青薔薇の歌姫と白き聖騎士 (OSTO文明)
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第一章 青い薔薇、白き騎士、芽吹く
第零話 歌姫との出会い


新作始めます。名前もTwitterの垢名にします。あとは投稿頻度(以下略)
イクサと友希那さんメインの話です。もちろん他のバンドも出てきます!よかったらコメントと登録お願いします、それが励みになります。プロローグからどうぞ!


「君はどちらを選ぶ?」

 

 その言葉が心に響き渡った。その一つの選択がこれからを完全に変える。片方を救えば片方が消える。逆もまた同じ。だけど、答えは決まっていた。…なんて欲張りな人間なんだろう。僕は。好きな方を優先するくせに両方選ぶなんて。両方出来るなら僕はどうなろうと構わない、やってみせる。そう思いながらも僕は彼女を見ながら言葉を発する。

 

「大丈夫、ちゃんと全部終わらせるから。必ず側に戻って来るから。友希那、行ってくるね」

 

 今言える言いたいことは全て言った。この先は戻ってから言うべきだ。だから僕は進む。奴の元へと、全て終わらせるために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜四年前〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はお父さんに連れられお父さんの親戚の家に向かっていた。私はその親戚のことは知らないし、会ったこともない。普段なら練習しているこの時間、何故連れていかれてるか分からない。練習できていればそれでいいのに。それに私は一応受験生だ、練習の方が私にとって大事だけど勉強もしなければならない。そんなことを考えているうちに着いたみたいだ。でも降りた場所は知らない場所だった。大きい屋敷ではあったが人の気配が無い。都会から少し離れたところだが田舎というわけでもない。お父さんの方を見るとお父さんは屋敷の中に足を運んでいた。私は走って追いかける。玄関前まで来ると父さんは呼び鈴を鳴らした。少しすると中から私と同じ位の男の子が出て来た。

 

「新一君、こんにちは。受験生だろうにすまないね、こんな時に」

 

出てきた男の子は黒に近い青髪で目は蒼く丁寧な様子ではあったがどこか欠けているように見えた。

 

「こんにちは。いいえ大丈夫です、うちは見ての通り僕一人ですから……その娘は?」

「これから説明するんだが、寒いし中に入ろう」

「わかりました、ではどうぞ」

 

 彼が扉を開いて中に招き入れた。お父さんはまるで自分の家のように入っていった。私もその後を追う。家の中は見た目通り広かった。普通の家ではないとは思っていたがその通りだった。だけどその割に人がいない。彼が言っていたとおり人は彼だけなのだろうか?しばらく歩いていると客間と思われる場所に着いた。私たちが座ると彼はお辞儀をして、部屋を出て行ってしまった。

 

「お父さん彼は何者?」

「?新一君か?その話は戻ってきたら話してくれるさ」

「………?」

 

 私が疑問を抱いていると彼は戻ってきた。手には湯呑みを乗せたプレートを持っていた。湯呑みを机の上に乗せると彼は座り話始めた。

 

「本日は遠いところ来て頂きありがとうございます」

「いやいや、こちらこそ忙しいところ申し訳ない。私のことは説明しなくても「はい、わかっております旦那様」そんなたいそうなものじゃないって」

「いえ、救ってくれた恩人ですから」

「そうか……だけど娘は紹介しておこう、何せこれから世話になるんだからな」

 

 ……え?お父さん今なんて言ったの?

 

「俺の娘の友希那だ。これからよろしく頼んだよ」

「はい。お嬢様、初めまして。僕の名前は名護新一と言います。これからよろしくお願いします」

「ええ…ってお父さん!これはどういうこと!?」

 

 立ち上がって聞き返すと入れられたお茶を飲みながら悠長に返してくる。

 

「そうだな、簡単に話すとこれから父さんは海外へ行くから執事を雇ったんだ」

「…執事ってこの人?」

「そうだ、彼はいい人材だ。行儀はいいし、基本何でもできる」

 

 急にたくさんのことを言われて情報を処理しきれなくなった私は、その場に静かに座り込んだ。お父さんはまあまあと言わんばかりのジェスチャーを送ってきたが私は混乱したままだった。

 

「申し訳ございません、旦那様。このような形でしか恩を消すことができなくて」

「いや、充分嬉しいよ。こんなこと頼んでしまってすまない」

「さっきから恩だの言ってるけどなんのこと?」

「そうだな…簡単に言うとこの子を俺が助けたんだ」

「助けた?」

 

 私が再び疑問を抱いていると彼が答えてくる。

 

「はい、僕が家族を失った後に引き取ってくださったんです」

「…なんで家族がいないの?」

「こら、友希那」

「いえ、大丈夫です。そうですよね、キチンと説明しましょう。僕は家族で遠くに出掛けた時に事故ににあったんです。その時に父と母、そして妹を失いました。僕は目の前で死んだ父達を見て絶望しました。それから意識を失って目を覚ました場所は病院でした。自分では来た記憶がなかったのでおかしいと思っていたら、旦那様が話しかけて下さって、引き取ってもらったんです。まさか有名人に救われるとは思いませんでしたけどね」

「………」

 

 私はその話を聞いて何も言えなくなった。なんて言えばいいのかも分からなかった。家族を失う────私も少し前にお母さんを亡くしたけどこの人は違った。家族を全員失ったのだ。とても何かを言う気分にはなれなかった。暫くの間沈黙が続くとお父さんが気を取り直すように話し始めた。

 

「まぁ、とりあえず友希那、彼はこれから君の執事だ。ボディガードも家事もやってくれる、ちゃんとコミュニケーションを取るんだよ」

「よろしくお願いします、お嬢様」

「………」

「友希那一度外に出ていなさい、少し大事な話があるから」

「…わかったわ」

 

 自分が他の物に興味がないことは自分が一番わかっていたが、その時私はなんだかよくわからない気持ちがあるような気がしていた。彼は私に何か隠している、そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新一君、例のもの(・・・・)がようやく出来た」

 

 そう言って旦那様は一つのアタッシュケースを机の上に置いた。

 

「…本当ですか?」

「ああ、だがひとつだけ聞いておきたい。本当に良いのかい?」

「構いません、これが僕のやるべきことです」

 

 自分が本気だということを伝えると、旦那様は少しばかり悩みつつもそれを渡してくれた。

 

「わかった、これを君に託す。友希那のこと、人類の未来を、頼んだよ」

「承知しました」

 

 それを受け取ると僕はとても嬉しく感じることが出来た。中身の確認をすると事前に知らされていた物が入っていた。その中の一つを手に取って感じる。

 

(これがあれば、もう誰も傷つけなくて済む。そして…アイツを……あの悪魔を殺せる………!)

 




友「全くプロローグから私は大変ね」
新「そうですね、でもせっかくですし楽しんでいきましょう?」
友「そうね…ってそういえばあなた手に持っているのはなに?」
新「そっ、それは…あ、お嬢様次回告知を!」
友「えっ、えっと…
次回 第一話「イクサ爆現」
次回もお楽しみに…ってあれ?あの人は?」


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第一話 イクサ爆現

お待たせしました!Roselia結成編(前日彈も含めてます)の第一話です。まぁ、今回だけ前日彈みたいなものですね。これからちょいちょいRoseliaのメンバーが出る予定なので推しがまだの人はしばらくお待ち下さいm(_ _)m。
では第一話どうぞ!


 あれから数日、私の日常は変わった。一つは父は家を出た。海外で仕事をするとは言ってたけど…もう現役じゃないし何をしてるんだろう。そしてそれに合わせるように…

 

「お嬢様、登校のお時間です」

 

 私の家に男の人がいる。私と同じくらいの男の子である。名前は名護新一というらしい。彼は事故で家族を亡くして、独りになったときにお父さんが引き取ったらしい。私はつい数日まで彼のことを知らなかったのに彼は私のことを数ヶ月前から知ってたらしい。原因はお父さんが前々から話してたかららしい。彼は特徴として黒に近い青髪で日本人にしては珍しく蒼い目をしていることだ。

 彼がなぜ家にいるかというと、お父さんが海外に行くのに合わせてうちで私のボディガードとして働くことになったからだ。彼曰く「僕は旦那様にせめてもの恩返しでやっていますので、気を使わなくて大丈夫です」だそうだ。私はあまり興味が無いので放っといてはいるのだが気がかりなことがある。一つは彼が何かを隠していること。もう一つは…

 

「お嬢様、どうかなされましたか?」

「いいえ、大丈夫よ」

「左様でございますか」

「…あの、」

「いかがなされましたか?」

「その堅苦しい言葉どうにかしてくれないかしら?」

「!……お気に召しませんでしたか?」

「ええ、その言葉もあまり好きじゃないわ。もう少し楽にしなさい」

 

 彼は堅苦しい言葉で話すことだ。私は堅苦しい言葉があまり好きでは無かったので逆にストレスだった。

 

「…はぁ、承t…コホン、わかりました」

「ええ、それでいいわ」

 

 私はこの先この人と一緒に過ごさなければならないのかしら…凄く不安だわ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数時間が経ち学校が終わった。早く帰って練習するため私は校門に向かった。すると校門の前に男の人が立っていた。ここは女子校なのになぜ男子が校門の前にいるか。答えは探すまでもなかった。おそらくあの人だろう。私は何も無いかのように歩いた。そして校門を通り過ぎると声をかけられる。

 

「お嬢様、お疲れ様です」

「…何かしら」

「いえ、迎えに来ただけです。これから家に帰って勉強した後にレッスンですよね?」

 

 私たちは何も不自然なことが無いように歩く。

 

「勉強なんて必要ないわ」

「そんなこと無いですよ?高校受験まであと少しなのですから頑張りませんと」

 

 別に私に勉強なんて必要ない。模試だってそれなりにとってるし、受験する高校だって大丈夫って言ってたし。

 

「そんなこと言ってる暇があるんだったらこのまま行きましょう?」

「いえ、旦那様にも言われてるので…」

「………」

「では一度家に帰りましょう」

 

 私は早く行きたいと思いながらも渋々帰ることにした。そして家に着き、練習に行くための準備をして今日の課題に手をつける。洗濯など家事はあの人がやってくれている。だからそっちに気をとられなくて済む。そういうところは感謝している。早めに課題を終わらせて、彼のとこに行くと準備は終わってた。

 

「今日は八時まで練習してから帰ってきましょう。ですが六時くらいにスーパーのタイムセールがありますので僕は抜けますけど…大丈夫ですよね?」

「あなたは私をなんだと思っているのかしら?」

「世界の歌姫になる人です」

「そう、大丈夫だから気にせずに行ってきて構わないわ」

 

 そう言っていつもの練習場所、CiRCLEにむかう。そしていつも通り練習を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 僕は仕事も兼ねて練習を見させて貰った。旦那様に聞いていたとおり透き通った綺麗な声だった。普段時間を忘れなかった僕はその声を聞いているときだけは忘れてしまっていた。練習の休憩になるたびにはっと我に戻る。そして時計を見ると時計の長針は五時を指していた。僕は休憩しているお嬢様に話しかける。

 

「申し訳ありませんお嬢様、時間なのでスーパーに行ってきます」

「分かったわ、私はまだ練習するから」

「はい!」

 

 さて、今日の夕食は何にしようか。そんなことを考えながら荷物を片手にスーパーに向かい始めた。僕はまだここら辺の地域がよく分からないのでまわりを見ながら歩いて行く。至って普通の町だ。

 ──僕があった事故(・・)みたいなことが起きていなさそうな平和な町だ。

 そう思いながら歩いていると遠くから悲鳴が聞こえてきた。その声にはただの悲鳴ではなく、今までに感じたのことの無いものが感じ取れた。僕は悲鳴が聞こえた方に急いで走った。まさかと思った。そんなことはないだろうと自分の中で否定しながらも走った。そして現場に着くことが出来た。現場はたくさんの人が走って逃げている。人が来る方を見てみると一つの影があった。顔は馬のような形をし、体は蒼い皮膚のようなものでところどころ覆われ、二足で立っている。更によく見ると口は四つに割れその場で叫んでいた。まわりを見てみると人が数人倒れていたがどれも体は透明になっていた。それを見た瞬間、僕は過去の事故を思い出してしまった。数秒間固まっていたがすぐに荷物の中からベルト(・・・)を取り出し、怪物の方に向かって声をかけた。

 

「……そこの貴方」

「!?」

「神様は…間違いを一つだけ犯した。…それは貴方達という、ファンガイアという名の悪を作り出してしまったことだ!」

 

 そう言って僕はベルトを腰に巻き付け上着のうちポケットからナックルダスターのような形状をしたものを取り出し、手のひらにナックルを当てた。その後ベルトに装填させた。

 

「その命…神に返しなさい!」

『レ・ディ・ー』

「変身!」

『フィ・ス・ト・オ・ン』

 

 ナックルとベルトから電子コールがなり、装填直後に目の前に光の鎧が出現して僕にぶつかった。近くにあったガラスを見ると白く、顔は十字架のようなものがあり、ところどころ青いラインの入った鎧を纏っている自分の姿があった。意外と着心地がいい。事実なぜこれを僕が持っているか。それは旦那様がくれたからだ。プロローグを思い出して欲しい。最後に貰っていたアタッシュケース、あれの中にこのナックルとベルトが入っていたのだ。入っていた説明書によると『イクサシステム』といい、ナックルとベルトはそれぞれイクサナックルとイクサベルトという名だ。世の中にはファンガイアという怪物がいると説明書に書いてあった。事実だが、それは以前から僕は知っていた。ファンガイアは人のライフエナジー、生命力を吸って生きているらしい。人に害を与えることが多々あるというのも証明されている。そしてここ数年活動が活発になり、人類の未来に影響を及ぼすかもしれない。だから、これを使ってお嬢様や市民を守るのが僕に課せられた義務の一つである。

 

「イクサ…爆現」

「□□□□□!!!」

 

 叫びながら走ってくるファンガイアに向かって僕も走って迎え撃つ。ファンガイアは拳を突き出して来たが躱すまでもなく、その拳を掴み、溝に拳を打ち込んだ。その後蹴りを幾度か加えるとファンガイアは後ろに下がった。攻撃がしっかりと聞いているのか、その場で立つことに苦労していたのでベルトの横にあるスロットからフェッスルを取り出し、ベルトに装填する。

 

『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』

 

という電子コールとともにイクサナックルを取り出しファンガイアに向けて拳を突き出すように向けるとフェッスルによって加えられたエネルギーが一点に集中して放出された。放出されたエネルギーはファンガイアへと向かい、それに当たったファンガイアはピキピキと固まり硝子が砕けるように砕け散った。僕は安心し、辺りに人がいないことを確認して変身を解除するとあることに気付いた。

 

「やばっ、今何時だろ。タイムセールが始まっちゃう!」

 

 そう言って駆けだしたときにはすでにタイムセールが始まっていたことを僕は知らなかった。

 

 

 




「あの人はどこ行ったのかしら…時間も危ないわね。仕方ないし一人でやってしまいましょうか」

次回 「運命・回り出す歯車」

「次回もお楽しみに」


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第二話 運命・回りだす歯車

Roselia結成第一話です。これが今年最後の投稿になります。ではどうぞ!


 あれから一年以上経った。羽丘女子学園に受かった僕とお嬢様は毎日通っては最初の頃とさほど変わり無い生活をしていた。おい待て、なぜ女子高にお前が通っていると思った人もいるだろう。それはお嬢様のボディガードの仕事と同時に高校に通うためだ。第0話にて旦那様方がやってきたときに言われたのだ。

 

「新一くんも高校に行きたいだろう?だったら友希那と同じ学校に行けばいい」

「えっ、でもあそこは女子校じゃ………」

「ああ、大丈夫。なんか再来年から共学にするっぽくてテストのため男を少し集めてたから。セキュリティ少し強くしてるっぽいけど…まぁ、そこら辺は大丈夫!」

 

 などと言われ入学してから一年経った。今では『羽丘女子学園』という名も『羽丘学園』という名前に変えられている。変な目で見られることはあったがそれ以外は対してなにも良かったので安心した。また、生活も特に変わった様子もなかった。強いていうならば「今井リサ」というお嬢様の幼なじみが関わってくることだけだった。さらに、あれからファンガイアも出てくるようになった。

 そして春ももうじき終わりに入りそうな季節。いつも通り学校が終わりライブハウスCiRCLEにお嬢様と向かおうと校門を出るとリサがやってきた。

 

「友希那ー、新一ーっ☆アタシ、今から新しくできたアクセショップ行くんだ。友希那たちもも一緒に……」

「興味ない。…今日入り時間早いの。急ぐから」

「あっ、お嬢様…ごめん、リサ」

「いや、新一が謝ることじゃないよ。友希那ー、途中まで一緒に…あ!」

 

 すぐに追いかけようとしたリサに対して他の生徒が出てきてぶつかってしまった。

 

「ごめん、ぶつかっちゃった。大丈夫?」

「こっちこそごめ〜ん!よそ見してて……」

「リサ、大丈夫?」

「あ、うん。ありがと」

「あれって…湊さん、だよね?湊さんって、ちょっと…とっつきにくくない?その、名護さんは…そういう関係だろうから問題はないだろうけど、今井さんって凄いよね。誰とでも友達になれて、湊さんにまでいくなんて」

「確かに…うん?まってそういう関係ってなんですか?僕たちは恋人とかじゃないんですけど………」

 

生徒の言った言葉に対して疑問を持った僕が自分の立場を述べると生徒が驚き疑問を返してきた。

 

「えっ、違うんですか?」

「違うよ」

「!いやいや、友希那は本当は凄くいい子だよーー?昔は結構よく笑ったし!笑顔超可愛いし!ただちょっと今はその……すこーし変わっちゃったっていうか…って友希那がいない!ごめん、アタシ急ぐね!」

 

 僕のことをなんだと思ってるんだこの子は。そんなことを思っているとリサがお嬢様が向かったと思われる方に走っていってしまった。

 

「えっ、あっ、そんなわけだから、それじゃ!」

 

 そう生徒に向かって別れを告げてお嬢様たちの方向へ走って行った。急いで走っていくと先に着いたのだろうか、リサとお嬢様が話しているのが見えた。邪魔をしては悪いと思い近くの木の陰に隠れた。そこからこっそりお嬢様たちの会話を聞いてみる。

 

「友希那〜!はぁ、はぁ、…追いついた!」

「…!」

「幼なじみを置いてくとかひどいぞー?…ってもう100回くらい置いてかれてるか〜あはは」

 

 リサは笑って誤魔化しているようだが、お嬢様は笑っていなかった。むしろ怒るような表情をとっていた。

 

「………行かない」

「ん?」

「…アクセサリーショップは行かない。私は歌うこと…音楽以外のことに時間を使いたくないの」

(っ!はっきり言ったよ、あの人!あ〜どうしよ……)

「………ん。そっか!大丈夫!フラれるの、慣れてますからっ!」

(良かったーリサがメンタル強い方で……)

 

 お嬢様たちの会話を聞いて正直ヒヤヒヤしたが大丈夫っぽいので安心した自分がここにいた。

 

「でもほら、アクセショップ、ライブハウスの手前にあるんだよね♪だから、途中まで一緒に行こって話」

「………」

「ふぅ、追いついた。?どうしたんですか?」

「…なんでもないわ」

 

 

 お嬢様が微妙な表情をとっていたので二人の間に入って会話をとろうと話しながらCiRCLEに向かって歩き始めたがしばらく歩いていてもお嬢様は興味を示すことはなかった。リサが話題を持ち出し、僕が相槌を打っていても興味を示すことはなかった。

 

「そういや友希那は、テストどうだった?アタシの国語の点聞きたい?聞きたい?」

「………今はテストの点より、気にすることがあるから」

「えー。いくら忙しいからって、赤点とかは無しだからね?一緒に卒業出来なかったら、切なすぎるし」

「赤点とったら、音楽活動に支障が出る。そんな馬鹿な真似はしないから、安心して」

 

 その会話を聞いて僕は冷や汗を流した。

 

「あれ?新一どうしたの?まさか…」

「いや、これは普通の汗だよ、少し暑くて。それにテストはいい結果だったよ」

「何点だったの?」

「90点代」

「え、凄いじゃん!やっぱ新一って頭良いの?」

「いや、そうでもないよ。今回は運が良かっただけだし」

 

 などと誤魔化しながら会話を続ける。実際テストはいい結果なのだがお嬢様が赤点をとらないのはあくまでお嬢様自身の頑張りだが、テスト前になると勉強もさせなければいけないので説得するのが本当に大変なのである。

 

「………はは、まーそーか。でもホント……最近忙しそうーだね。毎日、色んなライブハウスに行ってて」

「…そうね」

「もともとライブハウスで歌ってたけど…毎日出演してるんじゃ…ないんでしょ?」

「………」

「…あのさ、この話したくないってわかってるけど、まだバンドのメンバーって探してるの?」

 

 リサが真剣な表情で聞いてくるのに対して今はその話題は避けたいと思っていた僕はその話を止めようとしたが、先ほどまで興味を持たなかったお嬢様が話を続けた。

 

「リサ、それは」

「当然よ。今年の『フェス』に向けたエントリー受付はもう始まってる。条件は三人以上。今年こそ見つけるわ」

「でもさ、なんか…そーゆーのって………!」

 

 何かに対して反論しようとしたリサに対して淡々とお嬢様は続けていく。

 

「私はやる。お父さんのために。リサだって知ってるでしょ。メジャーに行ったお父さんたちのバンドが、どうなったか(・・・・・・)

「それは………」

「………」

 

 場の空気が完全に冷たくなってしまった。理由は一つ。それはどうなったのかを全員が知っているからだ。あんな結果になったことは簡単には口には出せない。

 

「私はあの『フェス』…FUTURES WORLD FES.で、自分の音学を認めさせて見せるわ」

「………アタシも、友希那のお父さんは辛かったと思うよ。でも、でもさ………」

「キャァァァァァァァァァ!!!」

 

 リサが何かを言いかけた瞬間、遠くの方から悲鳴が聞こえてきた。急いでそちらの方にいくとタコのようなものを思わせる怪物が市民を襲っていた。僕の後ろについてきたお嬢様たちの方を見ると驚きの表情を見せていた。それに合わせてリサも少し引いていた。

 

「…なにあれ………」

「ねぇ、新一…あれはなに………?」

「よくわかりませんが逃げた方が良いということだけは分かります…!お嬢様たちは逃げて下さい」

 

 疑問を投げられたが正体を明かすわけにもいかないので誤魔化して避難を呼びかけるが簡単には聞いてくれなかった。

 

「待ってよ、そしたら新一はどうすんの!?あれと戦うわけじゃないでしょ?」

「馬鹿なこと言わないでよ、ただあれがこっちに近づかないように見張ってるだけだよ。近づいてきたらちょっと鬼ごっこするだけ」

「新一…本気で言ってるの?」

「…これも守るためですから」

「………分かったわ。リサ、行くわよ」

「えっ、ちょっと!」

 

 流石に本気だということがお嬢様にも伝わったらしい。本当は向こう側に行って護衛するべきであろう。だがしかし、それで逃げた先にファンガイアと鉢合わせをしてしまっては本末転倒だ。だからここで食い止めようと考え、残った。二人が見えなくなるのを確認するとファンガイアの注意を引きつけた。

 

「おい、お前」

「□?」

「それ以上犠牲を出すんじゃない」

『レ・デ・ィ』

「変身」

『フ・ィ・ス・ト・オ・ン』

 

僕は変身するなりファンガイアに向かって行った。拳を突き出すなり色々とやってみるが、相手も攻撃を仕掛けてくる。少し間合いを取るとタコだからか触手を伸ばして叩いてくる。それを回避しつつ近づくと素早い動きで殴ってくる。あまりの巨体なのに何故早いのだと困惑しつつ闘うと時間が過ぎていった。ある程度立った時ファンガイアは口を開いて墨を飛ばしてきた。目の前で落ちたかと思うと爆発し目眩しになっていた。晴れてファンガイアがいた方向を見るとその場に奴はいなかった。何処に行ったと探したが見つからず変身を解除した。そして近くをぐるっと回ってみるとお嬢様たちに遭遇した。

 

「新一!」

「大丈夫ですか、お嬢様方」

「そういうアンタこそ大丈夫なの⁉︎」

「こっち側に来なかったから大丈夫だよ。そっちは?」

「こっちも平気よ。さ、練習に行きましょう」

「あ、お嬢様…リサ今日はこの辺で…」

「う、うん。じゃあね」

 

 僕はリサに会釈をしてお嬢様を追いかけた。しかしあのファンガイアは何だったんだろう。次にあったときは絶対倒さなきゃいけない……そんな気持ちが働いていた。

 

 

 

 

 




2019年以内に読んでいただきありがとうございました。来年は投稿ペースを少しずつ上げながら出していこうと思いますので応援お願いします。またよかったら、作品のお気に入り登録と感想もお願いします。それでは皆さん、良いお年を!

















(今回は次回予告なしです)


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第三話 奏でられた音楽

あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします。…今頃何言ってんだとなってる方、待ってくださっていた方本当に申し訳ございません。今月は予定がドンドコやって来て死にかけていました。本当に申し訳ございません。ですが何卒よろしくお願いします<(_ _)>気を取り直しまして第三話どうぞ!


 あの後家に帰ると宅急便が来た。お嬢様は興味がなさそうにそのまま家に入っていき、僕が受け取った。といっても宛先は自分であり送り主は旦那様だった。あまりにも大きい箱だったので開けてみるととんでもないものが入っていた。バイク(・・・)だ。一つの白いバイクが入っていた。かといっていたって普通のバイクだ。驚いていると座席部分に封筒らしきものを見つける。まさかとそれを開くことにした。予想通り旦那様からだった。

 

『新一へ

これを見ているということは贈り物は届いたってことだね。一年前に取らせた免許使ってこれからも頑張ってくれ。これはイクサリオンっていうバイクだ。ファンガイア退治にも使えるからよろしく。ちゃんとフェッスルで呼び出せるからうまく使ってくれ。あと同封しているメモリースティックをイクサベルトのフェッスル差し込み部分に挿してくれ。イクサシステムが強化できるようになっているから。これからも友希那を頼んだ。』

 

 封筒の中を見てみるとメモリースティックとフェッスルちゃんと入っており、それ以外はなかった。旦那様に感謝の気持ちを込めながらその手紙をしまおうとするとまだ何か書いてあることに気づいた。

 

『p.s.

友希那とはどこまで進んだかな?連絡よろしく〜(^^)/~~~』

「………あの人はナニテンダ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜、少し出かけることにした。バイクの試運転を兼ねてコンビニまで行くことにする。バイクは特に変わった作業をするわけでもなく、至って普通のバイクと変わらなかった。てっきり人型に変形するのかと思ったがそうでもなかった。少し残念な気持ちもあるが仕方ない。目的のコンビニにも着いたのでポテトチップスを買うことにする。期間限定味もあって気になったがあえてシンプルな味を選んだ。会計を済ませて外に出ると春らしい暖かい風…と共に綺麗な音が流れてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ある日の夜、私は外に出た。夜は滅多に外に出ないのだがなんだかそういう気分になっていた。自宅の近くを散歩しようと道を歩く。すると風が吹くとともに綺麗な音が流れてきた。ヴァイオリンのような弦楽器の音だ。どこから流れてきているのかが気になり、私は音の鳴る方へ足を運んでみることにした。しばらく歩くと近くの公園に着く。この辺りでは大きい公園で噴水に囲まれた舞台のようなものまである。音の方向を見てみると舞台の上で白いドレスを着た女性がヴァイオリンを弾いていた。その人の演奏はとても魅力的で引き込まれるようだった。だからだろうか、私は自然とそちらの方に足を運んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 コンビニを出ると綺麗な音が流れてきた。僕はその音がどこからきているのか気になり、足を運んだ。その方向には近所にある大きな公園があり、中には舞台までもがあった。舞台の上には白いドレスの女性がヴァイオリンを弾いていた。その姿に少しばかり見惚れてしまったが意識を取り戻す。他に人はいないのかと見てみると、女の子がいた。目は菫色のような色をしており、髪は黒く長かった。どこか見覚えのあるような顔だった。

 だが彼女を見ているとある異変に気づいた。彼女の後ろに爪のようなものが浮かんでおり、歩いている彼女にゆっくりと近づいていた。それを見た僕は急いで止めに走った。彼女は後ろの凶器に気づくことは無かった。あと少しで届くときに、爪は狙いを定めたのか少し離れて勢いをつけようとしていた。目の前にいるのに助けられないのは嫌だ。それだけは嫌だと全力を出して彼女に近づく。完全に届く距離になったとき、爪は勢いよく刺しに来たので彼女をかばうように押し退ける。

 

「危ないっ!」

「え?きゃっ!」

 

 倒れることになってしまったが大事に至ることは無かった。

 

「大丈夫?」

「えっ、あ…はい………」

「良かった…でも駄目だよ?女の子が一人で夜を出歩いちゃ」

「す、すみません………あの…」

「とりあえず今は逃げて。出来ることならなるべく帰った方が良い。とにかく離れて」

「は、はい…」

 

 無事に彼女を逃がすことは出来たが何か違和感のようなものが残る。まぁ、良い。そんなことより今は目の前の()だ。さっきまで舞台にいた女性は顔にステンドガラスのような模様を写してファンガイアとなった。姿は昼間にあったタコのようなファンガイアだった。だが、昼間の時よりも少しばかり、僕は奴に対して怒りを感じた。

 

「貴女、許せませんね」

「………」

「音楽で人の命を奪うなんて…音楽をなんだと思ってるんだ!」

『レ・デ・ィ』

「変身!」

『フ・ィ・ス・ト・オ・ン』

「その命、神に返しなさい!」

「□□□!!!!!」

 

 ファンガイアは昼間より凶暴になっていた。だがこちらも昼間より感情が強くなっている。相手の攻撃を躱しながらも攻撃を仕掛ける。しばらくしてこちらが優勢になるとファンガイアは叫びながら足をタイヤのような形に変えた。それを見ているとタイヤを回転させてこちらに背を向けて逃げるように走って行った。もう逃がすわけにはいかないとどうするか考え、横のスロットを触ったとき、ふと思い出した。相手がタイヤならばこちらもタイヤを使えば良いのではないかと。夕方送られてきたフェッスルをスロットから取り出し、ベルトに装填すると音声と同時にバイクがひとりでにやって来た。

 

『カ・ミ・ン・グ・イ・ク・サ・リ・オ・ン』

「わっ、びっくりした……でもこれで追いつける!」

 

 やって来たイクサリオンに乗ってファンガイアを追いかける。運転しているとファンガイアに追いつくことが出来た。スピードを上げて横並びになると妨害しあうかのように戦闘が始まった。あまりバイクの上での戦闘はしたことが無かった(むしろ初めてだった)のでかなり苦戦した。ファンガイアは触手を伸ばして首を絞めてきたので、それを解こうとするが運転にも注意を向けなければいけなかったので厳しい状況だった。仕方ないので強行手段に入った。相手をどうにかすれば解けるだろうと思いいっそのこと引っ張り出すことにした。触手をこっち側に引っ張るとバランスを崩して倒れ込んだ。相手が止まったためこちらも止まると、すんなりと触手が取れて楽になった。ファンガイアも動くのに苦しそうだったのでとどめをさそうとフェッスルを差し込んだ。

 

『イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』

 

 起動音とともにイクサナックルを外しファンガイアに向けて拳を突き出した。エネルギーが放出され、ファンガイアは散ることとなった。戦闘が終わり変身を解除して帰ることにした。だが一つ、疑問が残っていた。

 

「あの娘、どっかで見た覚えがあるんだけど…どこだろう………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 私は逃げてと言われて必死に逃げた。何とか家に着いたとき、後ろを見てみると誰もいなかったので安心することが出来た。だけどさっきの人…どこかで見たことがある………。それにあの感じ………。

 

 

 

 

 

 




今回はキバ本編のシーンを入れたオリジナルでした。2月は最低でも二回は出せるようにしたいと思ってますのでお待ち下さい。恐らく投稿ペースが上がるのは4月からじゃ無いかなと思っています。本当に申し訳ございません。ではまた次回で。

追記
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第四話 蒼きギタリストとの出会い

どうもお久しぶりです!今月初めての投稿になります。今回はあの人が出てきます!誰かは読んだらすぐ分かりますが…とりあえずどうぞ!(語彙力)


(このバンド……ギターだけ上手くて、あとは話にならない。バランスが悪すぎるわね………)

 

 ある日僕たちはcircleにライブのために来ていた。お嬢様の出番は少し後なので他のバンドを二人で見ていた。すると隣でお嬢様が審査をする様に見ていた。実際に真似してみると分かってしまう。今見ているバンドはギターだけが上手く他は所々パフォーマンスでどうにかしているようだった。だけどお嬢様はそれよりもギターの子だけをまじまじと見ていた。

 

(……あの子……あのフレーズが弾ける技術もだけど土台になる基礎のレベルが尋常じゃない………)

(普通に練習して身につくレベルじゃないよね、あれ………)

(いったい毎日どれだけ弾いてるの………?)

 

 考え事をしているといつのまにかライブは終わっていた。

 

「…ありがとうございました」

 

 ギターの子がそう告げると客席からたくさんの歓声が聞こえてきた。そしてその言葉にお嬢様が小さく反応した。

 

「紗夜ーーーっ!最高ーーーッ!」

「紗夜…」

「!ねぇ、あれ湊友希那じゃない?………近くで見ると迫力あるよね」

「しっ、聞こえるよ…友希那は気難しいって有名なんだから」

「………」

 

 すると出演バンドの一人が話しかけてきた。

 

「あ!友希那さん、この前はどうも…」

「…」

 

 それを聞いた途端興味がないようにお嬢様はスタスタとスタジオから出て行ってしまった。一人にするわけにもいかないので出演バンドの人に会釈してその場を離れた。

 

「あれっ。……行っちゃった。話しかけたの気づかなかったのかな?」

「知らないの?友希那って『レベルの合わない人間とは話さない』んだって」

「えっ、なにそれ。確かにめちゃくちゃ上手くてすごいけど、ちょっと酷くない?」

「スカウトの話もよく来るらしいし、あたし達みたいなアマチュアとは、違うって思ってるんじゃない?」

 

 後ろの方から雑音のような会話が聞こえてきたが、お嬢様は顔色一つ変えずに去っていった。これからの支障を出さないために念のためフォローをしておくことにする。

 

「お嬢様、あのような言葉気にしなくて構いません。あれは嫉妬ですから」

「………」

(なんと言われようが別に構わないわ…私はやるべきことをするだけ………)

 

 そのまま歩いて行き、ラウンジに出ると突然大声が聞こえてきた。

 

「もう無理!あなたとはやっていけない!!」

「「!」」

「…私は事実を言っているだけよ。今の練習では先がないの。バンド全体の意識を変えないと…」

 

 声の方を見てみると『紗夜』と呼ばれる子とそのメンバーがもめていた。話の内容を聞いているとどうやら目指すものが紗夜とメンバーじゃ全く違うらしい。だけど紗夜の考えはお嬢様にそっくりだった。しかも高校生である。もしかしたら…そう考えていると紗夜たちは喧嘩別れする様に他のメンバーの人たちがどこかに行ってしまった。それを見届けると紗夜がため息を吐くなり、こっちに気づいた。

 

「………っ!…ごめんなさい、他の人がいるのに気づきませんでした」

「さっき、あなたがステージで演奏しているのを見たわ」

「…そうですか、ラストの曲、アウトロで油断してコードチェンジが遅れてしまいました。拙いものを見せてしまって申し訳ございません」

「!確かにほんの一瞬、遅れていた。でも…ほとんど気にならない程度だったわ。新一、あなたは気付いた?」

「いいえ、ほんの一瞬だったのであまり…」

(…あれがミスって言うなられ相当な理想の高さ。…この子となら、…もしかしたら)

 

 ほんの少しの間お嬢様は何かを考える仕草を見せていたが、すぐに結論を出したような表情をとってある言葉を言い放った。

 

「紗夜といったわね。あなたに提案があるの。…私とバンドを組んで欲しい」

「………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんだろう……?連れてきてもらったこのカフェ……入ってからずっと、隣から音楽が漏れてくる…随分と大きな音みたい)

 

 私は今日、あこちゃんに連れられてカフェに来ていた。あまりそういったところに行ったことが無かったためよくわからなけど、カフェは大きな音がよくするのだろうか。隣の場所から大きな音が聞こえてくる。

 

「でねっ、ダンスの振り付け考えて部活に行ったんだけどリサ姉っていう先輩が、いいねって言ってくれて!……って聞いてる〜?りんりん?」

「あ…うん…聞いてるよ………あの…この音…って…」

 

 この音のことを聞いてみるとあこちゃんは、目を輝かせながら逆に聞き返してきた。

 

「ふふっ、気づいたねー。りんりん、予想通りっ!それじゃあ問題!このカフェの横にあるものはなんでしょう〜?」

「…え……?」

「りんりんさ、ライブハウスってわかる?」

 

 予想外の返答に私は混乱してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私とあなたで………バンド?」

 

 目の前の少女は聞き返すように声を漏らした。顔付きはすぐに戻り質問を返してくる。

 

「すみませんが、あなたの実力もわかりませんし、今はお答えできません。私はこのライブハウスは初めてなんですが、あなたたちは常連の方なんですか?」

「はい、この方は湊友希那。今はソロでボーカルをしています」

「!あの湊友希那ですか!?…でも貴方は…?」

 

 お嬢様の噂が流れているくらいだ、知っていて当たり前だろう。だけど流石に僕のことまでは知らないらしい。

 

「ああ、申し遅れました。お嬢様の執事兼ボディガード諸々やってます、名護新一と申します」

 

 自己紹介をし会釈すると、向こうも会釈を返してきた。

 

「お嬢様はFUTURE WORLD FES.に出る為のメンバーを探しています。貴女位なら、聞いたことないでしょうか?」

「! 私もFUTURE WORLD FES.には、以前から出たいと…でも、フェスに出るためのコンテストですらプロでも落選が当たり前の、このジャンルでは頂点といわれるイベントですよね。私はいくつかバンドを組んできました。けれど、アマチュアでもコンテストには出られるとはいえ、実力が足りず、諦めてきた………」

(私は『あの子』と比べられない為に、必死でやってきた。でもいつも、肝心のバンドが私についてこない。もうこれ以上、時間を無駄にしたくない……)

「ですから、それなりに実力と覚悟のある方とでなければ……」

 

 F.W.Fの話を出すとこのイベントの概要を淡々と話してきた。目に調べた通りの情報だったがわかりやすかった。だけど、本人も目指すなりに本気ということを話してきた。

 

「あなたと私が組めばいける。私の出番は次の次。聴いてもらえればわかるわ」

「待ってください。例え実力があっても、あなたが音楽に対してどこまで本気なのかは、一度聴いたくらいではわかりません」

「それは私が、才能があっても、あぐらをかいて努力しない人間のように見えるということ?私はフェスに出るためなら、何を捨ててもいいと思ってる。あなたの音楽に対する覚悟と目指す理想に、自分が少しも負けているとは感じていないわ」

「残念ながらお嬢様は貴女を気に入っているみたいですので、断ろうとしているなら諦めて下さい。それに実力は十分以上だと推しておきます」

 

 お嬢様が認めた逸材だ。流石に逃すわけにもいかないので釘を刺しておく。すると紗夜さんは考えた後に答えを出した。

 

「……わかりました。でも、まずは一度、聴くだけです」

「いいわ、それで充分よ」

「やりましたね!お嬢様、今日はどうしますか?ソロでいきますか?それとも音入れますか?」

「そうね………久しぶりに入れましょうか」

 

 紗夜さんに実力を見せるため、なるべく目立たないようにするが、本領を発揮させるためにお嬢様に何を歌うのかを決めてもらう。それで今回やる楽器が決まる。あとの時間でそれの用意をして準備をする。そして時間は経ち、その時間がやってくる。

 

 

 

 

 




紗「彼女の実力を見れると思ったんですが…次回まで待つことになるとは」
新「仕方ないですよ、そろそろ出さないと待ってくれてる人たちに申し訳ないですから」
紗「…そうですね」
新「じゃあ次回予告しちゃいましょう」

紗・新「次回 世界で2番目にかっこいい闇(?)のドラマー降臨!」

紗「次回も楽しみにしててくださいね」


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第五話 世界で2番目にかっこいい闇(?)のドラマー降臨!

長い間本当にお待たせしました(^^;;
コロナで休みをもらえたのにやることを終わらせてなくてこの有様です…
とりま最新話がやっと出来上がったので、どうぞ!


「ライブ……ハウス……?」

 

 私はあこちゃんに連れられてライブハウスの前にあるカフェに来ていた。

 

「うん! このカフェの横、ライブハウスなの!あこ最近、ライブハウス通いにハマっててね一知る人ぞ知る、自分だけのバンドを見つける……それってカッコよくないっ?」

「…うん、そうだね……」

「でしょっ?でね、ついに見つけたの。あこだけの、超っカッコイイ人!」

「そうなんだ…あこちゃん……カッコイイもの……好きだもんね……ならとっても、よかったね…」

 

 あこちゃんはゲームをしてる時みたいに目を輝かせている。

 

「ありがとーっ。りんりんは、あこのカッコイイもの探しの相方だもんねっ。ネトゲでいつも助けてくれて、すっごい感謝してるんだ。この前も新しいクエスト手伝ってくれたし、そのおかげであこは新しい武器作れたし………ってそれはともかく! だからりんりん、ライブハウス行こ?」

「……え?…えっ、ライブ…ハウス……って、え…ひ、人……たくさん……!」

 

 行こうという言葉を聞いた瞬間動揺してしまった。ライブハウスという単語を聞いた瞬間少しばかり嫌な予感はしていたけど、まさか誘われるなんて思いもしなかった。昔から苦手だった。人が沢山いるところはなんだかくらくらしてくる。そして何より怖い。一時期は彼がいてくれたけど、もう何年もいない。それ以来人がたくさんいるところはあまり行かなくなった。

 

「一あ、そうそう。人は多いけど、ドリンクカウンターの近くなら空いてるし、平気だよ!」

「…む、むり……こわい…! わたし、帰る……!」

「大丈夫だよっ。りんりん騒がしいの苦手だから、今日は、その人の出番だけ見て帰ろう!……ね、お願い!」

 

 あこちゃんの頼みでも流石にそれは無理がある。とても断りづらかったが勇気を振り絞って断ろうとする。

 

「で、でも……!」

「じゃあ時間だから、行こっ!」

「わ、わたし……」

「心配いらないよ。あこがついてるからっ。それに……あこをいつも助けてくれるりんりんに、いつかちゃんと、恩返ししたいって思ってたの」

「……あこちゃん……」

(私はただ手伝っていただけなのに、そこまでしてくれるなんて…)

 

 そう言われて断れなくなった私はその小さな手に引かれてライブハウスに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「お嬢様、今日は何の曲にしますか?」

 

 僕とお嬢様は今回やる曲について話していた。普段ならばセトリ(セットリスト)を提出しているのだが、今日のように出さない日もある。そういう日は毎回僕が演奏し、お嬢様が歌う時だ。楽器は基本的にヴァイオリンしか出来ないのだが、どの曲もカバー出来る様に他の楽器でもいつも練習している。

 

「そうね…あの曲いけるかしら?」

「…あの曲と言いますと?」

「えっと…これよ。…〜〜〜♪」

「あの曲ですね。勿論いけますよ」

「あとはあの曲とあれね」

「わかりました、頑張ります」

 

 このように時々曲名が出てこない時もあるのだが、フォローしてなんとかしている。もうそろそろステージの時間だ。いつものように自分だとバレないように仮面をつけて準備する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「でね、その超力ッコイイ人、友希那っていうんだけどほんと超一一カッコイイから!りんりんも聴いたら、絶対ハマっちやうと思うよ!」

「……」

「友希那……!」

(すごい熱気。こんなにファンがいるの?しかも、押してるのに全然騒がない。……みんな、あの子の歌を待ってるみたい……。それに…あの仮面の人は誰?さっきまでいた人は何か違うような気もするし…)

「ほら。ここがドリンクカウンター。ステージから一番遠いから、ここに居れは押されないからね。……って。 りっ、 りんりん!?わわわわわわ~! り、りんりんの顔が青い--!」

 

 引かれてやってきたは良いものの、やっぱり人混みは駄目みたいだ。学校でさえ少し辛いのに、こんな狭い場所にこんな人の数が入るなんて思えない。あまりの人の数に倒れてしまいそうになる。

 

「…うち……に……わたし……帰……」

「りんりんしっかりしてぇ~っ。友希那を観るまで死んじゃだめだよぉ~~~っ」

(あの人……確か同じクラスの白金さん?彼女もファンなの?それにしても隣の子、騒がしい……)

「ちよっと、あなた達静かに……」

『___♪』

「!」

 

 女の人の歌声が聞こえた瞬間、会場が静かになった。彼女の歌声は普通の歌声とは違う…一つ一つが透明で透き通るような歌声だった。その声は今まで聞いたことのなかった声。

 

「……!やっぱ……カッコイイ……!」

(!? ……なに……この声……? ……こんなの……こんなの…聴いたことかない。言葉ひとつひとつが……音にのって、情景にかわる……色になって、香りになって……会場が包まれていく……)

「……本物……だわ……やっと……見つけた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ステージを終えたお嬢様は楽屋に戻り、すぐに荷物をまとめるとラウンジに向かった。ラウンジでは紗夜さんがソファに座って待っていた。

 

「どうだった? 私の歌」

「なにも……言うことはないわ。私が今まで聴いたどの音楽よりも……あなたの歌声は素晴らしかった一あなたと組ませて欲しい。そして……FUTURE WORLD FESに出たい。あなたとなら、私の理想……頂点を目指せる……」

 

 どうやら紗夜は、お嬢様の実力に驚いてるらしい。それもそうだろう、あんな歌声聴いたこともなければ驚くのも必然んだ。事実僕も最初聴いた時はそれにしか耳を貸さなかった。

 

「あなたと組めることになってよかったわ。もうスタジオの予約、入れていい?私、時間を無駄にしたくないの」

「同感だわ」

「それじゃあ新一、予約頼めるかしら?」

「構いませんが、その紗夜…さんの予定とかは…えっ?」

 

 紗夜の予定を確認しようとすると紗夜は鞄の中から手帳を取り出し、一枚千切って渡してきた。

 

「今月の分はここに書いてありますので、合わせていただけると助かります」

「あ、了解です。それでは行ってきます」

 

 紗夜の予定をもらい、席を立ってお嬢様の予定を見比べながらカウンターへ向かって行った。あの二人は似てるところが多いからおそらく、仲良くやっていけるだろう。とにかく今はこっちの仕事をやってしまいますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「他に決まっているメンバーは?」

 

 この人の事だから他のメンバーも集めているのだろう。そう思い、私は聞いてみることにした。すると、どうやら私以外の楽器は集まっていないらしい。時間も少ないので急がなければ。

 

「あと3人……急ぎましょう。実力と向上心のあるメンバーを見つけ、少しでも練習時間を確保し……」

「最高の曲をつくり、最高のコンデイションで、コンテストに挑む」

「……本当にあなたとは、いい音楽が作れそう…」

「…そうね。メロディはさっき聴いて貰った時のを、私の方で詰めてみるわ」

「では私は、そのあとのパートのベース……!?」

 

 誰…?先ほどからこちらを見ているけど…あれは…先程いた白金さん達?どうしてこんなところにいるのかしら。

 

「ゆ、ゆ、友希那だ………、友希那だよりんりん……!ど、どうしよう、ここで待ってたら会えるかもって言ったら本当に……、本当に会え……っ」

「あ……あこちゃん……私、もう……帰……!」

「…あのっ。あの…さっきの話って……本当ですかっ?友希那……さん、バンド組むんですか?」

「そうね。その予定よ」

「……! ……バンド……! !あ、あこっ、ずっと友希那さんのファンでした……っ!……だ…だからお願いっ、あこも入れてっ!」

「!? ……あこ……ちゃん……?」

「…あこ、世界で白番目に上手いドラマーですっ!1番はおねーちやんなんですけど!だから……もし、もし……一緒に組めたら……!」

「ちょっとあなた。私達は本気でバンドを……」

「遊びはよそでやって。私は2番であることを自慢するような人間とは組まない行くわよ、紗夜」

「ええ」

「あ……」

(遊びは要らない……この子と私の意識は限りなく近いところにありそう。もしかしたら本当にいいバンドが作れるかもしれない……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あ「ん〜残念だったなぁ………」
新「?何かあったんですか?」
あ「まぁね…」
新「何かは僕にはわからないけど、頑張ってね!」
あ「うん!ありがとう!…ってお兄さん誰?」
新「おっと次回予告の時間だ
 次回 ボロボロのスコア 
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あ「コメントもね〜」


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第六話 ボロボロのスコア

お久しぶりです!←何回目だ?
最近はコロナのせいで書けるだろ!と思った方も沢山いますでしょうが、課題が多いのです…すみません<(_ _)>
まぁ、そんなことは置いといてと。今回はね…説明するの面倒いな_(┐「ε:)_とりあえず最新話どうぞ!


 紗夜さんと出会ってから、女の子が毎日一人でやって来た。やって来るなりその子はお嬢様達に「バンドに入れさせて!」と言い、またお嬢様と紗夜さんは「諦めて」と言い追い返す。何度もやって来て諦めが悪いので、追い返された後でこっそり名前を聞いてみた。名前は『宇田川あこ』というらしい。本人いわく、世界で二番目に上手いドラマーだとか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ただいま~。はあ……。もうやんなっちゃうよぉ。りんりんに話聞いて貰おう……」

 

 あこは家に帰ってくるなり自分のパソコンを開き、チャット画面を起動した。そして親友であるりんりんにメールを送った。一番話をしているりんりんにアドバイスが貰えるかもと思ったのだ。時間が掛かるかと思ったけどすぐに帰ってきた。

 

(あ。あこちゃんから……チャット……あ……また……断られちゃったんだ……)

『言葉だけじゃ、伝わらないのかもしれないね』

『? じゃあどうしよ?』

『あこちゃんや私が、友希那さんの歌を好きになった瞬間みたいに、音で伝えられたら、いいのになって思った』

「……音、で……」

『私も、あの歌を聴いた時、すごいと思ったからあの感覚は、言葉だけじゃ上手く現せないと思う。バンドって、そういう感覚で繋かるってことかなって』

「……あ……。なんかちょっと……わかった……かも!」

 

 りんりんとのチャットが終わってあこは燐子の言葉に出来ることを探し始めると、おねーちゃんが帰ってきた。

 

「ただいま~……ってあこ、その顔。今日も不発だったみたいだな。『あこだけのカッコイイ人とバンドやる作戦 』は」

「あっ、おねーちゃーんっ、おかえり!そーなのっ。とくに、ギターの紗夜……さんがすっごい防御力なんだけど、認めてもらえるまで頑張るんだ!」

「そうかそうか、頑張れよ……って紗夜さん?まさか、湊さんとバンド組んだっていう紗夜さんのことか?」

 

 紗夜という単語を聞いて、おねーちゃんは首を傾げた。そして何やら考えてる様子でむむむと唸り出した。少し経ったあと整理がついたのか納得した様子を見せる。

 

「え?おねーちゃん知り合いなの?」

「ははは。知り合いもなにも、あの人はうちの学校の高等部。よく校内でもすれ違うよ、あこのカッコイイ人って、湊さんか」

「そうなの! ライブで見たときにビビビッて来ちゃって!すっごくすっごくカッコイイんだ~」

「湊さんなぁ……手強いだろうけど、応援してるぞ。そういえば、知ってるか?湊さんはうちのダンス部のリサさんの親友だ」

「…ええ一一っ!!!リサ姉の『親友』の話、あこ、よく聞いてるよ一っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「え!? 友希那、今の話ってマジ!?」

「本当よ。バンドを組んだわ、紗夜って子と。まだギターとボーカルだけだけど、コンテストに向けて、新しい曲で出来上がってきてるわ」

 

 お嬢様がリサにバンドのことを話すと驚きの声が上がった。無理もないだろう。あまり他人に興味を持たないお嬢様に仲間が出来たのだ。一番近くにいたリサが驚くのも無理は無い。

 

「そっか…あははっ、なーんだ☆教えてくれなかったからびっくりしたじゃん!」

(いつか、こんな日が来るのかなとは思ってたけど……そっか。本当に、来ちゃったか)

「友希那がついにバンドか~。アタシと新一以外とつるまないでひとりでいるからさ」

 

 リサは明るめに言っているが何だか言葉とは裏に何かを感じる気がする…。

 

「リサ……でも私は……本気だから。私もその子も、FUTURE WORLD FES.に出たい、目標が一致したから組んだだけよ。それにこれは、お父さんの……」

「ん……わかってる。目的は置いておいて……アタシは嬉しいよ。友希那と一緒に、練習してくれる仲間ができたってことだし♪でもさ、どーすんの?FUTURE WORLD FES.のコンテストって三人以上が条件じゃなかった?」

「…あれ?リサ、バンドを組むこと、止めないの?」

 

 前は止めようとしていたリサが、今回は何故か止めようとしなかった。疑問を抱き、質問してみる。

 

「えー、新一ー?だって友希那は、アタシが止めたら、やめるの?」

「リサ……」

 

 全く、この子は………どれだけお嬢様のことを解っているのやら。この子の人の事をしっかり見るところは尊敬に値するよ。

 

「ゆ、友希那さん、お願いしますっ!」

 

 リサと話しながら三人で校門まで歩いてくると、一人の女の子が声をかけてきた。その姿を見てみるとここのところお嬢様のとこにやって来る少女だった。

 

「 ん?あれ? あこじゃん。どしたの?」

「…リサ、知り合いなの?」

「お願い! お願いお願いお願いしますっ!絶対いいドラム叩きます! お願いします!」

「……ちょっとちょっと、話が見えないんだけどっ。あこ、ドラムやってるんだっけ?友希那のバンドに入れてもらいたいの?」

 

 あこちゃんがいつも以上の調子でやって来ているせいか、リサはすぐに状況に追いつくことが出来なかった。だか、すぐに整理するところに入った。

 

「うん! でも、何度も断られちゃって………どうしたらあこの本気が伝わるかなって考えてそれで…えっと……!友希那さんの歌う曲、全部叩けるようになって来ました!いっぱい、いっぱい練習して……!その……お願いです! 一回だけ!一回だけでいいから一緒に演奏させてください!それで……それでダメだったらもう諦めるから!」

「何度も言ってるけど……、遊びじゃないの」

(あっ…)

「まぁまぁ、友希那。いいじゃん、一回くらい一緒にやってあげなよ☆……ほら…」

「わわわっ」

「……?」

 

 リサはお嬢様を連れて行くや、あこのフォローに入ってるようだ。流石はお嬢様の幼馴染みだ。恐らくこういう時のお嬢様の扱い方を知ってる…参考にさせて貰おうφ(._.)メモメモ

 

「あこの使ってるスコア……こんなにボロボロになるくらい、何度も何度も練習してるってことでしょ?」

「……っ!」

「ね? 友希那。あこのことは同じ部活だし知ってるけど、やるときはやる子だよ?」

(メンバーが揃うのは、いいことかわかんない。でも、こんな本気になってるあこ、初めて見たから。応援してあげたくなっちゃうよ…)

「……はあ、……わかったわ。一曲セッションするだけよ」

「ほ、本当ですか!!……本当!? やったあ……っ!リサ姉、ありがとう!」

 

 リサの説得に妥協したのか、お嬢様は一度だけあこにチャンスを与えた。凄いな…リサは…。とても良いことだが、嬉しさが来る前に悪寒が走った。少し離れたところで何かが起きてる…様な気がする。調べなきゃいけない。

 

「やったーっ☆よしっ。ねえ、友希那!アタシもセッション見学していい?」

「別に……いいけど。どうしたの急に。スタジオなんて、随分来てないのに」

「えっ。ど、どうって……別に~?ライブハウス以外で歌ってる友希那も、たまには見たいじゃんっ?そ、それに、紗夜って子がどんな子なのかも気になるしさ~」

「そう…好きにしたら」

「やったっ♪」

 

 リサが見学の許しを得て喜んでいるところ、お嬢様に話しかけに行く。

 

「…お嬢様」

「…何かしら?」

「すみません、急用が出来たので先に行って貰えますか?」

「…何かあっ……何でもないわ、先に行ってるわね」

「ありがとうございます」

「んー?新一、何かあったの?」

「急用が出来たらしいわ」

 

 礼を告げると、お嬢様達とは反対の方向に歩き出した。何か…何かやばい気がする。急がねば…。

 

(なんだろ? アタシ……今までは遠くから見るだけでよかったのに、なんでこんなに友希那のバンドが気になるんだろ……)




あ「やったぁ!やっとチャンスがきた!」
リ「おめでとう、あこ!あれ?新一は…?」
新(急がないと…少なくとも大きくならないうちに!)
友(あの人…いつも何してるのかしら)
リ「なんか友希那が考え事してるけど…次回予告しちゃおっか

「次回 バンドのキセキ」

楽しみにしててね♪」


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第七話 バンドのキセキ

 今月初めての投稿です!あと二回出来たら最高だよな………。そんなことより!オーディションにあこが受かるかどうか楽しみですよね?はい!←お前が返事するな
 あ、今は理想論ですが、7月に第一章終わる予定です。そこから新章入る予定なので把握よろしくです!
では、最新話どうぞ!


 僕はお嬢様たちとは反対側へ走っていった。そもそもしていた悪寒、それは今までに感じたことのあるものだった。それは嫌でもわかった。でもその正体を知るたび、怒りの感情がやってくる。そんなことがないように祈りながら走っていくと、その場所に着く。

 最初に目にしたものはやはり、複数の透明な遺体(・・・・・)だった。その先を見るとファンガイアが暴れていた。見た感じ羊の様で、ステンドグラスのような模様が入っているが、手には一丁の銃があった。住人は全員逃げたのか生きている人はおらず、ファンガイアは人を探しているようだった。怒りを抑えながらも、注意を引くことにした。

 

「そこのファンガイア!」

「!」

「君達さ、独特の感じ出すのやめてくれないかな?嫌でもわかるようになったじゃないか!」

「⬛︎⬛︎⬛︎!!!」

『レ・ディ・ー』

「変身!」

『フィ・ス・ト・オ・ン』

 

 イクサに変身し、ファンガイアに攻撃を仕掛けるが当たらない。近くで避けられるだけならまだ良かったかもしれない。だが、相手は見た目とは相対してありえないスピードで避けている。人を超えるような速さで動いている化け物を普通に倒せるはずがない。せめてこちらにも銃があれば太刀打ち出来たかもしれない。そんなことを考えていると、見えない銃撃を受けていた。このままだと一方的にやられるだけになってしまう。一か八か、イクサナックルに賭けてみることにした。数回に一回は殴りにやってくる…その瞬間をイクサナックルの空気砲で撃退する。倒せなくても良い、今回は退けるだけでいいので、その判断に従う。数回の銃撃になんとか耐えて、やってくる方向を見極める。自分の信じた方向にイクサナックルを向けると、思い通りファンガイアがいた。そこに空気砲を撃ち込むと、ファンガイアが逃げていくように違う方向へ走って行った。

 

「ふぅ、今回はどうにかなった…けど、このままじゃダメだよね。…あれ(・・)を使ってみるか」

 

あたりに人がいないことを確認してから変身を解いて、circleの方へ向かった。

 

 

 

 

 

「懐かしいなぁ~。このスタジオー一って感じの空気☆最後に入ったの、中2の夏休みだっけ?」

「中1よ。忘れたの?中2の時は、海にばかり行ってたじゃない」

「えっ。 海って友希那さんも行ったんですか?ま、まさかビーチでライブしたり…? 超カッコイイ……」

「私は行ってない」

「湊さん、この人達は?」

 

 circleに入るなりアタシは久しぶりの光景に感激した。ここも来たことはあるけど、暫く来てなかった。でも、中身はそんなに変わってなく、雰囲気が懐かしい。声の方向を見てみると、水色の髪をした女の子がいた。おそらく友希那の言ってた子はこの子だろう。ん〜可愛いなー。

 

「あ、あいさつが遅れちゃってごめんね!アタシ、今井リサ。友希那の幼馴染で、今日は見学に来ましたっ♪」

「宇田川あこですっ! 今日はドラムのオーディションをしてもらいに来ましたっ!」

「……オーディション?」

 

 オーディションって単語が出た瞬間気難しい顔をしちゃった。それもそうだよね、急に決まったことだもん。

 

「ごめんなさい、リサが……あ、いいえ。私がその……」

「彼女のテストを許したのということは……実力のある方なんですよね?」

「……努力はしているらしいわ。勝手に練習時間を使ってごめんなさい。5分で終わせるから。」

「いえ。湊さんの選出なら、私は構いません。……ただ、少し……意外です、あなたはどんな形であれ、音楽に私情を持ち込まない人だと思っていたから」

「その価値観はあなたと合致しているつもりよ。実力がなければ、二人ともすぐ帰ってもらうわ」

「はいっ。わかってますっ!」

「えっ。アタシも?」

「見学は終わり。紗夜の顔ならもう見たでしょう。……リサ。昔、遊びで入ってた時とは違うの」

「……あっ。そ、そうだったね。あはは、ごめんごめん! その時はすぐ帰るって♪なんか……アタシー瞬、昔に戻った気になっちゃったな~」

「リサ姉! あこ絶対、合格するように頑張るからっ」

「ん、そうだね。よしっ、あこファイトっ☆」

「すみません。只今、戻りました」

「あ、新一おかえり〜」

 

 オーディションの準備をしていると新一が帰ってきた。なんか凄く疲れてるように見えるけど………何があったんだろう、ちょっと聞いてみよっと。

 

「ねぇ新一?」

「ん?どうしたのリサ?」

「何してたの?すっごく疲れてるっぽいけど」

「えっとね………そう!少し運動してただけだよ、うん!」

「え、そうなの…?」

「うん、それにあんまり気にしちゃダメだよ」

「あ、うん………」

 

 よくわかんないや、何してたんだろ。スーパーのタイムセールとかじゃないだろうし………。そんなことを考えている間に準備が終わったみたい。

 

「できればベースもいると、リズム隊として総合的な評価ができるんだけれど……」

「……」

「そうね。こればかりは仕方ないわ。このまま」

「……あ、あのさっ。アタシが弾いちゃダメかな?」

「リサ?」

「えっ、リサ、ベーシ弾いたことあるの?」

「昔ちょっとやってたんだよね。誰もいないんでしょ?だったらアタシ弾くよ♪待ってて、ベース借りてくるから!」

 

 久しぶりに演奏するなー、早く取ってこよーっと♪

 

「新一、貴方は?」

「僕…ですか?」

「貴方も一通り弾けるでしょう?」

「新一さんも?」

「あー、僕はやめておきます。この譜面、まだ練習中なので」

「…そう」

「ただいま!いいよ、準備オッケー☆」

 

 ん?何だろこの空気。新一の方見るといつも通り笑顔を向けてくるし、友希那の方を見ると集中しようとしてるみたいだし………。

 

「湊さん。今井さんは経験者なんですか?」

「一応。譜面で一通り弾くことは、今でも出来ると思う…」

「一通り……ね」

「あっ。このネイル?大丈夫、大丈夫! アタシ、指弾きはしないから」

「ベースはスタジオの備品ですから、変な弾き方をして、楽器を痛めないでくださいね。私はあくまで宇田川さんのテストなら、問題ありません」

「それじゃ、いくわよ」

(……! なに……?)

(……この感じ……?見えない力に引っ張られるみたいに、指が……!)

(え……!?しばらく弾いてないのに……アタシ……!)

(…すごい! 練習のときより、もっと上手に叩ける……!……って、あれ? でも、なんか不思議な……?)

(…何だこれ、向こうにいないのに伝わってくる感じがする。この感覚…お嬢様たちだけの時は何か違う感じがする…!)

 

 演奏が終わって、みんなの方を見てみると驚いた顔をしていた。実際アタシもビックリしてる。出来るか不安なところもあったのに何故か普通に出来ちゃってたし…。

 

「あのさっきからみんな、黙ってるけど……あこ、バンド入れないんですか?」

「そ……うだったわね。こめんなさい。いいわ。合格よ。紗夜の意見は?」

「いえ私も同意です。ただ……その……」

「いやったあ---っ!!それにしても、なんか、なんか、すごかった!!初めて合わせたのに、勝手に身体が動いて!!」

「アタシも…!あこもそう思ったんだ!なんか、なんかいい感じの演奏だったよねっ♪……てことは、二人も……?」

「そうですね。これは……その場所、曲、楽器、機材……、メンバー。技術やコンディションではない、その時、その瞬間にしか揃い得ない条件下でだけ奏でられる『音』…」

「バンドの……醒醐味とでも言うのかしら」

「ミュージシャンの誰もが体験できるものではない……雑誌のインタビューなどで見かけたことがあるけれど、まさか……」

「すごい感じでしたねー聞いてる僕にも何か感じました…」

「なっ、なんかそれってっ……キセキみたいだねっ!」

「うん。マジック! って感じ♪」

「その言い方は肯定出来ないけれど…でも、そうね。皆さん、貴重な体験をありがとう」

 

 紗夜って言い方は厳しいけど、優しい子なんだな。意外と照れ屋さんだったり………して?

 

「あとはベースとキーボードのメンバーさえいれば……」

「え? ベースならここにリサ姉がいるじゃん!」

「いや、アタシは、その……ヘルプで弾いただけで~……」

「そうだよ、あこちゃん。リサはたまたま弾いてくれただけで…」

「今井さんは湊さんの幼馴染みで、友達として、あくまで宇田川さんのオーディションに付き合うために弾いただけ。そうですよね?」

「でもバンドメンバー探してるんだよね?こんないい演奏できたのに、なんでメンバーにしないの……?」

「……確かに、技術的にはまだ、メンバーとは認められないわ」

「!あ……、そ、そりやそうだよね、はは……」

 

 友希那の言ってることも事実だし、しょうがないよね。アタシがここ最近弾いてたら話はまた別だったと思うけど…ずっと弾いてなかったからなぁ…。

 

「ただ……、足りないところはあるけど、確かに今のセッションはよかった。紗夜も、それは認めるでしょう?」

「私は……!確かに今の曲だけに限れば、よかったですが……」

「なら、バンド組もうよ! この四人で!」

「…」

「え? ……マジで?」

 

 

 

 




新(ふぅ…危なかった…)
リ「新一ー、アタシどうだったー?」
新「うん、すごかったよ。ホントに久しぶりに弾いたの?」
リ「ホントだってば〜。あと、なんかバンドに勝手に入れられてる気がするんだけど………」
新「そのまま入れb(、おっとこっから先は次回で!」
(このシーンは入る予定はないです)
リ「次回予告やっちゃおっか」
新「うん」
リ・新「次回 一つの音楽」
新「お楽しみに!そしてよろしければ、お気に入り登録と感想お願いします」


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第八話 一つの音楽

今月2回目の投稿です。あれから1週間かな?でも短期間でやるとほんと精神削られる_(:3 」∠)_
皆さんは決して無理しちゃいけませんよ!さて、第八話どうぞ!


「ふぅ……」

「今日も疲れたぁ~~~」

「ちょっと。宇田川さんも今井さんも。ここは通路なんだから、ダラダラしないで」

「すみません。次回の予約、いいですか?」

 

 あれから結構な時間が経った。お嬢様と紗夜さんが手を組んで、あこちゃんが毎日やってきて、オーディションやって、リサと一緒に仲間になってバンドをやる日々が続いている。

 

「毎度どうも、友希那ちゃん、新一君。そうだ、来月のこの日なんだけどさ、予定どうかな?他でライブの予定とか、入れちゃってる?」

「いえ、私たちはまだ……」

「あっ、最近ソロからバンドに変えたんだっけ?じゃあ大丈夫かな? 急遽イベントに穴が開いちゃって、他に頼めそうな人、いなくてさ~」

「すごいっ……さっそくライブ出演がきまった……メジャーのスカウトも来るって噂のイベント………も……もしかして……あこ達も……?」

「確かにこの地区のバンドにとっては、登竜門と呼ばれているイベントね。けれど私達はメジャーと言うより、もっと……」

「そう。もっと高みを目指しているわ…メジャーは決して、音楽の頂点じゃない。あこ。そう思えない人は、このバンドに要らないわ」

「えっ。そうなんですか?でも……メジャーデビューしたらあこも、カッコイイ人になれるかなって……」

「どこがカッコイイの?メジャーなんて!音楽を売るための場所よ。本当の音楽のことなんて、なにもわかってない……」

 

 あこちゃんがメジャーデビューが格好いいといった瞬間、お嬢様がムキになり始めた。人の言うことなどあまり興味が無いはずのお嬢様が、今回の件に関してはいつも以上に厳しめの声を出して話している。

 

「お嬢様……少しばかり言い過ぎでは…」

「私は間違えたことは言ってないはずよ?」

「…申し訳ありません」

 

 やはり旦那様の事(・・・・・)だろうか………お嬢様はそれだけは認められないのだろう。旦那様と同じ道だけは。

 

「? すべてがそうではないと、私は思いますけれど……」

(湊さん……どうしたのかしら。なんだかムキになっているように見える……)

「でも、そうね。私達は『自分たちだけの』頂点を見つけるためにここにいるはず。宇田川さん。あなた、よくお姉さんの話をしているけれど……あなたが音楽をやりたいのではなく、お姉さんに憧れて、お姉さんのようになりたいだけなら、私達とではなく、お姉さんとバンドを組んだ方がいいわ」

 

 紗夜さんまで同じようなことを言い始めてしまった。彼女達はそのつもりは無いのだろうが、結構鋭い言葉を放ってくる。こんな言葉ばかりだが大丈夫だろうか。

 

「……! あ、あこはこのバンドがいいですっ。お、おねーちゃんもドラムだし……っ、だからっ、あこも、おねーちゃんみたいになりたくて、 ドラムを……」

「お姉ちゃん……」

『いつもあなたは、一緒のことばかりするじゃない...』

『おねーちゃん、あたしは……』

「宇田川さん。……私は今、あなたの技術は認めています。でも、あなたのカッコイイは、ただの『真似』だわ」

「……っ。ち、違うもんっ。あ、あこは……っ!」

「違わない。じゃあ答えてみて。お姉さんではない、あなた自身にとってのカッコイイって、何なのかしら?」

「そ、それは……」

「わかったでしょう。あなたのその意識は、バンドを高める為に、必ず変えて貰わないと困る」

 

 あー、なんでこの子達は伝えたいことを柔らかく伝えられないのだろうか。タフじゃない子からすれば辛辣な言葉で攻撃してるも同然だからね!?

 

「まっ、まあまあ! 紗夜、その辺でっ。あこはこう見えてしっかりしてる所あるし、……ちゃんと自分で考えられるって、ね? ほら、あこ……」

「う、うん……」

 

 リサ、ナイスフォロー。こういう時、リサがいてくれて本当に助かる。そんなことを思っていると紗夜さんが今度はリサに向けて言葉を続けてくる。

 

「でしたら構いませんが。今井さん自身も大丈夫ですか?このジャンルやシーンについての知識はあるの?それにブランクのせいで、大分無理してるみたいだけれど」

「……! あーうんっ。この指は心配しないでっ。……それにこのジャンルについては、なんてゆーかその、うん。アタシは昔から、友希那から話……聞いてたし」

(……そっか。友希那のお父さんのこと知ってるの、この中でアタシと新一だけなんだ……友希那はいつ話すつもりなんだろ…)

「……」

「「……友希那(お嬢様)?」」

「それよりキーボードよ」

 

 ずっと固まってるから話しかけてみると、出てきた言葉はバンドのイベントについての事だった。

 

「ずっと探してるけど……キーボードなしでこのジャンル特有の音の厚みは出せない」

「そうですよね、キーボード………!名護さん」

「はい?」

「貴方は出来ないのですか?」

「え?」

「ですからキーボード、出来ないのですか?」

 

 紗夜さんが珍しく質問してくるかと思ったら、その事だったか。

 

「あー……それは無理だと思います」

「…何故ですか?」

 

 何故という言葉と一緒に鋭い目線が刺さった。少しばかり痛いかな、うん。キーボードも出来なくはないのだけれど………。

 

「それはですね…」

「貴方、前に楽器はある程度出来るって言ってましたよね?」

「それは、そうだけど…」

「オールで出来るのならば、一手に絞れば完璧になるのではないですか?」

 

 痛いところを突かれる。言っていることは確かだろう。しかし…。

 

「そうだよ新一!一つに絞ればいいんだよ!」

「新一さんが出来れば5人揃うんだよね…ってことはすぐ近くにいたって事!?」

「……って意見が出てますが?」

 

 ……二人には申し訳ないこと言うな………。

 

「ごめん、それは無理なんだ」

「どうしてですか?」

「僕が仮に出来たとしよう、そうしたら絶対力になってた。けど僕は所詮ある程度(・・・・)しか出来ないんだ。だから期待出来るレベルにはなれない。最も、違う楽器か僕が天才ならば可能、だったかもしれないけど」

「天才………」

「そうね、キーボードでないのなら必要ないわ」

「ちょっと、友希那……無理言ってごめんね、新一」

「ううん、僕の方こそごめん。その分準備とかは手伝わせてもらうから!」

「うん!あーでも、ライブが決まったのに……う一ん……。とにかくみんなで、もっと探してみるしか、ないよね」

 

 それから一週間が経った。だがしかし、一人も見つけることは誰にも出来なかった。

 

「あれから…一週間か」

「どうしよう……全然見つからないよぉ」

「短期間にこの四人が集まったことの方が異常よ。私は妥協してまで、メンバーを揃えたくはない」

「そうね。下手なものを聴かせるよりはいっそ居ない方がマシかもしれない ……オリジナル曲は、キーボードありきで作ったけれど……」

「でもそれってさ、せっかく作った曲を、ベストな状熊で聴かせられないってことだよね……」

 

 リサが一瞬悲しそうな顔を見せたが、突然何かに閃いたような顔をした。何があったんだろう?

 

「ちょっと待って!アタシ友達なら多いし、音楽の経験とか関係なしに知り合い全員に電話してみる……っ」

「あっ! じゃああこも!自分達だけの頂点……!『あこだけの』カッコイイ、やりたいもん!!」

 

 二人がスマホを手にして電話をかけようとすると、いつもの気配がしてきた。その方向を向くとやはりファンガイアがいた。でも何故だろう、奴はこっちを見るなり震えている。

 

「?どうかしましたか、名護さん…!?」

「紗夜さん、他の人連れて逃げて」

「何を言ってるんですか!?」

「どうかしたんですか、紗夜さん?ってあれなに?」

 

 紗夜さんが大きな声を上げた瞬間、他の人にも見られてしまった。出来れば穏便に済ませたかったんだけど……仕方ない、リサに頼ろう。

 

「リサ、お願いがあるんだけど」

「あ、いつもの?」

「うん、できれば穏便に済ませたかったんだけど…」

「OKー!でも、いつもホントに何してるの?」

「それはいつも言ってるでしょ、鬼ごっこだよ」

 

 本当は戦ってるんだけどね。迷惑かけたくないし、黙っていることが本来の契約だから。

 

「わかった。みんなー、早く逃げるよ!」

「待って下さい今井さん、名護さんは何やってるんですか!?」

「詳しい事は後で!とりあえず今は逃げるよ、ほらあこも!」

「う、うん!」

「………」

 

 よし、皆行ったな。でもおかしいな、普段ならもう攻撃されてるはずだし、こいつ一週間前に出た奴だよね………

 

「君、何してんの?」

「………た」

「…?」

「………いた」

 

 嘘、あいつ人間の言葉が話せるの!?今までそんな奴…いや待てよ、今まで話す前に戦闘入ってたっけ。じゃあ仕方ないか。

 

「とうとう、見つけた…僕の、僕の花嫁!」

「………え?」

「見つけた…準備しなきゃ……ふふ」

 

 変なことを言い始めたファンガイアはぶつぶつと物を言いながら来た道を引き返して行った。何がしたかったんだ…?かと言って僕も追うわけではなかった。だれも殺してはいない、ならば殺す理由も………いや、前回殺してた気がする。だが、もう見失ってしまったものは仕方ない。さてと、お嬢様達を探しますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱり、何度弾いても、あこちゃん達の演奏と合わせるのは楽しい。不思議な感覚がする。時計を見るといつのまにか多くの時間を使っていた。また、夢中になりすぎちゃった。休憩で弾いてたはずなのに…勉強に戻らなきゃ。机に戻ろうと椅子から立ち上がると着信音が鳴る。着信元を確認するとあこちゃんからだった。

「もしもし……あこちゃん……?」

『りんりーん! 助けて~~~っキーボードが見つからないんだよ~っ。ライブが決まったのに!』

『りんりんの知り合いでいない? キーボード弾ける人!ピアノでもいいんだっ。で、でも上手い人じゃないとバンドには入れなくて……』

「………そう……だよね……」

 

 ピアノ……ピアノなら、私も……弾ける。だけど私は……友希那さんのバンドは……すごく真剣に音楽をやってる。私は……ずっと、部屋で一人で弾いてただけで……。

 

『えっ、りんりん? そうだよねってことは誰か知ってるの……!?』

「えっ……わ……わたし……わたし……は……」

『──って、そんなうまい話ないよね。あのね、もし、めっちゃくちゃ上手な人いたら、あこに教えて……』

「……ける……」

『…?りんりん?』

「……ひ………弾ける……! わたし……弾けるの!」

『ええっ!?』




逃げてる最中

紗「今井さん、前にもこんな事があったんですか?」
リ「え?うん、あったよー」
紗「!…どうりであれを見ても平気なわけです」
リ「平気じゃないんだけどね、ここら辺でもう大丈夫だよね。あこー?もう大丈夫だよー」
あ「うん、電話かけてみる!」
リ「じゃあアタシらは次回予告しちゃおっか」
リ・紗「「次回 私…弾けるの!」」
リ「お楽しみに〜」

一方その頃

友「みんなどこ行ったのかしら?」

友希那は一人で違うところにいた。


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第九話 私…弾けるの!

今日は休日。キーボードの候補…白金さんのオーディションの日だ。白金さんはあこちゃんの知り合いらしく、ピアノをずっとやってるらしい。期待が出来る…約束はお昼なのだが、全員で一度集合し、練習するらしい。ずっと見ていたのは山々なのだが、タイムセールを逃すわけにはいかないので、僕は一度抜けることになる。もう少ししたら出ないとタイムセールに遅れてしまうので、リサにあとのことは頼んで、circleの外に出る。戻ってくる時は全員に飲み物でも買って行こう。そう、僕はこの時、あんなことが起きるとは思わなかった。


「お嬢様が…さらわれた?」

 

 買い物から一度帰宅し、食材を片付けているとリサから電話が来た。開始早々とんでもないニュースだ。

 

『うん、友希那だけじゃなくて紗夜も一緒に…』

「…どんな奴だった?」

『新一?』

「リサ、そいつはどんな奴だった?」

『え、えっと、羊っぽい怪物…』

 

 どこの野郎かと思えば特徴を聞く限り、ファンガイアだった。あの時のファンガイアだ、一度撤退したのはそういうことだったのだろう。

 

「分かった、連れ戻しに行ってくる」

『何言ってんの!?相手は化け物だよ!』

「ごめん、でも大丈夫だよ、連れ戻す(・・・・)だけだから」

『…ホント?怪我とかしないよね?』

「しないように努力するよ、約束のお昼までには間に合わせるから。それじゃ」

 

 そう言って電話を切り、急いで準備をし、イクサリオンに乗って捜索に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと私は知らない場所にいた。壁や天井があるところを見ると、おそらく建物の中でしょう。確か私は他の人とcircleの前にいて、そこで怪物に襲われて…辺りを見た感じ誘拐されたと思うのが妥当でしょう。さらに手に縛られているような感覚があり、後ろを見て確認してみるとロープで縛られていた。よく見るともう一つ縛られている手があり、誰のなのかを確認すると、気を失ってる湊さんの姿があった。

 

「湊さん!大丈夫ですか、湊さん!」

「…っ、…紗夜?」

「気がつきましたか湊さん」

「…ここはどこかしら?」

「私にもよくわかりません…ですが誘拐されたということだけはわかります」

「そうね、早くここから出ましょう…?」

「縛られてますよね、少し待っててください、何か見つけて‥⁉︎」

 

 何か刃物はないか探すと、扉らしきところに私たちを誘拐した怪物がいた。ゆっくりと近づいてくるなりその姿は人間の姿に変わっていく。

 

「…や、やあ」

「なんですかあなたは、ここは何処なんですか?」

「ここはね…僕と君たちだけの……家だよ」

「何をふざけてるのかしら?」

「全くもってその通りです、私たちを帰して下さい」

「……させない」

「?」

「そんなことさせない!」

 

 人型をとっていた怪物が元の姿に戻ると、怒ったような声を上げながらこちらに近づいてくる。

 

「良いかい?君たちは僕の花嫁なんだ、だから誰にも渡さない、絶対に!」

「ここに誰かが来たらどうするのかしら?」

「こんなとこ誰も来ないさ!だから助けも来な「スパッ パシャッパタパタパタ…」…え?」

 

 怪物が最後の言葉を言いかけると、怪物の後方にあった扉が切り刻まれ、パタパタと崩れ落ちた。光が入ってくると同時に一人の人間の形の影が映る。よく見てみると、そこには手に何かを持っている名護さんの姿があった。

 

「‥お、お前何者だ!?なんでこの場所が!?」

 

 怪物が驚きながら質問すると名護さんは手に持っているものを入れ物らしき筒にしまい、笑顔で反応した。

 

「おや、この前会いませんでしたっけ?というより貴方みたいなやつに名乗るなんてことしたくありません」

「お、お前舐めてんのか!」

「!お嬢様、紗夜さんも……やはりここにいたんですね。あ、今紐切りますね」

 

 怪物のことを無視してこちらにやってきた名護さんは先程しまったものを取り出し、即座にロープを切り落とした。でも疑問がある………。

 

「名護さん、二つ質問いいですか?」

「どうぞ」

「なんで日本刀(そんなもの)持ってるんですか!?」

「あ〜それは後でで良いですか?ちゃんと話しますんで」

「え、ええ、分かりました。もう一つ、なんでここがわかったんですか?」

「それに関しては簡単に説明しましょう。誘拐などは大抵近くの廃墟などに連れてくるんです。何故なら遠くに行かなくて済むから、そして意外と見つけられないから…って○せんせーが言ってました。詳しくは暗◯教室読んでください」

「そ、それだけですか?」

「いえ、実はもう一つ、怪物(こいつら)の独特な感じがこの建物から出てたので、一か八かで。そしたら見事に」

 

 名護さんは変わらずに笑顔で刃物を怪物に向けながら淡々と言った。その後名護さんは私たちを背にして言い放つ。

 

「さてさて、遊びはここまでにしてと………お嬢様、紗夜さんここからお逃げください」

「新一?あなたが連れて行ってくれるんじゃないのかしら?」

「そうしたいのは山々なんですが、此度、こいつはお嬢様たちに手を出そうとしました。僕はそれが許せません。なので僕はこいつに深い傷を、誅を下したいと思います………なんてカッコいい言えたらよかったんですけどね」

「新一?」

「残念ながらそんな力がないので僕はここでこいつを足止めします」

「名護さん本気で言ってるんですか、あんな怪物どうやって止めるんですか!?」

「多少鬼ごっこするだけですよ。あ、外に出てみると分かりますけど、意外と知ってる場所なんで、circleに真っ直ぐ走ってください。リサたちが待ってます」

 

 どう考えても私には名護さんが正気だとは思えない、どうやったらこの人は止められるのか。

 

「わかったわ」

「湊さん!?」

「行くわよ、紗夜。あの人はいつもあれだから大丈夫よ」

「ですがっ、湊さん!」

 

 仕方がないので私は名護さんの言葉に甘えることにした。湊さんが言ってるいつも(・・・)とは一体どういう意味なんでしょう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さぁてと…お嬢様達も避難して僕のターンになったわけだけども、さっきまで言ってた通り結構キレてます。

 

「お前!よくも邪魔してくれたな!」

「は?お前如きがよくそんなこと言えるよね、誘拐までやっておいて」

「お前…どっかで見たことあるかと思ったらあの白騎士か!」

「そうだけど?やっと気づいた?というかそんな名前つけられたんだ」

 

 そろそろこいつを始末しようと刀を捨て、ナックルを取り出し、掌に当てる。

 

『レ・ディ・ー』

「は、前みたいにやられたいのか?」

「ちょっと前の僕だと思ったらちょっと間違ってるからね?…変身」

『フィ・ス・ト・オ・ン』

「その命、神に返しなさい!」

 

 その言葉を吐き捨て、僕は戦闘に入った。まずはこの狭い場所から広い場所に出るため、相手を外まで吹っ飛ばす。そのために放った拳は相手の懐に入り、建物を貫通して飛ばすことができた。飛ばした先にあったのは森林公園だった。

 

[ここからは《イクサ変身》を聴きながら読むことをおすすめします]

 

「っ…痛いなぁ、だけど送る場所を間違えたね」

「そうだね、どうせあれだよね?早くなるんでしょ?」

「その通りだよ!」

 

 そう言ってファンガイアは早い動きを取って森林の中に隠れた。まぁ、ここまでは計算通りだ(・・・・・)。やっと旦那様から貰った強化パーツを使うことになる。そう…合図はただ一つ。

 

「イクサ………バーストモード!」

 

 合図を出すと同時にイクサのマスクのパーツである十字架が開き、赤い目が見えるようになる。偶然にも殴りかかろうとしていたファンガイアが、開いた時に出た衝撃波に薙ぎ払われた。

 

「お前っ、なんだその姿は!?」

「二度も言わせないでよ…お前みたいなやつに名乗りたくない」

 

 その後、バーストモードになったことで現れたイクサカリバーをガンモードに変形させ、ファンガイアを狙い撃つ。速い動きなどさせない。その場を動かせもしない。近づきながらも撃っていく。銃を手にすればその手を撃つ。反撃などさせる隙も与えない。

 

「なんなんだよ、お前!?前と全然違うじゃないか!」

「知るか、強いて言うならそうだね…お前の呼んでいた、白騎士だよ」

 

 そう宣言し、ベルトにフェッスルを差し込む。

 

『イ・ク・サ・カ・リ・バ・ー・ラ・イ・ズ・アッ・プ』

 

 電子コール音と共にイクサカリバーを剣モードに変形させ、『イクサジャッジメント』を繰り出しファンガイアを斬り裂いた。結果ファンガイアは固まり、砕け散った。さて、片付けたことだしバイク呼んでcircleに向かいますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(友希那たち大丈夫かな…あれ?友希那?)

「遅くなってごめんなさい、戻ったわ」

「友希那さん!」

「友希那、紗夜!無事だったの!?」

「ええ、名護さんのおかげで」

「良かったー…って新一は?」

「それが、名護さんは………」

「!もしかして、またやってるの!?」

 

 さてさて、circleに戻ってきたものの……え?何これ?お嬢様達が話し合いをしてる…?

 

「え!?リサ姉どういうこと!?」

「新一は怪物とあった時いつもアタシたちを逃すために、的になってくれてるんだよ」

「え、じゃあ早く助けに行かなきゃ!」

 

 ヤバイ…なんだろうこの空気、ただいまなんて言える空気じゃない。静かにコーヒーでも飲んで見守ろうかな。

 

「ダメよ」

「「友希那(さん)!?」」

「それじゃあ彼が仕事を成すことができないわ。何をしてるのかは知らないけれど、時間稼ぎをしてくれているのでしょう?」

「それはそうだけど………」

「それに、私たちにはやるべきことがあるわ。そちらをやりましょう」

「しかし、湊さん」

「…それに新一ならもう来てるじゃない」

「「「「………え(はい)?」」」」

 

 あ、ばれた。

 

「やあ、ただいま」

「名護さん、なんでこんなところに!?」

「いやーあいつ、どっか行っちゃって探しても出てこないから戻って来ました⭐︎」

「え…てかなんで優雅にコーヒー飲んでんの?」

「いや、帰ってきたらなんか真剣に話し合ってて、そんで出てくるタイミング失って………」

「な、なるほど…」

 

 まあ、お嬢様は気付いていたみたいだけどね。流石は我が主と言ったところだ。

 

「そんなことより、早く準備をしましょう」

 

 ま、いつも通りの行動をとってるんだけどね、お嬢様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ。りんりんいた一っ!もーっ、ピアノ弾けたなんて驚きだよっ。何年もつきあってるのに、全然知らなかったぁ」

「あこちゃん……ごめんなさい……伝える機会が……」

「あっ、ちがうの。悲しいとかじゃなくて、びっくりしただけだよ?それにほら……」

「この子が憐子ちゃん?へ一っ、あこの友達っていうから、なんてゆーか……似たよーなタイプの子想像してたけど……」

「りんりんはすっごいんだよっ。ネトゲでは無敵なんだからっ!」

「ゲ、ゲームの……話は……あこちゃん……あんまり……!」

 

 白金さんと思わしき人のとこに全員が向かっていく。話している様子を見ていると、白金さんはどうやら会話が得意ではないらしい。だが、白金さんを初めて見た気がしない。どっかで会ったことが…ああ、第三話の時か。とまぁ、少しばかり遠くから見ているとお嬢様が話し始めた。

 

「それより音楽の話が聞きたいわ。燐子さんといったかしら?課題曲はあなたのレベルに合ってた?」

「友希那……さん……!あ……わ、わた……し……動画……と……その……たくさん……一緒に……」

「動画? 演奏レベルを確認したいのだけれど、それは難しかったという意味?」

「白金さん。同じクラスだけど、こうして話すのは初めてね。ピアノ、有名なコンクールでの受賞歴もあるそうですね。いつも学校では静かなので、こういった場に来るとは思いませんでした」

「……コンクールは……小さな……ころの、話で……わたし……ただ……」

(……ただ、 この人たちと……演奏したい。その気持ちだけで……わたし……来てしまったけど……)

 

 大丈夫だろうか、見るからに人見知りのように怯えている。でもこれからステージに立つのかもしれないのだ、これくらい慣れておいてもらわないと。

 

「宇田川さん。本当に大丈夫なんでしようね?」

「りんりんはあこの戦友で、大大大親友ですっ。だから、あこはぜったい大丈夫って信じてますっ……っ!」

「……あこちゃん……」

「でも、この子が演奏してるの、見たことがないんでしょう?」

「なくても、信じてますっ!!」

「……オーディションはあなたの時と同じで、1曲だけよ。それでダメなら帰ってもらう」

「はいっ! がんばりますっ!」

「あはは、あこ、頑張るのはあんたじゃないでしょ~」

「はい……わたし……が……がん……ばり……ます……」

 

 こうしてオーディションの準備に取り掛かった。今まで気づいてなかったのか、準備の時に僕のことを認識したらしく僕の方に会釈だけしてきた。結構分かると思ったんだけどなぁ。そして準備が終わり、オーディションが始まる。

 

「…はあ。期待に応えてくれることを、祈っているわ。いきますよ。白金さん、いいですか?」

「は……はい……」

(……! すごい……動画と合わせるより、ぜんぜん……)

(こ…この子……!何なの? 私、このキーボードに引き寄せられて……──いいえ。違うわ。この感覚……!)

(このじ……同じだ…!初めて四人でやったときと…!……それに……)

「──-♪」

(友希那……昔みたいに……)

(やっぱ……りんりんは無敵だねっ!)

(この音…聞いてるだけで楽しい!それになんだろう……この音聞いたことがある…何故だ?)

(……たのしい……!!ひとりより……ぜんぜん……たのしい……!もっと……弾きたい……わたし……弾きたい!!)

「なんか……すごかった。四人より……」

「「「「……」」」」

 

 全員が何も言うことができない。今弾いた感覚がいつもと違いすぎて驚きすぎている。聞いてるだけだった自分でさえ、何も言えない。

 

「私は問題ないと思いました。……ただ……因みに湊さんの意見は?」

「……なぜ?こんなこと、何度も……おかしいわ……」

「えっ。そ、それって……こ、こんなによかったのにダメってこと?な、なんでですかっ?」

「あ……。いえ。演奏は問題ないわ。技術も表現力も合格よ。ぜひ加入して」

「……あ……」

「や……やったあ──ー! ! ! !やっぱりりんりんはすごい! 最強だよ!!!!この短い期間でノーミスだったもんねっ!」

「あ……りがとう……でも……家で……動画と一、緒に……何度も……弾いてたから……」

「あ! あこがあげた練習動画のこと?あれで練習してたんだ!」

「…なるほど……妙に一体感があったとは思いましたか……」

「いいわ。あこ、燐子さん、リサ。あなた達も含めて、一度この五人でライブに出る」

「ラ、ライブ……!? うそ……」

「やったねー☆じゃあ……燐子ちゃん、いや、燐子。これからよろしく♪」

 

 やっとキーボードが見つかって一安心…と行きたかったところなのだが、何故か白金さんの顔色が悪い。何故だ?もしかして…

 

「……って憐子、どうしたの、慌てて。なんか顔色悪いよ!? あこ、ちゃんと説明した?」

「したよ~っ。バンドしまって!スタジオであこ達と一緒に、キーボード弾きに来てって!」

 

 ですよね。流石に来て早々言われても困るはずだ。それにあこちゃんの説明ではうまく伝わらないのも当然だ。

 

「あー、あこちゃん?」

「う~ん……あこ。その説明、ちよ~っと、足りないかも……?」

「わた……し、そこまで……考えて……」

「なら、もう帰って」

「!!」

「どんなに力があっても、やる気のない人間に、割く時間はない。他のキーボードを探すだけよ」

 

 やはりこうなってしまったか。確かに、やる気のない人はいても邪魔だと思うだけどものね。だけど…

 

「ゆ、友希那さ……」

「……っ……わ、わた……し……っ……っ!……きたい!」

「 !?り、りんりんの大きな声、初めて……」

「わ、わたし……みなさんと……弾きたいです……っが、がんばります……お、おねがい……しますっ!!」

「……そう。燐子。その気持ち、ライブで見せてもらうわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




オーディションが終わったので全員に飲み物を配りに行く。紗夜さんには結局追求されたが、あれは家にあった模造品だと誤魔化しておいた(事実はのちに説明する予定)。まぁ、多少怒られてしまったけど。最後に白金さんのところに持っていく。

「お疲れ様です、良ければどうぞ」
「あ…ありがとう……ございます………。そういえば…」
「はい?」
「どこかで……お会いしたことって………」
「あー第三話辺りですね。駄目ですよ、夜に女の子一人で出歩いては」
「え、あ、はい……ありがとう…ございます………えっと…」
「あー自己紹介まだでしたよね。名護新一って言います、お嬢様…湊友希那様の執事をやっております」

そう言って一礼すると、白金さんは渡した飲み物を落とした。

「あ、あの、どうかしましたか?」
「…もし……かして………」
「…?」
「…もしかして………新…君……?」
「………え?」


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第十話 再会(前編)

どうも、先月の3回投稿で疲れてます_:(´ཀ`」 ∠):まぁ、楽しいからいいんだけどね☆
さて、前回のラブラ(((殴、あらすじは!
・お嬢様と紗夜さんが誘拐されたので救出に出た(ファンガイアも倒した)
・白金燐子のオーディション(無事合格)
とまぁ、こんな感じだけど………突然燐子にあだ名で呼ばれた新一!一体どういうことなのか!


「…もしかして………新…君……?」

「………え?」

 

 何故その呼び方を知っている?知っている人は…待てよ、白金燐子って………

疑問を抱き、僕は記憶の全てを探った。幼い頃からここ最近まで思い出せる限りの記憶全てを探った。すると一つの面影があった。幼い頃、一緒にいた黒髪の少女の姿。目の前にいる彼女はその少女と似ている。ということは、まさか………

 

「…!あっ、……あ…あの、………人違い……かも………しれ」

「待って……もしかして…本当にりんりん?」

「!…う…うん………」

「小さい頃、家の隣に…」

「……住んでた」

「ピアノを…」

「習ってた………」

 

 ふむ………僕の記憶と同じだ…。ならば質問の内容を変えてみよう。同じ人であるならば答えられるはず。

 

「私の習ってたものは?」

「えっと……ヴァイオ…リン……?」

「私の好きな料理は?」

「…肉…じゃが……?」

 

 !自分の好きなものを知ってるのは家族と幼馴染だけ…つまり………。

 

「つまり、そういうことなんだね?」

「………え?」

「君は……やっぱり、りんりんなんだね。昔と…全然変わらない」

 

 そう言って微笑むとりんりんは驚いた表情をとった。

 

「ほ、ほん…とうに……新君……なの?」

「うん、名護新一。君の幼馴染みだよ」

「あ、あの…」

「うーん?何かあったのー?」

 

 りんりんが何かを言いたそうにしてたが、リサがやってきたことによりそれは閉ざされてしまった。りんりんは何を言いたかったのだろう?でもまあ、近頃聞けるような気がするので何も言わずに黙っておくことにしよう。

 

「いや、特には」

「ホントかな〜?燐子の様子から見てそうとは思えないんだけどな〜」

 

 リサがそう言ってりんりんの方を見るのでそちらを見てみる。するとりんりんが少しばかり微笑んでいた。その後すぐにリサがこちらを見てきたため、誤魔化せそうにも出来なさそうなので真実を話した。今日この日、偶然にも再開できたことを。

 

「ウソ〜、アンタたち幼馴染みだったの!?」

「…は、はい………」

「まぁね、そういうこと」

「えー!じゃあ小さい頃の新一のこと知ってるんだ?」

「え?…あ、はい……」

「じゃあ、少しだけ聞いちゃおっかな〜?」

 

 そう言いながらリサがこちらを見てくる。すごくニマニマしているが、まあ良いだろう。だがしかし、今は叶えることが出来なかった。

 

「別に良いけど、リサ、りんりん。」

「「…あ」」

「そこの三人、何してるんですか?練習再会しますよ」

 

 二人は同意して練習に戻った。自分も特にすることがないので大人しく練習の音を聞くことにする。しかし、ここでの再開は予想していなかった。そもそも何故名前を聞いたときに思い出せなかったのだろう。…仕方のないことか。あの事故が起きてからここまで色んなことがあった。思い出す暇もなかった忙しい日々だったのだから。そんなことを考えているうちに練習の時間は過ぎていった。

 

「…今日の練習はここまで。各自出来なかったところなどを確認しておくこと」

「ふぅー疲れた〜」

「ねーでも、燐子が入ったお陰でもっと良くなってない?」

「確かにそうですね。これからもよろしくお願いします、白金さん」

「は……はい……!」

 

 練習が終わりみんなが疲れていた。かと言って自分はここでは何もしていなかったが、午前中のこともあって精神的に疲れていた。だがここで休んでいる暇もなく、スタジオの片付けに入った。予約の時間もあるため、借りたものは迅速に片付けた。その後全員の予定を確認し、次のスタジオの予約を入れた。ここでのやることを全て終わらせ、バイクを取りに行こうとした時りんりんに服の袖を掴まれた。

 

「…あ……あの………」

「ん?どうしたのりんりん?」

「そ…その………しばらく…会ってなかった……から………」

「あーなるほどね。話すこともあるし、いいよ」

 

 OKのサインを出すなりりんりんがスマホを取り出してくる。そのまま待機してくるので何をしたいのかを考えてみる。スマホを持って、こちらを見てくる…でも視線が合うと目を逸らしてくる。正直に言うと何をしたいのか分からない。悪意はないのだが、さっぱりわからない。考えてもわからないので聞いてみることにする。

 

「………」

「えーっと……」

「…!れ…連絡……先………」

 

 あーそういうことか!全く持って頭の中になかった。申し訳ないと謝りながらりんりんと連絡先を交換する。しかし何故こういうときに頭が働かないのだろう。自分で言うのもなんだがこういうことは本当に困ったものだ。その後少しばかり話、明日の練習後になった。どうせならもう少し話していたかったのだが、お嬢様を連れて行かなけれなならないのでcircleの前で解散した。話していたせいで忘れていたが、バイクを取りに行かなければならなかったので急いで取りに行った。正直ここら辺はバイクを置くところが少し離れたところにあるので取りに行くのがめんどくさい。まぁ、そんなことも言ってられないのだが。その後、家に帰るなり家事を急いで終わらせ、お嬢様に明日の予定を説明した。少しばかり嫌そうな顔をしていたが、なんとか許しを得た。お詫びとして、明日の夕食は何がいいか聴くと「苦くなければいい」という返答が返ってきたので、それを踏まえてメニューを考える。あとの時間を残ったものを終わらせることにし、日が変わらないうちに寝た。

 そして翌日、休日なので朝からcircleに向かい練習を始めた。みんなちゃんと、お昼になれば昼食をとり、休憩の時はしっかり休んでいた。僕はただ見ていて、たまにアドバイスするだけで特にすることはなかった。アドバイスの時に紗夜さんから「本当は出来るのでは?」という目線を送られたが、気づかないフリをして誤魔化した。正直に言えば、一点集中すれば出来るものもある。弦楽器であればほぼ出来るのだが、自分には成すべき仕事があるのでそちらを優先させた。いつ奴らが現れるか分からない。もしライブ中に出たらせっかくのライブを壊してしまう。だからやれない。………いつかこのことを話す時が来るのだろうか。来たら来たで腹を括るしかないけど………。そんなことを考えているとあっという間に時間は経ってしまう。メンバー全員が片付けを始めていた。慌てて手伝いに行く。片付けが終わると本日のメインイベントの手前の段階に入る。circleの前のカフェにてミーティングを行う。各々が反省点などを話し、課題を見つける時だ。まぁ結局見てるしか出来ないんだけどね。そしてミーティングが終わり、お嬢様も元へ行く。

 

「お嬢様、お疲れ様でした。僕はこれから用事がありますので、リサと共に…」

「分かっているわ……気をつけなさい」

「その御言葉に感謝を。あ、夕食は冷蔵庫の中に入っておりますのでレンジでチンして下さいね」

「わかったわ」

「あれ?新一、今日は一緒に帰らないの?」

「うん、少し用事があるからね、お嬢様を頼んだよ」

「オッケー、じゃあね〜」

 

 お嬢様達と別れ、りんりんのもとへ向かう。すると、りんりんはあこちゃんと話していた。

 

「ねぇ、りんりん!今日空いてる?」

「あっ…ごめんね………あこちゃん………今日用事が………」

「そっかー残念。じゃあまた今度やろ!」

「…うん………!」

「じゃあねー!」

「お待たせ、りんりん」

「…ううん………大丈夫………」

「じゃあ行こっか……って言ってもどこに行くか知らないんだけどね」

「大……丈夫………任せて………」

 

 そう言ったりんりんについて行くことにした。しかし歩いているとわかる。ここら辺は懐かしい。昔住んでいた時とあまり変わっていない。今更ながら戻ってきたような感覚がある。道を歩いていくと懐かしいものが見える。昔よく通っていた道、昔よく行っていたスーパー。様々なものがある。やはり変わっていないことを感じていると、目の間にいたりんりんが止まった。こちらに振り返るなりあることを言った。

 

「今日…連れてきたかったとこ………ここだよ」

「ここって………」

 

 りんりんが指差す建物は、昔住んでいた隣の家………りんりんの家だった。




次回予告の台詞が思いつかなかったので、ここで終わらせます。
次回 再会(後編)
(決して思いつかなかったわけではありません)


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第十話 再会(後編)

こんにちは!
今回で5月最後の投稿になると思います。そして前回誤字があって申し訳ございませんでしたm(_ _)m
誤字の報告は報告欄があるはずなのでそこにお願いします!また、感想なども頂けると嬉しいです。感想がモチベを上げてくれますので、出来る方はお願いします!それでは最新話どうぞ!


練習が終わり、私は家に帰ってきていた。今日、新一は用事でいないらしい。話によると冷蔵庫に夕食が入っているということだ。久しぶりに一人で食べる夕食。

…もしお母さんが生きていれば、お母さんが夕食を作っていたのかしら。そして彼ももしかしたらいなかった………。けどお母さんが病気で亡くなって、数年後に彼がやってきた。お父さんは一体何を心配しているのだろう。お父さんは何故、彼を呼んだのかしら。………でもどちらにしろ、今はどうでもいいことだわ。早く夕食を食べて、休みましょう。

そうして私は冷蔵庫に向かって行く。だけど冷蔵庫に貼られているメモ用紙に目を留める。そこには今晩の夕食のメニューが書かれていた。…ちゃんと食べなきゃあの人に怒られるだろうか?そんなことを思いながらメモを見てみる。そこにはカルボナーラ、サラダ、その他の物が書かれており、最後にデザートが書かれていた。

…あの人はどうして、私のことを気にかけるのだろう………。

 

 

 

 

 

「今日…連れてきたかったとこ………ここだよ」

「ここって………」

 

りんりんが指差す建物は、昔住んでいた隣の家………りんりんの家だった。

 

「わ…私の……家……」

「だよ…ね……?なん…で?」

「き、昨日…お母さんたちに………話したの………」

「え?何を?」

「………新君が………帰ってきたこと……」

「ああ、なるほど」

「そしたら………うちに呼びなさいって………」

 

あーだから、りんりんの家の前なのね今。合点がいったわ。てっきり外食なのかと思ってたけど………。まあそっちの方向だとしたら、思いっきり家があるとこになんか来るはずもないか。しかし………隣の家は全く人が住んでない様子だった。前は住んでた家………売り払っていなかったのだろうか。疑問を抱いていると、りんりんが声を掛けてきた。

 

「前のお家………あれから誰も………住んでないの………」

「………やっぱり?」

「うん………そ、そんなこと…より………家………入ろ‥?」

「あ、うん…」

 

そう言われて家に上がるものの、今になってあるものがやってきた。そう今更になって…羞恥心がやってきた。凄い今更ながら年頃の女子の家に自然と入っている自分が恐ろしい。普通の男子高校生が女子の家に自然と入るか?いや入らない!そんなの陽キャでもない限り入ることは不可能に等しい。今心の中では大騒動だが外からすればなにも感じてない『ポーカーフェイス』が出来てるのもほんとに怖い。りんりんが自室に連れ、着くまで心の中が凄い大混乱だったが、自室まで着いて決意がした。よし、もう何も考えないようにしよう。というかこんなことで荒ぶってても何もならない。そもそもお嬢様と一緒に暮らしてる時点で………もう考えるのやめよ。

 

「…どうかしたの?…新君」

「ううん、何でもないよ」

「…お母さん……ご飯まだだから………部屋で待って貰いなさいって………」

「ああ、ごめんね。気にしないでくださいって伝えてもらえる?」

「う、うん………」

 

返事をするとりんりんは部屋を出てキッチンに向かった。さて、無心になろ。色即是空空即是色。色即是空空即是色。色s

 

「もう少しで…出来るって………」

「ありがとう。さて、何から話そうか」

「そ、そのこと……なんだけど………」

「?」

「お母さん達も………聞きたいって………」

「構わないよ」

 

そうだよね、色々と世話になってたんだし。気になることもあるよね……最悪知ってるかもしれないけど………。そうしているうちに玄関の方から鍵が開く音が聞こえてきた。すると「ただいま」と言う声が聞こえてくる。声質からしてりんりんのお父様だろうか。でも行ったところで人様の家だ。何もすることがない。仕方ないのでそこでご飯を待つことにした。りんりんは椅子に座ってこっちを見ている。何か付いているのだろうか?疑問をかけると目を逸らしてくる。相変わらずそういうところは変わってない。逆に安心する。そうしているとご飯ができたのか、りんりんがお母様に呼ばれた。それと同時に自分の名前も呼ばれる。りんりんの案内を基にダイニングに向かう。そこにいたのはりんりんのお母様とお父様だった。

 

「久しぶり、新一君!」

「お久しぶりです、お母様」

「あら、良い男になっちゃって。お母様だなんて、昔みたいにおばさんで良いわよ」

「いえ、そういうわけにもいきませんので」

「最近どうしてるの?妹ちゃんは?」

「妹は……」

「…久しぶりだな、新一」

「お久しぶりです、お父様」

「…いつ帰ってきたんだ?」

「えっと…数年前からですかね」

「そうか、ずっと前から………」

「申し訳ございません、こちらにくる時間が無くて」

「いや、良いんだ。気にしないでくれ。さあ、食事をしよう」

 

全員が食卓について、食事を始めた。りんりんのお母様の料理は食べてて普通に美味しい。あとから調味料を足さなくても良いくらいだ。こうやって他人の作った料理を食べていると、どうしたらこんな風に出来るのかをつい考え込んでしまう。外で外食することも少なく、かといって味の感想を具体的に伝えてくれる人もいない。お嬢様は美味しいとは言うが味付けに関しては何も言ってこない。正直料理をしている立場の人間からすると、少しばかり困ったものだ。そうして「美味しいです」などと言葉を交わしながら食事をしていると、お父様が声をかけてきた。

 

「…新一君、向こうでの暮らしは楽しかったかい?」

「はい、楽しかったです」

「………本当に?(・・・)

 

…どういうことだろうか。自分は「楽しかった」と答えたはずなのに何故「本当に?」という質問が返って来るのだろうか。…本当は自分のことを知っているのだろうか?りんりんのお父様だが、少しばかり警戒することにした。

 

「はは、どういう意味でしょうか?」

「何、簡単なことだよ。本当に(・・・)楽しかったかと聞いてるだけだからね」

「どうしたのあなた、新一君は楽しかったって言ってたじゃない」

「そ、そうだよお父さん………」

「いや、すまない。こんなことを聞いてしまって」

「別に構いませんよ。だってそう感じる点が私から感じられたんですよね?」

「ああ」

「よければお聞かせ願いませんか?」

 

一度謝罪の言葉をかけてきたがお父様の姿勢は変わらなかった。その姿勢はまるで推理をする探偵のようだ。そう表現してしまうとこちらが犯人のようにもなってしまうのだが。この状況、自分でも困り物だが少しばかり楽しんでいる。

 

「構わないよ。理由としては二つある。一つは単純に…君の目が笑っていなかった。楽しかったなら笑っているはずだ」

「なるほど、二つ目は?」

「!……否定…しないの?」

「うん、否定しても自分の目は鏡でも見ながら喋ってないと自分では証明出来ないからね。そして今更ですが、お父様の職業ってなんでしたっけ?」

 

自分でも今更だなとは思うが、ここまで観察能力があると気になってしまう。普通の人間はここまで観る人はそんなにいない。すると質問に対してお母様の方から返答が来た。

 

「刑事さんよ、凄腕の!」

「まぁ、取り調べばっかりやっているんだけどね。そんなことは別に良い。さて、二つ目だ。君の今日ここに来ての言動だよ」

「……言動?」

「そうだ。人間ってのはね、歳をとってもそんなに変化はないものさ。言葉遣いが少しだけ変わったりするだけ………だけど君はどうだい?昔に比べて随分と丁寧になったじゃないか」

「………それは昔は雑だったと…?」

「いや、昔も丁寧だったよ」

「ではあまり…」

「いや、現に変わってるじゃないか。私たちのことを様付けで呼んだりしてる。変わりようが少なければ、そのような呼び方にはならないはずなんだ。あくまで推測だけどね。まるで今の君は、なにかに忠実な執事の様だ」

「………」

 

そこまで見抜かれるとは流石に思ってもいなかった。そして気になることがあったのでりんりんにこっそり聞いてみる。今の自分の立場のことも話したのかと。すると首を横に振って答えてきた。どうやらお父様は自力でそこまでたどり着いたらしい。もう探偵目指して良いのではないのだろうか。とまぁ、ふざけた事を言ってみたい気はするが、今の自分は探偵にチェックをかけられた状態だ。ならばそれは犯人らしく答えなければなければなるまい。

 

「お見事です、流石は刑事さんですね」

「………認めるのかい?」

「ええ、ただ楽しかったのは事実ですから。少しだけは………」

「…新君………?」

「少し聞いても良いかい?」

「………はい」

「君の家族は?」

「家族は………みんな亡くなりました」

 

自分のたった一言でその場の空気が重くなった。無理もない自分以外全員が死んだのだ。自分の立場だったらと考えてしまうだろう。…決めた。バレたのだったら仕方ない。迷惑を掛けない範囲で範囲で全て話そう。今まであったこと。事実を伏せることもあり得るが。

 

「…すまない……」

「いいえ………全部話しましょう、今まであったこと全部」

「………良いのかい?もしかしたら自分を傷つける頃になるかもしれないぞ?」

「そうよ、無理をしなくても…」

「いいえ、もう事実だって受け入れているので。傷つくことはありません、ただ、少しだけ時間を下さい」

 

そう言って深呼吸を行う。これは自分のためでもあるが、他の人を落ち着かせるためだ。色んなこと…正直常人とは思えないことの方が多いだろう。ただ、話すと決めたのだ。腹を括ろう。

 

「…もう良いのかい?」

「はい、ただこれだけは約束して下さい。絶対にちょっとやそっとで驚かないでくださいね」

「…ああ、わかった」

「わかったわ!」

「…うん………」

「あの時引っ越したのは、僕の本当の家の事情です。どうやら僕の家は本当は大きな財閥だったみたいで、僕はそこの継承者…後継だったらしく、家に迎えが来ました」

「それでここから離れたわけか」

「はい、家族みんなで行きました。父は何やら色んな準備に入って、母はいつも通りのことをなさってました。妹はいつも以上に便利な暮らしをさせてもらってました。ですが僕は義務教育と並行して色んなことをさせられてました。当主であるお祖父様のお仕事について勉強したり、必要なのか疑われる武術の訓練、音楽の技術だったり様々なことを詰め込まれました」

「…それって………苦しかったんじゃ………」

「うん、辛かった。自分ではあまり自覚がないのですが、どうやら自分が手をつけたもので出来るものは普通より上の段階まで出来るらしく、周りからは神童とかって言われてて………最初の方は楽しかったんですが、後から耐えきれなくなって全て投げ出しました。けど、家族が助けてくれました。月に一回、家族水入らずで出かける日があって、その日に色々と助けてもらって。本当に嬉しかった。楽しかった。でも、それも少ない………貴重な時間でした。本当に全部を失ったのはずっと後、今から3年前………あの事故です」

「あの事故‥?」

「皆さん、TVとかで見たことがあると思います。ニュースにもなってたので………」

「!もしかしてあの事故なのかい!?あのテロの様な爆発事故…」

「…!それ…私も見たこと………ある…」

「はい………あの事故であのバスに乗っていた人はほぼ全員が死にました。…僕はそれの生き残りです」

「それは………」

「大丈夫です、もう過去ですから。あの爆発事故でみんなが僕を庇ってくれました。お陰で全てを失いました。もう生きる気力もなく、たった1人の妹さえ守れない自分は生きてて良いのか考えました。事故を防ぎきれなかったのか、どんどん意識が遠くなって眠りそうでした。その時ある人に助けられたんです。病院に連れてかれて、入院して、その人に言われました。『うちに来ないか』って。『家族にならなくて良い。もし力が欲しいのなら来たまえ』と言われ、その人について行くことにしました。そのあと、家に帰って全てを捨てました。僕の持っていた権利を。でも優しい人達がいて、家とある程度のお金だけは残してくれました。それも…その時はどうでも良いと思いました。もう自分はここの人間じゃないからって」

「………その後君はその人物についたと」

「はい、ですので今は執事です」

「………色々と申し訳ない」

「大丈夫…です、過去ですから」

 

楽しいはずの食事が自分のせいで台無しになってしまった。…せっかく誘ってくれたのに申し訳ないことをしてしまった。今度埋め合わせしなければならないだろう。その後はお母様のおかげでなんとか元気を取り戻し、数時間して僕は帰ることにした。その時の夜道はまるで何もかも失った時に一人歩いていた暗闇と同じようだった。憂鬱な気分になっている中、一体のファンガイアが現れた。せめて空気くらいは読んで欲しいものだ。正直今は戦う気分じゃない。けれども目の前にいるやつからは嫌な感じしかない。仕方ないので変身する。相手はヒトデの様なのをくっつけた感じのファンガイアだ。真正面から突っ込んでくる。最初からバーストモードにしていたため、片手にはイクサカリバーがある。もう何もかもが面倒臭い。だから僕は突っ込んでくるファンガイアに対して歩いて向かっていく。そして近づいた瞬間に斜めに斬った(・・・)。その結果ファンガイアは砕け散ってしまった。

 

「………その程度か」

 

気付いたら僕はそのような言葉を口にしていた。怒りに任せて斬り伏せたせいだろうか。…どうでもいいや。何かを忘れている気がするけどもどうでもいい。人の気分を悪くさせてしまった自分を責めながらその道をまっすぐ帰った。




新君が家を出て行った後、私は部屋に戻った。まさか…新君にあんな辛いことがあったなんて………知りもしなかった。今日は何をやっても集中できそうにないので机の物を片付けて寝ることにしよう。そうして片付けている時、一つのスマートフォンを見つけた。私のじゃない………新君の物だろうか?だとしたら急いで届けにいかなくちゃ。そう思い、急いで靴を履いて連れてきた道を通っていく。走っていると視界に、砕け散る怪物と白い鎧のような姿のシルエットが入ってくる。急いで物陰に隠れる。怪物の方は前にも似たようなのを見たことがあった。でも白い方は見たことがない。物陰からこっそりみていると、白いシルエットは角を曲がっていった。誰なのか気になってその跡をこっそり追っていく。角からこっそりみるとそこにはシルエットも姿は無く、新君の後ろ姿が映っていた。一体…どういうことなんだろう………?


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第十一話 青い薔薇

大変長い間お待たせしました。凄い……色んなことがあって出すのが遅れてしまいました…申し訳ございません。そしてもう一つ、今月はもう出ないかもしれません。ですが書いてはいるのでどうかお許しください(>_<)
それでは最新話をどうぞ!


りんりんが入ったあの日以降時間の経過が早く感じられる。そのおかげでイベント開催日まであと少しになった。本番も近いことからみんなピリピリした雰囲気になっている。だが本番に近づくに連れて、一回やるごとに完成に確実に近づいている。そしてその休み時間、りんりんに呼び出された。やはりあのことを気にしているのだろうか。もしそうであれば本当に申し訳ない。

 

「あ、あのね………新君………」

「あの、もしあの事だったら本当に…気にしなくて良いからね?」

「…う、うん………えっと………」

「?違うの?」

「うん………実はあの日、忘れ物……したでしょ?」

「え?ああ、そういえばスマホ忘れたね。翌日はありがとね」

「うん………」

 

あの日、帰った後にスマホを忘れたことに気づいた。取りに行こうと思ったが時間も遅かったので翌日に取りに行くことにした。だが、練習の時にりんりんが持ってきてくれて助かった。でもその話以外ならなんだろう?

 

「でも、それじゃないなら……どの話?」

「その………実は、あの日届けようとして………」

「そうなの…?ありがとね、でも女の子が夜歩いちゃダメだよ」

「う、うん………って、そうじゃなくて!」

「あ、うん」

「あの日…怪物…見かけたの……」

「本当!?」

「うん…だけど白っぽい人がすぐに倒しちゃって………その人追いかけたら消えてて……でもそこに新君がいて………」

 

しまった………あの時は放心状態に近い状態だったから周りを見ずに変身解除したんだっけ。本来人に見られたくはなかったのだが………。もし全部バレたのだとしたら周りの人に情報が入ってしまうかもしれない。迷惑をかけたくないから黙っていたのに、さらに迷惑をかけるような状態に入るのだけは勘弁して欲しい。交渉して黙ってて貰うしかないか…。

 

「それでね…聞きたいことがあるの……」

「…うん………」

 

その言葉を聞くのに固唾を呑んだ。次の言葉で全てが変わってしまう、そんな予感がした。それだけは絶対に阻止したい。

 

「新君って………」

「………」

「…あの白い人と……何か、関係あるの?」

 

その言葉を聞いた瞬間心に安堵が訪れた。よかった…完全に知られた訳ではないらしい。でも安心している場合ではない。何か都合の良いことを言って誤魔化さなければ。

 

「え、えーっとね………そう!実はあの人知り合いなんだ!」

「知り合い………?」

「そ、そう!怪物が出てきたときに倒してくれるんだ!だから…その……僕はたまたまそこにいただけだよ!」

「そ、そうなんだ………」

 

どうやら安心してくれたらしい。上手く誤魔化せただろうか。詮索するようなことをしないを祈るしかないか………。

 

「…良かった……もし新君が戦ってたら………どうしようかと………」

「!?ま、まさかそんなこと……そ、そんなことより時間だよ!」

「う、うん!」

 

そうして先に部屋に入ってて貰う。…あっぶねー!バレるとこだった〜………昔から感の良いところあること忘れてたなぁ…さて、流石に長い間何も言わずにいないと不審がられるのもおかしくはないので戻るとしますか。でもこの時からある考えがあった。そう、「自分の正体が気付かれるのも、時間の問題だ」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(はぁ……明日はついにライブかあ……)

 

ライブの前日、教室にいたアタシは緊張と不安に包まれていた。バンドの中で一番技術が低いのはアタシだからだ。今のところは何とかなっているけど、本番で失敗しないかが不安だ。そうやって悩んでいると、水色の髪の子が話しかけてきた。

 

「ねーリサちー。うちのお姉ちゃんとバンド組んだってほんとー?」

「えっ、お姉ちゃんって……あ、そっか。ヒナって双子なんだっけ。一一ってあれ? 紗夜の名字ってたしか……」

「そー、氷川紗夜。あたしのお姉ちゃん。あたしには何にも話してくれないからさーいろいろ教えてほしーなっ」

「?いいけど……なんで紗夜はヒナに話さないのー?」

「んーー、まあいいじゃんそれはっ。それよりバンドしてる時のお姉ちゃんってどんな感じ? 楽しそう? 嬉しそう?」

「えっ? う、うーん……いつもと、変わらないんじゃないかなあ……?」

 

そのあともヒナと話して授業を受けて、最後の練習をして前日が終わった。

そしてついに当日になった。時間ギリギリになったけどなんとかcircleに着くと燐子とあこがいた。

 

「うん。ついに当日だねっ。ほらりんりん、このボード見て元気出して!あこ達のバンド名だよっ!」

「Roselia……そっか。友希那、色々考えてたけどこれにしたんだ」

「よーしっ! Roselia初ライブ! !行くぞーー!お一一一っ!」

「……っ! おー……」

「って、えっ?りんりんだけじゃなく、リサ姉も緊張……」

「し……っ! してない、してないよ~……ダンスの大会でも一緒にステージ出てるじゃん?あはははは……」

(……はぁ。とかいって、参った……めちゃくちゃ緊張してるじゃんアタシ……)

「ほらほらいくよー!時間ぎりぎり! あの二人に怒られちゃう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽屋にてお嬢様達と共に待機していると、予定より少しだけ遅れてりんりん達がやって来た。

 

「1分35秒の遅刻よ」

「ご、ごめんごめん!お一っ! って気合い入れてたからさ☆二人とも一緒にやりたかったな~」

「馴れ合いはやめて。気持ちの整理は個人で済ませてきてもらわないと困るわ」

「……っ!う、うんっ。大丈夫だって。それくらいちゃんとできてるよ~」

(本当かな……アタシ。ベースをやらなくなったのだって、友希那と釣り合わ越いと思ったからで……)

 

お嬢様の言葉を聞いて、珍しくリサが落ち込んでいるのが見えた。いつもだったら何言われても落ち込まないはずなのに今日に限っては違った。ライブ前なのに落ち込むのはあまり良くないと思いフォローに入ることにした。

 

「でも、皆で気合いを入れると、結構変わるものだと思いますよ?」

「……そうかしら?」

「まぁ、おそらく」

 

そうやってフォローし、リサに合図を送ると「サンキュー」と言うかわりにあちらも合図を送ってきた。でも、お嬢様の反応は冷たいものだった。まぁ、そこは仕方ない事にしておこう。

 

「わ、わ……たし………もみなさんと……演奏するって……決めたから……が、がんばり……ます…」

「口ではなく、音での証明をお願いね」

(……バンドで技術が足りないのは、アタシだけ。……やるしかない。結果を出して、友希那の隣にいるんだ……!)

「Roselia/闇のドラマー! ! あこもがんばりますっ!Roseliaって響きがカッコイイ……あ、そういえばなんでバンド名、Roseliaなんですか」

「蕎薇のRoseと、椿のCamelliaからとったわ。特に、青い薔薇………そんな、イメージだから……」

「イメージ……?」

(青い薔薇……花言葉は『不可能を成し遂げる』……だっけ……)

 

全員でセットリストを確認していると時間になっている事に気づく。

 

「おっと、皆さんそろそろ時間ですよ。準備お願いします」

「えぇ、それじゃあ行くわよ」

「僕は観客席から見てますので、皆さん頑張ってくださいね」

「うん、じゃあね新一ー!」

「うん………!」

 

 

 

「ラスト、聴いてください。 『BLACK SHOUT』」

「ワァアアー----!友希那一ーーーーー! !」

「高校生でこのレベル!Roselia……この子たち話題出ますよ。今月のPV数、トップも狙えるかも!」

「今までどこのスカウトも受けなかったが……友希那は、バンドが組みたかったのか……?」

(わーいっ! ほらもっと見てっ!Roseliaって超一っカッコイイでしょっ!)

(不思議……あんなに緊張してたのに……わたし……すごく……楽しんでる……こんな自分がいるなんて……知らなかった……)

(……やっぱりこのバンドには、 何かある。ひとりの時より、ずっと上手く弾ける……!)

(今井さんのベース、また上手くなってる。宇田川さんも白金さんも……そしてこの前よりも、もっと『音』に引き寄せられる……!)

(一一行けるかもしれない。このバンドなら!)

 

 

 

ライブが終わった後、観客の話の中ではRoseliaの話で盛り上がっていた。当然のことだろう。高校生にしてあれほどの実力だったのだ。それに巷で有名なお嬢様、紗夜さんまでいるとなると話が大きくなっていくであろう。楽屋の通路で待っていると、片付けを終わらせてきたであろうお嬢様が出てきた。

 

「すっごかったね~っライブハウス出たらキャーって!初めてのライブでもうファンができちゃったっ」

「あこちゃん……あの人たち……たぶん……さっきのライブ見てた……」

「あれ位で騒がないでちょうだい。私達が目指してるのは……」

「皆さんとても素晴らしい演奏でした。練習の時よりも迫力あって凄かったですよ!」

「本番なのだから当たり前でしょう」

「…それもそうですね」

 

お嬢様はいつも通り冷静だった。一つの山を超えたのだからもう少し喜んで良いだろうに。でもこんな事で喜んでられるほど、お嬢様の目標は低くはないのだ。だから自分もあまりそういった表情は出さないようにしよう。

 

「それにしても、お腹減ったよお~~」

「「……」」

「ははっ☆ドラムは特に全身使うもんねー♪あっ、じゃあさ一初ライブの記念に、みんなでファミレス、行っちゃう?」

「バンドに必要なのは技術と、目標に対する揺るかない意思だけだわ。他のものは……」

「わかったわかった! でもさっ!今のアタシ達には、 技術と揺るがない意思を維持するための活力が必要だと思うんですけど♪」

「右に同じで。せっかくですし行きましょうよ」

「「……」」

 

お嬢様と紗夜さんを説得した僕たちはファミレスに行くことにした。それぞれが席について料理を注文した後、リサとあこちゃんが雑談を始めた。

 

「あははっ! お腹いたい!あこ、もっかい、もっかいリクエスト!」

「「……」」

「この……闇のドラムスティックから……何かが……アレして、 我がドラムを叩きし時、魔界への扉が開かれる!出でよ!『BLACKSHOUT』!」

(ファミリーレストラン……ふだん来ないけど………たのしい……)

「リサ、少し笑いすぎだよ。気持ちは分からなくは無いけどさ」

「ほらーっ。友希那も紗夜も初ライブの記念なんだからさ、二人ともなんか話して話してー?」

「湊さんが、こんなところに来るのは意外でした。私はこういった、得体の知れない添加物系のメニューは受け付けませんので」

「!……私だって普段は来ないわ。用がないもの」

 

その言葉を聞いた瞬間少しだけ悲しく思ってしまう。「用がないもの」。こちら的には来たいんだけどね……

 

「新一?どうしたの?」

「え、何が?」

「いや、なんか少し悲しそうな顔してたから」

「あー。いやね、お嬢様をたまにこういう所に連れて行こうとはするだけどさ、こういう所興味ないって拒否するから………レストランとかの味を勉強しようにもあまり機会が無いってことを今一度知らされたから……」

「あー、なるほどね。確かに友希那はこういう所興味なさそうだもんね」

「興味ないわ。それにリサ。私がしたいのは音楽の話だけよ」

「同感ね……。でも、ここはともかく、今日の演奏はよかった。今井さん、あなた、上手くなったと思う」

 

紗夜さんが相槌と共にリサのことを褒めた。今までそんな事はなかったのに急にどうしたのだろう。

 

「.........!え……。あ、ありがとう……」

「そうね。この短期間で、Roseliaのレベルは確実に上がった。あこ、燐子。あなたたちもよ。だから、本当にこの五人で本格的に活動するなら、あこ、燐子、リサ あなたたちにも、そろそろ目標を教える」

「……! 友希那……」

「…そうですね。私はそのために湊さんと組みましたから。確かにここで、意思確認をすべきだわ」

「とうとうこの時が来ましたか……」

「この……時………?」

 

お嬢様の言葉に反応した僕にりんりんが反応した。このことは自分が話すより当の本人達に話してもらったほうがいいだろう。

 

「まぁ、聞いてみたほうが早いと思うよ」

「FUTURE WORLD FES.の出場権を掴むために、次のコンテストで上位3位以内に入ること。その為にこのバンドには、極限までレベルをあげてもらう。練習メニューはあとでメールするわ。音楽以外のことをする時間はないと思って。ついてこれなくなった人には、その時点で抜けて貰う」

「ふゅーちゃー」

「わーるど……ふぇす……?」

 

疑問を立てたりんりん達にお嬢様ははっきりとものを言った。

 

「あこ、燐子、リサ。あなた達、Roseliaにすべてを賭ける覚悟はある?」

 

 

 

 

 

 

 

 




さてさて、これが終わったということは………次回あたりから後半に入(予定)ります!
なので楽しみにしていて下さい!この機会にお気に入りに登録、感想頂けるととても嬉しいです!
それでは次回をお楽しみに!


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第十二話 双子の妹

長い間お待たせしました!今月はテストにガチ勢になってたので……。申し訳ございません(>_<)。ですが、少なくとも今月にあと一話分は出す予定ですのでご安心下さい。それでは最新話どうぞ!


(フェスの話題から……今日が初めての練習。あの子達、ちゃんと課題をクリアできているかしら……)

 

 私は今日、練習前に楽器屋に来ていた。特に用事はないがギターの張り替え用のコードを見に来ていた。しばらく見ていると店員さんに声をかけられた。

 

「あっ、紗夜ちゃんいらっしゃい。この間のライブすごかったらしいね!ほら、記事載ってるよ!メンバーの皆、もう知ってる?」

「ああ……確かに、カメラを持った方が何人かいらしてましたね。……!?」

「そうそう、……って、紗夜ちゃん? どうしたの?この写真写り、そんなに悪くないと思うけど……」

「……いえ、そこの……ボスター……」

 

 レジ前に貼られていたポスターには私にとって認めたくない(・・・・・・)モノが写っていた。

 

「ああ、これね! Pastel*Palettesっていって、なんかこの前デビューしたバンド?グループ?って言えばいいのかなアイドルだかバンドだかわかんないけど、なんか結構面白いんだよね。……ん? そういえばこのギターの子、紗夜ちゃんに……」

「わ……たし……練習がありますから……これで!」

「……紗夜ちゃん?」

 

 私は事実から逃げるように楽器屋から走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「でねっ、その時もりんりんが、あこを攻撃から守ってくれて……りんりんはカッコイイんだよっ。ゲームでも!」

「ははっ☆あこの向こう見ずはリアルもゲームも変わらずなんだね~」

 

 初のライブが終わり、あれからしばらくの日が経過した。今は休み時間。リサ、あこちゃん、りんりんの三人は雑談で盛り上がっていた。一方お嬢様と僕は離れたところで休憩しており、紗夜さんはずっと俯いていた。

 

「ゲ、ゲームの話は……そ、それに……あこちゃんを……守ってくれるなら……お姉さんの方が……」

「あーっ! 巴ね、アタシ仲いいよ?燐子も知ってるんだ。確かにあれは男前だ♪」

 

 休憩の時間を少し過ぎてしまっているが、三人は気づくこと無く話している。こういう時、いつもは紗夜さんが最初に辞めさせるはずなのだが俯いたまま動こうとしない。何かあったのだろうか?声をかけようとすると僕より先にお嬢様が動いた。

 

「 紗夜、どうかしたの?」

「……えっ。私がなにか?」

「こういう時いつもなら、私より先にあなたが、音楽以外の話をやめさせると思って」

「それに俯いてばっかりですし、一体どうしたんですか?」

 

 普段と違う様子の紗夜さんの様子を気にかけていると遠くから三人の話し声が聞こえてくる。こっちの雰囲気とは真逆だった。

 

「おねーちゃんのドラムはこう、ど---んって!ばーーーーん!」

「あははっ! いっつもその説明だよね!『ど---ん! ばーん!!』」

「……わた……しは………」

 

『……ん? そういえばこのギターの子、紗夜ちゃんに……』

 

(あれは……間違いなく、日菜だった。……しかも、ギター……!なんでよりによって、私の唯一!)

 

「紗夜?コンデイションが良くないなら今日は帰……」

「い、いえ……大丈夫……!ただ少し、この休憩が終わるまで、頭を冷やさせ……」

「つい最近まで一緒にお風呂入ってたんでしよー?」

「……!そう……なの……!」

「えっ?そうだよ?みんなそうじゃないの?」

「いや~どうかな~?アタシには妹いないからなぁ…… わたしも……いないから」

「ふんっ。ふたりともおねーちゃんがいないからわかんないんだよっ。おねーちゃんってのはね、ずーっと、一番カッコイイ、妹のあこがれなのっ…っ!」

「ちょっとちょっと友希那力ッコイイはどこ行っちやったの?」

「一番カッコイイのはおねーちゃんだけど、超超超カッコイイのは友希那さ……」

「……っ。いい加減にしてよ!」

「「「「「!!」」」」」

 

 突如紗夜さんが大声を上げた。その声は練習の時とかとは全く違い、憎悪が混じり合っているかのような声だった。だが、その声には悲鳴のような物が入っているかのようにも捉えられた。全員が驚いた。普段は落ち着いていて、冷静さを欠かさない紗夜さんが急に怒りをあらわにしたのだ。それから紗夜さんの激怒の言葉は続いた。

 

「お姉ちゃんお姉ちゃんってなんなのよ!憧れられる方かどれだけ負担に感じてるか……わかってないくせに!!!!なんでも真似して!自分の意思はないの!?姉がすることかすべてなら自分なんて要らないじゃない!」

「……紗夜……それってもしかして、ヒナのこと……」

「……日菜?」

「一一っ! !……私……」

 

 リサの言葉を聞いた瞬間、制御できてなかった紗夜さんは落ち着き、少しばかり青ざめたような顔色になった。その姿を見てあこちゃんは怯えるように声を出す。

 

「あ……あこ……前にも……言われたのに……」

 

『違わない。じゃあ答えてみて。お姉さんではないあなた自身にとってのカッコイイって、何なのかしら?』

 

「紗夜さん…ご……、ごめん…なさい……」

「……紗夜………」

「あ、あの、そこら辺にして練習に戻りませんか?時間も無いですし」

(紗夜も何か、邪な理由で音楽をやっているというの……?)

「どんな事情があるか知らないけど、Roseliaに私情を持ち込まないで。それに紗夜。あなたは今日、演奏にも集中できていなかった。帰ってちょうだい」

「 !……返す言葉もないわ。お先に失礼します。迷惑をかけて、ごめんなさい」

 

 紗夜さんはその言葉だけを残して早々に片付けを済ませて出ていってしまった。その様子を見た三人はとても困惑していた。

 

「あ……どうしよう? あこ、たぶん紗夜さんの嫌なこと、言っちゃったんだよね?」

「うちの学校に、紗夜の双子の妹がいるんだよ。氷川日菜。聞いたことない?」

「あ、ずっとテストで1位って有名な人……」

「休憩時間は終わりよ。何度も言うけど、Roseliaに私情は禁止。これ以上話したいなら、あなた達にも帰ってもらう」

「「あ……はい…」」

「お嬢様」

「…何かしら?」

「申し訳ないのですが、時間ですので僕は一度抜けます」

「そう、行くのなら早く行きなさい。練習の邪魔にならないうちに」

「ありがとうございます、それでは」

(でも……こんなことを言っている私こそ一番……)

 

 気になることもあるが、事実スーパーのタイムセールまでに間に合うために時間に余裕を持って出るのにはちょうど良い時間だった。僕も荷物を持って紗夜さんを追いかけるように部屋の外に出る。circleの前において置いたイクサリオンに乗って外を移動することにした。

 

 

 

 

 

 

「うおっ、何ぶつかって来てんだよ、お嬢ちゃん」

「すみません、前を見てませんでした。それでは」

「おい待てよ」

 

 考え事をしながら歩いていた私は知らない男の人にぶつかってしまった。悪気はないが、ぶつかってしまったために謝罪の言葉を送る。しかし何故か止められてしまった。正直今は誰とも関わりたくない気分だから手早く済ませたい。

 

「私、急いでますので」

「それで謝ってるとでも思ってんのか?」

「すみません、急いでるので」

「ちょっとこいよ」

「ちょっ、離してください!」

「おっと、無駄な抵抗はしない方が良いぜ。こいつのナイフがついうっかり……な?」

「……解りました」

 

 知らない男の人たちに人気のない路地裏まで連れて来られました。ナイフで脅すなんて、何を考えているのでしょうか。だけど、今は一人になりたいから早く終わらせて欲しい。

 

「それで、何の御用ですか?手短にお願いします」

「なにって、ちょっと遊んで貰うだけさ」

「別に悪いようにはしないよ、終わったらちゃ~んと返してあげるからさ」

 

 その言葉を聞いてすぐに解った。この人達は危険な人たちだと、関わってはいけないと。だからすぐに断ることにする。

 

「すみません、そういうのはお断りしてるので」

「んだよ、これで許してやろうと思ったのによぉ、少し痛めつけ無きゃ駄目か!」

 

 その男が指を鳴らした瞬間、私の両腕は動かせないくらい強く捕まれてしまいました。その状態で目の前の男が勢いをつけて拳を突き出してきた。動けないこの状態では何も出来ないので諦めるしかありません。それを受け入れようとしたとき、目の前に影が現れました。

 

「なっ!?」

「すみません、お嬢さん。お待たせしました」

 

 目の前でその言葉を発した人はcircleにいるはずだった名護さんだった。何も関係のない彼がなぜこんな所にいるのか理解出来ない。私が疑問に包まれていると、拳を突き出した男が名護さんに怒りの声をぶつけていた。

 

「テメェ、何してんだゴラァ!」

「え、何って、拳を掴んでるだけですよ」

「誰の許可を得て触ってんだゴラァ!」

 

 男は手を勢いよく振って名護さんとの距離を取った。そのあとすぐに私の腕を掴んでいた男を彼は振り払った。そして名護さんは男達に背を向けて話し始めた。

 

「ああ、それは申し訳ございません。ですが、女性に手を出す輩にそんな許可がいりますか?」

「黙って聞いてりゃ良い御身分だな、坊主」

「ガキは帰ってゲームしてろや!」

「それはそれは、凄くあれ(・・)すぎてつまらないですね。あれ、なんて言うんだっけ……」

「ごちゃごちゃうるせぇぞ!」

「あぁ、そうだ。典型的(テンプレート)って言うんでした!」

 

 名護さんは男の人の言葉をまるで受け流すかのように聞かず、むしろ挑発のような言葉を送っていました。こんな状況で何をしているのでしょうか。全く理解できません。

 

「だからうっせぇんだよ!」

「暴力はいけませんよ。紗夜さん、少し下がってて下さい」

「ですが、」

「気にしなくて大丈夫ですよ、怪我人は出しませんから」

「坊主、テメェ舐めたこと言ってくれんじゃねぇか、オラァ!」

 

 名護さんに対して男の人がまた暴力を振るっています。ですが、名護さんはそれを余裕の笑みを浮かべて避けています。彼は普通の高校生ではないのでしょうか?

 

「そんなことあるわけないじゃないですか」

「テメェ、避けてんじゃねぇよ!」

「避けるの駄目なんですか、じゃあこうします(・・・・・)ね?」

 

 その言葉と同時に彼は突き出される拳を弾いて男の人に拳を当てて無力化しました。おそらく本人は強くやっていないと思われます。だって、見てて強くやってるとは思えない(・・・・・・・・・・・・)ぐらいの力で拳を当てているのが見えました。それを見た他の人達は仇討ちでしょうか、名護さんに攻撃しに行きました。一人は近くに落ちてた鉄パイプを持って、もう一人は私を脅してきたナイフを持っていきました。普通だったら彼は逃げるでしょう。自分は何も持ってないのに対して相手は武器を持っている。しかも、年齢も体格も全然違う。そんな人達に立ち向かうなんて普通は考えられません。ですが、そんな人達に対して名護さんは怯えもせずに対峙しました。…気のせいでしょうか。その時一瞬、彼の、名護さんの顔は少しばかり、喜びのような狂気の様な顔が見えました。ですが、次に見たときにはその男の人達はその場で蹲まっていました。

 

「お、お前本当に…人間か……?」

「よく見てみて下さいよ。言わなくても分かるでしょう?あなたと同じ人間の顔をしてるじゃないですか」

 

 私にはその顔が見えませんでしたがその顔を見た男の人達は恐怖に怯えるような顔をして、この裏路地から怯えるように逃げ去ってしまいました。その姿を見た名護さんは私の元にゆっくりと歩み寄ってきました。

 

「名護さん……ありがとうございます」

「……後をつけてきて正解でしたね」

「え?」

「なんかいやな予感がしたから紗夜さんのあとをつけてきたんです。そしたらこの通り…です」

「……すみません、迷惑をかけました。それでは私は帰りますので」

 

 時間を取られた分早く帰ろうとすると、名護さんに止められてしまった。

 

「待ってください」

「なんですか?」

「せっかくですし、送って行きますよ」

「そんなことまでして貰うなんて」

「また、こんな目にあうのもいやでしょう?」

「……」

「それに、話したいこともありますし」

「……解りました」

 

 それから私は名護さんに家まで送って貰うことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 あこは今日紗夜さんが言ってたことを考えながら帰ってきた。考えないようにしようなんてこれっぽっちも思えなかった。

 

「……ただいま……」

「!どうしたあこ? 今日練習だったんだろ?いつも大はしゃぎで帰って……」

「あこって、おねーちゃんの負担なの?」

「……何があった?ほら、おいで」

「おねーちゃん、あこがおねーちゃんの真似したり、おねーちゃんのことカッコイイって思うの嫌……?」

「……バカだなあこ。アタシはあこのこと、一度もそんな風に思ったことないさ」




私は名護さんにバイクで送って貰うことになりました。……私はこれからどうすれば良いんでしょうか。唯一のものをまねされて、そしてそんなことで集中力も欠けて……一体どうすれば……

次回 「突然の誘い」

……お楽しみに………


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第十三話 突然の誘い

遅くなってすみません!とりあえず今月中には間に合った……来月もこうなるかもしれませんが何卒よろしくお願いします(o_ _)oそれでは最新話どうぞ!


 私はあの後、名護さんのバイクに乗せてもらい、家まで送って貰っていた。名護さんから話があるとは言っていたものの、全然話そうとしない。あの場所から離れて数分が経過した。そもそも何故名護さんがバイクを持っているのかが分からない。ふとした疑問をぶつけてみることにする。

 

「…あの、名護さん」

「はい、なんですか?」

「何故…バイクを持っているんですか?」

「ああ、バイクの免許って16歳から取れるんですよ」

「いえ、それは知っていますが……」

「ん、じゃあ何故所持しているかですね」

 

 私は小さく頷いた。

 

「それはですね、知り合いから贈られたんですよ。入学祝いだって」

「入学祝い……」

「と言っても、贈られたの最近なんですよね。一年くらい前に免許取らせておきながら」

 

 凄いでしょ?という口調で名護さんは苦笑いしながら説明してくれた。それをしてくる知り合いの人も凄いとは思いますが、それを乗りこなしてる名護さんも十分凄いと思うのは私だけでしょうか……。疑問を抱いていると名護さんが話しかけてくる。

 

「それだけですか?あ、あと次の信号は?」

「あ、いえ……あと信号は右に曲がってまっすぐで」

「了解です」

「それで…あの、話って」

「やっと触れてくれたんですね」

「!まさか触れるまで、わざと話さなかったんですか?」

 

 分かっていたかのように話す名護さんに対して疑問を投げると、彼はからかってくる様に答えを出してきました。

 

「はい、申し訳ございません。てっきり、聞いてくるものかと思ってたので」

「………」

「はは、すみません、本題に入りますね。単刀直入に聞きますけど、今日、紗夜さん集中出来てなかったですよね?」

「……はい」

「それって例の妹さんのことですよね」

「………」

 

 触れられたくない事実を突き出された私は目を逸らしました。それを察したのか、名護さんは謝るように言葉を続けました。

 

「触れられたくないんですよね、ですがあえて触れさせて貰います」

「……分かってるのにですか?」

「鬼とでも言いますか?」

「……いいえ、出来れば触れられたくないですが」

「本題に戻りますね。悪魔で直感ですが、それってまわりからのプレッシャーですよね?」

「……はい」

「あまり言いたくはありませんが……話の通りだとあれですよね。妹さんと比べられてそれでプレッシャーを感じてる、的な……」

「…その通りです。あの子は…私のやることを全て真似して、私を軽々と越えていくんです」

「……やっぱり」

「え?何故止めるんですか?」

 

 考えていた通り、の様な言葉を残して名護さんはバイクを止めました。何故このタイミングで止めたのか、意味がわからなかったため質問すると意外な答えが帰ってきました。

 

「いえ、少し喉が渇きまして。紗夜さん、何がいいですか?」

「そ、そんな、自分で出します!」

「良いんです、奢りますから。何がいいですか?」

「えっと……じゃあ、お茶で」

「分かりました」

「あ、ありがとう…ございます……」

「気にしなくて良いですよ。さて、お話の続きですが」

「………」

 

 私が沈黙すると、そこには意外な答えが返ってきました。

 

「僕にも、そういう経験はあります」

「…えっ?」

「といっても、ホントに何でも出来る癖に何もかも押し付けてくる奴なんですけどね」

「そう…ですか。名護さんも………」

「僕は、そいつのことが好きでした。何でも出来ることを尊敬してました。ですが、ある時を境に嫌いになりました」

「それって……」

「あ、それについては今は話せないんですが……いずれは話す………かもしれません」

 

 名護さんは隠し事が多い気がする。この前助けに来てくれたときや今回のこの話。今まで疑問になっていなかったが、何故名護さんは湊さんのところにいるのでしょうか。執事などとは言っていたものの家族とかはどうなってるのでしょうか。

 

「そういえば、名護さん……ご家族は………?」

「それも、いずれ………」

 

お互いが沈黙になったあと、しばらくしてから、彼の口から衝撃の言葉が出てきました。

 

「紗夜さんは、妹さんを、憎んでますか?」

「!?」

「恨んでますか?」

「……」

「妬んでますか?」

「……」

 

 どんどん言葉を出してくる。名護さんの出すその言葉が私に、私の心にナイフの様に突き刺さる。彼はどのような心情でこのナイフ(言葉)を向けてくるのかがわからない。その言葉を聞いているうちに私の心は怒りに染まっていた。

 

「それとも…」

「そうですよ……私がどれだけあの子と比べられたか!どれだけあの子だったらと考えたか!なんでこんな目に遭わなくちゃいけないんですか!?しかもあの子は何でも真似ばかりしてくる!私は、その度その度に………!」

「紗夜さん、その気持ちは大いに分かります」

「だったら何故!?」

「だけど!その気持ちは、自分をどんどん……黒くさせます……」

「そんなこと……」

「黒くなればなるほど、堕ちていくんです………ですから一つだけ言わせて下さい。視野を広げてください、と」

「…え?」

「それだけです。すみません、こんなに時間をかけて。しかも余計なお節介まで」

「…そうですね、無駄な時間でした。送っていただきありがとうございます」

「え、まだ家まで…」

「すぐそこのマンションですので」

「あ、はい……」

 

 名護さんに対してお礼を申し付けた後に私はその場から早く去るように歩いて帰りました。何故こんなことを赤の他人に言われなければならないのか。その怒りを覚えながら帰ることになってしまいした。

 

「あーあ、なんで僕ってこうなんだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は一、また100点かー。つまんないの一」

「……もう、日菜ってば。みんな100点の方が楽しいんだからね?」

(ヒナ……。特に仲がいいって程じゃないけど紗夜と何かあったのかな……)

 

 今日の授業は小テストの返しから始まった。日菜からいつも通りの言葉が出て来るとアタシは考え始めた。紗夜はなんであんなことを言っていたのか。日菜とは正反対の様な性格だからこそなのか。疑問に包まれているとクラスの友達から話しかけられた。

 

「リサーっ、これ見たよ一っ!『一一新星バンド、Roselia』!!」

「えっ、何この記事……『孤高の歌姫《ディーヴァ》友希那がついにバンドを結成』……?」

 

 渡された雑誌には先日行ったライブの写真と記事が載っていた。全くもって知らなかったアタシはびっくりした。

 

「もー、本人が知らないってどーゆーことー?他のクラスでも超騒がれてるよ!湊さんって、こんな有名人だったんだね」

「ま一友希那はね……。ってゆかアタシも載ってるの!?うわー、この写真全然盛れてないし~……下がるなぁ」

「いやいや、写り以前にリサさー、もっと気にした方がいいことあると思うんだけど…」

「──ん?」

 

 気が付くにはそんなに時間はいらなかった。この写真は他の人も絶対感じているはずなので聞いてみたいと思った。この記事を知ったアタシはあこ達に知らせ、放課後にお茶会を開いた。

 

「友希那さんも紗夜さんも、連絡したのに来ないなあ…祝! Roselia、雑誌掲載記念お茶会!」

「ふ……ふたりとも……『そんな暇ない』って………」

「新一さんは?」

「ぼ……『僕は何もしてないから』って………」

「そんなこと無いと思うけどねー」

「そういえばさ、二人とも雑誌見てー……ど一思った……?」

 

 来てない三人のことを話している二人に、さりげなく雑誌のことを聞いてみることにする。

 

「あ、えっと、えーっと……あ! 友希那さんの『孤高の歌姫』って超カッコイイって思った!」

「あ、あれは……確かに……カッコよかったよね、あこちゃん……」

 

 何故か二人からは誤魔化そうみたいなオーラが漏れているのが見えた。正直わかっているなら言って貰わないと傷付いてしまう。

 

「ちよっ……ねえもう、なんかそうやって誤魔化されると余計凹むからさぁ~。はっきり言っていいよっ、二人とも!」

「じゃあ……言うけど………リサ姉だけ、ギャルっぽくて浮いてる……」

「ううっ!やっぱり……友達が言ってた通りか~」

「……で、でもでもっほらっ!紗夜さんも演奏はあんななのにちょっと地味だしっ、なっ、なんていうかさ!リサ姉だけじゃなくて!」

「……統一、感……?」

 

 必死にフォローしようとしているあこに燐子がフォローに入った。けれどもその言葉がある考えに繋がった。

 

「なるほど……さっすか燐子!それだよっ、Roseliaに足りないのは!……でも考えてみると、燐子と友希那って、結構服の趣味似てない?二人ともモノトーンコーデだし」

「あっ、それならあこも一緒だよ!」

「ええ?あこはちょっと、ほら……」

「だって、あこのこの服、りんりんに作って貰ったんだもんっ!りんりん、結構自分の服も作れるんだよ?」

「えっ! それって結構すごくない!?これ全然、手作りってわかんないじゃん」

「わたし……いつも……家にいて……時間が……あったから」

「あっ、ひらめいちゃったかも!……Roseliaで、バンド衣装作るってどうかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 今日はcircleにてお嬢様と二人で来ていた。今日は個人練習の日ではないのだが、紗夜さんは個人練習するので欠席、他の三人は雑誌に載ったことの記念お茶会らしい。お嬢様以外に演奏出来る人がいないので僕が代わりに演奏している。ガッツリやっていないため、完全に出来るわけではないが「軽くで良いからやりなさい」というお嬢様からの命令を受けて演奏している。因みに今日はベースである。譜面を見ながらやらせてもらっているが、時々お嬢様の顔を見るとうかない顔をしていた。

 

「──♪」

(だめ……こんなんじゃ全然、お父さんのバンドにはかなわない……!)

「ーーつ。……こうやって……私は…音楽と……真剣に向き合えないから……っ!」

「お嬢様…?」

「なんでもないわ、あとどれくらい?」

「あ、はい、あと五分くらいです」

「分かったわ」

 

 そう言ってお嬢様の片付けの指示を受け入れて片付けをし、カウンターまで鍵と借りたものを返却しに行く。

 

「Cスタジオ、空きました。いつもありがとうございます」

「お疲れ友希那ちゃん、新一君。今日は個人練かな?最近特にかんばってるね。Roselia、どう?」

「まだまだ理想のレベルにはほど遠いです」

「友希那ちゃんは理想高いからなー。ずっとやりたかった、バンドだったら余計……?」

 

 話しているスタッフさんは僕たちより後ろの方を見ていた。その視線の先にはスーツを着た男性の姿が映っていた。その人の方向に体を向けると、その人は話しかけてきた。

 

「すみません。ちょっとよろしいでしようか。友希那さん、少しお時間いただきたいんですが」

「失礼ですが、どなたでしょうか?まずはお名前をお聞かせ頂けますか?」

「私、こういう者です。率直に伝えますが、友希那さん、うちの事務所に所属しませんか?」

 

 渡された名刺には某事務所の名前とその人物の名前と思われる文字が写されていた。渡された直後にスカウトを受けたが、お嬢様は興味の無い目をしていた。

 

「事務所には興味ありません。私は自分の音楽で認められたいから」

「と、言うことですのでお引き取り願えますか?」

「待ってください! あなたは本物だ!!私……いえ、私達なら、あなたの夢を叶えられる!一緒に、FUTURE WORLD FES.に出ましよう!」

「「……!?」」

 

 突然の言葉にその場にいた誰もが硬直した。スカウトを断られるなり出て来た言葉は、お嬢様の夢の舞台へのチケットのようなものだった。

 

「覚えてないかもしれませんが、あなたの2回目のライブの時に断られてるんです。でも諦められなくて……色々調べて……バンドにこだわっていることも知っています。だからあなたの為のメンバーも用意しました」

「あ…貴方、あの時の……」

「友希那ちゃん、これってつまり、メジャーデビューじゃ……」

「コンテストなんて出る必要ない本番のフェスに出場できるんです!ステージだって、メインステージです!お願いします! 友希那さん……!」

「……私……は……」

(お父さんの夢だったフェスに、バンドで出られる……!なのに……なんで……?わたし……)

 

 事務所の人の言ってることはまるでF.W.Fへのシード枠のチケットを手に入れられると言っているのと同じだった。こんなことがあり得るのだろうか。いや、普通のレベルではあり得ない。お嬢様のレベルだからこそこれは起きたのだと感じた。こんなことを言われたら誰だって着いていくだろう。だが、お嬢様の方を見るとそれとはまた別の表情をしていた。

 

「確かに……Roseliaでは、次のFUTURE WORLDFES.でメインステージに立つことは難しい。(なぜ言い訳をしているの、私。この事務所に入れは確実にフェスに出られるのよ……!)」

「…お嬢様?」

「……友希那さん?すみません、何か気に障るようなことを言いましたか?」

「少し……待って欲しい。……!?(私、何を言ってるの?フェスに出られる、これ以上ないチャンスを……!)」

「わかりました。友希那さんの中で答えが出る時まで、いくらでも待ちましょう。じゃあまた、ここに来ますから」

「……わかったわ」

 

 事務所の人との会話が終わり、その場を離れて真っ直ぐ家に向かって歩いていると、お嬢様はずっと下の方を向いていた。僕の中では疑問が生まれていた。何故お嬢様は目標地点であるフェスに、しかもすぐにメインで出られるのに引き受けなかったのか。それだけがずっと引っかかっていた。なので疑問を投げようとしたが。

 

(私……なぜ……引き受けなかったの?待たせて、どうするの……?)

「…お嬢様」

「………何?」

「…いえ、なんでもないです」

「そう……」

 

 ずっと下を見てるお嬢様を見て、質問するのを辞めた。おそらく、お嬢様自身も考えているのだろう。だとしたら聞くべきではないのではないかという結論に至った。特にすることもないので道中にファンガイアが出てくることに警戒しながら進んで行くと、無事に家の近くまで着くことが出来た。家の方を見ると少し手前の方に女の子の姿が見えた。よく見るとその姿はリサだった。

 

「あれ?友希那と新一じゃん。おかえり~!今日のお茶会、楽しかったよ☆」

「あこも燐子も行ったそうね。あなたたち、今日の練習、しないつもりなの?」

「みんな家でやってるってさ!アタシもこれから!それより友希那、アタシ達から一個提案があるの!」

「──?」

「Roseliaの衣装、作ってもいい?」




唐突なリサの提案、友希那は受け入れるのか。
紗夜は新一の言葉を受けてどうなったのか。
次回
「私にとっての音楽」
次回もお楽しみに。もしよろしければお気に入り登録だけでもよろしくお願いします!


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第十四話 私にとっての音楽

すみません今月も遅くなりました……言い訳は(今回は)しません。なので長話もしない………最新話どうぞ!


「でね、燐子が衣装作れるって話になって。Roseliaの世界観っていうか、演奏を伝えるためにもいいと思うんだよね」

「なるほど…ってりんりん、服作れたんだ」

 

 今日のお茶会では雑誌のことが話題になってたらしい。中でもその時の衣装が主な話になったとか。他の人とは違い、リサの服装だけが浮いてる感じが強かったらしい。まぁ、誰がみても他の人と雰囲気が違うように捉えられるだろう。そこで燐子が衣装を作れることがわかり、今衣装についての意見を交わし合っていたらしい。

 

「え、新一知らなかったの?」

「そりゃあまあ、遊んでいたのは小さい頃だったからね」

「そっかー、あ、友希那はどう?」

「……好きに、したらいいわ……」

「ヘヘ☆ ありがとー!」

 

 リサがお嬢様から許可を得たことを他の人に連絡しようと携帯電話を取り出した。するとお嬢様の方を見てまた声をかけてきた。

 

「……ん? 友希那顔色悪くない?」

「……別に。いつもと変わらないわよ」

「……そっか。なんかちよっと……一瞬……迷ってるように見えたんだけどな~気のせいか、ごめんごめん☆」

「……例え何があろうと、私は今まで通り、自分の音楽を信じて進むだけよ(私にとっての音楽……それはRoseliaだけじゃない。Roseliaはフェス、ひいてはコンテスト出場の手段だったはずよ)」

「迷うことなんてないわ。何をしてでもFUTURE WORLD FES.に出る。それしか、考えてないから」

 

 質問に対して答えたお嬢様はいつもと違った。いつもなら淡々と話すはずなのに、今日は言葉の一つ一つに迷いがあるように感じられた。やはりさっきの事が気にかかっているのだろうか。

 

「(友希那が聞いてもいないこと、こんな風に話すのって変…)…ん。わかった! でもさ、友希那。本当にヤバい時は、ちゃんとアタシか新一に話してね?」

「………」

「アタシ……最近の友希那見てるとよく、思い出すんだよね。あの頃のこと。友希那のお父さんと一緒にさ、色んな曲演ったよね。友希那はあの頃から歌上手くて、アタシは……弾けるようになるまでめちゃくちゃ時間かかって。でもいつも、楽しかったな……」

「昔の話はやめて。もう行くわ……やることがあるから」

 

 そう言葉を吐き捨ててお嬢様は家に向かって行った。正直、今日のことを悩んでいるのだろう。とりあえず家に戻ったということはお腹を空かしているだろうと、家に戻ることにする。

 

「友希那……」

「お嬢様…それじゃあリサ、後のことはよろしくね」

「あ、うん。任せといてー!」

 

 リサとの挨拶を済ませて急いで家の中に入る。すると、お嬢様がリビングのドアの前で立っていた。何か考えている様子ではあったが、首を突っ込んでもしょうがないので晩ご飯の準備をすることを伝える。

 

「……」

「お嬢様、これから晩ご飯作りますのでお風呂入ったりして時間を潰しててください」

「要らない」

「ですがお嬢様、ご飯はしっかり摂らなければ体調にあまり良く……」

「要らないと言ってるでしょう」

「……申し訳ございません。ゆっくりお休みくださいませ」

 

 そう謝罪するとお嬢様は自分の部屋の方へ行ってしまった。こうなってしまうと食事を作るどころじゃないので、洗っておいた食器などを片付けることにする。片付けをしている最中に醤油瓶の中身が消えていることを目にする。予備の醤油を確認すると運の悪いことに切らしていた。今日はスーパーに行っていなかったことを思い出し、醤油を買いに外に出ることにする。スーパーまで少し遠いのでイクサリオンに乗って移動する。少しばかり暗い夜道を走っていると、背の高い人間がゆっくりと車道に出てくるのが見えた。遠かったので急ブレーキを踏むことはなく、ゆっくり止まることができた。その人が渡り切るのを待っていると、急に方向をこちらに変え、急ぎ足で歩み寄って来た。バイクの前まで来ると片足をバイクに乗せ、静かにこちらを見つめてきた。勢いよく置いて来たものだから驚いてしまったが、ポーカーフェイスを保っておく。目の前にいる人物の特徴を捉えて時間を潰すことにする。帽子を深く被っており、顔はよく見えなかったが体格的に男であることがよく分かった。しばらくすると男はこっちに向かって声をかけてきた。その声はあまり穏やかなものではなかった。

 

「やっと見つけたぞ………」

「はい…?」

「…兄貴の……兄貴の仇ぃ!」

 

 その声と同時に男は姿を変え、ファンガイアの姿に変わり果てた。突然の襲撃に反応が間に合わず、バイクから引きずり下ろされてしまった。なんとか受け身を取りベルトを腰につける。すぐさまイクサナックルを装填して変身する。するとファンガイアは叫びながらこっちに向かって攻撃を仕掛けてくる。

 

「あの時の恨み、そのままくれてやる!」

「待って!君とは初対面のはずだ!」

「ああ、そうさ!だがしかし、兄貴は見たことあるはずだ!同じ姿をしているから忘れたとは言わせないぜ!」

 

 そう言ってファンガイアは武器のような腕を振り下ろしてくる。その腕を受け止めるにイクサカリバーで防ぎ、話を続ける。

 

「っ!……ん…?待てよ、どっかで見たことがあるような………」

 

 そう言って今の状況を続けているとある姿を思い出す。いつかの日の帰り道に現れた、ヒトデのようなファンガイア。今、その姿と同じ姿をしたファンガイアが目の前にいた。

 

「もしかして……あの日、ワンパンしたファンガイアの兄弟!?」

「テメェ…ワンパンつったか!」

「あ、ごめん。でも記憶が正しければ確か、イクサカリバー(これ)横に振っただけで倒されてたような………」

「っ!確かにワンパンだけどよ………俺はそうはいかねぇぜ!」

 

 と言いながら遠距離攻撃を仕掛けてくる。その攻撃を回避することは出来ずにまともにくらってしまう。膝をつくまいとイクサカリバーを地面に突き刺して立つと。ファンガイアがこちらに迫ってきた。

 

「なんだ、所詮その程度だったのか。あーあ、もっと強いの期待してたんだけどなぁ。こんなんじゃいじめてもつまんねぇ」

 

 そう言葉を吐き捨て、僕の体を強めに蹴飛ばした後に奴は姿を消した。それを確認した僕は頑張って起き上がり、変身を解除した。こんなに苦戦したのは初めてだった。悔しさとある疑問を抱いた。その疑問とはあの時のことだった。何故僕は剣を横に振っただけ(一瞬)であいつの兄を倒せたのか……その事だった。正直にいうとその時はどうでも良いとしか考えてなかった。しかし何故ファンガイアを一振りで倒せたのかが不思議でしょうがない。いつもならば戦って倒すはずなのに、あれは戦ったとは言えない…。というか体は自分だけど自分じゃない(・・・・・・)感覚だった気もする。………とにかく今は今できることをしなきゃ。そう思って僕はバイクに戻った。その時だった。人に声をかけられた。その声は聞き覚えのある声だった。二、三年近く聞かなかった声。その声の方を見るとそこにはスーツを着た男の姿だった。

 

「新一……様?」

「……貴方…は」

「私でございます。一条でございます!」

 

 その正体は一条さんだった。一条さんは昔、財閥にいた頃にお世話になってた人だ。言ってしまえば用心棒…のようなものだろう。だが、何故こんな所にそんな人がいるのかが分からない。何故ならあの時に彼も向こう側に行ったはずだからだ。

 

「何故……こんな所に……」

「それは、買い物に来ていて……それより新一様こそ、何故こんなにボロボロなのですか!?」

「そ、それは……」

「あまり深い傷は負ってないようですが、貴方のような方がこのような格好してはなりません。今すぐ着替えを…」

「いえ、大丈夫です。それに、今の僕はただの庶民ですから」

「いいえ、そんなことはありません。例え庶民だろうと私の主は新一様だけですから」

「その言葉、凄く嬉しいです。ですが今は、今は違うのです………」

「……新一様がそうおっしゃるのならば」

 

 現状を察してくれた一条さんは真剣な顔をして受け入れてくれた。本当に申し訳ない。

 

「ありがとうございます。それでは僕はこれで………」

「あ、お送りします!それに話すことが……」

「…今はやることがあるので………」

「…失礼しました。それでは今度お時間を頂けないでしょうか?」

「……何か、あったんですか?」

「いえ、相談したいことがあるだけなのですが。よろしいですか?」

「……わかりました。これが僕の連絡先です」

「ありがとうございます。それではお時間いただける時に」

 

 お辞儀をしてきた一条さんに対して会釈をして、ヘルメットを被り、バイクを走らせた。走っている最中に頭の中を二つの事が過った。一つは、あの一条さんが相談を持ちかけたこと。もう一つは今のままでは奴に勝てないということ。その事を考えながらスーパーに着くともう既に閉店時間を過ぎているということに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つ。……おーい、友希那あ~……って、反応するわけないかあ……(中学くらいまではこうやって、ベランダ越しによく話してたんだけどな……最近は……ねえ、友希那。カーテンの向こうで、本当は何か悩んでるんじゃないの……?)

 

 お父さんが全部捨てた音楽雑誌……内緒で1冊だけ私がもちだした……私は絶対、この頃のお父さんを超えてみせる。そして……お父さんに、また笑って欲しい……だから……迷ってる場合なんかじゃ……!

 気持ちを切り替えようとした時、自分のスマホが鳴り出した。その画面を見てみるとそこにはさっき会った事務所の人の名前が映し出されていた。

 

「……はい、もしもし。……ええ、そうですが」




私は…どっちの道を選択するのが正解なの………

次回 「孤高のボーカリスト」








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第十五話 孤高のボーカリスト

長い間お待たせしました。先にご連絡させていただきます。これから先、更新速度が一気に遅くなります。楽しみにしてくださってる皆様大変申し訳ございません。ですが月2回というのは変えませんのでご安心ください。これから先も「青薔薇の歌姫と白き聖騎士」をよろしくお願いしますm(_ _)m
それでは最新話どうぞ!


 その日、夢を見た。あの事故(・・)の夢を。始まるところはいつも同じ、辺りが火の海と化してるところから。辺りを見回すと沢山の人が倒れている。瓦礫に潰されている人、体が焼けている人、体の一部が無くなっている人、色んな人が倒れていた。その中には自分の父親と母親もいた。すぐに駆けつけるといつも同じことを言う。「お前は生きろ」と。声をかけようとしても声が出ない。そしていつもと同じように二人は眠っていく。それを見ていつも動けなくなる。自分が弱かったからこうなってしまった。その事実を突きつけられる。そしてその元凶の方を向くと、その顔はこちらを見つめてくる。それを睨むだけで何もしない。いや、何も出来ないのだ。恐怖で体は動かず、奴を睨むことしか出来ない。そのまま奴はこちらに向かってくる。そしてその手に持つ武器をこちらに振りかざしてくる。それに立ち向かおうとすると目の前に影が出来る。瞬きをするとそこには胸を貫かれた妹の姿があった。捨てられる様に振り払われた妹はこちらに倒れ、力が抜けていく。必死に呼びかけるも返事はいつも同じ。「逃げて」の一言だけ。そして妹は呼吸すらしなくなり、もう動くこともなかった。殺した奴を見るとそいつは笑って帰っていく。その景色、後ろ姿、笑い声がいつまでも忘れることは出来ないだろう。それを嘆く瞬間にいつも目が覚める。この夢を見る度にいつも胸に誓う。今以上に強くならなくてはと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ、りんりんっ。人多いねぇ。今度から待ち合わせ、他の場所にしようかなぁ」

「……っ。だ……大丈夫だよ……」

 

 衣装が作り終わった次の練習の日、私はあこちゃんと待ち合わせをしていた。駅前だからかやはり人が多かった。だけど、苦手だった人混みがキーボードを抱きしめてるとあまり気にならないってことに気づいた。

 

「そ……それより……衣装、あこちゃんのだけ、先に作ってみたから……」

「えっほんとっ! !やったー! じゃあ早くスタジオ行かなきゃ。メンバーのみんなにも見てもらおうっ」

「うん……気に入って……もらえると……いいな……」

「りんりんのデザインなら間違いなしだよ!!よーし、ついにバンド衣装だあ!燃えちゃうなあーっ!……って、ん? あれって……?」

 

 あこちゃんが見ている方を向くとそこにはスーツの女性とそれについて行く友希那さんと新君の姿があった。今の時間でも練習まであと少しなのに2人は何をしているのだろう。何か用事があるのだろうから私たちは先にスタジオに行こうと言ったところ、あこちゃんに押し切られてこっそりあとをつけることにした。

 

「あ、あこちゃん……やめようよ………」

「りんりん、し一っ。友希那さんに気づかれちゃうよっ」

 

 物陰からこっそり話していると足を止めた新君がこっちの方を見るように振り返った。急いで隠れてしばらく待機していると止まってた足音が再び聞こえ始めた。

 

「……!!き、気づかれて……ないかぁ。ふぅ~。セーフ」

「……勝手にあとつけるなんて……だって、もうすぐ練習始まる時間だよ?」

「あの友希那さんが、練習に遅れてまで会うあのスーツの女の人……何か脅されてるとしか思えないっ。友希那さんをしつこくつけ回す、ストーカーかもっ!!」

「あこちゃん……!あこちゃんの方が……聞こえちゃう……」

「わっ。入ったの豪華なホテルだよっ。あこ達も行ってみよう!!」

 

 豪華なホテルに入れることなど不可能だと思い、あこちゃんを止めようとしたけど、何故か普通に入れてしまった。ロビーの隣にあるカフェテリアの椅子に座っているのが見えたので隠れて聞くことにした。

 

「ねっ。ここからじゃ聞こえないから、ちょっと近づいて……」

「あこちゃん……あんまり……こういうこと……よくないよ……」

 

 それに、あのスーツの人の雰囲気、とてもストーカーって感じじゃないと思う。どちらかというとお仕事?みたいな感じのような気がする。

 

「今日はもう練習があるの。もう少し、時間を……」

「申し訳ありません。以前伺った弊社のものが熱烈なファンで、軽々しく『いくらでも待つ』などと。しかし、こちらとしてはビジネスですので」

「いえ……私も、目的は……」

「……え?」

「他社から毎話か来ているんでしようか?我々より、他社が用意した条件の方が魅力的だと言うのなら、諦めます」

「……他からはまだ……話はきてない……わ……」

「でしたらRoseliaとして生真面目にコンテストに出場するのか、我々と一緒に本番のメインステージに立つのか……考えるまでもないはず」

 

 話を聞いていると、友希那さんにスカウト(?)がきている話だった。新君は何も言わずにただ立っているだけだった。理解が追いついていない中、話の続きを聞いているとあこちゃんが話しかけてきた。

 

「……ねぇ。りんりん、これ、どういうこと?」

「……わか……らない………」

「……意外です。孤高のボーカリストとして名高いあなたが……バンドが友達になってしまったんですか?」

「……違うわ!私は、フェスに出るためなら何でもする…!ただ……今日は練習が……」

「……ではあと1週間だけ待ちましょう。あなたが一人のアーティストとして正しい選択をしてくださることを祈っています」

「わかったわ……。じゃあこれで」

 

 話が終わったのか、友希那さんは立ち上がって、新君を連れてホテルを去って行った。さっきまでいた席の方を見ると、スーツの人はため息をついていた。

 

「行っちゃった…ねぇりんりん。りんりん、どうする……っ?」

「……今日は……スタジオで……練習だから……」

「そ、そうだ……とにかくみんなと合流して、それから考えよっか!……リサ姉からメッセージだ。紗夜さんと二人しかいないけどみんなどうしたの……って……」

「「…………」」

「今……見たこと、いわないほうがいいよ、ね……?」

「友希那さんが……スタジオに来るなら……本人の口から……聞ける……かも……」

「そ、そうだよね……っ。なんかきっと、変な風に聞こえただけだよねっ。じゃあ、スタジオ急ご!」

 

 お互いに黙っていようと言い、急いでスタジオに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕とお嬢様がスタジオに着いた十五分後……本来の練習開始時間の三十分後にりんりんとあこちゃんが入ってきた。一体どういうことだろう。少し遅れるならともかく、かなりの時間遅れてきている。当然ながらお嬢様は少しばかり怒っていた。

 

「……30分の遅刻よ。やる気はあるの」

「そういう友希那も、15分遅れたけどね~。いや~。珍しいこともあるあんだね~」

「ごめんね、リサ。僕がついていながら……」

「大丈夫だよ〜、今度から気をつければいいんだしっ☆」

「いいから早く準備してください。ロスした分を取り戻さなくては」

 

 本来の開始時間より時間ロスが酷いせいか、紗夜さんの雰囲気はピリピリしている。その空間を和らげるようにリサがフォローに入っていく。

 

「なーに二人して辛気くさい顔してんの?紗夜せんせいが怒るのなんていつものことじゃーん☆」

「今井さん!まじめにやって。コンテストは刻一刻と近づいてるのよ」

「はは、紗夜さんもうちょっと優しく……」

「……あこちゃん……」

「りんりん……」

((どうしよう………))

 

 りんりんとあこちゃんの方を見ると、2人とも落ち込んだ表情をしていた。もしかして遅れた理由に何かあったのだろうか。その様子を無視してお嬢様は言い放つ。

 

「……あこ、燐子、早くして」

「どうしたの二人とも、なんか変だけど…?(遅れてきた友希那もさっきから様子がおかしい……)」

「……友希那?」

「なに?」

(なにか、隠してる…?)

 

 どうやらリサはお嬢様たちの様子がおかしいことに気づいたらしい。何か知らないかと視線を向けられるが、自分の口からは何もいうことは出来ないので視線を逸らす。

 

「宇田川さん、やる気がないのなら帰」

「……あ……あの………っ」

「あこちゃん……!」

「ごめん、りんりん。あこ………見ちゃったの……」

「何を……?」

「友希那さんが…スーツの女の人と、ホテルで……話してて……」

「「!!」 」

 

 見られていたという事実突きつけれ、お嬢様と僕は驚いた。あの時に感じた視線はりんりん達だったのだと今気づかされた。

 

「それかどうしたって言うの。湊さんにだってプライベートはあるでしょう」

「で、でも……あこちゃん……今は練習を……そ……そうだけど、でも、でも……気になるんだもん! あ、あこだって、Roseliaっていう、この五人だけのっ、『自分だけの力ッコイイ」のために、がんばってきたし……!だから……コンテストに出られないなんてぜったいイヤなんだもん!」

「……どういうこと?」

「今日……りんりんと待ち合わせてしてて……そしたら……」

 

 それからはあこちゃんたちが見てきたもの、聞いてきたものを聞かされた。それらは全て事実であり、何も言うことはできなかった。

 

「…宇田川さん達の言い分はわかったわ。湊さん、認識に相違はないんですか?」

「……」

「……つ。私達とコンテストになんか出場せずに、自分一人本番のステージに立てればいい、そういうことですか?」

「……私……は………」

「否定しないんですね。だったら……」

「ちょ、ちょっと待って!そう言ったわけじゃないじゃん!友希那の言い分も、ね友希那…………っ、ちよっと、なにか……!」

 

 お嬢様の言い分を待たずに話し続ける紗夜さんに対してリサが止めに入ったが、それでも止まることはなかった。

 

「『私達なら、音楽の頂点を目指せる』なんて言って……『自分たちの音楽を』なんて、メンバーをたきつけて……っ。フェスに出られれば、なんでも、誰でもよかった。……そういうことじゃないですか!!」

「……え……それじゃ……あこたち、それじゃあ……あこたち、そのためだけに、集められたってこと?」

「……あこちゃん、なにも、そうとは………」

 

 その瞬間、全員にあの時のお嬢様の言葉が蘇った。『Roseliaのレベルは確実にあがった。あこ、燐子。あなたたちもよ。あこ、燐子……。リサ。あなた達、Roseliaにすべてを賭ける覚悟はある?』という言葉。その言葉が本当だったのか、お嬢様を除く全員が考えた。

 

「あこ達の技術を認めてくれてたのも……Roseliaに全部かけるってはなしも、みんな……うそだったの……? 一一ッ!!」

「あこちゃん……待って…!…どこに……」

「ちょっ、ふたりとも……!」

 

 逃げるように出て行ったあこちゃんを追いかけるようにりんりんは追いかける。二人を追いかけようとするが、それを許さないかのように紗夜さんは言葉を続ける。

 

「湊さん。私は本当に、あなたの信念を尊敬していました。だからこそ……私は……とても失望したわ」

「紗夜。お願い、少し待ってよ。友希那の話を……」

「答えないことが、最大の答えだわ」

「じゃあ、これから先アタシ達、どうするつもり……?」

「あなたと湊さんは『幼なじみ』、名護さんと湊さんは『主従関係』。何も変わらないでしようね」

「そういうことじゃなくて……!」

「私はまた時間を無駄にしたことで、少し苛立っているの。申し訳ないけれど、失礼するわ」

 

 希望を捨てたかのように話す紗夜さんも止めることが出来なかった。というよりかは止めようとしたが、この前のこともあって、睨まれてそっぽ向かれてしまった。

 

「紗夜……っ、待っ……友希那っ。ねえ、今の話、全部本当なの?」

「本当だったら、なに……な、なにって……このままじゃRoseliaは……それでいいの?」

(いいんだったら、この前あんな顔、してないはずだよね……!?)

「ねえ、本当はメンバーになにか言いたいことがあるんじゃ……」

「-一知らないっ!」

「!友希那……」

「お嬢様……」

 

 いろんなことを突きつけられたお嬢様は振り払うかのようにその言葉を吐き捨てた。それを聞いた僕とリサは戸惑いをかくせなかった

 

(……自分でも、どうしたらいいのか、わからない……)

「私は……っ、お父さんの為にフェスに出るの!昔からそれだけって、言ってきたでしょ!」

「……友希那……」

「……帰るわ」

「帰って、どうするつもりですか……?」

「フェスに向けた準備をするだけよ」

「友希那……っ!」

「お嬢様っ!」

「新一、一人にさせて頂戴」

「……かしこまりました…………」

 




バラバラになったRoselia、リサはそれを必死に取り戻そうとする。それを手伝おうとする新一に予想外の出来事が遅いかかる。
次回 「役目と言葉」
次回もお楽しみに!








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第十六話 役目と言葉

投稿が一ヶ月空き、本当に申し訳ございませんでした。言い訳はしません。ですがこのようなことがこれからも起きるかもしれませんのでそこはご了承ください。
それでは最新話どうぞ。


(どうしよう……このままじゃRoseliaは、バラバラに……)

「おーい。Roseliaさーん!レンタル時間過ぎてるよ~……って、リサちゃんと新一君2人!?」

「あ……っ」

「え、もうそんな時間? すみませんっ」

「リサちゃん、たしか今日は……バイトの日だっけ?練習のあとにお疲れ様だねぇ。」

「あ……はは。そうですねっ。ま、まあRoseliaの活動と運営の為にもっ、かんばらないといけませんから~……っ」

「あれ?でも新一君はなんで友希那ちゃんと一緒じゃないの?」

「あー………あっ、僕夕飯の買い出しがあるのでっ!」

 

 そんな適当な言い訳をつけて僕はスタジオを飛び出した。カバーしきれなかった自分が嫌になる。そんな思いをしながら街中を走っていると悲鳴が聞こえてきた。

 自分には関係ないが、無視することが出来ずにその方向へ走って向かった。現場と思われる場所に着くと、そこには蛾の様な見た目をしたファンガイアが住人を襲っていた。

 何故こんな時に現れるのか、ファンガイアに向かって走りながらイクサに変身した。その勢いで拳をぶつけに行くとファンガイアの顔に当てることができた。そのまま倒れ込むファンガイアに追い討ちを掛けに行くと、体制を立て直し、反撃してきた。イクサカリバーを取り出して応戦しようとすると、向こうの体がから剣を作り出して応戦してきた。しばらく剣で斬り合っているとファンガイアは鱗粉のようなものを吐き出して爆発させてきた。爆発を受け、目の前が見えなくなった。爆発が止むと目の前のファンガイアは消え、辺りを見回すと、人質をとって待ち構えていた。

 その人質を見ると、その人はよく知っている(・・・・・)人だった。Roseliaのキーボード……白金燐子だった。りんりんは首元に剣を近づけられ、涙目になっていた。その姿を見た瞬間、僕の心は怒りという激情に染まった。

 

「……君、誰に手出したか………わかってるんだよね?」

「………?」

 

 疑問を傾けるファンガイアを無視して僕は行動に出た。耳と思われる部分をイクサカリバーで銃撃し、気を取られているうちにりんりんを引き剥がして剣を振りかざした。肩から脇腹にかけての一閃だったため、大きく命中して負傷させた。その後も攻撃を仕掛ける。剣を何本も作り出したが、全て切り落とし、肩のパーツまで切り落とした。

 

「手を出す相手を間違えたね。なんでりんりんに手を出したの?」

 

 質問を投げかけるも逃げようとするだけで何も答えない。

 

「……わかった、これだけは言わせて貰うね。その命、神に返しなさい!」

 

 そう言って逃げようとするファンガイアの背中を真っ二つに切り裂いた。ファンガイアはガラスとなって砕け散った。敵を倒すことで落ち着いた僕はその場を離れようとすると声をかけられた。

 

「ま……待って……!!」

 

 後ろの方を見るとさっき引き剥がしたりんりんがいた。ずっと見ていたのだろうか、引き剥がした時と同じ体制のままだ。正体がバレないように無言でりんりんの方を見る。

 

「あ…あの………あ、ありがとう…ございます………」

「………」

「……新……君……だよね………?」

 

 突然不意をついてきた。何故この状況でその答えが出たのか。声を低くし質問を投げ返して対応しようとする。

 

「…違うと言ったら?」

「で………でも、私のこと……り…りんりん……なんて言うの……あこちゃんと新君しか………」

 

 答えは至って単純だった。自分の呼び方が裏目に出てしまった。大人しく変身を解除してりんりんの方に体を向ける。

 

「………!……やっぱり………」

「うん………ごめん、ずっと黙ってて」

「ううん………」

「ごめんね、身勝手なのは分かってる。ただ、このことは黙ってて欲しい…………時間が来たら絶対話すから」

 

 りんりんは黙って頷くだけだった。立ち上がれるように手を伸ばすと、りんりんはその手を取って立ち上がった。そしてそれと同時に質問してきた。

 

「新君は………なんで……戦ってる………の?」

「それは………」

 

 答えが出なかった。今まで考えたこともなかったからだ。なんのために戦っていたのか……そんな事を考えずに今まで戦っていた。だからなのか、今すぐに答えが出て来なかった。だから答えは一つだけだった(・・・・・・・)

 

「……わからない」

「………え?」

「今はまだ……わからない………ごめん」

「ううん…………」

 

 改めて約束は守ると言われ、安心し、僕は家へ帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゃーしたー」

「モカ……アンタ、いつにも増して挨拶テキトーすぎー」

 

 色々考えなきゃいけないんだけどバンド組んでる同士こういうこと、なごんで助かるんだよね。

 

「……っと、友希那からだ……!!」

『来週の練習予定、取り消す。他のメンバーにも伝えたから』

 

 来週以降はスタジオの予約してない……じゃあ、その先は?アタシは分からなくなって困惑する。するとモカが話しかけてくる。

 

「湊さんって、リサさんの幼なじみなんでしたっけ?」

「えっ。あ、あーうんっ。そ! 家が隣同士でさ……」

 

 ずっと一緒なのに、アタシはもっと上手く……

 

「そっ、そういえば、モカと蘭も幼なじみなんだっけ?」

「まぁ、一応、そう…なんですけど……」

 

 いつものモカと違って反応が渋々だった。この顔……?モカもなにか、蘭のことで悩んでるのか。仕事をしながら話を聞くことにした。すると、今のRoseliaと似てる……いや……アタシとモカが似てる状況だということに気づいた。ずっとずっと……『見守るだけ』

 

「……本当に大切なら、隣にいるだけじゃダメ……間違った方向にいかないように導くのも友達……ううん、親友の役目……なんだよ」

「隣にいるだけじゃ、ダメ……」

「アタシも友希那が幸せならって、ずっと見守ってきた。もしかしたら間違ってるかもしれないって思いなから、ずっと。……でもそれは、やっぱり間違いだったんだよね」

 

 モカならきっと、大丈夫だと思う。アタシは……今から、取りもどさなくちゃいけない。そう決意しながらバイトを終わらせて家に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の部屋でスマホをいじっていると事務所からメッセージが来た。はやく開封しなきゃいけないのに、指が動かない。なんで?何が私を邪魔するの?そうして戸惑っていると外から声が聞こえた。

 

『ゆっきな~! 窓開けて!』

 

 何? 急に……。忙しいから無理とメッセージを送るとまたベランダの方から声がやってくる。

 

『寝っ転がって何に忙しいのかな~?カーテン空いてるぞ☆』

 

 ベランダの方を見るとカーテンが少し空いており、隣のベランダから全部見えていることが分かった。諦めてベランダに出ると、向かいの家のベランダにリサがいた。

 

「やっほー。友希那の部屋に来るの、ひっさしぶりだな~!家が隣同士なんだから、友希那ももっとうちに来てもいいんだよ?」

「……毎日のように会ってるのに、なにか用?」

「ん……あのさ。まずはごめんねっ。今回のスカウトのこと。アタシ、なんにも気づけなかったや。家の前で、たまたま会った夜さ……あれからきっと、友希那はずっとひとりで悩んでたんだよね。アタシが気づけてたら、何か出来たんじゃないかって」

 

 ずっと黙っていたことをリサが謝ってくる。悪いのは私のはずなのに。

 

「アタシ、友希那が幸せなら、とか言っておいて、今まで……っ、なんっにも、してこなかったなあ~って!言うだけなら、いくらでも出来るっての、はは…お父さんのことも、Roseliaもフェスのこともずっと友希那ひとりに背負わせて、ごめん!!これからは、アタシももっと一緒に……」

「なんで……っ!!」

「え?」

「リサはなんで、いつもそうなの!!なんで優しくするの!! 全部、悪いのは私じゃない!!私の自分勝手でこうなったことくらいわかってる! !なのにバンドもフェスも……お父さんのことも!リサは私が何をしても、笑って……いつも……そばにいて……っ」

 

 流石に我慢の限界がきていた。悪いのは私なのにいつも甘やかしてくるリサに対して私は怒声をあげた。こんな声をあげたのは初めてかもしれない。けれど言い切るまで止まれなかった。

 

「うん……ごめん……」

「だから……それをやめてってば! !私は……っ、リサがいると……っちゃんと音楽に向き合えない……っ!」「 !…ん、そ……っか……わかった。アタシ……友希那のこと大切だから、甘やかしちゃってたんだね……

そうすると、アタシに出来ることってやっぱりないのかもしんないや……でもさ、フェスに出たいって、友希那の覚悟は知ってるよ?」

「………っ」

「少なくともアタシには、友希那が幸せそうに見えてた。だから、善し迷ってるなら、今はRoseliaを捨てないで欲しい。アタシの……ただの気持ちだけどねっ」

「……気持ちだけじゃ、音楽は出来ないわ」

「ん。そうだね。つきあってくれてありかと!でも、全部言ったら、スッキリした!アタシ、夕飯食べてくる。じゃっ☆」

 

 リサが自室へ入っていくのを確認すると私は言葉を一つこぼしていた。

 

「……気持ちだけでは、音楽は出来ない……」

 

 お父さんの代わりにフェスにでる。その『気持ちだけ』で、私はやってきた……その私が……『気持ちだけでは』……なんて……。

 

 

 

 

『………今アタシにできることはたぶん、やれたはずだ。他にできることは、また考えていこう。……こうやってまたぶつかってもちゃんと、友希那と向き合い続けたい』

と昨日決めたけど決めたけど、友希那はすぐ帰っちゃうしなかなか、上手くいかないな~と思っていた矢先、クラスメイトが話しかけてきた。

 

「あれっ、リサだ!放課後残ってるの久しぶりじゃない? バンドは?」

「えっ……あ、あうん。なんていうか……」

「てか、今日楽器持ってないじゃん?あ。もしかしてバンド辞めちゃったとか!」

「ありえる! だってびっくりしたもん!急に学校に楽器持って来てさ~なんかリサらしくないって、思ってたんだよね~」

「あ~ははは……そっかぁ。アタシ……らしくないか~……」

 

 みんながRoseliaを始める前のアタシの話をしてくる。もしRoseliaに入っていなかったらどうなっていたのか………今のアタシには想像がつかなかった。

 

「そーだよ。リサはおしゃれなんだし!ねっ。バンドがないならネイルいこーよ?ネイルしててもベースって弾けんでしょ?」

「え……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日……ほんとは……練習の日だね………」

「ん……りんりんからオフ会誘ってくれたの、初めてだね?」

「うん……家にいても……落ち着かなくて……あっ。あこちゃんは、ついでって意味じゃ……」

「わかるっ……。あこも、なんか、どうしたらいいかわかんない……だから、りんりんに会えて、ちょっとほっとしてるんだ~」

 

 私とあこちゃんはいつもの集合場所で待ち合わせをしていた。お互いしばらく落ち着かなかったらしい。だから、お互いに会えて安心している。

 

「ありがとう……それに……衣装……完成したから」

「えっ。本当!? 見たい見たい!」

「写真で……よければ……わあっ! めっちゃくちゃカッコイイよ!やっぱりんりんって天才だよっこれ、五人で着たら……!」

 

 五人で着たら……その言葉が引っかかる。次の言葉を切り出したのはあこちゃんだった。

 

「………ねえ、りんりん。あこ、みんなに余計なこと言っちゃったのかな。あこがあんなこと……」

「それは、ちがうよ。……友希那さんが……本当にRoseliaを辞めるなら……いっか……わかってたことだと思う……」

「じゃあ……このままRoselia…なくなっちやうの……?」

 

 悲しそうな声を出しながらあこちゃんはスマホを取り出してある動画を開いて、見せてきた。

 

「それは……?あこちゃん……この動画……わたしも……いる………新しいの、撮ってたんだ……」

「うん……。あこ、あの日はカッとなって、飛び出しちやったけど、また、こうやって集まりたい。だから、なにかしなきゃ! そーだよね?でも、こうやってまた集まったら、なんか…前みたいに、バラバラになっちゃうかもって…………なんか……わかんないけど、こわい……」

「そうなるかも……しれない」

「えっ……そ、そんな……」

「でも。わたしは……わたしを変えてくれたこの人たちと、もっと……、もっと、もっと、音楽がしたい!!」

 

 私自身が出来ることは少ないかもしれない。けど、やれる事があるなら……出来るなら全部やりたい!と思いながらその言葉を口にする。

 

「…りんりん……」

(りんりん……元々あこよりお姉さんだけど……なんか、前より……お姉さんっぼくなった)

「だから……わたしたちでも、できることを……一緒に……考えてほしい………」

「うん……うん! りんりん!わかった! あこもがんはるよ!!うーん……なんだろうな……何がいいんだろ」「う………うん……そうだね……」

「『言葉だけじゃ、伝わらないのかもしれないね』……たとえばたとえば……!……音で、伝える……!とか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つ」

(ダメ……こんなレベルじゃ……弾いても、弾いても苦しい……でも、私にはこれしかない……!)

 

 私は自室の中でずっとギターを弾いていた。けれどずっと上手くいかない。Roseliaで練習していたときのようには全くならなかった。

 

(例え……Roseliaがなくなっても……)

 

 Roseliaのことを考えた瞬間部屋の外から声が聞こえてきた。私の妹である日菜だ。

 

「あれ?やめちゃうの?」

「……日菜っ。勝手に入って来ないでって言ってるでしょ」

「入ってないよ、ほら。ドア空いてたから……ん~~~? あれ? なんだろ?」

「なんだろって、なに?ちゃんと喋りなさいっていつも……」

 

 日菜はいつも訳の分からない言葉を使ってくる。だから伝わないことも多々ある。

 

「ん~……なんかおね一ちゃんのギターの音、おねーちゃんっぽくなった気がする」

「?あなたの説明はいつもわかりにくいの」

「あ!! 教科書! 前は教科書だった!だけど今は、おねーちゃん! って聴こえる」

「なによ……それ。はやく出て行って。忙しいんだから」

「ん? ……うん」

(なんかおねーちゃん……ちょっと優しい?)

 

 日菜を追い払うと携帯にメールが届いた。

 

「?……宇田川さんから動画メール……?……!」

 

 それを見ると練習しているRoseliaの姿が映し出されていた。

 練習中………私……いつからこんな風に笑って……

 

「Roseliaがなくなったら……私は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リサー? なにぼ一っとして。ネ・イ・ル!いこーよ!」

 

 

 クラスメイトからの誘いを受けてネイルに行こうとするアタシに一通のメールが届いた。

 

「アタシは……?あこから動画?……… !」

「リサー?」

「……ごめん。やっぱりアタシ、ネイルは出来ないや~こんなでもさ、バンドに真剣なんだ♪」

 

 メールを受け取ったアタシはすぐさま行き先を変えて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕飯の買い物をしているとあこちゃんからメールが届いた。どうやらRoseliaの練習風景らしい。それを見て改めて思い出す。こんなに良い顔をしているのにこのままで良いのかと。はっきりと確信し、決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あこからメールが来て、それを確認した後に電話がかかってきた。

 

「……あ……もしもし……。はい。……わかってます……。決めました。……はい……お願いします」




それぞれが動き出したRoselia。その先に何があるのか。
次回 「Roselia」
お楽しみに


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第十七話 Roselia

遅くなりました。申し訳ございません。とりあえず最新話です、どうぞ!


 その日、全員にお嬢様からメールが届いた。

 『私の正直な気持ちを伝えたいので、みんなに集まってほしい』と。

 一体何を決意したのか、全員がそれを気になっていた。指定された日時が来るのが待ち遠しかった。当日、全員がcircleに集まった。

 

「揃ったかしら。まず……この前は、悪かったわ。1バンドメンバーとして、不適切な態度だった」

「それは、どういう意味の謝罪ですか?」

「自分の気持ちを、自分で理解しきれていなかった。あなた達との関係性を認識しきれていなかった。そのことに対しての、謝罪よ」

「う~?? えっと……つまり?」

「スカウトは断ったわ」

「「「「ーー!! 」」」」

 

 その言葉を聞いた瞬間、全員が驚きの顔を隠せなかった。無理もないだろう。しばらくの間全員がそれで悩んでいたのだから。その言葉を聞いた紗夜さんからは追撃の声が聞こえた。

 

「……そうだったとしても、私達を『バンドメンバー』ではなく『コンテスト要員』として集めた事実は変わりないのよね?」

「紗夜、なにもそんな言い方!」

「……やめてリサ。確かにそうだったんだから、私は、責められて当然だと思ってる」

「だ、だったらアタシにも責任があるよ!アタシは……ずっとそんな友希那をただ……見てるだけだったんだ ら……!」

「え……リサ姉………スカウトのこと……知ってたの?」

「今回のスカウトのことは、私と新一しか知らない。リサに非はないわ。リサ、少し黙っていて」

「黙ってられないよ。ううん、これからはもう、黙らない!アタシは友希那にRoseliaを続けてほしいと思ってる。それなのに、今回のスカウトのことに関しても、何もできなかったから………」

 

 リサが珍しく落ち込んだ顔をしている。普段なら慰めの言葉を出しているだろう。だがしかし……なんて声をかけたら良いのだろうか。そもそも僕自体が入ることではないと思っている。だから、うまく言葉に出せないし、口を出すこともできない。

 

「…湊さんの意思がわからないわ」

「紗夜の言うとおり、私はFUTURE WORLDFES.に出場するためすべてはそれだけの為に、音楽をやってきたわ……FUTURE WORLD FES.は確かに頂点。私はそれを目指していた」

「……でも湊さん、すべてが『フェス出場』の為だと言うなら失礼だけどあなたには……『フェスに出て』それからどうするのか。その先のビジョンが、何もないということになる」

「えっ……じゃあ…それって……」

「そう。私達は、使い捨て。そういうことよ」

「紗夜さん、それは………っ」

 

 口を出すべきではないと思っていてもそれだけは違うと否定したかった。だけど睨まれてしまい、言葉を出せなくなる。きっとあの事を気にしているのだろう。外から内側への声なんて、腹が立つこと以外何もないと知っていながらやってしまったことを今更ながら僕は後悔している。戸惑いを隠そうとするとお嬢様が声を上げた。

 

「それは違うわ!」

「メンバーを探していたときは……そうだった!でも……っ、紗夜を見つけて……みんなが集まって……いつのまにか、私……お父さんのことより………」

「『お父さん』?」

「友希那……」

「本当の私はただ、私情のために音楽を利用してきた人間よ」

「……『私情』 」

「……少し、長い話になるわ。昔一人のバンドマンがいたの……」

 

 それからしばらくお嬢様の話が続いた。一人のバンドマン。その男はバンドを組んで自分達の実力を磨いていた。あるときスポンサーにスカウトされ、商品として扱われた。男達のバンドは目指していたフェスに出られるチャンスを貰った。しかし、自分達のやりたいようにやらせて貰えるわけではなかった。以来、その男達は解散し、そのバンドマンは音楽界から消えたらしい。

 

「そのバンド……雑誌で見たことがあるわ。インディーズ時代のものは特に名盤だって……湊さんのお父さんが……そうだったの……」

「私はRoseliaを立ち上げ、私情を隠し、『自分達の音楽を極める』と偽って、自分のためだけに、あなた達をだました…この前は、上手く言葉にできなかったけど、私には責任がある-一私は、Roseliaから、抜けるべきだと思う。私と違って、あなた達の信念は本物だから」

「ちょっと、待…… 」

「あ、あこだって……!」

「でもっ!!!でも私は……こんなに自分勝手で、理想も信念も元を正せばただの『私情』だけど……」

 

 『私情』という単語を出した瞬間お嬢様は言葉を飲み込んだ。そのあとすぐに自分の思いを打ち明けた。

 

「っこの五人で音楽がしたい……! この五人じゃなきゃだめなの!! 私はRoseliaを続けたいっ!でも……みんなの意見は、わからない……」

「……こんなことをしておいて、都合か良すぎるのもわかってる」

「……あなたが私に言ったのよ。……私情は、持ち込まないって」

 

 紗夜さんはとても困った顔をしていた。

 

「でも……あなたの気持ちも……わかるわ。音楽を続ける動機はともかく、始める動機なんて、みんな……私的なもの」

「なん、そ、そーだよっ!あこだって、おねーちゃんみたいになりたかったからだもん!友希那さんの!『お父さん』と、全然一緒だよっ!」

「わたしも……どこかで …………こんな自分を変えたいって……」

「アタシは友希那と………って、言うまでもないか♪」

「抱えているものは、それぞれにあっていい。どうしても手放せないから、抱えているんでしよう。だったらそのまま、進むしかない……そうじゃない?」

「……紗夜……」

 

 お嬢様以外、全員が思いを打ち明けた。みんながみんな、Roseliaを続けたいと。この五人で音を奏でたいと。僕は自分の中で安心していると紗夜さんのほうから意外な言葉がやって来た。

 

「名護さんはどうですか?」

「……え?僕?」

「貴方は一応、湊さんの執事なんでしょう?貴方はどうなんですか?」

「えーと……僕自体はあまり役に立ちませんけど……もし皆がRoseliaを続けるのなら、僕は全力で応援させて頂きます」

「そうですか。分かりました。私達の答は決まったような物ですね。それに、私もまだ、この五人で音楽をしたい」

「__!」

 

 紗夜さんの言葉に全員が驚いた。さっきまで反対のような言葉を並べていたのに急に本心を打ち明けたことに驚きを隠せない。

 

「ん? これはもしや……」

「Roselia、再結成フラグ!?」

「解散してない」

「……!」

「……ふふ(はは)」

「Roseliaとして、FUTURE WORLD FES.のコンテストにエントリ一する。みんな、それでいいかしら」

「はい!!」

「……紗夜、みんな……」

 

 お嬢様は笑みを浮かべて「ありがとう」と良いながら練習の準備を始めた。他の皆も準備を始めた。………安心した。ちゃんと皆が戻ってきてくれて。これで僕も安心して仕事が出来る。

 

 

 




次回、第一章最終回です!やっと終わるんだね、第一章。
次回「Re;birth day」
お楽しみに!


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第十八話 Re;birthday

大変お待たせしました。今日で今年最後の投稿になり、第一章最終回です。それではどうぞ


あれから再び毎日練習を重ね、フェスの予選の日がやってきた。朝早くから会場の準備に取りかかっていた。楽器のセット、使う照明のセット、全ての準備が終わり、楽屋にて本番への準備を始めていた。皆がそれぞれの準備をしているとき、不意に寒気が体を覆った。その正体不明の寒気は僕を動かす鍵となった。扉付近に立っていたのですぐに扉に着くことが出来た。

 

「新一ー、なにしてるのー?」

 

ドアノブに手を掛けた瞬間だった。リサが僕の肩を掴んで話しかけてきた。

 

「いや、ちょっと外の空気を吸いに行こうかなーって」

「何を言ってるんですか?あと二十分で本番ですよ。今回、照明などを担当したのは名護さんじゃないですか。本番前に最終確認しなくていいんですか?あと少しなんですから、待機してて下さい」

 

適当な言い訳を作ると紗夜さんに論破された。確かに言っているとおりだ。機材担当が本番前に抜け出すわけにはいかない。だが、寒気は徐々に悪寒に変わっていた。だから確かめなきゃいけない。ここは無理を通してでも行くべきだろう。

 

「ごめんなさい、すぐ戻りますから!」

「ちょ、新一!?」

「え、新一さん!?」

「……新…君……」

「もう、何やってるんですか!」

 

扉を閉めようとすると声が聞こえてきたが受け流す形で扉を閉めた。正直言って心が痛い。でも仕方ない。あとで謝るとして悪寒のする方へ向かおう。

会場の外に出てみるとファンガイアが暴れていた。その姿をよく見てみるといつかの夜、自分が圧倒されたファンガイアだった。歩いてそいつの方へ向かった。奴が気付くとすぐにこちらを向いた。

 

「よぉ、白騎士のガキじゃねえか」

「久しぶりだね、ヒトデのファンガイア」

「そうだな、またやられに来たのか?頭の悪い奴だなぁ」

「いいや、違うね。今回は………お前を倒しに来た!」

 

威勢をあげてベルトを巻き付け、掌にイクサナックルをぶつける。

 

『レ・デ・ィ』

「変身!」

『フィ・ス・ト・オ・ン』

「いいぜ、また同じ目に遭わせてやるよ!」

「その命……神に返しなさい!」

 

それからファンガイアとの戦闘が始まった。街の地塀物を容赦なく破壊するファンガイアに走って倒しにいく。鈍器の様な腕を振り回すファンガイアを剣で振り払い、距離を詰める。近距離に入ったところでイクサカリバーを斬りつけた。鈍器が振り下ろされようとしたがもう片方の腕でそれを止め、連撃を続ける。突如ファンガイアがもう片方の鈍器でイクサカリバーを止めた。もう片方の腕もいつの間にか逆の立場になっていて、逃げることが出来なくなっていた。その状況に驚いているとファンガイアは胸部に光を集中させ、それをぶつけてきた。その衝撃によって軽く飛び、地面を転がった。急いで体勢を立て直すとファンガイアが話しかけてきた。

 

「前より強くなったように思えたが……ただの勘違いか」

「さて、強さは分からないけど……今の僕は前とは一つ違う」

「へぇ、まぁ何が違うかは知らねぇけどここで死んで貰うぜ!」

 

(ここからは『イクサ変身』を聞きながら読むのをおすすめします)

 

そう言ってファンガイアは腕を振り回しながらこっちに向かってきた。走って勢いをつけてくる。次の一撃で終わらせるつもりだろう。僕は驚いた。この時僕は、一切焦らずに落ち着いていた(・・・・・・・)。いつもなら急いで対策を考えただろう。だけど、今回は違う。落ち着いて相手の動きを見ている。その見た情報を基にとった行動は居合いの構えだった。相手はあと十数歩で零距離に達する。そのタイミングを見計らって剣を振ることにする。それからタイミングを取り始める。

あと十、呼吸を整える。

九、相手が近づいてくるのを感じる。

八、柄を強握りしめる。

七、雄叫びを上げながら近づいてくる。

六、意識を研ぎ澄ませる。

五、四、三、何も考えずにただ待つ。

二、深呼吸をする。

一、ファンガイアは腕を振り上げる。

……零、振り下ろされる腕を構えていた剣で受け流し、上から剣を振り下ろす。振り下ろされた剣はファンガイアにあたり、ファンガイアはバラバラに砕け散った。そして硝子の雨が降ってくる。このファンガイアを倒すこの一瞬がもの凄く長く感じた。実際にはそんなに時間は立ってないだろう。けれども奴を倒すまでは凄く長い時間の中にいた気がする。……とにかく、勝つことが出来た。あの強敵に勝てたことが嬉しい………が、やらなければいけないことを思いだし、急いで会場内に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「友希那……」

(ステージ慣れしてるから?いや……FUTURE WORLD FES,に一番思い入れがあるのは、友希那のはずなのに……)

「なに。まじまじ見て」

「いやぁ……なんか、さ。スッキリした顔、してるな一って」

「……そうね。なにも隠さないでいいって、こんな気持ちなのね」

(よかった……。アタシのしたことは、きっと間違ってなかったんだ……)

「リサ………ありがとう」

「そうだねっ☆……って、えっ。……え!?」

「時間、戻るわよ」

「ちょっと……、待って、今……!」

(ダメだって……!よりにもよって今、友希那にそんなこと言われたら余計……っ)

 

戻ってくるとリサの顔が凄く動揺していた。何があったのだろうか。本番に支障がなければいいのだが。戻ってきたことを紗夜さんに報告すると怒られてしまった。仕方ない、なにせ本番五分前に戻ってきたのだから。次は気を付けると言い、許しを得ることが出来た。

 

「5分前よ」

「問題ないわ。いつでも行ける。一一……リサ?」

「ヘ、あえっ!?う、うんっ!だ、だだ大丈夫だよ~! ははは!」

「リサ……」

「リサ姉……前から思ってたけど、緊張……」

「し……ってないよ一っ。しってませーーーんっ!!」

 

リサの誤魔化しによってその場にいたRoselia全員が静まりかえってしまった。

 

「Roseliaさん、お願いします」

「「「「「はい!」」」」」

 

全員が返事をし、移動している中、一人だけ俯いている人がいた。

 

(アタシは経験も、練習室で、圧倒的に足りない……もし、アタシが足手まといになったら、みんなの今までの努力が……)

「ちょっと今井さん。そうやってうつむいてたら、他の人に楽器かあたって迷惑よ……ちゃんと前を向いて」

「前、を……」

(そうだ。ちゃんとこのステージに向き合わないと)

「紗夜、ありが……」

「よしっ! Roselia,行くぞーっ!」

「おーっ!ほら、みんなでやろーよ!」

「「「お一っ」」」

「「やめて、そういうの」」

 

僕が声をかけるよりも先に紗夜さんが声をかけた。もしかしたら彼女にとっての事実を伝えただけなのかもしれないけど、おそらくリサに影響を与えたのだろう。さっきよりリサの表情が明るくなっていた。そして皆が意気投合してる中、相変わらずお嬢様と紗夜さんは冷たかった。

(ここからは『Re;birthday』を聞きながら読むのをおすすめします)

Roseliaの番になり、曲が始まった。それぞれがそれぞれのやるべきことを忠実に行ってく。けれど、それはいつもと違った。

 

(なにかしら……この………私……こんなに穏やかな気持ちになったこと……今まで……)

(……なにも考えられなくなっていく……ただ、歌うことが……)

(た、楽しい……!!ウソみたい! アタシ、あんなに緊張してたのに!……このバンド……)

(やっぱ……そうだよ! Roseliaはもっと、もっともっと、カッコイイあこにしてくれる魔法をもってる……!!)

(……歓声も……ライトも……気にならない……わたし……Roseliaでいるときは、すこしだけ……強くなれるみたい……)

 

皆が皆、ステージの上で楽しそうに演奏していた。それは練習の時よりも笑顔で嬉しそうだった。皆がどんな気持ちなのか僕には分からない。だけど、凄く楽しそうに演奏しているのだけは分かった。その皆の姿を見て僕はとても安心した。

 

「「……」」

「ちょっとも一二人とも~……相変わらずクールだな一一っ」

「冷めてたらこんなところに来ません」

「そうよ」

「そうですよっ! 紗夜さんも友希那さんも、Wハンバーグ&エビフライ&チキンソテーのプレート、ご飯大盛りデザート付きでいいですかっ? 」

「「……」」

「よしっ! じゃあ六人ともそれでっ!燐子よろっ♪」

「はい……スーパーやけ食いセット……六人前……ですね……」

「え、僕まだ何も言ってないけど」

「えっ、良いよ燐子、そのまま頼んじゃって!」

「……はい…」

 

レストランに来ている今、周りの人間からすれば結果は良い方に予想できるだろう。しかし現実は違った。優勝どころか入賞することも出来なかった。ステージの上で結果を聞いたRoseliaは驚愕していた。観客も相当驚いていた。Roseliaは今回の有力候補にも関わらず入賞出来なかったからだ。僕も裏で驚いていた。何故あの実力で受かることか出来ないのかが理解できなかった。その後の公表の話しによると意外な事実があった。演奏はとても良く、結成して短い期間でよくここまで出来たと言う。では何故出来なかった。そこには審査員の意図があった。Roseliaには「入賞」ではなく「優勝」で勝ち上がって欲しいという意図が。そして次に期待するという言葉を残して審査員は帰って行った。予想外の出来事に全員が驚いた。そして反省会を行うということで現在、レストランにいるという形にある。

 

「落選したけど、すっごく褒めて貰えてたしアタシはそんなに悪くないんじやないかって……」

「お待たせしました~!Wハンバーグ&エビフライ&チキンソテーのプレート、ご飯大盛りデザートのセットです~」

「……これって栄養大丈夫なのかな?」

「私は認めないわ……むぐ」

「そうよ。このジャンルを育てていきたいのなら、私たちを優勝させて、もっと大きな活動を……もぐ」

(でも……)

 

お嬢様達はコンテストの結果に不服そうな顔をしながらスーパーやけ食いセットを口にしていた。あまりにも普通に食べていたので考えることを辞めて僕も食べることにした。食べてみると意外と美味しい。ただカロリーがヤバそうだ。

 

「むぐ……たしかにすっごい悔しいけど、でもっ、それかどうでもよくなるくらい、あこ……、楽しかった!!」

「あー……ちよっと、わかっちゃう……なあ……」

「わたしも……今まででいちばん……」

 

皆やけ食いセットを食べながらライブの感想を話し始める。結果は悪かったものの三人は不満ではないそうだ。

 

「!あ、あなた達っ、なんの為に練習してきたと思ってるのよ……」

「そうよ。Roseliaは自分達の音楽を極めるために……」(私……今まであんなに、お父さんの為にって、思ってたのに……歌っている間、何も考えてなかった……)

「私は……どんなに認められても、父親の立てなかったステージで歌うまでは自分で自分を認められない」

「友希那……」

(ただ……、夢中で、日菜に負けないという一心でやっていた筈なのに、私……)

「そうね……私……あの、なにか私に用ですか?」

「あ、あのっ、もしかしてPastel*Palettesの日菜ちゃんのお姉さんですか?すごい似てるなーと思って……!」

「はい、そうですが」

「きゃーやっぱお姉ちゃんいるってほんとだったんだ。すごーい。あっ、ありがとうございましたっ」

(私は、湊さんと同じ……日菜の存在から、逃げることはできない……)

(友希那がお父さんのことを笑って話せるようになるまで、アタシは……)

 

紗夜さんがパスパレのファンに対応しているとリサが少し険しい顔をしていた。ライブの前もそうだったが何か悩み事でもあるのだろうか。

 

「でも、皆さん練習の時よりも楽しそうに演奏していましたよ」

「それはっ………」

「わたしも……やっぱり……このみんなで、FUTURE WORLD FES.に出たいです。……それを目指してきた今までが……とても、楽しかったから」

 

紗夜さんが答えに戸惑っているとりんりんが声を出してきた。賛同するように他の二人も意見を出していく。

 

「燐子アタシも……! アタシもまだ、もっとこのバンドをやりたい! だって……楽しかったから!」

(友希那に……そして、紗夜にも、もっともっと、楽しいって思ってもらいたい……から)

「あこ、あこも! なんか今日っ、紗夜さんに言われた『あこだけのカッコイイ』、ちょっとだけ掴めた気がして……そしたら優勝できるんじゃないかって……!」

「思うところは……皆様々だけど……来年もコンテストに出る。そして優勝する。その気持ちは、同じようね」

「……っ……ヘヘっ。じゃあこれからも、みんなでRoselia頑張ろうねっ!なんかあったら、こうやって、ファミレスに来たりさっ!」

「「しないわよ……!」」

 

意気投合しようとリサが声を出すとお嬢様と紗夜さんが同時に断った。そのタイミングに二人とも驚いていた。正直に言うとこっちがびっくりなのだが。

 

「たまには良いんじゃないですか?今日みたいに反省会的なあれでも……」

「二度とこんなところに来ないように、もっともっと、これから練習するのよ。無駄に出来る時間はないわ。そろそろ帰りましょう」

「「え一一もうちょっと一一」」

「Roseliaに馴れ合いは要らない。友達ごっこがしたい人は、今すぐ抜けてもらうわよ」

 

お嬢様はその言葉を言い、笑顔で席から離れてった。

 

 

 

 

 

 




コンテストが終わり、少しだけ日常が戻ってきた。やることはコンテスト前と変わらないけどそれでも平和に戻る。そのはずだった……ある日、僕が見たのは白いライダーと黒いライダーだった。


次は来年になります!是非楽しみにしててください!それでは良いお年を!



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第二章 memory of LOUDER
第壱話 白い仮面と骸の面


新年あけましておめでとう御座います。今年もよろしくお願いします!
新年開始とともに新章開始です!どうぞ!


 コンテストの日から1週間以上経った。いつも通りの日々は変わらず、学校に行きバンドの練習を見届け、家では家事を行う。そしてファンガイアを倒す日々が続いていた。今日は練習がなく、一人でスーパーに買い物に来ていた。夕飯は何にするかお肉を眺めながら考えていると聞き覚えのある声に声をかけられた。

 

「やっほ〜新一ー♪」

「ん、リサ?」

「なにしてんの………って夕飯の買い出しか」

「うん、今日は何にしようかなって」

「うーん、なにで悩んでんの?」

「ハンバーグか生姜焼き……かな?」

「なるほど〜今日はお肉なんだ」

「うん」

 

 それからしばらく話していると夕食の話が発展して料理の話になった。難しいところに共感したりコツを共有しているといつの間にかタイムサービスの時間になろうとしていた。サービス品を確認すると、ちょうど切らしてるものがあったのですぐに向かうことにした。リサも向かおうとしていたが、流石に人が多かったため、リサの分も回収しにいくことにした。始まりの鐘が鳴った瞬間走り出した。今回の要である醤油と卵を回収しに向かう。人壁が出来そうであったがすり抜けるなどして回避していく。途中、極道のような人達が数名いたが、気にしないでおこう。回収が全部終わるとリサのところに戻った。

 

「おつかれ〜ありがとね、新一」

「ううん、これくらい大したことないよ。それにいつもの御礼ってことで」

「いやいや、こっちがお世話になってるのに」

 

それからお互い譲歩をしようとしたが、なにやってるんだろうとお互いに笑った。そして帰るためにレジに向かい、会計を終わらせて帰ろうとすると後ろの方から声が聞こえた。

 

「待ってくださーい!」

「ん?リサどうしたの?」

「え、アタシなにも言ってないけど」

「へ?」

 

 リサは全く持って関係なく、誰だと考えていると後ろの方から走ってくる音が聞こえた。次第に大きくなり振り返ると女の子が走ってきていた。どうやら全力疾走しているようで止めないとかわいそうだなと思い受け止める姿勢を取った。全力でぶつかってきた子を受け止め、姿勢を正すとその子の姿をしっかりと見ることができた。日本人にしては珍しい銀髪、水色の瞳。この二つの特徴から外国人という発想に至った。すると突然その子が話しかけてきた。

 

「お久しぶりです、シンさん!」

「…え?」

「新一、知り合いなの?」

「え、あーうん。どこであったっけ?」

「えっ、どっち?」

「覚えてないんですか?イギリスであったんですよ」

「あっ、もしかしてイヴちゃん?」

 

 記憶にある名前を出すと女の子がぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。

 

「そうです!イヴです!覚えてくれていて嬉しいです!」

「えーっと……二人はどういう関係?」

 

 聞かれた瞬間すぐに答えようとしたがここでいつもの感覚(・・・・・・)がやってきた。そんなに離れてない。近くにいるのがわかった。

 

「話したいのは山々なんだけど、今度にしない?」

「え、なんでですか?」

「そっか、イヴちゃんにはわからないよね…」

「何が……ですか?」

「まぁ、すぐわかるよ」

 

 そう言った瞬間近くの窓ガラスが割れた。割れた窓ガラスが落ちたところには黒い人のようなものがいた。ただそれはただ黒いだけでなく、何故か所々燃えていた(・・・・・)

 

「キャァァァァ!?!?」

「新一、アンタまさか」

「うん、いつもの流れになりそうだけど……ああいうのは初めて見たよ」

 

 燃えているそれは当たりを見回すとこちらを見てゆっくり近づいてきた。

 

「リサ、申し訳ないけどイヴちゃんとこの荷物お願いするね」

「う、うん。気をつけてね!」

「ありがとう。でも大丈夫、鬼ごっこは得意だからさ!」

 

 そう言ってファンガイアに石を投げてターゲットをこっちに集中させる。こっちに走り出した瞬間、こちらも全速力で逃げる。見た目からしてファンガイアではないことは明白だった。いつものステンドグラスの様な模様が無かったからだ。もっと言えばファンガイアが燃えているはずがないという直感的なものもある。じゃあ、あいつは一体なんなんだということになるが………。そう悩んでいるとリサたちの姿が完全に見えなくなったのでブレーキを踏んで止まった。すると追いかけてきた怪物も止まった。

 

「あのさ、一つ聞きたいんだけど………君誰?」

「……」

「意思疎通は無理なのかな………分かった。申し訳ないけど倒させてもらうよ!」

 

 意思疎通が無理だと判断した瞬間、ベルトを腰に巻きイクサナックルを掌に当てた。

 

『レ・デ・ィ』

「変身!」

『フ・ィ・ス・ト・オ・ン』

 

 ベルトにナックルを装填し、イクサに変身した。未知の敵でもあるため最初からバーストモードになる。イクサカリバーを取り出し、怪物に向かって行く。だがやることはいつもと変わらなかった。敵が変わろうとただ戦うだけ。強いていうならば相手が炎を吹き飛ばしてくることだけだろうか。しかしそれが厄介だった。途中から奴はそれしかやってこない。近づこうにも炎が邪魔で近づけないのだ。今は物陰にいるからなんとかなっているが、それも時間の問題である。どうにかチャンスが来ないかそう思った瞬間だった。

 

「⬜︎⬜︎⬜︎ーーーー!?」

 

 奴の動きが止まった。何があったのだろうか。やつの頭を見てみると一本のナイフが刺さっていた。そのナイフは一般のものとは違い、特注品のような形状をしていた。よくわからないが今が勝機だと思い、物陰から身を乗り出して近づいた。こっちに気づいた怪物は反撃するも身に合わず僕に斬られて爆散した。いつもならば砕け散る筈なのだが、爆発した場所を見ると中から人が出てきて倒れた。すぐに駆け寄ると意識はあり、ただ寝ているだけのようだった。安心してため息をつくとあるものが目に入った。下を見ると地面に赤い長物が落ちていた。よく見ると変わったメモリだった。形的にはUSBメモリの様なのだが、側面にアルファベットでMと書かれていた。よくわからないものなので調べようとするとチャリ、と金属を拾うような音がした。後ろを振り返るとそこには黒いマントを背負い、所々青くなっており、白い面に黄色い目をした()の姿があった。次から次へとわからないものが増えていく。その鎧はこっちに向かって話しかけてきた。

 

「そこのあんた、怪物退治おつかれ」

「え、あ、うん」

「よし、じゃあそのメモリを寄越せ。投げていいから」

「え……?」

「いいからこっちに投げ渡せ」

「えっ、うん」

 

 軽い返事をして鎧の方に投げるとその鎧はそのメモリを拳で破壊した。何故破壊したかわからずただ立っているとまた声をかけられる。

 

「ご協力感謝。で、あんたナニもんだ?」

「え、それはこっちのセリフなんだけど。そっちこそ何者?」

「んなもん見れば分かるだろ。仮面ライダー(・・・・・・)だよ」

「………えっと、つまり同業者?」

「ってことはアンタも同じってことか。ん?ちょっと待ってろ」

 

 彼は急に耳元に手を当てて独り言のように話し始めた。誰かと通信しているのだろうか。となると組織的なものの一員だろうか。想像を膨らましていると彼が近づいてきた。

 

「残念ながら今日はここまでだ」

「ちょっと、どこ行くのさ」

「なーに、心配しなくて良いさ。どうせまたすぐに会える。こんな戦場でな」

 

 その言葉を残して彼は消えた。一体どこの誰だったのだろう。とりあえず変身を解除しようとするとリサとイヴちゃんの声が聞こえてきたので急いで物陰に隠れる。それからはいつも通り誤魔化した。一通り終わらせた後に全員がそこで解散した。

その日の夜、完全に自由時間となった二十二時。リサからメールが届いた。内容は至って単純なのだが少しばかり遠慮しかけた。

 

『今から学校行くんだけどさ、一緒に行ってくれない?」

 

 この時間に学校という時点でおかしい気がする。しかしリサとてそこまで悪い子じゃないだろうと思い、理由を聞き出した。すると納得せざるを得ない文が返ってきた。

 

『教室に数学のノート置いてきちゃってさ。それの課題が明日提出なんだよね。一人で行くの怖いからお願いっ!!!』

 

 正直なことを言うと僕も幽霊とかいう類が苦手なのだが、この時間に一人で行かせるわけにもいかないので5分後に家の前で集合しようと返信し、支度をする。本当に何も起きなければいいのだが………。急いで事を済ませるために移動はバイクにしようとイクサリオンを準備する。その状態で待っているとリサが現れた。バイクを見た瞬間は驚かれたが、すぐに納得してくれてスムーズに移動できた。目的地である学校に着くと不自然なことに門が少し開いていた。それに奥の方を見ると生徒玄関の方も開いていた。この奇妙な状況がどうしても引っかかるが、嫌なことを想像する前にリサが早く行こうと急かしてきたので急ぎ足で学校に入っていく。教室前まで来るとあることに気づく。そういえば教室の鍵持ってない。

 

「ここまで来て鍵がないって状態だけどどうするの?」

「大丈夫大丈夫⭐︎確かここら辺が………ほら♪」

 

 ほらと言った瞬間教室の廊下側にある窓が一つ空いた。事情を聞くとどうやらこのクラスの窓の鍵が一つ壊れてるらしい。それで閉まらないようになってるらしく、忘れ物をした時はここから入れるらしい。唖然としながらついていくとリサは自分の席に向かって行った。その間待っているしかないので僕は窓側の席に座って待機していた。

 

「あったよ新一!」

「うん、ならよかったよ。さぁ、早めに撤退しよ」

「うん、そうし………」

「どうかしたのリサ?」

 

 リサがこちらを見ながら震えている。僕はさっきと何も変わってないはずなのに何故か僕の方を見ている。

 

「し、新一…う、う、」

「何?はっきり言わないとわからないよ!」

「う、うしろ!!」

「後ろ?」

 

 リサが指差した後ろを見てみると窓の外に通常ではあり得ない大きさの蝙蝠が羽を広げてぶら下がっていた。

 

「キャァァァァ!!!!!!」

「ゑーーーーー!?!?!?!?」

「⬜︎⬜︎⬜︎ーー!!」

 

 十分叫んだ僕とリサは教室から逃げ出した。二人揃って全速力だった。教室からそれなりに離れて後ろを振り向いてみると化け物が教室の中から出で来た。さっきまで外にいたはずなのに何故だ。とりあえず逃げようとすると目の前で止まっていたリサにぶつかってしまった。

 

「リ、リサ、こんな時に止まらないでよ!」

「ねぇ、新一。こういうのってなんて言うんだっけ…」

「何ふざけたことを…………」

 

 リサの指差す方向を見ると言葉が出て来なくった。指さす方向には髑髏が立っていた。帽子をかぶっているようだが間違いなく顔は骸骨だった。

 

「え、えーっとね、似たような状況だと『前門の虎黄門の狼』って言うんだよ⭐︎」

「へ、へ〜……」

「…………ごめん、ふざけてる場合じゃないのはよくわかってるけどこうでもしないとどうにかなりそうで」

「どっ、どうしよう新一。ももも、もう逃げられないよ!」

 

 リサが動揺しすぎておかしくなり始めているのがわかった。化け物相手ならイクサを使うべきなのだが、こんなところで正体を知られたくもなく、変身に戸惑う。するとコウモリの方が走って近づいて来た。もうダメだとナックルを出そうとすると目の前に火花が散った。化け物が悲鳴をあげてその場に転んだ。何事かとあたりを見回すとさっきの骸骨が銃をこちらに向けていた。おそらくそれで撃ったのだろう。一方化け物はすぐに立ち上がり骸骨に向かっていった。危ないと叫ぼうとした瞬間、骸骨は腰に巻いてあるベルトからスティック状のものを取り出して銃に挿し込んだ。その瞬間、銃を両手で構え始めた。

 

『スカル マキシマムドライブ』

「⬜︎⬜︎⬜︎!!!」

「大人しくしてろ、一瞬で終わらせてやる」

 

 刹那に聞こえた声は若い男の声だった。その言葉と同時に銃口が光り、一筋の光が化け物を貫いていた。貫かれた化け物は爆発し、その場に倒れ込んだ。しかしそこにいたのは化け物ではなく、人間だった。さっきまで化け物がいたはずなのにどうしてだろう。倒れている人物に話を聞こうとすると足元に何かがぶつかった。足のつま先を見てみるとさっき見たスティックと同じようなものが転がっていた。触ろうと手を近づけるとそれは割れてしまった。一体何なんだろうと思いはしたがとりあえずそこの人物に話を聞くことにした。

 

「あのー、生きてますよね?」

「う、うぅ……」

「大丈夫かな?」

「!リサちゃん!」

 

 突然声を出したかと思えばリサの名前を呼び始めた。驚いたリサは硬直して動けなかった。

 

「僕に会いにきてくれたんだね!?」

「何言ってんの、この人」

「酷いよ、せっかく入りやすいように門とか開けておいたのに」

「!貴方、よく見ると警備員の人ですよね?」

「そうだけど。あのね、僕は男に興味はないんだよ。ね、リサちゃん!」

 

 警備員は気持ち悪い手つきをしながらリサに近づいていく。それに対してリサは嫌がるように後退っていく。それを見た骸骨は止めようとしたが、僕がそれを止める。そして二人に対して悪魔のような一言を吹き込む。

 

「じゃあ好きにしてください。僕は後ろから見てますから」

「新一!?ちょ、助けてよ!」

「やった!これでリサちゃんとお話しできる!」

 

 そう言って離れるとすぐ警備員はリサとの距離を縮めた。時間がいると思ったのだが、意外と早くに掛かった(・・・・・・・・・・)。警備員が手を伸ばした瞬間、シャッター音が廊下に響き渡る。勿論、僕のスマホからの音だ。全員がスマホを顔の前で翳してるこっちを見る。そして僕は笑顔を作る。

 

「おめでとうございます。これで貴方はテレビに出れて一躍人気者…………貴方の人生終了ですね♪」

「な、なんで、どういうことだよ!何もしないんじゃなかったのかよ!?」

「誰もそんなこと言ってませんよ。それに本当ならさっき止めてもよかったんです」

「は?」

「でも、さっき止めても貴方はまた繰り返すでしょう。もしかしたらその時は僕がいないかもしれない、そうしたら彼女は確実に危ない。ならば答えは簡単です。今日という日に確実に貴方を絞めて差し上げます♪」

「そ、そんなことして良いと思ってるの!?今すぐにリサちゃんを襲うことだって」

「黙れ、口を開くな下衆が。それ以上喋ってみろ、この人の銃口が貴方に向けられるぞ」

 

 ようやく黙り込んで静かになったところで話を戻そうと咳払いをする。これからの結末は決まったようなものだが本人に確認しておこう。

 

「さぁ、貴方の選択肢は二つです。この写真をテレビに出して人気者になるか、二度とこの子に近づかないの二択です。選んでください♪」

「あ、あ、あの、今回だけ見逃すって選択は…」

 

 そのくだらない質問を聞かされた瞬間右手を上げた。すると彼はノリがいいのか銃を警備員に向けた。その瞬間、警備員の顔は青ざめて泣き叫びながら謝罪の言葉を述べ逃げていった。とりあえず一件落着といったところだろう。大丈夫かとリサの元に寄るとリサに半分涙を出しながら睨まれた。手は出されてない(出す寸前まではいったけど)ので許してくれと頼みながら校舎を後にした。外まで見送ってくれるのか骸骨の人もついてきた。聞きたい事はあったが、まぁ何か縁があればまた今度会えるだろうと思い聞かなかった。だが、その再会はすぐ側にあった。




新「いやぁ、もう夜の学校イベントは体験したくないよ」
お疲れ様でした。また今度行ってもらうかもしれませんのでその時はよろしくお願いします。
新「嫌ですよ、いくら作者でもそれは許され」
肉じゃが用意しとくから
新「……少しだけ考えさせてください」
(はっ、チョロw)それでは次回「転校生」お楽しみに!
新「あれ?軽くネタバレしてません?」


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第弐話 転校生

お久しぶりです。最新話です。


 翌日、いつも通り起きていつも通り学校に向かった。お嬢様と家を出るとリサと会い一緒に学校に行く。特に何も考えず、何もなく学校に着く。校門のあたりを見回すといつもの警備員がいなかった。後々聞く事になったがどうやら退職届を残してどこかに消えたらしい。無理もないだろう。あんなに怯えてたのだ。これ以上ここにいても苦しい思いをするだけだろう。まぁ、特に何もしてないとしか考えてないんだけど。教室に入って席に着くと一人の時間になる。因みに学校では放課後と必要時以外話しかけるなと言われている。そうすると学校では大体一人になるのだ。暇な時は一番端っこの席ゆえ窓の景色を見て時間が過ぎるのを待つ。………というのが日常だったのだがこれも束の間の休息だったらしい。朝の予鈴が鳴り、担任が教室に入ってきた。

 

「はーい、席についてー。今日は転校生が来てるからねー」

 

 『転校生』というワードを聞いて教室は騒ぎ出した。そうそうないイベントが訪れたのだ。必然的だろう。転校生、か………特に考えた事なかったが少しだけ興味があった。だけどすぐに女子だろうという推測が立ち通常スタイルに戻る。

 

「はいはい、静かに。ほんとは二人いるんだけど、今日は片方休みだから一人だけね。じゃあ入ってきてー」

 

 ドアを開けて入ってきたのは男だった。入ってきた男は紫のような髪色をしており、橙色の瞳をしていた。意外なことから教室が静まり返ったが、すぐにイケメンだのなんだのとヒソヒソと声が聞こえてきた。

 

「それじゃ自己紹介してね」

「はい、初めまして。鳴海 京(なるみ けい)です。特にいう事考えてなかったんで聞きたいことがある人は後で来てくれって感じです!よろしくお願いします」

「はーい、ありがとう。てか、考えといてって言ったのに考えてこなかったの?」

「いやぁ、ついつい忘れて」

 

 申し訳ないって感じの仕草をすると教室中に歓声が湧き上がった。だけど、何故かその声に聞き覚えがあったが、気のせいという事にした。席は僕の隣らしく指示されるとスタスタと歩いてきたがあと数歩で止まった。見ているのがバレたかと思ったが実際はそうではなく、数個前の席の子をじっと見て声を発した。

 

「お前、もしかして大和麻弥か?」

「えっ、じゃあ本当に京さんなんですか?」

「おー、久しぶりだな。まさか、ここに通ってたとは」

「いやぁ、自分もビックリっす。こんなところで京さんに会えるなんて」

「二人は知り合いなのー?」

「あぁ、ちょっとな」

「へー、あとで話聞かせてよ!」

「俺は構わないけど」

「自分もいいですよ。久しぶりに京さんと話したいですし」

 

 なんか怪しいなどという声をちらほら聞こえたが二人は気にせずその場で別れて鳴海くんがこっちに来た。目の目に来たところでこっちを見るなりニヤリと笑った。なんの意思なのか分からずにいると隣から一瞬だけ殺意を感じた。隣を見た瞬間一枚の紙切れが飛んできた。顔面寸前で止めることが出来たが失敗したら痛かっただろう。その紙切れをよく見てみるとそれはトランプだった。絵の方を見ると数字と記号は書いておらず、代わりに『昼休みに話をしようぜ』とだけ書いてあった。確認のために目線だけ隣を見ると顔つきは変わらず笑っていた。なんの意図があるのだろうか。とりあえず昼休みまでは何もしないでおく事にした。授業中、休み時間、特に何もなく進んでいき、約束の昼休みになった。担当の教師が教室を出た瞬間、クラスの大半の女子が隣の席に集まってきた。驚いた、来たばっかりなのにもうこんなに友達が出来たのだろうか。正直に言って羨ま、いや、なんでもない。彼がどう動くのか見ているとすぐに行動に出た。

 

「ねー鳴海君ー!」

「ああ、すまんすまん。今日は先約が入っててな」

「えー、誰と食べるの?」

「ん、答えならすぐそこにいるぜ。なぁ?」

 

 真っ直ぐ見下ろしてくる。周りに感づかれると気まずいので笑顔で対応する。

 

「うん、皆さんごめんなさい。明日は絶対この人をフリーにしますので今日はお貸しください」

「うーん、名護君ならいっかー」

「そうだねーって早くしないと購買ヤバくない!?」

「ヤバっ、みんな行こ!」

 

 最後の声と同時に近くにいた女子は全員消えていった。皆お弁当作れば良いのに………。そして改めて鳴海君の方を向くと上に行こうぜと言って歩いて行った。その後ろをついていくように僕も進んだ。そして階段を登り、屋上へ行くとベンチに座った。鳴海君はサンドイッチを食べ始めた。雰囲気に合わせて持ってきたお弁当を開いて食べようとすると鳴海君が話しかけてきた。

 

「そろそろ話したらどうだ?」

「………なんのことかな?君とは初対面のはずだけど」

「ん〜、俺からすれば初対面じゃねぇぞ。まぁ、顔隠してたから分からなくて当然だけど」

 

 突然理解しづらいことを言ってくる。何を試しているのだろうか。

 

「どういう事かな?ハッキリしてもらわないと困るんだけど」

「んじゃあもっとわかりやすくするか!」

 

 そう言って鳴海君は立ち上がり、数歩歩いたところでこちらを向き制服の内ポケに手を入れた。そこから取り出したのは変わった形のバックル(・・・・・・・・・・)だった。彼はすぐさまそれを腰に付けるとベルトが巻かれ、固定された。制服の内ポケットから黒いスティック状の物を取り出しボタンを押した。

 

『スカル!』

「変身」

 

 音が鳴った瞬間、声を出し、スティックをバックルに挿し、姿を変えた。その姿は先日見た髑髏の面と同じだった。黒い体に首に巻いてある白いスカーフ。さらに何処から取り出したのか白い帽子を被っていた。

 

「さ、これで分かりやすくなっただろ?」

「どうして………君がその姿を?」

「何、答えは単純さ。それは俺が『鳴海京』で『仮面ライダースカル』だからだ」

「仮面ライダー………」

 

 その単語は最近耳にした(もとい口にした)単語だった。まさかこんなにも近くに同業者がいたとは思いもしなかった。

 

「で、お前もライダーなんだろ?」

「………え?」

 

 突然鎌をかけてくる。どうしてわかった?今までそんな事は話してないはずなのに何故?

 

「お前、表情隠すの上手いな」

「えっ」

「あーいや、仮に本当だったとしたらポーカーフェイスが上手いなって話。それで、本当はどうなんだ?」

 

 同業者なら隠したところで良いことも無いだろう。むしろ話しといた方が良いのかもしれない。戦闘の時連携が取りやすくなるかもしれない。

 

「うん…僕もライダーだよ。でもこれは内密にして欲しい」

「え、どうしてだ?」

「それは………」

 

 それからこちらの事情を話すと鳴海君は納得してくれた。ついでにこちらの敵、ファンガイアについても話しておいた。すると向こう側もあちら側の敵について教えてくれた。昨日出てきた敵、総称してドーパントというらしい。元は人間であるけどミュージアムメモリといわれるメモリを体に挿すことでドーパントに変貌するらしい。変身する多数は復讐などの動機があるらしい。元に戻すにはドーパントを倒し、メモリを破壊しなければならないとのことだ。お互いの情報を交換し終わると鳴海君は突然笑い出した。

 

「しっかしお前、ライダーやりながら執事もやってんのかよ。忙しそうだなぁ」

「まぁね、正体隠さなきゃいけないし。でも鳴海君って凄いよね、僕を一瞬でライダーって見破っちゃうし」

「自慢じゃねぇけど、これでも探偵やってたからな」

「探偵?」

「ああ、ここに来る前探偵やっててな観察眼だけはあると思うぜ」

「なるほど、つまりこれから事件が頻繁に起きるようになると………」

「誰が死神だコラ。それに推理披露することはないだろうけどな」

「なんで?」

「尺的に?」

「それ以上言っちゃいけない」

 

 探偵………という事は言っていた通り目がいいという事だ。だから彼の武器は銃なのかもしれない。いつのまにか変身を解いていた鳴海君は肩を叩いてきた。

 

「まぁここまで話したんだ。これからよろしくな、えーっと…」

「名護新一、新一で良いよ。こちらこそよろしく」

「ああ、新一。俺は京でいいぜ」

「うん、わかったよ京k」

 

 最後の言葉を言い切る前に悲鳴が聞こえてきた。聞こえてきた方向、校門の方を見てみると黒いスーツの集団が駆け寄ってきた先生方を薙ぎ払っている。スーツ軍団の顔をよく見てみると顔には骨のようなものが付いていた。あれは一体どういう事だ?

 

「今あれ見てどういう事だってなってるだろ?」

「そこまで思考を読まれると流石に引くんだけど。それであれは?」

「マスカレード」

「…仮面舞踏会?」

「いや、まぁそうなんだけど、あれはマスカレードっていういわば一個小隊だ」

「軍人なの?」

「いや、どっかの金持ちの手下らしい。前に一人とっ捕まえて聞いたんだけどそれしか聞き出せなかった」

「でもなんでこんなこと……」

「簡単な話、実験体探しだ」

 

 実験体……何を言っているのだろうか。復讐などを考えている連中ではないということは分かった。けれども何故実験体探しなどしているのか。

 

「復讐などが多いとはいったが相手は組織だ。新しいものを作ったら実験体が必要となる。だからたまにこうやって拉致するようなことをしてんだ」

「………」

 

 ぎゅっと下唇を噛む。そんなことのために人の命を弄んでるのか。だとしたら絶対に許せない。顔に出てしまっていたのかこっちを見た京君が言った。

 

「なぁ、このままいるつもりか?」

「……?」

「俺らには力がある。だとしたら、やれることがあるんじゃねぇの?」

「…そうだね、この力、なんのためにあるのが改めて思い知らされたよ」

「先に言っておくが、あいつらは倒しても元に戻らない。マスカレードは一度刺したら死ぬか生き残るかだ」

「大丈夫、彼らを殺しても……人を殺した(・・・・・)ことにはならないよ」

 

 あんな下劣な奴らはもはや人ではない、そう決めつけている。だけど誰にも邪魔はさせない。それに人殺しなら慣れている(・・・・・)。もう二度と、あんな思いはごめんだ。

 

「じゃあついでだ、お前の力見せて貰うぜ」

「………いくよ」

 

 そこで京君は返事を軽くして僕と変身した。

 

『レ・デ・ィ』『スカル!』

「「変身」」

『フ・ィ・ス・ト・オ・ン』

 

 ライダーシステム(自分はセーブモードだが)を体に纏ったと同時に僕たちはフェンスを跳び越えて校庭に飛び降りた。地に足がついた瞬間体に衝撃が少しばかり走ったがそれを気にせずに殴り込みに行った。こちらに気付いたのかまとめてこっちに向かってきた。それに対して後ろから銃弾が飛んできた。後ろを見やるとそこには銃を構えた京君の姿が見えた。今回は後方支援なのだろう。援護に感謝しつつマスカレードを薙ぎ倒す。一人一人を伏せていく。個人個人の戦闘力は今まで戦ってきたファンガイア達より低いだろう。人が本当にただ強化された感じだ。全員を伏せさせたところでフェッスルを入れ、イクサナックルを引き出し、マスカレード達に向かってブロウクン・ファングを放った。一度に全員に当たったので纏めて消す事に成功した。マスカレード達は消え、そこには倒れている教師と自分達だけになった。教師に近づこうとすると走ってくる音が聞こえた。京くんだ。

 

「一気に片付いたな。それにしてもすごかったぞお前、意外とやるなぁ!」

「………」

「何で黙ってんだ?」

 

 答えるように親指で校舎の方を指す。すると納得したようにうなづいたてくれた。一度裏に引こうとするとまた走ってくる音が聞こえた。そっちの方を見ると水色の髪をした女の子が走ってきた。氷川日菜、この学校で天才と言われてる少女だ。テストで常に100点、運動神経も良し、おまけにアイドルをやっているとか………とにかくバレるわけにもいかないのでその場を頼んで急いで裏に逃げ込んだ。




急いで裏に隠れた新一
京に接触した日菜
一体どんな不思議な事が起きるのか
次回 「正体と歌と」
次回もRX!(すみませんRXはふざけました)


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第参話 正体と歌と

はっぴばーすでーとぅーみー
はっぴばーすでーとぅーみー
はっぴばーすでーdearみー
なんて、巫山戯たいんですよね、分かります。(ここまで一人芝居)
最新話です!どうぞ!


「ねぇねぇ君たちだれ?さっきのは何?」

「落ち着け落ち着け、その前にお前誰だ?」

「あたし?あたしは氷川日菜!君は?」

「そうか氷川っていうのか、俺の名は鳴海京。もう学校じゃ有名人だったりすんじゃないか?」

「もしかして転校生の!」

「そういうこと!じゃ、教室戻るか」

「あれー?さっきの人はー?」

「あぁ、しん…あいつなら用事があるからって帰ったぞ」

「えー、せっかくだからお話ししたかったのにー。るんっ♪ってしたのになー」

「る、るんっ♪?」

 

 隠れながら京君の方を見ると学年一の天才こと氷川日菜に捕まっていた。どうやら変身を解除して校舎に向かうらしい。氷川日菜特有の「るんっ♪」という言葉に対して、京君はまるで新出単語を見たかのような表情をしていた。二人が校舎に入って行ったのを見届けてから教室に戻ることにした。教室に戻ると京君の机には沢山の女子がいた。

 

「ねぇ鳴海くんさっきの何?」

「一体どうやったの?」

「もう一人の人はー?」

「待て待て、順番にな」

 

 焦りながらもちゃんと対応している鳴海君を見て尊敬した。素晴らしい対応だと。しかし、休み時間だからか余計に騒がしくも聞こえた。すると外から担任がやってくる。

 

「鳴海君、さっきのあれは何!?職員室で話を聞かせなさい!」

「おおっと、ちょっと待ってくださいよ先生。どうせならみんなにも知ってもらえるようにここで話しますから」

「いいえ、先に先生方に説明してください!」

「あー、わかったわかった。職員室に行けばいいんすね?」

 

 そう言って京君たちは教室から出て行った。みんなが呆然としていて教室が静かになったところに予鈴が鳴り響いた。それから一時間が経ち、京君は教室に戻ってきた。とてつもなく疲れたような表情をしている。一体何があったのだろうか。こっそり聞いてみるとどうやら事情聴取されていたらしい。だが、校長はそのことを知っていたらしく、校内の教師に説明して納得して貰ったらしい。放課後になり、疲れたから帰ると言って京君は先に帰っていった。

 学校が終わったので本来の職務に戻る。校門の前でお嬢様を待ち、合流する。今日のスケジュールだとこのまま練習に入る。基本的に毎日こんな感じだ。そろそろ刺激が欲しいと思っていたがあんなことになるとは思わなかった。Circleに着くと既に紗夜さんたちは来ており、練習はすぐに始まった。練習風景を見るのも日常的光景だ。しかしこの光景も僕にとっては束の間の休息のようなものだった。独特の気配(・・)を感じ取る。練習している全員に悪いのでこっそりと部屋を抜け出して外に出ていく。

 Circleの外に出るとすぐに正体が分かった。ファンガイアだ。幸い今回は回りに誰もいないのでその場で変身して戦う。相手は馬の様な見た目をしたファンガイア。一度倒したことはあるが、どういうことだろう。同じファンガイアでもないだろう……種族とかそういう類なのだろうか。

 そんなことを考えながら戦っているともう一体敵が現れた。距離を取りつつ、体勢を立て直すとその姿がはっきり分かる。こちらも馬の様な見た目だが体にファンガイア特有の模様を持たない……おそらくだが今までの事から考えるとドーパントだろう。容赦なく襲いかかってくる。何故かは分からないが二体はお互いを攻撃せず、僕のみに襲いかかってくる。別に連携が取れているわけでもない。一体どういうことだ。戦況に混乱しつつ、戦いを続ける。だが圧倒的に圧されている。目の前のファンガイアは拳の連撃を続けてくる。目の前の防御に取られていたせいか、後ろから来るドーパントに気付くことが出来なかった。確実に取られる(・・・・)と思った瞬間、一本のナイフ(・・・)が飛んでくる。それを受けたドーパントはその場に転がり、攻撃することはなかった。

 

「□□□!!!」

「これは……まさか!」

 

 このナイフ、前に同じ様な形で見たことがある。そう思った瞬間、声は聞こえてきた。

 

「そのまさかだ!」

「君は……!」

「久しぶりだな、仮面ライダーイクサ」

 

 現れたのはやはりあの時のライダーだった。白い体に黒いマント、三日月のような色の目。そして腰には京君と同じ(・・・・・)ベルトを巻いていた。

 

「なっ、なんで僕の名前を!」

「そこは企業秘密って奴かな。そうだ、こっちも名乗っておくか。俺の名前は仮面ライダーエターナル。強いライダーだ」

「仮面ライダー…エターナル……」

「さてと、そろそろやっちゃいますか!」

「えっ、う、うん!」

 

 それぞれが専門とする敵と対峙する。さっきとは違い戦力が五分五分となったためこっちが有利となる。

 

「ここでキメる!」

『イ・ク・サ・ジ・ャ・ッ・ジ・メ・ン・ト』

「じゃあ便乗!!」

『ユニコーン・マキシマムドライブ』

 

 二人の必殺技を受けたファンガイアとドーパントは爆発し、倒された。

 

「ふー、終わった終わった」

「協力、ありがとう。良かったらこれからも一緒に戦ってくれないかな?」

「あー、そのことなんだけどよ」

「?」

 

 疑問の念を浮かべるとエターナルは僕の手を引っ張り、手錠をかけてきた。

 

「……え?」

「ちょっと、一緒に来て貰おうか」

「ちょ、ちょ、えええええぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「あ、安心しとけ、お前の情報はほぼ全て入手してある。だから、家にも連絡しといたぞ!」

「えぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 こうして僕の平和は、わけの分からない状況に陥った。

 

 

 

「お疲れさま~!いやー、今日の練習もがんばったね!特にラストに演った曲、今までで1番上手くできたんじゃない?」

「だよねっ、だよね!あこも上手く叩けたなって思ってたんだ~。ね、りんりん!」

「う、うん…あこちゃん……すごく、よかったよ……」

「えへへ~。りんりんのキーボードも、かっこよく決まってたよ!」

「あ、ありがとう…」

 

練習が終わり、リサとあこ、燐子が話し始める。確かに三人が言うとおり今までで一番出来たかもしれない。けどまだまだ目標にはほど遠い。

 

「うんうん!アタシ達、かなりいい感じにまとまってきてるよね♪」

「次のライブも決まってるし、この調子で……」

「この程度で満足されては困るわ。改善点は、まだまだあるんだから」

「そうね、紗夜の言う通りだわ」

「ちょっとちょっと、ふたりとも~ここはみんなの成長を称えあって、次のライブに向けてがんばろー!おー!!……っていう流れでしょ?」

 

 何を言っているの?そう言いかけた瞬間紗夜が口を挟んだ。

 

「何度も言ってるわよね?私達は遊びでバンドをやっているんじゃないって」

「そうだとしても、日々の成長を確認するのは大事ってこと!」

「あこもそう思う思います!」

「そう。それじゃあ、次のライブに向けてだけど」

「華麗にスルーされた……!?」

「時間を考えて、私達が演れる曲は3曲くらいね。何か演りたい曲はある?」

「はいは~い!あこは、そろそろ新曲がやりたいですっ!」

「新曲…………」

 

今までのライブでは同じ曲をずっとやってきた。確かにそろそろ新しい曲を作るべきなのだろう……。けれど本番までに時間が無い。

 

「ヘえ、いいんじゃない?最近はずっと同じ曲演ってたしね♪」

「ライブまであと2週間だってわかってるの?今から新曲を用意するなんて、無理があるわよ」

「でもでも、いっばいいっぱ~い練習すれば、ライブまでに間に合うと思いますっ!」

「たとえ新曲を用意できたとしてもそれから練習となると、かなり厳しいわね」

「中途半端なものは演奏できない。わかるわよね?」

「うー……でも……!」

「あ、あこちゃん……落ち着いて…………」

「そろそろ、スタジオを出る時間になるわね。新曲を演るかは置いといて、各自、明日の練習までにセットリストを考えてくること。いいわね?」

「「は~い」」

「は、はい……」

「わかりました」

 

 Circleを出て全員解散した。リサは同じ道だから一緒に来る。道中いろんな事を話されたが、あまり聞く気にはなれず聞き流していた。家の前で分かれ、自宅に入ることにした。ここでふと気付く。新一(あの人)は一体どこに行ったのだろう。全然気付かなかった。どこからいなくなってたのだろうか。……まぁ、いい。とにかく今は自分のことを優先する。

 

「……ふう。セットリスト、か……」

 

 ラストに盛り上がる曲を持ってくるなら、最初の曲は……あの曲かしら。押入れに前に演った曲のスコアがあるはず……どこにあったかしら。

 

「確かこのあたりに…………あら……?どうしてカセットテープがこんなところに……」

 

 この字は……もしかして、お父さんの?何かの拍子に、ここに紛れ込んだのかしら。確認のためにも、聴いてみよう。

 

「これは……!」

 

 激しいシャウト……なに……この心を揺さぶられる感覚は……!それに……この声、お父さん……?すごく楽しそうな歌声……この曲から音楽への純粋な情熱が伝わってくる……!

 

「……この曲、私も歌ってみたい……でも……」

 

今の私に、この歌を歌う資格があるのかしら……。

 

 

 

 

 




謎の男仮面ライダーエターナルに連れてかれた、もとい連行された新一。一体そこで何があるのか。
そしてその日の友希那の夕飯はどうなるのか!←ここ重要!
次回 「セットリスト」
次回もお楽しみに!


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第肆話 セットリスト

最近月1投稿になってることに気付きました。ちゃんと書いてるんですよ?ですがいつの間にか時間が経ってるんですよ………
あ、最新話です、どうぞ!


「いやぁ、すまねぇな急にこんなことして」

「……」

「さっきまであんなに気軽に話してくれたのに…」

 

 何を言ってるんだろうか。突然手錠なんかかけられてフランクに話せるはずがない。

 

「まぁ、仕方ないよなー。っと目的地に着いたぞ。てかいつまで変身したままなんだ?」

「…それはお互い様でしょ」

「それもそうだな、ここまできたらいいっすよね?」

 

 そう言って彼は変身を解除した。驚いた。そこに現れた姿は僕と同じくらいの青年だった。抵抗しても仕方ないのでこちらも変身を解除した。

 

「さぁ、解除したら武装はこっちへ。ああ、隠してるものも全部お願いします」

「なんで急に敬語?」

「いや実は顔見るまで忘れてたんスけど、実は俺の方が年下なんですわ」

「え!?何…だって………」

「とりあえず来てください、当主直々(・・・・)に話があるそうです」

「…!分かった………」

 

 そう言う彼に連れられ、僕達は場所を移した。目の前にある大きな家の中に入り、奥の部屋へと足を運んでいく。部屋の中に入ると明かりはついておらず、真っ暗な部屋だった。入ってきた扉が閉められた瞬間、目の前が少しばかり明るくなり、一つのシルエットが姿を見せた。

 

「客人に顔を見せない無礼を許してほしい。こう見えて人見知りでな」

 

 嘘だ。おそらくは警戒だろう。

 

「いいえ、こちらこそお招き頂きありがたく存じ上げます」

「本題に入ろう。貴様の名を申し上げて貰えるだろうか」

「………名護新一です」

「!貴様…やはり名護の御曹司か」

「そのことを知っているって事は、ここはそっち側(・・・・)の家って事で大丈夫ですか?」

「ああ、貴様の思惑は知らんがそういう事だろう」

 

 なるほど、だから彼が僕の年齢と顔を知っているわけだ。

 

「状況から察するに僕のことは調べてたんですよね?」

「ああ、申し訳ないが調べさせてもらった。隅々までな」

「………詳細まで知っているのは何人ですか?」

「私とそこにいる側近だけだ。名前等具体的な情報が出てきた時に極秘に変更させてもらった。だから知ってる奴はここにいる三人だけだ」

「………そこにいる少年は?」

「そいつは細心までは知らん。そういえばまだ紹介してなかったな、快斗」

「はっ、改めまして。大道 快斗(だいどう かいと)と申します。先程申し上げましたが、仮面ライダーエターナルとして戦わせて貰ってます」

「………」

「そろそろ時間か。申し訳ない、ゆっくり話したいのだが予定が入っていてな。単刀直入で言わせて貰う。我が弦巻家と協力(・・)してもらえないだろうか」

 

 つっ、弦巻家!?あの世界を動かすと言われている家と言ったのだろうか。だとしたら敵に回すのは非常にまずい。

 

「申し訳ございません。先程までのご無礼、許していただき存じ上げます」

「顔を上げろ、名護の御曹司。貴様は今はそういう立場ではない。それにこちらが頼む側なのだからな。勿論、タダでとは言わない」

「…具体的にはどのような物でございましょうか」

「月に彼奴らを倒した数だけ給料を与えよう。一体三万でどうだ」

「………私は、金で雇われているわけではございません。もしそういう目的でしたら私は関与致しません」

「待て、我々は安寧と平和のために戦っている。そこだけは勘違いするな。そうだな………ならばこうしよう、食の流通や日常必需品についての特売情報などを………」

「受けさせて頂きます」

「話が早い奴だ。協力する上で快斗とは互いを知っておくといいだろう。それでは失礼させていただく。あとは任せたぞ、快斗」

 

 そう言ってシルエットは消えていった。返事をすると共にその場所に被るように快斗と呼ばれた少年が立つ。

 

「さて、何はともあれこれでちゃんと仲間なんですね。よろしくお願いします、名護さん」

「新一でいいよ、大道君」

「じゃあこっちも快斗でイイっすよ、新一さん」

「それで、これからどうするの?」

「その前に時間大丈夫ですか?新一さん」

 

 時刻は五時半、タイムセールは終わってるだろう。

 

「失うものは失ったから大丈夫、七時までに家につければ」

「じゃあ帰りは送って行きます」

「大丈夫だよ、迷惑かけたくないし」

「いえ、もとよりそうしろって当主からの命令ですので」

「………そう、それで何するの?」

「今から手合わせ願います」

「………はい?」

「模擬戦です、今から訓練場行きますんで受け身取る準備しといてください」

「ちょっと待って、どういう事!?」

「3−2−1!よいしょっ!」

 

 よいしょと聞こえた瞬間重たい音と同時に床が開き、重力に従うがままに落下していった。とりあえず言われた通り受け身の準備だけをして落下していく。床に着いたとき、なんとか体勢を立て直したが心臓がもたなそうだ。

 

「さぁ、着きました。時間もないんで早く始めましょう。30分マッチでいいですか?」

「すごい、淡々としてるね」

「こっちはやりたくてさっきからうずうずしてるんですよ。それにいくら年上でも俺より弱ければ敬意を表せない」

「そっか、じゃあやろっか」

「あれ、意外とすんなり受け入れるんですね」

「うん…あんまりやりたくないんだけどね。あの方も言ってたでしょ互いを知っとけって。だからやらなきゃなって」

「じゃ、やりますか。ルールは簡単、相手を行動不能に追い詰めるか、タイムオーバー。勿論ギブアップなんてつまんない事しないでくださいね」

「うん。じゃ、始めようか」

 

「「変身」」

 

 変身した瞬間模擬戦が始まった。なるほど、ナイフを使ったスピード重視の戦闘を得意とするタイプか。ナイフの持ち替えで連撃、さらには距離の取り方も上手い。距離を取りつつ投げナイフを繰り出してくる。この動きだけで分かる。この子は相当慣れてる(・・・・)。この組織にいる事、それが最初から強さを示していたのかもしれない。だったらこちらもそれなりに示さなければならない。攻撃を捌き続けてきたが、それもこれまでにして反撃に移ろう。快斗君が距離を取る瞬間イクサカリバーをガンモードに変形させて撃ち落とす。彼はすぐさま体勢を立て直すがその間に接近する。剣を振り下ろし牽制していく。近接戦闘のせいか向こう側にも有利性はある。お互いの攻撃を捌きつつ攻撃を繰り出す。それを先に切り抜けたのは僕の方だった。ナイフを頭上に蹴り上げ、武器を奪う。快斗君の喉元に剣を向けてお互いの動きは止まった。

 

「チェックメイト、かな?」

「…っすね。参りました」

「少しだけ手抜いてなかった?」

「そんなことしてませんよ。今回はメモリを使わなかっただけです。使えばダメージが強いので明日とかに支障が出るかなって」

「そうだね、お互い同じことを考えていたみたいだね」

「ハハッ、みたいっすね。さて、時間もいい感じなんで帰りますか」

 

 軽く返事をして快斗君について行くことにした。部屋の隅にエレベーターがあり、それに入る。それから車に乗り、お嬢様の家まで送ってもらうことになった。車内にて互いの情報の交換を行なったが京君の時とさして変わらなかった。しばらくして家付近に停まり、車を降りることに。最後に連絡先だけ交換して快斗君とは車と一緒に解散した。家に入ると部屋は静まっており二階に上がる階段を前にした時、音が聞こえて来た。階段を上がり、音が聞こえる方へ歩いてみると大きく聞こえてきたのはお嬢様の部屋だった。その音が聞こえてきた物は古いカセットテープだった。歌っている声は聞いたことのある声。曲が終わった時、お嬢様はこちらに振り返り、いたのかと驚いた表情を取ると、すぐに食事の支度をしろと言った。

 

 翌日いつも通りの学校を終え、circleに向かい練習が始まった。しばらく練習が行われた後、ここ最近出されていたライブのセットリストの話になった。

 

「みんなが考えてきてくれたセットリストをまとめると……1、2曲目は満場一致で決まりって感じだね♪」

「ええ。賛成よ。3曲目は……このまま勢いにのっていくか、緩急をつけるべきか、考えどころね」

 

 3曲目のところで上げていく派と一度落ち着かせる派の意見が出て相談しあう。そんな中お嬢様は一人で考えている様子だった。

 

(ラストの曲は、昨日聴いたお父さんの曲を歌ってみたい。だけど……)

「............?」

(友希那さんの様子……おかしい気がする……どうしたんだろう……)

「……でさ、友希那はどう思う?」

「え?」

「え?って……聞いてなかったの~?ラストの曲だよ。友希那は何がいいと思う?」

「それは…………ちょっとみんなに聴いてほしい曲があるの」

 

 そういってお嬢様が鞄の中から取り出したのは昨日使っていたテープと小さいラジカセだった。

 

「へ?聴いてほしいって……」

「……!」

 

 その場にいたお嬢様と僕以外が驚いた表情を見せた。でもやっぱり聞いたことのある声だった。どうして思い出せない。なぜだろう。

 

「…………ごいすごい、すごいっ……すっご~い!カッコいい! 超カッコいいですっ!!ね、りんりん!」

「うっ、うん……すごく……すてきな曲……」

「あこ、この曲ライブで演奏してみたいっ!さっきの曲の感じもいいけど、こうやってババーンッ!って叩くの!お客さんも絶対ぜ~ったい、わーって盛り上がるよ!」

「うん……すごくいい……Bメロは……こんな感じとか……」

「あっ、それもいいね!じゃあ、あこはこうしてみようかなっ。サビは激しく叩くから、抑えめにして……それで、最後に一拍置いて……こうっ!!」

「あこちゃん……かっこいい…………」

「あはは、完全に気に入ったみたいだね。ま、アタシもこの曲好きだな~♪」

「確かにこの曲はかっこいいと思うけれど……この曲は一体、誰が歌っている曲なのかしら……?」

「それは……」

「ねえ友希那、この曲ってもしかして……」

 

 リサが質問を口にした瞬間、お嬢様は切り上げるように片付けを始めた。

 

「……いえ、やっぱりこの曲は今のレベルには見合わない」

「えっ……!?」

「ごめんなさい、余計なことに時間をとらせてしまったわね。今の曲のことは忘れて、セットリストを考え直しましょう」

「かっこいい曲だと思ったのになあ……」

 

 切り上げたお嬢様を見てリサは思い当たるところがあるような、そんな顔をしていた。





【挿絵表示】

↑快斗君のイメージ図です。良ければ見てください。
次回「遭遇するSとE/歌う資格」
とうとうあの二人が………!?


