アルジュナ(オルタ)SSまとめ (いざかひと)
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SSまとめ

その1~8。



その1 2019/08/03

 

(英霊祭装)

 

おはようございます、マスター。

……この服装……ですか?カルデアスタッフから事前連絡がいっていたはずですが……。

『聞いていない』……そうですか。

『尻尾』、はい、ここから出ています、生地選びや仕立てに苦労しました。

『髪』……櫛で梳き、結び、編み、祝いの席で見苦しくないよう。

『手』は……白の手袋を。彼と揃いですね。

『化粧』、そうです、玉石を砕いた青を塗ることにしました。

『首飾り耳飾り』……マスター、どうしたのです?

私の姿を何度も確認し、それほどまでに目を白黒させ……。

ただ祭に相応しい装いとなっただけ、驚きませんよう。

では、私はイベント会場へ向かいます、マスターとは後ほど……。

……?マスター?どうしまし………………死んでる…………。

 

 

その2 2019/08/13

 

 

どうしたのですかマスター。先ほどから何回も携帯端末の画面を触って……。

『新しいイベントの情報』……ああ、祭事ですね。

確かにそろそろ18時、カルデアの連絡室から詳しい情報が……。

ふむ、場所はラスベガス。アメリカの娯楽都市ですね。

急いで町に相応しい装いを考えませんと……おっと。

危ない、前のめりに倒れそうでしたよ。

マスターしゃんとして下さい、寝るのでしたらベッド、座るのでしたら椅子に。

どうしたのですマス…………死んでる…………。

 

 

その3 2019/09/10

 

 

何ですか、この仰々しい機械は。

『フードプロセッサー、ミキサー……』、食物を砕くための器具なのですね。

香辛料も……シナモンにバニラシュガーなど様々……。

 

『そろそろボックスガチャの季節だから、林檎を味変しつつ食べられるようにしないと』

 

……食べないと効果が発揮しませんものね、あの金銀銅の林檎は。

ですがマスター、ギルガメッシュが行う今年の祭り、ボックスガチャが設置されるとは限ら……何でもありません、真理の卵、景品にあると良いですね。

………………あの水鳥を連れたガラス細工の少女のためにも、クエストへ行きましょうか。

はい、エミヤ作の金の林檎の捻り焼きです、塩がかけてあるそうなのでそのままでどうぞ。

医神、アルゴノーツの船長、境界線上の少女……真理の卵を待ちわびているサーヴァントは増えるばかりですね。

 

 

その4 2019/9/13

 

 

マイルームに設置されたモニター越しの景色ですが、実に美しいですね、仲秋の名月は。

虫の声、そよぐススキ野原、雲に浮かんだ虹色の月光環……季節の移り変わりを感じられて……これが、雅、というものなのでしょうね。

 

『うさぎがおもちついてる』

 

そうですね、月には動物が住んでいると古くから信じられています。

古今東西により、その生き物はあまりにも違う。

うさぎの他にも、カニ、ライオン……人の心の豊さ、営みが感じられますね。

ずっと食べていますねマスター。

美味しいですか、タマモキャット作のお月見団子。

 

『もちっとしていて美味しい』

 

良かったです、米の粉を練って蒸したお団子……ほんのり甘そうで……。

さぁ、お月見を楽しむ料理はまだまだありますよ。

里芋を煮込んだ物に、ナスを煮込んだものに、かぼちゃを煮付けたものに、栗の炊き込みご飯の大盛りに、卵を挟んだバーガー二つ、大量の串カツとだし巻き卵、枝豆、唐揚げ、フライドポテト……。

 

『後半から居酒屋のメニューみたいになっちゃった……』

 

……食欲の秋でもありますし、いっぱい食べましょうか。

 

アルジュナ(オルタ)と一緒にお月見を楽しんだ!

 

 

その5 2019/10/26

 

 

マスター、夜も遅い時間だというのにコーヒーを飲んでいるのですか。

『バビロニアリアタイ待機中』……ここ数週間はいつもそうですね。

何かを大勢の人と同じ時に見て、その気持ちを共有し会うのは素晴らしいことですが……もうすぐ本格的な冬の寒さが来ます、夜更かしなどで体を壊さないように気をつけて。

 

……ハロウィンまであと数日、今年はどんな催しなのでしょう。

例年のイベントについては、マスターが提出されたレポートで把握しています。前年は北海道でしたね。

…………全貌を理解するまでは、及んでいませんが。

ベルトチェイテ、ハロウィン三部作、エリザ粒子とはいったい……うぐっ……くっ……!

 

……はい、もう大丈夫です、ええ、大丈夫ですよ、マスター。

今年のイベントは……これが資料ですね、読みましょうか。

「ハロウィンは平成に置いてきた」……「セイバーウォーズⅡ」……「始まりの宇宙へ」……「スペースイシュタル」……。

………………謎の解明はあとにしましょう。

コーヒーをキッチンから貰ってきます、一緒にりあたいなるものをしてもいいでしょうか……マスター……。

 

 

その6 2019/11/3

 

……。……。……。……?

…………………………………「マスター」?!

その顔は……見間違えるはずもありません、マスターなのですね。

懐かしい気配につられ、久方振りにアステロイドベルトの中を遊泳していた意味がありました。

……あなたとの冒険の日々は、今でも色鮮やかに思い出せます。

懐かしいですね、マスターが異邦人の手によりカルデアからさらわれた時は、本当に……天地がひっくり返るような大騒ぎで……。

この追憶を誘う香りは……カレー、それもマスターの故郷風の、とろりとしていて、具材たっぷりの物。

…………ありがとうございます、いただきます。

 

うん……懐かしい味、舌触り、カルデアの食堂の喧騒が聞こえてくるかのよう……とても美味しいです、本当ですよ。

しかしマスターはどうしてこんな場所に?

『アシュタレト』、『さらわれた』、『ネコと和解』、『億年以上経ってしまったけど』……そういうことですか、理解しました。

……では、ここで立ち止まっている場合ではありませんね。

隕石群の中、アルトニウムの集積地に心当たりが。それを回収出来ればこの先の旅も少しは楽になるでしょう。

 

……再びお会いできて良かった。マスター、では、またどこかで。

あなたとの日々を昨日のことのように思いながら、ブラックホールの縁を眺めているとしましょう。

……次に会える時もきっと、50億年後であったりするのでしょうか?

 

 

星の海のただ中で彼と別れた後……あの教授の言葉を思い出す。

『原始宇宙』、49億9950万年前、先史古代文明の頂点に立っていた古き『神』は、きっと、昨日のことのように我々を──。

 

 

『思いがけない再会』

昨日別れたばかりかのように彼と再会し、カレーを一緒に食べて、また別れた。

次に会えるのはいつだろう? 

いつ巡り会えてもいいように、カレー作りの腕前を磨いておこう。

 

神は変わらず、人は変わっていく。

でも思い出はそのまま、カレーの素晴らしさもそのまま。

 

 

その7 2019/11/5

 

 

マハー・プララヤ!!!!

 

……この賞金首も持っていませんでしたね。あの……超旧式のビデオテープのような形状をした「女神経典」を。

 

『懐かしいー、親に頼んでめっちゃ同じアニメ映画ばかり見てたー』

 

……とても呑気になさっていますね、マスター。

この蒼輝銀河が滅びるか滅びないかの瀬戸際だというのに。

 

『次の賞金首もたぶんプララヤで何とかなるし宇宙の命運だってプララヤで何とかなるよ!!!!』

 

……その発言、信頼の証であると受け取っておきましょう。

しかし、何でもバスター宝具で解決しようとするとどこかで壁にぶつかります、様々なサーヴァントと協力し、手を取り合ってくださいね。

では出立の前に食事を……カレー、ですか。

 

『みんなにねだられていっぱい作っちゃったから……』

 

……50億年ぶりなので、飽きることはないのですが、その、何か添え物が欲しいですね、らっきょうとか福神漬けとかスペースチャツネですとか。

 

『…………あんこしか持ってねぇ!』

 

…………なぜあんこは持っているのですか?

 

 

『思いがけないあんこ』

知っているような知らないような、どこかの暗黒剣の使い手に、助けてくれたお礼として振る舞うため取得したあんこ。

原始宇宙の欠片の力を帯びた「トカチレッドビーンズ」をしっとりと炊き上げ、輝く「星雲和三盆」で甘味をつけたもの。

混沌と秩序、悪と善が手を取り合った味わい。

食べれば元気が湧くが、カレーに合うかどうかは未知数。

 

 

その8 2019/11/26

 

 

マスター!もっと腰をツイスト!反動で楽をしようとしない!

次です!リズムに乗って!太ももを上げて!

猫背にならない!体の中心軸がぶれている!自分への甘えが出ています!

ラスト1回……ナイスですマスター!汗が輝いていました!

全身をほぐすストレッチは忘れずに。体を拭き、筋肉を冷やさないように。

今日の行程は終了です。どうぞ、水を。

…………肉体改造への声かけ、先ほどのような感じで良かったのでしょうか……。

 

『やっぱり他者の目があると厳しく肉体を鍛えられるね!』

 

お役にたてたようで何よりです、マスター。

あの……リングから声が出て楽しくフィットネス出来るゲーム、早く手に入れられるといいですね。アマゾネスドットコムでも品薄のようでしたから。

さて、マイルームに戻り、ボールでモンスターを捕らえるゲームの続きをしましょう。

茶色のふっくらとしたリスの型構成について議論をした後、朝までランクマッチ……も、いいかもしれません。

 

ああ……この前のマスターの試合、読みが見事に決まり、実に痛快でした。

様々な育成案が飛び交いテンプレートが固まっていない今だからこそ、心理戦に置いても有利に立てる。

真なるアルジュナが見れば、手放しでほめそやしたことでしょうに。

やはり、技の豊富さは相手の思考を占領し、選出に姿を見せるだけで十分役割をはたせ……なおかつ、敵を見れ、読みがはずれた相手を狩れ……。

…………クリスマスイベントの詳細、お知らせにいつの間にか来ていましたね。



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閻魔亭関連SSまとめ

その9~その21まで(通し番号なのでその9から始まっています)
(マスターの台詞→『』 その他のサーヴァントやキャラクターの台詞→「」)





 その9 2020/1/6

 

 ……。……。……。……。

 ああ、あけましておめでとうございます、マスター。

 ごめんなさい……頂いた大福餅を頬張っていたら返答が遅れました。

 そうです、数日前から閻魔亭にこっそり宿泊しています、皆には内緒で。

 お食事は既に堪能しましたので、次は露天風呂に行こうと考えていたのですが……騒ぎが落ち着いた後にします。

 ……「貴方の宝具は一刀だからノーカンなのです!」「バーサーカークラスに倒されてもすっきりしませーん!」「数千年若かったら……いや、ここまでくると一周回って有り!」などと、残留思念だというのに口が周り……湯を守る悪鬼羅刹だとうそぶいて……。

 ……何も、言っていませんよマスター、私は何も言っていません、行ってもいません……。

 

 ここは良いお宿ですね、雀の従業員達もとても良くしてくれて……はい、あそこに積まれている餅に菓子、お酒がそうです……膨大な量の。

 負担にならぬよう宿側には隠していたのですが……私が神であるということ、バレているのかもしれませんね……。

 

 そう言えば……閻魔亭には宿泊客の感謝の気持ちを奉ずる箱があると聞きました。まだ数日しか泊まっていない私ですが、感謝の気持ちを納めたいとは思っています。

 ……数多の神々の力を預かった……しかし今は別れ、ただ1人の神となった私の……全力の感謝の気持ちを……箱に!! 

 ? なんでしょうマスター……『閻魔亭壊れる』? 『RTAになっちゃう』? 

 ……なるほど。ではしっかりと、それでいて相手の重荷にならない量の感謝を贈ることにします。何事もほどほどが良いということですね。

 ではマスター、閻魔亭復興、頑張ってください。私はこの日当たりと眺めの良い角部屋で、気になっていた本を読破しつつ、捧げられた餡入りお餅を頬張っていますから。

 あっプララヤが必要でしたら雀経由で呼んでください、敏捷Aで向かいます。

 

 

 

 その10 2020/1/7

 

 ぱり……ぱり、さくっ、さくっ、ごくん……。

 ああマスター、こんにちは。

 私が食べているものですか? えっと、ジナ……ガネーシャ神に「神のよしみッスー!」と勧められた『北海道ポテトチップス祝福溶かしバター味』です。

 油脂は古くから神々へ捧げられたもの、祈りと同じく神が受け取るべきもの。

 なのでこの揚げ菓子も受け取ったのですが……一口食べてみると、香り豊かで、食感も癖になり、ついぱりぱりと次から次へ……。

 ご安心を。お出しされている閻魔亭の食事は残さずいただいています、こちらも思いと共に捧げられたものですからね。

 それと……これです! 同じくガネーシャ神から贈られたチョコレート! 

 ポテトチップスと交互に口へ運ぶと……あまじょっぱい? と言うのでしたっけ、舌の味擂が開くようで、味わい深く……。

 ……『太るよ』? 何をおっしゃる我がマスター、サーヴァントは太ら……。

『サーヴァントであろうと、太る時は太る』……? 

 ……ちょっと何を言っているのか分からないですねマスター。

 年末年始のお笑い番組でも、あるコンビが「サーヴァントに対して神秘の無いカロリーは通用しないからカロリーゼロ」と……。

 

 

 

 その11 2020/1/8

 

 こんにちは、マスター。

 コタツに入り、捧げものをいただきながら映画鑑賞をしていました。

 座したまま様々なものが見れるのは、テレヴィジョンの興味深いところです。

 今日視聴したものは、車型タイムマシーンを駆り、時空を旅する青年と発明家の映画で……。

『コタツの上のお皿の中身について』……ですか。

 実は数分前、アビゲイル・ウィリアムズと厨房付近で遭遇し……「私はキッチンで何もしていないわ! フライドポテトもピザもチキンもポークも温めていないし、オレンジを絞ってジュースにもしていないし、パンケーキもベーコンも焼いていない、マッシュドポテトも練っていないの……! 

 輝ける炎と白馬、そして最後の剣を持つお方! これをあげますから、どうか雀の女将さんには何も言わないで!」と押し付けられるように渡されてしまい。

 もぐ……もぐ……ごくん。

 ……美味しいですね、とろけたチーズがたっぷりのせられたスパイシー皮付きフライドポテト。

 それと……先ほど、女将である紅閻魔から秘蔵の和菓子もいただきました。

 漫才のネタとしても取り上げられ、年末年始と話題になりましたね、モナカ。

 いいですね、モナカなんていくらあっても良いものですからね。

 

 

 

 その12 2020/1/9

 

 男湯の掃除も無事に終わり、何よりです、マスター。

 魔獣が分泌するよく分からないぬめぬめを落とすのは……時間がかかりましたね。

 猿達も悪戯をしに来て、掃除道具が奪われそうにもなりましたが、オリオンとアルテミスの矢で追い払えて……。

 ……なぜ女神アルテミスが男湯掃除に参加していたのでしょう? 少し不思議ですね。

 ともあれお疲れ様です、マスター。疲れを落とす為、湯に浸かってはいかがです? 

 湯の質は折り紙付きですし……それに、スカサハ=スカディより聞いたのですが「温かな湯を堪能しながら食べるアイスは……ふふふ……絶品だぞ」と。

 脱衣場前にアイスケースが設置されましたので、QPを支払った後……。

 

『アルジュナ(オルタ)はアイスを食べないの?』

 はい。私は先ほど雀の従業員の方からいただいたのです。

 新しく売り出すアイスの、試食への協力も兼ねてでしたが。

 ええと……バニラとミルクと抹茶と、苺、ラムレーズン、とうもろこし、カフェオレ、カフェモカ? ……カフェオレとカフェモカは同じ味でした。

 ……それから、バナナ、ピスタチオ、コーヒー牛乳……はカフェオレと味が被ってました。それからそれから……小豆、黒ゴマ、アーモンド、チョコレート。

 ……待って下さいマスター、まだ続きます。えっと、栗、きな粉餅味、唐辛子、さくらんぼ、小鳥を嗅いだときのあの感じフレーバー、ゲイザー、ワイバーン……それから……マスター、どうしました? そんな顔をして。

 

 

 

 その13 2020/1/10

 

 マスター、夕食の器を下げに来てくれたのですね。

 是非、厨房の者達にも「素晴らしかった」と、私の気持ちを伝えてください。

 本日の献立は……釜戸炊きのつやつや大盛りご飯に、三

 3種の野菜のおつけもの、肉を除いて、替わりに焼き豆腐と湯葉と麩を加えた、甘辛いすき焼き、食後には瑞々しい果物……。

 丁寧に造られ、真心込められた食事の数々、いつも感謝の念を抱きながらいただいています。

 

 ……背後に置いてあるのは換えの寝具ですか? 

 サーヴァントも寝汗をかきますし、動くとシワもつきますから、新しいシーツへ交換してくださるのはありがたい。洗い立ての布地の肌触りも、格別のものですしね。

 コタツ布団も交換して下さるのですか? 違う? ……『片付ける』? 

 なぜですマスター。すごく温かくて、テレビとの位置も程良くて、みかんも雀が持ってきてくれて、座椅子のおかげで漫画も読みやすく、しかも寝てしまっても自動で熱源が消えるタイマー付きの、すごく便利なものですのに……。

 

 

 

 その14 2020/01/11

 

 くっ……ふぅ……マス、ター……限界です、私は……もう駄目です。

 

『アルジュナ(オルタ)……』

 はぁ……はぁ……ここまで、みたいですね、汗が止まりません……。

 握っている手を離して。あなたが……先に行ってください。

 

『──分かった、行くよ』

 ……それで、いいのです、マスター。そして、世界を救うため……叫んで……! 

 

『ジャガーマン像に……伝説の宝石を戻す! うぉぉぉぉぉぉぉー!!!!!!』

 

 ……。……。……。……。

 あっ、戻ってきましたね、閻魔亭の私の泊まっている部屋に。

 まさか……コンピュータールーム増築の為の片付け途中、見つけたゲームの中に吸い込まれてしまうだなんて。

 姿形や性別、スキルまで変わってしまい、体も重たく感じて、困りましたが……道中出会った彼に助けられ、最終ステージまで進めましたね。

 彼……1960年代からやって来たと言っていましたが、無事に家へ帰られたのでしょうか。

 

『きっと帰られたはずだよ』

 ……そうですね、私も彼の無事を祈ります。

 

 ……どっと疲れましたね、走ったり飛んだり転がったり戦ったりしましたから。

 えっと、ここに……お菓子、お餅、みかん、備え付け冷凍庫にアイスが。

 マスターどうぞ、疲れた体に染み……『一部回収』? ……なぜですか? 

 

 

 

 その15 2020/01/12

 

 閻魔亭に宿泊を始めてから、はや数日……時間が経つのはあっという間ですね。

 特にこの……漫画を読んでいると。

 森長可から勧められた、デーモンをブレイドでスレイするこの漫画、次から次へと怒涛の展開で……物語はどのように終わるのでしょうか。

 私、気になります。

 ああそうだ、読み終わった漫画は種類別・巻数順に並べておきますので、マスターも本棚へ戻すときはそのようにしてくださいね。

 ……マスターは次に何を読みます? 取ってあげます。

 そして! こちらが漫画のお供のお菓子。

 たっぷりの甘いあんこと、雀達によるつきたての柔らかいお餅の取り合わせ。

 熱いので気をつけて食べてください……おっと、お餅が想像以上に伸びますね……。

 

 私は次に……この漫画を読むことにします。

 不死の火の鳥を求める人々と、その鳥の物語……昨日から読み始め、今は現代編と名付けられた所まで読み進めました。

 

『昔読んだー』

 マスターの世界にもあるのですね、こちらの漫画

 私、たまたま出会った宿泊客から渡されて……。

 彼は私にそうした後、手に持った紙に絵を書きながら行ってしまいました。

 実にせわしない存在で……あの男性も名のある神なのでしょうか? 

 約束もしましたし、あとで作品の感想を言いに行かなければ。

 

『どんな見た目していたの? その男性』

 ええっと、華美ではない服を着て、眼鏡をかけ……ああ! 特徴的なベレー帽を被っていました! 

 ……マスター、どうしたのです? 突然震えだして。

『漫画の神』? ……なるほど、極東にはそのような神性もあるのですね。

 

 

 

 その16 2020/01/13

 

 この細長く湾曲したパーツは……恐らく目! そしてこちらが……鼻! 

 よし! 制限時間内に完成しました! 目隠しを外してください、マスター! 

 

『はーい』

 ……これが……私……? 

 しまった、目だと内心合点していたのは肩の宝具パーツで、鼻だと思っていたのは角……随分と愉快な面もちになってしまいました。

 ……面白いものですね、マスターの国に伝わる福笑いという遊びは。

 

『次はこれ』

 マスターの顔……ですか。なるほど、難易度が高そうです。

 では続いて私が……『自分でやりたい』と。

 分かりました、このアルジュナが目隠しを巻かせていただきますね。

 ストップウォッチを用意しまして……スタートです! 

 ……マスター、それは口ですよ、そして右手に持っているのは耳。

 今、左手に取ったのは、福笑いのパーツではなく私の尻尾です、離してください……離してください。炎が出たりするので危ないのですよ、とても。

 ……『何があっても離さない』とおっしゃる。

 そのような態度を取るのでしたら……えい、えい! ええーい! 

 ふぅ……マスターの腕VS私の尻尾相撲はこちらの勝ちです。

 当然です、このアルジュナ、頭の先から尻尾まで筋力Aなのですから。

 

 

 

 その17 2020/1/14

 

『閻魔亭でのお勤めが終わったら、次はアマゾネスドットコムでお仕事……』

 元気を出して、マスター。求められるというのは良いことではないですか。

 それに貴方には、マシュやカルデアのスタッフ、大勢のサーヴァント達がついています。孤独ではありません……私もマイルームにいつもいます。

 

『プララヤしてくれる?』

 します。

 

『HP30万のエネミーも1ターンで倒してくれる?』

 どんとこい! 超常エネミーです。

 

『攻撃したカードの種類ごとにバスター・アーツ・クイック耐性を自身へ付与させるエネミー3体(アサシン)を相手にしても7ターン以内に勝利してくれる?』

 ……その方法を我らサーヴァントと一緒に考えてくださるのが、マスターの主たる役目なのでは? 

