Toloveる 発明大好きなお姫様には弟がいました。 (きょうこつ)
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家出の姫と外出中の弟

宇宙の中にある巨大な惑星 『デビルーク星』。この星は、かつて、宇宙中に名を馳せた男 『ギド・ルシオン・デビルーク』が統治する星である。そんな中、彼が住む宮殿ないでは、とてつもない騒ぎが起きていた。

 

「なにっ!?ララが家出だと!?」

とても広い王室の玉座に座りながら、統治者であるデビルーク王は驚きの声をあげる。

 

「は…はい。恐らく専用宇宙船で逃げ出した可能性があります…」

通信画面に映る護衛らしき青年『ザスティン』は苦い顔をしながら報告する。一方でギドも呆れてやれやれと首を振っていた。

「直ちに連れ戻せ。で?星は割れたのか?」

「はい。…太陽系第3惑星…『地球』と呼ばれる星でございます…」

「地球……か。取り敢えず、お前達だけでは不安だ。『ギル』を連れて行け」

 

『ギル』その名を聞いた瞬間 ザスティンは青い顔をした。

「ギル王子をですか!?」

「あぁ。奴は今、地球の近くの星にいるだろ。連絡して地球に向かわせればいい」

「ですが…ギル様が行くとなると地球が…」

ザスティンの心配事にギドは「心配ない』といい、謎のリングを取り出した。

 

「ギルに会ったらコイツを奴の腕につけろ。多少は力を抑え込める。あとで送ってやる」

「し…承知しました…」

 

ーーーーーーーー

 

一方でここは地球から然程遠くはない小さな惑星。緑が生い茂る自然豊かな星であった。

 

「よっと。おい、これでいいか?」

「ありがと。『ギル』君」

白衣を羽織り、露出のある服を着用している黒髪の女性は、木の上から投げ渡された果物を受け取ると、ピンク色の長い髪をたなびかせながら果物を食べている少女らしき少年を見てお礼を言う。

 

「しかし偶然だな。アンタもこの星に用があったのか?」

「えぇ。この星の薬草は大火傷や切り傷によく効くの。だから定期的に採取しにきてるのよ」

その女性の言葉に少年は相槌をうつ。

 

すると

ブ〜ブ〜

突然 彼のポケットからバイブの音がする。彼は「なんだ?」と言いながら通信機を取り出した。

 

ジジ…

『よう。相変わらず好き勝手やってんなバカ息子』

「なんだ親父か。なんだ突然?」

画面に映っていたのはギドだった。この少年の名は『ギル・ベルフェ・デビルーク』。ギドの息子であり、一番娘であるララと双子、そして2人の妹を持つ長男だ。

 

画面に映る父親を見ながらギルは果物を食いながら要件を聞いた。

『実はな。ララが突然家出しちまってな。テメェのいる星の近くにある地球って場所に逃げたらしいんだ』

「……は?ララが家出?んなもんいつもの事だろ」

『だからヤベェんだよ。そろそろ結婚も考えさせなきゃいけねぇ年なのに、こうも好き勝手にされちゃ…はぁ〜…。もういっそのこと テメェが王位継いでくれや』

「嫌だよ。なんで俺が。前の見合い忘れたのか?完全に権力や金目当てで結婚を要求してきた異星人の女をぶん殴った事」

『確かにあれは……そうだな。ララに継がせよう。うん。決めた。

取り敢えず地球いってララ連れ戻してこい。ザスティン達も向かわせたからな。もしサボったら食事抜き かつ、セフィに甘えてる写真 ばら撒くぞ』

そう言うと通信は切れた。地味に嫌な嫌がらせにギルはプツンときた。

 

「…急用ができた。地球まで頼めるか?」

「オッケーよ」

会話を聞いていた彼女『御門 涼子』の宇宙船に自分のポッドを乗せると宇宙船は空高く飛び上がった。

 

 

ーーーーーーー

 

「ようやく見つけましたよ」

「さぁ、おとなしく我々と共に帰りましょう」

 

眠らない街 『東京』 その立ち並ぶビルの屋上にて スーツを着た2人の男性に1人の少女が追い詰められていた。

 

「もう…しつこいなぁ!ペケ!いつものアレ行くよ!」

『はい!』

その少女は懐から何かを取り出すと、ボタンらしき突起物を押した。その瞬間 少女の姿が輝きだし男性2人の前から消えた。

 

「!しまった!また発明品か!」

男性2人は苦虫を噛み潰したような表情をすると、すぐさまこの場から姿を消した。

 

 

 

 




ギル・ベルフェ・デビルーク

イメージCV岡本信彦
性別:男

見た目 完全にララ。違うのは目だけ。目はツリ目であり、鋭い。前髪で隠れているが、おでこには深い傷跡があり、身体にも何箇所もの切り傷や火傷がある。
因みに本気で怒った場合は 目玉が黒くなり、虹彩は赤色に染まる。

身長:155

性格 戦闘や、食事、または楽しい娯楽を好む。弱い相手には興味がない。幼い頃はよくララやギドと喧嘩していた。
また、食への探究心が高く、たまに星を抜け出してはどこかの星へ赴きそこの名物を食べに行く。
乱暴ではあるものの、一方で礼儀はわきまえており、初対面の相手には敬語などを使い丁寧に話す。
尻尾を触られるとララ同様に弱体化する。
男性であるので、セフィの顔を見ると、多少は効果は薄いが、それでも普段とは全く違う性格になり甘えん坊となる。本人はこれがトラウマで、セフィを苦手としている。
服装は夏はTシャツ1枚にジーパンというラフな格好で髪を縛っており、冬はロングコートを羽織っている。
知識はララよりは劣るが、それでも標準以上の学力を持ち合わせている。
ただ短所としては怒った瞬間に残虐性が現れ自身の邪魔や気分を過剰に阻害する者を容赦なく殺してしまう。
昔、自身を誘拐した組織を1人残らず皆殺しにした事があり、それを知っているのはギドとセフィだけである。


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地球到着

地球へと着いたギルは辺りを見回す。

 

見えるのは母国とは一味違う街並み。辺りには住宅地が多いので、ここはビル街から離れた住宅街だろう。そんな中、宇宙船の中から、ギルを連れて来てくれた女性が出てきた。

 

「取り敢えず、家に入りましょう。親衛隊の人達が来るまでは私の所に住んでていいから」

「わかった」

 

彼を招き入れる彼女は 見た目は少し過激だが、銀河でも名を馳せる凄腕の医者だ。例えばこの女 誰とも徒党を組まず、束縛を嫌う。極限に磨かれた技術と膨大な知能が彼女の武器だ。気のままに訪ねてくる人々をただ治療する一匹狼の女医である彼女の名は『御門 涼子』

 

 

   またの名を_________『ドクター御門』

 

 

 

 

〜♪

 

 

 

 

 

「おい音楽止めろ」

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

 

「はい。いつものコーヒーよ」

「どうも」

渡されたカップをギルは受け取ると口に運ぶ。淹れたてなので、常人ならばいきなり飲み干すことは不能だが、彼は物ともせずにすぐさま飲み干した。

 

「お風呂はどうする?なんなら、入れてあげるけど」

 

「いや…シャワーだけ借りる………入ってくるなよ?」

「うふふ。もちろん♪」

「…」

 

風呂場へ向かうギルを御門は微笑みながら見送る。因みに、これまで何度も彼は御門宅へお邪魔していた時期があり、その時は毎回彼女と一緒に入っていたのだ。彼女曰く、『水道光熱費』の節約らしいが、明らかに違うだろう。

それから、数分後

 

風呂から上がり髪を乾かしたギルは布団に座り込み、連絡機を操作する。

 

「さて……そろそろアイツらも着いてる頃じゃねぇかな…」

そう言い親衛隊であるザスティンへ連絡しようとした時だった。

 

「ララ様!」

「お待ち下さい!」

 

複数の男性の声が外から聞こえた。その瞬間 ギルは目の色を変えた。

 

「ようやく見つけた…。御門!ちょっと俺は出るぞ」

シャワー室に向かって言いながらギルは服を着ると外へと出た。

 

 

ーーーーーーーー

ーーーーー

ーー

 

俺の名前は結城リト

 

ごく普通の高校生だ。

俺は今……走っていた。屋根の上を……

 

その理由は…手を引き一緒に走っている女の子にある。

コイツは宇宙人であり、スーツを着た怪しい奴らに狙われているらしい。

 

最初は馬鹿馬鹿しいと思っていたが、男達が部屋に凸って来た時は肝が冷えガチだと確信した。

そして俺は男達から逃げる為に屋根の上を走っていたのだ。

 

そいつを連れて。

 

 

ちくしょぉぉぉ!!幾らなんでも急展開すぎるだろ!!あれか!?春菜ちゃんに告白しようとした時にちょくちょく飛来物とか象とか現れたけどあれは予兆だったのか!?ホントに何から何まで分かんねぇ!!

 

そんな風に心の中で絶叫している間に、とうとう公園まで走ってきてしまった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

俺は息をついている。スポーツをやっている為、長距離走るのは慣れてはいるが、そんな俺でも息を激しく吸ったり吐いたりしているので、相当の距離を走った事が分かる。そんな俺にずっと引かれているのに、このララという女の子は疲れの一汗もかいていなかった。

 

「ごめんね。私の事なのにリトを巻き込んじゃって…」

謝ってきたが、俺は別にいいと返した。それよりも、少し気になる。コイツは何故アイツらに追われているんだと、それ相応の事情があると思い、俺は質問してみた。

 

「気になってたけど…何があってお前…アイツらか逃げてんの…?」

「え?あ〜!まだ言ってなかったね。実は私ね……

 

 

「見つけましたぞ」

『!?』

ララが言いかけた寸前に声が聞こえ、さっきの変な3人組が暗闇から現れた。

 

「さぁ!もう逃げられません!我らと共に帰りましょう!」

 

 

 

………は?

 

帰る?どういう事だ?

 

「嫌よ!帰ったらまたお見合いお見合いって!もういい加減にしてよ!」

 

お見合い!?はぁ!?

 

俺がどういう事だと追求しようとした時、ララが何かを取り出した。

それはまるでタコのような機械だった。

 

「まずい!ララ様の発明品だ!」

「は…離れるぞ!」

えぇ!?あの機械見た瞬間 あの人たち凄え焦り出したぞ!?そんなにヤバイ奴なのか!?あの機械は!

俺は驚いているとララは空中に飛び上がりその機械を上に放り投げた。

 

その瞬間 その機械の目が光ると同時に巨大化し、吸盤の部分から音がしたかと思うととてつもない風が吹き始めた。

 

『ギャァァァァ!!!』

目が回る…!!俺と一緒にあの男達も巻き込まれており、吸い込まれるようにタコの口の中へと消えていった。

 

俺もこのままじゃ吸い込まれちまうと思いすぐさまララに向かって叫んだ。

 

「おぉおおい!!!ララ〜!!!止めてくれ〜!!!」

 

これを作ったのがララなのだから必ず止める方法は分かるはずだ!

そういう希望を抱きながら叫んだ。

 

 

 

「……ごめんねリト…止め方忘れちゃった♪」

 

は……はぁぁぁぁぁぁ!?

 

「ちくしょぉぉぉ!!」

そして俺はタコの口の中へと吸い込まれていった。

 

ガンッ

 

「…!?なんだ!?」

その時、タコのロボットから何かを叩いたような音が聞こえた。

 

その直後

「オラァァァァァッ!!!!」

 

突然鳴り響いた雷のような叫び声と共に何かがタコのロボットを貫いた。するとタコのロボットは作動を停止した瞬間、全身の至る所から蒸気や電気を発して

数秒後に……

 

 

大爆発した。

 

 

俺はその衝撃と爆音で意識を失った。

 

 

失う際に目に映ったのは……2人のララだった。

 

 

 



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姉弟面会

「んん……」

いつものように目を覚ますと、見慣れた天井が視界に映っていた。

 

「あれ……俺は確か……」

「ようやくお目覚めか?」

「!?」

突然横から少年の声が聞こえ振り向いた。見るとそこにはピンク色の長髪を持ち、鋭いつり目の少女らしき少年が胡座をかきながらこちらを見ていた。

 

「ララ!?」

その姿からリトは寸前まで見ていたララの姿を思い浮かべてしまう。が、それを聞いた少年はため息を吐きながら頭をかいた。

 

「姉と俺の区別もつかねぇのか。ま、しょうがない」

「……は?」

呆気に取られているとその少年はリトのすぐそばを指差す。

 

「ララならそこにいるぞ」

「へ……?ぅぉおお!?」

見てみるとそこにはその少年と同じ髪を持ち、容姿が瓜二つの可憐な少女が、布一枚纏わず、可愛らしい寝息をたてながら寝ていた。

リトはすぐさま赤面し、離れると、その衝撃で少女ララも目を覚ました。

 

「ん?んん〜!!よく寝た〜!……あ!ギル!おはよう!」

「あぁ」

ララは起きるとギルを見つけると軽く挨拶をする。状況が飲み込めていないリトに察したのかギルは自己紹介をした。

 

「初めまして……だっけか。俺は『ギル・ベルフェ・デビルーク』デビルーク星の第一王子で、そこにいるララ・サタリン・デビルークの双子の弟だ」

 

「……え?えぇ!?弟!?」

「そうだ。取り敢えず一旦落ち着け」

リトがあまりの衝撃の事実に驚愕している中、ギルはリトを静かにさせる。

 

「俺が来た目的だが…本来俺はこのバカを連れ戻す為に来た。最初はな?」

「……最初…?」

「あぁ。けど、それももう必要なくなった。お前…コイツにプロポーズしたんだってな?」

 

「……は…?」

リトは昨日の事を思い出した。

 

タコの機械騒動が終わって翌日、いつものように登校していると、自分が好意を抱いている少女『西蓮寺 春菜』と偶然 遭遇し、心に決めていた告白を決行したのだ。

 

その瞬間に、上からララが偶然現れ、何故かララに告白したような場面になり、そこから今に至る。

 

「違う!あれは違うんだ!あの時 ララが偶然そこにいたからそうなっただけで…」

リトは咄嗟に勘違いである事を主張した。すると、ベッドにいたララが目を潤ませながらリトへ寄り添う。

「リトは…私の事嫌いなの…?」

「嫌いじゃないけど……意味が…」

「じゃあ問題ないね♪」

「あるわ!」

勝手に目の前で夫婦漫才を繰り広げる中、ギルは頭をかきながらため息をつく。

 

「はぁ……理由はどうであれ…ララがお前に好意がある事はもう分かる」

「うん!私リトと結婚するから!」

「ってオイッ!」

勝手に結婚宣言された事にリトは反論する。それにリトは先程から少し恐怖を感じていたのだ。ギルから感じられる威圧感に。

このまま結婚となれば、何をされるか分からない。そんな恐怖心がリトの心を蝕み、拒否の方向へと持っていこうとしていたのだ。

するとギルは一あくびし、ただ単に軽く言った。

 

 

「まぁ、したければすればいいさ。俺は止めねぇよ」

 

「はぁ!?」「やった♪」

 

突然の了承にまたもやリトは口から心臓を吐き出した。弟なら反論して力になってくれると思っていたが、全くの予想外にリトは仰天する。

 

「これまでララとの婚約者は何人も見てきたがどれも権力や金目当てだからな。見る限りお前はソイツらとは違う雰囲気がするから良いと思ってる。それとも、嫌か?」

「あの…そういう訳じゃ…俺が本当に好きなのは…!」

 

そう言いかけた時に、ドアが開き、髪を後頭部にまとめている小柄で可愛らしい少女がオタマを持ちながら現れた。

 

「リト!ご飯だよ!」

「げ!?美柑!?」

彼女の名は『結城 美柑』リトの妹である。

 

「あ、ララさんとギルさんもよろしければどうぞ」

「ありがとー!お腹ペコペコ〜!!」

「はしゃぐなバカ。すまないな」

「いえいえ」

 

美柑はいち早く2人と馴染んでおり、3人はリトを置いてけぼりにして、部屋を出て行った。

 

「……」

 

 

それからリトはララに絶対学校に来るなと言いつけ、家を出た。

 

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

学校へ着く早々にリトは気分が悪く、机に垂れていた。

 

「はぁ……何とか春菜ちゃんには誤解を解かないと…」

目線を一つ前に座っている 髪を横分けにして額を出している少女へ向けるとリトはう〜んと唸る。

 

 

そして放課後

部活へ行こうとする春菜の後を付けようと教室を出た時だった。

 

「おぉ!?誰だあの子!?」

「すっげぇ可愛いぞ!?」

 

廊下がざわめき出した。見ると奥に人だかりができており、誰かを取り囲んでいた。

 

「ピンク色の髪だ!」

「外国人なのか!?」

 

……ん?ピンク色の髪?

 

その言葉にリトは違和感を覚え出した。

 

「まさか!」

 

一方でその髪の子の正体は……

 

「リト〜!!」

ララである。しかもデビルーク星にいる時の服装なので、周りからは変な視線を向けられている。けれども、一般の男子生徒達は、その衣装よりも、ララの並外れた可憐な容姿に目を奪われており、その歩く姿に見惚れていた。

 

「誰かの彼女なのか!?」

「バカ!あんなに可愛い子と釣り合う程のイケメンなんてウチにはいねぇだろ!」

 

周りの野次にララは意に介す事なく、リトを探していた。すると、1人のチャラい男子生徒が取り巻きと共に前に現れた。

 

「ねぇ、君可愛いね。どこの子?」

「おぉ!?外国人にも恐れる事なくナンパ!流石先輩だ!」

その男子生徒は髪型が、サイドが刈り上げされており、制服は着崩し、髪も染めているという、いかにもチャラ男らしき青年だった。

 

「もしよかったら俺とお茶でもどうか…「ごめんなさい。急いでるんで」

 

「ゔぉおおお!!ナンパして数秒で振られた!」

「流石先輩だ!」

 

ララは盛り上がるバカ集団の間を平然と潜り抜けると、ふと目の前を見た。見れば自分が探していた相手であるリトを見つけた。

 

「あ!リトみ〜っけ!」

そう言いララは一気に駆け出すとリト目掛けて飛び上がり抱きついた。

 

「ばぁ〜!!」

「ぶぎっ!?ララ!?」

 

突然ララが人混みから飛び出してきたのでリトは完全に仰天し、ララを抱きとめる。だが、その行為が周りの男子達から怒りを買った。

 

「な!?結城 貴様!いつのまにその美少女を堕としのか!?」

「この愚か者めがッ!!学生としてのモラルを弁えろッ!!」

「恥を知れ恥をッ!!」

 

「お前らに言われたくねぇよ!」

皆は口々とリトへ嫉妬の怨念をぶつけまくるが、まけじとリトも言い返す。

ますますヒートアップする中、リトはララの手を引きその場から離脱しようとする。

 

すると、再び人混みからざわめきの声が上がった。

 

「お!?誰だ!?もう一人 可愛い子が来たぞ!?」

「あのピンク色の子とすげぇ似てるぞ!まさか双子か!?双子の姉妹なのか!?」

リトがよくよく見るとそこにはTシャツに黒のジーパン、そして腰にチェーンといった。若者らしい格好をしているギルがこちらに歩いてきた。

 

「は!?何でアイツもここに!?」

「え?私が一緒に行こうって誘ったの♪」

「何でだよ!?」

そんなやり取りをしていると、突然ギルがリトの前にきてある物を差し出した。

 

「ほら」

「え?」

見るとそれは緑色の小包み。それはリトの昼食であった。

 

「美柑から忘れたから届けてほしいって言われたんだよ」

「そ…そうなのか」(というか…それだけならギルだけでも良かったんじゃねぇか…)

ララが来る必要性が全く感じられないリトは弁当箱を受け取る。

 

「じゃ、俺は帰る。ほら、さっさと行くぞ」

「え〜!もうちょっといる〜!」

「ダメだ。いい歳こいて駄々こねてんじゃねぇ」

「いやだぁ〜!!!」

ララはリトと離れたくないためか、ギルの手を振り払いリトに抱きつく。

 

「うぉおい!!やめろ!また変な誤解されるぞ!」

「いいじゃん!もう結婚するんだから!」

「だからしねぇって!!」

その『結婚』という言葉に再び周りの男子達が刺激された。

 

「結婚だと!?」

「もうそんなところまでいったのか!?」

「もう我慢ならん!そこへなおれ!我が一刀の居合の元に斬り伏せてくれるわッ!!」

 

「何で野次に必ず一人 変な奴がいるんだよ!?」

ますますヒートアップされた事により、リトに更なる鋭い視線が移る。

 

「くっそ!逃げるぞララ!」

「え!?」

リトはもうどうにもならないと思いララを連れて走り出した。

 

「追え!追うんだ!捕らえてリトに天誅を下すぞ!」

『おぉぉぉ!!!』

数人の男子たちはすぐさま後を追って行った。

「はぁ〜…」

残されたギルはやれやれと頭に手をやり 、そろそろ帰ろうかと思った時、

 

「そこの貴方、なぜ制服を着ていないんですか?」

唐突に話しかけられ、ギルは若干不機嫌ながらも振り向く。そこには黒いロングヘアーの清楚な印象を与える少女が立っていた。

 

「見る限りブレザーやスカートも履いていませんね。指導室に来てください」

「は?」

そう言い少女はギルを連行しようと手を掴む。それに対して、ギルは目を細めると振り払う。

 

「離せよ。俺ここの生徒じゃねぇし」

そして窓に手を掛けると、三階にも関わらず飛び降りた。

 

 

少女は突然の飛び降りに驚き、すぐさま窓に手を掛け、外を見る。すると先程自身が連行しようとしたギルが平然と校門へと歩いていた。

 

ーーーーーー

 

「ったく。何で生徒扱いされなきゃいけねぇんだよ」

校門を歩いていたギルは流石に弁解が難しいと判断したのか、ギルは即時撤退を選び、すぐさま学校を去った。

 

それから街中を歩き、どうしようか悩みだす。

「う〜ん。ひとまず戻るか。美柑にお土産でも買ってってやろう」

取り敢えずリトの家に戻る事に決めた。因みに金銭ではギルは既にアルバイトについていたので問題なしである。

 

 



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デビルーク星の最強剣士

次の日の夜。ギルはリトの妹の美柑と共に皿洗いをしていた。

 

「すいません。手伝ってもらって」

「いや、飯を食わしてもらったからな。これくらいは当然だ」

皿洗いを終えて手を拭くと美柑はギルにオレンジジュースを差し出した。

 

「どうぞ」

「どうも」

オレンジジュースを受け取るとギルは椅子に座る。そんな時にふと美柑はギルの顔を見つめる。

 

「…」

「ん?どうした?」

「…いや、やっぱり双子だから凄い似てるなって思いまして」

「あ〜」

美柑の言う事は分かる。ララと違うのは目の形だけであり、それ以外は完全に一致していると言ってもいい程まで似ているのだ。

あと違うのは身長ぐらいである。

 

「よく間違えられたな。俺を判別できてたのは大体 父親と母親。あとは妹ぐらいだったな」

「え?妹がいるんですか?」

「あぁ。2人な。ソイツらも同じ双子だ」

「へぇ〜結構珍しいですね」

「……性格があれだが…」

「?」

何やら嫌そうな顔をするギルに美柑は首を傾げる。オレンジジュースを飲み干すと、立ち上がり、空になったコップを洗い、辺りを見回した。

「ララとリトは?」

「あ、何か出て行きましたよ?話があるとか」

「そうか。ちょっと小腹空いたから何か甘い物買ってくる。何がいい?」

「あ、じゃあアイスを」

「はいよ」

 

髪を縛り、半袖ジーパンというラフな格好でギルは外へと出た。

ーーーーーーー

 

「どうしたの?いきなり『話がある!』なんて改まっちゃって。早く帰ってゲームやろうよ」

リトは家からララを連れ出すと、河原へと来ていた。坂で座るリトはゲンナリとした表情でララへ問う。

 

「お前…本当にウチで暮らすつもりなのか…?」

「え?だってリトがOKしてくれたじゃん!

「いや…俺は別にOKした訳じゃねぇんだが…」

「それに地球で結婚したら一緒に暮らすでしょ?」

その結婚という単語にリトは反応する。

 

「だ・か・ら!!!何でオレとお前が結婚なんだよ!!前にも説明しただろ!?誤解だって!オレが好きな子はお前じゃなくて他にいるって!!」

「え?」

そう言い自身の好意の相手である春菜を思い浮かべるが、何か嫌な事でもあったのか、ションボリとした表情に変わる。

一方でそれでもララはOKな感じであった。

 

「別にいいよ!それでも♪」

「よくねぇだろ!?」

そんな中でペケは何となくララがリトに付け入ろうとする理由が理解できた。

『私なんだかララ様の狙いが読めてきた気が…』

 

その時だった

 

 

「ララ様ぁぁあ!!!!」

 

『?』

 

河原から声が聞こえ、見ると犬に足を噛まれ全身に泥を纏った鎧を着ている長身の青年が川から走ってきた。

 

 

「うわぁ!?また変なの出てきたぁ!?」

「あら?ザスティン」

ララもそうだが、今度も今度で全身に変な装甲を纏った男が現れた事で、リトは驚く。

その男はララに目を向けると、手を差し出す。

 

「ララ様探しましたよ!さぁ早く私達と共にデビルーク星へ帰りましょう!」

「べ〜!私は絶対に帰らないもんね!帰れない理由ができたんだから!」

差し出された手をララは拒否して、帰らない理由を告白する。

「それは一体…?」

ザスティンはその理由に驚き、詳細を尋ねる。すると、ララは今もなお隣で蚊帳の外となっているリトに指を刺す。

 

「私!ここにいるリトの事が好きになったの!」

「……へ?」

 

リトはしばらく思考が停止する。ララは出会った当初は、見合いに嫌気が差し、地球に来た。即ち、ララの狙いは……[自分]をダシにする事だった____!!!!

 

「(コレが狙いかぁぁぁ!!!)」

ようやく理解したリトは心の中で絶叫する。一方で未だに話を続けている二人は

 

「ふぅむ…成る程。そういう理由だったのですか」

納得してました。しかも結構真剣に考えてるし。

ララの言葉を鵜呑みにしているザスティンにリトは『コイツ大丈夫か?』というような目を向ける。

 

「確かに部下から聞いておりました。ララ様を助けようとした地球人がいると」

 

「でしょ?だからパパに伝えて。私は帰らないしお見合いする気もないって!」

 

ララの言葉にザスティンは再び考え込むと、キッパリと切り捨てた。

 

「それはできません。このザスティン デビルーク王の命によりララ様を連れ戻しに来た身。どこの馬の骨とも分からぬ地球人と結婚を許してしまっては王に合わせる顔がありません」

 

「じゃあどうすればいいの?」

 

「…」

ザスティンはゆっくりとリトに目を向ける。嫌な予感が働くリト。その直後 

 

リトのいる地面に蒼い斬撃が放たれる。

 

「おわ!?」

ギリギリ避けたリト。見るとザスティンの手にはビームサーベルが握られていた。

 

「今ここで見極めましょう。婚約者に相応しいかどうか」

 

「えぇぇ!?」

 

そう言うとザスティンは剣を振るう。その地球人離れした体格から放たれる斬撃は速さも尋常ではなかった。

 

「うわぁぁぁ!」

 

「待てェェ!!」

咄嗟にリトは逃げ出す。それをザスティンは追う。

 

途中車に跳ねられようと、犬に噛みつかれようと、ザスティンは攻撃をやめなかった。

 

 

「ハッハッハッ!もう逃げられんぞ!大人しく勝負をするのだ!」

「…え?」

ザスティンが立つ場所。その足元には路線があった。

 

すなわち

 

「あ…危ねぇ!そこは!」

「へ?」

 

プァァァァン

 

「ギャァァァァア!!」

 

電車が通る道だった。ザスティンは電車に思い切り跳ね飛ばされ、リトの前に落ちてくる。

 

「お…おい…大丈夫…なのか?」

安否を確認しようとした瞬間

 

 

「ふんがぁぁぁ!!!!」

ザスティンは持ち前の生命力ですぐさま復活し、またもやビームサーベルを構えた。

 

「私がこの程度でやられるものか…!!さぁ…続きといくぞ!」

 

そう言いザスティンは再びリトに向かう。その時だ。

 

「その辺にしとけ」

合間に誰かが入り込み、振り下ろされたザスティンのビームサーベルを腕で受け止めた。

 

それは

 

「ギ…ギル王子!?」

アイスが入れてある袋を持っていたギルである。ララの弟が現れた事でザスティンはその場で膝をつく。

 

「お久しぶりです…王子…」

 

「久しぶりだな。取り敢えずテメェは感情的になりすぎだ。第一に考えてみろ。親衛隊隊長のお前に地球人が勝てると思うか?」

「そ…それは確かに…」

「だろ?確かに後継に力は必要だ。だが、力なんてどうとでもなる。一番はララを心の底から愛してるかどうかだろ」

「仰る通りです…」

「お前もララのお守りで心労なのは分かっている。だがTPOというものをだな____

 

ザスティンがギルから説教を受けている間に、リトは起き上がる。それと共にララも到着した。

 

「ギルの言う通りだよ!デビルーク星No1の剣士のザスティンに勝てるわけないじゃん!」

「俺が言った事はその点だけじゃねぇんだが…」

 

「ですがララ様!ララ様との結婚とはすなわち数多の星の頂点に立つという事です!!故にデビルーク王はララ様の為に見合いをさせているのです!!」

「だから私は嫌だって言ってるじゃん!どうせパパなんて自分の事しか考えてないんだから!」

 

「いえ!そんな事ありません!!あの方は_____

 

 

良い加減にしろよッ!!!!

 

ララとザスティンが口喧嘩をする中、リトの叫びが響く。

 

「さっきから見合いだ見合いだって…デビルーク星の後継者だなんて…どうでもいいんだよ…」

そう言いリトは自身の本心を暴露する。

 

 

「普通の暮らしさせろよ!!!もうこれ以上好きでもない奴との結婚とか……嫌なんだよ!!だから帰ってくれ!!!」

 

 

 

 

_____自由にさせろよッ!!!!

リトの叫びにギルとララとザスティンは固まる。

 

リト自身は勝手にララに結婚しようと言われた事自体が迷惑だと言ったのだ。相手は宇宙人。消される覚悟を持って言った。

 

 

 

 

だが、とんでもない風に受け止められてしまった。

 

 

「リト…私の事好きじゃないって言ってたのに…そんなに私の事を思ってくれてたなんて…」

 

「へ…?」

何故かキツく断ったにも関わらずララの顔が赤くなっていた。

 

「リトの言う通り…私はまだまだ自由に生きたいしやりたい事もたくさんある……。婚約者も自分で選びたい…。私は最初…リトの事は連れ戻されないための口実にするつもりだったけど…私…本当にリトとなら結婚してもいいかもしれない…ううん!

