凍える航海の悪魔 -彼女はただこの海を守りたかったー (ルチルネリネ)
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ロイヤル北方海域侵攻作戦
Der Eisberg des Teufels(悪魔の氷山)


ハーメルンでは初投稿、他の小説サイトでは文才が無いと勝手に諦めた者です。
二次創作は初めてですが大好きなアズレンの世界観を、自分なりに脚色して頑張って表現できたらいいなと思っております。
お手柔らかに、暇つぶし程度に読んでもらえると助かります。


「Kinetic Artifactual Navy Self-regulative En-lore Node」……略して「艦船(KAN-SEN)」

 

 人類が未知の存在「セイレーン」に立ち向かう為に作られた不可思議な存在。

 そして、拮抗した世界の覇権を争う為に戦い続ける少女達。

 

 美しくも儚いその少女達は今日も自国のため、信念のため、覇道のため、使命のため、そして希望のために戦場へと足を運ぶ。

 

 

 

 アズールレーン陣営、ロイヤル北方海域。そこは氷山ひしめく銀世界。

 

 レッドアクシズ陣営の鉄血艦隊はロイヤル北方に迂回して本土基地攻撃を計画していた。

 

 高速艦船による奇襲作戦、戦艦を含む火力による殲滅作戦、航空母艦による空襲……。

 

 しかし、その計画は全て失敗に終わる。

 

 アズールレーン陣営、ロイヤルの空襲による反撃にあったためだ。

 

 突如として現れる数百を超える航空機フェアリーソードフィッシュ。

 

 その一機一機が熟練の飛行を行い、目的を果たすと氷山へと消えてった。

 

 圧倒的な戦力を見せつけ防衛するロイヤル北方の氷山地帯。

 

 だが、不可思議なことに水上艦、艦船(KAN-SEN)は一隻として現れなかった。

 

 鉄血にはロイヤルの領海範囲と艦船(KAN-SEN)隻数の差による防衛限界と思考、また前回が偶然の会敵だった事を睨み奇襲作戦を数十回に渡って行なった。

 

 時には大規模な陽動作戦を行い、また時には同盟関係の重桜に援軍を要請して、それでもなお攻略できない。

 

 ロイヤル北方の難攻不落、氷山に潜む幻の基地。

 

 何時しかその海域は「Der Eisberg des Teufels(悪魔の氷山)」と恐れられるようになった。

 

 しかし、彼女達は一つ大きな間違いをしている。

 

 確かに艦船(KAN-SEN)の不足による防衛の手薄さは間違いではない。実際にロイヤルの艦船(KAN-SEN)は領海に対して不足していた。

 

 そして、艦船(KAN-SEN)による追撃もない。なぜなら、追撃できるほどの戦力がないからだ。

 

 では、ロイヤル北方。そこには何がいたのか?

 

 ……そこにいたのは一人の少女だけ。

 

 過去の大戦にてセイレーンの量産型を殲滅し、ロイヤルの領海の半分近くを一人で取り戻した圧倒的な力を持ち。

 

 セイレーンとの闘いが膠着状態となり、軍縮条約によりスクラップになる予定だった儚い存在。

 

 ロイヤルは密かに彼女を隠し、ロイヤルの最後の切り札としてひたすらに隠し続けた。

 

 

 彼女こそが過去の大戦の英雄にして、レッドアクシズ陣営から悪魔の氷山と恐れられた一隻の航空母艦……。

 

 




感想……特に誤字脱字、文法や文脈のおかしなところなどを書いていただけると助かります。
ゲームの合間に書くので投稿は不定期です。
面白かったや、読んでいて楽しかったなどの感想がもらえたら、もしかしたら投稿ペースが上がるかもしれません。
(察しの良い人は黙って彼女の登場を待ちましょう)


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初めましての御挨拶

???「これは陛下からのお手紙ですね、中身は……これはこれは大変ですね。急いでパーティーの用意をいたしましょう」

 そう言うと彼女は艤装を展開してドックのシャッターを上げた。

 そこから吹き付ける風はとても寒く、並大抵の人なら凍えてしまうだろう。

 だが、彼女は場違いな薄い淡い藍色のドレス姿で凍った海を歩いていく。

???「鉄血の皆様にご満足いただけるよう。この■■■■■■■■■、できる限りの誠意をもって盛大に歓迎させていただきますわ」

 そうして彼女は次々と空へ艦載機を飛ばすのだった……。


 -ロイヤル北方海域:流氷地帯-

 

「敵機来襲っ!敵に見つかった!無線解除、レーダーを付けて!」

 

 けたたましいサイレンの音が鳴り響き捜索に出ていた彼女達は戦闘態勢に入る。

 

「あらあら、いつの間に見つかったのかしら?」

 

「オイゲン!悠長なこと言ってないでさっさとあんたも落としなさいよっ!放置すれば援軍が来るわよ!」

 

 同じく捜索していたであろう一機の航空機、フェアリーソードフィッシュが急旋回して華麗に弾を回避して離れていく。

 

「もう最悪っ!ただでさえしぶとい航空機なのにあんな距離当たるわけないじゃない!」

 

 重巡洋艦アドミラル・ヒッパーが海面をぴちゃぴちゃと地団駄踏む。

 

「それよりもここを離れるか、それとも強行偵察に出るか考えましょう」

 

 鋭い目つきで逃げた航空機を見つめながら重巡洋艦プリンツ・オイゲンが提案した。

 

「そんなの強行偵察に切り替えて続行よ!空母からか基地からか確認しないと帰らないわ」

 

「俺様が思うに、ソードフィッシュなら空母で間違いないだろう。この先は氷山地帯、ロイヤル本土基地からの航続距離的にここまでは届かないはずだ」

 

 強行偵察に切り替えるとヒッパーが、駆逐艦Z1(レーベレヒト・マース)は最後に撤退の意思を示す。

 

「しかし、氷山を滑走路にすれば基地からの攻撃も可能かと思われます。凍結など問題もありますが……」

 

 そう言ったのは軽巡洋艦のケルン、彼女は偵察を続行に手を挙げた。

 

「お姉さんは一度引き返す事を提案します。見られた以上何らかの攻撃手段をしてくる可能性が高いですからね、今現状の戦力では危険です」

 

 最後に意見を出したのは軽巡洋艦ケーニヒスベルクだった。

 

 意見が分かれて話し合いをしている最中、ケーニヒベルクの電波探知機(レーダー)に反応が出る。

 

「レーダーに反応!敵機の数は……」

 

「ケーニヒどうしま……これは……」

 

 最新式の対空レーダーを装備していたケーニヒ、次にケルンが前方の遥か彼方の空を睨む。

 

「最悪のシナリオね。まさかここまで盛大にロイヤルが攻めてくるなんて予想してなかったわ」

 

「はぁ?みんな何を言って……噓でしょ……」

 

 彼女達が見ている先、ここからでも轟くエンジン音が聞こえてきそうなほどの大編隊。

 

「回避に自信があるレーベ様も流石にこれは無理だな」

 

「お姉さんたちの予想を超えています。今すぐに逃げますよ!」

 

「大人しく逃がしてくれるとは思えないけどね、まぁ頑張りましょうか!」

 

 彼女達は踵を返して逃げ始めた。それを追いかける轟音はまさしく死神の鎌のように彼女達を追い詰めていく。

 

「こんなの聞いてないわよっ!なんでこんなに艦爆隊がすぐ近くを飛んでんのよ!」

 

「口を動かすより足を動かしなさいっ!飲み込まれたらいくら私達、KAN-SENとは言え無事では……いえ、生きて帰れるとは思えないわ!」

 

「幸い足の遅いソードフィッシュ!この距離と速度なら逃げ切れるはずさっ!」

 

 それでも、じわりじわりと距離を詰められていく。

 

 数百のソードフィッシュの先鋒が彼女達を射程に捉えたその瞬間、航空機は急旋回し戻っていく。

 

「ハァハァ……に、逃げ切れた……?」

 

「……いや、逃がしてくれたが正解だな。爆弾抱えたまんま帰っていったから……これ以上入ってくるなら容赦はしないって意味だろうよ」

 

「ですが、貴重なデータを入手できました。ここには海軍基地があるということを」

 

 引き返していく航空機を見て五人は強行偵察を諦める。

 

 次々と帰っていく数百の航空機を見ながら彼女達は次の作戦を考えるのであった。

 

 

 だが、彼女達は知らない……この航空機が一隻の空母から発艦した艦載機だと言うことを……。




最初は鉄血艦隊の隠蔽索敵の情報を捉えた???による航空歓迎のシーンから物語を始めさせていただきました。
察しの良い皆様にはもうお気づきかもしれませんがもう少しお付き合いください。


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女王陛下の激昂

???「うふふ、鉄血の皆様は無事にご帰還なされたかしら?冷たい潮風に当てられて風邪を引かないと良いけれど……」

そう言いながらも彼女は次々と自分の艤装に艦載機を格納をしている。

???「今回も完璧な情報を提供して下さったロイヤルの方々には感謝ですわね……今期の諜報部隊もその腕は健全で宜しかったと書いておきましょう」

自身の走行甲板を机代わりにスラスラと手紙をしたためる。

???「さて、これから忙しくなりますわね。……老体に鞭打って頑張るとしましょう」

すべての艦載機の回収作業を終え、彼女は凍結した偽物の滑走路を後にした。


―ロイヤル海軍基地本部:中庭―

 

 

「女王陛下、あるお方からお手紙が届いております」

 

 木々から零れ落ちる光の庭園、優雅なひと時。

 

 ティータイム中のクイーン・エリザベスとウォースパイトにベルファストが届いた手紙を持ってきてそばに控える。

 

「……ベル、下からの三行だけ読み上げて頂戴」

 

「かしこまりました……陛下のご配分によりこちら側の被害を最小限に抑えることが出来ました。心より感謝申し上げます。ロイヤルの諜報部の方々にもお礼を申し上げて頂けると幸いです。追伸、食料と燃料の備蓄が少なくなってきました、至急補給をお願いします」

 

 追伸を聞いたクイーン・エリザベスの顔が引きつる。

 

「……ウォースパイト。前回の支給日と支給した水、食料、燃料、嗜好品のリストを読み上げて頂戴」

 

「はい陛下。前回の支給日は三か月前。水二t食料一t合わせて三t、燃料五千t。嗜好品は紅茶の茶葉五百kg甘味五百kg酒類三百L……です」

 

「物には限度ってものがあるでしょっ!半年分の支給品をたった三か月で消費するってどんな消費をしているのよ!?特に燃料!」

 

 クイーン・エリザベスが机を叩きつけるような勢いで立ち上がり、椅子が倒れそうにいなるのを後ろで控えていたベルファストが華麗に支える。

 

「へ、陛下!お気持ちはわかりますが、落ち着いてください!」

 

 ウォースパイトが慌てて立ち上がりクイーン・エリザベスを宥めようとするが、クイーン・エリザベスの興奮は収まることはなく逆に高まる。

 

「これが叫ばずにいられる!?たった一人のためにどれだけつぎ込めばいいのよ!前々から思っていたけどあの子は消費が激しすぎるのよ!エディンバラ級の二倍の燃料消費とか頭がおかしいわよ!?ベルが二人居ればいいじゃない!」

 

「陛下!口調が大分おかしいことになっております!あと、ベルファストが分身出来るわけじゃないのですからその考えはお控えください!」

 

「ウォースパイト様、私ベルファストは分身のスキルを習得した方が宜しいでしょうか?」

 

「ベルファストはちょっと黙ってていただける?話の収拾がつかなくなるから!」

 

 零れ落ちる光の庭園はあっという間に騒々しい中庭へと変化してしまった。その声を聞きつけてか、一人の美女が歩み寄ってくる。

 

「陛下?淑女が大声を上げて暴れてどうしたのですか?」

 

「あ、フッド!ちょうど良かったわ!あなたの意見を聞かせて頂戴!」

 

 クイーン・エリザベスは手紙の内容と自信の興奮していた理由をフッドに語りだす。

 

「……なるほど、あの方への仕送りに疑問を抱かれているわけですね」

 

「いくら彼女が有能で、上層部がバックについているからとはいえ、これだけの消費はおかしいわ!そう思わなくてフッド!」

 

 彼女はしばし考えてこう語りだした。

 

「陛下。口をはさむことをお許しください。私は彼女が一番適正だと思われます。もし、彼女を上層部に戻した場合、彼女の代わりに誰が北方海域に留まることになるでしょうか?」

 

 その言葉を聞いてクイーン・エリザベスは「ウッ!」と言葉を紡ぐ。

 

「彼女はとても優秀です。ロイヤル領海の四分の一に当たる北方海域を一人で監視し、敵と遭遇した場合は必ず追い返すだけの力を持っています。仮に彼女が抜けた場合は誰がその場所の担当になるでしょうか?航空戦力的な問題でイラストリアス級でしょう。しかし、彼女はこの基地に無くてはならない存在です」

 

 さらに彼女は話を続ける。

 

「北方海域にイラストリアス級が出向いた場合、この基地の航空防衛は格段に落ちます。それに加えて、彼女達には申し訳ありませんが、私にはあの方と肩を並べられる気がしません。彼女は正しく歴戦の猛者であり戦力も少なく経験もまだ幼いイラストリアス級では比べ物になりません。そこは先の大戦で関わった陛下が一番お分かりのはずです」

 

 次々と正論を言われたクイーン・エリザベスは返す言葉もなく、そのまま黙って考える。

 

「陛下、こう考えればよろしいのです。三人分の補給で北方海域の安全が確保される……そう思えば陛下も納得していただけると思います」

 

「……そう考えるしか納得できないのも問題だとは思うけど……現状は彼女がいなければこんな風に紅茶を楽しむ時間も無いわけだからそうね。……フッドの意見はわかったわ。ウォースパイト、あなたはどう思う?」

 

「フッド様の意見に賛成します」

 

「……わかったわ。ベル、補給の準備をして北方へ向かってちょうだい。ついでにこの手紙も頼むわ」

 

「かしこまりました。女王陛下」

 

 こうして、彼女への補給が決まったのだった。




イラストリアス級航空母艦は最高搭載機数が三十二~六十七機(Wiki調べ)なので、百以上の航空機を扱える???はイラストリアス級の大体二~三倍の戦力になります。
私の想像では弾薬や艦載機は燃料を使って作られていると思っているので極端に多くなっております。
その分だけ燃料を使うわけで……ですが、五千tはあの大和(沖縄決戦時)より千t多い計算になりますが私は妥当な計算ではないかと思っております。
リットル計算が間違えていました申し訳ありません。(令和元年十二月十五日訂正)
燃料一tとは千Lのことですので、五千tは五百万Lになります。


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鉄血の野望

???「今日は吹雪いていますね……」

そう言いながら彼女はカタカタと揺れる窓を眺めながら少し冷めた紅茶を飲み干す。

吹き付ける吹雪は猛烈で、今いるシェルターの上にどんどんと雪を積んでいく。

???「いつまで続くのかしら?これでは艦載機を飛ばしてロイヤルの補給の方を発見することも難しいですわ」

そんな心配をしているとギィ……と天井から鈍い音がする。

「……この音は誰かがいるとかではなくシェルターの針がきしんだ音ですわよね?ここに閉じ込められたりしませんよね……?」

その日、彼女は吹雪がやむ朝まで一睡もできなかった。


-鉄血北方基地:第一会議場-

 

 

「ハイハイ、みんな座った座った!これよりロイヤル北方海域攻略作戦会議をするわよ」

 

 パンッ!パンッ!と会場内に響き渡る手拍子に会場はすぐに静かになる。

 

「ケルン、今回の趣旨と作戦完遂事項を言ってちょうだい」

 

「はい、今作戦の最終目標はロイヤル北方より本土攻撃。そのためにもロイヤル北方海域に存在する敵の基地の索敵と無力化もしくは壊滅を速やかに行う必要があります」

 

 眼鏡をクイッと上げて淡々と語るが、その眼の奥にはこの作戦にかける確かな意欲が見られる。

 

「ここまで異議がある者はいる?……いないなら話を続けるわよ、では敵戦力報告をケーニヒ」

 

「はーい。お姉さんが観測した対空電探と観測からの情報によると現状で分かっている敵戦力は北西西、氷山地帯に海軍基地。攻撃に出てきた敵機は百三機。全てフェアリー・ソードフィッシュで爆弾搭載しているのはそのうち七十機。他は戦闘機で間違いなさそうよ」

 

 想定以上の敵の勢力に会場内が再びざわめきだしたが、アドミラル・ヒッパーが手を叩いて静かにさせる。

 

「はい、みんな!今の時点で何か意見があるのなら手を挙げてはっきりと言いなさい。ただし、質問内容を話し合ってからね」

 

 アドミラル・ヒッパーがそう言うと、しばし各自で話し合った後Z23(ニーミ)が代表として手を挙げた。

 

「駆逐艦を代表して話させてもらいます、ニーミです。敵機の数があまりにも多すぎます。これでは敵基地を索敵するどころか逆に返り討ちにあってしまいます。あと、敵勢力は……水上艦は確認されましたか?仮に空襲を突破できたとして基地前で待ち伏せされては攻撃どころではありません。その所をどうお考えですか?」

 

 ニーナの質問に対してアドミラル・ヒッパーは「このことに対する意見を……ケルンお願いするわ」と手を挙げたケルンが立ち上がり語りだす。

 

「敵機に対してはこちらも海軍基地より支援航空してもらう予定です。ですが、それでも敵機は完全には落とせないと思われます。そこで、部隊を三つに分けて運用してます」

 

 ケルンの提案に会場は再びざわめきだすが、アドミラル・ヒッパーが強めに手を叩いて黙らせる。

 

「続けます。部隊の三つのうち二つは私達のように機動力が高い軽巡洋艦と駆逐艦で構成された高速部隊。残り一つは後方で支援する射程の長い戦艦と重巡洋艦の遠距離打撃部隊です。最初の空爆攻略を軽巡洋艦率いる高速部隊で敵弾を完全といかなくても回避し敵水上艦及び敵基地を発見次第、後方に控えている遠距離打撃部隊で敵水上艦を殲滅、滑走路を破壊するのが今回の作戦です」

 

 ケルンの横槍を入れるかのようにプリンツオイゲンが口を開く。

 

「この作戦なら空襲が来たとしても半分の数の五十、そこに我らの優秀な戦闘機が数を減らしてだいたい爆撃機は二十機ぐらいで済むわ。万が一、空襲が一部隊に集中したとしても五十機以上の空襲はないはず。それに、もう片方は晴天そのもの……海軍基地を簡単に攻略できるわけ」

 

「オイゲン?意見があるなら手を挙げなさいって言っているでしょ!ケルンの意見の邪魔をしない!」

 

 怒られたオイゲンは悪びれる様子もなく「次から気を付けるわ」と言った。

 

 次に手を挙げたのはこの中で唯一の戦艦グナイゼナウだ。

 

「私も高速戦艦ですので空襲はある程度回避可能です。対空強化のためにも後方に控える遠距離打撃部隊を無くして部隊は二つでよろしいのでは?と思います」

 

 これに対して手を挙げたのはケーニヒスベルク。

 

「その意見だと敵機は一番の脅威である貴方に攻撃が集中してこの作戦自体が出来なくなる恐れがあるわ。確認されてはいないけど水上艦に戦艦クラスがいた場合、軽巡洋艦の私達や重巡洋艦だけでは突破は難しいわね。それに、滑走路を使わせないのであれば別に破壊しなくてもいいのよ。例えば……雪崩で使えなくさせたりとかね?そうなると一番の射程を誇る戦艦を失うわけにはいかないわ」

 

 その意見を聞いたグナイゼナウは「なるほど……理解しました」と引き下がる。

 

「他に意見がある者はいる?……ん?そこ!もっとしっかりと手を上げなさい!見えなかったじゃない!」

 

 そう言われたUー47は「うるさいな……」と小声で言いながらも意見を出した。

 

「今まで相手から何もしてこなかったんだろ?ならこっちから無理に動かなくてもいいんじゃないかな?下手に攻めて被害を出すよりしっかりと準備を整えてからでもいいんじゃないか?人がいっぱいなのはうるさくて困るが」

 

「却下よ却下。そんなの無理だわ。今攻めなければどんどん強化されるに決まっている。それで、航続距離が短いフェアリー・ソードフィッシュから航続距離が長い新型の航空機にされてみなさい?この基地がずっと空爆にさらされるわよ。設備を強化されていない今が唯一のチャンスなの」

 

 そこの答えを聞いたU-47は「空爆はもっとうるさいから嫌だな……」と手をひっこめた。

 

「話をまとめるわよ。今作戦を簡易に説明すれば高速部隊で空襲を回避、遠距離打撃部隊でとどめを刺す!あと、潜水艦は氷山で近づけないから遠距離打撃部隊と一緒に後方に控えて空襲で傷ついた味方の援護をする!以上、分かったら返事しなさい!」

 

 アドミラルヒッパーが会場に響き渡るぐらいの大声で返事を求め、会場にいたすべての艦船(KAN-SEN)が返事を返して意思を固める。

 

 こうして次の作戦が決まったのであった。

 




第一高速部隊、旗艦ケーニヒスベルク、ライプツィヒ、Z1(レーベルヒト・マース)、Z18(ハンス・リューデンマン)、Z19(ヘルマン・キュンネ)
第二高速部隊、旗艦ケルン、カールスルーエ、Z2(ゲオルク・ティーレ)、Z20(カール・ガルスター)、Z21(ヴィルヘルム・ハイドカンプ)
遠距離打撃部隊、旗艦グナイゼナウ、アドミラル・ヒッパー、プリンツ・オイゲン
撤退支援部隊、旗艦Uー47、Uー81

総員15名による艦隊作戦です。人選はアズレン実装艦船(KAN-SEN)を選んで後々セリフを言ってもらうつもり……(予定では!)


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彼女は氷山

???「今日は風がなく日も出ていて穏やかですね」

彼女はそう言うと日が直接当たる偽物の滑走路に机と椅子を用意する。

現在は十三時、ランチティー。サンドウィッチと熱々のミルクティーを楽しんでいた。

だが、彼女が座っている場所の気温は日が出ていても零(レイ)度を示しておおよそティータイムを楽しめる気温ではない。

???「そう言えば今日は補給部隊が来るかしら?昨日は猛吹雪だったから外に出られませんでしたけど……」

そういいながら彼女は若干凍ったサンドウィッチを頬張り、熱々のミルクティーを楽しんだ。


-ロイヤル北方海域:偽物の滑走路-

 

 ティータイムを楽しむ彼女に忍び寄る一つの影……。その者はすぐさま行動を起こした。

 

「ごきげんよう、ハボクック様」

 

「あら、ベルファストさん。ごきげんようですわ」

 

 忍び寄った影……それは、メイドのベルファスト。だがその姿はいつものメイド服ではなく完全防寒の服装だ。

 

「ハボクック様、またそのようなお姿で……風邪を引かれますよ?」

 

「私の情報は知っているでしょベルファストさん?戦闘になったらこんな薄着でも熱いのよ?それこそ、脱ぎたいぐらいに」

 

 そう言うと肩掛けの部分をススッとずらして、肩の白い肌が大胆に強調される。

 

「ハボクック様!ロイヤルの品位を失うような行動はお控えください!」

 

 ハボクックは「冗談なのに……」としょんぼりしながら着崩れた服装を正す。

 

「……わかっているわ、こんなおばさんの体なんて見ても価値はない……いえ害でしかないものね……」

 

「い、いえ!ハボクック様のきめ細やかで白い雪のような肌は同じ女性としてうらやましく思います」

 

 ハボクックは「あら嬉しいわ」と喜んだ。

 

「そうだわ、いま椅子を用意するから一緒にランチでもいかが?」

 

「申し訳ありません自分は次の職務がありますゆえ、ご遠慮させていただきます」

 

 ベルファストに即答されて、ハボクックは「そう……」としょんぼりする。

 

「……では、紅茶一杯だけお付き合いしていただける?」

 

「……はあ、分かりました。ご相伴に預からせてもらいます」

 

 ハボクックは「嬉しいわ」と笑顔になり自身の艤装を外して自分の正面に置いた。

 

「……ハボクック様、これは一体?」

 

「これはとは?……ああ、椅子のことね。すぐに用意できて、寒くない椅子となると私の艤装ぐらいしかなくて……乙女一人ぐらいなら乗っても壊れたりはしないし、ほんのりあったかいから安心してくださいね」

 

「いえ、結構です。無作法ではありますがこのままで頂かせてもらいます」

 

 ハボクックは「温かいのに……」と渋々自分の艤装を回収する。

 

「話は変わりますが、倉庫の方に補給分の食料と燃料を保管しておきました。後でご確認ください」

 

「あら、ありがとうございます。これでまだまだ戦えますね」

 

 そう言うとふくよかな谷間で温めておいたティーカップを取り出し、沸騰した熱々の紅茶をティーカップに淹れる。

 

「……ティーカップをどこから出したのかは追求しないでおきます。それと、女王陛下より伝言です。もっと節約を心掛けなさい!特に燃料!……とのことです」

 

「ふふっ。ベルファストさんの女王陛下の真似は可愛いですね。それも女王陛下の伝言内容ですか?はい紅茶をどうぞ」

 

 ベルファストは「いただきます」と言って紅茶を飲む。その顔は寒さとは若干違う赤みを帯びていた。

 

 そんなベルファストの顔を見てニマニマとハボクックが笑顔になり、ベルファストは白を切る。

 

「陛下に伝えておいてください。お姉さんこれで頑張っていますって、あと今度もベルファストに伝言をお願いしますと」

 

「ハボクック様?」

 

 ハボクックは「冗談よ冗談」と口に手を当てクスクスと笑う。

 

「まったく……ハボクック様はご冗談がお好きなのですから……っ!」

 

「大丈夫ですよベルファスト。あれは私の偵察機ですから」

 

 一機の偵察機がボロボロになりながらもこちらに向かってくる。

 

 その偵察機をハボクックは自身の艤装の滑走路に走らせて止めて、偵察機をなでると偵察機は無数の小さなキューブとなって艤装に取り込まれる。

 

「……申し訳ありませんわ、ベルファストさん。どうやら鉄血の方々が来たようですわ」

 

「いいえ、お構いなく。それよりもハボクック様も速やかに避難を……ここは私が食い止めます」

 

 そう言うとベルファストは艤装を展開して戦闘態勢に入るが、ティーカップを持っているハボクックは椅子から立ち上がらない。

 

 そのことに疑問に思っているベルファストをよそにハボクックはこう言った。

 

「大丈夫ですわ、だって私はハボクック。伊達に氷山空母を名乗っていませんから。……スクランブル!全機速やかに発艦しなさい!」

 

 そう言うとハボクックは自身の二つの滑走路を使って次々と艦載機を飛ばす。

 

「……これがロイヤルの切り札……次元が違いすぎます、私たちと同じ艦船(KAN-SEN)だというのですか……?」

 

 終わる事の無い発艦。空を飛ぶ艦載機達は晴天の空を覆いつくし、次第にその影で一帯が暗くなるのであった。




というわけで、???とはハボクック氷山空母でした!お早い公開な気もしますが、待ちきれない提督のために、自分の出したいという欲望のために出させていただきました!
詳しい内容は今後明らかにしていくつもりです。
現状で公開されているのは搭載機数は百機以上、燃料消費はベルファストの二倍、艤装はほんのり暖かく二つの滑走路から次々と艦載機を飛ばす、人肌恋しいお姉さん的な空母です。
これからドンドン情報を公開して戦闘を盛り上げていくつもりなので、これからもよろしくお願いします!


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翻弄される鉄血艦隊

クック「敵の前衛は撃破。後続に控えている戦艦部隊も発見と……続けて攻撃してください。第二次攻撃の準備急いで!」

ベル「まだ艦載機を搭載していたとは……ハボクック様の力は底が知れないですね……」

クック「伊達に先の大戦を生き延びてはいませんわ、それよりも紅茶のおかわりは必要ですか?」

ベル「まだ口を付けておりません。それと、ここは危険ですので避難の準備をお願いします」

 ベルファストが紅茶を置いて出撃の準備をしようとするのをハボクックは止めた。

「敵の前衛は倒しましたわ……つまり今、この基地を発見できるのは誰もいません。後は後続の戦艦を仕留めれば相手の計画は失敗です」

 そう言って彼女は第二次攻撃隊を発艦させた。


-ロイヤル北方海域:流氷地帯-

 

 

「敵機真上!爆撃来るわよっ!」

 

 アドミラル・ヒッパーは焦っていた。来るはずのない空爆の回避に手こずっている事。

 

 次に前衛の西に向かった第二高速部隊の音信不通になった事。

 

 特に焦らせていたのは北西西に向かった第一高速部隊による基地の発見報告がいまだに無い事だ。

 

「第一高速部隊はまだ敵の基地を発見できないの!?もうそろそろこっちの射程ギリギリなんだけど!」

 

「落ち着きなさい、ヒッパー!焦ったらこの空爆もしのげないわよ!」

 

 そう言ったプリンツ・オイゲンもまた焦っていた。

 

「前回の空爆は北西西から来て北西西に帰っていった……なのにどうして今回は北西西に向かった第一高速部隊じゃなく、西に向かった第二高速部隊の方がやられた……!前回の空爆は迂回してからの攻撃……?いや、それだとしたら航空機の燃料が持つとは思えない……まさかっ!」

 

 プリンツ・オイゲンは最悪の答えを導き出す。

 

「敵は複数の航空母艦でこの海域を防衛していた……!」

 

「くっ!油断したか……!」

 

「グナイゼナウ!よくもやってくれたわね!」

 

 後方にいた戦艦グナイゼナウなら苦痛の声が聞こえる。どうやら被弾したようだ。

 

 このままでは相手の思うつぼだと認識したプリンツオイゲンが撤退を指示しようとしたとき、北西西に向かった第一高速部隊のケーニヒスベルクから無線が届く。

 

「……--こちらケーニヒスベルク!敵の海軍基地及び滑走路を発見!滑走路には第二次攻撃と思われる飛行機が点在しているわ!至急援護射撃を要請します!--……」

 

 困惑するプリンツ・オイゲン、なぜ今頃になって発見できたのか?送られてきたデータからは完全に砕氷艦が必要な位置に基地が存在している。

 

「ようやく見つけたわね!グナイゼナウあんたなら届くわよね!」

 

「勿論です!私の射程範囲。二十八cmだからと甘く見ないで、射程は二万mだって当てて見せる!前部主砲斉射!……続いて後部主砲斉射!」

 

 爆撃を華麗に避けつつ前部主砲三連装二基、続いて後部主砲三連装一基と撃っていく。

 

「……--敵基地に着弾を観測!敵の滑走路に被害あり!航空機が弾け飛んだわ!--……」

 

「よくやったわ!敵が反撃できないように徹底的にやっちゃいなさいグナイゼナウ!」

 

「--射程範囲に入ったね……次も当てます!全門一斉射!」

 

 報告を受けては誤差を微調整して次々と砲弾を打ち出していく。撃ち出された砲弾によって敵の基地は壊滅的な被害を出した。

 

 作戦が完了しこれから前衛艦隊の撤退を護衛しようとしていた遠距離打撃部隊に無線が届く。

 

「……--こちら第二高速部隊ケルン!部隊は壊滅的、それよりも今すぐに逃げて!--……」

 

「ケルンからの報告……?もう脅威なんてないはずなのに何をそんなに慌ててたの……?」

 

「やっぱりそうよ!この季節凍結して滑走路の航空機が稼働できるわけがない!あの滑走路と航空機はダミー!敵は基地なんかじゃない!最初から仕組まれていたんだわ!」

 

 遠くから聞こえてくるエンジン音。五十を超える第二攻撃隊の爆撃隊がこちらに向かってくるのが晴れた空から確認できる。

 

 既に同じ数の航空機が飛んでいる戦場にとどめをさそうと飛行してきたフェアリー・ソードフィッシュ、可愛らしい名前とは真逆の首に鎌を掛けようとする死神。

 

「撤退よ」

 

 プリンツ・オイゲンの声が爆撃音が轟き渡る戦場に発せられる。

 

「全軍撤退!撤退よ撤退っ!」

 

 爆撃音をアドミラル・ヒッパーがかき消す。無線を通して第一高速部隊、第二高速部隊、撤退支援部隊にも伝えられる。

 

「第一高速部隊及び撤退支援部隊は第二高速部隊の撤退援護、遠距離打撃部隊は爆撃を回避しながら第二高速部隊の撤退時間を稼ぐわよ!グナイゼナウいける?」

 

「問題ありません。爆弾の一つや二つ耐えて見せます!」

 

「回避できますじゃないのは仕方ないけど頼もしいわ!さあ、踏ん張るわよ!Viel Glück(健闘を祈る)!」

 

 飛び回る航空機の爆弾の雨を回避し、時々当たりながら母港へと全速力で撤退する。

 

 今回の鉄血による侵攻作戦は作戦参加者の半数が負傷になる大失敗に終わったのであった。




基地による航空攻撃だと認識していた鉄血が予想外の空爆を受けて敗走するところで今回は終わりです。
この世界にはキューブによる絶対保護システムが働いており、撃沈判定のダメージは艤装に吸収されて沈没を免れることになっておりますが、艤装にダメージを負えば砲撃、航行に支障が起きて最終的には海に浮かぶことが出来なくなってしまうため、それまでに母港へと帰り整備する必要があります。
また、母港には新品の艤装があり交換すれば一応すぐに出撃可能の状態になることが出来ます(例外あり)。
ですが、新品の艤装と体に残る練度の差による調整が必要で整備に数日かかります。

……という自分の設定話でした。


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彼女の過去

クック「ベルファストさんは無事に帰れたかしら?」

そう言いながら彼女は椅子と机を倉庫に、航空機を格納庫に片づけていた。

「今日もお疲れ様、辛い任務でも頑張ってくれて助かりますわ」

小さくなったフェアリー・ソードフィッシュを愛しそうになでる。

日も落ちてきて冷たい風が薄いドレスを揺らす。

クック「今日も吹雪きそうですわね……」

遠い空を眺めながら彼女は白い息をついた。


――ロイヤル海軍基地本部:中庭――

 

 

「--以上が今回の防衛作戦の報告です」

 

「流石はハボクック様ですわね……前衛二隊のうちの一部隊壊滅的に追い込み、後続に控えていた戦艦含む重巡洋艦を大破とは……数は力といいますがここまでの戦果が上がるのは私達もそうそうありませんね」

 

 ウォースパイトがうんうんとうなずいているがクイーン・エリザベスはどこか不満げな顔をしていた。

 

「……ベル?敵の撃沈報告はないの?」

 

「陛下?我々艦船(KAN-SEN)は絶対防御システムが働いて殆ど沈むことはありません。艤装にダメージが入るだけで撤退してしまいます」

 

「ウォースパイト、貴方は分かっていないわ。彼女がどうしてロイヤルの切り札と言われているか……彼女はわざと敵を逃がしたのよ」

 

 クイーン・エリザベスの言葉にウォースパイトとベルファストが驚く。

 

「では、陛下はハボクック様が手加減をなされたと言うことでしょうか?」

 

「そういうことよ。彼女のもう一つの名前を知っている?The iceberg of the devil……悪魔の氷山って意味よ。かつての大戦で彼女ほど戦果を挙げた艦船(KAN-SEN)は無いわ」

 

「悪魔の氷山……不吉な名前をどうして付けられたのでしょうか?」

 

「ベルは先の大戦の後半しか参加してないものね、知らなくても無理もないわ。……いいわ話してあげる。彼女はあの大戦で敵味方もろとも全部を吹き飛ばしたのよ」

 

 クイーン・エリザベスの言葉にウォースパイトは黙りベルファストは驚愕した。

 

「失礼ですが、陛下。私にはハボクック様はそのようなことを決して行わないと思うのですが……」

 

「事実よ。正しくは攻撃しざるを得なかった……といったところだけど」

 

 疑問を抱いているベルファストにクイーン・エリザベスは話を続ける。

 

「彼女は先の大戦で唯一といっていい航空母艦。当初、セイレーンも航空母艦が少なかった時代、彼女の艦載機だけが対空の要だったわ。それはロイヤルだけではなくアズールレーン全体……ユニオン、鉄血、そして重桜にも当てはまった」

 

「そのため、ロイヤルの上層部は彼女を独占しようとしていた。彼女さえ手元に置いておけば空襲の心配はないし、自国の制海権奪回だけを目的にすれば良いと。でも彼女がそれを許さなかった。彼女は上層部の話を振り切り自ら戦いの道に進むことを選んだのよ」

 

「彼女は奮闘したわ。それこそアズールレーンのロイヤルガードと言われるぐらいにわね。だけど、各国は彼女の情報を欲しがった。特にセイレーンの技術をもって対抗しようとしていた鉄血は。そして、あの日がやってきた……」

 

 飲みかけの紅茶をソーサー(受け皿)において話をいったん区切る。

 

 クイーン・エリザベスは思い出すようにまた語りだした。

 

「艦船(KAN-SEN)を含む鉄血艦隊、総勢四十隻による大規模海域奪回作戦。Lagerfeuer-Strategie(篝火-作戦)。彼女はその制空権を任されたわ。だけど、ふたを開けてみればそれは彼女の拿捕作戦だった」

 

「セイレーンとの戦闘で消耗したところに鉄血艦隊による砲撃。鉄血の作戦は完璧だった……彼女が氷山空母でなければ。砲弾は分厚い氷の層に食い込んで止まり、制空権を失っている鉄血艦隊はものの数時間で全て殲滅。……その中に第一世代の艦船(KAN-SEN)もいたわ」

 

「その日以降、彼女の心には疑心が芽生え、艦船(KAN-SEN)への攻撃にトラウマを持つようになりセイレーンの量産型だけと闘い大戦を終わらせた。軍縮条約が結ばれたのはそれから数か月後のことよ。その対象に入っていた彼女はひっそりと上層部に取り込まれて表舞台からは消えたわ」

 

 長く話したのか少しため息をつくクイーン・エリザベス、冷えた紅茶をベルファストに渡した。

 

「そのようなことが……それでは、わざと手加減なされたのは――」

 

「そう、彼女は先の大戦のトラウマで人型の艦船(KAN-SEN)は沈めれない、そこが彼女の弱点であり懸念材料。そこを突かれないと良いのだけれど……」

 

 クイーン・エリザベスの話を静かに聞いていたウォースパイトが口を開く。

 

「陛下、やはり護衛艦隊を付けるべきです。レットアクシズとの戦闘が激しくなれば必ず彼女の弱点が露出するでしょう。そうなる前にご決断を」

 

「ダメよ。彼女のバックにいる上層部がそれを許さない。私達に出来るのは彼女の補給時に少し話しかける、ただそれだけよ」

 

 クイーン・エリザベスの言葉にベルファストは希望を口にする。

 

「ハボクック様にティータイムのお誘いを受けました。その場で断ってしまいましたが……彼女も本当は私達と交流したかったのではないでしょうか?」

 

 ベルファストの一言にクイーン・エリザベスとウォースパイトは固まる。

 

「……ベル?そういう話は最初にしなさい。あと、今度から私も同席するわ」

 

「なりません、陛下。基地本部に陛下がいなければ混乱が起こります。ここは私が出向きましょう」

 

「あなたがここを離れたら任務に支障が出るじゃない!」

 

「陛下が動かれたほうが支障が出ます!お考え直してください!」

 

 今までの空気が一転して騒がしくなる。クイーン・エリザベスとウォースパイトがどちらが行くかで騒ぎ、それを余計なことを話してしまったとベルファストは頭を押さえる。

 

 この口論はフッドが来るまで続いたのであった。




今日はハボクックの過去にスポットを当ててみました。
今回はシリアス回となってしまいましたが、最後のオチで緩和できたはず……出来たらいいなぁ……。
鉄血も優秀な船はどうしたって欲しいから、作戦に紛れて拿捕しようとしたという話ですね。
氷山空母の拿捕……どこかで聞いた話ですがこちら側は拿捕失敗となっております。
本来なら攻撃自体も出来なさそうですが、戦火をこれ以上広げないためにという使命感で何とかなっております。
そうなるようにしたのはロイヤルの上層部で、上層部の狙いは自国の自衛といざという時の保険のためですね。
初めて二千文字を超えてしまいました、それだけ力を入れた回だったということで読んでくれたら嬉しいです。


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鉄血の反省会

???「ヤツが動いたか……」

送られて来た電文を見て彼女はすぐさま直感した。

百機を超えるロイヤルの航空戦力は彼女の象徴だったから。

???「私達も動かなければなるまい」

そう言うと彼女は玉座を離れる。

???「先の大戦の借り……今度こそ返させてもらう」

カーテンを開けて暗い部屋に光を入れる。

その青色の瞳には確かな決意が宿っていた。


――鉄血北方基地:第一会議場――

 

 

「ハイハイ、みんな座った座った。これよりロイヤル北方海域攻略反省会をするわよ」

 

 パンッパンッと狭い会場に響く手拍子、しかし元から騒いでなく静かだからこそ響くだけだった。

 

「ケルン。今回の失敗と第二高速部隊の状態を言ってちょうだい」

 

 アドミラル・ヒッパーがやる気がなさそうにケルンに指示をした。

 

「はい。今作戦における被害は甚大で沈没こそ免れたものの、第二高速部隊の半数以上が大破、他も中破状態で速やかに整備が必要です。また、作戦途中報告が遅れた理由に関しましては敵空襲の回避に専念していたこと、中破、大破により通信設備が故障していたことが挙げられます」

 

 眼鏡に手を添えて語る彼女からは今作戦がどれほど危険だったのか読み取れる。

 

「はい次。第一高速部隊の失敗と状態を言ってちょうだい」

 

「はい、第一高速部隊は一番被害が少なく小破がほとんどで大破はいません。失敗と言いますと敵基地が思ったよりもはるかに後方に控えていたこと、撤退に時間がかかったことが挙げられます」

 

 いつもの余裕はそこにはなく真剣な顔でケーニヒスベルクは語った。

 

「次、遠距離打撃部隊の失敗と状態について私がしゃべるわ。戦艦を集中攻撃されてグナイゼナウは大破、他の私達は中破ね。失敗としてはそもそも敵基地の場所が分からない状態にもかかわらずいるものだと仮定して作戦を進めたことにあるわ」

 

 アドミラルヒッパーが語った後に一人手を挙げる者がいた、基地で待機していたZ23(ニーミ)だ。

 

「えと、発言を許してください。フェアリー・ソードフィッシュの航続距離的に北西西に基地があると仮定していて、報告を聞いた限り敵基地を発見して攻撃した、ということで問題ないのであれば今作戦自体は成功なのではないでしょうか?」

 

「……ケルン、敵航空機の来た方角について話してちょうだい」

 

 アドミラルヒッパーの問いに対してケルンは「西方面から来ました」と答える。

 

「北西西にあった敵の基地はおそらくダミーよ。フェアリー・ソードフィッシュの航続距離から考えるに前回使われていたかも怪しいわ」

 

 この発言に対して「だから手を挙げて……もういいわ、話を続けて」とアドミラル・ヒッパーが諦めてプリンツ・オイゲンは語りだす。

 

「私が思うに敵は複数の空母からなる機動部隊。そう考える理由は空爆時の数。あそこまで多い航空機は一つの滑走路では不可能、複数の滑走路があることが予測できる。今回、西に向かったケルンが空襲を受けたのも空母という動くことが出来る攻撃手段があってこそ、敵が目の前にいるとわかっていて迂回し西に向かうとも思えない。となると守りもなく簡易に砲撃出来た基地は要らない基地……ダミーってなるわけ」

 

 プリンツ・オイゲンが話し終えると会場内は騒がしくなる。

 

 それも当然だ、敵主力空母は本部にほど近い海域で確認されていた。つまりこちら側には空母がいないと想定されており、こちら側は空母戦を想定していない。

 

 さらに、今まで確認されていない空母というのも厄介だ。急造艦であればいいが、今回の航空機の動かし方が手慣れしていることから軽空母等の線は怪しく、最新型の正規空母の可能性が高かった。

 

 航空戦力がない鉄血艦隊は途方に暮れる。どこにいるかわからない空母を探すのは難しく、必ず先手を取られて探そうと動いたころには移動していて消えている。

 

 一番の問題は移動できることにある。基地からなら届かないと思われたフェアリー・ソードフィッシュの航続距離が空母により近づけばいつでも攻撃可能である。つまり、これからこの基地は空襲にも気を使わなければならなくなったのだ。

 

「私たちの手に余るわ……本部に連絡!こっちも空母で対抗するわよ!」

 

「ですが、我々の空母はグラーフ・ツェッペリン一隻しかおりません!本部が早々に手放すとも考えれないかと……」

 

「何のための同盟だと思っているの?この基地が落とされれば次は鉄血本部まで空襲が来る……同盟国の危機よ、同盟国の危機には重桜も見逃すわけにはいかないわ。幸い、重桜には軽空母を含めて空母がたくさんいるわ、一隻か二隻……三隻借りてもまだ余裕があるはずよ。本部には頑張ってもらわないとだけどこれは仕方ない事よ」

 

 アドミラル・ヒッパーの言葉に落ち込んでいた士気が回復する。

 

「今回の反省会はこれにて閉幕!今後の対策を含めて何か異論や質問などはある?」

 

 アドミラル・ヒッパーの言葉に誰も異議を唱えなかった。この道しかないからであるが、集まっていた皆がまだ希望を捨てていなかった。

 

「潜水艦隊と軽傷で済んだ者はこの基地の見回りを範囲を少し広げて強化!本部からの増援が来るまで頑張るわよ!それじゃあ解散!」

 

 こうして、今後の方針が固まったのであった。




今回は鉄血の今後の方針を決める話となります。
今回もシリアス回が続きますが……と言いますか、今のところシリアス回しかございませんが、戦闘メインで書く予定なのでこれもシリアス回が続きます。
たまにギャグも入れれたらいいなとは思いますが、センスがどうも無いようなので控えさせてください。
あと、後悔と言いますか力不足と言いますか……主力メンバー以外出番をあげることが出来なかったことが一番の悔やみどころです。
今後はさらに艦船(KAN-SEN)が増える予定なので早いうちに複数の会話になれなきゃ……頑張ります!


