プリンセスはどこまでいってもプリンセス (森峰)
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ミフユ 表

今回の話はあくまで準備レベルで、本ヤンデレらしきものは次回です。


 

「お金はあった方がいいが、お金では買えないものもある。」

 

 それが私の父親の人生に対する考え方とも言うべきものだった。結局は"お金では買えない"という妻、つまり私の母親からの借金で身を滅ぼしたが。

 

 私が生まれた頃はまだ借金などは抱えていなかったらしい。父親も商人で色んな場所を廻ってはその土地の珍しい物を集めては部屋に飾っていた。

 

 私も物心ついた程の歳だったから、将来の夢は父親みたいに色んな所を巡りたいと思っていた、その時までは。

 

 起点となったのは、母の浮気で借金が膨らみ始めた事だろうか。父が商人で家にあまりいない為母は昼ご飯を食べた後よく化粧をして外に出掛けていた。

 

 父親も月に数回帰るかどうか、という位だった為その程度の浮気がバレるはずはないのである。その時は私も借金があることも知らず、見た目を小綺麗にするものだから、どこか楽しい場所にでも行っているのだろうかとも思っていた。

 

 しかし、それが長く続くので私も段々と不安になっていき、父にこっそりとその事についての手紙を送った。住所が無い旅をする人に手紙を送るのは中々にお金がかかるもので、それをなけなしの小遣いで送っていたということから、どれほど心配していたかが伺い知れるだろう。

 

 父の返事は婦人同士で食事にでも行っているのだろう、と。そこまで心配することはない、と。その土地の観光名所らしい写真と共に送られてきている。私は父が言うのであればそうなのだろうと思う反面、その返答に満足できずに悶々と日々を過ごしていた。

 

 日々を過ごしていくうちにやはり不安が膨れ、私を放っておいてほしくないと手紙をまた送るも返事は同じ。その事を帰ってきたら言ってやるの一点張り。

 そんな不安をよそに、めっきりと母の出掛ける頻度は少なくなっていき、終いには出掛ける事もなくなっていた。私も母がずっと家にいてくれることはすごく嬉しかったし、まだ幼かった私でも母が少し父から心が離れていたことは分かっていたのでそれが無くなって今度こそ3人の家族になるんだと考えていたことを覚えている。

 

 だが、それが崩壊の第一歩だった。それから程なくして、誰かが時間を問わず戸を叩くことが日常になった。そして、窓から石が投げ込まれ始めた。私は何が起きていたのかということが当時明確には分かっていなかったものの何かが私たち家族を蝕んでいるのだということは分かっていたのだろう。窓が割れて、石が飛び込んでくる度に母に泣きついていた。その度に母は子どもを泣かせる事に罪悪感を感じていたことを今は察することが出来る。それが拍車をかけていたと思う。

 

 ついに事は起こった。忘れもしない11月13日。明日父親が帰ってくるという日。母親が夜逃げすると言い出してきた日。もちろん私はその時は父親のようになりたいと言っていたので父親と離れるなどと聞いて許せるはずもそれを拒んだ。むしろ母を引き留めようとする。が、それも叶わず母は私が聞かないとなるとすぐに家を出ていき、家に独りぼっちで一夜を過ごした。その時はまた前のようにすぐに帰ってくるのではないかという希望もあって遅くまでひたすら待っていたが、気づいたら寝てしまい、起きると目の前には父の顔があった。

 

 そうしてどうしたと聞かれお母さんが出ていっちゃったということを話したり、これからどうするかということを話していると、外から数人が騒いでいる声や音が聞こえた。

 

 何が起きているのかを探ろうと父が扉を開けようとすると、それよりも前にやや乱雑に開けられ、そこには数人の一般人然としている人達とその後ろに6人程の武装した人達。

 

 そいつらによって全ての真実が伝えられた。母が浮気して借金していること、逃げた後に捕まって今はどこかで働かされるだろうということ。そして残った借金を払ってもらう必要があること。今考えるとそのような義務は一切ないのだけれど、父親の性格も手伝って借金を負うことにしたのだろう。

 

 これが今に繋がる出来事のあらましだった。

 それからはひたすら働くだけの日々。お金になることは何でもした。子供の子守りから工事現場、新薬の実験体まで、それのせいかおかげか、人より体の治りが異常と言えるほどまで早くなった。それもまた、私にとっては利点だった。