 あっごめんなさいマスター、そんなに落ち込まないでください。

 閻魔亭名物、お口の中でとろけるチョコレートアイスバー『破流夢』を買ってきますから……後でおやつ休憩の時に一緒に食べましょうね。

 

 

 

 その18 2020/1/15

 

『そろそろ出来たと思う』

 では……湯気に気をつけながらお鍋の蓋を外して……おお! 豆腐も、白菜もネギも美味しそうに煮えていますね! 

 

『小皿に取ったら、お好みでぽん酢かけて食べてね』

 はい。

 では、マスターの作ってくださった野菜中心の寄せ鍋、いただきます。

 まずは何もかけずに、一口。

 ……豆腐は滑らかで、香りが口いっぱいに広がり、野菜も柔らかく、甘味があって……素晴らしい品です、マスター。

 ぽん酢も、醤油の(だいだい)の果汁に出汁とみりんを合わせた、複雑な味わい。共に口へ運ぶと、この鍋の具材を更に引き立ててくれます。

 橙は「家がだいだい続くように」とかけた縁起物だとか。洒落ていますね。

 美味しいですから、白いご飯も、山盛りですけれど……どんどん箸が進んで……。

 ……。……。……。……。

 

『お代わり、いる?』

 ……はい。

 

 

 

 その19 2020/1/16

 

 マスター、声を出してはいけない。彼女に気づかれてしまう。

『うん……』

 ……廊下を通り抜け、厨房へ向かいましたね。今のうちに進みましょう。しかしまさか……。

『アルジュナ(オルタ)の宿泊室でゲームしていたら、寝落ちしてしまうなんて……』

 

 彼女……紅閻魔と雀達に気がつかれる前に、マスターは部屋に戻らなければならない。なぜなら心配をかけてしまうから。難しいミッション……ですが、私と貴方ならやり遂げられます。

 

『めっちゃ楽しかったねー、対戦ゲーム』

 その話はおやつ休憩の時にしましょう。よし、後少しでマスターの部屋に……。

 誰が待ち受けているかわかりません。外泊がもうバレていて、こってり絞られるかもしれませんが……このアルジュナ、責任を持って後ろから見守ります。

『じゃあ、襖を開けるよ……!』

 はい……どうぞ!! 

 

「おう、マスターじゃねぇか、邪魔してるぜ。朝餉の粥が旨いな、あとここの沢庵も旨いな」

 

『……?』

 ……? 

『……………………なんで? 土方さんなんで?』

 

 

 

 その20 2020/1/17

 

 ふん……! ええい! でやー! ……成功です! やれば出来るものですね! 

 おやマスター、こんにちは。アルジュナ(オルタ)ですよ。

 今作っていたこれですか? 実は数時間前、雀達と話をしていて……。

 ……これより回想します。

 刑部姫から学んだ想起用詠唱は確か……ほわんほわんほわんあるじゅなー。

 

「雀の感謝の気持ち的なあれそれが集まって出来たのが雀の幸チュン。

 お泊まりいただいた神様の感謝の気持ちは、箱に集まり、閻魔亭の霊基を成長させる糧になるチュン。

 ……感謝の思いは塊に出来るチュン? 資源になるチュン?」

 

 とアイデアを貰い、私の感情を出力して、物質的な塊にする試みをしたのです。

 ……まさかこんなに大きく出てくるとは、思っていませんでしたが。

 切り出した丸太くらいあります。これで1/10000感謝の気持ちですから、全感謝の感情を出力していましたら、恐らく閻魔亭が崩壊していたかと……。

 ……私の部屋、一気に狭くなりました。どうしましょう……。

 

 

 

 その21 2020/1/18

 

 閻魔亭での宿泊も今日で終わりですね……。ご心配なく、荷物はまとめましたし、後はチェックアウトするだけとなります。

 

 ……おかしい、どうして来る前より、荷が大量に増えているのでしょう? 

『荷物を一度選別してみよう』

 マスターの言うとおりですね、少し整理してみます。

 ええっと、チョコレート、ポテトチップス、温泉饅頭、お土産のバナナ饅頭、閻魔亭ラングドシャ、厄除けバームクーヘン。頂いた漫画に……巴御前から借り受けたボードゲーム……。

 ……食べ物が多いですね。宿をあとにする前に、お腹の中へ入れてしまいます。

 もぐ……ぱり……めりめり……どしゃ……。

『……手伝おうか?』

 ……しかしマスター、お仕事があるのでは? 

『もうほとんど終わらせたから、大丈夫』

 では、こちらをどうぞ。雀達から奉じられたばかりの黒糖饅頭です。

 

 ……あの……この部屋、一番眺めの良い角部屋ですから、景色がとても素晴らしくて。

 その……閻魔亭の雄大な風景を目に納めつつ、並んで食べませんか? 

『いいよ』

 ああ……良かった。でしたらマスター、こちらへ。

 ……下に見える橋から、帰って行く宿泊客達の様子が伺えますね。

 閻魔亭は静かになるのでしょうね、私達サーヴァントが来る前のように。

『また来たいねー』

 そうですね。その時も、この私があなたの隣に居られれば……とても幸いだと思います。

 大福餅をどうぞ。「大きな福が来ますように」と願い込められた、縁起物だとか。マスターにも、幸あらんことを……。

『大きくなってるよ』

 ……そうですね。

 

『……大福餅が!!!!』

 ごめんなさいマスター、福を願う気持ちをついうっかりお餅に込めたら、突然膨張を始め……! しまった! 部屋いっぱいに大福餅が膨らんでいく! 

(はり)が壊れる?!』

 障子が! ふすまが! 畳が……いえ床が抜けます! 

『まずい! 紅閻魔師匠に怒られるってレベルじゃねーぞ!』

 ええ、お餅は甘くて美味しいのですが、食べる速度が追いつかず……こうなれば宝具を使用し、事態がひどくなる前に対処をしなければ! 

 全ては私の責任……令呪をもってこのアルジュナに命じてください! 巨大大福餅討伐の許可を! 



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バレンタイン関連(+その他)SSまとめ

その22~その27まで(通し番号なのでその22から始まっています)
(マスターの台詞→『』 その他のサーヴァントやキャラクターの台詞→「」)



 その22 2020/2/12

 

 始まりましたね、バレンタインの季節が。

 マスターったら、数日前からそわそわと落ち着かないご様子で。

 震えながらコーヒーを啜ったり、シュミレーター内の滝に打たれながら文言を唱えたり、カルデア外部の積雪に頭から突っ込んだり、ドラゴンステーキのレアとウェルダンを交互に齧ったり、クロスワードパズルを幾つも解いたり、訳もなくエクササイズに打ち込んだり、徹夜でゲームを始めたり……その、何事もなくこの時期を迎えられてよかったです。

 どうしましたマスター? その抱えた星形のチョコレートと……ダーツは。

 

『サプライズチョコは、自分にとってもサプライズじゃないと意味がないから、渡す相手はダーツで決めるんだ……』

 へー……そうなのですか、祭事に関する知識がまた増えました。

 私は横で応援していますね、えーっと、マスターの国のかけ声は……『いらない』? 、『フレンドなパークっぽくなる』? ……よく分かりませんが、では静かに見守ることにしますね。

 

『だっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 おー……ちゃんと刺さりましたね、渡すお相手は……あのサーヴァントですか、きっと心待ちにしていることでしょう。

 さぁマスター、真心とチョコレートと共に行ってらっしゃいませ。

 きっとみな、素晴らしい返礼の品を携えているはずです。

 バレンタイン、頑張ってくださいね、マスター。

 あなたからのチョコレートを待っているサーヴァントは、まだまだ沢山居るはずですから。

 

 

 その23 2020/02/13

 

『アルジュナ(オルタ)……』

 はい、ここにいますよ。

『また会える? 次に目を覚ましたときも……隣にいてくれる……?』

 ええ、必ず。

『じゃあ……まぶたを閉じても安心だ……』

 ……そうですよ、何を恐れることがありましょうか。安心して、お休みなさい、マスター。

『……ずっと怖かったんだ、こんな日々の終わりが見えなくて。でも、そんな毎日が幸せで。いつかさよならしなくちゃって、覚悟は決めていたのに。

 ……アルジュナ(オルタ)、自分の手、汚れてないかな? 綺麗なままかな?』

 汚れなど、何一つついていませんよ。

『そっか……ああ、安心した……』

 マスター……。

 

『サプライズチョコ……ロックオンチョコ……貰ったチョコも……全部食べる……みんなに……真心込めて……チョコ……アゲル……ツクル……全ては……チョコ……』

 ……身を削ってまでチョコ制作を行っていたためか、人間性が欠け始めていますね、私にも似たような時代はあったので分かります。

 まだバレンタインの季節は続きますし、ふかふかのベッドで眠らせておいてあげましょう。

 さて、呼び集めたみなでマスターの健闘の後片付けを。

 泡立て器や金属ボールなどの道具を洗い清めて、マスターの手にも少しチョコがついていますから、温かい布巾で拭って……これでよし。

 それにしても……マスターはいつになったら、私の元へチョコを携えてやって来てくれるのでしょうか? 

 

 

 その24 2020/02/14

 

 こんばんはマスター。もう遅い時間ですよ、少し休憩なされては? 

『チョコ』

 はい。

『受け取ったし、みんなにもきちんとあげて来たんだ』

 大勢の方々、実に嬉しそうでしたね。

『けれど、まだあげていないサーヴァントが1騎いるんだ』

 なんと、一番最後まで待たされたサーヴァントが居るとは。驚きです。

 それは誰でしょうか? マスター? 

『ア……』

 ア。

『アルルルルルルジュナナナナナナナ……』

 ……落ち着いてくださいマスター。このアルジュナ、逃げも隠れもしませんので。

 

『チョッ↑、チョ↑コ↓レート↑、受け取ってくだささささ……』

 はい、受け取りました。あなたからの真心込められた、チョコレートをきちんと受け取りましたよ! 

『食べべべべべべべ……』

 では、一口頂きますね。ふむ……クリームとチョコが合わさり滑らかで、洋酒の香りも高く……甘い、実に甘い品です。何か苦味のある液体でも飲みながら食べたいですね。

 不思議なことに、先日良質の茶葉が私の元へ配達されてきたのです。自室でそれを味わいながら、共に歓談し、しばし休息を……どうされましたマスター、マスター? 

『……。……。……。……』

 死んでる……。

 

 正確に表現しますと、マスターは立ったまま気絶していますね。

 このまま置き去りになど出来ませんから、連れて行きましょう、よっこらせっと……。

 しかし、最後の最後にこうなりますとは……「残り物には福がある」とは、マスターの国のことわざだったでしょうか? ……ははははは! 

 

 

 その25 2020/03/05

 

『アルジュナ(オルタ)! バレンタインのチョコあげる!』

 ありがとうございますマスター……おお、ナッツ入りなのですね。

『美味しい?』

 はい、とても風味豊かで、摘まむ手が止まりません。あっという間に無くなってしまいそう……。

『また来年もよろしくね!』

 はい、待っています、マスター。

 

『アルジュナ(オルタ)! バレンタインのチョコあげる!』

 おや……抹茶のチョコレートですか、緑が色濃くて綺麗ですね。

『味の感想は?』

 コクがあり、実に美味です。ありがとうございますマスター。

『また来年もよろしくね!』

 はい、待っています。

 

『アルジュナ(オルタ)! バレンタインのチョコあげる!』

 赤色……これはイチゴ、ではなく、フランボワーズですね。

『当たり! 食べてみて!』

 甘酸っぱさと、苦味を伴うチョコの味が渾然一体となり、美味しいですよ。

『また来年もよろしくね!』

 はい、楽しみです。

 

『アルジュナ(オルタ)! バレンタインのチョコをあげる!』

 今回も緑、けれど、抹茶よりは淡い色彩で……ピスタチオ、ですか? 

『その通り! どうぞ召し上がれ!』

 いただきます……ふむ、豆特有のなめらかで、油を伴った旨味があり、美味しい。次回も楽しみです。

『……次回? 来年じゃなくて?』

 ……そうですね、来年です。

 

 ふぅ……危ない危ない、気づかれてしまうところでした。

 嬉しかったからといって、神パワーで何回もバレンタイン前後の1週間を繰り返すなど……誰かに気がつかれたら大変なことです。

 あと1回、で止めましょう、そうしましょう……。

 

 

 その26 2020/03/12

 

 マスターの明るい顔を見れば分かります。

 とても楽しかったのですね、アイアイエー島の小さな冒険は。

『写真見る?』

 ええもちろん……うん、やはりゲオルギウスの写真の腕は確かなものです。

 真なる私、こんな表情も浮かべるのか、楽しそう……そしてこれはオデュッセウスの……ふむ、なるほど。

『いいよね……オデュッセウスのあれ……』

 時にマスター……合体に興味はありますか? 

『!』

 変形は……? 

『!!』

 ふふ……マスターは本当にこれがお好きですね。そーれがっちゃんこ……からの変形! ミクロプララヤ! からの再変形! エネルギー収束! 発射! はぁ!! 

『やったーかっこいいー!!!!』

 マスターが喜んでくださり何より! マイルームの壁に穴が空きましたが些事ですね!! 

 ……いえ、些事ではない。どうしましょう。

 

 

 その27 2020/08/10

 

 マスター、今年の夏の予定が発表されましたね。

 サマーキャンプを舞台に、様々な方が水着になるそうで、かの竜殺しとその奥方も、仲むつまじく水着を選んでいましたよ。

 私が水着になるかどうか……ですか? 

 んーどうでしょう……千里眼で先は見えていますが、それをマスターに言うのも、いわゆる【ネタバレ】でしょう。

 ……この間、マスターへ映画の展開を耳打ちしたら、鬼のごとく激怒したではありませんか。

 一緒に見ていた茨木童子も震えるほどで……ええ、その後怒ったマスターから逃げる、カルデア鬼ごっこ楽しかったです。特にマスターの手が届きそうで届かない速度で走るのは。

 

 ふむ……また未来が、いえ、邪悪の兆しが見えました。

 属性で言うとこれは……【散財】、でしょうか。

 資金も資源も限りあるものです。よく考えて使ってくださいね、マスター。

 

 ところで、先ほどから机に並べているその大量の衣服はいったい……? 

 ああ! 霊衣ですね! 真なるアルジュナのためにも1着作られたと聞き、密かに気になっていました! 

 ふむふむ、さわさわ。うん、良い手触りです。

 ……これを着ることの出来る者が、少し羨ましいかもしれないな……。

 

『アルジュナ(オルタ)が着てみたら?』

 真なるアルジュナの衣服を、この私が? 

 それは駄目です。サイズが合いませんし、何より……専用の作りじゃないと角やら尻尾やらが引っかかって、脱げなくなるのですよね。

 あれです、マスターが前に見せてくださったあの絵本の表紙みたいに……。

 

 今回のように、いつか私の霊衣も仕立ててもらえるといいですね、マスター。



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劇場版サモサマン ~溢れ出すスパイスの涙~

 架空のアニメヒーロー『サモサマン』の架空の劇場版の一部を書いたものです。
 物語にはこれより前も後も存在しませんので、安心してお読みください。
 あとがきに書かれているパンフレット内インタビューについても同様です。
 全て、ジョーク記事のようなものです。


 劇場版サモサマン~溢れ出すスパイスの涙~

 

 

「サモサオルタマンー!」

 マシュとマスター、サモサマンを庇って攻撃を受けたサモサオルタマンに急いで駆け寄る。

 

「先輩! 見て下さい、サモサオルタマンの顔が……」

 サモサオルタマンのサモサの装甲が剥がれ……サモサマンと同じサモサが表出していた。

 しかし、その顔は随分と年老いて見えた。

 

「どういうことなんだ……サモサオルタマン!」

 動揺したサモサマンが倒れている彼に声をかけると、息も絶え絶えな状態でサモサオルタマンは話しだした。

 

「みんな……落ち着いて聞いて欲しい……私はね、君たちとは別の世界からやってきた……かつて、サモサマンと呼ばれた若者だった」

 遠くの方で、サモサオルタマンに攻撃を加えたハイパービッグカリが暴れている音が聞こえる……。

 

「私のいた世界はハイパービッグカリによって滅び……私だけ取り残された。

 そんな未来をたどるのをもう見たくなくて、この世界にやってきて……君たち三人を助けていた……お節介だったかな?」

「そんなことありません! サモサオルタマンは素敵な大人でした……!」

 マシュが涙を流しながら言葉を返す。

 

「ハイパービッグカリの正体を……サモサマンは知っているのだろう?」

「ああ、ハイパービッグカリの正体は……世界全ての人々の悪意だ……!」

 張りつめた表情でサモサマンは頷いた。

 

『じゃあ、ハイパービッグカリを倒すには……』

「君の考えているとおりだよマスター君。

 世界中の人々の心を変える必要がある。けれど、そんなことは不可能だ……不可能、だった。だから私はこの世界にやってきたんだ」

 サモサオルタマンは傷だらけの体で立ち上がったが、崩れ落ちそうになってしまった。その体をサモサマンが支える。

 

「私のオルタのマイナスの力と、サモサマンのプラスの力を合わせて、ハイパービッグカリを地球上から引き剥がす。

 そして、二人で宇宙の果てまで連れて行くんだ」

「ですが! そんなことをしたら……! お二人が!」

 涙を流し続けるマシュの頬に、サモサマンが手を添えてそれを拭った。

 

「サモサマンとして未熟だった自分がここまでこれたのは、マシュ君、マスター君の二人のおかげだ。ありがとう!」

『サモサマン……』

「マシュ君と末永く幸せに!」

『……はい』

 傷だらけのヒーローとマスターは握手をして、それから力強く頷いた。

 

「さようなら、二人とも」

「さよならだ! 二人とも!」

 サモサマンとサモサオルタマンは輝きながらハイパービッグカリへ向かって飛んでいく。その姿をひび割れたビルの屋上から見送った。

 

「サモサマン! 私に合わせてくれ!」

「ああ!」

 たった今、巨大電波塔を倒し、瓦礫を粉砕したハイパービッグカリに二人のヒーローは立ち向かう。

 サモサオルタマンからオルタな光が、サモサマンからは眩い虹の光が溢れ出す。

 

「本来交わらぬ平行世界の力が!」

「捻れ混ざり! 未知なる可能性をここに生み出す!」

「希望の光!」「明日への灯火!」「誰かの笑顔!」「守りたい……命!」

「「ダブルサモサライトソード……ロード!!!!」

 白と黒に光る光の剣がハイパービッグカリへ迫り、叩き切るのではなく鞭のように全身を拘束した。

 

「「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 サモサマンの背中から片翼の白の光翼、サモサオルタマンの背中から片翼の黒の光翼が生え、怪獣の巨体を引きずりながら空へ上昇していく。

 それはまさしく……光の剣で出来た道(ライトソードロード)、だった。

 

「グォォォォォ!!!!」

 町を破壊していた巨大カリの体が浮かび上がり、どんどんと小さくなり、やがて見えなくなった。

 

 ──宇宙。

 冷たい黒の空間に、カリを宇宙の果てに連れて行くべく二人のサモサマンはいた。

 

「ありがとうサモサマン、君のおかげで世界を救うことができた」

「いや、お礼を言うのは私のほうさ! ありがとうサモサオルタマン……」

 後ろを振り返れば、地球が小さくなっていくのが見えた。

 

「どうしたんだい?」

「マスターとマシュ君に……もう二度と会えないかと思うと、寂しくて」

「……そう、だな。寂しいな」

「でも二人は大丈夫! もちろん、地球のみんなもね!」

 ヒーローらしからぬ不器用な笑みをサモサマンは浮かべる。

 

「えっ……?!」

 突然サモサマンの体が光に包まれ、サモサオルタマンのそばから離れていく。

 

「これは……!」

「サモサマン、君は、君だけは地球に帰るんだ。そうしなくちゃいけない」

「なぜだ! そんなことしたらあなたは……ひとりぼっちじゃないか……!」

 サモサマンは両手で必死に空をかく。

 

「サモサマン、平行世界から来た私はね、ずっと世界から仲間外れだった。

 でも、君達は私を仲間だと……同じ世界で生きる命だと言ってくれた……。

 それだけで……長い時間一人で生きてきた私には十分だったんだ」

 二人のヒーローの間にはもう埋められないほどの距離が出来ていた。

 

「さようなら、サモサマン。

 私と同じでありながら、私とは違う未来を歩く者」

「だめだ! 私は諦めないぞ! サモサオルタ……もう一人のサモサマン!」

 サモサオルタマンはハイパービッグカリと共に、冷たい宇宙の彼方へと去っていく。

 

「世界の悪意は私が連れて行く。

 どうか、君達の未来に幸福ばかりがありますように」

「嫌だ! 君も幸せにならないとダメなんだ! 

 サモサマン! サモサマーン!!!!」

 ……かつてヒーローだった老人、サモサオルタマンは、青い地球に背を向けて飛んでいく。

 その孤独な背に、若いヒーローは声をかけ続けた。

 

 場所は変わり、地球。

 マスターとマシュはヒーローの飛び去った水色の空を見上げていた。

 

「マスター……あれは……」

 ヒーローの残した光が虹の帯となって、雲一つ無い空をたなびいていた。

 

『オーロラだ……それに……』

 雪のように降りてきたふわふわのかたまりを手の上に乗せる。

 

「「スパイス……」」

 サモサのヒーローがまとっていた魅力的なスパイスが、空から降り注いでいた。

 

「先輩、涙が……」

 マシュに指摘されたマスターは手の甲で涙を拭う。

 

『これはスパイスが目に染みただけ。

 悲しくないよ。だって二人は絶対に帰ってくるから』

「そうですね……きっと、絶対に」

 崩壊した町に、淡雪のようなスパイスが降り注ぐ。

 それはまるで、涙のように。

 

『マシュ! あれは……!』

 オーロラとスパイス混ざる空から、誰かが降りてくる。

 あまりにもその姿は見覚えがあって……。

 

『迎えに行こう! マシュ!』

「はい! 先輩!」

 二人は瓦礫の中を笑顔で駆け出す。

 涙とスパイスと、希望を抱きながら。

 

 

 劇場版サモサマン~溢れ出すスパイスの涙~

 終わり




 パンフレット内、監督インタビュー抜粋


【監督】
 元々サモサオルタって原作ゲームだと中ボスなんですよ。
 しかも大量生産品。それが子ども心にずーっと引っかかってて。
 その気持ちを抱いたまま、リメイク版アニメ、映画に関われたのはすごく幸運だって思います。
 今回の映画化にあたりゲーム版の資料をいただいて、よく読み込んでいたら、理由が分かったんですよ。


【記者】
 その理由とは? 