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淑女の嗜み

クック「あら?後方より接近する艦影?これは……あらあら、珍しいお客様ですわ」

晴天の滑走路、ハボクックは喜びを隠さずシェルターへステップを踏むように歩き出す。

彼女をここまで喜ばせるのは、近づいてくる艦影が良き友人だからだ。

クック「今日はとっておきのティーを使いましょう。あともうすぐイレブンジズティー(十一時に飲む紅茶)ですから、どのお茶菓子がいいかしら?……スコーン?それともバタつきパン?」

ああでもないこうでもないと迷うハボクック、その顔は嬉しそうに困っていた。


――ロイヤル北方海域:偽物の滑走路――

 

 

 艦載機の道案内を受けてその者はハボクックの元へと到着した。

 

「ようこそいらっしゃいました、フッド様。外は冷えますので、こちらのシェルターにいらっしゃいませ。中に熱々の紅茶を用意させていただいております」

 

「これはこれはご丁寧にありがとうございます、ハボクック様。吹雪いていなくて幸いでした。イレブンジズティーのお誘い、お言葉に甘えさせてもらいますね」

 

 ハボクックに勧められ、白いシェルターの中へと入る。

 

 シェルターの中は小さいながらも一面に敷き詰められた人口芝生の緑と、温かなオレンジの壁。中央に白いテーブルチェアーとセットの白い椅子が鎮座してる。

 

 テーブルチェアーの上には白いティーカップセットとスコーン、そばにイチゴとブルーベリージャム、クロテッドクリームが置かれている。

 

「あら?この香りはルフナかしら?」

 

「バレてしまいましたか。そうです、私の大好きなルフナです。ミルクもご用意しておりますよ」

 

 そう言うと椅子を引いて座るように催促する。

 

「ハボクック様、ありがとうございます。しかし、イレブンジズティーにしては豪華過ぎではありませんか?」

 

「久しぶりに会えたのですもの、ちょっとぐらい贅沢してもいいじゃないですか」

 

 ちょっと拗ねたような顔をしているが内心からあふれる喜びは隠していない。

 

「それで、本日はどのような用件で参られたのでしょうか?補給の件でしょうか?鉄血艦隊の件でしょうか?」

 

「本日はお茶をしに来ました。ご迷惑だったでしょうか?」

 

 ハボクックは「そんなことはございません」と言う。

 

「私はいつでもお待ちしておりますわ。それではどのような話をしましょうか……このシェルターを作った話?それとも滑走路を造った話?をしましょうかしら?」

 

 その話を持ち出すとフッドは表情が固まる。

 

 そもそも、この偽基地は彼女とその上層部が作ったものだからだ。

 

「……冗談ですわ。貴方に害する話題は私にとってもあまり好ましい話題ではございません。ですが、何もないこの地では話題がございません。ちょっとした悪戯にございます」

 

「まったく……ハボクック様は意地の悪い方ですわね。では私から色々とお話しさせていただきますわ。まずは、そうですね陛下のお話からさせていただきます」

 

 その後、フッドはクイーン・エリザベスとウォースパイト、ベルファスト、ロイヤルの方々、四季の移り変わりや季節のイベントなどを語った。

 

 それをハボクックは笑顔で楽しそうに聞いている。

 

 フッドが一通り話した後、ハボクックに問いかけた。

 

「貴方はなぜ、ここに留まるのですか?私たちと一緒に過ごさないのですか?」

 

 その質問にハボクックは黙り込む。そしてこう答えた。

 

「これは私の贖罪です。私が私であるために、私を必要としない世界のために、私はここにいるのです」

 

 フッドが「それはどういうことでしょうか?」という問いに対してハボクックは「贖罪は贖罪です」と答えるだけだった。

 

「では、貴方が必要になった場合はここを動いてくれますか?」

 

「そんな世界は来ない方が良いでしょう……紅茶のおかわりは要りますか?」

 

 ハボクックはそう言うと椅子から立ち上がりティーポットを手に持つ。

 

 それは、この話を申したくないというサインだった。

 

「わかりましたわ……紅茶のおかわりをいただきましょうか」

 

 ハボクックは「はい」と元気良く返事をした。

 

 こうして、優雅で長いお茶会は静かに終わりへと向かうのであった。




作者はお茶会に参加してこともないのでマナーが間違っている可能性大!
今回は戦闘シーンではなくハボクックとフッドのお茶会をしてみました。
たまには優雅に過ごす姿を書いてみたいと思って書きました。
本編が進んでいませんが、後悔はしておりません。


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金色の髪、金色の目

???「ここがロイヤル北方海域の対面にある鉄血北方基地……」

海辺近くの独特なる潮の香りと軍港独特の鉄臭さがその者を出迎えた。

車から降りたその者は小さく呟く。

???「もうすぐ会えるんですねハボクックさん」

建物へと入っていくその足取りは軽く、それはまるで旧友に再会するかのような感じだ。

だが、その者は自身と同じ背丈ほどある艤装を装着していた。


――鉄血北方基地:第一会議場――

 

 

「総員敬礼!お待ちしておりました、ビスマルク様!」

 

 アドミラル・ヒッパーの号令に会場内にいる全ての者が敬礼をする。

 

「出迎え、ご苦労様。皆楽にしてくれ」

 

 ビスマルクの言葉に対してアドミラル・ヒッパーは「了解!皆休め!」と号令を出す。

 

 ビスマルクは「そうじゃない……」と小さく呟きながらため息をついた。

 

「現在の艦隊状態、敵の情報などはどうなっている?」

 

「はい!現在の艦隊状態は半分再訓練中、残り半分は対空と対潜の警戒中です!敵の情報はこちらの資料にまとめておきました」

 

 ケルンが差し出した資料にさっと目を通し、航空機の写真を見て「やはりな……」と言うと資料を机に置いた。

 

「フェアリーソードフィッシュの垂直尾翼に描かれている王冠の盾……間違いない、彼女だ」

 

「彼女?ですか……失礼ですが、彼女とは誰なんでしょうか?」

 

 ビスマルクは未だ情報が乏しいアドミラル・ヒッパー達に言った。

 

「彼女の名前はハボクック氷山空母……先の大戦で私の尊敬していた先輩を沈めた仇だ」

 

「氷山空母……ですか?失礼ですが、それは計画で終わった船なのでは?」

 

 ケーニヒスベルクがビスマルクに尋ねる。それに対してビスマルク首を横に振った。

 

 とてつもなく膨大で大掛かりな計画だったことから、ハボクック氷山空母の計画はアドミラル・ヒッパーの記憶に残っている。

 

 だが、その計画は莫大な費用と時間を労することが計画の時点で分かり、中止された計画でもある。

 

 鉄血のメンバーは諜報員の誇張か他の計画を隠すためのダミーだと思っていた。

 

「いや、その計画はメンタルキューブによって全て可能となり秘密裏に建造されている。もっとも彼女自身は隠れる気がなかったみたいだがな」

 

 そう言うと、ビスマルクは持っていたカバンから資料を出す。

 

 その資料は先の大戦のハボクックについての資料だった。

 

「私達は動く基地と戦っていたのね……二つの滑走路、百を超える艦載機、海水による装甲の強化、自衛の為の四十基の四,五インチ対空砲……これならセイレーン空母にも負けないわね」

 

「そうだ、特に厄介なのは海水による装甲の強化だ。駆逐艦、軽巡洋艦程度の主砲は当然意味をなさない。それを知らず、先の大戦では守りが固すぎて装甲を削れず、一方的に空爆を受けて全滅した」

 

 プリンツ・オイゲンの言葉に素早く反応して、ビスマルクは問題を指摘する。

 

「これでは私達では勝ち目がありません!やはり空母の援護が必要です!」

 

「いや、その必要はない。そのために私達が来た……もういいだろう、皆に紹介する今作戦の切り札として来てもらった」

 

 ビスマルクが「入れ」と言うと会場の扉がギィッと開く。

 

 そこに現れたのは短い金色の髪と金色の目、背が低く幼いながらもしっかりと鉄血の軍服を着こなし、スタスタとこちらに歩いてくる一人の少女だった。

 

「……ビスマルク様、この方は一体?」

 

「この方こそ今作戦における切り札、艦船(KAN-SEN)シュヴェリーンだ」

 

「初めまして、鉄血の皆さん。私はシュヴェリーン、ハボクック氷山空母を葬る者です」

 

 幼いながらも素早く手本のような敬礼。人懐っこそうな笑顔。

 

 だが、シュヴェリーンの瞳は会場内の誰一人として映ってはいなかった。




ついに鉄血陣営にハボクック氷山空母の事がバレてしまいました。
ビスマルクの先輩とは?新しく登場したシュヴェリーンとは一体?
今後もご期待ください。


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小さな訪問者

クック「今日は風が強いですわ……」

シェルターの中でお茶を楽しむハボクックは窓の外を見て呟く。

吹雪いてはいないものの風は強く、艦載機を発艦するには少々危険だが警戒を怠るわけにはいかなかった。

クック「鉄血の指導者が動いた……まさかの報告でしたわね」

そう、鉄血はこの海域を完全に取りに来ていたのだから。


――ロイヤル北方海域:偽物の滑走路――

 

 

「ごきげんよう、ロイヤルの皆様。またお会いできて光栄ですフッド様、ベルファストさん。それと……こちらの方々は?」

 

「初めまして、Jクラスのジャベリンです!まさかロイヤルガードとご一緒できるなんて思ってもいなくて……かなり緊張しています!」

 

「初めまして、同じJクラスのジュノーと申します。護衛はお任せください!……頑張ります!」

 

「あた……じゃなくて、私はJクラスのジャージーです。よろしくお願いします!」

 

「ロイヤルネイビーJクラス駆逐艦ジュピター……よろしくお願いします」

 

 ジャベリン、ジュノー、ジャージー、ジュピターと挨拶していく。

 

「初めまして、頼もしいJクラスの皆様。私はハボクック氷山空母……気軽にクックおばあちゃんと呼んでくださいね」

 

「無理です!冗談でもそんなこと言えません!」

 

「でも、英雄様が指示したことだし……これは言わないと刑罰になるんじゃ!?」

 

 ジャベリン達があたふたしているのを見てハボクックはクスクスと笑う。

 

「ハボクック様?淑女として、からかうのはあまりよろしい行いとは言えませんわ」

 

「ごめんなさいね。可愛すぎてどうしてもいじっちゃいたくなっちゃいまして……外は寒かったでしょう?さあ、シェルターの中へお入りください」

 

 そう言うとハボクックは彼女達を部屋へと案内する。

 

「いま、クックおばあちゃんが暖かい飲み物とお茶菓子を用意しますからね……あら、椅子もティーカップも足りませんわ」

 

「いえいえ、お構いなく!?あたし……じゃなくて、私達は立っていますから!」

 

「ハボクック様、こちら側にティーカップがございます。私もメイドとしてお手伝いさせていただきます」

 

「あら、ありがとうベルファストさん。では、お言葉に甘えて紅茶を入れてもらえるかしら?椅子は……この前みたいに艤装に座ってもらいましょう。さあ、どうぞ」

 

 そう言うとハボクックは自分の艤装を取り外してジャベリン達の前に置く。

 

「……えっ?艤装に座る!?そんな恐れ多い事できません!あと、さらっと流していましたが、誰が英雄様の艤装に座ったのか気になります!」

 

 混乱するジャベリンをよそにジュピターがまさかの行動に出た。

 

「よいしょ……あ、ほんのりとあったかい」

 

「ジュピター!?うそでしょ!?あんたどこに座っていると思っているの!あのロイヤルガードの大事な艤装に座るなんてJクラスとして常識無いわけ!?」

 

「だって……座らないと英雄様の命令に違反するし……疲れたし……」

 

「あわわわ!?英雄様!本当にごめんなさい!後で言い聞かせておきますのでお怒りにならないで下さい!責任は姉の私にあります!お叱りになるならどうか私にお願いします!」

 

「ジャベリン!いいえ、ここは横にいて止めれなかったあたしをお叱りください!」

 

「妹にはあとで言っておきますので、ジュノーを怒ってください!」

 

 ジャベリン達が罪をかばい合う姿を見てハボクックはうーんと考えたのち、いいことを考えたとばかりにジャベリン達に近づく。

 

 そして、怒られると思い目をつぶるジャベリン達をひょいっと抱きかかえると自分の艤装に乗せたのだった。

 

「ふえっ!?これは一体どういうことでしょうか英雄様」

 

「それ、英雄様とかロイヤルガードとか言うから私からの仕返し。罰としてお茶会が終わるまではそこに座っているように」

 

 ジャベリン達は降りるわけにもいかず、先の大戦の英雄の艤装に座って落ち着かなくもじもじとしている。

 

「ハボクック様、紅茶の準備が整いました」

 

「あら、ベルファストさんありがとう。こちらもすぐにお茶菓子を用意するわ」

 

 そんな行動を見てフッドは「はあ……」とため息をつく。

 

 こうして、笑顔のハボクックとその傍に控えているベルファスト、対面に頭を押さえているフッドとジャベリン達という不思議なお茶会が始まるのであった。




新しくJクラス駆逐艦、ジャベリン、ジュノー、ジャージー、ジュピターを登場させました!
これから大活躍してくれると嬉しいですね、特にジャベリン(謎のジャベリン押し)!
鉄血艦隊との戦闘シーンまではもう少しかかりそうです。もう少しお待ちください。


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Little girls(小さな女の子達)作戦

クック「ここも賑やかになりましたわね……」

流氷流れる海面をハボクックは慣れた動きで避けていく。

その、前方にはつい先ほどまでお茶会にいたメンバーが先に哨戒している。

クック「本当に未来はどうなるか分からないものですわね」

昔の記憶が彼女によみがえる、硝煙の匂いと海面に燃え広がる炎とそこに横たわる■■。

遠くで小さな子達がハボクックを呼ぶ声が彼女を現実へと引き戻す。

ハボクックは返事を返しながら彼女達の元へと歩むのだった。


――ロイヤル北方海域:流氷地帯――

 

 

「ハボクック様、まだ偵察しに行った観測機が戻ってきませんか?ここから先は氷山地帯で私たちが動けなくなります!」

 

 今ジャベリンを含む先程のメンバーが臨時の護衛艦隊を組み、観測機が戻ってきていない北東東方面の流氷地帯とは違う北東の氷山地帯に向かって航海している。

 

 北東へと進む理由はそこがハボクックにとって一番戦える最高の場所だからだ。

 

「北東東に飛ばした観測機が返ってこない……これは鉄血艦隊が攻めてきた認識で間違いなさそうですわ」

 

 鉄血艦隊を退けたのが一か月前、鉄血の指導者ビスマルクが本拠地から離れた報告を受けたのが一週間前、その報告を受けたのがその二日後の五日前。

 

 鉄血艦隊が再び攻めてくる可能性は非常に高い状態だ。

 

「ハボクック様、ここから先は氷に阻まれて私達では進むことが出来ません。本当にお一人で行かれるつもりですか?」

 

 フッドが心配そうに尋ねてくるのをハボクックは「大丈夫です」と答える。

 

「氷山地帯では相手の動きが鈍り接近までに時間がかかります、それに氷山が盾となり私を守り万が一にも私へと砲弾が届いたとしても……お分かりですわね?」

 

「氷山空母は不沈であり不落、海水の無い海戦でない限り再生する装甲を貫ける者はいない……ですよね!」

 

「うふふ、良く知っているわねジャージーちゃん。そう、私は海水がある限り敵から攻撃を受けないわ」

 

 彼女の艤装はその倍近くある氷の障壁を纏い、完全防御態勢に入っていた。

 

 彼女の艤装は氷を砕く艦首に比べて側面装甲が薄い。だが、纏っている氷が装甲となり砲弾を防ぐ。

 

 さらに、纏っている氷もただの氷ではない。特殊な氷(パイクリート)のおかげで近距離であっても戦艦の主砲を止めることが出来るのだ。

 

 加えて、ひび割れや氷が剥がれたとしてもすぐさま液体窒素と海水による応急処置が可能、航空攻撃によって翻弄すれば外側に特殊な氷(パイクリート)を張る時間も作ることが出来る。

 

 そんな彼女の弱点は二つ。氷の重さにより速力が遅くなること、氷が溶けやすい場所では装甲の消耗が早いことだ。

 

 しかし、氷山地帯での防衛戦ではその二つの弱点もカバーされているため問題はない。

 

「戦艦でも届く事の無い装甲、メンタルキューブの加護によってなくなる事の無い艦載機……それが私、ハボクック氷山空母!」

 

「凄いです!まさに不沈の空母ですね!安心して背中を預けれます!」

 

 ジャベリンがキラキラと目を輝かせながらハボクックを褒める。

 

「ジャベリンちゃん?私が全て片付けるから防衛戦を手伝う必要はないわ。他の方々も連絡係として残ったベルファストさんと一緒にシェルターで待っていて欲しかったのですが……」

 

 ハボクックが心配そうにジャベリン達を見つめるがジャベリン達は反抗するように声を上げる。

 

「確かにハボクック様に比べたら何もできませんが……何もしないのは嫌なんです!」

 

「ハボクック様が戦っているのに黙って待っているなんて出来ません……!海域は違いますが、ジュノー達も参加させていただきます!」

 

「北東東は任せてください!あたし達だけでもやれます!」

 

「これから起こるのは、神さまの裁き……フフフ……」

 

「私はこの子達が暴走しないように指揮を執りますわ、ご心配しないでください」

 

 ジャベリン達に加えてフッドも参加した事によりハボクックはため息をつく。

 

「はあ……分かりましたわ。今作戦の参加を認めましょう。ただし!危険だと思ったらすぐに撤退する事!皆さん分かりましたか?」

 

 ジャベリン達は「はい!」と元気良く返事をしてフッドは「ええ」と返事を返す。

 

「今作戦はLittle girls(小さな女の子達)作戦と命名します。最初に航空攻撃による空襲。ジャベリンちゃん達の高速部隊は退き撃ちしながら敵を目標位置まで誘い込み。そこで第二次攻撃隊による空襲と魚雷による雷撃、戦艦による遠方射撃で止めを刺します。必ず成功させましょう!王家の栄光のために!」

 

 ハボクックに続いて「王家の栄光のために!」と声が上がる。

 

 こうして、Little girls(小さな女の子達)作戦が行われようとしていた。




鉄血艦隊との戦闘はもう少しかかると言っていたな……あれは嘘だ。
本当はお茶会の後に説得するシーンを入れようと思ったのですが、私の実力では難しく話が短く終わってしまうので飛ばして接敵前の哨戒シーンを書きました。
次回はついに鉄血艦隊と戦う予定です。
謎に包まれたシュヴェーリン。鉄血の指導者ビスマルクはどう攻めてくるか?
次回をお楽しみにしていてください。


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Ehre und Hilfe(名誉と救済)作戦 前編

クック「行かれましたか……本当はシェルターにいて欲しかったのですが……」

ジャベリン達を見送った後、上空を警戒していた艦載機から報告が届く。

クック「私に接近する艦影あり?あれは……戦艦?」

近づいてきているのは少し大型の戦艦、砕氷艦も無しに接近してくる一隻のみ。

クック「作戦の邪魔はさせない。すぐに片づけさせてもらいますわ」

ハボクックは操作可能機数二百機のうち百機を先に戦艦へと攻撃指示を出した。


――ロイヤル北方海域:流氷地帯――

 

 

 流氷の隙間から砲弾が飛び交う。

 

「Jクラスの実力見せてあげる!」

 

「そんな魚雷、当たるわけないじゃない!こっちはソナーを持っているのよ?」

 

 アドミラル・ヒッパーが流氷と魚雷を難なく回避していく。

 

 だが、ジャベリン達は元々当てる気はなくアドミラル・ヒッパーが魚雷を回避することによって航行を変更させることが目的である。

 

「どんな敵でも本気で相手するわ……さあ、かかってきなさい!」

 

「戦艦の間合いに入れようとしていることはお見通しです。そんな安い挑発には乗りませんよ?」

 

 ジャージーが挑発をしているがフッドの間合いまで運ぶことはできない。

 

 しかし、こちら側も艦載機による攻撃予定位置に着々と敵を進めていた。

 

「敵の数はこちら側の倍以上です。ですが、落ち着いて対応すれば勝機は見えます」

 

「その優雅さ、いつまで持つかしら?フフフ……」

 

「作り笑いが過ぎんぞ。まあ、さすがにこの数相手ではレーベ様も必要ないな」

 

「オイゲン、遊びはほどほどになさい。この数相手に撤退しないのは不自然。敵は何か秘策があるはず……対空対潜の警戒も怠るな!」

 

 鉄血艦隊は確実にロイヤル艦隊を追い詰めてきている。

 

 だが、ロイヤル艦隊も空爆予定位置に正確に運んでいた。

 

 そして、空爆予定位置に近づいた。

 

 フット達の後方から飛んでくる艦載機!その数、五十機!

 

 中には火を噴きながらも飛んできているものもいた。

 

「これは一体どういうことなの!?なんで傷だらけの艦載機が!?」

 

「流石にすべては止めれなかったか……だが、かなりの戦果だと褒めておこうシュヴェーリン!各自、対空防衛!一機たりとも艦隊に近寄せるな!」

 

 この空襲を読んでいたビスマルクは艦隊全員に防空指示を出す。

 

 ばらけていた駆逐艦は艦載機に突入して艦載機にダメージを与え、軽巡洋艦と重巡洋艦

がふらふらになった艦載機を撃ち落としていく。

 

 戦艦まで届かないと判断した観測機は駆逐艦に爆弾を投下していった。

 

 しかし、いくら熟練の艦載機だとしても回避が高い駆逐艦に爆弾はなかなか当たらず結果、駆逐艦一隻小破、三隻中破、軽巡一隻中破に終わった。

 

「かなり手痛くやられたな……だが、この程度では鉄血の行進は止められない!」

 

「まだです……もう一度、航空攻撃が来れば!」

 

「まだ分からないの?もう航空攻撃は来ないわよ。そして、氷山空母が戻ってくることもね」

 

 アドミラル・ヒッパーの「氷山空母」の単語にジャベリン達が反応する。

 

「それはどういうことでしょうか?」

 

「敵に教えるわけがないだろう?」

 

「まあ、ここで貴方達も沈めるから冥途の土産に教えてあげる。……私達は航空攻撃を誘うための陽動、最初から氷山空母を倒しに来たのよ」

 

「オイゲン!貴方はお喋りが過ぎる。……聞かれたからには貴方達を返すわけにはいかなくなったわ」

 

 ビスマルクの砲塔がジャベリン達を捉える。

 

「テ、テッタイスルノ!?」

 

「敵の言うことが本当ならば、非常にまずい状態ですわね……」

 

「ジュノーは信じています……ハボクック様が援護に来てくれるって!」

 

 慌てて回避行動をし始めるロイヤル艦隊。

 

「我の射程内にのみ真理あり!全問斉射!Feuer eröffnen(撃ち方始め)!」

 

 大きな後ろ盾を無くしたロイヤル艦隊は逃げまどい、鉄血艦隊の蹂躙が始まった……。




ロイヤル艦隊、旗艦フッド、ジャベリン、ジュノー、ジャージー、ジュピター。

鉄血艦隊前衛一、旗艦ケーニヒスベルク、Z1(レーベルヒト・マース)、Z2(ゲオルク・ティーレ)、Z18(ハンス・リューデンマン)
鉄血艦隊前衛二、旗艦ライプツィヒ、Z19(ヘルマン・キュンネ)、Z20(カール・ガルスター)、Z23(ニーミ)
鉄血艦隊本隊、旗艦ビスマルク、グナイゼナウ、アドミラル・ヒッパー、プリンツ・オイゲン

ロイヤル艦隊五名と五十機の艦載機対鉄血艦隊十二名による艦隊決戦です。
艦載機の状態からハボクックに何かあったことは間違いないですね、詳しくは次回を待て!


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Ehre und Hilfe(名誉と救済)作戦 後編

クック「しかし、敵戦艦一隻とは……不気味ですわね」

次々と艦載機を発艦させては上空を旋回させて一斉攻撃に備える。

少数ずつで敵を攻撃するのは艦載機が落とされやすく、相手にダメージが入りにくいからである。

また、せめて苦しませずに敵を倒すのが彼女の信条でもあった。

クック「艦載機の皆さん、お願いしますね」

ハボクックは若干の不安を覚えながらも艦載機に攻撃指示を出した。



――ロイヤル北方海域:氷山地帯――

 

 

 ハボクックは焦っていた。敵一隻に予想以上に手こずっていたからだ。

 

「戦闘機と対空砲が強すぎる!それに大編成を一瞬で落としたあの弾は一体……」

 

 最初に飛ばした百機のうち二十機を戦闘機で落とされて、三十機は主砲の特殊な弾で撃ち落とされ、三十機を対空砲で落とされた。

 

 残った二十機が爆撃を行ったが、艤装に対して小さな彼女には至近弾と軽傷を負わせるだけで終わった。

 

 まだこちらに分がある。しかし、歴戦空母である彼女の勘が今すぐに離れるべきだと訴えかけている。

 

 未知の戦艦との距離が一万mに入った時それは起きた。

 

「主砲の発砲音!?だけど、この距離では私にダメージは入ら――きゃっ!?」

 

 ハボクックより離れたところに四発、すぐ近くに一発、側面を守っていた氷に一発、砲弾が落ちた。

 

 だが、問題はそこではなく砲弾の弾道とその威力だ。

 

「これは……まさか曲射砲っ!鉄血の戦艦が曲射砲を積んでいるなんて……!」

 

 鉄血とロイヤルでは昔から海をめぐって敵対していた歴史がある。

 

 ロイヤルは仮想敵国を鉄血だけと定めず、広い領海に合わせて色々な船が建造されていた。

 

 だが、鉄血は地理的な理由上、大航海に乗り出すにはロイヤルが邪魔となり結果、ロイヤルやその周辺諸国だけを攻める船を多く作ってきた。

 

 また、同じく地理的な理由で狭い海戦が多かったため、接近戦を主な戦場として貫通力が高い直射砲を多く採用している。

 

「――初めましてだな、ハボクック氷山空母。私の名前シュヴェーリン。歓迎の挨拶のつもりだったのだが、どうだったかな?私の主砲の威力は?」

 

 接近してくる戦艦、シュヴェーリンが拡声器を使って話しかけてきた。

 

「――私の主砲はお前を葬るために作られた特別製だ。じっくりと味わっておくれ」

 

「冗談ではありませんわ。私はさっさと終わらせてお茶会の続きが……しくじりました!」

 

 ハボクックは友軍艦隊への航空支援を思い出して、急いで発艦準備を整える。

 

 慌てて作業に取り掛かったが、発艦準備がすぐに整う。いざ発艦しようとしたとき、彼女に砲弾が飛んできた。

 

「その角度では私には当たりません!一斉射撃分無駄に――ああ!?」

 

 ハボクックを狙ったかと思われた弾は突如、炸裂してハボクックの上空を飛んでいた艦載機を襲う。

 

 運悪く艦載機は炸裂した弾子を浴びて殆どが墜落、何とか持ちこたえた艦載機と発艦途中で被害がなかった艦載機の計六十一機だけとなった。

 

「嘆いていても仕方がありません……!今いる艦載機はフッド様の方へお願い!次の発艦を急いで!私も撤退します!」

 

 急いで来た道に引き返すハボクック。だが問題が発生した。

 

「氷が重くて十八ノットしか出ない……!今は同じぐらいの速度でも私が作った道を渡られたら追いつかれる!」

 

 ハボクックの装甲に使われている特殊な氷(パイクリート)は通常の氷と比べて溶けにくく、高強度。だが比重が重く、また一度つけると外せないため速力が二倍近く落ちていた。

 

「――どこへ行こうというのだ?私とのダンスは不満かい?」

 

 拡声器の声とともに発せられる主砲の発射音。後ろを見つつ航行をしていたがついに鉄血の牙がハボクックを襲う。

 

「きゃあっ!うぅそんな……滑走路が……!」

 

 今まで無傷だったハボクックがシュヴェーリンの一撃で左舷滑走路に大きな穴が開いた。

 

「――不発弾か……惜しかったが次は沈める」

 

 迫りくるシュヴェーリンにハボクックはただ逃げることしかできなかった。

 




鉄血の対ハボクックの切り札、戦艦シュヴェーリン!ようやく登場させることが出来ました。長かったです、本当に。

シュヴェーリンは鉄血の戦艦ですが曲射砲を持ち、また戦闘機を自身で発艦させる能力と高い対空能力、特殊弾による艦載機の大編成一掃の力を持っています。
曲射砲の射程は一万mと戦艦としては近距離ですが、高威力でハボクックの装甲を飛び越えて攻撃できます。
特殊弾は現代の兵器で言う十四センチ砲用零式通常弾の射程強化の大型版だと思ってください。
フッドの方へと向かった六十一機の艦載機ですが、そのうち十一機がフッドへの航空支援する前に道中で墜落したため、フッドの方では傷つきながらも飛んできた艦載機を含む五十機となっております。


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Little girls(小さな女の子達)撤退戦

シュヴェーリンは歓喜していた。自分の存在意義を示せることに。

リン「私は戦艦。私は闘いこそが本望」

シュヴェーリンは渇望していた。先の大戦の英雄との死闘を。

リン「私は軍艦。私は国の穀潰しじゃない」

シュヴェーリンは震えていた。幾度となく夢見たこの光景に。

リン「私はシュヴェーリン!ハボクック氷山空母を葬る者だ!」


――ロイヤル北方海域:氷山地帯――

 

 

 陽動作戦、開幕空襲防衛、次弾砲撃はこれ以上ないくらいに成功した。

 

 今すぐに喜びを表したいぐらいに興奮していたが、相手はまだ沈んではいない。

 

 厚い氷を砕きながらシュヴェーリンは航行する。

 

「やはりウルツブルグのレーダーは素晴らしい。射撃管制装置としても活躍できるが、対空射撃計算にもこのレーダーは必要不可欠だ。それに加えて副砲を全て撤去し対空兵装を積んだ事も間違いでは無かった」

 

 十六基もある百五mmSKC連装高角砲の無事だった一つをなでる。

 

 開幕空襲防衛で対空兵装の三分の一を大破、故障に追い込まれたが、主砲は爆弾を弾いてほぼ無傷。艦橋に二発、煙突付近に一発ダメージを受けたが爆弾が小さく軽かったこともあり重要区画までは到達しなかった。

 

「二十機でここまで正確にダメージを与えたのは称賛するよ。流石、先の大戦の英雄と言ったところか……だが、その伝説も今日ここまでだ!」

 

 シュヴェーリンは拡声器を口に近づけて声を出す。

 

「Der Eisberg des Teufels(悪魔の氷山)よ、お前には二つの選択肢がある。一つは私達に拿捕され生き残る事、もう一つはここで私に沈められる事。航行を止めて錨を下ろしたら捕虜として歓迎しよう。だが、航行を止めない場合は私の主砲が貴様を討つ」

 

 シュヴェーリンはビスマルクに言われていた降伏勧告を発した。

 

 だが、彼女は降伏することを望まない。何故ならハボクック氷山空母を倒したかったからだ。

 

 祖国、鉄血での彼女の扱いはひどいものだった。

 

 ハボクック氷山空母の情報は鉄血内部でも最高機密情報であった、故にシュヴェーリンの建造理由もまた秘匿であり、表上では「曲射砲の運用と特殊弾の口径に合う主砲のための戦艦」と言うことになっていた。

 

 重巡洋艦はおろか軽巡洋艦にも劣る主砲射程、副砲がなく高速で動けるような戦艦でもない、機動力がある駆逐艦や潜水艦、魚雷艇には為す術がない、耐えることは出来ても反撃することが出来ない船。それが鉄血での評価だった。

 

 ここでハボクック氷山空母を葬れれば鉄血内で大々的に発表され常識が変わるはずだ。それが降伏してほしくない理由だ。

 

「ハボクック氷山空母……は止まらずに航行中、さらに艦載機の準備もしている!これは明確な敵対意思だ!」

 

 拡声器を口から離して、前部主砲を斉射!砲弾は空中で炸裂して細かな粒子がハボクックに降り注ぐ!

 

 発艦途中だった艦載機とハボクックにダメージを与え、彼女の動きが鈍る。

 

「これで止めだ……悪いが私のために倒されてくれ!」

 

 シュヴェーリンはゆっくりと回頭して後部主砲をハボクックに向ける。後部主砲に装填されているのは空中で炸裂しないべトン弾だ。

 

 後部主砲がハボクックを捉える。距離六千mここからなら外しはしない。

 

「さらばだ、ハボクック氷山空母!」

 

 シュヴェーリンが主砲を発射しようとしたその時、それは起きた。

 

「全門せい――くっ!?」

 

 ハボクック氷山空母を狙っていたシュヴェーリンに氷山をまたいで砲弾の雨が降り注ぐ!

 

 砲弾一発一発は威力こそないが途切れることがなく、正確に降り注ぎ主砲の標準を鈍らせた。

 

「ええい、邪魔をするな!」

 

 シュヴェーリンはハボクック氷山空母に対して発砲!しかし、標準がずれていたこともあり直撃ならず!

 

「神聖な勝負に泥を塗った奴は誰だ!?出てこい!」

 

 拡声器を口に当てて怒鳴る。

 

 出てきたのは完全武装したメイド姿。間違いなくベルファストだった。

 

「あれは……ベルファストか!くっ!やはり護衛がいたか!」

 

 ベルファストはハボクックが作った氷の無い海を渡って接近してきたのだ。

 

「だが見えるのは軽巡一隻!この距離なら主砲の範囲内!後部主砲が装填中だから特殊弾しかないが……軽巡相手ならやれる!前部主砲斉射!」

 

 緩い弾道を描きながらベルファスト上空で特殊弾が炸裂!鋭い粒子がベルファストに降り注ぎダメージを負わせた!

 

 しかし、流石は歴戦のメイドと言うべきか降り注いだ粒子の水柱をもろともせずハボクックに接近し、煙幕を使った。

 

「煙幕なんぞこちらのウルツブルグのレーダーには通用しないぞ?次の一撃で二人とも海の底だ!」

 

 装填を急いでしている間に煙幕内で主砲の発砲音!煙幕からシュヴェーリンに向けて撃ってきた。

 

「忌々しい……だが装填が終われば、ここがお前たちの墓場だ!」

 

 煙幕が徐々に晴れてくる……二人の姿を確認したとき、シュヴェーリンは驚愕した。

 

「これはどういうことだ?何故ハボクックの氷が無くなって……しまった!後部主砲斉射!」

 

 シュヴェーリンは慌てて主砲を放つ。

 

 だが、氷の無くなったハボクックは速力が倍近く上がっており、着弾まで遅いシュヴェーリンの砲弾は綺麗に避けられてしまった。

 

「逃げるなハボクック!待て!私と勝負しろ!ハボクックッ!」

 

 拡声器で怒鳴りつけるが速力に差があるこちら側は追いつかず、結果ハボクックを逃してしまう結果となった。

 

「くっ!ビスマルク様に貰ったチャンスを逃してしまった!この報告をどうすれば……ん?電信……ビスマルク様から?」

 

 追いつけないことが分かって立ち尽くすシュヴェーリンに一通の電信が届く。

 

「陽動艦隊、空母を含む機動艦隊と会敵。空襲により作戦の維持が困難と判断する、直ちに撤退せよ!?」

 

 それは、陽動に動いていたビスマルクを含む大艦隊が敗北したことを意味していた。




今回は鉄血陣営のシュヴェーリンに視点を当てて書きました。

シュヴェーリンのスペックを表示しますと
排水量七万トン、全長二百四十m、水線長二百三十m、幅三十五m、吃水十m
主砲十一,五口径五十四cm三連装砲三基、百五mmSKC連装高角砲二十基、三十七mmSKC連装高角砲十基、二十mm四連装機関砲八基、二十mm連装機関砲十六基、カタパルト二基、クレーン二基、搭載機数八機。
大和型に匹敵する船の大きさと、主砲はカール自走臼砲がモチーフで、最大射程は一万mです。
副砲を全て下ろしたということもありまして、百五mmSKC連装高角砲がビスマルクの二倍以上とカタパルトによる戦闘機が二機同時発艦できる言う対空の鬼性能になっております。


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Ehre und Hilfe(名誉と救済)撤退戦 前編

シュヴェーリンは焦っていた。ビスマルクから撤退の電文が送られてきたからだ。

リン「きっとあのメイドの仕業に違いない……だが、今は一刻も早くビスマルク様の近くに行かなければっ!」

厚い氷を砕きながらシュヴェーリンは進む。ハボクックを取り逃していいのかと頭のどこかで囁く自分を頭をブンブンと振って振り払う。

リン「これは私に課せられた試練だ。ここで守れず何を守ろうというのか!」

シュヴェーリンは南下していく、耐久力に自信がある自分ならばきっと役に立つと信じて。


――ロイヤル北方海域:流氷地帯――

 

 

 戦況は突然変わった。

 

「――レーダーに反応あり!機影は少数でバラバラ、こちら側に向かってきています――」

 

「レーダーに反応?どうせ死にかけのハボクックから出た少数よ、今の私たちに届かないのに頑張るわね」

 

 ケーニスベルクがとらえた機影は確かに少数で規則性はなくこちら側に向かってきているのを無線でビスマルクに伝える。

 

 無線を聞いたアドミラル・ヒッパーが勝ち誇ったように語るのをビスマルクは隣で聞いていた。

 

「――各自対空警戒!後ろに行かせるなよ?一機たりとも逃すな、すべて撃ち落とせ!――」

 

 Z1(レーベルヒト・マース)が対空迎撃指示を出す、彼女の号令で駆逐艦が前に出る。

 

 だが、撃たれながらも接近する艦載機はいつまでたっても急上昇しない。むしろ海面ギリギリを飛行していた。

 

 何かがおかしい。そう感じたビスマルクの違和感が現実となる。

 

「――!?ソナーに探知あり!?あの艦載機は爆撃機じゃない!雷撃機だ!回避回避っ!――」

 

 突如そして現れたソナーの探知音!魚雷は回避が間に合わなかった駆逐艦たちを襲う!

 

「――この俺様に当てるとは……やってくれたな……!――」

 

 この攻撃で最前線に進んでいたZ1(レーベルヒト・マース)が中破まで追い込まれた。

 

「――レーダーに反応!これは……だ、大編成でこちらに向かって来る機影あり!――」

 

 またしてもケーニスベルクのレーダーに反応!今度は規則正しい編成でこちら側に向かってきたいた。

 

「ちょっとちょっと!ハボクックは瀕死じゃないの!?なんで大編成でこっち側に来れるのよ!シュヴェーリンのやつまさか誤報を送ったんじゃないわよね!」

 

 彼女が送った電文にはハボクックの滑走路を一線潰したとあったが、こんなに短時間で大編成が組めるのはハボクック意外にはあり得ない。

 

 ……いや、ハボクック以外だったとしたら?

 

「――敵機影補足!あれは……バラクーダです!バラクーダがこちら側に向かってきています!――」

 

「バラクーダ!?ハボクックはフェアリー・ソードフィッシュしか積んでないんじゃなかったの!?」

 

「いや、違う。あれはハボクック以外の空母からの艦載機だ!総員対空防衛!敵機を近づけ――くぅっ!?」

 

 ビスマルクの号令中、砲弾が彼女の近くに落ちた。

 

「ビスマルク様!?お怪我はございませんか!?」

 

「大丈夫だ。しかし、損傷を与えたフッドがここまで撃てるとは考えにくい……敵空母に加えて敵戦艦の援軍が来たと思われる!各自警戒せよ!」

 

 ビスマルクが再度号令を出して警戒を強る。前方に展開していたライプツィヒから報告が届いた。

 

「――敵艦艇補足です!敵は戦艦二隻、空母四隻を含む大規模機動部隊!駆逐艦、巡洋艦も多数確認しました!?ビスマルク様、どうしよう……!?――」

 

「……撤退だ。空母に対して我々は無力。四隻はとてもじゃないが突破できない」

 

「わかったわ。前衛艦隊に報告!全軍撤退せよ!繰り返す全軍撤退せよ!」

 

「――うぅ、さかなきゅん、助けて……撤退?わ、分かりました!皆さん撤退です!きゃあっ!――」

 

「ライプツィヒっ!?くっ無線がつながらないわ……私達はどうしますかビスマルク様?」

 

「決まっている、我々鉄血艦隊本隊は前衛艦隊の援護を!少しでも多く仲間を連れ帰るのだ!」

 

 ビスマルクの号令に皆が答える。ビスマルクはシュヴェーリンに電文を送り自らも前へ出て仲間を助けに行くのだった。




今回はビスマルクに視線を当ててお送りしました。
シュヴェーリンがハボクックを追い込んでいる時、ビスマルクの方は援軍の登場で撤退するという形になりました。
前編とついている通り、この話には後編がございます。次は誰の視線でお送りするでしょうか?次回を楽しみにしていたください!

話は別になりますが、あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!


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Ehre und Hilfe(名誉と救済)撤退戦 後編

マルク「油断した……!まさか伏兵もいたとは!」

ビスマルクは焦っていた。ロイヤルの伏兵が撤退していた前衛艦隊を攻撃したからだ。

これにより、前衛艦隊は総崩れしまともに動けるのは本隊だけとなった。

マルク「各自、撤退の援護を行え!私は敵の囮として前へ出る!」

他の者の制止を振り切りビスマルクは前へと出る。

ビスマルクは自身が沈む覚悟をもって前線へと進んだのだった……。


 

――ロイヤル北方海域:流氷地帯――

 

 

「ビスマルク様!ご無事ですか!」

 

 シュヴェーリンは前線で一人、空襲に耐えるビスマルクを発見して急いで接近する。

 

「……シュヴェーリンか、撤退命令を出したはずだが?何故ここにいる?」

 

「本隊の撤退支援を行うためです!それよりもビスマルクお一人で何をなされているのですか!まさか皆を助けるために残っていたなんて言うつもりではございませんよね?」

 

「そのまさかだ、こちら側の被害は甚大。その中で一番耐えれる者が皆を守らなくて何が指導者だ」

 

 ビスマルクはそう言うと更に前進しようとした。それを見てシュヴェーリンは腕をつかみ止める。

 

「これはどういうつもりだ、シュヴェーリン?」

 

「そのままの通りです、ここで鉄血の指導者を失うわけにはいきません。ここは私が前へ出て注意を引きつけます」

 

「離せシュヴェーリン!ここで前に出なければより多くの犠牲が出る!」

 

 ビスマルクがシュヴェーリンの手を振りほどこうとするが、軽くないダメージを負っているビスマルクにはシュヴェーリンの手が振りほどけない。

 

「離しません!ビスマルク様はこのまま皆を引き連れて引くべきです!ビスマルク様はおっしゃいましたよね?その中で一番耐えられる者が皆を守らなくてと。ならば、損傷がなく一番耐えられるこの私こそが一番の適任者です!」

 

「馬鹿なことを言うな!敵は空母だけじゃない、戦艦も巡洋艦も駆逐艦もいる!この数を機動力もない、お前ひとりで耐えられるはずがないだろう!」

 

「いいえ耐えて見せます!覚えていませんか?私がどんな艦船(KAN-SEN)だったかを!」

 

 そう言うとビスマルクは振りほどこうとした手を止める。

 

「私はハボクック氷山空母を葬るために設計された船です。敵空母の艦載機が来る前提の対空防御兵装、敵戦艦にも耐えゆる装甲と雷撃を防ぐために速力を犠牲にして付けたバルジ、近づけば戦艦であっても一撃で葬れる主砲があります、今は戦うための力が必要なのではありません、撤退するための耐久が必要なのです!ならば、私以上に適任がおりましょうか!」

 

 ビスマルクはゆっくりと腕を下ろしてシュヴェーリンに問いかける。

 

「本当に耐えきれるのだろうな?」

 

「もちろんです、最後まで耐え抜き一人で基地まで逃げて御覧に入れましょう!」

 

 シュヴェーリンは強く発言した。その眼には揺るがない覚悟が見える。

 

 それを見たビスマルクは「後は頼む」と言うと反転して撤退を開始する。

 

「基地から潜水艦達が撤退の支援をしに来る。それまで絶対に沈むな!これは命令だ!」

 

「はっ!了解です!潜水艦の手を借りずに見事帰還して見せましょう!」

 

 ビスマルクが撤退するのを見送り、シュヴェーリンはロイヤル艦隊のいる方角へと向き直す。

 

「さあ、ここからが正念場だ……ロイヤル艦隊の者共よ。かかってくるがいいっ!」

 

 シュヴェーリンは速力が殆ど出ない全力後進しながら叫ぶ。

 

 ロイヤルの艦載機が彼女に集中し、ロイヤルの追撃戦が始まった。




今回もシュヴェーリンに視点を合わせてお送りしました!
ロイヤルの反撃が始まる、シュヴェーリンの運命はいかに!?
詳しくは次回を待て!


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奮戦する者

リン「くっ!ちょこまかと目障りな!」

砲弾の雨の中、シュヴェーリンは迫りくる巡洋艦に空襲に使う特殊弾を浴びせていた。

ハボクック氷山空母を葬るための徹甲弾の方が威力は高いが、たびたび来る空襲に備えなければいけないため弾の切り替えが出来ないのだ。

だが、特殊弾は特殊弾で拡散する粒子が回避しにくく確実にダメージを与えるため全く使えないというわけでないのが唯一の救いだった。

リン「私は守りきってみせる!鉄血の未来のためにも!」

迫りくる危機にシュヴェーリンは吠えて、自信を奮い立たせた。


――ロイヤル北方海域:流氷地帯――

 

 

「危ないところをお助けいただき、ありがとうございます陛下」

 

「礼には及ばないわ、それよりも途中で現れたあの敵……あいつがハボクック氷山空母を倒す切り札ってやつね」

 

 クイーン・エリザベスに深々と礼をするフッドを制してクイーン・エリザベスは途中参戦してきたシュヴェーリンを見る。

 

「シェフィールドとエディンバラの情報は正しかったようね、大型の戦艦が二隻動いている……片方はビスマルク、もう片方は最新兵器。しかも、流石戦艦と言うべきか対空に関しては我々の予想を超えています」

 

「ちょっと、解析なんてしていない!ウォースパイト、早くあいつらをやっちゃってよ!」

 

「お言葉ですが陛下、敵は鉄血の戦艦……おそらくタートルバック装甲を採用していると考えますと、近距離である今の状態ではダメージは低いでしょう。その分、巡洋艦の焼夷弾と空母の艦爆、艦攻が効きますので弱らせたところに最後の一撃を放ちましょう」

 

 クイーン・エリザベスの言葉に対してウォースパイトが冷静に切り返して答える。

 

 しかし、そんなウォースパイトの考えにも間違いがあった。

 

「集いし星が一つになる時、私たちの絆は新たな未来を照らし出す!行け!艦載機達!」

 

「我が勝利は栄光とともに!……た、多分……艦載機の皆さんお願いします!」

 

「さて、ご退場願おうか!ソードフィッシュ中隊!出撃の準備を!」

 

「護衛空母だけど、実力は正規空母レベルと比べても遜色ないわよ!八一六中隊、出撃よ!」

 

 ハーミーズ、グロリアス、アーク・ロイヤル、チェイサーの四隻の空母から艦載機が次々と発艦する。

 

 だが、艦載機はまずシュヴェーリンの特殊弾でチリジリになり、そこをシュヴェーリンの戦闘機に止められ、最後まで残った艦載機をあざ笑うかのように対空兵装が弾幕を張って次々と落とされていった。

 

「ある程度の対空防御は予想していたが、まさかここまで強いとはな……私達では突破は出来ないようです陛下」

 

 アーク・ロイヤルがクイーン・エリザベスに近寄って報告する。

 

「ちょっとウォースパイト!艦載機が全然効かないじゃない!本当に大丈夫なの!」

 

「……対空に関しては予想をはるかに超えていると修正しますが、安心してください陛下。私達には優秀な駆逐艦と巡洋艦がいます。彼女達に任せれば問題はございません」

 

 六隻の巡洋艦と六隻の駆逐艦、計十二隻が取り囲むように砲弾の雨を降らせる。

 

 対するシュヴェーリンは的が大きい巡洋艦一隻ずつ狙いを定めて主砲を放つが、機動力が高い巡洋艦に致命傷を負わせることが出来ない。

 

 着実にダメージを与えていたロイヤル艦隊。しかし、ボーナスタイムともいえる時間は終わりを告げる。

 

「前方に魚雷多数!潜水艦です!」

 

「あれはメッサーシュミット!?シュトゥーカ、スツーカもいる!」

 

 目と鼻の先にいた前衛艦隊に数本の魚雷が被雷!シュヴェーリンの後方には基地から飛んできたと思われる爆撃隊がこちら側に向かって来ていた。

 

「陛下、残念ですがここまでのようです。鉄血領海に差し掛かり敵潜水艦、敵航空機がこちら側に向かってきています」

 

「これ以上の深追いは損害の方が大きくなる……仕方ないわ、引き上げるわよ!」

 

 クイーン・エリザベスがウォースパイトに撤退指示を出した

 

「はっ!王家の戦士達よ全軍撤退!空襲と潜水艦の魚雷に気を付けながら引き上げなさい!」

 

 ウォースパイトの指示でロイヤル艦隊がロイヤル領へと戻っていく。

 

 シュヴェーリンは最後まで殿を務めて撤退する鉄血艦隊を守り抜いたのだった。




ロイヤル艦隊
前衛艦隊一、旗艦ヨーク、ロンドン、ケント、クレセント、コメット、シグニット。

前衛艦隊二、旗艦エクセター、サーフォーク、ノーフォーク、ハーディ、ハンター、アマゾン。

指揮本隊、旗艦クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ハーミーズ、グロリアス、アーク・ロイヤル、チェイサー。

予備艦隊、旗艦フッド、ジャベリン、ジュノー、ジャージー、ジュピター。

この数をシュヴェーリン一隻だけで耐え抜くなんて戦艦とはいえ中々な防御力ですね……。
次は戦闘後のお話を少し書いていこうと思います。
長い闘いを読んでいただきありがとうございました!


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Little girls(小さな女の子達)作戦 終結編

ハボクックはベルファストに運ばれて北方基地まで下がっていた。

帰還したハボクックは自分の艤装をなでる。その艤装には大きな穴が開いていた。

シュヴェーリンの攻撃は走行甲板を貫き、船底も貫通していたのだ。

クック「これは当分、出撃できませんわね」

ハボクックの艤装は特別製だった。故に一度本土まで戻ろなければならない。

クック「帰りましょう、本土に。そして、もう一度戻りましょう。この海に……」

ベルファストに呼ばれハボクックは皆が待つ北方基地の中庭へと進んだのだった。


 

――ロイヤル北方基地:中庭――

 

 

 北方基地の中庭、寒いこともあって普段は誰もいないこの場所に十人の艦船(KAN-SEN)達が集まっていた。

 

「みんな揃ったわね!さあ、お茶会を始めましょう!ベル!みんなに紅茶を入れて頂戴!」

 

「かしこまりました。……ハボクック様、さらっと私の隣に立たないでください、席についていただけると助かります」

 

 クイーン・エリザベスがベルファストに指示をして、ベルファストは横に並んだハボクックに席に着くように勧める。

 

「そうはいきません!女王陛下にその側近、有力貴族に王家構成員とこのような方々に囲まれながら席に着くのはかなり厳しいですよ!?」

 

「何をおっしゃいますか、貴方様は先の大戦の英雄にしてロイヤルガード……言わばロイヤルの象徴です。そのような方に給仕をさせたとなれば私たちの首が飛びます。ここはお任せして席についてくださいますよう、よろしくお願い申し上げます」

 

 ハボクックは駄々をこねながらもベルファストに連れられて椅子に座らせられた。

 

「お久しぶりね、ハボクック様。調子は万全……とは言えませんわね、ごめんなさい」

 

「艤装はダメになってしまいましたが身体には傷はないので問題はありません、ウォースパイト様。それよりも途中で援護できなくなったフッド様達の方が心配ですが……大丈夫でしたか?」

 

「はい、こちらは女王陛下に助力をいただきまして全員無事ですわ」

 

 ハボクックは「良かった……」と胸に手を当てた。

 

「女王陛下、発言をお許しください。貴方様が英雄(ヒーロー)様なのですね!これも運命(フェイト)!初めまして!私は力(フォース)の使い手、重巡洋艦ヨークです!お会いできて本当に光栄です!」

 

「ちょっと姉さん!?女王陛下!英雄様!申し訳ありません!後できつく言い聞かせておきますので……」

 

「大丈夫ですよ、えっとエクセター様?であっていますよね?間違っていたらごめんなさい。ただ、英雄様という呼ばれ方もロイヤルガードという呼ばれ方も好きじゃないからこれからはハボクックさんって呼んでね?」

 

「自己紹介をせず、失礼しました!私はヨーク級重巡洋艦二番艦のエクセターと申します。お会いできて光栄ですハボクック様」

 

 ハボクックは初対面のヨークとその妹、エクセターが挨拶を済ませる。

 

「同じく初対面だな。初めまして、私の名前はアーク・ロイヤル。ハボクック様にお会いできて嬉しく思うよ」

 

「初めまして、ハボクック様!ロイヤル大型じゅん――コホン、空母・グロリアスです。末席に参加させていただき感謝いたします!」

 

「ご機嫌ようハボクック様、護衛空母チェイサーよ。お会いできて光栄だわ」

 

「初めまして、アーク・ロイヤル様。そんなにかしこまらなくても多分、大丈夫ですよグロリアス様。ご機嫌ようチェイサー様、こちらこそお会い出来て嬉しいわ」

 

 同じく初対面だったアーク・ロイヤルとグロリアス、チェイサーとも挨拶も済ませる。

 

「さて、挨拶も終わったところでそろそろ話を戻しましょうか。ベル、ケーキを切り分けて頂戴」

 

 ベルファストは「かしこまりました」と言うと素早く均等にケーキを切り分け、円状になっているテーブルにティーカップと共に添えていく。

 

「今回の作戦事後報告について、ウォースパイトから報告よ」

 

「はい、陛下。今作戦は敵艦隊殲滅のために女王陛下自らが伏兵となる作戦で立案者は女王陛下、作戦指示はこの私が決行しました。なお、敵をおびき寄せる目的のためハボクック様、フッド様の艦隊には伏せていたことをお詫び申し上げます」

 

 ウォースパイトが深々と頭を下げた。

 

「そんな!頭をお上げください!女王陛下様が助けに来ていらっしゃらなかったら今頃こうしてお茶会を開けませんでした……。あなた方は私達の命の恩人です、胸を張って下さい!」

 

 ハボクックがウォースパイトに同じように深く頭を下げ、それに続くようにフッドも頭を下げた。

 

「……コホン!感謝合戦はもういいかしら?では、被害報告をフッドにお願いするわ」

 

「はい、女王陛下。今作戦の被害は艦載機多数、これは燃料と資金でメンタルキューブから合成できますので省きます。一番被害が大きかったハボクック様が大破で走行甲板が船底まで貫通浸水。私達の艦隊からジャージーさんがジュノーさんをかばって大破、私とジャベリンさんが小破、ジュノーさんとジュピターさんが無傷です」

 

「女王陛下の艦隊は私が報告しよう。女王陛下を含む本隊は艦載機以外は無傷、前衛艦隊は最新兵器に攻撃されたヨーク、エクセター、ロンドン、サーフォーク、ノーフォークが中破。ケント、シグニット、ハンターが小破、その他は無傷だ」

 

 アーク・ロイヤルが後から来た艦隊の被害情報を報告する。

 

「よく分かったわ。次に敵に与えた損害を報告を……ベル、報告して頂戴」

 

「かしこまりました、女王陛下。敵に与えた損害は戦艦一隻大破、戦艦二隻と軽巡洋艦二隻に加えて駆逐艦二隻が中破、重巡洋艦二隻と駆逐艦四隻が小破です。この結果は全艦艇にダメージを与え、特に戦艦の修理には多大な資金と時間が必要でしょう」

 

「素晴らしい結果だわ!これも王家の戦士達の奮戦があって勝ち取った勝利よ!」

 

 クイーン・エリザベスが拍手を始めてそれに付いて行くように皆が手を叩きだす。

 

「さあ、今日は勝利を祝って優雅にお茶会よ!皆、淑女のマナーを忘れずに紅茶をいただきなさい!」

 

 クイーン・エリザベスの言葉に皆が返事をして紅茶やケーキに手を付け、雑談を始める。

 

 こうして、ロイヤル陣営のLittle girls(小さな女の子達)作戦は終わりを告げたのだった。




お茶会メンバー
クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ハボクック、フッド、アークロイヤル、グロリアス、チェイサー、ヨーク、エクセター、ベルファスト。

十人となると一言言ってもらうだけでも文字数的にいっぱいいっぱいです。
それはそうとして、何気にすごいのはベルファストさん一人で九人分の給仕をしていたんですね……。そりゃハボクックさんも給仕に回ろうとするわけです。


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Ehre und Hilfe(名誉と救済)作戦 終結編

リン「……私は……生き延びたのか」

潜水艦達に肩を借りて基地へと戻ってきた。

基地の周りでは艦船(KAN-SEN)達が負傷者の手当てに追われている。

リン「そうか……私は、いや私達は負けたんだな……」

だが、皆を守る目的は果たせた。

誰かの呼ぶ声が遠くで聞こえる。

シュヴェーリンは何処か誇らしげな顔をして眠りにつくのであった。


 

 

――鉄血北方基地:第一会議場――

 

 

 艦船(KAN-SEN)の声一つなく重苦しい空気が第一会議場を包む。

 

「……シュヴェーリンの容態はどうだ」

 

 重苦しい空気の中、ビスマルクが問いかける。彼女もまた負傷していた。

 

「一命はとりとめましたが、反動精神ダメージで今は深く眠りについています。艤装によるダメージ吸収がギリギリで崩壊も始まっていました」

 

 基地で待機していた軽巡洋艦のケルンが報告する。

 

 戦艦シュヴェーリン、最後まで退かずに他の艦船(KAN-SEN)を守り切った彼女が一番重傷で今は医務室で安静にしている。

 

「……そうか、命は助かるのか?」

 

「はい!必ず助けて見せます!」

 

 それを聞いたビスマルクは「頼んだぞ」と小さく呟く。

 

「……いつまでもこの状態を続けていたら命を懸けてまで頑張ってくれたシュヴェーリンに申し訳が立たない、これより今作戦の事後報告を行う!まずは損害報告から聞こう、アドミラル・ヒッパー頼んだ」

 

「はい!今作戦における我が軍の損害はシュヴェーリン様が大破、ビスマルク様に加えてグナイゼナウ、ケーニスベルク、ライプツィヒ、Z1(レーベルヒト・マース)、Z19(ヘルマン・キュンネ)が中破、私とオイゲン、Z2(ゲオルク・ティーレ)、Z18(ハンス・リューデンマン)、Z20(カール・ガルスター)、Z23(ニーミ)が小破です」

