不良品ってロマンだろ? (Book@TY)
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不良品ってロマンだろ?
ああ、いらっしゃい。
こんな辺鄙な店に来るなんて物好きもいたもんだな。
見ての通り、ここは雑貨屋。装飾品だとか置物だとか、そんなものばっかりだがな。
それが使えるのか使えないのか、それは俺にもわからん。使い方はあんた次第ってことさね。
ただ、ここの雑貨には共通してる特徴ってもんがあってな、なんだかわかるかい?
……そうさね、《不良品》、かな。ここにある雑貨の各々はそれぞれ何か物語を持っていて、それ故にここに漂着って言うのかねぇ、置いてあるわけよ。それはもしかしたら、この世界のものじゃねぇかもな……?
ま、とにかくこれらは普通の店じゃ扱えないし、売れない代物なのさ。
呪い、伝説、言い伝え、噂……そんなあったかかもわからんものに価値をつけられた物もあれば、ただ単にそいつが迷惑がられてここにあるってのもある。どっちにしろそいつを作って使ったのは人間なのにな。
はははっ、そう身構えるなって。そっとしとけばなにも起こらんさ。そっとしとけばな。
なんでそんなものがここにあるかって?
……まぁロマンってやつよ。どんな悪い評価を受けてようと、それはそいつが通った軌跡だ。なんだか形容し難いが……俺としては燃えるものがあるのさ。こんな店に寄る奴だ、そのぐらいの感性は持ち合わせてんだろ?
ま、とりあえずゆっくりしていきな。久々の客なんだ、茶くらいは出してやるぜ?
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お、それか。この中でもそれは雑貨っぽいよな。
そいつは羽ペン。普通に書けるし、すぐに消えるとかもない。ただ、見ればわかるがインクがないんだ。
じゃあ書けないじゃんって?……なぜかな、書けるんだよ。そいつはな、どこからともなくインクを持って来ちまうのさ。
どこからくんのはわからねぇ。それは自分の身の回りのものかもしれないし、なんなら世界中、宇宙中のどこかから持ってくるかもしれない。
液体だけじゃない。粉の時だって、なにかの破片の時だってある。それでもな、消えることはないし、触ってもそんな感触はしないって話さ。全く、誰がこんなもん作ったんだろうかねぇ。
なにかをするには犠牲が必要、そう言ってるのかもしれんな。
俺が最初に使ったとき、濁った水みてぇなのが出てきてさ。匂いもなんだか若干土っぽいんだ。それで『そのまま』文を書いてしばらく遊んでさ。その後にこの話を聞いてな……ちょっと罪悪感に駆られた気分になったよ。ただ嫌な想像をしただけなのにな。
さて、あんたは……犠牲を払ったことはあるかい?
その犠牲は無駄だったかい?役に立ったかい?
逆に、犠牲になったことは、あるかい……?
……すまん、忘れてくれ。こっちの話さ。
ところで、そいつは買ってくかい?
……そうか、そいつは残念だが、まぁ他にも見てってくれ。
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ああ、そのケージかい?そいつは品物じゃねぇが……なんていうか、この店の看板みたいなもんよ。
あんたはその中になにかがいるように見えるかい?
……なにも見えないのならその方がいいのかもな。
それはこの店の常連さんからいただいたもんでね。なんでも『地獄の番犬』が入っているらしい。重さは普通の檻の重さなんだがな。
寿命やら病気やらで死にそうな人になら見えるらしいぜ。ちゃんと犬っぽい匂いもしてくるんだと。その時に檻を開けてもなんもしないらしいが、そいつが死に対して恐怖を持っていると首を食いちぎりに飛びかかるらしい。不思議なやつだよなぁ。
俺?俺の目には何にも映ってないな……どんな姿か見えたら逆に悲しくなっちまうね。
ちゃんと犬の餌?とかを置いては見てるんだが……なんも起きねぇな。ニンゲンの魂とかが好物なのかねぇ。
ちなみにその常連さんはどうやら可愛がってるらしい。意外と外見は可愛いのかもしれないぜ?
まぁ、そういう話もあってそいつは売れねぇな。すまんね。
しっかし、そいつに興味を持つとは……案外あんたも危ねぇかもしんねぇぜ?