 

 そうしてかなりの年月かけて借金を返し終えると程なくして父は死んでしまった。それが彼の意地だったのだろうか。

 

 もはやその頃には私の父への愛情というべきか、運命共同体としての信頼はあるが憧れというものはすっかり薄れ、葬式等も親族の私のみで、ただ火葬をして骨を撒く程度で、と考えていた。

 

 家もその時にはすでに売っており、働くために住む場所すらも変え、簡素なもので売ってしまうのに躊躇いはない。私はそれを終えれば、やりたい事もないので各地を放浪しようかとでも考えていた。その為の力は今までの仕事で養ってきたつもりだ。

 

 しかし、火葬の日になると何処から聞き付けたのか老婆から、はたまた神父まで大勢の人がこの町に集い、勝手にというと言い方が異なるが共に葬式を行い、その後もかなりの日々を彼らと共に過ごした。そこでは勝手に露店を出したり、大道芸人らがそこでパフォーマンスを行ったりしていた。そこでは他の商人や富豪等がかなりの取引を行ったらしく、その町の町長に感謝された。

 

 そんな日々は中々に楽しかった。働くということしか眼中になく、自分は何者かというものすら考えられなかった時がまだ続いていたので、このどんちゃん騒ぎで今までの人生は終わったんだとけじめをつけることが出来たし、これからの事を考える事が出来た。

 

 そして、葬式も終わり、そろそろ他の人も帰ろうかと言うときに最後の宴のようなものが開かれる事となった。

 

 最後であるから、皆がよく喋る。様々な私の知らない父親の話を聞けたし、彼らもまた私から彼の話を聞いていた。その喧騒の中で私ははたと気づいた。皆が一人の事についてわいわい話すと言う光景。これが父の得た物か、と。

 

 その瞬間、今まで自然と封じ込められていた小さかった時の記憶が、ぼろぼろと崩れるように思い出された。

 父がくれた貝で出来たペンダント、サーカスに行った時に買ってくれた私があまり好きじゃなかったピエロの人形、それらも全部売ってしまった。それに、それに、と様々な思い出がこぼれて抑えきれなくなって、涙が溢れた。

 

 その後様々な人が私を受け入れようとしてくれたが結局ウェスタリア家というかなり有名とも言うべき商家で働くこととなった。

 

 そして今はその娘であるアキノと共に働いていたユカリと【メルクリウス財団】というギルドを立ち上げる事となって今に至る。今は私は相も変わらず何でも屋の真似事をして、ギルドに必要と思われるお金を貯めている。今までよりは多少楽になっただろうか。

 

 私は父のような商才もないし、目の前の仕事しか出来ないような単純で器用貧乏だ。けれども私は私の出来ることで父のいた道を往こう。

 

 そうして私もいつか、何かをつかめたらと、そう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

親愛なる妻へ

 

私はいま東国と呼ばれる所にいる。写真にあるのはそこで有名な軍人「オダノ・ブナガ」と呼ばれる人の所有する城らしい。なんと大きなものだろうか。

子供が生まれるというのに仕事で帰れない事を残念で、申し訳なく思う。

 今回の話であるが、今度は女の子の名前を考えてみた。私も考えに考えたものであるが不満であれば別の名前をつけてほしい。

私が考えたのはミフユという名前、どうであろうか。

東国ではよく付けられる名前だそうで意味はどんなに厳しい冬でもしっかりと生き抜ける人という意味だそうだ。

 どんな困難があってもその子に春が、幸せに包まれますようにという意味を込めて私はこの名前を選んだ。

 私ももうそろそろ帰ることが出来る。その頃には子供も生まれているのではないだろうか。今から君と私たちの子供に会うのを楽しみにしている。それでは。

          

どんなに離れていてもこの心は変わらないままで




2019/12/6 加筆修正しました。
正直ミフユのルサンチマンもので一家業出来るまである。


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ミフユ 裏

少し未プレイ者には厳しいかもしれませんが、未プレイの未は未来の未ですから今ならプリンセスコネクトのメインストーリー全話開放中で始めるなら今ですよ。


夜も更けて、街の往来でさえ野良猫が蔓延る中、その少女はふらりふらり、と体を覚束ない様子で動かし、ゆっくりと歩いていた。

 