 

 アドミラル・ヒッパーが続けて詳細を語る。

 

「シュヴェーリン様は艤装が上限限界までの全てのダメージを吸収し艤装崩壊。加えて過度のダメージによる反動精神ダメージにより現在、絶対安静状態を維持しております。次の重傷者はビスマルク様と魚雷が被雷したZ1(レーベルヒト・マース)。ただ、それ以上のダメージを負わなかったので艤装の交換だけで問題はありません」

 

「私の方も艤装の交換だけで問題なく出撃できる。あくまで初期状態での話になるがな。練度を戻すのには時間がかかるだろう……。さて、次は敵に与えた損害をオイゲンに任せる」

 

 報告を任されたプリンツ・オイゲンは普段とは違い真面目な顔つきで報告し始める。

 

「敵に与えた損害は眠る前のシュヴェーリン様の報告によると氷山空母一隻大破まで持ち込んだとのこと。艦載機は多数、墜としておりますがこちらはメンタルキューブと資金、燃料で回復可能ですので戦果とは言えません。駆逐艦一隻が大破。重巡洋艦二隻、軽巡洋艦二隻が中破。巡洋戦艦一隻、軽巡洋艦一隻と駆逐艦三隻が小破です」

 

 再び重苦しい空気になる。こちら側が受けた損害よりも相手に与えた損害が軽かったからだ。

 

「……完全なる敗北か」

 

「ビスマルク様!完全なる敗北ではございません!目的であるハボクック氷山空母は大破まで持ち込みました!つまり、現海域において脅威はなくなったも同然……これはれっきとした戦略的勝利です!」

 

 Z23(ニーミ)が重い空気を吹き飛ばそうと必死に吹き飛ばそうと声を張り上げる。

 

「……そうだな。よく聞け鉄血の者達よ!これは敗北ではない!我々はこれからの戦闘においての教訓を学ぶために行った実践演習だ!そして、その中で我々は次の戦闘につながる手がかりを掴んだ!それこそが我々の戦果である!」

 

 ビスマルクは会場いっぱいに響き渡る声で言う。

 

「今作戦において、我々は航空母艦の存在を改めて再認識した!これからの戦闘において、先手を打てる航空母艦の存在は極めて厄介であり、そして強力な戦法と言うことが分かった!そして、それに対抗できるシュヴェーリンの存在もまた必要である!」

 

 続けてビスマルクは言う。

 

「しかし、我ら鉄血には航空母艦が殆ど存在せず、対空に関しては貧相である。……そこで同盟国である重桜に支援を求め、航空母艦を臨時として配置してもらい、自国で航空母艦及び航空母艦に対抗できる艦船(KAN-SEN)の研究を行う!ここまでで質問や異論はないか?」

 

 ビスマルクの言葉を聞いて一人、挙手をした。軽巡洋艦のカールスルーエだ。

 

「重桜は協力してくれるでしょうか?下手すれば攻め込まれる可能性もありますが……」

 

 カールスルーエの一言に会場内がざわつくがビスマルクが答える。

 

「現在、ロイヤル、北連、アイリスを抑え込んでいるのは我ら鉄血があってこそだ、そして、重桜もユニオンと東煌に敵対して交戦している……その状態で鉄血を攻め込む余力はないだろう。それに加えて、こちらにはハボクック氷山空母に関しての情報を引き渡す予定だ」

 

 ケルンが手を上げて異議を唱える。

 

「ハボクック氷山空母の情報を与える必要はないと思われます!命がけで得た情報を重桜には渡せません!」

 

「そうでもしなければ重桜は動かないだろう。それに、重桜にはもっと強くなってもらわなければ困る」

 

「もっと強く……ですか?」

 

「……今のことは忘れてくれ。だが、これからのことを考えればここで出し惜しみをしている場合ではない、本部に戻り次第一刻も早く電信をして重桜と接触しよう。こればかりは異論を認めん」

 

 こうして、次の戦火に繋がるともし火が重桜へと渡っていく……。




反動精神ダメージは艤装が上限限界以上のダメージを負うと艤装が崩壊して肉体への損傷を防ぐ代わりに、徐々に神経を通して痛覚を疑似体験し精神にダメージを与える……という設定です。
生々しい傷とかも考えたのですが、何度でも出撃できる彼女達を見て後遺症が残ったり長期にわたって出撃できないのは話がかみ合わないのでこのような形に落ち着きました。


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重桜南方海域攻防戦
重桜緊急会議


鉄血から電文を受けた赤城は黙り込んでいた。

赤城「そんな……でも、間違いないわ。これは、そういう意味なのね」

何度も読み返し、意味を確認する。そして読み返す毎に赤城は厳しい顔つきになっていった。

赤城「……加賀、二航戦と五航戦、長門様と陸奥様、あと三笠様も呼んで貰えるかしら?場所は本殿横会議室。今すぐに」

加賀は赤城の重々しい口調に怯えながらも駆けていった。

赤城「許さない……ロイヤル!」

赤城は電文の書かれた紙をくしゃくしゃに握りしめて言った。


 

――重桜本部:本殿横会議室――

 

 

 重桜内の聖域が一つ、本殿の横に設けられている会議室に複数の艦船(KAN-SEN)が集まっていた。

 

 そのメンバーは赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴、長門、陸奥、そして三笠だ。

 

 誰一人として口を開かないがその顔つきは真剣そのもので、集められた理由を今か今かと待っている状態。

 

「今朝方、鉄血より電信がありました。内容はロイヤルの航空母艦を含む艦隊と戦闘、敗走し援軍として重桜の航空母艦の派遣と航空母艦建造技術を要求してきました」

 

「航空母艦建造技術を要求って鉄血には優秀な空軍が居るはずですが?それがあるから航空母艦は必要ないとかで一隻にとどまっていたはずですが……どちらにせよ無茶苦茶な内容には変わりはありませんね」

 

 赤城の言葉に蒼龍が切り返す。確かに同盟国とは言えいきなり最高機密を渡せと言っていることには変わりないこの要求は無礼だ。

 

「しかし、何故このような場を設けたのでしょうか?普通にお断りするか、ぼくらが援軍として行く報告を後ですればいいだけなのに……まさか」

 

「そのまさかですわ飛龍。私達重桜はこの条件を飲み、航空母艦の援軍として私達一航戦と航空母艦建造技術を提供します」

 

 飛龍の言葉に対して放たれた赤城の言葉にみんなが驚いた。

 

「正気ですか赤城先輩!?なんで技術提供をするんですか!」

 

「そうです!それに赤城先輩達が自らいかなくても私達五航戦が出撃します!」

 

「口を慎め五航戦!姉様の判断を聞かずに口を開くな!」

 

 翔鶴、瑞鶴と異議を申し立てるが、それを加賀が怒鳴って制する。

 

「……正気か?お主たちは連合艦隊の旗艦。それを承知で言っておるのか赤城?」

 

「納得できる理由と言うものを聞かせていただきます赤城さん」

 

 長門の表情が硬くなり、蒼龍が眼鏡をくいっと上げて問いかける。

 

「この要求には二つの対価が交換条件となっているわ。一つはビスマルク級二番艦、最新鋭戦艦ティル・ピッツの派遣。……もう一つが先の大戦で味方殺しを行ったハボクック氷山空母の情報提供よ」

 

 赤城の最後の言葉に加賀、長門、三笠が反応する。

 

「姉様、何故今になって過去の亡霊の話を?」

 

「なんも脈略がないとは思ったが、まさかそういうことだったのか……」

 

「えっと、三笠様?ハボクック氷山空母?って何方でしょうか?味方殺しって陸奥怖いです……」

 

「赤城、まさかお前が出向く理由はそれが関係しているのか?」

 

 長門の問いに対して赤城が「はい」と答えて続ける。

 

「先の大戦で活躍し鉄血の艦隊を殲滅した航空母艦。三笠様は何度か会われていらっしゃると思われますが……」

 

「もちろんだ、彼女には何度も助けられた。だが、彼女は協定の対象として真っ先に■■■■が決まっていたはずだが……そうか、ロイヤルは最初から協定を守る気が無かった訳だな」

 

「馬鹿な!ならば何のために我々が航空母艦になったと思っている!?それに天城さん、私達の妹達の犠牲は何だったというのだ!」

 

 加賀が戦局版を強く叩きつける。彼女の怒りは当然、条約を破ったロイヤルへと向けられていた。

 

「ええ、これは決して許されることではありません。なので私達一航戦が赴き、ロイヤルに手を下さなければならないのです」

 

 赤城の表情はいつにもまして険しく、揺るがない表情だった。

 

「……長門。そろそろ我らも隠すのを止めないか?」

 

「三笠様……もしかして、あの方々のことを申されているのでしょうか?」

 

「そうだ、切り出すなら今しかない。そうしなければ赤城がここを離れる事態になる」

 

「……分かりました。陸奥よ、皆に玩具をお披露目して欲しいから連れてきてもらえるか?」

 

「え?長門姉?良いの?じゃあ、急いで連れてくる!」

 

 長門に指示されて陸奥が部屋を退出する。

 

「長門様?いくら神子と言えど全く関係のない話をしないで頂けますか?」

 

「まあ、待て赤城。お主の意見も最もだが玩具を見てからでも構わないだろう?」

 

「三笠様、今はそれどころの話ではありません。一刻も早くロイヤルへと行ってハボクック氷山空母を潰さなければ気がどうにかなってしまいそうです。止めるのであれば貴方を倒して行ってしまいそうなほどに……!」

 

「ちょっと!加賀先輩!それはいけません!冗談ですよね!そうですよね!?」

 

「ただいま!長門姉!連れてきたよ!」

 

 赤城加賀と長門三笠が対立している中、出ていった陸奥が帰ってきた。

 

「これを見たら気が変わるじゃろう。陸奥よ、入るが良い」

 

 陸奥が「はーい」と言って扉を開ける。

 

 そのあと、誰しもが言葉を失うのであった。




はい、と言うことで重桜の方に鉄血から電文が届いてそれに対する重桜の対応を今回は書かせていただきました!
もう察しのよい皆さんは分かっているとは思いますが、ついに!あの方々がご登場です!
次回を楽しみにしていてください!


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陸奥の玩具

???「今日はいい天気ですね」

そう言うと彼女は布団から起き上がった。

???「そう心配しなくても大丈夫です。私の体は一番私が知っていますから」

心配そうに見てくる一人の艦船(KAN-SEN)にそう言うとふすまを開けるようにと指示をする。

???「今日は天気も良いですね……いつか、街を歩いてみたいものです」

???は空を眺めながらそう呟く。叶わぬ願いだと知ってのことだ。

だが、それはドタドタと駆ける足音が叶えてくれたのだった。


――重桜本部:本殿横会議室――

 

 

「巡洋戦艦天城、参りました。……三笠様、まずこの状況についてご説明をお願いできますか?」

 

「加賀型戦艦二番艦、土佐です。皆様とお会いできたことを嬉しく思います!」

 

 陸奥が連れて来た玩具……それは協定の対象となって消えた天城、土佐だった。

 

「よく来てくれたな。歓迎しよう。天城?辛そうなら場所を変えるが大丈夫か?」

 

 誰しもが言葉を失う中、三笠は淡々と言葉を交わす。

 

「いいえ大丈夫です。……それよりも、これはどういう事か説明していただけますか?長門様、三笠様?」

 

「うむ。ここからは私が話そう。まず、知っての通り協定で対象となっていた天城、土佐だがこの協定では抜け穴が存在することに気が付いた。そう、艤装を解体すれば艦船(KAN-SEN)では無くなりそのあとは一人の人間として扱えばよいのだと」

 

「そんな無茶苦茶な……」

 

「だが、これは実際にユニオンでも行われている。名前は何だったかな……そうそうサウスダコタだ!さらに彼女は後にこれまた同じ名前のサウスダコタという戦艦になって今も海の上にいるそうじゃないか」

 

「馬鹿な!それでは何のための協定か分かったものじゃない!」

 

「加賀が言いたいことも分かる。だが、今はそんなことよりも今後について話そう。話を戻すぞ。今回の援軍の派遣と航空母艦建造技術の提供は二航戦の蒼龍と飛龍が援軍に、航空母艦建造の技術提供は……危険ではあるが止むを得ない、行うこととする」

 

「長門様、一航戦や五航戦ではなく二航戦を援軍として派遣する理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

 長門の言葉に蒼龍が質問した。

 

「一航戦は……天城と土佐の相手で腑抜けるからの。今の状態では本部から離れようともせんだろう。離れれば何をしでかすか分からん。五航戦は単純に練度の問題じゃな。向こうは時折猛吹雪に合うと聞いておる。そんな中、艦載機を飛ばせるかと言われれば少々不安が残るのも事実。……なると、ここは練度も十分で動ける二航戦のお主たちに任せようと思ったわけじゃ」

 

 そう長門が答えると天城にべったりと張り付く赤城を見て「な、なるほど……」と蒼龍は少々苦笑いした。

 

「もうそろそろなぜ私達が呼ばれたのか説明の方をお願いできますでしょうか?長門様」

 

 いつまでも抱きついてくる赤城に拳骨を放ち、長門に説明を求める天城。

 

「うむ。今や協定の効果は無く、互いに嘘をつきながら建造を行う状態。特にユニオンの駆逐艦建造と航空母艦建造は条約を全く無視していると言える。その状態で航空母艦が二隻抜けるとなると本部の防衛に不安が残る……そこで、航空母艦の穴埋めをお主達にしてもらいたい。勿論、他の国に秘密にしながらではあるがな」

 

「なるほど……しかし、私達は一度対象となった身。そこをどうやって戦線に復帰させるおつもりでしょうか?」

 

「いつか来るであろうと、もうすでに用意しておる新しい艦種の艤装を付けてもらおうと思っている。……お主達二人はこれから戦艦としてではなく航空戦艦として戦場に立ってもらう予定だ。陸奥よ、悪いが艤装を持って来てくれぬか?」

 

 長門に指示されて陸奥は「はーい!」と再び元気よく会議室を駆けていった。

 

「航空戦艦……ですか?その航空戦艦とはいったいどういった艦種でしょうか?」

 

「戦艦の砲火力を維持しながら航空母艦の航空運用が同時に行える艦種で索敵、先制爆撃、着弾観測による精密射撃等が可能な反面、航続距離が短く艦載機の搭載量が少ない、後部主砲を下ろしてカタパルトなどを積まなければならない点もあるが……知略に長けたお主なら問題なかろう?」

 

「砲火力……私はもう一度、四十一cm砲を撃てるのでしょうか?」

 

「四十一cm二連装砲三基六門、十四cm単装副砲八門、十二cm高角砲十二門、六十一cm水上魚雷発射管二基八門、瑞雲八機、カタパルト一基、クレーン一基がお主の兵装となる。……どうやら陸奥が返ってきたみたいじゃな」

 

 ドタドタと駆けてくる足音が近づいてきて勢い良く扉が開かれる。

 

「ただいま長門姉!航空戦艦用のメンタルキューブを持ってきたよ!」

 

「陸奥!もう少しお主は静かに出来んのか!廊下の足音がここまで響いておったぞ!」

 

 陸奥は「ごめんなさい長門姉!」とあまり反省していない。

 

「はい!天城様!土佐様!これが貴方方の新しい艤装になります!このメンタルキューブに触れてください!」

 

 陸奥にメンタルキューブを差し出されて天城は触れようとして手が止まる。

 

「……天城よ、不安なのはわかる。いつ戦場に立てなくなるか心配しておるのだろう?だが、安心してほしい。我々はいつまでも弱いわけではない。天城一人が背負う事が無いように努力してきたつもりだ。だから、今度は我々の成長を身近で見てほしいのだ」

 

「成長を身近に……ふふふ、そうですね。その言葉が真実なのか、確かめなくてはいけませんね」

 

 天城はにっこりと微笑みながらメンタルキューブに触れて、艤装を装着した。

 

「航空巡洋戦艦天城、参りました。重桜の成長……見させていただきますね」

 

「加賀型航空戦艦二番艦!土佐、ただいま艦種変更しました!不束者ですが、これからよろしくお願いします!」

 

 こうして、新しい艦種である航空戦艦と共に古参の天城、土佐が重桜の戦力として加わったのであった。




はい、と言うわけで。条約違反していたのはロイヤルだけではなく重桜もユニオンもでした!
ただし、明確な条約違反ではなく抜け道を使った条約違反なのでこれは判定としてはどうなんでしょうか?
まあ、そうなるとユニオンなんかは面白いですねダニエルズ・プランのサウスダコタ級はいないけどノースカロライナ級の後に作られたサウスダコタ級は普通に存在するのですから。
協定を守っていたのは鉄血だけか!いいえ、鉄血も守っていません(戦艦シュヴェーリン)
賛否分かれるとは思いますが、私の小説はこのルートで行きます。
今後ともよろしくお願いいたします!


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重桜の密約

■■■■■■「この世界は新しいルートに入ったようね……」

進み続けるデーターの線を■■■■■■は指でなぞり言った。

なぞられたデーターの線は波紋を呼び揺れ動く。

■■■■■■「さあ、私達に見せて頂戴。新しい人類の可能性を」

波紋と波紋の輪っかに飛込み、■■■■■■は消えた。


――重桜本部:地下秘密基地――

 

 

「姉様、これでこの薄気味悪い計画も中止ですね」

 

 重桜本部地下の秘密基地……そこには建造途中の一隻の巨大な船が存在している。

 

「二航戦が鉄血の方に向かったとはいえ、こちらには天城姉様と土佐が着任した……これで、この戦争も巻き返せる」

 

「加賀……それは本当にそう思っているの?」

 

 後ろを向いたまま赤城は低い声で加賀に問いかける。

 

「……違うとおっしゃられるのですか?」

 

「加賀は何も分かっていないわね……この戦争に終わりはないのよ、そうでしょう?」

 

 赤城は右斜め前の空の方に向かって問いかける。

 

「あら、終わらせるために作っていたんじゃないの?この艦船(KAN-SEN)を」

 

 赤城が見つめている透明な空間は歪み■■■■■■が姿を現した。

 

「透明状態で見えないはずなのによく分かったわね。新しい力にでも目覚めた?」

 

「気持ちが悪い気配を……とは言いたいけど、ただ単純に空気の流れがおかしかったから分かっただけ。それよりもこの計画はどれぐらいの魂が必要?」

 

「この計画に必要な魂はあと一つ。それでヤマタノオロチは目覚めるわ」

 

 ヤマタノオロチ計画。

 

 セイレーンの技術を取り込み、魂を捧げることにより艦船(KAN-SEN)を超え、セイレーンを凌駕する艦船(KAN-SEN)を建造する計画。

 

 赤城のこの計画は極秘とされており、知る者はわずかで内容を知っているのも一握りだ。

 

 表ではアズールレーンに対抗する切り札となっているが、本心は赤城しか知らない。

 

「これが完成したら世界の均衡は崩れるでしょうね」

 

 浮遊する■■■■■■が赤城によってきて頬をなでる。

 

「姉様に触るな!失せろっ!」

 

 加賀の攻撃を空中で一回転してかわすと着地することはなくそのまま空気に溶ける。

 

「あと一つ、あと一つで世界が変わる……。変わった世界はどうなるのか楽しみにしておくわ」

 

 そう言い残すと気配が完全に消える。

 

「……姉様、やはり危険です。この計画を中止しましょう!」

 

「加賀、これは何としても成功させないといけない計画……これに重桜の未来がかかっているの。この他に代案があったとしても足りない。これは最後の希望なのよ。分かって頂戴とは言わないわ。だけど止めるなら加賀、貴方とは言え容赦はしない」

 

 振り返った赤城は宙に式を飛ばしてに加賀を睨む。

 

 それは受け入れられないならここで始末すると言わんばかりに明らかな敵対意思を見せていた。

 

「……分かりました。私は止めません。ですが、姉様の隣には立たせてもらいます。姉様が無茶をしないようにするのも妹の私の仕事だ」

 

 加賀がそう言うと赤城はいつもの笑顔に戻り、戦闘態勢を解除する。

 

「ごめんなさいね、加賀。貴方にはいつも辛い選択ばかり押し付けちゃって……」

 

「それも私の運命だ。姉様は前だけを見ていればいい。私が後ろを追いかける」

 

 少し不安げな顔を見せる加賀を赤城は抱き寄せた。

 

 重桜本部にある地下秘密基地……そこには重桜の未来を大きく左右する艦船(KAN-SEN)が眠っている。




アニメアズールレーンepisode十一、十二早く!こっちの方が先にヤマタノオロチを書いちゃうから!
三月十三日まで待たないといけないのがかなりきつい!
それまで色々と書いて頑張りますけどね、日常パートはそこまで話数はないかもだけど、戦闘シーンとか話数をちょっと増える傾向にあるのでそれで三月まで持たせ……れるかな……。
■■■■■■はおなじみの秘密と言うことで。(察しの良い人は黙っておくように)


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ユニオンの日常

???「にしし!ここが私の母港となるですね!」

そう言うと彼女は建物の中に入り下駄箱を眺める。

???「……にしし!悪いことを考えちゃったです!」

そう言って下駄箱に入っている靴を取り出して逆さまにして戻す。

???「いっぱいあるからやりがいがあるですね!今度は左右逆にしてみるです!」

彼女は下駄箱を一通り悪戯し終わると今度は廊下、空き教室へと悪戯を拡大していった……。


 

――ユニオン本部:母港学園――

 

 

 エンタープライズは廊下の壁の下を見ていた。

 

 別に彼女にそんな奇怪な趣味はないが、そうせざるを得ない状態が目の前で起きていたからだ。

 

「……なぜ、このポスターは膝の高さに貼られているんだ?」

 

 そう、いつもは彼女の胸の高さぐらいに貼られているポスターが今日は地面に近い膝の高さに貼られている。

 

 駆逐艦の子が貼ったのだろうか?だとしたらもう少し高そうだが……それに隣のポスターは裏表逆になっているのも説明がつかない。

 

「誰かの悪戯か……しかし、いったい誰が?」

 

「――きゃあ、いやぁあ!――」

 

 駆逐艦の生徒玄関で悲鳴が上がる!エンタープライズが走って現場に駆け付けるとそこには複数の駆逐艦達が騒いていた。

 

「わたしの靴が逆さまになってる!このサッチャーさんに悪戯とは思ってもいなかったよ」

 

「誰だよ……わたしの靴を左右逆にしたの……面倒だからこのまま履くか」

 

「いやいや、そこはちゃんと履かないとだめですよフート。それで私の下駄箱には……あら手紙?えーとこの手紙を読んだ者は校庭を十周走らないと不幸になります?フレッチャーお姉さん、不幸の手紙は初めてもらっちゃいました」

 

「うぅ……なんで私の靴にはカエルが入っているの!?泣いちゃいそう……!」

 

「ほらほら、泣かないでスペンス。今フレッチャーお姉ちゃんが取ってあげますから……この不幸な手紙に乗せて……外に持ってきましょうね」

 

「これは悪よ!いじめっ子は誰だ?正義の裁きを下してあげるわ!」

 

「これは一体……とりあえず、敵襲ではなさそうだな。……だが、無法者か侵入者がいるようだな」

 

 駆逐艦が騒ぐ中、エンタープライズは下駄箱の端に脱ぎ捨てられたブーツを見つける。

 

 ド派手なユニオンジャックのブーツ、このような靴を履いている艦船(KAN-SEN)をエンタープライズは知らない。

 

《ジリリリリリ!》

 

 突如、火災報知機が反応して警報が鳴る!

 

 危険を感じたエンタープライズは廊下に戻り、辺りを見渡す。すると、空き教室から煙が出ているのを見つけた。

 

 エンタープライズは煙が出ている空き教室へ急いで駆けつけ中を確認する。

 

 教室の中は火事にはなっていないものの発煙筒の煙を探知したスプリンクラーが消火しようと水をばらまいて水浸しになっている。

 

 その中に一人の少女がずぶ濡れになりながら発煙筒を持って座り込んでいた。

 

「煙幕仕掛けるの失敗したです!火災報知器がうるさいのです!あとスプリンクラーの水が冷たいです!」

 

「何者だ!抵抗するならこちらも反撃させてもらう!」

 

 エンタープライズは艤装を展開して弓で不審者に狙いを定めた。

 

「ひゃっ!?びっくりなのです!その物騒な物はしまってほしいですよ!?」

 

「それは、お前の態度次第だ」

 

「分かったのです!分かったから場所移動してもいいです?スプリンクラーの水で風邪を引きそうですよ……」

 

 エンタープライズは少し考え、教室の外に出ると少女に出てくるように指示を出す。 

 

 エンタープライズから許可を得た少女は、両手を上げながら教室から出てくる。

 

「さて、説明してもらおう」

 

《――ピンポンパンポン――今日着任予定のユナイちゃんユナイちゃん。至急、司令室に来てください》

 

 エンタープライズが問いただそうとした時、放送でユナイちゃんと呼ばれる人物が呼ばれた。

 

 しかし、エンタープライズにはユナイちゃんと言う人物に聞き覚えがない。

 

 改めて尋問しようとしたら少女がこう言った。

 

「えーと、ユナイ呼ばれたみたいですけど行ってもいいです?それとも、ここで尋問を始めちゃいますです?」

 

 少女は自分がユナイだと言って司令室に行かなければならないことをエンタープライズに伝える。

 

 エンタープライズは怪しいと考えてユナイと名乗った少女に言う

 

「分かった、司令室に行っても良い。ただし、私も同行しよう。後ろから狙われていることを忘れるな?もし不審な行動をしたらその時は……」

 

「ぴゃっ!?このお姉さん美人だけど怖いです!」

 

「喋らなくて良いから歩け、呼ばれているのだろう?」

 

 エンタープライズに脅されてユナイと名乗る少女は数歩の距離を歩いて立ち止まる。

 

 疑問に思って警戒していると、少女はロボットのようにゆっくりと振り向きエンタープライズに言った。

 

「司令室ってどこです?道案内をお願いしたいです!」

 

 ユナイの行動を警戒していたエンタープライズは暫し沈黙し、意味を理解すると深いため息を出したのだった。




今回はユニオンの日常パートを書いてみました。
ユナイちゃん……もう察しが付く人は多いと思いますが次まで待ってください。次で自己紹介しますから!


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悪戯娘の着任

青い絨毯と白い壁の司令室、中に姉妹の艦船(KAN-SEN)が待っていた。

???「今回の子はどんな子なんだろうな~」

ツインテールのピンク髪をいじりながら妹が言う。

???「情報によるとサラトガちゃんに似た性格らしいわよ?」

おっとりとした長髪のピンク髪の姉がそう答えた。

???「本当!?なら一緒にアイドルを目指してみないか勧誘してみる!」

妹は嬉しそうに答えると司令室の扉がノックされる。

???「は~い、どうぞお入りください」

姉の柔らかい言葉を受け司令室の扉が開かれた。


――ユニオン本部:母港学園司令室――

 

 

「えっと、この状態をちょっとサラトガちゃんに説明してもらえる?」

 

 手を上げながら入ってきた一人の少女と、その後ろから弓に手をかけて射ろうとするエンタープライズを見てサラトガは言った。

 

「生徒玄関及び廊下、空き教室で悪事を働いた不審者がユナイと名乗ってな。本当かどうか確かめ、偽物ならその場で制裁する予定だ」

 

「ユナイ成敗されちゃうです!?悪戯した代償にしては罰が重すぎですよ!」

 

 ユナイと名乗る少女は抗議の声を出すと、エンタープライズの弓の張りが強くなりギリリッ!と音が鳴る。

 

 その音を聞いた少女は「ぴゃぁっ!」と小さく悲鳴を上げて震えた。

 

「エンタープライズちゃん?その子は間違いなくユナイちゃんよ?だから、その弓を下ろして欲しいのだけど……いいかしら?」

 

「……了解した。だが、私はまだ信用したわけではない。下手な行動はするなよ」

 

 レキシントンに言われてエンタープライズが弓を下ろす。

 

「ガクブルガクブル!生きた心地がしなかったです!お姉さん助けてくれてありがとうなのです!」

 

 ユナイが深々とレキシントンにお辞儀をする。

 

「えーっと。コホンッ!では、改めて自己紹介よろしくねユナイちゃん!」

 

「はいです!ユナイテッド・ステーツ大型航空母艦、ネームシップのユナイです!今後ともよろしくです!にしし!」

 

「新しい航空母艦だったか、私達と同じだな。歓迎しよう」

 

 エンタープライズが手を差し出だした。それをユナイは警戒するそぶりを見せながらも恐る恐る握手をする。

 

 ユナイと握手をするとぐにゅっとした感覚がエンタープライズの手のひらに広がった。

 

「にしし!古き懐かしアイテムですよ!」

 

 ユナイが手を離すとエンタープライズの手はスライムが潰れてべっとりしていた。

 

「……懲りないみたいだな」

 

 エンタープライズは再度、弓を展開してユナイに狙いを定める。

 

「ひゃっ!?違うですよ!イッツジョーク、ジョーク!場を和ませようとしただけで、決して今まで怖い思いをさせてくれたお返しとは思っていないです!」

 

「それ、本音漏れてない?」

 

 手を上げて弁解をし始めるユナイにサラトガは突っ込みを入れる。

 

「話を戻してもいいかしら?ユナイちゃんの部隊についてだけど、ユナイちゃんはちょっと特殊な航空母艦で近くに航空母艦がいないとその力が発揮されないみたいなのよ……だから、エンタープライズちゃんの部隊に配属になるわ~」

 

「この怖い美人さんと一緒の部隊です!?後ろから撃たれそうで怖いですよ!」

 

「本当に撃ってもいいのだぞ?それで、二つほど聞いてもいいか?まず、なぜ私なのだ?他にも航空母艦はいる。次にどうして航空母艦がいなければその力が発揮されない?大型航空母艦なら護衛艦隊を付けるだけで運用可能なはずだ」

 

 レキシントンの言葉にエンタープライズが質問する。

 

「最初の質問はこれからの作戦に貴方が戦闘の指揮を執ってもらう必要があり、その作戦はユナイちゃんの能力を確かめる目的もあるからよ。航空母艦が必要な理由は……後でわかるわ。今作戦の旗艦として指揮をよろしくね~」

 

「そんな曖昧な……だが、任されたからには全力を尽くそう」

 

 エンタープライズはレキシントンに敬礼をして旗艦の任命を受託する。

 

「それで、今作戦はどのような内容なのか説明してもらおう」

 

「してもらう作戦は重桜を挑発して引き寄せ囲んで殲滅するの囮役をやってもらうわ。作戦名はそうね……Jasminum sambac(ジャスミン・サンバク)作戦よ~!」




ついに登場しましたね、ユナイテッド・ステーツ大型航空母艦!
なぜ、航空母艦が近くにいないといけないのか?その能力は後程明かされます。
作戦名はマツリカの学名から来ております。なぜマツリカなのかは海戦のイメージ海域の近くの島の国花だからです!どこでしょうね~ぜひ探してみてください!


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Jasminum sambac(ジャスミン・サンバク)作戦 前編

サラ「お姉ちゃん、今回の作戦本当にあれだけの護衛艦隊で足りるの?もっと必要そうじゃない?」

サラトガはレキシントンに問いかける。

レキ「普通の航空母艦なら足りないわ~。だけど、今回の護衛は実質エンタープライズちゃんだけなのよ」

その答えにサラトガはさらに首を傾げる。

レキ「送られてきたデーターが本当なら、あの子は一人で戦場に立っても問題ないって意味よサラトガちゃん。彼女、私達が思っている以上に強いわよ~」

レキシントンの答えにサラトガは「そんなわけないっしょ~」と半信半疑で返すしかなかった。


――重桜南方海域:南西群島海域――

 

 

「にしし!初めての実戦なのです!ガンガン戦果を上げるですよー!」

 

「あまりはしゃぎすぎるなユナイ。その行為が作戦に支障が出るかもしれない」

 

 初陣ではしゃぎすぎているユナイに釘を刺すエンタープライズ。

 

 彼女達の艦隊は群島ひしめく重桜の海域を航行していた。

 

「妹達?ちゃんとついてきていますか?波は低いけど島が多いから座礁には気を付けてね?」

 

「はぁ、面倒な任務についてしまった……早く母港に帰りたい」

 

「うぅ……なんで私がこんな大役に選ばれたんだろう……」

 

「さあ、正義のために戦うわよ!正義は不滅!悪は滅びるのだわ!」

 

 エンタープライズとユナイの護衛艦隊としてフレッチャー級のフレッチャー、フート、スペンス、チャールズ・オースバーンが同行している。

 

「しかし、囮艦隊だとは言えこの少数で重桜基地に奇襲をかける……レキシントンも中々無茶を言ってくれる」

 

「そうですか?むしろユナイがいる分、過剰な戦力だと思うですよ?」

 

 エンタープライズの言葉に対してユナイが即座に答える。

 

「私はそうは思わない……所で腰からぶら下げているその道具は何だ?任務中に遊ぶなんてことはないと信じるぞ?」

 

「むー!これはユナイの大切な任務道具なのです!これがあるのとないのではユナイの活躍が違うのですよ!今回の作戦で教えてやるです!」

 

 そう言ってユナイは地団駄を踏み海面がぴちゃぴちゃと水しぶきが上がる。

 

「かなり心配ではあるが……まあ、何かあった時はフォローするだけだ。そろそろ敵基地に攻撃機を出す時間だな。……全機発艦!ユニオンの魂を敵に刻め!」

 

「にしし!艦載機達行くですよー!戦果をバンバン持って帰るのです!」

 

 エンタープライズとユナイが艦載機を飛ばす。

 

 エンタープライズは弓から矢を放ちそれが無数の艦載機になり上空へと飛んでいく。

 

 対して、ユナイは滑走路が二つ描かれた盾を両手で持ち海面と滑降路を平行に保つ。すると、それぞれの滑降路から艦載機が競うように二機同時に発艦する。

 

「滑走路が二つとは驚いた。大きな滑走路だとは思っていたがまさか二機同時に発艦できるとは」

 

「自慢の双胴型甲板です!水の抵抗が増して速力は落ちますが、その分多くの艦載機が詰めれて一度の発艦機数も普通の航空母艦の二倍なのです!他にも滑走路中央を使えば全力で曲がりながら発艦も着艦も可能なのです!」

 

 ユナイは自慢気に話しながらも次々と艦載機を発艦させていく。

 

「……最新鋭の航空母艦は凄いな、まだ発艦が止まらないとは驚いた」

 

「空が艦載機で覆われています……!こんな数の艦載機が飛んでいるとこ見たことがありません!」

 

「晴天の海で日陰に遭遇するとは思わなかった」

 

「こ、怖いよフレッチャーお姉さん!」

 

「これは……正義の力……?」

 

 エンタープライズ、フレッチャー、フート、スペンス、チャールズ・オースバーンとそれぞれ感想を述べていく。

 

「全機発艦完了です!さあ、敵の基地を完全に破壊してやるですよ!」

 

 ユナイはエンタープライズの三倍の数を発艦させ、総数約二百もの艦載機が重桜の南方基地へと向かったのだった。




今回からユニオンと重桜の戦闘が始まります!
ユナイテッド・ステーツの一度に操作できる艦載機は百五十機ぐらいでエンタープライズ五十機の三倍と言う設定になっております。
ハボクック氷山空母も中々にやばかったですが、その上が出来てしまいました。……後悔はしていません!


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秋の麒麟草作戦 前編

ユナイ「にしし!敵基地を発見なのです!」

ユナイは事前にエンタープライズに言われていた同時攻撃の指示を思い出す。

ユナイ「敵に発見されちゃった事にして先に攻撃しちゃおう……!」

エンタープライズに聞こえないようにこっそりと呟き艦載機を操作する。

ユナイ「やっちまったです!爆撃機が敵に発見されちゃったなのです!対空防衛される前に攻撃です!」

ユナイはわざとらしく大声でエンタープライズに報告し、エンタープライズの指示を聞かずに攻撃を開始した。


 

――重桜南方海域:重桜南方基地――

 

 

「我らが基地に敵機接近です!祥鳳さん戦闘機の発艦を急いでください!」

 

「任しておき!敵機は一機残らず墜としたるわ!」

 

 龍驤の対空電探が敵機の来襲を補足し、祥鳳に追撃機を上げるように指示をする。

 

 その指示を受けた祥鳳は慣れた手つきで戦闘機を発艦する。

 

 指示を出した龍驤も急いで発艦を行い次々と戦闘機を飛ばしていった。

 

「なんだ?空襲か?あたし達も対空防衛に参加するぞ日向!」

 

「私達の対空が役に立つかは分からないけど……しないよりはマシか、出撃する!」

 

「神さま、私達を守り給え……!扶桑型一番艦扶桑、出撃します!」

 

「姉さま!私達も行きましょう!扶桑型二番艦山城、出撃しま~す!」

 

 伊勢と日向、扶桑と山城が続いて出撃する。

 

「谷風は警報を鳴らす!磯風は非番の第六駆逐隊に緊急招集をかけてきなさい!浜風は私と一緒に対空防衛の援護を!浦風、出撃するわ!」

 

「了解です!ついでに通信室に行って攻撃を受けたことを本部に伝えてきますね!」

 

「分かりました浦風さま!磯風伝えてくるね~!」

 

「この風……戦にちょうどいいわ!浜風、出撃する!」

 

 浦風、谷風、磯風、浜風とそれぞれ別々へと行動する。

 

 基地上空では爆撃機が基地航空滑走路に爆撃を行っていた。

 

「駄目です!敵機の数が多すぎて撃ち落としきれません!」

 

「こんな数は反則やろ!?落としても落としてもきりがあらへん!」

 

 龍驤と祥鳳の戦闘機が懸命に敵機を撃ち落としているが、それ以上に敵が多すぎて侵入を許してしまう。

 

「はっはっはっ!撃て撃て!適当に撃っても当たるぞ!」

 

「こんな時にお酒入っているのか姉さん!?くそっ!敵機が多すぎる!」

 

 伊勢と日向が南西から来る敵機を撃ち落としていく。

 

「祓い給い、清め給え!そなたたちの魂に故郷の安らぎがあらんことを……!」

 

「みんな行けぇ~!はわわ、うっかり主砲を撃っちゃった!」

 

 扶桑と山城が南東から来る敵機を撃ち落としていく。

 

「くっ!次から次へと……!弾薬の装填を急いで!」

 

「全然撃ち落とせてないけど、やるしかないわね!」

 

 浦風と浜風が航空母艦の戦闘機が取り逃した手負いの爆撃機を攻撃している。

 

 だが、敵航空機は次々と基地の地上構造物へと爆撃を行っていく。

 

「基地滑走路が集中的に攻撃されていますね……我々には攻撃してこないのはなぜでしょうか?」

 

「そんなの分からへん!艦船(KAN-SEN)は回復が早いからかもしれへんな!」

 

 龍驤の問いに対して祥鳳は戦闘機を操りながら答える。

 

 一時間にもわたる爆撃は航空機の二割を戦闘機が落とし、残り二割を艦隊の対空砲が撃ち落とした。

 

 しかし、基地航空滑走路と基地航空隊倉庫は再起不能状態となり司令部付近にも数発爆弾が落ちている。

 

 不幸中の幸いか、艦船(KAN-SEN)への攻撃はなく水上で燃える基地滑走路をただ眺めるしかなかった。

 

「追撃しましょう……今ならまだ間に合うはずです!」

 

「あたしも賛成だね。ここまでされて黙ってみているわけにはいかない!」

 

「私も扶桑と姉さんの意見に賛成だ。第二攻撃隊も来る可能性がある」

 

 扶桑と伊勢、日向が追撃の意見を出した。

 

「私は反対です!航空機の数的に第二次攻撃は今の半分ぐらいしか出せませんし、時間がかかります。それを分かっていて攻撃したならもうすでに敵は撤退済みのはずです!」

 

「うちも反対やな。こっちの戦闘機も敵戦闘機に撃ち落とされて正直対空援護の自身があらへん。本部からの援軍が来るまで耐えるしかないわ」

 

「えっと、山城も反対です!なんかこう……山城の勘が行っちゃいけないって言っている気がします!」

 

 龍驤、祥鳳、山城が反対の意見を出す。

 

 意見が対立したが、追撃するにも航空援護が必須なため追撃はせず、本部からの援軍に頼るほかなかった。

 

「本部から電信です!戦艦及び航空母艦は基地の防御、駆逐艦による水雷戦隊と戦闘機、観測機による敵の索敵、発見した後に撤退せよ!」

 

 本部からの電信を谷風が報告する。

 

 こうして、駆逐艦八隻による水雷戦隊が海戦することになったのだった。




重桜南方基地防衛部隊メンバー

第四航空戦隊(龍驤、祥鳳)、第二戦隊(伊勢、日向、扶桑、山城)、第六駆逐隊(暁、響、雷、電)、第十七駆逐隊(浦風、磯風、谷風、浜風)

千九百四十二年四月十日時の艦隊編成で四部隊、計十四隻で防衛しています。
次回は駆逐艦による追撃作戦です。第六駆逐隊が好きな方は心よりお待ちください!


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秋の麒麟草作戦 後編

エンター「……どうして私の指示を聞かずに攻撃した」

エンタープライズは静かにユナイに問いかける。

ユナイ「敵が対空防御をする前に奇襲したくて……です」

エンタープライズの言葉にビクビクしながらユナイが答えた。

エンター「旗艦は私だ。以後、勝手な行動は慎め。これは命令だ」

ユナイ「サー・イエス・サーです!」

エンター「……馬鹿にしているのか?」

ユナイ「至極真面目に反応したのに勘違いされたです!?もう嫌なのですこの部隊!」

ユナイの悲痛の叫びが群島に反射してこだまになるのであった。


――重桜南方海域:南西群島海域――

 

 

「今何か聞こえたでござるか?」

 

「響には何も聞こえなかったぞ?気のせいではないか?」

 

 暁の問いかけに響が答える。

 

 狭い群島地帯を高速で航行しながら敵の航空機が消えてった方角へと進んでいく。

 

 上空には航空母艦の龍驤と祥鳳からの九六式艦戦闘機九機、零式艦上戦闘機四機の計十三機、九〇式二号艦偵三型六機、艦載機合計十九機が警戒と索敵を行っている。

 

「これだけの数の艦載機を出して大丈夫だったのかしら……?」

 

「確かに今基地を攻撃されたら危ないかも……?」

 

 雷、電が基地への第二次攻撃を心配している。

 

「それに付いては問題ないわ。重桜基地本部から空母の援軍が来るって報告も来ていたから。……間に合えばの話だけどね。そうならないように先に私達が見つけないとならないわ」

 

「磯風、頑張って活躍するよー!」

 

「活躍しなくてもいいわ。敵を先に発見して、それを南方基地の皆に報告して、出来るなら見つからないように撤退するだけ」

 

「今日は風が強いですね……皆さん曲がる時は注意しなくちゃいけないですよ」

 

 浦風が雷と電の心配を解消させる。磯風は今度は役に立ちたいと興奮していた。

 

 浜風はその磯風をなだめて作戦の内容を簡潔に語り、谷風は撤退時の注意を言う。

 

 第六駆逐隊と第十七駆逐隊が警戒しながら進んでいくと、観測機の一機が上空から暁の近くに降りてきてぐるぐると周りを回ってまた上空へと戻る。

 

「どうやら観測機が敵と思わしき艦艇を見つけたでござるな。艦隊警戒態勢を維持しながら見つからない程度に接近!上空への警戒を怠るではないでござるよ!ここからは艦載機の援護もないでござるからな!」

 

 暁の号令に他の艦船(KAN-SEN)達はそれぞれ返事をして速力を落としながら島伝いに航行する。

 

「見つけたでござる……!敵は駆逐艦と航空母艦の機動部隊!艦載機は……飛んでござらんな」

 

「あの艦船(KAN-SEN)はエンタープライズ!その隣にいるのは……見たことない艦船(KAN-SEN)だわ。大きな盾?を持っていて何やらもめている……?」

 

 暁と浦風が敵の索敵に成功する。

 

 敵はエンタープライズ率いる機動部隊、護衛は駆逐艦の高速部隊だ。

 

「エンタープライズから二百機も艦載機が出せるなんて聞いたことないですね……」

 

「ここは重桜海域で基地を作るにはバレるし、そもそも基地を作れるような大きさの土地がない……」

 

「さらに言うならユニオンの南部基地からは航続距離も足りない……。ならここにいる敵部隊から発艦したと考えるのが妥当ね」

 

「つまりはあの艦船(KAN-SEN)は航空母艦で、めちゃくちゃ艦載機を飛ばせるってこと?」

 

「ユニオンは有り得ない数の艦載機を発艦できる航空母艦を作ってしまったと言うことです?」

 

 雷、電、浜風、磯風、谷風と自分の意見を言っていく。

 

「あの一隻だけでそこまで多くの艦載機が発艦するとは思いたくはござらんが……他に方法がないところを見るにそれが正解じゃろう……」

 

「敵部隊に動きあり!回頭して撤退していくわね……第二攻撃隊は発艦してなさそうだわ。こちらに気づいたのかしら?」

 

 エンタープライズ率いる敵機動部隊は大きく回頭しながら重桜海域を離脱しようとしていた。

 

「これからどうするの?数は勝っていても正直戦って勝てる戦力ではないわ。だけど、護衛が少なくてこれ以上ない絶好のチャンスでもあるけど……」

 

「……この情報を持って帰ることが先決でござる。総員、撤退でござる!上空に警戒しつつも急いでこの海域から離れるでござるよ!」

 

 暁の号令に他の皆うなずき、急ぎつつも警戒しながら敵と離れていく。

 

 後に、暁がもたらした情報は今後の作戦に大きく影響するとはこの時、誰も予測できなかったのだった……。




今回は重桜がユナイテッド・ステーツと初遭遇を果たした回で終了しています。
暁の判断は本部からの報告に従ったのですが、実際かなりの護衛の薄さだったので突っ込んでも戦果出せると動いた場合はレキシントン率いる後続艦隊に攻撃されて危なかったので、今回は奇跡的に敵の作戦から回避できたと言っても過言ではありません。
なぜ、エンタープライズとユナイがもめていたかは次回分かります。


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Jasminum sambac(ジャスミン・サンバク)作戦 後編

天城「なるほど……そう来ましたか」

天城は重桜南方基地から来た通信を聞き考える。

ユニオンの基地から届く事の無い航空機は航空母艦の可能性が高く、以前からユニオン内では新型の航空母艦が噂されていたのを思い出した天城は次のよう考えを長門に具申する。

天城「意見を失礼させていただきます、長門様。水雷戦隊と航空母艦の戦闘機と観測機で敵の機動部隊を補足し情報を基地へと報告、のち航空攻撃に注意しながら撤退。本部からは航空母艦数隻を南方基地へと出撃させるのがよろしいと思われます」

長門は天城の案に頷き、南方基地への返信と直ちに第五航空戦隊を出撃するように指示を出した。


――重桜南方海域:南西群島海域――

 

 

「どうして逃げたのですか?あの程度の艦隊ぐらいユナイだけでも勝てたです……」

 

 ユナイがエンタープライズに駄々をこねて聞いてくる。

 

 現在、エンタープライズ率いる機動部隊は重桜南方海域の群島地帯から撤退してユニオン南方基地へと帰還しているところだ。

 

「今回の目的は敵艦隊を引き付けて取り囲んだのち殲滅すること。今回の攻撃で重桜の滑走路、飛行場を奇襲することが出来たが敵は警戒して駆逐艦しか出してこなかった。そして、その駆逐艦もこちらに来ることはなく引き返していった……囮としての作戦は失敗だ」

 

「ですから、あそこで艦載機を出して駆逐艦だけでも攻撃してしまおうと言ったのです!今からでも遅くないです!攻撃しましょうです!」

 

 ユナイは大声でエンタープライズに意見を述べる。

 

「駄目だ。第二次攻撃は認められない。これは、旗艦である私の命令だ。従ってもらう」

 

「むー!ならばせめて納得できる説明が欲しいです!」

 

 ユナイが不貞腐れながら言うのに対して、エンタープライズは手を顔の位置まで上げて指を三本立てる。

 

「理由は三つ。まず一つ目、敵には空母が存在し健全である。こちらが発艦準備中に攻撃を受けてみろ。甲板上の艦載機が誘爆して被害が大きくなるだろう」

 

「戦闘機が巡回していて攻撃を受けるとは思えないのです」

 

「その油断が命取りになるだろう。現にユニオンの航空母艦と空軍の航空機による攻撃で重桜の航空母艦四隻を戦闘不能状態まで追い込んでいる」

 

 エンタープライズは薬指を折り曲げる。

 

「次に、敵は駆逐艦による高速部隊だという事。群島地帯と言う島が多いこの海域において駆逐艦は戦艦よりも脅威となる。海域の情報、練度が劣る私達では追撃しても撃沈は難しい……下手をすればこちらが危険となる」

 

「シュミレーションでは対駆逐艦戦は八十パーセントの命中率です!実戦で少しパーセントが落ちると考えても撃沈は可能なはずです!」

 

「運よく撃沈できたとして何隻だ?逆上した敵は私達の想像をはるかに超えて突っ込んでくる。護衛艦隊でそれ全てが防げるはずがない。そんな中、攻撃してきた敵に対してどう対処するつもりだ?」

 

 中指を折り曲げて、エンタープライズは言う。

 

「最後に、貴方の練度の問題だ。連携も取れなければ、個人での能力も低い。奇襲に焦った貴方の艦載機が敵の攻撃でどれだけ落とされた?それだけじゃない、攻撃する際に一斉に攻撃を仕掛けたから艦載機同士が空中衝突してバラバラになったのを私はちゃんと確認している」

 

「あれはちょっとしたミスなのです!次はあのようなミスはしないのです!」

 

「動かない地上物、さらに目標対象が大きくてあの撃墜率だ。これでは駆逐艦にまともに攻撃を当てれるとは思えないな。私はそう思ったから引き上げただけだ」

 

 そう言うとエンタープライズはユナイの頭をポンポンとなでる。

 

「貴方はまだ幼い騎士だ。だが、これから誰よりも強くなれる。今は焦らずに着実に任務をこなすことだけを考えて前を向いていればいい。困ったときは私達が助ける。必ずな」

 

「だから、子ども扱いするなです!」

 

 エンタープライズの手を払いのけて怒るユナイ、手を払われて楽しそうに笑うエンタープライズ。少し離れて笑い出す護衛艦隊の駆逐艦達。

 

 こうして、ユナイの初めての任務は失敗に終わったのだった。




今回は短く前編、後編の二話ずつ計四話の作戦でした。
話半ばですが元々、重桜とユニオンはメインであるロイヤルと鉄血の戦闘に添える形で登場させる予定だったのですが、それでは読者(作者も含む)も飽きてくるかなと思いいっそのことメイン回にしてしまおう!と思って作られた作品ですので書いていて楽しい反面、話をどうつなげようか試行錯誤しております。
これからも面白い作品になるように頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!


