに勝手に話しを進めているだ京?俺は兎も角、咲が戸惑っているだろ?」

 

「わ、私はまだ麻雀をやるって………」

 

 

俺達の会話を聞いていないのか、咲の言葉を遮る様に原村さんが………。

 

 

「そうですね、始めましょうか?」

 

「………はい」

 

 

可愛らしい笑顔でそう言われた咲は2つ返事で答えてしまった。

 

 

「達ちゃん、どうしよう………」

 

「はぁ~。了承したのはお前だろ?まぁ、今日は好きに打って楽しめ。俺に言える事はそれだけだ」

 

 

俺は、そう言って咲の頭を撫でて咲を落ち着かせると、咲の顔は何時もの笑顔に成っていた。

 

 

「うん!私、やってみる!」

 

「達也、お前は?」

 

「俺は、咲の付き添いだからな。遠慮しておくよ」

 

「そうか。じゃ、25000点持ちの30000点返しで、順位点は無し」

 

「「はい」」

 

「タコスうま~」

 

「じゃ、俺はここで待たせてもらう」

 

 

京太郎が賽を振るのと同時に、俺は近くに在ったソファーに座り、鞄から小説を取り出し読み始めた。

 

どうやら親は咲に決まったらしい。

配牌が終わり『タン!』と牌を切る音が部屋中に響き渡りはじめる。

 

 

「ふふんッ!チー!てぇい!」

 

 

片岡さんが3回鳴いて3副露に成ったようだ。

そして、親の咲が牌を切ると。

 

 

「ロ~ン!混一色、2000点!」

 

「ええっ!?振り込むか普通?ピンズ集めているの見え見えでしょうがこれ」

 

「えへへへ………」

 

 

京太郎の指摘を受けて苦笑いする咲。

恐らくだが咲の奴、業と振り込んだな?

 

さて、この咲の行動に京太郎は兎も角2人は気付いているのか?

 

視線を小説から原村さんと片岡さんに向けると、どうやら気付いていないらし。

 

全中大会の優勝者とは言え、その程度実力とは………。

相手の力量を見抜けない相手など、咲に勝てる訳がない。

恐らく咲は±0で凌ぐつもりらしい。

 

 

「良し!リーチだーぁ!!」

 

「あっ、ゴメン。それロン」

 

「はぁっ!?三色捨てて、それは無いだろが!初心者にも程があるぞ!」

 

「あはは、ゴメン京ちゃん」

 

「これで終わりですね」

 

 

半荘1回の結果は。

 

1位、原村さん 33,000点 +23

 

2位、片岡さん 31,800点 +2

 

3位、咲    29,700点 ±0

 

4位、京太郎   5,500点 -25

 

 

まぁ、結果からみて順当な順位だろ。

京太郎の1人負けは端から解っていた事だし、咲も±0にする事が解っていた。

 

 

そして直ぐ様2回目の半荘がスタートした。

 

この半荘で原村さんが次々と上がり、ほぼ独走状態だった。

 

結果は。

 

 

1位、原村さん 41,000点 +31

 

2位、咲    30,000点 ±0

 

3位、片岡さん 17,800点 -12

 

4位、京太郎  11,200点 -19

 

 

原村さんは2連続首位で、咲が2連続±0を達成する。

 

そんな咲の表情を見ると、あれ程毛嫌いしていた麻雀を打っているにも関わらず、何処か楽しそうな表情をしていた。

 

俺は読んでいた小説を閉じ、咲の下へと向かい咲の耳元で呟いた。

 

 

「咲、次の半荘。3人を飛ばしてみろ」

 

「えっ!?で、でも達ちゃん……」

 

「お前自身気が付いてないかも知れないが、お前は3人より強い。もしお前が3人を飛ばしたら、京はお前を彼女にしたいと思うかもな?」

 

「…………ッ!!」

 

 

最後の言葉が効いたのか、咲の表情はヤル気に満ちていた。

いくら妹とは言え、こんな手でヤル気になるなんて安直過ぎないか妹よ………。

 

 

「解った!私やる!やるよ達ちゃん!」

 

「あぁ、頑張れ咲。これは家族麻雀では無い。お前の本気を見せてやれ!」

 

 

そう言って咲から離れ、原村さんと片岡さんの牌が見える位置に近くに在ったパイプ椅子を移動させて静観する事にした。

 

はてさて、彼女達は本気と成った咲に一矢報いる事が出来るだろうか?

 

非常に楽しみだ………。

 



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3話

半荘3回目。

 

賽の出目で東場の親は京太郎からスタートしようとしていた。

 

 

「そう言えば、咲の麻雀ってパッとしないな?」

 

「点数計算は出来るみたいだけどね?」

 

「えへへ……」

 

 

先程までの咲の打ち方を見て素人だと判断したのか?

それとも的外れ的な感想を述べたのか?

 

京太郎と片岡さんは咲を見下している様な言いぐさだ。

 

 

「京、お前はそんな咲にすら勝てないでいるではないか?咲の打ち方をどうこう言う前に、先ずは……」

 

 

ゴロゴロ!ピカーン!!