【監督】
 ゲームだと本来はサモサオルタにもう少しストーリーがあったんですけど、それが発売日の関係でがっつり削られて、ほとんどボツになっちゃってるんですね。
 そのストーリーが凄く感動的で、これ実装されてたらゲームジャンル変わっていたんじゃないかと思うほど。
 なので今回の映画にはそのボツ要素も少し盛り込ませていただきました。
 あの頃疑問を抱いていた自分に贈る……って言うとかっこよくなりすぎかな。


【記者】
 サモサオルタマンへの思い入れが強いんですね。


【監督】
 んー……ですね。やっぱり。
 リメイク版でがらりとサモサオルタの立ち位置を変えたことで、オリジナル版を見ていた大人の方も「んん? 自分の知ってるお話と違うぞ?」と感じていただけたら、嬉しいですね。


【記者】
 サモサオルタ役の方には全てを……? 


【監督】
 はい。複雑な背景のキャラクターなので、全てを。
 劇場版はリメイク版と地続きなので、リメイク版の一話収録の前にはストーリーラインを含めてお話ししていました。
 彼のおかげでサモサオルタに確かな命が宿った……と感じています。
 いやぁ……すごかった、彼の穏やかな声に確かに込められた悲しみに、胸をうたれてしまいました。
 サモサマン役の方には、全部内緒で。収録も別撮りで。
 だからラストの台本の読み合わせの時に凄く動揺されてた。でもそれも飲み込んで全てエネルギーに変えていて……やっぱりプロって凄いですね。
 だからサモサマンとサモサオルタが同じ部屋で音撮ったの今回の映画が初めてなんですよ。


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新世紀ロボット番組『戦闘巨神アルジュナ』コラボイベント風SS まとめ1

 架空のロボット番組、『戦闘巨神アルジュナ』とFGOが架空にコラボしたら……という仮定のもと、書かれたセリフ主体のSSです。

 第1話~第24話
 ※2024 03/17 読みやすく、改稿しました。


 読み方
・『』から始まるのは、主人公のセリフです。
・「」の上についているのは、それを話しているキャラクターの名前です。
・──から始まる文は、場面名や時間経過を意味しています。
・→はキャラ名の変化、または移動などを表現しています。
・台詞に出てくる『』で囲われた単語は、重要な単語、または過去に出た台詞の表現です。

 以上を参考に、お読みください。


 第1話 2020/03/06

 

 

 ──廃棄コロニー内

 

 

???

「目を覚ましましたか、一般人。

 ここは戦闘代行巨神、『アルジュナオルタナティブ』のコクピット内です。

 気絶していたあなたを、生命保護のため格納しました。

 私の名はA2、この巨神の戦闘補助を行うAIです。

 この姿……立体映像は、人間との円滑なコミュニケーションをはかるためのものに過ぎません。

 何か質問はありますか? 一般人」

 

カルデアのマスター(以下カルマス)

『うわぁまたすごい世界と混線しちゃったぞ……』

 

???(以下A2(エートゥー)

「混線? 言っている意味が……くっ、この振動は!」

 

カルマス

『目の前に出て来たのは……緑色ゼリーな体をもった大きな怪物?』

 

A2

「ええ。あれは通称『ゾルテトラ』。

 人類を(むさぼ)り、星を滅ぼした魔物です。

 しかし予想外です、格納庫までこの速度で来るとは。

 ……手段を、選んではいられませんか。

 一般人、遺伝子登録を行い、私と契約してください。

 

 ──神と人が、手を取り合うこと。

 それこそが、戦闘代行巨神『アルジュナ』の真の力を呼び起こす条件なのです。

 ……このジェル内部へ両手を入れて、操縦桿であるレバーを握ってください。

 遺伝子を採取し、あなたと巨神を接続、契約します。

 少し痛みますが、構いませんか?」

 

カルマス

『分かった! うぉぉぉぉ!!!!』

 

A2

「別に叫ぶ必要は無いのですが……よし、契約完了。

 これより、あなたは私の操縦者(マスター)です。

 ……まさか、再び戦う事になろうとは。

 

 千の時を超え目覚めよ巨神! 

 アルジュナオルタナティブ、フルドライブ!!」 

 

カルマス

『うわぁぁ! 戦闘モードになるとコクピット内が360度が見える全天周囲モニターになるんだ格好いいー!!』

 

A2

「神経接続により、あなたの思い通りに巨神は動きますが、その分、受けたダメージがあなたの体にフィードバックしてしまいます」

 

カルマス

『うわぁぁぁ!! 知ってる設定だぁー!!』

 

A2

「過度の興奮が見られますので、精神安定剤と鎮痛剤、静脈注射しますね」

 

カルマス

『……急に落ち着いてきた』

 

A2

「何よりです。では、目の前のゾルテトラを倒してください。

 体内のどこかに四角いコアがあります、それを破壊すると倒せます」

 

カルマス

『物語中盤でコアの中身について重大な秘密が明らかになりそう』

 

A2

「この巨神は長らく封印されていたので、武装はありません。

 素手で戦ってください。

 私も補助しますが……出来ますか?」

 

カルマス

『──出来るさ、君と二人なら』

 

A2

「何やら頼もしい返事です。

 初陣であっさり負けないでくださいね、我が操縦者(マスター)

 

 

 第2話 2020/03/06

 

 

 ──廃棄コロニー内

 

 

A2

「巨神とあなたの全神経同期完了。

 いつでも戦闘可能です、操縦者(マスター)

 

カルマス

『これが……戦闘代行巨神、アルジュナオルタナティブ……』

 

A2

「全長約100m、現在武装は無し。

 フェイトエンジンにより、起動時間に制限はありません。

 体の感覚が拡張されていますが、違和感などは?」

 

カルマス

『自分が巨人になったみたいだ……機体表面にチリがつく感覚が分かる……』

 

A2

「ゼリー状の敵……ゾルテトラが動き始めます、気をつけて」

 

カルマス

『……っ!』

 

A2

「落ち着いて! 顔面にゾルテトラが着いても窒息しません! 

 息苦しいのは神経接続による錯覚だ!」

 

カルマス

『くぅ!』

 

A2

「引き剥がしましたね、冷静な判断です。

 次は」

 

カルマス

『巨神拳!!』

 

A2

「打撃により敵の体がほどけた! 

 弱点である四角のコアを叩いてください!」 

 

カルマス

『わぁぁぁぁ!!』

 

A2

「よし、コア破壊確認。

 敵が蒸発していきます」

 

カルマス

『ゾルテトラ……なんとか倒せた……』

 

A2

「初陣でもあり、不定形故に戦い辛い敵だったでしょうに、上手く倒せましたね」

 

カルマス

『アルジュナ……じゃなくて、A2がサポートしてくれたおかげだ』

 

A2

「ありがとうございます、操縦者(マスター)

 私もあなたが無事で嬉しいです。

 ……さて、この封印格納庫から脱出しませんと。

 今私達のいる廃棄されたコロニーは、ゾルテトラの襲撃を受け、衛星軌道を外れ、近くの天体重力に引かれ始めています。

 巨神全体のスキャンを行いましたが、故障個所はありませんでした。   

 問題なく宇宙遊泳出来ますよ」

 

カルマス

『脱出したらどうしよう』

 

A2

「人類生存域防衛軍宇宙艦隊が近くに居るようです」

 

カルマス

『もう一回お願いします……』

 

A2

「? ですから、人類生存域防衛軍宇宙艦隊です。

 縮めて人類防衛軍とでも呼びましょうか。

 彼らと合流し、保護を打診しましょう。

 あなたの生存に必要な食料や水、空気は限りがありますからね。

 ……なぜだか気は進みませんが」

 

カルマス

『……帰れるかなー』

 

A2

「どこに帰りたいのか知りませんが、あなたは運命すら書き換える巨神のパイロット。

 帰りたい場所に帰られるかどうかは、あなたが決めることです」

 

カルマス

運命(フェイト)……』

 

A2

「はい、運命(フェイト)ですよ。

 ん、この亀裂からコロニー外部へ出られそうです、よいしょ……」

 

カルマス

『本当に、外は宇宙空間なんだ……』

 

 

 ──廃棄コロニー内→宇宙空間、デブリ群

 

 

A2

「このコロニーは、かつて人を運んでいた船でしたが……戦争により壊れ、そして私と機体は封印されたのです」

 

カルマス

『さっき倒した敵……ゾルテトラって何?』

 

A2

「この世界における一般常識ですが、聡明なA2はあなたに説明しましょう。

 

 今から3000年前、地球に突如出現した生命体、ゾルテトラ。

 彼らは人類を好んで補食し、当時の兵器では太刀打ちできませんでした。

 よって人類は宇宙船を建造、地球を捨てオールトの雲を越えて……長い逃亡生活の果てに、巨神を開発したのです。

 

 ゾルテトラは、あらゆる衝撃や熱を吸収する体を持っていますが、それを巨神ならば打ち砕ける。

 コアを捉え、破壊することが出来る。

 巨神は……絶滅寸前である人類の希望なのです」

 

カルマス

『じゃあ、パイロットは責任重大だね』

 

A2

「そうですよ、簡単にやられたりしないでくださいね。

 ん……この反応は……」

 

カルマス

『さっき言っていた、人類なんとかかんとか宇宙艦隊が見つかったの?』

 

A2

「いえ、民間の船が一(そう)いますが……」

 

カルマス

『ゾルテトラが宇宙船を覆ってる?!』

 

A2

「内側に居る人間ごと、補食しようとしている……。

 けれど、助けたくともあの大きさの敵に挑むのは、武装を持たない今の私達では無謀」

 

カルマス

『──関係ないよ、助けに行く』

 

A2

「はぁ……A2の話を聞いていましたか?」

 

カルマス

『倒せなくても、剥がしたり、自分が囮になるくらいは出来るから』

 

A2

「では向かいましょうか、マス……一般人。

 ああ、勇気と蛮勇は違うと知っていますか?」

 

カルマス

『知っているさ! だから行くんだ!』

 

 

 第3話 2020/03/08

 

 

 ──宇宙空間、デブリ群

 

 

カルマス

『敵を……ゾルテトラを民間船から引き剥がす事は出来たけれど……』

 

A2

「あなたの想像以上に速いでしょう。

 かの敵は、質量を増すごとに身体能力が向上していくのです」

 

カルマス

『民間船が逃げられるまで、自分が囮になる! 

 目の前のデブリ群に突っ込んで、少しでも距離を……!』

 

A2

「敵の分裂を確認。総数は3」

 

カルマス

『分裂?!』

 

A2

「小惑星の間に緑のゼリー状の体を薄く広げ、網目状に」

 

カルマス

『なるべくジグザグで高速移動して、敵を撹乱(かくらん)──うっ!』

 

A2

「眼球からの出血と、筋肉の断裂を確認。

 一般人、無理な操縦はあなたの細胞破壊を引き起こす。

 後遺症の可能性だけでなく、死んでしまいますよ」

 

カルマス

『止まったら、船に乗っている人達が死んでしまう!』

 

A2

「……一般人、あなたは無駄と言われても仕方のない事をしている。

 たかだか数百人の命と、巨神パイロットの命。

 どちらが大切だと思っているのですか」

 

カルマス

『無駄なことじゃ、ないよ』

 

A2

「あの民間船からメッセージが届いている、なんだ? 

 開封を……」

 

「たすけてくれて、ありがとう」

「見捨てないでくれて、ありがとう」

「俺達に気がついてくれて、ありがとう」

 

A2

「これって」

 

カルマス

『誰かが生きていてくれる、こと。

 それだけで、自分は嬉しいんだ』

 

A2

「……操縦者(マスター)、ゾルテトラが、機体を覆っていきます」

 

カルマス

『ごめん、負けちゃったね』

 

「謝る必要も意味もありません。

 ……もとより全て、無謀な夢だったのです」

 

カルマス

『……』

 

A2

「マスター、私、あなたに──」

 

???

「無事か! 所属不明のパイロット!」

 

カルマス

『ゾルテトラが吹き飛ばされて……?』

 

A2

「あれは人類生存域防衛軍宇宙艦隊! 

 そうか、民間船の救難信号を拾って……!」

 

???

「後は俺に任せてくれ! はぁっ!」

 

カルマス

『すごい! ビームでコアをあっという間に打ち砕いた!!』

 

A2

「……これが人類側の『巨人』の力、ですか」

 

???

「パイロット、君と機体を保護しよう。

 名前を教えて……いや、先に名乗るのが礼儀か。

 俺の名前はオデュッセウスA012、この戦闘代行巨人のパイロットだ。

 君は?」

 

A2

「……、……、……。

 戦闘代行巨神アルジュナオルタナティブとそのAI、A2です。

 この人間は、緊急で契約しただけの……ただの一般人です」

 

オデュッセウスA012(以下オデュA012)

「宇宙の暗黒に消えたと伝説残る、黒き最後の巨神と同じ名か」

 

カルマス

『伝説……?』

 

オデュA012

「ああ。人神(じんしん)戦争という、銀河が焼けた戦いの伝説。

 ……何やら事情がありそうだな。

 艦隊で保護しよう、俺に着いてきてくれ」

 

 

 第4話 2020/03/09

 

 

 ──宇宙戦艦内、客室

 

 

カルマス

『人類生存域防衛軍と出会えて良かったね』

 

A2

「私達が救った船の乗組員、数百人まで保護するとは。

 異様なまでに気前が良い」

 

カルマス

『目と筋肉の怪我もナノマシンで治してくれて、個室に食事まで……』

 

A2

「ただのパイロット待遇です。

 向こうは別に、私達に好意など抱いていないでしょう」

 

カルマス

『それにしても、A2が機体の中から離れて活動できるなんて!』

 

A2

「コクピット内の立体映像から、巨神内で培養した肉体へ精神を移し替えました。

 肉体があった方が便利でしょう。

 これもあなたと契約したから行えたことです。

 感謝します、一般人。

 おや、ドアブザーが鳴っている」

 

???

「オデュッセウスA012だ。

 怪我の具合を確かめに来たのだが、入っても構わないだろうか」

 

カルマス

『大丈夫でーす』

 

オデュA012

「こんにちは、操縦者(マスター)、A2。

 我が艦隊の食事を先ほど届けさせたが、口に合ったかな?」

 

カルマス

『美味しかったです。怪我の治療もありがとうございます』

 

オデュA012

「うん! 裏表のない誠実な態度。

 気に入った、俺はお前のような者が好きだ。

 いや、いきなり『お前』呼びとは、礼節を欠いているな……」

 

カルマス

『好きなように呼んでください』

 

オデュA012

「そう言ってくれるのはとてもありがたい。

 お前とはパイロット同士として、肩に力を入れない間柄になりたいものだ。

 

 さて、改めて自己紹介をしよう。

 俺は戦闘代行巨人のパイロット、オデュッセウスA012。

 人類を守るため、ゾルテトラと戦う軍人だ」

 

カルマス

『えっと……アルジュナオルタナティブのパイロット……です』

 

オデュA012

「ただのパイロットではなく操縦者(マスター)、そうだな?」

 

カルマス

『違いがあるんですか?』

 

オデュA012

「全て説明してもいいか、A2」

 

A2

「……私の前で口にする勇気があるのでしたら、どうぞお好きに」

 

オデュA012

「パイロットと操縦者(マスター)の違い。

 それは、機体と遺伝子レベルで契約しているかどうかだ。

 俺達は細胞強制(アミノギアス)と呼んでいる」

 

カルマス

『っ?!

 (それって、バビロニアのティアマトの……)』

 

オデュA012

「契約した者は、巨神と塩基レベルで融合。

 包み隠さず言えば、その時点で人間では無くなっている、巨神と人間の中間の存在となるんだ。

 

 ここからがややこしい話なのだが、機体搭乗時、操縦者(マスター)の体は人間に近づき、機体から降りると、その体は巨神に近づく……。

 存在が振り子のように揺らぐんだ。

 この揺らぎが、フェイトエンジンの生み出すエネルギー量に関わってくるのだが、その話は今は置いておこう。

 

 A2、ここまでの俺の説明で何か誤りはあるかな」

 

A2

「正しい。全て真実です」

 

オデュA012

「話を続けよう。

 操縦者(マスター)は戦闘でも傷つくが、ただの乗り降りでも全身にダメージを受ける。

 その傷を癒すために、機体側がお前の体を、遺伝子を侵食していく。 

 すると、どうなるかというと」

 

カルマス

『最終的に、自分が自分ではなくなる……?』

 

オデュA012

「正解だ。しかし、その過程をお前は知らない。

 端的に言えば、神経麻痺や筋繊維の硬質化、身体の異常膨張、内臓や骨の増殖、人間性の喪失などの症状が体に現れる。

 この一連の流れを『巨神化症』と呼ぶ、死亡率は9割だ」

 

カルマス

『きゅう、わり……』

 

オデュA012

「戦闘代行巨神は、俺達の駆る巨人と比べて強い。それは事実だ。

 神と人、2つの運命が交差し、重複することで引き出されるエネルギーは、巨人に内蔵されているフェイトエンジンよりも莫大なんだ。

 星と同じ大きさのゾルテトラ討伐が、巨神によって成されたという記録もある。

 だが、先に言った症状により、現在は非人道的とされ、表向きは使用されていない」

 

カルマス

『……』

 

オデュA012

「なぜ、これを俺が言うのか。

 まだお前は『戻れる』からだ。

 適切な投薬と治療を受ければ、健康な人間として生活を送れる。

 だが、軍上層部や悪人がお前の存在を知れば、その選択肢を握り潰そうとするだろう。

 巨神はすでに失われた技術であり、契約できる人間も希少だからな。

 ……残酷なことばかりを言った、俺を責めてもらっても構わない」

 

カルマス

『A2と、話し合います。2人にさせてください』

 

オデュA012

「分かった。お前がどんな決断をとろうと、俺は応援しよう」

 

カルマス

『どうして、そこまで良くしてくれるんですか?』

 

オデュA012

「ははっ、自明の事! されど俺に言わせたいのか!

 ……お前達が民間船を迷うことなく全力で助けた、良い奴だからだ。

 俺は艦内のドックにいる、心が定まったのなら来てくれ。

 では、また後で」

 

 

 第5話 2020/03/10

 

 

 ──宇宙戦艦内、空き部屋

 

 

A2

操縦者(マスター)、私に、A2に怒りをぶつけたいのでは。

 『命の危機だから』とあなたを言いくるめ、塩基レベルで強制的に融合し、知らぬ間に人間を辞めさせた、この私に」

 

カルマス

『そんな気持ちは無いよ』

 

A2

「では、あなたは何を感じているのです? 

 悲しみ? 嘆き? 諦観? それとも……」

 

カルマス

『(いつもの混線かと思っていたら、なんだか大変なことになっちゃったな……)』

 

A2

「──私を、殺したいと?」

 

カルマス

『考えてもいないって!』

 

A2

「……、……あなたは怒るべきだ! 

 怪物である私を拒絶するべきだ! なぜそうしない!」

 

カルマス

『だって──A2は、自分を助けようとしてくれたから』

 

A2

「?!」 

 

カルマス

『気絶していた自分を保護してくれて、戦う力までくれたA2のことを、一方的に責められない。

 それに、選んだのは"自分"だ。

 どっちが悪いとか無い。

 責任は……お互いにあるかもしれないけど』

 

A2

「……あなたは、もっと他者に怒りを抱くべきだ」

 

カルマス

『たまに言われるよ』

 

A2

「誰にです? あなたにはもう、"A2"以外いないというのに」

 

カルマス

『それってどういう……?』

 

A2

「何でもありません。

 少し、一人にさせてください」

 

カルマス

『うん、分かった』

 

 

 ──艦内ドック

 

 

オデュA012

「気分転換に来たのか、操縦者(マスター)

 艦内通路は一部無重力だったが、うまく移動できたか?」

 

カルマス

『問題なく。ええと』

 

オデュA012

「オデュッセウス、と呼び捨てにしてくれて構わない。

 パイロット同士、お前と俺は対等だ」

 

カルマス

『ここで整備されている機体が、オデュッセウスの乗っていた……』

 

オデュA012

「そう、戦闘代行巨人。

 巨神と同じく、ゾルテトラに通用する唯一の兵器だ。

 ……目が輝いているぞ、こう言ったものが好きなのか?」

 

カルマス

『す、ご、く』

 

オデュA012

「そうか! では、簡単な概要だけでも教えてやろう。

 深く突っ込んで話すと、軍事機密に触れてしまうからな。

 こほん……今目の前にあるのが、巨人オデュッセウス。

 俺と同じ名の機体だ、お前の巨神とはそこも違うな」

 

カルマス

『どう言った違いが?』

 

オデュA012

「実を言えば、巨人と俺は同一存在なんだ。

 俺は巨人オデュッセウスの生体部品に過ぎない。

 例えるなら、俺が脳、巨人は体だ」

 

カルマス

『生体部品?!』

 

オデュA012

「パイロットは、その巨人に合わせて製造される人造人間。

 俺はオデュッセウスタイプで、アカイア工場で作られた巨人ナンバー012のパイロット。

 だから呼び名が、オデュッセウス、アカイア、012。

 縮めれば『オデュッセウスA012』となる。

 

 俺と同タイプの人造人間は、工場違いも含めれば現在10000体以上いたはずだ。

 ……驚かせてしまったかな。

 軍事機密ではないが、民間人が知る(よし)のない情報だものな」

 

カルマス

『オデュッセウスタイプっていうことは……』

 

オデュA012

「大元となったオリジナルは、今から1000年前、人神(じんしん)戦争の時に人類を守った操縦者(マスター)、大英雄オデュッセウス。

 彼は軍に自らの遺伝子を提供すると、歴史の表舞台から消えたそうだ」

 

カルマス

『人神戦争ってなんですか?』

 

オデュA012

「過酷な戦いに疲れ果てた一部の操縦者(マスター)が、人類を裏切り、ゾルテトラと組んだ。

 その結果起きた戦争。

 巨神の発展系である戦闘代行巨人も、この戦いの最中に生み出されたもの。

 人と神の争い。故に人神戦争と呼ばれた。

 ……軍から教育を受けた俺の知識、それが正しければの話だがな」

 

カルマス

『(この世界にも、色々と事情があるんだな……)』

 

オデュA012

「始めに巨神があり、次に巨人が作られた。

 まるで太古の神話の如く。

 そう言えば、たしかこういった歴史は、一般の教育機関でもカリキュラムに含まれていたと記憶しているが」

 

カルマス

『べ、勉強嫌いでっ』

 

オデュA012

「俺は好きだぞ、知らぬことを知識へ変えていくのは楽しい。

 む、なんだ、この怖気は」

 

オペレーター

「ブリッジより通達! ゾルテトラ接近! 