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【ちょっと一息】 ハボクックお姉さんの朝

その知らせは工場で働いている者達にも伝わった。

ハボクック氷山空母が数年ぶりに帰ってきたのだ。

その知らせを受けた工場の者達は作業を急ピッチで仕上げると集まりだす。

そして、数枚の紙と様々な絵具を取り出した。

その者達は何もしゃべらずに一生懸命、手紙とイラストを書くのであった。


――ロイヤル海軍基地本部:中庭――

 

 

 日が昇りたての朝七時四十八分、気温は十度にも満たない寒さの中で一隻の艦船(KAN-SEN)が中庭で紅茶を楽しんでいた。

 

「ふぅ……早朝の紅茶はニルギリのストレートに限りますわね。柑橘系のような香りは心に安らぎを与えて、親しみやすく爽やかな飲み口……まさに目覚めの一杯として最高の紅茶ですわ」

 

 紅茶を楽しんでいたのはハボクック氷山空母、かつての大戦でロイヤルガードと称された艦船(KAN-SEN)だ。

 

 今は艤装のメンテナンスのために海軍基地本部に滞在している。

 

「ベットの方にいらっしゃらないと探しましたが、ここに居られましたかハボクック様」

 

「あら、お手数をかけてごめんなさいベルファストさん。出来るだけ涼しいところでアーリーモーニングティーを楽しみたくて、ベットから出てきてしまいましたわ。今度から置手紙を出しておきますね」

 

「メイドとしては寝室でお待ちしていただけると助かります」

 

 ティーセットを持ったベルファストがハボクックに寄って来て、机にティーセットを置く。

 

「ベルファストさん、アーリーモーニングティーをご一緒していただけるのですか?」

 

「紛らわしい動作をしてしまい申し訳ありません。このティーセットは女王陛下の物です。ハボクック様に一つお渡ししなくてはいけない物がございまして、それを出すために一度テーブルに置かせていただきました」

 

「そうでしたか。これが女王陛下のアーリーモーニングティーセット……流石、豪華ですわね。それで私に渡したいものとは?何が出てくるか楽しみね」

 

「ご期待に添えるかどうかは分かりかねますが、大きめの封筒が届いております。送り主はまんじゅう様からです」

 

 そう言うとベルファストはメイド服の裏ポケットから大きめの封筒を取り出した。

 

「どう考えてもこの大きさの封筒を持ち運んでいて取り出せるような大きさではないと突っ込みが必要なところから取り出しましたね……。と言いますか、まんじゅうから私に……?え、まんじゅうって文字が書けましたの?それはつまり私達、艦船(KAN-SEN)の言葉を理解しているという事?」

 

「はい、私も最初は驚かれましたが彼?彼女?達は多彩なようで……他にも色々なところで活躍されているとのことです。説明させていただきたいのですが、もうそろそろ女王陛下が起床なされる時刻ですのでお先に失礼します」

 

 そう言うと、ベルファストはテーブルに置いたティーセットを持ち上げさっさと立ち去ろうとする。

 

「このような疑問を放置したまま立ち去らないでいただける!?あ、煙幕を使って離脱するなんて卑怯ですわよ!?ちょっと!ベルファストさん!……行ってしまいましたか」

 

 ハボクックの声むなしくベルファストは立ち去り、ハボクックはため息をついた。

 

「……とりあえず、開けてみましょう。一体何が入っているのかしら?これは手紙とイラスト……?このイラストは私でしょうか?」

 

 封筒の中には一枚の手紙とハボクックの絵が描かれたイラストが同封していた。

 

「手紙の方は何が書かれているのでしょうか……?」

 

「――初めましてハボクックお姉さん!私の名前はまんじゅう!今回、ハボクックお姉さんが久しぶりに本部へ戻ってくると聞いて居てもたってもいられずお手紙を書かせていただきました!

 覚えていないと思いますが、先の大戦で助けてもらった一匹で、いつかハボクックお姉さんに感謝の言葉を言えたらいいなと思っていました。ですが、私達に声帯はありませんので話せないです。

 なので、直接お手紙にさせていただきました!改めまして、お礼を言わせていただきます。

 先の大戦では私たちまんじゅうを助けていただきありがとうございました!

 同封しているのは私達の感謝の気持ちで北の海で頑張っているハボクックお姉さんを描かせていただきました!喜んでくれたら嬉しいです。まんじゅうより――」

 

 ハボクックはしばらく黙り、同封していたイラストを手に持つ。

 

 イラストは流氷地帯でフェアリーソードフィッシュを飛ばしているハボクックの姿。

 

「……いい出来ですわね。また、あの海に戻る時に額縁に入れて持って帰りましょう」

 

 ハボクックは嬉しそうに微笑みながらイラストを眺めるのであった。




今回はちょっと息抜……という事で、ハボクック氷山空母に助けてもらったまんじゅうからのお手紙とイラストが送られてきたという話です。
まんじゅうはどんなことをしているのでしょうね。ミニゲームに参加したり、工場運営もしていたり……企画を作っているのも、もしかしたらまんじゅうなのかもしれませんね。
そんな、まんじゅうの一人として普段活躍しているハボクックお姉さんに手紙を出すとなるとこんな形になるのかな?と思い楽しく書かせていただきました。
ご存じの方がいらっしゃると思いますが、pixivにて同じ内容を投稿しております。
そちらの方では今回は実際にハボクックお姉さんが三十話イラスト表紙として登場しております!
イラストをいただき感謝感激です!これからも頑張りますので、どうぞお付き合いください!


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重桜の姉妹

長門「五航戦だけではなく、鉄血の最新鋭艦を南方に向かわせて良かったのか?」

長門の問いに対して天城は頷く。

長門「お主の事じゃから何か策でもあるんじゃろうが……余も乗りかかった船じゃその采配しかと見よう」

長門の言葉を聞いて天城はにっこりと微笑むのであった。


――重桜南方海域:重桜南方基地――

 

 

「ひどい有様ね……司令室に数発の爆弾が落とされているわ」

 

「陸上滑走路は穴だらけ、倉庫は跡形もなく吹く飛ばされている……敵も本気と言うことね」

 

 被害状況を確認するために外を歩いていた二隻の姉妹艦、翔鶴と瑞鶴の五航戦は最も被害が大きかった基地航空滑走路と瓦礫の山と化している基地航空隊倉庫を確認して言う。

 

「瑞鶴、ユニオンはまだ本気ではないわ。艦船(KAN-SEN)を攻撃せずに地上目標だけ攻撃し、第二次攻撃をせずに撤退した……これはこちら側の艦船(KAN-SEN)を誘い出すための罠だったのよ」

 

「第二次攻撃が来ていた場合、索敵に向かった駆逐艦の水雷戦隊が航空母艦を攻撃できたという意見もあるけど……」

 

 瑞鶴の意見に対して翔鶴は首を横に振って答える。

 

「無理でしょうね。水雷戦隊が奇襲をかけても敵航空母艦からの攻撃が待っているわ。仮に敵航空母艦が基地へ攻撃をしていた場合も護衛艦隊に阻まれて逃げられてしまうわね」

 

「初めから無理な戦いだったというわけね……天城さんはどうして航空母艦や戦艦を基地に待機させたのかな?」

 

「それに関しては簡単よ。天城さんは敵の攻撃が動ける艦船(KAN-SEN)を攻撃してなかった……陽動だと最初から気が付いていたから主力艦は基地で待機させていた。水雷戦隊を出撃させたのは索敵もあるでしょうけど、被害を最小限に抑えるための陽動と味方航空母艦の先制攻撃用意も兼ねていた」

 

 いまいち話を理解できない瑞鶴は首をかしげる。

 

「簡単に言えば第二次攻撃の被害を最小限に抑える戦法を執ったのよ。基地に攻撃すれば基地に待機中の戦艦、航空母艦、援軍の私達で対処して、水雷戦隊に攻撃すれば基地から攻撃機を発艦させて奇襲をかけれる。その間、水雷戦隊は回避行動に専念すれば艦載機の回収で逃げ遅れた航空母艦を攻撃できるって寸法よ」

 

「なるほど!流石、翔鶴姉!」

 

「……私は援軍行進中にそのことが分かったわ。それを報告を受けたその瞬間、ここまで考え抜いた天城さんは間違いなく天才よ。赤城先輩が尊敬するのも納得がいくわ」

 

「天城さん凄すぎます……でも、翔鶴姉もすごいよ!私なんて今聞かされて分かったもの」

 

 自虐的になった翔鶴を宥めようとフォローする瑞鶴。

 

「ありがとう瑞鶴、お姉ちゃんも負けていられないわね!これから滑走路の修理とか頑張らなくちゃ!」

 

「そうだよ翔鶴姉!私も頑張るぞー!おー!」

 

 翔鶴が持ち直すと瑞鶴は持ち上げる。この姉妹艦は二隻で一つだ。 

 

「姉妹……か。私達もあのようになれたらよかったのにな」

 

 姉妹の仲睦まじい姿を遠目で眺めているものがいた。

 

 それは鉄血より来た孤独の女王、ティルピッツだ。

 

 彼女は鉄血の航空母艦不足分を重桜に求めた対価として重桜に一時的に加入している。

 

 その条件を提案したのは他でもないティルピッツの姉妹艦であり、姉であるビスマルクだった。

 

「指導者として忙しい姉とは違い、私は姉の命令で色々な戦場を駆け巡っていた。だから、異動が決まった時に会えたのが最近の姉との交流となるわけだが……再び会えなくなることを通告されたのは皮肉だな」

 

 翔鶴、瑞鶴の五航戦が二隻で一つならば、ビスマルク、ティルピッツは表裏であった。

 

 だが、表のビスマルクは国のために裏のティルピッツを異国に出さなければならない。

 

「いつかは私もあの姉妹のように仲良く……は無理でも話し合えるようになれるかしら」

 

 ティルピッツは姉の苦労を知っている。だからこそ、力になりたくて今回の異動の件も嫌がることはなく受け入れた。

 

「これは、私への試練。色々な体験をして姉を裏から支えれるように勉強しないといけないわね」

 

 国難を救うために異動になったティルピッツだが、そこには異動に関しての悲しみなどはなく、今はどうしたら姉のビスマルクと仲良くなれるか翔鶴、瑞鶴の姉妹を見て勉強するのであった。




重桜南方基地に派遣された援軍は五航戦である翔鶴、瑞鶴、加えて鉄血より交換で来たティルピッツです。
これで、南方基地に集結している戦力は。
航空母艦、龍驤、祥鳳、翔鶴、瑞鶴。戦艦、伊勢、日向、扶桑、山城、ティルピッツ。駆逐艦、暁、響、雷、電、浦風、磯風、谷風、浜風。
合計で十七隻となりました。
巡洋艦(軽巡洋艦、重巡洋艦)がいませんが、戦艦と空母を主軸とした大艦隊です。
今後どんな活躍を見せてくれるのか、期待してください!


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反撃の狼煙

ユナイ「今日も敵の攻撃は無くて暇なのです……」

敵の反撃を予測していたユニオンは発着艦の練習も兼ねて最新鋭であるユナイに上空警戒をさせていた。

しかし、予測していた攻撃は一切なく、一か月が経とうとしている。

ユナイ「暇なのです、面倒なのです、早く戦いたいのです!敵さん何をしているのですか!」

ユナイは駄々をこねて叫ぶ。

それをエンタープライズに注意され、しばらく黙るのは本日二回目であった。


――重桜本部:本殿横会議室――

 

 

「それでは、今作戦における被害状況をご報告しますね。まず被害は南方基地司令部に数発の爆弾、これは修復可能です。次に基地航空滑走路及び基地航空隊倉庫は攻撃が集中していたこともあり修復不可能でしょう。燃料倉庫、弾薬庫、兵糧倉庫、艦船(KAN-SEN)には被害はありません。基地航空隊による援護は不可能ですが、出撃は可能でしょう……というのが私どもの見解です」

 

 被害にあった南方基地の詳細を天城が話していく。

 

 それを会議室に集まっている他の艦船(KAN-SEN)は黙って聞いていた。

 

「次に、水雷戦隊が発見した敵機動部隊についてですが、艦船(KAN-SEN)の証言と司令室に合った記録を照らし合わせての予想になります。情報を鵜呑みはせずに聞いてください。敵機動部隊は航空母艦二隻、随伴艦に駆逐艦四隻、潜水艦は発見できませんでしたが、手薄な点を見るに一~二隻ほど海域を警戒していたと判断できるでしょう」

 

 ここで三笠が手を挙げて質問する。

 

「話の腰を折ってすまないが、潜水艦の数が少し少なすぎのような気がしてな。何故その数を出したのか理由を説明してもらおう」

 

 三笠の問いに対して天城は答える。

 

「あくまで予想ですが、敵機動部隊の周辺は群島地帯であり海底が浅いところが多く存在します。場所によっては潜水できず、座礁したり、上空から攻撃を受ければたちまち撃沈してしまいます。機動部隊を護衛しつつ十分に潜水出来る深さのある海底は二か所しかありません。そこに一隻、もしくは両方に配置するとなると最高でも二隻の潜水艦が潜んでいると考えたのが私の予想です」

 

 三笠は「なるほど……」と言うと手を下ろした。

 

「話を続けます。敵機動部隊は一隻は最新鋭の大型航空母艦、もう一隻はエンタープライズであることが分かりました」

 

「エンタープライズ……グレイゴーストめ、まだ私達の邪魔をするか!」

 

 天城がエンタープライズの名前を出した瞬間、赤城の顔は険しくなり加賀は怒りをあらわにする。

 

「赤城?加賀?落ち着きなさい。まだ報告の最中ですよ」

 

「ごめんなさい、天城姉様」

 

「……すみません、天城さん」

 

 天城の一言によって赤城と加賀が深く深呼吸して気持ちを入れ替える。

 

「確かにエンタープライズは強敵です。しかし、それ以上に厄介な存在が出てきました。それが最新鋭の大型航空母艦です。南方基地の司令部の記録によると敵機は二百機以上。エンタープライズは五十機を操作可能なのは確認されていますが、他の百五十機はどこから発艦されたと思われますか?」

 

「まさか……なるほど、それが最新鋭の大型航空母艦の恐ろしさと言うことか」

 

 いち早く気が付いた三笠が驚きの声を出す。

 

「その通りでございます三笠様。この一隻の航空母艦から百五十機も艦載機が発艦し、基地を攻撃したと言うことになります」

 

「にわかに信じがたいが……だが、結果が出ている以上、天城の答えは正しかろうな」

 

 今まで沈黙していた長門が口を開く、それほど敵は強大であると言うことが分かる。

 

「ですが、弱点も存在します。まず、発着艦の時間の長さ。百五十機もの艦載機を出し入れするには、それだけ無防備な時間が増えることを指します。次に舵の悪さ。これほど大きな船です、回頭するには大きく旋回する必要があるでしょう。最後にその大きさです。これほど巨大な船は水上艦にも航空機にも良い的になるでしょう」

 

「流石は天城さんです!少ない情報から弱点まで予想できちゃうなんて土佐、感服いたしました!」

 

 天城の言葉に土佐が反応して褒めたたえた。気を逃した赤城、加賀は土佐を恨めしそうに見る。

 

「では、これからどうするか……天城、もう案はあるのだろう?」

 

「はい。それでは、これからは今作戦について語らせていただきます。今作戦名は七変化作戦……その内容は二方面同時攻撃作戦です」

 

 天城の出した七変化作戦……この作戦は後々まで語られる大規模作戦になると、この時会議室に居た者は誰も思いもしなかったのであった。




次から本格的にユニオンと重桜の戦闘が始まる予定です。
ユナイの秘められた能力と、天城の作戦……これからの物語も楽しみにしていてください!


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重桜の反撃

廊下を一隻の艦船(KAN-SEN)が走っている。グレイゴーストとも恐れられたエンタープライズだ。

エンター「今日もまたスクランブルか、重桜は一体何を考えているんだ……?」

エンタープライズは携帯食料のレーションを片手に走る。目指すは南西の群島地帯。

エンター「今日こそ敵艦を見つける!」

護衛の駆逐艦達が後から走ってきているが間に合っていない。

エンタープライズは敵艦隊を見つける事しか考えていなかった。


――ユニオン南方海域:南東群島海域――

 

 

「また空振りです……敵さんの姿は見えないのです」

 

 晴天の空の下、ユナイは索敵機を出して敵艦隊を探している。

 

 だが、今回も敵の姿などはなく見えているのは見慣れた西の群島地帯、東に広がる海だけだった。

 

「これで本日二回目なのです……帰ったらご飯をゆっくり食べたいのです」

 

 日も高く登り切った正午、ユナイは敵航空機をレーダーが捉えたことによりお昼ご飯を抜いて出撃している。

 

 だが、その表情には接敵に対する興奮などはなく、また来たのかと言う飽きれが現れていた。

 

 それもそのはずである。何せここ一週間ほぼ毎日レーダーに入っては緊急出撃し、敵が撤退しているのを確認しては基地に戻る行動を繰り返していたからだ。

 

 さらに、その場所、時間帯、敵の種類もバラバラで現在、エンタープライズ率いる部隊はレーダーが南西に捉えた敵艦隊を探しに出撃し、ユナイは敵航空機が現れた南東に出撃している。

 

「――そっちの状態はどうだ?何か発見できたか?――」

 

 無線でエンタープライズから通信が入る。

 

「全くダメなのです。敵の姿はないのです」

 

「――そっちも空振りか。私の方も何も見えない――」

 

 どうやら、エンタープライズも空振りで終わったようだ。

 

「毎日毎日出撃疲れたのです!甘いものが食べたいのです!ゆっくりと寝たいのです!早く戦闘がしたいのです!」

 

「――防衛も立派な仕事だ。気を抜けば痛い目を見るだろう――」

 

「分かっているのです!でも、これが叫ばずにいられるかなのです!」

 

 エンタープライズの言葉にユナイが苛立ちをあらわにして叫ぶ。

 

 そんな中、一通の電文がユナイに届いた。

 

「またレーダーによる敵の発見情報なのです。何々……所属不明艦影が複数接近、場所はユナイの近くなのですね」

 

「――元々、ユナイはそのまま基地に戻る予定だったのだろう?護衛艦隊も無しに行動するのは危ない。少し遠いが私が行こう――」

 

「どうせ、敵艦影は撤退するのです。ここまで来たらついでに見に行くのですよ。エンタープライズさんは基地に戻れば良いなのです」

 

「――こら、勝手な行動は慎め。私が行く。良いか、ユナイはそのまま基地に……私にも電文だ。所属不明艦影が複数接近。こちらは私が近そうだな――」

 

「決まりなのですね!エンタープライズさんはそっちを任せるのです!ユナイはこっちをちょちょいっと片付けてさっさと基地に戻って甘いものを食べるのです!」

 

 エンタープライズが何か言おうとしたのを無視してユナイは無線を切る。

 

 連日の出撃で疲れていたユナイはさっさとこの任務を終わらせて基地に戻り、食事をすることだけが頭を支配していた。

 

 だが、その願いは叶うことはない。何故なら、その艦影こそ、重桜南方基地から出撃した航空母艦を含む機動部隊だったからだ。




今回は重桜が相手を精神的に追い込んでいるシーンを書きました。
何回も警戒させておくと相手は疲労からか慢心からか油断が生まれますからっというのを書いてみたつもりでしたが、皆様には伝わったでしょうか?
これは現代を生きる私達にも言えますね、常に仕事詰めの毎日では疲れてミスが多くなります。
こまめに息抜きして、しっかりと体を休めて頑張っていきましょう!


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燐灰(りんかい)作戦 前編

ユナイ「レーダーに反応はあるですね……でも、足は遅いしきっと戦艦ですね」

ユナイはレーダーに反応した影の点滅の位置から足が遅いことを読み取る。

ユナイ「ここで戦艦を落とすですと……基地の防衛は無くなるです!これは見逃せないです!」

急いでユナイは盾を水平に保ち攻撃機を発艦していく。

ユナイ「ここで大戦果を挙げてエンタープライズを見返してやるのです!行くです!艦載機達!」

ユナイは疑うこともなく艦載機を発艦していく……。


 

――ユニオン南方海域:南東群島海域――

 

 

 ユニオン南方海域の群島諸島の陰にその者達はいた。

 

「対空電探に影ありです!敵機が来ます!」

 

「うまい事釣れたみたいやな……みな、対空警戒怠らんようにな!ここからが気張り時やで!」

 

 敵機の来襲に反応した龍驤と祥鳳が対空警戒を呼び掛ける。

 

「機数の確認を急いで!とは言っても、翔鶴姉と私がいれば艦隊に敵機を近づけさせないけどね!戦闘機中隊、攻撃機中隊、行きなさい!」

 

「瑞鶴?あんまり油断しちゃいけませんよ?戦闘機中隊、敵機を一機残らず落としてきてくださいね。攻撃機中隊、必ず当てて帰ってくるのですよ」

 

 上空ですでに展開していた翔鶴と瑞鶴の戦闘機十八機、艦爆及び艦上攻撃機六十機、合計七十八機が南東へ向かう。

 

「私達も負けていられません!戦闘機中隊、攻撃機中隊、行っちゃってください!」

 

「第四航空戦隊と第五航空戦隊の戦果勝負やな!うちも張り切っていきましょか!みんな行けー!誰が主役か、見せたるんやで!」

 

 続いて龍驤、祥鳳の戦闘機十八機、艦爆及び艦上攻撃機二十一、合計三十九機が後へと続く。

 

「これが重桜の航空戦力か……なるほど、確かにユニオンですら引けを取らないだろう」

 

 翔鶴、瑞鶴、龍驤、祥鳳の後方で控えていたティルピッツが呟く。

 

 それもそのはず、重桜の航空母艦から発艦したのは合計百十七機で、重桜の受けた空襲の半数ではあるが一隻の航空母艦を相手には過剰な攻撃だともいえる。

 

「戦闘機が敵艦載機と接触、交戦に入ったよ翔鶴姉!」

 

「敵さん、相当慌てていたみたいね、護衛の直掩機が全然いないみたい」

 

「神子(長門)様の作戦通りですね。艦隊の速力を二十ノットで統一すれば戦艦と勘違いして攻撃機中隊しか来ないと……予想通りで、龍驤驚きです!」

 

「流石、神子(長門)様やな、うちらも期待に添わんといけんな!」

 

 翔鶴、瑞鶴、龍驤、祥鳳の戦闘機三十六機が次々と敵の艦載機を撃ち落としていく。

 

「十時の方向に敵機来ます!統一運動止め!最大船速で回避しますよ!」

 

「何機来ても結果は変わらへん!全てうちが撃ち落としたる!」

 

 戦闘機の猛攻を突破して艦隊に突撃してくる敵艦爆及び艦上攻撃機を戦艦を先頭とした輪形陣で応戦する。

 

「撃って撃って撃ち落とせ!翔鶴姉には指一本触れさせない!」

 

「瑞鶴?張り切り過ぎてはダメよ、敵をしっかりと捉えて一機ずつ確実にね」

 

 翔鶴の言葉に対して瑞鶴は「分かっているよ翔鶴姉!」と返す。

 

 その掛け声をティルピッツは聞いて「……羨ましいな」と小さく呟く。

 

「敵機、二時の方向より襲来!十二機!?編隊を組んで突っ込んでくる!」

 

「いつの間にこんな数を発艦させたんや!?それよりも早く撃ち落とさんとまずいことになるで!」

 

 新たな敵機の来襲に艦隊が慌てる。

 

「まさか、これを使う時が来るとは……貴方達にとってそれが最後の抵抗となるかもしれないけど、戦いは無慈悲なものよ……目標、敵艦載機編隊!標準を合わせて……前門主砲、放て!」

 

 ティルピッツから放たれた主砲はまっすぐに敵艦載機へと飛んでいく。

 

 そして、敵艦載機の前に到達した時に炸裂!編隊を組んでいた艦載機達は一瞬にしてバラバラになり海へと落ちていった。

 

「す、凄い……何今の攻撃は!」

 

「ごめんなさい。同盟国とはいえ、これは話すことは出来ないわ」

 

「瑞鶴!敵に集中しなさい!まだ、航空母艦を叩いていないのだから、油断したらいけません!」

 

 ティルピッツが放った特殊弾に興味を示す瑞鶴を叱る翔鶴、それに対して「後で聞かせてもらうからね!」と言って戦闘に集中する瑞鶴。

 

 その姉妹のやり取りを見てティルピッツは少し微笑ましいと笑うのであった。




アパタイト(和名、燐灰石)、宝石言葉「優しい誘惑」……となっていますが、どこが優しいのでしょうか?
敵の神経を常に張らせて疲れさせ、判断力が鈍ったところに艦載機の大編成をぶつけてくる今作戦はどう見ても鬼畜ですね!
どうして「優しい誘惑」なのかは後になって分かります。
艦載機の出撃数は翔鶴と瑞鶴(珊瑚海海戦)、龍驤(フィリピンの戦い)、祥鳳(ドーリットル空襲)を参考にしています。


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悪戯娘の秘策

瑞鶴「敵艦載機の撃墜を確認!ふぅ……これで何機目になるかな」

瑞鶴はとめどなく飛んでくる敵の艦載機を戦闘機中隊が半数以上墜とし、残った艦載機は輪形陣をとっている航空母艦と戦艦の対空砲火が墜としている。

少し疲れが見え始めた瑞鶴に翔鶴が「大丈夫?」と声をかける。

瑞鶴「平気平気!このくらい蒼龍先輩達の訓練に比べたらへっちゃらよ!……そう、あれは訓練ではないわ……!」

瑞鶴がそう言うと声をかけた翔鶴も苦笑いする。

瑞鶴「そんなことよりも敵艦載機は減ったし、あとは敵大型航空母艦を見つけて攻撃するだけね!私が一番槍をもらうわ!」

地獄のような訓練を振り払うかのように、瑞鶴は敵大型空母の発見に全力で取り掛かるのであった。


――ユニオン南方海域:南東群島海域――

 

 

「かなりやばいのです!ユナイの艦載機達がボロボロなのです!」

 

 航空母艦であるユナイは焦っていた。先手攻撃したはずが返り討ちに合っているからだ。

 

 大型航空母艦ユナイテッド・ステーツは搭載機数こそ多いが、全機発艦させるには二つの滑走路をもってしても時間がかかる。

 

 しかし、敵を甘く見ていたユナイは先手攻撃にとらわれ過ぎていて自慢の稼働搭載機数全機による一斉攻撃戦法をしなかったのだ。

 

 さらに焦ることとなったのは敵の艦種である。

 

「足が遅いから戦艦だと思ったのに!何で航空母艦がちんたら進んでいるですか!?おまけに戦闘機も発艦済みで待ち伏せしていたですし!」

 

 敵は航空母艦四隻と戦艦一隻による高速部隊。これが戦況を大きく変えることになる。

 

 戦艦の速力は約二十ノットと比較して航空母艦の速力は約三十ノット、十ノットの速力の違いは侵入角度や攻撃目標地点、攻撃のタイミングを全て狂わせ命中率を大きく下げることになる。

 

 加えて敵の攻撃を予測していた敵航空母艦は上空に多数の戦闘機を待機させており、ユナイが発艦した護衛の直掩機がほとんどいない艦載機を墜としていった。

 

「対空レーダーに無数の反応がこっち来ているです……これはまずいのです!急いで撤退なのです!」

 

 焦るユナイは急いで転舵を行い海域からの離脱を行おうとする。

 

 しかし、ユナイは大型航空母艦。転舵性能が悪く大きく弧を描きながら回頭するしかない。

 

 それに加えて、双胴型であるユナイは最新鋭であるが重桜の航空母艦に比べて速力が出ない。

 

 迫りくる敵艦載機、ユナイは腰からぶら下げている任務道具に手を伸ばした。

 

「前回は使う前に終わってしまいましたが、今回は非常事態に付き遠慮なく使うです!これがユナイちゃんの秘匿兵装です!」

 

 ユナイは秘匿兵器を三つ手に取ると先端の紐を抜いて、進路前方三方向へと放り投げる。

 

 投げられた秘匿兵器は海に落ちると浮いてモクモクと煙幕を発生させた。

 

「これがユナイちゃんの秘匿兵器!超発煙ブイです!さっさと隠れるです!」

 

 ユナイは敵艦載機が突っ込んでくる前に煙幕の一つ中へと姿を消す。

 

「にしし!これで敵の攻撃は当てにくくなったですね!ですが、このままやられっぱなしで終わらせないです!甲板上の攻撃機は直ちに撤収、戦闘機発艦準備急ぐです!」

 

 頭上では敵の艦載機がぐるぐると三つの大きな煙幕を取り囲むように旋回している。

 

 数機の艦載機はしびれを切らしたのか燃料が少なくなったからか、煙幕の中へと次々と爆弾を落としたり魚雷を流したりしている。

 

 だが、大きな煙幕に潜むユナイに爆弾が当たるはずもなく、魚雷もレーダーに映し出されて難なく回避される。

 

「攻撃機の撤収作業完了!戦闘機の発艦準備も完了!さあ、ここから反撃です!行きなさいです、ユナイの最新鋭戦闘機中隊!」

 

 煙幕による視界の不良をものともせずユナイは戦闘機を発艦させることに成功した。

 

 煙幕から出てきた戦闘機に敵艦載機は混乱し編成が乱れる。

 

 そのことを確認するとユナイは急いで追加の発煙ブイを前方に投げて煙幕の中を隠れながら撤退し始める。

 

 優勢とは言えないものの撤退に成功しそうと安堵したユナイに一通の電文が送られてきた。

 

「こんな忙しい時に一体誰です!?おっと、司令室からでしたか。何々内容は……!?エ、エンタープライズさんが大破撤退中。至急援護に向かえです!?そんな……こ、こんなのって有り得ないのです!あのエンタープライズさんが負けた……!?」

 

 それは、エンタープライズの撤退を支援するよう呼び掛ける内容だった。




今回は敵機が来襲したユナイの取った行動にスポットを当てて書きました。
ハボクック氷山空母が氷による自己再生航空母艦であるなら、ユナイテッド・ステーツは煙幕による隠蔽発艦航空母艦と言う面白い船となっております。
実際は風の影響などで煙幕の大きさ、向き、煙の留まっている時間など問題もありますが、それを考慮してなお隠せる大量の煙幕を噴霧する発煙ブイだと言うことで……!
次回はエンタープライズに視点を当てて書こうと思っておりますので、今後ともこの小説をよろしくお願いします!


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Gray ghost(グレイゴースト)

天城「そうですか、接敵に成功して作戦通り動いていますね」

天城は南西艦隊の旗艦扶桑と南東艦隊の旗艦翔鶴より報告を受ける。

どちらも接敵及び攻撃に入っているとのことだ。

天城「さて、私達も動きましょうか」

天城がそう言うと他の者達は静かに頷いて薄暗く霧のかかった海へと消えていった。


――ユニオン南方海域:南西群島海域――

 

 

「私としたことが……油断したか!」

 

 エンタープライズが飛んでくる砲弾の雨を回避しながら言う。

 

 エンタープライズ率いる機動部隊は右舷に敵戦艦部隊と後方に水雷戦隊の追撃を受けていた。

 

「敵戦艦主砲の発砲を確認!来ます!」

 

 フレッチャーの警告に艦隊全員が身構える。

 

 敵戦艦から放たれた砲弾は輪形陣の中央、エンタープライズを挟夾(きょうさ)した。

 

「今のは危なかったな……だが、次は全門斉射が来るだろうな。その時が私の最後かもしれない」

 

「正義は不滅!正義は負けないわ!まだ諦めてはダメよ!必ず方法はあるはずだわ!」

 

 死期を予感するエンタープライズにチャールズ・オースバーンが声を上げる。

 

「ちっ、面倒いね。後方から魚雷よ。この進路なら当たらないけど、進路変更したら当たる可能性が高いわ」

 

「ひぃ~!あの……ス、スペンスどうしたら……」

 

 エンタープライズの後方にいるフートから魚雷の報告を受ける。スペンスは挟み撃ちされている現状に、誰かしら自分への指示を仰ぐ。

 

「全艦、後進一杯!魚雷を避けつつ敵の砲弾も回避する!」

 

 エンタープライズの指示に全艦艇が速力を緩めて魚雷を回避する。

 

「次の魚雷の警戒を怠るな!速力を高速に戻して旋回!急ぎ基地へ戻るぞ!」

 

 エンタープライズが全艦艇に指示を出したその時、右舷前方で戦艦の主砲が光り砲弾が飛来する!

 

「くぅっ!?しまった!エレベーターに被弾したか……!」

 

 エンタープライズの側面に二発、エレベーターに一発、艦橋に一発被弾した。

 

「エンタープライズさん!?大丈夫ですか!」

 

「私は大丈夫だ。……だが、艦載機の格納が出来なくなったのは辛いな」

 

 フレッチャーが被弾したエンタープライズを心配するが、エンタープライズは痛がるそぶりはなく返事を返す。

 

 だが、彼女は艦載機格納不能状態……そして、側面から抜けた砲弾はエンタープライズの舵機能も奪っていた。

 

「困ったな……これでは回頭することが出来ない。エレベータ及び舵の修理には時間がかかるか……全艦、回頭して基地に帰投せよ」

 

「!?エンタープライズさん!?何を言っているんですか!一緒に基地に戻るですよ!」

 

「そうよ!諦めることは不義よ!それに、まだ正義は負けてないわ!」

 

「ちっ!面倒ね……スペンス、前に出るよ!」

 

「あああの、スペンスは頑張ります!だから諦めないでください!」

 

 護衛艦隊のフレッチャー、チャールズ・オースバーン、フート、スペンスがエンタープライズの前に出る。

 

「皆でエンタープライズさんを守りますよ!妹達、ここが頑張りどころです!」

 

「ここで諦めるのは不義だわ!正義は必ず勝利する!私達は絶対に諦めない!私達が諦めていないのだからエンタープライズさんも諦めるのはまだ早いわ!」

 

 フレッチャー、チャールズ・オースバーンがエンタープライズの近くまで来て抗議する。

 

「皆……悪いが、これは命令だ。全艦、帰投せよ。ここですべてを失うわけにはいかない。安心して欲しい、私が囮になれば君たちは必ず帰投できる」

 

「何が安心して欲しいですか!?そんなの無理ですよ!」 

 

「何度も言わせるな!もう時間がない!必要以上に狙われている私はどのみち助からない。ならばユナイテッド・ステーツを援護して欲しいと言っている!彼女であればこの海域の制海権を取り戻すことが出来るはずだ」

 

「エンタープライズさん!」

 

 フレッチャーが大声を出してエンタープライズを呼ぶ。

 

「貴方は私達を助けようとしてこのように言ったかもしれませんが、私達はエンタープライズさんを護衛することが任務です。これは旗艦であるあなたの命令ではありません、総司令部による命令です。もし、貴方が重桜へ特攻をかけるというのであれば私達もお供をします。そのことを忘れないでください」

 

「正義は何度でも立ち上がるわ、だからまだ諦めない!」

 

「本当に面倒な旗艦様だな。私達が最後まで援護するよ」

 

「ス、スペンスも頑張ります!」

 

 フレッチャーが、チャールズ・オースバーンが、フートが、スペンスが、誰一人としてまだ諦めてはいなかった。

 

「そうか……どうやら私は間違っていたようだな。急ぎ舵を修理して帰投する!フレッチャーは本部へ至急救援要請を!チャールズ・オースバーンは南方基地に電信して航空要請をしてくれ!フートとスペンスは煙幕を私にかぶせて隠してくれ!」

 

 護衛艦隊の駆逐艦はそれぞれ了解して、自身の指示された仕事をし始める。

 

「私達はまだ負けてはいない!ここを凌いで必ず帰投する!」

 

 エンタープライズの言葉に護衛艦隊が「おー!」と返事をした。

 

 こうして、エンタープライズの撤退が開始されたのであった。




今回は予告通りエンタープライズの撤退シーンを書かせていただきました。
エンタープライズが出撃する理由となったレーダーの反応は水雷戦隊の反応で、途中で近くに反応したのは戦艦艦隊でした。
さらに、水雷戦隊は大きく回頭してエンタープライズの後ろをとることに成功しております。
群島諸島ですのでレーダーと視界を見事にかいくぐっての奇襲成功、及び背後を突く水雷戦隊はまさに歴戦の艦船(KAN-SEN)と言えるでしょう。


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燐灰(りんかい)作戦 中編

ユナイ「早く、早くエンタープライズさんを助けに行かないとです!」

敵艦載機の猛攻をもろともせずユナイは全速力で西へ航行している。

多くの群島が点在する西側はユナイの航行を邪魔をするかのように立ちふさがっているが、島を避ける行動は敵艦載機の狙いを定めにくくさせる効果を発揮した。

ユナイ「ええい!島が多くてまっすぐ進めないのです!ただでさえ船速も回頭も遅いのにこんなに狭い隙間を通らされるなんて……今のは座礁ギリギリなのです!」

文句を言いながらユナイは出せる最大の速度を緩めないでエンタープライズの元へと向かったのであった。


――ユニオン南方海域:南西群島海域――

 

 

「敵、煙幕内に隠れたまま出てきておりません!」

 

「あのグレイゴーストの事だ。お得意の応急修理でもしているんじゃねえか?」

 

 扶桑の報告に伊勢が皮肉を言う。

 

 だが、扶桑も伊勢も顔つきは真剣で主砲は煙幕中央を狙っており、いつでも撃てる体制を保ったままだ。

 

「作戦通り追い込めましたけど……敵さん、降伏してくれるでしょうか?」

 

「私は降伏するとは思えないけどね……もし、降伏しないのなら私がこの手で沈める」

 

 山城が不安を口に漏らすが、日向は降伏しないと思っているようだ。

 

「降伏してくれれば無駄な争いは避けられるのですが……神様、どうか私達の思いを届け給え……!」

 

「祈ってどうなるわけねえだろ……お、水雷戦隊が煙幕を囲んだな」

 

 伊勢が扶桑に突っ込みをいれて、水雷戦隊は敵を囲むように陣取る。

 

「――敵航空母艦及び水雷戦隊に告げるでござる!現在、其方達は隠れているつもりでござろうが私達は其方達を電探で補足しているでござる――」

 

「暁さん達の降伏勧告が始まりましたね」

 

 暁がエンタープライズの艦隊に降伏勧告を呼び掛けているのを扶桑たちは見守る。

 

「――煙幕内にとどまっても無駄よ!私達、水雷戦隊八隻の主砲と魚雷、後方には戦艦の主砲が貴方達を狙っているわよ!――」

 

「――ひきこもるのは良く無い事。素直に降伏して欲しい――」

 

「武装を解除し、投降してくれれば後は私達が先導して基地まで連れて行ってあげるわ!もちろん重桜の基地本部にね、そこで修理してあげる!」

 

 雷、電、響と言葉を拡声器で流していく。

 

「――私達は貴方達が抵抗しない限り戦うつもりはないわ。抵抗したら悪いけど沈んでもらう――」

 

「――磯風も戦いたくはないのー!――」

 

「――見たところオイル漏れしているからそこまで長くはもたない、そうでしょう?決断を迫るようで悪いけど、基地までの誘導も考えて十分しか待ってあげれない――」

 

「――十分以内に煙幕から出てくれば降伏を認めるわ。もし、十分を超えれば……煙幕内に魚雷を流させてもらうわ――」

 

 浦風が戦う意思が無い事を伝え、磯風もそれに便乗する。

 

 浜風はその鋭い観察力でオイル漏れを発見し、そのことを取り上げて時間を定める。

 

 そして、谷風が最終通告をした。

 

「念のため砲撃体制は保ってください。降伏すると見せかけて抵抗する恐れもありますから」

 

「その時はこの四一式四五口径連装砲六基が敵を射抜くだけだ」

 

 扶桑の言葉に日向が即座に反応する。

 

「あわわ!日向さんそんなに殺気立てないでください~!こ、怖いですよ……」

 

「そうだぜ、日向。敵はまだ何もしていないんだからな。そう焦るなって」

 

 山城が日向に怯える。それをからかうように伊勢が煽っていく。

 

「伊勢?あまり妹をいじめないでもらえますか?それと今は作戦中です。有事に備えてください」

 

「はいはい、分かりました分かりましたっと」

 

 扶桑が伊勢を睨むが伊勢は反省はしていない。

 

 扶桑が「はあ……」とため息をついた時、煙幕から一隻の艦船(KAN-SEN)が出てきて扶桑達は主砲を合わせる。

 

「あれは……グレイゴースト!」

 

「本丸自らお出ましとは驚いたね……日向、狙いを外すんじゃないよ」

 

「姉さんこそ酒に酔って手元狂わないでくださいよ」

 

「あれ?でも、護衛の駆逐艦が見えませんね……」

 

 エンタープライズの登場に扶桑が驚く。

 

 伊勢、日向が主砲の標準を合わせている中、山城は駆逐艦がいないことに疑問を口に出した。

 

「――CVー六、エンタープライズ。降伏勧告を受け投降する。だが、現在オイル漏れと舵が破損して修理しないと航行できない。その時間、待って欲しい」

 

 エンタープライズの言葉に護衛の駆逐艦が続々と煙幕の中から出てきて抗議しだす。

 

 だが、エンタープライズが諭すように何か話すと駆逐艦は悔しそうにしながらも大人しくなる。

 

「ふぅ……一時はどうなるかと思ったが何とかなりそうだな」

 

「姉さん!まだ、敵を完全に信用しちゃいけない!こら、お酒を飲むな!あーもうっ!」

 

 ひと段落が付いたと伊勢がお酒を飲み始め、日向がそれを怒る。

 

「願いが神様へと届いたのですね!今晩のお供えは豪華にしましょう!」

 

「山城も今日は一生懸命に祈るよ~!」

 

 扶桑と山城は抱き合って作戦の成功を喜んだ。

 

 だが、この四隻の戦艦達の主砲は誰一人としてエンタープライズから離れてはいなかった。




今回はエンタープライズがまさかの降伏するシーンを書いてみました!
史実では何度もやられては応急修理で立ち直り攻撃を仕掛けてくる、恐ろしいまでの戦闘狂ですがアズールレーンのエンタープライズは強さの中に優しさがあり、駆逐艦を連れて玉砕するようなキャラではないなって事で今回の形に落ち着きました。
重桜に降伏したエンタープライズとフレッチャー、フート、スペンス、チャールズ・オースバーンはどうなってしまうのか……今後をご期待ください!


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悪戯娘の意地

赤城「うふふ……さあ、行きなさい私の艦載機達!」

赤城は霧の中にも関わらず難なく艦載機を飛ばしていく。

狙うは千キロ離れたユニオンの船。

赤城「天城姉様の作戦は順調です。この赤城にかかればあんな船、すぐに鉄屑に変えて海へと沈めて見せますわ!ああ、天城姉様……この赤城の活躍を期待していてくださいませ!」

赤城の高笑いが霧の中で不気味に響き渡る。

だが、千キロ先の船はそんなに離れた事を知る方法などなかった。


 

 

――ユニオン南方海域:南西群島海域――

 

 

「見えたです!あれは……げっ!敵戦艦じゃないですか!」

 

 狭い群島の間を全速力で航行したユナイテッド・ステーツことユナイは敵に鹵獲されそうになっているエンタープライズと敵主力艦隊を発見した。

 

 ユナイは島に突っ込むごとく旋回して島影へと隠れる。

 

「まずいのです!まずいのです!目の前は敵戦艦、後ろからは敵航空母艦の艦載機が迫ってきているのです……これは本当にまずいのです!」

 

 ユナイは最初、敵駆逐艦による高速部隊による奇襲を受けて撤退しているものだと判断し、敵戦艦が存在していたことをすっかりと忘れていた。

 

 もし、敵駆逐艦だけであれば包囲網を簡単に崩して救出でき、後ろから迫りくる敵航空母艦と対抗できると考えていた。

 

 だが、現実は無情にも敵戦艦四隻と駆逐艦八隻の主力艦隊。

 

 とてもじゃないが、真正面から戦って勝てるような戦力ではなかった。

 

「……現在のダメージと状況について確認するです!」

 

 敵艦載機の猛攻を受けながらも無理やり突破してきたユナイは走行甲板に五発、魚雷八発被雷しているが、ダメージコントロールが優秀だったためか運よく艦載機の発着艦と航行に支障はない。

 

 敵艦載機は攻撃をし終えると追撃するユナイの戦闘機から逃げて敵航空母艦へと戻っていた。

 

「今は敵航空母艦は攻撃してきた艦載機の格納と第二次攻撃隊の準備で忙しいはずです。本当は上空の戦闘機を格納して次の空襲に備えたかったのですが……エンタープライズさんを助けるには今しかないのです!ユナイはこれより敵主力艦隊に攻撃機を飛ばすのです!」

 

 そう言うと、ユナイは上空に飛ばしている戦闘機を上空に待機させたまま第二次攻撃を行おうと艦上爆撃機と艦上攻撃機を準備する。

 

「これは危険な賭けなのです。失敗すればユナイもただでは済まないのです!」

 

 本来、航空母艦とは敵の主砲の届かないような遠距離から艦載機を飛ばし、一方的に攻撃する艦種であるため艦載機が中にある船の中は空洞で防御力はそこまでない。

 

 今は島の後ろにいることで主砲の射線からは守られてはいるが、敵戦艦が島を回ってきた場合は?戦艦の主砲を至近距離で受けて大丈夫な航空母艦はまずいないだろう。ユナイも例外ではなかった。

 

 それに加えて、攻撃し終えた艦載機を格納している間に敵航空母艦から発艦した敵艦載機がユナイに攻撃をしてくるだろう。

 

 それを何とかしのぎつつ群島を盾にしてユニオン南方基地まで撤退しなければならない。

 

「……ん?南方基地が近いのです?ならユナイに着艦させずに基地に着陸させればよいのです!なんでユナイは最新鋭艦載機の存在を忘れていたんですか!」

 

 ユナイに搭載されている最新鋭艦載機……F八B艦載機は最大速度が速く航続距離が長い。

 

 普通の艦載機であれば基地にたどり着く前に燃料切れで海へと落ちてしまうだろうが、ユナイの艦載機であれば四千キロ離れた基地まで難なく戻れるだろう。

 

 そうなると作戦は大きく変わってくる。

 

「まず最初にユナイの艦上爆撃機及び艦上攻撃機を次々と飛ばして敵戦艦を航行不能もしくは主砲が使えない状態に持っていくです。次に敵航空母艦から飛んできた敵艦載機を上空で待機させている弾薬も燃料も心もとない戦闘機と随時発艦させた戦闘機が頑張って落としていくです。最後に敵艦載機からの攻撃を耐えた後、エンタープライズさんとその護衛艦隊を取り囲む駆逐艦隊を攻撃し包囲を崩してエンタープライズさんを連れて逃げるです!……言っていて無理難題感が凄いですね!」

 

 普通の航空母艦であれば出来ない作戦。だが、ユナイテッド・ステーツなら出来る。

 

「やることは決まったのです。戦況は最悪、援軍の見込みはなしです……ですが、ユナイは絶対に諦めないのです!ここからはユナイの意地なのです!必ず成功させてエンタープライズさんを助け出すのです!艦載機達行くのです!」

 

 そう言うとユナイは発艦準備の出来た艦上爆撃機と艦上攻撃機を同時に発艦させていく。

 

 どんなに絶望的な状況でも諦めない意思は、悪戯娘の強い思う力の表れでもあった。




燐灰作戦はユナイの鹵獲ではなくエンタープライズの鹵獲でしたが、それを何としても止めようとするユナイの行動を今回は書かせていただきました。
今回登場した艦載機F八B艦載機は速度性能と航続距離を重点に置いた艦載機で、翔鶴と瑞鶴の当時最高の性能を持った零式艦上戦闘機より速度が早く、航続距離に至っては約一,五倍の距離を飛ぶことが出来ます!
ですが、艦載機の大きさが大きくて運動性能が若干悪いため採用されなかった三機しかない幻の機体です!
ユナイの船体は戦艦だったので、ここぞとばかりに登場させちゃいました!
今後、このF八B艦載機の出番も増えていくと思います。
「速力が早く」て「飛んでいける距離が長い」事を覚えてもらえれば今後の小説も読んでいて面白くなるかも?しれませんので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!


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燐灰(りんかい)作戦 後編

伊十九「赤城様の高笑いが怖いの……」

敵船団の索敵をしていた伊十九が赤城率いる第一航空戦隊の近くで浮上して言った。

伊十九「伊十九も雷撃したいけど、神子(長門)様からダメだって言われているから攻撃できない……うぅ、魚雷を撃ちたいの……」

伊十九がそんなことを言っていると、伊百六十八、伊二十五、伊二十六が浮上してきた。

伊十九「あ、みんな~!お疲れ様なの~!」

伊十九の声に潜水艦隊の伊百六十八、伊二十五、伊二十六が手を振って返事を返す。

伊十九「休憩おしまい!魚雷は撃てないけど、索敵も大事なお仕事だからね、頑張って索敵しちゃうよ~!」

そう言うと再び深い海の底へと潜って消えた。


――ユニオン南方海域:南西群島海域――

 

 

「後方から敵機!あれは……基地を攻撃してきた艦載機です!」

 

「なにっ!?どこから来た!それよりも迎撃開始!的は大きいぞ!」

 

 扶桑と伊勢の対空電探に複数の影が映り、風を切る轟音と共に迫りくる艦載機。

 

「こんなにたくさんの艦載機、間違いないです! Ruthless hound(ルゥースリィスハウンド)です!」

 

「航空母艦四隻でも駄目だったか!だが、手負いなら私達で何とかできるはずだ!副砲、高角砲、機銃、標準が合うものから各自掃射初め!」

 

 山城と日向と対空防衛に入る。

 

「後方の島より機影の上昇を確認!敵は島裏にて発艦を行い攻撃を行っている模様です!」

 

「くそっ!こっちはGray ghost(グレイゴースト)の鹵獲で動けないってのに好き勝手やってくれるなっおい!」

 

 扶桑が艦載機の上昇位置を視認してユナイテッド・ステーツの位置を割り出したが、今はエンタープライズを鹵獲するために移動も攻撃も出来ないでいた。

 

「拙者たちの出番でござるな!」

 

「響を信じて!大型航空母艦だとしても必ず倒して見せるから!」

 

「雷様に任せて!第六駆逐隊……発進!」

 

「電も行くよ……。第六駆逐隊……発進します!」

 

 第六駆逐隊の暁、響、雷、電がエンタープライズ包囲網から離れ、島裏へと全速力で航行する。

 

 それを確認した艦載機達は目標を戦艦から迫りくる第六駆逐隊の駆逐艦達へと変える。

 

「敵さんも焦っているでござるな!全く当たらないでござる!」

 

「魚雷はバラバラ、爆弾も至近弾にすらならないわ!」

 

「なるほどね!これが『そうていがい』ってやつね!一気に抜けるわよ!」

 

「敵さんは逃げ足が速い……?でも、皆のために逃がさない!」

 

 第六駆逐隊が島へと到達した時、島裏から島を隠すかの如く煙幕が発生した。

 

「なっ!?煙幕!?これじゃ何も見えないじゃない!」

 

「敵は航空母艦じゃなかったの!?みんな気を付けて!」

 

「なるほどね!これが『そうていがい』ってやつね!って雷達が受けるとは思ってなかったわ!」

 

「煙で何も見えない……Ruthless hound(ルゥースリィスハウンド)じゃなくてSmoke screen hound(スモォゥクスクリィハウンド)です……」

 

 島を覆い隠すように張られた煙幕の中を島に座礁しないように島裏へと進む。

 

「電探で味方の位置を把握して当たらないようにでござるよ!」

 

「今度は衝突しないよ!?」

 

「ちょっと電!?いきなり大声出してどうしたの!?」

 

「あーきっとあの日のことを『ふらっしゅばっく』したのね……」

 

 暁の指示に電が過剰に反応して響が驚く。それを何処か納得したように雷がうんうんとうなずいていた。

 

「島にぶつからないように……って、おっと!」

 

「おっとなのです!」

 

 先頭を航行していた暁がユナイとぶつかりそうになる。

 

「危ないのです!気を付けるのです!」

 

「ご、ごめんなさい!視界が悪くてぶつかるところでした!」

 

 ぶつかりそうになった事を怒るユナイに暁は素直に謝る。

 

「まあ、こんな煙幕の中じゃ仕方ないですね。分かったのです、許すのです。次からは気を付けるですよ~」

 

「はい、そちらこそお気を付けてくださいね」

 

 軽く会話を交わした後、ユナイと暁は別れる。

 

「……って!ちょっと待った!今の敵大型航空母艦じゃない!全艦隊、砲雷撃戦用意!」

 

「バレたのです!逃げるのです!」

 

 敵との接触に気が付いた暁が響、雷、電に戦闘準備に入る。

 

 ユナイは全速力で前進して逃げるのであった。




今回は奇襲攻撃を受けた重桜をメインに書かせていただきました。
ユナイの予想は外れて戦艦ではなく駆逐艦がユナイに接近しましたね。
燐灰(りんかい)作戦後編と言うことで今度はユニオンの視線で書かせていただきます。
今後ユナイはどんな風に切り抜けるのか、はたまたエンタープライズ共々捕まってしまうのか……次回を楽しみにしていてください!
Ruthless hound(ルゥースリィスハウンド)、意味「残忍な猟犬」
Smoke screen hound(スモォゥクスクリィハウンド)、意味「煙幕猟犬」


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援軍の到着

???「あちゃ~……完全に出遅れちゃったかも」

彼女はそう言うと後ろを振り返る。後ろには複数の艦船(KAN-SEN)が待機していた。

???「それじゃ~今から反撃始めるよー!」

彼女の号令にその場にいた艦船(KAN-SEN)が拳を高く上げて答えた。

???「全艦隊、速力最大!攻撃機の発艦はじめ~!」

彼女はピンク色のツインテールと手に持った旗をなびかせながら、戦地へと向かっていった。


――ユニオン南方海域:南西群島海域――

 

 

「!?敵戦艦の対空砲火に艦載機……あれはユナイの艦載機か!」

 

 エンタープライズを遠方から狙う敵戦艦に次々とユナイテッド・ステーツの艦載機が飛んでいき攻撃を開始する。

 

「これはまずいでござるな……扶桑さん達はエンタープライズの監視で動けないでござる。仕方がないでござるな。第六駆逐隊!伊勢さんを攻撃する敵大型航空母艦を攻撃しに行くでござるよ!」

 

「分かったわ!大金星はこの響が取ってやるんだから!」

 

「電!遅れないようにね!」

 

「雷……転ばないようにね」

 

 エンタープライズを包囲していた駆逐艦、暁、響、雷、電が離れていく。

 

「……これはチャンスかもしれませんね。包囲網は手薄。しかも、敵戦艦も正確に狙ってこれるか不明ですし」

 

「残念だけど、貴方達の思っていることは予想済みだわ。変な動きを見せた瞬間、魚雷の的になってもらうから」

 

 フレッチャーの発言に対して浦風が反応する。

 

「動かないさ。私の舵は治っていないんだ。そう睨むことはないだろう?」

 

「笑えない冗談ね。舵が治ったら攻撃してくるつもりかしら?第十七駆逐隊四隻、六十一cm魚雷発射管四連装二基、計三十二本の魚雷が狙っていることを忘れているの?」

 

 エンタープライズの答えに対して浜風が魚雷を構えながら答える。

 

「磯風たちは戦いたくないんです。大人しく捕まっていてくださいー!」

 

「うるさい敵さんだな。相手するのも面倒だよ……」

 

 磯風の声にフートがめんどくさそうにしている。

 

「うん?風が……変わった?」

 

 谷風がそう言った次の瞬間、浦風達の上空の雲から急降下爆撃機が攻撃態勢で現れた!