 

 

そこまで言った矢先、落雷の轟音が部屋に鳴り響く。

 

 

「解っているって達也!それにしても雷か………」

 

「降ってきましたね………」

 

 

原村さんが窓を見ながら雨が降って来た事を告げると。

 

 

「えっ!?嘘ッ!!傘持って来ていないわよっ!!」

 

 

仕切り板の裏手から叫び声と共にガタッ!と言う音がした。

 

 

「えっ?あれって生徒会長?」

 

 

咲の言葉に視線を仕切り板の方へ向けると、仕切られた場所から1人の女子生徒が姿を現れた。

 

 

「咲、この学校では生徒会長ではなく学生議会長な。お邪魔しています、竹井生徒議会長」

 

「あぁ、君は確か………宮永達也君だっけ?学年主席の……」

 

「主席なのかは解りかねますが、その通りです。そして今、麻雀部の部員と打っているのが、妹の………」

 

「宮永咲です」

 

「竹井先輩は、麻雀部の部長なんです」

 

 

目線は卓に向いたままの原村さんが教えてくれた。

 

竹井先輩は、咲の後ろへと近付き咲の手牌を確認すると何やら納得した表情を浮かべてパソコンが置いて在る場所へ移動しパソコンを操作し始め、これまでの対局のデータを確認しだした。

 

 

「ロン!1000点です」

 

 

咲のロン宣言で、俺は頭を抱えていた。

 

俺は彼女達に咲との実力差を解らせる為に、咲に発破を掛けて3人を飛ばせと命じたが、俺は忘れていた。

 

咲は普段から±0になる打ち方しか出来なく成っている事を。

これは俺の失策だ…………。

 

先程まで意気揚々としていた咲の表情が、苦笑いを浮かべて俺を見ていた。

 

俺は仕方がないと言うジェスチャーで咲に応えると、驚いた表情で立ち上がった竹井先輩は、咲の下へと歩みより咲の手配を見ると、驚愕していた。

 

 

「よっしゃ、点数申告なぁ~」

 

「嗚呼、今回ものどちゃんがトップか……」

 

 

片岡さんが今回も原村さんがトップだと告げると、先程まで咲の手配を見て何やら思考を巡らせていた竹井先輩は、突然咲のスコアを確認しだした。

 

 

「宮永さんのスコアは!」

 

「プラマイ0ポン!」

 

 

片岡さんが咲のスコアを申告した瞬間、竹井先輩の表情が変わった。

 

恐らくは、咲の実力を見抜いたのだろ。

 

流石は、麻雀部の部長にて学生議会長と言った処か。

 

 

「咲、図書室で借りた本を返すのだろ?」

 

「あっ!そうだった……」

 

「俺は、もう少しここに居るから、先に帰っていてくれるか?」

 

「あ、うん。じゃ、お先に失礼します」

 

 

そう言って咲は部室から出でいった。

 

 

「帰っちゃいましたね………」

 

「そりゃ、のどちゃんが強すぎだからだじぇい!」

 

「圧勝って感じだね!」

 

「圧勝?なに甘い事言っているのよ。彼女のスコアを見て気付かないの?」

 

 

3人の言葉のやり取りを聞いて、呆れ返る竹井先輩。

 

 

「宮永さんのスコアは3連続±0………まさか、それが故意だとでも言うのですか?」

 

「そんな馬鹿な。偶々っしょう!」

 

「そうだじょ!麻雀は運の要素が大きいからプロでもトップ率が3割行けば強い方。それを±0なんて………普通に勝つより難しいじぇい」

 

「しかも3回連続なんて不可能ってかい?ねぇ、宮永君。貴方の妹さん、本当は………」

 

 

竹井先輩の言葉に、皆の視線が俺に向けられた。

 

 

「えぇ、竹井先輩が思っている通りです。咲の実力は、原村さんを始めとする3人より数段上です。京や片岡さんは兎も角、インターミドルチャンプの原村さんが、咲の実力を見抜けなかった事に、はっきり言って失望しましたよ。チャンプの実力がこの程度かとね………」

 

 

俺は、原村さんを見てそう言った。

 

 

「達也!てめぇ和になんて事言うんだよ!」

 

「ありのままを言っただけに過ぎんが?先程、原村さんの打ち筋を拝見したが、確かに実力は咲に及ばないにしろインターミドルチャンプだけの事は在るが、余りにも型にはまり過ぎる。そして片岡さんは、東場では無類の強さを発揮するが、南場になると極端に弱くなる。東場で幾ら大量リードしていても、そのリードを維持出来ない。更に、京。お前は初心者も良いところだ!安易に振り込みするのが良い例だ!」

 

「流石は学年主席だけの事は在るわね宮永君。だった1局だけ見ただけで和や優希の弱点を看破するなんて?貴方達一体何者?」

 

「何者と言われましてもね?俺達は、ごく普通の家庭に生まれた双子ですよ。ただ、1つだけ普通じゃないと言えば………麻雀一家だっただけですかね?」

 

 

そう良い終えると同時に雷鳴が轟き、原村さんが突然と立ち上がり、部室から出ようとした。

 

 

「こんな雷雨の中、何処に行こうと言うのですか?咲の後を追うのなら無駄です。咲は既に家に着いている頃でしょうから」

 

「…………」

 

 

ドアノブに手を掛けていた原村さんは、ドアノブから手を離し塞ぎこんでしまた。

 

 

「悔しいですか原村さん?貴方より実力が勝る咲に手加減された事に……」

 

「……………」

 

 

俺の問い掛けにさえ応える気力を失った原村さん。

インターミドルチャンプとしてのプライドがズタズタにされたのが余程堪えたのだろう。

 

 

そして俺は、竹井先輩に提案した。

 

 