 

 

______結婚したい!!

 

 

 

「ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?????」

 

まさかの捕らえ間違い。ララをフォローしてしまった事にリトは仰天すると、すぐさま弁解を求める為に真面目そうなザスティンに目を向けるが、

 

「負けたよ…地球人…デビルーク王の命に従うのが私の役目…それゆえにララ様の気持ちを考える事がなかった…それを指摘されては私の負けだ…」

 

完全にララと同じ捕らえ間違いである。

 

「デビルーク王に伝えておく。他の婚約候補者が納得するか分からないが…君なら任せられると…!」

そう言い去っていった。

 

「うぉぉい!?ちょっと待ってくれ!!なぁギル!ギルなら俺の気持ち分かるよな!?」

そう言いリトは最終手段として一番真面目なギルに弁解を頼む。だが、

 

「姉の事をそこまで理解してくれるとはな…」

 

「えぇ!?」

コイツも同類である。

 

「ララに求婚してくる奴は殆どが身体や権力が目的だ…。だがお前は違う。自身を犠牲にしてまでコイツの意思を尊重してくれるとは…ここまで優しい婚約者は見た事ない」

 

そう言いギルは前に歩み寄ると敬意を込めた目を向けながらリトの手を掴む。

 

「姉を頼むぞ」

 

「だから違うってぇぇえええええ!!!!!!!」

 

 

 

 



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まさかの転入、そして初日の出来事

学校から戻った夜、ギルとザスティンはデビルーク王へ無線をかけた。

ジジ…

特殊な機械音と共に玉座に居座るデビルーク王の映像が映し出された。

 

「お久しぶりです。デビルーク王…」

「よぅ親父」

『お前らか。どうだ?ララは連れ戻せそうか?』

取り敢えず今の現状を ギルでは言葉足らずなのでザスティンが説明した。

 

『……そうか…。ならしばらくは戻りそうにねぇな…』

「はい。ララ様の婚約者様である結城 リトは、私個人の意見としては堂々としている御仁であり、何よりも自身の身よりもララ様自身を考えるというこれまでの婚約者の方々にはないモノを感じております』

デビルーク王はしばらくう〜んと考えると答えた。

『ララが好きになったソイツには…少し興味があるな。まぁいい。お前らは護衛として残ってもらう』

その答えにザスティンは頭を下げて了解したが、ギルは納得がいかないようだ。

 

「何で俺までアイツの護衛しなきゃなんねぇんだよ。ザスティン一人で十分だろ?」

『文句言うんじゃねぇよバカ息子が。とにかくやれ!さもねぇと………分かってるだろうな?』

 

 

ギドはやらしい笑みと共に懐から数枚の写真を取り出した。その瞬間、ギルは背筋が凍りつき、土下座した。ザスティンは驚きの表情を浮かべる。

 

「あ……あの写真だけは…やめてください…お願いします…」

「(あのギル王子が土下座!?何だ!?写真って!?何があった!?)」

長い間 ギルの身勝手を知っているザスティンは、土下座して敬語で請け負う姿を初めて見て何があったのか気になってしまった。

ま、そうなるだろうな。

 

『じゃあやれ!それじゃあな』

 

ジジ…

 

「……ギル様…過去に何が…」

「聞くな…」

 

ーーーーーーーー

 

 

数日後

 

 

「えぇ〜 転入生を紹介しまふ。自己紹介して…」

少々滑舌が悪く、還暦を過ぎようとしている先生の横には二人の男女が立っていた。

 

「え……」

このクラスの生徒であるリトは顔を凍らせた。

何とそこには…

 

「やっほ〜リト〜!!私も来たよ!」

「はしゃぐなバカ。弟のギルです。よろしくお願いします」

天真爛漫な自己紹介をしているララ。そして横で対照的な丁寧な自己紹介をしているギルの姿があった。

 

「ぅおお!!やったぜ!!美少女到来だぁぁぁ!!!」

「ひゃっほぉおおい!!!」

「ゼハハハハハハハハハ!!!」

 

ララを見るとクラス中の欲に飢えた男子たちは猛々しい歓声を上げ、中には上裸になり脱いだ服を振り回す男子もいた。

 

ーーーーーーーー

 

「何でいきなり転校してくんだよ!?しかもギルまで!」

 

「えぇ?」

休み時間となりリトは転校の理由を尋ねる。

 

「だって.初めて行った時に楽しそうだったから。それにリトとも毎日一緒にいられるし♪」

 

「俺はこいつがバカしねぇように見張り役だ」

楽しそうに答えるララとは対照的に無理やり入学させられたギルは不機嫌な表情をしていた。

 

「おかげでおれ達は学校の噂の的になっちまったんだぞ!?おまけに自己紹介の時に俺の家に住んでる事も言いやがって!」

 

「だって〜……ずっとリトの側にいたかったから……ポッ…♡」

 

「何が『ポッ♡』だよ!?何で弟はこんなに冷静なのにお前は『口は災いの元』を形にしたみたいな性格なんだよ!?」

リトの続け様に放たれる正常なツッコミにギルは落ち着け落ち着けとなだめる。

 

「まぁまぁ。ちなみに俺達が宇宙人って事は秘密にしてある。バレたら大事だからな」

 

[大事どころではありませんよギル様!]

 

ギルの言葉に突然 ララの頭につけているバッジのようなモノが喋り出した。これはララ自作のロボットであり、名前は『ペケ』頭につける事でどんな服装にも瞬時に着替える事ができるのだ。

 

[お二人はデビルーク星の未来を担うプリンスとプリンセス!もし公になれば命を狙われる恐れがあります!]

 

「それはヤベェな。ならいっそもう公にバラして誘い出した奴ら全員まとめて消した方が安心じゃねぇか?それか1人をグチャグチャにして肉片をソイツらに渡すとか」

 

[そういう問題ではありません!!]

 

ペケと会話するギルを見てリトは先程の『冷静』を撤回する。明らかにララよりも物騒かつ血の気の多さに引いた。

「(ララも大概だけどコイツも相当ヤベェ〜!!何だよ『消す』って!?何だよ『グチャグチャにする』って!?普通の奴は絶対に使わんぞその言葉!)』

 

 

「話を戻すが、俺がここにいるのは コイツの目付役って訳だ。ザスティンに任せようとしたが、アイツの背丈的には生徒は無理だからな」

そう言いギルはザスティンの2メートル超える身長を思い浮かべる。あんなガタイのいい奴が来るよりも、身長が平均以下のギルが行った方が適任だろう。

 

「というか…どうやって転入したんだよ。お前ら二人とも宇宙人だろ?」

 

「あ〜それはこの学校のコーチョーっていう人に入りたいって言ったら『可愛いからOK〜!!』って言われて」

 

「あの変態が…よくこの学校潰れねぇな…!」

あっさりと転入を許可した校長にリトは呆れる。一方でギルは個人として正規の手続きをしていた。

 

「俺はまず住民票を提出して、転入試験を受けて入学した。案外チョロかったぞ?」

 

「何でアンタら姉弟はやる事が全部正反対なんだよ!?」

ララとはまったくの正反対すぎる方法にリトは疑問に思ってしまう。

 

 

そんな感じで休み時間は幕を閉じる。

それから時間が経ち昼休み

 

ギルは辺りを見回した。ララと共に昼食を取ろうと思い彼女の姿を探す。だが、彼女の姿はどこにも無かった。その上 べたつかれているリトもいない。

 

「どこいったんだ…?ったく」

 

ギルは探すハモクになった事に腹を立て軽く舌打ちをすると教室を出る。

この学校の構造も未だ理解出来ていないので、ギルはどうしようかと顎に手を当てる。

すると、何かを感じた。

 

「…?この気配…」

その瞬間 ギルは廊下の窓から飛び降りた。

 

ーーーーーーーーー

 

俺の目の前にはとんでもない光景が広がっていた。

 

ララの解剖ごっこに誘われて、嘘の口述を告げて逃げている時に春菜ちゃんの悲鳴が体育館倉庫から聞こえ、中を開けると校長が春菜ちゃんを触手らしきモノで縛り上げていた。

 

「校長ッ!!」

「早かったな結城リト。もうちょっとのんびり来てくれてもよかったんじゃがのう」

この時、俺はコイツは校長ではない事に気づいた。明らかに口調が違っていた。するとソイツはカタチをまるで粘土のようにくねらせていき、終いには目は魚のようにクリクリで、体格も俺の倍はある半魚人へと変貌していった。

 

「来てもらって早速だが…結城リト、今すぐ、ララとの婚約を解消してもらおうか」

「…は!?何を言って…」

「とぼけても無駄だ。お前はララと婚約してんだろ?それに、俺は気が短いんだ。さもないと…」

「…?」

半魚人は手に握っているスイッチらしきもののボタンを押した。

すると、その触手が反応するようにうねりだし、春菜ちゃんの身体に巻きついた…。

 

「ふ…ふぁぁぁ!!???」

初めて見る春菜ちゃんの身体に俺は目を背けてしまう。

 

「な…何でこんな事するんだよ!?」

「決まっているだろう?ララと婚約するためさ。その為にこの女は人質と言うわけだよ!」

そういい 半魚人は舐め回すように春菜ちゃんの身体を見る。

 

「…!!」

その時、俺は恥ずかしいという感情よりも怒りが湧き上がってきた。

 

「ふざけんな……関係ない子に手をだして人質にするなんて……それでララが振り向くわけねぇだろ…!!それにさっきの言い方!お前にとっちゃ春菜ちゃんは道具みたいじゃねぇか!!」

「ひひひ。まるで俺が悪人みてぇじゃねぇか♪まぁ間違ってねぇけどよ」

 

ソイツのふざけた笑い声や態度に俺もう我慢の限界がきた。

 

「最悪だッ!!!!」

「!!??」

その時

 

 

ガンッ!!

 

入り口の鉄の扉から物凄く大きな音が聞こえた。それは金属を歪ませる程の音だった。

 

「な…なんだ!?」

 

ガシャァンッ!!

その瞬間 その鉄の扉が壊され、外の光が差し込むと、長い髪をもち、男子の制服を着ているシルエットが見えてきた。

 

「妙に感じた事のある気配かと思ってきたら……やっぱりテメェか…!!」

「!」

その怒声と共にシルエットは近づいてくる度にゆっくりと鮮明になってきた。

 

ララと同じくらい髪が長く、男子制服をきている…ギルだった。

 

「ヒィ…!?アンタは…!!」

 

すると、半魚人が怯んだのか、触手が緩み、春菜ちゃんが下ろされた。

「西蓮寺!!」

俺はすぐさまかけより、触手を払うと春菜ちゃんの状態を起こす。

 

「よかった…何とか無事……だけど…」

服が破れて春菜ちゃんの肌が露出していた……。けれども無事でなによりだ。

だが、安心したのは束の間だった。

 

「お…お前ぇぇ!!!俺の遊び道具に手出してんじゃねぇ!!」

「!?」

その言葉と共に見ると半魚人が巨大化していた。通常の倉庫よりもデカく作られている体育倉庫の天井にもつきそうな程まで巨大化したその姿に俺は尻餅をついた。

 

「ちくしょ……」

ここで終わりか…。そう思った時だった。

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

「!?」

その半魚人がとてつもない悲鳴を上げた。見るとその半魚人の右腕が無くなっていた。

 

「俺を無視しようなんて…いい度胸してんな…!!」

すると俺の目の前にギルが降りてきた。手に握られているのは奴の右腕だった。

 

「テメェ…よくもまぁ懲りずにいたモンだなぁ…。やっぱりあの時 殺しとけばよかったよ」

 

「ひ…ヒィィィ!!」

右腕を捨てるギルの姿を見るや否やソイツは腰を抜かした。その時、奴の大きな巨体が、みるみる内にさっきの姿へと戻っていた。

すると先程の威圧感がまるで失せたかのように土下座をし始めた。

 

「ごめんなさい!許してください!本当にごめんなさい!!お願いします!」

とてつもない変わりように俺は「は?」と漏らし立ち上がる。

 

「ギ…ギル…コイツは一体…」

 

「バルケ星人だ。擬態能力に長けているが、戦闘能力は地球人以下。お前でも楽に倒せる程のザコだ」

あぁ…だから俺が叫んだ時にビビったのか…。

 

バンッ!!

その時、ギルはバルケ星人を蹴り飛ばした。

「お!おい…!」

咄嗟に俺は止めようとするもギルの眼力に止められた。

 

「コイツは前々からララに言い寄ってた奴でな。いい加減しつこいからそろそろ殺してやろうかと思ってたんだよ」

そう言うと更にソイツは土下座をして許しをこおうとするバルケ星人の顔を蹴り上げた。蹴りの音で威力がとてつもなく高いのがわかる。

 

「い…いてぇぇ!!!た…助けて!お願いします!!俺には妻と子供が…ガバァ!?」

 

「うるせぇな。害虫がギャンギャン鳴いてんじゃねぇよ。耳障りだ。それに子供って言ってもテメェ何度も浮気して他所の星で子供作ってたじゃねぇか。そんな奴に同情すると思ってんのか?正直言ってもう存在自体が目障りなんだよ」

 

止まる様子をギルは見せなかった。この調子だと確実に殺してしまう。

 

「そ…そろそろやめてやったら…」

「ハッ。甘いな」

俺はつい口に出てしまう。その言動にギルは青筋を立てる。

 

 

「いいか?コイツはこれまで5回ララに婚約してるんだぞ?本人が嫌がっていると知っておきながら。んで、5回目の時に俺は言ってやったんだよ。『次 来たら殺す』ってな。なのにコイツはそれを無視して来た」

 

「だからって!……」

俺はもう言葉が出なくなった。本来好きな春菜ちゃんをこんな目に合わせた奴なんかもう死んでしまえと思ってしまった。

 

いや!だからってダメだ…!!

 

「ギル!やっぱり止めろ!」

「あぁ?」

俺は咄嗟にギルの腕を掴んで止めた。確かにコイツには腹が立つ。だからと言って殺していい理由にはならない。

 

「頼む…」

「…」

 

その時だった。

 

 

「リト〜!!」

入り口からララが物凄い勢いで走って来て俺に抱きついて来た。

 

「うお!?ララ!?」

「もう探したよ〜!!」

俺はララを引き剥がそうとするも、怪力で意識を刈り取られそうだった。

 

「〜♪ってあれ!?」

俺に抱き付いたララはその場にギブリンを追い詰めているギルの姿をようやく見つけた。

 

「ギブリンじゃん!何があったの!?」

「じ…実は…」

俺はここに至るまでの状況を説明した。

 

「なんだ。そういうことだったんだね」

するとララのいつものふざけた雰囲気が消え、ギルに近づいていった。

 

「ギル、私は大丈夫だから。逃してあげて」

 

「…?良いのか?また来たらどうするんだ?」

 

「大丈夫だよ。来たら来たでまた追い返せばいいから」

いつもとは雰囲気が違い、まるで弟をあやす姉のようにララは穏やかだった。こんな姿…初めて見るな…。

ギルの雰囲気が変わり、いつもの穏やかな感じになると、振り下ろそうとした手もゆっくりと元に戻る。

 

バルケ星人は泣きながら手を押さえてそのまま逃げていった。

「ッ…」

「よしよし♪」

 

舌打ちをしながらも言う事を聞いたギルをララはあやすように撫でる。すると、先程までのギルの怒りが消えた。

 

「さっさと戻るか…おい、その青髪保健室に運んどけよ。飯時なのに食欲が失せちまった」

 

「えぇ!?」

俺達を置いて、ギルは出て行ってしまった。

 

俺は何とか触手を片付けるが、ボロボロの春菜ちゃんは流石に男なのでおぶることができないから何とかララに頼み、代わりに保健室に運んでもらった。

 

 

 



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夏の日の探偵ごっこ

ギルとララが転入してからもう2ヶ月近く経ち、季節は夏真っ盛り。辺りには蝉達の声が鳴り響き夏の日差しが蜃気楼を発生させた。

 

「暑いなぁ…」

夏服を着用しているギルとリトの隣で何度も額の汗を手で拭き取るララの姿があった。

 

「地球ってこんなに暑い日があるんだな」

 

「あぁ。まぁこれからもっと暑くなると思うぞ。…というか、ネクタイとか外さないのか?暑いだろ?」

リトは地球の夏に関して少し説明するとともにギルの服装を見ながら指摘する。

彼は周りを歩いている皆と違い、何故かネクタイを着用して服も中に入れていた。

 

「あぁ?いや、着崩すのは癪なんだよ。だらしなくてしょうがねぇ」

 

「ま…真面目だな…」

 

ギルにとって制服を着崩す事は性に合わないらしい。口調が悪いながらもこういう所はしっかりとしているのだ。

 

それに対して…

 

「私はもう裸になろうかな…」

 

「「なるな」」

リトとギルが同時にツッコむ。

 

「女子はあれだろ?『水浴び』があるんだろ?」

 

「プールな!でも羨ましいな。男子はもっと先だぞ…」

 

「えへへ〜」

 

すると、その様子を街路の角から撮影する者がいた。

 

 

「…!」

それをいち早く察知したのがギルだった。その男に気づかれないように自然の動きで近くにある小石を拾う。

 

「フンッ」

そして、石を投げ上げ、指に力を込めると、その男が持っているカメラに向けてパチンコ玉のようにデコピンして石を弾く?

 

 

ガシャァン!

 

デコピンだとしても、ギル特有の怪力のデコピンで弾かれた石ならば、機械を破損させるには充分だった。

機械が壊れる音がすると、リトとララも気付く。

そこには黒いニット帽とパーカー、ズボンにサングラスを掛けるTHE不審者らしき男がいた。

 

「あ!お前!何してんだ!」

気づかれた不審者はリトの声に驚くと、そそくさに逃げてしまう。

 

 

「よせリト。深追いはすんな」

 

「でも!」

 

「また来たらグチャグチャにすればいいだけだろ」

 

「怖ぇよ!!」

 

ーーーーーー

 

教室へ着くも、ギルは暑さ故に机に突っ伏してしまう。そんな中、二人の少女が陽気に話しかけてきた。

 

「よぅギルル〜ン」

「おっはよぅ!」

 

「ん…?誰でしたっけ…?」

 

「籾岡だって…前に紹介したでしょ?」

 

「ついでに沢田!ギルルンったら頭良いのに人の名前は覚えないんだから!」

改めて紹介しておこう。オレンジ色の髪を持ち長身の女子生徒が『籾岡里紗』メガネを掛けたツインテールの小柄な女子生徒が『沢田未央』という。彼女らは少々親父癖があり、頻繁に他の女子の胸を背後から揉むのだ。最初はギルが本当に男かどうか確かめる為に背後から胸を揉みしだいた際にギルに拳骨を喰らわされておりその時のタンコブが今もなお治っていないのである。その時の感触は里紗曰く『岩のように硬かった』らしい。

 

「あ〜。確か背後から胸を揉む校内連続痴漢行為者二人組でしたっけ」

 

「変な覚え方してる!?いや確かにあの時は悪かったって!」

 

「で?要件は何ですか?」

ギルは改めて自身に話しかけてきた理由を聞く。すると、2人は同時に手を合わせて片目を閉じながら言った。

 

「「ノート見せて⭐︎」」

 

「断る」

 

ーーーーーーーー

 

授業が始まる中でも、リトは朝の不審者の事を考えていた。もしもこれが他の女子生徒にも被害が及べば騒ぎになるだろう。あの不審者もララの追いかけである事は見抜いていた。それもそうだ。転校してすぐにファンクラブが出来上がる程なのだから。

 

その時、不意に教室の前のドアに目を向けた。見るとそこには今朝と同じ黒い服装をした不審者がカメラを向けていたのだ。

 

「あ!テメェ授業中まで!!」

 

『えぇ!?』

その声にクラスは驚く。それを気に留めずリトはその不審者を追いかけていく。

 

「なんだ?リトの奴。いきなり飛び出していって」

リトの親友である猿山はその様子に首を傾げる。すると、後ろにいるギルが背後から突くと、『あとで話がある』と書かれたノートを見せる。

ーーーーーー

 

「なんだ?突然」

休憩時間となった合間にギルは猿山に質問する。

 

「この学校で盗撮事件って結構あるのか?」

 

「そんな頻繁にはねぇけど、前に一回だけはあったな。女子更衣室に小型カメラが仕掛けてあったけど、犯人は分からんかったらしいぞ?」

 

「成る程な」

 

「それがどうしたんだ?」

ギルは猿山に今朝起きた事を話す。

 

「そりゃ大変だな!?いくら俺でも盗撮なんて汚い真似はしねぇぜ!やるなら堂々とやるぞ!」

 

「んな事どうでもいいんだよ」

猿山の熱弁をギルはアッサリ斬り捨てる。

 

「んで、なんでそんな事するんだ?」

 

「どうせこれが漏れたらマスコミが押し寄せるだろ?あの校長の事だ絶対に揉み消す。そうなればその後多少な問題行動くらいは見逃してくれるようになるだろ」

 

「おいおいおい!明らかに危ない発言してんぞお前!何それ!?今後の学校生活で問題起こす前提!?」

 

「……………よし。まずは被害に遭った女子生徒に聞き込みだ」

 

「待てぇぇぇ!!!」

 

ーーーーーーーーー

 

被害者、同じクラスの青髪で水泳の準備をしているS.Hさん

 

「確かにそんな事があったっけ…。その時は確か更衣室の器具を入れてる籠の中に仕掛けられてたような…」

 

ギル「役に立たねぇなぁ」

猿山「そんな事言うなよ!!」

 

 

被害者一つ年上のK.Rさん

 

「私の時も同じだ。何故かその日はいつも練習している野球部全員が朝の練習を休んでいたな」

 

被害者一つ年上のE.Aさん

 

「確かその日の屋上で野球部が集まっていたと耳にしました!」

 

 

3名に書き終えるとギルはメモ用紙に要点をまとめる。

 

「取り敢えず怪しいのは野球部の俺達より1つ上の奴らだな」

 

「お前普通に聞き込みしてるけど俺たちアッサリと授業サボってるからな…」

 

「どうせ数学なんて2次方程式だけだろ?後で教えてやる。取り敢えず、屋上に行くか」

猿山を連れたギルは屋上へと足を進めた。

 

 

 



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夏の日の探偵ごっこその2

昼休みが過ぎて午後の授業のチャイムが鳴る屋上では複数人の男子生徒達が集まっていた。

 

「さすが先輩!懲りる事なく女子更衣室だけじゃなく水中にカメラを仕掛けるとはマニアックだ!」

 

「フッ時代は水中さ。なんならお前らにも売ってやろう。俺が今まで撮影した秘蔵コレクションをな…!」

 

「「「先輩!!!どこまでも着いていきますッ!!」」」

 

何なんだこれは。これが青春物語の主流である野球部なのだろうか。全国の野球部へ土下座しろと言いたい。

 

その時だ。

 

「最近の盗撮犯はマヌケが多いな。どこで誰が聞いているのか分からないのに情報や写真をペラペラと喋って配るんだからな」

 

パシャ

その声と共にゆっくりと屋上のドアが開く。

 

「「「おぉ!?」」」

野球部全員は驚きのあまり扉から離れる。そこに立っていたのはギルと猿山であった。だが、双子である為に野球部の部員や主犯の弄光は自身らが目的としているララと勘違いした。

 

「ん…!?君がなぜここに!?ララ・サタリン・デビルーク!」

弄光の言葉にギルは頭に青筋を浮かべた。

 

「うるせぇよ盗撮犯。よくも姉を隠し撮りしようとしやがったな。未成年の卑猥な写真を他者に売りつけるなら犯罪だぞ?取り敢えず証拠はバッチリ。猿山、これ新聞部に回しとけ」

 

「えぇ!?」

ギルは野球部が行ったであろう証拠写真が詰まったデータを猿山のスマホに送信した。

 

「お…おいお前!今 姉と言ったか!?まさか君はララの…弟か!?」

 

「あぁ?」

アッサリとララを呼び捨てにする弄光にギルは更に怒りを覚えると腕の骨をポキポキと鳴らしながら近づく。

 

「馴れ馴れしく姉を呼び捨てにすんじゃねぇよ。取り敢えずテメェら全員ボコボコにして締め上げてやるよ」

 

「ちょ…ちょっと待ってくれ!なんでそんなことするんだよ!?」

 

「とぼけんな。ここにある写真にカメラ!盗撮する気はバレバレだ。それにあの渦潮!あれで女子の水着を水圧で脱がすつもりだったんだろ!」

 

「いや!あれ完全に俺たち関係ないって!!!」

「寧ろあそこまでやる程俺たち___

 

「黙れぇぇぇぇ!!!!!!」

 

『『『ギャァァァァア!!!!!』』』

 

 

その日、学校の屋上で大量の打撃音と悲鳴が鳴り響いたらしい。弄光はギルに髪の毛を全て引き抜かれた上に学校側で盗撮がバレて療養も兼ねて1ヶ月の停学。その盗撮に加担しようとした者達も締め出されて入院となる。

 

因みに野球部は問題行動が多すぎる故に廃部となったらしい。

一方で盗撮犯を暴いたギルは…

 

「へぇ〜ギルルンって結構正義感あるんだね〜」

 

「いや…別に俺は暇潰しに…」

 

「あれれ〜?照れてんの〜?可愛い〜♪」

 

籾山や他の女子からの好感度が格段に上がってしまいクラスの男子達の標的となったようだ。

蚊帳の外である猿山は血の涙を流しまくりながらギルの胸ぐらを掴みオイオイと泣き喚いていた。

 

「ちぐしょぉぉ!!!何でアンタだけモテてるんだよぉ!!!」

 

「すまん。ほれ、お詫びに宿題のノート見せてやるから」

 

「ありがとうございまぁぁあす…!!」

 




この弄光っていう奴…漫画で読んで思ったがリアルならガチで退学モノだぞ…。


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臨海学校

今回は長いです。


それから数週間が経つと、初めての行事の時間が近づいてくる。

ギルやリト達の通う彩南高校には一年生は校長が同伴の元、一泊2日の臨海学習に行く事がカリキュラムに含まれていた。

 

その晩の家にて。

 

「フンフンフ〜ン♪」

ララはウキウキな様子で明日の臨海学習の準備を始めていた。それはリトも同じだ。

様子を見にきたギルは美柑からもらったアイスを口に咥えながらララの荷物を見てジト目を向ける。

 

「荷物多すぎるだろ…」

 

「ほぇ?」

ギルの意見にララは首を傾げる。ギルの意見はごもっともだ。ララの持っていくバッグには着替えのみならず、発明品に加えてゲームなどが入っていた。

 

「そんな沢山の荷物入るわけねぇだろ。少しは減らせ」

 

「えぇ〜」

 

「ギルさんの荷物は?」

美柑がギルに聞くと、ギルは軽めのバッグを取り出す。

 

「俺の荷物は携帯、筆箱、ノート1冊、財布、水着、2日間の下着の6点だけだ。どうせあの校長の事だ。女子の水着や旅館の女将目的で計画したんだろ。因みに今日見かけた時なんか浮かれてたぞ?」

 

そう言われたリトと美柑は頭の中に顔を真っ赤にしながら『ブワァッハッハッハ!』と興奮する校長の姿を思い浮かべる。

 

「「大体想像がつく…」」

ギルの考察にリトは勿論、町内で校長の変態行為が有名なのか小学生である美柑も頷く。

 

そんな中でギルはアイスを咥えながら手帳を取り出すと美柑に目を向けた。

 

「美柑は何かお土産で欲しいものあるか?」

 

「え?」

首を傾げた美柑はしおりをパラパラとめくる。

 

「でもしおりじゃ帰りは何処にも休憩しないって…」

 

「校長脅すかバス細工して故障させるかして何処かのサービスエリアで無理矢理休憩取らせるから」

 

「え、なに…サラッととんでもないこと言ってるよこの人」

 

無表情で手帳に色々と書き込みながら物騒な事を言うギルに美柑は若干だが引き気味。

 

◇◇◇◇◇

 

それから、当日を迎える事となった。前日は嵐で、危うく中止になるところだったが、ララが行きたいが為に大声を上げた事で嵐が去り、見事な快晴で出立ができる様になった。

 

学校に集合した皆は次々とバスに乗り込む。

 

席は事前に決めてられており、リトは猿山の隣で、ララは西蓮寺の隣であった。原則として男子は男子、女子は女子となっている。

 

一方でギルは男子として一人余ったので仕方なく女子と隣になる。だが、このバスは既に満員であり、別の組が乗るバスへと乗る事になってしまったのだ。

 

「はぁ…めんどくせ。…んん?おい。何ジロジロ見てんだよ」

 

『…!!』

 

バスの席へと向かう中、辺りから向けられる視線にギルは頭に来ると鋭い目線を向ける。こういった様に至近距離からジロジロと見られる事がギルにとっては癪に触るようなモノであった。

一方でその視線に目を向けていた生徒達は即座に目を逸らした。

 

「えぇと…俺の席は…と。ここか」

しおりを見て確認しながら席を探し見つけると既にそこには隣に座る生徒が座っていた。

 

「…貴方は…」

彼女は『古手川 唯』初めて校舎に来たギルを注意した風紀員だ。

 

「隣になりました。どうぞよろしく」

 

「え…あ…はい」

ギルは硬く挨拶する。それに対して古手川はあの時と全く違う雰囲気を漂わせている故に一瞬ながら焦るも即座に気を持ち直し頷く。

 

バスが出発すると皆は次々と話し出した。B組もB組で結構賑やかであった。

 

そんな中、古手川が横に目を向けると

 

 

「ZZZ…」

ギルは寝ていた。いつもはキリッとしていたギルだが、睡眠の時は警戒心が最も薄れる時であり、バスの揺れもあってか、ギルはぐっすりと眠っていた。その寝顔はララと酷似していた。

 

「…男子…なのよね…?」

だんだん興味を惹かれた古手川は指でギルの顔をツンツンとつつく。

 

「くか…」

 

「!?」

つつく度にギルは寝息を立てており、その動作が女子特有の母性本能をくすぐった。

 

「(だ…騙されてはだめ!彼は男、彼は男…!!」

 

呪詛のように次々と心に言い聞かせる。が、それでも耐えられない。

 

すると

 

ガタンッ!