 

「っ!敵機来襲!対空防衛しながら最大船速まで上げて一気に転舵!回避よ!」

 

 浦風が磯風、浜風、谷風に指示を出すが艦船(KAN-SEN)と言えどそんなに早くは動けない。

 

「くっ!ひ、被弾しました!」

 

「うわあっ!?今のは危なかったよぉ……」

 

「きゃっ!?至近弾!でも、谷風には当たらないよ!」

 

「次から次へと……!みんな、今が踏ん張り時よ!」

 

 急降下爆撃で浜風が被弾、磯風と谷風に至近弾、浦風は回避に成功して当たらない。

 

「今しかありません!妹達、砲雷撃戦用意!」

 

「すすすスペンス、がんばりますっ!」

 

「はぁ……面倒い……」

 

「正義の裁きを受けなさい!」

 

 フレッチャーの合図でスペンス、フート、チャールズ・オースバーンが攻撃を始める。

 

「これはまずいわ……伊勢さんに砲撃支援してもらわないと!」

 

「それは無理な話よね~」

 

 浦風の言葉に対して少し離れたところから言葉が返ってきた。

 

「誰だ!……あ、あの姿は!」

 

「そう!魔女っ娘アイドル!サラトガだよ~!満を持して華麗に登場!」

 

 浜風の答えに対してサラトガがポーズを決めながら答えた。

 

「今、サラトガちゃんだけなら問題なさそうとか考えたでしょ!私だけじゃないんだな~。後ろには航空母艦ラングレー、レンジャー、ボーグ。敵戦艦のところには戦艦ネバダ、オクラホマ、テネシー、カリフォルニア。重巡洋艦ポートランド、インディアナポリスがいるし~」

 

「今ここには海上騎士団、私クリーブランド、コロンビア、モントピリア、デンバーに加えて駆逐艦ラドフォード、ジェンキンス、ニコラス、オーリックが到着したからね!サラトガさん、前に出過ぎだって!」

 

 クリーブランドのお叱りにサラトガは「大丈夫大丈夫」と軽く流した。

 

「これはかなり厳しいですね……第十七駆逐隊は全速力で伊勢さん達の元へ!谷風!伊勢さん達に連絡です!鹵獲中止をして撤退準備を!」

 

「おっと、私達から逃げられるとでも思ったのかな?当然、逃がさないよ!」

 

 浦風の指示を聞いてクリーブランドが前に立ちふさがる。

 

 前方にはエンタープライズ率いる護衛艦隊とサラトガ、クリーブランド。後方にはクリーブランドが言った三隻の軽巡洋艦と四隻の駆逐艦。

 

 逃げられないことを悟り少しでも抵抗しようとする第十七駆逐隊。

 

「私は砲撃も出来るけど……上空からの攻撃があることも忘れないように!」

 

 サラトガが空を指さす。そこには航空母艦から飛び立った艦載機が急降下爆撃を行おうとしている最中だった。

 

 浦風達が最後の時を覚悟しながら空を見上げる。急降下爆撃機は風を切りながら猛スピードで降下していき。

 

 エンタープライズ及びサラトガに急降下爆撃を行う。

 

「きゃっ!?な、なにが起こったの!?」

 

「違う!あれは重桜の艦載機だ!空襲に気を付けろ!」

 

 油断していたサラトガの走行甲板に二発の爆弾が被弾、エンタープライズは治った舵で至近弾に留まる。

 

「今です!第十七駆逐隊全速力でこの海域から逃げます!」

 

「っ!逃がさなって、危な!?」

 

 逃げる浦風達を追いかけようとするクリーブランドに爆弾が落とされる。クリーブランドは急停止で何とか回避できたが浦風達を逃してしまった。

 

「敵戦艦のところに行ったわね……あっち側が不利かな。ネバダに電信して撤退するように伝えて!」

 

「え?撤退するんですか?」

 

 サラトガの指示にフレッチャーが聞き返した。

 

「これ以上の戦闘はお互いの損耗が激しくなるだけだし。それに加えて、ちょっと困った状態になっているから、今は燃料と弾薬を温存しておきたいんだよね~……」

 

「困った状態……?」

 

「うん、ちょー困っている!だから、いったん基地に戻るよ。全艦隊、戦闘止めて帰投!ほい、信号弾!」

 

 サラトガは理由を話さずに撤退を指示し、赤の信号弾を上空に撃つ。

 

 遠くで戦っているネバダ率いる主力艦隊は赤の信号弾を見るや、さっと反転して基地へと帰還していく。

 

 その光景に戸惑いながらも伊勢達も撤退を開始した。

 

 こうして、エンタープライズは救出され、双方に微妙な被害をもたらした戦闘は幕を閉じることとなる。




重桜艦隊
南西艦隊、旗艦伊勢、日向、扶桑、山城、暁、響、雷、電、浦風、磯風、浜風、谷風。
南東艦隊、旗艦翔鶴、瑞鶴、龍驤、祥鳳、ティルピッツ。
航空母艦四隻、戦艦五隻、駆逐艦八隻。合計十七隻

ユニオン艦隊
前衛艦隊、旗艦エンタープライズ、ユナイテッド・ステーツ、フレッチャー、フート、スペンス、チャールズ・オースバーン。
援軍艦隊、旗艦サラトガ、ラングレー、レンジャー、ボーグ、ネバダ、オクラホマ、テネシー、カリフォルニア、ポートランド、インディアナポリス、クリーブランド、コロンビア、モントピリア、デンバー、ラドフォード、ジェンキンス、ニコラス、オーリック。
航空母艦六隻、戦艦四隻、重巡洋艦二隻、軽巡洋艦四隻、駆逐艦八隻。合計二十四隻。

今回はサラトガ率いる機動部隊が重桜艦隊を奇襲してエンタープライズを助ける話でした。
エンタープライズとユナイを助けるために十八隻もの艦隊が援軍に駆け付けてきました!
ですが、どうして援軍がタイミングよく出てこれたのか?七隻差もあるユニオンがどうして攻めずに撤退を選択したのか?……次回明らかになります!


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参謀の誤算

司令室で一隻の艦船(KAN-SEN)が資料を手に取る。

レキ「あらら~また、輸送船が攻撃されたのね」

レキシントンは送られてきた資料に目を通しながらため息をつく。

レキ「サラトガちゃん、無事に帰ってこれるかしら……」

レキシントンは資料を机において司令室を後にする。

その資料には、輸送船を襲う敵は巡洋艦、駆逐艦、そして戦艦と航空母艦が複数確認されたと記載されていた。


――ユニオン南方海域:ユニオン南方基地――

 

 

「それでは、基地へと無事に帰投できたことを祝してカンパーイ!」

 

 サラトガが景気よく乾杯の合図を出す。それに続くようにバラバラと「乾杯」と声が上がる。

 

「なによー!みんな無事帰れたのに元気がないなー!」

 

「いや、確かに鹵獲されそうになっていた私達は奇跡的な生還と言っても過言ではない。だが、これだけの艦隊が動いて戦果が今一つではな。」

 

 サラトガの問いに対してエンタープライズが答える。

 

 その返答に数名の艦船(KAN-SEN)がうんうんと頷いた。

 

「敵戦艦二隻中破、二隻小破、敵駆逐艦三隻中破、一隻小破。対してこちら側の損害は航空母艦二隻中破、駆逐艦一隻中破ですね」

 

「ほとんどユナイが頑張って出した戦果ですね!もっと褒めるです!」

 

 フレッチャーが敵に与えた損害と被害状況を言い、活躍出来たユナイがふふんっと胸を張った。

 

「確かに今回はお手柄だったな。助けられたこともある、礼を言おう。助かった、ありがとうユナイ」

 

 そう言うとエンタープライズはユナイの頭をなでる。ユナイは驚きながらも「えへへ~」と喜んだ。

 

「……だが、上官である私の命令を無視し敵機動部隊と接触、こちら側に誘導したのは感心ならんな。さらに聞けばまた戦果を焦って一斉攻撃出来ていなかったらしいな。艦載機の損耗が激しいと報告を受けているぞ」

 

「そ、それは……痛いです!?痛いです!?頭蓋骨がきしむ音が聞こえるです!」

 

 ユナイの頭をなでていたエンタープライズがそのままアイアンクローを行いユナイがジタバタと暴れる。

 

「あはは……それで、なぜ撤退を指示したのかお話してくれませんか?」

 

 フレッチャーがサラトガになぜ撤退を指示したのか尋ねる。それを待っていたかのようにサラトガは言った。

 

「ユニオンの輸送船が撃沈されたり、拿捕されたりして、この艦隊を動かすだけの燃料と弾薬が底をつきそうだからよ!」

 

「……つまり、今の状態が続けば我々は戦わずして敗北するという事か」

 

 ユナイの頭から手を離したエンタープライズがサラトガに尋ねて、サラトガは「そういう事になるわね~」と返した。

 

「いたたです……。あれ?なら援軍と一緒に輸送船を連れてきたわけではないのです?」

 

 ユナイの鋭い指摘に対してサラトガは答えた。

 

「Jasminum sambac(ジャスミン・サンバク)作戦って覚えているかしら?敵の主力部隊をおびき寄せて叩く作戦ね」

 

「……なるほど、まだ作戦は続いていた。そういう事か」

 

 サラトガの言葉に対してエンタープライズが悟る。

 

「エンタープライズが気が付いた通り。最初の奇襲攻撃後、私達は一度本土へ帰るふりをして実は近くの海域に仮設基地を建設して敵が報復しに来るのを待っていたのよ。そして、敵機動部隊と敵主力部隊が釣れたから奇襲攻撃を行ったのが援軍と見えたって話」

 

「最低でも一週間はかかる航路が一瞬で辿り着いた理由はそもそも戻っていなかったからと言うことだな。しかし、そうなると補給線がバレたのはなぜだ?」

 

 エンタープライズ問いに対してサラトガは首を横に振る。

 

「それがさっぱりなのよね。念のために二線の補給路を確保していたはずなのに、その両方とも攻撃を受けて補給線が遮断されているのよ。だから、敵機動部隊が現れた時に撤退を指示したのは全艦隊で本土へ帰還する分の燃料と弾薬を確保しておきたかったというのが実態ね」

 

「全艦隊で本土への帰還……と言うことはこの基地を放棄するのか?」

 

 サラトガの最後の言葉にエンタープライズが質問する。

 

「本土からの航路が遠くて、補給線が分断されて孤立している状態で残る理由はないわ」

 

「そうか……分かった。皆!聞いての通りだ。速やかに撤収の準備を行うぞ!」

 

「こーら、まずは戻ってこれたことを祝いなさい。これがこの基地最後の宴会になるのだから。それに、燃料や弾薬が少ないといってもまだ三日分の余裕はあるから大丈夫でしょ~」

 

 サラトガの答えに対してエンタープライズが即座に指示を出したが、サラトガがそれを止めた。

 

「そうか……そうだな。まずは無事戻ってこれたことに関して祝おう。それから、この基地最後の宴会を堪能しなければな」

 

「にしし!エンタープライズさんは慌てん坊さんですね!」

 

 ユナイのあおりに対してエンタープライズがアイアンクローをお見舞いした。

 

 それを見た複数の艦船(KAN-SEN)が笑い声を上げる。

 

 こうして、ユニオンのJasminum sambac(ジャスミン・サンバク)作戦は終わりを告げたのだった。




今回は予告通り何故ユニオンが撤退を指示したかサラトガが話すシーンを書きました!
実際問題、二十四隻もの艦船(KAN-SEN)がいるわけですから、その分の燃料とか弾薬の消費は馬鹿になりません。
特にユナイテッド・ステーツの消費はエンタープライズの約二倍の設定になっておりますので、消耗が激しくて愚痴を言いたくなるエンタープライズの気持ちが分かります。
ユナイの色々な詳細は今後明らかになるかも?どうぞお付き合いよろしくお願いします!


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尖晶(せんしょう)作戦 前編

赤城「私達に勝とうだなんて、十年早いですわ。出直してらっしゃい」

航空母艦、戦艦のいないユニオンの護衛艦隊を一方的に攻撃して撤退させた赤城が笑う。

加賀「しかし、天城さんの言うことはよくわからんな。敵を全て生かして撤退させよなんて命令には驚いたものだ」

艦載機をしまいながら赤城に寄ってきた加賀が言った。

赤城「あら、天城姉様を疑っているの?」

加賀「違います姉様。ただ、予想外な命令に少し驚いているだけです」

赤城の問いかけに加賀が少し引きながら答える。

赤城「大丈夫よ、全て天城姉様に任せておけば上手くいくわ。今回もこれからも……」

赤城の言葉は心から天城に対しての絶対的で狂信的な信頼がにじみ出ていた。


 

――ユニオン南方海域:南東西海域――

 

 

「敵貨物弾薬補給艦の拿捕に成功した!」

 

 高雄が少し離れた天城に聞こえるように大声で伝える。

 

「やりましたね!これで二度目の拿捕成功です!」

 

「フフフフ……良かったです。今のところ計画通り進んでいますね」

 

 喜ぶ土佐に天城が微笑み返す。

 

「敵護衛艦隊は今頃、赤城率いる南東東艦隊と交戦中……補給艦は艦隊との接触を避けるために外側に進路を取ってここ、南東西に進軍することになる」

 

「そこを私達、天城艦隊で奇襲を行い最後の抵抗をさせずに補給艦を拿捕する……」

 

「拿捕した補給艦から燃料と資金、食料、嗜好品等を拝借して補給艦はユニオンに帰ってもらう。私達はその拝借した物資を使って海域に留まる。これが作戦なんですか?」

 

 川内、神通、那珂が作戦の大まかな内容を語った。

 

「拙者は分からんが……神子(長門)様も赤城殿も人目を置くお方だ。失敗はせど、間違いはなかろう。ならば、命じられた役目をしっかりと果たすのが我々の役目だ」

 

「もう、高雄ちゃんは真面目過ぎ。ほら、肩の力を抜いて……」

 

「なっ!?む、胸をもむな!ちょっ!?こら、やめんか!」

 

 真面目に語る高雄の背後を取って後ろから高雄の胸を鷲掴みする愛宕。

 

 それを見た川内は呆れ、神通は苦笑い、那珂は顔を手で隠してあわあわしている。

 

「あめちゃん入ってないかな~……あ!あった!あめちゃんだ~!」

 

「むつきちゃん、ほきゅうのふねのものはあまぎさまのものでしょ?かってにとっちゃダメだよぉ……」

 

「なかにあったおてがみが……かぜにふきとばされちゃったよぉ!どうしよう!」

 

 随伴している駆逐艦、睦月は補給艦の中から飴玉を探し出し、それを如月が天城に返すように言う。

 

 卯月は補給艦のリストを飛ばされてしまい追いかけていく。

 

「天城様?今後の予定ですが、いかがなさい、わっぷ!?」

 

「あら、ちょうどいいところに補給名簿が届きましたね。さて、今回はどのようなものが届けられていたでしょうか……なるほど、そろそろ次の作戦へ移りましょうか」

 

 土佐の顔に卯月が飛ばした補給艦のリストがへばりつく。それを天城がサッと取り、リストの内容を確認して言った。

 

「次の作戦ですか?次は主砲を撃てますか!?土佐は早く四十一cm砲を撃ちたいです!」

 

「慌ててはいけません、土佐。ですが、次はユニオンとの衝突になるでしょう。しっかりと装備の点検をしておいてくださいね」

 

 天城の言葉を聞いた土佐が「やったー!」と両手を上げて喜びを表現する。

 

 喜ぶ土佐から離れて、海をただ見つめている駆逐艦に天城が声をかけた。

 

「気分が優れないのですか?綾波さん」

 

「綾波で良いです天城様。気分は……大丈夫なのです」

 

 声をかけた駆逐艦、綾波はあまり乗り気ではない。

 

「やはり、戦闘をしたくないのでしょう?」

 

 天城の言葉に綾波はピクッ!と震える。

 

「戦闘は嫌いじゃないけど好きじゃないです。ただ普通に戦っていただけ……だけど、出来れば傷つけたくないのです」

 

 綾波は思っていることを天城に伝える。すると、天城は微笑んで言った。

 

「綾波さんは優しいお方ですね。ですが、そこまで心配しなくても大丈夫ですわ。何故なら今回行うのは戦闘ではありません。そうですね、今回行うのは演習です」

 

 天城の発言に艦隊全員が「え?」と固まった。

 

「それは、どういう意味なのです?」

 

 天城の言葉に綾波が質問をする。

 

 綾波のその言葉に対して天城はこう言った。

 

「今作戦では敵は撃沈しない……と言うことです」

 

 艦隊全員が疑問符を浮かべる中、天城は綾波に聖母のように微笑みをするのであった。




今回は護衛艦隊のいない補給艦隊を拿捕した天城艦隊を書かせていただきました。
今作戦の重桜艦隊は

天城艦隊、天城、土佐、高雄、愛宕、川内、神通、那珂、綾波、睦月、如月、卯月。

赤城艦隊、赤城、加賀、摩耶、鳥海、長良、五十鈴、阿武隈、雪風、水無月、文月、長月、新月、春月、宵月、伊百六十八、伊十九、伊二十五、伊二十六。

航空母艦二隻、航空戦艦二隻、重巡洋艦四隻、軽巡洋艦六隻、駆逐十一隻、潜水艦四隻、合計二十九隻となっております。
天城様のキャラがブレッブレな気もしますがこのまま行きます!こんな感じが良いですよ~とかありましたら感想で教えてください、お願いします!


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尖晶(せんしょう)作戦 中編

レキ「敵さんも思い切った作戦に出たわね~」

レキシントンは送られてきた補給艦からの情報と、生き延びて帰ってきた護衛艦隊の情報を整理する。

敵艦隊は二分隊、航空母艦に隻を主軸とする機動部隊と未知の戦艦二隻を主軸とする主力艦隊。合計二十五隻。

レキ「これは重桜本土の防衛が手薄になっているっていう事でもあるわよね~」

艶やかで魅惑的な瞳が地図の重桜本土を見つめていた。


――ユニオン南方海域:南東東海域――

 

 

 晴天の下、それぞれ赤と白の衣装をまとった二隻の航空母艦は敵の索敵を行っていた。

 

「……姉様。こちら側に異常はありません」

 

「うーん、こちら側にも何もいないわね……」

 

 白い衣装をまとった加賀が東側を、赤い衣装をまとった赤城が南側を索敵機を出して警戒している。

 

 だが、広い海で頻度良く敵も現れることはなく空振りに終わった。

 

「今日は敵がいないのだ?なーんだ、つまらないのだ……雪風様はもっと戦いたいのだ!」

 

「うんうん、てきがいないといたずらできないもんね」

 

「水無月ちゃんのじょーだんなの?およ?じょーだんじゃないの?」

 

「ピー子のでばんがないの……ワイワイもりあがりたいの!」

 

 赤城達の言葉に雪風は落胆して、水無月がそれに乗っかる。

 

 文月は水無月が本当に悪戯したがっていることに困惑して、長月はピー子(ブザー)を鳴らしたそうにしていた。

 

「前の戦闘は皆にご迷惑をおかけしたので、今のうちに直せるところは直しておかないと……」

 

「今日戦闘がないのは、きっとカミサマのご加護があってのことですね!」

 

「今のうちに装備の点検でも……他の艦船(KAN-SEN)の皆さん、宵月にできることはありますか?」

 

 新月が前回の戦闘の反省点を思い返している。

 

 春月は神に祈りをささげて、宵月は次の戦闘に備えて装備の点検を開始した。

 

「今日は敵が来ないのか……早くしなければ何かを斬ってしまいそうだ」

 

「今夜の献立はなにがいいでしょうか……補給艦から拝借した物を見るにはトンカツでしょうか?」

 

 潮風に髪をなびかせながら摩耶は自分に酔っている。その隣には鳥海が今夜の献立を考えていた。

 

「たまには少しズル休みして、サボっちゃってもいいよね?まあ、敵がいないからだけど」

 

「姉さん、あて達は周辺の警戒しよう?魚雷とか、怖いから……」

 

「戦うより護衛任務の方が好き……だから、何もない日はあては好き。周辺の警備付き合うよ」

 

 長良がサボることを提案するが、五十鈴が周辺の警備を提案した。

 

 阿武隈は五十鈴に賛同して周辺の警戒をする。

 

「さぁ、大物を狙うわよ!伊十九、伊二十五、伊二十六!もうひと潜りするわよ!」

 

「伊十九、頑張っちゃうよ~」

 

「伊二六?道を間違えないようにね?」

 

「あの時はちょっとうっかりしていただけだもん!今度は大丈夫!」

 

 伊百六十八が他の潜水艦達を鼓舞して、それに伊十九が乗っかる。

 

 伊二十五は妹の伊二十六を心配するが、伊二十六は大丈夫だと笑顔で返した。

 

「……しかし、なかなか騒がしい艦隊ですね。姉様はどう思いますか?」

 

 加賀の発した一言に他の艦船(KAN-SEN)達がビクッ!と反応する。

 

 赤城、加賀は重桜の中ではかなり偉い立場にいる。そのような艦船(KAN-SEN)から疎まれれば帰還した後にどうなるか分からない。

 

「あら、そうかしら?私は賑やかで良い艦隊だと思うけど……ただし、私達だけ働いているというのはどう映るでしょうね?」

 

 赤城の最初の言葉で他の艦船(KAN-SEN)達はホッとするが、あとに発せられた言葉によって蜘蛛の子を散らすように警戒任務を始めた。

 

 魚一匹も逃さないような警戒態勢は天城と合流するまで行われたのであった。




今回は敵補給艦隊が来ないか警戒する南東東艦隊、通称赤城艦隊の様子を書いてみました。
おそらく十人以上の艦船(KAN-SEN)を喋らせたのは今回が初めてだと思います。書いていて「これ文字数大丈夫かな?」と心配しましたが一言だけなら意外と何とかなるもんですね。
ただし、内容が薄い感じになってしまい、話も全然進まないのでやっぱり代表が喋ってもらうのが一番良さそうな感じがします……。
今度はユニオン視線で書く予定なので、ユナイちゃん大好き指揮官の人は楽しみにしていてください!


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尖晶(せんしょう)作戦 後編

サラ「みんな~帰る準備は出来たかな~?」

サラトガの声に他の艦船(KAN-SEN)達がオー!と反応した。

サラ「うんうん、元気良し!さて、基地に最後の別れだね。今までありがとう……それでは、派手にいっちゃいましょう!」

そう言うとサラトガは基地に向かって爆撃機を飛ばす。

爆撃機は基地の中央に爆弾を落とすと、基地に残していた弾薬が誘爆、大爆発と共に基地は消し飛んだ。

それは、敵に使われないためでもあり、ここにユニオンが戻る事が無い事も意味していた。


 

――ユニオン南方海域:南東東海域――

 

 

「護衛艦隊の処理お疲れ様でした、赤城」

 

「お褒めに預かり光栄ですわ、天城姉様」

 

 南東西に展開していた天城艦隊が南東東に待機していた赤城艦隊に合流する。

 

「赤城?言われた通りに作戦は進行していますか?」

 

「はい、敵護衛艦隊は全て本土の方へお帰りしていただきましたわ。天城姉様がいらっしゃったと言うことは……次の作戦に移行すると言うことですね?」

 

 天城の質問に対して赤城が答える。そして、赤城は次の予想を天城に問う。

 

「ええ、次の作戦は南西群島海域に存在する敵機動部隊を叩きます。勿論、敵艦船(KAN-SEN)は全て本土へ戻れる程度にですが」

 

「天城さん、質問をしてもよろしいでしょうか?」

 

 天城と赤城の会話に加賀が入ってきて、加賀が天城に質問をする。

 

「なぜ、敵を撃沈しないのですか?南方基地にいる五航戦(翔鶴、瑞鶴)と力を合わせれば……いえ、私達の艦隊だけでも敵を殲滅出来るはずです」

 

 加賀の質問に天城は「いい質問ですね」と言い答える。

 

「今作戦は簡単に言えば時間稼ぎなのです。敵の戦線の復帰を遅らせる……その他にも理由はありますが、その話は本土に戻ってからにしましょう」

 

「ですが、戦線の復帰をされてはこの戦いは厳しくなる一方です!」

 

 天城の言葉に加賀が食いつく。

 

「加賀?あまり天城姉様のお手を煩わせないで頂戴?」

 

「良いのですよ赤城。確かに艦船(KAN-SEN)を撃沈しても良い作戦ではあるのです。ですが、その後のことを考えるに今の状態を維持させた方が相手には不利なのですよ」

 

 天城に異論を出した加賀を睨む赤城。それを、天城が宥めて加賀に答えた。

 

「今の状態を維持した方が相手に不利……?それは、どういう意味でしょうか?」

 

「言葉通りの意味です。艦隊の維持には膨大な資源が必要ですから、あえて生き残らせる……そうすれば敵は今後も維持のために資源を使わざるを得ない。さらに、修理と訓練に時間を掛けさせればその間は攻め込みにくい。その他にも理由はありますが……それは作戦外の事ですので良いでしょう」

 

「良く分かりませんが、ちゃんとした目的がある。と言うことですね……分かりました、天城さんを信じて動きましょう」

 

 天城にそう言うと、加賀は持ち場へと戻る。

 

「申し訳ありません、天城姉様。加賀には後できつく言っておきますから」

 

「いえ、あれで良いのです。それより、赤城。赤城は私の言葉を鵜呑みしすぎる傾向にあります。艦隊を指揮する以上、何故この様な作戦にしたのか考え、分からなければ問わないといけませんよ?」

 

 天城の返しに赤城は「申し訳ありません、天城姉様。次から気を付けます」と頭を下げた。

 

「何事も頭を下げることがよろしいとは言えませんよ?……こんな小姑のようなことをしていないで作戦へ戻りましょう。赤城、二艦隊の合流と航行進路指定、戦闘指揮を頼めますか?」

 

「はい!お任せください天城姉様!この赤城、精いっぱい艦隊の指揮をさせていただきますわ!潜水艦、駆逐艦、軽巡洋艦は前へ!第一警戒航行序列を取りますわ!」

 

 天城の言葉を聞いて赤城は張り切って艦隊の指揮を執る。

 

 こうして、天城艦隊は赤城艦隊に合流して連合艦隊となってユニオン南方基地がある北西へと向かったのであった。




まずは謝罪を。本当に申し訳ございませんでした!
本来なら、予定通りユニオン視線で書く予定でしたが、話の説明文を入れたかったり時系列的にもう一話挟まないとだめだとなりまして、重桜視線で書かせていただきました!
次こそはユニオン視線で書けると思いますので、今後ともよろしくお願いします!


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嵐の前の静けさ

天城「そうですか。敵艦隊を発見しましたか」

赤城から報告を受けて天城は安堵した。

一番の問題であった敵との接触が出来たからである。

おおよその経路は固定されているとはいえ、この大海原では敵と会敵せずに終わる可能性もあったからだ。

天城「さて、敵はどのように動くでしょうか……」

天城の目は獲物を見つけた狐のように鋭く怪しく微笑むのであった。


 

――ユニオン南方海域:南東西海域――

 

 

「――レーダーに艦影あり!艦影は編隊を組みながらこちら側に接近中!――」

 

「編隊の組み方、補給艦隊との連絡が取れなくなった事を考えるに近づいてくる艦影はおそらく重桜艦隊ね」

 

 ユニオン南方基地を放棄してユニオン本土への帰還を目指すサラトガ艦隊の正面に、敵と思われる艦影がクリーブランドのレーダーに映し出された。

 

 駆逐艦と共に先行していたクリーブランドのレーダーに艦影が表示されたことを、クリーブランドはサラトガに無線で知らせて、その知らせを受けたサラトガはすぐに味方艦隊ではないと判断する。

 

「これはチャンスなのです!ユナイ達航空母艦で敵艦隊をボッコボコにしてやるのです!」

 

 前回、駆逐艦に追い回されていたユナイは前回の借りを返すつもりのようで、戦う気満々だ。

 

「そうね~こっちには軽空母も含めて航空母艦が六隻、出せる艦載機は約三百機ってところかしら。航空母艦全ての艦載機が出せた場合の話だけどね」

 

 戦う気満々のユナイを見ながら、サラトガは言った。

 

「まず、エンタープライズはエレベーターに被弾して稼働出来ているものの発艦に時間がかかるでしょ?サラトガちゃんは走行甲板に二発貰って応急修理したけど発艦が少し難しいでしょ?ユナイちゃんだって前回の戦闘で艦載機がもうほとんどの残っていないでしょ?」

 

 サラトガが指を折りながら問題点を言っていき、最後の言葉でユナイが「うっ!」言葉詰まる。

 

「今健在なのはラングレー、レンジャー、ボーグの三隻で一度に飛ばせる艦載機が約七十機ぐらい、そこに私達三隻が艦載機を全て飛ばして約二百五十機ほどね。加えて第二次攻撃以降はその半分以下になるわ」

 

「そうなると、問題となるのは接触する重桜艦隊の航空母艦の有無だな。もし、航空母艦が居なければまだ勝負になると思うが。もし、居た場合はこちらの艦載機がどこまで活躍できるだろうか……」

 

 サラトガ、エンタープライズと意見を言っていく。

 

「――敵観測機に見つかった!頑張って落とそうとしてみるけど距離が遠い!――」

 

 サラトガとエンタープライズが話し合っている最中、クリーブランドの無線から敵艦載機と接触した報告が流れてきた。

 

「……どうやら、重桜艦隊は航空母艦がいるみたいだな。さて、どうしたものか」

 

「発見された以上、どうしたもこうしたもないでしょう!覚悟を決めて戦いながら全力で逃げるしかないわ。――駆逐艦、巡洋艦は前に出て!航空母艦は敵予想位置より大きく回って艦載機の発艦に専念!戦艦は航空母艦と共に動きながら駆逐艦、巡洋艦の砲撃支援と航空母艦に飛んできた艦載機の対空支援!この戦い、生きて祖国へ帰るわよ!――」

 

 サラトガの指示に他のユニオンの艦船(KAN-SEN)は素早く陣形を変えて対応する。

 

 皆、この戦いで勝とうとは思っていない。ただ生き延びたい、祖国へ帰るのだという意思が彼女達を突き動かす。

 

 こうして、ユニオン艦隊と重桜艦隊の大規模な戦いが始まろうとしていた。

 

 この時のサラトガはまだ、中距離戦における航空戦艦がどれほど厄介な存在であるかを理解するすべはない。




今回はユニオン艦隊が重桜艦隊に見つかって大規模海戦が始まる前を書かせていただきました。
ユニオン艦隊二十四隻、重桜艦隊二十五隻(と潜水艦四隻)の大規模艦隊同士の戦闘と言うことで、作者も頑張って皆様に白熱した戦闘シーンをお届けしたいと思っております!
三話連続で重桜視線だったので、次もユニオン視線で書きます。
最初は前衛艦隊同士の戦いになるのでクリーブランドが活躍する話になる予定です。
二~三日の更新と遅いですが、今後ともよろしくお願いいたします!


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前衛艦隊、接敵す

土佐「本当にこれで大丈夫なのでしょうか……?」

土佐が見つめる先には赤城、加賀と言い争っている天城の姿があった。

土佐が心配している理由は天城と初めて会った時のことを思い出したからだ。

布団に伏して時折咳き込んでいた時に比べれば、今は顔色が良い。

土佐「私が頑張らないと!」

自らを奮い立たせて土佐は天城たちに駆け寄った。


 

 

――ユニオン南方海域:南東西海域――

 

 

「敵と接敵するよ!みんな気を引き締めて!」

 

 クリーブランドの号令に海上騎士団のメンバー(コロンビア、モントピリア、デンバー)が「はーい」「はい!」「は~い」と、それぞれ応える。

 

「インディちゃん、ついてきて!姉ちゃんが守ってあげるからね~」

 

 ポートランドの言葉にインディアナポリスは「お姉ちゃん、うるさい」と反応した。

 

「妹達にお手本を見せないと……みんな私についてきて!」

 

「ビーバーズ、三十一ノット全速前進っ!正義を示すわよ!」

 

 フレッチャーとチャールズ・オースバーンが号令をかけてフレッチャーの後方にラドフォード、ジェンキンス、ニコラス、

 

 フレッチャーの横にチャールズ・オースバーン、後方にフート、スペンス、オーリックと続く。

 

「こっちは~インディちゃんと一緒に右へ大きく迂回しながら撃つわね~」

 

「了解!なら私達は正面に陣取りながら目の前の敵を撃つ!」

 

 ポートランド、インディアナポリス、その後ろにチャールズ・オースバーン率いるビーバーズ(フート、スペンス、オーリック)が続く。

 

 ポートランド率いる六隻が右へ移動し左舷の敵を撃ち、クリーブランド率いる八隻が正面で待ち構えて正面の敵を撃つ事で十字砲火になる作戦だ。

 

「姉貴!本当に正面で良かったんですか?」

 

 モントピリアの言葉にクリーブランドが「何が?」と聞き返す。

 

「いや、機動力のある私達の方が右に展開して撃った方が戦果は大きく、被弾も少なくなります」

 

「そうだね、だけど私達の目的と敵の目的は?こちら側の最悪のシナリオは航空母艦が攻撃されること。なら、いつでも援護に回れる様に近い方がいいでしょ?」

 

 クリーブランドの言うことにモントピリアは納得する。

 

 それに加えてクリーブランドは「それに……」と続けて。

 

「もし、航空母艦の空襲が上手くいって敵が散り散りになったのならそこへ奇襲して全てを倒す方法もあるもんね!」

 

「な、なるほどっ!流石姉貴!そこまで考えてきたとは!モントピリア感服いたしました!」

 

 クリーブランドの作戦にモントピリアは驚き、尊敬のまなざしをクリーブランドに向ける。

 

「私達の艦隊は燃料も弾薬も少ない。とにかく急いでいるんだ……全員まとめてかかってきな!」

 

「姉貴かっこいい!このモントピリアどこまでもお供します!」

 

「どうでもいいけど、敵さんもう目の前まで来たみたいだよ!」

 

 クリーブランドとモントピリアが漫才しているうちに敵が接近、コロンビアが二人を注意する。

 

「さて、敵さんはどう出てくるか……うん?今光った?」

 

「!敵の発砲だ!全員回避行動!」

 

 デンバーの言葉にクリーブランドがすぐさま対応して艦隊に指示を出す。

 

 艦隊は全速力で前進。数秒後、先程居た位置に数本の水柱が出来上がっていた。

 

「この距離的に考えれば巡洋艦とは考えにくい……まさか敵は戦艦!?しかも、最前列にいるの!?」

 

「どうやら、そのようだね。これは少し予想が外れたかな?」

 

 コロンビアの言葉にクリーブランドが言葉を返す。

 

 おおよそ敵との位置は三万五千メートル。とてもではないが巡洋艦では撃てない位置からの砲撃だ。

 

「射程が足りない以上近づかないと話にならないなこれは……。皆!この戦いは結構厳しい戦いになる!気を引き締めて行くぞ!全速前進っ!」

 

 クリーブランドの号令に艦隊全員が答えて全速力で敵へと接近する。

 

 立ち上がる水柱、被弾することを恐れずにクリーブランド達は前進し続けた。

 

 この後、クリーブランドは苦戦を強いられることになるが彼女達はまだ知らない。戦いは、始まったばかりだ……。




今回は予定通りクリーブランド視線で書かせていただきました!
天城の主砲は長門と同じだと考えて使わせてもらっております。
クリーブランドの四十五口径六インチ両用砲が射程どれくらいかがちょっと分からないですがおそらく長門砲(四十五口径三式四十㎝連装砲)の射程半分よりは大きいと思います(誰か情報ください!)。
今度もユニオン視線で書くつもりですが次は誰にしようかまだ決まっておりません。
次回を楽しみにしていてください!


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ポートランド艦隊壊滅

天城「あの距離でここまでの精度が出せますか……お見事です、土佐さん」

天城はそう言うと、耳が良い土佐は照れ臭そうな仕草をした。

天城「初陣にしては度胸が据わっていてよろしいですね。……ですが、ちゃんと戦況を見て動かなければなりませんよ」

そう言うと天城は近づいてくる敵重巡洋艦を指さす。

天城「赤城、加賀さん。艦載機の発艦をお願いします。狙うのは敵駆逐艦で、足を止めましょう」

赤城と加賀は指示を待っていたと言えるほど手際よく艦載機を発艦させていく。

土佐も慌てて遠くの敵軽巡洋艦から近づいてくる敵重巡洋艦に標準を合わせるのであった。


 

――ユニオン南方海域:南東西海域――

 

 

「きゃあっ!?今のは危なかった……!はっ!?インディちゃんは大丈夫!?」

 

「私は大丈夫……それより、前を見てお姉ちゃん」

 

 ポートランドがインディアナポリスに被弾していないか心配したが、インディアナポリスにも被弾はしていなさそうだ。

 

 だが、彼女達は所々傷があり、艤装は故障したり所々燃えている。

 

「くぅ……!私のインディちゃんをここまで痛めつけた代償、高くつくわよ!……でも、この姿はこの姿で……えへへ」

 

「私、姉ちゃんの物じゃないんだけど……」

 

 ポートランドの最後の言葉はインディアナポリスに聞こえなかったのか、聞こえていたが時と場合なだけに無視をしたのかインディアナポリスは追及しなかった。

 

「ちっ、面倒いね……」

 

「どどどど、どうしよぉ~魚雷発射管が曲がっちゃっているよぉ……」

 

「チャールズ!無理はいけないよ!ほら、肩を貸して!」

 

「正義は決して負けないわ……!」

 

 フートが悪態をつきながらもポートランド、インディアナポリスの後に続く。

 

 その次に魚雷発射管に被弾しながらも誘爆しなかったスペンス、唯一被弾していないオーリック、最後にオーリックの肩を借りながら航行するチャールズ・オースバーン。

 

「まさか航空母艦も一緒にいたのは……完全にお姉ちゃんの想定外だったわ」

 

 三十ノットを出せるポートランド艦隊はその高速を生かして敵の側面へと回ろうと試みていた。

 

 しかし、それは艦隊最後尾に位置していた航空母艦の敵艦載機による空襲によって防がれてしまう。

 

「敵もなかなかやりますね……私達、装甲が硬い重巡洋艦ではなく装甲の薄い駆逐艦に狙いを定めるなんて姑息な真似を」

 

 敵艦載機の空襲を受けてチャールズ・オースバーンが大破、フートとスペンスが小破、オーリックが無傷の結果になった。

 

 そこに加えて空襲が終了した後、今度は敵戦艦とその後ろにいた重巡洋艦の砲撃によってポートランドが戦艦主砲の直撃を受けて大破、インディアナポリスが重巡洋艦の砲撃を受けて中破と言うダメージを受けた。

 

「ちくしょう……、妹にこんな姿を見させるなんて……絶対に許さないんだから!」

 

「お姉ちゃん、それよりも撤退しよう?……今ならクリーブランドさん達が注意を引いているから」

 

 敵戦艦の次の砲撃で撃沈になるところを、クリーブランド達の砲撃によって阻まれ、一斉射分を外す。

 

 撃沈できるところを邪魔されたからか、ポートランド達が障害とならないと判断したからか、主砲の向きはギリギリ耐えているポートランドからクリーブランド達に向けられ撃ちあっている。

 

「そうね、ここに居ても何もできないし邪魔になるだけ。それに私だって耐えれる状態ではない、ここはクリーブランドさん達に任せて航空母艦の防衛に行きましょう」

 

 そう言うとポートランド達はサラトガ達がいる方向へ舵を切る。

 

 引き返す途中、インディアナポリスがふと空を見上げた。

 

「……来たよ。サラトガさん達の艦載機が……!」

 

「っ!もう遅いじゃない……まあいいわ、ここから逆転しないとインディちゃんに代わって怒っちゃうんだからね!」

 

 風を切る轟音の大編成、二百五十機が敵戦艦、天城艦隊へと向かったのであった。




今回は赤城と加賀の艦載機の空襲と天城、土佐、高雄、愛宕、摩耶、鳥海の砲撃を受けて撤退するポートランド達を書かせていただきました!
距離は二万五千~二万七千メートルの話で反航戦。ポートランド達が砲撃出来そうになった時に空襲を受けて慌てている状態で接近した天城と土佐が砲撃。
そのまま二万七千メートルに差し掛かり高雄型の砲撃がポートランド達を襲ったという設定になっております。
ただ、速力が三十ノットと早いため、初速が早く弾道が低い天城と土佐の主砲はポートランドに、高雄型の主砲は後ろのインディアナポリスが受けた形となりました。
次回はユニオンの空襲を受けた重桜目線で書きたいなと思っております。
最近は誤字脱字などを報告してもらえて本当に助かっております!見つけた場合は感想に容赦なく書いてくださると助かります!
重桜は誰を目線にして書こうかな……次回も楽しみにしてくれると嬉しいです。
話が長くなりましたが、今後もよろしくお願いします!


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航空戦艦土佐

ユナイ「敵艦隊発見です!ほら皆さん早くしないと味方がピンチですよ!」

そう言うとユナイはエンタープライズやサラトガを焦らせる。

エンター「ユナイ、貴様の艦載機は最新鋭で早いだろうが私達はそうではない。もっと集まって行動しなければ前のように護衛機に墜とされるぞ?」

それを聞いたエンタープライズはこう切り返してユナイを「うっ!」と言葉詰ませる。

サラ「まあまあ、その辺にしておいて……さて、ここから巻き返すわよ!全艦載機突入!」

サラトガの号令によって六隻から飛び立った約二百五十機もの艦載機は、天城艦隊に突入するのであった。


――ユニオン南方海域:南東西海域――

 

 

「対空電探に表示あり!来ました!敵機動部隊の艦載機です!」

 

 第四警戒航行序列、最前列に位置している航空戦艦こと土佐が敵の艦載機が来たことを艦隊全員に報告する。

 

 本来であれば主力艦である戦艦は後方に構えて遠方射撃するのが第四警戒航行序列だが、今作戦では航空戦艦土佐を先頭に航空巡洋戦艦天城、周りを駆逐艦と軽巡洋艦がカバーするような配置になっている。

 

「零式通常弾は間に合いそうにありませんね……各員、対空戦闘用意。土佐、合図を任せますね」

 

 土佐の後ろに続いていた天城が前衛艦隊全員と土佐に指示を出す。

 

「任せてください!対空電探からの情報によりますと敵機は百を超えてなおも増加中!相変わらずの物量ですね……」

 

「大丈夫です、土佐。仲間を信じなさい」

 

 天城がそう言うと後方より轟音と共に艦載機が前へと踊りでる。

 

「赤城さんと加賀さんの戦闘機!前に教えてもらった機体より大きい気がする……」

 

「確か……十七試艦上戦闘機と言うらしいですね。まだ試作はありますが零式艦上戦闘機より重武装で運動性を重視した最新型の戦闘機らしいです」

 

 敵機の中にへと飛び込んでいく十七試艦上戦闘機によって、編隊を組んでいた敵機が次々と墜とされ追い回されて編隊が崩れていく。

 

 しかし、ユニオンの直掩機の追撃により、十七試作艦上戦闘機から逃げれた艦上爆撃機と艦上攻撃機が再び編隊を組んでこちら側に向かって来る。

 

「やはり、直掩機によって阻まれてしまいましたか……それでは次の作戦です。土佐、号令をお願いしますね」

 

「はい!副砲撃ち方はじめ!続いて高角砲、機銃掃射はじめ!」

 

 土佐の号令により対空兵装が火を噴く。空は花火のように激しく粒子が炸裂し黒い小さな花を沢山咲かせる。

 

「続いて、各員自由回避行動はじめ!」

 

 土佐が続けて号令を出した。すると前衛艦隊全員が不規則な回避行動をとり始める。

 

「さて、この回避行動がどれほどの戦果をもたらすのか……」

 

「衝突に十分に気を付けてくださいね!敵艦載機来ます!」

 

 敵の艦上爆撃機は急降下爆撃のために急上昇を始める、逆に艦上攻撃機は高度を下げて魚雷投下準備を行う。

 

「敵機直上!その角度は当たらないわ!」

 

「なるほど……不規則に動くことによって魚雷の予測も困難になると……」

 

 土佐、天城及び駆逐艦と軽巡洋艦は次々と来る敵艦載機を回避する。

 

「これならいけますね!この調子で回避を続け――っきゃあ!」

 

「油断してはいけません土佐!しっかりと回避を――っくぅ!」

 

 しかし、いくら数が減ったとはいえ、それでも百を超える艦載機が殺到し次第に艦隊の被害を増やしていく。

 

「この程度の攻撃では沈みませんよ!それよりも天城さんは大丈夫ですか!?」

 

「ええ……至近弾でしたからそこまで被害はありません。しかし、分かってはいましたが、なかなか熱烈な歓迎ですね」

 

 天城は冗談をついてフフッと笑う。どうやら、まだまだ余裕があるようだ。

 

「皆さん!今が踏ん張り時です!頑張ってください!」

 

 土佐の号令に前衛艦隊の艦船(KAN-SEN)全員が「おー!」応える。

 

 天城艦隊は激しい空襲に合いながらも前進するのであった。




天城艦隊(前衛艦隊)

旗艦天城、土佐、川内、神通、那珂、長良、五十鈴、阿武隈、睦月、如月、卯月、水無月、文月、長月、新月、春月、宵月、伊百六十八、伊十九、伊二十五、伊二十六

航空戦艦二隻、軽巡洋艦六隻、駆逐艦九隻、潜水艦四隻、合計二十一隻

赤城艦隊(主力艦隊)

旗艦赤城、加賀、高雄、愛宕、摩耶、鳥海、綾波、雪風

航空母艦二隻、重巡洋艦四隻、駆逐艦二隻、合計八隻

今回は土佐、天城を視線で書かせていただきました!
航空戦艦を前衛艦隊に置くと言う前代未聞の陣形配置でしたがいかがだったでしょうか?
この配置にはまだ意味がありますが、それは次回のお楽しみと言うことで……。
次回はユニオン目線で書く予定です。ユナイちゃん出せるかなぁ……。
読んでいただきありがとうございます!感想、誤字脱字などの報告お待ちしております!


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サラトガ艦隊、発見

加賀「っ!見つけました姉様!敵機動部隊です!距離、三十七キロ、南西!」

敵艦載機による空襲を受けながら加賀は叫ぶように赤城に報告する。

赤城「三十七キロ、意外と近くに居ましたわね……今すぐに天城姉様に無線で伝えて!」

赤城は魚雷を華麗に回避しながら艦載機を発艦させていく、並外れた練度と度胸が無ければ出来ない。

加賀「もうすでに伝えております!我々も航空援護いたしましょう」

加賀は最後の急降下爆撃機を撃ち落とし、艦載機を発艦させる。

赤城、加賀が発艦しているのは燃料と弾薬満載の艦上爆撃機だ。

赤城「さあ、反撃するわよ加賀?艦載機達行きなさい!」

赤と白の航空母艦から放たれた艦載機達は、敵航空母艦へと轟音と共に飛んで行く。


――ユニオン南方海域:南東西海域――

 

 

「えーい!逃げるなです!あーもうっ!ちょこまかと動きやがるなです!」

 

 航空攻撃をしているユナイが回避されては文句を言っている。

 

「なるほど……敵も考えたな。回避行動をしつつ対空防御をすることによってこちらの攻撃を避けつつもばらけた弾によって効率よく弾幕が展開されて墜としていく。まさに理にかなった戦法だ」

 

 エンタープライズが冷静に解析しつつ敵戦艦に爆撃を行う。

 

 だが、エンタープライズの攻撃は何回も防がれ回避されて内心ではかなり焦っていた。

 

「さらに言うなら、近くに居る駆逐艦も厄介ね。特にあの3隻は対空性能が高いから注意が必要ね~」

 

 そう言いつつサラトガは雷撃機を敵戦艦に向かわせて飛ばしていたが、噂にしていたその駆逐艦の主砲と、機銃によって墜とされる。

 

「対空レーダーに反応あり!一機だけ……?観測機だな、撃ち落とすか?」

 

「今すぐに落として!敵に情報を与えたらダメ!」

 

 ネバダの言葉にすぐにサラトガが即答した。

 

 勢いに押されながらもネバダが「おう!」と答えて対空防御を始めた。

 

「てきぱきやっちゃいましょ!」

 

「うるさい艦載機だ……さっさと堕ちな!」

 

「姉に続いて撃ちまくるよ~!」

 

 続いてオクラホマ、テネシー、カリフォルニアが高角砲と機銃を打ち鳴らし敵観測機を撃ち落とす。

 

「ありゃダメだな……敵に情報が渡った可能性が高い」

 

「だよね~と言うことは、敵艦隊がこっちに殺到するってことだよね……逃げるわよ!全艦隊全速力で前進!前衛艦隊にも撤退を指示して!」

 

 ネバダの判断に賛同したサラトガは艦隊全員に撤退の指示を出す。

 

「エンタープライズ、敵との距離は?」

 

「約三十六キロだな。まだ距離があるとはいえ、油断ならない距離だ」

 

「まだユナイ達の距離です!全力航行しながら艦載機を飛ばしますですよ~!」

 

 サラトガがエンタープライズに距離を訪ねて、エンタープライズが答える。

 

 ユナイは大きな走行甲板から次々と発艦させる。

 

「最新鋭の空母は器用ね~こんな波が立っていても次々発艦できるなんて凄いわ」

 

「流石は大型航空母艦と言ったところか……我々がこの状態で発艦させようとすれば誤って海に落としそうだな」

 

 サラトガとエンタープライズがユナイを褒める。それに対してユナイは嬉しそうにしていた。

 

「さあ、発艦ですよ~艦載機達行きなさいです!」

 

 ユナイが五十機もの艦載機を上空に旋回させ、一斉攻撃をしようとしたときにそれは起きた。 

 

「全機攻撃かい――うわぁっ!?な、なんです!?」

 

「くぅっ!砲撃だ!警戒しろ!」

 

 ユナイの近くで水柱が上がり、近くを航行していたエンタープライズが被弾する。

 

 しかし、周りを見ても近くに敵の姿はない。

 

「ま、まさか……敵はこの距離で当ててくるです!?」

 

 ユナイが驚き、サラトガとエンタープライズの表情が強張る。

 

「戦艦は反転!戦闘準備!航空母艦を逃がすだけの時間を稼ぐぞ!」

 

 ネバダの指示でオクラホマ、テネシー、カリフォルニアが反転して突撃する。

 

 こうして、重桜とユニオンの戦艦同士の戦いが始まろうとしていた。




ユニオン艦隊
左側前衛艦隊、旗艦クリーブランド、コロンビア、モントピリア、デンバー、フレッチャー、ラドフォード、ジェンキンス、ニコラス

右側前衛艦隊、旗艦ポートランド、インディアナポリス、チャールズ・オースバーン、フート、スペンス、オーリック

機動部隊、旗艦サラトガ、エンタープライズ、ユナイテッド・ステーツ、ラングレー、レンジャー、ボーグ、ネバダ、オクラホマ、テネシー、カリフォルニア

今回は重桜から砲撃を受けたユニオンの機動部隊の視線で書かせていただきました!
次回は戦艦同士の戦いを書きたいと思います!次回を楽しみにしてくれると嬉しいです!