「ただ……いま。」

 

 そこにあるのはカレンダーらしきものキッチンとベッド、そこに横たわる一人のみ。

 

 カレンダーには「腎臓 3日 肺 5日 胃 …………」と様々な臓器とその隣にそれに対応するかの如く日数が書いてあった。

 

 壁にもたれながら息も絶え絶えに歩いてゆくが、己が思うように足を運べず倒れてしまう。

 

 すると、そこを先に占領していた一人の青年が目を覚ました。彼もその物音に何事かと思い、体を起こすも、何も見つけることが出来ない。

 

すると地面の方から、

 「はぁ……ごめんなさいね?起こしてしまって…」との声が。

 彼は安心して、こちらこそ遅くまですまない、と彼は感謝を述べつつベッドへと彼女を促す。

 

 それに力を任せるようにベッドで横になり、彼女は彼をそっと抱き締めた。

 

 しばらくそのままのぼんやりとした静寂が続く中、

 「あの、明後日少しお休みが取れそうなの。だから、その、海にでも行かない?」と彼女が不安げに呟き、それに応えるかのようにそっと抱き締める力を強くする。

 

そして、彼女は満足げに微笑みながら瞼を落とした。

 

 彼と彼女が満たすその空間、その中にあるのは只の静けさとそこに光を落とす月の明るさ。

 しかし、その月すらも雲に隠れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 何を間違えたのだろうか。いや、間違ってはいない。見落としてただけなのだ。自分が元来このような性分だということを。

 

 出会ったのはなんともないただの平原。私がいつものように仕事をこなしているとずっとこちらを見てきたのだ。あんまりにも見るものだからこちらから話しかけた。

 

 そこから始まった奇妙な師弟関係。あまりにも彼が物事を知らないものだから私が色んな事を教えてあげた。

 けれども物事を知るということは知らない事が減るということ。

 

 いつのまにか彼に多くの事で助けられ、終いには私が教えられる事もあった。師弟というより相棒のような間柄になり、私が切り込んで彼が支援するというポジションが決まり、この二人でならどこまででも行ける、そう思わせてくれるまでには愛情が深くなった。

 

 彼が強くなった、その事に対して私は頼もしく思いながらも、寂しいという感情がふつふつと湧いて出たまま、このまま遠くに行ってしまうのではないのだろうか、と。

 

 次第に彼と会うことも無くなってゆき、彼が新しく発見された島へと調査に行ったということも人伝いで聞いた。私と同じくらい強いのだ。彼なら大丈夫だろうなという安心感とまた遠くへと行ってしまったという不安が引っ付いたまま、行くこともできず、ただ手紙を送り、返事を期待する事しか出来ない。

 

 不安とは裏腹に返事はすぐに来た。あんなものを食べたとかこんなものを食べたとか、主に食べ物の話しか書いていなかったが十分に楽しくやっている事を確認でき、私もある程度不安を拭えていた。

 

 それからは週に1回位便りを寄越すように催促するようになった。そうした紙の上での会話を3ヵ月程続けていく中、ある日から手紙が来ないのだ。いくら送れども返事が来ない。それを見かねて私はついにその島に行くことにした。いつもならお金がお金がと渋っていたがその時は持ちうる限り最短の手段で向かわざるを得ない。幸いその島での拠点への流通は多く、入り込むのは容易かった。

 

 馬車に揺られ船に揺られ10日程、たどり着いたのはいいがどこにいるのかという情報がまるでない。

 仕方なく聞き込みから始めて、しばらくは拠点に来ていない事を知った。これはかなり危険な状況であるだろう。死んでいるかもしれないという考えは一瞬、しかしそんなことを考えている暇もない。彼が受けたという依頼を片っ端から何とか調べて何とか最後に受けた依頼を見つけ、その場所に見当をつける。探すにあたって今までの手紙も大いに役に立った。

 

 私が向かったのはとある湿地帯。名前もまだついておらず、生態系を調査するということが依頼の内容だった。距離も遠く、馬車で1日と少し要した。

 