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第伍話 遭遇するSとE/歌う資格

今月2回目です、久しぶり。最新話どんどん書けるよう頑張ってます!
最新話どうぞ


 練習の帰り、いつも通り三人で歩いている。今日に至ってはずっと会話がない。暗い雰囲気ではあまり良くないだろうと話題を持ちかける。

 

「お嬢様、本日の夕飯はどのように致しましょうか?」

「……なんでもいいわ」

「でしたら、温かいものと冷たい物、どちらがいいですか?」

「………冷たい物」

「…!かしこまりました」

 

 珍しくお嬢様から意見を貰うことが出来た。ここ最近のことなのだが、何が良いかという質問には答えて貰えないが温度の質問には答えてくれる様になった。この前より一歩の進展だがかなりの進展とも言えるだろう。そんない嬉しさに浸っていると後ろの方から声が聞こえる。

 

「友希那さーん!新兄ー!リサ姉ー!」

「ん? この声って……?」

「……あこ? 一体どうしたの?」

「はあっ、はあっ……追いついた……あ、あのっ! さっき聴かせてくれた曲……あこ、演奏したいですっ!」

「えっ……?」

 

 突然の言葉にお嬢様は驚きを隠せないでいた。

 

「あの曲、すっごくカッコイイって思ったんですっ!ライブで演奏したら絶対すっごく盛り上がります!」

「あの曲は……」

 

 戸惑いながらも何かを言おうとしているお嬢様の元にりんりんがやってくる。見た感じ凄く息を荒くしている。おそらく走ってくるあこちゃんを必死に追いかけたのだろう。

 

「はあ、はあ……! あこちゃん、早い……!」

「りんりんっ!りんりんもあの曲、演奏したいよね?」

「うっ、うん……わたしもあの曲、演奏したいです…どなたの曲なのかわからないですけど……きっと…きっと、友希那さんの歌声にあう、素敵な曲だと思いました……!」

「私の、歌声に……?」

「わたし、友希那さんの歌声が好きです……!繊細で、力強くて……ときには音楽を求めすぎるあまり、まるで恋い焦がれているかのような焦燥感を感じる……そんな歌声をしています。先ほどの曲を聞いたとき……友希那さんの歌声をはじめて聞いたときのような感覚に陥りました」

「……」

「だから……その……友希那さんにあの歌を歌って欲しい……そう思います……あの曲を演奏する技術が足りないなら、あこもりんりんももっともっとがんばりますっ! だから……!」

「……私の歌声は、そんなに純粋なものではないわ」

 

 純粋ではないという言葉にその場にいた全員が驚きを隠せなかった。

 

「えっ……!?」

「友希那?それって……?」

「私は……今の私には、あの曲を歌う資格はない……」

「友希那……さん……?」

「……ごめんなさい。あなた達の熱意は受け取ったわ。ありがとう。この件に関しては、少し考えさせて」

 

 その言葉を残してお嬢様はその場から立ち去ってしまった。急いで追いかけ、様子を伺ってみると迷いのある顔をしていた。後からリサが追いかけてくる。

 

「友希那……一体どうしたの?歌う資格がない、なんて」

「リサ……あなたなら気づいているでしよう。あの曲が、私のお父さんのものだってこと……」

「ん。やっぱりそうだったんだね」

 

 何処かで聞いたことのある声だと思っていたらそういう事だったのか。そういえば昔の旦那様の声はあまり聞いたことがない。バンドをやっていたとは聞いたが実際に聞いたことはなかった。

 

「あれはインディーズ時代の曲。つまり……」

「そっか。まだ、お父さんが本当にやりたい音楽をやっていた頃の……」

「ええ、そうよ。あの頃のお父さんの、音楽への純粋な情熱……それを、今の私が歌っていいはずがないだって、私は……」

「ううん、いいよ。それ以上言わなくて。わかってるから、友希那のこと。だからアタシはあこや燐子がどんなことを言おうと、友希那の出した結論を大切にしたいって思う……はは。2人にはナイショだけどね?」

「リサ……」

「アタシも、友希那の答え、待ってるから。ゆっくり考えて。ただ……友希那が真剣に悩んで向き合おうとしている気持ち。それは誰よりも音楽に対して純粋だからだってこと忘れないで」

「向き合う、気持ち……」

 

 お嬢様は下を向きながら考え事を始めてしまった。今回はリサがどうにかしてくれたので本当によかった。僕だけでは何もできなかっただろう。そしてこのまま僕たちは家に帰っていった。

 

 

 

 

 

 そして翌日の放課後、帰りの支度を済ませていると京君から声を掛けられた。が、何故か京君の方にクワガタムシがのっていた

 

「新一、これから空いてるか?」

「え、まぁ………ってなにそのクワガタ」

「ん、これか?こいつはスタッグフォン」

「すたっぐふぉん?」

「ああ、あいつらが出てきた時に知らせてくれるんだ。そしてメモリを抜くと携帯にもなる」

「これまた便利だね。因みに携帯としての使用頻度は?」

「月一」

「何に使ってんの………」

「電池切れした時の非常用」

「それで、何か用?」

「そういえばそうだった。ここじゃお前には話しづらい(・・・・・)事、って言ったらわかるか?」

「…了解、少し待ってて」

 

 今日は練習はないのだが一人で帰らせてしまうことになるので一言声をかけておく。適当に言い訳を作って報告すると「そう」と一言残して教室を去ってしまった。

 

「いやぁ、しっかしお前の姫さんも冷たいもんだな」

「まぁ、ね」

「寂しくねぇの?」

「別に、そういった感情はないし元々そういう関係だから」

「しかし、年頃の男女だぜ?」

「君は一体いつの時代の人間なの………それに仕事だからね。私情は持ち込まない」

「それもそうだな。とりあえず行くか」

 

 下駄箱を抜けて、駐輪場に行くと一台のバイクが置いてあった。誰の?と目線を送ると俺のというジェスチャーが返ってくる。校門を出るとヘルメットを投げられ、仕方なくも被ると乗せられてバイクは発進する。

 

「それで、用件は?」

「お前、聞かなくても薄々気づいてるだろ?」

「認めたくはないけどね………」

「んじゃ、このまま現地に直行するぞ!」

 

 スタッグフォンが飛んで行くのを追いかけ、しばらくすると現場についていた。バイクから降りて辺りを見回す。

 

「今日はファンガイアとドーパントが一体ずつか」

「被害状況は?」

「見ての通りだ。早く片付けて被害を止めるぞ」

 

 それぞれが変身して戦闘を始める。今回はお互い専門の相手がいるのでそちらを対象に取った。こっち側は前に倒したことのある馬のファンガイア、ホースファンガイア(勝手に呼ばせてもらってるが)だ。向こう側はよくわからないが金ピカのドーパントだった。金、金、と言っているのでマネードーパントと言ったところだろうか。ファンガイアの攻撃はあまりに単純すぎて、攻撃を受けることはなくカウンターを出しやすかった。一方京君の方を見るとドーパントから繰り出されているコインらしき円盤の鈍器を撃ち落としながら攻撃している。あまり苦戦はしてない様だ。しかしあまり長くは戦いたくはない。もっと強い攻撃で行こうと踏み込むと目の前にナイフが真っ直ぐ落ちてきた。

 

「うおっ、何だこのナイフ?」

「そのナイフ…もしかして!」

 

 京君の方にも落ちてきたナイフを見ると見たことのあるデザインで上を見てみると黒マントの白い影が落ちてきた。

 

「さぁ、地獄を楽しみな!」

「誰なんだアイツ」

「彼は仮面ライダーエターナル、味方だよ」

「そうか、味方か!なら協力して終わらせるか!」

「うん!」

 

 お互いに必殺の構えを取り、敵に技を撃ち込んだ。敵は爆発し、ファンガイアは破片に、ドーパントからは人間とメモリが分離してメモリは砕け散った。変身者である人間を建物の近くに運び、二人の元に戻る。

 

「お疲れ様っス、イクサ。あとお前、なかなかいい腕して………」

「そっちこそ、中々な腕前………」

 

 途中で言葉を切る二人に違和感を感じる。だがすぐに放たれたのはとても温厚な雰囲気ではなく、とてつもない怒り(・・)に包まれた物だった。そして二人の怒声が飛び交う。

 

「「テメェが何故それを持っている!!!」」

 

 

【挿絵表示】

 




今回も挿絵を入れてみました。よければ見てください。いつか自作したいです(今は他の人に書いてもらってます)。
さてさて、次回はメモリ所持者が激突しますよ〜

あと、この章終わったら軽く夏休みに入るかリサのイベントやるか悩んでます。


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第陸話 SとEの戦い/主の帰還

まだ6月だから舞えるまだ6月だから舞えるまだ6月だから舞える………(まーだいってるよこいつ)
六月分の投稿です!
最新話どうぞ!


「「テメェが何故それを持っている!!!」」

 

 二人の怒声が聞こえると同時に京君の方から銃声が聞こえる。その弾丸は迷うことなく快斗君の方へ向かう。だが、それと同時に快斗君は京君に向かってナイフを投げる。それぞれが回避を終えた瞬間、一気に間合いが詰まる。そしてわけも分からず肉弾戦が始まっていた。

 

「おいテメェ、何者だ?」

「それはこっちの台詞だ!何故ドライバー(それ)を持っている!」

「言う筋合いはねぇなぁ!」

 

 二人は口論しながら戦いを続ける。二人とも無駄のない動きで戦っている。ってそうじゃない感心してる場合じゃない。早く無駄な争いをしている二人を止めないと。

 

「二人とも戦いを辞めるんだ!」

「「テメェ(アンタ)は黙ってろ!!」」

 

 怒声が響くと同時に足下に弾丸とナイフを送られる。何故二人は戦っているのだろうか。敵ではないと分かっているはずなのに、どうしてこんなことになっているのだろうか。

 

「アンタ一般人だろ」

「…だとしたらどうするよ」

「一般人はそんなモノ持ってちゃいけねぇんだよ!」

「そういうテメェこそ、ガキの分際でそんなモン振り回してんじゃねぇよ!」

 

 二人はお互いの正体を探り合いながら戦っている。だがそれも終わりなのか、懐からメモリを取り出し装填しようとする。大技で大ダメージを与えられればお互いに信用できなくなるはずだ。阻止するために真ん中に割り込みに行く。

 

「戦いを…辞めなさい」

「なっ、そこをどけイクサ!」

「邪魔をしないで下さい!」

「悪いけど聞くことは出来ない。二人同時に攻撃して来てもいい。ただし、僕は二人をねじ伏せるだけの自信はある」

 

 強めにかけたはずなのだが制止を聞かずに快斗君は突っ込んでくる。申し訳ないが止めさせて貰うために快斗君の足下にイクサカリバーを投げつける。

 

「ッ!」

「引きなさい。一度戻って、頭を冷やしなさい」

「……チッ!」

 

 舌打ちと共に快斗君は姿を消した。残った僕と京君は変身を解除すると胸ぐらを掴まれた。

 

「新一テメェなんのつもりだ?」

「味方同士が戦う必要はないと考えただけだよ」

「あいつが味方?笑わせんな!」

 

 京君は言葉を吐き捨てると同時に僕から手を離し、近くにあった柱に拳を当てる。

 

「あいつは味方なんかじゃねぇ。あれ(・・)を持ってる時点で俺の敵だ!次あったときは必ず潰す……そんときは邪魔すんじゃねぇぞ」

 

 こちらを睨みつけ、京君はバイクに乗って何処かに行ってしまった。一体何故あの二人は敵対したのだろうか。同じ仮面ライダーなのに。ライダーであるなら協力し合える筈なのに。僕は理解できずにその場を後にした。

 

「ただいま戻りました」

 

 自宅に着くなり返事がないことを知っておきながらただいまという。実際は家にお嬢様がいるのだが返事は返ってこない。靴をしまおうと屈むと普段置いてない靴があった。まさかと思い、急いで靴をしまってリビングに向かうとそこにはティーカップを持った旦那様がいた。

 

「旦那様……!」

「やぁ新一、元気にしてたかい?」

 

 すぐに膝をつき、頭を下げる。

 

「お迎えに上がれず申し訳ございません旦那様。連絡を下さればすぐに向かいましたのに」

「気にしなくて良いよ、私が歩いて帰りたかったからね」

「左様で、ございますか……」

「ああ、そっちは大丈夫だったかい?」

「はい、おかげさまで平和な日々(・・・・・)が続いております」

「そうか、なら良かった」

「はい………今すぐ御夕飯の準備をしますのでしばらくお待ち下さい」

「ああ、新一の料理は久しぶりだな」

 

 返事をするなり旦那様は安心したような顔をしていた。せっかく返ってきたので今日は家にあるものでとびきりのものを用意しよう。

 

「今日の夕飯は少しばかり豪華にさせて貰いますね」

「それは楽しみだ。友希那も喜ぶだろう」

 

 それから料理を行い、普段より豪華なテーブルとなった。

夜になり、後片付けを終わらせて部屋に戻ろうとすると旦那様に呼び止められた。旦那様の部屋に入り、旦那様が座ると足を組み質問を投げられる。

 

「ここ最近、戦闘(あっち)の仕事はどうだね」

「はい、今年度よりファンガイアの活動が活発化しており、且つ新しい敵までもが現れました」

「新しい敵?」

「はい、ドーパントという人間が変身する怪物らしいです。その件に関してこれから報告書を転送するつもりでした。ですが、返ってきて頂けたので資料をこの場で譲渡すという形でも大丈夫でしょうか?」

「問題ないよ」

 

 許可を得た僕はポケットからUSBメモリを取り出し、旦那様に預けた。そして弦巻家との同盟について説明し、これから共闘していくことを報告した。旦那様からちゃんと許可を得ることが成功し、今日はここで解散することになった。




書いたは良いものの予想より短くてびっくりしてます、ええ。
さてさて、次回、二人はどうなるのか。また友希那はLouderをどうしたいのか。お楽しみに!


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第漆話 SとE/それぞれの意思

最新話です!
夏休みは2〜3くらい出せる様に頑張ります!
来週はRoselia走りながら書く予定です。


 あれから一日経った翌日、僕は快斗君に呼ばれていた。待ち合わせの場所はファストフード店だった。ファストフード店はあまり行ったことがなかったので緊張したが、入ってみると意外と落ち着きを取り戻せた。レジに並んでワクワクするのを表に出さない様にしながら、ブシドー!セットというのを買い、快斗君のいる席に向かった。軽く挨拶して座ると早速本題に入った。快斗君は口ごもりながらも最近あった出来事についてだと言ってきた。早速で申し訳ないが芯を突いた質問を投げた。

 

「どうしてあんなことしたんだい?」

「俺は、別に……」

 

 話すのを躊躇いながらもテーブルの上にバックルを置いて話し始めた。

 

「俺は、アイツがこれを持っていたのが許せなかったんです」

「ロストドライバーを?どうして」

「これは本来一般人が持っていてはいけないんです。メモリの力に支配されるかもしれない……そんなもの一般人が使ったら一体どうなるか」

「それは……」

「それにそいつが戦うことで誰かを守れるかもしれないけど、自分の大切な人を守れなかったら嫌じゃないですか」

「…じゃあ君は………」

「はい、そんなことさせないためにやりました」

 

 先ほどまで暗い表情だったのに今は覚悟を決めたかの様な顔をしていた。彼なりに気を使った結果、ああなってしまったのだろうか。

 

「君の言いたいことは分かった」

「じゃあ次に会った時は邪魔しないで下さいね」

「……それは聞けないかも」

「じゃあそんときは、新一さんでも容赦しませんよ」

 

 それは大変だと誤魔化して、僕はブシドー!セットのハンバーガーを食べ始めた。ジャンクフードってこんなに美味しいんだという驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「京君、急にどうしたの?」

 

 同日の午後、京君に呼び出されていた。時間も時間だったのでお嬢様には買い物に行くと言ってcircleを出たが買い物はついでと言ったところだろう。京君は快斗君とは違い、ファストフード店ではなくカフェに呼び出していた。商店街の一角にある羽沢珈琲店。うちの学校の生徒がいるんだとかなんだとか。そんなことは今はどうでもよく、京君の話を聞くことにした。

 

「いや、すまねぇ。昨日は少し冷静さを欠いてた」

「少しどころじゃない気もしたけどね」

「悪かったっての」

 

 バツが悪そうにコーヒーを飲む彼を見て、僕もコーヒーを一口飲んだ。そして一息ついたところで理由を聞き出す。

 

「理由を聞かせて貰えるかい?」

「……ああ。俺が冷静じゃいられなくなったのはアイツがこれを持ってたからだ」

 

 そう言ってテーブルの上に置いたのはロストドライバーだった。数時間前にも同じ光景を見たがそれは黙っておこう。何も言わないまま京君の方を見る。

 

「これは相棒が俺に託してくれた力だ。これで町の人を守るって誓った。なのにアイツはこれ(・・)を持っていた。町を守る役は一人で良い、戦って傷付く奴が増える方が俺は嫌なんだ」

「つまり、戦う人は少なくて良いと」

「まぁ、そうだな。犠牲になるのは少人数で良いんだ」

「そっか………分かった。ありがとう。ちなみに聞くけど僕はいいの?」

「お前は…仕方ねぇだろ、それが仕事なんだから。それにお前ほんとは強いんだから問題ねぇよ」

 

 驚いたいつの間に認めてもらえてたんだ。だけど気になる、彼がどこまで見抜いているのかを。まぁそうそう本気中の本気(・・・・・)を出すことはないだろうけど。

 

「すまねぇなこんな話して」

「大丈夫だよ、全然問題ない」

「そうか、じゃあ次は邪魔するなよ?」

「どうかな、考えとくよ」

 

 今回も笑って誤魔化し、席を立った。そろそろタイムセールが始まるからとコーヒー代だけ置いて店を出る。そして走ってスーパーに向かい今日の目玉品を全て手中に収めた。お嬢様達はまだ練習しているだろうか。差し入れにそこに売ってるたい焼きでも買っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの曲……もう一度、聴いてみよう……」

 

夕方、家に帰ってきた私は部屋の中で古いカセットテープを再生した。私のお父さんが歌った曲。自分で歌いたいという気持ちは募るけど、どうやったらこんなふうに歌えるのかがわからない。

 

「お父さん……お父さんは一体、どんな思いをこめて、この曲を歌ったの……?」

 

声が漏れた瞬間、扉の方からノックをする音が聞こえた。

 

「友希那?少しいいかな?」

「お父さん?」

「部屋から懐かしい曲が聴こえて、ついな。もう10年以上前の曲じゃないか」

「私、この曲を歌いたいと思ったの。でも……私には……」

「それなら歌えばいい。何をためらっているんだ?」

 

目を逸らす私を見て、お父さんは疑問をぶつけてくる。

 

「この曲から感じる音楽への純粋な情熱…それを私の歌声にのせて歌える自信がなくて」

「それならその思いをのせて歌えばいい」

 

私の答えにお父さんはすぐに答えてきた。

 

「え? でも……」

「それが今のお前の、この曲……それから音楽に対する思いなんだろう。だったら、それを歌えばいいどんな思いを抱えていたっていい。それをぶつけろ」

「私が未熟でも……?」

「完成されていなきゃ演奏できない音楽なんて存在しないさ。ただ……お前がそれほどまでに技術や精神的な未完成さを思い悩んでいるとしても……その思いはとっても純粋で、素晴らしいものだと思うぞ」

 

お父さんは歌うのに技術なんて関係ないと語りかけてくる。その言葉を聞いて私の中を何かが通った気がする。

 

「……長く喋ってしまったな。それじゃあ行くよ」

 

部屋から出て行くお父さんの背中を見送って私は幼馴染に電話をかけた。

 

「もしもし、リサ? 私よ」

 

電話が繋がるなり心配をする様な言葉がくる。

 

「いいえ。もう大丈夫。……今、お父さんにあなたに言われたことと同じことを言われたわ」

『えっ……?』

「私が音楽を思う気持ちは純粋なものだ……とね。ありがとう、リサ」

『うん。アタシは友希那を見守るって決めたんだから。これくらいなんでもないよ。この先だって……友希那が道に迷ったときは、アタシが助けたい。幼馴染みって、そういうものじゃん?』

「……ええ、そうね」




二人の理由は聞き出せたもののまだまだ波乱の予感!?
友希那は何かに気付くことが出来たのか。
次回「衝突するSとE/気づけた歌姫」

次回もよろしくお願いします。
(良ければ感想もお願いします!)


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第釟話 衝突するSとE/気づけた歌姫

はい、なんか題名ですごい展開を想像してた皆様、期待しといてください。色んな意味で理解頂けると思います(勝手に)。


 今日、僕は初めて友人を呼び出した。因みにお嬢様は今自主練習でcircleとは別のスタジオにいる。しかし、友人とは言ったが友人と呼んで良いのだろうか。正直なところ片方は戦場でのみ遭遇し、本部たるところに連行された。もう片方は一応クラスメイトではあるがそこまで表現していいのか………。約10年近く一般人していないとこうも悩むことになってしまう。

 

「何考えてんだお前」

「あ、京君。おはよう」

「おう。で、何考えてたんだ?」

「うーん………一般人について?」

「は?」

 

 自分でも何言ってるのかわからなくなると京君が呆れた顔をしてくる。そんな事をしていると遠くから自分を呼ぶ声が聞こえてくる。

 

「新一さん、お待たせしました」

「ううん、大丈夫。僕たちも今来たところだから」

「そこの人は誰っすか?」

「ああ、紹介するよ。鳴海京君、僕のクラスメイト」

「鳴海京だ、よろしくな」

「大道快斗って言います。よろしくっす」

「で、新一。なんで俺たちは集められたんだ?」

「まぁまぁ、みんなでお昼でも食べに行こうよ」

「あ、ここら辺なら美味しいラーメン屋知ってますよ」

「奇遇だな、俺も知ってる」

「じゃあ行こうか」

 

 ここら辺の事は知らなかったが二人が知っているようで助かった。目的地のラーメン屋に着き、店に入っていく。店の風景は古き良きといった感じだ。店員に案内されテーブル席に着く。三人でメニュー表を読み始める。

 

「決まった?」

「「決まった(っす)」

「すみません、醤油ラーメン一つ」

 

 注文をすると二人がこっちを驚いたような目で見てくる。何かおかしなことでもあっただろうか。

 

「おい、新一。なってねぇぞ」

「そうっすよ、ここの名物といえば………」

「「麺細め&硬め超絶マシマシもやしチャーシュー2枚味玉三つのニンニク大盛り塩(味噌)ラーメン一つ………ッ!?」」

「かしこまりました。他は宜しいでしょうか?」

「二人とも他は?」

「………」

 

 無いのだろうか、餃子も頼んで注文を終わらせた。ラーメンの注文においてここまで息ぴったりだと驚きを隠せざるを得ない。しかも二人は初対面なのだ。だが、店員が離れ、少ししたところで京君が切り出した。

 

「テメェ、なんであそこまで来て味噌ラーメンなんだよ!普通塩だろ!」

「はぁ!?味噌ラーメンだろ!アンタ、さては味噌の良さを知らねぇな!」

「「はぁ!?」」

 

 譲れないプライドがあるのだろうか、二人は一切引くことなくお互いをにらみ合っている。まるで目の前で火花が散っているようだ。

 

「ちょっと、二人とも落ち着いて…」

「新一、お前は塩と味噌どっち派だ」

「新一さんはどっちが好きっすか?」

「ええ………」

 

 急に話の腰をこっちに振られる。しょうじきなことをいうとあまりラーメンは食べたことがないので基本的にベースと呼ばれる醤油を食べるのだ。味噌とかの味はあまり知らない。

 

「「どっちだ(っすか)!!」

「僕は、僕は…」

 

 そんなやりとりに巻き込まれている最中、注文の品が届き全員が食することにした。食べてて思うがやはりラーメンは醤油がいいと思うんだよね。確かに味噌のコッテリ感や塩のあっさり感も良いとは思うけど個人的は醤油が落ち着く。そして周りを見てみると二人とももやしの量が半端なく、卵とチャーシューが載っている丼を食べていた。………あそこに麺は入っているのだろうか。そう思っていると快斗君の方から麺を啜る音が聞こえてきたので安心した。しばらくして全員が食べ終わると会計を済ましてお店を出た。

 

「…俺は味噌派なんで」

「はぁっ!?」

 

 店を出るなり耳元で大声を出される。鼓膜が破れて死んでしまいそうだ。喧嘩を落ち着かせながら街を歩いているとどこに行くか話し合う。カラオケに行こうという話になりカラオケに向かう。だが、カラオケに着き入ろうとした瞬間悲鳴が聞こえてくる。全員が急いで向かうと二体のファンガイアが暴れ回っていた。片方は蟻の様な見た目であり、もう片方は腕にヤイバのついた虫類のファンガイアである。

 

「新一さん、住民の避難を」

「うん、わかった」

「ああ、気をつけろよ。あとなるべくは早く戻ってこいよ」

(ん?なんでコイツ戻ってくる事わかった様な話し方したんだ?)

(あれ、この人なんで戻ってこいって言ったんだ?)

((ま、いっか))

 

 遠くから見ているとわかるが、本当は仲が良いのではないだろうか。さっきの事と良い、喧嘩するほど仲がいいというし………。

住民の避難が終わり、戦場に戻る。二人はまだ変身せずに注意を引きつけていたのかお互い背中合わせに言葉を交わしていた。

 

「お前、なかなかやるじゃねぇか」

「そっちこそ、一般人にしては」

「ハッ、黙っとけ」

「お待たせ」

「早かったな。周りにはもういないはずだからお前も遠慮なくやれるな」

「そうだね」

「それじゃあいきますか!」

 

 なんか二人とも意気投合してるっぽいし、これならなんとかなるかも知れない。全員がベルトを巻き付け、それぞれのアイテムを取り出す。

 

『レ・デ・ィ』『スカル』『エターナル』

「「ん?」」

「二人とも行くよ!」

「えっ、あ、おう!」

「うっす!」

「「「変身!」」」

『フ・ィ・ス・ト・オ・ン』『スカル』『エターナル』

「「は!?」」

 

 変身を終えると驚いた様に二人同時に声を上げてくる。今日はあと何度耳元で叫ばれればいいのだろうか。固まっていると京君が肩を掴んで激しく揺らしてくる。

 

「おい新一、これはどういう事だ!なんでコイツがあの時の奴なんだよ!」

「それはこっちのセリフだ!説明してくださいよ新一さん!」

 

 勿論、説明しなければいけない。だが優先事項はそちらではない。目の前にいる敵を倒す事だ。私情と仕事、優先順位は言うまでもない。

 

「説明は後でにしよう。今は目の前の敵を…」

「んなことよりコイツをだな!」

「あぁ!?テメェ、何言ってんだ!」

「あ?捻り潰してやろうか?」

「お?じゃあこのまえの続きすっか!」

 

 暴走を始めようとする二人を見て、頭が痛くなる。本来こんな予定ではなかったのだ。仲良く、和解をさせる予定であった。………なんて綺麗事だろうか。とは言っても状況は変わらない。とにかく二人の敵を一度変えよう。

 

「二人とも、仕事を優先させて!」

「んなこと言ってられっかよ!」

「そうっすよ!」

「私情と仕事、その切り替えもできない奴にこの仕事をする資格はない!」

「「ッ………!」」

 

 反抗する二人の動きも止まった。何故かファンガイアの動きも止まってこっちを見て固まっているが気にしないでおこう。二人はしばらく互いを見つめあってから舌打ちをしてファンガイアの方に向かっていく。

 

「しゃーねぇから今だけだぞ」

「こっちのセリフだっつの」

 

 キレながらも走っていく快斗君をサポートする様に後方射撃をする京君。見ている限りだと二人とも戦闘でのコンビネーションは良いのかもしれない。そんな中僕も走って戦闘に介入する。京君に援護を頼みながら攻撃していく。快斗君は攻撃しながらもこちらの状態を理解しているかの様な身動きを取ってくる。この状況、まるで戦場で戦場で踊っている様だ。決まると確信を得て僕と快斗君はそれぞれ必殺技を決める。ファンガイアはガラスとなって爆散する。

 

「二人ともお疲れ様。とてもいい連携だった」

「………だな」

「気に食わないっすけど」

「やるかテメェ」

「上等だ、力の差見せてやるよ」

「そんな事今すぐやめなさい」

 

 二人してこっちを見てくる。そこで今日の本意を伝える。

 

「今日の本当の狙いは二人に仲良くして貰うために来てもらったんだ。素顔はお互い知らなかっただろうからそこから知って徐々に仲良くなって敵対しない様にって………ね」

「なるほど………」

 

 快斗君は納得してくれたかの様な返事をした。しかし京君の方は納得どころか反論をぶつけてくる。

 

「新一、お前なりに考えたみたいだがそれは無理だ。それとこれはまた別の話だからな。それにこいつは塩じゃなくて味噌派だしな」

 

 まだそんなこと引きずってるのか。

 

「そうっすね、新一さんには申し訳ないっすけど俺はこいつを許せない。それにこいつは塩派っす」

 

 許せない理由は知ってる、でも分かり合えるはずなんだ。そうすれば今よりも強くなれる。そうなれば犠牲だって出さなくて済む。てか君もそこ引きずるの?

 

「白けたから今日は帰るわ。また今度決着をつけてやる」

「ふん、こっちのセリフだ」

 

 二人は言葉を吐き捨てながら反対方向に歩いていく。やはり普通の方法でわかりあうことはかなり難しい事なのだろうか。でもせっかく力を持っているんだからそれは喧嘩のためでなく守るために使ってもらいたい。………いつかそれが叶う日は来るのだろうか。いや、それを願うことしか今の僕には出来ないのかもしれない。

 時間もいい頃合いだったのでお嬢様を迎えに行く。スタジオの前にバイクを停めるとちょうどお嬢様が出てきた。移動しようと声をかけられるわけでもなくお嬢様は横を素通りして行く。その姿を目で追いかけるとお嬢様は僕のバイクに乗り座って待っている。早く連れて行けという事だろうか。急いで予備のヘルメットを渡して騎乗する。準備は出来たか確認すると黙って頷く。それから僕は安全に細心の注意を払いながらバイクを飛ばした。circle付近に到着するとリサの姿が目に映る。するとお嬢様が肩を軽く叩いて降ろしてと言ってくる。バイクを止め、ヘルメットを預かりお嬢様を降ろす。そしてバイクを置きに行くため先にcircleに向かって二人を待つ。だが待つ時間はそれほど無く、意外と早くスタジオ内へ入って行った。予約していた番号の部屋に入ると既に紗夜さん達が待っていた。

 

「おっす、おはよ~。アタシ達が最後か」

「あっ、友希那さんにリサ姉!」

「突然呼び出して、ごめんなさい。今日は改めて、みんなに話しておきたいことがあるの。先日、みんなに聴いてちらったあの曲だけど……」

 

 言うことを一度は躊躇いながらもお嬢様は事実を口にする。

 

「あの曲は、私の父の曲なの」

「ええ~っ!?」

「友希那さんの……お父さん……?」

「あの曲をはじめて聴いた時、私はこの曲を歌いたいと、思った。だけど…今の私に、あの曲を歌う資格があるのかわからなかった。少なくとも資格がある、と胸をはっては言えないと思ったのあの曲の持つ、音楽への純粋な情熱を今の私では歌いきれないと、そう思ったのよ」

 

 嫌いだったわけではない、むしろこの曲を演りたかったからこそ難しく考えてしまったのだろう。誰でもそういったことはあるだろう。好きだからこそ戸惑ってしまう。おそらくお嬢様はそれと似た状態だったのだ。

 

「曲がレベルに見合ってない、って……そういうことだったんですね」

「だけど、あの曲と向き合いたいという気持ちは本物だと……それも音楽への情熱なんだと……それに気付かさせてくれた人がいた」

「友希那……」

「そんな事情があったんですね」

「もし……もし機会をもらえるなら私は、あの曲を歌いたい。お父さんの残したあの曲にもう一度命を吹き込みたい。それが、私ができる向き合い方だと思うから……」

「ライブまで日がない上に、私情で申し訳ないと思ってる。でも、私は……」

「ダメだなんて言っていません。ただ……少し、驚いただけです」

「あこは大大だ~い、さんせ~ですっ!」

「わ、わたしも……みんなであの曲が……演りたいです……」

「だってさ、友希那?」

 

 みんなの意外な反応にお嬢様は戸惑いを隠せないでいた。時間が少ない状況でここまで賛同してくれるとは思いもしなかっただろう。実際のところ見ているだけだが僕自身も驚いている。

 

「みんな……」

「あの曲が演奏できるのうれしいなあ~!がんばらなくちゃ!」

「演るからには全力でやらねば、湊さんにも、湊さんのお父様にも失礼よ。これから本番まで練習の時間を増やして完成させるわよ」

 

 紗夜さんの号令で皆がやる気を出していく。ここまで意気投合していると感動せざるを得ない。まぁ、顔には出さないが。

 

「よかったね、友希那」

「ええ……みんな、ありがとう」

(よかった。友希那がまた少しだけ前を向いて歩きだせた気がする。……ううん、友希那が嬉しそうだからって、これで満足してちやダメだよね。ライブ本番まで日がないんだし、アタシもがんばらなくっちゃ!)

 

 

 

 




皆さんはどっち派ですか?自分は新一君と同じ醤油派です。やっぱりね落ち着きがありますわ、はい。まぁ、ラーメンで食べるの大体蒙古タンメンなんで関係ないんですけどね←なんやねん
次回も戦闘シーン作ろうか悩んでますって報告して終わりますね。
今回は次回予告なしです。


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第求話 決意の先に

今月も終わりですね~夏休みあとなんか出せるんだろうな~


 あれからお嬢様達は五日後のライブに向けて練習に励んでいる。現在ある曲に加え、旦那様の曲であるLouderを演るらしい。そんな忙しい最中僕は………今日も戦場に来ていた。

 

「なんで今日に限ってファンガイア1にドーパント2なのさ!」

「イクサ、加勢します!」

「いや、来なくて良い!一対一ずつでやってった方が効率的だ!スカルも同様で!」

「わかってらぁ!」

 

 あれから三人で戦っているが仲は悪いままなのだが戦闘のコンビネーションだけは良い。偶にミスをするのかそれともワザとなのかお互いサポートで投げる(もしくは撃つ)物が互いの体をスレスレで行き交う。その度に喧嘩するのだが、戦闘中なのですぐに戻る。だが、今日に限っては話が違った。近くで戦っているからなのか互いの動きを邪魔する様になっている。

 

「テメェ邪魔すんじゃねぇ!」

「それはこっちのセリフだ!」

「二人とも喧嘩は終わってからにして!」

「「じゃあ今終わらせる!」」

 

 怒号を含み、息ピッタリ叫んだ瞬間二人は互いの視線の方向に快斗君はユニコーンメモリを装填したナイフを投げ、京君はスカルメモリを装填してエネルギー弾を撃ち込んだ。ドーパントはそれぞれ爆発し、メモリも砕ける音が聞こええた。人がその場に倒れたが二人はお構いなしに喧嘩を続ける。互いに睨み合う様に距離をとっている。

 

「お前さ、そろそろ目障りなんだよ。そんなものを本来お前如きが持って良いはずがないんだ………だからそれをよこせ(・・・)

「渡すわけねぇだろ?それに渡すのはテメェだ」

 

 目の前のファンガイアと鍔迫り合いになりつつも二人の様子を見ると互いに武器を向け合っていた。

 

「何してるんだ二人とも、そんな事は辞めなさい!」

「黙ってろ新一!俺は痺れを切らした。俺は………コイツを叩きのめす!」

「笑わせんなよ…俺がぶっ潰してやる!」

 

 今度こそ二人が本気で戦おうとしている。今止めなきゃ絶対危険だって分かっている……なのに目の前のやつが邪魔をする。今優先順位はコイツを倒してから二人を止める事。けれど二人の方は一秒でも早くしなきゃいけない。どうしてこういう時に面倒ごとが重なるのかな!

 ………………少しだけなら制限解除しても大丈夫だよね………?

 目の前のファンガイアとの距離をとり、一瞬だけ力を抜いて意識を入れ替える。普段の感情を全部捨てて非情になる。そして力を込める。挑発するサインを取るとファンガイアは思い通りに距離を詰めてくる。そう、それで良い。ゆっくり歩いてファンガイアに近づく。距離が数歩の所でイクサカリバーを振り下ろす。その瞬間ファンガイアの動きが止まり爆発四散する。今奴に構っている暇はない。すぐに気持ちを入れ替えて二人のところに向かう。

 二人のところに向かうと遠慮なく戦っていた。背負い投げに受け身からの投げナイフ、メモリの加減なしで繰り出される技。もはや街を破壊するレベルで暴れ回っていた。流石にここまでくると頭にくる。二人がゼロ距離になった瞬間、ナックルを取り出してブロウクンファングを撃ち込んだ。同時に命中させ、二人を一度に変身解除にまで追い込んだ。倒れ込んだ二人は痛そうにしている。いつもなら心配して駆け寄るが今日はそんなことしない。二人に近付いてそれぞれの胸ぐらを掴む。

 

「グッ……!」

「カハッ………!」

「君たちさ、喧嘩はしてもいいけど街を破壊するっていうのはどういうつもり?」

「「そっ、それは」」

「言い訳は聞かない、やるなら節度を弁えろ。それもわからないぐらいだったら二人のソレ(・・)を僕が破壊する。今ここで」

「わっ、悪かった。それだけはやめてくれ………そんな事したら、俺はアイツに………!」

「すみませんでした………自分も、それだけはやめて欲しいっす………」

 

 二人の謝罪の言葉を聞いた瞬間二人をその場に落とす。前の僕だったらこの場で聞かずに破壊していただろう。今まで少しばかり甘やかしすぎていたのかもしれない。その場で変身を解除して二人を見る。二人はバツが悪そうに目を背けるがそれでも見続ける。もういいだろうか。二人に背を向けて来た道を帰すことにする。僕は本当はどうするべきだったのだろうか。二人の思惑は知っている。それでもどうする事はできない。だからこそどうサポートするべきだったのだろうか………。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「おい、ボウズ」

「なんだよ、骸骨」

「どうやら俺らは怒らせちゃいけない奴を怒らせたっぽいぜ」

「…みたいだな」

 

 二人は互いに顔を見合わせずに話している。自分たちの過ちを反省する色が見えた。しかしそれは街を破壊しかけた事に対してであり、喧嘩についてではない。

 

「俺はずっと前からお前に言いたいことがある」

「奇遇だな、俺もだよ」

「「俺はお前(アンタ)にタイマン張らさせてもらう………⁉︎」」

 

 言った瞬間二人は顔を見合わせる。それぞれが互いに睨み、言葉を続けていく。

 

「ここまで思考が同じだと頭がいてぇな」

「ああ、だがその喧嘩買わせて貰うぜ」

「じゃあ場所は近くの港でいいな?」

「ああ、E-06倉庫の前にしよう。時刻は午前零時、そこでアンタとの決着をつけてやる」

「こっちがテメェを潰してやる。完膚なきまでにな」

 

 各々の道に戻る瞬間二人は声を揃えて言った。

 

「「楽しみにしてるぜ………逃げんなよ」」

 

 




意外と短く終わりましたね。
次回はとうとう決闘らしいですよ!どっちが勝ってどっちが負けるのか。とりあえず死なないで城ノ内!
次回城ノ内しsゲフンゲフン、失礼しました。

次回「夜闇、雨滴る武器()を向けてー黒/白ー」

追記
次話は2人分分けて出します!


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第縦話 夜闇、雨滴る武器()を向けて ー黒ー

はい八月最初ですね。いよいよ決着つけます。
こっちは黒…京君sideとなっておりますので先に快斗君side見たいよって人は次の話を見て頂きますと快斗君側になりますのでよろしくお願いしますm(_ _)m
それではどうぞ!


 時刻は午前零時前、俺は雨の中暗い道を歩いていた。理由はただ一つ、奴との決着をつけるためだ。これから俺は奴を徹底的に叩き潰す。二度とライダーにならない様にさせるために戦わなきゃいけない。本当なら新一の奴にも同じことをするのかもしれない。けどあいつにはちゃんと理由があって、それでちゃんと戦っている。俺は奴の私情なんて知らない。だけど同じものを使っている以上俺は奴を許すわけにはいかない。ロストドライバー(これ)で犠牲になるやつは俺だけでいい。これ以上メモリで無関係な奴が傷つくのは見てられない。だから俺はアイツを潰す。負けるつもりは微塵もない。午前零時、ピッタリに倉庫前に着くと傘をさした奴の姿があった。

 

「よぉ、逃げずに来たんだな」

「そっちこそ。良かったのか、尻尾巻いて逃げなくて」

「それはお前がだろ?とっとと始めようぜ、そのために来たんだからよ」

 

 そう言ってスカルメモリを見せるとあっちも答える様に白いメモリを見せつけてくる。

 

「ヤる前に一つだけ聞いときたい。アンタ、なんで戦ってる?」

「そうだな、この街を守るため、だな。お前は?」

「あーあ、ここまで同じだとなんか気まずいわ。まぁ、これ以上犠牲を出さないためにもアンタにはここで退場してもらうぜ」

「その言葉そのまま返してやるよ」

 

 言葉が終わると同時に傘を上に投げると鏡合わせの様に向こうも傘を投げて、同時にベルトをセットしてメモリを構える。

 

『スカル』『エターナル』

「「変身!」」

『スカル』『エターナル』

 

 同時に変身が終わると互いの武器()を向け合う。夜という闇の中、奴の姿は雨に濡れた白い死神の様にも見える。だが、相手が死神だろうが関係ない。今日ここで俺はアイツを叩き潰す。その目的を忘れはしない。だから俺は言う。

 

「仮面ライダースカル、真名 鳴海京」

「仮面ライダーエターナル、真名 大道快斗」

 

雨が強くなる。覚悟を決めて引き金を引く。

 

「さぁ、お前の罪を数えろ!!」

「地獄を楽しみな!」

 

 数発の銃弾が飛んでいく。だが奴はそれを避けてこっちに向かってくる。構わずに銃撃を続ける。それでも奴は進軍してくる。間合いが奴のものになった瞬間、奴はナイフを振り下ろしてくる。いくら武器が銃だけだからといって近接が出来ないわけじゃない。振りかざされるナイフを避けて腹に拳を撃ち込む。拳が遅かったのかそれとも偶然か、鳩尾に入る事は奴の左手で防がれてしまった。だが、よろけた瞬間を見逃さずに回し蹴りを喰らわせようとすると足を掴まれ、倉庫の方に投げ飛ばされる。受け身を取ることが敵わず、倉庫の壁を突き破って倉庫内へ入った。瓦礫の中から見上げるとそこにはマントの中から()を生やした奴の姿があった。

 

『バード』

「嘘だろ…ッ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 足を掴まれながら引き摺られていく。倉庫の中の物が体にぶつかってくる。このままじゃ埒があかねぇ!銃を今足を掴んでる鳥に向けて撃つと鳥は足を離し墜落していく。とかいう俺も墜落していく。落ちた瞬間に体勢を直して銃を構えると奴はまたおかしな事をしていた。

 

『ヒート』『アイスエイジ』

『マキシマムドライブ』

 

 二つのメモリを同時に肩につけているホルダーに入れていく。おかしい、本来ガイアメモリは一度に一本しか使えない筈、もとい一本だけで精一杯の筈なのに複数乱用してやがる。あいつおかしいんじゃねぇの!?どんだけ使い慣れてんだよ。とか思っていると奴は拳に炎と氷を合わせてこっちに放ってくる。反属性同士で合わせるとかどんだけ反則だよ!こんな奴に使うハメになるとは思いもしなかったが使うしかない。銃を捨てて胸部にエネルギーを集中させて骸骨の形を取る。それを前に突き出して防ぐ。

 

盾骸骨(スカル・フェイス)!!」

 

 俺が今まで戦ってきた中で編み出した技の一つ。スカルの特徴である骨の硬度の上昇をエネルギーに変換し盾として利用する。これで防げないものは無い、だから今それを顕現させる!左手で右腕を押さえて右手を前に突き出す。最初は衝撃に耐える。そしてある程度受けて耐え切れることが分かったので不意打ちを込めて盾骸骨に向かって右手で正拳突きをする。拳を受けた骸骨は衝撃と共に奴の元へと向かっていく。

 

「何ッ!?」

「喰らえ!」

 

 自分の攻撃の中から他人の攻撃がくるとは思わなかったんだろうな、奴はそれを受けて後ろの方へ飛んでいった。

 

「たった一つのメモリでここまでやるとは………アンタ中々やるなぁ!」

「そういうお前こそあんなにメモリ使っているくせにここまでやるとは、大したもんだな」

「ハハッ、だけどまだ終わってねぇぞ!」

 

 そう言って奴は間合いを詰める。手にはナイフは持っておらず、拳を突き出してくる。俺はそれを避けてカウンターを出すがそれを避けられる。ここからずっとそれが繰り返される。拳や蹴りを出しては避けられ殴られ、奴に当てては当てられての繰り返しである。投げては追撃に向かうものの確実な一撃は与えられず、ある瞬間、互いに距離を取ると互いに呼吸を整える。だが、すぐに肉弾戦が始まる。

 

「なぁ、アンタここまでやれるんだな」

「意外だな、俺もお前に同じことを思ってた」

「俺たち意外と似たもの同士なのかもな」

「…ああ、皮肉なものだな。俺は塩派でお前は味噌派なのに」

「ハハハッ、確かにな!」

 

 奴は笑った瞬間大きく後ろに飛ぶ。そして敵対の意思がなくなったかの様に構えを取らなかった。

 

「なぁ、俺たち組めば強いんじゃねぇか?」

「そうだな、でも俺には」

「ああ、俺も同じだ」

「………多分俺たちは同じ理由でぶつかり合ってる」

「それはなんでそう思うんだ?」

「探偵としての感だ」

「探偵、ねぇ………」

「だが俺は、俺の意思を突き通す。だからこそ、お前には申し訳ないがここで退場してもらう!」

 

 探偵だからなんていうのはただの後付けだ。戦って解っていた。アイツと俺は似たもの同士で、同じ思いで戦っていた事。拳が交わるたびに伝わってきた。コイツは俺と同じなんだって、似たような経験をしたからもう誰も同じ様な目にあって欲しくないからって。だけどそれは俺も同じだ。だからこそ俺はアイツに勝たなくちゃいけない。………はは、笑えてくるぜ。最初はあんなに敵意出してたのに、今は同情して少しだけ躊躇ってやがる。自分が情けねぇ。だけど今この一瞬だけは譲れないから、勝たせてもらう。ドライバーからメモリを抜き取ると奴もわかった様にメモリを取り出して同時に横のスロットに差し込む。

 

「そうだよな、そうこなくっちゃな!」

『スカル』『エターナル』

『『マキシマムドライブ』』

「これで終わりにしようぜ、快斗!」

「ああ、これで終わりだ、京!」

 

 互いにライダーキックをぶつけ合う。今までにない全力をぶつけ合っている。次第に威力は増していき辺りは白く染まっていく。爆発が終わると同時に俺たちは変身を解除させられて地面に仰向けに倒れていた。

 

「………なぁ、生きてるか」

「………ああ、生きてる」

「まだ、続けるか?」

「いや、流石に疲れたから無理」

「だな、俺もアンタもそこまでもう動けねぇしな」

 

 互いに全力を出し合った所為で多少は動けるが戦えるっていうレベルではない。

 

「……なんかバカらしくなってきたな」

「ああ、俺たち協力すればめっちゃ強いんじゃね?」

 

 それは思った。これだけ互角ならばアイツは俺と同じくらい強いことになるわけだし、一人分の戦力が二倍になるわけだから今まで以上に戦闘は楽になるだろう。

 

「なぁアンタ、今更言うのもなんだけどさ、一緒に戦わないか?」

「………そうだな、互いにレベルはわかったし、これなら協力しても良い。だがもしお前が俺に置いてかれる様になったらその時は覚悟しとけ」

「ハッ、その言葉そっくり返してやるよ」

 

 そしていつまでも転がっているわけにもいかないので立ち上がって今日のところは解散した。最後に顔を見合わせた時、アイツは今まで見た中でいい顔をしていた気がする。俺自身もだろうが色々と吹っ切ることが出来たんだろう。これからメモリ使いは二人か。どうせならたまにアイツから少しメモリ借りるかな。

 

 




書いてる最中にこれ二人の色で分けたら完全にポケモン映画じゃんと思ってましたw

さて、決着がつきましたね。次の話では快斗君sideになります!まだ読んでないよって人は是非読んでください♪
もう読んだって人は次を楽しみにして頂けたらなって思います!

次回「思いを繋げて/私なりの答え」


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第縦話 夜闇、雨滴る武器()を向けて ー白ー

はい八月最初ですね。いよいよ決着つけます。
こっちは白…快斗君sideとなっておりますので先に京君side見たいよって人は前の話を見て頂きますと京君側になりますのでよろしくお願いしますm(_ _)m
それではどうぞ!


 時間は午前零時前、俺は雨が降る暗い道を一人で歩いていた。数時間後、俺は奴を倒しているだろうか。いや、そうじゃなきゃいけない。俺はこれ以上犠牲を出させちゃいけないんだ。奴の目的なんて知らない。いや、知ったところでどうといった事はない。完全に潰して二度とライダーできない様にしなきゃいけない。メモリ(こんなもの)一般人が使うべきじゃないのは俺が身を持って知っている。だからこそ止めてみせる。完全に叩きのめす。午前零時、ちょうどに着くとそこには帽子を被って傘をさした奴の姿があった。

 

「よぉ、逃げずに来たんだな」

「そっちこそ。良かったのか、尻尾巻いて逃げなくて」

「それはお前がだろ?とっとと始めようぜ、そのために来たんだからよ」

 

 そう言ってエターナルメモリを見せるとあっちも答える様に黒いメモリを見せつけてくる。

 

「ヤる前に一つだけ聞いときたい。アンタ、なんで戦ってる?」

「そうだな、この街を守るため、だな。お前は?」

「あーあ、ここまで同じだとなんか気まずいわ。まぁ、これ以上犠牲を出さないためにもアンタにはここで退場してもらうぜ」

「その言葉そのまま返してやるよ」

 

 言葉が終わると同時に傘を上に投げると鏡合わせの様に向こうも傘を投げて、同時にベルトをセットしてメモリを構える。

 

『スカル』『エターナル』

「「変身!」」

『スカル』『エターナル』

 

 同時に変身が終わると互いの武器()を向け合う。夜という闇の中、奴の姿は雨に濡れた黒い死神の様にも見える。だが、相手が死神だろうが関係ない。今日ここで俺はアイツを叩き潰す。その目的を忘れはしない。

 

「仮面ライダースカル、真名 鳴海京」

「仮面ライダーエターナル、真名 大道快斗」

 

 雨が強くなる。覚悟を決めてナイフを構えて走り出す。

 

「地獄を楽しみな!」

「さぁ、お前の罪を数えろ!!」

 

 数発の銃弾が飛んで来る。だけどこれくらいなら簡単に避けられる。アイツは連射を続けてくるが関係ない。俺は進軍を止めずに進む。間合いが俺のものになった瞬間ナイフを振り下ろす。奴が銃撃しか出来ないなら都合が良かったのがナイフは交わされて代わりに拳が腹を抉ってくる。だが、反応が間に合ったおかげで鳩尾だけは避けることが出来た。だけどやっぱり痛く、よろけた瞬間を狙われる。しかし経験から予想していた事もあってその足を掴んで倉庫の方へ放り投げた。追撃するために走って追いかける。そして走りながらBird(バード)のメモリを肩のホルダーに差し込む。すると羽が生えて空を飛べる様になり、瓦礫に埋もれている奴の前に姿を見せる。

 

『バード』

「嘘だろ…ッ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

奴の足を掴んで低空飛行を行なって奴を倉庫の物にぶつけていく。そろそろ曲がって角にぶつけてやろうと思った瞬間羽を撃たれる。急な衝撃に耐えきれず足を離して墜落する。体勢を立て直しながらすぐに攻撃に移れる様にHeat(ヒート)Iceage(アイスエイジ)のメモリを肩のホルダーにセットする。

 

『ヒート』『アイスエイジ』

『マキシマムドライブ』

 

ガイアメモリの複数操作は基本的に複雑で難しいのだが俺には関係ない。何故なら俺はこういう事(・・・・・)が出来る様に訓練されてきたんだからな。それぞれの属性を片腕ずつに纏わせて螺旋を作る様に前に突き出す。反属性同士をかき混ぜた攻撃だ、これで終わらせられる。そう思った瞬間奴は胸の前に半身ぐらいの骸骨を作って構えていた。

 

盾骸骨(スカル・フェイス)!!」

 

その骸骨を盾の様に使って嫌がる。なんちゅーバケモンだよ、メモリ一本の力でここまで作るとかただの化け物か!だが、負けるわけにはいかない。ヒートとアイスエイジの力を引き上げていくが、防がれているはずなのに威力が押し返されている感覚になる。負けまいとさらに引き上げていくと目の前にさっきの骸骨が現れた。

 

「何ッ!?」

「喰らえ!」

 

予想外の攻撃に反応出来ずに攻撃を喰らう。まさかあの攻撃の中を押し返しながらここまで吹っ飛ばしてきたのか?だとしたら相当強いぞコイツ………。

 

「たった一つのメモリでここまでやるとは………アンタ中々やるなぁ!」

「そういうお前こそあんなにメモリ使っているくせにここまでやるとは、大したもんだな」

「ハハッ、だけどまだ終わってねぇぞ!」

 

そう言って俺は間合いを詰める。ナイフは持たずに拳を突き出す。避けられてカウンターを繰り出されるがそれをそのままやり返す。ここからずっとそれが繰り返された。拳や蹴りを出しては避けられ殴られ、奴に当てては当てられての繰り返しである。投げては追撃に向かうものの確実な一撃は与えられず、ある瞬間、互いに距離を取ると互いに呼吸を整える。だが、すぐに肉弾戦が始まる。

 

「なぁ、アンタここまでやれるんだな」

「意外だな、俺もお前に同じことを思ってた」

「俺たち意外と似たもの同士なのかもな」

「…ああ、皮肉なものだな。俺は塩派でお前は味噌派なのに」

「ハハハッ、確かにな!」

 

笑いながらも距離を取る。そして構えを取ろうとするが体が言うことを聞かなかった。というよりかは俺自身がそうさせなかった。もし、コイツと新一さんみたいに協力出来たら、なんて事を考えてしまったからだ。その瞬間、俺はつい言葉にしてしまっていた。

 

「なぁ、俺たち組めば強いんじゃねぇか?」

「そうだな、でも俺には」

「ああ、俺も同じだ」

「………多分俺たちは同じ理由でぶつかり合ってる」

「それはなんでそう思うんだ?」

「探偵としての感だ」

「探偵、ねぇ………」

 

 戦って解っていた。アイツと俺は似たもの同士で、同じ思いで戦っていた事。拳が交わるたびに伝わってきた。コイツは俺と同じなんだって、似たような経験をしたからもう誰も同じ様な目にあって欲しくないからって。だけどそれは俺も同じだ。だからこそ俺はアイツに勝たなくちゃいけない。覚悟をもう一度決めた瞬間、奴は声を張る。

 

「だが俺は、俺の意思を突き通す。だからこそ、お前には申し訳ないがここで退場してもらう!」

「そうだよな、そうこなくっちゃな!」

『スカル』『エターナル』

『『マキシマムドライブ』』

「これで終わりにしようぜ、快斗!」

「ああ、これで終わりだ、京!」

 

 互いにライダーキックをぶつけ合う。今までにない全力をぶつけ合う。次第に威力は増していき辺りは白く染まっていく。爆発が終わると同時に俺たちは変身を解除させられて地面に仰向けに倒れていた。

 

「………なぁ、生きてるか」

「………ああ、生きてる」

「まだ、続けるか?」

「いや、流石に疲れたから無理」

「だな、俺もアンタもそこまでもう動けねぇしな」

 

 互いに全力を出し合った所為で多少は動けるが戦えるっていうレベルではない。

 

「……なんかバカらしくなってきたな」

「ああ、俺たち協力すればめっちゃ強いんじゃね?」

 

「なぁアンタ、今更言うのもなんだけどさ、一緒に戦わないか?」

「………そうだな、互いにレベルはわかったし、これなら協力しても良い。だがもしお前が俺に置いてかれる様になったらその時は覚悟しとけ」

「ハッ、その言葉そっくり返してやるよ」

 

 そしていつまでも転がっているわけにもいかないので立ち上がって今日のところは解散した。




一方その頃新一君は、お布団でぐっすり寝ていたという………

さて、決着がつきましたね。前の話では京君sideになります!まだ読んでないよって人は是非読んでください♪
もう読んだって人は次を楽しみにして頂けたらなって思います!

次回「思いを繋げて/私なりの答え」


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第縦壱話 思いを繋げて/私なりの答え

今回で第二章ラストになります。え、1日遅い投稿だったな、ですか?そうですね、何故か1日ずれてますねなんでですかね。ハハハハハハハハハハハハハハハ。
はい、理由は御察しの通りです。

京「よし、罪を数え終わったな。罰として次の話今月中に出せ」

え、ま?

京「マジだけど?」

え………やるしかないか、やらなきゃ僕が撃たれ「パァン!」ドサッ_| ̄|○

京「起きた時には死ぬ気になって貰おう。ん?どうしたスタッグフォン。ファンガイアが出た?おし、仕事行くか!」




_(┐「ε:)_あ、最新話どうぞ


「リサ、少し遅れてる。もっとテンポを上げて」

「オッケー!」

「あこは逆にリズムが走り過ぎているわ。もっとみんなの音を聴いて合わせて」

「はいっ!」

「紗夜と燐子はラストのサビをもっと盛り上げて。今の感じだと、まだまだ盛り上がりが足りないわ」

「分かりました」

「は、はい……」

「それじゃあ、もう1度始めからいくわよ」

 

 本番の前日、最後の練習に励んでいた。勿論僕ではなくRoseliaのみんながだ。しかし、すごい。ここに来てからお嬢様はずっと歌い続けているのに疲れを感じていないかの様に振る舞い、個々に的確に指示を出している。そして時間が経っていき、最後の練習時間が終わりに近づいていく。

 

「皆さんお疲れ様です、そろそろ予定の時間です」

「お、お疲れさま~明日はライブ本番だし、そろそろ上がろっか」

「もうこんな時間になるんだ~!練習はじめて3時間くらい経ってる…全然気づかなかったな」

「それだけ……集中してたんだね…………」

 

 りんりんとあこちゃんは何かを考え、伝えたいかの様にお互いの顔を見ている。静寂を切り出したのはあこちゃんだった。

 

「りんりん!まだスタジオの予約時間残ってるし、あと1時間だけ練習していかない?」

「うん……わたしもしたい……」

「よーし!友希那さんに負けないくらい、がんばろう!」

「ちょっ、ちょっとふたりともまだ練習する気なの~!?」

 

 帰る準備をしていたリサは慌てながら話しかける。かという僕も同じ感じだったのでなんとも言えないが。

 

「私も残ります」

「えっ、紗夜も?」

「私も残るわ」

「お、お嬢様っ……」

「友希那まで……もう、休むのも練習の内なんだからね~!」

「リサ、あなたはどうする?」

 

 お嬢様の問いかけと同時に全員がリサに視線を合わせる。その空気に圧されたのかリサも残って練習すると言い出した。僕も残っていたいのは山々だが、今日は冷蔵庫のものがほとんどないのでスーパーに行かなくてはならないのでここで離脱する。お嬢様に気をつけて帰ってくる様に伝えると「私は子供じゃないわ」と言って練習に戻ってしまった。だが最初の頃に比べればまだマシになったかもしれない。僕が先に帰る時は大体軽返事の一つ二つで終わっていたからだ。せっかく許可を貰ったので無駄にするわけにもいかないので邪魔にならないうちに部屋を出る。

 そうだ、明日は本番なのだからお嬢様の好物を用意して気合を入れて貰うことにしよう。そうとなれば早く行かなければとイクサリオンをフェッスルで呼び出してスーパーに向かう。

 

 家の鍵を開けた時には両手に食材がゴロゴロあった。しかしこの量をこのままバイクに入れられるとは…イクサリオンは一種の四次元ポケットなのだろうか。台所に向かい食材を片付けようとすると旦那様がリビングに入ってくるのがわかる。ちょうど切らしたコーヒーを淹れに来たのだとか。食材をしまい終わると旦那様から声がかかる。料理はしてて良いそうなので申し訳ないという気持ちを持ちながら質問に応答して料理を始める。

そしてここで気づく。お嬢様の好物はそんなに聞かされていない事を。頭をフル回転させて何か無いか考えると前に甘い卵焼きを出した時は少しばかり笑顔になっていたことを思い出す。という事は卵料理か…?いや、違う。他に好きなものは………

 

 リサのクッキー、蜂蜜ティー、甘い卵焼き

          ↓

         甘いもの

 

なるほど、甘いものか……夜ご飯を甘くし過ぎるのは良くないよな。ならば少しばかりに抑えてあとは栄養よく作ろう。デザートに蜂蜜出しておけばおそらくは気分向上に繋がるはず。あ、蜂蜜って言ってもそのまま出しません、お嬢様はクマさんじゃありませんから。そうして出来上がったものはオムライスだった。よし、ケチャップでで猫さんを………はやめておこう。前にそうしたら十分近く動かなくなってしまったから。

 他のものも出来上がり、食卓に並べていくとお嬢様が帰ってきた。いつの間にか旦那様はリビングにはいなかった。旦那様を呼ぶのでリビングで待つ様に伝えるとコクンと頷いてその場を去っていく。旦那様の部屋の前に行き、食事の支度が終わった事を伝えるとすぐに出てきた。

 楽しい…とは少しばかり遠いが静かな夕食が終わると旦那様とお嬢様はダイニングで一息ついている。僕は今洗い物をしているがそれも半分終わろうとしてる。次の皿にかかった時、旦那様が立ち上がり部屋の方へ向かおうとしていた。だが、それを止めるかの様にお嬢様が声をかけた。

 

 

「お父さん。今……いいかしら」

「どうした、友希那?」

「明日、私達のバンドのライブがある。それを見に来て欲しい。音楽への向き合い方……私なりに出した答えを明日、歌にしてみるだから……それを見てほしい」

「友希那…………」

 

旦那様が一瞬目を逸らすとすぐに向き直してお嬢様の方を見る。

 

「わかった、明日だな。友希那の歌を聴くのも久しぶりだ、楽しみにしているよ」

「ありがとう。それじゃあ、明日待ってるから」

「友希那、待ちなさい。明日、これを身につけるといい。父さんが昔ライブの時につけていたものだ」

「これは……」

 

その手に持っていたの物は見覚えがある。前に旦那様のライブ映像を見た時に見えたいつも身につけていたシルバーのアクセサリーだった。

 

「お守りだと思って、持っているといい。きっと、最高の演奏ができるはずだ」

「お父さん……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お嬢様が決意を示してから夜が明けて、ライブの準備をするリハーサル前の事。ファンガイアの気配を察知する。ここまで察知できる様になると某危険を察知できるシステムみたいになってしまいそうだ。ライブ当日のリハーサルか本番前は大体出てくるのでその度に言い訳して楽屋を出てくる。こうも続くと奴らは狙っているのかと疑いたくもなる。

 気配のする方向に向かうと今回は一体のファンガイアがいた。その姿は赫く、まるでヘラジカの角が広がっているようだった。敵から今までの奴らとは違う様な雰囲気を感じられる、只者ではない様だ。おそらく京君達と一緒に戦わなければ勝つ事は難しいであろう。であれば京君達が来るまで足止めをするために変身する。イクサカリバーで斬りかかりに行くと簡単に受け止められてしまう。片方の腕を振りかざしてきたのでそれを避ける。すると後ろにあった街頭は綺麗に斬り落とされた。これほど綺麗に切れるという事はかなり危ない相手だという事だ。でもとにかく止めなきゃいけない。そう思い、走り出そうとした瞬間、ファンガイアの左右から走ってくる音がした。

 

「待たせたな、イクサ」

「すみません少し遅れました!」

「二人とも、気を付けて!!」

「「合点承知!」」

 

 息ピッタリの二人が突っ込んでいくと京君は銃を構えて撃ち出し、快斗君はナイフを構えて上に飛んだ。二人の攻撃は銃弾がファンガイアに当たると同時に快斗君がファンガイアを斬ることによって当たった。集合した二人はハイタッチをするなりこっちにやってきた。

 

「二人とも凄いプレーだったね」

「まぁな、俺たちにかかればこんなモンだ」

「だな!」

 

 え、二人とも一日経つ間になんでそんなに仲良くなってんの?

 

「なんかあったの?」

「ああ、軽く殺し合いしたんだ。なぁ快斗」

「そうだな、ある意味楽しかったな京」

 

 殺し合った!?昨日のあの後に!?てか二人とも名前で呼び合ってるし。もう何がなんだか分からなくなってきてるけど今は放っておこう。とりあえず二人が協力できる様になって良かった。ほっとした瞬間時、ファンガイアからエネルギー砲が放たれる。見ただけで威力が強い事がわかる。その場から避けようとすると京君がそれを止めてくる。すると京君は目の前に骸骨を出してサイズを大きくし、エネルギー砲を受け止めた。

 

「けっ、京君何してんの?」

「見てわかんねぇか?防いでるんだよ」

「いや、わかるけどその骸骨何!?」

「それについてはおいおい………な!」

 

 語尾を強くした瞬間、骸骨を殴り飛ばしてファンガイアにぶつけた。なんか今日僕いらないような気がしてきた。ファンガイアが吹き飛ばされた隙を見て二人はそれぞれのメモリを武器のスロットに挿し込んだ。

 

「とっとと終わらせるか」

「ああ、腹減ったしな」

 

 終わらせる動機はともかく二人は必殺の構えを取り始めた。

 

『スカル』『ユニコーン』

『『マキシマムドライブ』』

 

 京君の撃ち出した銃弾を追いかける様に快斗君が地を駆けていく。閃光の様な銃弾はファンガイアに当たり、その直後に一角中の様な突きの一撃がヒットした。二人の攻撃が当たったファンガイアはガラスになって砕け散った。

 

「っし、終わったな」

「終わりましたよ、イクサ!」

「あ、うん………」

「どうしたんだ?急にしおらしくなって」

「いや、聞いちゃいけないんだろうけど、今日僕必要だった?」

「「………」」

 

 うん、予想通り沈黙の空間が出来た。いやでも今日真面目に途中で帰って良かったんじゃないかと思う。

 

「いや、でも間に合わなかったら危なかったですし」

「そ、そうだな!イクサのおかげで怪我人とか最小限に抑えられたし!」

「そ、そうだね、ハハハハハ!!!じゃ、僕仕事があるから」

「「お、おう」」

 

 そう言ってその場を走って離れることにする。皮肉っぽいことを言ってしまったがまぁ、今日は許して欲しい。急いで走っていると後ろから二人の「はぁ!?」という声が聞こえたが急いでcircleに戻ることにした。

 circleの前について時間を確認するとライブが始まる十分前だった。ここまで急いできたが今日は観客の立場なのでやることがない。たまにこの立ち位置になるがいつも仕事のことばかり考えているせいかこういう時困る。ゆっくり歩こうとをすると横から声をかけられる。

 そこには何故かキャリーバッグを持った旦那様がいた。何故キャリーバッグを持っているか聞くとこのライブの後にすぐに海外に立つという。お嬢様には伝えないのかと聞くと伝えといてくれと返される。まぁ今まで急に飛ぶ事もあったのでなんとも言えないが、お嬢様のことだからまた少し驚いて終わるのだろう。そんなことを話しながらステージを見て待ってるとお嬢様たちがステージに上がってきた。その姿は凛々しく、確固たるものだった。

 曲が始まり、演奏は続いていく。旦那様から授かった曲であるLouderが始まると同時に身体中を電撃が走る。それは練習の時よりも強く輝いて見えた。あっという間に曲は終わり、お嬢様たちはステージ袖に入っていく。すると隣で旦那様が紙とペンをくれと言ってくる。それを差し出すとすぐにペンを走らせてこちらに筆記用具を渡してきた。次に楽屋への案内を頼まれ、連れて行くと扉の前で待つように言われる。時間はさほど経たずに戻ってくる。旦那様はこちらを見るなりcircleの出入り口に向かう。外に出るとこちらに向き直してくる。

 

「またしばらく家を空ける。新一、これからも友希那を頼んだよ」

「はい、かしこまりました。旦那様もお気をつけて」

「ああ、これからの活躍に期待しているよ」

 

 前を向き直した旦那様の背に向かって会釈をし、姿が見えなくなるまで見届ける。その姿が消えたところで僕はお嬢様達がいるであろう楽屋へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐ本番だね!ん~、楽しみだなあ~!りんりん、緊張してる?」

「うん……少し……でも、友希那さんのお父さんの曲を演奏できるの……とっても楽しみ……」

 

 楽屋にてみんながライブ前の準備をしている中で話し合っていた。これからお父さんの曲を私たちの形で演らせてもらう。そう考えると少しだけ落ち着いていられなかった。

 

 (今日のライブ、友希那のお父さんが来てくれてるんだっけ。……いつも以上に本気でやらないと)

 

「リサ姉も緊張?なんかカタイよ~?」

「え? あれ、ホント?あはは、大丈夫大丈夫!」

「そろそろね」

「ええ」

 

 お父さん、見ていて……

 そう願っているとあこが私のアクセサリーに目をつけてくる。

 

「友希那さん、そのアクセサリーカッコイイっ!いつもはつけてないですよね?」

「これは……大切な人からのもらい物よ」

「Roseliaさん、お願いします」

「はい。みんな、行くわよ」

 

 ステージに上がっていく。そこにはいつも通りの風景が広がっている。メンバー紹介を済ませ、一曲目を演る。ここまでお客さんがついてきてくれている。あとは、ラストの曲を残すのみ。

 

「次で、最後の曲になります。次の曲は……私が一番尊敬するミュージシャンの曲をカバーしたものです。それでは、聴いてください」

 

 

 

 

裏切りは暗いままfall down

 崩れゆく世界は

 心引き剥がして熱を失ってた

 未だに弱さ滲むon mind

 未熟さを抱えて

 歌う資格なんてないと背を向けて

 

 色褪せた瞳 火をつけた

 あなたの言葉

 

 

 Louder…!

 You're my everything

 【You're my everything 】

 輝き溢れゆくあなたの音は

 私の音でtry to…伝えたいの

 I'm movin'on with you

 【movin'on with you】

 届けたいよ全て

 あなたがいたから私がいたんだよ

 No more need to cryきっと

 

「──2曲続けてお届けしました。聴いていただきありがとうございます」

 

 私が歌い続ける理由、それは──

 いつか、心のそこから音楽が、歌が大好きだと言えるようになることができたら……

 私は……もっともっと、上手く歌える……!

 

 

 

「すっごくすっっっご~<、楽しかったね!お客さんも、最高に盛り上がってたよ!」

「うん……!」

「ね、ホントに最高だったし、気持ちよかった!あんな一体感、今までで一番だったよね!」

「………」

「どうしたの、紗夜?そんなに自分の手をまじまじ見ちゃって」

「……いえ。なんだか、不思議なくらい今日の演奏は私の体に馴染むものだったから……」

「そうね。私で気持ちよく歌うことができたわ」

 

 今までにないくらい気持ちが良かった。それに歌の中で何かを見つけられた様な気もする。

 扉から音が聞こえると新一が「お疲れ様です」という声と同時に入ってくる。ついでに部屋を見渡すとテーブルの上に目が止まる。そこにはお父さんの曲のスコアが置いてあった。

 

「これは……!」

 

『いいライブだった。父より』

 

 お父さんの走り書き……ちゃんと見に来てくれてたんだ……

 短い手紙を読んでいるとリサが顔を出してくる。

 

「友希那!何見てるの?」

「んん?これって……!」

「……ええ。お父さんから」

「よかったね、友希那。それにしても、お父さんも直接言いにくればいいのにね。友希那の素直じゃないとこはお父さん譲りなのかな」

「……リサ」

「あはは、ごめんごめん」

「今日は、ありがとう。ほんの少しかもしれないけど、以前より前を向いて歌を歌えていたように思う」

「えっ? 前から前を向いて歌っていましたよね……?」

「今のは比喩表現よ。気持ちが前を向けていた、ということでしょう」

「ええ。その通りよ。そして……私はこの先もっともっと前へ進んでいきたい。だから、この先も私についてきてほしい」

「もちろんですっ!」

「当然、そのつもりよ」

「……はい……!」

 

 みんなが返事をすると取りまとめる様にリサが声を出す。

 

「アタシも、もち友希那に着いてくよ~!それじゃ、パーッと打ち上げにでも行きますか!いつものファミレスだけど♪」

「……ありがとう。それじゃあ、早速移動するわよ」

「あ、友希那、ちょっと待ってよ~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




友「新一、お父さんは?」
新「旦那様は仕事に向かわれました。またしばらく空けるそうです」
友「そう………」
新「お嬢様、本日のライブも素晴らしかったです」
友「そう………でも、まだよ。こんなところで満足してられないわ」
新「承知しております。ですが時にはその羽も休めなくてはなりません。というわけで次回からは幕間に入ります」
友「新一?」
新「堅苦しいことが続いたので皆ちょっとだけはしゃぐみたいですよ」

はい、というわけで第二章お疲れ様でした。
「青い薔薇、芽吹く」「memory of Louder」
と二章連続でシリアスでしたね。ですがたまには遊ばないと…というわけで幕間に入ります!そっちの方は軽い気持ちで読んでください!
それでは幕間で………


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幕間(おふざけ)
第1話 夏だね!暑いね!どうしてこうなった?


はーい幕間第一弾です!
え、時間に間に合った?ノンノン☝️むしろ計画通りなのさ!
というわけでいつものシリアス感は忘れてみんなでおふざけしましょ〜!




そういえば幕間って言われるとFGOとexposeのサビが出てくるな…


 あれから月日は経って7月のある日、僕は学校で授業を受けていた。今日の授業は楽しみだった家庭科の授業がある。

 そう、家庭科の授業では調理実習の時間があるので同じ班のメンバーに感想を言って貰えるのだ。料理人にとって自分の料理の感想を言って貰えることも料理を作る上での楽しみの一つ。お嬢様は普段言ってくれないのでこの時間が授業の中で一番楽しみなのだ。といってもお嬢様は何故かいつも同じ班である。それはそれで緊張感もあるし、いつも通りに作れるのだから問題はないのだが今日は初めて違った。

 今日の知ってるメンバーで一緒なのは京君と少しだけ話したことのある大和真弥さんだけだ。大和さんはPastel✳︎Palletのドラムをやってるらしい。京君とは前のバイト先で同じだったとか。

 話が逸れてしまったが今日の調理実習はビーフシチューらしい。

 

「シチューか〜」

「どうしたの京君?」

「いや、シチュー食うの久しぶりだな〜って」

「任せといて、美味しいの作るから」

「お、これは期待できそうだな。なぁみんな、俺らの班は全部新一に任せねぇか?」

「えーでも新一君だけに任せるのはなー」

「はい、なんか悪いっス」

「でも私たち料理得意じゃないよ?」

「大丈夫、気にしないで。今日は道具だけ持ってきてくれれば良いよ。成績の方は全員でやった事にしとくから」

「マジ!?ラッキー!」

 

 別に邪魔だからとかそういう理由ではない。何故か気分がいつもの実習よりも上がっているからだ。大和さんだけは申し訳なさそうにお願いしてきたが気にしない様に声を掛けておく。

 さぁ、料理を始めようか。

 用意されていた具材をレシピ通りに作っていく。実習室の物は何でも使っていいらしいので隠し味に使うものを確認しておく。時折お嬢様の班の方を横目で見る。だが、お嬢様が包丁を使うところを見るとゾッとした。手を広げて野菜を掴んでいたのでこっちの作業を中断してお嬢様の元へ向かう。

 

「おj、み、湊さん、包丁の時の手の形、違いますよ」

「そうなの?」

「は、はい。先生も言ってたじゃないですか、切るものを添える時はこう、猫の手をするって」

「猫の手…」

「はい、猫の手でこうやって……そしたらほら、こんな風に安全に切れるんですよ」

「………ありがとう」

 

 お嬢様は目を逸らして礼を言ってきた。それに対して笑顔で返して戻ると料理をやってる雰囲気を全力で出してくれている班員から声をかけられる。

 

「名護君って教え方上手だね。あの湊さんまで言うこと聞かすなんて…」

「そんな事ないよ、ちゃんとしたやり方を伝えただけだからね」

「にしても上手いっすね、普段料理とかしてるんですか?」

「まぁね。料理は得意な方かな」

「こいつの卵焼き前に食ったんだけどさ、マジ美味かったぜ」

「ホント!?ウチらも今度食べたーい」

 

 今度ね、などと言って受け流しそろそろ最終肯定を行う。ここからは隠し味を入れるために皆に少しだけ目を逸らしてもらう。そして隠し味である蜂蜜を適量入れてかき混ぜる。その後にルーを入れて煮込む。皆に終わったことを伝えるとせめて洗い物はと皆で協力してやってくれた。30分近く立ってテーブルの上に人数分のビーフシチューと試食用を用意して教師に報告すると試食用を黒板前の机に持ってきたら食べてよしと言われたので颯爽と持って行って班員が席に着く。

 

「それじゃあ…」

『いただきます!』

「皆さん、良ければ感想聞かせてくださいね」

「んな事わかってらぁ」

 

 そう言って全員が一口目を口に運ぶと京君以外が手を止めて動かなくなっていた。その姿をよくみると全員昇天しそうな顔をしていた。

 

「え、皆どうしたの!?そんなに美味しくなかった!?」

「いつも通り美味いぞ新一、ってどうし…うおっ!?これどうした!?」

 

 驚いた京君は急いで大和さんの席に向かって彼女の肩を揺さぶり始めた。

 

「おい、真弥!どうした!」

「ハッ、京さん。自分は一体………」

「そんなに新一の飯不味かったのか!?」

「いえ、そうじゃないんです。なんかその、今まで食べた事のない美味しさで…体が浄化される様な感覚になりまして………フヘヘ」

「「………え?」」

 

 周りの人間を見てみると倒れてる班員全員が「美味しい」とか「浄化される」とかぼやいている。いや、皆オーバー過ぎないかな。京君は普通なのに…。とそこに他の班員がこっちに気付いたらしくこっちに向かってくる。

 

「何があったのこれ!?」

「何、毒!?」

 

 物騒な声を誰かがあげるとあっという間にクラス中に広まる。皆自分達の班のものを食べ始めてたらしく、急いでスプーンを置く。違うんだ、毒なんて入れてないんだと説明しようとすると京君が立って説明を始める。

 

「皆よく聞け。毒は入っていない。原因はうちの班のビーフシチューだ。俺は平気なんだが何故か女子はヤラれた」

「その言い方やめてくれない?まるで危ない事したみたいじゃないか」

「確かその班って名護君がリーダーだよね…」

「嘘っ、じゃあ名護君が………!?」

「違う、不味いんじゃない。逆に美味すぎるんだ。少しずつ分けるから皆も実際食べてくれ」

 

 そう言って京君は小皿に僕達の班の分のシチューを盛って各班に分けた。皆が固唾を飲む中、京君が号令をかけて全員が一口口に運ぶと大半が倒れて大半がその場で昇天しそうな顔をしていた。………お嬢様を除いて。先生の方を見ると意識を保っていたが何故か苦しそうにも見えた。

 

「先生大丈夫ですか?」

 

 そう言って水を渡すと先生は勢い良く飲んでコップを叩きつける様に机に置いた。その直後、教室に響き渡る様な大きな声を出した。

 

「名護君!」

「は、はい」

「君、どうしてこんなものを作れた。これは常人が作れる領域じゃない!」

「………え?」

「こんな、それぞれの食材が完全調和してこっちまでほっこりさせる、そしてこれまでの自分自身の穢れを浄化させてしまう様な……聖母に包まれる様な感覚………こんな料理をどうして作れるんだ!」

 

 いや、レシピに隠し味の蜂蜜入れただけなんですけど。ていうかそこまで言われると照れるというかなんというか。

 

「とにかく、君の才能は確かだ!私はもう一度料理を見つめ直す旅に出るから実習は頼んだよ!」

 

 そう言って帽子を預けて走ってどこかへ行ってしまう。うーん……どうしてこうなった?

 

「新一」

「はい、なんでしょうか」

「どうして皆こうなっているのかしら」

「世の中には分からなくてもいい事はあるんですよ」

「そうね」

 

 そしてお嬢様は僕に食べ終わった後の食器を預けて実習室を出て行ってしまった。この後がお昼休みだったので、皆全部食べ切った後完全にスッキリした顔をしてお昼寝をしてから五時間目を受けた。そして五時間目の教師からは

 

「どうしてお前ら悟りを開いた様な清々しい顔してんだ?」

 

と言われたのであった。




ここで今まで出来なかったオリジナルキャラクター紹介①

主人公
名護 新一(ナゴ シンイチ)

【挿絵表示】

【挿絵表示】
夏と冬バージョンです。描き方違うのはご了承ください
16歳(羽丘高校二年生) 男 血液型 A型
誕生日 四月四日 
家族構成 父(死亡)、母(死亡)、兄一人(行方不明)、妹一人(死亡)
ライダーシステムであるイクサシステムの装着者
得意な事・好きなもの
家事全般、ジャンクフード(お気に入りはブシドー!セット)、音楽(得意楽器はヴァイオリンとベース)
苦手な事・嫌いなもの
争い事(ただし戦闘は得意と言っても過言ではない)、平和を乱すもの、兄
性格 基本穏やか(ただし怒ると冷酷非情になる)
 幼少期は一般人として暮らすも小学校入学前に祖父である名護不比等の使いである者達に家族全員連行される。
 名護家は防衛に関する財閥であり、後継は兄に指定されていた。新一自身は執行部隊にて執行兵として訓練される。神童と呼ばれた彼は着実に武術を身につけていき小学三年生にして一個小隊を率いる者であった。
 しかし状況は一転し、とある事件により兄は行方不明、次期当主は兄から新一へと移った。
 それから彼は本来は兄が継ぐものだったものを全て注ぎ込まれ、更に「名護家当主たる者全てに通ぜよ」との意思により政治、武術、芸術、知識、全ての才能を注ぎ込まれる。その過程で彼が失ったものは多い。しかし彼は十歳にして当主の座に座る。
 数ヶ月後に先代である祖父は死亡。名護新一は権力を振り翳し、武力を強化し自国の防御強化のみならず他国の後に危険に繋がるであろう犯罪集団や麻薬や人身販売などの犯罪組織の討伐を行った。わずか数年で犯罪組織が大から小まで含めて千近くは消えた。中には本人自ら出向き一人で終わらせたものもある。
 多くの部下から信頼を得ていた彼だが後に部下を裏切ることになる。
 十三歳の夏に起きたファンガイアによるバスジャック事件にて最愛の家族である父、母、妹を亡くす。彼は奇跡的に生き残り、湊 友希那の父である湊 幸也(ミナト ユキヤ)との交渉によって湊家の執事となる。そしてイクサシステムを預かりファンガイア及びドーパントと戦う。
 彼が戦う理由は平和のためなのか、復讐のためなのか。それは誰にもわからない。












いや〜主人公である新一君の過去は凄まじいものでして………
本編にて明かされるのでそこは楽しみにしといてください。
ところで本編の季節が本来もう終わる?そんなものは知らないな!
さて、次回も遊びますよ〜 〜('ω')〜


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第2話 配布物と果物と弦巻家と

 今日は練習があっていつも通りcircleに来ていたが僕は単独行動をしている。理由は簡単、スタジオ内でやることがないからだ。差し入れの水も出したしいても特にやることがないのだ。

 仕方ないので外のカフェでゆっくりとアイスコーヒーを飲んでいる。

 だがゆったりしている時間もある人からの連絡で終わってしまった。

 差出人は快斗君だ。なんとも用事があるんだとか。どこに行けばいいか聞くとそこにいて大丈夫と連絡を受ける。ならば大人しく待ってようかとアイスコーヒーを一口ストローで吸い、コップを置いた瞬間目の前が突然ブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと知らない場所にいるというのがわかる。豪華なシャンデリアにその辺の家とは違う壁模様。扉の近くには黒服でサングラスの人が二人。そして西洋の城を感じさせる雰囲気。とりあえず放置して辺りを見回すと京君が倒れている。

 

「京君大丈夫?」

「ああ、新一か?」

「うん、ここは一体………」

「ようこそおいでくださいました!」

 

 高らかな声が聞こえる方を見るとそこには椅子に足を組んで座っている、サングラスを掛けた快斗君の姿があった。

 

「快斗君で…あってるよね?」

「何してんだお前は………」

「あってますよ〜。ようこそおいでくださいました!」

「2回も言うな2回も!」

 

 えーという声と共に快斗君はサングラスを外して椅子から立ち上がる。

 

「察するにここは弦巻家でいいのかな?」

「さすが新一さん、その通りっス」

「は?今何つった?弦巻家とか言わなかったか?」

 

 京君は愕然としながら辺りを見回す。そういえば話してなかったっけ。まあいいか、今知っただろうし。でも疑問に思うところがある。

 

「ねぇ快斗君」

「なんスか?」

「なんでクトゥルフ神話TRPGみたいなことしたの?」

「いや〜一回やってみたかったンスよね〜。どうせ呼ぶなら面白い感じのがいいかなーって♪」

 

 黒服の皆さんも楽しく手伝ってくれたとか。機嫌が良さそうに話す快斗君。いや、良くないよ?前回ふざけよ〜みたいな話したのになんか重そうな展開から始まっちゃったじゃん。それとも何、これからSAN値チェック入るの?ダイスロール振る?

 今更だがTRPGとは『テーブルトークロールプレイングゲーム』の事である。オリジナルのキャラクターシートを作って物語の世界に入り込み、物語を攻略していくというテーブルゲームだ。詳しくはウィ◯ペデ◯アを読んで欲しい。

 あと、黒服の皆さんも手伝わないでください。

 

「で、俺らはなんで呼ばれたんだ?別に今からTRPGするわけじゃねぇだろ。それとももう始まってんのか?」

「え、始まってたらヤバくね?ってそうじゃなくてある人からライダーを全員呼んでくれって言われたんだわ」

「ある人?」

「はい、今から連れていきますんで着いてきてください」

 

 ライダーを呼ぶとは一体どんな用件なのか。因みに快斗君曰く、僕と京君をここに入れる事は既に当主から許可を得ているらしい。まぁそんな簡単に入れたら只事じゃないよね。長い廊下を歩いていくと下に続く階段に差し掛かる。

 階段を降っていくと一枚の鉄の扉を見つける。快斗君がノックしたが返事はなく、また快斗君はいる事を確認せずに入っていった。恐る恐る部屋の中を確認してみると部屋の電気はついておらず、代わりにマルチモニターのパソコンが部屋を明るくしていた。パソコンの前には椅子に座っている人がおり、その人は手元からカチャカチャと音を立てていた。音は手元からだけではなく足元からも鳴っていた。どうやら足の指でキーボードの操作をしているみたいだ。

 

「連れてきましたー」

「………………」

「連れてきましたよー?」

「………………」

 

 集中しているのか聞いてないその人は手足を動かし続けた。その姿を見て快斗君は溜息を吐き、深く息を吸う。そして部屋に響き渡る大きな声を発する。

 

「あー!!こんなところにエロゲの特典が!しかもこれ初期限定のなかなか手に入らないやつだー!!!」

「ナニッ!?何処だ何処だ!」

 

 探し回る男の人は眼鏡をかけており、まるで餌を探す獣の様に目を光らせていた。ところでエロゲって何?と京君に聞くと一瞬唖然とした顔をされたが知らなくて良いこともあると帽子を伏せて言われてしまった。

 

「んなモンねぇーっスよ」

「ハッ、騙したな快斗!」

「声かけたのに気付かなかったアンタが悪い!てか、S◯itchでエロゲしながら足操作でパソコンのエロゲすんな!ほら、連れてきましたよ」

「チッ、覚えておけよ………っと、君たちがイクサとスカルでいいのかな?」

「あっ、はい」

「そうだが?」

「ならよし。私の名は高城 遼馬(たかぎ りょうま)、ここの研究開発の第一人者だ。気軽にプロフェッサーとでも呼んでくれ」

 

 彼の説明が正しければ彼は弦巻家の研究者ということになる。つまり彼が快斗君のライダーシステムを作ったのか…?

 

「説明しなくても分かると思うが快斗のドライバーとメモリを作り出したのはこの私だ。良い出来だろう?」

 

 彼は自分の技術を示せて上機嫌の様だが京君は少しばかり不機嫌になっていた。無理もないだろう。何があったかはまだわからないが京君はメモリのことになるとよく不機嫌になる。

 

「今日はそんな事で呼んだんじゃない、話によると君たちは協力関係にあるらしいじゃないか。そんな君たちに私からのプレゼントだ」

「プレゼントだぁ?」

「ああ、これで少しは楽になるんじゃないかな?」

 

 プロフェッサーはさっきまでいたデスクに戻り引き出しを開ける。そこから錠前らしき物を取り出して僕たちに三人に投げる。それぞれが受け取り確認するとそこには果物の絵が描かれていた。

 

「それは簡単に言えばファンガイアやドーパントのサーチャーだ。奴らが街で暴れたした瞬間アラームが鳴って教えてくれる。アラームが鳴ってから果物の部分を開くとマップが表示されて場所が分かる。今まで直感を頼りにしていた名護君とかからすれば便利な品だろう?因みにまだ名前は決定していない」

 

 確かにそうだがなんで僕の名前を知っている?

 その答えは簡単だ。おそらく快斗君が教えたのだろう。しかし便利な物だ。今まで本能的に動いていたからこういうものがあると助かる。本能的に動いてファンガイアがいなかった時はある。

 しかしなんで果物?あと名前無いのこれ?

 

「なんで果物かって?私の趣味だ、良いだろう?因みに快斗はイチゴ、鳴海君はブラッドオレンジ、名護君はザクロにしてある」

「なんで全員赤なんだよ」

「私の趣味だ、良いだろう?(二回目)」

「アーソウダナ、イイシュミダナー」

「カタコトなのは気にしないでおこう。あとそれにはもう一つ機能がある。緊急時用の無線だ。説明書渡しておくからあとは自分たちで見といてくれ」

 

 説明が面倒くさくなったのか説明書を渡してプロフェッサーは席に着く。

 無線の機能は簡単であり、錠前の留め具部分を一回押して果物を開くと京君へ、二回押して開くと快斗君へ繋がるらしい。また、応答するときは錠前を開いて果物を開くと携帯を開いた形になるのでその状態で通通信が可能らしい。今度暇があればやってみよう。

 確認し終えた僕たちはプロフェッサーに声をかける。

 

「用件はこれだけですか?」

「ああ、今日はこれだけ。もう帰っても大丈夫だ。面白いことを思いついたらまた連絡させてもらうよ」

「ではありがとうございました。これ、使わせて貰いますね」

「壊れたら言ってくれ。その時は修理費もよろしく」

 

 金取るのかよという京君のツッコミにプロフェッサーは笑って受け流していた。部屋を出て階段を上がっていくと五人の女の子に会う。

 

「あら快斗、その人たちは?」

「ああ、俺の知り合いの人。そっちの人が名護新一さん、帽子かぶってる奴が鳴海京」

「なんで俺だけ呼び捨てんだよ」

「別にいいだろ」

「よかねぇ、これでも年上だぞ」

 

 その言葉を交わして快斗君はこっちに少女たちの紹介をする。

 どうやら彼女らは『ハロー、ハッピーワールド!』というバンドらしい。

 声をかけてきた子はヴォーカルの弦巻こころというらしい。そう、ここの御令嬢だ。とても元気なのだがここまで元気ハツラツな御令嬢は今まで見たことない。他にメンバーはベースの北沢はぐみ、ギターの瀬田薫、ドラムの松原花音、そしてバンドには異色のDJである奥沢美咲と紹介された。しかし本当のDJは奥沢さんではなくミッシェルというクマなんだとか。クマがDJをやるバンド………一体どんな音楽を奏でるのか謎である。

 しかしこの中で知っていたのは瀬田さんだけだった。彼女は羽丘高校で有名人である。口癖は儚いだとかなんだとか。

 

「新一、京、君たちのことは知っているよ」

「え、薫くん二人のこと知ってるの!?」

「ああ、彼らは私と同じ学校でね、数少ない男子だから知っているのさ。しかし、こんなところで二人に会えるなんて…ああ、なんて儚いんだ!」

「俺もお前のこと知ってるぜ。瀬田薫、羽丘演劇部のエースでありファンクラブの人数は数知れずってな」

「ほう、私のことを知っていてくれてるとは。儚い………」

 

 それは儚いのかな?まあいいや。

 そしてふと気になる。今何時だろう。時計を見るとそろそろお嬢様達の練習が終わる時間になる。となるともう帰らなくてはならない。

 

「快斗君、申し訳ないんだけど僕はそろそろ…」

「あ、お疲れ様です。今日はありがとうございました」

「ううん、こちらこそ。それじゃ」

 

 なんで快斗君はここで挨拶したんだろう。そんなことを考えながら後ろを振り向いた瞬間、またブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新一ー?起きてー?」

 

 リサの声がする。何でだろう。さっきまで僕は弦巻家にいたはず。でも突然目の前が暗くなって………。

 あれ、どうしてだろ。思い出せない。どうやってここまで来たんだ?てかそもそも僕は今どこにいる?

 体を起こして辺りを見回すとそこはcircleの前のカフェだった。目の前には向こうに行く前に飲んでいたアイスコーヒーの入ったコップが置いてある。

 

「リ……サ………?」

「あ、やっと起きた。全くこんな暑いのに良く寝ていられたね〜」

「パラソルがあったからじゃないですか?しかし名護さんも昼寝なんてするのですね」

「意外ですよねー、新兄の事だからもっとこう優雅に待ってるかと思ってた!」

 

 昼寝をしていた?そんな馬鹿な、だってさっきまで僕は………あれ?どうやって行ったんだ?ていうか何してた(・・・・)んだっけ。

 ……ま、いっか。

 

「ごめんね、なんか迷惑かけちゃって」

「いやいや、そんな事ないよ〜。顔伏せちゃってたから寝顔は見られなかったけど、それはまた今度にするよ♪」

「今井さん、人の寝顔でからかうものじゃありませんよ」

「ごめんって〜⭐︎」

「あれ、お嬢様とりんりんは?」

「友希那さんとりんりんなら今次の予約入れてますよ!あ、ホラ!」

 

 あこちゃんが指差す方を見ると二人が出てきた。全員が集合し、その場で次の練習時間と日にちを確認して帰ることになった。

 歩いている最中ポケットがふと気になり手を入れてみると何か入っていることに気付く。

 なんだろう?とその物体を掴みながら取り出すとそれは見覚えがないけど知っている、ザクロの絵が描かれた錠前が入っていた。




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第3話 北欧のサムライ、喫茶店で働いてます

今日は羽沢珈琲店に来ています。勿論休み時間にお送りしています。最近練習時間はどうしても暇になるので散歩したりしている。戦うこともあるけど今日はこの喫茶店でゆっくり出来る。

 因みにさっきコーヒーを頼んだのでもうすぐ来るはずだ。暑い日が続いているけどたまには夏でもホットが飲みたくなる。そんな気分である。今日は客が僕しかいない。だからすぐに運ばれてくるだろう。

 時計を眺めて待っているとパタパタと音が聞こえてくる。

 

「………ちゃん、それ出したら上がって良いよ」

「ありがとうございます!それでは行ってきます!」

 

 どうやら僕のコーヒーを届けに来る子は今日はこれが最後の仕事らしい。返事もしっかりしていた子だし、元気で良い子なんだろうな。

 そして足音は近づいてくる。

 

「お待たせしました、コーヒーです!」

「ありがとうございます………」

 

 元気の良い声の方向を見ると見たことのある顔がそこにあった。日本人とは思えない白銀に近い髪色、アクアマリンの様な色の瞳。何故ここにイヴちゃんがいるのか。理解が出来ずにに固まってしまった。

 

「あれ、シンさん?」

「い、イヴちゃんなんでここに?」

「私、ここで働かせてもらってるんです!」

「へ、へぇ〜」

 

 焦っているわけではない、ただ少し驚いているだけだ。とりあえず落ち着くためにもコーヒーを一口飲む。温かい飲み物ということもあって落ち着いてくる。

 筈なのに汗が止まらない。何故だ?ここは空調が効いてないのか。それとも夏なのに暑いのを頼んだ僕が悪いのか。

 

「シンさん!」

「ど、どうしたの?」

「私、これで仕事上がるんですけど一緒にお茶しても良いですか?」

「あ、うん、僕少ししかいないけどそれでもいいなら構わないよ」

「ありがとうございます、少し待っててください!」

 

 パタパタとバックに入っていくイヴちゃんを見届ける。

 さて、こんなところでイヴちゃんにエンカウントするとは想定外だ。あれ以来会っていなかったものだから何か聞かれてもおかしくはない。まぁ適当に誤魔化すしかないか。

 さて、困った。さっきまで悩んでた問題が一瞬で解決してしまった。いつも通りにすればいいのに何故ここまで考えていたのか謎すぎる。

 とりあえずコーヒーを飲むと先程まで仕事着でつけていたエプロンを外しいているイヴちゃんの姿が見えた。

 

「お待たせしました!」

「大丈夫だよ、久しぶりだね」

「ハイ!シンさんとゆっくり話せて嬉しいです!」

「ハハ、まだ話せてないけどね」

「そうですね、何からお話ししましょうか」

「そうだね…イヴちゃん、今は学校とか行ってるの?」

「ハイ、近くの花咲川高校に通ってます」

「そっか、友達は出来た?」

「ハイ!皆さんとても良い人で────」

 

 それからしばらく話は続いた。どうやらイヴちゃんは日本に来てからは高校生をしながらアイドルをやってるらしい。それも僕のクラスにいる大和麻弥さんと同じPastel✳︎Palletなんだとか。しかもアイドルでキーボードをしているという。最近のアイドルは自分たちで演奏するものなのかと感心していた。

 学校生活はどうかと聞くと結構充実しているらしい。部活は剣道部と茶道部、華道部に所属しているらしい。なおかつここでバイトしている。どうやら知らない間にイヴちゃんは阿修羅の様になっていたらしい。

 特に剣道部については熱く語っていた。元々日本や武士が好きだったというのもあるらしいが本当の原因は僕にあるんだとか。

 そんな話をしていると店の扉がカランカランと音を立てる。二人して扉の方を見ると女の子が二人入ってきた。

 片方は金髪のロングヘアーのキリッとした感じの子。もう片方は水色の髪でふわふわした感じの子だった。視線に気づいたのかこっちを見ると笑顔を向けてきた。

 

「チサトさん!」

「あら、イヴちゃんじゃない。こんなところで奇遇ね」

「イヴちゃんこんにちは」

「こんにちはですカノンさん!」

「イヴちゃん、二人は知り合いの人?」

「ハイ、二人とも学校の先輩でチサトさんはパスパレのベース担当です!」

 

 だから二人はイヴちゃんを知っていたのかと感心すると金髪の子がこちらを向いてくる。実際近くで見ると背が低いにも関わらず大きく見せる雰囲気を持つ彼女は聞こえる声でハッキリと自己紹介をしてきた。

 

「初めまして、Pastel✳︎Palletベース担当白鷺千聖です。イヴちゃんがお世話になってます」

「こちらこそ初めまして、羽丘高校二年名護新一です。お世話になっているのはこちらの方です。話し相手にまでなってもらっちゃって」

「そんな事ないです、シンさんはとてもいい人です!」

「聞いてしまうのですが、どういう関係ですか?」

 

 どんな関係、か。それを聞いてくると答えに困る。説明しづらいと言えばしづらい。なにせあったのはほんの数回だから。

 ついでに何かを疑っているのかその笑顔が少し怖く感じる。それも仕方ないだろう。だって相手はアイドルだから。アイドルは恋愛御法度ってよく聞くからね。

 

「そう、ですね…迷子と保護者?の様な、ただの出会い頭?というか………」

「私とシンさんは師弟関係です!」

「「「………え?」」」

 

 その言葉を発したイヴちゃんは何故か自慢気だ。

 皆が何か言う前に言っておこう。

 僕は何も教えてない。少なくとも教えた記憶はない。

 

「な、何を教えてもらったの?」

「ブシドーです!」

 

 その言葉を聞いて僕は額に手を当てる。たしかに教えたね武士道。ただ概要しか教えてないはずなんだけどね………。

 

「お話よろしいですか?」

「構いませんよ。どうやらこちらも誤解を解かねばなりませんので」

 

 話を聞かせてもらうと伝えてくる白鷺さんの顔はまるで悪魔の様な笑みだった。それをかろうじて受け止めて弁解の余地を貰う。このまま話す前に水色の髪の子に名前を聞く。彼女は「前にも会ったことありますけど」と慌てながら自己紹介をした。「前にもあったことがある」という意味はわからなかったが松原花音という名前を聞いた瞬間ハロハピのドラムであるという情報だけは流れ込んできた。知らない情報のはずなのに何故知っていたのか、それは謎である。

 

「さて、では誤解を解きましょうか」

「ええお願いします」

 

 お願いしますという割には怖い笑顔をしてらっしゃる。アイドル以外に女優でもやっているのだろうか。とにかく今は誤解を解く他道はない。

 

「まず最初に師弟関係というところから否定しましょう」

「そうなんですか?」

「はい。たしかに武士道については教えましたが概要だけです。そんなに詳しく教えてません」

「ではシンさんは私に本当の武士道を教えてくれなかったんですね………」

 

 悪いことを言うつもりはなかったんだけどこのタイミングでその顔はやめて欲しいかな。

 見てイヴちゃん、白鷺さんが笑顔のままこっちに怒りのオーラを向けてるよ。

 

「それはホラ、イヴちゃんとまた会った時に教えようかなって…ね?」

「シンさん………!」

 

 笑顔に戻ってよかったけど、白鷺さんは未だにこちらを笑顔のまま睨んでいる。この人もしかして裏で微笑みの鉄仮面とかいう渾名つけられてない?

 

「コホン、纏めるとアレなのでイヴちゃんと会った時のことをストーリー形式でお話ししましょう。今は昔、竹取の────」

「知ってます!『竹取物語』ですよね!」

「正解だよ、本当に日本のこと勉強してきたんだね」

 

 イヴちゃんの頭を撫でると彼女は上機嫌になる。むしろ懐いてくる犬みたいだ。

 だがそれを許さない鉄仮面がこちらに満面の笑みを見せてくる。

 

「ふざけているのかしら?」

「すみませんでした。では改めまして────

 僕は十歳の時に家族でイギリスに旅行に行きました。その時一人で行動してたら周りをキョロキョロしながら何か探している子がいて、その子のことを見てたんです。

 そうです、その子はイヴちゃんです。

 そしてらイヴちゃんは暗い路地裏に入ってしまったんです。流石に危ないかなって思って行ったら怖い大人の人達がいて、その子に手を出そうとしてたんで止めに入りました。

 大人たちは僕を見るなり笑っていたのでちょっとだけお話をしたんです。そしたら慌てて逃げてしまって………。

 その後、イヴちゃんに何をしていたか聞いたら家族を探しているって言ってたんで一緒に探して無事に家族の元に帰せました。

 というお話です。あ、武士道については一緒に探してる時にお話ししてました。その時も日本が好きだって言ってましたので」

「なるほど、疑ってすみませんでした」

「いえ、誤解が解けて何よりです」

 

 うん、真偽を混ぜて話したから疑われる事は少なくともないはず。九割真実だしね。イヴちゃんが何か(・・)に気づかなければ大丈夫なはず。

 イヴちゃんの方を見た瞬間イヴちゃんはこっちを見て唖然としていた。そして机を叩いて立ち上がった。

 どうしてだろう、嫌な予感がする。

 

 

「それは違います!」

 

 

「い、イヴちゃん!?」

「違うって…どういう事ですか?」

「え、どうしたのイヴちゃん」

「どうしてシンさんはあの事(・・・)を黙ってるんですか?」

「あの事って…何もなかったしソンナコトシラナイナー」

 

 

「その言葉、斬らせてもらいます!」

 

 

 どうしようさっきからやってる事が学級裁判みたいになってきてる。裁判自体はやった事はないけど。

だとしてもあの事は喋らせるわけにはいかない。今の僕はあくまで一般人、普通の人と思わせる為にも。

 

「落ち着こうイヴちゃん、僕が何を──ッ!」

 

 止めようとした矢先白鷺さんが僕の口に手を当てる。

 しまった、この人ここまでするのか。流石に計算外すぎる。

 

「イヴちゃん何があったの?」

「実はさっきの話にウソがあって、お話してないんですシンさんは」

「お話ししてないって……どういう事?」

「〜〜〜!〜〜〜〜〜!(離してください!イヴちゃん喋っちゃ駄目ー!)」

「シンさんは路地裏に入った私に暴力を振おうとする男の人達から守ってくれたんです!」

 

 その場に沈黙が走った。だめだ終わった。ただの一般人です作戦失敗した。

 

「私、あの時その人たちが怖くて泣きそうになった時にシンさんが来てくれたんです。そしたら今度はシンさんが殴られそうになって………でもシンさんは強いんです!男の人達をバッタバッタと倒して退散させてしまったんです!」

「本当………なんですか?」

 

 言葉を発せないので躊躇しながらも頷く。手なら外そうとしたけど意外と強すぎて離れなかったから諦めた。

 

「しかもその後泣きそうだった私にアイスを買ってくれたんです!その時のアイスの味は忘れられません♪」

「………名護さん、あなた一体何者ですか?」

「………」

「いや、何か言ってくださいよ」

「千聖ちゃん多分それだと喋れないんじゃないかな…?」

 

 はい、全くもってその通りです。

 松原さんは困った様な笑顔を見せながら白鷺さんから解放してくれる。感謝します。

 一方白鷺さんはごめんなさいと謝ってくる。大丈夫ですというジェスチャーを取っておく。

 

「ハハ、ちょっと武道の嗜みがあるだけですよ」

「そうなんだ………」

「では、イヴちゃんとは何もないって事で大丈夫そうですか?」

「はい、その通りです」

「シンさんは私にとって恩人です!」

「なんかその…色々疑ってすみませんでした」

「いえいえ、こっちこそ隠し事をしていたせいでこんな事になっちゃって。お詫びと言ってはなんですが奢らせてください」

「悪いですそんな………!」

「大丈夫です、お金はありますから」

 

 席を立ち上がってお店の人のところへ行く。そして追加注文で三人にケーキを出す様に頼んでお会計を済ませた。出口の扉に手をかけた瞬間声をかけられた。

 

「あっ、あの!」

「なんでしょうか松原さん」

「快斗くんとはどういう関係なんですか…?」

 

 そういえば他の人は僕たちの本当の関係を知らないんだっけ。戦場であったなんて言えないし。

 

「この前パン屋で会ったんですよ。彼、カレーパンとメロンパンで悩んでまして。つい話しかけちゃったんです」

「あ、そうなんですね。快斗くんにも友達いたんだ〜」

「そういう感じです。あと皆さん敬語なしでも大丈夫ですよ」

 

 最後に気を緩められる様に声をかけて店を出る。しかし最後に疑問が残る。

 何故松原さんは快斗君のことを知っていたのだろう。弦巻家の知り合い………とかかな?(※間違いではない)

 




弦巻家の黒服の一人
大道 快斗(ダイドウ カイト)


【挿絵表示】


15歳(花咲川高校一年生) 男 血液型B型
誕生日 八月十九日
家族構成 不明  得意楽器 ギター
ライダーシステムであるロストドライバーの使用者。使用メモリは『エターナル』。
得意な事・好きなもの
運動、肉、麺細め&硬め超絶マシマシもやしチャーシュー2枚味玉三つのニンニク大盛り味噌ラーメン
苦手な事・嫌いなもの
勉強、野菜(ただし野菜ジュースは好きだという)、刺身などの生魚、麺細め&硬め超絶マシマシもやしチャーシュー2枚味玉三つのニンニク大盛り塩ラーメン
性格 自由奔放(戦闘は楽しむタイプ)、敬意は自分より強いか弱いかで決める。
 とある事情により弦巻家に引き取られた。幼少期から弦巻こころを守る事を教えられそのための傭兵となる。指揮などは基本的に言うことを聞くが細かいことを自分で考えるのが苦手なため指揮官レベルにはならなかった。
 しかし本人自体の戦闘スキルは高いため単独行動権などが与えられている。基本的にナイフによる戦闘を得意とし、常時数本のナイフを携帯している。このためかライダーシステムを纏った時もナイフを複数使って戦闘をすることも多々ある。
 彼の仕事は大きく二つで一つは弦巻こころのガードマンである事。もう一つは仮面ライダーエターナルとして街を脅威であるファンガイアから守る事である。
 普段は弦巻こころの友人的立ち位置ではあるが実際はガードマンをしている。しかし周りに知られてはいけないため、友人の様な立ち回りをしながらあまり知らない様に見せている。
 メモリの件で過去に苦い記憶があり仮面ライダースカルである鳴海京を見た時は憎しみなどが宿ったが今は本人とも和解(?)をしたため関係は良好である。
 ただし本人曰く
「京?アイツは本気出した俺には絶対勝てないから年上だろうが敬語なんて使わねぇ。あとラーメンの副菜はアイツは餃子派らしいが俺は春巻き派だ」
との事である。


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第4話 名護さん、お仕事です!

少し頑張ったらいつもより長くなってしまった………


 はい、皆さんどうも名護新一です。今日は弦巻家からお送りしております。いえ、今日は特に用事もなく夕飯の買い物をしている最中でした。目の前が突然ブラックアウトして現在に至ります。

 なんという事でしょう。今目の前に弦巻家当主がソファに座っています。当主という座にいるだけその場で感じさせる空気は普段感じるものよりも何倍も重く感じる。

 しかしながらこの空間にいるのは僕と弦巻家当主の二人しかいない。一体どういう事なのだろうか。

 

「久しぶりだな名護の御曹司」

「お久しぶりです弦巻家当主様。あと御曹司はやめてください、もうその立場ではないので」

「それはすまない。では名護君と呼ぼう」

「ありがとうございます。それで、今日はどの様な御用件でしょうか。当主直々など只事ではない(・・・・・・)とお伺いしますが?」

 

 質問を投げつける様に聴くと当主は難しい顔をして背を屈める。それほどまでに何か問題が起きたのだろうか。

 

「ああ、これは極秘にして貰いたい」

「畏まりました」

「この資料を見てくれ」

 

 そう言って差し出してきた茶封筒を受け取り、中身を確認してみるとホチキス留めされた資料が二つあった。片方は施設についての説明書の様なもの。もう片方はそこの社員だろうか。履歴書と写真が全て付属されていた。

 こういったものを渡されるのは久しぶりだ。嫌な予感しかしない。

 

「これは………」

「突然だが、君の実力を見込んで依頼したい。任務内容は組織の討伐だ」

「申し訳ございません、こういうのは本来名護家の仕事ですのでそちらに回して貰えれば」

「その名護家が手をつけられなかった場合は?」

「ッ!」

 

 断りの言葉に食い気味に入ってきた言葉それは信じられなかった。今は別の人が当主を務めていて、その人なら必ずやってくれる事のはずなのに何故手を出せていないのか。謎に包まれている。

 

「一体何が起こっているのですか?」

「それについてはこちらも捜索中だ。ただ、この組織は二十四時間循環しており麻薬の製造や人体実験を行なっている」

「…弦巻家は犯罪とは関係ないはずでは?」

「いや、この件に関しては弦巻家どうこうの問題ではない。この街にその様な組織があることが問題なのだ。娘が住む街にこんなものは要らないからな」

 

 その目は曇りなく真っ直ぐにこちらに見つめている。娘を思う父親なら当然のことなのだろう。しかし疑問に思うことがある。

 

「何故黒服(ここ)の人を使わないのですか?今の僕よりかは強いと思いますが」

「それは私の好奇心だ。《朱雪の執行者(スノー・クリムゾン)》と呼ばれていた名護新一の実力を見たくなったのさ」

 

 《朱雪の執行者》という名前を聞いて絶句した。その名前を出されるのは数年ぶりだ。正直もう二度とその名前を聞く事はないと思っていた。

 《朱雪の執行者》────僕が名護家の執行部隊にいた頃に付けられた二つ名だ。どこの誰が言い始めたかは知らないけどそんな名前がある日を境に付けられた。周りの噂によると地域によるが僕が仕事を終えて外に出ると必ず雪が降るからとか、付けている仮面に付いた血が雪の結晶に見えたからだとか色んな説があるがそんな厨二病みたいな名前をつけないで欲しいよね。

 執行者として活動していたからこそその名前がある。そして今、執行者として依頼されている。どんな理由があって名護家が手を出せていないのか、それを知る理由は無い。

 だって僕はもう名護の人間じゃないから。

 

「それに今回はいつもとは別に報酬を用意しよう。一千、いや二千万だそう」

「お金に関しては結構です。僕はお金目的では無いので……と言いたいところですがこれは仕方ないことなんですよね」

「そうだな。では追加で数ヶ月分の日曜必需品の支給を」

「ありがたく受け取らせて頂きます」

「(本当にチョロいな、名護の御曹司………)」

 

 別にお金が欲しいわけではない。かといって日用品に目がくらんだわけじゃない。うん、そこだけは否定いさせていただく。

 話が終わり、解散という形になった。本日23:30より作戦を開始。作戦メンバーは僕一人、つまり単独作戦だ。二十三時ならばお嬢様も寝ている時間なので心配することはない。そして、武器や装備などは自分で用意していいとの事。無ければ弦巻家が貸してくれるという話だがその必要性は無い。帰れば装備は揃っている。

 部屋を出ると黒いスーツにサングラスをかけた人が待っていた。どうやら家まで送り届けてくれるらしい。ここにくるまで買い物をしていたことを伝えると手に持っていたビニール袋を差し出してきた。中身を確認すると今日買おうとしていたものが全て入っている。しかし驚くことにあの時点では入っていなかったあものまで入っている。教えていないはずなのになぜ今日買うものがわかったのか。恐るべし弦巻家。

 黒い車に乗せられ自宅まで送り届けられる。今日快斗君はどうしたのかを運転手の人に聞くと今日は非番なんだとかで休みらしい。やはりあれだけの人数大勢いでいるとシフト制などに変わるのだろうか。かといってこっちには文句はない。休みはほぼ無いが普通の生活を遅らせて貰っている。家事は好きな方なので問題は無し。

 自分の仕事を考えているうちに家に着いたらしい。下りる時に二十三時に迎えにくるかどうかを聞かれたが資料の場所には一人でも向かえるので断っておいた。

 とりあえず家に入って家事でもしようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は二十二時半。お嬢様は自室にこもっている為この時間になると自由時間の様な状態になる。自由時間といっても家計簿つけたり漬物つけたりしているので家事していると言っても過言ではないが。

 だが今日はそんなことしている場合ではない。早速自室へと向かう。普通の高校生の部屋をしているとは思うが基本的には勉強と睡眠、着替えのためにしか使用してないので生活感がありますかと聞かれると答えづらくなる。

 部屋の中にあるクローゼットの前に立ち、扉を開ける。そこに掛けてある仕事着を掻き分けておくにある取っ手に手をかける。それを掴みながら横にスライドさせると中に一着の白いコートとベスト、ネクタイ、ズボン、黒いワイシャツ、ベルトが掛けられているハンガーがあり、その横にガンホルダーと紫の布に包まれた長い物体がある。すぐにそれに着替えてガンホルダーを装着し、長物を背負う。そして一番奥に隠されている白い楕円形の面をつけて着替えを終わらせる。

 時刻は二十三時を示しており、ちょうどいい時間なので静かに部屋を出て気づかれないように家を出られる様にする。幸いお嬢様に気づかれることなく家を出ることに成功した。この姿を見たら言い訳できなくなってしまうからね。家を出た瞬間走って移動を開始する。暗い道を誰にも見られないように走り去っていく。目的地の近くに着いたときには作戦開始十五分前だった。早すぎたかと思うと近くに今日乗った黒いい車が止まっていた。車に近づき窓をノックすると昼間の黒服の人がいた。話を聞くと特に変わった情報はなくそのまま作戦を実行しろとのこと。当主からの伝言も変わっておらず、《朱雪の執行者》の実力を見せてもらうとのことだった。だがしかしワイヤレスイヤホンの様なものを渡された。緊急時はこれで連絡するらしい。

 時計をみるともう少しで開始時刻だ。深呼吸をして心を落ち着かせる。やる事はあの時と変わらない。敵対するなら殺さずに無力化させる、敵対しなければ保護する、手に追えなければ最悪殺してでも治める。そして組織の長は吐かせるだけ吐かせて殺す。それだけだ。大丈夫。人殺しはもう馴れている。仕事の時は無情に冷静にすれば良いだけ。………よし、感覚は戻ってきた。今からの僕はただの執行者。ただ従前に仕事を成す。

 時計から23;30を知らせる合図が聞こえてくる。その瞬間地をかけた。正面から入っていき施設の中を確認する。資料で見たものと変わらない。なら、上の空間はただのハリボテなので地下に続く階段へ走っていく。階段を降りた先に広がったのは研究所を象徴するかのような廊下だった。ゆっくり慎重に歩いていくと研究員らしき男に出くわす。その男が声をあげようとした瞬間に手で口を押さえて物陰へ引きずり込む。必死にもがいているがこの男の力ではどうすることも出来ないだろう。

 

「質問です。答えなければ殺します、いいですね?」

 

 男は抵抗するのをやめて目尻に涙を浮かべながら黙って頷く。

 

「イエスなら頷き、ノーなら首を振ってください。貴方はここの研究員で間違いないですね?」

 

 男は黙って頷く。

 

「ここは麻薬を製造し、人体実験を行なっていると聞いています。間違いないですか?」

 

 男は黙って頷く。

 

「その実験は麻薬によるものですか?それともまた別のものですか?」

 

 男は頷くことも首を横に振る事もなかった。

 

「沈黙を貫くなら貴方の足を折ります。言いたいことがあれば三秒だけ手を離してあげますからそこで話してください。逃げようとしたら捕まえて首を折ります」

 

 男の顔は青ざめている。無理もないだろう、突然捕まって脅されているわけなのだから。今から三秒だと言って手を離す。男は息苦しさから解放されたように空気を吸い、こちらを見てくる。声を震わせながら話し掛けてくる。

 

「実験は…麻薬ではありません」

「では改造ですか?」

「いいえ………ガイアメモリのです」

「そうか………貴方はこの実験に賛成ですか?」

「いっ、いえ、私は無理やりこんな事をさせられていて、もう辞めたいんです………」

 

 男は床に手をつけながら涙をこぼす様に言う。この人は保護の対象か、そう判断しようとした瞬間だった。一瞬だが男の顔が笑っていた。やはり無意味だったかと男の腕を持ち上げてパキッと折る。男は自分の腕を確認すると騒ぎ始めた。

 

「ああああああああ僕の腕がああああああああ!!!!」

「ああ、あと一つ。今日ここの所長はいますか?」

 

 質問をしても男から返事は返ってこない。男はずっと自分の腕見て悲鳴をあげている。使えなければ意味をなさないのでその場を後にする。一応弦巻家に連絡を入れて応急処置セットを用意してもらう。精神的な方は弦巻の方で見てもらうことにしよう。走っていくと研究室がいくつも見えてくる。使われていないものがほとんどだったが使われているのもあって、中の様子を見てみると白衣を着た男が何人もいてパソコンと向き合っていた。さらに奥を覗くとガラスの板が貼ってあるのを確認する。仮面の機能にあるスコープ機能を使って拡大してみると鎖に繋がれた人がメモリを挿し込まれていた。つまり今目の前でメモリの実験が行われている。しかし、それを見てすぐ動くわけではない。もう少し周囲を確認するとやはり武装した人間が数人いた。すぐに最適な戦闘方法を探り出す。作戦をたてて研究室に身を乗り出す。

 まずは白衣の男たちに近づく。気づかれないように近づき後ろから催眠ガスを仕掛ける。男たちはすぐに眠り椅子から崩れ落ちた。異変に気づいたのか武装した人が一人入ってきた。隠れて背負っていた長物を取り出す。こちらに気づいてないことを確認した瞬間長物から刃を抜刀して背後を切り裂く。殺さない程度に深く切り裂いた。倒れた音に気付いたのか残っている武装人間がこちらに向けて銃を撃ってくる。弾丸を避けながら接近し、腕を切り落とす。片方の腕を斬り落とされた武装兵はうずくまっている。

 

「しばらく寝ていなさい」

 

 二人に対して催眠ガスを放つとすぐに眠ってしまった。まぁ二人とも腕を切り落とされただけだし失血死はしないだろう。ショック死はあり得るけど。そこら辺もあの人たちに任せますか。

 鎖で繋がれている実験体と思わしき生物を斬り裂いた。運が良かったのかその姿はすぐに人間に戻りメモリは転がっていった。被験者は気絶しており、気づかれる事はなかった。転がったメモリは回収しておく。おそらく何かに使える。または戦利品として弦巻家に提出しておこう。

 それからは同じことをずっと繰り返していた。抵抗せずに降参するものは催眠ガスで、抵抗する人は斬ってでも無力化。騙してくる者は痛みを教えてから無力化。それを続けていた。

 しかし厄介なのはまだ最下層が見えてこないことだ。おそらく今回の目標(ターゲット)はそこにいるのだが一向に見えてこない。

 だが、状況が一変する。通路全体が赤色に染まる。警報ランプが光だし音が聞こえ始める。穏便(?)にことを済ませていたはずだがいつの間にかバレてしまったのか。

 突然イヤホンをつけている耳元でピコンピコンと音が鳴り出す。イヤホンのスイッチを押してみると声が聞こえてくる。

 

「名護様、無事ですか?」

「はい、こちらは問題ありません。しかし敵にバレた可能性があります」

「そちらについては問題ありません」

「どういうことですか?」

「どうやら新たな勢力(・・・・・)が侵入した様です」

「わかりました、警戒を強めます。何かわかればまた情報を伝えて頂けると助かります」

「かしこまりました。ご武運を」

 

 黒服の人との通信を終えると僕は走り始めた。他の勢力が参戦したとなれば早々に決着をつけなければならない。それが敵だった場合、大乱闘になるから。

 見えてきた角を曲がった瞬間銃撃が迎えてくる。僕は銃撃を回避しながら物陰に隠れる。相手は飛び道具に対してこっちは近接武器。圧倒的に不利だ。さっきは距離出来な問題位でどうにかなったがこんな回はそうもいかないだろう。なかなか銃撃は止まらない。なるほど、二人で組んでるからか。片方が銃を乱射している間にもう片方は弾を入れている。二段構え…考えられてるな。

 

「ヘイヘイ!そんなんじゃ死んじまうぜ、出てこいよ!」

 

 武装兵たちが近づいてくる音がする。どうやら隙を与えずに殺しに来るらしい。それに声の調子からして殺すのを楽しんでいる様に聞こえる。ゲームのやりすぎでは無いのだろうか。本当なら生かして殺すことの本当の意味を教えたいところだが今はその判断はできない。時間もないから。だから判定する。手遅れの者(・・・・・)と。

 

「坊や、かくれんぼは終わりだぜ!」

「じゃあ、この遊びも終わりですね」

「は?」

 

 こちらに向かって銃を向けた武装兵は笑っていたがその顔も一瞬で崩れる。銃を向けられた瞬間しまっていた刃を引き抜いた。兵が自分の体に気づいたのか自分の体を見た瞬間脇腹から右肩にかけて一筋の朱い線が入っていた。僕は立ち上がってその人の横を素通りすると血が噴き出る音が聞こえてきた。隣の男は前のめりに倒れ、血の海が出来ていた。サイズ的には池かもしれないけど。もう一人は怯えるようにこっちに銃を構えたが一歩遅かった。構えた瞬間には僕は目の前にいて刀を肩に当てていた。

 

「ゆ、許して…ください………」

「それを決めるのは僕じゃない」

 

 泣きながら許しをこいてきたがそんなのは関係なかった。僕はそのまま勢いに任せてまた一人殺した。刀に付いた血を振り落とし、納めた瞬間、少し離れたところで天井が崩れた。敵かどうかわからないので抜刀の構えをする。土煙が晴れるとそこにはでかいロボットの様なものと体全体が黒く染まり、顔を一枚の布のようなヘルメットで隠している人の姿があった。その人らしきものは肩に大きな鎖鎌を乗せており、立ち姿が堂々としていた。

 

「ふー、少し大変だったな」

「隊長無事ですか?」

「おーこっちは平気だ、降りてこい」

「「「御意!!!」」」

 

鎖鎌の人は上に向かって手のひらでこっちに来いと合図していた。すると、似た様な姿の人たちが三人降りてきた。それぞれが剣、ハンドガン、槍といった武器を手にしており、ところどころ血がついているあたりから別ルートで入ってきたと思われる。そのうち一人が気づいたのかこちらにハンドガンを向けてきた。

 

「そこの者、そんなところで何をしている」

「貴方達こそ何者ですか?」

「こちらの質問が先だ。何をしている」

 

 向こうが光の真下であり、こちらは暗い場所にいるためか向こうからは見えないのだろう。だからこちらの装備も見えない。敵かどうかを確認するためにも動くしか無いか。そう思い、僕は小グループに近づいていく。

 

「止まれ、さもなくば撃つ」

「構いませんよ、ですが私はあなたたちの敵では無いことを確認しなくていいのですか?」

「クッ……!」

「落ち着け。おいお前、姿を見せろ。少しばかりおしゃべりしようぜ。互いに手を出すのはそれからでもいいだろ」

「そうですね」

 

 彼らのいる近くにまでくると僕にも赤いランプの光が映し出される。僕の姿を見た鎖鎌の人は大きくため息をついた。すると鎌を下ろして楽な姿勢を取る。

 

「ったく、こんなところで何やってんすか《朱雪の執行者》様………いや、坊ちゃん(・・・・)

「その声、伊達さんですか。お久しぶりです」

 

 目の前の武装兵はマスクのボタンを押して顔部分を晒すようにマスクを開いた。その顔はよく知っている顔だった。執行部隊にいた頃世話になった人の一人であり、忠実な部下だったものの一人。伊達 彰弘(だて あきひろ)だ。彼は大きい武器を使う戦法が得意だったことから鎖鎌がここにある理由も納得できる。

 

「お久しぶりです坊ちゃん。もうあんたは名護の人間じゃ無いのにこんなところで何やってんすか」

「そこに関しては諸々事情がありまして…あ、本職はこっちじゃありませんよ」

「ならオッケーです。それで、わざわざ朱雪の執行者(その衣装)着て何が目的ですか?って聞く必要もなさそうっすけど」

「その喋り方、相変わらずですね。ですが目的は多分同じですよ。よければ情報をいただけますか?」

「構わないっすよ」

「あ、あの隊長その人って………」

 

まだマスクを解いてない三人はおどおどしていた。この時点で絡んで無いという事は僕を知らないということだろう。その様子を見た伊達さんは僕に後ろ姿を見せて話し始めた。

 

「お前ら運がいいぜ。この方はかつて我らが名護家の当主を務め、執行部隊にも所属していた伝説のお方。名護家元当主、朱雪の執行者(スノー・クリムゾン)こと名護新一様だ」

「えっ、じゃあこの方があの伝説の⁉︎」

「スノー・クリムゾンって実在してたんだ……」

「やっ、ヤベェよ本物だ………」

「皆さん落ち着いて下さい、あと伊達さん変に盛り付けないでください」

 

 事実しか言ってないけど魔王降臨の様に話すの辞めてもらえないかな。少し恥ずかしいし。伊達さんのこういう時のテンションは相変わらずだな。その性格ゆえか、当主を務めていた当時、部下の中では気軽に声をかけてくれたっけ。

 

「でも、それだけ坊ちゃんは大物なんすよ」

「はぁ………」

「あの、サインもらっていいですか?」

「あっ、ずりぃ!俺もいいですか!?」

「わっ、私も!」

「だめだお前ら」

「そんな、隊長!」

「どうしてですか!」

「俺が先に決まってんだろ!」

「何言ってるんですか伊達さん、そんなことしてる場合じゃ無いでしょう」

 

 え?という顔をしていたがそんなことをしている場合では無いのだ。時間は刻一刻とすぎていっている。咳払いをして話を戻すことにした。ちなみにサインの件に関してはこの仕事が終わってからすることを伝えると元気な返事が返ってきた。

 話によるとどうやら名護家もここの本当の情報に気づいたらしく。急遽この任務が決定したらしい。今のところ伊達さん達が通ってきたルートだとロボット兵が多かったから血はついていないんだとか。でも少しはやったらしい。そしてこの階層から目標のいる部屋に通じる隠し通路があるらしくそれを教えてもらった。だが既にそこに向かっている名護の者がいるらしい。その人物については教えてもらえなかったが、隠し通路までは案内して貰った。道中敵対してきた者がいたが伊達さんと伊達さんの部下が優秀だったおかげでなんなく進む事が出来た。流石に人も多く出てきたおかげで殺人も免れなかったが血はそんなにつかずに済んだ。その姿を見られたからか称賛の声が聞こえてきたが無視した。時間が勿体無いしね。隠し通路に着くと伊達さん達は保護と捕縛の作業に移るらしくここで解散になった。終わったら建物前集合になった。サインの件忘れてなかったんだ………。

 通路を進んでいくと少しだけ広い空間に出る。目の前には扉が一枚あり、後ろを振り向くとエレベーターがあるのがわかる。扉の先に警戒しつつ勢いをつけて開けると部屋の中には顔を知っている二人のスーツ姿の男の人がいた。片方は机に手をついて立っており、もう片方は椅子に座っていた。二人はこっちをみると座っている方は顔が青ざめていった。

 

「どうしてあなたがここに………」

「なるほど、こういうことでしたか」

「…なぜここに君がいるんだい、当主いや、新一君」

 

 青ざめている方は名護家の研究員の一人である渡部 公太(わたべ こうた)、当主と言った方は現名護家当主霧切 仁(きりぎり じん)だ。

 

「《執行者》として仕事を依頼されたんです」

「君も不幸…いや、我々の失態か」

「そうかもしれませんね。でもその失態の原因もわかった気がしますけど」

「では聞かせてもらってもいいかな?」

 

 興味を抱いているのかそれとも不本意ながら聞いているのか分からない表情をする霧切さんは問いを聞いてくる。だがその前で怯えている様な姿勢を見せる渡部がいた。すでに本人たちはわかっているのに説明する必要などあるのだろうかと考えつつ刃を納める。歩きながら霧切さんの元に向かい推理を語り始める。

 

「まず何故こんなところに霧切さんたちがいるのか、からですね。それはここが『いずれ排除しなければならない脅威』として認定しこの工場を破壊しに来たからです。それは名護家として当然のことですので仕方ありませんけどね。

 次になぜここに渡部さんがいるのか。それはここが実験場だから。名護家の研究員の中で研究というものに一番熱中していたあなたにとって人体実験というものは最高のご馳走そのものでしょう。あの時(・・・)も自分から率先していましたよね。それができるここはあなたにとってはうってつけですよね。

 そしてここが1番の謎でしょう。なぜ今日まで名護家がここの存在に気づかなかったのか。その理由はこの場を見ると簡単に予想できます。ここからは完全な推測ですが、もし渡部さんがまだ名護の人間なら簡単にできますよね?報告する人間さえ買収して仕舞えば、此処の存在を露呈せずに済むんですから。買収した人には嘘の情報を流してもらいあなたはここでやりたいことをする。勿論、買収した人には多額の報酬を支払ってね。それによって両者はwinwinの関係によって成り立つわけですよ。そしてここ最近情報役の人が誰かに怪しまれ、取り押さえられてバレてしまったというわけでしょう。因みに取り押さえたのは橋下さんと予想していますが、どうですか現当主様?」

「お見事、さすがは新一君だ。橋本さんというところまで見抜くとはね」

「彼はそういうところで敏感ですので」

 

 賞賛するように手を叩く霧切さんとは正反対にさっきよりも一層青ざめている渡部さん近づいていく。机に勢いよく拳を置くと渡部さんは跳ね上がって怯えていた。

 

「それで、そこまでしてあなたは何をしたかったんですか?」

「た、た、ただの麻薬実験ですよ!」

「嘘はつかなくていいですよ、証拠品も出てますから」

 

 ポケットからメモリを取り出し机に叩きつけるとまるで世界の終わりみたいな顔をしていた。だが表情が変わったのは渡部さんだけでなく霧切さんもだった。

 

「それはっ!何故それをキミが研究している、渡部!」

「霧切さん、あなたもこれを知っているのですか?」

「ああ、それは園崎が作り上げた『ガイアメモリ』の複製遺品だ。それに関する情報は園崎が全て持ち去っていったからなかったのに………なぜお前が持っている⁉︎」

「失礼霧切さん、園崎さんは今そちらにいないのですか?」

「ああ、君が抜けた数ヶ月後に彼らは名護家の三分の一を引き連れて消えていった。跡形もなくな」

 

 園崎さんとは名護家の研究員を率いていた人であり、頭脳明晰、研究では必ずと言っていいほど予想以上の成果を上げていた。かなり優秀な人だったのでこういうものを作れてもおかしくはなかったのだろう。しかしそれに関する情報を全て持ち去るとは一体どういう風の吹き回しだ?この状況から考えられることは一つに絞れてくるが今はそんなことより目の前の目標だ。なんたって今回の主犯が目の前にいるのだから仕事をしなくちゃいけない。

 

「なるほど、つまりあなたはもう名護の人間ではない(・・・・・・・・・)ということですね」

「………まさか!?」

「ええ、そのまさかです。彼はもう園崎の手下というわけです。いつからかは分かりませんが目の前にいるのは確実な裏切りものだということですよ」

「くそっ…!何でよりによって元当主がここに来るんだよ………」

「それに関してはあなたの運が尽きたとでも言っておきましょうか。それでは貴方にはここで終わりにしてもらいましょうか」

 

 ホルスターから銃を抜き出し渡部さんの額に当てると当てられた本人は絶望した表情を見せた。

 こんなことに手を出さなければまだ価値はあっただろうに。

 引き金に指をかけると霧切さんが手で制して来る。

 

「何のつもりですか、霧切さん。これは僕の仕事なのですが」

「ああ、だがこいつはうちで引き取らせて貰う。聞きたいことがまだあるのからな。もし今すぐにでも殺したいというのなら俺らを敵に回すことになるけどいいのか?」

 

 霧切さんは軽く脅してくるがその表情は賭けに出ているような表情だった。

 全く、この人は頭がいいのにどうしてこんな無謀な賭けをするのだろうか。仕事モードの僕ならあなたたちに負ける事は無いというのは分かりきっているはずなのに。

 

「………わかりました。ただし条件があります。この件で分かったことを弦巻家にも回してください」

「どうしてそこでかの有名な家の名前が出てくるんだ?」

「あなたなら答えを聞かなくてもわかるでしょう?とにかく弦巻家と連携をとってください。きっと悪い様にはなりません」

「ああ、わかった。君がそこまで言うのならそうしよう。じゃあ拘束するのを手伝ってくれ」

 

 取引が成立して渡部さんを縄にかけようとすると後ろから一瞬だが殺意を感じた。すぐに風を切る音が聞こえてくる。霧切さんを抑えて地面に伏せるとすぐ近くで鈍い音がした。その音の方向を見ると胸に矢の刺さった渡部が口から血を流していた。後ろを確認するとすでに殺意が消えているどころか誰もいなかった。そして渡部さんに何度も声をかけたが反応はなかった。

 

「おい渡部!どういうことだ………」

「なるほど、使えなくなった駒は捨てるに限るですか」

「………そういうことか」

「はい、おそらくここが襲撃されることを把握してこの事態に備えていたんでしょう。だから渡部さんは殺された。少なくともここで僕たちができる事はもう無いでしょう。あとは処理班に任せるのが一番じゃ無いですか?」

 

 霧切さんは苦虫を潰したかの様に返事をして部屋を後にした。僕もそれに続いていく。別に目の前で人が死んだからどうこう言うつもりはない。この仕事をやっている限りは『この人はこういう運命だった』で片付けるしかないのだ。それに祈ったって死人は甦らない。道中で霧切さんは連絡を取っていた。おそらく処理班や執行隊との連絡だろう。

 通路を通って地上に出る。すると空はまだ暗く星が数個輝いていた。あたりを見回すと何の変哲もないただの市街地だった。まさか地下で人が何人も死んでるなんて思わないだろうな。歩いて弦巻家の車の元に戻ろうとすると声を掛けられる。どうやら伊達さん達みたいだ。結局サインの件は忘れていなかったらしい。

 

「坊ちゃんお疲れ様です」

「「「お疲れ様です」」」

「お疲れ様です。すみません、ペンをいただけますか?生憎、今ペンを持ってないので」

「それなら問題無いっすよ」

 

 そう言って伊達さん達は懐から色紙とペンを取り出す。いったいどこから持ってきたのか。まさか戦場に持って行ってないよね。まぁそれはないか。

 

「では皆さん名前お願いします」

 

 一人一人名前を聞いてサインを書いていっている。こういう形でサインするのは初めてだが名前を聞いて書いていると何だか点呼をとっているみたいだ。銃を向けてきた人は前田千秋、剣を持っていたのは池波修斗、槍を持っていた人は相田美鈴という男二人に女一人という構成だった。それぞれに書いた色紙を渡すと皆喜んでいた。そんなに有名人なの?僕。ちなみに伊達さんは他の三人より喜んでおりその場で一番子供っぽかった。

 

「伊達さん、この人たちは最近入った人ですか?」

「そうっす、こいつら新人の割にはスペックが高いんで早めに戦場に出してるんすよ」

「なるほど、ちゃんと育ててあげてくださいね。貴方、たまに雑なところとかありますから」

「やだなぁ、言われなくてもわかってますって」

 

 それじゃあと後ろを向いて立ち去ろうとすると大きな声で感謝の言葉を言われる。それに対して手を振って答えるとキャーキャー騒ぎ始めていた。一応夜中だからもう少し静かにしてほしいよね。

 全てが片付き車に近づいて窓をノックすると黒服の姿が現れる。これにて今回の任務は終了だという。だが報告しなければならないことがあるので弦巻家投手に電話を繋いでもらえるか確認を取る。確認の時間はさほど取られずすぐに車に乗り込み自宅に送ってもらいながら連絡を取る。名護家が介入したこと、園崎のこと、ガイアメモリのことを報告するとすぐに事情をわかってくれた。ついでに名護家が干渉するかもしれないと伝えておくとすぐに「君がやったのだろう」と返された。さすがは弦巻家当主、これくらいのことはすぐにお見通しというわけだ。ついでに名護家の介入は予想してたか聞くと向こうにも予測できてなかったらしい。その言葉が本当かどうかはわからないが。証拠の品はあなたの手下に渡すと伝えると感謝と労いの言葉を渡されて通信は終わった。ちょうど家に着いたのでお礼を言って車を降りるとすぐに黒い車は消えてしまった。

 家の中に入ると全ての電気が消えており静かな空間となっていた。部屋に入るとやはり殺風景な景色が広がっていた。服を脱ぎ、洗濯物などの処理を終わらせて今日を終えることにした。




新一君の異名考えるのに三時間使い果たしたという話があったりなかったりするんですよね。
あれ、おふざけって何だっけ


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第5話 そんなことある?

新キャラきます。


 あれから数日経った。あの件での死者は十数人、負傷者は百人満たない程度らしい。腕を切り落とした人はどうなったか聞くとなんと元に戻っているらしい。話によると僕が切り落とした腕は切り口が綺麗すぎたので簡単にくっついてしまったという。今その人たちは取り調べと更生されているらしい。

 僕はというと元の生活に戻る事はできたがどうしてもあの時の話が忘れられない。どうして園崎はガイアメモリを開発しているのか。そして何故名護家を離れていったのか。だが裏に園崎がいることを知ったおかげでガイアメモリの黒幕が誰なのかは把握することができた。あれから弦巻家は園崎の居場所を探している様なのだが見つからないらしい。園崎のことだから追跡対策などは万全にしているのだろうが相手が相手だから時間の問題にはなるだろう。

 

「新一ー?」

「ん、どうしたのリサ」

「いやーなんか真剣に考えているみたいだったから何か悩み事かなーって」

「そんな顔してた?」

「うん、何考えてたの?」

「言ってもしょうがないことだけどね。今日の晩御飯はどうしようかって考えてた」

「お前夜ご飯も作ってるのか」

「まぁね、僕の仕事だし」

 

 ふーんと言いながら京君は卵焼きを頬張っている。

 時刻はお昼休み。校舎の屋上にて昼ごはんを食べているのだが普段は僕と京君の二人なのだが、今日は四人になっている。リサがお嬢様を誘って屋上で食べようと誘ってきたのだ。屋上でのこの人数で食べるのは初めてなので少し緊張したがメンバーがメンバーなので問題はなかった。

 実はこの中のお弁当の四分の三は僕が作ってきたものである。僕とお嬢様の分は当然なのだが京君が日頃、栄養の偏った食事しかしないのでお弁当を作らないのかと聞いたところ、めんどくさいと帰ってきたのでそれ以来僕が作ってきている。今更ながら僕は一体何をしているのだろうか。まぁ作る量も大差ないから問題はないんだけどね。

 

「しかしうめぇな、新一の卵焼きは!」

「気に入ってもらえたのなら何よりだよ」

「毎日食ってても飽きねえよ、なぁ湊」

「ええ、そうね。実際毎日入っているけれど」

「それもそうだな」

「ねえ新一、アタシももらっていい?」

「いいよ、はい」

 

 弁当箱を差し出すとリサは素早く卵焼きを取って定位置へ戻る。その卵焼きもすぐに食べられていった。そういえば家にある卵ってもう無くなりそうだったっけ。今日買いに行かないと。

 

「新一、学校終わったらどうするんだ?」

「あー、今日はRoseliaの練習を見にいく感じかな」

「なんだ、暇じゃねえのか」

「僕の仕事に暇はないと思うけどね」

「それもそう『ピロピロ』すまね、電話だ。ちょっと席外すぜ」

「行ってらっしゃーい」

 

 京君が席を外したことによって沈黙の空間が訪れる。この状況でもお嬢様は黙々と食事を続けている。そのメンタルは尊敬するよね、うん。食事を終えて弁当箱を片付けているとリサから声がかかる。

 

「ねぇ、新一」

「どうしたの?」

「新一ってさ、その………好きな人とかいるの?///」

 

 飲もうとしてたお茶が吹き出そうになるが頑張って抑え込む。しかしその代償としてかなり咽せた。息苦しい。

 

「急にどうしたの?」ゼェゼェ

「えっ///あ、ほら、新一結構モテてるから好きな子とかいるのかなーって」

「いるわけないでしょ(ていうかモテてるとかいうの初めてきいたんだけど…)」ゼェゼェ

「え、じゃあ燐子とかは?」

「(やっと落ち着いて来た…)りんりんはただの幼馴染みだけど」

「じゃあ恋愛対象としては見てないの?」

「見てないっていうか、その辺はあまりわからないかな」

「わからないって、どういう「すまんすまん、今戻った」……」

 

 リサの言葉を遮るように京君はやってくる。

 

「お?どうした今井」

「んー?大丈夫だよー。それより電話は?」

「ああ、終わった。つっても今日の放課後に用事ができたんだけどな」

「へー何すんの?」

「久しぶりの依頼だ」

「ということは…」

「ああ、探偵の仕事ってわけだ」

「…京は探偵をやっているの?」

 

 今まで喋っていなかったお嬢様が口を開いた。そういえばお嬢様にはどういう風に京君が見えていたんだろう。少し気になったりする。まぁ、大方ただのクラスメイトで終わる気もするけど。

 

「ああ、北の名探偵とは俺のことだぜ」

「聞いたことないわ」

「初めて聞いた…」

「え、結構前にニュースに上がってたよ」

「一人でも知っていて助かったぜ。一時期結構話題になっていたと思うんだけどな」

 

 それは申し訳ないと思いつつお茶を飲む。依頼内容について聞いてみるとストーカーに追われているから突き止めて欲しいとのことらしい。久しぶりなことだけに難易度は簡単だとか言っている。一体どれだけの事件を解決してきたんだろう。

 この後少し雑談して昼休みを終えて授業に戻る。いつも通り平和に学校は終わりRoseliaの練習に向かう。今日の練習はお嬢様の気分なのか見ていて構わないと言われたので練習風景をずっと見ていた。このメンバーでやっているからかみんな前よりずっと上手くなっている気がする。練習が止まるたびにお嬢様が的確な指示を出して他の人と意見を交換する。休憩時間になれば気が抜けるが練習が再開すればみんなすぐに切り替わる。その様子を見ていてとても微笑ましかった。だがあっという間に夕方になって練習時間は終わる。各自片付けをしてから会計組と外で待つ組に分かれる。

 

「はー今日も疲れたー」

「あこちゃんお疲れ様、今日のドラム前よりもすごかったね」

「ほんとですかっ!ということは闇のドラマーとしての実力も上がって我が闇の…闇の………」

「そこのところはまだまだかもね」

「う〜りんりん〜!」

「えっと………闇の調べを奏でる力………?」

「それだよそれ!我が闇の調べを奏でる力が…」

 

 そうやって雑談を繰り返しているとcircleの扉が開いた音が聞こえた。そっちを横目で見るとそこにはお嬢様たちの姿はなく三人の男の人たちの姿があった。偶然なのか全員がスーツの格好をしている。その集団は僕たちの後ろの席について飲み物の注文をし終え、雑談を始める。

 

「いやー久しぶりにやったけど意外と体が覚えてるもんだな。な、はしもっちゃん!」

「うむ、正直俺も驚いている」

 

 へー、久しぶりにやったんだ。見たところ大人な雰囲気を感じられるし仕事の関係上かな?時間がないんだろうな。

 

「しかし、やはりあれですね」

「ああ、物足りない(・・・・・)な」

 

 物足りない、か。久しぶりにやったから高揚感でも足りなかったのだろうか。

 

「やっぱりヴォーカルがいねぇと物足りないよなぁ」

「ええ、おかげで前みたいには上手く弾けませんでした」

「だが、あの方(・・・)が戻ってくることは無いだろうな」

「でもヨォ、あいつあっての俺らの音楽だぜ?」

 

 なるほど、歌い手がいないのか。確かにヴォーカルがいれば指揮系統どころか演奏が上達する効率も上がるよね。しかしその人はいったいどこに行ったのだろうか。

 

「あー!一回でいいから戻ってきてくれねぇかなぁ!坊ちゃん(・・・・)!!」

「ブフッ!!!???」

 

 何で今日に限ってこんなに咽せるんだ。やばっ、肺にカフェイン入ったかも。

 というか後ろの人たちの話が何故か僕に深く突き刺さる。何故だ、心当たりがある気がしてならない。

 

「し、新君大丈夫?」

「ゴホッ、ゴホッ、だ、大丈夫だよ……」

「新兄水飲んで」

「あ、ありがとう」ゴクゴク

「駄目ですよ伊達、新一様(・・・)は今や私たちの主人ではありません」

「ガハッガハッ」

 

 何故だ、罪悪感みたいな物が溢れ出してくる。こっそり男の人たちを見ると二人の顔は見えなかったが、唯一見えた顔はついこの間見た伊達さんの顔だった。よし、変なことに巻き込まれる前にここから退散しよう。

 席を立ち上がろうとするとcircleの扉が開かれる。ん?嫌な予感しかしない。

 

「お待たせしました」

「新一、帰るわよ」

「「「え、新一?」」」

 

 男の人たちがこっちの方を見てくる。ああ、終わった。何か嫌な予感がする。

 

「あれ、もしかしてそこにいるの坊ちゃんじゃないっすか?」

「やめなさい、もし違ってたらどうするのですか」

「なら、確かめればいい」

「ねえりんりん、新兄、あの人たち誰のこと言ってんだろ?」

「…さぁ………」

「僕もよくわからないかな」

「でもこっち来てるよ?」

「失礼、名前を聞いてもいいか?」

 

 背後から声をかけられた僕は一瞬反応することができなかった。後ろを向くとそこには細い割には身長の高い姿があった。この人は橋本 誠司(はしもと せいじ)さんだ。向こうにいた頃にはお世話になったことのある人の一人。主に暗殺部隊に所属していたがその技術を教えてくれたのも彼だ。

 

「ワタシ、サトウタロウトモウシマス」

「何を言ってるんですか名護さん。あなたの名前は名護新一でしょう?」

 

 言ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!今僕が言いたく無い事実を紗夜さん(この人)何の躊躇もなく言ったぁぁぁ!!!

 紗夜さん、今日ほどあなたを憎む日はないと思いますよきっと。

 

「二人とも、この人は間違いなく我らが主だ」

「おお、やっぱり!」

「まさか、こんなところで会えるなんて…」

「新一、さっきから何やってるの?ていうか主って…」

「名護さんその人たちとは一体どういう関係ですか?」

「んっとそれはなぁ、俺らはムグッ」

 

 伊達さんが喋ろうとすると一条さんが口を押さえてこちらに背を向ける。一条さん達はこちらにチラチラ目線を送りながら話しているみたいだった。

 

「(何すんだよ一条)」

「(迂闊に喋らないでください。新一様は今複雑な立場におられるんです)」

「(それって、正体隠してるってことか?)」

「(はい、ですから一番最適で嘘では無いことを話してください)」

「(オッケー、任せとけ)」

「何を話しているんですか?」

「いや、何でも。それより俺たちの関係だよな」

 

 伊達さんが関係性について話そうとすると一人固唾を飲む。ここで元当主とか言われたら今まで隠して来たことが水の泡になる。一体どうなるのか、心臓の音が早くなってきている。黙れ僕の鼓動。

 

「俺たちの関係性、それは……」

『………』

「俺たちはバンドを組んでたんだ」

「バンド…?」

 

 ひとまずは安心した。どうやらこっちの事情に気づいてくれたらしい。感謝しよう。だけどこのメンバーでそれを持ってきたのは間違いなのかもしれない。

 

「坊ちゃんはバンドのヴォーカルとベースやっててな。リーダーの立ち位置だから主だの何だのって呼んでるんだ」

「へー新兄ってバンドやって……えっ、バンドやってたの!?」

「ま、まぁね。いろいろ楽器やってて最終的に落ち着いたのがそれかなー的な…」

「やはりそうだったんですね。たまに楽器の話しているのを聞きましたけどバンドをやっていたなんて…」

「隠すつもりはなかったんですけどね」

「あ、そうだ坊ちゃん。せっかくですから久しぶりに演りませんか?」

「あ、あの……その………」

「え、聞きたい!あこ、新兄の演奏聴きたい!」

「あっ、それアタシも!」

「わっ、私も………」

「り、りんりんまで!?」

「っし、決まり!」

「では部屋を取ってくる」

「ちょっと伊達、橋本!」

「いいんですか、湊さん」

「……もしかしたら新しいインスピレーションを得られるかもしれない。それに新一のことよ、遊びでやっていたわけではないはず。だから聞く価値はあるんじゃないかしら」

「湊さんがそういうなら」

 

 なぜか今信頼をもらえるのは複雑な気分だが一応は信用してもらえてるということがわかって安心している。すぐに橋下さんは部屋が取れたと言って戻ってくる。ベースがないことを伝えるとすでに部屋に用意してあるという。この人はこういうところは用意周到なのだ。橋本さんを先頭にしてRoselia+αで部屋まで移動するとそこにはまりなさんの姿があった。

 

「お待たせしました〜。これで大丈夫ですか?」

「はい、ありがとうございます。新一様、今日はこちらのベースを使ってください」

「はい…すみませんまりなさん急に」

「ううん、いいのいいの。その代わり私も聞いてっていい?」

「構いませんよ」

 

 やった、と喜んで客席(?)に入っていくまりなさん。その隣ではRoseliaの皆さんが座って雑談をしていた。こっちでは一条さんがギターを、橋本さんがキーボードを、伊達さんがドラムをとそれぞれが準備を始めている。僕も同じ様にベースのチューニングを始める。

 

「主、この機会にまた出会えて俺は嬉しい」

「それは僕もです。まさかこんな形だとは思いもしませんでしたけどね」

「やっぱり坊ちゃんあっての俺らの音楽なんで」

「こら伊達、まだ始まってもないんですよ。……ですがそれも事実ですね。新一様、本日はどのような曲順になさいますか?」

 

 質問に答える前に今日やった曲は何か聞くと三曲でずっとそれをやっていたらしい。ならばそれにしようと順番を整理して曲順を決める。

 

「皆さん期待してくれるのは嬉しいのですが、久しぶりに合わせるのでもしかしたら力が弱くなってるかもしれません」

「そんなこと言って坊ちゃんのことだから落としてないっしょ」

「主のことだ、落ちているどころかあの時よりも俺らを引っ張ってくれるだろう」

「ということですので心配しなくても大丈夫です、新一様」

「皆さん────、ありがとうございます。全力で行きますよ!」

「「「はっ!!!」」」

 

 そして僕たちの小さなステージが始まった。




北の名探偵
鳴海 京(ナルミ ケイ)


【挿絵表示】


16歳(羽丘高校二年生) 男 血液型O型
誕生日 十二月十五日
家族構成 父母(どちらも健在)  得意楽器 ドラム
ライダーシステムであるロストドライバーの使用者。使用メモリは『スカル』。

得意な事・好きなもの
推理、射撃、野菜、魚類、麺細め&硬め超絶マシマシもやしチャーシュー2枚味玉三つのニンニク大盛り塩ラーメン
苦手な事・嫌いなもの
メモリ、料理、麺細め&硬め超絶マシマシもやしチャーシュー2枚味玉三つのニンニク大盛り味噌ラーメン
性格 冷静(本人曰く)、推理や戦闘の際は非常に冷静になると言われている。だが、普段の会話では感情をあらわにしていることが多い。
 仲良くしていた友人がいたが過去の事件によりバラバラに。その後殺人事件に出くわす様になり、その度に事件を解き明かしてきたためその才能を生かし、探偵を始めた。学生をしながらの探偵だが本人は苦では無いらしい。メモリが関係していた事件の最中に見知らぬ女に出会いその女からロストドライバーを渡され、元々持っていたスカルメモリを使用し、仮面ライダースカルに変身した。
 小学生の時から空間把握能力は非常に高い物であり、その持ち味から射撃も得意とする。彼の射撃は百発百中と言っても過言では無い。さらに事件の最中にいろんな書物に触れていた為、様々な知識や技術も持っている。なんでも、書物にあったある武術を身につけたのだとか。彼の技の一つである盾骸骨(スカル・フェイス)も色んな技の応用である。
 普段はごく普通の高校生として振る舞っているが学校中に正体は知れ渡っている。さらには過去にインターネットになどのメディアに『北の名探偵』として名が上がっているため有名人である。
 メモリの件になると不機嫌な態度を見せることもあるが仕事はきっちりこなす主義である。その件で大道快斗と殺し合う様な関係になったが今は互いに認めているので関係は良好である。ただし、本人たちの好き嫌いのせいか反りが合わないこともしばしばある。
「なぁ、聞いたか!?アイツ、カレーの肉は豚肉派らしいぞ!あり得なくね!?カレーといえば牛肉だぜ!?」
という感じのことを日々繰り返しているんだとか。














言われたく無いこと言われると焦りますよね………
さて、次は音楽会の始まりです!音楽聴きながら読むのをオススメします♪


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第6話 騎士たちの演奏会(仮)

連投やっちゃったZE☆


 準備が整った僕たちがお嬢様達の方向を向くとそこにはさっきと違う景色が広がっていた。

 何故か人が増えている。面子を見てみるとPoppin‘party、Aftergrowが増えているのが分かった。人が増えたことに流石にみんな驚いている。

 

「ハハッ、坊ちゃん見てくださいよ。いつの間にか増えてますよ」

「どういうこと‥なんですか?」

「通りがかった時に皆さんが入ってくのが見えて、それでひまりがみんなで行ってみようって」

「あれっ、もしかしてダメだったパターンですか?」

 

 Aftergrowの子達は学校で時たま目にかけるがPoppin‘partyの人たちはライブの時に顔を合わせて少し喋ったくらいだ。なぜここにきているんだ?

 

「いや、そんな事はないよ。ただポピパの皆んなが意外だったんだけど…」

「実はポピパ内で名護先輩ってどの楽器やってんだろう、って話が出ててですね〜」

「それで運よく遭遇できたわけです(どやっ)」

「おたえ、ドヤるなよ…すみません名護先輩、迷惑だったらすぐ出ていくんで」

「そういうことでしたら大丈夫ですよ。皆さんいけますよね?」

「勿論」

「いけます」

「ギャラリー増えたおかげで盛り上がってきましたぜぇ!」

 

 大人三人に確認を取ると全員から承諾の声が聞こえてきたので深呼吸をして落ち着かせる。久しぶりのこの感覚。演奏を始める前の高揚感。どうにかなってしまいそうな程に体が熱くなってくる。客席の方を見るとお嬢様が僕の方に真剣な眼差しを向けている。

 『あなたの実力、見せてもらうわ』

 そう訴えかけてる様にも感じ取れた。ベースに手をかけて伊達さんに合図を送る。ドラムスティックの乾いた音が三回聴こえると同時に曲は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 乾いた音が鳴り終わった瞬間、ギターとベースが鳴り響き新一の声が聞こえ始めた。

 

 

《The misfit goを聴きながら読むのをオススメします》

 

 

 新 「届きそうな世界へ

 

    I can sense the light clear

    when I'm in the Depth

    it change its from when I reach my hand out

    inside it, beside it…

 

   素通りな言葉にあざやかに裏切られた

   What's been up with you?

   眩しい程に遠ざかって

   振り返る景色に見とれたんだ

   Thanks for the lies you let me down

   ネガティブな交響

 

   戻れない儚い瞬間の中で

   見失ったんだろう

 

   悲しい嘘と嘲笑ってた僕は

   優しさを履き違えて

   風向きにも楯突いた日々は

   空の色忘れていた

 

 

 

 激しい音が止むと今度は軽快な音が聴こえてくる。それはまた普段彼が見せるイメージと違う音楽だった。

 

 

《ヒャダインのじょーじょーゆーじょーを聴きながら読むの絵をオススメします》

 

 

 全 「上々 友情!万事 まじ 快調!

    ななななななな

 

    はい 言っちゃいましょ!キミは Best Best Friend!

 

 新 「(Bright!)ちょっとふざけてみたら

    (Shine)もっとふざけ返してくる

 全 「Lan Lan Lan

 新 「居心地いいたらありゃしない

 

 一 「(Why)イヤなことあったって

    (Fine)そっこー忘れちゃうんだ

 全 「Lan Lan Lan

 一 「いつだってじゃんじゃんやりましょー!」 

 

 伊 「24時間一緒でも問題ない!

 橋 「まるで双子か親子かクローンさいぼー

 伊 「これじゃ恋愛する必要とかなくなくない?

 橋 「それとこれとは全く全く別問題!!

 

 新 「(Fight)喧嘩しちゃった時も

    (Down)かなり凹んだときも

    (Shock)ひとりでいたいよなときも

 全 「ふと気づけば近くにいるしなばもろともー

 

 新 「なんでだろ

 一 「そばにいたいんだ

 新 「キミと一緒なら

 一 「時計100倍速!

 新 「楽しいな

 一 「楽しすぎるんだ

 新 「さすが最強Friend!

 一 「Hey!

 

 全 「ななななななな

 

 新 「なんなのよ

 一 「やっばいシンクロ感!

 新 「いつも大騒ぎ

 一 「かなりご近所迷惑

 新 「今何時?

 一 「えっとねヨロレイヒー

 新 「わけわかんないない!!

 

 全 「ソーレードーシーラー

 

新・一「想像以上!なんていうか最高!

    あーだーこーだー言ってても友達

 全 「わっしょい!

新・一「上々 友情!万事 まじ 快調!

 全 「ちゃちゃら ちゃらちゃちゃーん

 

 

 

 曲が終わると新一は疲れを吐き出すようにふぅと息を吐き出す。ベースから手を離してマイクを掴んで話し始めた。

 

「ここまでご静聴して頂きありがとうございます。最初の曲は『The misfit go』、先程の曲は『ヒャダインのじょーじょーゆーじょー』です」

「いやぁ、坊ちゃんあの時より腕上がってるじゃないですか」

「驚きを隠せない」

「そんなことないです、皆さんがいたおかげですよ。

 ────ですがあと一曲、付き合ってくれますよね?」

 

 その言葉に対してバンドの人たちは自然と息が合うように返事をしていた。返事を聞いた新一は一度笑みを見せると深呼吸をしてすぐに真剣な表情になった。

 

「次が最後の曲です。最後までお付き合い願います………『カレンデュラ』」

 

 曲名を言い終えると各々が暗い雰囲気を作り出し、こちらの方まで侵食してくる。部屋は暗く無いのに彼らの空気がそう見せてくる。少しするとキーボードとギターの音が静かに聞こえてくる。静かな曲かと思った瞬間、曲調は変わり激しい音が響き渡る。

 

 

 

 新 「生まれて堕ちた 最初からそうみんなと違う

    出来損ない そんな言葉着飾って

    人生ほら頑張っても届きはしない

    それでもね願ってしまうんだ もう

 

    生きる気力もなくて

    誰か誰か 僕をほら欲しがって手をかけて

 

    カ レ ン デ ュ ラ

    のその言葉 首に巻きついて

    この左胸の痛み 消してよ

    僕を救うよって 息を止めるんだって

    一生で一回 いつか

 

    生まれ変わるの?

 

 

 

 新一の今にも消え去りそうな声と同時に音楽は鳴り止んでいく。演奏が終わると会釈してステージから降りていく。その姿を見てみんな拍手していた。それにしても不思議だ。彼は演奏している時、私たちに普段見せない様な顔つきになっていた。勿論、2番目の曲の時は楽しそうな顔をしていたけどそれ以外の時はいつも以上に真剣な顔をしていた。いつも見せる穏やかな表情とは違い意外性?といったものだろうか。曲が曲だったからかもしれないけど何か違った気がした。

 

「みなさんご静聴ありがとうございました。いかが…でしたか?」

「新一凄いよ!あんな風に弾けるなんて!」

「あこもすごいと思いました!なんかこう、力がドーンってしたみたいな!」

「歌も………凄かった………」

「まぁ、坊ちゃんなら当然だよな」

「主にかかればあれくらい────いやもっと上をいける」

「それは過信ですよ。それに本当に得意なのは…

「何か言いましたか?」

「いいえ、何も。それより他の皆はどうでしたか?」

「ポピパはみんなすごいって言ってます!」

「Aftergrowも同じです。それにしても名護先輩、歌上手すぎじゃないですか?どうやって歌ったらあんな風に……」

「そんなことないよ。僕なんかよりお嬢様の方が格段に上手いし、何よりレベルが違う。それに蘭ちゃんの方が僕より上だと思うよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 さりげなく私のことを褒めている。だけど私は新一の意見を少しだけ否定したい。庇う訳じゃないけど、美竹さんより新一の方が上だと私は感じている。あの迫力と技術はギターヴォーカルの美竹さんを上回っている。彼はベースヴォーカルをしていたから美竹さんと条件は同じ、しかも本人はブランクがあると言っていた。なのに現役の美竹さんを上回る実力………いったい彼は何者なの?

 しばらくお喋りが続き、全員解散すると新一と二人になる。新一はさっきとは違い普段の穏やかな笑顔に戻っている。

 

「新一」

「はい、お嬢様」

「今日の演奏、凄かったわ」

「!光栄です、と言いたいのですが………」

「何かしら」

「拙いものを見せてしまって申し訳ありません」

「!?」

 

 彼は私の前に来て頭を下げる。演奏自体には何も問題はなかったと思うのだけど、何かあったのかしら。

 

「実は演奏中、運指に遅れが生じ、完璧なものに出来ませんでした。申し訳ございません」

「そんなこと、わからなかったわ」

「ですがこれは事実、申し訳ございませんでした」

「そう………あなたでもミスをするのね。なら改めて言わせて貰うわ、その部分を除いて今日の演奏は素晴らしかったわ。次はミスを失くしなさい」

「……!はい!」

 

 歩く私の後ろを彼は追いかけてくる。けどやっぱり、彼の実力はおそらくあんなものじゃない。

 私は今日、今までの中で初めて彼に興味を持った。

 彼の………本当の実力を知りたいと。




後日
「新一、今度ベース教えてよ」
「え、まぁ…いいけど………」
「だめ…かな?」
「ううん、そんなことないよ。ただ僕がリサに教えられることってあるのかなって」
「アタシより実力あるんだから自信持ってよ!それにアタシは早くみんなに追いつきたいし」
「分かった、今日の練習の休み時間でも大丈夫?」
「オッケー♩」

練習の休憩時時間にて
「じゃあ教えようと思うんだけど………なんでまりなさんいるんですか?」
「いやー、あの時の新一君の演奏に惹かれちゃって……聞けるなら聞きたいなーって」
「なるほど………って、リサ?なんか怖いよ?」
「えっ、アタシなんかしてた?」
「「なっ、なんでもないでーす………」」
「そ、それじゃあやろっか(何かあったのかな……)」
「あ、私仕事に戻らなきゃ〜(今のリサちゃんなんかわからないけど怖かったな〜)」

 その光景を見ていたRoseliaの皆さんもリサの突然の気配に驚きを隠せなかったという………。


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第7話 快斗の休日

 俺は大道快斗、弦巻家の仮面ライダーだ。今日は月に一度の非番の日。ドーパントが出たら行かなきゃいけねぇけどそれ以外の普段の仕事は休みだ。

 普段戦うことしか脳に無さそうな俺でも……いや、戦うこと以外もちゃんと考えてるわ。てなわけで訂正な、戦ってばかりの俺も休日になるといつもやることは決まってる。

 それはライブハウスに行くこと。朝はだらけることもあるが昼間からはちゃんと動き出す。マイギターを持ってライブハウスに行き、一人でギターの練習をする。やる曲は気分で決めたり、最近聞いた曲をやったりする。一人でやると自由に出来るので耳コピした曲をオリジナル風にやってみたりもする。最近はこころ達のハロハピの曲もやるようになった。個人的なお気に入りは『ゴーカ!ごーかい⁉︎ファントムシーフ!』だ。マントを着けてる薫さんには同じマントを着けてる者として仲間意識を感じる。ライダーの中で音楽やってるのは俺だけなのだろうか?もし出来るんだったら新一さん達ともやってみてぇな。

 スタジオの貸出時間が終わりそうなのを見て俺は片付け始める。まりなさんに金を払い礼を言ってライブハウスを出る。時刻は夕方辺り、飯作るのはなんかめんどくさいしジャンクで済ませるか。そう決めると行動はすぐだ。近くにあるファストフード店ことワックに突撃、もとい走っていく。

 ワックの扉を掻い潜ると休日なのに珍しく人が少ない。とりあえずいつものメニューでいいか。レジに並びにいくと接客する店員がよく知っている人だと気づく。水色で左側だけ止めている結び方、菫色の瞳、どこかふわふわした様な喋り方。ハローハッピーワールドの松原花音が接客をしていた。

 

「ありがとうございましたー。いらっしゃいませ────って、快斗君?」

「ども、お疲れ様っす花音さん」

「あ、ありがとう。ち、注文はいかがなさいますか?」

「ダブルチーズバーガーとベーコンエッグワック、あとポテトLサイズください。あ、飲み物はコーラで」

「はい、ご注文承りました。よくこんなに食べれるね」

「ハハ、腹減ってるんで」

 

 まぁ、これが夕飯になるんだけどな。そんなこと言ったら花音さんに怒られるだろうし黙っておくんだけど。

 

「あ、快斗君。今日ってこの後どうするの?」

「今日はこれ食ったら帰るっすね。何かありました?」

「よかったら一緒に帰らない?私あと少しで終わるから」

「そういうことなら全然構わないっすよ。それじゃ、あそこの席で待ってます」

「うん、わかった。ありがとうございましたー」

 

 ここで一旦花音さんと別れる。休日にハロハピのメンバーと会うのはなかなかの確率だと思う。それも常識人の花音さんだとなお当たりだな。いや、別にこころ達が嫌だと言ってるわけじゃない。ただこころ、薫さん、はぐみに会うと何か巻き込まれる可能性が高いから休日は目につかない様にしている。まぁ、休日避けてもいつもわちゃわちゃしてっからアレなんだけどね。それはそれで楽しいんだけどさ。注文のものを受け取ってテーブル席に着く。そして俺は早速、ダブルチーズバーガーに手をつける。うん、やっぱりこのとろみが良い。そしてこの肉厚。肉って最高の食べものだよな〜、野菜も入ってねえしダブチ最高。さて、次はベーコンエッグワックこと『コング』を食べますか!あー、こっちもやっぱりいい。タンパク質とかも取れてるし成長期だから野菜より肉だよやっぱ。じっくり肉の味を堪能していると目の前に人が現れる。花音さんだ。さっきの服とは違い普段着を着ている。フリルがついた水色の服と白いスカートを履いている。可愛いなとつい見惚れてしまいそうだ。

 

「かっ、快斗くん、恥ずかしいから!」

「え、なんか口に出てましたか?」

「かっ、可愛い…とかって………」

「あっ、すみません。思ったことすぐ出ちゃうことがあるもんで」

 

 顔を赤くしている。可愛い。

 

「花音さんお仕事お疲れ様っす」

「うん、ありがとう。今日はなにしてたの?」

「今日っすか?今日はコレ持ってcircleに行ってました」

「それ…ギター?」

「うっす、こう見えて暇な時とか今日みたいな休みの日は弾いてるんすよ」

「へーそうなんだぁ。今度聴いてみたいなぁ」

「ハハッ、機会があったらいいっすよ」

「やった。あ、そういえば前に快斗君の知り合いに会ったよ」

「誰っすか?」

「えっと、名護新一さんって人なんだけど」

 

 なんだ、知り合いって新一さんか。まぁ基本的に知ってる人って新一さんかあのバカか黒服の人しかいないからな。しかしどうして新一さんと会ったんだ?

 

「知ってます知ってます。なんかあったんすか?」

「ううん、この前千聖ちゃんと喫茶店に行った時にイヴちゃんと一緒にいてね」

 

 それからその喫茶店で行われた話の内容を聞いた。新一さんも大変だな、隠さなきゃいけないこと沢山あって。しかもどこぞの学級裁判にまでなりかけるとか………面白そうだな。見に行きたかったわ。どんな心境だったか今度聞いてみよ。

 

「花音さん、そろそろ帰りますか?」

「うん。そうしよっか」

 

 俺は頷いて食べ終わったゴミやトレーを片付ける。花音さんは出入り口に向かっているため合流するためにそっちに向かう。店を出て歩いていく。夏だからか六時ぐらいだがまだ夕日にはなっていない。花音さんと横並びになって道を歩いていく。常識人と一緒にいると平和を感じられる。その点では美咲も同じだな。あいつもハロハピの中では常識人だし、俺の代わりにツッコミもやってくれるし。まぁ俺もふざける時があるんだけど。

話しながら歩いていると別れ道に差し掛かる。それじゃと言って花音さんは右の方へ、俺は左の方へ歩き出す。明日からはまたこころの護衛兼仮面ライダーか、面白いこと起きねぇかな。

 花音さんと別れて五分経った。こっから後十分ちょい歩けば家まで着くのだが電話から着信音が聞こえてくる。こんな時間に誰だと思って見てみるとさっき別れたはずの花音さんからだった。

 

「もしもし、なんかありました?」

『ごめんね快斗君。その………道に迷っちゃったみたいで』

「まじっすか。わかりました、迎えに行きますね。そこなんかありますか?」

 

 場所を聞き出そうとした時だった。腰につけていた錠前が音を鳴らしてくる。取り出して開いてみるとドーパントの反応があった。位置を確認すると俺がいる所のちょうど真反対の位置にいるらしい。

 待てよ?真反対のところにいるってことはもしかして花音さんいるんじゃねぇか!?

 

「花音さん、近くに怪物がいたりしませんか!?」

『えっ、怪物…?あっ、いたよ!すぐ近くにいる!』

「すぐに逃げてください!すぐ向かいますから!」

 

 電話を切って走り出す。別れたところからここまで五分だったから歩いて十分、走れば五分で着くはずだ。急がねぇと花音さんが危ない。全速力と道に信号がなかったことからすぐに現場に駆けつけることができた。

 現場を見てみると何やら金色の人型が暴れ回っている。叫んでる声を聞いてみると「金だ、金だ」と騒いでいる。被害状況を確認すると倒れている人はいない。けれど住民は悲鳴をあげている。金ピカに近づいていくと目の前で尻餅をついている人がいた。花音さんだ。逃げ遅れたのか、あの金ピカが迫っている。俺は花音さんがいるところに向かって走り、ドロップキックをかました。

 

『いてぇな!誰だお前は!?』

「うっせぇ黙れ!人の休日の締めくくりを台無しにしやがって!花音さん、立てますか?」

「うん、ありがとう」

「無事でよかったっす。隠れててください、すぐ終わらせるんで」

「うん、気をつけてね!」

 

 花音さんを逃してドーパントの方に向き直る。金ピカは苛立っている様に感じ取れる。知るか、さっきも言ったがこっちは休日を台無しにされたんだ。ぶっ倒して豚箱にブチ込んでやる。

 

『お前ナニモンだ』

「俺か?俺はかなり強い仮面ライダーだ!」

 

 ベルトのバックルを取り出して腰につける。自動でベルトが開かれるのでこれでいつでも変身可能状態になる。そして服の中から白いメモリを取り出してボタンを押す。

 

『エターナル』

『お前まさか!』

「変身!」

『エターナル』

 

 青白い炎が俺を包み込んで鎧を身につける。炎が体から消えると首元から燃えるように広がってマントを作り上げる。変身は終わった。あとは目の前の奴を叩き潰すだけだ。

 

「さぁ、地獄を楽しみな!」

「その姿…噂の仮面ライダーか!」

 

 言葉を聞いた瞬間にナイフを投げつける。あくまで威嚇程度に投げたので弾かれても気にしない。ナイフに気を取られているうちに敵に接近する。光弾を放ってくるがそれを避けて近付いていく。多少当たることもあったが大した威力でも無いので気にしないで進んでいく。目の前にまできた時、金ピカは動揺で身動きが取れていなかった。その隙も逃さずに回し蹴りをすると重い体に当たって吹っ飛んでいく。壁にぶつかってよろけている金ピカはこちらに攻撃をしてこない。なら一気に蹴りをつけるか。俺は懐から赤いメモリを取り出してナイフの柄の部分に差し込んでボタンを押す。

 

『ヒート、マキシマムドライブ』

「燃え尽きろ」

 

 真っ赤に燃え上がった刃を逆手に持ち、回転しながら金ピカを切り刻む。その勢いで切り通り、離れたところで着地すると金ピカは爆発した。中からは人とメモリが出てきてメモリは砕け散って人は倒れ込んだ。変身を解除して上司に連絡するとすぐにやってきてくれた。金ピカだった男はすぐに運ばれていき、事が全て解決した。

 隠れていた花音さんを見つけ出して声をかける。

 

「大丈夫ですか、花音さん」

「ありがとう、また助けられちゃったね」

「いえいえ、仕事なんで。それにしても不思議っすよね。花音さんの迷子先にドーパントが出るとか。花音さん……もしかして呼ばれちゃったりしてるんですか?」

「ふぇぇぇ、やめてよぉ〜!」

「冗談っすよ、それより帰りましょうか。また出てくるかもしれませんし送ります」

「う、うん!」

 

 それから花音さんを送っている最中雑談を繰り返しては二人で笑っていた。




今回で幕間は一度きります!次からは夏休み編です!
え?幕間と大して変わらないって?そんなことないよきっと多分。


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第三章 夏と合宿と奏でる音
第一夏 合宿に行こうよ!


さてさて、今回から第三章『夏と合宿と奏でる音』編です!
え?もう夏はやっただろって?何言ってるんですか、夏はまだ始まってませんよ!
では、最新話どうぞ!


「合宿に行こうよ!」

「急にどうしたのリサ姉?」

「いや、今夏じゃん?みんなこれから休みに入るし合宿してお互い高め合おう的な?」

 

 なるほど一理ある。少しでも同じ時間を過ごせば互いに親睦も深められるしそれが今後の活動に良い影響を与える可能性もある。ついでに言うと僕は合宿というものをしたことはなかったから好奇心がないと言えばウソになる。

 

「あこも賛成!」

「合宿ですか、悪くはないのかもしれませんね。お互いの課題点を指摘できるでしょうし、それで技術を高められるのなら尚更良しです。湊さんはどう思いますか?」

「そうね、それもいいかもしれないわね。それにそろそろ新曲も作らないといけないわ」

「新曲、作るんですか!?」

「ええ、いつまでもこのままじゃいられないわ。少しでもレベルを上げていかないと」

「白金さんはどうですか?」

「わ、私も……賛成です………」

「では決まりですね」

 

 僕の参加不参加は聞かれることなく話は進んでいく。まぁ、お嬢様が行くことになったら僕もついていくんだけどね、仕事上。

 

「では全員家族の方に予定を確認してそれから場所と日にちを決めましょう」

「よろしければ場所に関しては僕が調べておきましょうか?」

「お願いしてもよろしいでしょうか?」

「はい、かしこまりました。皆希望とかあったら随時教えてね」

 

 はーいと皆から返事が聞こえるとリサから海の近くという単語が聞こえたが紗夜さんに遊びじゃないと言われて苦笑いしている。時間も時間だったので片付けをしてcircleを後にした。

 お嬢様を家に送り届けてから今晩の買い物に出る。お嬢様には出された夏休みの宿題をやっておくように伝えると不機嫌そうな顔をされた。一応学生の本業は学業ですのでというと不服そうな顔をしながら自室に戻っていった。因みに僕はもう終わらせている。終業式に近づくにつれて自習の時間も増えていたのでその間に終わらせたのだ。普段の仕事のためにもね。

 さてさて、ここで困ったことが出てきた。それは場所の問題である。長年旅行の範囲が広かったのは当然だが旅行(仕事)だったのでどういう所が好まれるかはあまり把握していない。もし借りることになってもお金の問題はない。毎月の旦那様との契約と弦巻家との契約で毎月数百万は入ってきている。正直日用品や食費以外で使うところがないので余ってたりもしている。だから問題はないのだ。海の近くがいいとは言っていたけどどういうのがいいのだろうか?すぐ目の前が海なのか、それとも景色的に見えるところなのか。あまり気にしたことはなかったのでわからないな………。

 

「主、ここで何している?」

 

 お肉を持ちながら悩んでいると後ろから声をかけられる。振り返ってみると橋下さんだった。主と言っている時点で半分は分かっていたけど。

 

「橋下さん……買い物です。今晩のお夕飯はどうしようかと」

「そうか」

「橋下さんは何をしていたんですか?」

「見ての通り俺も買い物だ。ここはスーパーだからな」

 

 それもそうかと持ち上げられた腕を見てみると買い物かごがぶら下がっている。中身を見てみるとお刺身が入っていた。

 

「今日はお魚料理ですか?」

「ああ、これからカツオを取りに戻ろうとしていたところだ」

「この時期でカツオならたたきもいいですね」

「さすが主、わかっている。そういう主は肉料理か」

「実は悩んでいて………」

「そうか、相談なら乗るぞ。飯のこと以外も悩んでいただろう」

「おや、わかりました?」

「食事以外のことも悩んでいるのはわかった」

「アハハ………じゃあ、相談させてもらっていいですか?」

「構わない。だが主よ」

「わかっています。これから予告なしのタイムセールですね」

 

 僕たちがおそらく始まるであろう方向を向くと豆腐のコーナーでタイムセールが始まろうとしていた。邪魔にならないようにカゴを持ちながら走る準備をするとベルの音が聞こえてくる。その音が聞こえた瞬間、僕と橋本さんは多くの主婦のいる戦場へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事戦争に勝ち買い物も終わらせて、静かに話し合える喫茶店へ向かう。因みにタイムセールのおかげで今日の晩御飯は豆腐ハンバーグに決まった。席を取り荷物を置いてお互いに腰を下ろす。注文はすでに済ませてあるのであとは待ちながら話すだけだ。

 

「それで主、悩んでいることは何何だ?」

「そのですね………」

 

 今までの経緯を話し、事を説明すると橋本さんは納得したように頷く。

 

「なるほどな。確かに主は外に出ても仕事が多かったからな。泊まったところも拠点というのが多かっただろう」

「っ………その通りですね」

「時に主よ、ひとつ疑問だ」

「なんです?」

「Roseliaといったか、その娘らの中に主の恋人はいないのか?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。何故に恋人?というか今そこ気にするところなのかな?それともいたら何かまずいのかな。まあいないんだけど。

 

「いませんけど………何か問題でもあったんですか?」

「いや、いてもいなくても大して変わらない。というより主はそういった欲がないからな、聞いたのが間違いだ」

「え、ああ…はい………」

 

 なんだろう、よくわからないけど一瞬傷ついた様な感じがする。確かに恋人作ろうとか欲しいと感じた事はないけど、それとこれと何が関係しているのだろうか。

 

「忠告しておこう、夏になってハメを外した女は時に危険になる。(18禁的な意味で)襲われないようにするんだな」

 

 襲われる………!?え、夏になると女の人って襲ってくるの!?でも去年お嬢様は襲って来なかったし………もしかして合宿中に命を狙われる!?皆良い子なのに夏になるとそんな事が……世の男の人は夏は危機管理能力が高まっているんだなぁ。僕も気をつけないと。

 

「ご忠告ありがとうございます。この夏はより一層、自分の命も守れる様にします」

「そうだな、気をつけろ(主は自分の貞操も命と同じ様に感じているのか…)」

「それで時に橋下さん、どこかいい場所を知っていませんか?」

「合宿の話だな。それなら主が持っているではないか」

「何を言っているんですか?僕は家の類は持っていませんよ?」

「いや、持っているぞ。俺と一緒に行った任務の時に拠点とした場所が当時の主が気に入っていだろう?それを先代に報告したらその拠点を主専用としていた。結果的にあれ以来使っていないが」

 

 その話初めて聞いたんだけど。この人たちなに勝手に人の所有物増やしてんだろ。しかも規模が普通じゃないし。おまけに先代ってことはお祖父様でしょ?そんなことするとは思えないけどな………。

 

「先代は気遣いとかが不器用な人だったからな、無理もない」

「そうなんですか………。つまりそこなら他の人も気にいるだろうってことですね」

「その通りだ」

「なるほど、ありがとうございます。その場所の住所、後で送ってもらえますか?」

「承知」

 

 相談が終わるとちょうどよくコーヒーがやってきた。一息入れるためにそれを口に入れる。カップを置くと橋下さんが調子はどうだなどと聞いてくるのでそれから少しお話をしてから帰ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日経って全員の予定が確認でき、合宿の予定日が設けられた。それまでに持ち物などを用意しておく。話し合いの時に場所が取れたことを伝えたときは色々疑われたがなんとか誤魔化すことができた。合宿予定日の数日前となった今、改めて荷物の確認をしていると橋本さんからメールが届く。内容は今から会えないかという物だった。今日の練習は午前で終わり、午後はずっと家にいたので余裕はあった。お嬢様に少し出かけることを伝えるとすぐに許可が降りたのでバイクを使って向かう。前回と同じ喫茶店で待ち合わせだったので道に迷うことはなかった。到着すると橋本さんが座ってアイスコーヒーを飲んでいた。

 

「すみませんお待たせしました」

「問題はない。それに急に呼び出したのはこちらだ、申し訳ない」

「いえいえ、それでご用件の方は?」

「主にこれを渡したくてな」

 

 そういって橋下さんは鞄を漁り出し、箱を取り出した。

 

「テッテレッテッテテーテテー♪指名手配犯判別眼鏡ー」

「………なんですか、それ。あとすごい…テンションが高い出し方ですね」

「渡す時はこれを言えと開発部に言われたんだ」

 

 な、なるほど。確かにあの人たちならここまでやりかねない。しかして指名手配犯判別眼鏡?なるものを取り出してきたんだ?

 

「これはその名の通り日常生活に潜り込んでいる指名手配犯を探し出すことができる。本人の外的特徴…主に顔などだな。それに照合されるデータを出して千%合致すれば教えてくれる」

「便利ですね。しかしなぜこれを僕に?」

「なんとなくだ。主には今守らねばならない人がいる。合宿だからと気を抜いてはどうなるかは分からないからな」

「護身用……みたいな物ですか。ではありがたく頂戴させていただきますね」

「ああ、使うことがないとは思うんだけどな」

「そうですね。これだけですか?」

「ああ、あとは主に任せる」

 

 ならばせっかくだからお茶して行こうとその場に留まった。合宿はいつだとか色々と聞かれた。今の生活なんかも聞かれた。久しぶりに橋下さんと過ごした時間は楽しめる物だった。だが、近くに金色の寿司屋さんが来た瞬間、橋下さんは用事ができたと会計を先に済ませて出て行ってしまった。何故出て行ったかは予想は出来るがあえて黙っておこう。

 

 そして数日後、いよいよ待ちに待った合宿が始まった。

 




橋本さんに渡された眼鏡
合宿場へと行く為に乗った電車
その中でみんなが期待するようなイベントはあるのか?
新一曰く、
「電車のイベントってなに?」
とのこと。
おい大丈夫か!?それでも男かお前!

次回『旅の列車にはご注意を』

お楽しみに




































次回予告っていつぶりだっけ


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第二夏 旅の列車にはご注意を

ここ最近お気に入り登録者が増えていてテンション上がってます。皆さん本当にありがとうございます!


 合宿一日目の朝、早朝から駅前に集合する事になった。自分の荷物とお嬢様のに物を持って家を出る。同じ様なタイミングで荷物とベースを持ったリサも家を出てくる。

 

「二人ともおはよー♪」

「おはよう」

「…おはようリサ」

 

 お嬢様は朝が弱いためまだ少し眠そうにしている。挨拶を済ませたところで三人で駅に向かっていく。集合する駅から電車で移動し、最寄り駅からまた少し歩くというルートになっている。

 

「いやぁ〜ついにきたね、合宿の日!」

「うん、楽しみにしてた?」

「そりゃあね?みんなで過ごせるし」

「リサ、遊びじゃないのよ」

「わかってるって〜」

 

 雑談をしながら歩く。夏だけどまだ朝早いことからそこまで暑くはない。だけどこれだけの荷物を持っていると暑くなってくるのも時間の問題だ。たびたび水分をとりながら進んでいくと駅に着く。そこにはりんりんとあこちゃん、紗夜さんが待っていた。

 

「もしかしてアタシたちが最後かな?」

「ええ、ですが時間には余裕があるので大丈夫です」

「リサ姉達おはよー!」

「おはよう……ございます………」

「おっはー⭐︎」

「おはよ」

「おはよう、揃っているなら早く行きましょう」

「そうですね…って名護さん、今日は何故眼鏡をしているんですか?」

「え、えっと…それは………」

 

 まずいな、確かに普段眼鏡をしていない僕を見ればみんな不自然がるのは当然のことだった。

 

「その……なんというか………」

「もしかしてイメチェンですか!」

「う、うん、その通りだよあこちゃん。よくわかったね」

「そういうことでしたか。納得しました」

「早く行きましょう」

 

 納得した紗夜さんを見てお嬢様は駅の方面へ向かっていく。皆それに続いて行く。皆の後ろを歩いているとリサがこっそり近づいてきてこっちを覗き込んでくる。その状態が数秒間続くと小さく笑って「ちょっと似合ってないかも」と言ってくる。その言葉に苦笑いをして誤魔化す。正直似合っていないことは僕も薄々気づいていた。その様子を見ていたのかリサが離れた後にりんりんが近づいてきて「ちゃんと似合ってるよ」と言ってきてくれたことに感謝を感じた。

 電車での時間は思ったよりも長かった。一本の電車で隣の県まで移動し、乗り換えて別の路線で目的地に進んで行ったのだが距離もあって長かった。幸いなことに人が少なかったのでみんな座っている。僕は立って荷物を持っているが苦ではない。この電車が目的地に近づいてくると窓から海が見えるという。その景色を見るためならこれくらいはどうってことはない。

 だがその楽しみにするはずの時間も無くなってしまった。止まった駅で男が一人乗ってきた。電車内は人が少なく、あまり人が乗ってこなかったのでその姿ははっきり見えた。黒いキャップ帽に長いジーンズ、そして今日は暑くなるというのに長袖の上着を着ている。顔は隠すつもりがないのかマスクとかはしていなかった。だが持っていた鞄のファスナーが少しばかり開いていた。その中から一瞬だが見えた、光を反射するレンズの姿が。男はお嬢様達の向かい側の席に座り込む。周りを確認するかのようにしている目線ははっきり言ってバレバレだった。そのカメラの視界にお嬢様達が映らないように男の目の前に立つ。カバンを動かそうとしてもそれの前に動く。勿論わざとだと分かるように。男は不機嫌な顔をこちらに向ける。けど運が悪かったのかそれに眼鏡が反応してしまった。音は出ていないがグラスに映るように示してくる。

 

『外見的特徴 網膜の色彩 共に千%一致』

『指名手配犯 遠沼寛治』

『罪状 連続強盗及び連続殺人』

 

 つまりは目の前にいるのは害悪的存在だということだ。しかしあの開発部はこの眼鏡に一体どれだけの技術を組み込んだのか…色彩データとかいれる?普通。

 

「邪魔なんだよお前、どけ」

 

 念の為、コンタクトを取ろうかと思ったが向こうから来てくれた様で助かった。

 

「すみません、列車が揺れるもので」

「嘘つくんじゃねぇよ」

「それに貴方、見えてますよ。カメラ」

 

 男は慌てるように鞄のファスナーに手をかける。少しだけ煽ってみようか。僕は笑顔のまま話しかける。

 

「あれ、もしかして本当だったんですか?ハッタリのつもりだったのに」

「………………」

「しかしまあ、女性を盗撮ですか。あまりいい趣味ではありませんね。警察呼んでおきましょうか?今までの罪(・・・・・)を償うためにも」

 

 男は激怒の顔で睨みつけてくる。携帯をチラつかせるとポケットに突っ込んでいた腕を取り出して凶器(・・)を押し付けてくる。

 

「黙れ、静かにしないとわかってるよな」

「落ち着いてくださいよ、そんなに興奮しないでくださいって」

「テメェ………ここの乗客の命がどうなってもいいのか?」

「そうなる前に終わらせましょうか」

「は?そんなもんできる「パンッ」訳ねぇ………だろ?」

 

 男が持っていた銃がカラカラと回りながら車内を転がっている。それを見た男は急に手を押さえ始める。その手を見るとさっきまでは普通の色だったのに赤くなっている。当然だ。だって手を叩いて手から銃を落としたんだから。おかげで僕の手も少しヒリヒリする。でも、銃口を向けてきたんだから仕方ないよね。男は立ち上がって胸ぐらを掴んでくる。

 

「殺されたいのか!」

「やだなぁ、そんなことあるわけないじゃないですか」

「じゃあなんだ今のは!」

「ちょ、ちょっと新一何してんの!?」

 

 トラブルに巻き込まれた(起こさせた)僕にリサが声をかけてくる。ああ、できれば見てないフリして欲しかったな。

 

「名護さん、一体何を…ってこれは!?」

「近づかないで紗夜さん。あと皆、急いで隣の車両に避難して」

「貴方、自分が何言っているかわかってるんですか!?」

「はい、ここはちょっと危ないので避難してくれと言ってます」

「そうではなく、あなたはどうするんですか!」

「見ての通りこの人抑えます」

「調子に乗るなよこのガキャア!」

 

 隠し持っていたのか、男はポケットからナイフを取り出して斬りつけにくる。だけどあまりに単調だったのでそのナイフを奪いあげて拳銃と同じ方向に転がす。すると今度は拳でやってくる。皆の方へ行かせないために挑発しながら拳銃などの方へ誘導する。それにしてもあまりに単調すぎる。本当に強盗殺人をやったことがあるのか疑いたくなるほどだ。そろそろいいだろうか。幸いここは一番後ろの車両で、人は少ないからちょっとだけ危ないことができる。男が次に出してきたパンチはストレートだった。その腕をはたきながら鳩尾に一発入れ込む。その後すぐに腕を背中に回して叩き落とす。男が床に突っ伏したところを隙を与えずに背中を踏みつける。

 

「ガ…………ッ!」

「さて、落ち着いたところで罪状の確認をしましょうか。

あなたの罪はここでは二つです。一つはお嬢様達に害を与えようとした事、二つ目は凶器を振り回したこと。

とても危険ですよね。なのでもうこんなことしない様に一つだけ教えておきましょう」

 

 その言葉と同時にしゃがみ込んで足を外し、頭を掴む。その顔を僕に向けさせ、僕は眼鏡を外す。

 

「さぁ、僕の目を見てください。ほんの少しですが、僕の逆鱗に触れさせてしまったことの意味を教えてあげます」

「あ……あ…………!」

 

 しっかり見開いた目を見せると男は震えてしまっている。逃げようとしても頭を固定させているので逃さない目を瞑ろうとしても瞑れないように圧をかける。涙目になってきた。可哀想なので少しだけ声をかけてあげよう。もちろんお嬢様達には聞こえないように、背を向けてこっそりと。

 

「凶器を向けるということはその人に対して殺しますと宣言すること。脅しなんてことに使ってはいけません。覚悟のない奴がそんなことしたって意味ないって今までたくさんの人を殺ってきた貴方なら、わかりますよね?」

 

 近くに転がっている銃を口の中に突っ込んで話していると男はいつの間にか白目を剥いて気を失ってしまっていた。仕方がないので男の着ていた長袖を脱がして腕の部分をナイフで切り裂き、縄の代わりに取手に縛りつけた。作業が終わると皆が唖然とした顔でこっちを見ていた。

 

「新一、何したの………?」

「何って言われるとあれだけど………応急処置的な感じかな?」

「なんであんなことしたんですか!?」

「それはそのですね────」

 

 皆に対して事情を説明すると不服な感じだったが納得してくれた。当然ながらメガネのことは黙っておいたけど。

 

「大体わかりました。しかし名護さん、何故あんな風に動けたのですか?普通なら怖気付くものですが……」

「自分の主人が被害に遭うかもしれないのに逃げ出す執事がありますか?」

「それは………」

「それにしても新兄カッコよかったね!悪い人をドーンバーンって!」

 

 頑張って理解しようとする紗夜さんの横で楽しそうにしているあこちゃん。それに続いてリサもキャッキャと話している。りんりんはおどおどしてお嬢様は冷静でいたけれど、みんな何もなくて良かったと安心している。だけどこれからの動きを少しでもスムーズにするために近くの人に車掌さんに終点で警察に来てもらえるように伝えることをお願いする。すると近くにいた女性が動いてくれた。これでとりあえずは大丈夫だろう。しばらくは起きそうにないし終点まで景色でも見てようと皆に声をかけると全員席について窓の景色を眺めていた。窓を見ると綺麗な海が広がっていた。夏の太陽に照らされてキラキラと輝いている。海を見るのはこれで2回目だがあの時と状況は違うため前より綺麗に見える。海を見ていると車内アナウンスが流れる。もうすぐ終点に着くようだ。手配犯の近くに行き様子を見るとまだ気絶している様だった。久しぶりにあれやったけど加減を間違えたかな?

 終点に着くとドアが開くなり武装した警察が入ってきた。ここですと合図を出して教えると警戒しながらやってくるのがわかる。だけど近づいた瞬間に一人一人驚いている。まぁ仕方ないと言えば仕方ない。なにせ今まで捕まらなかった指名手配犯が目の前で伸びていたらこうもなるだろう。やがて男は武装した警察に連れてかれる。それを見届け、荷物を持ってその場を離れようとすると半袖のワイシャツを着た男の人に声をかけられる。その姿を見ると運の悪いことに知っている顔だった。

 

「すみません、お話いいですか?」

「ええ、構いませんが。と言っても話すことはないですよ」

「事件当時の話を聞かせていただければいいんですが……っておいおい嘘だろ?」

「人の顔見ておいおいはないと思いますよ」

「新一、知り合い?」

 

 後ろからお嬢様が声をかけてくる。だが声色は早くしてくれとでも言いたい様だった。

 

「はい、知り合いです」

「本官は当……名護新一さんの知り合いであります。とはいえここでは偶然ですね」

「こんなところで何してるんですか」

「はっ、本官はただいまこの土地にて警察を務めています。お忘れではありませんよね?

勿論です。それとあまり関わりたくないのでそちらで適当に報告書にはまとめといてください

「わ、わかりました。あ、あと今回の犯人にかけられていた賞金なのですが、どこに振り込めばよろしいですか?」

「僕は結構ですので孤児の子達にでも寄付してください」

 

 そう告げると知り合いの男は畏まりましたといい、ご協力ありがとうございましたと言い残して走ってどこかへ行った。

 

「名護さん、貴方は一体何者ですか………?」

「うーん、結構怪しくなっちゃうよね〜……」

 

 竿隊の二人が怪しげな視線を向けてくる。けれど今真実を話すわけにもいかないので誤魔化すことにする。

 

「いろんな知り合いが多いだけですよ」

「それだけでは到底片付けられない気がするんですが」

「まぁまぁ、いいじゃん。新一がこう言ってるんだしさ!ほら、行こうみんな合宿所までもう少しだよ!」

「いこいこー!」

 

 リサは空気を読んでくれたのかすぐに動いてくれた。けど紗夜さんは疑いの目を離さない。その視線が痛いので荷物を持って移動しようと動くと紗夜さんは前を進んでいった。そこから移動していき駅を出ると今度はまた別のものが僕達を待っていた。




最近投稿ペースが一定になってるので極力そこに合わせていく予定です。
皆さんも電車とかでは気をつけてくださいね!


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第三夏 合宿一日目(昼) 何故貴方はそこまでする?

合宿一日目です!


 駅を出てきた僕たちを待っていたのは駅前のターミナルにあった黒いリムジンだった。皆が唖然としていた。当然僕も驚いている。リムジンには驚いていない、その前に立っている橋下さんの姿に驚いている。ツアーのガイド兼運転手とでも言いたげな服装に三角旗みたいなものを持っている。こうなったらあれだ、申し訳ないけど無視しよう。

 

「ねぇりんりん、あの車凄くない!?」

「すごい……ね………」

「あれ、新一どこ行こうとしてんの?」

「え、僕たちの行先はこっちだよ?」

「その通りですがあそこにツアーの人がいますよ」

「確かにツアーみたいなのが当たったとは言ったけどあれは聞いてないから多分違うよ」

 

 荷物を抱えたまま早歩きで移動しようとすると橋下さんから声がかけられる。しかもいつもの落ち着いた雰囲気と違ってかなり陽気な感じで。

 

「皆さーん、ようこそいらっしゃいました〜!ご予約の名護様御一行様ですね?」

「いえ違い「はい、あってます」………………」

「名護さん、あってましたよ」

 

 紗夜さん(この人)は全くもって善意なんだろうな。けどその善意がたまに悪意にも捉えられることを皆は絶対忘れないでね。しかしまぁこの感じだと目の前にいるのが橋下さんだとバレていなさそうだな。さすが情報収集の時に使うスキルを完璧にこなしてる人は違う。

 

「確認が取れましたのでこの車に乗ってください。快適なクーラーが待ってますよ!」

「やったー。クーラーだー!」

「ちょっと宇田川さん!もう少し行儀良くしてください!」

「子供は元気なくらいがちょうどいいです!あ、荷物はこっちにお願いしまーす!」

 

 あこちゃん、紗夜さんと乗っていくので皆リムジンに乗っていく。仕方ないのでお嬢様たちを乗せて出発しようとすると橋本さんが「運転席が見える窓側にいてください」とこっそり伝えてくるのでそれに従う。中は予想以上に広いので皆自由に座っていた。指定席は問題なく空いていたのでそこに座り込む。車が動き出すと同時にお嬢様達はこれからの予定などを確認し始めた。その様子を見守っていると橋本さんから声をかけられた。

 

「飲み物を用意した。運転中故渡していただけるだろうか?」

「構いませんがこの事態に説明求めます」

「主があの場所を使うと聞いたからな。今までの恩を返しているといったところだ」

「そんな…僕の方が色んな恩を受け取っているのに」

「いや、俺は主には返しきれない恩がある。もし嫌ならただのお節介だとでも思ってくれ」

「……納得はいきませんが今回はそういうことにしておきます。ですがもう僕に縛られないでください」

「それは考えておこう」

 

 いや、考えておこうじゃないから。ただでさえ助けてもらいっぱなしなのにその上に重ねていったら僕の罪はいったいどうなるんだ。僕は貴方達を捨てたのに。

 

「主よ」

「なんですか?」

「俺たちのところから離れたのは確かに残念だ………だが気にするな。少なくとも俺とあと二人は恨んではいない。それにいつか戻ってくると思ってる」

「………そうですか…ありがとうございます」

「気にするな」

 

 気にしないことはできない。橋本さんはああ言ってくれたけど少なくとも恨んでる人はたくさんいるはずだ。けどその人たちのことも忘れずに今も生きている。だからこの音は絶対に忘れちゃいけないんだと思う。

 車のスピードが落ちてきた。外の景色を見ると見たことのある景色が見えた。どうやら目的地に着いたらしい。車が完全に止まると橋本さんが降りてこっち側の扉を開いてくる。

 

「到着しました。それでは皆さん三泊四日の旅をどうぞご満喫くださいませ!」

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

 会釈をすると橋下さんは手を振って車に乗り込む。その後車は遠くに行き、見えなくなっていった。後ろを振り返ると普通の家よりも大きなコテージがあった。その姿はあの時と何も変わってない、なのに感じる何かは違う。不思議な感じだ。預かった鍵を使って扉を開けるとそこもまたあの時と変わらない風景があった。生活に必要なものが全部揃っており、部屋なども客用として対応できるようにしっかり片付いている。他の部屋も見てみると運んでおいてもらった(当時は橋本さん達だとは気付かなかった)ドラムとキーボードがスタジオ部屋に届いていた。ていうかこんな部屋あったっけ。あの時使ってなかったから気付かなかったのか。

 

「りんりん見て!あこたちのドラムとキーボード届いてる!」

「うん……良かった……」

「これなら問題なく練習ができそうですね」

「ええ」

 

 それから他の部屋とかも確認していく。少しして皆がリビングに集合すると軽くこれからの予定を確認する。

 

「それじゃあ皆、各自部屋を決めて昼食を取ってから練習を始めましょう」

「賛成です」

「OK⭐︎」

「りょーかいです!」

「わかりました……」

「それじゃあ昼食の準備をしますね」

「あ、新一」

「どうしたのリサ?」

「新一の荷物運んどこっか?」

「ああ、ううん、大丈夫。後で自分で運ぶから大丈夫だよ」

「わかった」

 

 皆が自分の部屋を決めて荷物を置きに行く。さて、冷蔵庫の中身はどうなっているかな。あの人の事だから中に何か入っている様な気がするけど。リビングから移動してキッチンの冷蔵庫の前に立つ。さあ、オープン!

 

「………………」

 

 冷蔵庫の中身は予想通り中身が詰まっていた。しかも栄養バランスがしっかり整っている。戸棚の方も見てみると色々調味料とかもあるのがわかる。冷蔵庫の扉を閉めると紙が貼ってあるのがわかる。文字を読んでみると余った食材はそのままにしておいて構わないと書いてある。どこまで準備がいいんだか………今度何か持ってかなきゃ。

 さて、昼食だ。手軽にサッパリさせるためにもそうめんにしておこう。エプロンをつけてそうめんを作り始めると足音が聞こえる。

 

「新君……何か手伝う………?」

「大丈夫だよ、今は休んでて」

「何か………あったら………呼んでね………」

「うん、ありがとう」

 

 やっぱり優しい子なんだよねりんりんは。手順は簡単なので順調に進んでいく。麺が茹で上がり、さらに盛り付けて完成する。完成したので皆を呼んで昼食を始める。ちゃんと作れたからか皆美味しいと言ってくれた。昼食が食べ終わって片付けを始めた。他の人たちは予定通り練習部屋に入っていった。この時間の僕の予定は部屋に荷物を置いて各部屋の設備を点検することだ。まずは自分の荷物を置いて自分の部屋から確認していこう。そこから効率的に動くべきだろうな、時間も限られていることだし。

 自分の部屋の扉を開けるとここも変わっていなかった。あの時は少人数での任務だったからこうやって振り分けられたけど大人数だったらこうはならなかっただろうね。荷物を置いて部屋を見回してみる。ベッドにクローゼット、机に椅子、ある程度のものはきちんと備わっていた。だが奇妙なことにその場にないはずのものがあった。窓の近くに置いてあるものに被っている布を取ってみるとそこには以前使っていたヴァイオリンが置いてあった。多分橋本さんの仕業だろう。あの場所を出ていくときに置いていった物なのに何故持ってきたのか。ヴァイオリンを持ち上げると下に紙が落ちているのを見る。拾い上げてみると差出人は橋本さんだった。

 

『これは主のものだ、だからここに置いていく』

 

 全く、あの人はお節介が好きだな。よく考えれば名護家の人で部下だった人達は皆お節介だったな。そんな僕も人のこと言えないけど。とりあえずこれはここにおいておこう。後でどうするかは決める。そして僕は他の部屋の設備点検へと向かった。

 設備に問題はなく、数日過ごすには快適すぎるという事がわかった。時間もちょうどいい感じだったので夜ご飯の準備を進めていると皆が戻ってくる。

 

「疲れたぁ〜」

「ふぅ、いい汗かいた〜」

「皆お疲れ様。もう少しで晩御飯できるから休んでて」

「名護さん、私も手伝います」

「あっ、アタシもやるよ」

「もう少しですから休んでて大丈夫ですよ」

「そういうわけにはいきません。私達も本来やらなければならないことですから」

「そう………いうものなのかもしれませんね、でしたらお箸と調味料をお願いします」

「わかりました」

 

 紗夜さんはこういう時、頭が固すぎる気がする。もう少し楽に考えていいのにな。これが僕の仕事みたいなところもあるし。

 

「新一、アタシは?」

「リサは……そうだね、後でお皿運んでもらうから待ってて」

「りょーかい⭐︎」

 

 そうこうしているうちに料理は出来上がり、食卓に今日作った物全てが並んだ。

 

「すっごーい!すごいよりんりん、夜ご飯がいっぱいだよ!」

「う、うん……凄い………よね………」

「運んでて思ったんだけどさ、新一って相当料理できるよね?」

「これくらいできないと執事なんてできないよ?」

「湊さんはいつもこんな料理を…」

「流石にここまでのクオリティはないわ。張り切っているのかしら」

「そうですね、お恥ずかしながら少しだけ張り切ってしまいました」

「これが少し………」

「あ、皆さん食後にデザートもありますよ」

「そんな事までできるの!?」

「デザートあるんですか!?」

「うん、ちゃんと皆の分あるから大丈夫だよ。それではお召し上がりください」

 

 最後の言葉を告げて席を少し離れる。

 

「あれ、新一は一緒に食べないの?」

「え、うん。みんなの反応見てから後で食べようかなって」

「新一、ここで食べなさい。あなただけ一人で食べるのはおかしいでしょう」

「ですがお嬢様…」

「それに今まで一緒に食べてたじゃない。今更気にする事はないわ」

「そうですね、なぜ距離を置いたのかはわかりませんが今更なことです。一緒に食べましょう」

 

 食事中も何か曲とかについて話すだろうから邪魔してはいけないと思ったのだが、その気遣いもどうやら要らなかったらしい。大人しく席に着いて食事を取ることにすると食べ始めた皆(お嬢様とあこちゃんを除く)から怪しげな目線を向けられた。味に関しては問題ないと思うし、やはり何か不味かったのだろうか。

 

(((なんで新一(新君/名護さん)はこんなに料理できるの!?)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事の後片付けが終わり、色々と済まして時刻は二十二時。皆が自室に篭った時間だ。ちなみにデザートはゼリーにしといたのだが評価は高かった。三人の目線は変わらなかったけど。

 皆と同じ様に僕も自室に篭っている。特にする事もないので届けられたヴァイオリンを持ち上げる。見た目はあの頃と変わっておらず弦の糸と弓の糸もしっかりと貼られていた。ニスで塗られた表板が僕の顔を写している。久しぶりに弾いてみようかと首元に置くとドアを叩く音が聞こえた。

 

「新兄いるー?」

「はい、何かあったの?」

「新兄、せっかくだから遊ばない?」

 

 そう言ってあこちゃんが見せてきたのはトランプだった。意外だった。初日だからゆっくり休むものだと思ってたんだけどな。

 

「どうしたの?」

「いや、ちょっと意外で…」

「え、そう?それで新兄はどうする?」

「せっかくだし混ざろうかな」

「やったー!じゃあ行こ!」

「あ、先に行ってて。少し片付けてからいくから」

「うん!あ、リサ姉の部屋だからね!」

「はーい」

 

 ドアを閉め、見えない様にしていたヴァイオリンに布をかけておく。そして部屋を出てあこちゃんたちのいる部屋へと向かっていった。




京「クソ暑いな…」
快「知ってるか?新一さん今海行ってるらしいぞ」
京「まじかよ…しゃあね、かき氷食いにいくか」
快「いいなそれ、俺もいく」
京「お前、かき氷の味は?」
快「ブルーハワイ」
京「はん、わかってねぇな。かき氷はレモンだろ」
快「馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ、ブルーハワイに決まってるだろ!」
京「はぁ!?」


そして二人はいつもの論争に発展したという………
一方その頃、新一の方は

あ「新兄かき氷は何味?」
新「いちごかなやっぱり。原点が一番だと思う」
あ「わかるー!やはり真紅に染まりし闇の果実が………」

二人とは全く別の意見だった。


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第四夏 合宿一日目(夜) 始まった心理戦と鳴り響く音

投稿遅れてしまって申し訳ございません。ストックあるとか調子乗ってるからこうなるんですよね、はい。
以後気をつけます。そしてこれから先少し忙しくなるので投稿頻度が少なくなります。戻れる時には戻しますのでそれまでの間ご了承下さい。
それでは本編どうぞ!


「申し訳ございませんお嬢様。ですがこれだけは譲れないのです」

「新一、大人しく渡しなさい」

 

 こんなふうにお嬢様と話したのは初めてだ。だけど僕にも譲れないものがある。そもそもなぜこんなことになったかというと数十分前に戻る。

 

 

 

 

〜数十分前〜

 

 

 

 

「失礼します」

 

 今僕はリサの部屋の前にいる。あこちゃんに遊ぼうと誘われ、準備をしてきた。念のためノックをしてから入る。いくら呼ばれたとはいえ、女子の部屋だからね。最低限のマナーはつけとかないと。ドアを開けて部屋を見渡すとRoselia全員がいた。皆が紗夜さんとお嬢様を見ていた。その二人はというと冷静でありながらも焦っているような表情をしながら手にトランプを握っていた。

 

「いらっしゃい新一〜」

「これは一体………」

「さっきまでババ抜きやってたんだけど友希那さんと紗夜さんだけが残っちゃって、それからずっとループしてるの」

「ずっと?」

 

 念のためりんりんの方を見るとコクン頷いていた。どうやらマジらしい。ババ抜きでここまで続けられるのってなかなかだと思うんだけどな………。お嬢様の方を見ているとこっちに気づく。

 

「新一、きていたのね」

「はい、今到着しました」

「では仕切り直しですね」

「あれっ、辞めちゃうんですか?」

「このまま続けても埒があかないと思います。でしたら名護さんも交えてやった方がいいと思います」

 

 そう言って紗夜さんはカードをまとめてシャッフルする。依存はないのかお嬢様も素直にカードをまとめていた。二人ともうまく逃げたな。そして紗夜さんは僕を含めた人数分を綺麗に仕分けしていく。

 

「じゃあ誰からやるかジャンケンで決めよっか」

「わかったわ、いくわよ」

「「「「「「ジャンケン、ポン!」」」」」」

 

 一斉に出した手は綺麗にパー(5)とチョキ(1)に別れたどうやら先行はりんりんらしい。ゲームは始まり、皆順番にカードを引いていく。今回の勝利条件は正直言って簡単だ。勝っても負けてもデメリットは無いがどうせなら勝ちたい。ならばすることは一つ。相手の顔を見てババの位置を確認する。少しでもかかれば表情に変化があるはず。それを見逃さずにゲームをしていけばいい。

 ゲームが終わる頃僕は上がっていた。順位は三位。一位はりんりんで二位はあこちゃん、四位はリサだった。そして残ったのはさっきの二人だった。このゲームの最中でもずっと同じ表情をしている。あのお二方、ポーカーフェイスってご存知ですか?なんて言えずにこの状態だ。いや、むしろこれが彼女らのポーカーフェイスなのか。数字の札の時に笑って仕舞えば多分簡単に落とせるのではないかとは思うんだけどな、二人の性格的に。そしてついに決着がつき、お嬢様は負けた。どうやら紗夜さんに運がついたようだ。

 

「やっと終わりましたね………」

「お疲れ様です…………」

「もう一度やりましょう」

「えっ、またやるの!?」

「次は勝つわ」

「時間も時間ですしもうここら辺で………」

「次は勝つわ(圧)」

「か、かしこまりました………」

 

 勝負に執着する人ではあったけどこんな圧まで出す人だっただろうか。やはり負けず嫌いなんだな。全員がお嬢様の圧に負けても一度定位置に戻った。

 

「そうだ、次負けた人は何か罰ゲームしてもらおうよ」

「さんせーい!」

「そうですね、具体的にはどうしましょうか」

「そうだねー、一位の人の言うこと聞くっていうのは?」

「面白そう!あこやる気湧いてきた!」

「湊さんはどうですか?」

「私も賛成よ、それに勝つのは私だわ」

「友希那燃えてるね〜それじゃあアタシも本気出そうかな」

 

 え、なんで皆こんなに本気のオーラ出てるの?そんなに命令してみたいの?

 

「新一もやるでしょ?」

「う、うん。頑張るね」

「燐子も頑張ろうね」

「ま………負けません………!」

 

 

 

 

〜現在〜

 

 

 

 

 

 一抜けしたのはリサであり、彼女は先に罰ゲームを発表した。内容は『自分の恥ずかしい過去を一つバラす」ということだ。彼女なりの優しさなのか先に出していたおかげで他の三人はすぐに終わらせてきた。そして今に至る。

 いくら勝者の命令でも過去だけはバラしたくない。あのことについては隠すつもりだがそれでも恥ずかしい過去など話したくない。だからお嬢様といえど手は抜かない。そう決めたはずなのにあまりにも無表情故に読みにくい。

 

(そこまでしてお嬢様が隠したいことってなんだ…?)

(どうして新一は譲ってくれないのかしら。そうまでして隠す事があるの?)

「さあお嬢様、札を引いてください」

「ええ、わかってるわ」

 

 引いたカードはジョーカー。まだ試合は続く。

 

「さぁ引きなさい」

「では頂かせていただきます。ついでに此処で終わらせてしまいましょう」

「それはどうかしらね」

 

 引いたカードはまたもジョーカー。そろそろゲームを終わらせたいところだ。しかしお嬢様のポーカーフェイスは崩れない。何故だ、少しでも緩むところが見えれば勝負はつくのに。そう思いながらもカードを混ぜて出すとお嬢様がジョーカーに手をかける。まだ決着はつかなそうだなと感じた瞬間だった。お嬢様は選んだ札を変えて一気に引き抜いた。当然ジョーカーではないため試合は終わりを告げる。

 

「勝者友希那〜♪」

「さすがです友希那さん!」

 

 皆の方では歓声が湧き上がっている。

 何故だ、表情は一切変えてなかったのになんで………いや、これは心理戦じゃないな。お嬢様は己の運に賭けたんだ。

 どちらにしろ負けた僕にはやれることなんてないな。大人しく罰を受けよう。

 

「じゃあ負けた新一には罰ゲームで恥ずかしい過去を語ってもらいま〜す」

「敗者に争う資格なし。わかったよ。僕の過去ね………」

 

 全員が固唾を飲んでいる。正直そこまでたいそうな話はしないからそんな雰囲気作られると困るんだけど………。

 

「僕の恥ずかしい過去、それは………

 

 

 

 

 

 

 トマトが苦手だったことかな」

「「「「「え???」」」」」

「新兄トマト嫌いだったの?」

「まぁね、今は食べられるけど小さい頃はトマトが苦手だったんだよ。絵本とかに出てくるトマトのキャラクター見ると怖かった思い出があるよ」

「なんか意外………」

「ええ、ですが今は食べられるのですよね」

「はい、今はもう完全に克服しました」

「………新一」

「なんでしょうかお嬢様」

 

 皆が意外だどうだのとざわついている中お嬢様はいつもの表情でこっちを見てくる。

 

「………」

「あ、あの、お嬢様?」

「もう少しすごいのを期待していたのだけれど」

「それは………期待に答えられず、申し訳ございません」

「次の罰ゲームで聞かせなさい」

 

 お嬢様はカードを整え始め、皆に再配布していった。え、まだ続けるの?そうも思ったがこれ以上はただ勝てばいいと思ったのでさっき以上に本気になって勝負をした。結果は全てトップ3に収めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから一時間経って各自自室へ戻り就寝することとなった。全員が寝静まったなと思った頃、僕はヴァイオリンを手にしていた。体部分を左肩に置いて弓を構える。そして僕は弓を弦に乗せて弾き始めていた。

 

〈ここからは『音也のエチュード』を聴きながら読むのをお勧めします〉

 

 もう何年弾いていなかったのだろうか。それなのに技術はあまり衰えていなかった。やはり思い出の深い曲だからだろうか。眠っている人に迷惑をかけないように音を小さくはしているがそれでも僕には響いてくる。引き終わった頃、人の気配を感じて部屋の中を見るとりんりんの姿があった。

 

「起こしちゃったかな?」

「ううん………その…部屋を出たら………聞こえてきた……から………」

「そっか、他の人は?」

「皆、寝てるみたい………それより……さっきの…演奏………」

「ああ、ここにあった楽器を使ったんだ。そしてさっきの曲は僕が一番思い入れのある曲」

「一番………?」

 

 りんりんは不思議そうに聞いてくる。そういえばりんりんの前では聞かせたことはなかったっけかな。あの頃は簡単な曲しかできなかったし。

 

「うん、父さんに教えてもらったんだ。父さんの知り合いにもこれを弾ける人がいて、録音でだけど聞かせてもらったんだ。その時に僕も気に入ってね、父さんに聞かせるためにもこの曲弾ける様になりたいって耳コピしたりして頑張ったんだ」

「そう…なんだ……」

 

 頷いて返す。正直あの日以来弾いてこなかったから弾けてることにびっくりだけどね。

 

「新君……その………」

「?何?」

「さっき……弾いてる時………すごい………幻想的だった………」

「そう、だった?」

「うん……部屋が暗かったから………月明かりに照らされて………風でカーテンがふわふわしてて………」

「そ、そっか」

 

 そこまで詳しく言われると恥ずかしいな……。僕はただヴァイオリンを弾いてただけなのに…。チラッと横目でりんりんを見ると真っ直ぐこっちを見てくる。

 

「ど、どうしたのりんりん?」

「新君は…なんで戦うの…‥?」

 

 急な質問に答えられなかった。なぜ戦うか、か。正直なところ答えは出ているが決まってはいないだから正確な答えは言えない。

 

「僕が戦う理由か……あまり考えていなかったな」

「そう………なの?」

「うん、皆を守るってことは当たり前だと思っているからね。けど、もうひとつあったりするんだ」

「それって………何………?」

「あまり言いたくはないかな。けど、りんりんならこの一言でわかるかもしれない」

「………?」

「僕は絶対的な正義の味方ではない(アベンジャー)なのかもしれないってところかな」

「………じゃあ、復讐者………ってこと…?」

「そうかもしれない、けど確実な答えではないと思ってる」

「なんか……よく、わかんないや………」

「大丈夫、僕がここにいる理由は変わらないから」

「……そっか、なら………大丈夫、だよね………」

「うん。明日も早いし、そろそろ寝よっか」

 

 頷いたりんりんを部屋まで送り、僕も自室へと戻った。布団に入った時に考えた。僕が戦う理由は一体どれが本物なのだろうか。いつかは、皆に話さなくてはならないのだろうか。それはいつになるのだろうか。それでも僕の抱く意思は変わらないのだろうか。何もわからないな。そして僕は静かな夜の中に沈んでいった。




「はいもしもしこちら……です。
 はい………あの、うちはなんでも屋じゃないんですけど。
 え、報酬はずむ?わかりました。場所は………了解です。明日向かいますね、それでは。

 海かー、久しぶりだな。少しはしゃぐか!あいつもあそこにいるみたいだし顔出しにはいくか」

この夏、奴が(仕事で)海にやってくる!

「え、遊ばせてくれねぇの?」

気分だなそこは

それでは次回「合宿二日目」お楽しみに!


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第五夏 合宿二日目(昼) 困った時は海へ行こう

お待たせしました。そして報告です。これから約一ヶ月近く投稿できないと思われます。十二月には絶対続きは上がりますのでご安心ください。
それでは(現実の)季節は冬に向かってますが、夏合宿編二日目(昼)どうぞ!


 二日目となり、タイムスケジュール通りにことは進んでいった。皆が練習している最中は僕は基本的に家事を行っていた。個人の部屋以外の掃除をし、余った時間で今日のお昼飯の下拵えやデザートを作るなどしていた。お昼ご飯も時間通りに取り、午後の練習が始まった。洗い物を済ませて冷たい飲み物を届けにいくとお嬢様はソファに寝転がり、他の皆は練習していた。

 

「失礼します、飲み物を届けにきました」

「ありがとうございます」

「えーっと、これは一体どういう状況ですか?」

「実は午前中から湊さんが新曲を作ろうとしているのですが、進展がないと言ったところでしょうか」

 

 なるほど………だからいつもの姿勢になっているのか。でも周りにお菓子がたくさん散りばめられれいる様な気がするんだけど……。

 

「考え事する時は甘いんものが一番だっていうじゃないですかー」

「確かに糖分はあるといいよね」

 

 しかしまぁ一見するとお菓子に包まれた眠り姫みたいだよね。目開いてるけど。この状態が続いているということはインスピレーションが湧いて来てないということだろう。どうにかする方法はないだろうか。そう思い悩んでいるとリサから提案が出される。

 

「じゃあ海行こうよ!」

「海?」

「やったー!海行くー!」

「ちょと今井さん、宇多川さん、遊びに来たわけじゃないんですよ!」

「え〜でも紗夜、フライドポテトも食べられるんだよ?」

「フライドポテト!?………っん、別にフライドポテトなどという添加物に興味はありませんが気分転換というのならいいでしょう」

「りんりん、海行こう海!」

「えっ……海、人……多い………」

 

 皆ほとんど海に行くモードだこれ。まぁ、せっかく海の近くに来たのに行かないのはもったいないよね。かと言って僕も近くに来た事があるだけで海自体に行ったことはないから少し期待したりもしていた。結局その後の話し合いで海に行くことになった。だけど泳ぐわけじゃないのでそのままの服で移動とのこと。全員楽器を置いて各自準備のため自室へ向かう。僕もある程度の準備をするため自室へ戻る。財布を持ち、水を袋に入れて持ち、腕時計をつけて部屋を出る。玄関で待っていると皆が揃ってやってくる。合宿所を出ると各自、緊急時に連絡する様にと告げられて解散する。あこちゃんとりんりん、紗夜さんとリサ、お嬢様と僕に別れる。

 

「お嬢様、どこに向かわれますか?」

「海が見えるところまで行きましょう」

「畏まりました」

 

 日傘をさしてお嬢様に陽を当てない様にする。念のため日焼け止めは塗らせてはいるが万が一のこともある。それに直射日光にやられるなんて事もあり得るからね。しばらく歩き、ブロックがたくさん積まれている所まで来た。お嬢様は僕から傘を取り上げて足を放り出す様に座り込んだ。じっと海を見つめるお嬢様、その海を見続ける僕。そんな沈黙状態が続いた。その静寂を打ち破ったのはお嬢様だった。

 

「新一、聞きたい事があるのだけれど」

「なんでしょうか」

「暑くないの?」

「……お嬢様、お水をどうぞ」

「別に水分は大丈夫よ」

「いえ、夏はこまめな水分補給は必須ですので」

 

 そう、と答えながらお嬢様は差し出した水を口に含む。飲み終えるとまた質問を投げかけてくる。

 

「新一、あなたは暑くないの?」

「これくらいどうということはありません」

「そう。新一、ずっと前から聞きたい事があったの」

「聞きたいこと、ですか?」

「ええ、あなたはいつから音楽をやっていたの?」

「………そうですね、幼少期の頃には初めていました」

「じゃあ、なぜ実力を隠す様な真似をするの?」

「隠しているつもりはございません。現にお嬢様の周りには僕よりも上手い人がいるじゃないですか」

「そうね、でも私が聞いた限りだとベースの腕はあなたはリサよりも上よ」

 

 真剣な表情で言っている。けれどその目はこっちを見ていない。

 

「お戯れを」

「真剣よ。もしあの時、もっと本気でやっていたらリサよりもはるか上にいってたんじゃないかしら」

「それはないですね」

「なぜ言い切れるの?」

「……僕には、あの程度しかできないからですよ」

「…どういう意味?」

「そのままの意味です。あの程度でお嬢様の隣に立つわけにはいかない。それにリサの音の方が綺麗だからこそ、今のRoseliaがあるんじゃないですか?」

「………そうね、今のは忘れてちょうだい」

「承知いたしました」

「お待たせ〜⭐︎」

 

 話が終わると同時に遠くからリサの声が聞こえてきた。手には三つのかき氷を頑張って持っている差し出されたかき氷を受け取るとお嬢様にも渡していた。お金を出すというと奢りだから気にしなくていいとのこと。ありがたく受け取ると嬉しそうな顔をした。リサはお嬢様の隣に座ると浜辺の話を始めた。どうやらポピパにあったらしい。なんでも向こうは旅行に来たのだとか。あと京君にもあったらしい。海の家で働いているとのこと。そして今からりんりんたちがポピパと遊ぶらしい。その話をするとお嬢様を連れて浜辺へ歩き出した。僕もその後ろをついていく。道中あこちゃんから連絡が入り一度宿舎へ戻ってくるらしい。そこで水着に着替えるのだとか。ていうか皆持ってきてたんだ。僕は期待してたけど持ってこなかった………いや、そもそも水着が無いから着る以前の話なんだけどさ。宿舎に戻ってきてから十分後、皆パーカーひとつになって出てくる。おそらく中は水着になっているだろう。連れていくものとしては安心する。少しでも悪い人に絡まれない様にするためには一番の方法だからだ。ただし一人を除いて。

 

「紗夜さんは着替えないのですか?」

「期待していたのなら申し訳ございませんが、生憎私は水着を持ってきていませんので。そもそも遊ぶ予定はありませんでしたし」

「いえ、期待はしていませんが紗夜さんがいいのならいいと思います」

「ちょっと、どういう意味ですか!」

「では皆さんいきましょうか」

 

 後ろを振り向いて行こうとすると後ろから何か怒りのオーラを感じる。なんだろう、まずいこと言ったかな?実際水着に関しては特に何も抱かないしな………。

 

「ねぇ、新一」

「どうしたのリサ?」

「アタシたちの水着見てみたいと思わないの?」

「え、うん、別に大丈夫かな」

 

 言葉を終えた瞬間、目の前のリサが凄い笑顔になる。笑っているのに笑っていない。どうしてだろう、矛盾しているのにそれが一番正しい表現だと思う。こうなってるということはおそらく言葉を間違えたなきっと。

 

「いや、ちょっとだけ見て見てみたいなー」

「ふふん、では見せてあげよう……それっ!」

 

 閉じていたパーカーのチャックを開けるとそこには肌をあらわにしたリサの水着姿があった。それはリサらしく派手というかなんていうか、でも少し控え目のような綺麗な柄がプリントされていた。

 

「どう………かな?」

「うん、似合っていると思う」

「………終わり?」

「うん」

「マジか………」

「じゃあ次はあこの番だね!見るがいい!」

 

 あこちゃんの水着は紫を基調とした水着だった。所々に蝙蝠の絵がプリントされている。似合っていると伝えると嬉しそうに跳ねる。その後、横でりんりんの水着姿が晒されようとしていたがりんりんが必死に抵抗したので見せられることはなかった。

 その騒動から数十分後、僕たちは海岸に来ていた。そして何故か隣に京君がいる。

 

「何故かとは失礼だな」

「実際そうだと思うけど?なんでここに居るの」

「仕事だ仕事、海の家の手伝い頼まれてたんだよ」

「それは知ってるよ」

「今休憩時間なんだよ」

「なるほどね」

 

 休憩時間なら納得いく。目の前では女子たちがビーチバレーをやっている。ポピパvsRoselia、勝つのは一体どっちなのか。その様子を少し離れたところから二人で見ている。試合の状況はRoseliaの方が劣勢だった。何故ならRoseliaにビーチバレー経験者及び運動が得意な人が少ないからだ。体力はあるものの連携もうまく取れていない。何より他の人よりも格段に体力を奪われている人がいる。そう紗夜さんだ。他の人とは違い水着ではない為動きづらく、暑さもプラスされて体力は二倍以上取られる。圧倒的に点差をつけられていく中またシュートが決まる。喜ぶポピパ、真剣な表情をしているRoselia。選手交代をしながらやっているが正直きついだろう。その様子を見ていると紗夜さんが手を上げた。一時休憩にするようだ。紗夜さんは一度海の家に行くと言っていた。状況が状況だったのでついて行こうとすると一人で行くから来なくていいと言われた。大体察した僕は皆のいるところに戻る。すると信じられない光景が広がっていた。

 

「ねぇお姉さんたち俺らと遊ばない?」

「あの、私たち友達と来てるので…」

 

 ナンパだ。橋下さんが海ではよく出現するとは言っていたけど本当だったんだ。被害者はリサとりんりん、市ヶ谷さんと山吹さんだ。珍しいメンツで集まってたのかな。しかしまぁ、なんて程度の低いナンパだ。誰でも言えそうな言葉の使い方、多勢に無勢、正直言って評価は低めだね。それより京君は今何してるんだ?

 

「ふー、やっぱ体動かすのも悪くないな」

「何してたの?」

「ちょっと泳いでた……けど、あんまり面白くはねぇなあれ」

 

 京くんの視線があちらを向いた瞬間、男のうち一人がりんりんの腕を掴もうとしていた。距離は数メートル、すぐに掴めると判断して男の腕を掴みにいく。あと少しでりんりんの腕に指がつくところで腕を上にあげた。

 

「すみません、この娘達に何か御用でしょうか」

「あー?なんだお前」

「この娘たちのお友達ですよ」

「そりゃ悪かったな、今からこの子達、俺らと遊ぶからガキは家に帰んな」

「そうなんですか?私には嫌がっている様にしか見えませんでしたけど」

「新一、助けて……」

 

 後ろからリサの声が聞こえてくる。言われなくてもやる予定だったから問題はない。見てて同じ男の人として呆れたしね。

 

「新一お前、足早すぎだろ」

「なんだガキの友達か?」

「そうだけどあんたらはあれか?鶏軍団か?」

「あぁ!?」

「知らねぇの?鶏ってチキンって言うんだぜ。数がいなきゃ女の子にナンパもできないお前らにはピッタリじゃねぇかw」

「京君、煽りすぎ。正直言って同感だけどね」

「このガキどもが………!!!」

 

 男たちが怒りを顕にしている。沸点まで低かったのか。指を鳴らすと近くにいた男の人たちが集まってくる。ざっと見て十五、予想はしていたけどやっぱりこうなるよね。呆れる僕の隣には笑っている人もいるけど。

 

「お前ら、覚悟はできてんだよなぁ?」

「ええ、勿論。皆、離れてて」

「なぁ、新一。相手がこれだけいるけど大丈夫か?お前水着じゃねぇし」

「そうだね、足元は大丈夫だけど相手よりかは機動力が劣るね。けどまぁハンデにはなるでしょ」

「面白そうだな、じゃあ問題ねぇ。多く倒した方が勝ちな」

「遊びじゃないんだよ。けど参加しとくよ」

「やっちまえお前ら!」

 

 残念なナンパ軍団が僕らを囲んで殴りかかってくる。結局暴力で解決しようとする人ってのは程度がしれるな。まずはやってきた三人を回し蹴りで一度に潰す。どうやら京君も同じことを考えていたらしく、向かい合う形になる。砂浜に足をつけた瞬間お互いの方向に駆け出して蹂躙を開始する。進んだ先にいた一人に鳩尾一発。倒れる姿を見た男がストレートを放ってくる。その手を掴んで背負い投げをする。さらけ出したお腹を一度踏んでおく。別にいじめているわけではない。すぐに起き上がってきては元も子もないからやれるときに無力化しとかないとね。少なくとも、お嬢様の友達であり僕の友達に手を出そうとしたんだ。報いは受けてもらう。足を腹の上に乗せていると男の人がタックルをしてくる。が、それを馬跳びするように避ける。その瞬間だった。空から人が飛んでくる。それを躱すと地に落ちた人は伸びていた。どうやら京君の方から投げ飛ばされたらしい。ダメだこれ、完全に伸びている。安否確認を終えると次が来る。どうやらさっき蹴り飛ばした他人達のようだ。復帰できたことは褒めるけどそろそろ無謀だってことに気づいて欲しいかな。僕は三人の上の方を指さして一言言う。

 

「あっ、UFO!」

「「「えっ、まじ!?」」」

 

 馬鹿なのかな?そんなことに油断するから鶏って言われるんだよ。止まった三人の肩を拳で叩いて地面に伏せさせる。後ろを振り返ると一人座り込んでいる人いたがすでに気を失っていた。京君の方を見ると人が山の様に積み重なっていた。相手にならなかったんだろうなきっと。段数を数えてみると全部で七段しかない。となると一人余ってるはず、そうやって見てみると確かに一人突っ立ってる人がいた。誰かと見てみれば最初にナンパしてた男だった。

 

「さて、お前はどうされたい?」

「えっ、あっ、その………」

「まさか許して欲しいなんて言いませんよね?女の子を怖がらせといて」

「あーあ、つまんねぇの。せめて殴りかかるくらいして欲しいもんだぜ」

「そういうこと言わないの」

 

 その後二人で協議しあった結果京君に任せることになった。全員を起こして一列に並ばせて連れて行った。その集団はまるで処刑台へ向かう死刑囚の様な表情をしていた。

 その軍団を見送った後皆の元へ戻るとポピパの皆がやってくる。

 

「名護先輩ってすごいんですね!見ててなんかキラキラドキドキしてました!」

「そんなことないよ。あとこんなことでキラキラドキドキしないでね、危険なことだから」

「オッちゃんの何倍強いんだろう?」

「いや、ウサギと比べんなよ!」

「(オッちゃん………?)市ヶ谷さん、山吹さん、二人とも怪我ない?」

「はい、大丈夫です」

「私も大丈夫です、ありがとうございます名護先輩」

「ううん、これくらいお安い御用だよ。でも二人とも可愛いんだから気をつけてね」

「かっ、かわっ………!///」

「あ、有彩照れてる〜」

「て、照れてねー!」

 

 身内内でわいわいし始めたので気付かれないようにRoseliaの元へ向かう。

 

「りんりん、リサ、大丈夫?」

「アタシは平気だよー♪」

「私も………もう、大丈夫………」

「ならよかった。二人とも魅力あるんだから気をつけてね」

「そ、そんなこと………///」

「あはは〜流石にそれは照れるなー///さっきはそう言ってなかったのに…

「え?」

「一体何があったんですか?」

 

 後ろから声が聞こえたので振り返ってみると水着姿の紗夜さんの姿があった。所々カットして説明すると渋い顔をした紗夜さんだったが納得してくれたようだ。ついでに水着は持ってきてはいなかったのでは?と聞いたらたまたま入っていたと言われてしまった。本当は持ってきたんだなと思いつつも言葉にはしないでおいた。全員を集めてビーチバレーの続きが始まった。そしてある程度時間が経った後、京君からメッセージが届いたので見てみると鶏軍団が砂浜に顔だけ出した状態で埋められている写真が送られてきた。すぐに追加メッセージが来たので確認すると『モアイ、見たことないだろ?』と送られてきた。

 

 

 

 あれからしばらくしてビーチバレーは終わりを告げた。途中からどう判断するべきか分からなくなってしまったので点数は数えておらず、引き分けにすることになった。

 ポピパは私服に着替え、Roseliaはパーカーを羽織って移動していた。京君が働いている海の家によると京君本人は注文の品を運んでいた。反対側の方からガチャガチャと音が聞こえ、振り返ってみるといつの間にかにポピパがライブの準備を始めていた。ドラムが無いせいか山吹さんはマイクを持って戸山さんの横に立っていた。伴奏が始まると同時に二人は歌い始めた。普段のポピパとは違った雰囲気の曲調、八月になって今までの夏を思い出させる様な曲だった。その曲を聞いたお嬢様はインスピレーションが沸いたと言い、他の皆は今すぐにでも演奏したいと言っている。お嬢様は皆を引き連れて宿舎に戻っていく。宿舎に戻れば皆すぐにシャワーを浴びて練習着に着替えて練習部屋に入っていった。この様子を見るに今日はゆっくり食事とかではなく手軽に食べれる感じのものがいいだろうと考え、料理を始めた。作り終えた料理を運ぶと皆急いで食べ始める。それからはずっと皆の様子を見守っていた。時間はいつの間にか十二時を超え、全員一度寝ることにした。皆が部屋に戻っていくのを確認すると僕は宿舎を出る。宿舎を出ると言ってもコンビニへ買い物に行くだけだ。明日の朝食のパンなどを買いに行く。だけど通りが買った海の前で止まる。夜の海に見惚れ、僕は少しだけ寄り道することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれだけ練習していたのにアタシは眠る事ができなかった。もう夜も遅いというのに不思議と外に出たくなった。皆を起こさない様に静かに歩いて外に出る。外に出るなり飲み物を買おうとコンビニに向かって歩いて行く。

 そしてこの夜、アタシは初めて知ることになった。アタシが初めて恋した、彼の本当の姿を。




       目にしてしまった現実、抗えない現実、運命の上に存在する現実
                一体どれが真実なのか

            次回「合宿二日目(夜) 夜海に映された姿」


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第六夏 合宿二日目(夜) 夜海に映された姿

長らくお待たせしました。
再開します!


 夜の海を眺めている。昼の様な賑やかさが嘘の様な光景だ。目の前にはただ蒼く、月の光に映された波が静かに漂っている。静寂だった。逆にそれ以外は何もないというのにただそれだけに惹かれていた。

 しかしその静寂はすぐに破られる。錠前が鳴り出したのだ。開いてみるとすぐ近くに反応を示す。それを閉じた瞬間、僕は走り出した。その先に待つものを知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アタシは気分転換に外に出ていた。ただそれだけなのに、こんなことになるなんて思いもしなかった。向かったコンビニの前には透明な人がたくさん倒れている。そして今アタシは化け物を目の前にしていた。怯えているせいで普通に動く事ができなかった。近づいてくる化け物にただ怯えることしか出来ず、後退りしていくうちに壁にもたれかかった。化け物から目が離せずそのまま尻餅をつく。もうダメかもしれない。まだ死にたくないのに。まだやりたいことたくさんあるのに。………新一、助けて。

 そう思った瞬間だった。音もなく目の前の化け物が消える。

 

「………え?」

『ア、ア……ダレダ……?』

 

 目の前に影ができた。その姿を見るとそこには宿舎にいるはずの新一の姿があった。

 

「なん…で……?」

『オマエ、ヒルマノ……!』

「中身は誰かは知らないけど、昼間の鶏軍団の一人か。そこら辺に倒れてるのは………」

『ヨワイヤツラハイラナイ。サイショカラコウシテオケバヨカッタ』

「そっか、じゃあ君もすぐに送ってあげるよ。………変身」

 

 新一は訳のわからないことを言ったかと思うと金色の光を出しながら白い鎧みたいなのを着けていた。

 

「その命神に返しなさい」

 

 その言葉を最後に新一は化け物と戦い始めた。その姿を見ているといつもの新一とは思えないような動きをしていた。化け物は苦戦しているのか一切手が出せなくなっていた。ずっと見ていたつもりなのにいつの間にか戦いは終わっていた。新一は白い鎧を消すとこっちにやってくる。

 

「大丈夫………」

「ねぇ、新一…なんだよね?」

 

 アタシに声をかけた新一は驚いた表情を浮かべて固まっていた。当然アタシも驚いている。なんで宿舎にいるはずの新一がここにいてさっきまで戦っていたのか理解が追いつかない。

 

「駄目だよリサ、こんな時間に出歩いたら」

「ゴメン……」

「じゃあ帰ろっか」

「待って!」

 

 帰ろうとする新一をアタシは呼び止めた。

 

「ねえ、さっきのって新一なんだよね?」

「………」

「なんで………戦ってたの?」

「………場所、変えよっか」

 

 そういって新一は宿舎とは別の方向へ歩いて行った。アタシもその後ろを付いていく。正直、これから何を言われるかが怖いような気がする。もしかしたら新一がもう前のように見ることが出来なくなるかもしれない。そんな恐怖を感じながら付いていく。

 そうして付いた場所は昼間に来た海だった。夜の海は綺麗だった。昼間とは正反対で海は暗く、人は誰一人いない。その静けさのせいか神秘性を醸し出しているようにも思えた。連れてきた新一の方を見ると靴と靴下を脱いでいた。

 

「え、何やってんの!?」

「あ、いや…少しだけ海に入ろっかなって。大丈夫だよ、足だけだから」

 

 新一は裾を撒くって海に入っていった。そういえば昼は入っていなかったっけ。…そのことも関係あったりするのかな?そんな新一はさっきまでの雰囲気とは違って少しはしゃいでいるようにも見える。

 

「ねぇ新一」

「何?」

「さっきのことなんだけど」

「……やっぱり話さなきゃ駄目かな?」

 

 さっきまではしゃいでいた新一の顔が一気に暗くなった。

 

「いや、無理して話さなくても良いんだけどさ、知っちゃった側としては気になるっていうか……」

「………良いよ」

「え?」

「話しても良いよ。けどあまりいい話じゃないことだけは覚悟してね」

 

 うんと頷くと新一は手を後ろに組んで話し始めた。

 自分が何故友希那の執事をやっているのか、そこにある条件のこと、アタシが今まで知らなかった事を新一は教えてくれた。けど新一は誤魔化すように笑っていた。

 

「とまあ、こんな感じかな。ごめんね、今まで隠してて」

「ううん……いつも、アタシ達を守ってくれてたんだよね」

「そう……とも言えるかな」

「じゃあ、逆に感謝しなきゃ」

「え……?」

「だって、いつも傷付いてまでアタシ達を守ってくれたんでしょ?なら感謝しかないじゃん」

 

 そう返すと新一は驚いた表情をしていた。数秒後、新一は小さく笑った。

 

「全く、君って人は……」

「それにアタシそんなことで新一を見る目は変わらないよ?」

「そう?なら良かった」

「だってアタシ、新一のこと好きだもん」

「そっか…………え?」

「……………!?」

 

 アタシは自分の言ったことに今さら気付いた。いつの間に本心を告げていたこと。アタシがこの一年間新一に抱いていた感情を気付かないうちに告白していた。

 

「あっ、いや、別にそういうんじゃなくて…!///」

 

 なんで否定してるんだアタシ!よけい誤解されるじゃん!

 

「あぁ、ごめん。僕もRoseliaの仲間(・・・・・・・・・・)として好きだよ」

「………」

「あれ、違った?じゃあ友達として?」

「………」

 

 もしかしてアタシ……嫌われたりしてる?いや、そんなはずないよきっと。……確かめてみよ。

 

「ねぇ新一、もしかして巫山戯てる?」

「いや、巫山戯てないけど…………もしかして」

「……」ゴクリ

「もしかして恋愛対象として……?って、んなわけないよね。僕のことなんか好きになる人は「そうだよ」いるわけ………え?」

 

 ここまで気付かないとかどんだけなの!?こうなったらもうとことん言ってやる!やるとこまでやってやる!

 

「アタシは!新一のことずっと前から好きだったの!」

「えっと…どれくらい前から?」

「大体1年前から!」

「待って、僕を好きになる要素はどこ!?」

「だって……新一、優しいし格好いいしベースやってるし……それにずっと守ってくれてたって知ったらよけい好きになっちゃうじゃん!」

「格好よくないよ……?」

「アタシからすれば格好いいの!」

「ええ……」

「あのね新一!」

「はっ、はい」

 

 新一が返事をして一度深呼吸する。一瞬躊躇ったけどこの勢いに任せることにした。

 

「ずっと前から好きでした!アタシと付き合ってください!」

 

 アタシは海辺にいる新一に向かって全力で叫んだ。当然のことながら新一は愕然としている。しばらく沈黙が続くと新一から返事が返ってきた。けれどそれは出来れば聞きたくない答だった。

 

「……ごめんね、リサ」

「あ………」

 

 ──────終わった。

 アタシの初恋だった。ずっと焦がれ続けてて、最近やっとまわりの話とか聞けて、それで自分にもチャンスがあるんじゃないかと思ってた。けれどそれも呆気なく散っていった。

 

「そう……だよね、アタシなんかじゃダメだよね」

「…!違うリサ、話を聞いてくれ」

「ううん、大丈夫だよ」

 

 これ以上近くにいたらアタシは泣いてしまうかもしれない。そんな顔を見られたくないから後ろを向いて宿舎に走ろうとした瞬間だった。

 

僕はリサのことが嫌いなんじゃない!!

「……え?」

 

 新一の叫び声が聞こえた。思わず反応してしまった。

 

「嫌いだから断ったんじゃない」

「じゃあなんで……」

 

 すると新一は苦しい様な表情を見せる。やはりアタシのことを嫌いだったのだろうと思いかけた瞬間口が開かれる。

 

「正直、何を言ってるかわからないと思う。けど事実だから言わせて貰う。

 僕は────人を好きになる気持ちが解らない」

「………どういうこと?」

「今まで僕は人を好きになった事がないから人を好きになるっていうのが分からないんだ。勿論、本とかで恋愛ものは読んだ事はあるよ?授業とかだけど。けど、そんな曖昧なもので付き合うのは失礼だと思うんだ」

「別に、アタシはそんなこと気に「それにね」う、うん」

 

 遮った新一はさっきとは違い、笑顔を見せてくる。

 

「僕は………バケモノだから」

「バケモノ………?」

「うん、だから僕の側にいちゃダメだなんだよ」

「嘘だよ、だって新一は化け物じゃないもん。普通の人間でしょ!?」

「そうだよ、さっきのやつとは違って見た目も本当の姿も人間だよ。けどね、本質………要は中身が違うんだ」

 

 正直、言っている意味が分からなかった。人間なのに化け物。本質が違う。これっぽっちも理解出来なかった。けれど一つだけ分かることはあった。それは新一が巻き込まない様にアタシ達に配慮しているのだと。

 

「そんな事どうでも良いよ!」

「………え?」

 

 アタシにはそんな事はどうでも良かった。新一がどんな人かなんてどうでも良かったんだと思う。だって好きなのは今目の前にいる新一だから。だからそんな事どうでも良かった。

 

「それでも好きなんだもん!新一は………アタシの事嫌い?」

「!嫌いじゃないよ…」

「じゃあ尚更諦めるわけにいかないじゃん♪」

「どういう…こと?」

「嫌われてる訳じゃないのにフラれるのってなんかヤだしね。それに」

「それに?」

「ようは新一は恋愛感情がわからないんでしょ?」

「そう……だね…」

「じゃあアタシが教えられるように頑張るよ!そしてアタシが新一の一番になる!それなら近くにいても問題ないでしょ?」

「そうだね………別に付き合ってるわけじゃないし、それなら不純ではないね」

「そういう事じゃないんだけど………まぁいっか」

 

 新一は海から上がってくるとアタシの頭に手を乗せて撫でてきた。中からこういう機会がないから慣れないものだけど、意外と悪くないのかもしれない。

 

「あ、でも戦ってる時とかは近くにいちゃダメだよ?危ないから」

「あ、当たり前でしょ〜!?」

「あとこの事は皆には内緒だよ」

「解ってるって」

 

 じゃあ帰ろっかという新一の後ろを追いかけて宿舎に戻った。

 こうしてアタシの初恋は少し変わった形で叶うことになった。ちゃんと叶った訳ではないけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局…あのまま戻ってきてしまったけど考えてしまう。

 やはり解らない。人を「好き」という感情はどこまで頑張ることに繋がるのか。それともリサ自身の元の性格なのだろうか。

 考えても解らない。感情が無いわけじゃない。けど「好き」と言う感情だけは僕にはない。

 やはり、あの時失ってしまった(・・・・・・・)からだろうか?気付く前に失った。それこそが一番の原因なのだろうか。

 出来ることならばあの頃に戻りたい。僕の感情が奪われるあの時(・・・)まで。




京「アイツ………この一ヶ月姿を見せねぇけど何してんだ?」
快「ホントだよな」

皇帝陛下、入場です!パパラパパパー

京・快「「皇帝陛下?」」

私が第一代皇帝osto文明である。

京「お前、生きてたのか!」

ああ、鳴海京か。そうだ、地獄の底から舞い戻ってきたぞ。

快「良かったよ、これで話が再開されるぜ」
京「良いわけねぇだろ、この一ヶ月何してたのか話してもらおうか」

一ヶ月………そんな都合の悪いもの消してしまえ

快「何言ってんだアイツ」
京「無理矢理にでも話させてやる!ついでに俺たちの出番ももう少し増やしてもらおうか!」

話のわからないやつだな。ならば実力を見せてやろう

《ひ》一ヶ月なんて消してしまえ!《ひ》

京・快「「あれ、俺たち何してんだ………?」」

フハハハハハハハ
あ、すみません。一ヶ月はガチでプライベートなので話す事ができないのをお許しください。


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第七夏 合宿三日目(昼) 熱色を得るために

 朝になって目が覚める。考えながらそのまま寝てしまったのか。これが俗にいう寝落ち………中々興味深い。さて、皆が起きる前に朝食の支度を済ませておこう。僕はベッドから降りて着替え始める。今日で合宿も三日目。お嬢様は新曲が出来上がってきてる様子なのでもしかしたら今日の夜には譜面が配られるだろう。ならば、考えるための力として朝ご飯は栄養重視でいこう。着替え終わってキッチンに向かうとガサゴソと音が聞こえてくる。冷蔵庫の音だ。どうやら先客がいるらしい。念のため警戒しながら中を覗くとそこにはリサの姿があった。

 

「あ、新一おはよー!」

「おはよう………何してるの?」

「朝ご飯作ってるんだよ♪いつも新一に任せてられないしね」

 

 正直驚いた。昨日までこんなことは起きてなかったのに今日になってこうなっている。やはり昨日のことが大きく関係しているのだろうか。

 

「リサ、あとは僕がやるから休んでていいよ」

「ううん、アタシもやるよ」

「いやいや、休んでて大丈夫だよ」

 

 休む様に促すとリサの顔が少しだけ膨らんだ。ムスーっとした表情を見る限りどうやらかける言葉を間違えたらしい。

 

「えーっと………じゃあ、手伝って貰えるかな?」

「うん♪」 

 

 笑みを浮かべるリサを横に調理を始める。栄養重視のためにも朝ごはんはシンプルにする。リサには目玉焼きを作ってもらい、僕はサラダを用意する。お米は炊くだけなので味噌汁を作る工程に移行する。しかしリサがそれもやってくれるそうなので好意に甘えることにした。予定の変更をして僕は洗面所に向かう。洗濯カゴに入っているものを全て色物などに分けて三台ある洗濯機を同時に稼働させる。もともと大人数で使う拠点だった故に洗濯機も三台ある。逆にそれが今となっては便利な部分にもなっている。

 洗面所を後にして台所に戻る。任せていたおかげか朝食の準備はあと味噌汁を煮込むこと、米を炊くこととなっていた。コンロに火をかけて米を炊き始める。余った時間で冷蔵庫の中身を確認する。今日の昼食、夕食を今のうちに考えておく。すると、リサが声をかけてきた。

 

「こっち終わったよー」

「ありがとう、お疲れ様」

「どういたしまして♪」

 

 それぞれが火にかける作業が終わるまで雑談をしていると紗夜さんが姿を見せる。そして次々と姿が見えてくるので朝食を並べていく。ちょうどのタイミングで米と味噌汁が出来上がったのでそれぞれ注いでいく。全員が食卓に着き食事を始める。そして今日の打ち合わせが始まる。

 

「お嬢様、本日の予定はいかがなされますか?」

「今日は全員練習よ。午前は全体で練習、午後は私は作曲するから個人練習。おそらく夜には出来上がると思うから皆そのつもりでいて」

 

 全員から返事が聞こえると雑談を交えた食事になる。

 

「今日は味が昨日と違いますね」

「気づいた?今日はアタシと新一で作ったの」

「えー、二人で作ったの⁉︎」

「と言っても手伝っただけなんだけどね」

「そんなことないよ。実際、今洗濯機も回せてるしね。今日は早く干せそうだよ」

 

 そんな雑談をしている中、紗夜さんが唖然としていた。何か嫌いなものでもあったのだろうか。でも以前聴いてた食べれないものリストのものは入ってないはずなんだけど。

 

「名護さん、もしかしてここに来てからの洗濯物って………」

「あ、はい、僕がやってましたが………何か問題がありましたか?」

「問題ありですよ!何で平然としてるんですか⁉︎」

 

 役割的に普通のことではないのかと思っていたのだが紗夜さんの中では違っていたらしい。食事中に大声を出すということはそれだけ大事なことなのだろう。

 

「紗夜どうしたの一体」

「湊さん、彼は男ですよ。その男の人が私たち女子の下着を洗ってるんです」

「それがどうかしたの?」

「どうかしたって…普通下着くらいは同性の人がやるものではないんですか!?」

「けどいつも私の洗濯物は新一がやってるわよ。そうよね新一?」

「その通りですが………もしかしてまずかったのでしょうか。皆さんきちんと洗濯ネットに入れてあったので任せてもらっているものかと………」

 

 そう言うと紗夜さんは頭を抱え込んでしまった。やはり気に障ってしまったのだろう。やはり謝罪するべきだろうか。

 

「紗夜さん、申し訳ございません」

「いえ、私も少し取り乱しすぎました。よく考えれば家事は基本名護さんが行っていますもんね。ですが流石に下着はやりすぎなのではないかと思います」

「はぁ………」

「私たちの下着を干してて何か思うことはありませんでしたか?」

「いいえ、特には………あ、でも」

「なんですか?」

「今日もいい天気だなとは思っていました」

「そこじゃありません!」

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから午前の練習は順調に終わり、午後の練習になっていた。私は今井さんと共に自習練習を行っている。リズム感を整えるため、またお互いの苦手なところを見つける事にも繋がるので良い機会である。今井さんは全体的に見ていて安定感はある。練習は真面目に行い、休憩の時はしっかり休憩を取る。それができる人は滅多にいない。さらにはRoseliaの精神的支柱にもなり得る彼女はとても素晴らしいとも言える。

 

「はい、紗夜」

「ありがとうございます」

 

 彼女から水を受け取り口に含む。こう言った気配りができるのも彼女の特徴の一つだ。

 

「ねぇ紗夜」

「なんでしょうか」

「朝のことなんだけどさ、なんで新一にあんなに突っ掛かってたの?」

「逆に聞きますが今井さんは男の人に自分の下着を触られてもいいのですか?」

 

 質問で返すと彼女は難しそうな顔をする。けれどその答えはすぐに帰ってきた。

 

「確かに他の男の人ならイヤだけど新一ならいいかな」

「なぜですか!?」

「だって新一、変なことしなさそうだし」

「それは…そうですけど………」

「それに変な気を起こすような人じゃないしね〜」

 

 伸びをしながら呑気に答える。ふと思ったことを聞いてみる。

 

「今井さんは、名護さんがどういう人か知ってるんですよね?」

「まー一年ちょっとの付き合いだからね。紗夜よりかは知ってると思うよ?」

「では聞きますが、名護さんはどこかおかしいんですか?」

「………え、どゆこと?」

「朝もそうでしたが名護さんは女性に対してそう言った目で見るとこを見た事がありません。むしろ慣れているような、それともそもそも興味がない様な…そんな感じがするんです」

「確かにそこらへんは不思議だよね。アタシ達にすっごく優しかったりするし、むしろ清廉潔白というか純粋の塊というか………」

「………」

「え、どうしたの?」

「まさか今井さんの口から清廉潔白などという言葉が出てくるとは………」

「ちょ、ちょっと失礼じゃない!?」

 

 しかし今の話を聞いてる限り名護さんは普通の男子高校生とは違うようだ。『湊さんと一緒にくらしているから慣れた』なんてものじゃないだろう。それに私は今でもあの時の顔が気になっている。混乱を楽しむ様なあの時の顔。彼はやっぱり普通の人ではないのだろうか。

 そう思った瞬間だった。ドアからノックの音が聞こえてくる。どうぞと伝えるとおぼんにかき氷を二つ乗せた名護さんが部屋に入ってくる。

 

「二人とも今休憩ですか?」

「ええ、まぁ」

「かき氷を持ってきました。遠慮せずにどうぞ」

「ありがとう新一。って、完成度高くない?」

 

 彼の作ったかき氷はただのかき氷ではなかった。フルーツやバニラアイスを盛り込み丁寧に飾りづけられている。そこら辺の店ではなかなか見られないようなかき氷の形をしていた。

 

「本当は普通のを持ってくる予定だったんだけど時間ができたからね。少しだけ盛り付けようと思ったらこんなのになっちゃった」

「それでもすごいよ。お店じゃ全然見ないもん」

「そう?あ、でも味も確認してみて」

「「いただきます」」

 

 シロップのかかった氷を掬い、口の中に入れると見た目以上に美味しい事がわかった。

 

「どうですか?」

「美味しいです」

「すっごく美味しいよ!」

「それはよかった。水分を取ると同時に小腹も満たせるように水分を含んでる果物を盛り付けてあるから果汁にだけ気をつけてね」

「名護さん、貴方本当に何者ですか?」

「えっと…ただの執事ですが」

「そういうことではありません」

「あ、Roseliaのサポートもやらせて頂いてます」

「そっちでもありません!」

 

 自棄になってかき氷を口の中に放り込んでいくと頭が痛くなる。冷静さを失ってかき氷を一気に食べすぎてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 今日の晩御飯は先日までと違うものにする。料理を、ではなくグレードの話だ。今日が合宿で食べる晩御飯が最後の日だ。明日は午前中練習してからお昼に撤退するので体力を少しでも多くできる様にしといたほうがいいだろう。先程かき氷を運んだ時に食べたいものを聞いていたので各個人に配れるように作っていく。ただし全員が違うものを食べるとそれは個食になってしまうので人数分作っていく。そうすれば皆同じものが食べられるのだから問題はないだろう。材料を用意して調理を始めていった。

 料理ができてくる頃には六時を回っていた。晩御飯の時間は七時にしているので間に合ったようだ。盛り付けもすでに終わっているのであとは並べていくだけだ。六時半をすぎた頃に食卓の机を軽く拭き、食事を並べていくと皆がやってくる。うなだれている様子を見る限りどうやらよっぽど疲れたらしい。だが料理の匂いを嗅いだのか元気を取り戻したかのように食卓にやってくる。

 

「いい匂いがする!」

「見て見てりんりん、凄いよこれ!」

「いつもより……すごい………」

「これも名護さんが作ったんですか?」

「はい、合宿最後の晩餐ですので少しだけ張り切らせていただきました」

「張り切りすぎじゃないかしら」

 

 それから少しばかり話したが全員が落ち着いて食卓に着き、「いただきます」というと皆が目を煌びやかせながら食べ始める。どうやらきちんと作る事ができたらしい。中にはあまり作らないようなものもあったので少し心配だったが心配する必要はなかったらしい。食事が終わる頃、新曲の譜面と思われるものが全員に配られた。なぜか僕の分まである。今日の夜には目を通しておく様にと全員に伝えられた。

 食事が終わり、皆が浴場へ向かった後、僕は食器を洗っていた。今日は普段よりも洗い物の量が多いので苦戦することとなった。けどたまにはこういうのも悪くない。デザートも作ろうかと悩んだが、あれだけ食べればさすがにお腹に入らないだろうからやめておこう。食器を洗い終えて部屋に戻る。お風呂に入る準備を終えると同時に翌序が空いたと伝えられる。その後は昨日までとなんら変わりもない。譜面に軽く目を通し練ることにする。今日は早く寝れるのだと思い、布団に入ろうとするとノックの音が聞こえる。ドアを開けるとそこにはお嬢様の姿があった。




後2回ぐらいで合宿編終わります。


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第八夏 合宿三日目(夜) 星をこの手に

何故急に今日だしたのか。それは今年中に終わらせたかったから。


 どうぞとドアを開けるとそこにはお嬢様の姿があった。

 

「お嬢様、如何なされましたか?」

「少し、話があるのだけど」

「畏まりました、お入り下さい」

「失礼するわ」

 

 これから布団に入ろうとしていただけなので部屋の中は綺麗になっているからすぐに迎える。椅子を用意し、座るように促すとお嬢様はありがとうと言いながら椅子に腰を掛けた。

 

「貴方は座らないのかしら?」

「お気になさらないでください」

「座りなさい」

「…では、失礼します」

 

 座れという圧もかけられたため大人しくベッドの上に座る。お嬢様はため息をつくと話し始めた。

 

「実はお願いがあるの」

「お願い……ですか?」

「ええ、次の新曲の題名を貴方につけて欲しいの」

「そ、そのような大義、僕に任せさせるのですか!?」

「そうよ。歌詞は出来てるのだけどどうしても曲名だけは浮かばないの。だから貴方に任せることにしたわ」

「ですが、僕風情が……」

「貴方は、Roseliaのマネージャーでしょう?」

 

 Roseliaのマネージャー…正直その感覚は今まで無かった。お嬢様の執事、そして皆の手伝いが出来れば良いと思っていた。いつの間にマネージャーという立ち位置を貰っていたかはともかく、もし信頼されているのならそれに応えるべきなのかもしれない。

 

「……本当によろしいのですか?」

「ええ、あまり期待はしてないけれど案だけでも出してちょうだい」

「畏まりましたご期待に応えられるよう全力を尽くします」

「任せたわよ。それじゃ……」

 

 お嬢様が席を立ち、部屋から出ようとした瞬間だった。お嬢様は立ち止まり、こちらをずっと見てくる。あまりに凝視するものなので聞いてみることにする。

 

「如何…なされましたか?」

「新一、それは何?」

 

 お嬢様の指さす方向には布をかけていたヴァイオリンがあった。

 

「あぁこれは……」

「何?」

「…ヴァイオリンです」

 

 今さら隠せるものでもなく大人しく布を外す。

 

「持ってきていたの?」

「…そうですね……」

「貴方…弾けるわよね?」

「はい」

「聞かせて貰えるかしら、貴方の本気で」

 

 興味を示したのかお嬢様はここで弾けと言ってくる。

 

「!今ですか?」

「そうよ」

「……畏まりました。リクエストなどございますか?」

「そうね、貴方が一番弾きやすい曲で良いわ」

「畏まりました……いきます」

 

 ヴァイオリンを肩に載せ、演奏を始める。やる曲は勿論一昨日弾いたエチュードだ。理由は簡単、僕が一番「誰かのため」に弾いた曲だからだ。この曲なら他の曲よりも弾きやすく、そして心を乗せやすい。演奏が終わるとお嬢様に向かって静かに礼をした。

 

「良い演奏だったわ。けど、貴方の本気はこれで終わらないでしょう?」

「……どういう意味でしょうか」

「そのままよ。まだ、実力を隠してる。そんな気がしてならないのよ」

「…先日も言いましたがそのような実力は………」

「いいえ、そんな嘘をつく必要は無いわ。全力を出しなさい」

 

 そろそろ隠すのは無理がある様に思えてきた。僕がいくら隠そうともお嬢様の音楽に対する感覚は研ぎ澄まされている。ため息を吐きながらも大人しく降参することにした。

 

「はぁ………わかりました。この名護新一、本気で弾かせていただきます」

「ええ、全力でやりなさい」

「はっ」

 

 構えた瞬間一度息を吸い込み、一気に弾き始める。この数年間誰にも見せたことのない全力で。僕がヴァイオリンで一人で全ての楽器をカバーした曲、『サクラメイキュウ』を弾く。正直言って弾いている時のことはヴァイオリンに夢中で周りのことなど見えなかった。テンポを整え、一音でも間違えることなど絶対にあってはならない。音に力を、感情を、強弱を。そう自分に言い聞かせて弾いていた。引き終わった頃にやっと周りが見え始めた。お嬢様の方を見て一礼すると声がかかった。

 

「素晴らしかったわ」

「お褒めに預かり光栄です」

「どうして隠していたの?」

「…ヴァイオリンは、バンドに必要なものではありませんから。それに僕はお嬢様達をサポートする方が性に合ってます」

「そう……でも、そのヴァイオリンは気に入ったわ。また今度聞かせなさい」

「仰せのままに」

 

 そう言うとお嬢様は「堅苦しいのは嫌いよ」と言い、ジト目でこちらを見てくる。演奏のこともあってかつい戻ってしまっていた。目を逸らすように海の方を見ると満点の星空が広がっていた。それを見てふと思ったことを口にする。

 

「星…煌めく………この手に………」

「え?」

「……お嬢様、申し訳ございません。少しばかりお時間いただけますか?」

「構わないけど「ありがとうございます、おかけになってお待ちください」どうしたの一体」

 

 お嬢様の近くに椅子を運んで急いで机の場所に戻る。そして机の上にある楽譜を手に取る。歌詞を確認し、先ほど浮かんだ言葉をメモに書き記す。言い換えなどをすぐに作り出し、一番しっくりするものを探す。数分後、ペンを置いてメモに書いてあることを確認する。

 

【熱色スターマイン】

 

 確認を終えてお嬢様にメモを差し出す。渡されたメモを見てお嬢様はこちらに顔を向けてくる。

 

「これは?」

「先ほど言われた、新曲の名前です」

「もう出来たの?」

「はい、先ほどこの星空を見た瞬間歌詞を思い出し、すぐに作業に取り掛かりました」

「じゃあ待てと言ったのは………」

「はい、すぐにでもご確認いただきたく」

「………名前の意味を聞いてもいいかしら」

「は。

【熱色】は歌詞の中に『陽炎』や『灼熱』といった熱に関するものが多く感じられましたのでその色を示すように。

【スターマイン】は先ほど星を見たときに手が届きそうな感覚があり、歌詞にあることを思い出しましたので名付けました」

 

 きちんとその意を伝えると目を見開いた様にこちらを見てくる。任されたとはいえ、この様なもので大丈夫だったのだろうかと今になって心配になってくる。

 

「新一」

「は」

「悪くないわ、明日皆に確認しましょう。これで皆がよしといえばこれにするわ」

「…!ありがとうございます!」

「じゃあ、今日はもう寝るわ。いい演奏、ありがとう」

「お疲れ様です、お嬢様。また明日」

 

 お嬢様が部屋から出ていき、ドアを閉められたあと、僕は布団に寝転がった。最初から話題の内容がすごいことばかりで緊張ばっかりだった。正直、本気で弾けと言われた時は驚いたが認めてもらえたのだろうか。あの反応を見るにおそらく興醒めさせる様なことはなかったと思われる。とりあえず今日は休むべきだろうと布団の中に入り込んで眠るようにする。

────最近のお嬢様はどこか変わった様な気もする。Roseliaができてからいろんな事があった気がするが、その中でもお嬢様の行動は変わってきている様な気がする。今まで僕に対して興味を示さなかったものの、僕がヴァイオリンを弾くといった瞬間興味を示したように話し始めた。おそらくこれは僕自身ではなく僕の実力の方に目がいったと思われる。それでもお嬢様は今までよりも自分以外のことに興味を示し始めたと思う。勝手に語るようだが、いい方向に向かっていってるのではないかと思う。このまま、お嬢様がいい方向に向かうことを心から願いながら僕の意識は落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直想定外だった。新一があんな実力を隠していたなんて。今まで演奏していた時は他の楽器だからかできても普通よりは上手い程度だったのにヴァイオリンを全力でやれと言った瞬間一気に上達したような実力を発揮した。本気やっていなかったのかと思い始めたのは夏休みに入る前に男の人たちと一緒に演奏した時だ。

 でもやっぱり理解できない。何故あれほどの実力を持っておきながら表に出そうとしないのか。音楽を馬鹿にしている………なんてことはあり得ないと思う。少なくとも新一は物事を馬鹿にする様なことはする様な人間ではないと私の感が言っている。じゃあ、何故?