「竹井先輩、俺と1局打って頂けませんか?面子は、竹井先輩と原村さんに片岡さんの3人で」

 

「私は構わないけど………和があれだからね………」

 

 

塞ぎ込んでいる原村さんを指差して、そう告げる竹井先輩。

 

 

「では、こうしましょう原村さん。明日咲に、もう一度打つ様に言います。そこでもう一度咲の実力を計ると良い」

 

「はい、解りました。明日、絶対に宮永さんを連れて来て下さい!」

 

「約束しましょう。では、時間も押し迫っていますので…………」

 

 

俺は、ポケットからスマホを取り出し徐に電話を掛け始めた。

 

 

「もしもし、厳さんですか?」

 

『おう!達坊どうした?』

 

「すみません、今日は店に行けないので、常連さん達に伝えてもらえますか?」

 

『あいよ!高校生だから仕方がないって。学業の方頑張れよ!』

 

「また、そのうち顔出しますので………」

 

 

そう言って通話終了のボタンを押した。

 

 

「何処に電話したのかしら?」

 

「行き付けの雀荘です。本当なら今日は、そこで打つ予定でした」

 

「と言う事は、妹さんも?」

 

 

竹井先輩の問い掛けに、俺は首を横に振り否定する。

 

 

「この事は、咲には内緒にしています。ちょっと訳が有って麻雀が嫌いに成っているんで………」

 

「あれだけの実力が在りながら?」

 

「そこは家庭内の事情って事で触れないでくれると助かります」

 

「そ、そう。では、早速始めましょうか。須賀君、悪いけどお茶を淹れて来てくれないかしら?」

 

「解りました部長!」

 

「和も、さっさと席に着いて頂戴。始めるわよ!」

 

 

竹井先輩の指示に、頷きながら元の席に戻る原村さん。

 

俺は、学ランを脱ぎYシャツの襟首のボタンを外し袖を腕捲りして、先程まで咲が座っていた席に着く。

 

 

「皆さん、ここは本物の麻雀をしませんか?」

 

「本物の麻雀?」

 

 

竹井先輩の問い掛けに頷く。

 

 

「麻雀とは本来、ギャンブルの1種に過ぎない。今ではプロ雀士が賞金や名誉を掛けて戦っていますが、一般的な麻雀と言えばノーレートの麻雀か賭け麻雀のどちらかです。そこで竹井先輩、1つ賭けをしませんか?」

 

「賭けですって?」

 

「えぇ、賭けと言っても現金や体を賭けろって訳じゃ有りません。もし俺が敗けたら、咲を麻雀部に入部させる事を約束しましょう」

 

「もし、私達が敗けたら?」

 

「簡単ですよ。今後一切、俺達に干渉しない事です。あぁ、原村さんとの約束の後ですがね…………どうです竹井先輩?」

 

 

そう提案すると、竹井先輩は暫く考えると竹井先輩のアホ毛がピン!鋭く伸びると俺を見て微かに微笑んだ。

 

 

「解ったわ、良いでしょう!」

 

「「「ぶ、部長!」」」

 

 

竹井先輩の言葉に原村さん達は驚き声を荒げる!

 

 

「大丈夫よ皆。和と優希、ここは共同戦線と行きましょう!宮永君、後1つ追加良いかしら?」

 

「もう勝ったつもりですか………良いですよ」

 

「貴方が敗けたら、貴方にも麻雀部に入部して貰うわ。それと学生議会にも参加して貰うわ!」

 

「解りました、良いでしょう」

 

 

 

さぁ、始めようか!

本物の麻雀を!

 



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4話

~京太郎vision~

 

 

突如として始まった達也と麻雀部部員との1局。

 

上家に座る部長が親番を決める賽を振るって、定石道理に親は優希に決まり配牌が進む。

 

 

しかし何故、達也は自身にとって利益のない賭けをしたんだ?

 

確かに、達也が勝てば麻雀部は今後一切の宮永兄妹に干渉する事は出来ない。

 

しかし、仮に達也が敗ければ咲が麻雀部へ入る事になる。

 

はっきり言って達也には、何の利益がない話しだ。

 

それを何故?

 

昔から文武両道に秀でていて妹思いの奴だ。

イケメンで人望が厚く、多少の事では軽く受け流す人格者であるアイツが何故?

 

 

「京、今から俺達の打ち回しを観て勉強するんだ」

 

「あん?何を偉そうに……」

 

「今のお前の実力では、県大会予選で1勝処か清澄高校麻雀部の看板に泥を塗るだけ。少しでも実力を上げたいのなら実力者の打ち回しを参考するのが良い。しかし、ただ漠然と観ているのではなく、自分なら『どうするか?』を考えながら観るんだ」

 

 

くっ!確かに俺の実力は素人同然だっての!

達也の言葉は、常に的を得ているから言い返せない。

 

じゃ、見せて貰おうか!

お前の麻雀を!

 

 

「先制のダブルリーチだじぇい!」

 

 

{横白}

 

 

「ポン!」

 

 

東場の親である優希の先制ダブルリーチを、達也は即刻で鳴いた。

 

恐らくは一発潰しだろ。

 

そして3順目には和からの{発}を鳴き二副露。

更に手配には{中}が暗刻ってるって!?

 

これは大三元の聴牌じゃないか!?

否、それだけではない!

 

正確には『字一色、大三元』{南、北}のシャボ待ちダブル役満手!?

