艦これ物(仮タイトル) (まうまうのマウス)
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英雄

気まぐれ投稿

気まぐれ更新

あとがきに作者の考察と妄想、解説など書きます


夢を見ていた

 

夢を……見ていた

 

響き渡る轟音

 

漂う火薬の臭い

 

崩れていく部屋の中で……自分は、瓦礫の下敷きになっていた

 

『……ちくしょう』

 

動かない体でもがいても無意味と悟った時に口から漏れた言葉はそれだった

 

大規模作戦の後、疲労困憊になった鎮守府に押し寄せた『敵の波』

大群どころではなかった

 

各自が奮戦した

 

だが、大規模作戦直後で資材が枯渇

 

整備がまともに行き届いてない艤装

 

疲労困憊で満身創痍の『艦娘』

 

急襲故に援軍は期待できない

 

そう伝えても彼女らは出撃した

 

無線機越しに聞こえる彼女らの『最後の言葉』

 

 

ああくそう、何が英雄だ

自分は守られていただけで、何も守れなかった

 

 

あの時も生かされて

あの時も逃がされて

そして、守られて

 

何が英雄だ

そんな人間が英雄等と…名乗っていいはずがない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ドンドン ドンドン)

 

「………なんだ、やかましい」

 

ドアを叩く音で目が覚める

机の上に乱暴に散らばった酒の瓶や缶を落とさないように起き上がり玄関を明けにいく

 

途中転がってる瓶に足をとられてこけそうになったが何とか玄関の扉を開ける

 

雨の中傘をさしてたっていたのは一般人とは程遠い服装をした……海軍の軍服を着た人であった

 

扉を開け確認したと同時に軍服をきた比較的若い軍人は自分に向かって敬礼した

 

「大本営所属、大野少佐であります」

 

「………元帥の回し者か」

 

軍服を見てその考えしか浮かばず思わず口にした

 

大野少佐はそうですと苦笑しつつ答える

 

「立ち話もなんだ、上がれ。散らかってるがな」

 

中に入るよういうと少佐も足場を確かめながらついてくる

 

ある程度机を片付けて座るように促してから冷蔵庫から缶ビールを取り出す。

 

飲むか?と少佐にきくと勤務中ですのでとやんわりと断られた

 

 

「…ふぅ、んで?一体何の用だ。まさか戻ってこい……なんてことじゃないだろうな」

 

缶ビールを飲みながら睨むように少佐をみるが当の本人は困ったように肩を竦めてから鞄から封筒を取り出した

 

「この中に全て入っていると元帥はおっしゃっていました……それと『戻ってきてくれないか英雄。私個人の願いだ』とも」

 

「……少佐、俺は英雄なんかじゃない」

 

首をかしげる少佐に語るように告げる

 

「英雄ってのは幾多もの犠牲の上になり立って『生き残ってしまった臆病者』にすぎないんだ。俺に英雄と呼ばれる資格も、名乗る資格もない」

 

「……『けれど世界は英雄を必要としている』」

 

俺の言葉に紡ぐように少佐は続けた

 

「元帥はあなたがそう言ったら、こう続けてやれと」

 

「………困った父親だ」

 

大きくため息をついたあとに改めて差し出された封筒の封を開ける

 

中には数十枚の履歴書。

階級、軍歴、出身地、所属先……つまりこれは

 

「……なんだ、鎮守府の提督リストか」

 

「ええ、ですがそのリストにのっているのは軍法会議で有罪となった犯罪者です。全員が終身刑、もしくは死刑判決が下っています」

 

「何?全員戦果は充分、成績優秀ばかりじゃないか」

 

「表は、です。それが今の大本営の黒い部分です」

 

リストを流すように読みながら少佐の話に耳を向ける

 

「そのリストにのっている提督は艦娘への性的暴行、大破撤退の原則無視、資材や資金の横領……他にもありますが主な罪状は今あげた通りです…それも証拠が残らないよう綿密に隠蔽されていました。しかしながら先日やっと尻尾を掴み元帥の命令で一斉検挙が行われました……今、艦娘たちの保護とメンタルケアに追われています…これがブラック鎮守府の全貌です」