 わからないながらも私は目の前のことに集中しようと決意して就寝に入った。




京「今年ももう少しで終わるな」
新「そうだね」
快「思えばいろんな事がありましたね〜ってなわけでちょっと遊びましょ」
新「え?」
京「なに、軽めの企画だ。題して、『〇〇をなんちゃらにしてみた』〜」
新「ごめん、理解できない」
快「大丈夫すっよただの遊びなんで」
京「というわけで第一弾は『新一のステータスをサーヴァントにしてみた』だ。てなわけで、どん」

真名  名護新一
クラス セイバー
カード BBAAQ
スキル 『ライダーシステム(EXA)』   
    攻撃力&防御力アップ&
    ダメージカット付与(3ターン)
    『???』          
    全体のクリティカル威力&
    攻撃力アップ(3ターン2回)&
    回避(2回)
    『朱雪の執行者』
    Arts性能&宝具威力アップ
宝具 「朱雪、騎士と共にありて」 
    対軍宝具 Arts 
    Arts性能アップ(3ターン)&
    必中付与(1ターン)し、超強力な攻撃をする。
    その後、相手に被ダメージアップ(3ターン)&
    攻撃力ダウン(3ターン)を付与。

快「第二スキルの『???』ってなんすか?」
新「あー、それはネタバレだからになっちゃうから言えないかな」
京「なるほどな。ちなみにストーリー展開によってステータス変更出るかもしれないらしいぜ」
新「へ、へ〜。あ、次回で合宿編最後になります!」


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第九夏 合宿最終日 さらば大海

なんとか今年中に間に合った………てかよく考えれば今年最後は定期更新日の日に出すことになるとは………
はい、皆さんあと一時間で年が明けますね。では最新話どうぞ!←え、明ける下りは…?


 合宿最終日の朝が明けた。今日の予定はお昼の十二時まで練習、それから一時間で昼食と片付けを行い十三時に撤退する。それから電車とバスで四時間で自分たちの最寄り駅まで移動し、解散する。などという予定を確認しながら現在朝食を作っている。尚、昨日に引き続きリサが隣で手伝いをしてくれている。体調を確認すると良好とのことなので安心する。ほぼ一日中練習しているのにこんな朝早くに起きたら体調を崩すのではないかと心配したがそれも無用だったみたいだ。

 都合のいいタイミングを見て洗濯物を回しに行く。昨日は洗濯物の件でいろいろ言われてしまったのは今日は用法を変える。そう、昨日言われてしまった下着だけは僕ではなくリサに任せることにしたのだ。あれからよく考えてみてわかった。彼女らは今思春期の真っ只中だ。その状態で異性に下着を触られるのが嫌だったのだろう。そこまで配慮出来ていなかった自分が情けない。……あれ、でもお嬢様のやつは普段やってるぞ…?まぁ、そこは気にしないでおこう。

とにかく、他の人のものを洗濯するときは本人にきちんと確認しておくべきだと言うことを学んだ。特に思春期の女子には要注意と。(❇︎この人も思春期の男の子です)

 洗濯機にモノを詰め込み、洗濯を始める。もちろん今日は外に干してる時間などないので終わり次第乾燥モードを使う。洗面所から台所に戻るともう調理のほとんどが終わっており、あとは皿に盛るだけだった。流石はリサだ。派手な見た目とは大きく違い生活する力が大きく備わっている。正直言って感心しかない。

 

「新一おかえり〜」

「うん、ありがとうリサ。後で洗濯の方お願いできる?皆の下着なんだけど」

「OK♪しかし、紗夜もそこまで気にしなくていいのにね〜」

「仕方ないよ、お年頃なんだから」

「それもそうだね。朝ごはんどうする?もう少し増やす?」

「いや、これくらいでいいと思う。後のことは僕がやっておくからさっき言ったことお願い」

「りょーかい!じゃあそっちよろしく〜」

 

 リサが洗面所に向かっていく姿を見て僕は盛り付けの作業に入る。サラダに目玉焼き、そしてフィッシュソーセージとミニトマトをきれいに乗せていくと視線を感じる。出入り口の方を見てみるとそこにはりんりんの姿があった。

 

「おはようりんりん」

「おは……よう……」

「もう少しで出来るから待っててね」

「…私も………手伝う………」

「いやいや、ゆっくりしてて。今日も午前中だけだけど練習があるんだから」

「ううん………やってもらってばっかりだから……少しは………手伝い…たい………」

 

 こういう時に押し返しちゃうと駄目なんだっけ。確か前回似た様なことをやってリサに膨れた顔をされた気がする。となると……。

 

「じゃあ……手伝ってもらっても良い………?」

「…!うん………!」

 

 パタパタとこちらにやってくるりんりん。盛り付けの指示を出してお願いする。時間を見ると皆がそろそろ起きなければならない時間だった。既に二人は起きているが他の三人が降りてこないので起こしに行くことにする。階段の方に向かうと紗夜さんと鉢合わせになる。少し前に起きていたが少しだけ自習練習していたらしい。紗夜さんらしいといえば紗夜さんらしい。他の人を起こしに行こうとする旨を伝えると一緒に行くことになる。

 最初の部屋はあこちゃんの部屋だ。紗夜さんがノックをすると眠そうな声で返事が聞こえてドアが開かれる。どうやら今起きたみたいだ。髪がいつもみたいにくるくるしていない。そして何より目が半分しか開いていない事が現状を物語っている。早く支度を済ませるようにと紗夜さんが言うと返事をすると同時にドアは閉められた。

 

「……どうかしましたか?」

「いえ、きちんとしていらっしゃるのだなと」

「当然のことです」

 

 寝起きの人にも厳しくするのだな、なんて言ったら怒られるだろうか。流石に朝からストレスの溜まる様なことはしたくない。それに紗夜さんなりに気を遣ってる(?)のだろうな………。と思っているとお嬢様の部屋の前に着く。そして今、思い出した。お嬢様は部屋までお越しに行った時、二分の一の確率で人には見せられない状況になっている。すくなくとも今のイメージを崩させるわけにはいかない。ドアをノックしようとする紗夜さんを止めに入る。

 

「ちょっと待ってください」

「どうかしたんですか?」

「あの、ちょっとりんりんの方見てきてもらえますか?」

「どうしてですか?先ほど起きて朝食を盛り付けていると言っていたではないですか」

「いえその、紗夜さんに見てきてもらいたいなと」

「言ってることの意味がわかりません」

 

 ドアの方に向き直して紗夜さんはノックをする。こうなればもう祈るしかない。ドアの向こうからは返事が来ない。もう一度ノックしても返事は返ってこない。寝ているのではないかと紗夜さんはドアノブに手をかけて入ろうとする。鍵は掛け忘れていたのかすんなりと部屋に入る事ができた。そしたら案の定だった。普段クールに見せているお嬢様がそのクールさのかけらもないような形で寝ている。寝巻きは少し乱れ、布団はベットから半分落ち、枕を抱くように寝ている。あろう事かお腹が少しばかり見えている。普段は自分で起きてくるからいいもののたまに起きてこない時がある。そうなった時二分の一の確率でこうなっているのだ。通常ならばすぐに布団だけでも直して何事もなかったかの様に起こすのだが今回は違う。完全な目撃者がいる。もう既に手遅れだろう。その姿を見た紗夜さんは震えている。無理もない、想像もしていなかっただろうな…。さて、何が起きるかわからないからりんりんのところに行って状況確認してこよう。

 

「湊さん、どういう格好で寝ているんですか!?」

「ん………紗夜、朝からどうしたの」

「どうしたのじゃありません、もう少し気をつけてください!」

「気をつけるって、何を?」

「服が乱れてます!人に見せられるものじゃないでしょう!?」

「別に問題ないわ、今は紗夜しかいないもの」

「何言ってるんですか、名護さんがいるじゃないですか!」

「いないわよ?」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員が集まって朝食を食べ、午前の練習が始まった。朝食の最中、紗夜さんにずっと睨まれていたが気にしないことにした。因みに朝食は美味しかった。味はもちろんのこと、今日の盛り付けはりんりんが担当したので普段よりも綺麗に盛られており、より美味しく感じた。皆が練習しているこの時間、僕は昼食の準備をする。すぐに片付けに取り掛かるためにも軽めのものがいいだろうということでおにぎりを作っている。だが握っている最中電話が入る。コール元を確認してみると橋本さんだった。

 

『もしもし』

「もしもし、名護です」

『橋本だ。主よ、迎えは何時に行けばいい』

「こちらのことはお気になさらないで下さい。それにお仕事の方があるのではないですか?」

『仕事なら先ほど終わらせてきた』

「お疲れでしょう」

『諜報任務だ、大したことはない』

「…報告の方が『既に終わらせてある』………」

『何時に向かえばいい』

 

 正直にいうと本当に休んで貰いたい。嫌いだからとかではなくシンプルに疲れているはずだからだだけどこの人は本当にお節介が好きらしい。全力で断る時は確かこうするんだっけ。

 

『主?』

「現在、この電話は使われておりません」

『!?!?!?』

「速やかにお切りになるかゆっくり休んでください」

『流石に驚いたぞ主よ』

「駄目ですか………本当に体力とか大丈夫なんですか?」

『わかっていると思うがこの仕事では体力は基本。何より『名護』の人間を甘く見ない方がいい』

「そうですね………ではお願いしてもいいですか?」

『了解した。時間指定は』

「十三時で駅までお願いします」

『了解。では時間通りに』

「はい、失礼します」

 

 やはりあの人はお節介が好きなようだ。今回はお言葉に甘えさせてもらおう。となると橋本さんの分のおにぎりも握っておこう。

 そして時間は経ち、お昼時になった。Roseliaがリビングに集まり、昼食を取る。流石におにぎりだけでは足りないだろうと沢庵なども用意していたがあっという間になくなる。皆昼食を食べ終わると各自部屋に戻って片付けを始める。部屋に戻るついでに各々の洗濯物も回収していってもらう。その際にも紗夜さんにジト目で見られたがすぐにリサがすぐに弁護してくれた。おかげでまた何か言われることはないようだ。皆が部屋に戻り、僕は最後に軽く掃除をしておく。冷蔵庫に入っていたものはこの期間に消費し切る事ができた。むしろそう出来る様に入れられている様な感覚もあったが気にしないでおこう。

 時間が経つにつれて皆集まってくる。全員が集まってきたところで外に出ると初日に見た車が目の前に見えた。勿論、橋本さんも立っている(変装した状態で)。

 

「皆さんお久しぶりで〜す!旅は楽しかったですか〜?」

「楽しかった〜!」

「宇田川さん!」

「いえいえ、それなら良かったです〜!では、駅までお送りするので皆さんぜひお車に!」

「またクーラー付きの車に乗れるの?やったね」

「ちょっと、今井さんまで」

「どうぞどうぞ〜」

 

 用意された車に乗っていく。来る時同様僕は運転席に一番近い席に来るように指示された。全員が乗り込むと車は発進した。しばらくしたところで橋本さんに声をかけられる。

 

「三日ぶりだな、主よ」

「そうですね。あ、これ、ほんの僅かですが」

「これは…!主が作ったのか?」

「ええ、これくらいしか用意できず申し訳ありません」

「いや、寧ろありがたいぐらいだ。……持ち帰って皆に自慢していいか?」

「え、構いませんが………」

「そうさせてもらう」

 

 許可を出した瞬間橋本さんが嬉しそうにする。あまりそう言った表情を出さない人なのでなかなか見る事ができない表情を見れてこちらも嬉しくなってくる。それからは軽く雑談をしているうちに駅に着いた。全員で橋本さんにお礼を言って駅の中に入っていく。ホームに入り、電車に乗って最初の集合場所にした駅に帰って行く。何時間かの電車移動を経て最寄駅まで到着し、各自その場で解散になった。

 この夏は忘れられないものになると思う。初めて皆で遠くまで行き、初めて海で遊んだ。そしてこれからも新しいものを得られるのかもしれない。この楽しみはまだ終わらない。




後日
「お、はしもっちゃん聞いたぜ。坊ちゃんのところ行ったんだろ?」
「ああ伊達と一条か」
「どうだったよ」
「御壮健であられた」
「本当ですか。何よりです」
「それに俺は主からおにぎりを貰った」
「本当ですか!?」
「ああ、しかも手作りだ」
「は!?羨ましすぎるだろそれ!」

 その話は数時間も経たずに名護家敷地内に知れ渡ったという。その報告を受けた新一は電話越しに苦笑いしていた。














 今年もご愛読くださりありがとうございました。次回からは章は変わりませんが新しく話が出ます。来年は順調に進めばNeo-Aspect前行けると思います。それまでに色々と関係が進んだり過去編になったりすると思うのでどうか楽しみにしていてください!
 それでは残りの時間も少ないですが、良いお年を!


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第十夏 夏祭りだどん!……だどん!?

あけましておめでとうございます!今年もよろしお願いします!
というわけで皆さん、今日は皆さん期待のお祭りですよ!←季節感


 合宿から帰ってきて数日が経った。僕と京君がいない間、快斗君一人で戦っていたらしい。本人曰く余裕がありすぎて体が鈍りそうだったとの事だ。そしてそんな今日も僕たちは戦っていた。久しぶりにコンビネーションを使ったが無事に倒す事ができ、戦闘が終了した。

 

「お疲れ様です、イクサ」

「お疲れ様、今日も暑いね」

「たしかになぁ……なんだあれ、夏祭り?」

 

 京君が見た先の掲示板には花火の写真が使われたお祭りのポスターがあった。

 

「そういえば明日あたりあったっけ」

「夏祭りか……しばらく行ってないな」

「あ、じゃあ一緒に行きませんか?俺ハロハピの奴らと一緒に行くんすけど」

「どうしようかな。仕事の方もあるだろうし、流石に他のバンドの集まりに混ざるのは気が引けるし」

「あーそこら辺なら気にしなくて良いっすよ。こころたちなら気にしないと思いますし」

「そう『~♪』?メッセージ?」

『新一、明日暇?皆で夏祭り行かない?』

「誰からっすか?」

「リサだよ」

「デートの誘いか、新一もスミに置けねぇな」

「いやいや、そんなこと……」

 

 そういえば告白(?)されたんだっけ。ならそうなのかもしれない……。といってもこういうのってどういう意味で誘っているのかわからないな。『皆で』と言ってるところを見る限り他の人も誘う感じが出てるけど………。

 

「なんだ、皆でって書いてあるじゃないですか」

「ホントだな、つまらない」

「人の履歴見てつまらないは酷くない?」

「まぁ良いだろ。それとも期待してたのか?」

「そうじゃないけどさ」

「じゃあ良いだろ」

 

 帰宅次第お嬢様に確認を取るとお嬢様も誘われたらしい。最初は断ったのだがリサに押し切られたようだ。お嬢様が出かけるということは基本的に僕もする形になる。だけど表面上は普通の関係の様に見せなきゃ行けないので遊んだりすることはあるだろう。それも踏まえてリサに連絡する。

 

『お嬢様から許可が取れたよ。というかお嬢様も行くから同行だね』

『ハハ、そうだね。時間とかどうしよっか』

 

 それからリサと暫く時間帯の話などをし、まとまったところをリサが報告する形で話し合いは閉めることになった。そのあとはいつもとさして変わらない。夜ご飯を作り、食事を終えて残りの家事を済ませて就寝へと至る。

 次の日になった。今日は全体練習が休みなので自宅にいる。集合は五時半、それまでは家事をする。お嬢様は今宿題に取り掛かっている。あまり強制はしたくないのだがまだ宿題の三分の一も終わってないのでやる様に説得した。その代わり後日一日中練習ができる環境を整えておくことで交渉が成立した。

 やがて、時間は立ちお昼頃になる。家の呼び鈴が鳴らされ、迎えるとベースを持ったリサの姿があった。集合がてら時間まで教えて貰うために早めに来たらしい。せっかくなので迎え入れる。リビングに招き、麦茶を淹れる。時間までの間、家の中でベースを教える。しかし基本的には運指のステップなどを教えるだけで基礎的なことは出来ている。

 いつの間にか時刻は四時半になり、約束の一時間前になった。だがここで事態は急展開した。

 家から追い出されたのだ。どうやら女子には色々と準備があるとのことで僕には先に行ってて良いと言ってくる。時間通りにいれば良いとのことなので外を歩く。といっても時期は夏、当然夕方でも暑いのだ。仕方ない、集合場所に先に行って日陰で待機していよう。

 集合場所の神社の前に着いて三十分経った。その間水分を取ってはいたがやはり暑いのに変わりはなかった。

 

「あれ、新一さんじゃないですか」

「快斗君……あと、ハロハピの皆さんも」

「新一、久しぶりね!」

「お久しぶりです」

 

 真ん中の子から声をかけられる。金髪の子……前に快斗君に写真で見せて貰った子だった。たしかあの人が弦巻家のご令嬢、弦巻こころさんか。随分と元気の良い令嬢だな………。

 

「新一は一人なの?」

「いえ、これから皆がやってくる予定です」

「じゃあRoseliaも来るんですか?」

「えぇ、その予定です」

「因みに今集合何分前ですか?」

「三十分前だね。本当はお嬢様達と来るものだと思ってたんだけどリサが僕は一人で行ってくれって。時間通りについてればそれでいいーなんて言ってたけど」

「レディより先に着いているなんてなんて儚いんだ」

 

 ハロハピには羽丘の生徒である瀬田さんもいた。儚いかどうかはまたわかんないけど……。

 

「あ、でも紗夜ちゃんならさっきみたよ」

「本当ですか?」

「うん。妹さんと一緒にいたよ」

 

 妹…氷川日菜さんだねきっと。しかし、先に来てるということは彼女は時間前に来るつもりだったのだろう。じゃあ先に来るのは……。

 

「名護さん、先に来ていたのですね」

 

 声のする方を見ると予想通り紗夜さんの姿があった。まぁ、まず時間を守るタイプの紗夜さんが遅刻するはずはない。むしろ余裕を持ってくるタイプだと思う。

 

「はい、余裕が出来ましたので」

「湊さんと一緒ではないんですね」

「本当はそのはずだったんですがリサに先に行ってくれと言われまして」

「理解しました。ではここで待ちましょう」

「妹さんといたのではないのですか?」

「えぇ、先程までいましたが今は別行動です」

「なるほど」

 

 それから快斗君達と別れ、紗夜さんと二人きりになる。今になって紗夜さんを見ると浴衣姿だった。シンプルである水色の無地のデザインがよく似合っている。いつもの長い髪も今日は団子のように丸められている。

 

「…なにかついてますか?」

「いえ、浴衣がとても似合っているなと」

「あ、ありがとうございます……」

「どうかしましたか?」

「なんでもありません」

 

 驚いた様な顔をしているから何かあったのかと思ったのだがそうでもなかったらしい。そして二人してだんまりを決めながら待っていると今度はりんりんとあこちゃんがやってきた。二人もまた浴衣姿だった。りんりんは黒を貴重とした桜、あこちゃんは所々リボンの様な柄のついた乙女蝶々という感じだった。二人ともよく似合っていると伝えるとそれぞれ現れ方は別だったが喜んでいるようだった。集合時間まであと十分。まだ時間はあるからと雑談することにした。

 

「あこちゃんはお祭りでしたいこととかあるの?」

「あこはねー、屋台のものいっぱい食べたい!」

「美味しいもの……いっぱいだもんね………」

「りんりんは何するのー?」

「…私は………とりあえず、見てから……決めよう……かな………」

「やっぱりー?新兄は?」

「僕も同じかな。もう十年近くお祭りなんて来てなかったし」

「そうなんですか?」

「ええ、去年はお嬢様が興味を示さなくて…」

「その前は?」

「……いろいろ忙しくて来れませんでしたね」

「それって「お待たせー♪」今井さん?」

 

 声のする方向を見てみるとそこには浴衣姿のお嬢様とリサの姿があった。お嬢様は髪を結んでおり、浴衣の柄は紫色の麻の葉模様だ。一方リサは橙色のふみ文の柄だった。髪はいつも通りハーフアップになっている。

 

「どう?似合ってる?」

「うん、とても。いつもとはまた違う雰囲気が出てるけどいいと思う」

「そう?///ありがとう///」

「お嬢様もとても美しゅうございます」

「ありがとう」

「では皆さん揃いましたし、まわりましょうか」

 

 それぞれが返事をして屋台を回っていく。本当に久しぶりなのだがやはりお祭りの屋台というのは早々変わらないものだった。小さい頃に来たときと変わらない風景。たこ焼きにりんご飴、くじや型抜きもあった。ただあの頃は父親と一緒に型抜きをやってたっけ。簡単なやつができて喜んでたっけかな。

 

「どうしたの、新一」

「え?」

「嬉しそうな顔してたわよ」

「あ、すみません。懐かしいな、と思いまして」

「そう…別に謝ることではないわ。貴方も、少しは楽しみなさい」

「畏まりました」

「友希那さーん!たこ焼き食べませんかー?」

「全く、あこあまりはしゃがないでちょうだい」

 

 呆れた様な顔をしながらもあこちゃんたちの方へ向かっていくお嬢様の姿を見て少し安心する。春の頃よりかは少しは丸くなった様にも感じられる。このまま皆ともっと仲良くなっていってもらいたいものだと考えていると後ろから気配を感じる。警戒しながらも後ろを振り向くとラムネ瓶を持ったリサの姿があった。

 

「ちぇ〜バレちゃったか」

「残念だったね、もう少し気配を消せるといいかも」

「え、うん。あ、これ」

「ラムネ瓶だよね?」

「うん、あげる」

「ありがとう、いくらだった?今お金を…」

「あーいいのいいの。アタシの奢りだから」

「そんな、これくらいちゃんと払うよ」

「大丈夫だって」

「いやいや」

「あの、ここ公共の場なんですが」

 

 きちんと支払おうとする僕vs奢ろうとしてくるリサの前に新たな陣営である紗夜さんが現れた。なお手には同じラムネ瓶を持っている。これ以上続けても仕方ないと考え、大人しく引き下がることにした。それから暫く歩き回っていると射的の屋台を見つける。ただ、その屋台の元は別物だろうが大量の景品が置かれているのを発見する。すぐそばでお金を払っている人の顔を見るとやはり知っている人だった。その様子に気づいたのかリサたちもやってくる。

 

「京何やってんの?」

「あ?なんだ今井か。てかRoseliaも来るんだな。見ての通り射的だよ」

「その景品は?」

「さっき店ひとつ潰してきた」

「まさかそれ全部その店のですか!?」

「ああ、一回七発五百円だったから千五百円で足りたぜ」

 

 つまり単純計算二十一発でその時あった景品を全て取ったのだ。小さいお菓子からぬいぐるみまであったのでどのようにして取ったかは気になるが放っておこう。

 

「お前らもやるか?」

「いえ、私たちは……」

「負けるのが怖いなら構わねぇよ。そしたらこの店のものも俺が取る」

 

 なんか京君の言ってる事のせいでが悪役に見えてきたんだけど。お嬢様にどうするか聞こうとすると聞く前にお嬢様がこちらを見てきた。やばい嫌な予感がする。

 

「新一、射的の経験は?」

「こういった場ではありませんが………」

「いいわ、京。その勝負受けさせてもらうわ」

「お嬢様!?」

「いいぜ。誰が相手だ?」

「新一、行きなさい」

「お嬢様、先程も申しましたがこの様な場では「私の言う事が聞けないの?」…畏まりました」

「うっし、じゃあ遠慮はいらねぇな。ルールは簡単だ。一回分、要は六発だけで勝負だ。さっきの店とは違いここはいろんな銃があるから好きなの使っていいぞ。好きなやつを狙え、最終的に多く取れた方の勝ちだ」

「質問、京君はどの銃を使うの?」

「俺はスタンダードに射的銃だな」

「じゃあ僕もそれでいくよ」

「いいのか?慣れてるやつとかじゃなくて」

「うん、やったことはないけど多分こっちの方がいいと思う」

 

 射的銃は一発一発リロードしなくちゃいけないのでロスタイムも生じるが今回は一発ずつ勝負をやっていくらしい。言われた通りに銃口に弾を詰め、レバーを引いてしゃがみ込んで台に腕と銃を乗せる。銃の先端に目を合わせて目標を決める。一発目、最初なので試し打ちという気持ちも込めてチョコレートの箱菓子にしておこうということでチョコ◯ールに標準を合わせる。立ち会いを紗夜さんにお願いして号令をかけてもらうことにした。

 

「新一、悪いがこの勝負勝たせてもらうぜ」

「多分結果的に負けることになるけど、せっかくだから楽しませてもらうよ」

「二人とも、いきますよ。構えて………スタート!」

 

 スタートの声と同時に引き金を引く。コルク弾が勢いよく飛び出していき、チョコ◯ールの箱を撃ち落とした。店員さんから箱を脇に置かれておめでとうと言われる。感謝を伝えると笑顔で戻っていった。

 

「新兄初めてにしてはうまいよ!」

「まぐれだよきっと。京君の方は…」

 

 気になって見てみると三個お菓子を取っていた。ちょっとドヤ顔なのが少しだけ気に触るな………。

 

「京もすごいね〜」

「伊達に乱獲してきたわけじゃない様ですね………」

「まぁな、この調子で狙い撃つぜ!」

 

 その様子を見ているとお嬢様の方から圧をかけられる。もはや目線だけで圧だった。どうやら負けることは許されないらしい。今更だがどうやって京君は一発で三個も取ったのだろうか。後ろの方々にこっそり聞いてみると一つに当たった後連鎖していく様に当たっっていったらしい。全く、どんな魔法なんだか。二発目をリロードしていく。本当なら大きさで勝りたいところだけど初めての状態でそれは欲張りすぎるだろう。とりあえず最初のうちは小さいものからやっていこう。

 あれから勝負は続き、残り二発になった。僕は小さいお菓子が数個取れ、京君はもはや店の大半を潰していた。なぜそこまで取れたのか不思議でしょうがない。

 

「俺のプロフィールに書いてあっただろ。『空間把握能力が高い』、『射撃は百発百中と言っても過言ではない』って。つまりどこを撃てばどの場所に飛んで行くのか計算可能なんだ。しかも相手は動かない的、当たらないはずねぇだろ?」

「すみません、ここでプロフィールにあった疑問点を解決しないでください」

「なるほど……そういうことなら仕方ないね」

「名護さんも納得しないでください!」

 

 呆れた様に言う紗夜さんに対して苦笑しかできない。そんなことはさておきリロードしていく。次は何を狙おうかと見回すと大きな猫のぬいぐるみが目に入る。次はあれを狙おうかと構えると京君が小声で話しかけてくる。

 

「あれは重心を狙うのではなく少し上を撃つんだ。具体的にいうと鼻のあたりだな」

「ありがとう京君」

「ふっ、遊びに付き合ってくれた礼だ」

 

 京君に言われた通り鼻のあたりに焦点を合わせる。狙いを合わせ、紗夜さんの合図とともに引き金を引くとコルク弾は猫に当たり、撃ち落とす事ができた。しかし偶然を呼んだのか、それとも京君の策略のうちなのか弾かれたコルク弾は近くにあったブレスレットがかかっていた台にあたり前のめりに落ちていった。その場に全員が驚いた顔をしていた。察するに京君も予想していなかったみたいだ。落ちた景品が脇に置かれて試合は再開する。と言ってもさっきから京君は連鎖ばかりしているから勝てることはまずない。適当に狙っておこうと今度は犬のぬいぐるみに焦点を合わせる。最後の合図とともに撃ち出された弾はきちんと仕事を果たし、ぬいぐるみはゲットすることとなった。

 

「ということで俺の勝ちだな」

「おめでとう京君、楽しかったよ」

「ああ、付き合ってくれてありがとな。まだ回るなら楽しんどけよ、俺はここの店員と少し遊んでいくから」

「うん、でもほどほどにしてね」

「おう」

 

 銃を肩に乗せて返事をした京君を後ろに僕たちは道を進んでいく。後ろの会話に気づかないまま。

 

「なぁ、店員さん。景品に細工は良くないと思うんだが」

「え、なんのことだか…」

「とぼけなくていいぞ、さっきので気づいた。それに景品の裏見せてくれればそれで終わるから、な?」

「あの…その………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし初めてにしてはよくできたのではないかと思う。銃の経験はあれどこういったことで使うのは初めてだ。改めて見ていくと四つはお菓子、あとは犬猫のぬいぐるみが一つずつとブレスレットだった。特に必要とも感じられはしないものばかりとれてしまったな………。

 

「新兄どうしたの?」

「うん?そうだ、あこちゃんお菓子いる?」

「いいの?新兄がとったやつ?」

「うん、いいよ。どれが欲しい?」

「やったー!じゃあ、あここれとこれ欲しい!」

「はい、どうぞ」

 

 お菓子をもらって嬉しそうにするあこちゃん。早速りんりんの元へ向かっていった。

 

「新一、良かったの?」

「うん、僕よりかはあこちゃんの方がああ言うの好きかなって。それとリサにはこれ」

「え、さっきのブレスレット?」

「うん。こういうのも僕はつけないから。それにリサがつけた方が似合うよ」

「あ、ありがとう。いや、照れるな〜こういうのって」

 

 さて、あとはお菓子とぬいぐるみだがこれらは…と考えていると紗夜さんがこちらを見ていることに気づく。どうやら見ているのは犬の方だった。

 

「さ、紗夜さん?」

「なんでしょうか」

「これ良かったら入りますか?」

「わ、私は別に、そのようなものなんか……なんか………」

 

 しばらくぬいぐるみを見つめた結果、一応いただいておきますと言って犬のぬいぐるみは紗夜さんの元へといった。残るは猫のぬいぐるみwithお菓子。りんりんにこっそり聞いてみると食べるというのでお菓子も消えていった。残った猫のぬいぐるみ。多分、お嬢様はいらないだろうし部屋に飾っておこうかな。少しは殺風景じゃなくなるだろう。いや待て?確かお嬢様は猫が好きだったような………一応聞いてみるか?

 

「お嬢様」

「何か用かしら?」

「こちらのぬいぐるみ、いかがですか?」

「にゃ、猫のぬいぐるみね。別にいいわ」

「そう…ですか。失礼しました」

 

 詫びの例だけして後ろ側に戻る。やはり余計な気遣いだっただろうか。家に戻ったら部屋に飾っておこう。男の部屋に猫のぬいぐるみもどうかとは思うが、ぬいぐるみが可愛いから多分許されるだろう。あれから数十分経ち、そろそろ花火の時間だと言われる。移動しようかと相談している途中快斗君たちハロハピが現れ、どうせなら皆で見ようというご令嬢の発案によりRoseliaとハロハピで見ることとなった。場所は弦巻家が用意した人気のない場所で見晴らしが良かった。

 花火が始まり、夜空に花が咲く。あまり見ることのないその景色に僕は見惚れていた。青い花火に赤い花火、いろんな色の花火が上がっていく。中盤になるにつれて色々な形の花火が出てきた。面白いなと思っていると快斗君たちの会話が聞こえてくる。

 

「綺麗っすね、花音さん」

「そうだね。あ、あの形なんてクラゲみたいだよ」

「ホントだ。ハハッ、こんな時までクラゲなんて花音さんらしいですね」

「もう〜快斗君ってば〜」

 

 その会話を聞きながら花火を見ていると今度は僕が話しかけられる。

 

「新一さんは花火、どうですか?」

「え」

「ほら、何年も見てないって言ってたじゃないですか」

「うん……綺麗だね。なんでこんなもの忘れてたのか不思議なくらいだよ」

「しばらく花火見てなかったの?」

「ええ、まぁ」

「そっかぁ〜……ずっと、こんな事が続けばいいのにね」

「松原さん?」

「ううん、こっちの話」

「確かにねー怪物とか怖いもんね」

 

 後ろから声がすると思ったらリサが僕の横に座って花火を見ていた。

 

「今井さん、怪物のこと知ってるの?」

「まぁね。あ、あとリサでいいよ」

「う、うん。リ、リサちゃんはなんで知ってるの?」

「アタシも前に被害に遭ったからね。そんときはかっこいい人が助けてくれたけど」

 

 そういってこっちをチラ見してくる。どうやら正体は隠してくれてるけどちょっとだけいじっているみたいだ。僕は苦笑いして目を逸らす。

 

「それってもしかして快斗君のこと?」

「え?」

「そういえば言ってなかったっけ。リサ、そこにいる彼が仮面ライダーエターナルなんだよ」

「そうだったの!?もっと違う感じの人かと思ってた……」

「私も最初に知った時はびっくりしたよ。年下の子がこんなに頑張ってるなんて知らなかったし」

「いやー照れるっすねそんなこと言われると」

「うん、でもやっぱり皆が平和に暮らせる世界がいいよね」

「そうですね」

「こんな時間が続けばいいのにな……」

 

 松原さんが空を見上げながら言葉をこぼす。それには同意しかない。けれど誰もが静まり返ってしまった。その様子を見たのか松原さんはあたふたし始めた。

 

「わ、私何か変なこと言っちゃった?」

「いえいえ、皆一緒なんですよきっと」

「そうっすね。それに大丈夫ですよ花音さん。俺、最強なんで」

「快斗なにそれー。笑えてくるんだけど」

「ちょ、リサ、痛い痛い」

 

 快斗君の決め台詞に笑いを堪えきれなかったリサが僕の肩を叩いてくる。加減ができないのか結構痛い。だが皆笑っているから止めづらくなっていった。

 花火は終盤になり、小さい花火がたくさん咲き誇った後、最後に大きな花火が咲きそれで花火は終わっていった。その後は各自解散とし僕たちは皆と別れて帰路についた。家の前でリサと別れ、玄関を開けて家に入るとお嬢様に声をかけられる。

 

「新一、ちょっといいかしら」

「はい、何用でございましょうか」

「その…貴方が抱えてるものなんだけど………」

「このぬいぐるみですか?」

「ええ、さっきは断ってしまったのだけれど、やはりもらえないかしら?」

「構いません、どうぞ受け取ってください」

 

 僕は持っていた猫のぬいぐるみをお嬢様に渡すと小さな声でありがとうと言われ部屋に戻っていくのをその場で見送った。やはり欲しかったのだろうか。とりあえず夜ご飯の準備をしようと僕はキッチンに向かっていった。なお数分後、お嬢様は浴衣が脱げず、リサを呼ぶことになったのはまた別の話。




京「『〇〇をなんちゃらにしてみた』企画第一弾の続きだ」
新「年末だからってことで一回分空いちゃったもんね」
快「次誰だ?」
京「お前だよ、どん」

真名  大道快斗
クラス アサシン
カード BAQQQ
スキル 『ライダーシステム(エターナル)』   
    攻撃力&防御力アップ付与(3ターン)
    &回避(三回)
    『黒服の暗殺者』          
    クリティカル威力&
    Q性能アップ(3ターン2回)&
    回避(2回)
    『???』
    ガッツ(三回・五ターン)
宝具 「幻想と共に散れ(ファントムブレイク)」 
    対人宝具 Quick
    必中付与(1ターン)し、超強力な攻撃をする。
    その後、相手に混乱(3ターン)付与。
    さらにスター獲得

快「俺強くね?」
新「確かに…これ相手にしたくないな」
京「『???』はネタバレ防止だ。ちなみにこっちもストーリー展開によってステータス変更出るかもしれないらしいぜ」
快「これに関しては記憶が一切ないんだよな……あ、次回もお楽しみに!」


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第十一夏 新一の唯一希望する休み

二つ報告あります。
一つはこれから更新する時間は基本的に23;30になると思います。曜日は何もなければ今まで通り金曜になります。
二つ目はUAが一万を超えました!読んでくださっている皆さんありがとうございます!ほんとに感謝しかありません。とりあえず次はお気に入り数が50を超えられる様に頑張ります!これからも皆さんよろしくお願いします!
それでは本編どうぞ!


 私は今日もcircleへと足を運んでいた。勿論自主練習するためだ。今日はいつもと違い朝から新一の姿はない。前から言われていたが今日は一日休日にするらしい。去年の頃もそうだった。二週間前から休むことは告げているが内容自体は明らかになっていない。私自身、それに関しては気にも留めていなかった。しかしそれはついこの間まではだ。このあいだの男の人たちとの演奏、そしてこのあいだの合宿での演奏を聴いて以来不思議と気になる様になった。

 受付を終わらせて部屋に向かおうとすると紗夜の姿を見かける。向こうもこちらに気づいたのか声をかけてくる。

 

「湊さん」

「あら紗夜、あなたも自主練?」

「ええ、そうですが……名護さんは一緒ではないんですね」

「ええ。新一は今日休みよ」

「体調でも崩されたんですか?そういう方には見えませんが………」

「いいえ、彼は元気だったわ。何をしに行ったのかはわからないけど」

「主人である湊さんも知らないんですか?」

「そうよ。去年も丁度この頃に一度休みを取っていたけど……」

 

 本当に、あの人は一体何をしているのかしら………。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は前日にお嬢様から許可をいただき、一日だけ休みを貰った。季節はお盆前、去年も同じ時期に暇をもらって外出をした。行き先は決まっている。しかし去年と違うのはりんりんが同伴しているということだ。朝家を出て家まで迎えに行き、今バスに乗っている。そしてバスは最終停留所である山の麓に向かって走っていく。

 

「…でも新君……私から……言ったけど……本当に…着いてきて良かったの……?」

「うん、僕自身は反対はしないよ。りんりんが行きたいと思ったんでしょ?」

「うん……」

「ならいいんじゃないかな」

 

 どうやらりんりんは今になって緊張しているみたいだ。当然だよね。数日前にりんりんに誘われた時に用事があるって言って、そしたら一緒に来るって突然言いだしたんだもの。聞いた僕も驚いてるけど、多分言い出しっぺが一番緊張していると思う。会うものは人ではないんだけどね。やがて時間が経っていきバスは最終停留所に停まり、僕たちはバスを降りた。目の前にある大きな階段、これを途中まで登りある踊り場で曲がっていくと目的地に着く。なんだか裏技みたいだけど特にレアアイテム的なのは無い。あるものはただの石だけなんだから。階段を登っている最中、元々体力のないりんりんは音をあげそうになっていた。手を差し伸ばすと掴まり、そのまま階段を登っていくこととなった。踊り場について木々の中へ入っていく。しばらく歩いていくと、見晴らしのいい場所へと辿り着く。その景色を見て感じる。都会にいたらまずこんな景色を見ることは出来ないだろう。見渡す辺りの緑。見える景色の中心には広そうで古そうな屋敷が一つ。それ以外に建物は見えない。

 りんりんはその景色に心を奪われている様だが僕は振り向いて行き止まりに近づいていく。そしてしゃがみこんで持ってきた花を添える。そう、そこにあるのは一つの大きな墓石。といってもここはちゃんとした墓地ではない。僕が名護家にいた頃に作ったたった一つの墓。墓の前で僕が手を合わせているとこちらに気付いたのか声をかけてくる。

 

「新君…このお墓って……」

「うん、父さんと母さん、そして妹の墓だよ」

「やっぱり………」

「うん、前に話したとおり皆あの時死んじゃったからね。ここにあるのはただの墓標だよ」

「……お骨……とかは……?」

「海で散骨したよ。そこに関しては家の仕来りとかなかったから、海に撒いたんだ。だって、その方がお盆の時とかに『戻ってきたら土の中です』、なんて嫌だろうしね」

「そっか………」

 

 俯いているりんりんの前でしゃがみ込み、僕は墓石の上に乗っている土などを軽く払う。

 

「…ほんとはね、お線香とかもあげたいんだけどここ、山だから」

「………」

「さて、りんりんはどうする?」

「…私も手合わせていい?」

「いいよ」

 

 墓の前を譲るとりんりんは手を合わせて静かになる。しばらくしてその場から離れる。この場を離れる前にもう一度きちんと挨拶をしておく。この一年であったこと、今何をしているか、そちらは元気でやっているかなど、全て話してから礼をする。それじゃ、行ってきますと内心で言った後、ここを立ち去ろうとした瞬間だった。

 

「新一君?」

 

 後ろから声をかけられる。その姿を見ると花を持った霧切さんの姿があった。

 

「お久しぶりです。霧切さんいえ、現名護家当主様」

「久しぶりだね。その様子だとその子には話したのかな」

「ええ、彼女は僕が名護の人間だったことを知っています」

「(あの言い方は…まだ知らない事があるのか。まぁその方がいいだろうし黙っておくか)そうか。初めまして、先程申されましたが名護家現当主、霧切仁です。以後お見知り置きを」

「よ、よろしくお願い‥します………」

「時に新一君、少し話があるんだ、寄っていきたまえ」

 

 一瞬断ろうとしたがこの炎天下の中を歩いてきたのだ、少しでもりんりんを涼しい場所に連れて行くべきだろう。何より霧切さんが話がある時の合図を送ってくる。花束を抱えている方の手の真ん中指で襟元を引っ張っている。真ん中指で襟元を引っ張る、それは霧切さんの話がある時の合図だった。普段はそういったことはなかったのだが二人だけで話したい時は使われていた。

 

「わかりました、少しばかりお邪魔させて頂きます。りんりんもそれでいい?」

「うん……いいよ………」

「大丈夫、あの人は信用出来る人だから」

「うん………」

 

 霧切さんが墓前で手を合わせ終わると僕たちを連れていく。森の中をしばらく歩いていくと大きな石階段の前に出る。さっきのと似ているが大きさが違っていた。さらには段ごとに朱い灯籠まで立てられている。その階段を登っていくと、大きな門が見えてくる。霧切さんは門の手をかける部分にカードキーをかけると門は静かに開いていった。その光景に驚いたのかりんりんは動揺を隠せないでいる。門をくぐり抜け、目の前に見える屋敷の中へと足を運んでいく。あの頃から何も変わっていない。僕が出て行ったあの頃からこの屋敷は変わっていなかった。

 

「言い忘れていたね、ようこそ名護家へ」

「今更言われてもですね…」

「そう言わないでくれ。おっと、お嬢さんはこの部屋で構わないかな?」

 

 そう言って指さした部屋は客間だった。どれくらい長くなるか分からないのでそうして貰うようにした。ついでに接客する人は女性でお願いしておいた。なぜと聞かれたがここの男は怖い人ばかりだから彼女を怖がらせたくないと言うと素直に受け入れてくれた。りんりんに一言告げて客間を出て行く。そして僕が連れて行かれたのは当主の部屋、最奥の執務室だった。そして部屋に入るなり座ってくれと言われたので大人しく座る。

 

「久しぶりのこの部屋はどうだい?」

「そうですね、気分はあまりよくないかと」

「まあ、そうだろうね………申し訳ないが早速本題に入ろうか」

「お願いします」

「まずこの間の件だ。君が言っていた通り弦巻家と連絡を取ったのだがこちらの情報を提供することを条件に同盟を結ぶことになった。故にこれから君にも世話になる事があるかもしれない。名護家当主としてその時はよろしく頼む。

次は現在の園崎の所在だ。現時点で園崎は行方不明。しかし、生きていることは断定できる。まずはガイアメモリによる被害が現在続いていること、さらに先日我々の暗殺部隊が赴いたところ既にもぬけの殻ではあったが生活していた痕跡が見られた。なお現在捜査は続行中だ」

「生活していた痕跡というのは?」

「食料のゴミなどはあったがそれ以外に一つ重要なものがあった。このメモリが発見された」

 

 そう言って出されたものは小さいビニール袋だった。中身を見てみるとMasqueradeのメモリが入っている。なるほど、ただの廃墟とかだったらそんなものは落ちているはずないよな。しかし誘っているようで怪しい気もするが………。

 

「向こうが勘付いたのか、それともまだこちらに裏切り者がいるのかは判断はついていない。裏切り者に関しては現在洗い出している最中だ。そして君にお願いしたいのは一つだ。メモリに関する情報を手に入れ次第報告してほしい。例え弦巻家と同じ情報でもそことは別に君の意見が欲しい」

「個人としては構いませんがそれは誰に対しての要望ですか?執事の名護新一ですか?朱雪の執行者の名護新一ですか?それとも仮面ライダーイクサの名護新一ですか?」

「それは………」

「答えによっては僕は協力しかねます」

 

 当然の事だ。僕がここにきたのはあくまで情報収集。協力を強制される言われはない。

 

「私たちが依頼するのは朱雪の執行者である名護新一だ。依頼をこなし、契約を守り通す彼だ」

「……畏まりました。ではその依頼は引き受けましょう」

「ありがとう、後日契約書を送らせてもらう。報酬なども書面に記載しておこう。何かあったら連絡してくれ」

「わかりました。今日は貴重な情報ありがとうございました」

「もう帰るのかい?」

 

 椅子から立ち上がりドアに手を掛けると声をかけられる。

 

「はい。暇を頂いたのは今日だけですので」

「君も、大変だな」

「いえ、今の僕の居場所はあそこですので。それに早く帰らないと彼女のご両親が心配されます」

「まったく、人がいいな君は。ついでに一つ教えておこう。近頃面白い事が起きる、楽しみにしていたまえ」

 

 その言葉を聞いて正直ピンと来なかったが礼だけ言って部屋を後にした。長い廊下を暫く歩いていると一条さんに出くわした。

 

「お久しぶりです新一様」

「お久しぶりです、といっても一ヶ月くらいですけど」

「そうですね」

「今お時間ありますか?この間言っていた相談事を聞きたいと思うのですが」

「覚えていらっしゃったんですか!?……感謝します」

 

 当然だ。恩人であり、一番近くにいた部下のお願いを忘れるはずがない。僕達はその場から離れて庭が見える場所まで移動する。中にあった自販機でアイスコーヒーを買ってきた一条さんは僕に一本くれた。金は払わなくいていいと言われありがたく頂くことにした。

 

「それで相談というのは?」

「はい、実は新一様と再会する少し前からある女の人からアプローチを受けてまして………どうしました?」

 

 まさか色恋沙汰だとは思いもしなかった。少なくともこの人は僕の事情を知っていると思うのだが何故聞いてきたのだろうか。

 

「いえ、気にしないでください」

「はい。それでですね、向こうはこちらに好意を抱いているみたいなのですが私は彼女のことを全く存じ上げておらずでですね」

「なるほど、それでどうするべきなのかということですか」

「はい……何処かの御令嬢のようなのですがそこのあたりも知らず、『歳も歳なんだから早く結婚しちまえよ』って伊達などにも言われてまして………」

 

 つまりは見た目だけしか知らない相手に好意を寄せられ、周りからは結婚してしまえと言われている。だけど一条さんはそんなことでいいのかどうか悩んでいるのだ。しかしまぁ、そんなこと言っておいて伊達さんも独身のはずなんだけどな………。

 

「あ、存じていると思いますが伊達は独り身です」

「そうですよね」

 

 感じ取られたか。まあいいんだけど。でも、一条さんは身長はあるし、顔もきちんと整っているから相当モテるはずなんだけどな。それに色んな事が出来るから大丈夫なはずなのにどうしてかこういうことも真剣に考えてしまうんだよな。真剣に物事を考えるのは性格の問題かもしれないけど。ちなみにだが一条さんは僕の十上、つまりは現在二十七歳だ。

 

「一体どうするべきなのでしょうか」

「そうですね……僕がとやかく言えた問題ではありませんが、とにかく気持ちが大事なんじゃないですか?」

「気持ち………ですか?」

「はい。多分一条さんは相手を知らないからこそ怖いんだと思います。ですから少しだけ、相手を知る機会を作っては如何でしょうか。デートをしろというわけではありません。相手の方と少し話してみるだけでもいいんです。そうすればきっと問題は解決できるはずです」

「なるほど。確かにその通りかもしれません。実践してみようと思います。ありがとうございました」

 

 礼を告げた瞬間一条さんは姿を消した。そういえばあの人行動力の化身みたいなところあったな。すぐに行動するときはサイヤ人みたいな動きしてたっけ。

 とりあえず用事も終えたことなので客間に向かっていく。相変わらずこの屋敷は広い。僕は覚えていたからよかったものの忘れていたら完全に迷っていたぞ。順調に客間に着くとりんりんが正座で待っていた。部屋の中を見渡すと黒服の女の人が立って部屋の隅に待機している。この環境に緊張しているのかりんりんはずっと動けずにいたみたいだ。

 

「りんりんお待たせ、帰ろっか」

「う、うん……!」

「すみません、お世話になりました。この子のこと、ありがとうございました」

「いえ、お気になさらず。それに新一様(マスター)のお連れ様でしたらなおさら丁重に対応させていただきます」

「僕のことはもうその様に呼ぶのはやめてください。僕はもう貴女たちの主人ではありませんので」

「失礼しました。麓までお送りさせていただきます」

「わかりました。じゃあ行こっか」

 

 名護家の屋敷を出て階段を降りていく。夕方になりかけているせいか陽が沈む方を背にしている屋敷側ではもうほとんど暗い。段ごとにある灯籠は火を灯しているかのように淡く光っている。その景色をはじめて見るりんりんはずっと見惚れている。階段の麓まで着くとちょうどのタイミングでバスが来る。その場で黒服の人にお礼を言ってバスに乗る。これから数時間ほどかけて家に帰る。昼食は山道の最中に軽く取っていたが帰りのご飯は用意しておらず大丈夫かと心配したところ大丈夫だと言われたので大人しく座って外の景色を見ることにした。相変わらずここら辺は自然が豊かだと思うとりんりんから声をかけられる。

 

「どんな話……してきたの?」

「うーん……内緒、かな?あまり面白いものでもないし」

「……そっか……でもあまり……無理しないでね………?」

「大丈夫だよ、僕は。これからも皆を守っていかないといけないしね」

「うん………新君って……いろんな人から…慕われてる…よね………」

「そう…みたいだね。あそこで何か聞いた?」

「うん…最初に新君のこと……聞かれて……その後に………」

「そっか。どうだった?他の人から見た僕の感想は」

「かっこいいな‥って思った……」

「そう、なの?」

「うん……皆新君のこと大切にしてて……それでもって新君も…皆を大切にしてるから………」

「当たり前のことをしてるだけなのにね」

「え……?」

「あそこにいた時、部下は絶対大事にしなきゃいけないって思ったんだ。主人になるのなら部下は一人一人大切にしなくちゃいけない、そうじゃないと部下はついてこないって思ってたから」

「なんか……かっこいいね………」

「そんなことないよ。それよりどうだった?あの場所に行ってみて」

 

 これ以上僕の話はしたくないと思い、話題を逸らすとりんりんは俯いてしまった。

 

「ほんとに…もういないんだって…思った……最初は信じられなかったけど、手を合わせてみて……わかった……」

「そっか」

「でも…ほんとに悲しいのは…新君だよね………」

「え?」

「だって………もう二度と……家族に会えないんだよ…?」

「そうだね。でも止まってはいられないんだよ」

「?」

「悲しくてもね、辛くてもね進まなきゃ行けない時はあるんだよ。だから僕は進んだ。進んだ先に何があろうとも自分のやるべきことを果たすために」

「そっか………新君は強いね」

「そんなことはないよ」

「………そういえば、なんだけど………」

「?何か忘れ物?」

「ううん………お兄さんは…どうしたの………?」

「………」

「新…君………?」

「あの人はずっと前に行方不明になったんだ。だからわからない」

「そっか………生きてると……いいね………」

 

 そうだね、と返しつつ窓の外を改めて見直す。やがて入ったトンネルの中で窓に僕の顔がうっすらと映る。その顔を見ると目に光はなく、顔は笑っていなかった。




京「『〇〇をなんちゃらにしてみた』企画第一弾の続きだ」
新「今回で一応今弾は終わりかな?」
快「そうっすね、とりあえずはライダー組をやろう的なあれだったんで」
京「そうだな。そして最後は俺だ、どん」

真名  鳴海 京
クラス アーチャー
カード BBAQQ
スキル 『ライダーシステム(スカル) 』   
    攻撃力&防御力アップ付与(3ターン)
    &ガッツ(一回)
    『北の名探偵』          
    クリティカル威力&
    スター集中率&
    必中付与(3ターン)
    『???』
    弱体無効(三回)付与&
    相手にバスター体制ダウン(1ターン)付与
    
宝具 「石破天驚拳・骸の型(スカル・フィンガー)」 
    対人宝具 Buster
    敵単体に超強力な防御力無視攻撃をする。
    その後、自身に攻撃力アップ(5ターン)
    &毎ターン防御力アップ(3ターン)

京「ほーん」
快「お前の『???』は記憶にあるのか?」
京「あるがこれはパッシブスキルだと思ってたんだよなぁ。やっぱりうまくはいかないか」
新「だとしたらやばくない?ちなみにこちらも前回まで同様らしいですので期待ですね。次回は章は変わりませんがお話が進んでいきます!お楽しみに!」


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第十二夏 思い上がり

今回から第三章の後半戦に入ります!


 俺は強いんだ。

 強いはずなんだ。

 あの苦しかった訓練を終えて、メモリの実験も耐え続けて、仲間の死を超えてここまでやってきた。

 だから俺は強いんだ。

 強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い強い。

 そう思っていたんだ。本当に俺は強いって、そう思っていたんだ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みもお盆を終え、後半も中盤に差し掛かっていた。まだ炎天下が続く中、お嬢様たちは今日も練習を続けていた。

 

「あこ、もうちょっと早く」

「はい!」

「今井さん、もう少し音を強めに出してください」

「オッケー、紗夜♪」

「燐子、貴女はもう少しゆっくりでもいいわ」

「はい…!」

 

 その景色を見ていると携帯で快斗君から呼び出しがかかる。少しだけ抜けると報告して部屋を出る。すると部屋の前に黒服の人がいるのを確認する。警戒すると弦巻家の者だと言うので少しだけ警戒を解く。話を聞くと弦巻家に連れて来る様に言われているので迎えに来たとの事だ。ライブハウスを出て目の前にある黒いリムジンに乗り込む。中には既に京君の姿があり今日は誘拐じゃないんだなと言ってくる。僕がシートベルトをすると車は進んでいく。

 

「しかしまぁ、あいつから呼び出しって一体どういうことなんだろうな」

「さぁね。ただ、考えられることは絞られてくるはずだよ」

「そうだな」

 

 考えられること、それは二つに分けられる。一つはガイアメモリの出口が見つかったのかということ。もう一つは敵の所在が判明したかということ。大きく見ると一つだがどちらも探すのには時間がかかるため難易度は高めであるとみられる。そんな考え事をしていると車は完全に止まった。どうやら目的地に着いたみたいだ。僕たちは車を降りると目に写ってくる大きな建物に意識を奪われる。

 

「なんだこれ…!?」

「多分屋敷だね、流石は日本を統べる弦巻家と言ったところだね」

「その通りっす」

 

 声のする方を見るとそこには快斗君の姿があった。いつもの制服、私服姿とは違い先程まで見てた黒服の姿をしている。こっちにくる様にと指示を受けると僕たちは海斗君の後ろ姿を追いかける。屋敷の中へ入っていき、しばらくしたところで地下へと潜っていく階段を降りていく。やがてついた部屋は暗く、真ん中に白い光を放っている机があった。

 

「ようこそ、ブリーフィングルームへ」

「なるほどな。お前が静かでここに連れてきたのはそれほど真剣な話があるということだな」

「まぁな…って人がいつもうるさいみたいに言うなよ!」

「事実だろ」

「喧嘩はやめて、時間が勿体無いから。快斗君、本題に入ってもらえる?」

「了解です。じゃあ座ってください」

 

 僕らが椅子に座るとテーブルの上に資料と思われるものがそれぞれ配られる。その資料を手に取って確認するとメモリに関する情報だった。

 

「ご覧の通り、ここ最近メモリの使用者が増えています。年齢は様々ですが厄介なのは使用者全員が弱みを握られていることです」

「弱み?」

「資料の六ページに捕まえた使用者が載っているんですが全員犯罪者ではありません。その代わり『何かに劣等感を抱いている』というものが多いみたいです。同僚、家族、ライバル等々対象は様々みたいです」

「なるほどな、人の負の感情を暴力に変えさせてるっていうわけか。最近強さが増してた理由もそこにあると」

「だけど不思議だね、どうやって人の弱みを握っているのか」

「それが不明なんです」

「あ?どういうことだよ」

「使用者はメモリを受け取ったことは覚えてんだけど誰からもらったかは覚えていねぇんだとさ」

 

 その言葉を聞いた瞬間かなり由々しき自体だということに気づく。メモリを使うものは心を見透かされて悪に利用される。さらには正体は隠しているとの事だ。もしこれが拡大していったら今だから抑えられているものも抑えきれなくなってしまう。しかも日に日に力は強くなっていっている。人の悪意は時として多大な力を発揮する。それが束になったらとんでもないこと起きると思われる。

 

「とりあえず今日の情報はこんなところっす。また何かあったら報告します。また、新一さん達も気をつけてください」

「わかった、ありがとう」

「あいよ、そういうお前も呑まれんなよ」

「わかってるっての、俺はすでに強いから問題ないんだけどな」

 

 帰ろうとする僕たちを快斗君はその場で見送ってくれる。来た道を戻って行くと黒服の人たちに出会う。車まで案内するということだ。正直助かった、まだこの屋敷に慣れていない(もとい初めてだ)から案内人がいると安心する。屋敷の外に出るとさっきのリムジンが止まっていた。僕たちが乗り込もうとすると錠前から音が聞こえる。場所はすぐ近くということなのでこのまま車で送ってもらうことにした。すぐに錠前を使って快斗君に連絡するとすでに向かっているとのこと。車を猛スピードで出してもらい、車内で僕らは変身した。現場に着くと僕らはすぐに車を降りて状況確認をした。

 ──悲惨だった。ビルは火事に見舞われ、そこらには瓦礫、ひび割れた地面など破壊され尽くした姿があった。勿論──死人や怪我人もいた。事故に巻き込まれた人が大半だろう。

 避難誘導を黒服の人たちに任せて僕らはすぐに元凶の元へと向かう。すると既に快斗君が戦っていた。敵はマゼンタでトリケラトップスが二足歩行している様だった。

 

『アアアアアアアアアア』

「二人とも遅いっす!早くコイツをどうにかしないと!」

「わかってるってのっ!」

 

 僕がイクサカリバーを銃モードに変形させて、京君はマグナムで銃撃を以って援護射撃をしつつ戦闘に入った。快斗君はナイフで応戦しているが相手の持っている棍棒と相性が悪い。一撃でも当たれば軽症では済まなさそうだ。京君に後方支援をお願いして僕も近距離戦に参加する。イクサカリバーを剣モードに変形させて斬りつける。三人で連携をとりながら交戦しているものの相手の力が上なのかなかなか攻撃が通らない。僕と快斗君の攻撃を棍棒で受け止めるとゼロ距離でエネルギー弾を放ってきた。当然避けることなど出来ず直撃する。爆発で吹き飛ばされた僕たちは受け身を取ることに失敗して地を転がっていく。今までの奴とは段違いで威力が違う。

 

『ジャマダ、アンナヤツキエチマエバオレガ』

 

 突然何を言い出したかと思うと敵は近くのビルをまた壊し始めた。挙げ句の果てにはまだ避難している最中のところまで攻撃を始める。その場を庇いに行くように京君が走って行き、左手を構える。

 

盾骸骨(スカル・フェイス)!」

 

 紫色の骸骨を出して攻撃がビルに当たらないように盾のように構えている。だがその攻撃も向きを変える。敵の目標がいたのか攻撃する先は京君のいる方向の180度反対側に向けられる。当然圭君が間に合うはずもないので僕が走っていく。防ぐ盾はないので斬ってどうにかしようかと考えたが斬ることは出来ずにそのままダメージを受けた。先ほどよりも威力は強く、立っているのが辛いくらいだ。しかし、間に合ったのかその場にいた人々にダメージはなかったみたいだ。

 

「京、新一さん!」

「バカ!気にすんな!」

「こっちは心配しないで、早く討伐を!」

「わかりました!」

 

 ナイフを逆手に持って快斗君は向かっていく。エネルギー弾が連続で放出されていたがそれを避けて走っていく。が、それは間違いだったのかもしれない。敵に後一歩のところで出された弾を避けた瞬間だった。後ろから悲鳴が聞こえてきたのだ。その方向を僕たちは全員見てしまった。少なくとも快斗君は見ない方が良かったのかもしれない。そうすれば敵はすぐに倒せたのかもしれない。悲鳴の方向にいたのは松原花音さんだった。

 

「花音さん!」

「駄目だ快斗君、今背を向けたら!」

「え?」

 

 もしかしたら敵の狙いはこれだったのかもしれない。理性を失っている様に見せかけての攻撃だったのか。それとも偶然だったのか。避けた先には快斗君の大切にしている人がいて、それに気を取られた快斗君は棍棒の一撃を喰らって松原さんの方へと吹き飛ばされる。松原さんの方へと飛んでいったエネルギー弾に当たり、さらにダメージを負っていく。土煙で何も見えなかったが、次第に晴れていくとそこには座っている松原さんと倒れ、変身が解除されている快斗君の姿があった。僕は悲鳴をあげている体に無理を効かせて走って快斗君の元へと向かった。

 

「快斗君、大丈夫!?」

「しっかりして、快斗君!」

「うぅ………っ、花音さん無事ですか!?」

 

 起きて何を言うかと思えば他人の無事の心配だった。当の本人は身体中ボロボロになっているのに自身のことは気にしていない様だった。松原さんの方を見ると土汚れが服についており、腕から少量の血が出ていた。

 

「私は全然大丈夫だよ………っ」

「花音さん……怪我………」

「これくらい大丈夫だよ、気にしないで」

「俺のせいで……怪我して………」

 

 他人が怪我をした姿を見るのは初めてなのか、快斗君はショックを受けている様だった。すぐには戻れそうにはないのでもう少し無理を効かせて戦場に戻る。

 

「アイツ大丈夫か?」

「少しショックが大きいんだと思う。僕達でやろう」

「お前、無理してんだろ。湊達にバレるわけにもいかねぇんだから少し休んどけ」

「そういうわけにもいかないよ。京君一人でやらせるわけには………」

「大丈夫だ。次の一撃で終わらせてやる、確実にな」

「出来るの?」

 

 正直疑問で仕方なかった。ここまで強い敵を一撃で仕留められるのか。僕も制限解除を使えば出来るだろうけど体力の問題上使うのは困難だ。すると京君から笑いが溢れる声が聞こえる。

 

「ふっ、ああ任せとけ。俺の必殺技見せてやるよ」

「必…殺……技………?」

 

 よく見とけと言いながら京君は僕の前に立って背を向けてきた。それから頭上で手を合わせて右脇腹の方へと合わせた手を持っていく。手を離していくと紫色の魂みたいなのが出てきた。

 

「──死してなお燃える拳よ、敵を包み、冥府へと誘へ────

    石破天驚拳・骸の型(スカル・フィンガー)』!!!

 

 紫の魂はやがて骨手の形となって敵に襲いかかる。その手は敵を掴み、包み込むと淡く光出し京君が右手を天に突き上げ、掛け声と同時に広げていた手を握り拳に変えると爆発した。

 

デッド・エンドォ!

 

 爆発した場所からは成人の男性が倒れて出てきた。その人の近くにはメモリが落ちてあり、表面には『TRICERATOPS(トライセトップス)』と書いてあった。TRICERATOPS、確かトリケラトプスのことを指す英語だったと思う。すぐに黒服の人を呼んで手当てする様にお願いすると颯爽と連れて行ってしまった。僕達は変身を解除して快斗君の元へと向かうと快斗君は膝をついて座ったままだった。

 

「終わったよ、大丈夫?」

「それが、快斗君ずっとこのままで」

「おいバカ、さっさと元に戻れ」

「誰が、バカだ………」

 

 いつもなら強く言い返すはずの快斗君が今回に限っては弱々しかった。

 

「帰ろう?ほら、皆多分待ってるから」

「じゃ、俺らもとっとと帰るか。新一、時間大丈夫か?」

「あ、うん、ここら辺だったらギリギリ大丈夫だと思う」

「じゃあせめて顔の汚れだけでも落としてけ。めんどくさいことになるぞ」

「すでに服が少しボロボロだけどね」

「そんくらいは誤魔化せ」

「それじゃあ松原さん、快斗君のことお願いします」

「う、うん!わかった!」

 

 そう言って僕らは彼らの元から離れていった。しばらく二人で歩いていると京君から声をかけられる。

 

「暑いな」

「夏だからね」

「………アイツ、変なことに巻き込まれなければいいんだけどな」

「…例の話?」

「ああ、あの資料に書いてあったことだ」

「確かに心配だけど、僕らが言ったところで今はどうこうできる問題じゃないよ」

「そうだけどよ………お前、意外と冷たいんだな」

「そう?」

「普通ならもっと心配したり焦ったりしてるもんだが、お前は冷静だからな。あれか?放任主義ってやつか?」

「そうじゃないけど……まぁ快斗君なら大丈夫だよ。何があっても絶対戻ってくるだろうし」

「まるでフラグだな」

(だけどまぁ、嫌な予感がするんだよな………根拠はねぇけど、探偵としての感というかなんていうか……少し調べてみるか)

 

 道の途中で僕たちは別れてライブハウスに戻っていく。そこには丁度練習を終えたお嬢様たちが出てきていた。合流しようと声をかけると皆して驚いた様な声をあげる。

 

「ど、どうしたんですか名護さん!?」

「大丈夫なの!?」

「い、いやぁ、実は派手に転んでしまいまして………」

「全く、子供じゃないんですからもう少ししっかりして下さい」

「紗夜さんとリサ姉…なんか新兄のお母さんみたい………」

「「違うよ(います)!?」」

 

 さっき汚れは取っておいたはずなのだがまだ土汚れがついていたのか二人が服を払ってくれている。正直このコントを見てて笑うのを堪えていたが少しだけ声が漏れてしまい、リサから強い一撃を喰らった。皆の前では言わなかったが怪我しているところに入ったのでとても痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後俺は花音さんとともに行くことなく一人で歩いていた。今日の戦いが頭の中でずっと繰り返されている。もしあの時俺が止まらないで進んでいたらどうなっていたのか。それよりもっと早く動けていたら事態は悪化せずに済んだのではないのか。

 ────もし花音さんの方へ飛んでいった弾に俺が当たっていなければ今頃花音さんは………

 そんなことを考えるたびに頭が痛くなる。そんなこと考えたくないと俺は逃げていく。そしていつの間にか俺は路地裏にいた。壁に寄りかかって頭を抱える。

 気づいてしまった。俺は強くなんかない。だからああなった。ああなってしまった。俺は強いはずなのに、そう思い込んでいたからこんなことになってしまった。

 ──嫌だ。嫌だ嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ────

 弱い自分は嫌だ。嫌いだ、大嫌いだ。もっと力が欲しい。力があればあんなことにはならなくて済む。もう誰も傷つけなくて済む。誰も絶望しなくて済む。力だ。力があれば。

 

「なぁ君、何を泣いているんだい?」

 

 ふと顔を上げるとそこには白い服の男がいた。革ジャンみたいな白い服を着た男。ソイツは笑顔のまま話しかけてくる。

 

「どうしてこんなところで泣いているんだい?」

「俺……弱いから………何も……守れなくて………」

 

 気づけば俺はその言葉を吐いていた。嗚咽が混じりながらも、なきぐしゃりながらみっともない顔をして話していた。

 

「そうか、君は力が欲しいんだね?」

「チカラ?」

「ああ、一緒に来ないか?君なら絶対的な力を手にできる」

「絶対的な………チカラ………」

 

 その言葉に惹かれた俺はその男の手を取って立ち上がった。コイツが何者なのかわからない。コイツの言っているものはなんなのかわからない。けど俺は力という言葉にだけ意識を奪われて歩いていった。その道は希望の道だと思い込んでいた。それが何も見えない真っ暗な道だとも知らずに。




新「しかし、サーヴァントにしてみた企画の宝具って使えたんだ…」
京「遊びだと思ってたんだけどな………」

いや、君が仕事ついでにやってた結果ああいう技使えるようになってたでしょ

京「まぁな、てか今日アイツここにいないんだな」

さぁ、それは後のお楽しみってことで………

新「嫌な予感しかしないね。次回は『第十三夏 骸の怒り』です」
京「今更だけど最後に夏ってつけるのめんどくね?」

それは言わないで!


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第十三夏 骸の怒り

 あの一件が過ぎて以降、僕たちは快斗君の姿を見なくなった。あの後、松原さんは快斗君と別行動になったため僕らと同じく見ていないとのことだ。弦巻家の黒服の人に聞いてみると家にも帰っていないらしい。一応捜査はしているらしいがどうにも見つからないらしい。京君の方も探してみてはいる状態らしいけどこちらも見つからないとのことだ。どうして急に姿を消してしまったのか、僕たちは知っているかもしれない。もしかしたら、あの時松原さんを危ない目に合わせて顔を合わせづらくて逃げているのか、それとももっと強くなるために修行しているのか、などと話してはいたのだがそしたら見つからないとおかしくないかという話になった。

 今日は夕飯の買い物をしながら快斗君を探している。もしかしたらお腹をすかしているのではないだろうかと考えつつもどうしたのかが気になる。そのことについて真剣に考えていると真横から声をかけられた。

 

「ねぇ新一、今日の夜ご飯は何?」

「今日はね……ってなんでここにいるの?」

「買い出しに行ってきて欲しいって頼まれたからさ〜」

 

 その正体はリサだった。僕の事情を知っている数少ない人のうちの一人。手には買い物かごをぶら下げており中に牛蒡やにんじんが入っていた。

 

「あ、あのさ…聞きたいことがあるんだけど」

「何?僕嫌いな食べ物はないよ?」

「へー今はないんだ………ってそうじゃなくてさ、この間ボロボロで帰ってきたじゃん?何かあったの?」

「それは………」

 

 正直混乱を招くわけにもいかなかったのでいうのをためらった。だから僕は快斗君のことは隠しながら話すことにした。

 

「この間の敵は強かったんだよ、皆ヘトヘトでさ」

「また戦ってたの!?」

「うん、本当はすぐに戻るはずだったんだけど出て来ちゃったからね」

「だからあんなになってたんだ……無理しちゃだめだよ?」

「無理はしてないよ、あれが僕の役目だし。皆を守れるならそれが一番だしね」

 

 でも、と顔を顰めるリサに心配してくれてありがとうとだけ伝える。僕はその場から離れて食材を籠に詰めて会計を済ませる。あまり心配させたくないなと思いながら食材をエコバックに詰めていくと錠前が鳴り出す。奴らが出たんだ。急いで残りのものを詰め込んで店を出る。持ってきていたイクサリオンに乗って向かう。向かった先にはマスカレードの大群がいた。しかし数は前に見た時もはるかに多かった。同時に着いたのか京君が向かい側に見える。

 

「京君行くよ!」

『レ・デ・ィ』

「わかってる!蹴散らすぞ!」

『スカル』

「「変身」」

『フィ・ス・ト・オ・ン』

『スカル』

 

 変身した僕たちは自分たちの力でマスカレードの軍団を蹂躙していった。だが、何がどうなっているのか倒しても一向に数が減らない状態が続いている。今はセーブモードで対応しているがそれでもスペックは上回っているはず。故に倒すのは簡単なのだが数だけは変わらない。…試されているのか?誰かが実験として大量のマスカレードを送り出したとか?

 そんなことを考えながら戦っていると遠くから悲鳴が聞こえてくる。その方向を見るとマスカレードに捕まった女の子の姿があった。その正体は弦巻家の御令嬢、弦巻こころだった。なぜこんなところに彼女がいる!?そもそも黒服の人たちはどうしたと視野を広げると近くに黒服の人たちが倒れているのが見つかる。どうやら数に圧倒されたらしい。急いで向かおうとするにも大量の兵隊の所為で救出に迎えない。京君の方を見ても数が押し寄せているのが見える。これじゃ助けに行けない、と考えた瞬間だった。

 突然、赤い閃光が目の前を通っていく。閃光が通り過ぎると目の前は兵隊達は燃え上がり、塵となって消えていった。辺り一帯のマスカレードは全滅し、御令嬢も助けられた。ただ、令嬢を抱えている人の正体は意外な人物だった。

 

「───大丈夫か?こころ」

「快斗!来てくれたのね!」

「ああ、遅くなった。すまねぇ」

「助けてくれたんだもの、そんなこといいわ!それより最近見なかったけどどこ行ってたの?」

「ああ、ちょっとな」

「快斗君!よかった、心配したよ」

 

 快斗君はこころさんを下ろすと僕たちの方をじっと見てくる。改めてみるといつもの快斗君の姿ではなかった。本人自体の姿は見れなかったが、エターナルの姿が違っていた。いつもは所々が蒼い炎だったのに今日は赤い炎だった。

 

「久しぶりです、新一さん、京」

「おお、お前なんか変わったな」

「まぁな」

「とにかく無事でよかった」

「ご迷惑おかけしました。でも、もう心配しなくていいですよ。ついでに言えばもう戦わなくていいっすよ」

「?どういうことだ…?」

 

 疑問を投げかけた京君にいつの間にか快斗君のナイフが向けられていた。殺意も敵意もなくただただ向けられているようには感じられなかった。

 

「だから、もうアンタらは戦わなくていい(・・・・・・・)んだよ」

「言ってることの意味が理解できねぇな」

「俺は強くなった。だから俺一人で十分だ。以上」

「快斗君、一人じゃ危ないこともあるし皆で戦おうよ」

「まだ、わかんねぇのか。はっきり言ってやる」

 

 そういうと快斗君はこころさんを後ろに下がらせて笑うように言い放った。

 

「お前ら、邪魔」

「………は?」

 

 困惑を隠せなかった。邪魔?何故だ?快斗君はそんなこと言う子じゃないはず。それが数日見ない間にどうしてそんなこと言うようになったんだ?わからない。それでも今度ははっきり伝わってくる。彼は完全にこちらに敵意を向けている。隠そうとしない敵意を。何かに気づいたのか京君はその静寂を切り出した。

 

「お前、何に手を出した?」

「何に?言っている意味がわかんねぇんだけど」

「はっ、嘘もそこら辺にしとけ。少なくともそれはお前の力(・・・・)じゃねえ」

「………は?」

「京君どういうこと?」

「こいつの今の強さはこいつのじゃなくて借りモンだってことだ」

「違う、これは俺が手に入れた()だ!」

 

 癇に障ったのか快斗君はナイフを横に一振りしてからこっちを攻撃し始めた。彼の攻撃は以前よりも遥かに強く、動きも速くなっていた。攻撃を躱そうにもそれを超えるようなスピードで攻撃がやってくる。剣で捌こうとしてもフェイントによって攻撃をまともに喰らってしまう。それは京君も同じだった。しばらくその状態が続き、分かったことがある。連撃を喰らった僕たちは息を切らしているのに彼は一切息を切らすような様子を見せない。それどころか攻撃が入るたびにスピードが速くなっていっている。結果として僕たちは地に這いつくばるような状態になっていた。

 

「これが…今の快斗君の強さ……?」

「テメェ、それは弱いのと変わんねぇぞ!」

「………あ?」

「借りモンでよくそこまで威張れたな、お前はもう弱者も同然だ!」

「黙れ…」

 

 挑発の言葉と受け取ったのか、快斗君の動きは止まる。京君はそれでも火に油を注ぐように言葉をかけていく。

 

「まだ、前のお前の方が強かったぜ?」

「黙れ!黙れ!!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!!!」

 

 激情した快斗君は京君に向かって攻撃を再開した。数々のメモリの使い分け、更には元々持っていたであろう戦闘技術を駆使して攻撃を続けていた。止めようと入ると強化された力によって弾き飛ばされる。前に模擬戦闘した時よりも比べ物にならないくらいのその力はもはや快斗君その人ではないようだった。

 

「ハハハハハ!弱い奴はもう戦わなくていいんだよ!そうやって出しゃばってると死んじまうぜ!」

 

 僕たちを圧倒した快斗君は笑いあげている。ゲラゲラと笑っている姿に苛立ちを覚えたのか、それとも別の理由なのか、京君は立ち上がるとゆらゆらと快斗君の方に歩いて行った。

 

「テメェ、そこまで言うなら加減しなくていいよな?」

「何を言って」

 

 京君は質問の答えを聞かずに快斗君を思いっきり殴り飛ばす。

 

「そこまで言われたらもういいよな?ここで潰す…いや、殺してやるよ」

「強くなった俺に叶うはずが」

「黙れ」

 

 黙れという言葉と同時にスカルマグナムを乱射して快斗君の動きを封じた。そして距離を縮めると一方的に殴り始める。快斗君の方をさっきまでの力はどこへ行ったのか防戦一方になっていた。

 

「そんなッ、馬鹿な、俺は強く………」

「鉄砕拳!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 京君の技が強かったのか快斗君は宙に浮き上がり、そこに京君が追い討ちをかける様に銃撃をする。起き上がる快斗君に対してスカルメモリをスロットに挿し込んでボタンを三回押す。

 

『マキシマムドライブ』

『マキシマムドライブ』

『マキシマムドライブ』

 

 音が鳴り終えると京君の右手は大きく紫に燃え上がり、快斗君の胸ぐらを掴んで構えていた。

 

「今度はちゃんと殺してやるよ。じゃあな、確実にあの世に送ってやる」

「俺は…俺はッ……!!」

「京君待って!」

「おぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 掴んでいた手を離し、怒声をあげながら殴ろうとする京君とよろける快斗君の間に入り込んで止めに入った。あの拳なら快斗君は確実に死ぬ。そんな事をしたら京君は人殺しになってしまう。

 

「どけ、新一!コイツは俺が殺す!」

「そんな事させない!快斗君、今のうちに逃げて、早く!」

「………………ッ!」

 

 姿が消えるメモリを使ったのか快斗君の姿はその場から消えた。それを確認すると僕たちは変身を解除した。この前みたいに胸ぐらを掴まれるかと思いきや京君はその場に座り込んだ。そして地に拳を叩きつけて叫ぶように声を上げ始める。

 

「クソが……クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!あの馬鹿野郎ぉ!!!!」

「………」

「新一、なんで止めた。あのバカはもう殺さねぇとダメだ」

「そんな事はないよ、まだ方法はある。それにあのままにしたら京君が人殺しになってしまう」

「そうか、そんな事気にしていたのか。それなら気にしなくていい。俺は元からあるヤツを殺す(・・・・・)事も目当てにしてんだからな」

「ヤツを、殺す………?」

「そういえばまだ話してないか、俺がライダーになった過去を。いいぜ、話してやる」

 

 彼は立ち上がると僕に真正面から話しかけてくる。それも、今までにないほどの真剣な眼差しで。

 

「俺にはな、昔、二人の友人がいたんだ。名前は三枝 千尋(さえぐさ ちひろ)皇 獅郎(すめらぎ しろう)、あの頃はみんなでバカやって遊んでたさ、メモリ(これ)が見つかるまではな。千尋は機械に強かった。どんな情報システムにもハッキングできるくらいにな。だからこれを調べに調べた結果どれだけのものかというのが分かった。その時だ、俺たちに亀裂が入ったのは。俺たちはそれをどうにか人の役に立てないかと考えた。けど獅郎は違った。アイツだけは俺たちとは違って自分の力に使うことだけを考えていた。

 それから1週間後だ。俺が千尋に会いに行った時、アイツは千尋を殺してた。しかもあの時俺たちが見つけたメモリの二つのうち一つである『Nazca(ナスカ)』のメモリを使っていたんだ。見しらぬドライバーをつけて変身し、殺したらしい。奴が悠長に話してくれたよ。そしてアイツは逃亡、未だに見つからない。

 その後だった。知らねぇ女が俺にドライバーを渡して、俺に探偵になれと言ってきた。俺は自慢の頭の回転の速さを利用して探偵になった。事件を解決するたびにアイツを探している。あのクソ野郎を。アイツだけは誰が何と言おうと俺が殺す。そのために今探偵を続けてこっちもやってる。

 これでわかったろ?俺はもう二度と力で狂う奴を見たくない。だから本当に手遅れになる前に俺はあいつを殺す」

 

 京君の過去を知った。彼のライダーへの道のりは僕と似ているモノだった。

 人を殺す────それがどれだけのことなのか彼は相当わかっているはずだ。それでも殺すと言っているというとはその意思は簡単には変えられないだろう。

 

「わかってると思うけど聞くよ。──本当に殺す気?」

「ああ、殺してやる。だから新一、邪魔はすんなよ」

 

 そう言った京君は僕に背を向けてこの場を去っていった。僕はあたりを見回してみる。辺りには破壊された地面や瓦礫があるだけだった。

 ──力の間違った使い方。それがどのような結果をもたらすのか改めてわかった気がする。

 でもやはり疑問点が残る。快斗君のような子がそんな簡単に引っかかるのだろうか。そもそも何があってあんな風になってしまったのか。どうしてもそこだけが引っかかる。とりあえず僕も帰ろうと道を引き返そうとすると声をかけられる。

 

「ねぇ新一、さっきのはなんだったの?」

「こころ…様………」

「こころでいいわ!それで何をしていたの?」

「ちょっと………鍛えていただけですよ」

「あら、そうなの?」

「ええ、ですから気にしないでください。黒服の人も来ましたし、僕はここで失礼します」

 

 御令嬢に一礼してその場を後にする。振り返って歩き始めた瞬間気付く。拳を受けた腕の部分から痛みが走ってきた。……やはりあの強さはおかしい。どうにかしないと彼が危ない………。




 新一と別れた後俺は裏路地に入っていた。
 また、失敗した。あの時の失敗はもうしないと思ってたのに。もう誰も狂わせないって決めたのに。
 壁に拳を打ちつけると俺の手から血が垂れてくる。だが俺はそれを気に留めていなかった。近くにあった気配に気付き、そっちの方に意識は向かっていた。その方向に見えたのは白い革ジャンの一部だった。すぐに追いかけるとその姿はなかった。けど俺は怒りに震えた。
 まさか、アイツがいるのか?あの……あのクソ野郎が………!


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第十四夏 酔い

「ハァ……ハァ………」

 

 二人から距離をとった俺は廃墟についてから変身を解除した。

 なんでだよ、なんで負けたんだよ!せっかく強くなったのに。弱い自分なんか消えたと思ったのに!倒せたのは雑魚どもだけ、アイツらは倒せなかった。それどころか京に…あんなにボコされて、強くなったなんて言えんのかよ!わけわかんねぇよ………どうして俺はこんなに弱いんだよ………。

 

「おや、帰ってきたのかい」

「アンタは………」

「強くなったのにどうしてこんなにボロボロなんだい?」

「それは…………」

 

 しゃがみ込んで聞いてくる奴に対してはっきり言い返せないでいる。言い返せないどころか言いたくない。それ自体が負けを認めているみたいで嫌だった。負けを認めたら弱いことを認めてしまう。

 

「無理して答えなくていいよ。仕方ないさ、アイツは味方にさえ隠し事をしているような奴なんだから」

「隠し事……というかアンタ、アイツのことを知っているのか?」

「知っているも何も、友達だよ♪」

 

 立ち上がって高らかに笑っている。その顔はとても楽しそうだった。まるで思い出話をする子供のように。

 

「友達?」

「ああ、ちょっと色々あって離れ離れになっちゃったんだけど、今でも俺は彼を友達だと思ってるよ」

「……というかアンタ、見てたのか?」

「まぁね、そんなことよりさ、話を聞かせてよ。見ているだけじゃわからなかったからさ、教えてくれないかな?彼になんて言われたんだい?」

「………前の方が強かったって。他人の力なんか使ってるうちは弱いって」

 

 椅子に座り込んで話すと俺は顔を抑える。怒りでこのままグシャグシャにしてしまいそうだ。話しているうちにまた怒りが溜まってくる。でもそれを消えさせるように声をかけてくる。

 

「そんなことないよ。他人の力でも使っているのが自分であればそれは君の強さだよ」

「………ほんとか?」

「ホントホント。だから君は強い!弱いなんてアイツの嘘だよ。死にたくないから本気出しただけだよ」

「でも……俺はそれに負けた………本気のアイツに負けた………」

「大丈夫だよ、君の本気はそのくらいじゃないだろう?」

「………」

「もっと力を出せるようにしてあげるよ」

 

 そう言って奴は手を差し伸べてくる。その言葉がとても心地よく感じて、俺はその先に希望があると信じて手を取った。そして廃墟の奥にあるカプセルの中に入っていく。カプセルの中でマスクを着けるとすぐに意識は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──弱者でも強くなる事はできる────

 世の中そう思っている奴が多いみたいだけどそんなことないんだよなぁ。弱者は強くなれないんだよ。なんでかって?結局最後には強者に負けるからだよ。どんなに強くなっても終わりには強者からの圧倒的な力に負ける。だからどれだけ頑張っても弱者は最後に絶望する、力こそがモノを言わす。それは武力だけじゃない。権力も同じだ。ずる賢い政治家は強者になる。真面目にコツコツ頑張ってきたヤツらは最後にそいつらに裏切られる。そして絶望させられる。

 でもそんな世界間違ってる。だって一番強いのは暴力なんだから。武力だって結局は暴力が元になってんだから、結局は暴力なんだよ。

 その暴力はどうやって決められるかって?そんなの簡単だ。才能だ。力の才能さえあれば勝つことは容易い。弱者にはそれがない。だからこうやって(・・・・・)力を求めにやってくる。面白いよな。そうやって自滅の道に走ってる奴の三文劇を見るのは絶望している時の顔だけは素晴らしいんだから。

 

「ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 カプセルに手をついて俺は笑う。あまりにも惨めで笑えてくる。弱者(こういう奴が)求めてくる強さというのはただの幻想。そしてそれは時に見えない牙と化す。俺はカプセル浮かんでいる顏を見ながら言う。

 だから俺は名付けた。弱者が求める力は

 

「麻薬って言うんだよ」

 

 と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に着いてポストの確認をする。すると物件のチラシのほかに一つの封筒が入っていた。その封筒を見て誰からなのか確信する。名護家の紋章、つまりは霧切さんからだろう。名護の者としての依頼故にきちんとしたのだろう。家の中に入り、冷蔵庫に食材をしまってからすぐに部屋へと向かう。その封筒を開けると中には契約書が入っていた。そして契約書以外にもう一枚手紙が入っていた。契約書はこの間の話に関することだった。しかし、手紙の方には違う言葉が書いてあった。

 

『プレゼントは受け取って貰えたかな?』

 

 その言葉を読んだ瞬間、怒りで手が震えた。まさか霧切さんが仕組んだことなのか?そう思いすぐにスマホを手に取ってある番号を打ち込む。耳に当てるとコーツ音が聞こえてくる。電話をかけた相手は三コール以内に出て声をかけてきた。

 

『もしもし霧切だ』

「名護新一です」

『新一君か、契約書に不備でも』

「単刀直入に聞かせてください。快斗君に手を出したのは貴方方ですか?」

『新一君、何を』

「返答によっては今すぐそちらに向かい、名護家を壊します」

『待ちたまえ、何をいっているんだ君は!?第一、その快斗君とやらは誰なんだ!?』

「その様子……知らないというのですか?」

『知っているも何も、理解が追いついていない。状況を説明してくれ』

 

 僕は今の状況を霧切さんに伝えた。全て伝え終わると霧切さんは電話越しに重いため息をついてくる。

 

『なるほどな、つまり仲間の一人が今操られていると』

「はい、そして今大きな可能性が貴方方に向けられました」

『根拠を聞かせてもらっていいかね?』

「先程契約書が届き、同封されていた手紙に『プレゼントは受け取ってもらえたかな?』と書かれておりまさかと思い掛けた次第です」

『ハァ……完全にタイミングを間違えたな。それとこれとは無関係だ』

「本当ですか?」

『ああ、真実だとも』

「では嘘だと判明した場合、覚悟しておいてください」

『わかった。ただこちらでもそれなりに調べてみよう。分かり次第連絡する』

「ご協力には感謝します」

 

 お礼を告げて電話を切るとため息をついた。冷静じゃなかったな。よく考えればそんなことしない集団だということはすぐわかるはずなのに、動揺してしまった。全く、もう少し冷静になってくれ。ドアを開けて部屋を出るとお嬢様の姿があった。

 

「お嬢様……」

「どうしたの新一、いつものあなたらしくないわよ。それに顔の傷………」

 

 お嬢様が僕の顔に触れてくる。いつもはそんなことしないのにどうしてだろうか。触られたところに少し痛みが走る。でも大したことはなかった。

 

「鎌鼬ですかね」

「かまいたち?」

「はい、突発的な風の現象によってできる切り傷です」

「そうなの?難しい事は分からないけど、気をつけなさい」

「失礼しました」

 

 顏を上げると既にお嬢様はこちらに背を向けて自室へと戻っていた。気を取り直して僕は階段を下っていく。台所に着き、料理を始める。あまり考えていなかったが冷蔵庫の中身を見て今日の夜ご飯はミネストローネにする事に決めた。

 夜ご飯を終え、片付けをした後に僕はシャワーを浴用とする。服を脱ごうとすると体から悲鳴が聞こえる。多分、今日の戦闘でかなりのダメージを負ったからだ。切り傷はさっき言われた所にしかなかったが体には痣などが沢山あった。受けたところが全部服で隠れてて助かった。もしバレたりしたら余計な心配をかけさせるところだった。しかしお嬢様が僕のことを心配するのだろうか。でもさっきは心配していたし、やはり考えたりはするのだろうか………やめだ。そんなわからないことで悩んでいる暇があったら早めに休憩に入ろう。まだ仕事は残ってるしそれを片付けてからになるだろうけど。そして、シャワーを浴び終えて残りの仕事を終わらせてから就寝に入った。

 翌日、いつも通り練習が始まると僕は部屋を出てサークルのエントランスに向かう。やることもないのでソファに座っているとまりなさんから声をかけられる。

 

「やっほー、新一君」

「まりなさんこんにちは」

「今日も練習?」

「僕が、ではないですけどね」

 

 確かに、などと言いながらしばらく雑談をした。すると荷物運びの仕事が残っているとかでそっちに戻るというので手伝うかどうか聞くとお願いされた。暇も同然だったので手伝いに行くと、大量の段ボールがあった。何が入っているか聞くと近頃やるライブの広告やエントリー用紙などが入っているとのことだった。数部もらっていいか聞くと終わった後に持ってっていいとのことなのでそれのお礼も兼ねて手伝いを始める。二人でやったおかげかすぐにダンボールは片付き、仕事はなんなく終えた。約束通り広告を貰ってエントランスに戻るとお嬢様から『終わったので来て欲しい』と連絡が入る。部屋に戻ると片付けが始まっており、それの手伝いに呼ばれたらしい。すぐに行動に移り、片付けを手伝う。しかしほぼ終わっているため掃除しかやることはなかった。やがて掃除も終わり、受付なども終わらせると簡易ミーティングに入った。

 

「次回の練習は明後日、その時にまた合わせるわよ。各自明後日までに復習しておくこと」

「わかりました」

「りょーかい♪」

「わかりました!」

「……はい…!」

「他に連絡ある人はいるかしら」

「すみません、僕からいいですか?」

「いいわよ」

 

 僕は先ほどもらった広告を出して皆に配り、話し始める。

 

「先程、まりなさんから頂いたのですが近頃ライブがあるそうです。参加は自由で状況によりますが一バンド三曲が目安だそうです。皆さんいかがですか?」

「おぉー、なんかマネージャーっぽい!」

「あこ、これ出たいです!新曲をお客さんに聞いてもらいたいですし!」

「確かに一度試してみたいですね」

「私も……やってみたいです………」

「決まりね。そのことも次回やりましょう。期限はまだなんでしょう?」

「はい、締め切りは今月末と書いてありますし、大丈夫だと思います」

 

 さっきの事もまとめて今日は各自解散となった。リサは今日はこれからバイトとのことで帰り道はお嬢様と二人だった。お嬢様の熱中症予防として日傘を挿して歩いていると声をかけられる。最近はなんだか会話する数が増えたような気もする。

 

「あなたは普段何をしているの?」

「普段…ですか?」

「ええ。練習の邪魔にならないようにしてくれるのは助かっているわ。でも最近気になっているのよ」

「ああ、Roseliaの練習の時間は少しばかり休憩させていただいてます」

「…あなたでも休みは必要なのね」

「………僕も人間ですよ?」

 

 お嬢様は僕をなんだと思っているのだろうか?これでも人間やってるつもりなんだけど、それっぽさがなかったのだろうか。

 

「冗談よ、今日のお昼ご飯は何かしら」

「今日は冷麦にございます」

「そう、帰ったらすぐ食べれるの?」

「可能ですが、どうかなさいましたか?」

「なんでもないわ」

 

 お腹でも空いているのだろうか。夏は食欲が減りやすいってよく聞くけど、疲れているのなら誰でも食欲は湧くか。松原さんに出会う。声をかけようとすると壁から出てきた腕に強引に引っ張られるように吸い込まれていった。お嬢様と目を合わせて後を追うようにすると変な男の人たちに絡まれていた。松原さんは目に涙を浮かべて顏を横に振っていた。その姿を見て留に行こうとするとお嬢様が肩に手を置いてくる。

 

「何をしようとしているの?」

「彼女を助けようとしています」

「………好きにしなさい」

「ありがとうございます」

 

 渋々といった感じだったが、許可が降りたので路地裏に入ろうとするとさっきとは違う光景を目に入れる。絡んでいた男の人が壁にぶつけられていた。背に片腕を回され、その腕は今にも折られそうなくらいに曲げられていた。やっているのは勿論松原さんではない。さっきまでいなかったはずの快斗君だった。

 

「快斗君、そこまでにしてあげなよ」

「新一さん、コイツは花音さんに手を出そうとした。タダで返すわけにはいかない」

「わ、私は大丈夫だから、ね?」

「………」

 

 快斗君が腕を離すと男の人は逃げるように走っていった。その姿を見送ると快斗君はこちらを睨んでいた。

 

「か、快斗君、無事だったんだね」

「花音さん、お久しぶりです」

「どこ行ってたの?心配してたんだよ?」

「それは言えないんですけど………それより、安心してください」

「ふぇ?」

「俺、もう誰も傷つけないくらい強くなりましたから」

「「!!!」」

 

 その言葉を聞いた瞬間わかった。彼はまた変わってしまった。いや、正確には変えられたのだろう。何者かわからない者に。

 

「やだなぁ、そんなに見ないでくださいよ。嫉妬ですか?」

「………」

「まぁ強い俺になら仕方ないっすよね。とりあえず今日はここでさよならです………もう二度と、戦場で会わないことを祈ってますよ」

 

 そう言った彼は瞬きする間に消えていた。両サイドは壁に囲まれたこの場所から移動して消えるなんていうのはほぼ不可能。なら何かを使ったのだろう。考えても仕方ないので松原さんを連れて路地裏を出ることにした。路地裏を出るとお嬢様がその場で待ってくれていた。

 

「さっき背の高い男の人が走って行ったのだけれど」

「その人は気にしなくて大丈夫ですよ。それよりお嬢様はお怪我とかありませんか?」

「問題ないわ。その人は?」

「ちょっと巻き込まれちゃったみたいで。どうやら約束があるみたいなのでその場所まで送っていこうと思います」

「それが良いかもしれないわね」

「あの、私のことは大丈夫ですよぉ……」

 

 そういうわけにもいかないだろう、とお嬢様に先に謝罪してから送り届けることにした。けれど送っている最中、快斗君のことを聞かれることがあったが何一つキチンと答えることは出来なかった。

 



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第十五夏 面影

今回は新一君メインじゃありません!


 帽子をかぶっている少年は深夜に夜の街を徘徊していた。暗い中、薄い灯りで照らされている路地裏を見つけると入っていく。しばらく歩いているとニット帽を被った姿勢の悪い男を見つける。

 

「教えろ、ここら辺で白い革ジャンを着た奴を見なかったか」

「あ?てかお前何モ、グブッ」

 

 彼は喧嘩腰になった男に対して蹴りを繰り出し、胸部を足で押さえつけていた。帽子を被ったその顔から覗かせる目は氷のように冷たい目をしている。

 

「見たかと聞いているんだ。テメェの御託なんかどうでもいい」

「し、しらねぇよ!てか、そんなもんケーサツに聞けばいいだろ!?」

「アイツらに捕まんねぇから探してんだろうが。わかれ」

 

 冷めている声を出した後、男を離すと同時に踏みつけていた。踏んでいる足を外すと力強く男を蹴り、その場を去ろうとしていた。すると音を聞きつけたのか人が集まってきていた。といってもこの時間。こんな薄暗い路地裏にいるのは真っ当な人間ではない。皆が皆、凶器のようなものを持っている。タバコの匂い、酒の瓶、ポケットからはみ出ている白い粉の入った小さな袋。やはりまともな連中じゃないと確信を得た彼はため息を吐いてから頬を歪ませる。

 

「いいぜ、遊んでやる。逃げるなよ?」

 

 それからはあっという間だった。彼を囲んでいた集団は山を作るように重なっている。彼は落とした帽子を拾い上げ、土汚れを払い落としてから被ると路地裏を出る。見上げた空は星が見えない曇り空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。俺は体を起こすと自分が住んでいるアパートだということ認識する。

 そういえば昨日遅くまで調べ物してたんだったか。最後は馬鹿どもに絡まれたけど、たまには体動かさないとな。

 布団から出て朝自宅を始める。時刻は八時半。朝食は……作るのがめんどくさいのでいつものとこ行くか。こんなことあいつの前で言ったら怒られそうだけど。全ての朝自宅を済ませて俺は家を出る。この時間に出れば開店くらいに入れるか。バイクを使って俺は羽沢珈琲店に向かう。やっぱり夏はバイクの風だよな、体限定だが。バイクによる疾走で風が涼しく感じる。ただし顔はヘルメットで隠れているの正直蒸れる。しばらくして俺は店を前にする。店の中に入っていくとエアコンの涼しさを感じる。バイクの風もいいが室内はエアコンに限るな。

 

「いらっしゃいませー。あ、鳴海先輩、おはようございます」

「おう、おはよう。いつもの席空いてるか?」

「はい、注文は…アイスコーヒーでいいですか?」

「流石だ。あと今日の新聞ってあったりするか?」

「はい、少々お待ちください」

 

 羽沢に礼を言っていつも使わせてもらっている席に着く。少しするとすぐにアイスコーヒーと新聞がやってきた。今日は人が少ないのか俺以外客はいない。しかしやることは変わらないので冷コーを飲みながら朝食を決める。

 

「羽沢、サンドイッチのタマゴとハムサラダ頼む」

「はい!」

 

 あいつも若いのによく頑張ってるよな。夏休みだってのに親の手伝いとか偉すぎると思う。さて、そんなことよりも調べ物しますか。調べるものは決まっている。メモリに関することだ。新聞に載っていないだろうと思われるが関連することは乗っている。奇怪な事件は意外と目盛りが関わっていたりすることが多い。そういったことを手当たり次第探して自分で調べにいく。外れることもあるが大体は当たっている。しかし今日は載っていなかった。ハズレかと思いつつ四コマ漫画を読みながら冷コーを啜る。すると人影が差し込んでくる。

 

「お待たせしました。サンドイッチのタマゴとハムサラダのセットです」

「ああ……って何笑ってんだ?」

「ふふ、鳴海先輩でも四コマ読むんだなって」

「あ?ああ…まぁな、期待していたものがなかったら読むわ」

「何か調べ物ですか?」

「まぁな。歴史調査大発見的な」

 

 巻き込むわけにもいかないので適当にホラを吹いておく。

 

「意外と歴史に興味があるんですね」

「意外とってお前なぁ………準備しとけ、客が来るぞ」

「え?」

 

 羽沢が生半可な返事をした瞬間っ扉からからんからんと音が聞こえてくる。声からして女の人が一人といったところか。

 

「こんにちは〜」

「ほ、本当に来ましたねっ」

「まぁな。ほらお客様だぞ」

「は、はい!」

 

 いらっしゃいませなどと言いながら羽沢は駆け足で向かっていった。今日はどうするかと考え始めた瞬間、目の前の椅子が引かれる音がする。すると目の前には水色の髪をした女がいた。どっかで見たことがあると考えていたら向こうから声がかかった。

 

「あの………相席してもいいですか?」

「構わないが…お前アイツと一緒にいた奴か」

「はっ、はい。松原花音っていいます」

「お、おう。そういえばアイツにあったか?俺はしばらく会ってないんだけどよ」

 

 嘘だがあえて黙っておくことにする。姿も雰囲気も変わっていたなんて知ったらどんな反応するかわからないからな。

 

「あ、昨日会いました……」

「ホントか!」

「はい…でもなんだか快斗君じゃないような感じがしてぇ………」

 

 気づいたのか。そんなに分かりやすいくらいになっていたのかそれとも隠そうとしないのか。気になるところではあるな。

 

「他は?なんか気づいたことはあるか?」

「…なんか……怖いな、って」

「怖い?」

「はい、よくわからないけど怖かったんです。あの頃の快斗君はもういないような気がして」

 

 もういない、か。確かにその通りかもしれない。何よりそれはこれから本物になる。あの頃どころかこれからもいなくなるが。彼女の目には不安がこもっているように見える。恐怖を感じているようにも見える。

 

「そうか。もう一つ聞いていいか?」

「は、はい」

「そん時、他に男がいなかったか?白い革ジャンを着た奴とか」

「白い革ジャンはいませんでしたけどぉ…名護さんならいましたよ」

 

 ならその現場を新一も見ているということか。ならアイツにも話を聞いてみるか。よし、やることは決まった。ここを出るかと席を立とうとする俺に松原は話しかけてくる。

 

「あ、あのっ」

「なんだ?」

「名前…聞いてなかったなって」

「そういえば言ってなかったな。俺の名は鳴海 京だ」

「え、あの名探偵のですか!?」

「知っている奴がいてよかったわ。知人はそんなニュース知らないっていうからな」

「そうなんだ………」

「話は終わりか?なら俺はもう出るが」

「あっ、じゃあもう一ついいですか………?」

 

 出ようとした俺をまた引き止めてくる。正直俺はもうコイツに用事はないんだが大人しく席に着く。

 

「…いいぞ」

「あの、快斗君を助けてくれませんか?」

「………は?」

「よくわからないけど、多分困っているんだと思います。あの時も私にずっと謝ってきてて………本当は優しい子なんです。強くて、かっこよくて、ギター弾いてる時とか皆で楽しんでる時が一番いい顏をしてて………」

 

 謝ってきて、と聞いた瞬間俺は席を立ってレジに向かう。その後のことはあまり耳に入ってきていない。というよりかは入れないようにしていた。

 

「ま、待ってください!」

「アイツなら助けない」

「な、なんでですか!?」

「そこまで教える義理はない」

「でも探偵さん、なんですよね?」

「それがどうした。探偵だからって人を助けなきゃいけないなんて言わないよな?」

「ッ!」

 

 威圧をかけると黙り込んでしまった。松原には申し訳ないけど俺はアイツを殺すと決めた。だから止めさせはしない。なんと言われようと俺はアイツを殺す。羽沢が困った顏をしているが気にしないでくれと伝えるとすぐに会計をやってくれた。金払いも済んだので外に出ようとすると腕を掴まれる。松原だ。この後に及んで何をするのか問おうとすると口が開かれた。

 

「じゃ、じゃあ私が依頼します!」

「はぁ!?」

「探偵さんに、『快斗君を助けて』って依頼します!」

 

 何を言っているんだコイツは。って、言いたいところだけど機転がきいてやがる。確かに探偵として依頼されたら断りづらくなるだろうな。だがしかし。

 

「探偵は絶対依頼を受けなければならないという事はない」

「そ、そんなぁ!」

「じゃあな」

 

 無理矢理剥がすように腕を離して店を出ていく。チッ、なんだか胸糞悪りぃ。なんでアイツのことでこんなことになんなきゃ行けねぇんだよ。

 バイクに乗って街を走り回る。その時だった。錠前が鳴り響く。一度路肩に止めてから錠前を開く。場所は意外と近くは示す反応は多い。数的にマスカレードだと思われたがまた別の場所にファンガイアの反応が見られた。錠前の通信機能を使って新一に連絡する。お互いに専門とする敵の方向に向かうことにしてバイクを走らせた。

 向かった先にはやはり大量のマスカレードが群がっていた。返信しようとすると足元にナイフが刺さる。そのナイフから視線を戻すと既にマスカレードは消えていた。代わりに例のバカが目の前に立っている。

 

戦場(ここ)に来るなっていったよな?」

「そんな記憶ねぇな。それより今日こそ殺してやるよ」

「まだそんなこと言ってたのか。全く、呆れたもんだぜ!」

 

 やってきたナイフの攻撃は前に戦った時よりも重くなっていた。でも感じる。この力はコイツ自身の力じゃない。何かを取り込んだような、取り込まれたような力だ。考え事をしながら俺は拳を打ち込もうとすると間に割り込むかのような咆哮を耳にする。俺達はその方向を向くと一体のファンガイアがいた。新一の方にいた奴かと思うと新一が姿を見せる。しかもファンガイアと鍔迫り合いをしながらだ。咆哮を上げながらやって来た奴を快斗と距離を取るように避けると新一と背中合わせになる。

 

「新一、あれはなんだ?」

「どうやらもう一体いたみたい」

「なるほどな」

「そっちは……快斗君がやったのか」

「皮肉にもな」

「本当に………殺すの?」

「何が言いたい」

「僕は…快斗君が戻って来れる人だって信じてる。だから殺さないでほしい」

 

 戻ってくる?そんなこと信じられない。一度力に狂えばソイツはもう戻ってこない。俺はそういう奴をこの目で見た。だからこそ俺は奴を殺すと決めたんだ。

 

「止めるなっていったよな?」

「物理的には止めてないよ」

「そういうことじゃねぇ」

「もし…引き戻せるって思ったら、殺さないで」

「嫌だと言ったら?」

「京君はきちんと判断出来るって知ってるから」

 

 そういうことじゃねぇんだよなと思った瞬間、新一はファンガイアに向かって突撃していた。そういうことじゃない。つまり俺の独断で決めると言っている。もちろん今の俺はコイツを殺す事しか考えていない。銃口をヤツに向けると横からさっきのファンガイアがやってくる。一撃で終わらせようとメモリをマグナムに装填始、骸骨を作り出す。

 

『スカル、マキシマムドライブ!』

 

 骸骨を飛ばし、ファンガイアを閉じ込めた後にマキシマムドライブを撃ち込む。ファンガイアはステンドグラスとなって木っ端微塵になった。だがこれで終わったわけじゃない。

 

「お前やっぱ強いよな。けど今は俺の方が強い!」

「やっぱりまた力を取り込んだか!」

「アレは本当にすげぇ、力が湧いてくる!」

 

 それからはヤツの連撃が始まった。スピードもパワーもこの前よりも遥かに上がっている。短期間にこれだけパワーアップしてまともでいられるのか?体はどうなっているのかと一瞬気にもなったがすぐにカウンターを打つことにする。しかしカウンターまでも読まれて逆に攻撃を受ける。どういうことだ、反射神経までも上がっているのか。俺が顏を上げた瞬間ヤツの姿は見えず、代わりに体に強い打撃が走った。勢いが強い所為で壁に打ち付けられる。体が言うことを聞かないので視線だけ上にあげるとそこにはヤツがいた。

 

「どうだ、これが今の俺だ」

「て、テメェ………グッ」

「立たせねぇよ。前のやつは結構響いたからな、アレさえ喰らわなければ俺は勝てる」

 

 立つことを許されず、俺は胸を踏みつけられる。その強さは増していき、俺の体は壁にめり込んでいく。

 

「まずは一人か。二度と戦えないようにしてやる」

 

 快斗がエターナルメモリをベルトから取り出そうとした瞬間頭を抱え始める。痛みのせいなのか悲鳴のようなものまであげるようになった。

 

「なんだこれ……頭が………ッ!」

 

 何が起きてるか分からなかった。いや、想定出来る範囲では理解はしているんだろう。けれど目の前のやつを見てどうするべきか悩んでいる自分がいる。殺すべきなんだ。力で狂った奴は殺した方がいい。そうすれば誰も傷付かず当人も救えるはずだ。なのに銃口を向け、引き金に指をかけるところで止まっている自分がいる。なんでだ。何を迷っているんだ。

 

 『快斗君を助けて』

 『引き戻せると思ったら、殺さないで』

 

 くそ、こんな時に奴らの言葉がつっかかってくる。そうこう悩んでいると痛みが治まったのか、それでも息を切らしている快斗は黒いマントを俺にぶつけてきた。マントを剥がすとその場に快斗はいなかった。

 ────何故だ、なぜ俺は殺せなかった。

 その言葉だけが頭の中を走り回る。いつの間にか返信が解除されていた俺は新一と合流することなく一人バイクに戻って家に戻ることにした。家に着くとすぐにベットに転がり寝ようとする。けれどいつまで経っても二人の言葉が頭の中を駆け回っていた。



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第十六夏 偽の力は

「おいどういうことだよ!」

「どうしたの?」

「アイツを倒そうとしたら頭が…ッ!」

「大丈夫かい?」

「大丈夫なわけねぇだろ!これのせいでトドメもさせなかったんだぞ!」

「落ち着いて、多分急に強くなったから脳が追いついてないんだよ」

「そう……なのか?」

「うん、だからあのカプセルに入れば大丈夫。元通りになってまた戦えるよ」

「元通りって……!」

「あぁ、大丈夫。強さは変わらないから」

「なら……良いんだけどよ………」

 

「ハハッ、考えが甘いんだよなぁ。そんなんだから後で後悔することになるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの戦闘の後、京君と快斗君の姿は見当たらなかった。どちらも無事だろうとは思うがどこか不安なところもあった。京君の殺すと言った時の目は本物だったし、快斗君も言葉も本気のように聞こえた。だから二人が今どうなっているのか不安である。そして数日が経った今、お嬢様達が練習している裏で僕は霧切さんと連絡を取っていた。

 

「こちら名護です」

『新一君、霧切だ』

「お疲れ様です。何かわかったのですか?」

『ああ、例の快斗君という子の所在地が判明した』

「本当ですか!?」

『ああ』

 

 見つけることが出来たのならば快斗君を引き戻す方法も考えつく。しかし霧切さんの返事の仕方に少しばかり疑問を持つ。なぜかはっきりしていない、それどころか何かに苦しんでいるような声色だった。

 

『見つかったんだが少々危険な状況にある』

「快斗君の身に何かあったんですか?」

『それに関してはわかっていない。だが彼は相当危険な相手と手を組んでると思われる』

「危険な相手、ですか?」

『先日、潜伏先に保護のために数人を派遣したのだが全員が重症の状態で帰ってきた。復帰までに少なくとも一ヶ月かかる』

「そのような人達がいたのですか?」

『いや、一人だ。全員そのたった一人(・・)にやられた』

 

 この情報を聞いている限り快斗君を引き込んだのは単独犯と考えられる。けれど一人で快斗君をあそこまで変えてしまうのか?

 

『証言によるとメモリを使用していたらしい。しかも見たことのないベルトをつけていたとのことだ』

 

 メモリ、ベルト、この二つを考察の要素に入れると単独犯という考えが消されかける。そういうものは一人で用意できるはずがない。となるとやはり複数、いや、組織的犯行に至るか。となるとバックにいる存在は自ずと出てくる。

 

『君も気付いているだろうがおそらく園崎が裏にいると考えられる』

「やはりですか」

『しかし事前調査によると潜伏先には例の子と危険人物…Xとでも言おうか、彼ら二人しかいないらしい』

「ではXは単独行動をしているとでも?」

『そういうことになるな』

「なるほど。ご協力ありがとうございます」

『いや、元はと言えばこちらの落ち度だ。気にせず使ってくれて構わない』

「怪我をした方々にはお大事にとお伝えください」

 

 了解した、という言葉を終えると同時に通話は切られた。X…やはり快斗君は何者かに操られている。どうにかしないと彼が戻れなくなってしまう気がしてならない。とりあえず頭を冷やそうとアイスティーを口に飲もうとすると錠前が鳴り出した。開くと今回はドーパントの反応が一つだった。現場は走って数分のところだったので急いでスタジオを出る。走っていくと建物が倒壊するような重い音が聞こえてくる。曲がり角を曲がるとそこには全身が赤く、武装という武装をし、片手に大剣を持ったドーパントがいた。大剣を大きく振りかぶり、放った斬撃波は見るだけでわかるほど強烈なものだった。すぐに変身して戦闘に入ろうとすると数本のナイフが装甲に刺さる。その方向を見ると変身した快斗君の姿があった。ただその姿は今までのものではなく、蒼い炎は赤くなっていた。

 

「もう来るなって言いましたよね」

「力を持っているのに人のために使わないのは愚か者のすることだからね」

「弱い人は死にますよ。すぐにね」

「快斗君、君が今何をしているのか僕にはわからない。けど今ならまだ引き返せる。手を組んでる人とは切るんだ」

「またか。またそれなのかよ、アンタはッ!」

 

 激情している快斗君はナイフをこちらに向けて走ってくる。突進してくるナイフを止めたのは僕ではなく京君だった。ナイフを盾骸骨(スカル・フェイス)で防ぎ、そのまま勢いを押し返した。

 

「京君、無事だったんだね」

「ああ。悪いがそっちは頼んだ。今度こそ殺してくる」

「!殺しちゃ駄目だよ、彼は絶対戻ってこれる」

 

 僕の言葉を無視するように京君は走っていく。ただ一瞬、京君に迷いがあるかのように思えた。

 

「じゃあ、君の相手は僕だよ」

『ウルセェ、邪魔スンナ。オレハコンナ社会ヲブッ潰スンダ』

「そんなことはさせない」

 

 剣を構えて戦闘体勢に入る。剣を振りかざし、相手の剣と鍔迫り合いになる。純粋に力比べをしたら負けることが直感的に伝わってくる。大剣に押し潰されかけたところを剣を滑らせて胴に撃ち込む。背中に回った瞬間に剣を振り下ろして背中を斬ろうとするが硬い装甲がそれを防いでくる。装甲に気を取られているとカウンターの回転斬りを放ってくる。防御が間に合わず徐に喰らうことになった。体制を立て直し、警戒を強める。装甲の厚い敵の対処法は大体相場が決まっている。ただ悟られると機会を失いかねないので慎重に戦う。斬撃波を躱しながら敵に近づいていく。斬撃波はやがて止み、大剣で攻撃を仕掛けてくる。受け止めては流し、斬り込もうとすれば止められるということが繰り返される。だが根気よく戦い続けていれば勝機はあると思った瞬間、隙ができた。その瞬間を逃さず懐に潜り込んでイクサナックルを取り出す。取り出したナックルをドーパントの腹にぶつけてトリガーを引くと衝撃によってドーパントは吹っ飛ぶ。そして追い討ちをかけるように吹き飛んで転がっているドーパントを押さえつけて背中の装甲と装甲の隙間にイクサカリバーを銃モードにして銃口を押し付ける。装甲の熱い相手には隙間の肉を狙うのが一番である。故に押し付けた部分に向かって引き金を弾く。何度も何度も引き金を引き、すぐに再起しないようにする。グロッキーになった頃を見計らい、イクサナックルにフェッスルを装填してゼロ距離でブロウクン・ファングを放つ。ドーパントは爆発し、メモリと人が分離される。すぐに弦巻家の人がやってきてメモリと出てきた人を回収して行った。僕もすぐに京君達の方へ行こうと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 俺はあのバカを倒さなきゃいけない。いや、殺さなきゃいけない。この前は引き金を引けなかった。今でもその理由はわからないが今日こそは引いてみせる。

 

「よぉ、お前も懲りずに来たのか」

「ああ、この間の続きだ。手加減抜きでいくぞ」

「ぶっ殺してやんよ」

 

 お互い場を動かないまま数秒、そして同時の攻撃によって戦いは始まった。投げてきたナイフを撃ち落とし、近接戦が始まった。突き出してくるナイフは避ける場所を予測しているかのように刺してくる。刺された部分に痛みが走る。だが、やられているだけではダメージも入らない。隙を見て腕を掴んで懐に拳を打ち込む。離れようとしても腕を掴まれているせいで奴は離れない。勢いをつけて投げ飛ばし、地に着く前にマグナムで撃ち抜く。すぐに復帰する前に右手にエネルギーを集める。起き上がった瞬間に拳を突き出す。

 

「石破天驚拳!!!」

「その技はっ!」

「ハァァァァァァァァ!」

 

 奴が気づいた瞬間にはもう遅かった。爆発が起き、煙が晴れるとそこにはヤツのマントだけがあった。

 ────もう終わった。これでアイツも救われた。

 

これで終わった(・・・・・・・)、とか思ってなぇよな?」

 

 背中から悍ましい気配がした。振り返った時には遅かった。顔面に拳を喰らい、俺は地面を転がった。まさかあの体勢から石破天驚拳(俺の技)を避けたってのか!?スピード…いや、転移か?じゃないとあれは避けられなかったはず!

 

「あのマントは攻撃を無効化できるんだよ。あらゆる熱、電気、打撃を無効化できる。そう言われていたのに使っていなかった俺が馬鹿みたいだったぜ」

「テンメェ………!」

「動くなよ、間違って殺すかもしれないだろ」

「何故殺さない」

「………なんでだろうな」

「は?」

「まぁいい、そんなこと後で考えるわ」

 

 ヤツはエターナルメモリをナイフに装填してスイッチを押す。

 

『エターナル マキシマムドライブ』

 

 その瞬間に体に歪な感覚が走る。体が自由を効かないのはさっきからだったがさらにいうことを聞かなくなった。呼吸ですら苦しくなってくる。

 

「こいつの力はメモリの制御。言ってしまえばメモリの王様だよな。じゃあな、鳴海京。二度と、ここに戻って………ッ!?」

 

 ナイフを両手に逆手に持ち、振りかぶった瞬間頭を抱え始めた。手から滑り落ちたナイフは俺に当たることなく転がっていき、快斗は苦しみ始めた。その姿はまるで何かに取り憑かれているような、正気を保っているのがおかしかったくらいに見れた。

 

 

「ああぁ…あああああああ!!」

「何が、起きてんだ…?」

 

 愕然と見ていた俺は快斗に向かって銃口を向けるがまた引き鉄をかけた指が止まる。撃つべきなのか、それとも助けるべきなのか、そうやって悩んでいる間にもヤツは苦しんんでいる。苦しみを終わらせるためには引き鉄を引くしかない。

 ──引けよ、早く引けよ!それがやるべきことだろう!?

 震えている手を押さえながら狙いを定めた瞬間だった。

 

「あーあ、やっぱりかぁ」

 

 




 頭痛に耐えられない快斗
 悩み続ける京
 声のする方向にいた者とは

次回 『芝居』


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第十七夏 芝居

お気に入り登録者数50人突破ありがとうございます!
これからも多くの人に読んで貰えるよう、気に入って頂けるよう精進していきます!


「あーあ、やっぱりかぁ」

 

 声がする方を見ると信じられない奴がいた。俺のずっと探していた敵。白い革ジャンを着た男。親友を殺し、力に狂ってしまった男。

 

「もう少し遊べると思ったんだけど」

「アンタ……」

「ちょっとだけ期待してたんだけどさ、やっぱり駄目だったか」

「どういうことだよ、俺は強くなったんじゃねぇのかよ!あのカプセルに入ったら頭痛だって治るんだろ!?」

「馬鹿か君は」

「……は?」

「そんなの嘘に決まってるじゃないか。大体そんなんで本当に強くなれると思ったのかい?めでたい頭だなぁ」

 

 快斗は力が抜けたように座っている。目の前にいる奴はまるで道化のように笑っている。でも笑っていることなんて俺にはどうでもよかった。激情にかられることもなくただ見ている自分が不思議で仕方なかった。

 

「君。いや、お前みたいな弱い奴が強くなるなんて到底不可能なんだよ。どうだ?少しでも強くなれたって思えて幸せだったか?」 

「嘘だ…そんな………じゃあなんで俺に手を出したんだよ………」

「そんなの決まってるだろ?お前みたいな弱い奴が更なる絶望に落ちるのを見たかったからだよ。まぁ三文芝居にもならなかったけど」

「テンメェ!」

 

 気がついた時には俺は銃を撃っていた。その銃弾すらヤツは軽々と躱していく。

 

「なんでお前がキレてんだよ。てか久しぶりだな、京。元気にしてたか?」

「よくそんな呑気に俺の前に出てきたな………ずっと探していた分手間が省けた。ぶっ殺してやるからそこ動くなよ」

「おおこわいこわいwまだ根に持ってんのか?千尋を殺したこと(・・・・・・・・)

 

 最後の言葉を聞いた瞬間俺は走り出していた。銃を乱射し、ヤツを逃そうとはしなかった。しかしアイツもただ現れただけではないことなど考えていなかった。

 

「久しぶりに遊ぼうか……変身♪」

『ナスカ』

 

 その言葉と同時にメモリを巻いていたベルトに挿し込み、青い怪人と姿を変えていた。撃った銃弾は自分に当たる分だけ躱して剣を振り下ろしてくる。冷静さを失っていた俺は防御も間に合わずに直撃する。

 

「うぐっ!」

「この姿、見せるのは久しぶりだな」

「テメェ…やっぱり捨ててなかったか…!」

「捨てるわけないだろう、こんな素晴らしい力」

「だがそれでアイツは死んだ!」

「それがどうした?この力の本質を理解していない京達のせいだろ?」

 

 笑うように話してくるアイツと話していると冷静さが欠ける。鉄砕拳の構えを取ろうとすると右側から発砲音が聞こえる。右を向くと新一がイクサカリバーで銃撃を行っていた。構えながらもこちらにやってくる。

 

「京君、あの人は?」

「人類の中でクソオブクソの野郎だ」

「もしかして例の?」

「新しい人が来たね。それじゃあ名乗りを上げておこう。俺の名前は皇 獅郎(すめらぎ しろう)。そこの弱い奴を狂わせた張本人、そして鳴海京の友人にして最大の恩讐相手だ!よろしくな♪」

「皇…獅郎………」

「では貴方が京君の友人を殺したと」

「そゆこと♪まぁ俺も友人の一人なんだけどね」

「ふざけるな!どの口がほざいてやがる!」

 

 銃口を向けるとヤツは不穏な動きを見せる。それまで無かったはずの翼を広げ、宙に浮く。

 

「今日はもう幕引きにしよう。その方が面白みが出る」

「ま、待ってくれよ!アンタがいなくなったら俺はどうすればいいんだよ!?」

「うるさいな」

「!?」

「さっきも言ったけど、お前みたいなのが強くなれるはずないだろ?三文芝居にもならないつまらない時間だったし」

「君は……本当にそっち(・・・)側の人間なんだね」

「そうだけど、君は………なかなか面白そうだね。今度会った時に少し遊ぼうよ。それじゃあね♪」

「待て!逃さねぇに決まってんだろ!」

 

 飛んでいくヤツに向かって俺は銃を撃っていくが当たることはなく見えなくなっていった。銃をしまい、メモリを抜いて回りを見ると新一は変身を解除していた。新一は快斗の方へ駆け寄り、変身したままの快斗は座り込んだままだった。

 

「快斗君、大丈夫?」

「俺は……なんのために………?」

「快斗君?」

 

 新一が快斗の肩に手を置いた瞬間その手を振り払い、距離を取るように跳ねた。そしてしばらくの沈黙があった後、立ち上がり、メモリを起動させてホルダーに差し込んだ。

 

『インビジブル』

 

 音が聞こえると快斗の姿は見えなくなっていった。その場には俺と新一だけが残り、沈黙が訪れる。俺は帽子を伏せて帰ろうとすると新一が声をかけてくる。

 

「京君、これからどうするの?」

「…獅郎を探す」

「快斗君のことは?」

「……わからない」

「え?」

 

 声が漏れるように聞き返してきた新一に俺は何も言わずその場を去った。暫く歩いているうちに俺は言葉を一つ漏らしていた。

 

「なぁ千尋、俺はどうしたら良いんだ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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 京君を見送った僕はスタジオに引き返すことにした。今日得た情報だけでもかなり大きい。まず快斗君の異変に関わっていたXの正体は間違いなく皇獅郎で間違いないと思われる。そして彼は絶望を楽しむ側の人間、絶望で人を狂わせるタイプの人間。よりによってあの人と同じ側の人間か。厄介だな………。さらにあのNascaのメモリ、おそらくまだ機能が隠されていると思われる。現時点で確認されている能力は剣技、飛翔能力のみ。あとは本人の身体能力だが、京君の射撃を避けることができていることから目と反射神経はかなりのものだと考えられる。総合的に考えると彼は今まで戦ってきたファンガイアやドーパントの中で最上級の強さと考えられる。ただ、今最優先でやらなきゃいけないことは快斗君を元に戻すことだ。しかし彼も行方をくらましてしまった今また探しださなきゃいけない。さて、どうやって探し出そうか。

そう考えているうちにスタジオの目の前に着いてしまった。とりあえず通常業務に戻ることにする。余裕が出来たときにまた考えることにしよう。スタジオの中に入っていくと鉢合わせるようにお嬢様達に会う。

 

「あら、新一どこに行ってたの?」

「少し、散歩にですね……」

「そう。これからミーティングよ」

「かしこまりました」

 

 今日行ったことのまとめと次回に向けての課題、次の練習の予定日を聞かされて解散となる予定だった。今日もバイトがあるとリサは先に帰っていく。じゃあ私達も帰りましょうとお嬢様が言うとあこちゃんが止めてきた。何か連絡を忘れたのだろうか。

 

「どうしたんですか宇田川さん」

「何かあったの?」

「あのっ、実は三日後にリサ姉が誕生日なんです!」

「そう……なの………?」

「うん、だから皆でサプライズしませんか?」

「サプライズ?」

「はい、そうしたらきっとリサ姉も喜ぶと思うんです!」

 

 個人としては賛成だがお嬢様達はどうだろうか。あくまでRoseliaはバンド、馴れ合いは必要ないとか言い出すのではないのだろうか。

 

「わ、私は……やっても良い……と思います…」

「ありがとうりんりん!りんりんなら絶対協力してくれると信じてたよ!」

「別にあなた達でやるのなら構わないわ」

「そうですね、個人でお祝いするのならいいと思います」

「えっ、でも皆でやった方が絶対喜びますよ?」

「必要性はないと思うわ」

 

 そう告げるとお嬢様はその場を去るように背を向けて歩いていった。僕は皆に一礼してからお嬢様の跡を追いかける。特に何も言葉を交わすこともなく歩いていく。でも、お嬢様は幼馴染のリサを祝わないのだろうか?それだけは気になった。お嬢様ならリサが一番喜ぶやり方を知っているのではないかと。

 

「お嬢様」

「何?」

「よろしかったのですか?」

「誕生日のこと?なら問題はないわ」

「どうしてですか?」

「別に祝わない訳ではないもの。個人でやればいいじゃない。それにRoseliaは馴れ合いの場所じゃないわ」

「ですがお嬢様、仲間同士の関係を深めておくことも演奏能力の向上につながるのではないでしょうか」

「……考えておくわ」

 

 そう言いつつも悩んでいる様子を見る限りお祝いについて考えているのだろうか。やはり中身は優しい人なんだろうな。

 とか考えてる場合じゃないな。僕もせめて贈り物ぐらいはしないと。でもその前に快斗君の方も解決しないとな。あと二日、それまでにやらなきゃいけない事がたくさんある。これはどうにかしなければな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「………い」

 

 ?

 

「………けい」

 

 誰だ?

 

「京」

 

 懐かしい声がする。ただそれはもう二度と聞けるはずのない声だった。ハッと目を開くともう二度と会えないはずの存在がいた。

 

「久しぶりだね、京」

「千尋……」

 

 獅郎に殺されたはずの千尋が目の前にいた。生き返った?いやそんなことはありえない。だって千尋は俺の目の前で死んだ。あの馬鹿野郎に殺されたんだ。そうなるとここは夢か。よく見ればあたりは暗いし。

 

「京のことだからもう気づいているだろうけどここは夢の中だよ」

「ああ、だとしてもなんでお前がいる?」

「そうだね。僕は君の知っている三枝千尋じゃない」

「だよな。幽霊が俺に憑くことがない限り本人じゃないだろうな」

「あれ、知ってたの?」

「まあな」

 

 なんて言えればよかったんだろうけど生憎そんなことはない、ただの直感だ。探偵としての理由にしては下の下だな。などと自重しながら会話を続ける。

 

「一応聞くがお前は誰だ?」

「うーん、探偵の前で言うのもなんだけど君の写身かな。非現実的だけど」

「つまりもう一人の俺的な」

「そういうことだね。どういう問題で僕が生まれたのかはわかっているはずだとは思うけど」

 

 そうだな。俺が一番聞きやすく答えを共に出す者として多分千尋の姿が映し出されたんだろうな。だから俺は(コイツ)のことをあえてこう呼ぶ。

 

「なあ千尋、俺はどうするべきなんだ?」

「何をだい?」

「俺は………獅郎を殺す。これは絶対だ。けど、快斗(あの馬鹿)は殺すべきなのか迷っている自分がいる」

「そうだね」

「千尋ならどうするべきだと思う?」

 

 千尋は悩む仕草を見せながらもすぐに答えを出してくる。

 

「どうだろうね」

「は?」

「さっきも言ったけど僕は君の知っている本当の三枝千尋じゃない。だから答え自体は千尋が考えることとは言い切れない。けどさ、僕たち(・・・)の知っている三枝千尋ならこう言うんじゃないかな」

 

 そう言って目の前の奴は俺に向かって指を指してくる。ビッと決めたかと思うと顏を緩めて言葉を綴る。

 

「『思い出とかそういうのは置いといて、京が一番後悔しない選択をするべきなんじゃないかな』って」

 

 その言葉を聞いてハッと気づく。そうだ、千尋はいつだって俺のことを信じていてくれた。俺が選んだ選択をちゃんと認めてくれた。勿論、意見が反対になることもあった。けどその度にちゃんとその理由を見つけ出してくれていた。だから俺はいつの間にかアイツに相談するようになっていたのか。信じてくれる友のことを俺も信じていたから。だけど、もうその友もいない。なら俺はお前無しでも自分を信じなくちゃいけないんだよな。

 

「そうだな。サンキュ千尋、助かった」

「その様子だと僕の役目も終わったかな」

「ああ、俺の中の千尋(お前)の役目はもう終わった」

「また相談相手が必要になるかもよ?」

「いや、それは俺の中だけで済ませることじゃない」

「?というと?」

「さっき気付かせてもらった。相談したいことがあったらお前じゃなくてもいいからな………俺にはもう仲間がいる」

 

 仲間がいる、自分で言うのも恥ずかしいが嬉しいことでもある。やっと気づけたんだからな。この言葉を伝えると千尋は驚きの表情を見せたがすぐに笑ってみせた。

 

「そっか、ならもう大丈夫だね」

「ありがとうな。そしてさよならだ」

「うん、じゃあね」

 

 千尋が手を振ると視界は真っ白に染まり次に目を開けると自分の部屋の天井だった。さて、時間はと…もう七時半か。シャワーを浴びて朝飯食いに行くか。

 シャワーを浴びて寝汗を洗い落とした俺は羽沢珈琲店に向かう。扉を開けるといつも通り羽沢が接客対応に来る。

 

「先輩おはようございます」

「おう、おはよう」

「良いことでもあったんですか?」

「ん?なんでだ?」

「ここ最近思い詰めた顏をしてたのに、今日はなんだかいい顔してますよ」

「そうか?いや、そうなのかもな」

「あ、席ご案内しますね」

「おう」

 

 歩き始める前に注文をいつも通りで頼むと羽沢は笑顔で返事をした。なんだかこっちまで気が緩んでしまいそうだ。そうやって案内された席に着くと人の気配を感じる。向かいの席を見てみるとそこには水色の髪をした女がいた。柔らかかったはずの目つきは睨んでいるようだった。

 



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第十八夏 手を

「誰かと思ったらお前か」

 

 目の前に座っている女はこっちを睨むように見ている。普段はふわふわしてそうな雰囲気なのに今日に限ってはそうでもないらしい。まぁ前回あんなこと言ったしな、恨まれたりしてもおかしくはないだろ。

 

「そんな怖い顔してると可愛くなくなるぞ?」

「よ、余計なお世話です!」

「で、何か用か?」

「快斗君のこと…本当に助けてくれないんですか?」

 

 俺を見るその目は真剣そのものだった。戦える力がなくとも助けに行きたいという気持ちをぶつけてくるような視線にも思える。

 

「聞きたいんだけどよ、お前がアイツを助けようとするのはなんでだ?」

「えっ」

「大したことじゃない。ただ、戦えもしないお前が何故アイツを助けようとしているんだ?」

「それは………」

 

 やっぱりな。善人っていうのは感情を優先して動くことが多い。ただ人を助けたいから、ほっとけないからなんて理由で人助けをする。自分に対するデメリットなんか考えないで事に突っ込む。理に適ってない行動をするのが善人だと俺は思っている。俺はそんな善人が少しばかり苦手だったりもする。

 

「答えられないんじゃ仕方ないよな」

「私はっ!」

「?」

「私は、快斗君に笑っていてほしいから…またこころちゃんや皆と一緒に笑って過ごしたいから、だから快斗君を助けたいの!」

「へぇ、それは恋心か?」

「ふぇっ!?そ、そんなんじゃなくて///」

「おっもしれーの」

 

 少し揶揄ってみたがこういうのでいじるのは楽しい。何より年頃の男女だ、揶揄いがいがある。

 

「そ、それで、受けてもらえるんですか?」

「それとこれとはまた別だろ」

「そんな………」

「大体お前、報酬を用意してねぇだろ」

「ほ、報酬?」

「当たり前だろ、じゃないと探偵は動かねぇぜ」

「お金………ですか?」

「さぁな」

「い、今はそんなに無いですけど、絶対払いますから」

「そっか、じゃあな」

 

 適当にはぐらかして店を出ようと立ち上がると慌てた様子で声をかけてくる。正直に言うとそういう顔は何度も見てきているので何も感じない。

 

「ど、どこいくんですか!?」

「帰るけど?」

「そ、そんなぁ………」

「あー、一つだけ忠告だ」

「?」

「希望は大きく持つなよ」

 

 言えることだけ言い残して珈琲店を出た。外に出ると真夏の太陽とクソ暑い気温が俺に攻撃を仕掛けてくる。そしてさらにある事が俺の頭をよぎる。

 夏休みももう終わるんだっけか………宿題、やったっけ………

 そんな現実を忘れようとした瞬間錠前が鳴り響く。確認してみるとドーパントが現れたらしい。数は一、すぐに出ようとヘルメットを被り、バイクに跨ると出かけていたスタッグフォンがハンドルの上に乗ってくる。ヤツを見つけたかと聞くと頷いてくる。携帯モードに変えると場所を教えてくる。ありがとなと言うとスタッグモードになって飛び回った。そしてその勢いで追跡に戻ったので俺もバイクを走らせる。全く、ドーパントも朝から出勤とは偉いことだな。こんな暑いのによくもまあ元気なこと………いや数は一だったわけだし出勤とか関係ないか。

 現場に着いた俺は現状の確認をする。今回の被害はそこまでなかった。それも当然だ。なぜならもう既に探していた奴の姿があったからだ。ドーパントはもう消滅したのか気配すら感じられなかった。

 

「よう、快斗」

「京……今度こそ、アッ!?」

 

 こちらに向かってくるかと思ったら頭痛がきたのか頭を抑えている。それでも諦めていないのかナイフの先を向けてくる。

 

「お前はまだ自分が強いと思っているのか?」

「そうじゃないと、俺は…俺は…!」

 

 やっぱりそうなるよな。そこの考えを抜け出させるためにはやらなきゃいけないんだもんな。

 

「京君、快斗君!」

「新一か、朝から大丈夫なのか」

「お嬢様には特売だからって言ってきた。実際に特売はあるしね」

「じゃ、それまでに終わらせるか」

「アンタらはそうやって……!」

 

 ナイフを構えて走ろうとした瞬間、上から人が降ってくる。女の子が降ってきたらそれはそれでよかったんだが、そんな期待ををひっくり返すように予定外の来客は現れた。

 

「面白いことしようとしてんじゃん、俺も混ぜろよ」

「獅郎、お前は呼んでない」

「あれ、今日は冷静だね。前回はあんなに怒ってたのに」

「ふん、今でもすぐに殺したい気分だが優先するべきことがあるからな。お前と遊んでる暇はない」

 

 手をヒラヒラさせて風を扇いでいると新一が隣でクスクス笑ってくる。快斗は頭を抱えたまま変わらず、獅郎はつまらないものを見る目でこっちを見ていた。

 

「じゃあ京君、こっち(・・・)は任せて」

「気をつけろよ、気を抜けば負傷は免れないからな」

「忠告ありがとう」

「もしかして君と遊べる感じ?」

 

 新一が獅郎の方へ歩いて行くとあのクズは嬉しそうな顏をする。この前変なことを言っていたがとりあえず目の前のことに集中するか。

 

「さて、いつもの続きをやるか」

「全力で………潰す!」

「じゃあ俺は、全力で引き戻してやる!」

 

 《ここから『テオ』を聴きながら読むのをオススメします》

 

 互いに走り出し、近接戦へと持ち込む。快斗のナイフのキレはこの間より格段に落ちていた。いや、むしろ最初にあった頃より遥かに弱くなっている。頭痛のせいなのか、それとも本人に迷いがあるからなのか。全部捌きつつダメージを打ち込んでいくと距離を取られる。

 

『トリガー』

 

 メモリを起動させてナイフに装填するとナイフは形状を変えて銃へと姿を変える。面白いことをする、とこちらも銃を構えてお互いに撃ち合う。奴が撃ち出す弾はあまりにも単純すぎたので全部撃ち落とす。走りながら撃ち合っていると間に壁が差し掛かって姿が見えなくなる。どこから来るか警戒していると空気を押し出すような音が聞こえた。上だった。白い翼を広げ、大きくした銃を俺に向けている。銃口には光を灯し始めているのが見える。流石に避けるのは厳しいと考え、盾骸骨を顕現させる。光が大きくなった瞬間、大きな音が聞こえる。耳に響く重く低い音。構えている盾はミシミシとヒビが入る音がしている。まさかこの盾が破られそうになる日が来るとは思いもよらなかった。とにかく今はこの時間を稼ぐ。いくらなんでもずっとこの状況が続くとは思えない。保ってくれよ、盾骸骨。俺は改めて右手に力を込める。盾にさらにヒビが入っていく。力を入れているのに限界が近づいてくるのがわかる。もう少し、もう少しだと足に力を入れて踏ん張っていると攻撃が止んだのか光は小さくなって消えていった。だが光が消えたと同時に盾骸骨は割れて俺は膝をついた。前の方を見ると快斗がさっきの銃を持ったままフラフラになりながらも立ち上がろうとしている。銃はナイフの姿に戻り、快斗は寝っ転がるように倒れた。大丈夫かと駆け寄ろうとするとヤツは地面を叩き始めた。

 

「チクショウ、チクショウ!!なんでだよ!なんでアンタは倒れないんだよ!!」

「………それはお前が本気じゃないからだ」

「!!!」

 

 こっちを見たかと思えば拳を強く握り、近くに転がったナイフを持ってこっちに攻撃をしてくる。けれどもフラフラした攻撃なぞ少し身をひねれば当たるはずもなく、攻撃が来るたびに避けていた。

 

「俺は、全力を出してる!」

「違う、それはお前の力じゃない」

「違う!これは俺の力だ、俺だけの力なんだ!」

「じゃあそれはあの女を、松原を見て言えんのか!」

「ッ!なんでアンタが花音さんを!」

「お前が振るっているその力であいつを絶対守れるのか。本当に誰も傷つけないと、言い切れるのか!」

「やめろ……」

「誰も苦しめず、皆が平和に暮らせる世界を作れるっていうのか!」

「ヤメロ、ヤメロ………」

「過去に囚われたお前が、本当に強くなれるわけないだろ!」

「ヤメロォォォォォォ!!」

 

 突き出された一閃はさっきよりも正確に俺を狙っていた。だが俺はその伸びた腕を掴んで放り投げる。投げられた快斗は壁にぶつかり、転がっている。立ち上がったかと思えばすぐに攻撃を再開してくる。だがさっきよりもキレが良く、確実に俺を倒しにきていた。そして俺たちは問答を続ける。

 

「じゃあなんで俺は強くなれないんだよ!どうしたら強くなれんだよ!」

「お前が過去に囚われている限り、現状は変わらない」

「わっかんねぇよ!何に囚われているかすらわかんねぇんだよ!」

「じゃあはっきり言ってやる。お前は弱い」

「ッ!」

「自分は強いと思い込み、大事な人を傷つけられた程度で他人に縋り弄ばれた!だが弱いのはそこじゃない。お前は他人の力を自分の力と偽り、自分の過ちから目を背けたことだ!」

「自分の、過ち………何が悪いってんだよ、傷つけた現実から目を背けて何が悪いってんだよ!」

「馬鹿野郎!!」

 

 俺の怒声を聞いた快斗の動きは一瞬止まった。その瞬間に顔面目掛けて鉄砕拳を打ち込む。吹っ飛ばされた衝撃で動けなくなった快斗の胸ぐらを掴みながら俺は言葉を続ける。

 

「そういう現実を受け入れて、前を向いて歩けるヤツが本当に強くなれるんだ!俺だってまだ弱い!あのクズを思い出す度にあの光景を思い出す。自分が無力だった光景を!それでも俺は!もうあんな思いをしないようにする為に、自分を自分で強くするんだ!」

 

 手を離して快斗を地に落とす。衝撃のせいかベルトが外れて強制的に変身解除させられている。俺は座っている快斗に近づき、変身を解除して告げる。

 

「過去に囚われるのではなく、過去すら自分の力の糧としろ。そうすればお前はもっと強くなる」

「それは…俺の力か?」

「ああ、お前自身しか手に入れられない力だ」

「誇れる………ことなのか?」

「勿論、胸張って自分の力だと言っていい。手に入れられたのならあの女の前にも出ていけるだろうな」

 

 快斗はそれでもウジウジしながら質問を繰り返してくる。俺が吹っかけたことだったがめんどくさくなってきた。

 

「しつけぇ!いいか、お前は一人じゃねえ。強くなるのに相手が必要なら俺や新一がいる。それでいいだろ」

「でもよ……俺、今更戻ってもいいのか?」

「んなこと気にしてんじゃねぇよ。なんだったらついていってやってもいいぞ」

「やっぱいいわ」

「テメェ!人がせっかく気を遣ってやったのに…って、そのくらい言えるようになったんだったらもう問題はねぇな」

 

 手を差し出すと叩くような強さで掴んで立ち上がってきた。ただ、その顔はさっきまでよりも明るく。いや、今までで一番いい顏をしていた。こっちまで清々しくなってきやがる。

 

「でも練習相手は新一さんにお願いするわ。お前じゃすぐに超えられそうだし」

 

 前言撤回するわ。こいつ今すぐ捻り潰してやろうか。まぁ減らず口を叩けるようになっただけマシってことにしとくか。

 

「これからどうする?」

「どうするも何も、決まってんだろ」

「いいのか?ボロボロのくせに」

「いいや、この状態だからこそ行くんだ。逆に考えてみろよ。この状態の俺に一泡吹かせられたら。アイツ、悔しがるに決まってるぜ」

「お前………本当に馬鹿(快斗)か?」

「変なルビ振りやめろ!」

 

 俺は煽りながらも新一の元へと向かっていった。



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第十九夏 宣戦布告

遅れましたごめんなさいッ!


「君とは戦ってみたかったんだ♪」

「そんなことも言ってたね。でも一つだけ聞いて良い?」

「何?」

「なんで京君の友達を殺したの?」

「うーんそうだなぁ……分かりあえなかったから、かな」

「そっか。じゃあ僕達も分かりあうことは不可能かな」

「残念だなぁ。けど、楽しませて貰うよ!」

 

 にぃと歪ませた顔をした彼は姿を変えて襲いかかってきた。対応するように変身してイクサカリバーで応戦すると火花が散るような音がする。振り払うように横に振り抜くと飛び跳ねるように下がる。距離が空くと首を回して体を慣らすようにしているのが分かる。今刃を交えただけで分かった。彼は間違いなく強い。おそらく伊達に強くなったわけじゃない。けれどそこに邪悪なものを感じる。足に力を入れるとお互い同時に接近し、剣技を交えていく。だが気味が悪いように感じた。繰り出す攻撃は先を読まれているかのように躱されたり防がれたりする。まるで僕の技を知っているかのような行動ばかりだ。ただ、向こうの攻撃も知っているものだった。どこかで見たことがある。いや、これは受けたことのある攻撃だ。でもなぜこの剣術を彼が知っているんだ?

 

「ハハ、君の攻撃見たことあるからわかっちゃうよ。けど気持ち悪いな。俺の攻撃まで読まれてるなんて」

「それは僕も同じだよ。なんで君が知ってるのかな」

「さぁ?けど、それだけじゃ物足りないからもうちょっと遊ぼうか!」

 

 興が乗ったような声で接近してくる彼を薙ぎ払うように剣を薙ぐと読んでいたように跳び上がる。だが今までの戦い方を見ている限りどうするべきかは簡単に考えられるだろう。故に着地する地点に向かってブロウクンファングを撃ち込んだ。着地地点を崩すことによって油断させているうちに斬りかかる作戦だ。しかしそれも読まれたのか羽を広げて空を舞っている。

 

「センスいいね。油断してたら死んでたよ」

「君こそ……さっきから使っている剣術、やっぱり繋がってるんだね」

「あ、バレた?といってもなんの事か分からないけど。けどさ、君、本気じゃない(・・・・・・)よね?」

 

 気づかれていた!?といっても当てずっぽうで言っているかもしれない。だけど気づかれたとしたらかなり厄介だ。こういう敵は大体本気を出させようとしてくる。となるとどう仕掛けてくるか分からない。そして何より僕が本気を出しては行けない(・・・・・・・・・・・)。そんなことしたら…などと考えていると勢いよくぶつかってくる。鍔迫り合いになっても彼は余裕そうに話しかけてくる。

 

「もっと本気出してよ。じゃないと死んじゃうよ?」

「死なないよ、まだやることがたくさんあるからね」

「じゃ、本気出させてやるよ」

 

 その声と同時に彼は目の前から姿を消し周りに目を向けると草木が揺れ風が通るのを感じた。おそらく高速移動して襲う機会を狙っている。仕方ない、自分のモードを変えよう。今は仮面ライダーではなく執行者としての自分を取り戻せ。感覚を研ぎ澄ませ。敵が来る方向を完全に予測しろ。集中を高めた時に右に突きを放つ。当たる事を直前に気づいたのかギリギリのところで避けられる。だがすぐに起き上がって剣のぶつけ合いになった。だがその場から離れるように振り払ってからバク転で下がると警戒したのか彼も下がっていく。僕と彼の間には銃弾が飛んでいっている。飛んできた方向を確認するとそこにはメモリを使うライダー達がいた。

 

「何外してんだよ」

「うっせ黙ってろ」

「京君、快斗君…!」

「待たせたな」

「すいません、新一さん。俺、貴方に失礼なこと言って………」

「ううん、大丈夫。ちゃんと戻ってきてくれただけでも嬉しいよ」

「新一さん……!」

「なんだ、死んでなかったんだ」

 

 期待していないかのような声を出す方を見てみると皇獅郎が突っ立っていた。

 

「そのまま消えればよかったのに」

「残念だがお前みたいなヤツじゃなかったんでな」

「この間の借りを返してやるよ」

「二人とも…」

「新一さん、一緒に戦ってくれませんか?俺、これからもっと強くなるんで。あんなやつなんか軽く超えてやります!」

「勿論!」

「お前らいくぞ!」

「「変身!」」

『スカル』

『エターナル』

 

 京君と快斗君は変身して姿を変える。京君はいつもの姿だったが快斗君の姿は変わっていた。赤かった炎が蒼く、前よりも光を灯しているようだった。気合いを入れてテンションを上げている彼は号令をかける。

 

「それじゃあ行きますよー………ready?」

「「「GO!!」」」

 

 全員で声を出して走り出していく。僕と快斗君は散開するように左右に分かれていく。その間を京君が割くように銃撃する。その弾丸を皇が避けると快斗君がナイフで斬りつけていく。ブレードで対応しているところに僕も斬撃を繰り出していく。翼を広げて回避しようとするが京君が追撃で撃ち落とす。地に落ちたところを二人で攻撃しにいくとうまく受け流されて距離を取られる。それでも僕たちは攻撃を続け相手の体力を削っていく。体制を崩して攻撃を仕掛けたりする。それでも彼に大きなダメージは与えられず小さなダメージしか与えられなかった。だけど確実に傷を与えていき時間が立つ頃には相手を追い詰められる状況にあった。

 

「流石に三対一は冗談キツイなー」

「いくらアンタでも俺たち三人は無理があるだろ」

「獅郎、お前は必ず地獄に落とす」

「はっ、やれるもんならやってみろよ!」

 

 戦闘が再開される。奴のブレードを僕が受け止め、快斗君がメモリを行使して追い込んでいく。ただ一つさっきと違ったのは京君も近接に参加し始めたことだ。拳を振るう彼に対して避けながらも攻撃を出してくる。それでもギリギリ出せる攻撃なのか避けるのは簡単だった。僕と京君で挟み撃ちにすると彼は跳んでから羽を広げた。どうやら空という得意の領域で戦うつもりらしい。たしかに空にいれば有利に戦えるだろう。しかし空を舞いながら剣を構える彼を背後から地に叩き落とす者がいた。

 

「空が自分のモノだけだと思うなよ?」

「テメェ……ザコ如きが……」

「ザコなんかじゃねぇ。俺は大道快斗、この世界の笑顔を守る最強のライダーだ!」

 

 快斗君が羽を広げて威勢をかますと京君が手を口に当てるようにして話しかけてくる。

 

「あれ絶対後で顏赤くするヤツだよな」

「そういうのは静かにしておくものだと思うよ」

「全部聞こえてるんだよ!!」

 

 地に降り立った快斗君は隠すように声をあげてくる。まぁまぁと抑えつつ皇の方を見ると笑いながら立ち上がってくる。何がおかしいのかそれとも狂ってしまったのか。おかしくなった彼は声をあげて笑っている。

 

「ハハハ、面白い。ならばまずお前から殺してやるよ!」

「二人とも、確実にやるっスよ!」

「ああ、やってやるさ」

「何もかもここで片付けよう」

 

 僕たちは彼を囲むように配置につき、必殺の構えを取る。邪魔をするように動こうとする彼は一歩も動けなくなっていた。なぜなら彼の足元が凍っていたからだ。足元から伸びている氷の線を辿ってみると快斗くんの足元に辿り着いた。いつの間に使っていたのだろう。相手の動きを封じ込めたところで全員跳び上がりライダーキックを放ちにいく。しかし、皇に当たる寸前目の前に数多の雷が現れる。その雷に直撃し、技は失敗に終わる。変身が解除されることはなかったが狙った場所に皇の姿はなく後ろの方に二つの気配を感じた。二人の安否を確認しつつ後ろを見てみると二人の怪物が立っていた。片方は皇獅郎、もう一人は白が基調の怪物だった。

 

「助かったぜ、危うく本当に負けるところだった」

「君は強いけど慢心は感心しないねぇ」

「お前は……?」

「おっと失礼。私は井坂深紅郎、『whether』のメモリを使っている者だ。そして今日は代表して名乗りを挙げにきた」

「名乗り……?」

 

 白い男は天に指を突き、高らかに声を上げた。

 

「園崎の代理としてここに告げる!我々園崎は我らが技術を使い、世界を我らの手中に収める!!」

「はぁ!?」

「ガイアメモリを使い、我らがこの世界の頂点に立つ!さぁ立ちはだかってみるがいい!名護だろうが弦巻だろうが我らの進軍を止めるのであれば容赦はしない!!全力を持って叩きのめしてくれよう!!!」

 

 目の前の男たちの言っていることはこうだ。世界征服を開始する。邪魔するものは全て排除する。

 普通の人が聞いたら一瞬では理解できないであろう。何より僕は理解できない。いや、理解したくないのだ。でも目の前の男たちの力を見る限り嘘ではないだろう。

 

「アンタら何言ってるんだ!?」

「世界を敵に回す、ってことでいいんだよな?」

「今の世界を壊し、我々が新しき世界を創生するのだ」

「本気……なのか?」

「本気も何もこれから始めていく。すでにここにあるように準備は出来ている。余興は終わり、本番が始まる」

 

 彼らは不敵に笑い、宣戦布告をした。これからとんでもない戦いが始まる。人が、人を恐怖で支配する世界を作ろうとしている。

 

「そんなことさせない。僕が、僕たちがその理想を破壊する!」

「そうッスね。お前らをぶっ倒して笑顔の世界を作り上げる!」

「ああ。お前らから世界を守ってやる。そして獅郎、俺はお前をぶっ殺す」

 

 皇はブレードを肩にかけて顎を上げている。睨み合うような状態がしばらく続くと井坂と名乗った男は手を広げるようにして静寂を引き裂いた。

 

「まぁ今日は宣戦布告だけしてこいと言われたから帰るとしようか」

「なっ!」

「それではまた会おう諸君。さらばだ」

 

 井坂は雲のようなものを作り出し、皇と共に姿を眩ませる。快斗君が煙を晴らすとその場には誰もいなかった。僕たちは変身を解除し、今回の状況を話し合う。

 

「これから戦争が始まるんすかね」

「戦争というよりかは対世界征服みたいな感じだけどな」

「確かにね。けど悪いことだけじゃないんじゃない?」

「え?」

「まぁな」

「だって快斗君が戻ってきてくれたんだし、戦力は申し分ないよ」

「新一さん……」

「改めておかえり、快斗君」

「た、ただいまっす」

「うわぁ、家出した息子が帰ってきたみたいだ」

「テメェ!」

「ま、よく戻ってきたってことだけは言っといてやる」

「お、おう」

 

 快斗君は照れたのか背中を見せてくる。

 

「じゃ、あとは弦巻家に報告して状況整理だね」

「その前にやることあるだろ」

 

 やること?報告が先だと思うけど………

 

「新一の特売の買い物行くぞ。快斗、お前荷物持ちな」

「は!?」

「迷惑かけたんだ、それくらいやれ」

「新一さんの荷物くらいなら持ってやるわ」

「ほら行くぞ新一」

「う、うん!」

 

 久しぶりに私情で三人で行動したが、前の時よりもはるかに楽しかった。




次回でこの章終わる予定です。


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最終夏 始まり

今回で第三章終わります!


「当主、連れて参りました」

「下がれ」

「はっ」

 

 現在僕たちライダーズは弦巻家に連れてこられています。勿論さっきまでスーパーにいました。欲しかった特売品は全て手に入れ、今日の晩御飯の物なども全部買って帰ろうとしたところでした。スーパーを出た瞬間黒いリムジンに乗せられ現状に至ります。そしてここにくるとほとんど考えてしまうのですが弦巻の当主って出番ちょいちょいありますよね。

 

「名護新一君、鳴海京君、よくきてくれたな」

「まさかこの人が弦巻家代表か?」

「その通りだ」

「マジかよ………」

「当主様、我々を呼び出したのはやはり」

「ああ、園崎家の動向だ。宣戦布告をされた限り我々は世界を守らなければならない。そして一番の適役である君達にその役目をお願いしたい」

「僕は本来の仕事がありますので基本的にそちら優先でも構いませんでしょうか?勿論ファンガイアやドーパントは倒しますが」

「構わない。戦ってくれるならそれだけで十分だ」

「報酬は?」

「君達が望むものを可能な限り用意しよう。何、これでも我々は世界を滑る者だ。無理難題じゃない限りは可能だ」

「そうか、だが俺は獅郎を殺すためにライダーになった。だから獅郎が出て来れば俺はすぐに外れる。それでも良いなら協力する」

「お前、当主に向かってなんて口を!」

「いい、あくまでこちらはお願いをする側だ。君の言いたいことは分かった。お願い、いやこの場合は依頼すると言ったら良いのか、探偵」

「流石は弦巻だな。その依頼受け取ったぜ」

「こちらも依頼する側として協力をさせて貰おう。ここにある練習場なども好きにするといい。情報提供も惜しまずやることを約束する。それでいいかね」

 

 本来の仕事の幅が少しばかり大きくなった程度だと思いたいところだが実際はとてつもなく強大な組織を相手にすることになっている。だがやる事は大して変わらない。お嬢様の生活に害をなす者は全て排除する。たったそれだけだ。各々が了承し、戦闘に対する方針は定まった。

 

「よし、ならば今日は解散だ。期待している」

「あの、当主」

「なんだ?」

「俺はこれからどうなるのですか?」

「何故だ?」

「俺は暫くの間無断で欠勤していました。その分の罰は免れられるものではないと」

「無断欠勤?お前は潜入捜査をしていたんだろう?」

「…!」

「その間に何があろうが娘を守っている。タスクをこなしているのだから問題は無いはずだが」

「…失礼しました。お先に失礼します」

 

 そう言うと快斗君は一礼してから部屋を出て行った。彼の背中を見送った僕達は改めて当主の方向を見る。今日に限っては人が多いためか顔出しはNGらしく顔ははっきりとは見えない。

 

「名護君鳴海君、快斗のこと感謝する」

「何もしてねぇよ、アイツが変わったんだ」

「はい、僕達は何もしていませんので」

 

 僕たちも快斗君を追いかけるよう一礼をして部屋を後にする。部屋を出ると広い廊下を目の当たりにする。夏故に外は暑いのだがこの廊下は冷房が効いているのか肌に心地よい涼しさだった。

 

「さぁて夏休みももう終わるのか」

「そうだね。宿題ちゃんとやった?」

「そんなことよりうな重食おうぜ!」

「土用の丑はもう終わってるよ」

「ちっ、あと少しで終わるっての」

「なら良かった」

「あの、新一さん」

 

 後ろの方を見てみると快斗君の姿があった。何やら気まずそうな顏をしている。

 

「どうしたの?」

「本当にすみませんでした。力の意味をちゃんと教えてくれてたのにずっと失礼なこと言ってて……」

「さっきも言ったけど、君が今ここにいるって事はきちんと理解してくれたってことだと思うから大丈夫。それだけ伝われば僕は十分だよ」

「ありがとうございます……!」

「俺に言うことはねぇのかよ」

「あ、あぁ、ありがと」

「それだけかよ!」

「…感謝はしてる」

「へっ、素直じゃねぇの」

「まぁまぁ。結果的に良かったじゃん、快斗君も戻ってきたんだし」

「じゃ、これからもよろしくお願いします!」

 

 さっきまでの気まずそうな表情とは違いいつもの笑顔になった。やはり彼は笑っている時の方がいい。その方が無邪気さが出て安心する。

 

「新一これからどうすんだ?」

「さっき買ったもの冷蔵庫に……ってどうしよ、買ったものそのままだよ冷蔵庫に入れてないよ!?」

「ご安心下さい、全てこちらにございます」

 

 やばいやばいと焦っていると黒服の人が出てきて荷物の袋を持ってくれている。中身を確認すると買ったものがきちんと入っていた。お礼を告げると社交辞令を交わしてその場を去っていく。話のキリも良かったのでその場で解散し、それぞれ帰宅していった。といっても僕と快斗君は仕事に戻るといっても過言ではなかった。一度家に戻るとちょうど家を出るタイミングだったのか玄関でお嬢様と鉢合わせとなった。すぐに追いかけると伝えるとすぐなら待つと言われ、急いで準備を行い玄関に戻って家を出た。その後はいつも通りの光景だった。練習の合間時間になって水を飲んでいるとあこちゃんが駆け足で寄ってくる。

 

「新兄、新兄」

「どうしたのあこちゃん」

「リサ姉のプレゼント決まった?」

「まぁまぁ……かな?」

「よかった!またあとで話があるから!」

 

 などと言いつ、考えていなかった。前前々回あたりに考えておかなきゃとかいってたのに考えてなかった。というか女の子にプレゼント自体渡したことないや。……いや、同僚の人とかには渡したことあるよ?任務先で何か買って渡すぐらいは。けど最近の女子は何が欲しいかわからない。となるとどうするべきだ?ネットで調べても多分多いだろうし、ジャンルごとに分かれているだろうから多分迷いはする………あ、そうだ。こんな時のための彼じゃないか!そう思い立てた僕はポケットからスマホを取り出してとある人に連絡を取る。

 

『女の子に誕生日プレゼントあげるとしたらどんなのが良いと思う?』

『は?急にどうした?』

『実はリサの誕生日があと少しで来るんだよ』

『なるほどな。いっその事自分がプレゼント~なんてどうだ?』

 

 つまり欲しいものが判らなければ本人に委ねる形にすれば良いということか!流石は京君、頭が良いな。

 

『それもありかもしれないね。ありがとう、参考になったよ』

『え、ま?』

 

 最後のメッセージは多分生返事的なものだろうと思いスマホを切ってポケットの中にしまう。よし、ならあとは当日に本人に伝えるだけだ。

 練習は再開され、時間が過ぎていくと解散になった。練習の後リサはまたバイトで先に帰っていった。残った五人で話し合いを始めていく。といっても話す内容はプレゼントは手に入れたかなどの確認時事項なので特にこれといったことは無かった。そして話し合いの最中に気づいたのは誕生日本番は明日だということだ。さっき準備できて本当によかった。焦って変なもの渡したら大変なことになっていただろうからね

 

「じゃあ明日の練習後皆で一気にプレゼントを渡す形でよろしいですね?」

「はい!」

「あ、あの…」

「どうかしたの燐子」

「もし……良ければ……一緒に……パーティーなんて、どうでしょうか?」

「それはいいかもしれませんが、どこでやるんですか?」

「それならそのままスタジオでやればいいんじゃないですか?」

「予約が入ってるかもしれないわよ?」

「大丈夫だよー」

 

 声のする方向を確認するとまりなさんがこっちに手を振っていた。どうやら事情は聞いていたらしく既に確認していてくれたらしい。少し話し合い、貸していただくことにした僕たちは礼を言ってその場から離れる。パーティー用のグッズとかは簡易なものであるが僕が用意することになった。確認事項も全て終わったので今日はここで解散となった。それぞれは(今度はちゃんと)帰宅していった。僕たちは家に着くと僕は家事をし、お嬢様は自室へ戻っていった。そしていつも通りに夜ご飯を済ませ、残った家事を終わらせると今日は終わった。

 翌日となり、準備を済ませてcircleへ向かう。今日も暑いですねなどと声をかけるとそうねと返事が返ってくる。最初の頃に比べたら反応が豊かになったものだなと今に思う。今日は午前中から行い昼の三時まで練習するといったスケジュールだ。お昼休憩が終わった辺りから僕は外に出る。一瞬向かっている方向にファンガイアの反応があったが京君がすぐに撲滅したとのことで気にせずスーパーに向かった。小さめのクラッカー、500mlサイズの飲み物、あとは軽く摘めるお菓子があれば十分かな?すぐに買い物を終わらせてcircleに向かっていく。イクサリオンを使えばすぐに着くし風も気持ちいいのだろうが今日は帰りにお嬢様もいるので使っている余裕はない。本音を言うと二人乗りに自信がないのといざとなった時危険に晒したくない。

 さぁ、そんなことを考えているうちにcircleに着いた。時間を見るとあと十分で練習は終わるのでナイスタイミングと言ったところか。袋の中身が見えないようにしつつ部屋に入っていく。すでに掃除は始まっておりすぐに手伝いに入る。掃除が終わると次の練習の予定を組み立て始める。ライブも控えているため無理はしすぎないようにとのことだ。その連絡が終わると帰ろうかとリサが席を立つ。その瞬間にクラッカーの音が鳴り響く。

 

「「「「「リサ(姉)(今井さん)

    誕生日おめでとう(ございます)」」」」」

 

 掃除の時にこっそり渡していたおかげで順調にやることができた。クラッカーを受けたリサは驚いた表情のままこっちを見渡している。

 

「え、皆用意してくれてたの?」

「祝うという点では発案者は宇田川さんですが、パーティーという点では白金さんがです」

「あこ、燐子本当?」

「うん、リサ姉なら絶対喜んでくれると思って!」

「普段…お世話になってますし……」

「そんなことないよ〜けどありがとうね、三人も」

「じゃあプレゼント出しちゃいましょ!」

 

 皆が皆リサにプレゼントを渡していくと照れたように受け取っていく。どうやら順調に事が進んでいるようだ。これなら僕もプレゼントも問題ないかな。

 

「最後新兄だよ!」

「う、うん」

「新一は何をくれるの?」

「プレゼント、考えたんだけど物じゃどうすればいいか分からないから僕にしたよ」

「………え?」

 

 スタジオ内に沈黙が走った。あれ?僕何か間違えたこと言ったかな?京君が言ってたことをそのままやってるはずなんだけど………どうしてだろう、紗夜さんは何かゲテモノを見たような目で見てくるし、あこちゃんは理解が出来ていないみたいだ。りんりんは混乱しているしお嬢様は無表情のままだ。よかった。お嬢様は理解出来ているみたいだ。でも渡された当人は顔を真っ赤にしているんだよな…。

 

「え、えっと新一さん。それはどういう意味?」

「簡単にいうと僕になんでもお願い出来る券」

「そ、そうだよねー(焦ったー!!!///)」

「あ、でも」

「で、でも!?」

「僕が出来る範囲ね。お嬢様に許可を得なきゃいけないかもしれないし」

「わ、わかった///」

 

 どうやら解決できたらしい。何故か二人ほどため息をついている人がいるが一体どうしたのだろうか。因みにこの後は何事もなく進んでいき、リサは喜んでいた。この後はいつも通りの日常だった。

 これから始まることはきっと生半可なものじゃない。そして何か胸騒ぎがしている気がする。そんな不安を片隅に、僕たちの夏休みは終わりを告げた。




次は今回が少し長めだったので幕間に入ります!


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幕間Ⅱ
第一話 新学期


幕間、入りまーす!
二学期の初めって色々ありますよね


 八月が終わり、新学期が始まった。夏休みが終わると垢抜けた人が出るというけどそれは本当のことらしい。クラスのあちこちを見ると真面目だった人がメイクをしていたり、ギャルと呼ばれてた人が真面目な感じに戻ってたりしている。一体何があったか気になるところではあるけど放っておこう。HRが始まろうとする直前に京君が教室に入ってくる。どうやら寝坊したらしい。因みに寝坊の原因は宿題を一つ完全に忘れていたのだとか。おかげで少し眠そうにしていた。

 チャイムが鳴り、HRが始まった。今日の日程は始業式、宿題の提出、LHRとのことだ。隣で面倒くせぇとか呟いている人がいるけど気にしないでおこう。HRが終わり講堂へ移動する。学校での時間が執事の仕事を半分くらい忘れられる時間だ。その代わり目はいつも以上に光らせなきゃいけない。いくら学校と言えど絶対的安全の保証はないのだ。何かが来たときのために気を抜かないようにしなければならない。ただ、前に気を張っていたら京君に顔が怖いと揶揄われたのである程度に済ませるようにしている。そんなことを片隅に講堂での始業式を受け教室に戻る。席に着くと担任が来るまで暇になるので皆雑談タイムになる。

 

「なぁ新一~始業式とかオンラインでよくね?」

「確かにその方が人口密度による気温上昇は避けられるね」

「そこまで考えてなかったわ。ただ単に面倒かっただけ」

「君ね……」

「はーい皆さん宿題集めるんですがその前に報告があります」

 

 報告?HRの最中に宿題を集めるとは言っていたけど他にもやることが増えたのだろうか?

 

「皆さんに転校生を紹介します!一人は一学期の最中に来る予定だったんですけど諸事情があって今日来ます。もう一人は今日から入る子です」

 

 京君と同じタイミングの人と新しく来る人か。どちらにせよクラスメイトなら仲良くなれると良いな。担任がどうぞーと言うと前のドアが開かれて女の子がが入ってくる。制服が間に合ってないのかいつもは見ないような制服だった。ここは元々女子校だし女子が入ってくるのは当然と言えば当然か。髪はどちらも黒色でロングと二つ結び。顔を見てみると信じられなかった。むしろ二度見してしまったくらいだ。何故か知ってる顔が二つある。

 

「自己紹介お願いします」

「切姫夜架です、よろしくお願いします」

「春川魔姫……よろしく」

 

 名前を聞いた瞬間クラス中が盛り上がった。可愛いだの綺麗だのお人形さんみたいだの声が上がっている。ただそれとは真逆に僕はゾッとした。倒れはしないが正直驚いている。何故彼女らがこんな所にいるんだ?信じられなさ過ぎて頭が痛い。

 

「どうした新一?顏が真っ青だぞ」

「大丈夫、問題ない」

「新一!?どこに居らっしゃるんですか!?」

 

 夜架ちゃんが僕の事を探し始める。一瞬どうしようかと思ったが念の為いつも持ち歩いている特殊眼鏡(第三章第一夏参照)を掛けて誤魔化すことにした。いくら彼女らでも眼鏡を掛けていないイメージのせいで僕だということはバレないだろう。

 

「いましたわ!ある………新ー様ー!」

 

 何故バレた?一瞬で変装したのに?それにその呼び方何?一瞬『主様』って言おうとしたよね?

 

「今行きますー!」

「コラ、皆困ってるでしょ」

「えっと…お二人は名護さんのお知り合いですか?」

「まぁ……」

「じゃあすぐに馴染めそうですね。お二人の席はあっちです」

 

 二人は支持された方向に歩いていく。片方は腕を引っ張られながらだが。彼女らが席に着くまで教室はざわざわしていた。なんで新学期早々こんなことになってるんだ?高校生活ってこんなにも大変なものなの?

 

「じゃあ皆さん宿題集めますよー」

 

 皆何事も無かったかのように宿題を提出し始める。課題は持ってきているが持って行く気力が湧かない。

 

「では私が持っていきます」

「いやいや、それは流石に……なんでこっちにいるの!?」

 

 いつの間にか夜架ちゃんが僕の机に顔と腕を置いている。気配を感じ取れなかったところからやはり彼女は本物だと思われる。

 切姫夜架───名護家の暗殺部隊の一人。別名『漆黒の夜剣(ナイトメア)』。夜闇の暗殺での成功率は100%。一度たりとも失敗したことのない暗殺の天才。オッドアイの彼女の目、更にはその妖艶な笑みは何者の心を奪うとのことだ。暗殺の技術も教え込まれた時に一緒にいたがその時から彼女はこんな感じだ。因みに今は橋本さんの直属の部隊にいるはずなのだが………。

 

「だって新様のお荷物を運べるなんて滅多にないではないですか」

「そんなこと知らないよ」

「そんな!新様のせいでこんな体になってしまったのに……よよよ」

「新一、一体何したんだ?」

「何もしてないよ」

「ふーん、お、呼ばれたみたいだぞ。ついでに俺のも出してきてくれ」

「本来なら断りたいところだけど今日は多めに見てあげるよ」

「サンキュー」

 

 京君の宿題を受け取って僕は教壇に届けにいく。その際に担任に「どういう関係ですか」と聞かれたが正直なことは答えられなかった。だから適当にただの知り合いですよと答えると何故かクスクス笑っていた。なぜ笑っていたか不思議に思いながら席に戻ると夜架が僕の席に座って京君と談笑していた。

 

「何してんの?」

「いや何、コイツ本当にお前のことよく知ってんだな」

「当たり前です。新様が小学生の頃からいましたから」

「あの頃はそんなに話したことないけどね」

「たとえ少ない時間でも新様といた時間は忘れられませんわ」

 

 そう言いながら何故か下腹部に手を当てている。周りの女子が何故か顏を赤らめて反応しているが一体どういうことだ?

 

「新一お前、まさかコイツにガキを孕ませたのか?」

「そんなことしてないよ!」

「コイツの反応明らかにそうだぞ。愛人に子を孕ませてもらったような顔してるしよ」

「あの時は本当に嬉しかったですわ。新様が自分から言ってくださって……」

「言ってない言ってない!変な妄想しないで!ってまさか皆信じてたりしてないよね!?」

 

 周りを見ると皆正面に姿勢を戻す。え?まさか濡れ衣着せられたりしてる?信用も落ちてない?ジェットコースター並みに。終わったかもしれないと思い始めた瞬間後ろから京君の笑い声が聞こえ始める。夜架ちゃんもクスクス笑っているようでそれを見た瞬間全てを理解した。おそらく揶揄われたのだ。

 

「ハハハwww面白すぎるだろwww」

「ああ、顏を真っ赤にしている新様も愛おしい」

「二人ともあとでお灸を据えようか」

「あ、はい、スミマセン」

「新様直々にしていただけるのなら私は構いませんわぁ。いっそのことその勢いでこの体をむちゃくt(へぶっ」

 

 言葉が切れたかと思うと夜架が頭を叩かれていた。その後ろには魔姫ちゃんがいた。呆れたような目で夜架を見ている。すぐにこちらに向き直し会釈をしてくる。

 

「ごめんなさい、今度からコイツに首輪つけておくから」

「魔姫ちゃん、私新様以外からそういうのをもらう趣味はないわ」

「僕でも付けようとは思わないけどね。ありがとう魔姫ちゃん。厳しくするのはいいけどあまり酷くしちゃダメだよ?」

「アンタは甘すぎるのよ」

 

 春川魔姫────別名『春姫(プリンセス)』の名を持つ暗殺者。この娘も名護家の暗殺者だ。出会った敵は必ず仕留める程の腕を持つ。桜の花が散るように舞いながら仕事をする姿から春姫の名前がつけられたらしい。因みにこの娘も暗殺の技術を教わった時にいた。夜架ちゃんと魔姫ちゃんはどちらも僕が向こうに着いた時から一緒にいた。途中から僕は移動したので任務中でしか会うことはなかった。そんな彼女は夜架ちゃんが暴走した時のストッパーにもなっている。暴走と言っても現状のような状態を指すのだが。

 しかし、こんな日常とはかけ離れている二人がどうして学校(こんなところ)にいるのかが不思議でしょうがない。不思議に思っていると魔姫ちゃんが手紙を渡してくる。担任が席に着くよう指示すると二人は帰っていく。それからは担任から新学期にあたっての説明をされる。言っていることは始業式とほぼ同じなので手紙を見ることにした。手紙の内容は『空いている時間はあるか?』ということだけだった。右下の方には名前と一緒にメールアドレスまで書いてある。念のため本人の方を見てみるとこっちを向くことはなかった。ただ退屈そうに担任の話を聞いていた。仕方ないので手紙をしまって話を聞くことにした。

 

「ということで皆さん二学期も頑張っていきましょう。ではLHRなんですが、三週間後に行われる文化祭の出し物を決めたいと思います。できれば配役まで決めてくれると後々楽になりますよー」

 

 あとは学級委員に任せたということで担任は教室を出ていく。どうやらまだ仕事があるらしい。学級委員の二人が出てくると話し合いが始まった。希望のある人は手を上げるよう促すとクラス中からワイワイ声が上がる。皆さっきまでめんどくさそうにしてたのに元気だなと思う。

 

「メイド喫茶がいいー」

「いやチャイナ喫茶を希望するわ!」

「和服喫茶でしょ!!」

 

 いや皆喫茶店好きすぎでしょ。もう少し無いの?お化け屋敷とかさ。

 

「縁日とかやりたいです」

「お化け屋敷やりたいー!」

「タピオカ店とかいいなー」

 

 やっとまともなの出てきたなと思い始めた時に京君から声をかけられる。

 

「新一はやりたいものねぇの?」

「実は去年チェキを一緒に撮ろう的なのやってたんだけど僕は参加してないんだよね」

「仕事か?」

「まぁね。お嬢様が熱出しちゃって」

「じゃあ今年は出れるといいな」

「そうだね」

 

 そろそろ出るものも無くなってきたことを委員の二人が確認すると元気のいい声が聞こえてくる。その娘は立ち上がるととんでもないことを言い始めた。

 

「新様を崇められる飲食店がいいと思いますわ!」

 

 何をいってるんだあの娘は。

 

「皆さんもお気づきでしょうが新様はとてもカッコいいお方ですわ。私なんか彼の方を見ているだけでご飯三杯はいけますもの」

 

 また暴走し始めたかと頭を痛めると複数の方向から「確かに」という声がポツポツと聞こえ始める。皆して何を言っているのだろう。悪ノリも大概にしないとろくなこと起きないよ?

 

「このクラスには新様がいらっしゃいます。その味を、魅力を最大限活かすためにはやはり新様を表に出す他ございませんでしょう!」

『確かに』

「確かにじゃないよ皆!?」

「鳴海君は?鳴海君のファンだってこの学校にはたくさんいるよ?」

「では鳴海さんも表に出し、飲食店を開きましょう!そして私たちの楽園を開くのです!」

 

 その言葉にクラス(ほぼ)一同がその意見に賛成した。歓声は響き正直耳が痛かった。だけど僕たちはそれ以上に信じられなかった。僕達が主役のカフェ?僕ってどちらかと言うと厨房に立つ側の人間なんだけど。京君に関してはさっきから口を開いたままで動かないし。なんでこんな事になったんだろう………

 時間は経ち、あっという間に学校は終わった。結局出し物僕達メインのカフェになった。メニューとかは今度決められるらしい。今は家にいるが正直学校のことは考えたくなくなってきた。始業式ということもあって今日のお昼ご飯は家で作ることになっていた。まだ外は暑かったので冷やし中華にしようと今作っている。ちょうど出来上がった時、呼び鈴が鳴り響く。急いで出て行こうとするとお嬢様が既に扉が開けていた。誰だろうかと外を見てみると転校して来た二人がいた。

 

「隣に越してきた者です。よろしくお願いします」

「すみません、隣には今井さんのお宅があるのでそちらではないでしょうか」

「いえ、今井さんのお宅とは反対側に越してきたのですわ」

「………」

「新一、上がって貰いなさい」

「まぁ、いいのですか?」

「ちょっと夜架」

「よろしいのですか?お嬢様」

「ええ、話したいこともあるし。貴女達お昼はまだでしょう?」

「ご馳走していただけるんですの!?」

「流石にそれはまずいんじゃ………」

「問題ないわ、作るのは新一だもの」

 

 それはそうですけどね?この人達一般人じゃないですよ?裏ではとんでもない人たちですよ?

 

「新様のエプロン姿……色々とご馳走様ですわハァハァ」

「それはもうお腹いっぱいということかしら」

「ご馳走はいただきますわ!」

「いいんですか?」

「ええ、構わないわ。新一、二人の分も用意できるかしら」

「材料はまだありますので可能ですが、本当によろしいのですか?」

 

 質問を受け流すように答えながらお嬢様はリビングに戻っていく。お嬢様が決めたことなら仕方ないと僕も台所へと戻っていく。食卓についた彼女らは何やら雑談しているようなので僕は料理に集中し始めた。



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第二話 二人の目的

 彼女らをリビングに招いて席について貰う。普段ならこんなことはしないはずなのにどうしたのかしら。私自身信じられない。聞きたいことがあると思ったのに何も浮かんでこない。

 

「そういえばですけどまだお名前を聞いていませんでした」

「湊友希那よ」

「新様とどのような関係なのですか?」

「主従…のようなものよ」

 

 お父さんが勝手に決めたものだけど。 

 

「新様!私がいながらどうして!?」

「落ち着きなさい。大体の事情は知ってるでしょ」

 

 目の前で漫才でも見せられているようだ。それになんで事情を知っているのかしら?既に新一から伝えられていた……とか。

 

「貴女たちこそ新一とどういう関係なの?」

「そうね、たまたま同じ場所に居ただけよ」

「同じ場所にいた?」

「申し訳ないけど、私達自分達の過去を掘り返されるの好きじゃないの」

「それは申し訳なかったわ」

「いいえ、言わなかった私たちが悪いんですわ。それで新様はここ数年一体どんな暮らしをしているのですか?」

 

 聞かれたことを私は話していく。でも話す内容なんて殆ど無かった。新一は私の執事となり、家事全般や勉強を教える、なんてくらいしか教えられなかったからだ。近くにいるのに知らないことだらけだった。でも気になった事が出てきた。

 

「ねぇ、貴女たちは過去の新一を知っているのよね?」

「勿論ですわ。それはもう何から何まで「知らないでしょ」まぁ冗談ですがある程度は知っていますわ」

 

 夜架と呼ばれている人が答え始めた。この人は真面目に答える気があるのか無いのかがわかりづらいところがある。それでも構わず聞きに行く。

 

「どういう人だったの?」

「その前に湊…さんはアイツの過去を知っているの?」

「知らないわ。あと言いづらかったら呼び捨てで構わないわ」

「ありがとう。じゃあ私は言う気にならないわ」

「どうして?」

「アイツだって勝手に過去を話されるのは嫌でしょ」

「それもそうね…」

「でも魔姫ちゃん、少しくらいは話して良いんじゃない?」

「少しって?」

「どんな人だった程度だったら問題は無いんじゃないの?」

「ふん、私からすれば気に食わない奴よ」

 

 少し考えるかと思いきやすぐに答えが出た。その言葉を聞いて新一の方を見ると微妙な顏をしている。

 

「気に食わない?」

「ええ、私達よりあとから来たくせに簡単に私達を越えていったんだもの」

「確かに新様は私達の中で天才の類でしたわね」

「天才……?」

「やらせること何でもすぐに出来ちゃうのよ」

 

 そういえば彼が物事で苦手そうにしているところは殆ど見たこと無い。

 

「おかげで私達はすぐに追い抜かされて……あぁ、あの時の冷ややかで汚物を見るような目は今でも忘れられませんわ」

「そんな目したこと無いよ!?」

「冗談ですわ。けどあの頃もでしたが、お優しくなりましたね」

「急にどうしたの?夜架ちゃんがそんなこと言うなんて……」

「酷いですわ全く。ですがあの頃は本当にお世話になりました。私達に優しく接してくださり、わからないところなどきちんと教えて頂き本当に助かりました」

「ちょ、夜架ちゃん」

 

 食事を運んできた新一は慌てるようにしている。それから食事をしながらいろんなことを聞いた。でも何故かそこには真実が隠されているような感じがした。嘘はついていない。けど何か隠されている感じがする。

 

「今日はありがとうございました。この御礼はいつか。また学校で」

「いいえ、こちらこそありがとう」

 

 貴方の過去、まだわかっていないけど少しだけ近づけた気がする。けれどどうしてだろう。間に大きな壁がある気がしてならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が帰ったあとはいつもと変わらなかった。けど深夜になってそれは覆された。布団に入ろうとした瞬間だった。直感だが住人ではない誰かがこの家の敷地内にいる。簡易装備を身に纏って窓から屋根に登る。屋根から見渡しても誰もいなかった。気のせいかと屋根を降りようとした瞬間、後ろから気配を感じて小刀を構えた。咄嗟の構えが正解だったのか相手の刃と交わり互いに距離を取ることになった。顏を伺ってみると昼間に見た顏だった。長い黒髪に紫と蒼のオッドアイ、切姫夜架だ。

 

「ちょっとお遊びしては過ぎるんじゃないかな?」

「フフッ」

 

 彼女が笑ったかと思うと後ろから風を感じる。まるで桜吹雪のような風の感覚。僕はしゃがんでから彼女の顔に向けてコンテンダーを構えた。うん、警戒していてよかった。夜の奇襲は一人とは限らない、複数の敵を相手に出来るようにしておけ。この教えがあって本当に助かったよ。

 

「後ろ、がら空きだと思った?」

「やっぱりアンタのこういうとこ気に食わないわね」

「これ以上は洒落にならないけど、やる?」

「いいえ、私達なりに新様の腕が落ちてないか見たかったんですわ」

「なるほど。だから君達の得意な奇襲なわけだ」

「まぁそれも失敗に終わったけどね」

 

 互いに敵意がないことがわかると全員刃を懐に収める。ずっと立ってると疲れるので皆屋根に座る。

 

「本題を聞こうか」

「当主様の命令で私達はここにいる。任務などで席を外すことは多々あるだろうけど、本来の任務は通信役」

「通信役?」

「ええ、新様と当主様の連絡のためのパイプですわ」

 

 おそらく園崎のことや僕の使ってるイクサシステムのことなどについてだろう。どうやら本格的にバックアップに回ってくれるようだ。すると魔姫ちゃんから紙を渡される。内容を読んでみると夏休みに霧切さんから送られて来たやつと内容はほぼ同じだった。違ったのはもう一枚の紙に『こっちが本当のサプライズだ』と書かれていた。

 

「なるほどね。全く、手荒な歓迎だね」

「フフ、でも新様と遊べて楽しかったですわ」

「はいはい、事情はわかった。じゃあこれからはクラスメイトとして、仕事の仲間としてよろしく」

 

 別れの挨拶を告げると夜架ちゃんがなんかくねくねしてきたが魔姫ちゃんに首根っこ掴まれて隣の家へと帰っていった。その姿を見て中身はさして変わっていないことを確認すると僕も家に入っていく。夏は終わっているが今日の夜は暑かった上に激しい運動をしたのでシャワーを浴びて寝ることにした。

 翌日、あまり寝れずに登校すると眠そうな京君に声をかけられる。

 

「どうした新一、眠そうだな」

「ちょっと色々あってね」

「へー、で、今日何すんだっけ」

「本当は興味ないでしょ」

「バレたか」

「すぐわかるでしょ。あと今日は文化祭の役割分担と飾り付け作りだよ」

「よし、帰るわ」

「帰らせないよ」

「そんな、帰らせないなんて……新様は私の身に一体」

「夜架ちゃんお座り!」

「あぁ、そんな犬みたいな命令するなんて。ええ!新様がお望みなら私は犬にだってなります!」

 

 頼むからそれ以上僕の信頼を落とそうとするのは辞めてくれないかな。結局この事態は治らずにHRが始まり、時間は流れて役割分担となった。と言っても男達(僕達)の分担はほぼなく、交代時間を決める程度だった。それから料理部隊と接客部隊に分け、内装やお品書きを決める。しかし突然僕は料理部隊、京君は接客部隊に振り分けられた。そしてモチーフは何にするかという話になり、色々と出されたが結果として明治大正をモチーフにすることになった。だがメニューはある程度現在の物も入れるとのことで、あらかた物は決まった。最後に料理部隊の練習の時間の希望を取り、翌日以降の荷物の確認をして今日を終えた。

 また翌日、学校が始まるとすぐに行動は別れた。僕は料理部隊に着きメニューの品作りを始めた。品作りと言っても今日は皆に行程を教え込むだけだ。全員が配置に着き準備が整う。

 

「じゃあ皆さん本日はよろしくお願いします。とりあえず今日はオムライスを作ろうと思います。材料は既に用意してあるのでお気になさらないで下さい。料理は分量が命取りになりますので焦らず頑張っていきましょう!」

『はい!』

 

 わからなかったら聞くようにと促し、実習を始めていく。ただ皆料理が得意な人達が多い分スムーズに進んでいく。正直僕がいなくても良いような気がしてならないが気にしないでおこう。時間が過ぎて行くに連れて皆オムライスが完成していく。全員分キチンと美味しく出来ていたので今日はよしとすることにした。自分で作ったものを食べる者がいれば他の人とトレードする人もいた。僕のところに来た人も何人かいたがあいにく今日は指導に回っていて作っていなかったことを伝えるとがっかりした様子で帰っていった。でもそんな中作ったものをトレード以外の目的で持ってきた女子がいた。

 

「新一、食べてもらえる?」

「真姫ちゃん。でも僕作ってないよ」

「いいの、半分食べて。私料理したことないから……具材はしっかり切れているはずだけど」

「わかったよ」

 

 それはそうだよね。あんな環境にいたら食堂部隊にいない限り作ることなんてそうそうないよな。スプーンを貰って半分に切り分けて皿に移す。うん、きちんとレシピ通りに作れているからか見た目の方はしっかりしている。味の方はどうなっているだろうか。少しばかり胸を躍らせながらいただきますといってオムライスを口の中に運ぶ。予想通りの味だ。ちゃんとできてて美味しい。

 

「どう?」

「美味しいよ。ちゃんと作れてる」

「本当……?」

「うん、魔姫ちゃんマニュアル通りにやるの苦手なのによく頑張ったね」

「一言多いのよ!」

 

 このやりとりを聞いたのか他の女子たちも僕の元へ本来のオムライスの一部を持ってやってくる。拒否することもできないので全部食べることにした。流石に十何人分のオムライスを食べるのは大変だった。教室に帰る頃にはお腹の中が重く感じた。どっかでこのカロリーを消費しなきゃ……。

 

「アンタ大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、これくらい平気だよ」

「そうには見えないんだけど」

「新一ー!どうかしたのー?」

「リサ。こんなところでなんて奇遇だね」

「うちのクラス劇やるんだけど今その休憩中で……ってその子は?」

「先日転校してきた春川魔姫よ」

「あ〜噂の転校生の!アタシ、今井リサ。よろしくね♪」

「ええ、よろしく」

「二人はどういう関係?」

「「ただの知り合い」」

「息ぴったりじゃん」

「「たまたま(だ)よ」」

 

 僕達は顏を見合わせる。こんな偶然あるのだろうか。でもあったものはしょうがないと前を向き直すとリサが少し膨れた顔になっていた。

 

「どうしたのリサ?」

「えっ!?な、何が!?」

「いや、なんか怒ってるっぽいなーって」

「そ、そんなことないよ!あ、なんか呼ばれてるっぽいから行くね!」

 

 リサは急いで廊下を走って消えていってしまった。しかし何かあったのだろうか。何だろうねと魔姫ちゃんに聞こうとするとジト目でこっちを見てくる。何?と聞くと別にと返されて置いてかれた。仕方ないので考えるのを辞めて教室に帰ることにした。教室では飾り付の制作作業が行われていた。京君も嫌々ながらちゃんとやっているようだった。僕達もその作業を手伝いに入ると担任から男子の呼び出しが入る。どうやら文化祭で使う物の運び出しを手伝うらしい。職員室から講堂へ運ぶと任務完了した。ただ何を組み立てているのか気になって見ていると知らない女子から声をかけられる。

 

「名護さん、鳴海さん、お仕事お疲れ様です」

「お疲れ様です」

「お疲れ様。お前……どっかで見たような………?」

「覚えてくださってて光栄です。生徒会長の水面と申します」

「あー、生徒会長さんか。これは失礼した」

 

 知らないと思っていたがまさかの生徒会長だった。まだ人の顔を覚えきれてないところがあるから気をつけなきゃな………。

 

「いえいえ、楽になさって大丈夫ですよ。それより、気になるんですか?」

「これか?」

「はい」

「まぁ…気になりますね」

 

 確かに気になりはするよなと思いながら眺めていると生徒会長が笑顔のまま一枚の紙を差し出してくる。

 

「御二方、ステージに出てみませんか?」

 



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第三話 文化祭準備

最近書いてて思ったんですけど新一君誰かに似てんなぁって思ったら五十嵐大二に似てるなって思いました。

「どの辺が?」

従順なところ?

「まぁそこは共通点あるかもね……って、僕の中に悪魔はいないよ?」

それもそうだったわ。
それじゃあ本編どうぞ


「御二方、ステージに出てみませんか?」

 

 ………え?

 

「どういうことだ?」

「そのままの意味ですよ。校内で人気のお二人にステージに立って貰えば文化祭も成功に近づくと思うんです」

 

 そういうことか。なら突然誘ってきたことにも納得がいく。でもクラスの出し物の方にも出なきゃ行けないからな…。

 

「勿論強制という訳ではありません。それにお二人に立ってもらうのは後夜祭のステージですので出し物に影響することはほとんどないと思いますよ」

 

 なら問題ないかなと思いかけた瞬間京君の口が開かれた。

 

「ステージって何すんだよ」

「それはそちらで決めてもらって構いません。ダンスでも漫才でもバンドでもなんでも構いません」

「了解了解、ならペンを貸してくれ」

「あら、名護さんに許可を取らなくていいんですか?」

「ああ。どうせコイツも誘いに乗るつもりだっただろうしな」

 

 そう言いながら京君は僕の名前も紙に記入していく。どこまで思考を読んでいるかは知らないけど間違っていたらどうするつもりだったんだろう。まぁ結局参加するからいいんだけど。

 

「ではお二人は特別枠といたしますので他の人達とは別の形式で連絡を取らせていただきます。次の連絡までにやる項目を決めといて下さい」

 

 了解しましたというとよろしくお願いしますと会釈だけして会長は離れていった。しかし特別枠か。それはサプライズになるんだろうけど僕達が特別枠でいいのかな。

 

「そこに関しては問題ねぇだろ。お前人気あんだし」

「さっきから思考を読むのやめてもらえないかな?」

「嫌だ。探偵として活躍してない分ここでスキルを使う」

 

 全く、無駄なことを………

 

「無駄とはなんだ無駄とは」

 

 そこまで読むのか。でも文化祭まで時間もないしな。早めに項目を決めて練習に入りたいものだ。

 

「京君何やる?」

「あーそうだな、とりあえず漫才は無しだ」

「だね、僕達どっちかっていうとツッコミだしな」

「(いや、天然のお前を相手にするのが難しいんだが……)新一は何かしたくないのか?」

「文化祭のステージ発表っていうのを見たことないからどんなのやるべきかなって感じ」

「なるほど。じゃあ消去法で歌枠だな」

「バンドじゃなくて?」

「いや、俺ドラムしかできねぇし。歌いながらやるのキツイぜ?」

 

 それもそっか。というか京君ドラム出来たんだと聞くと大和さんと一緒にバイトしてた時に教えてもらったらしい。それから時折叩いているんだとか。結局歌うことになり曲もその勢いで決まっていった。話を聞いていると京君は女性曲が苦手らしい。もともと声が低いせいか女性並みの高さは出ないんだとか。ただたまに例外はあるらしく、それに合わせて決めていった。因みに本人曰く、「パスパレの曲は好きだが歌えない」とのことだ。

 それから歩いて教室に入ると僕たちはそれぞれ拘束された。犯人は教室の女性陣だ。いつの間にか背後を取られていた。女子故に無理矢理抜け出すことも出来ず体の自由を奪われる。そのまま引っ張られながら連れて行かれるとカーテンのついた簡易個室に入れられる。カーテンを閉められると内側についている紙を見つける。指示の内容はそこにある服を着てくれとのことで黙っていうことに従った。隣の方からは「はぁ!?」だのなんだの声が聞こえたがすぐに静まり返った。とりあえず服を取り出してみると見ただけでテンションが下がった。できればもう少し違うデザインにして欲しかったものだ。だがこれを着ないとおそらく自由は戻ってこない。幸いにも着方はほぼ変わらなかったのですぐにそれに着替える。そして付属品の帽子を被ってカーテンを開くとこっちを見てきた女子たちが騒ぎ出した。そしてスマホを取り出して写真を撮り始めた。あまり騒がないで欲しいものだけどね。

 

「名護君、すごい似合ってるよ」

「ありがとう、これは誰が作ったの?」

「うちのクラスの裁縫精鋭部隊が作ってきてくれたの!始業式の日に夜に女子のグループラインで相談しててね」

「なるほどな」

 

 後ろから声がすると思ったら着替え終わってた京君が腕を組みながら壁に寄りかかって呆れた顏をしていた。当然ながら女子のカメラはそっちにもいく。

 

「つまりメインの俺らにはこんな服が渡されるわけだ」

「勿論女子のもあるから大丈夫だよ。それとも二人とも女装の方が良かった?」

「「そんなこと微塵も思ってねぇ(ない)」!!」

「それにしても二人とも似合いすぎじゃない?名護君は着慣れてる感あるし」

 

 そんなことないよと言いつつ内心ではそんなことあると思う。だってこんな軍服みたいな服、数年前まで来てたからね。日常的に。他人からすればそんな光景は非日常だろうけど。そんなこと思いつつあたりを見回すとお嬢様の姿は見当たらなかった。たまたま席を外しているのだろうかと思うとカーテンの擦れる音が聞こえる。中から現れたのは和服姿をしたお嬢様だった。一瞬目を奪われてしまった。浴衣の時もそうだったがあまりそういう格好を好まない人なのにこういうのを着ると美しく仕上がってしまう。

 

「どうしたの?」

「いえ、とても綺麗だなと」

「そう」

「和服美人とはコイツのことか」

 

 京君の言葉を無視するようにお嬢様は着替えていいかとクラスメイトに聞いている。その瞬間またカーテンの擦れる音が聞こえる。そっちを見てみると今度は大和さんが個室から出てくる。

 

「や、やっと着替えられました…」

「おお麻弥、似合ってるじゃねぇか」

「ほ、ほんとですか!?フヘヘ」

「やっぱメガネ外してる方がいいと思うぜ」

 

 大和さんと京君が楽しそうに話しているのを横目で見つつ動きやすさを確認する。いくらこんな格好といえどきちんと動けなければ給仕もできやしないと思いいつつ腕を回してみると意外と動いた。飾りなど装飾品が結構ついている服だったが問題なく体を動かせる。装飾品も邪魔になっていない。

 

「ふふ、名護さんもビックリしているでしょう。何せその服は見た目だけでなく動きやすさも充実するように作ったからです!」

「確かに動きやすさ千%だよ」

「だってその方が仕事しやすいでしょうし、いざとなった時戦ってくれそうじゃないですか〜」

 

 いやこの場で戦うとしたらまず京君だと思うよ?公表してるの彼だけだし。チラリと暗殺者たちを見てみると片方は写真を撮ってるし片方は呆れ顔をしていた。というよりかは同情の眼差しだった。ていうか片方のカメラ音うるさいな!頭を押さえていると女子が一人寄ってくるのがわかる。

 

「どうかしましたか?」

「あ、あの、名護さん。これ、ちょっと読んでみてください」

 

 渡された紙を見てみると何やらセリフみたいなものが書かれていた。もう一度目線を直してみると今度は両手を合わせている。仕方ないのでそのセリフ通りにポーズを取って音読してみる。

 

「いらっしゃいませ、お嬢様」

 

 そう唱えた瞬間周りからドタバタと倒れる音が聞こえてきた。一体どういうことだと困惑していると京君が肩に手を乗せてくる。

 

「全くお前ってやつは」

「どういうこと?」

「あんなん今の格好のお前が言ったらこうなる事ぐらい分かるだろ。しかもそんな

いっらしゃいませ、お嬢様』なんて」

「待って待って、そんな格好つけてないんだけど」

「実際の破壊力はそれくらいなんじゃねぇの?知らんけど」

 

 またそうやって無責任なことを。向こうでまだ写真撮ってる人いるし。よく飽きないなぁ。状況が変わらないしとりあえず着替えようという話になって元の格好に戻る。そのまま教室にいても面倒な事になりそうなので教室を出ていく。他の教室の様子も見つつ廊下を歩いていると階段に差し掛かる。上の方から話し声がするなと思ったらAfterglowの皆がいた。何をしているのか聞いたところステージ発表のセットリストを決めていたらしい。

 

「お二人は何をしてたんですか?」

「ズル休み」

「鳴海先輩、名護先輩を巻き込まないで下さいよ」

「え、俺が悪いの?」

「いや、これには事情があって……」

「またまたそんなこと言っt」

 

 モカちゃんが笑うように言葉を発している最中、足を踏み外したのか階段から落ちてくる。咄嗟に手を伸ばしたのか蘭ちゃんも一緒に落ちてくる。やばいな。階段の踊り場から落ちてくるとなるとひどい怪我になりかねない。僕は両手を広げて受け止める姿勢を作る。幸いにも蘭ちゃんは抱えやすい位置とポーズだったので抱きしめるように抱え込む。横を見ると京君が既にモカちゃんの方を受け止めていた。これなら問題ないと思っていたのだがバランスを崩して背中を地面に向けて倒れる。

 

「大丈夫?」

「あ、ありがとう…ございます……///」

「無事ならよかった」

 

 結果として倒れることになってしまったが蘭ちゃんに怪我した様子はなく本当によかった。ふぅと安堵の息をしていると周りの視線が気になる。周りを見てみると何故かニヤニヤしてる人が二人いる。さっきまで同じような状態だったクセに。

 

「お前らいつまでその格好でいんだよ」

「エッ……あっ!///」

「蘭も大胆な子になったね〜憧れの先輩を押し倒すなんて」

「ちょっ、モカ!元はと言えばアンタが!」

「鳴海先輩もお得でしたね~美少女のモカちゃんを受け止めるなんて~」

「へいへい、そーですね。そんでもって新一は受けだったか」

「ふざけないの。事故だってわかってるでしょ」

 

 京君の方を見ると舌を出して誤魔化すように目を背ける。一方Afterglowの方はワイワイやってるみたいなので気をつけるよう注意喚起だけして場を離れた。時間も頃合いかと教室に戻ると皆キチンと作業に戻っていた。僕も作業の手伝いに入る。少しでもイメージ力を上げるために木造的にしたいとのことだ。それによって写真立てなどを作っているらしい。作業をしているとふと自分の指から血が出ているのに気付く。一応気を付けてやっていたものの油断していたのか、木の角で切っていたらしい。絆創膏を取り出そうとブレザーのポケットを漁ろうとすると腕を掴まれる。

 

「新様、どうされたんですか?」

「気にしなくて良いよ、ただのかすり傷だし」

「そういうわけにも参りませんわ」

 

 心配そうに声をかけてくれる夜架ちゃんはそのまま僕の指を自分の口の中に運んだ。

 ……いやちょっと待って。なんで僕の指を舐め始めてるの!?

 ただ声に出すわけにもいかず、黙って見逃すしかなかった。いや外そうとしたけどね?なんか掴んでる力強すぎて微動だに動こうとしないんだけど!?充分堪能したのか(?)腕を放して指が解放される。自分の指を見てみると唾液がまだねっとり纏わり付いている。

 

「新様の指、とても美味しゅうございました」

「あんまりこういうことしちゃ駄目だよ」

「心配してくださるのですか?」

「衛生面と周りの目をね」

 

 などと言いつつ指を拭いて作業に戻る。切った木材を組み立てていると必要な道具を夜架ちゃんが渡してくれる。こういう時は凄く役立つのになぁと思いながら作業していると話しかけてくる。

 

「あのですね、新様」

「どうしたの?」

「お腹の子供なんですけど」

「そんな記憶は無いから急いで病院行ってきて。勿論頭の方ね」

「そんなぁ。せっかく既成事実を作ってそのまま本番を迎えようとしたのに」

「何言ってるか分からないけど『なぐり』取って」

「嬲るんですか?新様にそんな趣味があろうとは……それでも私は新様の言うことなら……」

 

 等と巫山戯ながらちゃんとなぐりを取ってくれる。因みになぐりはトンカチのことだ。舞台用語などで使われる。つい最近京君に教えて貰ったが個人的にはこっちの方がしっくりくるのでこう呼ばせて貰ってる。

 

「で、本当は何用?」

「気付かれましたか?」

「まぁね」

「実は私、嬉しいんです」

「何が?」

「こうして新様と一緒にいられて」

 

 道具を渡しながら夜架ちゃんは僕を見つめてくる。

 

「あの頃は平和(こんな)所ではなく、戦場(あんな)所でしたから。ですから貴方様と一緒に平和な世界にいられて幸せなんです」

「………」

「それにあの頃はこんなこと考えられませんでしてしね」

「確かにね。あんな所にいたらこんな生活自体有り得なかっただろうね」

「はい、ですから新様には感謝してます。新様が御家を出られたときは捨てられてしまったのではないかと考えました」

「それは……ごめん」

「いいえ、寧ろ感謝してます。おかげで私もあることに気づけました」

「あること?」

「それは内緒です」

 

 内緒という言葉と同時に唇に指を当てている。一体何があったのか気になるところではあるけど首を突っ込むわけにもいかないだろう。

 

「それにあの頃大変でしたのよ?新様がいなくなった数日後に半分が暴動を起こして……」

「反乱!?」

「ええ、なんでも『新様がいなくなるの嫌だ』ってストライキが起きまして」

 

 なんだその暴動。僕はアイドルかなんかなの?皆ちゃんと仕事してくれ。

 

「因みに私もその暴動に参加してました」

 

 いやなんで?

 

「ちなみに副長官で」

 

 なんでそんな数日間でそこまでの組織出来てるのさ。てか君の立ち位置おかしくない!?

 

「ですがそれもすぐに落ち着きました」

 

 多分それ『落ち着いた』じゃなくて『鎮圧された』の間違いじゃない?などという疑問はあえて黙っておくことにする。

 

「ですがそれでも、戻ってきて欲しい方は沢山いるみたいです。実際私もその一人ですが」

「それは……出来ない」

 

 夜架ちゃんは黙って頷いている。

 

「僕は、今執事の仕事をやってる。それに僕にはやらなくちゃいけないことがある。きっと話したらわかってくれるんだろうけど言いたくはない。これは私情で、皆とも仕事とも関係ないことだから」

「わかっていますわ。だから貴方様は私たちに黙って出て行った。止めて欲しくなかったから」

「うん………」

「大丈夫ですわ。さっきも言いましたが私は今の生活が幸せです。新様と同じ世界にいる。それだけで十分ですわ」

「ありがとう。じゃあお礼として頑張らなきゃね」

「とうとう決意なされたのですね。いつでも準備は出来ていますわ」

 

 こういうところが無ければかなり好感度持てると思うんだけどな。だけど彼女と話せて心の底から安心してる。正直、皆を置いていってしまった僕は恨まれても仕方ないと思ってる。けどこうやって理解してくれる人がいるってことを知れて良かった。勿論一条さん達も理解してくれているだろうがこういうところで聞くのとはまた違って安心する。

 

「それで何をなさってくれるんですか?」

「元主人、っていう訳じゃないけど、夜架ちゃんと魔姫ちゃんのためにも文化祭を成功させなきゃなって」

「全く、魔姫ちゃんにもそういう態度を取るなんて」

「せっかくこの世界にいるんだから楽しむべきだと思うよ」

「それもそうですわね」

 

 僕達は完成した物を持って次の指示を仰ぎに行った。




裏話
「京君どんな曲歌う?」
「そうだな、ここは思い切って干妹うまるちゃんでも歌うか」
「本気?」
「じゃねぇよ。でも俺あれは歌えるぜ」
「うまるちゃん?」
「いや、初音ミクの消失」
「いやなんで?」



アンケート追加したのでやっていただけると幸いです!


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第三.五話 登録者数五十人突破記念

新「このタイミングでやるの!?」

いやだって、タイミングここかなーって

新「絶対違うでしょ!」
京「ま、面白そうだしやろうぜ」

というわけでどうぞ
(今回は短めです)


 ある日、僕は買い物に出ていると黒服の人達に囲まれていた。呼び出されているということは分かったけどスーパー(こんな所)で囲まないで下さいよ。一応公前ですよ?大人しく買ったものを入れてついて行くと車に乗せられる。というか毎回思うけど僕が弦巻家行く時って大体買い物してる時だよね。どうして一番悩んでる時に攻めてくるんだろ。もしかして狙ってる?

 さてさて、目的地に到着したというわけで黒服の人達に案内される。荷物の方はいつも通り預かっててくれるみたいなので安心して預ける事にした。道を進んでいくと白い扉の部屋に連れていかれる。中に入るとお嬢様達がお茶してくつろいでいた。おかしい。さっきまでcircleで練習していたはずなのになんでこんな所にいるんだ?

 

「お嬢様、こんなところで何をしてらっしゃるんですか?」

「新一こそ、買い物にいっていたのではないの?」

「そうですが黒服の人に案内されて」

 

 大体一緒とのことで僕も近くにあった椅子に座らせてもらう。しばらくお茶しているとアナウンスのような声が部屋に響く。

 

『名護君、面白いものを作ったから実験に付き合ってくれ』

「藪から棒ですね。貴方誰ですか」

『高城だよ、忘れたのかい?』

「知りません」

 

 お嬢様達に正体を知られるわけにもいかないので知らないフリをする。ついでに察しろという雰囲気を出しておく。 

 

『あー、そっかそうだったな。とりあえず誤解がないように伝えとくとこれはこころ様も賛同しているから公認だ』

『やっほー新一〜面白そうだったからあたしも付き合うことにしたわ』

「それで、何をするんですか?」

『未来のあなた達に会ってもらうわ』

「は?」

『といっても一つの可能性だから重く考えなくていいわ。それじゃゲートオープン!』

 

 陽気な御令嬢の声と共に入って北方向とは反対側の扉が開かれた。扉の向こうからは光と白い煙が出てくる。眩しいというほどでもないので開かれた方を見ていると人影が一つ見えて声が聞こえてきた。

 

「新一さーん、どこ〜?」

「紗夜さん、僕はここですよ」

「私は何も言ってません」

「え、でも今の声って紗夜さんじゃ………」

 

 黒い影の方を見てみるとふわふわしたような髪を下ろした紗夜さんによく似た人が出てきた。でも雰囲気は隣にいる紗夜さんとは違って長い髪のようにふわふわしている。

 

「あれー!?新一さんが若くなってる〜!?」

「え、紗夜さん…?」

「私のこと忘れたの!?酷いわ、あんなに愛してるっていってくれたのに」

『は!?』

「こらこら紗夜さん、僕はこっちだよ」

 

 もう一つの声の方を見てみると扉のほうに黒い影が出来ていた。その姿もすぐにハッキリ見せる。ただ信じられないことに鏡を見ているようだった。それもそうだ。だってそこに僕と同じような顔があったからだ。

 

「え、新一が二人!?」

「一体どういうことですか!」

「聞きたいことがあります」

「何かな?」

「貴方は、二〇一三年八月十三日を知ってますか?」

「嘘…じゃないねこれは」

「そうみたいですね、僕」

「ど、どういうこと?」

「この日付で何があるかわかるんですよ」

「まぁそこは僕達の暗証番号ってことで」

 

 僕達はお互いの顏を見合わせて頷く。その日を知っている、それが何よりも一番の証拠だからだ。仕方ないかという雰囲気が流れつつも紗夜さんが場面を進行させようとする。

 

「色々と聞きたいのですがその前に……離れてください!」

「やだー!新一さんと離れたくないー!」

「貴女私でしょう!?なんでそんなふうになってるんですか!?」

「それは……」

「紗夜さ…いや、紗夜ちゃんって言った方が伝えやすいかな?これは僕が説明するよ。これ見て」

 

 未来の僕は左手の甲を見せるように前に差し出してくる。違和感を感じてよく見てみると薬指の第三関節に銀色のものが見えた。声が漏れそうになったが抑えた。いや正直驚きすぎて声が裏返りそうだった。

 

「ゆ、指輪!?」

「私達結婚してるのよ!」

「そ、そんな……新一が…紗夜と……」

「リサ姉しっかりして!」

 

 リサが顏を真っ青にして倒れかけたところをあこちゃんがなんとか引き戻した。でも隣の紗夜さんは混乱が解けてないのか頭を抱えている。お嬢様は冷静のようだがりんりんは動かなくなってしまっていた。

 

「それとこれがどう関係するの?」

「湊…お嬢様。あぁ、お嬢様という響きも懐かしいですね」

「今は主従じゃないの?」

「はい、現在解約されております。っと、話がそれましたね。実は結婚するまでは良かったんです」

「『まで』……は?」

「うん、結婚してからは僕が家事をやっていたんだけど……」

 

 今とたいして変わらないな等と考えていると爆弾が投下された。

 

「日に日に僕が紗夜さんを甘やかしちゃって、いつの間にかこんな風に……」

「え、悪いの僕じゃん」

「そうなんだけどね?こんなにしっかりしてる紗夜さんがこんなになると思わないじゃん?毎日仕事をしてくるんだから少しぐらいは甘えさせなきゃなって思ってたらさ……」

「甘えさせてくれる新一さん、私は大好きよ」

「はぁ……申し訳ないんだけど僕、駄目人間にしちゃ駄目だよ」

「仕事の時はしっかりしてくれるから大丈夫だよ」

「そ、そうです!いくら私でも人前ではしっかりしてるはずです!」

「といってもこんなの見たらホントかどうか怪しいよ?」

 

 リサが半信半疑のように疑問を投げつけている。でもそれを考えてみると確かにその通りだ。いくら甘やかしすぎたとはいえあの紗夜さんがこんなんになるはずがない。

 

「そうですよ!この人はまだ未来の私とは決まってません!」

「そんなぁ〜私ってば酷いわ〜」

「まぁ正直疑いは向けられるよね。じゃあちょっとだけ証明してみせるよ」

 

 証明して見せるといった大人版僕は目つきを変えて真面目な状態に入る。その瞬間大人版紗夜さんはふわふわしている感じを辞めて未来版僕から離れた。

 

「氷川さん、今日の会議で扱う資料はどうなりましたか?」

「既に完成しています。印刷からホチキス留めも全て」

「ありがとう。では今日のスケジュールの確認を」

「はい。九時より朝礼、それが終わり次第A社との取引のための資料作成、B社との業務連絡が午前中の職務になっています。十二時より昼食。十三時より会議室二にて先日の会議の続きが行われます。三時からC社との取引が行われます。残りの時間は作業の確認を行い十七時に退社です」

「と、こんな感じなんだけど。あくまで僕は紗夜さんから聞いた話の人っぽくやっただけだけどね」

 

 なるほど、確かにこれなら納得する。演技とはいえ忠実にやってるあたり紗夜さんと言われても文句は言われないだろう。役目を終えたのか大人版の紗夜さんは大人版僕の膝の上に座る。

 

「悔しいですが……認めます」

「よかったわ。でもその分夜は甘えさせて貰ってるわ。昨日だってあんなに激しく……」

「ちょ、未成年もいるんだからね!?」

「大丈夫だよ、マッサージの話だから」

「え……?」

「肩が酷く凝ってたからね、ちょっと強めにやったの」

「その後だってあんなに熱く……」

「うん、熱いお茶を淹れたね」

「この前だってあんなに強く揉んで」

「新一?これは洒落にならないわよ?」

 

 止まらないペースで進んでいくのかと思えば僕の知ってるRoseliaの皆さんが疑いの目を向けてくる。特にお嬢様の目が凄かった。なんというかとにかく圧が強い。

 

「いえお嬢様、やったのは僕では無く大人版の僕ですから」

「確かに今の流れだと冗談に聞こえないよね」

「そりゃそうだよ!」

「でも大丈夫。これはパンの話だから」

「パン……?」

「そう、この前パン作りやっててね。普通にやったつもりなんだけどこの人にはどうやら普通じゃなかったらしい。それに甘え始めた頃からこんな発言ばっかりするようになったしね」

「というかそろそろ離れて下さい!」

「やだやだ~!もしかして嫉妬してるの?若い私」

「なっ!」

「そうよね~新一さんとこんなにくっつけるなんて貴女じゃ出来ないもんね~」

 

 大人版の紗夜さんは現在の紗夜さんを執拗に煽っている。どうやら僕が甘やかしていったせいで紗夜さんの性格は大きく変わってしまったらしい。

 

「ねぇ、大人の新一」

「なに?」

「紗夜ってもしかして少しいじわるになった?」

「そうだね。なんか僕のことになると凄い見せつけ始めるよね」

「ねぇ僕」

 

 せっかく未来の僕が目の前にいるんだ。これくらいは聴きたくなると目を見て話しかける。大人の僕は笑顔のまま僕の方を見つめる。

 

「なんだい僕?」

「アイツはどうなった?」

「それは答えられない」

「わかった、ありがとう」

「新兄いいの?」

「うん、答えられないってことは自分で確かめなきゃいけないって事だと思う」

「その通り。あくまで僕達は事象の一つだからね。君達の世界ではどうなるか分からない」

「こっからはあみだくじだね」

「そろそろ時間みたいだね、紗夜さん撤退しよう」

「分かったわ。あ、でもその前に……」

 

 大人版紗夜さんは大人版僕の顔を掴んで自分の顔に近づける。そして遂にはキスまでしていた。一瞬にして思考が真っ白になる。え?今何があった?理解できないんだけど。脳内コンピューターの機能停止したんだけど誰か助けて!?

 

「なっ、何してるんですか!?」

「何って見ての通りキスよ」

「紗夜さん!こういうのは家でって言ってるでしょ!」

「駄目よ、せっかく若い私達がいるんだから見せつけないと」

「理にかなってない!」

「早く帰って下さい!あと私は甘えすぎないで下さい!」

 

 紗夜さんが追い返すように出て行かせると二人の姿は消えていった。全員が顏を見合わせると沈黙の空間が訪れる。全員何も考えられなくなっているようだ。その空気をぶち壊すようにアナウンスが流れる。

 

『いや〜凄かったねぇ〜』

「凄いどころじゃないですよ!どうするんですか、皆思考放棄してますよ」

『それに関しては都合がいい』

「何が良いってんですか」

『どうせ今日の記憶はなくなる(・・・・・・・)んだからね』

「へ?」

 

 アホ丸出しのような声が漏れると視界が真っ白な煙に包まれる。ああ、そうかそういうことか。面白いもの自分たちだけ記憶に残して置こうってパターンだなこれ!

 必死に抗ってみたものの煙を吸い込んで意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた時僕は自宅にいた。何をしていたかも思い出せずとりあえず家事をすることにした。ただとんでもない夢を見ていたような気がする。




次回は文化祭編の続きです!
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第四話 文化祭一日目

文化祭、始まります!
このご時世現実で楽しめない分ここで楽しんでいってもらえたら幸いです!


 とうとう文化祭が始まった。あれから特に何もなく準備は終わらせられ、調理班はキチンと料理工程を覚えたので給仕も特に問題なく行われるだろう。僕も今日使う服に着替える。一時間半ずつの交替で最初は僕が担当することになった。因みに前後の決め方はジャンケンで僕がチョキを出したら負けた。京君曰く「俺のグーは石破天驚拳と同じよ」とのことでじゃあ何出したら負けるのさと思ったけど黙っておくことにした。他の給仕をする人たちも準備が出来たらしく、午前部隊の準備が整う。

 

「じゃあ名護君から何か一言」

「え、こういうのって実行委員がやるんじゃ」

「いやこの店の主役君と鳴海君だから。主役から一言どうぞ」

「は、はい。じゃあその……僕は午前中の前半しかいませんけど皆さん怪我に気をつけて、お客さんに喜んで貰えるように頑張りましょう!」

 

 左手で握り拳を作ってガッツポーズを取ると女子とは思えないほどの声が聞こえてきた。大丈夫……なんだよね?え、怪我人出たりしないよね?そんな疑問を消し飛ばすようにアナウンスが流れてくる。

 

『皆さん準備はできましたかー?本日は文化祭一日目、校内公開ですからお客さんも少ないはずです。ですが油断なさらないようにお願いします。それでは皆さん張り切っていきましょう!文化祭一日目、スタート!!』

 

 テデーという音と共にお店が開業した。その瞬間お店の前に人がやって来る。早速席に着いた人達に接客をしていく。

 

「いらっしゃいませ」

「名護さんよ、本物だわ!」

「は、はい本物ですよ」

「注文いいですか?」

「はい、ではご注文を取らせていただきます」

「じゃあまず紅茶とオムライス二つずつお願いします」

「畏まりました、紅茶とオムライス二つずつですね」

 

 注文の確認を取ってすぐに紙を渡しにバックに行く。紅茶はすぐに出せるとのことで少し待っておぼんに乗せてさっきの席にまで運んだ。

 

「お待たせしました。お紅茶になります。ごゆっくりどうぞ」

「注文お願いしまーす」

「はいただいま。何になさいますか?」

「あの………」

 

 どうかしたのだろうか、頬を少し赤らめている。何か問題でもあったのか。よく見てみるとメニュー表のある部分を指さしていた。そこには『写真』と書いており、恥ずかしがるようにこっちを見ていた。なるほどと理解して「構いませんよ」と言うと一気に表情が明るくなった。その後に写真を撮るとすぐに教室を出て行ってしまった。次の声が掛かったのでそのテーブルに着くとよく知っている顔があった。

 

「よっ、新一」

「京君何してんの?」

「客だ客」

「違う違う、その格好」

 

 そう、彼の格好は制服ではなく衣装用の服だった。出歩くのならば基本制服のはずだが宣伝などの理由で衣装を変えることは許されている。しかし今は彼は作業時間ではない。

 

「いやー女どもが遊びにいく時もこの格好で行けって。宣伝にもなるし。まぁ個人的にもこの格好に着替えるのめんどくさかったし効率的ではあるわな」

「確かにそうかも。それで注文は?」

「スマイルくれ」

「当店は某ファストフード店でもなければそのようなご注文はありません」

「いやあるぞ、ほれ」

 

 渡されたメニュー表を見てみると確かに書いてあった。左上にデカデカと。しかも目立つように書かれてるし。それを確認して京君の顔を見るとニマニマしているのが分かる。仕方ないと思いつつ笑顔を作ると笑ってくる。注文を急ぐように圧をかけるとサンドイッチとコーヒーを頼んできたのでそれを裏に持っていく。そのタイミングで最初のテーブルのオムライスが出来上がったので持って行こうとするとケチャップを渡される。かけるのはセルフサービスなんだなと思いつつ最初のテーブルに運ぶことに成功した。

 

「お待たせしました、オムライスにございます」

「あ、あの」

「はい?」

「ケチャップかけてもらえませんか?」

 

 そんなサービスは……と思いながらバックの方を見ると実行委員の人がサムズアップしている。待って僕聞いてないんだけど。あとで隙を見てメニュー表を確認するか。

 

「あ、あの…」

「畏まりました。どのようにいたしましょうか?」

「私の名前あやかっていうんですけど……」

「ふふ、かしこまりました」

 

 名前を聞いて意図を読み、オムライスの上にケチャップで文字を書いていく。一緒にいた席の人の名前も希望によって書いていく。意外と難しいなと感じながらもそれぞれの名前を書くことに成功したので良しとする。ではと下がろうとするとメニュー表を見せつけてくる。オムライスの部分を指差しているので確認すると何故かよくあるやつが書かれてた。もう一度裏を見てみると今度は和装メイドの人がガッツポーズをしていた。謀ったね?謀ったんだね?と思いながらもメニュー表を確認して動きの確認をする。こんなことしたことないから上手くやれるかどうかわからないけどとりあえずやってみる事にした。

 

「ではお客様、ご一緒にお願いします。せーの、萌え萌えキュン♡」

「「ありがとうございまぁす!!」」

 

 大きな声で礼を言われたが正直恥ずかしくなってきた。もしかしてこれあと何回かやらなきゃいけない感じ?冗談きついんだけど。客が食べ始めたのを確認すると急いでバックに戻ってメニュー表の確認をする。すると内容が僕が朝確認した物と変わっていた。オムライスは『新一様の萌え萌えオムライス』になり、サンドイッチは『京の探偵サンドイッチ』となっていた。どういうことか確認すると客を引き寄せるためだとかなんだとか。しかしこれはうまく嵌められたもんだ。だが時間は限られているし何より客に僕が絶対当たるということはない。メニュー表にもランダム性って書いてあるし。そんなこんなで接客をしていると交代の時間になる。教室にやってきた京君の顔を見ると少しばかりやる気無さそうな顏をしていたがファイトとだけ言って交代した。さて、僕も客側で入ろうかと最後尾に並んだ瞬間並んでいた道が二つに分かれる。いや僕モーセじゃないんだよ?すると和装メイドの格好をした暗殺者が迎えにくる。

 

「いらっしゃいませ新様」

「夜架ちゃん、これは流石に良くないと思うけど?」

「いえ、これは予め決まっていたプログラムですわ」

「ぷろぐらむ?」

「ええ、十時半に新様がここを通るので道を空けるようにと」

「僕は何をするの?」

「お客様として振る舞っていただければ十分ですわ」

 

 耳打ちされた情報をまとめるとただ客としていればいいとの事だが他の人に迷惑なのではないかと思いながら案内に付き従おうとする。だけど今度は目つきをキリッと顔は真面目そうにしろとのことだった。仕事をしつつ休憩って感じなのか、矛盾してるように思えるけど。仕方ないので言われた通りの顔をして教室の中へ入っていく。すると夜架ちゃんはここで下がり僕は席に着く。目の前の席には何故か京君が座ってコーヒーを飲んでいる。

 

「仕事中だよね?」

「そうだぜ?何故か女共にこうしてろって言われたけど」

 

 何故に?などと話していると僕たちに間に影が一つ差し込んだ。その正体はお嬢様だった。和装もきちんと似合っている。ただ教室(ここ)で他の人に正体を知られるわけにはいかないので会釈だけで済ませておく。

 

「ご注文は何に……しますか?」

「湊が接客とは珍しいな」

「私だって不本意よ。ただ……他のことは向いていなかったもの」

「確かにお前には向いてなさそうだな」

「それで?注文は?」

「ではサンドイッチとコーヒーをお願いします」

「俺はコーヒーだけで」

「わかったわ」

 

 お嬢様はメモを取ってすぐにこの場を去って行く。少し怪訝そうな顏をしていたしやはり文化祭に参加するのは反対だったのだろうか。

 

「そういや湊も文化祭に出るんだな」

「最初は反対してたんだけどね」

「お?なんかあったのか?」

「実は始業式の日の帰りにお嬢様が文化祭は出ないって言い始めて、去年は参加しなかったのにですか?って聞いたらそんなことしてる暇があるんだったら少しでも練習していたいって」

「でも本番当日は風邪で寝込んだんだろ?」

「うん、だから考えが変わったりしたかなーって思ったんだけど真面目さが変わってなくて……」

「でも今日明日は参加するんだろ?」

「そのつもりみたいだよ」

「なんで急に変わったんだ?」

「それが分からないんだよね」

「待たせたわ」

 

 会話をしていたらいつの間にかお嬢様がコーヒーを持ってきていた。ありがたく受け取ると京君が何故参加する気になったのか聞いている。お嬢様はただの気まぐれだと答えてすぐに裏へ入っていってしまった。女心はよくわかんないなと話しつつコーヒーを口に啜るとシャッター音が聞こえてくる。その音を聞いた瞬間僕がここに呼ばれた理由がわかった。つまりメインの二人が揃う瞬間をイベント時間とするわけだ。カップを置いてため息を吐くとオムライスが届けられる。お礼を言って食べようとすると持ってきたメイドさんが制してくる。その正体を見るとさっき消えたはずの夜架ちゃんだった。何を書かれるかわからないという恐怖を抱きつつ急いでオムライスを食べ終えて教室を出る。

 教室を出た僕は時間を見つつどこに向かうか決めた。確かリサのクラス劇が十五分で行われるはずだしゆっくりするためにもそうしよう。劇を見ていれば休憩も楽しくなるはずだ。ただ始まる時間も迫っていたので講堂へ急足で向かうと魔姫ちゃんと遭遇する。

 

「アンタ何してんの?」

「講堂へ行くところだけど魔姫ちゃんも来る?」

「そうね、どこいくか迷ってたし一緒に行ってあげるわ」

 

 上からだなと思いつつも会話を交わしながら進んでいく。目的地に着くとちょうど始まる寸前だった。僕たちは急いで席に着く。始まったお話の内容は愛の悲劇の物語だった。恋愛に関する内容だったため興味が湧いてくる。しばらくするとリサが出てきた。ただ緞帳の後ろから眺めてブツブツと何かを言っているようだった。少し話したかと思えば消え、しばらく見なかった。その後は瀬田さんが主人公の男の役をやりつつヒロイン役の子と一緒に駆け落ちしようとするところまで行った。流れはロミオとジュリエットの現代学生版みたいだったがここでリサが帰ってきた。でも何故か手に包丁を持ってメインヒロインに向けている。「彼を一番愛しているのは私だ」「これ以上私たちの邪魔をしないで」などヒロインの言うことを聞かずに一方的に言っている。そして挙げ句の果てにはヒロインに包丁を刺そうとしたが瀬田さんが代わりに刺されてしまった。刺したリサは嘘だ嘘だと現実から逃げるように袖にはけていく。残りの体力を振り絞るように声を出した瀬田さんは力を抜いて死んだようにみせた。そこで幕は閉じ、劇の時間は終わった。講堂を出て伸びをすると魔姫ちゃんが難しそうな顏をしている。

 

「どうしたの?そんな難しい顏をして」

「いやあの子どっかで見たことあるなって。ほら、包丁持ってた子」

「ああリサなら数日前に一緒にいる時にあったよ」

「あの子だっけ。髪型違うから思い出せなかったわ」

「確かにね、僕も一瞬分からなかったよ」

「でも刺し方甘かったわね」

「演技だからね」

「それはそうでしょうけど色々と文句を言ってあげたかったわ。持ち方が甘いし、刺し方もあんなんだったらすぐに躱されそうだし」

「魔姫ちゃんそれ別のプロの話だから」

「二人とも何話してるのー?」

 

 僕達は後ろから声を掛けられて振り向く。ただ振り向く寸前僕たちの意識は固まった。いくら文化祭といえど後ろの気配は気付くはずなのに今まで気づかなかった。誰だと正体を確認すると紗夜さんによく似た人だった。

 

「ねぇねぇなんの話してたのー?」

「他愛のないことですよ、氷川さん」

「おねーちゃんは名前で呼んでるのにどうしてあたしは苗字なの?あたしのことも日菜でいいよ!」

「え、えっと、日菜さん?」

「名前にさん付けとか麻弥ちゃんみたいでおもしろーい」

 

 なんか調子狂うんだけどという目線が送られたがそのご本人の名前も知ってるようで僕たちは驚きを隠せなかった。何よりこの子は僕達に気配を悟られなかった。一体何なんだろうこの子は。アイドル……にしてはやばくない?

 

「それでそれで何の話してたの?」

「さっき見てた劇の話よ。見てて面白かったわ」

「そう?あたし的にはリサちーにもっと激しくやって欲しかったけど」

「アタシがなんだって?」

 

 覗き込むように会話に入ってくる。勿論こっちの気配は感じ取っていた。その確認を取るとちゃんと頷いてくる。

 

「新一今休み時間?」

「うん、あと余裕を持って五十分くらいかな」

「じゃあ一緒に回ろうよ!」

「構わないけど二人は?」

「あたしは魔姫ちゃんともう少し話してみたいかなー」

「アンタら二人で行ってきなさいよ。私はこの人と遊んでるから……面倒だけど」

「えーなんでー?」

 

 なんか楽しそうだったので僕とリサは二人と別行動をする。こうやってリサと二人になるのは合宿の夜以来か。人が多いこともあって新鮮な感じがする。

 

「最初はどこ行く?」

「んーアタシは新一に任せるよ」

「えっ、僕はリサの行きたいところ行こうと思ってたんだけど」

「ホント?えーじゃあどうしよ」

「無難に何か食べに行く?」

「あっ、じゃあクレープ食べたい!」

 

 小腹も空いていたしちょうど良いのでクレープに決定した。学内マップを見ながら進んでいくと迷わずに目的地に着くことが出来た。中に入るとAfterglowの皆が仕事をしていた。表札を見たら蘭ちゃん達がいる教室だったことに気付く。クレープを二つ頼むとすぐに用意してくれるがその間にモカちゃんが揶揄ってくる。それに対してリサは「まだそんなんじゃない!」と言って顔を赤らめている。冗談だと笑っているモカちゃんを横に蘭ちゃんがクレープを二つ持ってくる。礼を言って受け取ろうとするとじっと見つめてくる。何か顔に着いてるのか聞くとそうでも無かったらしい。その手が離れると蘭ちゃんは別の人の接客に移った。僕達はクレープを食べながら教室を出る。

 

「新一は何味にしたの?」

「苺にしたよ。クレープは食べたことなかったからね」

「そうなの?じゃあ初クレープだね」

「うん、リサは?」

「アタシはチョコバナナ。ねぇそっちの少し貰って良い?」

「構わないよ」

 

 どうぞと差し出すとリサは遠慮なくかぶりつく。美味しそうに食べてる姿を見て僕は安心する。御礼にリサのも食べて良いとのことだったので少しだけ貰う。チョコバナナの方も確かに美味しい。こういうのを食べると作りたくなってしまう。次はどこに行こうかと話しかけようとすると顔を背けてしまった。

 

「(え、もしかして今アタシ達間接キスしたんじゃ……///)」

「どうしたのリサ」

「(すっごく恥ずかしくなってきたんだけど。どうしよどうしよどうしよ)」

「あの~」

「(てかなんで新一は普通にしてられんの!?普通意識しないの!?)」※彼は鈍感です

「今井リサさん?」

「はっ、はいっ!!」

「どうしたのさっきから。返事も無いし……」

「えっ!?いやその…」

「もしかして熱?」

 

 僕は念の為リサの額に手を当てたがとんでもなく熱くなっていた。

 

「ちょ、凄く熱いけど大丈夫!?」

「だっ、大丈夫大丈夫!ちょっと頭冷やしてくるねー!」

 

 慌てふためくようにリサは走り去っていった。追いかけようとしたが凄い早さですぐには追いつけそうにはなかった。置いてかれてしまったが仕方ないのでクレープを食べながら歩き始める。時間を見るとあと二十分、暇なので外の屋台ブースを見に行くと色々と面白いものがあった。だが校舎の方から大きな声が聞こえてくる。何事かと見に行ってみると屋上にいる生徒が何やら叫んでいた。

 

「あれ、名護先輩」

「あぁ、君達は一年の……」

「ウッス」

「ねぇこれは何やってるの?」

「知らないんすか?未成年の主張」

「何それ」

「名護先輩でも知らないことあるんですね」

「寧ろ知らないことだらけだけどね」

 

 一人の男子にところでその格好何?と聞かれたがただの衣装とだけ答えて未成年の主張とは何だと聞き返した。どうやら名前だけが堅苦しいだけであってあとは自由に叫んで良いらしい。そう説明を受けた瞬間同じ学年の女子が屋上から告白し始めた。最近の告白というのはこういうものなのか。その叫びは相手に届いたのかきちんと返事が貰えたみたいだ。最近の文化は面白いなと感じていると僕と似たような服の人が現れる。あの人本当は仕事してないのではないかというほど疑いたくなる。

 

「お前らに言いたいことがあるー!」

『なーにー?』

「この後十二時から名護新一が店番をやるからチャンスはその時だぞー!」

 

 何を言ってるんだあの人はと思いかけた瞬間だった。

 

いよっしゃああああああああああああ!!!

 

 近くにいた女子達は皆怒声のような声をあげている。ここ学校だよね?皆女子だよね?呆然としていると後輩達が早く教室に戻るべきだというので急いで教室に戻っていった。外の列を見てみるともはや長蛇の列となっていた。京君め、今度会った時は仕事の大半押し付けてやる。そして僕の後半の仕事は始まった。しかし時間通りに上がる事はなく、一時半から来た京君を逃すことなく仕事をやらせた。全ての客を捌き切る頃には今日の文化祭は終わっていた。




移動中
「そういや劇見にきてくれたの?」
「うん、面白かったよ。リサも凄く上手かったよ」
「ホント!?」
「うんうん。正直凄い適役なんじゃないかなってくらい上手かったよ」
「それどういう意味?」


次回「文化祭二日目」


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第五話 文化祭二日目

一「新一様の学校で新一様メインの喫茶店があるらしいですよ」
伊「いくぞお前らぁぁぁぁ!!!」
全「ウオォぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
魔『いや来ないで、絶対一般の人に迷惑だから』
橋「しかしそれでは主の顔を見ることが………」
魔『めんどくさ……写真撮ってくるから』
全「ありがとうございまぁぁぁぁす!!!」



魔「っていうことがあったのよ」
新「何それ怖」


 文化祭二日目になった。昨日の午後は結局休みなど貰えなかった。京君も反省して今日はあんなことしないらしい。自分にもデメリットだと分かったのだろう。しかし今日は一般の人も来る。なんなら受験生なども志望校の見学を含めて来るのではないだろうか。だけど今日のタスクもたいして変わらない。唯一変わらない事と言えば今日は昨日より二時間多いので二時間交代になったことだ。順序は変わらないから本当にたいしたことはないんだけど。準備が終わり、開始まで十分を切った。

 

「アンタ今日はどうするの?」

「何が?」

「休み時間よ」

「ゆっくり回ろうかなって。あとは落ち着ける場所探しかな?」

「ふーん」

「確か女子は一時に交代だよね」

「そうよ」

「じゃあ午前中の半分だけだけど一緒に頑張ろ」

「ええ」

 

 しかし魔姫ちゃんも和装は似合っている。どちらかというとセーラー服とかの方がイメージが強いのだがイベント事だとこういうのもアリだろう。ただ本人が動きづらいだのどうこう言ってるのは気にしないでおくけど。魔姫ちゃんが離れていくと今度はお嬢様がやってくる。

 

「あなた、その格好は暑くないの?」

「まぁ多少は。しかし通気性はそれなりにあるので大丈夫です。おじょ……湊さんの方はどうですか?」

「私は問題ないわ。ただ着るのに手間がかかるわね」

「和装はかなり手が入りますからね」

 

 そうね等と無愛想な顔をしながら頷いてくる。もう少し愛想を良くしたらかなり評判上がるんだろうなと思いつつ会話を続けていると実行委員の人から配置に着くよう連絡される。遊びに行く人達は後ろの扉の方に働く人達はそれぞれのテーブルの側に着く。

 

『さぁ二日目が始まります。本日は昨日より人が多くなるので貴重品の管理に気を付けてください!「おかし」ですよ。「おさない」「かけない」「Shangri-la」。放課後には後夜祭もありますのでお楽しみに。では皆さん張り切って参りましょう!文化祭二日目開始です!』

 

 アナウンスが終わると同時に昨日と同じ開始音が鳴り響く。しかし今の「おかし」は何だったんだろう。最後のShangri-laだけが気になって仕方ない。もしかして今日空耳したりする?そんなこんなで二日目が始まった。最初に入ってきた客は僕の近くの席に着く。顔を確認するとあこちゃんとリサだった。

 

「いらっしゃいませお客様」

「おはよー新一」

「新兄おっはよー!」

「おはよう、注文は?」

「あこ黒き闇のしゅわしゅわが欲しい!」

「あ、アタシ紅茶で」

「畏まりました、少々お待ち下さい」

 

 注文を受け取り裏へ持っていくと魔姫ちゃんが受け取ってくれる。あこちゃんの事を聞かれたがRoseliaのドラムの子だよと伝えると納得してくれた。Roseliaの事は話していなかったがどうやら事前に知ってたらしい。流石は名護の暗殺者、あらかじめデータは手に入れてるか。しかしこの子は人の顔覚えることは仕事以外で基本的にしようとしないからなぁ……。紙コップに飲み物を注ぎ終わったのか魔姫ちゃんはそれを持ってきて渡すように指示してくる。指示通りに持っていくと二人は楽しそうに談笑していた。

 

「でねでねー、これからりんりんが来るの!」

「燐子来るんだ♪じゃあ紗夜も来るのかな?」

「紗夜さんも誘ったんだけど空いてたらって言われちゃったんだよね」

「お待たせしました、コーラと紅茶になります」

「やったー!」

「ありがとう。あのさ新一」

「どうしたの?」

「写真良い?」

「あ!あこも!」

「良いよ、皆で撮ろうか」

 

 三人で固まって写真を撮ると綺麗に枠の中に納まった。リサが自撮りに慣れてたのもあって写真は綺麗に撮ることに成功した。自分で自分にカメラを向けるなんてそうそう上手く出来ないと思うのだがそこはリサの技量だろう。撮り終えたあこちゃんがコーラを飲んでいるのを見ると袖を引っ張られる。引っ張ってきた本人は二人で撮ろうと言ってくる。それも自撮りする形で撮ると満足そうに紅茶を飲む。二人に軽く会釈して席を離れると次々とお客さんが入ってきた。

 そしてリサ達と入れ替わるように蘭ちゃんが入ってくるのが見える。ただ違和感を感じたのは蘭ちゃんが一人だった事だ。ちょうど手が空いていたので接客をしにいく。

 

「いらっしゃいませ」

「名護先輩……」

「どうしたの?一人なんて珍しいね」

「いえ、他の人とはぐれて。集合場所をここにしたんです」

「確かにこう人が多いとはぐれちゃうよね。じゃあ皆が来るまでゆっくりしてて」

 

 軽く会釈して離れようとすると声をかけられる。

 

「あ、あの」

「はい?」

「注文良いですか?」

「コホン、失礼しました。ご注文承ります」

「その、烏龍茶とその……」

 

 指先を確認すると写真と書かれていた。「畏まりました」とだけ答えて席を離れる。人が多いため飲み物は自分で淹れるシステムになったがこれくらい造作も無かった。しかし皆なんで僕と写真撮るんだろ。リサ達はまだ分かるけどどうして話したことのない人達まで?そんな疑念を抱えつつ烏龍茶を持っていくと蘭ちゃんがスマホを見ながら待っていた。

 

「お待たせしました。それじゃ撮ろっか」

「は、はい」

 

 写真を撮ろうと横に並ぶと緊張しているのか固まったような顔をしている。大丈夫と聞いても裏返ったような声が帰ってくる。仕方ないと思いつつ頭に軽くポンポンと手を置いて撫でると落ち着いたのか安心したような顔を見せる。それを確認してから写真を撮るか確認するとしっかりとした返事が返ってきた。それでもって写真を撮ると蘭ちゃんはいい顔をしていた。

 

「はい、撮って貰った奴だけどどうかな?」

「だ、大丈夫です。ありがとうございました」

「うん、良かった」

「蘭おめでと~」

「「え?」」

 

 声が聞こえる方を見るとAftergrowの皆さんがこっちを見て拍手をしていた。どういう状況か理解できないまま僕達は顏を見合わせる。

 

「おめでとう」パチパチ

「おめでとう」パチパチ

「おめでとう」パチパチ

 

 何故か雰囲気が父に、ありがとう。母に、さようなら。全ての(以下略)みたいな展開になってきてるんだけどどういうこと!?

 

「ちょっと待って皆どういうこと!?」

「え、だって蘭、名護先輩と写真撮りたかったんじゃないの?」

「はっ!?別にそんなこと一言も言ってないし!」

「でも昨日あんなに見てたよ〜?」

「だからそんなんじゃないって!」

 

 なんだかよくわからないけど喧嘩してるわけじゃないので合流できてよかったねと耳打ちすると軽く礼を言ってくる。そして仕事に戻るとすぐにタスクが回ってきたので順番に対処していった。

 時間が経ち交代の時間になる。ちょうどのタイミングで京君が来たので入れ替わろうとすると目の前に掌を見せてくる。どういう意味なのかわからないまま同じようにしてみるとハイタッチをしてくる。これが世にいう手で合わせるバトンタッチなのだと自覚するとワクワクした。こういうことに慣れてないせいか普通の人がやってるようなことをすると心が躍る。さてどこに行こうかと悩みながら歩いていると。周りの楽しそうな雰囲気とは違う声が聞こえてくる。

 

「あ、あの……」

「なぁお嬢ちゃん一人だろ?」

「俺らと遊ばない?」

「怖くないから、な?」

「その、私………」

 

 周りの人たちもその様子を見ていたが話しかけている男の人たちの容姿が怖くて声がかけられないのか様子を伺ったまま動こうとしなかった。声をかけられているのは誰だろうかと確認するとうちとは違う学校の制服だった。しかも身長を見る限り中学生……なのかな?髪は水色に近い白でボブカット。随分小柄だな……。とにかく本人は乗り気じゃないみたいだし男性の方々に教えとかないと。それに知能レベルが海にいた鶏軍団と同じレベルだからなんか腹立つし。

 

「すみません。彼女、乗り気じゃないみたいですよ」

「おん?ガキが何のようだ?」

「俺らは今この子と遊びたいの」

「外野は黙ってろ!」

「だ、そうですが貴女はどうしたいですか?」

 

 念の為女の子に聞くと怯えるようにフルフルと顏を横に振っている。よし、これで何があっても罪悪感はないね。まぁあってもなくても最初からそんな気持ち持ち合わせてないけど。

 

「ほら、怖がってますよ。駄目じゃないですか、男の人が女の子を怖がらせちゃ」

「あぁん!?」

「少し、お手を拝借しますよ」

 

 その手を引いてその場から逃げるように走り去る。階段に差し当たったところでその子を抱え込み、体を持ちやすいよう左手で肩を、膝の裏にスカートを挟んで右腕を通して体勢を作る。いつまでもこの子を走らせるわけにもいかないし、あいつらを放っとくわけにもいかないのでちょっとだけ遊んでやろうという作戦だ。少しだけ我慢するように伝えるとこっちを見たまま頷いてくる。許可も取れたことだし遊びますか。女の子を抱えながら下駄箱まで走っていき、靴を履き替える。いくらなんでも履き替えなきゃね、中は室内だし。ちゃんと女の子の靴も変えさせて体勢を戻し、外に逃げていく。さてさて、人の目も集まってきたしそろそろかなと外のベンチに女の子を座らせてここから離れないように指示するとちゃんと頷いてくれる。この子はちゃんと状況判断が出来て素晴らしいと感心しているとさっきの鶏トリオがやってくる。

 

「こんのガキ………」

「やっと追い詰めたぞ!」

「あれ、中履きのまま外に来てしまったんですか?それでは洗ってもらうか買ってきてもらわないと校内へ入れませんが………」

「舐めてんのか!」

「いえいえ、そんなつもり微塵もありませんよ。衛生的によろしくありませんからね」

「ぜってぇ泣かしてやる!後悔すんなよ!」

 

 有言実行、言った男から殴りかかってくる。一応こっちは軍服で革靴なんだけどなと思いつつ攻撃を避ける。周りには屋台が少し離れたところにある程度か。けど人目を集めすぎたかギャラリーが出来てしまった。仕方ない。一種のパフォーマンスとしてやってみよう。幸いにもさっきの攻撃を躱せるほど機能性はいいことが判明したし、昨日確認した通りだ。よし、ゲームを始めよう。

 

「さ、お仕置きタイムです♪」

「調子乗ってんじゃねぇぞコラァ!」

 

 正拳突き、にしては随分と形が整ってない拳がやってくる。それを左手で払うと次々と殴ってくる。しかし全てゆっくりに見えるため左手一本で事足りる。正直これなら京君と戦ったほうが面白そうだ。けどこんな考えしたら京君に失礼だろうか。後ろにいた二人もとうとう参加してくる。片方は後ろに回ってくるようなのでタイミングを見て弾いていた手を掴んで背負い投げをする。タイミングバッチリのおかげで後ろに回り込んだ男に当たる。しかしもう一人の男に背を向けてしまう。雄叫びをあげているせいで距離感覚がわかる。この距離ならカウントはこれで十分だろう。

 

「5、4、3、2、1────」

 

 カウントを終えると同時に回し蹴りをすると油断していたのか脇腹に確実に入った。その勢いのまま重なっている二人の元へ届けるとボウリングのピンのように弾ける。伸びているうちに警備員を呼ぶとすぐに駆けつけてくれたので三人を差し出して見送る。全て片付け終えると周りから歓声の声が聞こえる。軽く会釈してさっきの女の子の元へと寄っていく。

 

「すみません、余計なことに巻き込んじゃって」

「いっ、いえ、ありがとう…ございます……」

「怪我とかありませんか?」

「ない……です」

「なら良かった」

 

 立てるかと手を差し伸ばすと掴んで立ち上がった。周りはとっくに解散しているようで僕たちは二人になっていた。

 

「それじゃ、僕はここで。へんな人に絡まれたら周りの人を頼るんですよ」

「あ、あの!その……カッコ良かったです………」

「ああ、ありがとう。そういえばだけど一人なの?」

「は、はい…」

 

 ふむ、さっきはあんなこと言っちゃったけど連れがいなければ同じ目に遭う可能性もある……か。それで文化祭というイベントが怖くなったら溜まったもんじゃないしねどうせ僕は一人で行き先悩んでたし、仕事の時間までならいいかな?

 

「ねぇ君」

「はっ、はい!」

「もしよかったら一緒に回らない?」

「えっ!?」

「僕は今一人だし、また同じ目に合うかもしれないから少しでも安心して文化祭を回って欲しいなって。もし迷惑だったら言ってもらって大丈夫だから」

「そ、その………よろしくお願いします」

 

 彼女は頬を赤く染めながらお辞儀をしてくる。こちらこそよろしくお願いしますと伝えると謙虚な姿勢を取ってくる。何処に行くか聞くとカフェっぽいのに行ってみたいと言ってくる。ちょうどうちのクラスがやってる事を伝えるとそこが良いと体を押し寄せるように乗り気の姿勢を見せる。それじゃあ行こうと移動を開始するもすぐにあることに気づく。

 

「今更で申し訳ないんだけど、君の名前は?」

「そういえばまだでしたね……倉田ましろっていいます」

「倉田ちゃんね、よろしく」

「あの、お兄さんの名前は?」

 

 名乗るほどのもんじゃないと言うと教えてほしいと目で訴えられる。あまり名前を出すと反応してくる人がいるかもしれないから言いたくはないんだよね。つい最近暗殺者とか諜報員の人とか反応してきたし。

 

「名護新一だよ。気軽に呼びやすい形で呼んで大丈夫だよ」

「新一…もしかして高校生探偵の?」

「探偵さんは別にいるけど僕は違うよ」

 

 こんな間違いされたの初めてだよ。どうしてだろう、一瞬期待の目を向けられたよ何を期待してんの?そんなこんなで自分のクラスに着くと多少は並んだがすぐに入ることに成功した。席に着くと大和さんが接客にやってくる。オレンジジュースとアップルティーを頼むとすぐに持ってきてくれる。

 

「ここが、新一さんの教室ですか?」

「そうだよ」

「なんか凄いですね……」

「改めて見ると確かにそうだね。倉田ちゃんは今日どうしてここに?」

「その、志望校で悩んでて」

「となると中三かな。この時期はまだ探せる時期だよね」

「新一さんはどうやって決めたんですか?」

 

 どうやって決めた、かぁ。正直答えづらいな仕事の関係上この学校にきざるを得なかった。なんて言えないし、そんなこと言ったら素性がバレちゃうもんな……。

 

「スカウトが来たんだよ、偶然ね。それで試験に合格したの」

「スカウト!?本当にすごいですね……」

「偶然だって」

「さっきだって助けてくれたし、スカウトも受けるなんて……新一さんは本当にすごい人なんですね」

「そんなことないよ。僕だって出来ないことや知らないこといっぱいあるしね」

「でも私なんかよりすごいと思います。私なんてドジばっかりだし、人と話すの苦手だし…」

 

 さっきより落ち込んでいるように見える。ただ表情とかからわかる。多分この子は後ろ向きに考えてしまう傾向があるんだと思う。たださっきみたいに乗り気な姿勢とか勇気を出せばきっと良い方向に行けると思うんだよな。

 

「私なんて、なんて使っちゃダメだよ」

「え?」

「自分を卑下にするようなことは極力避けなきゃ幸運が逃げちゃうよ。それに、人間勇気を出せばきっとなんとかなるよ」

「でも勇気なんて」

「出すのに時間はかかるかもしれない。目の前のものは怖くて逃げたくなるものかもしれない。けどいずれ戦わなきゃいけないのならその時は覚悟を決めなきゃ」

「覚悟……」

「うん、それが絶対じゃないなら逃げてもいい。けど立ち向かわなきゃいけないのならそれは君がやれることなんだよ。だから不可能なんてないよ」

「でも私……そういう時っていっつも逃げて……」

「じゃあ魔法の言葉を教えてあげるよ」

「魔法?」

 

 魔法なんてない。けどこの子の悩みを少しでも解決できるのならば初めて会った相手でもお節介をしてしまう。全く、めんどくさい人間だよね僕は。

 

「『To the future of fortune』」

「?」

「『未来の希望のために』って意味だよ。勇気が出せない時は未来の自分を想像するんだ。どうやったらこんな自分になれるかなって」

「未来の……自分………」

 

 下を見ながら考えている様子を見せる。でも顔はそこまで曇ってなかった。多分この子ならしっかりと考えられるだろう。勇気を出せるよう頑張ってねと一言告げると元気よく返事を返してくる。うん、ちゃんと笑顔に戻った。倉田ちゃんは時間を確認すると予定があるのかお礼だけ言って教室を出て行った。余計なお節介だっただろうけど人の相談に乗るのはやはり心地いいな。なんか役に立ててるって感じがしていい。まぁ解決出来ない問題もあるけどね。腕時計で時間を確認すると僕も交代の時間だということがわかる。席を立ち上がったタイミングで京君が交代だと告げてくる。今度は僕がハイタッチを要求すると快く受け入れてくれた。そのまま気持ちを切り替えて接客をし始める。笑顔を作って客を迎え入れると見たことのある二人に当たった。

 

「いらっしゃいませお客様、何名様でしょうか?」

「二名ですって、名護さん?」

「紗夜さん……にりんりん?」

「し、新君………」

 

 とりあえず席に案内すると二人とも席に着いた。紗夜さんは落ち着いているがりんりんはいつもよりかは落ち着いていたがそれでもやはりおどおどしている。

 

「ご注文は如何なさいますか?」

「私はアイスコーヒーをお願いします」

「わ、私は……麦茶を………」

「畏まりました」

 

 急いで裏まで飲み物を取りに行きすぐに作ってはテーブルに運ぶ。お昼時というのもあってお客さんも少し増えてきたようだ。運んでる道中で写真をいくつか頼まれたので運んでからすぐに撮りにいく。何故か希望のポーズがある人が多かったけどなんなくこなすことが出来た。しかし終わるごとに次へ次へと仕事が流れ込んでくる。

 

「相変わらず名護さんは器用ですね」

「新君は……ああいうのが…得意、ですから……」

「そういえば白金さんは名護さんの幼馴染でしたっけ?」

「はい………」

「どんな人だったんですか?」

「………とても……優しかった……です」

「昔からあんな感じなんですか」

「私…小さい頃も、人と話すのが苦手で………ですが、新君は……ずっと話しかけてくれて………」

「なるほど(あのお節介は幼い頃からでしたか)」

「二人とも、楽しめてる?」

「し、新君!?」

「ええ、ゆっくりさせて貰ってます。それで名護さん、その格好なんですか?」

「これですか?なんか用意された衣装とかで………」

「だいたい分かりました。お仕事頑張ってください」

「ありがとうございます。では二人ともごゆっくり」

 

 一瞬空いたから入ったけどなんか二人で話してるみたいだったしこれ以上邪魔しちゃいけないよな、うん。教室のドアの方を見るとまた客が入り込んでくるのでそっちに対応しにいく。

 

「時に白金さん、一つ質問があります」

「はっ、はい!」

「あの人は……どこかおかしいんですか?」

「そっ、それは………どういう………?」

「前に私を助けてくれたことがあったんですが、その時の彼の表情はなんだか危険を楽しんでるような顔に見えて………」

「……私の…知ってる新君は………多分、そんなことはしない………と思います……」

「そうですか……すみません、変な話をしてしまって」

「いっ、いえ……」

「ではそろそろ移動しましょうか。今井さんのクラスの劇が始まるみたいですよ」

「はっ、はい……(もしかして氷川さん、そっちがメインだった…?でもどういうことだろ。新君がそんな………多分、見間違いだよね)」

 

 席の一つが空いたことをか確認して客を呼び込む。周りを確認すると紗夜さんとりんりんは既にいなくなっていた。せっかくきてくれたんだからもっと楽しんでいってほしいと考えるとどんどん客が増えてきた。しばらく客を捌いているといつの間にか交代の時間になる。しかし客が減る気配がないので昨日同様このまま仕事を続ける。京君が戻ってきたが仕事は変わることなく二人でやることになった。そのまま客を捌いていると今度は賑やかな声が聞こえてきた。ハロハピの皆さん(瀬田さん)を除くが現れた。快斗君もついてきてるようで心なしか安心する。この前あんなことあったけどなんとか皆のところに帰れたのかと思うと本当に良かったと思う。

 

「いらっしゃいませ〜」

「あら、京に新一じゃない!こんなところで何してるの?」

「見ればわかるだろ、仕事だ仕事」

「へーけー君ってここのクラスなの?」

「いやパンフレットにデカデカと書いてあったでしょ」

「全く人気者っすね新一さんは」

「なんで新一だけなんだよ」

「え、お前ついでだろ?」

「はぁ!?」

「お久しぶり…です」

 

 松原さんが声を出した瞬間京君の威勢が消える。二人の間に何やら変な空気が流れる。奥沢さんは何やら察知したようだが一体どういうことだろう。三人ははしゃいだままだし、とりあえず席に案内すると二人はまだ沈黙を貫いている。

 

「この間はその…ごめんなさい。あと、ありがとうございました」

「別に、気が向いただけだ。二度とゴメンだがな」

「?なんでアンタら空気悪いの?まさかお前花音さんになんかしたのか!?」

「「お前(快斗君)のことでな(ね)!」」

 

 当の本人はほへ?みたいな顏をしているが大体わかった。まぁ知らぬが仏というし黙っておくことにしよう。

 

「で、なんで新一さん達そんな格好なんすか?」

「これが僕達の衣装らしいけどどうして軍服なのかは未だに謎だよ。大正イメージならもっと違うのあったと思うんだけどね」

「いや、新一さんピッタリすぎて逆に怖いっすよ」

「それは俺も思う」

「そういえばミッシェルは?」

「そうなのよ!ミッシェルは用事で来れないって言ってたから寂しいわ」

「ミッシェルも来れればよかったのにね〜」

「美咲ちゃん………」

「いやぁいつものなんでほっときましょ(小声)」

「てか新一には話してねぇの?(小声)」

「その、タイミングが合わないっていうか、そもそもそんな話したことないっていうか(小声)」

「あいつ今頃何してんだろうな」

「あの馬鹿は?(小声)」

「あの人は完全にタイミング合わないんですよ。こっちはあっちの事情知ってるのに(小声)」

「ただの馬鹿かよ」

 

 三人で何話してるんだろ………でもミッシェルなぁ……近くで見たかったな………。

 

『来校者の皆さん、生徒の皆さん、残り三十分程で文化祭二日目が終了します。来校者の皆さんはお気をつけてお帰りくださいませ』

 

 話しているうちにいつの間にか終了三十分前になっていたようだ。三十分前になると自然と客が引き始める。僕たちもあとは写真の人達にのみにして帰るようにお願いする。といってもとっくにラストオーダーの看板を出していたのか客はほぼいなかった。残りの客の写真を撮ると僕達はアナウンスで生徒会室に呼び出される。おそらくこれからの打ち合わせだろう。さて、後の仕事は後夜祭。頑張りますか。




 〜♪

「どうしたのましろ、嬉しそうじゃない」
「そ、そんなことないよ!?」
「そう?お母さんにはそう見えたけど」

 そんなことないと言いながら私は顏を背ける。そしてスマホのある写真を見つめる。今日他の人が写真を注文してる中に歩いていくあの人を隠し撮りした写真を。………いつかまた、会えるといいな♪


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第六話 文化祭後夜祭

そういえば友希那さん

「どうしたのよ」

なんで今年は文化祭に参加したんですか?

「気まぐれって言ったでしょ」

本当のところは?

「新一のあんな顔見たらこっちだって少しは考えるわよ………」

といいうわけです皆さん。これで気になってた方も夜もぐっすり寝れますね。というわけで最新話どうぞ!

「あなた寝かせたいのか読ませたいのかどっちよ」


 後夜祭が始まる数十分前、リサに一緒に行かないかと誘いのメールが来たが適当な嘘をついて断ることに成功した。そもそも一緒にいたらステージの裏側に行くことが出来なくなっちゃうしね。携帯を覗き込んでいた京君は舌打ちをしてくる。何故に舌打ち?と聞くと理由は教えてくれなかった。僕たちが講堂の裏側に着くと既にたくさんの人達がそこにいた。勿論After growの皆もいた。しかし呼び出した張本人がいないなと思うと後ろから引っ張られる。振り向いてみると生徒会長がいた。別の場所に案内されて進んでいくと二階にたどり着く。他の人たちには僕達のことは内緒らしく出番までここで待機していて欲しいとのことだった。やがて後夜祭は始まり、ステージ発表が始まった。ダンスをするグループやバンドをするグループなど多種多様な出し物があった。

 

「この数、やっぱ全校生徒がいるのかな?」

「まぁ後夜祭だしな」

「文化祭といえば後夜祭が本番と考える人もいますからね」

「そういや生徒会長さんよ」

「はい?」

「俺達の評判ってどうなってんだ?やけに特別扱いされるっつーかよ」

 

 それに関しては僕も気になっていた。嫌なわけではないが申し訳ない気持ちになるのでやめて欲しいというところではあった。皆も先輩の顔を見ると少し考えている様子を見せてくる。上手く言葉がまとまったのか頷いてこちらに向き直す。

 

「名護さんは『優しさの化身』と言われ、鳴海さんは『ワイルドな高校生探偵』という感じで人気みたいですよ」

「なんだそりゃ」

「化身って……」

 

 さして優しくした覚えはないんだよなと思いつつステージの方を見るとAfter growの発表が始まっていた。曲は『Hey-day狂騒曲』から始まるらしい。羽を伸ばしつつ見ていると次は僕達が呼ばれるから準備をして欲しいと生徒会長に言われる。僕達はさっき来た道を戻るように歩いていく。その最中も曲は続きちょうど舞台袖に着く頃に全ての演奏が終わった。ドラムなどの片付けをしている中僕達は最後の確認を始める。

 

「最終確認だ、新一はこっちのパート。俺はこっちで間違いないな?」

「うん、問題ないよ」

「やる曲は────の三曲」

「うん、大丈夫。あとは気合だね」

「すみませんお二方」

「どうした?」

「入りの確認と渡したいものが」

 

 紙を渡され曲の入るタイミングと照明のつくタイミングを確認する。どちらも問題ないことを確認すると今度はマイクを渡される。しかし渡したいといっていた分普通のマイクではなかった。上は何の変哲のないマイクなのに持ち手の部分から自分の足元にかけて何故か一振りの刃になっている。世の中こんなマイクもあるんだなと感心していると横から違うだろとツッコミを入れられる。

 

「なんだこのマイク」

「もしパフォーマンスをするなら是非お使いください」

「刀○乱舞じゃねぇんだよ」

「それは舞台劇でしょう?」

「じゃあ同じ会社系列でシンフォギアか?確かに不死鳥のフランメで使ってたけどなぁ…」

「シンフォギアの方は隠さないんだ………」

 

 ま、渡されたもんは仕方ねぇかと京君はマイク()を横持ちにして首の後ろに回す。僕も軽く体を動かして本番の準備をする。準備運動を終えるとステージ上は暗くなり、京君は右手をグーにして突き出してくる。

 

「そんじゃあ始ようぜ。いや、ここはこう言おうか。

────さぁ、始めようぜ。俺達のステージ(戦争)を!」

「うん────ショータイムだ!」

 

〈ここからは『アンチクロックワイズ』を聴きながら読むことをお勧めします〉

 

 僕は左手をグーにして突き合わせた。そして僕達は夜道のように暗い中を歩いていく。ステージにはバミリが貼ってあったのでそれを確認して位置につく。曲の前奏が始まると同時に照明は点きはじめ、前奏が一番盛り上がった瞬間に照明は急激に明るさが上がり。その瞬間客席から歓声が上がり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新一はどこに行ったのか疑問にしたままアタシは講堂に来た。友希那は新一に言われたから来たらしいけどなんで同じ理由じゃないんだろ。後から来るとは言われたけどやっぱりおかしいと思う。探しに行こうかと思った瞬間講堂全体が暗くなる。時計のような音が聞こえ始め、鳴り終わると同時にピアノの連弾が始まると同時にステージに明かりが点いた。そこには何故か新一と京が剣の様な物を持って立っていた。

 

 

 

京 「絵空事なら色を切らした

  声を聞こうと両耳を塞いでいる

新 「叫び散らした警鐘と誰かが濁したコード

  我欲を喰らったココロで調べが歪んでいく

二人「あの空は遠く 色付いている

新 「見間違うことのない 茜色

   逆さまの秒針と愛憎で全てが叶う気がした

京 「まるで隠そうとするように欠け落ちる未来と歯車

新 「ココロを手繰り合う前にゼンマイが錆び付いてしまうよ

京 「巻き戻せる術もなくボクら 行き場ないまま見上げる

新 「澄んだ機械仕掛けの空

 

 

 

 曲が終わると同時に照明は一度暗くなり、すぐに元の明るさに戻った。その瞬間拍手が鳴り始める。それを見た京はマイクに声を通し始める。

 

「お前らー!文化祭は楽しかったかー?」

「ワァァァァァァ!!!」

 

 待って、なんで二人がステージに立ってるの!?アタシは理解できず友希那に聞いてみるが分からないと言われる。そんなアタシ達をおいていくように二人は司会を続けてく。

 

「良かったです。では改めまして、2-Aの名護新一です」

「同じく2-A、鳴海京だ。なんか特別ゲスト扱いされたがそんなの知らねぇ。お前ら、もっと上げてくぞ!」

「それでは聞いて下さい、『多重露光』」

 

《ここからは『多重露光』を聴きながら読むのをおすすめします》

 

 またステージが暗くなるとすぐに眩しいくらいの光になる。軽快な音楽が鳴り始めたステージを見るとあろうことか新一達は持っているマイクを上手く使いながら楽しそうに踊るよう剣を振っていた。そして時々その剣たちは交わりながら歌い始めた。

 

 

 

京 「もし壁が見えたら それは運命の幕だ

   痛くもない筈さ ぶつかれば倒せる

新 「自由に見えてた 憧れの英雄は

   ただ必死で世界を 守ろうとしていた

京 「簡単に手を 繋げるような

新 「時代じゃないと分かってるけど

二人「この世界やり直すなら

   過去と未来は多重露光

   知恵と勇気が重なっていく

京 「仮面の中の瞳は

新 「一度限りの人生の

二人「外側を見ていた

 

 

 

 曲が終わると二人は息を切らしてる様子を見せずに楽しそうに会話している。どう見ても激しい剣舞をしていたのにどうして二人は……もしかして仮面ライダーだからとか言わないよね!?

 

「いやぁ楽しかったな!」

「こういうのは初めてやったけどテンションが上がるね。皆さんどうですかー?」

 

 周りから歓声が聞こえる。確かに見てて楽しかった。でもよくあんな器用に出来たなって思う。

 

「じゃあ、次が最後の曲になるな」

「皆さん、燃え上がる準備はできてますか?今から見せる炎は消えることのない不死鳥」

「さあいくぞ、『不死鳥のフランメ』」

 

《ここからは『不死鳥のフランメ』を聴きながら読むのをおすすめします》

 

 

 

新 「Huu cold moon blue shine

京 「マサニ今宵 イマ世界ハ

   一ツニナル 届キタマエ叶エタマエ

二人「さあ 始まろう

   3、2、1 Ready go Fly!!

京 「果てなき

新 「強い

二人「この想いは

京 「譲れない

新 「強い

二人「この想いは

京 「誰にも

新 「負けない

二人「不死なるメロディー

 

京 「この手から零れ去った

   イノチ…紡いだコ・ド・ウ!

新 「欠けたムーンライトその光は

   残した者にナニヲ問ウ?

京 「哀しみを束ねて 剣に

新 「刃に ジャスティスの名の下

京 「二度と消える事ない

新 「魂の種火を

二人「灯せ Ignition

京 「燃えなさい

新 「人に

二人「 運命(さだめ)などない

京 「飛びなさい

新 「過去を

二人「引きちぎって

京 「行きなさい

新 「アツく

二人「羽撃き合い

新 「響き伝う

京 「奏で伝う

二人「絆ッ!