 

「きゃ!?」

 

突然バスが段差を超え車内が揺れる。その拍子に古手川の横で寝ていたギルの身体は古手川の方へと倒れた。

その結果、ギルの頭が古手川の膝に倒れ、膝枕状態となる。

 

 

「!?」

咄嗟に古手川は反射神経で赤面してギルの肩に手を掛けて持ち上げる形で引き剥がした。

 

 

「ぐかぁ…」

 

「これでも目を覚まさないなんて…」

ギルの寝付きの良さが規格外のために古手川は驚きを通り越して呆れてしまう。

 

そんな形でバスは目的地へと着いた。

 

「あ…あの…着いたよ…?」

 

「…ん?」

小手川がギルの身体をゆするとギルは目を開けてゆっくりと目を覚ました。

 

 

「ふわぁ…よく寝た」

ギルはそのまま背伸びをすると、古手川に何も声を掛けることなく、横を通り過ぎていき元のクラスへと戻っていった。

 

ーーーーー

 

「あ!お帰りギル!」

 

「よぅ…」

ララやリトに迎えられたギルは手を振りながらバスから荷物を取り出す。

 

そして、皆は旅館の入り口まで歩いていった。既に旅館の前では女将らしき女性を筆頭に何人ものスタッフが出迎えていた。

 

「彩南高校の皆さん。ようこそおいでくださいました〜」

 

とても気丈な振る舞いで出迎えた女将は清楚な和風美人であり、殆どの男子生徒達は鼻の下を伸ばしていた。

 

そんな中…

 

「高美ちゃ〜ん!久しぶ……ぶひゃあ!?」

校長が抱き着こうとしたがその女将は鉄拳を放ち校長を鎮めた。

 

「あ…相変わらず釣れないなぁ…」

 

その光景を見ていたリトは前日のギルの言っていたことが見事に的中していた事に驚く。

 

「お前すげぇな…」

 

「だろ」

 

ーーーーーーーーー

 

その後、皆はそれぞれの部屋へと入り、肝試しまで休憩となった。ギルはリトや猿山達と同じ部屋であり、着物に着替えると食事の為に大広間へと向かった。

 

既に食事が運ばれており、白飯とアサリの味噌汁を傍に魚やサザエ、などといった豪華な海の幸が添えられていた。

 

 

「わぁぁ!美味しそ〜!!」

 

「はしゃぎすぎだバカ姉貴…じゅる…」

 

「涎 垂らしてるお前が言えるのか!?」

ララは初めて見る海の幸に目を輝かせており、横ではギルがやれやれと言いながらも彼も満更ではないのか涎を垂らしながらサザエを凝視していた。

 

それから皆はそれぞれの席について食事となった。

 

だが、食事をし始めて約数分。ギルの周辺にいる者達は食べる手を止めてていた。

 

 

バリバリバリ

 

辺りに響く硬い物を砕くかのような咀嚼音。

 

見ると出された料理の内の魚をギルは身だけでなく、内臓、皮や頭、遂には骨まで食べていたのだ。横にいた西蓮寺はギルの野生味が溢れた食べ方に若干引いていた。

 

「ギ…ギルさん骨まで食べるんだ…」

 

「えぇ。残さず食べるのが基本ですから」

 

「だとしても骨まで!?」

 

ギルは次々と食材を口に入れる。流石にサザエなどの貝類の貝は食べなかった。更に驚いたのが、ギルは女子から次々と食べられない分の食べ物をもらっており、それでもなお食べ切った後に『おかわり欲しい…』と呟いたらしい。

 

ーーーーーーーーーーー

 

それから食事が終わると、皆はそれぞれの部屋に戻り入浴の準備をする。彩南高校の生徒が使える時間が肝試し前なのだ。

 

「「ぐへへ…!!」」

 

準備をする中、思春期真っ盛りの男子達のゲスな笑みが浮かび上がる。

 

「さてリトよ。そしてギルも行こうじゃないか?」

 

「「ん?なにが?」」

 

疑問に思ったリトとギルは首を傾げながら尋ねると猿山は更にゲスい表情を浮かべながら答えた。

 

「覗きだよ…!!」 

 

「はぁ!?」

「訴訟されちまえ」

 

2人は覗きを拒否する。それでもどのみちお風呂に入らなければならない為に猿山達と共にリトやギルも風呂場へと向かった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

「なんだよ。あんまりいねぇな」

 

「猿山…俺らが早く来たんだよ。だって夕食直後だぞ?」

男湯の暖簾をくぐると、そこにはリトの言う通り数人だけ男子達がいた。皆は次々と衣服を脱いで大浴場へと入っていく。

 

「さて…さっさと入るか」

 

ギルも浴衣を脱ぎ着物に手を掛ける。

 

___だが、なぜか猿山やリトはそれを凝視していた。

 

「あ?何見てんだ?」

 

「い…いや…色っぽいなって…。なぁ皆?」

 

「「うんうん」」

 

猿山にリト以外の皆は頷く。元々ギルの顔のパーツは目以外ほぼララに似ている為に皆はララがいるかのように見えて目が離せなかったのだ。

 

それに対してギルは溜息をつくと着物に手を掛け全身を見せた。

 

「なんなら堂々と見ればいいだろ?」

 

「「「!?」」」

 

その姿を見た全員はこの世のモノとは思えないモノを見たかの様に絶句してしまった。

 

一瞬にして着物を脱ぎトランクス一丁となったギル。いつもは丁寧に着用した制服によって隠され、可憐な顔が輝くその身体は______

 

____細身ながらも分厚い筋肉が敷き詰められた強靭な肉体であった。

 

 

『『『首から下 別人じゃねぇかぁぁ!!!』』』

 

「だって俺 男だし」

 

「だとしてもアンバランスすぎるだろ!?俺らよりムキムキじゃねぇか!」

 

猿山が指摘するとギルは「そうか?」と言い身体を見回す。肩幅はララとほぼ同じ程でありながらも腹筋が6つにしっかりと割れており胸筋も顔を出していた。スキマのない細身の筋肉質な体型に皆は希望が崩れ去ったかの様に赤く染めていた顔が一転し暗くなっていた。

 

「おいおい…マジかよ…あんなゴツい身体だったなんて信じられねぇよ…」

「顔はララちゃん…身体はマッチョ…」

「カッコいいけど何か…何か違う…というかよくよく思い出せばコイツ結構体格 よかったな…」

 

「細身でスラッとしてる奴かと思ってたのか?ったく」

 

皆があまりの衝撃にOTZ状態に陥っている中、トランクスを脱ぎ捨て腰にタオルを巻きつけたギルは呆れながら大浴場へと向かった。

 

因みに湯船に浸かった際に尻尾について問われるも、ギルはアクセサリーだと言い誤魔化したらしい。

 

◇◇◇◇◇◇

 

その後風呂からあがると肝試しとなる。女将の高美にボコボコにされたのか顔面が割れたサングラスで血だらけの校長がマイクを持ちながら相変わらずのマイペースな気持ちで司会をする。

 

因みにペアの決め方は至ってシンプルだ。1年生で男女に分かれてそれぞれクジを引き同じ番号となったものがペアとなる。

 

皆が次々と引く中、ギルはめんどくさがりながらもくじに手を伸ばす。

 

「俺は…10番か…」

ギルは辺りを見回してペアを探す。すると、

 

「あ、えぇと…貴方が10番…?」

 

「ん?」

そこにはバスの席で隣であった古手川が立っており手元には10番と書かれたくじが握られていた。

 

「よ…よろしく」

 

「どうも」

 

因みにリトはララと同じ番号であった。

 

ーーーーーーーーー

 

「……」

ギル・古手川ペアは無言を貫きながら次々と道を進んでいた。

 

「あの…貴方…ララさんの弟なのよね?」

 

「そうですが、何か?」

 

「いや…その…姿は似てるのに性格が全く似てなくて…」

 

「まぁ確かに。アイツは頭のネジ100本外れてると言われてもおかしくないですからね」

 

「いやそこまでじゃないわよ!?」

 

互いに談笑し合う中、古手川はふとギルを見つめると切り出した。

 

「ねぇギルさん…。もしよかったら…風紀委員に入らない?貴方のような真面目な人を探していたんだけど」

 

委員会という言葉にギルは首を傾げる。この星には小学校高学年から委員会というものに所属して校内でそれぞれ割り振れられた活動を行うらしい。

風紀委員会となると、文字通り校内の風紀を取り締まると考えていいだろう。

 

「…いや、興味ないからいいです」

 

「あ…そう。分かったわ」

ギルはアッサリと突っぱねた。そのアッサリとした性格はやはり似ているのかと古手川は目を点にしながら驚いていた。

 

すると

 

「わぁっ!!!」

 

「ひぃぃ!?」

突然と草村から現れた落武者のコスプレをしたお化けに古手川は驚きギルに身を寄せるが、ギルは…

 

「…ん?」

首を傾げていた。元々デビルーク星はお化けの文化に疎い故にギルはお化けという物がどういう形なのか分からない為に驚くことが出来なかった。

 

「何で驚いてるんですか?ただの頭に矢が刺さってる人じゃないですか」

 

「それが怖いの!!」

そう言い古手川は自身よりも身長が低いギルの手にしがみつく。その際に古手川の高校生にしては大きすぎる胸がギルの腕に押し付けられた。大抵の男子はこれで鼻の下を伸ばすのだが、ギルは伸ばすどころか嫌な顔をする。

 

「マジでうるせぇな…この女。一旦黙らそうかな…」

 

「…え?」

 

「あ、すいません冗談です」

 

「ちょっと待って…お化けよりもっと怖いんですけど…」

ガタガタ震える古手川を連れながらギルは次々と先に進んだ。

 

その時だ。

 

___グォオオ!!

 

突然 草むらから熊の声が響き静寂な空間に響き渡った。

 

「きゃぁぁ!!!」

 

突然と響き渡った猛獣の声に古手川は悲鳴を上げながらその場に尻餅をつく。

一方でギルは音声からCDである事を見抜いている上にこの声に慣れているのか平然としていた。

 

「ただのCD音源ですよ。驚きすぎです」

 

「だ…だっていきなりこんな声なんか出されたら驚くでしょ!?」

 

「いや別に」

 

「なんで!?」

 

ギルは背伸びをすると、前に進むべく尻餅をついた古手川に手を差し出した。

 

「立てますか?」

 

「だ…大丈夫…1人で立てるから……て、あれ?」

 

差し出された手を掴まず自身で立ち上がろうとするが、あまりにも熊の声に驚きすぎたのか腰が引けしまっていた。

 

「こ…腰が…」

 

「はぁ…。しょうがない」

 

ギルはため息をつくと辺りの景色に目を向けて声を出す。

 

「すいませ〜ん。お化け役のスタッフ。腰抜けた奴が出たからゴールまでおぶってくれませんか〜」

 

「なんでここでお化け呼ぶの!?というかスタッフって言うのやめて!!雰囲気ぶち壊しだから!」

 

すると、草むらからジョジョ立ちのミイラ男が現れた。

 

「お呼びで?BOY&GIRL」

 

「お呼びじゃない!!!」

 

◇◇◇◇

 

「どうしよ…ずっとここにいるのも怖いし…」

 

そう言う古手川の目には少しばかりか涙が出ていた。古手川はこういうモノが苦手なようだ。それに対してギルは欠伸をし彼女の答えを待っていた。

 

すると

 

ドガァァァン!!!

 

 

「「!?」」

 

 

突然 後方から爆発音が響いた。その音に古手川はもちろん、ギルも驚いた。爆発と共に凄まじい風と共に爆風が迫ってくる。

 

「なに!?なに!?」

 

「知らん!取り敢えず急ぐぞ!!」

 

「ふぇ!?」

ギルは予想外の事態な為に素の口調に戻ると共に古手川の身体を肩に担ぎ走り出す。

 

 

ビュォオオオオ!!!

 

「ぎゃぁぁあ!!!速い速い!下ろして!!!」

 

「叫ぶな!舌噛むぞ!」

ギルの凄まじい速度によって担がれた古手川は涙を流しながら絶叫していた。

 

すると

 

「うぉおおお!!!!」

 

「あぁ!?リト!?」

走るギルの横を凄まじい速さで叫びながらリトが走り抜こうとしていた。その両手にはララと西蓮寺が繋がれていた。

 

「おいリト!あの爆発はなんだ!?」

 

「ララの機械が爆発しちまったんだよ!」

 

「はぁ!?またとんでもねぇガラクタ作りやがったなこのバカ姉貴が!」

 

「違うよ〜。春菜がリトを振り回したか__」

 

ララの言葉が最後まで出る前にリトが加速していき、前へと駆け抜けていった。

 

「ちゃんと捕まってろよ…!!」

 

「…!」

 

神社に続く階段が見えてくると、ギルは古手川に注意を促すと共に脚に力を入れ、一気に跳躍した。

 

「〜!!!」

長い階段が遠ざかっていくと共に共に身体が浮いていく感覚に古手川は目を回す。

 

そして

 

「よっと…」

 

一段も足階段を踏む事なく境内へと到達した。

 

 

「おめでと〜!!第二着目〜!!」

 

到着すると校長達の到着を祝う声が聞こえてくる。第一位はリト達のようだ。なんでも一位になったペアは恋人関係になれると言われているが、3人の場合はどうなるのだろうか…。

 

「さて、着きましたよ。あれ?」

 

ギルは担いでいた古手川に到達した事を伝える。

 

だが、

 

「こひゅ〜…」

 

あまりにもの奇想天外な出来事に古手川は頭の処理が追いつかず気絶していた。

 

 

 

 



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終わりました臨界学習。そして転校生

波乱の肝試しから一夜ともう1夜が明け、臨界学習は終わりを迎えた。その2日間はもう事故しかなく、まず2日目の海で遊んだ際にイルカが現れ女子の水着を次々と奪っていった。まぁそれは離れた陸地に打ち上げられた親イルカを助けて欲しいがための犯行であっただけであった。

 

それからは何も起きる事なく静かな夏休みを迎え、その夏休みも特にハプニングは起きる事なく平和に終えた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

夏休みが明けた彩南高校。衣替えにはまだ早いが、移行期間となっており、ブレザーを着用する者や、今も夏服を着込む生徒達の挨拶をする声が飛び交っていた。そんな中、その賑やかな校門の前に一人の男子が立っていた。

 

「ここか…ようやく会えるね…ララちゃん」

 

すると、その青年の前に一人の男子制服を着用した少女が通り掛かった。

 

「…む!?あれは!?やぁララちゃん!!久しぶりだねぇ!!」

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

「んん〜!!こうしてガッコに来るのも久しぶりだね〜!」

 

「まぁ夏休みも終わったからな」

二学期を迎え秋の季節となった。教室の隅で背伸びをしながらララのこぼした言葉にリトは欠伸をしながら答える。

 

そんな賑やかな雰囲気の中、ガラガラガラと教室のドアが開く音が聞こえてきた。

 

「よぅ」

 

「あ!ギル!」

 

今朝方は寝坊のために共に登校できなかったギルが到着した事でララは手をあげる。ララが声を上げるとともにリトもギルの姿を見るべくゆっくりと首を向けた。

 

「よぅギル。寝坊なんてめずら___」

 

振り向くとそこには陽気に手をあげるブレザーを着込んだギルの姿があった。

 

 

 

 

ボロボロの男子生徒を肩に担いで。

 

 

「ぇえええええええ!?誰それぇぇえええ!?」

 

「いや、なんか校門通ったらいきなり叫びながら抱き着こうとしてきたから取り敢えず正当防衛として腹に5発。顔面に10発ぐらい打ち込んでボコボコにした」

 

「明らかに正当じゃなくて過剰だろ!?うわぁ白目剥いてるし!」

 

「でもこの国には『やられたらやり返す。倍返しだ』っていう風習があるだろ?」

 

「それドラマな!?あと物理的じゃなく社会的にな!?しかも風習じゃねぇし明らかに物理的に倍返ししただろ!?」

 

「あれ?不味いのか?」

 

「不味いよ!!不味すぎるよ!!」

 

「じゃあ今のなしなし。テイク2いくぞ」

 

「おい待て待て待てぇ!!!」

それだけ言うとギルは肩に担いでいた男子生徒と共に一旦教室から出ていった。

 

 

テイク2

 

「んん〜!!こうしてガッコに来るのも久しぶりだね〜!」

 

「あれ!?しれっとララまでテイク2に入ってるし!?」

二学期を迎え再びブレザーを着用する季節となった。教室の隅で背伸びをしながらララのこぼした言葉にリトは欠伸をしながら答える。

 

「いや文章もなんでさっきと同じなの!?」

そんな賑やかな雰囲気の中、ガラガラガラと教室のドアが開く音が聞こえてきた。

 

「よぅ」

 

「あ!ギル!」

 

「いや無理があるだろ!?というかさっきの奴どうした!?」

 

「捨てて来た」

 

「うぉい!!」

◇◇◇◇◇

 

それからなんやかんやあり、HRとなった。ギルがボコボコにしたのは何と転校生であったらしい。

その転校生は目を覚ますと教室に入り、担任の骨皮先生の紹介のもと、名前を名乗った。

 

「レン・エルシ・ジュエリアです。よろしく」

 

「「「きゃぁぁぁぁぁあ!!」」」

その顔はギルによって所々が腫れていながらも女子に勝る程の美形で有り、服の襟元から見える肌やサラサラに流れるような髪に女子は魅了されてしまった。

 

「美形よ美形!」

 

「それもギル君と違ってスラッとした細身!!」

 

「おい今喋った女 出てこい」

 

自己紹介を終えた転校生レンはキャーキャーと騒ぎ出す中、ふとギルの隣に座るララへと目を向けた。

 

「やぁララちゃん。久しぶりだね」

 

「え?」

 

『『!?』』

そう言いながら歩いていくと何とララの手を両手で握った。当本人のララは首を傾げていたが、辺りの者は突然のその行動にざわめき始めていた。

 

 

「やはり人混みに紛れていても君の輝きは隠しきれない」

その言葉と共にレンは次々と美しき言葉で音色を奏でて行くかの様にララを形容し始めて行く。

 

「幼少の頃…王宮の庭で遊ぶ君の姿は本当に美しかった…。君の笑顔は僕の心を太陽の様に照らしていたのさ。そして今…成長した君はいっそう美しくなって眩いばかりの光を放っている…正に女神!」

 

胸に手を当てながら主張するその姿にララは相変わらず首を傾げているが、辺りの生徒達は更にざわめき出していた。

 

「なになに!?どういうこと!?」

 

「昔の男ってやつ!?」

 

そんな辺りの雰囲気に目を配る事なくレンはララへと目を向けると再びその手を握った。

 

「わざわざこんな辺境な星にまで出向いた甲斐があったよ!さぁララちゃん!久しぶりの再会を喜び合おう!」

 

 

「……だれ?」

 

『『『『え!?』』』』

 

幼馴染の再会と言う感動的な場面を打ち砕くかのように放たれたララの言葉に期待を抱いていた皆が一気に崩れた。

 

「はぁ…」

ララの忘れっぽさにギルは溜息をつくとララに耳打ちする。

 

「ララ。忘れたのか?あれだよ。お金出すから殴ってくれって土下座してきたあの…」

 

「それどこの変態!?どこのドM!?違うよ!これ見て!!」

 

そう言いレンは懐から一枚の写真を取り出す。そこには幼いララともう一人、ララと似た格好をした少年らしき人物が写っていた。

 

「「あ〜」」

 

その写真を見たララとギルは思い出した。

 

「泣き虫レンちゃんか〜!」

 

「何だお前か」

 

「ふふ…やっと思い出してくれたようだね…」

 

ようやく思い出してくれたのが嬉しいのか悔しいのか知らないがレンの目からは血の涙が出ていた。

 

「それよりも聞いたよ?なんでも薄汚い男に騙されているじゃないか…結城リトとか言う者に…そう!君だ!!」

 

そう言いレンは叫びながら何故か教壇に立っている骨皮に指を指す。

 

「へ?わし違うけど」

 

「あ、失敬…じゃあ君だ!!」

 

「えぇ!?」

今度はちゃんと当てられた様だ。指を指されたリトは困惑し始めてしまう。

 

「今すぐにとは言わない。これからの学校生活で僕が君より上だと言うことを証明してやろう…!!そしてハッキリとさせるよ。どちらが本当にララちゃんに相応しいからどうかをね!!」

 

そう言いレンは赤く揺らめく炎が宿った目を向けた。教室はざわつき始め、一人の女性を二人の男が奪い合うと言うドロドロとした雰囲気に女子達は興奮していた。

 

「それよりもおい。授業始まるだろ。さっさと席つけや美文調野郎」

 

「相変わらずギル君の口悪さは健在だな!?」

 

「君だぁ〜?」

 

「ふぎ!?」

ギルは立ち上がると素早い動きで自身よりも身長の高いレンの頭を片手で掴み持ち上げた。

 

「いつから君付けで呼べるぐらい偉くなったんだ?さん付けまたは師匠と呼べや。テメェの格闘術は誰が教えてやったと思ってんだぁ〜?あぁ?」

 

「いい痛いぃぃぃ!!!分かった!分かりましたから下ろして!頭が割れるぅぅぅ!!!」

 

それからようやく授業へと突入したのだった。

 

 



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大騒ぎ

それからというもの、レンはリトに自身の方が上であると証明するばかりに次々と突っかかっていた。

 

たとえば授業では…、

 

先生「では、この問題分かる人」

 

教師が黒板に記載した問題の答えについて尋ねると即座にレンは立ち上がり回答した。

 

「はい!結城くんより早く答えます!答えはX=√2+3です!!」

 

「違ぇよ。範囲も書けや。答えはX≦√2+3だ」

 

先生「せ…正解です…」

まぁ間違っていた為にギルに訂正されていたが。

 

体育の時間では…

 

「やったぁぁ!!!結城くんよりも100メートルを早く完走したぞ!!」

 

昼休みでは…

 

「ぐもも!!(どうだ!?君よりも食べるのも早いぞ!)」

 

マジでもう『ウザったい』と言われるくらいまで絡んでいた。

 

その様子を遠目から見ていたギルはそのレンに付き纏われるリトに同情してしまい、憐れみの視線を送った。

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「ふわぁ…リトの奴 今頃 ウンザリしてるだろうな〜…」

 

公衆便所へと向かうべく廊下に出たギルは屈伸しながら欠伸をする。レンの鬱陶しさなら一番よく知っているので、どうしても同情してしまうのだ。

 

その時だ。目の前の廊下をやや大柄な男子生徒数人が塞ぐ様にして座っていた。その気迫に辺りの生徒達はその通路を通らず、避ける様にして別の通路を通っていた。

 

見れば男子生徒は髪を金髪や茶髪に染め上げ、本来ならば学生ズボンに入れるはずのワイシャツを外に出している上に胸元を見せる様に曝け出していた。更に耳にはピアスを装着していた。

 

ギルが歩いているのは2年生の教室のある階だ。だが、同年代の者がタムロしているというのに、辺りの生徒達が注意をしないとならば、彼らは3年である可能性が高い。

 

だが、ギルにとってはそんなものはどうでも良い事だ。

 

「おい。通行人の邪魔だろ。どけ」

 

「あぁ?」

 

ギルがそう言うとその中の一人の大柄な男子生徒が首をこちらに向けてきた。その顔は正に悪人ヅラであり、髪もリーゼントに固めていた。

その男はギルを見ると眉間に皺を寄せる。

 

「何だよお前。何か文句でもあんのかぁ?」

 

「大有りだよデカブツ。サッサと退けっつってんだろぅが。それになんだ?その制服の着こなし…ダせぇな。カッコいいと思ってんのかよ?」

 

「あぁ!?」

 

ギルのその一言にその男子生徒だけでなく、その他数人の男子生徒も刺激された。

 

「舐めた口聞いてんじゃねぇぞゴラァ!!」

 

「こんのチビがぁ…!!俺らの怖さ思い知らせてやろうか!?あ"ぁ!?」

 

次々と図太い声で怒声を放ちながらギルへと迫っていく。その声に辺りから次々と生徒達が集まって来た。

ギャラリーがざわつき始める中、ギルは男子生徒の足元に目を向けた。

 

「…おい。お前の踏んづけてるやつ…食べ物じゃねぇのか?」

 

「あぁ?」

 

そう言われた金髪ロングヘアの男子生徒は脚元を見る。そこには食べていたポテトチップスらしき菓子が袋ごと踏み潰されており、中から溢れ出たポテトチップスがバラバラに割れて散らばっていた。

 

「んなもんまた買えばいいだけの話だろうがよぉ。んなことよりテメェ俺らに向かって『タメ口』とはいい度胸じゃねぇか」

 

「口の聞き方も教えなきゃならねぇな♪」

 

二人の男子生徒はそう言いながらポテトチップスの袋を更に踏み潰すと拳の骨を鳴らした。

 

だが、

 

その行いによって誰よりも食を愛するギルを刺激してしまった。

 

 

「…また買えばいい…だと?」

 

 

 

___その瞬間

 

 

 

ギルの脚が振り上げられると共に男子生徒の顔面を掴むようにして一瞬で床へと叩きつけた。

 

 

「がへぇ!?」

 

『『『!?』』』

 

地面へとその顔が叩きつけられた瞬間 皆は認識すると共に固まってしまう。

 

「“食い物を粗末にするな”母親から教えてもらっただろ?」

 

男子生徒の足元に散らばった菓子を見ながらギルはそう言い放った。すると、それによって、残りの男子生徒も刺激された。

 

「テメェェエエ!!!よくも俺のダチをぉおお!!!」

 

そう叫びながら男子生徒は拳を胸の前に構える様にして向かってきた。

 

「ほぅ?」

それを見たギルは男子生徒の足元にてポテトチップスを食べる際に使用していたと思わしき箸を拾う。

 

「ボクシング部 主将の力ァ!思い知らせてやらぁぁぁあ!!!!

 

向かってくる男子生徒の叫び声と共に右拳がマグナムの如き超速度で放たれた。

 

「はいキャッチ」

 

「…!?」

 

聞こえたその一言によって男子生徒は一瞬にして勢いを失った。

 

「う…腕が!?」

見れば突き出された拳がギルの掴んでいた箸によって挟まれ受け止められていたのだ。

 

「それと踏み込みと拳の突き出しが遅い」

 

その言葉とともにギルは放り投げる様にして掴んでいた箸から腕を離すとよろける男子生徒の懐に一瞬に入り込み、その鳩尾目掛けて箸を数回突き付けた。

 

 

その瞬間

 

「ゴフ…!?」

 

箸を突きつけられた男子生徒は白目を剥き、その場に倒れた。

 

「す…すげぇ…アイツ箸でキャプテンを気絶させたぞ…!?」

 

「しかもさっきの蹴り技…全然見えなかった…」

一瞬にして二人の大柄な男子生徒を地に伏せたギルに辺りからは驚きの声が上がっていた。

 

その一方でギルは残りの男子生徒へと目を向ける。

 

「さて、残るはテメェだ」

 

「…!!」

 

残された男子生徒は汗を流すと、すぐ横にある教室に入り込み、掃除用のロッカーの中から箒を取り出し、構えた。

 

「ほぅ?俗に言う“剣道”というやつか。なら、おい。俺にもよこせ」

 

「は…はい!」

ギルは近くの教室の窓から見ていた女子に指示を出すと、その女子生徒から同じく箒を受け取った。

 

「一瞬で終わらせてやる」

 

ギルは受け取った箒をまるでペンを回すかの様に器用に指だけで回転させると、その箒の棒部分を掴み、相手に向けた。

 

「ぐぅ…!!」

男子生徒はギルの器用な扱いを見て若干ながらも冷や汗を流す。だが、自身は元主将という肩書きを思い浮かべる事でその恐れを軽減させた。

 

「俺は元剣道部主将だ…!!舐めんじゃ__「遅い」 がべぇ!?」

 

何かをハタく音と共に喋り終える前に 男子生徒の頭にギルの箒が振り下ろされ、一瞬でその頭を床へと叩きつけた。

 

「闘う時に喋るなんざ“殺してください”って言ってるようなもんだぞ?」

 

「あ…ぁ…ぁ…」

 

そう言いながらギルは肩に箒をトントンと担ぎながら倒れる男子生徒に吐き捨てた。一方で、地面へと叩きつけられた男子生徒達は意識はあるものの、あまりにも奇想天外な出来事に現実を受け入れられず手脚をピクピクしていた。

 

「ったく。この学校は変な生き物ばっかだな。さてそろそろトイレに…

 

 

__ん?」

 

 

その時だった。背後から微かな殺気を感じ取り、ギルは手に持っていた箒を後ろに向けた。

 

 

その直後__

 

 

___カァァン…ッ!!!

 

 

木と木がぶつかり合う音が響き渡る。ギルはゆっくりと目を向けた。

 

そこには自身に向けて木刀を振り下ろす長身の女生徒の姿があった。

 

「なんだお前は?」

 

「…!!」

 

ギルが声を掛けると木刀を振り下ろしていた女生徒は即座に後退した。すると、先程の殺気がまるで嘘であるかのように消え、女子生徒はギルに向けて頭を下げた。

 

「すまない…。殺気に反応してしまって遂…」

 

「…いえ。お気になさらず」

頭を下げられたギルは首を振りながらも内心は驚いていた。この女子生徒は殺気に反応したと言っているが、ギルが殺気を放ったのは男子生徒を叩きつけた時というほんの一瞬だ。

即ち、この女子生徒は一瞬だけ漏れた殺気を感じ取ったと言う事になるのだろう。

 

「(なかなか骨のある奴もいるんだな)…まぁいい」

 

ギルはその女子生徒に少し興味を抱きながらも即座に箒を肩に掛け、後ろで倒れている男子生徒達に目を向けた。

 

「おい。床に散らばった駄菓子 片付けろ。今すぐ」

 

「「「え!?」」」

 

ギルの命令に倒れされた男子生徒達は驚くと共に身体を震わせながら尋ねた。

 

「あの…どうやって…」

 

「簡単だろ。_____“喰え”」

 

◇◇◇◇◇

 

それからその場にはとんでもない光景が広がっていた。

 

「おら、そこにも残ってるだろ。拾って喰え」

 

「はぃぃい!!」

 

ギルに倒された男子生徒達は床に散らばった駄菓子を涙を流しながら次々と拾い口の中に運んでいった。埃が混じっていようと関係ない。

そしてそれを見張るかのように3人の前でギルは仁王立ちをしていた。

 

「ほら、そこにまだ欠片残ってるだろ?」

 

「すぐ片付けます!!」

 

先程の威勢はどこえやら。もう完全にギルに下剋上されており、下の存在へと成り下がっていた。

廊下で次々と駄菓子を拾いながら食べているその光景に2年の教室や辺りにはギャラリーが集まっていた。

 

そんな時だ。

 

「道を開けてください!」

 

多くの生徒の中を次々と掻き分けながら風紀委員の腕章を付けた女子生徒が現れた。

 

それはなんと古手川であった。

 

「すいません…通してくださ___ええええ!?ギルさん!?」

 

「ん?」

 

自身を呼ぶ声が耳に入るとギルは反応し、振り向いた。

 

「貴方ですか」

 

「な…何をやってるの!?」

 

「いや、なんか廊下でお菓子 散らかしてた上に突っかかってきたのでシバきついでに掃除を」

 