 繰り返す! ゾルテトラ接近! 

 総数、確認できているだけでも50……。

 いや……嫌ぁ! 100です!!」

 

カルマス

『3体でも苦戦したのに、そんなに!』

 

オデュA012

操縦者(マスター)、お前は自室に戻り、避難誘導を待つんだ」

 

カルマス

『オデュッセウスは……』

 

オデュA012

「俺は当然出撃する。

 人間を守るために生み出された、戦闘を代行する巨人だからな」

 

カルマス

『自分だって、A2と一緒なら戦える!』

 

オデュA012

「その気持ちだけ受け取っておこう。

 ……操縦者(マスター)、何があっても巨神にだけは乗らないでくれ。

 巨神化症には個人差がある。

 次に乗った時、お前の体がどうなるか分からないんだ」

 

カルマス

『自分は、自分は!』

 

オデュA012

「──傷つくのは、俺のような存在だけでいい。

 戦うために生み出された、俺のみが。

 分かってくれるな?」

 

カルマス

『……』

 

カルマス

『(パニックになっている人達の声が聞こえる……)』

 

 

「ゾルテトラが来たって?」「そんな……軍に保護されれば安全だと」「みんなしんじゃうの?」「艦隊の中は安全なんだよね? ねぇ!」

「ああ……どうか」「神様! みんなをお守りください!」

 

 

A2

「お帰りなさい、操縦者(マスター)

 

カルマス

『……たい』

 

A2

「ええ、あなたの想い、A2へ伝わってきます」

 

カルマス

『守るために、戦いたい! 

 もう一度、アルジュナオルタナティブに乗せてくれ!』

 

A2

「……いいでしょう。

 巨神は東ドックにあります、着いて来てください」

 

 

 第6話 2020/03/11

 

 

 ──艦内ドック

 

 

カルマス

『あった! 巨神アルジュナオルタナティブが!』

 

A2

「ハッチオープン! さぁ操縦者(マスター)、乗り込んで!」

 

カルマス

『オデュッセウスを助けに行こう! 発進!』

 

???

「うーん……なんとまぁ元気がいい。

 あれが伝説の巨神とそのマスターか……」

 

 

 ──宇宙空間

 

 

オデュA012

「こちら、オデュッセウスA012! ゾルテトラと接敵した! 

 確認できるだけでも100体以上いる! 

 ブリッジ、聞こえているか!」

 

オペレーター

「し、新艦長に代わります!」

 

新艦長

「A012! 

 私は発進も戦闘も許可していないぞ! 即刻戻って来なさい!」

 

オデュA012

「それは無理だ。

 今戻れば艦は落ちる、数百の民間人と共に」

 

新艦長

「この分からず屋め!

 我が艦に所属している巨人は、貴様しかおらん! 

 貴様が死……落ちれば、戦う術を失う。

 そんな軍艦など、ゾルテトラから見たらローストビーフのマッシュポテト添えのようなものだ!」

 

オデュA012

「……敵を撃破。

 すまない聞いていなかった、繰り返してくれ」

 

新艦長

「滑ったギャグをもう一度言えるほど、面の皮は厚くないのだがね?!」

 

オデュA012

「俺が囮となる、その間に少しでも距離を稼いでくれ」

 

新艦長

「くぅ、もうどうにもならんのか?!

 無謀な任務を出した上層部を、貴様の分まで恨んでやる!」

 

オデュA012

「(新艦長は良き人間だ。

 俺の気持ちを汲み取り、逃げてくれるだろう……。

 そして俺は、ゾルテトラに囲まれて死ぬ。

 人命救助がため、これは必要な犠牲だ)」

 

機械音声

「機体浸食率、30%」

 

オデュA012

「報告ありがとう。

 ……弾丸状に変形し、飛んできたゾルテトラによって、装甲が幾つか奪われたか。

 だが、背部のレーザー兵器がまだ動く。

 足掻いてみせるさ、最後まで」

 

A2

「あの男を見つけました。ですが、あれは……」

 

カルマス

『間に合ってみせる! オデュッセウスー!!』

 

 

 ──数分後

 

 

オデュA012

「(これが、俺の終わりか……)」

 

機械音声

「機体浸食率、90ぱーせ、せせせせせ……」

 

オデュA012

「補助AI、今まで良く俺を助けてくれたな。

 最後にその任を解こう」

 

機械音声

「……」

 

オデュA012

「これが……ゾルテトラの捕食……巨人が溶かされ食われていく……。  

 その食われたものが新たなゾルテトラとなり……。

 そして、俺の精神まで貪られ、奴らの巨大な精神ネットワークの、思考機能の一部にされるのか……」

 

機械音声

「敵接近……」

 

オデュA012

「(俺のオリジナルにあたる男も、最後には敵の海に還ったのか。

 それとも、愛する者の腕の中へ帰ったのか……。

 分からない、心が消えていく、ああ、こうなるならばせめて……)」

 

オデュA012

「終わる前に、オリジナルのように、誰かを愛してみたかった……」

 

???

『──まだ終わりじゃない!』

 

オデュA012

「その、こえは、マスター……なのか?」

 

???→カルマス

『ああ! オデュッセウス、もう大丈夫、今助ける!』

 

A2

「マスター、ゾルテトラの数が多すぎます」

 

カルマス

『武器は!』

 

A2

「私本来のものはありませんが、ここに、オデュッセウスの武装の一部が」

 

カルマス

『使えるかな?』

 

A2

「ロックがかかっています、A2に少し時間をください。

 上位命令『インドラ』使用、コード書き換え完了、破損個所を改良修復。

 フェイトエンジンとの接続……成功、エネルギー充填。

 よし、いつでも撃てます」

 

カルマス

『ゾルテトラから少し離れて……A2! 標準任せた!』

 

A2

「名付けるならば! アイギス:インドラカスタム! 

 ファイヤー!!」

 

オデュA012

「敵が、次々と蒸発していく……」

 

カルマス

『もう安心だよ、オデュッセウス。さぁ船へ帰ろう』

 

オデュA012

「ありが、とう、マスター、A2」

 

A2

「私はマスターに従ったのみです、礼など要りません」

 

カルマス

『(ツンツンしてるなぁ)』

 

 

 ──艦内ドック

 

 

???

「オデュッセウス! オデュッセウスー! 

 無事……じゃないな、医務室へ運ぼう。

 侵食部位を切除しなければ」

 

カルマス

『うわぁ!!』

 

???

「なんだ、失礼なパイロットだな。私の顔を見るなり驚くなんて」

 

カルマス

『(キルケーにそっくりだ!)』

 

???(以下キルケー)

「私はこの艦の大メカニック兼大医者だぞ! 一番偉いんだぞ!」

 

新艦長

「一番偉いのは私だ! 

 ええい全く、どいつもこいつも勝手に動きおって……!」

 

カルマス

『(新所長にそっくりだ……)』

 

A2

「知らぬ顔が増えてきましたね、マス……一般人。

 どうしたのです、戦いの後だというのに、頬をだらしなく緩ませて」

 

 

 ──宇宙空間

 

 

???

「1000年前、銀河の暗黒に消えた神は言いましたー。

 『黒き最後の巨神が、最後の剣を持って再び現れる時、世界は生まれ変わる』……って。

 まぁ、巨神であり操縦者(マスター)であり、人間辞めちゃったマーラちゃんには、どうでもいいんですけどねそんなこと。

 

 にしてもすごいですねぇ、巨神アルジュナ。

 ゾルテトラ数百体を簡単に片づけちゃうだなんて。

 ……本当に、むかつく存在。

 マーラちゃんの望みはただ一つ、私をぐちゃぐちゃにした人類を滅ぼすこと。

 そのためには……あの巨神はとっても、邪魔……」

 

 

 第7話 2020/03/12

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

A2

「この男が新艦長。

 ふくよかな男ですね、カイゼルひげも剃った方がいいのでは?」

 

新艦長

「君のAIは少々辛辣すぎやしないかね?」

 

カルマス

『本当はいい子なんです』

 

A2

「一般人、あなたが私の何を知っているというのですか、全く……」

 

新艦長

「うぉっほん、えへんおほん……私は艦長のゴルドルフ・ムジーク!」

 

カルマス

『(やっぱり)』

 

新艦長

「この未踏地域にて、巨神探索を行っていた軍人だ。

 その最中、オデュッセウスが貴様等を見つけてきたという訳だな!」

 

カルマス

『保護してくださり、ありがとうございます』

 

新艦長

「うむ、礼は大切だぞ礼は……誰も彼も私を軽んじおって。

 もう艦長になって数年経つしさ、『新』をとって呼んで欲しいよねホント」

 

カルマス

『(この世界でも苦労しているみたいだ)』

 

新艦長

「えー、私が貴様に命じることは1つ。

 ……今すぐ医務室へ行って検査を受け、その後は自室待機だ!」

 

カルマス

『2つでは?』

 

新艦長

「君の体の心配をしているんだから、早く行きなさいよ?!」

 

 

 ──艦内医務室

 

 

キルケー

「おっ、来たねマスター。

 私はこの艦の大メカニック兼大医者、名をキルケー。

 長いつきあいになりそうだから、これからよろしく」

 

A2

「長いつきあいになどなりません」

 

 

キルケー

「きみのA2はなかなかツンケンしているな。

 まぁ、巨神付きAIなど、みなそんなものか。

 マスター、医療用ベッドへ横におなり。

 巨神化症の検査をしよう」

 

 

 ──1時間後

 

 

キルケー

「ふむふむ、今のところ、引っかかるほど変化は出ていないな。

 きみは運がいい操縦者(マスター)だよ。

 なのでー……進行を抑えるため、巨神化症拮抗薬を投与する」

 

カルマス

『すごく太い……注射……』

 

キルケー

「はい! ぶすっといくよー!」

 

カルマス

『ぎゃあああ!』

 

カルマス

『……腕がずきずきする』

 

キルケー

「艦に拮抗薬があって良かったね。

 さぁ、自室で休んでおいで。

 これから忙しくなるかもしれないし」

 

カルマス

『その前に』

 

キルケー

「うん?」

 

カルマス

『──オデュッセウスのお見舞いをさせてください』

 

 

 ──艦内医務室、特殊治療室

 

 

カルマス

『こんな、ひどい……』

 

キルケー

「そうでもないさ、浸食部位は全て切除出来たのだし。

 今は治療用カプセルに浸からせて、クローニングした腕やら足やら定着させているところ。

 カプセルから出るのに一ヶ月、リハビリ二ヶ月。

 合わせて全治三ヶ月」

 

カルマス

『大丈夫……なんですか……?』

 

キルケー

「もちろんさ。なんていったって私は」

 

カルマス

『大魔女?』

 

キルケー

「大メカニック! だよ! 

 なんだい魔女って……」

 

カルマス

『治療ありがとうございました! 自室に戻ります。

 A2、行こう』

 

A2

「はい、一般人」

 

キルケー

「ふぅ、行ったか。

 私は本当に愚かなメカニックだよ、オデュッセウス。

 1000年前と同じ事を、変わることなく繰り返している。

 

 何時になったら、この運命から解放されるんだろう。

 お前が傷つき、死んでいく姿をあと何回見ればいい……? 

 いや、あの戦争で最後までどっちつかずでいた、私への罰だと思えば、これが相応しいのか。

 ……羽が生えてもどこにも行けないだなんて……あの頃は思ってもみなかった……」

 

 

 ──1000年前

 

 

キルケー

「オデュッセウス! 聞いておくれー!

 私も、きみと同じように巨神パイロットの適性があったんだ! 

 これで隣に並び立って戦えるよ!」

 

オデュッセウス:オリジン

「……そうか。

 過酷な戦いになると分かっていても、お前はそんな風に笑うのだな」

 

キルケー

「大丈夫だ! この戦争はもうすぐ終わる!

 そうしたらきっと、みんな故郷へ帰れるさ。

 ……きみも、大好きなペーネロペーの元へ帰れる」

 

オデュッセウス:オリジン

「そう、だな。俺は、ペーネロペーの元に帰らなければならないんだ。

 そう……だったな」

 

キルケー

「どうしたんだい、きみらしくもなく弱気で」

 

オデュッセウス:オリジン

「新型拮抗薬の副作用だ、気にするな。

 ……戦場で共に戦うことあれば、俺の背中は預けるぞ、キルケー」

 

キルケー

「任された! なんていったって大パイロットだからね! ふふん! 

 巨神ヘカテに乗り、空を舞う鷹のようにきみを守ってやるとも!」

 

 

 第8話 2020/03/13

 

 

 ──艦内空き部屋、もといマスター自室

 

カルマス

『A2、どこかに行くの?』

 

A2

「アルジュナオルタナティブの整備状況を見てきます。

 直ぐに戻りますから」

 

カルマス

『分かった。

 ……その間暇だなぁ、注射の後だから、筋トレも出来ないし』

 

???

「ごめんください。

 あの、扉を開けてくださいませんか、パイロットさん」

 

カルマス

『(女の子の声だ、どことなくアビーに似ている)』

 

???

「戦いの後で、お休み中でしょうに……。

 こんなお願いをしてしまって……」

 

カルマス

『待って、今、開けるよ。どうぞ中へ入って』

 

???

「えっと……はじめまして、私達を救ってくださったパイロットさん」

 

カルマス

『(アビーに見た目もそっくりだ)』

 

???(以下アビー)

「私は保護された民間船に乗っていた者で……。

 勇敢なあなたにお礼を差し上げようと思って、来たんです」

 

カルマス

『そんなことしなくていいよ』

 

アビー

「でも、あなたとオデュッセウスさんが助けてくださらなかったら、ゾルテトラに溶かされ食われて……人の敵になっていたの。

 そんなのとても嫌だったから、神様にお祈りをしたの。

 みなをお救いください、お守りくださいって。

 そしたら……助けが来てくれた。

 黒と青と金色のロボットが」

 

カルマス

『……』

 

アビー

「オデュッセウスさんにもお礼を伝えたかったのだけど、今は眠っていて会えないと、お医者様に言われたから……。

 だからあなたの元へ。

 チョコレート味の甘いレーションが配られたんです。

 パイロットさん、どうぞ、遠慮なさらずに……きゃっ」

 

カルマス

『危ない、転んで頭をぶつけるところだったね、怪我はない?』

 

???

「──あら、座長さん。

 今日は随分と遠い空にいらっしゃるのね?」

 

カルマス

『……、……、……アビゲイル』

 

???

「ええ、その通り。

 セイレムの魔女にして白銀の鍵、アビゲイル・ウィリアムズ。

 私によく似たこの子と、魂で繋がってしまったみたい。

 不思議なこともあるわ……ふふふ……」

 

カルマス

『久しぶり、旅は順調?』

 

???(以下アビゲイル)

「まだ大図書館にいるの。

 知識を蓄える時間が必要だと、叔父様が仰るから。

 色んなことを知ったわ。

 座長さんにお話ししたら、星が消えるほどの時間がかかってしまいそう……」

 

カルマス

『元気そうで良かった』

 

アビゲイル

「この異界の空から、カルデアへお帰りになる術を、あなたは知っているかしら」

 

カルマス

『その方法を、アビーが?』

 

アビゲイル

「大図書館のご本に記されていたの。

 遠い未来……人が母なる星より追われ、流浪の旅人となる歴史書……ある大冒険(オデッセイ)の項に。

 

 ──世界をお救いくださいませ、巨神の一時(ひととき)の繰り手様。

 最後に消えた黒い神の、最後の剣と振るう者の心を見つけて」

 

カルマス

『最後に消えた黒い神の……剣と、心を?』

 

アビゲイル

「ええ。

 剣を振るう者には、心がなければ意味がないの。

 心だけあっても、剣がなくては何も成し得ないの。

 あなたは心を目覚めさせるために招かれ、剣を手にするためにここにいる。

 ……ねぇ、座長さん」

 

カルマス

『なぁに?』

 

アビゲイル

「あなたが望むなら……私はあなたの手をとって、帰還の門を開けるわ。

 まだこの世界は、私の指の届く空。

 ここならきっと……何もかもから、あなたを」

 

カルマス

『──途中で放り出すわけには、いかない』

 

アビゲイル

「そう……なら、今日は笑顔でお別れできそうね」

 

カルマス

『教えてくれてありがとう。探してみるよ、剣と心を』

 

アビゲイル

「たくさんお話をしたから、お借りしているこの子の口と体、疲れていないと良いけど……」

 

カルマス

『話が出来て、嬉しかった』

 

アビゲイル

「あのね、最後にもう少しだけ、伝えたいことがあるの。

 座長さん、カルデアのマスターさん……。

 この世界は良く似ていて、けれど違う人々が生きているわ。

 あなたの瞳は彼らの心と魂を見通し、相応しい姿を見せるけど──気をつけて、全て同じとは限らない。

 この子もアビゲイルだけれど……運命も人生も全て違うわ、生まれた日の星空だって」

 

カルマス

『そう……なんだね』

 

アビゲイル

「ああでも……ふふ、この世界の私の隣には『あの子』がいるみたい。

 分かってしまう」

 

カルマス

『アビゲイル……』

 

アビゲイル

「名残は尽きないけれど、もう時間ね。

 それではまた……星辰の揃うときに、会えると……」

 

カルマス

『うん、また会えると嬉しい』

 

アビー

「……ううん。

 私、少し気を失っていたみたいです。

 びっくりさせちゃってごめんなさい、パイロットさん」

 

カルマス

『気にしてないよ』

 

アビー

「そうかしら? なんだか目元が腫れているような……」

 

???

「ぁ……アビー、そこにいるの……?」

 

アビー

「ラヴィニア! 

 ええと、彼女は私の友達で……きっと帰るのが遅かったから、心配して探しに来てくれたのね。

 パイロットさん、またお会いしましょう、ごきげんよう!」

 

カルマス

『……うん』

 

曲がり角からA2

「部屋から少女が出てきた……つまり彼は、また私以外の者と話していたのか。

 操縦者(マスター)はA2のものです。

 1000年前から、そう決まっているはずなのに……! 

 おかしい、どうしてこんなにも執着してしまうんだ。

 理由が思い出せない。

 思い出せるのは……」

 

 

 ──1000年前?

 

 

???

『アル……ジュナ、これで、良かったんだ』

 

A2?

「マスター! マスター! 

 ああ、そんな、私は、あなたと、共にいたかっただけなのに。

 いや、私は諦めない。

 例え千の時が過ぎ去ろうと……もう一度、あなたと……!」

 

 

 ──現代

 

 

A2

「思い出せるのは、悲劇の記憶ばかりで……。

 私はA2、アルジュナオルタナティブのAI。

 けれど、本当にこの自己認識は正しいのか? 

 そして……私が目覚めた時すでに、機体の内側にいた我がマスターは……何者なのか?」

 

 

 第9話 2020/03/15

 

 

 ──カルデアのマスターの意識が、この世界の人物と混線してから数日。

 ──艦内ブリッジ

 

カルマス

『おはようございます、新艦長』

 

新艦長

「……この艦を預かってから数年経つというのに、オデュッセウスを初めとして、誰も私を艦長と呼んでくれんのだ。

 君は民間人だそうだが、一般的な感性から見て、これをどう思う?」

 

カルマス

『自分も、貴方の顔を見ると新艦長! って呼びたくなるので……』

 

新艦長

「なんでだね?! そんなに馴染んでいないかね?!」

 

カルマス

『親しみからです』

 

新艦長

「……そうなの?」

 

A2

「二人とも、A2を置いてけぼりにして会話をしないでください」

 

新艦長

「本題に入ろう、えーっと」

 

カルマス

『マスター呼びでいいです』

 

新艦長

「うむ、マスターよ。今の状況について話そう」

 

新艦長

「この艦は、軍の任を受けてこの空域を航行していた。

 その内容は……巨神の捜索だ。

 1000年前の人神戦争の際、多くの巨神と操縦者(マスター)が行方不明になったからな」

 

カルマス

『巨神兵だけじゃなく、操縦者(マスター)まで……』

 

新艦長

「戦後の混乱もあり、捜索活動は打ち切られたのだが……。

 現代になり、事情が変わった。

 ゾルテトラが過剰増殖し、巨人だけでは人類を守りきれなくなってしまった」

 

A2

「自業自得では?」

 

新艦長

「……」

 

カルマス

『新艦長が落ち込むから、あまり責めないの』

 

A2

「はい、マスター」

 

新艦長

「えへんおほん……続けるよ?

 軍は、行方知れずであった巨神を探す事に決めた。

 新兵器開発の助けとするためだ。

 そして、このゴルドルフ・ムジークに捜索任務を命じたと」

 

カルマス

『なるほど』

 

新艦長

「しかし、イレギュラーな事態ばかり起こっている。

 ……禁足空域だというのに、民間船が漂流していたし。

 ……貴様のような人間と巨神を保護してしまうし」

 

カルマス

『……』

 

新艦長

「……唯一戦えるオデュッセウスは、全治3ヶ月のひどい怪我を負ってしまうし」

 

A2

「それで? 何が言いたいのです、ゴルドルフ」

 

新艦長

「まさかの名前呼びぃ?!」

 

カルマス

『自分が、戦います』

 

新艦長

「キルケーも言っていた、『きみならそう言い出すだろう』と。

 私としても、戦う術を失った我が艦が、頼れる相手は君しかいないと考えていた。

 友軍や物資の支援を乞いたくとも、ここは禁足空域。

 軍への連絡も届かぬ、宇宙の僻地だ」

 

カルマス

『連絡が届く空域まで、みんなを守ればいいんですね』

 

新艦長

「そうする以外、私達も保護した民間人も、無事に帰られる方法は無いのだろう。

 訓練も受けていない一般人に、このような事を頼むのは……うぐぅ……」

 

カルマス

『大丈夫です、覚悟していましたから』

 

新艦長

「私より若いというのに、腹をくくるのが早いな……。

 うむ、安全な場所までたどり着けたら、君に然るべき報償を与え、解放しよう。

 それまでの3ヶ月間、私達と君は一蓮托生というわけだな」

 

カルマス

『よろしくお願いします!』

 

A2

「では、マスターは再び巨神に、A2と共に……」

 

新艦長

「あんな! 危険きわまりない兵器に! 民間人を乗せられるか! 