京 「そう

新 「

二人「握りしめて

京 「背負った

新 「全部

京 「握りしめて

二人「いま不死なる夢を羽根に

   願う明日を共に飛ばないか?

   歌えPhoenix song

 

 

 

 舞台が赤く染まると一気に暗転し、元に戻ると二人の姿は消えていた。本当に最後の曲だったんだなと感じるとさっきまでの熱がまだ残っているのを感じる。でもやっぱり新一の歌は凄かった。京の歌声も凄かったけどアタシの耳には新一の歌声がまだ響いている。歌ってる時に見せる普段は見えない表情。どうしてもそれが気になって仕方なかった。一度深呼吸をしようとするとアンコールの手合いが始まった。いくらなんでもそこまでサービスはしないだろうと思いつつも期待しながら手を叩いていると二人は出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歌い終えた僕達は袖に戻ってくるとやっとの思いで一息つく。

 

「いやー楽しかったな!」

「中々ない経験だからね。全校生徒の前で歌うなんて」

「選曲も間違えてはなかったしな」

「さて、大人しく戻ろうか」

 

 階段を降りて待機場所に戻ろうとすると合いの手が始まった。どうするべきかと京君と顏を見合わせるとどうやら考えていることは同じようだ。左手を肩に乗せ、親指を後ろに向けながらフッと笑ってくる。僕は頷いて来た道を引き返し、ステージの上へと戻っていった。ここからは完全なアドリブだ。やるであろう曲は話し合いに出てきた曲だがなんだろうかと思った瞬間、京君がマイクに声を通す。今度のマイクは剣を取り外してある普通のマイクだ。

 

「アンコールありがとう。さて、こっからは俺達でもわからない『謎』展開だ。新一──『切り札』はあるよな?」

「!…いいけど、音響さんにはちゃんと言ってあるの?」

「あらかじめこういう事態も予測はしていたからな。それにお前なら土壇場でもいけるだろ?」

「全く、困った探偵さんだね。けどやってみせるよ」

「じゃあ始めようぜ。俺達の最後のステージを!」

「うん、それじゃあ聞いてください。『astral ability』」

 

 僕達は配置について姿勢を整えると音楽が流れ始める。しかし本当に予備を伝えてあるとは、流石は名探偵といったところかな?

 

《ここからは『astral ability』を聴きながら読むのをおすすめします》

 

 

 

二人「秘密 秘めたるこのability

   コントロールさせて 未知なる世界へ

   さぁ明日を信じて

 

京 「特殊だけどspecialじゃない

   気付けば手にしていた能力

新 「普通に見えてnormalじゃない

   それがそうreality

京 「同じ時瞬間を

新 「共に過ごし

京 「共有してゆけたなら

新 「少しずつでも

京 「きっとそこで生まれる

新 「絆がある

二人「潜入してまでも 通したいもの

   どんな危険待ち受けてでも

京 「譲れない

新 「確かな

二人「ものがある

   誰かのこと護るだけじゃなく

京 「しっかりと

新 「自分も

二人「守らなきゃ 秘密 秘めたるこのability

京 「意味がある

新 「意味を

京 「それを

新 「それを

二人「証明して見せる

 

 

 

 歌い終わると講堂中を埋め尽くす歓声で盛り上がる。本当にありがとうございましたとだけ言い残してステージを去るとそれまでの疲れを思い出したのか少しだけ体感を崩しそうになる。けどこの文化祭はいい思い出になった。今までにない思い出。本当に、お嬢様には感謝しないといけないなと思いつつ後の後夜祭を見ながら休むことにした。




さてさて、次回の『歌騎士(仮)』は?
☆デート編開幕☆
の一本です。お楽しみに!




略称の名前はまだ仮なので募集します。TwitterのDMとか感想で待ってますので気軽にどうぞ。便宣上呼びやすくしたいので。
UAが12000件超えました!みなさんいつもありがとうございます♪これからもよろしくお願いします!


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第七話 話すべきこと考えるべきこと

 僕は今駅前のカフェで人を待っている。待ち人は今井リサ、Roseliaのベーシストであり精神的支柱だ。勿論デートのためである。そもそもなんでこうなっているかというと元は作者が文化祭の後夜祭が終わった後にデート編書こうとしたのが原因だが、それを知らなかったリサが文化祭の振替休日にデートに行こうと誘ってきたのだ。誕生日に渡した『なんでも言うこと聞く券』を行使してまでだ。お嬢様に許可を貰おうとすると既に取ってあるとの事で日程の話し合いをした。そして現在に至る。 僕は今駅前のカフェで人を待っている。待ち人は今井リサ、Roseliaのベーシストであり精神的支柱だ。勿論デートのためである。そもそもなんでこうなっているかというと元は作者が文化祭の後夜祭が終わった後にデート編書こうとしたのが原因だが、それを知らなかったリサが文化祭の振替休日にデートに行こうと誘ってきたのだ。誕生日に渡した『なんでも言うこと聞く券』を行使してまでだ。お嬢様に許可を貰おうとすると既に取ってあるとの事で日程の話し合いをした。そして現在に至る。時刻は午前十時半、約束の時間である。遠くから呼ぶ声がしたのでその声に応じて見てみるとリサの姿があった。走ってきたのか少し息切れしている。その姿をよく見てみるといつもよりオシャレしているのが良くわかる。

 

「ごめんねっ、待たせちゃった」

「大丈夫。僕も今来たところだから」

 

 本当は三十分前に来ていたがそういうことを言っては行けないと誰かに教わった気がするのでその通りにしておく。まぁ誰に教わったかは忘れたけど。

 

「じゃあ行こうか。どこにいくの?」

「えっとね………」

 

 行き先はリサが任せて欲しいと言うので任せてある。実際デートというものをしたことない僕はどうすればいいのかわからないしどういった場所が最適なのかの情報も知らない。故に任せてはみたが任された本人はこっちを見たまま固まっている。どこかおかしい所があるのかと一度服をピッと伸ばしてみるが反応は変わらなかった。

 

「ねぇ新一、今日もその服なの?」

「え、うん。そうだけど…?」

「他の服はないの?」

「ないよ。そもそも僕が持ってるのは学校の制服と執事服(普段着)だけだよ?」

 

 何もおかしいことではない。この仕事に着く前も私服なんてそんなに無かったし、今はサイズが合わない。大体普段はスーツで行事の時は軍服だったからな……。旦那様にもらったのも冬服と夏服だけだし。その事実を伝えると口をポカンと開けたまま動かなかった。しかし数秒後にプルプル震え始めた。握り拳まで作って、そんない気に食わなかったのだろうか。でも今更着替えに戻るなんて出来ないしそもそもそも他の種類の服なんて持って………

 

「新一!」

「はっ、はい」

「今から服買いに行くよ!」

「えっ、でもデートプランは」

「返事は!?」

「さ、サーイエスサー」

 

 で、合ってるだろうか?そのままリサは僕の腕を強引に引っ張りながら洋服店まで連れて行った。

 洋服店に着くと早速そこに立てと言ってくる。今のリサに逆らうと後々ややこしいことになりそうなので黙って言うことを聞く。見ただけでサイズがわかったのかすぐに服を用意して試着室に行くよう支持される。一つ返事で試着室に行きすぐに着替える。渡された服は黒いジャケットと白いトップス、そして紺色のボトムスだった。残念なことに僕には服の名称は分かるもののセンスという物が無いのでどの組み合わせとかは全くもって分からない。大人しく渡された服を着てカーテンを開けるとリサが待っていた。どうかと聞いてみると似合ってると褒めてくる。それは良かったとカーテンを閉めて着替えようとするとその手を掴んで僕の動きを止めてくる。そのまま店員さんを呼んでこれを買うと言ってくる。すると店員さんは僕が今来ている服の値札を切ってレジへ持っていく。僕は脱いだ服をカバンの中にしまって急いでレジに向かう。幸いにもカード払いができたのですぐに会計は済んだ。値段は全部でそこそこの値段がしたが今まで稼いでた分から引き抜かれただけだと思うと正直何も感じなかった。そのまま洋服店を出るとリサはやっといい顔になった。

 

「じゃあデートはじめっよか」

「う、うん。どこにいくの?」

「そんなに遠くに移動とかはないよ。元々このショッピングモールで買い物とかする予定だったし。でも時間も頃合いだし食事に行かない?」

「いいよ。どこかおすすめある?」

「あ、あそこのレストラン美味しいんだよ」

「じゃあそこにしよう」

 

 僕達はリサが指し示したレストランに向かった。どうやら今はスイーツキャンペーンをやってるらしく女性客も多いようだ。店員の指示に従い席に着くとお互いメニュー表を見始める。メインの食事を颯爽と決めてスイーツの部分を見ると確かに量が多かった。しかしていろんな種類のスイーツがある分選びがいがありそうだ。

 

「決まった?」

「うん、今決めたところ」

「じゃあ店員さん呼ぼう」

 

 呼び鈴を押すとすぐに店員さんが駆けつけてくれる。

 

「ご注文受け賜ります」

「ビーフシチューとデザートでイチゴパフェお願いします」

「僕はカルボナーラとブルーベリーパフェで」

「畏まりました。少々お待ちください」

 

 注文を終え水を口に含む。九月ももうすぐ終わることか水が前より少しだけ冷たすぎるように感じる。店の中を見回そうとするとリサの視線が視界に映る。

 

「どうかした?」

「ううん、こうやって二人きりになるのは久しぶりだなーって」

「確かにね」

 

 言っていることに間違いはない。違いと言えば今回は夜ではなく昼で、海辺ではなく街中であるということだ。他の部分で違うところは特にないだろう。

 

「二つ、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「いいよ」

「一つはなんで僕は着替えさせられたわけ?」

 

 これは本当に疑問だ。実際服装は乱れていないから問題がないはずだ。そしてこっちの質問が先にするべき質問だと必然的に感じた。

 

「だって新一いつもの格好と変わらないんだもん」

「何か問題があるの?」

「大アリだよ!だってデートだよ?普段と違う格好するでしょ普通!」

「服装は特に問題ないと思うんだけど」

「てか逆に聞くんだけどさ、いつも思うけど服それしかないの?」

「ないよ」

「ちょ、マジ!?」

 

 マジもマジ、マージマジマジーロだ。第一私服なんてこの仕事柄必要ないと考えている。夏休みの墓参りもこの服だったけどなんら支障はなかった。仕事用の服ではあるけど機能性は良いし何より選ばなくて済む。そういった点では実に効率的で理想的な服なのだ。でも最低限のマナーとして整容はしっかり整えている。せめて相手が恥をかかないようにと気遣いはしているつもりだ。だけどさっきからリサの目がおかしい。まるであり得ないものを見ているかのような目だ。

 

「どうかした?(二回目)」

「どうかしたじゃあないよ!ほんとにあの服しかなかったの!?」

「うん」

「マジかぁ……服とか興味ないの?」

「興味がないわけじゃないよ。ただ僕の日常生活的には足りてるかなって」

 

 まあその結果がこれなんだけどね。

 

「ハァ………」

「でもありがとうリサ。この服はある意味必要だったのかもしれない」

「え、そう?…そっかぁ………///」

 

 少なくともまたデートする時とかに使えるだろう。この服も動きやすくはあるしきっと他にも使う日が来るだろう。やがて注文した料理がくるとお互い自分たちの料理を食べ始める。頼んだカルボナーラはソースと麺がうまく絡まっておりいい感じにトロトロした食感を味わえた。メインを食べ終えてデザートを食べ始めるとこちらもいい味わいだった。しかし隣の芝生は青く見える。不甲斐ないがリサが頼んだイチゴパフェも美味しそうに見えてきた。

 

「ねぇ新一」

「ん、何?」

「そっちのパフェ少しだけちょうだい?」

 

 どうやら考えていることは同じだった。僕はいいよと答えつつパフェを掬ったスプーンをリサに向けると急に顔を真っ赤にして慌て始めた。

 

「え、ちょ、え!?///」

「どうしたの?食べないの?」

「た、食べます!」

 

 勢いよくスプーンを咥えたリサはすぐに離れて席に座った。しかし顔は赤くなったままで俯いている。何か間違ったことをしたのだろうか。とりあえず僕ももらっていいか聞くと許可をもらえたので掬って食べると口の中に苺の甘さが広がった。甘すぎず程よい甘さとバニラの滑らかさが伝わってくる。一人満足しているとこっちを睨みつけてくる人物がいた。

 

「ちょっと口開けてもらっていい?」

「なんで?」

「いいから開ける!」

「はっ、はい」

 

 口を開けた瞬間スプーンを突っ込まれる。すぐに咥えると勢いよく外される。流石に少し痛かった。しかし二度も貰っていいのかと聞くと僕のパフェから勝手に持ってって口に運んでいく。どうやら満足したみたいなので僕達は食事を続ける。

 食事を終えて店の外に出るとショッピングを始める。小物店から家具店など色々と見ていくうちに時間は過ぎ去っていった。時刻は午後三時、休憩がてら広場のベンチに座るとお互い体を伸ばす。しばらく歩き回っていたからゆっくりする時間もなかったのだ。体が硬くなっているのを感じていても仕方ない。しかし最初から思ってはいたが不思議だ。数年前、いや今でもこんな時間があることが信じられない。元々は一般からすれば異端の身。こんな時間があればすぐに任務に行かされるか取引や指示することが多かっただろう。この数年間だったら多分お嬢様の護衛権執事の時間だ。別段、解放された訳ではないがこういう時間があることが信じられない。それに本来僕はこんなこと(・・・・・)をするのが許されないはず。けれどこの時間は今流れているんだなとしみじみ感じる。

 

「何考えてんの?」

「あぁ、色々とね………」

 

 目を逸らすように見る目の前の噴水はずっと水を吹き出し続ける。

 

「ねぇ、ご飯の時に言ってた聞きたいことって何?」

「聞きたいこと?」

「ほら、二つあるって言ってたじゃん。もう一つは?」

 

 正直これを聞くと傷つけてしまうかもしれない。いや、確実に傷つけるだろう。でもこれはいつか聞かなきゃいけないことだと思う。だったらあまり深くないうちに聞くべきだろう。

 

「今から聞くことを率直に、素直に答えて欲しい」

「えっ、わ、わかった………」

「もし、僕が突然目の前からいなくなったらどうするべきだと思う?」

「ど、どうしたの急に」

「リサ」

「……わかんない」

 

 この答えはリサみたいな優しい子にはちょっとひどい答えかもしれない。傷つけたくないと考えている自分がいる。けどそれくらいの覚悟は持っておいて欲しいと考えている自分がいるのも事実だった。

 

「答えはね、忘れること(・・・・・)だよ」

「えっ?」

「こう見えて僕、まだ隠し事してるんだ」

「隠し事?」

「うん、それをいつ話せるかわからない。それを話してもいいかもね。もしかしたらその隠し事はリサが想像もできないようなことかもしれない」

「そ、それって前に言ってたバケモノの話?」

「そう考えてもいいかもね。そんな気味の悪いバケモノのことはいなくなったと同時に忘れるべきなんだ。わかった?」

「なんで、そんな話を今?」

「なんでだろうね」

 

 今になって自分でもわからなくなった。なんでこんなことを言い始めたのか、そもそもどうして聞こうと思ったのか。考えても答えは見つからなかった。故に気にしないでくれと言おうとした瞬間錠前の音が鳴り響く。だけどそれを開くことなど考えもしなかった。すぐ近くで悲鳴が聞こえたからだ。実際問題その正体は見えた。しばらく見る事のなかったファンガイアが暴れている。所々がオレンジ色をしている蟻の様な顔のファンガイア。見たことないとも思ったがとりあえず対処するためにベンチから立ち上がるとリサが袖を引っ張ってくる。何か言いたそうな顏をしているがいっていいのか戸惑っているようにも見えた。

 

「ごめんね、行かなきゃいけないんだ」

「でも、さっきの話……」

「ああ、大丈夫。もしも(・・・)の話だから。ごめんね、変な話しちゃって」

「で、でも」

「それにこれは、僕の仕事だから。危ないから、逃げて。なんならそのまま帰ったほうがいいかもしれない」

『R・E・A・D・Y』

 

 リサの手を離して敵の元に向かっていく。認証を終えたナックルを構えてベルトに差し込み、イクサシステムを身に纏う。

 ────仕事、か。本当はただの復讐みたいなものなのにね。

 ファンガイアはこちらに気付いたのか威嚇してくる。けれど僕は歩みを止めずにイクサカリバーを構えて近づいていく。

 

「今日は……少し機嫌が悪いんだ。その命、神に返しなさい」

『オオオオオオオオオ!!!』

 

 雄叫びを上げるファンガイアは向かってくる。剣を逆手に持ち替えて上に振り上げる。振り上げた斬撃は当たり、隙が見える。それを逃さず持ち替えて切り続けると剣を握りしめて拳を繰り出してくる。警戒はしていたが間に合わず腹に打ち込まれる。けれどその腕を掴み、脛を蹴る。悶絶するように声にならない叫びを上げている。流石に脛はかなりのダメージが入ったようだ。弁慶の泣き所、それはどの生物も同じようだ。だがおかげで剣を掴んでいた手が緩んだ。勝機を零すまいと剣を引き抜き回転すると同時にフェッスルを挿し込む。

 

『イ・ク・サ・カ・リ・バ・ー・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』

 

 イクサカリバーに光を纏わせ正面に敵が来た瞬間上から切り裂く。切り裂いたファンガイアは爆発四散して硝子となり砕け散った。他に敵がいないか確認してから変身を解除すると既に時間が夕暮れになっていることに気付く。流石にリサも帰ってるだろうし僕も帰ろう。そういえば着て来た服どうしたっけ?そうだ、ベンチに置きっぱなしだった。服を回収しにさっきまでいたベンチに戻ると一人の女性が座っていた。それはさっきまで話をしていた今井リサ本人だった。僕の頭の中は疑問でいっぱいだった。何故?どうして?逃げてって言ったのに、帰るべきといったのに。

 

「ダメじゃないか、こんな所にいちゃ」

「新一…」

「危ないから逃げてって言ったのに。怪我してないからいいものの、本当は離れなきゃいけないんだよ?」

「…ごめん……」

「ううん、わかってくれたなら大丈夫」

「でも」

「?」

「でも、さっきの話思い返してたら、本当にいなくなっちゃったらどうしようって」

「それは………」

「ねぇ新一、いなくなるのって、友希那に正体がバレた時?」

 

 想定していない質問だった。実際、正体がバレた時どんな処置が待っているかはわからない。執事は解雇、最悪この力は奪われてしまうかもしれない。そして皆の前から姿を消さなきゃいけないのかもしれない。けれどそれとはまた別に違う意味での消える(・・・)もあるかもしれない。でもそんなことを言えばこの子は悲しむだろうか。僕は彼女の頭に手を乗せて話しかける。

 

「その答えは僕にはわからない。けど、僕は皆と離れたくないから、いなくならないよう頑張るよ」

そこはアタシの為じゃないんだ……

「え?」

「ううん、なんでもない!暗くなってきたしそろそろ帰ろうよ!」

「…そうだね、荷物貸して。僕が持つよ」

「大丈夫だよそれくらい」

「いや、デートの途中ですっぽかしたからね。これくらいはさせてもらうよ」

「全く、そういうところだっての」

「なんかいった?」

「な〜んにも!」

 

 リサは僕を置いていくように走っていく。途中で振り返ると本当に置いていくぞと言ってくるので荷物を崩さないようにしながら走って追いかける。追いつくと笑顔を見せてくる夕日に照らされた彼女の顔はどこか不安そうな顔にも見えた。しばらく雑談しながら歩いているうちに家の前にまで着く。持っていた荷物を渡し、玄関先まで送るとそれじゃと手を振ってくる。僕も同じように返事をして帰ろうとすると声をかけられる。

 

「新一!」

「何か忘れ物?」

「そうじゃないけど……今日はありがとう!」

「!…こちらこそ、ありがとう」

「お昼のこと、まだよくわかんないけど、それでもアタシ、諦めないから!絶対振り向かせて見せるから!」

「うん……わかった。僕も頑張るね」

 

 返事を受け取ったリサは家の中に戻っていく。今日はなんか色々と疲れたような気がする。といっても大半は僕のせいだけど。本当に今日はどうしたんだろう。考えても仕方ないと思いつつ鍵を開け、ただいまと言おうとするとそこにはお嬢様の姿があった。

 

「お嬢…様……」

「おかえり」

「た、ただいま戻りました」

「何?」

「い、いえ、お嬢様に迎えていただけるなんて光栄です」

「たまたまよ、飲み物を取りに来たら鍵が開く音が聞こえたから」

「そう、でございますか」

「ええ、早く夜ご飯の準備をして……その服はどうしたの?」

 

 お嬢様は僕の格好を物珍しい目で見てくる。確かにお嬢様の前であの格好以外は初めてだ。そういった目で見られてもおかしくはない。

 

「リサがコーディネートしてくれたんです。いつもの格好で行ったら怒られてしまって」

「そう…なのね」

「はい、ではすぐに準備いたしますのでお待ちください」

「え、ええ」

 

 靴を脱いで上がり、急いでキッチンに行く。冷蔵庫の中身を確認すると晩御飯に使える食材がたくさん入っていたのですぐに調理して食卓に並べた。

 しかし、今日のあの発言はどう考えても自分でもおかしいと感じている。嫌な予感がしている気もしてならない。だが僕はやらなきゃいけないことの為に生きているんだ。でももしかしたらこれを死んでいるというのかもしれない。でも僕はアレを、アレ(・・)を討つまでは生きていかなきゃいけないんだ。



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第八話 骸探偵 京 遊園地編

 題名で分かると思いますが彼の本職ですね

「来ねぇと思ってたのに……」

 是非もないよね。それじゃあ頑張って、ちゃんとcm挟むからさ。簡単かもしれませんが皆さんももしよろしければ推理してみてください。では本編どうぞ!


 文化祭から1週間近くが経った。数学の時間だが内容が内容のせいか簡単すぎてつまらなく感じる。授業中もずっと窓の向こうを見ていた。ただ、今日の空はここ最近雨が続いているせいか今にも降り出しそうな空色だった。そのせいという訳じゃないが俺の頭の中はここ最近あった事件が何度も繰り返し思い出される。

 その事件は文化祭が終わった次の日だった。俺は夏休みに依頼してきた人に呼び出されてある遊園地に来ていた。

 依頼者の名は櫻田翔子(さくらだしょうこ)。その人の依頼は既に完結していた。行方不明の息子である櫻田優希(さくらだゆうき)の捜索だった。しかし行方不明になったのはもう何年も前の事で俺に依頼する数日前に警察から打ち切られたらしい。それでも諦めきれなかった翔子さんは俺に依頼してきた。死体になってるかもしれないぞと警告はしたもののそれでもいいと言うので優希君を探した。結果は言わずもがな遺体として発見された。それも左手の骨だけがなかった。発見場所は山の麓の廃屋の近くだった。優希君は真面目だったらしく、いなくなる前は受験期真っ只中の秋で夜に気晴らしに外に行っていた事が多々あったらしい。けれどもきちんと帰ってくるので両親は特に何も聞かなかったと言う。ついでにその時の様子を聞くと左手に手袋をしていたらしい。彼は左利きだったらしく、夏に入る頃にペンを握り過ぎて疲れないようにと普段勉強するときにつけていたらしい。しかして夜場に何をしに行っていたのか気になり彼と仲が良かったという友人の元に尋ねに行くと手袋を使い始めた夏あたりから関わりが薄くなっていったという。しかし秋に入る頃に彼を見たときにクラスで柄の悪い坂本康二(サカモトコウジ)、誰とも話せる青山明(アオヤマアキラ)、よくイジられていた岩本満(イワモトミツル)の三人と話しているところを見かけたらしい。普段一緒にいるような人たちではないとのことで気になった俺は青山という人に連絡を取らせてもらった。友人には礼を言って家を出ていった。

 翌日青山に会ってみるとあまり関わったことなくて偶然話していたなどと述べられる。しかしこっちの事情を話すと手がかりになるかもしれないとある女の電話番号を渡してきた。その女を呼び出し話を聞くことにした。名は秋山麗華(アキヤマレイカ)、当時優希君のクラスの学級委員をしていたらしい。しかし話を聞いているとどんどん具合が悪そうに顏を青くさせていく。何か知ってると思い込んだ俺は嘘を混じらせながらカマをかけていくと観念したのか本当のことを話し始めた。全ては彼女から始まったことらしく、万引きなどの小さな非行を非行を行なっている所を青山たちに見られ、興が乗った彼らは優希君にやらせ、仲間意識を作ったらしい。しかし彼が辞めようと言った時争いになったが彼の説得が効いたのかこのことは誰にも言わないようにして終わらせようという話になったらしい。しかし坂本が気軽にやったのか、場所が悪くバランスを崩した優希君は滑り落ち、頭を打って亡くなってしまった。そして仲間の証として入れていた刺青が自分達にもあることから犯人にされるのではないかと焦り、いつも集まってる場所である廃屋の近くに埋めたとの事だった。廃屋の場所まで案内してもらうと他の場所に比べれ雑草や花がよく育っている場所が目に見えた。その時も使ったであろう廃屋にあったシャベルを使ってその場所を掘ると中から人の骨が出てきた。急いで警察を呼びDNA鑑定をやって貰うと案の定優希君だった。依頼主である翔子さんに一部始終を話し、秋山麗華と話をさせると翔子さんは事故だったのなら仕方ないと、むしろ優希と一緒にいてくれてありがとうとまで礼を言った。その言葉を受け取った秋山は泣き崩れてずっと嗚咽を混じらせながら泣いていた。そうして事件は幕を閉じた。俺は依頼料と本人の意向で礼金を貰い、これで事件は全て終わったとそう思っていた。

 遊園地の入り口で待っているとある女の姿が見える。長い黒髪に宝石のような装飾品が入ったピアス。その正体は秋山麗華だった。どうやら俺と同じく数週間前から翔子さんに呼ばれていたらしく、今日来るメンバーは来る人のことも全部伝えられてるらしい。もっとも俺は他の人が来ることは聞いてはいなかったんだがな。待っている間に事件のことを聞いた。ここにいる事で断定はしていたがやはり自首していなかったらしい。当然自首すれば遺体遺棄で逮捕されているはずだ。家族に迷惑がかかるとかではなく自首する勇気がないんだとか。受け流すように答えると沈黙が出来てしまった。しばらく同じ状態が続くと体のデカい男が視界に入ってくる。

 

「よぉ、秋山じゃねぇか。高校ぶりだな」

「そうですね、お久しぶりです坂本君」

「その感じ懐かしいな〜。っとソイツは彼氏か?」

「ばっ、馬鹿言わないで下さい!この人は探偵の鳴海さんです」

「鳴海って…まさか北の名探偵!?」

「知ってて何よりだ」

 

 名前を聞くなり俺の顔を見て驚いている。なんで初対面の奴らは俺のことちゃんと知ってんのに知り合いどもは知らないのかね。しかし体格からして今は目立つような悪いことはしてないの感じ取れる。あくまで目立つ事だけど。

 

「何でいんだよ!電話では聞いてねぇぜ!?」

「私もさっき知ったんです」

「ま、まさかあの事が……」

「それは多分後で話があると思います」

「あっれ〜?もう二人とも先に来てるじゃん」

「そうみたいだね。でももう一人知らない人がいるよ?」

 

 声のする方を見ると坊主頭の男とチャラそうな男がこっちに向かってきていた。チャラそうな方は金髪でなんか服装が腹たった。見た目で判断してしまったが反省はしないし謝罪はぜってぇしねぇ。ただよく見ると前に会ったことある顔だった。

 

「あれこの間の探偵さん?」

「久しぶりだな……青山明」

「青山君知り合い?」

「ああ、この間なんかの探し物とかで俺のところに来た探偵さんだよ」

「鳴海京だ、お前は岩本満だな?」

「ええ!僕のことも知ってるの!?」

「勿論。お前らのやったこともな」

 

 笑うように言うと青山と岩本は驚いた顏を、坂本は睨み、秋山は俯いていた。仕方ないだろう。取り返しのつかないことをやった上に自分達の隠し事が他人にバレたんだから。

 

「じゃあ、もしかして僕らこれから警察に!?」

「バーローんなことしねぇよ」

「は?なんで?」

「自分達の罪に気付いてるんだから自分達で行け。お前らは正しいことをしたと思ってるわけじゃないんだろ?」

「い、いいのか?」

「良いも悪いもお前らが決めろ」

 

 そのことだけ告げて壁に寄りかかると四人が話し合う。別にアイツらを庇ってるわけじゃない。気づきを与えるのが教育だと言う奴もいる。ならば犯罪者に変化の機会を与えるのは探偵の役割ではないだろうか。ただしこれは担当した事件に限るが。しかしまぁ全員気まずそうな顔しやがって。そんな顔するくらいなら最初からやらなければいいのに、なんて言えんのは当事者以外だけか。四人がいる方向と反対の方を見ると知っている顔が見える。依頼者だった櫻田翔子さんだ。ただ隣に翔子さんより大きい男の姿が見える。年は見たところ五十代といったところだろうか。

 

「ごめんなさい呼び出しといて、待たせてしまったわよね」

「いえ、全員来たところですから。そちらの方は?」

「ああ、あの時はいませんでしたものね。ほら、あなた」

「この間は妻が世話になった。優希の父親の櫻田幸雄(サクラダユキオ)だ」

 

 旦那さんか、なら話は通るな。俺も一度会釈して社交辞令をやっておく。礼を言われたが仕事だからなと答えた後に見つかってよかったですねと言うと少しだけだが嬉しそうな顏をした。翔子さんに視線を戻すと翔子さんが四人の元へ行き全員に声をかける。しかしやっていることに疑問を感じた。この違和感がその時はわからなかったがとりあえず翔子さんに話を聞くことにした。

 

「それで、今日は何で呼んだんだ?」

「皆にお礼が言いたくてね」

「お礼?」

「だってこの四人は優希のお友達だったんだもの。それに探偵さんは優希を見つけてくれた」

 

 その言葉を聞いた瞬間四人は俯く。けれど翔子さんは困った顏を見せた。

 

「あなた達を責めてるわけじゃないの。それにあなた達は自分達のためにやったのかもしれないけど優希の罪も隠してくれたんでしょう?」

「…え?」

「ということは優希のことも庇ってくれたんじゃない!感謝してるわ。息子が悪いことをやったってことを黙ってくれてたんだから。………私は気づけなかったから、あなた達のような友人が出来て優希はきっと幸せだと思う」

「でもオレ達は………」

「いや、君達には感謝している。事故で命を失ったとはいえ短い人生、優希に良き友達が出来ていたこと、父親としてとても誇らしいと感じている」

「そう!だからあなた達にはお礼としてこの遊園地でたくさん遊んでいって欲しいの!もちろんお礼だからお金は私達が出すわ。だから遠慮しないで!」

 

 翔子さんはゲートの前で大きく腕を広げる。しかしなんて優しいんだろうな。本当なら恨んでても仕方ないはずだが、この人たちの器はどこまで広いんだか。

 

「ホントっすか!?じゃあお言葉に甘えて!」

「まぁそれなら仕方ないよな!」

「皆が行くなら僕も…」

「ちょっと、皆!?」

「私達の事は気にしないで君も楽しみなさい」

「で、でも」

「いいんじゃないか?」

「鳴海さん………」

「せっかくだ。こんな人達はそうそういない。それに、遊んでやることがこの人達のためにもなるんじゃないのか?」

 

 四人の中で唯一戸惑っていた秋山はまだ戸惑いを見せつつも遊園地の中に入っていった。その様子を見送った俺は回れ右して帰路に着こうとしたところ肩を掴まれる。後ろを振り返るとそこには幸雄さんがいた。

 

「君も遊んでいきなさい」

「いや俺息子さんの友人じゃねぇし」

「言っただろう?見つけてくれたお礼がしたいと」

「それなら金を貰った。俺にはそれで十分だ」

「じゃあこの老骨の遊び相手になってくれ」

 

 えぇと困惑しているとゲートの向こうにいる翔子さんが元気いっぱいの声で呼んでくる。仕方ないと思いつつ幸雄さんと肩を並べて入ると入場BGMが流れる。遊園地などいつぶりだろうか?小学生?だとしたら約十年か。さてさて、隣のおじさんはと見てみるとすごいキラキラした笑顔だった。さぁ行こうと言われ俺もその後ろについて行く。それからは本当に夢のような時間だった。ジェットコースターに乗ったりお化け屋敷に行ったり本当に楽しかった。昼食を終えて移動しているとマジックハウスの前を通る。

 

「なんだこれ」

「えっと…マジク…ほうせ……?」

「マジックハウスです。これくらい読めてください」

「英語なんて出来ねぇよ」

「よく高校卒業できたな」

「ねぇ皆、せっかくだから行ってみない?」

「面白そうだし行こうよ」

「そうだな!」

 

 全員がマジックハウスに入ろうとした瞬間電話のコール音が聞こえた。誰だと確認すると幸雄さんのスマホの音だった。

 

「すまない電話だ」

「待ってましょうか?」

「いや、会社からだ。長くなりそうだな、すまないが君達だけで行ってくれ」

「え〜でも」

「気にしないで私もこの人についてるから、終わったらここで集合しましょ」

「あ、あの。私も行くのをやめておきます」

「えっ、どうしたの秋山さん」

「ちょっと………ね?」

 

 顏を少し赤らめながらこちらに視線を送ってくる。察するには察したがなぜ俺に向けたかわからない。俺は頷いて男共を回れ右させて背中を押す。

 

「じゃあ俺達だけで行こうぜ」

「ちょっ、おまっ」

「察しろアホども」

 

 文句を言いながらも俺達は施設内に入っていく。入ると少し薄暗いまっすぐな道を歩いていく。道の先にある扉をはると鏡ばりの部屋に繋がっていた。突然の現象に周りは驚き始める。

 

「な、なんだよこれ!」

「ぼ、僕たちがたくさんいる!?」

「落ち着け。ただの鏡だ」

「鏡?」

「ああ、簡単な話だ。この部屋全体が鏡ばりになっていて迷路のような錯覚を起こしてるんだ。ミラーハウスってヤツだな。辿ってみれば意外とすぐ別の部屋に着くぞ」

 

 奴らの先に立って進んでいくと後ろから追いかけてくる。しかし自分で言ったものの迷いやすい構造ではあるわな。周りが全部鏡のせいで反射して道が分からなくなる。だがそんなこんなで次への扉にたどり着いた。全員がいることを確認して扉を開けるとマジックショーをやっているような格好の人間が現れた。しかし顔は笑顔仮面で隠してあるせいでわからない。体格で性別が判明できるかと思ったがそういう判断も出来ないようになってた。その仮面は手を広げるなり岩本に手を差し伸ばしてきた。岩本はその手を取って案内される。俺たちもついて行こうとするが反対の道に行くよう指で指示される。何かの演出だろうと思い込んだ俺達は反対の道に沿っていく。

 沿った先にはまた扉がありそれを開けると椅子が赤青緑の三脚並べられていた。とりあえず座った俺達は目の前にある真っ暗なモニターを眺めると突然明るくなりモニターに何かが映される。それは白い箱に入れられた岩本だった。箱は横になっているため当然岩本も横になっている。どういうことだと困惑していると奥の方からさっきの仮面が現れる。だがさっきとは違い手に長い刃を持っていた。その刃は岩本目掛けて振り下ろされる。体を一刀両断したかと思えば血は一滴も出ず体を分離させるように箱を動かしている。そして何より岩本は笑ったり真顔になったりと顏を動かしている。今になってやっと気づいた。これは人体切断マジックだ。だから平気でいられるのかと安心するとモニターが変わり文字が映し出される。

 

『びっくりしましたか?ですが彼の体はなんともありません。これから彼は別の部屋に移動し貴方達と同じような映像を見てもらいます。では赤色の椅子に座っているあなた、右側の扉にお進み下さい。残りの方は左へどうぞ』

 

 全部読み終わっても文字は消えることはなかった。

 

「これどうすんだ?」

「うーん、まぁ良いっしょ。言うこと聞いとこうぜ。それに次行くの俺だし。さぁてどんなマジックやるのかな〜っと♪」

 

 楽しげにスキップして進んでいく青山を俺たちは止める事なく見送る。隣の男と目があうとお互いため息を漏らしながら左の扉を開ける。しかし次は赤と青の椅子が並んだ部屋だった。どっちに座るか確認すると赤に座るというので俺は青に座ってまたモニターを見続ける。だが今回はさっきよりも長かった。シビレを切らしたのか坂本が声をかけてくる。

 

「なぁ探偵」

「んだよ」

「やっぱ自首するべきなのか、オレ達は」

「言ったろ、んなこと知らねぇって」

「で、でもヨォ」

「悪いと思えてんならやることは一つだろ。俺は気付けている奴らをわざわざ苦しめたくはねぇ」

 

 ある一定層を除いてだが。気付いていてもなお悪行に走る奴もいる。だが皆が皆というわけではない。けどそういう奴らは探偵の時に限っては見逃すようにしている。

 

「決断するまでは時間がかかっても決断したあとは受け入れられるものだ。だが時間が待ってくれるわけじゃない。だから決めるなら早いウチがいい、とだけ言っておく」

「………わかった」

「ま、今はこのマジックショーを楽しんどこうぜ。ほらはじまっぞ」

 

 ふとモニターに視線を向けた瞬間明るくなっていることに気づいて促す。今度の流れる映像はさっきとは違い青山が十字架に磔にされていた。磔と言っても腕と足を縛られているだけだった。だが縛られている本人は無邪気な子供のように笑っている。画面の端から仮面は拍手をしながら現れ、その腕を勢いよく降ろしたかと思うと数本のナイフを袖から出す。構えた瞬間ナイフを投げ始める。投げられたナイフはどれも青山スレスレで十字架に刺さっていく。何度もナイフは投げ続けられ最終的には青山を型どるように十字架に刺さった。最後が一本投げられると頭のてっぺんで刺さり青山の無事が証明された。それが終わると画面はまた暗くなり文字が映し出される。

 

『彼もこれから別の部屋で行動してもらいます。では今度はお二人で話し合ってショーに参加してくれる人を選んでください。参加する人は右側へ、観客の方は左へよろしくお願いします』

 

 これもさっきと同じようにずっとついたままだった。

 

「どうするよ」

「どうするも何もなぁ……」

「オレが行ってもいいか?」

「別にかまわねぇけど」

「ありがとな。皆やってんのに仲間はずれは嫌だからよ」

 

 そう言って坂本は右の扉へと入っていった。だがさっきとは違っていい顏をしていた。どこか吹っ切れたのか、それとも無理してるのか。俺は考えることを放棄して左の扉を開く。しかし今回はすぐにモニターのある部屋に入る。こっからは構造の簡略化なのだろうか。座って待機しているとモニターに電源がつくのがわかる。けど今回は映像を見た瞬間悪寒が走った。さっきまで映像に映っていた部屋は自分たちがいた部屋と同じくらいの明るさだったのに今映っている部屋はまるで血に汚れた(・・・・・)ように赤黒かった。その部屋から目が離せないでいると画面の端から坂本が入ってくる。

 

「おい!その部屋から今すぐ出ろ!」

 

 いつの間にか俺は画面に向かって叫んでいた。さっきまで冷静だったのが嘘みたいだ。叫んでいる理由は簡単だった。聞こえたんだ。目の前で事件が起きる時には必ず聞こえる、始まりの合図(死神の足音)が。急いで止めに行こうとしたが入ってきた扉が開かない。鍵がかけられているようだ。反対側はどうだと振り返った瞬間画面が明るく光る。坂本は金属で作られていることが一眼でわかる箱に入っていた。首だけが出ていて今からショーが始まるみたいだった。画面の横から影が現れる。しかしその影はさっきまでの仮面ではなく手が大きなハサミになっている化け物だった。坂本はその姿を見て叫んでいるようだった。しかし声は全く聞こえない。本人の声が聞こえない代わりにおもちゃの交響曲が流れている。ハサミの化け物はその手で坂本が入っている箱を掴むとその箱を三つに切る。ハサミを外すと今度はどこからか剣を取り出し体の所々を刺し始める。見ている光景が信じられなかった。それでも目を離す事は出来ずに何もできないままその映像を見続けていた。そして刺し終えた化け物は最後に坂本の首に手をかけ、閉じようとした瞬間に映像は切り替わった。映ったのは一つの円形テーブルと仮面の姿だった。仮面が自分が着けている帽子を外すと何もないことを見せつけてくる。その帽子をテーブルの上に置き、ゆっくりと机の外に引っ張っていくと一度回転させて帽子を机の上に置く。帽子の頭を三回叩いて帽子を外すと手紙が出てくる。仮面は指を鳴らすと同時に消え、反対側の扉からは鍵が開く音が聞こえてくる。急いで開けに行くが誰もいなかった。その代わり映像に映っていた円形テーブルと手紙が置いてあった。黒い封筒であるそれからは嫌な予感しかしなかった。開くと一つの鍵と一枚の手紙が入っていた。

 

『最後までご観覧いただきありがとうございました。皆様ここから先の部屋で待っています。是非お迎えに行ってあげてください』

 

 寒気に襲われた俺は壁に貼ってあった矢印の方向へ走っていく。間に合わないかもしれない、そんなことは考えずにずっと走っていた。やがて扉にたどり着きさっきの鍵を使って開けるとそこにはさっきまでショーをしていた三人が最後に見た姿のままいた。岩本は箱に入れられたまま真っ二つに切られ、青山は十字架に磔にされたまま胸にナイフが刺さり、坂本は首だけが出た状態で箱を三等分に切られた跡が残っていた。

 

「クソがっ…!」

 

 ────なんでこうなった?何故俺の目の前で三人も死んだ?どうして俺は何も出来なかったんだ!

 俺は怒りに震えながらも係委員を探しに行った。しかし誰も見つかることもなくハウスの外に出る。すると偶然か、それとも必然か秋山が声をかけてくる。

 

「どうでしたか‥って皆さんは?」

「…警察を呼んでくれ」

「え?」

「おかえり〜!ってあれ?足りないような」

「係委員を呼んできてくれ」

「何があった?」

「………三人が死んだ」

「「「え!?」」」

「いいから俺の指示に従ってくれ!」

「は、はい!」

「わ、わかったわ!」

 

 三人は驚いているみたいだが今はそんなことをしている場合じゃない。異常事態だ。それに混乱してて気づかなかったがおそらくあの怪物はドーパントだ。クソッタレが!だが俺もこんなところで止まってるべきじゃない。急いで現場に戻ろうとすると肩を掴まれる。誰だと振り向くと幸雄さんの姿があった。

 

「何をしているんだ」

「これでも探偵なんでな。警察が来る前に現場を見ておきたい」

「ならば同行しよう。そういう知識はあまりないのだが、この状況で一人になるのは色々と困るだろう」

 

 その言葉を聞いて俺は礼を言う。確かに誰もいない中一人で現場に戻る(行動する)のはかなりリスキーだ。それにもしドーパントが出ても俺なら戦えるからこの人も守れる。二人で現場に行くと風景はさっきと変わっていなかった。初めて三人の遺体を見た幸雄さんは口元を押さえて吐き出しそうなのを我慢しているように見える。

 

「ほ、本当に三人なのか…?」

「ああ、本物だ。触るなよ?現場を荒らしたら証拠も消えちまうかもしれないからな」

 

 注意喚起だけ流して俺は一人勝手に捜査を始める。警察が来るのも時間の問題故に作業を進めていく。

 まずは最初に殺されたであろう岩本の遺体。コイツの体は下半身と上半身で真っ二つに切られている。おそらくはさっきの化け物は俺達に映像を見せて生きていることを確認させ、画面に文字を映している最中に岩本を殺した。他の奴らも同じようにやったんだろう。まさかこんな簡単なことに気付かなかったとはな……。そのほかに遺体の変わった部分がないかと入っている箱を開いてみる。勿論手袋を装着しているため指紋とかはつかないだろう。なんで持ってるかは探偵だからとでも言っておこうか。上から箱を開くとおかしいことに気付く。左足の太腿(・・・・・)だけが無くなっていたのだ。もともと血が流れていたことから上半身と下半身が斬られていることは分かったがここまでは開くまで知りもしなかった。

 

「何故太腿が無いんだ!?」

「それはこれから調べる。てかアンタ無理しなくていいぞ。そもそも一般人がこういう現場にきちゃいけねぇ」

「だ、だが君を一人にしてはならないだろう?」

「仮に俺が犯人だった時今のうちに証拠隠滅できるからな。その点で言えばアンタも同じだ。だから着いて来るって言ったのは正解だ。自分の潔白を証明するにはな」

「君は……大丈夫なのか?」

「正直異様な光景すぎて吐き気がするがそうも言ってられない」

 

 死んだ連中には悪いがどこかが欠損してる遺体とかおかしいからな。色々と見て岩本の調査を終える。

 次に青山の遺体を見る。今度の遺体は言い方は悪いが至ってシンプルだ。映像通り青山を象るようにナイフは刺さり、一本だけ心臓に刺されている。腕や足が縛られていることを確認すると違和感を感じる。その違和感の正体もすぐにわかった。岩本の遺体に太腿がなかったように今度は右足の足首から下(・・・・・・・・)がなくなっていた。足首からの出血はもう止まっているがあたりを見ても足首が落ちているなんてことはなかった。仕方ないので他の部分の違和感を探すと特に無かった。

 最後に坂本の遺体を確認する。首だけが出た状態で動こうとはしない。目は虚になって瞳孔は開いている。箱を開いて遺体の状況を確認するとボトッと重たいものが落ちる音がする。何が落ちた確認すると腕が落ちていた。坂本を確認すると左腕が肩から(・・・)切り落とされていた。しかし落ちた腕には肩は存在しなかった(・・・・・・・・・)。おかしいと思うのも仕方なかった。後ろから見ていた幸雄さんも顏を真っ青にしている。腕を後回しにして遺体の体を見るとおかしいことに気付く。三等分されたはずなのに腕は三つに斬れていなかった。寧ろさっき落ちた腕も肩がないだけで至って綺麗な状態だったのだ。勿論血は付いていたが。そして何より体が三等分にされている、左腕が切り落とされている以外の傷が一切無かった(・・・・・・)のだ。俺は映像越しにコイツが剣で刺される瞬間を見たというのにだ。その度に苦しそうな顏をしていた。なのに刺し傷は一切ないのだ。おかしいと何度も考え直したがどうも考えはまとまらなかった。

 一度別のものを見ようと道を戻り円形のテーブルの元に行く。手紙が置いてあったテーブルだ。何かあるのかと触ってみると蓋の裏に留め具のようなものがあるのに気付く。なんだと思い見てみると天板を固定するためのものだった。取り付けた状態だったので外して蓋を取るとただの円柱の台座になった。その状態で台座を回すとただ取れるだけで何もなかった。特に仕掛けはないかと周りを見ると何やら光るものがあった。拾って見るとキラキラ光る装飾の一部のように見える。とりあえず預かっておこうかとハンカチに包んでしまうと奥の方から声が聞こえてくる。しばらく待つと警察だということに気付く。刑事らしき男が一人、あとは青い服をした奴が数人といったところか。

 

「君達こんなところで何をやっている!ここは立ち入り禁止だぞ!」

「それって数分前になったんですよね?」

「そうだが」

「じゃあ知りませんよ。その立ち入り禁止になる前から俺らは入ってたんで」

「さっきから思うが何故だ、ここは元々アトラクションとして機能していない所だから関係者以外立ち入り禁止のはずだ」

「は………?」

 

 言っていることの意味が理解出来なかった。だって俺達はここがアトラクションだと思って入ったのだから。それにおそらく犯人であるあの仮面が係員みたいなことをやっていた訳だし。

 

「なんで一般人の君達がいるんだね。とりあえず帰った帰った」

「断る」

「は!?ちょっとお父さん、息子さんどうにかして下さいよ!」

「い、いや」

「そいつは俺の父親じゃねぇ。同伴者だ」

「じゃあ君は一体なんなの」

「鳴海京、探偵だ」

「北の名探偵!?」

 

 やっと理解したのか今の動きで乱れた服を直している。やはり俺のことはちゃんと知っているらしく捜査の手伝いをするように依頼される。既にやっていると伝え、自由行動権を得る。ここは調べ終わったのでショーが行われたであろう部屋に向かった。しかし最初に見たのと全て同じ部屋で全て奴らがいた場所に血溜まりが出来ているだけだった。他にあったことといえば坂本が殺されたであろう部屋には無くなっていた剣があり全て血に染まっていた。急いで鑑識に回してもらい俺達はあたりを見回す。

 

「どうだい鳴海君」

「とりあえず見れるもんは全て見たと思う。すまねぇな付き合わせて、一回外に出るぞ」

 

 来た道を引き返して外に向かっていく。道の所々で警察の人がいるのを確認される。外に出ようとした瞬間さっきの刑事に出会う。事情聴取をさせてくれとのことで俺たちはそれぞれ連れられ話をさせられる。会ったこと全てを話すと刑事は頭を抱え始める。ただ一つだけ嘘をついた。ある意味では嘘ではないが。正直化け物がいたなんて言っても信じてもらえないだろうから仮面の人物がやったと言った。事情聴取から解放されると秋山と翔子さんに会う。

 

「鳴海さん………」

「どうだった?」

「やはりアイツらは死んでいた」

「死ん…!」

「嘘かと思うが事実だ。今のこの状況が現実だ」

「だ、誰が殺したの!?」

「それはこれから探す。二人共俺達が中にいるとき何をしていたか聞かせてくれ」

 

 それからは二人の話を聞いていた。翔子さんは旦那である幸雄さんについて行き、旦那の電話が終わるとトイレに行ったとのことだ。しかしトイレは混んでいてなかなか入ることはできなかったらしい。その間旦那はずっとベンチで待っていたとのことだ。秋山に聞くと少し話すのを躊躇っていたがきちんと話してくれた。生理が来ていたらしく秋山もトイレに行っていたらしい。だが翔子さんと同じくトイレは混んでいたから相当時間がかかったとのことだ。そして施設の前に戻ってきたら俺を見かけて声をかけてきて以降は知っている通りだった。

 二人の話を聞き終えると幸雄さんが帰ってくる。幸雄さんに聞くと翔子さんとほぼ同じだった。すぐに電話が終わり、それからはずっとベンチで待っていたらしい。だがここで全員に共通することが証明された。それは誰もアリバイを確認できないことだ。櫻田夫妻は最初は良かったものの電話以降のアリバイを証明できる人間がいない。そして秋山に関しては最初から一人だったため証明する人は他にいない。とりあえず現状を纏めようとすると足元に何かがぶつかる。なんだと足元を見下ろすと宝石のようなもので装飾されたキーホルダーが落ちていた。

 

「なんだこれ」

「あ、それ私の!」

 

 返事を返してきたのは翔子さんだった。キーホルダーを渡すと大事そうに胸のほうに運んでいった。

 

「これはね、優希がくれたの。母さんはこういうの好きだよねって買ってきてくれたのよ」

「そうか。そんな大事なもの、もう落とすなよ」

「ええ、ありがとう」

 

 そのキーホルダーをカバンにつけるところを見た時何か違和感を感じたが気にせず事件の方に向かい直した。現状を纏めるとこうだ。

 

・桜田優希の関係者である岩本満、青山明、坂本康二の三名が殺害された。

・各自マジックショーで行われたものに沿って殺されている。

・遺体はどこかの部位が必ず欠損している。

・岩本はマジックショーに沿っていたが青山はマジックというよりサーカスのショーに近かった。なお坂本はマジックショーの形式だったが剣による刺し傷は無く、刺したであろう剣には血が付いていた。

・どの遺体の欠損部は見つかっていない。

・俺達の中で俺自身を含め、アリバイを証明出来る者はいない。

・今回のクロはガイアメモリを所有している。

 

 殺害方法は分かるものの血の付いた剣と欠損部の居場所が特定できない。俺が頭を抱え込みながら考えていると誰かが声をかけてくる。

 

「な、鳴海さん」

「あ?どうした?」

「何を悩んでいるのかなって」

「ああ、ちょっとな。一つ聞くんだがお前マジックが好きだったりするか?」

「そうですね。こう見えて私手品が好きで、皆がよく見てるような手品のタネだったら知ってたりしますよ」

 

 笑いかけるように秋山は話してくる。こいつは吉報だ。俺はマジックとかからっきしだったからな。どっかの馬鹿は得意らしいがどうせだったら近くにいる奴に聞いたほうが早い。

 

「じゃあ聞くが帽子の中から鳩が出てくるマジックは?」

「あれは至って簡単で、最初に客に見えないように机の裏や机の足の裏に鳩を入れた袋を隠しておくんです。そして帽子の裏に何もないことを証明して、帽子を伏せてからゆっくり引っ張るんです。鳩の入った袋と同時に。そして上手い事入れて帽子をひっくり返し、合図である3回叩くことによって鳩が出てくるんです」

「なるほど、確かに出来そうだな。他にも聞いていいか?」

「こんなことでお力になれるのなら、是非」

「人体切断マジックについて聞きたい。斬ったのにくっついたり血が出ないのはなんでだ?」

「あれは箱の中に二人入っているんです。上半身の人と下半身の人に別れて箱を閉じるんです。それで箱を二つくっつけてまるで一つの箱のように見せる。切っても血が出ないのはそもそも箱自体が二つだからですね」

「あれはどうだ?ハサミで切られるやつと剣が刺さるやつ」

「ハサミに関してはマジックナイフと同じ原理です。刃が一定の硬さに当たった時に引っ込んできれない仕掛けになっていると思います。剣に関してはギリギリ刺さらないようにしておくのがよくあるパターンだと。その剣ってちゃんと貫通してましたか?」

「そういえばそこまで確認している余裕はなかったな」

「だとしたらこの可能性が高いかと」

 

 なるほどと一人感心していると秋山が俯く。仲間が三人も死んで普通でいられたのがおかしいくらいだ。勿論事件解決の為に大丈夫そうに振る舞っていただけかもしれないが。しかしコイツから得られた情報は十分なものだった。あとは警察に聞いてみるかと動こうとすると閉じられていた口が開く。

 

「あっ、あの」

「なんだ?補足説明か?」

「いえ、その……今回のこと、鳴海さんはどう思ってますか?」

「知るか」

「え?」

「天罰だのどうだのは俺が知ったことじゃねぇ。俺はただ、犯人にこれ以上無意味に罪を重ねて欲しくないだけだ」

「でっ、でも」

「知らねぇつったろ。……せめて最後の決断(引き金)くらいは自分でしろ」

 

 力無く立っている秋山を置いて俺はハウスの中に入る。警察に現在得ている情報を貰うと予想通りの答えが返ってくる。それを踏まえて事件を整理する。最後に一つあるものを確認すると全て納得する。某小学生の真似をするなら「そういうことか、わかったぜ」というところだろうな。出口に戻ると刑事が欠伸をしていた。そんなんでいいのかと思いつつ全員を集めるように言うとさっきまでとは違い素直に言うことを聞いてくれる。

 さて、こっからは答え合わせだ。過去が今をもたらす、悲劇の事件。

 ────掘り出された()解き明かそう(土に還そう)か。

 

 




「僕は呪術高専でリサの呪いを解きます」

「僕には分かんない!でも、僕がRoseliaのマネージャーでいるために、僕が!!僕を!!生きてて良いって思えるように、オマエは殺さなきゃいけないんだ」

「来い!!!リサ!!!!」

 ってパロやろうと思うんだけどどう?皆

新「流行りに乗りましたね」
紗「配役はどうなるんですか?」

 新一が乙骨で、リサは里香、真希さんは紗夜さん、パンダはミッシェル、棘はモカ、五条さんは千聖さんにやって貰おうかな。

友「私と燐子は?」

 友希那と燐子は今回無しかな?

燐「じゃあ…敵は……?」

 夏油さんは薫さんにやって貰おうと思います。なんやかんやでちゃんとやってくれそうだし。千聖さんとの絡み面白そう。

京「世界を儚くされるぞ」

 因みに京はミゲルね。

京「は!?」


 では次回解答編へ!


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第九話 骸探偵 京 遊園地解答編

おめでとう、適当に遊んでたらタイトルロゴっぽいの出来たよ!

京「遊んでないで仕事しろよ」

こんな感じです

【挿絵表示】














今回の事件に関わった全員が遊園地のスタッフ休憩室に集められる。櫻田翔子、櫻田幸雄、秋山麗華、刑事、そして俺。俺と刑事を除いて容疑者は三人。今からソイツを暴き出さなきゃいけない。正直心苦しいがやらなくてはいけない事だ。俺は決意して全員に話す。

 

「もう分かっている事だが岩本満、青山明、坂本康二の三人が殺害された。言わずもがな容疑者はこの中にいる」

「は、犯人がわかったの!?」

「ああ、だが一つ一つを紐解いていかないと犯人も納得しないだろうからな。確認を踏まえて話していこう」

「北の名探偵の推理、見せてもらいますよ」

 

 刑事が目を輝かせながらこっちを見てくる。コイツこんな時に…本当に刑事なのか?とそんな疑問は投げ捨てて本題に移る。

 

「最初に確認だ。俺と被害者三人がマジックハウスに入った時、秋山はトイレへ、二人は幸雄さんの電話の後幸雄さんはベンチへ、翔子さんはトイレに行った。しかし完全にアリバイを説明できる人はいない。で間違い無いんだよな?」

 

 全員が頷いて訂正がないことを証言する。

 

「そして俺達がマジックハウスの中に入ると岩本、青山、坂本の順番で殺害は行われた。岩本は体を二等分に、青山は心臓を、坂本は体を三等分にされていた。そしてどの遺体も体の一部がなくなっていた」

「私、初めて聞いたんだけど……」

「私もです……ですがなんでそんなこと………」

「話していなかったからな。それも今から解いていく。まずは岩本の事件だ。俺達は仮面を付けた犯人に岩本を連れて行かれ、別の部屋で岩本を素体としたマジックを見た。横になった状態で箱に入っており、その上から真っ二つに斬られたが箱を離したりくっつけたりしても岩本は表情筋を動かしていた」

「どういうことだ?」

「よくあるやつだ。要はこいつは最初の人体切断マジックだったんだ。そしてなぜ表情を作れたかは秋山が知っている」

「は、はい。寝っ転がるタイプの人体切断マジックは最初から箱が二つになっていて、その二つに人を屈ませた状態にして入れておくんです。そして箱をくっつけてあたかも一つの箱に見せ、切断されたように見せるんです」

「ということは最初は生きてたってこと?」

「ああ、それを見た俺達はマジックだと気づくと画面は暗くなって次の部屋に行くように指示された。おそらくその間に岩本は殺され、左足の太腿だけ犯人に持ってかれた。

 そして次に殺された青山。コイツはマジックと言うよりサーカスに近かった。ナイフ投げで青山を型取り、頭のてっぺんを取って成功させると画面が暗くなった。その時に解放するように見せかけてナイフで殺したんだろう。そして今度は右足だけを切り取った。

 最後に坂本。コイツの時は俺は一人で部屋から見てた。逃げろと叫んだが聞こえるハズなんてなかった。そしてBGMのようにおもちゃの交響曲が流されていた。立ったまま箱に入った坂本は化け物の登場に怯え、三等分にされた。随分と苦しそうな顏をしていたがその後にたくさんの剣によって串刺しにされた」

「そ、そんな………」

「待ってくれ、そのような跡はどこにもなかったぞ!」

「そう、後で説明するが問題はそこなんだ。串刺しの瞬間を見た俺は急いで外に飛び出そうとすると扉が開かず、新しい映像が流されたのを見た。その映像は仮面をつけた犯人がテーブルの上で何もない帽子から手紙を出して円形のテーブルの上に置いたところで映像は消えた。だが消えたと同時に鍵の音がしたから部屋を出ていくと円形のテーブルと手紙が置いてあった」

 

 俺は手紙の内容を言うと全員怒るような表情をした。

 

「なんなんだそいつは!人の命を奪っておきながら……!!」

「そして手紙の指示通り部屋に向かうと遺体があったわけだ」

「ねぇ、岩本君と青山君のマジックはわかったんだけど坂本君のは?」

「それも秋山が説明してくれる」

「坂本君のトリックは、おそらく岩本君と同じ人体切断マジックだと思います。最初に三等分された時は化け物がやったと言っていますが、もしその化け物の持っていたハサミがマジックナイフと同じ容量だったら殺したと見せるのは……簡単です」

「確かにそうね!」

「しかし串刺しの剣はどうなる?」

「それは多分鳴海さんがしっかり見ていなかったせいで貫通したように見えたんでしょう。しかしあれも最初から刺し穴を用意して置けば中の人を傷つけずにやり通せるのです」

「つまり鳴海君の錯乱状態を利用したと」

「恥ずかしながらそういうことだ」

「ではあの剣は?血が沢山付いていたではないか」

「あれは血糊でした。おそらく謎を深めるためにやったと思われます」

「錯乱状態が深まれば謎は解けにくくなるからな。そして坂本の遺体からは左肩が無くなっていた。それも多分切り取っていたんだろうな。これで三人のトリックは証明されたな」

 

 次の証明に入ろうとすると刑事が手をあげてしゃしゃり出てくる。正直ここら辺で来るだろうとは思ってた。

 

「でも今までのトリックをそんな簡単に説明できるなんておかしくないですか?」

「というと?」

「つまりアレですよ。アリバイのない人なら可能。そして何より今回の事件はマジックの知識が必要になる。となると今までの発言からして秋山さんが怪しいのでは!?」

「そんなっ…!?」

「秋山ちゃんが……?」

「落ち着け。こいつは犯人じゃない……とは言い切れないが、マジックを知っているからといって犯人と決めつけるのは良くない」

「えっ?」

「コイツの話によるとマジックの類が昔から好きでタネを知っていたらしいぞ」

「ホントですか?」

「はい!本当のことです!」

「そうよね!秋山ちゃんがそんなことするわけないよね!」

「何より櫻田夫妻が知ってる可能性も否定は出来ない。それにあれだけの遺体、女一人じゃ到底運べないだろ」

「え、それじゃあ必然的に男である鳴海さんか旦那さんになりません?」

「共犯の可能性もあるがな」

 

 女に殺させ、男が運ぶ。または男同士でやる、女同士でも可能だ。つまり今の段階で犯人を決定することはできない。

 

「さて、話を戻すぞ」

「待って、アレはどうなの?」

「アレ?」

「マジックが終わった後の映像よ。アレって、明らかに見ていないと出来ないわよね?」

「それに関しては俺も疑問だった。最初は確実に選べるが次はどうか分からない。しかし最後は確実性があるぞ」

「何故だ?」

「だってもし二番目に俺が行ったら残るのは被害者のうち二人だ。どちらを殺しても正解なら問題は無いだろ」

「そっか、でも鳴海君だったらどうするつもりだったの?」

「そこは本人に聴かないと分からないが。おそらく俺も殺されたか、殺さずに先にハウスの外の二択だな」

「えっ、じゃあ二番目は賭けに出たって事ですか!?」

「大胆だよな、そんな不確定な要素を計画に入れるとか。補足だが三番目もさっきと同じだと思ってくれて良い」

「じゃあこれで映像の件は解決ね」

「まだ一つ残っていないか?」

「手紙を出したときだな。あれはおそらく記録映像だ。ライブ配信なんてしたらラグが分かるだろうし非効率だからな」

 

 それに失敗したときは無駄に時間を食う。

 これで映像とトリックは解決した。あとは確認事項をするだけだ。

 

「因みに聞くが刑事さん、欠損部は見つかったか?」

「いえ、見つかってません施設内も遊園地内も探させていますが未だに」

「となると犯人が見つからない場所に隠したんだろうな」

「ていうかそもそもこの中に犯人がいるって本当なの!?」

「残念だがこの推理に間違いは無いと断言する。被害者は全員アンタらと関わりがあるからな。この状況で全く関係ない奴が殺すなんて無理だろ。それにおそらく欠損部は数年前の事件と関連してる。そうだろ?秋山」

 

 睨むように聞くと体をビクつかせた。もし、あの話が本当なら多分このことにも関わっているはずだと俺は思った。だがアイツの反応を見てそれは確信に変わった。

 

「あ、あの……」

「何を怯えているんだ?言えば…きっと楽になれるぜ?」

 

 楽になると言われても秋山は言うのを躊躇っている。それでも待っていると閉ざされていた口は開かれた。

 

「その、皆の無くなっていた部分には蛇のマークが入っていたと思うんです。せっかくだから五人の印を作ろうって青山君が言ってて……」

「で、その証が入っているのが数年前の事件の関係者である事を物語り、今回狙われたっていうことだ」

「数年前の事件?」

「刑事さんも知ってるだろ。男子高校生が行方不明になったって。しかもそれが最近左手が欠損した状態で発見されたこと」

「あ!それありました、ってまさかこの事件と関係あったんですか!?」

「ここにいる全員関係者だ。櫻田夫妻は行方不明者の親、被害者三人と秋山はその行方不明者とグルで非行を行なっていた関係者。そして遺体遺棄の犯人達だよ」

「な、なんでこんなところに!?」

 

 んなこと自分で考えろと適当に促す。だがやはり推理通りだ。欠損部は関係者の証拠であるサイン入りの部位。つまり殺す動機に繋がるもの。居場所も既に見当はついているが分からない。何故犯人はそれを持ち出したのか。いやまぁそんなん犯人に聞けって話だろうけどな。ここまで来れば後は犯人を示すだけだな。反論はその時受け付けよう。

 

「それで、犯人は解ったんですか!?」

「今回のこの連続殺人、過去の悲劇が現在()を作り上げた狂った犯人(マジシャン)はアンタだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────櫻田翔子さん」

「え?」

 

 名指しをされた翔子さんは胸元にまで持ってきていた腕を力が抜けたように下ろす。周りが信じられない目で翔子さんを見る。言葉を受け止めきれない翔子さんは反論を始めた。

 

「な、何を言ってるの鳴海君。私が、出来るはずないでしょう?」

「そ、そうだ!翔子は私といたんだ!第一人を殺すなんてこと、翔子には無理に決まってるだろう!?」

「鳴海さん、本気で言ってるんですか?」

「俺は本気だ。それに幸雄さん、アンタがいたのは途中(・・)までだよな?」

「ッ!」

「そうだ、そして貴方が共犯者なんだよ幸雄さん」

「なっ、何を根拠に言ってるの!?」

「アンタらのアリバイ証言だよ。もし仮に完全に証明するならずっと一緒にいたと言うべきだったんだ。なのになんで途中で別れたなんて言ったんだ?」

「それが事実だからだろう!馬鹿なことを言うのはよしたまえ!」

「じゃあ聞くが、秋山。先にトイレに行ったお前は並んでる翔子さんを見たか?」

「そ、そういえば見てません………」

「だよな?話によれば相当混んでいたらしいじゃねぇか。それも女子トイレだ。男よりも時間がかかるはず。その上で同じ方向から来たんだからトイレからの帰りに姿を見てもおかしくないはずなのに見てないのはおかしくないか?」

「そ、そんなのたまたまでしょ!それに別のトイレを使ってたかもしれないじゃない!」

「かもしれないな。けど何故だ?自分が使っていたトイレぐらいどこの場所か覚えているはずなのにどうして違うのかもしれないと言えるんだ?」

「そっ、それは!」

「まぁそんなことはいいさ。けど同じトイレに行ったにしろどうにしろ秋山が帰って来れるのと同じ時間に帰って来れるのはおかしい」

「何!?そんなに時間がどうとかいうけどあなたは私たちを見てたわけじゃないでしょう!?」

「そうだぜ?だって俺はマジックハウスの中にいたんだからよ」

「ほ、ほらそうじゃない。やっぱり言いがかりじゃない」

「でもアンタ達、俺達と一緒に動いてたじゃねぇか」

「「「「!?」」」」

「最初の鏡部屋で俺達が混乱しているうちに部屋に入り準備をする。そして出口のところでどちらかが待ち伏せする。あの服装じゃ男か女かはわからないからな。そしてマジックショーをやりながら殺していく。次からは俺たちの前に現れなけば良い。そうすれば一瞬のことで記憶も薄れるからな。そして最後に運んだところで記録映像を見せて撤退する時間を稼ぐ。そうすればもう外にいるから安心といったところだろうか」

「つまり死体運びとかは旦那さんが、殺すこと自体は奥さんがってことですか!?」

「その通りだ。説明の手間省いてくれてありがとう」

 

 刑事が照れる反対側で二人は納得が行かないみたいに怒りに震えている。

 

「なんで私たちがやったと思うの!?」

「さっきも説明したが二人でアリバイを合わせられる上にこの殺人では効率的にことを運ばなきゃいけない。それには二人必要なんだよ」

「だとしても秋山ちゃんでも出来るじゃない!マジックの知識だってあるんだし、秋山ちゃんがあなたにお願いしたら出来たんじゃないの!?」

「それは無理だな。俺はそんなこと手伝う気もしないしねぇし、そもそもコイツが正体のバレてる俺に後見を頼むと思うか?」

「た、確かにアシスタントとしては不向きかもしれないけど、ここにいない人にお願いだって出来るんじゃないの!?さっき言ってた手順なら鳴海君が遺体を見てる間に外で解散することだって」

「なぁ、なんでアンタ後見がアシスタントだと思ったんだ?」

「え………?」

「二人もおかしいと思わないか?普通後見って言われて何思い浮かべるよ」

「私は…一瞬、なんで跡取りとかを守る人なのかと」

「ああ、俺も。なんでお金持ちの家の話?って思ったんですけど」

「ッ!?」

 

 はい、罠にかかった。まぁこの罠も五分五分の仕掛けだったけど。横二人が手伝い人と言ったらどうしようかと思ったが。まぁ間違いではないんだけどな、世話役という意味では。

 

「こんな感じで何も知らない奴らは後見って言われて大体歴史の方思い浮かべるんだよ。たまに分かってねぇ奴もいるけどよ。けどアシスタントの意味で知ってるのはマジシャンか元マジシャンと関係者の三択だろうな」

「でっ、でもたまたま知ってたパターンだってあるじゃない!」

「まだ足掻くか。じゃあこれを見せてやる」

 

 俺はポケットに入れていたハンカチを取り出しそれを開いてみせた。その中に入っていたのは装飾に使われるような宝石だった。それもあまり高いものではなくキーホルダーに使われるようなサイズの。

 

「これは………なんだね?」

「宝石、ですか?」

「ああ、現場にあった円形テーブルのそばに落ちていた。翔子さん、これに見覚えないか?」

「ないわよ。そんなのがなんの証拠になるっていうの!?」

「そうだ鳴海君。流石の私もそろそろ黙っていられないぞ」

「別にいいさ。けどよ、これは確かな証拠だと思うぜ?」

「だから、何が」

「これは、アンタのキーホルダー(・・・・・・)の一部なんじゃないか?」

「………え?」

「ほら、アンタのキーホルダーを拾ったろ?そん時に違和感を感じたんだ。もしかしたらこのパーツだけ無いんじゃないか?」

「そんなことで」

「そんなことが証拠になる時だってある。否定したいなら見せてくれよ、キーホルダー。なんともなければ疑ったことは謝ってやる」

「わかったわ、見せればいいのね。だいたい、優希がくれたプレゼントを私が……」

 

 俺を睨んでから鞄の中に手を入れキーホルダーを探し始める。憤慨な様子で探していたがその勢いも次第になくなっていった。勢いがなくなったのは動きが止まってからだ。どうだー?と声をかけると慌てて鞄の中を漁り始める。また動きが止まると今度は顔色が真っ青になっていた。ひどく震えている。

 

「見つかったのか?なら早く出したらどうだ?」

「ええ、見つかったわよ………」

「どうした歯切れが悪いぞ?」

「そ、それじゃあ本当に…お母様が………?」

「これは確定ですかね」

「ま、まだ妻は出していないじゃないか!なのに何故決めつける!?」

「やめとけよ。アンタが一番わかってるだろ。この状況で自分の潔白を証明できるかもしれないものが出せないなんて、自分が犯人ですって言ってるようなもんだぜ?」

「クッ………!」

「さぁ翔子さん、素直に言うんだ。これでもうアンタが逃げることはもう出来ないはずだ」

「………いや、まだだ」

「?お父様…?」

「君の推理はまだ終わってないはずだ鳴海君」

「へぇ、どこが?」

「ふん、簡単なことだよ。遺体の欠損部はどうしたっていうんだね?」

「その話か」

「ああ。それに仮に私達が犯人だとしてその仮面とかはどこに隠すっていうのかね?園内を探しても出てこなかったんだろう?」

「そ、それもそうだ。犯人の服はどこを探しても無かった。ということは隠しようがないのでは!?」

「落ち着け、それも既に見当はついてる」

「え!?」

「ここじゃ説明もしづらい、現場に行ってみようぜ」

 

 刑事に許可を取りながら俺達は現場であるマジックハウスの中に入っていく。出口から入り、順に戻っていく。円形テーブルのある場所まで戻ってきて俺達は歩みを止めた。

 

「ここは……?」

「犯人が記録映像を映し、キーホルダーの一部が落ちていたところだ」

「それと欠損部がどういう関係を持つんだね」

「気付かねぇか?この臭いに」

「臭い?」

「そういえば…」

「なんか血の臭いがする気がします……」

「そ、血の臭いって結構残るんだわ。しかも複数人分なら尚更な」

「でもどこにも無いじゃない!」

「あるぜ、見えてないだけでよ。この中にな」

 

 そう、見えてないだけ。灯台下暗し。近いところにあるが発見されづらい。だからこそ俺はここにあると感じている。俺は円形テーブルに近づき、寄りかかるように手をつく。

 

「え?」

「は?」

「んな阿呆みたいな声出すなよ、こっちが恥ずかしくなる」

「え、でも、そんなところ入るわけ……」

「名探偵も大事なところで投げ出すのかい?全く、呆れたよ」

「そいつは結構。だが残念ながら俺は本気だぜ?」

「ではどうやって中に入れるんだい?そんな固定されてるテーブル」

「良いところに目をつけたな。このテーブル、一見するとただのテーブルだが天板が二つのパーツで固定されてるんだ。この通りな」

 

 実験でもするように(実際はやってるが)俺は天板を外す。両手で持つと意外と重いことに気付く。そして全員に見せて天板を元に戻す。

 

「でも台座の蓋は閉まっていたじゃないか」

「そう、だから一工夫したんだよ。っと」

 

 今度は天板を取り付けるために屈んで留め具をつけ始める。刑事が何してるんですか?と聞いてきたが無視して作業を行う。台座を回すように触ると少し動くのが分かった。やっぱり思ったとおりだ。上手くいけば決定的証拠になる。

 

「何をしているのか分からないがそんなところで遊んでる場合じゃないだろ」

「確かにな~でも遊びじゃないんだよなぁ」

「いい加減にしてよ!さっきから私達を犯人扱いして!」

「そもそもお前達が無実なら疑わねぇよ。そしてこれが決定的証拠品だ」

 

 俺は固定した天板を回し、台座を回転させる。根元から回したわけではない。ただ単純に天板だけを回したのだ。閉めるためには右ネジの法則で右に回さなければいけない。けれど左に回せば当然開く。回したそれは台座の三分の二を残して天板と一緒に取れた。全員が驚いている中俺は内心ほくそ笑んでいた。そして中には仮面と制服のようにしっかりとした服が入っているのが見える。それを取り出すとねちゃと気色悪い音が聞こえる。

 

「刑事さん、これ、な〜んだ?」

「それって……まさか犯人が使っていた仮面と服!?」

「ピンポーン。じゃあ今度は秋山、この中に何が入ってると思う?」

「えっと………え?嘘…ですよね?」

「さぁな。でもお前が想像したもので間違いないと思うぜ?」

 

 俺は台座の中に手を突っ込む。後ろの方から止めろと声が聞こえたが無視してそれを取り出す。手袋越しに伝わってくる気持ち悪い感触。血のせいか、それとも人間の体の一部を切り取ったからかぐちゃぐちゃと音を立ててそれは外に出てくる。またその異物を見た全員は顏を真っ青にしていた。

 

「これが、答えだ」

「嘘………」

「そ、それマジなんですか!?」

「マジもマジ、マージマジマジーロよ」

「なんでそんなもの持って巫山戯てられるんだ!」

「なんでってなぁ……死体見てればなれると思うぞ?」

 

 人によりけりだろうけど。勿論台座の中には片足や肩が入っていた。俺はグロテスクな物体を台座の中に戻し、翔子さん達に向き直した。こっからは締めかな?

 

「そしてさっきも言ったがキーホルダーはここに落ちてたんだ。証拠は十分出た。もう……終わりにしようぜ、櫻田夫妻」

「……そうね。これ以上は無駄よね」

「翔子………」

「ごめんなさいあなた、こんなことに巻き込んじゃって」

「いや、お前が満足したなら俺も満足だ」

「そう………」

 

 櫻田夫妻は下を向くかと思いきや互いの顔を見て笑顔を作っている。その笑顔はどこか儚げに見えた。

 

「犯人は私よ。そして殺すのにこれ(・・)を使った」

 

 取り出したのは紅を貴重とした骨で装飾された『R』と書かれたメモリだった。

 

「だよな。やっぱりあのドーパントはアンタだったのか」

「私ね、優希の遺体を見るまで死んだって信じられなかったの。けど変わり果てた優希を見て、話を聞いて思ったの。どうして秋山ちゃんは来たのに他の人は来ないんだろうって。そしたら黒い服の人が来て私にこれを渡したの。そしてあの人たちが幸せに暮らしてるって聞いてどうしても許せなかったの。あの人たちは優希を殺したのに何で平然と幸せを手にしてるんだろうって。そしたらね、黒い服の人があの人たちの電話番号をくれてね、それからこの人にもお願いして計画を立てたの。勿論切り取ったのもこれ。それにね、こう見えて私、昔はマジシャンやってたのよ。この人と会ったのもその時でね。……結局ダメだったけどね」

「翔子………」

「翔子さん、言っておくがアイツらがやったのは遺体遺棄だけで殺してはいない。現場の跡を見てきたが断言できる。あれはどう考えても事故だ。コイツらが殺せるような場所じゃなかったんだ。もうお終いだ。さぁ、アンタらの罪を数えろ」

「…そう………私の罪か………ねぇ見て、この袋に何が入ってると思う?」

 

 翔子さんは鞄の中から紫色の袋を取り出して見せつけてくる。見た目からして重そうなものは入ってるようには思えなかった。

 

「何が入ってるんだ?」

「この中にはね、優希(・・)が入ってるの」

「「「!?」」」

「正確には優希の無くなった手が入ってるの」

 

 そうか、あの後見つかったのか。そして白骨化手ぐらい簡単に持ち込めるよな。だが、それを持ってるって事は。

 

「優希にね、お友達がいるんですもの。だからせめてお友達との証を、一緒に埋めてあげようって」

「ハハッ、すごい愛情だな」

「褒め言葉として受け取っておくわ。ねぇ探偵さん、この先の展開も読んでたりする?」

 

 あえて俺は沈黙を促す。背中ではスタッグフォンを起動させて待機状態にさせておく。

 

「秋山ちゃん、こんなことに巻き込んでごめんなさい。あなたは謝りに来てくれたのに」

「いや………謝らなくちゃいけないのはこっちの方で………」

「それでなんだけどさ」

「?」

「秋山ちゃんのシルシ(・・・)はどこにあるの?」

 

 その言葉を聞いた瞬間寒気がする。咄嗟の反応だったのか秋山は右肩を押さえてしまった。この状況でそこを押さえるということはここにありますと教えてしまってるも当然。翔子さんは手に持っていたメモリを袖で隠していた腕に刺し、ドーパントへと変貌した。

 

『Ripper』

「うわっ!?なんだコレ!?」

「翔子………!」

 

 俺が映像で見たような怪物となり秋山を抱えて走っていく。まぁそうなるよなとスカルマグナムを取り出し、狙いを定めようとする。しかし外に逃げられ、追っては見たものの既に走っても追いつかない位置にいた。どうにかするしかないと思いつつポケットの中を適当に探る。するとスティック状のものが見つかった。ドライバーとかとは別のところから出てきたので確認すると水色の『T』と書かれたメモリだった。そういえばこの間借りたっけと思った瞬間奴の説明を思い出す。

 

『トリガーメモリは銃撃戦とかに向いてるらしい。俺のエターナルエッジに入れれば銃になるけどあんまり使わないんだよな〜』

 

 とか言ってた気がする。けどアイツ俺と殺し合った時スナイパーライフルにしてたよな?まぁいいかと思いつつスカルマグナムに入れてマキシマムドライブ待機状態にする。トリガーメモリで威力は上がってるから確実に倒せる。回収はさっき飛ばしたスタッグフォンに任せたので撃った後に着地地点に走っていこう。

 ────この距離なら、俺に外せるものはない!

 

『トリガーマキシマムドライブ』

 

 撃ち放った弾はドーパントに当たり、姿を変えて墜落していく。翔子さんはスタッグフォンが捕まえていたが秋山は取りこぼしてしまったらしい。急いで受け止めに行くと地面に落ちるスレスレのところで受け止めることに成功した。多分今までの中で一番足速かったと思う。近くで物が砕ける音を耳にして辺りを見回すと案の定メモリが砕けていた。急いで走ってきたのか幸雄さんと警察どもがやってくる。無事と報告すると全員安堵の息が漏れる。

 

「それにしても探偵さん、さっきのは………」

「ああ、今のやつ?お前も刑事ならわかるだろ。見なかったことにしろ」

「え、でも」

「世の中には知っていいことと悪いことがある。これはその中でも最高機密(トップシークレット)だ。いいな?」

 

 了解でありますと敬礼され、敬礼し返すと秋山が目を醒める。ずっと抱えていた状態だったので腕が疲れていたところだ。

 

「あ、あの、鳴海さん」

「お?降ろしていいか?」

「お、お願いします」

 

 ゆっくり降ろすと埃を払うように服を整える。そして秋山は一礼してきた。

 

「ありがとうございました」

「ああ。けど、その言葉はまた今度(・・・・)聞かせてくれ。もう、わかるよな?」

「…はい………」

 

 この言葉を聞いた瞬間秋山は警察の方を向く。そして刑事の元に行き、手を差し出す。刑事は渋りながらもその手に手錠をかけた。そのまま連れて行かれるかと思いきやもう一度振り返り笑顔を向けてきた。

 

「鳴海さん」

「なんだ?」

「私が出てきたら、また会ってくれますか?」

「悪いが俺に年上趣味はないんでな」

「そうですか………」

「だがまぁ、就活ぐらいは手伝ってやる」

「ふふ、ではまた」

「ああ」

 

 刑事さんと共に連れていかれる秋山を見て俺は帽子を伏せる。すると今度は幸雄さんに声をかけられる。

 

「鳴海君」

「アンタも行くだろ?」

「ああ、礼を言わせてくれ。妻を止めてくれてありがとう」

「止められてねぇよ。三人も殺させちまったんだ」

「だが秋山さんを殺さずに済んだ。元々彼女を殺すつもりはなかったからな」

「そうかよ。一つ聞いていいか?」

「?構わないが何か解けてないのかね?」

「ああ、一つだけ解けなくてな。どうして使われていないマジックハウスを選んだのかだ。どうやって俺達に開いているように見せた?」

「それか。それならここで働いている知り合いがいてな。この時間だけ開けてるよう見せてもらえるように頼んだんだ」

 

 なるほどな。そこまで賭けに出てたのか。全く、マジシャンとも言えればギャンブラーとも言えるな。

 

「今回のこと……人としては恥ずべき行為だが私自身は後悔はしていない」

「そうか………」

「そしてもう一つ礼を言わせてくれ。あの時、一緒にここに入ってくれてありがとう。おかげで優希と来た時の楽しさを思い出したよ」

「………それはよかったな」

「ああ、この老ぼれに機会をくれてありがとう」

「……用が済んだならとっとと行け。ほら、旦那なら妻の近くにいてやれ。そんでもって……これからも痛みを分かち合っていけ」

 

 わかっているさと言いつつ去って行く幸雄さんの背中は何故か物寂しく感じた。そうして櫻田夫妻は警察に連れて行かれた。今回の鍵は優希君のキーホルダーだった。もしかしたらこれは優希君からのメッセージだったのかもしれない。優しかった両親を止めてくれというメッセージ。こうして事件は幕を閉じた。惨劇の起こった遊園地の中、一人残った俺は空を見上げる。そこには今にも降り出しそうな灰色掛かった雲が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みさん……るみさん!………鳴海さん!

 

 その声と同時に現実に引き戻された俺は教卓の方を見る。するとクラスメイトがこっちを見ていた。数学の教師もこっちをカンカンにしながら見ている。状況が掴めず新一に頼ったが首を横に振って教えてくれない。

 

「鳴海さん、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ」

「じゃあ鳴海さんは放課後職員室に来てください。課題を出します」

「は!?」

 

 俺は放課後職員室に行き課題を受け取ろうとしたが量が辞書レベルであって逃げようとしたのはまた別の話。




 台座に関する図説です↓

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今回でまた幕間は一度閉じます。次章から色々と動きます!
あと今回でアンケートもきります!


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第四章 私の歌と僕の剣
第一閃 The dream you had


 目を開けた。僕が今立っている場所は暗く、赤くぼやけていた。何が起きているんだろう。

 ──ここはどこだ?

 理解が追いつかない。何かに動かされる様に歩いてく。少し歩くと街の様なものが見えた。けれどそこにいつもの風景なかった。建物は崩れ、鉄骨などは丸見え、大きな火事が起きている。

 ──ここは戦場か?それとも被災地か?

 その答えはすぐに見つかる。だって目の前に死体が転がっているから。焼け爛れた死体。不思議と気にしなかったのか歩いていく。だけど歩く先には死体が増えていく。血の海に辿り着いた時、爆発音が近くで聞こえる。

 やっと気づく、これが普通の事態ではないことに。急いで爆心地へ向かう。悲鳴が聞こえてくる。悲鳴が聞こえた場所、爆心地へ着くと女の子の死体が転がっていた。その遺体は半分が消えている。爆発で焼けたのか血は出てこない。だけどその近くには瓦礫の中から腕が出ていた。まだ生きているかもしれないと瓦礫を退けるとそこに体はなかった。ただ、腕が一本あるだけだった。

 ここでまた気づく。お嬢様達はどこだ?どこにいる?巻き込まれていなければいいのだが。

 

「お嬢様ー!お嬢様ー!」

 

 声を張って探す。瓦礫と火の海をかき分けて走っていく。すると宙に浮いている人を見つける。いや、浮いているのではない。棒に刺さっているのだ。しかもその人はターコイズブルーの髪での髪の長い人、紗夜さんだった。

 急いで棒を傾けて手が届く位置まで持ってくる。

 

「紗夜さん!しっかり!」

 

 その言葉を言っても無駄だった。わかっていたのに言ってしまっていた。彼女が刺さっていた部分は心臓ですでに脈はなく、虚な目をしていた。少なくともここにいたらかわいそうだと紗夜さんを抱えて走る。でも走ろうとした時に見てしまった。

 ───なんでここにあるんだ?

 そこにはリサがいつもつけているブレスレットがあった。お祭りの時にあげたブレスレット。近くには瓦礫の山、地面にはぶちまけられたような血の跡。

 ──そこにいるんだ。きっと─────

 血の量を見る限りもう助かってない。紗夜さんを抱え、ブレスレットも片手に走る。

 ──誰でもいい、生きててくれ。少しでもいいから!

 炎の勢いが強くなってくる。一度止まると目の前に二つの真っ黒な遺体を見つける。特徴的なツインテールの女の子、それを抱えるように動かない女性。それは間違いなくあこちゃんとりんりんの遺体だった。

 また、間に合わなかった。みんな死んでしまっている。でもまだお嬢様を見つけてない。二人の近くに紗夜さんを置いて立ち上がる。すると僕を覆う様な影ができる。その影は喋り出す。

 

「また、誰も救えなかったな」

「貴様は…!」

 

 見覚えがあった。僕がこの世で一番恨む相手、復讐の対象とする化け物の姿だ。その化け物は左手でお嬢様を右手で剣を持っていた。お嬢様は諦めているように力が入っていない。虚ろなな目で僕を見る。

 

「なんでこうなったかわかるよな?」

「………………」

 

 認めたくなかった。それは僕がまだ弱いからだ。あの日に同じ過ちを繰り返さないと決めたのにまたやってしまった。結局僕は何も変わってない。

 

「大丈夫だ、お前もどうせすぐ死ぬからな」

 

 その言葉と同時にお嬢様の体は貫かれて僕の方に投げられる。受け止めて声をかける。すると口が開かれた。けれども喉も切られてるため空気しかやってこない。その姿を見て体が震える。何も出来なかった無力さにいたく震える。下を向いた瞬間、声が聞こえる。

 

「新一」

 

 いつも聞いていたお嬢様の声。希望を抱いた瞬間それは絶望へと変わる。

 

全部貴方のせいよ

 

 その言葉を聞いて目が覚める。どうやら夢だったらしい。いや、夢でよかった。そうでもなければ今頃どうなっていたのかはわからない。少なくとも冷静ではいられなかったはずだ。

 辺りを見回すと自分の部屋だということがわかる。けれどシーツがぐっしょり濡れている。シーツどころか身体中汗びっしょりだ。まるで夢の中の炎の暑さが現実にそのままあったみたいだ。布団から出る。秋も半ばということもあってか汗まみれの僕の身体に少しばかり寒さを感じる。せめてシャワーを浴びないとと浴場に向かう。着ていたパジャマを洗濯カゴに脱ぎ捨てて浴場に入る。シャワーを流す。けど体は動かずただシャワーに打たれていた。

 たとえ夢でも、あんな目に遭うのはごめんだ。みんなを守らないといけないのに、何もかも失うなんていうのは嫌だ。目の前で何人も死んで、誰一人として救えない。その結果を招くのが自分だというのが一番嫌だ。目の前の鏡を見るとそこにはまるで涙を流しているような僕の顔があった。浴室から出て時間を確認するとすでに朝の四時になっていた。これから寝ると朝支度に影響を出しかねないので寝ないで制服に着替える。普段は五時から支度を始めるのだが一時間早めに起きてしまった分少しだけ余裕を持とうとした。しかしさっきの夢のせいかゆっくりするのが嫌になっている自分もいる。どうするべきか悩んだ時、スマホに一通のメールが来た。差出人は魔姫ちゃんだ。

 

『向こうからアンタ宛にメッセージが来た。十分後に来れる?』

 

 向こうというのはおそらく霧切さんだろう。僕はすぐに行けると返事を返して隣の家に行く。家の外に出るとまだ空は暗かった。朝焼けすら始まっていない空。あの時はたくさん見ていたのになんだか懐かしく感じる。インターホンを鳴らすとすぐに迎えが来る。指示に従って家に入ると鍵を閉められる。そのまま中へと足を運んでいくとリビングに着く。リビング自体も暗く、灯りと言えるものはテレビの液晶が薄暗く光っている程度だった。

 

「連れて参りました」

『ご苦労』

 

 画面越しに聞こえる声はやはり霧切さんだった。二人は後ろで膝をついて座っている。僕は立ったまま話を聞くことにした。

 

『こんな朝早くからすまない』

「いえ、ちょうど目覚めたところでしたので」

『そうか、少し顔色が優れないようだが大丈夫か?』

「問題ありません」

『失礼した、本題に入ろう。先日、執行部隊第七班がファンガイアを一体捕獲することに成功した』

「捕獲、ですか?」

『ああ。生体の調査をするためにな』

 

 確かに今までただ倒してきたけど色々と不思議な点はある。園崎の作るガイアメモリは人間というベースだがファンガイアはどうなっているかわからない。ついでに上下関係なども調べるつもりだろう。いや、もうやっているか。

 

『既に把握しているかもしれないが彼らはだいたい四つの種類に分けられている。インセクト、ビースト、アクア、リザードという四クラスに分けられているとのことだ。そして彼らには()が存在する』

「王ですか」

『あくまで聞き出した情報だがな。どこまで信じられるかはわからないがとりあえず考えておく程度にはいいだろう』

「そうですね」

『そして王を含み、側近の者どもをチェックメイトフォーと呼ぶらしい』

 

 チェックメイト……まるでチェスだな。そして王を含むものならキング、クイーン、ルーク、ビショップの四つだろうか。

 

『捕獲したファンガイアは容姿などについては言ってなかったがそれでも強さが段違いとのことだ。十分に気をつけたまえ』

「御忠告感謝します」

『そして園崎の方はまだ情報を掴めていない。調査は引き続き行っていく。切姫君、春川君時期に任務を言い渡す。それまで待機してくれ』

「「はっ」」

『そういえばだが新一君、詩姫(ディーヴァ)という名を聞いたことがあるかね?』

「ありますが……それがどうかしましたか?」

『ファンガイアの中で噂になってるらしい。眉唾程度だが『詩姫を殺せば大きな報酬が貰える』とか』

 

 詩姫、お嬢様が過去にファンから呼ばれていた名前だ。しかし何故その名前の人物が狙われている?危険を冒したか…反乱だろうか?どちらにせよ念の為警戒だな。

 

『あくまで噂だ。もしかしたら奴らの中に同じ名称を持った者もいるかもしれない。奴は信じていないらしいが一応頭の中に入れておいてくれたまえ』

「ありがとうございます」

『今回は以上だ。それと新一君には後に贈り物があるから二人から受け取ってくれ』

「畏まりました」

『では失礼する。活躍を期待している』

 

 画面がプツンと消えると部屋全体も暗くなる。数秒経って電気がつき、部屋が明るくなる。とりあえず家に戻ろうと足を玄関に運ぶ。靴を履いて二人にまた後でと言って家を出ていく。時刻はちょうど五時、普段なら起床時間だが今日は既に起きている。湊家に戻り、静かに家に入る。おそらくまだお嬢様は寝ているだろう。なるべく音を立てないようにと家事をやっていく。そして全ての作業が終えても時間は余ってしまった。いつもなら学校で読むが時間もあるため僕は広告を見て今日買う物の確認をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けた。見渡す景色は灰色の荒野だった。雲が霞がかっている空。建物なんて全部消されたような荒野。

 なんでこんな所にいるんだろう。一体何故?どうして?

 そんな疑問を掻き消すように後ろからの気配を感じる。振り返ってみてみるとそこには黒い山があった。そこまで大きくない山。だけどその形は普通の山と違って歪だった。飛び出ている所々が腕の様な物や棒のような物見える。だけど逆光のせいなのか、それとも元々なのか黒くてなんなのかははっきり見えない。けれど山の上に人がいるのが分かった。誰だかは分からない。けれど何かを持って座っている。私は正体を知りたくて山に近づいていく。けれど数歩歩いたところで止まってしまった。恐怖を感じたわけじゃない。ただ進めなかったのだ。目の前に壁があるように、ここから先には行かせないかのように進めなかった。何が起きているかさっぱり分からなかった。上を見上げると誰かは私を見ていた。見下すあの人は立ち上がった。

 

「あなたは……誰?」

 

 気付けば声を漏らしていた。しかし帰ってきたのは沈黙。そして私を見る目は冷たくなった。実際には目は見えていない。けれども視線を感じた。まるで全てを捨て、諦めがついたような、希望を捨てた目。そんなふうに感じた。その瞬間私の動きは止まった。私の背の方から日でも出て来たのだろうか、あの人の姿が鮮明に見えてくる。足下から光が照らされる。やがて首元まで来ると何処かで見たことがある服装に見えてきた。そうだ。あの服は最近彼が着ていた。でも少し違うような気もする。光が鼻まで来ると見たことある輪郭が見える。やがて全てが見えたとき私は視線を外せなくなる。だってそこには────

 

 新一の姿あったから。

 

 何度も疑った。山はまだ黒いままだが新一は棒のような物を持ったまま立ち尽くしている。虚ろな目、普段の笑顔からは考えられないような顔。けどその顔は何処か悲しげにも見えた。声をかけようとしても声が出ない。彼は私を見ると困ったような顔をして後ろを向く。そして私がいない方へと歩を進め、山を下りていく。私は急いで追いかけようとするが壁が私を阻む。叩いても壊れる気配はない。やがて新一の姿は見えなくなっていく。けれども見えなくなる直前、顔だけをこっちに向けて口を動かしてくる。何を言っているかは分からない。けれど言ってる内容は入ってきた。

 ────来るな。

 その一言は私に衝撃を与えた。けどその瞬間私の目は覚めた。どうしてあんな夢を見たのかしら。あんな……ってあれ何を見たんだっけ。でも何かを失うような夢を見た気がする。でも忘れるということはあまり関係のない夢だったのだろう。時計を見ると五時を回っていた。まだ時間的に寝れると思い私は二度寝しようとした。しかし目を閉じてても寝れる気配はしなかった。仕方ないので体を起こして椅子に座る。新曲の案でも浮かばないかと頭を回すが夢のことが気になる。夢は何かのメッセージなんて前にテレビで見たけれど、内容を忘れる夢なんて意味があるのかしら。例えあったとしても意味が分からない。けれどいつもと違う違和感がある。そのことを考えている内に私は二度目の眠りについた。



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第二閃 Returns Nightmare

 そこはとある森の中にある古城。人はその城に近づかないようにしている。一見するとただの廃城のようにも見えるが、毎年肝試しで入る人は必ず帰ってこないと言われている。その城は生活の跡こそないが玉座の間だけは真新しいレッドカーペットと燃やす前の蝋燭があるらしい。そしてこの光が灯っていない城に客が訪れる。

 

「ふわぁ………ここに来るのも久しぶりだな」

「遅いぞ、『ルーク』」

「そう言うなって『ビショップ』の旦那。実際どれくらいよ。半年くらいじゃないか?」

「その気軽さは変わらないな」

 

 ビショップと言われた男は真っ黒な髪に真っ黒な目、ローブのような服装に眼鏡をかけた男だった。それに対してルークと言われた男は青い髪に紅い目、ニットシャツの上にロンゴコートを着たような格好をしている。ビショップが大人しい性格に対してこちらは気さくな性格だ。ビショップに比べ、ルークは若く見える。彼らは同じ人物に呼ばれてここにいる。しかし呼び出した本人は先についているわけではなかった。

 

「しかし遅いな」

「我々が先に来るのは当然のことだ。彼の方より遅れることなどあってはならぬ」

「へーへーそうでございやすね」

「貴様、彼の方前で同じ発言が出来ると思うなよ」

「そりゃあ俺だって立場を弁えるっての。それとも俺は信用ならないか?」

「確かに貴様は新入りだからな。だが貴様の力は本物だ。しかしその態度が気に触る」

「それは申し訳ございませんね。だけど、もともとお前に敬意なんて払う気サラサラねぇからなぁ」

「貴様………!!」

「お?やるか?アイツ(・・・)と同じ道行きたいんだったら喜んでやってやるよ」

「そこまでだ二人とも」

 

 ビショップとルークの衝突が始まろうとした瞬間、玉座の間の扉が開かれる。挿し込んできた光に応じるように二人はカーペットを挟んで跪く。その間を人型が通っていく。その人型は見た目が人間と言えるものではなかった。赤い身体にコウモリのような羽、さらには長い爪が腕についている。顔には鋭い牙が見える。その人型が部屋の奥まで行くと玉座に座り込み、足を組む。

 

「久方ぶりでございます、我が()

「ルーク、ビショップ、共に元気だったか?」

「勿論、王様のおかげで新たな力を手にし、人間共の悲鳴を聞けています」

「お前のその気軽さは変わらないな。ビショップはどうだ?」

「私は王のため、研究を重ねています」

「ライフエナジーの効率化と人間を支配下に置く為の算段だったか。興味深いものだったが進んでいるのだな。さて、ここに集まってもらったのは他でもない。我らの邪魔をする『白騎士』と厄災(・・)である『詩姫』についてだ」

 

 王と呼ばれた人型は一瞬にして空気を変える。

 

「詩姫に関してはお前たちも情報を得ているだろうが、殺せば尊大な報酬だ。しかし生かして連れてくればさらに報酬をやろう」

「何故殺さないのですか?」

「強いていうなら人類の絶望の為だ。それ以上は詮索するな」

「失礼しました」

「次に白騎士だ。彼奴は確実に殺せ。我々の世界に対する異分子など必要ない。我らの同胞を幾度となく殺した彼奴は必ず殺すのだ」

「キング、質問だ」

「貴様ッ!無礼であろう!」

「よい、言ってみろ」

 

 ルークは跪いたままキングに質問する。しかし質問する寸前に後ろの方にある柱を確認する。

 

「貴方はその白騎士を見たことがあるのか?」

「ああ、一度だけ(・・・・)な」

「そうか、じゃあ殺したら首を持ってこよう。そうすれば貴方も確認できるだろ」

「それはいいかもしれないな。首を持ってくれば報酬は倍だ」

「じゃあこっから昇格(・・)出来んのか?」

「ああ。本来なら出世だがお前の場合私に再戦する権利をくれてやる」

「流石は俺の王だ」

 

 ルークがわざとらしく手を叩くと扉が開く音がする。扉を出ていく影はすぐに消えてしまった。

 

「誰だ、今この部屋に侵入していた奴は」

「申し訳ございません、すぐに排除します」

「そんな必要もないんじゃねぇか?」

 

 巫山戯たことを言うなとルークはビショップに剣を向けられる。しかしルークの余裕そうな顔を見てキングは高らかに笑う。この状況に理解できていないビショップは混乱していた。

 

「そうか、なら奴にはもう一度チャンス(・・・・)をくれてやろう」

「それがいいな。けどそうなった場合いいのか?」

「何がだ?」

「今度こそ俺、アイツ殺しますよ」

「ならばそれが奴の運命だろうな」

「それもそうか。では俺はここで失礼する」

「戻れ!まだ王の話は終わってないぞ!」

「キングが言うならまだしも、アンタの言うことは聞かねぇよ」

 

 その言葉を最後にルークは部屋を後にする。残った二人は命令と報告を続けていた。部屋を出た青髪の青年はブツブツとぼやきながら階段を降りていく。

 

「さてと、白騎士………ね。少しだけ見に行ってみるか、面白そうだし♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝は早めの起床だったが学校はいつも通りに終わった。今日は教員の方で色々とあるため午前授業で終わった。夕方からRoseliaの練習があるがお嬢様とリサは先に行って練習するとのことで僕達は昼食を終えるとcircleに来ていた。練習に夢中になっていると後の三人がやってくる。そのタイミングで錠前が鳴り出し、電話に出る、そのまま買い物に行ってくると告げてスタジオを後にする。circleの外に出ると京君がバイクに乗ったまま声をかけてくる。急いで後部座席に乗って発進してもらう。

 

「錠前は何体示してる?」

「一体だね。快斗君がもう対応しているみたいだけど早く行こう」

「わかってるっての。ちょっと飛ばすから舌噛むなよ」

 

 ちょっと飛ばすという割にはかなりのスピードが出ていた。現場に着くとかなり荒らされているのがわかる。多くの透明になっている人間を見る限りかなり大暴れしているようだ。僕達は変身して辺りを警戒すると近くの建物の壁が壊れる音がした。そこからは瓦礫と同時に快斗君の姿が見える。

 

「何してんだお前」

「来るのが遅えよ!あと見て分かれ!!」

 

 壊れた壁の中から出てきたのは肩にラッパのようなものがついたライオンの顔をしたファンガイアだった。

 

「まさかお前一人でここまでやられたのか」

「ああ、アイツ……かなりヤベェぞ」

「よし、皆で行こう!!」

 

 いつものフォーメーションで攻撃しにいくと京君の銃弾は避けられ、僕達の攻撃は当たる前にカウンターを放たれた。当たった一撃はかなり重く響くものだった。急いで立ち上がり攻撃を再開する。しかし当たりはするものの痛くもないように平気で殴ってくる。快斗君が投げられるのを見ると今度は僕が首を掴まれる。するとファンガイアの口からククッと声が聞こえる。

 

「お前が『白騎士』か…!」

「ガッ……放せ…!」

「貴様を殺せば俺は………俺は彼の方の元へと!」

「そいつを放しやがれ!」

 

 目の前を紫の銃弾が過ぎ去っていく。驚いたのか手は離れて僕は地面に落とされる。その際に足を斬って距離を取る。しかしそのダメージすら通っていないようだ。

 

「テメェよくも新一さんを!」

『メタル』

 

 快斗君は銀色のメモリをホルダーに挿し込んでファンガイアに接近していく。すぐに加勢に行こうとするが足が止まる。横の方から気配がした。ゆっくり、ゆっくり歩いてくる気配。されどその気配は知っているものだった。人の絶望を楽しむ気配。あの夏に出会った悪魔の気配。すぐに横を向くとその姿は見えてきた。先の尖った針のような爪、人とは思えないほどの数の赤い目、そして甲殻類のように硬そうな肌。間違いない、アイツ(・・・)だ。僕から希望を奪ったあの悪魔だ。

 

「おい新一、何やってる!」

「………………た」

「新一!」

「…と…………け……た」

「新一…?」

「やっと……見つけた………!」

「お、おい」

「貴様だけは、貴様だけは!!!」

 

「絶対に殺す!!!」

 

 気が付けば僕は悪魔の目の前まで来ていた。いつも以上に力を込めて剣を振り下ろす。爪で防がれたが押し潰すように力を込めていく。

 

「何度この日を待ち望んだか!何度この日を夢見てきたことか!!」

「………」

「あの日からずっと、貴様を忘れることはなかった!」

「………」

「僕は、僕は貴様を討つ為に生きてきた!!!」

「………」

「その首、斬らせて貰うぞ!」

 

 ずっと剣を振るっているが全て躱される。それも全て最小限の動きで。正直今の僕は冷静さを失ってることを自覚してる。それでも目の前の悪魔を見ると殺意しか湧かない。絶対に殺す。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す──────────

 隙を取ったと感じた瞬間剣を振り下ろすと奴の姿はそこに無かった。すぐに後ろを振り向くと針の下にある指で額を押さえられる。

 

駄目だぞ新一、もっとまわりを理解しないと勝てるモノも勝てない……まだまだだな」

 

 その言葉を聞いた瞬間怒りのゲージが限界を超える。剣を薙ぎ、現時点の最大限の力を引き出す。最高速度で接近、繰り出す拳は全て捌かれる。拉致があかないと一度地面に拳を打つ。地は砕け足下はバランスを保てなくなる。その一瞬を逃さずに回し蹴りを繰り出すとその足を掴んで投げられ壁にぶつかる。威力は加減されているのだろうか、それでもすぐに復帰することは難しかった。悪魔は近づいてしゃがみ込む。侮辱されている気分だった。奴は舐めているのか僕を踏み躙る事はしなかった。ただその手にある針を僕に目掛けて突きだそうとすると別の声が聞こえてくる。

 

「俺の獲物に手を出すな!」

「………フン」

 

 悪魔は立ち上がり、振り返って来た道を戻ろうとする。僕は体力を振り絞り、声を出す。

 

「貴様は……一体………」

 

 帰ってきた声は僕を嘲うかのように楽しそうな声だった。

 

「チェックメイトフォーの『ルーク』、スコーピオンだ」

「その名……覚えたぞ……!…絶対……殺してやる………!!!」

 

 スコーピオンは振り返ることなく目の前から去って行く。その姿を最後まで見ていると京君達が寄ってくる。どうやらライオンのファンガイアはもういなくなってたらしい。

 

「大丈夫か?新一」

「問題ない…よ」

「でも凄いボロボロっすよ」

「これくらい問題ない」

「せめて応急処置くらい」

「大丈夫だと言っている!」

 

 触れてこようとした快斗君の手を振り払って立ち上がる。振り払われた快斗君は愕然とした表情だった。我を忘れていたとはいえ申し訳ないことをしたと謝罪する。慌ててそんなこと無いと言っているが僕は目を向けることすら出来なかった。帰ろうとする僕を二人は引き止めるがその声すら僕は聞く気になれなかった。

 

「俺、あんな新一さん見たことねぇよ……」

「そもそもアイツが感情的になるところすら見たことねぇけどな」

「確かに。てかあの人本気出せばめっちゃ強いっしょ」

「今更か?……でもアイツの実力は多分、もっとあるはずだ。それこそ俺らのが届かないくらいな」

「マジかよ。って、なんであんなに怒ってたんだ?」

「そこも知らねぇのかよ。アイツのあの言葉が本物なら、あの蠍野郎がアイツの復讐相手だろうな」

「復讐?」

「そっからは自分で調べろ」

「えっ、ちょ、待てよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分に怒りつつも歩いているとcircleの前に着いた。階段を上がろうとすると体に痛みが走る。よく考えてみればあの一撃はかなりのものだった。たった一撃で体が言うことを聞かなくなるほどのダメージだ。ちゃんと鍛えていなかったら気を失っていただろう。でもやっと見つけた。あの悪魔を見つけることが出来たんだ。次に会った時は必ず殺す。たとえそれで死ぬことになっても絶対に殺す。扉を開けようとすると声が聞こえてくる。その声はよく聞き慣れているもので楽しそうな声だった。

 

「ねぇりんりん、さっきのところなんだけどもっとこう、バーンってやった方がいいかな?」

「うん………その方が……カッコいいかも………」

「白金さんあまり宇多川さんを甘やかさないでください」

 

 扉から出てきたのはRoseliaの皆だった。いつの間にか練習は終わっていたらしい。

 

「紗夜は厳しいね〜。あ、新一おかえりー、ってどうしたのその傷!?」

「あ、うん、ただいま」

「ただいまじゃないよ!どうしてそんなにボロボロになってるの!?」

「一体何があったんですか!」

「これくらいなんともありませんから、心配しないでください」

「でっ、でも新兄酷い怪我だよ!?」

「大丈夫だから」

「でも手当くらいは……」

「問題ありません!」

 

 いつの間にか大きな声を出していた。その声に驚いたのか皆動きが固まってしまった。僕は急いでフォローに回ろうとする。

 

「ご、ごめんなさい、急に大きな声出しちゃって。皆驚いたよね、けどこれくらい問題ないから」

「そ、そうなの…?」

「うん、ごめんね。こんな格好でくれば皆驚くよね」

 

 まぁねなどと言ってリサは笑って誤魔化す。けれど他の人達は皆暗い顔のままだった。とりあえず僕はここにいちゃいけないと感じ、先に戻ろうとする。

 

「申し訳ございませんお嬢様、先に戻っております」

「え、ええ、構わないわ。気をつけなさい」

「ありがとうございます。では皆さんまた明日」

「待って新一、せめて顔くらい綺麗に………」

 

 ハンカチを持ったリサの手が僕の顔に近づいた時、手首にあるブレスレットが目に入る。その瞬間夢の内容が急にフラッシュバックする。瓦礫の周りにぶちまけられた血とブレスレットの映像。フラッシュした映像を否定するように後退ると体制を崩して尻餅をつく。

 

「ちょ、大丈夫!?」

「全く、そそっかしい人ですね」

 

 苦笑いしながら差し伸ばされた紗夜さんの手を取ろうとすると今度は心臓を貫かれている紗夜さんの映像がフラッシュバックする。伸ばした手が止まる。気づけば嗚咽のような声が漏れていた。

 

「本当に大丈夫ですか!?」

「ご、ごめんなさい……ごめんなさい!」

 

 僕はその言葉だけを残して皆の前から走り去る。走っていると途中に薄暗い路地があるのに気付いてそこに入っていく。無性に入りたくなった。光が届かないところに行きたくなったのだ。壁に寄りかかると力が抜けたように座り込む。走っている最中何度も繰り返した映像が頭の中を支配する。嫌だ嫌だと頭を抱える。少し時間が経ってから当たりを見渡すと既に真っ暗になっていることに気づく。早く帰って仕事をしなきゃ行けないことを思い出す。だけどまたあの映像が頭を過ぎる。けれど今はそんなことに構っている余裕はないと逃げるように路地を抜け出した。



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第三閃 My Butler

 あの後家に戻り、すぐに夕食を作った。その後食器を洗ったり風呂に入ったりしたが特に問題は無かった。少しは落ち着いてきたみたいだ。自室に戻りここ数日分のレシートをまとめて家計簿に写し出す。お金は余るほどあるがそれでも家計簿を付けるとキチンとした生活が送れているようで安心する。

 しかし今日皆には申し訳ないことをしてしまった。いくら混乱していたとはいえあんな態度を取ってしまったのだ。何かお詫びしないとな……と考えていると部屋の外から気配がする。扉をノックする音が聞こえると声も掛かってくる。

 

「新一、いる?」

「はい、どうぞ」

 

 ガチャリと音を立てて部屋に入ってくるのはお嬢様だった。手には救急箱を持っている。立たせたままではいられないので座るよう願い出るとベッドの上に腰掛ける。一度家計簿を閉じてお嬢様の方に向き直す。

 

「如何なさいましたか?」

「あなたの怪我の事よ」

「これに関しては問題ありません。お気になさらず」

 

 触れて欲しくない、というのが本音だ。この事について聞かれたらつい本当のことを話してしまいそうになるかもしれない。そんな可能性すら今は回避したい。

 

「気になるわよ。帰ってきたら怪我してて、それであんな顔見てしまったら……」

「気を害してしまったのなら申し訳ありません。ですが大丈夫です、転んでしまっただけですから」

「そう……あなたがそう言うのならそういう事にしておくわ」

「ありがとうございます」

 

 話は終わったかと気を抜きかけた瞬間言葉の続きが放たれる。

 

「でもそのままにはしておけないわ。少し我慢しなさい」

 

 ……はい?

 

「あの、お嬢様?何をしていらっしゃるんですか?」

「これを見て分からないかしら。手当てをするのよ」

「いっ、いえ!それには及びません!ましてやお嬢様にこのようなこと!」

「うるさいわね…命令よ、大人しくしなさい」

 

 命令と言われては動けず僕は大人しく手当てを受けることにした。頬の傷や口元の傷を消毒しようとしていたが歌うこと以外は不器用なお嬢様が綺麗に出来るはずもなくガサツというほどではないが優しい治療とはとても言えなかった。やがて絆創膏やガーゼを貼り終えると嬉しそうな顔をしていた。絆創膏を貼るために伸ばした手はそのまま僕の頬を撫でるように滑っていく。他人に治療して貰ったのはいつぶりだろうかと思った瞬間、また夢の映像がフラッシュバックする。

 

全部貴方のせいよ

 

 信じてたまるかと首を横に振るとお嬢様は顔をしっかり掴んでくる。いったいどうしたのかと聞くと少しばかり悲しそうな顔をする。そして一つの質問を投げてきた。

 

「どうして今日のあなたは笑っていないの?」

 

 その言葉を聞いて頭が真っ白になった。どういうことだ?なんで笑っていない?どういう意味だ?

 

「申し訳ございませんお嬢様、仰ってることの意味が理解できないのですが………」

「あなた、普段は一切崩さないような笑ってる顔なのよ。まるでそれ以外の顔を忘れたような。勿論合宿の時の顔は真剣だったのを覚えてる。でもそれ以外で、しかも何かに怯えるような顔を見たら聞かずにはいられなかったのよ」

「そ、それは………」

「私がどんなわがままを言ってもすぐに笑ってたあなたがあんなに取り乱してなんともないなんてありえないわ」

「先程申されたではないですか、このことには触れないと」

「それは怪我のことでしょう?」

 

 話をどうにか辞めさせようとしたが正論で撃破された。もはや返す言葉すらない。こうなったら正直に話すしかないのだろうか。でもまた僕は嘘をつくことになるだろう。だってそれが契約(・・)だから

 

「何か悪いことでも……」

「…ハハ、お嬢様には敵いませんね」

「やっぱり何かあったのね」

「ええ、夢を見たんです。皆が僕のせいで離れていく夢を。忘れようとしたのですが駄目でした。二人が手を伸ばして来た瞬間フラッシュバックして……」

「そう…それは大変だったわね。でも大丈夫よ」

「?」

「私はあなたから離れたりしないわ」

「それはどういう……」

「だってあなたがいないと誰がこの家の家事をするのよ」

「………」

 

 確かにお嬢様の言う通りだ。旦那様がいない今家事ができるのは僕だけだ。お嬢様じゃ生活するのに必要な力は欠けているだろう。この人らしいといえばこの人らしい言い訳だな。納得のいった僕は思わず笑い出す。

 

「何を笑っているのよ」

「失礼しました。確かにその通りでございますね。この僕としたことがうっかりしていました」

「そうよ、あなたは私の執事。もっとしっかりしなさい」

 

 きちんと返事を返すとお嬢様は静かに笑い、救急箱を持って部屋を出て行った。そして机の方に向き直す。

 僕はまだ弱い。この生活を守るために強くならなくちゃけない。でもあの悪魔は必ず僕の手で地獄に落とす。たとえこの身が滅びようとも。けどそのためにはまだ力が足りない。もっと強くなれるよう頑張らなくちゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新一の部屋を出た私は救急箱を戻しにリビングに向かった。やっぱりあの人は笑っていなかった。いつもの顔と全然違った。いつもは他の人に気遣う様な笑顔も夕方から無くなっていた。出かける前まではいつも通りだったのに。一体何があったんだろう。それにあの怪我、どう考えても普通じゃない。転んだとかですまされる程度の怪我じゃないことぐらい私でも分かる。前にも同じ様な怪我をしてきた。出かけてる彼は一体何をしてるの……?

 というより、何で私は彼の心配をしてるの?あの時だって心配していなかったのに。あの夏の合宿の時から彼のことが気になるようになってきた。実力を隠すような真似、何でも出来る器用さ、そして執事になる前の過去。分からないことだらけだ。気になり始めた理由は分からない。けれど気になることが多すぎる。

 救急箱を置いた私は自室に戻る前に水を飲もうとキッチンに行く。コップを戸棚から取り出すと目の前にヒラヒラと何かが落ちてくる。拾ってみてみると新一の字が書かれた付箋だった。

 

『お嬢様の苦手を少しでも減らす方法』

 

 そこから先は読む気になれなかったが色々と考えているのが分かった。開いていた戸を閉めようとすると今度は棚に入っているノートを見つける。興味本位で開いてみると色んな料理のレシピが書いてあった。中には試行錯誤したものもが見られる。

 ────どうしてあの人は私にここまでするの?

 そんな言葉が頭をよぎった。お父さんとの契約だから?それとも仕事だから?いえ、どちらも同じね。だとしたら何?ただのお節介?普段あの人を見てる感じそういう部分がつよいのは分かるけどそこまでのものなの?だとしても一つだけ確証が持てるものがある。あの人は優しい。人に何言われても何されても優しく接してる。私が何をしても結局認めてしまうことが多い。甘やかされてるのだろうか。だとしても優しすぎる。……あの人が怒るなんてことはあるのだろうか。

 私はノートをしまって水を飲んで自室に戻る。ベッドの上に寝転がるとすぐに意識は薄れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと荒野にいた。空は暗く、雨が降っている。最初に見たときは知らない場所だと思った。けど私は知っていた。あの夢の場所だ。目の前には棒と黒い何かの山がある。新一はどこだと私は辺りを探す。どうやら今回は山に近づけるらしく走って山の麓まで行こうとする。けれど目の前に何かが落ちてきて行く道をはばかれた。土煙が晴れるとそのシルエットは正体を示す。新一だ。前に見た姿と変わっていない。ぼーっと立ち尽くしたまま動こうとしない。

 

「そこを退きなさい」

 

 返事は無かった。

 

「聞こえてないの?そこを退きなさい」

 

 また返事は無かった。無視して通ろうとすると腕を伸ばして引き止められる。

 

「何故止めるの?」

 

 今度も返事は無かった。顔を見ても表情は一切変わっていなかった。けれどその時、何故か新一の顔は泣いているように見えた。雨が降っているからだろうか。それでも感情がないのに涙を流している。そんなふうに捉えられた。その顔を見ていると新一は私の肩を掴んで後ろへ向けさせる。何をしているのかと聞いても答は来ない。しかしその時新一の口が動いたように見えた。その言葉は前に聞いたものだった。

 

 ────来るな

 

 その瞬間また目が覚める。今度ははっきり覚えている。前の夢の内容もだ。一体何なのだと額を押さえると汗が出ているのが分かる。悪夢……ではないはずなのに何故?夢の内容を整理すると疑問が残る。あの山とあの黒い棒みたいな物はなんなのか。そして何故新一は喋らず帰るように動かそうとするのか。近づかせない……?なんのために?彼が隠し事をしているというの?そんな疑問はすぐに晴れる。彼は隠し事をしている。あの怪我がそれを物語っている。でも一体何を隠しているの?気になってしょうがない。そうだ、彼に直接聞いてみよう。そしたら答えてくれるかもしれない。たとえ契約で言えなくても私が無理を通せば………

 聞いたところでどうするの?聞いて私がどうにかできる問題なのか、聞いたら何か変わってしまうのではないかと体が動くことはなかった。時計を見ると時刻は六時。普段より三十分早い。この時間なら寝ると支障をきたしそうなので起きて朝支度をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日はお嬢様が早くにリビングに降りて来て下さったおかげで片付けなどが早く終わった。なんで早いのかを聞いたところ「たまには」と答えられて終わりだった。その流れに沿って早めに家を出るとリサと遭遇する。リサは今日日直の仕事があるらしい。今更だが見た目にそぐわず真面目な一面がある。秋も深くなり始めるこの頃は風が少し冷たくなってくる。個人的にはこれくらいが丁度いいとも感じる。清々しい朝になるかなと思った瞬間、見たくない者が目の前に現れた。

 

「よっ、久しぶり」

 

 その男は僕達に手を振って挨拶をしてくる。リサ達は知らない人に声をかけられたと考えているだろう。今すぐにでも警戒態勢を作りたかったが何も知らないお嬢様達の前でそれをするのはかなりリスキーだろう。

 

「新一知り合い?」

「さぁ…ね」

「そんな怖い顔すんなって。今日はちょっとお話ししに来ただけだからさ」

「話すようなことなんてないけど。それに今から学校だから」

「大丈夫だ、すぐ終わるから。な、《朱雪の執行者(スノー・クリムゾン)》さん?」

 

 その名前を聞いた瞬間悪寒が走った。何故皇 獅郎(この男)がその名前を知っている?とにかくこの名前を持ち出して話をしようってことは逃すつもりはないということだろう。

 

「スノークリムゾンって何?」

「さぁ?人違いじゃない?」

「(へぇ……)早く行こうぜ」

「申し訳ございませんお嬢様。あの頭のおかしい人を送ってこなければならないので僕はここで一度離れます」

「大丈夫よ。それより、昨日のような怪我はしないようにね」

「はい。お気遣い感謝します。リサ、よろしく頼める?」

「まっかせといて!」

 

 二人をその場から見送り、僕は後ろの男に向き直す。皇はクスクスと笑っている。

 

「やっぱ予想通り隠してたか」

「それで、何の用?」

「そうカッカすんなって。言った通りおしゃべりだよ」

「じゃあなんであの名前を知ってるの?」

「そりゃお前、教えてもらったからだよ」

 

 答えを聞いた僕はすぐに戦えるよう鞄を近くのベンチに置いた。皇は舌なめずりをしてこっちを見ている。

 

「誰に」

「俺がいるのは園崎の家。あとはわかるだろ」

「僕の素顔と名前という情報提供………」

「イエス♪」

 

 確かにこれだけ情報があれば確証は得られるし、何より向こうが僕に関する情報を提供しててもおかしくはない。

 

「それで?何が目的?」

「せっかくだから誘いに来たんだよ。仲間にならないかってな」

「巫山戯てるの?」

「ふざけてなんかないぜ。俺はお前の実力を見込んで誘ってんだ。

 《朱雪の執行者》。多くの悪を滅ぼし、また多くの同胞を殺し、それらよりも多くの人を救った英雄。その力はまさに鬼神。って聞いたぜ?」

 

 どうやら本当に僕の情報を得たらしい。それを知ってどうして僕の所に来たのか。

 

「君の言うとおりだけど、何故僕を誘いに来たの?君のことだ、力だけじゃないよね?」

「気付いたか。ほらよ、前に戦った時、半分くらい同じ動きしてたろ。そん時分かったと思うけど俺はお前と同じ名護の剣術を手にしてる。そして今回のことで更に分かった。俺とお前は似てる」

「巫山戯たことを言うな」

「真面目だよ、大真面目」

 

 似てる?僕とこの人が?そんなことはあり得ない。彼は自分の力のために戦って、僕は皆を守るために戦っている。第一、人殺しを楽しむような奴と同じなんてあり得ない。けど一つだけ共通点はあった。お互い人を殺してるということだ。数は違うかもしれない。けれども人を殺した時点で僕達は同類なんだ。でも────

 

「どうだ?仲間にならないか?」

「断らせて貰うよ」

「なんでだ?」

「僕にはやるべき事がある」

「……へー、じゃあ仕方ねぇな」

 

 彼は僕に背中を向けて帰ろうとする。去り際にこの事は他言しねぇから安心しろ、と言われたがそれは到底信じ難いものだった。しかし彼は奇襲をするわけでもなく帰っていった。何もしないのならいいかと一応警戒は解かずに学校へ向かった。



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第四閃 Karma

「獅郎にあった!?」

 

 昼休みの時間、京君と二人でご飯を食べている時に話を持ちかけると大声で反応される。声が大きすぎて鼓膜が破れるかと思った。

 

「アイツと戦ったのか!?」

「いや、戦闘は無かった。けど……」

「けど?」

「知られたくないことを知られた」

「!例の園崎って奴らのせいか」

「多分ね」

 

 舌打ちをしながらミニハンバーグを口に運んでいく京君。何を言われたのか気にならないのかと聞くと、どうせいつか聞くことになるだろうからいいと言われた。京君はこういうところを察してくれるから助かる。言う日が来るかどうかは別だけど。

 

「怪我の調子はどうだ?」

「生活に支障は無いよ」

「なら結構、昨日のライオンの話をしたいところだが、お前が戦って感じた通りだ。新しい動きはなかった」

「ということは拳タイプの近接型だね」

「あぁ、そして何よりパワーと防御力が高いのが厄介だな」

「ちょっとの攻撃程度じゃ怯まねえから一撃一撃を重くしなきゃいけねぇな」

 

 どちらかというと僕達は基本的に細かく削っていくタイプだ。京君は鉄砕拳や石破天驚拳とかあるけど準備時間があることで連発は望めない。あの後快斗君の攻撃がある程度入ったらしいが大したダメージではなかったそうだ。

 

「何か浮かんだか?」

「いや、僕達の攻撃じゃ長期戦になるのかなって」

「そうだな、弱い部分を作って集中攻撃が出来れば良いんだが…」

「あの防御力じゃね」

「ま、考えても仕方ねーしとりあえず教室戻るか」

「そうだね」

 

 立ち上がった京君はスタスタとドアの方へ近づく。弁当箱を片付けて僕も向かおうとすると声をかけられる。

 

「昨日のお前、冷静じゃなかったぞ」

「う、ごめんなさい……」

「俺は問題ない。謝るならあの馬鹿に謝れ」

 

 それもそうだ。あの時手を差し出してくれた快斗君に多少なりとも当たってしまった。まずは彼に謝るべきだろう。下を向いて考えていたせいか京君が授業がだるいなどと言い始めた。この人なりに気を遣っているのだろう。いつも通りの返事を返しながら教室へ戻っていった。

 午後の授業を終えて帰りの準備を済ませた瞬間錠前が鳴る。走って教室を出て階段を降りようとするとお嬢様に出くわした。

 

「っ、すみません」

「何を急いでいるの?」

「そっ、その、タイムセールです」

「そう、傷を増やさないようにね」

「あ、ありがあとうございます」

 

 お嬢様の横を通って階段を駆け降りる。靴を履き替えて校門へ出るとバイクを用意してくれていたのかヘルメットをこっちに投げてくる。それを装着して後部座席に乗るとバイクはすぐに発進した。錠前を確認すると昨日と同じように一体を示した。がしかし、すぐにもう二体目を示した。そのマーカーは快斗君の信号ではなくドーパントの信号だった。現場に着くと僕達は変身して現状を確認する。辺りを手当たり次第破壊しているライオンのファンガイアとトリケラトプスのような顔をしたドーパントだった。トリケラトプスの方は記憶に曖昧な状態で残っていたがライオンの方は鮮明に残っている。どちらを先に止めるべきか考えた瞬間トリケラの方がこちらに気付く。数秒間止まっていると急に笑い始めた。

 

「お前らかぁ、噂の仮面ライダーは!」

「それがどうした?」

「本当はここの破壊が目的だったが、なんか知らねぇ奴がやってくれてるし丁度いいからお前ら串刺しにしてやんよ」

 

 その声はどこかで聞いたことのあるような声だったが一度忘れて京君と作戦を立てることにした。

 

「京君、そっち頼んでいい?」

「専門だ任せとけ。そっちは頼んだぞ新一」

「うん、気をつけてね」

「新一?」

 

 名前を呼ばれたから返事をしようとしたが呼んできたのはドーパントの方だった。トリケラの方を見ると何かに震えている。だがそう時間もたたないうちに何に震えているかに気付く。

 

「テメェ、俺たちを裏切った英雄(・・)か!よくもノコノコと出てこれたもんだなぁ!」

「お前アイツと知り合いか?」

「声は聞いたことがある気はしてた。けど中身を見なきゃまだ分からないかな」

「覚悟しろ、英雄!」

 

 トリケラは持っていた棍棒を京君に投げつけると僕に接近していた。突き出された拳を躱すとすぐに次の攻撃がやってきた。捌きつつ攻撃を出すが同じように避けられていく。京君にライオンの方を任せてこっちに集中する。僕は戦闘の時、基本的に名護の武術を使っている(基礎的な動き故に応用を出しやすいため)が、同じやり方が相手だとアレンジを強く出していかなければならない。そして今戦っている相手は名護の武術を使っていることとさっきの発言によって確信が持てる。

 今戦っている相手は園崎の人間だ。つまり名護の武術はこの人には通じない。僕は術を変えて攻撃を出していく。それでも相手は仮にもプロの戦闘員だ。躱されるものは簡単にカウンターを打ってくる。素顔を見ない限り誰なのかはわからないが手を抜けば確実に殺される。

 剣術をオリジナルに変えると攻撃は当たるがトリケラは早い動きで動いている。

 

「やっぱアンタは名護新一か!」

「その通りだ、君は?」

「名護家元殲滅部隊三番隊の一人、猪宮 崇(イノミヤ タカシ)だ!」

 

 名前を聞いて思い出す。確かにその人物はいた。殲滅隊──組織を正面から破壊に向かう部隊。その中でも彼は零距離(ステゴロ)を得意としている人物だった。通りで拳一つ一つの重さが違うわけだ。避けても捌いてもその重さが伝わってくる。一撃でも喰らえばかなりのダメージを負うだろう。今なら確実に返せると感じた時、横から獅子が飛んでくる。

 

「そこにいたか白騎士ぃぃぃ!!!」

「邪魔すんじゃねぇ!」

「どけ、ソイツは俺のだ!」

「行かせねぇよ!」

 

 京君は遠くから銃撃をしてくる。だがそれと同時に上からナイフも数本降ってきた。急いで後ろに下がると横に快斗君が落ちてくる。

 

「お待たせしました!」

「今日はお前が遅ぇな」

「うっせ!あのライオンは昨日の…!」

「どうやらどっちも僕に標的を合わせてるみたい」

「じゃあトリケラの方やります。そっちの方が多分良さげっす」

「わかった、お願いするよ。ただ気をつけて。相手は殺しのプロだから」

「了解っす!」

 

 快斗君はターゲットを惹きつけるように猪宮に接近していった。僕は京君と合流してライオンの相手をする。軽い攻撃は当然通らず、一つ一つが重い一撃を僕達は避けながら戦闘を続けていた。しばらく拮抗しているとライオンによって地面が砕かれる。バランスを崩した僕達はライオンの拳に直撃する。吹っ飛んだ僕達は立ち上がりながらもライオンから目を離さない。どうにかダメージを与える方法はないかと模索していると隣の骸骨が肩を叩いてくる。

 

「少しの間でいい、時間を稼いでくれ」

「何か策があるの?」

「ああ、上手くいけば大打撃だ」

 

 わかったと頷くと追加の指示を出してくる。僕は指示通りに陽動を始める。

 指示の内容は二つ。

 ・絶対に目線を京君に向けさせないこと。

 ・拘束などは考えずに倒しにいく気持ちでやること。

 正直指示に従うことは簡単だった。信じていないわけではないがもし失敗した時に油断していたら命を落とすのはこっちだ。僕はもう一度ライオンに殴り込みに行く。剣を使いながら必ず奴の目の前に立つよう攻撃を仕掛ける。向こうは元々僕が狙いだったせいか攻撃も何もかもが僕に向かってきている。時間稼ぎ……にもなるかもしれないので質問してみる。

 

「貴方は何故僕を狙うんですか!?」

「それが我が王の命令だからだ!」

「王……キングの命令ですか」

「ああ、貴様を殺して俺は彼の方の元へと戻るのだ!あの忌々しいサソリ野郎をぶっ殺してなぁ!」

 

 サソリ野郎と聞いてあの悪魔を思い出す。まさか人間だけでなく同種族にも被害を出しているとは思いもしなかった。その怒りをぶつけるように拳を振るってくる。動揺によって隙を生み出してしまった僕はラリアットを喰らい、コンクリの壁にぶつけられる。立ち上がろうとすると顔面を何度も踏みつけられる。ライダーシステムを纏っていなかったら今頃死んでいただろう。衝撃はある程度緩和されているがダメージは少しずつやってくる。生身だったら痛いどころじゃないはずだ。ライオンはテンションが上がっているのか早さを上げてくる。だがこの時僕達は彼のことを忘れていた。

 

「ハハハ!白騎士もここまでだ!俺の踏み台になれ!」

「させねぇよ」

 

 ライオンの足が止まると同時に顔を上げると上の方に彼の姿があった。滞空してる骸、京君だった。紫に輝く拳を構えて降下してくる。

 

「鉄砕拳!」

 

ライオンに当たる直前、腕を強く引いて勢いよく突き出すと左肩にあるラッパの様な部分が破壊された。左肩が破壊されたライオンは叫びを上げている。

 

「アガァァァ!!!テメェらぁ!!!」

「一か八か、成功したな」

「作戦通り…だね」

「お前のそれは作戦通りじゃねぇ。大丈夫か?」

「なんとかね……」

 

 剣を逆手にして杖代わりに立とうとすると力が上手く入らない。頭をやられていたのだから仕方ないのかもしれない。目の前を確認するとライオンはいつの間にか消えていた。これからどうするか話し合い、すぐに快斗君の方へ合流することになった。しかし僕はまだ少し動けそうにないため軽く休んでから行くことになった。別れ際に僕のことをイクサと言った意味が分からなかったけどすぐに理解した。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「何してるんですか宇田川さん!」

 

 よく聞き慣れた声だった。なんでこんな所にいるかは分からなかったけど怪我とかはしていないのはすぐに分かった。

 

「でっ、でも紗夜さん、この人凄いぐったりしてますよ!」

「だからと言って私たちがどうにか出来る問題でもないでしょう!?」

「ハハ…気にしなくて大丈夫ですよ、お嬢さん方」

「しゃ、喋った!?」

「さっき会話してるところ見てたじゃないですか!」

 

 目の前で紗夜さんとあこちゃんがコントをしているみたいだ。ここから離れるよう促し、僕は休ませてた体を起き上がらせる。とりあえず体が動くことを確認して向かおうとすると爆発音が聞こえた。急いで向かうとマントを脱いだエターナルと変身を解除させられ、転がっている男の姿があった。男の名は猪宮 崇、さっきまで僕を襲ってきたトリケラトプスのドーパントの変身者だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新一さんからの頼みもあって俺はトリケラとの一騎討ちに持ち込む。お互いに適度な距離を取ると戦闘態勢になる。

 

「俺の邪魔をすんな!」

「邪魔すんなっつってもな、俺も仕事なんだよ」

 

 ナイフを構えて突撃すると相手は何も持たずに突っ込んでくる。スピードは俺を上回って連続攻撃をしてくる。捌こうにも捌ききれないし避ける先に拳が飛んでくる。となるとナイフの戦闘スタイルは捨てるべきだと考える。ナイフをしまいマントを脱ぎ捨てる。トリケラに向かい直してボクシングのステップを踏んで挑発する。

 

「何してんだお前」

「お前のスタイルに合わせてやるよ」

「いいのか?死にに来るようなもんだぜ?」

「いいや、俺が勝つね」

 

 ステップを辞めて懐から銀色と赤のメモリを取り出してホルダーに入れる。

 

『ヒート、メタル』

「さぁ、タイマン張らせてもらうぜ!」

「バーカ、俺に敵うはずねぇだろ!」

 

 足を思いっきり踏み込んで相手に近づく。ストレート、ジャブ、アッパーを繰り出していく。途中で足を引っ掛けられそうになったがジャンプして回避し、その場で蹴ると顔面に当てることに成功した。だが予想以上にタフなのかすぐに反撃を入れられる。そもそもトリけら相手に顔面はミスだったか。奴は俺が適応するよりも早く殴ってくる。相手を波に乗らせればやられるのはこっちだと察して後ろに下がる。互いに距離を保ちながら少しずつ右に歩いていく。すぐに踏み込んで近づくと目の前から奴の姿は消えていた。すぐに下を見ると予想通り足元で蹴る準備をしていた。さっきのパターンなら聞かないと先にジャンプすると攻撃は当たった。トリケラは引っ掛けることではなく、腕に重心を置いて腹めがけてドロップキックを仕掛けてきたのだ。

 

「ガッ……!」

「まだまだいくぞ!」

 

 飛ばされた俺を追い越すように後ろに回ると尻尾で地面に叩き落としてくる。立ち上がる隙すら与えられず足を掴まれて投げられる。受け身を取りつつ地に足をつけるともう目の前まで奴は迫っていた。防御が間に合わないと察した瞬間トリケラの動きは止まった。体制を直しつつ横を見ると京の姿があった。

 

「遊んでる場合じゃねえぞ」

「遊んでねぇよ!アイツ……かなり慣れてやがる」

「まあ見てて大体わかる。お前に足りないものもな」

「あ?」

「速さだ。お前はアイツの動きに追いつけてない」

「じゃあどうすんだよ」

「前から聞きたかったんだけどよ、お前最大何本(・・・・)いけんの?」

「今のところ三本だけど………!」

 

 何の事かはすぐに分かった。今使えるのはエターナルを除いて最大三本。ただ三本一気に使うと終わった後かなり疲れるからあまり使いたくないのが本音だけど……ま、いっか!(脳死)

 俺は加速に使えるメモリを用意してホルダーにぶち込む。

 

『アクセル』

「増やしたところで!」

「ちょっとパクリになるけど、振り切るぜ!」

「さっき別のやってたろ」

 

 近くにいたバカの言葉を無視して突っ込んでいく。お互いに同じタイミングで足を踏み込んだが近づくスピードは俺が上回った。ヒートによって熱を加えられ、メタルによって拳自体の威力を上げたジャブとブローを繰り返し出していく。カウンターが来てもアクセルの加速ですぐに後ろに回って避ける。もう一度カウンターが来た時、今度はフェイクを噛ませて後ろに下がる。トリケラはすぐに自分の後ろに拳を突き出していたがそれは空を突いていた。油断しているところを加速して近づきアッパーを繰り出す。上に上がったトリケラが落ちてくる前にボタンを三つ押す。

 

『アクセル、ヒート、メタル、マキシマムドライブ』

 

 目の前に落ちてくる寸前まで拳を構え、目の前に来た瞬間加速と熱と剛力を組み合わせたストレートを打ち込む。胸部にもろに喰らったそれは爆発して地に落ちる。当然メモリは破壊された。ふぅ、と落ち着いていると後ろから足音が聞こえる。そこにはイクサの姿があった。

 

「今の音って」

「コイツがやった音」

「勝ちましたよ俺」

 

 ブイとピースして見せると変身を解除して今にも倒れそうな新一さんの元へ寄る。新一さんも解いた瞬間崩れかけて俺の肩を掴む。本人は申し訳なさそうにしていたが俺は気にしないでくださいとだけ伝えた。その後に謝られたがそっちも気にしないでくださいとだけ答えた。昨日、なんで新一さんはあそこまで感情的になっていたのか分からなかったが普段冷静なこの人がなるなんて滅多なことだ。深い事情があるに違いないと察した俺はとりあえず応急処置だけ受けてもらえるよう頼み込んだ。そして少し遅れたけどやっぱりメモリの疲労感が襲ってきた。




さて、この前の続きやりますか

京「いやお前、こんなシリアスの時にか?」

うん(笑顔)

京「えぇ……それでなんの続きだ?」

呪術0パロの続き

千「やるとしても何するのよ」

え、ここ





京「ぬわっ!?」バゴォン
ひ「京先輩!?何してるんですか!?」
京「見て分かれ!」
千「しぶといわね」

 「ばぁあ゛」
千「邪魔よ」
麻「(やばい、千聖さんキレてる)」ヒッ
京「(これがあの白鷺千聖か…!?ヤベェ、あの目「お説教が必要かしら」とか訴えかけてくる…!)
  死んだら祟るぞ!!瀬田!!」





京「薄々わかってたけど俺アイツにボコされんの!?」

だって配役的に……

京「やだよコエーよアイツ!」
千「誰が、コエーですって?」
京「あ」





さて紗夜さん達にはバレなかったもののこっから先どうなるんでしょうか。
そして京は生きて帰って来れるんでしょうか!



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第五閃 Uncovered Mask

UAが13000越えました!皆さんありがとうございます!
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いしますッ!(o_ _)oゴン!


 応急処置を受けて今は帰路についている。僕を処置できるところまで運んだ後すぐに快斗君が倒れたのは驚いたが、メモリを三本一気に使うといつもこうなるとのことだ。手当を終えて歩いて家まで向かっている。この姿で練習しているお嬢様達の前に現れたら多分集中できないだろうから連絡だけしてまっすぐ帰っている。今日の特売は逃してしまったが仕方ない。

 やがて家について玄関を潜って家の中に入ると力が抜けたように座り込む。正直いって頭が痛い。さっきの傷は思ったよりダメージが深いらしい。あのまま喰らってたら脳に障害が起きていたかもしれない。深呼吸して痛みを落ち着かせてから家事をする。洗濯物を取り込み、お風呂に湯を張る。夕飯の準備をしようとしたが体が言うことを聞かず意識は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ち………

 

 誰かの声が聞こえる。誰だ?あまり音が入ってこない。

 

 …ち………いち………

 

 あれ、僕は何をしていたんだっけ。確か仕事をしていたような………

 

 …ん……いち………新一!

 

 その声が完全に聴こえるようになって意識が覚醒する。急いで起き上がってあたりを確認する。ここは湊家のリビングだった。体の状態を確認すると頭には包帯が巻いてあり、下半身は床に横になった状態だった。どうやら倒れていたらしい。ダメージを少しでも和らげるためだろうか、体は正直に行動しようとしていたらしい。

 

「新一」

 

 後ろを振り向くとお嬢様の姿があった。

 

「お、お嬢様。おかえりなさいませ」

「おかえりなさいじゃないわ。何してたのよ」

「家に帰ってきてから家事をやっていたのですがお夕飯を作ろうとしたところから記憶がなくてですね……」

 

 状況を振り返りながら時計を見ると既に七時を回っていた。最近はこの時間に帰って来ることをすっかり忘れていた。しかし覚えていたとしても多分反応は出来なかった。状況から察するに僕は倒れていたのだから。

 

「流石に驚いたわ。帰ってきたらあなたがここで倒れているんだもの」

「お騒がせして申し訳ありません。すぐにお夕飯作りますね」

「無理しなくていいのよ、それに頭のソレ…」

「お気になさらないでください、それに無理なんてしてませんので大丈夫です」

 

 台所にかけてあるエプロンを身に纏って冷蔵庫を開ける。冷蔵庫の中は半分しか埋まっていなかったが今日作る分には申し分なかった。とりあえず今日は豚の生姜焼きにしよう。すぐに調理に取り掛かる。

 夕飯を終え、九時を回り完全にフリーの時間になった。まだお風呂に入っていなかったと脱衣所に向かう。服を脱いで包帯を取ると血が少し滲んでいる事に気付く。倒れた時にでも少し広いてしまったのだろうか。血がついた包帯を別のカゴに入れて浴室に入る。シャワーを浴びながら今日の戦闘を思い出す。ライオンにはおそらく京君が弱点を作り上げた。今後はそこを起点に攻撃していくのがベストだろう。トリケラ…猪宮崇は弦巻家に連行された。けどわかったことがある。園崎に入った人はやっぱり僕に恨みを持ってる人が少なからずいるということ。またメモリの力と元の戦闘能力のせいで今までの敵と比にならないこと。今までの戦闘のレベルを捨てて制限を解除していく必要があるようにも思える。とにかくこのままじゃ危ないと思い直して湯船に浸かる。五分くらい何も考えずに湯に浸かってから浴室を出て体を拭く。その時に鏡に映った体を見る。今までにできた細かい傷、そして左上腕にある一つの線。これが一番大きい傷だった。あの日にできた傷。皆があの事件を忘れようとも僕だけは絶対に忘れない。こんな悲しみをもう誰にも与えないようにするために戦うんだと僕は服を着て脱衣所を出ていく。

 脱衣所を出て自室に戻ると錠前が鳴り始めた。場所を確認するとここのすぐ近くが表示された。急いで外に出て表示された場所に向かうと一体のファンガイアが暴れていた。京君と快斗君には来なくても大丈夫だと伝えて錠前を閉じる。まだ怪我の痛みなどは引いていないがそうもいってられないので身して戦う。相手はホースファンガイア、何度も戦っている種族だ。特徴はわかっているのですぐに仕掛ける。場所を公園に移して戦闘を再開する。イクサカリバーを横に振ってから縦に振り切ろうとすると早い動きで避けられる。横から腹を蹴られて吹っ飛ばされた僕は受け身をとってファンガイアを視認すると疑うような光景があった。ファンガイアに変わった様子はない。公園の入り口付近にお嬢様の姿があったのだ。その姿に気づいたのかファンガイアはお嬢様の方へ走っていく。その足音に気づいたお嬢様は逃げようとするも転んで身動きが取れなくなる。

 

「っ………」

「◇◇◇……」

「させないっ!」

 

 手を伸ばそうとしたところを斬り、そのままイクサジャッジメントで斬り込んでトドメを刺す。ホースファンガイアはステンドグラスのようになって爆発した。後ろを振り向いてお嬢様を立ち上がらせて土埃を払う。怪我がないことを確認してホッと安心する。

 

「あ、ありがとう…」

「こんな時間に何してるんですか?」

「その、たまたま気分で出てきたのよ」

「駄目ですよ。こんな時間に女の子一人で歩いちゃ。さぁ、帰りなさい」

 

 お嬢様はこっちを見たまま動こうとしない。一応低い声で話しているからバレていないはずだけどどうしたのだろうか。

 

「ねぇあなた……」

「はい?」

「なんでもないわ。助けてくれてありがとう」

「はい、気をつけてくださいね」

 

 わかったと頷いてお嬢様は帰っていく。まさかお嬢様がこんな時間に出歩くなんて考えていなかった。少しだけ時間を空けてから家に戻ろうかな、バレるわけにもいかないし。

 翌日になって学校に行った。授業はいつも通り受けてお昼休みになる。今日は夜架ちゃんと魔姫ちゃんは仕事でいなかったので四人でお昼ご飯を食べながら雑談していた。お昼ご飯を食べ終わった後立って校舎の方へ入っていく。京君にどうしたか聞かれたが急用だと誤魔化した。だが実際は違う。ドアを閉じて掃除ロッカーの前に座り込む。朝こっそり鎮痛剤を飲んでいたが抗力が切れたらしい。昨日の戦闘でのダメージは思ったよりも深く体の所々が痛い。内ポケットから鎮痛剤の入った袋を取り出すと扉の開かれる音がする。出てきたのはリサだった。こっちを見るなり扉をゆっくり閉めて屈んでくる。

 

「その薬は?」

「秘密って言ったら?」

「じゃあ黙っとく……なんて言えるわけないでしょ」

「やっぱり?リサは心配性だね」

「当たり前でしょ!?朝見たら前より大怪我してんだもん、普通心配するよ!」

 

 僕の目を見て必死に訴えてくる。本気で心配してる目だった。もう少し軽く流されるかと思っていたがそうでもなかった。やっぱりこの子は優しい子なんだ。ある意味知られていて正解だったかもしれない。

 

「ごめんって、でもそんな心配しないで。これ飲めば大丈夫だから」

「もしかして痛み止め?」

「そうだよ、これで痛みを緩和できるから授業とかに支障はないしこの薬治療促進効果もあるから万々歳って感じかな」

「副作用とかないの?」

「寝たらしばらく起きなくなるくらい眠気が酷くなることくらいかな。だから眠くなったらガム噛んでる」

 

 実際午前中の授業はそれで乗り切った。授業中にお菓子を食べるという行為は罪悪感があったが背徳感の方がそれを上回った。でも五十分もガム噛んでると味がなくなってくるから正直辛かったけど。

 

「眠気はどれくらいで来るの?」

「んーとね、飲んで一時間くらいしたらかな」

「じゃあ五時間目が終わるくらいだね」

「ホントだ。その時はまたガム食べなきゃだね」

「今寝るとかじゃダメなの?」

「多分同じ状態になるよ。そうなるんだったら昼休みくらい皆と一緒にいたい」

 

 薬を飲み込んで立ち上がると少し立ちくらみがする。倒れそうになったところをリサが支えてくれる。ありがとうと言うとどういたしましてと笑って答える。二人のところに戻ろうと扉を開けると二人が話しているのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの白い人と話している時、不思議な感覚があった。まるでいつも話しているような感覚。声は低かったけど、話し方や姿勢なんかが新一にそっくりだった。いっしゅん聞きそうになってしまったがあの人がこんなところにいるはずもないので聞かないことにした。

 でも最近の彼は何処か変だ。怪我ばっかりしてくるし、今日に関してはリビングで倒れていた。何か隠し事をしているに違いないのは確実だ。しかし本人に聞いても教えてくれないのは事実だろう。リサたちが知っているわけでもないだろうし、誰に聞くのが正解だろうか。私は新一と関わっている人を思い出そうとするとある男の名前が出てくる。明日も学校だし聞いてみるのもありだろうと考え、玄関の扉を開けた。

 時間は流れて翌日のお昼。私たちはいつも通り屋上でお昼ご飯を食べている。反対側の方ではAfterglowの人たちが食べているようだが今は関係なかった。

 

「新一、その怪我大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。生活に支障はないからね」

「も〜気をつけてよー?」

「全く、お前が料理作れなかったら誰が俺の昼飯作ってくるんだよ」

「それは自分でも作る努力しようよ」

「めんどいからパスで」

 

 仕方ないななどと言いながら新一はいつもと変わらない様子でお昼を食べている。だが急に立ち上がったかと思うと校舎の方へ戻っていった。急用だといっていたが不思議だったのかリサもその後ろをついていく。京と二人きりになった私は質問をする。

 

「ねえ京」

「ん?どうした湊?」

「あの人はなんであんなに怪我しているの?」

 

 普通の質問を投げたつもりだったが京は目を見開いた。あーとか言いながら目を逸らしてくる。何か隠し事でもしているのだろうか。

 

「ねぇ」

「あ、ああ、そうだな。俺はしらねぇぞ」

「でもあなた昨日新一と一緒に帰ってたじゃない」

「そういえばそうだったな。でも俺が一緒にいる最中は何もなかったぞ」

「そうなの?」

 

 ああ、と答えながら頭を押さえる動作をするが何もないことに気付いたのか少しばかり慌てている。でも彼がここ最近怪我をしているのは見ている限りだと京が一緒にいる時だと思う。だとしたら彼は一体何で怪我をしているの?無理はしていないと言っているけど信じられない。昨日の鎧の人といい何か引っかかる。何かが頭の中に浮かび上がったとき、校舎へと繋がる扉が開かれた。新一たちが戻ってきた。

 

「すみません、ただいま戻りました」

「お待たせ〜」

「遅かったな」

「ちょっとね」

「なんだ?逢引きか?」

「そ、そんなんじゃないよ!///」

「合い挽き…?学校に合い挽き肉はないよ」

「えぇ……(困惑)」

 

 京は苦笑いしていたが私にも『あいびき』の意味は理解出来なかった。それからしばらく話していると昼休みは終わって授業に戻った。授業中新一の方を見ると何か苦いものでも食べているような変な顔をしていた。その顔を見て少し可笑しく思える。

 よく考えればここ最近あの人のことが気になって仕方ない。なんでも器用にできる。ヴァイオリンの技術は人並みではない。たまにある世間を知らないような発言。広い人脈。電車での犯罪者を捕まえた時の余裕。そしてここ最近怪我ばかりしていること。彼のことなんて本当に何も知らない。切姫さんたちもあまり詳しくは教えてくれなかった。一体何者なのかと考えると思考を遮るようにチャイムの音が鳴り響く。号令をして休み時間になる。

 

「新一何食ってんだ?」

「ガムだよ。食べる?」

「いや俺も持ってる。あ、なんならガム組み合わせてどんな味になるか実験しようぜ」

 

 京の変な発言に対応を困らせているが一見すると普通の男子と何ら変わりわないんだと感じる。でも今までの行動を見て考えるとどれが本物の新一かはわからない。結局新一のことが頭から離れず休み時間が終わり六時間目に入った。今日の最後の時間は化学の授業で実験室でやる簡単な実験だった。適当な席を取るとそこには大和さんと京、新一が座っていた。

 

「このメンバーで実験か」

「みたいっすね。でも内容は二人一組でやる感じですかね」

「じゃあ俺と麻弥、新一と湊のペアに分かれるんだな」

「あら、どうして?」

「俺達は向き合う形で座ってたからよ、机挟んでる状態だろ?それで隣には麻弥なんだからペア分けするんだったら効率的だろ?」

「それもそうだけど本人の意思も聞かなきゃダメだよ」

「自分は構わないっすけど」

「それなら私も構わないわ」

「っし、じゃあさっさとやるか!」

 

 京と新一は実験道具を取りに前の方に行った。大和さんとはあまり話したこともないため会話はしなかった。やがて実験が始まり道具を手に取る。しかしどう使うのかわからないでいると新一が声をかけてくる。

 

「どうかしたんですか、湊さん」

「これはどうやって使うの?」

「……試験管バサミは少し置いといてください。今僕がやってる作業はここにある四つの試験管にそれぞれ付箋を貼っています」

「どうして?」

「全部違う液体を入れるからです。中には火で加熱するものもありますがそれは後ほど。それで──」

 

 新一は真面目に答えてくれた。その時もいつも通りの顔なのだがそれをみるとどうしても数日前のあの時の顔を思い出す。普段では絶対に見ない不安を抱えている顔。それを考えているとどうしてもこの人のことを考えてしまう。

 

「あの、湊さん?」

「な、なに?」

「聞いてまし…たか?」

「ごめんなさい、少し考え事をしてしまって」

「なら仕方ないですね。でもこれから火も使うんですからちゃんと集中してください」

「え、ええ………」

 

 ねぇ新一、あなたの顔は一体どれが本物なの?

 授業が終わって教室に戻り、帰る準備を済ませる。新一と教室を出るとリサが合流する。校舎の中を移動しているときはずっと新一のことを考えていた。校門を出てしばらくすると新一が急用ができたと言って走って何処かに行く。その後ろ姿を見てふと思い出す。彼はこういう時いつも顔が変わることを。

 

「友希那〜?どうかしたの〜?」

「ごめんなさいリサ、少し練習に遅れるわ。あと荷物をお願い」

「ちょ、友希那!?」

 

 気がつけばリサに鞄を押し付けて走っていた。新一が走って行った方向に向かって走っていくと彼の姿は無くなっていた。それでも探し続けると何かが壊れる音が聞こえた。その場所に向かうと私は見たことない光景に絶句した。私も行ったことのある場所がありえないほどに変わっていた。瓦礫が積まれ、車からは火が出ていた。異様な光景を見て立ち止まっていた私に見たことないような怪物が近づいてくる。

 

「まさか、こんなところで会えるとはな…!」

「な、なに!?」

「知る必要はねぇよ!」

 

 逃げようと後ろに下がっていた私は尻餅をついて動けなくなる。目の前まで来ていた怪物が受けたらタダで済まないような拳を振りかざした瞬間、もう駄目だと目を瞑る。けど数秒経っても痛みは感じなかった。恐る恐る目を開けてみると目の前に影があった。しっかり目を開けてみると昨日の鎧の人の姿があった。

 

「テ、テメェ!」

「この人に……手出しは……させ…ない」

 

 何か言ったかと思うと鎧は消えて見たことのある格好の人が出てきた。目の前で崩れ落ちていくその姿を見て近寄るとその正体に気付く。さっきまで追いかけていた人。普段私の執事をやっている人。

 

「なん、で────」

 

 その顔は名護新一だった。



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第六閃 Break the chain

 ハロハピでヒャダインのじょーじょーゆーじょーが追加されましたね!新一君達がこっちでやってましたがハロハピの方で追加されて嬉しかったです!
 あ、本編どうぞ( ・∀・)つ


 学校が終わってから三人で歩いていると錠前が震えているのがわかる。他の人がいるときはならないようにマナーモードに設定している。ちなみにこの機能はついこの間実装された。お嬢様の事をリサに任せて走って現場に着くと今日はライオン一体のみが暴れていた。他の人も来ると思った瞬間錠前からコール音が聞こえる。非常電話にもなるがこっちの方はマナーモードの機能は通用しない。

 

「もしもし、こちらイクサ」

『あーもしもし?こちらスカルと馬鹿』

『バカって言うな!』

「二人ともどうしたの?僕は現場に着いたけど」

『申し訳ないがしばらくそっちに行けそうにない。こっちに雑魚どもがウジみてぇに湧いてやがる』

「……わかった。二人とも無理はしないようにね」

『お前もな』

 

 錠前を閉じてポケットにしまう。二人が来れないのは戦力的に辛いが向こうにも出てしまったのなら仕方ない。僕は変身してすぐに戦闘を開始する。仮面ライダーの名を持つものとして、彼の方と契約した者として今日こそコイツを倒さなければならない。僕が倒さねば被害は広がる一方だ。イクサナックルを外して右手に嵌める。イクサカリバーを左手に逆手で構えて接近する。こちらには気づいていなかったのか不意打ちが決まる。それでも皮膚は硬く大したダメージは入れられない。

 

「ナニモ──やっぱり白騎士か!」

「やっぱり、硬い」

「今日こそぶっ殺してやる!」

 

 それからライオンとの戦闘が始まった。剣で攻撃をいなしつつイクサナックルで殴るとダメージが入った。おそらく殴るときに生じるイクサナックルの出力が通常の拳の威力を底上げしていると考えられる。隙を見つけた瞬間に打ち込んでいくのが正解だろう。だが剣で皮膚に少しでも傷を増やしてダメージを通せるようにしておくのもいいだろうか。

 だが奴も単純な攻撃ばかりではない。フェイントや速い攻撃は今の僕を圧倒的に凌駕する。今でも悪戦苦闘なのに一回でも食らえばその瞬間に負けに大きく近づく。少しずつ攻撃を与えていくと激昂したのか速さがさっきよりも上がって来る。なんとか避けているうちに違和感に気づく。ライオンの拳はさっきまでと違い、拳に何かを纏っている。本人のエネルギーだろうか。禍々しい感覚が伝わってくる。

 

「どうした白騎士ぃ!」

「くっ!」

「お前の首、今日こそ貰うぞ!」

 

 拳に気を取られていたせいか足元が疎かになり足を引っ掛けれられる。体勢を崩した僕に追い討ちをかけるように胸ぐらを掴んで額を打ちつけてくる。背中から倒れた僕を踏みつけようとする。すぐにイクサカリバーを銃モードに変えて撃つと後ろに下がっていく。

 すぐに立ち直して近接に持ち込むと剣を白刃取りされる。動揺が零れてしまいその瞬間に足を引っ掛けようとしてくる。二度も喰らうかと一度跳んで地に着いたと同時に剣から手を離して回し蹴りを決める。よろけた瞬間をすかさず乱射するとある程度の弾が当たる。それでも大したダメージは入らずまた近接になる。

 

「まだ生きてんのか」

「貴方を倒すまでは死ねませんよ」

「ハッ、減らず口を!」

 

 ストレートを腹に受けて距離ができる。距離を詰めてこようとするが逆にそれを利用することにした。近くに来た瞬間を狙って錠前をライオンの顔面に投げる。奴がそれを振り払う前にイクサカリバーで撃ち抜くと爆発して煙幕になる。せいぜい目眩しにはなっただろう。その間に後ろに回ってから懐に入り込み、八双斬りをすると背中に傷を与えた。受けてすぐに跳んだライオンを追いかけて着地寸前を狙って斬りにいくと衝撃波に吹き飛ばされる。プレッシャーのような衝撃だった。広範囲型なのかな。剣を地に刺して膝がつかないようにする。

 

「流石に、今のは効いたぜ」

「ハァ……ハァ………」

「息があがってんじゃねぇか。限界だろ?なら殺してやるよ!」

 

 ライオンが真っ直ぐこっちに向かって走ってくる。迎え撃とうと構えを取ろうとするが昨日の傷が痛み始める。今の戦闘と衝撃で傷口が開いたのだろう。

 あぁ、こんなことならもっと早くに制限を解除しておくべきだった。けどこの縛りは制限のための縛りだから無闇に解放できるアレとは違い条件がいる。けど正直そんな相手もいないので縛りを解放できる条件は簡単に揃えられない。

 そんなこと考えているうちにライオンはすぐ近くまで来ていた。突き出された拳にイクサナックルをぶつけると衝撃波が生まれる。押し負けないように突き出していると互いに衝撃に耐えきれず距離を取る。衝撃波による体の負担が襲ってくる。膝をついて呼吸を整えようとするとライオンが反対方向へと歩き出しているのが見える。その方にはいてはいけない存在があった。

 

「まさか、こんなところで会えるとはな!」

「な、なに!?」

「知る必要はねぇよ!」

 

 昨日といい今日といい何故お嬢様がここにいる!?まさか追いかけてきたのか!?だとしたらなんて愚かな事だろうか。いや違う、愚かなのは僕だ。僕が怪我ばかりしてくるからお嬢様は心配して付いてきたんだ。主人に心配させるようなことはあってはならないのに。

 さっきのエネルギーを纏った拳をお嬢様にぶつけようとしている。あれを生身で喰らったら死ぬのは確実だ。しかもよりによってお嬢様を狙うとは一体どういうつもりだろうか。

 僕は急いでお嬢様を庇える位置にまで走る。なんとか間に合ったかと両手を広げて庇うとすぐに拳は当たる。

 

「ナッ!?」 

 

 ライオンは驚いていたような声を上げていたが気に掛ける暇すらなかった。かなり痛い。肋骨全部が折れそうなくらい強い痛みが走ってる。拳が離れると膝をつく。次第にイクサシステムは解除された。

 

「なん、で────」

 

 後ろからはお嬢様の声が聞こえるが意識が消えそうなくらい朦朧としている。早く逃げて欲しい、そんな気持ちでいっぱいだった。

 

「チッ、まぁ一石二鳥か。このまま二人とも潰してや──」

「そうはさせない」

 

 すぐにイクサナックルの圧縮弾を撃つと後ろに下がっていく。狙いを顔に向けたはずだが手元が狂ったのか左の方へ圧縮弾は飛んでいった。しかしそれが奇跡を呼んだのか奴の右肩に当たった。ライオンは悲鳴を上げながらも目の前から消えていった。よかったと伸ばしていた腕を下ろすとお嬢様が声を荒げてくる。

 

「一体何しているの!?」

「無事…ですか?」

「私はなんともないけど、まずは自分の心配をしなさい!傷口が開いてるじゃない!」

 

 徐々にお嬢様の声が聞こえなくなり、なぜ慌てているか理解出来なかったが見たところ怪我がなさそうだったので安心した。その様子を見届けると僕は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────!」

「────────です。──────ん」

 

 意識が朧げな中何かが聞こえてくる。集中してみるが何も聞こえない。

 

「────た────────」

「ーい──────」

 

 集中を続けてもやはり何かはわからずまた僕は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ここ、は?」

「病院よ、やっと起きたのね」

「お嬢様……運んで下さったのですね、ありがとうございます」

 

 目覚めたときに見たのは知らない天井だった。状況を確認するとどうやら僕はあの後倒れたらて運ばれたとのことだ。ベッドの側にはお嬢様の姿があった。お嬢様は僕の姿を確認するとすぐに俯いて震えている。表情を見ようとするが影ができていて顔がよく見えない。さっきのことでまだ怖がっているのだろうか。無理もない、実際殺されかけたのだから。誰だってあんなことがあったら恐怖で怯えるだろう。少しでも安心できるようにするのが今の僕の務めだろうと声をかける。

 

「新一」

「ですが、本当に災難でしたね」

「新一」

「あんな怪物に襲われるだなんて。しかし」

「新一!」

「………」

 

 ずっと聞こえないフリをしていた。僕の名前を呼んでくるお嬢様の声はなにかを求めるような声。その声に応じたら何かが変わってしまうような気がしてならなかったからだ。でもそれももう通じない。

 

「…今から聞くことに答えなさい」

「………畏まりました」

「あの鎧みたいなのを着てたのは本当に新一なの?」

「そう、です……」

「今までずっとあんなのと戦ってたの?」

「……はい」

「最近怪我ばかりするようになったのはアレのせいなの?」

 

 僕は肯定する返事すら言えなくなる。やがて顔を見ることも耐えきれずに目をそらす。目を背けていると再びお嬢様の口が開かれた。だがその声はさっきまでとは違い悲しみが混じったような声だった。

 

「…なんで?」

「……え?」

「何で戦ってるの?」

「それは………」

「…お父さんに言われたから?」

「…!」

 

 イクサシステムの契約のことはお嬢様には一切話していない。元々執事の契約書とは別の契約書の内容だからだ。だがこの部分のみ秘匿なのか、それとも別契約なのかはハッキリせずとも、今まで黙っていたことから考えがつくのは当たり前のことだろう。何も言えないまま時間が経つとバツが悪い顔をする。

 

「やっぱり、そうなのね」

「確かに、これも仕事だからやってました。ですが貴女のためでもあるんです」

「……」

「貴女に怪物を合わせないようにって」

「けど、それは仕事でしょう?」

「っ!?けど、貴女に危ない目に合わせたくなかったから」

「もう……やめてちょうだい、そんな嘘」

「嘘……?」

 

 頭が真っ白になった。まるで今までのことがかき消されたかのように真っ白になった。

 

「貴方は仕事だって言ったじゃない。その後に私のためだなんて……そんなの嘘よ。だから、もう、やめてちょうだい……」

「うそ、ですか………ハハ、ハハハ、アハハハハハハハハハハハ!」

「…!?」

 

 嘘という言葉を聞いて笑いが止まらなくなった。しかし笑いが治るにつれてと手の握る力が強くなった。そしてあろうことか僕はお嬢様に対して今までぶつけたことのない、感じたことのない感情をぶちまけていた。

 

「貴女は……貴女はどこまで我儘なんだ!貴女と暮らし始めてからずっと!貴女の我儘を聞いてきた!料理だって、洗濯だって、仕事とはいえ全て僕がやってきた!イクサになってファンガイアやドーパントから貴女を守った!沢山戦いました!何度も傷ついた!戦って傷ついて戦って傷ついて!どれくらい繰り返した事か!貴女が何も知らない裏で僕は何度も戦っていた!いつしか仕事のことなんか契約なんかどうでも良くなっていた!それでも僕は貴女の為に……ハハ、それこそ嘘ですね。僕は貴女だけのためでなく、皆のためにやってきたんです!思い上がってもらっては困る!」

「…っ!」

 

 乾いた音が部屋に響いた。一瞬何が起きたか分からなかった。でも気がついた時には頬に痛みが走っていた。お嬢様の右手は開いた状態で手の甲をこっちに見せている。お嬢様の顔を見ると涙を流している。怒りのように見えた顔はよくみると悲しみも混じったような顔だった。

 

「………え?」

「そんな人だとは思ってなかったわ……つまり私が苦しめていたのよね?」

「………ち、違う!そうでは…っ!」

 

 否定しようとした僕の口を塞ぐ。今否定したらまた嘘を重ねてしまう。そうすればお嬢様はまた傷つくことになる。けど否定しなければ誤解したままになってしまう。しかし僕の言ったことはあながち間違っていないなどと頭の中で色んな言葉が行き交う。

 

「否定、しないのね……わかったわ。あなたに、今の私なりの、最大の恩返しをしましょう」

「……?」

「貴方を……クビにするわ」

「………え?」

 

 理解が追いつかなかった。

 

「私の手で、あなたとの契約を終わらせるわ。これであなたはもう苦しまなくて済むわ。今までありがとう、元気で」

「お、お待ちくださいお嬢様!」

「新一?今友希那が飛び出してったんだけどー?」

 

 お嬢様が出ていってすぐリサとりんりんが入ってきた。こっちに近づいてくると驚いたような顔をしている。

 

「…!新君、何で……泣いてるの?」

「………?あれ?何で…涙を流してるんだろ、僕」

 

 頬に手を当てるとかすかに涙の感触があった。



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第七閃 Penalty

「あちゃー、そうなっちゃったか」

「新君…」

 

 事情を話すと二人はそれぞれ納得したような反応を見せた。自分で話していて気づいたが、どう考えても僕が悪い。感情に任せていろんなことを言っていたが結局のところ悪いのは僕だった。しかしどうして僕はあんなにも感情的になってしまったんだろう。素直に「契約通りですので問題はありません」といっておけばお嬢様も引いてくれたのではないのだろうか。

 

「まあ、否定しなかった僕が悪いし、最後まで言い切れない僕の不徳だ」

「でも友希那も言い過ぎだとは思うよ?新一の話を聞いてる限りだと」

「いやいや、お嬢様は何も悪くないよ。ただ真偽を問いたかっただけだろうしね」

「それでもさ」

「それに、もうお嬢様じゃないんだよね……」

 

 そう、もう彼の方との契約は終わったのだ。契約を結んだのは旦那様だが契約内容の中に『契約破棄を可能とする者に湊友希那を含む。また湊友希那の独断により契約破棄を可能とする。』という文章があった。まさか本人は知らないのにやってみせるとは思いもしなかった。実際思い出したのはついさっきだけど。

 

「じゃあ湊さんとは……どうなるの?」

「んー、そうだね。正式な契約破棄は旦那様に報告してからだけど、現状だと『家に僕の荷物を持ってるクラスメイト』ってところかな」

「うわーなんか変な響き」

「あまり、というか普通こんな関係ないよね」

「そりゃあね。じゃあ荷物移動させるのに人手がいるの?」

「いやそんなことはないよ」

 

 実際机とかは旦那様のお古を借りているだけなのでそのままにしておいて大丈夫。持っていくものといえば服とクローゼットの奥底にあるもの、教科書とかの細かいもの程度だから段ボール三つあれば十分だろう。

 

「荷物は……どこに運ぶの?」

「悩みどころかと思ったんだけどすぐに決めたよ」

「えっ、どこどこ?」

「僕の、十年以上前に住んでいた家かな。幸いにも誰も住んでいないから寝床にはなるよ。鍵の隠し場所は知ってるし」

 

 あくまで誰にもいじられていなければだけど。

 

「じゃあその作業が、終わったら………」

「うん、それが本当の契約終了。僕はただの名護新一になる」

「新一はそれでいいの?」

「うん。それがあの人の望みなら。元とはいえ自分の主人の幸せを願うよ」

 

 答えはとうの昔に決まっていた。例えどちらに捨てられようともその時は潔く辞めて、別の道を歩むことを。もともと真っ暗な道に光をさしてくれただけなんだ。やることが増えてただけで僕の目的は変わりはしない。

 

「じゃあなんで……悲しそうなの?」

「え?」

「よくわからないけど、言ってることと表情が合ってない…よ………」

「燐子………」

「フフ、りんりんには敵わないや」

「!」

「後悔はないけど、物寂しさは感じるかも。何かとあの人との生活に慣れちゃってたのかも」

「それって……」

「なんだろう。よくわかんないや」

 

 人がいなくなるから寂しく感じるのか?いやそんなことはない。だって一人の時はそれなりに合ったし。もしかしたらあの人の無茶振りを楽しんだりしてたのかな。全く、おかしな話だ。内心自重気味に笑っているとリサが身を乗り出してくる。

 

「新一は本当にそれでいいの?」

「え?」

「新一はさ、本当に友希那のそばから離れていいの?」

「…どういうこと?」

「え、あっ、ほら、仮にも年頃の男女じゃん!?一緒に暮らしてて何かこう心境の変化というかさ!」

「前にも言ったけど、そういうのは一切ないから大丈夫だよ」

 

 リサは慌てて身振り手振りしていたが言っていることの意味がわからなかった。その隣でりんりん安心したように胸を撫で下ろしているが何かあったのだろうか。

 

「そういえば…」

「?どうしたのりんりん」

「アレは……どうなるの?」

「アレ、って?」

「あの、その………」

 

 りんりんは手で十字を象るように指を動かしている。もしかして、とお腹の近くで四角いものを象るとうんうんと頷いてくる。やっぱりりんりんは賢いと思う。そっちの方まで気配りが出来るとは嫁に行ったら絶対いいお嫁さんになりそうだ。

 

「大丈夫、リサも知ってるから」

「!今井さんも……」

「え、なんの話?」

「仮面ライダーの話」

「あ、アレね!てことは燐子も知ってたの?」

「はい……春くらいに」

「アタシは合宿の時。てっきりアタシが一番だと思ってたんだけどな〜」

「私も、私だけだと……」

「やっぱり?で、どうするの?前に、友希那に正体がバレた時にいなくなるかもって言ってたけど………」

「それって!」

「あぁ、まだ大丈夫だよ」

「まだ?」

「そう、イクサシステムはお嬢様とは別の契約なんだ」

「そう…なの?」

 

 主な契約はイクサシステムを用いてのファンガイア退治だった。お嬢様の方の契約はあくまで行動範囲を広げやすくすることと連絡を取りやすくするためだ。もっともお嬢様の契約を受け入れなければ使わせないなんて一瞬脅されたが。

 

「うん。だけどお嬢様が契約破棄した場合の内容で旦那様が一つ僕に命令を下す権利があるから、もしかしたらそれ次第ではってところかな」

「私、嫌だよ!新君と会えなくなるの!」

「りんりん?」

「せっかく、久しぶりに会えたのに……会えなくなるなんて」

「りんりん………」

「それはアタシも嫌だよ!だってまだ約束が叶ってないもん!」

「リサ………」

 

 二人とも泣きそうな顔になりながら訴えてくる。幸いにもここは個室で、周りに他の患者さんがいないからよかったもののこんな大声を出していたら病院の人がやってくるだろうか。でも訂正をしなきゃいけない。

 

「二人ともまだ決まったわけじゃないからね?」

「そりゃあそうだけどさ!」

「フフ、ありがとう」

「新君…」

「じゃあちょっと外に行ってこようかな」

 

 スマホを探そうとすると床頭台の上にあることに気づく。それを取って立ち上がろうとすると腕に何かが引っかかる。よくみると点滴の管だった。外れないようにして姿勢を変えて靴を履くと後ろから声がかかってくる。

 

「え、どうしたの!?」

「ちょっとね。すぐ戻ってくるから二人はここにいて」

「一人じゃ…危ないよ……」

「大丈夫すぐ戻ってくるから」

 

 ドアを開けると優しい声で介助するという声がやってきた。それなりの大きさだったので多分二人にも聴こえているだろう。僕はその人に手伝ってもらいながら移動する。

 

「全く、あんた私がいること知ってたでしょ」

「なんのことかな」

「腹立つ」

 

 正体は制服姿の魔姫ちゃんだった。いるかどうかは知らなかった。実際一人で行こうとしてたし。しかし一瞬知らない人かと思うくらいの演技力だった。橋本さんに教わったのかな。でも最後のやつで内心ちょっと傷ついた。

 

「怪我人の心を労ってよ」

「いやよ、あんたなんかそれくらいで傷つかないでしょ。それにそんなキャラじゃないし」

「いや実際ちょっとだけ傷ついたからね?」

「はいはい、よーしよし痛かったですねー(棒)」

「ごめん、魔姫ちゃん元々そういうの向いてなかったよね」

「殺すわよ」

 

 ちょっとだけふざけてみたがガチで殺気出されたので辞めることにした。そのまま電話ができるエリアまで連れて行ってもらい旦那様に電話をかけた。

 

「もしもし、名護新一です」

『新一君か、どうしたんだい?』

「契約についてのお話です」

『その様子だと、友希那にバレたんだね?』

「はい、おっしゃる通りです。そして契約破棄を申されました」

 

 旦那様は無言になるが話を続ける。

 

「お嬢様による契約破棄のため、契約内容にある“湊友希那による契約破棄の場合、名護新一に対して一つ命令を下す“という事項が成立します」

『そうだね。つまり私は君に一つなんでも命令できる』

「仰る通りです。何なりと」

 

 正直命を落とせとかは言われないとは思うが何が来るかはわからない。旦那様は少し考えるように唸っているのが聞こえるが答えはすぐに帰ってきた。

 

『わかった。では湊幸也は名護新一にRoseliaのマネージャーを辞めることを命ずる』

「…畏まりました。では現時点をもってRoseliaのメンバーに通達をし、正式に脱退させていただきます」

『いや、今すぐじゃなくて大丈夫だ。退院してからでいい。……すまない。少しでも距離を置いておいた方があの子のためにもなる』

「いいえ、これは僕に与えられた罰ですから。受け入れるだけです」

「君の意思は硬いね」

「これは意思とは関係なく、契約ですから」

 

 後ろからかかってくる言葉に返事を返して振り向くと申し訳ないさそうにしている旦那様の姿があった。すぐに礼をして顔を上げるとすぐ目の前までやって来ていた。

 

「久しぶりだね」

「久方ぶりでございます旦那様」

「契約は破棄された。もう私は旦那様ではない。君と私の関係は」

依頼者(クライアント)引受人(レシピエント)、ですよね」

「やはり君は理解が早いな」

 

 何故ここにいるかを聞くと弦巻家の人から連絡が入ったらしい。その時点でお嬢様がいることも伝えられていたのだがこんなことになるとは思いもしなかったらしい。我ながら不甲斐ないと謝罪するとそんなことはないと擁護してくださった。それから契約内容の見直しを簡単に済ませて明日荷物を取りに行くことを伝えると了承してくださった。

 

「本日はありがとうございました。…湊さん」

「君にそう言われるのは会った時以来だな。なんにせよお大事にといったところかな」

「かしこまりました。これからも引き続きよろしくお願いします」

 

 一礼して帰っていく姿を見送って病室に戻っていく。これで契約の話は片付いた。あとのことはこれから考えよう。しかし怪我人とは不便なものだ。点滴代を引っ張っているが正直めんどくさい。

 

「あんたあの人と契約してたのね」

「魔姫ちゃんもしかして知り合いだった?」

「いや、前に見たことがあるだけよ」

「え、どこで?」

「忘れたわ」

 

 実際どこで見たんだろう。雑誌かなんかかな、もしかしたら街中の可能性もあるけど。でも魔姫ちゃんはそこら辺の人を覚えるような人じゃないしな。

 病室の前まで来るとリサと遭遇する。手荷物を見る限り飲み物を買いに行っていたようだ。扉を開けようとすると代わりにリサが開けてくれた。

 

「────ハァ──────」

 

 礼を言いながら部屋の中に入っていくと何かが聞こえてくる。呼吸音にしては随分吸う音が大きいような……。

 

「スゥ────ハァ──────」

 

 近づいていくと明らかに大きくなるその音にドギマギしながらもカーテンの向こうを見るとりんりんが僕のいたベットに顔を突っ伏して呼吸している姿があった。こちらに気付く様子はなく今も続いている。後ろから覗いてきた二人も見たことない物を見たような顔をしている。

 振り返ってベッドの方を見るとりんりんがこっちを見ていた。顔を真っ赤にしているあたり全て察したのだろう。とりあえず何事もなかったかのように僕達は元の位置に戻った。

 

「とりあえず今旦那様と会ってきたよ」

「あんたこの状況でよく話せるわね」

「気にしても仕方ないよ、多分何かの間違いだし」

「(それでいいのか……)はぁ…」

「そ、それでどうだったの?」

「命令内容は“Roseliaのマネージャーを辞めること”になった」

「そ、そんな!」

「落ち着いて、何も会えないと決まった訳じゃない」

「そっか……Roseliaのマネージャーを辞めるだけで…メンバーと、会ってはならないじゃないんだもんね……」

「そういうこと。だから後々連絡は入れるけど二人には先に言っとくね」

 

 二人は戸惑いながらも頷いてくれる。ちゃんとじゃないだろうけど納得してくれるあたり優しいよね。

 

「ということなので、明日からまた別の形になっちゃうけどよろしくね」

「えっ?」

「え、だってもうそろそろ面会終了時間だよ?」

「そうね、これからは親族じゃないといちゃいけないもの」

「あ、あの新君」

「どうかしたの?」

「この人は……?」

 

 りんりんは魔姫ちゃんの方を見て首をかしげている。そういえば初対面だっけ。軽く紹介して今日は解散した。皆が帰り静かになった病室に訪れた人の気配。白衣を着た男の人、僕の主治医らしい。ケガの状態はヒドイものの絶対安静にするのなら明日の昼には退院していいとのことだ。そのことに礼を言うとすぐに退散していった。入れ替わるように夕食が運ばれるなど少しばかりごたついたが初めての病院生活は終わりを告げた……はずだった。

 いや終わるはずだった。けどいつも動いてるのにずっとベットの上だから動けなくてソワソワしていた。仕方なく寝てはいたが目が覚めてしまった。外がどうなっているか気になってカーテンを開けてみるとそこに見えたのは暗い夜空ではなく、また青白い月でもなく、真っ赤なセーラー服を着た魔姫ちゃんの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 



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第八閃 Process

 カーテンを開けて映ってきたのは魔姫ちゃんの姿だった。窓に手をかけ、足を窓辺に乗せてこちらを見ている。

 

「こんな時間に何してるの?関係者以外は入れないし、その入り方は不法侵入だよ」

「うるさいわね。仕方ないでしょ、こんな形でしか入れないんだから」

 

 それもそうだねと答えると部屋の中に入ってくる。着地して立ち上がるとこちらを向くと突っ立ったまま話さなくなった。こうして改めてみると数年前より背が伸びているのが分かる。地面につきそうなくらい長いツインロングテール。鋭い目つきの向こうに見える月明かりによって輝く暗く赤い瞳。

 

「それで、こんな時間に何しに来たの?」

「別に、何も」

「もしかして僕を殺すようにでも言われた?《春姫(プリンセス)》」

「そんな馬鹿なこと言われるはずないでしょう」

 

 呆れる表情を見せながらも声色は怒っていた。ごめんと軽くいいながら外を見ると暗い夜空が見える。星は少なく青白い月明かりだけが見える。しばらく沈黙が続いたがそれを破ったのは魔姫ちゃんだった。

 

「………ないの?」

「何か言った?」

「戻ってこれないの?」

「……意外だね。魔姫ちゃんがそんなこと言うなんて」

 

 目の前の女の子は罰が悪そうな顔をしながら目を逸らす。元々そういうことは素直にいう性格ではないのだ。だから少し驚いてしまった自分がいる。

 

「私だって、納得したわけじゃないわよ……」

「そう、だったんだね」

「あの時、あんたは私らに何も言わずに出て行った。でも私らは事情を知っていた。それでも納得していない奴らはたくさんいた。私だってそうだった。納得したふりをして心のどっかでは納得していなかった」

「……ごめんね」

「今更そんな言葉なんていらない。ここに来て分かったから。でも私は、私たちを捨てたあんたを許しはしない」

「それはわかってる。許してくれる方が奇跡だと思うよ」

「私は、捨てたことは許さない。けどそれ以外は別にどうだっていい。別にあんたが誰と契約してようが何をしてようが知ったことじゃない。だけど、もしあんたが良いと言うのなら、叶えてくれるっていうのなら」

 

 言葉のスピードが速くなりながら僕の方に詰め寄ってくる。やがてベッドに半分身を乗り出し、後ろの壁に手をつきながら言の葉を繋げる。

 

「戻ってきて……欲しい」

「………」

「無理だとはわかってる。それでもずっとこのことを言いたかった。あんたに久しぶりに会ったあの時から、恨みとこの気持ちだけは伝えたかった」

「魔姫ちゃんは……僕をもう一度あの場所に戻したいの?」

「……霧切の指示でもちゃんと仕事はやってるけど、あんたの時みたいな感じは………ない」

 

 そこに何を抱いていたのかは知らない。指示だけというのなら霧切さんでも僕でも変わらないはずだ。それでも何かが違うらしい。僕が指示をしていた時は特にこれといったことはしていなかった。そう考えると何が違うのかが分からない。

 

「霧切からの指示はただ仕事をしてるって感じなの。でもあんたからの指示は何かが違うのよ」

「そう、なんだ……」

「まだ私はそれを理解できてない。それを知るためにも、あんたには戻ってきてほしい」

 

 下げていた視線を戻して魔姫ちゃんの顔を見ると涙を流していた。僕は魔姫ちゃんと抱き寄せて髪を下ろすように頭を撫でる。顔は見えないように肩に頭を乗せながら。こうして撫でていると華奢な体というのが伝わってくる。

 

「な、何よ。急に」

「……ごめん」

「え?」

「僕は……あの場所には戻れない」

「………」

「僕は、皆とあの家を捨てた。今更戻る資格なんてない。たとえ皆が戻ることを受け入れてても戻っちゃいけないって思ってる。それに僕はまだ、終わってない」

「……それが、答え?」

 

 魔姫ちゃんの抱きしめる力が強くなる。うん、と答えると力が抜けたように離れていく。ベッドを降りて目元を擦り、少し乱れた服を整えるとこちらを見つめてくる。その目を見ていると呆れたような溜息を吐かれる。

 

「全く、そういうところよ」

「なんかごめん」

「謝らなくていいわ。…少し、らしくもないところ見せたわね」

「ううん、魔姫ちゃんの本音を聞けてよかったよ」

「じゃ、私は帰るから」

「そっか。気をつけてね」

 

 魔姫ちゃんは僕に背を向けて窓に足をかける。え?まさかそこから帰るつもりじゃないよね?ここ三階だよ?

 

「一つだけ言っておくわ」

「何?」

「あんたはわかってると思うけど………優しすぎるのは、時に残酷よ」

「………忠告、ありがとう」

 

 礼を言った瞬間彼女は窓を抜けて月明かりに照らされた闇の中に消えていった。その姿を見送った僕はまた眠りにつき、次の朝を迎えた。

 時間は流れて昼になり病院を出た。朝起きた時に黒髪ロングの看護師さんが布団に潜り込んでたけどそれはつまみ出して引き取り人に連れて行ってもらった。

 病院の敷地を出てすぐにRoseliaのグループチャットに脱退の意思を伝え、チャットからも退室する。そして真っ直ぐ湊家に向かい荷物を取りに行く。持っていた鍵で玄関を開けると旦那様が待っていてくれた。事前に連絡はしていたがそこにいるとは思わなかった。今お嬢様はいるかを聞くと丁度家を出ているらしい。ある意味好都合だと伝えて二階へ向かう。扉を開けると僕の部屋だったがやはり荷物は少ないなと感じた。

 

「君が来る前に私も一度見たがこれといった私物は増やさなかったんだね」

「いつかこうなることは分かっていましたし、あまり買うものもありませんでしたから」

 

 テキパキと用意してくださった段ボール箱に詰め込んでいく。執事服はどうするか聞くと記念に持っていけと言われる。私服を他にも買わねばならぬのでそれまでは代わりになると思いありがたくいただく。荷物を全て詰め終え、入らなかった長物を背負って荷物を下に運ぶ。三箱必要かと思ったが実際二箱で足りてしまった。二箱目も少し余裕があるくらいだ。玄関に荷物を置き、旦那様に持っていた鍵を渡す。

 

「君がいなくなるのは少し寂しいな」

「そう思っていただけるなど、光栄です」

「たまにお邪魔しに行っていいかな?」

「構いません。是非いらしてください」

「そうか。ではありがとう。今まで友希那を守ってくれて。そしてこれからもよろしく頼む」

「畏まりました。お世話になりました、湊さん」

 

 段ボール箱を二つ抱えて湊家の玄関を抜ける。玄関先に止めてあるイクサリオンに荷物を置き、縄で巻いて固定する。ヘルメットを被って会釈をし、その場から発進した。

 これでもうあの家に入ることはない。湊友希那を守る契約は終わりを告げた。これからはあの人はただの知り合いになる。Roseliaも知っている人達のいるバンドとなる。全て受け入れようと心に決めてバイクの速度を上げていく。しばらく走らせるとりんりんの家の近くになる。

 隣の家の前にバイクを止めてヘルメットを取り、家を確認する。誰も住んでいる気配がない。ポスト口の中から上の部分を探ると鍵があった。隠し場所は変わっていなかった。それを使って鍵を開けると懐かしい匂いが漂ってくる。ここは間違いなく僕達が住んでいた家だ。鑑賞に浸っていると後ろから声をかけられる。

 

「ここが新様が住んでらした家ですか?」

「普通の家なのね」

「二人とも何しに来たの?」

 

 魔姫ちゃんと夜架ちゃんだった。普通に接しているところを見る限り昨日のことは割り切ったのだろう。もう一人の方は多分反省していないだろうけど。

 

「魔姫ちゃんから聞きました。契約破棄でこの家を使うって」

「なるほど」

「それで出ていく姿が見えたので」

「後を追てきたと?」

「はい!流石は新様ですわ!」

「私は止めたんだけどね」

「別にいいよ。その代わり荷物を運ぶの手伝ってくれる?」

 

 勿論と夜架ちゃんはすぐに荷縄を解いてダンボールを持ち上げる。軽い方をすぐに手に取ったためか軽いことに不信がる。重い方を持ちつつドアを魔姫ちゃんに開けてもらって家に入る。二階にある僕の部屋(だったところ)に運んでもらい適当に置いてもらう。荷物を仕舞おうと試みるがタンスとかがないことに気づく。

 そういえば生活の雰囲気だけでも維持させるためにほぼほぼ向こうに持っていったっけ。

 仕方ないので軽く整理するように置いて一回に降りる。リビングを覗いてみると流石に持っていけなかった食器棚やダイニングテーブルがある。そのまま台所に行って水やガスを確認するとちゃんと着くことがわかった。

 

「終わりましたの?」

「うん。とりあえず買い物にでも行こうかな」

「お昼ご飯のですか?」

「お昼は適当に済ませるよ。どっちかっていうとお夕飯の分。冷蔵庫もまだ使えるみたいだしそこに貯蔵しなきゃね」

 

 実際ここまで使えるとは想定もしていなかった。使っていなかったとはいえ基本料金があるはずだと思ったがそれはおいおい調べて行こうと考えて外出の準備をする。

 

「お供しますわ」

「ちょっと」

「構わないよ。どうせだったら皆で食べに行かない?勿論奢るよ」

「新様!そのままお夕飯を食べて行ってもよろしいでしょうか!」

「流石にそれは図々しいわよ」

「うーん………良いよ。今日は二人の好きなものを作ってあげるよ」

「やりましたわっ!私この日のために生きてきたんですわ!」

「あんたマジでいいの?」

「うん、手伝ってくれたし。日頃とあの頃のお礼も兼ねてね。魔姫ちゃんも遠慮しないでね」

 

 はぁとため息を吐きつつ満更でもなさそうな顔をしている。一方もう一人はテンションが爆上がり中だが外に出ようとすると腕に引っ付いてくる。ひっぺ剥がして保護者に預けて改めて家を出る。この景色も久しぶりだなとそのまま僕達は商店街に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は自習練のためにスタジオを借りにきていた。手続きとかはいつも新一のやり方を見ていたからわかっていた。三時間近く練習にのめり込んでいたがそれほど実力が上がった気はしなかった。仕方ないと今日はやめて帰ることにした。手続きを済ませてスタジオを出る前にスマホを確認するとたくさんのメッセージが入っていた。誰からの連絡かを確かめてみるとRoseliaのグループチャットだった。

 今から約二時間前、お昼の十二時に新一から“一身上の都合でマネージャーを辞めます。今までお世話になりました“とだけ書かれてチャットから退会した記録が残っている。その後に紗夜とあこがいろんなメッセージを出していたが詳しくは見なかった。私は執事の契約を切っただけなのに何故Roseliaのマネージャーまで辞めなきゃいけないのかが理解できなかった。私はスタジオを出てすぐに走りだした。もしかしたら家に荷物を取りに来ているのではないだろうか。そんな考えを持ちながら急いで玄関を開けて二階に上がり、新一の部屋の扉を開けた。

 そこに移ったのはいつもの新一の部屋と変わらない風景だった。でも何か違和感を感じた。

 

「新一君なら、一時間くらい前に荷物を持って行ったよ」

「お父さんどういうこと?」

「新一君はこの家にいる意味が無くなった。だから荷物を回収して引っ越したんだ」

「なんで!」

「契約破棄したのは友希那だろう?」

「ッ!そうだけど……」

 

 何も言い返せなかった。昨日私が契約を破棄したから新一はこの家にいられなくなったのだ。

 

「何かあったのかい?」

「新一がRoseliaのマネージャーを辞めたの」

「……契約内容の実行、確認したよ」

「え?」

 

 契約?なんのこと?

 

「そうか、友希那は知らなかったな。彼との契約内容の中にあるんだ。友希那が契約破棄した場合は一つだけ命令を下す権利が与えられるって」

「そんな!」

「でも、今彼といるのは気まずいだろう?」

「……」

「だったら少しでも距離を空けておくべきだと思ってね。なに、別に会ってはいけないなんてルールは作ってないから大丈夫だよ。もっとも、彼が会って話すことを望んでいるかどうかは別だけどね」

「そう……」

「さて、私は夜ご飯の準備に取り掛かる」

 

 お父さんは階段を降りてリビングに向かって行った。私は空き部屋の中を調べる。クローゼットの中を開いても何も無かった。あの時のヴァイオリンすらない。それから机の中とかを調べてみたが彼の私物は無くなっていた。

 

「本当に、もう、いないのね……」

 

 部屋を出て扉を閉め、自分の部屋に戻る。

 ────本当はあの時、どうするべきだったんだろう。

 私はあの時、感情に振り回されて叩いてしまった。新一を傷つける言葉も沢山言った。けどなんであんなことを言ってしまったかは今でもわかっていない。でも何かが許せなかった。その許せない何かの為に私は────



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第九閃 Apology

 長い夢を見ていた気がする。あの頃の、戦場を闊歩していた頃の記憶を夢で見ていた気がする。人を斬り、人を撃ち、仲間が殺され、自ら手にかける、夢を通して全て見返していた。時刻を確認するとスマホが指す時間は六時。

 

「やばっ」

 

 焦りを感じて体を起き上がらせると思い出す。普段なら色々と支度をせねばならないが今日は違った。いや、今日からはもうこのくらいの時間でも問題は無いのだ。

 ──もう、僕は執事じゃなくなったから。

 はぁとため息をつきながら天井を見る。昔住んでいた家の天井。小さい頃の思い出しかない家。昨日からここで暮らし始めたことを思い出す。というより段々と意識が覚醒していき、思い出される。ベッドがなかったので床で寝ていたことさえも。

 怪我をした一昨日は金曜日、退院した昨日は土曜日、そして床で目覚めた今日は日曜日。二度寝をしようかとも考えたが朝支度を済ませて意識を完全に覚醒させる。そもそも何でこの時間まで寝ていたのか。普段なら自然と起きるはずだし、目覚ましだって聞こえるはず。答えは簡単だ。寝る一時間前にあの薬を飲んだからだ。結構効くもんだなと感心しながらも一階に降りていくとインターホンが聞こえる。返事をしながらも警戒しつつ出ると黒服の人達だった。

 

「おはようございます名護様」

「おはようございます。朝早くからご苦労様です」

「ありがとうございます。お時間はよろしいでしょうか?」

「問題ありません。というよりよくここが分かりましたね」

「先日湊様の御宅にお伺いしたところ名護様は引っ越しなされたと申されましたので」

 

 常に見張っててもおかしくないと思っていたが意外とそうでもなかったのかな。

 

「なるほど、それで要件というのは」

「お渡ししたいものが」

 

 そういって差し出されたものを受け取るとよく手に滲む感覚があった。物体を確認すると柘榴の絵が描かれた錠前だった。そういえば戦闘の際に使ったな。事情を聞くと一昨日錠前の反応がロストしたことにより予備を届けに来たらしい。流石に病院にまで持って来られるのは気まずいだろうと昨日にしたらしい。まぁ昨日もいなかったからこんな朝早くになったんだろうけど。てかよくこの時間起きてると思ったね。

 

「そこは名護様ですので」

「はぁ………」

「お怪我の具合はいかがですか?」

「痛みはだいぶ引きました。……もしかして、本当は貴女方が病院に運んでくださったんですか?」

「おっしゃる通りです」

「ありがとうございます」

「いえ、こちらこそいつも快斗がお世話になっていますから」

 

 それから少しばかり仕事について話をするとあることを思いつく。対象からすれば朝からストレスマックスになるかもしれないけど。

 

「もしよろしければ、弦巻家に連れて行っていただけませんか?」

「名護様を、ですか?」

「ええ、僕をです」

「何ためにですか?」

「会いたい人がいるんです。先日捕まえた、ガイアメモリの使用者に」

『いつかそう来ると思っていたよ』

 

 機会が混じったような声がどこからか聞こえてくる。黒服さんは胸ポケットから何かを取り出したかと思うとそれを開いてホログラムを映し出してくる。そこに映っていたのは椅子に座っているプロフェッサーの姿だった。

 

『おはよう名護君』

「おはようございますプロフェッサー。久方ぶりですね」

『そうだな、しばらく出番なかったし』

「それで、合わせていただけるんですか?」

『ああ、彼には悪いが朝っぱらから話を聞かせてもらおう』

 

 嬉しそうな声を出すとすぐにホログラムは消えてしまった。とりあえず連れて行ってもらおうと黒服さんに車に乗せてもらい、出発する。

 車に揺られながら彼に聞くことをまとめているといつの間にか着いていた。車を降りると日が差してくる。降りて案内されるままについていく。外見が豪華な建物の中に入っていく。だが中身は外とは違い、鉄で作られたことがすぐにわかるような監獄のような作りだった。そのまま奥に進み小さな部屋の中に入れられる。部屋の中には椅子が一個と机、隣の部屋を隔てるための透明なガラス板が貼ってある。おそらく面会室と言われるところだろう。実際名護家にも似たようなのがあるから分かる。

 しばらく待っていると隣の部屋から扉が開かれる音が聞こえる。入れられた人は簡易な服装になって目隠しをされている。強制的に座らせられると目隠しを外された。その人物は僕の姿を見た瞬間目の前の板に飛びついた。眼光は鋭くなり、殺す殺すと荒れ狂う獣のように目に映る。

 

『安心したまえ名護君。そのガラスは強化ガラスだから簡単に割れはしない』

「ですよね。二人にしてもらえませんか?」

『わかった。モニタリングはしている。万が一、ということは無いだろうがいざとなったら突入する』

「畏まりました」

 

 因みに今の会話は向こうには聞こえていないらしい。僕に気を取られている間に黒服さんは部屋を出て鍵を閉めた。これで僕達は二人きりになった。

 

「お久しぶりです、猪宮さん」

「テメェどのツラさげてここに来たァ!」

「お話を……と思いまして」

「ふざけんな!」

 

 とても冷静に会話をする余裕はなさそうだ。だから僕は相手の言葉を無視して会話を、一方的に喋り続ける。まず頭を下げて一言述べる。

 

「申し訳ございませんでした」

「………………は?」

「僕は、身勝手な我儘で貴方方を捨て、家を出て行きました。そのせいでこのようなことになっていること、深く謝罪します」

「……ふざけんなよ」

「許してもらおうなどとは思いません。罰も、いずれ受けるつもりです」

「ふざけんな」

「僕のせいで振り回された挙句、仲間と対立」

「ふざけんなっつってんだろ!!」

 

 ドン、と重い音が部屋中に響く。

 

「テメェのせいでオレたちは行き場を失ったんだ!こんなオレたちでも受け入れてくれたと思った恩人に捨てられて、はいそうですかで済まされると思ってんのか!」

「………」

「オレは、人を殴ることしか頭にねぇ。ムカついたらすぐに手が出る。周りに嫌われていたオレに手を差し伸ばしてくれたアンタが、オレたちを捨てたんだ!!」

「……おっしゃる通りです」

「それなのに、目の前に出てきて、それで憎しみを全部ぶつけられないまま違うヤツに負けて、そんでもって今更謝りに来られて………どうしろってんだよ!!!」

 

 猪宮さんの顔はぐしゃぐしゃになっていた。それほど、僕のことを宛にしててくれたんだ。なのに僕は捨てた。彼が言っていた思いは何処にもやれない、行き場のない思いだったんだろう。

 

「それを聞いて改めて言います。本当に申し訳ございませんでした」

「………ッ!テメェ!!」

「貴方の話を聞いて、僕がやったことの罪は到底償えるものではないと改めて確認できました。でも、僕にはやらなければならないことがある。そのために貴方に力を借りに来ました」

「んな都合の良い」

「わかってます。これがどれだけ自分勝手で都合の良すぎることか。さらに罪を重ねることでも。それでも僕は皆が傷つかない世界を作るために、貴方が笑っていられる世界を作るために戦わなきゃいけないんです。ですから、どうか力を貸してください」

 

 僕は頭を深く下げてお願いをする。彼だけでなく、彼のような思いを抱いた人は大勢いるだろう。そう行った人たちを救うためにも今は僕が泥でも罪でもなんでも被らなければいけない。むしろそのつもりで来た。だから何を言われたも仕方ない。だけど僕はちゃんと考えていることを伝え切れた。あとは僕の本心で彼の心をどれくらい説得できたかだ。

 

「………あげろ」

「………」

「頭を上げろ」

 

 言われた通り頭を上げると拳がガラス板にぶつけられる。勿論当たりはしないがその分の衝撃が風邪のように伝わってくる。強化ガラスだから割れなかったものの普通のガラスだったら完璧に割れていただろう。

 

「聞け。オレはアンタを許すつもりはない」

「はい」

「けどな、一つ条件がある。ここを出たら一発殴らせろ。そしたら完全じゃねぇが許してやる」

「いいのですか?」

「あぁ。………元々、オレがここまで生きて来られたのはアンタのおかげだからな。それに、アンタがオレに頭を下げたんだ。元とはいえ恩人がそこまでやってんのに折れねぇわけにはいかねぇだろ」

「ありがとう…ございます」

「言ったろ、まだ許してねぇ」

「そうですね」

「それで?アンタがここに来た理由はそれだけじゃねぇだろ」

「お気づきでしたか?」

「オレが慕っていた上司はそんなチンケな理由で来るかよ」

 

 チンケとは失礼だなと思いつつも微笑する。

 

「知っていたら教えてください。貴方は使っていたもの、ガイアメモリの生産工場を知っていますか?」

「あー、言うてオレも下の方だったからな。数はそれなりにあるらしい。細けぇ数は知らねぇが一つだけなら知ってるぞ」

「本当ですか?」

「ああ、なんせオレもそこにいたからな」

「用心棒ですか」

「まぁそんなところだ。輸送する時とかのな」

「そうですか……では園崎の本拠地などは」

「そこまでは知らねぇ。オレみたいな奴らは使者を送られてきてそれで命令を実行してたからな」

 

 つまり園崎は表に立とうとしない。裏から組織を動かしていることになる。自らの手は染めず、実験と称して多くの人を道具としている姿が目に浮かぶ。

 

「有益な情報ありがとうございます」

「おう、それだけで十分か?」

「今は大丈夫です。朝からすいませんでした」

「いやまぁ俺も言いたいこと言えたし十分だ。あーでもなんか疲れたし寝るかな」

「またお話聞かせて貰うかもしれません。その時はよろしくお願いします」

 

 ああという声を聞いてお辞儀だけして部屋を出る。黒服の人が待ってくれていたので猪宮さんのことをお願いして監獄を出る。その後すぐ高城さんと繋がったので情報提供をするとやることが増えたらしく回線は途切れた。急に切られたので少し動揺してしまったが平常心を取り戻して黒服さんと話す。家まで歩いて帰ることを伝えて弦巻家の敷地を出る。

 今日は彼だけだったがおそらくこれからいろんな人と今日みたいなことを繰り返すだろうと考えていると錠前が鳴り響く。近場に出現したので走っていくとすぐに見つかった。

 鞭のようなものを振り回しそこから電気を流している。見た目が魚っぽいところから電気ウナギがモチーフだろうか。上着に隠してあるベルトを巻き付け、内ポケットからナックルを取り出して変身する。

 

「その命、神に返しなさい」

「◇◇◇!」

 

 狂気に染まっているのか言葉の意思疎通はできないと判断した。動き出そうとすると違和感に気づく。いつもと違い勝手にセーブモードになっていた。おそらくバーストモードで受けるはずのダメージを事前に抑えておくためだろう。だがそのせいで視界がいつもより狭まる。それでもやらねばなるまいとイクサカリバーを構えて迎え撃つ。互いに睨み合っていると仕掛けてきたのはあちら側だった。手とも言える鞭をこっち目掛けて振るってくる。さっきのが本当であればアレにあたれば電撃を流されてしばらく隙を見せることになる。そうすれば一発でゲームオーバーだろう。

 鞭を回避しながら接近していくと距離を取られる。銃撃しても鞭で叩き落とされる。さてどうしようかと考えると近くに倉庫が目に見える。作戦が頭の中に浮かび上がり、今度は誘うように攻撃を避ける。そのまま倉庫の中に流れ込んでいく。先に入ったおかげで中がどうなっているかわかる。これなら実行できると確信を持つと倉庫内に客が訪れる。

 

「◇◇ー!」

「いらっしゃい」

「◇◇◇!!」

 

 伸ばしてくる鞭を斬りながら避けて倉庫の奥の方へ走る。入り口度と逃げられる可能性があるので確実に仕留めるためだ。客は頭に血が昇ったのか入り口から離れてこちらに向かってくる。

 ──掛かった。

 天井部分にある鉄骨の固定部分を撃ち抜き数本になるように破壊して撃ち落とす。落ちてきた鉄骨に気を取られていたウナギはすぐに鉄骨の下敷きになった。土煙が晴れても出てくる気配がない。瓦礫の隙間を覗くと身動きが取れなくなっている姿が見える。倒すなら今だとフェッスルを装填してブロウクン・ファングを放つ。瓦礫ごと砕け散り、その場には破片と共にステンドグラスが飛び散った。

 変身を解除して倉庫を出ようとするとまたあの姿があった。最近戦場によく顔を出す人。本来は来てはいけない、守られるべき人。そしてもう、僕の主人ではなくなった人。

 

「こんなところで何しているんですか、湊さん(・・・)

「あなたこそ何をしているの!」



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第十閃 What do I want to do

「あなたこそ何をしているの!」

 

 私は近くで聞こえた大きな音が気になってきていた。一体何なのか気になってきてみればそこには新一の姿があった。こっちに気づいた新一はベルトを巻いていた。あの時つけていたベルト。ボロボロになってまで私を庇っていた時につけていたもの。

 

「何を、とは?」

「なんで戦っているの!?もう私との契約は終わったでしょう?」

「そうですね。貴女との契約はもう終わりました」

「私との?どういう意味?」

「いえ、こちらの話です。失礼します」

「待ちなさい」

 

 横を過ぎ去ろうとした新一の腕を掴む。彼は顔色一つ変えずに私を見る。一見するといつもの顔に見えた。けど私にはいつもと違う、ただの作り笑いにしか見えなかった。

 

「話はまだ終わってないわよ」

「いいえ、僕から話すことはありません」

「質問に答えなさい」

「……お断りします」

「なっ」

 

 新一は怒る様子も見せず、私に腕を剥がしていく。普段なら答えてくれるはずなのに答えてくれなかった。むしろなぜ答えなければならないというオーラを感じ取った。目つきもまるであの夢のように冷たい目だ。違う、これは新一じゃない。私が知ってる彼と全然違う。

 

「先程も言いましたがもうあなたとの契約は終わりました。命令されても答える義務はありません」

「でも!」

「それではこの辺で。もう二度と、こんなところに来てはいけませんよ」

 

 別段走り去るわけでもなく去っていく。彼の姿が見えなくなるとやっと体の感覚が戻ってくる。あの目を見た瞬間から体が固まっていた。

 でもなんで?なんで彼はあんなに変わってしまったの?それともあれが本当の彼なの?

 疑問が解決されないまま私はcircleに向かった。いくらあんなことがあったとはいえ練習をサボるわけにはいかない。スタジオに入るとRoseliaのメンバーがすでに準備を始めていた。

 

「あ、友希那さん!」

「珍しいですね、湊さんがギリギリに来るなんて。名護さんが辞めてしまったのと何か関係があるんですか」

「ちょっと紗夜」

「ですが名護さん本人からは聞き出せませんでしたし、確認するなら湊さんに聞くのが手っ取り早いでしょう」

「………いなくなった人の話をするのはやめましょう。私たちはやるべきことをするの」

「…わかりました、湊さんがそういうのならそうしましょう。とりあえず今は練習です」

 

 皆が返事をして練習が始まった。でも私はずっと集中できずに練習をしていた。頭の中で新一が言っていたことが忘れられなかった。“私との契約は終わった”、この言葉の意味がずっとわからなかった。それでも歌い続けていると紗夜からストップがかかった。

 

「湊さん、やっぱり何かおかしいです」

「別に、なんともないわ」

「いいえ、おかしいです。今日のあなたは集中できていません。何かあったんですか?」

「何もないわ」

「そんなことはないはずです。いつものパフォーマンスができていません。何か迷いがあるようにしか」

「何もないわ!」

 

 私は大きな声で紗夜の言葉を遮った。当然周りはびっくりしていてそのことに気づいたのは数秒立ってからだった。

 

「ごめんなさい。練習を続けましょう」

「いいえ、今日は早退するべきです。そのことをあなたが一番わかっているはずです」

「……そうね、そうさせてもらうわ」

 

 荷物をまとめてスタジオを出ていく。そのまま何も考えずに進んでいるといつの間にか家に着いていた。circleからここまでの記憶がない。でもその間ずっと同じことばかり考えていた。彼のいった言葉の意味と取った行動の意味を。家の中に入って自室に戻ってもそのことばかりだった。結局答えが出ないまま時間が過ぎていく。

 なんでこんなことを考えているのか分からなくなった時ベランダの方から聞き慣れた声が聞こえてきた。カーテンを開けると向こうにリサの姿が映った。ベランダに出てみると声をかけられる。

 

「よかった、ちゃんと帰ってきてたんだね」

「当たり前でしょう。…ごめんなさい、皆には迷惑をかけてしまったわ」

「なんで調子悪かったの?」

 

 フランクに話しかけてくるリサに応えることが出来なかった。別になんともないって答えられたはずだけど何も言えなかった。

 

「当ててあげよっか」

「………」

「新一のことでしょ」

「!……別に」

「別に、じゃないよ。喧嘩したんだって?新一から聞いたよ」

「喧嘩じゃないわ。契約を破棄しただけだもの」

「ま、そうだね。それで何悩んでるの?」

 

 何を悩んでいるか。答えは簡単だった。だけど言葉にするのが難しい。そもそも真実を話して信じてもらえるのだろうか

 

「その………」

「?」

「初めて知ったの。新一が、鎧を纏って戦ってたこと」

「うん」

「驚かないの?」

「知ってたからね⭐︎友希那が知るちょっと前から」

「そうなの?」

 

 笑いながらも肯定している。リサには話したのになんで私には話してくれなかったのか。よくわからないものが込み上げてくる。

 

「それで、最近ずっと怪我してきてたからずっと気になっていたのだけど、それを知った時に何やってるのかさっぱり分からなくてつい怒鳴ってしまったの。“傷口が開いてるのに何してるの”って」

「そりゃあ心配にもなるよね」

「ええ。その後、病院で目覚めて、隠していたことを問い詰めてたらなんだか怒りが込み上げてきて、本当は別のことを言わなきゃいけないのに彼を責めてしまってた。それで……」

「勢いのまま契約破棄しちゃったと」

 

 私は力が抜けたように頷く。今ちゃんと振り返ると彼は悪いことはしていなかったのだ。私が一方的に怒りを振りかざしただけで。でも確かに許せないものがあった。

 

「でも仕方のないことだったと思うよ?契約の中にあったのかもしれないし。もしかしたら本当に心配かけたくなかっただけかもしれないしね」

「だとしてもよ………ごめんなさい、余計な心配させてしまったわね」

 

 私は訳のわからなくなった思いを一度忘れるために部屋に戻ろうとする。けどそれをリサが止めてきた。

 

「友希那はさ、本当はどう思ってるの?」

「え?」

「本当は、新一にどうして欲しかったの?」

「………」

 

 答えられなかった。どうして欲しいのか、私の中でまだ答えが纏まってなかったからだ。だからこそ部屋に戻ろうとした。なのになんで止めたんだろう。おかげでわからないものが増えてしまった。

 

「わからない」

「?」

「わからないわ……あの人は、たくさん怪我して困らせるし、私との契約は終わったのに今日も戦っていたし」

「え、友希那知らないの?」

「…何を?」

「新一が戦うのは別の契約だよ」

「え……?」

 

 別の……契約?じゃあ私の契約ではなかったの?彼の言葉は嘘ではなかった。けど私との契約で戦っているわけではない?どういうことなの?

 

「本当に知らなかったんだ……」

「…リサは知ってたの?」

「うん、友希那が出て行った後にアタシもお見舞いに行ってて、その時に聞いたの。マネージャーを辞めるっていうことも」

「そう………」

「見たんだ。病室に入ったらさ、新一が目から涙流してるの」

 

 泣いていた?あの人が?そんな話ありえないと思いつつ耳を傾ける。

 

「泣いてたわけじゃないんだけど本人が気づいてなかったんだよね。その時、お嬢様は何も悪くないって言ってたんだ。悪いのは自分だって」

「………」

「でもさ、アタシはそうは思わない。友希那だってさ、何か言ったんじゃないの?新一が傷つくようなこと」

 

 確かに言った。彼のいっていることを無視して自分の感情だけを押し付けていた。その上私は彼を叩いた。

 

「言っちゃうのはわかるけどさ、他にも何かあったんじゃないかな。傷付かずに解決する方法が」

「わからないわよ……だって私は」

「うん、昔から人付き合い苦手だもんね。だからさ、どうしたいかだけ考えてみよ?アタシも手伝うからさ」

「リサ………ありがとう」

「どういたしましてっ」

 

 私は部屋に戻って窓を閉める。話しててやっとわかった。私の気持ち。でもまずしなきゃいけないことを考えないと。……どうやったらいいのかもリサに相談しないと。

 あれから考え続けて翌朝を迎えた。いつの間にか寝てしまっていたらしい。時間を見るとギリギリの時間だ。お父さんも起こしに来てくれればいいのにとすぐに支度して下に降りるとリビングにお父さんの姿はなかった。お父さんの部屋を覗いてみると私と同じように机に突っ伏して寝ている姿があった。とりあえず家を出て学校に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月曜日の朝になった。あの後は特に何もなくずっと家にいた。家具らしいものを買いたかったがその日は食事を買うだけにしておいた。これから時間はあるわけだし問題はないだろうとあぐらをかいたのだ。今まで厳しく生活してきた分、今は甘えてもいいだろう。

 学校へ行くために準備をするもののいつもの時間に起きてしまったため多少の余裕が出る。まぁ遠くなったし少し早めに出るのもいいだろうと家を出た。電車で通学していたため定期があるが湊家より反対側にあるここでは通用しない。なのでそのうち解約に行かなければいけない。とりあえず今日はバイクで行こうと準備をすると扉が開く音が聞こえる。横目で見るとりんりんの姿があった。おはようと手を振ると家を出て門の前までやってくる。

 

「おはようりんりん」

「おはよう…新君……」

「今から登校?」

「うん……」

「良ければ送ってくよ」

「そんな、悪いよ……」

「ううん、大丈夫。花咲川は通り道だろうし」

 

 予備のヘルメットを持ち上げると戸惑いながらもそれを手にする。荷物を座席の下にしまい、ヘルメットを装着すると同じ方向からまた扉の音が聞こえた。今度はりんりんのお父様だった。お父様は声をかけながらこちらに寄ってくる。

 

「ここに住み始めたのかい?」

「はい、数日前から」

「じゃあこれからよろしくだな」

「こちらこそよろしくお願いします。近頃挨拶に伺わせていただきますね」

「さて、その時私は自宅にいるかな?これから登校かい?気をつけていくんだよ」

「はい、ありがとうございます」

「行ってきます…」

「燐子も乗っているのか。娘をよろしく頼む」

「かしこまりました。それでは行って参ります」

 

 ヘルメットのバイザーを下ろしてバイクを走らせる。制服を着た状態で運転したことはなかったので新鮮な感じがする。りんりんに速度の確認をすると大丈夫と答えたので安心して運転する。しばらく集中していると声をかけられた。

 

「あれから……友希那さんに会った…?」

「うん、昨日会ったよ。偶然ね」

「お昼……頃?」

「正解、よくわかったね」

「昨日の、練習……集中……できてなかったから」

「そっか」

 

 それがどうした。知ったことではない。と考える自分もいた。もうほとんど赤の他人なのだ。それを気にしていても仕方ないと自分の中で区切りをつけようとする。

 

「気にならないの……?」

「もうそういう関係じゃないしね。それに、僕が心配しても何もできないから」

「そう、なのかな……」

「昨日も悪いこと言っちゃったしね」

「え?」

「答える義務はありませんって。今考えるとかなり意地悪だよね」

 

 自重気味に笑うが半分は後悔している。もう少し話を聞いても良かったのではないかと。

 

「新君は……謝りたいの?」

「?なんで?」

「なんか、話してて…謝りたいのかなって……」

「うーん、確かにその気持ちはあるかも」

「じゃあ」

「でも向こうは聞いてくれるかな?この前あんなこと言っちゃったしいっても信じてもらえるかが不安、って感じかな」

「…そっか………」

 

 決して謝る気が無いわけではないのだ。僕自身非は認めてる。けれど傷つけた分信用はかなり減っているはず。その状況下でどうすれば謝罪を受け入れて貰えるか。今までこんなこと無かったからどうすれば良いかが分からない、これが本音だ。でもだからと言ってまわりを頼るべきではないというのは分かってる。

 

「ありがとうりんりん」

「?」

「気遣ってくれたんだよね。ありがとう。とりあえずどうにか出来ないか考えてみるよ」

「うん……」

「もうそろそろ学校だよ」

 

 どのタイミングで停めるべきか分からず結局校門前まで来てしまった。降りたりんりんからヘルメットを貰い、荷物を渡してから仕舞い、迎えも来るか聞くと練習があるからと断られる。周りからの視線もあるため撤退の準備をする。

 

「それじゃあ学校と練習、頑張ってね」

「うん、新君も……気をつけてね」

「ありがとう。紗夜さんにもよろしく伝えておいて。それじゃ」

 

 手を振ってからハンドルに手をかけてバイクを走らせる。そのまままっすぐ羽丘に向かった。

 

「白金さんおはようございます。先程の方は…」

「おはよう…ございます……新君です」

「名護さんですか!?話があったのに………というかなんで二人で登校してるんですか!」

「えっとそれは………」

 

 すぐ後にこんな会話があったらしいがりんりんはなんとか乗り切ったらしい。



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第十一閃 What was said

 学校には着いたものの結局湊さんと話すことなく午前が終わった。京君に何かあったのかと聞かれたが特にないとだけ答えて普段とは違う、普通の学校生活を過ごした。普段と関わりのない人達と会話したり、お昼ご飯を食堂で食べたり。勿論リサから昼の誘いを受けたが今回は丁重に断った。おそらく湊さんもいるだろう。彼女とはもう少し時間をおいておきたいと思った。

 ……いや、こうやって逃げているのは自分かもしれない。しかしその時の言い訳は通ってしまい今は一人で食事をしている。黙々と食べていると向かいの席に誰かの食器が置かれた。

 

「一緒に食べてもいーい?」

 

 やってきたのは氷川日菜さん、紗夜さんの妹さんだ。構わないと流すと席についてご飯を食べ始める。僕も再開しようと箸を動かすと声をかけられる。

 

「何かあったの?」

「何か…とは?」

「いやなんか元気ないなーって」

「そんなことないですよ」

「うっそだー、だってるんっ♪ってこないもん」

「え?」

 

 るんっ♪の意味は分からないがいつもと違うように見えたのは分かった。

 

「どこがですか?いつもと変わらないと思いますけど」

「んーとねー、なんか笑ってないような気がする!新一君っていつも笑ってるけど今日は笑ってないと思う!」

 

 ポーカーフェイスは崩していないはず。だとしたら表層だけでなく中まで見られたということだろう。もしくは気付かなかっただけでそこまで出てしまっていたか。前者を信じたいところではある。

 

「バレちゃいましたか、でもたいしたことではありませんよ」

「ホント~?」

「本当です」

「リサちー言ってたけど、ケンカしたんだったらちゃんと謝らないと駄目だよ?あたしもよくおねーちゃんに怒れて謝ってるけどさ」

 

 喧嘩……ね、確かにある意味喧嘩かもしれない。でも喧嘩なんて何年ぶりにしたんだろう。おかげでどう謝れば良いのかも分からない。

 

「喧嘩って、どう謝れば良いんですかね」

「え?」

「あっ、いえ、なんでもないです。独り言ですから気にしないで下さい」

「謝り方かぁ」

 

 やっぱ聞こえてるじゃんと思いつつも考える様子を見せる日菜さんを見ながら食事を続ける。謝るべきだとは思うが実際どう謝ればいいのか分からない。

 

「その時は分からないかもしれないけどさ、自分の間違いが分かったときに謝ると良いかもよ?」

「なんで疑問形なんですか」

「あたしもよくわかってないからかなー。なんかこういうのって難しいよねー」

 

 何を思い立ったのか机をバンと叩いてそれじゃあと言って何処かへ消えていった。食事はどうしたのかと目の前を見ると既に食器が消えていた。一体いつ食べたのだろうか。

 そのまま午後の授業受けて放課後になると京君から弦巻家に行くと言われる。僕も行くのか聞くと当たり前だと首根っこ連れてかれる。二人揃ってバイクを走らせるといつしか黒い車が現れて道案内をしてくれた。

 やがて弦巻家に着くと前に行ったことのあるブリーフィングルームに連れてかれた。部屋で待ち構えていたのはプロフェッサーと快斗君だった。

 

「いらっしゃい二人とも」

「久しぶりだな」

「これから作戦会議始めるっすよ」

「作戦会議?」

「君が引き出してくれた情報を元に作戦を立てた」

 

 プロフェッサーがテーブルモニターに触れると工場らしき写真と文字が沢山並べられる。

 

「先日名護君が猪宮崇から聞き出した情報を元に探ったところにガイアメモリの工場が特定された。今回の任務は工場の破壊と人員の捕縛だ。敵対勢力は撃破、生きていれば捕獲してくれ」

「大体分かった。俺達三人で乗り込めば良いんだな?」

「いや、鳴海君と快斗で攻め込んで貰う。名護君は今回不参加だ」

「えっ」

「え、じゃないっすよ。新一さん大怪我したんですから」

「それはそうだけど……」

 

 正直不安だった。二人を信用していないわけじゃないが相手が相手なだけあって心配だった。

 

「任せとけ。確かにコイツがヘマしないか心配なのは分かるが俺がいるからどうにかなる」

「馬鹿にすんな。大丈夫っすよ、俺も鍛えてるんで」

「安心したまえ。しかし残念とも言えるが今回の目標は小規模だ。だからよほど想定外なことが無い限り問題ない」

「分かりました。いざとなったら呼んでください」

 

 分かったと返事が返されると作戦内容の伝達が始まった。僕も一応耳にして内容を把握しておく。作戦の確認が終わると各自解散になる。そのまま帰宅して家事を済ませてゆっくりしていると電話が掛かってきた。かけてきた人の名前を確認する前に電話に応答する。

 

「もしもし、名護です」

『新一、今起きてる?』

「まだ九時だからね、全然起きてるよ」

『なら良かった』

 

 掛けてきたのはリサだった。意外だ、今まで用事がある時はメッセージで済ませていたのに電話をかけてきたのは初めてだ。今日お昼ご飯を断ったときぶりな気もするけど一体どうしたのだろう。

 

「何かあったの?」

『ううん、今何してんのかなって』

 

 かけてきた理由は意外と単純だった。少し不安になった自分もいたがそんな自分はどこかへ消えていった。

 

「本を読んでたよ、学校で借りたやつ」

『何借りたの?』

「ウィリアム・シェイクスピア作、“ロミオとジュリエット”」

『恋愛ものじゃん、興味あったの?』

「まぁね。今まで読んだことなかったし、どうせなら読んでみようかなって」

 

 有名人という知識はあったが実際のところ読んでる暇がなくて中身に目を通したことはなかった。もうほぼ読み終わったが皆が言ってるイメージと違って面白く感じた。

 

「知ってる?ロミオとジュリエットって何ヶ月もかかってる様に見えて実際五日間の物語なんだよ」

『えっ、ウソ!?』

「ホントだよ、今度読んでみて」

 

 うんと言いながらも戸惑うように答えている。本好きのりんりんならこの話は知っているだろうかなどと話していると歯切れが悪い事に気付く。一体どうしたのか聞くと本題に入り始めた。

 

『実はさ、友希那が悩んでるみたいでさ』

「湊さんが?新曲の構想かな?だとしたらあの人らしいね」

『違うの。友希那自身のことなの』

 

 へぇ……?

 友希那自身という言葉を聞いて本を閉じた。少し気になってきた。純粋に興味がわいてきた。あの人が音楽以外のことで悩みを持つのを聞いたのは最初のRoselia解散の危機以来ではないだろうか。

 

『新一と別れたあとから何か思い悩んでるみたいでさ』

「そう、なんだ」

『うん、なんか見てて辛いっていうかなんていうか……』

「前にも言ったけど、あの人は何も悪くないよ。隠してたのは僕だしね」

『でっ、でも』

「言ってあげて、思い悩むことはないって」

『……新一はどうしたいの?』

「どうって……」

 

 まさかりんりんと同じ質問をされるとは。彼女らは何処か共通点があるかもしれないと思いつつ朝言ったことと同じことを伝える。

 

「聞いて貰えるのなら謝りたいかな」

『やっぱり?』

「うん、謝罪だけはしたいかな。申し訳なかったって」

『そうなんだ』

「まぁ聞いてもらえないんじゃないかって不安があるのも事実だけどね」

『……実はさ、友希那も同じなんじゃないかなって思う』

「同じ?」

『うん、あれだけ悩んでるって事は多分そうだと思う』

 

 一度携帯を耳から離して考える。どうして彼女が謝らなければならないか。考えたが答えは出なかった。スマホから僕を呼ぶ声が聞こえたのでもう一度耳に当てる。

 

「ごめんごめん」

『大丈夫~?まぁそういうことだから、一度友希那と話し合ってみたら?』

「うん……そうしてみるよ。ありがとう」

『ううん、こっちこそ急にごめんね。それじゃおやすみ〜』

 

 リサとの通話を終えて携帯を伏せる。天井を見上げて目を瞑っていると今までの光景が蘇ってくる。お嬢様と過ごした時間、戦っていた日々、Roseliaの音楽を誰よりも近くで聴いていた時間。そういえばいつから練習に顔を出せなくなったのだろうか。1週間前か、もう何ヶ月も聴いていないような気がする。出来ることならばもう一度あの演奏を、あの歌声を近くで聴きたかったと思うと意識が段々と薄れていった。

 次に目を覚ました時、僕は椅子に座っていた。あの後そのまま寝てしまったのかと状況を整理すると子供の声が聞こえてくる。声のする方向を見ると廊下に繋がる扉が勝手に開かれ、子供が三人入ってくる。

 

「ごはんごはん〜♪」

「希璃乃、はしゃぎすぎだよっ」

「そういう新一もソワソワしてるじゃないか」

 

 意味が分からなかった。ここは僕の家で僕以外誰もいないはずだった。なのに小さい男の子と女の子、それよりも少し身長の高い男の子がいる。顔は雲が勝っているように見えないでも声はどこかで聞いたことのあるだった。途中で名前を呼んだのだろう。その名前もかき消されたように聞こえなかった。

 

「二人とも、もう少し静かにね」

「ほら、父さんもああ言ってるだろ」

「「はーい」」

「ふふ、お待たせしました♪」

 

 後ろから声がすると思うと今度は夫婦と思われる人達がいた。こちらの声も聞いたことのある声だ。しかしさっきとは違って顔がはっきりわかる。僕の父さん(・・・)母さん(・・・)だった。笑いながら食卓についている。僕は状況が理解できず混乱する。周りを見ると十年近く前の家の風景になっていた。

 

「ほら、皆座って」

「何してるんだ新一。早く座りなさい」

「にぃになにしてるの?」

「どうした新一、お腹減ってるんじゃないのか」

 

 皆が僕に向かって言ってくる。さっきまでいた小さな男の子の姿はなく、僕のことを指しているのは明白だった。言われるがままテーブルの席に着き手を合わせてから食事を取る。

 

「おいしい!」

「ああ、やっぱり母さんの料理は美味いな!」

「ありがとう二人とも」

「当たり前だろう。母さんの料理だぞ。どうした新一、手が止まってるぞ」

 

 おかしかった。周りからすれば僕がおかしいのかもしれない。けれどこの状況は絶対と言えるほどおかしかった。希璃乃は小さいままだし、父さんと母さんも若い。そして何より隣に僕より背の低い()がいる。こんな現実はありはしないとすぐに我に帰った。となるとここは夢か?妹の頭に触れようとすると頭をすり抜ける。

 

「気づいたか」

 

 父さんの方を見るとあたりは真っ白に染まって母さん達は消えていた。父さんの顔はさっきまでと何ら変わりはないが声は低くなっていた。

 

「どういうこと?」

「お前には帰るべき場所がある。ここにいちゃいけない」

「何言ってるの?」

「やらなければならないことがあるだろう。例えお前が、どの(・・)名護新一であったとしても」

「そうだけど……っ」

「何を悩んでいるんだ?」

「自信がないんだ。たとえ僕が許しを乞おうとも許されないことをした」

「どうして許されないんだ?」

「え?」

「悪は、自分でも決められるが他人にも決められる。そしてそれは片方の意見が絶対ではないんだ。それはお前が一番よくわかってるだろう」

「それはっ」

「もう時間だな」

 

 父さんはフッと笑うと背を向けて向こうに歩き始める。その背中を追いかけようとしても捕まえることは出来なかった。というよりかはそれ以上進めなかった。父さんとの距離が一方的に空いていく。

 

「待ってよ父さん!」

「お前は、今まで頑張った分、自由にやってみたらどうだ。やりたいことを、さ」

「待ってよ父さん、それじゃわかんないよ!」

 

 消えていく父の背中を見届けると僕の意識も白く染まっていく。やがて光が戻ってくるとテーブルの天板と閉じてある本が視界に映る。ここはどこだと辺りを見回すと自分の家だとわかる。伏せてある携帯を手に取ると五時半を指していた。どうやら本当に夢を見ていたらしい。

 しかし覚えているのは父さんが出てきて“自由にやってみたらどうだ”という言葉だけ。他に何が合ったかは覚えていない。とりあえず朝支度をして時間を潰した。

 それでも時間が余ったため学校に向かった。完全に気分で動いている。本当ならもう少し家で休んでいるべきなのかもしれない。バイクを止めて校舎の中に入っていく。教室は誰も来ておらず職員室まで鍵を取りに行って教室を開ける。

 誰もいない教室というのはこんなにも静かなものかと呆気にとられたがとりあえず荷物を置いて屋上へ向かった。誰もいない屋上。秋も中頃に入るためか風は少し冷たいが心地よかった。フェンスに手をかけて中庭を適当に見ていると扉が開く音がした。こんな朝早くから誰だろうと思うとそこには思わぬ人物の姿があった。



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第十二閃 Decision

 朝早い屋上に現れたのは意外な人物だった。

 

「おはようございます湊さん」

「おはよう」

 

 早起きが苦手なこの人がこんな朝早くに来るとは思いしなかった。

 

「…少し、いいかしら」

「構いませんよ。僕も話したいことがありましたから」

 

 フェンスから手を離して向き直す。湊さんの表情は少し暗かった。まるで何かを戸惑っているように感じる。

 

「それで、ご用件は何でしょうか」

「その前に、あなたの話を聞かせてもらえるのかしら」

「いいんですか?」

 

 ええ、と返事もしながらもどこかバツが悪そうな顔をする。少し話しかけづらいなと思いつつも頭を下げる。

 

「先日は申し訳ございませんでした」

「……え?」

「感情に振り回せれたとはいえあなたを傷つけてしまったこと、深くお詫び申し上げます」

「ちょ、ちょっと待ちなさい」

「謝ったところで許されるとは思っていません。ですが」

「待ちなさい!」

 

 彼女は声を荒げて僕を止める。

 

「なんであなたが謝るのよ!あの時悪かったのは私じゃない!」

「……何を」

「あれだけ責め立てて、質問ばかりして自分の意見を押し通して、あなたを叩いたのよ!恨まれて当然のことをしてるのになんであなたは謝るのよ!」

 

 息が切れそうなくらいの大声をあげて涙目になっている。言っていることは正しいのかもしれない。けど僕の中では違った。

 

「確かにおっしゃる通りかもしれません。ですが、貴女に隠し事をしていたのは僕です。ですからあのようなことはされても仕方のないことだったんです」

「違うっ、違うわ!」

「ですから貴女が謝ることはありません。それに、僕は貴女のことを恨んだりなんて、これっぽっちもしてませんよ」

「そんなこと」

 

 湊さんが言いかけた瞬間予鈴が鳴り響いた。もうそんな時間だったのかと扉に向かって歩き始める。

 

「待って!」

「湊さん、今度落ち着いた時にお話ししましょう。今は遅刻してしまいますよ」

「………そうね」

 

 歯切れの悪い返事を受けると僕より先に扉の向こうに行く。別に僕は恨んだりなんかしていない。その言葉に嘘はないのだ。何も負の感情は抱いていない。彼女は何も悪くはないと、僕が悪いのだと。そもそも僕のような人間を知らなかったとはいえ受け入れてくれたことが嬉しかった。だから執事として最大限返してきたつもりだった。最終的には怒らせてしまったが、それでも僕はあの人を悪い人として見たくはなかった。

 教室に戻って席に着くと京君が話しかけてくる。

 

「今井から聞いたぞ、湊にフラれたんだってな」

「そういうことじゃないんだけど」

「わーってる。契約破棄されたんだろ?」

「そういうこと」

「昨日の様子見ててなんとなく察してたけどよぉ、関係を修復するつもりはねぇの?」

「ないわけじゃないけど、あの人が自分を責めてる限りできないかもしれない」

「なんでだ?話は聞いたがアイツだって悪いだろ」

「いやいやそんなことないよ」

 

 手を振ってないないと答えると目を見開いてこっちを見てくる。首を傾げるとはぁと思いっきりわかるようなため息をしてくる。

 

「お前さぁ」

「な、なに?」

「優しいのかどうかしらねぇけど、それはアイツにとって酷だぞ」

「え、なんで?」

「わかってないようなら言っておくけどな、この件に関してはお前ら二人が悪い、だが今のままだとお前が悪い」

「えっ!?」

 

 理解出来なかった。実際僕が悪いんだからあの人は何も悪くない。

 

「その思考はお前にとっては優しいのかもしれねぇけど、周りからすれば明らかに捻くれてるぞ」

「捻くれてるって……てかまた僕の思考を読んだ?」

「そうでもしねぇとお前のそれは解決されねぇからな。一回全部自分が悪いという思考は捨てて客観的に見ろ」

 

 客観的にか……少し難しそうだがとりあえずやってみることにする。ありがとうとだけ告げるとまたわかりやすいため息をされた。このことと朝のことを昼休みにリサに話すとどう考えても僕が悪いと言われた。もうここまでくると京君の助言通り客観的に見るほかないだろうか。

 時間は経ち放課後になると京君は行ってくると告げてくる。例の殲滅作戦に出るのだ。気をつけるようにと言うと当たり前だと返されて肩に手を置かれる。

 

「もう一度ちゃんと考えて湊と話せ」

「うん、わかった」

 

 鞄を肩にかけながら教室を出ていく京君を見送り、僕も帰る準備を始めようとすると電話がかかってくる。かけてきた番号は不明で非通知とだけ表示されていた。

 

「もしもし」

『もしもし、私だ』

「新手の詐欺でしょうか」

『いやいや私だよ』

「やっぱり詐欺じゃ……」

『高城だ高城』

「あぁ、高城さん詐欺ですか」

『違う!まぁ良い、早速本題に入ろう』

「ご用件は」

『ファンガイアが出現した。二人は知っての通り作戦前だ。できれば君に行ってもらいたい』

 

 錠前に直接連絡が来なかったのは二人の気を逸らさせないためだろう。なるほどと了解した僕はすぐにデータを転送してもらい、教室を出た。急いで階段を降りてバイクの元へと向かう。校門までは流石に押したが出た瞬間すぐに跨って走らせた。目的地についてすぐに見たのはライオンのファンガイア。また結構なダメージを負うことは確定だろうと腹を括って戦場に降り立つ

 

「久しぶりだな白騎士ぃ!」

「お久しぶりですね」

「ずっと会いたかったぞ。あの日お前にやられた傷が全然治らなくてよぉ、お前を殺さねえと気がすまねぇんだ!」

 

 咆哮を上げながら近づいてくるライオンを見てとっさに変身する。状態はやはりセーブモードだ。低出力ではあるが防ぐくらいは出来るだろうと身構える。拳をいなし、斬りつけようとするが避けられてしまう。カウンターは全て回避され、防戦一方の状態になってしまった。

 だが体の所々を見るにまだ前回の傷は完全には癒えてないらしい。

 

「実は結構キツかったりしませんか?」

「ハッ、テメェを殺すには良いハンデだぜ!」

 

 突き出してくる拳を避けて回転斬りをすると飛んで避けられる。その瞬間をイクサナックルで砲撃するとライオンは蹌踉ける。

 

「やっぱり、今の貴方ならこちらにも勝機はありますね」

「舐めんじゃねぇぞ、ガキが!!」

 

 怒りだした敵はこの前のようなエネルギーを拳に集め出した。流石に今の状態でもろに受けるわけにはいかないとフェッスルを挿し込んでイクサジャッジメントで迎え撃つ。強い衝撃がぶつかりあったせいかその反動で吹き飛ばされる。強制的に変身解除させられた僕は辺りを見回すがそこにヤツの姿はなかった。

 だがチャンスは今しか無いだろうと体に鞭を打って辺りを探し始めた。近くのビルの角を曲がるとすぐにその姿を見つける。意外とすぐに見つかったと思えばその思考はすぐに消える。

 ──なんでこうもあの人はここに来るのだろうかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校が終わったあと新一を捜し回っていた。朝の話の続きをするために。でもどこに行っても彼の姿は見当たらなかった。仕方ないので練習に向かうことにした。リサとあこには先に行くよう伝えていたので私一人だ。

 もしあの時あんなことをしなければ、私が一人で帰るなんてことは無かったのだろう。いつだってあの人は待っていてくれた。学校では秘密の関係でも、それを表に出さないようにして仕事をしてくれていた。

 ……結局、アレも仕事だったのだろうか。でもそうであって欲しくないと望んでいる私がいる。

 何故だろうか。こんなこと、今まで考えたこともなかった。でも彼がいなくってからことあるごとに考えるようになっていた。

 一人道を歩いてる私の前に大きな影が現れた。

 

「ハハ、歌姫がこんなところにいるとはな」

「なん、で……?」

 

 この前見た化け物だった。確か新一の攻撃を受けて消えたはず。なのになんでこんな所にいるの?

 

「知ったところで何も出来ねえ奴に、教えねぇよ!」

 

 化け物は逃げようとするが足を捻らせて転ぶ。化け物の声はまるで楽しんでいるようだった。

 

「なんで、こんな……!」

「たまたま、テメェの運が悪かったんだよ」

 

 その言葉と同時に少しずつ迫ってくる。近づけさせまいとその辺にある石を投げるがびくともしない。あと数歩の所でやっと気づいた。

 こういう目に合わせないように、新一に影から守られていたのだと。歌うことしか出来ない私を守っていたのだと。

 ───私はその人のありがたみを知らずにその人を捨ててしまった(・・・・・・・)、あれだけ傷つけてしまったのだと。もう死ぬのかもしれない。ダメかもしれない。

 ───まだ死ねない。私にはまだ…やらなきゃいけないことがある!

 目を瞑った瞬間、化け物の叫び声が聞こえた。閉じていた目を開けると目の前に剣を持った新一が立っていた。

 

「アガッ…!!?」

「大丈夫ですか、お嬢………湊さん」

「新…一……?」

「はい、名護新一です」

「何で、ここに?」

「見てわかんないんですか?仕事ですよ」

 

 その時の新一の目はあの時でも、今までにも見たことの無いほどの怖い目をしていた。仕事と言えど私を助けた意味が分からなかった。

 

「でも──私は一方的に貴方を捨てた。だから私を助ける必要なんて……」

「それは……思うのは貴女の勝手ですが、僕はただ、やりたいことをやっただけです。目の前で襲われている人がいる。それを助ける。それがたまたま貴女だっただけです」

「でも………」

「離れててください湊さん。これから貴女のことを気にしてる余裕なんてありませんので」

 

 剣を竹刀のように構えてこちらのことは見向きもしなかった。言われた通り離れたところに行こうとするが足を捻らせたせいで立つことが難しかった。

 

「足が…」

「……分かりました。では下手に動かないよう、お願いします」

「テメェ!!ふざけんじゃねえぞ!!!」

 

 化け物はかなり怒っている。無理もないのかもしれない。けど新一は表情を変えなかった。

 

「知りませんよ。僕は守りたいものを守っただけ。貴方の邪魔をしただけですから」

「ぜってぇ殺す!」

 

 殺すと言われた瞬間新一から怖いものを感じる。私は一瞬、呼吸すら出来なかった。すぐに意識を戻すと新一は鎧を纏って戦いに行っていた。

 前の姿とは違って顔の十字の部分が閉じられていた。見ていて圧倒的に化け物の方が優勢だというのが分かる。それでも抗うように新一は戦い続けている。

 

「やめなさいよ!なんで戦ってるのよ!」

「さっきも言ったでしょう。守りたいものを守ってるだけです」

「でもそれであなたが傷ついたら」

「そんな事、どうだっていい!これは僕のやりたい事で、罪滅ぼしでもあるんだ!!」

 

 ……罪、滅ぼし?何を言っているのだろうか。彼には何も罪はない。いや違う、私が知らないだけだ。彼は何かを抱えながら戦っている。それすら知らない。何より私は彼のことを全然知らない。だから彼が何をいっているのかすらわからないんだ。

 

「あなたが何を抱えているかはわからない。けど、私はただあなたを傷つけた。だから私なんかをあなた」

「──私なんか、なんて言わないでください」

「え……?」

「僕は、今までずっと考えてきた。こんな僕が貴女達のような人と関わっていいのか。誰かを笑顔にできているのだろうかと。もしかしたら……皆が僕から離れていくんじゃないかと」

「どういう──」

「それでも皆は笑っていてくれた。そして貴女は、離れたりしないと言ってくれた。それが例えあの時だけだったとしても、嬉しかったです」

 

 その言葉にはさっきまでにない暖かさを感じた。なんで、なんで酷いことをした私にまでこんなに優しいのだろう。なんでこんな人を捨ててしまったのだろうか。悔やんでも目の前の光景は変わらないことくらい分かってる。それでも悔やまずにはいられなかった。元通りになることなんて出来ないだろう。だから私は決意した。

 

「新一!」

「なんでしょうか。これ以上話している余裕はないんですが」

「それでもいいわ。私は、あなたに隠し事をされているのがすごい腹立ったわ。それにこれ以上傷ついてほしくなかった。私との契約が切れればきっと怪我をしなくて済むと思ったわ。けど現実は違った。私はあなたの心に深い傷を負わせただけだった。だから言うわ、ごめんなさい」

「湊さん………」

「でもあなたの言っていたことにも腹が立ったわ。料理ができないとか洗濯ができないとかわがままだとか。確かにその通りかもしれないけどものすごく腹が立ったわ」

「それは…申し訳ありません」

「それでも、私には欠かせない存在だった。……もう、元の関係には戻れないって分かってる。だからこうさせてもらうわ」

 

 私は戦っている新一に向かって指を指してを言い放つ。

 

「私と、契約しなさい!」



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第十三閃 Rechain

今週で!この章!終わります!


「私と、契約しなさい」

 

 ライオンの攻撃をどうにか食い止めている中、湊さんはおかしなことを言い出した。何故こんな時にそういうことを言うのだろうか。

 

「すみません、今手が付けられないんですが!」

「書類とかそういう細かいことはいいわ。今はただ契約を結んでくれればいいの」

「具体的な内容は?」

 

 質問を返すと考え込んだ。まさか内容を考えていなかったなんて言わないよね。流石にそんな悪ふざけ今されたら僕でもキレそうなんだけど。

 

「私の執事になること。でも前みたいな執事じゃないわ」

「例えば?」

「えっと……あなたの仕事を手伝うわ!」

「他は?」

「1週間に一回休暇を与えるわ」

「契約を結ぶに当たってのあなたのメリットは?」

「それは………家事をやってもらえること、困ったら助けてもらえること」

「では僕のメリットは?」

「そっ、それは………」

 

 突然黙り込んでしまった。やはりそうだ。あの人は多分思いつきであんなことを言ったんだ。とりあえずまともに話すためにライオンの懐にナックルを打ち込んで圧縮弾をゼロ距離でぶつける。それに吹き飛ばされたライオンは痛みに悶えている。一度変身を解除して湊さんの元へ行き、彼女を瓦礫の裏に連れ込む。

 

「なっ、何を」

「湊さんあなた何も考えていないんですか?」

「あ、あなた…!」

「契約というのはお互いがメリットデメリットを持つ、ギブアンドテイクの関係を築くことです。今のあなたは僕にそれが可能ですか?」

「ッ!」

 

 また黙り込んでしまった。でもこれは事実だ。そうでないと世の中の契約関係は成り立っていない。

 でもそんな細かいことをすぐに考えるのはこの人には無理だろう。いっちゃ悪いがこの人はそこまで賢くない。音楽のこと以外になると本当にポンコツなのだ。

 だからこそ、打開策も含めて僕は提示する。

 

「湊さん、貴女がどこまで考えていたかはわかりません。ですがこの状況で難しいことを考えるのは貴女には無理です」

「馬鹿にしないで!それくらいのこと……」

「いえ、実際貴女だけでなく僕も余裕がありません。ですからこうしましょう」

「?」

 

 僕は呼吸を整えながら膝を突き、自分の切り札を出すための契約内容を伝える。

 

「今、この一瞬だけ、僕に命を預けて(・・・・・)ください」

「え?」

「そうすれば、必ず、あの怪物を倒して貴女を守り抜くことを約束します」

「それは本当なの?」

 

 恐る恐る声を出してくる彼女は信じられないように目線を泳がせている。

 

「はい」

「あなたは生きて帰ってくるの?」

「必ずや」

「信じて、いいのよね?」

「二言はありません」

 

 意思が決まったのかいつもの目つきに戻って僕に手を差し出してくる。その声はさっきまでと違いとても凛々しい声だった。

 

「わかったわ。その契約、結びましょう。その代わり、必ず帰ってくるのよ」

「仰せのままに………ありがとうございます」

 

 顔を上げると湊さんの表情は晴れていた。ナックルを手に持って瓦礫の裏から出ると既にライオンが待ち構えていた。息を荒くしていることから相当怒っているのが目に見える。

 

〈ここからはBLACK SHOUTを聴きながら読むのをオススメします〉

 

「遅かったなぁ白騎士ぃ!」

「ええ、お待たせしました。戦う前に一つ、申し上げておきます」

「なんだぁ?命乞いかぁ?」

「いえ、簡単なことです」

 

 イクサナックルを手に当て、コール音を聞き終えて装填する。イクサシステムを身に纏い、イクサカリバーの切先をライオンの顔面に向ける。

 

(なんだこの威圧感………さっきまでこんなんじゃ!)

(あれは、本当に新一………?今までと全然違うじゃない!!)

「その命、神に返しなさい」

 

 この言葉に反応したのかマスクの十字架が開かれた。真っ向から向かってくるライオンの拳を避けて斬りつける。その手を止めず連続で斬りつけていく。拳はもう怖いと感じなかった。もはや当たりもしない。敵の当たらない攻撃をいなしつつ斬り裂いていく。

 

「なんだこの強さは!?」

「今日こそ貴方を仕留めます。確実に」

「なんで急にこんな、グハッ」

「もう、攻撃はさせません」

 

 腕を掴んでそのまま腹に膝を打つ。三度打ちつけて放り投げると立てるのもやっとの状態になっていた。フェッスルをベルトに装填する。剣を構え直し、辻斬りのように何度も斬り裂いていく。何度も斬りつけていくとライオンは立ち尽くすだけになっていた。

 

「お前はなんで戦うんだ…!」

「罪滅ぼしと守りたいもののため、そして」

 

 最後の一言を告げる為にイクサカリバーを振り上げる。

 

「貴方達の様な悪から、皆の明日を勝ち取るために!!!」

『ジ・ャ・ッ・ジ・メ・ン・ト・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』

「“BLACK SHOUT”」

「白騎士が、黒を語るのかッ!!」

「誰が呼び始めたかは知りませんが、僕は白のように綺麗ではありませんよ」

「クッソがァァァァァァ………!申し訳ございません、我が王ォォォォォォォォ!!!」

 

 後ろを振り向くとピキパキと固まる音がし、数秒立たないうちにガラスが割れる音がした。降り注がれるガラス片が僕を包む。音に気づいたのかお嬢様が瓦礫の裏から出てくる。

 

「終わったの…?」

「ええ、ご協力ありがとうございました。それでは」

「ま、待って!」

 

 その場を立ち去ろうとすると呼び止められる。

 

「私と契約をっ」

「先ほども申しましたが、僕のメリットはなんですか?」

「それは……」

「…はぁ、ではメリットはいいです。生活費とかはどうするんですか?」

「それは、お父さんに協力してもらうわ」

 

 目はまだ泳いでいるがそれでもまっすぐこちらに視線を向けようとしている。やはり頭を使うことはあまり向いていなさそうだなと思いつつ彼女に近づく。

 

「全く、困った御方だ」

「っ!」

「ロミオとジュリエットでも五日間かかってますよ。それを四日でなんて」

「それじゃあ」

「今からお話ししに行きましょうか、湊さん」

「………」

 

 元気を取り戻したように見えたがすぐに俯いてしまった。もしかしてもうお嬢様と呼んでもらえないと思っているのではないか。

 

まだ(・・)、契約を結んでませんからね」

「!ええ!」

 

 嬉しそうな顔をしながら歩き出した僕のそばに寄ってくる。置いてきたバイクの元に向かいヘルメットを被る。予備を渡して湊家を目指してバイクを走らせる。道中で四日間どこで暮らしてたか、どんな感じだったかなどと質問攻めにされた。興味を持つと止まらなくなるのもこの人の癖だったと思い出す。

 話しながら走っているといつの間にか目的地に到着する。バイクを降りてインターホンを鳴らすと旦那様が出てきた。とりあえず中に入れとリビングに案内される。ソファーに座ると本題に入った。

 

「友希那と一緒なんて、何かあったのかな?」

「お父さん、お願いがあるの」

「何だい?」

「新一と、もう一度契約して欲しいの」

 

 旦那様は一度こちらに目線を送ると手に持っていたコーヒーを一口飲んでテーブルの上に置く。そして足を組んで姿勢を変えた。

 

「お互い、ちゃんと話し合えたのかい?」

「ええ」

「はい」

「新一君はいいのかい?ここに住めば、また友希那の世話をしなくてはいけないし負担が増えることになるが」

 

 その言葉を聞いた湊さんはこっちを見てくる。けど対して気には止めなかった。

 

「勿論です。そのことも考慮しましたが、前と比べても大したことではありませんので」

「失礼ね」

「なら、そのお願いは承諾しよう」

「いいの?」

「そもそも、こうなる原因を作ったのは俺でもある。それに新一君がいなくなって友希那は寂しそうにしてたしな」

「余計なこと言わないでいいから」

「ハハッ、すまないすまない」

「では旦那様、前の契約書はお持ちですか?」

「あー、持ってるけど別にいいだろう」

「何故です?」

「前の契約書、まだ取り消しの印鑑を押していないんだから続行でいいかなって。そしたらもう、新しく契約する必要はないだろう?」

 

 余裕の笑みを浮かべつつコーヒーを口に運んでいく。確かにそうだと思った瞬間力が抜けるように感じたがシャキッとせねばと背筋を伸ばす。一方お嬢様は力が抜けたように項垂れている。

 

「それじゃあ、休暇を終わりにして働いてもらおうかな」

「かしこまりました。では早速お夕飯を」

 

 席を立って冷蔵高のあるキッチンに向かう。冷蔵庫を開くと見事に何も入っていなかった。顔を二人の方へ向けると視線を逸らしている。

 

「一体どういうことですか?」

「いや、作ってみようとしたんだが君のようにうまくいかなくてだな」

「この数日のご飯は………」

「出前と惣菜よ。昨日のお昼はリサに作ってもらったわ」

「……いつもより時間をいただかせていただきます」

 

 すぐに湊家を出て近所のスーパーに向かう。きちんと食べられるものを作るため今日はポケットマネーを無視して買い物カゴに突っ込む。大丈夫、武器(銀行のお金)の貯蔵は十分だ。買ったものをエコバックに詰め込んで急いで帰宅。手早く料理を開始していく。夜八時、テーブルの上にハンバーグと野菜、オニオンスープとデザートを三人分用意した。

 

「美味しそうだな」

「お召し上がりください」

「「いただきます」」

 

 二人はそれぞれ箸で掴んだものを口に運ぶと驚いた表情をして食を続ける。

 

「やはり、新一君の料理はうまいな」

「ええ、慣れていてアレだったけど、数日食べていないだけでこうなのね」

「お褒め預かり光栄です」

「君も早く食べたまえ」

「ではありがたく」

 

 僕も料理を食べ始める。自分で作ったものとはいえ美味しいと感じる。ある程度食べていくと旦那様が話しかけてくる。

 

「今日はこのまま泊まっていくかい?」

「いえ、家のものを整理しようとかと。全て持ち帰ってしまったので」

「ごめんなさい…」

「いえいえ、お嬢様が謝ることではございません」

「では明日からまたここでの生活が始まるんだな」

「はい。またお世話になります」

「いやいや、お世話になるのはこっちだよ。ま、明日から俺またいないからよろしくだけど」

「そうなの?」

「ああ、さっき電話が入ってきてな。急遽行くことになった」

「畏まりました。お気をつけくださいませ」

「ああ、二人も気をつけるんだぞ」

 

 返事をして頷くとご馳走様と返ってくる。洗い物はやっておくから帰りたまえと言われ、言うことを聞く。玄関に出て見送ってくれたお嬢様に挨拶をする。

 

「気をつけなさい」

「はい、ありがとうございます。あと、申し訳ございませんでした」

「その話は、もうやめにしましょう」

「ですね、それ「その代わり」はい?」

「二人の時は、その、名前で呼んでちょうだい」

「お嬢様をですか?」

「他に誰がいるのよ」

 

 果たして主従でその関係はいいのだろうか?だがそれ以外の何かを感じながらも考えた結果。

 

「……善処します」

 

とだけ言い残してバイクを走らせる。後ろから何かを言われたような気がするが風でかき消されたため聞こえなかったことにする。帰路の最中は何も考えることはなく家に着くとすでに九時を回っていた。スマホを伏せよとした瞬間電話の着信音が鳴る。

 

「もしもし」

『もしもし、新一様でいらっしゃいますか?』

「一条さんですか?」

『はい、今お時間よろしいですか?』

「構いませんよ」

『先日、猪宮が捕らえられたとお聞きしまして』

 

 やはり元とはいえ同僚の話は気になるかと思いつつ話を進める。

 

「おっしゃる通りです。お話はしました」

『されたのですか?お怪我は』

「強化ガラス越しでしたので何とも」

『それはよかったです。それで得た情報の確認をさせていただきたく』

 

 了解と言い、言われた情報の真偽を確認した。今日の殲滅任務の話は聞いていなかったので後日改めて伺おうとメモを取りながら話を続けていく。メモを全て取り終えて確認を終えると一息落ち着いたような声が聞こえる。

 

「これで今日の仕事は終わりですか?」

『ええ、明日は休みなので遅めにあがろうかと』

「なるほど。して、おやすみは一日ですか?」

『今回は有給使ったので二日です』

「一条さん、取引しませんか?もちろん報酬は支払います」

『何をなさるつもりですか?』

「証人のお仕事です。少し、過去の話をしようと思いまして」

『なるほど、でしたら無償でお受けさせていただきます』

「ですがせっかくの休日が」

『貴方様のために使えるのでしたら本望です』

 

 本望という言葉を聞いて納得した。これ以上何を言ってもこの人の意見を変える事は出来ないだろう。昔から本望という言葉を使った時は絶対意見を変えないのだ。致し方あるまいと腹を括る。

 

「では明日の夕方六時にこの間セッションしたライブハウスに来てください」

『かしこまりました。必要なものとかありますか?』

「写真とかがあれば、少しでいいです」

『畏まりました。それではおやすみなさいませ』

「はい。おやすみなさい」

 

 電話を切って雑に横になる。荷物を片付けなきゃと思いもしたが大して出していないことを思い出した。そしてそのままシャワーだけ浴びて寝ることにした。明日からまた前の生活だ。だけど少しだけ、新しい生活になりそうだ。



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最終閃 Beginning the new life

エピローグです!