「掃除…」

古手川は床に手をつきながら次々とお菓子を口に運んでいる男子生徒達を見る。この男子生徒達は前々から何通も苦情が寄せられている対象であり、自身も何度か注意をしたがまったく相手にされなかったのだ。

3年であるが故にあまり強くも言えなかった為にずっと気にしていたものの、それが今では床に手をつき泣きながらお菓子の処理をしていた。

 

その様子を見た古手川は何がなんだか分からなくなってきた。

 

すると、辺りの生徒たちがざわめき始めた。

 

「お…おい…あの子…風紀委員と親しげに喋ってるぞ…!?」

「てことはあの子も風紀委員ってことか!?」

「まじかよ!?」

 

「え!?」

次々と上がる声に古手川は驚き、即座に訂正しようとするも、すでに手遅れであった。

 

「ひぃぃい!?コイツ風紀委員だったのかよ!?」

 

「嘘だろ!?こんな奴が委員にいたのかよ!」

 

床を掃除していた男子生徒達は次々と恐れる声をあげていき、それが古手川の訂正する声を打ち消して行った。

 

そんな中 驚く男子生徒達を恐れさせるかのようにギルは脚を一歩 踏み締めた。

 

「おい。まだ残ってるだろ?全部 処理しろ」

 

「「「はぃぃぃぃ!!!!」」」

それから男子生徒達は数分掛けて床に落ちた菓子を全て処理すると、全速力で逃げて行った。

 

 

「やっと綺麗になった。さて、ようやくトイレに…ん?」

 

本来の目的である手洗い場に行くべくギルは辺りに視線を向けた。見るとそこには自身を見つめる多くの生徒達がおり、全員 氷のように固まっていた。

 

「なんだよ?」

 

『…!!』

 

ギルに目を合わせてしまった生徒達は一瞬 身体を震わせるとそそくさと逃げるようにして退散していった。

 

「おいおい…嘘だろ?もう風紀委員に逆らえねぇじゃねぇか!?」

「バカ!声がデケェよ!殺されるぞ!?」

 

「俺が風紀委員?」

次々と聞こえてくる小さな陰口にギルは首を傾げると、事情を聞くべく、その声の主である二人の男子生徒に声を掛けた。

 

「お〜い。そこの二人。今のってどういう__「すいませんでしたぁぁあ!!!」

 

ギルが声を掛けた瞬間 その生徒達は身体を更に震わせると走り出して逃げていった。

それに釣られるかのように辺りの生徒達も早歩きで次々と教室へと戻って行った。

 

 

やがて足音が少なくなった中、残ったのはギルと古手川だけである。ギルは残った古手川に自身がいま、皆からどういう風に見られているのか、ゆっくりと尋ねた。

 

「えぇと…俺が風紀委員…という風に見られていたって事ですか?」

 

それに対して古手川は苦い表情を浮かべながらもゆっくりと頷いた。

 

「そのようね…」

 

 

 



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学園祭の準備

あれからギルは目的であるトイレにいき、お手洗いを済ませるが、先程の事が既に学校中に知れ渡っており、

 

『風紀委員の最高戦力』という異名をつけられてしまった。

 

「ッ…変なあだ名付けやがって…」

 

辺りから向けられる視線に舌打ちをしていると、ララも話を聞いていたらしく能天気に尋ねてきた。

 

「ねぇギル!風紀委員会っていうのに入ったって本当!?」

 

「入ってねぇよ。なんで俺がンなもんに…」

 

舌打ちをしながら答えていると、向こう側ではレンがまたもやリトに突っかかっていた。

 

「向こうもめんどくせぇ状況だな。とっとと帰るぞ」

 

「え?この後 春菜達と『からおけ』って所にいくんだけど?」

 

「から…おけ?あっそ。どうぞご勝手に」

 

ギルは欠伸をすると、先に帰るとだけ言い残し学校を後にする。今日だけは護衛の任務をサボる様だ。

 

「はぁ…地球の学校ってのは面倒なところだなぁ…」

 

ギルは次々と迫り来る未経験の体験に頭を悩ませるのだった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

それから時が過ぎ、学園祭の期日が迫ってきた。

 

「学園祭?」

 

「あれ、ギルルン知らないの?私達が出し物とかして校外から色んな人達を招いて開催するイベントだよ?」

 

「イベント…ですか…」

籾岡から教えられるもギルは首を傾げた。

 

「(ララやナナ達の生誕祭みたいなもんなのか…?)」

 

自身が星にいた頃にララや妹の誕生日と記して祭典を開いた事を思い出しながらも、目の前の黒板を見る。そこにはいくつもの案が書き出されていたのだ。

 

「出し物ねぇ…」

 

 

 

それから授業を終えると、学園祭の出し物を決める時間帯となった。黒板の前では猿山が立ちながら机をバンバンと叩いていた。

 

「諸君!学園祭の出し物が決まった!!ウチのクラスがやるのは……喫茶店だ!!」

 

 

「「「「喫茶店?」」」」

 

猿山の叫びに女子等は首を傾げる。

 

「えっと…ただ食べ物を出すだけなら屋台とか…」

 

「チッチッチ。違うんだよ西蓮寺」

 

西蓮寺に対して人差し指を向けると猿山は更に黒板に書き加えた。

 

 

「ただやるだけじゃ面白くない…。動物をテーマにした…『アニマル喫茶』だぁ!」

 

 

「「「「アニマル喫茶…!?」」」」

 

猿山の叫びにクラス一同は更に首を傾げる。それと共に辺りからは不満の声が上がり始めた。

 

「え〜?なにそれ〜!」

 

「はやんないよそんなの〜」

 

籾岡と沢田の声や辺りの皆から出る不満の声が飛び交い始める。だが、猿山はそれを否定した。

 

「い〜や!絶対流行る!今は弱肉強食の時代だぁ!!!」

 

そう言い猿山は教室の扉を開けると多くの服が掛けられた台車を持ってくる。

 

「取り敢えず女子達は俺が用意した服に着替えてくれ!」

 

それから女子達は不満の声をあげながらも更衣室に向かい猿山の用意した服を着用した。

 

 

「アニマル喫茶ってなんだ?猛獣を放し飼いにして、来た客を食わせる祭りの事か?」

 

「違うから!何そのカイ○みたいなの!?喫茶もクソもねぇじゃねぇか!」

 

 

 

それから数分後。猿山の用意した服を着用した女子達が戻ると黒板の前に並んだ。

 

 

「「「「おおおおおお!!!」」」」

 

その服装を見たクラスの男子達は顔を赤く鼻の下を伸ばしながら歓声をあげる。

 

女子達が着用したのはなんと……所々に動物の特徴が出されながらも脚や腹部を露出した奇抜な服だったのだ。 

 

 

「リト〜!ギル〜!どうかな!」

 

「お…おぅ…」

 

「何か寒そうだな」 

 

ララはリトに向けてピースしながらポーズを決める。その姿にリトは頬を染め見惚れるが、ギルは相変わらずであった。

 

「ゆ…結城くん…どう…?」

 

「〜!!!」

 

そして西蓮寺の黒猫を模した姿に関してはリトは鼻血を流していた。

 

 

そんな中、ギルは未だに喫茶店というものが理解できていなかった。

 

「結局…喫茶店というのはなんなんだ…?」

 

すると、それについて近くにいた西蓮寺が答えた。

 

「ザックリ言うと…ご飯やお茶をするところ…かな?」

 

「成る程。つまり女子を餌にして鼻の下を伸ばしながら寄ってきた連中から金を巻き上げるって事ですか」

 

「言い方!?」

 

西蓮寺の説明にギルは納得すると猿山に目を向けた。

 

「そうなると食い物も必要なんじゃないか?」

 

「…!」

 

ギルの言葉に猿山は頷くように指を指す。

 

「そこよ!場は揃えたとしても食べ物を出さなければ意味がない!だが、この服で予算も幾分か減ってしまった。ギルくん低予算で何か良いアイデアはないかね!?」

 

猿山から尋ねられたギルは顎に手を当てると考え、答えを浮かび上がらせた。

 

「…カツ丼」

 

「いや、カツを作るほどの予算がな…」

 

「ピザ」

 

「ソイツも予算が……」

 

「チャーシュー麺特盛」

 

「だから…」

 

「ちゃんこ鍋」

 

「違う…」

 

「満漢全席」

 

「低予算だって言ってんだろ!値段比例してどんどん上がってきてんだよぉ!しかも何で全部ガッツリ系!?喫茶店もクソもねぇ上にちゃんこ鍋は力士が食うやつだし!ていうか終いには喫茶店どころか大宴会になってるし!」

 

「何を言ってるんだ?肉ならそこらにいる蛇やカエルにイノシシでカバーができるだろ。そして野菜はツクシ、虫はタランチュラの腹。そして川魚」

 

「客に何食わせるつもりなんだよ!?喫茶店だって言ってんだろ!?アマゾンじゃねぇんだよ!」

 

それから話がまとまり、出し物は軽い手作りのケーキやムース、そして食べ物はオムライスやカレーとなったようだ。

 

 

そんな時だった。

 

「ん?」

 

ギルは窓の外から気配を感じ、目を向ける。見れば中庭の木の上から双眼鏡で此方を覗いている女性の姿があった。

 

それは数日前に自分に向けて木刀を振り下ろしてきた女子生徒であった。

 

「(何やってんだ…?)」

 

此方をずっと見つめているその不可解な行動に不思議に思いながらもギルは準備に取り掛かった。

 

 

 

 



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もてあそばれクイーン

様々な組が出し物を決めている中、ギル達のいる教室から下の階にあるとある教室にて。

 

3人の女生徒が窓際に集まっていた。

 

「調査によりますと、1年組でのアニマル喫茶が話題となっており、今年の文化祭の注目の的になるかと」

 

「ありがとう凛。それにしても、やはり人気はララという小娘なの?まったく…美しいものは私だけでいいのに…」

 

脚を組み優雅に座りながら報告を受ける少女の名は『天条院 沙姫』天条院財閥の娘すなわちお嬢様である。

 

そして目の前に立つ二人の少女。一人は一般の男子よりも背が高く清楚な髪をポニーテールにしていた。名は『九条 凛』天条院家にて代々使える従者の娘である。

 

もう一人は特にこれといった特徴のない文学少女の様な印象を受ける眼鏡をかけた生徒『藤崎 綾』

彼女達は天条院指示でララ達のクラスを偵察していたのだ。

 

 

「沙姫さま。それについて一つ面白い情報を入手しました」

綾という少女は懐から一枚の写真を取り出し天条院に向けて差し出した。

 

 

「これは…?」

 

「一年A組に所属している結城リトといい、どうやらララの婚約者らしいです」

 

「ここ…婚約者!?この美しい私を差し置いて…!?」

渡された写真に写っていたのは、何と机で頬杖をつくリトであった。その写真を見た天条院は意味不明の驚きの声を上げた。

 

だが、それと同時にある考えが彼女の頭をよぎった。

 

「は…!でも考え直すと…この男を私の美貌で虜にしてしまえば…あの娘が慌てふためく筈…!!これよ!これだわ!」

 

オ〜ホッホッホッ!!!

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

「ん?」

 

「どうしたギル?」

 

「いや、何か下の階から声が聞こえて、うるさいからペットボトル投げつけようかなって」

 

「やめろ!」

 

昼休みが終わり、午後の授業がない特別日課となった事でギル達1年A組は早速文化祭の準備に取り掛かる事となった。

 

「さて、それじゃ準備するか」

 

ギルは髪を結びブレザーを脱ぎ捨て袖を二の腕まで捲り上げると皆と同じように準備に取り掛かる。

 

「ギルル〜ン!こっちにそれ持ってきて〜!」

 

「分かりました」

 

ギルは男で力も人一倍ある為に他の男子達と共にイスのセッティングを行なっていた。

 

「ギルルンは本当に力持ちだね〜♪」

 

「頼りになるわ〜♪」

 

「は…はぁ…」

リサミオコンビはそう言いながら机を持ち上げて運ぶギルの頭を撫でる。それに対してギルは不満な表情を浮かべていた。

 

そんな時だった。喫茶店の内装を準備していた1人の女子が声を上げた。

 

「あ、ギル君!ガムテープが切れちゃったから買ってきてくれない!?」

 

「分かりました」

 

「あ!私もいく〜!」

 

「姉貴はここにいろ。まだ作業の途中だろ」

 

「えぇ〜」

 

女子からの頼みにギルは頷くと作業を中断して学校から近くにあるコンビニへと向かう。因みに、リトも同じタイミングで機材を買いに行く模様で、同行する事となった。

 

 

そんな時だった。 廊下で蠢く影が…

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

ギル達が所属する1年A組の前では3人の女生徒が立っていた。

 

「うふふ。どうやらここのようね」

 

「はい。見る限り今まさに準備に取り掛かっている様ですね」

 

「丁度いいわ。ここで彼を私の虜にしてしまいララに大恥を掻かせると共に思い知らせてあげるわ。この学校の【女王】が誰なのかを…!」

 

すると 教室のドアが開き、リトともう1人のピンク色の髪の毛を縛った生徒が出てきた。その姿を見た九条が天条院に耳打ちする。

 

「きました!…丁度 彼女も一緒です…あれ…でも何で男子の制服を…」

 

「何はともあれ好都合ですことよ…!」

 

天条院は咄嗟に前に立ち塞がった。

 

「一年A組の結城リト!2年B組の天井院 沙姫があなたとお付き合いしてあげてもよろしくってよ!」

 

仁王立ちをしながら胸に手を当て、廊下に響きながらも凛とした声で言い放つ。

 

「………あら?」

 

 

いつまで経っても返事がこない。もしや、突然の告白に現実を受け入れられていないのだろうか…?そう思った天条院は心の中で高笑いすると、その表情を拝むべく目を向けた。

 

 

「……あれ?」

 

 

そこにはもう誰もいなかった。見れば仲良く並びながら校舎外へと歩いていく姿が…。

 

「む…無視…!?」

 

だが、彼女は諦めなかった。まるでやり遂げるまでやめないかの様に瞳には燃え盛る炎が写っていたのだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

「しっかし、お前ってララと違って適応が早いな」

 

「そうか?」

 

コンビニにて頼まれた品を購入したリトは隣で袋からココアを取り出すギルに向けて言う。それに対してギルは首を傾げた。

 

「だってララの様にデビルーク星の服は着ないし尻尾は隠してるし言葉使いも丁寧だし」

 

ウィィン…

 

「強盗だ!動くな__ぐぼぇ…!?」

 

「まぁ、郷に入れば郷に従えって教えられたからな。アイツはハッチャケすぎなんだよ」

 

銃を構えた男の顔を蹴り飛ばしながらギルは答えるとココアを口にする。

 

「思ったんだけどよ。何でお前は王族を継がないんだ?」

 

「ん?」

 

「あ〜ん!突然の風が!見えてはいけないものが見えてしまっ__きやぁあ!?」

リトの質問に対してギルはココアの蓋を閉めると前から突然現れたクルクル髪の女子生徒を横に投げ捨てながら答えた。

 

「継がないというより、継げないんだよ。嫁がいないからな。ウチは確か夫婦揃って継いで外交とか統治をしなきゃいけねぇ。俺だってララの様に何度も見合いをした。けど、どいつもコイツも権力や金目的でつまらない奴ばっかだったから全部断ってるんだ」

 

「へぇ…大変なんだな」

 

「あぁ。そんで断られたって理由だけで攻めてくるめんどくさい奴もいてな。まぁ星ごと滅ぼして高値で異星人に売り飛ばしてやったけどな」

 

「…は!?」

 

そんな話をしながら2人は学校に到着すると作業の続きに取り掛かった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

それからギルは作業に戻ると指示を受けながら次々と飾りを作っていった。一方でリトは猿山の粋な計らいにより、西蓮寺と共に楽しく作業を進めている様だ。

 

「よし…!できた!」

 

「ありがとう!」

 

西蓮寺へ手を貸し器用な作業を終えたリトは額に浮かんだ汗を腕で拭き取った。

 

 

 

 

すると

 

バン!

 

教室のドアが勢いよく開かれると共に胸を押さえた女子生徒が入ってきた。

 

「誰か…誰か助けて…!」

 

「「!?」」

 

突然と胸を押さえながら入ってきた女生徒にリトと西蓮寺は作業を中断すると駆け寄った。

 

「あれって2年の天条院先輩…!」

 

「えぇ!?ちょ…大丈夫ですか!?」

 

西蓮寺と共にリトが駆け寄り手を伸ばすと天条院は頬を赤らめ震える瞳を向けながらその手を掴んだ。

 

そしてその手を自身の胸へと無理やり押し付ける。

 

「助けて…胸が…胸が苦しいの…!」

 

「うぇ!?ちょ…むね!?」

 

手に感じる柔らかな感触と向けられる瞳にリトは仰天すると共に顔を真っ赤に染め上げた。

 

そしてそれは後ろから見守っていた西蓮寺も同じである。

 

 

その時だった。

 

「おい。んな茶番やってないで早く作業進めるぞ」

 

背後から工具を肩に掛けながらギルがやってきた。すぐ隣に立っていた西蓮寺は顔を赤く染めながらも現状を話した。

 

「いや…何か胸が苦しいって…」

 

「じゃあ縛り上げて保健室に投げ込むまでです。一々、構ってたんじゃ病状が悪化するだけでしょう」

 

「そうだけど………え!?し…縛り上げる…!?」

 

西蓮寺がギルの言葉に顔を青くさせながら驚く中、ギルは教室から縄を持ってくる。

 

「取り敢えず暴れない様に全身が青くなるまで縛りあげましょうか」

 

「それ縛り上げるどころか締め上げてるから!保健室に向かう前に天国に向かっちゃうから!」

 

「うぇぇ!?ちょ…ちょっとぉ!?何をする気ですの!?」

 

今にも縄を掛けようとするギルを西蓮寺が止める中、その様子を見てようやく正気を取り戻した天条院は全身を震え上がらせると、蜘蛛のようにリトから離れ、ギルを指さした。

 

「あ…あなた!いくら何でも病人を縛り上げるなんて非常識にも程がありましてよ!?」

 

「人様の前で男に胸掴ませてるテメェに言われたくねぇんだよ。公然猥褻罪でしょっ引かれてぇのか」

 

「きぃぃぃ!!!その乱暴な言葉遣いをした事を後悔させてあげますわ!覚えてなさいララ・サタリン・デビルーク!」

 

「なんだ元気じゃん」

 

「「沙姫さま!?」」

立ち上がった天条院はそのまま捨て台詞を吐きながら走り去っていき、その後ろから追いかける様に2人の女性も続いていった。

 

その際にギルは背の高いポニーテールの女生徒と目が合うものの、あまり気には留めなかった。

 

「というか、俺ララじゃねぇんだけど。…そんなに似てますか?」

 

西蓮寺・リト「「う…うん…凄く似てる…」」

 

 

それから作業は進み、準備が整い始めていったのであった。

 




因みに天条院お嬢様をヒロインにする気はないです。


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彩南祭が始まった。

いろんな事がありながらも準備が完了。遂に彩南祭の日がやってきた。

 

 

「「「アニマル喫茶へようこそ〜!!」」」」

 

「「「うぉおお!!!」」」

ララ達の露出の多いコスプレのお出迎えに来客の男子達は歓声をあげる。ちなみに男子だけでなく、その斬新ぶりから女子からも評判が良く、テーブルには女子の姿もあった。

 

 

「ご注文は〜?」

 

「ふっ…君を注文する」

「「「うぉお!!さすが先輩!停学かつスキンヘッドになりながらも猛アタックだぁ!!」」」

 

「え?お断り」

「がぁぁ…!?」

 

停学が明け、頭にニット帽を被った弄光の注文をララはアッサリと断る。

 

 

その一方で

 

 

「……なぜ俺が店番を?」

 

ギルはリトと共に客引きの仕事をしていた。自身の役職に対して少し不思議に思っているのか、偶然、店から出てきた籾岡へと尋ねる。

 

「ギルルンは腕が立つからね〜。何か問題が起きた時に対処する用心棒だよ♪」

 

「問題?起こるものなのですか?」

 

「そりゃ勿論。こんな肌だしてたらセクハラされちゃう可能性【大】だからね。まぁ…アンタにならいいけど♪」

 

「黙れアバズレ」

 

「ひど!?」

 

 

 

 

 

 

それからギルは自身の役職に納得すると接客を続けた。前の3年生との一件から多少は認識されていたのか、問題行動を起こす者は一人もおらず喫茶も順調に繁盛していった。

客足は減る事を知らず、教室からは賑わう声が絶えなかった。

 

「ふわぁ…暇だなぁ…」

 

そんな役職を続ける事、約2時間。お昼時へと差し掛かろうとした時だった。同じく立っていたリトが声をかけて来た。

 

「ギル。そろそろ休んだらどうだ?ずっと立ってちゃ疲れるだろ?」

 

「いや、別に慣れっこだ。それに用心棒だから休む訳にはいかん」

 

「そうか?なら、何か飲み物とってくるよ」

 

そう言いリトは気を利かせてくれるのか飲み物を取りに教室に入っていった。

 

 

すると

 

 

「ちょっとあなた!」

 

「ん?」

 

突然と自身を呼ぶ声が聞こえた。その声に反応したギルは聞こえてきた方向へと目を向ける。

 

そこには妙な服装をした3人の女生徒が立っており、一人は準備期間の際にリトに胸を掴ませていたクルクル髪の生徒【天条院 沙姫】であった。

 

 

「前はよくもやってくれましたわね!今日こそ誰がこの学園の女王なのかハッキリさせてあげましてよ!ララ・サタリン・デビルーク!」

 

「は?」

 

その天条院の発言にギルは首を傾げる。

 

「何を言っているのかさっぱりですが、俺はララではなく双子の弟のギルですよ」

 

「え…」

 

ギルがそう言うと先程までの空気が一瞬にして冷めた。ギルから勘違いを指摘された天条院は先程までの勢いが顔から消え失せて唖然としてしまう。

 

「ち…違いますの…?」

 

「違います」

 

ララに用があると察したギルは教室の入り口を指さした。

 

「姉に会いたいのでしたら中にいますのでどうぞご自由に」

 

「あ……え…あ、どうも…」

 

ギルから丁重に中にいる事を教えられた天条院は完全に調子を崩し、頭を下げながら中へと入っていった。

 

そんな中、ギルはポニーテールの生徒【九条 凛】に目を向ける。

 

「それと、隠密行動するならちゃんと気配を消さないと意味がないですよ」

 

「な…よ…余計なお世話だ…」

 

ギルの指摘を受けた九条は一瞬、驚くかのように目を開くと、すぐさま目を鋭くさせ、視線を逸らしながら天条院と共に中へと突っ込んでいった。

 

「ふわぁ…。何しにきたんだあの3人…」

 

それからギルは自分の仕事を続けた。

 

すると

 

「あ…あの…こんにちは」

 

「ん?どうも」

 

階段へと続く方向から肝試しの際にペアとなった古手川 唯が歩いて来た。恐らく彼女達は委員会らしく不審者やトラブルがないか見回っていたのだろう。

 

「えっと…貴方のクラスは何をやってるの…?」

 

「あにまる喫茶です」

 

「あにまる喫茶……!?」

 

ギルが答えると古手川は理解ができないのか、思わず復唱してしまう。それに対してギルは欠伸をしながら入り口に親指を向ける。

 

「まぁ入ってみれば分かります。利用しないのでしたら前の入り口から覗いてもらっても構いません」

 

「わ…分かったわ」

 

 

 

すると

 

 

 

 

「「「「「「「うぉおおおおおお!!!!!」」」」」」」

 

教室の中から大歓声が聞こえて来た。

 

「ん?何が起こったんだ?」

 

その歓声を聞いたギルは不審に思い古手川と共に扉を開けた。

 

バン!

 

「おい!何があっ………た…」

 

「あ…ああ//////」

その光景を見たギルは絶句。古手川は顔面を赤く染め上げていった。

 

「あ!ギル〜!それに…あれ?お隣さん誰?」

 

そこには全身の隠すべき箇所をクリームのような衣装で覆ったララが立っていた。そして辺りにはその身体を見て興奮しながら群がる男子達が。もう喫茶を運営する所ではなかった。

 

「は…ハレンチ…な!」

 

「テメェら……」

 

その瞬間 ギルの額と腕から筋が沸き立ち、掴んでいたドアが金属製にも関わらず歪み始める。

 

 

「肉片にされる覚悟はできてんだろぉなぁ…ッ!!!」

 

 

「「「「「うわぁぁ!!!ごめんなさぁぁぁい!!!」」」」」

 

 

それから騒ぎはギルによって収束し、再び元の繁盛していた雰囲気へと戻り、一般公開の終了時刻まで順調に続いたという。

 

「ねぇギル!ギルも着てみてよ!私が着てたのだけど!」

 

「ぶち殺されてぇのかバカ姉貴」

 

 

 



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委員会への所属

彩南祭が過ぎて秋まっさかりの時期。辺りの木々は紅葉や銀杏が美しく輝き、雨を降らせていた。

 

そんな秋のある日の放課後であった。

 

「…何の用ですか?いきなり呼び出して」

 

「……」

 

ギルはとある教室にあるソファーに座っていた。目の前には同じく座る古手川と辺りには委員らしき男女がいた。

 

なぜ、ギルがここにいるのか。それはただ単に彼女に呼ばれたからである。いつもの彼ならば無視して帰るところだが、リトが追試で残り、それをララも待っている状況で暇な故に来たのである。

 

「単刀直入に言わせてもらうと…風紀委員に入って欲しいの」

 

「……」

 

それに対してギルは首を傾げる。彼にとっては凄く複雑な事なのだ。以前の3年とのもみ合いの件から、自身は完全に風紀委員の一員と思われており、『風紀委員の最終兵器』という異名までつけられているのだ。

もうここまで来れば入っていてもいなくても同じであろう。それに、委員に所属しておけば更に溶け込めると考えられる。

故にギルは了承した。

 

「まぁ…ここまでくるともう入って置いた方がいいかもしれませんね…。ただし、こちらの条件を呑んでいただきます」

 

「……えぇ。此方が応えられる範疇なら大丈夫よ」

 

「では、昼休み以外は参加しません。ただし昼休みは委員として活動し騒ぎを起こさせない事を約束しましょう」

 

それに対して古手川は頷いた。

 

「分かったわ。なら昼休みの活動をお願いするわね」

 

それからギルは風紀委員へと所属する事となったのだ。

 

ーーーーーーー

 

本格的に風紀委員へと所属したギルは活動を始める。

 

「そこに溜まらないでください。邪魔です」

 

「香水の臭いがキツすぎます。換気してください」

 

「校長。自重しないと逆さ吊りにして頭に血、登らせますよ」

 

風紀委員と書かれた腕章を付け、地球に着いた際に御門から教えてもらった『常識』と『校則』を思い出しながら次々と常識に反する生徒達を注意していった。

特に昼休みはご飯の後に加えて午後への架け橋となるので気が緩みやすく、多くの生徒が校則違反を起こし始める。

 

廊下でタムロしている生徒達を退かせたり、周りに配慮したり、奇行に走る校長をボコボコにしたりと。

 

ありとあらゆる風紀を乱す者を注意していった。

 

時には暴力にモノを言わせる問題児が出て来るも、ギルはアッサリと返り討ちにしていった。

 

ギルが活動するのは昼休みだけであるにも関わらず、それによって注意を受けた生徒達も再犯する事がなくなり風紀も前より改善されていった。

更にギルは校則や風景を見る中で注意する必要性のない点を見つけると合理的な理由を付けながら古手川へ報告していた。厳格な性格である古手川もギルの話す理由に納得し、以前よりも事細かい点にはしつこく注意をする事がなくなった。それにより彼女に対して今まで不仲であったクラスメイトからの好感度も上がっていった。

 

 

だが、中には風紀委員に対して不満を持つ生徒がいた。

 

◇◇◇◇◇◇

 

ギルが委員となって数日。いつもより厳格な古手川の表情はいつもより柔らかくなっていた。

 

「(ギル君のお陰で風紀も良くなってきている。今度お礼しないと…)」

 

そう心の中でギルのことを思い浮かべながら今日の委員会の書類をまとめると、席を立つ。

 

「あ!古手川さん!手伝おうか!?」

 

「大丈夫よ。これくらい」

 

親しくなってきたクラスメイトからの気遣いに古手川は笑みを浮かべながら返すと廊下へと向かった。

 

 

 

その時だった。

 

 

「…!?」

 

偶然、数人の生徒とすれ違った際に何かに脚を引っ掛けてしまい、その場に転倒してしまう。それによって手に持っていた書類は辺りへと散らばってしまった。

 

「いつつ…(なによ今の…こんなところに段差なんて…)」

 

ゆっくりと立ち上がりながら、古手川は転んだ箇所へと目を向けた。

 

そこには此方を見下ろしながらニヤニヤと笑みを浮かべる数人の茶髪で腰に制服を巻いた女生徒と胸元を開けながら腰までズボンを下げている男子生徒が立っていた。

 

「あ〜あ。大丈夫〜?」

 

「気をつけないとダメだよ♪」

 

「…」

 

その一言で確信する。自分を転ばせたのはこの2人だ。この2人の女子生徒に加えてもう2人の男子生徒は見覚えがある。それは数日前に隠れて校舎裏でタバコを吸っており注意した生徒だ。

 

注意したにも関わらず未だにタバコの臭いが微かに感じられた。恐らく注意を受けてもなお止めなかったのだろう。

 

故に古手川は立ち上がると注意した。

 

「貴方達…またタバコの臭いがするわよ。何故やめなかったの…?今すぐにやめなさい」

 

「はぁ?」

その注意を掛けた瞬間 女子生徒の脚が腹に食い込み古手川の身体を壁に叩きつけた。

 

「ぐ!?」

 

「いい子ぶってんじゃないわよ。なに?何か文句でもあんの?所詮アンタらなんてあの“ピンク色の気持ち悪い長髪男”がいなきゃ何もできないんでしょ?」

 

そう言い女子生徒の手が伸びると古手川の長い髪の毛を掴んだ。

 

「ぐぅ…!ぼ…暴力はやめなさい…!暴行罪に…なるわよ…!!」

 

「暴行罪になるわよ〜だってさ〜!」

 

「いい子ぶるだけじゃなく頭いいですよアピール?いや〜風紀委員長はご優秀なことで!」

 

___バンッ

 

女子生徒は更に髪を引っ張ると壁に叩きつけた。髪を引っ張られる痛みと叩きつけられた際の衝撃の痛みが古手川を襲う。

 

「悔しかったら反撃してみろよ。お〜い!」

 

「…!!」

 

再び髪を引っ張られ、挑発を受けるも古手川はただ、睨むだけで何もしようとはしなかった。

 