 

ブラック鎮守府、現役時代に少し耳に挟んだ事がある

艦娘を道具と扱いながら自分の戦果だけを欲し私利私欲の為に艦娘を酷使し、時に駒として切り捨てる……だが

 

「ブラック鎮守府……兵器の扱いとしては間違いではない」

 

「と、いいますと?」

 

「兵器や持てる道具を使って消耗しても戦果を上げるのは軍人としては上出来だということさ」

 

そう、『兵器』として扱うなら満点中の満点だろう

持てる道具を持って敵を倒し戦果を挙げる

軍人としては間違いではない

 

「しかしそれは!」

 

「ああそうさ。だが彼女らは兵器ではない、これは大本営の決定でありおれ自身もそう思ってる。彼女らにはいきる権利がある、違うか?」

 

「…おっしゃるとおりです」

 

彼女ら、艦娘は生きている

彼女らは人間の為に戦っている

彼女らには生きる権利がある

兵器ではなく、一人の人間として接してあげることが何より艦娘の為になる

 

このブラック鎮守府を残して置けばいいずれ報いが来る……放ってはおけないだろう

 

缶ビールが空になったのを確認すると封筒に資料をいれて立ち上がる

 

「元帥に伝えておいてくれ『後日出向く』、と」

 

「!了解いたしました!それでは」

 

この返事をきいて満足したのか少佐はそそくさと家を後にした

 

「………雨か」

 

窓の外を見て雨脚が強くなっていく雨をみてふと呟く

 

「俺もそろそろ覚悟きめんとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大本営。

 

横須賀鎮守府施設内総督府におかれている最高司令部としての機能を持ついわば軍の総司令部。

 

数年振りに着た白い軍服、その胸には勲章や将管階級を表すバッジが目立つ男

 

廊下ですれ違う人に凝視され鬱陶しく思いながらも目的の部屋で元帥から貰った資料に目を通す

 

 

ここで少しこの男の話をしよう

 

彼の名前は「神崎 四郎」

 

元チューク諸島鎮守府………つまりトラック泊地の提督。

 

トラック諸島海域解放戦にて艦娘に被害は出たものの誰一人沈ませず任務を遂行し不可能とされていた海域を解放させた文字通り英雄

 

しかし作戦終了のつかの間、急襲してきた敵の大艦隊に鎮守府は壊滅、それでも奇跡的に生還した男

 

鎮守府は崩壊

帰還した艦娘は……驚愕の0

この戦闘の後、神崎は二度と表舞台には立たなかった

 

そんな彼の生い立ちは……それは後々明らかになるだろう

 

「……親父、こいつは少しいきすぎてないか?」

 

手渡された資料をみて四郎は自分の父親……「神崎 又三郎」にそう聞かずにはいられなかった

 

暴行、大破進軍、資金横領、さらには憲兵や保安部も買収、とことん徹底していたようだ

 

保護された艦娘は施設でメンタルケアを行っているそう

そのあと鎮守府に戻るのか、退役するのかどうするかは彼女ら自信の意思を尊重するらしい

 

 

四郎の配属予定の鎮守府の艦娘リストは悲惨だ

 

轟沈、轟沈

 

ただ轟沈の文字がずらりとならんでいた

大破、中破の文字も数個かろうじて見つけた……これはあまりにも酷すぎる

 

中には『行方不明』というのもあった……これがMIA(作戦行動中行方不明)をいみするのではなく本当にどこにいったのかわからないのだからたちが悪い

 

「俺達上層部にいく情報をうまいこともみ消していたようでな…行動に移すにも徹底した隠蔽にかなり苦戦したが、…もう少し早ければ救えたものもあっただろう……」

 

「…酒に溺れてる間にこんな状況になってたとは……こりゃ確かにいつまでも突っ伏してる場合じゃ無さそうだ」

 