 水曜日、朝起床して学校に向かう。今日からはまた新しい生活だ。学校ではいつも通りに授業を受け、昼休みは屋上でご飯を食べる。昨日の冷蔵庫の状況を見てお弁当も作れないだろうとお嬢様の分も作ってきた。

 

「今日も美味しいわね」

「お褒めに預かり光栄です」

「なんだ、お前らもう再契約したのか」

 

  京君がサンドイッチを咥えながらこっちを見てくる。

 

「おかげさまでね」

「んだよ、もう少し長引くと面白かったのによぉ」

「何を言ってるの?」

「俺はてっきりそのまま今井と駆け落ちしようとして湊に捕まるみたいな展開を期待してたんだけどな」

「アタシっ!?」

 

まるで三問芝居だったぜとでも言いたそうに空を見上げている。結構いろんな考えがあったからそんな軽くはないんだけど。

 

「それでお前らはこれから元通りの生活か」

「完全って訳じゃないけどね」

「良かったな湊。これでまたうまい飯にありつけるぜ」

「それそうね」

「いいな~アタシも新一の料理食べたいな~」

「はいはい、今度作ってあげるから」

「やった!」

「では私たちもお願いします」

「うおっ、お前らいたのか!?」

「最初からいたわよ」

 

魔姫ちゃんと夜架ちゃんも一緒に食べていた。あまり話さなかったのでいるかどうか不安だったがちゃんといたらしい。

 

「お前らたまにこえーんだよな。なんかお化けみたいでよ」

「失礼ね、ちゃんと生きてるわよ」

「ですわですわ」

「わーってるけどよ」

「そうだ京君、今日時間ある?」

「放課後か?特に用事はねぇけど」

「じゃあ六時くらいにcircleにきて」

「何でだ?」

「話したいことがある。リサもこれる?」

「アタシは練習が終わる時間だから行けるけど何かあったの?」

「その時のお楽しみにってことで」

 

 お弁当箱を片付けて座り直す。回りは顔を見合って疑問符を浮かべていたが気にしなかった。そんなことよりもどうすれば納得してもらえるかを考えなきゃいけなかったからだ。

 そんな昼休みも終わり、午後の授業を受ける。たいして集中もしていなかったが放課後になるのは一瞬だった。京君に後でと伝えて学校を出る。お嬢様達と共にcircleに向かうと三人の姿があった。

 

「新兄!」

「新君……」

「名護さん!?」

 

 三人がこっちに駆け寄ってくる。二人は安心したような顔だが、一人は当然として怒っていた。そして近くになると頬を叩かれる。

 

「一体どういうつもりですか!」

「ちょっと紗夜!」

「いいんだ。当然のことだと思う」

「自分が何をしたか分かってるようですね」

「勿論です。勝手にやめると言っておきながらここに戻ってきたこと、深くお詫び申し上げます」

 

 頭を下げると紗夜さんははぁとため息をつきながら叩いてすみませんと謝ってくる。一応こっちのことは許して貰えたみたいだ。叩いてスッキリしたのだろう。とにかく練習をしようとスタジオ入りをする。

 

「新兄が戻ってきたってことはRoselia完全復活!?」

「いや、まだ僕は戻ってないよ」

「え、どういうこと?」

「皆さん六時以降は空いてますか?」

 

 各々問題なしと答えてくる。練習が終わったら話すとだけ伝えて話を終わらせる。練習の様子を久しぶりに見た。お嬢様の調子は良く、ここ最近で一番いいらしい。久しぶりの練習の時間を堪能すると五時半になる。一度受付に向かい、まりなさんに延長できるか聞くと許可を貰う。延長料金も含めて僕が払うと伝えて部屋に戻ろうとする。だが気配に気づいて足を止めた。

 

「予定より早いのではないですか?」

「常に早めに行動しておりますので」

「ですね。貴方はそういう方でした」

 

 振り返ると一条さんの姿があった。ギターケースを背に持っているがおそらく中身は違う。

 

「用意ができました」

「ありがとうございます。……ですがこれは」

「分かりやすくするために新一様の情報をスライドにまとめたのでこれを持ってくるのが一番かと」

「左様、ですか……」

 

 とりあえずここで待っていて貰えるよう頼んで部屋に戻った。部屋に戻ると既に片付けが始まっていた。手伝っていると京君が乗り込んできた。まりなさんに聞いて入ってきたらしい。ついでに快斗君もいた。構わないだろ?と押し通されたがいつか話す予定だったので問題はなかった。

 やがて時間になって一条さんを連れてくるとギターケースを開いて準備を始める。

 

 

「名護さん、この方は」

「はい、この間一緒に演奏した人です」

「改めまして、一条(イチジョウ)(ハジメ)です。以後お見知りおきを」

 

 作業を一度やめて挨拶をした一条さんは準備ができたと教えてくれる。

 座っている皆に顔を向けて話し始める。

 

「まずは謝罪から。この数日間、勝手な行動で混乱させてしまい申し訳ございませんでした。これから、僕のことを話そうと思います」

「新兄のこと、って?」

「まず一つ、これは見て貰った方が早いですね」

 

 懐からベルトを取り出して巻き付け、イクサナックルを掌に当てて装填する。イクサシステムを身に纏った僕に四人は驚いている。

 

「えっ、えっ!?どういうこと!?」

「これが僕の一つの顔、仮面ライダーイクサです」

「新一……」

「待ってください、じゃあこの間見たそれは貴方だったんですか!?」

「落ち着いてくださいよ氷川先輩」

「大道さんはなんで落ち着いていられるんですか!」

「えー、だってそりゃあ俺も仮面ライダーですから」

 

 紗夜さんははぁ!?と大きな声をあげて混乱してる。京君は言わずもがなメモリを小さく投げて遊んでいる。皆で落ち着くよう促して数分、やっと紗夜さんは落ち着いた。

 

「では纏めますと、今まで練習中に抜けたりしていたのは怪物を倒すためですか?」

「そういうことです。黙っていてすいません」

「もういいです。それが仕事だったわけでしょう?」

「おっしゃる通りです」

「通りであれだけの怪我をしていたわけですか……」

「その節はご迷惑をお掛けしました。この通り僕は戦いの中にいる身です。これからも迷惑をかけることは多々あるとあると思います」

 

 僕は変身を解除して元の状態に戻る。

 

「仮面ライダーって本当にいたんだ!あこ感動した!」

「あこ知ってるの?」

「うん!仮面ライダーって都市伝説なんだよ!悪い人を倒してくれるの!」

「ですがこんな身近にいるとは普通思わないでしょう」

「そりゃあな」

「いや~氷川先輩があんなに取り乱すなんて想像もしてなかったわ」

 

 快斗君が笑いながら紗夜さんを見ると睨みを効かされていた。怯える快斗君は急いで話を変える。

 

「そ、そういや白金先輩は全然驚いて無さそうでしたけど知ってたんですか?」

「は、はい……かなり前から……」

「なんで教えてくれなかったんですか?」

「新君が、皆に…迷惑かけたくないって……」

 

 紗夜さんが今度はこっちを睨んでくる。会釈だけして誤魔化すとフンとそっぽ向いてしまった。

 

「だけど、新一はこの為だけにライダー(俺たち)を呼んだ訳じゃねえよな?」

「そう。本命はこっち」

 

 僕は深呼吸して一度落ち着かせる。これを告げるだけで皆の僕に対する意識が変わる。最悪の場合百八十度変わるだろう。だけど、少しずつでも開いていかなければならない。じゃないと、変わることはできないから。

 

「僕は、名護家第十六代元当主名護新一です」

「嘘……だろ?」

「新一さん、それマジっすか?」

「ホントだよ。少なくとも弦巻家の当主は知ってる。目の前で確認されたから」

「名護家……とは一体なんですか?」

 

 紗夜さんが手をあげて発言する。知らないのも無理はないと一条さんにお願いしてプロジェクターの起動をさせる。邪魔にならないよう少しだけずれて映像と共に説明を始めた。

 

「名護家は日本にある財閥、弦巻家のような財閥ですが表には顔を出さず裏で動いている組織です。世界の脅威となるもの、人類の敵となるものを認定し、殲滅及び討伐、また技術を各国に提供し防衛手段を築かせるのが主な仕事です。裏ではありますが一応政府公認です。僕は、いえ私はそこの当主────王の立ち位置でした」

「なるほどな。裏だから誰も知らなくて当然なわけだ」

「うん、快斗君とかは例外だけど京君はなんで知ってたの?前に話した時は」

「ああ、金持ちの家の子程度でしか教えられてなかった。だけど俺は探偵家業の中でたまたま耳にしていたんだ」

 

 なら仕方ないかと納得がいく。Roseliaのメンバーを見てみると混乱している人、何を言っているかわからない人、もはや思考が停止した人がいた。話を続けようと咳払いをすると全員が意識をこちらに向ける。

 

「私は二年の間当主としての仕事を行っていました。ですがある日、家族をとあるファンガイアに殺されたことをきっかけに当主の座を捨ててこれ(・・)を手に取り、お嬢様の執事として、人を守る仮面ライダーとして生きることを決めました。そして私の目的は、蠍のファンガイアを殺すこと。全てはそのために今までのことを行ってきました」

「ま、待ってください。話が急すぎます」

「では手短にまとめていきましょう」

「新一様私にお任せください。既にここにまとめてあります」

「用意がいいですね…お願いします」

 

 一条さんは返事をすると簡単な表をプロジェクターに写した。事細かというわけではないが大体の情報はちゃんと載っている。京君は帽子を深く被り、快斗君はプロジェクターに釘付けになっている。そんな中Roseliaは各々がわかる言葉でまとめ始めた。

 

「つまりでまとめると……」

「新一はお金持ちの子供」

「それで組織のトップであった」

「でも復讐するために全部捨てて」

「私たちのところにいる………」

「そして仮面ライダーで正義の味方!」

 

 納得したように頷いているが少しだけ引っかかったので言葉を訂正する。

 

「あこちゃん、仮面ライダーは正義の味方かもしれないけど、僕は正義の味方じゃないよ」

「えっ?でも仮面ライダーは正義の味方なんだから新兄は正義の味方じゃないの?」

「ちょっと難しい話になっちゃうけどね。仮面ライダーとしての行動は正義だよ、きっとね。けど僕自身はそんな綺麗なものじゃない」

「えーっと?」

「まぁ多分そのうち分かると思うよ。他の人は理解出来ましたか?」

「すみません、途中で出てきたファンガイアというのはなんですか?」

「ファンガイアはステングラスの模様が入った人型の化け物です」

「資料提示します」

「よくありましたね。これが今まで戦ってきたファンガイアの一部です。ここに写真はありませんが僕の仇は奴らのうちの一人です」

「家族って………」

「はい、父と母、そして妹が奴の手にかかりました。表沙汰ではテロもどきのバス事故になっていますが、生き残った乗客は僕一人です」

「他の人は!?」

「皆死にました。………今でも、あの光景が夢に出てきます」

 

 急に暗い話をしたせいか空気が重くなる。仕方ない。今日はもともとここまで話す予定だったのだ。その上で僕は話を進める。

 

「失礼、話がそれました。僕が知って貰いたかったのはこの二つ。普段戦いに出ていること、復讐を糧に生きていること。この二つを抱えていますが、出来ることならRoseliaのマネージャーを続けていきたいと考えています。ですが本当の僕を知った上で皆様に続けさせてもらえるかを問いたかったんです。勿論一人でも嫌だという人がいるならばもうこのようなことは言いません。ご判断をお願いします」

 

 一度頭を下げて顔を上げるとRoseliaの皆は顔を見合わせていた。おそらくあの人は嫌だというのではないだろうか、でもあの場所に戻りたいと考えている自分がいる。しばらくの静寂の中を勇気を出して破ったものがいた。

 

「わ、私は、戻ってきて欲しいです!」

「燐子?」

「新君は……確かに私たちとは、違う世界の人だった…のかもしれません………けど、Roseliaのマネージメントを出来るのは……彼しかいないと思います」

「で、ですが、それとこれとは」

「そーだよっ!りんりんの言う通りだよ!」

「あこちゃん…?」

「だって新兄だよ?さっき言ってたことはあこにはまだ難しいけどっ、でも新兄自体は何も悪くないじゃん!!それに今までだってずっとサポートしてきてくれてたじゃないですか!!」

 

 二人はこっちに駆け寄って目の前に立つ。

 

「それに新兄が仮面ライダーとかチョーカッコイイじゃないですか!だから、あこたちは新兄が戻ってくることに賛成です!」

「宇田川さん!そんなことで決めていいことではないのよ!もっとちゃんと考えて」

「そうね、あこの言う通りよ」

「湊さん!?」

「新一は、私たちに黙っていたけど、私たちを守ってくれていた。なら少しでも彼の望みを叶えてあげるのがせめてもの恩返しになるんじゃないかしら。それに」

 

 言葉の途中で区切ったかと思うと僕に近づいて腕をがっしり掴んできた。振り解く気はないが絶対外してくれなさそうだ。

 

「この人は、私の執事だもの」

「あなたまでそんな………!」

「あちゃー、皆に先越されちゃったか」

「今井さん?まさかあなたまでとか言うんじゃ!」

「え?そうだけど?」

「なんでですか、なんで皆さんはそんな簡単に受け入れられているんですか!私はまだ混乱しているのに!」

「氷川、少し勘違いしているぞ」

 

 話の間に割り込んできたのは京君だった。紗夜さんの隣の椅子の背に寄りかかって話しかけている。

 

「何がですか」

「誰も、完全に理解しちゃいねぇよ」

「そんな!?」

「宇田川妹だって言ってたろ。まだわからないって」

「でっ、でも!」

「でもよ、皆信じてんだ。名護新一って男をよ。お前にとってアイツは信じられない男だったか?自分勝手に動いて周りに迷惑ばかりかけるような男か?敵意を見せて攻撃してくるようなヤツだったか?」

「それはっ」

「それに、新一はよ、多分こんなこと話したくなかったんじゃないか?」

「えっ」

 

 全く、この探偵さんは余計なことを………

 

「本当は怖かったはずだ。元御曹司なんて知られればどんな目で見られるかなんて目に見えてる。けどRoselia(お前ら)なら絶対変わらないって信じたんだ」

「………」

「もう分かるだろ、賢いお前なら。別に、貸しを勝手に作られたことを気にしてんだったらこの機会にコイツに倍の貸しを作ってやれ」

「そんなこと思ってません!」

 

 紗夜さんは立ち上がって京君を追い払うとこっちを見つめてくる。近づく気配はないが何を話そうか戸惑っている。

 

「そのですね、名護さん」

「はい」

「私も、おそらく湊さんと同じです。勝手に隠し事されてそれで急に混乱させられて、それで少し嫌になってます」

「……申し訳ございません」

「ですがあなたに助けられていたのは事実です。ですから仮にですが、あなたが私たちを信じてくれたように私もあなたのことを信じてみたいと思います」

「紗夜さん…!」

「ですがもしまた裏切るようなことがあればその時は覚悟しておいてください」

 

 紗夜さんは不満そうに髪をいじりながらも僕が戻ることを承諾してくれた。全員からの承諾が降りたことによって僕の復帰が認められた。やったと喜びつつも改めてよろしくお願いしますと礼をして今日は解散となった。スタジオの鍵を返しにまりなさんの元へ向かい会計を済ませる。次の予定を確認させてもらい、記入してcircleを出る。出る直前、一条さんからデータをどうするか聞かれたので回収することにした。

 

「今日はありがとうございました」

「いえ、新一様のお力になれたのなら」

「ではあと一つだけ、お願いを聞いてもらってもいいですか?」

「フフ、何なりと」

「僕の家を売ってもらえませんか?」

「……よろしいのですか?思い出を売ってしまっても」

 

 一条さんは珍しく悲しい声を出す。普段は元気があっても落ち着いたような声なのにトーンは変わらずテンションだけが落ちているように感じる。

 

「構いません。今度こそ、あの家にはもう戻れませんから」

「何かあったのですか?」

「………父に言われたんです。ここには戻ってくるなと」

「そんな!啓介様はもう」

「夢の中です。ですが夢といえど父の言葉。言っている姿はまさに父にそっくりでした。僕の年齢ではそういったことは難しいのでお願いしたいのですがよろしいですか?」

「畏まりました。手続きはお任せ下さい」

 

 不満がありそうな感じを一瞬見せたが一条さんは承諾してくれた。本当に申し訳ない。この人には頼ってばかりだ。

 

「申し訳ございませんがご迷惑おかけします」

「いえ、では後日。またお会いしましょう」

「………一条さん!」

「はい?」

「また今度、何もない時に、一緒にお茶に行きませんか?」

「喜んでお供させていただきます。楽しみにしています!」

 

 一条さんは振り返って満面の笑みを見せると姿を消した。僕は家に戻って荷物をバイクに乗せて離れる準備をする。家の中を最後に見ておこうと歩き回るがほとんど残っていない。全て見終えて玄関を出る。最後にありがとうとだけ告げてバイクを走らせる。さようなら、僕たちの思い出。あの頃の時間は決して忘れはしない。

 真っ直ぐ湊家に向かい、バイクを止めるとお嬢様が出てきた。

 

「ただいま戻りました。今日よりまた、よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそよろしく。………おかえりなさい、新一」

 

 荷物を抱えて湊家に入る。僕達は顔を見合わせるとふと笑みが溢れて笑っていた。

 今日からまた、ここでの生活が始まる。

 でも前とは違う、僕たちの────新しい生活が始まる。




アンケート取りますのでよろしければお願いします!
歌騎士の第一部が終わったのでこれからは新一君を基本的に自由にさせられます。さて、どうしましょうか←特に考えてなかった


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幕間三
第一話 おっす、新一生きてるか?


とりあえずアンケートは幕間が終わるまで残します!他にやって欲しいのがあれば感想にでもお願いします!


「ったく、こいつも風邪なんて引くんだな」

「私も驚いているわよ。まさか新一が風邪を引くなんて」

「一応春川たちにも伝えようとしたけど今日アイツら休みなんだよな」

「そうね。こんな様子じゃ家事も出来なさそうね」

「やれます。僕はまだ動けます」

「「病人は寝てろ(なさい)」」

 

 皆が授業を受けている中私たちは今、私の家にいる。本当は授業を受けているはずだったのだが、二時間目の体育の時間に新一が倒れたのが原因だった。朝から顔を赤くして少しフラフラした様子だった。おかしいとは思っていたがより一層おかしくなったのはさっきの時間だ。

 授業内容は体力テストだった。100m走でありえないタイムを叩き出し、握力を測るやつは限界値を超え、反復横跳びに関してはもはや残像が出来ていた。倒れたのはその直後、額を触るととんでもなく熱かった。

 京に背負ってもらって家まで連れてきたはいいものの、家の中に入った瞬間家事を行うとか変なことを言い始め、全力で取り押さえてから今に至る。

 

「病院は行かなくていいのかしら」

「うーん、この状態だったら行かなくていいんじゃね?咳とかしてないからただの熱だろ」

「熱?」

「あぁ、多分今までの疲労が一気に出たんだろ。ただでさえ家事をやってんのに戦いにまで出てたんだ。怪我も完治しないで無理に動いてたしな」

 

 じゃあこの熱は私のせいなのかしら。私は握る力が強くなる。

 

「悪いがこれはお前のせいだけじゃない。ちゃんと休むという事をしなかったコイツのせいでもある」

「はは、面目ないですね……お嬢様は気にしなくていいですよ」

「本人もそこは自覚してたみたいだな。なんか食いたいものあるか?」

「京君作れないでしょ」

「バーロー、林檎切るくらいはできるわ」

「ありがとう……気持ちだけ受け取っとくね。そろそろ寝ようかな」

「おう、ちゃんと寝ろ。なんかあったら呼べ」

 

 京は私の肩を2回叩いて部屋を出ていく。寝るのを邪魔しちゃ悪いと私も続いて部屋を出る。一回に降りてリビングに入って椅子に座る。

 

「台所借りるぞ」

「え、ええ」

「コーヒーあるか?」

「えっと、お父さんがいつも飲んでるやつが……あら?」

 

 台所に入って探すがどこにも見当たらない。確かここに入れていたはずなんだけど。普段台所を使っていないせいかわからない。新一に聞こうとしても今の状態じゃ聞くことはできない。

 

「これか?」

「そ、そう、それよ」

 

 探していた戸棚の上のところから京が引っ張ってくる。少し私の方を見るとすぐにコンロの方へ向かっていった。ヤカンに水を入れて沸かしている。私は大人しく椅子の方へ戻った。しばらく沈黙が続いたがコーヒーの匂いがすると京がコップを持って向かいの席に座る。

 

「コップ借りるぞ」

「ええ」

「驚いたな、アイツが倒れるなんて。つっても一番驚いてるのはお前か」

「………」

「飲まねぇのか?いや違うな、考え事をしていて飲んでる場合じゃないのか。大方自分のせいで倒れたと思ってる」

「!なんで!」

「これでも探偵だからな」

 

 済ました顔でコーヒーを啜る京は非常に落ち着いていた。私の心は全く落ち着かないのに。

 

「さっきも言ったがお前のせいだけじゃない。言っちまえばあれはオーバーヒートだ」

「オーバーヒート?」

「機械だったら使いすぎると熱くなるだろ?それと同じだ。ただどれだけ耐えてたかは知らんが」

「じゃあやっぱり」

「だがあの新一がそれだけで倒れるなんてことはありえない。それ以外にも要因はあるはずだ」

 

 それ以外の要因?でもそしたら最近あったことは……と思い出してみるとあの事しかなかった。

 

「そう、アイツが自身の正体をカミングアウトしたことだ」

「でもそれがどうして?」

「かなりの緊張状態だったんだろうな。人は緊張が途切れると一気に警戒を緩める。そこに今までのが乗っかったんだろ」

「だから急に倒れたのね……」

 

 これでやっと倒れた原因が分かった。でも今の私にはどうすることもできない。消化のいいものを食べさせたほうがいいんだろうけど作る技術はない。料理だって新一に任せっきりだったし、家事なんてどうすればいいか。

 

「全く、本当に新一がやってたんだな」

「言い返せないわね……」

「まぁそれがアイツの仕事だからしゃあねぇよな」

 

 ぐぅの音も出なかった。前々から思ってはいたけどこの人は本当に人の心を読むのが上手い。探偵って皆そうなのかしらたまに腹立つこともあるけど。けど今回は特に何も言い返せなかった。

 

「この時代、男がどうこう女がなんだとかいうつもりはねぇよ。俺だって料理できねえしな」

「なら」

「だが主人なら自分の執事の様子くらいちゃんと見てやれ」

「!!」

「家事ができなくてもいい。勉強ができなくてもいい。けどな、ヤツの体調くらいは見てやれるだろ。それくらいはしっかりしておけ」

「…わかったわ………」

 

 納得する私を前に軽いため息をついた京は小馬鹿にするように言ってくる。

 

「はーあ、湊にこんな説教したなんてアイツに知られたら怒られちまうかもな」

「そんなことないわよ」

「どうかね、アイツならやりかねない。さて、そんなことより飯作るか」

「でもあなたは作れないんじゃ」

「俺が作るなんて言ったか?」

 

 京が不敵な笑みを作ると同時にインターホンの音が聞こえる。来た来たと言いながら彼は玄関に向かった。数秒すると人を連れて入ってくる。そこには両手に袋を持ったリサの姿があった。

 

「新一のために午後の授業をサボってまで来てくれた今井リサさんでーす♪」

「ちょ、言い方!」

「いや事実だろ」

「それはそうだけどさ……」

「リサ、どうして?」

「そりゃあ新一が心配で。二人が何も作れないこと知ってたし」

「失礼だな、カップ麺なら作れるぞ」

「それ料理って言わないからね!?」

 

 授業はいいのかと聞くと今日は五時間目までだったし最後自習だったからと笑って受け流した。根は真面目なリサが自習といえど授業をサボってくるなんて信じられなかった。リサは台所を借りるといって料理を始めた。十分くらいするといい匂いが漂ってくる。

 

「おかゆできたよー」

「流石は今井だな。じゃあ持ってくか」

「私も行くわ」

「おう、扉開けてくれ」

 

 おかゆを持つ京に続いて私たちも新一の部屋に向かう。ノックをしてから入ると信じられない光景を目にした。新一がベッドで寝ていなかったのだどこだと部屋を見渡すと扉の裏に張り付いていた。

 

「何してんだお前」

「……ば、バレた?」

「起きたならそんなとこで遊んでないでお粥食え」

「あー、そこに置いといてくれると助かるなー」

「いや、今から食え」

「ごめん無理。僕は今からスーパーに買い物に行くんだ」

 

 急いで部屋を出て行こうとする新一を阻んで皆で止める。一瞬残像が出来たけど体力がなくなっているのかそのまま床に座り込んだ。

 

「邪魔をしないでくれ!これは大義なんだ!」

「うっせぇ!大人しく戻れ!!」

「地を這いずってでも行くよ!」

「よーし、なら俺は病人のお前の写真を切姫と白金に送りつけてやる!Present for youってメッセージを添えてな!」

「申し訳ございませんでした」

「わかればよし、戻れ」

 

 颯爽とベッドに潜り込む。確かに夜架なら何かやりかねないけど新一がそこまで恐れることなのだろうか。あと何故燐子にまで?

 

「何かとちゃんと面倒見てくれそうじゃん?あと本人の前ではぜってぇ言えないけどなんかやばいことしてくれそう」

「完全に偏見じゃない」

「そのまま新一が襲われるかもしれないけどな」

「まさか燐子に限ってそんなことはないでしょ」

「いや、ああいう系がやってくれるって古事記に書いてある」

「どんな古事記読んだの!?」

 

 上半身だけを起こして食べられる体制になる。トレーは京が持ったままだが問題が発生した。

 

「どっちが食わせるんだ?」

「友希那やる?やらないんだったらアタシやるけど」

「そうね……私じゃ多分上手くできないだろうからお願いするわ」

「あの、僕一人でも食べられ」

「写真撮るぞ」

 

 何でだろう。今日の新一はいつもよりコミカルな感じがする。それにいつもは堂々としている彼が今日は小動物みたいだ。

 

「はい新一、あーん///」

「あ、あーん」

「奥さん見てくださいよ、あなたの従者浮気してますよ」

「そうなの?」

「違いますよ?」

 

 京はケラケラ笑ってる。新一の弱っている姿なんて滅多に見ないから楽しんでいるのだろう。確かに皆笑っている。しかしどうしてだろう、また無力感が湧いてくる。結局役に立たない主人だなと思うと提案が出る。

 

「今井、食い終わったら一度部屋を出るぞ」

「う、うん」

「新一は少し休んでろ。あ、寝るなよ?食った後すぐに横になると逆流して食道癌になりやすくなるから」

「よく知ってるね」

「前に飯食った後にゴロゴロしながらテレビ見てたら言ってた」

「あ(察し)」

 

 食べ終わった食器を持って部屋を出ていく。そしてリビングに戻った私たちは作戦会議が始まった。

 

「さて、こっから今井がどうやって新一を籠絡させるかだけど」

「そんな話今までなかったよね!?」

「冗談だよ冗談。しっかし今日のお前ら面白いな、アイツが倒れただけでこんなに乱しやがって」

「それもそうね……」

「湊に関してはアイツのありがたみをまた知ったところだろう」

「まさかこの短期間で二度も知ることになるとは思いもしなかったけど」

「で、どうするのこれから?」

 

 京が返事をしようとした瞬間インターホンの音が聞こえる。玄関の扉を開けるとRoseliaの残りのメンバーがいた。あこと紗夜は手に小さいビニール袋を持っている。それに対して燐子は少し大きなエコバックを持っていた。

 

「こんにちは湊さん」

「あなたたち何をしているの?」

「お見舞いに……来ました……」

「新兄が倒れたって聞いたので皆で集まって食べられるもの買ってきたんです!」

「とりあえず上がって貰えば?」

「そうね、入っていいわよ」

 

 お邪魔しますと皆が入ってリビングの人の数は増える。

 

「さて、さっきの話の続きをするか。今井が新一をどう」

「その話はいいから!」

「今井さん……何をしようとしてたんですか………?」

「りんりん、目が怖いよ?」

「とりあえず現状を聞かせてください」

 

 〜少女説明中〜

 

「わかりました。では名護さんは今休憩中だと」

「ああ、理解が早くて助かる」

「それで今井さんは……」

「それ京の冗談だからね!?」

「ではこれからどうしますか?」

「とりあえず体拭かせないとな。汗が出るのはいいがあのままだと新しく風邪をひきかねん」

「じゃあ私がいくわ」

「わ、私も、行きます!」

「じゃああこも!」

「そんな大人数で行ったら名護さんが驚いてしまいます。ですから二人に任せましょう」

「あこと紗夜はこっち手伝って。晩御飯も作っちゃいたいから」

「わかった!」

「じゃ、そういうことで各自仕事開始だな」

「京はどうすんの?」

「俺はゆっくりしてる……つもりだったんだけどな、仕事が入ったからここまでだ」

「頑張ってね京ちん!」

「お、おう」

 

 京は微妙な顔をしてスマホを取り出す。一方私と燐子は洗面所にバスタオルを取りに行ってから新一の部屋に向かった。

 

「燐子、そのカバンは?」

「な、何かの役に立ったらなぁ…って……」

 

 病人に対して役に立つものが入っているのだろうか。それにしては物がたくさん入っている音が聞こえるけど。部屋に入ろうとすると中からドテンと音がする。急いで開けると床で倒れている新一の姿があった。

 

「何してるの!?」

「あ、あの、ただ休んでいるのも窮屈なので勉強しようかと教科書を取ろうとしたのですが…」

「びょ、病人は休まなきゃ……ダメ………!」

 

 病人を引きずってベッドに戻して事情を話す。しばらく考える様子を見せたが上半身だけという条件で汗を拭くことになった。

 

「私が拭くから燐子は替えのパジャマ用意してもらえる?」

「わ、わかりました…」

「クローゼットを開いて、タンスの一番下の段に入ってるよ」

「う、うん………」

「さぁ、あなたは脱ぎなさい」

「ぐ、やはり脱がないと駄目ですか?」

「当たり前じゃない。脱がないと拭けないでしょう」

 

 渋々といった感じで脱ぐ新一の体を見ると鍛えられているのがわかった。細身とは思えないほど筋肉がしっかりしている。しかしパッと見分からなかったが細かい傷がたくさんあった。でもそれよりも目立ったのは左肩にある一閃の傷。綺麗な線だがそれ以上のものを感じた。

 

「すみません、お見苦しい体を」

「いいえ、それよりこの傷…」

「ああ、これですか?例の蠍にやられたんです。家族が皆死んだ後に近づいてきて」

「ごめんなさい……」

「お嬢様が謝ることじゃありませんよ。それより……」

 

 新一が顔をある方向へ向けると燐子が写真を撮っていた。画像を大きくしているようだが何度も連写していた。

 

「ご、ごめんなさい!不謹慎だよね……」

「ううん、大丈夫。でも写真なんて撮ってどうしたの?」

「筋肉……すごいなって………」

 

 それにしては顔がいつもの燐子じゃない気がする。とりあえずそれを無視して体を拭いていると本当に傷だらけのことに気づく。肌の色は白に近いのに傷だらけで心配になる。本当にこの人のことを知らない。そして本当に頼りっ放しだった。やがて拭き終えるとさっぱりした感じでお礼を言ってくる。

 

「ありがとうございます。体が少しスッキリしました」

「そう、少しは役に立てたのね」

「いえいえ、お嬢様はすでに頑張ってくださいました。では下は」

「下は私に任せて……!」

「何を言ってるの燐子?」

「いえ、病人なら大変かなって」

「いや、そこは流石に申し訳ないし多少は動けるようになったから……ってズボン引っ張らないで!」

「大丈夫、今日はずっと面倒見てあげるから…!!」

「りんりん目が怖いよ!何かしたなら謝るから!」

 

 少し強引に攻めていく燐子VS弱体化しながらも必死に足掻く新一。この戦いは紗夜たちの登場によって中断された。帰る頃には燐子も戻っており一体何が起きていたのか理解出来なかった。

 翌日新一は回復して普段通りの仕事をしている。だが今回のことで痛感した。私も多少は家事が出来るようにならないとまた新一に迷惑をかけてしまう。だから少しずつでも始めてみようかと。




後日
「ねぇ京君、あの日りんりんが怖かったんだけど何か吹き込んだ?」
「いや特には。ただ」
「ただ?」
「男は病気の時たまりやすいし今ならチャンスだぞ、って送っといた」
「何が溜まるのかはわからないけどこれ見て」
「嘘だろ………」
「皆が部屋を出て行った後に気づいたんだけどさ、着替えのすぐそばに落ちてたんだよね………おしゃぶり」
「すまん、俺が悪かった」


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第二話 こんなところ人生初なんだからもっと前に教えてよ

評価10貰えました!ありがとうございます!これからも精進して参ります。
それはそうと……ストックが尽きそうです


 秋も中盤に差し掛かる十月十五日の土曜日。普段なら練習に付き添って夕飯の買い物をして仕事しての日々だっただろう。だけど僕達は今、結婚式に出席しています。

 同行者はお嬢様とりんりんの二人だけ。紗夜さんは家の用事、リサはバイト、あこちゃんは巴さんとお出かけで来れなかった。

 しかしなぜこんなことになっているか、それは数日前に遡る。

 

〜数日前〜

 

 新生活が始まった翌日、一条さんが書類を家に運んできてくれた。本当に仕事が早いなと思った。

 

「新一様、取引の書類です」

「ありがとうございます。いろいろ頼んでしまって申し訳ありません」

「いえ、お役に立てているのでしたら」

「何か恩返しが出来ればいいんですが」

「お気になさらなくて大丈夫ですよ」

「もし、僕にできる範囲であればお手伝いさせてください」

「それならこれを受け取ってください」

 

 差し出されたものを受け取って確認すると真っ白な封筒だった。中には紙が一枚入っているのが透けて見えた。

 

「これは?」

「今週末に行われるパーティーの招待状です」

「へー、でもいいんですか?僕に渡してしまって」

「ええ、むしろ受け取ってください。今週末は空いていらっしゃいますか?」

「お嬢様に確認を取れれば行けると思います」

「行ってもいいわよ」

「よろしいのですか?」

「問題ないわ」

 

 お嬢様の言葉を聞いて一条さんはニコニコしている。そんなに嬉しいのだろうか。

 

「でしたらぜひ、他の皆さんもお誘いしてください。お待ちしてます」

「何人まで招待できるんですか?」

「新一様を入れて六人ですね。席は用意しておきます。そろそろ時間ですのでお先に失礼します」

 

 最後の方は早口になっていたがきちんと例をして家を出ていく。一体どうしたのだろうかとお嬢様と顔を合わせつつ中身を開いて詳細を確認する。中には結婚式及び結婚祝賀パーティーへの案内と書かれた紙が入っていた。

 

「結婚!?」

 

 思わず声を出してしまったお嬢様は驚きながらも近づいて紙を確認する。そのまま読んでいくと日程と時間が書かれていた。

 

〜数日前・終〜

 

 正直結婚式に参加できるような服装は持っていなかったため急いで準備した。勿論二人の分も僕が支払って用意した。偶然にもサイズが合っているのが合ったからよかったもののもう少し早めが良かったと思う。先日熱を出したのも用意が終わってからで本当に助かった。

 式場に入る前に看板を確認したが一条さんともう一人知らない人の名前が書いてあった。今思えばあの時嬉しそうにしていたのは自分の結婚式だったからなのだと理解する。

 

「し、新君………私たち、本当に来て良かったのかな?」

「うーん、問題ないと思うよ」

「で、でも、なんか凄そうな人……いっぱいだよ?」

「そうね。見てて只者じゃない雰囲気があるわね」

 

 参加者の方を見ると過半数が知っている人だった。もう半分は新婦側の親族とかだろう。知っている方は見たことある人しかいない。今は黙っておとなしくしているが喋り出したらとんでもないこと言いそうな人ばっかりだ。

 

「あ、あの人……」

「え、どれ?」

「あの女の人………」

 

 りんりんの指差す方には夏に屋敷に行ったときに対応してくれた人がいた。目線が合うと軽く会釈してくるのでこちらも同じように返す。

 

「新一の知り合いが多いの?」

「ええ、まぁ」

「そう」

 

 周りの人を調べるかのように見ているお嬢様のドレスを見る。やはりこういうところの服装は似合っているなと考えていると値札がついているのが見えてしまった。他の人には見られていないかが心配になったが今は撮る方が優先だと手を伸ばす。

 

「お嬢様、首元少し失礼します」

「え?」

「終わりました」

「何かついていたの?」

「値札カードが付いていましたので」

「どうやって取ったのよ」

「こう、手刀みたいにスパッとですね」

「そう………」

「ドレス、よく似合ってますよ」

「あ、ありがとう………」

 

 値札カードはポケットの中にしまって前を向き直す。念のためりんりんの方も横目で見るが問題はなかった。視線に気づいたのか目を逸らしている。慣れていない格好で恥ずかしいのかと思っていると会場は静まり返った。

 

「皆様、大変長らくお待たせしました。新郎新婦のご入場です!」

 

 扉が開かれると同時に会場にいるゲストが皆拍手する。扉の向こうから現れた真っ白なタキシードを着た一条さんの顔はとても晴れ晴れとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから色々なプログラムを終えて今は食事と歓談の時間になっている。周りに既にベロベロによった大人たちがいっぱいる。そんな中新郎新婦は僕たちにいるテーブルに着いて共に飲んでいる。

 

「本日はご招待を受けていただきありがとうございます」

「ご結婚おめでとうございます。まさかいつの間にこんなことになっているとは」

「新一様を驚かせようと思いまして」

「だとしてももう少し早く教えて欲しかったですね」

「もしかしてそちらがあなたの尊敬している方?」

「はい、彼が私の元主人名護新一様です」

 

 新婦の女性がやってくる。パッと見た感じ外国の女性に見える。お嬢様と同じくらい長い髪に綺麗な水色の目をしている。どっかで見たことがあるなと考えていると声をかけてくる。

 

「初めまして、名護様。私、ソニア・V(フォン)・ヴァンハイム……いえ失礼しました。ソニア・V・一条と申します」

「こちらこそ初めまして。名護新一と申します。この度はご結婚おめでとうございます」

「やはりあの時の方ですね」

「ヴァンハイム……もしかしてご当主様の名前って」

「はい、ルーカス・G(グロウ)・ヴァンハイムです。今はあちらにおられます」

 

 ヴァンハイムさんはドイツの有名な会社の方だ。出資をしてくださっている会社の一つでもある。他にも色々と手伝ったりする上で何度か会談をしたがとても高貴な人だったのを覚えている。どこかで見たことあったのは彼の屋敷で見かけたからだろう。

 

「ヴァンハイム家の御令嬢でしたか」

「はい!ですがもうこの方の妻ですので」

「一体いつからお気にかけていたのですか?」

「そうですね、10年くらい前でしょうか。名護様がうちにいらっしゃった時に見かけて、その時一目惚れしてしまいまして」

 

 それから話を聞いていたが彼女はその時は七歳で結婚などといっても信じてもらえないと考えてずっと花嫁修行をしていたらしい。というか話を聞いて気づいてしまった。この人たち十歳差の結婚だ。ということはおそらくソニアさんは同い年だろう。しばらく談笑すると他のところにも挨拶しにいくとのことで二人は席を離れていった。緊張していたのかりんりんが大きく息を吐いた。

 

「大丈夫?」

「う、うん……緊張しちゃって………」

「そんなに緊張したかしら」

「お嬢様は大丈夫ですか?」

「問題ないわ。それよりあの人私たちと同年代なのね」

「そのようですね。向こうの国がどの年齢で結婚できるかは知りませんが日本では大丈夫でしょう」

「日本は16歳からだもんね……」

「じゃあ私たちは結婚できるの?」

「そうですねお嬢様達なら」

「新一は?」

「友希那さん……男の人は、18歳からです………」

 

 へぇと興味があるような顔をしている。というより知らなかったのだろうか、いやこの人なら知らなくて当然かと流しておいた。とりあえず一息しようと飲み物を飲むと猛々しい人がやってきた。何やら手には黄色いシュワシュワしたものを持っている。

 

「坊っちゃん久しぶりー!」

「伊達さん、お久しぶりです。………もう出来上がってますね」

「すまない、控えるようには言ったんだが」

「何言ってんだよはしもっちゃん!あの一条が結婚したんだぞ!?飲まなきゃダメだろ!」

「橋下さん、お疲れ様です」

 

 目の前の殲滅部隊隊長はすでに酒によっており、それに呆れている目付け役は申し訳なさそうにしている。

 

「この人たちって………」

「おっ、嬢ちゃんたちも久しぶりだな!元気にしてたか!」

「は、はい…」

「伊達、怯えてるじゃないか。すまないこんな奴連れてきて」

「いいえ、お祝いなんですから大丈夫だと思うわ」

「感謝します。さすがは主の主だ」

「もしかしてこの人たちも」

「はい、名護家の関係者です」

 

 やっぱりかという顔をする二人を見ると関係者二人は一瞬真面目な顔になる。だがすぐに笑って受け流す。

 

「なんだぁ坊ちゃんもう話したのかぁ」

「まぁいつかは話さねばならないことだしな」

「嬢ちゃんたち、坊ちゃんのことよろしくな」

「はい!」

「ええ!」

 

 なんだか恥ずかしいなと思いつつも二人に感謝すると酔っ払いがとんでもないことを口走った。

 

「そんでどっちが坊ちゃんの彼女なんだ!」

「ブフッ!?」

「「!?」」

「こら伊達!」

「え?ちげぇの?もしかして二人ともだったりか!コイツァ失敬、坊ちゃんもスミにおけねぇなぁ!!」

「すみません橋本さん、その人連れてってください」

「御二方、申し訳ない。この詫びはいつかする」

 

 酔っ払いは気絶させられて扉の向こうへ連れて行かれた。隣を見ると訳の分からない顔をしているがもう一人の方を見ると顔を真っ赤にしていた。誤解されないようにするために一度席を外してバルコニーの方へ出る。この会場広すぎるだろと思いつつ外でグラスに入っている飲み物を飲むと足音が聞こえてきた。その人物も疲れたようにため息をついている。

 

「お疲れ様です一条さん」

「ありがとうございます新一様」

 

 軽く乾杯をしてグラスの中を飲み干す。一条さんの顔を見ると少し赤くなっている。酒は飲める人だが他の人に飲まされたのだろうか、少しお酒の匂いがしてくる。

 

「飲みましたか?」

「まぁ…それなりに」

「新郎というのも大変なのですね」

「そうですね………ヒッグ」

 

 酔ってんなぁと思いつつ空を見上げると三日月が頂点に達していた。

 

「新一様だって、いつかはこういう目に遭いますよ」

「果たして、その日は来るのでしょうかね」

「どうしてです?私でさえ結婚できているのです。貴方にはそれ以上の幸せを受ける義務があるはずです」

「どうでしょうね。僕の手はもう、こんなに汚れています。こんな僕が幸せになる資格なんてあるんですかね」

「それでしたら私も同じです。ですが私は信じています。人には、幸せになる権利が必ずあることを。特に貴方のような人のためにたくさんの時間を費やしてきた人には」

「ご冗談を……」

 

 果たしてどうなのか。人のために費やしてきたかどうかはわからない。結局あの時何のために僕が動いていたのか今ではわかっていない。人を殺した時も何のために戦っているのかを忘れることがあったくらいだ。特に今は自分のために生きているのだから。

 

「冗談などではありませんよ。もっと自分を大切にしてください」

「それは………」

「さて、酔いが覚めたので私は中に戻ります」

「珍しいですね。ちゃんとした答えを残さないなんて」

 

 会場に戻る一条さんの背中を見送りながら言葉を投げると少しだけ振り向いて悪戯っぽい顔をする。

 

「ちょっとだけ、意地悪させていただきますね」

「なんですかそれ」

 

 ふっと笑うと中に戻っていった。実はまだ酔いが覚めていないではないのだろうか。そう思っていると入れ違いでお嬢様がやってくる。

 

「お疲れ様ですお嬢様」

「ええ、お疲れ様。一条って人とすれ違ったのだけど、何を話してたの?」

「……色々ですよ」

「そう………あの人たち、幸せそうだったわね」

「そうですね」

 

 気遣ってくれたのか話題を変えてくれた。でも実際見ると幸せそうだった。今もガラス越しに笑っている彼らの姿が映っている。まさかあの話がちゃんと進展して結婚までなるとは想像もしていなかったけど。

 けど、あの人なら結婚して幸せになる以上の権利がある思う。それくらい戦場にいるのがおかしいくらい優しい人だ。

 

「新一も結婚したいの?」

「いえ僕は別に」

「あっさりしているのね」

「……僕には幸せなんて、今で十分ですよ」

「今?」

「お嬢様に認めてもらえて、皆の幸せを堂々と守っていける。それだけで僕は幸せです。勿論、陰で戦っているのも悪くはありませんでしたけどね」

「あなたって人は………」

 

 お嬢様は言葉に詰まったのか何か考える様子を見せている。しかし一瞬冷たい風が吹いたせいで寒そうに体を抱えている。上着を脱いでお嬢様に羽織らせて一度中に入ることを促す。素直に従ってくれたお嬢様は先に中に入る。

 僕も続いて入ると中は外に出る時よりも盛り上がっていた。流石に一人だったのはキツかったのだろうか、りんりんが早足で近づいてくる。

 

「変なことされなかった?」

「うん、大丈夫……あの人がいてくれたから………」

新一様(マスター)、お久しぶりです」

「久方ぶりですね。この子の事、二度もありがとうございます」

「いえ、私もお話しさせていただいていますので」

 

 少しだけ笑うとすぐに何処かへ行ってしまった。何かと世話になっているなと思いつつ時間を確認すると既に八時になっていた。夕方から始まったもののもうこんな時間かと二人に声をかけて会場を出る準備をする。最後に新郎新婦に声をかけて会場を去っていく。会場の近くから出ているバスを捕まえて乗り込む。幸いにもバスで一本、降りたら少し歩くだけだったのですぐに来たのは助かった。

 

「凄かったね…結婚式………」

「そうだね。僕もああいうのは初めてだよ」

「そうなの?」

「はい。あった事と言えば…戴冠式という名の就任式ですね」

「よくわからないわ……」

「今は分からなくてもいいかもですね」

 

 こういう言葉を知ってそうなりんりんから何かレスポンスがあるかと思ったが数秒経っても何もなかったのでチラッと見てみるとすぅすぅと静かに眠っていた。そして今更気づいたが肩に頭を乗せられている。これじゃあ姿勢を直したりとかは出来そうにないと思いつつ暫くバスの旅を満喫した。

 バスを降りた後は起こさせないようにおんぶしながら家まで連れて行った。精算の時にICカードを手に持っていてくれて助かった。道中でのお嬢様の言っていた意味はわからなかったけど。

 

「大きいわね…」

「何がです?」

「なんでもないわ」

 

 送り届けた時にお母様は笑っていたが何かあったのだろうか。なんとか送り届けた僕達はそのまま帰宅した。




一方その頃弦巻家

「快斗ー!見て見てー!」
「おー?どうしたこころ。面白い物でもあったか?」
「見てこのヘビさん!おっきいの!」
「らぶーこぶー」
「(いやおっきいどころの話じゃねぇだろ!?)でっけえな、どこで拾ってきた?」
「帰り道で見つけてきたの!飼えないかお父様に聞いてくるわ!」バビューン
「ゑ?おい待て、絶対無理……ってやっぱ速いな……」
「こぶー待てー」トコトコ
「(お前は遅いのかよ。てか心なしかこころの声に似てるような……こころだけに?)ん?どうしたこっち見て」
「らぶーこぶー、クズー」
「は!?」
「ザコー」ビューン
「薄々思ってたけどあいつ喋れるだろ絶対!てかなんで急に早くなった!?」ダッ


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第三話 happy birthday our pianist

Re:ゼロコラボは皆さん回しましたか?自分は大爆死しました。運営さんを許せないのでアークに接続してきます。
というわけで今回はコラボ回です!


 今日は新カバー楽曲の練習もあって長い時間練習を行っています。と言いたかったところなのですがそれはもう三十分前のこと。今はRoselia全員で弦巻家に連れてこられています。

 

「一体なんでこんなことに…」

「いいじゃない紗夜!」

「悪いようにはされませんよ、きっと」

「きっととか言わないでくださいよ新一さん」

 

 長い廊下を談笑しながら歩き続けている。やがて止まると大きな扉が開かれる。中には撮影に特化した設備が整っていた。

 

「こんなところで何するの?」

「撮影よ!」

「撮影……ですか?」

「Roseliaの皆さんが新しいカバー楽曲をやっているって聞いてどうせならMV的なの作ろうぜって感じっす」

「でも衣装は」

「既に作り上げております」

 

 突然現れた黒服の皆さんは手に袋を持って一人一人更衣室に運んで行った。それを見届けた僕達は暇だしお茶でもするかと聞いた瞬間快斗君に紙袋を押し付けられた。

 

「何これ?」

「新一の分よ!」

「なんで僕の分を?」

「いやぁ、普段の服でもたいして変わらないと思ったんですがせっかくですし」

 

 断ろうとすると黒服さんにがっしり掴まれて更衣室に連行された。無理に逆らうわけにもいかないので大人しくいうことを聞いた。

 中には白っぽい服が入っていた。さっきは大して変わらないといっていたが色が違うから大きく変わるんじゃないかと思いながら着替える。サイズはピッタリでいつ調べられたのかふと気になったがここで気にしたらおそらく命はないと感じて胸の内にしまっおいた。

 室内に備えられていた剣(おそらくレプリカ)を腰の剣帯に通してカーテンを開けて下の場所に戻ってきた。

 

「おかえりなさい新一!似合っているわよ!」

「流石っすね。白騎士って言われているだけある」

「ハハ、褒め言葉として受け取っておくよ」

「ま、じきに他の人も来ますよ。ほらきた」

 

 足音のする方を見ると紗夜さんがこちらに向かって来ていた。肩を出してポニーテールにしているメイド姿だった。

 

「なんでこんな服が入っているんですか!?」

「氷川先輩似合ってますよ」

「とってもかわいいわ!」

「普段では考えられないけど……凄いね」

「何見てるんですかっ!?」

 

 体を隠すように後ろを向く紗夜さん。それが逆の効果をもたらした。表より後ろの方が露出が多かったのだ。おおーと主犯格達は拍手している。普段の紗夜さんなら機内であろう格好に正直驚きを隠せない。でも家で来ている可能性も…?いやそんなことないかと否定すると今度は別の足音が聞こえてきた。あこちゃんとリサだ。あこちゃんはもこもこして暖かそうな格好なのに対してリサは風通しが良すぎて寒そうにも思える。

 

「二人ともよく似合ってるよ」

「ふっふっふ、妾は大魔姫あこなるぞ!我が…えーっと」

「うん、言いたいことは伝わった」

「姐さんは普段おしゃれしているせいか余裕そうっすよね」

「いや、少し寒かったりもするけどこれくらいなら我慢できるよ」

「寒いんだったらこれ着たら?」

 

 羽織っていたコートを着せて寒さを少しでもなくせるようにできないか試みる。しかし感謝されるどころか睨まれてしまった。

 

「あちゃー、新一さんわかってねぇなぁ」

「え、何が?」

「なろう系主人公じゃないんすから」

 

 なろう系主人公……最近京君が読んでる本かな。異世界転生ものが面白いとは言ってたけどどういう風な物語なんだろ。

 

「騒がしいわね」

「お待たせ……しました………」

 

 やってきたお嬢様たちの方を見ると二人の衣装も意外なものだった。りんりんは紗夜さんと似たような格好だったが明らかに違う部分があった。体の方も見ようと視線を落とすと箒の取っ手が襲いかかってきたが顔面ギリギリで止められた。

 やはり服の構造はあまり変わらない。顔の方に視線を戻すと箒の力が弱まったので手を話した。そのままお嬢様を見ると袖が異様に大きいのに気付く。ただし本人は特に苦にはなっていない様子なので気にしないことにした。真っ白の上に薄い紫色が乗った衣装だった。

 

「寒くありませんか?」

「ええ、大丈夫よ。それよりあなたの方が寒そうだけど」

「寒さには慣れておりますので」

「そろそろ撮影なので一度マント着てください」

「あっ、はい」

 

 リサからコートを返してもらいそれを羽織ると周りから感嘆の声と拍手が聞こえる。

 

「新兄本当にナイトみたい!」

「そう?」

「騎士みたいですね。ですがこの衣装って何か共通点があるのでしょうか?」

「多分『Re:ゼロから始まる異世界生活』のキャラクターに沿って作られたんだと思います……今やっている曲もそうですし」

「Paradisus-Paradoxumのことかしら?」

「はい……」

「となると誰が誰になってるの?」

「えっとですね………」

 

 スマホを取り出したりんりんは順番にキャラクターを指し示していった。答えとして

 お嬢様  →エミリア

 リサ   →フェルト

 あこちゃん→ベアトリス

 紗夜さん →ラム

 りんりん →レム

 僕    →ラインハルト

 となっているらしい。彼女らに一番近いのはナツキ・スバルなのではないかと聞いたが剣が得意なのだからラインハルトになれるとのことだ。あとスバルみたいなリアクションを取るタイプではないと言われた。

 

「でも……新君ならユリウスもできそう………」

「ゆりうす?」

「精霊騎士の人っすね。剣と魔法どっちも使えるんすよ」

「何それチートじゃん」

「いや新兄が着てるラインハルトの方がちょー強いからね!?」

 

 原作を読むととんでもない斬撃波を出したり腸狩りと互角に戦っているらしい。腸狩りならまだ戦えるかもしれないけど………。

 

「でっかい斬撃はは出せないよ」

「むしろ殺人鬼と戦えるっていってる方もやばいからね?」

「ますます常人とは思えません……」

「それよりあなた達、今日は撮影(?)なのでしょう?」

「あっ、はい。記念的なものなので気軽にやっちゃってください」

「皆の楽器はもう運んであるわ!」

 

 緑色の壁の方を見るとすでに準備は整っていた。それぞれが配置について軽く準備する。

 

「準備いいですかー?」

「いいわよ」

「それじゃあいくわよー!」

 

 御令嬢の声と同時に撮影が始まった。まず全体の映像に使われる演奏しているシーンを撮り、その後に各自が動く部分を撮っていく。僕も監修(?)の立場でついていき、映像作成に協力した。皆、笑顔を作るのに困ったり動きで悩んだり色々としている。休憩する人たちに実際どんな感じか聞くと結構大変らしい。でも楽しいからいいらしい。

 

「次新一さんのシーンですよ」

「なんで僕?」

「さっき友希那先輩が新一も撮るわよねって圧かけてきたんで」

「負けないでよ」

「無理っすよ」

「そんなぁ」

「やりなさい」

「私たちだけやるのは不平等です」

「わ、わかりました」

 

 まさか紗夜さんにまで言われるとは思いもしなかった僕はどういうふうに撮るのかを確認してからカメラの前に立つ。話の通りだと剣を自分の前でゆっくり抜いていくらしい。言われた通りやるとすぐにカットされた。

 

「新一さんもっとかっこよくお願いします」

「か、かっこよく…わかった」

 

 テイク2を撮ると今度はグリップに手をかけた瞬間止められる。

 

「今度はどこがダメだったかな?」

「目つきがダメっすね」

「目つき?」

「もっと剣聖らしい目をしてください」

「りょ、了解」

 

 目つきに意識を持たせつつテイク3を始めると開始一秒も経たずに止められた。

 

「いや早くない?」

「新一さん、もっと笑顔で!」

「そんなに出来てない?」

「もっとスマイルが必要よ!」

「でも笑い過ぎないでくださいね。イメージ崩れると大変なんで」

「撮影って難しいんだね……」

「そうだ!新一さん一回戦闘の時の顔つきになってくださいよ」

 

 なるほど、剣聖なら戦うものだからそういうふうに考えるとやりやすいのか。一理あるとすぐに顔つきを変える。そのまま笑みを作るように指示されて撮影は始まった。このテイクで決着がつき僕は元の職についた。

 全ての撮影が終わると最初にいた部屋に戻ってきた。

 

「終わった〜!」

「なかなか貴重な体験でしたね」

「大変だったけど面白かったね〜」

「楽しかった………です」

「そうね、たまには悪くないかもしれないわね」

「完成したのは後日皆に渡すわ!」

「ありがとうございます」

「あとは皆自由にしていいわよ♪」

 

 こころさんは鼻歌を歌いながら部屋を出ていく。快斗君もそれじゃといって姿を消した。とりあえず全員椅子に座って休憩する。

 

「それにしても新兄結構言われてたね」

「そうだね。結構難しかったかも」

「苦手なものがあったんですね」

「というより慣れていなかったが正解じゃない?」

「そうかも。剣聖ね……」

「どうか…したの……?」

「いや、この名前なら僕よりもぴったりの人がいるはずなんだよなって」

「え、誰のこと?」

「一条さん」

「あの人ですか!?」

 

 あの人確か最終奥義かなんかでめっちゃ早くなるから風の剣聖とかいう渾名つけられていた気がするんだよね。実際見たことあるけど反応するのに精一杯だった思い出がある。

 

「まぁその話は置いといて」

「その話したのは名護さんですけどね」

「どうせならここでりんりんの誕生日会やりませんか?」

「そうだね、自由にしていいって言ってたし♪」

「あこもさんせーい!」

「でもケーキとかはどこにあるの?」

「それなら僕がクーラーボックスに入れてたけど多分」

「名護様、お持ちしました」

「そうだろうとは思ってました」

 

 何気ない顔で小型クーラーボックスを僕に渡すと手紙を添えてすぐに部屋から出て行った。手紙には帰る際には呼んでくださいと書いてあった。

 

「なんで対応出来てるんですか」

「慣れ……ですかね」

「えぇ……」

「あ、あの皆さん……いいんですか?」

「勿論♪元々スタジオでやる予定だったし」

「せっかくだからこのままやろうよ」

「面白そうね」

「湊さんが言うなら………」

「ということで」

「りんりん(燐子 白金さん) happy birthday!」

 

 配ったクラッカーを皆で鳴らして誕生日会を始める。各々がプレゼントを渡していく。

 今回は僕もちゃんと用意してある。前回はゲテモノを見るような目で見られたので今回はちゃんとものにした。鍵盤を模したキーホルダーだ。この前ショッピングモールに出た時にたまたま見かけて気にいるだろうなと考えて購入した。

 

「はい、誕生日おめでとう」

「ありがとう……ピアノ?」

「うん。これなら気にいるかなって」

「ありがとう………」

「まともなものを選べるんですね」

「あの時はまだ未熟でしたから。これでも成長してるんですよ」

「それは感心ですね」

 

 少しは印象が改善されたようだ。それからはお茶会のような空気になった。皆でケーキを食べながら談笑に耽っている。

 

「りんりんの十七歳の目標は?」

「えっと……技術を上げることと、もっと前を向いていけるようになることかな」

「おおー」

「燐子ならすぐに叶いそうね」

「そうですね」

「そんなこと……」

「それにしても燐子って大きいよね」

「そう…ですね……」

「新兄はどう思う?」

 

 何がだろうか。一度左隣にいるりんりんの方を見てみるが本人は顔を赤らめている。おそらくこの部分だろうとは思うがデリカシーの問題もあるため知らないふりをしておく。

 

「何が?」

「りんりんの胸のこと」

「あーなるほど」

「新一は大きい方が好きなの?」

「うーん……どうだろ」

「え?」

「実際大きいから何が得になるのか、またそれによるデメリットって何かなって思って」

 

 自分の中の疑問をオープンにすると右側から強く背中を叩かれる。

 

「名護さんはそこまで気付いているのですね。見直しましたよ」

 

 叩いた部分をさすりながら紗夜さんは笑顔で言ってきた。何を考えているのかわからないため何も言わずにただその状況を飲み込んだ。

 

「でも何食べたらこうなるんだろうね」

「その話はやめとこう。本人が赤面しちゃってるし」

「気になるところだけど今度にしましょうか」

 

 その後もしばらく雑談をして時間を見計らって片付けをすると黒服の人達が入ってきた。結局のところ言わなくても来てくれるのだから助かっている。本当、どこから見てるんだろう。

 各自解散になった時にメッセージが送られてきた。送り主はりんりんでまた時間がある時に家に来て欲しいとのことだった。なぜか一瞬危機感を覚えたがお嬢様に確認すると許可をもらえたので了承のメッセージを送る。

 その後すぐに返信が来たのだが普通に『よかった』と送られてきただけなのに何故か背筋に悪寒が走った。よくよく考えてみると最近のりんりんの行動は怖い。少しだけ警戒しておくべきだろうかと布団に入ってから少しだけ考えて今日は寝た。

 



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第四話 発見の次って変なこと起こるよね

 ある日の休日、表でも動けるようになったこともあって今日は弦巻家の施設で模擬戦を行っている。

 

「そらっ!」

「ヘヤッ!」

 

 因みに今は快斗君と京君が戦っている。京君の弾丸を快斗君が投げナイフで対抗して接近戦に持ち込んでいる。二人とも殴り合いは得意のようでいい勝負をしている。だがある程度すると互いに拳を近づけて終わらせた。

 

「また引き分けか」

「そろそろ一発決め込みたいな」

「新一さんなんかアドバイスありませんか?」

「そうだね………」

 

 さっきの戦いを思い出しつつ快斗君が得意そうな戦法を考える。あまり僕自身が知らないことが頭をよぎったので逆に質問してみる。

 

「今快斗君が使えるメモリってどれくらいあるの?」

「そうっすね、ざっと15本くらいじゃないっすか?一気に使えるのはエターナルを除いて三本ですけど」

 

 持ち歩いてるであろうメモリをその場に座り込んで並べられる。ずらっと並べられるあたりすごいなと思ったがどこから取り出したのかは気になった。白いメモリは普段使ってるエターナル。永遠の記憶らしいが本人も本来の使い道はわかっていないらしい。だがもう一つ白いメモリがあった。表面にはZの文字が書かれている。

 

「これは何のメモリ?」

「ゾーンっすね。空間に干渉する?っていった方がいいんすかね」

「お前そんな言葉が使えるのか」

「バカにすんなよ。これでも高校生だぞ」

「そういやそうだったわ」

「うーん、あれかな。壁にパンチしたら床から出せたりとか?」

「多分できますね。ま、やってみた方がわかりやすいっすよ!」

 

 立ち上がった快斗君はすぐに変身してエターナルになる。ゾーンのメモリを持って二の腕にあるホルダーに入れると紫の線が宙に浮かび上がった。

 

「新一さんちょっと立ってみてください」

「う、うん」

 

 言われた通り立ち上がるといつの間にか部屋の端っこに来ていた。そのまま何回か部屋のどこかに行ったり来たりする。

 

「こんな感じで作り上げた盤面上なら好きに動かせます」

「こんな便利なものあったんだな」

「ねぇ、これって空中にも適用できる?」

「といいますと?」

「えっとね、部屋全体に盤面を引くイメージを持つの」

「やってみます」

 

 僕の移動を止めて集中し始めたようだ。手を横に広げて唸っている。閃いたのか手を合わせてパンッと音が鳴ると一面だった盤面が部屋全体に敷かれた。まるで紫のカゴの中のようだ。

 

「こんな感じっすか?」

「見事だよ、このままやってみよう」

「サンドバックおくぞ」

「ありがとう。快斗君、意識をそのまま保ったまま動ける?」

「いけるっす!」

「じゃあナイフを数本、サンドバックに当てるイメージで壁と天井に投げてみて」

「なるほど。そういうことっすね!!」

 

 理解したのか勢いよくナイフを左と上の壁に投げると正面の方にある壁と右の壁からサンドバック目掛けて飛び出して突き刺さった。どうやらちゃんとわかっていたらしい。

 

「お見事!」

「こんな戦法は思いつかなかったぜ」

「あれっすよね。何もないところからナイフを出して混乱させるトリックっすよね!」

「そういうこと。盤面に数字とかが出ているからわかりやすいけどなかったらちょっと計算が必要だね」

「空間図形っすね。俺数学苦手ですけど図形系なら得意っすよ!」

「謎すぎんだろ。てことは俺にも使えるわけか」

「そうだね」

「でもお前はまず二本同時マキシマムドライブができるようにならなきゃいけないな」

「そっからか」

 

 僕はメモリのことはよくわからないので詳しい話は二人に任せることにした。そのまま今日は快斗君の練習をして解散になった。お礼に飲み物を貰って飲み干したが訓練の後の炭酸はいいなと感じた。

 解散後はお嬢様を迎えにいく予定だったのでそのままスタジオに向かう。時間を確認すると少し早いとわかったのでエントランスで少し仮眠を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー、今日も疲れたね~」

「あこもうヘトヘトだよー」

「ですがその分以前より改善されたかと思います」

 

 練習が終えた私たちは掃除をすませてスタジオを出た。今日は紗夜とリサが会計をしてくれている。いつもなら遅くてもこの時間に新一が迎えにくるのだが姿が見当たらない。また戦っているのだろうか。

 

「りんりん見てみて、あそこで小さい子が寝てるよ」

「ほんとだ…なんでこんなところに……?」

 

 あこが指差す方を見ると幼い男の子がソファの上で寝ているのが見えた。よくみると可愛い顔つきをしているがこんなところで寝られるなんて相当眠いのだろう。でも何故か服は見覚えがあった。

 

「近くで見ると可愛いよ!」

「あ、あこちゃん、起きちゃうよ……(この子どこかで見たような……)」

「そうよあこ、もう少し静かにしてあげなさい」

「そういう友希那さんだって声大きいですよ」

「ん……」

 

 互いに注意していると男の子が起きてくる。回りをキョロキョロ見るとなにやら驚いている。

 

「あ、起きた!」

「えっ……」

「お待たせしました」

「何してんのー?って、なんでこんなところに小さい子がいるの?」

「迷子、かもしれませんね」

「あっ、あの」

 

 口を開いたかと思うと体をビクつかせて一度黙り込んでしまった。けどすぐにこっちを見て話し始めた。

 

「ここはどこですか?」

「えっ、知らないで寝てたの?」

「うっ、お、おねーさんたちはだれですか?」

「私たちの事は知らなくて当然ですが……」

「あら?これって」

 

 男の子の横に置いてあったスマホを手に取ると見覚えがあった。電源をつけてみると雪の結晶の絵が描かれていた。

 

「どうかしたんですか友希那さん?」

「これ、新一のスマホだわ」

「え、でも新一いないよ?」

「けどこれは新一のだわ」

「ここに置いていったということでしょうか?」

 

 子供の方を見るとさっきよりおどおどし始めた。具合が悪そうというわけではないが挙動が増えた気がする。

 

「な、なんでおねーさんたちはぼくのなまえをしってるんですか?」

「「「「「え?」」」」」

「あなたの名前って」

「ヒッ」

「紗夜~?相手は子供なんだから怖がらせちゃ駄目だよ~?」

「い、いえ、そんなつもりは」

「ご、ごめんなさい。こわくないです」

 

 皆が紗夜に同情の目を向けている。流石に子供に同情されるのは傷付いたのか紗夜はダウンした。そんな紗夜を傍らにリサはしゃがみこんで新一(?)に話しかける。

 

「君の名前は?」

「な、なごしんいち、5さいです」

 

 絶句した。数時間前までは私よりも身長が高かった新一が目の前で小さくなっているのだ。理解が追い付けない私たちの中で一人納得した人がいた。

 

「だから……なんだ」

「りんりんどうかしたの?」

「どこかで見たことあるなって…思ってたんだけど……小さい頃の新君にそっくりなの」

「もしかしてりんりん?でっでも、りんりんはぼくよりもせがひくいし……おねーさん?でもそんなはなしきいたことないし……」

 

 小さい新一が頭を抱えて悩んでいる。やがてオーバーヒートしたのかふゆぅと倒れてしまった。

 

「わー!新兄しっかりして~!」

「あこ、ちょっと貸して」

 

 ぐらぐら揺らされてた新一を受け取ったリサは新一の頭を撫でながら声をかけていった。そのお陰もあってか新一は落ち着きを取り戻した。

 

「どう、落ち着いた?」

「う、うん」

「今井さん……ずるいです………私も……したいのに…」

「今はそんなことしてる場合じゃないわ、ッ!」

 

 突然鳴り出したスマホにびっくりする。手に持っている方を確認すると掛けてきたのは京だと分かる。何か知っているのかもしれないと出てみると聞こえてきた声は子供の声だった。

 

『おい新一大丈夫か!?』

「あなたは…?」

『湊か、新一はどうした?』

「今子供になってて大変なのよ」

『やっぱりか〜』

 

 事情を聞く京の方も大変なことになっているらしい。でもなぜ記憶があるのか聞くときっかけが思い出せるらしい。向こうはニュースの殺人事件を見て思い出したとか。一体どういうことだと思ったがこっちも何かアクションを用意しなければと動くことにした。でも何ができるか考えたところよくわからなかったので出たとこ勝負に出た。

 

「新一」

「はっ、はい」

「思い出しなさい。あなたは私の執事よ」

「え?」

「湊さん急にどうしたんですか?」

「何かきっかけがあれば思い出せるらしいわ。だから新一に関係する言葉を並べてみましょう」

 

 各自思い当たる言葉を探して新一に言っていく。

 

「仮面ライダー!」

「?」

「ヴァイオリン……」

「ひけるよ?」

「料理!」

「ぼくまだつくれない……」

「ここまでやっても無理とは……」

「では彼自身ではないものも含めて試してみましょう」

「そうね、じゃあ“Roselia”」

「ろぜ……りあ?うっ!」

 

 小さくなった新一は頭を抱えて唸り始めた。なにか引っ掛かったのだろうか。そのまま言葉を続けていく。

 

「あなたはRoseliaのマネージャーよ」

「ぼくが、マネージャー?」

「このまま勢いに乗れれば」

「いけるよ!」

「じゃあ友希那さん、そのまま歌っちゃってください!」

「何故?」

「ここまで来れば……あとはそういう刺激で戻せるのが………定番ですので………」

 

 言っていることはよくわからなかったがいう通りにワンコーラス歌った。歌うことに集中していたため最中の新一の様子はわからなかったが歌い終わると目を瞑って落ち着いていた。

 

「思い出せたかしら」

「───はい。思い出しました」

「えっ、じゃあもしかして」

「僕の名前は名護新一、十七歳。湊友希那お嬢様の執事です」

「戻ったー!」

「よかった………!」

「全く、人騒がせですね」

「申し訳ございません」

「とりあえず原因を突き止めましょう」

『それならもうわかったぜ』

 

 ポケットから新一のスマホを取り出すと通話中と表示されていた。切ったと思っていたが間違ってスピーカーの方をつけていてしまったのだろう。だけどおかげで話が効率よく進みそう。

 

「え、誰の声?」

『俺だよ俺』

「お嬢様、その電話詐欺です。すぐに切った方がいいです」

 

 可愛い顔していっていることは酷い。新一がしっかりしているからこういう反応ができるのだろうが話している相手はあなたの友人なのよ?

 

『詐欺じゃねぇよ、京だ京。仮面ライダースカルの京さんだよ』

「そんな自己紹介初めて聞いたけど京君なんだ」

『お前が記憶を取り戻してくれて助かったぜ』

「察するに京君も同じ状況?」

『ああ、そして犯人を突き止めた。あのバカだ』

「もしかして快斗君?」

『ああ、アイツの所の上司が直接来てるんだがアイツが渡してきた炭酸あったろ?それの中にこの薬が混じってたんだと』

「混ぜた犯人は快斗君…じゃないよね?」

『おっしゃる通りです。高城がやりました』

「黒服さんですか?」

 

 何故この人はすぐに誰か判断できるのだろうか。実はさっきのもわかっていた?でもそんな風には見えなかったし。……とりあえず置いておこうかしら。

 

『名護様、この度はこちらの馬鹿どもが失礼しました』

「いえいえ、誰にでも失敗はあるものですから」

『いえ、高城はわざとやりました』

 

 沈黙が訪れた。新一の優しそうな顔も真顔になっている。

 

「何の実験かは知りませんけど事前に話しておくよう言っておいてください」

『畏まりました。ご迷惑をおかけしました。それで元に戻す方法ですが』

「解毒剤があるんですか?」

『いえ、まだ試作品でしたので作っていないようです。ですが理論上明日の朝には元に戻っていると』

「すみません、プロフェッサーに言伝をお願いします」

『畏まりました。メモの準備はできていますのでいつでもどうぞ』

「くそったれ、と一言お願いします」

 

 愛らしい顔から出てきた言葉は笑顔で言えるものではなかった。それを笑顔で言った新一に耐えきれず皆笑うのを堪えている。

 

「以上です。とりあえず快斗君には厳しくしないであげて下さい」

『それなりの処罰はさせていただきます。この度は誠に申し訳ございませんでした』

「いえ、お仕事お疲れ様です」

『そういうわけだ新一。このまま大人しくしてようぜ』

「そうだね。それじゃあまた明日」

 

 電話を切ると新一はふぅとため息をつく。子供だからだろうか、普段と同じような仕草でも多少可愛く見える。

 

「さて、帰りましょうか」

「子供になっても切り替え早いね」

「人生切り替えだよきっと」

「五歳児に言われたくない言葉ですね」

「中身は十七歳です!」

「そういえば服はどうしたの?」

 

 謎が深すぎる質問をすると過信位置が座っているところに紙が落ちているのが気づく。それを見ると“我々の方で変えさせていただきました”と書かれていた。おそらく新一の言っていた黒服さんという人たちがやったのだろう。ソファから飛び降りた新一はドアの方へパタパタと向かう。

 

「どうかしたんですか?」

「い、いえ、なんでもないわ」

「し、新君、迷子になっちゃうよ……」

 

 何を心配したのか燐子はすぐに追いかけて新一の手を握った。遠くからと姉弟に見える。

 

「僕迷子にならないよ」

「……小さい子の手は握らなきゃ」

「面白そう〜アタシもやろうっと♪」

「リサまで何してんの!?僕子供じゃないよ!」

「何も知らない人からすればただの我儘の子供ですよね」

 

 そのまま帰路に入って家に帰った。小さい新一は頑張って家事をするもあまり出来なかったので私も手伝った。申し訳ないと言っていたが子供だし仕方ないだろう。この機会に私も少し学ぼうとした。

 一時はどうなるかと思ったがなんとかなって安心した。

 だがしかし、帰り道で別れ道に入った時、燐子が少しだけ渋ったのを私は今でも覚えている。



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第五話 NFO ねおふぁんたじーおんらいん 前編

お待たせしました!
二週間ぶりということで設定時間忘れてました……
幕間はまだ続きます、どうぞ!


「ネオファンタジーオンライン?」

 

 練習の休憩中にあこちゃんと話しているとゲームの話題を持ちかけられる。

 

「うん!りんりんもやってるの!」

「そうなの?」

「うん…いつもネットでやってるの……」

「ネットっていうことはパソコン?」

「うん!」

 

 パソコンは授業と資料制作でしか使ったことがなかったためゲームもプレイ出来ることを初めて知った。そして話を聞いていくと魔法や武器を使ってプレイするRPGらしい。ゲームはあまりしないので話を聞いていくと興味が湧いてきた。そして休み時間も終わり僕も夕飯の買い物に出た。商店街に向かうとすぐに魚屋さんが目に入る。

 

「今日の晩御飯は秋刀魚かな」

「カバヤキですか?それとも煮付けですか?」

「どちらも悪くないね……ってそうしたのイヴちゃん」

 

 活きの良い秋刀魚を探しながら考えていると後ろから声がしたため振り返ると制服姿のイヴちゃんの姿があった。放課後に会うのは何気に初めてかもしれない。

 

「私もお買い物です!」

「そっか、ちゃんと自炊してるんだもんね」

「はい!それでシンさんの晩御飯は何にするつもりですか?」

「そうだね、塩焼きにしようかな」

「美味しそうですね!他はどうするんですか?」

「昨日仕込んでおいた里芋の煮転がしがいい具合になっているだろうからそれと……あと豚汁かな。寒さも本格的になるしね」

「とても健康的ですね!シンさんは色々と作れるんですね」

「まだまだ修行中の身だけどね」

 

 その後に少し話しながら買い物をして解散した。今度剣道の稽古をつけてほしいとせがまれたが保留という形で流しておいた。第一できたとしてどこでやるつもりなんだろう。

 そのまま帰宅して晩御飯の準備を済ませるとちょうどのタイミングでお嬢様が帰ってくる。

 

「ただいま」

「おかえりなさいませ。晩御飯の準備がすぐに整いますがどうしますか?」

「……ねぇ新一」

「はい、如何なさいましたか?」

「一回やってみて欲しいのだけど」

「はっ、何なりと」

 

 告げられた通りの事をやろうとするが一度立ち止まり質問する。

 

「お嬢様、これは本来女の人…いえ、妻や嫁と言われる人がやる行為ではないのですか?」

「いいからやってみなさい」

「何故このような」

「ただの出来心よ」

「………わかりました」

 

 出来心ならやりたくはないところだがこういう時にこの人のお願いを断ると後々ツンケンした態度を取られる。そうなると少し厄介なので仕方なくやることにした。

 

「おかえりなさいませ。お食事にしますか?それともお風呂になさいますか?それとも……これ以上言う必要はないですね」

「なぜ遮ったの」

「いえ、僕を提示したところで何かあるわけではありませんし十中八九二つのどちらかなので必要ないかと」

「……つまらないわね」

 

 お嬢様は軽く舌打ちでもするかのようにリビングに向かっていった。ということはつまり食事を選んだのだろう。すぐに用意をして食事を始める。

 

「時にお嬢様、先ほどは何故あのようなことを?」

「京に言われたのよ。新一なら絶対やってくれるから頼んでみろって。きっと得られるものがあるはずだって」

 

 なるほど、納得がいった。後で京君にはお礼の電話をしておこう。変なこと吹き込んだ分はキッチリ落とし前つけてもらおう。

 

「ありがとうございます。納得がいきました」

「因みに新一に何かやらせてみたいと持ち込んだのは私よ」

「……左様、ですか………」

「それでなのだけど」

「はい」

「明日の放課後、Roseliaでネットカフェに行くことになったわ」

「それはまた急ですね」

 

 事の終始を聞いていくとどうやらあこちゃんがNFOでもらえるプレゼントが気になって練習に集中できなくなっているためせっかくだし皆でやろうということだ。断りきるかと思ったと伝えると最近時間の効率的な使い方に気づいたらしい。自分の主人が成長しているのを感じると嬉しくなる。夕食後片付けを終えて京君に電話をしてから残りの作業を終わらせた。

 そんなこんなで翌日になり僕達はネットカフェに来た。

 

「来ましたね、ネットカフェ!」

「僕初めて来たよ」

「そうなの?」

「うん、あまりこういうところに来る機会なかったから」

「あはは〜そうかもね〜」

「それでどうすればいいの?」

「パソコンのあるブースに座ってください。ここのパソコンにはNFOが最初から入っているのですぐにログインできますよ!」

「なかったらインストールするの?」

「うん…でも今回は大丈夫だよ」

 

 それぞれの席に座ってNFOの画面を開く。ログインと初回登録の表示がポップアップされ初回の方を選ぶ。するとすぐに名前を登録する画面が現れた。

 

「名前はどうしますか?」

「今回だけなら…個人の名前でいい……と思います」

「それもそうだね」

 

 一度シンイチと打ち込んでみるがふと思いつく。少し面白みに欠けるのではないかとなので少しだけ変えて名前の登録を済ませる。

 

「職業って何?」

「ゲームの中でも職業があって好きなのを選べるんだよ」

「警察とか?」

「ううん、剣士とかウィザードとか」

「それってシャバドゥビタッチするの?」

「新君……それ指輪の魔法使い………」

「なんでそういうのは知ってるんですか」

「京君が教えてくれますので」

「あの人一体なんなんですか………」

「それでどうすればいいの?」

「あこおすすめある?」

「そうだね〜リサ姉はヒーラーかな」

「ヒーラー?」

「皆を回復させる人のこと!」

「ん〜ならそれにしようかな。なんか向いてそうだし♪」

 

 それからお嬢様は歌を歌う役職である吟遊詩人、紗夜さんは引きつけ役になるタンクになった。僕は吟味してから決めようと思ったが職業画面を開いて目に入ったものに気を取られてすぐにそれにした。

 決める物は全て決まったのでログインすると村のような風景が描かれた画面になった。

 

「三人ともちゃんとログイン出来たね!」

「リサも出来たんだね」

 

 確認を取ろうとするとお嬢様と紗夜さんのチャットは起動されなかった。

 

「チャット機能使うことで話せるよ!」

「なるほど、少し難しいですね」

「nnn」

「お嬢様どうかなされましたか?」

「nihonngo ga saybere nai」

「少々お待ちください」

 

 席を立って隣の席に行くとキーボードを人差し指で操作しようとするお嬢様の姿があった。変換キーを押して試し打ちすると日本語になっているのをちゃんと確認できたので他に何かあったら呼んでくださいとだけ伝えて自分の席に戻った。

 

「出来たわ」

「よかったです。それにしても名護さんのその名前はなんですか?」

「確かにsin1って」

「そのまま読むと新一って読めるでしょ?ちょっと遊び心あった方がいいかなって」

「なるほど……それで職業はアーチャーですか」

「はい、弓には多少自信がありまして」

「本当ですか」

「はい、そういえばサヨさんは弓道部でしたよね」

「ええ、精神統一するのにいいので」

「わかります」

「皆ちゃんといるねー!」

 

 知らない名前がチャットに入って来たのを確認すると一部意外一瞬混乱した。えっと、聖堕天使?

 

「よかったーちゃんと入れて」

「えっと……」

「あこちゃんだよね?」

「そうだよーあこだよー!」

「宇田川さん…その名前は……」

「ふっふっふー、深淵の闇より出でし悲哀の翼。えーっと………生命の理を超えてババーンと舞い降りた聖堕天使、あこ姫!!」

 

 画面越しにおおーと拍手してしまう。人によってはそういうのもありなんだなと考える。まぁ僕がやることはないだろうけど。

 

「それより、ここはどこで、私たちは何をすればいいの?」

「あ、そうですよね。説明しますね( `・ω・´)ゞ

 ここは旅立ちの村といってNeo Fantasy Onlineの始まりの場所で小さな村なんですけど初めてゲームする人が絶対通る思い出の詰まった大切な場所で、この大陸、あ、フライクベルク大陸っていうんですけど、その最東端に位置するのが通称最果ての村とも呼ばれている所です('ω'*)

 フライクベルクは大陸中央でいつも戦争をしていてそこに近づくほど危険な場所が増えてくるんですけどそういう意味では旅立ちの村はゲームの中で一番安全な憩いの場所っていうかのどかな場所で、外に出ても危険なモンスターはほとんどいないし受けられるクエスト、これはゲーム内のお仕事みたいなものなんですけど、それも簡単で安全なものばかりだしゲームをあまりやったことがない人でもNFOの世界を楽しく体験できるようにちゃんと村の構造とかも考えられていてすごい良い所なんですよね( 'ω' )実はこの村も村長ダンケインさんはもともとこの世界では超有名な一騎当千の勇者だったんですけど彼がモンスターと戦ううちに大陸の至る所で人間同士でも争いが始まってしまって、それに巻き込まれる形で大けがをして戦えなくなってしまったんです(=ω=.)

 それでも悲願だったモンスターのいない平和な世界を作るためにこの小さな村からわたし達のような冒険者を何千、何万人と送り出して支援していて、あ、わたし達は今回そのダンケインさんの屋敷で下働きをしているジェイクさんという人から手紙を預かって、この村から西に少し進んだロゴロ鉱山のリンダさんに届けるのが目的なんですけど、さっきも言ったとおり村の近くは安全でも鉱山の奥にはちょっと危ないモンスターいたりなんかするのでちょっとだけ気をつけつつみんなでがんばりましょうね(oゝД・o)ノ」

 

 りんりんの説明を受けた僕達は絶句した。あまりにも早い文字の羅列スピードに一瞬置いてかれそうになった。資料を読む時は確かにその速さで読んではいるが相手が相手だったために遅れをとった。彼女の才能を発見したかもしれない。

 

「リンリンはキーボード打つのがうまくて、チャットがめっちゃ速いんだよっ!」

「そ、そんなことないよ(*ノノ)」

「あれ、みんなどうしたんですかー?」

 

 固まっているのも無理はない。こんなりんりん見るのは初めてだしたくさん話すのも珍しすぎる。とりあえず結論をまとめてジェイクさんのところに行こうとした瞬間ハープの音色が聞こえる。

 

「この音って」

「これって……歌スキル?」

「……って友希那さん、どうして歌スキル使ってるんですか?」

「知らないわ、ボタンを押したら勝手に出たの」

「もー何やってんの、ほらいくよ〜」

「これ、どうやって前に進めばいいの?」

 

 先が思いやられると思いつつも操作方法を教えながらジェイクさんのところに向かう。話しかけると聞いていた通り手紙を届けて欲しいと言われる。この人は何万通も手紙を出していると聞くが一体どうするのかとりんりんに聞くと冒険者の数だけ必要だから仕方ないとメタいことを言われてしまった。

 

「とりあえずジェイクさんの手紙を届けに行きましょうか」

「でももう少し経路について具体的に聞きたいですね」

 

 ジェイクさんにもう一度話しかけると同じ文章が返ってくる。何度も聞くが結局変わらなかった。

 

「おかしいですね、この人同じことしか言いません。よほど疲れているのでしょうか」

「NPCは同じことしか言いませんよ?」

「NPC?」

「簡単に言うとAIです。クエストを達成するまでは同じことしか言わないかと」

 

 じゃあこれがノンプレイアブルキャラクターってやつなのか。まさか京君が言っていた知識がこんなにも役立つ日が来るなんて思いもしなかった。ずっと同じ場所にいても状況は変わらないのでロゴロ鉱山に向かう。道中でレベル上げをしようと話していたがよくわからなかったのでそういうところから勉強しなくてはならないということがわかった。

 

「着いたことですしレベル上げしましょうか(^^)」

「どうやってやるの?」

「そこら辺にいるモンスターを倒すと経験値が貰えるのでそれの繰り返しです!皆でやってみましょー!」

 

 モンスターに近づくと戦闘になった。職業上アーチャーなので必然的に武器は弓だった。とりあえず狙い射てみると敵に当たる。そのまま撃ち続けるとHPがなくなってエネミーは消滅した。ドロップアイテムだのなんだの表示されて戸惑ったが次第にゲームに慣れてきた。レベルが上がると新しいスロットが追加された。

 

「りんりんこのスロットってなに?」

「剣士とか弓使いはスロットってところで自分の属性を決められるの。炎とか水とか色んなのが選べるから試してみて(๑>◡<๑)」

 

 つまりポ○モンになれるってことでいいのかな?よくわからないが属性を一つ選んでスロットに入れると技が増えましたと表示される。とりあえずこれでいいかと自分の中で納得させてクエストの目的地へと向かった。



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第六話 NFO ねおふぁんたじーおんらいん 後編

NFOのストーリーの書き方いまいちわかっていません。文体がおかしくなっていたらご容赦ください。


 あれからしばらく歩いてロゴロ鉱山に着いた。鉱山という事もあってか薄暗い雰囲気がよく伝わってくる。しかし所々にある灯りのおかげで視界は問題なさそうだ。

 

「ここが鉱山かー。なんか薄暗くてちょっと怖いね〜」

「大丈夫大丈夫っ!」

「待って!あれはなんですか?」

 

 安心した僕たちは進もうとすると何かが急に近づいてくる。弓を構えようとするとリサが慌てる。

 

「わわわわわっ!こっちきた!」

「abunai」

「お嬢様、またキーを押し間違えたんですね」

「そんなに逃げなくても大丈夫だよリサ姉っ!えいっ!」

 

 あこちゃんが杖らしきもので一振りすると得体の知れないものは消えていった。

 

「びっくりしたー!今の何!?」

「弱いモンスターですね。外とは違って、鉱山には突然襲ってくるモンスターもいるんです(゚o゚;」

「そっか、だから急に出てきたんだ」

「助かった〜、ありがとね、あこ⭐︎」

「楽勝だよっ!」

 

 皆が落ち着いている中紗夜さんは縦を構えてキョロキョロしている。

 

「紗夜さんどうかしたんですか?」

「いえ、まだ残っているかもしれませんし」

「弱いモンスターならそんなポンポンと襲ってくるわけ……」

 

 いや待てよ?少なくともこのゲームは現代の人間が作ったもの。仮に集団行動とかのAIが搭載されていたらどうなる?出てきた結論は考えられなくもない。僕も弓を構えて警戒心を作る。

 

「二人とも何してるんですか?」

「「念の為の警戒を」」

「もういないから大丈夫ですよ?」

「そうですか?」

「警戒心は常に持っておくべきかなと」

「それより友希那は?」

 

 あたりを見回すとお嬢様の姿はどこにもなかった。マップを見ても居場所を確認出来ない。まさかゲーム内で迷子になるなんて誰が考えただろうか。でも実際にありえるだろうからなんとも言えないよね。

 皆でチャットに打つなり探して見るなりしてみたが反応はなかった。

 

「一体どこに……」

「この奥は強力なモンスターもいるんだけど…(;´Д`A」

「もし遭遇してたら倒せる?」

「友希那さんだけだったら、というよりあこたちがいても皆やられちゃうよ!」

「じゃあ急いで探さ」

 

 最後の言葉を言いかけた瞬間奥の方から人の姿が見える。シルエット的にお嬢様だった。声をかけると呑気な声が帰ってくる。

 

「あなた達、どこへ行ってたの?」

「友希那と………誰!?」

「へ、ヘルスケルトンソルジャー!?」

 

 よくわからない名前が聞こえてきたがヤバそうだと迎撃体制を整えるとりんりんが静止してくる。

 

「二人とも落ち着いて、ヘルスケルトンソルジャーは視界に入らなければ襲ってこないから!」

「ゆ、友希那さん。そのままそーっと……そーっとこっちに来てくれます?」

「……?ええ、わかったわ」

 

 一番危険に晒されている本人が状況を理解していないようだったが窮地を脱したためすぐに別の場所へと移動した。その際も僕と紗夜さんは警戒心を緩めずに進んでいった。ついでに何をしていたか聞くと道を聞こうとしていたらしい。何かもわからない相手に聞こうとするとは、ある意味肝が座ってるなお嬢様。それからは逸れないようにしようと互いに確認しながら進んでいった。

 しかし途中で大きな音が聞こえ始める。その音はどんどん近づいていき黒い影が僕達を覆う。

 

「でっかいねー」

「ほんとだ!でっか!何あれ!」

 

 ゲーム上級者の二人を見ると愕然としている。もしかしてまたヤバイ系?

 

「あこちゃん……あれって……(((((゚o゚;;))))」

「フィールドボスだーーーー!!」

「フィールド……ボス?何なのか説明して」

「おそらくここら辺の主のような、王様のようなものだと思います」

「あってるよ、さっきのヘルスケルトンソルジャーよりも危険なモンスターで……」

「マジ!?どうすんの!?」

「だ、大丈夫です。とりあえず近づいて、足元をそっと歩いていれば、見つからないので………」

「なるほど……灯台下暗し、ということですか」

 

 灯台下暗し作戦(今勝手に名付けた)で皆が足元を過ぎていく。一番最後になった僕はその様子を見届けていると一人だけスタスタと進んで行っている人がいた。この状況で誰だと思ったら案の定お嬢様だった。

 

「友希那さん!そっちはダメです!」

「なぜか歩き続けてしまうのだけど、これはなに?」

「もしかしてオートラン押しちゃった!?りんりんどうしよ!このままじゃ!」

「あこちゃん!今井さんと氷川さんを足元に誘導して!うまくいったらアンデッドプレイでやり過ごして!」

「う、うんっ!」

「アンデッドプレイ…?」

 

 聴いた限りの名前だと現実でも結構な人がやってそうな………

 

「死んだふりをして気づかれなくなるあこの得意スキルです!」

 

 やっぱそうきたかー。それ実際ゲームで使えるのか気になるけど………その前に僕達はどうするべきなんだ?

 

「新君、走ってでいいからこっちに来て!」

「りょ、了解!」

「ブラインドカーテン!!」

 

 走った先では真っ白な布に覆われてよく輪からにうちに終わっていた。後で聞いた話だとりんりんの使ったブラインドカーテンは数秒であれど姿を消す魔法らしい。使い方が難しいとのことだがりんりんは使うのがうまかった。そのことを褒めると照れ隠しをしていた。そのまま進むと人らしき影が見えてくる。

 

「あの人がリンダさん?」

「そうだよー!」

「やっと見つけた〜☆」

「それじゃあ、あこちゃん」

「うんっ!『手紙を渡す』」

 

 あこちゃんがクエストを進めるとリンダさんから返事を届けるよう頼まれる。やってることはまるで郵便配達だなと考えると同じことを考えている人が多数いた。

 

「にしても、こんな近くなのにどうしてジェイクさんはリンダさんに会いに来ないの?」

「それには深い事情があって………」

「リンダさんはここに強いモンスターを封印するために来てるんだ!でも、ジェイクさんみたいな旅立ちの村に住んでる人はしきたり?で、この鉱山に入っちゃいけないんだって!」

「じゃあつまり監視員としていなきゃいけないってこと?」

「その通りだよっ」

「ジェイクさんとリンダさんはこうやって何万回も手紙のやりとりをしているのに………絶対に会えないんです(T ^ T)」

 

 結構悲しい話だなと感傷的になりそうなところをお嬢様が早く引き返してクエストを進めようと申してくる。もう少し感動したりしないのかなこの人。

 道中で初心者用故か簡単だったなどと話していると光っているものを見つける。

 

「あれ何?」

「どれ?」

「あの光ってるやつ……」

「「キラぽん!?」」

「えっ、じゃああれが例の希少モンスター?」

「そ、そうだよ!」

「じゃあ射抜いたほうがいい?」

「待って!気づかれたらすぐに逃げられちゃう」

「だからそーっとそーっと」

 

 そーっとといっている割にはあこちゃんの周りに紫色の光が見え始める。どうやら大技を出そうとしているらしい。確実に倒せるだろうけど………。

 

「定命の円環を逸脱せし常闇の使徒に我命ず、其の混濁たる眼で深淵を破り、彼の者を久遠の狭間へと誘いたまえ……デッドリィーー!!」

 

 とんでもない大技が出たと思うとキラぽんの姿は無かった。どうやら詠唱中に逃げてしまったらしい。

 

「いないよね?」

「そ、そんなー!」

「あの、さっきの前口上は必要だったんですか?」

「それ僕も気になる」

「いえ……その、スキルを使うには必要な詠唱なんですけど……キラぽんは強いモンスターではないので、あのスキルそのものが必要ないというか………」

「だ、だってキラぽんを倒せるかもしれないんだもん……せっかくだからかっこよく倒したいなって……」

「そんなことをしているうちに攻撃すればよかったのに………」

「まぁ気持ちはわからなくないけどね。せっかくのチャンスだったし」

「「………」」

「まだ間に合うかもしれないわ、追いかけてみたらどうかしら」

 

 その場に一瞬だけ沈黙が訪れるがお嬢様の発言によりキラぽんの捜索が始まった。しかしどこを探しても見つかることは無かった。さすがは希少モンスター、逃げ足も早いということだろうか。痺れを切らしたのかあこちゃんが出てこーいと叫ぶと別の何かがやってくる。

 大きな影かと思いきやさっき見たフィールドボスだった。しかも今度はちゃんとこっちを認識しているらしい。

 

「これ見つかってたりする?」

「いや、まだ大丈夫なはずです………」

「もう、見つかってます!入口の方へ走ってください!!」

 

 りんりんの掛け声で皆が一斉に入口の方へ目指す。だがしかしこの人数だと逃げきれないのではないかと判断した僕は当たりを見回す。するとちょうどいいものが目に映った。

 

「お嬢様、こちらへ」

「え、ええ」

 

 いくら巨大なモンスターといえど二手に分断すればどうにかなると踏んだ僕は近くにいたお嬢様を連れて岩場の影に隠れる。するとフィールドボスは逃げていくりんりんたちの方へ追いかけていった。

 

「なんとかなりましたね」

「よく隠れられたわね」

「ゲームといえど生き物ならって考えただけですよ」

「そういうものなのかしら……あれは?」

 

 お嬢様の指差す方を見るとキラキラ光るモンスターがいた。よく見るとそれはキラぽんだった。とりあえず気づかれないようにと声をかけようとするとお嬢様は既に攻撃していた。それほど弱かったのか一撃で消滅した。消滅跡にはアイテムが落ちており回収するとすぐに引き返した。

 

「どこ行ってたの~?」

「それはこっちの台詞よ」

「いやそれあっちの台詞ですよ?」

「友希那さんそれって……」

「倒したら落ちてたのよ」

「キラぽんのしっぽだー!」

「どうしたのそれ?」

 

 別れた後のことを説明するとそんな偶然あるかと聞かれたがそれが事実だったのだ。説明を終えるとお嬢様はいらないからとあこちゃんにそれをあげた。もらった本人は嬉しそうにしていたためお嬢様は少し嬉しそうにしていた。街道にも戻ってこれたのでクエストを進めようと村に戻る。

 

「それじゃありんりんお願い!」

「うん。『リンダの手紙を渡す』」

 

 手紙を渡すとストーリーが始まりジェイクさんの話が始まった。お礼の品を渡されて終わったが二人が会えないことを知ると皆悲しそうにしていた。

 

「お礼……一体何を貰ったんですか?」

「『リンダのサイス』ですね」

「サイス……?大きな鎌のことだったかしら」

「そうですっ!あこ、ネクロマンサーだからこの武器がどうしても欲しくって………っ!」

「でもなんで『リンダのサイス』なの?」

「リンダさんが実は凶暴だったとか?」

「それはないでしょ」

「実は……この物語を進めると、リンダさんが鉱山のモンスターに体を乗っ取られて魔女になってしまうんです」

「あの人自身がモンスターになってしまうということ?」

「はい……それで、この村が襲われることになるんですけど、その時にリンダさんが持っている武器が、その『リンダのサイス』なんです」

「じゃあある意味形見ってこと?」

「うん、ストーリー見た時少し悲しかったな」

 

 じゃあ今日やったストーリーは悲劇の物語の序章に過ぎないということか……。ネタバレはされちゃったけど個人的にこの物語の続きが気になってくる。

 紗夜さんが無理やり連れて帰ればいいじゃないかというが設定上無理な話なんだろう。そこはあくまでゲームらしい。

 

「まぁでも、あこが欲しい武器が手に入ってよかったじゃん♪」

「うんっ!ほんっとにみんなありがとーございましたっ!りんりん、この武器使って今度一緒にダンジョン行こうねっ!」

「そうだね(‘ω’*)」

「じゃあこれでゲームは終わりかな?」

「はい。そうですね、これでおしまいです。あの……みなさん……どうでしたか?」

 

 各々が感想を言っていくが悪くはなかったらしい。むしろ多くのものを得られたとか。またいつかやってもいいという気はしているという意見もあり盛り上がったが先に練習だぞとお嬢様が釘を刺す。

 しかしあこちゃんのやる気はマックスを超えているようでそのまま練習に向かった。練習風景を見ていたが今日はいつもよりかなり調子が良かったのではないかと思われる。

 長かったような短かったような長いゲームの旅はここで幕を閉じた。僕も初めてパソコンゲームを触ったがいろんな経験が得られたと思う。またやれる機会があればいいなと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数日後〜

 夕飯の買い出しに来ていた僕はついでに電気屋に立ち寄っていた。最初は立ち寄るだけのつもりだったが、いつの間にかパソコン機器のコーナーで一時間以上立ち止まってしまっていた。

 



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第七話 骸探偵京 ワイルドカード 前編

お待たせ致しました。骸探偵の続編です

「なんでこうなった」


 せっかくの休日、本当なら部屋でゴロゴロしていたいところだが仕事に来ていた。お袋達が生活費を出してくれてはいるが小遣いは自分で稼ぐしかない。じゃないと足りない。そんなこと言ったら怒られそうなのでこうして仕事を続けている。探偵をしている副次的な理由はこれだけだけど。

 今日の依頼はある政治家からの依頼だった。円谷平司、結構有名な政治家だ。俺もテレビや新聞で見たことはあるがたいして知らない。政治に興味がないからな。そんな奴からアポイントメントを取られる。有名人(?)から何事かと立ち上がり奴等の拠点に向かった。

 建物の正面に着いたはいいものの誰も迎えに来ないので玄関ドアを開けて中に入る。

 

「こんちはー探偵でーっす」

「だ、誰ですか!?」

「あ?自己紹介したろ今」

「もしかして鳴海京君か!?」

 

 女の後ろから声がして覗いてみると白髪のオッサンがいた。どっかで見たことがあると思ったら新聞やテレビで見たことがあることに気づく。

 

「アンタが円谷平司であってるな?」

「その通りだ!よく来てくれたな!」

「依頼は無為に捨て置けねぇからな」

 

 違う、本当は小遣いが欲しいだけだ。いつもはもっと真面目に取り組むが今日はそっちの目的の方が強い。だって依頼人が政治家なら…な?

 

「とりあえず中に入ってくれたまえ!」

「はいよ」

 

 訳のわからないような顔をしている女を放っておいて奥の部屋へと入っていく。中はどうやら依頼主の事務室らしい。座るように促されて高級そうなソファに腰をかける。へっ、このソファいくらしたんだろうな。

 

「それで依頼内容は?電話では言っていなかったが」

「依頼って何ですか?」

「混乱を避けたいが故に直接話そうと思ってな」

 

 意外と賢い選択をしているらしい。もし郵便局にいたらバレるかもしれないしな。それ故に電話、しかもも一度名探偵の鳴海京に会いたいとしか言ってなかった。何をしたかは知らんが。

 

「実はこれが昨日ポストに入っていたんだ」

「封筒……脅迫状か。中身は誰が見た?」

「私だけだ」

 

 意外と賢いなコイツ。仮に自作自演だとしてもこいつ以外の指紋がないから捜査しにくい。徹底的証拠があったら別だが。手紙を開いてみると暗号文のようなものが入っていた。だが奇妙なことに薄く花がプリントされていた。

 

「“我は罪人を裁く者

 懺悔の引き出しよりお前たちへ手紙を配ろう

 秘密はいつか明かされるもの也“

 か、暗号だな。心当たりは?」

「それが無いんだ。政治家だから何処かから恨みを買うのは分かっているがこんなものを出される覚えはない」

 

 もう一度文面を読んで意味を解く。

 最初の一文はほぼ確実に殺人予告だ。“懺悔“は“後悔させてやる“という憎しみだろうが引き出しからの手紙はまだ理解できない。最後は“隠し事は通用しない”という意味だろう。これは怨みとかの殺人だろうと断定する。

 

「アンタは隠し事をしていないのか?」

「していないとも。私は誠実さが売りだからね!」

「へーほんとかね、金の怨みどうこうは動機になりやすいからな」

「別に疑っても構わないが無駄なことだよ」

 

 政治家って生き物は表面はキレイだからな、中身がどうなってることやら。

 とにかく狙われてるかもしれないのでしばらく護衛することになった。メモリさえ関わっていなければそれでいいんだが前回が前回だったからなぁ。

 

「そういえばそこの女は?」

「あぁ、彼女は私の秘書だ」

「遠山奈々といいます。この度はご協力ありがとうございます」

「仕事だからな、ちゃんとギャラは貰うぞ」

「任せたまえ、恩人にはきちんと支払おう」

 

 まだ何もしていないがなと笑いそうになると事務所の電話が鳴り響く。遠山が電話を取ると違和感のある表情になってスピーカーにした。

 

『聞こえているか?円谷。私は郵便配達人だ』

「そのような人が何用で?」

『最初の手紙を用意した。明日の昼十二時にEー6倉庫に来い』

 

 言伝のみという訳のなのか言い切るようにプツンと音が鳴った。何事かとも思ったがとりあえず今日は警戒しておくようにと伝えて事務所を出る。念のため身辺調査をしておこうとバイクの元へ歩き出すと何かにぶつかる。

 

「す、すみません……」

「いやこちらこそすまない。考え事をしていた」

「いえ、こちらがきちんと見ていればよかったので。た、大変だ遅刻する!」

「遅刻?急いでいるのか?」

「は、はい。実は約束していて……」

 

 俺より少し年上くらいの男は手に花束を持って慌てていた。デートか?リア充だったら許さんといつもなら言っていたがそういう雰囲気も感じ取れなかった。

 

「遅らせる原因を作ったのは俺でもある。送って行くから乗ってけ」

「え、でも」

「遅刻しちゃまずいんだろ。乗れ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 礼儀正しいなと感じる一方落ち着かない様子が見られる。行き先を聞くと近くの大病院だというのですぐに向かう。病院に着くとそのまま青年についていく。本当は別れるはずだったがお礼がしたいからついてきて欲しいというのでついて行った。手続きを済ませて病室に向かうと女が一人ベットの上に座っていた。

 

「姉さんお待たせ」

「時間ぴったりだね、和也。その人は?」

「ちょっと色々あってここまで送ってくれた人」

「すみません、弟がお世話に……って、もしかして名探偵!?」

「えっ?ほ、ほんとだ!焦ってて気づかなかったけど名探偵の鳴海京だ!」

 

 今のタイミングで気づくのかお前。てかお姉さんの方はよくわかったな。

 

「テレビとかで何度か見かけて、それで……」

「なるほど、それは光栄だ。わかっているだろうがあえて自己紹介しておこう。鳴海京だ。探偵をやっている」

「わわわ、僕やばい人連れてきちゃった」

「人聞き悪いな」

「あっ、いえ、そんなつもりは」

 

 とりあえず落ち着けと促して二人の様子を見ていた。姉の方は病院に慣れてきているという感じが見られた。弟の方はオロオロしているところが多々見られるが特にこれといっては無さそうだ。

 

「全く。和也、時間を守るのはいいけど人の迷惑になっちゃダメよ」

「時間通りかどうかは知らないが俺が勝手に送っただけだから気にするな」

「あ、ありがとうございました」

「それよりえっと、和也さんは時間を守るタイプなのか?さっきも遅刻だとか言って慌てていたが」

「はい、弟は時間や約束を守るタイプなんです。それでドジを踏んじゃうのが傷ですけど」

 

 和也さんは苦笑いをしている。本人的にも痛いところなんだろう。

 

「そういえばだがお姉さんの名前は?」

「申し遅れました。私は古谷 静香(フルヤ シズカ)といいます。そちらは弟の古谷 和也(フルヤ カズヤ)です」

 

 二人揃って挨拶をしてくる。タイミングを見ても姉弟といえるほど似ていた。

 

「それで、失礼だとは思うが静香さんの方はなぜ入院を?」

「私、数週間前に交通事故に遭って、それで下半身が動かないんです」

「それは……すまない」

「鳴海さんは何も悪くないじゃないですか。それにただの事故だったんで大丈夫ですよ。いつか治りますって」

 

 言ってしまえばこれは下半身不随、神経に対して傷を負ったのだから治せるかどうかは言わなくてもわかるだろう。それでも希望を持ち続けるのは相当辛いことなのに頑張っている。現実を突きつけるのは俺の仕事ではないと帽子を深く被る。

 

「お気になさらないでください。私は大丈夫ですから」

「そうか……」

「そうだ姉さん、あのこと聞いてみたら?」

「そうね、探偵さんですもの。きっと解けるはずだわ」

 

 名探偵だからといっても解けないものはあることを知らないのだろうか。和也さんは床頭台の引き出しからカードのようなものを取り出した。

 

「これなんですけど」

「タロットカード?」

 

 渡されたものは死神の絵が描かれたタロットカードだった。このイラストなら確か意味は……

 

「はい。しかもそれは13番のカード、“Death”。意味は死です」

「やはりか」

「しかもそれが花束と一緒に届けられたんです」

「届け人は?」

「それがナースステーションで看護師さんが受け取っただけで。見た目は黒いジャンパーに帽子を被っていたって」

 

 正体不明か。それじゃあ誰だかわからないな。というより俺が知っているやつでも無さそうだが。とりあえず写真だけ撮ってカードを返した。

 

「しかしまぁ恨みでも買われてんのか?病人に対してそんなものを送ってくるなんて」

「間違えただけかもしれませんけどね」

「ちなみに二人のうちタロットに精通している人は?」

「私がタロットを好きだったのでどちらも意味を知っています」

「そうか、ならわかる情報があったら教えてくれ」

「帰るんですか?」

「ああ、調べ物があってな」

「それじゃあ僕も帰ります」

「気をつけてね和也」

「うん、ありがとう。また来るからね」

 

 俺は軽く会釈だけして部屋を出た。後から和也さんも追いかけてくる。駐車場まで軽く話していたが姉の元にはよく人が来るらしい。そんな人が死なんて文句をつけられるのだろうかと疑問が生まれるが一度置いておくことにした。駐車場に着いてヘルメットを被る。

 

「今日はありがとうございました。お礼をするはずがお願いを聞いてもらって」

「いいや、構わねぇ。その分もまとめて今度貰う」

「えっ、もしかしてギャラってやつですか?」

「一応それで食ってるからな」

「わ、わかりました。とびっきり美味しいもの用意します」

「そりゃ楽しみだ。そうだ、ついでに聞きたいことがあるんだが」

「な、なんでもどうぞ!」

「円谷って政治家を知ってるか?」

「知ってますよ。最近大きく出るようになって、でも前まではそんなに目立っていなかったような………」

「他の印象はどうだ?」

「言ってる事はいいと思いますけど、政治家って結局それ通りにやりませんよね」

「まぁな。とりあえず情報助かった。このことは誰にも他言しないようにな」

「わ、わかりました」

 

 以来のこともあるので連絡先だけ交換して俺はバイクを走らせた。一人程度だが情報を掴めた。あとはネットで少し探ってみるか。最近はネット新聞とかもあるだろうからそこから探るのもいいな。家に帰る前に羽沢珈琲店で生の新聞を読ませて貰いついでに夕食を済ませようかね。

 

「いらっしゃいませ〜……って鳴海先輩!」

「よっ、まだやってるよな?」

「ラストオーダーギリギリですよ」

「そいつはラッキー。コーヒーとカルボナーラを頼む」

「かしこまりました!」

 

 パタパタと厨房に向かう羽沢を見届けてから適当に席に着く。すると目の前に知らない男が相席になるように座ってきた。軽く会釈だけするとテーブルをドンと叩かれる。何事かと思ったら男の顔は険しいものになっていた。

 

「あ、あの、どうかしたんすか?」

「君は何者だ?」

「いやそれこっちのセリ」

「何者だと聞いている!」

 

 なんだこのオッサン訳わかんねぇと思うと低い声で話を続けてきた。

 

「うちの娘と仲良さそうに話おって、何者かと聞いているんだ!」

「む、娘って羽沢のことか!?」

「俺も羽沢だが?」

 

 まじかこの人ここの店主、つまりあいつの父親かよ!なんで急に絡まれてんだよ俺は。ただ飯食いに来ただけだぞ!?

 

「つぐみとはどういう関係だ?」

「そ、そりゃあ当然」

「貴様につぐみは渡さん!」

「まだ何も言ってねぇだろ!」

「お父さん何してるの!?」

 

 声のする方を見ると話題のご本人が来ていた。手にトレーを持っているあたり注文の品を持ってきたのだろう。だがさっきから出ている親父さんのオーラが強くなっている。

 

「つぐみ、この男はなんだ」

「学校の先輩だよ!」

「彼氏とかじゃないのか?」

「そんなんじゃないから!もう、あっち行って!」

 

 羽沢の必死の攻撃で羽沢の親父さんは厨房の方へ消えていった。落ち着いた羽沢はトレーごとテーブルに置いて目の前に座った。

 

「ご注文の品です」

「お、おう。助かった」

「すみませんお父さんが」

「い、いや、年頃の娘を持ってるんだ仕方ないだろ」

 

 その後も羽沢はため息をついていたが飯は美味かった。いつもの空間で食えなかったのは少し残念だが大人しく店を出て家に帰る。その後調べ物をしてから寝た。

 翌日朝十時に事務所に向かうと円谷と遠山がいた。妙に落ち着いている円谷に対して遠山は落ち着かない様子だった。

 

「おはよう、生きてるか?」

「物騒な挨拶だね。もちろん生きているし絶好調だ」

「それは良かった。予定時刻まであと二時間弱。倉庫まではそれほど時間もかからないし状況整理といこう」

「探偵っぽいな」

「探偵だからな」

 

 十一時過ぎまで昨日の解散後の状況と異変がなかったか、また予告状の再確認をしていた。しかしこれといって変わったことはなく再確認程度になった。時間もちょうどよかったので車を出してもらい指定された倉庫へと向かった。何か円谷にとって不味いものでもあるのではないかと遠山は気にしていたがいかなければわかるまいと円谷本人はずっしり構えていた。肝が据わってんなと思いつつ移動すると倉庫前に着いたのは十二時前。あたりに人気はなかった。

 

「念のため確認しておくが人から恨まれることはしていないんだな?」

「もちろんだとも」

「じゃあ今から何が起きても慌てるなよ?落ち着いて動かねぇと危ないかもしれない」

「鳴海さん、どういう意味ですか?」

「なに、念の為だ。……時間だ開けるぞ」

 

 大きな扉に手をかけた瞬間鉄とは別の音が頭に響いてくる。外から聞こえた音ではない、頭の中から聞こえた音だ。間違いない足音だ、死神の足音がする。

 まだ助けられるかもしれないと急いで扉を開けると残酷な現実が目の前にやってくる。

 

「な、なんだあれは!?」

「いやあああああああああ!!!」

 

 倉庫の真ん中に成人男性と思わしき十字架に括り付けられた遺体があった。少し出て開いている目の見る先は地面で焦っている様子が見られない。脱力したような姿でぶら下がっている死体。普通ではあり得ない状況に二人の顔は青ざめている。

 

「警察と救急車を呼べ、すぐに!」

「は、はい!」

「本当に恨まれごとはないんだよな!?」

「無いといっているだろう!それよりあれはなんなんだ!」

「死体だよ。まさかこんなところで出会うとはな」

 

 そこを動かないようにと指示をして俺は遺体に近づく。すぐに下ろせるかを確認すると十字架の後ろに杭がありそこに刺さっているモノのせいで一人では無理だということがわかった。無為に奴に手伝ってもらうわけにもいかないので警察を待つ。それまでに何かないかと探すとふと気づく。

 ──何故この遺体は逆さまなのか。ぱっと見で気付く事だがすっかり忘れていた。脱力感を見る感じ絞殺だと思われるがなぜ逆さまになっているのだ?

 首元を確認するとやはり絞められた跡が残っている。それも背中側が少し斜め上になっている。わざと逆さまにした?だとしたら何故?

 そんなことを考えているとパトカーと救急車の音が聞こえる。どうやら到着したらしい、間に合いはしなかったが。

 

「ちょっとー!現場で何を、ってまさか」

「まさかここら辺お前の管轄なのか?」

 

 やってきたのは遊園地の時にいた刑事だった。相変わらず呑気な顔をしているなと思いつつも捜査に協力することを伝えて助力してもらう。とりあえず遺体を下ろさせて色々と確認するが絞殺されて数時間以上経っていることぐらいしかわからなかった。

 

「しかし今回もまた酷い仏さんですね」

「あぁ、今回は完全に油断してたな」

「何かあったんですか?」

「詳細はそいつから聞け」

 

 円谷の方に指を指して俺は倉庫内の捜査を行う。一通り見ると普通の倉庫だったが扉の部分に細い糸のようなものがあった。それを辿ってみるとかなり長く遺体のあった逆さ十字の近くまで伸びていた。それは反対方向にも同じようなものがあった。

 

「探偵さんちょっと来てもらえますか?」

「どうした」

「これ見てください」

 

 刑事に案内されて遺体のあった場所まで戻ると残っている杭の部分を指差される。

 

「あれおかしくないですか?発見された時は逆さになっていたというのに杭のところに擦れたような跡があるんです」

「十字架を外す時どうだった」

「え?そういえばなんか浅く刺さっていたような……」

「浅く?」

「はい、深く刺さっているわけじゃなかったのでスポって抜けたんですよ。もちろんそれなりに力は要りましたけどね」

 

 糸は二本、十字架の擦れ跡………これなら確かに可能かもしれない。あとは死亡推定時刻と身元の確認だが………

 

「警部、遺体の身元と死亡推定時刻確認取れました!」

「でかした、教えてくれ」

「は、はい。身元は具土 勇男(グド イサオ)、22歳大学生。死亡推定時刻は早朝六時だと思われます」

「う、嘘だろ!?彼だったのか!?」

 

 後ろから声がすると思えば青ざめた顔をした円谷だった。

 

「知ってるやつだったのか?」

「彼は最近私に資金援助をしてくれたのだよ。それで私も大きく動けるようになって…」

「なぜ最初の時点で気づかなかった」

「気が動転してたんだ!君も見ていただろう!?」

 

 確かにビビりすぎなくらいにおかしくなっていた。いや普通はあれくらいなんだろう。慣れっていうのは怖いな。とりあえずやることは身辺調査だなと動こうとした瞬間倉庫内に電話の音が鳴り響く。全員が携帯を確認するとなっていたのは円谷のスマホだった。恐る恐る出ると顔色をより悪くする。俺は携帯を奪ってスピーカーモードにする。

 

「よぉ、郵便配達人」

『貴様は誰だ』

「探偵だ。そんなことはどうでもいいだろ」

『そうだな。最初の手紙は受け取ってもらえたか?』

「手紙っていう割には紙はないけどな」

『いいや、君たちは警察を呼んでいるはずだ。そうすれば必ず手紙は手に入る』

「そうかもな。それで?まだ終わりじゃないんだろ?」

 

 周りの人間は驚く顔をするがすぐに静かにさせる。

 

「手紙に書いてあったもんな、お前たちへって」

『流石は探偵だ。次の配達までに辿り着けるかな?』

 

 ブツッという音と主に電話は切れた。ロクでもない犯人は声の調子から楽しんでいるようだ。

 

「あの、どうしますか?」

「お前刑事だよな?」

「そうですけど経験豊富の探偵さんに聞いたほうがいいかと」

「はぁ………それじゃあ円谷さんの事情聴取だ。他に空いているメンバーで行動歴とかを洗い出せ」

「探偵さんは?」

「俺は遺体を見る。ほらすぐに行動だ、今にも次の準備は始まっているぞ」

 

 俺たちはそれぞれの場所へと向かい自分達の仕事を始める。許可をとって遺体を見させてもらう。今のところわかることを聞くとある程度情報が入ってくる。

・死んでから八時間経過している。

・死因は考察によるものらしい。

・それ以外の損傷は見られない。

 これだけ見ると自殺のようにも思えるが少なくともあんな自殺はできないだろう。

 

「よろしければ発見当時の写真見ますか?」

「いいんですか?」

「はい。協力するよう言われておりますし、何より下手にいじられなかったのでおそらくそのままの状態で取れているかと」

 

 写真を見せてもらうと他の疑問点に気づく。まずは足が揃って伸びていないこと。片方の足が膝で曲げられて後ろに回されている。そして両腕が後ろで組まれていること。十字架なら横の棒に括り付ければいいのになぜこのような形にしたのか。何の意図があるのかわからないまま他の手がかりを探すが特に出てくる事はなかった。

 これ以上は進歩が無いかと遺体のある部屋を後にすると刑事から電話がかかってくる。どうやら被害者の最近の行動履歴が割れたらしい。その情報をもとに俺はある人物の元へと向かった。インターホンを押すと俺と同じくらいの青年が出てくる。

 

「どなたですか?」

「こんにちは、いやもうこんばんわか?」

「何言ってるんですか。てか何者?」

「探偵だ、少し時間をもらえるか?」

 

 構わないといった男は俺を家にあげてリビングにある椅子に座らせる。

 男の名前は玉城 永遠(タマキ トワ)。男、22歳大学生。被害者の具土とは他より深い交友関係を持っている。とりあえず落ち着いて聞くように促してから事件のことを話した。

 

「信じられません、あいつが死んだなんて……」

「何か知っていることはあるか?恨まれていることとか」

「あいつ、金持ちだからっていろんなことやってたんで色んなところから恨まれても仕方ないですよ。ま、俺もザマァって思ってるし」

「友人なのにか?」

「バカ言わないでくださいよ、友人のフリですよフリ」

 

 悲しむどころか急に笑い出した玉城は狂っているかのようにも思えた。

 

「警察には黙っているんですけどね。あいつ、人を殺しかけたことがあるんですよ」

「はぁ?なぜ黙ってる」

「そりゃあもちろん金もらえたからですよ」

 

 金が貰えるのなら犯罪を黙っているのかと思うがそういう奴はこの世の中沢山いるから黙っておいた。その後も具土の愚痴を聞かされたが色々と恨みを買っていることはわかった。最後に円谷の話を出したがそこのつながりは知らないとの事だ。協力に感謝して家を出ると空が真っ暗になっているのに気付く。警察の方に一度連絡すると円谷の警護をするので今日は休んで明日以降の協力を願われた。

 その指示に従って俺は帰って寝ることにした。朝起きたら学校に連絡せねばなるまいと思ったがめんどくさいと思う自分もいた。

 

 翌日の朝、俺の意識を覚醒させたのはアラームではなく刑事からの電話だった。部屋にいたはずの円谷がいなくなっていたという。ただし部屋にはスマホがありそこには『早朝四時に事務所で待っている』とのメールが残されていた。俺もすぐに着替えて事務所に向かう。事務所の前には警察と遠山が入り口付近で待っていた。

 

「待たせた。行くぞ」

「はっ、はい!」

「あの、先生は大丈夫なんでしょうか?」

「それを今から確かめる。何があっても受け入れろ、今はそれしか言えない」

 

 扉を開けて奥の部屋へと足を運んでいくと椅子に座ってこちらに背を向けている円谷の姿があった。遠山が安心したような声を出しながら近づくと顔色を一気に悪くさせて叫び上げる。椅子を回転させると椅子に手を縛り付けられた状態で心臓にナイフが刺さっていた。

 

「遅かったか……」

「すぐに現場を封鎖してして!」

 

 刑事の一声で捜査は始まった。被害者は円谷平司、52歳政治家。死因はナイフで心臓を一突きされたことによる失血死(もしくはそれによる失血性ショック死)。足が組まれており、手は肘掛けの部分に固定するように縄を巻いてあり逃げられないようになっていた。それ以外は特に見つかる事はなかった。

 

「しかしまぁ昨日のに比べて幾分かマシというか……」

「ちゃんと見張っていればこうはならなかっただろうな」

「……返す言葉もないです」

「気にするなとは言えないが次に繋げろ」

 

 刑事をなだめながらも昨日の遺体との共通点を探る。強いていうなら括りつけられているぐらいだった。二人に対する動機はなんだろうかと考えた瞬間電話がなる。しかもなったのは仕事用、つまりスタッグフォンの方だ。知らない電話番号だったので回りに静かにするように指示をして電話に出る。

 

「もしもし、こちら探偵の鳴海京です」

『応答してくれたか、郵便配達人だ』

 

 まさかとは思ったが犯人からの電話だった。あまり刺激しないよう、情報を得られるように会話を続けていく。

 

「配達はこれで終わりか?」

『その様子だと二件目も受け取ってくれたようだね。だがまだ配達は残っている』

「これ以上殺す必要はあるのか?」

『間違った判断はあってはならないからな』

「自らが正義とでもいうのか?」

『そうは言わないさ。俺はただの配達人だからな』

「そうか、あと何枚の手紙がある」

『あと三枚だ。次は間に合うかな?』

 

 余裕のある笑い声が聞こえると電話は切られた。今の会話の中にヒントがあったはずだがどうにもわからない。しかし次があることは確定したので行動を起こさねばならない。

 

「鳴海探偵、何か策があるんですか?」

「ない」

「ない!?」

「何も分からないのに策なんて練れるか。だがやって貰いたいことがある」

「といいますと?」

「具土と円谷の関係を洗い出せ。どんなささないことでもいい。徹底的に探し出してくれ」

 

 刑事は返事をするとすぐに行動に出た。俺もじっとしているわけにもいかないと遠山の方に近づいていく。遠山は未だに現実を受けいられていないのか蹲って泣いていた。

 

「泣いているところ悪いが話を聞かせて貰えるか?」

「うぐっ……先生………」

「お前らの関係は政治家とその秘書でいいんだよな?」

「ひぐっ……はい、その通りです……先生は就職で困っていた私を助けてくれたんです……」

 

 つまりこいつにとって恩人が死んだわけだ。そうなるとこうなっても仕方ない。だが最大の情報源はこいつだ、今は動いて貰わねばならない。

 

「話を聞いた限り最近具土から援助して貰ったらしいがそれはいつの事か分かるか?」

「二、三週間前くらいです……でも私、あの人苦手でした……」

「何でだ?」

「私の事をなめるように見てくるのが嫌でした……」

「なるほど」

「でも先生には頭が上がらないようでした……」

「理由は?」

「分かりません。けどなんか先生にはいつも敬語だったと思います……」

 

 こうなると二人の間に何かを結ぶ関係があったとしか思えない。一度遠山のもとを離れると刑事がやってくる。

 

「何かつかめたか?」

「資金援助以外は特に見つからなかったのですが、具土の方が最近交通事故に関わっていました」

「交通事故?」

「はい、どうやら被害者は下半身麻痺を起こしているようです。事件の時に犯人が乗っていた車に乗っていたようです」

 

 下半身麻痺と聞いてすぐに知っているやつの名前が出てきた。

 

「いつの話だ?」

「二、三週間前の話です」

「犯人はどうなった?」

「それがおかしいんですよね。懲役無しの執行猶予のみで賠償金も既に払い終えてるんですよ」

「ソイツの名前は?」

 

 その名を聞いた瞬間腹が立った。何故なら昨日話した奴だからだ。急いで事務所を出ると人にぶつかる。今度はバランスを保って立ったままでいられた。

 

「すまない、急いでるんだ」

「えっ、あっ、探偵さん?」

「お前は……」

「すっ、すみません、急いでるんですよね」

「あぁ、人を探しにいくんだ」

「人……?」

「玉城永久ってやつだ」

「玉城さんですか!?さっき会いましたよ!」

「どこだ、連れて行け!」

 

 和也さんの協力もあってすぐに玉城を見つけ出せた。玉城はこれから遊びに行くかのような顔をしている。建物にが入りかけるところをギリギリで捕まえて裏道に連れていく。

 

「な、なんだよ急に!」

「お前、昨日具土が人を殺しかけたと言っていたよな?」

「言ったけどそれがどうかしたのかよ!?」

「実際はお前が殺しかけたんじゃないのか!?」

「はぁ!?」

「ま、待ってください鳴海さん!」

 

 詰め寄ろうとすると和也さんが間に入って止めてくる。やっていることの意味が理解出来なかった。

 

「何してんだ、こいつはお前の姉を殺しかけたんだぞ!」

「それは誤解です!」

「警察の方にそういう記録があったんだ。疑いの余地はないだろ!」

「それが間違っているんです!」

「は?」

「この人は……玉城さんはあの時運転していなかったんです。本当は運転していたのは具土さんなんです。けど自分の経歴を汚したくないからって玉城さんに罪を擦りつけたんです!」

 

 どういうことだと力が抜けていった。それから詳しく聞くと玉城は数週間前に裁判で執行猶予をつけられ賠償金を支払っている事実は知っていたが支払いをしたのは玉城ではなく具土だった。さらに姉の話によると運転手を見ておりそれは紛れもなく具土だったという。その時に円谷に現場を見られて具土は何かの取引をしていたらしい。これでやっと関係の始まりが見えた。だが警察が嘘の記録を残していることが信じられなかった。

 

「しかしまぁとんだ茶番だな。なぜお前は擦り付けられたのを黙っていた」

「受ければこれからの生活費は保証してやるって言われて………」

「けっ、金目的かよ」

「でも玉城さんは悪い方ではありませんよ。悪くないのにちゃんと謝りに来てくれたんです」

「そうかよ。だが姉の証言があるならなぜ警察に突き出さない」

「それが、何度も言っているんですが相手をしてくれなくて……」

 

 狂ってやがる……いくらなんでも腐敗しすぎだろ。なぜ警察はそれ以上の追求をしないんだ。正義を名乗るくらいならちゃんと犯人を捕まえろってんだ。

 

「それで、お前らに聞くがそいつらを殺したいとは思はないのか?」

「な、なんですか急に」

「まさか円谷さんまで殺されたのか!?」

「勘良すぎだろ。だがまぁその通りだ。この二人は二日連続で殺された。今知っている限りだと怨恨関係はお前ら三人が一番有力だ」

「三人?」

「ああ、正確には二人だが」

「それって俺と和也さんと……」

「こいつの姉の静香さんだ」

「姉さんは下半身麻痺をしているんですよ?できるはずがありません!」

「ああ、だから正確には二人なんだ」

「確かに憎んではいましたが殺すほどでは………」

「俺も同じだ。これ以上罪を被りたくもないしな」

 

 二人の供述は無罪を主張か。とりあえず次の被害を止める方に路線を変えようとする。だが具土が起こした事件のことが気になりさっきの刑事に連絡する。

 

「もしもし、鳴海だ」

『あれ、探偵さん?なんで電話番号知ってるんですか?』

「テメェが昨日別れ際にメモを渡してきたんだろうが」

『そういえばそうでしたね。それで何かわかったんですか?』

「まぁ色々な。例の具土が関わっていた方の事件、担当していた刑事に会えるか?」

『美登さんですか?あの人数日前から出勤してないんですよね』

「はぁ?」

『何も連絡がないんで気にはしているんですけど署内で人気低かったので適当にあしらわれてます。どうせサボりだろうって』

「クソかよ。じゃあ裁判官に会えるか?」

『裁判官?』

「いいから会わせろ」

 

 無理やり名前を聞き出しそいつの元へ向かった。裁判官松下 重治(マツシタ シゲハル)。交通事故の事件の裁判を行った。どこを判断したのか、再審はしないのかを聞き出しに行った。裁判官ならそれほど賢いはずだが何故誤審になっているのか分からなかった。アポイントメントを刑事に取ってもらい一時にレストランに集合になった。

 

「俺こういうところ何度か来てるけど慣れないんだよな」

「どうせ具土の奴と来てたんだろ」

「まぁな」

「あ、来ました!あの人です!」

 

 堂々たる歩き方をした姿で現れた三十代くらいの男は目の前の席に座ってくる。座り方までまるで誇りを持っているようにも思えた。

 

「はじめまして、だね名探偵」

「知ってて助かるぜ。松下重治で合ってるな?」

「勿論だ。すでに二人は知っているだろう。それで何用かな?」

「単刀直入に聞こう。こいつの判決を下したのはお前だな?」

「ああ、その通りだが?」

「こいつの事件、真相を知っているか?」

「知らないが、別に犯人でもいるのかね」

「その通りだ。真犯人は賠償金を払った具土勇男、こいつは助手席に座っていただけだ」

「ふむ………そうなると結構、いやかなりおかしな話になるね」

「その通りだ。だからお前の判決は」

「しかしだからどうしたというのかね」

「………は?」

 

 目の前の男は余裕の笑みを作って話し始める。

 

「ここは裁判場ではない。それに再審を玉城くんは望まなかった。それはもうこの件については触れられないということではないか」

「だっ、だからと言って!」

「それに今更こんな情報を出されても簡単に私が信じるとでも?」

「お前、正気か?」

「正気だよ。私は公平の元で審判を下す。それは場内でのみ適用され場外では適用されない」

 

 ここまで狂っているとは思えなかった。この事件は仕組まれている。狂いに狂った連中が作り上げた茶番にしか思えない。自らが楽に、安全圏で操作することしか考えてない。民間に正しさを見せる連中がとても正義とはかけ離れている。

 

「分かった。このことが真実かどうかはあんたが決めろ。しかしあんたの命が狙われている可能性がある」

「何?」

「この事件に関わった者が既に二人殺された。一人は消息不明だ」

「ふむ………なぜ私が狙われていると?そこの二人も同じではないのか?」

「それもそうだが二人にはこれから一緒に行動してもらう予定だ」

「「え?」」

「え、じゃねえよ。お前らも狙われている可能性がある。もしくはどっちかが犯人の時に動きにくくするためだ」

「な、なるほど………」

「それで私も同じだと?」

「俺たちが嫌なら警察と一緒でもいい。少なくとも今日は一人になるな」

「わかったよ、念には念だ。しかし君ではなく警察にお願いしようかな」

「わかった。事情は説明するから一人つけるようにする」

 

 気に食わない顔をされたが少しでも被害者を減らすための手段だから仕方がない。一人呼ぶようにお願いして読んでもらうと十分しないうちに護衛の警察官が来た。目立たない格好でお願いしてあるため問題はないはずだと告げると余裕そうな顔をして席を離れていった。

 

「なんなんですかねあの人、偉そうにしちゃって」

「捻くれた裁判官だったな。さて、飯にするか」

 

 少し高そうな飯を食べて二人とは別れる。どっちの家でもいいから今日は二人でいるように伝えて俺は円谷の事務所に向かう。何かヒントがあるのではないかと思い探すも特にヒントはなかった。円谷の殺人方法は簡単なものとしか思えないが具土の方は少し謎だった。殺人のトリックは解けている。しかし何故逆さまにならねばならなかったのか。そればかりが引っかかる。

 逆さまの吊るされた遺体。椅子に座っていた遺体。何かに準えているものなのかと考えるとそう思えなくもないが何か見落としているはず。何がわからないかわからなくなった時、入り口の扉が開かれた。

 

「悩んでいるようだな、京」

「!………まさかだよな……」



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第八話 骸探偵京 ワイルドカード 後編

 逆さまの吊るされた遺体。椅子に座っていた遺体。何かに準えているものなのかと考えるとそう思えなくもないが何か見落としているはず。何がわからないかわからなくなった時、入り口の扉が開かれた。

 

「悩んでいるようだな、京」

「!………まさかだよな……」

 

 この状況で現れたのは一番の敵だった。かつての親友の一人、そして今最も嫌いなやつ。

 

「何故お前がここにいる」

「事件が起きたのは知っていたさ。ただの興味本位だよ」

「関係者以外立ち入り禁止、つまり不法侵入者って扱いになるが?」

「待て待て、そんなつもりはない。ただお前に会いに来ただけなんだから」

「俺はお前に用事はない。それともこの事件お前が元凶だとでもいうのか」

「だから待てって。少しは落ち着けって」

 

 獅郎は両手を上に上げて降参するようなポーズを取る。

 一番言われたくない奴に言われた。腹立ってきたし一発ぶん殴ってやろうか。

 

「俺はただ単に様子見に来て京に会えるかあと思っただけなんだぜ?それで困っていたから手助けしてやろうとだな」

「お前の手など借りる必要はない。今日は見逃してやるから帰れ」

「え〜俺が来た意味ないじゃん」

「うるせぇ、さっさと帰れ」

「今の事件の状況はまとめられているのか?」

 

 事件のことを口出された。こいつのこういうところは本当に変わっていない。人の話を聞かず自分のやりたいことをやる。正直本当は追い出したいところだがこういう時は敵意がないのを知っているのでやる気が削がれる。だが口を出した分、使えるところまでは使わせてもらおう。

 

「今回の事件、遺体は二つ、これから増える予定の遺体は三つだ」

「二つの遺体に関する殺人トリックは?」

「今回のは難しく考える必要はない。一つ目は首を縄で締められた絞殺。二つ目は心臓を刺された刺殺体。どちらもこれといったトリックはない。けれど一つ目は逆さまになって発見された。だが逆さまにしたのは俺たち発見者だ」

「俺は詳しいことは知らんが、どうして京が逆さまにしたんだ?」

「これは犯人に仕組まれたトリックだ。遺体を不可解にして混乱させるための罠だろう。もちろんお前に説明はしない、使われたらめんどくさいしな」

「俺そんなことしないけどな」

「へっ。犯人は己を郵便配達人と言っていたが手紙は一切ない。けれど本人は警察がいれば届いていると言っていた。これの意味がわかれば次の被害者がわかるんだが……」

「一種の予告殺人なのか?」

 

 予告という言葉に引っかかった。そういえば犯人は最初に脅迫状、いや犯行予告を出していた。そこにヒントがあるのではないかと考える。だがよくわからない暗号ゆえに分からなかった。

 

「当たり引いちゃったかにゃ〜?」

「ものすげぇ殴りたいけど近づいた」

「まじ?じゃあ俺は帰ろうかな。これ以上いても暇だし」

「礼は言わない。その代わり次会ったら殺してやる」

「そいつは楽しみだ」

 

 嬉しそうな声を出しながら獅郎は帰っていった。予告という言葉についてもう一度触れてみるとあることを思い出す。

 古谷の姉のあれはどういう意味だったんだ?というより何であいつは不吉なカードを嫌がっていなかったんだ?

 ふと気になった俺は事件のことを頭の片隅に入れつつ古谷静香のいる病院へ向かった。面会を求めると許可をもらって病室に向かう。部屋に入るとベッドの上に座って外の景色を見る静香の姿があった。

 

「よぉ」

「あ、探偵さん。一昨日ぶりです」

「そうだな。聞きたいことがあるんだがいいか?」

「もしかして事情聴取ってやつですか?」

「まぁ…似たようなもんだ。数日前に届けられたカードってまだあるか?」

「はい、そこの引き出しの中に」

 

 引き出しの方を指差して居場所を教えてくれる。開けることを伝えるとちゃんと返事が返ってくるので引き出しを引っ張る。すると一枚のカードが出てくる。13番、Death。その意味は死を表す。

 

「俺が聞きたいのはこれだ。普通なら死を意味するこのカード、なぜお前は嫌がっていないんだ?」

「え、だって……そっか、普通の人は知らないんだ」

「?」

「タロットって、正位置と逆さ、つまりは逆位置にした状態だと意味が異なるんです」

 

 静香はカードを逆さにしたり正常にしたりで示している。

 確かにそんなことを今まで知らなかった。というより知ってる奴も本当に少ないんじゃね?

 

「例えばこのDeath。正位置で渡されると死神という意味で、そのまま死、計画の中止、次が見えない状態のことを示すんです」

「逆にすると?」

「逆位置だと再生とか180度生まれ変われるとかいうんです」

「つまり………」

「治らないものが治ったりするかもしれないんですよ」

 

 静香は笑みを作って俺に向けてくる。それは希望に満ちた笑顔だった。もう一度カードを見て逆さにしたり裏を見るが小細工はなさそうだ。

 

「ちなみにこれが送られた時っていうのは」

「はい、花と一緒に送られきたんですが逆位置でした」

「なるほど、どうりで……」

「因みにお花はそこにありますよ」

 

 後ろを見ると黄色く何枚も花弁が重なった花が一輪植木鉢に入って飾られていた。

 

「本当はダメらしいんですけど看護師さんにお願いして置かせてもらいました」

「なんていう花なんだ?」

「それはアルカナの花です。本当は春の花なんですよ」

「花屋で育成したのかもな」

「かもですね。そういえばアルカナの花はタロットの語源にもなっているんですよ」

「へぇ、それは興味深い」

「フフ、よかったら調べてみてください」

 

 情報提供に感謝するとまた会いに来て欲しいと言われる。気が向いたらと答えて俺は病室を出ていった。時間を見ると既に十七時を回っている。何かが分かれば犯人の次の行動を止められる。その確信はあるのだがその何かが分かっていない。

 

「予告殺人か……」

 

 奴との会話をふと思い出す。予告状自体は物的証拠のため警察が持っているが写真を撮ったものがあるためそれを見る。

 

『我は罪人を裁く者

 懺悔の引き出しよりお前たちへ手紙を配ろう

 秘密はいつか明かされるもの也』

 

 罪人を裁く……これは犯行予告だ。しかし懺悔の引き出しが分からない。手紙はおそらく郵便配達人と名乗っていること。だが俺はまだ手紙を手にしていない。

 予告状をもう一度しっかり見ると花がプリントされていることに気付く。それはついさっき見た花だった。

 すぐにその花の語源を調べると予告状の意味を理解した。これならあとは当てはめるだけだと調べると確証を得るために警察に向かった。

 入り口のところで刑事を呼び出し遺体の発見当時の写真を見せて貰う。

 

「何かわかったんですか?」

「あぁ、少なくとも最後の手紙は受け取らなくていいかもしれない」

「ほ、ホントですか!?」

 

 驚く刑事を横に二人に電話をかける。

 

「もしもし、無事か?」

『鳴海さんですよね?こっちはなんともないです』

「そいつはけっこう。今日は絶対離れるな、明日の朝俺が行ったら解放してやる」

『本当ですか?』

「約束しよう。ただし今日は絶対別行動をするなよ」

 

 電話を切って一息つく。

 これで今日の可能性を一つ消すことができた。というより予想通りか。

 

「それで、どういうことなんです?」

「今回の殺人は見立て殺人だ」

「え?」

「やっとわかったんだ。これはタロットに準えた事件だってな」

「どどど、どういうことです?」

「最初に殺された具土、逆さまになったのは俺たちが犯人だ。あいつがいる倉庫の扉に糸が二本あった。それらを十字架から引っ張っていき延びてる方と反対側の扉の端ににくくりつけるんだ。それで限界まで引っ張ると糸が切れて緩く刺さってた十字架は回転する」

「待ってください!そしたら犯人はどうやって倉庫を出たんですか?」

「そう、少しでも開いたら駄目になるこのトリックには穴があった」

「穴?」

「俺たちが開けたのは人数人分は確実に入る広さだ。だが犯人は自分が出る分を考えて糸に余裕を持たせたと考えると」

「そっか、一人分の広さなら糸が切れないようにすれば!」

「そういうことだ。その結果俺たちが入った時には逆さま遺体になったってわけだ。次の円谷だがこっちは簡単だ。お前も見ての通り刺殺体、不意を突いての心臓を一突き」

「じゃあ犯人はどうして椅子に座らせたんですか?」

「それはこれを見れば分かる」

 

 俺はスマホを操作してタロットカードを見せる。

 

「タロット……?」

「そうだ。そしてこの、ハングドマンとエンペラーを見ろ」

「あっ!これ二人の遺体と同じポースですよ!」

「その通りだ。そして呼び出された時間はそれぞれのカードの番号を示している」

 

 ハングドマンなら十二、エンペラーは四といった具合に同じ数字になっている。発見当時の写真と並べるとそっくりと言っても過言ではなかった。

 

「も、もしかしてこれ通りに行けば……!」

「あぁ、次の対象はジャッジメントかジャスティス……裁判官の松下重治もしくは警察の美登誠也だ」

「美登さんはともかく、松下さんは護衛をつけてるから大丈夫ですよね?」

「そのはずだが念のため確認をとるぞ」

 

 刑事に松下に連絡を取らせるが様子がおかしかった。電話にでないのだ。寝ているのか取り込み中なのか確認するためにも護衛の方に電話をかける。するとこちらの方もでなかった。何かあったのではないかと電話を繋げたまま松下の仕事場に向かった。しかし仕事場にいたのは護衛だけで松下本人の姿はなかった。倒れている護衛を叩き起こす。

 

「起きろ!松下はどこ行った!」

「ぅ……あれ?俺は……」

「何があった、言ってみろ」

「さっきまで仕事してるのを見てて、疲れただろうからってお茶を出してくれたんですけど……」

 

 それから記憶がないと頭を抱える。辺りを見ると確かにコップが転がっていた。話の通り眠らされたのだろう。書き置きとかはないかと探るがそういったものはなかった。

 

「何か言ってなかったのか」

「そういえば今夜は家で飲むとか何とか…」

 

 それを聞いて時間を確認する。時刻は既に七時を回っていた。急いで刑事に連絡を取って松下の自宅を聞き出す。住所を得た俺は仕事場を出てバイクを走らせようとするが息を飲んだ。

俺のバイクの上に一通の手紙があった。まさかと思いつつ封を切るとこんなことが書かれていた。

 

『次の手紙を20時に届ける。謎は解けたかな?』

 

 頭に血が上るのを感じる。しかしここで冷静さを欠くわけには行かないと急いでバイクにのって松下宅まで向かった。現場には既に刑事達は到着しており突入寸前だった。

 

「遅かったですね」

「こんなときに道路が混雑してるとは思わねぇだろ」

「それもそうですね……行きますか?」

「躊躇ってる場合じゃねぇ、行くんだよ」

 

 時刻は既に二十時前玄関の扉を開くと鍵は開いていた。手当たり次第ドアを開けていくとリビングのドアに差し掛かる。ドアノブを捻るとラッパの音が聞こえてくる。ふざけている、これは確実に遊んでいるようにしか思えなかった。

 ドアを勢いよく開けると手にラッパを持たせられた松下の遺体があった。

 

「くそがっ……!!!」

「なんでこんなことに……」

「……仕方ない、せめて最後の殺人は確実に防ぐぞ」

「えっ、でも美登さんは!?」

「数日前から行方不明、ならもしかしたらの可能性もある」

「でも助かってる可能性もありますよね!?」

「それはある……だがそいつのことを考えると……」

「な、なんですか」

「よくない音がするんだ。事件の前によく来る、死神の足音が」

「しっ、死神!?」

「あくまで比喩表現だがな。だがこの間は十中八九当たるんだ」

 

 この事件は毎回ごとに聞こえていた。正直自分の中でも何度やめろと言いたかったことか。残りの二人の内一人である美登のことを考えると足音が遠くにあるよう小さく聞こえてくる。

 

「俺とて諦めたくない。今そいつの捜索は?」

「続けてます。家族との連絡や友人とかにも当たっています」

「ならそのまま続けろ。俺は犯人を罠にかける」

「もしかして犯人が分かったんですか?」

「ああ、犯人は────」

 

 犯人の名前を告げると刑事の顔色は変わる。普通なら考えられないのかもしれない。けれど謎が解ければ必然的にこいつに絞られる。そして俺たちは松下の遺体の場所を調べてから帰宅した。死因は毒殺と判定。推測ではあるが一番可能性が高いストーリーを作り上げる。不備は極力消して真相に近いであろうものを作り上げる。

 しかし帰宅して睡眠を取ろうとするもなかなか寝付けず、ようやく寝れるようになる頃には日を跨いでいた。

 起床して学校に連絡した後の朝八時半、約束通り和也さんと玉城の元に向かう。朝だからか二人とも眠そうにしていた。もしかしたら命が狙われていると知ったら寝れないのも無理はないが。

 

「それで、僕たちは解放されるんですか?」

「ああ、シロだと分かったからな」

「よかった〜」

「もしかしたらまた話を聞くかもしれないからその時は頼んだ」

 

 二人は俺に礼を言ってその場を離れていく。一度警察署に向かい美登誠也の情報を手に入れに行こうとすると携帯が鳴る。番号を確認すると刑事からだった。

 

「もしもし、何かわかったか?」

『いえ、そういったことは特に。ですがなぜか朝早くから荷物が……』

 

 荷物と聞いた瞬間悪寒が走る。腕時計を見て時間を確認すると時刻は九時を示していた。

 違う、俺の予想が正しければ遺体となって見つかるのは十一時のはず。だからそれは絶対に違うはずだ。

 

「中身は確認したか?」

『い、いえ、まだですが』

「俺がつくまで開けんじゃねぇぞ!」

 

 電話を切って警察署に急いで向かう。バイクを走らせて近道を使ったおかげで時間はかからなかったがそれでも汗が止まらなかった。警察署に着くと刑事がいる部署にまで走っていく。部屋に入ると大きなケースが一つ置かれていた。

 

「お、おはようございます」

「ああ、まだ開けてないよな?」

「も、もちろんです!念のため警備隊も呼びました!」

「どおりでこんなに人がいるわけだ。とりあえず開けるぞ」

 

 息を呑みながらケースの蓋に手をかける。ロックを外して恐る恐る開けると中から淡い光が見えてくる。その光もあったがローブを着せられた人が一人座らせられた状態で入っているのがはっきり分かってくる。そのローブのフードを取ると知らない男の顔が見えた。

 

「み、美登さん!?」

「…やはりこうなったか」

「じゃあ探偵さんの予想って………」

「ああ、だいたい(・・・・)当たった」

「え?」

「いや、気にするな」

 

 それから美登誠也の遺体の調査が始まった。死因は毒殺、箱の中身がバレないように消臭剤なども入っていたことがわかった。そして美登が纏っていたローブと淡い光を出していたランタン、そして到着した時間が九時であることからタロット番号9番のハーミットであると思われる。何故この時間に届けられたか、他の事件と並べて考えるとあるこちに気づく。こうなったらせめて最後の事件は防ぐと決意してスタッグフォンを起動させる。

 あれから時間が経ち十五時半、仕掛けは動き出し俺たちはスタッグフォンが示す位置へと向かった。ショッピンングモールの屋上駐車場、おそらく最後の殺害現場の場所になるところだ。警察を数人連れて屋上に入り辺りを見回すと玉城を掴んで落とそうとしている犯人の姿が見えた。全員でその現場を取り押さえて犯人と向き合う。

 

「やっぱりお前だったんだな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古谷和也さん」

 

 和也さんは警察に押さえられながらも必死に抵抗している。名を出すと力が抜けたように項垂れた。

 

「バレたんですね……流石は名探偵です、鳴海さん」

「俺は、こうなって欲しくなかったがな」

「じゃあ今回の事件は」

「ええ、僕たち(・・・)がやりました」

「僕たち?」

「今殺されそうになった玉城も犯人、共犯だ」

「なんで俺を殺そうとしたんだよ!話が違ぇじゃねぇか!」

「お前との約束なんて知ったことか!」

 

 彼の顔は怒りに染まり、警察の拘束を振り解くように力を込める和也さんを彼らは逃さなかった。裏切られた玉城は信じられないものを見ている顔になっている。

 

「僕は知ってるんだ!全てお前が始めたことだってな!」

「な、何を………ッ!」

「お前が姉さんをストーカーしていたこと。そしてそれを具土の野郎に知らせ、アイツと一緒に姉さんを轢いたこと。そん時に座っていたのは具土らしいがお前の方が何倍も罪がある!前々から姉さんはお前に苦しめられていてそれをストレスに感じているのに僕に心配させないようにしていた。なのにお前はそれを知らずに我欲のために姉さんを苦しめたんだ!そして姉さんから未来を奪ったんだ!!」

「では美登さんや松下さんは………」

「アイツらも同罪だ。姉さんの未来を奪った奴らを野放しにしたんだからな」

「だがそんな情報どこで得た?全て貴方の妄想かもしれないよな」

「ちゃんと調べたさ。なんなら、コイツが謝りにきた日に酒に酔わせたら全部しゃべってくれたよ」

 

 もしきちんと出来ていたのなら彼には探偵の才能があったのだろう。だが今の彼は間違った使い方をしてしまった。とても惜しく感じる。だが俺のやることは決まっている。

 

「もう一度聞いておく。古谷和也さん、玉城永遠、お前らがこの事件の犯人でいいんだな?」

「僕は認めるよ」

「な、なんで俺まで犯人扱いされなきゃいけねぇんだよ!」

「アンタこの後に及んでまだ…!」

「いいさ、それを納得させるのも俺の仕事だ。一つ一つ紐解いていこう。

 まず第一の事件、具土が殺された事件だ。殺害方法は首を絞められた絞殺による窒息死。しかし発見当時は逆さまの状態で発見された。何故逆さまになったか、その答えは俺たちが仕掛けを踏んでしまったからだ。十字架にくくりつけている二本の紐。その伸びている紐から対となる扉に紐の先をつける。勿論本人が帰る時は仕掛けが崩れない程度にな。そして俺たちはそのことに気付かずに扉を開けてしまったため固定していた紐は解け、十字架は回転した」

「一番難しいのをそんなにあっさり解いてしまうなんて…」

「殺害当時は簡単だ。具土を殺すときは玉城に囮をさせて背後を取ればいい。そして後ろから首を絞めれば完了だ。

 円谷を殺すときは適当なことを話しているときに心臓を一突き。松下は酒か何かを持って行ったんだろう。その中に遅効性の毒を仕込んでおき、奴に飲ませてからしばらく何もないふりをしながら時間を過ごせば殺せる。美登に関しては状況はよくわからないが誘拐して毒殺した線が濃い」

「流石です探偵さん。ですがそれは僕たち以外にもできますよね?」

「ああ、だから裏付けとしてお前はヒントを残していった。郵便配達人として」

「ど、どういうことだ………?」

「えっ、貴方殺人を手伝ってたんですよね?」

「和也さんは玉城に気づかれないようただの遊びだと思わせたんだ。しかしそれが1番のヒントだった。遺体発見当時の写真、これらはタロットカードのイラストに似ている。具土はハングドマン、円谷はエンペラー、松下はジャッジメント、美登はハーミットのように」

「たまたまじゃねぇのか!?」

「たまたまだとしたら俺たちに知らせる時間があまりにも偶然すぎる。それぞれの番号、ハングドマンは十二時、エンペラーは四時、ジャッジメントは二十時、ハーミットは九時に発見されるもしくは殺された。

 そしてお前が殺されかけたのはもう少しで十六時になる時間だった」

「嘘だろ………」

「さすがの推理です。ですが何故玉城が殺されることがわかったのですか?」

「被害者は全員、名前のどこかに別の読み方も含めローマ字にしたときに英語で読めるところがあったりしたんだ。具土のハングドマンのように」

 

 円谷は円谷平司を円と平をとって書き直すと円平、エンペイがエンペラーに近づく。松下は重治をjyujiにするとjudgeに近づく。美登はハーミットのミットのように少し無理やり感があるがこうやって直すとそれぞれに近づく。

 

「じゃあ俺は!」

「玉城永遠、永遠をTowaにするとタワーに近づく。そしてタワーの番号は十六時だったってわけさ」

「お見事です。では最後に僕が犯人だって決める証拠は?」

「さっきの現行犯もそうだが、癖が出ていたんだ」

「癖?」

「君は時間を守りすぎていたんだ。せめて時間がずれていたら最後の事件は止められなかったかもしれない。けれど姉との約束である時間を守るということを君はしっかり守っていたんだ」

 

 取り押さえられている和也さんは今更気づいたかのようにハッとした顔をすると急に笑い出した。周りの奴らは理解できずに驚いている。

 

「ハハハっ!まさかそこを決定づけられるとは!」

「これ以上突き詰めるような真似はしたくない。さぁ和也さん、お前の罪を数えろ」

「いいですよ、その前に離してください。二つほどやらなくてはならないことがあって」

「周りに危害を加えるか?」

「加えません、絶対に」

 

 その言葉を信じて離すように指示を出すと警戒していた手は緩んだ。解放された和也さんはスマホを取り出して電話をしているようだった。どうやら病院に電話しているようだ。おそらくしばらくの別れを告げているのだろう、最愛の姉に。電話を終えたのかスマホを耳から離してタップしているのを見ているとこちらに体を向ける。

 

「すみません、お待たせしました」

「もうどっちも終わったのか?」

「いえ、もう一つは今やっているところです」

「じゃあ終わるまでに質問だ。何故こんなわかりやすくしたんだ、貴方程度ならもっと難しくできたはずだ」

「それは……わかりません。もしかしたらこいつらのやったことをもっと明るみに出すためかもしれません」

「そうか………次に聞きたいことがある。政治家は傲慢故にエンペラー、お坊ちゃんは我慢ができないからハングドマン、裁判官は裁断するからジャッジ、玉城は転落するからタワー。しかし何故警察はハーミットなんだ?普通ならジャスティスだろ」

「わかってるはずですよ、探偵さん。警察は、隠すのが上手いってこと」

「………そうだったな」

 

 この事件はその正しき部分であり腐った部分が1番の元凶になってしまった。もしキチンと捜査や裁判が行われていればこんなことにはならなかったのだろう。被害者たちは我欲のために大衆の正義を捨てた。その結果がこれだ。

 

「玉城さん殺しかけた理由はいいんですか?」

「そいつは共犯とはいえ元凶だ。最後には消すつもりだったんだろ?」

「その通りです。ですがもう無理ですね、約束したので」

「こういうときは律儀なんだな」

「ええ、ですが今から別の約束(・・)を破ります」

 

 笑顔で違和感のある事を言った和也さんはスマホをその場に置いて後ろに向かって走り出した。走り出す寸前口が動いたのが見えたがもし正しければやばいことになると俺は和也さんの方へ走り出した。だが空いてる距離の問題か、間に合いはしなかった。

 和也さんは玉城を落とそうとしたところの塀の上に立ち、胸ポケットから白い花を取り出すとこちらを振り向いたまま落ちていった。高さは建物で言えば五階分。生きているはずがないと思いつつも下を見ると鈍い音が聞こえてきた。手に白い花を持った殺人犯は、笑顔のまま血溜まりの池を作っていた。

 俺はその場に座り込んでコンクリートの床を叩いて空に向かって叫んだ。もう出さないと決めた被害者を出した懺悔を。

 

 

 

 今回の事件は犯人が自殺したことにより幕を閉じてしまった。当然共犯の玉城には前科も含めてこれからまた罪が決定されるらしい。俺がやったことは間違いだったのか、それを数日間問い詰めながら静香さんのお見舞いに行った。当然本人は弟の死を知っていた。

 

「失礼する」

「鳴海さん、こんにちは」

「体調はどうだ?」

「まぁまぁです………」

「和也さんを止められず本当にすまなかった」

「いえ、もういいんです。あの子が、初めて自分でやったことですから」

「え?」

「あの子はいつも私の指示で動いていたんです。その分いい子ではあったんですが自主性がなかったので………」

「だがそれとこれは………」

「もう会えないのは、辛いですが、あの子の意志も尊重しようと思います。それにあの子、またアルカナの花を送ってくれたんです。あの子が死んだ次の日に」

 

 窓の方を見ると新しいアルカナの花が飾られていた。おそらく元々予約していたのだろう。用意周到すぎる。

 

「あと、この封筒が届いていたんですよ。中身がわかりますか?」

「十三番のデスか?」

「惜しいです。それともう一つ入っていたんですよ。十九番のsun、太陽です」

「そいつは………よかったな」

「はい、とても嬉しいです」

 

 涙目になる静香さんにこれで失礼すると伝えて部屋を出る。少しだけ背中を壁にもたれかかると部屋から嗚咽が聞こえてくる。Sunの意味は太陽、幸福だ。最後の最後で姉に対して希望を残していったのだろう。

 あの時和也さんが置いたスマホには零番のフールが写っていた。飛び降りること、また欲求に忠実なことを示していたのだろう。彼のとっての欲求は、姉に対する忠誠だったのだろうか。

 元々最後の最後には飛び降りるつもりだったのだろう。全てを片付けて静香さんに迷惑をかけないようにして。身勝手な人だ。そうだ、フールの意味はこうともあった。──愚者、と。



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第九話 お嬢様のbirthday

「新一、今のところもう少し強くお願いできる?」

「畏まりました」

「もう一度行くわよ」

 

 今日は主人であるお嬢様の誕生日だ。もちろん誕生日プレゼントはちゃんと用意してあるのだが何かやりたいことはあるかと聞いたら、当日の練習は午後からだからそれまで僕とセッションしたいとのことだった。当然断る理由も無くセッションをしていた。最初は余興程度かと思っていたがやっているうちにそんな考えは覆された。今日はヴァイオリンを使って久しぶりの合わせではあったが前に歌っていた時よりも遥かに上手くなっている。

 

「時間はあとどれくらい?」

「お昼の時間を入れましてあと一時間ほどです」

「わかったわ。あなたはそろそろいけるかしら?」

「演奏の方でしたらいつでも問題はございませんが」

「じゃあやるわよ」

 

 それからまたハードなセッションが再開された。久しぶりだった分かなり厳しめだったが求めるものに答えるくらいには出来ただろうか。時間が経って片付けをしながらラウンジで昼食を取っていると他のメンバーがやってくる。

 

「へぇ〜そんなことがあったんだ」

「うん、お嬢様と二人でやるのは久しぶりだったから楽しかったよ」

「あなたが練習しているところはあまり見ないのだけどよく応えられたわね」

「恐縮です」

「やっぱそこら辺は天才肌なのかな?」

「そんなんじゃないと思うけど」

「体に染み付いている………とか?」

「多分そんな感じ」

「すっごーい!新兄ちょーすごいじゃん!」

「楽しく話しているところ申し訳ございませんが時間ですよ」

 

 紗夜さんの号令で皆がスタジオに入っていく中僕は反対方向へ歩き出す。元々練習後はお嬢様のバースデーパーティーを行う予定だったのだ。その為のケーキを取りに行くのだ。ただし練習が終わる三十分前には戻ってくるように言われたのでスピードを上げていく。頼んでいる店の味の評判はいいのでこっちのことで気にすることはない。何せ元軍人がパティシエをやっているらしく時間とかには厳しいとのこと。しかしそのおかげもあってか味も絶賛されている。この情報を手に入れてくれたリサには感謝だ。店の前まで着くと黒服の人たちと鉢合わせになった。

 

「名護様、お疲れ様です」

「黒服さんたちこそお疲れ様です」

「お買い物ですよね」

「はい、黒服さんたちは…もう買われたのですね」

 

 手荷物を見ると袋に入った白い箱が見える。

 

「はい。名護様はご予約されているのですか?」

「そうですね、これから受け取るところです」

「ここのケーキを食べたことはございますか?」

「いいえ、初めてです」

「でしたら是非召し上がってください。ここのは弦巻家でも絶賛されています」

「そうなんですね。楽しみです」

「お忙しいところ失礼しました。我々はこれで」

「いえいえ、お疲れ様です」

 

 黒服さんたちを見送って店の中に入る。しかしあの御家でもそこまで絶賛されているとなるとかなり評判は高いと見えた。店の中に入って予約していたケーキを注文するとパティシエと思われる人が出てきて事細かに説明してくれた。一流はここまでするのだと感心しつつ受け取るとフランス語で見送られる。世の中すごいなと思いつつもその足でcircleまで歩いて行った。

 時間は指定された時刻の五分前、上々といったところだろうか。部屋の前まできて一度音が鳴り止むのを待ってから部屋に入る。

 

「ただいま戻りました」

「おかえり〜」

「予定時間の五分前ですか、流石いったところです」

「ちゃんとケーキを受け取ってきましたよ」

 

 手荷物を置いて椅子に座ろうとすると呼び止められる。そのまま楽器を持ってこいと言われたのでケースから出して皆に近づく。

 

「これで全員揃ったわね」

「あの一体何をするんですか?」

「今から残りの時間を使ってこの六人で音を合わせるわよ」

「今からですか!?」

「実は友希那に誕生日に何かやりたいことある?って聞いたら新一も含めて全員でセッションしたいって言ってさ」

「言ってくれればよかったのに……」

「友希那さんが……新君には黙っていようって……」

「お陰で面白い反応が見れたわ」

「確かに新鮮な反応でしたね」

 

 少し複雑な気持ちもあるけどお嬢様が楽しめたならまあいいかと流すことにした。ヴァイオリンを肩に乗せ手首を軽く回して準備運動をする。

 

「それで、何を合わせるんですか?」

「そうね。せっかくだし、熱色スターマインなんてどうかしら」

「いいと思います!」

「私も賛成です………」

「私も同じです」

「じゃあ早速やろうよ♪」

「ええ、あこカウントお願い」

 

 元気な返事をしたあこちゃんはスティックを叩いてカウントを取ると一気に演奏が始まる。飲み込まれないように意識を持ちながら弦を弾いて音を合わせる。決して周りを崩さないよう気を配りながらも存在を証明できるように音を奏でていく。ワンコーラスで一度切って話合いに入る。

 

「すっごーい!新兄すごいよこれ!」

「うん、ちょっと緊張したけど合わせられてよかった」

「気配りしてるのが…すごく伝わってきた………」

「けれど自分をきちんと出せている分、ヴァイオリンに長けているのですね」

「もしかして午前中もやってたの?」

「熱色スターマインは少しだけしかやってないよ。皆の演奏に合わせるところを考えながらやってたから少し大変だったけど」

「悪くはなかったわ。だけど次は調和をとりつつもう少し出てきなさい」

「畏まりました」

 

 指示通りに応えられるように頭の中で構想を練る。演奏が始まると同時に僕の音を流し込んでいく。皆で演奏をしているとあっという間に三十分は終わっていた。部屋の片付けを済ませパーティーの準備を始める。準備を終えてそれぞれが席に着くとパーティーは始まった。

 

「「「「「友希那(さん/お嬢様/湊さん)誕生日おめでとう(ございます)」」」」」

「皆ありがとう。これからもよろしく」

「じゃあ毎回恒例のプレゼントから始めましょう!」

 

 テンポ良くプレゼント譲渡会が始まると皆持ち合わせてきた物を取り出してお嬢様に渡していった。季節柄マフラーを渡す人や手袋を渡す人がいた。尚、今回も大丈夫だ。お嬢様の誕生日プレゼントは先月から考えてきた。今年は寒波も予想されると言ってたので温かいものにしようと既に買ってある。他の人とも被らないよう調整はしたので問題はない。

 

「次新兄だよ〜!」

「白金さんの時は大丈夫でしたし今回も大丈夫でしょう」

「やっぱりそんなイメージを保たれているんですね」

「まぁアタシのときすごかったからね」

「その時は未熟だったといっていたわね」

「ええ、ですがもう大丈夫です。お嬢様、改めまして誕生日おめでとうございます」

 

 持ってきていた紙袋を渡して自席に戻る。袋から中身を取り出しているのを見て気になってはいたのだなと思った。しかしこちらを意外そうな目で見てくる。

 

「コート?」

「はい、今年は例年より寒くなるそうですから」

「やはり成長しているんですね」

「なんで紗夜さんが泣いてるんですか?」

「親心………?」

「そんなんじゃありません!」

「ありがたく受け取っておくわ。さ、早く食べましょう」

「それもそうだね〜それじゃあいただきまーす♪」

 

 買ってきたケーキは今までに食べたことのない味だった。さすがは本場で鍛え上げてきた味なのだろう。パティシエの顔を見たときは奇しくもなったが人は見かけによらずというし、美味しいからなんでもいいだろう。

 

「少し時間あるし何かしない?」

「いいですね」

「何するのー?」

「セッションは……先ほどやりましたし………」

「なら一度やってみたかったことがあるの」

「やってみたかったこと?」

「やり方はよく知らないのだけど、王様ゲームというのをやってみたいの」

 

 王様ゲーム__くじを全員が引き、中にある印のついたものを引いた人が王様となりそれ以外の人はそれぞれ番号の書かれたくじを持っている。王様は好きな番号を指定してその人に対して命令を下せるというゲーム。

 たまにやばい人が出るから気をつけろと橋本さんに言われていたがまさかこのタイミングでやるとは思っていなかった。

 

「面白そう!やりましょうよ!」

「ですがくじがありません」

「あ、アタシ割り箸持ってるよ」

「なんで持ってるのさ」

「クラスでたまにやるんだよね」

 

 最近の女子高生はいろんな事に適用してる気がする。いや、もしかしてリサだけか?ジャラジャラと割り箸を混ぜて一人一人引かせていく。

 

「それじゃあルールは簡単、赤い印がついた棒を持っている人が王様、番号の棒を持ってる人は指示通りにするってことで」

「わかったわ。それじゃあいくわよ」

「「「「「「王様だ〜れだ?」」」」」」

 

 皆で赤い印のついた棒を持っている人を確認するとお嬢様だった。流石本日の主役、引きのレベルが違う。

 

「何なりとご命令を」

「そこまでかしこまらなくていいよ」

「そうなの?」

「あくまで……遊び…だから………」

「それで、湊さんはどういう命令を?」

「そうね、最初だし軽いものでいこうかしら。3番の人が嫌いな食べ物を言う」

「げっ、あこが3番です〜。えーっとあこが嫌いな食べ物はピーマンとか苦いものです」

 

 あこちゃんの苦手なものを聞いてまだまだ子供ね、などと言っているがお嬢様の食べるご飯には苦い野菜を入れることがある。しかしそれをいつも避けて食べているので食べるようにいっているのだが聞いてくれなくて困っている。だがたまに隠れて紛れ込ませていると気付かずに完食している。一体どちらが子供なのかわかったものではないと苦笑いをする。

 くじが回収されてかき混ぜられる。全員が一本ずつ引いて準備が整うと掛け声を揃えた。

 

「「「「「「王様だ〜れだ?」」」」」」

「やったー!あこです!」

「おっ、面白そうだね」

「わかりやすい命令でお願いします」

「ふふん任せてください。闇の堕天使たるあこが命令するのは……2番と5番があこに平伏す!」

「2番はアタシだね」

「5番は私ですね」

 

 選ばれたのはリサと紗夜さんだった。平伏すということもあって二人は膝をついて忠誠を誓うような姿勢をとっていた。意外となんでもありなんだなこのゲーム。

 またすぐに回収されて次のゲームが始まった。

 

「「「「「「王様だ〜れだ?」」」」」」

「アタシだね♪何にしようかな〜」

「今井さんなら安心できますね」

「危険なことがあるんですか?」

「たまに………ね?」

「ヘ〜」

「それよりリサは決まったかしら」

「決まったよー♪4番の人は王様に膝枕する!」

 

 はぁと軽く頭を抑えている紗夜さんを片目に見ながら自分の番号を確認する。ゾッとしながらも平然を装うことにした。

 

「4番は誰〜?」

「僕です」

「今井さん……やりますね………」

「こんな確率本当に当たるんですね」

「え、本当に新一なの!?」

「そうなるね。王様の命令といえど流石に恥ずかしいんじゃないかな?」

「新一、そう言って逃げようとしたって無駄よ」

「そうですよ!なんたって王様の命令は………」

「「「「絶対ッ!」」」」

 

 皆すごい息ぴったりだなと感心しながらも命令を出した本人の顔を見る。すごい赤くしてるけど大丈夫なの?命令される側よりも命令する側がこうなってしまっているけど?

 

「そこは今井さんの自業自得です」

「そういうこと言わないでよ紗夜〜」

「(私が王様になればああいうことも………)諦めてください………」

「燐子今絶対何か考えてたよね!?」

「ほら、早くしなさい」

「ハハハ………僕のでよろしければ……」

 

 枕の代わりになりやすいよう足を閉じて座るとリサが恥ずかしながらも頭を太ももの上に置いてくる。寝心地はどうだと聞くと大丈夫といってきた。そういってる本人は顔を真っ赤にして抑えているけれど。

 

「では続きをしましょうか」

「え!?アタシこのまま続けるの!?」

「せっかくですから堪能していてください(?)」

「いいなぁリサ姉、寝ながらできるなんて」

「あこちゃん多分そういうことじゃないと思うよ?」

「じゃあいくわよ」

「「「「「「王様だ〜れだ?」」」」」」

「わ、私です………!」

 

 りんりんなら問題ないだろうと考えた瞬間その希望は打ち砕かれた。光を灯していた目からハイライトが消え去りニヒルな笑みを浮かべている。まるで別人を見ているようにりんりんの表情は変わっていた。

 

「では………今井さんはこれから30分間、立て札をかけて正座で……お願いします……」

「どうしたの燐子、なんか怖いよ!?」

「駄目よ燐子、番号で指定しなくては」

「そ、そうだよ。王様ゲームは番号で指定するんだから羨ましいならそう言えばいいのに」

「では……3番の人お願いします……」

 

 僕の膝を枕にしているリサのくじを見てみるとそこには3と書かれていた。さっきまで余裕そうな顔をしていたリサの顔は一気に青ざめていった。むくりと起き上がると急いで部屋を出ていく。しかしここでりんりんから恐怖の一言が放たれた。

 

「ダメですよ今井さん、逃げたら………王様の命令は………?」

「絶対ッ!」

 

 絶対の一言により捕まったリサはミニホワイトボードに【私はやましいことを考えました】と書かれ、首から下げた状態で正座をしている。少し涙目になりつつも反省していますというような格好に少し笑えてきた。王様ゲーム、なかなかの趣向の遊びだなと気を引き締めると次のラウンドが始まった。

 

「「「「「「王様だ〜れだ?」」」」」」

「やっと私ですね」

「紗夜さんってことは何かきついことやらされるんじゃ………」

「私をなんだと思っているんですか。そうですね……では次の王様は本当の王様になりきってもらいましょう」

「あら、意外ね」

「たまにはこういうのも悪くないんじゃないでしょうか」

 

 次の王様自身に命令を下すとは、ある意味呪いみたいなものだよね。

 

「でも……王様に命令するのって……アリなんですか………?」

「王様も番号みたいなもんだしいいんじゃない?」

「ですがこれではルールに抵触してしまいますね………では今1番を持っている人が王様になった時でいいでしょう」

「あ、僕ですね」

「優しそうな王様になりそうだね」

 

 まぁ大丈夫だろうと思い次のラウンドを始める。

 しかし、フラグというのはいずれ回収されるものだった。

 

「「「「「「王様だ〜れだ?」」」」」」

「あっ、僕ですね」

「こんな展開もあるものですね」

「じゃあ新兄、王様になれ〜!」

「もうなってるけどね。それじゃあ先代(?)の王様の命令を実行します」

 

 一度深呼吸をしてから足を組んでゆっくり目を開いた。

 

(何、この空気の重さ……!?)

(これが名護さんの演技………)

(く、苦しいよ………)

(も、もしかして………)

(本気になっちゃってる………!?)

「では命令を下す。2番は今日一日敬語を禁止する」

「は、はい………」

「し、新一、もう………いいよ………」

「うん、わかった」

 

 いつもの表情に戻すと皆が一気に息を吸い込む。そんな呼吸我慢して何してたんだろ。←コイツのせい

 

「っは〜。まさかあれ程とは………」

「息止まるかと思った〜」

「皆普通に呼吸してよかったのに何してるの?」

「あなたの威圧がすごかったのよ」

「ははは、お戯を」

「結構……本物だった………」

「本当だよ〜……あれ、そういえば新一って前まで………」

「王様だった………あー!」

「本物ではないけどね」

「だとしてもですよ!あんなレベルだなんて聞いてないですよ!」

「紗夜さん、敬語禁止ですよ?」

「今はそんなこと!」

「王様の命令は?」

「「「「絶対ッ!」」」」

 

 紗夜さんは下唇を噛むようにして目を逸らした。時間も時間なので片付けをして今日の日は解散になった。今日はお嬢様の誕生日パーティーだったがたまにはこうやって皆で楽しむ日があってもいいのではないのかと考える。

 家に着いて家事を済ませた後に自室にあるものを持ってお嬢様の部屋に向かう。三度ノックするとお嬢様が出てきた。

 

「何か用?」

「改めましてお誕生日おめでとうございます」

「ええ、ありがとう」

「こちらを」

「もうプレゼントは貰ったわよ?」

「もう一つにございます」

 

 持ってきた青い箱を渡してお辞儀すると開けていいかと聞かれる。どうぞと答え得るとすぐに開け始めた。中からは紫に光る宝石が出てくる。

 

「これは?」

「アメジストにございます。意味は高貴……お嬢様にふさわしいと思いまして」

「こんな高いもの受け取れないわよ」

「いえ、そこまで高くないので。もしつけるのを躊躇うようでしたら閉まってくださいませ。いずれ付けるその時まで」

「わ、わかったわ……でも嬉しいわ、ありがとう」

「お気に召されれば嬉しゅうござます。それではお休みなさいませ」

「待って」

「いかがなさいましたか?」

「今日くらいは……名前で呼んでちょうだい」

 

 前に言っていたことだろうか。少し慣れない感じもするので恥ずかしいのだが誕生日となれば致し方あるまい。誕生日の日の人の言うことは聞かねばならないだろう。

 

「……かしこまりました。おやすみなさいませ……友希那……様」

「あなた最後に様って」

 

 最後の言葉を聞く前に扉を閉めて自室に戻った。流石に主人の名前を突然呼び捨てにするのは気が引けたのでああさせて貰ったがこちらも突然言われたのでこれで勘弁して欲しい。

 でも今日は楽しかったし、久しぶりに気楽に寝れそうな気がする。旦那様、お嬢様は成長なされました。また会えた時、ちゃんと祝ってあげてくださいね。

 




尚後日紗夜さんの話によると敬語を使えないのは結構苦しかったという。

次回から新章始まります。秋ですね……


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第五章 Noise noIse noisE
First noise それぞれの異変


新章開幕です。もしかしたらこの章で今年終わる………?


 俺は気晴らしに外に出ていた。ここ最近はずっと中で遊んでたが飽きてきた。もうある程度を除けば俺より強いやつはいねぇし面白味もない。京は遊びに付き合ってくれないしあのガキは論外だ。強いて言うならアイツは強いが、もう遊びでは済まされないだろうな。適当に立ち入り禁止のビルの中に入って屋上まで行くと街の景色が見えた。

 

「ハハッ、街の明かりは綺麗なのに中身は汚れてるんだよなぁ」

「そうだな。俺はそういうの嫌いじゃないけどな」

 

 突如現れた声に体が強張った。気配すら感じなかった。てっきり俺一人だと思い込んでいたのに現れた。顔も見えない、愉快そうな年上の男の声。

 

「お前、面白そうなもの持ってんな。ちょっと遊ばねぇか?」

「へぇー…いいの?お兄さん死んじゃうよ?」

「俺は殺すつもりねぇから安心しとけ。むしろお前は大怪我しないように、な?」

「ヘッ、その言葉そっくり返すぜ!」

 

 俺はメモリを差し込んでドーパントになる。先手必勝でエネルギー弾をぶつけるとそこに男の姿はなかった。どこに行ったか辺りを見回そうとすると横から爪が飛んでくる。

 

「結構見えんのか。俺、この暗さじゃ見えずらいと思ったんだけどな」

「マジかよっ!!」

 

 ブレードで防いでいる爪がどんどん重さを増してくる。タイミングを見て脱出しなければやられると思ったと同時に今度は尻尾のようなものが薙いでくる。防御が間に合わず横腹に真っともにくらう。すぐに体制を立て直すとすぐ目の前まで来ていた。爪を掛けられる前に羽を生やして飛ぶと回避に成功した。

 この時初めて男の姿を確認した。人ではない俺たちと似たような化け物の姿。

 

「飛べるのか。コイツは面白い」

「アンタ何モンだ?ドーパントじゃねぇよな?」

「俺はファンガイアだ。ちょっとイレギュラーのな」

 

 地に足をつけて羽を無くした瞬間戦闘は再開した。ただしすぐに迫られたわけではない。床が破壊されて宙に浮く感覚を覚える。

 

「これを狙ってたのか!?」

「このタイミングで飛べるか?」

 

 男の声は落ち着いていた。それも当たり前だ。何せヤツは瓦礫を足場にして跳んできている。普段脚力を使ってから飛んでいるから空中で急に飛ぶのは慣れていない。一か八か出来るかと試そうとしたが遅かった。

 右肩に重い一撃が来る。踵落とし、跳躍力を使っての威力の加算に耐えきれずそのまま墜落する。地面に激突しトドメを刺されるかと思ったが土煙が晴れてもトドメは刺されなかった。

 

「殺ろさねぇのか?」

「言ったろ、殺すつもりはないって」

「ケッ」

「死にたがりか?」

「そういうわけじゃねぇけどスッキリしねぇだけだ」

「そうか、久しぶりに面白かったぞ」

 

 男は元の姿に戻ると暗闇の中に消えていった。天井を見上げると月明かりが差していた。景色としては綺麗だが気に入らなかった。負けたことは悔しいが圧倒的な壁を感じた。

 

「あ〜!くそっ!」

 

 俺の虚しい叫びはビルの中に響いて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は妹にひどいことを言った。

 

「なんでこんな………!」

「どうかしましたかお嬢さん」

「あなたは…?」

「ただの通りすがりですよ。それより何かお困りですか?」

「私は……」

「誰かを超えたい、そう思っていますか?」

「なんで、それを!」

「それならこれを使うといいでしょう。そしてこれはおまじないです。あとは、お嬢さん次第ですよ」

 

 何かを腕につけた人は小箱のようなメモリを渡してきた。小箱から視線を逸らすと気が付けばいなくなっていた。メモリの淵の部分をを押すとあとは手に取るように分かった。メモリが身体の中に入っていくとき分かった。

 ──私はもう、あの子に引けを取らないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メモリの流通が再開したぁ?」

 

 プロフェッサーに呼び出された僕達はいつも通りブリーフィングルームにいる。最初の議題がこれだ。あまりいいニュースではない。

 

「あぁ。先日快斗が倒したドーパントが一般人だった」

「この間まで園崎ってやつらの部下だったよな?」

「その通り。しかし聞き出したところ大金を出して買ったんだと」

「金持ちだなぁ」

「あくまで推測だが、夏の時のように一般人に流すことで実験をしてると考えられる」

「わかりました。こちらでも情報を集めてみます」

「こっちも探ってみるわ」

「お願いする。そして引き続き怪物どもの撃退もな」

「わーってんよ」

 

 会議が終わって僕達はそれぞれの帰路に着く。ファンガイアの生態も研究中ではあるがドーパントの変身者もバラバラだからあまり掴めていない。資金問題はそもそもメモリの値が高いからだろう。バイクを走らせながら色々と考えていると、ふとある人の姿が目に入る。

 

「あれ、紗夜さん」

「名護さん、何をしているんですか?」

「少し野暮用が……ってそういう紗夜さんは?今日は練習のはず……」

「少し事情がありまして。今から向かうところでした」

「なら乗っていきますか?その方が早く着きますよ」

「そうですね……ではお言葉に甘えて」

 

 この間まで嫌われていたと思ってたのに急に受け入れてくれたな、なんて言ったら余計嫌われてしまうだろうか。大人しくヘルメットを渡して後部座席に座らせるとしっかり僕のことを捕まえている。発進してから暫くすると声をかけてきた。

 

「名護さん、この間はすみませんでした」

「なんのことです?」

「あなたの正体を知った時です。認められないとかなんだとか言って」

「仕方のないことですよ。紗夜さんはある意味正しい。普通の人としては正しい反応でした」

「では他の人はおかしいと言うんですか?」

「そういうわけではないんですけど……悪い言い方をするとそうなっちゃいますね」

「フフ、らしくないですね」

 

 らしくない。この言葉に違和感を覚えた。それに今の紗夜さんも何かおかしい。いつもならもっと真面目に話すのに今日は笑っている。色々と整理がついたのだろうか。だとしたらこちらとしては助かるのだが。

 

「もうすぐ着きますか?」

「え、ええ。もうすぐですよ」

「ありがとうございました。またバイクに乗せてくださいね」

「気に入りましたか。それはよかったです。他の皆には少し遅れると伝えといてください」

「わかりました。それではまた後で」

 

 バイクを置きに離れた駐車場に向かう。だがさっきまでの紗夜さんの話し方がどうしても気になる。何かを隠しているような、それとも彼女自身が変わってしまったかのような。circleの目の前に戻ってくると錠前が鳴り響く。反応が目の前の建物を示している。ただ強さは一人でもやれる程度とのことですぐに連絡を取って僕がいくことになる。もちろん二人には念のためすぐに出れるようにしてもらった。

 とりあえずお嬢様達の無事を確認しようとすると窓ガラスを破って人が投げ込まれてくる。その人を受け止めて逃すと蝙蝠のようなドーパントが出てきた。こいつ自体は圭君に初めて会った時以来だろうか。

 

「君は誰?circleの中から出てくるってことは………」

「ガァ!」

 

 言い終える前に攻撃を仕掛けてきたどうやら質問には答えてくれなさそうだ。変身して対処に移行する。

 

「新一!」

「お嬢様、皆!下がってて!」

「ウガァ!!」

 

 何度か斬りつけて攻撃する。もちろん反撃がやってくるがおかしかった。まるで近接戦闘に慣れていないような感じがしたのだ。怒っているのならもう少し乱暴でもおかしくはない。けどその様子も見られない。蝙蝠だから元々近接は苦手なのだろうか?油断しているとそれは空を飛んで逃げていってしまった。

 

「逃げられちゃったね」

「皆怪我はない?」

「大丈夫よ」

「問題ない…よ」

「新一は?」

「この通り」

 

 皆の無事を確認してから先ほど投げ込まれた子を確認するといまだに意識を失っていた。だが見た限り花咲川の制服を着ているため花咲川の生徒であることが判明した。りんりんに聞くと普段素行の悪い生徒だったという。

 

「皆さんこんなところで何を……ってなんですかこれ!?」

 

 後ろから来た声は紗夜さんだった。でもおかしい。さっき彼女はcircleの中に入って行ったのを僕は見届けた。

 

「紗夜さん遅かったですね!」

「ある意味正解かもしれないけどね〜」

「でもさっき中に入っていきましたよね?」

「私が入った時には化け物がいたので急いで名護さんに伝えに行こうとしたんです」

「なるほど、確かにそれならおかしくないわね」

 

 なるほどと納得する皆。同時に全員の無事を確認すると今日は危ないから解散することになった。念のため周辺の捜索だけして僕は帰宅した。

 帰宅して数時間、お嬢様が風呂から上がると髪を溶いて欲しいと仰った。とりあえず椅子に座らせて髪を溶いていると話しかけられる。

 

「上手いのね」

「お褒め預かり光栄です。これでもブランクがありますが」

「誰かにやっていたの?」

「はい、幼い頃妹がやって欲しいと」

「そういえば妹がいると言っていたわね。……もし良かったら聞かせてくれないかしら」

「妹の事ですか?」

「ええ」

 

 お嬢様が僕の話に興味を持つなんて珍しい。僕は手を止めずに話し始めた。

 

「そうですね……希璃乃(キリノ)はとても元気な子でした。いつも僕の背中をついてきて、笑ってばかりで……髪はお嬢様に似ていましたね」

「髪?」

「はい。白くて長かったです。それ故に溶いてくれといつも言われて」

「だから慣れていたのね」

「はい。ですがその時間も次第に……というかある時を境に殆どなくなってしまいました」

「それって…」

「はい、おそらくご想像通りかと。ですが月に一度、家族の時間がありましたので、その時はやっていましたね」

「ごめんなさい」

「大丈夫ですよ。もう自分の中では整理が出来てますから」

 

 奪われたときは本当に悔しかった。体力さえあれば立ち向かっていただろう。それに殺したのは僕のようなもの。だからこの復讐は仇であり贖罪でもある。

 そろそろ良いだろうかと髪から手を離して櫛を返す。

 

「終わりました。いかがですか?」

「……自分でやるよりも清々しいのは腹が立つわね」

「申し訳ございません」

「フフッ、冗談よ。あなたの話が聞けて良かったわ。よかったらまた今度聞かせてちょうだい」

「僕なんかの話でよろしければ」

 

 部屋に戻っていくお嬢様を見届けてから後片付けをすませる。お風呂に入って部屋に戻ると引き出しを開けた。

 中には筆記用具とかが入っているが本命はそこじゃない。その中にしまってある一枚の家族写真だ。家族の事を思い出すとたまにこうやって写真をみたくなる時がある。

 ずっと見ていると少し寂しくなるのですぐにしまうけど。けどたまに見ることで落ち着ける。そしてその度に思い出せる。やることをやった僕は布団に入ってすぐに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 危なかった。あのまま戦っていたらおそらく大変なことになっていただろう。

 ──まだ駄目だ。まだバレるわけにはいかない。あの子を越えるまで、手放すわけにはいかないのよ。それにこの力があれば他の人だって認めてくれる。

 小さな小箱を持って夜の街に出る。これも証明するためなんだ。あの日からずっとこうしているが気分がいい。

 

「ねーねー彼女♪今一人?俺らと遊ばない?」

 

 夜の街ならこういうのがいる。今の私にとっては都合がいい。だってコイツらは、私の証明のためのイケニエになってくれるんだから。

 

「フフ、悪い人」

「おっ、その反応、OKってことでいいのかな?」

「せっかくですし、遊んであげますよ」

「清楚なフリして悪い子じゃーん」

「俺こういうタイプ好きなんだよなぁ!」

 

 …せっかく楽しくヤれると思ったのにテンションが下がってきた。

 

「あれ?どったの?」

「私が、悪い子?」

「だってそうでしょ。こんな時間に出歩いてんだもん」

「あれー?もしかしてわかってなかった?」

 

 逆鱗に触れられた。もうそれだけで充分だった。

 

「それは私が許しません。あなた達の根性を叩き直してあげます」

「もしかして正義とか信じちゃってるタイプ?」

「黙りなさい」

『バット』

 

 メモリを鎖骨の辺りに挿して姿を変える。私の姿を見た男達は怯えて逃げようとする。

 失礼な人たちですね、さっきまで散々人の事をナンパしてたのに。そんな悪い人達には私が罰を与えます。あぁ、やはりこうやって悪い人達を裁くのは心地いい。風紀員の仕事ではここまで出来ない。だからこそ気持ちいい。それに満たされていく。私は持って強くなれる。そうすればあの子だって……!

 しばらくして証明のための人形は壊れてしまいました。残念です、もっと遊べると思ったのに。

 その場を離れて家に帰る。勿論お母さん達に迷惑をかけないために窓から出てきた。これさえあれば意図も簡単だ。心地いいことをした後の睡眠は最高だ。私はベッドに寝転がって腕を伸ばす。

 

「待ってなさい、これさえあればあなたを越えて見せるわ……日菜」

 

 



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Second noise 訪問、花咲川

 おねーちゃんに、嫌いって言われた………どこで間違えたんだろう。なんでこんなことになっちゃったんだろう。もう何もかもが分からない。一人帰る道の中何かにぶつかる。

 

「お嬢さん、大丈夫ですか?」

「ごめんなさい…」

「元気がないですね………何かあったんですか?」

 

 目の前のスーツのおじさんは聞いてくる。けど何も言いたくなかった。それでもおじさんは目の前に居続けて何かを考える仕草をとる。

 

「何があったかは知りませんが、腕を出してください」

「え?」

「これはおまじないです。きっと、今貴女が抱えている問題を解決してくれますよ」

 

 そう言っておじさんは腕を離してどこかへ行ってしまった。自分の腕を確認すると何かの差し込み口のような模様がついていた。なんだか少し気持ち悪く思えたがすぐにどうでも良くなった。そのまま重い足取りであたしは家に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハロウィンが間近に近づいた平日、いつも通り僕たちは学校へ向かった。通学路の都合上リサと夜架ちゃん、魔姫ちゃんも一緒だ。皆で話しながら歩いている。

 

「新様、ハロウィンはどういう仮装がいいですか?」

「そっか、二人とも初ハロウィンか」

「私は参加しないわよ」

「そうなの?」

「魔姫も仮装しなよ、絶対似合うよ〜?」

「そういうの慣れないのよ」

「では新様、私はデンジャラスなビーストの格好をして参りますわ!」

「却下で」

 

 そんな他愛もない話をしていると目の前に水色の髪の少女の姿が見える。いつもなら声をかけてきそうなのに後ろから見てもわかるくらい落ち込んでいるのがわかった。

 

「ヒナおっはよ〜♪」

「あ、リサちーおはよう」

「今日も元気ないけどどうしたの?」

「ううん、なんでもないよー。あ、麻耶ちゃんおはよー」

「おはようございます日菜さん」

 

 遠くから見ててもわかるくらい元気がなかった。一体どうしたのだろうと思いつつもリサがいるからどうにかなるかとそっとしておくことにした。教室に入ってしばらくゆっくりしていると予鈴ギリギリに京君が入ってきた。

 

「おはよう、昨日は休みだったけど今日はギリギリだね」

「おはようさん。昨日は事件があってな……今日は寝覚めが悪いぜ」

「お疲れ様。その様子だとあまりいい締まり方じゃなかったみたいだね」

「ああ、むしろ最悪と言ってもいいくらいだ」

 

 そっかと話を終わらせて授業を受けた。授業中の京君はきちんと集中できておらずどこか上の空だった。彼なりに重い事件だったのだろうと気にはなった。しかし口を出して良いことではないと思ったので心のうちにしまう。

 お昼休みになってお弁当を持って屋上に向かおうとすると日菜さんに出くわす。朝のように元気がなかったのでつい声をかけてしまった。

 

「何か、あったんですか?」

「ううん、何もないよ」

「嘘ですね」

「嘘じゃ……ないよ」

「お話、僕でよければ聞きますよ」

「え?」

「いつぞやの恩返しってことで。それに、今の日菜さんはなんて言うか、るんっ♪ってしないです」

 

 ちょっとだけ日菜さんの真似をしながら引き摺り込もうとするとプッと笑ってくる。笑い声はどんどん大きくなるので途端恥ずかしくなってきた。

 

「あはは、新一君面白いね。じゃあちょっとだけ聞いてよ」

「構いませんよ」

 

 僕達はそれぞれのお弁当を持って食堂へ行く。向かい合うような形で席に座ってご飯を食べ始めた。最初はやはり戸惑うのだろうか、と思っていたがそんなことはなかった。

 

「最近ね、おねーちゃんと喧嘩したんだ」

「喧嘩、ですか」

「うん。それからおねーちゃんあたしの話を聞かなくなっちゃって。今までより関係が悪くなっちゃったっていうか………」

「なるほど。確かにそれは一大事ですね」

 

 話をしていて気づいたが日菜さんはこんなに元気がなくなっているが最近の紗夜さんはそんなふうには見えなかった。平常運転を装っているだけだろうか。いや違う、最近紗夜さんの様子が変わった。練習に対して真面目に取り組んでいたのに楽しさを重視したような感じになりつつもあった。

 

「どうしたら仲直りできるのかなって………」

「ふむ…こうしてみると状況が似ていますね」

「え?」

「この間は僕が同じような質問をして、日菜さんが解決策を出して」

「ホントだ!お返しとか言ってたけど前と反対の立場になってるだけじゃん!」

「いやまあお返しではあるんですけどね。ですが今回に関してはうまく動けそうにありませんね……」

「なんでー?」

「少し様子見をしておきましょう。日菜さんたちのケースはかなりの時間がかかって今に至っている。なら僕の時みたいに早くに解決できるわけではないと思います」

「そうかもだけど……」

「任せてください、少し時間はかかるかもしれないですが必ず仲直りさせられるよう手伝います」

「ありがとう!少し楽になったかも♪」

 

 日菜さんは弁当箱を片付けてすぐに食堂を出て行った。少し気になった僕はりんりんに電話をかけることにした。思いのほかすぐに繋がる。

 

『…もしもし……』

「もしもしりんりん?今空いてる?」

『う、うん…大丈夫だよ……』

「それはよかった。ちょっとお願いがあるんだけどいい?」

『どうしたの………?』

 

 要件を伝えて了承を得ることに成功した。これで少しは情報を集めやすくなった。礼を言ってからお願いして電話を切った。なんだか今探偵みたいなことしてるな。ちょっとワクワクするかも。

 

「探偵の仕事にしては序の序だぞ」

「いつからいたの?」

「日菜が出て行ったあたりから」

「はぁ………」

「状況は大体分かった。現状俺は何もできなさそうだからアレだが、手伝えそうなことあったら言っていいぞ」

「依頼料取らなくていいの?」

「もちろん取ってやる、お前からな」

「はいはい、ダ○ツ一個でいい?」

「すぐにそのあたり出せるあたりイケメンかよ……まぁ、ことによれば増やしてもらうがな」

「じゃあ契約成立で」

 

 その後軽く話ながら教室へと戻っていった。

 とはいえ氷川姉妹の様子が気がかりだった。落ち込んでいる日菜さんは当たり前のような状態だが紗夜さんは違う。回りに心配させないよう無理に振る舞っているのだろうか。だとしても紗夜さんの性格ならもう少し表に出てきそうな気もする。

 

「おい新一」

「ん、どうかしたの?」

「次お前指されるぞ」

「え、ありがとう。どこの話してた?」

「シンがアスランに対して悪態ついてるとこ」

「ごめん、ありすぎてわからない」

「フリーダム墜としたところ」

「そもそもそれ現国じゃないよね?」

 

 あの時のアスランの気持ちはかなり複雑だっただろうなと考えながら黒板を見て状況を察した。やっぱり違うじゃんと視線を送ると口笛吹いて誤魔化していた。しかし授業中だったため教員に注意されたけど。

 授業を終えて荷物の片付けをしていると日直の子に頼まれ事をされる。どうしようかと考える前に引き受けてしまった。その様子を見ていたのかお嬢様がやってくる。

 

「なにを話していたの?」

「今日家の用事があって早く帰らなければならないから仕事を代わりにしてほしいと」

「あなた引き受けていたようだけど」

「すみません、湊さんに聞く前に引き受けてしまいました」

「構わないわ。あなたも少しは普通の人らしく生きてみたいでしょう。けれど、あれは多分」

「嘘かどうかは分かりません。けれど頼んでくるってことはそれだけ信用があるってことです」

「人がよすぎるのは他人に毒よ」

 

 元々練習があったお嬢様は荷物をもって教室を出ていった。日直の仕事を引き継ぎ作業を一人で進めていく。そもそももう一人はどうしたと思って教室を見渡すと誰もいなかった。外を見ると空は曇りがかっていた。一応お嬢様に折り畳み傘を渡してあるから大丈夫だろうけど気を付けて貰いたいと思う。

 日誌は書いてあったのでそれを提出するついでに鍵を閉めていく。担任に渡すと仕事はすぐに終わった。

 下駄箱に向かおうとすると困った顔をしているグループを見つけた。

 

「何かあったんですか?」

「えっ、名護先輩!?」

「なんでこんなところに!?」

「いやここ学校ですし……先輩ってことは一年生?」

「は、はい」

「って話してる場合じゃないよ!どうするの、間に合わないよ!」

「何か急ぎの用事が?」

「部活の先輩が今日練習試合なのに忘れ物しちゃって……」

 

 道具は見つけ出せたものの間に合うか分からず焦っているといったところだろうか。打開策はないかと模索する。

 

「うーん、場所は?」

「花咲川です。私たちの足じゃ間に合わないからどうしようって……」

「この時間から電車で行っても無理なんじゃないかなって」

「……わかった、その荷物僕に預けてくれないかな?」

「ど、どうするんですか?」

「僕が責任持って届けるよ。時間まであと何分?」

「あと三十分ですけど、さすがに先輩に押し付けるわけには」

「大丈夫、気にしないで。その代わり誰か顧問の先生に連絡を取って。他校に入校するから許可して貰わないと」

「じゃあお願いしてもいいですか?」

「いいよ、これは何部の?」

「剣道部です!」

 

 剣道部と聞いて一瞬不安感が走ったが気にしないでおこう。荷物を受け取って急いで下駄箱に向かう。イクサリオンを喚んで校門を出るとすぐに停まっていた。そんなに早く来るものかと疑問を覚えつつもヘルメットを被ってバイクを走らせた。花咲川までバイクなら十分で着く。これなら中に入っているものも確認できるはずだと思う。花咲川の近くにバイクを止めて走って門を潜る。しかし門を潜ると警備員に声をかけられて止められてしまった。

 

「君、他校の子だよね?」

「羽丘高校から参りました。名護新一です。剣道部の練習試合で荷物を届けに参りました。連絡が行ってるはずですが」

「羽丘から?来ていないが……」

「何かあったんですか?」

「君は?」

「風紀委員の氷川紗夜です。名護さん、こんなところで何をしてるんですか?」

「羽丘の生徒の届け物です」

「先程連絡を受けました。取り込んでいるから行ってくれと言われましたがまさかあなたが来るとは……通して頂けますか?」

「どうぞ」

 

 紗夜さんに案内されて体育館の方に連れていかれる。道中でため息をつかれたがなんとも言えなかった。

 

「こちらで行われていますのでどうぞ」

「今更ですがいいんですか?」

「あなたが渡した方が効率的だと思いますので」

 

 それもそうだと体育館の扉を開く。すると剣道着を着た女子達がいた。今にも取り乱しそうなくらい焦っている人がいる。恐らくあの人だろう。

 

「失礼します、羽丘高校から荷物を届けに参りました」

「来た!って名護君!?」

「部員の子から預かりました。これを」

「あ、ありがとうございます……」

「ギリギリでしたね。試合頑張ってください」

 

 お辞儀だけして離れようとすると教員らしき人に声をかけられる。感謝の意を伝えられたが問題ないと答えると見ていかないかと聞かれたのでお言葉に甘えることにした。

 練習試合を見ていて思ったのはどの剣もちゃんと鍛えられていることだ。日々稽古に励んでいることが見て分かる。しかし時たまこうした方がいいと自分の中で色々と案が出てくるのが厄介だった。

 

「名護君、正座して見なくてもいいのよ?」

「いえ、ここは武道の場。ならば郷に従うのが理でしょう」

「若いのに偉いわね~ときとして経験は?」

「多少はあります」

「今度うちの部員とやってみる?」

「ハハ、お戯れを」

「うちの子達結構強いのよ~」

「もしその縁があれば、お相手いたしましょう」

 

 フッと笑った瞬間に乾いた音が鳴り響く。羽丘の生徒が面を打たれたのだ。綺麗に面を入れたのはどうやら花咲川の一年生らしい。一年生にしては太刀筋が綺麗だった。才能あるなと感じるとその子は座って面を外した。顔を見た瞬間はあまり信じられなかった。

 

「あ!シンさん!」

 

 しかも気づかれてしまった。仕方ないので後でというジェスチャーを送って落ち着いて貰う。しかしまぁあんなに綺麗な太刀を打てるのはビックリした。音的には聞いていて気持ちよかったが。

 全ての試合が終わり立ち上がるとこっちに向かって走ってくる音が聞こえる。

 

「シンさーん!!」

「落ち着いてイヴちゃん。道着来てるから走りづらいでしょ」

「こんなところで会えるなんて嬉しいです!もしかして稽古をつけに来てくれたんですか?」

「ううん、荷物を届けに来たついでに見学していただけ。それに今僕は道着とか持ってないから剣道は出来ないよ」

「頼んだら貸して貰えないでしょうか?」

「流石にそれはね「いいわよ」えぇ……」

「やりました!許可を得ましたよシンさん!」

 

 何故貸すのか聞くと単に面白そうだからだそうだ。もう少しちゃんとした理由が欲しいところだがめんどくさくなったので受け入れた。道着は男子部員の方にある予備を貸して貰い装着する。久しぶりに着けた道着は少しだけ重く感じ、逆に竹刀は軽く感じた。イクサシステムが起こした慣れなのだろう。

 準備運動を済ませて試合場に移る。僕とイヴちゃんの試合が始まりを告げようとしていた。

 

 



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Third noise 刃交じる花咲川

「では己が武士道に従い、お相手致します」

 

 結果として僕達は竹刀を構えて試合の準備体制を整える。いくら相手が女子といえど本気を出さなくては武士道に反すると言われ本気でやることを約束した。教員二人の元試合が取り仕切られる。

 

「では一本先取試合、花咲川高校若宮イヴ、羽丘高校名護新一、構え」

 

 深呼吸をしてから相手を見据える。

 

「始めっ!」

「「ヤーーー!!!」」

 

 掛け声と同時に迫り面打ち一本を決め込む。防がれることも考えたが速さを出して追いつけないように面を取った。竹刀を構えて向き直すと膝をついたイヴちゃんの姿があった。一本の旗が上げられ、立ち上がって礼をすると試合は終わりを迎えた。

 

「勝者羽丘高校!」

「お疲れ様」

「お疲れ様です!シンさんはやっぱり強いです!」

「そんなことない、と言いたいところだけどありがたく受け取っておくよ」

「でも悔しいです。いっぱい練習したのに……」

「大丈夫だよ。イヴちゃんの踏み込み、良いものだったからもしスピードを上げてなかったら鍔迫り合いになっていたかもしれない」

「そうなんですか?」

「うん、ちょっと焦っちゃった。だから気にしないでとはいえないけど踏み込みとかに自信を持っていいと思うよ」

 

 面を外したイヴちゃんの頭を撫でながら言葉をかける。実際油断していたらもう少し長引いていただろう。ただ本気を出すという約束だったので油断はできまいと気を引き締めていて正解だった。着ていた防具と竹刀を返して元の制服の姿へと戻る。

 

「シンさん、どうしたらもっと強くなれますか?」

「やっぱり日々の鍛錬かな。日々是精進、基礎こそなりて奥義となる。基本的な練習を重ねていろんな人と戦ってみるといいよ。そうすれば絶対強くなれる」

「ゼッタイですか?」

「絶対だよ」

「じゃあもしよければまた今度お相手願えますか?」

「勿論いいよ」

「本当ですか!?」

「疑わなくても大丈夫だよ。武士に二言はないって言うように嘘はないから」

「流石はシンさんです!ブシドー!」

 

 教員に帰ることを伝えて体育舘を出る。手を振ってくるイヴちゃんにちゃんと返事をしてから出て扉を閉めると錠前が鳴る。ちょうどひと段落ついたからいいもののと思いつつ開くと場所は花咲川(ここ)だった。方角を見ると本校舎の方らしい。ベルトを巻いて警戒態勢を作ろうとすると連絡が入ってくる。

 

『新一さん、花咲川で出たみたいです』

「みたいだね。快斗君今どこにいるの?」

『学校にいますけど新一さんはどこに?』

「偶然にも現場の学校にいるよ」

『それは驚きっすね。今どこにいるか教えてくれれば迎えに行きます』

 

 場所を教えて待機していると一分かからず快斗君がやってくる。2回の窓から飛び降りてきたのは驚いたけど効率がいいといえばその通りだ。反応を示す場所に最短のルートで行くと女子生徒が二人倒れていた。近くには最近見たコウモリのドーパントがいる。しかし僕の方を見ると慌てている様子を見せる。

 

「今回はドーパントか。しかもここにいるってことは」

「それは後で考えよう。倒せばわかることだしね」

「そうっすね。二人を任せていいですか?俺が足止めしておきます」

「了解、二人を置いてきたらすぐに戻るから」

「その前に終わらせる勢いでいきますよ!」

『エターナル』

 

 変身する快斗君を横に二人を抱えて校舎内に入る。意識確認をすると返事はないがちゃんと呼吸をしているあたりただ気を失っているだけだろう。そのほかに所見で見られるところ軽く見て現場に戻る。

 現場に戻ると雨が降ってきた。状況を見るにそこまで苦戦はしていなかった。しかしこの間と違い相手の動きがちゃんと戦闘に適応していた。僕もイクサナックルを装填して戦闘に参加する。

 

「おかえりなさいっす。さぁ久しぶりに二人で行きますよ!」

「そうだね、今すぐにでも終わらせよう」

 

 拳を構えて突っ込むと羽を広げて宙に舞う。そのまま上を見上げると飛んで逃げてしまった。追いかけようとする快斗君を止めて変身解除する。

 

「なんで急に逃げたんだ?これからだって言うのに」

「何か事情があったとかじゃないかな。時間とか…」

「うーん、謎っすね。雨降ってきましたしとりあえず中に入りましょうか」

 

 校舎の中に逃げるように入り込むと先ほど倒れていた女子生徒の姿が目に映る。髪を染めていて制服を着崩している。俗に言うギャルという部類の人間なのだろう。未だに気絶している。着ている制服は所々土で汚れている。

 

「この人達のこと知ってる?」

「あー、多分うちのクラスのギャルどもですね。さしてこころの世話で忙しいので喋ったことはそこまでないっすけど」

「何か悪いことしてるとかの噂は?」

「聞いてないっすね。なんでそんなことを?」

「あのドーパント、この前僕のとこにも来たんだ。その時に似たような人が襲われてて」

「なるほど。そういえば新一さんが戦闘に加わった瞬間逃げていきましたけどそれと何か理由が?」

「そこはわからない。前回は拙い戦い方だった上にすぐ逃げたし、今回は変身したら逃げちゃったから」

「どういうことなんですかね。あともう一つ気になることがあって」

「それってやっぱり」

「はい、ここにいた事っすね。普通部外者は入れないはずなんですけど……そういやなんでここにいるんすか?」

「ちょっとお届け物で」

「大体わかりました。で、それは置いといて、犯人はこの学校の教師か生徒、もしくは警備員とかの誰かになるんすよね」

「そうなるね。あまり信じたくはないけど」

「こんなところで何をしているんですか?」

 

 ギャル二人組の前で壁に寄りかかって話していると反対方向から声歩が聞こえてくる。そっちの方を見てみると紗夜さんの姿があった。さっきは気づかなかったがちゃんと風紀委員の腕章をつけている。

 

「げっ、氷川先輩」

「人の顔を見てげっとはなんですか、失礼ですね」

 

 紗夜さんがキッと睨むと快斗君は僕の後ろに隠れてしまった。

 

「まぁまぁ落ち着いてくださいよ」

「私は大丈夫です」

「ほら、快斗君も」

「無理っすよ。俺あの人苦手なんすよ」

「なんでさ、あの時は普通に喋ってたじゃん」

「いや、あの時は少し調子に乗ってたというかなんというか……俺あの人に目付けられてるんすよ」

「それはなんで」

「それは後々話しますよ。でもちょっとだけでいいんで後ろにいさせてください」

 

 無理に出そうとすると時間がもったいないと思い断念する。紗夜さんの目は相変わらず睨んだままだが話を再開することにした。

 

「全く、こんなところで何をしているんですか?それにその人たちは?」

「それがですね、先程までドーパントがここに現れてて撃退したはいいものの何が目的だったんだろうと話し合っていたところです」

「ドーパントって、例の怪物ですか!?」

「そうっす。それで前回新一さんが戦った時と状況を比べて似ている点を探してたんですよ」

「待ってください、それではこの学校の誰かが怪物になってるってことですか!?」

「残念ながらそうなります」

「二人はなんで落ち着いてられるんですか」

「ドーパントになる人は大体恨みとか妬み、その他負の感情が強い人が多いらしいので…」

「そうなると学校の誰かがなってもおかしくないんすよ。なったらなったでちょっとめんどくさいんすけどね」

 

 理解したのかため息をつきながらこっちを見てくる紗夜さんは再び口を開く。

 

「とりあえず状況はわかりました。それでその人たちは……ってこの子たち」

「知り合いっすか?」

「ええまぁ。よく服装チェックで引っかかってるので注意しているんですが治らなくてですね」

 

 快斗君を睨む目が強くなる。なるほどそういうことか。確かにある程度着崩しているし風紀委員として見逃せないのも無理はない。でも怖いなら治せばいいのに。

 

「いや、制服真面目に着ると本職感出てきて楽しめないんすよね」

「それは少しわかるかも」

「何を話しているんです?」

「「イヴェッ、マリモ」」

「とりあえずしばらくは警戒が必要ですね」

「ですね。紗夜さんは何かあったら連絡してください。学校にいる時なら快斗君に頼めばどうにかしてもらえると思うので」

「任せてください!」

「大道さん頼りにしてますよ」

「う、うっす」

「なんでそんな反応するんですか!」

「そういえば快斗君こころさんは?」

「先輩たちに頼んで先に帰らせました。その方が安全なので」

「それは安心だ」

「とりあえず先輩たち呼んでこの人たちに事情を聴いて貰いましょう。そんで俺たちはここで解散で」

 

 快斗君の言葉に同意して僕達はその場を離れた。念のため紗夜さんに何故いたか聞くと風紀委員の仕事がようやく終わって帰ろうとしていたところだとか。

 帰ろうと外に出るとさっきまで降っていたはずの雨は止んでいた。

 

「通り雨だったんですかね」

「みたいですね。では今日は練習がないので私はここで」

「待ってください、送りますよ」

「ですが名護さんはお仕事が」

「それとこれは別です。あんなことがあった後で女の子を一人で帰らせるほど僕は冷たくありませんよ」

「そうですか?ではお言葉に甘えて……」

 

 バイクのもとに行きヘルメットを渡す。僕もヘルメットを装着すると早くしてくれと急かすように声をかけてくる。この間のような遠慮よりかは楽しみにしてる子供のような声にも聞こえた。

 

「それでは目的地は紗夜さんの家で大丈夫ですか?何処か寄りたいところとかあれば」

「いえ大丈夫です。運転よろしくお願いします」

「畏まりました。しっかり捕まっててくださいね」

 

 エンジンを起動してバイクを走らせる。雨は止んだものの水溜まりが所々にあるのを見て滑らないよう気を付けて走る。

 

「運転上手ですね」

「お褒め預かり光栄です。気分はどうですか?」

「かなり良いです。これから毎日送り迎えして貰いましょうか」

「それはお嬢様に怒られてしまいますので」

「そうですね。失礼しました」

 

 …やはり様子がおかしい。普段ならこんな冗談を言わないのに。気を紛らわせようとしているのだろうか。

 

「紗夜さん、最近困ったこととかありました?」

「何故急にそんなことを?」

「なんとなくです」

「珍しいですね。普段ならちゃんと理由を持ってくるのに」

「そうですか?僕でも直感は使いますよ。それでどうなんですか?勿論話したくなければ大丈夫ですけど」

「いいえ、大丈夫です。最近学校の風紀が乱れてる気がして」

「なるほど」

「特に服装の乱れが多いんです。さっきの被害者たちもそうですが大道さんも少し……」

「確かにそれは風紀委員として見逃せませんね。快斗君には少しだけ言っておきます」

「ありがとうございます。すみませんなんだか……」

「そんなことありませんよ。さて、着きましたよ」

 

 バイクのスピードを下げてマンションの前に停車する。場所は一度行ったことがあるから覚えていた。よく覚えていたなという目で見られたが気にしないでヘルメットを受け取りバイクの中にしまう。

 

「ありがとうございました。今度お礼をさせてください」

「お気になさらず、紗夜さんも何か分かれば教えてください」

「はい。それでは失礼します」

 

 ヘルメットのシールドを下ろしてバイクを再び走らせる。まさかりんりんにお願いした初日に紗夜さんに会うことになるとは思いもしなかったけど情報は得られた。

 やはり紗夜さんに何かあったと考えられる。日菜さんと喧嘩しただけなら多分あのようにはならないと思う。約半年しか見ていないがそれくらいは分かる。であれば彼女を変えたキッカケはなんだろうか。姉妹喧嘩に上乗せできる要素、過去に何かあったことが今に繋がっているのだろうか。そういえば紗夜さんの過去はあまり聞いた事がない。日菜さんに対して嫉妬がある?くらいのことは聞いたことはあるが。

 家に着いてバイクから降りるとスマホが鳴る。掛けてきた相手を確認するとりんりんだった。

 

「もしもし、名護新一です」

『し、新君……』

「りんりんだよね?もしかして今日の分の報告?」

『う、うん………』

「話すの苦手だったらチャットでも良かったのに。でもありがとう」

『ううん、大丈夫……それでね、今日見てた感じなんだけど……氷川さん、ここ最近調子がいいみたいで……』

「普段との変化とかあるかな?いつもならこうなのにとか」

『笑顔が増えたような気がする………かな。そういえば……委員会の仕事をしてる時、溜息ばっかりしてるような………?』

「なるほど、ありがとう。助かったよ」

『うん………!』

「もしよければこのままあと数日だけお願い出来る?ちゃんと報酬は用意するから」

『い、いいよそんなの』

「いやいや、これは個人のお願いだから当たり前のことだよ。欲しい物とかあったら考えといて、基本的にはなんでも用意できるから」

 

 りんりんから返事が来る前に電話を切る。多分あの子はいい子だから遠慮するに違いない。だから断られる前に電話を切った。反省はしていない。

 あとは明日また日菜さんに話を聞いて仲介役としての仕事をこなしますか。そう言って僕は家に入り今日の残りの仕事をした。




小ネタ情報
大道快斗は実は紗夜さんが苦手。風紀委員の仕事でよく目をつけられ快斗はその度に逃走している。尚、花咲川のガールズバンドをやっているものの中で苦手な人物は紗夜以外にもう一人いる。

「だって怒ったあの人怖えんだもん!」
「こんなところにいたんですね!大人しく捕まりなさい!」
「いやあああああああ」


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Forth noise Suspected girl

 あれから数日間紗夜さんの動向を見たり聞いたりしているが日に日に厳しさは増しているらしい。しかし別のところでは笑っていることが多いのだとか。笑うことが増えたのはいい傾向だが厳しさが増したことが気になった。その連絡を今日は昼休みに受け取る。

 

『今日は……大体こんなところ、かな?』

「ありがとう。ごめんね、同じバンドメンバーなのに疑うような真似させちゃって」

『ううん……大丈夫』

「そう言ってくれると助かるよ。そうだ、ご褒美の件決まった?」

『ま、まだ………』

「ゆっくりでいいからね。それじゃ」

「どうだ?氷川の様子は」

 

 電話を切ると横でサンドイッチを齧る京君が話しかけてきた。今日はたまには二人で食おうということで屋上で二人並んで食べている。

 

「悪化?というべきなのかな。前とはかなり変わってきているみたい」

「そうか。ならお前の嫌な予感も当たるかもな」

「何覗いているのか知らないけど少なくともその可能性はやめて欲しいな」

「でも状況証拠を聞く限り怪しいぞ」

「そうだけどさ……もう少し時間が欲しい」

「だな、あと一手欲しいところだ」

 

 弁当の残りを詰め込んでお弁当箱を片付ける。急いで詰め込んでしまったが時間はまだあるのでどうしようかと聞くとチェス持ってきたからやろうぜと言ってきた。秋晴れの下屋上でチェスをする高校生なぞ聞いたことないがいいだろうと残りの時間を費やした。

 その後の授業も無事に消化してRoseliaの練習が始まった。問題もなく練習時間が過ぎ一度に休憩に入る。

 

「ねぇ新一、教えてもらってもいい?」

「どうしたの?」

「数Ⅱのこの問題なんだけどさ、イマイチわからないんだよね」

「僕数学あまり得意じゃないけどここならこれ持ってきて」

「え待って待って」

「あーっとね、これは三角関数だからここのものとここのを………」

「リサ姉勉強?」

「1週間後に小テストあるからさー。わからないところだらけだから今のうちから勉強しようかなーって」

「偉いね、ちゃんと勉強してて」

 

 リサの頭をそっと撫でると照れるように目を逸らす。払いのけたりはしないのかと思ったが甘やかされるのに慣れていないからか抵抗はしない。

 

「でも僕に聞いて大丈夫?クラス違うし。なんなら日菜さんに聞いたほうが良くない?」

「いやいや、日菜の説明じゃわからないから来たんだよ」

「あの子ならこれくらいの問題すぐにできそうじゃない?」

「確かに出来そうだねー」

「それが何言ってるのかわからなくて……」

「あはは………」

 

 苦笑いもしつつも紗夜さんの方を見ると顔は見えなかったがなんだか体が強張っているように見えた。

 

「日菜ちんってすごいよね!なんでも出来て羨ましいっていうか、こう闇の道を行くっていうか…」

「あこの言いたいこともわからなくもないけどわかんないかなー」

「うーん、でもすごくすっごいよね!もう本物の天才っていうかさ!」

 

 あこちゃんの言葉が終わるところに食い気味で部屋の中に大きな音が響いた。その方を見ると紗夜さんがペットボトルを強く握りしめて机の上に置いていた。

 

「ど、どうかしたんですか紗夜さん」

「紗夜?」

「なんでもありません、少し外に行ってきます」

 

 スタスタと部屋を出て行った紗夜さんを怪しみながらもそのまま数学を教えた。追いかけようとも考えたがそうする必要性もなくなったようだ。錠前が鳴る。出現場所を確認するとcircleのすぐ外らしい。他の二人に連絡を取るとすぐ近くにいるとのことで戦いを任せて避難誘導する事にした。

 

「皆はここにいて、他に人を避難させてくるから」

「気をつけてね」

「新兄頑張って!」

「うん、それじゃ」

 

 部屋を出て廊下を突っ切ると入り口の窓からでも京君達が戦っているのが目に映る。他の人を避難させて援護しようとナックルを構えるとまだ避難していない人を見つける。何よりその人物にドーパントが近づいていっている。腕を振り上げているドーパントに対して動けないのか固まっているその人を引き離すために走る。跳んでその人を抱えながら地面を滑るとギリギリアウトだったのか腕に痛みが走る。確認すると服の袖が破れ少しだけ血が流れていた。

 

「大丈夫ですか?」

「う、うん。ってあたしの心配より新一君の方が大丈夫じゃないでしょ!」

「これくらいなんともありませんよ。サークルの中に逃げて下さい、Roseliaの皆がいる部屋まで」

「なんで?」

「聞きたいことが山ほどあるからです。さぁ、早く行きなさい!」

「わかった!」

 

 飲み込みが早いのかすぐにサークルの中へと逃げていった。状況判断ができる人で本当に助かった。傷の具合を確認するためにある程度腕を振り回すとさして痛みはなかった。ドーパントの様子を確認すると冷静さを失ったかのように慌てふためている。何か不都合があったのだろうか。ナックルを装填して変身する。

 

「二人ともお待たせ」

「アイツそれなりに強いな。ただなんか半端なところがあってやりずれぇ」

「俺に対しての攻撃は強いんだけどな」

「恨みでも買ったのか?」

「そんなことした記憶ないんだけどな」

「どちらにせよ倒した方が早いかな」

 

 戦闘態勢を整えるとドーパントは叫び上げるように口を開いてきた。しかし出てきたのは言葉ではなくとてつもなく嫌な音だった。耳を塞いで聞こえなくしようとするがそれを通り越してくるほど強い。自然に病んでいくのを感じて前を向くとドーパントの姿はなかった。全員が変身解除して辺りを見回す。

 

「また逃げやがりましたね」

「また、ってことはアイツが…」

「うん。例のドーパントだよ」

「こりゃあますます怪しくなってきたな」

「犯人の目星ついてんのか!?」

「まぁね。でもあまり信じたくないかな」

「え?ってか新一さんその腕は大丈夫なんすか?」

「無問題、意外と浅いし軟膏塗ってればすぐに塞がるよ」

「よし、じゃあついでに事件の整理をしようぜ」

 

 Roseliaの皆がいる部屋にまで戻って状況を報告する。部屋の中にはRoseliaの皆と指示通りに来た日菜さん、出て行ったはずの紗夜さんがいた。こっちの傷をすごく心配しているが問題ないと答えて練習の続きをしてもらう。

 一方僕達は日菜さんを連れて一度廊下に出てさっきの戦いの情報をまとめる。

 

「快斗君は今回どうだった?」

「前回よりも激しめでしたね。まるで怒っているかのように」

「京君は?」

「さっきも言ったが中途半端な攻撃とか本気の攻撃が入り混じっててやりづらかったな。ただ」

「ただ?」

「迷いがあるようにも感じた。快斗への攻撃の時はないようにも見えたんだが俺の時はなんだかな」

「三人ともさっきからなんで怪物の話してるの?」

「ああ、今回の犯人は身近にいるんじゃないかって新一が仮説を立ててな。それの検証中だ」

「新一君が?でも戦ってなかったような……」

「ハハ、そこは一旦置いといてと。コホン、今回被害者は出たの?」

「それなんですけどさっき先輩がまた同じような人が襲われたって」

「素行不良か」

「その通り。しかも今回は男女関係なく。その上最近路地裏で倒れてた男二人が蝙蝠の化け物を見たって」

 

 素行不良の人のみを襲う化け物。快斗君には本気を出して京君には本気を出せていない。この違いはやはり一つしかないだろう。

 

「今回の犯人は風紀を乱す者(・・・・・・)のみを襲ってるみたいだね」

「だな」

「間違いないっすね」

「えー?なんでそんなことするのー?」

「簡単なことだ。力を手に入れたはいいもの使う相手がいない。そんな時都合のいいがいるとしたら?」

「そっか、チンピラとかなら殴っても平気だもんね!」

「チンピラでも殴っていいのと殴っちゃいけないのがいるんですけどね」

「いや殴っちゃいけねぇのなんていないだろ」

「取り消せよ…今の言葉……!」

「ぜってぇ使うタイミング違う」

「まぁそんなことは置いといて、これだけ揃うともうほぼ確定だよね」

「嘘だよね………?」

「残念ながらこれは九割九分確定だ。犯人は花咲川風紀委員の氷川紗夜だ」

「えっマジなん?薄々思ってはいたけどよ」

「おねーちゃんがそんなことするわけないよ!まして怪物なんて………!」

 

 紗夜さんが犯人だと言うと日菜さんは血相変えて批判してくる。気持ちはわかるがこれだけの状況証拠が揃っている以上何を言っても無駄になる。

 

「日菜、これは現実だ。あとは本人に聞けばわかる」

「でもこんな証拠だけでおねーちゃんを犯人扱いなんて!」

「違うっすよ日菜先輩。逆にこれだけ揃っちゃったんすよ、認めたくはねえですけど」

「そんな────」

「練習が終わった後に聞こう。勿論最悪のケースを考えて残りの時間で作戦も練っておこうか」

「新一君はこれでいいの!?」

 

 胸ぐらを掴んで必死に声を上げる。しかしこの事件、二度目の戦闘の時に目星は揃っていたのだ。だからこそ否定できる材料を探すために捜査をしていた。だがそれも逆の展開に持ってかれた。だからもう、残された手段を使うしかないんだ。

 

「良いわけがない。だからこそ、最善の手で事件を片付けられるようにするんです」

「新一君……」

「大丈夫です、絶対仲直りさせてみせますから」

 

 手を取って首元から離すと納得してくれたのか頷いてくれた。それから作戦をある程度練り時間が過ぎるのを待った。思ったより時間が進むのは早く片付けの時間になった時に部屋に戻る。部屋を見渡すと全員が揃っていた。

 

「皆辛気臭い顔してどうしたの?」

「リサ、見てよこれ」

「え?どうしたの?」

「これさ、ゾンビとかの仮装にピッタリじゃない?」

 

 そう言って僕はさっきまで隠していた腕の傷を見せつける。見た目はかなり広く深そうに見えるため初見の人からすればかなり驚くだろう。勿論これを見たリサは悲鳴をあげていた。その声を聞きつけたのかあこちゃん達もやってくるが驚きの声を上げてくる。

 

「わー、新一さん大変だー(棒)」

「早く治療しないとなー(棒)」

「いやこれペイントだって(棒)」

「そんなこと言って本当は痛いんじゃないのー?(棒)」ツンツン

「アハハ、、全然痛くないよー(棒)」

 

 全員わかりやすい演技をしながら巫山戯る。皆が呆れている中一人だけ表情の違う人がいた。

 

「どうしたんですか紗夜さん。これ、ペイント(・・・・)ですよ?」

「そ、そうみたいですね……」

「血とか苦手だったか?」

「そ、そんなことはありませんが」

「だとしたらちゃんと見てくださいよ。本物かどうか確かめてください」

 

 ぐいっと腕を持ち上げて紗夜さんに近づけると罰が悪いような顔をして後ろに下がっていく。

 

「やっぱり、紗夜さんだったんですね」

「どういうこと?」

「ここ最近近くに現れていたドーパントの正体です」

「えっ!?」

「さっきも同じ奴が出てたんだけどよ、その時に日菜を襲おうとして庇った新一が怪我をしたんだ」

「じゃあ…その傷って……」

「実は本物だよ」

「何してんの!?」

「まぁこれも作戦なので。紗夜先輩、正直に話してください」

 

 紗夜さんは黙ったまま俯いている。この状態を保ったところで何も変わらないことは本人が一番わかっているだろう。彼女が顔を上げた瞬間口を動かそうとしたが別の人物がそれを阻んだ。

 

「待ちなさい。仮に紗夜が犯人だとして証拠はあるの?」

「そ、そうだよ!証拠がないと紗夜さんが犯人だって言えないじゃん!」

「じゃあせっかくだしここは探偵さんにやってもらおうか」

「おいおいマジかよ。本編で推理することはないって思ってたんだけど」

「メタいこと言うなよ」

「しゃーない、やるか。まずは今回のドーパントの特徴からいこう。被害者は全員素行不良の者だ。服装、夜遊び、風紀が乱れてればなんでもオッケー。

 次に戦闘場面だ。俺や快斗にはかなり強い攻撃や本気が見られた。しかし新一と戦ってる時はすぐに逃げるか中途半端な攻撃をしていた。

 そして出現時期と今日の出来事。出現時期は今から約1週間前、そして今日日菜が襲われそうになった。こいつは素行不良なんかじゃない」

「1週間前って紗夜と日菜が喧嘩した日!?」

「その付近だと思われる。次でチェックだ。事件当時には存在が発見されず、事後には場所に現れた。それは氷川だけなんだ」

「だ、だけどそれだけなら他の人だって」

「ここ最近、氷川の様子がおかしくなかったか?笑顔が多いとか、風紀の乱れに厳しくなったとか」

「「「「!?」」」」

「普段の性格からは考えられないこともドーパントになったヤツの特徴の一つだ。さぁ、チェックメイトだ。ペイントだと偽っていた新一の腕を見た時からなぜ新一を見ない。それはそうだよな、コイツの腕に傷を作った犯人はお前なんだからな!」

 

 指を刺して犯人を示した京君は確実に仕留める時の顔をしている。他の人が紗夜さんに真偽を問いただそうとしている中、笑い声を溢す者がいた。



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Fifth noise 根深い思い出

 指を刺して犯人を示した京君は確実に仕留める時の顔をしている。他の人が紗夜さんに真偽を問いただそうとしている中、笑い声を溢す者がいた。

 

「フフ、バレてしまいましたか」

「さ、紗夜?」

「そうです、私があのドーパントです」

「えー!でもなんでそんなことになっちゃってるの!?」

「理由は後で聞こう。とりあえず紗夜さん、持ってるメモリを今すぐ渡してください」

「お断りします」

 

 メモリをポケットから取り出すと起動させて生体コネクタを浮かび上がらせる。

 

「これは、私のものなんです。日菜でさえ手に入れられない、私だけのもの!」

 

 メモリを体に挿して姿を変えた。ここから先はもう戻る気がないらしい。僕達もそれぞれベルトを巻いて変身する体制を作る。

 

「この世に風紀を乱す存在はいりません。そして私の存在価値を奪うヤツも!」

「そんなこと言って良いんすか?新一さんは風紀を乱してませんよ」

「そうですね、ですが名護さんはいずれ私にとっての脅威になる。なら今のうちに消しておきましょう。その後は……日菜、あなたの番よ」

「やめよーよおねーちゃん!こんなことしても」

「黙りなさい!元はといえばあなたが悪いのよ!私と同じことばかりしてそれも軽々越えて!あなたに何が分かるっていうのよ!」

「!!」

「でも大丈夫よ。終わったらちゃんと殺してあげるから」

「紗夜さん、お覚悟を」

『R・E・A・D・Y』

『スカル』

『エターナル』

「「「変身」」」

 

 それぞれのアイテムをベルトに装填してライダーシステムを身に纏う。いくら変身したとはいえ室内なので外に出れるよう京君に頼む。やれやれと呆れながらもあの拳の構えを取る。

 

「何をしているのか知りませんがそっちが来ないのならこっちから行きますよ」

「紗夜先輩、ここじゃ戦いづらいと思うんで外に案内しますよ」

「コイツと一緒になぁ!」

「なっ!?」

 

 人一人分飲み込めるほどの骸骨を作った京君は紗夜さんに向けて拳を突き出す。骸骨は紗夜さんを飲み込むとそのまま壁を破って外に出ていく。後を追いかけるように瓦礫を越えていくと既に戦闘態勢を整えていた。

 

「痛いじゃないですか……大人しく罰を受けてください!」

「生憎、僕が受ける罰はあなたでは与えられませんよ」

「三対一なんですから大人しく投降した方がいいっすよ」

「その必要はないよ」

「どういう意味だ?」

「彼女は僕一人でやる。もし飛んで逃げられそうだったら二人は捕まえて」

 

 数秒間があったが二人は了承して武器を納めてくれた。

 

「調子に乗ってると余計痛い目に会いますよ」

「ではもう一つ燃料を投下しておきましょう。貴女は僕のことを風紀を乱していないと考えているみたいですが、こう見えて僕は悪人ですよ。大罪人ほどの、ね」

「では罰を与えても問題ありませんねッ!」

 

 勢いに任せて突き出してくる拳を受け止めその手を掴んで持ち上げる。身動きが取りづらくなった紗夜さんは抵抗してくるが攻撃は当たらなかった。

 

「離しなさい!」

「分かりました」

 

 言われた通りに離した瞬間回し蹴りをする。飛んだところを追いかけ地面につく前に踵落としをした。痛みに悶えている様子を見せるがお構いなしに首を軽く掴んで持ち上げる。

 

「カッ、カハッ……」

「覚えといてください。これが、貴女が罰を与えようとした化け物の力だと」

「い、や、わた、しは……!」

 

 抵抗する彼女の腹にフェッスル装填済みのナックルを当ててトリガーを弾く。放たれたブロウクンファングは彼女の体を貫いた。目の前で起きた爆発の傍らで紗夜さんを抱えて皆のもとに戻る。

 

「ミッション完了、かな」

「久しぶりにエグい新一さん見ましたよ」

「そう?」

「夏以来だな。あの時は半分くらい本気で死ぬかと思ったわ」

「やめてよ、人を鬼みたいに言うの」

「「いや鬼の方がマシ」」

「とりあえずこのまま紗夜さんに話聞きたいから黒服さん呼んでもらえる?」

「了解っす」

 

 変身を解除して抱えたままの紗夜さんを下ろして床に寝かせる。心配して皆寄ってくるが一番に飛びついたのは日菜さんだった。無理もないだろう、実の姉が化け物になって自分を殺そうとした上に知り合いに殺されたように思えたのだから。

 

「おねーちゃん!目を覚ましてよ!」

「ヒナ……」

「落ち着いてください日菜さん。気を失ってるだけですから」

「でもっ、でも!」

「随分心配するんだな。殺されかけたのに」

「ちょっと京!」

「事実だろ。メモリによる気の迷いだと信じたいがな」

「京、やめなさい」

 

 お嬢様の一声によって辞めた京君だったが今回のは流石に意地悪だと思う。だけど言っていることも間違いではないのだ。日菜さんは紗夜さんに殺されそうになった。なのに倒れている紗夜さんを心配するなど相当紗夜さんのことが好きだと思えた。他に怪我がないか見える範囲で調べていると黒服さん達がやってきた。紗夜さんを運んでもらい自分達もすぐに追いかけると伝えるとすぐに戻っていった。

 

「さて、今更ですが皆さん怪我はありませんか?」

「ないわ」

「大丈夫!」

「なら良かったです。これから紗夜さんに話を聞くため僕は黒服さん達を追いかけます。そのためここで今日はさよならします」

「待ってあたしも!」

「それはダメだ」

「京君、なんで!あたしもおねーちゃんのところに」

「ダメだって言ってるだろ。冷静になった氷川がお前のことを見て何も思わないわけないだろ。きっと自分を責め立てる」

「紗夜のことだもん、きっとそうなるよね……」

「だから日菜は今日は帰れ。新一がなんとかするって言ったんだろ?なら任せとけばいい」

「うん………」

「大丈夫ですよ日菜さん。約束は絶対守りますから」

「私の夜ご飯は?」

「冷蔵庫に作り置きのものがあるのでそれをレンジでチンしていただければ。副菜ばかりなので足りなければ作るしかないのですが…」

「じゃあアタシ行くよ」

「頼んでもいい?」

「オッケー♪その代わり今度何か奢ってね」

「畏まりました。とりあえずこれで解散にしますので二人一組で帰ってください。危険なことに遭いそうだったらライダーの誰かに連絡を」

 

 メモリを回収して会釈だけしてイクサリオンを喚びだす。バイクに跨って発進し弦巻家へと向かった。門の前では黒服さんが待っていてバイクを止めるとそのまま案内される。入った部屋は猪宮さんの時と似たような場所だが安全を重視しているような、精神的に安楽をもたらすような部屋だった。部屋の端の方でベットの上で寝ている紗夜さんの姿があった。もしもの時を考慮してのことだろうか、両方の手首に手錠のようなものがそれぞれ付けられている。近くにあった椅子に腰をかけて待っていると紗夜さんが起き上がった。

 

「ここ、は………?」

「おはようございます。といってももう夜ですが」

「名護さん…?そういえば私は………って、なんですかこれ!?」

「一応、身柄の拘束をさせてもらってます。暴れたりしたら危険なので」

「暴れたりってなんですか。どうせもう私のメモリは壊されているんでしょう?」

「いいえ、ここにありますよ。イクサシステムにはメモリブレイクの機能はありませんからね」

 

 さっき拾ったメモリを紗夜さんに見せる。間違って押してもすぐに取り出せないよう袋をもらって入れておいたので一応安全ではある。横に揺らして丸腰だぞと見せると取り返すように手を伸ばしてくる。

 

「返してください!それは私のです!」

「そうかもしれませんが、本当にこれは必要なものなのですか?」

「何を言ってるんですか。それさえあれば私はあの子を超えることが」

「分かりました」

 

 袋を落としてメモリごとを踏みつけるとメモリが砕ける音がした。足を外すと当然メモリは袋の中で砕け散っていた。

 

「な、なんてことを………」

「こんなもの紗夜さんには必要ありませんよ」

「ですがこれでは、私はあの子に………」

「なんでこんな事をしたのか教えていただけませんか?」

 

 紗夜さんは気力を失ったように俯くとぽつりを口を開いて呟き始めた。

 

「最初はあのことの諍いから始まったんです。しかし今までのことが溜まってたぶん出てきてしまいあの子に“嫌い”と言ってしまったんです。一番傷つく言葉だとわかっていたのに。それから負の感情がどんどんエスカレートした時にそれを渡されたんです。最初に使った時、力が溢れてきたんです。今の自分ならなんでも出来ような全能感。これさえあればあの子なんで軽く越えられる。それでもあの子がテレビに出ていたり会話で聞こえたりするとストレスになっていました。どうにか張らせないかと考えた時に風紀委員の仕事ならと言い訳をするようになって、それもどんどんエスカレートしていきました。その結果、あなたに怪我を負わせ、ましてあの子を殺そうとして」

「………どうして、日菜さんを疎ましく思っていたんですか?」

「あの子は、昔からなんでも出来たんです。やるのはいつも私の後なのに、私が苦手だったことも簡単にできて、私が頑張ってできるようになったことも簡単にこなしていく。それが嫌だったんです。きっとこの子には追いつくことは出来ない。いつも比べられる。そんなのが耐えられなかったんです」

「話してくれてありがとうございます。とても辛かったですよね」

「ッ!あなたに何がわかるんですか!いつも側にいる人に追い抜かされて!それで本人は気遣っているかのように声をかけてきて!それに一体どんな気持ちで同情を」

「わかりますよ。僕も同じでしたから」

「え………?」

 

 怒号をしていた紗夜の顔は動揺を隠せないでいた。聞いていて紗夜さんの過去には僕と共通点があった。だからこそ余計に放っておけなくなった。いつの間にか立ち上がっていた紗夜さんを座らせて話し始める。

 

「少し、昔話をしましょうか」

「昔話?」

「はい。僕には一人の兄がいました。彼の名前は名護天斗(ナゴタカト)、本来彼は名護家十六代当主を継ぐ予定でした。彼は名護家に連れていかれる前から才能に溢れていました。僕も神童、何て呼ばれていましたが彼はそれすら越えていました。何をやらせても超一流、子供なのに大人のレベルにまで近づいていました。当然その人は僕の憧れになっていました。彼がやっていないことを見つけようと必死に探し、見つけられた時も僕よりも後にやった彼の方がレベルは上でした。どうやっても勝てない兄に僕は憧れました。あのような完璧な兄になりたいと」

「待ってください!名護さんにお兄さんはいないはず、だってこの間話した時はお兄さんのことなんて言ってなかったじゃないですか!」

「言う必要がなかったからですよ。まずは最後まで聞いてください。

完璧になりたいと思ったはいいものの何をしても兄より劣ってしまう。ならばせめて兄の力になれるようにと自分ができることは何でもしました。知識も武力も何もかも手を出して身につけようと必死に努力したのを覚えています。そんな僕の姿を見た兄は頑張りすぎるのは良くないが、やりたいことはやり通せと応援してくれました。その頃から周りの信頼を得ると共に仕事の都合上僕は外に出るようになりました。帰って来れば家族はもちろん、兄は誉めてくれました。ちゃんと出来て偉いって、よく頑張ったって。そんな日々を嬉々として過ごしていたあの頃は考えもしませんでした」

「何を……ですか?」

「兄は、天斗は僕達家族を裏切ったんです」

「………え?」

「ある日、僕が外から帰ってきた時でした。庭を見れば血の海になって沢山の重傷人や死体が転がっていました。一体何が起こっているのか分かりませんでした。ただ、笑い声がする方を見ると天斗が血のついた刃を持って高らかに笑っていました。あの光景はどうやっても忘れることはないと思います。その後すぐに天斗は姿を消しました。残っている人たちで当たりを捜索しましたが姿どころか何も見えることはありませんでした。血眼になって探しても影すら見えなかったんです。天斗がやった事を許せずせめてこの手で殺そうと捜索範囲を広げようとしました。ですがその時妹に止められたんです。やめてって止められ何故止めると聞き返すと怒っている時のお祖父様にそっくりだと泣きながら言われたんです。その姿を見て僕は全ての指示を取り下げました。それから天斗は消息不明、僕は当主への座に入りました。以上です」

 

 本を閉じるように手を叩くと紗夜さんは現実に戻ってきたかのような顔をした。途中から信じられないと訴えるような顔をしていたがこれは紛れもない事実だ。僕が憎しみの刃を握る原因の一つでもある。

 

「名護さんは、お兄さんをどう思っていたんですか?」

「裏切る前は尊敬の対象、裏切った後は必ずこの手で葬る害悪ですね」

「あまりにスケールが違いすぎて追いつかないのですが、私と名護さんが同じような境遇にいたぐらいしかわかりません。それでもかなり違うと思いますが」

「そうですね、地位はかなり違うかもしれません。ですがそれ以外に紗夜さんとの共通点と決定的な違いが存在するんです」

「………それは?」

「同じ、才能あるものに劣等感を感じていたところ。そして決定的な違いは、今ならまだ間に合うことです」



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Six noise 向き合い方を

「今ならまだ、間に合うことです」

 

 紗夜さんは驚いた顔を見せる。けれどすぐに目を反らした。

 

「……何を言ってるんですか?」

「日菜さんはまだ生きてるんです。なら思いを伝えることは出来ます」

「私にそんな資格はありません。私はあの子を殺そうとしました。あんなものを使っていたとはいえそれは私がやったことなんです。だからそんな資格」

「そんなこと知ったことじゃない!貴女が今日までしてきたことは消えることはない。なんであんなことをしようとしたのか、それが過去からのものなのかどうかなんてどうでもいい!」

「どうでもいいってなんですか!私にだって悩んだことだって苦しんだことだってあるんですよ!」

「それでも!伝えたい人が生きているなら伝えるべきなんです!全てが手遅れになる前に!!」

 

 いつの間にか肩を掴んで話していた。それに驚いたのか紗夜さんはやっとこっちを見た。

 

「手遅れ……?」

「話しましたよね、妹はもういないって」

「え、えぇ……」

「あの子はいつも僕に笑顔を見せてくれてました。ですが兄を探していたあの日、血眼になっていた僕を止めたのはあの子です。普段見せない顔を見せて泣いてました。その時僕は初めてあの子を泣かせてしまったんです。謝りたかった。だけど立場や仕事のせいにして謝るのをどんどん後回しにした結果、あの子はもう戻ってこなくなりました。ただ一言言いたかった。あの子に、希璃乃に謝りたかった!怖い思いをさせてごめんって、その一言を言いたかった!なのに僕はそれすら言えず希璃乃を守れず見殺しにしてしまった!」

「名護さん……」

「でも、紗夜さんはまだ失ってません。貴女は心の奥底では謝りたいと思ってるはずだ」

「ですが私は……」

「謝りたいか謝りたくないのかハッキリさせてください」

「私だって……私だって謝りたいですよ!でも」

「じゃあいいじゃないですか」

「!」

「謝るのに資格なんて要りません。言える時に言えなきゃ意味がないんです。ですから、今やらなきゃいけないことを考えましょう」

「……そんなことが許されるんですか?」

「許すも許さないも決めるのは日菜さんです」

「出来る、でしょうか。こんなことをしたのに」

「日菜さんはいつも貴女のことを見ていた。そして貴女も日菜さんのことを見ていた。なら、聞いて貰えるかどうかぐらい分かるんじゃないですか?」

「それは……」

 

 顔を俯かせて考えている。正直僕に怪我を負わせたことはどうでもよかった。なんとしてでも二人を仲直りさせたいという気持ちだけだったから。どうするのかと問うと少し間が空いてから顔を上げる。まだ迷いはあるもののやることは決まったようだ。

 

「日菜のところに行きます」

「行ってどうするんですか?」

「謝りたいと…思います。少なくとも、今の私に出来るのはそれくらいしかないと思います」

「わかりました。ですがそれは明日にしましょう、今日はもう遅いですし」

「はい。では帰りましょう」

「いえ、紗夜さんはここで一晩過ごしてください」

 

 は?という顔を浮かべているが当然のことだろう。

 

「ガイアメモリの副反応が出た場合に備えてともう夜が遅いからです」

「そう……ですか」

「大丈夫です、明日学校が終わったら日菜さんのところに行きましょう」

 

 紗夜さんからの返事を受け取りメモリ入りの袋を回収してから僕は一言挨拶して部屋を出る。部屋の前で待機していた黒服さんに頼んでモニタールームに案内してもらう。扉を開けると当然そこにはプロフェッサーと快斗君がいた。二人して複数のモニターを熱心に見ている。

 

「お仕事ご苦労様です」

「へ、仕事?」

「新一さんお疲れ様です」

「あ、あーあー!」

 

 様子がおかしいことに気づいた僕はプロフェッサーが急いで隠したモニターを確認すると絶句した。見ていたモニターは紗夜さんに関してではなくポケ○ンのゲーム画面だった。一方、快斗君の方を見てみるとバイタルサインと部屋を映した複数のモニターだった。

 

「だって仕方ないじゃないか!快斗が仕事してるし私のやることなんて身体から出てる波形や精神状態の確認だけなんだから剣盾やってたっていいだろう!?」

「いや仕方なくないだろ。何仕事サボってんだよ」

「それに必要なデータは名護君が集めてくれてるだろうし、それにアーカイブで見れば何の問題も」

「センパーイこいつしばいてくださーい」

「待って、君の先輩超怖いから!あの拷問だけh」

 

 後ろからの奇襲により話を遮られ気絶したプロフェッサーは快斗君の先輩と思わしき人に連れて行かれ扉の向こうへ消えていった。どうなるのかと聞くと知らぬが仏と言われ無視することにした。念のためアーカイブで記録を確認し快斗君から情報を得ると特に問題ないことがわかった。あとは本人の気力と覚悟次第だろうと片付けることにした。

 

「新一さんはこれで帰りますか?」

「一度帰るけどすぐに戻ってくるよ」

「なんでっすか?」

「紗夜さんが心配だからね。悪いけど少しだけ見ててもらえる?」

「あ、その必要性なくなりましたよ。今から他の先輩が荷物取ってきてくれるそうです」

「だけど僕の部屋だから勝手がわからないと思うから」

「いえ、なんか黒髪の女の人が“これが新様の制服です。新様のことなら任せてください♡”って渡してくれたらしいっすよ」

 

 犯人が一瞬で思い浮かび確定した。今度あったらどうしてやろうかと考えながら善意に甘えることにした。

 それからしばらくして荷物が届けられそのまま部屋に残って紗夜さんの監視を続けた。監視と言っても暴れたりしないか程度であって一つ一つをメモしているわけではない。今までにもこういう経験はあったせいか監視に集中出来ている。数時間が経った頃快斗君が隣で寝ているのを見て今何時かと確認するともうすでに深夜二時になっていた。それでも念のため続けていようと監視を続けた。

 翌朝になり紗夜さんが起きた後に部屋に入る。データでは熟睡している時間は短かったがそれよりも見てわかるくらい眠そうにしていた。

 

「おはようございます、あまり寝れなかったみたいですね」

「おはようございます………そうですね……」

「朝食が時期に運ばれてきますが一緒に摂ってもいいですか?」

「構いません。一人だと少しアレでしたので……」

 

 バツが悪いような顔をして目を逸らす。離れているところにある椅子と机を持ってきて食事を置けるように準備をする。紗夜さんも手伝おうとしてくるが手錠のせいである程度しかベッドから離れることができない。元々許可はもらっていたので手錠を外して動けるようにする。運ばれてきた食事をきれいに置き換えているあたりやはりマナーや礼儀は整っているのだなと改めて感心した。

 

「それではいただきます」

「いただきます」

「やはり美味しいですね。これだけお金持ちの家の人の料理だと一流の人が作っているんでしょうか」

「そう、かもしれませんね………」

 

 浮かない顔をしながら食べている紗夜さんを見て箸を置く。すると気づいたのか食べないのかとおそるおそるといった感じで聞いてくる。一度咳払いをして僕は話した。

 

「食事くらい楽しくしませんか?」

「す、すみません」

「朝食はいわば一日の始まりです。元気に食べないと一日の活力はちゃんと得られませんよ。もちろん、何をするにしてもね」

「っ………」

「やらなければいけないことがあるなら尚更です」

 

 そう言って僕は食事を再開した。すると紗夜さんも遅かった箸のスピードが上がり元気いっぱいという訳ではないがしっかり食べ始めた。それに感心して食事を続けた。

 登校時間になり彼女を花咲川に送ると僕も羽丘に向かった。校門の前に着くと京君と鉢合わせになる。

 

「よお」

「おはよう」

「昨日あの後どうだったんだ?」

「謝りに行くみたいだよ」

「流石だな、ちゃんと説得してやがる」

「そんなことはないよ。最後に決めたのはあの子だし」

「どっちにしろ今日が分岐点といったところか」

「そうだね。あとは彼女ら次第だし」

 

 決着をつけるのを見守ろうと僕達は話し教室に入っていく。

 

「ちなみにだが俺は今回どっちに転ぼうがお前と氷川がそういう関係になる展開に期待している」

「なんで?」

「面⭐︎白⭐︎そ⭐︎う」

「これ二度目だけど京君は僕とお嬢様が離別する系のルートに期待するのは何故?」

「見てて面白い展開だと思うから。因みに湊が取り戻そうとして氷川とバトルになるのが理想の展開な」

「屋上でノコギリと包丁を交えないことを願いたい展開だね」

「何を話しているの?」

 

 後ろを見ると首を傾げて質問を投げかけているお嬢様の姿があった。とりあえず挨拶だけすると京君がお嬢様の方に行く。

 

「聞いてくれよ湊。新一が主人がいるのに他の女に浮気しようとしてるんだぜ」

「それ前にやったよ?」

「新一、契約はまだ残っているわよ」

「おjy、湊さん………」

「新様新しい主人に乗り換えますの?」

「ほらめんどくさいのきちゃったじゃん」

「新参か、この展開はアツくなってきたぞ」

 

 そんなことを言っている場合ではないだろうと弁解するようにいうと口を尖らせてヘイヘイと返してきた。それからというものこの話題でちょいちょいいじられるものの時間は過ぎていく。放課後になって紗夜さんを迎えに行くからとお嬢様たちに断りを入れに行く。

 

「湊さん、申し訳ございませんが」

「紗夜のところに行くのでしょう?行ってきなさい」

「ご配慮ありがとうございます」

「ただし、ちゃんと連れて戻ってきなさい」

「仰せのままに」

 

 一礼してその場を離れ、荷物を持って京君に日菜さんのことを任せると返事が返ってくる。そのまま学校を出て花咲川の方へ向かった。快斗君に連絡をとり紗夜さんの状態を確認するとちゃんと教室にいるらしい。迎えに行っていることを伝え電話を切る。信号待ちになった時空模様を見てみるとあまりいい色をして要るとは言いづらかった。

 花咲川に着き周りを確認すると紗夜さんは校門の前にいた。暗い顔をしながら下を見ている。

 

「お待たせしました」

「いえ、私も先ほど来たところなので」

「そういっていただけると幸いです。それでは行きましょうか、日菜さんが待ってますよ」

「はい………」

 

 逃げたいという気持ちがあるのかしっかりとした返事ではなかったが連れて行くことにした。道中話しかけながらも京君に集合場所を聞きその場所へと向かっていく。

 

「紗夜さん、自信がありませんか?」

「………えぇ」

「それはそうですよね。ですがこれは貴女が選んだ道です。もう、迷っている場合ではありません。覚悟を決めてください」

「………」

「そうでなければちゃんと謝れませんよ」

 

 コクンと頷きながらも下を向いている。どうにかなるのだろうかと思いつつも地図を確認するともう集合場所に指定された喫茶店に来ていた。今日来たところは羽沢さんの家ではなく別の店らしい。中に入ると京君たちが座っているのが見える。やってきたお店の人に対応しながら彼らのいる席に向かう。座ってから飲み物を頼んで僕達は一息つく。

 

「日菜さん体調はどうですか?」

「全然、問題ないよ」

「なら良かったです。それでは紗夜さん」

 

 店に入っても下を向いていた顔が向けられる。笑顔を作って返すと戸惑いながらも視線を僕から外す。僕と京君は黙って見守っていたが硬直した状態がしばらく続く。やっと口を開こうとした時に間が悪く飲み物が届く。とりあえず受け取って一度落ち着かせるために飲ませる。一方日菜さんはずっと元気のない顔をしていた。彼女自身も気を悪くしているのだろう。紗夜さんの肩に手を置いてエールを送ろうとするとまた下を向いてしまう。

 

「……です」

「?どうした?」

「………無理です」

「紗夜さん?」

「やっぱり無理です!」

 

 机をバンと叩いて走って店を出て行ってしまった。一体どうしたのかと他の客がざわざわしている中僕達はすぐに役割を分けて動く。京君は日菜さんを見て、僕は紗夜さんを追いかける。店の外に出ると遠くの方を走っている彼女の姿が目に入る。それを追いかけて走り出すと紗夜さんは逃げるように走り続ける。追いかけっこはしばらく続きやっと見つけた時には灰色の空から雨は降り出し店の近くの路地裏に入っていた。

 

「一体どうしたんですか」

「無理なんです!あの子に謝ることが出来ません!」

「…なんでですか」

「確かに店に入る前は謝りたいと考えていました。ですがあの子を前にした途端怖くなったんです!また同じことを繰り返してしまうのではないかと、今度は本当に取り返しのつかないことをしてしまうのではないかって!」

 

 雨に濡れながらも叫び散らす紗夜さんに近づき僕は彼女の頬を叩いた。乾いた音が聞こえた数秒後、ゆっくりと顔を戻してくる。

 

「貴女はまだ覚悟がいえ、向き合えていないんですね」

「……何にですか?」

「貴女の罪にです」

「私の…罪………」

「京君のセリフを借りますが、紗夜さん、貴女の罪を数えてください」

 

 僕は彼女の顔の前に人差し指を立てて一という数字を示す。

 

「怪物の力を使ってしまったこと………」

 

 真ん中指も加えて二という数字を示す。

 

「言い訳をして関係ない人を巻き込んでしまったこと…」

 

 薬指も入れて三という数字を示す。

 

「私が妬んでいるのを知りながらも、優しくしてくれた日菜を……傷つけてしまったこと………」

「わかってるじゃないですか。そこまで分かっているならもうやることは一つです」

「ですがそれが分かっていても向き合うことなんて」

「傷付けるのが怖いですか?」

「ッ!」

「また日菜さんや周りの人間に危害が及ぶのが怖いですか?」

「あ、当たり前でしょう!?私のせいなのにこんなに人を巻き込んでたった一回謝って皆のところに戻ろうなんて許されるはずがないじゃないですか!」

「それは誰が決めたんですか?」

「そ、それは」

「傷つけられた人ですか?京君ですか?僕ですか?それとも日菜さんですか?」

「で、でも」

「貴女は謝罪をしたら二度と同じことをしてはいけないんですか?」

「そんなの当たり前じゃないですか!」

「それは違います。人は同じ過ちを繰り返す、どれだけ誠心誠意謝っても。ですが何故いつしか間違えなくなるのか、それはその人が同じ過ちを繰り返した時に止められるよう考えているからです。だから同じ過ちでも程度が違う」

「ですがそれは人によっては」

「そう、これは個人差がある。だけどそれがどうかしたんですか?同じ過ちをしたらもう二度と許してもらえないんですか?」

「なんでさっきから当たり前のことばかり」

「そう考えているのなら僕が示す答えは一つです。貴女は間違っている」

 

 さっきまで泣きながら叫び散らしていた声が聞こえなくなる。まるでおかしなものを見ているかのような顔になる。

 

「貴女がする前提は間違えないことではない。謝ることだ。その意味は貴女が謝りたいって事をあの子に伝えるためだそうだろう!?」

「っ………そうですよ!私はあの子に謝りたい!ちゃんと前を向いて謝りたいんです!でもそれじゃあ」

「それだけでいいんです」

「え?」

「今はそれだけでいい。あの子に謝りたいってその気持ちさえあればいいじゃないですか。その後のことなんて彼女と話し合いながらでも決めてください。ほら、来ましたよ」

 

 紗夜さんの後ろの方を指差すと傘をさした京君と日菜さんの姿があった。雨のせいもあって重くなっているであろう足を動かしながら姉妹は距離を詰めていく。あと数歩のところで二人は歩みを止める。

 

「おねーちゃん、あたし」

「日菜っ、その」

 

 姉妹が一斉に口を開いた瞬間、この場に似合わない愉快そうな声が聞こえてきた。



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Seven noise 引き裂く雷

「若い子たちがこんな雨の中何をしているんですか?」

 

 この場に似合わない声は声を弾ませて問いかけてくる。声がする方を向くと黒い傘を刺したスーツの男が立っていた。服装や立ち姿から見て中年紳士といったところだろうか。しかし表情は心配しているのではく愉快なものを見ているような顔だった。

 

「お気遣いなく」

「そうだ、すまねぇがアンタには関係n「おじさん?」日菜、知り合いか?」

「うん。前に一回だけ会ったんだけどおまじないをくれたの」

「覚えてくれてたんですね。嬉しいです」

 

 紳士はそのままこちらに近づいてくる。近づいてくると穏やかな表情からは考えられない悍ましさを感じる。本能的に構えを取ろうとすると小さく右手を上げてくる。

 

「その様子だと願いは叶いそうですね。せっかくですから、おまじないを完成させる手伝いをしましょう」

「どういうこと……?」

 

 満面の笑みを見せた男は上げた右手の袖から小さいものを取り出し軽く握った。

 

『ウェザー』

 

 手にあるものがガイアメモリだと分かった時には既に時遅く、メモリは首元に挿さっていた。みるみるその姿を怪物に変えるといつしか見た白いドーパントになっていた。

 

「まさかテメェ!」

「井坂深紅郎…!」

「覚えていてくれて光栄だよ仮面ライダー諸君。さぁ、有言実行と行こうか!」

 

 持っていた傘を放り投げその手を上に掲げると黒い雲が僕たちの頭上を覆う。僕と京君は咄嗟に変身してそれぞれ近くにいる子たちを庇うと紅い雷が間に落ちる。紗夜さんの無事を確認してから立ち上がり戦闘態勢をとる。

 

「邪魔をしないで欲しいな。彼女たちの手伝いをしているだけなんだ」

「これのどこが手伝いだ!」

「いやいや、彼女らが望んだことだよ。髪の長いお嬢さんは誰かを消したいと考えたからメモリを渡した。そして髪の短いお嬢さんは誰かとの仲直りを望んだ。なら答えは簡単です。お互いがお互いに殺されればいい。そうすればずっと一緒にいられますし消すことだって出来る。まさに一石二鳥ですね」

 

 意味が分からなかった。理解したくもない。ただ僕が彼に向けたのは怒りを超えた何かだった。

 

「誰かを消したいのはその人が持つものに憧れているから、つまるところ師弟愛ですね。そして仲直りしたいというのはその人との関係にある愛のせい。彼女らは自らの持つ愛の力によって動いていたんですよ」

「お前のわからん愛はどうでも良い。それと日菜に何をした」

「愛の力だからこそなせるとっておきのおまじないですよ。彼女らが姉妹だというのは思わぬところでしたがより興味深くなりました。ある種シナリオ通りです」

「貴方、一体何を仕組んだ!」

「一つの戯曲を作っただけですよ、研究者なりにね。勿論あなた方仮面ライダーも含まれているんですよ。お姉さんがドーパントとなり妹を殺そうとする。それをあなた達と言う抑止力が阻止し仲直りさせようとする。そして仲直りさせ、ある程度経った時にお姉さんに不幸が襲いそれを見た妹さんが暴走してお姉さんを殺した後に自分も死ぬ。たったこれだけですよ」

「ハッ、犯罪者検定一級でも取れんじゃねえの?でも残念だが日菜はガイアメモリを持ってないぜ。昨日念のため確認したがな!」

「それはそうでしょう。なんせ私が最高のタイミングで渡す予定でしたから」

 

 怪物は手から今までに見たことのないメモリを取り出した。メモリの頭の部分にはまるで蝙蝠の羽のようなものがついている金色のメモリ。ぷらぷらと揺らすと日菜さんが腕を引っ込める。彼女らを守るように前に並ぶと男はそれを隠す。

 

「まぁ少なくとも今ではないでしょう。ですが仮面ライダーの諸君にはここで退場してもらいましょう」

「そんなこと出来ると思う?」

「挙げられた舞台には最後までいる派なんでな!」

 

 京君が銃撃すると白い怪物の前に黒い影が現れて全て弾いた。それは一度剣を大きく振るうと京君の方に一気に近づいて金属音を鳴らす。

 

「なぁ京、相手してくれよ。俺は今、腹の虫の居所がすこぶる最悪なんだ!」

「獅郎!?今はお前の相手をしている場合じゃない!」

「知るかよ!」

 

 京君はそのまま皇に連れていかれこの場には僕と怪物と氷川姉妹が残った。イクサカリバーを構えて切り込む準備をする。守りながらの戦い、できる限り彼女らに危害を与えないように配慮しなければならない。しかしここは狭い路地裏でそこまでうまく立ち回れるかと聞かれると正直五分五分といったところである。だがそんな悠長なことを言っている場合ではなかった。

 

「貴方の目的は何ですか?」

「ガイアメモリの研究ですよ。人の心がどれだけガイアメモリの可能性を見せてくれるのかのね」

「斬ります、覚悟してください」

「今のあなたに私は斬れません。私がここから一歩も動かなくてもね」

「舐めたことを!」

「待っていたぞ!この瞬間()を!!」

 

 走り出した瞬間に聞こえた声は上から降ってくる。それは僕に直撃し押し潰そうとしてくる。イクサカリバーでなんとか防ぐものの振り下ろした剣の扱いが上手いのか重さが徐々に増してくる。何処のどいつだと顔を見ると知っている顔がそこにはあった。その事実が受け入れ難く下唇を噛む。

 

「……どうして、どうして貴方がここにいるんですか!宗方さん!」

「そんなもの決まっているだろう!全ては貴様と死合うためだ!」

 

 重さをうまく受け流して壁の方に投げると受身を取って着地する。相手は日本刀を一振り握った武人。鎧という鎧はつけておらず武将のような格好をしている。

 宗方 武仁(ムナカタ タケヒト)──執行部隊において単独行動権が許された数少ない人の一人だ。武器は日本刀以外使わないことからミスター武士道とも言われていたがその剣捌きは常人の領域からかけ離れていた。幾度か交わったことはあるがどれも時間切れにより引き分けで終わっていた。つまり一度も負けたことなく勝ったことのない相手であるということ。

 

「何故そんな!」

「貴様は俺と俺との決闘を捨てていった。しかしそのようなことはあってはならない!我々は戦わねばならない、そう俺の武士道が叫んでいる!」

「今は退いてください!そのことについてはのちに埋め合わせをします!」

「そうして逃げることは許さぬぞ!」

 

 日本刀の剣撃は止まらず僕とウェザーの距離を離していく。ツケが回ってきたのだと感じながらもどうにかあの男を止める方法はないかと横目で見ると男は右腕を空に上げていた。なんの構えだと気をとられると前からの薙ぎ払いに当てられる。受け身をとって地に手がついた瞬間、暗雲が頭上に来る。それは広範囲的に広がり僕目がけて赤い光を放出する。気づいた時にはすでに遅くその雷をまともにくらう。

 

「流石に油断していましたか」

「貴様、どういうつもりだ」

「はて?なんのことですか?」

「俺の決闘に水を差すとはどういうことだと聞いている!」

「今回の作戦は再起不能にすることだと伝えたでしょう?手段は選ばないと」

「そんなこと聞いていない!こんな事なら俺は帰る」

 

 宗方さんは刀を一度振り下ろし刃を納めると路地裏の外へと行った。予想外の出来事に混乱を隠せず、さらにはダメージを負ってしまい上手く動くことができない。それでも立ちあがろうとすると白い男は手を叩いて高らかに笑う。

 

「流石はあの英雄だ。データでしか知りはしなかったがこれほどとは。なるほどなるほど、ならば少しシナリオを書き換える必要がありそうですね」

「何を………っ」

「絶望をより深くするんですよ。その為にもこの子は貰っていきますね。後で招待状を送らせていただきますよ」

 

 男は日菜さんに近づき腕を掴むと雲を発生させて消えてしまった。辺りに一帯の雲が晴れた時この場には僕と京君と紗夜さんしか残っていなかった。紗夜さんが落ち着いていられるはずもないと考えると意外にも静かだった。紗夜さんの方を見ると彼女は意識を失っていたのか倒れていた。ボロボロになっている体に鞭を打って立ち上がらせ弦巻家と連絡を取る。すぐに回収班が来て僕達を連れて弦巻家に連れて行った。高城さんのいるところに着くと怪我の処置を行いながらもブリーフィングが始まった。

 

「白いドーパント、夏の時に現れた井坂というやつがウェザードーパントとなって俺たちに襲撃を仕掛けてきた。当然止めようとしたが獅郎を含む伏兵に足止めされた俺たちは日菜を連れ去られた」

「そんなことがあったのかよ」

「お前そん時何してたんだよ」

「別の場所にドーパントが出てた。倒しはしたけどソイツ結構強かったからもしかしたら」

「ああ、おそらく快斗の足止め用に用意されたんだろう。しかし君たちがやられるということはかなりの戦闘能力だぞ」

「ウェザー、天気の力を持っているんでしょう。実際それでやられましたし」

「さて、状況はだいたい理解した。問題は氷川日菜をどうやって奪い戻すかだ」

「それに関してはおそらく向こうから動いてくれます」

「どうしてっすか?」

「去り際に言ってたことだな」

「うん、招待状を送るって言ってたから多分罠を張ってる舞台に立たされる」

「そう言ってる間に届いたみたいだね」 

 

 プロフェッサーは電子キーボードをピピピッと叩くとモニターに白い画面が映される。そこには電子で書かれた文字が羅列してあった。

 

『明日12:00に羽丘スタジアムにてシナリオの終幕を迎える。招待状についている案内に沿ってくるように』

 

 全員が読み終えると次のページに移り地図が表示された。スタジアム本体とその周りの駐車場に赤い線が引いてある。地図を見る限り罠が仕掛けられていることは確定だろう。

 

「この情報ってどこから届けられたんだ?」

「どこから侵入したのかは知らないがその分キツイ仕返しはしないとだね。さてライダー諸君、君達はどうしたい?」

 

 答えは言わずもがなといったところだった。二人の目を見るとやる気に満ち溢れていた。

 

「勿論行きます」

「くっだらないことしてくれたんだ礼はしてやらねぇとな!」

「黙って引き下がれるほどの器ではないんでな!」

「じゃあ作戦会議といこうか」

 

 それからしばらくそれぞれの意見を出し合い乗り込むための作戦を話し合った。順序まで完成してあとは明日に備えるだけの状態になった時少しだけ追加事項を提案すると快く受け入れてくれたので三人に感謝した。会議も終わった事で部屋を後にして紗夜さんのところに向かった。この前とは違いちゃんとした部屋にいるらしい。部屋の前で待機していた黒服さんに許可を取り部屋に入る。

 

「大丈夫ですか紗夜さん」

「今はなんとか落ち着きました。ですが名護さんは怪我をしてらっしゃるじゃないですか」

「仕事柄仕方ないことなので致し方ありません。それより紗夜さん、提案があります」

「なんですか?」

「明日、日菜さんを迎えに行きませんか?」

「え?」

 

 キョトンとする紗夜さんに今までの経緯と作戦内容を伝える。当然戦場の中に連れて行くことを話すと表情が変わった。

 

「──ということです。どうしますか?」

「今更、あの子が許してくれるでしょうか?」

「は?」

「私は、あの時動けなかったんです。あの子にあの怪物が迫ってきているのに守ってあげることすら出来ませんでした……」

「それは仕方ありません。相手は普通理解し難いものですから」

「私はあなたに教えられて罪と向き合うことが出来た。けれどあのことはまだ向き合えていません。なのにそんなことをして」

「ならいっそ、全部ぶちまけた方が早いんじゃないですか?」

「………どういう意味ですか?」

「助けたかった気持ちも疎ましかった気持ちも全部伝えてその上で謝罪すればいいじゃないですか」

「ですがそんなことして」

「やってみなきゃわからないじゃないですか。それに結局どうするかは貴女次第ですから僕は提案することしか出来ません。だからこれ以上はその件に関しては手を出しません。だから聞きます。紗夜さん、共に行きますか?それともここで帰りを待ちますか?」

 

 手を差し出すと戸惑う表情を見せる。だがそんなに経たない内に彼女は僕の手を掴んだ。

 

「行きます。私にあの子を救わせてください」

「畏まりました。この手、必ず日菜さんに差し出してあげてください」

 

 この後のスケジュールを伝達して僕は部屋を出る。残りの時間を翌日きちんと動けるようにするために軽く体を動かしたり落ち着いていられるようにと色々とやることをやって時間を過ごすことにした。決戦前夜、何度この機会が訪れてもこの緊張感だけは変わらないものだと静かに感じた。



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Eight noise 決戦前夜

今回はちょっと短めです。そして今年中にこの章の前編を終わらせたい!


 a.m. 00:00

 決戦とも言える日になった。二人には寝るように伝えたが僕はまだ起きている。眠れないのではない。彼らの事だ、何が起きるか分からないとパターンを作り出しては対処法を考えていた。弦巻家の人達より彼らのことを知っているのはこの場において僕だけだと思う。園崎さんが今回の騒動に関わっているかは分からないがおそらく名護家関係者が出てくるのは間違いない。だからこそ想定できる範囲のものは今のうちに策を練っておきたい。

一人会議室の中でタブレットを操作しているとドアをノックする音が聞こえる。どうぞと答えると黒服さんが入ってきた。

 

「失礼します名護様、お取り込み中でしょうか?」

「いえ問題ありません。何かご用でしょうか」

「はい。今回の事件念のために動員を増やすべきだろうと高城が申していたので勝手ながら作戦メンバーを召集させていただきました」

「構いませんが僕に許可を取ろうとはしなくていいですよ。今の僕はただの執事ですから」

「(ただの執事は戦場に赴かないのでは……?)畏まりました。こちらからも十数人ほど出しますが五人ほど名護家から送られてきました」

 

 家の名前を聞いた瞬間体が少し反応した。確かに今回の場所を考えるに人数が必要なのはそうだが一体誰か差し向けられたのか気になってしまう。入室許可を求められたので応えると複数の足音が部屋に入ってくる。スーツを着た男女が並ぶと黒服さんが紹介してくれる。

 

「今回の召集に応じてくださった皆様です」

「一条、伊達、橋本、切姫、春川の五名、ここに参上いたしました」

「助っ人とは貴方方でしたか。ありがとうございます」

「此度共に戦えること心より誇りに思います」

「畏まらないでください。今回は同じ立場のようなものですから。共に戦いましょう」

「坊っちゃんと共闘するのは夏ぶりか~!」

「俺達は数年振りだな」

「全力を出しますわ!」

「私たちが着たからって気抜くんじゃないわよ」

「皆さん、ご協力よろしくお願いします」

「新一様ご指示を」

「その様な立場ではないと先程……」

「いや俺達元々坊っちゃんの指示しか聞く気ねぇから」

 

 ここまで来てそうなるのかこの人たちは。とりあえず作戦内容を伝えて時間まで休んでいるように伝える。名護家メンバーは納得すると部屋を出ていった。どうやら指定の部屋に戻ったらしい。黒服さんも一緒に出ていくと部屋に一人取り残される。一息ついて先程の作業を再開した。

 

 

 

 a.m. 01:30

 とりあえず出しきれるものを出して対処法も出来たので一度タブレットを閉じた。するとまたドアをノックする音が聞こえる。この時間に誰だろうかと警戒しながらドアを開けると夜架ちゃんだった。

 

「今お時間よろしいですか?」

「いいけど法に触れそうだったらすぐに追い出すからね?」

「あぁ、そんな風に断られると少し傷ついてしまいます」

「にしては嬉しそうだけどね」

 

 複雑な気持ちになりながらも部屋に招き入れる。椅子を引いて座らせると礼を言って座る。

 

「ごめんね、ここの物まだ把握しきれてないからお茶とかは出せないんだけど」

「いえお構いなくですわ」

「それで何の用かな?この時間に尋ねてくるってことは火急を要することな気がするけど」

「それは勿論新様の世継ぎを」

「よし今すぐ追い出そう」

 

 いつもならここで慌てる夜架ちゃんだが今日は違った。何かをボソッと呟くと真剣な顔をしてこちらを見る。いつもの目と違っていたことから真面目な話だと理解した僕は冗談だと言う。

 

「この間の当主の話を覚えてますか?」

「チェックメイトフォーの話?それとも」

「はい、贈り物の話です」

 

 彼女はスーツの内ポケットから長い箱を取り出して僕に渡してくる。受け取った箱を開けるとネックレスが入っていた。瑠璃色をしたクリスタルのついたネックレス、一見綺麗に見えるが中にある逆三角形のチップが姿を見せる。

 

「これは……」

起動装置(・・・・)にございます」

「ッ!」

「これからの戦闘で何が起こるか分からない。だからこれは貴方様が持っているべきだろうと現当主様が」

「だけど…これは……」

「自我を保てるのは十分です。時間がくる前に解けば問題はない、とのことですわ」

「……分かった。ありがたく受け取らせて貰う」

 

 ネックレスを箱の中に入れて箱をしまおうとするとその腕を捕まれる。

 

「新様が──主様が望であれば、私がここで壊しますわ。出来ることならばもう、貴方様にあんな苦しみを与えたくありません」

「ありがとう。だけどこれは持っておくよ」

「どうして……」

「それが、僕の罪だから、かな」

 

 掴む手が弛んだのを感じて箱をしまうと夜架ちゃんは俯いた。その頭にそっと手を置いて撫でる。途中から頭を押し付けるように動かしてきたが拒むことなく彼女が満足するまで続けた。ようやく手から離れた時すごく満足気な顔をしていた。

 

「ごめんね、でもありがとう。これは極力使わないようにしておくよ」

「分かりましたわ。私も新様に撫でられて満足ですので」

「そ、そう」

「ですがもし……塗りつぶされてしまった時は私が殺しに参ります」

「うん、お願いするよ<夜剣>」

「畏まりましたわ」

 

 それではと言って席を立ち部屋を出ていく。彼女を見送った僕は箱を取り出しネックレスを見る。部屋の明るさのせいか普段綺麗に見える瑠璃色の宝石は深く暗い海の底を表しているようだった。

 今一度再確認した僕はネックレスを取り出して自分の首に着ける。宝石を中にしまい誰にも見られないようにする。二度と過ちを犯さない為に、自らを戒めるように────

 

 

 

 a.m.04:00

 全員がブリーフィングルームに集まる。三人ほど眠そうにしているが寝ている時間もそんなになかったので仕方ない。

 

「おはようございます皆様、体調の方はいかがですか?」

「名護家問題ないです」

「こっちもだ」

「俺もです」

「私も大丈夫です」

「では作戦の再確認です。正面入口より京君と快斗君を前に伊達さんと一条さんで突入してください。人間の敵なら一条さん達で、メモリの敵なら京君達でお願いします」

「任せとけ」

「よろしくお願いします」

「陽動を行っている最中に裏から橋本さんと夜架ちゃん、魔姫ちゃんの三人で突入してください」

「了解した」

「分かった」

「畏まりましたわ」

「京君が合図をした五秒後に僕と紗夜さんが突入します。探りながら進んで行きますので各自異変などに気付いたらすぐに報告してください。一条さん達は余裕があったら敵方を殺さず生捕りにしてください。最悪の場合は殺しても構いませんが善処の方をお願いします」

「おう」

「敵戦力は戦闘兵、メモリ使いがメインで機械兵が出てくる可能性も大いに考えられます。もし機械兵が大量に出てきた場合はこちらのメモリ使いに任せてください。他に質問事項はありますか?」

 

 全員が満場一致でないと答えるので各自最終チェックに移るよう指示をする。ゾロゾロと部屋を出ていく中紗夜さんだけが部屋に残る。ただ今の紗夜さんは昨日までの紗夜さんとは違いちゃんと前を見ているようだった。

 

「もう、大丈夫なようですね」

「はい。私はもう迷いません────あの子を助けます」

「いいんですか?貴女がこれから行く先は地獄かもしれないんですよ。簡単に命を落とすかもしれない」

「だから私はあなたにお願いしたいんです。あの子を、日菜を助けてください」

 

 紗夜さんは頭を深々と下げた。迷ってる声ではない。話している時も真剣な眼差しだった。それを見た僕はふと口角が上がってしまう。

 

「助けるのは貴女ですよ、紗夜さん」

「!」

「僕は貴女を連れていきます。勿論邪魔する人がいれば倒します。ですが最後に手を差しのべるその役は貴女です」

「ありがとうございます」

「さて、そろそろ僕達も移動しましょうか」

「ええ、行きましょう!」

 

 僕達はブリーフィングルームを出て黒服さんに移動用の乗り物の場所まで案内して貰う。

 

「そういえば突入方法ってどうするんですか?」

「そういえば説明してませんでしたね。流石に空からは行きませんよ?死にたくありませんし」

「ではどうやって行くんですか?」

「それはですね──」

 

 突入時の作戦を告げると大きな声で驚かれるが淡々と話を進める。確かに驚かない方がおかしいが逆に回りがそういう反応を取るということは相手にも同じ衝撃を与えられるということだ。安全の保証をすると信じられないと言うがその割には落ち着きを取り戻していた。

 これなら問題ないだろうと案内されたトラックに乗り込む。そこにはいつも使っているイクサリオンではなく、弦巻家から支給されたバイクがあった。ちゃんと動作することを確認して準備する。

 

 

 

 a.m.06:00

 移動が始まり車内は静まり返る。そもそもこのトラックの荷台には二人しか乗っていないのが事実だが。紗夜さんの様子を見ると少し体が強張っているように見えた。

 

「緊張してますか?」

「は、はい……」

「もう覚悟は決めたんですよね?」

「それは勿論です。今度こそ迷いはありません」

「なら大丈夫ですよ」

「いえ心配してるのはそちらではなくその……」

「ハハッ、確かにそれは緊張しますね。もし嫌なら後から追いかけてきてもいいですよ?」

「そういうわけにはいきません!」

「じゃあ僕の運転技術を信じてください。そうすれば大丈夫です」

「そうでしょうか……」

 

 苦笑いしながらも納得した紗夜さんは深呼吸をして落ち着こうとする。その横で僕は最善の方法で終わらせることだけを考えていた。

 

 

 

 a.m.06:50

 僕達を含め各班が配置についたらしい。インカムを通して確認する。

 

「名護です、皆様準備はよろしいですか?」

『こちら一条、伊達、鳴海、大道、準備完了です』

『橋本、切姫、春川、待機完了』

「了解です」

『じゃあ坊っちゃん、決起させるということで一言!』

「結構です」

『そう言わずにだな』

『やって見せろよ新一!』

『なんとでもしてください!』

「僕はマフティーじゃないんだよ?」

『アホみたい……』

『ですが久しぶりに新様に士気をとって貰いたいですわ』

「名護さんは本当にいろんな人に好かれてますね……」

「まぁそういうことにしておきましょう」

 

 一度バイクから降りて前に立つとコホンと咳払いをしてから深呼吸をする。

 

「これより、我々が向かう戦場(いくさば)はそこらのテロリストよりも強く、各国の軍人よりも猛き者のいる地獄(戦場)である。戦場において生を望むものは死に、死を望むものは生へ。つまり戦いにおいて生死とは考えても仕方ないこと。ならば我々は己が忠義を、欲を、願いを賭けて戦おうぞ!さぁさぁとくとご覧あれ!勝つのは誰が願いか!消え去るは誰が願いか!ここに正義はない!勝利を納めた者のみが正義なり!」

『しかと、胸に』

「皆のもの、ゆめゆめ忘れるな」

 

 ふー、と息を吐くとインカム越しに拍手が聞こえてくる。こういうことはもうしないと思っていたのだが久しぶりにやるとなんだか不思議な気持ちになる。そろそろ時間になることを確認してバイクにまたがる。

 

「紗夜さん、今一度確認します。覚悟は──よろしいですか?」

「ええ、参りましょう」

「それでは皆さん、行きますよ」

 

 紗夜さんが体にしがみつくのを感じながら目の前で開く扉を見つめた。さぁ、開戦だ。

 

 



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Nine noise 戦場パーティー

100話いつの間にか越えてましたね!
これから戦争が始まりますけども!!!
というわけでどうぞ


〔ここからsister's noiseを聴きながら読むことをお勧めします〕

 作戦開始十五秒前──緊張感が漂う中インカムを通して声が聞こえてくる。緊急の連絡かと意識を集中させた。

 

『せっかくだからよ、掛け声で始めようぜ?』

『いいじゃねぇか!坊っちゃんどうしますか?』

「悪くありませんけど……じゃあ言い出しっぺの京君お願い」

『うおっ、まじか。じゃあここはさっき全員に教えた快斗の台詞を借りて』

『えっ?』

 

 バイクのアクセルを握りしめていつでも行けるようにすると一人を除いた全員の声がインカムから聞こえてくる。

 

『『『『『『さぁ、地獄を楽しみな!』』』』』』

 

 その声と同時に紫の大きな骨手が見える。合図を受け取った僕はクラッチを回し、アクセル全開でトラックの中から飛び出す。骨手を追いかけるように宙を舞う。

 

『嘘だろぉぉぉぉぉぉ!!!???』

「ハハハッ!面白いなぁこれ!!」

「何で笑ってられるんですか!?」

「風が気持ちよくないですか?あと快斗君の反応も」

「それはそうかもしれないですけど!」

「あっ、そろそろ着地するんで舌噛まないよう気をつけてください」

 

 ドスンと地に落ちたバイクは壊れることなくそのまま進んでいく。さっきの骨手はスタジアムの壁を破壊してくれたのでその穴に向かって走る。勿論回りには敵がいっぱいだ。それを無視するようにバイクを走らせる。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ん?紗夜さんちゃんと捕まっててくださいね」

 

 よく見ると瓦礫が残っているのを確認する。このままじゃ突っ込めないと考え最大速度になるようにしてクラッチを固定する。それから紗夜さんを抱えて立ち上がりタイミングを合わせて跳ぶ。無人バイクはそのまま瓦礫に突っ込んで爆発してくれた。ありがとう名も無きバイク君、君のことは忘れない。

 

「紗夜さん怖いですか?」

「怖い以外あると思いますか!?」

「ですね!!」

 

 地に降りた僕はそのまま紗夜さんを抱えてスタジアムの中に入る。後ろから追いかけてくる音が聞こえたがそれも無視して通路を走った。

 

「待て!」

「そのまま行かせるか!」

「その言葉、そのままそっくり返すぜ」

「なっ!?」

「今日の主役はあの方達です」

「俺たち脇役はここにいようぜ」

「相手はたった四人だ!潰せ!」

「そんじゃあ暴れるぜ~止めてみな!!」

 

 通路には当然兵士がいる上に素直にスタジアムに入れないよう出入り口が封鎖されているのがほとんどだった。

 

「ここも入れないみたいですね」

「名護さんは人相手でもその姿で倒すんですね……」

「倒すと言っても峰打ちですけどね。それに変身解除したらまた変身するの時間の手間じゃないですか」

「おっしゃる通りですが……」

 

 さぁ行こうと走り出そうとすると前の方から金属を引きずる音が聞こえる。火花を散らしてるような高い音だった。見えた影から誰か来ると構えるとその正体はあの人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでこの人たちこんなところにいるんだよぉ!」

「それはお前、ここが戦場になること知ってて介入しないと思ったのかよ」

「知り合いが戦場で敵ってどんな気持ちなんすか?」

「えっと、教育のやり直しって感じですかね」

「一条コエー!」

 

 笑いながら敵を殴り飛ばしてるあんたも怖いけどな。俺たちは新一たちを追いかけさせないために駐車場にいる雑魚共を掃除してる。殺さないとはいえ相手がプロの戦闘集団だと身構えていたが生身の人間は新一の手下が勝手に一掃してくれる。だから俺たちもメモリ人間共を倒せてるわけだが。

 

「なぁ、もしかして俺たちいらないんじゃね?」

「あの人たちだけでドーパントもどうにかなるっしょ」

「若ぇんだからもっと働けよ!」

「仕事奪ってるのあんたらだけどな」

 

 やれやれと銃を構えると後ろからガコンと重たい音が聞こえてくる。全員が想定してなかったらしく敵味方関係無しに音の鳴る方に視線が釘付けになる。アスファルトが開いたかと思うとそこから戦車くらいの大きさの機械が二つ出てきた。

 

「な、な、なんじゃありゃぁぁぁぁぁ!!!???」

「おいおい嘘だろ!?」

「何故あんなものが……!」

 

 戦車らしき機械は一斉に動き始めた。敵味方は流石に分かっているのだろう。俺たち目掛けて砲弾やミサイルを撃ってくる。

 

「おいアンタらあれ知ってるんだよな!?」

「知ってるも何もありゃあうちの兵器だよ!」

「いえ、おそらくはその設計図に基づいて作られた量産型でしょう」

「よく冷静に見れるっすね!」

「現場は常に冷静に対処しなければなりませんから」

「あーそうかよ!」

 

 逃げ惑う俺たちを嘲笑うように雑魚共が見てきやがる。いっそのことあの中に紛れ込んでやろうかと思ったがそれをしてでも積まれてる細かい武装で撃たれるかもしれないかと考えると俺は盾骸骨を構えた。

 

「鳴海様!」

「京!」

「時間は稼いでやる!だからそれまでに解決方法を探れ!」

 

 いつまで持つか知らないから早くして欲しいというのが本音だ。いつもの倍以上の大きさを出して防いでいる。だからエネルギーの消耗も激しい。どうにかなってくれよ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに現れたのは刀を引き摺る宗方さんだった。この状況で会うのはなるべく避けたい相手だったがここで会ったのならば仕掛けてくるだろうと構えると彼は刀をしまい壁に寄っかかる。

 

「どういうつもりですか?」

「俺はお前との真剣勝負をしたいのだ。そんな荷物があっては本気になれないだろう」

「いいのですか?井坂さんの指示ではないのですか?」

「フン、俺を騙した奴など知らぬ。それに俺は単独行動のライセンスを持っているからな」

 

 早く行けと言わんばかりにため息をつく宗方さんの前を警戒しながらも通り抜けると本当に何もしなかった。だが一つ気になったことがあった。

 

「どうして貴方のような人が園崎さんについて行ったのですか?」

「……貴様が俺と本気の死合をする前に消えてしまったからだ。こうやって敵の立場になれば貴様は必ず現れるだろうとな」

「なるほど。ありがとうございます、ご協力感謝します」

「フン、俺が来た道を進んで右に曲がれ。あとは貴様ら次第だ」

「!」

「ここまで教えたのだ。必ず俺と死合ことを忘れるなよ」

 

 顔を下に向けて居眠りするような態度をとって黙り込んでしまった。もう一度礼を言ってからその場を立ち去った。

 

「あの人は一体なんなんですか?この間は殺しに来たじゃないですか」

「さぁ?多分純粋なんですよ。自分がやりたいことに」

「純粋の意味をもう一度調べたほうがいいと思いますよ」

 

 紗夜さんを連れて走り出してかれこれ三十分、今まで倒した兵はマスカレイドと生身の人間のみ。このままいけるかと思った時ドーパントは現れる。重たい音がすると思えばアームズドーパントだった。

 

「やはりそう上手くはいきませんよね」

「あぁ、やっぱりアンタか。絶対に殺してやる!」

 

 ドーパンとは巨剣を振り回してくる。小回りの効く攻撃を与えようとするとキチンと防いでくる。うん、やはり戦闘に慣れてるんだ。剣を交えるうちに弱点を見つける。アームズが横に薙いだ時剣の持ち手を狙う。

 

「動きは良いものだと思います。しかし小手先の注意が甘い」

 

 手を切り裂き懐に入ってブロウクンファングを撃ち込む。爆破したドーパントはその場に倒れ込み人間の姿に戻る。メモリを粉砕してから紗夜さんに出てくるように伝えてスタジアム中央に向かう。

近くの扉を開けると奥の方から光が見えた。そこを出ると回りには観客席が広がっていた。どうやらスタジアムの中央に着いたらしい。グランドには緑や橙色のロボットがたくさん待ち構えていた。そいつらの見た目は以前に見たことのあるものではなかった。

 

「何ですかあれは?」

「さしずめ、ロボット兵というところでしょう。無人で動く戦闘ロボット……紗夜さん、向こうを見てください」

 

 グランドの奥を指差す。そこには縛られた日菜さんと井坂の姿があった。

 

「日菜ッ!」

『ようこそ、パーティー会場へ』

「井坂、早くその子を離しなさい」

『それは貴方方がこちらまで来たらにして下さい。この数の無人機を倒してこれますか?』

「図に乗るなよ、これしきのことで止められると思うか」

 

 フェッスルを装填してナックル取り出す。グランドの左側に狙いを定めてブロウクンファングを放つ。普段なら直線距離でしかやらないが気合いで横に凪いでいく。これに当たった機械共は爆発していった。

 

『あれだけの質量を動かして七割ほど消し飛ばすとは!流石は世界最強の執行者!!』

「紗夜さん、しばらくここにいてください」

「えっ」

「残りを全部壊してきます」

「待ってください!」

「もし襲われそうになったら呼んでください。すぐに行きますから」

 

 観客席から飛び降りてロボットを壊しに行く。簡単なAIしか積まれていないのだろうか。動きが単純で破壊しやすい。斬り伏せていくと動力部分を見つける。次からはここを破壊して極力機体を残しておこう。足場に使えるかもしれないし。

 

『余裕そうですがお仲間の方はどうですかね?』

「何を、ッ!」

 

 井坂の方を見ると大きなモニターの電源が付く。そこにはいつもより大きな盾骸骨を構えた京君の姿があった。シールドは今にも割れるのではないかというぐらいミサイルや砲弾を撃ち込まれている。

 

「あれは!?」

『私が開発した、遠隔操作型対軍兵器《ディオスクロイ》です。園崎さんからある設計図をもらいましてね、それを基に改造させていただきました。今は何とか保っていますがそれも時間の問題でしょう。そしてあの方達にはあれの装甲を壊すほどの出力を持ったものはない』

 

 ある程度予想はしてたが面倒なものを持ってきてくれた。だけどその為のあの人達だ。回りの機械を壊しながら連絡を取る。

 

「橋本さん、今何してますか?」

『管制室を探してる。他の二人にも指示は出した』

「流石です」

『見つけたぞ。今から無力化する』

『新様、こちら別のものを操作する機械を見つけました』

「そっちもオフにして構わないよ」

『分かりましたわ』

 

 数秒後、回りの機械達が動きを止める。それと同時にモニターに映る機械の動きも止まった。どっちがどっちだったかは分からないがとりあえずどうにかなったということだろう。

 

『まさか伏兵がいたとは』

「こんなパーティーに真っ向からしか来ない方がおかしいでしょ」

『仰る通りですね。面白いものを見せてくれたお礼に彼女を離しましょう』

「いいのか?まだそちらに着いていないが」

『いいですよ。ほら、行きなさい』

 

 縛られていた日菜さんは鎖から解放されて地に膝を付く。そこから立ち上がるとすぐにこっちに走ってくる。あと少しでこちらの手が届く範囲という時に井坂が姿を変えて火球を撃つ。振り返った日菜さんは動けずこのままだと危険だと火球の前に出て斬り落とす。

 

「残念ですね、もう少しでシナリオの完成だったのですが」

「させないと言ってるだろう」

 

 二人を一度グランドの端までつれていく。安心はまだ出来ないと考えるがここで一気に遠ざける方が危険だと考える。そして今がチャンスだとも考えた。

 

「紗夜さん、今のうちに」

「はい!」

 

 二人を残してグランド中央まで戻る。すると井坂は余裕そうに待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デカブツの動きが止まってくれたお陰で何とか耐えきった。膝をついて一度休もうかと思ったが回りの奴らを蹴散らしていく。手を抜いてでも倒せる連中だったので力を抜いていたがそんな時間も大してなかった。空から何かが降ってきた。いや、俺はヤツを知ってる。この感じは忘れることはない。

 

「俺と遊ぼうぜぇ、京!」

「お前も来たか獅郎!」

「二度も同じこと言わせんなよ。俺は今虫の居所が悪いんだ!」

「ハッ、ンな事知ったこっちゃねぇよ!悪いな、俺はこいつをやらなきゃいけねぇからあとは任せた!」

「畏まりました。お気をつけて」

 

 振り下ろされる剣をマグナムで受け止めそのまま押していく。回し蹴りや裏拳を入れていくが全て躱されたり止められたりする。その分俺も奴の攻撃をすべて止めている。しかし今日のこいつはどうやら余裕がないらしい。いつものふざけた感じがない分気味が悪くも感じる。

 

「いつものお調子者感はどうした」

「うるせぇなぁ!」

「ハッ、本当に余裕がないみたいだな。お前のことだ、何かに焦っている。それとも最近誰かに負けたか?」

「今日の京は随分とおしゃべりだなぁ。加減抜きで斬り殺してやんよ!」

 

 斬りかかるスピードが極端に上がった。怒り任せに振り下ろされた剣は地面を軽く抉る。この様子を見るに後者の方だったか。せっかくだ、利用させてもらおう。そしてこのまま奴を落としてやろう。俺たちは周りの地形を少しずつ変えながらも周りを気にせず殺し合いを始めた。



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Ten noise あなたと私のシンフォニー 

皆さんお疲れ様です!
決戦編後編です!最初っからDetermination Symphonyを聞きながら読むことををお勧めします!
残り少ない2022年ですが上げていきましょう!