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轟く砲音、遊泳せし魚雷

ネバダ「ユニオンの戦士よ!恐れずにどんどん進め!」

ネバダは他の戦艦達を従えて前へと突き進む。

それは、かの大戦を生き延びた歴戦の戦艦ゆえに自信が溢れていた。

ネバダ「さあ!この重点防御を突破できるか……お前たちの自慢の獲物で試してみな!」

ネバダを歓迎するかのように戦艦の砲弾の雨が降り注ぐ。

水柱が上がれど、怯む事の無い航行は彼女の真っすぐな性格が表れていた。


 

 

――ユニオン南方海域:南東西海域――

 

 

「敵戦艦に着弾あり!敵に与えた損害軽微!敵戦艦の航行が止まりません!」

 

「それでは、次の作戦へと移りましょうか。土佐、無線で指示をお願いします」

 

 土佐が敵戦艦に着弾をした事に成功するが、敵戦艦にはそこまでダメージを負わせることが出来ず行進が止まらないと天城に報告する。

 

 その報告を受けて天城は次の作戦へと移行するために土佐に無線を出すように指示を出した。

 

「了解しました!無線通達!――これより、艦隊編成変更!駆逐艦と潜水艦は左折し航空母艦を追え!戦艦及び軽巡洋艦は直進しながら右舷に点在する敵前衛艦隊の駆逐艦に標準合わせ!――」

 

 土佐の無線により前衛艦隊は二手に分かれる。それを見て焦った敵の前衛艦隊と反転してきた敵戦艦は駆逐艦を追いかけるように進路を変更する。

 

 しかし、その進路は天城達戦艦と軽巡洋艦にとって常に側面を見せる進路になった。

 

「――各員、砲撃開始!敵の前衛艦隊を完全に無力化せよ!――」

 

 土佐の号令で天城を囲うように航行していた軽巡洋艦、川内、神通、那珂、長良、五十鈴、阿武隈が砲撃を開始する。

 

 軽巡洋艦からの砲撃を受けて駆逐艦が次々と被弾。敵軽巡洋艦と駆逐艦は接近しすぎたと理解し反転したが遅い。

 

「敵軽巡洋艦に標準合わせ良し!砲撃開始!全門斉射!放てー!」

 

「砲塔旋回完了。標準偏差誤差を修正……砲撃準備完了。フフフフ……全門斉射です」

 

 土佐と天城による全弾斉射!反転して海域を離脱しようとしていた敵軽巡洋艦に直撃する。

 

 これにより敵前衛艦隊は生存こそしているものの事実上、壊滅した。

 

「続いて無線通達!――駆逐艦及び軽巡洋艦、戦艦に魚雷斉射!斉射後に右折開始!海域から離脱せよ!――さて、私達の踏ん張りどころですね!戦艦は全速力で直進し敵戦艦に標準合わせ!」

 

 土佐の命令により軽巡洋艦六隻、駆逐艦九隻から酸素魚雷が放たれる。

 

 軽巡洋艦から二十八本、駆逐艦から四十八本と放たれた合計七十六本もの魚雷は、五十二ノットの快速で敵戦艦へと走っていく。

 

「今度は戦艦同士の砲撃戦です!と言っても、もうすでに勝負は決まっていますが!撃ち方始め!」

 

「このぐらいすれば流石のユニオンも無傷では済みませんね……。準備完了次第各砲塔は撃ち方始め」

 

 土佐と天城は敵戦艦に砲撃を開始する。駆逐艦が誘導だと理解した敵戦艦は進路をそのままで逃げるように砲撃を開始する。

 

「きゃあっ!いたた……やってくれましたねっ!」

 

「少々計算を……間違えたでしょうか……」

 

 しかし、敵戦艦四隻の火力は強く土佐は火力が集中して中破、天城は小破の損害が出す。

 

「もう少し……もう少しで私達の勝ちです!届いて!酸素魚雷!」

 

 敵戦艦が次の砲撃をしようとした時、爆音と共に大きな水柱が上がる。

 

「やった!酸素魚雷命中!一、二、三……凄い!どんどん水柱が上がっていきます!」

 

「ふぅ、危ないところでしたが作戦通りです」

 

 敵戦艦は魚雷の存在に気付くのが遅れ、次々と被雷して水柱を作っていた。

 

 それでも、被害を最小限に抑えようと必死に回避を試みるが、右斜め前からの魚雷と左からの魚雷は隙間を埋めるように交差して避けれない。

 

「これで、敵戦艦も無力化が完了です!ここまで作戦通りですが、この後どうしますか?」

 

 敵戦艦は浮いてこそいるものの戦闘できる状態ではなく、反転して海域から離脱しようとしている。

 

 そんな戦況を見て、土佐が天城に指示を仰いだ。

 

「そうですね……では、丸裸となった航空母艦を攻撃しましょう。土佐、赤城達に航空支援の要請をしてください。編成は戦闘機多めでお願いします」

 

「はい!了解しました!――前衛艦隊より主力航空母艦に伝令!これより敵航空母艦への攻撃を試みる!戦闘機複数を含む航空支援を要請します!――」

 

 土佐が赤城へ電信するとすぐに赤城から「――了解しました――」と帰ってくる。

 

「次は敵航空母艦か……胸が高鳴ります!」

 

「油断して足元を掬われないようにしてくださいね」

 

 敵前衛艦隊は壊滅し、航空母艦の最後の盾となる戦艦を無力化し、残るは敵航空母艦のみ。

 

 興奮する土佐を天城が宥めるが、天城自身も気分が高揚していたのであった。




魚雷計算

川内型及び長良、片舷二基二門で四本が四隻。合計十六本。
五十鈴、阿武隈、片舷二基二門と四門で六本が二隻。合計十二本。

睦月型駆逐艦、三連装二基で六本が六隻。合計三十六本。
秋月型駆逐艦、四連装一基で四本が三隻。合計十二本。

魚雷合計七十六本。


祝!五十話!
いつも読んでいただきありがとうございます!これからもこの作品をよろしくお願いします!

今回は敵前衛艦隊と反転してきた戦艦を撃退したシーンを書いてみました。
ユニオンは空襲が常識外れでしたが、重桜は魚雷投射量が常識外れですね。よく、これでネバダ達は沈まなかったですね……。
それより驚くべきことは戦艦の動き等が予想済みで、作戦通りだった天城の頭脳ですね。もはや未来予知のレベルです。
次回は航空母艦と戦艦との戦いを書いていこうと思いますので、楽しみにしていてください!


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未来のために

天城は考えていた。

むろん、今の戦闘の事もそうだがこの戦闘の後についても。

彼女の戦術は見事に的中して相手に大打撃を与えれた。

だが、本当の目的……それを導くための戦略はまだ不完全。

故に、天城は土佐に言った。

天城「土佐、赤城にも無線で連絡してください。絶対に撃沈してはいけません、と」


 

――ユニオン南方海域:南東西海域――

 

 

「敵戦艦が全速力で接近してきています!距離三十五キロ!」

 

「敵戦艦の発砲を確認!敵さんの弾が来るよ!」

 

 一番最後尾にいるラングレーが敵との距離をサラトガに伝え、その横にいるボーグが警戒するように大声を上げる。

 

「きゃあ!ひ、被弾した!?くぅ……ぜ、絶対に許さないわよ!」

 

 数秒後、大きな水柱と甲高い悲鳴が上がる。レンジャーが被弾したのだ。

 

「レンジャー!被害状況は!」

 

「走行甲板に一発!そのまま側面に抜けて浸水が発生したけど、沈むほどじゃないわ!」

 

 エンタープライズの言葉にレンジャーが被害状況を伝える。装甲が薄いレンジャーは敵戦艦が放った弾丸の信管が作動する前に海まで過貫通して難を逃れたようだ。

 

「流石に逃がしてはくれないわよね……艦載機を出すには波の揺れが激しすぎるから止まるしかない。だけど、止まれば敵戦艦の餌食になる。それに加え、そもそも出せる艦載機がほとんどいない状況だから止まる意味はない……」

 

 サラトガは何とかこの状況を打開しようと必死に頭を回転させているが、どれも現実的ではない。

 

「サラトガちゃん。もういいわ」

 

 そう言うと、ラングレーとボーグは立ち止まった。

 

「ラングレー!?早く逃げなさい!」

 

 サラトガやエンタープライズ、ユナイ、レンジャーも急停止で止まった。

 

「先生、分かっています。なんで敵戦艦に追いつかれているのか。……私達の速力が十五ノット以上でないから。だから、それに合わせて皆さんが速力を落としているって」

 

「私達のせいで艦隊を全滅させるわけにはいかない……もう追いつかれている以上、誰かが足止めしなければ艦隊のメンバーは全滅する。なら足止めは足の遅い私達でやるのが一番の選択」

 

 ラングレー、ボーグが反転して艤装を海と平行に保ち艦載機の発艦準備を行う。

 

「馬鹿なことを止めないさい!これは旗艦である私の命令よ!今すぐ逃げなさい!」

 

「ならば、私達は艦隊から外れます。ボーグ?準備は良い?二人で同時攻撃しますよ」

 

「いつでも準備出来ているよ!ゆけ、変化球!」

 

 サラトガの命令を無視してラングレーとボーグは次々と発艦させていく。

 

「どどど、どうしたらいいです!?ここで迎え撃つです!?それとも逃げるです!?」

 

「迎え撃つにしても私とユナイの艦載機はもうないだろう?……邪魔になるだけだ、行くぞユナイ」

 

 危機的状況に慌てるユナイ。現状を冷静に判断をしたエンタープライズはユナイの腕を取り前進を始めた。

 

「ちょっと!?エンタープライズ!貴方からもこの二人を説得して!」

 

「無理な相談だな。それに、私だって同じ立場ならそうする。レンジャー!サラトガを抱きかかえてでも連れて帰れ」

 

 何とか二人を連れて帰ろうとするサラトガ。エンタープライズはレンジャーにサラトガを連れて帰るように指示を出す。

 

 レンジャーは迷いながらも頬をパンッ!と叩くとサラトガに近づいて抱きかかえた。

 

「!?離しなさいレンジャー!この艦隊の旗艦である私の命令よ!このっ!離しなさい!ラングレー!ボーグ!」

 

 体格差もありレンジャーの束縛を逃れることが出来ず、サラトガはレンジャーに連れて行かれた。

 

「行ってしまいましたね」

 

「ええ。ですが、大切な生徒を守るのは先生の使命です。これで良かったと思いますよ私は」

 

 四隻が立ち去った後、ボーグとラングレーは「ふふふ」と笑った。

 

「さて、九回裏同点。ここ一番の大見せ場!絶対にランナーは出させませんよ!」

 

「ラングレー先生の最後の補習授業。もちろん、付き合ってもらいますわ敵戦艦の皆さん!」

 

 ボーグが野球帽をしっかりと被りなおして気合いを入れなおす。

 

 ラングレーはどこから取り出したのか指導棒を敵戦艦へと向けて挑発する。

 

 二隻の航空母艦は着艦の事を考えずに次々と艦載機を飛ばして敵戦艦を攻撃していく。

 

 だが、彼女達の健闘むなしく。途中で現れた敵航空母艦からの航空支援部隊によって全て撃墜される事となる。

 

 サラトガ艦隊。航空母艦ラングレー、航空母艦ボーグ、艦隊から離脱。




今回は天城と土佐に追われて追い込まれたサラトガ艦隊から、足の遅いラングレーとボーグがしんがりとして残るシーンを書かせていただきました!
前書きで書いている通り、天城には目的があって敵艦を一隻も沈めていない状態で戦闘が行われています。
なので、足止めのために残ったラングレーとボーグは生き延びる事となるわけですが、生き延びるとわかっていてもハラハラするように頑張って書いたつもりです。
もうすぐこの海戦も終わりですね……長かったですが、書いていて楽しかったです。
いつ終わるのかまだ未定ではありますが、これからもお付き合いよろしくお願いします!


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参謀の涙

土佐と天城は敵航空母艦二隻からの空襲を回避しきり、大破と中破まで追い込んで退かせた。

土佐「残るは大型航空母艦と歴戦の航空母艦だけですね!一気に片づけてしまいましょう!」

興奮が収まらない土佐は命じられればすぐにでも追いかける気満々だ。

だが、天城は大型航空母艦を追っていった観測機からの連絡を受けると、にっこりと微笑みながら「撤退しましょうか」と言った。

土佐「な、なんでですか!ここまで追い込んだのに撤退なんですか!?」

驚きを隠さず不満を言う土佐。しかし、天城が撤退し始めると慌てて後を追いかけるのであった。


――ユニオン南方海域:南東西海域――

 

 

「流石にしつこいわね!いつまで私達を追いかけてくるつもり!」

 

「逃がさないだろうな。私が敵だったらそうする」

 

 サラトガが敵戦艦から飛ばされた観測機を見て文句を言う。

 

 その文句を聞いてエンタープライズは忌々しそうに艦載機を見て答えた。

 

「ユナイちゃんはもう戦闘機が無いのです……撃墜できないのです」

 

「対空兵装の射程を完全に理解していますね。ギリギリ届かない距離から観測を続けています」

 

 艦載機が出せないユナイはしょんぼりして、レンジャーは対空兵装の射程に入らないか確認しながら航行している。

 

「修理したとはいえサラトガちゃんはまだ走行甲板が凸凹。エンタープライズはエレベーターが完全に壊れて動かない。ユナイちゃんは艦載機が無くて、レンジャーは走行甲板を修理中……それに加えて波が高いから発艦自体も難しいと来たわ」

 

 サラトガが現在の状況を簡潔に話すと他の三隻は黙り込む。

 

「唯一の救いは前衛艦隊のクリーブランド艦隊とポートランド艦隊が一隻も沈まず海域からの離脱に成功したって報告が来ていて、ネバダ達も私達と別方向に離脱したから浸水が酷くなければ沈んでいないこと……まだ報告はないけど」

 

 最後の言葉でサラトガ達はさらに暗い空気が覆う。

 

「サラトガ、先程はすまなかった。ああでもしなければ貴方は彼女達と共にいただろうから。本土に戻ったらどんな罰でも受け入れる」

 

「私もごめんなさい。嫌がる貴方を抱きかかえて無理やり連れて行ってしまって。でも、今あなたまで失うことは出来ないから……」

 

 エンタープライズは帽子を取って、レンジャーは震える声で謝罪した。

 

「……今回一番悪いのは私よ。むしろ二人は最善の方法を取ってくれたわ。引っ張ってくれてありがとう。そして、取り乱してごめんなさい。お姉ちゃんへは私から報告するわ。これはけじめだから」

 

 サラトガはそう言って前を向きなおす。右手に持っている軍旗は強く握られプルプルと震えていた。

 

「前方、レーダーに艦影です!対空レーダーにも複数の反応ありです!」

 

「先回りされたか!……いや前方ってことは本土海域、味方の艦載機だ!」

 

 ユナイのレーダーに艦影と複数の機影が映し出される。

 

 だが、この先はユニオン本土に近い近海でエンタープライズが言った通り、味方の艦載機が後を付けてきた敵戦艦の観測機を撃つ墜した。

 

「あらあら、手ひどくやられちゃったみたいね……怪我とかは大丈夫?」

 

 複数の艦載機を引き連れながらレキシントンがサラトガに尋ねた。

 

「お、お姉ちゃん……ごめんなさい。大切な艦隊をここまで消耗させてしまいました。いかなる罰も受けます!だけど、一つだけお願いがあります!私達の艦隊を……みんなを助けてください!」

 

 途中から嗚咽が混じりながらサラトガはレキシントンに懇願する。

 

 そんなサラトガに近づいてレキシントンはサラトガを抱きしめた。

 

「謝るのは私の方だわ。ごめんなさいね、辛い思いをさせて……大丈夫。お姉ちゃんが全員連れて帰って見せるわ」

 

 そう言いながらレキシントンはサラトガの頭をなでた。サラトガは抱えてきた感情が溢れ出して大声で泣き始める。

 

「みんなも良く戻ってきたわ。後はお姉ちゃんに任せて母港でしっかりと傷を癒してね」

 

 レキシントンの言葉にエンタープライズは顔を隠し、ユナイはすすり泣きはじめ、レンジャーは脱力してその場に座り込んだ。

 

 その後、レキシントン率いる機動部隊は重桜艦隊の接触を警戒しつつ散り散りになった仲間を探して見事、全員を救出することに成功する。

 

 特に中破状態で漂っていたラングレー、ボーグの救出は奇跡的であり、サラトガは二人と抱き合って泣いて喜んだ。

 

 レキシントンとラングレーが接触した際。レキシントンにある物が渡されたが極秘情報としてユニオン、重桜の公式の記録には残っていない。




今回はなんとか逃げ切れたサラトガ艦隊に視線を当てて書かせていただきました!
手ひどくやられながら帰還し、責任の重さと色々な葛藤で最後まで我慢していたがレキシントンを目の前にしたら思いが溢れて泣き出してしまったサラトガちゃん、それを叱るのではなく優しく包み込むレキシントンとの姉妹のシーンを頑張って表現したつもりです。
これで、約三か月にわたって書いてきたユニオンと重桜の戦闘が終了しました。
次回は戦後報告と言うことで、両陣営の状況を書かせてもらい今作戦を締めさせていただこうと思っております。
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重桜戦後報告

サラ「どうして敵は絶好の好機を見逃したのかしら……」

本部母港に帰投したサラトガは考えていた。

前回の戦闘でユニオンは大敗を許してしまったが、奇跡的にも一隻も失わずに本部へと帰還できた。

だが、その奇跡的はあまりにも不自然でどう考えても狙ってやったとしか考えられない。

サラ「逆に考えて、どうして沈めることをしなかったのか……」

難しい顔をしながら考えるが、一向に答えは出ないのであった……。


――重桜本部:本殿――

 

 

「天城艦隊二十九名、ただいま無事に帰投しました。詳細のご報告のため、入室許可をいただきたく存じます」

 

「その声は天城か。良い、入って参れ」

 

 重桜の中でも最も神聖とされている本殿、限られた者しか入れない神域に天城が「失礼します」と言って入室する。

 

 入室してきた天城に「ご苦労であった、そこに座ると良い」と長門が指示を出す。

 

「お言葉に甘えさせていただきます。まずは、此度の戦の勝敗についてですが、大勝にございます。これも神子(長門)様の威光があってこそ、皆奮闘し勝利をつかむことが出来ました」

 

「……天城よ。余が言うのも可笑しな話であるが、その口調を何とか出来んか?聞いていてむず痒いぞ」

 

 天城の口調に長門が指摘する。その指摘を受けて天城はフフフフと笑うと「分かりました」と答えた。

 

「口調を崩させていただき、報告を続けます。まずは味方の被害を……南方基地からご説明させていただきます。南方基地は大空襲を受けて事実上消滅。基地としての再稼働は絶望的ですね。基地防衛に従事していた四航戦、五航戦、第二戦隊、第六駆逐隊、第十七駆逐隊は損害軽微、現在は整備も終えていつでも出撃可能です」

 

「ふむ、南方基地が消滅したのは痛いが艦船(KAN-SEN)は無事なのじゃな。今回は前代未聞の大空襲と聞く。防衛出来なかったとは言え、生き残った者に責任を押し付けるのは間違いであろう。むしろ余の考えが甘かった落ち度でもある。基地の復旧に全力を注ぐ故、その防衛を引き続き任せるとする。江風、其方に復旧作業の全てを任せる。良いな?」

 

 天城が語る重桜南方基地の惨状を聞いて長門は暗い顔になる。だが、すぐにキリッとした顔に戻ると江風に下知を下した。

 

「続きまして私達、天城艦隊の被害報告です。一番被害が大きい土佐が中破で現在は整備中。特注品ですので一週間かかりますがそれ以外は問題ありません。続いて私が小破。こちらも特注品の部分を交換する必要があるので一週間かかります。護衛していた駆逐艦及び軽巡洋艦には小破以上の者はいなかったようです。現在は整備中で三日あれば問題なく動けるかと」

 

「もう少し被害が多くなると覚悟しておったが、ここまで抑えることに成功するとは……見事じゃ。何より撃沈が無いのが素晴らしい。流石は天城と言ったところか、後で別に報奨を用意しよう……さて、残るは敵に与えた損害じゃが。報告を頼む」

 

 天城は自身の艤装を展開して故障個所を見せつつ説明した。

 

 その説明と報告を受けて長門は笑顔になり、最後の言葉で真顔に戻る。

 

「最後にこちら側が相手に与えた損害ですが、航空母艦大破三隻、中破二隻、小破一隻。戦艦四隻大破。重巡洋艦大破一隻、中破一隻。軽巡洋艦大破二隻、中破一隻、小破一隻。駆逐艦大破三隻、中破二隻、小破二隻、無傷一隻……敵機動部隊及び前衛艦隊の合計二十四隻中、大破十三隻、中破六隻、小破四隻、無傷一隻、撃沈は無しです」

 

 天城の報告に長門、陸奥、江風が驚く。一つ目は相手に与えた損害の大きさに、もう一つは一隻として沈めていないことに。

 

「……天城よ。これは意図してやったことなのか?」

 

「はい、もちろんでございます。撃沈しないようにするには大変苦労しました」

 

 長門の言葉に対して天城はそう答えた。

 

「どうして敵を撃沈しなかったのか、理由を話してもらおうか。天城」

 

「分かりました、お話しましょう。ですが、その前に一つお願いがございます。この場に今作戦に深くかかわった赤城、加賀、土佐をお呼びください。彼女達も知る必要がありますので……」

 

 天城の言葉に長門は悩むそぶりを見せて頷く。そして、陸奥と江風に赤城、加賀、土佐を呼ぶように指示を出した。

 

 指示を受けた陸奥と江風が退室する。

 

 陸奥と江風を待っている間。長門と天城はあることについて話していたが、この会話についてはどの記録にも残ってはいない。




今回は天城が長門に戦闘後の報告を言いに来たシーンを書いてみました。
このシーンを書くと長かった海戦もようやく終わったな……としんみりしてしまいます。
些細な疑問なのですが、長門の住居である場所。あれはお城なのでしょうか?それとも神社みたいな感じでしょうか?
アニメで見た際は、全体図の見た目はお城なんですが、本丸?が神社の構造をしているんですよね……建築に詳しい人、教えてください。
次回はどうして撃沈しなかったのか天城が語ってくれる予定です。
今回も読んでいただきありがとうございました!感想、お気に入り登録お待ちしております!


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巡る知謀

レキ「敵も中々やってくれたわね~」

レキシントンは今回の戦闘の報告書を見てため息をついた。

最初こそ沈没した艦船(KAN-SEN)が居ないことに喜んでいたが、後々になってどうして沈めなかったのか理由が分かったからだ。

レキ「加えて、どうしようもないのも問題よね~」

そして、現在進行形で敵の思惑通りに動いており、それを修正することが出来ない事にも分かってしまった。

司令室で一人、レキシントンは本日何回目になるか分からない大きなため息をつくのであった。


 

――重桜本部:本殿――

 

 

「航空戦艦土佐!召集の御命令により馳せ参じました!入室の許可を求めます!」

 

「一航戦、航空母艦赤城。ただいま参りましたわ~」

 

「同じく一航戦、航空母艦加賀。推参した」

 

 土佐、赤城、加賀が長門の命令によって召集されて本殿前に集まる。

 

「よく来た、赤城、加賀、そして土佐よ。襖をあけて入って参れ」

 

 長門がそう言うと土佐が襖を静かにサーッと開け、赤城、加賀、召集しに退室していた陸奥、江風、最後に襖を開けた土佐が中に入る。

 

 最後から二番目に入った江風が襖近くで座り、土佐が入った後に音を立てずに襖を閉めた。

 

「皆の者。忙しい中、良く集まってくれた。そのようなところで立っとらんで、そこに座わって楽にして良い」

 

 長門がそう言うと赤城、加賀は天城の後ろに、土佐はその後ろに続いて座った。

 

「さて、皆を呼んだのは他でもない。天城から今作戦の報告と不可解な指示についての話がある。天城よ、すまぬがもう一度戦績の詳細を語ってくれぬか?」

 

「かしこまりました。それでは報告を始めます」

 

 天城は先程入室した赤城、加賀、土佐のためにもう一度戦績の詳細を語る。

 

「――以上が今作戦における受けた被害と与えた損害のご報告になります」

 

「うむ、報告感謝する……赤城、加賀、土佐。この報告に疑問を感じてはおらぬか?」

 

 長門の言葉に赤城達はピクリと反応した。

 

「そう、今作戦で天城より言われていた『敵を撃沈してはならない』と言う命令じゃ。今からそのことについて天城に語ってもらう。天城よ、理由を説明しておくれ」

 

 長門から頼まれて天城は「かしこまりました」と言い語り始める。

 

「それでは語らせていただきます。今作戦において敵艦を沈めてはならないと言った理由は三つございます。一つ目は重桜の力の誇示。二つ目は停戦の材料。三つ目はユニオン戦力の固定。この三つの事から敵艦を沈めてはならないと指示しました」

 

 天城は右手を上げて人差し指を立てる。

 

「一つ目の重桜の力の誇示はそのままの意味ですが、艦種的に劣勢であっても覆す戦術があり、敵を見逃す余裕があると他の勢力にも示すことが出来ました。この事により自軍勢力の士気は上がり、敵軍勢力の士気は下がります」

 

 続けて天城は中指を立てて二つ目の説明をする。

 

「二つ目の理由は停戦の材料として使う。この勢力争いが長引けば資源の乏しい重桜は苦境に立たされてしまいますからね。それに加えて未だに活動を続けているセイレーンに対する余力も必要です」

 

「……それはこのまま戦い続ければ重桜が負けると言っているのか?そこのところをお聞きしたい天城さん」

 

 天城の言葉に対して加賀が後ろから天城を睨みつけるように問いかけた。

 

 それに対して天城は「フフフフ……」と不敵に笑って答える。

 

「そうですね。いくら戦術的に優れていようとも数で抑えられ、何度も試行錯誤されれば瓦解してしまいます。ユニオンは重桜とは違い、工業力も軍事力もそれを維持する力も備わっております。長期戦に持っていかれれば資源が乏しい重桜は……これ以上は言う必要はありませんね」

 

 天城の言葉に加賀は言い返せずギリッと拳を強く握る。

 

 途中で会話が途切れたのを戻すように天城が薬指を立てて最後の説明に入った。

 

「三つ目の理由はユニオン戦力の固定……これはそのままの意味ですが、二つの意味があります。一つは現在の戦力の固定、二つはこれからの戦力の固定です」

 

 そう言うと左手を上げて人差し指を立てる。

 

「私達艦船(KAN-SEN)は普通の軍艦より早く再出撃可能でありますが、それでも数日から数週間はかかります。その間は他の方が防衛に回らなければなりません。完全に復帰するまでは人員が固定されます」

 

 天城は「続けまして」と言葉を繋ぎ。

 

「重桜より圧倒的に優れているユニオンではありますが、それでも限界があります。今回の戦闘で戦力の強化を図りたいユニオンは建造に手を伸ばすと思いますが、一隻も沈まなかったことが新しい艦船(KAN-SEN)を建造する時に間接的に抑制することとなります」

 

「質問失礼します。どうして建造の抑制に繋がるのか、私にも分かるほど細かくお教えください」

 

 天城の言葉を聞いていた土佐が天城に質問する。

 

「普通の軍艦ならば古くなった物から廃棄も可能でしょうが私達艦船(KAN-SEN)はそうもいきません。資源豊富なユニオンと言えど沢山の艦船(KAN-SEN)を作れば維持には膨大な燃料や資金が必要になります。加えて大破した艦船(KAN-SEN)の新しい艤装のためにも資材を回さなければならないので、その分だけの建造も抑制できると言うことです」

 

 天城の説明を受けて土佐が「そこまで考えていたんですね!土佐は感銘を受けました」と興奮しながら答えた。

 

「以上の三つの理由から敵艦を沈めないようにと指示を出しましたが、いかがだったでしょうか?長門様」

 

「うむ。余の予想を超える知略であった。流石は天城じゃな。追加で報酬を出そうと思っておったが釣り合う報酬が用意できそうにないのが困りどころじゃが」

 

 天城の言葉に対して長門は嬉しそうに答えた。

 

 その言葉を待っていたと天城が言葉を発する。

 

「長門様。今回の功績の褒賞として、私からお願いがあります」

 

 天城の言葉に長門は「出来る範囲の事を許そう」と言った。

 

「では、今回の褒賞は停戦の使者として私、天城と土佐を選択していただきたいのです」

 

 その言葉によって、土佐の驚く声が本殿に響き渡ったのであった。




今回はなぜ敵艦を沈めなかったのかの天城が説明をするシーンを書いてみました!
これほどの理由があって敵の艦船(KAN-SEN)を沈めなかったんですね。先を見越しすぎてて怖いレベルです。
最後にとんでもないお願いを天城がしましたが、長門はこのお願いを許してくれるのか……それはまだ先の話ですので明かせません。
今回も読んでいただきありがとうございました!一日更新が遅れてしまいましたが、読んでいただき感謝です!
次回はユニオンの戦闘後の報告を書こうと思っておりますので、お楽しみにしていてください!


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ユニオン戦後報告

天城「これで、こちら側は作戦通り動きましたね……」

自室に戻った天城はにっこりと一人で微笑んだ。

天城「あとはユニオンがどう動くか……それによって今後の行動が変わりますが、ユニオンの気質を考えれば問題はないでしょう」

天城が一人思考をしていると「天城様、宴の準備が終了しました」と江風の声がかかる。

天城「分かりました。すぐ行きます」

天城が襖の前に立つと音を立てずに江風が襖を開ける。

開けられて襖から出てきた天城は、普段と変わらない顔をしていた。


 

――ユニオン本部:母港学園司令室――

 

 

 青と白を基調とした司令室に四隻の艦船(KAN-SEN)が集まっている。

 

「それでは、今回の海戦事後報告を始めるわよ~」

 

 レキシントンがおっとりとした口調で話し始めた。

 

「始めるです!……エンタープライズさん、本当に休んでいなくて大丈夫です?」

 

「問題ない。ヴェスタルからは許可を得ている……しばらくは戦闘を禁じられたがな」

 

 ユナイがエンタープライズを心配して声をかける。

 

 それに対してエンタープライズはヴェスタルから言われた言葉を思い出したのか遠い目をしていた。

 

「今回は手ひどくやられちゃったからね……私も結構やられちゃったし」

 

 サラトガがしょんぼりしながら言う。

 

 今回の海戦の旗艦で艦隊の指揮を執っていたサラトガ。数日経ち、気持ちがある程度持ち直したとはいえ、それでもまだ笑って悪戯するような本調子ではない。

 

「ええっと、そうです!この後、皆さんとパフェ食いたいです!さっさと終わらせてパフェ食いに行きますですよ!」

 

 沈黙に入ろうとしたのをユナイが無理やり言葉をはさんで場を進める。

 

「そうね~。甘いものも食べたいけど、書類ばっかりだったから肩がこっちゃって……サラトガちゃん、パフェを食べ終わった後に温泉なんて、どお?」

 

「そうだな、たまには休養も必要だろう。浴場はまだ時間大丈夫だが、パフェは屋台だからな……急がなければならないだろう」

 

 ユナイの言葉に乗っかってレキシントンがサラトガを温泉に誘う。

 

 エンタープライズも賛同して時計を見るしぐさをする。

 

「それじゃ、さっさと報告を――」

 

「みんなありがとう。でも、私がやるわ。これはけじめだもの」

 

 ユナイが勢いに任せてさっさと報告しようとしたところを、サラトガが手をユナイの前に出して止める。

 

「……まずは被害の方を報告するわ。サラトガ中破、エンタープライズ大破、ユナイテッド・ステーツ中破、レンジャー小破、ラングレー大破、ボーグ大破、ネバダ大破、オクラホマ大破、テネシー大破、カリフォルニア大破、ポートランド大破、インディアナポリス中破、クリーブランド中破、コロンビア大破、モントピリア大破、デンバー小破、フレッチャー大破、ラドフォード中破、ジェンキンス中破、ニコラス大破、チャールズ・オースバーン大破、フート小破、スペンス小破、オーリック無傷……大破十三隻、中破六隻、小破四隻、無傷一隻、撃沈は無いわ」

 

 サラトガの言葉にレキシントン、ユナイ、エンタープライズが黙って聞いている。

 

「次に与えた被害を報告するわ。南方基地はおそらく壊滅。撤退するときにこちらの前線基地を破壊したからそこを使われる心配はない。艦船(KAN-SEN)に対する与えた損害は戦艦中破と小破、軽巡洋艦三隻小破、駆逐艦一隻小破だと思うわ。撤退していたから正確な情報ではないけど……報告終わり!ボコボコにやられた挙句、手加減までされて……完敗よ完敗!」

 

 最後は吹っ切れて報告を終わらせるサラトガ。普通は咎められそうだが、サラトガなりに普段通りを演じているのを感じ取って誰も指摘をしない。

 

「そうね~完敗ね~。そんなサラトガちゃん達には明日から学園の教室を三か月で全て掃除してもらうわ~もちろん、士官候補生の教室も空き教室もね~」

 

「ちょっと!?お姉ちゃん!空き教室ってまさかあの物置の事とか指してないわよね!?あんなに用具が保管されている所は終わらないから!?これはもう、パフェを食べてやる気チャージしておかないと無理っぽいわね……行くわよユナイちゃん!エンタープライズ!」

 

 サラトガはそう言うと司令室の扉をバンッ!と勢いよく開けて走っていった。

 

「……あれ?罰掃除、ユナイも巻き込まれたです!?あ、待つですっ!走らなくてもパフェは待ってくれるですよー!」

 

「全く……騒がしい者達だ。では、失礼する」

 

 サラトガを追いかけるようにユナイも廊下を走って、エンタープライズはため息をつきながら静かに扉を閉めて歩いて去っていく。

 

「うーん、まだ本調子ではなさそうだけど……でも、大丈夫そうね。さて、私もサラトガちゃんを追いかけましょうか」

 

 レキシントンは書類を机において司令室を退出した。

 

 その後、大食いのユナイによって屋台のパフェが全て無くなり、歩いてきたレキシントンに一つも残っておらずユナイにだけトイレ掃除が追加されたのであった。




今回はユニオンの戦後報告のシーンを書いてみました!
一方的に攻撃できた重桜は書くこと多くて書きやすかったのですが、一方的にやられたユニオンはどう書けばいいのか難しかったです。
次回は何を書くのかまだ決まっていないので、少し遅れるかもしれません。
ここまで読んでいただきありがとうございます!感想とお気に入り登録お待ちしております!


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三国共同作戦
三国の晩餐会


クイーン「遂に恐れていたことが現実となったわ……」

クイーン・エリザベスは送られてきた招待状を机に置き、ため息をつく。

その内容はアズールレーン陣営の晩餐会。場所は自由アイリス教国の本土。

クイーン「これがただの社交界ならば私も喜んで参加するのだけど……」

招待状に書かれている一文「先の大戦の英雄、ロイヤルガード様も是非ご参加をお願いします」とは、どう考えてもウォースパイトではないのだろう。

クイーン「言い逃れが出来ない以上、出席しなさい……と言うことですわね」

これから起こる騒動の事を考えるとクイーン・エリザベスは気が重くなるのであった。


――自由アイリス教国:本土基地――

 

 

「本日は我が自由アイリス教国の晩餐会にお越しいただきありがとうございます。司会を務めさせていただいておりますサン・ルイと申します。今宵これだけの義人が集まれた事も神の思し召し……皆様、ゆっくりとご寛ぎくださいませ」

 

 サン・ルイの司会の挨拶が終わり、その場に集まっている少女達は食事へ、会話へと花を咲かせ始める。

 

 中でも大きな花を咲かせているのは、ハボクックの周辺だ。

 

「貴方が先の大戦で活躍された英雄様ですね!お会い出来て嬉しいです!私はシュルクーフよ!ちょっと大きいけど、こう見えてれっきとした潜水艦よ!とにかく、これからよろしく!」

 

「我が名はソビエツカヤ・ロシア、北方連合の切り札にして最大最強の戦艦が一人だ。同志ロイヤルガードよ。今度一度手合わせ願いたいのだが、よろしいか?」

 

「こんばんわ、英雄様。私はラントレピート級駆逐艦のル・テメレールです!良かったら英雄譚を聞かせてください!」

 

「貴方がかの有名なロイヤルガード様ね……あ、失礼。私は北方連合所属の軽巡洋艦チャパエフよ。ふふふ、お会いできて光栄ですわ。これからよろしくお願いします」

 

 ハボクックの周りを囲むように自由アイリス教国からシュルクーフとル・テメレールが、北方連合からソビエツカヤ・ロシアとチャパエフが挨拶に来る。

 

「こんばんわ、初めまして。ご存知かと思いますが、ハボクックと申します。今宵はお誘いいただきありがとうございます」

 

 周りに気圧される事無くハボクックが一礼すると周囲からは歓喜の声が上がった。

 

「……おかしいわ。前の晩餐会ではここまで和気藹々とした雰囲気はなかったし、今日は絶対に荒れることを覚悟で来たのに……」

 

「そうですね、女王陛下。正直私も驚いております」

 

 ハボクックの周囲の輪からはじき出されたクイーン・エリザベスとウォースパイトは、不気味そうにハボクックに集まる者達を観察していた。

 

「不思議でも何でもありませんわ」

 

 クイーン・エリザベスとウォースパイトの背後から声がかかる。二人が慌てて振り返ると四人の艦船(KAN-SEN)がこちらに向かって歩いてくる。

 

「Bonjour(ボンジュール)お久しぶりですね女王陛下、ウォースパイト様。数年ぶりでしょうから改めてご挨拶を。自由アイリス教国所属のエミール・ベルタン。エミールって呼んでね。」

 

「こんばんわ、女王陛下ウォースパイト様。アヴローラと申します。私達北方連合は社交界は殆どしませんから、こうした場では初めましてになるかしら?」

 

「はははは!同志諸君よ私がガングートだ!こう言った場はどうも好かんが旧友がくると聞いて来てやったぞ!どうだ?ちゃんと飲んでいるか?って、コップが空じゃないか……おーい!ウォッカを人数分の六本くれ!」

 

「やっほー女王陛下、ウォースパイト様!パーミャチ・メルクーリヤちゃんよ!情報から聞いてはいたけど本当だったとは驚きだね。おーい!ハボちゃん!こっちこっち!」

 

 エミール、アヴローラ、ガングート、メルクーリヤがクイーン・エリザベスとウォースパイトに挨拶をする。

 

「遅れてすみません、メルクーリヤさん。それに他の皆様もお久しぶりです」

 

 メルクーリヤの声が届いて取り囲んでいた者に一礼してからハボクックが合流する。

 

「待ったました!ハボちゃーん!はい、ぎゅーっ!」

 

「あらあら、仕方ないですわね。はい、ぎゅーっ」

 

 メルクーリヤはハボクックに近づくとぎゅーっと抱き着く。それをハボクックは受け止めてぎゅっと優しく包むように抱き返す。

 

「いやいや!あんた達何してんの!?ハボクックも慣れた感じで抱き合っているんじゃないわよ!」

 

「こうしないとメルクーリヤさんは大人しくならないので……もういいですか?」

 

 クイーン・エリザベスの言葉にハボクックはちょっと困った顔をして答えた。

 

 ハボクックを堪能したのかメルクーリヤは「満足満足」と言いながらハボクックから離れる。

 

「えーっと、コホン。では、説明していただきましょうか。何故、ここまで熱烈な歓迎をしていただけたのかを」

 

 ウォースパイトが話を戻すように本題を言う。

 

 今回、晩餐会と聞いてクイーン・エリザベスとウォースパイトは条約を破ったことに対しての追及と非難を予想していた。

 

 しかし、蓋を開けてみれば誰も追及や非難をせず、むしろ何事もなかったかのように歓迎した。そのことが、クイーン・エリザベスとウォースパイトには不可解でしかなかったのだ。

 

「ハボクックをこの場に呼んで私達の条約破りを非難することが目的じゃなかったんじゃないの?するならさっさとしなさい。私は覚悟を決めているわ」

 

「体罰を与えるとなれば私が受けましょう。女王陛下に万が一のことがあってはロイヤルは成り立ちませんから」

 

 クイーン・エリザベスが胸に手を当てて、ウォースパイトが、クイーン・エリザベスの。前へ一歩進み出て言った。

 

 その行動を見た周りの艦船(KAN-SEN)は騒がしくなる。

 

 クイーン・エリザベスとウォースパイトはこれからどんな言葉を言われるのか……周りの騒がしさは次第に静寂へと変わっていった。

 

 だが、肝心の四人からは何も言わず、ただ困惑した顔をしていた。

 

「……なあ、同志よ。何か勘違いをしていないか?」

 

 




第三章が始まりました!
最初はどこからかハボクックの情報が洩れて自由アイリス教国主催の晩餐会に出席するクイーン・エリザベスとウォースパイト、ハボクックを視線に書かせていただきました!
久しぶりのロイヤルとハボクックの登場でしたが、いかがだったでしょうか?
新しい勢力。自由アイリス教国と北方連合、彼女達の目的とは一体……!?
これからどんな展開になっていくのか、楽しみにしていてください!
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猛将の熱弁

ガングート「何!?同志ハボクックが生きているだと!?」

メルクーリヤからの報告にガングートはベットから飛び起きた。

ガングート「こうしちゃおれん!他の同志達にも伝えなければ!」

そう言って今にも走り出しそうになるところで、メルクーリヤが「あんたが最後よ」と言ってガングートを止める。

ガングート「私が最後だと……なぜ真っ先に言ってくれんのだ!」

メルクーリヤの肩を掴んでブンブンと振る。

メルクーリヤは「こうなるのが分かっていたからよ~!」とガングートの興奮が収まるまで振り回されるのであった。


 

――自由アイリス教国:本土基地――

 

 

「……いったいどういう意味かしら?」

 

 訝しげにクイーン・エリザベスが問い返す。

 

「思わせぶりな態度があったんなら謝ろう。だが、非難するつもりは全くない。態度の変化が気になるなら今から説明する。なぜ、北方連合はロイヤルと距離を置いていたのか、今になってなぜ歓迎しているのか……それは軍縮条約の一件があったからだ」

 

 勘違いと指摘したガングートが話を続ける。

 

「先の大戦での軍縮条約にはロイヤル、ユニオン、重桜、アイリス、サディアが主体となっており北方連合は入っていなかった。だが、その中には北方連合が見逃せない項目があったのだ。そう、航空母艦の規定についてだ。正確にはそこにいるハボクック氷山空母の処遇についてだな」

 

 ガングートの言葉にハボクックがピクッ!と反応する。

 

「先の大戦でセイレーンに対してまだ実戦投入不可能とまで言われた航空機を使用し、試験的な運用をしたにも関わらず大戦果を挙げた。……だが、鉄血のあの事件後。ロイヤル以外の上層部はその軍事的戦力を自国に向けられることを恐れ、ロイヤル上層部を非難して軍縮と称してハボクック氷山空母を■■■■することが決定した」

 

 そう言うとガングートはウオッカの瓶を強く握って怒りの表情をあらわにする。

 

「私は強く反対した!同志、ハボクック氷山空母を救うために著名活動もした!同盟国でもない、明日は敵国になるかもしれない私達にも救いの手を差し伸べた英雄に対して、戦場では何度も助けられた戦友として、恩を仇で返せるわけがない!」

 

 ガングートの持っていたウオッカの瓶が鋭い音を立てながら砕け、破片と液体が散らばった。

 

「ガングート熱くなりすぎ~。酒が回り過ぎてんじゃないの?まあ、私も同じ感想だけどね」

 

 ガングートを茶化すようにメルクーリヤが言う。ガングートは「……そうだな」と言うと大人しくなった。

 

「私達、北方連合の艦船(KAN-SEN)は皆がハボクック氷山空母の処遇について猛反発していました。ですが、結果は変わらず……それで私達は無能なロイヤルの上層部と何もできなかったロイヤルの艦船(KAN-SEN)との距離を置こうと考えたのです」

 

 アヴローラがガングートの代わりに話を閉める。

 

「そうですね~自由アイリス教国も同じような感じですね~。北方連合と少し違う点を上げるとすれば……ロイヤルとの交流を盛んに行い海域の情報を入手して、処遇決行日に横からさらってしまおうと動いていたことぐらいかしら~」

 

 エミールが大胆な発言をして会場が騒然となる。

 

「あんなに頻繁にパーティーを行ったり、贈り物とかで輸送経路を細かく聞いたりとかしていたのって全部そのためだったのね……横からかっさらうと言っても、すぐに足が付くから自由アイリス教国の立場が崩れるわよ」

 

 クイーン・エリザベスがエミールの言葉に反論して言う。

 

「あら、何もしないよりは素敵だわ。ただ、その情報を知らない一部の艦船(KAN-SEN)は上層部とロイヤルに反発してヴィシアと名乗って分裂。ひと悶着あったわね。話を戻すけど、決行日当日にハボクックさんに会ってちゃんと話したりもしているわ」

 

 エミールの言葉を聞いてクイーン・エリザベスが「それは初耳よ!?」と驚く。

 

「結果はご存知の通り振られちゃった。その時の『私は争うために生きるのではないわ、未来を託すために幕から降りるのよ』って言葉は今でも覚えているわ」

 

 エミールの言葉にハボクックは頬を染めて恥ずかしそうにしていた。

 

「皆、話長すぎ~。要はハボちゃんの事で皆ギスギスしていたけど、ハボちゃんが無事なら、まあいっか~ってことで水に流して非難はしなくてもいっかと思っただけ。ちなみに亡命計画は北方連合にもあったんだけど、結果はご存知の通り決行日より三日前に誘ってみたけど駄目だった」

 

 メルクーリヤが簡潔にまとめて、ついでにエミールに反発するように暴露する。それに対してもクイーン・エリザベスが「それも初耳よ!?」と驚く。

 

「とにかくだ。これで私達が今まで消極的だった理由が分かっただろう?なら、なぜ今になって融和的になったのか?それはだな……この場を用いてハボクック氷山空母を正式にスカウトしに来たってわけだ!不遇な扱いはさせんぞ?同志よ、北方連合に来てくれるよな?」

 

「ハボクックさんを向かい入れるのは自由アイリス教国に決まっていますわ!ハボクックさん、お願いです。アイリスに来てください!そして、ヴィシアの子達を鉄血から救ってください!私達だけでは無理なのです!」

 

 ガングートがハボクックの肩に腕を回して、引き寄せて強引にスカウトをする。

 

 対して、エミールは跪いてハボクックの左手を取り上目遣いでハボクックにお願いをした。

 

「何勝手にスカウトを始めているのよ!ダメに決まっているでしょ!ウォースパイト、早くあいつらをやっちゃってよ!」

 

「陛下、私の活躍に期待して頂戴。さっさと離れなさい!」

 

 クイーン・エリザベスの指示を受けてウォースパイトがハボクックに絡むガングートとエミールを引き離した。

 

「おっとっと、相変わらずオールド・レディ(ウォースパイト)は力も強いな。この私が簡単に引きはがされるとは……」

 

「あ~ん、オールド・レディ(ウォースパイト)様は強引ですわね。半分冗談ですのに……」

 

 引きはがされたガングートとエミールはウォースパイトを煽るように離れていった。

 

 煽られたウォースパイトは口元をひくひくとさせながらも必死に耐える。

 

「エミール様。そろそろ本題に移行してください。晩餐会の終了時刻が半分を過ぎています」

 

 司会を務めていたサン・ルイがいつの間にか近づいており、エミールに指示を出した。

 

 その言葉を聞いてクイーン・エリザベスが「今までのが茶番だったの……」とげんなりとする。

 

「そうね~と言っても、もう既に言っているようなものだけど……改めてお願いするわ。自由アイリス教国を代表して、ロイヤルの方々にある作戦の航空支援を要請しますわ」

 

「同じく、北方連合代表してロイヤルに航空支援を要請します」

 

 自由アイリス教国代表のエミールと、北方連合代表のアヴローラ。

 

 二つ勢力が同時にお願いをする異例の状態にクイーン・エリザベスは深く考えるのであった。




今回はガングートとエミールの視線でどうしてロイヤルを非難しないのか?についての説明をするシーンを書いた……つもりです!
ちょっと無理やり詰め込んだ感じで読みにくい場合はごめんなさい!二話分を一話に納めて書こうとした結果です。
メルクーリヤが簡単に説明していますが、要はハボクックの処遇について不満だったアイリスと北方連合の艦船(KAN-SEN)は、ハボクックが存命していても非難することはなくむしろ歓迎していると言うことが書きたかったのです……技術不足ですみません。


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二勢力の思惑

エミール「ハボクックさんが生きている……これは天命なのかもしれませんね」

エミールはロイヤルと情報を提供してもらった北方連合に招待状を出す。

エミール「この晩餐会でアイリスの命運を賭けますわ」

自由アイリス教国が置かれている状態……今も刻一刻と厳しいものになっているのであった。


――自由アイリス教国:本土基地――

 

 

「アイリスと北方連合……同時の申請と言うことは共同作戦とみて相違ないかしら?」

 

 クイーン・エリザベスがエミールとアヴローラに問いかける。

 

「話の理解が早くて助かりますわ~。本日より一週間後。鉄血では大量の物資が本土に集められるとの情報を入手しまして、なんでも~ハボクック氷山空母に対抗する航空母艦の建設を開始するとのことですわ~」

 

「その運送ルートは二つ。一つ目が自由アイリス教国とレットアクシズ陣営のサディアが争っている海域。もう一つは北方連合と鉄血が争っている海域ですわ。私達の妨害を予想して一回で全て運ぶ為に大規模艦隊を用いての輸送作戦だそうです」

 

 エミールが日にちを告げ、アヴローラが大まかな場所と敵の勢力を伝える。

 

「……一つ伺ってもいいかしら?どうして女王陛下がこの作戦に参加なされるとお考えで?」

 

 ここでウォースパイトがエミールとアヴローラに問いかけた。

 

 確かに鉄血の航空母艦は脅威である。しかしながら、直接関わりが無いと言えばそれまでで、ロイヤルが必ずしも作戦に参加をしなければならない訳ではない。

 

「ウォースパイト。口を慎みなさい……良いわよロイヤルも作戦に参加するわ」

 

 クイーン・エリザベスの言葉にウォースパイトは「女王陛下!?」と驚く。

 

「あら、理由は聞かなくて良いんですか?」

 

「さっきの会話から断れないことを分かって言っているわね……良いわ、確認の意味も込めてこの私が説明してあげる」

 

 アヴローラの質問に対してクイーン・エリザベスが語り始める。

 

「まず、自由アイリス教国に支援を出す理由と出さなかった場合の結末。自由アイリス教国はアズールレーン派のアイリスとレットアクシズ派のヴィシアの今二つの勢力に分かれていて、現在アイリスはヴィシアとサディアの軍勢に押され気味。その状態で放置すればアイリスはいずれ滅ぶでしょうね。そうなるとロイヤルは鉄血、ヴィシア、サディアの三勢力と戦わなければならなくなるわ」

 

 クイーン・エリザベスの「滅ぶ」の言葉を聞いて自由アイリス教国の艦船(KAN-SEN)は暗い表情となり、非常に切迫した状態であることが伝わってくる。

 

「ロイヤルとしては鉄血と一対一で戦うためにもアイリスの消滅は回避したいところ……理想としてはアイリスとヴィシアが再び一つとなってサディアに対して戦線を維持してもらうのが一番ね」

 

「ロイヤルのやり方には従わない子も多いですが、ハボクックさんのお声ならばあるいは……と私達は思っておりますの~。なので、是非とも作戦にはハボクックさんにはアイリスと共に行動して欲しいのです」

 

 クイーン・エリザベスの言葉に対してエミールがハボクックを一緒に作戦に参加してもらうようにおねだりする。

 

「コホン!話を戻すわよ。次に北方連合に支援を出す理由。切羽詰まっているアイリスとは違い北方連合は支援どころか作戦自体必要ないわ。もし、ロイヤルが支援しないと言うなら作戦自体もなかったことになるわね」

 

「では、なぜロイヤルに支援を……?」

 

 クイーン・エリザベスが話した言葉にウォースパイトが質問をする。

 

「北方連合にとってこの作戦はとっても美味しい話で、上手い事行けば輸送物資、凍らない港とその近海を手に入れることが出来るわ、それが北方連合のメリット。そして、ロイヤル北方海域と北方連合近海で挟み撃ちにして鉄血を本土に抑え込むことが出来る、それがロイヤルのメリット。ただし問題なのは、近海に存在する鉄血の航空母艦グラーフ・ツェッペリンの存在ね」

 

 ウォースパイトの質問に対してクイーン・エリザベスが答えて話を続ける。

 

「北方連合には航空母艦が居ないのよ。理由はいくつかあるけど今は関係ないわ。関係があるのは航空母艦が無い事による索敵、制空権争い、敵航空機に対する対空防衛が全く出来ない事。一方的にやられる可能性があり、無理やり突入すれば被害は免れない……故に護衛の航空母艦が欲しいってところかしら」

 

「流石は女王陛下!見事に正解だわ~。鉄血の目をかいくぐって近海に艦船(KAN-SEN)を運ぶのは少数なのが好ましいから~、一隻で二~三隻分の活躍が出来て、混戦にも強いハボちゃんをご所望って所かな」

 

 クイーン・エリザベスの解説にメルクーリヤはパチパチと手を叩きながら答えた。

 

「そういうわけで、北方連合に行こ?大丈夫。同志なら必ず勝てるって信じているから」

 

「いいえ、ハボクックさんはアイリスに来てもらいます!他の方では務まらないのです!」

 

 メルクーリヤがハボクックの右手を掴んで北方連合側に引き込もうとする。それをエミールが左手を取ってアイリス側に引っ張った。

 

「離してよエミール。ハボちゃんは北方連合の作戦に参加してもらうんだから」

 

「離しません、そちらこそ離してください。メルクーリヤさん」

 

 メルクーリヤとエミールが笑顔で言う。ただし、目は笑っていない。

 

「はぁ……ハボクック。今回の作戦、どちらに参加するかの選択は貴方に任せるわ」

 

「ここはビシッと決めて欲しかったです、女王陛下……」

 

 二人の取り合いを見てクイーン・エリザベスがため息をつきながらハボクックに言い、ハボクックは苦笑いをする。

 

 ハボクックは「少し考えますね」と言ってメルクーリヤとエミールに手を放してもらい、目を閉じて考える。それを、他の艦船(KAN-SEN)が息をのんでハボクックの言葉を待った。

 

「……決めました。今作戦、参加するのは――」

 

 数分悩んだ後にハボクックは決断し参加する勢力を言った。

 

 その声は静かになった会場に響き渡り、歓喜の声と共に晩餐会は終わりを告げるのであった。




今回はどうしてロイヤルがアイリスと北方連合の作戦に参加することになったのかを説明するシーンを書いてみました!
今回のシーンでは二つの海域が出てきますが、世界地図で言うと一つの海です。
分かりにくいので地球の地図に当てはめて説明しますが、鉄血の輸送船が太平洋から地中海行くのを阻止するルートがアイリスルート。紅海から地中海に行くのを黒海から出撃するルートが北方連合ルートとなります。
ハボクックはアイリスと北方連合どちらの作戦に向かうのか……次回明らかになります。


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Laurel tree(ラウレルツリー)作戦

サン「神は私達を見捨てなかった」

ハボクックの下した決断にサン・ルイは歓喜した。

彼女は「自由アイリス教国の作戦に参加する」と答えたからだ。

サン「これでアイリスは神の元、一つとなれる……」




――自由アイリス教国:南方海域――

 

 

「ここの海は予想よりも暖かいですね……氷が解けてしまわないか心配です」

 

 ハボクックは潮風に髪をなびかせながら艦載機を飛ばして索敵をしている。

 

「ハボクック様、何か確認できましたか?」

 

「今のところは何も確認できませんわ。えっと、この声は……確かリヨンさんでしたよね?」

 

 ハボクックの背後からリヨンがひょっこりと出てきて問いかけた。

 

 索敵に忙しいハボクックは目をつぶったまま声からリヨンと判断して答える。

 

「はい!リヨン級戦艦一番艦のリヨンです!覚えてもらっていたとはすごく感激です!それに、真剣に索敵なされているハボクック様の横顔がかっこいいです!感動とドキドキで私……!」

 

 ハボクックを前にしてリヨンは「むっはー!」と一人、悦に入りる。

 

 だが、興奮しすぎたのか鼻から一筋の赤い雫がたれていることに気が付くとサッとハンカチでふき取り何事もなかったかのように笑顔に戻った。

 

「体調が優れなかったら言ってくださいね?すぐにサン・ルイさんを呼びますから」

 

「いえ!大丈夫です!ハボクック様のような方と合同で作戦を行えること自体、奇跡のようなものですからね!ここでじっくり……じゃなかった。しっかりと護衛させていただきます!」

 

 ハボクックの言葉に対してリヨンは何事もなかったように答える。

 

 それを聞いたハボクックは「無理はなさらないでくださいね?」と言い索敵に集中を戻した。

 

「何度見ても慣れることはないわね……これからの敵より今いる味方の方が危険な感じがするわ」

 

「それでもお相手が出来ているハボクック様は流石と言うべきか、それとも鈍いと申すべきなのか……」

 

 少し離れて眺めていたウォースパイトはリヨンの反応に困惑し、フォーミダブルは心配そうに見ていた。

 

「私達の戦友がご迷惑をかけて申し訳ありません。リヨンはああ見えて護衛の腕は確かなのです。確かなのですが……」

 

 サン・ルイがウォースパイトとフォーミダブルに謝る。

 

「確かに護衛の腕は間違いではなさそうね。四連装四基、計十六門。それに副砲と対空砲の役割を持つ両用砲を多数積んでいて……正しく要塞ね」

 

「お褒めの言葉ありがとうございます。ですが、本人の前では絶対に口に出さぬようお願いします……今、貧血により運ばれては今後の作戦に支障が出ますので」

 

 ウォースパイトが素直にリヨンを褒めると、サン・ルイは嬉しそうにお礼を言う。

 

 しかし、サン・ルイの最後の言葉を聞いてウォースパイトは「前例がありそうね……」と苦笑いした。

 

「西より航行中の敵輸送船艦隊を発見しました!これより、航空攻撃を開始します!」

 

 ハボクックが無線で艦隊全員に聞こえるように言う。

 

「ついに来ましたわね。フォーミダブル!貴方もハボクックの援護してください!」

 

「了解しました!敵に情けをかけないのが、ロイヤルレディの作法ですわ!一方的に片づけてあげる!」

 

 ウォースパイトの指示を受けてフォーミダブルが発艦の準備を整え、発艦させる。

 

 ハボクック、フォーミダブル二隻から出た艦載機は空を黒く染めていく。その数百三十機。

 

「凄い……これがハボクック様の力!」

 

 サン・ルイが上空を見上げて驚きの声を上げた。

 

「さあ、第一次航空攻撃準備完了……行きなさい!私の艦載機達!」

 

「ハボクック様に続いて!攻撃開始よ!」

 

 ハボクックが敵艦艇へと攻撃を開始する。それに遅れないようにフォーミダブルの艦載機達も続いて行った。

 

 こうして新たな海戦の幕が今、始まったのであった。




今回は敵を索敵して発見し、航空攻撃で先制する前までのシーンを書きました!
敵輸送船は一体どこの勢力なのか、鉄血?サディア?それともヴィシアか……。
まだ、こちら側の戦力も語っておりませんし、北方連合の方がどうなったのか色々と書くことが沢山で楽しいです。
話は変わりますが、遂に出てきてしまいました……女の子好きの艦船(KAN-SEN)が!
一度書いてみたかったんですよね!これからバンバン登場させて活躍させるつもりなので、リヨンをよろしくお願いします!