「(だめ…手を出したらダメ!手を出したらダメ!)」

 

古手川は必死に自身に言い聞かせた。何度も何度も。弁護士である父親から何度も言い聞かされた事を心の中で唱え続けた。

 

『殴ったら負けだ』

 

『絶対に手を出すな』

 

そして今まで自身に対して冷たい表情を向けながらも最近は親しくしてくれ始めたクラスメイト達の顔も思い浮かべる。

 

____彼らを注意した事は間違ってない!殴られたとしても絶対に殴り返すな…!!!

 

 

 

その時だった。

 

 

「誰が気持ち悪い長髪男だって?」

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

突如として後ろから声が聞こえた。古手川がゆっくりと目を向けるとそこには季節外れの夏服を着用しながら此方を見つめるギルの姿があった。

 

「ギル…くん…」

 

「登校してる途中に何故か“ピンク色の気持ち悪い長髪男”って聞こえたんで来てみれば、貴方方は喫煙で注意された生徒ではありませんか」

 

そう言いギルはB組の教室に入ると古手川に手を貸しゆっくりと立ち上がらせた。

 

「あと先程の会話は全てお聞きしましたよ。どうやら注意を受けた事に不満がある様ですね」

 

「……」

古手川を立ち上がらせたギルは古手川に絡んでいた女子生徒と男子生徒へと鋭い目を向けながら尋ねる。それに対して古手川に絡んでいた女子生徒は黙り込み、勢いを失いながら一歩後ずさった。

 

「何が不満なんですか?この国では20歳までは喫煙してはいけないという様な決まりがあった気がしますが、それを指摘しただけで何故そんな事を言われなければならないのですか?」

 

「う…うるせぇんだよ!俺らがタバコ吸おうがどうでもいいじゃねぇかよ!何で赤の他人に言われなきゃいけねぇんだよ!」

 

ギルのネチネチとした尋ね方に男子生徒は頭にきたのか、叫びながら言い返した。

だが、その図太い声に対してギルは怯む事なく、冷静なまま、顎に手を当てた。

 

「そもそも何故タバコなんかを?調べたところタバコは多大なるストレスを緩和する為のモノ。学生は運動などできる時間が多くあるので普通は吸う必要はないでしょう。それに身体の機能も大人になりかけている途中。何故そこまでして吸うのですか?」

 

「そ…それは…」

 

更にギルは男子高校生の腰パンへと目を向けた。

 

「あの時はタバコだけを注意しましたが、服装も不思議に思いました。何故、その様に腰まで下ろしてるんですか?そこまで下ろしたら、もしもの時走り辛いじゃないですか。ウッカリ脱げてしまう時もありますし。何でそんな格好するんですか?」

 

 

「「「………」」」

 

先に言っておくが、ギルには全く悪意はない(嘘)。彼はこの星に来て間もない為にこの様なファッション(笑)の事を全く知らないのだ(嘘)。

 

更にギルの質問を聞いて黙り出した生徒達を見た途端に辺りの生徒達は次々と笑いを堪え始めていった。

 

すると

 

「うるせぇ!」

 

男子高校生の1人が叫びながらギルの腰から後ろのポケットに伸びるチェーンへと目を向け指を刺す。

 

「別に俺らがどんな格好しようが勝手だろ!?それに腰のチェーン!風紀委員がそんなのつけてて良いのかよ!?」

 

「いや、これ財布を取られない為につけてるので。紐や皮だと切られる心配があるので金属にしたんです。現にテレビでも取り上げられていて付ける事を勧めていましたよ。長さだって調整して少し短くしてますのでブレザー着たら隠れます」

 

「「「「……」」」」

 

「貴方も見る限り付けている様ですが、財布にはつけてないじゃないですか。しかも長さが膝小僧までありますし。それこそ何なんですか?」

 

「「「「ぷふぅ…!?」」」」

 

ギルの指摘を受けた男子生徒は何も言い返せず、再び黙り込む。その様子によって、遂に辺りから見ていた生徒達は吹き出しそうになっていた。

 

「タバコも吸おうとしますし、ピアスに首飾り。そちらの女子は…何か目元が黒いですし」

 

そして 遂にギルは古手川に絡んでいた生徒達と笑いを堪えていた生徒達の羞恥心と我慢を爆発させる。

 

 

「えっと…もしかして_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____カッコいいと思ってるんですか?」

 

 

 

「「「「ぶぶぅぅぅぅ!!!!!」」」」

 

 

その瞬間 辺りの生徒が吹き出した。

 

『『『『ぶははははは!!!』』』』

 

「「「「/////」」」」

辺りから次々と聞こえてくる笑い声。それによって4人の男女の顔はみるみる赤くなっていった。

 

「あれ?何故皆笑ってるんですか?」

 

「いや…ぶふぅ…それは…ぷぅ…プハハハ!!」

 

後ろに立つ古手川にギルが尋ねるも、古手川も答えきれない程まで爆笑していた。

 

だが、その笑い声がその男子生徒達を刺激してしまった。

 

「う…うるせぇええええ!!!!」

 

「俺らに恥かかせやがって!!」

 

1人の男子生徒の図太い怒鳴り声が辺りの生徒達を一喝するかの様に響き、笑い声を一瞬にして黙らせるとギルの胸ぐらを掴んだ。

 

「さっきからグチグチ理屈ばかり並べやがって!このチビ__ぷぎゃぁ!?」

 

「正当防衛キック」

 

その瞬間。ギルの脚が振り上げられ、男子生徒の身体を顎から突き上げながら後ろへと吹き飛ばした。

男子生徒は大きな身体を床にバタンと音を響かせながら倒れると、そのまま気絶する。

 

その一方で、ネクタイを巻き直し残りの3人の生徒へと目を向けたギルは腕をポキポキと鳴らし始め、額に筋を浮かべる。

 

「さて、残りの3人は」

 

「「「!?」」」

2人の男子の内、大柄な男子生徒が蹴り飛ばされた事で残りの男子生徒と女子完全に勢いを失いギルに目を向けられた瞬間、身体を震わせた。

 

「ま…ままま!!待ってくれ!俺らが悪かった!もうしない!もうしないから許してくれ!!」

 

「そ…そそ…それにか弱い女の子を殴る気!?」

 

男子生徒と女子生徒は頭を下げるも、ギルは悪どい笑みを向けながら拳の骨を鳴らす。

 

「女だろうと男だろうと俺をバカにした奴には容赦しねぇんだよクソがぁぁぁ!!!」

 

「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!」」」

 

その後、古手川を目の敵にした4人はボコボコにはされなかったものの、屋上にて放課後まで逆さ吊りにされたそうな。

 

 

だが、この日、学校中の皆が思った。

 

 

 

 

___あんな校内連続露出狂である校長の元で校則など関係あるのだろうか…。

 

 

 

 

ギル「あ、このまま手足縛ってプールに沈めるのも良いかも」

 

古手川「それはやりすぎよ!!」

 

 

◇◇◇◇◇

 

後日。

 

ギルはいつものようにララやリトと共に登校していた。下駄箱に着き、上履きを履き変え2人より先に教室へと向かっていると

 

「おはよう。ギルくん」

 

B組の教室から古手川が顔を出した。その顔はいつもよりも明るい笑みに包まれていた。

それに対してギルは相変わらず堅苦しい態度を取るように頭を下げる。

 

「おはようございます。古手川さん」

 

「昨日は本当にありがとう…助けてくれて」

 

「え?あぁ。いえいえ」 

昨日の事について御礼を言われたギルはまるで忘れていたかの様に頷いた。

 

そんな時だった。  

 

「うわぁぁぁ!ギル!どいてくれぇ!!」

 

「…え?」

 

後ろからリトの叫ぶ声が聞こえてきた。見ればララの用意したらしき牛のロボットに乗りながらこちらに向かってきていた。

 

「うぉ!?」

 

「ギルくん!」

古手川に気を取られていた為にギルは反応できなかったが、古手川はリトの姿が見えていたので咄嗟にギルの身体を抱き抱える様にしてその場から壁側に回避した。

 

 

「うわぁぁぁ!!」

 

「あ!待ってよリト〜!!ごめんねギル!」

 

2人の横を通過していった牛のロボットはそのままどこかへと走っていき、ララも追いかけていった。

 

「また結城君ね…本当に毎日毎日…!」

 

その一方で、ギルを抱き抱えたまま回避した古手川は壁に寄り掛かりながら相変わらず騒ぎを起こすリト達が去っていった方向を睨んでいた。

 

 

「大丈夫?ギルくん……あれ?」

 

古手川は騒ぎが収まると、彼の安否を確認しながら姿を探す。だが、探しても声を掛けてもどこにも姿が見えなかった。

 

 

すると

 

「んぐ……ふぉ…ふぉてがわさん…!」

 

「え?」

胸元の辺りから苦しそうな声が聞こえていた。そこには古手川の胸元に顔を押し付けられているギルの姿があった。

 

「はひ…!?////」

それを見た瞬間 古手川の顔が一瞬で真っ赤に染め上がり、ギルから離れた。一方で、古手川から解放されたギルはようやく呼吸を吸えるので大きく酸素を取り込んだ。

 

「ぷはぁ!……なんですかいきなり…あれ?」

 

「あ…あ/////」

解放されたギルは目の前で顔を真っ赤にさせながらこちらを見つめている古手川を見ると首を傾げた。

 

「どうしました?」

 

「ご…ごめんなさぁぁぁぁい!!!!!」

 

「えぇ!?」

 

目を向けた直後に古手川は叫びながらその場から走り去っていった。その様子を見ていたギルは何が何だかサッパリであったのだった。

 

「なんなんだ一体…」

 

それからというもの。古手川はギルを見かけると顔を真っ赤にする様になった。

 

 

 




今見たらランキング30位になってました!ありがとうございます!この調子でたくさん更新していきますのでよろしくお願いします…!!!

*今回登場したヤンキー共の格好は作者の学校に実際にいた人達を参考にしてます。


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聖夜のクリスマスパーティー

秋の彩南祭がアッサリと過ぎ、本格的に寒くなってくる冬の時期と共にクリスマスの日が近づいてきた。

 

「…ん?なんだこれ…」

 

ある冬の昼休み。いつものように見回りを済ませたついでのお手洗いから出てきたギルが廊下を歩いていると、掲示板に一枚の大きな紙が貼り出されていた。

 

「ねぇねぇギル!今度はギルも一緒にカラオケいこ…ってどうしたの?」

 

「いや、これ」

 

ギルが指を向けると、ララも目を向けた。そこには『天条院主催 クリスマスパーティ』という見出しが書かれたチラシが貼り出されていた。内容は12月の24日にて本校の生徒限定でパーティを開くというモノであった。

持ち物には、本校の生徒である証明として学生証。更に何故かプレゼントと書かれていた。

 

「面白そ〜!!ねぇねぇギル!リトや春菜達を誘っていこうよ〜!」

 

そのチラシを見たララは目を輝かせ、ギルの袖を引っ張った。

 

それに対してギルも頷いた。

 

「この文化にも触れておきたいし…そうだな。行くか」

 

それからギルはララと共に教室へ戻ると、その事をリト達へ伝えて、パーティへと向かう事となった。

 

因みに委員会のよしみで古手川を誘ったものの、運悪くインフルエンザに掛かってしまい同行できなくなってしまったらしい。

 

◇◇◇◇◇◇

 

街から離れた場所にある丘の上に聳える豪邸。そこではリト達の先輩である天上院が主催するクリスマスパーティーが行われていた。先に来ていたリトは猿山と共に辺りを見回しながら談笑していた。

 

「それにしても天条院先輩も太っ腹だよな〜!こうして俺達を招待してくれるなんてさ!」

 

「あ…あぁ。そうだな」

 

そんな中、リトは少し気になっている事があった。それはこの場にいないララとギルだ。

 

今日の下校時にララはギルと共に少し遅れると言っていた。

 

「(この日の為にペケに入力させておいたの!)」

 

その自信満々な笑顔から、どんな衣装を着て来るのか、少し気になっていたのだ。

だがそれと同時に彼女の普段の服装への無頓着ぶりから、とてつもない衣装を着てまた騒動に巻き込まれるのではないのかという不安も抱えていた。

 

すると

 

 

『お〜ホッホッホ!皆さん。今日は天条院主催のクリスマスパーティによくぞ来てくれました!』

 

ステージへスポットライトが当てられると、地下から上昇する台に乗りながら、天条院と九条、藤崎が現れた。

 

『早速、今回のメインイベントと行きましょうか!』

 

「メインイベント?」

 

『えぇ。クリスマス定番のあれですわ!プレゼ____」

天条院の言葉にリトが首を傾げる。それに対して答える様に天条院が続けようとした時だった。

 

 

「おまたせ〜!」

 

入り口に近い場所からララの声が聞こえた。その声を聞いたリトが振り向くと、そこにはやや奇抜な衣装を着用したララが立っていた。胸元がやや空いており、アクセサリーらしき羽や丈の短いスカート。

俗に言うフリフリの様な衣装であり、周りとはジャンルが違えどもモデルに勝るその体型と童顔によって魅力を引き出していた。

 

「どうかな?」

 

「おぉ!派手で可愛いじゃん!」

 

「うんうん!ララちぃお姫様って感じ!」

 

ララの衣装を見た籾岡や沢田の絶賛する声と共に皆は天条院から目を逸らしララへと向けて歓声をあげていった。

 

 

「きぃぃぃ!!ララ・サタリン・デビルーク!ここでも私より目立つなんて…!!!」

 

「沙姫様!落ち着いて!」

 

 

「(ま…まさか…ギルもあぁいう感じの格好でくるのか…!?)」

 

嫉妬する天条院を九条が宥めている一方で、ララの衣装を見ていたリトはつい頭の中で同じ衣装を着用したギルを思い浮かべてしまう。彼女達は姉弟だ。性格は反対といえども服への嗜好さえも反対とは限らない。

 

 

その時だ。

 

 

「よぉリト。遅くなったな」

 

「…!」

ララに続くようにギルも入ってくる。その声を聞いたリトはララから目を離すと軽く手を上げながら答え、ギルの方へと目を向けた。

 

「お…おう!お前もやっと来たの………か……!?」

 

ララの後ろから続く様に現れたギルの服装を見た瞬間 リトだけでなく、辺りの皆も驚きの表情を浮かべた。 

 

「ん?何か変か?」

 

ギルの服装はララとは完全に真逆であった。

下着はベルトがキッチリと締められたビジネスズボンと革靴を履き、上着はワイシャツにネクタイを巻き付け先端部分を隠すかの様に半袖のセーターを着用し更にその上から覆い隠すかの様に紺色のロングコートを纏っていた。

 

「…薄々そうくると思ってたよ!!て言うか決めすぎだろ!何でスーツ!?サラリーマンか!?」

 

「パーティなんだから正装は当たり前だろ?『パーティ』『服装』って検索したらこの衣装が出てきてな」

 

そう言いギルはロングコートの胸元部分に両手を掛けると着直すかのように揺らす。その際に丈の長いロングコートがたなびき、更なる渋さを醸し出した。

更に長い髪がいつもと違い先端部分が纏められながら肩に掛けられており、普段とは一変した清楚かつ大人な雰囲気も漂わせていた。

 

幼さやファッションを重視していたララとは全く持って正反対である。

 

「ただ、このネクタイは少しキツいし複雑だな。締めるのに結構時間くっちまった」

 

「まさかそれで遅れたのか…というか本当にお前ら正反対だな!?」

 

リトがギルの様子を見て、遅れた理由を察する。

その一方で、コートを揺らしながらギルは目の前に並べられた高級な料理へと目を向けた。

 

「それよりも早く飯を食べるぞ。その為に来たんだからな」

 

「いやもう次のイベント始まろうとしてんだけど…」

 

ギルはロングコートを脱ぎ羽織るとリトの言葉を意に介さず次々と料理に手をつけ始めていった。そのかき込む速度は恐ろしく、残り物とはいえ次々と料理がギルの口の中へと消えていった。

 

 

その一方で、中断されていた天条院の説明が再び始まった、

 

 

『んん…!説明をもう一度しますわ。入る際に皆さんからプレゼントをそれぞれ受け取りましたが、そのプレゼントは現在この屋敷の至る所に隠されていますわ』

 

「「「「え!?」」」」

 

皆が首を傾げた瞬間 天条院はマイクを持ち上げる。それと共にスポットライトが増え、更に密集して天条院を照らした。

 

 

『そう!今回のプレゼント交換は屋敷中を探し回って受け取るというルールなのですわ!中には私からのプレゼント『豪華リゾート2泊3日の宿泊券』がございますわ!リゾートに最高級料理がタダで堪能できます!しかもお一人から2ペアまで参加可能!1人で行くのも良し!彼氏・彼女と共に行き2人きりの時間を過ごすのも良し!仲の良いカップル同士や友達で行くのも良し!!是非とも見つけてみてくださいまし!!」

 

「「「「「うぉおおお!!!」」」」」

 

その説明を聞いた瞬間 女に飢える男子と豪華客船という高級な旅にときめいた女子達の雄叫びが響き渡る。

 

そんな中、先陣を切る一つの影があった。

 

「豪華リゾートは俺がいただく!このチケットを餌に女3人と乱○S○○しまくるぜ!」

 

「「「「さすが先輩!どこまで行ってもブレないクズっぷり!」」」」

 

ギルに髪の毛をむしり取られた元野球部エースの弄光だ。その真っ直ぐかつ欲望を正直に発言しながら突っ走る姿に元野球部の後輩達からの歓声が上がる。

 

その時だった。

 

 

バタン

 

「…へ?あぁぁぁぁ…」

弄光の行先の通路に突然、穴が空き、腑抜けた声と共に弄光がその穴の中へと落ちていった。

 

『言い忘れていましたが、屋敷の至る所にトラップを仕掛けてありますわよ。お気をつけて』

 

その説明が終わると、皆は駆け出し、弄光の通った通路を避けながら次々と屋敷中に散らばっていった。

 

「ふん!ララちゃんのプレゼントは僕が頂く…!」

 

「取り敢えず女子のプレゼントなら何でもいい!」

 

その中にはレンと猿山の姿もあり、彼らも屋敷の奥へと消えていった。

 

「リト!ギル!一緒に探そう〜!!」

 

「えぇ!?」

 

「あ、待って。あとこれだけ食べてから」

 

「いやお前どんだけ食うんだよ!?もうかれこれ10人前ぐらい食ってるだろ!?」

 

ララも、戸惑うリトと並べられた料理を次々と口の中に入れていくギルを引っ張りながら屋敷の奥へと走っていく。

 

 

その姿をステージの上に立ちながら見送っていた3人の内、天条院はいやらしい笑みを浮かべていた。

 

「オ〜ホッホッホ!そう簡単に取れるとは思わない事ね!」

 

遂に血で血を争う聖夜の抗争『プレゼント争奪戦』が幕を開けたのだった。

 

 



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聖夜のプレゼント争奪戦

プレゼント争奪戦が開始されて早くも15分が過ぎ、脱落者が次々と出始めた。天条院の仕掛けたトラップは次々と参加者を拘束または戦意を削いでいき、それにハマった生徒達が次々と脱落していく。

 

「あらあら。もう脱落者がこんなに。意外と皆さんだらしがないですわね。ララの方は?」

 

「はい。えぇと…」

その様子をモニター越しに見ていた天条院はララの様子を藤崎に尋ねる。

それに対してララのモニターを見ていた藤崎は冷や汗を流しながら伝えた。

 

『えい!』

 

「トラップを破壊しながら進んでおります…」

 

「なんて怪力ですの!?」

 

「しかもギルの手助けもありプレゼントもほとんど回収されております!」

 

「きぃぃ!!こうなったら…!!」

 

◇◇◇◇◇◇

 

ララに引っ張られながら屋敷の奥へと進んだギルはララと共に先陣を切りながら次々とトラップを破壊していった。

 

「いっぱい集まったね!」

 

「あぁ。このままコンプリートするのもありかもな」

そしていつのまにかプレゼントを入れる袋がパンパンになっており、逆にララがサンタクロースへとなりかけていた。

 

その一方で、リトは西蓮寺のプレゼントの箱を探していた。

 

 

すると 目の前にまたもや扉が見えてくる。

 

「あ!あそこに部屋があるよ!」

 

「まだ調べてねぇな。よし。入ろう」

 

その扉を目にした2人のうち、ギルはコートをたなびかせながら駆け出し扉の前に着くと両手でその扉を開けた。

 

 

扉を開けたその先にあったのは先程よりも広い空間。目の前にある巨大な暖炉の上には青いリボンが巻かれたプレゼント箱が置かれていた。

 

だが、それだけではない。

 

 

「待っていましたわよ!これ以上は好きにはさせませんわ!」

 

銃を構えた天条院並びに九条と藤崎が待ち構えていた。3人はその銃口をギル達に向ける。

 

「カラシ弾をくらいなさい!」

 

「「お?」」

 

その銃口から次々とカラシが放たれた。それを見たララはデビルーク星人特有の身体能力を活用して次々と避けていき、ギルは近くに置かれていた箒に手を伸ばすと、それを強大な腕力で回転させて払い飛ばしていった。

 

「よっはっほ!!」

 

「ほいほいほいほいほい」

 

そんな中だった。ララが避けた際に運悪くリトが後ろにいたのか、カラシ弾がリトの顔面に直撃した。

 

「ぎゃぁぁぁ!!からぁぁぁ!!!目がァァァァ!!目がァァァァ!!!」

 

「きやぁ!?」

その辛さは尋常じゃないのか、リトは悶絶しながら走り出していく。すると、それによって前に立っていた3人のうち、眼鏡を掛けた女子生徒 藤崎にぶつかってしまい、彼女の衣服の中にウッカリ手が入り胸を掴んでしまった。

 

「いやぁぁあ!!!」

 

「ぶへぇ!?」

 

「綾!大丈夫か!?」

 

藤崎がリトをビンタで吹き飛ばし、即座に九条が駆け寄る。それによってカラシ弾の弾幕が晴れた。

 

 

「チャンスだな」

 

弾幕が晴れたことにより、好機と見たギルはルールを忘れ、その場から駆け出し飛び上がると、天条院に向けて箒の棒の部分を振り上げた。

 

「な!?おいギル!目的忘れてねぇか!?」

 

「心配するなリトぉ!!コイツを倒せばいいんだろぉ!!」

 

「完全に忘れてるじゃねぇかぁぁ!!!!」

 

「うぇぇ!?ちょちょちょ…!?なんですの!?」

 

突然と飛び上がりながら迫ってくるギルに驚き呆気に取られる天条院。

 

 

その時だった。

 

 

__カンッ

 

 

木と木が激しくぶつかる音が響き渡った。

 

見れば天条院の前には九条が立っており、彼女は木刀でギルの振り下ろしを受け止めていた。

 

それを見たギルはここへ来て初めて笑みを浮かべた。

 

「ほぅ?やるじゃねぇか。お前は確か俺に竹刀を振り回してきた奴か」

 

すぐさま飛び上がり、九条から離れたギルは箒の持ち手を向けながら構える。それに対して九条も木刀を構えた。

 

「あの時から思っていた。一度、君と手合わせをしてみたいとな」

 

「そうか。それなら丁度いい」

 

ギルは箒の藁がついた部分をへし折り、棒の部分だけを残すと再び構えた。

 

「見せてくれよ剣道ってやつをよ」

 

「…」

 

互いに両者は睨み合う。辺りからはララに対する天条院の悔しがる叫び声が聞こえてくるも両者は一才意に介す事なく集中していた。

 

 

 

そして 空気の流れが変わった瞬間

 

 

2人の姿が一瞬だけ消えると中央に現れ激突した。

 

先程よりも巨大な木の音が響き渡り2人を中心に空気が辺りへと四散する。

 

ぶつかり合う木刀と箒が鍔迫り合いを起こす中、九条の顔からは完全に余裕が消え去っていた。

 

「く…!!(な…なんて力だ…!?一瞬でも集中力を削げば一気に押し負ける…!!)」

 

ギルは剣道の心得はないとしても、それを補う程の超パワーと筋力を持っていた。故に地球人である九条は力が優先される鍔迫り合いにて苦戦を余儀なくされてしまうのだ。

 

「ぐぅ…ッ!!」

 

ギルの一振りを歯を食い縛りながら受け止めていた九条は即座にギルから離れると再び駆け出し、木刀を振るう。

 

「はぁッ!!」

 

「面白い…!!」

 

それに対してギルも更に笑みを浮かべると箒を振るった。

 

刀をぶつけ合った2人はそれを起点に次々と武器を振り回していった。

 

「やぁ!!」

 

「うらぁ!!!」

 

辺りには先程よりも重い木の音が次々と響き渡り、2人の武器がぶつかり合っていく。2人の戦いを直視していた藤崎は目を回していた。

 

「ほぅ?やるじゃねぇかお前」

 

「幼い頃から続けているのでな。舐めてもらっては…困るッ!!」

 

「!?」

 

力強強い一振りによって、ギルの箒を持つ手が震える。

 

「せいやぁ!!!」

 

更に九条はギルの防御を崩していくかのように木刀を振るい続けた。直接空いている箇所は狙わず、敢えて箒を持つ手や胴体を重点的にだ。

ギルの剣の技術はまだアマチュアな為に、初めて見る九条の剣術裁きにはついていく事ができず、防御に徹する他なかった。

だが、その防御する際にギルは箒を払う事で力任せに九条を押し上げていた。押し上げられていく事で九条は少しずつバランスを崩していく。それによって隙も生みやすくなってくるだろう。

それを九条は見切っていたのだ。

 

「君は確かに力は強い…。だが…技術では負けん…っ!!」

 

「…!!」

 

長年の剣道部の経験から相手の弱点と特性を即座に見抜き、それに対抗する型を生み出す。

 

力任せだけのギルに対して九条は既に対抗策を練っていたのだ。九条は次々と木刀を振り回していく。それも素人では対処が不可能な方向からだ。

 

「お…!?コイツ急に動きが…!?」

 

徒手空拳だけで戦ってきていた為にギルは剣の動きが突然変わった事に動揺を隠せなかった。

九条の木刀を防いでいく中で遂にギルはその動きに負け、死角を作ってしまった。

 

対する九条は待っていたかのように笑みを浮かべた。

 

「そこだ…!!」

 

そして ガラ空きとなった脇腹へと九条は木刀を力一杯振り回した。振り回された木刀は空気を切り裂きながらゆっくりとギルの脇腹目掛けて向かっていく。

 

だが、忘れてはいけない。ギルの身体は地球人よりも_

 

 

 

 

 

 

 

 

____遥かに頑丈だと言う事を。

 

 

 

 

_バキンッ

 

 

「な…!?」

 

木が折れる音が響き渡る。それと共に九条とギルの離れた場所に“何か”がコトンと落ちた。

 

「…!」

 

九条は恐る恐るそれを見た。それは何と木刀の先端部分であったのだ。

 

 

「あ〜折れたか。まぁ地球の素材じゃしょうがないな。それに一太刀受けちまうとは“あの時”よりも大分鈍ってやがる」

 

「!?」

 

九条は更に驚きの表情を浮かべる。見ればギルは木刀が当たったと言うのに何も感じていないかのように頬を掻いていたのだ。

 

「な……何ともないと言うのか…!?」

 

「あぁ。これが試合だったら間違いなくお前の勝ちだ。だが___

 

 

 

_____闘いだったら負けだろうな」

 

 

 

「…!!」

 

その瞬間 ギルの目が向けられると共に身体から殺気が溢れ出し、九条に向けられる。それを感じ取った九条は驚くと共に全身を震わせ冷や汗を流し始める。自身に剣道を叩き込んだ師範でさえも可愛く見えてしまうその殺気は九条から一瞬で戦意を削ぎ落とした。

 

「けどまぁ中々楽しめた。凄いよお前。一太刀当てられるなんて思ってもいなかった」

 

「へ………あ…あぁ…」

 

すぐさまギルは殺気を収めると一変しまるで称賛するかのように手を叩く。それに対して九条は何がなんだか分から混乱していた。

 

 

そんな時だった、

 

 

「…あれ?」

 

ギルは突然と首を傾げた。まるで何かを忘れているかの様に。

 

「そういえば俺達って何で戦ってたんだっけ」

 

「いや…それは君が沙姫様に向けて箒を振り下ろそうとして……そうだ!沙姫様!」

 

「そうだ。プレゼント取りにきたんだ」

ギルの言葉に九条はようやく何をやっているのかを思い出し、九条の言葉にギルもようやく元々の目的を思い出した。

 

「沙姫さま!ご無事ですか!?」

 

「ララ。プレゼントは取れたか?」

 

2人がララと沙姫の方向へと目を向けるとそこには………

 

 

「オ〜ホッホッホ!!敵に塩を送るなんて馬鹿な真似を!後悔させてあげますわぁ!!!」

 

 

巨大な銃を手に持つ天条院とそれを眺めるララの姿があった。しかもその銃の銃口には輝かしいエネルギーが集められていた。

 

「お…おい…あれはマズいんじゃないか…!?」

 

「そうだな。取り敢えず…」

 

「ふぇ!?」

 

ギルは手に持っていた箒を捨てると九条をヒョイっと米俵のように担ぎ上げる。

 

「な…なにを!?」

 

「危ないから避難ですよ。ついでに貴方も」

 

「え!?」

 

ギルは九条だけでなく近くにいた藤崎も尻尾を伸ばして引き寄せると担ぎ上げた。

 

その時だった。 

 

 

ドガァァァァン!!!!