「紗夜さん、今のうちに全部」

「わかってます。ありがとうございます」

 

 私は今にも倒れそうな日菜を座らせて話しかける。名護さんが時間を稼いでくれている。ここでなにも言えなければ全てが水の泡だ。

 

「やっと、あなたと、あなたの目を見て真っ直ぐに話せる時が来たわ」

「おねー…ちゃん?」

「私はいつもあなたにコンプレックスを感じてきた。何をしても私とあなたは比べられる。それが嫌だったから、あなたがやっていないギターを始めた。けれどあなたは私の後を追うようにギターを始めて……あっという間に私を追い越していって………」

「そんなことないよ…っ!」

「いいのよ、日菜。あなただって気づいているはずよ。私より、あなたの方が………」

「それ以上言っちゃダメだよ!」

「いいえ、ダメよ。言わなければ、言わなければ前に進めない!」

 

 日菜が前に出してきた体を少しだけ後ろに下げさせる。それでも私は話を続けた。雨が降り始める。雨は私たちを濡らし、雨粒は顔を滴る。けれどそんなもの今はどうでもよかった。この子にちゃんと伝えられているだろうか。それだけが頭の中をずっと回ってる。

 

「………あなたの演奏を聞くのが怖かった。自分への劣等感、それに……あなたへの憎しみが増えていってしまうから。………前に、一緒に七夕祭りへ行ったでしょう?」

「うん、覚えてるよ」

「あの時、『日菜とまっすぐ話せますように』って書いたの」

「…!」

「星が叶えてくれるわけない。叶えるのは私自身なのだと、そう自覚もしていた。それから以前よりもあなたといる時間を増やすようにしていた。そうすれば短冊の願いも叶うと思ったから。けれどずっとあなたの音楽を聴くことからは逃げていた。だけどあの日、喧嘩をするちょっと前まで、少しだけ聴いていたの」

「えっ?」

「私にはない何かがそこにあることがわかってしまった。そして私の音楽を振り返ってみればそれは当然なかった。それが確信となった時にあなたが来た。………酷い話よね、自分にないものを妬んであなたを傷つけて、周りも巻き込んで、正直何もかもやめてしまいたいわ」

「おねーちゃんの……おねーちゃんの嘘つき!!!」

「え………っ?」

 

 日菜が泣き目になりながら大きな声を出した。予想も出来なかった反応に私は困惑する。

 

「おねーちゃん、約束してくれたじゃん!あたし達はお互いがきっかけだから勝手にギターやめたりしないでって!それが、すっごく、嬉しかったのに………!」

「日菜………」

「でもそうやってあたしは、知らないうちにおねーちゃんのことをたくさん傷つけてきたんだよね。本当にごめんね、おねーちゃん。でもね………あたしはおねーちゃんにギター、やめてほしくないよ。もし苦しいことがあったら私のせいにしてもいい。あたしのせいでおねーちゃんが苦しくなるんだったら………いいよ。あたしのこと嫌いに」

 

 言葉を遮るように日菜を抱きしめた。それ以上の言葉を吐かせたらそれこそここにきた意味がない。私がここに来た理由はたった一つなんだから。この子にそんな思いをさせるためにきたわけじゃない。

 

「それ以上は言わないで。あなたにそんな思い、させたくない」

「!」

「あなたは、甘いのよ。いつもすぐに私を追い越していくのに、私を待って立ち止まって………時には傘を刺して、私を苦しみから守ろうともしてくれた。……私は、いつしかあなたの優しさに、甘えていたんだわ」

「そんなこと」

「だから言わせて頂戴。ごめんなさい、日菜」

「っ!」

「私は、あなたが常に先を行くような現状を受け入れられるほどできた人間ではない。でも……いつか………あなたと並んで一緒に歩いていくことができるように……私は私だけのものを見つけたいと思う。そしてそれを誇りにしてあなたの隣に立ちたいの」

「おねーちゃん……!」

「また、あなたに先を行かれてしまったわね。………ありがとう、日菜。必ずあなたのもとへ向かうから、もう少し待っていて」

「うんっ……うんっ……!約束だよ、おねーちゃん!」

 

 和解することができた私たちは立ち上がり、安全なところに避難しようとした。名護さんが向こうで戦っているのを考え、なんとか安全なところを見つけたがそこには人ひとり分しかなかった。縛られていたせいでちゃんと動けない日菜にそこにいるようお願いして私は名護さんのいるところに走って戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか貴方に御相手して貰えるとは」

「戯れ言はいい。今日の僕は怒っている。止められるとは考えないことだ」

「私の研究の成果、人類最強の執行者に試せる機会などそうそうない!」

「まずはその口を塞ごうか」

 

 剣を振り下ろして走り出す。相手はウェザーと言っていた。天候を自在に操るのだろう。火の玉のようなものを撃ってくる。熱気の塊だろうか。そんなことは知ったことではないと避けて懐に入り込む。

振り上げる剣を防ぐのは結晶の盾。形的には雪の結晶、つまり雪をその場で生成して作り上げたものだ。

 すぐに引き返すと居た場所に二、三度落雷が落ちる。狙っていたのだろう。赤い雷の焼け跡には炎が立っている。当たるだけでヤバそうだ。

 

「今のを躱しますか、随分と反応がいい」

「そっちこそかなり戦闘に慣れてるみたいだけど。研究員じゃないの?」

「お戯れを。研究とは、まず自らを依り代にするものでございましょう」

 

 こいつは正気じゃない。そう確信を持った瞬間雨が降り始める。天候を操ったのだろうか、雨は次第に強くなっていく。この時期にこの雨の量と考えると自分よりも彼女達の方が心配になってくる。寒冷による体温の低下、更には長時間雨に当たることでの体力の低下。この二つが重なることが一番危険だ。だからこそ早くコイツを仕留める。

 

「流石は研究者、人の弱点をよくご存じで」

「いえいえ。それでも貴方は倒せませんよ」

「狙いは僕じゃないだろう?君のシナリオは大体読めた。だからその台本を引き裂こう」

 

 イクサカリバーをガンモードにして乱射する。その勢いで距離を詰めモードを変形をして斬りかかる。氷の剣や火の玉で対抗してくるがやはり分かる。この男は近接を得意としていない。

 

「このまま押しきろうとでも思いましたか?」

「なっ!?」

 

 気づいた時には踏み込もうとした足は固まっていた。天候を操るということは気温すらもその手の中というわけか。

 井坂はさっきよりも大きめの火の玉を撃ってくる。斬り落とす以外止める方法はないかと剣を構えるが火の玉の行き着く先は僕ではなく僕の足下だった。氷が溶けるのと同時に吹き飛ばされる。受け身を取ろうと地に足を着けた瞬間体に引き裂かれるような痛みが走る。

──赤雷だ。井坂の雷が僕を直撃した。おそらくこれを狙っていたのだろう。躱せなかった僕は地に伏せる。

 

「ぐっ……」

「直撃は流石にキツいですか……しかし世界最強の執行者がその程度ではないはず!」

「キッ、サマ……」

「では少し問答をしましょう。貴方は、もし彼女らのどちらかがドーパントになりドーパントを倒すということだけでなく当人も殺さねばならないとしたらどうしますか?」

「この状況で何を!」

「いえいえ、例え話ですよ。あぁ、勿論助かる方法は他にないという想定でお願いします」

 

 余計な話を持ちかけられたせいで立ち上がれるほどにはなった。剣を振り動けることを確認する。そして僕は答を出す。

 

「だったら僕が殺す」

「おやぁ?意外ですね。もっと情が深いかと思いましたがそういうわけではないと」

「回りに被害をもたらす前に殺すべきだ」

「ハハハハハハハ!流石は<朱雪の執行者>!女子供でも殺したという話は本当だったか!」

「どういうこと……ですか?」

「…………」

「知らなかったんですか?彼は<朱雪の執行者>と呼ばれる処刑人であり老若男女を問わず目標を必ず殺すという世界最強の執行者と謳われた男なんですよ」

「……本当なんですか?」

 

 僕達の間に沈黙が出来る。本当ならば嘘だと言いたいところだが場にいる人間と状況が悪すぎる。黙秘を貫くべきかと目をそらすと笑い声が聞こえてくる。

 

「失礼しました。言える筈もありませんよねぇ、自分は人殺しだなんて」

「……」

「名護さん、なんでさっきからなにも言ってくれないんですか?もしかして」

「紗夜さん。この男の言ってることは事実です」

「!」

「ですが僕は話したくありません。紗夜さんを困らせてしまうから」

「私を……?」

「さて、その口を閉じ──。いや、素っ首を斬り落としてやろうか?」

 

 イクサカリバーを強く握り締めて井坂に向かって歩く。今回の任務、正直撃退だけでいいと思っていたけど一つだけやることが増えた。

 次の一歩を踏んだ瞬間、僕は井坂の目の前まで距離を飛ばした。

 

「なっ!?」

「(今、あそこにいましたよね!?どうやって)」

「言っただろう、素っ首を斬り落とすって」

「本気になってくれたんですか!それは嬉しい他にありませんね!」

「喋るな、穢らわしい」

 

 イクサカリバーを振り上げ斬り払う。油断しているところを斬った故に防がれることはなかった。隙がある内に斬り裂いていく。横に一閃決めると転がっていく。ベルトにフェッスルを装填してナックルを取り出す。

 

「さ、流石だ。これ程とは……!」

『イクサナックルライズラップ』

 

 イクサカリバーを逆手に持ち辻斬る。止まった地点で後ろに跳び奴の頭上に来た瞬間イクサナックルをぶつけゼロ距離でブロウクンファングを撃ち込んだ。

 

「“Determination”」

「この感覚……そうか、やはりそうなのか!」

 

 訳のわからない言葉を残して井坂は爆発した。当然出てきた伊坂はメモリが排出されただけでまだ完全には倒れていない。しかし伊坂の目からは希望がまだ残っているように見えた。

 

「この感覚、あぁなんとももどかしい!」

「さっきから何を言っている」

「貴方は、完全体(・・・)ではない」

「!」

 

 気持ち悪いほどに感がいいな。おそらくはあれを使いこなした状態のことを言っているのだろう。だがそんなことをするつもりは毛頭ない。メモリを回収しようとすると伊坂が懐に手を突っ込んで形状の違うメモリを取り出す。

 

「何をしている。それを捨てなさい」

「残念ですが今日のところはこれを使ってお開きにしましょうか」

『ケツァルコアトルス』

 

 ガコンと重たい音がする。音がした方を見ると一羽の鳩が出てくる。何をしているのかと疑問を浮かべたとき伊坂は動いた。形状の違うメモリを鳩に向かって投げる。まさかと考えると悪寒は的中し、鳩は姿を変え巨大な化物鳥になった。

 

「この期に及んでまだ!」

「あれは複製品の未完成版ですよ。それでもなお美しいあの姿!さぁ、ここにいるもの全てを壊しなさい!」

 

 モンスター鳥は叫びながら飛来する。イクサカリバーをガンモードにして対抗するが大したダメージを与えられない。伊坂から気を離してしまったと考え辺りを見回すと既に奴の姿は無かった。これはあくまで逃げる算段だったというわけだ。しかしどうすればあの鳥を止めることが出来るかと考えると走ってくる音が聞こえる。

 

「おい新一、アレはなんだ!」

「京君、快斗君も」

「何なんすかアレ。モンハンかなんかですか?」

「ごめん、その辺の知識はまた今度教えて。簡単に説明すると伊坂が残したトンデモ実験体のプロトタイプ」

「なんだそれクソかよ」

「でっかい戦車みたいなの出てきたり化け物鳥が出てきたりって、ここ何サファリパークだっつーんだよ」

「とりあえずあれ倒すの手伝って」

「新一様、我々は如何なさいますか?」

「一条さん達は敵味方関係無しに避難させてください。被害は最小に納めるつもりですが念のためにも」

「畏まりました、行きますよ伊達」

「えー!俺も坊ちゃんとモンハンやりたい!」

「ふざけたことを言ってないで行きますよ」

 

 一条さんは先に走り去り伊達さんはふざけつつも指示通りに動いて消えていった。鳥の動きを見つつ三人で話し合う。アタッカー、タンク、サポーターの三つに分けて役割を決める。作戦を確認して配置につく。

 

〈ここからはOpera of the wastelandを聴きながら読むことをオススメします〉

 

「そういえば二人はNFOって知ってる?」

「SAOなら」

「FGOも知ってるっすよ」

「じゃあ今度やってみるといいよ。楽しかったから」

「暇があったらな」

 

 京君がマグナムを構えて鳥に当てると注意を引くように攻撃しながら走っていく。ある程度僕達から離れると盾骸骨を出して拡大しつつその場に構えた。

 

「それじゃあ快斗君お願いね。合図したらその時に」

「了解っす、それじゃあいってらっしゃい!」

 

 快斗君は両手をパンと合わせて紫色のマスを展開していく。鳥が京君を襲っているのを確認してその背中まで飛ばしてもらう。背中に僕が乗っていることに気づいたのか振り下ろそうとするがその前に翼を斬り裂く。

 

「上までお願いね」

「合点承知!」

 

 大きくなっていた盾骸骨で鳥を包んで上まで持ち上げていく。そのまま快斗君に準備ができてるかを確認すると既に全て終わっているとのことだった。ではそのまま飛ばしてもらおうと軽くジャンプすると着地する前に地面は無くなった。高度はどれくらいだろうか。辺りを軽く見ると下のスタジアムが自分の足と同じくらいの大きさに見えた。そのままベルトにフェッスルを装填して剣を構える。

 

『イクサカリバーライズアップ』

「二人ともよろしく」

「おうよ!」

「うっす!それじゃあ俺からいかせてもらいます!」

 

 骸骨に包まれた鳥の姿が視認できるようになった時、インカム越しに聞こえる指パッチンの音と同時に鳥にたくさんのナイフが突き刺さる。突然現れたナイフに悲鳴をあげた化物鳥はこちらに気づくことはない。

 

「流石だよ。このまま僕も斬る!」

 

 落下スピードを利用しながら化物鳥を縦に斬る。斬り心地は十分だった。着地寸前にまたインカムから声が聞こえる。

 

「それじゃあ〆させてもらうぜ!デッドエンドォォォ!!」

 

 着地して剣を振り下ろすと後ろで爆発する音が聞こえる。化け物の悲鳴も聞こえ、煙の方を見ると鳩が飛び出していった。煙が晴れた場所には砕かれた異形のメモリが落ちていた。まるで蝙蝠の羽でもついていたかのようなデザインのものだ。ケツァルコアトルス、大昔に生きていた翼竜の一種のことだろう。まさかそんなものの記憶までメモリに出来るとは想定外だった。あたりにこれ以上敵がいないことを確認した僕達は変身を解除した。

 

「フィー、お疲れ様っす」

「お疲れ様」

「全く、近未来戦争かと思いきや最終的にはゴッドイーターだったな」

「モンハンじゃないの?」

「純粋に武器だけで戦ってないからゴッドイーターじゃね?」

「まぁそんくらい大変だったってことっすよ」

「それもそうだね」

「名護さん!」

 

 この場にいないはずの声がすると思い振り向いてみると紗夜さんの姿があった。近づいてくるなり手を掴んでペタンと座り込んでしまった。

 

「大丈夫ですか!?怪我とかしてませんか?」

「よかった…あなたも無事でよかった……」

「避難してなかったんすね…」

「一緒に来てもらったのに私だけ逃げるなんて出来ません!」

「時と場合は考えましょうよ。いつもなら出来るのにどうして今日に限って……」

「あなたのおかげで日菜と仲直りすることが出来ました…本当にありがとうございます」

「いいえ、それは紗夜さんだからですよ。僕は何もしてません、強いて言うならヒントを与えただけです」

 

 手を握りまっすぐな瞳を見つめる。次第に紗夜さんは照れたのか目を逸らした。そろそろいいだろうかと手を離そうとするとなかなか離してもらえない。

 

「あれ、紗夜さん?」

「快斗行くぞ。このことを湊に報告しに行く」

「ん?証拠ないときつくね?」

「写真ならもう撮った」ニチャア

「やるやん」ニチャチャア

「ちょ、ちょっと待ってよ二人とも!これはそういうことじゃなくて、紗夜さんも何か言ってください!」

「いえ、その……」

「待ってよ、待ってよ二人とも!待ちなさい!待てって言ってるでしょーがぁぁぁぁぁ!!!」

 




今年中に前編のエピローグは出します!(残り二十四時間以内とかまじ?)


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Eleven noise 容疑者K「是非とも現場を見たかった」

なんとか今年中に前半を終わらすことが出来ました!正真正銘今年最後の投稿です!なんとか仲直りが出来、その後に翌日のお話です、どうぞ!


 事件翌日の十一月一日の放課後。弦巻家にて事件の報告を行っている。今回の騒動は僕が一番中心に近かった事から僕が代表してライダー組の報告書を提出しに行った。当然ながら詳細を話すことにもなった。

 

「以上が今回の報告となります」

「うむ、ご苦労だった。戦闘員の生捕りに怪鳥の討伐か…よくやった。しかし伊坂が逃げたというのは難儀だな」

「申し訳ございません。全ては僕の不徳の致すところです」

「問題ない。君も想定内ではあったのだろう?」

「ええ、まぁ。逃げる所を仕留める算段までは出来ていたのですが」

「映像でも見たが、流石にあんな化け物を見れば気を引かれるだろうな」

「重ねてお詫び申し上げます」

「いいと言っている。それより君が気にかけていた娘はどうした」

「はい。妹君と仲直りしたらしく今は普段の生活に戻っています。妹君も検査に異常はなく無事に戻られたそうです」

「それはよかったな」

 

 報告書を机の上に置いた弦巻家当主はコーヒーを飲んで一息つく。君も座りたまえと言われたが丁重に断りを入れる。少し残念そうな顔をするとすぐに切り替えて話を戻す。

 

「一つ質問よろしいですか?」

「ああ構わないよ」

「今回の件、名護家の者を呼んだのは貴方ですよね?」

「そうだが」

「何故呼んだのでしょうか?勿論、戦力的には申し分ありませんでしたし降伏してきた人達もいるおかげで死者は少なく済みました」

「それが目的ってのもあるが何より手の内を知っているものが多いに越したことはない。だがあの件は想定外だった……すまない」

「いえ、もとより彼らもそれを想定して戦場に身を投げている筈ですから」

「そうか。他に聞きたいことはあるか?」

「こちらはございません。当主殿も何もなければ僕はこれにて失礼させていただきます」

 

 一礼をして部屋を出る。扉を閉めて数秒後、僕は大きく息を吐いた。一度頬を両手で叩いてから屋敷の外まで歩いていく。

 今回の事件──秋雨のハロウィンと呼称される事件は幕を閉じた。死者はマスカレイドに変身した園崎家の人間と怪鳥にやられた数人。それ以外は重傷者と軽傷者が合計で三十を満たないくらいらしい。しかし作戦中行方不明者、MIAが一人出てしまった。事件終了後、春川魔姫との連絡が取れなくなった。他の暗殺部隊の二人は無事というものの何故か魔姫ちゃんとの連絡だけが途絶えた。何があったかも確認は取れない。名護家にもまだ戻っていないらしくそちらからも連絡は取れていない。しばらく捜索班を出すらしいが結果はどうなるかはわからないとのことだ。少なくともスタジアムで遺体は発見されなかったことから生きているだろうと推測は立っている。無事でいて欲しいと思いながらも僕はいつも通りの生活に戻ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は恐る恐るライブハウスに足を運んだ。今日も練習があるから来れるのであれば来て欲しいと今井さんから連絡を受けた。勿論参加したいと考えたのだがあれだけ迷惑をかけて皆は受け入れてくれるのだろうかと考える。それでも参加したいとここまで来てしまった。やはり引き返そうかと考えるとライブハウスのドアが開かれた。

 

「紗夜!」

「今井さん…」

「来てくれたんだね!行こうよ」

「あの、行ってもいいんでしょうか?」

「え?」

「皆さんに迷惑をかけたのに私がいていいのかなと」

「そんなの皆に聞かないとわかんないよ。でもアタシは戻ってきて欲しいかな」

 

 今井さんに腕を引かれてそのまま中へと足を運ぶ。スタジオの中には他の三人がいて練習の準備をしていた。

 

「紗夜さんだ!」

「お疲れ様…です……」

「来てくれたのね」

「皆さん……すみませんでした」

「別にいいわそんなこと」

「え?」

「戻ってきたのなら練習をしましょう。あなたが抜けていた分、早く詰めてもらうわよ」

 

 湊さんは興味がなさそうにマイクの調整をしている。他の人たちも気にしないでと声をかけてきた。私も気持ちを切り替えて練習に励むことにした。今までよりも遥かに音が乗りやすく弾いていて気が楽なのを感じる。後から聞いた話、昨日の練習の際に名護さんが事情を説明してくれたとのことだった。事情を理解してくださった皆さんは私のことを受け入れると決めてくれたらしい。ならば私も期待に応えねばならないだろうと決意した時扉が開かれ人が入ってきた。

 

「皆さんお疲れ様です」

「新一お疲れ〜」

「お疲れ様……」

「新兄どこ行ってたのー?」

「ちょっと野暮用がね。あ、紗夜さんこんにちは」

「こんにちは。その、いろいろとありがとうございます」

「いえいえ、大したことはしてませんよ」

 

 笑顔で返してくるが今回は本当にお世話になった。この人にもいつか恩返しをしなければ。

 

「さて、二人が揃ったみたいだから始るわよ」

「何をです?」

「勿論これについてよ」

 

 一度互いに顔を見て何か知っているかを確認したが分からず、湊さんが指すものを見てみた。そこには私と名護さんが手を握っている写真があった。

 

「なっ!」

「まさかこれは」

「これは今朝京に渡されたものよ。昨日日菜を助けに行っていたのは知っているわ。しかしこれはどういう状況なの?」

「京君から何か聞いてませんか?」

「そのことについてはリサが動画に収めてるわ」

「なんで?」

 

 今井さんは半分面白がりながらもスマホの画面を見せてくれる。そこには中庭を背景にしめに黒い線を入れた鳴海さんの姿が映っており、インタビューを受けているようだった。なんでこんなにしっかりしてるのかしら。

 

『この写真?ああこれね!あの戦いが終わった後に二人して強く握り合ってたぜ。もう離さないだとかなんだとか愛を語ってたな!』

『なんで私に見せたの?』

『一応新一の主人だろ?ここだけの話なんだけどよ、アイツお前のところから氷川のところに行こうとしてるみたいだぜ』

 

 なんだこの映像はと叫びそうになりながらも落ち着こうと咳払いをする。

 

「というのが提供者Kさんからの情報だよ♪」

「異議しかないんだけど。まずそんな会話してないし。てかKってこのシルエット見れば一発で確定するじゃん」

「それで新一は私のところから紗夜のところに行くのかしら」

「待ってください湊さん!そもそもそんな話…」

 

 いや、よく考えればそれはそれでアリなのではないかと考えてしまう自分がいた。名護さんは契約で湊さんの家にいる。ということは私と契約すれば私の家に住むことになる。そうすれば恩返しも出来る時間が増えるのではないだろうか。

 

「というよりアタシが聞きたいのはこっちかな。なんでこんなにアツく紗夜の手をを握りしめてるの?」

「僕は答えるつもりで軽く握ったんだよ。それで紗夜さん自身が出来たことなんだって伝えられたから手を離そうとしたら離してくれなかったんだよ」

「といってますけど紗夜さん本当ですか?」

「いえ、その……」

「氷川さん、まさか……」

 

 ──言えない。その時名護さんの手の大きさに驚いた上にその手で掴まれたり蹴られていたって考えたら少し興奮した自分がいたなんて口が裂けても言えない。あの時から体が少しおかしい。名護さんを見ただけで私の心が揺さぶられる。殴られている時でさえ彼の優しさを感じた。取り調べられている時もずっと私のことを見ていてくれた。もし一緒に暮らしたらその秘密がわかるかもしれない………?

 

「名護さん」

「急にどうかしたんですか?誤解は解けそうですか?」

「湊さんとは解約して私と契約しませんか?」

「紗夜さんっ!?」

「紗夜どういうつもり?」

「私はこの人に今回のことで恩を返さなければいけません。しかしこの人の欲しがるものを私は知りませんので一緒に暮らしているうちにわかると思いました」

「で、でも……それは……!」

「そうだよ紗夜!普段ならそんなの風気がーとかいうじゃん!」

「もしかしてまだ紗夜さんに怪物の影響が!?」

「紗夜、本気なの?」

「勿論です。どうしますか名護さん」

「どうしますかも何も、何状況を悪化させてるんですか!そもそもそんな話一切なかったでしょう!?」

 

 どうやら私の気持ちをわかってくれていないらしい。少しくらい乱してもいいでしょうか?そうでないとこの人はわからない気がする。勿論節度は守りますが。彼の腕を引っ張ってこちらに近づける。

 

「ダメでしょうか?」

「そういう話ではないと」

「ダメよ紗夜、新一は私のだから」

「ですが湊さんは名護さんに負担をかけていると思います。基本的な家事はやらせているそうですし、でしたらうちに来させて少しは楽させたいです」

「だけどあなたの家には親や日菜がいるじゃない。新一は別に働かなくても」

「紗夜まさか」

「そうです。新一さんは仕事をしなくてもいい世界を作れる可能性があるのはこちらの方です。私はカラダ目当ての湊さんとは違います」

「紗夜…それじゃあ友希那がイケナイことしてるみたいだから///」

「別に私はカラダだけが目当てじゃないわ」

「では心までもう自分のものにしてしまおうというのですか!?そんなの風紀が乱れてます!」

「貴女の方がよっぽど乱れてますよ!」

「紗夜さんが闇のなんとかに……」

「あこちゃん、あっち行こう………」

「新一、あなたは私の元に戻るわよね」

「いえ、名護さんは今日から私の執事です」

「二人とも落ち着こう?ね?」

「「リサ(今井さん)は黙ってて!」」

「新一〜」

「僕にもどうしようも出来なさそうだし外行ってくるね。タイムセールもあるから」

「うん…?あっ!逃げるな元凶!」

 

 私と湊さんが言い争っている最中に名護さんの姿は消えていた。この話はいずれ決着をつけるということで全員で名護さんの捜索が始まった。

 いつか必ず、あの感覚の正体を掴んでみせる。だけどそれよりもずっと気になることがあった。彼は何故あそこまで人のためになれるのか。そしてあの時言っていた事は本当なのか、真相を確かめたい気持ちもある。そのためにもあの人を逃すわけにはいかない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、いうことがあったんだけどどうする京君?」

「いやあそこまで面白くなってるんだったら呼んでくれよ!」

「よし、モアイ像になる準備は出来たみたいだね♪」

「マジですんませんでした」

「答えは聞いてない♪」

「聞いてくれ!」

「残念だよ。快斗君はすぐに謝ってくれたのに」

「だから聞けって!」

 

 京君の体を縄で結んでいると必死に抵抗された。いっそのこと一回モアイになればいいのに。とりあえず手足を縄で拘束した状態で座らせると急に真剣な顔つきになった。表情は真面目なのに全体を見ると少しだけ笑える。

 

「実はな、一昨日の戦闘の時に獅郎が来たんだ。それで一戦交えたんだけどよ…おい笑うな」

「ぎりぎり笑ってないよ。続きをどうぞ」

「……デカ鳥が出てくるまでは全力でやってたんだけどよ、出てくる寸前でアイツの様子がおかしくなったんだ。目の前まで超高速で接近してきたんだろうな。ヤベって思った途端膝から崩れ落ちたんだ」

「どういうこと?」

「俺も不思議でしょうがない。周りの奴らは何もなかったしなんでアイツだけ様子が変わったのかさっぱりだ」

「何かが体を蝕んでいるとか?」

「持病はなかったはずだ。それに、快斗の時で分かっているがアイツは他人に体をいじらせたりはしない」

「訳が分からないね。ならどうして皇の様子が一変したのか」

「さぁな。だがそれがわかれば勝ち筋につながるかもしれない」

 

 一体何が起きているのかよくわからないが勝機につながればそれはそれでラッキーだ。しかし皇は京君が殺すと言っている。個人の問題としてはそこだが今は黙っておこう。

 

「それで皇は?」

「鳥ヤロウが出てきたら撤退した。当たり前っちゃあ当たり前だがな」

「それもそうだね。とりあえずそのことはまた今度考えよう」

「オーケー、じゃあこの縄解いてくれ」

「丁重に断らせてもらうね」

「ごめんて!本当ごめんて!俺もしかしたら作家の才能あるんじゃねとか思っちゃったけどマジごめんて!」

 

 よし、今日はこのまま放置して帰ろう。たまにはこんなことしても怒られないはずだ。

 しかしそれはそれとして皇の件は気になるな。ガイアメモリに関しては僕が一番情報を掴んでいない。もしかしたら京君達も掴んでいない情報かもしれないが一応得られるように軽く調べようかな。

 でも今回は本当にコレ(・・)を使わずに済んで本当に良かった。もし使っていたら今頃どうなっていただろうか。自我をちゃんと持っていただろうか。それとも────




今年も読んでくださった皆様、今年から読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!
来年はネオアスペクト編は絶対やります。てかこの章終わったら基本的にそうなる予定です。また1、2週間だけ空いてしまうことがあるかも知れませんがその時はまた報告させていただきます。来年もまた歌騎士をよろしくお願いします!(呪術も並行して書けるよう善処します)
今年も残り少ない時間ですが皆さん良き終ま、ゲフンゲフン。良いお年を!


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Twelve noise 名護新一の優しさとは

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
というわけで新年早々重い話を投げます、対戦よろしくお願いします!


 あの事件から一週間が立った。日菜との関係も前より良くなっている。名護さんには感謝ばかりだ。

 しかし気になることがあった。執行者、と言われていたことだ。一応配慮して回りに人がいない時に聞こうとしたがタイミングが悪かった。話しかけそうになったときもあったが他の人に呼び出されたりして話して貰えるタイミングが無かった。

 ──女子供でも殺したという話は本当だったか───

 その言葉がずっと引っ掛かっている。今日は集まって練習ではなかったので名護さんとは会わなかったがやはり気になっていた。

 

「あ──」

 

 帰路についていた私は人を見かけて声を漏らす。その人は名護さんの知り合い?でこの間の事に協力してくれた人だった。

 

「こんなところで奇遇ですね」

「この間はお世話になりました。えっと……」

「一条にございます。お気になさらなくて結構ですよ。調子は如何ですか?」

「おかげさまで上手くやっています」

「それはよかったです。では私はこの辺りで」

 

 一条さんは一礼して私の横を通りすぎて行こうとした。けどその瞬間気づいてしまった。この人に聞けば、何か分かるのではないかと。気づいた時には声をかけてしまっていた。

 

「あの!」

「はい。どうかしましたか?」

「その、一条さんは名護さんの部下?だったのですよね?」

「その通りにございます」

「その事で…お聞きしたいことがあります」

「新一様のこと、ですか?」

「えぇ……どうしても聞きたいことなんです」

 

 迷いながらも答えると一条さんは少し悩みながらも携帯をを取り出して何か操作してから応えてくれた。

 

「……畏まりました。少々長くなるかと思いますのであちらの店に行きましょうか」

 

 そう言って指差したのは羽沢珈琲店だった。店の中に入ると端の席に座る。飲み物を注文して息を吐いていると向かい席にいる彼はスマホを素早い操作で画面をタップしてポケットの中にしまった。

 

「あの、今のは一体……」

「申し訳ございません、これでも妻帯者ですので。若い女の子といて誤解されないよう妻に連絡をですね」

「そういうことでしたか。失礼しました」

「お気になさらず。それで新一様の話、ですよね?」

「はい、実はあの時井坂という人が言っていたことが気になって……」

「と申されますと?」

 

 私は一条さんにあの時にあった問答のことを全て伝えた。嘘かと思える話でさえこの人はしっかり聞いてくれた。全て話終えると彼は少し考える様子を見せながらも出てきた運ばれてきた珈琲を飲む。カチャンと綺麗に音を立てながらカップを置くとこちらに目を向けてきた。

 

「氷川様、正直なことを申し上げますとあまり踏みいるのはおすすめしません」

「なっ、何故ですか?」

「これはプライバシーに大きく関わります。そして何より新一様が言っていた通りです」

 

 私に迷惑をかけたくない……その事だろうか。

 

「しかしそれでは彼に何も返すことは出来ません。あの時、聞いてしまったそれをちゃんと飲み込んでから彼に恩を返すことが一番だと私は考えます。だから聞かせてください」

「……それが貴女の今までを覆すものでもですか?」

「はい」

 

 私がはっきり答えると数秒ほど見合ってから一条さんはふぅと息つきさっきよりも真剣な表情でこちらを見てきた。

 

「貴女のその眼差しに免じてお教えしましょう。けれどこれだけは約束していただきたい。この話を聞いても新一様から離れないでいてほしい」

「──当然です。私はあの人を受け入れ、その上で返したいのです」

「ありがとうございます」

 

 一条さんは一度深々と頭を下げると顔を上げて話し始めた。とても悲しそうな声で。

 

「最初の方から話しましょうか。新一様は小学校に上がる頃から名護家に迎えられました。彼は最初、当主になることは想定されておらず執行者として育てられていました」

「それは、お兄さんが当主になる予定だったからですか?」

「!天斗様のこともご存知なのですね………そうです、本来はあの方が就く予定でしたから。そして新一様は当時神童と謳われた才で多くの技術を身につけていきました。そして八歳の時、初めて対象を殺しました」

「八歳って……そんな!」

「普通なら出来ないでしょう。ですが環境が一つ違うだけで人は幼子でさえここまで変えてしまうのです。そして何より当時の新一様は“罪人を始末しただけ”という認識だったみたいです」

 

 話を一度止めスマホを操作すると写真を見せてくる。おそらく仕事中の名護さんだろう。本当に小学生くらいの見た目なのに刃を持っている。

 

「それから間も無く現場に出るようになり九歳になる頃には既に二つ名が付けられていました。白い服なのに返り血が目立たないいや、もはや付いていないに等しい白き執行者」

「それがスノー・クリムゾン」

「はい、“朱雪の執行者”スノー・クリムゾンにございます。その期間は一年近くと思われました。一年立つ頃に当主に任命されました。しかし自ら赴き任務に身を投じることを辞めませんでした。敵からは“その姿を見た者は殺される”なんて言われていたくらいには恐ろしい存在でした。実際的に回したくないほど強かったですし」

 

 苦笑いしながらも楽しそうに話している。名護さんが当主だった頃は彼にとっても良いものだったのだろうか。それでも名護さんはどうだったのだろう。部下の人たちとの関係は悪くなかった、けど仕事に身を投じていた時は一体何を感じていたのだろうか。やりたくないこと、だったら立場を利用して逃げればいいはずだ。けれどそれをしなかった。なら何故?なぜそんな事を?苦しくなかったのだろうか?

 

「考えてますね、新一様が戦場に身を投じた理由といったところでしょうか?」

「何故分かったんですか?」

「職業柄ですかね。それと、新一様は別に苦しくなかったわけではないと思いますよ」

「え?」

「全ては人々が平和に暮らすため、普通ではない不幸にあわせないようするため、とかだったりするのかもしれません。そもそも名護家はそれを理念として動いている組織。もしかしたらそれは家族の為かもしれませんし、自分の為かもしれない。真相は本人に聞かねば分かりませぬが」

「あの、質問いいですか?」

「構いませんよ。答えられる限りなら」

「名護さんがその、女の人を殺すのはまだわかります。それが仕事の都合上なら。しかし子供を殺したというのは本当なのですか?どうしても、それだけは信じられません」

 

 わざと避けていたのだろうか、それに気づいたかと小声で呟いているのが聞こえる。一度こちらを見遣ってから考えている。それほど触れてはいけないブラックボックスなのだろうか

 

「ここからは本当に良い話ではありませんがそれでもよろしいですか?」

「………はい」

「彼はある日、人体実験をしている組織を叩くために赴きました。研究データの破壊、研究員の捕縛、被害者の救出そして所長を追い詰めるまでは順調でした。

 ですがそこからです。当時の彼、僅か九歳という幼さで選ぶにはあまりに残酷すぎる選択を迫られたのです。その施設では人間をどこまで制御出来る化け物に出来るかの実験でした」

「そんな、それじゃあ人の尊厳を冒涜しているじゃないですか!」

「ええ、だからこそ我々が赴いたのです。勿論その中に私もいました。話を戻しますが、新一様は最後の被害者である四人の子供を救出し外に出ようとした時、まだ殺していなかった所長が言ったんです。『他の奴らはまだだったが、そいつらはもう最新型の化け物の種を植えてある、と。それは主人である俺達が言うことを聞かせない限り暴れ回るだろうと。でももしかしたら助ける方法があるかもしれない。だが逆に助からずに破壊の尽くす限り暴れ回るかもしれない。ならばという選択を迫られたときです。その子供たちは新一様に言いました。私達を殺してくれと」

「………ッ」

「おそらく必死に別の方法を考えたと思われます。あの頃は純粋な上に優し過ぎましたから。ですが彼はあの子らを殺し、帰ってきて一人の時に泣いていました。救えなかったと、何故何も悪いことをしていない無垢な子供が死なねばならないのかと」

「なぜそれを」

「任務から施設から出てきた時に様子がおかしいのが疑えましたので跡をつけたのです。その後でしたね、彼の方が当主の座に就いたのは。おそらく彼はあの時の思いを未だに引きずって仕事をしていると思います。忘れられない…いや、忘れてはならないのだと戒めて」

 

 話が終わってやっと気づいた。あの人は私たちのような幸せが普通にある世界とは別の世界にいたことを。そしてあの知らない人にさえ向ける優しさは昔からのものだった。私が道を踏み外した時もちゃんと見ていてくれたのは今まで見た人たちのような悪に堕とさないようにする為だったのだ。人に話したり道を戻してあげようとするたびに自分が一番苦しい思いをしているはずなのに。どこまで優しいのだろうか。

 

「……すみません、こんな話をさせてしまって。貴方にも苦しい思いをさせてしまいました」

「いえ、そんなことありません。それにこれは新一様の制服についていたカメラからの情報ですので本人の情報は声色でしか分かりません。ですがこの話は内密にお願いします。新一様に傷ついて欲しくありませんので」

「分かってます、改めましてありがとうございました」

「こちらこそ、新一様をよろしくお願いします」

「はい…!」

 

 彼のことを少しだけだが知れることが出来た。おそらくRoseliaの中で知っているのは私だけ。他の人よりも彼に近づけたのだろうか。それにこれで少しは恩返しのやり方も考えられるようになっただろう。

 一条さんは飲んでいたコーヒーを置くとクスクスと小さく笑っている。何かおかしいところでもあったのか、静観していると失礼と言いつつまだ笑っていた。

 

「貴女がいれば新一様も将来は安定ですね」

「なっ、何を言ってるんですか!」

「冗談ですよ…フフ」

「そんな冗談………」

「ですが、貴方のような方が彼の方の近くにいてくださって少し楽になりました。彼の方は、常に無茶をしています。時々でいいですのでどうか気にかけてあげてください」

 

 一条さんは一礼するとカウンターに行ってお金を払っている。急いで自分の分を出そうとすると今回は出さなくていいと言った。だが申し訳ないと告げるとでは出世払いというやつでと言われて店を出て行ってしまった。もう一度お礼を言おうと急いで追いかけると既にその姿は店の外に無かった。幻覚でも見ていたのかというくらい気配がない。仕方ないので私は荷物を取りに戻りそのまま帰宅した。

 

「新一様……ようやく、普通の幸せを手に入れられるのですね」

『もし?始様、今どこにいらっしゃるの?』

「ソニア様ですか。失礼、少し野暮用で」

『また仕事を手伝っていたのですね!先程の連絡ではすぐに終わるとおっしゃっていたのに!全く、今日は頑張って鍋を作りましたのよ。急いで帰ってきてくださいまし!』

「畏まりました。疾く、帰宅しますね」

『というより、いつになったら敬語を外していただけますの?』

「ハハ、面目ございません」

『ほらまた!もう夫婦なんですからいい加g』ピッ

「…長年の癖は早々抜けられませんね………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お兄ちゃん、わたしたちを殺して?

 バケモノになるくらいならニンゲンのまま死にたいな。

 僕たち死んだら天国に行けるかな?

 ──勿論だよ。皆良い子だからね。

 じゃあ俺から殺してくれ。先に行って天国があるか見てくるよ。

 じゃあ私たちはすぐに追いかけるね

 

 目の前の子供は一人ずつ死んでいく。僕の振るった刃で次々と倒れる。顔は苦しんでいるものではなく安らかだった。最後の子に刃を突きつける。

 

 ──苦しい思いをさせてごめんなさい。バイバイお兄ちゃん、ありがとう。

 

 

 

 最後の言葉を聞き終えると同時に目を覚ます。周りを見るとここは湊家の僕の部屋だった。時刻は午後二時半、どうやら小一時間昼寝をしてしまっていたらしい。しかしこの時間にあの子達の夢を見るとは奇妙なものだ。いつもなら、と言っても夢に出てくるのはたまにだが、夜に見るはず……基本寝るのは夜だから当たり前か。

 ────あの子達はちゃんと天国に行けるだろうか。きっと生まれ変わっているか天国で平和に暮らせているに違いない。どうせだったら死んだ時に幸せな顔を見に行きたいものだ。しかしてその夢は叶うことはないだろう。

 

「だって僕の行先は、普通の地獄よりも深い暗い闇の底だから──」




今年はネオアスペクトまでいくつもりですがこの章全体が終わるのは春になるかもしれません………


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Thirteen noise 吐き出す物など、ないっ!!

 そこは地下深くにある研究施設。真ん中には井戸のようなものが設置され鮮やかな翠の光が漏れ出ている。辺りには最新の機械がずらりと並べられコードのようなものが井戸まで伸びている。鉄板の地面や壁に囲まれているかと思いいきや足場や壁は天然の岩や砂だった。まるで地質科学者たちの集まりのようだが行っている研究は別である。

 十人近くの研究員がせっせと働いている中ドサッと何かが倒れる音がする。倒れたそれは物ではなく人だった。白い紳士服を着た中年の男、伊坂深紅郎である。

 

「伊坂さん!?どうしたんですか!?」

「ちょっと、躓いてしまいましてね…」

「伊坂君、よく帰ってこれたね」

「ハハ、これはこれは、園崎さん…ごきげんよう……」

 

 彼の前に園崎と言われた男が立つ。この場に怪我人がいるのにも関わらず冷静に、優雅である男は笑みを作って彼を迎え入れる。伊坂は立ち上がり土埃を軽く払う。

 

「どうしたのかな?こんなにボロボロになって」

「少し失敗しまして。すぐに取り戻しますので大丈「少し休み給え」いえ問題ありません私は」

「休み給え。これは上司としての命令だ」

「っ……」

「それに一部始終見せて貰ったよ」

「!?」

「少し調子に乗り過ぎたね、君も。何、君が次の研究に取り掛かるまでの実験は残してある。これからそれも実行するがね。もし先に成果を出してしまったら、申し訳ない」

 

 老人のように笑いその場を去っていく。やがて姿が見えなくなると伊坂は壁に拳をぶつける。ボロ雑巾の様な姿を見られ苛立ちが止まらない。どうにかしなければと血相を変えて園崎の後を追いかけるように姿を消す。残った研究員は冷や汗を掻きながら作業に戻った。とはいえ研究員も普通の人間と変わらない。中には雑談をする者もいた。

 

「怖かった〜」

「あの二人やっぱ仲悪いよな」

「所長の威圧半端なかったし!てか『君も』ってどういう意味だったんだろ」

「知らないのか?伊坂さんの実験に一緒に行った子供がいただろ」

「皇っていう子?」

「そうそれ。アイツの使ってるメモリ、副作用が出始めてるんだよ」

「それって本人は知らないの?」

「そろそろで始める頃だろうとは言ってたけど本人には伝えるなって」

「誰が?」

「代表が」

「ヒェ〜もしかしてあの子も所長の実験代なのかな?」

「だろうな。いずれ先規模でやる実験があるらしいし。ま、俺たちはメモリ作っていられればそれでいいでしょ」

「だね!」

 

 その背後で隠れて聞いている者がいるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紗夜さん達の一件が片付いた次の日、いつもの日常に戻れると思っていた。朝起きて朝食の準備をしてから部屋に荷物を取りに戻った時の事。ベッドに妙な膨らみがあると警戒しながら布団を剥がすとそこには布面積がほぼ無いに等しい痴女の格好をしたような夜架ちゃんの姿あった。しかも何故かぐっすり寝ている。布団でくる巻いてから縄で縛り天井からぶら下げてから起こした。

 

「ん……はぁ〜、おはようございます新様!」

「うん、おはよう。それで君は何をしていたの?」

「何をって、あら?動けませんわ、って何ですのこの格好!?」

 

 やっと現実を受け入れたらしく必死に抵抗しようとしている。側から見ればミノムシがブランブランしているようにしか見えないが。

 

「出れないよ。縄できつく締めたし、隙間に布団を入れたから簡単には抜けられない」

「そんな!このまま新様に好き勝手あんなことやこんなことをされてしまうのですね………」

「いや?このまま放置して学校に行くけど?」

「え?」

「え?」

 

 しばらく沈黙が作られるが数秒して思考をやめた僕は荷物を持って部屋を出ていく。謝罪するような声が聞こえたがそれも無視して下に降りていくと洗面所から出てくるお嬢様の姿があった。挨拶して食事を共にとり、食器洗いを済ませるとお嬢様も準備を終えて降りてきた。では登校しようと家を出て歩いていく。

 

「今日の予定を教えてちょうだい」

「本日は学校が終わった後circleにて全体練習です。その後は普段と変わりありません」

「分かったわ。あなたの今日の予定は?」

「基本的には同じですが全体練習の時に夕飯の買い物に出ます」

「そう、気をつけなさい」

「ありがとうございます」

「では私もお手伝いに行きますわね」

 

 お嬢様と反対の方向を見ると朝縛ったはずの女が少し変わった制服を着て隣を歩いている。あれ、布団ごと縛って吊るしてきたはずだよな?

 

「早かったわね」

「朝食は既に済ませておりましたので。それに早着替えは得意なんですのよ」

「お嬢様まさか」

「声が聞こえたからあなたの部屋に入らせてもらったわ。部屋に入ったら彼女がいたからとりあえず解放させておいたわ」

 

 多分純粋な気持ちなんだろうな。この人も本当に優しくなった。あの時も僕の気持ちを汲み取ってくれたし本当に成長なさっている。

 

「本当に助かりましたわ。流石、新様の主様ですわ」

 

 君は成長してはいけない方に成長してるよ。

 

「ダメじゃないですかお嬢様、この人の格好を見なかったんですか?」

「見たわよ」

「じゃあなんで」

「ハロウィンの仮装と言われたのよ」

「あんな痴女みたいなハロウィンあってはなりません」

「あれも立派な仮装ですのよ」

「お嬢様、この人の言うことを信じてはなりませぬ」

「言葉が昔の人になりかけてるわよ」

「全く……帰ったら名護家に突き出して処してもらおうと思ってたのに」

「罰が重くありませんこと?」

 

 朝から出勤は大変だろうと配慮したのが間違いだったのだろうか。でもこんな痴女を朝から見たくないだろう。僕もそうだった。昔はもっと可愛かったはずなのにどうしてこんな風になったんだろう。

 仕方ないので水に流しながら学校に向かった。お互い魔姫ちゃんのことは触れなかった。心配はするものの余計に不安にさせないためだ。おそらくその配慮は向こうにもあったんだろう。教室に入るとめずらしく京君が座っていた。

 

「おはよう京君」

「おう、おはよう」

「今日早いね」

「まぁなーお前らは仲睦まじきことで」

 

 席に着いて暇つぶしに今朝あった事を京君に話す。すると大声で笑う。まぁ普通の人からすればこんな事はないだろう。しかし急に笑うのを止めると明後日の方向を見る。

 

「………」

「何か言い残すことはある?」

「吐き出す物など、ないっ!!」

「よし、裁判を開こうか」

 

 ダンッと逃げ出す京君を見て僕は指を鳴らす。その瞬間京君は取り押さえられ教室の扉は閉められる。取り押さえたのはクラスの女子達だ。必死に抵抗しているが運動部の女子が押さえつけているせいかあまり身動きが出来ていない。

 

「一体どういうつもりだお前ら!というより何故こんな都合よく動かせるんだお前!?」

「京君、人の統率ってのは雰囲気と感覚でやるんだよ」

「んなもんで出来るわけねぇだろ!」

「さぁ、被告人をここへ」

 

 僕は教卓に手をついて目の前に被告人を立たせる。取り押さえられた状態で立つ京君は悔しそうな顔をしてこっちを見ている。

 

「ことの一部始終は省こう。何故あんな事を」

「吐き出す物など、ないっ!!」

「素直に言えば罰を軽くしても」

「どうしてもそういう展開が見たかった!そしてお前たちで繰り広げられる面白展開を聞きたかったんだ!」

「よーし、お仕置きタイムだ」

 

 パチンと指を鳴らして女子達に教室の外に出てもらう。僕は鞄の中からあるものを取り出し京君の前に出してコップの中に注ぎ込む。

 

「なんだそれは」

「京君、すごーく甘いものが苦手なんだって?どうせそのうちまたやらかすだろうと思って用意しておいたんだ。勿論、鞄の中でも保存環境はしっかりしていたから安心してね」

「すごいピンク色なんだが中身聞いてもいいか?」

「ご想像にお任せするね」

「因みに吐いたらどうなる?」

「吐けると思う?」

「アッ、ハイ」

 

 飲んでくれと差し出すと嫌そうな顔をして受け取る。それから一分ぐらいしたが一向に飲む気配はしない。

 

「手が止まってるけどどうしたの?」

「もう、辞めようぜ」

「?」

「俺たちがこんなことしたって何にもなりやしないんだ。誰も幸せになんてなれない」

「僕は幸せになれるよ」

「人が不幸になるだけなんだ」

「君の罰だけどね」

「俺は、こんなこと望んじゃいない。お前だって本当は」

「ねぇ京君、君が罪を吐いてくれなかったら僕はね………この容器ごと全部飲ませるつもりだったんだ」

「鳴海京、いっきまーす!」

 

 勢いよく元気よく飲んだ京君は全部飲み干すとその場でぶっ倒れる。扉を開けて女子を招き入れると一見おかしな光景にざわめきが走る。ただ自分の罪と向き合ってもらっただけだと説明すると皆納得して自分達の席に戻っていった。僕は京君の席にある空になった容器を廃棄して自分の席に戻る。

 

「新様、鳴海さんに何をなさったのですか?」

「ジュースを飲ませただけ」

「ああん、私にもくださいまし」

「いいよ。はいどうぞ」

「ありがとうございますわ。では早速」

 

 ゴキュゴキュと勢いよく飲んでいく。一気に容器は空になり本人はプハーと美味しそうにしている。僕も少し貰おうと容器に入れて飲む。うん、くっそ甘いねこれ。あとは全部あげるよと夜架ちゃんにあげると嬉しそうにぴょんぴょん跳ねながら自席へ戻っていった。それから今日の授業中は京君が死んでいたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 俺は眠いと大あくびしながら中庭のベンチで寝っ転がっている。俺、大道快斗は学校にいる時もこころのボディガードの仕事を任されているが先輩たちが基本的に見守っているから学生らしくいろと言われる。緊急時は連絡が来るようになっているためそれでいいと言えばいいが、そうなると暇になる。この生活も半年を迎えるが正直飽きてきた。神よ、何か刺激的なことを求む(無茶振り)。

 

「ここで寝っ転がってるのは誰かな〜?」

「その声は彩さんじゃないっすか。死角から声をかけるんならもっと気配を消してくださいよ」

 

 バレたか、と木の影から出てくるのはふわふわしたピンク髪の先輩、丸山彩さんだ。先輩って付けたいがどうしても先輩らしさを感じないからさん付で止まっている。

 

「今なんか失礼なこと考えてなかった?」

「いえ全く。それより今日は何しに来たんすか?」

「ここで快斗君が寝っ転がってたから」

「先輩もしかして暇なんすか?」

「そんなことないよ!?」

「ハハハ、そんで何用っすか?」

「実はね快斗君に聞きてゃいことが」

「あ、噛んだ」

 

 この人と話すと大体舌を噛む。正直いつもやっていることだから慣れっこではあるが見てて面白い。

 

「う〜また噛んじゃった」

「ホント噛みますよね、呂律回ってますか?」

「回ってるよ!さっきはうまくいかなかっただけで……」

「え〜?本当に〜?」

「か、快斗君だってたまに噛むじゃん!」

「そんなことないっすよ。だって俺かちゅじぇつ………」

 

 ……やべ。

 

「あ、今噛んだよ!」

「噛んでないっすよ」

「噛んだって。かちゅじぇつって」

「え、そんなことないっすよ。先輩耳遠くなりましたか?」

「ぶ、ぶえ、そんなこと言わないでよ〜」

 

 しまった、彩さんが涙目になった。というより泣き始める寸前まで来てる。早くどうにかしないとあの人がやってくる。それだけは本当に勘弁願いたい。

 

「じょ、冗談っすよ彩さん。いやほら、俺も年頃なんで女の先輩に揶揄われるのとか恥ずかしんすよ」

「じゃあ…噛んだの?」

「か、噛みました………」

「本当?」

「本当ですって。さっきはほら、調子乗ってたせいで呂律がうまく回って…いにゃかったというか……」

「あ、今度は本当に噛んだ。やっぱ聞き間違いじゃなかったんだね」

 

 涙も引っ込んだようで今は笑っている。いや助かった。もしあのまま泣かれてたら男としての面子がないし何より彩さんガチ勢のあの人にお説教されんのは嫌だしな。よく頑張った俺。

 

「でも快斗君って意外と恥ずかしがり屋だったんだね」

「へ?」

「年上の女の人に揶揄われるのが嫌だとか、可愛いところあるじゃん」

「………」

「どうせなら私が揶揄ってあげてもいいんだよ〜?」

 

 やいやいといじっている姿に少しイラっときてしまった。もう少し自制できれば良かったんだろうけど俺はこの時選択をミスった。

 

「そんなの嘘に決まってるじゃないですか」

「………え?なんて?」

「嘘っすよ。別に女の人に揶揄われてもなんともないっすもん」

「え、じゃあ………」

「全く、彩さんは純粋すぎるんすよ。俺の嘘にこんなにあっさり騙されるなんて」

「じゃあさっき噛んだのは」

「演技に決まってるじゃないすか」

 

 ふぃースッキリした。あ、でもこれで泣かれたら困るな。それに少し言い過ぎたかもしれないと前言撤回しようと彩さんの方を向くとすでにポロポロと泣いていた。

 

「あ、彩さん!?」

「私、ずっと騙されてたんだ………えぐ」

「あー!彩さん嘘ですって!今言っていたのはガチの嘘です!」

「噛んだの、嘘…なんだ………」

「違いますって!噛んだのはガチっす!それを隠そうとしたのが嘘で!」

 

 必死に泣き止んでもらおうとすると後ろからドス黒い何かを感じる。恐る恐る振り向いてみるとそこには微笑みの鉄仮面(彩さんガチ勢)の姿があった。

 

「何をしているのかしら?」

「いやそのっすね、これは」

「うぅ……千聖ちゃん………」

「ああ、彩さん本当に申し訳ございませんでした!この通りです!」

「何があったか一から説明してもらいましょうか」

 

 その後事情を説明した俺は鉄仮面に絞られ彩さんに土下座した。その後また説教をされたが絞られている最中のことは一切覚えていない。



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Fourteen noise 前座

 とある男の書斎、机の上のデスクランプの灯りに照らされながら書類に目を通す。そこに貼られる写真は名護家元十六代当主名護新一の顔写真である。今読まれている資料は彼に関する情報が記載された紙媒体である。彼が行ってきた仕事、立ち振る舞い、現在発見時の状況など事細かに書かれている。しかし現在の日常生活に関する情報はそこまで無かった。

 

「私の実験史上、最大の失敗作」

 

 かつてこの男は名護新一に手を加え、人の領域を逸脱させようとしていた。最終的に実験は取り消しになり無かったことにされた、と記録に記載してある。しかしその実験の余韻は未だに残っている。だがそのデータ自体はあまり集められていない。それもそうだ。名護新一のデータを集め始めた頃、まだ二割にも満たない状態で彼は名護家を去った。そんな彼を野放しにすることは出来なかった。彼はこちらが動けば彼奴がやってくることを重々承知している。故に既に準備は済ませていた。あとは決行を待つだけ。

 

「消えてもらおういや、君たち風に言うのであれば、世界の脅威は排除しよう。我々の力を持って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待った!」

「それ二回目だよ、次はないからね」

 

 学校の昼休み、僕達は教室でチェスを打っていた。僕の机の上でやっているのだがご飯を食べてからすぐやっているので既に十分が経過していた。とられたコマの数はお互い同じで強さも同じレベル。しかし数手前から京君が待ったをかけてくる。互いにチェックをかけられる状況を作っているが実際はあまり動いていない。もはや戦っているのは盤上ではなく頭の中のようだ。

 

「よし、ここを動かすか」

「へぇ、その手で来たんだ。これは意外だ」

「名護君が押されている?」

「さすが探偵さんね!」

「どうする新一」

「うーん、だったら僕はこうかな」

「なっ!?」

「どういう状況なの!?」

「私たちにはさっぱりわからないけど何が起きてるの?」

「えっとだな。簡単にいうと新一は俺が来ないと予測した手を打ってきたんだ。しかもそれは下手すれば後三手で新一が負ける」

「そんな自殺行為を!?」

「京君、申し訳ないけどそのあと三手に賭けるよ」

 

 んな馬鹿なと驚きながら必死に盤面を見ている。正直勝利の方程式は成り立っているのだ。京君が抜け道に気づかなければこの試合に勝てる。一応そうなった場合の対策を練っていると予鈴が鳴る。

 

「あ、鳴っちゃった」

「てことは勝負つかず?」

「だな。しかしここまで追い詰められるとは」

「でももう気づいてたでしょ、抜け道に」

「まぁな。鳴った瞬間気づいたからなんか負けた感じするけど」

「そっか。じゃあまた今度だね」

 

 チェスのコマを片付けていると錠前が鳴り響く。授業をサボるのはあまり気が引けるがそういうことも言ってられない。お嬢様に一言だけ伝えて僕と京君は校舎を出て行った。示す場所を見てみると意外とすぐ近くのビル街だった。ちょうどのタイミングで快斗君とも合流する。

 

「ちょうどっすね」

「だな。今回の目標は…なんだあれ?」

 

 一体はドーパントだったのだがそれ以外にこの間の機械兵らしきものが二体で銃火器を使っている。とりあえず止めようと全員変身してそれぞれについた。偶然なのか僕の相手はドーパントになった。ところどころ燃えているのを見る限り最初に会ったマグマのドーパントだろう。真っ直ぐ飛んでくる拳を避けるとその手から赤い飛沫が飛んでくる。なんとか寸でのところで回避したがそれが落ちた先はジュウと音を立てながら溶けていた。これは僕の相手に向いていないと即座に判断する。

 

「どちらかでいい僕と交代して。コイツメモリの力じゃないと対抗できない!」

「了解っす、俺代わります!」

 

 快斗君とバトンタッチするように入れ替わり今度は機械兵の相手をする。試しに一振りしてみると装甲に当たるがこの間より硬いことに気づく。呆気に取られていると手に持っていた武器を収納して代わりに手からブレードを出して斬りかかってくる。それだけで分かった。コイツは進化、いや改良されている。

 

「こんなやつ初めて見たんだが!」

「この間の事件の時に似たようなのと戦ったけどそいつらよりグレードアップしてるよ!」

「こいつら中身は?」

「ないよ!本当にロボット兵!」

「おーしわかった、遠慮なく鉄クズにしてやんよ!」

 

 そう言って京君は拳を構えて一回転するともう一体の機械兵をぶっ飛ばした。吹っ飛んでいく機械兵に対してもう一度同じようにすると今度は位置を移動してもないのに機械兵が爆発した。

 

「うーし、まず一体!」

「何したの今?」

「鉄砕拳の2回連続版。そもそもこれ、鉄みたいに硬いやつを砕く拳法だから」

「だから鉄砕拳ね」

「元はパキケファロサウルスの頭の硬さらしいぞ」

「それは新しい情報をどうも!」

 

 ブレードを受け止めつつ確実に当てられる隙を探す。僕は素手で京君みたいな火力は出せない。だからこそ一瞬のうちに必殺技を撃てるようにしなければいけない。イクサナックルで撃とうとすると一発一発にリロードがかかってしまう。ならば攻撃を出来ないようにしてトドメを指さねばならない。周りに使えるものがあるかを確認するとちょうどいいものを持っていた。

 

「京君それ貸して!」

「いいぜ、やってみろ!」

 

 京君から投げれられたスカルマグナムを受け取り、イクサカリバーをガンモードにして機械兵に向かって連射する。一つの武器ならば片方の腕で防げたのだろうがそれを阻止するように両方の肩を一気に狙う。片方が重い音を立てて落ちた時、残っている方の腕も切り落とそうと距離を詰める。目の前に銃口を向けられ驚くがしゃがみ込みながら回転をして腕を切り落とす。体が元の姿勢に戻った時、機械兵の両腕は無くなっていた。貰ったマグナムを顔面にくっ付けて撃ち込むと機能停止したようにガシャンと後ろに倒れ込んだ。

 

「なんとかなったね」

「それにしては慣れてる感じもあったけどな」

「咄嗟に判断ができただけだよ。まだ冷静でいられた」

「そいつはスゲェ。アイツの方も終わったみたいだ…ぜ?」

 

 何故疑問形か。その答えは聞くまでも無かった。快斗君の方からした爆発の中から出てきたのはファンガイアだったからだ。さっきまでドーパントを相手にしていたはずだと戦闘体制をとると早いスピードで迫ってくる。いつの間にかすぐそこにいた怪物は僕を掴んで壁にぶつける。

 

「カハッ」

「新一!」

「新一さん!」

「ヤッパ、ニンゲンガツクッタモノジャダメダ。オレタチファンガイアノホウガツヨイ!」    

「放、しな……さい!」

 

 手に握っていたイクサカリバーを振るうと自然と手が離れた。首を掴まれていたせいで少し呼吸が苦しいが他は特に何もないようだ。すぐに体制を元に戻して陣形を組む。

 

「大丈夫っすか?」

「うん、なんとか」

「新一、俺たちがアイツを捕まえるからその一瞬で決めろ」

「わかった」

 

 指示通りにイクサナックルを準備する。確かにこの状況じゃ僕が足手まといになる可能性がある。だったら固定砲台として役割を全うした方がいいだろう。フェッスルだけベルトに挿し込んで待機させておく。京君は体術で快斗君は様々なメモリを行使して動きを止めようとしている。最終的に二人が動きを止めた時、ブロウクンファングを放つとファンガイアはその場で砕け散った。

 僕は変身を解除するとその場で崩れる。二人が変身を解除してやってきたおかげで地に手をつかずに済んだ。

 

「おい大丈夫か」

「ちょっと疲れちゃっただけだから大丈夫」

「そういう人って大抵大丈夫じゃないんすよね、知ってます」

「とりあえず少し休むか」

「ありがとう」

 

 一度地面に座ろうとすると乾いた音と高らかな笑い声が聞こえてくる。どこだとみんなして周りを見るとモニターがついているにビル電源が入る音がした。映像にはサングラスを掛けた老人が社長椅子に座って膝を組んで座っている。

 

『中々面白いものを見させてもらったよ』

「あ?誰だお前」

『これは失礼、二人には自己紹介が必要だね』

「二人?お前一人忘れてないか?」

『いいや、二人だよ』

「快斗、お前影消されてんぞ」

「いや京だろ」

『どっちも、いや全員確認しているとも。勿論君のこともね』

 

 老人が画面から指を指してくる。真ん中を示しているということは僕のことだろう。当然だ。なぜなら僕が彼を知っているように彼も僕のことを知っている。たった5年近くの付き合いと言えどその間とてもお世話になった人だ。

 

『私は園崎琉兵衛。君たちの言うミュージアムメモリを最初に作り出した人物だ』

「!?」

「じゃあお前が園崎の………!」

「そして新一さんの……」

『ああ、元部下であり現トップだとも。勿論新しく作った園崎家としてのね。会社としてはミュージアムだが』

「やめてください園崎さん。このようなことをしても」

『私が世界を手に入れようとする理由、君にならわかるはずだがね』

「ッ!」

 

 あの人は僕に良いものもくれた。そして悪いもの。それらは当然あの人の中では自分を満たすための行為の一つでしかない。勿論素体がなければ増やすしかない、そのための効率の良い方法。

 

「──実験台を手に入れるため、ですか」

「「!!」」

『その通り。この窮屈な世の中では簡単には手に入らないからね。だからこそ私がこの世界を手に入れる』

「世界を自分だけの箱庭に、ってか」

「面白くなさそうだなそれ」

『ハッハッハ、若い者にはまだわからないだろう。この理想の素晴らしさが』

 

 園崎さんは愉快そうに笑うとまた笑顔を作る。この人はいつだって笑っている。見るもの全てが愉快なのかと疑うほどいつも笑っていたくらいだ。

 

『さて、余興はここまでにしようか』

「余興?」

『ああ、鳴海君と大道君は逃げたほうがいい』

「なんで俺たちだけなんだよ」

「何企んでやがる」

『我々の理念としては、世界の脅威なり得るもの(・・・・・・・・・・・)を排除することだ。それは名護君が一番知っているだろう』

「新一が……?」

 

 愉快に笑うその顔は何かを楽しみにしている、期待を持っている表情だった。名護家の理念を振りかざす、それはつまり彼らも世界に貢献しようとしていること。しかしその対象をわざわざ僕達に話す理由、そして僕を名指しした理由。その答えは自然と出てくる。

 

「そうか、そういうことですか……!」

『気づいたようだね』

「えっ、どいういうことっすか?」

「はっ、そういうことかよクソ野郎が」

「え!?まさか真面目にそういうこと!?」

「その通りだよ。名護家の理念でもあるあの言葉、つまり執行対象は()ってこと」

『ご明察。流石だね。褒美として最後のパーティーへ招待しよう。そしてさよならだ、私の失敗作』

 

 最後に低くした声が聞こえたと同時に映像はプツンと切れた。

 ──いつかはこうなるとわかっていた運命。しかして今来るとは想定外だった。来るには早すぎるが理には適っている。メモリの弱点を知っていなくても組織の弱点を把握しているだろうという僕は彼らにとって脅威でしかない。ならば早い段階で手を打っておくほかあるまい。

 

「新一さん、失敗作って」

「今はそんなこと気にしている余裕がないかも」

「あんな物作る連中だ、何が来るかもわからないもんな」

「その通り。だから彼の忠告通り君達は逃げてもいいよ」

「馬鹿なこと言わないでくださいよ。そんなことしたら俺が首刎ねられますって」

「お前に関してはガチで洒落にならないもんな。当然俺も行かせてもらうぜ」

 

 二人がベルトのバックルを持って僕に見せつけてきた。本当に死ぬかもしれない戦場でこんなに頼もしい仲間は久しぶりだ。協力に感謝するとお礼を言おうとした瞬間、異変が彼らを襲う。

 目の前で二人の動きが硬直する。何をしているのかと思いきや二人は力が抜けたようにその場で倒れた。

 

「どうしたの二人とも!」

「わ、悪りぃ新一」

「何が起きたの!?」

「わからないっすけど、なんか、体が思うように……」

 

 まるで痺れているかのように体が小刻みに震えている。手を伸ばそうとしてもなかなか動かない。何が原因か探ろうとすると数メートル離れたところに緑色の怪物が現れた。その怪物の手には注射器のようなものが添えられていた。

 

「貴様が二人を!」

「油断したお前たちが悪い」

「殺気すらなかった、どういうつもりだ」

「俺を殺すのはお前じゃない。二人には生きて動けないままお前の死を見てもらう。ただそれだけだ」

「おま、え……」

「さぁショウの始まりだ。名護新一、お前の墓場はここになる」

 

 緑の怪物は景色に溶け込むように姿を消して見えなくなる。二人を何処かに運ぼうと辺りを見回すと後ろの方から息の揃えられた足音と空を切る重い音が聞こえてきた。



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Fifteen noise 災厄のJOKER

 息の揃えられた足音、空を切る重い音の正体は一個の軍隊だった。この間と今日戦った機械兵、以前とは姿の異なるマスカレイドの集団、武装を付けたヘリコプター。

 向かってくる軍勢は空から陸からやってくる。相手の数は数え切れないだろう。

 

「もし、かして、あれが……?」

「多分、僕専用の討伐隊だろうね」

「新一、逃げ、ろ…この数を一人、じゃ……」

「いや、君達を無理に動かすわけにはいかない。それに狙いは僕だから」

「やめろ……!」

「死んじゃい、ますよ…!」

「二人は動けるようになったら逃げて。いいね?」

 

 イクサナックルを掌に当てて変身する。手にイクサカリバーを持ち敵陣の中に突っ込む。多勢に無勢、だが相手はそんなこと一切思っていないようだ。それもそうだろう。僕の異名は〈朱雪の執行者〉、単体では絶対勝てないと踏んだと思われる。そして戦闘しているうちにわかってきた。異質なマスカレイドの正体は体のところどころがアームズドーパントになっていることだ。装備をつけることによる戦闘力の強化、確かに本気で本気で潰しにきているのがわかる。この状況を続けるのはかなり部が悪い。一掃しようとイクサナックルを手に取るとその隙を狙って攻撃してくる奴がいた。それは見えていたから避けることが出来た。

 しかしその油断が足元を掬われる。後ろにいた機械兵に背中を撃たれる。幸いイクサシステムにより貫通は防がれたがイクサナックルとイクサカリバーは手から離れて丸腰になる。

 

「皆今だ!」

「今こそコイツに復讐を!」

「この罪人に罰を!」

 

 飛んでくる攻撃を瞬時に避け拳と体術で捌き続ける。当然そう簡単にやられるとは思いもしなかった。しかし現実はそこまで甘くなかった。必死になりすぎていた僕はフェイクの動きに騙されある一撃に吹っ飛ばされる。壁にぶつけられ変身が解除された。セーブモードでいいからともう一度変身しようとするとイクサナックルがない事に気づく。そして何よりあっても無意味という事に気づく。

 ──ベルトが壊されていたのだ。原型はなんとかあったがイクサベルトが機能できないのがわかるくらいに破壊されていた。

 奴らの方を見るとまだ七割も残っている。戦おうと立ち上がるが戦う道具がない。けど今のままだと負けることは確実だ。でも僕がここで死ねばそのまま京君と快斗君が死ぬ可能性がある。どうにか出来ないかと考えるとあるものが脳裏を過ぎる。

 

「これなら、二人を救える……」

 

 首から下げている宝石を取り出し手に乗せる。しかしこれを使えば後戻りできる確率は限りなく低い。あの時のような奇跡が起きなければ僕が死ぬ可能性だってある。それでも僕は二人を死なせたくない。

 

「京君、僕に何かあったらお嬢様達をお願い」

「新一テメェ、何するつもりだ」

「あれを破壊する。そのために僕は……禁忌を破る」

 

 ネックレスの鎖を引きちぎり、碧く光る宝石を握り、コードを呟く。

 

「我が力は人に非らず、この力は人を守りし物、この身が果てるその時まで役目は終わらず、人類を仇なす者、破壊する物全てを焼き尽くそう」

『認証完了』

 

 宝石から冷たい機械の声が聞こえる。その数秒後、僕を囲うように八本の光の柱が現れる。眩い光が僕を包み、明るさが元に戻ると一本の槍と七本のそれぞれが形の異なる板が浮いていた。その中の槍を振り下ろす。

 もう、後戻りはできない。その思いを胸に秘め、呼び出したものの情報を読み取る。

 

「簡易武装装備、機能確認、(ミウム)から(フェルミオン)までの起動完了、任務……開始」

 

 禁忌の装備を身に纏い、迫り来る軍勢に光を放つ。七つの光があたりを更に焼き尽くす。光を空に上げ、Ⅷを持って敵陣に突っ込んでいく。敵の攻撃なんて当たることはなかった。否、当たることを許さなかった。突き、薙ぎ、裂き殺す。囲まれたところで問題など何一つなかった。浮遊する武装の光が邪魔な物を焼き尽くす。

 

「まさかあれって!」

「嘘だよな?なんでアレ(・・)が動いてんだよ!」

「封印はどうなってんだよ!?」

 

 マスカレイド達は攻撃して来なくなった。話している内容から察するにこの武装についてだろう。近づいた者は容赦なく殺していく。例えそれが攻撃の意思を持っていなくても。僕の目の前に立った瞬間から、これを纏った瞬間から、もう彼らに残された時間は少なかった。

 ──やめてくれ。せめて抵抗してくれ。でないと、ただの虐殺になってしまう。

 流石に気まずかった。今までも多くを殺してきたが虐殺は心地悪い。やがて空の船も焼き終わった時、地上にいる軍勢もすべて始末を終えた。もはや辺りにはあれだけいたマスカレイド達のいた痕跡も機械兵やヘリの破片の一つ残っていない。

 

「終わった……のか」

「なんだよその姿」

「これが、僕が化け物だっていう証拠だよ」

 

 先ほどより回復したのか京君と快斗君は立ち上がって僕を見ている。振り向いた瞬間フィードバックが始まる感覚が襲ってきた。急がないと危険だと武装を解こうとすると錠前から連絡が入る。

 

『ライダー諸君、緊急事態だ。上空にミサイルを確認した。今も速度を上げてそちらに向かっている』

「ミサイル!?」

『ああ、既に上空に見えているだろう。あれが例のミサイルだ』

 

 わずかだか音が聞こえる方を見ると一個の大きなミサイルがこっちに向かってきていた。先ほどのヘリコプターよりかは小さいが空で迎撃しなければ危険だろう。

 

「わかりました。こちらでなんとかします」

『待ちたまえ、どうす』

 

 言葉を遮るように錠前を閉じてしまう。武装の再確認をしてから破壊方法を決定する。二人はきっとあそこまで行くことはできない。例え射程距離になってもあたりに被害が出ないとは限らない。

 

「新一…」

「大丈夫、ちゃんと破壊してくるよ。──結合武装(ディオス)(ベリオット)

 

 背中に飛ぶための翼を生やして上空に飛ぶ。高度五千メートル、前方七百メートル上方に目標を確認する。ここなら爆破してもあまり問題ないだろう。各武装を呼び出してⅧを基点に合体させる。大きな弓となったそれをミサイル目掛けて照準を合わせる。

 

I(ミウム)II(ロード)(ディオス)(フェルミオン)装填(セット)照準(ターゲット)確認(ロック・オン)

 ─────────────対軍殲滅武装《殲滅天装(メタトロン)》、照射(ファイア)!!」

 

 掛け声と共に手を離すと大きな光となってミサイルを覆う。ミサイルは光の中で爆発し、大砲のような威力を持った光は次第に消えていった。プロフェッサーに確認するとミサイルの反応は消えたらしい。

 全て終えたと確信を持って地に降りるとフィードバックが襲いかかってくる。油断していた。早く武装解除しようとすると徐々に僕の意識は塗り潰されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戻ってきた新一はしばらく俯いたまま動かなかった。何か様子がおかしいと声をかけようとするがゆっくりと顔を上げていく。その時に見えた顔はいつもの真一の顔ではなかった。

 

「新一、その武装は一体…」

「──擬似人格形成、記録データ確認。鳴海京、ですね」

「新一さん?」

「貴方は大道快斗で合っていますか?」

「そうですけど……え、どうしたんすか?」

 

 新一は快斗の言葉を無視して辺りを見回す。落ち着いたように息を吐くとまるで軽い運動をするかのように準備運動を簡単にやっている。やはりおかしい。さっきの戦闘で脳に異常でも起こしたのだろうか。真相を確かめなければと新一に目を向けるとコホンと咳払いをした。

 

「先ほどの質問に答えましょう。この武装は私に与えられた武装、『ARC UNIT』」

「アーク、ユニット?」

「正式名称『ARtifact Clear UNIT』、〈人に造られし聖者〉。ARC UNITはこの身体の脳内にあるチップにより私の脳波によって動く物。破壊、防衛、飛行、あらゆる事を可能とします」

 

 手先を遊ぶように動かすとさっきまで様々な機構を見せた板みたいなのがクルクルと新一の周囲を回り出し自身も回転している。ただ器用に動いている分どうしても疑問が出てくる。

 

「そんなんタダでそんなことができるはずねぇよな」

「然り。少なからずとも脳に負担はかかるでしょう。そのための()でもあります。チップを入れることにより私というAIが名護新一の思考領域を増やし脳にかかる電気信号の負担を軽減させています」

「えっ、じゃあ今喋っているのって」

「今の口調からすれば新一本人じゃない」

「自己紹介が遅れました。私の名前は『ARC』。名護新一の脳内にあるAIチップです」

 

 驚くどころの話じゃなかった。今まで一緒に戦っていた奴の脳の中にAIが組み込まれていた。それだけでも驚く情報だが本命はそれにアイツが操られているってことだ。道理で表情は変わらない、いつもの新一と雰囲気が違うってわけだ。俺たちが驚きを隠せない中ヤツは淡々と話を始める。

 

「現在、私という擬似人格が上塗りを始めています。私の使命が終わるまでに名護新一の人格が消え去るか、私の機能が停止するまでこの状態は止まりません」

「テメェ自身が解除する気にはならないのか?」

「無駄です。名護新一はすぐに解除できると思っていたのでしょうが仮にも私は意志を持つAI。体があった方が効率が良いに決まっている。とはいえ、目的を遂行するのが私の使命。この体は壊しはしません」

「新一様……やはり使われてしまったのですね」

「アンタ、新一さんの」

 

 前に一緒に戦った新一の手下だった奴、一条が現れた。急いでここまで来たんだろう、少しばかり息が荒くなっている。それに自分の元主人の変わり方に驚いている。だがすぐに表情を変えて操られている新一の元へ距離を詰め始た。

 

「一条、次の任務をください」

「お引き取りください、貴方の出番はもう無い」

「この世の悪は既に消えたというのですか?」

「っ……」

「そうでしょうとも。さもなくば名護新一が私を呼び起こすことなどない。ならば私は」

「その前に新一の体を返して貰うぞ」

 

 言葉を遮って威圧する。しかしAI野郎は俺を見てすぐに目を瞑り首を横に振る。

 

「無駄なことです。貴方では私に勝てない」

「やってみなきゃ分らねぇだろ」

「そうですか、なら貴方には三本で十分でしょう。固有武装(ぺラード)(ディオス)(ゴール)起動」

 

 さっきまで浮かせていた板が三つだけ形を変える。一つは光の刃を伸ばし、一つは二つに分かれる。一つは光のキューブを纏う。残ったものは全てAI野郎から距離を取る。完全にナメられていることがわかった。

 

「五分以内にここから一歩でも動かせば貴方の勝ちとしましょう」

「ナメたこと言ってくれるぜ!」

 

 腹が立つ。早くアイツをぶっ壊して新一に説教してやる。変な動きをされる前に片をつけようと変身してマグナムを撃つとキューブになったやつが野郎の前に現れて光の壁を作る。

 

「無駄です。Ⅶは防御を得意とする武装、攻撃は全て防ぎます」

「チッ」

「行きなさい」

 

 野郎が合図をすると姿を変えた奴らが襲ってくる。光の刃は斬りかかり、二つに分かれた奴は交互にビームを撃ってくる。キューブに戻った奴は俺目掛けて身体をぶつけてくる。撃ち落とそうとも考えるが完璧な連携により避けるのが精一杯だ。

 

「既にご存じと思いますがⅢは近接が得意です。貴方方にわかりやすく言うのならソードビットというものです」

「じゃあこの撃ってくる奴らはライフルビットってか!」

「近からず遠からずですね」

「じゃあなんだよ!」

「これくらいは良いでしょうか………本来、ⅠからⅧは全てオート且つライフルビットとして使用できます」

「ずっけぇ!」

「ずるいも何もこの武装は私だけの物。使わずしてどうしましょうか」

「そうかよ!じゃあコイツを喰らいな!」

 

 そこら辺に適当に弾丸を撃ち土煙を立てる。視界に見えなければいくらビットでもやってこれまいと石破天驚拳の構えを取る。その瞬間風が流れる音がした。嫌な予感がした俺はすぐに技を撃つ。土煙を払いながら進んだおれの骸骨は光の壁によって完全に防がれた。

 

「なっ………」

「言ったでしょう?無駄だと。さて、タイムオーバーです」

「クソがっ」

 

 何一つ奴に当てることが出来ずに制限時間が過ぎてしまった。悔しい、ただそれだけでいっぱいだった。そんな俺を見たからか快斗は俺の肩に手を置いて前に出ていく。その手にはドライバーが握られていた。

 

「次は俺がいく」

「お相手はまた今度にしていただけませんか?どうやらこの体が限界を迎え始めています」

「じゃあ余計チャンスなんじゃねぇの?」

「そうですね。この体を壊してもいいのなら(・・・・・・・・・)

 

 言葉の意味に引っ掛かる。

 

「どういうつもりだ」

「そのままですよ。貴方達の目的はこの身体を名護新一に戻すこと。私を排除するためには私を倒すしかない。けれどいくらAI()といえど生身の人間を操っています。栄養補給をさせなければこの体は死体のまま動くことになりますよ」

「新一の体に拘る理由はないんじゃないのか?」

「ありますよ。理由は至極簡単、この体でないと瞬時に廃人と化してしまうから」

「なんだと?」

「通常このシステムを利用するためには高度な思考領域を必要としますがこの体に入っているチップがない者には容量を超えてしまい一回戦えば廃人と化します。その状態では私は動けない。故にこの体に拘りを持つのです」

「チッ、この馬鹿野郎が」

「恨むならこの力を、禁忌を破った名護新一を恨むのですね」

 

 アークはユニットを周りに浮かせ一つだけ目の前で宙に寝かせるとその上に飛び乗る。その時に気付いたのか俺たちの前にあるものを投げる。

 

「それはそうと、置き土産です。この体が帰ってくることを祈るであればどうぞご自由に」

 

 まるでボードを乗りこなすように飛んでいったアイツを俺たちは追いかけはしなかった。今の段階では戦力差はかけ離れている。なら今のうちにやるべきことは一つだ。俺は投げられたものを拾い上げる。

 

「それは……」

「新一のベルトだ。全く、面倒くさい事をしやがって」

「どうすんのこっから」

「まずはアレについての情報をもらわないとな、なぁ?」

 

 ボロボロに壊されたベルトを押し付けるように一条の前に持っていく。苦虫を潰したような顔をしながらそれを手に取る。しばらくするとその口が開かれた。



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Sixteenn noise ARtifact Clear UNIT

 1週間ぶりです。体調が少しすぐれず描き終えられなかった為お休みさせて頂きました。申し訳ありません。
さて、体を乗っ取られた新一君ですがその代わりに最凶装備を手に入れられました。イメージとしてはダブルオークアンタが常にソードビットを展開している感じ、とでも思っていただければ幸いです。
 では最新話どうぞ


「……あの装備は、本来封印されていなければならないものです」

「何故だ?」

「あれは、名護家が開発した戦略殲滅兵器。あれを完全武装し、慈悲を無くせば現時点で発見されている地球生物及び全世界の兵器の中で頂点となり誰も手が出せなくなるでしょう」

「は?」

「今はまだAIが様子見をしているから大丈夫だとは思いますが、時期にそうも言ってられなくなります」

 

 真剣な顔で話していてる一条の言っていることが理解しづらい。しかしかなりヤバいって事を表情と声色だけで分かる。

 

「待て、完全武装をすればと言っていたがどういう事だ?新一も簡易武装とだけ言っていたが」

「おそらく新一様はペンダントのみを使用されたのでしょう。その場合そこに入っているARCの情報が入ったデータチップからユニットのみを呼び出した筈です。完全武装の為のスーツは着ていることが前提ですから」

「てことは更なる武装展開があるのか」

「嘘だろおい。今の段階でもストライクフリーダムみてぇだってのによ……」

「因みにだがあれが今の状態でミサイルの破壊とか対人戦で余裕なのはわかった。フル武装したら火力はどうなる?」

 

 質問すると一条は人差し指を立てた。

 

「町一つか?」

 

 首を横に振った。

 

「じゃあ都市一つ?」

 

 気まずそうに首を振る。

 

「東京ドーム一個分か?」

「出た、日本人が実際どんくらいか分かってない人が多い東京ドーム比較論」

「大変申し上げにくいのですが、最終安全装置を解除した場合、少なからずとも東京は壊滅します」

「「……は?」」

 

 あんな薄い板みたいなのが集まっただけでそんな威力出るとかもはや人智の域を逸脱してやがる。だからこそ奴しか使えないのだろう。だとしてもそんな危険な物を何故アイツが持ってたんだ?謎はどんどん深まっていく。

 

「そういえば一条…さんはなんでここに?」

「任務の帰投中だったのですが本部から連絡を受けてですね」

「なるほど、流石に自分たちが管理している物が消えたら探すか」

「はい、ですがこのようなことになってるとは……」

「でもいつかは考えられたこと、なんだよな?」

「仰る通りです……」

 

 とりあえず全員戻って各自状況をまとめること、そして対策を練ることになった。二人は状況報告もするらしい。俺も帰路に着くながら対策を考えてみたが物理的に対処する方法はないと考える。実際に戦っていたからこそ分かるがアレは普通の人間が勝てるものじゃない。寧ろまだ敵として認知されていないだけマシといったところだろうか。それに最終安全装置を解除した際の被害範囲、それを聞いた瞬間からもはや勝ち目などないのではと考えていた。

 家に着いた俺はとりあえず腹に何か入れるかと冷蔵庫にあるものと戸棚から適当に引っ張り出してチャーハンを作る。米を炒めながらあの時の状況を振り返った。

 俺たちが動けない中あいつは一人で戦っていた。しかし本来なら本気を出せばあいつもケチらせていたのではないのだろうか?なぜそれをしなかった?考えられる答えは二つ。相手に希望を抱いて攻撃できなかったか、それともあれだけの量は流石にキツかったのだろうか。どちらにせよあいつが禁忌を破るって言うくらいに危険な状況になったのは間違いない。おかげで俺たちは助かったがあいつ自身はどうするつもりだったのやら。

 出来上がったチャーハンを皿に移してそのまま立って食べる。意外と味は悪くない。ただあいつの料理には劣るけど。考えながら飯を食っていると電話が鳴る。かけてきたのは湊だった。

 

「はいこちら鳴海です」

『ねぇ、新一が帰ってこないのだけど』

「買い物じゃねぇの?特売パーティーでもやってんだろ」

『だとしたら連絡が来るわ。でもそれもないもの』

「……じゃあ知らねぇよ」

『あなたなら何か知ってるんでしょう?』

「…本当のことを言うと、ちょっと遠出するから伝えとけってよ」

『嘘ね、あの人はそんなことせずに私の所に来るもの』

 

 この間言ったことが身に染みたのかちゃんと気にしていやがる。にしてもこの短期間でそこまで気にするか。

 

「お前も随分と新一の事を好きになったな」

『なっ……!』

「心配しなくても戻ってくるだろ」

 

 適当にあしらって電話を切る。しかしよりあいつを取り戻さなければと考えた。少なくとも今のアイツは帰りを待つ人がいる。それに俺も結構助けられてるからな。恩返しと共にでっかい貸しにしてやろうか。チャーハンをかき込んで洗い物をさっさと済ませて策を広げる。色々と思考を広げ使えるものは使おうと考えるとある策が浮かび上がってくる。だがその瞬間に錠前が鳴り響き策は沈んでいった。クソ野郎と思いつつ錠前を起動させると高城の野郎の声がした。

 

『鳴海君聴こえるかね?』

「えーえー聞こえてますよー!」

『何か邪魔をしたのならばすまない。快斗から話は聞いた』

「そうかよ、そんで?」

『ターゲットが見つかったけどどうする?』

「新一が!?今行く、早く迎えをよこせ!」

 

 荷物を持って玄関のドアを開けると既に黒服の人が待ち構えていたらしい。鍵を閉めて連れて行くよう言うとすぐに車に乗せて連れて行ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は高城さんからいち早く情報を貰って現場に直行していた。理由は簡単だ。少しでも早く新一さんを元の状態に戻さないと危険だからだ。一応高城さんに相談したらかなり危険だと言われた。そもそも人工知能を人間の頭の中に入れること自体が常軌を逸しているだとか。だったら今度は俺があの人を助ける番だとメモリを握りしめる。

 現場についてまず見えたのは地図にはあったはずの小さな工場が燃やされていることだ。近くには縛られている人や木の後ろに隠れている人たちがいる。一体どういう状況だと周りを見ると炎の前に羽を生やしたヒト型の影があった。目を凝らして見てみるとそれは昼間に見た顔と同じだった。

 

「何やってるんすか新一さん!」

「大道快斗、今のこの体の持ち主は私、ARCだと言ったはずです」

「んなこと聞いてねぇ!」

「はぁ……見ての通りです。私は私の使命(・・・・)を果たしただけ。何も間違ったことはしていません」

「だとしてもなんで情報を持ってんだよ」

「そこは機密情報ですので」

 

 やっぱ頭いい手を使ったんだろうな。その時にやったのかどうかは知らねぇけどなんか昼間より体にパーツが増えている気がする。あんま難しいこと考えるの苦手だからこれ以上考えるのはやめだ。バックルを腰に当ててベルトを巻く。

 

「貴方も戦いますか?」

「新一さんを返してもらうぞ」

「全く、何も学びませんね。人間は昔から何一つ変わっていない」

「知るか!ごちゃごちゃうるせえんだよ!」

『エターナル』

「変身!」

 

 メモリをドライバーにセットして変身する。先手必勝、すぐにゾーンのメモリをエッジの中に入れて地面に投げる。

 

「自分の領域を作るつもりですか?無駄なことを」

「それだけじゃないんだよなぁ」

 

 マゼンタの線が俺たちをすり抜けて大きく数を増やして広がっていく。パンと音を立てて手を合わせるとアークの周りにあった板が消える。流石に驚いたのか少しだけ表情が変わった気がした。勿論実際には消えていない。ただ俺たちの近くから消しただけだ。

 

「なるほどフィールドの端に置く事で妨害を防ぐつもりですか」

「まぁそういうこと。やっぱバレるよな」

「その様子だと砲撃もフィールドの効果で違うところにいくのでしょう。わかりました。では貴方の得意な近接戦を行いましょうか」

「いいのか?お前の得意な戦法じゃなくなるけど」

「甘く見てもらうのは困ります」

 

 その瞬間奴の姿は視界から消え

 

「私は──兵器ですよ」

 

 すぐ目の前まで迫っていた。正拳突きを喰らったがすぐに両手でガードして正解だった。ライダーシステムを纏っていても軽く後ろに下がる威力のパンチ。生身の人間の領域を超えているとしか思えない。ただまだ救いがあるのはあの槍が無いことだ。さっき浮かせていたせいかそれも一緒に向こうの板の群れの中にいる。これなら無意に殺すこともないはずだ。だからこそ全力で殴りかかる。

 

「流石は弦巻家の暗殺者。きちんと対人戦も出来ている」

「それはどうも!」

「しかし殺さずに私を倒そうと考えているつもりなら、考えが甘い」

 

 仰向けに逸らした顔面の上を構えた掌が通っていく。当たったら確実にやばいことがわかるくらい風が強かった。

 

「貴方は殺す気がなくてもこちらはいつでも殺せます」

「ッ〜〜〜!」

「それでも戦うというのなら、生き抜くことだけを考えなさい」

 

 ARCの攻撃は続いた。時には地を割り時には風を切る。正直抵抗出来る隙などほとんどなかった。それでも戦わねばと必死に拳を振るった。今まで身に付けてきた技術を使い戦い続けた。十分した頃だろうか、希望が薄れ始めるのがわかった。圧倒的な差が身に染みてくる。読めない攻撃にたかだか拳一発の力の差、一つ一つの技術に力の差を感じる。

 

「そろそろやめにしましょうか」

「なっ、俺はまだ戦える!」

「これ以上は無駄です。貴方の体力の限界そして何より貴方から勝つという気力が感じられなくなりました」

「そんなことは」

「そのような者と戦っても時間の無駄です。そして何より貴方に進化はない」

「どういう意味だ?」

「いえ、こちらの話です。それに招かれざる客が来ましたよ」

 

 ARCは目を瞑り手を後ろに回す。意味が理解出来ずとりあえず変身を解除すると車の音が聞こえる。振り向くと同時に京が車から出てきた。その反対からは一条さんも出て来た。

 

「まだお前なのか」

「先に言った通りです。本体が死ぬまで名護新一の体は私の体です」

「もう貴方の出る幕ではないはずだ!」

「忠誠心だろうが絆だろうが関係ない。この体はそう簡単に渡しはしない」

 

 もう一度変身しようとすると遠くの方からヘリコプターの音が聞こえてくる。音の正体はすぐに気付く。最近俺らを殺そうとして新一さんをこんな目に合わせた元凶の一つ。園崎の兵隊たちだ。今度はヘリコプターらしき乗り物に乗ってこっちにやってきている。招かれざる客とはこっちのことかと認識した。

 

「彼の方も諦めが悪いです」

「ちっ」

「どうしますか名探偵。この状況で再戦でもしますか?結果は予測するまでもありませんが」

「舐めたこと言ってんじゃねぇぞ」

「鳴海様、あちらを」

 

 もう一度ヘリコプターの方を見るといろんな種類のドーパントらしき化物がいた。一個一個に戦闘力がそれなりにあるのならキツイと思う。

 

「なんであんなに種類豊富なんだよ」

「どうやら近くの工場から増援が送られたらしいな」

「こんな時にめんどくせぇな!」

「あれも排除対象ですか。ではサービスというものをしてあげましょう」

 

 ARCの周りに槍と2枚の板が飛んでくる。槍を手に掴むと板が2枚が槍のリーチを長くするように合体した。もはやその姿は槍ではなく大きな剣にしか見えない。

 

「Ⅰ・Ⅲ・Ⅷ装填、《星閃天装(サンダルフォン)》」

 

 あの時の弓っぽいのと同じような名称を言ってそれを構えた。大きく振りかぶるように持ち上げると長剣が光り出す。夜の闇の中それは大きく目立つもののあまりに綺麗で言葉を失った。剣が振り下ろされると光は弧を描くように宙を飛んでいく。まるで三日月のような刃はヘリコプターの方へ飛んでいき空を飛ぶ機械の体を真っ二つに斬る。ヘリコプターは爆発を起こして墜落していった。

 

「これでも、まだ戦いを続けますか?」

「たりめぇだ。そんくらいでビビって戻れるかよ!」

「圧倒的戦力差を見せつけられても諦めないその姿勢、評価に値します」

「ARC、もういいでしょう。新一様を返してください」

「先ほども説明したはずです。都合のいい体をそう簡単には手放さない。これは人間も同じだと思いますが」

「何言ってんだ?」

「人間は自分にとって都合のいい存在を贔屓する。その役目を果たしている限り相手に利用していることをバレないように隠しながら。そして役目が終わった時に捨てる。同じことでしょう?」

「知るかよ。人間誰しもがそういうわけじゃねぇ」

 

 ARCは表情を一つも変えずに話を続ける。それはもう人間の全てを見てきたかのように人の絶望性を語る。

 

「人とは醜い生き物です。ですが文明の発展を続けるには必要な存在。同時に地球上にて最も傲慢な生物とも言えますがね」

「さっきから難しいことばっか言ってんじゃねぇよ頭痛くなんだろ」

「はぁ……ですが時間稼ぎにはなりましたね。そうでしょう、一条?」

 

 一条さんの方を見るとキッと睨むようにヤツを見ていた。手にはスマホを持っている。何か連絡が入ったのだろうか。

 

「何かあったんすか?」

「ARC……貴方という方は」

「状況を把握したみたいですね」

「どういうことだ?」

「………一時間ほど前、名護家が襲撃されました──あの方によって」



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Seventeen noise ヒトの造りしノロイ

すみません、シンプルに投稿時間設定忘れました。
ちょっと短いですが切りの良いところなのでお許しくださいどうぞ!


「……名護家が襲撃されました──あの方によって」

 

 信じられない話だった。なんでこの状況でそんなニュースが入ってくるのか。だがアイツは澄ました顔でこっちを見ている。

 

「何したんだお前!」

「ただ、私のものを取り戻しに行っただけですよ」

「は!?」

「状況を説明します、落ち着いてきいてください」

 

 

 

 

~数時間前~

 

 名護家上層部は突然消失したARC UNITを回収するための算段を組み立てていた。過去に一度血が滲むような思いをして封じた戦略兵器が今再び飛び回っている。それを二度も封じ込めるとなるとかなり骨が折れるとそれぞれが思考を重ね話し合っていた。

 しかしそんな余裕は無かった。消失から三十分後、ARCが向かったのは名護家だった。到着したARCは空から名護家庭に飛来する。当然迎撃体勢を整えた殲滅部隊がARCを囲むように現れる。

 

「あれはッ!」

「何やってんだよ、坊っちゃん!」

「私は貴方方の主人ではない。貴方方が造り上げた兵器ですよ」

「だからこそ言ってんだろ。その体から出てけ!」

「何方も同じことを言いますね。何も変わらないとわかっているだろうに」

 

 ARCはユニットを一つ操ると砲撃によって庭の一部を抉る。範囲は狭いものの深く地下施設が見えるほどだった。ARCは別のユニットを穴の中に入れた。

 

「お喋りもそのあたりにしておきましょう。時間がありません」

「時間……?」

「いいぜぇ、けどその体は返して貰おうか!」

「諦めが悪いですね」

「悪ぃけど人間ってのは諦めが悪いんだよ!」

「隊長俺らも!」

「全力で取り押さえろ!間違っても殺すなよ。殺っちまった時はお前らが殺されるからな!」

 

 特別に鍛え上げられた殲滅部隊。一般人よりも遥かに強く一個の軍隊よりも戦力のある兵隊達は五分も立たずに全滅した。他の暗殺部隊執行部隊など名護家の現勢力を挙げて戦うもARCの桁外れの力によって一掃される。

 

「いい時間稼ぎでした。これで私は完全になれる。最も使わせてくれないことが一番ですが」

「貴様……まさか……」

「あとは名護新一を完全に押さえ込めれば私の完全勝利というやつです」

「…待てよ……」

「諦めなさい、名護新一は私に負けます。ですが世界平和は私が必ず実現させますよ」

 

 ARCは言葉を吐き捨てその場を飛び去る。その時の名護家の被害は奇跡、いやプログラムのせいだろう。重傷者はいたものの死者はゼロだった。

 

 

 

 

~現在~

 

「ということです」

「じゃあアイツはいつでも制限を解除できるってか?」

「そうです。あの方が本気を出した瞬間完全に止められなくなる」

「もう一つ見落としてますよ」

「なんだよ?」

「名護新一を取り戻す算段がなくなるということです」

 

 俺達は息を飲んだ。そうだ、それだけの力があるってことはいつでも本気で攻防が出きるようになるってことだ。そうすれば俺達に勝ち目がない。でも諦めたくはなかった。

 

「もうやめにしましょう。今度こそ時間の無駄です」

「んなことで諦められるかよ!」

「私の中の名護新一も言ってます。これ以上争わないでくれと」

「ッ!ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」

「やめろ快斗」

「あ!?いいのかよ!?」

「よかねぇ!けれどここは一度引くぞ」

「なんで!」

「大道様、私も賛成です。一度引きましょう。ARC約束しなさい。必ず新一様の身体を傷付けはしないと」

「いいでしょう。私にとってもこの身体は必要不可欠です」

 

 腕を引っ張られて連れていかれる。どうして俺はこういう時に役立たずなのか。あの人は俺を救ってくれたのに。睨んだ瞬間、一瞬だけアイツの目が変わった。鉄のような冷たい視線が一瞬だけ人の温かさを持ったような目になった。

 ──確信した。まだ新一さんは取り込まれていない。だったらまだ何か出きる筈だと。

 撤退した俺達は弦巻家に戻ってブリーフィングルームに入る。高城さんが既に色々と情報集めていたのかテーブルのモニターが準備されていた。

 

「二人ともお疲れ様。この人は?」

「初めまして、新一様の知り合いの一条です」

「ああなるほど、お疲れ様です。後程情報を頂いてもいいかな?今まで見てきた人の意見も欲しい」

「畏まりました。協力できることなら是非」

 

 一条さんと高城さんは握手して席に着く。それから机のモニターにさっきまでの戦闘の写真が映された。

 

「これが先程確認した名護君の姿だ。本人曰く禁忌だそうだ。名称は『ARtifact Clear UNIT』名護家最大にして最強の戦略殲滅兵装。あんな武装のどこにエネルギーが詰まってるのか知りたいところだよ」

「あの兵器は大気の熱や電気を吸収してエネルギーに変換します。コストが掛かったのであの一機しかありませんがそれでも自分で自給自足できるシステムです」

「だがデメリットは脳内にチップが無いと脳の許容範囲を越えてオーバーロードすることによる廃人化」

「でも新一さんは頭の中にそれがあるから兵器として成り立ってるって事か」

 

 そういうことだと高城さんが指パッチンしてくる。エネルギーを自分で作って使えるってことは俺でも分かる。かなりヤバイ。威力とか考えるとすぐに理解できるけど、簡単に言うと戦車が無限の弾持って燃料無しに動けるってことでしょ?もうヤバいって。

 

「ついでにアレについても聞けるかな?ARCが見せた技と名護君の使った技を」

「〈星閃天装〉はⅧを軸として二つのユニットを組み合わせた長剣です。見て頂いたとおり近くの光や熱エネルギーを変換しそれを収束して刃にして解き放つ。レンジと威力は言わずもがなです」

「あんなん当たったら体が真っ二つだな」

「もう一つは?」

「〈殲滅天装〉はⅧを矢にし三つのユニットを組み合わせた巨大な弓形の兵装です。元々高出力レーザーを撃てるⅡを基軸としてそこにⅧを狙い所に合わせて引っ張り放つとトリガーとなりより強力な高出力レーザーを放ちます」

「それが例の東京壊滅に繋がるのか」

「なんだって?」

「最大出力を出すと東京壊滅は免れないってさ」

 

 なんてこったと頭を押さえている。無理もない、俺も最初聞いた時開いた口が暫く閉じなかったから。現状確認されている武装は相手にしたらヤバい。その一言だけで片付きそうなくらい危険だった。そしてどうしてこんな状況になったのか、新一さんがARCを使用できるのかについてさらっと復習する。

 

「しかし、よくこんなものを開発したな、名護家は」

「……」

「すぐに対処出来るところはほぼ無いだろう。これが防衛手段として一機のみの開発だから良かったものの、軍事生産されていたら日本は世界から敵視されていたぞ」

「そうですね。流石に常軌を逸している気がします。いくら防衛のためとはいえ……その為に我々は各部隊に別れて訓練されているのですから」

「君が言いたいのはそこじゃないだろう?」

 

 一条さんの目が大きく開かれる。確かに今の言葉は裏があるように感じた。けどそれは別のことに対する込み上げてくる怒りを抑え込むように聞こえた。

 

「まぁちゃんと考えれば分かるけど、こんな非人道的な開発、普通ならあってはならないし、誰かに止められる筈なんだよね」

「それもそうだな。普通人間の頭の中にチップを入れて戦略兵器を作ろうとはしない」

「じゃあ新一さんの家がそこまで追い詰められてたってことか?」

「いやー、そんなことないでしょ。だって日本の裏防衛機関だよ?他国にも技術提供してるからパトロンは問題はない筈。となると大体答えは出てくる」

「……絶対的な力を持っておくってことっすか?」

「That light!という答えが出たんだけどどうかな、名護家の優秀な側近さん?」

 

 一条さんは目をそらすように戸惑いながらもしっかりとこっちを見て話した。

 

「……ARCを作り出すよう命じたのは先代の当主、新一様の祖父です」

「え……」

 

 なんで?その一言が俺の頭の中に浮かんだ。あまりにも信じがたい事実が聞こえると空気は重たくなった。

 

「いやいやいや、普通じーちゃんなら孫を可愛がるもんじゃねぇの?なんでそんなもん持たせてるの?」

「不比等様は……本来新一様を執行者に仕立て上げる予定でした。まだ就任なさっている頃に作るように指示を出されました」

「じゃあ名護の執行者ってのは皆あんな風になるのか?」

「いえ、それには別の理由がありまして」

「やめたまえ二人とも、彼を攻めてもなにもでない。何より当主命令となると逆らえないのは快斗も分かってるだろう?」

「それは、そうっすけど……」

 

 無意に責め立ててごめんなさいと謝ると一条さんは大丈夫と答えた。しかしだからといって新一さんがやられたことは許されることじゃなかった。

 

「話を戻そう。それで先代が名護君に施した物はなんだったんだい?」

「手術が二回行われました。一つは脳内にチップを入れる手術。もう一つは感情をなくす手術です」

「感情をなくす?」

「えぇ、純粋すぎた新一様がいつか人を殺したという罪悪感に苛まされないようにするためと。ですがそれはあまりに酷すぎると後から苦情を入れられある程度修復しました」

「それじゃあまるで完全に治ってないみたいだな」

「人の心をいじったのです。完全に治る方が奇跡といえるのかもしれません」

「それじゃあ治ってない部分ってのは?」

「……感情です」

「でも普通に感情表現出来てるような……」

「いえ、治らなかったのは感情の一部である恋情です」

「あん?」

「新一様は他の感情は取り戻されましたが恋情だけは取り戻せませんでした。勿論手術後にテストを定期的に行いましたが全部の項目でそこだけは入りませんでした。本人が支障がないから大丈夫だと言ったためテストは終りましたが回りから不安の声もありました」

「人間らしくないからか?」

 

 一条さんは頷くと話を続けた。でも俺の中で納得がいった。あれだけ近くに女子がいても平気、というか気付かないのは仕事柄だけじゃないこと。ボケてるのかと思ってたけど本当に気付いてなかったんだ。

 

「まぁとりあえずこの話はこのあたりにしておこう。問題はこっからだ」

「そうだね、何せ相手は戦略殲滅兵装。まともにやって勝てる筈がない」

「しかし不意打ちなどが効く相手ではありません」

「じゃあ正面から戦えって?」

「そうなりますね……」

「まぁ戦い方については私の方で考えておくから君達はとりあえず休みたまえ。心身ともにね」

 

 解散の意を伝えられた俺たちは部屋を出て長い廊下を歩く。何か話すかと思えば沈黙だった。それはそうだ、一番やりそうにない人物がとんでもないことをやってこんな状況を作ってる。

──いや、逆に危険性とかを全部知ってたからこそあの判断が出来たんだろう。俺が使ったとしても多分後先考えなかったと思う。こういうところもあるからあの人は尊敬されてるんだろうな。

 

「んじゃ、俺は帰るわ」

「了解、またな」

「おう」

「……お二人はいつもそのような感じですか?」

「んまぁこんな感じだわな」

「っすね、特にこれと言って会話するかって言われると」

「新一様がいたせいかそのように見られなかったので」

「あー、そうだな。何かと仲介してるような気はする」

 

 確かにそれはそうだと頷くと京はトーンを変えて話を続けた。

 

「でも俺はコイツを信用してる。あれだけ殺りあって分かった。コイツは馬鹿だがちゃんと考えられる。だから今回のことは一つ二つ言えばわかるってな」

「なんか癪にさわるけどそういうことっす」

「アンタだって新一のこと信じてるだろ?まだ諦め」

「あ!思い出した!」

「んだよ人が良いこと言おうとしてるのに」

「新一さんのことだよ。あの人まだ意識があるぜ!」

 

 



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Eightteen noise 微かでも希望を持って

「新一さんのことだよ。あの人まだ意識があるぜ!」

 

 ほんの最後の一瞬だったが確認できたことを言うと二人の目が大きく開いた。

 

「本当ですか!?」

「何を根拠にそんなこと」

「信じられないかもしれないけど、撤退する時に一瞬だけ笑ったんだ。でもあれは多分嬉しいとかじゃなくて悲しい笑顔で……」

「それは本当なのですね!?」

「あぁ、俺が見たのはそれだ」

「良かった……」

 

 一条さんは安堵すると俺を掴んでいた手が力が抜けたようにずり落ちていく。この人でもここまで動揺する事ってあるんだと呆気にとられる。しかし逆に京は呆れたようにため息をつく。

 

「全く、心配かけさせやがって」

「妙に落ち着いてんな」

「考えなしに使う訳じゃないだろうからな」

「信用してるんですね」

「まぁな」

 

 タバコでも吸出しそうなくらいハードボイルドな感じがした。でもそうだよな、新一さんはきっと取り戻せることを考えてあれを使ったんだろう。きっと、俺たちのことも信じてくれてるはず……だったらちゃんと答えなきゃと俺たちは自分たちの体を休めるところへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は名護家から奪った情報を基に私の責務を行っていた。世界の脅威を排除すること、それが私が生み出された理由。名護新一の戦闘データ及び脳波理論、エネルギー理論を基に作られた兵器である私は対象の脅威レベルを測り判断して対処する。活動エネルギーを考慮して休憩を挟みつつ今日は三件削除した。万全の状態なら五件は削除出来ただろう。しかし関東のみでこの量を可能としたのであれば一年あれば世界中の組織を排除することができる。

 ──しかし疑問が生まれる。その後私はどうなるのだろうか。今後発生を防ぐためにこのままこの体で生きていくのか、それとも私こそが世界の最後の脅威として処分されるのだろうか。

 考えるのを中断する。体が空腹を訴えた。人間の体である以上仕方のないことだ。時刻は二十三時──湊家に帰宅するのは論外、コンビニエンスストアで済ませるのは栄養不足になり得る。この状況で正しい判断を見つけその場所に向かう。店の上に迷彩をかけたユニットを待機させて入店する。この時間となると客の数も少ない、ファミリーレストランと言えど活気もなくなる。店員の指示を受けて適当な席に座る。メニュー表を選び注文表に書いていく。

 

「あら、あなたは……」

 

 声をかけてきた方を見るとロングヘヤーの金髪の女性がいた。名護新一の記憶を読み取り即座に照合する。

 

「白鷺さんですよね?」

「覚えていて下さったんですか?」

「当然です、忘れませんよ」

 

 白鷺千聖──以前名護新一が羽沢珈琲店で遭遇したことがある。勿論悟られないように名護新一を演じる。相手は一般人、巻き込む必要性もなければ向こうも知る必要なしと判定する。

 

「嬉しいです。ご一緒してもよろしいですか?」

「構いませんよ。しかしよろしいのですか?いくらこの時間とはいえ、アイドルが男と二人でいるのは危険だと思われますが。この時間だからこそとも言えますが」

「あら、気にしてくださるんですか?お気遣い感謝します。ですが大丈夫です、その時はあなたを女の人ということにすればいいので」

「ご冗談を。あまりそういう発言は慎むべきですよ」

「失礼しました。ご迷惑ですね」

「いえ、作戦内容が敵方にバレてしまいますから。ですが幸いここにはその職業の方はいらっしゃいませんので大丈夫ですよ」

「何故そんなことが?」

「簡単ですよ、客数が少ない分特徴を観察しやすかっただけです」

 

 人を見る際は様々な部分を見て推測する。隠している部分というのは動きに現れやすいのでその辺りも気をつけるととてもわかりやすい。

 

「なるほど……勉強になります」

「いえ、この程度。お食事は決めましたか?」

「え?」

「ご一緒するならここで頼んでしまいましょう。その方がきっと楽です」

「え、ええ、そうですね」

「普段の話し方で問題ありませんよ」

「わかったわ。名護君もいつも通りで構わないわよ」

「いえ、これが普段ですので」

 

 それから名護新一の皮を被り続けながら会話を続けた。日常的な趣味のことや先ほどの人間観察についての話など職業人としての会話が多く感じられた。やがて注文したものがテーブルに並べられる。その量を見たのか白鷺千智は目を丸くしていた。

 

「その量を今から食べるの?」

「栄養はきちんと摂らねばなりません。どのような時も」

「でもこの時間よ」

「その分もきちんと考慮しています」

 

 私の方に並べられる料理はリブステーキ、海鮮サラダ、カリカリポテトなどといった料理である。ライスを入れて七皿程度だがそれでも驚いているらしい。対する彼女はケーキを一つ頼んでいた程度だった。むしろそちらの方が心配だったが問題ないというので食事を始めた。結局それから話したことも先ほどと大して変わらず会計時に私が支払って店を出た。勿論お金は名護新一の財布から出した。体の所有権は今私にあるのだから私の金と言っても過言ではない。礼を言われその場で解散となった。

 すぐにユニットを使えば消化器官に影響を及ぼすと考え少しばかりウォーキングをすることにした。夜も深くなり始めるこの時間にであるている者などそうそういない。むしろこの時間に出歩いている者のの半分は犯罪者かもしれないと冗談を挟もうとすると背の低い女の姿が見えた。水色に近い色のボブカット、記憶の照合は倉田ましろだ。後を追いかけると一人公園のブランコに座りため息をついていた。少しだけその様子を伺うことにする。

 

「今日も学校の小テストだめだった……このままじゃダメだよね。新一さんと約束したもん、私の希望のために頑張るって」

 

 名護新一との約束…あの言葉か。サポートに入ろうとも考えたが必要ないと判断し引き返そうとすると足元に落ちていた小枝を踏む。パキという音がすると倉田ましろがこちらを見る。既にバレただろうと考え姿を見せた。しかして彼女の理想を壊すわけにはいかないとペルソナをつける。

 

「こんばんは」

「し、新一さん!?」

 

 倉田ましろは慌ててブランコから飛び降り地に足をつける。この子にとって名護新一はある種物語の王子様だと推測される。ならばそのように演じなければならない。

 

「奇遇だね、こんなところで会うなんて。でも女の子一人がこの時間に出歩くなんて感心しないな」

「ご、ごめんなさい……」

「ううん、大丈夫だよ。さぁ帰ろうか、送ってあげるから」

「そ、そんな悪いですよ」

「大丈夫、僕は問題ないから」

 

 手を差し出すと周りをキョロキョロと見てから私の手を取った。顔は赤く目を逸らしたまま何も喋らず送り届けた。おそらく予想通りだろう。声をかけた時の目線や体の情報が物語っていた。

 この男はいつもこうやって勘違いさせてしまう。だからある意味人類の脅威と言っても過言ではないしかし現状は私が体を操っているため、私が完全独立できるようになったら対処する。出なければような心理的な部分もだがこの男は武力としても個人でいる限り脅威となる可能性が高い。

 だからこそ最後に仕留めるのはこの男になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「名護さんが帰宅していない!?」

 

 学校での昼休み、私は湊さんから連絡を受けていた。衝撃的なニュースで驚きを隠せなかった。

 

『ええ、紗夜と燐子は見ていないかしら』

「見てない……です…」

「私も見ていません。鳴海さんには聞いたんですか?」

『聞いたのだけれど何も話してくれないのよ』

「心配ですね……名護さんのことですから問題はないかもしれませんが……分かりました。見つけたら引き留めておきます」

『ありがとう。それじゃあまた』

 

 電話を切ると白金さんが狼狽えている。とりあえず知ってそうな人に話を聞きに行こうとすると反対側から声をかけられる。

 

「紗夜ちゃん」

「白鷺さん、どうかしましたか?」

「今、名護くんの名前が聞こえたから何かあったのかしらって」

「名護さんを知ってるんですか?」

「ええ、二度話したことがある程度だけど」

「そう……なんですね……」

「昨日会ったわよ」

「本当ですか!?」

 

 驚いた、こんなにも近くに知ってる人がいるとは思いもしなかった。

 

「え、ええ……」

「どこであったんですか?」

「ファミレスよ、時間は夜の11時くらいだったかしら」

「そんな時間にいったい何を……」

「彼は知らないけど私は仕事で遅くなったから夜ご飯を食べに行っただけよ。そしたらいたのよ」

「何かしてませんでしたか?」

「特になにもしてなかったわ。夜ご飯を奢ってくれたのだけれど彼は食べてる量が凄かったわね……」

「どれくらい食べてたんですか?」

「テーブル一つ埋め尽くせるくらいよ。夜遅くに食べれるとは思いもしないのだけれど」

 

 その話を聞いて異変に気づいた。名護さんは規則正しく生きてるような人だからそんなことはしないと思っていた。しかし白鷺さんの話を聞いているうちに他の異変にも気づく。まるで自分の経歴を少しだけ見せているかのような話し方、その技術の提供。少しずついつもと違うことに気づく。

 

「白鷺さんから見てどうでしたか?」

「名護くんのこと?そうね……この間の印象とは違うように思えたわ。やっぱり話し方もうそうだし表情の作り方がなんだかロボットみたいだったわ」

「あれ、先輩方こんなとこで何やってんすか?」

 

 謎が深まる中やってきたのは大道さんだった。いつもみたいに制服を着崩してこっちに向かってくる。少し問い詰めたいところだが今は先に別のことを聞きたくなった。

 

「良いところに来ました。服装については後でシバきますが聞きたいことがあります。名護さんのこと、何か知ってませんか?」

「えぇ……どっちに転んでも俺シバかれんのか……」

「その様子だと知ってますね?」

「いえ、知らないっすよ。何かあったんすか?」

 

 湊さんからの連絡と、白鷺さんの話をすると顎に手を当てて考え込む仕草を見せる。いつも以上に真剣な表情に私は確信をもって質問する。

 

「大道さん本当は何か知ってますね?」

「えっ、いや、さっき言ったじゃないですか、何も知らないって」

「だったら何故そんなに考えているのか教えてくれませんか?」

「それはほら、新一さんのことだから大丈夫だろうけど何してんのかなーって」

「快斗、大人しく吐きなさい」

「いやだから、知らないって」

「快斗、私の言うことが聞けないのかしら?」

 

 白鷺さんが笑顔を見せると大道さんは縮こまってしまった。まるで躾られた犬のようだ。彼はふぅとため息を吐いてから諦めたように話し始めた。

 

「実は新一さん、とんでもないことをやらかしちゃってですね……」

「とんでもないこと?」

「まぁその辺は置いといて、そんでそれの責任を取るために一人で今何とかしてるんです」

「いつ戻ってくるとかって……」

「言われてないっすよ、けど大丈夫だと思うっす」

「根拠はあるんですか?」

「そりゃあ俺たちが、ちょっと待ってください」

 

 話の途中で電話が鳴ったのか大道さんがスマホを耳に当てた。だけど名護さんがそこまで責任を取らねばならないことっていうのはいったいなんなんだろう。一般人に怪我をさせた?でもその程度?もっと他に……と考えていると大道さんが急に窓の方に近付いた。

 

「先輩、あれっすね。目標確認しました、迎撃します」

「どうかしたの?」

「ちょっと今から仕事っす。出来ればこの部屋から出てこないで下さい」

 

 スマホをポケットにしまうと代わりにバックルを取り出して腰に着けた。懐からメモリを取り出してスイッチを押す。

 

『エターナル』

「変身」

『エターナル』

 

 白い姿に変わりマントを付けた大道さんは窓を開けて飛び出していく。

 

「ちょっと快斗!?」

「ハハハッ、これくらい大丈夫っすよ!」

 

 空中で綺麗に身を捻らせて着地する。そのまままっすぐ進む先にはファンガイアと言われる化け物がいた。大道さんはなんの躊躇もなくファンガイアに向かって走り出す。

 

「なんなのあれ!」

「白鷺さんは知らないんですか?」

「知らないわよ、逆になんで知ってるのよ」

「あれはですね……話せば長く……なります……」

「あんなの見てよく平気でいられるわね……」

「慣れですね」

 

 まさか私以外に学校で現れるなんて思いもしなかったがこれが現実なんだと受け入れる。

 

「彼が使っているのはナイフ?」

「みたいですね、でもあんなにヒラヒラしたマントを着けてよくあそこまで動けますね」

「よく弦巻さんたちと一緒にいますし……あれくらい余裕かも……しれません……」

「「確かに……」」

 

 不思議と納得がいくとファンガイアはステンドガラスのような色をして砕け散った。だがまだ事は片付いてなかった。



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Nineteen noise 人の造りし神

 ファガイアを倒した俺は先輩たちのところに帰ろうとすると拍手が聞こえることに気付く。辺りを見回すとまるで教主のような格好をした眼鏡の男が立っていた。

 

「お前、教師じゃないよな?」

「もちろん。下っ端との戦闘お疲れ様でした」

「その言い方ってことはファンガイアってことでおーけー?」

「よくお分かりで。私の名前はビショップ、チェックメイトフォーの一角」

 

 チェックメイトフォー……って事は幹部って事か。ヤバイな、今は人が一杯いるから派手に動けない。

 

「出来ればお帰り願いてぇけど」

「安心してください。私は戦いません」

「ならよかったぜ」

「代わりにこちらと戦ってもらいます」

 

 後ろに隠してた手を前に出すとサッカーボールくらいの光の玉を出した。それを中に浮かせて何かブツブツと言い始める。何かヤバイことをすると分かって切り掛かると光の玉からの衝撃を受けて跳ね返される。

 

「何やってやがる!」

「貴方が倒してくれた同胞と今までに死んだ同胞達のライフエナジーと遺片を集めてます。ほら、来ましたよ」

 

 空を見るとステンドグラスの集団が光の玉目掛けてやってくる。それは集まるとすぐに形を作っていき、最終的には学校よりもでかい化け物になった。完成すると叫びだし腕を振り下ろした。振り下ろされた場所は凹んでヒビが入っていた。

 

「さぁ、蘇りなさい我が同胞達よ。蹂躙しなさい」

「おいおいおいおい嘘だろ!?」

 

 化け物は腕を振り回して校舎を破壊するように動くのを見てどうにかしなきゃと考えた時、目の前に一本の光が見えた。化け物の片腕は地面にボトンと落ちた。俺と腕の間に黒い小さな影ができ、それは徐々に大きくなってやがて地面に足が着く。その姿を見ると新一さんの姿だった。

 

「脅威認定S、世界レベルの脅威と認定」

「アークなのか……?」

「大道快斗、ここは私に任せてください」

「待て、新一さんの体は」

「問題ありません。貴方はこの状況で何故動いていないのですか?」

「ッ!」

「人命の安全の確保が出来ないまま戦えばどうなるか分かっているでしょう」

「ちっ……」

「ですが時間を稼いでくれたことには感謝しましょう。──固有武装(ベリオット)

 

 ベリオットと言われた板を中心にして他の板がくっついて馬のような形をとる。それに跨ると槍を持って空を駆けていった。化け物と互角、いやそれ以上に戦ってみせるそれはもはや別次元の存在に見えた。途中で京と一条さんがやってきて状況を聞かれた。けれど説明する前に納得した様子だった。やがて機馬に乗ったアークが化け物の体を貫いて地に降りる。巨体な化け物は爆発しステンドグラスの破片は辺り一帯に雨のように降り注いだ。

 

「任務完了」

「お前は一体」

「どこまで力を隠し持っているのか、ですか?答える気はありませんよ」

「そこまで予測できるんだ。なら俺達が来た理由もわかるよな」

「もはや問答は無用でしょう。その心に刻むまでかかってきなさい」

 

 京がメモリを構えると奇妙な笑い声が聞こえてきた。どこから聴こえるのだと探すと白いスーツの男がこっちに向かって歩いて来ていた。ずっと下を向いているせいで顔は見えなかったが服装で誰だかは分かった。男はアークの前で膝から崩れ落ちるもアークの袖を掴んで笑っている。

 

「ついに、ついにその姿になりましたか!」

「伊坂深紅郎」

「お前、こんなところで何やってやがる!」

「私は貴方がその姿になることを心から待ち焦がれていた。ああ、やはり名護新一は運命から逃れられない!」

「五月蝿いですね、目障りです」

「そんな、私はこんなにも貴方を待っていたのに。この心は愛だとも言え」

「それは愛ではありません、ただの好奇心です」

「は?」

「貴方は自分の欲望のために他人すら犠牲にし自らの欲望を満たしていた。それはいつしか自己満足でしか生きられないようになるほどに。そして自らの研究にさえ飽きを感じていた貴方は見たことのない未知の化学と会うことだけが生きがいになっていた。だから現象がまだ不完全証明なガイアメモリや理論上でしか語られなかった私だけが貴方の生きる理由になっていた。違いますか?」

 

 アークの言っていることはさっぱりだった。けど論破しているのはわかる。論破された伊坂は狂ったように笑い始めた。

 

「そこまで言われれば仕方ありませんね。これを使いましょう」

「完成していたのですか」

「一条さん下がってろ」

「あれはもしや」

「ああ、あの時も見た化け鳥になる気だ」

「ここまで愚行を重ねるとは……呆れてしまいます」

「安心してください、貴方は私の鳥籠の中で一生研究させてもらいますよ!」

『ケツァルコアトルス』

 

 コウモリの羽がついたメモリを手にぶっ挿した伊坂は姿を化け鳥にアーク目掛けて突っ込んできた。アークはすぐに機馬に跨って空に上がる。それを追うように俺たちのいない空中でバトルが繰り広げられていた。それを見ている俺たちに校舎から出てきた紗夜先輩たちが声をかけてくる。

 

「大道さんあれって!」

「そうっす、あの野郎が来ました」

「今戦っているのは誰なの?」

「それは……」

「あれって………新君……!?」

 

 最初に気づいたのは白金先輩だった。流石というべきか何故見えたというべきか。それはそうと置きつつも今起きている事について話すしかないだろうと俺は話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 部が悪い。ケツァルコアトルスドーパント、伊坂は私のⅥの固有武装と互角の機動力を持っている。流石は太古の空を支配したものの力か。どちらにせよ今の状態では時間がかかってしまう。そうなると町への被害が考えられる。ならば致し方ないと断定。Ⅵの形態を解除して機動装置(コード)を唱える。

 

「聖者 悪に染まれども 清らかな姿にて 全てを滅ぼす者になりえん」

『機動装置確認〈聖魔結晶(ジブリール)〉展開』

「アァァァァァ!!」

 

 伊坂の声を無視してスーツを展開し着装する。ⅠとⅢをⅧに合体させ右手に、ⅡとⅦを組み合わせて左手へ、Ⅳを腰部へ、ⅤとⅥを結合させて背部へと装備し完全体になる。これこそ私の中の禁忌、体を瞬時に廃人にさせる可能性が高い最大の諸刃の剣。

 

「着装〈聖魔結晶(ジブリール)〉」

「あの武装って…」

「本当にこのようなことになってしまうとは」

「なんか知ってるのか?」

「ああなって仕舞えば止めることは不可能です。仮に助けられたとしてその時に新一様の体は」

「ッ!?」

 

 下にいる者達の声が聞こえる。実際に答えはしないが問題はない。タイムリミットまでにこの怪鳥を葬ればいいこと。左手で構えて撃つと飛翔して交わされる。けれどおそらくフェイクだと気づいていないのだろう。向かう先には私が剣を構えているのを知らない。分身などしていないただ飛んで移動しただけだ。嘴目掛けて叩き落とすように剣を振ると直撃して地面のほうへ落ちていく。その最中にうまく身を使ってまた空へと戻ってくる。そう出来る様に叩き落とした甲斐がある。

 

「ガアアアアアア!!!」

「そうですね、では終わりにしましょう」

 

 左手にあるⅦの機能を使って自らを中心とした四角形の結界を作る。ユニットをⅧを残して展開し発砲する。羽を、足を、体を貫く光線を番号順に回るように斬り裂いて行く。すべてのユニットを回収すると結界を解除する。真上にいる巨躯は頭上に降ってくるがそれを裂くように一閃入れる。

 

『Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ・Ⅵ・Ⅶ・Ⅷ、全装(オール・ブレイブ)

 ────この力は人が偽神()を顕現させたもの

 ────────灰塵と化せ、《偽神の雷剣(イミテーション・ケラウノス)》』

 

 光の刃はケツァルコアトルスの体を裂き暫く空に上がると形を変化させて球状になった。指をパチンと鳴らすとそれは落雷のように形を変えて伊坂の身体を貫いた。貫かれた体は爆発し人間体が地に落ちる。メモリブレイクの機能が無い故降ってきたメモリを砕くと伊坂が苦しみ出す。彼の体は黒い塵となり最後は笑いながら消えていった。最後まで自己満足で解決したかと聖魔結晶を解除して通常状態に戻すと二人のライダーに囲まれる。

 

「あんな大技すぐに何発も出せないよな!」

「いいんですか?名護新一の体がどうなっても」

「それは困るがお前はそんなことしない」

「何故です?」

「お前が散々ヒントをくれたお陰で気づいたぜ。『体が死んでも動かせる』それはそうだ。脳ってのは要は電気信号で指示を出しているんだからな。けどな、それは脳細胞が生きているうちだけだ。死ねば心臓は止まり酸素が脳に行かなくなることから脳細胞は徐々に死んでいく。そうすればお前はその体を満足に動かせない、違うか?」

「この短期間でよくその答えまで辿り着けましたね」

「一応探偵なんでな」

「それで?結論としてこの体が滅んででも私を倒すのでしょうか?」

「っ……」

「その点は評価に値しませんね。では改めまして、貴方達の心に刻んであげましょう」

 

 鳴海京が答えを導き出したもののどうするべきか迷っている彼らをユニットが囲む。最悪それを煙幕にして逃げるというのも一つの手段ではある。発砲許可を出そうとした瞬間だった。

 

「やめてください!」

 

 水色の髪の少女がこちらに向かって走ってきていた。氷川紗夜、意外な人物の先頭への乱入は想定外だった。

 

「名護さん、こんなことはやめてください!湊さんが心配しています!」

「氷川先輩、逃げてください」

「馬鹿っ、おい氷川、何やってんだお前!」

「何故戦えもしない貴女がここに?」

「確かに私はこの場において彼らのお荷物かもしれません。しかし心は彼らと一緒です、だからこそ連れ戻しにきた」

 

 ──しまった。彼女は世界の脅威にはならない。そうなるとかなりまずい。おそらくバレる事にはなるがここで体を失うよりかは遥かにマシだと判断する。

 

「…彼女の愚行に感謝しなさい。今日はこの程度にしてあげましょう」

 

 ユニットを片付けてⅣを水平状にしてその上に乗って私はその場から去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで……」

 

 俺は疑問でいっぱいだった。何故先輩が戦場に来たら撤退したのか。先輩を見た時の目の開き方がとても人間らしかったこととか。

 

「おい、シリアスに考えるのやめろ」

「いや今はシリアスに考える場面じゃないの?」

「コイツは無理に考えない方が楽だろ」

「でもよ、アイツなんで紗夜先輩見たら帰ってったんだ?」

「それはおそらくアークの機能の問題でしょう」

 

 ハッと閃いたのか一条さんが口を開いた。どうやらアークは本当に世界への脅威しか対応しないらしい。俺たちは自分に対しての害であるためそれを排除するのは当然のことだが戦闘力のない者には攻撃はいっさいできないらしい。

 

「本当にロボットみたいだな」

「生あるロボットだからな、今は」

「ですがこれで」

「ああ、アイツがある程度自白してくれたおかげで戦いやすくなったぜ。最悪の場合消耗戦になるがその時はその時だ。俺が死んででも引きずり戻してやる」

「死んだら意味ないのでは?」

「テンプレートな質問どうも。ところがどっこい、俺の場合はちょっと違うんだよなぁ」

「じゃあ俺もそれまでにもう少し捕獲手段考えとかないとだよな」

「そうだな今の戦法だけじゃ正直心もとない。一条さんは他の方法を知ってるか?」

「前回の捕縛作戦では強力な結界でどうにかなりましたが今回も同じものを使ったらダメだったと本家が言っておりますし」

「すみません、私から提案があるのですがいいですか?」

 

 その提案を出したのはまさかの紗夜先輩だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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Twenty noise 覚悟/氷色のギタリスト

「提案ってのは?」

「私を…名護さんの元へ連れていって下さい」

 

 氷川が突然変なことを言い始めた。予想は出来ていたが頭が一瞬真っ白になる。

 

「えっ、ちょ、氷川先輩正気ですか?」

「ええ、正気です」

「氷川さん……危ないです……」

「そうよ紗夜ちゃん。あなた何言ってるか分かってるの?」

「勿論です。ちゃんと分かってて言ってます」

「バーカ、それで分かった行こうぜってなるわけねぇだろ。お前がなんでそんなこと言ってんのかは知らねぇけど簡単に連れていけるはずねぇだろ」

 

 確かに囮には使えるかもしれない。アイツの特性上一般人には手を出せないはずだ。しかしそれをして新一を救ったとしてもアイツはきっと許さないだろうな。それに万が一のことも考えると余計連れていけない。

 

「氷川様、新一様のことでそのように考えられているのでしたらそうする必要はございません」

「ですが」

「もしアークのせいでお前がひどい傷を負ったらアイツはどう思う?」

「それは……」

「きっとご自身をを責めます。ですから危険な真似はお辞めください」

 

 氷川はやめろと言われて黙り込んだ。だがこの状況ではこれが最善かもしれない。無理に止めるよりかはこっちの方がきっと分かってくれる。

 

「そういえば……なんでアークは仮面ライダーにならなかったんだろう……」

「名護君も仮面ライダーなの?」

「ええ……言われてみるとそうですね」

「それは新一さんがベルトを壊されたからあれを使ったわけで…」

「なるほどね……そのベルトは今どこにあるの?」

「……修理に出しております」

「!そのベルト、直れば使えるんですよね?」

「氷川様、まさかとは思いますが」

「それを渡してください」

 

 その発言を聞いて流石に呆れた。言っていることの意味を理解していないのか、それとも無視しているのか。いい加減にしろと言おうとすると先に一条さんが話し始めた。

 

「氷川様、その台詞は聞き捨てなりません。正気ですか?」

「何度も言いますが本気です」

「何故そのようなことを」

「私は、助けて欲しいと言えなかったのに彼は手を差し出してくれました。そして私だけでなく日菜も救ってくれた。今の彼は私と同じだと思うんです。だからこそ助ける手伝いをしたい。出来ることは少なくても、身体を張ってでも助けたいんです」

「氷川さん……」

「先程、鳴海様は言葉を優しくされましたが、もしかしたら命を落とすかもしれないのですよ」

 

 それでもやるとやる気に満ちた目をしていた。だとしても今出来ることなどないと俺は思った。

 

「畏まりました、少々時間を下さい。放課後に迎えに参ります」

 

 一条さんが後ろを向いて歩いていくと予鈴がなった。とりあえず後で話そうということになり全員校舎に戻っていった。しかし俺はゆっくりと学校を出ていく。それはそうだ、もう遅刻確定だし今から急いでもどうしようもないだろう。

 歩いている最中どうしてもあの言葉が気になった。時間をくれという言葉、もしやとは思うがそれはないだろうと否定する。余計な考えは辞めといた方が良いだろうか。しかしそれが気になって仕方なかった。

 放課後になり念のため花咲川に向かうと一条さんと同じタイミングで校門前に着いた。背中には大きめの黒いリュックサックを背負っている。そのまま何も触れずに氷川を待つと昼間と同じメンバーを連れて出てきた。

 

「お待たせしました」

「いえ、大丈夫です。あまり人目に着きたくないのですがどこか良い場所はありますか?」

「それでしたら……」

 

 白金が校内に案内すると連れてこられたのは生徒会室だった。

 

「今日は生徒会はないそうなので……」

「あれ、燐子先輩って図書委員ですよね?」

「クラスメイトの人が……言ってたのを聞いて……」

「なるほどね、とりあえず入りましょう」

 

 ガラッとドアを開けると本当に誰もいなかった。鍵は快斗がピッキングして開けた。取りに行くのも面倒だし何か聞かれたら尚更めんどくさいと気を利かせてきた。やってることは犯罪だがこの際気にしなかった。それぞれが席につくと一条さんが話を切り出した。

 

「時間もないので本題に入りますが氷川様、昼に仰ってたことは本気ですか?」

「本気です」

「こちら側に踏み込めばもう二度と同じ世界に戻れない。それでも二言はないと言いきりますか?」

「私の意思は変わりません。何度言われようとも諦めません」

「分かりました。では、貴女にこれを」

 

 そう言って一条さんは鞄から銀色のアタッシュケースを取り出して机の上に置いた。それを氷川に渡すと開けるように促す。パチンパチンと開けると中にはこの間壊された新一のベルトが入っていた。

 

「これは……!」

「なんで直ってんだよ!?」

「これは……本来名護家が独自に開発していたシステムです。ブラッシュアップの為に海外支部に送っていたのですが海外支部は使用者を偽名を使用して報告していました。私が初めて見たときに発覚し、新一様には報告せずに経過観察に回しました」

「じゃあ今までのデータは全部」

「こちらで回収済みです。一応極秘のため皆様にも黙っておりました」

「まるで仕組まれてたみたいだな」

 

 しかしそうなるとアイツはどうやって……いや、今はそんなことはどうでも良い。それよりも目の前の事だ。

 

「で、アンタはそれを氷川に渡してどうするつもりだ?」

「お望みならば渡して差し上げようと」

「何考えてんだ!」

「我々名護家はそういった意思を持つ皆さんを後押しする財団でもあります。故に氷川様が望むのであればと用意したまでです」

「だからって」

「一条さん、ありがとうございます」

「紗夜ちゃん!?」

 

 氷川は一緒に入っていた説明書らしき冊子に目を通し始めた。時々部品を掴んで物を照らし合わせている様子に全員が愕然としていた。こうなってしまっては仕方ないかと腹を括る。今の氷川を止めることは出来ないいやむしろ止めることなど出来ないだろう。

 

「おい、いいのかよ」

「よかねぇよ。けど割り切らなきゃいけないって事もあるって話だ。おい氷川、聞いてくれ」

「何でしょうか」

「もうお前を止めるのはやめだ」

「いいんですか?」

「何言ったってお前の意思はどうせ変わらない。だったら好きにさせるのが一番だろ。だからこそ条件がある」

 

 条件という言葉を出すと氷川は目を鋭くさせる。難しいことは要求しない、戦場に初めて行く、成り立て一般人び要求することと言えばこれだと思う。

 

「勇気と無謀を履き違えないこと、無理はしないこと、危険だと思ったらすぐに助けを呼んで逃げること、いいな?」

「分かりました」

「ちょっと鳴海君?あなた本当に紗夜ちゃんを連れていくつもり?」

「そうだが、文句あるか?」

「文句も何もそんな危険なこと許されるはずないでしょう!?」

「意思を固めた人間を他人がどうこうできるはずがないって事はお前もわかってんだろ」

「っ」

「だからこそ連れて行くんだ。何かあった時は俺が責任を取る」

「白鷺先輩、俺も氷川先輩のことサポートをしますんでここは任せてもらえませんか?」

「……わかったわ」

 

 白鷺は引き下がるように席に着いた。まぁ納得出来ないところは多々あるだろうけど俺達もその分きちんと働く。先ほどから静かにしている人物に目を向けると何か言いたそうだった。

 

「白金は言いたいこととかあるか?今のうちだぞ」

「!私は……氷川さんみたいに…強くないから……けど、その分応援したいです……!」

「白金先輩……」

「だから氷川さん……新君のこと、よろしくお願いします…!!」

 

 白金は氷川に向かって礼をすると氷川も礼をした。これは余計頑張らないとだなと考えつつある程度パターンを作っていた。どんな状況なら助けづらいか、逆にどうすれば守りやすいかなどを考えた。氷川が冊子を読み終えると片付け始めた。保管は一条がしておくとのことで戦場では二人が合流したら参加することになるだろう。学校を出て解散すると俺は一条の元へと向かった。すでにバイクに乗り始めていたヤツに声をかけた。

 

「ちょっといいか?」

「構いませんが」

 

 降りるようにサインすると大人しく降りてくる。その瞬間をグーで顔面狙って殴るとバイクの方に後ろから倒れ込む。

 

「今の、避けられただろ。何で避けなかった」

「今回のは避けずに受けるのが通りだと考えました」

「理由はわかってるみたいだな。アイツの意思とはいえ新一が傷つくだろう手段を取るのはのは避けるべきだっただろ」

「らしくないと言われるかもしれませんが、賭けに出ています。新一様の意識があるなら彼女は絶対に傷つけまいと」

「フン、その賭け、一緒にベットしてやるよ」

 

 手を出して立ち上がらせて俺は帰路に着いた。

 新一、お前の意識がまだあるのなら、絶対に戻ってこい。でないとお前が──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見ていた。辺りは荒野一帯で多くの武器が地に刺さる。人の山に立つ(名護新一)は手に刃を持って遠く昇りかけの太陽を見ている。まるで虚無に満ちたような感覚、感情やそれに関わる感覚がないはずの私がこのような感覚を得るということは人間の体に馴染んできたと言うことなのだろうか。よもや夢を見ることになろうとは……。

 起き上がり時刻を確認する。A.M.05:00、早くに起きてしまったがいいだろう。あれから約三日経つ、服装を変えるべきだろうか。きちんと水で洗いユニットを使い乾かしていたがそれだけではダメなのかもしれない。一度湊家に行って服を帰るべきと判断して移動する。

 湊家に着き鍵を開けて入る。家の中は物静かだった。当然だ、この時間湊友希那は起床していない。だからこそ今のうちにと部屋に行き着替えを取る。他に回収すべきものを考え回収して部屋の外に出ると階段下にいるのを確認する。正体は湊友希那だった。センサーが鈍った、いや、ユニットを外に出しているからだろう。まだ人の気配には感覚的に気付けないらしい。

 

「戻っていたのね」

「ええ、今しがた」

「どうして帰ってこなかったの?」

 

 今の私の正体を言えばどうなるだろうか。おそらく面倒は避けられない。ここは穏便に済ませよう。

 

「少しばかり手間取らせてしまって」

「らしくないわね。まぁいいわ、帰って来たのなら仕事をしてちょうだい」

「……畏まりました」

 

 すぐにでも戻るなんて言えばより面倒なことが起こると考えいつもの(・・・・)フリをする。その後は名護新一を演じるように接した。学校の制服に着替え今日は登校するまで同行することにする。後のタイミングで離れることにしよう。家を出て戸締りをする。すると今井リサと合流した。予定外だがこの体の日常では想定内だ。

 

「新一どこ行ってたの〜?友希那すっごい心配してたんだよ?」

「ごめんね、ちょっと色々とあってさ」

「ホント心配したよー、けどこれで大丈夫だよね」

「うん、しばらくは大丈夫だと思うよ。ごめんね」

「ここのところ友希那ウチでご飯食べてて少し物足りなさそうにしてたんだから」

「申し訳ございませんお嬢様」

「いいえ、仕方ないわ」

 

 なんの問題もなく会話ができている。これなら難なく抜け出せるだろう。一般人を巻き込まないようにするためにもこの手段は致し方あるまい。少なくとも用が済めばこの体は返すつもりだ。終わるかどうかはまた別の話だが。

 

「ところであなたは誰なの?」

「……」

「友希那?何言ってるの?」

「お嬢様、何方に対しておっしゃられているのですか?」

「あなたよ、新一」

 

 体は名護新一、中身はARC()だがバレるような素振りは取っていないはず。出鱈目だろうか?

 

「何をおっしゃっているのですか。僕はこの通り」

「少し、言葉が丁寧すぎるのよ」

「?」

「私はあなたに対して直すように伝えていたはず。最近砕けてきてはいたけど前に逆戻りしているわ」

「それは先の件から少し気を引き締め直そうとですね」

「それにあなたは笑ってない(・・・・・)のよ」

「………」

「いつものあの顔じゃないの。私が何を言っても笑っていたあの顔じゃないのよ。まるで機械のようになってしまったみたい」

「で、でも友希那、新一だって疲れてるかもしれないじゃん」

「あの人が疲れているくらいで表情を変える人だったかしら」

 

 そこまで再現できていないとは。油断、いや、他者からの情報は名護新一の脳からは取れない。それに笑うとはどうすればいいのか。なるほど、機械の私にとって弱点はそこだったか。バレる前にどうにか挽回するべきだろう。どう声をかけるべきかシュミレートしかける言葉を決めた瞬間邪魔するものが現れる。

 

「湊、今井、ソイツから離れろ!」

「え、京!?」

「ソイツは新一じゃねぇ!」

「…………」



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Twentyone noise 絶・望・降・臨

最近投稿時間ミスること多いな……ストックはたまってるのに……そういえばアークさん、なんで技名が天使の名前なんですか?

「設計者によると〝せめて安らかに死ねるように〟だそうですよ。実際の戦場では魔王という声が聞こえましたが」

まぁやってることはかなりエグいですからね。
では最新話どうぞ!


 巨大な怪鳥が朽ちていく中私は撤退していた。今回白騎士が出てくる事はなかったが代わりに奇妙なものを見た。あれは人類の兵器なのだろうか。だとしたら何故今まで白騎士を使って我々に対抗していたのか気になるところではある。どう見てもあの兵器は量産できる物ではないがその分兵器としての理には適っている。だがあれは放置しておけばかなり危険なものになりかねない。

 考えながら歩いている私の前に一人の青年が横切って行った。その青年は先程のスーツの男が持っていたようなスティックを手で回転していた。もしやと思い私は後をつけてることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソイツは新一じゃねぇ!」

「……」

 

 京が銃を持って構えている。新一は何も反応せずリサは慌てていた。この状況で慌てないってことはやっぱりこの人は偽物なのね。

 

「ちょ、ちょっと京、何やってるの!?」

「いいから離れろ。じゃねえとお前も巻き込まれるぞ」

「芝居はこの辺りにしましょうか」

「ほ、ほら、こう言ってるしさ」

「いえ、やめるのは私と鳴海京です。そろそろ人の感覚が分かり始めて来たと思ったのですが」

「え?」

 

 新一は鞄を地面に置くと指を鳴らした。その瞬間周りに変な板が出てきて姿を変えた。

 

「ど、どうなってんのこれ!?」

「簡単に言うとなればもう名護新一はいないということです」

「えっ?」

「鳴海京、そこまでして演技をしたことは誉めて差し上げましょう」

「んなもんいらねぇよ。お前が人質取る前にこっちが取っただけだ」

「…やはり機械に人の心など解らないモノですね。ですがその方が楽でしょう。かつて名護不比等が考えたように」

「今は見逃してやる、とっととどっか行け」

「お言葉に甘えましょう。それでは」

 

 新一?は宙に浮く板に乗って何処かへ飛んでいってしまった。あれは本当に新一ではなかったのだろうか。でも今までとは違う感じがする。その不確かな感覚を抱きながら京に質問する。

 

「今のはどういうことなの?」

「……」

「新一に何かあったの?」

「…何もねぇよ」

「嘘よ、あれは新一だったもの」

「見た目はな。それ以外は偽物だ」

「そうね。そろそろ話してくれてもいいんじゃないかしら」

「んなことより学校遅刻すんぞ」

「話を逸らさないで」

「これ以上は関わらない方が」

「アタシたちだって心配なんだよ!」

「……行くぞ、歩きながら話してやる」

 

 帽子を伏せて歩く京の後ろをついて行きながら私たちは話を聞いた。新一は知らないところで無茶をして今は体が乗っ取られていること。下手をすれば新一は二度と戻ってこなくなること。そして相手は一瞬で街を滅ぼせる相手だということ。最初は信じられなかったが話を聞いていくうちに信じられていた。あの人なら確かに人を守る為に自らを犠牲にするだろう。

 

「腑に落ちてる顔をしてるな」

「えぇ…そうね……」

「まぁお陰でこっちは毎日ボコされてるってわけよ、恥ずかしながらな」

「にしてはそっちも悔しそうじゃないね」

「いや悔しいぜ。勝てないレベルの強さ、圧倒的な差を目の前で見せつけられてんだ。でもアイツを取り戻さないといけないんだ」

「京……」

「じゃないとやられた分仕返さなきゃ気がすまねぇしやった分説教だ、お前らの分も含めてな」

 

 フンと鼻を鳴らす京はまだ希望を捨てていないようだった。私も諦めてはいなかった。新一ならなんとかして戻ってきてくれると信じているから。でも聞いている限り彼一人ではどうにかすることは厳しそうだ。

 

「私に何か出来ることは」

「ない」

「即答!?」

「聞いての通り言っちゃ悪いが相手は歩く核兵器だ。お前らがどうこう出来る相手じゃねぇ」

「で、でも……」

「いいから待っとけ。俺たちがシバいた後に帰れるところがあった方がいいだろ」

「…わかったわ」

 

 受け入れ難かったけど納得すると学校に着く。ちょうど予鈴がなるタイミングで急がないと遅刻すると全員で校舎に向かって走り出した。

 学校での時間は憂鬱で、それでも時間はあっという間に過ぎて放課後になっていた。今日は練習があるためサークルに向かうと近くで爆発音が聞こえた。そっちの方へ向かうと近くのビルが崩れ落ちてきた。

 

「友希那っ!」

 

 リサがこっちに向かってくる。

 ──ああ、ダメ。あなたまでこっちに来たら一緒に下敷きになってしまう。お願いだから来ちゃダメ。

 私の思いなど通じるはずもなくこっちに向かって走ってくる。ダメだ、このままじゃ二人とも死んでしまう。

 ──何でこんな時にあなたはいないの?あなたならきっと私たちをどちらも助けてくれるんでしょう?ねぇ。

 ────助けて、新一──────

 

「〈城塞天装(ザドキエル)〉」

 

 いくら待ってもビルが私たちを潰すことはなかった。空を見上げてみるとまるで氷のような空が私たちを見下ろしていた。その上を大きな光が過ぎ去っていく。そこにあったはずのビルは綺麗さっぱり消えていた。何が起きたのかわからない状況で後ろからストンという音が聞こえてきた。振り返るとそこには新一らしき人が立っていた。朝来ていた制服とは違い特別なスーツのようなものを着ている。そうだ、この人は新一じゃない。話に聞いていた人工知能だ。

 

「全く、何故貴女方がここにいる」

「あなたは……」

「早くここから去りなさい。さもなくば命の保障はありません」

 

 周りに板のような物を浮かべてそのうちの一つに乗って飛んでいく。その姿を見ていると遠くから呻き声のようなものが聞こえる。その方向を見てみると巨大な化け物が浮かんでいた。アークは板を集めて弓のようなものを作り上げると怪物に向かってその矢を放つ。それは巨大な光となって怪物を貫いた。怪物は爆発してガラスを撒き散らした。地に降りたアークはそのまま歩いてどこかに行こうとしていた。だけどその前に快斗が現れる。

 

「またですか。本当に聞き分けの悪い」

「人間ってのはそういうもんだろ」

「皆が皆そうとは限りません。それに人間だけ出なく生物全体にも言えることでもあります」

「ご丁寧に時間潰しご苦労様だぜ」

「お前にしてはなかなかやるな」

「タイミングが良かっただけだ」

 

 京まで道を塞ぐとアークは呆れるような仕草をする。

 

「やはり人間は理解し難いですね。もう諦めるべきではないですか?私に危害を与えなければこの体は確実に安全に保たれます。完全なる管理の下、名護新一は生きていけるのです。貴方達だってその方がいいでしょう?」

「それは生きているって言わねぇんだ」

「新一さんの意思がない限りそれはただの人形なんだよ」

「ふむ、確かにそうとも言えますね。それでいつまで時間稼ぎをしているのですか?」

「もう終わりだぜ。なぁ?」

 

 こっちを見る京たちに疑問を抱くと二つの影が私とリサの間を過ぎ去っていく。誰が通ったのだと見てみると後ろ姿だったが片方はしっかりわかった。ターコイズブルーの長髪、花咲川の制服を着た後ろ姿は間違いなく紗夜だった。もう一人は少し紫がかった黒い髪のスーツを着た男性でよくは分からなかった。何よりそれを見て一番に反応したのはリサだった。

 

「紗夜!?」

「今井さんたちは下がってて下さい」

「氷川様、鳴海様の言いつけをお守りして頂けるようお願いいたします」

「わかっています」

「氷川紗夜?何故貴女がここに?」

「答えはわかってんだろ」

「名護さんを…あなたから取り戻すためです」

 

 紗夜は腰に何かを巻くと拳を掌に合わせた。私たちは何が起きているのだと場所を変えて見てみると紗夜の手には新一が持っていたものがあった。なんで紗夜があれを持っているの!?

 

『レ・デ・ィ』

「変身!」

『フ・ィ・ス・ト・オ・ン』

 

 その瞬間紗夜は仮面ライダーと姿を変えた。手に持っている剣を振り翳しアークに向かって剣を向ける。他の二人も変身してアークに向かって戦闘態勢をとる。

 

「その体、名護さんに返しなさい!」

「(イクサシステムは本来基準値を超えている肉体を持つ人間にしか装着出来ないはず。しかし女子高校生が使えている現状を考慮すると…)なるほど、そう来ましたか」

「少しは驚いているみたいだな。想定外か?」

「そうですね。私の想像を越えたことは評価に値します。しかし現状それだけです」

 

 アークは浮かべていた板を京と快斗に向けて飛ばしビームを撃ち始めた。二人はそれを防ぎながら板と戦っている。

 

「氷川紗夜、貴女から相手をしてあげましょう。さあ、持てる力全てを出しなさい」

「手加減などありませんよ。名護さんを返してもらうために!」

「ねぇなんで紗夜が戦ってんの!?」

「私だってわからないわ……」

 

 紗夜は走ってアークに斬りかかる。手に槍を持っているアークは躱して挑発するような態度をとる。なんで紗夜があれを持っているのかさっぱりだった。けどあそこにいる男の人…新一の部下だった人がいることを考えると納得がいくかもしれない。躍起になる紗夜は剣を振り続けるが無意味なまでに当たらなかった。聞いた話だとアークは人工知能、そんな相手に勝てるのかさえ不安になってきた。

 

「伏せろ氷川ァ!」

「「!」」

 

 京の声がする方向から大きな紫色の骸骨が飛んできた。紗夜は伏せてそれを回避するとアークはそれを槍で突いた。槍の先で爆発は起き二人は見えなくなった。しかし煙幕を振り払うように剣を振った者がいる。それは紗夜だった。空を裂くその刃をアークは後ろに飛び避けようとする。

 

「前が見えない中その動きをするとは、戦場が初めてにしては中々やりますね。しかし彼女よりもプロの貴方方の動きは見え透いている」

「チッ」

「やっぱりかよ!」

 

 後ろからやってくるパンチを槍で受け止め、紗夜の上からやってくる京のパンチをもう片方の手で掴んでいる。私だったら絶対あそこまで反応できない。なのにあそこまでやってのけるということはやっぱりあれは人工知能が入っているということなのかしら。でも二人からは諦めない声が貼り上がってくる。

 

「「今だ氷川(先輩)!!」」

「はい!」

 

 紗夜は右手に変身するときに使っていたものを取り出していた。いつ手を変えたのだと思って左手を見てみると逆手持ち(・・・・)だった。最初からそうだったんだ。元から逆手で斬っていたから居合い抜きしているように見えたんだ。それから二人というブラフを貼ることによって紗夜の動きに気を向けないようにしていた。こんなのいつ打ち合わせしたの?じゃないとこんな動きできないはず。

 

「ユニットが反応しない、どういうことでしょうか」

「俺がちゃあんと凍らせといたぜ!」

「なるほど、凍結による機能障害ですか。オートでも急激な反応に遅れをとってしまったとは」

「それ以上に俺が早かったなぁ!」

「なるほど、これを狙っていたのですか」

「いいや、偶然が重なっただけだ!」

「元からユニットは俺たちで引きつける予定だった。けど氷川の方を見た時にキツそうだったから援護したらあら不思議!」

「なるほど、これが人の協調性……いえ、偶然だというのなら人が創り上げる奇跡(キセキ)とでもいうべきでしょうか」

「茶番はここまでだ!いくらお前でもこの距離ならバリアは貼れないな!」

「やってください、先輩!」

「ハァァァァァ!」

 

 偶然が重なる連携がアークを追い詰めた。この一撃で全てが終わることを祈った。だけど現実はそうはならなかった。アークはニヤリと顔を歪ませた。

 

「完璧です、人間にしては。だがそれ以上に貴方達は、人間だった(・・・・・)

 

 アークは槍を持っている右手を背中からお腹の方へと体の内側へ引き寄せ快斗を薙ぎ払う。その勢いで紗夜の攻撃を防いだ。目の前にいる二人はその動きに驚きやってくる攻撃に反応が遅れてしまった。三人は変身が解除されて地を転がった。

 

「私を人間の脳だと勘違いされていては困る。名護新一(この身体)の脳には私のためにチップがあることをお忘れか?」

「くっ……」

「なんで……」

「通常のAIを超える演算領域を作るためのシステム。せめて私の体を拘束していればトドメは刺されていたでしょう」

「嘘だろ……」

「それにこれは名護新一の体。制限をかけているみたいですがそれさえ無くして仕舞えば貴方方では太刀打ちできないでしょう」

「だからあんな動きができたってか?」

「そうかもしれませんね」

 

 アークは槍を手放すと槍は他の板のところに向かって飛んでいき氷を砕いた。その拍子に出て来た板たちはアークの周りに浮かんでいる。無表情だった顔が今では悪魔が笑っているようにも見える。

 

「貴方達は私の想像を二度も越えました。これはかなりの評価に値します。故に私自ら葬ってあげましょう」

「なっ……!」

「これは私からの、個人に対する初めての手向けです。ありがたく受け取りなさい」



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Twentytwo noise Catastrophe Banquet

題名でお察しの通りあの曲を待機しておいてください


「これは私からの、個人に対する初めての手向けです。ありがたく受け取りなさい」

 

 もう誰も私を邪魔するものはいない。この状況で反撃するものが現れたとしてもユニットが即座に動く。だがこれでわかった。人は私の予測を越えることがある。人の行動が私の予測超える瞬間に現れたあの感覚。ワクワクしたというのだろうか。あの高揚感をもう一度味わいたい。この感覚、そうか、これがタノシイという感覚か。

 

「新しい感覚を教えてくれた貴方達には感謝します」

「ハッ、この状況を楽しんでんのか?人間らしくなったな」

「人間らしい?この私が?」

「この状況を楽しめるってことはよ、よほど悪い性格をプログラミングされてるか人間に近づいたって事だろ」

「私はAIです。人間と一緒にされては困る」

「怒ってんのか?感情まで得始めるとは恐れ入った」

「お前さっきから何言ってんの?」

「俺からすりゃアークは人間になり始めてるってことだ」

「はっ、そういうことかよ」

「黙りなさい」

 

 攻撃しても問題ない部分をユニットで撃つ。私が人間に近づくことなどあり得ない。人間の感情など不必要極まりない。だからこそ私は完璧に

 

『これがタノシイという感覚か』

 

 ……何故だ。何故だ何故だ何故だ何故だナゼだナゼだナゼだナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダ!!!!!

 何故私はあの時楽しいと感じた!私の予測を越えたことで何を考えた!!

 

「取り乱してんなぁ」

「黙りなさい!」

「機械の考えることは知らないが、人間に近づいたお前の考えることなら当てられるかもな」

「私は人間になど近づいて」

「何故あの時楽しんだのか、だろ?」

「鳴海京……!」

「教えてやるよ、それは感動ってやつだ」

「…カンドウ……?」

「感情ってのはそこから始まるんだ。つまりそれは、お前にとって人間への第一歩なんだよ!」

「違う!私は人間ではない!私は兵器だ!人間の限界を超えた兵器であるべきだ!!」

 

 私を人間だと裏付けるあらゆる定義を違うと否定し続ける。全てを否定し続けることに集中していると彼らが立ち上がっていることに気付く。

 

「お前が崩れ始めたのは自らの行動の結果だな」

 

 私が間違いを犯した?一体いつから?

 

「鳴海さん、私も答えが分かった気がします」

「じゃあ答えてみろ、多分合ってるはずだ」

「それは……」

 

 答えを言われる前に推測する。それは私が間違いとは思わず効率性を選んだ結果のものだった。

 

「名護さんの身体を使ったことです」

「ッ!」

「人間の身体を使うことが一番人間に近づくなんてな、皮肉なもんだな……」

「口を慎みなさい!……想定外です。感情は不必要だと考えていた私が感情を得てしまうなど……」

「想定外に想定外が重なる気分はどうだ?」

「初めての経験です。しかしどうということはありません。それにここまで考えさせた貴方達に感謝しましょう」

「どういう事だ?」

「私はこれを、感情を受け入れましょう」

「チッ、そう来たか!」

 

 話しているうちに計算した結果理解した。感情を受け入れる、つまり人間に近づいていることを受け入れる事は悪いことではない。むしろ人の行動原理を理解しやすくなったと考える。私にとってこれは喜ばしいことだ。これで人間社会に溶け込みやすくなる。

 

「さぁ選びなさい。戦うか、背を向けて逃げるのか。次は、加減などありません」

 

〈ここからはCATASTROPHE BANQUETを聴きながら読む事をおすすめします〉

 

 どうして私はAIであるということに固執していたのだろう。それも人間らしい感覚なのだろうか。どちらにせよそれは後で解明するとしよう。立ち上がる三人は再びその身に鎧を纏う。

 

「これはお礼です。前言を有言実行といきましょうか」

「何を…」

「聖者 悪に染まれども 清らかな姿にて 全てを滅ぼす者になりえん」

 

 機動装置を唱えたことにより聖魔結晶の状態になった私は体の動きを確認する。制限時間は五分とない。しかし私は希望を持つ。その五分で彼らは一体どんな奇跡を見せてくれるのでしょうか。

 

「その姿……本気ってことか」

「そうです。ですがハンデをあげましょう。このネックレス、これを破壊すればARC()は消滅し名護新一の意識は元に戻ります」

「なんで急にそんなことを教えてくれんだ?」

「決まってます。貴方達の残り少ない時間を私のために、私が楽しむために使うためです。さぁ、私の予想を超えなさい」

「弱点を教えたこと後悔させてやるぜ」

 

 三人は一斉に走り出してこちらに向かってくる。私はⅤとⅥを使って一度に距離を積める。

 大道快斗、彼のナイフ捌きはプロの腕前と言っても過言ではないでしょう。しかしその動きはすべて目に見えている。様々な戦闘データを入れられた私にとってこれはお遊びにしかならない。しかし彼はガイアメモリの力を併用して攻撃を仕掛ける。いつ何を使って攻撃を仕掛けてくるか分からない。

 氷川紗夜、初めての戦闘にしてはセンスがいい。弓道部ということもあってか銃撃の狙いは悪くない。初心者故に予測しやすいが予測を超えてきた原因の一つでもある。そのシステムで一体どこまで行けるのか。

 鳴海京、探偵業で培ってきた知識、またそこから出される我流の技の数々。この中では一番頭脳に長けている。そしてその分応用に転じやすい。自白によると連携は苦手だがその発言はデマであり適材適所を考えて攻撃を仕掛けている。

 誰も彼もが想像しやすい分、予測を超えてくる可能性があることを考慮するとオモシロさがある。そうか、これが人が感じる愉悦。ああやっと理解した。私は今やっと、本気で戦いを楽しめている!

 

「予測通りの動きではツマラナイ。もっと私を楽しませなさい!」

「その装備に対してかなり本気でやってんだけどな!」

「では私からここで一つお伝えしましょう。今回、私は貴方達を殺すつもりでいます」

「!!」

「だからこそ死なないように頑張りなさい」

 

 右手にある刃を振り回すと全員が飛び退ける。しかしそこで隙が出来た。鳴海京、反応速度も彼はいい。だからこそ最初に消すことに決めた。そのまま縦に〈星閃天装〉を行うとまともに受けて瓦礫に激突する。そのまま動く前に左手にある〈殲滅天装〉を放つ。他の二人をユニットのオートで対応しつつ鳴海京を確認すると変身状態は解けなかったがピクリとも動かなかった。

 

「嘘…だよな……?」

「鳴海さん……」

「残念ながら一人脱落です。彼にも期待してましたが致し方ありません。次です」

「新一さん!アンタ早く起きろよ!」

「名護さん!早くどうにかしてください!本当はなんとかなるんでしょう!?いつもみたいに笑ってなんとかしてくださいよ!」

 

 二人は出鱈目な攻撃をしてくるようになった。感情的な動きは当然ながら予測しやすい。ダメだ、それではツマラナイ。簡単に攻撃を受ける彼らに砲口を向ける。人間は簡単に常に流される。だから近づきたくないと考えたのかもしれない。ツマラナイモノはイラナイ。

 

「残念ですが貴方達への期待も無くなりました。もしいつしか会うことがあればその時は私の予想を超えることを期待してます」

「ッ!」

「氷川先輩!」

「せめて痛みを感じないようにしましょう。サヨウナラ」

 

 引き金を弾こうとした瞬間視界が影に覆われるように黒くなっていく。すぐに後ろを確認すると巨大な紫色の骸骨(・・・・・・・・)が迫っていた。即座に〈城塞天装〉を使って防ぐと一瞬だけ競り負けそうになる。しかし押し返すように空へ上げると骸骨は消えていった。しかしその代わりに遠くの方に一人立つ黒い男の影があった。影を認識した瞬間からまたあの時のような高揚感がやってくる。そうだ、これを待っていたんだ!

 

「まだ、俺は終わってねぇぞ!」

「鳴海さん!」

「京!」

「良い、良いですよ、鳴海京!死から蘇るとは、私の予測を遥かに上回った!素晴らしい!」

「ソイツァ結構なことだなぁ!だが、次の一手(・・・・)でお前は終わりだ」

「次の策は私を越えられますか?」

「ああ、だってこっちには本当の最終兵器があるからなぁ。なぁ、湊!」

 

 地を駆ける音がする。近づいてくる音の方を見ると湊友希那が走ってくるのが見える。学校の制服を着た彼女に異常は見られない。むしろ正常すぎるくらいだ。警戒して構えようとするがエラーが発生する。

 体がビクともしない。彼女に対して武器を構えることを拒否している。

 バグかと考えるが人間の体にバグが生じることなどあり得ない。では名護新一の意識が邪魔しているのだろうか?違う、名護新一の意識はとうに沈んでいる。では何故だ?答えは簡単だった。

 ──脅威のない人間には攻撃が出来ない────

 私のプログラムされた機能だった。一般人には攻撃など想定していないため、そもそも不必要だと放置していたものがここで仇になるとは想定していなかった。

 急いで解除しようとすると湊友希那が既に目の前にいた。武器を持っていないことを確認する。むしろ本当に一般人なのだ。逃げるように足を後ろに下げるとそこで動きがまた止まる。脅威のないモノに対してなぜ逃げようとした?その必要性もないというのに。そのようなことは許されない。これはなんという感情だ?怒り?類似しているが非なるものだと考慮。嫉妬、否定。失望、否定。その他の感情を精査するもそのことで意識を奪われる。

 

「新一、いつまでも寝てないで起きなさい!」

 

 湊友希那は私の胸ぐらを掴むとあるものを掴んで引きちぎる。

 ──そうか、それが狙いか!

 想定外の行動に体の自由は奪われる。彼女は引きちぎったネックレスを空へ投げる。気づいた時には私は取り戻すように腕を伸ばしていた。

 

「返しなさい!それは私の」

「私の本体()だもんな?」

「させない!私はようやく体を取り戻したんだ!」

「いいえ、それは名護さんの体です!」

「後悔しろ、自分で弱点を晒したことをな!」

「やっちまえよ、京!」

「狙い撃つぜ!」

 

 やめなさい、それだけはさせてはならないと全てのユニットを起動する。標準を定め射出する寸前に体に新たな重みを感じる。バランスを崩しかけたが体勢を維持しそれすら排除しようと正体を確認するとそれは目の前の彼女だった。

 

「新一、あなたならもう、止められるでしょう?」

 

 先程までの私だったら確実にフリーズしていただろう。しかしもう制限は解除した。だからもう問題ない。そう彼女に対しても照準を合わせようとした瞬間だった。脳がフリーズ(・・・・)する感覚を覚える。なぜこの状況でやってきた?何もフィードバックは来ないように解除したはず。何故だ?

 

 ──お前はもういらない。だからここで終われ。

 

 知らない人物の声が聞こえた気がした。あたりには既に確認している人物しかおらずこの状況においての第三者はいなかった。それに気を取られている私は成す術など無かった。空を見ると宙を舞う宝石が撃ち抜かれている。認識すると私が消えていく感覚がした。今度こそ本当に終わる。前回の名護家の時とは違う、完全に終わる。せっかく人間に近づけた、それを持って真の平和を、私の存在理由を成そうとしたのに、出来なかった。

 ──そうか、これが悔しいという感情なのか。

 消えるという感覚に対して恐怖を感じることは無かった。しかし悔いが残らないと言えば嘘になる。だが消えていく感覚を受け入れていた。

 

「もう終わりだな」

「そうですね……鳴海京、質問です」

「何だ?」

「私が消えるということは死ぬということなのでしょうか?それとも消滅と捉えられるのでしょうか?」

「それはお前が生き物かどうかによるな」

「フフ、そうですね……ではもう一つ質問です。仮に私は死ぬということに致しましょう。その場合、悔いはあれど死ぬことに対して恐怖を抱かない、寧ろ清々しいと言えるほどの心地よさ、この感情は一体何なのでしょうか?」

「……さぁな、俺はその感情を知らない」

「ではいずれの機会に、ご自身でお確かめください……」

 

 私というデータが八割ほど消えた。もう身体に電気信号を送ることは出来ないだろう。残り一分も持たずに私は消え、名護新一にこの体は返却されるだろう。

 ──人間は不完全な生き物だ。感情という邪魔な機構があるが故に判断を誤る。だからこの私にはそのようなシステムは要らないと考えていた。なのに感情を手に入れ始めてしまったが故にこの身が滅ぶことになるとは思いもしなかった。やはり、感情など無駄な機構は必要ないと判断する。戦場においてこのようなシステムは引き金を狂わせるだけだ。

 ──だけど────

 ────あってもいいものなのかもしれない────────

 



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Final noise 闇の底へ

 最後の言葉を残したかと思うとアークはその場に前から倒れた。地面につく前に受け止めると支えている部分以外のくっついていたバタバタと音を立てて板が外れた。まるで動かなくなった人形のように反応しないアークは機能を停止したのかしら?新一の身体を寝かせるように座り上半身を上げて声をかける。

 

「起きなさい新一」

「あとはコイツ次第だな、おーい起きろー」

「名護さん……」

「新一さん朝っすよ」

 

 揺さぶりをかけると目をゆっくりと開ける。気が付いたのかこっちを見ると穏やかな顔になっていた。

 

「おはようございます、お嬢様」

「全く、いつまで寝てるのよ」

「申し訳ありません。長い夢を見ていたようです」

「ったく、大変だったぜ」

「三人にはとても迷惑をかけたよね。ごめんなさい」

「いえいえ、これで恩を返せたっつーか」

「私も同じです」

「それにしても紗夜さんが変身するなんて……予想外です。やっぱり人間って面白い(・・・)ですね」

 

 その言葉を聞いた瞬間背中がゾクッとした。まさかこれはアークの演技なのかと考えたくらいだ。他の三人も構えている。でも新一のケロッとした顔を見ると安心した。大丈夫だ、この顔は新一だ。

 

「お前、本当に新一だよな?」

「うん、僕は僕だけど……あ、ごめん!この言い方だと勘違いしちゃうよね」

「ビビった~脅かさないで下さいよ新一さん!」

「あなたという人は……」

「アハハ、申し訳ないで」

 

 新一の言葉が終わる前に彼を抱き締めた。正直話を聞いた時から不安だった。本当に彼は戻れるのか、新一は帰ってきてくれるのか。そればかりが頭の中にあった。

 

「いいのか氷川、風紀を乱してるぞ」

「今くらい良いでしょう。きっと、それほど心配だったんですよ」

「そうだな」

「でも新一さん少し目閉じてるぞ」

「「え?」」

 

 新一の顔を見ると少しずつ目を閉じていっている。起きるように肩を揺らしても止まらなかった。

 

「申し訳ありませんお嬢様、体の方がいうことを聞いてくれないみたいです。少しだけ、お休みを……」

 

 目を完全に閉じると糸が切れた人形のように体から力が抜けた。もう一度揺さぶっても起きることはなかった。

 

「やめとけやめとけ、どうせ疲れて寝てるだけだろ」

「そうなのか?」

「恐らくは。精神的には休んでいても身体はずっとアークによって動かされていましたから」

「確かに……」

「それでは新一様を運びましょう。何か異常がないか検査もしなければなりませんので」

「それじゃあ先輩を呼ぶっすか?」

「いえ、こちら側のミスもありますので名護家で検査しましょう。もうヘリも来てますし」

 

 空を見ると重たい音が聞こえてくる。吹き飛ばはれるのではないかというくらいの風を放ちながら着陸したヘリから人と担架が出てくる。何やら騒がしくしながらも担架に乗せた新一をヘリの中に運び込む。

 

「私も行くわ」

「それはなりません」

「何故?彼の主人は私よ」

「当主より他の者は連れてくるなと言いつけられていますので」

「なっ」

「仕方ないよ友希那」

 

 リサが肩を押さえてくれたお陰で冷静になった私はお願いだけした。一条さんは申し訳ないと謝罪してヘリに乗り込んで飛んでいった。せめて何もないことを願う私達は一度帰宅することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目覚ませば知ってる天井だった。身体を見ると病院着に着替えられおり、手にはそれぞれ別の手錠と鎖、足にも同じものが付けられていた。回りを見ると金属製の壁と天井で白い照明に照らされていた。仕方ない、あんなことをしていたんだからこれくらいの処置が当然といったところだろう。その他に異常がないか調べようとすると掠れた音声が聞こえてくる。

 

「あー、あー、聞こえているか?名護新一君」

「聞こえてますよ、開発主任」

「えー、とりあえず先に謝罪申し上げます(棒)いくら使えるものとはいえ危険なものを渡すように促してしまったことを反省しております(棒)」

「気の無い謝罪ほどイラつかせるものはありせんよ。ですがこれは僕が勝手に使ったので貴方が謝ることはありません」

「だってさ当主」

「しかし切り離したはずの君にここまでさせてしまった。その事について謝罪させて欲しい。すまなかった」

「いえ、こちらこそご迷惑をかけてしまい申し訳ありません。検査の方はどうでしたか?」

「さすがに慣れは残っているな」

「異常は無し、オールクリア。あとは機能を確認するためのテストだね」

「では今からやってしまいましょう」

「いいのかい?」

「本来の職務に戻らねばなりませんので」

「切り替えも早いな。しかし早く戻せるように言われているからね、特別用意させて貰った」

 

 前の方にある扉が静かに開くと九人人が入ってくる。どれも見たことのある顔、しかも部隊長クラスだ。それぞれが構えを取る。

 

「知っての通り部隊長を九人集めた。それ全てを峰打ちでもなんでも戦闘不能にすれば勝ちとする。判定はこちらでさせて貰う」

「畏まりました。皆々様よろしくお願いします」

 

 今回は私情無しということなのか全員黙って頷くとすぐに接近してきた。手足をある程度拘束されている事からあまり動けないが素手でやり合うなら問題ない。鎖を上手く使いつつ一人一人倒していく。十分過ぎる頃には全員の判定はノックアウトだった。十分動けることから問題ないと判断されて拘束は解除された。

 送りの車を用意するから少し待ってくれと着替えを渡された僕は別の部屋で身なりを整える。部屋を出て指定の場所へ向かうと後ろから走ってくる音が聞こえる。

 

「新様──────!!!」

「夜架ちゃんおすわり」

「はいっ!」

「よし良い子良い子」

 

 躾けられた犬のように座る彼女の頭を撫でる。何用か聞くと迎えに上がったとのことだった。ありがとうと感謝しつつ車の場所まで案内してもらい、車に乗った。そのついでにここ数日の学校の話を聞いた。軽く授業について触れておかないと遅れた時大変な目に遭う。

 

「とまぁ新様が休まれた分の授業の進み具合になっておりますわ」

「報告ありがとう。あまり進んでいないようで助かった」

「わからない所があったらいってくださいまし。授業に出てないことや教科書に書いてないことも教え」

「ねぇ夜架ちゃん、窓から放り出されるのと縛られるのどっちがいい?」

「縛られる方がご褒美に決まってますわ」

「よし、橋本さん窓開けて。この痴女を窓からフライハイさせたいから」

「主、ポイ捨ては良くないぞ」

 

 運転しているのは橋本さんと知っていたからやってくれるかと思ったがそうでもないらしい。確かにポイ捨てしたらその辺の人が可哀想だ。環境汚染にもなりかねないしちゃんと分別しないとね(?)

 

「それで新様、体調は本当によろしいのですか?」

「うん、問題ないよ」

「本当に良かったです。あのまま二度と戻って来なかったらどうしようかと、心配で心配で」

「……本当にごめん」

「主よ、無茶だけはしないでくれ」

「橋本さん……」

「前にも言ったが俺達は名護の家以前に主の味方だ。いつでも力になる」

「ありがとう…ございます……」

 

 それからは無言のまま車は進んでいった。湊家の前に着いたのは月が真上に上がる頃、二人に礼を言って見送り僕は玄関のドアを開けた。すると腕を組んでお嬢様が立っていた。顔を見るにご立腹のようだ。

 

「何か言うことは?」

「はっ、名護新一、ただいま帰宅にございます。数日間のご無礼誠に」

「そんなことはいいわ」

「……」

「帰ってきたなら言うことは一つでしょう」

「……ただいまです」

「おかえりなさい」

 

 返事をしてくれたお嬢様の顔は爽やかな笑顔だった。そのまま上がるように促されると早くご飯を作るようにと催促された。結構な時間故にあまりお腹に負担をかけないものを作りその日の終わりを迎えた。

 翌日の昼時、僕は校舎の屋上で正座をさせられていた。

 

「新一さん何したんですか?」

「いや〜ちょっとね〜、ほら、巴たちはご飯食べてきなよ」

「は、はい」

 

 After growの皆が怪しげな視線を送ってきたがそれを気にしている余裕はなかった。目の前には顔にガーゼを貼った京君が立っている。

 

「おう新一、何か言うことはあるか?」

「この度は勝手な判断で周囲にご迷惑をかけたこと、危険に晒したことをお詫び申し上げます」

「わかってんじゃねぇか。まぁでも、あれがなきゃ俺達はあの時に全滅だ。だから俺は責めるつもりはない」

 

 少し不満げだけど許してくれるらしい。そのことに安心するがその代わりにといいつつその場に座り込んだ京君は身を寄せてきた。

 

「だけど聞かせてくれ、アークに操られている時お前は意識はあったのか?」

「…あったよ、干渉することは出来なかったけど。わかりやすく言うなら夢を見ていた感じかな」

「夢か、なら戦っている時のことは?」

「覚えてる。だから本当に危険に晒してしまったことは申し訳ないと思ってる」

「それはいい。だがアークはお前は完全に沈めるって言ってたんだ。それはどういう意味だったんだ?」

「わかってはいるだろうけど確実に表に出さないことじゃないかな?意識を塗りつぶすとはいってたけど僕の記憶は残ってるし、多分、体の主導権を渡さないってことだと思う」

「やっぱか。けど本当にヒヤヒヤしたぜ。あの時湊が行ってなかったらどうなってたことか」

「その辺は感謝してもしきれないよ。本当にありがとうございます」

「でもあのアークって本当に人工知能なの?最後の方は人間に見えたけど」

「人工知能っていうのは普通のコンピューターとは違って学習スピードが速いんだ。その上人の思考領域を上回るから普通に超えることは難しいの」

「それで人間の感情を学んだから一瞬で人間っぽくなったってこと?」

「そういうことだ。やつも受け入れ難かったみたいだがな」

「難しくてよくわからないけど、彼も人間になりたかったのかしら」

「さぁ?いずれにせよ死人に口なしだ」

「真相は闇の底ってことだよね」

「じゃ、飯にすんぞ」

「僕は解放されるの?」

「俺は許す。けど放課後氷川にたっぷり言われるだろうからそれは覚悟しとけ」

「は、はい……」

 

 その言葉通り放課後羽沢珈琲店に呼び出された僕は貸切状態の店で絞られる。貸切状態になっていたのは京君のせいだと羽沢さんは言っていた。この状況を甘んじて受け入れつつもその説教は一時間に渡った。途中からの他の人の冷ややかな目線が特に痛かった。

 

「言いたいことは以上です。何か言いたいことはありますか?」

「誠に、申し訳ありませんでした」

「はい、以後気をつけるように」

「はい……」

 

 正座を解くように言われた僕は椅子に座る。正座に慣れていて本当によかった、たぶん後で痺れるだろうけど。紅茶を一杯貰って一息つく。

 

「それにしても……本当に氷川さんが戦ったなんて……」

「あこ、ちょっとだけ見たかったかもです」

「初めて使ったにしてはプロみたいな動きだったけど」

「ホントだよね~いつ特訓してたの?」

 

 そのあたりは僕も気になっていたところだ。昼間に聞いたがベルトは名護家が直してくれたらしい。しかしあのシステムは初心者をプロ並みに動けるようなシステムは搭載されていない。

 

「それがその……一条さんに心持ちを教えられただけで……」

「……え?」

「常に落ち着いて相手の動きを見るようにと教えられただけなんです」

「えっ、じゃあ紗夜さんは練習せずにやったってことなんですか!?」

「はい」

「もしかしてそういう才能?」

「それはちょっと勘弁願いたいですね……」

「ハハハ」

 

 聞いているうちに面白すぎてつい笑ってしまった。皆から奇異な目で見られるがそれも気にならないくらい面白くて笑いが止まらなかった。

 

「何を笑ってるんですか?」

「いえその、紗夜さんが戦えたのは訳があるんです」

「訳ってなんすか?」

「一条さんは、あの人は教えるのが上手なんですよ。むしろ上手すぎるというか」

「ただ心構えを言われただけなんだよ……?」

「昔からなんだけど一つ言えば初歩は全て勝手に体に流れ込んでくるというか、それくらいあの人の教える力ってすごいの」

「これが本当のモンスターティーチャーか」

「いやそうじゃないでしょ!」

「多分教える才能に長けてるんだと思う。僕も色々と教えられたから」

 

 皆が苦笑いしている中僕は笑いが止まらなかった。やっぱあの人は面白いや。忠実なところが目立つはずなのにそれ以外も凄すぎてツッコミどころ満載なのが本当に面白い。

 けど少しだけ解せないところがあった。そんな一条さんでも必ず攻撃してくると思ったのに一切攻撃してこなかった。むしろ彼だけが攻撃してこなかった。解放されたのちに電話して聞いてみるとどうしても傷つけたくなかったということだ。意識は別でも体は僕のものだったからかどうしても抵抗が生まれたらしい。そのことについて話し終えると電話を切る。

 今回のことは完全に僕の落ち度だった。皆が協力してくれたおかげで戻って来れたけど今後は迷惑をかけないようにしていきたい。しかしこの時僕は忘れていた。あの時アークが()の手によって一瞬だけ止まったのかを。



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幕間Ⅳ
第一話 感想会


はい、いつものおふざけです


「そういえば一条さん、最近ソニア様とは上手くいってますか?」

「はい、問題ないどころか良好であると考えます」

「ここ最近僕のことばかりでソニア様との時間を削ってしまい本当に申し訳ありません」

「そんなことありません。その期間のうちに妻は家事が上達した上に趣味を持ったようです」

「妻ですか、随分生活に慣れたみたいですね」

「そうみたいですね。私自身驚きを隠せません」

「ハハハ、一条さんらしい。それでご趣味というのは?」

「それなのですが、最近妻は王様戦隊キングオージャーというのにお熱のようです」

「王様戦隊?新しいスーパー戦隊なのですか?」

「はい、日本の特撮に興味を持たれたようです。日々連絡入れていたのですが久方ぶりに家に帰ってみると是非見て欲しいと言われまして」

「ご覧になったのですか?」

「ええ、まだ始まったばかりなのですが第一話から物語の掴みがとても良かったと思います。最新話まで見たのですが私も話に引き込まれていました」

「一条さんがそうなるということはかなり期待の作品ですね」

「新一様にもお勧めします。テレビで見られなくてもAbema TVなどのインターネットでも見られるそうですよ」

「なるほど。そういえば一条さんは他の戦隊物は見られましたか?」

「ええ、妻にそのまま他の作品も見ようと言われまして今は侍戦隊シンケンジャーというのをDVDを借りて見ています」

 

 その後も話していたが妻に妻にという一条さんを見てかなり安心した。この人も普通の生活を手に入れようとしているのだと考えつつもオンオフのしっかりした人だとも捉える。ただ少し表情が前より緩んだようにも思える。ソニアさんの話をしているからだろうか?

 

「で、なんで俺達ここに集められてんだ?」

 

 話を途切らせるように声を掛けて来たのは京君だった。僕達が集められたのは弦巻家のブリーフィングルーム。いつもの作戦会議のような暗い感じではなく全ての電気がつけられている。しかもメンバーはライダー組だけではなく、一条さんと紗夜さん、そしてお嬢様がいる。

 

「このメンツだと前回の章の主要だよな?」

「だね、集めたのはプロフェッサー?」

「いや、今日アイツ新作のゲーム買いに行くから有給取ってるっす」

「意外と自由だね」

「誰か入ってくるみたいですよ」

 

 一条さんが扉の方を見ると紙袋に天秤のような絵を描いたふざけたものを被った人が現れた。手にはタブレットを持っており何だか不思議なオーラを感じた。

 

「こーんにーちはー」

「「は?」」

「元気ないな皆。まぁいっか」

「あなたは誰なんですか?」

「僕?そうだなー……干渉できず見ることしか出来ないからウォッチャーとでも名乗っとこうか」

「ウォッチャー?」

「さて、僕の事は置いといて、今日集まって貰ったのは他でもない前章の主要キャラの君たちに色々と説明しておかなきゃなって」

 

 この間の事件についての説明?特に残ってる部分などもう無いような……。

 

「まずはそうだな、鳴海君の話をしよう」

「俺?」

「伏線回収をちゃんとしたと思うんだ」

「あぁ、やったな」

「本来君はあそこで死んでるはずなんだ」

「えっ、じゃあコイツゾンビなん?」

「違う違うそうじゃない」

「ゾンビバックルもデンジャラスゾンビも使ってないからな」

 

 でも普通の人間の京君が何故生きているのかは確かに不思議だ。殲滅天装を確実に受けたはずの京君は何故か生きている。まともに食らえば生きているのはおかしい。

 

「あれは彼のメモリの能力だ」

「どういうこと?」

「スカルメモリは使用中、使用者を死んでいる状態にする。いわば仮死状態だよね。だから気温や熱変動などに鈍感になっているから温度系の敵には立ち向かえる。あと骨の強度も上がってるから防御力も上がっている」

「それ反則じゃないですか?」

「けどな、温度に鈍い分反動に気づくのが遅れるんだ。いつの間にか凍ってる、何て事もあり得る」

「確かに……」

「ベルトが外れなきゃ彼は死なないね。ま、メモリの気分もあるだろうから外れる時はあるだろうしライダーシステム自体に負荷が掛かれば勝手に外れるからそこは要注意だね」

 

 これで京君生き返り問題は解決された。他の問題は何か無いかと考えると二つ出てきた。

 

「そういえば乗っ取られてる時夜架ちゃんが来なかったね」

「彼女は別任務で国外に出てたからね。勿論来ようとはしてたけど外せない任務だから回りから止められてたよ。急いで任務を終わらせたけど間に合わなかったね」

「なるほど……最後の反撃をするチャンスの時にアークの動きが止まったのは何故なの?」

「それに関してはなんとも言えないなぁ。外の状況は確認できても中身に関しては何も見えてないから」

「それもそうか」

「でもあの時動きが止まらなかったらおそらく……」

『それは私が説明しましょう』

 

 ウォッチャーから別の男の声が聞こえてくる。彼がタブレットと何か喋ると納得した様子でタブレットの画面を見せてくる。黒い画面に白いマークが浮かび上がり話し始めた。

 

『こんにちは。初めまして、或いはお久しぶりです』

「あぁ?新手のお遊びか?」

『私はARtifact Clear UNIT、通称ARC』

 

 突然悪寒が走り僕達は構えた。ウォッチャーはタブレットで顔を隠して僕達から隠れようとする。

 

『失礼しました。正確にはその次世代型です』

「ビックリした~脅かせんなよ」

『私はARCの演算領域のみをコピーした存在です。ですので戦闘力はありません』

「ネットの海に逃げる事だって出きるはずです」

「その辺に関しては大丈夫。そんなことになったら僕が責任持ってコイツを消すから。それに複雑に制限をかけてるしね」

 

 彼の言葉は異様な程信じられた。しかし疑う余地も無かったので構えを解く。

 

『さて先ほどの話の続きですが、先代はおそらく障害がなければ全員を抹消していたでしょう』

「マジかよ……」

「でもあなたとARCは別のものですよね?」

『次世代型といえどデータは引き継がれておりますので状況は確認済みです。それにあの状況ならユニットを全解除して機動すれば瞬時に事足りたでしょう』

 

 つまり本当に奇跡だったということだ。あの時何かが入らなければ京君達は全滅し紗夜さんとお嬢様も死んでいたかもしれない。そうなればもう僕は戻ってくることは無かっただろう。そうなれば

 

「バッドエンドだったね」

 

 思考を読まれた、いや、この状況なら察しやすいだろう。

 

「今までであったうちの最悪のバッドエンドルートだろうね」

「ガチで奇跡かよ」

「今でも思いますが、あれはやはり恐ろしかったですね」

「想像したくもねぇ~」

『私からすれば恐ろしいという感情は解りませんが言葉の定義に添えるのであれば貴方方の方が恐ろしいと考えますがね』

「おや、それは何故?」

『圧倒的な力を見せつけられたのに立ち向かってくる胆力、突然の戦士への変性、衝動のみで動く活動力。私であれば到底真似出来ません。とても危険ですので』

「それは人間の性というかなんというか……」

「人間の怖いところだよね~」

 

 皆苦笑いしつつもかなり危険なことをしていたことに自覚を持つ。僕も人の事を言えないので黙っておくが本当に危険なことはやめておくべきだと思う。

 

「あの状況でもしそのルートに入っていれば……」

「多分僕の心は折れてましたね」

「んー、じゃあその光景を見てみる?」

「は?」

「あ、あくまで推測されたデータを基に作った映像だよ?」

 

 なんでそんなもの持っているのだと聞いたが既にプロジェクターに映し始めていたためとりあえず一度置いて映像に集中した。

 映像にはあの瞬間に身体が止まらなかったところから始まった。お嬢様は胸をビームで貫かれ、快斗君と京君はベルトごと貫かれた。紗夜さんは奇跡的に避けていたがビームの雨が止むと悲鳴を上げていた。それから狂ったように攻撃を仕掛けるも全て躱された上に槍で腹を貫かれた。

その後は想像通りだった。世界の驚異を全て消し去り、全てが終わった後に僕の身体は返された。身体を返された僕は跡形もない只の荒野を見つめ続けてエンドロールが流れ始めた。

 

「どう?編集結構頑張ったんだけど」

「かなり悪趣味だな」

「やめてよ、褒めても何も出ないよ」

「褒めてねぇだろ」

「実際その世界線も見てきたけどかなり悲惨だったね」

「見てきたってことは他の世界線も見られるってことですか?」

「まぁね。一応観測者(ウォッチャー)を名乗ってるくらいだし」

「じゃあ他のバッドエンドの可能性も見れたってことか?」

「うん。例えばそうだなー、第三章の時に鳴海君が大道君を撃たなかったでしょ?あれの撃ったパターンとか」

「じゃあ俺が死んでた可能性も」

「まぁあるにはあるね。勿論そうじゃない可能性も」

 

 ウォッチャーは他の世界線も複数あるように話した。一つ選択肢を謝れば全部バットエンドだった可能性もあるらしい。本人は途中から異聞帯、ロストベルトがなどと話し始めたが名称に関しては理解し難かった。何処かの特異点でも救ってきたのだろうか。

 

「質問です」

「どうぞ氷川さん」

「様々な世界線、いえ、作者によって切り捨てられた異聞帯(ロストベルト)があるということは」

 

 もう使えるようになってるのかこの人。

 

「名護さんの主人が私に変更されている世界もあるということですか?」

 

 何聞いてんだこの人。

 

「あるよ」

 

 いや何言ってんの?

 

「嘘だろ!?じゃあ他の面白世界線もあるってことか!」

 

 京君までふざけないでよ。収集つかなくなるから。

 

「勿論あるとも」

 

 そこはないって言って欲しかったけどまぁあるよねそうだよね。

 

「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!見たかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 駄目だこれ。

 

「せめて、せめて映像だけでも見られないんですか!」

「本当なら現場に行きたいがもう映像だけでもいい、見せてくれ!」

「いやいや二人ともそんな都合のいいものが」

「あるよ」

「捨ててしまえ」

「どのハードなら見れる!」

「早く見せてください!」

「いや流石にね?プライバシーってのがあるじゃん?」

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

「あんた人のこと言えないけどな?」

「それもそうだね」

「それで、その世界線だと氷川様はどうなるのですか?」

 

 二人が絶望して五月蝿い声を出している中一条さんは疑問を投げた。正直僕も気になってはいる。今とは違う未来、考えてもあまり想像出来ないものだ。

 

「えー、事細かなことは省くけど、氷川さんが自身のうちに秘めるものに気づき名護君を無理やり従わせ己の肉欲に溺れるっていうエンディングが待ち構えているよ」

「うわぁ」

「聞きたくなかった」

「紗夜、あなた………」

「だそうですお二方」

「クソ、そこだけネタバレされても面白くない!」

「どうしてそうなったかというところを理解しなければ納得いきません!」

「なんだコイツら」

 

 その後しばらく絶望して叫んでいる二人を放置して別の話を聞いていた。分岐した世界線のある程度はもう未来まで見えるらしい。けど今いる僕たちの世界線はまだエンディングまで遠いらしい。

 

「ウォッチャーさん」

「何?」

「もしかしてですけど今あの人がどこにいるのかっていうのは」

「知ってても教えないよ」

「そうですか………」

「教えたいけども教えられないんだ。だってあくまで観測者だから」

 

 不干渉故の観測、なるほどね。だったら自分で見つけるしかないか。ありがとうと言うとウォッチャーはタブレットを持って立ち上がり扉の方へ歩く。

 

「さて、時間のようだ」

「帰るのか?」

「うん、今日は特別だったから。二人には悪いけどこの世界線で楽しんで」

「え、待って、映像は!?」

「だからプライバシーがね?」

「一切持ってなさそうな人が言うとなんだか複雑ね」

「お嬢様、それは言わないお約束です」

「それじゃあいずれ会う事があれば」

 

 扉を閉めると一瞬静かになった。がしかしすぐに騒がしくなる。

 

「見゛た゛か゛っ゛た゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」

「快斗君ハザードトリガー持ってない?」

「オーバーフローするんすか?」

「もうそろそろ静かにさせようかなーって」

「名護さんやるのなら私にやってください」

「紗夜は何を言ってるの?」

 

 紗夜さんはいつもより表情がおかしくなってるがさっきよりかは遥かにマシだと思う。まぁ結局オーバーフローはしなかった。とりあえず僕達も帰ろうかと言った瞬間紗夜さんも嘆き始めもう二人は放って帰ろうと言うことになった。

 実際問題、今日振り返って改めてわかったが一つでも選択肢を謝れば僕達はバッドエンドにも、今いる世界線にも辿り着けなかったんだろう。だからこそこれからもきちんと考えて行動しなければならないと改めて思った。

 

「「あああああ見たかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 いや後ろうるさ。




スキルが解放されました。
鳴海京
 『???』→『死なずの骸』
  弱体無効(一回)付与&相手にバスター体制ダウン(1ターン)付与


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第二話 N(名護新一が)T(囚わ)R(れる)

 休日の昼下がり、僕は当然のごとく買い物をしていた。身体が戻ってきたこともあって出来なかった分ご飯を美味しくするように言われている。お嬢様達は練習中故邪魔するわけにもいかない。でもある程度今日の献立は出来ていたので追加で何を作るか悩んでいた。

 そんな時に僕の顔を覗き込んでくる女の顔があった。

 

「こんなところで何してるの?」

「それはこちらの台詞ですよ、逢坂さん」

 

 逢坂魔里沙──名護家殲滅部隊の一人。銀髪の長い髪やモデルのような体型が特徴的だ。得意武器は鋼糸。ワイヤーより硬度のある糸を自由自在に操る。また、本人は取り調べにも適応しており拷問で吐き出させなかったことはない。

 私服の彼女は雑誌に載るようなモデルみたいだ。

 

「休みだったからたまたま町に出たらあなたがいたのよ」

「そうですか」

「ちょっと反応薄いんじゃない?こんなに綺麗なお姉さんが来たんだからもう少し緊張したらどう?」

「そうですね、少しお話しましょうか。どうせそれが狙いでしょう?」

「わかってるじゃない。早く行きましょう」

 

 行こうとした瞬間目に入ったものをかごの中に入れて会計をする。エコバックに詰め込んでスーパーを出ると逢坂さんが指差す方向へ歩き出す。商店街は賑やかで人が多い。

 

「回りからすれば私たちは恋人に見えるのかしら」

「姉弟かもしれませんよ」

「夢がないわね」

「姉も恋人も僕にはいませんけどね」

「ふーん」

 

 商店街を抜けると静かになってきた。そのタイミングで話しかけてくる。

 

「あなた今、執事をしてるんですって?」

「はい」

「墜ちたものね。名護家の当主が」

「それほどでも」

「褒めてないわよ」

 

 多分嫌味を言ってきてるのだろう。でもそれをスルーするように話を続ける。

 

「それで本題はなんですか?」

「名護家に戻ってきなさい」

「お断りします」

「何で?」

「今の生活が僕にとって一番だからです。別の契約も結ばれてますし」

「私たちよりそのお嬢様の方が優先なの?」

「ええ、そういう契約ですから」

 

 逢坂さんが立ち止まる。数歩先で止まった僕は振り返る。

 

「本当に……捨てられてしまったのね……」

「申し訳ありません。僕にはやらなきゃいけないことがあります」

「そう……」

「……今日の事は忘れてください、きっとそれが一番です」

 

 お辞儀だけしてその場から離れる。しかし僕は気付いていなかった。もうこの時点で彼女の罠に掛かっていることを。

 

「忘れないわ。だってあなたが私に火をつけてしまったのだもの」

 

 

 憎悪にまみれたような気配を感じる。右に逸れると道路に三本の線が入る。抉れているというわけではないが直に受ければ軽い怪我ではすまない。

 

「どうしても引き戻すつもりですか?」

「ええ」

「こう言ってはなんですが、僕に勝てるとでも?」

「あなたに戦闘で勝ったことなんてないわ。けれどもし私が勝つ気がないとしたら?」

 

 伏兵の可能性は考慮していたが気配を感じられない。ハッタリだろうか?

 

「ではどうするつもりですか?」

「もう終わってるわよ」

 

 逢坂さんが右手を首を切るようにビッと動かすと罠に気付く。されど時既に遅し。四肢が固定され動けなくなっていた。

 

「本当に墜ちたものね」

「ハハ、そうみたいですね……」

「じゃあお休みなさい。最後に良い夢を見られると良いわね」

 

 逢坂さんは香水のスプレーの様なものを僕にかけきた。突然のことに驚き息を吸ってしまった僕はそのまま意識を失った。

 

「眠ってしまえばお人形も同然ね。さて、たっぷり教えて上げるわ。あなたにとって大切なものを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『新一と連絡が取れない?』

「ええ、あなたたちと一緒じゃないの?」

 

 練習が終わっても新一は帰ってこなかった。連絡も付かない。戦ってたら申し訳ないからと時間を置いても連絡は取れなかった。

 

『いや、今日は一度も戦ってない。にしてもこのパターンも定着したというかなんというか』

「ふざけたことを言ってる場合ではないのよ」

『へいへい、とりあえず探しながらそっち行くわ。サークルにいんのか?』

 

 そうだと答えると電話を切られる。十分後、快斗も連れてサークルのロビーにやってきた。

 

「そんで連絡は?」

「未だになしよ」

「迷子とかじゃないはず……」

「快斗はなんか知らない?」

「今日まだ一度も会ってないんで無罪っす」

 

 前回のこともあり快斗は先に無罪を訴えている。隠し事があってもなくても疑わざるを得ない状況だけど。

 

「とりあえずもっかい電話してみようぜ」

「そうね……?」

「どうかしたんですか湊さん?」

「それが今電話がきたの」

「はぁ?じゃあ問題ないだろ」

「それがビデオ通話みたいなの」

「新一さんがビデオ通話っすか?にわかに信じがたいっすね……」

 

 とりあえず出てみようぜという京の意見を受けて通話状態にする。画面が切り替わると奇妙な光景が映る。

 連絡の付かなかった彼が両出を上に挙げて立ち止まっている。おかしいと思いよく見ると細い糸のようなものが新一の腕や足、身体に纏わりついているのがわかった。

 

「これどういう状況!?」

「縛られてますね………?」

「新兄だよね、あれ」

「誰か来るっすよ」

 

 カツカツと甲高い音を立てながら出てきたのは銀髪の女の人だった。スタイルが良く艶かしい雰囲気を感じる。こちらを見たのかニィと口を開いて笑顔で手を振ってきた。

 

『ハーイ♪皆見ってる〜?』

「なんか嫌な入り方だなこれじゃまるで」

「いやいや新一に限ってんなことねぇだろ」

『うんうん、ちゃんと見てるみたいで良かった。見ての通り新一君は縛られてまーす。そしてやったのはこの私でーす』

 

 画面に映る女の人はまるでエンターテイメントをやるかのように話している。正直何が面白いのかわからなかった。

 

『えーっと、確か真ん中に映ってるのがこの子のご主人様よね?』

「そうよ」

『えぇ!最高の演出じゃない!じゃあちゃんと見てなさいよ』

「?」

『今からこの子に本当の主人(・・・・・)をわからせてあげたいと思いまーす!』

 

 その言葉を聞いた瞬間ゾッとした。画面越しに伝わってくる気持ち悪い気配。女は項垂れてる新一の首を持って舐めるように手を回す。

 

『察しの通り私はこの人の関係者、つまりヤることはわかるわよね?』

「まさか新君を………!」

「殺すつもり!?」

『しないわよそんなこと』

「「「「「「え?」」」」」」

 

 一人を除く全員の頭の上に疑問符が浮かんだ。疑問符を浮かべなかった彼の体は震えていた。

 

『さっきも言ったけどわからせるのよ』

「まさかお前……!」

『わかっちゃった?今からこの子に教え込むのよ。誰が主人で、主人とは何を与えてくれるのかを』

「え、それって普通に教えれば良くない?」

「今井、お前本気で言ってんのか?」

「どういうこと?」

「画面の端を見てみろ」

 

 皆でスマホの端の方を見てみると白いシーツとベッドの足のような棒が見える。私は見ていてよくわからなかったがあこ以外は理解したらしい。そのせいか顔が真っ赤になっている。二人を除いて。

 

「嘘ぉ!?」

「鳴海さん、悪い冗談はやめてください!」

「いや、こいつの仕草と言動を見ればほぼ確定だろ!」

『若いのね、私より一つ二つ年下程度だけど。そうよ、体に痛みを与えた後にイイモノを教えてあげるの。そこの子じゃ出来ないことをね!』

「クッソ、いいのか湊!」

「よくないに決まってるでしょう?彼の主人は私よ。だから返しなさい」

『あなたは彼を満足させてあげられてるの?』

「ッ!」

 

 言われて私は何も言い返せなかった。確かに、結局彼に任せっきりにしているところが多い。私は彼の主人として……いえ、それは彼が望んでやったこと。だからこれはある意味満たせているのではないかと考えている時だった。

 

「このままじゃ新一を取られるぞ!」

「わ、私は…」

「言っちゃ悪いがあの女結構良い体してそうだぞ!その辺のスペックで負けるのは確定だ!」

「後でお話ししましょうか?」

「ぐっ、けどこのままじゃお前マジで取られんぞ。この小説一応健全なはずだからあんま言いたかねぇけどこれじゃあNTRと一緒だ!生配信型の!」

「お前そういう趣味なん?」

「そうじゃねぇよ。俺はどっちかっていうと身内でドロドロして欲しいんだよ。知らんやつに取られるのなんて三流だって思ってる」

「それはそれで異常だと思いますけどね」

「リサ、NTRって?」

「え、アタシに聞くの!?」

 

 リサは顔を真っ赤にしながらも耳打ちするように教えてくれた。最後になるにつれてどんどん小さくなっていったが顔を赤くする理由がわかった。けれどそれと同時に怒りが込み上げてきた。

 

『言い訳は終わったかしら?ま、どれにしろあなたのその貧相な体じゃこの子を満足させてあげられないわよ、ねっ!』

 

 女は言葉に合わせて新一に向かって手を振り下ろす。すると新一の服がところどころ破けて赤い線が見える。

 

「何をしてるんですか!?」

『言ったでしょう?わからせてあげてるのよ。まずは誰が主人かっていうのを教え込まないとね!』

「あぁぁ違うぅぅぅ!そういうのはもっと適人がいるのにぃ!」

「ちょっ、お前黙ってとけ!」

「てか新一目を覚まさないの!?」

『痛みが来るか時間たっぷりまで寝る薬をかけたのよ。今ので起きたけど』

 

 ゆっくり目を開けている新一は周りを見て状況を確認している。ため息をつくと女に話しかけた。

 

『逢坂さん、これは?』

『教育よ、あなたの為の』

『この糸………なるほど、自力では解けないようになってますね』

『逃すわけにはいかないもの。それにすごく細い糸だから下手したら腕を切るわよ』

『それはそれは………それであのカメラ、映ってるんですね?』

『えぇ。何か言いたいことはある?』

『もしお嬢様達が見ているのなら、僕は大丈夫ですとだけ』

『ちゃんと聞こえてるわよ』

『ならよかったです。では逢坂さんにも』

『何?屈服する気になった?』

「ん?待てよこのパターン………?」

「どうした変態探偵」

「変な名前で呼ぶな。いやこっから需要性ないシーンが見れるような………」

 

 京の言ってることは理解できなかったが画面を見続けると新一はフッと笑った。

 

『辱めは受けません。やるなら一思いに殺ってください』

『わかったわ。とびきり痛いのをあげる!』

 

 女はムチのように糸を束ねて新一にぶつけた。相当痛かったのかそれでも耐えようとした新一はくっ、と顔を強張らせて睨みつける。今にも殺せと言いそうな顔だ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

「だからなんでさっきから絶望してるのがお前なんだよ!」

「いや、新一のくっ殺なんて需要性ねぇだろ!」

「京はなんでさっきからそういうこと言うの!?」

「………」

「紗夜さん?」

「……(名護さんにあんなことされたら私は………どうなっちゃうの?)」

「紗夜もなんとか言ってよ!」

「鳴海さん………いいですか?」

 

 ギャーギャー騒いでいる中京の肩を掴んだ燐子の顔はとても怖かった。普段見せないような無表情、さらには死んだような目をして声には感情がこもっていなかった。

 

「新君をあの女から取り戻して来てください」

「確かに今の状況は俺のQOLにも危害を出しかねないが、お前どうした?目が死んでるぞ」

「いいから行ってください」

「白金?」

「大道さんも、早く行ってください」

「先輩どうしたんですか?」

「早く」

「せんぱ」

「早く、行きなさい」

「「イエス・マム!!」」

 

 二人はサークルのガラスを破って出ていくと土煙を出しながら走っていった。その姿を見た燐子は紗夜に近づいく。

 

「し、白金さん?」

「氷川さん、まだアレ……持ってますよね?」

「アレって?」

「もしかして新兄の?」

「持ってますけど………」

「あの女をコテンパンにします」

 

 目の光が消えていたことやオーラがかなり危険な状態を物語っていたので全員で押さえつける。燐子の力は普段の倍は出ているのでは内科というぐらい力強く抵抗してきたが全員で取り押さえていたこともあってどうにかなった。

 押さえつけている最中画面に映る女がメモリを使って姿を変えていたが変身した京たちによって倒されていた。十分後、新一を連れてきた彼らは颯爽と撤退した。とりあえず手当てをすると燐子が新一に抱きついていたのだが新一は燐子の髪を撫でていた。

 

「心配したんだから………!」

「ゴメンね。でもあれも僕のせいだから」

「もう少し…危機感持って……!」

「ごめんなさい」

「それにしても新兄はりんりんに対して甘いよね〜」

「そんなことないよ。幼馴染だからどう伝えればいいのかわかってるだけ」

「ブランクあるのに?」

「会ってない期間をブランクっていうのは置いといて、そういうものだと思うよ?」

 

 皆がやれやれと言ってる中私は燐子の顔を見ていた。何を言っているのか分からなかったが目から光が消えていたのは間違いなかった。

 

悪い虫が憑く前になんとかしないと……

「?りんりん何か言った?」

「ううん、何にも言ってないよ………」



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第三話 女心を手に入れて

 学校の放課後、本来ならお嬢様達に付き添うはずだが僕達は教室に残って作業をしていた。体育祭のプリントの仕分けのためだ。帰ろうとした僕と京君を目にした教員がその仕事を任せてきた。本来なら断るはずだったが目の前で倒れた為とりあえず保健室に運んで様子を見てもらうと過労らしい。京君は怪しいと思ったのか身辺調査をするとこの人は新任の教師で他の教員の方々から仕事を押し付けられてたしい。それを押し付けていた教員達に突きつけ脅していた。それでもこれだけはやっておこうという話になり今に至る。

 

「それで脅してたけど何と取引したの?」

「それが運のいいことに俺たちの授業をやってる連中でよ、ライダーの仕事の時は出席にしろって言ってきた」

「それ倒れた先生にはなんの得にもならないよね?」

「まぁな。けどこれ以上押し付けたら教育委員会とマスコミにお前らの知られたら嫌な話叩きつけるって言っといた」

「一気にレベル上がったね」

「マイティジャンプじゃつまんねえからな」

「マキシマムまで上がってるけど?」

 

 なんて雑談しながら作業をしていたらいつの間にか全部片付いていた。外の景色を見るともう日も沈みかけていた。秋というのは本当に季節の中で夕暮れを感じやすい。

 

「もうこんな時間か」

「でも早く終わった方でしょ」

「余興もすぐに終わったしな」

「余興って………というかいつの間に脅せる情報を持ってたの?」

「お前、学校ってのは教員を脅すために情報を集めるところでもあるんだぞ」

「そんなわけないでしょ」

「なんてな、転校してきた時からちょいちょい情報は集めてた」

「なんでさ」

「面倒臭いことに巻き込まれた時に罪悪感を増やさせるため」

 

 そんなことに探偵の力を使うなと言いたいところだけどまぁそれはそれで正解だろうと納得する自分もいた。さてさてと学校を出ようとすると錠前から連絡が入る。なんでも今から弦巻家にきて欲しいとの連絡だった。迎えを既に近くに置いてあるとのことでその車で向かった。当然快斗君も乗っていたが呼ばれた理由はわからないらしい。ついてすぐにブリーフィングルームに案内されると珍しくプロフェッサーが真面目に座っていた。

 

「アイツ病気か?」

「いきなり失礼だな」

「いやアンタが真面目に座ってるの見てそう思わない奴いないだろ」

「それはそうかもしれんがね」

 

 納得するのかと呆れつつ席に着くとモニターに城のような建物が映し出される。

 

「これは?」

「次のキミ達の任務先だ」

「ほぉ?」

「今度ここの屋敷でパーティーが主催されるらしい。中にはオークションもプログラムとして入ってるらしいが」

 

 その言葉を聞いて全員が察した。目つきが鋭くなったのを感じたのかプロフェッサーはパンと手を叩いて話を続けた。

 

「察しが良くて助かる。ここに潜入するのは二人だ」

「全員行くとこっちで何か起きた時対応出来ないからな」

「配役は?」

「本会場でのダミー、裏で探索する人の二つだ」

「なるほどな」

「そういうわけで誰が行くか決めてくれ」

 

 三人で協議した結果、僕がダミーで快斗君が捜索になった。実際僕よりもガイアメモリに詳しい彼の方が適任だろう。その後作戦内容を確認する。僕が表の動向を見張っている間裏で快斗君がメモリの捜索と破壊を行う。

 

「あ、言い忘れてたけどダミー担当には女装して貰うから」

「…………は?」

「乙」

「なんかすみません」

「今日はドライな感じだね。代役とかいないんですか?黒服さんとか……」

「仕事上素顔は晒すことは誰にも許されてないからそれは無理だね」

 

 通りでいつもサングラスを外さないわけだと納得しつつもそうじゃないと頭を切り替える。この状況、つまり僕が女装することになる。一度もそんなことしたことないがしたくもない。

 

「どうしてもというなら一般人の誰かに」

「それは却下で」

「なら答えは決まってるよね?」

 

 下唇を咬みながらも任務のためと言い聞かせて大人しくいうことを聞く。一応服装を見せてもらうと女装ということもあり男っぽい体つきがわかりづらい和服のようだ。そこのあたりちゃんと配慮されててよかったと安心して予定日を確認する。因みにメイクもちゃんとしてくれるらしい。全て確認し終えた僕達は解散となりその日はそのまま家に戻った。空いた時間で女の人らしくするにはどうするべきか考えたがわからなかった。

 翌日昼休み、お昼ご飯を食べながら京君に相談した。探偵ならおそらくコツを知っているだろうと頼った。

 

「ねぇ京君、女の人っぽくなるにはどうしたらいいかな?」

「そうだな、女っつってもいろんな種類がいるからな。お前(がやる感じの役)ならお淑やかな感じじゃないか?」

「そう?」

「ああ、元々の言葉遣いや性格ならそれ(の役)がいいはずだ」

「なるほどね………てか(メイクするとは言ってたけど)顔は大丈夫なのかな」

「元々中性的だし問題ないだろ」

「でもそういうこと(女装)とかしたことないから」

「任せとけ、俺が教えてやる。明日には女に(も)なれる(ようになってる)さ」

「二人ともさっきから何の話をしてるの!?」

 

 目の前でご飯を食べていたリサが大声を出して聞いてくる。特に問題ない会話をしていたと思うのだが。

 

「新一はどこか壊れてるみたいだし、京も京で何ふざけてんの!?」

「僕達は(任務について)真剣に話してるけど?」

「ああ、何か問題か?」

「問題でしょ!そんな真っ昼間から堂々と!」

「えー………でも(忙しすぎて)夜にこんな会話できないよ?」

「そうだぜ。コイツ夜は大変なんだからな」

「ちょっと待って、三人とも何の話をしているの?」

 

 この状況を理解していなかったお嬢様が手をあげて発言する。正直僕達は任務についての話しかしていないのだがリサは別の話をしているのだろうか。とりあえず自分達の考えを公開してみると京君との意見は合致していたのだがリサはどうやら僕が女の子になりたいという風に聞こえていたらしい。一部無くしたら本当にそう聞こえてもおかしくないと感じた。確かにこれは誤解を招く会話内容だと一度謝罪した。それについてリサも勝手に誤解してしまったことについて謝罪してくる。

 

「今井は新一が女になることを………」

「望んでない!」

「それは勘弁願いたいね」

「本気にしないで!?」

「ま、冗談だ。だがさっきも話した通りコイツは任務で女を演じなければならない。だから相談してきたんだ」

「なるほどね。京が探偵だからということなのね」

「はい、それで京君は打開策があるの?」

「ああ、この台本通りに一度演じてくれ」

 

 京君はどこからか冊子のようなものを取り出して僕達に一つずつ渡してくる。題名が書かれていないところを見て不審に思いつつも中身を見ると演劇の台本のようだった。

 

「これは?」

「俺著作台本」

「燃やしてもOK?」

「ダメです」

「碌なことなさそう」

「いつも言ってるのよりかはマシだ。今回はDV夫とかチャラ男とかそういう感じのはない」

 

 本当なのだろうかと一度読んでみると特にドロドロしたようなことはなさそうだ。胸糞展開でもないらしい。仕方ないかと皆やる気を頑張って出しながらも配役を決めた。

 

「ところでお嬢様は演技とか大丈夫ですか?もし苦手ならこの阿呆探偵に……」

「失敬だな」

「大丈夫よ、私の中の人はいろんな役をやっているもの」

「友希那、中の人とか言っちゃダメ」

 

 それから寸劇のように軽く動きをつけながら感情を込めて台本を読んでいく。

 

「名護さん、なんでその人なんかと一緒にいるんですか」(優しいがダメ男の湊)

「ごめんなさい湊さん……でもこうしないと父の会社が」(事情ありの女性名護)

「諦めなお嬢さん、この子の意思で来るって言ってんだ。この子は悪いようにはしないから安心しな」(ノリノリの今井)

「でも明らかに嫌そうな顔を」(抗議しようとする湊)

「それ以上は近づいちゃダメだ。大丈夫だ、お前が出来なかった分楽しませてもらうからよ」(ニチャアという笑みを浮かべる今井)

 

 リサは肩に手を回してくるがその顔は悪役そのものだった。この子そんなにハマったのかな?にしては笑顔すごくない?計画通りとか言った夜神月と同じ顔してるよ。

 

「名護さん!」

「湊さん………ごめんなさい、さようなら………」

「はいカットぉ」

「結構作り込んでるわね」

「最初の展開からは考えられませんでしたね」

「いや結構読めてたよ?」

「ううん、リサの行動が」

「アタシ!?」

「今井は親友ヅラして親友の湊を絶望に叩き落とす役にしてみようかなって」

「トンデモナイ役だね!?ノリノリだったけどさぁ!」

「お嬢様にはとても好感のある部分があったと思います」

「そうね、この主人公やるときはしっかりやってるものね」

「普段鍛治してくれないのがマイナス点ですね」

「そこを見るなよ」

 

 その後どこがどうだったなどと話し合った結果少しは女心が掴めたのではないかと感じた。もう少し本を読んでみるなどして対策を積んでから任務にあたることにする。

 と思っていたのは数日前、とうとう本番が来てしまった。役割と設定を再確認して任務地へと向かう。その車の中快斗君は黒服さんと同じ格好をしている。

 

「新一さん、大丈夫っすか?」

「んー、あまり乗り気ではないけど仕事だから。ちゃんと勉強もしてきたし」

「今更ですけど真面目が過ぎません?」

「そんなことないよ。手を抜いて失敗したら大変だからせめてものことをやってるだけだよ」

「その心意気をこのバカにも教えてあげてください」

「先輩、俺これでも結構真面目にやってるんすよ?」

 

 黒服さんがいつもの声のトーンで言うと快斗君は申し訳なさそうに言う。目的地に着くと一度深呼吸して車を降りる。

 今回の任務は僕はホールでダミーの役割、とはいえガイアメモリの乱闘になれば取り押さえる役。そして快斗君はオークションに出されるガイアメモリの奪取と破壊だ。裏に人がいることを極力気づかれないようにしなければならない。だからこそのダミーである僕だ。

 指示に従って会場に入るといくつものテーブルを囲む人だかりが見える。人が少ないテーブルの近くにいると飲み物を差し出してくるウェイトレスがいたが未成年だと断ると引き下がっていった。その代わりにリンゴジュースを持ってきたのでそれを受け取り引き退らせる。一口それを口に含み違和感を感じないことを確認すると飲み込む。

 グラスを口から離すと一人のスーツの男性が近づいてきた。

 

「初めましてお嬢さん、あまり見ない顔だね」

「初めまして。(わたくし)初めて来ましたの」

「それじゃあ新参者というわけだね。今日は面白いものが見られるから是非楽しんで生きたまえ」

「ありがとうございます」

「何処の家なんだい?」

「申し遅れました。私、貴杉コンツェルンの社長が娘、貴杉真奈と申します」

 

 女性らしく慎ましく挨拶する。ありそうな名前だが偽名だ。そのまま読めるし使い捨てにはちょうどいいだろうと用意されたただの記号。もちろん招待状なども全て偽造だがコンピュータをハッキングして本物と何ら変わりないものを製作したらしい。今の声だって相手の死角にあるボイスチェンジャーで変えている。やっぱ恐るべし弦巻家。

 

「聞いたことがないな。最近できたのかな?」

「祖父があまり表には出ないように勤めてましたので。このような場に出るようになったのは父が当主になってからですね」

「なるほどなるほど。それにしても父君は君のような若い娘にこのような席を任せたんだね。とても信用していると思う」

「いえ、社会勉強としていさせていただけてますの。実際は別の人が見に来てましてよ」

「そいつは驚いた。もしよければ少し商談をしないか?」

「申し訳ございません、そこまでの許可は出ておりませんので」

 

 今この場で話すかそれとも別の部屋に行くのかは関係ない。シンプルにいざとなった時に動けなくなることが一番の危険だ。

 

「社会勉強をしなくてもいいのかな?」

「お気持ちだけ受け取らせていただきますわ」

「今君が商談を持ち替えればきっとお父上もお喜びになられると思うが?」

「………」

 

 めんどくさいな。この人の目がさっきから邪なものまで含んでいる目つきになっている。どうにか振り払う方法はないかと探る。この手のタイプは一度怒らせると厄介なことにしかならない。

 男が声をかけてくる中耳につけていたインカムに雑音が入る。通信がきた証拠だ。

 

『新一さん、任務完了です。撤退の準備を……って何してるんすか?』

 

 今声を出すと怪しまれるだろうと何処にいるか探すように目を動かす。すると後ろにいると言われたので片方の手を後ろに回してハンドサインを取る。

 

『?……この男に、絡まれてる………?』

 

 親指を立てるとおぉーと納得した様子だった。

 

『じゃあ任せてください。何とかしてみるっす』

 

 この場は快斗君を信じるしかないと考え男に対して悩む様子を見せる。手を差し出してきたがそれに対しては反応せずそのまま抗議を続ける。するとテーブルまで移動してくれと言われたので少し移動しましょうと言って移動する。

 当然男は何も知らないままついてきているが僕がテーブルにグラスを置いた瞬間部屋は真っ暗になった。ざわざわと人の声の中風が僕を襲い掛かる。手を伸ばすとそれに引っ張られるがすぐに同じように走る。しかし着物のせいで若干走りずらい。致し方ないとそのまま繋がれている方へ走ると非常用のライトに照らされた時に快斗君の顔が見えた。

 

「さすが暗殺班、大衆からの脱却方法も備えてるね」

「でもこれやり方としては下の下っすよ」

「でも手に持ってるものを後ろに投げるんでしょ?」

「まぁね⭐︎」

 

 カチンと音を鳴らして後ろに投げたそれは煙を発しながら僕達の姿を後ろから隠していく。そのまま建物の二階へ向かうと開け放たれていた窓があった。そこへ飛び込んだ僕達は黒服さん達が用意してくれたマットの上に飛び落ちそのままそれがシーツのようになって僕らを包む。視界がシーツから解放されるともう車の中だった。

 

「名護様、お疲れ様です」

「ありがとうございます。快斗君例のものは?」

「ゲットしましたよ。見たことあるやつは全部ぶっ壊してきました」

「ご苦労様。お二方本日はお疲れ様でした。移動中のみになりますがゆっくり休んでください」

 

 礼を言ってシートベルトをつけると快斗君は滑るように姿勢を崩した。

 

「お疲れ様っす」

「お疲れ様。ありがとうね、脱出させてくれて」

「いえいえ、このくらい大したことないっすよ」

「あんなのに絡まれなければもっと楽に出れたのにね」

「結局何処いってもあんなのはいるんすよ。モテるのはあんな奴より俺みたいなスマートな奴だと思いますけどね」

「ははっ、そうかもね」

「快斗、後ででいいから報告書をまとめておきなさい」

「ういっす()」

 

 それから雑談しながら帰路についた僕達は任務後とは思えないほど笑っていた。

 

 

 

 

 

〜後日〜

「で、新一の女装は?」

「それがよ、何回撮っても黒くて何も写らねぇんだよ」

「新一何かしたの?」

「黒服さんが写真とかどうしますかって聞いてきたからナシでって言ったら了解としか言ってなかったよ」

「チッ、お前の女装写真売り捌こうと思ってたのに」

 

 本当にありがとうございます黒服さん!



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第四話 スポーツの秋といえば体育祭っしょ

イベランしてて更新忘れてましたごめんなさい


 秋もあと少しで終わるというこの頃、羽丘高校では体育祭の準備が進められていた。LHRの時間、僕達は出たい競技について話し合っていた。

 

「今年の体育祭は赤白の二色だってさ」

「みたいだな、めんどくさいったらありゃしない」

「そんなこと言わずにさ」

「だって走るのめんどくさいじゃん?」

「気持ちは分かるけどさ」

 

 隣の探偵はどうやら乗り気じゃないらしい。だが体育祭は走る以外の競技もあるため僕は楽しみだったりする。去年は男子が一人しかいないということもあって雑用の方に回っていたが今年は競技に参加できるとのことだ。

 しかし競技は限られているため僕達は分担して何に出るか話し合っていたところ教室後方の扉が開く。開かれた扉からは数人の女子が入ってきた。

 

「鳴海君こんなところで何してるの?」

「何ってお前、ここは俺のクラスだぞ?」

「知らないの?男子は人数の都合上名護君と鳴海君は別々になったんだよ?」

「「え?」」

 

 二人で顔を見合わせるとお互いそんなことは知らないという顔をしている。いつそんなことを言われたのか聞こうとすると京君は両腕を掴まれて連行されていった。

 扉の先で見えなくなったのを確認すると今度は一年生の男子生徒が顔を出した。一年生も僕達というほどではないけれど八人くらいしか入っていなかったはずだ。教室の外に出て話を聞く。

 

「鳴海先輩は白組なんですね」

「君達は赤組?」

「はい、残りのメンバーは全員連れてかれました……」

 

 うちの学校の女子ってたまに乱暴なところあるよねと苦笑いしつつどの競技に出るのか聞くと僕達は既に学校運営に決められているらしい。さっきの時間は無駄だったのかと少し虚しくなった。とりあえず自分達の教室に戻ろうということになり席に戻ると委員長が紙を渡してきた。

 

「ごめんね名護君盛り上がってたところ」

「ううん、こっちも確認すべきだったかも」

「それでなんだけどこれが名護君の出る競技ね」

 

 分からなかったら聞いてと言って席を離れていった。紙を見ると四つの項目が書かれていた。一応メモ書きで全部男子が相手だから大丈夫と書いてあった。ただしリレーに関しては順番が変えられるから分からないとのこと。ついでに僕はアンカーらしい。京君じゃないけど、これはめんどくさいったらありゃしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで体育祭当日になった。表面は学生だがお嬢様のサポートも欠かさないようにしなければならない。

 お弁当も水筒もちゃんとスポーツ用にしたからあとは定期的なケアのみだ。後ろの方の応援席で開会式の待機をする。

 

「落ち着かないわね」

「どうかしたんですか?」

「ずっとそわそわしてるわよあなた」

「すみませんご迷惑でしたか?」

「いえ、去年も出たのに飽きもしないのね」

「去年は雑用のみでしたから。今年は本格参戦です」

「やるなら勝ちなさい」

「仰せの通りに」

 

 勿論負ける気なんてない。出来る限りで全力を出すつもりだ。

 

「お嬢様、水分補給は適度にお願いします」

「分かってるわよ」

「暖かい方も冷たい方も蜂蜜水を用意してますので」

「本当、あなたって抜かりないわよね」

「どんなイベントでもサポートさせていただきます」

 

 飲み物を渡すと静かに飲み始めた。素直に聞いてくれるところは本当に嬉しい。そんな様子を見たのか前の席のクラスメイトが話しかけてきた。

 

「名護君と湊さんってやっぱりそういう関係なの?」

「そういう?」

「カレカノ的な……」

「違うわ」

「そこまでして違うの?」

「この人がお節介なだけよ」

「でもそれだと名護君は湊さんのこと」

「そうでもないぜ」

 

 急に頭に何かがのし掛かってくる感覚が来る。誰かと思えば京君だった。肘をのせて楽な姿勢を取っている。

 

「コイツは誰にでもお節介を焼くんだ。ほれ」

「こういう日くらい自分で作ってきなよと言いたいところだけど、みんなの分纏めてあるからその時ね」

「どういうこと?」

「コイツは俺の飯も作ってきたってことだ。因みに普段も作って貰ってる」

 

 Vサインを作ると片手で僕の頭をワシャワシャしてくる。やめてくれと手を止めると大人しく引き下がった。

 

「それでどうして京君はここに?」

「なんとなく☆」

「暇人なの?」

「本当は今井が今忙しいからお前らに言伝を預かった。お昼一緒に食べようだってよ」

「分かったと伝えといてちょうだい」

「あいわかった。あぁそうだ、湊」

「何?」

「お前の執事、今日敗北を知ることになるぜ」

 

 京君はこちらを振り替えることなく自分の陣地へと戻っていった。多分負けないぜという意気込みだったのだろう。僕ももっとやる気を出そうと気を引き締めると隣からさっきとは違うものを感じた。

 

「おじょ、湊さん?」

「勝ちなさい新一」

「それなら先ほども」

「あなた、負けたらわかってるわよね?」

「い、イエス・ユア・ハイネス」

 

 なにか黒いオーラを発してるお嬢様に逆らうことなど許されず僕は指示を飲み込んだ。さてはあの人面白半分で挑発したな。お陰で楽しむ予定が気を抜けなくなってしまったじゃないか。

 無事開会式が終わりプログラムが進んでいく中とうとう僕の番が来た。最初に出場する種目は借り物競走。男子全員が出場する種目で何処から借りてきても良いというルールになってる。くじ引きなので何が当たるかはその時になるまでわからない。

 

「名護先輩、頑張りましょうね!」

「うん。頑張ろう」

「お前ら、俺たちの運試してやろうぜ!」

「「うっす!」」

 

 京君側の陣営は指揮をうまく取っているみたいだ。スタートラインについてクラウチングスタートのポーズを取る。開始の合図が出た瞬間に走り出す。最初に着いたのは僕と京君でほぼ同時にくじを引いた。中に書かれていたのは「ギャルっぽい人」だった。一瞬で閃いた僕は白組の陣地に向かって走り出す。そう、僕の中でギャルっぽい人でよく話しているのは彼女しかいなかった。

 

「リサ、一緒に来てくれる?」

「別にいいけどなんて書いてあったの?」

「後で話すから来て」

 

 手を引っ張って競技場内に戻ると応援席から出てきた京君の姿があった。大和さんを連れているということは僕と同じ人を連れてこいという指令なのだろう。だけど負けることが許されていない僕はリサを連れて走り出した。当然京君もすぐに追ってくることはわかっていたので戦法を変える。

 

「少しだけ我慢してね」

「えっ、ちょ、何してんの!?」

 

 彼女の体を抱えてギアを上げていく。ほんの少しの間だけ我慢してくれ。お嬢様からの命令なんだ。ゴール10m前に着くと紙を渡すように指示される。紙を渡すと進んでどうぞと言われるので残りの直線距離をそのまま走っていく。ゴールテープを切った僕は開始早々一位を取ることに成功した。来てくれたリサにお礼を言おうとすると顔を両手で隠していた。よく見ると耳が赤い。

 

「どうしたの?」

「早く降ろして………恥ずかしくて死にそう」

「ごめん、そこまで配慮できてなかった」

 

 よく考えればお姫様抱っこをして運んでいたのだ。けどあの状況ならこれが一番効率が良かった。引っ張りすぎて怪我をさせることもないしね。リサは顔を見せないようにして下を剥きながらポカポカと叩いてくる。器用だなこの子。

 

「ずるいぞ新一」

「京君お疲れ様」

 

 走ったせいか息を荒げている大和さんと一緒に余裕そうな京君は口を尖らせている。けどこれも一つの戦法なのだから仕方ない。

 

「こっちはアイドル連れてんだぞ、簡単にそういうこと出来るかよ」

「お題はなんだったの?」

「メガネかけた女子だ。麻弥くらいしか思いつかなかった」

「でもほら、取ったもの勝ちだから」

「ずっけ。次は負けないからな」

 

 そのまま他の一年生達がゴールしていき借り物競走時体が終わりリサを応援席まで送り届ける。応援席に戻る頃には顔から手を離していた。

 

「大丈夫?まだ耳赤いけど」

「だ、大丈夫!でもあんまりああいうこと簡単にやっちゃダメだよ?」

 

 あくまで効率性を選んだだけだと言うとまた膨れるだろうか。発言する前にこのことに気づいているということはもしかして成長しているのでは?

 

「その辺りは心配いらないよ。緊急時と慣れた人にしかしないから」

「だからそういうのがダメなんだって!」

 

 今度は顔を赤くして席に戻ってしまった。結局言葉の選択肢をミスってしまったのか、成長もクソもないねこれ。席に戻るとスッと横から水筒を差し出された。ありがとうと言って受け取るのが飲む前に差し出してきた人を確認する。

 

「飲まれないんですか?」

「飲みたいのは山々だけど何か仕組んでるんじゃないかなって」

「私のことを疑ってるんですの?」

「最近危険なお姉さんに捕まってそのことで危機感を持ちなさいって怒られたからね」

「でも私は味方ですのよ」

「君も十分危険人物認定されてたよ?」

 

 数日前の逢坂さんの事件後にりんりんに結構言われた。その時に夜架ちゃんにも気をつけるようにと言われているのだ。発言が際どい彼女は危険だと紗夜さんも言っていた。だからより一層前よりも警戒していたりする。

 

「今回は媚薬とか入れてませんわ」

「やったことあるんだね?」

 

 こういうところがなければ本当に美人さんなのにもったいないと思う。あとりあえず飲むと僕が入れてきた飲料だとわかる。体に違和感が出てくるわけでもないので今回は信用してもいいだろう。

 その後も綱引きや障害物走に出場するが勝負は五分五分に持ち込まれた。僕達が出る競技は最後のリレーを残してお昼休憩になった。約束通り二人が用意したブルーシートにやってくる。

 

「お待たせ〜」

「お疲れさん」

「いらっしゃい」

「アタシたちもいーい?」

 

 後ろからひょこっと日菜さんと大和さんが顔を出してくる。もちろん構わないとお嬢様が呼ぶ。それに合わせて場所を開けると少しキツキツになってしまった。でもこういうイベントではこれくらいの人数で食べるのが一番美味しいのだろう。全員がいただきますと言って食事を始めた。

 

「おっしゃ俺卵焼きいただき〜」

「一番乗りなんてずるいですわ!」

「これ全部新一君が作ったの?」

「はい。手塩にかけて作りました」

「るんっ♪ってきた!アタシももらっていい?」

「構いませんよ」

「名護さんって本当器用ですよね」

「それほどでもないですよ」

「新一、私の分は?」

「既に取ってありますよ」

 

 皿を渡すと感謝を伝えられる。手塩をかけたとは言ったがこれと言ってオリジナリティはない。ネットで調べた運動会のお弁当をそのまま再現しただけだから。でも皆が美味しそうに食べているのを見ると通食った甲斐があると思う。

 

「しっかし新一君あんなに運動できるなんてびっくりしたよー」

「そうですか?でもお嬢様のためですので」

「え、お嬢様?」

「あー、麻弥は知らないんだっけか。かくかくしかじかでな」

「京さんそれじゃわからないっす」

 

 京君が改めてちゃんとすると大和さんは目を点にしたようにこっちを見てきた。まぁ普通の人からすれば当たり前の反応だろう。それでも大和さんは控えめな方だ。それでも他の人には黙っていてくれるとのことなので感謝した。

 

「それで京、今日うちの執事がなんですって?」

「ん、いまのふぉふぉろふぉふふぉふふぁふぁら」

「日本語でお願い」

「んぐっ。今のところ五分五分だからまだなんとも言えないぜ?」

「そうかしら?新一は随分と余裕そうよ?」

 

 体力は残っているから全然大丈夫と言えば大丈夫だけどまだ気にしていたんですねお嬢様。

 

「どうかな、リレーは単純勝負だ。純粋な速さが求められる。体力はあっても走力となれば話は別だ」

「それでも新一は勝つわ」

「なんなら賭けてもいいぜ?」

「京さんそれはまずいっすよ!」

「いいわよ」

「お嬢様!?」

「勝てるわよね?」

「は、はい………」

 

 他にるんっ♪ってきた!って言っている人がいるがスルーしようと最後の唐揚げを食べようとするとそれを目の前で京君に取られる。よし、本気出そうかな。

 そして時は流れて最後のリレー。なぜかアンカーにされた僕達は同じ列で待機している。

 

「結局何賭けたの?」

「俺は俺が勝てば新一を一日誰かの執事にすること」

「ちょっと待って?」

「アイツはお前が勝てばお前を、あ、これ言っちゃダメなんだっけ」

「待って、前者の方も気になるけど後者の方が気掛かりすぎるんだけど!?」

「まぁお前が勝てば大丈夫な話よ」

 

 勝っても負けてもアウトな気がするけど何かされるならお嬢様の方がマシだと考える。コーナーを曲がってきた紅組と白組の子たちはほぼ同じくらいの速さで走ってくる。僕達はほぼ同時にバトンを受け取った。その瞬間気持ちを切り替えた。

 今の僕は、豪雷だ。誰も寄せ付けない一閃の雷。ただそれだけを考えて走る。誰にも止められない、止めさせない、止まることすら許されない僕は走り続ける。コースを一周して戻ってくると白いゴールテープが見える。それすら突き破るスピードで走り抜けるとかすかに笛の音が聞こえてきた。

 

『優勝は紅組です!』

 

 放送の音が聞こえると少しずつ感覚が戻ってきた。普段の倍のスピードで走ったせいか疲れがどっとくる。一気に体力を使ったのは戦闘の時以外だと初めてかもしれない。深呼吸して息を整えようとすると息を荒げている京君がやってきた。

 

「…お疲れ様…」

「おう……お疲れさん」

 

 ハイタッチをして僕達は息を整えた。後から聞いた話だがあの時完全に京君を置き去りにしていたかと言えばそうでもないらしい。最後の方で京君も追い上げてきて後数歩のところで先に抜かしていたんだとか。けど京君は最後の方の記憶がないらしい。お互い周りが見えなくなるほどに集中していたみたいだ。

 体育祭が終わってやりきった僕達はお昼を共にしたメンバーで下校していた。

 

「最後のリレーすごかったね!」

「もうハラハラしたよ」

「ジブンも結構ドキドキしました」

「よくやったわ新一」

「ありがたき言葉にございます」

「さて、京。約束は守ってもらうわよ」

「わーってるよ、その辺に関しては打ち合わせしてからじゃないとな」

「本当に何するつもり?」

 

 もう一度聞いたが何も返事はしてくれなかった。正直怖いけど安全であることを願おう。

 本来こんなことをしていて良いのかと考える自分がいたがせっかく学生をできているのだから少しくらいこういうイベントをしていてもバチは当たらないだろうと思った。

 



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第五話 断章/家族とは

断章ということで少し短めです


 ある休日の午前中、僕達はファンガイアと交戦していた。ネズミの様な印象を受ける姿をして三体という小グループで出現した。グループ構成だったせいか連携が強い。

 

「コイツら絶対仲良し三人組とかだろ!」

「チームワークが半端ないのは事実だけどね」

「じゃあ俺たちもチームプレーでいこうじゃないっすか!」

 

 快斗君が単身で突撃していくのを見て僕と京君はサポートに回った。彼に対して突っ込んでくる一体以外の二体を足止めするように銃撃する。快斗君が対峙したファンガイアの前に黒いマントが立つ。

 

『ゾーン』

 

 マントからファンガイアの顔が見えて瞬間立っていたのは骸骨の仮面をつけた男。彼は手持ちのマグナムの銃口をファンガイアの胸に押し付ける。

 

「まずは一体」

『スカルマキシマムドライブ』

 

 銃弾に貫かれたファンガイアはステンドグラスとなって散らばる。残りの二体もこの調子で倒そうとすると一体が消えていることに気づくがもう一体が慌てていることから恐らく逃げたのだろうと考える。

 

「仲間に逃げられたか」

「でもお前は逃がさないぜ」

 

 背を向けたファンガイアは脱兎のごとく早い動きで逃げていく。逃がすかと追いかけると逃げたネズミは人質を取っていた。小さな男の子は泣きそうになりながらも頑張って堪えているのが分かる。

 

「チッ」

「テメェ何してんだ!」

「二人とも落ち着いて。快斗君アレ使える?」

「これっすね。だいたいわかりました」

 

 快斗君はゾーンのメモリを挿して展開するとその辺の石ころと子どもの位置を変える。当然質量が急に変わったことに驚いている。その瞬間を逃さず快斗君がトドメをさす。

 変身を解除した快斗君は男の子に近付いて頭を撫でた。

 

「よく頑張ったなボウズ。泣かなかったのはえらいぞ」

「……! 」

「あっ、いた!」

 

 声がする方を見ると母親らしき人が走ってくる。男の子は女の人の方へ走っていく。抱き締めあってるところを見るに親子なのだろう。

 親子にお礼をいわれた僕達はそのまま予定していた弦巻家の訓練場へ向かった。車の中では快斗君が珍しく静かだった。いつもなら何か話してくれるはずなのだが。

 

「どうしたんだお前」

「俺か?」

「そうだよ。さっきから随分と静かだからな」

「どこかダメージでもあった?」

「いや、そうじゃないんすよ」

「?」

「……家族ってああいうのなのかなーって」

「どういうことだ?」

「俺さ、赤ん坊の時に拾われたから親の顔知らねぇんだよ」

 

 一瞬耳を疑った。けれど何度頭の中で繰り返してもその言葉は変わらなかった。

 

「そうか……」

「あぁ。だからもし俺に母親がちゃんといたらどうなっていたのかなーって思ってよ」

「なんか……すまん」

「謝ることじゃねぇだろ。それに別に俺はこの生活に不満があるわけでもねぇしな。こころを守るって仕事があって、その上新一さんや京みたいな面白い奴らに会えたから結構気に入ってる」

 

 現状を語る快斗君の顔は清々しかった。それに合わせたのか京君は茶化していたがいつもの光景に戻ったような安心感があった。

 

「随分とスッキリしてるね」

「そうっすか?」

「じゃあこの際聞いておこう。お前はどうやってライダーになったんだ?」

「あー、これはちょーっと重い話だけどおけ?」

 

 僕と京君は顔を見合わせるが何も問題ないと言って快斗君から話を聞いた。

 

「俺には尊敬してる先輩がいたんすよ。このベルトも先に使ったのは先輩でユニコーンのメモリを使ってました。暗殺者として育てられてた俺はこころの護衛としてもっと強くなるためにライダーシステムの説明を受けました。けど先輩はそれを許さなかったみたいでその次の任務で教えてくれたっす。これは一歩間違えれば悪に堕ちる道具だって。勿論他の技術もそう言われましたけどあの時はかなり違いましたね」

「それは新一も似たもんだよな」

「だね。その辺りはかなり似てる」

「そんで任務先でライダーシステムを使った時先輩は負けました。相手はタブーとかいうメモリを使ったやつで先輩の死に際にベルトを託されてライダーになった。その後勝ち残った俺はライダーを続けてきた、ってわけっすよ」

 

 つまり快斗君は弦巻家の先代ライダーの跡を継いだということだ。普段ユニコーンのメモリをフィニッシュに使っていたのはそういう思いがあったからだろうか。そのまま先代の話をしていたがとてもいきいきしていた。話を聞くに父親のように尊敬していたらしい。

 やがて訓練場に着くと何故かハロハピがそこにいた。何故かって言っても弦巻家の敷地だから何の問題もないと言えばないのだけど。

 

「やっほー!」

「お前らなにしてん?」

「今日ここで快斗たちが遊ぶって聞いたから来たの!」

「遊ぶじゃなくて訓練でしょ。邪魔しちゃ悪いしあたしたちはこの辺で……」

「いや、いていいぜ」

「なんで!?」

「おい、京」

「今日のこともあったからな。コイツら使って救出訓練といこうぜ」

「それは良いかもね」

 

 快斗君は少し戸惑った様子を見せたが納得してくれる。そのままメモリ組で先に訓練を始めるのを見ていると黒服さんが来た。仕事柄か無表情なことが多いが少しだけオーラが違った。

 

「どうかしたんですか?」

「これから話すことはあくまで独り言として聞き流してください」

 

 いつも以上に真剣な声色に耳を澄ませる。でもそれはどこか悲しげなようにも聞こえた。

 

「弦巻家先代のライダーは本来名護様達と共に戦う予定でした。仮面ライダーユナイト……彼はそう自称しメモリが関係している任務をこなし海斗の教育にも携わっておりました。ですがご存知の通り彼は殉職し今は海斗がその役割を担っています」

「その話、何故僕に?」

「仮面ライダーユナイト──本名は大道克彦」

 

 驚きを隠せなかった。黒服さんの顔を見てしまうところだったが寸でのところで止まる。でも快斗君のお父さんを本人は知らないって言ってたしどういうことだ?