 一秒一秒がとても長く感じる時間を過ごし、たどり着けばそこには中々に広い沼が7つ8つにそれ以外にも湖や池がありその地帯を見渡すと先が見えない。もしかすると沼に沈んでいたりもするのではないかと考えると身が総毛立った。

 

 とりあえず御者に少し待ってもらい、奥まで見ていこうと足を進めていると、途中で白髪の少女の姿が。彼女は確か……コッコロという名前だった。彼の世話役だと言っており、彼もそれを認めているがそれはどうだろうか。体面もあるが、それよりもまともにお世話などが出来るのだろうか。それなら私の方がと思っていた。

 

 彼女に連れられ向かったのは付近の森を抜けて少し外れた洞窟。そこには少しばかり灯った火と3人の人が横たわっていた。彼もその中の一人だった。どうしたのか訳を聞くと一人は沼に棲む生き物を食べて体調を崩し、彼を含む残りの二人はその折に現れた沼の主にやられ、未だ目覚めない。コッコロがひたすら回復呪文を掛けていてこれなのだから本来ならば死んでいてもおかしくはないのだろう。

 

 私とコッコロは待たせていた馬車に彼らを乗せ、拠点へと戻ってランドソルへと帰る手続きをした。

 

 ランドソルへ帰って、いの一番に医者を探した。道中、医者と名乗る女が料金はいらないと言いながら治療をしようとしていたが、無理矢理黙らせた。そのような輩に構っている暇はないのだ。

 

 何とか医者を見つけ、彼らはそれぞれの病室に寝かされた。私もずっと彼の傍にいて、彼の事を考えていた。彼の今の現状でもあり、今までやこれからの事。

 

 やはりおかしい。あの王冠を着けた少女。よく考えなくとも、未開の地で生態が分かっていない生き物を食べるのはおかしい。今までの手紙でおいしかったとか揚げればうまいとか、全部楽しそうに書かれていたから気づかなかったが。その事に猛省しながらもさらに考え続ける。

 

 それなら彼をどうしてやればいいか。彼は記憶を失っている。それはいわば真っ白なのだ。それをあんな鉄も食べそうな女と共にいていいのだろうか。いいはずがない。他をつれていこうとしても情やらなんやらで引き剥がせないだろう。それならば私と彼だけで、しかし本当に出来るのだろうか。いや、やるしかないのだ。

 

 そして、彼が目覚めてすぐに私たちはランドソルから逃げ出した。その時はどうやって生きようかなんていうことも考える余裕は無かった。とにかく何処か、見つからないような場所へ行かなきゃという一心で様々な馬車を乗り継いでたどり着いたのは、知識人が揃っていると評判の賢者の街。

 

 そのような場所だからか、あまり肉体労働のような仕事が無い。住んでいるのは飲食店をしている人か学者や医者の下で働く人だけだった。そこでは当然稼ぐ場所が限られてくるし、コスパのいい仕事がない。

 

 けれどもどうせの彼らのことだ。捜索の領域をもうすぐここまで広げてくるだろう。だから長居する気はなかった。

 

 そうして始めたのは自分の臓器の販売。私は他の人とは違い基本的に復元できるから、今まで手は出さなかったが今ではこれしか効率的な方法がなく、医者が多いせいか、実験材料や治療するためのものが明らかに不足しているような様子であり、私の提案に向こうもすぐさま飛び付いたのだった。討伐依頼等を受注しようにもここではギルド管理協会直営の受付しかなくそれでは足が付く。仕方なく始めた割には単価が高いものだから、あながち悪い心地ではなかった。

 

 だけどもう少しでこれも終わる。次で最後にしよう。その後でしっかりと処理をしなくちゃいけない。彼を危険に晒すような事はしたくないし、母のような失態は犯さない。そして彼と海の近くで住もう。これからお店でも始めようか。何屋さんにしようかな。新しく始めるのもいいかもしれない。けど、それを始めるのにかなり元手が必要ではないのだろうか。それなら今までみたいに二人で色んな人から仕事を引き受けるのもいいのかもしれない。そうか、それでいい。それがいい。

 

 そうして寝ている彼をぼんやりと眺め続ける。そろそろ眠くなってきた。すると懐かしい空気を不意に感じる。これは、何だっただろうか。ふわふわしてて、まるでこどものときの…………あれ?