「配属先の鎮守府は専門の整備士がすでに修復と復旧に向かっている。あのままじゃ使えんからな」

 

手渡された資料の中には工厰やドックの写真もあったがこちらも悲惨だ

泥水の用な湯にカビだらけの浴槽、工厰に至っては手入れされず錆び付いており動くかさえ怪しいとのこと

 

「……親父、工作艦『明石』を手配してくれないか?あと補給艦『間宮』も」

 

「うむ………念のため武装していけ、何があるかわからんからな」

 

「どんだけ危険なところに放り込むつもりなんだあんたは……」

 

だが実際、元ブラック鎮守府に着任した提督が行方不明だった艦娘から襲われ負傷した事例がある

冗談であってくれと心のそこから願うばかりだ

 

「危険は承知の上だ。やってくれるな、神崎四郎少将」

 

この言い方、既にこの二人に親子関係はない

上司と部下、その関係だ

 

もっとも、四郎の本当の父親ではないのだが

 

「…神崎四郎少将、元帥のご命令により提督任務を遂行します」

 

「配属先は呉第三者鎮守府。着任予定時刻は四日後の1200だ。詳しいことは渡した資料に書いてある。以上、下がりたまえ」

 

「了解しました」

 

敬礼をして元帥の部屋を後にし帰路につく

 

四日後、また提督をすることになってしまったが自分にまたやることができるのだろうか

 

「………なあ、どう思う?できると思うか?臆病者の俺に」

 

今はなきかつての秘書艦に聞くように呟くが、返事は帰ってくるはずもなかった

 

 

 

 




『ブラック鎮守府』

艦娘を酷使し自分の戦果を優先、艦娘への性的暴行や憲兵の買収、資材の横領などを行う文字通り糞提督の鎮守府………と言うのが最近の小説やSSでのブラック鎮守府が多い印象。
本作でもこれを採用。
実際はサービス直後の大破しても轟沈しないというシステムを利用してレベリングをしていたことをブラック企業になぞらえてつけられたもの。
運営はこれを対策するために轟沈システムを実装した。
今の大破進軍や無茶なレベリングをする提督も見られそれに対する批判もあるが作者はそれも『一種のプレイスタイル』であり同じゲーマーとしてはそのプレイスタイルに文句は言うつもりはないと考えている。気分はよくないけどね


『酒に溺れる主人公、神崎 四郎』

前作主人公とかが酒に溺れてる所に部下や上司がきて戻ってきてくれっていう感じのシーンが好き!
というわけでこんな感じになったけどうまく表現できてるかな?できてないなら作者の文才不足です本当にありがとうござい(ry
正常(?)の提督に見えますが根本の一部が狂ってます


『英雄は犠牲の上になり立っている』

英雄って確かに尊敬されて皆から慕われるけど当の本人はどう思ってるんだろ
いろんなアニメ作品を見てきたけどやっぱりこれなんだなと思った
正義の裏には悪がある、その悪を犠牲に正義は成り立っているのかなと

『艦娘』

いろんな考察飛び交ってるけど多くは「人類の味方」っていうのが多い。
中には深海からのスパイって考察もあったけどそれもありかなと。
作者はこれをとあるアニメ風に言うなら『人類の守護者』、もしくは『抑止力』に相当するものかなと考えている
でも後述の考察を述べると矛盾しちゃう
この作品ではそういう側面を出せたらなと思います(できるとは言ってない)

『深海悽艦』

艦娘と対をなす存在、人類の敵という考えが共通している。
エビみたいなやつからすっごい美人な人型までいる。
こちらは恐らく『人類悪』、もしくは『やりすぎた支配を続ける愚かな人類への報復』する存在だと考える。
つまり艦娘とは対をなす別の存在……というわけでは無さそう
イベントクリアした時の敵のボイスやボスの容姿から全く別の存在と言い切れない
艦娘によく似た何か、それとも深海悽艦によく似た艦娘なのか…作者も一番考察してるところ








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着任

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気まぐれに更新


20XX年5月26日 時刻 1155

 