 

「先ほども話しました通り快斗は肉親の存在を知りません。その情報を握っているのはごく一部の人間です」

「ではユナイトはたまたま同じ苗字だったのですか?」

「いえ、彼は快斗の肉親です」

「じゃあなんでアイツは知らないんだ?」

 

 話を聞いていたのか京君が疑問を投げてくる。捨てられ拾われたというのが事実であれば何故そのようなことになっているのか。

 

「彼は同僚の女性と恋仲でした。その時の年齢は十五歳。同僚の女性も同様です。一夜の過ち………それが彼女に快斗を授けてしまいました。若さゆえの過ちというものでしょう。

 ですが当然弦巻家の黒服、しかもその年齢で妊娠したとなれば仕事に支障が出る。その上堕胎を勧められましたが彼女は押し切りました。しかしその条件として彼を弦巻家の黒服として育てることを提示されそれを飲み込みました」

「当時の当主様は随分酷えもんだな」

「当時は入れ替わったばかりで緊張していたからかもしれません。今は当主も快斗を実の息子のように扱ってくださってます。ですが黒服として育てる以上素顔は見せられません。当然捨てたという扱いなのですから見せる顔もありませんが」

「ですが名前くらいは」

「仕事中は常にコードネームですので」

「じゃあアイツは父親の存在も知らずに死なれたってことか」

「はい。快斗は何も知らないまま今の生活を続けています」

「いつか………知れる日が来るんでしょうか」

「それは分かりません。偶然が重なればあるかもしれませんがそもそもそのようなことがないようになってますので」

 

 本当の親は近くにいるというのにそれを知らずに過ごしている。きっと幸せなんだろう。この人も一番近くで快斗君のことを見守ることが出来るからあの条件を飲んだんだろうし。

 僕は立ち上がって快斗君のところに向かった。彼はハロハピの人達と一緒に手を振ってくれている。

 

「何話してたんすか?」

「日頃の快斗君の様子について」

「うげっ、なんか言ってました?」

「すごくいい子だから仲良くしてくれって」

「快斗はすっごくいい子よ!」

「そうだよ!かいくんはすごいもん!」

「急に褒められると照れるっすね」

 

 快斗君は顔を少し赤くしながらも笑っていた。その後僕も救助訓練をさせてもらい今日は解散となった。車に乗る際に黒服さんが今日の話は気にしないでくださいと伝えてくる。軽く返事をして車に乗り込むと快斗君が声をかけてくる。

 

「ちょっとだけいいっすか?」

「どうかしたの?」

「もしよかったらなんすけど新一さんたちの家族の話聞かせてもらってもいいっすか?」

「あー別にいいけどそんな面白くねぇぞ?」

「僕もいいよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ俺から話すか」

 

 腕を組みながら京君は話そうとするが何を話すべきなのか迷っている。

 

「なんかねぇの?」

「いや、マジで何を話すべきかなーって」

「そういや京君は一人暮らしだけど親御さんから許可は?」

「もちろん出てるぜ。ちっとばかしだが裕福な家だしな。親父とおふくろは逆に緩すぎんじゃねってくらいだ」

「怒られたりしたことはねえの?」

「そりゃあるに決まってんだろ。探偵業始めた時は危ないからやめろって普段考えられないような顔で言われたしな。けど目的のためにさせろって言ったら許してくれた」

「やっぱ怒られたりするもんなんだな」

「まぁな。新一はねえのか?」

「あるといえばあるよ」

「あるんすか?全然そういう風には見えませんけど」

「好き嫌いするなーとか危ないことはしちゃダメだぞーって」

「そんなことあったんすか!?」

「幼少期だけどね」

 

 あーとか言って納得している二人。怒ってくれる人がいたり心配してくれる人がいる。それだけでも嬉しかったと話すとそういう存在が家族なのかと聞かれる。この時僕はどう返すべきかわからなくなった。

 

「一概にそうとはいえないが人の捉え方次第だろ」

「そういうもんなのか?」

「そういうもんだ。世の中人類皆家族とか言ってる奴がいるみたいだしな」

「強すぎだろ」

 

 ほんとだなどと言いながら車内は賑やかになっていた。そのまま送り届けてもらった僕は執事の仕事をこなした後自室に戻る。そして自分の家族を振り返りながら就寝した。

 

 

 

 

 

 




仮面ライダーユナイトはユニコーンとナイトを掛け合わせたものです。
次回からネオアスペクト編始まります!


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第六章 Neo Apect 〜誰の為のNew Stage〜
第一音 家族と理想と贖罪と


ネオアスペクト編、開幕です!


 私はそのまま男の後ろをついていき、曲がり角で見失う。

 あの小箱、あの人間も同じようなものを使っていたが噂に聞くガイアメモリと言われるものだろうか。ライフエナジーの研究をしている上であれが影響するかどうかサンプルを持ち帰りたかったのだが仕方ない。

 踵を返そうとすると先ほどの曲がり角から殺気を感じる。咄嗟に回避するとそこには青い姿の人型生物がいた。

 

「さっきからつけて来てっけど何用だ?」

「バレていましたか。これは失礼」

「何用だって聞いてんの」

「そちらがお使いになられている小箱が少し気になりまして」

 

 人型は興味があるようにへぇと答える。だが剣を下ろす様子は一切見せない。

 

「アンタ人じゃないよな?」

「はてさて」

「隠さなくていい。これに関しては予備のサンプルをくれてやる」

「いいのですか?」

「ただし条件がある」

 

 剣をより突き付けるように突き出される。

 

「俺と戦え」

 

 振り払われた剣を避け姿を変える。意外と面倒なことになりそうだ。しかも私が姿を変えた瞬間に攻撃に重さが増した。時々蠍野郎と聞こえるあたりまたアイツがやらかしたのだろう。こんなところで勝手に八つ当たりされるとは、全く面倒を起こしてくれるのが好きなようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつものように執事の仕事をしていると部屋をノックする音が聞こえる。扉を開ければお嬢様が立っており髪を溶いてほしいとのことだった。リビングへ向かうというと私の部屋に来なさいと言われる。何か用事があるのかと思いつつお嬢様の部屋に入るとすぐに椅子に座った。

 

「それじゃあお願い」

「畏まりました」

 

 ここ最近、1週間に一回くらいはお嬢様の髪を溶く習慣ができた。その際には軽い雑談をしている。でも時たま昔話をすることもある。

 

「ねぇ新一」

「なんでしょうか」

「家族のことを聞いてもいい?」

「構いませんがどうかしたんですか?」

「気になっただけよ」

 

 昔話をする時は大体こういう言い訳をする。しかし僕からすればそんなことは別によかった。

 

「そうですね、この間は妹の話をしましたし本日はどうしますか?」

「あなたの父親の話を聞かせてちょうだい」

「父の話ですか、軽いところから話しましょう」

 

 そうやって僕はお嬢様の髪を溶きながら父の話をした。子供の頃憧れの一つだった父の話を。

 

「真一が小さい頃はどんな仕事をしていたの?」

「バウンティーハンターらしいです」

「どういう職なの?」

「簡単に申しますと指名手配犯を捕まえる仕事です」

「親子揃ってとんでもない仕事ね」

 

 確かに僕がやっていることと父がやっていることは大差無い。言い方を変えればどちらにしろ狩なのだから。でもそれで稼いでいたお金のおかげで生活して行けているのだからある意味感謝かもしれないけど。

 

「お父さんとの思い出とかはあるの?」

「そうですね………と言ってもやはり小さい頃遊んだ思い出ばかりですね」

「何をしていたの?」

「キャッチボールにアスレチック、あとはイクササイズですね」

「最後のなによ」

「父が考えたエクササイズのようなものです」

 

 公園で急にやり出した時は意味がわからなかったけど後々考えると先頭の基礎訓練的な運動だった。あの人は一体何を考えていたんだろう。

 

「他には何かないの?」

「他ですか。目の前を走ってくる車をで片足で停めていましたね」

「あなたの父は化け物か何かなの?」

「ある意味そうかもしれませんね」

「否定しないのね………」

「したくてもできない時というのがあるんですよ」

 

 幼少期、名護家に関係がなかった時でも父は基礎訓練について気づかせないように教え込んでいたと思われる。真面目が過ぎたからなのだろうか、そういうことを教えているといつも母さんに怒られていたような気がする。

 

「とても個性の強い父親だったのね」

「そうですね………」

「………やっぱり家族がいないのは辛いかしら」

「え?」

「気持ちはわかるわ。私ももうお母さんがいないもの」

 

 お嬢様のお母様、奥方様は病死されている。それ故に数年は旦那様が男で一つで育てて来たんだろう。それでもお嬢様は空いた穴を埋めることはできなかったのだろうか。あまりそういうことを言わないお嬢様がこういうことを言うということはそれなりのダメージがあったというわけだろう。家族というのはどんな人にでもそれだけ大切な存在であるということだ。髪を溶く手を止められるとそのまま振り返らずにお嬢様は言った。

 

「新一、私の家族にならない?」

「…どういう意味でございましょうか」

「養子としてうちに来るということよ」

「なぜそのような事を」

「最近読んだのよ。養子縁組の話を。でもそれだけじゃなくて」

「もしかして逢坂さんのことですか?」

「ええ、改めて思ったのよ。私はあなたのために何かしてあげられているのかしらって」

 

 どうやらあの時の逢坂さんの言葉はかなり響いていたらしい。でもあの時僕はそんなことはないと心の中で否定していた。何かしてあげるから主人なのではないと。

 

「大丈夫ですよ」

「?」

「お嬢様は僕の主人です。ご心配には及びません」

「どうして」

「こうやって普通の生活を送らせてもらっている事こそ僕にとっては幸せですので」

 

 最後に一度だけ髪を溶かし一歩引くとお嬢様が振り返る。こんなこと言うのが想定外だったかのような顔をしている。

 

「お気遣いありがとうございます。そろそろ失礼させてもらいますね」

「新一」

「はい」

「養子の件、少しだけでいいから考えといてちょうだい」

「畏まりました。それではお休みなさいませお嬢様」

 

 一礼して部屋を退出する。家族にならないか、か。正直今の僕には少し二が重すぎるような気がする。いつ尽きるか分からないこの命、家族になったらきっと今よりも深く悲しませてしまうかもしれない。だったら僕は選択を間違えてはいけないだろうと部屋に戻った。

 翌日──放課後に敵が現れた。二箇所に出現しており片方はファンガイア、片方はドーパントだった。適材適所で行こうということになり僕は一人でファンガイアの方へ向かう。場所は少し離れた所にある森林公園。目的地に着くと教祖のような格好をした男性がいた。

 

「おや、今日は一人ですか」

 

 アークの中で眠っている間に見たことのある顔だった。巨大ファンガイアを作り出す怪人、チェックメイトフォーの一角であるビショップだ。

 

「この間のような姿にはならないのですか?」

「ならないよ。それより何をしているの?」

「少し実験を行おうとしたのですが暴れてしまっていたので大人しくさせていたんですよ」

「暴れていた?」

 

 ビショップの足元を見るとロボット兵のような者が踏まれていた。ファンガイア反応はこいつであの機械はセンサーに反応しなかったというわけか。

 

「興味深いものが手に入りましたので」

「へぇ、それは気になる」

「ならばお見せしましょう」

『メモリー』

 

 機械を叩き起こして頚部に挿し込まれたそれは機械の中に吸い込まれていく。その代わりに機械はビデオカメラみたいな顔を上げて僕に向けて何かを放った。眩しい光に顔を隠すと光が収まるのと同時に顔を出す。すると目の前にいないはずの人がいた。

 

「新一」

「母、さん…?」

 

 何度見直してもそこにいたのは死んだはずの母だった。嘘だと否定しながら後ずさると今度は何かにぶつかる。

 

「落ち着きなさい新一」

 

 後ろを振り返れば今度は父親がいた。死んだ父達が生きているはずがない。前も後ろも塞がれた、なら横に逃げるしかないと方向を変えるとまた道を塞がれる。

 

「兄様っ」

 

 今度は妹だった。もうやめてくれと涙が出始める。何この人達がこんなところに出てくるんだ。全部、全部僕が悪いんだ。あの時僕が何も出来なかったから、弱かったから父さん達は死んだんだ。きっと、呪いに来たに違いない。

 

「やめてくれ、なんで、なんで…!」

「どうしたの新一」

「来るな!」

「兄様?」

「僕が悪かった!僕がもっと強ければみんな救えたんだ!必ず仇は取るから!だからやめてくれ、こっちに来ないでくれ!」

 

 いつの間にか変身解除されていた僕は囲む皆を説得するよう拒む。それでも皆歩みを止めることはできない。それぞれを見回すと父と母の間にある人が立っていた。見たくもないあの人の顔。そして一言言い放つ。

 

「お前が弱いから、家族を殺したんじゃねぇの?」

 

 その瞬間膝から崩れ落ちる。わかっている事を言われ、挙げ句の果て死んだはずの家族達は何も言わず迫ってくる。

 もう体は拒むのを諦めていた。いつか同じように苦しむのであれば今苦しもうと拒否すること辞めていた。三人は目の前まで来て立ち止まる。

 ──これで少しでも食材になるというのなら受け入れよう。そうだ、これは僕の罪の一つだ………

 覚悟して受け入れようとした時、優しく包まれる感覚に襲われる。どういうことだと目を開けると母が抱きしめてくれていた。

 

「どう──して?」

「あなたは何も悪くないじゃない。あれは事故だったんだから」

「でも、でも」

「でもじゃないの。あなたは子供なんだからできないことがあってもおかしくないもの」

「だからって………僕が強ければあの場から皆を助けて、すぐに病院に行くことだって」

「兄様は頑張ってくださいました」

「希璃乃だって……あの時僕を庇わなければ………」

「あれは私がしたかったことだからいいんです」

「新一、お前は十分に頑張った。もう、背負うのはやめろ」

 

 父さんが頭にポンと手を乗せると涙が出てくる。僕が今までして来たことが認められたのだと思う。贖罪が終わったんじゃないかと思う。

 

「母さん、僕もう疲れたよ」

「そうよね。もう、ゆっくり休んでいいわよ」

 

 そのまま暫く僕はこの空間から離れたくないと思った。誰にも邪魔されず、ずっとこのまま時が止まればいいのにとさえ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちはドーパントを倒してすぐに新一さんの元へと向かった。意外と手ぬるかった事を怪しげに感じながらもバイクを走らせると現場に到着する。すると異様な光景が目に入ってくる。あの新一さんが近くに敵がいるのに変身もせずに地面に座ったまま動かなくなっていた。

 

「何がどうなってんだ……」

「おや、貴方達も来ましたか」

「お前はこの間の」

「それはともかく、貴方達にも良い夢を見せてあげましょう」

 

 頭にカメラを付けた機械がこっちに向かってフラッシュを炊くと視界が真っ白になった。視界が元に戻るといつの間にか変身が解除させられていた。

 

「一体どういうカラクリだぁ?」

「快斗君」

 

 後ろから声がすると思い振り返ると制服姿の花音さんがいた。

 

「へ?なんでこんなところに花音さんが?」

「かーいと君っ」

 

 別の方向を見ると今度はライブ衣装の花音さんがいた。いつ分身の術を覚えたんだろ。早く避難させようと近づくとまた名前を呼ばれるので後ろを振り向くと今度は三人に分身していた。しかも今度はナース服、警官服、白衣とバリエーションが豊かだった。どういう事だと混乱しているともっと数が増えていく。もちろんバリエーションも同様だ。混乱しながらでもちゃんと理解していることがあった。

 

「花音さんが、花音さんがいっぱいだ〜!」

 

 普段から俺を癒してくれる花音さんがバリエーション豊かで分身してまで俺の周りにたくさんいる。ここが俺のオールブルーなのだろうか。夢ならばいっそ覚めるなと舞い上がっていた。

 

「おい馬鹿さっさと目ぇ覚ませ」

 

 この場に似つかわしくない声が聞こえる。邪魔すんじゃねぇと言いかけた瞬間ビンタされる。されどその瞬間周りの景色がさっきの状態に戻る。

 

「チッ、良い夢だったのに」

「バカ言ってんじゃねぇ」

「何故白い方は理解できますが骸の方は何故……」

「悪りぃな。俺の相棒はもう死んでんだ、それを受け入れてちゃんと前を見ている」

「なるほど。けれどまだ受け入れきれていない人がいるみたいですよ」

 

 ビショップが指差す方を見ると新一さんが空を見上げたまままだ座っていた。まさか新一さんが見ているものって。

 

「死んだ家族に受け入れられた彼はどんな気分なんでしょうかね」

「テメェさっきの俺たちといい何を見せてやがる!」

「この機械は、その人の理想とする夢を見せるらしいですよ。あくまで借り物ですが」

「待てよ、その人の見たいものってどうやってわかったんだ?」

「それは勿論、このメモリーメモリですよ」

「“記憶”のメモリか。あとはフラッシュを炊いた時に範囲以内にいる相手の記憶と連動するようにしたのか」

「鋭い考察力ですね。ですが余興はここまでにしましょうか」

 

 機械が腕の形をガチャガチャと変形させると大砲みたいな形になる。

 

「まさか我々を一番の敵がこんな形で死ぬなんて」

「新一、逃げろ!」

「新一さん!」

 

 すぐに助けに行こうとするとビショップが目の前に立つ。ここから先は行かせないと姿を変えて襲い掛かってくる。チェックメイトフォー、敵の幹部というだけあって圧倒的な力を感じる。こっちは急いで新一さんの元へ行かないと危ないっていうのに。砲撃の準備が整いそうなのに二人相手に余裕で戦っている奴のせいで前に進めない。砲撃準備が整うと俺たちを薙ぎ払う。

 

「さぁ白騎士よ、貴方の最後はここになる!」

「やめろぉぉぉ!」

「新一さん!」

 

 放たれた砲撃は真っ直ぐ新一さんの元へ向かい、防がれることのなかった砲弾は新一さんの目の前で爆発した。



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第二音 幸せと夢と兄と

 爆発により煙が上がる。変身を解除していたから即死の可能性だってある。全員の視線が釘付けになっていると次第に煙は晴れた。そこにはライダーシステムを纏った新一さんの姿があった。

 

「なっ」

「新一!」

「夢を見せてくれてありがとう」

 

 新一さんはイクサナックルを持って機械兵目掛けて殴りかかる。咄嗟の動きかそれとも元々戦闘用ではないためか機械兵は反応に遅れて避けられなかった。爆発が聞こえると、機械兵は微塵も跡形がなくなった。

 

「どうする?」

「……」

「今なら見逃してあげるけど」

「おまっ」

「ではお言葉に甘えさせていただきましょうか」

 

 ビショップは余裕を見せつつも少し焦った様子で姿を消した。刃を納めるように剣を腰の近くに持っていくと同時に変身を解除する。

 

「新一さん、大丈夫っすか?」

「精神干渉とかはされてないみたいだから大丈夫」

「念のためだ、今日はもう家帰って休んでろ」

「ありがとう。そうさせて貰うよ」

 

 送っていった方が良いのではないかとついていこうとすると京が肩を掴んだ。

 

「何すんだよ」

「今は一人にしてやれ」

「……そう、だな」

 

 なんだかやりきれない気持ちになりながらもその背中を俺は見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後からずっと考えていた。僕が戦うことは贖罪なのか、それともただの自己満足なのか。勿論契約で戦っていることはわかっている。けれどそうではない別の理由を求めている自分がいるのだ。皆を守るために戦うのは当然のこと、それ以外の何かを。

 家に着く頃には夕暮れ時だった。お嬢様は練習に出ていてそろそろ帰ってくる頃だ。それまでに執事の業務を行う。食事を作っているとただいまと言う声が聞こえてくる。すぐに玄関に向かうとお嬢様の姿があった。

 

「おかえりなさいませ」

「既に帰っていたのね」

「はい。お食事になさいますか?それともお風呂になさいますか?お食事の方が少し時間がかかりますが……」

「新一、今のもう一度やってちょうだい」

「え……お食事になさいますか?それともお風呂になさいますか?」

「なんだか新妻みたいね」

「前からやっているとこですが……」

 

 変な茶番があったがお風呂にするということでそのまま促した。今日の食事はオムライスとコーンポタージュという簡単なものにした。出来上がると同時にダイニングにきたお嬢様を見てすぐに準備する。食卓の準備が終わると食べ始めた。

 

「今日も美味しいわね」

「ありがとうございます」

「そういえばだけど、そろそろ名前で呼んでくれてもいいんじゃないかしら」

「もう少しお時間をいただけると幸いです」

「そう。それとは別の話だけどSMSに出ることになったわ」

 

 SMS──SWEET MUSIC SHOWER、FWFに繋がるステージだとも言われている。話を聞くと帰る途中で出てみないかとスカウトがかかったらしい。意見は満場一致で出るということになったらしく期間も短いため忙しくなるとのことだった。

 

「できる限りでいいわ、サポートできる範囲でお願い」

「畏まりました」

 

 練習を詰めるとなれば僕がすべきことはと頭の中でまとめていく。食べ終わった食器を片付けて皿洗いをしているとお嬢様がコーヒーを飲みながら話しかけてくる。

 

「昨日の話、考えてくれたかしら」

「そちらの件ももう少しお時間をいただきたいです」

「引っかかることでもあるの?」

「………そういうお嬢様こそ何故急にそのような事を?」

 

 蛇口を捻りタオルで食器を拭く。おそらく昨日話していたことが大体のことだろうがそれ意外に何かあるのではないかと探る。

 

「昨日話した通りよ。私は貴方に何かをしてあげたい」

「それでしたら十分に受け取っています。お気持ちだけでも嬉しゅうございます」

「それは、断るということでいいのかしら」

 

 一瞬言葉が詰まった。けれど僕の答えは変わらず頷いた。お嬢様は少し残念そうな顔をしながらも「そう」とだけ言い残して部屋を出ていった。

 何も間違っていない。昼の戦いの時に決意したんだ。たとえ疲れていても、あのまま時が止まってしまえばいいと思っても、僕の贖罪が終わることはない。誰かを救うことが贖罪になるなら、僕が戦いことが罪滅ぼしになるというのならそれを続ける。一度決めたことは最後までやり通す。そうだ、罰なんて関係ない。アイツを倒すまで僕は死ぬことすら許されない。そんな僕に、家族というのは都合の良すぎる幸せ(・・・・・・・・・)だ。

 ──幸せになってはいけないはずの存在がここまで幸せになること自体が

 

「贅沢すぎる」

 

 

 

 

 

 

 翌日、土曜日の今日は練習付の一日だった。SMSに出場するということもありお嬢様達は夕方まで練習するとのこと。できる範囲のサポートを頼まれたがRoseliaのマネージャーをさせて貰っている身故全員分のお昼ご飯を用意する。持ってこないようにと事前に連絡したので多分大丈夫だとは思うが軽食用のも作っっているのでその辺りは問題ない。詰め込んだ弁当箱を風呂敷に包んでサークルのスタジオにまで運ぶ。音が鳴り止んだ瞬間を狙って扉を開けた。

 

「お疲れ様です」

「新兄おっはよー!」

「おはよう…」

「おはようございます」

「お昼ご飯持ってきましたのでキリのいい時に食べてください」

「えっ、本当に作ってきたの?」

「これでもマネージャーだからね。それなりのサポートはさせてもらうよ」

 

 荷物を置いた瞬間錠前が鳴る。発生位置を確認すると意外とすぐ近くだった。ここに近づけさせないように戦う事を考えながら外に出る準備をする。

 

「また出たの?」

「彼らには休日がないらしいからね」

「気をつけて行ってくるのよ」

「はっ」

 

 走り出した勢いでサークルを飛び出し近くの森林公園に向かう。公園にいたのは子供やその親を狙うヘラジカのようなツノを持った赤いファンガイアだった。すぐに変身して戦おうとすると後ろから京君と快斗君がやってくる。

 

「今回は一匹みたいだな」

「さっさとやりますか」

「二人とも油断しないようにね」

 

 全員が変身して戦おうとすると今度は僕達とファンガイアの間に人が現れた。突然のことに動揺して硬直状態が続いた。人は黒いコートとスーツのズボンに白いワイシャツ、そして黒いネクタイをして顔に黒い楕円形の面をつけていた。手には日本刀を持っており体格からして男のように思えた。

 

「おいアンタ、ここは危険だから逃げたほうがいいぜ」

「__?」

「ガチで危ねぇからさっさと──」

 

 快斗君が話している間にその男は姿を消したかと思うとファンガイアの後ろに立ってファンガイアを素手で殴って(・・・)いた。その光景に全員が驚く。

 

「なんだアイツ?」

「化け物かよ!?」

「まさか………」

「新一、知り合いか?」

「いや、そんなはずは」

 

 その力を見てある人物が頭の中を過ぎる。されどそのようなことがあるのだろうか、人の身でファンガイアを殴り飛ばすことができる。そんな出鱈目なことが可能……だとすればやはりあの人しかいない。そう考えがつくと男は持っていた日本刀でファンガイアを貫いていた。当然ステンドグラスになって爆散する。色とりどりのガラスの中、男は顔に手を掛ける。仮面を外して見せた素顔に僕は目を見開き、すぐに刃を構えた。

 

「久しぶりだな、新一(・・)♪」

やはり貴様か、天斗(たかと)

 

 無我夢中になった僕は構えた刃を天斗に勢いよくぶつける。いっそこのまま殺そうかと思ったがやはり殺せなかった。

 

「おいおい、もう少し違う反応があっただろ。感動の再会だというのに………お兄ちゃん(・・・・・)悲しいぞ」

「黙れ!」

 

 重ねた剣に重さを重ねても奴は怯むことなく受け止めている。ギチギチと音を立てる中会話は続く。

 

「今じゃたった一人の肉親だぜ?」

「貴様との縁など遠の昔に切っている!」

「もしかしてあれって、新一さんの兄ちゃん!?」

「いや、アイツに兄がいたなんて話」

「この間紗夜さんを説得するときに話してた。けど話の通りなら……」

 

 剣技を何度も撃ち込むが全て防がれる。余裕な顔が僕の神経を逆撫でる。元々コイツに勝ったことなんて一度もない。だからといって今見逃すはずもなく仕留める気でいる。

 

「何故あんなことをした!」

「あの時も言っただろ、あそこにいてもつまんねぇからだよ」

「貴様がそんなんだからあの時多くの者が悲しんだんだ!」

「だとしたら悪いのは俺じゃねえ。弱いお前らが悪い!」

「貴様ァァァ!!」

 

 強い一撃を振り下ろすと簡単に避けられる。やはり一筋縄ではいかない。この人は本当に腹が立つ。このようなことが簡単にできる癖にそれを自分の快楽のみに使い、他者の不幸を喜ぶ。もはや存在自体が害悪でしかない。

 

「もっと本気で来いよ。人間を捨てなきゃ俺には勝てないぜ?」

「言われなくてもやってやるさ──制限解除(リミットブレイク)

 

 今まで制限してた自分の限界を解放する。時間は少ないけど普段の数倍の力を加減なしで発揮できる。地を蹴り目の前まで近づいて斬りかかるとその剣すら防がれる。ありえないはずだとすぐに剣を離して違う剣技を撃ち込むがすぐに防がれる。そもそもこの力は僕が実験によって植え付けられた力だ。この力に追いつくのなんて天然の天武を持つものしかありえない。

 

「それくらい俺だって持ってるぜ。何せ元はといえば俺の本来の才能からコピーした紛い物なんだからな」

「なっ!?」

「要はその力のオリジナルは俺ってことだ。まぁ厄介な手術をされて俺はそれを勝手に加算されたけどな」

「そんな出鱈目が!」

「それをやった奴にお前は心当たりがあるだろ?」

 

 考えればそれは必然として答えが出てくる。されどそこまでの非道なことをしたという記録は見ていない。………いや違う、消されたのか。僕が就任する前に都合のいいように書き換えられたんだ。

 

「今更わかったところでお前には何も出来ないけどな」

「されど貴様を止めることくらいは」

「あー、そういえばなんだけどお前、こんなに弱かった(・・・・・・・・)っけ?」

 

 ピキっと頭の中で何かが切れる音がした。その場で最大限の力と速度で殴りかかるとその手を受け止められる。

 

「駄目だぞ新一、もっとまわりを理解しないと勝てるモノも勝てない……まだまだだな」

 

 かつてこの人に言われた言葉。純粋だったあの頃、この人の支えとなるために鍛えていた時に言われた言葉。しかしそれは今やピエロのように歪んだ笑顔で僕に語りかける。

 

「もっと地の利を生かそうぜ。そうすれば傷くらいはつけられ………いや、今のお前じゃ無理か」

「どういうことだ」

「お前は圧倒的に欠けているから」

「何を」

「人としての感情が」

「!」

「ハハッ、仕方ないよな。〈朱雪の執行者〉は愛を捨てることで成る悲しき存在、愛知らぬ悲しき人、とでもいうべきか?」

 

 ニヤついた顔を壊すために足を引っ掛けようとするが跳ばれた挙句そのまま蹴られて吹っ飛ばされる。そのまま壁にぶつかった僕は変身を強制的に解除される。すぐに立ち上がって反撃に出ようとするとフィードバックが襲い掛かってくる。

 

「ゴフッ」

 

 口の中から重い液体が出てくる。赤黒い少し粘ついた液体。制限解除による負のフィードバック、体を無理矢理にでも限界の力を出させる事による体の拒否反応。それを克服させることができない上必要ないと判断されたため極力使わない方向で行くという形で僕の体に残された。つまるところ諸刃の剣とほぼ変わらないのだ。それで倒せなかったということは死を意味する。

 

「ほらほらそんなことするから。ま、やらせたの俺だけど」

「貴様……そこに直れ」

「もう少し強くなってから言うこったな」

「逃げるな………!」

「また今度遊んでやるよ。もう少しでおもちゃが届くはずなんだ」

 

 天斗は刀を鞘に納めて歩き出す。まるでおもちゃで遊び満足した子供のように。何を思いついたのか立ち止まり振り向く。

 

「お前らは新一の友達か?なら今度一緒に遊んでやるよ」

「アンタ本当に新一さんの兄ちゃんなのか?」

「そうだぜ。まぁ残念ながらお兄ちゃんとして認めて貰えてないみたいだけどな」

 

 薄く笑いながら何処かへと歩いていった。どうにか立ち上がろうとすると二人が肩を貸してくれる。足に上手く力が入らず二人がそのまま近くのベンチまで運んでくれた。

 

「ありがとう………」

「とりあえず病院で検査だな」

「それじゃあ仕事に差し支え…」

「入院しなくてもよかったら薬だけにしてもらいますから。でもしばらく戦わないで下さい」

「なっ」

「今みたいに取り乱してまた面倒な事になったらどうすんだ。こっちの身にもなってみろ」

「……ごめんなさい………」

 

 そのままの空気のまま僕は迎えにきた黒い車に乗って病院へ向かう。なんとか薬のみで許して貰えたが絶対安静らしい。けどこのタイミングで奴が顔を出したことが一番気がかりになっていた。どうして僕が狙っている一人であることとわかっているはずなのに出てきたのだろうか。そこだけが本当に気になっていた。



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第三音 喪失と因縁と休憩と

 あれから僕は数日間放課後は自宅待機となった。病院から帰ってきた際にお嬢様に怒られ、無理するといけないからと自宅で出来ることのみを許され先頭に行こうとすると黒服さん達が現れたりと本当に謹慎のような状態になった。

 現状天斗が出てきたり負けるようなことはないと報告を受け毎日安心しているが体の調子も戻って来たのでそろそろそっちの仕事もしたいと考える。それでもこの状況は仕方ないかと考えつつ今日の晩ご飯を作る。

 明日はお嬢様達のSMS本番が待ち構えている。謹慎状態もあって練習も見に行けてないがこれは見に行ってもいいと言われているので楽しみである。そろそろ帰ってくる頃だろうかとエプロンを外し玄関に向かうとちょうどのタイミングで帰ってきた。

 

「おかえりなさいませ」

「ただいま」

「お食事の準備は整ってますよ」

「今日は食事かお風呂かは聞かないのね」

「お嬢様が変な事をおっしゃいますのでやめておこうかと」

「失礼ね」

 

 とりあえず食事にするとのことで最後の準備をする。食卓に着くと一緒に頂きますと言って食事を始めた。今日の練習はどうだったか、体の調子はどうだとお互い話し合いながら食事を楽しく過ごした。

 

「明日、あなたはどちらで来るの?」

「客として行くつもりです。すでにチケットも購入しております」

「そうなの。ならちゃんと楽しみなさい。珍しく客席に入れるのだからそちら側からの感想も聞かせてちょうだい」

「かしこまりました」

 

 明日のためにも寝るとのことですぐに自室に戻っていった。明日ライブを観たら意見をちゃんとまとめてお嬢様達に報告しよう。そしてできることなら復帰できるように京君達に連絡を取ってみようと考えた。

 

 

 

 

 

 時は立ちライブの時間がやってきた。お嬢様達の健康状態はかなり良いらしくパフォーマンスにはうってつけとのことだった。しばらく練習に行けてないこともあってすごく楽しみだったりもする。お嬢様達の番になると歓声が湧き上がった。今回は一般客も同然なので買ってきたペンライトを用意して曲に合わせて降り始める。

 しかし違和感が襲ってくる。誰もRoseliaの音楽を聴いていなかった。最初こそノってはいたもののすぐに今日が覚めてしまったのか聞かなくなっていた。ある人は隣の人と話し、ある人はフロアから出ていってしまった。とりあえず僕は聴き続けようとしたが何か靄がかかったような感覚に襲われる。曲が終わるとRoseliaの皆は唖然としていた。そのまま舞台袖に履けて行く姿を見て僕もすぐにフロアを出て控室に行く。そこには浮かない顔をした皆の姿があった。

 

「新一………」

「お疲れ様です皆さん」

「新兄あれって………」

「僕にも分からない。けど皆はちゃんと演奏していたと思うよ。音とかは外していなかったし」

「完璧な演奏をしたと思うのですが………」

 

 みんなが不安に包まれる中扉が開くと運営スタッフが入ってきた。

 

「Roseliaの皆さんお疲れさまでした。緊張していたんですよね。もしよろしければ他の出演の方も見ていってください」

 

 申し訳なさそうに一言残すとすぐに部屋を出ていってしまった。そのまま空気は重くなり誰も声を出せなくなる。

 

「今日は解散にするわ。反省会は後日。それぞれ自分の課題と反省点を考えといてちょうだい」

 

 全員が納得する様子がうかがえたのでぼくは地球と歌う部屋の外に出る。一度ライブ会場の様子を見に戻るとRoselia以前のバンドと同じ状態に戻っていた。一体何が悪かったのかわからない。

 ただ一つ感じたことは、ここ最近嫌なことが続いている。これ以上続くことがないようにと願うばかりだった。

 

 

 

 

 

 あれから数日たった放課後、皆は練習に打ち込んでいた。僕も外に出ることを許可されたので練習の様子を見に行く。そこにヒントがあるのではないかと探ろうとしたが何度聞いてもそれがわかるはずもなく、ただ単に違和感だけが残っていた。

 

「あこ、今のところさっきから言ってるわよね」

「ご、ごめんなさい……」

「もう一回いくわよ」

 

 リサはいつもの元気はなく、紗夜さんは張積めた表情で、あこちゃんは追い付こうと必死で、りんりんは不安が見える。そしてお嬢様はまるで昔の頃に戻ったかのように厳しくなった。

 

「あこ!」

「ッ!」

「何度も言ってるでしょう!?」

「お嬢様、落ち着いてください。一度休憩を挟みましょう。やみくもにやったって成果は出ません」

「そうね……一度休憩にするわ」

 

 全員が楽器を置いて各々休憩に入る。一度外の空気を吸いに行こうかと思い扉に手を掛けると錠前がなる。ここから少ししたところに発生したらしい。とりあえず近くにいたリサに伝えてから外に出る。今回は機械兵が出たらしく三人同時に向かっているが途中で反応が消失する。それでも痕跡を確認しに行くとヤツが待ち構えていた。

 

「よっ、新一」

「天斗……!」

「まーだ敵意むき出しかよ」

「貴様が敵以外になることなどない!」

「そういうこと言うなよ~お兄ちゃん泣いちゃうぞ~?」

「ふざけたことを……」

 

 最後まで言いきる前にヤツが持っていたものに目が行く。手にあったものは機械兵の頭部。頸部あたりにあるコードからはパチパチと火花が小さく散っている。

 

「これを作ったのは誰だぁ?面白くなかったからもっとちゃんとしたの作れって言っておいてくれ」

「……」

「新一さんお待たせしま……!?」

「ただの人間があんなこと出きるのか?」

「二人ともあれを人間だと思わない方がいい。いっそのこと、人間の皮を被った本当の悪魔って思った方がいいよ」

「ひでぇ言われようだな。まぁ、仕方ねぇか」

 

 トントンとジャンプをすると天斗の姿は消え、後ろから声が聞こえた。

 

「人間やめてるからなぁ」

 

 突然のことに反応が間に合わなかった僕達は殴り飛ばされる。変身していないため生身にダメージを受け地面を転がる。

 

「お前達正義の味方ならもっとちゃんとやろうぜ?」

「本当に人間か……?」

「言ったでしょ、悪魔だと思った方がいいって」

 

 僕がイクサナックルに手を掛けると京君が止めてくる。

 

「いくら強くてもアイツは人間だぞ!?」

「それでも、アレは生半可な攻撃じゃ止められない」

 

 ナックルを装填してイクサシステムを身に纏う。この間のように制限解除すれば互角といったところだろう。けどそれをすればまた戦えなくなる。

 

「お前、ファンガイアならまだしも人間相手に」

「それは僕だけじゃないでしょ」

「ッ!」

「意地が悪かったね、ごめん」

 

 剣を構えて天斗に斬りかかる。余裕の表情で防ぐのが癪にさわる。

 

「そういえばこの前ライブを見に行ったんだ。Roselia……だったかな?」

「こんな時に何を!」

「すげぇ演奏力だったな。音は完璧、曲は成り立ってた。でもそれたけだ」

「は?」

「アイツらの音楽は上っ面ってことだ」

「そんなわけないだろう!」

 

 思い切り剣を振り下ろし鍔迫り合いになる。それでも片手で刀を持っている天斗は会話を続けた。

 

「はぁ?」

「あれだけ努力を積み重ねて練習したのに、そんなことが」

「だからぁ面白くねえつってんの!」

 

 剣を弾き返されそのまま打撃を食らった僕は崩れそうになる。けれど地面に剣を刺してなんとか姿勢を保った。

 

「……今日はここまでにしてやる」

「逃げるのか?」

「いいやぁこれ以上やってもお前が壊れちまうだけだからな」

 

 ククッと笑いながら天斗は背を向けて歩いていく。きっといつもなら追いかけていた。逃がすことなど許さずに。でも今は追いかけることはしなかった。

 どうしてもヤツの言葉が引っ掛かっていた僕は変身を解除する。

 

「新一さん」

「あぁ、二人とも無事?」

「そりゃあ今回は戦ってないから問題はねぇけどよ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」

 

 呆れながらもまっすぐ見てくる京君の言葉に目をそらせなかった。仕方ないかと思い気持ちに整理をつける。

 

「……あれは僕の兄だ」

「それは知ってる」

「邪魔すんなよ」

「帰ってもいい?」

 

 続けてくれと二人に頼まれ呆れつつも話続ける。

 

「名護家にいた頃、本来アイツが当主を継ぐ筈だったんだ。だけどアイツは才能に恵まれていて、その上で多くの同胞を殺した」

「えっ……」

「殺したってことは反逆か?」

「ううん、ただ単に面白くなかったかららしいよ」

「は?」

「現状に飽きたから殺した。こんなツマラナイところより面白いものを見に行くって」

「なんだそれ……どんな狂い方だよ」

「多くの死傷者を出したソイツを探し出そうとしたけど見つからなかった。それからは知っての通り僕が就任した」

 

 なるほどと納得する二人はそれでも納得し難いような、苦虫をすりつぶしているような顔をした。

 

「名護天斗は人殺しをして楽しんでいるような悪魔だ。人殺しだけじゃない、他人の不幸や絶望を望んでいる。そんな奴を僕は生かしてはおけない」

「まぁ大体はわかった」

「でもあの強さ半端ないっすよ」

「手段はいくらでもある。とりあえず今日は帰るよ」

 

 それじゃあと全員その場から解散する。大丈夫、例え刺し違えてでも、先に死んだとしてもヤツだけは地の底にまで引き摺り込んでやる。むしろこれは僕が戦う理由の一つでもあったのだから。

 サークルまで戻ってくると一度深呼吸をする。今のお嬢様達の状態にこんな空気を持ち込んではならないと雰囲気を入れ替える。入ろうと扉の前に立つと人が飛び出してくる。ぶつかった人はごめんなさいと言いつつすぐに走っていった。その後ろ姿を見るとあこちゃんにそっくり、いや本人だった。どういう状況だと急いで戻ろうとすると今度は部屋の近くで人にぶつかる。今度はりんりんだった。

 

「っ、新君」

「りんりん一体どうしたの?」

「ごめん………っ!」

 

 僕を突き飛ばすようにして走り去っていく。より心配になった僕は部屋の扉を開けると三人の姿を見つける。

 

「もう、クッキーはいらない……」

「お嬢…様………?」

 

 僕に気付いたお嬢様は荷物を持ってこちらに向かってきた。罰が悪そうに顔を逸らして二人を見ようともしない。

 

「帰るわよ新一」

「ですがまだ時間は」

「今日は自主練習にするわ」

「待ってください。りんりんやあこちゃんはどうしたんですか。僕がいない間に一体何が」

「私のいうことが聞けないの!?」

 

 突然のお嬢様の勢いに負け僕は謝罪して同意することにした。部屋を出る際に二人のことを見たが僕は何もできる事もなく静かに部屋の扉を閉めた。そのまま家に帰宅するとお嬢様は部屋に閉じこもってしまい何も話してくれなかった。食事を作ったと言っても風呂に入るよう促しても何も返事はなかった。仕方ないので僕だけ先に風呂と食事を済ませた。その後部屋に戻った僕はある人物に電話をかける。少しだけ時間はかかったものの電話には出てくれた。

 

「もしもし、今大丈夫?」

『………大丈夫だよ』

「よかった。昼にあったこと教えてもらってもいい?もちろん話せる範囲でいいからさ」

『………あのね』

 

 りんりんは戸惑いながらも全部話してくれた。いつまでもこの間のライブの反省会をしないこと、また皆が皆、他の人の音を聞いていなかったこと、二人が飛び出していったこと。どうやら事は思ったよりも深く複雑になっていたらしい。

 

「ありがとう。ごめんねこんなこと話させちゃって」

『ううん………私ね』

「ん?」

『…どうするべきなのか、わからなくなっちゃった』

「………そっか。じゃあ今は休もう」

『え?』

「色々とあって疲れちゃったんだよ。だから今は休憩。きっとそれはお嬢様達も一緒だよ」

『………うん』

「とりあえず今日は寝よっか、おやすみなさい」

『うん、おやすみなさい』

 

 電話を切って一度ベランダに出る。空には多くの星が煌めいているのに現実はこんなにも澱んでいる。天斗のこともあるが今最優先すべきなのはRoseliaのことだ。彼女らの原因がわからない限り何も変革は起こせない。ここ数日間マネージャーとしての活動も控えさせられていた。そんな僕が役に立てられるとしたらそれはきっと今しかない。



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第四音 相談と訪問と欠陥と

 あれから数日間、お嬢様と僕は必要最低限しか話さなかった。その数日間は天斗も見ることはなかった。けれど今日、晩御飯の片付けをしているとお嬢様が話しかけてくる。

 

「ねぇ、新一」

「何でしょうか」

「……私は、どうすればいいの?」

 

 意外、と言えばそうだがそうでもないと言われればそうでもない質問だった。

 

「どう、とは?」

「わからないの……」

「何がです?」

「SMSで何がダメだったか、私にはわからないの」

 

 きっと何度も考えていたのだろう。いつもより真剣に、そして何より辛く考えていたと思う。

 

「お嬢様……」

「安易に答えを求めてはいけないって分かってる。それでも聞きたいの。あなたは原因が分かってたの?」

 

 その期待には答えられなかった。僕も同じようにこの数日間考えたいたがどうやっても答えは見つけられなかったのだ。

 

「残念ですがお嬢様、ご期待には答えられかねます」

「……本当は分かってるんじゃないの?」

「いえ、申し訳ありませんが僕にも分からない状況となっております」

「…………」

「恐らくですが、此度はお嬢様達が見つけなければならないことなのかもしれません。僕も出来る限りサポートさせて頂きますが答えはお嬢様達で見つけるべきかと」

「そう……ね……」

 

 洗い物を終えた僕はコーヒーを入れてテーブルに持っていく。お嬢様の前に一つ置くとすぐに口をつけた。表情はまだ暗いものの少しはリフレッシュ出来たようだ。

 

「こっちにきなさい」

 

 目の前の席に着こうとすると隣に来いと椅子を引かれる。無下にも出来ず移動して座るとまっすぐこちらを見つめてくる。

 

「どうかしましたか?」

「いえ……少しね……」

 

 いつもと様子が違うのは重々分かっていた。だからこそ僕は平然を保っていようと努力した。僕まで不安を露にしたらそれこそ余計な刺激になるかもしれない。さっきはあんなことを言ったがそれでも平然を保とうとする。

 

「……苦いわね」

「いつも通りに作りましたが、お砂糖追加いたしましょうか」

「いいえ、今はこれくらいがちょうどいいかも」

 

 

 お嬢様はそのままコーヒーを飲み続ける。きっと苦く感じるのは今の現状がお嬢様にとって苦いものだからだろう。原因から対処できる方法を僕は持ち合わせていない。それでも頑張っているお嬢様を見ていると応援したくなった。

 

「なんで頭を撫でているのかしら」

「……っ!申し訳ございません。無意識のうちに……」

 

 乗せていた手をすぐに頭から外し謝罪する。顔を見やると少し複雑そうな顔をしていた。

 

「やめていいとは言ってないわ」

「は、はぁ………」

「もう少しだけ続けなさい」

 

 言われた通りすぐに再開する。でもなぜ続けろと言うのだろうか。きっとこの間までのお嬢様ならすぐに手を跳ね除けただろうに。

 

「随分と慣れた手つきね。他の人にも同じようにやっているのかしら」

「いえ、そのようなことは」

「前に切姫さんが自慢してたわよ」

「はぁ………」

「別に咎めているわけじゃないわ」

 

 お嬢様は意地悪するように笑う。パッと見るとSMS以前の余裕のある顔に見えた。それでもよく見ると無理に笑顔を作っっているのがわかった。しばらく続けているともういいと言われたので手をどける。 

 

「少しは気が楽になったわ、ありがとう」

「いえお役に立てるのであれば嬉しい限りです」

「お嬢様」

 

 部屋を出て行こうとする背中を見ていてふと止めてしまった。今僕にできる事は何かとそれしか考えていなかった。

 

「何?」

「僕は…何があってもお嬢様の味方です。この身が尽きるその時まで僕は貴女の味方でいます故、どうかご安心を」

「………ありがとう」

 

 一度目を丸くしたお嬢様はフッと笑い部屋を出ていった。今に思えばわかる。きっとどこかに拠り所が欲しかったのだろう。責任を感じやすく、好きなことには周りが見えなくなるくらい一途な性格だからか吐き出せるところを見つけられなかった。今回こそ少ししか履かなかったがそれでも少しは楽に慣れたのだろう。

 でもこれはきっと僕じゃ解決できない案件だ。だからこそ頑張ってもらうためにも僕はできる限りの事を尽くそうと、残りのコーヒーを飲み干した。

 

 

 

 

 

 翌日、学校で授業を受けた僕達はお昼休みを迎えた。冬の屋上は寒いもののブルーシートと軽い毛布を持ってきているせいで外で食べている。しかしそこにリサの姿はなく僕とお嬢様、京君、夜架ちゃんの姿しかなかった。

 

「あら?今井さんは?」

「アイツは今日は別の連中と食べるらしいぜ」

「そうなんですのね」

「早くくわねぇと俺がその卵焼きもらうぜ」

「鳴海さんいつも卵焼きばかり取りますわ!」

「うまいんだから仕方ねぇだろ。それに取ったモン勝ちだ」

「二人とも仲良くね」

 

 相変わらずお嬢様はあまり喋らないがそれでも談笑を交わした。少なくとも学校にいるこの時間は平和でいられる。たまに出ることもあるが学校には二、三ヶ月の頻度でしか出ない。それも大抵が兵隊レベルなのであまり気にもしていないところは若干あったりする。

 

「そういや新一、イヴがまたお前に会いたいってよ」

「あー、そういえば最近は羽沢珈琲店に行ってなかったね」

「イヴ?どなたですか?」

「自称新一の弟子」

「新様流石に仮面を被りすぎでは?」

「夜架ちゃん、僕が悪い使い方してるように見える?」

「そんな事はないと思いますけれど………」

「けど?」

「もしナンパとかなら是非私にもしてくださいまし」

「するわけないしそんなことしたくもないね」

「ほーら切姫、そんなこと言ってふざけてると新一のうまい卵焼きなくなるぜ?」

 

 最後の一個と思わしき卵焼きを箸で掴もうとすると京君が横から奪い去っていく。今日はピクニック用のような入れ物に入れてきたが二人が大半を食べてしまった。夜架ちゃんが必死に抗議しているのを見て皆で笑っているのも束の間だった。

 

「じゃあそれ、俺にくれね?」

「あぁん?やるわけねぇ………」

 

 京君の真正面に座るお嬢様の後ろから気配がすると思い視線を移すとその場が凍りついた。何故こんなところに存在しないはずの人が(・・・・・・・・・・)いるのか。京君はすぐさま卵焼きを投げて夜架ちゃんはお嬢様を回収して離れた場所に着いた。

 

「食べ物を粗末にすんじゃねぇよ………美味いなこれ」

「貴様に褒められたところでちっとも嬉しくない」

「そりゃあ悲しいぜ」

「第一お前、どうやってここまで入ってきやがった」

「こう、ヒョヒョっとな」

「そんなんでわかるわけねぇだろバーカ」

「新様!」

 

 声を出した夜架ちゃんの方を見るとお嬢様を庇うようにして戦闘態勢に入っていた。まるで悪夢でも見ているかのような顔をしている。やっぱりあそこにいた人間にとってコイツは忘れられない存在だということだ。

 

「おっ、夜架ちゃん久しぶり!しばらく見ない間にいい女になったな♪」

「その口を閉じてくださいまし。あなたのような穢らわしい人にそのようなこと言われたくもありませんわ!」

「反抗的な女は嫌いじゃない。けど新一を崇拝してるってのは気にくわねぇな。わかってるだろ?ソイツは人としては欠陥品だって」

「欠陥品…?」

「それでもこの方は新様です。私が愛している新様ですわ。だからあなたに侮辱される謂れはない!」

 

 持っていたナイフを構えて飛びかかり刺そうとすると片手だけで止められる。反応速度といい力量といいやはり桁違いなのがはっきりわかる。

 

「ははっ!バカだな。それがお前を傷つける1番の原因だろ!」

「カハッ」

「人としての欠陥品、コイツは恋情という愛を失った。唯一力になり得た家族愛は死に果て、部下や友人に対する愛などコイツには何も影響を与えられらない。そんなヤツはなぁ、無意識に周りを傷つけるただのクズなんだよ!」

「どういう………こと?」

 

 声がする方向を見ると動かずにその場にいたお嬢様がいた。逃げる方が得策だというのに何故動かなかったのか。だがそれを考えている暇はないと避難させようとすると見知らぬナイフが足元に刺さる。

 

「お前、新一の主人だったっけか」

「…そうよ」

「………そうかそうか。なるほどな。コイツァ面白いこったなぁ」

「何を笑っている」

「いやいや、こっちの話だ。それはそうとお前に二つのことを教えてやる。まず新一はな、人を好きになることは今後一切無い。それも病的なまでにな」

「………何故?」

「そいつぁアイツに聞け。それとこれはお前の話だ。この間のライブ見させてもらったぜ」

「!」

「っ、それ以上言うな!」

「お前らのライブ、さいっこうにつまらなかった(・・・・・・・)」ぜ

 

 お嬢様の表情は一気に暗くなる。絶対に許すまいと変身しようとする前に煙幕を敷かれる。急いで煙を払い辺りを見回したが奴の姿はどこにもなかった。すぐにお嬢様の元へ向かい安全を確認する。幸い目立った怪我はなさそうだ。

 

「無事ですか!?」

「……新一」

「怪我や何か違和感などは」

「あの人の言っていたことは本当なの………?」

「お嬢様…?」

「ごめんなさい、少し一人にさせて」

 

 お嬢様は僕達を避けるように校舎へと戻っていった。やはりさっきの言葉が聞いたのだろう。早々に仕留めておけばこのようなことには……そう考えていると今度は夜架ちゃんが声をかけてきた。

 

「新様、あの方はやはり」

「うん、名護天斗。危険度SSSの執行対象だ」

「消息不明で片付けられていましたがやはり生きていたのですね」

「ごめん、全て僕の落ち度だ」

「新様は何も悪くありません!むしろ私はあの方に虫唾が走りました。すぐに捜索に」

「その必要はない」

「何故ですか!」

「君一人で行っても危険な目にしか会わない」

「ですが………」

「それが事実だと思う」

「………そうですわね」

「だからこそお願いだ。<夜剣>としての君に依頼する。名護天斗生存の件を名護家に報告してくれ。必要とあれば情報提供もする」

「…!畏まりました。名に誓いその依頼を遂行してみせます」

 

 跪いた夜架ちゃんにお願いしてすぐに行ってもらう。午後の授業分は教員に代わりに報告しておくとして京君にも怪我がないか確認する。幸いにも戦ってはいないため怪我を負うようなことはなかった。それでも心の傷を抉られたものはいる。午後の授業は講義を聞きながらも天斗への対策のことばかり頭の中で練っていた。そのことばかり考えているとチャイムがなり放課後になっていることを知らされる。

 

「湊さん、今日はどうしますか?」

「当番の仕事があるの。先に帰ってていいわ」

「わかりました」

 

 そのままカバンを持って教室の外に出ると電話が鳴る。かけてきたのは人の名前を見てすぐに電話に出るが知り合いと電話しているように見せる。そのまま屋上に行き物陰に隠れる。

 

「お待たせしました」

『こちらこそ先に連絡を入れておくべきだったな』

「いいえ、ある程度予測してましたので」

『ではそのことについて聞かせてもらおうか』

 

 僕は今日現れたことや数日前にあったことをそのまま報告した。自分が見た事細かなことまで説明する。霧切さんの頷くような返事もトーンが低くなっていき怒りを感じているのがわかる。

 

「以上です」

『情報提供感謝する。すぐに討伐隊を編成し名護天斗を処罰する』

「その件ですが発見次第僕にも連絡をお願いします」

『……これは名護家が指定した脅威だ。君には関係ないだろう』

「身内の不始末は僕がケリを付けます。それに貴方方では彼奴には勝てない」

『…随分と言ってくれるじゃないか』

「失礼。されどそれは事実かと」

『そうだな。しかしこちらも生半可な武力を入れるつもりはない』

「だからこそですよ。僕は名護家に依頼します」

『何?』

「“名護天斗発見時即時名護新一に報告することを条件に名護新一は名護天斗討伐に協力する”という契約を提案します」

『………正気か?』

「正気も何も、彼奴はこの手で葬り去る。それが尻拭いというものでしょう」

『………了解した。後日再度連絡する』

「お待ちしています」

 

 電話を切った僕は空を見上げた。冬の空はすでに夕日がさしかかっており水色の空にオレンジ色が入り混じっていた。少し話すのに時間がかかりすぎていただろうか。階段を降りていくとお嬢様が帰ったのかがふと気になった。その足で教室にいくとお嬢様の姿は見当たらず、その代わりにギャルの集団があった。

 

「あっれ、名護っちじゃん」

「何してんのー?」

「…忘れ物を取りに来ただけです」

「名護君でもそんなことあんのー?」

「人間ですから」

「ナニソレちょーウケる」

 

 自分の机を見て何もないことを確認する。するとギャルの集団は僕の席に近づいてきた。快斗君よりも服装は乱れリサよりもギャル感の強い感じの彼女達は何を考えているかわからない。

 

「何か御用ですか?」

「ぶっちゃけ気になってたんだけどさ、名護っちと湊ってどういう関係なの?」

「ただのクラスメイトですよ」

「うっそ信じらんなーい」

「ただのクラスメイトが一緒にご飯食べたりしないっしょ」

「ではお友達ですかね」

「隠さなくていいって。好きなんじゃないの?」

「…誰をです?」

「湊のことに決まってるでしょー?」

 

 何を言い出すかと思えばそういうことか。確かに多少目立ちはするがそういうふうに見えていたとは。これじゃあ僕だけじゃなくてお嬢様の学生生活にまで危害が及そうだ。

 

「そんなことありませんよ」

「それこそ信じらんないんですけどー?」

「嘘ではありませんよ。恋とかしたことないので」

「じゃあまだ童貞なの?」

「どう…てい?」

「ヤッたことないのかってことだよー」

 

 ヤッた………この状況だとおそらく性交渉のことだろうか。ギャルのヤッたヤッてないはそういうことだと京君がこの間教えてくれた。正直、呆れた。そんなことを聞いてどうするのか。

 

「ありませんよ」

「ホラ、やっぱないじゃん!」

「まぁそうだよねー」

「じゃあちょうどいいんじゃないの?」

「何がです?」

「今からさ、ヤンない?」

「まさかとは思いますがここでですか?」

「そのまさかだよー」

「ちょーっと童貞には刺激強いかもしんないけどアタシ達ちゃんと気持ち良くしてあげるからさ」

「そうですね………」

「およ?意外と乗り気?」

「じゃあオッケーってこと?」

「見た目に反して意外だね〜」

 

 わいわいと盛り上がっている彼女たちを見て僕は心底呆れた。なんの生産性もないこの会話で少なくとも十分は消えただろう。だが彼女たちは僕の知らないものを提供しようとしてくれている。その上で僕は決意した。



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第五音 戯れと試みと秘密と

「やめておきます」

「………ハァ?」

 

 目の前で盛り上がっていた彼女達は忽然として表情を変える。

 

「今まで乗り気だったじゃん」

「もしかして怖気付いたとか?」

「これだから童貞は」

「勝手に盛り上がっていたのはそちらでは?」

 

 はぁとため息を吐くとキレたように胸ぐらを掴まれる。半分怒っているように顔が歪んでいる。

 

「まじありえねェし」

「さて、どちらがあり得ないんでしょうか」

「はぁ?」

「アタシらはアンタを気持ち良くしてあげるって言ってんの」

「どう考えたってイイコトしか言ってんじゃないじゃん」

「どこがですか」

「んだよ文句あんのかよ」

「勘違いしているようですが別に僕はヤリたいなんて一言も言ってませんし、その上こんなところで淫行に出ようなんて知能の低い連中と連んで何が楽しんですか」

 

 こんな程度の考えしか持たない連中がいたと考えると呆れてくる。ギャルだけどちゃんと学校に来ているという点は評価出来ていたのにこういうことをしてしまうとカバーできる点まで無くなってしまう。

 

「ま、湊みたいなやつを好きなくらいだしこれくらい反抗してくれなきゃね」

「その件は先ほど答えを出したはずですが?」

「そんなんを信じると思ってんの?」

「あんな可愛いくないやつのどこがいいのか分かんないね」

 

 僕の中で何かがプツンとした。お嬢様が侮辱されたという情報よりも先にくる。冷静さを欠く寸前に止まることが出来た僕は外では普段使わない口調になる。

 

「その口を閉じなさい」

「まだ抵抗すんの?諦めろってんの!」

「お前らのような下衆、触れるだけで汚らわしい。己が愚行を恥じなさい」

「嘗めた口聞いていいの?その気になればアンタらを潰すことだって出来んだよ?」

「ら……?」

「湊のこともいれてるに決まってるでしょー?そういうところは鈍いんだねー」

「無関係の人間まで巻き込むとは……」

「無関係なわけ無いでしょ。そもそもあたしらアイツにムカついてたし」

 

 私怨か……そのために下衆なやり方に走るとは、心底軽蔑する。ここで中途半端にするわけにもいかなくなった。お嬢様を脅かすのならば

 

処罰せねばなるまい………

「なんか言った?」

「いや、ここでお前らの口を閉ざすだけだ」

「はぁ?どういうこと?」

「すぐに終わる」

 

 体に痛みを与える必要はない。ただ指揮を執るように恐怖を与えればいい。今彼女達の視線は完全に僕に向いている。条件は揃っている。一度笑顔を作ると彼女達の顔は一瞬で青ざめる。その顔は何度も見たことのある、まるで怪物を見るかのような顔。耐性がなかったのか気絶したギャル達はバタバタと倒れた。一応息があることを確認すると教室の扉が開かれる。

 

「……」

「お嬢……湊さん」

「何をしたの……?」

「少しお話をしてただけです」

「それだけじゃないでしょう。話だけならこうはならないわ」

「嘘はついておりません」

「だとしたらこれは何?」

「気を失っているだけです。少し休んだら意識も戻るてしょう」

 

 お嬢様は疑うような目を向けるが僕は気にしなかった。やっていたことに関して嘘はついていないから。

 

「それより何故ここに?」

「少し仕事を手伝わされたのよ」

「お疲れ様です。では帰りましょうか」

 

 荷物を回収して教室を出る。学校を出るまで一言も話さなかったお嬢様は駅が見えてきたくらいで声をかけてきた。

 

「ねぇ、あの人の言ってたことは本当?」

「どの人のことですか?」

「昼に来ていた、天斗という人のことよ」

「ヤツの言葉に耳を傾けてはなりません」

「でも切姫さんは否定していなかったわ」

 

 気づいていたか、いや元より感はいい方だけども。とはいえお嬢様にアイツを近づけさせたくない。

 

「世の中には知らない方が良いこともあります。これはその中でもかなりのものですよ」

「何を隠しているの?言いなさい」

「お嬢様、これは警告です。不用意に踏み入れてはならない領域もある、それだけは絶対に覚えといてください」

「話を逸らさないで。これは主人としての命令よ」

「……お断りさせていただきます」

 

 無理を通そうとするお嬢様に断りを入れる。だってこれから先は本当に踏み入れて欲しくない境界だからだ。きっとこれを知ったら本当に怪物だと思われてしまう。

 

「何故?」

「僕は…せめて貴女の前だけでも普通の人間でいたいからです」

「それじゃああの人の言っていたことは………」

 

 言葉を思い悩ませている様子を見ていると着信音が聞こえる。発信源を確認してその場から離れようとする。

 

「どこにいくの?」

「申し訳ありませんが先にお帰りください。野暮用を済ませてきます」

「また戦いに行くのね」

「いえ、別件にございます」

 

 駅のホームを出て人目のつかないところに移動する。折り返し電話をしようとすると目の前に黒のリムジンが現れる。運転席から人が現れると後部座席の扉を開いて中に誘導された。そのまま中に入ると誰もいない事がわかる。扉を閉められると車の中の電気が消される。真正面の席についているモニターが光だし車が動き出した。モニターに映るのは黒い背景と浮かび上がる名護家の家紋。

 

「先ほど話したばかりではありませんか」

『その件についてだ。君を重要参考人として連行させてもらう』

「まるで犯人扱いですね」

『〈夜剣〉から先ほど報告があった』

「なら事足りるのでは?」

『それ以外に発生した問題についてだ。とにかく今から名護家に来てもらう』

「生憎と忙しい身なのですが」

『湊友希那に関してはすでに一条に代理を頼んでいる』

 

 仕事が早いのいいことだが掌で踊らされた気分になり少々気に触る。しかしこの状況になったとなると少しばかり考えなければならない。どう出るかを考えて時間を過ごした。車に乗ってから三十分した頃に名護家に着いた。平常と冷製を装うことを忘れずに車を降りるとすぐに名護家内にあるブリーフィングルームに案内される。そこにいたのは本物の霧切さんだった。

 

「いらっしゃい」

「すぐに本題に入りましょう。それなりに時間がかかることも考慮済みです」

「ではそうしよう。【名護天斗討伐作戦】だが部隊メンバーを選出したが七割から辞退の宣言があった」

 

 そういうことか……現実的といえばすごく現実的だ。あれだけの恐怖を刻みつけた者に勝とうと考えるものなど狂っているものしかいない。だからその通りにも納得がいく。

 

「全戦闘員に名護天斗の記録を公開及び作戦内容を説明したが残っているのはこのメンバーだけだ」

「………この人達はあの場に居ませんでしたよね」

「あの事件以降から入った者の中でも優れている者を選出した。実力を測るかい?」

「可能ならば手合わせ願いたいですね。もし測り違えていたら取り返しのつかないことになりかねません。それに」

「それに?」

「生半可な覚悟でこの戦場には立たせない、それだけです」

 

 書類を机に置いて立ち上がる。荷物はもう預けているためすぐに模擬戦闘室に集めてもらう。部屋に集まっているのは今回の作戦の志願者、そしてギャラリーのようにガラスの奥には大勢の人がいる。見たことのある顔ばかりだ、

 

「坊ちゃん、本当に来ちまったんですね」

「この部屋に入る事はないと思っていた」

「お二方は必ずいると考えていました。ですが箱の方々は実力を知りません」

「聞かなくてもわかるけどよぉ………今回はどれくらい本気だ?」

 

 あえて聞いてくれるのは周りにいるものに知らしめるためだろう。僕のことを知らない人だっている。だから甘く見ているところも少なからずあるだろう。

 

「ここにいる全員を殺すくらいです」

「そいつは困ったなぁ………」

「総員、気を抜くな。舐めてかかれば死ぬぞ」

 

 武器を構えた全員から「はい!」と返事が聞こえる。この部屋の壁はかなり頑丈に出来ているから問題なく戦える。どれだけ壊す勢いでやっても壊れることなく足場としては壁さえも利用できる完全な模擬戦闘部屋。だからその分気を抜かずに出来る。

 

「主よ、今日は何を使う?」

「この状態なら予測済みでしょうが、槍です」

 

 準備室から持ってきた槍を一度振り回し戦闘体制を構える。スピーカー越しに霧切さんの説明が入り、初めの合図が出た瞬間一人が飛んでくる。

 

「その首貰い受ける!」

「バッカ、まんま突っ込むんじゃねぇ!」

 

 伊達さんの警告も虚しく飛んできた男は持っていた武器を叩き落とされた挙句壁に叩きつけられた。復帰することなくその場から動かなくなる。それを確認すると正面からチャキと何かを向けられる音がする。

 

「何方かは存じ上げませんが本気でいかせてもらいます!」

「声をかけなければよかったものの」

 

 複数で一斉に射撃してくる。模擬戦闘室では実弾の使用は許可されていないので当然ゴム弾になるわけだが槍を振り回して全てを弾く。リロードまで耐え切った僕はカードリッジを交換する隙を与えずに攻撃する。他もそのまま攻撃しようとすると伊達さんが鎖鎌を振り下ろす。槍で受け止めると後ろから蹴ろうとする橋本さんの足を手で止める。

 

「黙って見てるわけないよな!」

「些か遅いのでは?」

「一度思い知らせるのも大切なことだ。新世代は主のことを知らない」

「だとしたらもっとわかりやすくしないといけないかもしれませんね」

 

 足を止めていた手を押し返し槍を回して鎖鎌を受け流し二人を後退させる。するとスイッチしたのか別の人物達が刀を振ってきた。そのまま勢いで彼らよりも高く跳び片方の後ろにつく。背を向けている男を後ろから蹴り飛ばし次へ次へと潰しに行く。最終的に残ったのは僕と伊達さんと橋本さんだけだった。

 

「一条がいたらどうなっていたことか」

「アイツがいたらもっと人数残ってたぜ」

「それでも結果は変わりません。今の人達の中に合格者はいませんでした。既存の人で合格者なら貴方方だけでしょうね」

「ウゥワ坊ちゃん悪役じゃん」

「元よりここにいる全員、正義の味方というわけでもないでしょう」

「それは側面的な問題だがな」

 

 二人を相手に模擬戦を再開する。暗殺班隊長と殲滅班隊長、二人の連携は完璧で好きを与えないように攻撃を仕掛けてくる。それでも戦うということに問題は発生しない。例えるなら嵐の雷と雨のような繊細な攻撃をしてくるがそれらを防ぎきる。その上で攻撃出来るからこそ少しばかり疑問を持つ。

 

「本気でやって貰えませんか?」

「む、これでも本気なのだが」

「こっちは殺しちゃいけねぇからよぉ」

「構いませんよ。ここで果てるのなら一生彼奴には勝てない」

「そりゃあそうだ、と言いたいところだがどうやらここまでみたいだ」

 

 伊達さんが鎖鎌をコツンと置くとビーと天井から音が聞こえる。どうやらタイムアップらしい。モニター越しに霧切さんが映りテスト結果を聞いてきたが答えは分かり切っていた。

 

「弱すぎます。この程度で戦おうというのならやめたほうがいい」

『手厳しいな、とは言わない。それが事実だな』

「僕から一撃を喰らって立てもしないなら本番は確実に一撃で死にます」

「それはお前が化け物だからだろ!」

 

 ギャラリーの方から声が湧き出る。それに対して肯定するような声がいくつも上がるが睨み返すとすぐに静かになる。その光景を見た二人はため息をついたり武器をしまったりする。どうやら言いたいことを理解しているらしい。

 

「お前ら、この人の言葉をよーく聞いておけ」

「さぁ主、日々のストレス発散も兼ねて」

「お気遣いありがとうございます。では少々失礼いたします。

 貴様らは彼奴をなんだと思っている。あれは悪魔だ、人の皮を被った化け物だ。寧ろあれを見て人間だと思うものがいるのか?否、いないな。見たことのある連中だってそう思うだろう。それなのに僕を見て負けたら化け物相手だから仕方ない?笑わせるな、その考えは今すぐに捨てろ。そのような考えをしているものから戦場で死んでいく、そんな奴はここにいていい訳ではないだろう。貴様らの考えが間違っていないというのならば今すぐに出てこい。ここで証明してみせろ」

 

 誰からの返事もなく呆れた僕は部屋を出ていく。いつからここは甘い考えが蔓延るようになったのだろうか。元より僕一人でアイツは殺すつもりだったから誰にも邪魔はさせない。だからこそ証明しにきたが呆気なかった。

 武器を片付けた僕は帰りの車を用意してもらいそのまま帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのまま一人で家に帰った私は家の近くに着くと見知った顔に出会う。家の門の前に立つのはおそらく一条さん。まだ覚えきれていないので不安になるが私を見るとすぐに頭を下げてくる。

 

「こんなところで何をしているんですか?」

「新一様の代わりにお夕食を作りに参りました」

「彼は?」

「ただいま取り込み中にございます。危険なことはしていないのでご安心ください」

「そう………」

 

 せっかくきてくれたのだし好意に甘えようと家の中に案内すると行儀よく入ってくる。やはり見た目通り礼儀正しい人だ。どうしてこの人は新一のことを慕い続けているのだろうかと疑問に思う。

 

「新一様のように器用にはいきませんが頑張らせていただきます」

「気にしなくて大丈夫です。申し訳ないのですがキッチンのものを把握しきれていないの」

「勝手に触らせてもらっても大丈夫ですか?」

「構いません」

「感謝を申し上げます。それと、新一様の時と同じように対応していただいてよろしいですよ」

「………ありがとう」

 

 一条さんはすぐに夕食の支度に入った。お風呂ぐらいは自分で貯めたがリビングに戻ってくるとテキパキと動いている彼の姿が見える。それはまるで新一と似ているようだった。でも違和感がある。

 

「不安…いや、違和感でしょうか」

「どうしたの?」

「いえ、表情に現れてましたので。大方、普段新一様がおられるところに私がいるのが違和感なのでしょう」

「何でそこまで………」

「言うなれば職業病というやつですね。さて、食事の準備が終わりました」

「もう出来たの?」

「幸いにも作り置きのものがありましたので、持ってきたものと組み合わせた次第にございますが」

 

 そう言って並べられた料理はきちんと作られていた。中には彼の奥さんが作ってくれたものもあるらしい。食べてみるとやはり美味しかった。彼は目の前で座っているだけなので食べないのか聞くと妻が既に作っていてくれているというので納得した。

 食べている間にどうしても昼間のことと駅までのことが頭の仲を過ってしまう。忘れようとしてもあの時の新一の顔を忘れることはできなかった。あの時とは違う、まるでなくて当たり前、悲しいのに壊れているような顔だった。

 

「おいしくありませんか?」

「いえ、美味しいわ」

「ありがたきお言葉」

「………聞きたいことがあるのだけれど」

「その様子、あまりいい話ではなさそうですが」

「新一の過去のことについてよ」

「何故そのようなことを?」

「今日、天斗という人が学校に来てこんなことを言っていたの」

 

 昼間の会話と放課後の会話をそのまま伝えると一条さんは口元を押さえて考え込んだ。色々と考えているのだろうか、すぐに私を見た彼はそれでも戸惑いを隠せなかった。

 

「新一様が隠そうとした通り、これは最上級秘密(トップシークレット)になります」

「トップシークレット…?」

「このこと、決して口外せぬことを誓えますか?貴女を見込んでのこと、この話をさせていただきたい」

「………わかったわ」

 

 一条さんはさっきよりも真剣な目つきで話を始めた。それはたった数分の話でも私にとって長い時間物語を聞かされているようだった。

 

「これは、新一様がまだ当主になる前のことです」



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第六音 新一と名護家と王の座と

 これはかつて名護新一が第十六代目名護家当主になる前の話です。第十五代目当主名護不比等、先代であり新一様の祖父であったあの方は執行舞台に所属させた新一様より任務の報告を受けておりました。

 

「失礼します。名護新一及び一条始、馳せ参じました」

「うむ、任務御苦労であった」

「ありがたきお言葉。報告をさせて戴きます」

 

 私情と仕事をはっきりと分ける新一様は年齢が一桁なのにも関わらず同じ年齢の子供のような様子を見せませんでした。それはまるで仕事をする社会人と何ら変わらないと言っても過言ではないでしょう。

 

「全て確認した。下がっていい」

「畏まりました。失礼します」

「一条は残れ、話す事がある」

「畏まりました」

 

 黙って部屋を出て行った新一様をその場で見送り先代の方へ振り返ると楽にしろと合図された私は多少の緊張を解きました。その場での先代は立場を守りつつも心配をしていたのを覚えています。

 

「残らせて悪いな」

「滅相もございません」

「…今回の任務、お前を同行させたがどうだった?」

「………新一様のことでいらっしゃいますか?」

「ああ、現場のあの子のことを聞かせてくれ。多少報告書と被っても構わん」

「畏まりました。敷地に入り次第、新一様は予定通りの行動を開始しました。警備隊の撃破、施設の破壊、データの破壊、そして被験体の処分全ての任務を行いました。もちろん生存者の安全を優先、また未実験の被害者の非難を行いました。敵主力部隊も一人で掃討、幹部クラスは二人、そして敵将の首を取りました」

「………」

「また保護した人達のメンタルケアなども「それはもういい」失礼しました」

「あの子は………容赦なかったんだな」

 

 その顔はまるで哀しいものを見るような顔でした。先代はその時まで実の孫である新一様を人として心配していたのでしょう。

 

「おっしゃる通りにございます。討った敵には全て情けを捨てていました」

「なぁ一条」

「はっ」

「お前から見てあの子はどう見える………」

「突然言われますと返答に困りますね………」

「儂はお前を幼い頃から育ててきた。他の保護した者たちとは違いダントツで成績を残していたお前からはどう見える?」

「そう…ですね。やはりとてつもない存在だと思います。新一様は今回の事でもそうですが、人を殺すことに躊躇いを持たないと考えています。また、ここにきてからまだ三年だというのに現段階で教えられる技術は全て全て習得、更にはオリジナルも作り出すという異形。恐れ多いですがあの方は普通ではないと考えられます」

「お前もそう考えるか………お前、人を殺す時最初は躊躇っていたよな?」

「存じ上げられている通りにございます」

「儂も躊躇ったわ………慣れるのに半年もかかったのにのぉ。あの子が初めて殺したのは一年前か」

「はい。当主様が罪人を連れてこられ、新一様に刃をお与えになりました」

「あの子はあの時聞いておったの、『お爺様、この方は罪人なのですか』と」

「はい。当主様が『そうだ。殺せるか?』と聞いた瞬間にあの方は刃を振るわれましたね」

 

 無垢の瞳には迷いは無く瞬きをする間に刃は左から右へと動いていた。数秒経てば首はずり落ちる、そんな光景を見せられてその場の空気は凍りついていました。

 

「飛び血がか掛からなかったな。あの時は流石の儂でも冷や汗をかいたわい。もうここまで出来ているのかとな」

「私もです………あんなに幼い方がどうしてあそこまで出来るのでしょうか」

「それはもはや天賦としか言いようがないな。あの子は…何も知らなければただの優しい子だったのにな」

「ですがそうさせたのは」

「わかっておる、この儂のせいだ」

 

 名護家の因果、いえ、呪いのようなものが彼の人生を大きく変えてしまったのでしょう。もしこんな呪いがなければ今頃平和に暮らしていたのかもしれません。ですが彼は呪いに巻き込まれた上に内に秘める才能を開花させ後に最強と言われる存在になりました。

 

「御無礼、失礼しました」

「気にするな。この書類、お前も目を通しておけ」

「はっ………『DXS計画』…でございますか?」

 

 極秘と書かれた書類を開くと小さい文字がびっしりと埋め尽くされており内容はあまりにも残酷なものでした。

 

「ああ、儂からあの子へのせめてもの手向けだ。『DXS計画』、正式名称『デウス・エクス・マキナ計画』。その名の通り神に近い存在を作り上げる計画だ」

「で、ですがこの計画では新一様の感情が…!」

「それが狙いだ。感情さえなくして仕舞えば今後仕事に支障をきたさなくなる。今は何もなくともこれから何が起きるかわからない。だから今のうちに予防線を貼っておくのだ」

「…このこと…新一様には………」

「伝えてはおらん……知らぬ方が良いこともあるからな」

「ですが、あの方は……」

「必要な決断の時、感情があった方が厄介なのだ。かつての儂がそうだったようにな」

 

 先代の過去に何があったかは知らされていませんでした。それから先代は新一様を危険な兵器を扱うような態度で対応されました。慎重かつ冷酷に、まるでそれは人ではないように新一様に指示を放ちました。その時の新一様は「厳しくなっただけ」「そもそもそういう組織だから大丈夫」と私に話すように自分に言い聞かせていたんだと思います。

 DXS計画が開始されると新一様はガラリと人が変わりました。第一段階としてまずは最新兵器とのコンタクトを取れるように脳にチップを入れる手術がありました。また同時に身体能力の底上げ、通常の人間の力量を超える肉体改造の実験も行われました。おかげで新一様は通常の人間より嗜好の領域が広がり、任務では様々な事態にAIの協力を得ることで解決されてきました。けれどアークの暴走により新一様が乗っ取られ、かろうじて取り押さえた我々はアークを凍結封印しました。その時さえ周りに与えた被害に自責の念を感じていたでしょう。

 そして計画の第二段階、新一様の感情を無くす実験が行われました。先代の指示通り一才の感情を無くし完全な生物兵器となりました。機械的な計算や言動からは感情の温かみを感じ取れず仲間に対しても冷酷無比な態度を取られました。

 

「新一様」

「一条さん、次の任務はいつですか?体は万全です」

「少しお休みになられた方が。そうです、そろそろハロウィーンですよ。今年は何が貰えますかね」

「結構です。この組織に娯楽は必要ありません」

「新一、苺大福を買ってきたのだがどうする」

「計算された食事を摂っていますので不要な物はいりません」

 

 自信を優先するよりも他者を優先し何よりも他の人の笑顔を大切にしていた人が優しさのカケラも無い話し方をするのを見て他の人達に怒りが募りました。その結果数週間以内にデモが起こり、「新一様の感情を返せ」と多くの者が言って聞きませんでした。それにより考え直した先代は再生医療を新一様にもたらしました。ですが治すのは感情だけで他の部分はそのままです。アルターエゴシステムという電子機器を用いて新一様の脳をいじり、数日かけることで感情を取り戻しました。安らぎ、穏やか、楽しい、喜び、哀れ、不安、恐怖、怒り、驚き、デジタル、中立の感情を取り戻すことに成功しましたがいくらやっても好きという感情だけは完全には取り戻せませんでした。物事に対しての好き嫌いはあれど人に対しての好きは家族や友人のみ程度で止まり、恋愛モノのストーリーをかなりの量見せてもわからないというばかりでした。

 

「新一様、これではまだ完全に戻れたわけではありません」

「ですが問題はありません、お気遣い感謝します。この仕事についている以上あまり必要ないかもしれませんしね」

 

 笑って受け流す新一様を見て全員納得するとそれ以降触れないようになりました。一部の者はアプローチを続けましたが変化はありませんでした。

 やがて時は経ち、ある日新一様が任務より帰ってきた時、事件は起きました。実の兄であり、名護家次代当主を予定していた名護天斗による反乱──わずか一人で名護家の半数を死傷者に変えました。彼のおかげで二度と現場復帰できなくなった者も少なからずいます。またその事件により新一様の就任が決定しました。同時に先代の死期も近づいており、寿命でなくなる寸前名護家の権限を新一様に譲渡されました。

 

「お前が…我々の悲願を成すのだ………」

「その任、承りました」

「最後くらい……孫の顔を見せてくれ………」

「………お祖父様」

「なんだ…」

「安らかにお休みくださいませ」

 

 先代が亡くなるとすぐに全員を集め、就任の報告を始めました。

 

「皆の者、心して聞け。私が名護家第十六代目当主名護新一である。我々の悲願は変わらず、貴様らは我が配下となる。その剣、その弾、貴様らの血液の一滴まで使わせてもらうぞ!」

 

 その場の全員が新一様に平伏し新たな王が誕生しました。あの方は名護家をまとめるだけでなく自ら任務に向かいました。通常当主は様々な国との会談や情報整理、統制を行う筈ですがそこに自ら任務に行くことも加えました。その時の年齢は十、とてもまだ子供なのに現実は厳しいものでした。それからは新一様が以前説明された通りです。事件が起こり復讐を果たそうと名護家を出ていき、今はお嬢様の執事をやっておられます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう……事だったの……」

 

 彼が欠陥品と言われてたことが分かった。そして今日別れ際に言っていた「普通の人間でいたい」という言葉の意味がやっと分かった。

 でも同時に寄せてきた嫌な感情の波。主人として彼にとって休める場所を作ろうとして作れていなかったのだ。

 

「新一様はきっと、お嬢様や他の人に知られるのを恐れていたのだと思います。知られてしまえば自分はここにいられなくなると考えて」

「そんなこと」

「では仮に、私は人体実験を繰り返して改造された人間ですと言われてすぐに受け入れられますか?」

「っ……」

 

 そんなのは嘘だと拒む自分がいた。つまりそういうことだったのだろう。事実に対する壁が必ず存在すると彼は知っていた、だから話したくなかったんだ。

 

「新一様は、あの手術の後も前のようにご自身より他人を優先していました。だから真実を伏せたのもあると思います 」

「じゃあ結局私は、あの人に何も……」

「そのようなことはないと思います」

「え?」

「あの方が異常に他人に優しいのは常日頃のことですがお嬢様には特に甘いと考えます」

 

 私には特に甘い?どういうこと?

 

「仕事かもしれないと最初は思いましたが度を越える時もたまにあります。その点はおそらく本人は気付いていないでしょう」

「……?」

「話が逸れましたね。以上が新一様が貴女様のもとに現れる前、そして新一様が欠陥品と呼ばれる元となった話です」

 

 これで天斗という人が言っていたことが分かった。けれど余計分からなくなった。私が彼にしてあげられることは何もないかと思うほどに。現状Roseliaのことさえちゃんと出来てない私は新一のことに手をつけてる余裕がない筈なのに何も見えていなかった。見えていないのになんでこんなことをしてしまったのだろうか。

 私の思考が詰まっていくなか一条さんは私を見つめてくる。

 

「お嬢様、お願いがあります」

「何かしら」

「どうか新一様から離れないでいてください」

「…!」

「新一様は今の生活にとても満足しておられます。それはきっとお嬢様やRoseliaの皆様がいらっしゃられるからかと思います。最近、あの頃よりもきちんとした笑顔が多くなったようにも思えるのです。貴女様ならきっと、新一様の止まっている時間を進められるかもしれない。無理に関われとは言いません。どうか新一様を捨てるような真似だけは絶対にしないでほしいというだけです」

 

 初めてこの人が感情的になるのを見た気がする。それほど新一を大事にしていることが伝わってくる。

 

「これはとても私情を挟んだ願いになります。ですがどうか」

「わかっているわ。だから安心しなさい」

「!………はっ、ありがたきお言葉」

 

 その後一条さんは洗い物までやって帰っていった。さっきの言葉に最後まで感謝を述べていたが正直にいうとそこまで余裕を持てる自信が持てなかった。Roseliaのこと、新一のことでどうするべきなのか悩みに悩んだ私はその足でお風呂に入った。それでも悩みは乗ったままで結局寝るまでどちらを優先するかは選べなかった。この時私は忘れていた。話の中にあった新一の過去で大事なことを。

 

 



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第七音 仮面と道化と偽りと

〜とある森の奥にある古城の廊下にて〜

 

「よぉ、ビショップの旦那」

「ルーク貴様か………」

 

 チェックメイトフォーの二柱であるルークとビショップが廊下にて出逢う。

ルークは先代のルークに勝負を挑み圧勝したことにより下克上を成して出世した。

それに対しビショップは欠員を埋めるためにキングが功績を見込んで役職を与えた。結果として様々な研究を行いファンガイアに多く貢献している。サバト──以前彼が花咲川高校で作り出したファンガイアの死骸のカケラを集めた巨大な化け物は彼の研究成果の一部である。

 そしてこの二人、透けて見えるように仲が悪い。

 

「貴様が城にいるのは珍しいな」

「いや何、ちょいと休憩にな。あとしばらく俺この辺にいるから」

「そうか。キングの言いつけを守っていればそれでいい」

「へぇへぇそうでございやすね」

「まさか嫌だというわけではないだろうな」

 

 ビショップはルークの鼻先に剣を突きつける。けれどルークは爪で触るように撫でると手の甲についている針の背をビショップの首に近づける。複数の赤い目には君の悪い笑みが浮かべられているようだった。

 

「俺はお前の言うことは聞かないって決めてんだ。臆病者のお前のな」

「喧嘩を売っているのか?」

「まさか」

 

 針をどかすのを見ると互いに警戒心を高める。いつ襲いかかってくるかわからない、ましてビショップはルークの恐ろしさを知っている。だからこそ無駄な戦いとルークとの接触は避けたいのだ。

 

「アンタと戦うのはねぇな」

「は?」

「そんなわけだからじゃーなー」

 

 スタスタと歩いて行くルークを見てビショップは心なしか少しばかり安堵する。もし今アイツと戦ったら今頃どうなっていたか、その恐怖が突然襲いかかってくる。目に見えるのは先日撃破された前のルークと今のルークの殺し合い。そのような目に会わなくて済んだのだと安心すると曲がり角を曲がる寸前にルークが戻って壁に寄りかかる。

 

「そういえばだけどよ」

「なんだ、まだあるのか」

「お前今面白いことやってんだろ。何やろうかは別だけどほどほどに(・・・・・)にしとけよ?」

「ッ、貴様に指図されることではないわ!」

 

 平然を装っていたビショップが怒るとルークは茶化すように曲がり角に消えていった。ビショップは再び歩き出すと最近拾った小箱について考え始める。興味深いものを拾った上に人間を脅して手に入れた機械を使ったことにより、白騎士に精神的打撃を入れた事に多少慢心している彼は次の作戦をと考えていたのだ。

 その先で先手を打っている者がいるとは知らずに。

 

〜とある森の奥にある古城の廊下にて 終〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後家に戻って来た僕は静かに自室に戻る。時間も時間のためお嬢様を起こさないようと心がけていたが部屋に入ると不思議な光景に気づく。

 隣の部屋にいるはずのお嬢様が何故か僕の部屋のベッドで寝ている。一体どういう状況なのか理解出来なかったが起こすわけにもいかないと思い着替えを持って部屋を出る。浴室で体を洗い着替えて戻っても景色は変わらなかった。致し方あるまいかと椅子に座る。

 

「何故僕の部屋に………?」

 

 これと言って面白いものはない。普段からあまり人を入れないしお嬢様も夜中に困った時に訪れる以外入ることはそうそうない。

 だからこそ疑問だった。いつもの作曲の時の瞑想状態で寝ている姿はまさに眠り姫のようだった。

 近くに毒林檎でも転がせば白雪姫とそう変わらないだろう。そうしてみると布団を着ていないことに気づく。部屋は暖房がついていた(多分つけられた)ため寒くはないようだが念のため着せると顔が近づく。

──もし、僕の中に恋愛的な感情が残っていたら────

 きっと、女の子に近づいただけでドキドキしたり誰かを目で追ってしまうなんてことがあったのだろう。

でもそんなものは要らないとあの日に捨てた。皆が取り戻すように努力してくれたけど僕はそれを捨ててしまった。悔いはない、この身は戦うためにあるとあの日に誓ったのだから。

 

 

 

 

 

 結局翌朝まで僕は椅子に座っていた。無理に動かすわけにもいかず寝ずの番をするようにずっと見守っていた。静かに眠るこの人の顔は見飽きるものではなく、まるで人形のように綺麗だった。

 僕のスマホのアラームが鳴る。時刻は五時半、普段お嬢様は起きないであろう時間だが目を覚まさせてしまったらしい。

 

「ん……」

「おはようございます、お嬢様」

「おはよう……なんであなたが私の部屋に?」

「逆ですお嬢様、お嬢様が僕の部屋にいたんです」

 

 寝ぼけながらも辺りを見回している。状況に気づいたのか完全に意識を覚醒させたようだ。

 

「そういえば昨日来たわね」

「何故来たんです?」

「……なんとなくだったかしら」

「……はぁ…………」

 

 お嬢様でもそんな理由があるのかと人間なのだからそれもあるかと処理する。起きたのを確認したし朝食を作りに行こうとすると呼び止められた。

 

「待って」

「何用ですか?」

「あなたの過去、全部聞いたわ」

 

 一度、言葉を疑った。頭の中で繰り返すが言葉が変わることなく事実を伝えてくる。

 

「……誰から聞いたのですか?」

「一条さんって人から聞いたわ」

 

 なら不用意に喋ったわけではないだろう。あの人なりに考えがあって話したはず、だとしたらこう言葉を述べるべきだろうか。

 

「だけど私は」

「ならばお嬢様、この化け物の扱い方をどうか間違えぬようお願い致します」

「!そんなつもりは」

「朝食の準備がありますので一度失礼します」

 

 お嬢様を背に部屋を出て行く。そうだ、きっとこれが正しい。僕の正体を知ってしまったならもう何も知らない頃の名護新一としては見れないはず。なら僕は僕らしくあるべきだと振る舞うとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──だけど私はあなたと今までのように接したい────

 そう言いたかったのにあの人は何かを取り繕うように出ていってしまった。やはり言ってはならないことだったのだろうか。でも知ったからにはちゃんと向き合わなきゃ失礼だと思った。だからこそ正面から話そうと思ったんだ。

 いつまでも口が下手だということに気付いた。やっと新一に対しての答えが見つかったと思ったのに遠ざかってしまった。これじゃあ何も解決できない。

 ──結局、何も変わって変わっていなかった。Roseliaに入って変われていたと思った。それがあの結果だ。何がダメなのかもわからず、新一には何もしてあげられない。

 

「……まだここにいたんですね」

「あ………」

「食事の用意が出来ました。ゆっくりでいいですから支度を済ませてからおいでください」

 

 荷物だけ回収されて扉をパタンと閉められる。その後は朝支度を済ませて下に降りるといつも通りの朝ごはんが待っていた。彼の作るご飯は美味しいはずなのに味がしないくらいおかしな感じがした。新一は今日の予定を話してくれるなど場を和ませようとしてくれたが無理をしているのが伝わる。

 学校でも同じだった。休み時間は京ととりとめない話をしている姿はいつも通りだったのに違和感にしか思えなかった。授業が始まれば真面目な生徒同然黒板の文字を移したり何かメモしている。それすらも何故か違和感に感じた。

 

「湊さん」

「は、はい」

「授業中によそ見してはいけませんよ」

「す、すみません」

 

 流石に授業中まで彼のことを見るのは不味かった。それでも授業の内容など入ってこず彼のことばかりが頭の中を支配していた。

 本来ならばここにいることなく怪物退治や名護家を引き継いでいたのならばいろんなところで仕事をしていたのだろう。それすら捨てて家族のために復讐をしようとしている。でもそれって家族のためなの?それとも自分のため?それに私の近くにいるよりも名護家にいた方が………。

 

「湊さん!」

「!」

「今度はボーッとして。授業に集中できないのであれば課題を」

「いえ、そんなこと」

「すみません先生、湊さん体調が悪いようです」

 

 私を庇うように声を出したのは新一だった。

 

「どうして名護さんがそんなことを知っているんですか?」

「朝登校してる時に偶然会いまして、その時から体調がすぐれないようでしたので」

「そうなの。湊さん、そういうことは無理せず休んだり誰かに相談してください」

「じゃあ新一お前保健室まで連れてってやれよ」

「僕?保健委員に頼んだ方が………」

「そりゃあそうだろうけど倒れた時にさっさと担ぎ込めるのはお前くらいだろ」

「確かにそうかもしれないけど」

「じゃあ名護さん、湊さんを保健室まで連れていって」

「わかりました」

 

 新一が私の席に近づいてくる。なんの取り止めもない顔で声をかけてくる。正直なんて言われたかはその時覚えていない。けどこれだけは確信を持った。

 今の彼の顔は、確実に作り物だと。

 今まで見てきてなんで気付かなかったのか分からなかった。でも今だけははっきりとわかった。階段の踊り場についた時にやっと意識が戻ったような感覚がくる。新一は振り返って話しかけてくる。

 

「体調は大丈夫ですか?いくら暖房をつけているとはいえ布団を着ないで寝ると風邪になりかねませんよ」

「ええ、大丈夫よ、ちょっとボーッとしてただけ」

「なら良かったです。ですが念のため保健室で休んでおきましょうか」

 

 いつの間にか着いた保健室の扉を開けて中に入ると誰もいなかった。ベッドで誰か寝ているのかと思ったがそうでもないようだ。彼は慣れた手つきでベッドを用意すると寝るように促してくる。言われた通りにすると新一は椅子を近くに持ってきて座る。

 

「教室に戻らないの?」

「湊さんが眠りにつくまではここにいようかと」

「それだと授業をサボることになるんじゃない?」

「それもそうかもしれませんね」

 

 クスリと笑う新一は何かを隠す為の顔に見える。たとえ本当の感情が入っていたとしてもどうしても今日はそうに思えそうになかった。

 私は昔から人と話すのが下手だ。素直な感想を述べると意図しないことで言い争いになってしまうこともある。だからこんなことも言ってしまったのだろう。

 

「どうして笑ったフリをするの?」

「………?」

「笑っているように見えるのだけど、どうしても本音を隠しているようにしか思えないのよ」

「…なるほど、仰りたいことはわかりました」

 

 新一は立ち上がるとまるでピエロの面をつけたような顔をする。でもそこからは怒りや笑いなどではなく別の何かを感じた。

 

「これは僕の癖です。人にはいつも笑顔を向けていようという」

「なんでそんなこと」

「その方が色々と好都合だからです」

「でもそれじゃあ」

「知ってますか?ピエロが何故いつも笑っているかを」

 

 そう言って顔を近づけてきた新一はよく顔を見せてくれる。けれど瞳には何も写っていないくらい暗く濁っているように見えた。その上で顔を見てみると、まるで壊れた人形のように思える。

 

「自分の感情を隠す為だそうですよ」

 

 すぐに顔を遠ざけると扉が開く音が聞こえた。カーテンを開かれるとそこには保健室の先生の姿があった。二人は何かを話すと新一は先に戻っていますとだけ言い残して帰っていった。入れ替わるように入ってきた先生は私に体調はどうかと聞いてくる。その後少しの間寝かせてくれるといいうので今はそれに甘えることにした。けど私は次の鐘が鳴るまでずっと寝付けず鐘が鳴れば部屋を出ていった。

 扉を開けると京とリサの姿が出てくる。

 

「友希那、大丈夫?」

「問題ないわ」

「新一からは特に問題ないとしか言われてないが無理すんなよ」

「ええ、ありがとう」

 

 そのまま通り過ぎようとすると聞いたことのある音が京のポケットから聞こえてきた。ポッケに手を入れるとそのまま錠前らしきものを取り出す。

 

「京もそれを持っていたのね」

「そりゃあライダーだからな、ちょっと出るぜ。はいはい」

『俺だ』

「快斗?」

『リサさんがいるってことは友希那先輩もいるんすか?』

「いるわよ。どうかしたの?」

『あー、新一さんは?』

「今は席を外してる。そんでどうした」

『天斗っつう奴がきた』

「何?」

 

 天斗、名前が本当にその通りなら何故花咲川に現れたのかしら。新一ならこっちにいるのに。

 

『白金先輩に会いに来たみたいなんだけど俺が見た時にはほぼゼロ距離にいた』

「そうか、白金は天斗が敵だってこと知らないもんな」

『そんで手紙一枚を渡して帰ってった』

「手紙?」

『新一さんに渡してほしいって言ってたらしい』

「なんで新一に渡さなかったの?」

「そりゃあアイツが………」

 

 言葉の途中で息詰まる。そのまま言えばいいのにと思ったが京が首を横に振る。そういえばリサたちは新一のお兄さんのことを知らないということに気づく。むやみにしゃべって言い訳でもなさそうね。

 

『とりあえず新一さんに渡すか』

「それが一番だな」

『じゃあ白金先輩、新一さんと会って渡すようにお願いします』

『わっ、私…!?』

「今回は諸事情で俺達が渡すわけにはいかねぇんだ。だから頼んだ」

『サポートは任せてください』

 

 燐子が承諾するとその後数分くらい喋ってから錠前を閉じた。すぐにチャイムが鳴って教室に行ったがやはり授業内容は頭に入らなかった。

 結局、放課後に手紙のやり取りが行われるらしいが私は呼ばれることなく帰路に着いた。



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第八音 真実と需要と歓迎と

 次の作戦会議があると言われ集合場所に指定された森林公園に来たのだが他の人達はまだ来ていないようだ。普通に考えればこんなところで作戦会議等しないだろうから訓練を兼ねた遊びでもするのだろうか。今のうちにリラックスしておこうと体を休める。すると一分もしないうちに足音が聞こえてきた。

 

「新君……」

「りんりん、なんでこんなところに?」

「実は渡したいものがあって」

 

 鞄の中に手を入れるとすぐに手を抜いて何かを取り出す。それは白い手紙だった。おどろおどろしく渡す様子を見てりんりんからのではないと察する。

 

「誰からもらったの?」

「えっと、その……」

「中身を見てもいい?」

「う、うん……」

 

 封の固さからまだ一度も開けられていないことがわかる。身構えるように開けると一枚の白い紙が入っていた。文字が羅列しているのかと思いきや短い文に僕は身を震わせる。

 

──Come fill in the missing parts──

 

 書いた人はすぐに分かった。昔からそうだ、アイツは僕が欲しいものを失わずに得ている。その憧れはいつしか呪いになった。

 

「なんて書いてあったの?」

「大したことじゃないよ。それと、会ったんだね、あの人に」

「……うん………」

「何かされなかった?」

「なにもされてないよ……久しぶりだねって言われて…お兄さんだって分かったら大道さんがきて……」

 

 ナイスタイミングだ快斗君と心の中で感謝する。本当に何かされていないのかとよく見たが特にこれといって変わったところはなかった。

 

「ねぇ新君、お兄さんのこと……嫌い……?」

「……なんでそう思うの?」

「この間の話の時も……お兄さんの話はしなかったし、今…怖い顔してるから……」

 

 どうもアイツの事となるとポーカーフェイスを忘れてしまうらしい。誤魔化すように顔を作るがりんりんの表情は変わらなかった。

 

「ごめんね、怖かったよね」

「だ、大丈夫……」

「僕はね、アイツの事は嫌いだよ。僕が戦う理由の一つでもあるし許されていい人じゃない」

「何があったの…?」

「ううん、これは僕達の問題だから気にしなくて大丈夫」

「そうだな、これは俺達の問題だ」

 

 突然現れた気配から覆い隠すようにりんりんを守る。同時に気配のする方へ鞄を投げると地面に落ちる音は聞こえなかった。

 

「よぉ、新一」

「天斗…」

「お兄さん……」

「燐子ちゃんはさっきぶりだな」

「何しに来た」

「なぁに通りがかっただけだよっ」

 

 僕の鞄をこっちに投げ返してくる。威力は考えられているのか受け取りやすかった。パッと見どこにも武器を持っている様子はなかったがヤツの事だ、どこに隠しているか分からないと警戒してイクサナックルを取り出す。

 

「今日は話に来ただけだ。事構えるつもりはねぇよ」

「貴様の言葉など信用なるものか」

「まぁいっか。燐子ちゃん、ソイツの事はあまり信じない方がいいぜ」

「なっ……なんで……ですか」

「ソイツは隠し事が多すぎる。そうさな、例えば人殺しであることとか」

 

 天斗に対して怒りをぶつけようとした瞬間袖を掴まれる。そこには震えながらも僕の袖を掴むりんりんの姿があった。

 

「知って……ます」

「りんりん………?」

「じゃあなんでソイツの近くにいんだよ。ソイツは犯罪者だ、普通の人間じゃない、お前らとは別世界の化け物だ」

「どれだけ言われても、辛くても、新君は……逃げずに頑張って………来ました……」

 

 突然の大声に驚く。自分のことじゃないのに真剣なのが伝わってくる。

 違うんだ。本当は、君は僕のことを庇わなくていいんだ。アイツの言っていることは本当だ。だから気に止むこともないし身を投じる必要もない。なのに、なんで?

 

「それがどうした?所詮人殺しは人殺し、罪から逃れうる事はできない。どれだけの悲劇を並べても事実は変わらない」

「…………」

「もしかしたら全てが芝居で、楽しんでたかもしれねぇよなぁ?人殺しを」

「この人は、あなたとは違う………!!」

 

 袖を引っ張る彼女は震えている。きっとアイツを恐れていると思う。殺気全開で容赦しないということが肌で分かる、歪んだ笑み、それらを見ても泣き出さない彼女は本当は怖いと思う。今の言葉が効いたのか殺気を抑えた天斗はため息をつく。

 

「…だってさ新一」

「退け、此度はこの子に免じて攻撃しない。貴様が言ったことが真実ならばな」

「へぇへぇ、そうしますよ。あ、でも一つだけ」

「………」

「燐子ちゃんはいいかもしれないけど、お前の主人はどうかな」

 

 気持ちの悪い笑みを浮かべた天斗は姿を消した。念のため辺りを見回したが気配もなく見つかることもなかった。いなくなったことがわかるとりんりんは膝から崩れ落ちる。

 

「大丈夫!?」

「し、新君………」

 

 体を震わせながらも立とうとしているが足が動こうとしていない。

 

「こ、怖かった………」

「……ありがとう」

「え………?」

「僕のこと、庇ってくれてありがとう」

「私は、ただ言いたいいことを………言っただけ………」

「怖い思いをさせてごめんね。もう、そんな思いはさせないから」

 

 うん、と頷く彼女は僕の手を取って立ち上がった。そのまま一緒に帰路につこうとするがその前に一つやることを思い出す。

 

「ねぇ、二人とも、そろそろ出てきたら?」

「ちっ、バレてたか」

「そりゃあ新一さんのことだから気づいているとは思ってましたけどね」

 

 快斗君と京君が木の影と木の上から現れる。りんりんは気づいていなかったのかちゃんと驚いている。二人は変身を解除して降参のポーズをとる。

 

「何をしようとしていたの?大体察しはつくけど」

「じゃあその考えってことにしといてくれ。あと言いたいことはわかるがお前にちゃんと聞いてもらうにはこれが一番だと思った」

「その通りだったかもしれないけど、なるべくこういうことは避けてほしい」

 

 罰が悪そうな顔をして二人は目を逸らす。とはいえ今回は僕に非があるので仕方ない。とりあえずりんりんを家まで送ろうと連れて歩くと暫く沈黙が続いた。信号で止まっている時、話を切り出したのはりんりんだった。

 

「Roseliaのこと…なんだけど………」

「うん………」

「友希那さんは…戻ってくるよね………?」

「…あの人は今、答えを探してるんだ」

「答え……」

「どうするべきだったのかとかどうしたらいいのかとか。だからもう少しだけ待っていてほしい」

「………大丈夫だよ」

「?」

「皆、友希那さんのこと、待ってるから」

 

 そう言ったりんりんは僕より先に信号を渡っていく。その姿を見て僕は一安心しつつも後を追いかける。

 そのまま無事に送り届けた僕は湊家に戻る。家に入った僕はマッチを探す。せめてお嬢様が帰ってくるまでに見つけ出しておきたい。そうは思ったが以外にも早く見つかった。マッチを持った僕は自室へと向かいベランダへ出た。もらった手紙を取り出してマッチに火をつける。その火を手紙に近づけた。冬の夜空、燃え盛る炎は手紙を包み込んでいく。虚空に消えていくそれを見つめる。

 ──僕は、アイツとは違う。もう元に戻れなくても────

 完全に燃え尽きたそれを確認して家の中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜も深くなっていく中潰れた廃工場の中に一人でいる。最近はここにいることが多い。静かなガラクタの中にいると何故だか妙に落ち着く。だからこそ余計なものは入れたくない。

 

「探したぞ、名護天斗!」

「なんだお前ら」

「貴様を処しにきた」

 

 ゾロゾロと姿を見せる連中に呆れる。どうせクズが集まったところで俺に何もできないで終わるくせに。それぞれが武器を構えるが特に何も感じなかった。

 

「あぁ、名護家の連中か。そういやどっかで……いやダメだな、思い出せねぇ」

「覚えてなくてもいい。貴様は今から殺す」

「まぁ所詮ゴミどもの集まりなら別にいっか」

 

 初撃がくることを感じた俺は寸前で避けてみようと考えたがいつまで経っても何も来なかった。それもそうだ、初撃は振り下ろされる剣ではなく銃弾、そして何よりそれが当たったのは俺ではなく振り下ろされようとしていた剣だったのだから。

 

「なっ………」

「はっ」

「貴様らどういうつもりだ!」

「最初からこういうつもりだよ」

 

 撃たれた一人を除く全員が俺に背を向ける。半数が発砲し残された奴は死んでいった。俺は体勢を変えずに背を向ける連中に目を向ける。するとその場に全員跪く。

 

「探しました、我らが王」

「おっと?」

「貴方がいなくなった日からずっと探し続けておりました」

「我らに変革を与えてくれる唯一の希望よ」

「どうか我らに御慈悲を」

 

 平伏す裏切り者達を見て笑いが止まらなくなる。まるで世界の正義を守っているように謳っている名護家の中に、俺以外に壊れている奴らがいるとは思いもしなかった。世の中報われないなと思いつつも俺は少し残念に思っていた。

 

「おい、そこのお前」

「はっ」

「さっきの言葉は本当か?」

「嘘偽りはありません」

「希望もか?」

「少なくとも私に二言はございません」

「そぉかぁ、残念だ」

 

 乗っていたガラクタの山から降りる。俺が地に足をつけると同時に目の前で首を垂れていたやつの頭は無くなった。血は噴き出して俺の体に飛び掛かる。

 

「何をお考えのつもりですか!?」

「我々は貴方様に忠誠を」

 

 一振りすればポトポトと首が落ちる。面白くないなぁと思いながらも塞がない口を切り落としていく。最後の一人になった時、刃を向けてもびくともしなかった。普通なら怯えてもいいのに首を垂れたまま動こうともしなかった。興味を持った俺は言葉をかける。

 

「お前は?」

「私は、希望など求めてはおりません」

「へぇ。じゃあ何が欲しい?」

「……希望より絶望を、幸福より不幸を、笑いより嗤いを、喜劇より悲劇を。私が望むのはそれにのみにございます」

 

 鳥肌が立った。この女、分かっている。俺の望むものが分かっている。刃を収めて再び声をかける。

 

「合格だ、お前は良い」

「嬉しい限りにございます」

「顔を上げろ」

 

 静かに顔を上げる女は思った以上に良かった。正直いろんなやつを見てきたがかなりの素材、それに加え俺のことを理解している。敵意も感じない。こいつは確定だ、狂ってやがる。感動した俺はそいつを連れて廃工場の奥へと案内した。

 

 

 

 



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第九音 再開と歯車と気構えと

 あの日、新一に「何故笑ったフリをしているの?」と聞いた日からあまり話さなくなってしまった。話しても必要最低限のことと一緒にいるときに平然を装う為の時だけ。でもその間に私は答えを探していた。聞いた日に見に行ったポピパのライブを見て、彼女たちにどんな思いで弾いているのかを聞いた。もしかしたら答えが見つかるかもしれないと放課後は一人で練習した。それでも後もう少しというところで行き詰ってしまった。

 何度謳ってみたところではわからない、どうしたら誇りを取り戻せるのか。本当に暗闇に迷い込んでしまったようだ。それでももう一度歌おうとすると部屋の扉が開かれる。

 

「あ………」

「一人で練習ですか」

 

 紗夜だった。ギターケースを背負った彼女は一度ロビーに出て休憩しようと提案したのでそれに乗った。缶コーヒーを買って座ったけど話しかけて来なかった。そんな中私の声が溢れる。

 

「……まだ、取り戻せない。だから、歌いにきたの。でも、それも意味がないみたい」

「あなたは……あなたと私は、似ていると思います」

「似ている?」

「名護さんは私の背中を押してくれた。今度は私が名護さんの主人であるあなたの背中を押せるときかもしれません」

 

 紗夜は真剣な表情で話を続けたが思い詰めている様子はなかった。

 

「この問題について考えている時に自分の中の変化に気が付いたんです。きっと以前なら、ここまでバンドの問題に向き合わなかったかもしれない。それがなぜ、こんな風にあなたを説得したりバンドのことを考えるようになったのか」

 

 聞いていてかなり難しい問題だと思った。でも張り詰めた様子はなく、むしろ清々しいほどの表情だった。

 

「それは、私がRoseliaの氷川紗夜だから」

「Roseliaの……」

「そうしてくれたのは、あなたの執事が背中を押してくれたからです。妹と比べない私……自分の音楽を持つ、私…でもこれはあの人だけじゃなくてあなたもなんです」

「私も?」

「そうです。少しずつ、日菜を見返そうとしている私から、Roseliaのギタリストの私へと変わっていったんです。でもこれはあなたも同じ」

 

 紗夜はちゃんと前を見て成長していた。あのRoseliaの中で成長して言ったんだと思っているとおかしなことを言ってくる。

 

「私も………?」

「あなたもきっと……もう、お父様の影を置いかているだけの湊友希那ではないはず」

「あ………!」

「あなたは何者なのか。もう一度考えれば、答えは見えてくるはずです」

 

 会釈をして紗夜は自分の荷物を持って出て行った。けどあの子の言葉を真剣に考える。私が何者なのか……それは昔から変わっていない。

 その日は練習を切り上げてそれだけを考えることにした。答えを未完成な状態で導き出した私は翌日の放課後になってスタジオに向かう。皆がいる部屋を探し扉の前に立つ。今は怖がっている場合じゃないと踏み出すと皆が揃っていた。

 

「みんな……っ!」

「友希那さん!?」

「………!」

「みんな………」

 

 言葉が詰まる。正直何を言えば良いのかわからなくなっていた。でもここまで来た。リサは心配をしてくれているようだけど紗夜が制止する。そうだ、これは私がやらなきゃいけない問題だ。

 

「………SMSの失敗からずっと考えていた。なぜ、お客さんが離れていってしまったのか。昔の私たちと違うところはどこなのか。………昔に戻れば。昔のような音が取り戻せるんじゃないかと思ったけれど、それは間違いだった。

音をとり戻すこと、それはRoseliaとしての誇りを取り戻すこと。そう思ってずっと考えてきたけれど………わからなかった。………誇りを取り戻すまで、あなたたちに顔向けできないとそう思っていた。でも……私は……Roseliaの湊友希那だから……誇りを失おうが、惨めだろうが、私はRoseliaの湊友希那でいたい………!その為に、ここにいさせてほしい。私は……ここで歌を歌うことし……できないから……」

 

 やっと完成したように思える。自分の中で未完成だった私の気持ちを言葉にして伝えられたと思う。なんと言われようとも私は………

 

「……友希那……っ!」

「友希那さんは、惨めなんかじゃない!………そんなこと、あるわけない………っ!!」

 

 燐子の突然の大きな声に驚く。燐子は話すのが苦手だ、だけど今はそんなことが考えられないほど声を出してくれている。

 

「友希那さんは……そうやって……Roseliaのことをずっと……考えて……一人で悩んで……誇りを取り戻そうとして……そうやって一人で悩み抜いた友希那さんが……惨めなわけ、ない……!でも……『わたし達』は『Roselia』です……!わからないなら……一緒に……探せばいい……!」

「Roseliaの湊友希那でありたいって気持ち……そこに友希那の『誇り』はあるんだよ……!」

「あなたは一度だって誇りを失ってなんかない。ずっと、誇りを持ち続けていたからこそ、こうして悩み続けたんです」

「あ、あこ!Roseliaのことやっぱり誰よりもカッコイイバンドだって思ってます!Roseliaがカッコイイバンドでいるために、この5人の誰が抜けてもダメだって思います!!」

 

 次々と掛けられる言葉に驚かされる。皆真剣に考えていた。私と同じように考えていて、受け入れてくれようとしている。その事実を知って涙が出てくる。

 

「……ごめんなさい……こんな私を……もう一度受け入れてくれて……」

「ううん、友希那。アタシ達だって、ずっと『Roselia』を見てこなかったのは同じことなんだよ」

「わたし達は……今……ようやく『Roselia』になれたんです」

「うん……うん……っ!あこ、Roseliaが大好きです」

 

 皆が涙目になりながら良かった良かったと言わんばかりの空気が流れている。そんな中ため息のように吐いた紗夜は呆れるような、でもどこか嬉しそうな顔でドアの方に声を話しかける。

 

「さっきの宇田川さんの発言を少しだけ訂正しなくてはですね。ねぇ、名護さん?」

「あっ、そうだった!」

 

 紗夜の発言に一番驚いたのはあこだったが全員が驚きながらドアを見ると静かに開かれる。開いた扉の奥から出てきたのは清々しい顔の新一だった。

 

「空気を壊すようなこと言わないでくださいよ紗夜さん」

「新一……」

「あなただって、Roseliaの一員でしょう?」

「最近あまり出れていなかったので忘れられがちですし、そんな風に思ってもらっても良いのかと思いますけどね」

 

 苦笑いをしながらも楽しそうに話している。最近のいざこざで思い出す余裕もなかったが彼もRoseliaのメンバーだ。つまり紗夜が言いたいのは──

 

「この5人ではなく、この6人よ」

「新兄もいてこそですもんね!」

「そうだよ!新一だって頑張ってくれてたじゃん!」

「でも僕は皆に何もしてあげられてないよ。今回なんか特に………」

「いいえ、あなたは私に安易に答えないようにしたわ。それは、私に自分で気づかせる為にでしょう?」

「それはそうですけど………」

「名護さんは隠しているつもりでしょうけど、皆さんそれぞれに声をかけていたのを知っているのよ」

「あれ、バレてました?」

「そうやって隠れながら皆のサポートに回っていたのだから立派にRoseliaのマネージャーをやっているじゃない」

 

 本人はそのつもりはないと思う。ずっと別のことを考えている様子だったし余裕が出来た一瞬のことでしかやっていないつもりなのだろう。それでも私たちには十分だった。考えられる時間とこうして皆と一緒にRoseliaを挿し会できるのだから。

 

「では改めて、この6人でRoseliaです」

「そうね。やっと、止まった時計の針を進められるわね」

 

 その言葉を言ってあることに気付く。まだだ──まだすすめられない人がいる。『私たち』の針は進められてもあの人の時計の針は止まったままだ。でも不思議と動かすことができないとは思えない。きっと今の私なら彼の時計を動かすことが出来る。そう思えてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日間天斗の動きは無かった。その代わりお嬢様は放課後になるとどこかに行くようになった。遅く帰ってくるわけでもなく俯いているわけでもないので問題は無いだろうと判断していた。実際、最初の一回だけ念のためにと後をつけさせてもらったがライブハウスに自主練しに行っただけだった。

 僕の方もファンガイアが出ては倒しドーパントが出ては倒し、家に戻っては家事をする日々が続く。前の日々より物足りなさを感じている。

 そんな中紗夜さんからメッセージ入る。今からスタジオに顔を出しに来てほしいという内容だったため特に問題もないなと考えた僕はバイクに乗ってスタジオに向かった。指定された部屋を覗き込むとお嬢様達がいる。

 話を扉の外から聞いているとお互いに分かりあう事が出来たらしい。これで元の生活に戻れるんだなと思い踵を返そうとすると紗夜さんの声が聞こえてくる。いつから気づいていたんだろうか。

 それからしばらく話し解決すると皆で帰ることになった。ただしこのままテンポ良く帰れることはなかった。

 

「明日からまた頑張るぞー!」

「あこ気合い入ってんね〜アタシも頑張るぞ〜⭐︎」

「そうね、私も頑張るわ」

「本調子に戻られて何よりです」

「そうだな、俺としても楽しめそうだ」

 

 僕達の目の前に黒いコートを着た人物が現れる。日本刀を持っていること、さらには特徴的な雰囲気は絶対的に忘れない。よくも気分を害してくれたものだ。

 

「あの人誰?」

「初めましてだな嬢ちゃん達」

 

 近づいて来る牽制するように皆の前に出る。お嬢様とりんりんはわかっているようだが残りの三人は状況を理解していなかった。

 

「何しているんですか名護さん?」

「おっと、どっちの名護さんだ?」

「どっちって……よく見るとあの人、新一に似てない?」

「似てないよ」

「昔はよく言われたもんだよな。まぁ血が繋がっているんだから当たり前と言っちゃあ当たり前だけどよ」

「どういうこと……?」

 

 イクサナックルを取り出し攻撃の意思を見せる。それでも怯むことはなく話を続けてくる。

 

「そんじゃあ自己紹介するか。俺の名は名護天斗、お前らの知ってる名護新一の実の兄だ」

「お兄さん!?」

「新兄お兄ちゃんいたの!?」

「まさかあなたが………」

「そこの嬢ちゃんは知ってたのか。別にいんだけども」

「何をしに来た」

 

 余裕の笑みを浮かべながら近くの柵に腰をかけた。癪に触るように刀を同じように柵に立てかける。早く帰ってくれと思いつつ皆を逃す方法を模索する。

 

「仲睦まじき声が聞こえてきたからな。ちょいと挨拶に来たんだよ」

「それだけじゃないだろう」

「まぁな。答えあわせというかそんなところ」

「答え合わせ?」

 

 疑問を持つと携帯が鳴る。スマホを見ると霧切という文字が記載されていた。天斗の方を見るとどうぞと言わんばかりに掌を見せていた。対象から目を離さず電話に出ると霧切さんの声が聞こえてくる。

 

「もしもし」

『こちら霧切だ。今大丈夫かね』

「問題ありません」

『ここ数日名護家の者で行方不明者が出ている。何か知っているかね?』

「僕の知っている方ですか?」

『ああ、八名ほどな。連絡すら途絶えている。最悪の場合殺されていることを想定しているが』

「名前は?」

 

 霧切さんから続々と名前を出されるが全員知っている名前だった。もしかしたらと思い途中からスピーカーモードにしていたら途中で天斗が拳で掌を叩く。

 

「そういえばそういう名前だったっけかアイツ」

「何?」

「最近あったんだけどツマンねぇから殺しちゃったぜ⭐︎」

『なっ、まさかそこにいるのは』

「久しぶりだな霧切さん。今の名護家の当主はアンタがやってんのか」

 

 ケラケラと笑う天斗は霧切さんを嗤う。携帯から怒りが籠ったような声が聞こえ、救援という言葉が聞こえた瞬間手に持っていたスマホが弾かれた。急な刺激により少しばかり痺れる感覚があったが皆を庇うように腕を広げる。

 

「せっかく遊びに来たんだ。邪魔はさせねぇよ」

「皆、反対側帰るんだ。それくらいは許すはず」

「いいぜぇ弱い奴がいても邪魔だしな」

「でも新一は?それにお兄さんなんでしょ!?」

「その話は今度しようか。とにかく今は逃げて。紗夜さん、りんりん、お願い」

「……わかりました」

「新君も……気をつけてね……!」

 

 二人が皆を連れて行くと僕と天斗の二人になる。当然のように変身した僕は天斗に対して刃を向ける。生かしていてはいけない、かといって簡単に勝てる相手でもない。でも、だからこそこの男は僕の手で殺さなきゃいけないんだ。



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第十音 進化と呪いと新ステージと

 燐子と紗夜によって私たちは本来帰るはずの方向とは反対の大回りする道へと走っていた。私たちが背を向けた瞬間彼らの間から発せられる悍ましいものを感じた。普通に生きていたら感じることのないだろうドロドロとした何か。いろんな感情が入り混じったような黒いヘドロのような感じ。きっとこれから先忘れることはないと思う。けどそれだけ新一から出ていたなんていうのが信じられなかった。

 

「ここまで走れば大丈夫でしょう」

「ハァ……ハァ………疲れた〜」

「皆さん……無事……ですか………?」

「それよりさ、友希那たちはあの人の事知ってるの?」

 

 紗夜と燐子と目が合う。本人がいない前で話していいのだろうかと一瞬躊躇うが紗夜が話を切り出した。

 

「私は、会うのは初めてですが以前から知っていました」

「私は……幼い頃から………」

「この間、学校の屋上に来たわ」

 

 全員から驚きの目で見られたが二人はすぐに状況を受け入れたのか切り替えて話し始めた。新一の知り合いだから、とかでは片付けられなさそうに思えるが。

 

「あの人は言っていた通り新一さんの実のお兄さんです。そして目の敵にしている……」

「なんで?お兄ちゃんなら仲良くしないと」

「あの人は………普通じゃないの………」

「燐子それどういうこと?」

 

 事情を簡単に私たちが説明できる範囲ですると二人の顔は青ざめていった。いくらなんでも人のやる事じゃないと、もしかしたら私たちも殺されていたのではないかと。だから燐子と紗夜の判断は正しかったのではないかと。でも私は思った。それで新一はどうなるのか。私たちを守るとはいえ勝てるかもわからない相手に殺意を抱き、ましてはあんなドス黒い何かを発していた彼がちゃんと帰ってこれるのか心配になった。

 

「とりあえず私たちは家に帰りましょう。湊さんも名護さんの帰りを、って湊さん!?」

 

 気がつけば皆から離れてきた道を戻ろうとしていた。でもきっとこれは私のやらなくてはいけない事だと思う。彼と向き合うために、私ができる最初の一歩。

 

「彼を迎えにいってくるわ」

「無茶言わないでください!」

「私は、今度こそちゃんと伝えなきゃいけない」

 

 静止させる声を振り切り私は新一の元へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、安全な所まで逃げただろうか。イクサナックルを掌に当ててベルトに装填する。天斗は手を頭の後ろで組んで余裕の上場を浮かべている。

 

「じゃ、ボチボチ始めましょうかっと」

「手加減はしない。今回こそ」

「おっとそうはいかないぜ。今日の本題はお前にプレゼントだ」

「何?」

「俺のデータの五分の一を搭載したロボットを用意した。これに勝てなきゃ俺にはまず勝てねぇよ」

 

 指を鳴らすと目の前に虚像が浮かび上がってくる。突然現れたそれは完全に人型をしている。腕の部分は剣になっていて近接特化の人形兵だと言うのがわかる。しかしアイツをモデルにしたのなら隠し球が一個や二個ではないのは明白。

 

「いいだろう。早急にスクラップにして貴様の頭蓋を砕きにいってやる」

「我が弟ながら口が悪いねぇ」

 

 イクサカリバーを取り出し数秒間対象を観察すると僕が動き出すと同時に人形が揺れる。初激を防がれた。だがそれは想定内だ、だから次の一撃を用意していた。そのはずなのに僕が次に見たのは誰もいない空間だった。足元を取られバランスを崩すとそのまま蹴り飛ばされる。壁に激突した僕は瓦礫がパラパラ落ちるのを見ながら天斗達の方を見る。人形は無傷、天斗に関してはヤンキーみたいな座り方をして高みの見物をしている。

 

「スクラップにすんじゃなかったのか?」

「ちっ………」

「舌打ちは悲しいぜ。だがこの程度にも勝てないんじゃお前はやっぱり失敗作だということだな」

「黙れ、貴様の人形など壊してやる」

「無理だ。針が止まったままのお前に勝てる術はない」

 

 針が止まった、つまり僕の時間が止まっているということを言っているのだろう。腹が立つ。そもそも貴様があのようなことをしなければそんなこともなかっただろうに。

 だがそれがどうした。恨んではいるが逆に安心もある。戦場に邪魔な感情はいらない上にそのお陰で貴様を殺すことを決意できる。それに僕も立ち止まっている暇はない。

 

「愛を知らぬ哀しき人よ、なぜお前は力を求める」

「それは僕が皆の命を守るためだ」

「はい残念、それじゃあお前は進めません。嬢ちゃん達の時計の針は動いたのに残念だなぁ。ま、仕方ないか。所詮失敗作だし」

 

 人形の猛攻が始まった。剣撃はなんとか防ぐことが出来るもスピードが追いつかない。このままじゃ反撃に出ることも叶わない。しかし防いでいるうちに気づく。このスピードなら制限解除すれば追いつく上にパワーで押し潰す事もできる。でもアレをすれば確実に僕の体は勝手にダメージを受ける。その状態で一人になれば天斗に隙をつかれて殺されるに違いない。フィードバックが襲ってきても問題がないようにするには時間内に奴を殺すまでいかなきゃいけない。

 それでもヤツを殺せるのならと声に出そうとした瞬間走ってくる音が聞こえる。その方向に気を取られると人形の回転斬りをもろに食らう。一度変身解除させられた僕は近くに駆け寄ってくる人に目を向ける。すると一度意識が固まった。

 

「新一!」

「………………」

「大丈夫なの?」

 

 上半身を起き上がらせるのを手伝ってくれるがそれには感謝しつつも別のものが込み上がってくる。

 

「貴女は………貴女はこんなところで何をやっているんですか!」

「!」

「巻き込みたくないから逃げるように言ったのにわざわざ戻ってきて、何をしているんですか!」

「そ、それは」

「僕は貴女を死なせないように、危険な目にあわないようにさせるために戦っているんですよ。本当は貴女みたいな普通の人がこんな化け物供を知らなくてもいい世界でなければならないのに」

 

 早く立ち上がり彼女を避難させようと動こうとすると何を思ったのか顔をしっかり掴まれる。しかし楊梅色の瞳はしっかりと僕を見据えて逸らすようなことはなかった。

 

「聞きなさい。私はあなたの事を化け物だなんて微塵も思っていないわ」

「なっ」

「あの時私はあなたの過去の話を聞いた話をしたわね。あの時言えなかった続きを話すわ。だけど私は、あなたを見る目を変える事はないわ。例え多くの人を殺そうとも多くの人を救った。どれだけ人間からかけ離れていてもそれでも私からすればあなたは名護新一だということに変わらない。だから安心しなさい。私はあなたを見捨てるようなことはしない!」

「お嬢、様………」

「ハハハ、お前の主人、おかしいんじゃねぇの?」

 

 たった一人笑う男の方を見ると人形は強く叩かれ腹を抱えて笑っていた。確かに言っていることはおかしい。普通の人間ならこんなこと考えない。なんなら恐れて距離を取ってもおかしくはない。けれど何故だ?この人は何か違う。

 

「この執事にしてこの主人ありってか。笑わせてくれる」

「何がおかしいのかしら。私は私のやりたい事をやっているだけよ」

「それがおかしいってことだよ!こんな化け物、忌み嫌われ誰にも理解されないのが末路だ。その絶望をより深くさせようとするなんて信じられねぇぜ」

「それはあなたがそう思っているだけでしょう?私は一生この人から離れないわ。たとえ何があってもこの人の側にいる、そう決めたの」

 

 ──それは無理だ。いずれこの人は僕から離れる。そうでなくても僕が近くにいることすら本来許されることではない。なのに、なのになんでこの人はそこまで言い切ろうとするんだ。

 

「新一、私たちの時計の針は再び動き出した。だからあなたの時計の針ももう動いていいはずよ」

「駄目ですよお嬢様。方法がわかっていても僕には動かす術はない。それにこれ以上求めてしまうのは、僕に許されることではないと」

「それは誰が決めたの?」

「っ!」

「誰も進む事を止める権利はないわ。それに進める方法はある」

「えっ………」

「一人で出来ないなら二人で進めばいいじゃない。だから命令(・・)するわ」

 

 この状況で命令?いやまさか、命令で動かそうと考えているわけではないだろう。そんなことを考える程の頭ではないはず。だとしたらどうやって動かすつもりだ?どちらにせよ、無理な気もするが。だけど、ここは一つお嬢様を信じてみよう。きっとこの目に嘘はないと信じさせてくれる。そんな気がしたから。

 

「私を好きになりなさい」

「………」

「ぷっ、ハハハハハ!本当にどうかしてやがる。そんなんで動くはずないだろ!」

「理由なんて考えなくていいわ。とにかく私を好きでいようと考えなさい」

「それで解決には」

「これは命令よ。忠誠を誓うのなら言う事を聞きなさい」

 

 意味を考える事をやめその場で跪き命令に従う姿勢を見せる。お嬢様を好きであろうとする、それが何故進められる理由になるのだろうか。

 

「いい?私を好きになる理由は考えてはだめ、好きになっていいはずがないと考えるのもだめ、あなたはただ私を好きであろうとすればいい。それ以外に考えるのは禁止」

「お嬢様、それではまるで」

「いいわよ。命令というよりむしろ、呪い(・・)って考える方が面白いかもしれないわ」

 

 お嬢様の考えていることはわからないかった。けれどそれが一番自分の中で納得しやすいとも思えた。だから僕は今、目も前の敵を潰さねばならないこと、お嬢様を好きであること(・・・・・・・・・・・)しか考えなかった。

 

「で、芝居は終わったか?」

「芝居かどうかは今からわかるわ。ねぇ新一」

「お嬢様、ご命令を」

「そうね。とりあえずあの人形を壊してしまいなさい」

「御意」

「やるこたぁ結局変わらねぇなぁ!」

 

〈ここからはNeo-aspectを聴きながら読むのをお勧めします〉

 

 天斗は人形に迎え撃つように指示を出した。当然あの人形はさっきのようにスピードは早い。制限解除をしなければ追いつくことは少しばかり難しいだろう。

 だが今考えていることはそれを超えることではなかった。疲弊しているはずの感覚がお嬢様がくる前よりも遥かにクリアに感じる。難しいことはない、ただ、こうやって迎え撃てばいいんだと剣を振り下ろすと後ろから何かが落ちる音がした。後ろを振り返ってみると人形の右肘から下がなくなっており足元を見れば刃のついた腕が一本落ちていた。

 

「………」

「お嬢様、これは……」

「あなたがやったのよ。大丈夫、考えることは変えなくていいわ。それにあなたが言ったのよ、『化け物の扱い方をどうか間違えぬようお願い致します』って」

「……まさか」

「無論化け物扱った覚えはないわ。私は、私の執事に指示しただけだもの」

「(まさかこの短時間で新一を本当に動かそうとしている?そんな馬鹿なこと出来んのかよあの女)………面白れぇ」

「こんなところで立ち止まっていられないはずよ。だからあなたは今やるべき事をやりなさい」

 

 そうだ、こんな所で止まっている余裕はない。例え時計の針が止められていようともそんなことを気にしている場合ではない。あの人は今僕に指示を出している、ならそれを実行するのが執事としての僕の仕事だ。

 

「畏まりました」

「とんでもねぇ連中だなぁお前ら!」

 

 片腕を振り回してくる人形に見て確実に倒す方法を計算する。きっとお嬢様が来ないままであれば焦っていたと思われる。けれど今は違う、思考までスッキリしているせいで相手の動きはスローモーションに見えるほどだ。人形の左腕を躱すと次は足を振り上げてくる。先端部位を見るとナイフが突き出ているのが見えた。振り上げた足を掴み宙へと投げる。

 

「決めてしまいなさい新一!」

「仰せのままに」

 

 落下する人形目掛けて跳び目の前まで近づいた瞬間に踵落としで地面にぶつける。そのまま自由落下の勢いに乗って落ちる僕は剣を下に突き刺すようにして落ちていく。

 

「私たちも始めるわよ、新しいステージを!!」

「ハァァァァァ!!!」

 

 突き刺された人形は機能を失い動かなくなる。地面に辿りついた時にすぐにその場から離れると人形は爆発した。次はヤツだと辺り一帯を見回すと姿はなかった。どこだと探そうとすると声だけがその場に木霊する。

 

「面白くなってきた。よかったな新一、また遊ぼうぜ」

「貴様の首は必ず獲る。それまで首を洗って待っておけ」

「……終わったの?」

「此度の戦闘は終わったと考えて問題ないでしょう」

 

 変身を解除して後ろを振り向くとお嬢様の顔で視界がいっぱいになる。そしてすぐに口を塞がれる。柔らかく温かい感触。まさかと考えるがお嬢様の目が零距離と言っていいほど近くにあることから考えれば答えは一つしかなかった。十秒ほどしてようやく離れるとお嬢様の吐息が口に当たる。そうだ、やっぱり僕の口を塞いでいたのはお嬢様の唇────

 

「よくやったわね。これはご褒美よ」

「………な、何故」

「言ったでしょう。新しいステージを始めるって」

 

 そしてお嬢様は不敵な笑みを浮かべた。



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最終音 Neo-Aspect

 天斗のロボットを倒してから1週間近くが経った。お嬢様達は次のライブを探しすぐに連取に取り掛かった。練習している姿も見ている、家でお嬢様と元の関係に戻っている………はずだった。正直な事を言おう、記憶がない。お嬢様に不意にキスをされてから部分部分の記憶しかないのだ。いつの間にか朝になっていて、いつの間にか学校で授業を受けていて、いつの間にかRoseliaの練習を見ていてというように記憶が飛んでいる。因みに今は屋上で昼食中だ。今日のメンバーは夜架ちゃんと京君だ。どしてその選出になったかも覚えていない。

 

「で、新一がここ最近壊れ始めたロボットのように固まりすぎてるんだが」

「動きづらくなった老翁とも言えますわ」

「二人ともしれっと酷いこと言うね?」

「なんだ今は動いてんのか」

「どう見ても生きてるでしょ」

「いや頭の話」

 

 そっちかと理解しながら弁当を口に運ぶ。二人とも一応考えてはくれているのだろうか。

 

「大丈夫ですわ新様。もし中身が年老いてしまっても私は新様の事を愛しますわ」

「まだ若いはずだから大丈夫だよ」

「オイルが足りてないのか?」

「一回僕が人間であることを前提に戻そうか」

「そうだな。そんで新一の様子がおかしくなった原因ってのはおそらく湊にあるはずだ」

 

 さすが名探偵そこまでは把握済みか。しかしあの現場は目撃していない限り知らないはずだし何よりも言う事をためらう自分がいると思う。だからその先は自分でどうにかしないといけないだろうと結論を出す。

 

「そう思った俺は弦巻家に行って町中の防犯カメラを調べさせて貰った」

 

 は?

 

「っと、そこで見つけたのがこれだ。この時間は天斗と戦った記録がある。しかし俺達は別の敵を相手にしてたから行くことはできなかった」

 

 どこからとりだしたのかパソコンを取り出してエンターキーを押すと記録映像が流された。そこにはバッチリ僕とお嬢様が重なっている部分が映っており。

 

「なんでここまで調べられてんの!?」

「安心しろって、モニタールームは完全に一人だったしカメラもなかった。だからプライバシーは守られているはずだぜ」

「違うそうじゃない!」

「湊様ずるいですわ!私だってまだでしたのに!」

「夜架ちゃんは黙ってて!?」

「騒ぐな。この様子を見るに不意打ちされたのは間違いない。お前みたいな奴が不意打ちファーストキッスされたんだ一週間くらい混乱しててもおかしくはない」

「すっごい冷静だね、むしろ落ち着いてる京君の方が怖くなってきたよ」

「で、なんでこうなった?事細かに説明してみろ」

 

 ここは素直にしたがっておくべきかと判断して天斗ロボとの戦いを話した。名前を出したとたん夜架ちゃんの表情が変わったが話を続ける。説明を終えると京君は納得したようにうんうんと頷いていた。

 

「なるほど、わからん」

「あれだけ頷いてのに!?」

「星の数だけ人間がいるようにそれだけ恋愛の数があるってな」

「良いこと言ってる風にして誤魔化さないでよ」

「洗脳から始まる恋愛関係……鳴海様、これってアリなんでしょうか」

「アリなんじゃね?そのうち効かなくなってきたらr18洗脳も考えられるけど」

「その展開は新様にとって知らずに華を散らすシーンがありそうですね」

「……薄々思ってたけど新一って」

「当然そのあたりの知識は入れ込まれてませんわ。必要ありませんでしたもの」

「確かに然るときに教えないとなぁ……」

「だから私が手取り足取りぬっとりねっとり教えて差し上げましょうと……」

 

 夜架ちゃんが身体を気持ち悪いくらいにうねうねさせている。話している内容は後半から意味がわからなくなっていた。でも一つだけ分かることがあり、夜架ちゃんは今までとんでもない企みをしていたということ、これだけはしっかり伝わってきた。

 

「まぁ何か起こってからじゃ遅いしな、ってか保健の授業は?」

「鳴海様、性教育はここでは2年生からになってますわ」

「ハハッ(高音)じゃあ仕方ねぇよな」

「その笑い方怒られるよ?」

「そうだな、じゃあ中学生レベルっつってもほぼ同じだが説明すっぞ」

 

 その後昼休みが終わるまで基礎的な知識を教えられた。双方に間違いがあってはならないということが十分に伝わってきたためちゃんと覚えられたと思う。だがここで今までの記憶を振り返ると引っかかる記憶が所々出てくる。

 

「京君質問」

「いいぞ言ってみろ」

「ハロウィンの時に夜架ちゃんが痴女みたいな格好でベッドに潜り込んでいたんだけどこれは?」

「そいつは根っからの痴女だ。ついでに言えば住居不法侵入罪だな」

「公然わいせつ罪にもなるよね?」

「そうだな」

「じゃあこの子は………」

「犯罪のリスクを背負ってでも新一と不純異性交遊をしたかったと考えて問題なし。お前が訴えれば豚箱行きだ」

 

 なんでこの子はそんな事をしたんだ。

 

「そりゃあ勿論」

「私のQOLを満たすためですわ。新様にあのまま襲っていただければ既成事実も作れますし都合のいい吐口としても使ってもらえる。その上世継ぎに困ったときは」

「京君警察って110番だよね?」

「通報してもこいつならすぐに戻ってきそうだけどな」

 

 それもそうかとスマホをしまい他の記憶について質問する。

 

「以前逢坂さんがやってきたのは?」

「あーそれ?そういやあの人いくつ?」

「確か今年で二十歳になりますわ」

「バッチリ未成年誘拐罪だな。あとNTRしようとしてたがあれも犯罪だ」

「それを楽しもうとしてた京君は?」

「俺は身内同士でそういうドロドロ展開をして欲しいだけであって知らない奴にやられるのは嫌いだ」

「どうでもいい性癖情報ありがとう」

「時に鳴海様、私新一様に対しては根っからのドMなんですが」

「真顔で言うな。あとお前の言いたいことはわかったからあとで答えを出してやる」

「感謝します」

 

 二人揃ってなんの会話をしているのかを聞くとこれからお前が開くかもしれない扉だと言われ教室に戻った。すごく複雑な気分になったがまぁいいかと僕も教室に戻る。学校でのお嬢様の行動は普段と変わらない。だから学校生活は対して使用はないがさっきまで少しずつ記憶が欠けている状態だ。何かが変わっててもおかしくないと思ったが放課後になるまで特に変わった動きはなかった。

 怪しげにしていながらも放課後練習がないためまっすぐ帰路についている。リサは今日バイトがあるからといない。お嬢様の事を見ながら考えていると銀色の髪がふわっと揺れる。

 

「あまり見られると恥ずかしいのだけど」

「申し訳ございません」

「いいわ別に、やっと調子が戻ってきたようだし」

「ど、どういう意味ですか?」

「ここ最近ずっとぼーっとしてたわよ。心ここに在らずといったところかしら」

 

 その原因は間違いなく貴女だと思いますけどね。と言ってもおそらく自覚はないだろうから言っても無駄だろうか。

 

「また忙しくなるのだからもっとしっかりしていなさい」

「もしかしてもう次の………」

「昨日話したけど覚えてないの?」

 

 ええ、全く。誰かのおかげで一切覚えておりませんとも。

 

「仕方ないわね。次のライブを今月中に行う。年末にライブを開催するからそれまでに開けた分を埋め合わせなきゃいけないのよ」

「なるほど」

「思い出したかしら?」

「一切記憶にございませんでしたのでアップデートしておきますね」

「病院に連れて行くべきかしら」

 

 そんなことはないと言うと冗談だと笑った。随分と心が晴れたことがわかる。Roseliaが復活したあの日から(僕の記憶が所々がない)今日まで仲間同士助け合ってきたんだろう。

 家に着くとすぐに自室へと向かっていった。僕は冷蔵庫の中身を確認しに台所へ向かう。記憶がない時はどうやって作っていたのか、そもそもちゃんと買い足していたのかを確認すると食材がほとんどなかった。どうやら今日買い足しに行かなければならないらしい。だがその前に確認しに行こうと二階へ上がりお嬢様の部屋のドアをノックする。

 

「お嬢様、よろしいでしょうか」

「いいわよ」

 

 許可が貰えたため扉を開くとスカートを下ろしたお嬢様の姿があった。まだシャツは着ていて太ももから上の部分は見えていない。その状況を確認するとすぐに扉を閉めた。

 

「申し訳ございませんでした」

「何故閉めるの?」

 

 ガチャリと扉が開かれるとさっきと変わらない姿のお嬢様の姿があった。すぐにドアノブに手をかけて扉を閉めようとするがお嬢様も対抗するように扉を開こうとする。

 

「何故着替えが終わってないのに部屋に招き入れようとしたのですか!?」

「別に問題ないと思ったからよ」

「問題しかありません!そのような姿を見せるものではありません。それに僕が犯罪者になってしまいます」

「ならないわよ私が許可しているんだから」

 

 当事者が許可しているのならば問題にはならない、それもそうかと納得しそうになったがそうじゃないだろうと弱まりかけた手に力を戻した。

 

「とりあえず一度服を着てください」

「話があるんじゃないの?」

「服をきてからでも間に合います!」

 

 そうしてなんとか部屋に戻ったお嬢様は数分後きちんと私服に着替えて僕を部屋に招き入れた。話す内容だけで言えば入り口で話し合えばいいものをわざわざ招き入れたのだ、あちらからも何かコンタクトがあるのだろうか。

 

「それで用件は?」

「昨日の夜ご飯は何を食べましたか?」

「昨日はカルボナーラとコーンスープだったわ」

 

 意外とちゃんとした料理を作っていたらしい。ぼーっとしていてもちゃんと料理を作っているってある意味危険な気もするけどまぁよくやったと言うべきだろうか。ならばあとは今日の夜ご飯をどうするかと考えようとするがその前にお嬢様の話は何か聞き返す。

 

「………あなたの時間を動かしたかった」

「え?」

「私はあなたが望んでいることが正しいことなのかはわからないわ。けれどそれをしたとしてもあなたはきっと止まったままの時間を過ごすと思ったの。だから本当に止まってしまう前に動かさないとって思った」

「……僕は、元よりそれを成すために、その目的のためにこの仕事に就きました。けれど今それと共にあるのはお嬢様や皆を守りたいという願いです」

「そう、ならよかったわ。けれど一つだけいただけないわね」

「何か気に触るようなことでも」

「私を好きでいなければならないのだから、第一を“私”にしなさい」

 

 そういったお嬢様は立ち上がって部屋を出ていく。第一をお嬢様でいること、あの日僕に授けた命令に添って行動、発言をしなさいということだろうか。未だわからない感情をあの人は僕の中に作り出そうとしている。

 

「買い物に行くんでしょう。行かないの?」

「伝えましたっけ」

「あなたが昨日のご飯を聞いてくるということはそういうことでしょう?私もついていくわ」

「ゆっくり休まれていても良いのですよ」

「今は買い物に行きたい気分なのよ」

 

 部屋を出て財布と鞄を持ってすぐに家を出る。まさかお嬢様がついてくるとは思いもしていなかった。当然この光景など今まで見たことはなかった。だからこそ何故こんな心境になっているか理解できなかった。

 外はもう夕日も姿をほぼ隠しており深い青が空を埋め尽くすほどだった。暦は十二月、冬に入り始めたこの月は寒さを強く感じさせる。寒いくらいがちょうどいいと思っていても世間の目があるから一応防寒具はつけている。

 

「寒いわね………」

「季節的な寒波が近づいてきているそうです」

「手袋、置いてきてしまったわね………」

「よろしければ僕のを使ってください」

「それじゃああなたが寒いわ」

「いえ、慣れているものですから」

「じゃあこうしましよう」

 

 一度止まるように指示を受けて右手の手袋を渡すよう言われ渡すとお嬢様は自分の右手にそれを装着した。半分半分なら痛み分けというわけかと思ったが直後に僕の右手はお嬢様の左手で繋がれる。

 

「これは?」

「空いてる方の手は手袋があるから大丈夫でしょう」

「何故繋いでいるのでしょうか」

「こうすれば、お互い温かいでしょ」

 

 確かに人肌を感じるくらいに温かい。しかし握ってみるとお嬢様の手が意外と小さいことに気づく。見た目からして華奢だと言うことはわかっていたがこれほど小さいとは思ってもいなかった。だけど不思議と悪くないと感じる自分がいた。

 

「悪くないわねこういうのも」

「そうですね」

「今日の晩御飯は何にするつもりなの?」

「そうですね、今日はピーマンの肉詰めなどいかがでしょう」

「苦いのは嫌よ」

「ハハッ、おまかせくださいませお嬢様」

 

 そのまま僕達は商店街へと足を運んで行った。未だ見せる夕暮れの光で手を繋いでいる二人の影が伸びていることも知らずに。



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幕間Φ
第一話 異国からの招待状


というわけで前回ですね、念願のネオアスペクトを終わらせることが出来ました。彼らの時計の針を動かし始めるきっかけになる話だったわけです。これから少しずつ変化が訪れ始めますがそのあたりも温かい目で見守っていただけると幸いです。
これから少なくともリアルが暑い間は幕間だと思います。


「で、あれから進展あったか?」

 

 天斗のロボットを倒してから平穏に近い日々が続いていた。1週間も動きがないと何か企てているのかと不安になるが時期的には年末まであと2週間もない。あちら側にも何か事情があるのではないだろうかとも考えるがそもそも化け物共にも年末行事ってあるのだろうか。

 そんな日々が続く中、お嬢様のあの命令を受けてからの変化について問われている。

 

「さして変わりなしかな」

「面白くねぇな」

「平和ボケしてるなら放課後組み手でもする?」

「やってもいいけどよ、その前に用事があるみたいだせ?」

 

 京君が指差す方を見るとお嬢様の姿があった。お弁当なら持たせたはずだから問題ない、次は移動授業ではない、忘れ物も今日はないはずだ。だとすれば何用だと考えていると目の前でブレザーを脱ぎだした。急いで立ち上がって制服を戻して肩を掴む。

 

「何を考えているのですか!」

「ボタンが外れてかけているのよ。授業中に気づいたから今言いにきたの」

「それならそうと先に言ってください。周りの目もありますし」

「お前の発言も気になるところあるけどな」

「あなた裁縫セットは持ち歩いているのでしょう?」

「勿論ありますよ。ただ今から直すと授業開始ギリギリになるので次の休み時間に返しますね」

「わかったわ」

「それまで体を冷やすわけにはいきませんのでジャージを着ていてください」

 

 裁縫セットをカバンから取り出して糸を針に通すと目の前から動かないことに気づく。

 

「湊さん?」

「今日はジャージを持ってきてないわ」

「そういえばそうでしたね。では申し訳ありませんが僕のブレザーをお貸しします」

「ありがとう」

 

 ブレザーを脱いで渡すとすぐにそれを着て自分の席へと戻っていった。取れかかっているボタンの糸を切ってボタンを押さえつけると器用だなと京君の方から声が聞こえてくる。

 

「これくらい誰でもできるよ」

「そうか?手の動きがかなり繊細だぜ」

「それはどうも」

「にしてもさっきのお前らまるで夫婦だな」

「夫婦?」

「会話のやり取りがな」

「半年暮らしてればこうなるでしょ」

「そうかぁ?」

 

 ボタンを縫い付けるとちょうど鐘がなる。次の授業の準備を急いで行い直したブレザーは畳んでカバンの中にしまって授業を受ける。期末テストは記憶がない期間にいつの間にか終わっており点数も安定して取っていた。記憶がないということは本当に怖いことだ。教師からは冬休みの課題はなしで最後の授業だしあとは自習でいいと言われそのまま教室を去っていった。自由となった教室は雑談で埋め尽くされていく。

 

「どうするよ?」

「せっかくだしブレザーを渡してくるよ」

「もう来たぞ?」

「ありがとう」

「早いですね、どうぞ」

 

 交換形式で戻ってきた僕のブレザーを着ると教室の前のドアが開かれる。教室は一瞬で静かになり入ってくる人間を見ると何事かと思うほどざわざわし始める。黒いスーツの男が一人入ってきた。教卓の前に立つと男はハンドガンを生徒達に向けた。

 

「今コノ教室ハワタシノ支配下ニアル。無駄ナ抵抗はシナイコトダ」

「なっ」

「聞キタイコトガアルヤツハ手ヲ上ゲロ」

 

 京君とアイコンタクトを取ってこれからの行動を打ち合わせする。するとすぐに教室の後ろを歩き始めて行動に出てくれた。

 

「皆とりあえず落ち着け。とりあえず質問だ」

「ナンダ」

「お前何系の人?話しやすい言語で話そうぜ?アメリカンか、それともブリティッシュか」

это россия(ロシアだ)

「なるほど新一、お前の出番だ」

Хорошо, так какова цель?(了解、それで何が目的ですか?)

「えっ、名護くんわかるの?」

「ちょっとだけね。ちなみにこれはロシア語、Это верно, верно?(あってますよね?)

Это верно(その通りだ).Давайте ответим на ваш вопрос(質問に答えよう). Наша цель с тобой, Наго Шиничи(我らの目的は貴様にあるのだ、名護新一).」

 

 予想外の解答に驚く。てっきりこのパターンだと誘拐とかテロの類だと考えていたがまさか僕だけが目的だとは思いもしなかった。しかしタイミングが良すぎやしないだろうか。まさかあの教員まですり替えられている、いやしかしあれは今までと同じ顔、変装の可能性もあるか。

 

「それで何の御用だって?」

「道に迷って混乱してるらしいから職員室まで案内して欲しいって」

「へぇ?」

「この人ハリウッドの人らしくてここまでドッキリなんだって。さぁ行きますよ」

「ミナサン失礼シマシタ」

 

 教室の外に出るとこっそり錠前を電話モードにする。会話内容を京君に届けて非常時に備えてもらうためだ。スーツの人を連れて屋上に連れて行く。逃げられることも考慮して屋上に設定したが当然捉えるつもりでいる。

 

「それで、僕に用事っていうのは?君の雇い主は一体何を考えているのかな」

「無礼を働いたこと、お許しください」

「なんだ、日本語上手じゃないですか」

「代表が名護様の場所を突き止めたからこれを渡してほしいとお預かりしております」

「何だって?」

 

 一通の封筒を渡される。警戒しながらその封を切ると中から折り畳まれた白紙の手紙が出てくる。中を開くとこれまたロシア語で書かれていた。手紙の内容は今までやってきたこととは考えられない内容だった。

 

『久しぶりだねMr.シンイチ、私からのサプライズは驚いてくれたかな?本来この手紙は名護家に送る予定だったがMr.キリギリがもう彼はいないというので探させてもらったよ。さて前置きはこのくらいにしよう。今週末私の別荘でパーティーを行うから是非来てくれ。同行者は何人でも連れてきたまえ、ジェットも用意しよう。いつ出立するかをそこにいる者に伝えてくれ。久しぶりに再開できるのを期待しているよ。 マクシム・スミルノフ』

 

 差出人の名前を見ると納得できる人物の名前が記載されていた。マクシム・スミルノフ──ロシアのマフィアのボスであり以前名護家に依頼してきた財閥だ。確か娘が誘拐された時に僕が任務を請け負って救出して以来良き支援者になっていたはず。ロシアでの任務はそうそう無かったけどある度に毎回宿を用意してくれた協力者でもある。その方が何故僕個人に対してこのような手紙を送ってきたのかは気になるところではあるがここまでされると誘いを断りづらくなる。

 

「あの、これの返事っていうのは」

「本日中にお願いします」

 

 やはりそう来たかと思いつつ手紙を見回していると屋上の扉が開かれる。そこから現れたのは単身のお嬢様だった。

 

「そろそろ私の執事を返してもらっていいかしら」

что?(何?)

「お嬢様、この方は敵ではございません」

「どういうこと?」

 

 今までの出来事と招待状のことについて説明すると訝しげな表情をしてスーツの男を見る。直立不動の彼を見て納得がいったのか招待状を僕から奪い取ってスーツの男に渡す。

 

「私と新一、二人で行くわ」

「よ、よろしいのですか?」

「次のライブはクリスマス、今週の土曜日は他のメンバーも都合が合わなかったはずよ」

「おっしゃる通りですが……お嬢様はよろしいのですか?」

「言ったでしょう。あなたのことを知りたいと」

 

 こういうところからも情報を得るつもりなのだろうか。本気で僕を知ろうとしているのが伝わってくる。ロシア語のカバーやその他諸々については僕がどうにかすればいい。ここまで来たなら覚悟を決めよう。

 

「名護様はそれでよろしいですか?」

「大丈夫です。フライトの方は夜の22時からお願いします」

「かしこまりました。では金曜の21時にこの学校にお迎えに参ります」

 

 スーツの男は上からやってきたヘリコプターからぶら下がっているハシゴに捕まってどこかへ飛んでいってしまった。とりあえず教室の戻るとクラス中からさっきの人はと問い詰められた。ハリウッドからきた特別講師で演劇の学校に行こうとしたら間違えてしまった、などと適当に誤魔化して納得させて席に戻る。

 チャイムが鳴り授業が終わったことから放課後になる。今日はRoseliaの練習があるためお嬢様とリサと待ち合わせて練習に向かうと京君までついてきた。

 

「俺はハッピーセットじゃねえぞ」

「ハッピーではないよね」

「違うそうじゃない」

「そういやさっき黒いスーツの人と一緒に歩いてたけど何かあったの?」

「まぁその辺は後で話すよ」

「例の新一の家の人じゃないの?」

「どっちかっていうとその類の知り合いかな」

「その辺の話もさせてくれ」

「なるほど、それが目的だね」

「ザッツライト」

 

 サークルに着くと早速Roseliaの練習は始まった。邪魔をしないように一度ロビーに出て京君とさっきのスーツの人の話をする。

 

「一応言っておくがちゃんと話の内容は聞いていた。今週末湊とランデブーってことでいいんだな?」

「最初五文字しかあってないけど指詰める?」

「おっとそれは冗談きついぜ。湊を連れてロシアの知り合いのところに行くってことでいいんだよな?」

「その通りだね。申し訳ないけど約二日間出勤出来なくなりそう」

「今の所相手側に変わった動きはないから大丈夫だ。何かあったら連絡する」

「快斗君には僕の方から連絡する」

「呼んだっすか?」

 

 二人揃って後ろを見ると快斗君が普通に立っていた。何故いるのか聞くと今日はハロハピもサークルで練習らしい。納得すると今度は何を話していたのかを聞かれそのまま事の経緯と週末不在であることを伝える。納得してくれた快斗君を交えて練習が終わるまで何をするか話すとトランプをやることが決定した。ロビーの一角を借りてやることを念の為まりなさんに伝えると混ぜてくれというので一緒にやることに。

 

「そんでトランプで何するの?」

「私は何でもいいよ〜」

「快斗君何できる?」

「じゃあ無難にババ抜きしますか」

「シャッフルは任せとけ」

 

 そういえばいつの間にか京君の手に発生していたトランプはどっから出したのだろうと聞くと京君がいつも持ち歩いてると言っていた。理由は暇つぶしに確率論をやるためらしい。その日の運試しでもあるんだとか。

 

「罰ゲームとかつける?」

「男同士だったら限界までできるけど女の人いるからな」

「何するつもりだったのさ」

「野球拳の要領」

「あはは、流石にお店の中だからやめようか」

Vamos(行こうぜ)!」

「じゃあ先行は快斗君でその次僕、まりなさん、京君の順番で回していこうか」

 

 多少雑談を交えながら札を引いていくと皆テンポ良く手札が減っていく。ゲーム中まりなさんはずっと笑顔だったため何かいいことでもあったのかを聞いてみた。

 

「若い子たちと一緒に遊べてお姉さん嬉しいんだよ」

「ハハハ、まりなさんそんな歳いってないっしょ」

「え〜そう?じゃあいくつぐらいに見える?」

 

 逆に質問で返されると快斗君は真剣な顔つきになる。そして僕と京君にアイコンタクトを取ってきた。

 

『まりなさんっていくつでしたっけ』

『そういえば年齢知ってる人いないような………』

『俺は知ってるけどな』

『教えろよ』

『呪いのせいで言えない』

『呪い?』

『言ったらどうなんの?』

『さぁな、けど言われた時の恐怖心は未だに忘れられない』

『『こっわ』』

 

 どうやら極秘レベルの秘密らしい。てか彼はどうやってその情報を得たんだろ、そして何故知ったことをバレたんだろ。とりあえずそれっぽい年齢を出しておこうという結論になり快斗君に答えを委ねた。

 

「随分考えているみたいだけど思いついたかな?」

「あーそうっすね………(確か女性の年齢は見た目より五つ下げろって誰かが言ってた気がする!)24とか?」

「そんなに若く見えるの〜?もしかしてその気があるのかなーダメだぞ〜?」

 

 まりなさんは残りの札を置いて上がりながら嬉しそうにどこかへ行ってしまった。何が起きるかわからないがとりあえず危機は回避したと思った僕たちは速攻でゲームを終わらせてスタジオへ戻る。京君もついてこようとしたが入る前に扉の鍵を閉めて被害を抑えることにした。もし何かあってもあの人ならどうにかなるだろうと放置してRoseliaの練習を見る。

 残り十分になった時掃除が行われスタジオを出ると会計に行くためまりなさんとエンカウントする。さっきよりも笑顔になっていて少しばかり恐怖を感じる。

 

「まりなさんすっごい笑顔だね」

「何か……いいことあった…のかな………?」

「いつもありがとうね。次の予約はどうする?」

「できれば水曜日に入れたいのですが」

「大丈夫だよ。じゃあRoseliaは次の水曜日っと、同じ時間で大丈夫?」

「お願いします」

「畏まりました。ところで名護君はどう思ってるのかな?」

 

 きっと根拠を立てた年齢を当てると今までのが水の泡になる。だから崩さないようにしよう。

 

「快斗君と同じくらいだと思ってました」

「そんなふうに言われるとお姉さん照れちゃうな〜今度好きなジュース買ってあげるからね⭐︎」

「本当ですか?楽しみにしてます」

 

 会釈だけしてロビーを離れる。サークルが見えなくなるまで僕からは何も発せずに移動しているとリサがこっそり話しかけてくる。

 

「何かあったの?」

「生死をかけた駆け引きってやつ」

「どゆこと?」

「そうだ、新一あの話はしておいたわ」

「恐れいります」

「あー今週末いないって話?」

「そうそれ。こんな時期で申し訳ないんだけど無碍にも出来なくて」

「気をつけて行ってきてください」

 

 皆ちゃんと理解してくれていて助かった。ロシアって今どんな感じだろという話で盛り上がりいつもの分かれ道のところで解散すると近所のメンバーになる。

 

「ねぇ新一、さっき友希那がスーツの人がやってきた時変な言葉喋ってたって」

「ロシア語を話してただけだよ。ちゃんとした言語ですよ」

「聞きなれない言葉だったわ」

「発音が難しいですからね。白鷺さんも話せるはずですよ」

「そうなの?」

「他に何語喋れるの?」

「僕?そうだなぁ……英語は勿論だけど、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、オンドゥル語、グロンギ語、ジャマト語────」

「待って待って人間の言葉じゃないの混ざってる」

 

 そうだろうかと他の言語も教えながら家まで歩いて行った。帰宅後、お嬢様から難しい言語を話さないでくれと言われた。



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第二話 いざ、吹雪く城の元へ

 スミルノフさんからの招待を受け僕たちは今、ロシアにいます。飛行機を降りると慣れない寒さが肌を襲う。流石極寒の地、12月も末になっているからか氷点下を回っている。念のためにお嬢様に厚手の上着を着せておいて正解だった。時刻は日本時間で朝の八時を上回っているがこちらの時間ではまだ朝の六時だ。日も出ていないせいで余計寒く感じる。すぐに用意して貰った車に移動して荷物を乗せて乗車するとスミルノフ邸へと案内された。車内はとても暖かく上着を脱いだのがちょうどいいくらいかもしれない。

 

「新一」

「なんでしょうか」

「何故あなたは執事の服装でコートとかを着ないの?」

「正直に申し上げますと極地での訓練もしていましたのでこの程度ならこれで事足ります」

「見てて寒いわでは如何しましょうか」

「あなたがコートを着れば解決するのでは?」

 

 それもそうかと不必要と思っていたコートを羽織ることに。しかし車内で着ると暑くなりそうなのでスミルノフ邸についた時に着ることにしよう。

 

「今さらだけど私、ロシア語は分からないわ」

「僕がカバーしますので大丈夫ですよ」

「あなたって本当有能ね」

「まさか、ここまで出きるようになるまで大変でしたよ」

「そうなの?」

「一般会話と商業会話はかなり違いますから」

「よく頑張ったわね」

 

 突然誉められて何て言えば良いのか分からなくなる。とりあえずありがとうございますとだけ伝えると嬉しそうな顔で外を見る。

 窓の外を埋め尽くすほどの吹雪く景色。東京に住んでいる限り見ることはないだろう。

 雪といえば《朱雪の執行者》という名前の由来は仮面に着いた血が雪の結晶のようだったということから来てるらしいが任務地は何処だったのだろうか。まさかロシアだったなんていうことはないだろう。

 

「名護様、もうすぐ目的地にございます。到着次第担当の者がご案内いたします」

「ありがとうございます」

「あの人日本語上手いわね」

「職業柄こういう方々は母国語の他に他国の言葉を学ぶんです。担当で分けられることが多いみたいですよ」

 

 やがて車が止まると扉が開かれる。止まった時にコートを着ていたため寒い風が入ってきても問題なかった。先に降りて回りの安全を確認してからお嬢様と荷物を外に出す。

 目の前に聳え立つのはまるで城のような豪邸。雪景色で半分以上が暗く見えないがそれでも壮大さが伝わってくる。

 

「お待たせしました、玄関までご案内いたします」

「よろしくお願いします」

 

 スーツの人物に連れられて僕らは荷物を抱えて巨大な扉の前に立つ。ゆっくり開かれた扉の奥に入ると。髭を生やした男性が複数人のスーツの人に囲まれながら待っていた。

 

「いらっしゃいMr.シンイチ。待っていたよ」

「お久しぶりにございます、スミルノフ様」

「様はやめたまえ。君は恩人なのだから」

 

 そういうわけにもいかないと話していると袖を引っ張られる。

 

「何を言っているの?」

「挨拶ですよ。字面は分かりやすくしましたが聞く方はロシア語ですよね」

「……?」

「Mr.シンイチ、その女性は?」

「僕の雇い主です。そのあたりのお話もさせていただきましょう」

「そうだな、荷物を客室に運べ。ご案内しろ」

 

 スミルノフさんが指を鳴らすとすぐにスーツの人達が荷物を渡すように行ってくる。こういう場合は素直に渡した方がよく、渡すとすぐに客室まで案内された。

 客室は豪華なホテルと同じくらい綺麗な部屋だった。小型の冷蔵庫にドレスルーム付き、荷物を置いた後に一応中を調べたが何も仕掛けてはいないようだ。

 

「こんなところ初めてだわ」

「ではぜひ楽しんでください。おそらく中々得られない経験ですので」

「あなたは慣れていそうね」

「そうでもありませんよ。客室よりも自分達で用意した部屋の方が安心します」

「ホームシックなの?」

「……まぁそんなところです」

 

 コートをハンガーにかけてカバンからある程度荷物を出して準備するとお嬢様に確認する。あちらも出来ているらしいので部屋を出てスミルノフさんの元に案内してもらう。五分くらい歩くと大きな2枚扉を目の前にする。ノックをして名乗ると入るように言われる。観音開きのような扉を開けると書斎の机に着いている館主の姿があった。

 

「座りたまえ」

「失礼します」

 

 案内されるまま座ると目の前のソファにスミルノフさんも座り込む。彼が指を鳴らすとティーポッドとティーカップが並べられる。館主は一口飲むと優雅にティーカップを置き話し始める。

 

「改めて、ようこそMr.シンイチ」

「今回はお招きありがとうございます」

「いやぁびっくりしたよ。今回のパーティーに君を招待しようとしたら名護家にはもう君はいないというのだから」

「申し訳ございません、色々と複雑な事情がありまして」

「よせよせその辺は触れない方がいいのだろう?」

「ご配慮痛み入ります」

「それで、そこのお嬢さんとはどういう関係かな?」

「私の方を見てるけどなんて言っているの?」

「どうしたんだい?」

「すみません、私の主はまだロシア語を話せません」

「なるほど、じゃあニホンゴの方がいいかな」

 

 スミルノフさんが日本語を話し始めるとお嬢様の方が跳ね上がる。驚いた様子を見て彼は笑っているがお嬢様は混乱しているため状況を説明すると落ち着きを取り戻してくれた。

 

「すまないすまない、彼と会えたのが嬉しくてつい配慮を忘れてしまった」

「いえ、こちらこそ驚いてしまってごめんなさい」

「それで君と彼はどういう関係なのかな?」

「雇用関係、と言ったほうがいいのかしら。新一は私の執事よ」

「なんと《朱雪の執行者》でありあの名護家の当主たる彼が執事になったのか」

「はい。ですから今は身分が異なります」

「もしかして有名所のご令嬢かい?」 

「いえ、私は一般人よ」

 

 スミルノフさんは口をぽかんと開けて数秒動かなかった。意識を取り戻したのかいやいやと手を振って笑うと僕達の表情が動いていないことに気づき表情を変える。

 

「本当なのかい?」

「事実にございます」

какого черта(なんということだ)信じられない」

「なんて言ってるの?」

「“なんてことだ信じられない”と言っています」

「当たり前だろう!?君のような人が何故カタギに就いているんだ」

「私が誰に就こうと私の勝手です。この件に関してはこれ以上の詮索はよろしくないと申しておきましょう」

「しかしだな」

 

 必死に抗議しようとしている館主に睨みつける。カタギという言葉を出されてからお嬢様から怒りのようなものを感じた。多分反論したいのだろうが僕の知り合いだということを一応考慮してくれているのだろう。きっと昔の彼女なら迷わず反論してくれた。けど今はそうではない、なら僕の仕事ということだ。

 

「警告はしました」

「っ!」

「出来る事ならば貴方と事を構えたくはありません」

「……すまない、少しアツくなってしまったようだ」

「いえ、こちらこそ申し訳ありません」

「ゴホン、前置きはこれくらいにして本題に入ろうか」

「パーティーの件でしょうか」

「ああ、と言っても特にあるわけではないだがな。今日は君が救ってくれた娘の誕生日なんだ。娘の意向もあって君をぜひパーティーに誘おうと思ってな」

「なるほど」

「遠路はるばるきてもらったのは娘のパーティーに出席してもらうため、そして楽しんでもらうためだ。いいだろうか」

「ここまできて引き返す訳にも参りません。お嬢様、よろしいでしょうか」

「いいわ。存分に楽しませもらいましょう」

「よかった。ドレスはドレスルームにあるものを使ってくれて構わない。そちらで用意した物でも構はしないがね」

「ありがとうございます」

「パーティーは五時からだ。食事は部屋まで運ばせよう」

 

 詳しいことが書いてある紙をもらった僕らは挨拶だけして部屋に戻る。館内を覚えておくべきだろうかと思ったがパーティー会場まで案内してくれるということで多少手間は省けた。しかし念の為地図だけ昼食時に持ってきて欲しいと頼み込んだ。

 部屋に戻るとお嬢様はベッドに腰掛けて力を抜くように息を吐いた。

 

「お疲れ様でした」

「あの空気、流石に疲れたわね」

「朝食をまだ取られておりませんがいかがなさいますか?」

「昼食は言っていたけど朝ご飯はあの人言っていなかったわね」

「軽食程度ですが作ってきましたがいかがなさいますか」

「抜かりないわね」

 

 テーブルの上におにぎりを二つ、漬物のタッパーを置いてお嬢様に箸を渡す。ちゃんと朝ごはんじゃないと言われたがこの程度で足りるかが心配だった。

 僕は後々のことを考えおにぎりを一つだけ食べて食事を終わらせた。お昼までどうするかという話になり十一時に食事が持って来られることを考えて自分で時間を潰そうという話になった。

 というわけで昼食の時間まで僕は年末のスケジュールの再確認をして本を読んで時間を潰していた。この間京君が用意してくれた推理小説を読んでいるのだが随分と面白い。読み終えると同時にインターホンがなり出てみると食事の用意がされていた。

 部屋に招き入れ食事を受け取り昼食を食べ始めるとお嬢様が話しかけてきた。

 

「さっきの時間ずっと考えていたのだけど」

「?」

「あなた飛行機の中で寝たの?」

「寝てませんが?」

 

 お嬢様がジト目でこちらを見てくる。それは仕方ないだろう。いくら知っている人の部下が操縦しているからといって主の命を簡単に預けられるわけではない。

 

「眠くないの?」

「名護家の執行者は最大で三日間寝ずに行動できるのです、はむ」

「そういうことを言ってるんじゃないわ、むぐっ」

「ご心配に及びません。お嬢様の安全は僕が保証します」

「………わかったわ。今はご飯を食べましょう」

 

 諦めたのか食事を摂ることにしたお嬢様は黙って食べ続ける。食事を終えると食器をまとめて廊下に出しておくようにと指示書をもらっていたため廊下に出しておく。そこには地図も入っていたためありがたく頂戴する。扉を閉めた瞬間車輪の音が聞こえたため運ばれたのだと考える。食後はこの後の予定を軽く確認してカバンの中を確認する。必要物品は入っている問題無しと。

 時刻は十二時。パーティーまで五時間あり準備の時間を考えても三時間半ある。またそれぞれで時間を潰すことになるだろうと考えた瞬間後ろの方からポフポフと柔らかい音が聞こえてくる。

 

「こっち来なさい」

「どうかしましたかお嬢様」

「寝るわよ」

 

 二台あるベッドのうち片方の布団に入り半分を占拠しているお嬢様が布団を半分捲りスペースを開けていると言ってくる。行動の意図が読めなかった僕は質問する。

 

「何をしているのですか?」

「あなたを寝かせるために布団に呼んでいるのだけど」

「……睡眠の必要はありませんが?」

「あるわよ。あなたが倒れたらどうするの」

「先ほど説明しましたが僕は三日間寝なくても活動が」

「そんなこと知ってるわ。だからこそ寝なさいって言ってるの」

 

 知っていることの意味がわからない。けど断ろうとすると命令だと言ってくるに違いないと思い空いている方のベッドに入る。少し寝たふりをしていれば安心するだろうかと考えた矢先、後ろの方からごそごそと音が聞こえてくる。

 

「何をしているのですか?(二回目)」

「あなたの布団に入っているの」

「何故ですか」

「あなたがちゃんと寝たかを確かめるためよ」

「そんなことしなくても寝ますよ」

「そう言って心配させないようにしているんでしょう?」

 

 どうやらバレていたようだ。最初の頃からは考えられないほど感が良くなったと思う。致し方あるまい寝たふり作戦を諦めることにした。

 

「何をしているの?」

「アラームをセットします。寝過ごせませんので」

「その時は私も起こしてあげるわ」

「もしかしたら僕が起こすことになるかもしれませんよ」

「どうかしらね。ねぇ新一、こっちを向いて」

 

 言われるがままお嬢様の方に体を向ける。別に向き合うのは嫌じゃない。普段は壁側を見て寝ているがそれが今は違うだけだ。お嬢様は少し眠たそうな顔をしながら話を続ける。

 

「私はね、心配よ。あなたがそうやっていつも無理をしているんじゃないかって」

「そんなことはありませんよ」

「だから、私が………」

 

 何かを言いかけたところで眠ってしまった。どうやら本当に眠りたかったのはお嬢様のようだ。きっと寝ていないことを気遣っていながら自分も飛行機の中でちゃんと寝れていなかったことを隠していたのだろう。

 仕方のないお嬢様だと考えながら頭を撫でていると僕の意識も沈んでいった。



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第三話 パーティーに昔話をする人は付き物です

 眠りから意識を取り戻すように鳴り響くアラームの音を止める。

 時刻は三時半。予定通りの時間なのを確認して状況を確認する。

 約三時間の睡眠により体力の回復よし、身体異常なし、その他項目とりあえずよし。向かいにいるお嬢様が目を覚ましていないようなので起こす。

 

「起きてくださいお嬢様」

「ん……」

「準備を始めます。ドレスルームで着替えるかここで着替えるかどちらが良いですか?」

「着替えはどこにあるの?」

「せっかくですし借りましょうか。きっと上質のものばかりですよ」

 

 まだ眠そうにしているお嬢様をドレスルームに入れる。自由に選ぶようにだけ伝えて僕もすぐに着替える。色は主役より目立たないように控えめな色にした。参加するだけで良いならこれで十分だろう普段と色は大して変わらないが。

 やがてお嬢様もドレスルームから薄紫色のドレスを着て出てきたので最後に身だしなみのチャックをお互いに行う。問題ないと判断して部屋を出た。時間は四時四十分頃、大体予想通りの時間だ。早いのではないかと言われたがギリギリになるよりかは良いのではと話すと納得してくれた。ついでにいうとこの館は広いから少し早めの方がいい気がしたのだ。

 ホールの前に着くと名前の確認をされる。本人確認が終わるとそのまま中へと案内されて席に着く。

 

「さっきまで手際が良かったけどやはり慣れているの?」

「まぁ度々呼ばれていましたから」

О, разве это не Наго-сан там?(おや、そこにいるのは名護さんではないか)

привет давно не виделись(こんにちはお久しぶりです)

「知り合い?」

「そうですね。名護家に支援をしてくれているお家の一つです」

「交渉?はあなたがしたの?」

「あの家は僕ではなく先代ですね」

 

 少し興味があるのか周りの人を見ようとする。確かに半分くらい知っている顔があるから後で話しかけられるかもしれない。一周したのかお嬢様は僕の顔を再び見る。

 

「どうかしましたか?」

「私は言葉選びがうまくできないけど、あなたは上手よね」

「そうですか?まだまだだと思いますが」

「初対面の人やトラブルを起こした時の収め方が上手いわ」

「そうですね……お嬢様、交渉で大事なことをお教えしておきましょう。交渉では相手を引き出すことが大事です。相手が欲しいものを理解してそれを持っていることを勘付かせます」

「最初から出しちゃいけないの?」

「あまりいい手ではないですね。考える時間を与えてしまいますゆえ優先度の低い順番に出しつつ一番高いものも勘付かせるように出します」

「たくさんついてくれば嬉しいものね」

「ハッピーセットと同じ要領ですね。ですが自分が欲しいものと釣り合っていなければならないことに注意ですね」

「わかったわ、教えてくれてありがとう」

 

 すっきりした様子で姿勢よく座り直すお嬢様。そんな中別の人物が近づいてくる。椅子を引く様子を見て同じ席の人だとわかり顔を見ることにした。そこに座ったのは霧切さんだった。娘の誕生日パーティーとはいえこんなところの人まで呼び出すのか、いや僕やさっきの人を呼んでいる時点でそれはそうか。

 

「まさか君までいたとは」

「ははは、同じ言葉を返したいですね」

「この人は?」

 

 お嬢様がさっきと同じように知らない人を見る目で見ている。たださっきと違うのは日本語を話していることに驚いていることだ。霧切さんと面識があるのはりんりんだけだっただろうかと紹介しようとすると霧切さんが席を立った。

 

「申し遅れました。私は名護家第十七代目当主霧切仁と申します」

「じゃああなたが新一の後を」

「ええ、おっしゃる通りです。貴女が湊友希那さんですね。貴女の執事にはお世話になっています」

「っ!────」

 

 こっちの方を見てどうすればいいのかという目をしている。そもそも言われ慣れていない、性格上こういう機会があってもあまり興味がなかったのだろうか。

 

いえ、こちらこそ当家の執事がお世話になっていますと返してください

「い、いえ、こちらこそ、当家の執事がお世話になっています」

「社交辞令もできるとは出来た娘さんだ」

「それで霧切さんももらったんですか?」

「ああ、今日の昼に会談があるついでにと」

「なるほど。それで今日の護衛は伊達さんですか」

「よぉ坊ちゃんと嬢ちゃん久しぶりだな」

「おい伊達」

「構いません。お久しぶりです」

「しかしだな」

「霧切さん、私の主もこうおっしゃってますので。本日は少しばかり解きましょう」

「…よろしいのですか」

「私は堅苦しいのは、あまり得意ではないので」

 

 そうかと霧切さんは肩に入っていた力を抜いたように息を吐く。それからは伊達さんが気を紛らわすように話し始めお嬢様も次第に緊張が解けたように思える。

 時刻を過ぎたのかパーティーは始まり食事が運ばれてくる。椅子をしまい立ち歩く時間になった。いろんな人がスミルノフ嬢への挨拶に行ってるので僕は後にしようと食事を運んでお嬢様の元へと持っていく。

 

「お待たせしました」

「気を使わなくてもいいわよ。あなたが呼ばれたパーティーなんだから」

「いえ、だとしてもお誘いしたのは僕なのでエスコートくらいさせていただきたいです」

「そうだぜ嬢ちゃん、もぐもぐ」

「伊達さんといったかしら………?」

「おう、なんだ。むぐっ」

「あなたは他の人たちと同じなの?」

 

 食べながら聞いていた伊達さんが一気に食べ物を口の中に押し込んで飲み込む。咽せる様子もなく考え始めていたのでこの人の喉どうなってんだと思った。

 

「他の人っつーのは一条とかはしもっちゃんか?」

「(はしもっちゃん……?)ええ、その人たちよ」

「だとしたらこの間も言ったような気がするが俺たちは坊ちゃん派だ。当主の前で言っちゃ悪いが俺たちは霧切に出された指示よりも坊ちゃんのことを優先する。それが俺たちの使命ってくらいにはな」

「伊達さん……」

「思えばこの土地から始まったんだよな。覚えてるか坊ちゃん、俺がアンタに忠義を立てた日のことを」

「ええ、覚えてますよ。それまでは本当に手のかかる人でしたけど」

「そうなの?」

「そうだぜ〜?俺の二つ名はその時の名残だからな」

「良かったらそれも含めて聞かせてくれないかしら」

「坊ちゃん話してもいいか?」

「いいですよ。けど盛らないでくださいね」

 

 一度窓の外を見ると吹雪が酷くなっているのがわかった。確かにあの日もこんな雪の日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八歳の頃、真冬のロシアに連れて来られたことがある。当然家の仕事であり遊びにきたわけではない。乗っているヘリコプターの中には操縦士を含めて5人、その中には伊達さんがいた。

 半年前に拾われ、高校生くらいの年齢だったがかなり凶悪に見えた。何かしようとするとすぐに睨まれ誰かと会話すれば必ず衝突する。けれど任務では与えられた仕事だからかこなすことは出来ていた。しかしそのやり方はあまりにも暴力的で必要以上の被害や取り押さえようとした仲間にも怪我を負わせていた。

 そのことから彼は《狂獣人(バーサーカー)》と呼ばれていた。任務に同行することにはなったのは相手が野盗の類であるため暴れてもらっているうちに他の人が救助に入るという作戦になったからだ。攫われたのはスミルノフさんの一人娘、高いお金と迎え討てるようなところではないと言われたからだ。そういう時にも名護家は出動する。

 もちろん飛行機の中では大人しくしていたし移動中は言うことを聞いてくれるから問題ないと考えていた。しかし道中でのことだった。

 

「くっそなんだよこれ歩きづれぇな」

「雪道ですからね、足場が崩れやすいです」

「近くまでヘリコプターで行けばいいだろ」

「吹雪が強くなった今ヘリで行くのは危険です。車もこれ以上行けば気付かれる」

「けどこれじゃあ体力が奪われて終わりじゃねぇか!」

「そのための防寒スーツです。気心地が悪いのなら今は我慢してください」

 

 なんとか説き伏せてしばらく歩きもう少しで敵本陣というところで我慢の限界が来たのか伊達さんがまた騒ぎ始めた。

 

「大体よおなんで俺らがこんなところまで来て子娘一人助けなきゃいけねぇんだよ!警察に任せればいいだろ!」

「僕たちからすれば野盗のレベルでもここの警察の手の届かない組織なんです。だから僕たちが来ました」

「金持ちなんだろ?だったらその自慢の金を出せばいいだろ!俺たちがやることないだろ!」

「お前、さっきから新一様に対してなんて口を聞いてんだ!」

「うっせぇ!第一何で俺らのリーダーがこんなガキなんだよ!どいつもコイツもイラつかせやがって、ふざけるのも大概にしろよ!」

 

 もうすぐ敵本陣だから気づかれると困るというのに騒ぎ立てる伊達さんにイラついたかどうかは覚えていない。けどその時目の前の任務を成功刺せるのに邪魔だと感じたのは事実だった。

 

「貴方は何も聞いていなかったんですか?」

「はぁ?」

「今回誘拐したのは人質をお金のあるなしに関わらず殺すような集団。ロシアでも巻き込まれればどうなるかと恐れられているグループ。組織からすれば野盗と同じ程度でも危険であることに変わりはない。それと対峙するのに何も考えていないんですか」

「うるせぇなぁ俺は暴れればいいとしか聞いてねぇよ」

「だとしたら貴方の行動は改めなければいけない」

「んだと」

「救助者にまで怪我が及んではならないというのに今の貴方では怪我どころでは済まなくなります」

「ガキが説教垂れてんじゃねぇよ!ちょっと難しい言葉使えるからって偉そうにしやがってよぉ!」

 

 体格差がかなりあるというのに伊達さんは本気で拳を出してきたので避ける。だめだこれ話にならないと持っていた荷物を捨てて身構える。それに合わせたのか伊達さんも同じように手持ちの物を捨てた。

 

「新一様!」

「大丈夫です。僕も少しカチンときただけですので」

「ここで捻り潰してやるよお坊ちゃん」

「では僕が勝ったら今回の仕事、ちゃんと見ていてください」

 

 吹雪の中伊達さんとことを構えた数秒後、伊達さんの捕縛に成功した。必死に抵抗しようとしたが完全に抵抗できないように押さえつけていたので問題はなかった。力で無理やり解こうとしていたが逆効果になることを悟ったのかそれはしなかった。正直そこが一番焦ったが結果オーライだった。

 

「新一様、ご無事ですか!」

「リーダー!」

「ええ、ですがお願いがあります。ここから先は僕一人で行きます」

「「なっ!?」」

「腕試し、ではありませんが今回のことでこの方に教え込みます」

 

 そう言った僕は目的地のコテージに向かって歩き出した。あとはそのままだ。敵は5人程度、人質に向けられている凶器をその場から弾いてあとは全員殺すだけ。今回は投降など認める任務ではなかったので容易いことだった。他にも何かないかと確認するついでに完全に息の根を止めてスミルノフ嬢を救いだした。予備の防寒具を着せて外に出ると縄で縛られた伊達さんと二人が待っていた。

 

「任務完了です」

「さすがです新一様」

「その呼び方、今更ですがやめてくださいよ」

「ですがリーダーというのも今だけですし。あの人は今はそう呼んでますがいつも呼び方に戸惑ってますよ」

「おっ、こらそれは言わない約束だろ」

 

 伊達さんは何も言わずただ突っ立ってるだけだった。歩いているうちに吹雪も弱まり減りが迎えにきたところでスミルノフ邸へと向かう。スミルノフ嬢のバイタルが安定していることを確認すると伊達さんが真剣な顔つきで僕の前に立った。今更だが生意気なことばかりしていたので何されるかわからないという恐怖感が襲ってきたがそれもすぐに消え去った。

 彼が目の前で膝をついたのだ。全員が驚いている中彼は話し始める。

 

「今までの無礼、お許し願いたい」

「……」

「間違っていたのは俺だった。誰も彼もが敵だとしか思えずあたり散らかすような真似をして申し訳なかった。俺は、アンタになら忠義を尽くしたいと考えている。名護家にはまだ尽くせなくてもアンタのためなら頑張れる気がするんだ……」

「わかっていただけましたか。僕に忠誠を誓わなくてもきっと貴方なら大丈夫です。それと、敬語はやめてください。僕は年下ですし同じ部隊の人間なんですから」

「じゃあそうさせてもらうぜ、坊ちゃん(・・・・)!」

 

 そうして伊達さんは以前とは別人のようになり周りと打ち解けた。数年後には殲滅部隊の部隊長となり周りからの信頼は厚いものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけだったんだぜ」

「そんなに凶悪な人には見えないのだけど」

「黙ってれば顔の傷とかでそう見えるけどな」

 

 それを考えるとかなり変わったように思える。まさかこんなところで昔話をする羽目になるとは思いもしなかったが。

 

「懐かしい話をしているじゃないか」

「ヨォ御当主様」

「あの頃のお前は狂犬よりも危険だったものな」

「そうか?まぁあの頃はトゲトゲしたた様な気もするけどな!」

 

 アッハッハと笑う伊達さんは怖い顔をしないようになったと思う。それでも戦場ではその名にふさわしいくらいの狂気ではあるのだが。

 やがてパーティーの主役の元へ挨拶へ伺うと昔の事件について礼を再び言われた。その後時間の都合で僕達は帰国することになったがスミルノフ家の飛行機を使うことはなく名護家のヘリで帰ることになった。どうやら彼らにも他にやることが溜まっているらしい。湊家まで送ってもらえることになったのでお嬢様の意向の下甘えることにした。




えー、次回で帰国します、ネタにぶっ込む予定ではいます。あくまで予定ですが


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第四話 リバーシブルキャンペーン

 先日8時にロシアを出たため時差計算を込みで考えて現在の時刻は朝の8時。とりあえずバタバタしたことでまだ疲労があるだろうからと睡眠を取らせることにした。

 多分お昼まで寝ているだろうから買い物を今のうちに済ませようと外に出た。この時間だからあまり店は開いていないだろうが京君行きつけのあの店だけは開いていると向かうことにした。

 扉を開けば当然いるはず……と思ったがいるのは帽子を被った女性だけだった。どこかでみたことあるようなデザインだと思ったが偶然だろうと思うことにした。

 

「いらっしゃいませ。あ、おはようございます名護先輩」

「おはようございます羽沢さん。座ってもよろしいですか?」

「こちら、どうぞ」

 

 案内された席についてメニュー表をみる。朝だからか客も少なく静かに過ごせるカフェになってるようだ。

 

「今日はお一人なんですか?」

「まぁね。そういや京君はまだ来てないのかな?いつも来てそうなイメージだけど」

「え、えーっと、そのですね……」

 

 羽沢さんの歯切れが悪く時折先ほどの女性を見ていたので少し覗き込むと少しおかしいことに気づいた。服のサイズはあっているのに着ているのは全部男性ものなのだ。それに髪はうまくまとまっていない。

 

「あの人、もしかして……」

「……」ゴク

「京君の知り合い?親御さんとか?」

「いっいや、そういうわけではなくて……」

「ご本人様だよ」

 

 聞いたことのあるような無いような声を聞いて違和感を抱く。帽子で顔を隠したまま来たその人は僕の目の前に座るとゆっくり帽子をはずした。

 

「よぉ新一」

「えっと……どちら様ですか?」

「おい!この流れならどう考えても分かるだろ!!」

 

 ビックリした。突然座ってきて顔を晒したかと思えば綺麗な顔だったから。でもこの流れなら分かるってことは……

 

「いやいや、京君男だし」

「そうだよその京さんだよ」

「失礼何を言ってるのか少々分かりかねます」

「現実を受け入れろ」

「羽沢さんこの人疲れてる?」

「いえその……」

 

 トレーを抱えるように顔を半分隠す仕草から理解した。

 ガチのパターンだこれ。

 えっと確かこういう時は……

 

「どうしたの?話聞こうか?」

「Botみたいな解答やめろ」

「それで僕がいない間に何があったのさ」

 

 話を聞くと昨日の夕方のことだった。『反転』の記憶を持つドーパントに攻撃されたらしい。戦闘能力はそこまでなく調子に乗って戦っていたら不意を突かれたとのことだった。そして身体の異常に気付いたときには逃げられており現在に至る。

 

「なるほど、大体分かった」

「その台詞ホント便利だよな」

「羽沢さんはいつから知ってたの?」

「その時After growのメンバーも近くにいたんです。ですからその、もう一人被害者がいて」

「もう一人?」

「つぐみいる?」

 

 羽沢さんを探す声と共に扉から出てきたのは黒髪で赤メッシュの入った男の子だった。風貌が誰かに似ているなと思い見ていると驚いたのかすぐに扉の後ろに隠れてこちらを覗き込んでいる。

 

「羽沢さんの知り合い?」

「なんていうかですね……」

「あれは美竹だ」

「えっ!?」

 

 確かにあの特徴的な赤メッシュは蘭ちゃんと一緒だけどまさかもう一人の被害者ってあの子なの!?

 

「カッコよくなったなぁ……」

「なっ!」

「照れてんなぁ」

「ふふ、蘭ちゃん良かったね」

「ちょっとつぐみまでやめてよ!それはそうと鳴海先輩は空気とか読めないんですか?」

 

 蘭ちゃんは京君の胸ぐらを掴んで大きく揺さぶる。反省しないことを示しているのか舌を出して明後日の方向を見ている。

 

「二人とも生活に支障は?」

「「大アリ(です)」」

「それもそうだよね」

「違和感しかない」

「正直気になるっていうか」

「じゃあ早く事を片付けよう」

 

 立ち上がると何も注文していないことに気付き今度きた時にその分注文することを伝えて京君を連れ出す。

 倒せばどうにかなるだろうとは思うが念のため僕が止めをさすことになった。万が一戻らなかった時メモリさえ残っていればプロフェッサーに渡してどうにかしてもらう。幸か不幸かイクサシステムにはまたメモリブレイクの機能は取り入れられていない。

 

「そんでどの辺で戦ったの?」

「商店街だったな。そうそうちょうどこの路地に差し掛かったところだ」

 

 京君が指差した場所を黒い物体が横切って行った。物体はそのまま轟音を立てて壁に激突する。

 

「は?」

 

 声を漏らした僕達は煙の方を見てみると人型の何かが項垂れているのを見つける。それはよく見るとドーパントだということがわかり戦闘態勢をとろうとすると今度はブレードが飛んできてドーパントの顔の横に突き刺さる。

 

「一体どういう」

「チッ、外したか」

「その声は………!」

 

 飛んできた方向を見ると今度は青いドーパント、ナスカの姿がそこにあった。怒りを抑えきれないのか体全体で呼吸しているように肩が動いている。

 

「獅郎!?」

「京手ェ貸せ、アイツをぶっ殺す」

「何故皇が仲間を?」

「俺の体に変なことしやがってぶっ殺してやる!」

「あー、多分俺と同じパターンだ」

 

 皇はナスカの超高速を使ってドーパントに近付くと剣を抜き取り横凪にしようとするが脚を掴まれる。すると身体が青く光りその場に座り込んだ。

 

「何がどうなってやがんだ…!?」

「お前のメモリの機能であるステータス上昇を低下に反転させた。それを使っている限りは体力もないよ」

「ふざけやがって」

「京君あれ」

「ああ、予想以上にめんどくさいことになってきやがった。まさかそこまでリバーシブルさせるとはな」

「すみませんお待たせしました」

 

 快斗君が走ってこっちにやってくるが状況を理解出来ておらず簡潔に説明するとなるほどと相槌を打って変身した。そしてゾーンを展開してマントを脱いだ。

 

「つまり当たらなければどうということはないってことっすね!」

「そうなるけどいけそう?」

「任せとけって事っすよ。新一さんは特大のやつ決める準備しといてください」

 

 快斗君はゾーンの網の中に身を投げるとまるで神出鬼没を実態にしたように消えては現れ殴っては消えるを繰り返した。この調子ならいけそうだと確信を持つと合図が送られた。その瞬間に走り込んで網の中に入ると一瞬で敵の目の前に飛ばされる。当然そうするだろうと思い斬る準備はできていた。しかし剣を振り下ろせば予想とは違う結果が待っていた。

 

「この瞬間を待っていた!」

 

 僕たちの間に割って入ってきたのは宗方さんだった。生身のまま自前の日本刀でイクサカリバーを受け止めた。少なくとも高エネルギーを纏っているイクサカリバーを受け止めれば刀の方が負けるはずなのに何故か折れない上に弾き返される。

 

「なっ!?」

「今だ!」

「了解」

 

 無防備になった僕はドーパントに脚を掴まれた。そこから僕の意識は何かに飲み込まれていった。どこかで似たような感覚を覚えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新一が弾き返され地面に仰向けに倒れてから数秒、ヤツは動かなかった。呼吸しているのはわかったが動く気配がなかった。

 

「何をひっくり返した!」

「私は彼と本気の勝負をしたい。だが一向に彼は来ないためこの機会を狙っていた。こいつの力さえあれば彼をその気にさせられる!」

「えーっとつまり?」

「彼は自分の使命を優先している。彼が考える正義と悪を変えればそれでいい」

「なるほどな、新一の忠誠という正の心を反転させて自己中心とした考えである悪へと変えたのか」

「まさかそんなことのために俺をを利用したのか?」

「ちょうどそこに貴様がいたからな」

「テンメェ!」

 

 獅郎が怒りに任せて殴りかかろうとしたが反転したステータスによって立ち上がることができなかった。その姿を見てドーパントは笑っているが日本刀を持った男は笑うことなくただ構えていただけだった。

 

「さあ目覚めるがいい名護新一。貴様の全力で俺と死合うのだ」

「っ………!」

 

 声に目が覚めたのか新一は起き上がった。しかし、首は項垂れ力が入っていない無気力感。まるで糸で操られている人形のように動かなかった。握りしめていたはずの剣もこぼれ落ちそうになるくらいに力が入っていないのを感じる。

 その場にいる全員がどうしたのだと疑問を抱いた瞬間、ソレ(・・)は消えた。そして次の聞こえてきたのは何かが爆発した様な轟音だった。何が起きたのだと音のした方を見ると男が刃が砕かれた刀を持って壁に背を合わせていた。

 

「ぐっ…は………」

「────」

 

 新一はダルそうに首を回して俺らを見る。するとまた姿を消して今度はドーパントを空に上げた。地面に降りてくる寸前に回し蹴りを決めて男と反対側の壁の方へとドーパントを吹っ飛ばす。土煙が晴れないまま今度は飛び蹴りを食らわせる。速度のせいか土煙は晴れて二つの形がしっかり見える。ドーパントは壁に完全にめり込んでおり抜け出すのは難しそうだった。

 

「あれ、本当に新一さんなのか?」

「わからねぇ。けど今言えるのは」

「少なくともアイツは今、正気じゃねぇだろうな」

 

 状況を理解しているのか獅郎が俺と同じ考えを言った。けれどそれで間違いないと思った。あそこにいるのは多分、《朱雪の執行者》と呼ばれていた新一と変わりない存在だろう。

 

「お前かぁ」

「ひっ」

「たっぷり礼をしてやるよ」

 

 新一はドーパントの腹に右足を置いて胸部に向かってイクサカリバーの銃を撃ち始めた。普段の戦闘中なら確実に倒せる方法だから問題ないのだが今はどう考えても残虐な行為にしか見えなかった。

 

「嘘だろ……」

「狂気に染まってんなありゃあ」

 

 痛みに耐えきれなくなったドーパントは悲鳴をあげる。まるで拷問を受けているような悲鳴だった。撃ちながら笑っていた新一はため息をついて空いている方の手でドーパントの口を塞いで銃をゼロ距離へと近づける。

 

「うるせぇな黙れよ」

「!」

「言ったろ?たっぷり礼をしてやるってよ」

 

 そのまますぐに銃を撃った新一はイクサカリバーを変形させて刃をドーパントの心臓部に勢いつけて刺す。脚を退けるとすぐに剣を引き抜いて血を払うように剣を振り下ろすとドーパントはすぐに爆発した。

 その姿を見た俺達はすぐに戦闘体勢を構える。次は俺達がやられるかもしれないそんな恐怖も体の中にあった。しかし新一はドーパントから排出されたメモリを見つけると踏みつけて壊した。まだ身体が戻っていないため必要だと考えていたがメモリが壊れた瞬間視界が白くなった。

 ゆっくりと目を開くと景色は変わっていなかったが体の違和感が消えた気がした。すぐに触って確認すると変身が解けているが身体が元に戻っていることに気づく。

 

「京君!」

「新一……?」

「よかったねちゃんと戻れたみたい」

「お、おう」

「お前の何かされてたのか?」

「まぁなって俺のことはいい。新一お前」

「どうかしたの?」

「どうかしたって……お前!」

 

 変身を解いた新一は何を言っているのかわからないとでも言いたそうな顔をしている。本当に何も知らないという顔だ。言う気が失せた俺は一言だけ謝って辺りを見回した。獅郎の姿はなく俺たち3人だけがここにいた。刀の男も消えていた。とりあえず羽沢珈琲店に戻ることになった俺達は一列に並んで歩いている。

 

「なぁさっきのことだけど」

「新一には言うな。無自覚の可能性もあるしアイツらの言っていたことが本当だとしてもあくまで裏だからな。これからは出ることもそうそうないだろ」

「それもそっか」

「何の話?」

「お前がロシアで何してきたのかっていう予想」

「その話?ちなみに二人はどんな予想?」

「俺はロシアの異聞帯を攻略してきたってことに一票」

「あー、俺はロシアの雪山で殴り合いっすかね」

「二人ともすごいストーリーを期待しているようだけどそんな展開はなかったよ」

 

 今は普通に喋っているが後遺症のこととかも気になる。一応メモリの破片は回収してきたが警戒だけはしておかないとまずいだろう。少なくともあの時の新一は敵を倒そうとしていたのではなく弄んでいたと思われる。

 

「時に新一、聞きたいことがあるんだが」

「何?白い怪人と雪山で殴り合ったことはないしでっかいマンモスと戦ったこともないよ」

「異聞帯とグロンギの話じゃない。お前って拷問はやったことあんのか?」

「えー、したことはあるけどあんまり好きじゃないかな。汚れるしどっちかっていうと尋問の方が得意だったし」

「そ、そうか………」

「汚れるのが嫌だって先に言うあたり新一さんって感じがしますよね」

「そう?」

 

 一応拷問をやったことあるという経験はあるらしい。でもこの様子からして楽しんでいるわけでもない。むしろ楽しんでいたらおかしい方なのかもしれないが。それらも考慮して気をつけた方がいいのかもしれないと胸にしまって店に戻った。



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第五話 party

皆さん夏休みは楽しめましたか?え?そんなものはない?ははっ、私も一緒です。やることこなしながらイベランしてたらいつの間にか睡眠時間失ってました。
メリジューヌ周回最高でした。


 帰国してから一週間、今日は予定していたライブの日だ。年末最後のライブということもありPoppin party、Afterglow、Pastel pallet、ハロー、ハッピーワールドも勢揃いだ。弦巻家と連携して僕達ライダー組は会場の設営を手伝っていた。会場設営がある程度できると僕はRoseliaの皆と合流する。

 

「あ、戻ってきた」

「皆さんお疲れ様です。リハーサルはどうでしたか?」

「完璧だったわ」

「ですがここで満足は出来ません」

「ならよかったです。ライブまで時間がありますので皆さん休んでてください」

「おねーちゃーん!」

 

 扉から出てきた日菜さんは紗夜さんに飛びつく。その光景を見て周りは笑うのだが当事者である紗夜さんの顔は赤くなっていた。控室はサークルの都合上数がそこまでないため他のバンドとも同じになることがある。その結果Roseliaはパスパレと同じ部屋になった。

 

「日菜は元気だね〜」

「だって今日を楽しみにしてたんだもん!おねーちゃんのるん♪ってする音が久しぶりにライブで聴けるんだよ」

「日菜……」

「でもあたしたちも負けないからね!」

「日菜ちゃんここにいたのね」

 

 続いて入ってきたのは白鷺さんだった。困ったような顔をしながら日菜さんを紗夜さんから剥がす。後ろから覗き込む大和さんとピンクの髪の子はは苦笑いをしている。パスパレの残りの人数を考えるとそろそろ来てもおかしくないと考える。

 

「シンさーん!」

「うんやっぱりそうなるよね」

 

 この場で逃げるのは無理だと考え受け止める姿勢に入る。案の定飛びついてきたイヴちゃんは顔を埋めてくる。それを見た日菜さん以外のパスパレは驚いている。

 

「イヴちゃんダメでしょ急に抱きついたりしたら!」

「い、イヴさん、名護さんとお知り合いなんですか?」

「そんな千聖さん、いけずです」

「はは、また変な日本語覚えちゃって………」

「すみませんまたこの子が」

「いえいえ大丈夫ですよ元気な子ですから」

「あなた保育所の人かなんかなの?」

 

 子犬のように懐いてくるイヴちゃんを撫でながら千聖さんと話す。でもアイドルが公共の場でこんなことをしてはいけないと話すとしょぼんとした顔で離れる。

 そんな中ピンクの髪の人が千聖さんの後ろから僕のことを覗き込んでくる。

 

「えっと、何か御用ですか?」

「いっ、いえ、にゃにも!」

「彩ちゃんまた噛んでる」

「面白いよね〜」

「す、すみません〜」

 

 彩ちゃん──ということは彼女がパスパレのボーカルをやっている丸山彩さんか。快斗君から時折話は聞いていた、確か噛み噛みアイドルだとか何だとか。

 

「そんな風に言われてるんですか?」

「そりゃ彩さんが噛むからっしょ」

「快斗君!?」

「チッスチッス」

「仕事は?」

「終わりましたよ。少し休憩したらこころたちのところに行くんすよ」

 

 休憩がてらこっちの様子も見にきたらしい。念のためと言うが本人はあまり考えないようにしているのか丸山さんをいじって遊んでいた。そのまま白鷺さんの顔をチラ見するとすぐにハロハピの元へと行ってしまった。

 

「今のはなんだ?あのバカが血相変えて走ってったけど」

「さぁ?」

「来てくれたんですね京さん」

「まぁな。客席で見てるから頑張れよ」

 

 京君が軽く挨拶をしていくと白鷺さんを見た瞬間すぐに退室していった。メモリを使っている人達は白鷺さんと何かあるのだろうか。

 本番が近くなるまで最後の確認と体調などの確認を済ませておく。かくいう僕も今日は客席で見るつもりだ。乗り越えられた彼女達ならきっと大丈夫だと思う。

 

「そろそろ開演ですね」

「あなたはあっちに行くのよね」

「お嬢様達の勇姿を客席から見させていただきます」

「わかったわ。しっかり目に焼き付けなさい」

「かしこまりました。皆も頑張ってね」

 

 Roselia全員から返事が聞こえると僕は控室を出ていく。入り口で待っていたのか京君と快斗君がやってきて合流する。今日はこの後パーティーもあるからそちらも楽しみのようだ。

 僕達は開演するステージを目に焼き付ける。それぞれのバンドが今年最後のライブを行う。その中で一番記憶に焼き付けられたのは、やはりRoseliaのライブだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お疲れ様でした〜!かんぱーい!』

 

 ライブが終わり各バンドが着替え終わるとcircleのロビーがパーティー会場になる。勿論会場の方は皆が着替えているうちに弦巻家とライダーズで片付けた。それぞれのバンドメンバーが散らばって意見を交換しているのを見て心が穏やかになる。そんな風景を見ながらジュースを飲むとまりなさんがやってくる。

 

「あ、まりなさん。設営とか色々お疲れ様でした」

「新一君もお疲れ様。お手伝いとかありがとうね」

「いえ、自分は少ししかやってませんから。それに快斗君とかも手伝ってくれましたし」

「でもほら、手伝ったことに変わりはないし、ほら!」

「わっ⁉︎…なんです、これ?」

「オレンジジュース、おねーさんの奢りだ〜。飲みたまえ〜」

 

 そう言ってまりなさんは何処かへ行ってしまった。もう酔ってんのかあの人………まぁ、いっか。いただきますと呟いてからオレンジジュース(・・・・・・・・)を口にした。一口飲んだだけで意識が朦朧としてくる。近くに椅子があるのを見て座り込むと見える世界が斜めに見えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひまりやモカたちと話したアタシは新一の元へといく。こういう時こそ攻めるに限るのだと考え探し始めたが姿が見えなかった。

 

「どうしたのリサ?」

「いや、新一の姿が見当たらなくて…遠慮してたりしてないかなーって」

「新一なら今頃、栄養バランスが、とか言ってるんじゃないかしら?」

「あははっ、それもそっか☆……ってあれ?この音……」

「ヴァイオリンね、誰が弾いてるのかしら?」

「待って、あれって……」

 

 音が聞こえてくる小さなステージを見るなり、そこには新一がいた。気持ちよさそうにしてヴァイオリンを弾いている姿を見て今止めるのもなんだと思い演奏が終わったときに声をかけた。

 

「新一やっぱり凄いね。びっくりしちゃったよー!」

「良いヴァイオリンだったわ」

「………」

「おーい?」

「新一?」

「お嬢ひゃま~?どうかなひゃいましたか~?ヒッグ」

 

 反応のなかった新一は顔を見せると少し赤くなっていた。普段見せないような気の抜けたアホっぽい顔。こんな顔は見たことがなかった。

 

「えっ!?何これ、どうなってんの!?」

「どうかなさったんですか?」

「そ、それが新一が!」

「あれ~、ひゃよひゃんじゃないれすか~。何ひてるんですか~?」

「名護さん!?一体何が…」

「それがよく分からなくって……」

 

 呂律が回っていないところを見てかなりの異常事態だと思うとパニックになってきた。どうしようかと考えていると友希那が落ち着いた声で聞いてくる。

 

「……新一、ここに来て何飲んだの?」

「え~っと~、確か…まりなひゃんから貰ったオレンジジュース(・・・・・・・・)だけ~」

「えっと…これか!ん?甘い匂いするけど、お酒っぽい匂いもするような……」

「まさか…」

 

 取ってみた缶と新一を見比べて非常事態を考える。でも新一は自分から飲むようなことはしないはずだと話していると燐子もやってくる。

 

「どうかしたんですか?」

「あ、燐子。実は新一が…」

「えっ!?と、とりあえず…確認……しましょう!」

「あれ~りんりんだ~」

「ね…ねぇ、新君………もしかして…酔ってる?」

「え?酔ってなんかないに決まってるでひょ~、ヒック」

「「「………」」」

「これって…」

「酔ってますね」

「み…水…!」

「りんりんー?どうかしたのー?」

「あ、あこちゃん…お水…貰える?」

「良いよー!はい、これ!」

「あ、ありがとう…」

「新一、これ飲んで!」

「え~?うーん……」

「どう?」

「……」

「ふー……大丈夫かな?」

「んっ…」

「あ、起きた」

「ふわぁ~」

「新一ー?大丈夫ー?」

「ん……お姉ちゃん?」

「「「「……え?」」」」

 

「お姉ちゃん」と言う単語を口にした新一はあたしのことを見てくる。なんでだ?

 

「え、えーっと…お姉ちゃんって?」

「?お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ。リサお姉ちゃん」

「…リサ、まさか弟が……」

「え!?あたし弟なんかいないよ!」

「でも名護さんが…」

「リサ姉ー弟いたのー?」

「あこちゃん…見ちゃ駄目……あっちいこ……」

「え?うん」

「えーっと待って………新一、友希那のことは?」

「え?」

「友希那はお姉ちゃんじゃないの?」

「……なにいってるのー?友希那お姉ちゃんは姫様だよー?」

「………」

「じゃあ紗夜は?」

「紗夜お姉ちゃんは……」

「わ、私は…」

「厳しいお姉ちゃん!」

「え………」

「でもね!優しいところいっぱいあるんだよ!」

「…この子は私が責任を持って育てます」

「紗夜?」

「…はっ!私は………」

「紗夜〜?一瞬ハイライト消えてたよー?」

「何を言ってるんですか?ここからがハイライトまであるってあれ、名護さんは………?」

「え?あれ!?新一がいない!」

「シンさーん!」

「…あの声は………まさか、イヴ!?」

「若宮さんが危険です!いや、そんなに危険は無いかもしれませんが………」

 

イヴの声がする方に向かってみると、そこにはおかしな光景が広がっていた。普段抱っこなどするはずのない新一がイヴを抱え上げていた。

 

「わーい♪」

「え……何あれ?」

「たかいたかーい♪」

「すごいです!いつもよりたかいです!」

「へへ〜すごいでしょ〜」

 

 中身が幼児退行したような新一がイヴを持ってたかいたかいをしている。あの年頃の女の子なら普通嫌がるはずだがイヴの純粋な心は素直に喜んでいた。一方周りはそれを不思議な目で見ているのが半数、面白そうという目で見ているのが半数だった。当然その光景を信じられない人もいた。

 

「…あれはどうなってるの?」

「あ、白鷺さん、実は‥」

 

 事情を説明すると理解したくはなさそうだったが理解してくれたみたいで何かを見つけると安心した顔をした。

 

「なるほどね、そういうことなら任せて頂戴」

「白鷺さん何か方法が!?」

「ええ」

「新一、さ、私のとこにいらっしゃい」

「シンさん?」

「ごめんね、イヴちゃん。なんれすか、ちひゃとひゃん」

「これ、飲んでちょうだい」

 

 それは黄色が濃い飲み物であり大抵の人は飲んだらすぐにでも退場していたかもしれない飲み物だった。新一は不思議なものを見る顔をしつつも一気にそれを飲み干す

 

「何を飲ませたんですか?」

「濃度100%のレモンジュースよ、酸味が強すぎて目を覚ますでしょう?」

「!その手がありましたか」

「それほぼ原液だよね。飲んでも大丈夫なのかな………」

「ふー………それで、用ってのは?」

「ほら、戻ったでしょう?」

「なんでもないわ、今解決したもの」

「…ほう、()を呼んだのにか」

「ん?我?」

「本当は、もっと大事な用事があるんじゃないか?なぁ、千聖(・・)

「…え?ほんとにどうなってるの?」

「今度は王様みたいに………」

「まあ、良い。我の手が必要になったらいつでも呼べ。ハハハ」

「…大丈夫ですか?」

「あれはもう眠らせるしかないわ………」

 

 またキャラが変わってしまった新一はそのままどこかへ行ってしまった。結果として元に戻す事が出来なかった千聖は悔しかったのかその場に膝をついて敗北を認めたくないようなことを呟いている。どうにかすることは出来ないだろうかと近くにいると次のイベントが起きそうで怖かったので新一が戻るまで遠くから見守ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?新一さんどうしたんすか?」

「あの声は‥快斗!ああ、でも快斗なら大丈夫か」

「よお快斗、ちゃんと食ってるか?」

「あれ、口調変えました?なんか新鮮ですね」

「大丈夫そうね…」

「あ、そうだ!これ飲みます?」

 

 出したのはオレンジ色のした飲み物。少しドロっとした流体を見て何を渡されたか大体わかるだろうが新一さんは見たことがないものを見るようにじっくり見てから聞いてくる。。

 

「なにこれ?」

「野菜ジュースっすよ、うまいっすよ!」

「サンキュ、それじゃ早速」

「大丈夫かしら………」

「どうっすか?」

 

 俺がいつも飲んでいるこの野菜ジュースは喉を心地よく通っていく飲み物の感じがとても爽やかだ。他の野菜ジュースを飲んだことはあったけどここまで野菜の実の感覚がなくてすんなり飲めるのは初めてだった。

 

「すごく美味しい!」

「あれ?戻りましたね」

「?何を言ってるの?僕は元々こんな感じだけど」

「え、まぁ。ん?でも変わってたような………?」

「あれ?なんでここにいるんだろ。というか記憶が…」

「え?どゆこと?」

「何してんだお前ら」

「「あ、京(君)」」

 

 事情を説明すると京は全てを察したように目をつむる。新一さんと見合わせたがお互い理解していなかった。ただ半分ジト目をして質問を投げてきた。

 

「ほー……因みにそのオレンジジュースって誰から貰った?」

「えっ、確か………まりなさん…?だったような…?」

「おぉ、そうか。じゃな」

「えっちょっ、どゆこと?ちょっと待ってよ!」

「それ以上近づくとお前の肉じゃが全部食うぞ」

 

 驚いたような顔をして何かを探し始める新一さんは京が指差した方向へと走っていった。

 

「あれ、新一さん!?お前何したんだよ!」

「別に。お前は来る?」

「なんか面白そうだし行く」

 

 どこに行くのかを聞くと強要罪を背負いそうな駄目な大人の下としか言わず誰のことだか分からなかったが当事者を目の前にしてようやく理解した。その大人は笑いながら酒を飲み続けている。

 

「よぉ、まりなさん。飲んでるか?」

「あれ、またまた若い人達じゃない」

「ちょっとそれよこしな」

「なんだこれ」

「千%お酒だな、果汁入りの」

「それ千%じゃなくね?」

「おいまりなさん、アンタなんだろ新一に酒飲ませたのは」

「そうだよ〜」

 

 犯人を縄で縛り付けて黒服の先輩たちに見張ってもらうようにお願いすると彷徨っていながら肉じゃがを食べている新一さんの姿が見えた。しかし彷徨っているところに面白そうなのを見つけたので俺たちは声をかけずに見ていることにした。

 

「二人ともどうしたんだろ……」

「シンさーん!」

「あれイヴちゃん、どうしたの?」

「また高い高いしてください!」

「………え?」

「どうかしたんですか……?」

「いや、なんで急に高い高い?」

「えっ、だってさっきしてくれたじゃないですか」

「ごめんね、なんかさっきから記憶がなくて………もしかして何かしちゃったかな?」

「いえ、大丈夫ですけど…」

「…高い高いでいいんだっけ?」

「!…はい!!」

 

 そのままイヴを持ち上げて高い高いしているのを見て笑いが堪えきれなかった。普通の高校生は絶対あんなことしないだろ口に零すと言わない約束だろと震える手を肩に置かれる。

 

「新君………大丈夫………?」

「うん、なんとか。でも記憶がないんだよね。なんかやらかしたりしてないかな?」

「うん………………」

「あれ、何で目逸らすの?りんりん!?待って、怖いよ!」

 

 そのまま白金が離れていくのを見てそろそろなんとかしてやろうと新一さんの元に行くとさっきより生気を感じられなかった。

 

「新一、生きてるか?」

「心はズタボロだけどね」

「安心しろ、もう犠牲者は出ないはずだ」

「ドユコト?」

 

 ここに至るまでの全てを話すと一瞬ゴミを見るような目で見られたが隣のやつを指差すとわかっているとジャスチャーを返され俺は一人安心した。

 

「なるほど、つまり事の発端はまりなさんだと」

「みたいっすね。けど柱に縛りつけたんでもう大丈夫っすよ!」

「さらっと言ったね」

「ま、これ以上は大丈夫そうだ。しばらくはお前が変な目で見られるのが確定しているから俺はそれを楽しませてもらうぜ」

 

 京は笑いながら逃走すると新一さんは笑顔のまま姿を消していつの間にか京をとっ捕まえてまりなさんと同じところに縛り付けていた。

 

 

 



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第六話 ゆく年くる年

「名護家の人と話したい?」

 

 数日前、突然京君が話があると言うので屋上に行くと変なことを言ってくる。年末だから忙しいだろうと連絡を取ると許可が降りて迎えがくることになった。1分と待たずにすぐに京君は名護家の車に乗ってこの場から消え去った。

 一体何をしに行ったのか、そんな事を考えながらも今年最後の日に僕はおせち料理を作っている。本日十二月三十一日、Roseliaの練習はなく自宅にいることは明らかだったこともあり今日作ることにしていた。当然ながら年末の買い物はすでに済ませていたため出かける用事も特にない。

 

「何をしているの?随分と豪勢だけど」

「おせち料理です。鮮度が命になるものも多いので大晦日に作ることが多いんですよ」

「あなたこんなのも作れるのね」

「これでもレシピを見ながらですよ。あまり作らない種類が多すぎて少し大変です」

 

 栗きんとんやなますは特に作らないものだ。普通に食べて美味しかったので暇な時があれば作りたいと思ったけど。

 

「お嬢様は何か御用が?」

「暇だから見に来ただけよ」

「でしたら味見でもして見ますか?大半が完成していますが数種類ほど重箱に入りきらなかったので」

「そう。じゃあ少しだけもらいましょうか」

 

 冷蔵庫から余が持ってある皿を取り出して箸と一緒に置いて作業に戻る。しばらく料理を続けているうちに置いた皿の方をチラリと見ると何も変わっていないことに気づいた。食べないのかと聞こうとするとずっと僕を見ている。あまりにも微動だにしないので目の前で手を振ると顔を少し遠ざける。

 

「何よ」

「食べないのですか?」

「食べさせなさいよ」

「あぁ、なるほど」

 

 箸でなますを摘んでお嬢様の口元に運ぶと小さな口を開いて中に運ぶ。しっかり噛んで味わっているのがわかる。食べ終わったのか次はなんだという顔をする。こう見ると食事を待っている猫にしか見えないのだがそういうときっと機嫌を損ねるだろうから黙っておこうと次のものを運ぶ。

 

「美味しいわ」

「恐縮です。もう少しで完成しますが本番は明日ですのでお待ちください」

「分かっているわ」

 

 満足したのかキッチンを出て自室の方へと戻っていった。残りの物を完成させて食器洗いまで済ませるとお昼ご飯の時間を少しすぎていた。しかし先ほどつまみ食い程度だが食べたせいかお嬢様が下に降りてきてはいなかった。念の為にと朝作っておいたおにぎりを取り出しインスタントの味噌汁と卵焼きを作ると降りてくる。

 

「お昼ご飯が出来たのね」

「今しがたですが。席についてください、今出しますので」

 

 軽く作り上げた昼食をテーブルの上に用意して食事を取る。インスタントが混じっているからか新鮮味があるような顔をしている。それでも橋は止まっていなかった。

 

「午後はどうするつもりなの?」

「旦那様を迎えに行きます。三時に駅に来るよう言われておりますので」

「そう、私も行こうかしら」

「畏まりました。では準備が出来ましたら声を掛けに伺いますのでお待ちください」

 

 分かったと言ったお嬢様は箸をおいてごちそうさまをした。僕もちょうど食べ終えたのでそのまま食器洗いをして準備をする。イクサシステムを見て、年末だし流石に出ないと考えたいところだが持っていっといた方がいいだろうかと手にする。ベルト部分が折り畳めるようになっているためそれを活用して上着の内ポケットにベルトをしまい込む。

 因みにこれができるようになったのは今年になってからだ。去年はコンパクトに出来なかったため上着の裏に隠すのもぎりぎりだった。準備を終えてお嬢様を呼び外に出る。

 外に出ると乾いた風が吹き抜けて上着を着ていても寒く感じられた。

 

「今日も寒いわね」

「カイロ使いますか?」

「もらおうかしら」

「薄い手袋を中に一枚入れますか?」

「一応もらっておこうかしら」

「温かいお茶もいりますか?」

「待って何でそこまで持っているの?」

 

 カバンから取り出していると制止の手を出される。何でって言われるとそれは状況に応じて行動できるようにとしか言いようがない。

 

「だとしてもお茶(それ)はおかしいでしょう」

「近くに自動販売機がなかった時大変ですし温度もすぐに緩くなってしまいますよ」

「あなたが持ち歩いても変わらないでしょ」

「魔法瓶に入れておりますので」

「あなたのカバンはどうなっているのよ」

 

 お嬢様は僕のコートを剥がすように後ろから捲る。飲み物を2本させる仕組みが付いている上に少し広いウエストポーチのためものは入りやすいのだ。それにコートの裏に常温品を入れておけば他にも入れられる。

 

「もはやド◯えもんじゃない」

「青い猫型ロボットとまではいけませんよ」

「それくらい万能ってことよ」

 

 そんなこんなで雑談をしながら駅まで向かうと時刻は14:50、約束の時間まであと十分と近づいていた。駅の改札口前にいるが多くの人が行き来している。この時期は地方と都心での人の行き来も多いため当然といえば当然だ。

 

「どこ◯もドアとかあれば便利よね」

「知ってますかお嬢様。あれを使用するにあたってある議論がされているらしいですよ」

「どんなの?」

「どこで◯ドアを使用した人間は四次元に干渉するの原子レベルで移動前と移動後の場所で同じ存在を造られるわけですが果たしてそれは同じ人物なのか、という議論です」

「……難しすぎるわ」

「そうですね。この話は量子力学を勉強するととてもわかりやすいらしいです」

「それは日本語なの?」

「残念ながら日本語だよ、友希那」

 

 違う声が会話に入ってきたと思い改札の方を見ると旦那様の姿があった。一度お辞儀をするとすぐにあげるよう手を上げてきた。

 

「おかえりなさいませ」

「ああ、友希那も来たんだね」

「ええ、お帰りなさいお父さん」

「旦那様、お荷物をお預かりします」

「任せた。せっかくだ、少しカフェにでも寄って行こう」

 

 旦那様を先頭に歩き出した僕たちは駅近のデパートに向かった。三階に手頃なカフェがありテーブル席につくと近況報告をする。Roseliaのことやイクサシステムのこと、また日常的なことも。時々笑う旦那様を見て本人だと確信した。

 

「それでさっき二人は何で量子力学の話をしてたんだい?」

「お嬢様がど◯でも◯アがあったら便利だと仰っていたので」

「なるほど、でもそれなら似たような事を新一君がやっているぞ」

「そうなの?」

「新一君の使うイクサシステムは認証システムを通るとワープと同じ容量で装甲を粒子と化して送っているからね」

「あの金色の光の粒のこと?」

「そうです。あれも四次元と似たような感じです」

「詳しい事を話すと難しい話になるからまぁ簡単にデカメタルの親戚だとでも思っておいてくれ」

「わかったわ(?)」

 

 こういうことの説明をする時は大体デカメタルって言っておけば確かに便利だと思う。そこは感心する。ありがとう宇宙警察。

 

「しかし例のドーパントとやら、地球の記憶を使っていると言ったがまさかデカイ鳥まで出したり、ファンガイアに関しては君の……」

「はい、彼奴が現れた以上僕は」

「分かっている。そういう契約だからね、遠慮なくやってくるといい」

「お言葉痛み入ります」

「それに厄介なことになったか。同じ時期に君の兄……名護天斗まで姿を現すとは」

「迷惑これ以上極まりないところですがこちらもすぐに対処しますので」

「そちらは契約外だから本来の仕事を忘れないように」

「はっ」

 

 戦闘の報告の終わらせるとこれからの予定について話し合う。お正月中は少なくともこちらに滞在しているらしい。お嬢様の口からアークの件について話が出た時はどんなこと言われるのか少し不安だったがありのままを報告してくれた。きちんとありのまま報告された事で僕は二度目のお叱りを受けることになったのだが。

 

「全く、緊急の判断とはいえ君が敵に回ってどうするのだ」

「本当よ」

「ただでさえ世界最強の執行者と言われる君が敵に回っては太刀打ちできなくなるではないか」

「返す言葉もございません………」

「そういえばお父さん気になることがあるのだけど」

「なんだい友希那」

「どうしてお父さんは新一のベルトを」

 

 お嬢様が最後まで言い切る前に近くで爆発音が聞こえた。旦那様と目を合わせるとすぐに頷いたためカフェの窓から見下ろすと大きなツノの生えたステンドグラス模様の化け物が闊歩している。テラス席へと出る扉を通り抜けてイクサナックルを掌に合わせる。

 

『レ・デ・ィ』

「変身」

『フィ・ス・ト・オ・ン』

 

 柵を飛び越えると同時にイクサシステムを纏い三階から地上へと降りる。ストン、と足をつけて剣を構える。

 

「その命、神に返しなさい!」

「白騎士?何故ここに!」

「君たちが暴れているからだよ!」

 

 ファンガイアは大きな腕を振るって剣を防ぐ。弾き返されると今度は大きなツノで突進を仕掛けてくる。受け流そうとイクサカリバーを構えるとツノが複雑に広がっていることから剣を上手く流せないことに気づく。その形から見てどの生物がモデルかようやく分かった。

 

「もうクリスマスは終わったんだけど」

「トナカイじゃねぇよ!ヘラジカだ!」

「ほぼ変わんないように思えるけど?」

「違うかんな。赤い鼻とかねぇから」

「気にするとこそこなんだ………」

 

 スピンを決めるように腕を振り回してきたヘラジカのファンガイア。当たれば鎧が砕けそうと思いつつ今動いたら軌道を変えて確実にやられると考えた僕は狙う場所を探していた。正面から壊す事は不可能、足元を狙うにはかなりぎりぎりのところで避けなければいけないのでリスクが高い。上からだとあの硬いツノが邪魔をする。

 

「新一君、遅くなったがクリスマスプレゼントだ」

「旦那様?」

「それをベルトに装填するんだ」

 

 投げ渡されたフェッスルのようなものをベルトに差し込むと目の前で見た事のある長剣のようなものが模られた。

 

「まさか……」

「さっきの話だが、一応記録は見させてもらっている。もちろんそれはフェイクだが性能はそのままの状態で出せる最大だ」

『《偽・星閃天装(フェイク・サンダルフォン)》』

 

 アークの使用した武装の一つである星閃天装が目の前に現れた。形も見た目もそっくりのため本物があるのではないかと疑ったがフェイクということからレプリカだとわかる。それでも現状を打開するには十分だと思えた。剣の柄を両手で掴みその場で跳んで大きく振りかぶる。回転するファンガイアに対して脳天に叩き込むとヒビ割れてステンドグラスの雨が降り注ぐ。偽・星閃天装を地に突き刺して変身を解除すると目の前の長剣も粒子と化して消えた。

 

「流石というべきか、すぐに使いこなしたね」

「もう見る事はないと思っていたのですが」

「そうね、見た瞬間ゾッとしたわ」

「ええ、僕も少し……」

「使いこなしているあなたにもね」

「えぇ………」

「とりあえず撃破確認はした。これからどうするんだい?」

「旦那様のお買い物がない限りはこのまま帰宅になります」

「わかった。友希那は何かないかい?」

「大丈夫よ」

「そしたら帰ろうか。新一君、荷物を頼んでもいいかい?」

「かしこまりました」

 

 そのまま僕達は帰路についた。道中でお嬢様が何か言いかけていたことを思い出し何を聞こうとしていたのか聞いたが忘れてしまったと答えられたのでおそらく他愛のないことだったのだろうと考える。

 家に着いた僕たちは各自自分のやるべきことを行った。当然僕のやることは食事の準備だが。そのまま時間は過ぎていき夜七時、夕食の時間になった。年越しそばを用意して夜ご飯を食べ始める。味に満足いったのかとても美味しそうな表情をしていた。

 

「野菜のかき揚げと海老天か」

「昨年食べたいとおっしゃっていたので」

「よく覚えているわね」

「従者の喜ぶことを覚えておくのは執事の務めです」

「今年の残り少ない時間は無礼講といこうじゃないか」

「よろしいのですか?」

「ああ、君がやっと普通の生活に馴染めてきたことだしな」

「無礼講?」

「上下関係を取り払って楽しくしましょうということです」

 

 なるほど納得した様子を見せたお嬢様は蕎麦を啜る。全員が蕎麦を食べ終わったところでメインの料理を出そうと立ち上がるとお嬢様も立ち上がって食器を片付け始めた。そのまま洗い場に置くと何を持ってけばいいのかと聞いてくる。

 

「お嬢様、僕が持っていきますから座ってお待ちを」

「無礼講なんでしょ。私も手伝うわ」

「ですが」

「まだ遠慮しているのね、お父さん」

「新一君、無礼講だ。今日は執事ではなくただの男子高校生になりなさい」

「──かしこまりました。ではお嬢様、お願いします」

「お嬢様も禁止よ」

「ではなんと」

「もう伝えてあるわ」

 

 もう伝えてある。その言葉を聞いてまさかとは思ったがどうやらその認識で間違いなさそうだ。しばらく考えたが状況が変わらないよりかはマシだろうと妥協した。

 

「友希那さん………」

「及第点ね。それでどれを運べばいいの?」

「これとこれをお願いします」

「分かったわ」

 

 きっと、本来は許される事はないはずの呼び方。この人はそう呼ぶように言ってくれているが僕という存在はきっと許さないだろう。だから今だけは主人達の好意に甘えることにした。きっとこの一度きりだろうと思いながら。

 旦那様のお酒を注いだり楽しい晩餐を過ごしたが時間が過ぎるにつれて皆お腹が満たされ洗い物をしている。無礼講というのを上手く利用しているのかお嬢様が隣で皿拭きをしてくれている。

 

「今年はどうでしたか、おj………友希那さん」

「色々とあり過ぎて昨日のようだわ。でもやっぱり」

「?」

「あなたに、少し歩み寄られたと思うの」

「………」

「来年もよろしく、私の執事」

「無礼講はいいのですか?」

「今だけよ」

「畏まりました。お嬢様」

 

 皿拭きを終わらせリビングのソファに座ると鐘の音が聞こえる。きっと除夜の鐘だ。もう年を越したのだと考えると一瞬だと感じる。

 

「新一君、友希那」

「ええ」

「はい」

「「「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」」

 

 こうして僕達は新年を迎えた。新しい年、波乱渦巻く新年を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鳴海様、ご満足いただけましたか?」

「ああ、忙しい時に悪かったな。何日も泊まり込んじまって」

「サポートさせていただくのに力は惜しみません。探し物とやらは見つかりましたか?」

「まぁな」

「では町までお送りさせていただきます。私はこれまでですので、良いお年を」

「ありがとうな。良い年を」

 

 俺は名護家の車に乗せられて山道を下っていく。

 ──まさか本当にあったとはな。念の為とは考えたがもしかしたらあり得るかもしれない。俺には些細な状態でしか出ていないがあくまで状況が状況だ。あいつはどうなってるか分からないぞ。もしもう一度アイツがああなったら、誰が止めるんだ?



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第七章 逢魔時、彼誰時
第一鏡 内より覆い被さるもの


 お正月、Roseliaは元日を避けて二日目に初詣に行く事になっていた。元日は家族と過ごすためあえて二日目に。

 僕は当然湊家にいるわけで、主人は正月くらい休みたいと食事時以外は部屋に籠るように。なお僕も自由にしていていいと指示される。それは肉体面だけでなく昨日と同じように精神的にもということらしい。

 一方お嬢様は珍しくリビングのソファに座っている。座っていても特になにもしていないのだが。

 

「お嬢様、どうかしたんですか?」

「どうして?」

「ぼーっとしてるように見えましたので」

「そうね。テレビを見ていても特に面白いものもないし正直やることがないわ」

 

 正月はやることが少ないがゆえに鈍りが酷くなると聞いたがそういうことだったのかと理解する。

 

「お昼ご飯はなに?」

「おせち料理になります」

「夜は?」

「おせち料理の残りと……その内容によりますね」

 

 そう、と一言だけ残してお嬢様はテレビ番組を変えた。全員起きるのが遅かったためお昼ご飯も自然と少し遅くなる。その時間まで僕の部屋にいようと自室へと戻った。何もやることなんだよなと思った矢先目に写ってきたのは机の上にあった三つのフェッスルだった。

 一つは狼の顔を模した青いフェッスル。これは昨日使った偽・星閃天装を出すためのフェッスル。威力とかはそのままだがアークに接続しないで使えるのはかなりいいところだ。両手剣ということもあって少し重いがその分ダメージは強い。

 もう一つは形容し難い形の緑色のフェッスル。家に帰ってきてから渡されたがこれは偽・殲滅天装を喚び出せるということだ。固定砲台となるがおそらくサバトと戦う時に使うことになるだろう。

 最後の一つは拳のようなデザインがされている黒いフェッスルだ。正面から見ると人の顔があるようにも思える。これはさっきの武器とは違いイクサシステムの鎧が変わるらしい。パワー型となり現状のバランス重視した形より防御力が下がる代わりにパワーが上がる。きっとこれから現れる敵に柔軟に対応するために作られたのだろう。

 それを持ったままベッドの上に行き天井に向けながら改めて考える。可能であるならば今年の内に園崎さん達の暴動を抑えたい。彼らがああなったのはきっと僕にも責任がある。だからこそ僕がやらなきゃいけないことでもある。そう考えた時僕のスマホが鳴る。

 

「はい名護です」

『あけましておめでとうございます新一様』

「一条さんですか、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

『こちらこそよろしくお願いします』

「今ご自宅ですか?」

『いえ、今はドイツ……ヴァンハイム家にいます』

 

 国際電話かと思いつつ状況を察する。

 

「奥さんの実家に帰省中ですね」

『はい。今、年を越して落ち着いてきたところです』

「奥さんの元にいなくてもいいんですか?」

『妻は今寝ておりますので。意外と夜に弱いんです』

「なるほど。お電話ありがとうございます。今年の目標は決まりましたか?」

『無病息災家内平穏、ですね』

「ハハ、普段の一条さんとは思えない感じですね」

『それは言わないでください。私とて違和感がありますから』

 

 その後少し話した後に電話を終わらせるとちょうどいい時間になっていたのでお昼ご飯を用意しにリビングに降りると食事を待っている二人がいた。急いで用意を済ませると座るように指示される。

 

「二人とも、改めて明けましておめでとう」

「「明けましておめでとう(ございます)」」

「お正月の子供たちと言ったらこういうものが欲しいだろう?」

 

 旦那様は僕とお嬢様にそれぞれ色の違う小さい封筒を渡してきた。表には僕達の名前が、裏には旦那様の名前が書かれている。

 

「お年玉だ」

「えっ」

「今年は去年と変わらないわね」

「進級しただけだからね」

「だ、旦那様、二年も連続して貰ってよいのですか?」

「お年玉を貰えるのは子供の特権だからね。と言っても普段の君からすれば少ないかもしれないが」

「いえ、大切に使わせていただきます」

 

 身分的な都合上貰えるとは思いもしなかった。去年は押しきられたが今年は何故か跳ね返す気などしなかった。感銘を受けながら見ているとお嬢様がこっちを見ていることに気づく。

 

「どうかしましたか?」

「いくら入ってたの?」

「二人とも同じだよ」

「そうなのね」

「さぁお昼にしよう」

 

 それからはおせちを食べて、また夕飯まで時間を潰してご飯を軽く作っておせちの残りと組み合わせて食べて寝るだけだった。久しぶりの休日だったかもしれないと思い就寝した。

 翌日、昼に近くの神社にてRoseliaの全員が集合した。それぞれ私服で防寒具を着ていた。お参りを済ませて各自でおみくじを引いたりお守りを買ったりと少しだけ別行動をとることになった。

 

「お嬢様はいかがなさいますか?」

「おみくじでも引きに行きましょうか」

「あたしも行くから三人で行こうよ」

「それじゃあ行きましょう」

 

 最初におみくじを見て思ったのは最近の神社は小さいお守りも一緒に入っているおみくじもあるのだということだ。去年は来てもおみくじを引くことは無かった為そのまま素通りして帰った。

 

「新一はどうだった〜?」

「末吉だね」

「もしかして今年の運そんなにない?」

「もしかしたらね。そういうリサは?」

「あたし大吉〜」

「強運だね」

「えへへ〜友希那は?」

「凶だったわ」

 

 その言葉を聞いた瞬間僕達は固まった。凶って本当にあったんだということとまさかこの人が引くことになるとは思いもしていなかった。

 

「見間違いでは」

「ないわ」

「お守り買ってく?」

「そんなに悪いの?」

「お嬢様、凶はおみくじの中で2番目に悪いところです」

「一番じゃないのね」

「悪い方だから取らなくいいんだよ!?」

 

 少し残念そうにしているお嬢様におみくじを結んでくるように言うと素直に結びに行った。どうやら結び方とかはわかっているようだ。しかし凶が出たとなればより一層警戒していく必要があるだろう。何が起きるかわからないからこそお嬢様自身にも気を付けてもらう必要もあるのだが。

 やがて全員集合して神社の階段を降りて近くの公園に移動して一度休むことにした。

 

「二日でもかなり多いですね」

「お正月が三日間なのって日本だけみたいですよ」

「そーなの!?あこお正月が三日間ないとやだな」

「慣れちゃってるからね。あ、甘酒配ってるみたい。あたし貰ってくるよ」

「僕もいくよ」

 

 二人で人数分の甘酒をもらってくる。アルコールが1%も入っていないため子供でも飲めるらしい。飲んだことがないため少し興味が湧いてきた。配り終えた後皆で飲もうとするとなぜ四人ほどこちらを見てくる。

 

「どうしたの皆?」

「いえ、その………」

「お酒………大丈夫………?」

「甘酒って1%未満なんでしょ?じゃなきゃもらえないわけだけど」

「それはそうだけど……」

「あなた本当に覚えてないのね」

 

 なんのことだかさっぱりだったがそのまま気にせず飲むと意外と美味しい事に気付いた。あこちゃんも美味しいとすぐに飲み干していた。さっきの四人は混乱している様子を見せたためまさか酔っているのかと思ったが甘酒に口はつけていないため何か考えているのだろうということにした。

 そのままこれからの予定を軽く雑談程度に話して全員でデパートに行こうと決まった時だった。近くから悲鳴が聞こえその方を見ると白熊のような大きな爪を持ったファンガイアが人に襲いかかっていた。すぐに行こうとするもお嬢様の元を離れていいのかと一瞬迷う。

 

「友希那の事は任せて!」

「リサありがとう!」

「いつもならすぐ行くのに何かあったんですか?」

「それがさ、友希那おみくじで凶を引いたんだよね」

「本当ですか…!?」

「友希那さんすごーい!」

「だから名護さんは心配していたんですね」

 

 変身を済ませてイクサカリバーを変形させて撃つと爪で防がれる。そのまま接近して剣を振りかざすと横から強い衝撃を受ける。突進してきたそれは目の前の個体とは別の色をした同じタイプのファンガイア。受け身を取って体勢を立て直すと二体同時に攻めてきた。

 

「お正月なんだからさ、大人しくしてて欲しいんだけど」

「年始だからこそ勢いあげてくべきだろ!」

「あっそ!」

 

 剣を色違いに向かって投げて白い方にイクサナックルをぶつけるように構える。白い方と拳がぶつかった時直感的に競り負ける気がした。どうにかしなければと考えた瞬間黒いフェッスルが頭をよぎる。しかしそれを装填すると同時に空いてる方の爪で攻撃される。

 そのまま木に押し付けられた僕は変身解除させられる。

 

「お前、白騎士だよな?」

「っ……」

「聞いたぜ、白騎士は何かを守ってるって。それってあの女共だろ?一人ひとり目の前で殺してやるよ」

「!」

「そんで絶望しながら死んでけ」

 

 僕の首を掴んでいるのと反対の手で合図したのか色違いのファンガイアがお嬢様達の元へと近づいていく。

 早く逃げてくれと思った矢先お嬢様は捕まえられて爪を首に添えられる。

 

「やめろ」

「なんか言ったか?」

「やめてくれ」

「ん~?」

「あの人を殺さないでくれ」

「じゃあやっぱり当たりだな!」

 

 嬉々とした声を出したファンガイアはそのまま殺せと指示をした。お嬢様を捕らえているファンガイアはその大きな爪を振りかぶって切り裂こうとしていた。

 

「やめろぉぉぉ!!!」

 

 ──叶うなら、もしこの状況を変えられるというなら、なんでもいい。誰か、誰か助けてくれ。悪魔でもなんでもいいから。誰か、誰か────

 

『じゃあその体、ちょっと貸せよ』

 

 ドクンと体が反応し、誰かもわからない声が聞こえると視界は黒に染まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさかこんなことになるとは思ってなかった。爪が降りてくるのがわかった時にはもう死を覚悟していた。

 なのに今私は地面にちゃんと座っている。遠くを見ればファンガイアが二体重なっている。痛いと言っているあたりまだ生きているらしい。

 二体いるということはと新一の方を見るとふらついているように新一は立っていた。けど何だか雰囲気は違う。まるで違う誰かがそこにいるように。

 

『レ・デ・ィ』

「変、身」

『フィ・ス・ト・オ・ン オ・ル・タ・ナ・テ・ィ・ブ』

 

 変身した新一はいつもの白い鎧ではなく黒く禍々しいオーラを纏った鎧を身につけていた。立ち姿も荒々しさを感じるような、まるで不良になったかのようだった。

 

「し、白騎士なのか?」

「誰のこと言ってるか知らねぇけどヨォ」

「新一……?」

 

 次の言葉を聞いた瞬間現実を疑った。それが別人だと確信を持つくらいに。

 

「その命、俺が狩ってやる」

 

 次の瞬間新一の姿がなくなる代わりに大きな音が聞こえてきた。ファンガイアの方を見ると私を殺そうとしてきた方の姿が見当たらなかった。音のした方向を見ると数メートル先で新一がファンガイアの体を拳で貫いていた。その手を抜くとファンガイアはガラス片に代わってそこにあった木は倒れた。

 

「えっ、あれ新兄だよね………?」

「ちょっとやばくない?」

「いや、あの感じ、新一さんではありません」

「新君………」

 

 皆が本物かどうか話していると白い方のファンガイアが逃げようとしていた。それを黒い新一は逃そうとせず近づいては踵落としで地面に叩きつけた。ピクピクと反応するファンガイアに対して嘲笑うように踏み躙っているその姿はまるで悪魔だった。

 

「や、やめっ」

「やめねぇよ。ほら、まだ壊れんなよ」

 

 踏み躙っていた足を退けて頭を掴んで化け物の巨大な体を持ち上げたかと思うとまた勢いをつけて地面に叩きつけた。まるで水の中に顔を出し入れさせているみたいに持ち上げては沈めて、さらにはそのまま引き摺って空へと放り投げた。

 

「飽きた」

 

 落ちてくる化け物を剣を上に突き出してガラス片へと変える。降り注ぐガラスの雨がいつもなら少しだけ綺麗に見えるのに今はそう思えなかった。あの黒い新一が悪魔のようにしか思えないいや、悪魔の方がまだ優しいのかもしれないと思える。

 戦いが終わったからかこっちにやってくるが思わず身構えると歩を止める。すると新一は顔を抑えて嗤い始めた。

 

「何がおかしいの?」

「いや何、アイツ(・・・)が守りたがってるのを一度見てみたくてな」

「あいつ……?」

「おっと、そろそろ時間か」

「待って………どういう………」

「また今度な。どうせコイツは()を呼ぶしかない」

 

 新一(?)がベルトを外すといつもの新一が現れる。だけど意識がないのか力が抜けたように倒れ込んだ。意識がちゃんとあるのかを確認すると呼吸する音が聞こえたので皆で頑張って連れて帰ることにした。

 けどその間皆が新一に対して少し恐怖を感じていたのは考えなくても伝わってきた。あの時話していた新一は少なくとも新一ではない。けど全くの他人というわけでもないように感じた。



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第二鏡 黒い白騎士

 家に帰るまでにお父さんに連絡すると車で迎えに来てくれた。そのまま車に乗せて車で走っていると隣で新一が目を覚ます。まるで今までのことを覚えていないように視線を動かしていた。

 

「大丈夫なの?」

「あの、ファンガイアは………」

「覚えてないの?あなたが倒したのよ」

「僕、が……?」

 

 まるで夢を見ていたのかように目を見開く。お父さんの顔をバックミラー越しに見ると運転しながら新一を気にかけているようだった。

 

「新一君、最後の記憶覚えているかい?」

「黒いフェッスルを差し込んだらお嬢様の方に意識を向けてしまって」

「それから?」

「そこから……ですね、記憶がないのは」

 

 私が殺されそうになった時に新一は意識を失っていると言っている。だけどその後動いていたのは紛れもない新一だった。でも新一とは違う何かのように思えたのも事実だった。

 

「少し様子を見なきゃいけないかもしれないね」

「申し訳ございません、旦那様」

「いや、どうということはない。それより今日はゆっくりしたまえ」

「そういうわけには」

「明日また出掛けるのだろう?お正月くらい普通の男子高校生でもいいじゃないか」

「……畏まりました」

 

渋々了承したという感じの新一を見てお父さんは運転に集中し始めた。結局帰ってから新一は夜ごはんを作ってくれた。勿論その原因は私たちにあるわけで親子揃って申し訳なく思った。

しかしその後は私より新一が先に布団に入った。それを利用して私は京に連絡を取った。

 

『どうした?また新一失踪か?』

「違うわ、今寝てるもの」

『新年早々変な言い方だな』

「なんで今日来なかったの?」

『……悪いな、こっちも立て込んでた』

「そう」

『そんで何用だ?』

 

ため息混じりに聞いてくる京に今日のことを話した。新一が新しい力を使おうとしたら全く別人のようになった部分を話すと怪訝そうな声が聞こえてくる。

 

「何か知ってるの?」

『なんにも』

「本当かしら」

『疑ってもなにもでないぞ』

「……とりあえず新一の様子が変わったところとかあったら教えて欲しいの」

『お前の方が気付きやすいだろうが了解した』

 

 電話を切って部屋の外に出て新一の部屋の前に立つ。何もないといいのだけど。音を立てないように入ると彼は静かに寝ていた。まるで死んでいるのではないかというくらい静かすぎたため心配になって近づいてみるとパチリと目を開けてこっちを見た。急に開くものなのでびっくりして後ろに下がった。

 

「このような時間にどうかしましたか?」

「起きていたの?」

「いえ、寝ていましたよ。浅い睡眠状態だったのと人の気配がしたので」

 

 この人を倒せる人なんているのだろうかと思いながらも生きていることに安心した。

 

「と言ってもちゃんと寝ていたらきっと起きられなかったと思いますが」

「じゃあ疲れている時に寝ていたら?」

「その時は危険かもしれませんが」

「私がいるから大丈夫ですわ」

 

 カーテンの方から声が聞こえ開けてみるとそこには夜架の姿があった。なぜか和服のような格好をしている。そして何故新一の部屋のベランダにいるのかしら。

 

「新一様に危険が生じた際には私がお守りいたしますわ」

「と、まあこんな感じの人がいるから」

「なんで慣れてるのかしら。そもそもこれって」

「不法侵入なので毎朝処罰してます」

「むしろご褒美とも言えますが」

 

 方向性を変えるかと悩む姿を見ていつも通りの新一だと確信を持つ。とりあえず寝るように言って部屋を出る。明日以降新一の様子を見ることを決めて自室へと戻り就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒く真っ暗で何も見えない。ただ意識だけはそこにあるようで周りには何もないように感じる。お嬢様と話した後夜架ちゃんの処罰方法を決めて寝ていたはず。なのに何故こんなところにいるのか、その答えはすぐにわかった。

 明晰夢──自分が夢の中にいるということがきちんと自覚している夢のことである。おそらく今はその状態。だとしても何もないというのはどういうことだろうか。

 

「よぉ」

 

 声がした。でも暗闇の中どこにいるのかわからない。

 

「探さなくていい。本当はわかっているはずだからな」

 

 わかっているはず?

 

「俺はお前。お前は俺だ」

 

 君は僕?じゃあ僕は

 

「俺だ」

 

 訳が分からない。でも不思議と納得出来る。だからこそよくわからないものがまとわりついている感じがある。

 

「ま、これから一緒に楽しもうぜ──俺」

 

 そこで目が覚めた。辺りを見れば自分の部屋にいるというのがわかる。けれど夢を思い出すと理解出来ない部分が多かった。僕はあの人であの人は僕。名前も知らない正体も分からない人なのに妙に納得がいってしまった。

 まぁ考えても仕方ないかと朝ご飯の準備をしようとベットから起きあがろうとすると何故か重みを感じる。布団を捲ると僕のお腹に抱きついている夜架ちゃんの姿があった。いつも思うけどいつもどうやって侵入してるんだろう。とりあえず縛り上げて天井から吊し上げる。一仕事終えたことだし通常業務へと僕は戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻はお昼の二時。Roseliaの皆でお正月のバーゲンセールに来ていた。勿論新一も連れてきているのだが。

 

「京ちん何買うのー?」

「俺はなんか良さそうなものあったら買う程度だ」

「ゲーム買おうよー」

「あーパソコンは買うかもな」

 

 京も来ていた。たまたま来たと言っていたがおそらく新一のことを気遣ってきてくれたのだろう。けどどうやって今日ここに来ることをどうやって知ったのだろう。

 

「宇田川に聞いたらすぐ教えてくれたぞ」

「多いほうがみんなで楽しめるかなーって」

「そうだねー⭐︎」

 

 皆が納得しているので別にいいかと流そうとするとメッセージアプリの着信がくる。いざとなったらどうにかする、それしか書いていなかったが逆に安心感があった。京なら新一を止められるかもしれないという根拠のない自信があったが今までもどうにかしてくれたのだから大丈夫だろう。デパートに入ろうとするとジリリリと重い音が聞こえてくる。

 

「新一、いくぞ」

「方角から見てこの先の大通りみたいだね。お嬢様、失礼します」

 

 二人が走って行く方を見るがなんの変わりもなかった。新一の様子を見ておきたいがどうするべきだろうか。すぐに逃げて欲しいのに近くに来るのは危険だからやめてほしいと言われたばかりだ。昨日も車の中で言われた。

 

「湊さん、気持ちはわかります」

「紗夜……」

「ですから比較的安全なところから見ましょう」

「紗夜?どうしてその考えになるのかな」

「今井さん昨日の名護さんの様子を見て心配なのは湊さんだけではありません。ですから心配な人は名護さんの邪魔にならないかつ安全な場所にいれば危険な目に遭いませんし名護さんも安心して戦えます」

「氷川さん、すごい……です………」

「紗夜さんかっこいい〜!」

「多分新一はそういうこと言ってたんじゃないと思うんだよな〜。でもあたしも心配だから行くよ」

「じゃあ紗夜の言った通りの場所を探しましょう」

 

 新一たちの後を追って戦っているであろう場所へと向かう。確か大通りと言っていた。大通りが見えるところで危険でない場所を見つけると既に新一たちは戦っていた。だけどかなり苦戦しているのか攻撃しても弾かれている。

 

「京君、こいつ」

「亀のファンガイアかもな。前に戦ったがそれよりもかなり硬い」

「白騎士と骸骨、両方潰してやる」

「おっと俺を忘れるなよ?」

 

 空から降ってきた白い物体は亀の頭に向かって攻撃を当てる。快斗はナイフを構えると亀の怪物は怪我なんか気にしていないように立ち上がる。

 

「流石に頭は柔らかいと思ったんだけどな」

「硬すぎるね」

「よしお前ら時間稼げ、あれをやる」

「「OK」」

 

 快斗と新一が散開する陽に亀の左右につく。そのまま攻撃をすると手についている甲羅で防いでいるが二人はそれでも攻撃をやめなかった。京は大きく深呼吸を吸って腕を回して体を大きく捻る。

 

「鉄砕拳!」

 

 亀は二人を薙ぎ払って甲羅を組み合わせて攻撃を防ぐ。衝撃が強かったのか煙で見えなくなったがその中から出てきた怪物の腕は何も変化はなかった。その光景に見ていた全員が驚きを隠せなかった。

 

「嘘だろ」

「チッ」

「お前らじゃあこの甲羅は壊せない」

「もっと威力を上げれば壊せそう?」

「いやキツイな。全力の鉄砕拳でこれなら石破天驚拳でやるしかないがチャージする余裕を作れるかどうかだな」

「やるってバレてるもんな。ん、待てよ?」

「どうした?」

「もしかしてあの手の甲羅を剥がせば防御力低いところ出てきて倒せんじゃね?」

「そりゃそうだろ。でも壊せないから」

「ちげえって、剥がすんだよ」

「ああなるほどってバカか!?」

 

 理解はしたようだが二人が喧嘩しているように言い合いをしている。私にはわからないことだけどおそらく解決方法を見つけたのだろう。けどそれが簡単にできることじゃないって言ってる…ところかしら?

 いつもなら言い合いをする二人を止める新一だが何故か止めずに黒い板のようなものを持って見つめていた。何かを決めたのかそれをベルトに挿して前に出た。

 

「二人とも僕がどうにか剥がしてみせるから剥がせたらすぐに攻撃して」

「えっ、どうするんすか」

「新一、それ本当に扱えるのか?」

「どうにかしてみせる」

「勝算は?」

「思いつきは数字で語れないよ」

 

 新一はベルトに入っているナックルを押すとベルトから目の前に黒い十字架を出した。

 

『オ・ル・タ・ナ・ティ・ブ』

「なんすかその姿………」

「これが湊が言ってた」

「イクサオルタナティブ、行くぜ(・・・)

 

 一瞬にして姿を消した新一の口調は変わっていて、次に姿を見せた時は怪物の悲鳴が聞こえた時だった。地面を踏みつけるようにファンガイアに足を乗せて左手についている甲羅に手をかけている。ファンガイアの痛々しい悲鳴が聞こえる中ファンガイアを思い切り踏みつけて抵抗する力を奪い二の腕を掴んで思い切り甲羅の部分を剥がした。断末魔のような叫びが耳に届く。

 

「アアアアァァァアァァァァァァ!!!!!」

「まずは一個か。もう一個もすぐ剥がしてやるからな」

 

 淡々とした様子で持っていた甲羅を眺めて後ろに捨てる。そしてすぐにもう片方の腕からも甲羅を剥ぎ取りその辺に捨てるようにポイ捨てした。その様子に全員が絶句した。あれだけ優しかった新一がこんな残虐なことをしているとは誰も思えなかったのだ。

 

「おい、もう終わったぞ。攻撃の準備は出来たか……って何してんだよしゃーねーなー」

 

 地面に踏みつけている怪物の首を持って空中に投げそのまま剣を持って叩き切るように剣を振るとファンガイアはステンドガラスになって消えた。いつも丁寧なあの新一がこんな獣みたいな戦い方をしている。それだけで信じられなかった。

 

「全く作戦通りに動いてくれよ」

「す、すみません」

「まぁこんな戦い方普段しないから驚いてても仕方ねぇな」

「お前、新一なんだよな?」

「当たり前だろ。新一()(新一)だぜ」

 

 アークの時とはまた違う恐ろしさが感じられた。あの時は機械のように冷たかったが今はまるで獣がいるような不気味さだった。それだけで新一ではない感じがする。

 

「と、とりあえず変身を解きましょうよ」

「そうだな、終わったわけだしな」

「まだ終わってねぇぜ?」

「「え?」」

「せっかくだ、このまま模擬戦といこうぜ。そのままこれがどこまでやれるのかも見ておきたい」

「だとしたらウチの練習場使いましょうよ」

「いいや街に人がいないなんて状況はそうそうない。だとしたら使わなきゃ勿体無いだろ」

「お前本当に新一なんだよな?」

「俺、同じ質問されるの嫌いなんだよな。それじゃあよーい、どん」

 

 新一は突如裏拳で京を殴る。そのまま快斗を攻撃し始めた。流石におかしいと思う私たちはどうして新一が攻撃し始めたのかわからないでいた。さっきまで普通に会話してたのにどうして………普通(・・)?あの口調が普通?違う、あれは私たちの知っている新一じゃない。

 確信を持った私は戦っている新一たちの元へ行く。飛ばされた京の方へとゆっくり歩いていた新一の道を遮るように立つと新一はわからないというジェスチャーをするように両手を挙げた。

 

「何してんのお嬢」

「あなたこそ何をしているの?」

「そりゃあ模擬戦だけど。てか戦っているところに近づくなって警告忘れた?流石にそこまでバカじゃないと思うんだけど」

「そんな警告より今はあなたのことよ。誰なのあなたは?」

「あーっと、時間かぁ今回は少し長めだったな」

「何を言ってるの?」

「いやこっちの話だ。それよりあ俺は誰かだっけか。さっきも言ったが俺は名護新一だ」

「嘘だろ」

「嘘じゃない。少し細かくいうなら俺は名護新一の一部だ」

 

 その言葉を残すと変身を解除して中から新一が現れる。その場で両膝から崩れる姿を見てまた意識を失っていることがわかる。声をかけようとするとこちらを見てきた。

 

「………今、どういう状況ですか?」



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第三鏡 俺の名は

 目を開けると黒い景色が見えてくる。でも辺りを見回すと爪先の辺りから僕の方には白い世界が広がっていた。まるで世界が白と黒で真っ二つにされたように綺麗に線引きされている。この間見た景色とは全くもって違う。線から先に入ろうとすると見えない壁に阻まれる。

 

「無理だ」

 

 知らない誰かの声、でも聞いたことのあるような声が聞こえてきた。

 

「俺とお前は似て異なる存在」

 

 聞こえてくる声は大きくなってくる。それと同時に目の前に歩いてくる誰かのシルエットが見えてくる。

 

「俺とお前は同じ肉体。それでも中身は違う」

 

 やがて見えてきたシルエットは光が入り姿がしっかりと見えてくる。それはまるで鏡を見ているようだった。

 

「さて、その答えは?」

 

 訳の分からない質問。不思議と答えを知っているような気がした。

 

「君は僕で僕は君だから?」

「その通り」

 

 目の前の影が光によって消えるとその正体が露わになる。信じられなかった。鏡を見ているという言葉がそっくりそのまま使えるように、今目の前に見えているものは僕の姿をした何かだった。

 

「君は………一体誰なんだ」

「俺は、名護深次(シンジ)だ」

 

 悪魔のような顔を見せたそいつは僕と似たような名前をしていた。でも違和感がないくらい納得していて、それが逆に違和感に感じて。僕は理解と整理ができないまま目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後すぐに弦巻さんの家の人が来て新一が拘束された。同じ車に乗って私達もついていくと弦巻さんの家に連れていかれる。そのまま研究室のような場所に行き新一はドームのような白い機械の中に入れられた。

 

「これは何をしているの?」

「脳の検査だ。あの異常な新一はもしかしたら脳に異常が発生している可能性が高い」

「どうして?」

 

 京は答えるのを少し渋っていた。きっと前から知ってたんだと思う。

 

「アイツは改造手術を受けてる。その過程で失ったものがあるなら逆に無意識に発生してしまったものもあるはずだ。それが検査で引っ掛かってくれればいいんだが」

「そうならない可能性もあるの?」

「なんせ人の心は複雑怪奇。引っ掛からなければ答えは決まってても対処が面倒になる」

「分かってたら対処しやすいのね」

「まぁな。でも脳だからどちらにせよ面倒なことにはなるだろうな」

 

 ビーという重たい音がして扉の上にあった検査中という赤いランプは消えた。部屋の中から新一は出てきたが椅子に縛り付けられ手錠を嵌められる。あの人工知能の件もあってか警戒されているのがよくわかる。

 

「さて質問だ、お前は誰だ?」

「名護新一だけど」

「さっきの戦闘の記憶は?」

「えっと、確か亀のファンガイアの甲羅を剥がすために黒いフェッスルを使った……」

「その先は?」

「…覚えてない」

 

 あんなことをしていたのに覚えていないのはおかしい。あんなにも狂気に満ちていた新一は一体なんだったのか。それを突きとめるために記録されていた映像を見せるが見たことないものを見る顔で見ている。

 

「これを僕が?」

「ああ、そうだ。もし隠していることがあるなら素直に吐け」

「本当に記憶がないんだ。アークの時とは違って夢を見ていたわけでもない

 

 真剣な目つきをしていることは言わなくてもわかっていてた。そのおかげか京も諦めたようにため息をつく。けれど何もわからないままだった。一度新一を放置して部屋を出ると京は壁にもたれかかって帽子で顔を隠す。

 

「どうしたの?」

「ありゃ俺には手をつけらんねぇ」

「精神的な問題だから?」

「その通りだ。本人が解決する以外手段はない」

「そう………」

「解離性記憶障害、もしくは解離性人格障害ってところだろうな」

「何それ?」

「当事者が強いストレスを受けることにより記憶の一部が欠損してしまうこと、それが乖離性記憶障害。そして同じように強いストレスによって新しい人格が形成されてしまうこと、それが解離性人格障害だ。」

「つまりストレスが関係してるってこと?」

「だな、ここ最近何か強いストレスを感じることがあったか?」

 

 新一との記憶を探るが今日まで特になかったと考える。負けるということもなかったし年末もいつもの調子に見えたしそもそもほとんど一緒に行動しているから事件があったら私が基本的に近くにいるからすぐに気づくはずだ。

 

「なかったと思うわ」

「そうか」

 

 何かぶつぶつと言い始めた京を放って私は再び部屋の中に入る。新一は座ったまま寝ていて枷を解こうとした形跡などはなかった。どうしてこんなことになってしまっているのかと思いながら新一をずっと見ているとまるで悪夢から目覚めたように目を開く。

 

「どうしたの」

「お嬢様……いえ、なんでもありません」

 

 いつも通りの笑顔を見せる新一を疑うことが出来なかった。現状危険性がないことを確認された結果今日は解放されることになった。

 これ以上検査しても精神障害の場合無闇に手を出すことが出来ないと言っていたため多分新一地震がどうにかするしかないのだろう。とりあえず今日は安静にと言われた直後、錠前が鳴る。すぐに現場へと行った新一を追いかけるように黒服の人にお願いする。そのままついていくと今度はファンガイアとは違う化け物の姿があった。

 

「足がめっちゃ体についてんな」

「ムカデがモチーフかな?」

「だとは思うんすけどなんかきしょいっすね」

「新一、今度は大丈夫そうか?」

「多分大丈夫」

「百パーじゃないことだけ知っといて良かったわ。もし異常をきたしたらすぐに戦線離脱、いいな?」

「お言葉に甘えさせてもらうよ」

「じゃあさっさと潰しますか!」

 

 連携をうまく取りながら三人が戦っているが敵も素早い動きで避けたり攻撃している。今の所いつもの新一と変わったところはなくまるでさっきまで見ていたのが嘘だったかのようにも思える。敵を完全に囲んだ三人は順番に技を出してドーパントを爆発させた。その後の動きは手慣れているようでスムーズだった。そのまま撤退するかと思えば彼らは動かなかった。どうしたのだろうと物陰に隠れて様子を伺っていると話し声が聞こえてくる。

 

「二人とも、話しておきたいことがあるんだ」

「なんだ?」

「もしかして口調が変わった時のことですか?」

「多分、そのこと。その時の記憶がないからなんとも言えないけど」

「とりあえず言ってみろ」

「信じられないかもしれないけど、僕の中にもう一つに人格がある」

 

 もう一つの人格、つまり京の言っていた乖離性人格障害ということ?