 君はほら、巨人オデュッセウスに乗るといい。

 巨神パイロットは、巨人への適性もあるからな」

 

カルマス

『別機体への乗り換えイベント!?』

 

A2

「いけません! 何があるか分からないではないですか!」

 

新艦長

「何を言っておるのだね、A2。

 過去の人神戦争のデータから、巨人の安全性は確かめられている。

 むしろ、巨神に乗る方が危ないのだぞ?」

 

A2

「そういう問題では……ああもう!」

 

 

 ──艦内ドック

 

 

カルマス

『オデュッセウスに悪い気がするけど……是非もないよネ!』

 

A2

「その前に、このA2へ何か言うことがあるのでは?」

 

カルマス

『おー……起動できたー……。

 これがオデュッセウスの乗っていた巨人……』

 

A2

「うううう!!」

 

カルマス

『神経接続もあるけど、一部は考えて操縦する必要があるのか』

 

A2

「もうマスターなんて知りません! 

 その巨人と、せいぜい仲良くしていてください!」

 

カルマス

『待ってA2……行っちゃった』

 

 

 ──艦内ドック、訓練室

 

 

???

「おう、マスターじゃねぇか」

 

カルマス

『土方さん?!』

 

???(以下、土方)

「まだ名乗りもしてねぇのに、俺の名前を知っているのか。

 面白いやつだ、それに操縦者(マスター)も初めて見た、興味がそそられる。

 俺はただの軍人だ、お前を鍛える命令を受けて来た。

 さて、モニター起動!!」

 

カルマス

『仮想空間で、訓練……?』

 

土方

「そうだ、仮想敵の役は俺。

 巨神と巨人じゃ操縦の勝手が違う。

 殺す気で来い、ゾルテトラは情けなんてかけちゃくれないからな」

 

 

 ──3時間後

 

 

土方

「休憩にするぞ、マスター」

 

カルマス

『手も足も出なかった……』

 

土方

「新人にしては動けている方だ。

 こっち来い、軍用レーションを支給する」

 

カルマス

『コスモアップル味』

 

土方

「俺のコスモタクアン味は分けてやらねぇぞ、栄養価が高すぎるからな。

 そうだな、お前が食べている間、世間話でもしてやろう」

 

 

 ──数分後

 

 

カルマス

『孤児だったんですか?』

 

土方

「ああ。

 そして孤児院へ恩を返すため、軍人になった。

 俺の幼なじみもそうだった。

 ……あいつは、民間人にしては珍しいことに、巨人パイロットの適正があってな。

 上の人間に連れて行かれた」

 

カルマス

『(コスモアップル味だぁ……)』

 

土方

「初めの数ヶ月は、稼ぎと一緒に孤児院に手紙が届いた。

 やれ訓練が厳しいだの、みんな私より弱いだの。

 あいつらしい手紙だった。

 1年経つころ、ぱったり途絶えた。

 俺は……後ろ黒いこともやり、情報を集めて、所在を調べた。

 手に入れた極秘文書には、『新兵器の実験パイロットになり、行方不明』と。

 軍はこの事実をひた隠しにしていた」

 

土方

「だから俺は今回の作戦に参加した。

 ──沖田を見つけだす、ただそれだけのために。

 あいつはきっと、この銀河のどこかで戦い続けている。

 ガキの頃にやった浅葱(あさぎ)色の羽織を着て、交わした約束通りに、な」

 

カルマス

『……』

 

 

 ──マスター自室

 

 

カルマス

『(オデュッセウス、新艦長、キルケー、土方さん……A2。

 知っている顔をした知らない人達は、それぞれの人生と運命を背負っている。

 どうしたら、この世界を救えるんだろう。

 アビゲイルの言ってた事も気になる。

 最後に消えた黒い神の……剣と、心……)』

 

オペレーター

「ブリッジより通達! ゾルテトラ接近! 数は3!」

 

カルマス

『考えるのは後だ! 巨人オデュッセウスで出撃しないと!』

 

 

 第10話 2020/03/16

 

 

 ──艦内ドック

 

 

カルマス

『A2、どうして巨人の前に……』

 

A2

「あなたが出撃するなら、A2は着いていく。当然のことです。

 それに、あなただけでは処理能力に限界があるでしょう。

 私が補佐します」

 

カルマス

『操縦席は一人用だよ』

 

A2

「では……システムを少しいじり……補助AIを私へ置き換え……。

 これで良いはずです」

 

カルマス

『あっ、A2が立体映像になって、コクピット内に出てきた!』

 

A2

「意識のみをこの巨人に転送しました。

 肉体はキルケーへ預けることにしましょう、それでは出撃!」

 

カルマス

『複座もロマンあるよね……』

 

A2

「私達の機体で出撃すれば、まどろっこしい事をせず済みますのに。

 はぁ……」

 

 

 ──宇宙空間

 

 

カルマス

『アイギス:インドラカスタム、ゾルテトラをロックオン!

 ……いっけぇぇぇ!』

 

A2

「敵の体が霧散、コア露出!」

 

カルマス

『連続射撃で叩く!』

 

A2

「後方から敵接近、数は──」

 

カルマス

『1体だよね! 分かってる! 

 デブリを盾にして攻撃を逸らし……せいやー!』

 

A2

「マスター、凄いです! 凄い成長速度で……!」

 

 

 ──艦内ドック

 

 

土方

「おう、無事に帰ってきたな、マスター」

 

カルマス

『訓練のおかげです』

 

土方

「メディカルチェックを受けたら、自室で少し寝ておけ」

 

カルマス

『分かりました』

 

土方

「新しい訓練プログラムを作っておく。

 起きたら、俺のところへ連絡よこせ」

 

カルマス

『しっかり休んできます』

 

土方

「ずいぶんとやる気があるじゃねぇか、お前のマスターは」

 

A2

「はい……そう、ですね」

 

 

 ──マスター自室

 

カルマス

『(カルデアのみんな、今頃どうしているかな……)』

 

A2

「……マスター」

 

カルマス

『A2! どうしたの?』

 

 

A2

「マスターは、A2より巨人の方が……好ましいのですか」

 

カルマス

『どっちも好きだし、同じくらい大切だよ』

 

A2

「……! そうですか、なら良いのです、ええ、良いのです。

 ……ベッドに腰掛けても構いませんか?」

 

カルマス

『いいよ』

 

A2

「……あなたのことが心配なのです。

 その、目を離したら、どこか遠くへ行ってしまいそうで」

 

カルマス

『(いずれ、カルデアに帰らないといけない。

  A2とはお別れになるかも……)』

 

A2

「そんなことを予感させる、恐ろしい夢を見るのです。

 AIが夢など、人間が聞いたら笑うかもしれませんが」

 

カルマス

『どんな夢を見たの?』

 

A2

「コクピットの中に、誰か分からないパイロットがいる。

 その人物は傷だらけで……私によく似たAIが側に。

 AIは涙を流していた」

 

カルマス

『どんな姿だった?』

 

A2

「えっと、角や尻尾が無い以外は本当にA2とそっくりなのです。

 不思議なことに」

 

カルマス

『(アルジュナと同じような姿をしていたのかな?)』

 

A2

「マスターに伝えていないことがあります。

 それは、その……実は、私の記憶は完全ではないのです」

 

カルマス

『記憶喪失みたいなもの?』

 

A2

「みたいなもの……です。

 自分は、巨神アルジュナオルタナティブのAIであると言うことは、分かります。

 が、なぜ1000年前に封印されたのか。

 どうしてあの機体が産まれたのか、自分が産まれたのか、覚えていなくて。

 ……ごめんなさい、マスター。

 A2は不出来なAIです」

 

カルマス

『最近ちゃんと眠れている?』

 

A2

「肉体を得る前は睡眠の必要など無かったのに、今の体には不可欠で。   

 けれど、うまく眠れないのです、へたくそなのです」

 

カルマス

『ベッドを貸すから、少し眠りなよ』

 

A2

「……眠るまで、側にいてくれますか、マスター」

 

カルマス

『もちろん』

 

カルマス

『(アビーは「黒い神の、最後の剣と振るう者の心を見つけて」と言っていた。

 分からないことだらけだけど、A2の夢にヒントがあるかもしれない。

 時々こうして話を聞いてあげよう……)』

 

 

 ──2時間後

 

 

A2

「……マスター、あなたはそこにいますか?」

 

カルマス

『いるよ。

 おはよう、よく眠れた?』

 

A2

「夢も見ず、ぐっすりと」

 

カルマス

『訓練の前に、食堂へ一緒に行こう。

 美味しくて温かいものとか食べよう』

 

A2

「それは興味深い誘いです。

 A2はお味噌汁が食べてみたい、出汁巻き卵も」

 

カルマス

『よく知ってたね』

 

A2

「はい、なぜかそんな事は思い出せるのです……おっと」

 

アビー

「ごめんなさい! 私ったら前を見ないで走っていて!

 パイロットさんと、そちらの方は?」

 

A2

「えっと……なんと言えばいいのでしょうか」

 

カルマス

『自分のパートナーだよ』

 

A2

「!! 

 ……そうです、私はA2、マスターの唯一無二のパートナーです」

 

アビー

「はじめまして。

 私、アビゲイル・ウィリアムズと言います。

 パートナーさん、ぶつかってしまってごめんなさい」

 

A2

「A2は心がとっても広いので、許します」

 

カルマス

『今日は友達と一緒なんだね』

 

アビー

「後ろに隠れているのはラヴィニア! 私の大切な友達!」

 

ラヴィニア

「しょ……紹介なんて、しなくていいわ。

 相手のめいわ」

 

アビー

「そんなことを、自分に対して言わないで……。

 私、胸が張り裂けてしまいそう……」

 

カルマス

『どうしてここへ?』

 

アビー

「お髭が素敵な艦長さんが、こんな感じにおっしゃってたの。

 『狭い区画に押し込められては、ストレスもたまり、健康に悪い! 

 邪魔にならない範囲であれば、民間人は出歩いてよし!』と。

 ですから、朝から友達みんなで探検を。

 ……艦長さんの真似、似ていたかしら?」

 

カルマス

『とっても似ていたよ』

 

アビー

「ありがとう、パイロットさん。

 ああそうだ、友達、もう1人いるの!

 この子の名前はカーマ! つい昨日友達になったのよ!」

 

???

「こんにちは、パイロットさん」

 

カルマス

『(幼い姿をしたカーマだ……)』

 

アビー

「カーマは色んな事を知っていてね……あら、艦内アナウンスが」

 

オペレーター

「ブリッジより通達、巨人パイロットは直ぐに艦長室に来られたし」

 

カルマス

『ごめんね、行かなくちゃ』

 

アビー

「またお会いしましょうね、パイロットさん」

 

カーマ

「……パイロットと、そのパートナー」

 

アビー

「どうしたのカーマ? お顔を両手で隠して」

 

カーマ

「何でもないですよー……くすくす」

 

 

 ──艦長室

 

 

新艦長

「うむ、よく来てくれたな」

 

カルマス

『お話は何でしょう?』

 

新艦長

「これを見てくれ」

 

カルマス

『レーダーに映っている点が、消えたり、別の場所に跳んだりしている……』

 

新艦長

「数日前から反応が出るのだが、どうもゾルテトラでは無いらしい」

 

A2

「前回のように民間船ですとか、または壊れた艦の残骸などで?」

 

新艦長

「我が艦のAI、『DA☆VINCI-TYAN☆』の分析結果によると、反応の正体は巨神であるそうだ」

 

カルマス

『消えたり、現れたりする巨神……?』

 

新艦長

「この艦の本来の任務は、失われた巨神の捜索である。

 覚えているな? 

 なので、私は君に命令する。

 ──謎の巨神とコンタクトし、搭乗者がいなければ回収。

 内部に人間がいるようであったら、速やかに保護せよ! 

 分かったかね?」

 

カルマス

『イエス! マイキャプテン!』

 

A2

「……それはどういう意味の返事なのですか、我がマスター」

 

 

 第11話 2020/03/17

 

 

 ──宇宙空間

 

 

カルマス

『レーダーによるとこの辺りらしいけど。

 あるのは、大昔の戦艦の残骸くらいだ……』

 

A2

「巨神の痕跡も無し、と。

 残骸は1000年前の戦争の跡でしょうか、痛ましい」

 

カルマス

『たくさんの人が亡くなって、巨人も巨神も壊されたんだっけ』

 

A2

「勉強したのですか、マスター」

 

カルマス

『休憩時間に少し。

 ゾルテトラとの過酷な戦い、その中で進む巨神化症には、効果的な治療方が少なかった。

 そして、多くのマスター達が亡くなった。

 死を恐れたマスターは、自分達に戦いを強いた軍を脱走。

 ゾルテトラと組んで、人間を滅ぼそうとした……』

 

A2

「巨神とそのマスターを軽んじた結果、自業自得です」

 

カルマス

『……そう、なんだろうか』

 

A2

「A2の考えはそうです」

 

カルマス

『ゾルテトラと手を組んだってことは、彼らとコミュニケーションする方法があるのかな?』

 

A2

「過去のマスターは、どうやって協力関係となったのでしょう?

 謎ですね。

 おや、反応があります。そこの戦艦の残骸の裏に……何か……」

 

カルマス

『──凄く綺麗な、巨神だ』

 

A2

「ボディラインは女性的。

 腰に下げている武装は実体剣ですか。

 頭頂部は白色、胴体や腕の外装の色は黒で、それを縁取るように金。  

 そして、全体のあちらこちらに、えんじの差し色が」

 

カルマス

『アルジュナオルタナティブと似ているね』

 

A2

「いいえ! 全然違います! 

 わた……こちらの方が断然かっこいいです!」

 

カルマス

『誰かいませんか? 乗っていませんかー?』

 

A2

「生体反応は無し。

 1000年前に作られ、放棄された機体でしょうか。

 詳しく調べてみないと分かりませんね」

 

カルマス

『じゃあ持って帰ろう。

 ケーブルで繋いで……牽引(けんいん)、出来るかな?』

 

A2

「障害物が多い、気をつけていきま──。

 ゾルテトラ?! 反応がなかったのに、どうして!」

 

カルマス

『残骸を身に纏ってる! それでレーダーを騙していたのか!』

 

A2

「数は1体ですが、状況が悪い、荷物が大きすぎて……」

 

カルマス

『ケーブルを一度切って、荷物を離す! 

 近いと、運んでいる巨神を巻き込んでしまう!

 十分に距離を取れたから……牽制射撃!』

 

A2

「いけない、マスター!」

 

カルマス

『なっ! ゾルテトラが巨神の方に!』

 

A2

「同化しようとしているのか! 

 巨神とゾルテトラの融合体なんて……不味い!

 更に新たな敵反応、数は100以上!」

 

カルマス

『まさか、この巨神は囮?』

 

A2

「分かりません。

 けれど、こんな短時間で100も集まるだなんて、何かがおかしい!」

 

カルマス

『艦に一度戻って、アルジュナオルタナティブに乗り換える! 

 帰還しつつ敵を減らす!』

 

A2

「分かりましたマスター、全力で補佐しましょう」

 

カルマス

『(巨神、ごめん。

 せっかく見つけてあげられたのに……!)』

 

 

 ──艦へ帰還途中

 

 

カルマス

『アイギスのチャージ時間の隙に、次から次へと……!』

 

A2

「マスター! 敵の体当たりが! 

 衝撃来ます、備えて!」

 

カルマス

『ぐっ……くっ』

 

A2

「脚部破損、スラスターの出力50%低下。

 破損個所からゾルテトラ侵食。

 ……どうしますか」

 

カルマス

『パージ、頼む!』

 

A2

「分かりました、右足パージ!」

 

カルマス

『(神経リンクしているから、まるで自分の足がもがれたみたいだ……!)』

 

A2

「鎮痛剤の量、増やします」

 

カルマス

『……ありがとう』

 

 

 ──艦へ帰還途中

 

 

カルマス

『あと何Kmで帰れる……? 凄く、遠く感じる……!』

 

A2

「覚醒作用のある薬剤、追加投与。

 気をしっかりもってください、マスター。

 敵の迎撃はA2が。

 マスターは、機体を前へ動かすことだけ考えて」

 

カルマス

『う、前面に、ゾルテトラの体が網のように広がって……』

 

A2

「アルジュナオルタナティブであれば、こんな奴ら! 

 どうする? アイギスを自爆させるか?

 しかしそれでは戦う術が!」

 

オペレーター

「こ……ち……らブリッジ! 聞こえるかパイロット!

 君達の機体とゾルテトラを確認した! 援護する!」

 

カルマス

『そんなことしたら、艦の方に、敵が……』

 

土方

「マスター! 俺だ!」

 

カルマス

『土方さん!』

 

土方

「艦の一部に爆薬を積み込んで切り離す! 

 それをゾルテトラにぶち当てて、爆風で飛ばす! 

 その間にお前達を回収する! 良いな?」

 

カルマス

『分かりました。作戦の時間まで、耐えて見せます!』

 

土方

「いい返事だ! 生き延びて見せろ!」

 

オペレーター

「こちらブリッジ! ゾルテトラの数を確認……あれ?」

 

土方

「迅速に報告!!」

 

オペレーター

「報告します、数、80、50、30……」

 

A2

「マスター、あれを見てください」

 

カルマス

『さっきの巨神が動いて、実体剣で、ゾルテトラを切り裂いている……」

 

土方

「おい」

 

カルマス

『土方さん? どうかしたんですか?』

 

土方

「──沖田、お前、そこにいるのか?」

 

 

 第12話 2020/03/18

 

 

 ──宇宙空間

 

 

カルマス

『誰か巨神の中にいる……? 

 だとするなら、呼びかけに答えてほしい!』

 

A2

「マスター、巨神、再び動きます!」

 

カルマス

『実体剣でゾルテトラを一刀両断、すごい……!』

 

A2

「あの巨神が引きつけてくれている内に、艦へ戻りましょう!」

 

カルマス

『見捨てるような真似できない。

 まだ20体以上の敵がいるんだ!』

 

A2

「右足も無く、出力が低下している機体で、何ができると言うのです! 

 一度戻るしか……! 

 あっ」

 

カルマス

『ゾルテトラが刃状に変形して、巨神のコクピットを貫いて……! 

 そんな……そんなことって』

 

A2

「マスター?」

 

カルマス

『……よくも』

 

A2

「マスター! A2の声を聞いてください!」

 

カルマス

『よくもぉぉ!!!!』

 

A2

「フェイトエンジンの出力、急激に上昇。

 まさか、怒りに呼応して?」

 

カルマス

『アイギス:インドラカスタム! 敵を射抜け!』

 

A2

「凄まじい衝撃……。

 武器が、供給されるエネルギーに耐え切れていない……。

 これほどまでの力が、人間にあるだなんて」

 

カルマス

『巨神! 今助け……コクピットに、穴が、空いて……』

 

A2

「当機体とこの巨神に、牽引ケーブルを結びました。

 艦も迎えに来てくれています、帰りましょう、マスター」

 

カルマス

『……ああ』

 

 

 ──艦内ドック

 

 

土方

「帰ったか! あの巨神も一緒だな。

 早速だがコクピット、開けるぞ」

 

カルマス

『立ち会い、ます。

 A2、できそう?』

 

A2

「システムとコンタクトがとれました。コクピット、開きます」

 

土方

「沖田!」

 

カルマス

『あっ……』

 

土方

「……」

 

A2

「古びた浅葱色の羽織だけが、コクピットの中に落ちています……。

 これは」

 

土方

「……すまん。少しの間、一人にしてくれ」

 

カルマス

『分かりました。行こう、A2』

 

A2

「……」

 

カルマス

『コクピットを開けてくれて、ありがとう』

 

A2

「はい、あれくらいお茶の子さいさい……? です、えっへん」

 

 

 ──自室

 

 

A2

「マスター、もう一度ご説明しますよ。

 あの黒とえんじ色の巨神の中に、人はいませんでした。

 だからあれが動いたのは、きっとAIが」

 

カルマス

『もしかしたら、誰かがいたのかもしれない』

 

A2

「コクピットの中に、人間やその他生き物の痕跡もありませんでした。

 1000年ではありませんが、数年以上放置されていた。

 そも巨神がひとりでに動くなど──」

 

カルマス

『気分転換に廊下を歩いてくる、部屋で待っていて』

 

A2

「……はい」

 

 

 ──艦内廊下

 

 

???

「こんにちは、マスターさん」

 

カルマス

『君はたしか、カーマ』

 

???(以下、カーマ)

「ええ。カーマ……ちゃんですよ」

 

カルマス

『こんな所で会うだなんて、偶然だね』

 

カーマ

「ええ偶然……くすくす。

 そうだ。これ、アビーの代わりにお渡ししまーす」

 

カルマス

『マロン味の、甘いレーション?』

 

カーマ

「彼女、いつも言っているんです。

 『頑張っているパイロットさんにお礼をあげたいのに、断られてしまう』って。

 ? カーマちゃんの顔をじっと見て……なんですか」

 

カルマス

『君によく似た人を、知っているんだ』

 

カーマ

「へぇ。それじゃあ、この単語もご存知かしら?

 ……『捨て犬部隊』、とか」

 

カルマス

『捨て?』

 

カーマ

「なーんだ。あなた、何にも知らない……本当に一般人なんですね。

 捨て犬部隊については、軍人である艦長さんが詳しいんじゃないかしら。

 カーマちゃんはただ、都市伝説について教えただけですので」

 

カルマス

『聞いてみるよ』

 

カーマ

「ええ、ぜひ……うふふ……」

 

 

 ──艦長室

 

 

新艦長

「すすすすすすす捨て犬部隊だとぉ!?」

 

カルマス

『(分かりやすく動揺している)』

 

新艦長

「ままま待て。紅茶で唇を湿らせて……うむ、落ち着いた。

 さて、捨て犬部隊について。

 これは一種の都市伝説なのだ」

 

カルマス

『どんな内容なんですか?』

 

新艦長

「……身よりのない子ども達を連れてきて、軍の実験に使うとか。

 薬などで服従させ、秘密部隊を作り、表には出せない任務をやらせている、そんな話だ。

 しかし軍属である私でさえ、影も形も見たことがない。

 

 聞き分けのない子どもに、大人が言う作り話の一つだよ。

 『いい子にしていないと、捨て犬部隊にされるぞ』と。

 私も幼い頃、意地悪な大人にささやかれたことがあってな。

 震えていたら、トゥールが言った奴を蹴り、殴り飛ばしてくれたが……」

 

カルマス

『教えてくれてありがとうございます』

 

新艦長

「うむ! 分からないことがあったら何でも聞いてくれたまえ! 

