6等分の家族 (風邪薬力)
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1話

ゆさゆさ。

 

中野八幡の世界が左右に揺れている。

頭や体が揺れ、脳が少しづつ覚醒しようとする。

でも嫌なんだ。このあたたかい世界から出たくない。

 

ゆさゆさ。

 

瞼が重い。全身を包むあたたかさは軽く包んでくれているのに。

ぐえ。と突然降りかかった重力に、覚醒仕掛けてしまっていた意識が完全に覚醒してしまい、ゆっくりと目を開く。

「お兄ちゃん、おーきーてー」

「…四葉か」

「おはよ、お兄ちゃん!」

「おあよー…。ん、起こしてくれてありがとな」

体を伸ばしながら挨拶し、ふと見ると四葉が頭をこちらに傾けているのでゆっくりと撫でてあげる。

まだ起きたばかりなようでリボンは付けてない。撫でやすい。

「んにゃー。気持ちいい。ご飯出来てるから早く降りてきてね」

はいよ。

 

のそのそと寝巻きを脱ぎ、新しく服を着る。

重たい瞼は完全に開くことはなく、そのせいか腐った目はいつもより酷く感じる。

「おはよ、兄貴」

部屋を出た所で声を掛けられる。

「おはよ、二乃。お前はいつも早いな」

「まあね。兄貴の為にご飯作らなきゃでしょ?」

そう言ってにへらと笑う二乃を、

「いつもありがとさん。二乃のご飯うまいよな」

「でしょー!」

可愛いと思った。俺がシスコンであることはどうしようもないのだ。

「一花は?」

「まだ寝てるみたい。ほんとだらしないんだから。兄貴、起こしてきてね」

「はいよ」

 

階下へ行くのをやめ、廊下の突き当たりの部屋へ行く。

一応ノックをした後に返事がないことを確かめて部屋に入る。

「一花」

綺麗部屋をよどみなく進み、膨らんだ布団を揺すりながら声をかける。

「おはよーにいちゃん」

声をかけてすぐに起きて抱きついてきた一花。

こいつ起きてたな。

「お前なあ…。せめて服くらい着ろよ」

「ぶー。下着は着てんじゃーん。細かい事気にしちゃだめだよ?」

年頃の乙女にとってそれは細かいことなのか。

まあ妹の下着などなんとも思わないようにしてるが。

「起きて飯食いに行くぞ」

「はーい」

 

一花の部屋を出ると同時に近くの部屋が開いた。

「ん、はちにい。おはよ」

「おはよう、三玖」

眠たそうに目を擦りながら挨拶をする。

「はちにい、一花起こしに行ってたの?」

「ん。まあ起きてたけどな」

そう言うと呆れたような顔をして、

「また?はちにいに起こしてもらおうとしてるんだよね。ずるい」

その通りで、一花は時々姉妹が起こしに行っても起きないことがある。

どうも俺に起こして欲しいらしく、俺が起こしに行くまで寝たフリをやめないのだ。

「ずるいってなんだよ。それに一花は姉妹の前じゃお姉ちゃんなんだ。みんなに見えないところで甘えたくなるんだろ。許してやれ」

「じゃああたしと今度一緒に寝ようよ。あたしだってはちにいに甘たいもん」

「はいはい、今度な」

絶対だからね、と頬を膨らませた三玖の頭を撫でながら1階へ降りていく。

 

「兄さん、三玖、おはようございます」

「おはよ五月。飯の準備してくれたのか、ありがとな」

テーブルには皿が並んであった。料理は二乃が作るからせめてと五月が用意したんだろう。

「おはよ。一花も起きてるって」

3人で挨拶しながら席へ着く。そこには既に四葉と二乃が待っていた。

それぞれが定位置に座りながら一花を待つ。

「兄さん、ちょっとお話があるんですけど…」

ぼーっと座っていると五月が話しかけてくる。

「どした?」

聞き返すと五月は少し俯いて、

「えっと、明日の休みに一緒にお買い物に行きませんか?」

「俺と?買い物なら姉妹の方がいいんじゃないのか?」

服を選ぶにしてもなんにしても姉妹達と選んだ方が楽しいだろう。

「いえ、買いに行くのは参考書なので。そういうのは兄さんが1番ですから」

「なるほど。じゃあわざわざ外に行かなくてもいいしネットで買って…」

「駄目です!」

「うお!な、なんで」

突然椅子から立ち上がり怒っているようにも見える五月にびっくりして思わず後ずさる。

いつもはあんまり感情を爆発させないくせに…。

「私は実際に手に取って選びたいんです!兄さんと!一緒に!」

「お、おう。そうか。じゃあしょうがない、のか?」

「はい。一緒に、買いに行きましょうね?」

後半が余計に強調されていたが、まあそう言う事らしい。

そう言えば最近あまり一緒に外に出ていなかったか。

どうにもそこら辺ちゃんと考えていなかったらしい。良くないな。

俺にも、彼女達にも、母親は居ないのだ。父親は放任してる。

なら俺のするべきことは。

「だったらみんなで行くぞ」

「え?」

五月がポカンとする。

「だから兄妹みんなで行くぞ。まあ予定が合うやつだけな」

「!はい、はーい!四葉空いてまーす!」

元気よく手をあげる四葉。

「あたしも予定…は大丈夫だよ。兄貴と出掛けるの久しぶりだね」

ちょっと引っかかるけど二乃もおっけーと。

「ちょ、ちょっと待ってください。みんなでなんて…」

「はちにい、私も行く。行くからね」

「お、おう」

三玖も一緒っと。

「にいーちゃん、私も空いてるよ。まあ予定があってもいくけどねー」

寝ぼけているようには見えない姿で降りてきた一花も参加っと。それとドタキャンはNGな。

「…お兄ちゃんと2人っきりが良かったのに」

小声で聞かれてないつもりか知らんが聞こえてるぞ。しかも前までのお兄ちゃん呼びだし。

好かれてるのはいい事だ。特に妹の事であれば余計に。

しかしまあ悪いことしたかと思ったので頭を撫でる。

「また今度2人で出かけるから、な」

頭を撫でられる五月は目を細めて首を伸ばしてくる。

「約束だから、ね?」

可愛い。

「ずるーい。にいちゃん、私も撫でて?」

「あたしもー!」

「あ、私も」

「…飯食うぞ。腹減った」

周りからブーイングを受けながらもいただきますと言いながら箸を取る。

皆で過ごしてきて15年。妹達は母さんがいない穴を埋めるように、1年生まれるのが早かっただけの俺に甘えてくれる。

嬉しいことだ。外ではずっと嫌われ続けた。

でも家では好かれ続けていた。

だから大丈夫。俺の居場所はここにあるから。

 

「…あー、いつもありがとな。お前たちがいるから、今楽しい。…かも」

 

妹達の手は止まり、こちらを見る目は輝いて見える。

驚いて開いた唇は手入れされていてなるほど、日々の努力と言うやつか。

 

そのあとは。

 

妹達にめちゃくちゃにされながら、俺は幸せを噛み締めた。

俺達は6等分だ。

 

 

喜びも。

 

幸せも。

 

1つでも皆のものだから。

 

 




こんな感じで書いていこうかと思いますのでリクエストありましたら活動報告やTwitterに書き込んでいただければ幸いです。
@riki_avalon


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