 

 

恐らくは達也が大三元を狙っている或いは聴牌している事が、部長達にも解ったのだろう。

 

達也の河に、切れているのが{東、5、五}のみ。

 

こりゃ、振り込んでも事故としか言えない!

 

 

だが字順、驚愕できな出来事が起きた!

 

達也のツモ番。

ツモって来たのは、当たり牌の{南}!

 

まさか、目の前でダブル役満の上がりを拝めるとは思っていなかったと思っていると、達也は無言でツモって来た{南}をツモ切りしたのである!

 

その行動に、驚きの余り声を上げそうになるのを堪えて観ていると、今度は{北}をツモる。

 

しかし、それもツモ切りした達也。

 

2連続ツモ上がり拒否をする暴挙にでる。

 

 

既に場には、{南と北}2枚づつ切れている為に上がる事は出来ない。

 

 

しかし、和と部長が達也の大三元を警戒してかベタ降りしている中、達也は優希の当たり牌である{6}を警戒する事なくツモ切りする。

 

 

「ロンッ!!ダブリー、タンヤオ、ドラ2親満の12,000だじぇい!」

 

 

案の定、その振り込みを見逃す優希ではなく、達也は優希の親満12,000点を支払う事になった。

 

 

「宮永君、その手配を見せてくれないかしら?」

 

 

と突然部長が達也に手配を公表する様に要求して来た。

 

 

「良いですよ」

 

 

そう言って手配を倒す達也。

 

{南南北北中中中}{発横発発}{横白白白}

 

 

字一色、大三元の聴牌の手配を公開すると………。

 

 

「「「なっ!?」」」

 

 

3人は当然の様に驚いた。

 

 

「宮永君、貴方は私達を侮辱しているのですか?」

 

「和の言う通りね。貴方、何故2回も上がり放棄したのかしら?」

 

 

達也の手配と河に捨てられている{南と北}を見て、今まで見た事のない怒りを露にする和と、冷静沈着な表情で達也に問い詰める部長に、達也はこう答えた。

 

 

「こんな序盤に、ダブル役満で上がってしまったら………勝負に成らないでしょう?それに、竹井先輩の実力を見る前に終わらせるのは不本意ですからね………」

 

「へぇ、私達相手では、この程度の役満なんて簡単に上がれるって訳?」

 

「さぁ、どうでしょうね?」

 

「ふ、ふ、ふざけるのもいい加減にして下さい!」

 

「なら、俺を本気にさせてみせて下さい。原村さん」

 

 

そう言って達也は、手配を崩し機械の中に入れる。

 

 

その後は、ごく普通の麻雀が進み東場が終了する。

 

 

これまでの点数は………。

 

 

 

優希:33,000点 

 

和 :33,000点 

 

部長:33,000点 

 

達也: 1,000点 

 

 

達也の1人凹みで東場が終了するが、当の達也は平然としながら配牌された牌を理牌していた。

 

あれだけ大口を叩いたのに本当に大丈夫なのか達也?

 

 

 

~京太郎vision END~

 

 

 

 

さて南2局の親番で、これまでの点数はっと………。

 

うん、ものの見事に俺の1人凹みで残り1000点と………まぁ、情報料としては妥当ってとこかな?

 

それにまぁ、この程度のハンデが無いと面白味が無いしな?

 

 

「宮永君、このままだと貴方ハコ割れするわよ?」

 

「大丈夫ですよ竹井先輩。この程度なら絶対にね!」

 

 

俺を心配する素振りを見せる竹井先輩を、嘲笑うかのように配牌されていく牌を理牌させて行きながら俺は仕掛けて行く。

 

 

配牌された手牌は。

 

{五赤五赤五五}{四四⑦}{24赤5}{③発中}

 

 

五萬が4枚に四萬が2枚が入って来ていた。

 

 

それに王牌は俺の目の前の山牌と来た。

 

 

「早くドラ表示牌を捲るんだじぇい!」

 

「あぁ、すまん」

 

 

片岡さんからの指摘に返答して、俺以外の連中が視線を配牌に向けている一瞬に俺は玄人業(ばいにんわざ)を実行した。

 

右手に四萬の対子を上下逆さまに握りしめ、左手で恰もドラを捲る振りして、右手に握りしめた四萬の対子と本来のドラ表示牌とその隣をすり替え{四萬■}とした。

 

玄人業の1つ【ドラ返し】の応用業。

 

イカサマだろって?

 

確かに本来イカサマは御法度だが、玄人達の世界ではごく普通に行われている行為で、やられる方が悪いと言う暗黙のルールみたいな世界だ。

 

現に、あからさまなイカサマ以外は様々玄人業が飛び交うのが玄人達の麻雀だ。

 

 

そんな世界の雀士を玄人(ばいにん)と呼ぶのさぁ。

 

 

「カン!そしてリーチだ!」

 

 

6巡目に暗槓しテンパイ即リーチを掛けた俺に彼女達は驚く!

 

それもそうだろ、何せ槓ドラが四萬と表示されたのだから。

 

五萬が4枚でドラ8+赤五萬が2枚在る訳だから合計ドラ12。

この時点で上がれば、数え役満確定だからだ。

 

そして7巡目。

 

 

「ツモッ!!」

 

 

手牌を倒して宣言する。

 

 

「リーチ、一発、ツモ、ドラ13で数え役満で16,000オールです!」

 

 

さぁ、反撃開始だッ!!