 私は結構、君を頼りにしているのだからな。

 うん……って、もう帰ってるー!?」

 

 

 ──民間人用居住区

 

 

カーマ

「あのパイロット、カーマになった後の私の顔を知っているなんて、何者なの? 

 ……ちょっと探ってみる必要がありそうですね。

 ……ああ、本当に面倒」

 

 

 第13話 2020/03/20

 

 

 ──カルデアのマスターの意識が、この世界の人物と混線してから1週間。

 ──自室?

 

カルマス

『ううーん……おはよう、A2』

 

???

「……? 何を言っているのですか、私はアルジュナですよ? 

 角と尻尾が生えていますのでオルタの方です、お間違えないよう」

 

カルマス

『えっ?』

 

???(以下アルジュナ(オルタ))

「混乱しているご様子。少し説明しますね。

 マスター、あなたが突如眠りから目覚めなくなり、カルデア中が厳戒態勢へ。

 キャスタークラスのサーヴァントと、霊基違いのナイチンゲール2騎が問題調査に当たった。

 現在もその作業中です」

 

カルマス

『アルジュナ(オルタ)は、どうしてここに?』

 

アルジュナ(オルタ)

「実体として居るわけではありません。

 意識だけ、あなたの中に入り込んでいるようです」

 

カルマス

『つまり今の自分は、夢の中で会話しているようなもの?』

 

アルジュナ(オルタ)

「その認識が近しいかと。

 ジェロニモが用意した、オジブワ族由来の礼装が、今の状況を生み出してくれたのでしょう。

 礼装の別名はドリームキャッチャー。

 あなたがベッドから落ちそうになり、私は思わず手を伸ばした。

 その時、礼装とあなたに触れた……のが、きっかけとなったのか?」

 

カルマス

『カルデアのみんなは元気?』

 

アルジュナ(オルタ)

「マシュ・キリエライトは、冷静であろうと努めています。

 他の職員も。

 サーヴァント達の多くは、あなたの帰還を確信しているため、混乱してはおらず。

 あなたが謎の眠りに陥ってから、数時間しか経っていませんもの」

 

カルマス

『──数時間?』

 

アルジュナ(オルタ)

「どうやら、マスターの体感時間は違うようですね」

 

 

 ──状況説明後

 

 

アルジュナ(オルタ)

「1週間近くもその世界で過ごした。

 私と同じに見える存在、A2なるものと特殊な契約をしたと。

 巨神、巨人なる全長約100mの大型ロボットに乗り、ゾルテトラというゲル状の敵性生命体と戦っている。

 

 巨神に乗るごとに、あなたの体は人から外れていく。

 しかし、ゾルテトラと渡り合える存在はマスターしか居らず、戦艦には保護した民間人が……」

 

カルマス

『だから、一生懸命に戦っているんだ』

 

アルジュナ(オルタ)

「あなたから伝え聞くA2は、ずいぶんと幼い印象を受けます」

 

カルマス

『アルジュナ(オルタ)の子どもの頃は?』

 

アルジュナ(オルタ)

「機会がありましたら、お話ししますね。

 長い、長い話になるでしょうから。

 ……マスター、あなたはこれよりどうしたい、ですか?」

 

カルマス

『みんなを守りたい。

 それに、この世界に自分が喚ばれた意味が、きっとあるはずだ』

 

アルジュナ(オルタ)

「しかし、戦うごとにあなたの人間性は削られていく」

 

カルマス

『削られたりなんてしない。

 今から3ヶ月間、戦い抜いてみせる』

 

アルジュナ(オルタ)

「喚ばれた意味……か。いえ、何でもありません。

 マスターの決意は固く、私はただ語らう以上の力を持たない。

 であるならば、一介のサーヴァントとして、あなたを信じて待つしかありませんね」

 

カルマス

『待っていて欲しい、必ず帰るよ』

 

アルジュナ(オルタ)

「では、待っています。皆と共に。

 ……誰かがあなたを呼んでいる。さぁ、目を開けてください。

 

 

「マスター」

 

 

 ──艦内自室

 

 

???

「……スター、マスター! 起きてください! 

 あのゴルドルフとキルケーが、あなたを呼んでいます!」

 

カルマス

『おはよう、A2』

 

A2

「はい、A2ですよ! きちんとあなたを起こすことが出来ました」

 

カルマス

『(似ているけど、やっぱり違うなぁ)』

 

A2

「どうかしましたか? さっさとドックに向かいましょう。

 そして用事を直ぐに終わらせ、今日こそ食堂のネームレス・レッドに、出汁巻き卵をねだりましょう」

 

 

 ──艦内ドック

 

 

新艦長

「あわわわわわわ」

 

キルケー

「ちょっとは落ち着きなよ! 

 この大メカニックが控えているんだぞ!」

 

カルマス

『新艦長! キルケー!』

 

新艦長

「お、お、遅いぞ君ィ!」

 

カルマス

『何があったんですか?』

 

キルケー

「説明しよう!

 きみが牽引してきた謎の巨神、修理がてら調べようとしたら……。

 あー、これ以上は本人から聞いた方が早そうだ」

 

???

「……」

 

カルマス

『あの立体映像の彼女は』

 

???

「む、ようやく話が通じそうな存在が来たな。うれしみ」

 

A2

「マスター、間違いありません。彼女は……」

 

???

「我が機体名、巨神、沖田総司オルタナティブ。

 そして私はそのAI、名前はOSA2だ。

 きょしんさん、と親しみを込めて呼んでくれると嬉しい」

 

A2

「巨神とその管理AI。私以外の……!」

 

 

 第14話 2020/03/22

 

 

 ──艦内ドック

 

 

A2

「私はアルジュナオルタナティブのAI、A2。

 お前は何者なのです、OSA2」

 

OSA2(以下きょしんさん)

「きょしんさん、と呼んでくれないと悲しい」

 

A2

「……」

 

カルマス

『ええっと、きょしんさん?』

 

きょしんさん

「なんだ? 私のものではないマスターよ」

 

カルマス

『聞きたいことがあるんだけど、いいかな』

 

きょしんさん

「構わないぞ。

 きょしんさんには、大きな許容みがある」

 

カルマス

『レーダーに映ったり消えたりしていたのは、君だね?』

 

きょしんさん

「……? たぶんそうだ、きょしんさんの移動方法はすごいからな」

 

カルマス

『たぶん?』

 

きょしんさん

「生まれたて故、いくつか記憶がすっぽ抜けている。

 が、自身の機体スペックは把握している。

 心配するな、ふわふわ……していないぞ」

 

カルマス

『ゾルテトラに襲われた時、戦ってくれたのは君?』

 

きょしんさん

「そんなことはしていない。

 それに、AIだけでは巨神が目覚めるほどの運命が動かない。

 フェイトエンジンは運命で回るのだから、とても大きなロマンがいるんだ」

 

A2

「……」

 

土方

「おう、マスター。遅くなってすまんな。

 あいつが、回収した巨神についていたAI。

 ……よく似ていやがる、そっくりじゃねぇか」

 

カルマス

『行方不明の幼なじみに、ですか』

 

土方

「俺に話をさせてくれ。いいか?」

 

カルマス

『どうぞ』

 

土方

「俺の名は土方歳三。お前は?」

 

きょしんさん

「機体の名前は沖田総司オルタナティブ、そして私はOSA2。

 愛称はきょしんさんだ」

 

土方

「名前は誰からもらった?」

 

きょしんさん

「分からない。

 ただ、目を覚ました時、脳内に浮かんできたのだ。

 自分は巨神のAIであるという認識が、その次に名前が」

 

土方

「いつ目覚めた」

 

きょしんさん

「ほんの数十分前だ。

 それより前の記憶はない……いや、少しある。

 どれも霞のようだが、はっきりしたものは一つ。

 ──『命尽きるまで戦い続けろ、それがお前に与えられた責務だ』と。

 女性の、血を吐きそうなほどの決死な声。

 それが私に遺された言葉、生まれる私への贈り物」

 

土方

「……そうか。

 新艦長!」

 

新艦長

「なんだね、土方君」

 

土方

「こいつは、生まれたての赤ん坊と同じだ。

 尋問しようが、情報なんぞ持ってねぇ。

 機体を調べた方が、製造年数やどこで作られたかが分かり、建設的だろうよ」

 

新艦長

「う、うむ、ではそのようにしよう。

 我々の目的は巨神の捜索なのだからな」

 

きょしんさん

「待て、土方歳三」

 

土方

「なんだ」

 

きょしんさん

「私は、お前達に要求したいことがある。

 ……体が欲しい、そのためにマスターが欲しい。

 誰か、私のマスターになってくれないか?」

 

 

 ──艦内食堂

 

 

???

「お待ちどうさま。出汁巻き卵だ。

 私が鰹節を秘匿していて良かったな、パイロットとそのパートナー」

 

カルマス

『ありがとう、ネームレス・レッド』

 

A2

「ありがとうございます、ネームレス・レッド。

 さっそく食べましょう、あつあつ、ふわふわのうちに!」

 

???(以下ネームレス・レッド)

「しかし、和食を知っている者が居たとはね。

 君達まさか、ジャパンコロニーの末裔か?」

 

カルマス

『ジャパンコロニー?』

 

ネームレス・レッド

「ふむ。その反応は何も知らないといった様子だな。

 私の勘違いか……。

 今聞いたことは、どうか忘れてくれ」

 

カルマス

『……はい』

 

A2

「ふわふわなのに、どろどろではなく。

 あつあつなのに、良い香りで……。

 幸せな味! とっても美味しいです! 

 マスター! A2は毎日これでもいいです!」

 

カルマス

『栄養が偏るから、それはダメ』

 

A2

「そんな……!!」

 

 

 ──食後、艦内廊下

 

 

A2

「マスター、あのAIのこと、どう思います?」

 

カルマス

『分からないことばかりで、大変そうだ』

 

A2

「そうです! 大変なやつです! 

 突然現れて、あんな要求までしてくるだなんて……!」

 

カルマス

『きょしんさんが、大変そうだという意味だよ』

 

A2

「あっ……そちらの意味でしたか、勘違いしていました。

 ……、……、……マスターは、A2だけのマスターです。

 他のAIと契約なんて、してはいけないのです」

 

カルマス

『うん、分かった』

 

A2

「……あのAIと、お話なんてしないでくださいね」

 

カルマス

『……』

 

A2

「マスター、どうして返事をしてくれないのですか、マスター……」

 

 

 ──マスター自室

 

 

A2

「すー……すー……」

 

カルマス

『お腹いっぱいになったからかな、寝てしまった……。

 ごめんね、少し出かけてくるよ』

 

 

 ──艦内ドック

 

 

カルマス

『こんにちは、きょしんさん』

 

きょしんさん

「む。マスター、私に何か用か?」

 

カルマス

『少しお話したくて』

 

きょしんさん

「お話……きょしんさんには何も無いぞ」

 

カルマス

『じゃあその分、自分が何か話すよ』

 

 

 ──艦内ドック

 

 

きょしんさん

「これがお前の機体。

 かっこいいな、ちょっと金色なのが私好みだ」

 

カルマス

『そう、アルジュナオルタナティブ。

 前回の戦いで、巨人オデュッセウスは修理中。

 今戦えるのはこの機体だけなんだ』

 

きょしんさん

「では、今何かあればお前はこれで出撃するのだな。

 しかし……武器がないのか」

 

カルマス

『借り受けていたアイギスも修理中だし……』

 

きょしんさん

「素手み、だな」

 

カルマス

『ぷるぷるゾルテトラ相手に素手かぁ……』

 

 

 ──艦内ドック、歩きながら

 

 

カルマス

『どうして、体が欲しいの?』

 

きょしんさん

「私の中の遠い記憶の景色に、理由がある。

 ……小さな女の子と、男の子数人がじゃれ合っている。

 喧嘩のような、稽古のようなものをしているのだ。

 女の子はとても強くて、私とよく似た顔をしていた」

 

カルマス

『(沖田さん……)』

 

きょしんさん

「女の子はひとしきり笑った後……男の子ひとりひとりに手を伸ばして助け起こし、棒で叩いて、また打ち倒してしまうのだ。

 でもなぜか、勝った方も負けた方も、楽しそうで嬉しそうで」

 

カルマス

『……』

 

きょしんさん

「私は、その光景にひどく魅せられてしまった。

 A2のマスター、私は──誰かと、手を繋いでみたい。

 でも、それが叶わぬ願いだとは分かっている」

 

カルマス

『きょしんさん……』

 

オペレーター

「ブリッジより通達! 不明の敵性存在が接近!

 出撃可能パイロットは」

 

カルマス

『行かなくちゃ、みんなを守るために』

 

きょしんさん

「……そうか。

 きょしんさんは、お前の勝利を祈っているぞ」

 

 

 第15話 2020/03/23

 

 

 ──艦内ドック

 

 

A2

「遅くなってしまいごめんなさい、マスター」

 

カルマス

『大丈夫、来るまでの間に出撃準備をしていたから』

 

A2

「おや、そのパイロットスーツは」

 

カルマス

『キルケーが渡してくれた。

 巨神化症の進行を抑える効果があるんだって。

 今回は巨人ではなく、巨神で出撃することになるから。

 それに、あらかじめ注射とか投薬とかも受けてきたんだ』

 

A2

「……マスター、あの、私……」

 

カルマス

『敵性存在の正体は分からないけれど、一緒に行ってくれるかな?』

 

A2

「……はい! 我がマスター! 

 さぁ、操縦レバー前のゲルへ両手を入れて。

 巨神と再び、有機的接続を」

 

カルマス

『分かった……ぅっ!』

 

A2

「マスター?」

 

カルマス

『冷たくて少しびっくりしただけ。接続準備を続けて』

 

A2

「では。

 脊髄からの神経交感経路形成。

 緊急時の薬剤投与のため、両内太股静脈に簡易シャント設置。

 診断のため、全身スキャンを開始……健康状態良好。

 精神、やや高揚状態。

 マスター、必要であれば精神安定剤を投与しますが」

 

カルマス

『大丈夫だよ』

 

A2

「フェイトエンジン、回転数正常、出力に異常もなし」

 

カルマス

『巨神、アルジュナオルタナティブ、発進する!』

 

 

 ──宇宙空間

 

 

カルマス

『A2は機体下部にいるんだね』

 

A2

「私の肉体を培養していた場所は、補助コクピットとして機能しています。

 ここからあなたを補佐できる、何も心配することはありませんよ」

 

カルマス

『そうだ、伝えておかないと……これ』

 

A2

「なんでしょう、ふむ?」

 

カルマス

『戦うための武器、借りてきたんだ』

 

A2

「……マスター、後で言いたいことがあります」

 

カルマス

『はいはい』

 

A2

「はい、は、1回です! そういう決まりです!」

 

 

 ──出撃から30分後

 

 

カルマス

『レーダーによると、この辺りに反応が』

 

A2

「マスターは念のために戦闘準備を。A2が探してみます。

 ……いました。あの大きな艦隊残骸の後ろに」

 

???

「こんばんは、操縦者(マスター)さん」

 

カルマス

『!』

 

???

「今日はお話しするのにぴったりの……素敵な夜ですね」

 

カルマス

『(女性的なラインを持つ機体で、手足が透けて見えるほど青く燃えている。

 武器、身に付けていないように見えるけれど……)』

 

A2

「マスター、目の前の存在は巨神です。

 ただ、所属部隊のデータが無い」

 

???

「お話しする前に、えーいっ」

 

A2

「なっ!? この巨神、私達と艦の通信を遮断した!」

 

???

「話を盗み聞きされるの、私、だいっきらいなんです」

 

カルマス

『何を話に来たんだ』

 

???

「くすくす……くすくす……」

 

カルマス

『(大人の姿をしたカーマと声も話し方も似ているけれど。

 アビーが言っていた通り、「──気をつけて、全て同じとは限らない」んだ。

 知っている要素を持っただけの、知らぬ存在。

 気をつけていかないと……)』

 

???

「お話の内容? 

 えっと──どうして人類に生きている意味がないか、でしょうか?」

 

 

 ──艦内、医務室

 

 

キルケー

「採ってきてくれたのかい?」

 

土方

「おう。

 巨神アルジュナオルタナティブと、巨神沖田総司オルタナティブの装甲パーツの削りクズ。

 それぞれの筋肉組織だ。

 このシャーレに入れてある」

 

キルケー

「確認するよ……うん、私がきみに頼んだとおりのサンプルだ。

 ありがとう」

 

土方

「これで何が分かるんだ」

 

キルケー

「ううん、えーっと」

 

土方

「はっきり話せ」

 

キルケー

「──どうして人類に生きている意味がないか、かな……」

 

 

 ──宇宙空間 

 

 

カルマス

『どういう意味だ、謎の巨神』

 

???

「ふふふ……。

 ねぇマスターさん、どうしてあなたは、そんな怖い怖ーい巨神に乗っているんです? 

 今この瞬間にも、あなたは人間を辞めさせられているのに」

 

カルマス

『……みんなを、守るためだ。

 艦にいるクルーや、保護している民間人を』

 

A2

「マスター……!」

 

???

「──嘘、ですね」

 

カルマス

『!!』

 

???

「だってあなた……楽しんでる、強い機体に乗って敵を倒すことを。

 人を守れるのはその結果。

 玩具に付いてるオマケのまっずいガム……みたいなものですよね?」

 

カルマス

『違う!』

 

???

「あなたの本心、当ててあげましょうか。

 ──ずーっとずっと、力が欲しかったんですよね? 

 困難を打ち倒せる力を、自分で自分の運命を切り開くことが出来る力を。

 ……目の前で誰かが傷ついて、倒れるのを後ろで見ているしかない自分が、嫌いで嫌いで仕方がなかった」

 

A2

「黙れ巨神! 

 お前の浅ましい推測を、私のマスターに当てはめるな! 

 マスター、何か言い返してください! マスター!」

 

???

「守られてばかりで、何にも力がない自分。

 価値がない自分。

 絶叫するしかない自分。

 それでも生き残ってしまう自分。

 嫌い、嫌い嫌い嫌い、だーいきらい……」

 

カルマス

『うう……ああ……』

 

???

「だから、巨神に選ばれて、マスターになった時、きっと嬉しかったはず。

 これで自分の力で戦えるんだ。

 これで──『ようやく、自分だけが傷つくことが出来る』って」

 

A2

「マスター? どうして黙っているんです? 

 マスターは、みんなを守るために、A2を頼ってくれているんですよね? 

 みんなを守るために、巨神に乗るんですよね? 

 傷つくために……痛みを得るために、乗っているんじゃないんですよね?」

 

カルマス

『……そうだ、自分は、みんなを守るため巨神に乗るんだ』

 

A2

「マスター!」 

 

カルマス

『だって、そうじゃないといけないんだ。

 それが、それが』

 

???

「くすくす……ふふふ……」

 

カルマス

『──みんなの、求めている答えなんだ』

 

???

「あははははは!!!! 

 きひっ! やぁっぱり、人類に生きている意味なんてない!」

 

A2

「うるさい! 下品な巨神め!」

 

???

「10年前と、1000年前と、3000年前も人間はおんなじ! 

 自分達に都合の良い神様を作って! 

 都合の良い台詞を吐かせるように、コントロールしている!」

 

A2

「お前が何を知っている!」

 

???

「知っていますよ。私はね、人間に作られた都合のいい神様ですもの。

 我が名はマーラ、この世全ての害なれば!」

 

A2

「レーダーに反応が……これは!」

 

???

「私に協力してくれている、ほんのちょっぴりのゾルテトラですよ。

 ここであなた達を溶かしてあげる……」

 

A2

「数は1000以上……貴様! ゾルテトラに人類を売ったのか!」

 

???(以下マーラ:オリジン)

「先に()を見捨てたのは、人類のくせに。

 安心してください、人類を恨んでいる神は、マーラちゃん以外にもたくさんいますから!」

 

A2

「マスター! 起きてマスター! 

 ……心神喪失状態、そんな!」

 

カルマス

『みんなを……守る……それが……』

 

A2

「救援信号は使えない。

 ならば! A2だけで操縦する! 

 煉獄:インドラカスタム、使わせてもらうぞ! 

 殺してやるマーラ! 

 よくも……よくもA2のマスターを壊したな!!!!」

 

オリジン:マーラ

「ええ、かかっていらっしゃい、生まれたての巨神とそのAI。

 ふふっ……これで、世界を変える伝説の、最後の剣が手に入る」

 

 

 第16話 2020/03/24

 

 

 ──宇宙空間

 

A2

「殺してやるぞ! マーラ!」

 

マーラ:オリジン

「有言実行も出来ないくせに、そんなこと言わないでくれます? 

 よちよち歩きのAIさん?」

 

A2

「フェイトエンジン、フルドライブ! 

 私に、奴を殺せる力を寄越せぇぇぇ!!!!」

 

マーラ:オリジン

「きゃあ! こわーい!

 ふふっ、切断能力の高い大太刀ですか。

 けれど……魔王たる私に、そんなものは効かない!」

 

A2

「手で止められた?! ならば、出力を上げて……!」

 

マーラ:オリジン

「すごいパワー、マーラちゃん押し負けちゃいそうですー」

 

A2

「ふざけるな! 

 まだ機体スペックの1割も見せていないだろうに!」

 

マーラ:オリジン

「分析能力はやや高め……少しだけ、厄介かしら?」

 

 

 ──戦闘開始から数分後

 

A2

「ゾルテトラが次々と飛んできて、壁状に!

 奴に近寄れもしない!」

 

マーラ:オリジン

「宇宙の暗黒を背景にふわふわするのも疲れまーす」

 

A2

「くっ……やはり、私だけではフェイトエンジンからエネルギーが引き出せない! 