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ん?そいつは模擬刀じゃないぜ。マジモンの刀さ。
いつぐらいのものだったかなぁ、戦乱真っ最中に使われたのは確からしいぞ。
正宗やら、村正やら、御大層に名前は付いちゃいない。……だが、そいつもやっぱり面白いやつさ。
端的に言うと、名刀、妖刀、そんなものとは正反対に、とにかく『弱い』ことが目立って伝わった刀。
切れ味がひどく悪いみたいに刀自体が悪いわけじゃねぇんだがな。話はそんままさ、誰が握ってもその刀は何も切れない。
でもな……そうだな、試しにこいつでも切ってみろ。
……な?切れるんだよ。そいつは。じゃあなんで当時切れない刀として嫌われたんだって話よ。
よくよく調べてみりゃほんとにたまたまで、その時々の使用者の不祥事だったみたいな記録もあるらしい。まぁ当時の人間はそんなの思わずに呪いがーとか言って遠ざけたわけだが。
しかし、おかしいと思わないか?
切れない刀なら使わなきゃいい話。そんな話が残るわけがない。なんでこんな話がいままで伝わってきたんだろうな?
ただの悪評だけか、当時のお偉いさんの思い入れだったのか……この刀が名刀たちに対して話だけでも残してやるって下克上でもしようとしたのかねぇ。まぁ、それはねぇか。
どうだい?こう色々考えてると面白いだろ?
はははっ、だよな。
久々のロマンを理解する客だ、菓子も追加してやるよ。
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そいつはミサンガだな。もうすぐ千切れそうだが。
この店の中でもそれは癖もないものでな、見ての通りのミサンガだ。
昔にあるマラソン選手がつけてたものでね、それが千切れる前に引退しちまったらしいが。
そいつの夢は叶わなかったのかって?
……そうだな、結論から言うと叶わなかったよ。
しかしな…そのミサンガを触ってごらんよ。
異常に固くないかい?
そいつはな、ほかのミサンガの何倍も固いのさ。でも、そのミサンガは今にも千切れようとしてる。
きっと文字通り血の滲むような努力をしたんだろうさ。だが、その願いはついぞ叶わなかった。
そのせいなのかねぇ、そのミサンガはつけると夢が叶わねぇってんで、そのミサンガの作り手が大損したんだってよ。まぁ、要するに縁起が悪いって扱われたわけだ。
そういうわけでここに漂着したわけだが……
しかし、そいつの夢はなんだったんだろうな。
マラソンで大成することか、マラソンを通して何かを手に入れることか……もしかしたら、ミサンガを千切ることに目的があったのかもな。きっとミサンガが固いこと自体には気付いていただろうさ。
……お、買ってくれるか。まいどあり。
あんたにも夢があるのかい?
……そうか、捨てんなよ。そいつは自分がこの世にとどまる大きな鎖になる。いい人生送りてぇなら、これ以上ない生きるための原動力だろうさ。
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ありゃ、もう帰っちまうのか。
ま、店主としちゃ『去る者追わず、来る者拒まず』だ。仕方ねぇよ。
だが、久々の常連さん以外の客だからよ、見送りくらいさせてくれや。
…………
さて、これから帰るあんたに忠告だ。
この店を出たら、来た道をまっすぐ戻るんだぞ。
なあに、別に振り返るなとか言うんじゃない。ただ寄り道すんなって話さ。
……俺たちみたいになっちまうからな。
あ、そうだ。そのミサンガ、使わなくても、時々『見て』やってくれよ。俺からのささやかな願いだ。
それじゃ、気ぃつけてけよ。
あんたはまだ先がある。
何十年後か、また会えるといいな。
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その後、あなたはあの店主の忠告の通り、寄り道せずに帰り道を歩いた。
途中振り返ってみて思ったのだが、ある地点を通ってから極端に景色が変わったような気がする。
どこからだろうか、そう思って来た道を戻ってみても景色は変わらず、ついにはその店すら見当たらなかった。
不思議に思って立ち止まり、あなたは辺りを見渡すとそこには最近切ったと感じられる紙切れが落ちていた。それを拾い上げ、見てみると、それは数人の男性が写った写真の破片だった。
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