 

 なにを考えていたのかが思い出せない。そんな思い出せないことはどうでもいいの。今出来るのは早く寝て傷を治すことだけ。

 

 

 そうして私はいつものように明日になるまで、夢に耽るのだった。




これで前話を少し修正して、一旦休憩するつもりです。
ミフユは圧倒的に力が足りていないながらも、それを自力で何とかしようとしているのがストーリーにもキャラ性能にも現れているので好きです。一番好きなキャラはアンナですけれども。
感想等を頂けると喜びますし、好きなキャラを布教していただけると私もそれに染まって新しい話を更新出来るようになるかもしれませんので是非。
後1.2キャラ程ネタが有るので最低それを書くつもりです。
今後ともよしなにしていただけると幸いです。
(修正)アストルムではなかったですね。どこからそれが来たんでしょうか


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アヤネ

クリスマスだからクリスマスのキャラでもあるアヤネという建前。
正直アヤネのキャラストーリー見ると闇深だったのでこれは実質原作準拠です。



「おはよっ、ぷうきち!」

 

『おう、アヤネ。今日も元気に行こうぜ!』

 

 今日もぷうきちは挨拶を返してくれる。

 

 ぷうきちは私の家族でもあり、親友だ。パパとママは一応家族だけど、全然私とおしゃべりしてくれなくて、家族だけど家族じゃないみたいな、そんな感じ。それだったらママ・サレンの方がずーっと優しいし、家よりもサレンディア救護院にいた方が落ち着く。

 

 朝もいつも通りの時間。今日はどうしよっかな。といっても今日はパパとママとの面会があるからそれまで遊びにはいけないけど。

 

「おはようございます。アヤネちゃん。それに、ぶうきちも。」

 

「おはよー。」

 

『いつも朝からご苦労様、だな。』

 

 とりあえず寝てた部屋から出てリビングに行くと、スズメがお掃除をしてた。スズメはこのサレンディア救護院の一員としてママ・サレンからこの家を任されているの。

 

 ママ・サレンはいっつも頑張ってる。全然ここには帰って来てくれない時もあるけど、それは私たちのために頑張ってくれてるからで、家でも私のことを褒めたりしてくれるし、まるで本当のお母さんみたいな。だから私はママ・サレンって呼んでる。

 

「今日はアヤネちゃんは何かお出かけとかはしますか?」

 

「うん。今日はパパとママに会う日だから。もうすぐ出掛けるね。」

 

『今日は珍しく朝からだからな。もうすぐ行くぜ。』

 

「あっそうなんですか。……う、うーん。あの、そのですね。」

 

「そんなに気を遣わなくても。そういえばクルミは?」

 

「もうご飯も食べ終わって外にいっちゃいましたよ?キョウカちゃんと遊ぶみたいですけど。」

 

「ふーん、そっか。それじゃあ私もご飯食べよっと。」

 

「はい!そういえば昨日お嬢様が……」

 

と繰り返すのはいつもの毎日。ずっとこのままだったらいいのにって思ったりもするけど、そうなればママ・サレンに迷惑もかけちゃうし自分でこのギルドを支えれる位にはならなくちゃ。

 

 そうして私みたいな子がいても助けれるようになれば、家族になれれば、なんて考えたりもするけどそれはまだまだ先の話。今は自分の事をしなきゃいけない。

 

 他愛ない会話と共にご飯を飲み込み、そろそろ時間だからと準備をして家を出る。家を出ると共に気分も落ち込んできた。正直言うとパパとママには放っておいてほしいという気持ちもある。けれども、向こう側も譲歩してその条件だから仕方ないと思うけど。まぁ早く済ませてクルミでも探そうかな。

 

「あれ?そういえば、私の隣にまだお皿置いてあったけど、誰か来てるのかな。」

 

『帰ってきたらわかるだろ。それよりもちゃっちゃと行くぞ。』

 

「はーい。」

何でかななんて言ったけど、理由は分かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

『おいおい、そんなに落ち込むなよ。それを何回も繰り返す気か?そんなでどうするよ。』

 

「うー、でもー。」

 