 マスター、マスター! 

 起きてください! 答えてください!」

 

マーラ:オリジン

「あらあら? なんて自分勝手な子なの?

 普段はべったり甘えて、嫌なことがあったら盾にして。

 それにほら! あなたが巨神を振り回したせいで」

 

A2

「……! マスター!」

 

 

マーラ:オリジン

「巨神症、進行しちゃっているじゃないですか。

 AI付きの巨神なんて久しぶりに見るから、期待していたんですけど……。

 ()達を使い潰した軍と違いはないのか、がっかりだ」

 

A2

「違う! 私は、マスターのことを……!」

 

マーラ:オリジン

「ただの部品としか思っていない! 

 しかも! いくらでも代わりが利く安いパーツ! 

 

 だってそうでしょう……?

 巨神は必要に迫られれば、どんな人間だって操縦者(マスター)へ改造出来るんだから!

 ぐっちゃぐちゃにして、ね?

 あはははは!!!!」

 

A2

「……私、は、A2は」

 

マーラ:オリジン

「ゾルテトラ、あの巨神を拘束して。

 私達の拠点に連れ帰って、解体、バラします。

 そうすれば、世界を変える最後の剣の使い方、隠された場所が分かるでしょう」

 

A2

「や、やめろ……」

 

マーラ:オリジン

「マスターは……そうですね、あなたの目の前でゾルテトラに喰わせましょうか。

 楽しいですよ、大切な人が変わり果てていくのを、自分の目で見るのは」

 

A2

「動け、動いてくれ! アルジュナオルタナティブ! 

 神と人が手を取り合うことで、目覚める巨神よ!」

 

マーラ:オリジン

「はーい、捕まえた」

 

A2

「……! ……!」

 

マーラ:オリジン

「恐怖で歯がガチガチぶつかり合う音、私にまで聞こえていますよー?」

 

A2

「……マスター!!」

 

 

 ──??? 

 

 

カルマス

『……』

 

???

「先輩、どうかしましたか?」

 

カルマス

『……』

 

???

「……いいえ、そんなことはありません。

 このマシュ・キリエライト、先輩がお側にいてくださるから、震える足を真っ直ぐに伸ばして、戦いの場へ向かえるのです。

 指示を、マスター。あなたの期待に応えたい」

 

カルマス

『……違う』

 

???(以下マシュ)

「マスター?」

 

カルマス

『これはマシュの言葉じゃない……。

 自分が、かけてもらいたい願望の言葉だ!!』

 

マシュ

「先輩……泣いていらっしゃるのですか?」

 

カルマス

『うぅ……あぁ……』

 

 

 ──心の底

 

カルマス

『暗く、重い世界。

 まるで深海にいるみたいだ……』

 

???

「マスター」

 

カルマス

『キャスターの、クー・フーリン……』

 

???

「マスター」

 

カルマス

『ジャンヌ・ダルク……』

 

???

「マスターよ」

 

カルマス

『ネロ・クラウディウス……』

 

???

「マスター!」

 

カルマス

『フランシス・ドレイク……』

 

???

「マスター」

 

カルマス

『モードレッド……』

 

???

「マスター」

 

カルマス

『フローレンス・ナイチンゲール……』

 

???

「マスター」

 

カルマス

『ベディヴィエール……』

 

???

「マスター」

 

カルマス

『……みんな』

 

「マスター」

「マスター」

「マスター」

「マスター」

「マスター」

 

カルマス

『こんなに……沢山の仲間と、旅をしてきたのに……』

 

(サーヴァント達)

「──」

 

カルマス

『こんなに、色んな人達と出会ったのに……自分は……』

 

(人々)

「──」

 

カルマス

『あそこに見えるのは……命を落としたカルデアのスタッフ達と……自分以外の、マスター達……。

 それから、あの人、は……』

 

(気弱に微笑む男性)

「──」

 

カルマス

『……もっと、力があれば。

 ……もっと、賢ければ

 ……もっと、努力を重ねていれば。

 ……もっと、もっと、もっと』

 

 ──あなたは、どうしたい?

 

カルマス

『(聞き覚えのない声がする……。

 けれど、知らないが故に落ち着く……)』

 

 ──あなたは、どうしたい? 

 

カルマス

『……助けたい。

 一人でも助けたい、その手をつなぎ止めたい!

 

 この気持ちが強がりでも! 嘘でもかまわない! 

 みっともなくてもいい! 浅ましくてもいい! 

 それで……誰かを救えるのなら!

 

 ──立って、戦い続ける! 生き続けてみせる! 

 だから、だからっ!』

 

 

 ──心の底→宇宙空間

 

 

マーラ:オリジン

「なに? エネルギーの増大? 

 ……この私と競い合おうとでも言うの?」

 

A2

「マスター! やった! 

 A2の声にマスターが応えてくれた!」

 

カルマス

『……』

 

マーラ:オリジン

「マスターの纏う雰囲気が変わった。

 これは、ゾルテトラの『神』と同じ……」

 

カルマス

『A2、倒そう、目の前の害を』

 

A2

「っ、はい……はい!」

 

マーラ:オリジン

「ずいぶん、ビッグマウスですこと! 

 来い! ゾルテトラ!」

 

カルマス

『煉獄:インドラカスタム! フルセイバー!』

 

マーラ:オリジン

「光波が刃以上に増幅して……巨大な炎の剣に! 

 一瞬にして、500のゾルテトラを切り裂いたというの?!

 あーあ、これだから人間って嫌いです……。

 急に勢いづいちゃったりしてぇ!」

 

A2

「マーラとゾルテトラが融合していきます! 

 あの姿、まるで角を持つ四足の獣!

 神の枠からも外れようとしているのか!」

 

マーラ:オリジン

「じゃあ私も、ズル、しちゃいますね。うふふふふ……」

 

A2

「敵機体のフェイトエンジンが逆回転?! これは……!」

 

マーラ:オリジン

「──運命を閉ざせ! マーラ! アヴァローダ!」

 

A2

「ゾルテトラの性質を持った超攻撃が来ます! 

 シールド、最大出力で展開!

 だが……防げるか!?」

 

マーラ:オリジン

「丸ごとぺろり♪ 

 食べちゃってから、あなた達の解体をしますね。

 さぁ! これでお仕舞い!」

 

カルマス

『終わりなんかじゃ、ない』

 

マーラ:オリジン

「その実体剣とシールドだけでは防ぎ切れませんよ? 

 愚かなマスターさん?」

 

カルマス

『──武装、追想』

 

マーラ:オリジン

「は?」

 

A2

「新しい武器が、当機体の背部から!  

 こんなの、A2は知らない……」

 

カルマス

『大丈夫、自分が知っている。

 展開せよ! 弓の名は……ガーンデーヴァ!』

 

マーラ:オリジン

「──くっ、浅いけれど、一撃もらった……」

 

A2

「やった! 

 敵の攻撃が放たれる前に、防ぐことが出来ました!」

 

マーラ:オリジン

「あーあ、冷めちゃった……帰ります」

 

カルマス

『待て! マーラ!』

 

マーラ:オリジン

「さようなら、可哀想で哀れなマスターさん。

 あなたが駄目になるか、人類が駄目になるか……。

 チキンレースの始まりです」

 

A2

「反応、ロスト。

 マスター、マーラは詳細不明の力で転移しました。

 ゾルテトラも散り散りになっていきます。

 艦の方へは行っていないようで、一安心……」

 

カルマス

『じゃあ、帰ろうか』

 

A2

「はい、マスター。

 その……体は大丈夫ですか? なんともないですか?」

 

カルマス

『元気だよ! むしろ調子がいいくらいだ』

 

A2

「……では、帰りましょうか」

 

 

 ──帰還途中

 

 

A2

(マスターを守ろうとすればするほど、マスターが傷ついていく……。

 機体は新たな武装も得て、強くなっていくのに……。

 A2は……)

 

 

 第17話 2020/03/25

 

 

 ──艦内廊下

 

 

A2

「マスター、キルケーに看てもらわなければ」

 

カルマス

『いま向かっているから、心配しないで。

 ……失礼します』

 

キルケー

「無事に帰ってきたね、操縦者(マスター)とそのAI。

 検査するから、きみだけ奥においで」

 

 

 ──医務室

 

 

キルケー

「ちょっと舌出して」

 

カルマス

『ひゃい?』

 

キルケー

「綿棒で表面を拭って……よし。

 気にしないで、これは巨神症の検査とは関係ないことだ。

 では、採血する、少し痛むよ」

 

カルマス

『よろしくお願いします』

 

 

 ──数時間後

 

 

キルケー

「きみの、巨神化症の進行についてだが」

 

カルマス

『(ドキドキするなぁ)』

 

キルケー

「私特性パイロットスーツのおかげもあり! ほとんど進行していなかった! 

 わー! ぱちぱちぱちー!」

 

カルマス

『良かった。A2が気に病んでいるようだったので』

 

キルケー

「軽い疲労くらいだね。

 A2にも『何もなかった』って、伝えておくと良い。

 拮抗薬は出撃前に投与済みで、診断も終わった。

 私はオデュッセウスA012の治療と、スーツの改良に勤しもうかな」

 

カルマス

『自室で休んできます。

 ありがとうございました!』

 

キルケー

「うん、しっかり休んでおいでー! 

 ……行ったか」

 

 

 ──医務室→特殊治療室、液体カプセル前

 

 

キルケー

「オデュッセウス、私、頑張っているよ。

 きみのような結末を迎える操縦者(マスター)が、二度と現れないように。

 彼を支えることが、1000年、世界に取り残された私の、最後の使命なのかもしれないな……」

 

 

 ──自室

 

 

A2

「お帰りなさい、マスター……その」

 

カルマス

『体、大丈夫だったよ』

 

A2

「! 良かった! 本当に良かったです!」

 

カルマス

『でも出撃の疲れがあるから、少し眠るね』

 

A2

「A2はこの部屋の、臨時ベッドで眠りますね。

 マスターのおかげで、眠るのが上手くなりました」

 

カルマス

『お休み』

 

A2

「はい、お休みなさい……私のマスター……」

 

 

 ──夢の中

 

 

???

「ゾルテトラ多数! ガーンデーヴァで迎撃します!」

 

???

「任せた!」

 

カルマス

『(これ、夢だ。

 自分はコクピットの中にいる。

 周りは戦場だ。

 ゾルテトラだけじゃない、見たこともない巨人や巨神の姿が、たくさん見える)』

 

???

「マスター! 敵の出現に切りがない! 

 彼を置いていくしか……」

 

???

「そんなことできるもんか! 

 ずっと自分達を……彼は……!」

 

カルマス

『(パイロットの声、マーラと戦っているときに心の中で聞こえたものと同じだ!

 姿は、自分とどことなく似ている)」

 

???(以下、謎のマスター)

「仲間を見捨てたりしないって! 決めたから!」

 

???(以下、謎のAI)

「マスター、あなたは勇敢で優しい。

 けど、今の状況は」

 

カルマス

『(機体AIの声、A2に似ているような、違うような)』

 

マスター:オリジン

「──オデュッセウス! 通信、聞こえるか? 

 今助けに行く! 持ちこたえてくれ!」

 

???

「逃げて、くれ」

 

カルマス

『(オデュッセウス?!)』

 

???(以下オデュッセウス:オリジン)

「お……れは、ここでゾルテトラを、食い止める。

 確実に数人を助けることが出来る、機体もな」

 

謎のマスター

「もう限界だろう! それに、拮抗薬の副作用で……」

 

オデュッセウス:オリジン

「俺が、人間の心を持っている内に、礼を言いたい。

 ありがとう、巨神アルジュナとそのマスター、そしてプロトタイプAI。

 俺は、お前達と共に戦えて幸せだった」

 

謎のマスター

「よせ、止めろ! オデュッセウス!」

 

オデュッセウス:オリジン

「俺のクローンに会うことがあれば、優しくしてやってほしい。

 ……あばよ」

 

謎のAI

「マスター、オデュッセウスの反応が変化。

 これは、ゾルテトラと」

 

謎のマスター

「……行くしかない、アルジュナ。

 彼の決意を無駄にしないために!」

 

謎のAI

「……はい」

 

 

 ──夢の中→自室

 

 

カルマス

『辛い、夢だった。

 A2はまだ寝ているや……あれ。

 自分の髪、少し長くなっているような?』

 

 

 ──ゾルテトラ繁殖銀河

 

 

マーラ:オリジン

「失礼します。母なる神よ。

 貴女の子がひとり、マーラ、帰還しました。

 これより、結果をご報告させていただきます」

 

???(以下ゾルテトラの母)

『……』

 

マーラ:オリジン

「最後の剣の座標を示す、巨神アルジュナオルタナティブと接敵しました。

 が、確保は出来ず、取り逃しました」

 

ゾルテトラの母

『……』

 

マーラ:オリジン

「最後の剣の探索と、アルジュナオルタナティブの居る艦からの情報収集を続けます。

 それでは」

 

ゾルテトラの母

『……』

 

マーラ:オリジン

「(やっぱり、少し似ている。

 母なる神と、あのマスターの纏う空気は……)」

 

 

 ──ゾルテトラ繁殖銀河内アステロイドベルト

 

 

マーラ:オリジン

「さっさと報告なさい、我が分裂体。

 あのマスターの様子は?」

 

カーマ

「今はぐっすり眠っていますよ、くすくすくす」

 

マーラ:オリジン

「……何が言いたいの?」

 

カーマ

「自信満々で向かったのに、無様に負けちゃったなんて。

 我が本体は情けなーいと、思ったんでーす」

 

マーラ:オリジン

「わきまえなさい、分裂体。

 いくらでも替えの効く消耗品の癖に」

 

カーマ

「はーい、黙りまーす。

 そういえば、なぜ、操縦者(マスター)如きにあそこまでムキに?

 まるで──昔の自分を見ているようだったから?」

 

マーラ:オリジン

「うるさい!!」

 

カーマ

「ひっどーい。

 足の小指、あなたの命令で腐り墜ちちゃいましたー」

 

マーラ:オリジン

「下らない事を言うな、考えるな。

 命令に従い、艦の情報と座標を定期的に送りなさい。

 ()の言う通りにしろよ、いいな?」

 

カーマ

「はーい」

 

 

 ──10年前

 

 

マーラ:オリジン

「目を覚まして、コードネーム、パールヴァティー。

 ……いや、姉さん!」

 

???

「……カーマ」

 

マーラ:オリジン

「薬を打つから!

 それで、ゾルテトラの侵食が止まるはず……!」

 

???

「ねぇ、昔を……覚えている? 

 お父さんがまだいたころ。

 一番上のお姉ちゃんと遊んでいたころ。

 お母さんの手料理を家族みんなで食べていたころ。

 ……みんな死んで、私達だけ、二人ぼっちになったこと、覚えている?」

 

マーラ:オリジン

「覚えているに決まっているじゃない!」

 

???

「じゃあ……本当の名前は? 

 私がパールヴァティーになる前の、あなたがカーマになる前の名前は?」

 

マーラ:オリジン

「──……あっ」

 

???→遠坂桜(以下、桜)

「思い出せない、そうでしょう?」

 

マーラ:オリジン

「あ、あっ、ああああああああ!!!!」

 

「でも、その方がいいのかもしれません。

 悲しいことも、苦しいことも、全部、溶けて、消えてしまえば……辛くない……」

 

マーラ:オリジン

「あっあっ、姉さんの体、溶け、なんで、薬打ったのに、どうして」

 

「可愛くて頼りになる、私の弟」

 

マーラ:オリジン

「やだ、やめて、誰か助けて、そんな、いやだ」

 

「私の夢を、最後に聞いて。

 ……古い神話によると、パールヴァティーって、シヴァという神様のお嫁さんだったのですって。

 私、花とドレスの似合う……お嫁さんに、なりたかったな……」

 

マーラ:オリジン

「姉さん! 姉さん!」

 

「でも、実験と戦いで傷だらけ。

 おまけに薬漬けの女の子は、誰も好きに……なって、くれない……よね……」

 

マーラ:オリジン

「お姉ちゃん!」

 

桜?

「……?」

 

マーラ:オリジン

「あ……あああああああ!!!! 

 死ねぇ! お姉ちゃんを返せ! 化け物!!!!」

 

桜???

「……」

 

 

 ──別れの後

 

 

マーラ:オリジン

「巨神に乗れば乗るほど、自分が失われていく。

 ゾルテトラと戦えば戦うほど、自分が奪われていく。

 私達『捨て犬部隊』に、未来なんて無い……。

 

 なのに、なのに! 何も知らない人間達は! 

 戦いを孤児やクローンに押し付け! 安全圏でぬくぬくと!! 

 

 ……滅ぼしてやる! 

 私から家族と()を奪った人間どもを! 

 皆殺しにしてやる!」

 

 

 ──現在、ゾルテトラ繁殖銀河

 

 

マーラ:オリジン

「ゾルテトラと化した姉を殺した後、決めた。

 ──生きる価値など、とうの昔に失った人類を滅ぼすって」

 

???

「ずいぶん大きなひとりごとじゃねぇか」

 

マーラ:オリジン

「乙女のプライベートルームに入ってくるなんて、殺されたいんですかぁ?」

 

???

「オレは別にそれでもいいけどよぉ。

 オレが死んだら、大殿が寂しがるんだわ」

 

マーラ:オリジン

「……あなた」

 

???

「でもよ、大殿ときたら最近はだんまりで、オレも調子狂うっつーか」

 

マーラ:オリジン

「森長可」

 

???(森長可)

「……軽々しく呼ぶんじゃねぇよ」

 

マーラ:オリジン

「あなたの大好きな、命の取り合いが出来る相手……教えてあげましょうか」

 

森長可

「……」

 

 

 第18話 2020/03/26

 

 

 ──艦内食材倉庫

 

 

A2

「まさか倉庫整理を頼まれるとは……」

 

カルマス

『A2、在庫のリスト読み上げて』

 

A2

「はい!

 乾燥卵のkg……冷凍肉の在庫は……」

 

ネームレス・レッド

「はかどっているかね?」

 

カルマス

『後は食材量の確認だけです!』

 

A2

「できました、マスター。

 数値におかしな所、ありませんでしたよ」

 

ネームレス・レッド

「ありがとう、二人とも。

 では、礼として昼食を馳走しよう」

 

カルマス

『やったぁ!』

 

A2

「やったぁ!」

 

 

 ──艦内食堂

 

 

カルマス

『お味噌汁に卵焼き……炊きたてのご飯……』

 

A2

「とっても美味しいです。

 その、その、ありがとうございます」

 

ネームレス・レッド

「どういたしまして。

 それにしても……君達は本当に、日本食が好きだな」

 

カルマス

『珍しいことなんですか?』

 

ネームレス・レッド

「ああ。

 大っぴらにジャパン文化が好きだと吹聴する人間は、少ないだろう」

 

カルマス

『何か理由が?』

 

ネームレス・レッド

「あるにはあるが、2000年以上前のことだからな……」

 

A2

「もぐ、ずずっ、ぷはっ。

 こんなに美味しいのに、みんなは嫌いなのか……。

 なぜ、ジャパン文化は忌避されているのです?」

 

ネームレス・レッド

「長くなるが、話してあげよう。

 人類がゾルテトラに追われ、地球を離れた後、国ごとに移動式のコロニーが作られた。

 アメリカならアメリカコロニー、日本ならジャパンコロニー……とね」

 

A2

「アメリカ?」

 

ネームレス・レッド

「君のような若い世代にとっては、歴史の本でも読まない限り、知りようがない知識か。

 人類は母なる星を離れた後も、お互いに区分を作り、牽制しあっていたという訳だ」

 

A2

「なるほど」

 

ネームレス・レッド

「だがある時、大きな変化が起きた。

 西暦3000年ごろ、現在が西暦5000年なので、2000年前。

 ゾルテトラへの対抗手段を、ジャパンコロニーが開発したんだ」

 

カルマス

『もしかして』

 

ネームレス・レッド

「巨神と、それを動かすフェイトエンジン。

 ……君の考えていた通りだったかな? マスター。

 当然、各国が対抗手段であるそれを求めたが、ジャパンコロニーは譲渡も、技術解放もしなかった。

 理由は不明だがね」

 

A2

「それから、どうなったのです?」

 

ネームレス・レッド

「……戦争だよ。

 敵を倒すための行き過ぎた兵器開発は、ずっと続けられていたからな。

 各国は兵器を(たずさ)え、ジャパンコロニーを急襲。

 巨神とフェイトエンジンの技術は奪われ、ジャパンコロニーは破壊された。

 皮肉な話だ。

 人を殺して、人を守る力を得るなど」

 

カルマス

『どうしてその後に、ジャパン文化の忌避へ繋がったんです?』

 

ネームレス・レッド

「戦後、彼らは恐れたのさ。

 故郷を滅ぼされた者達が、復讐に来るのではないか、とね。

 ……ジャパンコロニー出身者狩りが始まり、それは関連文化にも波及した。

 現在に至ると、理由もなく文化が恐れられるようになった」

 

カルマス

『……』

 

ネームレス・レッド

「おかしな話だよ。

 今日(こんにち)の私達がいるのも、ジャパンコロニーのおかげだというのに。

 皆、けろりと忘れ、その血、文化を差別する」

 

カルマス

『あの、自分は』

 

ネームレス・レッド

「私はね、君達が日本食をねだってきた時、嬉しかった。

 憐れみも恐怖もなく、真っ直ぐに文化に向き合い、喜んでくれたからね」

 

カルマス

『ネームレス・レッドさん……』

 

ネームレス・レッド

「また来るといい。

 食材は残り少なくなってきたが、まだまだやれるとも。

 日々、新鮮で美味な料理を君達に振る舞ってあげよう」

 

 

 ──艦内食堂→廊下

 

A2

「マスター、食糧、だいぶ残数が減っていましたね」

 

カルマス

『保護している民間の人達、大丈夫かな……』

 

A2

「人類生存域防衛宇宙軍、略して軍と、通信可能な領域に到達するまで、あと1ヶ月半」

 

カルマス

『食糧も水も、保つといいな』

 

A2

「……。

 そうだマスター! 

 オデュッセウスA012のお見舞いにいきませんか? 