 

 



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5話

~久vision~

 

 

突然の数え役満に私は疎か和達も驚きを隠せなかった。

 

彼の{五萬}加槓から槓ドラが隣と同じ{四萬}と表示された時、まさか!?って思ったけど一発ツモして数え役満だなんて……………なんて強運の持ち主なのかしら?

 

それだけ出はないわ。

東場の時の彼とはまるで別人の様子で、プロ雀士と打っている様な感じがするわ。

 

そして気付けば、私達3人揃って点数は丁度0点。

 

点数調整………ううん、点数支配と言ったら良いかしらね?

 

なんて兄妹なのかしら。

 

 

妹の宮永咲さんは、常に±0で終わらせる技量の持ち主。

そして彼は、更にその上を凌ぐ位の技量と言うか天賦の才の持ち主と言う事。

 

 

彼は男子だから兎も角、妹の宮永咲さんには麻雀部に是非とも入部して欲しいわね!

 

彼女が入ってくれれば、私の長年の夢が叶うかも知れない!

 

ここは、是が非でも彼の連チャンを阻止して彼を倒すッ!!

 

 

~久vision END~

 

 

 

 

さて、南二局の7本場の五巡目。

 

ここで俺の手牌は………。

 

 

{222}{333}{444}{発発発}{8}{赤⑤}

 

 

緑一色、四暗刻単騎のトリプル役満テンパイ。

 

また、イカサマしただろって?

 

否、今回は俺の想いに牌達が応えてくれたと言うか、ツモる度に暗刻が出来ていて、気付けばトリプル役満テンパイと成っていた。

 

 

さて、これで止めを刺すか!

 

 

「リーチッ!!」{横赤⑤}

 

俺のリーチ宣言に3人は警戒心を強くするが俺は更に………。

 

 

「オープンッ!!」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

 

そう言って手牌を倒すと京太郎を含めた4人は驚愕の余り言葉を失っていた。

 

 

「み、宮永君。貴方、まさか{8}をツモれると?」

 

「えぇ。今の俺なら絶対にツモれる自身があります!」

 

 

次巡、山牌からツモって来たのは………三元牌の{発}

 

そう、俺の当たり牌は嶺上牌の中に在ると教えてくれた{発}を俺は迷わず宣言するッ!!

 

 

「カン!」{■発発■}

 

 

そして、俺の右手は嶺上牌を掴み手前に引き寄せ卓叩き付けたッ!!

 

 

「ツモッ!!」

 

{222}{333}{444}{■発発■}{8} {8}

 

 

「緑一色、四暗刻単騎!トリプル役満で48,000オールッ!」

 

 

勝負は決した。

 

俺は席を立ち脱い学ランを着直し鞄に手掛けた。

 

 

「では、これにて失礼します。明日、咲にはもう一度麻雀部で麻雀を打つ様に言いますので、咲の実力を再度確認して下さい、原村さん」

 

 

それだけ言い残して俺は麻雀部の部室から出て家路につくのだった。

 

 

 

 

 

 

~和vision~

 

 

「明日、咲にはもう一度麻雀部で麻雀を打つ様に言いますので、咲の実力を再度確認して下さい、原村さん」

 

 

それだけ言い残して部室を後にした宮永君。

残された私達は、彼の神掛かった嶺上開花によるトリプル役満ツモ上がりで放心状態になっていました。

 

 

「あれが達也の実力なのか………?」

 

 

いち早く我に返った須賀君が、宮永君の実力に驚きを隠せずに、そう呟く。

 

 

「恐らく違うわね………私にはまだ余力がある様に見えたわ」

 

「でもでも、東場のダブル役満テンパイ以外は、パッとしなかったじぇい?皆に振り込んでいたし偶々なんじゃないかな?」

 

「いいえ、優希。恐らく彼は宮永さんが行っていた自身が±0にする点数調整を、私達3人したのだと思いますよ?」

 

「えっ!?そんな馬鹿な!」

 

「和の言う通りよ須賀君。彼は私達の実力を図ると同時に点数調整を行ったのよ。そうやって自身を追い込み不利な状況を覆してみせた」

 

 

それ故に私は宮永さんが許せなかった。

 

部長や宮永君が言う様に彼女が私よりも実力上位者なのなら、何故に彼女は±0にする麻雀を打つのか?

 

そして、宮永君の事もそうです。

彼の麻雀は、私の想像を遥かに凌駕していた。

 

普段から人当たりが良く優しく微笑む笑顔に男女問わず人気の彼の印象が、冷徹で鋭い眼光で睨み付けられた時に私は生きた心地がしなかったし、私の本来の麻雀もさせてくれなかった。

 

私は、もう一度宮永さんだけではなく宮永君とも打ってみたいと思う自分に気が付かなかった。

 

 

~和vision END~

 

 

 

 

翌日、俺は咲と京太郎と供に麻雀部へと再び訪れたら。

 

 

「おっ、来たようじゃね?」

 

 

広島弁で迎え入れた女子生徒。

制服のリボンから察するに二年生だろ。

 

 

「あっ、染谷先輩。お疲れっす!達也、咲。この人が麻雀部の副部長の染谷まこ先輩だぜ!」

 

「初めまして染谷先輩。1年の宮永達也です」

 

「同じく、1年の宮永咲です。は、初めまして」

 

「あんたらの事は聴いとるよ。プラマイゼロ子に、冷徹雀鬼じゃろ?」

 

 

なんだ、その中二病的な二つ名は?