 平日の昼下がり、こんな日でも人で埋もれているランドソルの広場でぼんやりしていた。昼ごはんも食べてないし、お腹がぐーぐー鳴っている。

 

 いつもだったらそこら辺で串焼きとかサンドイッチでも買ったりしてるけどそんな気持ちにはなれなかった。

 

 原因はさっきの、パパとママに会った時に、本当に今までしたことはなかったのだけど遂に手を出してしまったこと。普通だったら口では責めても暴力はしなかったのに、今日は何だかカッとなってしちゃった。

 

 そこからすぐ飛び出すように出ていき、今に至る。

 

 どうしてあんなことをしてしまったんだろう。これできっとママ・サレンも少なからず怒られるだろうし、私も別の場所に移されちゃうかもしれない。よく考えればわかることなのに……。何でかな。やっぱり一緒に暮らそうなんて言われたからかな。

 

 さすがにそのように誘われたのは初めてだった。今までは何をしてるのか、とか何を食べたのかとか簡単な質問しかしてこなかった。私も渋々それには答えてたし、それが別段不満というわけでもなくて。そんな簡単な返事にに満足したのだろうか。

 

 しょうがないよ、しょうがない。そんなこと言われても、今更過ぎるよ。私が欲しかった時にはくれなくて私の家族ができたと思ったらそれを奪おうとする。

 

 はぁ、いつもこうだ。小さいときからずっと変わらない。気分が落ち込む、家には誰もいなくて、私だけでずっと独りで。

 

『そんなに落ち込むなよな。どうせまた会わなきゃいけないんだぞ。』

 

 そうだ。今の私にはぷうきちがいる。それにお兄ちゃんとかも、こんなとこ見られたらお姉ちゃんなのにそんなのでいいの?って笑われちゃう。

 

「そうだね、ぷうきち。」

 

とばっと立ち上がる。

 

『おっ、元気でたか?』

 

「ううん、まだ!今から元気を出しに行くの!」

 

 とりあえずご飯を食べよう。そうすれば遊ぶ元気も出てくるはず!

 

 なに食べようかな。そういえばお兄ちゃんがよく行ってたのはクレープ屋さんだって聞いたことがある。疲れた時には甘いものが一番とも言うし、とりあえずそれを探しに行ってそのついでにお兄ちゃんかクルミかが見つかればいいけど。

 

 クレープ屋さんを見つけようと歩みを進めると意外とすぐに見つけれた。水色髪の女の人がやっているけれどこの店であっているのかな?わからないけどとりあえずお腹も空いたから買っちゃお。

 

「すいませーん!」

 

「…………」

 

「すいませーん!」

 

「……はっ!あっ、ごめんねー。ぼーっとしちゃってて、お姉ちゃん、失敗♪クレープ注文かな?」

 

「クレープひとつくださーい!」

 

「味は?いまならイチゴがおすすめだよ♪」

 

「じゃあそれで!」

何か変な人だった。

 

作っている最中もすっごいぼんやりしてたりどこか遠くを眺めるからこの人本当に大丈夫かな?と思うけどこの人が見てる方向を見ると人混みの中にうっすらお兄ちゃんっぽい服の人がいたから合点がいった。出来たクレープをもらって少し急ぎながら食べていく。

 

 ちょっと変な人みたいに思われるけどもし本当にお兄ちゃんだったらとなりふり構ってはいられない。距離が段々縮まったから姿も見えてきて胸中の人である事が分かった。少し急いで食べたからか口の周りにクリームがついちゃったから口を拭う。

 

『おいおい、ちゃんとハンカチ使えよ。鞄に入ってるだろ?坊主に見られたら恥ずかしいぞ。』

 

「……うん。」

 

たしかにそんなみっともないところは見せられない。ついでに鏡も見ながら身だしなみをパッと整えよう。お兄ちゃんは人だかりから離れて、町の北へと向かっていた。どこか山でも目指しているのかな?私も追いかけないと。

 

 人だかりを抜けるとお兄ちゃんの姿が見えると共に、また別の事に気がついた。1人じゃないのだ。もう1人ついていっている。

 

背丈は私くらいで…………帽子の形がちょっと変だ。突起が2つあって、何かいれてるのかな?っていうくらい盛り上がっている。

 