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サディアの策略

クック「――親鳥からひな鳥へ巣の場所を特定しました――」

ハボクックが通信で誰かと連絡を取っていた。

そのことをリオンに聞かれるとハボクックは「今は内緒です」と答える。

クック「――親鳥からひな鳥へ今から巣に帰ります――」

ハボクックはそう言うと通信を切って艦載機の操作に戻る。

リヨンは何のことか分からず、頭をかしげるのであった。


 

 

――自由アイリス教国:南方海域――

 

 

「本部に連絡――ひな鳥から親鳥へお土産楽しみにしています――」

 

「えっと、ザラさん?で良かったのかな?通信は作戦が終わってからにしてください。今は敵地です。そう頻繁に通信されては敵に気が付かれます」

 

 ザラが本部に通信を行ったあと、飛龍はザラを注意する。

 

「あら、ごめんなさいね。でも大丈夫よ。敵とは周波数が違うから気が付かれないわ」

 

 ザラの言葉に対して飛龍は「本当かな……」と言いながらも渋々納得した。

 

「対空電探に反応あり!敵機に補足されたわ!飛龍、追撃機を飛ばして!輸送船は海域を離脱、私達は前へ出て防衛するわよ!」

 

「先手を取られるなんて……!各自散開して!姉様の命令に従ってください!」

 

 蒼龍の声に飛龍は追撃機を出しながら、先手を取られたことに対して悔しがった。

 

 航空戦において先手を取られることがどれほど不利か、下手すれば最初の空襲で何も抵抗できずに無力化されてしまう可能性もあるからだ。

 

「あら、重桜の航空母艦は意外とおちゃめな方なのですね。ですが、戦場でそれは出さなくても大丈夫ですわよ?」

 

 ザラが戦闘準備しながら蒼龍と飛龍に皮肉を言う。

 

「いくら同盟国の仲とはいえ、姉様への無礼は許さない!」

 

「飛龍!今は目の前の敵に集中しなさい!」

 

 ザラの挑発に飛龍が反応するが、蒼龍が飛龍を叱って意識を集中させる。

 

「ザラ、お前もおちょくるな。それよりも敵機の数は分かるか?重桜の航空母艦」

 

「言われなくても数えているっ!十、二十、三十、四十……で、電探の故障か?まだ増え続けている!?」

 

 リットリオの言葉に苛立ちを感じながらも飛龍が数を数え始める。

 

 だが、四十を超えても増え続ける艦載機を前に「まさか……!」と顔を青くする。

 

「飛龍!敵は例のIcePhantom(アイスファントム)……氷山空母よ!気を引き締めて戦いなさい!各員、対空戦闘用意!」

 

「はい!姉様!生き残ることを最優先します!相手が伝説だからってここで沈むわけにはいかない!二航戦の誇りにかけて必ず!戦闘機を優先して発艦はじめ!」

 

 蒼龍が飛龍に喝を入れる。飛龍は自らを奮い立たせて艦載機を発艦していく。

 

「一つ質問だけど、私達のところにも戦闘機の援護はあるわよね?まさか二人だけ助かろうだなんて……思っていないわよね?」

 

「まさかそんなわけはないだろう。仮にも同盟国だ。そんなことはあるまい」

 

 ザラが少し威圧的に問いかけ、リットリオはザラの意見を否定した。

 

 だが、戦闘準備を終わらせたザラとリットリオの砲塔はしっかりと蒼龍と飛龍を捉えている。

 

「……これはどういうつもりかしら?」

 

「なに、万が一と言うことも考えてだ。気にしなくていい。それよりも艦載機の発艦が遅れているぞ?」

 

 砲塔を向けたことに対して蒼龍が質問するが、リットリオは「万が一」と笑顔で答える。

 

「今は仲間割れをしている場合ではない!こんなことをして、何の意味がある!?私達は貴方達を見捨てない!」

 

 飛龍が叫ぶように訴える。

 

「言葉では何とでも言えるわ……と、言うつもりだったけど時間ね。お芝居はもう終わり」

 

「……?それは一体どういう――」

 

 ザラが意味深な言葉を言い、それを蒼龍が問いかけようとした時。

 

 後方に退避していた輸送船から大爆発が発生して蒼龍たちのところまで轟いた!

 

「な!?ゆ、輸送船が!敵もいないのになぜ爆発した!?」

 

「頻繁に通信、輸送船の爆発。そういう事……!やってくれたわね!」

 

 輸送船の爆発に飛龍は驚き、蒼龍はすべてを察してギリッ!と歯を鳴らして怒りをあらわにする。

 

「もしかして……いや、もしかしなくとも裏切ったな!」

 

 飛龍がザラに問いつめた。

 

「そうよ、そういう事。上空には戦闘機、甲板上にも戦闘機。私達を沈めれる方法はないわ。さて、大人しく投降してもらおうかしら」

 

「一時的に捕虜となってもらうが、悪いようにはしない。抵抗するならすればいい。だが、どちらが先に沈むかは目に見えているがな」

 

 ザラとリットリオは不敵な笑みを浮かべながら選択を迫る。

 

 飛龍が抵抗しようとしたところを蒼龍が手で制して艦載機をしまっていく。

 

 飛龍は悔しそうにしながらも蒼龍と同じように艦載機をしまっていった。

 

「良い判断ね、歓迎するわ。――ひな鳥から親鳥へ。カッコウ卵は排除した。これより合流する――」

 

 通信を行うと数分後、周りを取り囲んでいた敵機は数機を残して帰っていった。

 

「さて、私達も行きましょうか。ハボクックお姉さまの元へ」

 

 ザラとリットリオは蒼龍と飛龍の手を繋いで引っ張っていく。

 

 蒼龍と飛龍は抵抗はせずに引っ張られるまま連れて行かれるのであった。




はい、と言うことで今回はまさかのサディアが裏切って蒼龍と飛龍を捕虜とするシーンを書かせていただきました!
前回、ここから激しい攻防が始まる……と見せかけて。今回の話は読者の意表を突いたつもりでしたが、いかがだったでしょうか?
最初は戦闘を行う気満々だったのですが、今後の事を考えると少しでも戦力を残しておきたくて……と言うことで今回は策略により被害なし!と言うことに決定いたしました!
だまされた!と言う人は是非、感想でコメントしてください。作者が喜びます。


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サディアとの合流

クック「――はい、了解しましたわ。楽しみにしておきます――」

ハボクックは通信を切るとフフッと笑う。

その様子を見たリヨンは「どうしましたか?」と尋ねる。

クック「数年ぶりに彼女達に会えると思うと楽しみで、つい」

リヨンは「彼女達?」と頭を傾げた。

誰なのかを訊ねるリヨンに対してハボクックは「会ってからの楽しみです」と言って話さない。

その後、説明が不十分だったためその彼女達とひと悶着があったが無事合流できたのであった。


 

――自由アイリス教国:南方海域――

 

 

「ハボクック様も意地悪な方ですね!まさかサディアの方々を連れてくるなんて思ってもいませんでした……」

 

 警戒態勢を解除したリヨンはハボクックに怒っていた。

 

「ハボクック様が攻撃中止と撤退をフォーミダブルに指示した時は気が狂ったかと思ったわ」

 

「私はハボクック様だけで終わらせるつもりなのかと思っていましたが、これは予想外でしたわね」

 

 ウォースパイトとフォーミダブルが合流した彼女達を見ながら言った。

 

「さあ皆、喜ぶがいい!何故ならこの無敵なるリットリオがこれから護衛に加わるからだ!」

 

「チャオ。皆様、ハボクックお姉さま。重巡洋艦ザラ、この艦隊に勝利と栄光を。よろしくお願いよ」

 

「サディア帝国所属、総旗艦ヴェネト様の護衛、カラビニエーレであります!己が使命を果たし、忠実に任務をこなす覚悟であります!」

 

 サディアからリットリオ、ザラ、カラビニエーレが挨拶する。

 

 だが、挨拶しない艦船(KAN-SEN)が二隻こちらを睨んでいた。

 

「ハボクックお姉さま。彼女達は輸送船の護衛と私達の監視を兼ねていた重桜の艦船(KAN-SEN)、航空母艦の蒼龍と飛龍よ。彼女達は一応は捕虜だから今作戦には参加しないわ」

 

 ザラがハボクックに説明をした時、蒼龍と飛龍の敵意はハボクックに向けられた。

 

「……IcePhantom(アイスファントム)、やっぱりあの情報は間違いではなかったんだな」

 

 飛龍が忌々しそうに口を開く。

 

「初めまして蒼龍様、飛龍様。ハボクック氷山空母です。お会いできて嬉しいですわ。三笠様は元気でいらっしゃるでしょうか?」

 

 ハボクックの質問に蒼龍と飛龍は答えない。

 

「……答えませんか。分かってはいましたが少し寂しいですね。では、これを持ち帰って三笠様に渡してください」

 

 そう言うとハボクックは手紙の入った瓶を蒼龍に手渡そうとする。

 

「私達が貴方の命令を受けるとでも?」

 

「そうだ!寝言も大概にしろ!」

 

 蒼龍は腕を組んで拒絶し、飛龍はハボクックの持っていた瓶を叩き落とす。

 

「ハボクック様になんて無礼を!?許しません!」

 

 リヨンを含めて数隻の艦船(KAN-SEN)が砲塔を蒼龍と飛龍に向けるが、それをハボクックは手を横に出して制する。

 

「皆様、落ち着いてください。私なら大丈夫です」

 

 そう言うとハボクックは瓶を拾って再び蒼龍の前に差し出した。

 

「蒼龍様、これを一刻も早く三笠様にお渡しください。お願いします。これには重桜の未来も関わってくるのです」

 

 しつこくハボクックが手渡そうとすることに蒼龍は呆れ、飛龍がもう一度叩き落とそうとした時、ウォースパイトがその瓶を取り上げる。

 

「ウォースパイト様?それは重桜への手紙ですわ。女王陛下のご指示でもあります。何故取り上げたのでしょうか?」

 

「女王陛下が……?私にはそのような話は一切通ってなかったわ。では、この手紙は一体何かしら?」

 

 ハボクックがウォースパイトに笑顔で質問する。それに対してウォースパイトは怪しんでいる。

 

「では、手紙の内容を話してもらえないかしら?私が度忘れしているだけかもしれませんから。勿論言えない……なんてことはないわよね?」

 

 ウォースパイトがハボクックに問いかける。

 

「ここではアイリスとサディアの方もいますし問題が……ですが、分かりました。耳元で話させていただきますね」

 

 そう言ってハボクックはウォースパイトの耳元で手を当てて話す。

 

 話を聞いたウォースパイトは驚いた表情をした。

 

「……それは、本当に女王陛下の指示なのかしら?こんな事を許可したとは思いにくいわ」

 

「間違いありませんわ。ですが、今この場で話せ無い理由は分かりましたよね?」

 

 ウォースパイトはハボクックを疑っている。だが、疑われているハボクックは堂々としていた。

 

「……悪いけど、疑わしいわ。これは作戦が終わって確認が取れるまで預からせてもらうけど、不満はないわね?」

 

 ウォースパイトの言葉にハボクックは「かしこまりました」と返す。

 

「あと、忘れそうになっていたけどサディアの艦船(KAN-SEN)は私達と同じ作戦に参加するってことで良いかしら?」

 

「勘違いしないでください。私達はハボクックお姉さまの手助けをするために参加するのであって、ロイヤルとアイリス……アズールレーンに合流するとは言っておりませんので」

 

 ウォースパイトがサディアの面々問いかけるとザラが笑顔で言った。

 

「……色々と問題がありそうだけど。まあ、いいわ。これより、第二作戦に移る。艦隊、南東に移動!目標はヴィシア!」

 

 ウォースパイトの指示に捕虜となっている蒼龍と飛龍、サディアの面々以外の艦隊の全員が応える。

 

 ハボクックが先頭を航行すると、それに付いて行こうとサディアの面々が後に続きそれに引っ張られて蒼龍と飛龍が航行する。

 

 ハボクックが重桜の三笠に渡そうとしていた手紙……それは後に大きな役割を果たすのであるが、それはまだ先の話。




今回はサディアの艦隊がハボクック達と合流するシーンを書いてみました!
サディアはあっさりとレットアクシズを裏切りアズールレーンに入ったと見えましたがロイヤルやアイリスにはまだ敵対しているようなそぶりがありますね。
ハボクックを手助けするために参加すると言っていましたが、サディアにも何やらハボクックとの過去がありそうですね。
それと、手紙の内容も気になりますが今は作戦に集中すると言うことで……。


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ヴィシアのエース

ジャン「何?所属不明の艦船(KAN-SEN)がこちら側に接近しているだと?航空母艦はいるか?」

報告を受けたジャン・バールはすぐさま航空母艦の存在を聞き返した。

それは、一度航空母艦にやられそうになったから経験から来る警戒だ。

ジャン「敵は航空母艦ありの艦隊……あのシルエット!まさか、ロイヤルか!」

ロイヤルが再びヴィシアに来た。それは、過去の悪夢を思い出させるには十分だった。

ジャン「全軍!戦闘準備!オレが先行する!」

そう言うとジャン・バールは真っ先に海へ出る。祖国を守るために、仲間のために……。


――自由アイリス教国:南東海域――

 

 

「全軍この場にて待機!決して対空警戒を怠るな!」

 

 そう言うとジャン・バールは敵艦隊に全速力で接近する。

 

「この海は荒らさせん!好き勝手させてたまるものか!」

 

 ジャン・バールは過去の出来事を思い出していた。

 

 あの日、海は燃えて、侵略の軍靴が迫っていた時の事。

 

 未完成だったジャン・バールは奮闘したが力及ばず、眠りにつく。

 

 それから数年の月日が経ち、目を覚ましたジャン・バールは思った。

 

「アズールレーンは信用できない。特にロイヤルとは相容れない」

 

 選択を与えるふりをして強制し、信頼していたロイヤルはあっさりと裏切った。

 

 一方的な選択、不意打ちのような戦法、数による蹂躙。

 

「かつてのオレ達は不完全で弱かった……だが、今は違う!今度こそオレが勝つ!完成された戦艦であるこのオレが勝利する番だ!」

 

 ジャン・バールは三十二ノットと言う快速であっという間に敵艦隊を射程内に捉えた。

 

「止まれ!これより先はヴィシアの海域だ!何用かは知らんが即刻立ち去れ!さもなくば撃つ!」

 

 ジャン・バールが拡声器で言葉を発する。

 

 ジャン・バールの言葉が届いたのか前方の艦隊は停止して、話し合う姿が強化された視力から分かる。

 

 しばらくして、一隻の艦船(KAN-SEN)がこちらに向かってきた。

 

「ロイヤル所属の航空母艦、ハボクック氷山空母と申します。ヴィシアに協力して欲しい事があり、代表として参りました」

 

 そう言うとハボクックは両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げて挨拶をした。

 

「ハボクック氷山空母……?どこかで聞いたことのある名前だな。 だが、ロイヤルか。正直話にならんな」

 

 ジャン・バールは警戒心をさらに高めながらハボクックに問いかける。

 

「ハボクックとやら、ここヴィシアに来た理由はなんだ?目的は?まさか観光ではあるまい?」

 

 ジャン・バールはハボクックを挑発するように言う。だが、ハボクックは気にしていない。

 

「単刀直入に言います。鉄血の航空母艦建造を止めるためにヴィシア近辺を横切り鉄血南方への海路を通らせていただきたいのです」

 

「ヴィシアに侵入する行為だ!それに、ただ横切るだけで終わると思わんな。前回のように裏切って侵略を開始するんじゃないのか?」

 

 ハボクックの要望にジャン・バールは即切り捨てた。

 

「前回の作戦……とは存じませんが、侵略は決してあり得ません。私達が戦うのは無益な戦いを終わらせるためです。そのためにも、鉄血の航空母艦建造はなんとして止めなければなりません」

 

「そんな詭弁では騙されないぞ。今すぐにこの海域から出ていけ、さもなくば撃つ」

 

 ジャン・バールの主砲がハボクックに向けられる。

 

「どうしても通らせていただけませんか?どうしたら通らせていただけますか?」

 

 ハボクックの言葉にジャン・バールは考えていった。

 

「全武装を解除して我々の監視を受けながら通過するのであれば許そう。ただし、ロイヤルの艦船(KAN-SEN)及び航空母艦は含まれないでだ」

 

「今作戦は航空母艦を主軸とした作戦です。武装解除は出来ますが、航空母艦が対象外では作戦の達成が不可能です。その条件は受け入れられません。」

 

 ジャン・バールの出した条件にハボクックは即答する。

 

「では、この様な条件はいかかでしょう?全ての武装解除したアイリスとサディア、そしてロイヤルからは私だけが通過メンバーとして参加する。もちろん私も武装は解除しておきます……いかがでしょうか?」

 

「却下だね。いかなることがあろうとも航空母艦とロイヤルはヴィシアには近寄らせない……交渉は決裂だ。戻って仲間に伝えな。今から引き返すのであれば追わないでおこう。だが、進んでくるのであれば容赦はしない」

 

 ハボクックの出した条件を跳ね飛ばし、ジャン・バールは主砲を下ろす。

 

 ハボクックは悲しそうな顔をしながら艦隊へと戻る。

 

「……全艦隊に告げる。交渉は決裂した、これより戦闘になると予想される。各員は戦闘準備用意」

 

 ジャン・バールが無線で艦隊全員に伝える。ジャン・バール自身も主砲の装填を済ませ、いつでも撃てる用意をした。

 

「敵艦隊の前進を確認!これより防衛に入る!駆逐艦は左右から奇襲を仕掛けろ!俺が囮となって手助けする!」

 

 ハボクック達の前進を確認したジャン・バールは駆逐艦に指示を出して主砲の標準を合わせた。

 

 こうして、未来を守りたい者達と祖国を守りたい者たちの戦いが始まった。




今回は祖国を守りたいジャン・バール視線で書かせていただきました。
話は変わりますが、今日(五月十四日)アズールレーンの作戦履歴にイベント「光と影のアイリス」が追加されましたね!
それに伴い、常設の建造にもイベントキャラが追加になりました!持っていない指揮官はこれを機に建造を回してみてはいかがでしょうか?
この小説のジャン・バールはイベント「光と影のアイリス」より後のジャン・バールになっております。
ジャン・バールとハボクックとの接点はなく、初対面となりました。
これから、どのように戦闘が行われるのか、お楽しみに!


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Jean bart(ジャン・バール)

ジャン「再び祖国を守れる機会が与えられるとはな……」

ジャン・バールは主砲を撫でて高まる気持ちを落ち着かせる。

ジャン「あの時の戦艦はいないが……まあ、良い」

撫でていた手を降ろして、一番砲塔をハボクックに標準を合わせる。

ジャン「そうだな、最初に狙うはあの巨大な航空母艦にしよう。あの大きさなら偏差を合わせなくとも当てれる。二番砲塔の練習にはもってこいだ」

続いて、新しく搭載された二番砲塔もハボクックに標準合わせる。

ジャン「騎士道など無用だ!まとめてかかってきな!」

ジャン・バールの主砲が火を噴く。


 

――自由アイリス教国:南東海域――

 

 

「オレは……夢でも見ているのか?」

 

 ジャン・バールは一番手前にいる航空母艦に砲弾を撃ち続けている。

 

 完成された戦艦であるジャン・バール、その主砲である四十五口径三十八cm四連装砲は四十キロ離れた敵を砲撃出来る。

 

 劣悪な散布界によって砲弾が当たるかは運次第ではあるが、当たれば黙らせることは簡単だ。

 

 ましてや、二十キロ程度しか慣れていない巨大な航空母艦はただの的でしかなく。この距離ならば当たりさえすれば、確実に仕留めれると確信していた。

 

「なぜだ……なぜ倒せない!なぜ進み続けれる!?」

 

 だが、現実は違った。

 

 確かに劣悪な散布界によって砲弾の命中数は少ない。

 

 少ないだけで当たっていないわけではない。数十発の砲弾が当たっているのだ。

 

 それでも、敵航空母艦は前進を止めない。

 

 そして、オレを混乱させる事がもう一つあった。

 

「どうして攻撃してこない!手加減のつもりか!ちゃんと戦え!」

 

 そう、敵航空母艦は艦載機を発艦させずただこちらに向かって前進をするだけなのだ。

 

 空襲で痛い目を見てきたオレ、ジャン・バールは航空母艦を恐れていた。

 

 だからこそ、敵航空母艦と戦って勝つことでトラウマを克服しようと考えていたのだ。

 

 しかし、その敵は艦載機を一機たりとも発艦せずに突撃してきている。

 

 無抵抗な敵を一方的に撃ち続けるさまはまるで、自身が嫌っているロイヤルを連想させた。

 

「違う!違う違う違うっ!オレは卑怯者でも偽善者でもない!」

 

 オレは頭を大きく振って否定する。

 

「この感情に囚われては駄目だ!もっと視野を広く……!?他の艦船(KAN-SEN)はどうなっている!」

 

 オレは思い出したように味方艦隊と敵艦隊を確認した。

 

 味方艦隊は砲弾と魚雷を前進している敵航空母艦に集中させている。

 

 砲弾は受けても損傷は無いとばかりに無視して、魚雷は加減速によって回避していた。

 

 対して敵艦隊は前進してきている航空母艦以外、全く動いていなかった。

 

「た、単艦だけ突撃している……だと?」

 

 冷静になろうとして氷水をぶっかけられたような衝撃を覚える。

 

 敵は一隻だけ?あれだけ後ろに控えていて戦闘しているのは航空母艦だけ?

 

 いや、戦闘すらしていない。相手は攻撃していないから、こちら側が一隻を複数で寄ってかかって攻撃しているだけだ。 

 

「分からない……分からないっ!何なんだ、あいつは!?何がしたいんだ!どうなっているんだ!?なんでこうなっているんだよ!」

 

 確実に仕留めれると確信していたからこその困惑。

 

 徐々に接近してきていると言う事実から来る焦り。

 

 艦載機を発艦せず攻撃してこないことによる怪訝。

 

 一方的に攻撃する自身と偽善者を重ねて自己嫌悪。

 

 単艦突撃と言う理解が出来ない行為に対する恐怖。

 

 複雑な感情は息のペースを上げさせ、冷や汗と痙攣により身体が震える。

 

 装填が終わってもすぐに撃つことが出来なくなり、震える身体によって標準がブレて砲弾を外した。

 

 敵は次第に距離を詰めてくる。二十キロ、十五キロ、十キロ、五キロ……。

 

 気が付けばオレは撃つのを止めていて肩を抱いて震えていた。

 

 敵が来る。敵がオレ達を蹂躙する。オレ達はまた祖国を守れなかった。

 

 敵の航空母艦……ハボクックがオレの目の前で停止する。

 

「……オレ達の負けだ。好きにするがいい」

 

「そうですか。分かりましたわ。では、私の好きにさせていただきます」

 

 オレは目を閉じて覚悟した。仲間の叫ぶ声が遠くで聞こえる。

 

 オレはまたこの海で眠りにつくのか……そう思うと気持ちが嘘のように軽くなる。

 

 逃げたと言われたら否定は出来ないが、オレには敵わない相手だったただそれだけだ。

 

 そうして、最後を覚悟していたオレにハボクックは抱き寄せて抱擁した。

 

「怖がらなくて大丈夫です。私達は貴方の敵じゃありません。今は信じれないかもしれませんが、私は貴方の友人になりたいのです」

 

 その言葉は混乱したオレの中でスッと入って来て落ち着きを取り戻す。

 

「落ち着かれましたか?」

 

「ああ、まさか敵に宥められるなんて思わなかったがな……ところで、いつまで抱いているつもりだ?寒いのだが」

 

 そう言うとハボクックは「あら、ごめんなさいね」と言うと離れた。

 

「私達に敵対の意思はありません。ただ、鉄血方面へと通過したいだけなのです。これでも信じてもらえませんか?」

 

「……無敵の装甲と絶対的なる自信は嫌というほどわかった。だが、やはりロイヤルは信用できない」

 

 ハボクックの言葉に俺がそう言うと悲しそうな顔をする。

 

「……しかし、お前の誠意は確かなものだった。そのことに対してオレ達も誠意で答えなければならない」

 

 オレは何を言おうとしているんだろうな。これは祖国を危険にさせるかもしれない事なのに。

 

「お前が出した条件。全ての武装解除したアイリスとサディア、そしてロイヤルからはお前だけが通過メンバーとして参加する……それならば許そう」

 

 言ってしまった。許可してしまった。だが、後悔はしていなかった。

 

 それを言い渡されたハボクックは「ありがとうございます」と言うと無線で連絡を取る。

 

 向こうからロイヤルを除く複数の艦船(KAN-SEN)がこっちに来るのが見える。

 

「全艦、戦闘を止め!これより、通過メンバーの護衛と監視作戦を実行する!」

 

 オレは味方艦隊に無線で通告する。

 

 一方的な戦闘は終わったが、オレ達の本当の役目はここからだ。




今回はジャン・バール視線&感情込みでハボクック戦とのシーンを書かせていただきました!
一人称の小説は書いたことが無かったので書いていて難しかったです……これからも練習が必要ですね。
次回はどうしてアイリスとサディア、敵対している勢力がハボクックと親しいのかを書いていけたらなと思っております。


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サファイヤとデマントイドガーネット

ザラ「ヴィシアの艦隊を真っ向から打ち破るなんて……流石はハボクックお姉さまですわ」

ザラはうっとりとしながら双眼鏡でハボクックが勝利したところを眺めていた。

その勝利は完勝の一言。誰も傷つけず、自らもまた傷つかない。

ヴィシアの艦隊を相手に自分の意思を貫き通したその姿は、昔から変わらず憧れのままだった。

ザラ「やっぱり、噂は信じられませんね。鉄血の言う噂は特に……」

ザラは鉄血から聞かされていた話を思い出してため息をついたのだった。


 

――自由アイリス教国:南東海域――

 

 

「ハボクック様、ヴィシアの艦隊との交渉よくやったわ」

 

「ハボクック様は大胆ですね、まさか真っ向勝負に出られるとは……それでいて無傷なのは……流石は氷山空母です!」

 

 ヴィシアの艦隊から戻ってきたハボクックにウォースパイトとフォーミダブルが出迎える。

 

「ウォースパイト様、フォーミダブル様、ありがとうございます。ジャン・バール様との交渉が上手くいって良かったと今はホッとしております」

 

 ウォースパイトとフォーミダブルに返答を返す。

 

「おつかれさまです!ハボクック様!」

 

「ハボクックお姉さま、お見事でした。完封勝利ですわね」

 

 ハボクックにアイリスのリオンとサディアのザラが近くまで航行してきて、ねぎらいの言葉をかけた。

 

「はい、ありがとうございますリオン様、ザラ様。それと、ザラ様。今回は戦闘ではありませんので勝利という表現はちょっと間違いです。正しくは交渉成立と言います」

 

 ザラの戦闘と言う言葉に反応してハボクックは訂正するように言う。それに対してザラは「あら、ごめんなさい」と言って謝る。

 

「でもでも、流石はアイリスのサファイヤですね!攻撃を受けても怯むことなく突き進み、敵対していた相手にも慈愛の心で受け入れて相手を許す……むはー!母性の塊ですか!?私もそのお胸で甘えたいです!」

 

 リオンは興奮を隠すことなくハボクックを褒めた。

 

「えっと、抱擁がご所望なら抱き着きますか?大丈夫ですよ、こう見えて慣れていますから」

 

「いえ!衣装を汚すわけにはいかないのでお気持ちだけありがたくいただきます!」

 

 ハボクックの言葉に対してリオンが鼻を押さえながら断った。

 

「ちょっと良いかしら?アイリスのサファイヤとはいったいどういう事でしょうか?」

 

 リオンの言葉にフォーミダブルが質問する。

 

「はい!サファイヤには慈愛、誠実、徳望、平和の祈りと言ったような石言葉がありまして、アイリスではハボクック様の事を慈愛溢れ、誠実であり、皆から慕われ、平和を守護する者としてサファイヤとお呼びしております!」

 

 リオンがフォーミダブルや他の艦船(KAN-SEN)に説明して、皆がなるほどとうなずいた。

 

「アイリスではサファイヤ、私達サディアでは尊敬と憧れを込めてデマントイドガーネットって例えているわ」

 

 ザラの言葉にウォースパイトとフォーミダブル、リオンも首をかしげた。

 

 それを見たハボクックが「私から説明します」と言って話し始める。

 

「デマントイドガーネットの石言葉は友愛、真実、目標達成、勝利のお守り等などありますが、私に使う場合は友愛と勝利のお守りでしたよね?伝統かは分かりませんが、アイリスとサディアの方々は私を宝石に例えるのが好きなようなのです」

 

 ハボクックの説明を聞いたウォースパイトとフォーミダブル、リオンはそういうのもあるのかと納得した。

 

「なあ……オレが言うのもなんだがお前たちは何しにここに来たんだ?」

 

 話が盛り上がってきたところで後ろからジャン・バールの声が低く響く。その声からは若干の怒りが垣間見えた。

 

「申し訳ありませんジャン・バール様。つい話が盛り上がってしまいました。お手数をおかけしますが、ジャン・バール様から今回のヴィシア近海通過メンバーについてご説明お願いします」

 

 ハボクックにそう言われてジャン・バールはため息をつきながら説明に入る。

 

「今回の通過は特例である。全ての武装解除したアイリスとサディア、そしてロイヤルからはハボクックのみが通過メンバーとして参加することを許可する。武装解除は戦闘のための装備の取り外しであるが、今回は時間も無いとみて弾薬の隔離のみにする」

 

 この言葉に各陣営の艦船(KAN-SEN)達は驚き、抗議の言葉を上げることになる。

 

 だが、ジャン・バールは頑なに拒み、最後はロイヤルが折れて作戦を続行すると言う形で落ち着く。

 

 こうしてヴィシアとハボクックの戦闘は誰一人として被害を出すことはなく終わったのであった。




まずは謝罪を……更新が遅れてすみませんでした!
言い訳ではありませんが、アズールレーンの新イベントを進めていて、書く時間がずれ込んでしまったのが今回の更新の遅れた理由です。
皆さんは新イベント「神穹を衝く聖歌」は進んでいますか?
私は今日ハード海域がクリアできました。この調子で頑張って全ストーリーを解放させたいと思います!
次回はこの話の続きでアイリスとサディアにハボクックが何をしたのかについて書きたいと思います。

サファイヤ、石言葉。
慈愛、誠実、徳望、平和の祈り。

デマントイドガーネット、石言葉。
友愛、真実、目標達成、夢を現実させる、恋を実らせる、勝利のお守り。


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ヴィシア重要拠点

クック「もうすぐで聖堂ですね……」

ハボクックはかつて自分がセイレーンから奪還し守った島の一つを思い浮かべていた。

クック「あの美しい境内と天にそびえる美しき聖堂……そこで出会った幼き少女。今はリーダーをされているんでしたよね。長生きをすると面白い事があるものです」

そう言いつつ先行しているジャン・バールを見つめる。

クック「ええ、本当に……長生きは素晴らしい出会いをくれますね」

過去の思い出に浸りながら、ハボクックは聖堂を目指した。


 

 

――ヴィシア聖座:聖堂の島・近海――

 

 

「これは一体何が起きたのですか……?」

 

 目的地へと航行していたハボクックが驚愕して徐々に減速して停止する。

 

 現ヴィシアの拠点であり、かつてアイリスの象徴であった聖堂。

 

 天へと続く巨大な白い建物はそこにはなく、今は瓦礫の山となっていた。

 

「これはロイヤルとヴィシアの傷の一つだ。だが、勘違いしないでくれ。これに関しては感謝しているところもある」

 

「感謝……ですか?」

 

 ジャン・バールの言っている意味が分からないハボクックは聞き返した。

 

「数か月前の話だ。オレの仲間のアルジェリーが鉄血に誑かされてな。その時に使われた黒いメンタルキューブによってアルジェリーは洗脳され暴走していた。それを食い止めるためにアイリス、ロイヤル、そしてヴィシアの他の艦船も参加してアルジェリーの正気を戻してくれたんだ」

 

「黒いメンタルキューブ……」

 

 ジャン・バールの説明の一部の言葉に反応したハボクックが呟く。

 

 ジャン・バールが「どうした」と聞くと「何でもありません、続きを」とハボクックが返す。

 

「その黒いメンタルキューブは聖堂の秘蹟の具現化装置で神穹の壁を作り出し、次にアルジェリーを暴走させた。その暴走を止めるために秘蹟の元である聖堂を破壊することになり、なんとかアルジェリーの暴走が収まった……今更ではあるがアルジェリーを止めてくれてありがとう」

 

「そんなことがあったんですね……こちらこそお話しいただいてありがとうございます」

 

 素直に言えない立場であるジャン・バールが頭を下げてお礼を言った。

 

 それに対してなんとなく理解できたハボクックが深々とお礼をする。

 

「……ところで、なぜお前はこの聖堂を知っている?ここはアイリス、ヴィシアでは重要拠点ではあるが、それ故に関係者以外は入れないように対応してきたはずだ」

 

 頭を上げたジャン・バールがハボクックに問いかける。

 

「この聖堂の島をの御存じなのは過去の大戦の時、私はここをセイレーンから奪還したメンバーの一人だったからです」

 

 ハボクックの言葉にジャン・バールは「ほぉ……」と言葉を漏らした。

 

「だから一言目が驚きだったと言うわけか。なるほどな」

 

「はい、私はリシュリュー様と共にこの海を奪還して、防衛を数週間行っていました。その後は色々な戦場に飛び回っては戦ったり、守ったり……」

 

 ジャンバールが納得し、ハボクックが思い出したように話を続ける。

 

「あの頃のリシュリュー様は幼くて震えていましたね。ですが、決して戦場からは逃げずに大きな主砲の発射に転びそうになりながらも敵を倒していました。どうして戦うか聞いたことがありますが、どうやら生まれたばかりの妹のために頑張っていたらしいです」

 

 ハボクックの言葉にジャン・バールは「そうか」と言いつつプイッとそっぽを向く。

 

 その様子を見たハボクックは、美しき姉妹愛に聖母のような笑みで微笑むのであった。




皆様、イベントは進んでおりますでしょうか?私はようやくストーリーが全開放しました!
今回はアイリスとハボクックの過去を少し書かせていただきました。
この小説の時間軸としては現在行われているイベント「神穹を衝く聖歌」の数か月後。ジャン・バールが回復して戻ってきている状態です。
「聖堂がアイリスの陣地でない理由」は次回書こうと思います。
ちょっと更新遅れましたが、今回もここまで読んでいただきありがとうございました。


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待ち伏せ艦隊

???「艦影確認。識別――ヴィシア、サディア及びアイリス艦隊と推測」

虚ろな瞳でこちら側に接近する艦隊を補足する。

???「所属不明艦船(KAN-SEN)補足。データ照合……氷山空母ハボクックと一致」

その無機質な声からは感情を読み取ることが出来ない。

???「会話解析開始……解析完了。ヴィシア及びサディアの離反の可能性大。警戒を強化せよ」

無表情の顔が振り返る。裏切られても変わる事の無い顔は、まるで人形を彷彿させた。


 

――ヴィシア聖座:聖堂の島・遠洋――

 

 

「やっぱり来たわね……」

 

「ちょっと!荷物が無いじゃない!それに、ロイヤルの連中と一緒に来るなんて……まさか裏切り?」

 

 聖堂の島、遠洋のその奥側。本来、サディアの近海に当たる海域に鉄血の艦船(KAN-SEN)が集結していた。

 

 プリンツ・オイゲンは予想が当たって忌々しそうに、アドミラル・ヒッパーは裏切りに対して怒りの声を上げる。

 

「会敵はもう少し後と予想していましたが……こうなっては仕方ありませんね。ジャン・バール様、案内ありがとうございました。各員、戦闘準備用意!隔離されている弾薬の装填を急いで!」

 

 ハボクックの指示にアイリスとサディアの艦船(KAN-SEN)が応える。

 

 対して取り囲んでいたヴィシアの艦船(KAN-SEN)達は待ち伏せ艦隊に背を向けてハボクックの前に立ちふさがった。

 

「……ジャン・バール様。アズールレーンに戻るつもりはありませんか?」

 

「くどい。欺瞞と偽善の異教徒に従うつもりはない……それが答えだ」

 

 ハボクックの誘いにジャン・バールは即答して拒絶する。

 

「そうですか……では、致し方がありませんね。もう一度勝たせていただきます。今度は本気で行きますよ?」

 

「おう、かかってこい!全力で相手をしてやる!」

 

 ジャン・バールの砲塔が再びハボクックを捉える。

 

「取り巻きは任せてください!私が全て抱きしめ……じゃなくて抑えますので!」

 

「とにかく進めー!」

 

「リヨンは巡洋艦、ル・テメレールはその援護!私は駆逐艦を撃破します。等しく破滅をくれてやる……!」

 

 リヨンとル・テメレール、サン・ルイのアイリス艦隊がハボクックの右舷側から前進する。

 

「挟み撃ちするつもり?ここは通らせないってのっ!」

 

「全艦、火力全開!Feuer!」

 

「風に乗って波をかきわけるのだ!Feuer!」

 

「風に乗って波を……やはり無理ですね。ええ」

 

「数では有利ですが油断しないように!」

 

 対してアドミラル・ヒッパー、プリンツ・オイゲン、Z1、Z2、Z23が行く手を邪魔する。

 

「全艦、戦闘陣形、Tiro(ティーロ)!」

 

「貴方達の最大の間違いは、このリットリオに立ち向かおうとしたことだ!」

 

「狙い定めた!外しません!」

 

 ザラ、リットリオ、カラビニエーレのサディアの艦隊がハボクックの左舷側から前進する。

 

「目標視認――殲滅を開始する」

 

「ヴィシアを守る邪しき剣、参ります!」

 

「封印解除!さあ、デビルアイドルの力、その目に焼き付けよッ!」

 

「なんか個性強い配置に付いちゃったなぁ……私も頑張らなきゃ!」

 

 ガスコーニュ、ル・マラン、Z36、ル・マルスがサディアの艦隊に立ちふさがる。

 

「皆様、無理はなさらないように!危険だと判断した場合は身を引いてください、援護します!」

 

「オレを相手に余裕だな!その余裕、いつまで続くか見ものだ!」

 

 中央では特殊装甲を展開したハボクックとジャン・バールの戦闘が開始される。

 

 ハボクックの特殊装甲にジャン・バールの砲弾が当たり、弾かれた砲弾は海へと勢い良く吸い込まれては水柱を作った。

 

 瓦礫と化した聖堂を背後にアズールレーンとレットアクシズの小さな海戦が始まる。




通商破壊打撃艦隊

旗艦ハボクック、リヨン、ル・テメレール、サン・ルイ、ザラ、リットリオ、カラビニエーレ。

待ち伏せ艦隊

旗艦アドミラル・ヒッパー、プリンツ・オイゲン、ジャン・バール、ガスコーニュ、Z1(レーベルヒト・マース)、Z2(ゲオルク・ティーレ)、Z23(ニーミ)、Z36(ゼクスウントドライスィッヒ)、ル・マラン、ル・マルス。


更新日付を勘違いしていました!本当に申し訳ございません!
今回はハボクック、アイリス、サディア艦隊と戦うヴィシア、鉄血艦隊を書いてみました。
最近は仕事(運送業)が忙しく、土日だけでは疲れも取れなくて眠ることが多くなってきましたが皆様は大丈夫でしょうか?
コロナの自粛解除は出て一か月?ぐらい経っておりますが、元気に仕事や遊びに励んでいますか?
まだまだ油断を辞さない状態ではありますが、頑張って乗り越えましょう!


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Corallo rosso(コラッロロッソ)作戦 前編

コーニュ「敵艦隊、目標三隻。脅威度低、戦闘所要時間一時間未満」

無機質な声と共に発せられる火花、四連装砲二基八門の砲弾が的確に敵を追い詰めていく。

コーニュ「戦術的問題、皆無。作戦進行に異常無し」

ガコンッと音と共に飛び出す空薬莢は海に無造作に落ちては消えていった。

コーニュ「チェックメイト」

逃げ道を悉く塞がれ、追い込まれた敵艦隊の戦艦にガスコーニュの砲弾が的中する。

ダメージを受けたことによる艦船(KAN-SEN)の甲高い声と、装甲を貫通する鈍い音が響き渡った。


 

 

――ヴィシア聖座:聖堂の島・遠洋――

 

 

「リットリオ様!」

 

 ガスコーニュから放たれた砲弾の直撃を受けたリットリオから発せられた苦痛の叫びにハボクックが反応する。

 

「大丈夫だっ!副砲がやられたが、まだ主砲は健全だ!まだ私は戦える!」

 

 ハボクックの言葉にリットリオは何度も「大丈夫だ」と返す。だが、明らかに危機的状況であった。

 

「至近弾、誤差を修正……目標、敵戦艦バイタルパート」

 

 そんなリットリオを正確に追い詰めていく敵戦艦ガスコーニュ。彼女の瞳は次で仕留めると静かに語っていた。

 

「攻撃機、爆撃機発艦!目標、敵戦艦!リットリオを援護します!」

 

「このジャン・バール相手に余所見とはずいぶん舐めてくれるな。これでも食らいなっ!」

 

 ハボクックの発艦途中にジャン・バールの砲弾が側面に命中する。

 

 ジャン・バールから放たれた砲弾はハボクックにダメージを与えることはなく、氷の特殊装甲に弾かれて砲弾は海に落ちては水柱を作るだけ。

 

「くっ!?衝撃で艦載機が海へ……!」

 

 しかし、砲弾を受けた衝撃により左右に船体が大きく揺れては甲板上に待機していた艦載機が次々と海に落ちる。

 

 何とか発艦出来た艦載機は最初の数機だけで、その数機もガスコーニュに突入するが高い対空弾幕の前に全てが撃ち落とされる。

 

「困りましたね……先程から艦載機が発艦できないと言うのは」

 

「それがオレの目的だからな。ダメージが与えられないのなら攻撃させなきゃ良い。後は時間がオレ達を勝利へと導いてくれる」

 

 焦りを表に見せないハボクックに見透かしたように笑うジャン・バール。

 

 唯一の航空戦力にて戦局を大きく左右する航空母艦と言う艦種でありながら、戦艦の主砲も弾く驚異的な装甲を持つハボクック氷山空母。

 

 最強ともいえるハボクックであるが、攻撃するためには艦載機の発艦が必須でありそれが攻撃手段の全てである。

 

 しかし、その攻撃手段を妨害され十分に能力を発揮できない今の状態は、ただの標的艦でしかなく。距離を取ろうにも三十二ノットと言う高速戦艦であるジャン・バールから逃れることが出来ない。

 

「いい加減諦めたらどうだ?オレにはお前の装甲は貫けない。だが、戦闘に参加させないことぐらいは出来る。その間に他の連中が倒しきれば海に立つのはお前一人になる。後は取り囲んで集中砲火で海の底へと誘うだけだ」

 

 ジャン・バールは勝ち誇ったように淡々と話す。その間もハボクックが艦載機の発艦準備をしていた。

 

「まだ、諦めないか……だが、何度やっても同じことだ!」

 

 発艦準備中のハボクックにジャン・バールが発砲!その砲弾が再びハボクックの船体を大きく揺らしては艦載機を海へと墜としていく。

 

 ジャン・バールが次の砲弾を装填中、後方で大きな爆発音が轟く。

 

「勝負ありだな。これでオレ達の勝利が近づいた。今ならまだ降伏するのも認めよう。オレ達も無駄な戦闘はしたくない」

 

 自信満々に言うジャン・バール。だが、ハボクックは戦闘準備を解かない。

 

 爆発音がなった方向を見て、スーッと息を吐くとハボクックがジャン・バールに微笑む。

 

「何を笑っている……自暴自棄にでもなったのか?」

 

「いえ、これで無益な戦闘は終わりを告げるのだと思うと気が楽になりまして。どうやら読み合いは私の勝ちにございますね」

 

 ジャン・バールの言葉にハボクックが優雅に答えた。それはまるで勝利を確信したような振る舞い方だ。

 

 その素振りに「まさかっ!」とジャン・バールが振り返る。

 

 そこにはジャン・バールが予想にもしていなかった光景が映し出されていた。




今回はハボクックとジャン・バールの戦闘に視線を合させて書いてみました!
久しぶりの本格的な戦闘に内心不安になりながらも前半を無事書き終えれたことをホッとしています。
次回はこの戦闘の後編を書いていきたいと思います。

Corallo rossoはイタリア語で、日本語に直すと赤珊瑚です。


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Corallo rosso(コラッロロッソ)作戦 後編

リヨン「思ったより敵さん攻めてきませんね……」

敵巡洋艦一隻を中破に追い込んだ後、明らかに鉄血艦隊はじりじりと後退し始めていた。

リヨン「これはリットリオさんの援護に行けそうですね……サン・ルイさん後は頼みます!」

サン・ルイの言葉を待たずにリヨンは航行する。ガスコーニュにバレないように背後に付くことを成功させるとリヨンは主砲の弾を榴弾から徹甲弾に変更する。

リヨン「上手くバイタルパートに入りますように……!」

弾の変更を完了させたリヨンは何も言わずに発砲し、不意を突かれたガスコーニュは防御できずに第二砲塔に直撃して大爆発を起こした。


 

――ヴィシア聖座:聖堂の島・遠洋――

 

 

「いったい何が起きているんだ……!」

 

 ジャン・バールは炎上するガスコーニュを見て呟く。

 

「イレギュラー発生。直撃弾五発、主要区画(バイタルパート)に損害あり。主機損傷航行不能、副砲一基破損、第二主砲塔大破、第二主砲塔より火災発生……戦闘の続行が困難」

 

 よろめきながらガスコーニュは自身のダメージを確認する。損害内容は戦闘復帰が絶望的であり次の砲撃に耐えられないことを意味していた。

 

「悪い子はめっ!です!そこで大人しくしていなさい!……お人形みたいで可愛いですので、後で抱きしめていいですか?」

 

 砲身から硝煙が立ち上がる中、普段とは対照的に真顔になったリヨンが発言したが最後のセリフで台無しになっていた。

 

「何故リヨン級がガスコーニュに砲撃開始している……鉄血艦隊はどうした!」

 

 ジャン・バールが驚愕しながらあたりを見渡す、するとル・テメレールとサン・ルイに追われながら後退している鉄血艦隊が見えた。

 

「巡洋艦と駆逐艦が一隻ずつ中破しているが……他は無傷に近いじゃないかっ!何故撤退している!?逃げずに最後まで戦え!」

 

 撤退している鉄血艦隊にジャン・バールは怒りをあらわにした。

 

 ここが突破されれば裏切ったサディアの海域、鉄血艦隊との決戦を前に海上補給を許してしまうだろう。そうなれば、結果的に苦しむのは鉄血艦隊だ。

 

 だからこそ、この海域で食い止める必要があるはずだ。ジャン・バールはそう思いながら戦っていた。

 

「ジャン・バール様は勘違いをなされていますね。彼女達はただ輸送物資の確認をするだけの艦隊ですよ」

 

 ハボクックの言葉にジャン・バールは「何だと……?」と聞き返す。

 

「この作戦は二方向からの同時輸送作戦。輸送ルートはこちら側のルートのほかにもう一つあるわけです。こちら側のルートの輸送物資が届かないと分かった以上、彼女達がここに残る理由は無くなりました」

 

 ハボクックは「ですが」と言って話を続ける。

 

「敵艦と接触した以上は戦わなければなりません。アドミラル・ヒッパー様の最初の発言はどちら側に付くのか確認するための発言で、数によっては戦闘も考える感じでした」

 

「……しかし、サディアの艦隊の裏切りによって予想していた戦力より少なくなり、またサディア方面より増援が来れば挟み撃ちとなる状況に気が付いて残る理由はなくなったということか」

 

 ハボクックが話を続けようとしたところをジャン・バールが話をぶった切って語る。

 

「ご名答です。流石はヴィシアの旗本と言ったところでしょうか。ですが、この状況で戦局はもう覆らないでしょう。ちょうどあちら側も戦闘も終わったみたいです」

 

 そう言ってハボクックは指を指す。指した方向にはかなりのダメージを負って炎上するヴィシアの艦隊の姿があった。

 

「勝負はつきましたね。これ以上攻撃すれば撃沈するでしょう。ですが、私達の目的は鉄血の航空母艦建造の阻止です。これ以上、攻撃はしたくありません。お願いします、降伏して欲しいとは言いません。ここを通過させてください。」

 

 ハボクックが深々と頭を下げてお願いした。ジャン・バールはしばらく黙っていたが、髪の毛をわしゃわしゃとしたあと「また負けたか」と言って空を見上げる。

 

「……全艦隊帰投!さっさと修理してロイアルの艦船(KAN-SEN)がヴィシアの海に来ないか警戒する」

 

 そう言ってジャン・バールはハボクックに背を向けて帰投し始める。通信を受けたヴィシアの艦隊はよろよろになりながらも撤退していく。

 

 ハボクックは後姿を見届けて、艦隊の編成をし直し航行を開始する。

 

 目指すはサディア海域の近海。その奥の鉄血海域の遠洋。




今回はCorallo rosso(コラッロロッソ)作戦の後編と言うことで、どうしてジャン・バールが驚いたのか、何故ハボクックが勝ちを確信したのかと言うことを書いていきました。
……ある程度予想出来ていましたよね。新キャラなのに出番なしなんてありえませんから。
次回の話をする前にちょっとお話があります。
リアルで現在進行形で大事なことが控えています。そのためにも時間が必要です。
自分は不器用な人間ですので、並列して物事を行う能力はありません。
ただでさえ遅い更新ペースがさらに不安定になりますが、出来るだけ一週間以内に一話は書いていきたいなと思い努力していくつもりです。
話は戻りまして、次回予告です。
次回はサディアでの補給について書いて行こうと思っております。
ここまで読んでいただきありがとうございました!誤字脱字、感想お待ちしております!