 

 

「あら、貴方も来ていたのね宮永君?」

 

 

そう言って入って来た竹井先輩。

 

 

「えぇ、咲の付き添いですがね」

 

「そう、須賀君。優希を呼んで来てくれるかしら?」

 

「はい、部長!」

 

 

そう言って京太郎は、外のテラスへと向かい片岡さんを呼びに言った。

 

 

「とりあえず宮永さん。貴女には和、優希、まこの3人で赤4枚の東風戦を二回戦で戦って貰うわ。良いかしら?」

 

「は、はい。判りました」

 

 

竹井先輩の提案を了承する咲。

 

北家側に原村さんと南家側に染谷先輩が既に席に着いている為、咲は西家側に座ると遅れて来た片岡さんが空いた席、東家側の席に着く。

 

 

「さぁ、始めて頂戴!」

 

 

竹井先輩の号令と供に、東家に座る片岡さんが一度賽を振るって親は片岡さんから闘牌がスタートした。

 

 

「さて、宮永君。改めて見せて貰うわ。貴方の妹さんの実力をね?」

 

「それは咲に言って下さい。竹井先輩」

 

「それもそうね♪」

 

 

そう言って咲の後ろ側に立って闘牌を見守る竹井先輩。

 

俺は近くの椅子に座り闘牌が終了するのを待った。

 

結果から言うと、咲は昨日に引き続き4回連続±0で終了させてみせた。

 

序盤は、片岡さんの2巡目での即リーチの一発ツモ上がりで、親の跳満で逃げ切り態勢を図るも、3人も負けじと追撃する展開になるも、トップは片岡さんのままオーラスに入る。

 

そして、咲の手牌はメンホンテンパイの{⑤}と{⑧}の両面待ちでリーチは掛けていない。

 

±0にするには、5,200点で上がる必要がある為だ。

そして7巡目、片岡さんは咲の当たり牌である{⑤}を切るが、咲は当たり牌である{⑤}を敢えて見逃し、8巡目の原村さんが切った{赤⑤}を、コレまた敢えて見逃すと言う暴挙に、後ろで観ていた竹井先輩と京太郎は驚きを隠せないでいたが、竹井先輩は気付いたのだろう。

 

咲は勝利に拘らず、あくまで±0で終える事しか考えていない事を。

 

 

咲の行動にあたふたする京太郎に竹井先輩は、どうして咲が2回連続で上がり放棄してのかを小声で説明していると…………。

 

 

「リーチッ!!」

 

 

次巡に親の原村さんが咲を試す様にリーチを掛けた。

 

コレで咲は、メンホンツモ上がりが出来ない。

 

咲に残された選択は、40符三翻の手から70符二翻の手にする事。

 

そこで咲はツモって来た{2}と{⑥}を入れ替える様に切り出し、次巡ツモって来た{⑨}と{⑦}を入れ替え、さらに次巡。

 

既に暗刻ってた風牌の{西}にツモって来た残りの{西}により、咲の上がり準備は完了し、咲は迷わず{西}を暗槓。

王牌から嶺上牌1枚引き入れると……。

 

 

「嶺上ツモ。70符二翻は、1200、2300!」

 

 

前日から合わせて4連続±0をやってのけた咲に、竹井先輩は満足気な様子。

 

1回戦が終了すると、10分間の休憩に入る様に指示する竹井先輩の言葉に、各々が休憩に入る。

 

 

「宮永さん」

 

「は、はい!」

 

「麻雀は、勝利を目指すものよ?」

 

「は、はぁ………」

 

 

竹井先輩の咲への問い掛けに困惑する咲。

俺は、その言葉に反論する。

 

 

「それは、ちょっと違うと思いますよ?竹井先輩」

 

「それは、どう言う事かしら?」

 

「麻雀は、どの相手より自分が逸速く上がり勝利するゲームだと皆さんは思っているかも知れませんが…………その逆です」

 

「どう言う意味なんだよ達也?」

 

 

俺の反論に京太郎は、意味が解らないと言う表情で訪ねて来ると、他の皆も同じ様に俺の言っている意味が解らないと言った表情をしていた。

 

 

「簡単な話しだ。麻雀の本質とは、如何に相手を闘いの場から引き摺り降ろすと言う事。戦略や戦術を駆使して相手を闘い場から引き摺り降ろした先に勝利が存在すると言う事。この本質を理解している者など、プロ雀士でも一人握りの人間だけでしょうね?」

 

「「「「「「………………」」」」」」」

 

 

俺の説明に皆、ポカンとした表情をしていた。

う~ん、少し難しかったか?

 

 

「取り敢えず、竹井先輩は咲に勝つ麻雀を打てと言いたいのですよね?」

 

「えぇ、そうよ」

 

「咲の麻雀は、どう打とうが常に±0にする事しか出来ない………なら、咲。自分の持ち点が1,000点しか無い状態でスタートすると考えて打て」

 

「………うん!解った達ちゃん!」

 

 

咲にそう指示すると暫く考えた咲は了承し、俺達のやり取りに混乱する京太郎。

 

 

「さぁ!休憩時間は終わりよ。もう一回戦、始めて頂戴!」

 

 

竹井先輩の号令に、4人は再び東風戦を開始する。

さて、咲はどう闘うのか楽しみだ。

 

 

 

 



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6話

明けましておめでとうございます。

漸く更新出来ました。

本年も宜しくお願い致します。


さて、東風戦2回戦。

 