 

 

天条院の持つ銃口から巨大なエネルギー波が放たれ、巨大な衝撃音を響かせながら壁を突き破り風穴を開けた。

それと同時に屋敷がバランスを崩しグラグラと音を立てながら揺れ始めていく。

 

「おいリト!ソイツら担いで逃げろ!!」

 

「うぇ!?」

 

ギルは2人を担いだまま、風穴を通り外へと走っていった。それに続きリトや天条院。そして屋敷に散らばっていた皆も外へと避難していく。

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

その後。天条院の屋敷は見事に全壊。元別荘があった場所を見つめながら天条院はOTZ状態となっていた。

 

「あ!見つけたプレゼント皆に配ってくるね!」

 

「呑気だなお前…あ、こんな所に俺のプレゼントが」

 

あいもかわらず能天気なララにギルは呆れながらも辺りを見回していると、付近にてシワクチャになったプレゼント箱を見つけ拾い上げた。

 

すると

 

「おい」

 

「ん?」

 

突然と背後から九条に呼び止められた。振り返れば九条は先程よりも鋭い視線を此方に向けていた。

 

「教えてくれ…君は一体…何者なんだ…?」

 

「え?」

 

その質問に対してギルは何一つ不思議に思わず何も考えずに答えた。

 

「風紀委員に所属するただの学生ですよ」

 

「……」

 

そう答えると九条は黙り何も聞いてくる事はなくなった。それに対してギルは手元のプレゼント箱に目を移すと、九条に向けて歩いていき、プレゼント箱を差し出した。

 

「あ、ついでにこれあげます。俺のプレゼントです」

 

「えぇ!?この状況でか!?」

 

「中身はおそらく無事だと思うのでご安心を。では、私は姉のところに行きますのでさようなら」

 

それだけ言うとギルは九条の元から立ち去りララの元へと向かい歩いていった。その一方で、九条はその姿を呼び止める事はせず、ただ見つめていた。

 

「ただの学生が…あれほどの殺気を出せる訳ないだろ…」

 

あの時、自身の戦意を一瞬にして喪失させると共に怖気つかせた殺気を思い出しながら呟いた九条は目を手元に移す。手元にはしわくちゃになったプレゼント箱。他の皆のプレゼント箱に比べて何やら大きい。一体何が入っているのだろうか。そう思いながら九条はゆっくりとリボンを解き、中身をパカっと開けた。

 

「こ…これは………」

 

中身を見た瞬間 九条の目が凛としていた物から力の抜けたジトりとした物に変わった。そこにあったのはしわくちゃなケースに収められながらも形を歪めずに真空パックに詰められたロースハムや燻製ソーセージ。

 

【高級ハム詰め合わせセット】

 

そして 手紙も入っていた。

 

『今年一年お疲れ様でした。 ギルより』

 

「お歳暮ぉぉ!?」

 

 




ギルの地球の行事に対する認識

ハロウィン→集まって馬鹿騒ぎしてゴミを撒き散らすイベント

クリスマス→食事会


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現る殺し屋

クリスマスが明け早くも数日が経過した。ギル達の通う彩南高校はクリスマスとなる前の時期から冬季休校つまり冬休みへと入っており、皆はそれぞれの日常を過ごしていた。

 

 

そんなある日の午後。

 

「ララ様。ギル様。今月のお小遣いです。無駄遣いのないように」

 

「は〜い!」

 

「ん」

 

ギルとララはザスティンからそれぞれ一つずつ札束の入った封筒を渡された。

 

「バイト代だけじゃ少し苦しかったからありがたく使わせてもらう…そういえばリトは?」

 

ザスティンからお小遣いをもらったギルは財布に入れると部屋を見回した。いつも見えるリトの姿が見えなかったのだ。

 

「リトならリトパパから画材の買い出し頼まれて行ってるところだよ!」

 

「そうか。近くのスーパーでセールやってるからリト探して行ってくるよ」

 

ララから教えてもらうとギルは立ち上がりロングコートを纏うと靴を履き外に出た。

 

「ギル様〜!くれぐれも無駄遣いをしないように〜!」

 

「行ってらっしゃ〜い!」

 

「オッケーオッケー」

 

見送るザスティンとララに向けて手を振りながらギルはリトを探しに向かった。

 

◇◇◇◇◇◇

 

ところ変わり街の中。機材の買い出しを終えたリトは父の手伝いをしてくれているザスティン達へのお土産として出店のたい焼き店へと立ち寄っていた。

 

「へいお待ち!あんこ入り10個ね!」

 

沢山のたい焼きが入った袋を渡され、そのうちの一つを口に運ぶ。

 

「んん…うまい」

 

口の中に広がる甘みを堪能しながらリトは無意識に目を前に向けた。

 

「…ん?」

 

その時 リトはたい焼きを咀嚼する口を止めた。

 

「…」

 

目の前には異様な黒い衣服を纏う謎の少女が立っていたのだ。髪は美しい金色でララよりも長く、身長はギルとほぼ同じぐらい。その少女はたい焼きを食べている自身をジーっと見つめていた。

 

「……(まさか…これ食べたいのかな…?)」

 

そう考えたリトは口に含んでいたたい焼きを飲み込むと袋の中からもう一つたい焼きを取り出し少女へ差し出した。

 

「これ…いる…?」

 

「…」

恐る恐る尋ねてみると、その少女はたい焼きを見つめながら受け取りパクっと口に入れた。

 

「……地球の食べ物は変わっていますね…」

 

「そりゃあ地球の食べ物は結構個性があって___えぇ!?」

 

不意に彼女の口から出た言葉にリトは思わず後ろに下がってしまう。その言葉は地球人ならばまず出る事はない。

その上、彼女はまるで初めて見たかの様にたい焼きを丁寧に食べていた。そうなると彼女もララと同じ異星人という事になる。

 

「ごちそうさまでした…さて…結城 リト…」

 

「…へ!?」

 

 

その瞬間

 

 

彼女の右腕の5本の指が変形し3本のナイフと化し、その腕が振われた。

 

 

「…!?」

 

それを腰を抜かす形でリトは避ける。見れば掠ったと思わしき腹の部分の服の一部分が綺麗に切られていた。

 

「外しましたか。次はそうはいきませんよ」

 

刃を振るった少女の髪の毛が唸りだすと変形し、指先と同じように数本の刃となった。

 

「私は“金色の闇”。結城リト…貴方に恨みはありませんが、ここで死んでもらいます」

 

「な…」

 

その少女の風貌と殺気から、リトは驚き即座に立ち上がると駆け出した。

 

「何で俺が…!?俺が何やったっていうんだよぉぉぉ!!!」

 

そう苦言を漏らしながら走るも、後ろからは彼女が凄まじい速度で追いかけてきた。

 

「逃しませんよ」

 

その言葉と共に髪の毛が伸びると数本の刃の切先がリトに向けて放たれた。

 

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

 

その刃がリトの背中へ向けて突き刺さろうとした時だった。

 

 

 

 

 

「ふんッ!!!」

 

突然 黒い影がリトと金色の闇の合間に飛び出すと向かってくる刃を蹴り上げた。

 

「…!!」

 

突然の乱入者に金色の闇はリトを追い掛ける脚を止めて飛び出してきた黒い影を睨む。

 

「何者で___ぐ!?」

 

金色の闇が飛び出した黒い影を睨んだ直後。その黒い影が一瞬にして目の前の刃の間を潜り抜けながら迫り金色の闇の首を掴むと近くの壁へと叩きつけた。

 

「がはぁ…!!」

 

巨大な衝撃音と共に壁の破片が砕け散ると金色の闇は叩きつけられた衝撃によって口から胃液を吐き出す。それによってリトに向かって行った刃が元の金色の髪へと戻っていく。

 

「…まさか…こんなところで【修羅の王子】に遭遇するとは…」

 

叩きつけられた金色の闇は自身を壁に叩きつけた黒い影へゆっくりと目を向ける。

 

すると 煙が晴れその黒い影の正体が顕となった。

 

「ギル・ベルフェ・デビルーク…!!」

 

「よぅ。お前が金色の闇か。随分とひ弱な身体してやがるな」

 

黒い影の正体は何とギルであった。金色の闇を壁へと叩きつけたギルはその鋭い目線を向ける。

 

「なぜ…邪魔をするのですか…?」

 

「アイツは俺の姉貴の婚約者だ。度胸も覚悟も他の奴らとは違う。だから守るのは当たり前だろ?」

 

「成る程。ですが残念な事にその他の婚約者から依頼が来ているのです。プリンセスをそそのかしデビルーク星を乗っ取ろうとしている…と。邪魔立てするならば____

 

 

 

 

 

 

 

 

_____貴方も殺します」

 

「…!!」

その言葉と同時に金色の闇の髪の毛が収縮すると4又に分かれ龍の顔を形成する。

それを見たギルは即座に金色の闇から離れる。形成された龍の頭は離れたギルを追いかけ迫り来ると、ギルの四肢に噛み付いた。

 

「ギル!!」

 

リトが叫ぶ中、噛みつかれたギルは金色の闇に向けて眉間に皺を寄せる。

 

「こんな小細工…!」

 

「…!!」

 

その言葉と同時にギルは身体を回転させた。それによって噛み付いていた龍の頭はその回転に巻き込まれると共に金色の闇の身体も引き寄せられる。

 

引き寄せられたその瞬間 ギルは笑みを浮かべた。

 

「そらぁ!!!」

 

「ぐぅ!?」

 

引き寄せられた金色の闇に向けてギルは脚を振り上げ、水平に蹴りを放つ。それに対して金色の闇は即座に左腕を前に出し防御を取り防ぐ。

だが、ギルの脅威的な筋力とデビルーク特有の超パワーによる蹴りの威力が完全に殺す事ができずそのまま壁に向けて吹き飛ばされた。

 

 

 

「へぇ。案外頑丈だな」

 

吹き飛ばされた金色の闇は瓦礫と埃を払うと何事もなかったかの様に立ち上がる。ダメージが殺しきれなかったとしても彼女に取ってはそれ程までのダメージにはならなかったのだ。

その体型に見合わないタフネスにギルは驚く。

 

「えぇ。ですが、少し効きました。自分の血を見るのは久方ぶりです」

 

そう言う金色の闇の腕には切り傷のようなモノができておりそこから血が滲み出ていた。

 

「そうか。それは俺も同じだ」

 

そしてそれに同調するかの様にギルの腕からも同じく傷ができており血が滲み出ていた。

 

「まぁそれよりも、リト」

 

「え!?」

 

腕の出血から目を離すとギルは後ろで立ちすくんでいるリトへ目を向ける。

 

「ここから離れろ。巻き添え食うぞ」

 

「わ…分かった!すぐにザスティン呼んでくるから気をつけろよ!」

 

そう言いながらリトは家に続く方向へと走り去って行った。

 

 

「標的を逃すとは…随分と嫌な真似をしてくれますね。貴方を先に片付けた方がよさそうです」

 

手から滲み出る血を拭うと金色の闇は再び髪を変形させ今度は6本の刃を形成させた。

それに対してギルは腕の血を舐めとると両手を構え尻尾の鋭い切先を向ける。

 

「巻き添え食って死んだら姉が悲しむからな」

 

◇◇◇◇◇◇

 

ギル達の場所から走り去っていったリトは先程いた場所から数百メートル離れた地点にいた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

分からなかった。なぜ、彼女は自身を狙っているのか。彼女は自身をデビルーク星を狙っていると言っていたものの、そんな気など毛頭ない。

 

 

「何なんだよ…一体…」

 

そんな時であった。

 

「リト〜!!」

 

「むごぉ!?ララ!?」

 

空からララの声が聞こえると共にリトに向けて飛来し抱きついた。抱きついてきたララは心配していたのか、次々と頬擦りする。

 

「大丈夫!?殺し屋になんかされてない!?」

 

「殺し屋……そうだ!」

 

ララの言葉にリトは忘れかけていた事を思い出し、ララに全て話した。

 

「大変なんだ!金色の闇とかいう殺し屋が俺を狙ってきてギルが今___

 

 

 

その瞬間

 

 

 

リトの話を遮るかの様に後方から巨大な爆発音が響いた。

 

 

「「…!!」」

 

その音を聞いたリトとララは即座にその音が聞こえた方向へと目を向けた。見ると聳え立つ建物が黒煙を巻き上げながら破壊されていた。

 

 

すると その黒煙の中から二つの影が飛び出した。

 

 

 

「はぁぁ!!!」

 

「ははっ!」

飛び出してきた影のうち、一つは金色の闇。そしてもう一つはギルであった。飛び出した金色の闇は手を巨大なナイフへと変形させるとギルに向けて振るう。

 

それをギルは笑いながら空気を蹴り更に高く飛び上がる形で回避すると即座に金色の闇の背後へと降下しその身体に向けて拳を放つ。

 

「…ふん…!!」

 

その拳を金色の闇は後ろ髪で模造した拳で受け止めた。

 

「…ほぅ。髪だけでこんなに硬くさせることができるのか。面白い……ッ!!」

 

「褒めても嬉しくありませんね…ッ!!」

  

そのまま2人は重力に従いながら落下し、一軒の民家の屋根に着地すると次々と拳や突きを放っていく。 

 

無言のまま繰り出される金色の闇の四肢と髪の毛で模造した4つの拳の超連撃をギルは四肢で全て捌いていく。

 

「く…!?」

 

「どうした?手数で勝ってるのに全然当たらねぇぞ?」

 

いくら攻撃を放ってもダメージを与えられない事により、金色の闇は悔しさのあまり歯を食い縛る。だが、その際に少し焦ってしまったせいで先程まで繊細な流れであった拳の雨にムラ…即ち隙が生じてしまった。

 

「…ッ!!!」

 

その隙をギルは決して見逃さなかった。迫り来る拳の連撃の隙を見つけたギルは目を細めると金色の闇を顎から蹴り飛ばすべく脚を振り上げた。

 

「…!」

 

振り上げられたその脚に気づいた金色の闇は紙一重で避けるとすぐさま後方に高く飛びギルから距離を取る。

 

距離を取った金色の闇はそのまま屋根の瓦を粉々に粉砕する程まで脚を踏み込むとギルに向けて拳を構えながら飛び出す。

 

「は…っ!!」

 

それとほぼ同時に蹴り上げた脚と共に身体を一回転させたギルも着地すると足元にある瓦を粉々にするまで踏み込み金色の闇に向けて拳を構えながら飛び出した。

 

 

互いに飛び出した2人は音速を超え空気を突き抜けながら向かって行った。

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人の拳が互いに掠ると共に重なり合いそれぞれの頬へと撃ち込まれた。

 

 

「「ぐぅ…ッ!!!」」

 

 

頬へと伝わる重い衝撃と反動によって2人の身体は磁石の様に引き剥がされた。

 

「……思ったよりやる様ですね…流石は【修羅の王子】」

 

「へぇ。俺の事をよく知ってるんだな」

 

「勿論です…。幼い年にも関わらず銀河統一戦争においてその身一つで敵戦艦に乗り込みその身が血に染まるまで暴れ回り敵勢力を恐怖のどん底に叩き落とした話は有名ですからね。その鬼の如き強さで戦う姿から『血塗れプリンス』『修羅』『鬼の子』『デビルークの若き雷槍』と呼ばれるように。私が以前いた惑星ではあだ名を口にするだけでも不吉と言われていました」

 

「随分と懐かしいな」

 

金色の闇の口から明かされた己の過去を久々に聞いた事であの日の自身を思い出した。

 

それと共に内に秘められたデビルーク星人の中でも一際凶暴な者にしか見られない闘争本能が湧き上がってくる。

 

「ならお前にとくと見せてやるよ…【修羅】の力をな…ッ!!!」

 

久々に心を躍らせる闘いによってギドから受け継がれた巨大な闘争本能が再び甦ると共に額や腕からは筋が湧き立った。

 

 

 

その瞬間  ギルの姿が一瞬にして消えた。その速度は金色の闇でさえも認識する事ができなかった。

 

 

「な…!!」

 

突如として視界から消えたギルに驚いた金色の闇は辺りを警戒する。

 

 

刹那

 

 

「がはぁ…!!」

 

腹に凄まじい衝撃が走る。見れば一瞬にして姿を消したギルが現れ金色の闇の腹へと拳を打ち込んでいたのだ。

 

「(速度が…変わった…!?)」

 

「ほら…まだまだいくぞ…ッ!!」

 

その言葉とともにギルは四肢から次々と金色の闇の全身に向けて拳や突きを放っていった。金色の闇自身も髪を6本に変形させると共に四肢を用いて迫り来る拳や蹴りを防ぐも追いつく事ができなかった。

 

「そらぁ!!!」

 

そんな中 ギルの右手が突き出される。辛うじて金色の闇はその突きを避けるものの肩に擦り服を裂いた。

 

「く…!!!」

 

先程とは全く違う速度に金色の闇は歯を食い縛る。その一方で、速度を上げたギルは脚を振り上げた。

 

「そらぁ!!!」

 

「ゴハァ…!?」

 

その振り上げられた脚は金色の闇の腹へと直撃すると彼女の身体を上空へと蹴り上げた。身体に走る痛みに金色の闇は肺の中の空気を吐き出す。

 

そしてギルは上空へと飛び出した金色の闇の吹き飛ぶ先へと即座に移動すると回転し、金色の闇の身体に向けて脚を振り回した。

 

「ぐ!?」

 

その回し蹴りを受けた金色の闇は辛うじて防御を取るも勢いを完全に殺しきれずその場から近くにある神社の境内へと叩き落とされていった。

 

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

神社の境内へと叩き落とされた金色の闇。全身に傷を負いながらも立ち上がれるそのタフネスは流石という他ないだろう。

 

すると

 

「おい。こんなものか?もっと楽しませろよ」

 

「…!!」

 

自身の目の前にギルが降り立つ。その目は先程よりも鋭く血走っていた。全身から溢れ出る殺気は神社の境内に到達した途端に辺りに生える木々に止まる鳥達を刺激しすぐに飛び立たせていった。

 

「まさかもう終わりか?」

 

「……」

 

金色の闇は呼吸を整えながら反撃の隙を見出そうとする。

 

だが、やけに妙であった。拳の威力が最初とあまり変化が無かったのだ。変わったのは速度だけである。

 

「貴方…なぜそんな真似を…?」

 

「どういう事だ?」

 

金色の闇の質問にギルが首を傾げた時だった。

 

『こらぁぁ!!!何やってるんだもん!!金色の闇!』

 

上空からエコーを効かせた声と共に謎の宇宙船が現れた。

 

「…ラコスポ」

 

「…!!」

 

不意に金色の闇の口から漏らされた名前にギルは先程よりも目を血走らせると共に拳や頬から筋を沸き上がらせる。

 

「アイツが依頼主か…」

 

 

 




戦闘シーンの時はとりあえず『晴れの日に傘さす奴には御用心』でも流しながら読んでみてください。


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ド怒りそして和解?

 

 

「ほぅ。あの声…アイツか」

突然と空から現れた宇宙船をギルは睨みつける。

 

その時だった。

 

「ギル〜!!」

 

「…ん?」

 

神社の入り口のある鳥居から声が聞こえ、見るとララがリトと共に走ってきており、ララはすぐさまギルを見つけると、両手を広げながら抱き締める。

 

「大丈夫ギル!?怪我してない!?」

 

「別に何ともねぇ。というか離れろ暑苦しい

 

抱き着きながら頬を擦り寄せてくるララをギルは右手で押し退けると宇宙船を睨み付ける。すると、宇宙船の下部が光出した。

 

「出てきたか」

光が地面に着くと同時に宇宙船の中から2頭身程の小柄な子供が姿を現した。

 

「じゃじゃじゃーん!ラコスポ参上だもん!」

 

「ラコスポ!?」

 

現れた子供にララは驚きの声をあげる。その一方で現れたらラコスポという異星人はララに目を向けると喜びの声を上げた。

 

「ララたん迎えにきたよ〜!!さぁボクと結婚するんだもん!」

 

「…!」

その顔を見た途端にララは眉間に眉を顰め嫌悪感を露わにすると舌を出し拒絶する。

 

「べー!やだよラコスポなんて!殺し屋さんにリトを狙わせるなんて最低!」

 

「な…さい…てい…!?」

 

ラコスポがララの言葉にショックを受けている中、ギルはラコスポへと目を向けた。

 

「よぅラコスポ。元気そうじゃねぇか。相変わらず諦めの悪い奴だな」

 

「げ!?…その声は…」

 

ギルが声を掛けた瞬間 ラコスポは落ち込むかの様に俯いていた顔を即座にあげると額から冷や汗を流しながら此方へと顔を向けた。そしてギルの顔を見るや否や額から更に汗を流し始める。

 

「ギ…ギル王子…!?」

 

「今更か。お前、俺が留守な時を狙って何度もララに言い寄ってたらしいじゃねぇか」

 

「そ…それは…」

 

ギルがラコスポへと鋭い目を向けながら威嚇混じりの声を上げている中、ラコスポから金色の闇へと目を変える。

 

「おい殺し屋。コイツになんて言われて依頼された?」

 

「…」

 

問いただされた金色の闇は答えた。

 

「……結城リトはデビルーク星の姫『ララ・サタリン・デビルーク』をたぶらかしデビルーク星の王位を奪おうとしている狡猾な男…故にデビルーク星の安泰のために殺して欲しい…と」

 

「へぇ。だからリトを狙っていたのか」

 

「お…おい金色の闇!何勝手に話してるんだもん!!」

 

「確認だよバーカ。そうかそんな情報だったか。だとすればそんな奴ならとっくに俺が消してる。それにたぶらかしてる?ララの頭脳を舐めてるのか?その手には一番強い事ぐらい婚約者なら把握しとけよ」

 

「ぐぬぬ…!!」

 

次々とギルに言い負かされたことによりラコスポは悔しがるかの様に歯を軋ませる。その一方で金色の闇はラコスポの情報が虚偽のものであると初めて知ったのか、静かながらも驚きの表情を浮かべた。

 

「では、私が受け取った情報はフェイク…という事でしょうか?」

 

「あぁ。証拠はないが、アイツの焦り様から見ればそう受け取れるだろ」

 

「…」

 

ギルの言葉に金色の闇はようやく自身が騙されている事を自覚し鋭く何の感慨も浮かばない不気味な目と刃に変形させた腕をラコスポへと向ける。

 

「ラコスポ…依頼の前に話した筈です。標的の情報は嘘偽りなく話すように…と。私を騙したのですね。随分と舐められたものです…落とし前として貴方“も”標的に加えます」

 

リト「“も”!?俺標的にされたまま!?」

 

金色の闇の言葉にギルは笑みを浮かべると怒りと侮辱が混じったかの様な混沌とした目をラコスポへと向けると拍手をする。

 

「そういう訳だラコスポ。お前はここで死ぬらしい。いやぁおめでたい!」

 

「な…ふざけるなだもん!!」

 

「何を怒ってるんだ?名誉な事じゃねぇか。宇宙でも名高い殺し屋さんに殺してもらえるんだからよう。死体はどこかの肥溜めにでも綺麗に埋めてやるから安心しな」

 

「そういう訳でラコスポ…肥溜めへの引導を渡して差し上げます…」

 

「ぐぬぬぬ…!!どいつもコイツも僕たんを馬鹿にしやがってぇ…許さないんだもぉぉん!!!」

 

ボロが出ると共に金色の闇にさえ見限られ糸口を失ったラコスポは眉間に皺を寄せ憤慨すると、宇宙船に向けて叫んだ。

 

「出てくるんだもん!ガマたん!」

 

「ニ”ャー」

 

すると宇宙船が光だし、奇妙な鳴き声と共にギル達が見上げる程の巨大なカエルの様な生物が姿を現した。

そのカエルを見たペケは驚きの声を上げた。

 

『あ…あれは珍獣イロガーマ…!!』

 

「イロガーマ?確か珍しい生物だよな」

 

『はい…もしそうでしたら私の天敵に…!!」

 

ペケがギルの質問に答える一方で、イロガーマという珍獣の背に乗ったラコスポは金色の闇に指を向ける。

 

「いっけー!ガマたん!!」

 

「ニ”ャー!!!」

 

ラコスポの指示に従うかのようにイロガーマは金色の闇に向けて口内から紫色の粘液を射出した。金色の闇はそれを跳躍する形で避ける。だが、その拍子に飛び散った粘液が脇腹に付着してしまった。

 

すると 粘液が付着した箇所にある衣服が段々と溶けていった。

 

「これは…!?」

 

咄嗟に金色の闇は着地すると、ただれた服の部分を抑える。

 

「は〜!はっはっは!イロガーマの吐き出す唾液には衣服だけを溶かす特殊な効果があるんだもん!」

 

「相変わらず生き物も趣味が悪いな」

 

「黙るだもん!!そらぁいけガマた〜ん!!」

 

「ニ”ャアー!!!」

 

ギルの横からの戯言にラコスポは怒りながらも金色の闇へと目を向けると、ガマたんへと指示を出し、ガマたんは鳴き声をあげると次々と唾液を金色の闇に向けて射出していった。

 

「…!!」

 

金色の闇は破れた箇所を押さえながら向かってくる唾液を次々と避けていく。だが、その動きは長くは続かなかった。

 

「!?」

 

その時、金色の闇の胸元へとその液体が付着してしまった。それによって胸元部分を覆っていた黒い衣服が溶けてしまい、前半身が丸出しになってしまう。

 

それによって金色の闇は羞恥心から赤面すると共にバランスを崩しギル達とは離れた方向へと着地する。

 

「ギャーハッハッハッ!!ざまぁ見ろだもん!」

 

「ぐ…」

 

金色の闇は赤面させながら曝け出された前半身を手で隠しラコスポを睨む。あと一発でも当たってしまえば確実に服が溶けてしまうだろう。

 

「これでもう全裸決定だも〜ん!!!ガマたんやれぇ!!」

 

ガマたんはラコスポの指示により再び口内を開けると粘液を射出した。射出された粘液は真っ直ぐと金色の闇へと向かっていく。

 

「く…!!」

 

「やめろぉぉぉ!!!」

 

リトが叫びながら飛び出すももう間に合わない。金色の闇は覚悟を決めたのか目を瞑った時だった。

 

 

ペチャ

 

 

金色の闇の前に影が飛び出し、身代わりになる様にして粘液を浴びた。

 

「ララ!?」

 

「プリンセス…!?」

 

リトと金色の闇が驚きの声をあげる。なんと飛び出したのはララだったのだ。粘液を浴びた事によりペケが生成した衣服が所々溶けていき、金色の闇と同じように胸や前半身が丸出しとなってしまった。

 

それを見たラコスポは興奮し始める。

 

「うっひょ〜!!ガマた〜ん!もっと近くに寄_いったぁ!?何するんだも〜ん!!」

 

ガマたんに指示を出して前に出ようとした時だった。ガマたんの背に乗るラコスポに石が投げつけられ、彼の頭へと強烈な一撃を見舞った。

 

「うるせぇ!女の子に何しやがんだ!!この変態野郎!!」

 

見ればリトが怒りの目を向けながらいくつもの石を抱えていたのだ。

 

「へ…変態だと…!?王族の僕たんに向かって〜…!!おのれ結城リト!何なら次はお前か____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

 

ラコスポがリトに向けて声を荒げた時だった。その場にもう1人の低い声が響き渡った。その声は声と捉えていいものではない。

 

 

『『___!?』』

 

その声が聞こえた瞬間その場が重圧に包まれ、リトとガマたんとラコスポそして金色の闇は身体を震わせた。

 

見れば先程まで達観していたギルが全身から黒いオーラを放ちながら今まで以上の鋭い目を浮かべていたのだ。その黒いオーラは嵐の様に湧き上がりそれによって髪が逆立ち額に付けられた深い傷が露わとなる。

 

 

「テメェ…いい加減にしろよ?」

 

 

その一言と共にギルはラコスポを睨みつけると一歩前に出た。

 

「「「…!?」」」

ギルがその一歩を踏み締めた瞬間にララを除いた一同は再び身体を震わせる。

 

「身を引けば許してやると思ってたんだが、一回、痛い目みないと分からねぇようだな」

 

彼を中心に風が吹き荒れ、辺りの木々が揺れ鳥達がざわめき出したのだ。普段ならばララとは相違ない風貌が今では完全に別のモノと判別できる程までに変化しており、その威圧感はあの金色の闇さえも震え上がらせていた。

そしてそれは生物であるガマたんことイロガーマとラコスポも同じだ。

 

「に…にゃ…」

 

「そ…その額の傷…まさかお前が…修羅の!?」

 

「ようやく気づいたか。お前の様な無知な奴が息子だなんて現国王に同情するよ」

 

ラコスポは驚きながらも即座に手を出しガマたんへと指示を出す。

 

「そ…そうだ!こ…今度はお前を全裸にしてやるんだもん!いくらお前でも全裸になっちゃえば闘えないんだもん!」

 

ラコスポは土壇場で焦っているのか咄嗟に思いついた作戦をガマたんへと伝える。

 

「ガマたん!アイツを全裸にするんだもん…!!」

 

「に…ニ”ャァ!!!!」

 

主人からの命令を聞いたガマたんは気圧されながらも調子を持ち直すと、ギルに向けて口元を開き粘液を射出しようとした。

 

 

 

 

その瞬間

 

 

 

 

 

「…!!!」

 

ギルの身体が消えると拳を構えながらラコスポの前に現れた。

 

「へ…!?」

 

「舐めんなよ」

ギルが前に現れた事でラコスポは一瞬にして勢いを失う。それに対してギルはまるでゴミを見るかの様な目を向けながら言い放った。

 

「お前の様な親が用意したデカイ椅子で我が物顔でふんぞりかえってるボンボンが一番嫌いなんだよ…!!!」

 

「ちょ…待つだもん!!僕は___グボバババババ!?」

 

最後まで言い掛けたその時。ギルの拳が消えると共にラコスポとガマたんの全身という全身に無数の連撃が放たれた。その拳は次々とラコスポとガマたんの身体へ脆い音を響かせながら撃ち込まれていき二人の身体を歪めていく。

 

「ぐべぼらぼがぎぶげぐばぼばへぇ…!?」

 

その乱撃はまだ止まらない。

 

そして 

ラコスポの鼻から血が流れ始め歯も何本か折れた時にはギルは乱舞を止め拳を大きく振りかぶった。

 

「金色の闇だけに手を出すつもりなら放っておいたが…姉に手を出した以上黙ってる訳ねぇだろクソが…!!」

 

 

 

その一言と共にガマたんの腹に拳が突き刺さり、その巨体を遥か彼方へ。そしてその直後に上から落ちてきたラコスポの顔面に向けて拳を放った。

 

「消えろ」

 

その一言と共に標準を合わせたギルの拳が落下してくるラコスポの顔面へと深々と突き刺さると彼の身体をガマたんの後を追わせるかのように空高く吹き飛ばした。

 

「ぐべらぁぁぁ…!!!」

 

拳によって吹き飛ばされたラコスポはガマたん共々、遥か遠くの空へと消えていったのであった。

 

「次来たら冗談抜きで星ごと消してやる」

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

それからラコスポを吹っ飛ばしたギルはカエルやラコスポを殴った手をパンパンと叩きながら振り払う。

 

「…」

 

そんな中、その光景をララの後ろから見ていた金色の闇はゆっくりと立ち上がるとララに目を向けた。

 

「プリンセス…何故、私を庇ったのですか…?」

 

「え?」

 

尋ねられたララは首を傾げると、何事もないかの様に答えた。

 

「だって悪いのはラコスポだもん。ヤミちゃんが襲われるのはおかしいでしょ?」

 

「や…ヤミ…ちゃん?」

 

唐突に自身をコードネームから取った安直な名前で呼ばれた事で金色の闇は首を傾げる。

 

「そ。ヤミちゃん。その方がいいでしょ?それにヤミちゃんは可愛いんだし」

 

「か…かわいい…ですか?」

 

今まで“たった1人”からしか掛けられた事のない言葉を再び掛けられた事に金色の闇は驚くと共に頬を赤く染める。

 