「まもなく呉第3鎮守府です」

 

「やれやれ、ようやくか」

 

海軍憲兵の装甲車の後部座席で装備を確認する

物騒な格好だが襲われる可能性もあるならやむ終えない

 

もしもの場合は発砲も許可されているが急所は外すよう義務付けられている

 

「ゴブリンよりワーカーへ、まもなく到着する」

 

『了解。正面玄関で中野大尉が待機している』

 

無線でのやり取りを尻目にM4ライフルにマガジンを装填する

それと同時にキッとブレーキ音が響き車が停止する

 

「到着しました!」

 

「ご苦労、ゴブリンは駐車場に車輌を止めてから元の任務に戻れ」

 

「了解」

 

ドアを開け装甲車を降りる

 

「神崎少将ですね!中野大尉であります!」

 

「出迎えご苦労、早速だが状況を説明してくれ」

 

簡単に挨拶をすませ鎮守府に入っていく

 

「工厰やドッグ、執務室などは確認しましたがまだ艦娘の宿舎のクリアリングと修復作業が完了していません」

 

「動かせる人員は?」

 

「海軍憲兵の樋口中佐が数人憲兵を連れて執務室でお待ちしています、おそらくそれだけかと」

 

「わかった。艦娘に襲われた報告はないな?」

 

「今のところはありません」

 

「よし、まず執務室に案内してくれ」

 

 

 

 

鎮守府の修復、再建は八割ほど進んでいた

ただ艦娘の宿舎のクリアリングが終了しない限りこの鎮守府の修復と修理は完全に終わらない

 

執務室で海軍憲兵中佐、『樋口 啓』中佐と執務机の上に広げられた宿舎の見取り図を見ながら段取りを進めていく

 

「実のところ一階のクリアリングは終わっているんだ。二階から四階が艦娘の住んでいたところで一階はほぼ未使用だったらしくてな。簡単にできたが……問題は二階より上、ここに艦娘が少なくとも居る」

 

樋口との会話に敬語等は存在しない。基本神崎は憲兵とは階級関係なくこう話す。理由は「手っ取り早いから」、だそうだ

 

「証拠は?」

 

「妖精さんだ。彼女らは艦娘の存在を認知できる」

 

確かに証拠としては充分だ。しかしながらどこに居るまでかはわからないという

 

「こればかりは入ってみるしかないか……」

 

「だな」

 

と樋口はライフルを確認する

 

「とりあえず行こう。俺と樋口中佐でクリアリングしてくる。中野大尉等はここで待機、いいな?」

 

「「了解」」

 

返事を聞きながら樋口中佐と執務室を出る

 

「ここの艦娘の行方不明は確か四人だったか、その内の一隻だったらいいが…どう思う?樋口中佐」

 

「そもそも周りが工事の音とかでうるさいしこんだけ重機も動き回ってる。普通なら出てくる筈だが……もしかしたら…」

 

とそこまで言って樋口中佐はやめようと切り上げた

小さな希望でもあるなら賭ける、それが人間だ

だから生きて居てくれと願うばかりである

 

 

 

 

 

「………暗いな」

 

「ブレーカーは全部落としてあるからな」

 

宿舎の二階は暗い。通路を挟む用に両側に部屋が配置されてる為に日の明かりは入ってこない

 

「怖いのか?少将殿?」

 

「まさか、むしろ好物だ」

 

そう言いながら暗視装置をつける

 

樋口が左側の部屋を一つずつ、神崎が右側の部屋を一つずつ確認していく

 

三個目の部屋、ここで初めて生活感のある部屋が初めて視界に入ってきた

 

「………クリア。しかし」

 

床に散らばった服に下着、ぐちゃぐちゃの布団、とても清潔とは言いがたい。

 

「……?これは日記か?」

 

机の上にある日記帳らしき物を手に取る

表紙には何も書かれておらず少し痛んでいた

適当に日記を開き少し読んでから……そっと閉じ元にあった場所に戻す

 

「………」

 