結果は、原村さんとの33,000点差を咲の嶺上ツモからの四暗刻上がり+原村さんのリーチ棒込みの逆転トップで幕を降ろした。

 

 

「嶺上開花による四暗刻か………流石は咲。良く上がったな」

 

「私自身も驚いているよ。だって始めての役満だもの………」

 

 

咲の言葉に、麻雀部員の面々を驚きを隠せなかった。

 

 

「さ、咲。それは本当なのか?お前、それだけの実力が在りながら役満を上がったのが初めてなんて?」

 

「う、うん。本当だよ京ちゃん」

 

「まぁ、詳しい事は個人のプライバシーに関わるから、知りたいのなら後で咲に直接聞くと言い。じゃ、咲、帰るぞ。竹井先輩、こちらの約束は守りましたので、例の件忘れないで下さいね?」

 

 

それだけを言って部室を出ようとした時、原村さんが悔し涙を流しながら勢い良く部室を飛び出して行った。

 

 

「達ちゃん、私………」

 

「原村さんが、気になるのか?」

 

「………うん」

 

「なら、行くと良い。俺は先に帰っているから」

 

「うん!」

 

 

笑みを浮かべて返事する咲は、原村さんを追い掛ける様に部室を飛び出して行った。

 

 

「良いの宮永君?」

 

「何がです?」

 

「妹さんに和の後を追わせて?」

 

「別に反対する理由が在りませんからね」

 

 

それだけを言い残して俺は部室を出て行った。

 

 

 

 

夕飯を済ませた俺は、自室で今日の課題と明日の予習をしていると、トントンとドアをノックする音と供に咲の声が聞こえて来た。

 

 

「達ちゃん、少し良いかな?」

 

「あぁ、入って良いよ咲」

 

 

部屋の扉ゆっくりと開き咲が入って来た。

 

 

「どうした咲?」

 

「うん、さっきね。物置部屋でお父さんから、この雑誌を渡されたの………」

 

「物置部屋で親父がか?」

 

「うん、57ページ…………そう言い残して」

 

 

俺は、咲の言った57ページ目を開く。

 

そこに載っていたのは、高校麻雀女子個人二冠王者『宮永照』と記載されていた。

 

 

「相変わらずだな姉貴は?」

 

「うん……でも、元気そうで良かった」

 

 

そう言った咲の顔は、心なしか慎重そうな顔付きだった。

 

 

「どうした咲?何か俺に話したい事でも在るんじゃないか?」

 

「うん。私、麻雀部に入ろうと思うの………」

 

「まぁ、咲が入りたいなら良いと思う。しかし何故、今更麻雀部に入ろうと思った?」

 

 

俺の問い掛けに咲は、先程までの顔とは別人の様に真剣な表情で力強く答えた。

 

 

「私、麻雀部に入って全国大会に行きたい!全国大会でお姉ちゃんに会いたい!そして、お姉ちゃんと仲直りしたいの!」

 

 

やはり、そう来たか……。

親父も今日の咲の様子に気が付いた様子だ。

流石は父親と言ったところか。

 

 

「そうか………しかし、全国へ行くなら先ずは県予選を突破しないとなぁ?そう言えば、原村さんと何か話したのか?」

 

「うん………麻雀を好きでもない私に、負けたのが悔しいって言ってた。それと、全国には強豪が大勢いるって………私、家族以外の麻雀を打って、やっと気が付いたの!麻雀って楽しいものなんだって………」

 

 

そう力強く言い切る咲に俺は、漸く前に進む為の一歩を歩き始めた咲を喜ばしくなる反面、少し寂しくも思えた。

 

 

「明日、一緒に麻雀部の部室に行ってくれないかな?」

 

「わかった。じゃ、明日入部届け出しに行こう」

 

 

 

 

翌日の放課後、俺は咲を引き連れて再び麻雀部の部室の前に訪れていた。

 

咲は、決心がついた様に力強く扉を開け一歩踏み出す。

 

 

「お願いします。私を此処に入れて貰えませんか!」

 

 

その言葉に竹井先輩は一瞬、ニヤリと微笑んだ様に見えた。

竹井先輩は、こうなる事を予測していたのか?

そうだと言うなら、流石は学生議会長と言った感じか………。

 

 

「ようこそ麻雀部へ。歓迎するわ!」

 

「はい!」

 

 

どうやら咲は歓迎されたようだ。

更に咲は、雀卓の前まで歩み寄り。

 

 

「私、もう一度原村さんともっと沢山打ちたいんです!」

 

「えっ!?」

 

「もっと原村さんと打って、そして…………もっと麻雀で勝ちたいんです!」

 

 

咲のその言葉に外に居た俺も含めて驚いた。

 

普段から争い事や勝ち負けを意識する事の無かった咲が、自ら原村さんに対して宣戦布告する様な言葉を言うなんて………。

 

それだけ昨日見た姉貴の記事に影響されたのか何なのかは、咲にしか解らないが、これは咲にとって大きな『ターニングポイント』になるだろう。

 

 

「それで、君はどうするの宮永君?」

 

「達ちゃん、一緒に入ろう。そして一緒に全国行こう!」

 

 

二人のその言葉に、全員の視線が外に居る俺に注がれる展開に。

 

暫く無言のままの状態が続くと、原村さんが俺に歩み寄ってきて突然、頭を下げた!