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チッタ エテールナ

???「あの噂は本当だったのですね……」

???は窓外に見えた複数の艦船(KAN-SEN)達を上から見ていた。

???「あのお姿は紛うことなきハボクック様です……。私が恋焦がれたあのままのお姿でこの地に再び舞い戻られるなんて」

気が付くと頬に一線の涙が伝ってこぼれ落ちる。

???「今度は…今度こそは絶対に守って見せます……!」

???はグイッと裾で涙をぬぐうと目を閉じて小さく深呼吸をする。

???「……さぁ、演目を始めましょう」

執務室の扉がコンコンとノックされる。???は静かに目を開けた。

普段の笑顔とその黄色い瞳に決意の炎が灯る。


――サディア帝都:チッタ エテールナ――

 

 

「ヴェネト、私だ。美しい方々を連れてきた」

 

「はい、どうぞお入りください」

 

 リットリオが扉を開けてハボクック達が室内に入る。

 

「ようこそ、我らが帝都チッタ エテールナへ!世界で一番美味な料理と世界一美しい景観しかないところだが、歓迎しよう!」

 

「まあ、補給作業が完了するまでの間ですけどね……。精一杯の歓迎をさせていただきます」

 

 リットリオは大声で盛大に歓迎するのに対して、それとは対照的に落ち着いて歓迎するのは青い髪、黄色い目の艦船(KAN-SEN)。

 

「お久しぶりです、ハボクック様。それと、初めましてヴィシアの皆様。私はサディア総旗艦のヴィットリオ・ヴェネトです」

 

 ヴィットリオ・ヴェネトと自己紹介した艦船(KAN-SEN)はハボクック達に握手を求めて、一人一人握手を交わしていく。

 

「お久しぶりです、ヴィットリオ・ヴェネト様。今回は港への駐在及び燃料弾薬等の補給までしていただきありがとうございます」

 

 ハボクックはヴィットリオ・ヴェネトにお辞儀をする。それに対してヴィットリオ・ヴェネトは頭を上げるようにハボクックに言った。

 

「大恩あるハボクック様に少しでも力になれることは私達にとっても名誉なことです。本当なら変わった街並み等を見ていただきたいので一緒に観光でも……とお誘いしたいのですが、流石に今はお時間がありませんよね」

 

「全くだ。戦時中でなければ我らが自慢の料理を振る舞おうと思ったのだがな……」

 

 ヴィットリオ・ヴェネトに続くようにリットリオが愚痴をこぼす。

 

「せっかくのお誘いではありますが、私達には大切なお役目がございますゆえ……申し訳ありません」

 

 ハボクックが深々と頭を下げる。

 

「謝罪は受け取りません。その代わり、この作戦に私達も参加することを条件に許しましょう」

 

 ハボクックはハッと頭を上げる。

 

「元々その気だったくせに……良い口実を見つけたなヴェネト」

 

「そうですねリットリオ。ですが、貴方はここでお留守番です。私がここを離れている間、艦隊の士気を任せます」

 

 リットリオは何か言いだしそうになるのをヴィットリオ・ヴェネトが人差し指で口をふさぐ。

 

「まさか、そのような兵装で戦いたいだなんて……言いませんよね?」

 

 ヴィットリオ・ヴェネトに言われてリットリオは苦虫を噛んだように黙る。確かに今の彼女は戦える状態ではない。

 

「分かった分かった……今回は大人しくしているさ。だが、今回だけだからな!」

 

 リットリオはそう言って顔をプイッとそっぽ向く。

 

「補給が終わるまでの間に今後について話しましょう。敵の情報はある程度把握しております」

 

 執務室の机にヴィットリオ・ヴェネトが鉄血近海の地図を広げる。

 

 その地図の上に船の形をした消しゴムを置いていく、そこにマジックで船の名前を書いていく。

 

「今、分かっている鉄血近海の水上艦がこの数。そこに鉄血ご自慢の空軍機と潜水艦、それに加えて量産型艦船を加えると……おおよその敵勢力はこのぐらいかしら?」

 

 次々と書かれていく敵勢力によって鉄血近海はマジックの書かれた消しゴムが並び真っ黒に染まる。

 

「我々は鉄血艦隊の半数以下……それでも行く覚悟がありますか?」

 

「勿論です。鉄血の航空母艦建造は周辺勢力である私達の脅威そのもの……。これ以上の戦火を増やさないためにも、何としても阻止せねばなりません」

 

 ヴィットリオ・ヴェネトの言葉に間髪入れずにハボクックが応える。

 

「それでは各員、燃料弾薬の補給と簡易な整備を行うように!出撃は日没してすぐ、ロープを使ってお互いにはぐれないように出撃する!解散!」

 

 艦船(KAN-SEN)達が敬礼をすると次々と退出していった。

 

「……上手く誘導出来たなヴェネト」

 

 執務室の扉の鍵を閉めたリットリオがヴィットリオ・ヴェネトに話しかける。

 

「まだ安心はできません。ですが、ここまでは作戦通りです」

 

「だが、作戦通りいけば我が艦隊と鉄血艦隊でロイヤルとアイリスは挟み撃ちできる。そこで我々も戦果を上げれば鉄血も重桜も我々の事を無視は出来ないだろう?」

 

 リットリオの言葉にヴィットリオ・ヴェネトは「そうね」と答える。

 

「ロイヤルに二度は負けたが次は負けん!最後に笑うのは私達サディアだ!」

 

 復讐の闘志に燃えるリットリオ、ヴィットリオ・ヴェネトは感情の無い仮面のような笑顔で鉄血近海の地図を撫でるのであった。




皆様お久しぶりです!大変長らくお待たせいたしました!
そして、一週間以内に一話どころかここ三か月間、一話も上げれなかったことを深くお詫び申し上げます!
この三か月間何をしていたかと申しますと、まず六月から七月の間に結婚しました。
手続きが終わり、ようやく一息ついたところに活動報告にも記載した通り免許更新を忘れてしまい、九月の十八日まで自動車学校に通うことに……。
猛勉強(模擬テストで落ちまくった)かいあってか技能見極め試験と普通免許MTの筆記試験に一発で合格し、なんとか一か月で初心者ドライバーになれました!
これからは所帯持ちと言うことで、父親だという自覚をもって家族にも皆さんにも迷惑をかけないようにしっかりと頑張っていきたいと思います!
これからもよろしくお願いします!


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空と海に溶けるように

リットリオ「行ったか……まさかハボクックが夜襲をかけるとは思わなかったな」

執務室の受話器を戻しながらリットリオはため息をつく。

リットリオ「狡猾な手口は流石はロイヤルと言ったところか。だが、奇襲と言えども分かっていればどうと言うことはない」

リットリオは愚痴をこぼしながら、ヴィットリオ・ヴェネトが座っていた総旗艦の椅子に軽く腰を掛けて後ろに倒れる。

リットリオ「さて、かの大戦の英雄……いや鉄血では悪魔だったか?その最後はどうなるか。報告を待つとしよう、この特等席でな」

体勢的にはリラックスさせながらも、獲物を捕らえたような目で電話機を見つめて報告を待つのであった。


 

 

――サディア帝都:チッタ エテールナ近海――

 

 

 紅き日の光が背後の帝都をオレンジ色に染め、洋画のような光景を映すサディアの夕暮れ。

 

 補給と簡易な整備を済ませたハボクック艦隊は鉄血近海へ進軍を開始していた。

 

「これから先は鉄血海域……皆様、お覚悟は出来ていますか?今ならまだ引き返せますよ?」

 

 ヴィットリオ・ヴェネトが後ろを向きながらハボクック達に問いかける。

 

「総旗艦様の護衛が私の任務です!何処までもお供いたします!」

 

「ここまで来て帰れません!鉄血の可愛い子にも会っていませんし!」

 

 カラビニエーレ、リオンが即答する。

 

「どうしましょう~?戦力差的に圧倒的に足りませんからね~」

 

「このまま残って美しい星々の輝きを楽しむのも悪くないわ」

 

 サディアにて新しく編成されたトレントと整備によって全快したザラがのんきに答えながらも速度は緩めない。

 

「本来であればロイヤルには手を貸さない……だが、他ならぬ君の頼みだ。小生も力を貸そう」

 

「カブール……素直に助けるって言えばいいのに。もちろん、私も付いて行くわ」

 

 同じくサディアから配属になったコンテ・ディ・カブールとジュリオ・チェザーレがハボクックを一瞬だけ見て視線を前へと戻す。

 

「母港のみんなの為にも負けないよ!」

 

「受難こそ戦士の証……祖国の為、この試練を乗り越えて見せよう!」

 

 ル・テメレールとサン・ルイは祖国アイリスを思い返しながら闘志を燃やしている。

 

「例え我々の数倍の敵が待ち構えていたとしても……それでも行かれるのですか?ハボクック様」

 

 ヴィットリオ・ヴェネトがハボクックに問いかける。

 

「私は私を信じ送り出したロイヤルに、私を頼ったアイリスに、私についたサディアに、私に立ち塞がったヴィシアに応えなければなりません」

 

 ハボクックはそう言うと数機の戦闘機を飛ばす。

 

「それに、私は幼い貴方と約束しました。必ずこの青い海と空を守ると……。私はこう見えて子供との約束は違えた事はないんです」

 

 その言葉を聞いたヴィットリオ・ヴェネトは「やっぱり変わりませんね」と言ってクスッと笑うと正面に向き直す。

 

「もうすぐ日が落ちます!明かりを消して進行すれば、暗闇が私達を隠してくれるでしょう。航空機からはもちろん、潜水艦からも発見されにくくなるはずです!」

 

 真剣な顔に戻ったヴィットリオ・ヴェネトがハボクックに言って先導する。

 

「鉄血とヴィシアを退けたその日のうちに……それも航空母艦である君が夜襲をかけてくるとは鉄血も夢にも思わないだろう」

 

「まさかハボクックさんが夜襲が出来たなんて……私も驚いたわ」

 

 コンテ・ディ・カブールとジュリオ・チェザーレが驚いているのに対してハボクックは「若い子に教わりました」と答える。

 

「道案内はお任せください!警戒が手薄なルートをエスコートします!遠回りになるため、到着は真夜中を予定しています!」

 

「承知いたしました。対空警戒及び迎撃は私が丁重にお相手させていただきます」

 

 先導している戦艦ヴィットリオ・ヴェネトと駆逐艦二隻。後方にハボクックと重巡洋艦三隻、戦艦三隻。

 

 合計十隻の艦船(KAN-SEN)が暗闇の鉄血近海へ目指す。

 

 目的は鉄血の航空母艦建造阻止。奇襲をもって停泊中の輸送船を攻撃し戦線を離れる一撃離脱の作戦。

 

 彼女達を追いかける夜の闇が空と海の境界が同化させ、彼女達を暗闇へと隠していく。




前衛艦隊
ヴィットリオ・ヴェネト、ル・テメレール、カラビニエーレ

後衛艦隊
ハボクック、サン・ルイ、トレント、ザラ、リオン、コンテ・ディ・カブール、ジュリオ・チェザーレ

読者の皆様、アズールレーンのイベント「刹那觀る胡蝶の夢」頑張っていますか?
あともう少しでイベント終わりますが、シナリオがあと一つ埋まっていない作者です。
地道に貯めていたキューブを文字通り全て溶かして二百連ガチャを回し三隻目の信濃を獲得しましたが、途中で燃料が尽きイベントが回れず今現在もかなり焦っています。
ダイヤがもうないので何とか自然回復のみで頑張りますが果たして間に合うか……間に合ってほしいな!っと作者は祈っております。
皆様も建造や衣装などに使うダイヤの使用は計画的にイベントを楽しみましょう!


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Schicksal des Rückkampfs(再戦の運命)作戦

???「予定通りに来たぜ!サディアの艦隊だ!」

???「急いでビスマルクのアネキに報告しなきゃ!」

太陽の光が僅かに差している日没直後、暗い海に出ている四つの頭が鉄血へと進行しているハボクック達を捉えた。

???「発射諸元、コンパスに縮尺をカチャカチャ……あー今、最高のポジションなのに撃てないのかー………魚雷撃ちたいなー!」

???「本当に撃ったらシャレにならないからやめて……やらかさないよね?私の不運で間違ったりしないよね……?」

艤装を触りながら魚雷は正確に敵を狙い続ける艦船(KAN-SEN)を宥めるが、心配のあまり本人が不安に駆られていた。

???「しっ!静かに……。大丈夫だ、アタシ達の出番はちゃんとある。それまで大人しく敵を追跡すればいいさ」

短いツインテールの艦船(KAN-SEN)が不敵に笑う。

???「ワタシ達VIIC型潜水艦には誰も逃れられないさ!追跡するよ!潜航開始!」




 

――鉄血本土近海:鉄血海軍港――

 

 

 ヴィットリオ・ヴェネトが日が暮れた暗闇を先行し、迂回ルートを航行しながら鉄血近海に侵入したハボクック艦隊。

 

「あまりにも静かすぎます……」

 

 身体をブルッと震わせて不気味そうにリオンが呟く。

 

 鉄血の海域に入ってから一度たりとも発見されず、当然交戦もなく遠くで航空機の警戒飛行の音だけが聞こえていた。

 

 確かに複雑な迂回ルートで警戒網の穴を抜けるために陽動の航空機を飛ばして切り抜ける場面もある。

 

「……っ!ハボクック様、ぼんやりとしか確認できませんが恐らく鉄血艦隊の輸送船です。鉄血の輸送船は予定通りの地点に停泊しています」

 

 ヴィットリオ・ヴェネトが立ち止まり、暗闇の中で目を凝らして確認する。

 

 ハボクックはすでに用意していたソードフィッシュ艦爆隊を直ちに発艦させた。

 

 十機からなる編隊は暗闇の中をまるで昼間の訓練飛行のごとく目標に向かって一直線で飛行し、輸送船に爆撃を行う。

 

 歴戦のソードフィッシュ爆撃隊にとって停泊中の六隻の鉄血輸送船はただの的でしかなく、次々と爆撃を成功させてその中の一隻の輸送船が燃料に引火して大爆発を起こした。

 

「全艦隊回頭!この海域より急ぎ離脱します!」

 

 号令を出しつつも随時ソードフィッシュを発艦させ撤退に取り掛かるハボクック艦隊。

 

 けたたましく鳴る警報を背に艦隊は回頭を行い撤退を開始しようとしたその時、撤退するはずの前方より轟く発砲音!

 

「前方から発砲音っ!?」

 

 リオンが驚きの声を上げ、黄色に鈍い光を放つ光弾はハボクック艦隊の前方に落ちる。

 

 誰もが偏差を間違えたと思ったその時、光弾が落ちた地点から引きずり込むような渦巻きが発生。その中央を黄色の光のドームに黒の稲妻がとぐろを巻くような不可思議な現状が発生しハボクック艦隊を引きずり込もうとする。

 

「す、吸い込まれるぅ!?」

 

 ドームの一番近くに居たル・テメレールが逃げ切れず引きずり込まれてドームは爆散!引きずり込まれたル・テメレールが吹っ飛び、ハボクックの真横に落ちる。

 

「ル・テメレール様っ!大丈夫ですか!?」

 

「な、何とか。でも、もう戦闘は無理だよ……」

 

 艤装がダメージを全て吸収し、ボロボロになった代わりにル・テメレールは何とか命拾いをした。

 

「今の一撃で彼女を倒せれば良かったのだが……流石に高望みか」

 

「ビスマルク様、私の戦果を奪わないでください。ハボクック氷山空母を仕留めるのはこの私です」

 

 パンッ!と軽快な音が鳴り前方と後方から探照灯がハボクック達を照らし出す。

 

 前方には鉄血の主力艦隊が、後方には軍港から鉄血の艦船(KAN-SEN)が海上に姿を現す。

 

「やはり罠でしたか……ヴィットリオ・ヴェネト様。何故、今になって裏切ったのですか?」

 

 ハボクックの問いに対してヴィットリオ・ヴェネトは悲しそうに黙る。

 

「小生が代わりに答えよう。この世界において君の戦力は過剰なのだよ」

 

「貴方の力は世界勢力の均衡を壊すもの……全ては平和の海の為にっ!」

 

 コンテ・ディ・カブールとジュリオ・チェザーレが発砲!避ける間もなくサン・ルイに直撃し小さく苦痛の声が上がる。

 

「残ったのは貴方達二隻だけです。投降してください。貴方達の身柄は私が保証させます。お願いします」

 

 ヴィットリオ・ヴェネトが頭を下げて降伏勧告を発する。

 

「……残念ですが、お断りします。私はロイヤルネイビー所属の元ロイヤルガード……あらゆる恐怖から海を守るためにここで屈するわけにはまいりません」

 

 ハボクックが「それに」と言葉を続ける。

 

「私は誓いました。必ずサディアの青い海と空を守ると……。鉄血に屈して平和な海が訪れるはずがありません。私は私のやり方で貴方の約束を守ります!」

 

 ハボクックの言葉にヴィットリオ・ヴェネトは辛そうにしながらも口を開く。

 

「……全艦隊、発砲はじめ。最優先目標、ハボクック氷山空母っ!」

 

 ヴィットリオ・ヴェネトの合図でサディアの艦隊がハボクックに発砲を開始する。

 

 ハボクックはすぐさま氷壁を展開して大破したル・テメレールとサン・ルイの前に立ち塞がり守った。

 

 リオンはコンテ・ディ・カブールとジュリオ・チェザーレの二隻の戦艦を相手にハボクックの方に砲弾が向かないようにと立ち回る。

 

 こうして、鉄血近海での戦闘が幕を開けた。




十時半にネットが切れるのが痛すぎる!
皆さん、こんばんわ。結婚して幸せに暮らしている(はずの)作者です。
ここ最近は仕事量も多く、忙しい時期を過ごしていますが皆さんは体調を崩していないでしょうか?
私はある意味で健康的な暮らしを送っています。
しかし、しかしですね……ネット回線を十時半に切られて寝る時間を指定されて超がつくほど辛いです!
元々夜型の人なので早くに寝るのに理解と共感が得られない……。
小説も夜になってからスイッチが入り、資料を調べたり、書いては直してを繰り返したりと本当に時間がかかる作業なのですが、その時間が足りません!
仕方が無い事ではありますが、それでも……辛いです。
そんな作者の為に頑張れるような感想をお待ちしております……。


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新手の敵

???「お?もうドンパチやっているね」

漆黒の闇の中、???が少し遠くに鉄血艦隊を捉える。

???「まずはご挨拶だね~。ロイヤルのお二人さん、先制攻撃は譲るから盛大にやっちゃえ!」

そう指示を出された二隻の艦船(KAN-SEN)は次々と艦載機を発艦させていく。

???「さーて、ワタシ達もいっくわよー!衝角戦になるまで接近!」

艦載機を追いかけるように???達は敵陣に突っ込むのであった。


――鉄血本土近海:鉄血海軍港――

 

 

「後方より未確認機を補足!続いて急速に接近する艦影をレーダーに確認!」

 

「新手か……どうせ小賢しいロイヤルの伏兵かアイリスかヴィシアの残党だろう」

 

 グナイゼナウの対空と水上レーダーに映った表示に姉のシャルンホルストが振り向きながら主砲を回転させる。

 

「探照灯で視認します!……あのふざけた主翼の位置はフェアリー・バラクーダ!ビスマルク様、ロイヤルです!」

 

 グナイゼナウが機影目視で確認しビスマルクに報告する。

 

 ビスマルクはサディア艦隊とハボクック艦隊の戦闘から目を離し新たに現れたロイヤルに対応しようとして振り返る。

 

「ビスマルク様。ここは私にお任せください」

 

 振り返る途中でシュヴァ-リンが声をかけた。

 

 ビスマルクがシュヴァ-リンに「やれるか?」と聞くと「ちょっと物足りません」と返す。

 

 その答えにビスマルクは少し笑みを浮かべて「任せた」と言うと再びサディア艦隊とハボクック艦隊へ視線を戻した。

 

「さて……ハボクック氷山空母の相手をする前に少し肩慣らしでもしましょうか!」

 

「病み上がりに無理はさせれんよ。私達姉妹も援護する」

 

「姉さんは猪突猛進ですけど、私達が揃っていれば無敵です。ビスマルク様のお手を煩わせません」

 

 シュヴァ-リンが一人敵機に向かって先行し、シャルンホルスト、グナイゼナウと続く。

 

「ビスマルク様、戦艦三隻だけでよろしかったのでしょうか?私も随伴しますか?」

 

「大丈夫よオイゲン。それよりも私達はこの戦いの結末をしっかりと見届けるのが使命。サディアが勝つか彼女が勝つか……今のところはサディアが優勢だけれども」

 

 プリンツ・オイゲンの言葉にビスマルクは表情を崩さずに答える。

 

 サディア艦隊とハボクック艦隊の戦闘から一隻の艦船(KAN-SEN)がこちら側に向かって航行してくる。

 

「ビスマルク様、私のレーダーからシュヴァ-リン様とシャルンホルスト様、グナイゼナウ様が艦隊から離れたようですがいかがなさいましたか?」

 

 今回の作戦の立役者でもあるサディアの総旗艦ヴィットリオ・ヴェネトだ。

 

「ロイヤルの伏兵が来ただけよ、彼女達にはそれの対処に向かっただけ。何も問題ないわ」

 

 ビスマルクはヴィットリオ・ヴェネトに対して素っ気なく答える。

 

「て言うか、勝手に持ち場離れんなっての!今回の作戦にはあんた達サディアの未来もかかっているって理解しているわけ?」

 

 アドミラル・ヒッパーに怒られてヴィットリオ・ヴェネトは「申し訳ありません」と頭を下げた。

 

「現在の状況をご報告します。敵戦艦リオン及び敵重巡洋艦サン・ルイは我々のコンテ・ディ・カブール級の姉妹によって中破と大破、大破した駆逐艦ル・テメレールをかばい続けるハボクック氷山空母は小破ではあるものの妨害による艦載機の発艦不能にしております」

 

 頭を下げた状態で淡々と状況説明するヴィットリオ・ヴェネトが一つの提案を出す。

 

「口径の小さな私達サディアの主砲ではハボクック氷山空母の氷壁を削るのでやっとであり、装甲まで貫けません。お手数をおかけして誠に申し訳ありませんが、氷壁を削り切った後に止めとなる一撃を与えてもらえないでしょうか?」

 

 顔を上げたヴィットリオ・ヴェネトの真剣な表情にビスマルクは問いかけた。

 

「急かさなくても彼女はいずれ倒れる。……何を企んでいる?」

 

 不審そうなビスマルクにヴィットリオ・ヴェネトは悲しそうな表情になりこう答える。

 

「これは我がままになりますが、憧れの存在をこれ以上傷つける家族の姿は見たくはないのです」

 

 ヴィットリオ・ヴェネトの家族と言う言葉に、ビスマルクは反応して「……疑ってごめんなさい」と言うとアドミラル・ヒッパーとプリンツ・オイゲンに指示を出す。

 

「ヒッパーとオイゲンはコンテ・ディ・カブール級の援護、私は彼女を仕留めるわ」

 

 ビスマルクの指示にアドミラル・ヒッパーとプリンツ・オイゲンが了承して全速力で向かう。

 

 後を追うように動こうとしたビスマルクにヴィットリオ・ヴェネトが手を差し出す。

 

「お手をどうぞ」

 

 ビスマルクは「ああ、すまない」と言ってヴィットリオ・ヴェネトの手を取り。

 

「捉えました」

 

 とヴィットリオ・ヴェネトが張り付いた笑顔で答えると、ビスマルクの腕をしっかりと掴み三連装三基の主砲をビスマルクにゼロ距離で発砲した。




読者の皆様、こんばんわ。
大型メンテナスが終わってポラリスイベントが始まったかな?と思ってログインしてみたらまだ始まっていなかったことを理解したお間抜けな作者です。
イベント「激奏のPolaris」は時間が合わず、あまり海域に出撃できなかったりガチャ運に恵まれなかったりして全キャラ入手できずに終わってしまったイベントですが今回、復刻という事でリベンジが出来ると楽しみにしていました。
しかし……μ兵装(読み方が分からないのでポラリス兵装とする)の追加キャラ多すぎませんか?
いや、本当に可愛いですし美しいですし(特にお姉さま系は)絶対に確保しておきたいのですが、八隻(イベント報酬艦三隻含む)は多すぎませんか?
この復刻?イベントは前のイベントのキャラ(五隻)が登場するのか不安になってきました。
キューブについては地道にコツコツ委託を回し続けて何とか無課金で二百まで貯めたので足りると思いたい……足りたらいいなぁ。
明後日のメンテナンス後に期待と不安を膨らましながら今日はここまで。
次回は十月の三十一日に書きあがり次第、投稿する予定ですので次も読んでくれると作者は喜びます。
長々と長文となりましたが、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました!次回もお楽しみにしていてください!


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伏兵の末路

リン「こちらシュヴァ-リン!軍港付近を警戒している潜水艦に支援を要求!誰かいないか!」

シュヴァ-リンの無線にVIIC型潜水艦の四隻が返答を返す。

リン「軍港近海南方に敵航空母艦が居ると予想される。暗闇に乗じて接近し、速やかな撃破を!」

VIIC型潜水艦は待ってました!と騒ぎながら潜航して暗い海へと消えた。

リン「あんな騒いで……途中、敵に見つからなければいいけど」

シュヴァ-リンはそう言いながらも接近する敵に意識を戻す。


 

 

――鉄血本土近海:鉄血海軍港近海――

 

 

「敵戦艦発砲!我に至近弾ではあるものの命中は確認されず!」

 

 ミンスクが紙一重で敵戦艦からの主砲を躱して大声を上げる。

 

 レーダー射撃による攻撃で正確ではあったものの散布界という運に救われた形となった。

 

「こちらイラストリアス、敵艦隊を確認。敵は戦艦三隻でシャルンホルスト級二隻と……ビスマルク級ではない戦艦?が一隻。これより航空攻撃に入ります」

 

「私と姉さんが同時に攻撃なんて……敵さんには同情を抱きますわ」

 

 敵戦艦の装填中を狙って北方連合に援軍として参戦しているロイヤルの航空母艦イラストリアスとヴィクトリアスが航空攻撃に入った。

 

「全艦隊、主砲の射程に入り次第発砲を許可するわ!ミンスクとタシュケントは先行して魚雷で敵戦艦の足を止め!アヴローラは中距離を維持!私は自慢の衝角で敵に目にもの見せてやる!」

 

 航空攻撃に入ったことを確認して、艦隊の指揮していたメルクーリヤは勇猛果敢に一人敵戦艦に突っ込む。

 

 メルクーリヤの立てた作戦まず航空母艦による航空攻撃と榴弾主砲による火災で混乱を招き、駆逐艦の魚雷で撃沈か航行不能まで持っていく。

 

 最後に残った敵に対してメルクーリヤが横から体当たりを行い、衝角で強引に側面を穴あけて沈没させる作戦だ。

 

「ロイヤルが誇る航空母艦の力に期待しているわよ……!」

 

 かの大戦でハボクック氷山空母の力をまじかで見てきたメルクーリヤはロイヤルの航空母艦にかなりの期待をしていた。

 

 だが、戦場はメルクーリヤの思ったようには動かない。

 

「メルクーリヤ様、第一次攻撃隊が全て堕とされてしまいました……」

 

「あーっもう!こっちも全滅!なんなのあの戦艦は!?」

 

 相手を崩すはずの航空攻撃を行ったイラストリアスとヴィクトリアスが悔しそうに報告する。

 

 二隻合わせて約八十機の第一次攻撃隊を向かわせたが、その全てが撃ち墜とされたのだから無理もない。

 

「とりあえず、どれだけダメージを与えれたか報告して?」

 

 艦載機が全滅している時点で嫌な予感がしているがメルクーリヤは聞く。

 

「シャルンフォルストに爆弾二発、魚雷一本。グナイゼナウに爆弾四発。もう一隻は無傷です」

 

「シャルンフォルストに魚雷二本。グナイゼナウに魚雷一本。もう一隻はノーダメージよ!」

 

 イラストリアスとヴィクトリアスの話をまとめるとシャルンフォルストに爆弾二発、魚雷三本。グナイゼナウに爆弾四発、魚雷一本。最新鋭戦艦は無傷となる。

 

「戦艦二隻を大体中破まで持っていったのは流石といったところだけど……最新鋭戦艦が無傷はヤバイわね」

 

 風の噂によると、あのハボクック氷山空母をたったの一隻で追い込んだ鉄血の切り札。

 

 特殊な兵装を積んでいる代りに副砲と魚雷が無く、対空砲満載の戦艦とだけ聞いている。

 

「特殊な兵装が怖いけど……やるしかない!ロイヤル航空母艦は引き続き航空支援を!ミンスクとタシュケントは中破状態の戦艦に魚雷を流して!アヴローラは私の援護で最新鋭戦艦を火だるまに!」

 

 メルクーリヤは舵を切り最新鋭戦艦に目標を定めた。

 

 向こうもそれに気が付いたのか副砲の砲弾がメルクーリヤに集中する。

 

「我を無視するとはいい度胸だ!これでも食らえ!」

 

「タシュケントに戦えって?あっそ。やってやるわ」

 

 集中的に狙われ始めたメルクーリヤを援護するためにミンスクとタシュケントが主砲と魚雷を放つ。

 

 駆逐艦の接近を危険視したシャルンホルスト級戦艦二隻は回頭し駆逐艦から距離を取ることで魚雷は外れる。

 

 だが、結果として最新鋭戦艦がメルクーリヤに対して横を向いている状態で孤立する事になった。

 

 そこへ第二次攻撃を行うために来たイラストリアスとヴィクトリアスの艦載機が襲い掛かる。

 

「チャンス!メルクーリヤちゃん突撃ーっ!」

 

 千載一遇のチャンスにメルクーリヤは迷わず突入した。

 

 最新鋭戦艦は対空防衛を行いながらも発砲するが、数秒たってもメルクーリヤ付近に水柱が上がらない。

 

「標準を誤ったわね!ここで倒れなさい!」

 

 勝利を確信し発言が終わったその時、頭上から無数の砲弾がメルクーリヤを直撃!メルクーリヤは叫ぶことも許されず航行不能に陥った。

 

「ケホッ!ケホッ!い、一体何が起きたっていうの!?」

 

「私の砲弾を受けて沈まないなんて……流石は艦船(KAN-SEN)ってところかしら」

 

 いつの間にか艦載機を全て撃ち墜とし、接近してきた敵の最新鋭戦艦がメルクーリヤに話しかける。

 

「自己紹介がまだでしたわね、私の名前はシュヴァ-リン。ハボクック氷山空母を葬る者よ」

 

 シュヴァ-リンと名乗った艦船(KAN-SEN)はフフッと笑うと主砲を発砲!数十秒後、メルクーリヤを助けに動いていたアヴローラに直撃し苦痛の叫び声が聞こえた。

 

「感謝するわ。遠方からチクチク攻撃するのではなく突撃してくれたことを。私の主砲では近寄らないと当てれないからね」

 

 そう言うとシュヴァ-リンは上空に向けていた砲塔をゆっくりと下降させていく。

 

「あちら側をうろちょろしていた駆逐艦もシャルンホルスト姉妹が取り押さえたみたい。残るは艦載機の少ない航空母艦だけど今頃、潜伏していた潜水艦の餌食になっているわね」

 

 メルクーリヤは自分の艦隊が完全に敗北したのを理解して膝から崩れ落ちた。




皆さん、こんばんわ。
新しく始まったイベント「激唱のユニバース」は頑張っているでしょうか?
今回は全キャラ(八隻)中SSRキャラが六隻で、そのうちガチャ以外でとれるのがSSRキャラ三隻ととっても豪華なラインナップになっております。
頑張れば必ずSSRが三隻手に入ることもあって、今回は周回が非常に大事になっておりますが「イベント期間が二週間あるしなんとかなるだろう」と高をくくっていると痛い目を見そうなので作者は最初から本腰入れて周回中です。
しかし、初回ポイント三倍が今回のイベントではないようなのでちょっと辛いなぁ……とも感じております。
皆さんも燃料に気を配りつつ頑張って周回しましょう!
次回はビスマルクとヴィットリオ・ヴェネトの戦闘に戻りたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます!次回もお楽しみに!


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追い詰められた者

ヴェネト「私は忘れません。あの時の約束を」

――ロイヤルガードとして誓います。必ず、この海を平和にしましょう。

そう言ってハボクック様は少女だった私の頭をなでてくださいました。

ヴェネト「私は忘れません。あの時の援護を」

――困った時は呼んでください。いつでも貴方を助けます。

そう言ってハボクック様はいつも先頭に立って戦ってくださいました。

ヴェネト「私は忘れません。あの時の作戦を」

――どうして、ですか……?どうして……!

そう言ったハボクック様は燃え盛る海の中で涙を零し泣いていました。

ヴェネト「私は忘れません。私は忘れません」

数々の思い出を……私は忘れません。

ヴェネト「今度は……今度こそは絶対に守って見せます!」


――鉄血本土近海:鉄血海軍港――

 

 

「まさか……この近距離でも倒せないなんて」

 

 ヴィットリオ・ヴェネトの主砲をまともに受けたビスマルクはよろけながらも崩れない。

 

「……何故、裏切った?」

 

 ビスマルクはヴィットリオ・ヴェネトに問いかける。

 

「ビスマルク様、裏切りというのは味方を背いて敵方につくと言う言葉です。ですが、私は裏切ってはおりません」

 

「ではっ!これは一体なんだと言うんだ!味方に発砲することが裏切り以外のなんだと言うのだ!」

 

 ビスマルクが叫びながら主砲を回頭、素早く標準を合わせると発砲した。

 

 それをヴィットリオ・ヴェネトは難なく回避する。

 

「ビスマルク様、貴方は大きな間違いをしていらっしゃいます」

 

 続けてヴィットリオ・ヴェネトが主砲の標準を合わせて発砲し、ビスマルクはその場に動かず砲弾は彼女の横を通過する。

 

「大きな間違い……か。貴方達サディアの行動から薄々は気が付いていた。だけれども信じたくはなかった」

 

 そう答えるビスマルクに「家族として?」とヴィットリオ・ヴェネトが続ける。

 

「鉄血は同盟を重視し!家族は皆守るのが私の信念だ!答えろ!何故レットアクシズを……我々家族を裏切った!」

 

 ビスマルクの叫びが砲弾に込められ轟く。

 

 今度はヴィットリオ・ヴェネトがその場から動かず砲弾の一発を被弾した。

 

「最初に裏切ったのは貴方です、ビスマルク様。いいえ、鉄血っ!」

 

 砲弾を受け止め、硝煙を晴らすようにヴィットリオ・ヴェネトは撃ち返した。

 

「貴方が我々サディアから全てを奪いました!機会も!平和も!そしてハボクック様も!私は知っています!かの大戦で犯した鉄血の裏切りを!」

 

 ビスマルクは回避行動をとりギリギリで回避すると、体勢が崩れながらも前門二基の主砲を発砲する。

 

 お互いに被弾しながらの応戦。かわしては撃つ、いなしては放つ、両者一歩も引かない激しい砲撃戦。

 

「ここで貴方を倒して今度こそハボクック様をっ!?」

 

 危険を感知したヴィットリオ・ヴェネトだったが回避する間もなく数本の水柱が上がった。

 

「ちょっとまさか私達を忘れているなんてないわよね?」

 

「遅くなりましたビスマルク様。援護します」

 

 アドミラル・ヒッパーとプリンツ・オイゲンが放った魚雷を右舷に三本直撃したヴィットリオ・ヴェネトがフラフラになりながらも立ち上がる。

 

「耐えてプリエーゼ!私はまだ果たさないといけなっ」

 

 ヴィットリオ・ヴェネトが発音するより早くビスマルクの砲弾が彼女を襲いかき消した。

 

「助かったわヒッパー、オイゲン」

 

 ビスマルクは帽子をクイッと上にあげながら主砲をヴィットリオ・ヴェネトが居た位置に向ける。

 

 燃え盛る海の中、ヴィットリオ・ヴェネトは仰向けの状態で倒れていた。

 

「……最後に質問に答えよ。何故、今になって我々を裏切ったのか」

 

 数回、咳をしながらヴィットリオ・ヴェネトは答える。

 

「私はハボクック様を裏切った鉄血を許さない。ただそれだけです」

 

 起き上がる気力もないヴィットリオ・ヴェネトは空を眺め、自身の最後を確信した。

 

 遠くで交戦していたサディアの艦船(KAN-SEN)が異常に気が付き、ヴィットリオ・ヴェネトを呼ぶ声が聞こえる。

 

「ハボクック様……。どうかご無事に」

 

 ビスマルクの発砲音が聞こえ、ヴィットリオ・ヴェネトは意識を失った。




火曜日に投稿できなくて、大変申し訳ございませんでした!
本当に申し訳ございません、活動報告にも書いた通り会社と話し合いをしていました。
今も色々と勉強中ですが、書類の文章は読みなれていないのか全く頭に入らない困った状態です。ラノベなら頭に入るのになぁ……。
現在は悪阻が徐々に強くなってきて辛そうな妻を介護しながら、空いている時間にアズレンと小説を書いているため本当に時間がカツカツです。
今後も予定通りに投稿できない場合は活動報告に書かせていただきますが、なるべく無いように頑張りたいと思いますので今後ともよろしくお願いいたします!


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凍り付く世界

カブール「総旗艦殿!」

気が付けば小生は叫んでいたが、この状況であれば無理もない。

今作戦ではハボクック氷山空母を仕留める作戦であったのだが、危機的状況にあるのは我らが総旗艦ヴィットリオ・ヴェネト殿。

更に同盟を組んでいたはずの鉄血の指導者ビスマルクと戦闘をし、次の一撃でどうなるかは目に見えている。

急いで総旗艦殿を助けんと全速力で航行しようとするも、小生は動いていない事に気が付く。

まるで亡霊の手が小生の足首を掴んだような冷たい感覚に足元を見るとそこには……。


 

――鉄血本土近海:鉄血海軍港――

 

 

 また何も守れないの?

 

 砲弾と魚雷を氷壁で防ぐ事しか出来ない私は自身に問いかけていました。

 

 今回の作戦は未来に恐怖となりうる鉄血の航空母艦建造計画を阻止する作戦。

 

 新たな火種となる鉄血の航空母艦建造は何が何でも阻止せねばならない。女王陛下が直々に私へ下した使命。

 

 もし建造されてしまえばその艦船(KAN-SEN)といずれ争わないといけないのは間違いないでしょう。

 

 ですが、私はその艦船(KAN-SEN)に対してもきっと手加減をしてしまいます。

 

 私は誰も沈めたくありません。他の誰かに沈めさせる選択を与える事もさせたくありません。

 

 かつて、私はその願いのためにあらゆる分野で努力をし、様々なところでセイレーンと戦っていました。

 

 皆様が安心して航海できる海を作りたい一心で、各国で奮闘し一つまた一つとセイレーンから海を取り返しました。

 

 ですが、それだけでは平和にならず。いつしか私の存在が平和の海を脅かす存在になります。

 

 ある作戦によってそのことを知った私は、軍縮条約を機に上層部の命令に従い一線を退きました。平和が訪れることを願って……。

 

 しかし、数年が経ち戻ってみれば今度は国同士が争い、平和な海はどこにも無くなっていました。

 

 私が居ても居なくても海は変わらなかったのです。

 

 サディア艦隊の砲弾が氷壁を削り落とし、海に落ちた波の揺れで私は現実に戻されます。

 

 そうです、今は回想にふけっている場合ではありません。

 

 私を信じて付いてきてくれたアイリスの皆様は傷つき、リオン様は私達に砲弾を飛ばないようにと二隻の戦艦を相手に無理な立ち回りをしています。

 

 頼みの綱であった北方連合からの無線は苦戦している内容ばかり、このままでは全滅の恐れもあります。

 

 鉄血軍港より抜錨した鉄血の艦船(KAN-SEN)は逃亡を防ぐように周りを取り囲み始め、いつ乱入してくるかも分かりません。

 

 このままでは誰一人として守れない。

 

 絶望的な状態になっても最後まで諦めません。私は思考を巡らし打開策を考えていました。

 

 反撃のチャンスをうかがっていたその時、ピタッと私を攻撃していたサディアの方々の攻勢が止んだのを私は感じました。

 

 サディアの方々は同じ方角を向いて驚愕していました。私も同じ方角へと視線を向けます。

 

 そして、燃え盛る海と纏わりつくような硝煙の中で、私は水面に伏した艦船(KAN-SEN)とそれ沈めようとする艦船(KAN-SEN)を捉えるのです。

 

 水面に伏しているのはサディア艦隊の総旗艦にして、裏切ったはずのヴィットリオ・ヴェネト様。

 

 そして、彼女に今まさに止めを討とうとする艦船(KAN-SEN)が鉄血艦隊の指導者ビスマルク様。

 

 どうして今になって仲間割れを起こしたのか、今の私には分かりません。

 

 ですが、私にとってそれはとても許しがたい事で、何があっても阻止せねばならない事で。

 

 届かない手を伸ばしながら叫ぶサディアの方々を無視し、ビスマルク様の砲身は火を噴き砲弾がゆっくりと飛ぶ。

 

 また何も守れないの?

 

 蘇るかの大戦の記憶。目の前で■■する■■(■■■-■■■)、手を伸ばし叫ぶ私。

 

 鼓動するように私のメンタルキューブが反応し、私の足元の海面に黒い波紋を映し出す。

 

 もう二度と私は誰も失わせない!竜骨が歪み、艤装が砕け、私が消えるとしても!

 

 ゆっくり流れる時の中で、私から広がる黒い波紋は一瞬でビスマルク様の砲弾の所まで広がっていき――

 

「全て凍り付いてしまえば良い」

 

 ――その言葉でビスマルク様の砲弾も私の周りにいた艦船(KAN-SEN)足元の海も凍り付いて全ての動きを止める。

 

 全て凍り付かせれば誰も争う事は無い……。

 

 そんな言葉が脳内に響き、私の意識は刈り取られてしまいました。




今回はハボクックの視線でお話を書かせていただきました。
戦闘中の一人称の難しさに加えて、かの大戦での話、ハボクック個人の話、前回の話の続きを繋げる話を一話にまとめて書いたため大分、話がゴッチャゴチャになっています。
何回も読み返しているのですが、何度読んでも読みにくい感じが否めない……。
ですが、少しずつ(自分が想像した)過去に触れてきているので書いていてとても楽しいです。
もっと書きたいことを読みやすく伝えやすく書けたらなぁ……と思う作者でした。
何事もなければ次回は土曜日に更新予定ですので、楽しみにしていてください!
お気に入り登録や感想をお待ちしております!


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Schicksal des Rückkampfs(再戦の運命)作戦 前編

それはまさに悪夢であった。

私達は神話の終わりに突入したのかもしれない。

追い詰めていたはずの私達は今や格好の的になっている。

凍らないはずの近海は厚い氷に覆われ、氷を砕く手段を持たない者は動けず。

また、動けた者も移動と速力の自由を奪われ次々と刈り取られていく。

朝日が昇る時間だが空は無数の艦載機によって暗い。

私は夢に誘われるように瞼を閉じた。


 

――鉄血本土近海:鉄血海軍港――

 

 

「これは一体……!?」

 

 背後に現れたロイヤルと北方連合の伏兵に対処していたシュヴェーリンは急激な温度の低下に違和感を感じ、冷気を感じた方を向いて愕然とした。

 

「私達の海が凍り付いている!?」

 

 自国の遠海に近いシュヴェーリンまでは届いてはいなかったが、軍港を含む近海がハボクック氷山空母を中心に氷の層で覆われていた。

 

「これはヤバいんじゃねぇか?無傷なシュヴァ-リンは引き返してくれ」

 

「後の事は私達に任せてシュヴェーリンさんは急いでビスマルク様の援護に向かってください!」

 

 シャルンホルスト姉妹の後押しでシュヴェーリンはビスマルクの元へと急ぐ。

 

「見た目以上に表層の氷が厚い……中心部では身動きが取れなくなるかもしれないですね」

 

 徐々に分厚くなる氷の層を難なく砕きながらシュヴェーリンはビスマルクの元へとたどり着く。

 

「ビスマルク様!お怪我はありませんか!」

 

 シュヴェーリンの言葉に氷を砕いたビスマルクは「大丈夫だ」と返答を返す。

 

「ビスマルク様、これは一体なんですか?」

 

 その問いに対してビスマルクは遠方に見えるハボクックを睨みつけながら答える。

 

「見ての通り、ハボクック氷山空母の本気というやつだ。かの大戦……いや、あの作戦もまたこのような光景だったと記述が残されている」

 

「これがハボクック氷山空母の本気……」

 

 ビスマルクの言葉にシュヴェーリンはブルッと身震いをした。

 

「我々は氷山空母の真の姿を見た。凍らぬ海は氷壁に閉ざされ、航海もままならずに無数の艦載機によって殲滅されていく様は正しく悪夢だ。つまり、次に来る災厄はハボクック氷山空母の艦載機だと言うこと……シュヴェーリン、分かっているな?」

 

 ビスマルクの言葉に対してシュヴェーリンは「勿論です」と答えてこう言った。

 

「不敬ではありますが、私は今心から喜んでおります。あのハボクック氷山空母を追い詰められたと言うこと、本気にさせれたと言うことを。そして、最高のステージで戦えると言うことを!」

 

 シュヴェーリンのことばにビスマルクは苦笑いをしたが真剣な顔に戻り「行けるか?」と問う。

 

「当然です!私はシュヴェーリン!ハボクック氷山空母を葬る者として、ここで戦わずしていつ戦うというのか!」

 

 シュヴェーリンの表情は新しい獲物を見つけた狼のようにギラギラと輝き、今にも飛びつかんとしている。

 

「楽しい会談の時間はここまでのようね……敵機が来たわ」

 

 無数の艦載機が朝日を浴びて影は魔の手の如くシュヴェーリン達に伸びてくる。

 

「全て叩き墜として見せましょう。ビスマルク様はどうなさいますか?」

 

「そうね、私も付いて行くとするわ。対空は心もとないし、攻撃は無理でしょうけど、時間稼ぎぐらいは出来るわ」

 

 シュヴェーリンは重桜の技術によって出来た特注の特殊弾を装填してビスマルクに問い、ビスマルクは主砲を真上に向けながら答える。

 

「それでは行きます!Der Sieg liegt in uns(勝利は我らにあり)!」

 

 朝日に向かって厚い氷を砕きながらシュヴェーリンは主砲を発砲、特殊弾はハボクックの艦載機を次々と墜としていく。

 

 ハボクック氷山空母と大型戦艦シュヴェーリン、因縁の戦いが幕を挙げた。




皆様、アズレンイベント頑張っておりますか?
私はと言いますと、全くイベントを進めておりません。
今回のイベントは復刻イベントで仮加入のハンター、累計ポイント報酬のハーディ、イベント海域ドロップのZ2(ゲオルク・ティーレ)が目玉となっておりますが、私のアカウントではレベル七十以上で突破が全て終わっているので正直あまりやる気が起きないイベントです。
どちらかと言えば今の間に委託を頑張って回してキューブと資源(主に燃料)を集める期間となっております。
燃料で海軍カレーを作って寮舎を快適にする……海軍カレーの在庫が七百以上ありますがまだまだ作るのです!
話は長くなりましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました!
次回は十一月二十一日に投稿予定です。
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