あれは決して安易に読んで良いものではなかった、とだけ言っておこう

あんな事を書くような事が2年も続いたのだ、正直よく持ったと言いたい

普通なら発狂するか何かしら精神的に異常をきたしているはずだ

 

色々思うところがありながらその後もクリアリングは続いた

 

そして三階の最後の部屋を開けた時だった。

 

「少将、来てくれ」

 

「ん?」

 

反対側の部屋をクリアリングしていたはずの樋口が廊下の隅を銃口で指した

部屋から出て指した方向を見てみる

 

「艤装……か?」

 

「らしいな」

 

周りを確認しながら恐る恐る近付く

 

「駆逐艦の艤装だな……傷だらけだ、なんでこんなところに」

 

「修理も整備もしてないようだな……いつ壊れてもおかしくない」

 

そして艤装に触れたとき明らかな違和感があった

 

「まだ暖かいぞ」

 

そう、暖かったのだ

艤装が暖まるのは使った証拠だ

つまり

 

 

(ガタッ

 

 

「!!誰だ!!」

 

瞬時にライフルを構える

音がした方は三階の倉庫部屋だった

樋口中佐とハンドサインでやり取りして扉に近付き、ドアノブに手をかける

 

ギィ……と音をたてる扉をゆっくりあける

 

誰か居る

 

暗視装置を外してライトを照らす

そこに一人、震えている少女がいた

 

「……駆逐艦『夕立』、だな?」

 

その艦娘に見覚えがあった神崎はそう言った

といっても、神崎の知っている駆逐艦夕立とは容姿がかけ離れていた

ボサボサの髪にボロボロで汚れた服………恐らく改二の状態だが、その好戦的だった容姿は欠片も残されていない、ただ恐怖に怯えてる子犬のようだ

 

怯える少女に手を伸ばすとギュッと貯めていた涙を流しながら瞼を閉じた

 

しかしその手は彼女の頭にポンッと乗っただけで終わり不思議に思ったかのように夕立が神崎を見上げた

 

「助けにきた、助かったんだよ。よく頑張ったな」

 

その言葉に夕立は少し目を見開いてから……泣き付くように神崎に抱きついた

 

「俺だ、艦娘を一人発見した。ああ、駆逐艦夕立だ」

 

後ろでは樋口が執務室に無線で連絡を入れていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『駆逐艦 夕立が無事だったか』

 

「ええ、負傷していますが命に別状はないかと」

 

一度執務室に夕立を抱えて戻り自分の父親である元帥に連絡を入れていた

 

『他の艦娘は見つかったか?』

 

「今入れ替わりで樋口中佐と部下二人が四階のクリアリングをしています」

 

『そうか。わかった』

 

「それで、彼女はどうしますか?」

 

どうする、とは一度横須賀に送るかどうかという意味だ

彼女以外の艦娘はすでにメンタルケアを行うのが鉄則になっている

 

『明石と間宮をそちらに送った。護衛と一緒にな。明日にはつくだろう。当分呉第3鎮守府は戦線復帰できないだろうし復帰できても数ヶ月、その間に明石にメンタルケアをしてもらう。無論明石にもこの話は通してある』

 

手際のいいというかなんというか………

 

「わかりました。ではそのように。明石と間宮の件はありがとうございます」

 

『構わん、息子の頼みだ。無茶な頼みじゃなければ断る理由もない』

 

「親父………」

 

『頑張れよ。一度経験があるとはいえ最初からだ。焦らずにな』

 

「…了解」

 

受話器を置くと同時に背中をグイグイと引かれた

 

そう、実は先ほどからずっと夕立がくっついて離れないのだ

執務室に入ってからは中野大尉や他の憲兵から隠れるようにまるで人見知りの娘のような感じで背中に引っ付き離れなかった

 

「ん?どうかしたか?」

 

「もしかして新しい提督さん………っぽい?」

 

そういえば自己紹介をしてなかったか…さっきの元帥との会話を聞いてある程度は把握したのだろう

 

 