 

「まじっすか?」

「僕もさっきもう一人の僕に言われたばっかりだからなんとも言えないけど」

「話したのか?」

「さっき夢の中でね。僕は彼で彼は僕だって」

「厄介だな。他に何か言ってたか?」

「名前を言ってた」

「名前?」

「“俺は、名護深次だ”って」

 

 深次、それがもう一人の新一の名前。それは京の言ってた改造手術されたことから何か関係しているのかしら。だとしても私に一体何が出来るのかしら。この前とは訳が違う。物理的に治せるわけでもないし解決手段がしっかりわかっているわけでもない。

 

「湊、そこにいるのはわかってる」

「バレてたの?」

 

 新一たちがこっちをしっかり見ているので彼らの元に近づいた。どうやら状況について話し始めた時から気づいていたらしくわざと聞こえる声で話していたらしい。なら最初から隠れる必要なかったのではという意見もあったがそれは流された。

 外も寒いので私たちはまた弦巻家へと戻る。連れて行かれた場所はさっきとは違い大きて拾いがそれ以外何もない部屋だった。

 

「それで新一、今は変われるのか?」

「ごめんそれは無理みたい。呼びかけてみても出てきてもらえないんだ」

「じゃあ今コンタクトを取れるのは夢の中だけってことですか?」

「そうだね」

「深次ってのが出てくるのを待つか新一がコンタクトを取れるまで無闇には動けないな」

 

 動けない以上特に何かできるわけではないので今日は解散になった。二人揃って弦巻さんのおおうちの人に送ってもらうと家の前でお父さんが待っていた。

 

「随分と帰りが遅かったね」

「申し訳ございません旦那様」

「いや、無事に帰ってきたのならそれでいい」

 

 お父さんはご飯を早く作るようにだけお願いして家の中に入って行った。普段は優しいお父さんが何か苦虫を潰したような顔をしていたのが珍しいと思った。新一は驚きもせず家の中に入り自身の仕事に取り掛かった。その姿は普段と変わりなくいつもの新一の姿そのものだった。

 これが戦いの時になるとまるで理性を持った壊れている人間のように暴れているなんて信じられなかった。

 

「お嬢様どうかしましたか?」

「今はなんともないの?」

「はい。特にこれといって変わったところは」

「もし何か変になったりしたらすぐに言いなさい」

 

 その言葉だけ残して私は自室に戻った。今年のお正月はなんだか複雑な気分で終わりそうだ。ご飯が完成するまでもう少しかかりそうだったのを思い出し電話をかける。相手は当然この状況について知ってそうな人だ。

 

『この電話は現在』

「モアイになりたいかしら」

『うおびっくりした湊かよ。新一かと思ったじゃねぇか』

「京がふざけた時はこう言えって言われたのよ」

『えぇ……そんで何か用か?』

「新一が言っていた深次って人の件よ」

『何故俺に電話をかけてきた』

「あなた、探偵なんでしょ?何か知っているなら言いなさい。知らなければ調べてきなさい」

『おいおい俺はタダ働きなんて』

「普段新一にお弁当を作ってもらってるでしょ」

『何故お前が偉そうなんだ……』

 

 多少強引な手を使うことになったがこれくらいでもしないと私はきっと答えを聞くことができない。だから職権濫用するしかないと踏んでこれをかけた。でも京なら何か言い返してきそうだなという不安もある。

 

『まぁそれくらいのことしか話せなくてもいいならな』

「いいの?」

『お前にしては頭回した方なんじゃないのか?』

「新一にお願いして今度モアイにしてらもうわね」

『すまん俺が悪かった』

「それでわかっていることは?」

『名護深次、そいつのことはデータには記載されていなかった。しかし俺らがみた現象と同じようなことをしているのがあいつの行動記録に記載されていた』

「なんて書いてあったの?」

『“あの新一様がまるで戦闘を愉しんでいるような顔だった”、“必要以上に追い込む姿はまるで狩をしている獣”とかだな。印象ピッタリ一致だな』

 

 報告されていたデータを聞いて納得がいくような気がした。この間ふと気になって戦うことは好きか嫌いかを聞いたらできれば戦いたくないと言っていた。何より敵を嘲笑うような奴は嫌いだし必要以上に殺しに行きたくないとも答えていた。そんな彼と別の印象を持つ彼は別の存在とも思える。

 

『少なくとも深次がいる時に聞き出さなくてはいけないことがある』

「目的と理由ね」

『ああ。あいつが落ち着かない限り面倒なことが起きそうだ』

「具体的には?」

『具体的か………もしそいつが悪い奴だった場合、新一が絶望的な状況を見るかもしれない』

「絶望的?」

『ああ、その辺は俺にも想像がつかないがきっと新一が絶望する状況を作り上げる可能性がある』

 

 その言葉を聞いてより危機感を持った。深次が一体何を考えているのかわからない以上こっちも手の出しようがないが逆に防ぎようもないということ。恐怖心を抱いた私はすぐにキッチンの方へと走る。

 そこには食卓を用意し鍋を運んでいる新一の姿があった。

 

「どうしたんですかそんなに慌てて」

「な、なんでもないわ」

「もう出来ますから待っててください」

 

 新一はエプロンを片づけてお父さんを呼びにいく。部屋の扉が閉められると私は引き戻されたように感覚が戻る。携帯をそっと耳に当てると京の声が聞こえた。

 

『大丈夫か?』

「…問題ないわ」

『とにかくだ。深次が出た時は俺たちがどうにかする。だから任せとけ』

「わかったわ」

 

 プツンと切れた電話から京の声が聞こえなくなった。その代わりに扉が開いてお父さんと新一が出てくる。食宅に着くと食事をしようと声をかけられ椅子に座る。それからも新一の様子はいつもと一切変わりなく私は気がつけば新一の姿を追っていた。彼との距離は変わっていないはずなのに何故か遠くに置かれているような不思議な感じがしてならなかった。

 結局寝るまで新一のことばかり考えていたがずっと寝れず、やっと寝られたのは日付を越してからだった。だが私が抱いていた恐怖心は後に本物になることをこの時の私は知ることすらなかった。

 



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第四鏡 恋心

 新一が酷いことをやってアタシたちは家に返された。何が起きるか分からないという危険性からその後のことを知らされずに帰ったため気になっていた。

 目を覚ましたはいいものの寒すぎて布団から出る気になれなかったアタシは布団を着たままスマホを弄っていた。冬コーデらネイルの情報を探っていると誰かからチャットが送られてくる。それは誰でもない新一だった。家の外にいるんだけど少し話せないかなというメッセージを見て少しだけ待って貰えるようにお願いして準備する。

 いくら起きたばかりとはいえ好きな人にだらしない姿は見せたくない。十分で出来る限りの準備をして玄関を出る。真冬の朝は当然寒くて改めて意識が覚醒した。友希那の家の方を見ると門の壁に寄りかかってる新一の姿があった。

 

「おはようリサ」

「ごめん待たせちゃって、寒かったよね」

「リサと話せるって思ったらこんな寒さどうってことない」

 

 不意打ちの言葉にドキッとした。いきなりこういうこと言うんだから本当に心臓に良くない。今日という今日は言ってやらなくちゃ。

 

「新一そういうのはさもっと」

「それよりリサ、その格好だと寒いだろ」

 

 アタシの言葉を遮って着ていたコートを羽織らせてくる。

 

「だーかーらー!」

「ごめんごめん、俺のために短い時間でおしゃれしてきてくれたんだよな。でも風邪ひいて欲しくないからさ」

 

 恥ずかしい言葉を表情一つ変えずにつらつらと並べてくるせいで何も言えなくなった。それより新一がアタシがおしゃれしてくる理由をちゃんと分かってるというのが一番驚いた。

 

「もしかして偽物の新一?」

「流石にそれは酷くないか?って言っても仕方ないか。普段はもう少し言葉が丁寧だもんな」

「えっ」

「少しだけ気を休めたかったからリサを呼んだんだけど、やっぱ素を出すと駄目だな。ギャップが強すぎるってよく言われるし」

 

 言ってることの全てを理解できてる訳じゃなかった。けど今新一はアタシを頼ってくれてるというのは理解できた。しかも素を出せるってことは……。

 

「ごめん、今の忘れて。上品に出来てるかは分からないけど少なくとも今よりかは言葉遣いがマシだと思う」

「いいよそのままで。戻さなくていいって」

「でも気を遣わせちゃうし」

「いいって。それに素を出してくれるってことはそれだけ信用してくれてるってことでしょ?」

「え、まぁその……恥ずかしながら」

「それならいいよ、アタシも悪い気はしないし」

「じゃあ……お言葉に甘えて」

 

 やっと、新一に頼って貰えたと思う。その事がすごく嬉しかった。だから私はこの時違和感に気づけなかったと思う。

 

「それで朝早くにどうしたの?」

「ああそれなんだけどさ、そろそろ教えて貰おうかと思って」

「何を?」

「何をって、リサが言ったんじゃないか。好きになるって感情を教えてあげるって」

 

 それは夏に言った言葉。新一の正体を知ってアタシが導きだした新一の近くにいる方法。それを言われて顔が熱くなる。

 

「そっ、それはそうだけど」

「もしかしてまだ準備が出来てないのか?」

「えっと、あの」

「俺に手伝えることがあったら言ってくれ。なんでも手伝う。リサのためなら全力を尽くす」

 

 頭の中がキャパオーバーする。ずっと待っていた光景が目の前にあると考えるとそれだけで胸いっぱいなのに目の前に来て壁ドンまでされてもう言葉が出ないくらい切羽詰まっていた。真剣な顔つきももうあと少しでくっついてしまいそうなくらい近くてどうすればいいか分からなくなった。何も言えないでいると新一は身を引いてくれる。

 

「そんな顔を赤くしてどうした?可愛いやつだな」

「なっ」

「っと、そろそろ時間か。飯作らなきゃいけないから残念だけどここまでだな」

 

 そう言って離れると友希那の家に戻っていく。心臓の音が聴こえるんじゃないかってくらい近かったから正直離れてくれて嬉しい……いやもう少し味わっていたかったかもしれない。

 

「風邪引く前に家に入れよ」

「う、うん。じゃあ今日の練習の時にね」

 

 新一は軽く返事をして家の中に入った。アタシも家の中に入って部屋まで戻ると今までの緊張が解けたのかベッドに倒れ込むと同時に枕で顔を塞いだ。

 これ夢じゃないよね!?新一があんな風に攻めてくるなんていつもの爽やか系もいいんだけどちょっとワイルドな感じも良くてってそうじゃなくてでもかっこ良すぎてええどうしようどうしようあんなこと言っちゃったしなんなら新一もその気があるみたいだしでも待って友希那はいいの?この間からなんか妙に近かったりしてるけどそれはそれで何か問題があるんじゃないの!?

 悶えて五分くらいしてやっと落ち着いた。とりあえず新一の身辺常用を確認しつつ作戦を考えることにしよう。そんでもって今日の練習の時に色々と探るべきだと判断したアタシは練習の時間まで半分くらい新一の頭の中を支配されていた。

 そんなこともあったため少し早めに出てスタジオで待っていた。アタシよりも紗夜が早くきてくれていたお陰で気を紛らわせてくれたけど二人が揃ってきた瞬間に朝の光景がフラッシュバックした。

 

「皆おはよう練習を始めるわよ。各自自主練習はしていたわね」

「あこお正月もドラム叩いてました!」

「私も……やりました……」

「右に同じです」

「あっ、アタシもやってきたよ!」

「なら最初から通しましょうか」

 

 今年最初の練習が始まった。時々新一の方を見るけど朝とは違いいつもの真一と変わらなかった。その違和感のせいかうまく集中できておらず何回か練習を止めてしまった。そんなアタシを見越したのか一度休憩を入れてくれた友希那には感謝している。休み時間だから新一たちが雑談しているのを見かけてベースの練習をするふりをして聞き耳を立てた。

 

「そーいえばねー、この前ひーちゃんが今年こそいい人見つけるんだーって言ってたの」

「上原さん?」

「うん。アフターグロウのみんなが遊びにきてね」

「そっか、巴さんもafter growだもんね」

「おねーちゃんのドラムはかっこいいんだよ!」

「年末のライブも見たけどすごいよね」

「新兄はひーちゃんみたいな願い事はないの?」

 

 あこの突然の質問に目を丸くする新一。あこナイスよくやった。

 

「藪から棒だね。どうして?」

「ほら、初詣行ったけど聞いてなかったから」

「なるほど」

「私も…気になる……」

「大したことは願ってないけど、お嬢様の無病息災かな」

「えっ自分のことじゃないの?」

「僕は別にいいかな。正直今の生活に満足しちゃってるし」

「でも、こういうのって大体………」

「んー、自分に対して願うことってそんなになかったから。去年のはあくまでオーバーヒートらしいし、病気にはなってないから」

「そっかぁ。恋人が欲しいとかはいいの?」

 

 恋人、その言葉が出た瞬間より一層耳を立てた。この質問の答え方によっては朝のことを問いただす必要がある。

 

「今井さん?」

「どうしたの紗夜」

「いえ、なんでも……」

「それで新兄どうなの?」

「いらないって言い方するとアレだけど必要はないかな」

 

 ──どういうこと?いや待てよ、隠しておきたいから今は仄めかしている可能性がある。もう少し聞いてみよう。

 

「京ちんはなんか欲しいって呟いていたよ?」

「多分ほら、料理とか作ってくれるからってことじゃない?僕はそういうことは出来るしそれにお嬢様のことを好きでいろって命令があるし」

「湊さんどういうことですか!?」

「どうってそういうことよ」

「その命令は不純です!彼の恋愛の自由を奪っているではありませんか。そんなの良くありません!」

「そこは風紀がとかではないんですね」

「そ、そうです風紀的にも良くありません!」

「取ってつけましたね………」

「それにそんな命令まるで呪いじゃないですか」

 

 呪い、新一が言っていたことが本当ならその通りだと思う。新一の本心はそこにあるわけじゃないから友希那は新一を縛り付けていることになる。だから朝の発言があったのかな。

 

「まぁでもあの時はそれが一番の解決法でしたから」

「名護さんまでそっち側なんですか!?」

「いやそうじゃなくてですね、呪いのような縛りがあったからあの状況を打開出来たわけでして」

「そっちの役割は私だけで間に合ってますから!」

「紗夜?話が噛み合っていない気がするのだけど。あと時間が過ぎているから練習を再開するわよ」

 

 結局その時のちゃんとした答えはわからず練習は集中することができなかった。次の練習の日程を決めて解散すると三人になる。アタシの頭の中はまだちゃんと整理できておらず二人と何かを話していたが覚えていない。今日は結局新一のことばかり考えていて何をするも集中できていなかった。

 翌日、同じ時間に起きたアタシはスマホをいじっていた。すると今日はチャットではなく電話がかかってくる。

 

「も、もしもし?」

『おはようリサ』

「し、新一!?どうしたの?」

『少し話し相手が欲しくてさ。もしかして寝てたか?』

「いや起きてたけど」

『ならよかった』

 

 ケラケラと笑う声を聞いてきっと今は素を出しているのだと確信する。気になったアタシは昨日のことを質問する。

 

『あれか?呪いみたいな命令を受けたのは本当だ』

「やっぱりそうなんだ……」

『でもそれだけじゃやっぱりわからない。だからこそリサにお願いしたかったんだ』

「!」

『唯一教えてくれるって言ってたからな』

 

 恥ずかしい言葉をなんの躊躇いもなくペラペラとしゃべる新一に恥ずかしくなって何も言えなくなってしまった。

 

『でもリサ悪いな』

「え、何が?」

『何か手伝えることはないかって思ったんだがこれっぽっちも見当がつかない』

「それはアタシがどうにかするよ」

『すまねぇな……』

「ううん、大丈夫。アタシに任せといて」

『おう。こっちももう少し時間(・・)がかかりそうだから助かる』

「時間?」

『おっと、そろそろお嬢が起きるころだ』

「そっか。お仕事だもんね」

『ああ。そうだ、昨日言い忘れたがこのことは誰も言わないでくれ』

「アタシに素を出してるってこと?」

『ああ、それを知った時お嬢が何を言い出すかわからない』

「じゃあアタシたちだけの秘密ってことだね」

 

 肯定する言葉を残した新一はすぐに電話を切った。きっと友希那が声をかけてきたか友希那のお父さんに呼ばれたかな。

 それにしても二人だけの秘密、か。なんかそう考えただけでテンション上がってきちゃった。きっと他の人にはないアタシたちだけの秘密。それはアタシに取ってとても大きなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来コイツが起床するのは午前六時。それなら一時間前に起きてある程度状況を把握及び行動すればいい。昨日といい今日といいリサが起きていたのは俺にとって好都合だった。アイツの好意は既に気づいていた。だから利用するならちょうどいい役柄を羽織ればいい。

 昨日のうちにある程度把握したから今日はもう一人にちょっかいかけてみるか。起きていなかったとしたらそれはそれで面倒だけどどうにかできるだろ。電話をかけてみるとそいつは素直に電話に出た。

 

『もしもし』

「もしもし紗夜か?」

『名護さん……ですよね?』

「そうだ。この話し方は初めてだったな」

『意外です。そんな話し方もするのですね』

「ちょっとだけな。それよりお前に頼みたいことがあるんだけどいいか?」

 

 不審にも思われたが内容を話すと快く受け入れてくれた。この手のお願いなら氷川にお願いするのが一番だと踏んで正解だったな。まぁアイツがそういう願望を抱いていたのも薄々気づいてはいたしそろそろ覚えさせてやってもいいだろうとは思ったしな。

 名護新一の記憶は当然ながら俺も把握している。そして何故コイツがそれに気づけないのかも俺は知っている。その理由は俺であり俺たちの魂が関係している。この真実を知った時アイツはどう対処に出るか。それすら確信を持っている。俺たちの立場が逆でもきっと同じだ。

 だがもうそろそろ一度あのフェッスルを挿し込んだイクサにならないと正直きついかもな。現状決まった時間しか行動できない。もう少し行動可能時間を広げないと俺の理想は叶わないな。ま、またファンガイアが出てくれば自然とそうなるだろう。

 そろそろ交代の時間がやってくる。状態を元に戻しておかないと何か勘付かれる可能性もあるから記録になる物は消去しておく。さて、もう少しだ。もう少しで理想を叶えられると考えながら俺は眠りにつく。次に起きるのはきっと俺じゃない。だからこそ期待している。コイツの中から俺は全て見通せるから。

 

 

 

 

 

「………時間だ。早く起きて仕事しなきゃ」



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第五鏡 亀裂

 今日もお昼から練習。あこちゃんがこれから受験ということで今日はあこちゃんが欠席だ。賑やかにしてくれる子なので少し物寂しく感じるかと思いきやそうでもなかった。

 

「日程はいつにしますか?」

「何のですか……?」

「朝の件です」

 

 朝の件、一体何のことを言ってるのかがさっぱりわからなかった。覚えていないのかと聞かれてもそうとしか答えられない。

 

「本当ですか?朝早くにあなたから電話をしてきたっていうのに」

「えっ、電話ならアタシのところにも朝来たけど」

「電話って……」

 

 寝ぼけていたのかもしれないと電話アプリを開く。もしかしたらここに記録が残っているかもしれないと確認してみるとそこに発信記録はなかった。

 

「そんな、でも私のところには」

 

 紗夜さんのスマホには僕からの発信記録が残っていた。消去した可能性を考えるが何でそんな面倒なことをしなくちゃいけないんだ?

 

「今井さんはどうでしたか?」

「アタシは……ごめん、勘違いだったみたい」

「勘違い?」

「多分夢の中とこんがらがっちゃたんだと思う。ごめんごめん」

 

 手を合わせるリサは僕に何か合図を送ろうとしているがわかっているフリをして流した。

 

「しかし本当に覚えていないのですか?」

「はい、残念ながら」

「……わかりました。では私も忘れることにしましょう」

「話は終わったかしら。練習を始めるわよ」

 

 お嬢様が一度こちらを睨んできたため驚いたがすぐにもとに戻ってくれたので安心する。

 だとしてもどうして他者との記憶に違いがあるのだろうか。僕は朝起きたらいつも通りの行動を取っていたし電話もした記憶はない。なのに紗夜さんは覚えているし彼女のスマホに記録は残っている。

 考えていると部屋の外に誰かが立っていることに気付く。誰だろうかと警戒しつつ扉を開けるとサングラスをかけたスーツの男性が立っていた。

 

「どちら様でしょう」

『ボム』

「!?」

 

 質問の解答の代わりなのか姿を変えた男の人は爆発した。瞬時で直撃した僕はそのまま後ろに飛ばされる。あえて威力を下げられていたのか痛みがあるだけでまだ意識はあった。爆風に驚いたのか皆の演奏は止まる。

 

「何が起きたの!?」

「皆離れて!」

『名護新一を抹殺する』

「これって……もしかして」

「多分今日は園崎さんのとこの人」

 

 イクサナックルを掌に当ててベルトに装填する。次は確実を狙ったのか筒状の爆弾を投げてくる。見た目のほどの重さは内容にねげてくる姿からそれがなんなのかすぐに判断して誰もいない壁に向かって弾く。運が良かったのか幸いにも触れただけで爆発はせず壁の近くで爆発してくれた。

 

「さっきから爆発音がってナニコレー!?」

「まりなさん皆のことお願いします!」

「えっ新一君?どっから声が」

 

 ドーパントの腕を引っ張って空いた壁の穴に向かって放り投げる。そのまま殴ろうとすると小指くらい小さい爆弾をばら撒かれる。爆竹のように爆発するそれは装甲の関節部にダメージを強く与えてくる。近接でも爆弾を躊躇なく使えるということはと考えると答えは必然と出てくる。

 

「名護家元殲滅部隊副隊長、羽場 当麻(ハバ トウマ)さんですね」

「その通りだ。隊長には申し訳ないが貴方はここで死んでもらう」

「伊達さんのこと隊長って呼んでるんですね」

「俺にとってあの人は隊長以外あり得ない。でもその隊長を裏切った貴方は許さない」

「大人しくやられるわけにはいきません。それに………」

「………どうした?」

 

 言葉を言いかけた瞬間体はそのままなのに意識だけが引っ張られる感覚に襲われる。そして僕は意図していない言葉が重ねられた。

 

「遊びたりねぇからなぁ」

「フン、やはり貴方は死ぬべきだ。地獄に堕ちろ!」

 

 爆弾が大量に投げられる中僕の体は羽場さんに向かって一直線に走り続ける。どれだけ痛みを伴おうとも気にしないようにむしろそんなものが無いかのように。

 

『イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・イ・ズ・ア・ッ・プ』

 

 走りながらフェッスルを装填した僕の体はイクサナックルを構えて突貫する。猪突猛進という言葉そのもののように殴りに行く僕の体はどれだけ爆弾が直撃しようとも止まることが許されなかった。装甲にヒビが入っても欠けても進み続けもうゼロ距離まで来てドーパントの腹に右ストレートを打ち込んでいた。この距離でブロウくんファングを喰らえば当然爆発した。体からメモリが排出されそれを回収すると黒服さんたちが来た。

 

「本日もお疲れ様です名護様」

「回収品です」

「ありがとうございます。後処理はこちらでやっておきます」

 

 体が変身を解除するがいつまで経っても意識と体がリンクしない。体は勝手に動きまるで何かを始める準備をしている。そんな中遠くからお嬢様たちの声が聞こえてくる。

 

「このまま少し借りるぜ」

 

 発した声すら僕のものでは無いと今気付く。僕と似た声だが少し高揚感があるような声で気付く。まさか深次が僕の体を。

 

「お疲れ様新一」

「ありがとうございます。せっかくですから少し時間をいただいてもよろしいですか?」

「?構わないわよ」

 

 早く逃げて皆、これは僕じゃない!

 

「だってさ紗夜。今朝の約束、今やろうぜ」

「!さっきは覚えてないって」

「フリだよフリ。正直こんなところまで来るってなったら変身できるお前には少しぐらい戦い方を教えとかないとな」

「新一?なんだか口調が」

「友希那聞くの初めてなんだ」

「え、ええ………」

 

 深次は持っていたベルトを紗夜さんに向かって投げる。受け取った紗夜さんは躊躇いながらもそれを巻いて変身した。

 

「紗夜ちゃんも変身できるの!?」

「まりなさんこれにはちょっと深い訳があって」

「まぁそういうこった。紗夜、手加減抜きでいいからな」

「ですがそれでは名護さんが」

()も手加減で行く。だから遠慮すんな」

「………わかりました。せっかくの機会ですので遠慮なしにいきます」

 

 紗夜さんは僕に向かって拳を突き出してくる。もちろん止めるように声を出そうとしたが体は言うことを聞かずその拳を受け流す。そのまま攻撃は続くが軽々と避けては捌いていく。止めることができずまた止まらないこの戦いを見ている事しかできなかった。

 

「どうした紗夜、この程度じゃないだろう」

「ここまで本気でやってくれるのですね。でしたら攻撃してくるのもお願いできますか?」

「紗夜!?流石にそれは危ないから」

「攻撃を必ず当てられるというわけではありませんし避けることも訓練しておきたいのです」

「賢い判断だ。じゃあ早速いくぞ」

 

 いくぞと言った時には既に紗夜さんの後ろに回っており取り押さえる形になっていた。一切の手加減をしていない速さだった。現役の時と同じくらいのスピードを出している。

 

「おいおい、これくらいには反応してくれよ」

「はっ、速すぎです……」

「もうやめなさい新一!」

 

 お嬢様が僕の体を押しのけて紗夜さんは解放される。そのまま強制的に変身解除させられ中からは紗夜さんが出される。見た目に残る傷は残っていなさそうだが他にダメージがないか心配になった。

 

「やりすぎよ、それに何か変だわ。まるで」

「まるでいつもの俺じゃない(・・・・・)みたいってか」

「!」

「口調と態度が変わった程度でそう感じ取るとはうちの主人もレベルが下がったものだな」

「ちょっと新一それは言い過ぎだよ。それにこうやって新一が素を出してるところ友希那は初めて見たみたいだし仕方ないんじゃない?」

「それもそうか。なら仕方ないな、今回はリサに免じていつものに戻してやる。ただ、ちょっと俺が変わったからってそんなに驚くなよ」

 

 リサの説得のおかげもあってか僕の意識は体に呼び戻される。腕を回したり辺りを見回すと体が同じ反応をすることがわかって僕の体が戻ってきたことを理解する。

 その上で周りを見ると怪しげな目で見られる。無理もない、けどこのことを言ったところで信用してもらえるだろうか。

 

「新一、さっきのは何なの?」

「いえ、その」

「湊さん、その件ですが少し違和感があって」

「どういうこと?詳しく説明して」

「さっき組み伏せられた時なんだか名護さんに取り押さえられているという感覚がしませんでした。まるで別の誰かと相手をしているような」

「でもあれは新一だったわ。紛れもなく彼だったじゃない」

「ですがあの時の名護さんは確かに違う人みたいな」

 

 紗夜さんの感覚がもし本当にあったとしたらそれは正解だ。あれは深次であって僕じゃない、けどそれを証明する方法は今はない。りんりんは何か考えてくれているようだったけど現状を説明することが難しい。

 

「でもリサは何か知っているみたいね」

「そ、それはその」

「今井さんはあれが名護さんだと思いますか?」

「それは、新一が実際戦ってたわけだしそう思っても仕方ないというか。でも紗夜の言っていることもわかるよ。アタシだってあんな新一見たら違う人なんじゃないかって疑っちゃうもん」

「やはりそうですよね」

「だけど友希那の言う通り新一がやってた可能性だってあるじゃん」

「この人に限ってそれが」

「それに、もしかしたら普段ストレスが溜まっててこういうところでしか発散できなかったのかもしれないし」

 

 ストレスを溜めたとしてもそこまで変わることはないと言い切れない。何せ人はストレスで病気にかかるものだし精神崩壊をしてもおかしくはない生き物だからだ。でも今回に関してはもう一人の僕、深次が行ったことだから半分正解で半分間違っているとしか言いようがない。

 

「どんなことがストレスになってるの?」

「い、いえ、ストレスだなんてそんな」

「感じていないということはないと思いますが」

「戦っていること、とか……?」

「でもそれは自分がやるべきことだって言ってたわ」

「人は、無意識下でストレスを溜めることも……あるみたいです………」

「そうだよ、きっと燐子の言う通りだよ。新一だって人間だし………それに二人分の生活を普段からしてるわけだし」

 

 二人分………?もしかして気づいているのか?

 

「どういうことリサ」

「新一は友希那の分の生活も支えてんだよ?そしたら自然とストレスも溜まってるんじゃないかな」

「そう……なの?」

「そのようなことは」

「友希那だってさ、新一に無理言ってたりしたんじゃないの?」

「そんなこと」

「でもさ、実際」

「リサ、それ以上はダメだよ」

 

 これ以上は二人の仲が引き裂かれてしまいそうな気がして辞めさせる。流石に言いすぎたことに気づいたのか気まずい顔をする二人を見て頭を下げる。

 

「元はと言えば僕のせいです。ごめんなさい」

「……帰るわよ」

 

 誰も何も言えずその場は解散になった。家に着いて玄関の鍵を閉めるとお嬢様が寄りかかってきた。顔を隠すように僕の胸に埋めながら何かを言いたそうにしている。

 

「………ごめんなさい」

「お嬢様?」

「私のせいで、あなたがあんな風に」

「違いますお嬢様」

 

 彼女の肩を掴んで引き剥がし目を合わせる。泣きかけているような目は潤んでいてきっと帰ってきている時に自分を責めていたことを感じさせる。

 

「お嬢様は何も悪くありません」

「またそうやってあなたは」

「此度の件、本当にお嬢様は関係ないのです。ストレスが溜まっている、それは否定できないことかもしれませんが少なくともお嬢様が僕に与えたことなどありません」

「だけど」

「お嬢様の生活を支えていて僕が苦に思ったことはありません。勿論お嬢様が戦場に出てきた時は困りましたが。しかし普段の生活において感じたことはありません。本来一人で生活しているはずの僕が料理のアレンジをしたり洗濯物の爽快感を覚えたりなど、きっとお嬢様と暮らしていなければ得られなかったことだと思います。ですからそのことに感謝をしていて苦に感じたことなんてないんです」

「それでも無意識に溜まってるって」

「それは人間誰しも気づかないことなんてありますよ。ですが今回はそうではないのです」

 

 そう、もっと根本的なところにある。だからこの方が気にすることなんて何一つないのだ。だからこそ今は安心させなければいけない。

 

「きっとリサは心配しすぎただけなんだと思います。僕からも話しておきますので今度二人で話してみてください」

「わかったわ。でも、もう少しだけこうさせて……」

 

 今度は僕のことを抱きしめてくる。ここまでのことは初めてだ。普段はあれだけ凛々しく自分を律しようとしているお嬢様がこんなにも乱すの初めて見た。きっとずっと一緒だった幼馴染にあんな風に言われたのが初めてだったからだろう。喧嘩をするような仲ではないと思うけどこんなことで引き裂かれてたまるものか。

 こうなれば僕も正面から立ち向かわなければと決意した。どうにかしなければ被害を受けるのは僕の周りの人だと。



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第六鏡 俺はお前で僕は君で

 その日の夜、夢の中で彼に会った。幸か不幸か眠る際に呼び掛けていたことが対話する場所を作ることに成功したのかもしれない。

 目の前の僕は余裕そうな顔をしている。僕達を分けるのは白と黒の境界線。そこから先は進めないし手を伸ばすことも出来ない。

 

「何の用だ?」

「言わなくても分かってるでしょ」

「はっ、やなこった」

「深次……!」

「俺の体でもあるんだ文句は無しだぜ」

 

 ケラケラと笑う深次を掴もうとするが見えない壁によって阻まれる。

 

「それにどうしてこんなことを俺がするのか、お前にならわかるはずだ」

「僕の体が欲しいからでしょ」

「正確には、俺の体を取り戻すため、だ」

「違う!これは僕の」

「いいや俺のでもある」

「!」

「俺達の魂は元々一つだった。それが分かれた場合何がメインになると思う?」

 

 分割された魂を決定するもの、その答えは言うのは簡単だ。

 

「元々の魂の裏表」

「正しくは光と闇だ」

「光と、闇………」

「裏表なんて混ざりに混ざってるもんだ。濁りはあれどそれをハッキリ分けているのは魂の光と闇、陰と陽。それが魂の分割」

「じゃあ僕は」

「光だろうな。そして俺は闇。分けられて仕舞えばその際に決定した主人格が表になり裏が表に出ることなどそうそうない」

「じゃあなんで」

「本来ならば片方の人格が大きく育ちやがて微小なりとも統合されて小さい方は消え去る。けれど俺達は共に同じ大きさに育った。そして機会は訪れた」

 

 その機会は僕自身も薄々わかっていた。きっとあの人が僕との真剣勝負を望みそのための手段を選ばなかった時だ。そしてその後に渡されたオルタナティブフェッスルが想定外の副作用を及ぼした。

 

「わかってんじゃねぇか。俺もわかってはいないがあのフェッスルにはパワーを引き出すために多少の精神汚染があったと考えられる」

「だからリバーシブルによってできた心の穴から闇の部分に干渉して君を呼び出してしまった」

「そういうこと。だから今俺達は確実に二つに分けられている」

「だからこそ僕は君に主導権を返してもらえるように呼びかけた」

「わかるぜ。一つの体に二つの魂は存在してはならない、いずれ何が起きるかわからないからな」

「そう、だからこれ以上表に出てこないでくれ」

「だが断る!」

「なっ!?」

 

 深次は右腕で薙ぎ払うように譲らないという姿勢を見せる。そう簡単に聞いてくれるはずもないことはわかっていた。それでも彼は僕だからわかってくれるという淡い期待をしていたのが間違いだった。

 

「言っただろ、“俺の体を取り戻すため”だって。元々俺とお前の魂は同じ、ならこの体はお前のではなく俺のだとも言える。それにやっと表に出れるんだ楽しくないわけないだろ」

「僕の体で何をする気だ」

「いちいち聞くなよめんどくせぇな。もう体を乗っ取る手段は決まっている。あとはその手順を踏んでいくだけだ」

 

 深次は後ろを向いて背を向けて歩く。さよならの合図をしながら歩く彼は嘲笑の笑みを浮かべながら暗闇の中へ消えていく。まるで次の機会を楽しみにしているように笑い続ける彼を見送るしかできなかった。

 夢から覚めれば既に朝の六時だった。深次が動いた形跡はなく今日は僕の意識からスタートらしい。体に問題がないことを確認していつも通りの作業を始める。現状彼に切り替わるのは僕の意識がなくなった時、そしてオルタナティブフェッスルを使用した時だ。前者に関してはどうしようもないところがあるが後者に関してはフェッスルを使わなければいいだけのこと。それなら変わる機会を減らすことが出来る。

 

「新一」

 

 呼びかける声に応じるとダイニングにお嬢様の姿があった。距離を測りかねているのかこっちにくる気配はない。そもそもこの時間に起きているのが珍しい人ではあるが。

 

「おはようございますお嬢様」

「お、おはよう。いつもの新一なのよね?」

 

 返答に困ってしまう。言うなれば彼も僕であり昨日皆の前で話していた彼は僕なのだからどっちが本性かこの方はきっとわからない。

 

「ごめんなさい、変なことを聞いてしまって」

「無理もありません」

「あなたは本当はどう思っているの?」

「どう、とは?」

「執事の仕事を本当はやりたくないとか」

「そのようなことはありません。昨日も申しましたがむしろ楽しくさせてもらっている方です。ですからお気になさることはありません」

「………」

「ささ、身支度を済ませましょう。朝ご飯ももうすぐできますよ」

「分かったわ」

 

 お嬢様は納得しきったわけではないようだが頷いて部屋を出ていく。少しは不安を拭えるといいのだが。今日は午後から練習のためそれまでにリサと話しておくべきだろう。スマホを取り出してメッセージを送り余裕のある時間を聞き出す。朝早いため返信はすぐに帰ってこないだろうと思った矢先通知音が聞こえる。指定された時間に動けるためすぐに了解と返事を返す。そして出来上がった朝食を食卓に並べるとお嬢様が戻ってくる。

 

「ちょうど今並べたところです」

「ジャストタイミングだったわけね」

「そうですね。では」

「「いただきます」」

 

 朝食を黙々と食べ始めるお嬢様はチラチラと僕の方を見ている。

 

「お嬢様」

「?どうかしたの?むぐ」

「そんなに見られると少々食べづらく感じます」

「ごめんなさい、そんなつもりはなかったわ」

「いえ、仕方ないことだと思います」

 

 早く解決しないとお嬢様の心にも良くないな。腹の底で何を考えているかわからない彼を止めさせるための手段を取るしかないがその手段すらわかっていないためどう動くべきか悩んでいる。食べ終わった食器を片付けて洗い物を済ませると今日の予定を確認する。すると呼び鈴の音が聞こえ出迎えるとリサが立っていた。

 

「どうしたのリサ、予定より少し早いけど」

「うん……少し早めに会いたくて………」

 

 目を逸らす彼女を見て後ろを見るとお嬢様がいる。状況を理解して断りを入れてから玄関の扉を閉めると僕の意識だけ後ろに下がる。まだ引き金を引くようなことはしていないはず。

 ──残念だったな、侵食はもう進んでんだ。考えてなかったのかバカめ。

 まさかこうなるとは思いもしていなかった。思ったよりも体の乗っ取り方を熟知しているらしく僕の意識は簡単に閉じ込められた。裏側にいればそりゃあいくらでも方法を探すよな。

 

「待たせたなリサ」

「ううんこっちこそごめんね、早くに来ちゃって」

「いいんだ。俺もお前と早く話がしたかった」

 

 そういって深次はリサの手を引いて連れていく。バイクに乗せて元々いく予定だった羽沢珈琲店へと連れていくとすぐに席を取って注文する。まるで女性の扱いになれているような迅速な対応は僕が今まで任務で使うスキルをフルで使っているようだった。

 

「早速本題に入るんだけどいいか?」

「大丈夫だよ」

「昨日のあれは流石に良くない。確かにお嬢との生活が絶対大変じゃないって言ったら嘘になるがそれでもお前とお嬢の仲なんだ、俺のことで亀裂を産みたくない」

「ごめん……」

「俺のために必死に庇ってくれようとしたのは嬉しいよ。ありがとうな」

「うん……」

 

 まるで躾けられている子犬のように嬉しそうにするリサを見てこんなにも気づかないものかと驚いた。きっとリサの中でこれが僕の素だと完全に思い込んでいるかのように思えるくらい態度が丸わかりだった。

 

「分かってくれたんなら嬉しいよ。さ、デザートか何か頼みな」

「え、朝ごはん食べたばっかだよ」

「逆に食ったからだろ。朝からデザート食っちゃいけないなんてルールはないしな」

 

 それもそっかと満面の笑みを浮かべたリサはメニュー表に目を通す。その間に僕の意識は引き戻されるように体の感覚を取り戻した。深次を呼び出そうと心の中で声をかけるが一切の反応がなかった。どうやら都合のいい動きをしているらしい。

 

「新一は食べないの?」

「えっと、ほら、お腹いっぱいだからさ」

「ふーん、そっかぁ」

 

 じゃあどうしようかと再び目を通すリサを見て一息つく。深次(この男)、全くもって面倒な状況を作り上げるのが得意のようだ。となると彼の目的は僕の信頼を失うこと?だとしたら事情をわかっていない人達からも理解をされず自分を崩壊させるだけだ。となるとなんだろうか。

 頭を抱えていると錠前がなる。思ったよりも近い場所なので走って移動しようと立ち上がるとリサがこっちを見てくる。

 

「もしかして行くの?」

「ごめんリサ、後で戻ってくるからお支払いは任せて」

「待ってアタシも行く!」

 

 珈琲店を出て行くと爆発が聞こえてくる。錠前を再確認しながら走ると敵の数がわかる。ファンガイアが二体いて既に快斗君が戦っている。圭君の反応はあるかを確認するとかなり離れたところで点滅して変身だけしているのが分かった。しかし場所が一向に変わらないことに気づいた僕は何があったのか不安になるが今は近い方からやろうと変身して形と心を共に切り替える。

 

「快斗君おまたせ」

「すんません突然で申し訳ないんですけどこういう状況はどうすればいいですか?」

「何があったの?」

「来た時からこうなってるんすよ。仲間割れなのかそもそも敵なのか」

 

 状況を見るとエビみたいなファンガイアが蛙っぽいファンガイアを攻撃していた。蛙っぽい方は思うようにいかないのか反撃できないでいる。確かにこれは今までにないケースだと判断するがどうして攻撃しにいかないか聞くと正直悩んだらしい。それはそうかと仕切り直して蛙の方を僕で預かってエビっぽい方を倒すようにお願いした。

 

「了解っす。本当にやっちまっていいんすね?」

「どっちにしろ人を襲っていたんだ。そうでもないと錠前はならないからいいよ」

「オッケーっす」

 

 ナイフを投げたかと思えばすぐに別のナイフを取り出してエビっぽいファンガイアを攻撃しに行った快斗君から視線を外して蛙の方に刃もセットで向ける。

 

「ま、待て、俺は何していない!」

「人に危害を加えたのは間違い無いでしょう」

「そ、それは申し訳ないと思っている。けど俺は」

「俺は?」

「ここ十年間ライフエナジーを吸っていない!」

 

 信じられる言葉ではなかった。ファンガイアが人のライフエナジーを吸わない?十年も吸っていないだと?そんな情報聞いたこともない。

 

「どういうことですか?」

「俺が人を攻撃しちまったのは雑音のせいなんだ」

「雑音?」

「俺は耳が過敏でな、しばらくあの音が聞こえなくなってからは工事の音でさえストレスになってしまうようになったんだ」

 

 刃をより近づけると両手を上げて降参のポーズをとる。このファンガイアは人の文化が好きだが過敏すぎる耳に優しかったのはその時に録音した音楽らしい。聞けばそれは家の中にあるらしく探して見つけだされれば症状も落ち着くらしい。

 

「その話、信用してもいいのですか?」

「信じてくれ。もし裏切るような真似をすれば容赦なく殺せばいい」

「………わかりました。ではその捜索品、僕も手伝っていいですか?」

「信じてくれるのか!?」

「早く見つければ貴方が人を襲うリスクも減るというものです。ただ、時間にも限界がありますのですぐに見つけましょう」

「ありがとうございます!!」

 

 いつの間にか人型へと姿を変えていたファンガイアは土下座していた頭を上げた。僕も変身を解除するとリサが走り寄ってくる。ことの一部始終を説明すると手伝ってくれるというのでファンガイアの人に聞いてみると協力してもらう形になった。エビを倒してきた快斗君は報告もあって一度戻るとのことだったのでついでに京君のことも確認を取ってもらえるようにお願いしてみた。

 その足取りで探しに行こうとするついでに色々と確認することにした。

 

「ちなみに僕の二つ名を知ってますか?ファンガイア業界では結構有名なようですが」

「えっと、白………なんて言われてんだ?」

「白騎士です。その様子だと本当にライフエナジーを吸ってないようですね」

「なんでわかんの?」

「僕の異名を知らないこととしばらく戦ってない感じがしたからかな」

「そこまでして信じてくれるのか、本当に助かる」

「因みに雑にならない音楽ってどういうものなんですか?」

「クラシック系の音楽だな。ロックとかエレキというものを使っている音楽は耳がおかしくなってしまいそうな気がする」

「なるほど。それでなんでライフエナジーを吸わなかったんですか、十年間も」

「十年前、ある男と約束したんだ。俺にも心があるなら化け物みたいなことしていないで音楽を聞いてろってな」

「それは人間ですか?」

「ああ、確か名前は……名護啓介だったか」

 

 人の生を聞いて思考が固まる。その名前の人物は既にこの世におらず僕の肉親の一人でもあったからだ。



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第七鏡 期待も希望も

「ああ、確か名前は……名護啓介だったか」

 

 人の生を聞いて思考が固まる。その名前の人物は既にこの世におらず僕の肉親の一人でもあったからだ。

 

「彼の知り合いの音楽を聞くととても落ち着いたんだ。だからどうにかそれを抑止力として使えないかと相談したらそれが入ったプレイヤーを渡されてな。お陰で十年もライフエナジーを吸わずに済んだ」

「…なるほど、それで朝人を襲った理由は」

「音楽プレイヤーが壊れてしまってな。修理に持っていこうとしたら道中で工事の音が聞こえてきて」

「そういうことだったんだ」

 

 動機については理解した。しかし十年前に父さんがこの人と会っていたとなるともしかして父さんはその頃からファンガイアについて知っていたのか?それに父さんの知り合いで音楽の人っていったらあの人しかいない。

 

「ねぇ新一、一回音楽プレイヤーを見せて貰ったら?」

「そうだね。構いませんか?」

「あぁ、これだ」

 

 見せて貰ったプレイヤーはずいぶん古いものでカセットテープをいれるタイプのものだった。

 

「最近は見ないタイプだね」

「十年以上前に買ったからな。最近の子はスマホで済ませているのだろうがこれにしか録音してなかったから移せなかったんだ」

「となると直すより新しいのにした方がいいでしょうか」

「ま、待ってくれそうなったらどうやってあの音楽を聴くんだ!?」

「それは任せてください」

 

 それがもしあの人の音楽なら偽物であれど出来るはず。まず電気屋さんに行って確認してみると生産を終了しているため修理は難しいとのことだった。ただし中身は無事なため専用の機械に通せば別のプレイヤーで流せるらしい。しかしその専用の機械も少し離れたところにあるらしく時間もかかるらしい。それを聞いて別のプランを通すことを決めた。

 行く先はcircle、ここならどれだけ音を流しても迷惑をかけることはない。貸し出し用のヴァイオリンを借りて演奏の準備をする。

 

「どうするつもりなんだ?」

「もしかしたらボクもその曲を知ってるかもしれないと思いました。その人のレベルを出せるかは分かりません。ですから判断の方、お願い致します」

 

 父の知り合いの人の曲なら、きっと僕が最初に弾けるようになった曲と同じはず。意味は知れずとも聴いてると落ち着くのだ。だから練習した。弾き終えると拍手が聞こえてくる。

 

「なんで君がその曲を……」

「名護啓介という人は僕の父です。父の知り合いで音を奏でる人といえばあの人しかいませんでしたから」

「名前を聞いてもしかしてとは思ったけど」

「じゃあ君がそれを弾けるということは」

「僕の音でよければ新しい機器に変えても問題はないかと。もっとも、本物よりかは劣りますけどね」

「いや、君の音もいい。あの人が演奏したのとはまた違うがそれでも聞いていてとても落ち着く」

「では先ほど買った音楽プレイヤーを出してください」

 

 録音準備が整った上で今度は長めに弾いた。その間も彼は落ち着いているようで弾いている僕も楽しくなっていた。演奏を終えて録音を確認するとしっかり音を保存できていたのを確認してサークルを出た。

 

「ありがとう、君のおかげでこれからもなんとかなりそうだ」

「これくらいのことならいつでも力になります。それで済むなら戦いは避けたいですしね」

「そうだな。改めて感謝する、名護啓介の子よ」

「はい。ではいつか機会がありましたら」

 

 頭を下げた彼は僕達に背を向けて消えていった。これであの人がファンガイアとなって人を襲うことは無くなっただろう。安心している中もう既にお昼になっていることに気づき何件も来ていた通知に気付く。メッセージの送り主はお嬢様で早く帰ってきてお昼を食べないと遅刻するという内容だった。電話をするともう家を出ているとのことでいつもの道にいるから迎えに来てと言われる。

 

「新一これからどうすんの?」

「お嬢様を迎えに行くよ。リサは?」

「アタシは…先にサークルにも戻ってるよ。友希那と会うのにちょっと心の準備というか」

「分かった。念のためだけど気をつけてね」

「新一もね」

 

 りさとは反対方向へと走って移動すること十分、湊家とサークルの中間位置にある公園で猫と遊んでいるお嬢様の姿を発見した。猫に夢中になっているのかこちらに気付いていない。もしかしてチャンスでは?とスマホのカメラを起動して写真を数枚撮るとこっちを見ていることに気づいた。

 

「何をしているの?」

「………」

「質問に答えなさい」

「お嬢様と猫さんの写真を撮っていました」

「何故?」

「とても良い光景でしたので」

「消しなさい」

「お断りします」

 

 そうそうお嬢様の写真を撮る事などできない。猫に見せる笑顔など特に見れないのだからどうすればこんな笑顔になるのか研究する必要があるため写真は残しておくべきだと考えた。けれどそれはどうやら許してもらえないらしい。

 

「スマホを貸しなさい」

「いくらお嬢様といえど承諾しかねますね」

 

 ジリジリと一定の距離を空けてお互い構えている。ふと視界に入った時計を見て見ると練習までの時間が迫ってきている。

 

「早く渡しなさい」

「お嬢様、ひとつ掛けをしませんか?」

「何をするの?」

「今からサークルまで鬼ごっこをしましょう。サークルに着くまでに僕を捕まえられたらお嬢様の勝ちです」

「いいわよ。やってやろうじゃない」

「流石です。では、スタートです」

 

 開始までのカウントダウンをせずに僕は走り出した。でも全力を出すとお嬢様が完全に追いつけなくなるので一応追いかけられるスピードだ。

 

「どうしてカウントしないのよ」

「お嬢様、世の中いつもでもカウントがあるわけではないのです」

「そんな執事に育てた覚えはないわ」

 

 文句を言いながらも必死に追いかけてくるお嬢様の安全を確認しながらサークルへと走る。転ぶようなことはなく無事に着くことができたがお嬢様の息切れは丸わかりだった。

 

「なんで、手加減、してくれ、ないのよ……」

「僕のスマホの情報は見られたくないものもありますので。それに、手加減された相手に勝ってお嬢様は嬉しいのでしょうか」

「今は、そういうことを言ってるんじゃ、ないのよっ」

「いつもより遅いと思ったらこんなところで何をしているんですかあなた方は」

 

 僕達の様子を見にきたのか紗夜さんは呆れ顔で僕らを見ていた。そのままお嬢様を連れて行こうとすると疲れすぎて立てないというのでおぶっていく事になった。紗夜さんを先頭に歩いていくとこの間の先頭で壊れた部屋が直っているのが見えた。直した人達は簡単に予想できたが一体どれだけの時間がかかる作業を一日かからず直したのだろうか。恐るべし弦巻家。

 部屋に入ると既に準備しているりんりんとリサの姿があった。お嬢様を椅子に座らせて代わりに準備をしているとりんりんが手伝いに来てくれる。それを口実としたのか口元を隠すようにしながら声をかけてくる。

 

「何があったの?」

「ちょっと追いかけっこしただけだから大丈夫」

「………?」

「そろそろお嬢様の体力づくりの時間も増やさないとかもね。りんりんも一緒にやる?」

「…ちょっと…考えてみる……」

 

 一応やる意思は見せたものの完全にやると決まったわけではないらしい。あれだけ疲れているお嬢様を見たら無理もないと思うけど。

 

「リサは何か言ってた?」

「ううん……ただ、ずっとどうしようって悩んでるみたいだった」

「そうだよね……教えてくれてありがとう」

 

 準備を終えて二人の様子を見ると気まずい雰囲気が流れている。あれだけ仲が良かった二人が喧嘩したのだから仕方ないと思う。原因である僕がいくのはどうかとか思い手も足もだせない状況ではあるけど。どうにか早く仲直りしてほしいと思うと紗夜さんが近づいてくる。

 

「あなたは名護さんですよね?」

「いきなり直球ですね………」

「ここ最近のあなたはコロコロ変わりますから心配です」

「申し訳ないです……あれも一応僕なのですが僕では無いというか…」

「はっきり言ってくれないとわかりません。大体あなたは」

「ちょっと紗夜、新一だって」

 

 リサが声を出した瞬間錠前の音が鳴る。場所は意外と近くで歩けばすぐのところだった。サークルを出れば京君が待っていて既に快斗君が行っていることを教えてくれる。そのままついていくと複数のファンガイアとが快斗君と戦っていた。馬型が二体、そして蛙型が一体──信じられなかった。

 

「責任は僕が取る」

「どうやら何か知ってるようだな。大方あの蛙か、任せたぞ」

「うん」

 

 イクサナックルをベルトに装填して変身する。どうしてこんなことになっているんだ。なんとかなりそうだって言ってたのに、信じていたのに。戦っているファンガイアたちの間に割り込み蛙のファンガイアだけをその場から殴り飛ばす。

 

「何をしているんですか貴方は!」

「グッ………」

「あの時は嘘をついていないと思ったのに、僕達を騙したんですか?」

「そうじゃないんだ……」

「じゃあなんで」

 

 あの人が黙って指差す方を見ると壊れた音楽プレイヤーの姿があった。イヤホンと共に粉々になっているそれはまるで人為的にやられたものだと思われる。

 

「あのあとすぐ聞いていたんだ。けどアイツらがやってきていることに気付かなくて、襲われた時に一緒に壊されたんだ」

「…本当ですか?」

「ああ、嘘じゃない」

「では何故襲われたんですか?」

「それは……俺が掟を破っているからだ」

「掟?」

 

 聞けばファンガイアは人間のライフエナジーを必ず吸わなければいけないルールがあるとのこと。破ったものは見つけられ実行させられる。それを振り切ったとしても裁きが訪れるのでそれからも逃げていたらしい。そんな中アイツらに見つかり無理矢理にでも人を襲わせようとさせられそうになったところに快斗君が現れたらしい。

 では二次被害として周りに被害が出ていたのかと聞くと申し訳なさそうに返事が返ってくる。この人はやっぱり大丈夫なんだと安心すると力が抜けていくのを感じる。

 

「すみません、疑ってしまって」

「あの状況なら仕方ないだろう。しかしせっかく録音させてもらったのにまた」

「それなら大丈夫です」

「?」

 

 もう一度演奏します、そう言おうとすると声が出なかった。意識はそのままでも身体が動かせない。嫌な予感がした。

 

もう聞かなくてよくしてやるからよ(・・・・・・・・・・・・・・・・)

「………は?」

 

 愉快そうに嗤う声、まるでその人よりも自分の喜びを優先しているような声が出てくる。僕はこんなことを言うことを望んでいない。そうなれば答えは一つ。深次、奴しかいない。

 

「お前らファンガイアにもルールがあるなんて知らなかったが破ってるやつになんで慈悲をかけなきゃいけないんだ」

「な、何を言ってんだお前」

「あーわかりづらかったか?じゃあわかりやすく言ってやるよ」

 

 その瞬間にあの人は壁に追い詰められ腕を押さえられていた。

 

「代わりに殺してやるって言ってんの」

「あああああああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」

 

 掴まれた腕は僕の手によってあらぬ方向へ曲げられてしまう。痛みに悶え苦しんでいる様子を嘲笑う声は止まらず抵抗の末に蹴り上げてきた足も空いていた手で掴んで曲げてしまう。断末魔のような叫び声は増していく。

 やめるんだ深次、彼はこんなことを。

 

「受けなきゃいけないに決まってんだろ。自分達のルールすら守れないのに他人との約束を守ると思うか?」

「グァァァァァ」

「第一お前は爪が甘めぇんだよ。だーから簡単に騙されちまう」

 

 違う彼は僕達のことを騙してなんかない!今回のはたまたまで。

 

「たまたまがこれからも重なることを防ぐためにも殺しちまった方がいいんじゃねぇの?」

 

 深次は拷問にでもかけるように彼の胸に剣を横にして鋸を引くように切っては引いている。彼に滲み出る苦しみの声が僕には耐えられなかった。止めるように何度声をかけても止まる気配はないどころか一層増していっている。

 

「やめてくれ、俺が悪かった。死にたくない死にたくない」

「そりゃあそうだよなぁ?生き物皆死にたくなって思ってても殺されちまう時は殺されちまうんだから」

「うああああぁぁぁ」

 

 深次それ以上は許さない。何故そこまでして苦しめて殺そうとするんだ君は。

 

「そりゃ楽しいからに決まってるっしょ。お前が毛嫌いしている反面俺は絶望する顔が好きだ。だってその方がこいつも生きてるって感じがするだろ」

「ちょっと、新一!?」

 

 驚きを隠せない大きな声がする方を見るとリサが走ってきていた。きっと止めようとしているんだと思う。危険だから来ないように声を出そうとするがやはり体は言うことを聞いてくれない。

 

「来るなリサ。こいつは俺達を裏切ったんだ」

「そんな、嘘だよね?」

「………どうかな」

「一回それを外して聞いてみようよ。何かの間違いかもしれないじゃん」

「そうだな、それがいいかもな」

 

 リサの説得のおかげか斬り込んでいた剣を外し彼から離れようとしているの見て気が抜けた瞬間だった。希望が絶望に変わる瞬間、それはいつだって照明が突然消えるように訪れる。

 

「なーんちゃってなぁ!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 心臓部を一突きにして彼はガラスとなって砕け散った。降り注ぐガラス片はまるで悲しみの雨のように僕達に降り注いだ。



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第八鏡 狂気の所在

 心臓部を一突きにして彼はガラスとなって砕け散った。降り注ぐガラス片はまるで悲しみの雨のように僕達に降り注いだ。

 無抵抗の彼を引き裂いた感覚が同時に来る。やったのは新一()じゃない。でもやったのは深次()だ。だからどう言い訳しても逃れることはできない。

 

「新一、なんでこんな」

 

 リサが怖いものを見るかのような目で僕を見る。新一に意思は無かったと否定したいけどやったのは深次だ。どう返事をすればいいのかわからない。

 

「仕方ないじゃん、離そうとした瞬間、反撃が来るのが見えちゃったんだから………」

 

 違う。そんなそぶりは一切無かった。反撃出来ないどころか話した瞬間安心したような声が漏れていた。コイツもしかして最初からその瞬間を狙って!

 

「今井ソイツから離れろ!」

「京?」

「離れてください今井さん」

 

 変身したままの京君が僕に向かって銃口を向けている。紗夜さんも牽制する姿勢だ。お嬢様とりんりんは何も言わないが睨み付けるように僕を見ている。この状態の僕なら全員が僕のことを敵だと思っても何も間違っていない。

 

「皆なんでそんな、って快斗!?」

「すんません姐さん、でもこれが一番なんすよ」

 

 気付いた時には京君達がいるところにリサと快斗君の姿があった。安全なところに逃してくれたのだろう。京君の指示だろうか、正しい判断で助かる。

 

「なんで新一のことをそうやって責めるの!?今の人だって新一は殺したくなかったんだよ!?」

「どんな事情があったかは知らねぇよ。けどそれがもし本当だったとしたらあれは新一か?」

「何を言ってるんだ京君。僕は僕だよ」

「そうか?俺の知ってる新一なら殺したくもない奴を殺した時、変な言い訳はしないはずなんだがな」

 

 京君の推理に深次が一瞬だけ舌打ちをしたような気がした。僕は彼でも彼自身の特徴が出てしまっていたということだろうか。もしわかってるんだとしたらそのまま撃って欲しい。そうすれば少しくらい隙が出来るはず。

 

「待ってよ!なんで少し違うだけでそうやって否定するの!もしかしたら新一の中で信じられる人だったのかもしれないじゃん!」

「どけ今井ソイツは新一じゃねぇ」

「リサ………」

「姐さんの言うことも分かりますけど今回はそれが通じないんすよ」

「なんで、なんでそんなことばっかり言うの!?紗夜もそっち側だし友希那だって新一の主人だったらもう少し理解してあげてもいいんじゃないの!?」

「………」

 

 リサが京君の前に立って攻撃させないようにしている。僕を信じたいという気持ちが伝わってくる。それでもこの僕を信用してはいけない。そう思うと嗤う声が聞こえてくる。まるで今までのことが全てドラマを見てきたかのように、視聴者となって全て見終わった観客かのように嗤う声が。

 

「リサ、もういい……」

「でも新一これじゃあ」

「いいつってんだろ」

 

 一度低くした声を出すとリサは恐れるように退く。変身解除した深次は一度髪をかき上げるようにしながら再び戻してセットする。

 

「礼は言っておかないとな。今までありがとう」

「えっ、どういうこと…?」

「面白いものを見させてもらった。少しばかり鬱陶しくも感じたがまぁ悪くなかったぞ」

「急にどうしたの新一。嘘だよね、そんなこと」

「まだわかんないのか、お前は利用されてただけだ。俺が面白いものを見るためにな。恋は盲目と言ったか、これだから盲信する奴らは面白いんだ。他人に執着している奴は自分がやることを正義だと正しいだのと感違いして好き勝手行動する。まるでバカの」

「それ以上喋らないで」

 

 聴いているだけで腹の立つ言葉をつらつらと重ねる深次を止めたのはお嬢様だった。膝から崩れ落ちるリサを紗夜さんが抱き締めている横で僕を睨み付ける。あれは本気で怒っている目だ。

 

「新一の体でそれ以上好き勝手に喋るのは許さないわよ」

「おっと?お嬢それはないぜ、俺だって新一なんだか、ら……」

 

 お嬢様は京君から銃を奪って僕に向ける。一度重さに持っていかれそうになったが両手で支え直して再度僕を狙う。

 

「やめとけってお嬢。それ重いしそんな持ち方して撃ったらあんたがやられる」

「喋らないでと言ったはずよ」

「それにあんたは俺を撃てない」

「本当かどうか試してみましょうか?」

 

 片目を瞑って照準を僕に向けようとしている。あの銃ならセーフティはないはず………

 ──何やってんだ僕は!お嬢様にそんなことさせて言い訳ないだろう。急いで身体の主導権を取り戻そうとする僕の意識が届く前に深次は変身解除する。ベルトを外して地面に置いた状態で腕を広げて見せた。

 

これでもか?(・・・・・・)

「っ………!」

「とはいえお嬢がそこまで本気なんだ。一回くらい返したっていい」

「本当?」

「ああ本当だ。これに関しては嘘じゃない」

 

 お嬢様が銃を下すとその重さに釣られて膝をつく。それと同時に深次は足でベルトを引っ掛けて手に戻した。

 

「よっこらせっと」

「嘘じゃないって言ったじゃないですか!」

「別に嘘はついてないぜ」

「でも……」

「今変わるとは一言も言ってないよな?」

「性根の腐った野郎だな」

「それも名護新一の一部だぜ」

「新君は…そんな人じゃない!」

 

 大きな声を出したりんりんは泣き目になりながらより一層睨みつけてくる。どれだけ僕が声を出そうとしても出せない中彼女達はそれは僕じゃないと否定してくる。本当は違う、皆には見せていないだけで僕も気付いていなかっただけで本当はそういう部分もあるかもしれなかったんだ。それが深次になったというだけで根本的な部分は変わりはしないんだ。

 

「もしかしたら、新君にも人を騙すような性格の悪い部分もあるのかもしれない………貶して陥れたりすることも……それでも新君は人に優しくすることの、できる人だから!」

「燐子……」

「白金さん……」

「例えあなたが新君と同じだったとしても……新君と一緒にしないで!」

 

 聞こえて来る怒号は今までに聞いたことのないもので、もう一人の僕を知ったとしても新一()を受け入れようとする姿勢が伝わってくる。それでも僕を完全に受け入れたことにはならない。深次は僕だから、だからこそ彼をもひっくるめて僕が僕であることを証明しなくちゃいけないのだ。

 

「時間が近いな」

「………?」

「ま、確かに一緒には出来ねぇよな。少なくともコイツの腹の中を聞きださねぇうちはな」

「どういうこと?」

「今日はここで解散にしよう。俺は街で遊んでくる。捕まえたきゃ捕まえてみろ」

 

 深次は気が変わったのか楽しそうな声でその場を去った。しばらくしてもお嬢様達が追いかけないことを見るにリサのメンタルケアをしていることだろう。戻れた時どう謝るべきだろうか。

 

「その考え方じゃまだまだだなぁ」

 

 ──元はと言えば君のせいで

 

「でも俺はお前だぜ?言葉に出してんだからわかるだろ」

 

 ──僕と君が同じだったとしても、それでも

 

「ま、今は少し俺に体を貸しとけ」

 

 深次が止まったのはゲームセンターの前だった。そのまま入るとゲームセンターの中にある筐体を眺めて気になった物に手をつけていった。今の彼の意識と感覚は繋がっており見ているものや触っているものなどの感覚も伝わってくる。だから彼が遊んでいる感覚が伝わってきて、居心地の悪さが薄れるくらい楽しく感じた。

 

「この銃玩具だからか反応悪いな」

 

 ──あくまで遊具だからじゃないの?

 

「せっかくゾンビを殺せるゲームだってのに面白くねぇな」

 

 コントローラーを筐体に片づけ今度は和太鼓のゲームを見つけるとそっちに歩いていく。クレーンゲームの方も個人としては気になったが先に音ゲーと言われる種類に興味を示したようだ。

 

「あれ、名護先輩じゃないっすか」

「巴か。アフターグロウの連中もいるってことは遊びにでも来てたか」

「名護先輩ですよね?なんか口調が違うような……」

「間違ってないぜ」

「あ、もしかしてイメチェンですか?結構斬新っていうか」

「そんなところだな」

 

 羽沢さんが疑問を抱き始めたが上原さんが勘違いしたのか皆を丸く収めようとしている。そんな中青葉さんの後ろに隠れていた蘭ちゃんが怪しいと疑胃の目を向けてくる。正直疑っててくれても問題はないのだが深次も僕なわけだから反応に困らせると思う。

 

「そういえば一人でいるなんて珍しいですね」

「たまには、な」

「せっかくなんで一緒に遊びません?これやろうとしてたんですよね?」

「じゃあ後輩の誘いに乗ってやりますか」

 

 その後アフターグロウの皆としばらく遊びいろんな筐体を体験した。クレーンゲームは中々難しくコツを覚えるのに苦労したができるようになると簡単に取れるようになった。それぞれが欲しいものを取ってあげると練習の時間になりそうとかで皆と別れることになった。深次はそのまま別の場所に移動しようとすると背中に何かを突き立てられる。

 

「その感じだとアイツらみたいに遊んでくれないのか」

「いいや、遊んでやる。新一はゲームセンターを知らないようだからな」

「京、今の俺は深次だぜ」

「そんなことは知ったこっちゃねぇ。ついてこい」

 

 言われるがままついて行くとジャラジャラとメダルの音が聞こえてくるコーナーに連れてこられる。その中でスロットと言われる機械が並んでいる席に座らせられるとその隣で彼はレバーを叩いてボタンを押す作業を繰り返す。その流れを見て深次も真似をする。

 

「お前は名護新一の一部、それで間違いは無いんだよな?」

「ああ、名護新一と名護深次は同一人物だ。あくまでニアイコールだがな」

「それはお前らの人格が分離しているからか?それとも元々別々の存在だったからか?」

「前者だな。元々魂は一つで……って、その質問をしてくるってこたぁもう大体分かってんだろ。お前の推理ってやつを聞かせてくれよ」

「新一が人体実験──二回目の精神の方の実験の治療を受けた日以降、それまで見られなかった戦闘を愉しんでいるという記録や獣のような戦い方という記録がある。それはつまり一度失われた感情を奇跡的に取り戻した際に生まれてしまった新一の欠けた部分いや副産物、それがお前だろ」

 

 777を揃えた京君のスロットマシーンから大当たりの音が流れてくる。そのままレバーを押してボタンを押していく姿はまるでこっちの反応を見るまでもなく確信しているようだった。

 

「流石北の名探偵。その通り俺は新一の手術の時に生まれた存在、あいつの本来持つ闇の部分だ」

「闇……負の感情か?」

「近いな。負の感情という言い方も間違っちゃいないがどちらかといえば悪だろうな。新一が考える悪逆とした行為、それをやってみたいと考える人格部分だ」

「確かに悪っていった方が納得しやすいな。そのことについて新一は知ってんのか?」

「理解はしているみたいだぜ。一応アイツとの思考はリンクしているからこっちが拒絶しない限り思考は共有されている」

「今の会話も聞こえてんのか?」

「話したいか?別に構わねぇけど条件がある」

「何だ」

「この場から俺の体が離れないこと、それが絶対条件だ。ここを離れればすぐに主導権を奪って俺は逃げる」

「その方がお前にとって好都合なのにか?」

「逆に動かない方が都合がいい」

「いいぜ、その条件飲んでやるよ」

 

 大当たりの時間が終わったのか京君が筐体から手を離すと深次は指を慣らして僕に主導権を渡してくれる。手の感覚を確認するとしっかり僕の思う通りに動いてくれる。回っているスロットを止めると虎のイラストが三つ並ぶ。

 

「その感じだと本当に入れ替わったみたいだな」

「う、うん」

「レバーを倒してみろ」

 

 言われた通りにするともう一度スロットが回り始める。右側にはreplayの文字が書かれている。さっきと違う動きでスロットが回り始めたことからやり直しになったのだと推測する。

 

「なんか久しぶりに感じるな」

「僕も、なんだか体が僕のものじゃないみたい」

「面白いなそれ」

「………京君はさ、なんで深次をここに連れてきたの?」

「あの状況なら外で話すよりここで話したほうが逃げられないって考えたからだ。あとは俺が久しぶりにスロットやりたくなっただけ」

「…ありがとう」

「礼なんざ言わなくていい。それより深次はお前に取ってどんな存在だ」

 

 言葉に戸惑った。確かに行為は悪逆そのものがあったけどなんであの後にきたのがここなのかを僕なりに考えるとなんとなく答えが見えてきて悪というには違うように感じた。

 

「本当の僕なんじゃないかな」

「………」

「勿論主人格は僕だけど、きっと僕のやりたいことを素直に言えるのは彼だと思う。そういう素直さには僕がない。多分さっき京君が言っていた副産物とは違って、彼は本来僕が持っているはずのものを持っていてくれてるんだと思う」

「そうか。それじゃあ質問を変えよう。これからどうしたい(・・・・・・・・・)?」

「それは────────」

 

 本心を伝えると京君は納得した様子で何か考え込むように回るスロットを見つめていた。これは僕の問題で僕達で解決しなければいけない。そう思い今度は体の主導権を深次に譲り渡した。



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第九鏡 舞台を整えて

 案外あっさりと返された俺の体を軽く動かすと確かに動いた。スロットのボタンを止めると虎柄が揃って回転が再開する。

 

「入れ代わりまで習得したとはな」

「今までも出来てた………訳じゃないのか」

「そうだな。今まで一方的に奪ってたし何なら奪う側にいたからこそ出来ることだな」

「そうか」

 

 譲り渡すっていう方法を取ってきたのが想定外だったな。それに最後の会話が共有されなかったってことは遮断する方法まで手に入れたということか。まだこっち側の主導権は俺にあると思ってたんだけどな。

 

「意外だったか?」

「まぁな。でも相手は新一()だ。これくらいの成長スピードはあってもらわなきゃ困る」

「聞きたかったんだけどよ。お前いつから新一の立場が欲しかったんだ?」

「んなもん聞かなくてもわかるだろ」

 

 勢いよくボタンを押すと7が揃う。

 

「俺が目覚めたその時からだ」

「そうだよな。じゃないと滲み出たりしないもんな」

「そういうこった。ところでこの刃いつになったら引っ込めてくれるんだ?」

 

 話していて気づかないだろうとでも思ったのか数分前から刃物を首元に添えられている。それこそ滲み出ている隠しきれない殺気がある訳だから気づかないはずがない。

 

「あなたは新様ではありません。早くお返しくださいまし」

「どうせ聞いてたから知ってんだろ?切架、俺だって新一だぜ」

「だとしても、ですわ」

「お前は力づくの方が理解して……!」

「……!」

 

 相手になってやろうと立ち上がった瞬間動けなくなる。無論そこに俺の止まれという意志は存在せずむしろこれが生存本能というものではないかというくらいの意思に対する抵抗があった。止まれという意識とは別に逃げろという考えが大きくなってくる。この囲まれた空間ではそれが叶うことはない故に生存本能というのが沸き立てられたように感じる。

 

「お前ら揃ってこんなところで何やってんだよ」

「それはこっちのセリフだぜ天斗」

「何故貴方がここに」

「俺だってアミューズメントコーナーには顔を出すさ。ま、それより面白いもんが見れたけどな」

「新一、今はこいつに構ってる暇は」

「いや、アイツは俺の獲物だ」

 

 時間が経つと同時に生存本能よりも嫉妬や憎しみなどの負の感情が大きくなる。外に出ようという合図を受け取り全員で建物の裏までくるとある程度の距離を取る。徒手空拳の姿勢を取った天斗に対して同じように徒手空拳の姿勢を取る。

 

「俺と同じ型で勝てると思ってんのか?」

「全部がアンタの受け売りだと思うなよ」

「お前は新一の裏側っていった方がしっくりくるがその感情は新一にも存在しているからな。いわば陰っていったほうが正解か?」

「アンタに言われると腹が立つなぁ!」

 

 拳を打ち込むと簡単に止められる。二撃三撃なんて考えていない強力な一撃を打ち込んだはずなのに簡単に受け止められた。普通なら受け止めても反動が返ってくるくらいの威力のはずなんだけど。

 

「確かに新一とはちょっと違う。アイツが連撃型だとしたらお前は一撃型だな」

「分析なんてしてんじゃねぇよ気持ち悪りぃ!」

「でもお前でも俺には勝てそうにねぇな」

「戦闘中に怠慢を張るとは」

「別にぃ?ちゃんと覚えてたさ」

 

 俺を掴んでいる腕をそのまま後ろに振り回して夜架と激突する。狭い路地裏ゆえにすぐに壁にぶつかったが体制をすぐに立て直せた。

 

「退いてくださいまし!」

「テメェなんで水刺してんだよ!」

「あの方は私の敵でもありますわ」

「だとしても俺が戦ってんだ手ェ出してんじゃねぇ。次手ェ出したらタダじゃおかねぇ」

「そうだな、兄弟喧嘩に割り入るのはちょいと許されねぇよな。だからアイツらの相手を頼んだ」

 

 天斗の後ろから飛び上がった影は二丁拳銃を構えて乱射する。その射撃は精密な射撃により俺と天土には当たることはなかった。これだけの動きでどこからきたのかわかった。

 

「名護家の裏切り者か」

「正確にはその中の合格者だ」

その中の(・・・・)……?」

「ハズレは殺した。いても価値がないからな」

 

 ハズレと呼ばれた人が殺されたことに怒りは感じなかった。少なくともそのことに関して興味がなければ裏切り者が生きてたら何されるかわからないからな。それでも新一は怒っているようだが。

 ──深次

 いいてぇことはわかる。けどお前はお前の理由でキレてろ。俺は俺の理由でキレる。

 

「一応確認する。斬った感想は?」

「そんなものいるか?」

「ok、じゃあ死ね」

 

 目の前で近づき腕を掴んで空に放り投げた。そのまま殴りかかると体を捻って躱される。逆にそのまま腕を掴まれ回転を決めながら地面に叩きつけられた。顔面を踏まれるところを寸前で回避して距離を取る。そのまま殴り合いになるがお互い拳を受け止めては躱してを繰り返しだった。足を前に突き出してくるのが見えて避けると同時にポケットにしまっていたものをぶん投げる。

 

「ボールペンは武器じゃありませーん」

「何言ってんだ。文房具だって具って漢字がついてんだから武器だろ」

 

 ──暴論だよそれ

 

「我が弟ながら横暴だな。だがその戦い方は嫌いじゃない」

「それじゃあ二回戦と行きますか」

「続けんならすぐに終わらせるぞ。今日は久しぶりに羽目を外すか」

 

 ──何か来る、気をつけて!

 知るかそんなもん、何をしてくるかわからない。だからこそ先手必勝だと踏み込んだ。それが油断につながるとも知らずに。

 

制限解除(リミットブレイク)」 

 

 気がついた時には隣に奴がいた。目で終えた時には腹が破かれるんじゃねぇかっていうほどの痛みが伝わってくる。口の中に溜まる血が溢れ出て呼吸が苦しくなった。

 

「制限解除は元々俺のシステムだ。普段は人と同じくらいの平均の実力だと見せるためそれ以上の力で体が壊れないようにするためのな」

「グボッゲハッガハ………」

「でもあれから自分なりに研究を重ねた結果もはや必要のないものとなった。それでも何故制限解除って言っているかわかるか?」

「っ、知るかよ……んな、もん………」

「ブラフだよブラフ。初見殺しのためのコードなんだよこれは。身体が追いつかない残念なお前らじゃ一生到達できねぇ領域だけどな」

 

 止まらない流血を抑えるように口を塞いでもまだ血は出てくる。いまだにあの痛みは腹に残り続ける。すっきりしたとでも言いたそうな満面の笑みを浮かべた天斗はスキップする。

 

「おーい帰るぞ」

「よろしいのですか?」

「おう、邪魔が入らないようにしてくれてありがとうな」

「この程度いつでも」

「逃げますの!?」

「え、だってやること終わったし。あそうだ、早くしないとあいつ死ぬぜ」

 

 愉快そうに消えていくその姿を見ているうちに意識は消えていきやがて何もかもが真っ暗に包まれた。まるで俺が最初に見た景色のような暗闇に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新一が弦巻さんの家に運ばれたという連絡を受けて私たちは黒服さんたちに連れて行ってもらった。たくさんの機械と水色っぽい服を着た人たちに囲まれたところに新一の姿がある。タブレットみたいなものを持って歩いてくる快斗と京、そして見たことのない人がいた。

 

「えっとこれってつまりあれがこうでこれがってどういうことなんだ?」

「安心しろバカにはわからん」

「失敬だなお前」

「快斗これって」

「姐さん、とりあえず落ち着い」

「どっちでもいいから早く説明しなさい」

「今説明しようとしてたところっすよね!?」

「とりあえずここじゃ何だから違うところに行こうか」

 

 知らない人が先導して歩いていく。話を聞くと快斗に仮面ライダーの力を与えた開発者らしい。多分頭のいい人だというのはわかるけど今の彼の雰囲気からはそれが伝わってこない。なぜか喜んでいるような子供がおもちゃを見つけたような感じを醸し出している。

 案内された部屋にはスーツの男の人が数人が立っていた。確か新一とバンドをしていた人たちだから覚えている。でもその中の一人だけは完全に知らない人だった。

 

「さて、とりあえず座りたまえ、新一君の現状について話そう」

「彼は生きているのよね」

「そう……だね。今情報が入ったけど無事に第一段階終了というわけだ」

「第一段階?」

「彼の体は先の戦闘で腹部大動脈破裂していたが今しがた処置を終えたらしい」

 

 とりあえず助かったということだけはわかり安心した。でも言い方に引っかかりを覚える。

 

「次に何をするの?」

「第二段階、次は新一君の人格に対してアプローチをかけてみようと思う」

「外から同行できるものじゃないってこの間京が言ってたわ」

「間違いじゃないね。アプローチって言っても舞台を用意するだけだ」

「…どういうことですか……?」

「それに関しては我々から説明しましょう」

 

 スーツの人が手を挙げる。無機質な顔には覚えがあってキーボードを担当していたのを思い出した。

 

「一条は休みのためこの私橋本が説明する」

「はしもっちゃんもう嬢ちゃん達の前で素出したことあるんだからかしこまんなくてもいいだろ」

「馬鹿言え、場所を考えろ。説明するにあたって一つ確認しておくことがあります。現在名護新一の体には二つの人格が存在している、間違い無いですね」

 

 二つの人格、つまり新一と深次のことだろうか。見合わせて全員が頷くと間違いないと判断したのか話を続ける。

 

「フェーズ2は我が名護家の精神科担当の中本の開発により生まれた治療システムによって行われます。治療は彼が目覚めるまで行われると考えられます」

「じゃあ永遠に目覚めないっていうことは」

「それはないね。処置を終えたってことは今は安定期だ。だからいずれ目を覚ます」

「皆様が心配されるのもわかりますが弦巻家は世界最先端の技術を持っています。ですから安心してください」

「わかりました…」

「ではここからは私が説明させていただきましょう。先ほど紹介された精神科担当の中本です、どうぞお見知り置きを」

「それで、治療システムというのは」

「彼は今眠っている状態です。そこを利用して機械を通して彼の内部に干渉します」

「そんなことができるんですか!?」

「その理論を提唱したのがこの人なのでやってもらわないと困りますね」

「橋本さんそれの言い方は少し圧力が。ですがやってみせましょう。人の脳には電気が走っておりそれは特定の電流を流し神経を通して体全体に命令をしています。その電気を利用して干渉するのです。ですが最終的には彼自身にどうにかしてもらう必要があります。なので我々は舞台を用意するだけになりますが」

「その舞台っていうのは?」

「彼がイメージする景色が映りますが彼らが自分達なりに結論を出しやすい場所ですね」

「心象風景といった方がわかりやすいか」

「いや難しいだろ。ようはあれだろ?夢の中みたいな」

「その言い方が一番わかりやすいですね。夢の中で対話出来る空間をちゃんと設定するのが外部である我々の役割です」

「そんなことする必要があるのですか?」

「自身で設定した夢の空間なんてあやふやじゃないですか。逆に聞きますが皆さんは寝ている時に自分が夢を見ているなんて自覚ありますか?」

 

 そう言われると不思議と納得する。夢の中だなんてその時は常識のことだから意識の外にあるわけだから考えているはずもない。

 

「だからこそ外部入力という形で彼らに夢の中であること、だからこそきちんとした対話が出来るということを伝えることが我々の仕事なのです」

「なるほど、では具体的にどう対話させるのですか?」

「そりゃあ話し合いが一番ですけど今までのデータを見させてもらった限りで見れば殴り合いが一番でしょうね」

「えっ、夢の中で自分同士で殴り合うの!?」

「なんかすごい光景ね」

「信じられません………」

「まぁ可能性の一部ですから」

「坊ちゃん同士の殴り合いなんてそうそう見れるもんでも無いから俺は見てみたいけどな」

「どっちが強いのかは俺も気になるがそういっている場合でも無いだろう」

「少なくとも私たちはバイタルサインも見なければなりませんからね。あとは脳へのダメージも見なければなりません」

「大丈夫なのではないのですか?」

「本人同士の衝突なので最悪精神崩壊して廃人とかしてもおかしくないのでそのストッパーとして見る必要があるのです」

 

 難しい話をしていて頭が混乱してきた。

 

「とりあえずこの情報量を一気に詰め込むと頭がパンクしそうになるな」

「では簡単にまとめましょう。1、新一様の精神世界を作るサポートをする。2、新一様が壊れないように管理する。3、最後まで結果を見届けて現実を受け入れる。これが我々の仕事です」

 

 最後にしれっと新しいことを追加されたような気がするのだけど、それでも新一が戻ってきてくれることを願っていた。



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第十鏡 Ash like snow

今回は少し短めです。


 暗く深い場所にいる。地に足をつけているが体がふわふわ浮いているような感覚。手を伸ばせば何かを掴めそうな気がしても何かを掴めるようなわけじゃない。

 

「この感覚、まるでいつもの俺と同じだな」

 

 後ろを振り向けば腕を組んでいる僕が無い壁に寄りかかっていた。よく見ると右の髪の一部が朱く染まっていた。口調と態度からしておそらく彼だと確信する。

 

「ここは?」

「お前の心の中。正確にはちょいと違うが大体そんなもんだ」

「いつもの俺っていうのは?」

「お前が主人格の状態の時俺はこんな感じの空間に放り出されている感覚だ。それと同じってことだ」

「でも僕は君と入れ変わった時こうはならないよ」

「そりゃあお前が必死にこっちに訴えかけてるからだろ。一度落ち着いていればこの感覚をもっと早くに味わえた」

 

 つまり本来味わうことがなかったはずの感覚だということ。じゃあ別にいいんだけどもと思いながら話を続ける。

 

「二人同時にここにいるってことは体の方は」

「起きてねぇな」

「でもその様子を見るにいつもとは違うみたいだけど」

「ああ、寝ている状態ならいつでも俺が乗っ取れるからな」

「サラッととんでもないこと言うなぁ。それができないっていうことは?」

「きっと外部から何かしらの干渉を受けている」

「人の脳はいまだに謎だらけだからそんなことはできないはずだけど」

「だから偶然かもしれない。しかしそれを出来る人を俺たちは知っている」

 

 確かにそうだ。でも今干渉してきているのだろうか?これは僕の心の中の問題、他者が観測するのは難しく干渉することもできないはずだ。あたりを見ても真っ暗な景色のまま、彼は空気椅子にでも座っているかのように浮きながら座る姿勢をとっている。少し真似してみようかと動こうとすると空間に響くくらいのノイズが走る。

 

『………………』

「なんだ?」

『………z……h…w』

「声……?」

『………っと………るか?』

「この感じだと間違っていないようだな」

「だとしてもなんで」

「そりゃあライダー達が運ばれるところは一つしかないだろ」

「でも」

『繋がったみたいだね』

 

 聞き慣れた声が聞こえると上を向く。されど人の姿は見当たらず少し待っていてくれという言葉がまた響いてくる。面白いものを見ているような顔をしている彼を見ると舌を出して明後日の方を見る。僕達の間に割りいるようにモニターが現れそこに映し出される映像はプロフェッサーの顔を映し出していた。

 

『よかったよかった、見えてる?』

「お前の顔がきしょいくらいにな」

『失敬だな』

「カメラと至近距離とかどういう神経してんだよ。男にやられたら吐き気しかしないだろ」

『確かに………!』

「納得する前に説明してください。ここは一体」

『そこは君の心象風景、ようは夢の中だ』

「やはりそういうことか」

『今中本という人が機械を触って制御している。君につけた電極シールから脳に流れている電気を感知してこっちにモニターを通して見させてもらっている』

『名護さんが二人いますね』

『どっちが本物?』

『…本物は多分、あっち…です…』

『そうね、燐子の言う通りだわ』

『根拠は?』

『勘ね』

『……あっちの新君は……メッシュを入れてません……』

『あっ、ほんとだ!』

『よく見ると着崩してますね』

『他にも……』

 

 間違い探しじゃないんですよ。ほら、目の前の彼まで呆れちゃってるよ。もう少しシリアス感を出してほしいところではあるが外側がああでもないと冷静さを欠いていたかもしれない。

 

『話を戻そう。ようは君の頭の中をモニタリングしている状態だ。その上で君に伝えておく必要がある。ここはただの夢じゃない、だから十分に気をつけたまえ。その上で彼との決着をつけたまえ』

「深次と、ですか」

 

 黙って頷くプロフェッサーを見て考える。確かに彼との決着をつけるには十分なステージだ。だがその前にやりたいことがある。

 

『ここは痛みも実際にあるように作られている。だから君達が決闘でもしたら当然痛い思いをする。それでも肉体にはダメージは行かないようにする』

「器用なもんだな」

「でもその器用さでいろんな人の精神症状を救ってきた。今回は僕達の番ってことだよ」

「そいつぁ理解してる。でもその前に何かあるようだな」

「話が早くて助かるよ。とりあえず話し合おうよ」

「そうだな、互いの意見の底を見ないとな」

 

 深次が指を鳴らすと暗い世界は白を取り戻して世界を変化させる。襖と障子に囲まれた和室空間。僕達の間にあるのは将棋の碁盤と整えられた駒だ。深次は座ると肘掛けに頬杖をついた。

 

「どうした、早く座れよ」

「う、うん」

「対話するってんなら同じ卓に着くだろ」

「これは卓って言わないような気がするけど」

 

 互いにじゃんけんをして勝った方から駒を進める。深次が勝ったため歩を出して進めていく。将棋の駒を動かしながら話し合いを続ける。

 

「どうしてあの人を殺したの?」

「んー、人って言うのやめようぜ。アイツはファンガイアだ」

「それでも人と同じように生きようとしてたじゃないか」

「それがどうした。人として生きようとしている以前にアイツはファンガイアだ。そうやって自分を甘やかしているといつか戦えなくなるぞ」

「でも無益な殺生こそやめるべきだ」

「そう言ってあの蠍があれから人を襲ってないしこれからも人を襲いませんもちろん今まであなたに攻撃した分も謝りますって言ったらお前は攻撃しないのか?」

「ッ!」

 

 言葉に詰まる。当然そんなことはしないし見つければ確実に殺す。何よりそんなことを言われても必ず嘘だと言うしその証拠を集めようとするだろう。

 

「そういうことだ。お前がそうやって他のファンガイアを甘やかしていると蠍野郎に手を出すことすらできなく慣れば嘘すら見抜けないようになる可能性だってある」

「まさかそのために」

「勘違いすんな。あれはお前が絶望して主導権をこっちに譲り渡してもらうための算段だ。リサのことも同じようにな。ああやって周りから信用をなくせばお前は一人になって心も廃ると考えたが存外争い続けてきたもんだからな」

「そう易々と渡すわけにもいかないからね。それに主導権が渡らないのは君がしたことに怒りを感じているからだろうね。その感情が絶望と同じくらいあるからこそ抗っているんだと思う」

「なるほどな、ってこれじゃあ決着つかないな」

 

 残っている駒は王のみ。互いにしたいとうことはないからこそお互い王の駒を使ったがこれが自分自身だとも考えられる。

 

「問答はこの辺にして始めようか」

「だな。だがその前に決めておこうぜ勝った後のことをよ」

「どちらが主導権を握るかってこと?」

「そんなんわかりきってることだろ。俺はそれより先のことを話してんの」

「それより先………?」

「そうだ。例えば、俺が勝てばそのままリサを俺のモノにするとかな」

 

 言っていることの意味がわからなかった。理解するよりも先に怒りを感じるがそれを先走るものがいた。

 

『アタシはあんたのものになんかならない』

「リサ」

「そいつは残念だ。でもいいのか?俺はお前が愛した新一なんだぜ?」

『違う。あんたは新一の一部かもしれない。それでもアタシが好きになったのはあんたじゃない』

「あーらら。でも俺が勝てば手始めに堕とされんのはお前だ。どんな手を使ってでも屈服させてやる」

「君ってやつは」

「それでお前は?」

「?」

「お前は俺に勝ったらどうすんだよ」

 

 そんなこと考えていなかった。そもそも考えることすら必要がなかった、画面越しに見えるお嬢様を見て確信を持つ。

 

「またお嬢様の執事に戻りファンガイアと戦うだけだよ」

「いいのかよそんなんで。この機会に自由になるだのなんだのと欲がないのか?」

「欲ならあるさ。まだそれほどの実感はないけど」

「お前なら気づかなくても仕方ないか。だがそれで満足してたら」

「まさか、現状で満足なんてするわけないじゃない」

 

 そう、きっとあの人がくれる。あの呪いはきっとそういうものだ。その呪いにかけられた僕は好奇心というものが止まらないのだ。そういうものを捨ててきたはずの僕がそれを楽しみにしてしまっている。それこそが1番の呪いと言っても過言ではないだろう。

 

「あの人がこれから教えてくれるらしいからさ。だからその邪魔はさせない」

「フッ、この空間じゃいつもみたいに思考を覗けないから何考えてるかわからないと思ったもんだが、案外わかるもんだな」

「そう?」

「子供みたいな無邪気な顔をしやがって」

『新一』

「はっ」

『私の執事に敗北は許されないわ。これ以上言わなくてもわかるわよね』

「承知っ!」

 

 モニター画面が消えると雪のような灰が降り始める。あたり一面は雪景色のように変わっていることに気づくと現状を理解した。これは僕が心に根付いている景色なんだろう。そしてこれから決着をつけるんだ。

 

「全く、我ながらめんどくさいな」

「心象風景ということは僕の意識が景色として繁栄するということ、つまりもうやることはこれしかない」

「正確には僕達だ。当然俺もやることは決まっている」

 

 互いに抜刀の構えを取ると空虚に刀が現れる。夢の中なのだからイメージすれば何でもできるということだろうか。それでも互いに睨み合っている僕達は一歩も動かずしばらくの間動きを止めていた。

 

「一つ、伝えておきたいことがある」

「何だ」

「僕は勝っても負けても、君を受け入れるよ。君も僕の一部なんだって」

「逃げるための算段か?」

「違う、進むための決意だ」

「ハハッ、これで完全に覚悟が決まったというもの」

「互いに加減抜きで」

「真剣勝負と行こうじゃねぇか」

 

 再び刀に力を込めていつでも抜刀できるように構える。灰色の雪が積もり視界の半分近くを邪魔していくがそれすら気にならない集中力だった。

 

「「いざ尋常に──勝負!!!」」

 

 言葉と同時に重い金属音が雪原に響き渡った。互いの刃をぶつけ合う僕達の顔は満面の笑みだった。



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第十一鏡 Black or White

 新一と深次が戦い始めた。いつもの戦いでは見られない立ち回りをしている。互いが互いなためか全ての攻撃が防がれいなされまるで次の攻撃が何かを予測できているように動いている。

そうだ、そもそもアイツは世界最強の執行者と呼ばれる存在。俺達とはかけ離れた存在だった。今さら隠すことのないスペックを何故アイツは隠そうとする?いやそんなことは今はどうでもいい。今はどちらが勝つかそれだけだ。

 

「鳴海君、快斗、悪いが君達にお願いしたいことがある」

「なんだ」

「ファンガイアが現れた。ドーパントもだ」

「こんな時に」

 

 快斗が言いかけた時高城の表情が変わる。持っていた端末を少しいじると真剣な表情に戻る。

 

「お願いの変更だ。たった今先程現れたファンガイアとドーパントの反応が消失した。しかし防犯カメラの映像に名護天斗の姿が確認された」

「今度はアイツかよ!」

「現在彼に関する情報は少ないが街に被害が出たら危険だ。迎撃してくれ」

「分かった」

「勿論絶対ではない、危険だと思ったらすぐ撤退してくれ」

「うっす!」

 

 モニターに背を向けて扉の前まで行くと扉が開く。そこには切姫が立っている。いつもの制服姿じゃない、和服のような着物を着ている。まるでけじめをつけに行くかのように。

 

「一応聞くがなんのつもりだ?」

「私も名護天斗の討伐に」

「今回の任務は迎撃だ」

「私は名護家からその命も受けてますわ」

「そうか」

「止めたりしねぇのかよ」

「言ったところで命令があるんだ仕方ないだろ。それに」

「それに?」

「こいつが今それをやるべきって判断したんだ」

 

 俺が部屋を一歩出ると切姫が礼をするように少し頷いて振り返る。

 

「切姫さん、あなたもいないときっと新一は寂しがるわ」

「安心してくださいませ。私、あんな人に殺されるつもりなどこれっぽっちもありませんわ」

 

 扉が閉まると俺達は走ってバイクのあるところに向かった。どれだけのことができるかわからない。それでも新一が来るまで持たせてみせると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたどうした、そんなんじゃ俺には勝てねぇぞ!」

 

 嵐のような剣撃を仕掛けてくる深次に対して僕は防戦一方になっていた。剣技が速いわけではない。一撃一撃が重いのだ。気を抜いて防げば持っていかれそうになる。

 

「勝つ気あんのか?」

「当たり前だ!」

「だったらもっと本気だせ!」

 

 振りかざす一撃を回避して距離を取る。そのまま走り出してタイミングを伺う。少なくとも速さではこちらが上回っている。僕と深次が別れることで力とスピードそれぞれ分けられる。今までは二人が一緒だったから同時に出せたのだと気付く。斬り込みに行こうとすると肩に刀を構えた深次が下から振り上げ灰を舞い上げる。視界が灰で覆われる。目に入ることはなかったが姿勢を崩されたことで攻撃を出せなくなった。

 

「おらっ!」

「くっ!」

 

 ギリギリのところで回避した僕は刀を鞘に収めて居合の構えを取る。同じように構えた深次はニヒルな笑みを浮かべる。それでも知るもんかと突っ込むと深次は刀から手を離して服の内側へと手を入れる。取り出す前に斬ればいいと迷わず進むとあるものを目にしてすぐに刀を抜く。飛び出してきたそれは弾かれたが当たれば即死だった。

 

「なんだ対応するか」

「それはそうだろう。何故そんなものが君の服にあるんだ」

「そりゃあここは夢の中も同然なんだろ?だったらイメージすればいいじゃねぇか」

 

 拳銃をくるくると回して僕に見せつける。環境を先に理解していたのは彼のようだ。

 

「っ……」

「まぁ面白くないようなことは考えようとも思わないけどな。つかお前もさっきやってたろ」

「何を言って」

「普通あの距離で灰をかけられれば失明するかも知れねぇのに今見えてるじゃねぇか」

 

 そう言われれば確かにと納得する。無意識とはいえただの目眩ましとしか考えなかったことが影響してるのだろうか。理解したところで切り替えていこうと中段の構えを取る。

 

「それじゃあ再開と行きますか」

「今度こそ斬り伏せる」

 

 再び殺し合いが再開する。今度は僕が深次を追い込んでいく。僕の速さに対応していく深次はきっと慣れた頃に銃を出してくるはずだ。だからそれまでに彼を怯ませる。

 

「速さで追い込もうってのはいい判断だ。だけどそれだけじゃ足りない」

「そうかな?」

「俺はもう十分だ」

 

 想定より早い段階で反撃できたと考えたのだろう。僕の刀を防いだまま片方の腕で銃を構えたがそんなことは想定の範囲内だった。

 

「なっ」

 

 僕は左手で刀を持ったまま右手で鞘を握り深次の左手にぶつける。銃がこぼれ落ちた音がすると同時に左手の刀で押しきると距離を取られた。

 

「やってくれるじゃねぇか」

「戦場の経験は負けないよ」

「それなら俺も同じなんだよな!」

 

 再び刃が混じり合う。獣のような刃を弾いては振り下ろす刃を受け流される。変わらず降り注がれる灰の中で僕達のボルテージは上がっていく。

 

「お前が強くなれない理由は何だと思う。それは感情だ。楽しむという感情を押し殺し自分の使命を優先するお前は遊び心がないんだ」

「それは」

「そうだ俺が持っている。だからこそ俺の方が強い!技術だけじゃない人の本当の強さを持っている」

「僕にもあるはずの力だ。なら僕にだって」

「そんなこと言ってお前は何も感じていないだろ。それじゃあ一生俺には追いつけない」

 

 遊び心、確かに遠い昔誰かに言われた気がする。それは仕事ではいらないものとして捨ててきていた。けどそれを必要だと彼は言う。そんなこと知ったものかとも思ったが一理あると納得する。だからこそ出せる上乗せの力がある。それを僕は体験したことがあるはずだ。その時の頃を思い出すと体が少し熱くなるのを感じる。ならばならばと答えが出てくる。

 

「僕が勝って君を受け入れる。そして遊び心を手に入れる」

「俺のをそのままにしても意味はないだろ」

「勿論僕のものにしてみせるさ。あの時体験した感情による上乗せの力、遊び心を手に入れればきっとそれと一緒に他の感情も理解できるようになる」

「好奇心か?お子様だな」

「今はそれでもいい。僕は君を手に入れてあの方の元へと戻る。あの人の思いに応えられるように。だから君を倒す」

 

 ベルトを巻いてイクサナックルを掌にぶつける。すると深次も同じようにベルトを巻きつけイクサナックルを取り出す。

 

「いいねぇ、お前もわかってきたんじゃねぇの」

「そうかもしれないね。ついでにもう一つ言っておくと、不謹慎かもしれないけど、今この状況が僕は楽しくて仕方ない!」

「それが遊び心ってやつだ!」

「「変身!!」」

 

 同時にベルトにナックルを装填する。金色の粒子が形を取り僕達を包んでいく。その光が消えると僕の目の前には黒い戦の姿があった。こうして見てみると初めて見たかもしれない。まるで禍々しさを表したようなイクサの鎧。それでも勝つとイクサカリバーを構えると深次は自分のイクサカリバーを投げ捨ててフェッスルを装填する。天に掲げた手には剣の柄が現れ体験を振るい肩に乗せる。

 

「俺にはコイツが性に合ってる」

「《偽・星閃天装》か………いいよかかってきな」

「いくぜいくぜいくぜ!!」

 

 横に振り薙ぐ大剣を避けて攻撃しにいく。その大剣すら体の一部のように自由に動かし攻撃をいなしていく。普通に攻撃してもダメージは入らない。システムの設計上オルタナティブは防御力が低くされている代わりに攻撃力が上がっている。逆にいうと確実に攻撃を与えられれば大きなダメージを与えられる。だとしてもあの大剣をどうにかしなければ話は始まらない。そう思った時ある物が目に入る。

 

「まさか攻撃できないとか言わないよな!」

 

 振り下ろされた大剣は積もった灰をっかき分けて地面を砕く。それを避けて転がりながらもう一本のイクサカリバーを回収して左手で構える。

 

「人の落とし物使うたぁいい度胸してんな」

「落とし物なんでしょ?じゃあ所有者に返してあげないと!」

 

 即効で懐まで近づき腹を狙いにいく。それも大剣で防がれるも今までなら防がれると同時に飛ばされていたが日本あることで止まるくらいの力を出せる。そこから顔面狙って蹴り上げると深次の体が宙に上がる。すぐにフェッスルを装填して僕は弓を取り出す。地面につけて位置の固定をして狙いを定める。

 

「《偽・殲滅天使》標準固定(セット)

「終わらせねぇぞ…出力最大、エネルギー収束!」

発射(ファイア)!」

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 白い光の柱が伸びていく。深次を包み込もうとしたその光は拡散するように光の束をいくつも作る。やがて消えると深次は地面に叩きつけられる。それでもすぐに立ち上がり剣を構えた。

 

「馬鹿な」

「甘いんだよ。ベースの武器は一緒なんだやり方くらい知ってるだろ」

「だとしてもあれで防げるなんて」

「お前は《偽・星閃天装》の真価を理解しきれていない。ほうら続けるぞ!」

 

 既にボロボロのはずの体でさも無傷だったかのようにあの大剣を振るう。改めて理解する。目の前にいるのは只人ではない自分の理想だけを追い求めている一匹の戦人だと。それなら僕も同じだ。だからこそ勝たねばならないと力を込め直す。

 

「もうあの弓は使わせない。標準を定める前にお前を砕いてやる」

「ならその前に君を倒す」

「そんなことできると思うのか?」

「やらなきゃ君は倒せない」

 

 再び剣を振り斬りかかる。大剣で両手が塞がっている分動きに支障が出るだろうと考えもしたがそれ以上に体の動きでカバーしてくる。隙をついたと思えばあろうことか片手で大剣を振り回す。人間であることすら忘れているのではないかというくらいの力の使い方だ。そんな化け物に勝つことが出来るのか怪しくなってくる。それでも勝つのだと気を引き締め治すと賭けを思いつく。かなりのリスクを用いることになるがそれでもやってみようと二つの剣をガンモードに変えて構える。

 

「そろそろ終わらせようか深次」

「勝った方の人格が本物になる、俺らの感情をぶつける時だ!」

 

 銃を乱射して距離を詰めていく。そんな中来るのが分かっているだろうに技がバレやすいであろうカウンターの姿勢を取っている。銃弾はあくまでフェイクだとバレたかそれでも倒してみせると自分に言い聞かせスピードを上げていく。二天一流というほどの実力は持っていない。それでも剣なら上手く使いこなしてみせると二本とも横に薙ぐとカウンターと思っていたはずの攻撃の構えが解かれる。大剣を手放し手に構えていたのはイクサナックル。

 

『イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』

 

 防御の姿勢もできないまま体に撃たれるそれは体に重く響いてくる。気合いでイクサカリバー二つを胸の前でクロスするように持つと溶けていくのが分かる。きっとイクサシステムも同じようになっているだろう。装甲がひび割れていく音が聞こえ砕ける寸前の音が聞こえると攻撃が止む。

 

「今のを耐えんのかよ!それでも次で終わりだあああああ!!!」

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。身体中が攻撃の影響で痛い。剣は溶けてしまった。鎧はひび割れていく。自分の武器などもうないと思った瞬間二つも視界にあることに気づく。迫ってくる大剣、これをそのまま受ければ絶対に負けるだろう。正直現状負ける確率の方が高いだろう。

 

「だとしてもっ!!」

『《偽・星閃天装》』

「なっ!?」

「フェッスルってのはこういう使い方もあるんだよ!」

 

 フェッスルで呼び出した深次の大剣を手にしてぶん投げる。深次は即座に回避して体制を立て直すがすぐに蹴り飛ばしたため位置がずれる。

 

「そんなんで勝てると思ったのかよ!」

「いいや勝つさ。既に勝利は決まっている」

「そんなことが」

 

 嘲笑うかのような顔をした深次を光の柱が包み込んだ。この光ならきっとあの装甲は耐えられないだろう。十秒経った頃に光は消えていきボロボロになった鎧を着ている深次の姿が現れた。そこに座り込み無気力のように寝っ転がる姿は状況を理解できていないようだった。

 

「なん、で………」

「最初に奪った剣で弓の方まで投げた。当たるかどうかは一か八かだったけどその後に蹴り飛ばして射線上で立ち上がった時に見たら射出口に光が収束していた。君の鎧じゃあの弓の威力には耐えられないだろう」

「くそ、最初の二刀流はブラフか」

「いや本気だったよ。それでも剣に固執せず必ず倒すことしか考えてなかった。そしてなにより、意地でも勝ってやるって気持ちが勝ったと思う」

「ああそうかよ。ならお前の勝ちだ」

「ありがとう。そしてさよなら」

 

 もう一度大剣を呼び出しすぐに剥き出しの肉体に大剣を振るう。戦場と同じように、躊躇いを消してすぐに命を取る。灰が降り止むと徐々に意識が消えていく感覚がした。



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第十二鏡 黄昏時

今年最後の投稿です。


「そこまでだ名護天斗!」

 

 現場に到着すると黒いスーツの男が二人血を流して倒れており片方の上に奴は座っていた。ドーパント共がいたせいか回りに一般人はいないのが幸いだった。

 

「なんだ、やっぱ新一はいねぇのか」

「新一さんは休憩中だ。だから今は俺たちの相手をしてくれよ」

「別にいいけどよ。アイツいねぇと準備運動にもならねぇぜ?」

 

 出される威圧感が違う。あの余裕そうな面を見ると身体が強張りそうになる。無理矢理にでも動かそうと気合いを入れ直す。

 十分後、俺達は満身創痍に近い状態になった。俺がなんとか立ち上がれるだけで他の二人は動けなくなっていた。

 

「ただの人間に負けるとはどういうこった」

「こんなのが人間なわけねぇだろ…」

「ハハハ、確かにな。でも俺お前には期待してたんだぜ?鳴海京」

「………」

「この中でならお前が一番やれると思ってたんだけどな」

 

 余裕を見せるアイツに苦し紛れに銃を撃つがあたりやしない。そのまま気合いで立ち上がり銃を投げつけるが軽く躱される。だがそれでよかった。一瞬でも隙を作りたかったから。

 

「鉄砕拳・骸の型!」

 

 骸骨を作り出し弾丸のように拳から撃ち出す。だがそれも虚しく刀で軽々と弾かれてしまった。

 

「この技、俺もやってみてぇな」

「なっ」

 

 そう言って奴がとった姿勢は俺が読んだ書物の構えそのままだった。かなりの圧を感じる。すぐに骸の盾を用意すると衝撃の塊がやってくる。

 

「鉄砕拳!」

「ぐっ……!」

 

 両手で防いでも押し負けそうになる。ただ耐え切ることは出来そうだったからそのまま受け流そうとすると目の前に影が現れる。もう一度同じ姿勢をとった天斗の姿が目に入る。

 

「鉄砕拳・零」

 

 今度は盾との間など無いに等しいゼロ距離で打ち込んでくる。当然そのまま防ごうとするが奴の威力は凄まじく骸の盾は砕かれたガラスのように崩壊した。反動で隙だらけになった俺はそのままエルボーを決められて二人の方へ飛んでいく。

 強すぎる。人の技を見よう見真似で使えるくせにそのまま力を上乗せしてきやがった。新一が一瞬でやられるのも納得がいく。

 

「やっぱ新一連れてくるべきだったんじゃねーの?」

 

 手を叩く名護天斗はまるで仕方なくやった仕事を終わらせたかのようにつまらなそうな顔をしていた。前々から思ってはいたが生身でライダーシステムとやりあえるってどういう神経だよこいつ。

 

「夜架ちゃんはともかく仮面ライダーのお前らには期待してたんだけどな」

「くっ……」

「じゃ、まずは一番ハズレのお前から殺すか」

 

 刀を一振るいして切姫の腹を踏みつける。グリグリと腹を抉るようにして切姫の悲痛を楽しんでいる。

 

「その声新一にも聞かせてやりたかったぜ。安心しな、新一もすぐに送ってやるから」

「私は……あなたなん……かに………」

「あの世ならお前の望みも叶えられるだろ。だからこのまま死んだ方が得だぜ?」

「それでも……私は………!」

 

 せめてもう少しだけ時間を稼ごうと動こうとするが体が言うことを聞かなかった。すまん新一、俺のせいでーーーー

 そう思った瞬間、必死の抗おうとしている切姫目がけて振り下ろされる刀が甲高い音を立てて止まる。誰かが奴の刀を受け止めている。天斗が目を見開いたがニィと口を歪ませて力で押し切ろうとするが割って入った者によって押し返される。ついでに斬ろうとしたのか横に振った剣はバック転で躱されたが余裕そうな態度ではなく戦闘態勢を構えていた。

 

「ごめん夜架ちゃん、二人とも。ーーお待たせ」

「たっく、遅えんだよ!」

「ナイスタイミングです!」

「新様!」

 

 この状況を挽回したのはさっきまで寝ていたはずの新一だった。どこかスッキリしたような爽やかな雰囲気を纏っている。俺達が知っている新一らしい姿だ。

 

「なんだ生きてたのか」

「死んだ扱いしてたのか?」

「コイツらが休憩中だのなんだの言ってるから隠してたのかと思ったぜ。それにあの時撃ち込んだ一撃は早々痛みが取れるものでもないだろ」

「新様まさか無理して」

「まさか。コイツに食らった痛みなんてすぐに治るよ」

 

 普通に動けると様々な動きをするが多分無理していると思う。ブラフになるかもわからないがそれでいいならそれを信じようと考える。

 

「てかもう一人のお前はどうした?ちゃんと殺してきたか?」

「ちゃんと殺してきたよ。だからここにいる」

「そうか、残念だ。アイツの方がお前より楽しみがいがあったんだがな」

「そっか、なら仕方ないね。だが生憎楽しんでもらうつもりはない」

『レ・デ・ィ』

「変身」

『フィ・ス・ト・オ・ン』

 

 イクサシステムを纏った新一はバーストモードへと変化して中段の構えをとる。剣の鋒で天斗を見据えていつも以上の殺気を放つ。まるで全ての憎悪を奴にぶつけるような勢いで。なのに俺達が飲み込まれそうになることはない。殺気の当て方が上手くなっている。あの後一体何があったんだ!?

 

「ここで死に晒せ」

「お〜怖いねぇ」

「さぁショウタイムだ!」

 

《ここからは『R』を聴きながら読むことをお勧めします》

 

 そのまま跳んで攻撃をしにいくのかと思いきや天斗の前で着地して剣を振り上げる。回避されたかと思えばまとわりつくように体を動かして攻撃を続ける。その戦い方はまるで獣のような戦い方いや、深次の戦い方そっくりだった。力で一度押し勝つと今度は型に嵌めた様な剣の動きになる。真っ直ぐな動き方はまさに新一の戦い方。二人分の戦い方が交差しながら天斗に襲い掛かる。

 

「やけっぱちになったわけじゃ無いよな?」

「違う。あの動きはちゃんと自分なりの戦い方を理解している」

「ではあの新様はどちらなんですの!?」

「どちらかじゃねぇ、どっちも(・・・・)だ!」

 

 新一と深次、二つの魂が合わさった一つの存在として攻撃を繰り出す。今まで分裂していたものが一つになり可能性が一つから二つへと増え続けるようにアイツの中での変化は底知れない状態になっている。

 

「なるほどなぁ文字通り受け入れた(・・・・・)ってことか!」

「それを知ったところで!」

「チッ」

「今のお前に対応出来んのか?」

「深次…!」

「僕達は貴様を超えて奴を倒しにいく。だから終わることなど許されない!」

「忘れたのか新一、深次はお前にとっての闇だということを!」

「覚えているさ。されど僕は彼であり」

「フン!」

「コイツは俺だ」

 

 剣を振るう新一は深次と交差するように言葉を連ねていく。まるで二つの意思は常の同調している様に

 

「たとえどんな奴が来ようとも 正しい道を選んでみせる」

「チッ、やりづれぇ!」

「その間に出てきたものがどんなものでも 一つずつ繋げていけば 折れない翼へと育つ!」

「本当に覚醒したってことか新一。面白くなってきたぜ!」

「貴様との因縁もここまでだ!」

 

 新一の攻撃が激化していく。新一のように隙を作らせない速さと深次のような荒れ狂う強烈さが連続して攻撃する。全て防いでいるように見えたが少しずづ押していっている。全員で声を上げるとそれに合わせて新一も攻撃を増していく。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 地を揺らすような轟音が聞こえると新一のいた場所が土煙で見えなくなる。やがて土煙が晴れると天斗の姿がなくなっていた。どこだと辺りを見回すと建物の上から俺達を見下ろす影があった。一瞬であの場所まで行ったわけじゃ無いだろうが余裕そうな顔で俺たちを見ている。

 

「ヒヤヒヤしたぜ。だがこれでやっと戦えるステージまで上がってきたな新一」

「詰めが甘かったか」

「制限解除ってのはこういうふうにも使えるんだ。後の三人はまだまだだ。だが新一覚えとけ、お前もまだ俺と同じレベルでは無いということを」

 

 そう言って姿を消した名護天斗を誰も追おうとはしなかった。残りの体力を振り絞り全員集合すると地面に座り込む。

 

「なんとかなったね」

「惜しかったっすね。見ててちょー悔しいっす」

「それは新様が一番だと思いますわ」

「まぁね。でも今は間に合ってよかったと思ってる」

「本当に吹っ切れたんだな」

「お陰様でね。皆ありがとう、こんなに危険だとわかってたのに気遣ってくれて」

 

 苦笑いするも仕事だからという理由で全員が片付けた。だが全員名護天斗から受けた傷は思ったよりも大きく安静にしていてもかなりの激痛が襲ってくる。

 

「鳴海様は大丈夫なんですの?あれだけの技を食らって」

「そうだ、骸骨砕かれたろ」

「骸の盾壊されちゃったの?」

「ああ、おかげで反動ダメージまでくるが仕方ないだろ。あとここまできたせいで動けなくなった」

「あっはっは。全く京君も人のこと言えないなぁ。無理するなとかさ」

「そういう新様はかなり無理してるんじゃないですか?」

 

 急に笑いを止めた新一は笑顔のまま口から血を流す。状況を見てわかった。コイツ無理どころか目を覚ました瞬間急いできた上にあれだけの動きをしたことで傷口が開きやがったと全員が察した。

 

「先に逝ってる。せいぜい頑張って」

 

 バタンと倒れた新一の顔色は悪くなっていく。

 

「おい、それ言えるのは戦ってる時だからな!絶対今じゃないからな!」

「先輩早くきてください!メディックメディーック!」

「新様ー!新様ー!お気をしっかりなさってくださいましー!」

 

 さっきまで気を失いそうなくらい体力がなくなっていたのが嘘のように全員が慌てふためた。すぐに黒服の人達が現れてもれなく全員弦巻家の医療施設に放り込まれる羽目になり絶対安静が解かれるのに仲良く三日間もかかった。

 絶対安静が解かれた一週間後俺らは退院した。病院食は不味いって聞いたけど俺達の場合完全に栄養管理がされていたのでそこまで不味くはなかった。好き嫌いをする奴がいたから無理やり食べさせたり暇な時間をトランプで潰したり、しばらく戦いを忘れたような生活を送っていた。そして退院した翌日の放課後サークルに集まったRoselia +退院組が集まった。

 

「姐さん久しぶりっす!」

「久しぶり〜ってそうじゃないよ大丈夫だったの!?」

「ゆーて俺らも鍛えてるしな。舐められてたのもあるのかも知れんが打撲が多かった。全員ヒビまでは行ってなかった。一人大動脈出血起こしかけてた奴いたけど」

「それ以上言うんじゃない」

「自覚があって何よりですね。大道さん、担任の先生から課題を預かっていますので後でお渡ししますね」

「げっ、なんで俺だけ」

「数学の小テストに出席していなかった分だそうです」

「ふざけるな、ふざけるな、バカヤロー!」

「誰に向かって言ってるのかはっきりお願いします」

「あっ、すみませんでした」

「あやまるのはやっ」

「新一さん助けてください」

「紗夜さんが教えてあげたらどうですか?」

「それもいいかもしれませんね」

「えっ」

「切り替えろ、一回真面目な話するぞ」

 

 雑談をしていた中、京君が指パッチンすると全員の意識が切り替わる。議題は勿論新一についてだ。

 

「結論から聴くか、どうなった?」

「えーっと、共存してます」

「共存?」

 

 聞き返すと深く頷く。言っていたことを実現させたのだと感心すると同時にリスクについて考える。

 

「深次と一緒ってこと?」

「うん」

「でもそれだと乗っ取られるリスクがあるじゃないですか」

「そういやあの戦い勝ったのは新一さんでいいんすよね?」

「そう…です……」

「なら契約かなんかあるんじゃねぇか?」

「ただで野放しにしてるわけでもないだろうしな」

 

 あははと苦笑いする新一は指を三つ立てて話を続ける。

 

「一、知識や記憶を共有すること。二、許可無しに表にでないこと。三、迷惑をかけた人に謝ること今後迷惑をかけないこと。以上三つを契約内容にした」

「なんか意外と簡単すね。そんなんでいいんすか?」

「受け入れると決めたからね」

「新様らしいですわ」

 

 全員納得すると新一は指を鳴らす。するとカクンとシャットダウンしたように首が下を向いた。すぐに面をあげるが気まずそうな表情をしていた。この感じだと変わったと思われる。

 

「深次の方の名護さんで間違いないんですよね?」

「その言い方されると面倒だがその通りだ」

「じゃあ許可が出たってことか」

「契約内容の執行だがな」

(早く謝りなさい)

「へいへいわかってますよ」

 

 まるで独り言のように喋っているが新一と会話しているということが伝わってくる。歩き始めるとまずは氷川のところに行った。

 

「……悪かったな。いくら練習のためとは言え力加減をしなくて」

「いえ、こちらも見抜けなかった落ち度がありますので」

「お嬢と燐子も悪かった。新一の体で遊びすぎた」

「別にいいわ、あなたも新一だもの」

「私は……許さない…」

 

 驚いた。てっきり白金も許すもんだと思っていたから動揺する。

 

「新君と同じでも……やっていいことと悪いことがある…………だから、それがわかるまで、私は……許さない……」

「……わかった」

 

 白金のところから離れると今度は今井のところに行く。当然今井も深次のことを睨んでいる。

 

「お前が新一に対してどんな感情を抱いているかを知った上で取った行動全てに対して謝罪する。すまなかった」

 

 深々と頭を下げているがそれでも今井の口から出たのは許しではない。

 

「絶対に許しはしない。あんたのせいで友希那と喧嘩したり皆に迷惑かけた。でもそれはちゃんと気付けなかったアタシも悪い。だからおあいこ……ってことにしよう」

「……」

「それでいいのか今井」

「ホントはもっと言いたいこともあるけど、でもこの人も新一だから」

 

 そうかよと一言小さな声を出すと目を瞑った。目を開くと新一らしい穏やかな目に戻る。

 

「ごめんリサ、気を遣わせちゃった」

「いいの。今回はアタシにも非があるから」

「ま、こんくらいにしとこうぜ。これ以上はきっと清算しきれないだろうしな」

「それが一番ですね」

「それじゃあ今日は解散にしましょうか」

「じゃあ総決算終了ってことで」

 

 一息ついて外に出ると意外な人物が目の前に現れる。そいつは息苦しそうにしながら手を伸ばした。

 

「ここにいたのか、京」




一年間ありがとうございました。来年には二年生編はきっと終わってます。これからも何卒よろしくお願いします。では良いお年を


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第十三鏡 帰宅したけどしたけどなんかお嬢様がおかしい

 今にも倒れそうだった彼を見て京君は動じずに立っているだけだった。ただ向けている目だけは今までのように憎悪を含んだものでもなく冷たい目だった。

 

「やっと見つけたぜ」

「何の用だ」

「お前らに言わなきゃいけないことがある。園崎の奴らが……」

 

 何かを言いかけたところで皇は倒れた。回りの皆は慌てていたが京君は妙に冷静だった。まるで知っていたかのように意識確認をしている。

 

「どうするの京君」

「何がだ?」

「その人はいわば敵なわけだけど」

「それで?」

「…いや、君に任せるよ」

 

 その後京君は快斗君に弦巻家の医療機関に運ぶように指示した。快斗君は当然納得いかない様子だったが渋々といった様子で受け入れてくれた。無理もない。その間まで敵だった人を治療しろと言う方がおかしいだろうし、それを受け入れるのも迷いがあるものだ。

 とりあえず今日は解散にして明日病院集合になった。夜架ちゃんがりんりんと紗夜さんを、僕がお嬢様とリサを送る形になった。帰り道は特に会話することもなく家の前に着く。

 

「昨日も思いましたけど新鮮な感じがしますね」

「約二週間帰ってきていなければそうかもしれないわね」

「ねぇ新一」

「何?」

「本当に新一に戻ったんだよね?」

 

 その顔はまるで怯えている中人を信じようとしている子供の顔と同じだった。人に裏切られる、そんなことは今までもあったのだろうがリサにとってはそれ以上のダメージを受けたのだろう。だからこそ今僕に怯えている。

 

「大丈夫、僕が完全に主導権を握ってる」

「深次が騙したりしてるわけじゃないよね?」

「彼はあんなでも僕だから。通すって決めたことは曲げないんだ。それに僕の一人称は僕しかあり得ないでしょ」

「そうだよね…そうだよね……!」

 

 頭を撫でると飛びついてしっかりホールドされる。話そうとするが何もしても離れる様子はなかった。お嬢様を見ると目をつむって見ていないふりをしている。仕方ないのでしばらくこのままにしていると五分くらいして離れた。その際に顔を隠しながらまた明日と言って家の中に入っていった。僕達も戻ろうと湊家に入ると後ろから抱きしめられる。

 

「お嬢様?」

「全く、あなたはいつも無茶ばかりして。今度という今度は本当にヒヤヒヤしたわ」

「面目ありません……」

 

 顔は見えないがいつも通りの口調で話しているからか安心しそうになる。それでも僕を逃すまいと抱きしめてくる手は少し力強かった。

 

「相談もせずに抱え込んで………」

「申し訳ございません」

「今は敬語なしにしなさい」

「………ごめんなさい」

「本当よ………」

 

 結構心配させてしまったのでは無いかと申し訳なさを感じると余計に力が強くなった。心配してくれるのは嬉しいのだが少しばかり痛みを感じてくるようになる。その力も不安からくるものなのかは分からないが手加減をしているのか分からないくらいに強くなっていた。

 

「ところで新一」

「はい」

「誰の許しを得て他の女の頭を撫でているのかしら」

 

 背筋が凍るくらいに寒くなる。おかしいさっきまでそんなに気温は低くなかったはず。それに厚着を着ているから寒くなるなんてことはない。必死に自分を誤魔化そうとすると背後から憎悪に似た気配を感じる。

 

「お話が必要かしら?」

「今後勝手な行動は着替えるように努めますので此度は見逃していただけると」

「駄目よ。今すぐリビングでお説教よ」

「やはりお説教なのですね!お話とか言っておいてお説教なのですね!?」

 

 結局その後お嬢様からお説教を一時間ほど受けて解放される頃には日は沈みかけていた。罰というわけではないが今日はお嬢様の好きなものを作って食べてもらおうと買い物に出た。商店街に入るとこっちに向かって二人の少女が歩いてくる。

 

「シンさん!あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!」

「名護君あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします」

「明けましておめでとうございます。今年もよろしお願いします。イヴちゃん、白鷺さん」

 

 金色の髪の少女と白色の髪の少女が並んで挨拶をしてくる。今年初めて会ったわけだから新年の挨拶をしてくるのは当たり前だ。なのでこちらも同じように返す。

 

「今年もブシドーを励んでいきます!」

「それは凄い。アイドルと勉強と部活とって大変かも知れないけど頑張ってね」

「はい!」

「名護さんは何故ここに?」

「今からお買い物をしようと」

「今日の夕飯かしら?」

「ええまあ………」

 

 具材としては家にあるものでどうにかなるはずだった。お嬢様の好きなものを作るために出てきたのもあるが念のため冷蔵庫の中身を確認してみると調味料以外何も入っていないレベルだった。僕が入院している間何を食べていたのかを聞くと弦巻家から宅配サービスがあったとか。リサとの関係も考えてくれていたのだろう。そのお礼もしなければならないと考えつつ今日の夕飯と一緒にお嬢様でも作れる料理の具材も買いに来ていた。

 

「そういえば快斗が一週間くらい来ていないのだけど何かあったのか知ってるかしら?」

「少し弦巻さんの家で忙しかったみたいですよ」

 

 嘘はついていない。原因は僕だけど。

 

「そうなの。少し残念だわ」

「何かあったんですか?」

「いいえ、大丈夫よ。心配ありがとう」

 

 白鷺さんも快斗君のことを心配していたのだろう。やっぱりいい人だな。

 

おもちゃがいないと面白くないわね

 

 ………聞かなかったことにしよう。

 ──この女割と面白そうじゃねぇか。

 変なこと考えてないよね深次?

 ──いや別に。表に出られない分おもしろ計画考えるのは自由だろ。快斗って犠牲者が出るのは免れないだろうけど

 その作戦実行はNGね。内容だけ後で教えてよ。

 ──はいはーい。

 

「イヴちゃん達は何をしていたの?」

「今日はお仕事もお休みなので少しお茶を飲んでいました」

「そっか、じゃあ今は帰りかな」

「そうです!」

「それじゃあもっと暗くなる前に早く帰るべきかな」

「それもそうね。時間をいただいてしまったわね」

「いえいえ、この程度問題ないので」

 

 手を振って別れると数秒後、後ろから悲鳴が聞こえてきた。錠前は鳴っていない。後ろを振り向くと同時に横を風が通り過ぎていく。イヴちゃんがこっちに走りながら大きな声をあげる。

 

「ドロボーです!」

 

 成程、だから今風が過ぎていったのか。後ろ姿はいまだに見えている。思ったより追いつけそうな距離にいる。黒い帽子に黒いジャンパー、犯人あるあるみたいな格好をしている。手には学生のカバンがありイヴちゃんの手にはそれがない。状況に納得が行った。

 ──追いかけるのか?

 まぁ病み上がりの復帰チャレンジにはちょうどいいんじゃないかな。

 ──じゃあやってみようぜ。多分余裕で捕まえられるぜ。

 

「ちょっと荷物みててもらってもいい?」

「何をするつもりなの?」

「少し追いかけっこをしようかと」

「シンさん?」

 

 軽く二、三回ジャンプして走り出す。全速力を出さなくても追いかけられる速さだったためかすぐに背中につくことが出来た。そのまま横に出て回し蹴りをすると腹にダイレクトに当たる。手からカバンがこぼれ落ちそれをキャッチすると犯人は背中から倒れてお腹を抱え込む。

 

「な、何やってるんですかあなた!?」

「犯人の確保と奪われたものの回収……です」

「それは見ればわかりますけど、でもこの人大丈夫なんですか!?」

「一応手加減はしてますしそのうち起き上がるとは思います。あ、イヴちゃんこれ」

 

 強奪したカバンを差し出すとすぐに手に取ってぎゅっと抱きしめた。そしてそのカバンを落として抱きついてくる。今日はよく締められる日だな。

 

「ありがとうございます!やっぱりシンさんはすごいです!」

「そんなことないよ。それに今のだって運がよかっただけで」

「名護君後ろ!」

 

 解放されていた左手を後ろに伸ばすと拳が当たる。そのまま犯人は倒れると今度は目を回して動かなくなった。多分気絶しているだけだろうと判断するとすぐに警察が駆けつけてくれた。そのまま運んでいくと周りにいた人も去っていく。

 

「名護君って本当に凄いわね」

「シンさんはブシドーの師匠ですから!」

「やっぱり今度ちゃんとしたの教えたほうがいいかな………」

 

 とりあえず今日は解散になり後日お茶しようという話になった。そのまま食材の買い物を済ませて湊家に帰宅する。慣れが戻ってくるのに後少しかかるかもしれない。家に入り冷蔵庫の中に食材をしまっていくとお嬢様がキッチンに入ってくる。ちょうど全ての食材をしまうと冷蔵庫の扉をバタンと閉められる。感謝を告げようとすると睨まれる。というより目にハイライトが入っていないように見える。

 

「どうして買い物に行くのに別の女の匂いがするのかしら?」

「僕が不在の間どうしてキャラが変わっているのでしょうか?」

「私の質問に答えなさい。どうしてそこまで他の女の匂いが強いのかしら」

 

 致し方なく事情を説明すると不承不承ながらといった感じか許しをくれた。ただしこれから数日は買い物に行く際に同行するという契約を持ちかけられたが。一体どうしてこんなふうになってしまったのやら。お嬢様がお風呂に入っている間に夜ご飯を作りながら紗夜さんに電話をしてみた。きっとあの人なら正しく分析出来るはずだと。

 

「ということがあったんですよ」

『確かにここ一週間近く練習は集中しきれていませんでしたね』

「食生活は守られてたんですよね?」

『弦巻さんのお家にお世話になっていたみたいですから。しかし名護さんがいなかった分何か生活に影響をもたらしていたのかもしれません』

「例えばなんですか?」

『そうですね……いつもいる人が急にいなくなる感覚に近いでしょう』

 

 確かにそれなら納得できると思った。それでもあそこまで束縛的になるのだろうか。

 

『湊さんは日常会話でまだ感情表現が苦手なんだと思います』

「確かにと言いたいところですがあそこまでやられると流石に驚きを隠せません」

『何があったんですか』

「ハイライトが消えていました」

『大体わかりました』

 

 本当にこの言葉便利だな。理解したことを証明出来るし会話のテンポがいい。それが故に適当に流すことも可能なのだが。

 

『おそらくですが数日あれば治ると思いますよ』

「まるで治療のようですね」

『大して変わらないと思いますが』

「そういうことにしておきましょうか。どうすれば早く治りますかね」

『なんとなくで申し訳ないのですが危険を感じたので電話を切らせていただきます』

 

 プツッと電話が切れてスマホの画面を確認すると通話終了の文字が出ていた。直後扉をノックする音が聞こえた。扉を開けるとお嬢様が腕を組んで佇んでいた。不機嫌な顔というわけでもなく不気味な笑顔をしているわけではない。

 

「いかがなさいました?」

「他の女の気配がして」

「ご冗談を」

 

 部屋の壁なおかつ電話越しの気配すら捉えられるのかこの人。本当に一体何があったのか疑問でならない。

 

「さて、夜ご飯にでもいたしましょうか」

「その前に少しいいかしら」

「構いませんが」

「敬語やめなさい」

「……構わないけど」

 

 やはりこの人に敬語を外すと変な感覚になる。それでも命令ならと敬語意識を外すと胸の中に飛びついてきた。しっかりホールドして来るわけでもなく離れようとすることもない。ただ胸の中に飛び込んでくるだけだった。どうするべきかと考えるとお嬢様が話し始める。

 

「一週間会えなかった」

「は………?」

「あなたの料理でないと満足できなかった」

「あ、ありがとうございます………?」

 

 ポカポカと弱い力で叩いてくる。こういう時どうすればいいかわからない。あの頃は小さい子供相手なら頭を撫でれば大抵はどうにかなっていた。夜架ちゃんなら自分で頭を差し出して来るくらいだった。この人にも同じようにするべきなのだろうか。ふと考えるのをやめて優しく包み込むように体を抱き寄せて頭を撫でようとすると手が動かなくなる。

 

 

 この手で触れていいのだろうか。

 

 

 ふとそんな疑問がやってくる。いろんな考えが頭の中をよぎった。それでもこの人が今求めているのはそういうことだ。だから今僕は戸惑っているべきではないと彼女を抱きしめて頭を撫でる。

 

「……これで…どう………?」

「今回は許すわ。だからもう少しこのままでいて」

 

 どうやら及第点は貰えたらしい。それでも僕の手は汚れていることに変わらない。そんな手でも受け入れようとしてくれているのだ。でもきっと、本当はこんな手を望んでいないのかもしれない。そんなことはないと言われようとも僕は唯一信じられないところだ。それでも今だけはこの人の願いに応えたい。──僕は今、どんな顔をしているのだろうか。



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第十四鏡 鳥が運んできたもの

 昼下がり、ライダー三人は病院に呼び出される。皇獅郎の容態が回復したとのことだ。夜架ちゃんは別の案件で来ることは叶わなかったが皇のことなら三人で事足りるだろうとなった。隔離されている病室に入ると壁から鎖で繋がれた手錠をした彼がヘッドの上に座っている。病衣になっていることから最低限の装備しかしていないことがわかる。

 

「よぉ、揃い揃ってんな」

「どうやら本当だったみたいだな」

「まぁ……な」

「どういうこと?」

 

 京君は入り口近くにあった椅子を取ってきて膝を組んで座る。僕達も同じように椅子を取ってくると話し始める。

 

「今年に入ってからこいつと話すことがあってな。どうやらその時より悪化してるようだな」

「悪化?」

「もしかしてメモリの副作用か?でもコイツは」

「その通りだ」

 

 皇はナスカメモリを使用し続けレベルを上げていった結果それに伴って毒素が強くなっていき彼がつけているドライバー、ガイアドライバーの毒素の除去可能範囲を越えてしまったらしい。ガイアドライバーにもロストドライバーと同じ効果があったことから開発元は同じではないかと考えられる。

 

「待って、そしたら二人が使ってるドライバーって」

「そうだな。それは俺も思った」

「なんのことっすか?」

「話の流れでわかれよバカ」

「お前っ、人が手を出していないからってコノヤロウ……」

「捕虜ってわけじゃないけど手を出しちゃダメだからね」

「覚えとけよ…」

「話を戻すぞ。二年前に俺がライダーになったそれよりも前にコイツがベルトを持っていた。快斗、お前がライダーになったのはいつだ?」

「一年半前……まさか!」

「その通りだ。コイツのベルトの正体は俺達のロストドライバーの原型だ」

 

 やれやれとでも言いたそうな仕草をする彼は再び口を開く。

 

「そういうこと。つまり俺のドライバーはお前らのドライバーのプロトタイプだ」

「じゃあその設計図を手に入れた人が京君と快斗君のドライバーを作った人……」

「もしくは情報を流した奴がいるってことだ。その点はあいつに聞けばすぐだろ」

「そうだな」

 

 快斗君はすぐにスマホを取り出して電話をかける。スピーカーモードにして待っていると電話が繋がり目当ての人の声が聞こえた。

 

『状況はモニタリングを通してわかっているよ』

「じゃあ応えてもらおうか。ロストドライバーの設計図を手に入れたのは誰だ?」

『少なくとも私ではないね。元々アクティブなタイプではないし、私ならこういう情報はネットで拾える環境には置かない』

「園崎家の裏切り者が流してきたってことだな」

「だとしたらどうやってウチに届けたんだよ。ネット環境にはないってことはUSBってことだろ?持ってきた人が死んだ可能性だって」

『それはないな。無事に届けられたのだから』

「殺されたのならデータも一緒に処分されてるだろうよ。まぁ渡した後に死んだ可能性もあるけど」

「それもそうか………なぁ話が逸れるんだけどよ」

「関係のある話にしろよ」

「いや関係はある。俺がこの人からドライバーを貰うのは分かる。けど何故お前のところにもあったんだ?」

「そりゃあの女が俺に……いやそれもそうだ。何故あの女はこのドライバーを持ってたんだ。あぁそういうことか!」

「京、お前まさか」

「クソッ、俺としたことが見落としてた!」

 

 京君は立ち上がり行き場のない怒りを壁にぶち当てていた。

 

「落ち着けよ一体何が」

「利用されてたんだ俺は。コイツの作ったライダーシステムの実験台として!状況が状況のために使いやすかった。復讐を考えている俺に渡すのは容易く危険性を観察するのにはうってつけだったわけだ」

「………プロフェッサー、今のことについて何か言いたいことは?」

『おおむね認めよう』

「おおむね?」

『勿論鳴海君のことは当初から知っていた。しかしそれは想定外の事件から生まれた副産物としての結果だがね』

「どういうことだ」

『君の持っているドライバーは私が最初に作り出したものだ。ロストドライバープロトタイプとも言える。しかし危険性などを配慮して作りはしたが実際試さないことには変わりない。実験台は用意していたがその前にドライバーは行方不明になってしまったんだ。ちょうどその時だね、私の元に皇君の事件の話が入ってきたのは。その後北海道にてスカルメモリとドライバーの反応を検知。それからは君の動向を観察していた。危険性、動作機能共にね』

「つまりなんだ、渡したのは自分じゃないってことか?」

『その通り。勿論プロトタイプを探しはしたが私自身も秘密裏に作っていたからね。他に情報を公開はしていなかったのさ。ある人間を除いて』

「ある人間?」

『情報を受け取り私に渡した人物だ。その人物なら大いに可能性があるがデータをもらった身としては責められないからね』

「そいつの情報をオープンにしないのは何故だ?」

『個人の契約とでも言っておこうか』

「そうかよ」

 

 切れた電話の画面を確認して乱暴に椅子に座った京君は腹を立たせているのを隠せていない。僕達も一度話を戻そうと頭を切り替える。

 

「話がだいぶ逸れたな。どこまで話したっけか」

「毒素が除去し切れていないところじゃないかな」

「あーそのへんか。で、ドライバーの除去作用が効かなくなった今こうやっているわけだが」

「おかげさまで俺は今無力ですよっと」

「で、無力なら殺しちまえば?」

「うわーひっでぇこと言うなぁ。俺こんな後輩持つの嫌だわ」

「でもコイツ京の仇のやつなんだろ?」

「それはそうだがコイツにはまだ利用価値がある」

「利用価値?」

「あることとコイツの状況を聞いて条件を出したんだ。園崎の情報を持ち帰って来れば今苦しい分だけは取り除いてやるってな」

「それでここに運ばせたってことか」

「まぁそう言うこったな」

 

 ヘラヘラと笑っているがここに運ばれてきた以上彼はそれなりの成果を示さなければならない。そうでなければ治療の無駄になるわけで京君が条件を出した意味もなくなってしまう。しかしヘラヘラした顔はすぐに真剣な表情へと戻った。

 

「じゃあ話せ。持ち帰ってきた情報はなんだ?」

「園崎の次の大型作戦」

「「「!!!」」」

 

 メモリについての話を大方として想定していたがそうではなくまさかの内容だった。欲しい情報といえば大いに欲しい情報だ。すぐにでも対策を考えられる。

 

「話せ」

「園崎は現存する兵隊の半分を用いて要塞を起動する予定だ。天空要塞、大砲とか装備したおっきな気球だとでも思ってくれ。その中に兵を入れ各地にばら撒いていく。支配地域を徐々に拡大していき日本全土を乗っ取るらしい」

「俺たちを倒すのは諦めたってことか?」

「諦めてはいないだろうな。でももっと有効的な方法でお前達を始末するつもりだろう。人質とかな」

「それは………」

「でも各地って言っても要塞は一個しかないだろ」

「その要塞の射出口がいくつもあったとしたら?あと最初は地上から来る可能性もある」

「うわぁ確かに大型作戦だわ」

「兵隊の詳しいデータは残念ながら得られなかった」

「襲われたか」

「ああ。ナスカを使っても毒素のせいで逃げるので精一杯だった。外部のダメージも食らったしな」

 

 だからボロボロの状態で彼がやってきたわけだと納得がいく。

 

「要塞のデータは?」

「取ったデータを入れたUSBは破壊されちまった。けど覚えているものがある」

「?」

「太陽光エネルギーを変換して出力にするエネルギー砲、半径10キロは簡単に滅ぶ」

「嘘だろ……」

「それって新一の」

「うん、アークの改造だと思ってもいいかもしれない」

 

 殲滅天使の威力をさらに上げたものだとしたらそれなりに時間は必要だと考えられる。しかし最初からストックを作っている可能性もあるため出てきたら撃たれるまでの勝負になる可能性が高い。装填までの時間も知りたいところだたがそのデータも壊されてしまったらしい。

 

「その威力ともなれば俺も防ぐのは無理だ」

「となると砲身を壊す必要も出てきたわけだね」

「戦力分断するのキツくないっすか?言っちゃアレっすけどまともに戦えるの俺たち三人だけっすよ」

「地上を殲滅する人、砲身を壊す人、要塞の要を壊す人、確かに各所一人は心もとないね。せめて要塞の要を落とす人にもう一人つけたいところ」

「都合がいい奴が近くにいるじゃねぇか」

「京ならどうする?」

「そうだな……名護の連中はどうだ?一条と伊達なら多分大丈夫だろ」

「呼び捨て……」

「本人達がいない都合便箋状な。敬略ってことで」

「それでも兵力の差が出た時に体力的にキツイかもしれない。一応相手はドーパントだし」

「確かにそれで対応できるタイプじゃなかったらなぁ……」

「いやお前ら?」

「この間みたいに石破天驚拳で初見突破は難しいか」

「流石に二番煎じもいいところだろ。絶対策は練られてる」

「俺が見た時もありゃすごかったなーって、おーい?」

「てかそもそも数はどんくらいを想定するよ」

「新一、園崎の方に行った連中はどれくらいなんだ?元とはいえお前が指揮してた組織だろ」

「そうだなぁ……ざっと、名護家にいた戦闘部隊の数からして三万人でそのうちの三分の二だから二万人でそこから前回や個別の人数を計算して少なくともあと一万人を残しててこの作戦だと3:5:2かな」

「最後の2は何すか?」

「予備で残しておく数だろ。精鋭を必ず残すというわけでもなさそうだがある程度は手持ちに残しておきたいしな。そうだろ?」

「多分それが一番の安全策だよね。でもメンツがわからないと」

「聞けっ!そろそろこっちの話を聞け!」

 

 あえてスルーしていた皇が大きな声を出して注意を集める。流石にもう我慢出来なかったのだろう。でもそれとは対を成すかのように京君はどこからか取り出した黒ペンを取り出して真っ白な壁に絵を描き始めていた。天空要塞はまるでラ◯ュタみたいな形をしていた。床ギリギリには棒人間が大量に並んでいる。

 

「何だよ今作戦会議中だ少し静かにしてろ」

「だとしても捕虜の部屋の壁に作戦内容書いてんじゃねーよ!お前いつからそんな馬鹿になった!?」

「お前今俺が手を出さないと思ったら大間違いだからな。南極条約とかサンフランシスコ条約とか知らねぇから」

「落ち着け京殴ったら捕まるぞ!」

「知らねぇって言ってんだろ」

「探偵が捕まったなんてニュースに出てみろ恥ずかしいぞ!」

「チッ」

「世間体は気にするのか……それで何を話したいの?」

 

 皇は落ち着いた京君を見てため息をすると親指を自身に向けて自信満々な顔をした。二人を見ても「は?」という顔をして動くことなく数秒の沈黙が訪れる。やがて作業を再開しようと動き出すと再度止められる。

 

「何だよ無駄に時間取らせんな」

「いや戦力ならここにいるだろ」

「そうだな、ライダー三人皆戦力だな。皆違って皆いいって言えばそれでいいか?」

「違うそうじゃない。俺も戦えるって言ってんの」

 

 確かにと言われてみればそうかもしれないと快斗君は相槌の手を打ったが認めようともせず絵を描き続ける探偵が一人いた。

 

「それは飲めない話だ」

「何でだ?戦力が欲しいんだろ?」

「それとこれとは話が違う。第一お前を連れて行けば逃げられる可能性もある上に危険性を孕んでいる。だからそれは無しだ」

「そいつはびっくりだ。お前、他のライダーが同じ状況だったら一番安全だと思われる戦場に投げれるだろ」

「そうするだろうけどお前は話が違う。だから無理だ」

 

 皇がちぇっとベッドの上に寝っ転がると作戦会議が再開された。空への行き方、その間の地上の対処法、要を壊す役割で気をつけるべきことなどを相談して役割を決めると部屋を出ていった。戦力の確認のためにブリーフィングルームに直行し電話を取る。イヤホンを点けて無線接続すると京君が同じページをずっと見ているのに気づく。

 

「ねぇ京君」

「どうした、腹減ったか?」

「お腹は空いていないんだけどさ。皇の件、本当は戦わせたくなかったんじゃないの?」

「えっ?」

「………」

 

 快斗君はどうやら気づいていなかったようだ。京君は無言のまま次のページへ行く。

 

「ナスカの毒が回っているからこれ以上戦わせたら彼が死んでしまうと考えたんじゃない?殺す殺さないはともかくとして」

「敵が死ぬのはいいことじゃないんすか?」

「個人の恩讐は個人で片付けて初めてなされるものだから」

「あー、確かに」

「まぁ間違いではないわな」

 

 本をパタンと閉じると立ち上がって別の本を撮りに行く。

 

「アイツを殺すのは俺だ。だから今回の仕事が終わってからじゃないとな」

 

 冷たい声で言っているが本当は彼のことが心配だからやったのではないかと聞くとこれ以上は油を注いでしまう気がしてならないのであえて黙っておいた。



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第十五鏡 光を失っても月は再び輝く

 東京某廃所──地下三百メートル。

 第二次世界大戦以降使われていなかったこの場所にて人だかりが出来ていた。その数約五千人。七割が成人男性、残りの三割が成人女性と満十二歳以上の子供だった。ただの一般人の集会とは思えないほどの緊張感が走る彼らは整列して段差がついた場所を見ている。そこには教壇が設置されている。左右離れた場所に黒服のサングラスを掛けた人が立っている。しばらくすると白髪の老人が現れ教壇の前に立つ。

 

「諸君待たせたね。これから次の作戦について説明する」

 

 何もなかった岩壁にスクリーンのように映像が映し出される。そこに映されるのは要塞の設計図、武装の種類、これから起こそうとする作戦についてだった。

 

「大型作戦は今回で二度目だ。そしてこの作戦にてこの国を、日本を我々のものにする。前回の秋雨のハロウィンではスタジアムにて仮面ライダーの殲滅を図ったが大半の戦力がある人物達によって無力化された。名護家の介入、予期できた事態ではあるがマスカレイドにまで対応してきたのは想定外だった。しかし彼らとて守備範囲には限界がある。どれだけ強かろうが彼らは人の域を出ない。アークすら彼らは破壊してしまった。数えられる兵器も大半が封印されている。常人には扱えず封印を解いたとしても必ず途中で使用を中断するだろう。それまで戦い続けられる存在しか現在の我々の戦力にはいない。故に心配には及ばないということだ。

 今回はこの要塞を使い地上と空両方から攻める。設計図にも書いてある通り数多の兵器を積んでいるこの要塞を破壊しうることは出来ない。第一目標として首都東京を堕とす。勿論名護家の介入が考えられるし自衛隊も考えられるが既にそちらは既に手を打ってある。邪魔な名護家を破滅させ我らの時代を作る。支配の先にあるのは我らの楽園。この世をあるべき姿へと変えるのだ」

 

 男が両手を広げ意思を示すと歓声が湧き上がる。あの男を支持するように、崇拝するように。スクリーンにメールのマークが浮かび上がるとその場にいた全員の端末にメッセージが届いた。当日の作戦配備の図と編成の表。完全に実行する準備は出来ている。彼らのモチベーションは高まっている。

 彼は全員に背をむけ壇上から姿を消すとニヒルに笑い小さな声を溢した。

 

「世界すらすぐに手に入れてみせる。全ての情報を私が手に入れ、絶望の世界を作るのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや思ったんだけどさ、地上と空からだけなんかな」

「は?何言ってんだお前」

 

 敵戦力についてそれぞれが調べている最中、ふと快斗君が言った。水中、この場合おそらく海中だがその可能性は否定は出来ないが基本的にそれはあり得ないだろう。地上を攻めにくるのにわざわざ海にいる必要はない。すでに国内に組織がある以上海から来ても仕方ないのだ。

 

「陸と空はわかるんだよ。でもなんかそれ以外でも来そうだなーって」

「海から来るってか?」

「いやもっとこう、賢そうな手段というか」

「賢そう?」

「てかよく考えれば地上を攻めたら戦えないとはいえ警察とか自衛隊が出て来るだろ一応」

「弦巻と名護が出てくること知ってれば市民の警備に回るだろ」

「そうなんだけどよ、もっと何か見落としてるっていうか」

 

 見落としてる……どういう部分でだろうか。

 

「なんか当たり前に思えてて実際違うような……」

「灯台下暗しってこと?」

「あーそれっす。でも何がそうなってるのか」

「そこがわかってないのかよ……いや待てよ」

 

 今度は京君が考え込んだ。何か思い当たる節でもできたのか顎に手を当てて考え込んでいる。当たり前だと思っているから見えない?戦っているから当然だと思っているからか?名護家と弦巻家が関わっているから問題ないと思えるところなのだろうか。自分達の無意識なところももう一度考え直してみる。

 

「なぁ、秋雨のハロウィンのことなんだけどよ」

「急にどうしたの?」

「あのスタジアムっていつできたものだ?」

「何でだ?」

「普通あんなスタジアム作るはずないだろ」

「そういえばかなりの改造が施されていたような」

「ちょっと調べるから待ってろ」

 

 快斗君が手に持っていた端末で資料を探したのかスタジアムの情報が部屋のスクリーンに展開される。記録は五ヶ月前と記載されスタジアム内のさまざまな情報が広げられていた。出撃用ユニットや格納庫など本来スタジアムとしての機能ではいらないものまで造られている。

 

「まじかこんなにあったのか」

「普通に要塞みたいなもんだよなこれも」

「でもこれ一般の人達も使ってたんだよね?」

「そうっすね、あの事件の一ヶ月前にはサッカーの試合会場として使用されてたみたいっす」

「じゃあ国のものを勝手に改造したってこと?」

「でも一年もの間にこんなてんこ盛りに出来ないだろ」

「そもそもそんなことする必要なんて……あー!」

「何だどうした大きな声出しやがって」

 

 声が出せなくなったのか身振り手振りを全力でやってこっちに伝えようとしている姿を見て何を考えているのか予想する。けど何を考えてもわからなかった。

 

「早くなんか言えよ」

「」ジタバタ

「言いたいこと色々とあって物理的に言葉が詰まってるんじゃない?」

「」ウンウン

「はぁ〜?」

 

 京君はやる気が失せつつも快斗君を見ると目を見開いてそういうことかと大きな声を出すと近くにあった受話器と快斗君からタブレット端末を奪い取る。少し話すと受話器を乱暴に置いて走って部屋を出ていく。とりあえず僕達も後を追いかけると敷地内を出て表に停めてある車の中に入る。扉を閉めるとすぐに車は出発し座る前に顔をぶつけあ。

 

「一体どうしたのさ」

「あのスタジアムを作ったやつのところに行くぞ」

「工事の人のところか?」

「違えよ。作るように支持したやつのところだ」

「どうして急に」

「国のものなんだから簡単に手を出せるはずがない。なのに手を出せたってことは裏で繋がっている奴がいた、違うか?」

「「あー!!!」

 

 快斗君と顔を見合わせて声を出した。確かにそれなら簡単に介入する事ができる。仮にそいつが他に関わっていることがあれば情報も聞き出せる。持っていなかったとしても経緯とかから調べれば他の施設の情報も得られるかもしれない。

 

「お前ら知能レベル下がったかと思ったぞ」

「普通はそこまで思いつかないと思うけどな」

「流石北の名探偵」

「どーもどーも」

「やめろってN◯Kに怒られるぞ」

「ちなみにさっき快斗君は何て言おうとしてたの?」

「似たような感じで元々要塞にする予定だったんじゃないかなーって」

「だとしたら余計行くべきだよな」

 

 目的地に着くと正面玄関から入ろうとせずに門を飛び越えた人達がいた。二人は着地するとなにやってんだという目で僕を見る。確かに緊急事態だけど君達がそうなるのかぁ……

 ──割とこっち側だろうなアイツら。

 否定したいけどこれ見たら否定できないなぁ……

 鉄砕拳で内玄関ドアを破壊し支持したであろう政府の人間がいる部屋の扉を蹴破って突入する。中にいた人達は驚いたのかこっちを見たまま固まっていた。

 

「よぉ議員、ちょっと失礼するぞ」

「なんだね君達は!?」

「北の名探偵だ。今から質問するから答えろ」

「なんでこんなところに」

「五ヶ月前にお前が作ったスタジアム、あれは当初の設計通りではない違うか?」

「そ、そんなことはない!あれは私が支持した通りに作られている!」

「簡単に鵜呑みできる分けないのは分かってるよな?こっちには現在のスタジアムの施設情報がある」

「なっ」

「京、これ」

 

 快斗君が本棚から取り出したファイルを手にとって読む。中を開いて見せてくれたがそれは間違いなくあのスタジアムの資料だった。

 

「もう言い逃れは出来な」

「そんなもの私は知らない!」

 

 机を叩いた議員は立ち上がって怒声をあげる。それでもやることは変わらないと京君は淡々と告げる。

 

「否定したところで証拠が出ちまったんだ。それにアンタは隠蔽した容疑とテロリストに加担した容疑で捕まるだろうな」

「そんなことしていない!大体君達は何なんだね、人様の家に入り込んでこんなことまでして」

「国民を脅かすのが議員の仕事か。生憎俺はそんなやつ人だと思わねぇよ。それに自分のことを人様なんて言うやつ敬うことすら出来ないな」

「……っ」

「や、やっぱりこうするべきだったんだ!」

 

 今までただ震えているだけの秘書が動き出して議員の机から拳銃を取り出し京君に向けた。震えている手で銃を持っているためいつ誤射されてもおかしくないが僕達は全員落ち着いていた。

 

「なにやっているやめろ!」

「議員はここまで頑張ったのにこんなことで止めさせるわけにはいかないんだ!」

「馬鹿なことは止めろ。そんなことしてもアンタらは何も得られない」

「黙れ黙れ黙れ!!」

「そもそも俺たちはアンタ達をこれ以上巻き込まなゴフッ」

「快斗君……?」

 

 ボタボタと重い音が聞こえ快斗君を見ると口から血を流していた。胸から銀色の棒が突き出て赤い液体を付けている。何処からの攻撃だと見渡そうとすると快斗君の背中が急に歪み緑色の怪物が姿を現した。

 

「良かった、ちゃんと気が緩んでて」

「テ、メェ……」

 

 引き抜こうとした刃を快斗君が手で掴みながら本棚に一度突進する。刃を離した怪物を捕まえて快斗君は窓を突き破って一緒に飛び降りた。議員達は何も知らないのか怪物どもに怯えている。作戦ではないのか。突き破った窓から下を覗くとふらふらしている快斗君の姿と体制を立て直した化け物の姿があった。

 

「なんで刺されて動けてんだよ」

「火事場の馬鹿力ってやつだろ………」ゼェゼェ

「死に損ないが」

「快斗!」

「まだ辛うじて……生きてる………で、あってるか?日本語難しいな………」

 

 その日本語であっているがそれ以上にピッタリな言葉が見つからない程だ。このまま処置をしなければ彼は死んでしまう。いや、急いで医療班を呼んでも助かる可能性は低いだろう。でも呼ばないよりかは生存率が上がるとスマホで黒服さん達に至急連絡する。すぐに向かうとのことだが間に合うかどうかはわからない。

 

「まぁいいか。一人殺せたのなら十分だ」

「本当に、俺が死ぬと……思う、かぁ………?」ヒューヒュー

「すでにまともに喋れなくなっているだろう。死ぬならさっさと死ね」

 

 怪物は口から長い舌を出して快斗君に刺さっていた刃を引き抜き手元に戻すと同時に銃を数発撃って弾丸を命中させた。その状態でも立ち続けている快斗君は去ろうとしている怪物に告げた。

 

「逃がさねぇよ」

 

 逃げようとする怪物に弱々しくもナイフを投げて背中から倒れる。あっさり避けられたがその上から変身した京君が降ってくる。踵落としをした地面は軽くヒビが入っていた。そのまま彼は化け物に殴りかかりに行く。

 

「探偵か。仲間を助けなくていいのか?」

「新一がどうにかしてくれる。俺の仕事はお前をぶん殴ることだ」

 

 何かが飛んでくる可能性も踏まえて変身して飛び降り快斗君の元へと向かう。止血作業をするが血は止まらない。京君がこっちと距離を取るように誘導しながら戦ってくれている。その間に何とかして黒服さん達がくるのを待たなければいけない。しかし出血の箇所が多すぎるため僕の手だけじゃ足りない。背中を刺され胸を撃たれたとなると肺と心臓にダメージがあるのは確実だ。止血とオウキュ処置をするのに二人以上は必要だと判断した時だった。生気がなくなったのを感じた。呼吸は少し前になくなった。脈は辛うじてあるからこそ止血していたのに間に合わなかった。

 

「どうやら間に合わなかったようだな」

「………」

「これ以上闘い続けたら今度はお前が死ぬぜ」

 

 京君はこっちのことを気にもせずに殴り続けていた。いやきっとわかっているのだろう。それでも今出来ることをやろうとしている。彼の意思を無駄にする訳にはいかないと抱えていた快斗君を下ろそうとすると傷口から蒼い炎が噴き出していた。それは突如大きく燃え上がり快斗君全体を包み込む。熱いのに痛みが走ることはない。僕が死んだということはなさそうだ。けれど快斗君を包む炎はさらに大きく、家を越える高さにまで燃え上がる。炎の勢いに視界が塞がれるが次に見た時には人が立っていた。さっきまで抱えていた快斗君はいつの間にか手元からいなくなり代わりに一歩離れたところに人影ができている。

 

「………何だあれは」

「まさか…?」

 

 蒼い炎の中から現れた白いマスクは化け物に告げた。

 

「逃がさねぇつったろ」



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第十六鏡 死神

「快……斗………」

 

 爆発に巻き込まれた息子を救いたかった。こいつを危険から遠ざけてきたはずなのに気付けば俺と同じところまで連れてきてしまった。メモリの力ではどうにもならないのか。どうすればこいつを救えるんだ。

 

「あ、れは………?」

 

 快斗の胸の上にあるスティック状の何かが光った。白く、淡く蒼色に輝く永遠の記憶を宿すメモリ。その記憶が確かなら賭けてみるしかない。

 

「なぁエターナルメモリ、お前ならコイツを、俺の息子を生き返らせられるか?」

 

 言葉は返ってこない。それでも光が肯定するように輝く。言っていることは何となくでしか伝わらなかった。それでも十分だった。

 

「何でも支払ってやる。何なら………俺の命、持っていけ!」

 

 その瞬間輝きはより強くなり俺の体から何かが抜けていく気がした。それが全部あのメモリと快斗に伝わっていくような感じがする。けどそれなら本望だと俺の意識は白く塗りつぶされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃さねぇつったろ」

 

 炎の中から出てきた白いマスクの男はゾーンのメモリをスロットに挿し込む。それを見て逃げようとした怪物は動きを止められる。

 

「貴様っ」

 

 無言の京君はいつの間にか奴の背中に周り手を添えて紫色の骸骨で怪物を包み込む。パチンと指を弾く音が聞こえると京君の姿はなくなり無数のナイフが骸を通して怪物に刺さる。

 

「今まで聞いたことないから聞くんだけどよ、四方八方からナイフで刺されるってのはどんな気分だ?」

「な、ぜ………」

「いいや、せっかくだからいいもの見せてやるよ」

 

 黄色のメモリを挿して指を鳴らす。すると夕方だった景色が真っ暗になり真上に三日月が現れ桜が舞う。怪物に刺さっていたナイフはいつの間にか縛り付けている荊の蔦に代わっていた。

 

「これは…!?」

「死ぬ前に良い景色が見れてよかったな」

「何のつもりだッ」

「さぁな。でも言えるのはお前を絶対に殺せるってことだ」

「確かに殺したはず」

「死神って知ってるかぁ?」

『ユニコーン マキシマムドライブ』

「死んでも命を狩りにくるらしいぜ」

 

 いつもと違いユニコーンメモリを体のスロットに挿し込み地を駆けていく。蒼く一直線に突撃するその姿はまさに一角獣。貫き姿が元に戻ると怪物は爆発し景色はかわり夕日が差す。

 

「やった、のか?」

「メモリブレイクされてるみたいだし多分終わったと思う」

「あ~疲れた~」

 

 快斗君は変身を解除して寝ころんだ。仰向けになって伸びているのを見て生きてることを確認した。しかしそれと同時にワイシャツが赤く染まっているのも同時に確認した。

 

「快斗君それ」

「え?あー!やっべ汚しちまった、ワイシャツだけならいいけど……うーわ学ランまで汚れてるし穴だらけかよ。先輩に怒られんだよなぁ」

「いや、痛かったでしょ」

「そこじゃねぇだろ新一」

「まじで痛かったっす。死ぬかと思いました、あ、一回死んだんだった」

「お前もそうじゃねぇだろ」

 

 笑って流しているのを見て問題はなさそうだと感じたが起きたことはそれではすまされない。

 

「お前あれ死んでもおかしくねぇだろ!?」

「いや死んだじゃん」

「そうじゃなくて、なんであれだけやられて傷一つねぇんだよ!」

 

 今の快斗君の姿は死んだときと同じはずなのだが服に穴が空いたり血で汚れてるだけだ。傷は全て塞がっている。

 

「そりゃあほら、一回死んだし」

「あーなるほど、ってなる案件でもないだろ!」

「傷がそのままで生き返ったらただのゾンビじゃね?」

「意識もはっきりあるしなってだから違う!」

「そうだよなぁ……俺のメモリってさ、永遠の記憶だろ?だからその恩恵っていうかなんていうか」

「でも今まで使ってたのってメモリの制御じゃなかったっけ?」

「俺もそれがこいつの能力だと思ってました。でも実際はあくまで一つの力でしかなかったみたいで本当の力はこれだったみたいです」

「しかし不死身ともなるとお前チートだぞ」

「持ってる限りは大丈夫ってことはふと離している瞬間が危険ってことか」

 

 それだけでかなりズルいようにも思えるが味方になるととても頼もしい。不死身の兵、聞いただけでは想像できないが実際に見てみると恐怖しかないだろう。

 

「戦闘中は死ななそうだね」

「じゃあコイツでガードベントできるな」

「出来てもさせねぇよ?」

 

 その後黒服さん達が来て現場の取り締まりと僕らを自宅まで送り届けた。不死身とはいうがきっと何か副作用のような代償があるように思える。念の為気をつけるようにと伝えたが何度も死にたくないし結構痛いから気をつけると言われた。

 家に着くとお嬢様がリビングでテレビを見ていた。静かに集中するように見ているため気配を消してキッチンに向かう。冷蔵庫の中身を確認して夕飯を決めると声をかけられる。

 

「私に黙って帰ってくるとは偉くなったわね」

「申し訳ございません。帰宅したとは伝えたのですが返事がなかったので様子を見たら何やらテレビに夢中になっていたものですから」

「そうなの?それはごめんなさい」

「お気になさらず。何を見ていたのですか?」

「機動戦士ガンダムOOよ」

「なんと、それはそれは」

 

 意外なところだった。ガンダムに関しては戦術モデルとして名護家の兵器にも利用されていたので多少なりとも知っている。一番詳しかったのは橋本さんだったっけ。SEEDが好きって言ってたなぁ。

 

「どうしてそれを?」

「CMでたまたま見て第一話から見ていたの」

「今どの辺ですか?」

「ナドレが出たところよ」

「もうそこまで……」

「その話はいいわ。あの後どうなったの?」

「そのことなのですが」

 

 あの後にあったことを説明すると察したのか考え込む様子を見せてから聞いてくる。

 

「それってもしかして、紗夜の時みたいな」

「そうですね。それくらい大きな作戦になると思われます」

「また、危険なところに行くのね」

 

 ぽつりと呟いた言葉が胸に刺さった。仕事上仕方がないとはいえこの人を不安にさせてしまう。

 

「申し訳ございません、ご心配おかけします」

「いいのよ、ただあなたが無事に帰ってくるのなら」

「それには心配及びません。そうでないとお嬢様の生活を誰が支えるのですか」

「失礼ね。これでも多少はできるように頑張ってるのよ」

 

 えっ?掃除や洗濯もままならないのに?と口が滑りそうになったが慌てて唇をキュッと結ぶ。確かに最近ご飯の用意や洗濯物を畳んだりは手伝うようになってくれたのだけどそれでも様子を見なければならないところが多い。

 夕食の準備を済ませて食卓に並べると座ってはいただきますと合掌をする。いつ戦になるかわからないためきちんと栄養をつけておこうと考えると必然と量が多くなってしまった。

 

「あなたがこの量を食べたところ見たことないのだけど」

「食べられますよ。普段は必要以上に摂ってないだけで」

「その割には私には食べさせようとするわよね」

「お嬢様は成長期ですから」

「あなただって変わらないでしょう。じじくさいこと言わないでちょうだい」

 

 あははと笑いながら食事を続けるとスマホが鳴る。食事中に失礼しますと許可を取ってからスマホを見ると霧切さんからだった。廊下に出て電話に出ると向こうから声をかけてくる。

 

『繋がったね』

「お疲れ様です。ご用件は?」

『弦巻家から連絡をもらった。君たちの想定している規模で間違いないと我々も考えた』

「すでに会議も終わらせたのですね」

『ああ、だからお願いがある。我々のもとで君が指示をしてくれ』

「………」

 

 信じ難い話だ。僕に戻って名護家の指揮を採れというのだ。誰がそんなことを許すだろうか。少なくとも大勢の人間が反対するだろう。そうでなくても許されるはずがない。

 

『勿論装備一式の給付と戦力の導入は問わない』

「そういう問題ではありません!僕がそちらにいくことが」

『問題だというのかね?』

「わかっているのなら」

『なぜ君はそこまでこだわる?一条や伊達がいうように悪く思わない連中だっている』

「でもそれはあくまで一部のケースで」

『まぁいい。本日00:00に弦巻家に私と名護家から数名、そして鳴海君と大道君が集まる。これが連絡事項だ。詳しいことはそこで話そう』

「待ってください!」

『では後ほど』

 

 プツッと切れた電話には通話終了の文字が表示されている。何と勝手な押し付け、いやまだ話し合う余地はあるみたいだし本人たちの勝手な願いとでもいうべきだろうか。それでも今のはとてに力を入れるとそっと包み込んでくる小さい手があった。その手に気づいて力が弱まると拾い上げるように持ち上げる。

 

「急に大きい声があったからびっくりしたわ」

「申し訳ありませんお嬢様」

「いいのよ。それで何があったの?」

 

 何も言えなかった。この状況で今の話をしたら余計不安にさせてしまうのではないかとそうなったらどうなるのかと考えてしまった。だから僕は嘘をついた。

 

「京君が独断専行しているらしいのですが快斗君が止めに入っているようです」

「それって危ないのではないかしら」

「はい、ですから僕も行くと言ったのですが止められてしまって」

「それは大きい声を出しても仕方ないわ」

「申し訳ありません。後ほどまた弦巻家の方に行きますのでお嬢様はゆっくりお休みください」

 

 一応許可は出してくれたがそれでも認めたくないという様な顔をしていた。感謝の意を述べて食事に戻ると不服そうな顔をしている。ご飯を食べている時もずっとこっちを見てきていた。流石にこれはどうにかしなければならないのではないかと考え出かける前にお嬢様に相談を持ちかけた。

 

「次の大型作戦、帰ってきたら何をしましょうか」

「急ね、何かあるの?」

「いえ、フラグを立てるという訳ではありませんが一種契約を結んでおこうかと」

「新しい契約?」

「自分で言っておいてなんですが少し堅苦しいですね。約束とでも言い換えましょうか」

「約束……」

「僕が帰ってくるまでにどんな約束をするか考えといてください」

「わかったわ」

 

 悩みながらもきちんと返事をしているのを聞いて家を出る。イクサリオンを起動して弦巻家へと向かう。途中後方から大型のトラックが目撃されたがそこには名護家のマークが入っており同じ道をついてくる。戦力として言っていた装備一式の配達も込みだろう。一台のトラックを引き連れて弦巻家の敷地へ入ると既に京君が待ち構えていた。

 

「仕事とはいえ湊を説得できたんだな」

「不服そうな顔をしていたけどね」

「仕方ねぇだろ。そんであれは?」

「うん、名護家の装備だと思う」

「やっぱ協力は要請してるよな」

「みたいだね。とりあえず会議室へ行こう」

 

 屋敷の中で快斗君に合流しつつ会議室へ入るとプロフェッサーと一条さん、伊達さん、橋本さん、霧切さんの他六人ほどを加えた名護家の人間が既に座っていた。六人はやはりというべきか僕を見て気に食わなそうな顔をしている。

 

「三人とも待ってたよ。さぁ会議を始めようか」

「今日は急遽集まってもらって申し訳ない。だが君たちも知っている通り今回の作戦は園崎に大きな一手をかけることのできるまたと無い機会だ。だからこそ」

「無駄にはできないって言いたいんだろ」

「その通りだ。早速本題に入ろう、君たちが大まかに考えた作戦は聞いている。その点で我々から提案がある」

「提案?」

 

 きっとさっきの件だろう。とりあえずは静かに聞いていようと沈黙を決める。

 

「名護新一君を我々名護家に貸していただきたい」

「ほぉ?」

「どういうことっすか?」

「当主!」

「待ってください、我々は聞いてませんよ!」

「いいから聞きたまえ。現状彼らについての戦力は人間なら我々が、ドーパントとしてなら貴方方の方が詳しい。それで指揮をとれる存在として名護新一をこちらに貸し出して欲しいのだ」

 

 なるほどとプロフェッサーは納得した様子を見せるが同意を示さない人たちがいる。無理もない。そもそもその人達から不穏どころか反感を買っている。

 

「そもそもそいつは俺たちを捨てたんですよ!」

「それを今更戻ってきて分かりました従いますなんて」

「出来るはずがないとでも?」

「!?」

「君達もよくわかっているだろう。彼は戦場で指揮をとれば被害は最小限に抑えられると」

「だとしても」

「そうです霧切さん。僕はきっとその人達に認めてもらえない」

「それはないだろ坊ちゃん」

 

 諦めさせようとすると伊達さんが立ち上がる。

 

「こいつらはこう言ってるが実際帰りを待っている連中もいる。もしかしたら照れ隠しの可能性もあるしな」

「脳筋は黙っていろ」

「現実を受け入れないお前らよりかは賢いと思うけどな」

「挑発をするな伊達」

「だいたいエリートの連中がなんで受け入れ切れてんだよ。お前らの方がよっぽど傷を負っただろ!」

「それでも私達はこの方が一時的にでも一緒に戦ってくれるのならそれでもいいと思っている」

「なっ」

「正直に申しますと傷は負いました。それでも信じていようと決めたのです」

「一条までそんなこと言うのかよ」

「だがそれでも我らの意志は変わらない。仮にこの場で主を殺すことを決定する様なことがあれば全力で我らが阻止する」

「ま、そう言うこったな」

 

 三人は立ち上がって僕の側に庇うように姿勢をとった。京君と快斗君は黙ったまま見ているがそれでも変身する準備をしている。霧切さんは呆れたように全員に落ち着く様に促す。

 

「双方の言い分はわかるが現状私としては名護家に携わっていたものであり彼らの情報を多く知っているものを雇いたい。その上で彼が適任だと判断した」

「状況を見ればそうだよね」

「しかしこのように反対するものがいるというのも事実だ。故に新一君にどうするかを決めて欲しい。勿論ここで判断したことが今回の作戦に大きく関わってくることは承知だろうがね」

 

 言逃げられない様にするためか釘を刺してくる。彼らのように僕のことで未だ対立しているのが見えた今、僕が考えるべきなのは一つしかない。

 それは受け入れてもらえるかどうかじゃない、きっとやらなければいけないことなんだと思い決意を口にする。



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第十七鏡 決戦・要塞攻略作戦1

「僕は戦います。後ろにいるつもりはありません」

 

 立ち上がり反対する人達に向けて言葉を放つ。これは贖罪ではなく、自分がやるべき事なのだと示すように。

 

「勿論信用していないわけでも捨てたわけでもありません。僕自身、この戦から逃げるつもりなど毛頭ないということです」

「何を当たり前のことを」

「自身のことを高く評価などしていません。ですがそれでも名護家の一つの駒として動ける自信はあります。何なら最前線にて敵の大半を葬る事すら可能です」

「それはそうだろうが……」

「役割は全てこなして見せます。ですから共に戦うことを許してほしい」

 

 頭を深く下げてお願いする。最善の選択肢も彼らに絶対の指示をするつもりもない。それでも共に戦ってくれることを望むために頭を下げた。しばらくの静寂が訪れると乱暴に座られた椅子の音が聞こえてる。ため息をつきながら一番反対をしていた人物が座り込んでため息をついている。

 

「民間人風情がよくもまあそこまで言えたもんだな。だがそこまで言ったならやって見せろよ」

「………」

「少しでもおかしな行動をすれば俺がお前を殺しにいくいいな?」

「そんなこと俺たちが「構いません」坊ちゃん?」

「それで信用が得られるのならば結構」

「そこは自分の命を心配して欲しいところだが、それでこそ我らの主だ」

 

 騒動を終えた名護家の関係者が全員席に着くと作戦会議が行われる。要塞に侵入するグループと地上の防衛をするグループに分けて作戦を立てる。園崎の連中も全員を同じ場所に送り込むことは無いだろうと襲撃の可能性が高そうな場所を考え人数の調整を行う。今までの園崎家のデータを参照して送り込まれる兵器も考慮する。

 

「という感じで分けるがいいかね」

「武装はどうしますか?」

「このマスカレイドってのは一度なったら戻れないんだよな?」

「そうですね」

「ならなった奴らは殺すか」

「うーわ辛辣」

「でなければこちらがやられるぞ」

「おっしゃる通りで」

「機械兵は容赦なく破壊だな」

「人間はどうする?」

 

 その場に沈黙が現れる。それもそうだ、何せいつしか仲間だった人達と相対する状況にあるのだから普通は殺すと言いたいところなのに簡単に言葉が出てこない。勿論割り切っている人もいるだろうがそれをこの場で出せるほど簡単ではない。

 

「その件ですが提案があります」

「何だね」

「人の状態を保っている人は極力捕縛の方でいきませんか?」

「貴様まさか頭の中がお花畑になっているわけではないだろうな?」

「いえ、元々は仲間の人達ですから戦いたくない人達が出てくるのも当然かと思います。そうなったら隙をつかれて殺される可能性も視野に入れると捕縛が一番かと」

「簡単に捕まる連中かよ」

「そうですよ」

「だから捕縛するために無力化させることを最優先とし、出来ない場合は排除という方針を提案します」

「捕縛用の武装はありはするがそれほど上手くいくかね」

「貴様、適当に言っているわけではないよな?」

「本気です」

 

 流石にこんな作戦は思いつきや打算で出すわけにはいかない。きちんと計算した上で事細かに説明すると呆れたようにため息をつかれる。こんなにため息をつかれると申し訳なく感じるのだが。

 その反対で霧切さんはまるでこの作戦を考えること知っていたかのように笑っていた。

 

「何ですか急に」

「いや実に君らしいなと」

「新一様、きっとそうおっしゃると思っておりました」

 

 僕以外の名護家全員が立ち上がり部屋を出ていく。一条さんがついてくるようにつげると扉の向こうへと姿を消した。部屋を出て彼らの後ろをついていくとさらに地下へと続くエレベーターに乗った。

 ゴウンゴウンと重い音を響かせながら降っていくエレベーターは静かに止まり扉を開くとジェット機のようなものを僕達に見せる。

 それは以前名護家の兵器工房で見たものと類似しているものだった。

 

「これは…!」

「君が使うと思ってね。ここで最終調整させてもらっているんだ」

「Mulch Annihilation system driver通称『MASドライバー』主に殲滅を目的として兵器が搭載されているが君が捕縛を提案することを見越して威力の調整と捕縛ユニットを取り付けている」

「これを、僕が使うのですか」

「彼の案ですよ」

「馬鹿者余計なことを言うな一条!」

 

 先ほどまで僕のことを一番否定してきた人、四谷玲(ヨツヤ レイ)さんによる指示のものだった。あんなふうに言っていたが一番帰ってきて欲しそうにしてたのはあの人だと耳打ちされる。彼はそっぽを向くように明後日の方向を見る。あれだけ非難を浴びせてきたのにこれを用意していたということはそれだけの覚悟をしろと言う暗示なのだろうと自己解釈をして礼をする。一条さんがタブレットを差し出してきたため中身を確認すると稼働時間やレンジについて記載されている。

 

「確かにこれがあれば戦力としては問題ないですね」

「たかだか民間人が使える代物じゃないんだ。きっちり仕事してもらうからな」

「無論そのつもりです。他には何かあるのですか?」

「そうだな、これから持ってくるつもりではあるが兵士の装備一式と応急処置用の道具は持ってくるつもりだ」

「なら安心ですね。先ほどのメンバーわけで更に作戦の強度も上がりましたし」

 

 言葉の途中で霧切さんがスマホを手に取る。誰かと連絡をとっている様だが話を続けようとするとこちらを見ては表情を曇らせる。苦虫をすりつぶしている様な表情をしながらスマホをしまうと背中の方から風が流れ込んでくる。そちらを見ると四角い銀色の箱が現れた。

 

「君の私物も入っているらしいがもう一つ忌むべきものが入っている。彼曰く戦力増強のためみたいだがね」

 

 箱を開くと現役の時に使っていた槍が入っていた。中身を確認しても刃こぼれもない綺麗な状態だ。だがその先に忌むべきものが本当にあった。かつて僕が操られ二度にわたって多くの人を危険に晒した救済のための兵器、ARCユニットが整備された状態であった。

 

「曰く、今の君の脳波で操作できるらしい。しかしそれも併用して使うことで三十分使えるはずのMASドライバーが十分しか使えなくなる、その分威力もレンジも広く大きくなるわけだがどうする?」

「新一様、これに関しては私は推奨しません。いくら乗っ取られる危険性を排除してもまた御身に何かあったら」

「いえ、使います」

「新一様!」

 

 これで早く戦いを終わらせられるのであればそれでいいとも思える。勿論今回は自分の制御の範囲でやるから前回みたいに乗っ取られることはないらしいがそれでももう道は誤らない。そう思い作戦準備に向けて動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、早朝六時、東京港区上空に空中幼彩が現れた。即時全員が配置へ着き先頭準備が行われる。その場の空気は張り詰めており今にも戦争が始まる寸前という様子だった。その中でライダー組は独自の回線を繋ぐ。

 

『お前ら準備は出来ているか?』

「勿論」

『当然』

『悪いがここで作戦に一つ付け足させてもらう』

 

 京君がらしくもなく作戦変更を伝えてくる。その内容は認めたくないものだったが彼なりに刑事目をつけたいとのことで致し方なく了承した。そして彼らに健闘を祈ることを伝えると通信が切れる。僕のところにいるのは橋本さんと四谷さんが率いる暗殺犯と殲滅部隊第二班。そのほかの場所に一条さんと伊達さんがそれぞれを率いて配置されている。通信が入るとやはり予測地点に園崎の軍勢が現れたらしい。

 

「おい」

「何でしょうか」

「士気を上げろ、お前の役割だろ」

「僕の、ですか?」

「民間人でもそれくらいはできるだろ」

「今更ですが民間人ですよね僕」

「そんなこと突っ込まなくていい!そこに立つなら責任を果たせ!」

 

 全員の前で戦闘準備をしている僕はMASドライバーから身を剥がして後ろを向きユニットの中に隠していた槍を取り出し上に掲げる。

 

「これより、我々が向かう戦場はそこらのテロリストよりも強く、各国の軍人よりも猛き者のいる地獄である。戦場において生を望むものは死に、死を望むものは生へ。つまり戦いにおいて生死とは考えても仕方ないこと。ならば我々は己が忠義を、欲を、願いを賭けて戦おうぞ!さぁさぁとくとご覧あれ!勝つのは誰が願いか!消え去るは誰が願いか!ここに正義はない!勝利を納めた者のみが正義なり!」

『しかと、胸に』

「皆の者、ゆめゆめ忘れるな」

 

 何度やっても慣れやしないこの光景に背中を向けながら再びMASドライバーに身を委ねる。ARCユニットを展開させ砲撃の姿勢をとって待機する。

 

「取りこぼした分は俺らでサポートする。貴様は貴様らしく戦場を駆けろ」

「ありがとうございます。必ず期待に応えます」

 

『新一、こっちの準備はできた。3カウントで行くぞ』

「了解」

『スリー、Go!!』

「3カウントって言ったよね!?」

『男は3だけ覚えとけばどうにかなるだろ!』

 

 快斗君と京君が上空に上がっていく姿を見て僕達も戦場へ出る。朝日が差す大通りの道には大量の兵隊達がいる。それに対してまず拡声器を使って声をかけた。

 

「園崎の兵に告ぐ。我々は無益な戦闘をする気はない。抵抗しないものは危害を加えないこと命の補償を約束する」

『………』

「抵抗するものは容赦なく殲滅する。この兵器の威力は設計段階でのデータでも知っているはずだ。できることなら死者を最小限に抑えたい」

 

 抵抗するつもりなどないのか一斉に軍勢が押しかけてくる。こうなれば仕方ないと全ての砲門を解放し一斉に放射する。人間を除き半分ほどが爆発し戦闘不能になるがそれすら踏み台として襲い掛かってくる。戦場としてはごく当たり前の事。手はず通りのプランでMASドライバーで最前線に出る。

 

「そんなもの脅しにもならない!」

「今日こそ消えろ名護新一!」

「それごと鉄屑にしてやる!」

 

極力人間を避けながらマスカレイドと機械兵を破壊する。

兵士は名護家の人に任せて一通り破壊すると敵軍後方から沸いて出てくる。

 

「キリがないな」

『主、タイムリミットが』

「分かっています。これだけでも」

 

これ以上使い続ければ廃人になる可能性が高いため最後にマルチロックオンしてまた破壊するが他よりも何倍も速い影が迫ってくる。甲冑を模した鎧の姿、一振の刀を持った黒と白の人型。それに反応して内蔵されているビームソードを横薙ぎにすると跳び跳ねMASドライバーの主砲が斬り落とされる。すぐに全てのパーツから身を剥がして距離をとる。

尋常ではない速さに警戒心を高めると爆煙の中から刀を持つ人影が見えた。

 

「貴方は……」

「舞台は整った。さぁ、存分に死合おう!」

「この状況分かってるんですか!」

「分かっているとも。世界は変わろうとしている。だからこそ、今貴様との勝負に決着をつけどちらが上かを示す必要がある!私たちのこの戦、元より願いが強い方が勝つ!私は私の欲を示すのみ!」

「宗方さん……貴方って人は!」



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第十八鏡 決戦・要塞攻略作戦2

 要塞に向かってバードのメモリを使って飛ぶ快斗、ロケットのメモリを借りて飛ぶ俺、そして俺に抱えられている獅郞。最短距離で接近する俺達を当然敵は見逃すはずがなく迎撃してくる。

 

「うぉい、どうすんだよこれ」

「快斗プランBだ」

「おっけ任せとけ!」

 

 マントを外してヒートのメモリを挿して熱を帯びる。

 

『マキシマムドライブ』

 

 火の鳥は大きくなり迎撃する弾頭を羽矢で全て焼き尽くす。そのまま要塞の下層に突撃すると入り口が出来たのでそこから侵入する。一度変身を解除して先に進むと獅郞が口を開く。

 

「お前らいつもあんなやり方してんの?」

「時と場合による。てかプランBでよく分かったな、打合せしてねぇのに」

「してねぇの!?」

「プランBなら突撃すればいいだけだろ」ニチァ

「よくわかってるじゃねぇか」ニチァ

 

 何故かドン引きされたがそれを無視して進んでいく。

 

「てかホントにコイツ連れてきて良かったのか?」

「ここのデータを知ってるのはコイツだけだ。役に立つ可能性だってあるからな」

「でもよ」

「安心しろ。何かあればコイツは俺が責任もって殺す」

 

 俺がコイツを連れてきた理由は利用価値しかない。私情は全て後回しにしている。そうだ、それ以外はない……

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな時間にどうした?」

「お前なら分かるだろ」

「さぁな」

「この時間に起きて準備万端の様子を見れば十分だ」

 

 嬉々とした顔でこちらを見てくる。さっきの状況からして新一に地上を任せるのが一番だ。だったら俺達は心配なく要塞攻略ができる。でも分からない部分が多いというのも事実だ。それに利用できるなら何でも使った方がいいだろう。

 

「それで俺を使おうってか?」

「あぁそうだ。力を貸せ……いや、貸してくれ」

「?」

「今回ばかりはお前の力が必要だ。要塞のデータを知っているのはお前だけだ。用件が終わったら解放してやる」

「いいのか?そんな勝手な約束をして」

 

 解放すればコイツが暴れる可能性も勿論考慮している。それでも俺はやらねばならぬことがあると決意する。

 

「要塞の中にある主砲。あれは少なくとも個人の私情でとやかくいって破壊できませんでしたで許される代物じゃない」

「だろうな」

「だから俺はお前を利用する。大義のためだ」

「柄にもねぇこと言ってんじゃねぇよ……でも、利用されてやる」

「分かった……ありがとう」

「お前に礼を言われるとはな」

 

 部屋を出てどのように連れていくかを考える。これでアイツを罪が軽くなるわけじゃない。いずれ俺がアイツを殺すと再び覚悟する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 要塞の中を敵に見つからないようにしながら進んでいく。俺達がやることは大きく二つ。一つは主砲を破壊すること、もう一つはこの要塞を停止させること。各地への戦力投入を阻止する事に繋がり園崎の作戦を止めることができる。

 最初に止めるべきは主砲の方だと判断して進んでいく。だが入ってきた時から鳴り続けるサイレンは俺たちの居場所を示すように鳴る。

 

「せっかく隠れて動いてんのにこれじゃあ意味が無いな」

「一応この中には日本全土を支配できるレベルの戦闘員がいるからな」

「お前、この中の一人だったんだろ」

「多分な。でもザコは雑魚だからお前でもやれるだろ」

 

 それはそうだと納得しやってくる敵の一人を背後から襲い鹵獲する。銃を突き付け主砲と要塞のコントロールルームの場所を履かせて殺す。すぐに喋ってくれて助かったが厄介なことにそれぞれが別の場所にあった。

 

「どうする?」

「まあこの距離なら無線で会話はできるはずだから俺と獅郎、快斗で別れるか。そっちは主砲の方頼んだ」

「いいのか?俺機械の操作とかマニュアル無いと苦手だぞ」

「マニュアあっても読むの嫌いだろ」

「きっしょ、何でわかんだよ」

「割とそんな感じするからな。もし本当にわからなければ無線使え」

「オッケー、じゃあ頑張れよ」

 

 快斗は主砲のコントロールルームへと足を運んでいった。あっちなら最悪主砲を壊せばどうにかなるしアイツは脱出方法も色々あるから問題ないだろう。

 問題はこっち側だがあっちが最下層に行くのとほぼ同じため距離や時間的には問題なさそうだがこちら上に上がるのに時間を要するのは必須なようだ。最もこいつを引き連れている時点で遅くなるのは確定しているのだが。

 

「さっさと行くぞ」

「てかこの手錠外してくんね?動きづらいんだけど」

「足枷は外してんだ我慢しろ」

 

 早く移動しようと階段を登ろうとすると敵兵がぞろぞろと現れる。マスカレイドの集団なら容赦なく叩き潰せると簡易的に力を収束させて敵にぶつける。

 

「道を開けろぉ!」

 

 鉄砕拳を繰り出して邪魔する奴らを跳ね除けながら進んでいく。念のため確認すると獅郎は後ろをついてきていた。今裏切ってもどうしようもないことを知ったのかそれとも単に諦めただけなのかは知らないが手錠から伸びている紐を引っ張って連れて行く。

 しばらくすると階段は続かず別の道を行く他無かった。この状況でエレベーターを使うのは愚策だが使えるものは使おうと持ってきた四角い箱をエレベーター内に入れて上の階へ行かせる。

 

「お前最悪だな」

「割とタイミングゲーだと思うんだが」

「だとしても十階にいくようにしたろ」

「行き先はここから十二階だから邪魔を排除できるだろって考えたらよくね?」

 

 一つの上の階へ行くのに約七秒、ここから×10してからスイッチを押せば十分だと判断して上の階へ上り詰めていく。六階分階段を登るとちょうど計算した時間になっており近くのエレベーターを見るとちょうど止まったよおうすだったのでスイッチを押すと上から爆発音が聞こえる。頑張ってあと半分を登るとエレベーターの前に人が大量に転がっていた。十人転がっているからちょうど登った分だと指を鳴らすと後頭部を叩かれる。

 

「何だよ」

「何だよじゃねーよ。人に散々言っといてこれかお前」

「んなこと言ってる場合じゃねーだろ。それに俺だって腹括ってやってる」

「そうかよ…ってうしろ!」

 

 すぐにしゃがみ振り返って銃を撃つとマスカレイドの軍勢がいる。中に別のドーパントがいることか流石にもう戦闘は避けられないらしい。

 

「しゃーねぇ戦うか!」

「非戦闘民いるけど?」

「ガンバ」

「ふざけるなぁ!!」

 

 とか言いながら自己防衛出来てんだから充分だろと思いつつ敵を倒していくと後ろから不意を突かれる。鈍器にも似た一撃が背中を襲い痛みで動けなくなる。変身してる都合上死ぬことはないがそれでも激痛が走って立つことが出来なかった。

 

「痛いだろ、最大まで貯めたからな」

「ドンキーかよお前」

「これで終わりだ」

 

 俺を叩き潰そうとする拳が振り下ろされる直前、獅郞によって回避することが出来た。

 

「大丈夫か?」

「まぁな」

「じゃあお前のドライバーを貸せ。あと手錠も外せ」

「はぁ?なに言ってやがる」

「動けないお前より俺がやった方が生存率は上がる、そうだろ?」

「そりゃあお前、当たり前だろ」

「じゃあ渡せ」

「でもお前のメモリじゃ無理だろ」

 

 手錠のロックを外してロストドライバーを外すとぶん取られる。ドーパントのメモリはベルトに挿し込むことは出来ないはず、なのにアイツから聞こえてきた音はヤツのメモリの音そのものだった。

 

『Nazuka』

「なっ、ナスカ!?」

「行くぜ〜変身」

『ナスカ』

 

 青白い風が獅郎を包むとストールを巻いた青い戦士の姿が現れる。ブレードは前のやつと同じだが体は怪物らしさではなく俺達と同じ仮面ライダーらしさがある。

 

「風に斬られたことはあるか?」

 

 駆け出すと共に風が吹き出し敵を斬っていく。マスカレイド以外のドーパントすら敵ではないかのように斬り伏せていく。その姿を見て新一の姿と重なり同じ剣術を学んだというのは本当だったのかと驚かされた。俺の目の前に戻り剣を降り下ろすとドーパント達は爆発して消えていく。中にはメモリブレイクされたものもいるがそのまま放っておく。

 獅郎は変身を解除すると床に手をついて血を吐いた。

 

「おまっ、何やってんだよ!」

「でも助かったろ」

「そうじゃないだろ。らしくもないことすんな」

「お互い様だろ」

「はぁ?」

「お前だって、俺に利用価値があるとか言って適当な理由つけて守ってんじゃねぇよ」

「俺は」

 

 そんなものじゃない。本当に利用価値しか考えていないんだ。信用もクソもないがコイツは今だけは利用価値がある。だから庇っているに過ぎないんだ。

 

「てかお前何だよそれ」

「俺か?」

 

 手に持っている黄色のメモリを見せられる。確かに記号はNと書かれている。しかも形状はガイアメモリそのものだ。コイツを連れてくる時に持ち物検査はしたがそういうものは一切持っていなかったはずなのにどうして持っているのか。

 

「どこで手に入れた」

「快斗からスった」

「何してんのお前、てかアイツもアイツで緩すぎんだろ」

『もしもーし』

「何やってんだ、お前!」

『は?ル○ィ??』

 

 タイミングがいいのか快斗から無線が入ってくる。助かりはしたがコイツの管理が杜撰なせいでコイツが逃げる可能性があがったじゃねぇか。

 

「お前からナスカのメモリ借りてるぞ」

『何言ってんだよそんなもの渡してって、ない!?』

「報告書確定だな」

『何してくれてんだお前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

「で、何で連絡してきたんだお前」

『あーそうそう』

「うわぁ急に落ち着くな!」

 

 散々ふざけ合った上で急に落ち着くと恐怖を感じる。今度新一にもやってみるかとも考えるが今は冷静になって話を聞く。

 

「んで何用?」

『主砲のコントロールルームっぽい所についた』

「敵は?」

『既に制圧した。ただこの辺の機械どうすればいいのかわからん。無理に壊すわけにもいかねぇだろ』

「お前、本物か…?」

『流石に今は頭回してるわ!いつもみたいに馬鹿やってるわけにもいかないだろ!』

 

 一応暗殺者だしなアイツ、その辺は鍛えられているんだろう。流石に馬鹿にしすぎたか。でもこの状況で解決方法を聞いてくるってことは複雑な機械なんだろうな。とりあえずどういうものかを聞こうとすると通信が切れていた。壊れたかを疑うと数秒後に善処はするけど期待するなという言葉だけ聞こえてプツッと切れた。

 

「どうやら結構強いのが現れたらしいな」

「……だな。てかお前な、今まで普通にスルーしてたけど体への負担はどうなってる」

「割とさっきの血反吐程度。ただ毒が除去しきれていない分はある程度弦巻で軽減する薬を打ってもらったから楽ではある。効果が切れればすぐに回るだろうがな」

「とっとと終わらせて戻っぞ」

「まさか俺を延命させようとしているのか?」

「俺を庇って死なれるのが気色悪いのだけだ」

「はっ、そうかよ」

 

 もう一回手錠をつけて獅郎を連れていく。もう少しで要塞のコントロールルームに着く。この要塞を止めて獅郎の件にも肩をつけられるようにする。それだけを考えて俺達は階段を登っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、そんであんた誰?」

「あら、私は坊やの事覚えているわよ」

「悪いけど年上は二つ上までしか許してないんだわ」

「アイツと同じことを言うのね」

 

 どこの誰だかは知らないが制圧して数分せずに入ってきたんだきっと何かある。それに一人で来た上に余裕のある感じ、多分レベルは高い。ナイフを構えて臨戦態勢をとる。

 

「あの日坊やに負けてからずっと悔しかったのだけれどやっと仕返しが出来るのね」

「だから俺はあんたの事なんか知らな…っ」

 

 懐から取り出したメモリは金色のTが書かれたメモリ。タブーと発声したそれを見て俺はあの日のことを思い出す。先輩が俺にドライバーとメモリを託したあの日の出来事。

 

「アンタまさか」

「そう、あの時はお世話になったわね。たっぷりお礼をさせてもらうわ」

「覚えていないのか?アンタ俺に一回負けてんだぜ」

「わかっているわ。だからこそこれを使うんじゃない」

 

 四角い小さな物体を取り出すとそれをタブーのメモリに取り付ける。アップグレードなどと音を出してメモリの雰囲気はより禍々しく感じるようになった。身体に挿し込んだそれは体内へ侵入していき一年半前に見た姿よりも禍々しい雰囲気を宿すドーパントの姿へと変貌した。

 

「さぁ、坊や、たっぷり遊んであげるわ」

「ちっ……悪いが遊んでいる場合じゃないらしいんでね」

 

 強がってはみせたものの正直威圧だけで圧倒されそうだ。正直あの時は無我夢中でどうやって勝ったのかすら覚えていない。けどあの時より確実に強くなっている。それを信じて俺は立ち向かうことを決めた。

 



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第十九鏡 決戦・要塞攻略作戦3

 宗方さんは刀を構えて一対一の真剣勝負をしろと申し出る。今はそんなことをしている場合じゃないことは承知しているようだがそれでも己が欲を優先するらしい。

 

「構えろ、少年。そのためにここに来たのだろう」

「本当に戦わなくちゃいけないんですか」

「私は貴様と真剣勝負をしたい。そのためにここまで来た。ならばもうわかるだろう」

「出来る事なら僕は貴方を殺したくはない」

「貴様、正気か?だから貴様は強くなれないのだ!」

「!?」

「いくら貴様が信頼を重ねた相手でも倒さねばならない敵となれば、それは敵にしなければならない!それも出来ない奴は一生強くなれんぞ!」

「………………」

 

 言っていることは百も承知だ。だからこそ斬りたくない人もいるがそれでも斬らねばならないというのは戦場の常。今までもやってきたことだ。裏切り者も手負の仲間も人でなくなる子供すらこの手で葬ってきた。ならやることは変わらない、今回はこの人がそれというだけのこと。

 

「分かっているのならば得物を抜け」

「わかりました。……手加減はしませんよ」

「フッ、それで良い。我が武士道を以って貴様を殺す!」

「では僕は、我が武士道を以って貴方を倒す!」

 

 互いに獲物を向けて殺意を向ける。静寂が訪れ次に風が吹いた時には互いに地を蹴って目の前にまで接近していた。互いの剣を弾き火花を散らす。何度も刃をぶつけ合い攻撃を与えようとするが先を読まれているのかそれとも同じことをしようとしているのかどれも防がれてしまう。上げていくスピードにも重くしていく力にもすぐに追いつかれてしまう。

 

「そうだ、コレがやりたかった!コレこそが私が求めた闘い!」

「くっ…!」

「遅い!」

「なっ!グハッ!!」

「その程度ではつまらん、本気を出せと言っているだろう!」

 

 振り下ろされる刀を避けて攻撃するも避けられ距離を取られる。このままじゃ埒が開かないとイクサナックルをベルトに装填すると身に纏ったスーツの上からイクサシステムが覆う。

 だがそれに合わせるように彼も皇が持っていたようなドライバーを持ち出した。

 

「貴様がそれを見に纏うというのなら私もそうさせてもらおうか」

『サムライ』

「貴方までそれを使うのか!」

 

 MASドライバーの主砲を斬り落とした影と同じ鎧姿のそれは宗方さんが変身した姿と一緒だった。まさかそこまでやっているとは思いもしなかったがこの戦場にいる時点でそれを察しておくべきだった。信用はあれど敵であることを忘れてはいけない。

 

「このメモリは私の身体に調整されて作られた私専用」

「そこまでして力が欲しいのか」

「私が欲しいのは勝利だ。私が私を見失わず貴様に勝つこととなればどのような力でも使いこなしてみせる」

「それが貴方の武士道ですか」

「ああ、そうだ。戦闘再開といくぞ!」

 

 モノクロの鎧は重そうな鎧を軽いと思わせるように速い動きで迫ってくる。イクサシステムでパワーやスピードを底上げしているのにそれを上回るような動きをしている。

 ──長期戦になったらこっちが不利だぞ。

 そんなことは分かっているけど、この状況一発逆転を狙うか?

 ──いや、ここは制限解除だろ。

 そんなことしたら体が保たないでしょ。しばらく使っていないんだからフィードバックが強すぎる。

 ──この間少し使っただろ。それに小出しってわけじゃないが力を込める瞬間に使えば切り替えの負担はかかるが本来かかるはずの反動を抑えることは出来る。

 そんな器用なことしたことないよ。

 ──こっちで何とかする。お前の動きに合わせてやるからお前は自由に動け。

 じゃあ任せるよ。その代わり絶対に倒すよ。

 ──合点承知。

 振り下ろされた一撃を受け止めながら息を吐き出す。

 

制限解除(リミット・ブレイク)!」

「面白い…それでこそ私が認めた男だ!制限解除(リミット・ブレイク)!」

 

 速度を上げて足にだけ制限解除を集中させ速く動くと呼応するように宗方さんも同じ動きに出る。本来持っていないはずの力をどうしてこの人が持っているのかはすぐに分かった。僕にこの力を植え付けたのは園崎さんだ、そして彼が今いるところを考えれば答えは自ずと姿を現す。

 

「それを使えば身体が壊れることくらい貴方なら分かるはずだ」

「構わん、私は今最高に燃えている。この熱は二度と味わえないだろうならばこれを逃すわけにはいかぬ!」

「本当に死ぬ気ですか!?」

「死ぬ気でなければ本気にはなれぬ!」

 

 刀の一撃を受け止めようとすると底上げされた力によって弾かれる。剣が交差し押し合いに負けると蹴り飛ばされる。元々の戦闘ポテンシャルが高いのにここまで強化されればいやでも普通の人間より強くなれる。

 

「立て。貴様はその程度ではないだろう」

「そんな風に思ってくれるのですか」

「無論。でなければ私が貴様を宿敵として見ているはずがない」

「そうですよね、貴方は昔から興味のあるものにしか関わろうとしなかった」

 

 立ち上がるとまともに立つ体力がないのかふらつき始める。きっと制限解除のせいだと結論づけるがそれは相手も同じようだった。刀を地に刺して立っていることからやせ我慢をしているらしい。

 

「そろそろ互いに決着をつけねばならないようだな」

「そのようですね」

 

 深呼吸をして身体に鞭を打って態勢を整える。きっとあと一撃が限界だろう。逆にここまでやって血を吐かなかったこと自体がレアだ。次の一手を考えた僕は深次を呼ぶ。

 ──やりたいことは分かったがいいのか?

 何が?

 ──こっちの制御あって今の状態だ。全解放すれば最悪またぶっ倒れるぞ。

 むしろそれくらいやらないと勝てないと思う。それにあの人もそれを望んでいる。

 ──分かった。もう俺は手を出さない。だから勝てよ。

 

「言われなくても!」

「どうやら決意は決まったらしいな。私も次の一手で終止符を打つ」

 

 互いに己が得物を構えて睨み合う。全力を出す姿勢を保って力を込める。呼吸を整えて相手を見据える。

 

「「いざ尋常に────勝負!」」

 

 地を蹴り剣で刀を受け止める。互いに最大限の力を出し押し合いになるがそれを利用して剣を滑らせる。距離を詰め滑らせた剣を懐から斜めに振り上げ斬り、また振り上げた剣を真っ二つに裂くように振り下ろした。振り下ろす際に刀で受け止めようとしていたがそれすら邪魔を許さなかった僕は叩き折って切り裂いた。

 

「お見事…!」

「あと少し、ズレていたら僕の負けでした」

 

 爆発寸前の宗方さんは満足気に声を出して倒れるようにして爆発した。排出されたメモリを砕き元の姿に戻ったことを確認するとすぐに回収班がくる。意識を失った宗方さんはそのまま運ばれていき僕も変身を解除すると立てなくなってその場に座り込む。

 

「よくやったと言いたいところだが死にかけ寸前じゃねえか」

「あの人はそれだけ強い人でしたから」

「そうだな…」

「それよりここにいていいんですか?」

「ここらは大体片付いたからな。お前がどうなるかわからないから見張れと言われていたしな」

「なるほど」

「とりあえずお前はもう休め」

「いえ、やるべきことがありますので」

「やりたいことはわかっている。すぐに出られるようこちらで今準備を進めているから待て」

 

 四谷さんは背を向けて前線基地の方へと戻り出した。その後ろを追いかけるようについていくと僕の期待を乗せることが出来るものが用意されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこの女に一度勝っている、そう考えていたのが甘かった。

 

「どうしたのかしら坊や。戦う前はあんなに自信満々だったのに」

 

 空中浮遊しているだけでもかなり戦うのは難しいだからこそ俺が有利になる状況を作って倒すつもりだった。だが強化されたあいつはスピードはおろかパワーまでもが格段に違い一方的に攻撃されていた。

 移動に伴う速さや凝縮されたエネルギー弾は追尾機能まで追加されていて防戦一方となる。

 

「お前やっぱチート使ってるだろ」

「この強化アダプターはメモリの力を底上げして拡張機能まで搭載されるようになるの」

「やっぱチートかよ」

 

 あの外部パーツを取り付けている間は奴が強くなっている。取り出す方法は……まずないな。むしろこの状況だからこそ燃えてくる。でも早々に決着をつけないとやられるのはこっちだってのもわかっている。

 

「ご自慢のマントももうボロボロね」

「こんなもんはなっからねぇのと変わんねぇよ」

 

 使っていないが都合よくあってくれるだけありがたかったが流石にダメージが強すぎたのかほぼ原型を留めていない。あえて脱ぎ捨てて身を軽くする。

 ヤツの胴体を集中的に攻撃するためにはまず接近が必要だ。だがあいつが素直に地上に降りてくるとも限らない。俺の体力を考えて使うメモリの数と種類はしっかり考えなければいけない。

 

「何か難しいことを考えているみたいだけどやめておいた方がいいんじゃない?」

「はっ、言っとけ。そういやアンタら新一さんと一緒に戦ってたらしいな」

「それがどうかしたの?」

「執着心とか気になってよ」

「そうね、一定数は気にしている人もいるみたいだけど私は特に気にしてないわ」

 

 揺さぶりをかけても特に変化はなし、失敗したか。でもおかげで少しは時間が稼げた。ゾーンメモリを使っても避けられるならもう次に当たった時が最後のチャンスだと信じるしかねぇな。

 

「雑談はこの辺にしましょうか」

「そうだなっ!」

 

 ナイフを持って突撃するも空中へと逃げられエネルギー弾を放たれる。要塞の中とはいえコントロールルームは異常に高さがある。多分コイツが戦う時のことを想定されていたに違いない。ナイフを投げると簡単に避けられる。

 

「坊やのナイフ投げも中々楽しめたのだけどそろそろ終わりにしないと他のネズミも取り逃しちゃうことになるから終わらせましょう」

「へっ、それはこっちのセリフだ。見えない線で綱渡りしてるアンタの方がよっぽど面白かったぜ」

「そうかしら。今の私には坊やが滑稽でならないのだけど」

 

 両手を広げたドーパントは周りに大量のエネルギー弾を展開させる。十、二十、三十──それ以上に数えきれない数をこの部屋いっぱいに用意する。

 

「おいおいマジかよ」

「もし生きて出て来れたら褒めてあげるわ。当然無理でしょうけどね」

 

 四方八方に展開されたエネルギー弾が俺めがけてやってくる。360度全てを囲まれた俺は逃げ場なんて存在せず体を守るように防御の姿勢だけを取って攻撃を受けた。身体中のあちこちで爆発の痛みがやってくる。意識が飛ぶかと思った瞬間痛みが全てなくなった。

 だがその瞬間に体を青い炎が包み込む。エネルギー弾は当たり続けているが痛みは感じない。怪我をしている場所から燃え上がり痛みを感じなかった俺はメモリスロットに四本のメモリを挿し込む。

 

『ヒート』

『メタル』

『アイスエイジ』

『ユニコーン』

「流石に死んだかしら。あの状況で生きている方が」

 

 爆煙で前が見えないがきっと奴はそこにいると考え込んで目の前に突っ込んだ。案の定慢心に浸っていたのか地上に降り立っている女は格好の獲物と言っても過言ではなかった。

 

「なっ、何で!?」

「さぁな。でもこれで終わりにしようぜ」

 

 熱を纏った拳を一発腹に捻り込む。退こうとしているドーパントを逃すまいと冷気を纏った拳で殴り込む。ドリル状に捩じ込まれるパンチが温度を変えて交互にドーパントを狙う。底上げする闘志の記憶はパンチを何倍もの威力にする。

 

「こんなはずじゃ」

「ハァァァァ!」

 

 拳に宿る闘志、突き破るような一角獣、体を焼き尽くすような熱、体を凍らせるような冷気が一度にドーパントの身体を貫く。爆発の中から砕かれたメモリが排出される。メモリブレイクも一緒に出来たらしく強化アダプターだけがコツコツと床を跳ねる。

 

「全く、手間取らせやがって」

 

 意識を失った女を持ってきたワイヤーで拘束して主砲の操作板を改めて見ると不思議と操作方法が分かった。多分、いや絶対疲れている。疲れ切っている時程こういうのは頭が働くと相場が決まっている。普段こういうのはわからないのにこういう時にわかるってことは多分そういうことだ。メモリ四本なんて慣れないことをしたからだろうか。

 とりあえず操作して主砲の起動をキャンセルして機械をぶっ壊す。擦ればもう動くことはないだろ。京に連絡すると向こうももう少しで着くらしいのでしばらく休憩してからいくことにした。一旦座ると眠気が襲いかかってくる。こりゃあダメなパターンかもしれないと思いつつ抗いきれない眠気に負けて俺の意識はそこでブラックアウトした。



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第二十鏡 決戦・要塞攻略作戦4

 快斗から連絡を受けた俺達はコントロールルームの表札を貼られた扉の前に立っていた。話が本当ならここが要塞を動かす操作室だ。スカルマグナムを構えて獅朗とタイミングを合わせて突入し制圧する……はずだった。扉を開いて目に入ったのは大きなモニターと誰一人いない空間。

 

「どういうことだよ……」

「嵌められたってことか?」

「だとしてもこれだけの機械を完全に遠隔操作はおかしい。多分、飛行機とかと同じように進路はある程度設定してオート操作にしてるとかが一番納得する」

「流石は名探偵、よく分かってるじゃないか」

「誰だ!」

 

 コントロールパネルを見ていると後ろから声をかけられ警戒する。暗い部屋の奥から現れたのは白衣の男。

 

「大方、君の考えている通りです。ここは進路だけ決めればあとは移動も防御もオートで動けるように出来ますので」

「じゃあアンタに止めさせればいいのか」

「そんな簡単に行きますかね」

 

 マグナムを向けても動じることはなくツカツカとパネル近くの椅子に座る。そしてパネルを触るとモニターが別の画面に切り替わる。そこには高そうな椅子に座る老人の姿があった。

 

『ここまでご苦労だったね。骸探偵いや、鳴海京』

「へぇ、俺の二つ名知ってんのか」

『探偵としての活躍もね。まるで掘り返したかのように事件の一端を語る姿から名付けられたんだろう?』

「んなことは知らないね。そんでアンタが園崎ってやつで間違いないな?」

『いかにも。ここまで来た君達にはそこの出来損ないを含めて尊敬の意を示すよ』

「テメェ……」

『しかし残念だが君達はここで終わりのようだ』

 

  不気味な笑みを浮かべると画面の右側から影が侵食し始める。さっきまでいたはずの白衣の男が居た場所に不気味な機械掛かった巨大な化け物の姿が見える。

 

『ありがとう、そしてさようなら実験台(仮面ライダー)諸君』

「冗談じゃねえ」

 

  銃を乱射しても何も止まらず作り出す。それを俺達の頭上に投げると囲うように展開して閉じ込める。いくら殴っても撃っても壊れはしなかった。

 

「くそっ、なんだこれ!?」

「無駄だよ。これは人一人で壊せるような檻じゃない」

 

 中心部の人型らしきところから声が聞こえる。まるで絡繰を操っている操舵手のようだ。だがそれだけでは奴が何のメモリを使っているのかは分からない。モニターに気を取られていたせいでどんなメモリかを見る事すら出来なかった。

 

「お荷物を抱えた君では余計壊せないだろうね」

「鉄砕拳!」

「体力の無駄だぜ京。落ち着け」

「お前なぁ、自分が置かれている状況がわかってんのか?」

「わかっているさ。だからもう一度手錠を外せ」

 

 その言葉を聞いて活路が開けるのではないかと考えたが今度ばかりはリスクが高過ぎるを思った。目の前の怪物を見てこっちが負ける可能性を考慮し裏切る可能性がある。確実に勝つ方に付くのは正しい判断だ。だがそれは俺にとって敵に戦力を上げるも同然だ。そんなことを許すとでも思っているのだろうか。

 

「今手錠を外せばお前は死ななくて済む!それに今の俺はお前を裏切らない!」

「そんな保証はどこにも」

「いいから信じろ!」

 

 獅郎の叫ぶ声が聞こえる。変身している状態では俺は死ぬことはない。でも生身のアイツは死ぬ可能性がある。決着は自分の手で付けたいがそれよりも自分の安全を優先するか。そのためにコイツを犠牲にするのか?

 

「早くしろ!」

「その檻からは逃げられない。そのまま一緒に殺してあげよう」

 

 檻の上に巨大な槌が現れ振り上げられる。迷っている場合じゃないと判断し俺は決断した。獅郎の手錠を解除し持っていた懐からある物をぶん投げる。そのまま降りに向かって鉄砕拳を打ち込んだ。その瞬間檻が軋む音がし囲っていたはずの鉄格子はぺしゃんこになった。

 

「流石に逃げられないだろう。この力は上級メモリに匹敵する力、ましては神の力なのだから」

「神ねぇ…そいつは面白いことを聞いた」

「何?」

 

 土煙が晴れ姿を見せると動揺しているのか持っていた槌を床に落とした。鉄格子がペシャンコになった時はもしあの中にいたらと考えヒヤヒヤしたが獅郎が咄嗟の判断をしてくれたお陰で助かった。

 

「馬鹿な、あの檻が壊れるはずがない」

「お前言ったよな?人一人が壊せるような檻じゃないって」

「なら二人でやればいい」

「君たちは敵対しているはずだ、この状況で強力など…まして君の能力なら見殺しにしても構わなかったはずだ!」

「そんな事をしたら今まで俺が暴いてきた犯人達と同じになる。それに、コイツを殺すのは俺であってお前じゃない」

 

 青いドーパントの姿になった獅郎が隣に来て剣を床に突き刺し楽な姿勢を取る。

 

「分かっているとは思うが種明かしだ。お前のハンマーが檻についた瞬間俺は変身して京と一緒に鉄格子に攻撃した。そして破壊した場所から俺の超高速を使ってコイツを連れて脱出したってわけだな」

「馬鹿な、データでは貴様の身体はナスカメモリの毒素によって弱体化しているはず!」

「最近毒抜きが出来たものでな。この通り平気へっちゃらってわけだな」

 

 それは嘘だ。ある程度は抜けても完全除去までとはいかなかった。それにさっきの動きのせいでコイツの身体にまた毒素が流れ始めているだろう。だからこそ早めに目の前の化け物を倒す必要がある。

 

「ふざけるなぁ!このメモリは私が作り上げた最高傑作!その力で作ったものをこうも簡単に壊されてたまるかぁ!」

 

 まるで歯車を繋ぎ合わせたような翼を広げ怒りを隠せないのか所々にある排気管からフシューフシューと煙を出している。

 

「お前のメモリ、今分かった」

「何ぃ?」

「神の力、巨大な槌、作り上げた檻と絡繰を操作しているような身体、そして機械掛かった翼……ここから導き出したメモリの名前は『ダイダロス』、ギリシャ神話の神だ」

「よく分かったな」

「かつてイカロスに授けるために作った翼、これが一番わかりやすかったな。あとはアンタが神の力だって自慢げに言ってたしな」

 

 神話に関しては昔読み漁ってた時代があったから知識はそれなりに入っている。それに物作りが好きなコイツらなら神話に手を出すのも時間の問題だと思っていた。

 この距離だからわかるが獅郎の呼吸が少し荒くなっている。平然を保っているようでも運動後のような少し荒い呼吸をしている。きっと毒が回り始めたんだろう。

 

「さっさとコイツ倒すぞ」

「先陣を切ってやるからついて来い」

「バーカ、ついてくるのはお前だ」

「二人揃ってここで始末してあげますよ!」

 

 ダイダロスドーパントは槌を持ち上げて振り回す。ジャンプして回避した俺たちは着地して己が刃を向ける。

 

「さぁ、お前の罪を数えろ」

「風に斬られたことはあるか?」

 

 風のような速さでダイダロスの周りを駆け走る獅郎に暴れる巨体は小回りがきかないのか翻弄される。その隙を狙って羽や絡繰の接合部目掛けて銃を撃つ。よろける瞬間を狙って獅郎が辻斬りのように切り裂いていく。俺が懐に入ろうが翻弄されているため気付くのに時間がかかる。

 

「貴様らどうしてこんな連携が!」

「知らなかったのか?これでも俺達友達なんだぜ」

「その表現は間違っているけどな」

「ツレないこと言うなよ」

「うるせえ」

 

 巨体の横を飛んで来る獅郎を追いかけるように振り向いたダイダロスの人型目掛けてゼロ距離で鉄砕拳を打ち込む。ピキパキとヒビが軋むような音を上げて悲鳴を上げる。

 

「鉄砕拳・零」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「あれって結構痛そうだよな。距離離れてても痛いんだから」

「やってみるか?」

「お前俺のこと殺す気か?いずれ殺し合うのに」

「素直に死んでくれるならそれでいいかなと」

「鬼すぎるだろ」

 

 適当な茶番をやっていると二人揃ってまた檻の中に入れられる。今度は五重層くらい重ねられ簡単には破壊できそうにないことを察する。

 

「今すぐに殺してやる」

「お前さぁ、まなばねぇの?」

「学ばないのは貴様らだ!先ほどの硬さは甘く見ていたかもしれないがこれだけ重ねれば『スカルマキシマムドライブ』いくら貴様らでも壊すことなど不可能……」

「悪い、話が長い」

 

 途中から飽きた俺達は檻を一撃で破壊できるように互いにエネルギーを収束させて一点目掛けてぶつけて檻に穴を空けた。

 

「研究者ってのは自慢したがるから話がなげぇんだよ」

「探偵だって似たようなものだろう!?」

「あの時間は公式が用意しているものだから認められているわけであってお前らのは非公式だから」

「訳の分からないことを言うなぁ!」

 

 怒り狂ったドーパントは槌を振り回して攻撃してくる。計画性も知性も感じられない攻撃に俺達は簡単に隙をついて攻撃を続ける。挟み込む形になった時俺は再びメモリスロットにスカルメモリを挿し込んだ。

 

『スカルマキシマムドライブ』

「そろそろ終わりにしようぜ」

 

 巨大な紫の骸骨を作り上げドーパントの身体を包み込ませる。身動きの取れなくなった巨体は格好のいい大きな的に過ぎない。俺と獅郎は足に集中的に力を溜めて跳び上がりそのままライダーキックを決める。

 

「馬鹿な、今の私は神も同然だというのに!」

「お前の敗因ってわかるか?」

「もとより、ダイダロスは神話に出てくる人物であって、神ではない」

「実験台風情がぁ!」

「good bye!」

 

 獅郎が親指を下に向けると骸に包まれた巨体は爆散した。中からは白衣を着た男が現れるが気を失っている状態だった。近くに砕け散った金色のメモリがあるのを見て幹部クラスだったことを確認すると同時に完全破壊に成功したと捉えた。

 そのまま俺は操作盤をいじって進路や計画の資料を見つける。ここで止めることが出来なかった場合、三日で制圧できる算段になっていたらしい。そして主砲の操作はこちらでも可能だったため快斗がいるところのみでは不十分だった。武装に関する電源を落とし進路も変更しようとすると警報音が鳴り響く。

 

『緊急事態 緊急事態 アト三十分デ自爆シマス 総員避難シテクダサイ クリカエシマス 緊急事態 緊急事態』

「どういうことだ」

「おそらく電源を落としたことによって暴走したか、もしくは園崎本人がここの映像をどっかで見ていて負けたことがわかったから自爆装置を作動させたんだろう」

「なるほどな」

 

 自爆と聞いて正直焦るかと思ったが意外にも冷静に返事を返してきた。想定していたのだろうか。

 

「とりあえず俺達も脱出するぞ」

「どうやって」

「避難しろって言うんだからどっかに逃げ口くらいあるだろ。その辺のやつとっ捕まえて聞き出す」

「そうかそうか。でもその必要もないだろ」

「何言ってんだ。このままここにいればお互い自爆に巻き込まれて死ぬ……」

 

 振り返って見てみると首元にブレードが添えられていた。大体わかった。念のため白衣の男を確認すると血溜まりができている。

 

「この状況でも人殺しか?」

「アイツはもう必要ねぇだろ。生きている価値もない」

「生死を決めるのはお前じゃない」

「でもお前でもないだろ?」

「それがどうした」

「ここにおいてけば死ぬんだぜ?お前も人殺しと同じだろ」

「そうだな、元々そういう覚悟で俺は来ているのからな」

「じゃあなんであの時俺にメモリを渡した」

「それは私情だ」

「…フフ、フハハ、ハーハッハッハ!なんだよ、メチャクチャじゃねぇか!」

 

 そうだ、今日の俺は根拠も何もかもがめちゃくちゃだ。だから何を言われてもどんな罪を被っても全てを受け入れるつもりでいる。

 

「じゃあ、こうなる(・・・・)ってことも頭に入れていたのか?」

「勿論だ。これは俺達が初めてしまった物語。だからこそ俺が終わらせなきゃいけないんだ」

 

 剣を引いて落とした獅郎は青い仮面を付けた顔を抑えて笑っている。

 

「いいねぇ!ここまで面白いことになるとは思いもしなかった!やろうぜ京!」

「ああ、今日で俺達の因縁に決着をつけよう。獅郎!」

 

 スカルマグナムを構えてかつての友を狙い定める。楽しかったはずの思い出も苦しい思い出も悲しい思い出も全てをここで終わらせる。罪を数えるのはアイツだけじゃない、俺も一緒に数えるんだ。

 

「どっちが生き残っても、どっちも死んだとしても恨みっこなしだぜ?」

「当然だろう。そんなことより始ようぜ、最後の戦いだ」

「手加減も遠慮もいらねぇ、全力で行くぞ」

 

 互いに得物を構えて見据える。生きることに執着はしない。今はただ──目の前の敵を殺すことだけを考える。地を駆け出すと互いの声が響き合っていた。

 

「京ー!」

「獅郎ー!」

「「俺がお前を殺す!」」



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第二十一鏡 決戦・要塞攻略戦 完

「……と…ん‥…!……快……く……!」

 

 ふと名前を呼ばれた気がして閉じていた瞼を持ち上げた。寝ていたというよりは気を失っている状態に近かったらしい。

 

「快斗君!」

「新一、さん……」

「良かった、無事だね」

 

 目の前にはいつもの執事服とは違う変なスーツを着た新一さんの姿があった。ヘッドセットに手を当てて何か連絡をしているらしい。顔を軽く叩いて意識を覚醒させ周りを再確認する。

 破壊したコントロールパネル、ワイヤーで拘束された女と周りでまだ意識を失っている兵隊ども。そして新しく追加された変な格好の新一さんと穴が空いた壁とでっかいブースター……いやいやいやいやいや、何このブースター!?

 

「体は動かせる?もし行けるならすぐに脱出の準備をしよう」

「何平然としてるんですかっ、てか何スカこれ!?どうやってきたんですか!?」

「見ればわかると思うけどこれで」

「これでぇ!?」

 

 どっからどう見てもミー○ィアのブースターにしか見えなかった。よく見ると先端に人型の枠が取り付けられている。相当なGがかかるだろうけどこの人なら耐えかねないという考えが過ったため黙っておくことにした。

 

「メモリの負担もあるだろうから乗せていくけど」

「この辺の捕獲した人はどうします?」

「後ろにバリアフィールドを張るから快斗君と一緒に乗せてもらえる?ワイヤー拘束は忘れないようにね」

「うっす」

 

 連れて行ける限りで拘束してブースターの上に乗せる。運んでいる最中に女が目を覚ましたが変に抵抗されずそのままブースターの上に乗せた。多分これだけいれば情報収集も問題ないだろう。それに今回は犠牲が出ることは避けられない戦いだというのは重々承知している。だからこそ救える限界は救おう、たとえ利用することを前提にしても。

 

「準備OK?」

「オーケーですけどどうして少し焦っているんすか?」

「実はさっき軌道計算が出たんだけど、どうやらこの要塞は現在太平洋に向かって進行しているらしい」

「本来予想される方向ではないと?」

「うん。そして何より軌道が下に向かっていっていることから多分落ちてる」

「えっ、マジっすか?」

「マジだと思う。向かってくる最中何度か角度を下にずらしたからほぼ確実だし、それにこの警告音が本物ならどっちが先になるかわからないけど脱出しないとまずいことになるのは確かだね」

 

 となると早めに脱出しないと危険かもしれない。てか俺が寝てる間に自爆スイッチ入ってるってどういう事だよ。それに新一さんが持ってきたブースターもどこまで飛べるか俺が知っているわけではないけど人を乗せるんだ倍くらいの燃料を使うはず。でもその前に。

 

「京はどうしてるんですか?」

「まだ連絡していないんだけど錠前の位置情報だとここの最上階にいるみたい」

 

 錠前をとって連絡を取ると京の声が聞こえてくる。

 

『どうした?』

「要塞が軌道を変えた。このままじゃ太平洋に落ちるか自爆が先か分からない。脱出しよう」

『あー、だとしたら先にいっててくれ』

「どうして」

『やることが残ってる。何、心配すんな生きて帰るさ』

「京……」

「分かった、悔いのないように」

『あいよ』

 

 錠前越しでもわかるようなニカっとしたような声を最後に連絡は取れなくなった。俺たちは京の無事を祈りながらも新一さんが操縦するブースターに乗って要塞から脱出した。バリアフィールドのおかげか気圧やGをあまり感じられずにいたがそれでも強く速いため少しずつ気持ち悪くなってくる。

 

「大丈夫そう?」

「いやもう全然、キツいっす」

「そっか、なるべく楽にできるようにはするから」

「そういやどうやって壁破壊したんすか?このブースターどう見ても武装なんて」

「来る最中に照準合わせて撃ったバズーカなら捨ててきたよ」

「環境に優しくないっすね」

「それはごめんなさいだけど急を用してたから。あ、ごめん迎撃部隊が来た」

 

 前の方を見ると小型の戦闘機が二機迫ってきていた。人が乗っている様子が見られないことから要塞から脱出するものがいた際に情報を漏らさないようにする為自動で出るようになっていたのだろう。

 

「僕の方から迎撃することは出来ないや」

「じゃあどうするんすか?言っちゃアレっすけど新一さん丸裸もう同然っすよ?」

「だとしても、壊す方法はあるよ」

「へ?」

 

 ギュインとスピードを上げると気持ち悪さが増してくる。飛んでくるミサイルを避けながら戦闘機に近づいた時にこのまま素通りするかと思いきや俺たちがいるバリアフィールドをぶつけるようにして下に避けた。目の前で戦闘機が爆発し次がやってくると今度は機体の腹部にナイフのような近接専用の武器が取り付けられていた。流石に逃げるしかないだろと思うと同じように突っ込んでいく。何をしているんだと言いたかったがそれよりもGのせいで吐き気が止まらなかった。戦闘機との距離が詰められると真っ逆さまになる感じがした。なんだこれと思うとそのまま一回転して戦闘機の頭にぶつけて迎撃した。

 

「ヨシ!」

「よしじゃねぇぇぇぇアンタ何バレルロールしてんだぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああああ」

 

 その勢いで地上へと向かう新一さんは風邪のせいで音が聞こえていないのか返事をしてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな水を差して」

 

 獅郎との決着を受けている最中、新一達から連絡を受けて取るかどうか悩んだ際に出てもいいと獅郎が言ったため時間をもらった。その間は獅郎も攻撃をしてくることはなかった。

 

「こんな状況だからな。ただ、もう邪魔が入ることは許さねぇ」

「だな、だからこうしてやるよ」

 

 錠前を獅郎に向かって投げつけると叩き斬られるがそれが狙いだった。以前新一がやった戦法、錠前は外部から破壊されることで煙幕の代わりになる。煙の中奴がいる場所に向かって銃を撃つとそれを叩き落とすように煙が裂かれる。見えないところからの銃撃を捌ききったキモさはさておきそこに向かって正拳突きをすると回避される。

 

「あっぶねぇな!」

「なんで避けられんだよ」

「生憎俺はいつでも始められるようにしてたからな」

「そんなに俺と戦いたかったか」

「そりゃもちろん!」

 

 振りかざされるブレードを盾骸骨で防ぎ押し返すと距離をとりながらエネルギー弾を放ってくるがそれを撃ち落とす。互いに何をやってくるかは想定済みというわけか。

 

「お前が本気で向き合ってくれるんだ。やっと出来るんだぜ、この戦いを!」

「そうだな、俺たちが始めてしまった事件だ。だからこそもう終わりにしなきゃいけない。お互いのために」

「俺もこの決着は死ぬ前につけたったからなぁ、嬉しいぜ」

「千尋のために、何より俺自身のケジメだ」

「そうこなくっちゃなぁ!」

 

 正面に超スピードでやってくる獅郎に対して鉄砕拳を打つが舞い上がって回避するため銃を撃って迎撃する。放たれる光弾を避けながら壁を蹴って奴を叩き落としにいく。近くに行くとブレードを振り落とされそうになるがその瞬間に手にグローブサイズの骸骨を作り顎骨で受け止める。

 

「なっ!?」

「そこっ!」

 

 残った片方の手で腹を狙おうとすると羽がある獅郎は身を浮かべて避けるがブレードを掴んでいる腕で引き摺り込んで拳をそのまま振り上げ顔面をぶん殴る。

 互いに地面に落ちて立ち上がるのに時間がかかった。俺は背中から落ちてアイツは運悪く顎にあたったのか立ちがるのに時間がかかった。

 

「悪運だけは強いよなぁ」

「お互い様だろ」

「そろそろ終わりかぁ?」

「だな、割と体力もギリギリだ」

「そうかい、俺はまだいけるけどなぁ」

 

 多分ハッタリだ。アレだけ動いたんだ俺と一緒でアイツの体ももうボロボロに違いない。おまけにアイツには猛毒が回っている。

 

「これで終わりだ」

「終わりにしてやんよ!」

 

 羽を広げ光弾をいくつも放ちブレードを構えて真正面から突っ込んでくる。それに対して盾骸骨を展開して銃で狙いを定め撃ち出す。盾骸骨と獅郎がぶつかった瞬間競り合いが始まるが圧倒的に盾骸骨が負けこっちにやってくる。それに対しエネルギーを右手に集中させて骸骨の後ろから拳を打ちにいく。右手に集中していたエネルギーは骨手の形になり手を開く。骸骨の後ろに来た途端骨の指は骸骨と獅郎を包み込む。今獅郎は俺のエネルギーに包まれている状態になりほぼ全方向に抗わなければならない状態になる。

 

「石破天驚…」

「ウオォォォォ!!」

「死爆」

「オォォォォォォォ!!」

「スカル・フィンガー・零!」

 

 完全に包み込まれ爆発すると俺の変身が解除される。流石にパワーを使いすぎたらしい。爆発の中からは同じように変身が解除された獅郎が出てくる。メモリがピキパキと音を上げながらヒビが入っている。

 

「負けちまったか……」

「ああ、俺の勝ちだ」

 

 笑いながらも後ろの方へと下がっていく獅郎は壁に寄りかかってそのままずり落ちる。一息つくかのようにため息をつくが後悔している様子はなかった。

 

「言いたいこと、あんだろ?」

「…ああ」

 

 正直言うかどうか躊躇った。きっとこいつ自身それは把握しているだろうと思っているからだ。だがそれは自身への戒めになるため改めて口にすることにした。

 

「俺の罪は数え終わった。さぁ、お前の罪を数えろ」

「今更、数え切れるかよ」

 

 こいつがどんな罪を犯して来たのかは知らない。それでも俺のせいで作り出してしまった罪もあるはずだ。

 

「因みに俺は今から二つ、罪を犯す」

「ああ?」

「今からお前を討つ、そしてこの身を自らの手で滅ぼす」

「お前、まさか俺を殺した後に心中するってのか?」

「そうとも言えるな」

「バカか?んなことやってもお前は」

「俺は、俺のせいでこうなってしまったと思っている。だからこれで罪滅ぼしをするんだ」

 

 獅郎は呆気に取られた顔をすると顔を押さえて笑い出す。

 

「何がおかしい」

「お前って、本当にバカだよな。誰が頼むんだよ、そんなこと」

「誰に頼まれたとかではない。これは俺自身のケジメだ」

「全く、これだけは死ぬまで誰にも言うまいと思っていたのにな」

「?」

「少し、昔話をさせろ」

 

 銃口を向けられてもなお笑っているこいつが少しおかしくも感じたが黙って話を聞くことにした。

 

「あの日、京にコイツの使い道を考えろと言われた次の日、俺は千尋に相談したくてお前より先にアイツの家に行った。表面化することは違えど根本的なところは多分一緒なんじゃないかと思ったからな。でも家に着いた時、玄関の鍵が開いていたんだ。おかしいと思って入って行ったらな、千尋が何者かによって誰かに殺されてたんだ。窓をぶち破った跡があったからきっと犯人は逃走しようとしたんだなと思った。そうしたら後ろから襲撃を受けた。奇跡的に回避できた俺はそいつが付けていたコイツを奪い取って変身した。流石に力の差があることを理解したのかすぐにやつは撤退したがな」

「待て、じゃあお前は」

「話は最後まで聞けよ。散らかった部屋、親友の遺体、これらから俺が疑われることは間違いなかった。もしそれで捕まるくらいならせめて千尋を殺したやつくらいは道連れにしてやりたいと考えた俺は殺人者のツラをすることにした。まぁ事実その後にちゃんとそいつを殺したかられっきとした犯罪者なわけだが。そして俺は今日までいろんな人間を殺しては実験台にして遊んできた。きっともう悪いことをしても誰にも止められないと思っていたからだろうな。そしてそこに骸の探偵が現れ、一人の犯罪者はそこで終わりを迎えたってわけだ」

 

 向けていた銃を持つ力がなくなりガシャンと音を立てて落とすと頭を抱える。俺がやってきたとことはコイツをただ責めてきただけってことだ。親友を殺してもいないのに殺したと濡れ衣を着せた上にずっと追い詰めてきたのは俺だった。

 

「嘘だ、俺は、俺は」

「京落ち着け。お前は何も悪くねぇよ」

「そんなわけ」

「結果的には俺は犯罪に手を染めたんだ。むしろ止めてくれたのがお前でよかったよ」

 

 無実の親友を追い詰めた俺は大馬鹿者だ。なのに恨んでもいいはずのアイツは俺を慰めてきやがる。なぜコイツは今になってそんなことを。

 

「泣くなよ、男だろ?」

「俺は、取り返しのつかないことを」

「バカだな。結果的には俺が悪いんだ。あの時俺弱かった。ちゃんとお前のことを信じていればこうはならなかったさ」

「だが、だが」

「うるせぇな。もう終わったことだ」

「じゃあ、なんで今そんなことを」

「そうだな。俺からお前への最後の挑戦状、かな?」

 

 そう言った獅郎は指で鉄砲の形を作って俺に一言「バン」というと力が抜けたように手を下ろして動かなくなってしまった。帽子で顔を抑えながら獅郎に近づいて帽子をかぶせる。こうすればまだ生きていたとしても顔を見られることはない。

 帽子を被せた獅郎の隣に座り辺りを見回す。男の遺体とでっかいコントロールパネル、朽ちかけたメモリ、そして親友の遺体。せめて、俺にできる償いはこうすることだと親友の隣で最後に時間を過ごすことにした。例え千尋が天国にいたとしても会うことはないだろう。俺はコイツと一緒に地獄に落ちるだろうから。



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最終鏡 決戦・要塞攻略戦 エピローグ

 遥か上空から地上に戻ってきた僕達は捕縛した連中を引き渡して指令室に向かった。未だ京君はあの要塞に残っているはず。

 

「おかえり二人とも」

「ただいま戻りました。要塞の軌道は?」

「依然太平洋に向かってるよ」

 

 予測軌道パターンと時間を確認すると先に自爆することがわかる。さっき聞いた時は残り十五分と言っていたがここに戻ってくるのに十分はかかってしまった。残りの時間もちゃんと把握しているのだろうか。

 

「鳴海君の反応がない……?」

「どういうことだよ」

「錠前の反応がないんだ。ここからなら上空でもわかるはずなんだが一切の反応を示さない」

「じゃあもしかして」

「君のように煙幕に使ったか、最悪のパターンだね」

 

 前者であることを信じたい。彼ならどんな状況でも帰ってこれると信じたい。

 

「今からでも間に合わないのかよ」

「無理だ、速度を増してるから追い付くのに少なくとも七分はかかる」

「新一さんのブースターは!?」

「さっきので役目を終えたみたい。元々急造でリペアリングして無理矢理動かしたから」

「くっそ、このまま見てるだけか!」

 

 再びモニターを見上げるとドアが開かれる音がする。橋本さんが入って忠義を示すように膝をつく。

 

「報告に参りました。園崎の兵は現在撤退を開始、人間は八割を捕縛。こちらの被害は三割の死傷者、うち一割は重傷です」

「遊撃隊は用意せず防衛体勢へ。医療班はトリアージを行い少しでも他者に治療できるものは動員してください」

「はっ」

 

 指示を出すとすぐさまインカムで連絡を取る。おそらく捕虜も治療を受けているはずだ。今はすぐに戻ってくる可能性を踏まえて尋問などはさせないようにする。タブレットを取り出し現在問題ないメンバーを選出して捜索班を作り出す。念のためだ、彼は問題なく脱出してくるはずだが万が一にも連絡が取れなければこちらから探すしかない。

 

「新一さん……」

「布石は打つべし。可能性に対して用意をすれば確率は上がる」

「そうっすね、俺も今のうちに休んですぐ出られるように」

 

 快斗君が言葉を言いきる前だった。部屋は揺れないものの爆発音が聞こえてくる。数秒間硬直した僕達はすぐにモニターを確認すると空に浮かんでいたはずの要塞が煙に包まれていた。

 

「誰か攻撃したのか!?」

「違う、自爆したんだ」

 

 よく見ると煙の中から破片らしきものが落ちていっている。時折大きい部品も落ちていることから崩壊したことは確実だ。

 

「脱出したのか……?」

 

 分からない、とは言えなかった。それが事実だとしても不安を煽るだけだと理解していたからだ。

 落ちていく要塞を見て一つ浮かび上がる。

 

「プロフェッサー、スカルメモリかロストドライバーの反応は!?」

「分かっているさ。だがそれも反応を示さない」

「なん、で」

「あれだけの兵器を積んでいたんだ。電波妨害出来るものがあっても仕方ないだろう。そのせいで快斗が向こうにいる間軌道予測を伝えられなかったんだから」

 

 そうなれば京君を探す方法はもう自力で探すしかなかった。そのどうしようもない現実に下唇を噛みながらモニターを見ているとやがて要塞は全て海に落ちた。

 数時間後、要塞が落ちた場所および周辺一帯の捜査が行われたが京君は見つかることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一週間して僕と快斗君は書類の始末をしていた。要塞に入り込んだ中でここにいるのは僕と彼しかいないため何があったかをレポートにしていたのだ。

 

「いつになってもコレ書くのイヤなんすよね」

「楽しくはないけどあったことそのまま書けばよくない?」

「言葉のまとめ方っつーか日記みたいに書いたらダメじゃないっすか」

「まぁそうかもね」

「それがめんどいんすよ」

「多少は日記みたいにしても良いと思うよ」

「ほんとっすか?でも俺が書くとこうなりますよ」

「どれどれ」

 

 内容を読むと「要塞の中は敵だらけで迷路みたいだった。コントロールパネルも複雑だから考えるのがめんどかった」とそのまま書いてあった。

 

「もっと何かなかったの?」

「ちょーつよい奴がいました」

「じゃあこれ含めてだけどどんな感じだったかってのを少し掘り下げてみたら?」

「掘り下げる?」

「例えば強かった人の特徴をあげてこんなところが強いと感じられた、逆にこれが弱点だと気付いた、みたいな」

「うぇっ、超わかりやすいっす!やってみます!」

 

 先程よりもカタカタと音が早く聞こえるようになった。きっと同じように教えられたと思うのだがそれは言わない約束。弦巻家のデータベースでまとめていたため資料は引っ張り出しやすかった。それを見ている中今回捕縛した捕虜達の尋問内容の記載があった。見る許可は降りているため遠慮なく見させて貰う。一番気になった人のページを見ると出生などの記録があるだけで尋問内容は記載されていなかった。

 

「ナーニ見てるんだい」

「プロフェッサー……この人、聞き出せてないんですか?」

「この人?ああ、なんでも君と話をしたいの一点張りでね。暫くしたら口を割るだろうと思っていたが思ったより粘ってくれてる」

「なら行きましょうか」

「おや、いいのかい?」

「この人に関しては僕が原因みたいなところですから」

 

 立ち上がって弦巻家の捕虜がいる施設に足を運ぶ。面会室に入るとすでに彼は待っていたように座っていた。

 

「一週間ぶりですね」

「そうだな」

「話してくれませんか?色々と」

「その前に聞きたいことがある」

 

 手足を拘束されているのにも関わらず放ってくるプレッシャーは不屈にも感じた。

 

「どうぞ」

「少年、貴様何故俺を殺さなかった」

「何故?」

「完全なる勝利を手放したのは何故だ!」

 

 激情をぶつけられるのは覚悟の上だった。だからこそ冷静に流す。

 

「勝って殺せば誰かが救われるのですか」

「救われるなどではない!純粋なる勝負を」

「貴方の力はただ人を殺すためにあるのですか?」

「何?」

「僕は、貴方には正しく力を使って欲しいと思ってます。例え己を鍛えるために、強くするために培った力でも今のように使ってしまえばただの暴力です。だけどそれを明日を、誰かが生きるために振るうのであればきっと正しき力へとなるはずです」

「正しき力?」

 

 訝しげな顔をして疑問を返す彼は言葉の真意をわかっていないようだった。

 

「貴方が僕の言っていることを理解してくれることを切に願いっています」

 

 立ち上がって部屋を出て行こうとするも彼は止めることはなかった。部屋を出るとプロフェッサーに聞き出せたかと聞かれるがあの様子だと知らないだろうと勝手に解釈して何も知らないらしいと伝えた。だが他からある程度園崎についての情報を得ているためこれから色々と情報を整理するらしい。部屋に戻ると快斗君は気持ちよく伸びていた。

 

「終わったの?」

「今ちょうど終わったところっす」

「それは良かった。USBを届けたら何か食べに行こうか」

「いいっすね、どこ行きます?」

 

 ラーメンなんかどうだろうかと話しながら提出しに行き、弦巻家を出ようとすると遠くから快斗君目掛けて声がかかる。すごいスピードで走って来る正体はここのご令嬢だった。

 

「かーいとー!」

「おーおーどうしたこころ」

「お仕事は終わったの?」

「たった今な」

「じゃあ遊びに行きましょう!」

「えっ」

「最近一緒に遊べていなかったもの、行きましょう!」

「でも新一さんと」

「僕のことはいいから行って来なよ。また今度行こう」

「あ、ありがとうございます」

 

 こころさんに抱きつかれながら歩いていく快斗君はどことなく歩きずらそうだった。こういう時彼がいればなんて言うか、などと考えてしまうのだがもう一週間も経っているのに完全に思考が抜けなかった。

 結局、京君はSICという処分を受けた。僕ら自身でも探したが一向に見つかることはなかった。実はひょっこり生きていたり、なんてことも考えるがそれにしては長すぎるとその考えを否定する。

 

「随分と難しい顔をしているわね」

「おやお嬢様、一体どうしてここに?」

「あなたのことを迎えにきたのよ。そろそろお昼ご飯の時間だし」

「それはご足労ありがとうございます。お外で昼食をとりましょうか」

「そうね、ジョイサンにしましょうか」

 

 イクサリオンにまたがってバイクを起動させお嬢様を後ろに乗せる。いつもよりも僕を掴む力は強くまるで逃さないようにしているように思えた。

 

「そんなことをしても逃げませんよ」

「落ちないように念の為よ」

「ではしっかり捕まってください」

 

 アクセルを徐々に効かせてバイクは走り出す。運転中に交わす言葉はなかった。といってもいつも通りなので気には止めないが。ジョイサンにつくと席は空いていたので座ってメニューを開く。

 

「お先にお選びください」

「いつものにするわ」

「追加はいかがなさいます?」

「なし」

「かしこまりました」

 

 すぐに店員を呼んで注文する。すでに二月に突入している空は曇りを見せながら肌寒さを感じさせた。

 

「浮かない顔ね」

「そう見えますか」

「言わなくてもわかるわ」

 

 流石のお嬢様も状況を察してくれているらしい。京君がいなくなって一週間が経ち事情を知っている者は極僅かしない。お嬢様もその一人だ。

 

「あなたがそこまで落ち込むとは思っていなかったけど」

「そうですね……三ヶ月前、魔姫ちゃんがいなくなった時はきっと大丈夫だと言い聞かせることができました。名護家では遭難時の訓練も緊急脱出の訓練も受けてますから。でも彼は一般の出なのでそれが出来るとは思えないのです」

「それでずっと考えているのね」

「申し訳ありません」

「謝ることはないわ。それにあなただって出来ることは尽くしたのでしょう?なら信じなさい」

「そう、ですね……」

 

 運ばれてきたコーヒーに砂糖とミルクをドバドバ入れるお嬢様は僕よりも落ち着いている。まさかそういうところで見習いたいと思う日が来ることがあろうとは。僕も同じようにコーヒーを飲もうとすると声をかけられる。

 

「あれ、友希那さんに名護さんじゃないですか」

「大和さん、こんなところで珍しいわね」

「今日のお昼はここにしようかなって思って」

「なるほど」

「あ、そうだ名護さん。京さん知りませんか?」

「京君がどうかしたの?」

 

 大和さんは少し悲しそうな顔をしながら答える。

 

「実はこの間、次のライブは絶対見にいくって言ってくれたんです。いつも探偵の仕事が被るから来れないのに今回だけは行くって。けど結局今回も来てくれてなくて。連絡も繋がらないしどうしたんだろうって」

「そっか……」

「何か知らないっすか?もし入院とかなら」

「そんなことないわ」

 

 僕よりも先にお嬢様が答えた。でもそれ以上は出てこないようでどうしようという視線を僕に向けてくる。ここは無理に心配させないようにしたかったのだろうという意思を汲み取って言葉を繋げる。

 

「実はつい先日から京君は警察の人を手伝わなくてはいけないらしくて遠くの街に行っているみたいなんです。なんでも急を要するとかで」

「そんな、だったら一言言ってくれてもよかったのに」

「京君なりに気を遣ったんじゃない?あれだけ言ったのになって思ったり」

「そうっすかね…いや、そうですよね。京さんも大変ですもんね」

「…あなたの嘘は優しいのね」

 

 納得したのかお礼だけ言って違うテーブルへと行ってしまった。お嬢様はお手洗いに行くと言って席を離れていく。

 全く、あの人は──と思いかけた時だった。スマホから着信音が聞こえ画面を表示するとチャットアプリに京君からメッセージが届いていた。すぐに開くと一つの音声ファイルが入っていた。それを耳に当てて再生する。

 

『よぉ、新一。これを聞いてるってことは俺は生還出来なかったってことだな。このメッセージは自動で一週間後に送るように設定しておいた。俺が生還すれば消去出来る、抜かりなしってことだな。だがそれも叶わなかったわけだ。だが心配するな、生憎悪運は強い方だと自負してる。連絡が取れなくてもどこかでのそのそ生きているかもしれん。あと麻弥に言っておいてくれ。ライブに行けなくてごめんなって。それとお前らは自分達のことを責めるなよ?残るって決めたのは俺だからな。男のケジメだ、余計な詮索は無しだぜ。ま、俺が戻るまでの間二人でどうにか頑張ってくれ。それじゃアデュー』

 

 プツッと音が切れるとそこでボイスメッセージは終わっていた。

 ──全て計算されていたのかもしれない。だからこんなメッセージを残してまで彼はあの要塞に残ったんだ。彼の思いを否定することはしない。でも一事だけ言わざるを得なかった。

 

「なんでこんなもの残したんだよ。あの馬鹿探偵……」

 



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第八章 十六夜、優しき刃を君へ
第一光 月の光が照らす先


「名護君、何で呼び出されたかわかりますか?」

 

 二月に入ってすぐの学校で僕は放課後に音楽室に呼び出されていた。理由は授業中に脱走(主にライダーとしての仕事)をしたからだ。数回ならまだしも音楽の授業に重なることが多く不信を抱かれていても仕方なかった。

 

「まさか音楽の授業が嫌いだから逃げている、というわけではありませんよね?」

「そ、そのようなことは」

「他の教科ではしっかり点数を取っているのにこれじゃあ音楽だけ出席日数が足りなくて進級できないわよ」

「それは困ります」

 

 進級出来ないとなるとお嬢様の側に居られず執事の仕事が出来なくなるということ。学校では何も起きないと信じたいが兵隊達がやってきた時に対処仕切れないことを想定するとかなり危ない。

 

「そういうと思います。なので特別に課題を用意しました」

「どのような課題でしょうか」

「好きな楽器で構いません、明日から期末試験最終日までに一曲弾けるようになってきてください」

「期末試験最終日までですか」

「そうです。勿論期末試験には筆記試験がありますがあくまでこれは出席日数を賄うためのテストです」

「本当に好きな楽器でいいのですか?」

「ええ、カスタネットでもリコーダーでも構いません。ですが授業で使わない楽器はダメです」

 

 そこはヴァイオリンで許して欲しいところだったけど背に腹は変えられない。

 

「勿論ピアノでもいいですよ。人によってはやってますからね」

「わ、わかりました。頑張ります」

「成績や人の良さはいいのだから頑張ってちょうだい」

 

 失礼しますと一言残して音楽室を出る。どうしようかと悩みながらも教室へ荷物を取りに戻る最中リサに出会った。

 

「一人?」

「うん。ちょっと先生に呼び出されちゃって」

「なんか悪いことしたの?」

「音楽の授業の出席日数が足りないとかで」

 

 そのまま課題のことを話すと新一ならいけるっしょと言われたがそうでもないと答えると不思議そうな顔をする。

 

「え、でも好きな楽器でいいんでしょ?」

「それがさ、その後に授業でやった楽器って言われちゃって」

「言ってること違うじゃん」

「でも考えてみなよ。ウクレレとか三味線を持ってこられても困るでしょ」

「確かに先生でもカバーできる範囲じゃないかもってそもそもそんなことしないでしょ普通」

「わからないよ?もしかしたら過去にやってる人がいたのかもしれないし」

 

 前例があるから規則が作られるのはよくあること。でもこんな規則が作られるなんてことはよっぽどなものでも持ち込んだ人がいるのだろうか。

 

「ウクレレ持ってる新一は面白そう」

「残念ながら弾けたとしても三味線かな」

「何でそっちは弾けんの」

「出来たらって話だから。弦楽器の容量でいけるかと」

「あーね、そしたらウクレレもいけそうだけど」

 

 荷物を回収し待ってくれていたお嬢様に声をかけて商店街へ向かう。当然呼び出された理由を聞かれ答えると仕方ないと呆れていた。

 

「でもあなたどうするの?ヴァイオリンは使えないのでしょう?」

「そうなんですよね。得意を奪われたも同然です」

「他に出来るものはないの?」

「あるにはありますが、お嬢様達からすれば二番煎じかと」

「というと授業でやってるものだから……ピアノ?」

 

 頷いて答えるがあまり弾きたくない自分もいることに改めて気付く。

 

「嫌そうね」

「分かりますか」

「伊達にあなたの顔を見てる訳じゃないのよ」

「それは失礼しました」

 

 買い物かごの中にトマトを入れて次へと向かう。気を逸らすように今晩のメニューを考える。

 

「牛肉と豚肉と鶏肉、どちらにしましょうか」

「鶏がいいわ」

「では赤パプリカと黄パプリカどちらにしますか?」

「あなたの料理は美味しいけど苦いのは嫌だと言ってるでしょう」

「つまるところそういうことですよ」

「どゆこと?」

 

 リサは理解できてないようだがお嬢様はなんとなく理解したらしい。好きだけど嫌いなものがあるのは嫌だ、それと同じ感覚なのだ。ピアノで弾ける曲は限られておりその上で嫌いなものを思い出す。

 

「弾けないというわけではないのね」

「はい」

「なら今弾けるかしら」

「はい?」

 

 買い物を済ませ店から出るとお嬢様が奇抜なことを言う。好奇心が働くのはわかるが何を急にと思うと指を指される。その方向を見ると一台のピアノが置いてあった。

 

「何故こんなところにピアノが?」

「ストリートピアノみたいだね。ご自由にって書いてあるし新一弾いてよ」

 

 黙ってお嬢様の方を見るとお願いする目をされる。そういうのには弱いんだよなと思いつつ食材を預けてピアノの前に座る。時は既に夕刻、冬も終わりに近づいているがこの時間には暗く月が出始めている。最悪、というわけでも行幸というわけでもないが舞台はある意味できていた。

 鍵盤に触れると感覚が戻ってくる。でもあの頃のようには弾けないだろう。だけどせめてこのくらいはと弾き始めた。

 

「この曲って」

「ピアノ・ソナタ14番『月光』ね」

 

 クラシックで好きな曲は少なくない。だがその中でもピアノで出来る曲はこれだけだ。月光の第一楽章は昇ってくる月の様子を描いている。だからこそゆっくりと丁寧に弾く、まるで月が登ってくるかのように。

 

「人が集まって来ちゃったね」

「当然よ。あの人の演奏は人を惹きつける……けど何かしら」

「何が?」

「音色の奥底に、悲しみのようなものが紛れている気がするの」

「悲しみ?」

「ええ、まるで感情を押し殺しているような、そんな感じの」

「あたしは普通に綺麗な音にしか聞こえないよ?」

 

 第一楽章を弾き終える頃にはたくさんの人が集まっていた。鍵盤から手を離すと拍手が聞こえるが荷物を持ってすぐにその場を離れる。お嬢様をそれを見越してかすぐに食材を渡してきた。

 

「新一お疲れ〜」

「ありがとう。久しぶりだったから緊張したよ」

「運指も問題なかったしすぐにテストも出来るんじゃないかしら」

「そうですね、明日の昼休みにでも行って参ります」

「敬語」

「失礼しました。行ってきます」

 

 抜け目が無いなと思いつつ家の前でリサと別れ帰宅すると扉を閉めた途端お嬢様に頬を触れられる。

 

「どうかしましたか?」

「……気のせいかしら」

「何がです?」

「とりあえず中に入りましょう」

 

 何やら考え事をしているようだったお嬢様はスタスタと階段を上がっていく。後で話でも聞こうかと考えながら執事の仕事を行う。

 数時間して食事の準備を終わらせるところまで辿り着いた。準備が出来たと呼ぶが返事をする声が聞こえず階段を上がっていくとばったり出会う。何故ここにという顔をされたが事情を説明すると納得して降りてきてくれた。

 

「ねぇ新一」

「何でしょうか」

「このパプリカ」

「苦味は取ってありますよ」

「ありがとう」

 

 夕方の話を覚えていたのだろうか。しかしパプリカもうまく料理すれば甘くなるのだ。というかお嬢様が嫌う苦い食べ物は極力苦味を取って甘くしている。好き嫌いを無くすのには少し程遠い方法かもしれないが時期に少しずつ苦味を戻して行こうとも考えている。

 

「月光の時なのだけど」

「やはりまだダメでしたでしょうか」

「そうじゃないの。少し、音色が悲しそうに聞こえて」

「悲しそう、ですか」

「イメージとしては合っているのかもしれないだけど、何故か別の悲しみも入っているような気がしてならなかったの」

 

 スプーンを手元に置き俯く彼女を見る。確かに悲しい気持ちにはなった。これは二つの理由があるからだ。もう二度と戻らないあの日々を思い出す。

 

「お嬢様は月光の第何楽章まで聞いたことがありますか?」

「一応第三楽章まで聞いたことはあるわ」

「第一楽章は先ほど弾いた通りです。あれは妹が好きな曲でした。どうしても弾いて欲しいというものですから頑張って弾けるようにしたのです」

「第二楽章は?」

「あれは僕らとはあまり関係ありませんね。強いていうなら昔りんりんが得意でした」

「そうなの?意外というわけでは無いけれど……それで、第三楽章は?」

「魅惑の紅い月が天に昇った時、お嬢様ならどうされますか?」

 

 しばらく考え込む動作をして答えを出した。

 

「きっと見入ってしまうわね」

「それを考えた上で聴いてみてください。きっと分かるはずです」

「それではわからないわ」

「月を見て狂うのは狼だけではないのです。今流してみますか?」

「そうしましょう」

 

 音楽プレイヤーにディスクを入れて第三楽章から始まるように流す。この家にはクラシックのCDもあったため音楽を愛しているのがわかる。聞くこと自体は嫌いではない。しかしもしあの人が弾けばと思うとゾッとする。

 第三楽章が流れ始めるとお嬢様は目を見開いた。まるで何かを知ってしまったような顔をしている。やがて聴き終えると疲れたような顔をする。

 

「ご気分が優れませんか?」

「そういうわけじゃないの。ただ、あなたのこの曲に対する真意がわかったような気がして」

「と言いますと?」

「言ったわよね、月を見て狂うのは狼だけじゃないって。その通りね。まるで狂い出した人たちが止まることを知らず惑わされて堕ちていく姿が想像できたわ」

 

 頭を軽く抑えながら話す姿を見て相当キツかったのだろうと察した。それでも最後は結末が待っているように思えたと言っていたので僕の考えは伝わったように思えた。

 

「お嬢様も重々承知されていると思いますが、音楽というのはメッセージと人を魅せる力があります。魅せられた人々を操るほどの天才が世の中にはいます」

「……あの人のことね」

「左様にございます。一度見せてもらったことがありますがその時は背筋が凍りました」

 

 奴の音楽に魅せられた者達はまるで糸人形のように操られていた。その時に弾かれていたのが第三楽章。それもあそび程度だったのかすぐに終わらせられたがあれ以来きっと才を磨いているに違いない。だがそれは僕達の望む音楽ではない。そう胸の中で誓い僕はいつも通りに戻ることにした。

 翌日の昼休み、音楽室に行きテストを行った。結果的には合格となり出席単位をもらうことが出来た。今後はこのようなことが無いようにと言われたがきっと無理だろうと諦めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は珍しく遠くの商店街に来ていた。前の家があった場所はすでに売られており仕方ないので私は近くのアパートに住むことにした。けどたまには遠出もいいだろうと来てみるとピアノの音が聞こえてきた。ピアノソナタ14番『月光』、私がクラシックの中で最も好きな曲。月が昇っていく音の中にどこか悲しげな音でどこか懐かしげな音だと感じる。弾いているのはどんな人だろうと気になった私はピアノの方に目を向ける。しかしピアノを探しているうちに演奏は終わり演者はいなくなってしまった。辺りを見回してもそれらしい人はわからない。

 

「すごかったわねぇさっきの子」

「男の子であんなに弾けるなんてねぇ」

「どんな人だったんですか?」

 

 気になった私は聞いてみることにした。どうやら羽丘高校というところの制服を着た生徒らしい。あんな音を出せるのはきっとあそこの関係者の人しかいない。それにあの音はきっとあの人だ。

 明日も来てくれるのだろうか?もしここに買い物に来たついでに弾いたとしたらしばらくは来ないかもしれない。それでも見つけたいと思った私は一週間くらいこの商店街に通い続けた。もうそろそろ諦めたほうがいいのかもしれない。ただおいてあるだけのピアノにそこまで執着する人もいないだろうと考えた時だった。

 

「新一弾かないの?」

「もういいよ、あの時はちょっと練習したかっただけだから」

「ワタシも新一さんのピアノ聴きたいです!」

「イヴちゃんがこう言っているわけだけどあなたはそれに応えないのかしら」

「先輩その言い方は怖いっすよ」

「何か言ったかしら」

「イヴェ、マリモ!」

 

 2種類の制服を着た集団が歩いていた。その中で引っかかった言葉があった。

 新一──それは私にとって大切のな人の名前だった。きっともう会えないと思っていた人の名前だ。それを聞いて安心した自分もいた。でもそれは本当にあの人なあのだろうか。だから私はこっそり跡をついて行って顔を確認した。

 見えた横顔は私の希望を叶えてくれた。だから私は喜んだ自分を止められなかった。



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第二光 束の間の光

しれっとですが新章に入ってます。


 試験をクリアしたその日の放課後も同じように買い物していた。もっとも買いに来たのは調味料だが切れたと気付けば買いに来るのは必然だろう。

 

「シンさん!ここであったが百年目です!」

「恨みを買った人に言うんだよそれ」

「そうなのですか!?」

 

 大体それ斬りかかったり鍔競り合ってるときに言った方が効率的だよね、と言いかけたが近くに怖いお姉さんがいたので黙っておいた。

 

「もう、イヴちゃんたら……こんにちは名護君」

「こんにちは白鷺さん。今日はオフの日ですか?」

「はい。そちらは?」

「お買い物に来ただけです」

 

 そのまま通りかかったアイドル達と商店街で買い物をしているとメモを持った快斗君に出会う。彼はおつかいを頼まれてきたらしい。そのまま皆で他愛のない話をしているとこの間のストリートピアノを見つける。

 

「まだあったんだね」

「例のピアノっすか?」

「そうそう、この間新一が弾いたら人だかりが出来ちゃって」

「シンさんピアノも弾けるんですか?」

「ちょっとだけね」

 

 興味を持ったのかすごくキラキラした眼差しで僕の方を見つめる北欧のブシドーアイドル。本当に純粋でわかりやすい子だなこの子。

 

「新一弾かないの?」

「もういいよ、あの時はちょっと練習したかっただけだから」

「ワタシもシンさんのピアノ聴きたいです!」

「イヴちゃんがこう言っているわけだけどあなたはそれに応えないのかしら」

「先輩その言い方は怖いっすよ」

「何か言ったかしら」

「イヴェ、マリモ!」」

 

 またの機会ということで今日は弾かずに帰ることになった。その後も快斗君は僕の背中に隠れて白鷺さんから身を守っていた。京君もそうだったがメモリ組はどうして白鷺さんに恐怖を抱いているのだろうか。言ってしまっては悪いが怯えた犬のように震えている快斗君が可哀想で仕方ない。

 

「今日の夜ご飯は何かしら」

「ハンバーグか豆乳鍋の予定です」

「健康的ね」

「暖かくなってくるからこそ適応できるようにするのです。それにまだ夜は寒いですからね」

「寒ければあなたの部屋に行けばいいじゃない」

 

 冷たい目線が突き刺さる。

 

「友希那ちゃんは普段からそうしているのかしら」

「そのようなことは」

「たまに行っているわ」

 

 場が凍りつく気配がした。苦笑いをするものが一名、理解していない者が二名、顔を赤らめる者が一名、微笑みの鉄仮面が一名、主人の発言に顔が青ざめていく感覚がしている者が一名。

 

「高校生という自覚はあるのかしら?」

「あるわ」

「男女七歳にして」

「白鷺様、お嬢様はそのように難しい言葉は分かりませぬゆえもう少し(言葉を)砕き願いたい」

「それは言葉を噛み砕くのかしら。それともあなたの頭蓋骨を砕くのかしら」

 

 恐れ入った。言葉が足りなかったと後悔するよりも先に死の恐怖を感じてしまった。何故かわからないがこの人からは逃げることは出来ない気がする。これが二人が感じていた恐怖か。

 

「何をそんなに驚いているの?」

「あなたね、夜遅くに男の部屋に入って何をしているの?」

「ま、待ってよ、友希那のことだから変なことはしていないはず」

 

 それもそうだ。この人はそういうことに興味はないはずだ。それに部屋に入ってくるのも僕が寝たと思ったぐらいの時間なのだろう。実際部屋に侵入してきた時は目が覚めるがお嬢様だと確認できると寝たふりをして過ごしている。起きて話を聞こうとすると無理に寝ろと言ってくる。何もしないでおくと勝手に布団の中に入ってきていつの間にか寝ているくらいだ。手を出していないから無傷も同然。正直に話してくれお嬢様。

 

「新一と寝ているわ」

「ピキッ」

 

 違うそうじゃないもっと言葉を足してくれそれは正直すぎる。

 微笑みの鉄仮面から感じる恐怖が度合いを増していく。これ僕が弁明出来るレベルなのかが怪しいレベルだ。快斗君はいつの間にか消えているし流石は暗殺者と言ったところかと感心している場合ではない。

 

「友希那もしかして新一と」

「何」

「新一と夜何かしてるの?」

 

 リサなりに言葉を出そうとフォローしたのだろうけど直球すぎる。こういうのにリサは慣れていない方だからフォローの仕方を知らないのか。

 

「何もしてないわよ」

「じゃあ何で名護君の布団に潜り込むのかしら」

「それは、私の部屋の暖房が壊れているからよ」

「……はぁ?」

 

 暖房が壊れているのは事実だ。一緒に寝るのも夜が特に寒い日でお嬢様は何も言わずに寝るものだから問題ないのかと思っていたが気温が低い日にこっそり布団に忍び込んでくる。そもそも最初からそう言えばよかったのではないかと思ったが僕が言ってもどうしようもなかった、いやむしろ状況は悪化しただろう。だからこのタイミングである意味正解なのかもしれない。

 

「だったら最初からそう言いなさいよ……」

「お騒がせしました」

「本当よ…言っておくけど名護君、間違っても変な気は起こしちゃダメよ」

「それは重々承知しております。まず持って手を出しでもしたら首が切り落とされるでしょう」

 

 その前に僕が自決するけど。

 

「それくらいわかっていたのね…疑ってしまってごめんなさい」

「こちらこそ言葉選びを誤ってしまいました」

 

 何とか誤解を解いた白鷺さんとイヴちゃんと別れて帰路につこうとすると電柱の影に人影が見える。綺麗な黒髪のロング。そして隠れているつもりなのだろうけど隠れきれていない。

 

「燐子何してるの〜?」

「いっ、今井さん……」

「バレバレだよ」

「何してたの?」

「たまたま近くを通ったら皆がいたので……」

 

 どうやら白鷺さん達の件については見られていたらしい。さっきの話は本当かと疑われたが事実だと認めると落ち着いてくれた。この後の予定を聞くとただ帰るだけとのことで途中まで一緒に行くことになった。Roseliaの練習の話などをしていると少しの間だけでも平和が戻ってきた気がした。

 

「どうしたの新一」

「何でもないよ」

「嘘だ〜ゼッタイ何か考えてたでしょ」

「どうかな」

「今晩のご飯についてでしょ」

「ご名答、と言いたいところ」

「違うの…?」

「それすらどうかな、なんちゃって」

 

 たまにはこんな風にからかってみるのも大丈夫だろう。僕もこの少しの休暇に羽を伸ばそうとした時だった。

 

「お兄様」

 

 遠くから僕を呼ぶような声が聞こえてきた。いやまさかと辺りを見ると僕達以外は誰もいなかった。

 

「リサ、なんか言った?」

「いいや、何も。てか、そのパターンでアタシに聞くのなんか固定されてない?」

「そんなことはないっ……よ?」

 

 突然走ってくる音に気づけず背中から誰かの体重が乗ってくる。周りにいる三人じゃない。それにわざと音を消していたのか?それくらい気づくことはなかった。今日の買い物はプラスチックボトルのものばかりで助かったと思いながら背中にぶつかってきた人に手を伸ばす。

 

「アイタタタ……っと、大丈夫?」

「お兄様、会いたかったです!」

 

 顔を見ると見慣れない顔があった。でもどこかに懐かしさを感じ、お兄様と言ってきた少女の顔はかつて僕を庇って死んだ()にそっくりだった。

 

「…………な、んで……」

「お兄様?」

「何で、希璃乃が…目の前に………だって、あの時…………」

 

 死んだはずだった。確かに僕を庇って心臓を貫かれたはずだ。燃え上がる炎の中何度も呼びかけても目を覚さなかった希璃乃を抱き寄せた記憶がある。

 

「…仕方ないですよね、あの時死んでもおかしくなかったんですから。だけど希璃乃は生きています!!」

 

 病院で聞いた時も死んだと言われ、遺体まで確認したはずだ。ではこれは映像か何かではないだろうか。顔に触れてみると人と変わらない肌の感触がそこにあった。それどころか僕の手を握り脈を確認させてくる。あたたかくトクントクンと指先から伝わってくる。

 

「どっ、どうしたんですかお兄様!?」

 

 溢れ出してきた涙に気付いたのは声をかけられてからだった。

 ──この希璃乃は生きている。僕の目の前にいる彼女は間違いなく生きていた。それを知れば涙が出てくるのも不思議じゃない。

 

「だって、生きててくれて……嬉しくて……」

「あの………」

「あ、ごめんなさい。紹介が遅れました。こちら、僕の妹の名護希璃乃(きりの)です」

 

 戸惑っている三人に妹を紹介する。かつて亡くなったはずの妹を紹介するとなると少しむず痒かった。

 

「初めまして皆様、兄がお世話になってます。名護希璃乃です。今は…一応16歳です」

「一応じゃないでしょ」

「そうですね」

「確かに驚いたけど………希璃乃ちゃんだっけ、新一にもかわいい妹がいるんだね〜。新一と同じで優秀そうだね〜」

「お兄様は見た目も中身も優秀なのは当たり前です。むしろ気づかない方がどうかと」

 

 褒められたことについて誇らしげにしているが僕のことを自慢している場合ではない。

 

「希璃乃、それは言い過ぎだよ。それに僕はそんなに優秀じゃない」       

「いえ、お兄様は完璧です。…ですがそれを言うって事は変わっていないんですね」

「そう、なのかな?」

「ええ、全く」

 

 やれやれと呆れた顔をしているが正直僕は理解できていない。あの頃よりかは幾許か変わったと思ったのだけど数年ぶりに再開した妹からすると変わっていない兄らしい。そんな中りんりん信じられないものを見る目で希璃乃を見ている。

 

「本当に………希璃乃ちゃん……?」

「もしかして燐子お姉さんですか?」

「うん……覚えてくれてたんだね」

「お久しぶりです。お元気そうで」

「希璃乃ちゃんも………」

 

 この二人も十数年ぶりに会うことになる。小さい頃は三人でよく遊んだものだ。わんぱくだった希璃乃を二人で見ながら公園によく行っていた、そんな記憶が蘇る。

 

「ところでお兄様」

「?どうかしたの?」

「どなたがお兄様と付き合ってる方なんですか?」

「ッ!?」

「何言ってるのさ希璃乃、失礼でしょう。謝って」

 

 突然何を言い出すのかと思えば想定外のことだった。これは良くない。僕に許されたことそうではないこと以前に三人に失礼だ。

 

「申し訳ございませんでした。ですが、お兄様がかわいそうです。私でしたら絶対の話にして置かないのですが…」

「ハハ、希璃乃は世辞が上手だね」

「ふふ」

「そういえば今はどこに住んでるの?」

「それがですね………」

 

 話を聞くと今は一人で暮らしているらしい。数日前まで遠い親戚の家に預けられていたがここに引っ越してきて急に入院することになって今はその家に一人で暮らしているらしい。

 

「じゃあ今は保護者がいないってこと?」

「はい、ですからお兄様の家に止めさせていただけませんか?」

「お嬢様、どうでしょうか」

「構わないわ」

 

 今まで黙っていたお嬢様は少し考え込む様子を見せながら許可を出してくれる。これなら今晩くらいは希璃乃も凌ぐことをできるだろう。もっともこの子のことだから一人暮らしくらい問題ないかもしれないが。湊家に連れていくと丁寧にお辞儀して家に入る。そしてお嬢様に対して挨拶をした。

 

「ではこれからよろしくお願いします、湊さん」



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