「あれ?どうしたの?」

 

「あ…いや、そう言われたのは凄く久しぶりですので…」

 

そんな時だった。

 

「おい」

 

「!?」

 

突然と肩を鳴らしていたギルが金色の闇の前に現れた。相変わらず鋭い目を向ける彼は着用していたロングコートを脱ぐと金色の闇の肩へと被せた。そのコートは所々に穴が空いているものの、丈が長いために全身の服がはだけ、裸も同然の金色の闇の身体を覆い隠した。

 

「え…なぜ…」

 

「そんな格好で歩かれたら岡っ引きにとっ捕まるだろ。これやるから今日はとっとと帰れ」

 

「…」

 

服の中に残るは微かな温もり。その温もりを感じた金色の闇は昔のある記憶を思い出した。

 

そんな中だった。

 

「な…なぁ。俺の疑いも晴れたからさ。もう大丈夫だよな…?」

 

「確かに。今回はラコスポのバカのでっち上げだからな」

 

リトが恐る恐る金色の闇へと尋ねる。その質問はイエスとも言えるだろう。今回は虚偽の情報を伝えたラコスポによる陰謀。情報が違えば標的では無くなるはずだ。

それについてギルも頷き金色の闇へと目を向けた。

 

それに対して金色の闇は何と首を横に振る。

 

「………いえ…一度依頼されれば必ず達成する事が私のモットーです…」

 

そう言い金色の闇は立ち上がるとコートの前のボタンを止めリトに目を向ける。

 

「結城リト…貴方を仕留めるまで私はここに滞在する事に決めました」

 

「なぬぅぅぅ!?」

 

「へぇ」

 

その答えにリトは目を飛び出す程まで驚くものの、その横ではギルとララが嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

「やった〜!ヤミちゃんとまた一緒にいられるんだね!今度遊ぼうよ〜!」

 

「滞在するなら組手の相手もしてくれよ」

 

「ちょっと待てお前ラァァァ!!こんな時だけ意気投合すなぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 



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ルンレンレンルン

 

金色の闇との騒動が開けてより1週間。

 

今日もギルはララやリトと共に登校していた。もうすぐ新学期が始まるがまだ一年である皆は特に表情に変化はない。

 

「ふわぁ…」

 

「疲れてるのか?」

 

「あぁ…。古手川が苦手な分野があるって言ってたから夜遅くまで教えてたんだよ…」

 

そう言いギルはLINEの連絡画面を見せた。そこには深夜まで数時間に渡り通話した記録が残っており、地球の機器をアッサリと使いこなすその順応速度にリトは苦笑する。

 

「順応早いな…それにお前も勉強が得意だったなんて…」

 

「あぁ。学びは嫌いじゃないからな。それに教えた方が俺も伸びやすい」

そう言いながらギルは再び大きくあくびをする。それを見ていたリトはララを見た。

 

「そ…そういえばララも勉強得意だよな…?」

 

「うん!最初は分からなかったけどちょっと見れば慣れちゃうよ!」

 

「だぁぁ!!!何か複雑だぁぁ!!!」

 

 

それから3人は学校へと到着したのだった。

 

 

だが、そんな光景を校舎の窓から覗く影があった。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーー

 

時は進み昼休み前の3時限目。

 

 

「よっと。ほ〜らリト」

 

「おぅ!!!」

 

体育でサッカーの練習をしていたリトはギルからパスされたボールを足で受け止めると、目の前に佇むゴールに向けて思い切り脚を振り回した。

 

 

「うぉりゃあ!!!」

 

 

蹴り飛ばされたボールは勢いをつける事なく、何故か高くポーンと、ゴールとは明後日の方向へと飛んでいった。

 

「なぁ!?どこに蹴ってんだよ!?」

 

「悪い!!ちょっと取ってくる!!」

 

猿山に手を合わせながらリトはそのままボールを追っていく。

 

一方で、蹴り上げられたボールはゆっくりと落下していき____

 

 

_____渡り廊下を歩いていた女子生徒の顔面へとクリーンヒットしてしまった。

 

「なぁ!?おい大丈夫か!?」

 

偶然にもその現場を見てしまったリトは責任を感じ、安否を取る前に女生徒を担ぎ、保健室へと向かったのであった。

 

ーーーーーーー

ーーーー

 

その後、保健室へと着いたリトは、担当医である御門に経緯を話すと共に彼女を診てもらった。その結果、軽い脳しんとうと判断され、安静に寝かせるという結果となった。

 

診察が終わると御門は職員室へと向かい、リトは彼女が目覚めるまで側にいるべく保健室で待機していた。

因みにリトが助けた少女は普通の女子生徒とは全く異なり、小柄な身体であるが、あまり見られない桃色の髪を後ろに流し、ふっくらとした唇と大きな目が特徴的な大変美しい美少女であった。

 

すると

 

「…んん…?」

 

その女子生徒の目がゆっくりと開き、それを見たリトは驚きの声を上げながら駆け寄った。

 

「気がついた!?」

 

「…」

 

「えっと、その、俺のボールが当たっちゃったんだ!ほんとごめんな!俺のミスで…」

ゆっくりと上半身を起こした女子生徒にリトは何が起きたのかを説明すると共に謝罪をする。

 

だが、その少女は何故か輝く瞳をずっとリトへと向けていた。

 

 

「あれ…?どうかした…?」

 

 

リトは恐る恐る尋ねる。

 

 

その瞬間

 

「リートく〜ん!!!」

 

「うわぁ!?」

 

少女はパァと顔を明るくさせると、自身の名前を呼びながら抱きついて来た。彼女の高校生にしては豊満な胸が押し付けられた事でリトは顔を真っ赤にさせるが、少女は気にする事なくその身体を押し付けてきた。

 

「うれしい!やっと二人っきりになれたね!!これでやっと気持ちが伝えられる!!」

 

「はぁ!?ちょ…待って!!気持ちってなんだよ!?」

 

リトは咄嗟に彼女から離れ、尋ねると彼女は顔を真っ赤にさせながらも口にした。

 

 

「私…貴方が好き!!私と付き合ってください!!」

 

 

 

『付き合ってください』

 

 

その言葉は思春期真っ盛りな上に生涯において一度も言われた事がないリトの思考を一瞬にして停止させた。

 

「(付き合ってください…?えぇ!?いま告白されたのかぁ!?)」

 

だが、驚く気持ちを抑え込み、今の自身が好いている西蓮寺の顔を思い浮かべる。

 

「あ…あのさキミ…」

 

「分かってる!リトくんには既に好きな人がいる事くらい…でも…」

 

すると、少女は口元を隠しながら瞳を震わせる。

 

「貴方とのキスが今でも忘れられないの…」

 

「えぇ!?」

 

その言葉によってリトの冷静さはすぐさま消し去られた。

 

「き…きききキスって!?俺、キミとキスなんて一度も!!」

 

「…まぁ。覚えてないのも無理ないか…」

リトは手をバタバタさせながら彼女の言葉に疑問を抱き、すぐさま訂正するかの様に言うと、彼女は妖艶な笑みを浮かべながら唇を舐め、ゆっくりと近づいてくる。

 

そして 

 

「じゃあ〜もう一度…♡」

 

リトの身体に自身の身体を預けるかの様に抱きつくと、人差し指で胸元をなぞる。再び身体を押し付けられた事でリトはもはや抵抗する判断さえもできなくなり、そんな隙を狙っていたのか彼女はリトの頬を挟み込むとゆっくりと唇を近づけていった。

 

「リト君…♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時であった。

 

「真昼間から何やってんだ?クソアマぁ」

 

「ふぎゃぁ!?」

 

背後から一人の影が現れると共に口付けをしようとした少女の頭を掴んだ。それによって少女は悲鳴を上げ、その悲鳴に正気を取り戻したリトは少女の頭を掴む影へと目を向けた。

 

「ギル!?」

 

「よぅ」

それはなんとギルであった。

 

「私もいるよ〜♪」

ついでにララも一緒である。

 

二人がいることに驚く一方で、掴まれた少女も自身の背後に立っていたのがギルであると知ると冷や汗を流し始めた。

 

「ぎ…ギル王子…!?」

 

「久し振りだな『ルン』」

 

ギルを見た途端にルンと呼ばれた少女は先程のときめいた表情は何処へやら。一気に顔を青ざめ、脚をガクガクと震わせた。

 

「えっと…いつからそこに…?」

 

「リトが戻ってこねぇから呼びに来たんだよ。それよりも、王族がこんな真昼間から性交渉だぁ?少しは場を弁えれねぇのか?」

 

「な…なによ!私よりチビのくせに!!」

 

「あ"ぁ…?」

 

その言葉によって、ギルの額に青筋が浮かび上がると、ギルは恐ろしい笑みを浮かべ上げる。

 

「俺が一番嫌いな悪口をキッパリと言うたぁ良い度胸じゃねぇかぁ…?成長したなぁ…!!」

 

「にゃぁぁぁ!!!!」

笑みを浮かべたギルのルンを掴んでいた腕の力が増し始め、彼女の悲鳴が響き渡る。

 

「ちょっと!!女の子にこんな…ぴぎゃぁぁぁ!!!!」

 

「何だってぇ…?よぉ〜く聞こえなかったなぁぁ〜!!!」

 

「ひぃいい!!!それ以上力入れないで!!ごめん!!!ごめんなさい!!謝りますから許してください皇子!!魔王!!いや大魔王ギル様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー

 

それから無事にギルから解放されたルンはベッドの上で荒い息を吐いていた。先程の光景をララと共に目にしていたリトは不思議に思いギルとララへと尋ねた。

 

「えっと…知り合いなのか?」

 

「ん?あぁ。それにお前も一度は会ってるだろ」

 

「え?」

 

ギルから返された言葉にリトは尚も理解できずララへと目を向けると彼女もギルと同意見なのか、うんうんと頷いていた。

 

「まぁ、分からねぇだろうな。取り敢えず……と」

 

「ぐぇ!?」

 

すると、ギルはティッシュを一枚取り出し先端部分を纏めると、下を向いていたルンの顔を掴み、無理やり上げると鼻の穴をくすぐった。

 

「ちょ…!?へ…へぇ……くしょんッ!!!!」

 

 

 

その瞬間

 

 

 

その姿は以前、リトと一悶着起こしたレンとなってしまった。

 

 

「えええええ!?」

 

「うわぁぁぁ!!!なんでこんな時にぃぃ!!!」

 

突如としてレンに戻った事にリトが驚きの声を上げる一方で、女子の制服を着ていたレン自身も驚き、すぐさまスカートの裾を掴む。

 

「あ!!」

そんな中、彼は内側から見ていたのか、近くに立っていたギルを睨みつける。

 

「ギル貴様ぁ!!!よくも僕の妹に…」

 

そう言いレンはギルに向けて殴りかかろうとするが_____

 

「じゃあ妹の教育ぐらいちゃんとしろやボケェ!!」

 

「べふぅ!?」

 

____見事に殴り飛ばされ返り討ちとなったのだった。

 

 

それから戻ってきた御門からレンとルンの正体がメモルゼ星人であり、彼ら彼女らの特別な性質を教えられたリトは、その性質を用いて再びルンに戻そうと胡椒を手に持つララにレンが追いかけられているシュールな光景を、先程のルンと重ねながら複雑そうに見つめていたのであった。

 

 



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宇宙の帝王の襲来

AIで主人公を描いてみました。
【挿絵表示】


まじでpix aiが楽しすぎます…


 

金色の闇との騒動から数週間が経過した。闇ことヤミはそれ以来、彩南高校の図書室に出入りし本を読み漁っているようだ。彼女曰く読書は嫌いではないとの事。

 

だが、彼女はこの高校の学生ではない。明らかな部外者である。それを古手川は見過ごさなかった。

 

「……」

いつものように中庭に設置されているベンチに腰を掛けながら読書をしているヤミを見ていた古手川は頭を悩ませる。

 

「う〜ん…あの子の事もそうだけど…もっと心配なのは…もし校長に見つかったら…」

 

「その心配はないようですよ」

 

「え?」

 

同伴していたギルの声に古手川がもう一度目を向けるとそこにはヤミにボコボコにされている校長の姿があった。

 

「ほら」

 

「た…確かに…」

 

そんな時であった。

 

「…ん?」

 

遠くの影から御門がひょこっと顔を出し、何やら手招きをしていた。その様子を見たギルは軽く舌打ちする。

 

「古手川さん。俺は少し用事を思い出したのでこれで失礼します」

 

「え?えぇ…今日もありがとね」

 

ーーーーーーーー

 

古手川と別れたギルは手招きした御門の元へと向かう。

 

「お邪魔だったかしら?」

 

「別に。それよりもなんだ?たい焼き女の事か?」

 

「違うわ。近々、貴方やララさんにお客さんが来るらしいの」

 

御門が首を振り、要件に答えるとギルは首を傾げる。

 

「客だぁ?俺に客なんて殺し屋か犯罪集団ぐれ__」

 

 

その時であった。

 

ドガァァァァンッ!!!

 

 

「「!?」」

付近のテニスコートから巨大な破壊音が響き渡った。更にその余波によって保健室の窓ガラスも割れ周囲に破片が飛び散る。

 

それと同時に御門とギルはとてつもなく巨大な殺気を感じ取った。

 

「この気配…まさか…!!」

 

「えぇまさかよ。……行くのかしら?」

 

「勿論だ…!!!」

 

周囲に破損した器具やガラスの破片が飛び散る中、ギルの表情は今までに無いほど歓喜に満ち溢れていた。

 

 

そして ギルはその場から駆け出すと一気にテニスコートまで駆け出す。

 

見ればそこには直立しながら気絶している顧問とそれを心配している女子部員達がいた。

 

いや、それだけではない。その光景を見つめながら高笑いする小さな子供の姿があった。

 

その子供はやや釣り上がった目に加えて耳元には複数のピアスをつけていた。

 

「…!!」

その風貌を目にした瞬間 ギルの体内に流れるデビルーク星人の闘争本能が呼び覚まされ、血が湧き上がる。

 

「久しぶりだなぁぁ!!!」

 

「ほぅ?その声は…」

 

ギルが叫びながら全身から黒色のオーラを纏い叫ぶと、その少年は振り返り、ギルと同じ満面の笑みを浮かべると共にオーラを放ち始める。

 

 

 

そして

 

「親父ぃいいい!!!!」

 

「よぅバカ息子ぉおお!!!!」

二つのオーラがその場で重なり合い、一瞬にして空へと飛び上がると彩南町から消え去った。

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

上空へと飛び上がったギルと、彼の父親『ギド・ルシオン・デビルーク』は太平洋のど真ん中へと移動し、互いに拳を打ちつけ合っていた。

 

「よぅ元気そうじゃねぇかぁ!!相変わらず血の気が多い奴だ!更に強くなってくれてパパは嬉しいぜぇ!!!」

 

「親父も相変わらずだなぁ!!女と酒混んでっから鈍ってんじゃねぇかと思って心配してたんだぜ!!」

 

互いに言い合いながら二人の拳は次々とぶつかり合い、周囲の海を消し飛ばすだけでなく空気を振動させていき、周囲に次々と衝撃音が鳴り響いていった。

 

「そらぁぁぁぁあ!!!!」

 

「うらぁぁぁぁあ!!!!」

 

次々と2人の拳が激闘する。その激しい力がぶつかった瞬間 強烈な風が発生し、辺りに被害をもたらす。

拳をぶつけた2人は、その場から後退すると、オーラを纏い、螺旋状の軌跡を描きながら次々と激突する。

 

「ヴォオオオオオ!!!!!」

 

「ハッハァァッ!!!」

 

獣のような雄叫びを上げながら連続の乱舞を叩き込むギル。それに対し、ギドも笑いながら両腕で次々と拳を放つ。

 

互いの拳と拳がぶつかり合い、次々と発生するその衝撃はもはや空気のみならず、大気をも揺らし周囲を振動させていった。

 

 

 

そんな中であった。

 

「いきなりだが、パパから愛する息子へのアドバイスだ」

 

ギルの放った拳を突然とギドは避け、彼の懐へと一瞬にして入り込んだ。

 

「な!?」

 

「俺の心配をするなんざ〜……」

 

一撃を避けられたギルは咄嗟に拳を戻そうとするが、既に遅く、ギドの拳が放たれていた。

 

 

「百年はえぇんだよぉおおお!!!!青二才がぁああ!!!!」

 

 

 

____!!!!

 

その言葉と共にギドの拳がギルの腹へと深く突き刺さると共にその場に鈍い音が鳴り響く。

 

「がぁ…!!」

 

「ヘッ。テメェもまだまだだな」

 

その痛みに耐えきれずギルが胃液を吐き出す中、ギドは笑みを浮かべたのであった。

 

 

その時であった。

 

 

ガシッ

 

「うぉ!?」

 

突如としてその突き出されていた拳をギルの腕が掴む。

 

「久しぶりの痛みだぁ…!!!」

 

その言葉と同時にギルの全身からドス黒い血の様なオーラが溢れ出し、目玉は黒く、そして虹彩は真っ赤に染まっていった。

 

それを見たギドは額から冷や汗を流す。

 

「おいおい…コイツは予想外だぜ…!!」

 

 

ギドが驚嘆する中、黒色のオーラを纏ったギルはもう一方の拳を握り締めると、ギドへと向けて放った。

 

「喰らえ…ッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

その瞬間______

 

 

 

_________周囲一帯が閃光に包まれたと同時に大爆発を起こすのであった。

 

 

ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー

 

ギドとギルが飛び立つと先程まであった重い空気が嘘のように晴れた。

 

その後、ザスティンから知らされたのかリトもようやくテニスコートにいた子供がララとギルの父親である事を知った。

 

 

そして、そのギドから通信が入り、屋上へと指示された事でリトやララは勿論だが、彼らを心配した西蓮寺と御門も同行し、その場に向かった。

 

 

 

 

屋上へと着き、彼らが戻ってくるのを待っている中、リトは先程、ギドへと向かっていったギルのことを思い出しララに尋ねる。

 

「なぁララ…ギルって毎日、デビルーク王と喧嘩してたのか?」

 

「うん。仲は悪くないんだけど…その喧嘩が凄すぎてね。喧嘩だけで星が一個滅んじゃった時があったの」

 

「嘘だろ!?喧嘩だけで!?」

 

 

「あれ如きで喧嘩なんて笑わせんな」

 

リトが驚きの声を上げた直後であった。先ほどの威圧感が再びこの場に満ちる。

 

それを感じた一同が上空を見上げると、そこにはボロボロになったギルを掴んでいるギドの姿があった。

 

「ギル!!」

 

「ったく。親の手を煩わせやがって」

 

リトが叫ぶ中、ギドはギルをその場に立っていた御門へと投げ渡す。

 

「ほらよ。バカ息子がいつも世話になってるぜ」

 

「どうも。随分と手厚いしつけだったのご様子ね?」

 

「まぁな」

投げ渡されたギルを抱き止めた御門は、やはり警戒しているのか、いつもの優し気な笑みが消え去り、冷や汗が滴る神妙な顔つきとなっていた。

 

そんな中で、ギドはララへと目を向けた。

 

「ザスティンから聞いてるはずだぜ。なぜ俺がここへ来たのかを」

 

「…!!」

 

その言葉にララは驚き、ギド自身もその表情からララも理解しているのか、目的を口にした。

 

「俺の後継者…つまりお前の結婚相手が決まったからだ!」

 

そう言い彼の目が彼女の横に立っているリトへと向けられた。

 

「相手はお前『結城リト』だ」

 

「俺!?なんでいきなりそんな!?」

 

突如として指名されたリトは驚きのあまりギドへと尋ねる。尋ねられたギドは答えた。

 

「いきなりじゃねぇだろ。ザスティンからお前に関する報告は定期的に受けていた。それを考えてだ。軟弱な地球人に任せるのは気が引けるが、まぁララの意見を尊重したんだ。そういうわけで頼むぜ?後継者」

 

「えぇ!?ち…ちょっと待って!!俺は…」

 

ギドから指名されたリトは思わず頭の中で、自身の想い人である西蓮寺の事を思い浮かべた。

 

ララと結婚すれば宇宙の帝王となるが、そうなれば西蓮寺とは会えなくなる。だが、ここで断れば彼の気に触れることとなり、間違いなく地球が終わる。

 

世界の命運を背負っていたために、その選択はまだ精神が幼いリトにとっては険しく、簡単に出せる答えではなかったのだ。

 

 

 

だが、ギドにそんな甘え…否、異議申し立てなどは通じない。

 

「まさか嫌だってぇのかぁ…?れ

 

 

その瞬間 彼を中心にコンクリートの床に亀裂が走り、全身に稲妻が迸る。

 

「前に言ったよなぁ…?俺の期待を裏切ったら地球ごと潰すってよぅ…!!今は抑えてるが、力を解放すりゃあこんな星なんざ簡単に壊せるんだぜぇ…?」

 

「う…ぅ…」

 

ギドの言葉と共に空が揺れ始める。迫り来る選択にリトの表情はだんだんと青く染まっていくのであった。

 

 

その時だ。

 

 

「パパ!」

 

今まで黙っていたララがリトを庇う様に前に立った。

 

「私は_______

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

ーーーー

 

その後、ララの説得を受け、ギドは話を保留にし地球を去ったのであった。

 

そして、ギドとの戦闘で気絶していたギルはギドが去ってから数時間後の放課後にようやく目を覚ました。

 

「…ん?」

 

「あら、目が覚めた?」

 

目を覚まし、保健室の天井が映り込んでくると同時にすぐ側から御門の声が聞こえると、ギルは布団から身体を起こし周囲を見渡した。

 

「保健室…か。俺は…」

 

「デビルーク王と戦って負けて気絶してたのよ。

 

「そうか…なぜ俺はここに?」

 

「“私が”運んであげたのよ。わ・た・し・が」

 

「いちいち強調してんじゃねぇよ。どんくらい眠ってた?」

 

「4時間。その間にデビルーク王は帰っていったわ」

 

そう言い御門はベッドに座ると、額に手を当てたり聴診器を胸元に当てたりなどして、体調を検査した。

 

「…うん。異常はないわね」

 

ギルの身体の診察を終えると、保健室に置かれている冷蔵庫からエネルギーゼリーを取り出した。

 

「はい。これしか出せないけど飲んでいきなさい」

 

「…あぁ恩に切る…」

 

渡されたゼリーをギルはお礼を言いながら受け取った。

 

「それと…」

 

「ん?」

 

すると 御門はギルの背中に手を回し優しく抱き締めた。

 

「もう無茶はやめなさい」

 

そう言い彼女の手がギルの頭を優しく撫でる。その感触にギルは何の反応も見せる事なく、ただゆっくりと頷いた。

 

「あぁ…」

 

「貴方がいないと危険な星の薬草が手に入らないから」

 

「やっぱそういう事かテメェ」

 

 

その後、ギルは保健室を後にし、帰宅したのであった。

 

 



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久しぶりのデビルーク星

冬の普段着のギルくん

【挿絵表示】



 

 

ララやギル達がリトと出会ってから約一年。もう彼らは一年生ではなく、二年生へとなろうとしていた。

 

そんなある日の事。ギルは地球から遠く離れた星『デビルーク星』の王宮へと来ていた。

 

「…」

周囲には西洋を思わせる大理石で作られたかの様な豪華な柱やシャンデリア、そしてその近くのガラス張りの壁から見えるのは優雅に泳ぐ魚達の姿が見える大きな噴水である。

 

そして、その光景が見える大きなテーブル席の中でギルは手慣れた手つきでナイフとフォークを使用して料理を食べており、彼の目の前には、露出の多い服装をした妖艶な雰囲気を漂わさる女性が座っていた。

 

 

その場面を見たら誰でも分かるだろう。そう。これは『お見合い』である。

 

ギルは数ヶ月に一度、王位を継がずとも、正妻を得るためにこうしてお見合いに参加させられているのだ。ギルは男性としての魅力は微量だが、強大な力に加えてデビルークの王家の血筋を持つために、銀河中からの女性の人気は高い。

 

中でも今回の見合いの相手は宇宙でも5本の指に入る程の美しい容姿を持つ異星人『ビュティフル星人』の王族である。

 

 

だが、そんな美しい容姿にギルは唆るどころか、見向きもしなかった。

 

「(久々のデビルーク星の料理だが…何故か地球と似てるな…)」

 

そう言いギルは花より団子を体現するかの様に女性ではなく、久方ぶりに食べる料理をゆっくりと噛み締めていた。

 

 

すると

 

「さて、ギル様。私との婚約…どうかご一考いただけないかしら?」

 

向かい側の席に座る女性型の異星人が煌めく瞳を向けながら問いかけてきた。それに対してギルは首を横に振る。

 

「結婚か?断る」

 

「あら。噂通りお堅い人ね」

 

ギルが断ると女性は分かっていたのか、フォークを置いて頬杖をつき、見上げる様にしながら妖艶な目を向けた。

 

「私なら…貴方を満足させてあげられるわよ。朝も昼も…そして夜だって…♡」

 

そう言いその女性は豊満な谷間を強調するかの様に胸元の衣装を指で少し引っ張り、素肌を見せる。

   

その艶やかな唇に加えて妖艶な瞳、そして魅惑的な身体。男としての欲求だけでなく、女性からの憧れも詰まったその身体は誰もが目を奪われるものであり、普通ならば誰もがその容姿に心を許し、どんな要求でも受け入れてしまうだろう。

 

それこそがビュティフル星人の特徴であり、彼女はその特性を最も濃く残していた。

 

 

だが、そんな美女の誘惑を前にしていたギルの表情は_____

 

「さっきから肌をチラつかせやがって……舐めてんのか?」

 

____苛立ちを見せていた。

 

「!?」

 

その表情と、自身に向けられた殺気に女性は驚き、すぐさま手を引く。

 

その一方で、女性を威圧したギルは食べ進めていた手を止めると、その鋭い目を彼女へと向ける。

 

「俺はテメェの様な容姿だけが取り柄のやつなんざ興味ねぇ。増してや色目使ってくるアマなんざ死んでも御免なんだよ。どうせ俺の妻になりてぇのも地位も名誉が目当てなんだろ」

 

「あら…何を言って____」

 

「予想つくんだよ。なぜ俺を身体的魅力で落とそうとする?確かに性的欲求を湧き上がらせて落とすのは手の一つだが、お前のは露骨すぎるんだよ。さっきから足を組むわ唇を見せびらかすわ胸を見せるわ、重点的すぎて飽きるどころか腹が立つ。それに、ビュティフル星人には容姿を利用した詐欺師も多いからな」

 

「ぐ…ぬぬ……!!」

 

ギルがそう告げると婚約者である異星人は見事に見透かされていたのか、机を叩き立ち上がる。

 

「何よ!!この美しい私の目に掛かったんだから……ひぃ!?」

 

「テメェ…その考えになる時点で王族になるのがどういう事か分かってねぇようだな…?」

 

相手の女性が苦情を口にした瞬間 ギルは鋭い瞳で睨みつける。

 

「いいか?俺達王族が生きれてんのはそれを支える下っ端の奴らがいるからだ。支えてくれる奴らの面倒を見て動かす采配力と、もしも反逆してきた際に捻り潰す力がなけりゃ王国なんて成り立たねぇんだよ。そして王家の夫妻にはそれがいずれか必要になってくる。だから婚約者選びは大変なんだよ。だが、見るからにお前にはそれが見当たらない。政権握ってやりたい放題したいっつうのが予想できるんだよ。そんな奴に嫁に来て欲しいわけねぇだろ?」

 

そう言いギルは淡々と言い放つと、置かれていたコーヒーを口にし、最後の一言を放つ。

 

「女好きのクソ親父なら相手にされるかもしれねぇが…俺はそう簡単には行かねぇぞ…?身体的魅力しか無い奴に俺は全く興味がねぇ。というか交流も何もねぇやつと絶対結婚しねぇ」

 

「く…」

 

ギルからの指摘に女性は返す言葉もないのか、歯を食い縛ると、席を立った。

 

「じゃあいいわよ!!!アンタの様なチビ男なんか初めから興味なかったし終わって清々するわ!!」

 

そう言い女性は勢いよく立ち上がると同時に鼻を鳴らしながら部屋を出て行こうとした。

 

 

 

 

 

 

その時であった。

 

 

「おい…ッ!!!」

 

「!?」

 

突如としてその場に響いたギルの怒声と共にその場一体を超巨大な殺気が覆った。

 

それによって周囲の空間が揺れ始め、ゴトゴトと音を立てる。

 

 

そんな殺気の中心地に立っているギルの目の前に立っていた女性はあまりにも唐突すぎる殺気に驚き、その場に腰を抜かし涙を流していた。

 

「な…なによ…なんなのよ一体!私を殺そうっての!?」

 

「違ぇよ」

 

女性の訴えに首を横に振ったギルは目の前のテーブルに置かれている皿の上にある料理へと指を向けた。

 

「まだ料理残ってんだろ…?自分で頼んだなら…責任もって食え…ッ!!!」

 

「〜!!!」

 

その後、気まずい雰囲気の中、女性は涙を流しながらせっせと食事を食べ終えると、逃げるようにして帰っていったのであった。

 

 

 

こうしてギルのお見合いは幕を閉じた。

 

ーーーーーーーー

 

それからお見合いが終わるとギルは気だるそうにしながら宇宙船の発射場所へと向かっていた。

 

すると

 

「兄上〜!!!」

 

「お兄様〜!」

 

王宮の廊下の影から飛び出し、駆け寄ってくる二つの影があった。その影はすぐさま近づいてくると両手を広げながら抱きついてくる。

 

「あぁ、久しぶりだな」

 

抱きついてきた影を受け止めたギルは頭を撫でながら名前を口にする。

 

「ナナ、モモ」

 

そう言うと、長い髪を左右で結んだ吊り目の少女『ナナ・アスタ・デビルーク』は顔を真っ赤にし笑みを浮かべながら頬を擦り寄せる。

 

「兄上〜!やっと会えたな!心配してたんだぞ!」

 

「そうですよ!私はともかく…ナナったら毎晩毎晩 兄上兄上ってず〜っと泣いて__」

 

「う…うっせぇ!!泣いてねぇよ!!お前だってお兄様お兄様ってず〜っと言ってたじゃねぇか!!」

 

「な…何のことかしらねぇ〜?」

 

そう言い二人は取っ組み合いを始めてしまい、そんなやり取りを見ていたギルはやや笑みを浮かべた。

 

この二人のうち、ツインテールの少女を羽交締めにしているのが『モモ・ベリア・デビルーク』で、タップをしている少女『ナナ・アスタ・デビルーク』の双子の妹なのである。

 

「…変わらねぇな」

 

彼女らに会うのも久しぶりなためにギルはその様子を懐かしむかのように見つめていた。

 

 