「ああ、ここで指揮をすることになった神崎 四郎だ。階級は少将、前に提督の経験もある。よろしくな夕立」

 

「……酷いことしない?」

 

「しないさ。君を助けたんだ、酷いことする奴がそんなことすると思う?」

 

フルフルと横に首を振る夕立

うむ、物分かりがいいようでなにより

 

「夕立、この鎮守府は生まれかわる。もう君たちを酷い目に合わせた奴もここには居ない。新しく、一から始めるんだ」

 

夕立の肩に手をおき目をあわせて語りかける

決して目をそらさないように

 

「そして、その最初の艦娘として君に着いてきて欲しい。まだ嫌な思い出とかも信じきれない所もあるだろうけど着いてきて欲しい。俺は君に絶対に酷いことはしないと約束する、だから着いてきてくれるか?」

 

後に『○○の鬼神』と呼ばれる駆逐艦夕立と提督のファーストコンタクト

 

夕立はこの時の事を後にこう語る

 

『信じきれないっぽいところもあったけど…提督さんの目は何故か信用できる不思議な感覚があったの。だから着いていってるっぽい!』

 

 

 

 

 




海軍憲兵

警備員的存在。
小説によってはただのモブだったり主役だったりブラック鎮守府の提督に買収されてたりそもそも陸軍組織だったり……さまざまです

駆逐艦 夕立

ソロモンの悪夢で有名……なのだがこのソロモンの悪夢は台詞、ファンの愛称に過ぎず史実と絡めるとややこしくなるのでやめよう。なぜこの小説の最初の艦娘に選ばれたのかって?夕立は横須賀だろって?作者の趣味です本当にありがとうござ(ry
あとアトミックバズーカもって「ソロモンよ、私は帰ってきたぁぁぁ!!」の悪夢とは関係ないです。ないです。


しばらくはほのぼの(?)とお仲間追加かなぁ。戦闘はかなり後になりそうです


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任務

遅くなりました



ほのぼのとはいったい……?


その日の夜、神崎は執務室の机で書類に目を通していた

 

寮のクリアリングは終わったものの夕立以外の艦娘が見つかる事はなかった

 

夕立は修復された工厰で現在修復中

 

明日、樋口少佐が他の艦娘の居場所等を聞き取りしてみるという

 

 

「……」

 

 

目を通していたのはこの鎮守府の艦娘のリスト

その多くが轟沈と記されている

 

『捨て艦戦法』

 

海域突破のため練度の低い艦娘を囮として送り出し轟沈前提で突破するという戦法

 

当時、艦娘に対する明確な処遇が確立されてない時にどこかの提督が編み出した狂気とも取れる戦術

轟沈前提、つまり「死んでこい」と送り出すのだ

当然その犠牲になった艦娘は二度と帰ってくる事はない

 

そして比較的この捨て艦に選ばれるのは駆逐艦が多い

低資源かつ燃費もいい。捨て艦戦法をする提督にとっては都合がいい、いや、良すぎたのだ

 

この戦法で幾多もの犠牲をだした大本営は艦娘の保護法と明確な処遇を確実にさせた

艦娘を人とおなじ扱いをすること、それをおおっぴらに発表した

 

それでもなお、いまだに自分の利益のため捨て艦を行う鎮守府が多い

 

「ひどいもんだな」

 

だからといって、自分一人が叫んだところでなにも変わらない

 

万の艦娘を救いたいと叫んで死んでいった同僚も、確証を突きつけようとした先輩が殺されたりするところを何度も見てきた

 

何度も、何度も

 

確かに救いたかったのだろう、助けたかったのだろう

 

だが、こういった戦法で海域突破をしているのもまた事実であり都合が良いという輩も沢山いる

 

そんな前そう叫べばそれはただの偽善者、綺麗事の塊になりかねない

 

だから、せめて自分はそうならないよう艦娘と接した

家族の様に、兄妹のように

 

だが、結果として鎮守府は壊滅した

 

ーーーーーーそんな奴に偽善者や綺麗事と指摘する権利があるのか?