 手には剣と盾を持って、振り回したりもいるけど武器というには小さいような。何か戦いごっこみたいな事をするのかな?お兄ちゃんは見た目と違って純粋だからごっこ遊びとかも喜んでやってくれる。

 

 私もクルミとかも一緒におままごとをしたことがあるけど凄い楽しかった。途中から浮気とかナイフで刺すまねをしたりして変な感じになっちゃったけど。

 

 …………にしてもこれは、嫌だ。お兄ちゃんがどこの誰かも分からない人と喋っている。きっと私が行っても何でもないように挨拶をするだろう。それが嫌だ。

 

 私がお兄ちゃんの日常じゃなくなってしまっている。前だったらそんなことは無かったのに。この感じはあれだ。パパとママと対面している時の。

 

 なんとも言えない不快感と焦燥感に駆られるけども、必死に落ち着くように体を強張らせる。

 

 落ち着け。今ここで私が行ってもお兄ちゃんに迷惑をかけるだけだ。それならクルミを探そう。私がここにいても嫌な気持ちになるだけだ。クルミとキョウカと一緒に遊ぼう。そうとなれば体を反対に向けて、反対に、向けて。

 

『アヤネ、そんなのでいいのか?それじゃ、前と同じだぞ。坊主が俺等から離れる時アヤネは何が出来た?』

 

前、少し前にお兄ちゃんは実は私達と一緒に住んでいた。その時はとっても楽しかった。ママ・サレンもその時はなるべく早く帰って来ていたし、休みの日も皆でお出かけしたりと、楽しいことに事欠かなかった。

 

 けれど、お兄ちゃんはここでいつまでも居候するわけにはいかない、と家を出てしまい私達は引き留める事が出来ず。いてほしいではなく、いても構わないと言ってしまった。

 

 そもそも私達、サレンディア救護院は何かしら家族に対して歪んでいる。ママ・サレンがサレンディア救護院を立ち上げたのも、スズメがママ・サレンに仕えているのも、私とクルミが救護院にいるのも。

 

 それからはママ・サレンも帰りが遅くなってきて、スズメもつい皿を一つ多く並べてしまう。私も、クルミも、最近は二人で寝ることが多くなった。

 

「でも、そんなことしたら、お兄ちゃんが困っちゃう。」

 

もう間違えちゃいけない。今じゃなくてもいいんだ。明日にでもお兄ちゃんが独りで居るところを探しに行けばいい。

 

『それであいつに盗られてもいいのか?もしかしたら俺達に愛想つかせてあれの家に今住んでるかもしれないなぁ。』

 

 それを聞いてピクリと震えた。私達から離れたのは別の人が好きになったということ?それじゃあもう駄目じゃん。私達にうんざりしたのかな。やっぱり面倒だったんだ。そうだよね。帰ろう。帰ってスズメとお話しよう。クルミとかも、一緒に出かけれれば

 

『だから、あいつを吹き飛ばせばいい。俺を使ってさ。』

 

 その言葉に驚いてぷうきちを放して落としてしまう。いつもだったらぷうきちは私を諫めてくれる家族のような立場なのに、今日はどこかおかしい。それに驚いて落としてしまった。だからごめんねと言おうとしたその時 

 

『まず、俺を持つんだ。それからあいつに当てる。簡単な事だろ?』

 

 頭の中から声がした。

 

 え?と思ってぷうきちを見る。ぷうきちは動かないまま。けれども頭の中ではぷうきちの声がする。

 

 ぷうきちを持って問いかける。

 

「本当に、それでいいの?」

 

『あぁ、それからお前の気持ちを伝えればきっとわかってくれるさ。』

 

 ぷうきちは動かないままで、声だけが頭のなかにどろりと残り続ける。

 

いつもは話しかければぷうきちが返事をしてくれた。でも今はぷうきちからは響かない。

 

 

 

 

 

それじゃあ一体この声は誰?

 

 

今までの家族の事やお兄ちゃんのこと、そして家族の事がぐるぐると頭の中でかき混ざってぐちゃぐちゃになってもその出口は見つからないから、ぷうきちを握りしめてそれから逃げる様に私は走り出した。

 

 




やーってやるやーってやるやーってやーるぜ いーやなあーいつをボーコボッコにー


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