すると

 

「そうねギル。あなたの言うとおり二人はまだまだ子供よね」

 

「ぎく!?」

 

背後から艶やかな声が囁くと共に両手が力強く肩に置かれ、今まで無表情であったギルの表情は一変し、額からは冷や汗を流すと共に身を震わせる。

 

「そ…その声は…」

震えた声を上げながら振り向くと、そこには

 

「か…母さん…」

 

この世のものとは思えないほど美しく、絶世の美女と呼ぶに相応しい女性が立っていた。

 

『セフィ・ミカエラ・デビルーク』

 

ララやナナ、モモ、そしてギルの母親でありギドの妻である。

 

ギルの肩へと手を置いたセフィはニッコリと笑みを浮かべながらギルを見下ろす。

 

「お父さんからず〜っと聞いていたわよ…?だけど連絡は通信と手紙だけ…ママがどれほど心配したか…分かっているのかしら…?」

 

「ひぃ…!!」

その声はとても低く、聞いた人全員がこの人は怒っていると確信出来る程のものであり、ギルは咄嗟に口を震わせながら頭を下げる。

 

「ご…ごごご…ごめんなさい…!」

 

「あら…?誰が謝罪なんて要求したかしら…?」

 

「い…いや…あの…」

 

顔の影を濃くしながら迫ってくるセフィの圧にギルは耐え切れないのか冷や汗を流しながら目を逸らす。

 

 

それからしばらくして__。

 

 

「………はぁ。やっぱりギルもあの人の子ね」

 

その様子にセフィはため息をつきながらも、優しく笑みを浮かべながらギルへと尋ねる。

 

「ララは元気?」

 

「う…うん…」

 

「そう。もう帰るの?」

 

「明日…学校だから…」

 

「はぁ…久しぶりに一緒に過ごしたかったけれど…しかたないわね」

 

ギルが頷くとセフィはやれやれと首を横に振りながらもギルを抱き締めた。

 

「時間が空いたらいつでもいいから帰ってきなさい。ララも連れてね?」

 

「…!!」

 

優しく包み込む抱擁と落ち着きのある声、そして久しぶりに感じる母の温かい温もりにギルは驚くと共に瞳を震わせながらセフィへと抱きつくようにして腕を回し身を寄せた。

 

「うん……母さん…」

 

その目からはいつもの鋭さが抜け、まるで母に甘える幼子のような目へと変わっていた。

 

「兄上は本当に母上が大好きだな〜!」

 

「う…うるせぇぞナナ!」

 

「でもそこが可愛いところなんですよね〜♪」

 

「お前も便乗すんじゃねぇモモ!!」

 

二人の揶揄う声に顔を真っ赤にさせながら返すギルにセフィは笑みを浮かべながら頭を撫でる。

 

「宇宙船の用意ができるまで教えてちょうだい。貴方やララの生活や…ララの婚約者のことを。色々と知りたいわ」

 

「あ!私も私も!」

 

「私も興味あります!」

 

 

「わ…わかったよ…」

 

 

それからギルは少しの間ばかりだが家族との時間を過ごすと、その後は皆に見送られながらデビルーク星を後にしたのであった。

 

 

その際にナナとモモが悪い表情を浮かべながら何か話し合っていたのはまた別の話である。

 

 

 

 



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二年生へ

 

 

桜舞う通学路。多くの社会人や学生などが行き交う道をギルはリト、ララと共に歩いていた。

 

「なぁギル。お前しばらく見なかったけど何してたんだ?」

 

リトから尋ねられたギルは地球から戻ってからしていた事について思い出し答えた。

 

「御門の家でテレビ見てた。そしたら熊を駆除した際に熊に遭遇した事もねぇ県外の奴らがゴチャゴチャとクレーム入れて業務妨害したニュースがあってな。そんでその苦情入れる奴らの正当性と不当性について御門と考えてた」

 

「すまん…何言ってるか分からん…」

 

「結局出てきた答えが『そもそも専門的知識のいる危険な仕事に知識どころか、行動も起こさない、ましてや県の住民でもない奴らが『可哀想』だのなんだの綺麗事並べながらゴチャゴチャと外野から口にするのは関係のない第三者目線からのクレームという不快極まりない行為であり、業務妨害にあたる故に正当性は全くない』と言うようになった」

 

「だから何を言ってんだよ!?」

 

「そんで、御門と話してたら、北海道で働いてる知り合いの宇宙人から丁度、電話が来てその愚痴を聞かされてな。逆探知が得意な知り合いも呼んで、掛けてきた奴を20人ぐらい特定して捕まえて腹を空かせた熊が出る野山に」

 

「もうやめろぉおおお!!!」

 

「しかもそれが結構面白くてな。ソイツら熊殺すなとか可哀想とか一丁前に言ってた癖にいざクマの前に立ったら助けてくれ〜!とか早くこの熊殺せ〜!!とか、逃げ惑いながら___」

 

「やめろって言ってんだろーがぁ!?」

 

「最後の最後に頭噛み砕かれる前に熊気絶させたら大泣きして『熊怖ーい』って。それがマジでツボにな___」

 

「わぁー!!!わぁーわぁー!!!!」

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

それから通学路を歩き3人は学校へと到着した。

 

見れば昇降口には新しいクラスが割り振られた紙があり、皆は自身がどのクラスの子と一緒なのかワクワクとしながら見ていた。

 

「リトとギルが一緒だといいな〜!」

 

「そうだな。離れてちゃ、制止できねぇし」

 

そう言いながらギルはララとクラス表を覗くと、そこには同じクラスの欄にギルとララとリトの名前があった。

 

それを見たララは満面の笑みを浮かべるとリトに抱き着いた。

 

「あ!あったよ!!二年生も一緒だね〜!」

 

「おい!?人前で抱きつくなよ!?」

 

「俺も安心したよ。……ん?」

 

そんな中で、ギルは何か気になる名前を見つけたのか、もう一度クラス表を見る。

 

そこには自身と交流のある女子生徒の名前があった。

 

「コイツは…」

 

すると

 

「貴方達!朝からこんな人前でイチャつくなんてハレンチよ!」

 

背後から凛とした声が響く。その声に驚いたリトやララ、そしてギルは振り向くとそこには古手川の姿があった。それを見たララは目を輝かせる。

 

「あ!唯だ!」

 

「き…気安く名前で呼ばないで!1学年では好き勝手にやっていたそうだけど、私が同じクラスになったからにはそうはさせないわよ!」

 

「えぇ!?俺達がなにを!?」

古手川から指を向けられたリトが驚き尋ねると、彼女は顔を真っ赤にさせながら答える。

 

「惚けても無駄よ!!私は全部見ていたんだから!そ…その…廊下で裸になったり…」

 

「そ…それはララの…」

 

それに対してリトはララの発明品が原因である事を思い出し、咄嗟に声を出そうとするも、彼女はララの尻尾へと目を向けていた。

 

「やっぱりギルくんと同じ…尻尾が生えているのね…」

 

「え?あ〜この尻尾は…」

 

ララが尻尾について説明しようとした時であった。

 

「本物の尻尾なんでしょ〜?宇宙人だもんね〜♪」

 

「ひやぁ!?」

 

背後から同じクラスである籾岡と沢田が現れ、ララの尻尾をやらしい手つきで触り始めた。それによってララは顔を真っ赤に染め上げる。

 

「え…宇宙人…?」

 

「あ!いやその…」

 

驚く古手川に対してリトは咄嗟に説明しようとするが、籾岡は続けるようにララの尻尾を触りだす。

 

「そしてこの尻尾は〜弱点なんでしょ〜♪」

 

「ひょわぁ〜!!」

 

それによってララは顔を真っ赤に染め上げながら喘ぎ声を上げ、それを聞いた古手川は顔を真っ赤に染めた。

 

「ち…ちょ!?廊下でなんて声を!?」

 

 

すると

 

「いい加減にしろ」

 

「「ぎゃふん!?」」

 

ララの尻尾を触る二人の頭にギルの拳骨が降ろされ、その場に倒れた。

 

「目の前で喘ぎ声出しながら悶えてる姉の姿を見る弟である俺の気持ちを考えてくれませんかね…?」

 

「あははは!いやぁ〜ギルルンだったらシスコンに目覚めて興奮す___」

 

「する訳ねぇだろアバズレが」

 

「ひど!?」

 

 

そんな時であった。

 

「うぉおおい!結城リトぉおお僕が別クラスとはどういう事だぁぁ!!!」

 

「うぉ!?レン!?」

 

突如として激おこプンプンしながらレンが駆け寄ってくると、涙を流しながらリトの胸ぐらを掴み上げた。

 

「これはきっと裏工作だ!!!お前が根回ししたんだろぉ!!!」

 

「いやいやいやいや!俺じゃねぇって!!」

 

すると

 

「うっせぇ!!!」

 

「「ぎゃふん!?」」

 

「喧嘩なら面でやれ!!」

 

同じくギルの拳骨が二人へと炸裂すると共に、新たなる2学年生活が幕を開けるのであった。

 

ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

そんなこんなで2学年が始まってより数日。ある休み時間にて__。

 

「へぇ?初めて来たけど、随分と使われてないな」

 

「そりゃあ〜旧校舎だからね〜」

 

ギルはリト達と共に旧校舎に侵入していた。事の発端は休み時間の時の沢田や籾岡の幽霊が出ると言う噂話であり、興味を持ったララがリトや西蓮寺、そしてギルを誘った事で今に至る。

 

周囲はとても薄暗く、蜘蛛の巣や傷んだ木材のギシギシと鳴る音が聞こえ、不気味な雰囲気を醸し出していた。

 

 

「そういや…おい、リトは来たことあんのか?」

 

「いや?俺はあんまり…」

 

リトが首を横に振ると今度はギルは西蓮寺へと目を向ける。

 

「青髪デ子は?」

 

「あ…あの…ないけど…そろそろ苗字か名前で呼んでくれないかな〜…」

 

それから四人が進んでいった時であった。

 

 

「……誰かいるな」

 

「「「!?」」」

 

ギルの溢した言葉に皆は驚き、ギルやララの背後に隠れた。

 

「いるのか…!?」

 

「あぁ。この扉の向こうに」

 

リトに答えながらギルは通路の横にある教室の戸へと目を向けた。

 

 

 

すると

 

 

ギシ…ギシ…ギシ…

 

その扉の向こうから何者かが此方へと歩いてくる足音が聞こえてきた。

 

「ひゃい!?ま…まさか本当に…!?」

 

「いや、足音が聞こえる時点で実体ですよ。それにこの気配は…」

 

悲鳴をあげようとした西蓮寺に返しながらギルは扉へと手を掛けた。

 

「お…おいギル!もしかしたら潜伏してる殺人鬼っていうのも…」

 

「いたらいたで八つ裂きにすればいい」

 

「怖ぇ事言うなよ!?」

 

 

そしてギルはゆっくりと扉を開けた。

 

 

ガラガラガラガラ

 

扉を開けると共に光が差し込む。そこにいたのは______

 

 

「……あ。プリンスにプリンセス…」

 

殺し屋である金色の闇であった。

 

「あ!ヤミちゃんだ!」

 

「なんだお前か」

ーーーーーーーー

 

その後、金色の闇と再び会ったギルは突然と現れた金色の闇へと尋ねた。

 

「んで、たい焼き女。何でお前がここにいる?」

 

「たい焼き女…?ここには古い蔵書があるので読み漁ってたんです…プリンスこそなぜ大勢でここに…?」

 

「ララから旧校舎の噂を聞いてな。それで___」

 

「わ〜!!」

 

「か〜わぃぃ〜!!」

 

ギルが金色の闇への質問に応えようとすると、それよりも前に後ろで控えていた籾岡と沢田が飛び出して金色の闇に抱きついた。

 

「へぇ!ヤミちゃんって言うんだ〜!!」

 

「肌プニプニ〜!」

 

「いやあの…少し離れて欲しいです……ん?」

 

その時であった。

 

 

ヒュン…

 

「あ…あれ!?」

 

沢田と籾岡から一瞬にして離れた金色の闇は目の前の廊下の先から何者かの気配を感じ取った。

 

「プリンス…」

 

「あぁ。何かいるな」

 

同じくその気配を彼女よりも先に感じ取っていたギルもその先を睨みつけると、威嚇するべく全身から黒いオーラを出す。

 

 

「そこにいる奴出てこい。じゃねぇと旧校舎ごと消し炭にするぞ…?」

 

「うぉぉぉい!?何言ってんだよぉ!?」

 

ギルの殺気混じりに放たれた言葉に咄嗟にリトは突っ込むが、どうやらギルは冗談ではないらしく、目の前の暗闇に向けて鋭い目を向けながら拳を構えていた。

 

 

すると

 

 

「え…?あ…あの…私…だけど…」

 

その気配の主が何やら聞き覚えのある声と共に動き出し、ゆっくりと此方に歩いてきた。

 

その気配の正体は……

 

「…ん?何だ唯か〜!」

 

「な……何だとは何よララさん!!」

 

風紀委員長である古手川であった。

 

「それよりも西蓮寺さん!!クラス委員の貴方がこんなところで何をしているの!?本来なら注意する立場でしょ!」

 

「ひぃ!?ご…ごめんなさぃ…」

 

「全く……ひぃ!?」

 

そんな中で、古手川が振り返り不意にギルと目があった瞬間、全身を震え上がらせた。それもそうだ。あれ程の濃密な殺気を向けられていたのだから。

 

「あ〜」

その気配が古手川であると理解したギルは先程までの表情を一変させた。

 

「なんだ委員長じゃないですか〜そうならそうと言ってくださいよ〜」

 

「いやぁ!!怖い怖い怖い!!情緒どうなってるのよ!?」

 

その変わりように流石の古手川も涙を流しながら絶叫しドン引きするのであった。

 

そんな賑やかな光景を白い人影が朽ちた家具の影から覗いていた。

 

 

 

その一方で、古手川が皆の行動に呆れ果てていると、

 

 

___ミシ。

 

突然と床が軋み始める。

 

「あ…あれ?何か嫌な音が…」

 

「え…?」

 

リトの言葉に古手川は何が何なのか分からず、思わず軋んだにも関わらず、振り返るために数歩動いた。

 

 

 

その時であった。

 

 

ガシャァァァン!

 

 

古手川が一歩を踏み締めたと同時に突然と床の板が崩れ落ちた。

 

 

「え?きゃぁ!?」

 

「うわぁああああ!?」

 

「いやぁあああ!!何これぇ!?」

 

「んあ?」

それによって崩れた場所に立っていたリト、西蓮寺、ララ、古手川、ギルの身体はそのまま下へと落下していった。

 

ーーーーーーーー

 

それから落下した皆の中で、ギルとララは普通に着地するが、リト、西蓮寺、古手川は尻から落ちてしまった。

 

「よっと…大丈夫かお前ら?」

 

「いつつ…な…何とか…」

 

そう言いリトは尻を押さえながらゆっくりと立ち上がる。その際に目の前に下着が取れかかっていた西蓮寺の太ももが目に映り、彼女からビンタをお見舞いされたのはまた別の話である。

 

「それよりも…随分と落ちたわね…」

 

古手川の言葉通り、ギルも周囲を見渡すと、周囲には埃が舞い、先ほどまでいた階層がとても高い位置に見えているため、3階から落ちたものと見られるだろう。

 

「あの…皆と合流してすぐに外に出よう…さっきから『出て行け』って…きっと幽霊の声だよ…」

 

「い…いやいや!幽霊なんて迷信よそんなもの!!」

 

西蓮寺は涙を流しながら提案する。それに対して、古手川は震えながらも必死に言い聞かせるように強く言う。一方で、ギルも西蓮寺と同様に先程からその声が聞こえていたのか周囲を見渡していた。

 

「確かに…さっきから妙な気配がちらほら感じるな」

 

「な…!?ぎぎぎぎ…ギルくん!?幾ら何でも冗談が…!!」

 

「俺はあまり冗談は言いませんよ。増してや______

 

 

 

 

 

______敵意を向けられてる空間では」

 

 

「「「!?」」」

 

ギルの言葉に古手川は勿論だが、リトに手を握られながら立ちあがろうとした西蓮寺、そしてリトは目を震わせた。

 

 

その時であった。

 

 

〜♪

 

「「「「!?」」」」

 

どこからともなくピアノの音が聞こえた。誰もいるはずのない付近の音楽室から聞こえてくるその音にギル、ララ以外の3人は恐怖のあまり更に身体を震わせていった。

 

 

それだけではない。

 

 

 

ゴゴゴゴゴ___!!!

 

「な…なんだ!?天井が揺れてる!?」

 

突然と天井が音を立てながら軋み始めた。その音は益々大きくなっていく。

 

 

 

その瞬間

 

 

 

ガシャァァァン!!

 

 

「「「「!?」」」」

 

先程と同じく、目の前の天井が崩れ落ちると共に一つ目の巨大なタコのような異形な怪物が落ちてきた。

 

「ば…化け物だぁぁ!!!」

 

「あ〜?なんだ、この手の奴か。…ん?」

 

リトが騒ぐ中、ギルはそのタコ型の怪物の触手に金色の闇が囚われている姿を確認した。

 

「おいたい焼き女〜何だその様は〜?その程度の奴すぐに八つ裂きにできるだろ〜?」

 

「うぅ…プリンス…残念ながら私…ニュルニュルには弱く…」

 

「ハッ。宇宙一の殺し屋がニュルニュル嫌いなんざ聞いて呆れるわ」

 

「言ってる場合かぁ!?」

 

リトがギルに突っ込む中、金色の闇と同じく触手に囚われている籾岡や沢田を救出しようとしたララまでもが触手に捕えられてしまった。

 

「な…ララまで捕まっちまった…どうすれば……」

 

 

リトが戸惑う中、彼女らを捕えたタコ型の怪物は鋭い眼光を此方へと向けた。

 

 

すると、ギル達の立つ場所の背後にある暗闇の奥から、更に多くの影が現れた。

 

___ククク…逃さねぇぞ?

 

_生きて帰れると思うなよ…

 

 

その声を耳にした古手川は振り向くと、身体を震わせながらギルにしがみついた。

 

「ギル…くん…!!も…もっと増え…た…!!」

 

「あ〜。分かってますよ」

 

古手川の言葉にギルは最初から気づいていたのか振り返りもせず、答えた。

 

「めちゃめちゃいるんですよね?変な奴らが」

 

そういうギルの背後には、多くの異形な姿をした怪物達が立っており、他の教室からも次々と出てきた。

 

「グハハハ!俺達のナワバリに侵入してきた事を後悔するがいい!!」

 

現れた怪物達はタコ型の怪物と同じく鋭い眼光を向けながらギルやリト、古手川、西蓮寺達を取り囲んだ。

 

「ひぃ…!!そ…そうよ!これはきっと夢なんだわ!そうよ夢よ夢!!」

 

「お…落ち着け古手川ぁ!西蓮寺もしっかりしろ!!おいギル!どうする!?」

 

背後でパニックに陥る古手川を宥め、気絶した西蓮寺を譲っていたリトはどうすれば良いのか自身でも分からずギルに尋ねる。

 

「まぁそうだな」

リトから尋ねられたギルは、この状況下でありながらもまるで何とも思っていないのか、冷静に周囲を見渡しながら答えた。

 

「まずは簡単に謝罪だな」

 

「はぁ!?」

 

リトが驚く中、ギルは前に出る。

 

「お…おい!大丈夫なのか!?」

 

「心配するな。俺に任せろ」

 

そう言いギルはサムズアップすると怪物達に目を向けた。

 

 

「……騒がせてすまなかった。お前達のナワバリとは知らずに勝手に足を踏み入れてしまって」

 

その言葉と共に、何とギルは怪物達に向けて頭を下げた。以前のギブリーとの騒動の時とは全く別人であり、その冷静な様子にリトやララは驚きの目を向けた。

 

その一方で、頭を下げたギルは顔を上げる。

 

「すぐに出ていくから縛り上げてる奴らも解放してくれないか?」

 

穏やかな声と共に静かな、相手を刺激しないような柔らかな声でギルは彼らに頼み込んだ。

 

その様子を背後から見ていた古手川も彼の普段の冷静さを見ている事から、彼のどんな状況下でも冷静でいられる胆力に改めて感服した。

 

 

 

だが、それを無碍にしてしまうほど、恐ろしい事態に陥ってしまう事となった。

 

 

 

ガンッ!!!

 

 

「「「「!?」」」」

 

突然と目の前から消化器が飛び出し、彼の頭へと直撃した。

 

周囲に響いた音と共に直撃した消化器は地面へと転がり、ギルの額からは血が流れ落ちる。

 

 

すると

 

「だ〜れが離すかよぉ!!」

 

その消化器を投げたらしき巨大な一つ目の鬼のような怪物が声を上げた。それに続き周りの怪物達も声を上げ始める。

 

「最初言ってたの聞こえなかったのかぁ〜!?」

 

「絶対出す訳ねぇだろぉ〜?侵入した以上ここでぶっ殺してやらぁ!!!」

 

そう言い周囲の怪物達も先程と同じく活気立っていく。

 

「ギルく__ちょ結城くん!?」

 

額からは血を流すギルをすぐさま介抱しようとした古手川を即座にリトは止めた。

 

「マジで行かない方が良い…ギルの奴…今にもキレそうだ…!」

 

「え…?」

 

 

すると

 

 

ゾワ__!!

 

 

古手川の全身をとてつもなく冷たい殺気が撫でた。その感触に驚いた古手川が目を向けると、そこには全身から黒いオーラを発するギルの姿があった。

 

「……」

ギルの全身から次々と溢れ出るオーラは激しさを増していき床を軋ませていった。

 

「こっちが下手に出てやってれば……いい気になりやがって…」

 

そして、その黒いオーラを纏ったギルは拳を鳴らしながら怪物達へと目を向ける。

 

「ボコボコにされる覚悟はできてんだろぅなぁ〜!?」

 

「「「「「「……へ!?」」」」」」」

 

ーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーー

ーー

 

あれから数分後。

 

 

「ず…ずびばぜん…がんべんじでくだじゃい……」

 

リトやララ達の目の前にはボコボコにされた怪物達が倒れている光景が広がっていた。リトや古手川達を取り囲んでいた狼男やミイラ男、魚人のような怪物達はそれぞれ顔面が腫れ上がり大量の鼻血を垂れ流しており、ララや金色の闇達を捕えていたタコ型の怪物は顔面に亀裂が走り、歯も何本かへし折られていた。

 

 

「おい…テメェさっき俺に消化器ぶん投げてきた奴だよなぁ…?ちゃんと見てたぞ…?俺じゃなかったら死んでたぞ?分かってんのか?おい」

 

「ばい…わがりばず…おでがいだがだ指をぐいごばぜだいで…(はい分かります…お願いですから指を食い込ませないで…)」

 

その中心地でギルは消化器を投げつけたらしき怪物の胸ぐらを掴み上げていた。その怪物の顔面は何度も何度も殴られたのか酷く腫れ上がっており、目元からは大量の涙を流していた。

 

「ぎ…ギルくんはまともだと思ってたのに…」

 

「こ…こここ…怖いよぉ…!!」

 

「もうギルルンからかうのやめよ…」

 

「私も…」

 

「もぅ!ギルったらまた乱暴して!」

 

「それどころじゃねぇだろ!?」

 

あまりにもの無惨なその光景に古手川や目を覚ました西蓮寺、籾岡、沢田はカタカタカタと震えながらギルを見つめており、ララが呆れる中、リトはそれに突っ込んでいた。

 

「……プリンス、気づいていると思いますが、彼らは幽霊などではなく、普通の異星人です」

 

「あぁ。気配がハッキリしてたから大体は分かっていた。なぜお前らはこんなとこにいた?」

 

そう言いギルは襟首を離して開放すると、彼らにここにいる理由を尋ねた。すると、倒れていたタコ型の異星人が悔し気味に答えた。

 

「うぅ…俺達は故郷の星をリストラされたのさ…行く当てもなく彷徨っていたらここに辿り着いて…偶然にも同じ奴らが集まってな…」

 

「成る程。だから幽霊騒動を起こしてたのか」

 

異星人達が集まっていた理由を理解したギルはようやく幽霊騒動についても理解した。

 

「まぁそうなると、お前らのナワバリに侵入した俺たちが悪かったな」

 

「ここまでやって悪かったなで済ます貴方の図太い神経には恐れ入ります…」

 

そう言い金色の闇は周囲の痛々しい光景に目を向けた。

 

 

すると

 

「あらあら。そういう事だったのね」

 

「ん?」

 

またもや暗闇から影が現れると共に、その影が此方へと歩いてくるとその姿が露わとなった。

 

「何だ御門か」

 

「えぇ!?」

 

現れたのは保健室の女医である御門であり、彼女の姿を見た古手川達は驚きの声を上げた。

 

それは彼女達だけではない。

 

「えぇ!?御門って…あのDr.ミカドか!?」

 

「す…すげぇ…初めて見た…!!」

 

ギルによってボコボコにされた異星人達も彼女の姿を見ると驚いていた。

 

「え…?御門先生も宇宙人なの…?」

 

「えぇ。それも名医として」  

 

「へぇ…この学校って宇宙人がこんなにいたんだ…」

 

古手川の質問にギルが答える一方で、現れた御門は周囲の状況を見渡すと、クスりと笑みを浮かべた。

 

「それにしても貴方達、この子達に手を出してよくそんな怪我で済んだわねぇ」

 

「「「「え…?」」」」

 

その言葉に異星人達は自身らが襲おうとした人物のうち、ララと金色の闇へと目を向けた。

 

「あ…あのピンク色の髪に尻尾…間違いねぇ!!ララ・サタリン・デビルークじゃねぇかあ!?」

 

「しかも金髪で黒い服の奴ってまさか……金色の闇!?」

 

それによって彼らはようやく理解した。自身らが襲っていたのは宇宙の支配者の血族どころか娘である事に加えて、もう一人は宇宙一の殺し屋である事を。

 

「ひぃいい!!こ…殺さないでえ…!!」

 

「いやいや!そんなことしないよ!」

 

「ごめんなさぁい…許してくださぁい…!!」

 

「それ以上近寄ったら斬りますよ…」

 

そんな中であった。

 

 

「じゃ…じゃあ…俺達をボコボコにした…もう一人のピンク色の髪の男は…!!!」

 

ララや金色の闇に震えていた異星人の一人が自身らを制圧したギルへと目を向け、それに釣られるようにしてその場にいた異星人達も全員がギルへと目を向けた。

 

「あ?何だコラ」

 

その目線に気づいたギルが此方へと顔を向ける中、彼の正体をようやく知った異星人達の顔が真っ青に染まった。

 

 

 

「「「「ひぎやぁあああああああああ!!!」」」」

 

ようやくギルの正体を知った怪物達は悲鳴を上げながらその場に土下座した。

 

「やめてぇ!!!殺さないでぇ!!絶滅させないでぇええ!!!」

 

「引きちぎらないでくださぁぁぁい!!踏み潰さないでくださぁぁい!!!」

 

「焼かないで!!炙らないで!!俺達美味しくないですよぉお!!!」

 

「金なら出します!!幾らでもお出ししますから命だけはぁ!!」

 

「嫌だよぉぉぉ!!!死にたくないよぉおおお!!!」

 

そう言い怪物達は次々と命乞いを始め、中には泡を吹いて気絶する者までいた。

 

「「「「「…」」」」」

 

そんな怪物達の反応を見ていたララを除いたリトや古手川達はゆっくりとギルへ目を向ける。

 

「……ギル…お前マジで何やってたんだ…」

 

「あ?俺は別に手当たり次第に喧嘩ふっかけてきたやつ殺して食ってただけだが?」

 

「く…食ってた!?」

 

「いや、そりゃそうだろ。殺しちゃ勿体ねぇし」

 

そう言いギルは泣きじゃくるタコ型の怪物へと目を向けた。

 

「俺や地球人と同じ人型は喰わねぇが、あぁいう動物系のは結構美味いんだ」

 

「分かったから余計な恐怖心を仰ぐなぁ!!!」

 

「まぁ、何はともあれ…ここにいては生徒達にもいずれバレてしまうわ」

 

騒ぎが大きくなっていく中、御門は携帯を取り出すと異星人達に呼び掛けた。

 

「私の知り合いで遊園地の経営をしている宇宙人がいるの。お化け屋敷とかピッタリだと思うから紹介するわよ♪」

 

「え!?いいんすかぁ!?」

 

「やったぁ!!!」

 

御門からのその知らせに異星人達は再び自身の居場所を得られる事に歓喜の声をあげるのであった。

 

「んで、結局 お化けはいなかったって事だよな?」

 

「ま…まぁそうだな…コイツらの仕業だったから」

 

「そ…そうよ!やっぱり私の言った通りお化けなんてものは存在しないのよ!」

 

「でも怖かったなぁ…特にギルルンが…」

 

「うん…」

 

「え〜幽霊見たかったな〜」

 

「ララさん…」

 

そう言いギルやリト、古手川、籾岡、沢田、ララ、西蓮寺は今回の騒動について彼らの仕業であり、幽霊など存在しない事に納得した。

 

 

 

 

 

そんな中であった。

 

 

_______良かったですね皆さん。お仕事が見つかって。これで私も静かに過ごすことができそうです!

 

 

『『『『……!?』』』』

 

 

突然とその場に書いたこともない透き通るような女性の声が響き渡った。その声を耳にしたギルや異星人達は言葉を止めて、ゆっくりと声が聞こえた方向へと目を向ける。

 

 

そこには………

 

 

『あ、申し遅れました!私、400年前にこの地で死んだ【お静】といいます♪』

 

 

真っ白な顔をし、白装束を身に纏いながら宙に浮く“下半身のない”少女の姿があった。

 

それを見たギル、ララ、金色の闇、御門以外のリトや異星人達の顔が真っ青に染め上がっていく。

 

 

そして

 

 

『『『『『『ぎゃああああああ!!!!出たぁああああああ!!!!!!』』』』』』

 

 

旧校舎一帯に巨大な悲鳴が響き渡ったのであった。

 

 

 




ギルの好きな漫画 ドクターストーン(御門の家に置かれてる)

好きな食べ物 二郎系ラーメン、生物型の異種族を焼いて食べることがあるが、それは自身に過剰に攻撃してきた者のみ

名前の呼び方

ララ→ララ、姉貴
リト→リト
美柑→美柑
御門先生→御門
西蓮寺→青髪、青髪デコ
リサ→アバズレさん
ミオ→眼鏡1号さん
古手川→古手川さん、委員長
天条院→ドリルさん
九条 凛→九条さん
遠藤綾→眼鏡2号さん
ヤミ→たい焼き女
猿山→サル
ルン・レン→ルン、レン
セフィ→母さん
ギド→親父
ナナ、モモ→ナナ、モモ



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