 

その優しさが、あのトラック白地の壊滅を招いた要因なのなら

 

ーーーーーーそれは、自分の行動は間違いだったのではないか?

 

結局は何も………守れなかった敗北者の戯言じゃないか

 

コンコン

 

「…ん?開いてるぞ」

 

来客に思考を停止させる

 

まったく、少しでも考え始めると自己否定的になってしまう

悪い癖だ

 

ギィ…

 

とゆっくり執務室の扉がひらきひょこっと明るい髪の毛が見える

 

夕立だ

 

「夕立か、どうだった?綺麗になってただろ」

 

夕立は質問にコクリとうなずくだけ

 

 

ーーーー前に、前の鎮守府にも夕立がいた。

明るくて改二になってからは好戦的になったがこちらを見つけると嬉しそうに寄ってきた

それはまるで犬のようで何回かブンブンと尻尾を振っているような幻覚をみたこともあった

 

そんな彼女と同じような面影は………この夕立にはない

 

(時間をかけてくしかないか……)

 

内心渋い顔をしながら笑顔で夕立を迎える

 

明日には明石や間宮も来る

 

親父のことだから恐らく顔馴染みの明石達を送ってくれただろう

何とか協力して元の夕立に戻ってもらうのが当面の目標になりそうだ

 

 

 

………上手くいくなんて保証は何処にもない

けれど、やらなければいけない

 

それが、あのときの罪滅ぼしとなるならば

 

 

 

 

 

 

 

ー次の日ー

 

 

 

 

 

「ほ~すごいなこれは……」

 

 

「…………」

 

輸送船が到着すると聞いた神崎は陸揚げの様子を樋口と共に来ていた

 

その光景を見るや否や樋口は感心し神崎は眉間を押さえながら仰いだ

 

 

数人の艦娘に守られ入港した輸送船、その後ろを巨大な黒い塊が動いていた

 

 

 

『伊1101型特殊大型輸送潜水艦』

 

 

海軍省が戦争初期に開発した輸送に特化した大型輸送潜水艦

 

制海権が確保されてない状況で海上輸送が厳しく、陸路では量が間に合わないとして一度に多くの、なおかつ見つからないよう輸送できる潜水艦として開発された

 

日本の制海権が確保された現在は大本営直属の特殊潜水艦部隊に配属され元帥、そしてその上の総長のみが命令権が与えられている

 

つまりいままさに入港しようしているこの黒い塊こそ伊1101型そのものでありそれは元帥が手を回したのだと神崎が理解するのには難しくなかった

 

「昔はあれで輸送してたんだろ?よく深海の奴らに沈められなかったもんだ」

 

 

「特殊な推進力で動いているらしい……極秘だから言えんが」

 

これらの特殊潜水艦部隊は後野明らかになっていくだろう

 

 

入港した輸送船、及び大型潜水艦から次々と物資が運ばれていく

護衛についていた艦娘は妖精さんに誘導されてドッグへと入っていく、そんな護衛のなかの一人がこちらに歩み寄ってきた

 

「久しぶりだな、四郎。いや、今は神崎提督に戻ったか」

 

「久しぶりだな長門。呼び方はどちらでも構わんよ」

 

戦艦 長門

彼女こそ日本が誇ったビッグ7の艦娘

強力な41cm砲を持ちかの有名な戦艦大和、武蔵が出てくるまで連合艦隊の旗艦を勤めた戦艦

 

神崎が幼い頃から又三郎の元に居て非番の時にはよく相手をしてくれており神崎にとっては顔馴染みの艦娘であった

 

しかし

 

「何故輸送船の護衛に?長門は今育成の配備だったろう」

 

前線が安定して以降、大本営鎮守府は進行から各地の鎮守府に海域を任せ未熟な艦娘を育てるという方針をとっている

 

長門は大本営で教える立場でありいざというときは出るといういわば控えだ

前線を離れているはずの長門が護衛についてきているのだ

 

「しばらくここに滞在する事になってな。まあ、あの人の命令だ」

 

