面倒なことばかり (諸星おじさん)
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面倒なことばかり
Pixivにも投稿しています。→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12018138
ニコニコにボイスドラマ化して投稿してます。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm36025103
ここは紅魔館、窓のない地下室。レミリアは珍しく、妹と語り合う時間を持っていた。
「お姉さま」
「何? フラン?」
「私たちってさ、吸血鬼じゃない」
「何よ今更」
「吸血鬼ってさ、変身したり、魔法を使って、人間を虜にしたりできるんだよね」
「そうよ」
「じゃあ、お姉さまも今とは別の姿になれるの?」
「ええ、なれるわ。でもなんでそんなことが気になるの?」
「だって私やったことないもん」
「そっか、フランは495年間ずっと幼女だったもんね」
「別にずっと幼女でいたかったわけじゃないけど、ふと考えたの。大人になってみようかなって」
「じゃあなってみればいいじゃない」
「けど、どうやればいいかわかんない。お姉さま、ちょっとやってみてよ」
「しょうがないわね、よく見てなさいよ」ムムム……
ムクムクムク
「どう?」
「あ、八頭身だ! おっぱいもボインボイン」
「その汚い言葉遣いをやめなさい。コツはね、身長を伸ばす意識を持つこと。それさえあれば、他のことは勝手についてくるわ。顔立ちも自然と大人になるし」
「よおし、私も大人になってみよう」ムムム……
ムクムクムク
「できた。へぇ、部屋がちょっと狭く見える」
「目線が高くなったからよ」
「おっぱいってやわらかいんだね」モミモミ
「だから下品なことはやめなさい」
「ん? あれ?」
「どうしたのよ」
「なんか、お股が変」ジョリジョリ
「スカートに手を入れない」
「あ、毛が生えてる。大人になるとそうなんだ」
「あぁ、面倒なのよね」
「何が?」
「剃らなきゃいけないから」
「え? 剃っちゃうの? せっかく生えてるのに」
「生やしてたっていいことないわよ。見た目は汚いし、夏場は蒸れるし、不潔なのよ」
「そうなんだ。大変なんだね」
「昔、400年くらい昔、まだ私たちが大陸にいた頃。私、あの頃はずっと大人の恰好だったの」
「そうだったっけ?」
「フランは覚えてないでしょうね。あの頃のアンタは気が触れてたから。最近は随分と大人しくなったものだわ」
「えへへ」
「自分で言うのもなんだけど、あの頃は随分とイケイケで色々なことをやってたわ。だから、大人のほうが恰好もついたのよ」
「そういうの気にするのお姉さまらしい、体面ばっかり気にして」
「体面だって大事なことよ。妖怪として生きていくなら覚えておきなさい。舐められたら終わり、それが私たち夜族(ミディアン)の世界」
「そっか、だから下着もえげつないのが必要だったんだね」
「……なんて?」
「この前お姉さまのクローゼットを覗いたの。そしたら普段履いてるドロワーズとかの奥に、どうみてもヒモにしか見えないやつとか、肝心なところに穴が開いてるのとかいっぱいあったわ」
「なんでクローゼット見たの?」
「参考にしようかなと思って、私の服って、いつも咲夜が用意してくれるのしかないし。これなんて見てよ、今日のパンツなんてくまさんなんだから」
「見せなくていい、大人の姿のままだとそういうプレイみたいだわ」
「でも咲夜のセンスもひどくない?」
「まあわからなくもないけど」
「でしょ?」
「でもだからって、他人のクローゼットを勝手に見るのはよくないのよ」
「は~い」
「わかればよろしい」
「それで、そのパンツは何に使うの?」
「その話まだ続けるの?」
「だって気になるじゃん」
「あのね、生きてれば色々あるの。穴の開いたパンツが役に立った時だってあるのよ」
「全然想像できないんだけど」
「だらかね、私たち貴族だから、社交とかもあるわけよ。そういう場には、殿方もいるし」
「とのがた! お姉さまの口から『と・の・が・た』!」
「笑うことじゃないわ。色々あって、最終的に幻想郷にたどり着いたの」
「そっか、お姉さまも大変だったんだね」
「やっとわかってくれたの」
「穴あきパンツはいて」
「まだ言うか」
「でも今は幼女だから、幻想郷じゃ『社交』は必要ないの?」
「必要ないわね。妖怪の賢者は女だらけだし、山の妖怪には男も多いみたいだけど、物の数じゃないわね。相手をするに値しない」
「へぇ、厳しい」
「女を安売りしちゃだめよ。相手はよく選んで」
「パンツも良く選ぶわ」
「わかった、もうお姉ちゃんは怒らないことにしました」
「顔が引きつってるよ」
「うるさいわね」
「でもさ、女相手でも、お姉さまならカッコつけたいだろうって思ったのに」
「最初はそう思ってた時もあった。けど、だんだん面倒になって、気楽な幼女に落ち着いたわ」
「幼女ってそんなに気楽なの?」
「そうよ、お化粧しなくても子どもだからでいいし。面倒なことが多すぎるわ」
「お化粧か、ちょっとしてみたいかも」
「たまにやる分には楽しいのよ。ただ毎日やると、それが当たり前になっちゃうし、してないときはすごく手を抜いてるようになっちゃうから」
「そっか、大変なんだね」
「下の毛も生えてこないし」
「それそんなに大事?」
「アンタもその恰好で一年過ごしてみなさい。本当に面倒だから。自分でやってもメイドにやらせてもダメだった」
「そんなに面倒なら、私剃らないようにしようかな」
「それはそれで変な趣味の奴が近寄ってくるかもしれないからやめなさい」
「変な趣味って?」
「……匂いフェチとか」
「うわ、そんな人いるんだ」
「意外とね」
「え?」
「……」
「ねえお姉さま、目、合わせて」
「なんでよ」
「こっち向いてよ」
「嫌よ」
「ねえ聞きたい。いい男だと思ったら実は匂いフェチで体中の匂いかぎまわされた話聞きたい!」
「そんなこと起こらなかったわよ!」
「そのときどんなパンツ履いてたの?」
「……」
「ねえってば!」
「スパッツ」
「え?」
「スパッツは蒸れて具合がいいんだってさ!」
「なにそれキモ!」
「言わないで!」
「でもやってあげたんでしょ。お姉さまかわいい」
「うるさい!」
二人の話をそっと聞いていた影が一つ。誰にも気づかれずに傍に立つその能力は、地底の嫌われ者にふさわしい。
「へぇ、私もお姉ちゃんのパンツ見てみようっと」
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