 

 

「宮永君、私からもお願い致します。どうか麻雀部に入ってくれませんか…………私、貴方の様に麻雀で強く成りたいんです!お願いします!」

 

 

ひた向きな彼女の姿勢に、俺の心は揺れ動く。

 

 

「頭を上げて下さい原村さん」

 

 

俺の言葉に頭を上げる原村さん。

 

 

「竹井先輩、入部する際にあたって1つ条件が在ります」

 

「それは何かしら?」

 

 

俺は京太郎に歩み寄り、京太郎の右肩を掴み京太郎を竹井先輩に向けた。

 

 

「仮に、俺が入部したとしても男子部員は2人。俺達、男子部員が出場出来るのは個人戦のみ。しかし、今現状での京太郎が大会に出場するのは、無謀の極みと言って良いでしょう」

 

「クッ!!本当の事だから何も言い返せないぜぇ!」

 

「そこで、県予選が開催される日まで京太郎を俺に預けて貰えませんか?」

 

 

俺の提案を聞き、暫く考え込む竹井先輩。

 

 

「良いでしょう。何か考えが在るって事でしょう?」

 

「えぇ、必ず上位入賞できる様にさせます。と言う事だから京太郎。明日から暫くの間、放課後は俺と一緒に課外特訓だ。覚悟しとけよ?」

 

「マ、マジかよ…………」

 

「が、頑張って京ちゃん!一緒に全国行こうね!」

 

 

項垂れる京太郎に咲が励ましている。

 

 

「改めて歓迎するわ!宮永達也君、宮永咲さん。ようこそ麻雀部へ!」

 

 

こうして俺と咲は麻雀部へと入部したのである。

 

これから暫く、忙しく成りそうだ…………。

 

 



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7話

お久し振りです。

短いですが、漸く書けました。

皆様、コロナに負けずに頑張りましょう!


かくして麻雀部に入部する事になった俺は放課後、京太郎と供に最寄り駅から電車で長野駅へと向かい、長野駅から長野市の繁華街へと訪れた。

 

 

「着いたぞ、京」

 

「着いたぞって………雀荘じゃねえか!?」

 

「あぁ、俺の行き付けの雀荘『みゆき荘』だ。さぁ、行くぞ京」

 

「ちょ、ちょっと待てよ達也!?」

 

 

京太郎の制止を振り切っては俺は、みゆき荘に繋がる階段を登り扉を開けて中に入って行った。

 

 

「いらっしゃい。あれ、今日は来る予定は無い筈じゃ?」

 

「えぇ、今日は厳さん達にお願いが在って来ました」

 

 

そう言って俺は、1つの雀卓に目を向け言葉を続けた。

 

 

「今日から暫くの間、コイツに麻雀を、ここで打たせたいんです。しかも、相手は茂さん達でね……」

 

「俺は構わんが、茂さん達が何て言うかねぇ?」

 

「それは御心配無く。既に手は在りますので」

 

 

そう言って俺は茂さん達が座る雀卓に向かう。

 

 

「おっ!今日来るなんて珍しいな達坊」

 

「おっ!今日こそ勝ってやるぜ!」

 

「速く座りなよ、達坊」

 

 

そう言って息巻くる年配の男性達。

 

 

「お久しぶりです、皆さん。今日は、皆さんにお願いが在って来ました」

 

 

俺は席に座らず軽く挨拶を交わし『お願いが在る』と切り出した。

 

 

「何だい?言ってみな」

 

 

年配男性のリーダー格である茂さんは、煙草に火を付けながら、そう言って来た。

 

 

「実は……今日から暫くの間、皆さんにはコイツと打って貰いたいのです」

 

 

そう言って俺は京太郎を前にだした。

 

 

「す、須賀京太郎です!よ、よ、よろしくお願いいたします!」

 

 

突然、俺に突き出された京太郎は綺麗な90度でお辞儀をしながら挨拶をする。

 

 

 

「この坊主とかい?」

 

「えぇ。もし、このお願いを聞いて頂けるのなら…………俺に対する、これ迄の負債を帳消しにしましょう。どうです?」

 

 

"負債を帳消しにする"その言葉に、三人は互いの顔を見合せ頷くと…………。

 

 

「本当なんだろうなぁ、達坊?」

 

「えぇ、本当です。なんなら、この場で借用書を燃やしましょうか?」

 

 

そう言って俺は、鞄の中に入っていた三人の名前が記載された借用書を取り出した。

 

 

「わ、分かった!そ、その依頼受けようじゃないか!」

 

「流石は茂さん、話が早くて助かります。鉄さんと武さんも宜しいですか?」

 

 

俺の言葉に、抵抗する事なく頷く二人。

 

 

「では、京。お前には、今日からこのお三方と麻雀を打ってもらう」

 

「わ、判った!」

 

「しかし、ただ打つのだけではなく、初めは鳴き無しの二翻縛りで打ってもらう」

 

「鳴き無しの二翻縛り!?」

 

 

俺の出した課題に、驚きを隠せない京太郎。

 

 

「当たり前だ。その位出来て、やっとスタートラインに立てる位だからな?」

 

「お、おう…………や、やってやろうじゃねぇえか!俺だって皆と一緒に全国大会に出場したいからな!」

 

「その意気だ、京。頑張れ!」

 

 

斯くして暫くの間は、この雀荘に通う事に成った京太郎。

序盤は苦戦するだろうが、人一倍の努力家の奴の事だ、直ぐに慣れて、俺の課題をクリアするだろ。

 



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