「はぁ……」

 

手渡された資料を受け取りながら神崎は深く溜息をつく。

 

神崎自身、手配のいい父親に感謝はするが少し過保護過ぎではないだろうかと心に問いかける

育成班にいた長門を寄越し、挙げ句の果て直属の部隊の輸送潜水艦まで引っ張り出してきたのだ。

手厚いにもほどがある

 

「他の鎮守府に贔屓だとか言われても返せないぞ……」

 

「頑張れ少将、なんとかなるさ」

 

「くそ、他人事だとおもって………」

 

溜息ついても仕方ないと神崎は資料をもって歩き始めた

 

「少将、取り調べの件はどうする」

 

「中佐に一任する。一応観させてはもらうけどな。長門は詳しく聞きたいからついてきてくれ」

 

「解った」

 

色々と面倒なことになりそうだと呟きながら神崎は執務室へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー午後ー

 

 

『すまんな、形だけでもやっておかなくちゃならないんだ。出きる限りでいいから答えてくれるか?』

 

『(コクリ)』

 

午後に始まった少佐による取り調べ。それが行われている隣室で俺、神崎四郎と長門はその様子をガラス越しに見ていた

 

「四郎、本当に彼女以外に居なかったのか…?」

 

「ああ、寮にもどこにも。居なかった」

 

思い出すのはあの日記。とある軽巡洋艦の日記だったが読めたものじゃなかった。

そしてその軽巡洋艦は…………どこにも居なかった

 

「……」

 

「無力だと思ったか?四郎」

 

「いや、自分の無力さはもう数年前に経験している。俺がどうこう足掻いたところでなにも変わりやしないこともよく解ってるつもりだ…ただ」

 

「ただ?」

 

「……俺が居ない間に戦い続けてくれた人がいることには感謝しないと……彼女らに申し訳ないと思ってな…」

 

数年前、一つの鎮守府が崩壊した

そこから生き残った俺に出きることなんてたかが知れてる

 

「四郎…」

 

「少しずつ、又一から頑張っていくさ。今度は助けて見せる。これをエゴだと笑うか?」

 

「……いいや、少なくとも私は笑わない。お前が決めた道だ。自信を持っていけばいいさ、四郎」

 

「………ありがとう……おっと、少し聞き逃したな」

 

区切りをつけて取り調べに注視する。

 

 

『………行方不明リストには四人。そのうちの一人が君だったんだが……他の娘の事を知らないかい?』

 

『………』

 

夕立は顔を伏せたまま黙っていた。

 

『………んー、じゃあ』

 

『皆』

 

『ん?』

 

『………私、皆と一緒にずっと出撃してたの。でも……みんな、みんな』

 

「皆と、一緒に…?」

 

「………まさか」

 

『夕立ね?ずっと出撃してたの。ずっとずっと。でも……一緒に行った皆……いなくなっちゃったっぽい』

 

 

ああ、そうか

ならば合点がいく

 

何故夕立が練度の高い改二だったのか

 

何故夕立がたった一人だったのか

 

 

 

何事にも、例外というのは存在する

 

 

そう彼女は、捨て艦戦法で前線に出撃し続け

 

戦って、戦って

 

たった一人

 

 

 

 

 

 

 

生き残ってしまったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 





大型輸送潜水艦

『海域全部支配されてるやん。どないしよ』
『そうや!一回で大量に運べる輸送潜水艦つくればええんや!』
という(変態)思想で生まれた大型輸送潜水艦。海域占領されてるのにどうやって物資とか運んでたんだろ?陸路じゃ間に合わんしなーと思っていたとき某潜水艦アニメを見てたときに思い付いた設定。
もちろん元ネタは『紺碧の艦隊』



戦艦 長門

皆ご存じビッグ7。実は最初期は魚雷を装備していた。
本来ならば改二だが前線から身を引いていたため練度は下がっており改二が解除されている設定
幼いころからの四郎を知っており彼を「四郎」と呼ぶ



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