 意識も戻り、リハビリを始めているかもしれません」

 

カルマス

『だね、行こう!』

 

 

 ──艦内特殊治療室、液体カプセル前

 

 

A2

「キルケーによれば、培養四肢は繋がったけれど、意識が戻っていないそうです」

 

カルマス

『早く元気になってくれると良いね』

 

A2

「……ですね。

 その方が、マスターの負担も減り……ますから」

 

カルマス

『そんなつもりで言ったんじゃない』

 

A2

「ごめんなさい、マスター。

 A2は、人間の気持ちを読み取るのが下手ですね」

 

カルマス

『これから上手になるよ』

 

A2

「上手になるまでの時間、残されているのでしょうか」

 

カルマス

『?』

 

A2

「なんでもありません。そろそろ帰りましょう」

 

カルマス

『うん。またね、オデュッセウス』

 

A2

「……」

 

 

 ──宇宙空間

 

 

???

「──見つけた、あの艦だ。

 マーラから盗み聞いた情報どおり、座標、形状、ともに間違いない。

 あそこに行けば、私、助かるかも……。

 でも、こんな体じゃあ……! 

 やだ、死にたくないよ、パパ、ママ……。

 私、このコクピットの中で、最期までひとりぼっちなの……?」

 

 

 第19話 2020/03/27

 

 

 ──カルデアのマスターの意識が、この世界の人物と混線してから1ヶ月半

 

 

A2

「……」

 

きょしんさん

「……?」

 

A2

「……」

 

きょしんさん

「むっ」

 

A2

「……!!!!」

 

カルマス

『A2、きょしんさんに怖い顔しないの』

 

A2

「だって彼女は、マスターを欲している巨神AIなのですし。

 つまり、その……体を」

 

きょしんさん

「A2と友達になりたい、すぐにでも!

 ……だめなのか?」

 

A2

「友達?! 

 だめ、ではないですが、それをしたら……うう。」

 

きょしんさん

「きょしんさんは、A2もA2のマスターも好きだ。

 冷たいひとりぼっちの宇宙から、暖かいこの艦に連れてきてくれたからな。

 大切に思っているぞ、だから煉獄も預けたんだ」

 

A2

「とも、ともだ……」

 

カルマス

『(あと一息! がんばれ!)』

 

A2

「友達になんて、絶対になりません!!」 

 

カルマス

『あー……行っちゃった……』

 

 

 ──艦内ドック、巨神沖田総司オルタナティブ前

 

 

きょしんさん

「A2に何かしてしまったのだろうか」

 

カルマス

『気に病むことはないよ、きっとただの照れ隠し』

 

きょしんさん

「照れ……タレ? 照り焼きの、タレ」

 

カルマス

『お腹空いているの?』

 

きょしんさん

「そうかもしれない。

 けれど、私には肉体が無い。

 空腹を楽しむことも、食事を感じることも無い」

 

カルマス

『肉体は、マスターと契約すれば出来るんだよね』

 

きょしんさん

「けれど、きょしんさんはそれを望まない」

 

カルマス

『……そっか』

 

土方

「沖田にマスターか。

 一緒とは珍しいな、A2はどうした」

 

カルマス

『A2は、ちょっと別のところにいます』

 

土方

「そうか。

 おい、沖田」

 

きょしんさん

「きょしんさんと呼んでくれ」

 

土方

「きょしんさん、良いもの持ってきてやったぞ」

 

きょしんさん

「これは……私の目には、丸いお掃除ロボットに見えるが。

 どういう用途に使うものなのだ、土方」

 

土方

「形はよく似ているが、機能は全く違う。

 このスイッチを押すと、ほらよ」

 

きょしんさん

「むむっ……立体映像が投写された」

 

土方

「きょしんさん、お前、自分の機体から離れて動けねぇんだろ? 

 だから作ってきてやった。

 こん中に意識を移せば、艦内を歩き回れるようになる」

 

きょしんさん

「土方はすごいな!」

 

土方

「軍の下っ端は、何でもかんでもやらねぇと生きていけないからな」

 

きょしんさん

「でも、本当にいいのか?」

 

土方

「俺がお前のために作ったもんだ。

 やったんだから、好きに使ってくれ」

 

きょしんさん

「ありがたく使わせてもらおう。

 では……意識を移しみ」

 

カルマス

『なんだかバーチャルアイドルみたいだね、きょしんさん』

 

きょしんさん

「すごいぞ! つつつーと歩けるぞ!」

 

土方

「地面を滑るように移動する、大きな段差には気をつけろ」

 

きょしんさん

「気をつける! わぁ……楽しいな……ふふふ……」

 

 

『せっかくだし、土方さんと艦内をお散歩してきたら?』

 

きょしんさん

「土方、時間はあるか?」

 

土方

「ちょうど暇していたところだ」

 

きょしんさん

「では、お散歩に行こう! 嬉しみあふれる!」

 

 

 ──民間人用居住区

 

 

アビー

「はじめまして! 

 貴女、きょしんさんと言うのね! お友達になりましょう!」

 

ラヴィニア

「ぁ……アビー、そんな急に……つ……詰め寄ったら」

 

アビー

「この子はラヴィニア! この子はカーマ! 

 私達三人、とっても仲良しなの!」

 

カーマ

「はーい、仲良しでーす。

 ぴーすぴーす」

 

きょしんさん

「きょしんさんと土方も仲良しだぞ!」

 

土方

「……おう」

 

 

 ──艦長室

 

 

新艦長

「おかしくないかね? 

 この艦で一番偉い人の部屋に、どうして子どもがたくさん来ているの? 

 おかしくないかね?」

 

アビー

「わぁ! なんて素敵なボトルシップ!」

 

新艦長

「おお分かるかね、アビゲイル君。

 ドクターキルケーに作ってもらった一点物で……」

 

土方

「絵の裏の隠し棚には……ドライフルーツと茶葉、上物のブランデーか。

 これはどういうことだ? 納税逃れか?」

 

新艦長

「土方くーん! 違うのだよ! 

 それはきっと前の艦長の忘れ物で……。

 えっ、私も初めて見るぞこの品々、怖い」

 

 

 ──艦内食堂

 

 

ネームレス・レッド

「何度来ようが、同じことを言おう。

 コスモタクアン味レーションの在庫は、残り少ない」

 

土方

「……、……、……嘘を言うんじゃねぇ」

 

きょしんさん

「コスモハンペン味が気になる、きょしんさん」

 

アビー

「コックさん、この間のパンケーキ、とってもおいしかったわ!」

 

ラヴィニア

「わ……私の家族も、お腹いっぱい食べられて……よかったの」

 

カーマ

「あーずるーい、カーマちゃん、ぜんぜん食べてませーん。

 『食の味方』を公言するなら、贔屓せず、人類平等に作ってくださーい」

 

ネームレス・レッド

「分かった! 分かったから! 一人ずつ順番に話してくれ!」

 

 

 ──艦内ドック

 

 

きょしんさん

「今日は三人もお友達が増えて、色んな物を見ることが出来た。

 きょしんさんは嬉しい」

 

土方

「おう、良かったな」

 

きょしんさん

「……、……、……土方、私と少し話をしよう」

 

土方

「いいぞ」

 

きょしんさん

「……私が沖田総司に似ているから、お前は優しくしてくれるのか?」

 

土方

「それも理由の一つだ、見抜かれていたか」

 

きょしんさん

「目には自信がある。

 そうか、他にも理由がある"み"なのか」

 

土方

「お前は、沖田の忘れ形見みたいなもんだからな」

 

きょしんさん

「忘れ形見?」

 

土方

「今キルケーと調べている。分かったら、話す」

 

きょしんさん

「では、待っている。

 ……土方は、マスターになりたくはないのか?」

 

土方

「なぜ聞く」

 

きょしんさん

「……気になったからだ」

 

土方

「昔は、なりたくてたまらなかったな」

 

きょしんさん

「私は、土方をマスターにする事が出来るぞ?」

 

土方

「キルケーから話は聞いている。

 巨人パイロット適性より、巨神マスター適性の方が、判定は広いそうだ。

 それに、巨神の方が人間に寄り添うとも」

 

きょしんさん

「もしお前がマスターになってくれるのなら、私はとっても嬉しい」

 

土方

「……そうか」

 

きょしんさん

「けれど、土方がマスターになるということは……人で無くなるということ。

 そして」

 

土方

「いずれ、巨神化症に殺されるか、ゾルテトラに喰われるか、だろ」

 

きょしんさん

「そう考えると、胸が、嫌な気持ちにもなった。もやみ」

 

土方

「……俺の話をしてもいいか」

 

きょしんさん

「かまわない、私は聞き役に徹するぞ」

 

土方

「……俺は、幼なじみである沖田と同じ景色が見たかった。

 あいつは昔から化け物みたいに強くて、何を考えて喧嘩しているのか、分からん所もあった」

 

きょしんさん

「うん」

 

土方

「あいつと軍に入って、あいつがパイロットに選ばれて……俺はこんなことを考えちまった。

 パイロットになれば、沖田が見ている景色が分かるんじゃないかと」

 

きょしんさん

「うん」

 

土方

「追いかけて追いかけて……だが、最後まで追いつけなくて。

 とうとうあいつは、俺の手の届かない世界に行っちまった。

 コクピットに遺されたあの羽織りを手に取った時……分かったんだ。

 巨人や巨神のパイロットになったとしても、沖田と同じ景色は見れないと」

 

きょしんさん

「うん……」

 

土方

「そして、お前がやってきた」

 

きょしんさん

「嫌、だったか?」

 

土方

「驚きはした。だがな、俺は嬉しかった」

 

きょしんさん

「どう、して?」

 

土方

「決まってんだろ、お前は沖田の生きた証だ」

 

きょしんさん

「生きた証?」

 

土方

「あいつは、最後まで全力で生きた。

 だからお前が現れたんだ」

 

きょしんさん

「そう、なのかな」

 

土方

「そう思っている、俺は。

 ……だからこそ、俺はお前のマスターにはならん、出来ん」

 

きょしんさん

「その言葉を聞いて、なぜだかほっとした」

 

土方

「そうか」

 

きょしんさん

「うん。

 大切だからこそ、簡単に乗せたくないと思ったんだ、私はな」

 

土方

「俺は俺の見える景色の中で、出来ることをするさ」

 

きょしんさん

「きょしんさんにお手伝いできること、あるか?」

 

土方

「おう、山ほどある。ついてこい」

 

きょしんさん

「土方に頼られるのは、なぜか嬉しみが高い」

 

土方

「俺も、お前に頼るのは悪い気持ちじゃねぇ」

 

きょしんさん

「? それはどういう意味だ? よく分からない……」

 

土方

「ふっ、これから分かるようになるさ」

 

 

 

 ──自室前廊下

 

 

カルマス

『A2ー、ここ開けてー』

 

A2

「……どうぞ、マスター」

 

カルマス

『部屋にいたんだね。

 何事もなく帰ってきてくれて、良かった』

 

A2(体育座りの姿)

「マスターは、A2に、きょしんさんとお友達になって欲しいのですか?」

 

カルマス

『そう思っている。

 けど、A2が嫌だと感じているのなら、強制はしたくないな』

 

A2

「……友達に。

 本心では、友達になりたいと思っています。

 ですが、怖いんです」

 

カルマス

『怖い?』

 

A2

「きょしんさんに『好きだ』と言われたとき、嬉しかった。

 けど、そう言ってくれた彼女が失われてしまったら……。

 考えたら、恐ろしくてたまらなくなり、胸に穴が空いたような気持ちになったのです。

 

 マスター、A2には無理です。

 誰かと友達になることなんて出来ない。

 だって……最後にはきっと、失われてしまうから」

 

カルマス

『A2は優しいね』

 

A2

「私が……優しい?」 

 

カルマス

『周りの人が傷ついたり、居なくなってしまうのを恐れることが出来る。

 君は、優しいよ』

 

A2

「……マスター」

 

カルマス

『きょしんさんとお友達になるかどうかは、A2が決めること。

 自分からは、もう何も言わない』

 

A2

「っ、マスターはA2を見捨てるのですか?」

 

カルマス

『違うよ、見守りたいんだ』

 

A2

「見て……守る?」

 

カルマス

『すぐ助けに行けるようにね』

 

A2

「守る……助け……」

 

カルマス

『今日はもう眠ろうか』

 

A2

「……はい、私のマスター」

 

 

 ──翌日、艦内ドック

 

 

A2

「え、A2……と、A2と友達に……」

 

きょしんさん

「なる、きょしんさんはなるぞ! やったぁ!」

 

A2

「……はい、ようやく言えた。

 ……苦しくなくなった……ほっとしました、ふぅ……。

 

 貴女に何かあった時は守ります、助けてみせます、から。

 その、友達として」

 

きょしんさん

「これで四人目のお友達だ! ふふん!」

 

A2

「四人目?」

 

きょしんさん

「? そうだが?」

 

A2

「……」

 

カルマス

『A2、きょしんさんに怖い顔しないの』

 

 

 第20話 2020/03/31

 

 

 ──自室

 

 

カルマス

『巨人オデュッセウス、直すのに時間がかかるって』

 

A2

「ゾルテトラや所属不明巨神との戦闘も連続。

 巨人修理も含め、食料以外の物資不足も目立ってきましたね……」

 

カルマス

『しばらくは巨神で出撃することになるのかな』

 

A2

「はい……そう、ですね」

 

カルマス

『暗い顔しないで。

 新型スーツもあるし、巨神化症はきっと大丈夫だよ』

 

A2

「だと、いいのですが」

 

オペレーター

「ブリッジより通達。

 パイロットとそのパートナーは至急ブリッジまで来られたし。

 繰り返します、ブリッジより通達……」

 

A2

「なんでしょう? 敵襲などでは無さそうですが」

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

新艦長

「うむ、迅速に来てくれたな、マスターとそのパートナーよ」

 

カルマス

『何かご用ですか?』

 

新艦長

「信号をキャッチしたのだ、しかも音声のものを」

 

カルマス

『自分が助けた時のように、相手は民間船ですか?』

 

新艦長

「まずは聞いてみてくれたまえ、ぽちっとな」

 

???

「……私は、巨神のマスターです。

 名前は……ジナコ=カリギリ、機体名はガネーシャ。

 私は、あなた達にとって有益な情報を持っています。

 お会いできることは、お互いにとって良いことになると思います。

 この座標で、待っています」

 

新艦長

「というメッセージだ、怪しいことこの上ない」

 

A2

「艦内の誰かのいたずらでは? ゴルドルフ」

 

新艦長

「(また呼び捨てにされた……)

 その可能性も考え、機材を調べたが、いたずらではなかった」

 

A2

「マスター、どうします」

 

カルマス

『声を聞く限り、罠ではないと思う。会いに行きたい』

 

新艦長

「君の意見を採用したいが、ここ数週間、ゾルテトラの動きが活発なのが気にかかっている。

 巨神で出撃したのなら、その後ろにこの艦も控えさせよう。

 

 ……無理しないでねホント。

 オデュッセウスA012が復帰するまで、君達二人だけが頼りなのだから」

 

カルマス

『無理しません。それではちょっと行ってきます』

 

 

 ──宇宙空間、指定座標付近

 

カルマス

『巨神反応は?』

 

A2

「見つけました。

 マスター、そのまま真っ直ぐに進んでください」

 

カルマス

『オーケイ、イエケイ、ライブ感。

 チャーシューわしわし、もやししゃきしゃき』

 

A2

「?」 

 

カルマス

『伝わらないネタ言って、ごめんね……』

 

A2

「? はい」

 

 

 ──数分後、宇宙空間、指定座標付近

 

 

A2

「宇宙船の残骸が多い、身を隠すのにはぴったりです」

 

カルマス

『ゾルテトラの反応は?』

 

A2

「今のところはありませんが、油断なさらず。

 私も油断しませんから」

 

カルマス

『うん、分かったよ』

 

A2

「いました! 

 あの壊れかけの機体が、私達に信号を送ってきた者で間違いないでしょう」

 

???

「……来てくれたんだね」

 

カルマス

『はじめまして、自分はこの機体の操縦者(マスター)で』

 

A2

「私は補佐AI、A2です」

 

???

「AI付き機体……。

 嘘じゃなかったんだ、本当にいたんだ……」

 

A2

「なにか?」 

 

???

「な、なんでもない。

 私はジナコ=カリギリって言うの。

 巨神の、マスターで……い、いた、痛い……ああああ!!」

 

カルマス

『どうしたの?!』

 

???(以下ジナコ)

「なんでもない、なんでもありません! 上官殿! 

 いや、違う、ここは()()()()じゃないって、分かってるのに……!

 鎮痛剤、打ったのに、効かない……使いすぎて、耐性が……。

 いや、痛いのもういや……パパ……ママ……」

 

カルマス

『母艦が近くにあるんだ、お医者さんもいる。

 君を連れて行くよ!』

 

ジナコ

「やめて! そんなつもりで呼んだんじゃない!」

 

A2

「落ち着いて、ジナコ=カリギリ。

 貴女は巨神に乗っている。

 感覚をリンクさせてる貴方が、暴走したら──」

 

ジナコ

「いや、いや!」

 

カルマス

『危険な状態かもしれない。

 無理矢理だけど連れて行こう!』

 

 

 ──艦内ドック

 

 

キルケー

「呼ばれて来たぞ! 

 負傷した操縦者(マスター)がいるんだな!」

 

カルマス

『この……巨神を、押さえ込みながら来ました! 

 A2、彼女の機体コクピット、開かせること出来る?』

 

A2

「出来ます。ハッキングして……よし!」

 

ジナコ

「やめて!!」

 

カルマス

『キルケー、彼女の治療をお願いします! 

 すごく、痛がっているみたいで……』

 

ジナコ

「み、見ないで……!」

 

カルマス

『彼女の腕が四本に、まるでガネーシャ神のよう……)』

 

キルケー

「状態がひどい、緊急処置が必要だ。

 降ろして医務室に運ぶぞ、手伝え!」

 

カルマス

『はい!』

 

 

 ──数時間後、医務室前廊下

 

 

カルマス

『ジナ……彼女は、大丈夫でしたか』

 

キルケー

「鎮痛剤数種類と、精神安定剤を投与した。

 痙攣で自傷してしまうかもしれないから、今は緊急にバンドで身体を拘束している」

 

カルマス

『命が助かったなら、良かったです』

 

キルケー

「彼女、かなり巨神化症が進行している。

 体には浮腫や腹水の症状あり、

 骨と腕の増殖、神経が混線することによる強い痛みも出ていた。

 そして、人間性の喪失も。

 誰かによって、長期間、強引に乗せられていたんだろう」

 

A2

「……、……、……これが、巨神化症」

 

キルケー

「そうだ。

 巨神が、戦う力と引き換えに人類へもたらしたものだ」

 

カルマス

『お見舞いしてもいいですか』

 

キルケー

「眠っているだろう。

 顔を見るくらいしか出来ないよ?」

 

 

 ──医務室

 

 

カルマス

『(カルデアのガネーシャ神とよく似た顔の、ジナコ=カリギリさん、か)』

 

 

A2

「起きたようです、マスター」

 

ジナコ

「ぅ……私、まだ生きているんだ。

 今度こそ死んじゃったと思っていたのに」

 

カルマス

『動かない方がいいよ。

 後で甘いものでも持ってこようか、好きでしょ?』

 

ジナコ

「……いらない。

 もうすぐ死ぬ人にあげたって、意味ないじゃん」

 

カルマス

『君は死なない、自分が守るもの』

 

ジナコ

「死ぬよ。それくらい自分でも分かる……」

 

カルマス

『どうして、この艦にメッセージを送ってくれたの?』

 

ジナコ

「伝説の巨神がいるって、聞いたから。

 世界を変える力を持つ、青と黒と、金色の巨神。

 捨て犬部隊の私にとって、その伝説だけが暖かい夢だった。

 

 ……情報を渡したら、去ろうと思っていたの。

 助かるつもりなんて、希望なんて、もう捨てていたのに」

 

カルマス

『捨て犬部隊って、あの都市伝説の』

 

ジナコ

「そっか、一般人からはただの噂だと思われてるんスね。

 でも、捨てられた子ども達にとっては、紛れもなく現実だから。

 

 ……私に両親はいない。

 目の前で巨人の戦いに巻き込まれて、潰された。

 足と壁の間、ぺしゃんこ、全身挫滅(ざめつ)ってヤツ。

 

 その後、軍の人間がやってきて、小さかった私を()()()()に連れて行ったの」

 

カルマス

『……』

 

ジナコ

「何十時間も、それこそ吐くまで戦闘シュミレーションに乗せられた。 

 優秀な奴は上へ、そうでない奴はもっと暗い場所へ。

 どうなったかは知らない、たぶん死んだ」

 

カルマス

『冷たい言い方しなくても』

 

ジナコ

「自分が生きるのに精一杯で、周りと助け合うなんて心の余分、無かった。

 食事が足りなければ、他者から奪って。

 眠る場所が無ければ、誰かを蹴って得るしかなかった。

 

 マスターさん、そういう、冷たいどうしようもない世界が、確かにあるんだよ」

 

カルマス

『……』

 

ジナコ

「私は12歳の頃から巨神に乗せられた。

 運が良いから、今日までもったの。

 『乗りたくない』ってわがままを言った奴は、消えていった。

 乗った奴らも、すぐ巨神化症になって死んでいった。

 

 口から何百本も歯を吐いて死んだ奴。

 腕が両目から生えた奴。

 自分で自分の頭を割って自殺した奴。

 増えた肉で窒息死した奴、巨神に喰われた奴……」

 

カルマス

『巨神に喰われる?』

 

ジナコ

「降りた後ね、巨神が勝手に動いて、マスター掴んでぱくっと食べちゃうの。

 どうしてそんなことするんだろうね、ふふふ……」

 

A2

「マスター、ジナコ=カリギリはひどい状態です。

 寝かせてあげた方が良いのでは」

 

カルマス

『今は何も考えず、休んで。

 また来るね』

 

ジナコ

「余分な話したら疲れたッス。

 またね、救世主のマスターさん」

 

カルマス

『(……救世主?)』

 

 

 ──自室

 

 

A2

「マスター」

 

カルマス

『大丈夫。巨神に乗ること、怖がったりしないよ』

 

A2

「どうして、A2の考えを……」

 

カルマス

『もし巨神化症が悪化しても、キルケーが付いてくれている。

 なんとでもなるはず』

 

A2

「マスターの巨神化症は、悪化したりなどしません」

 

カルマス

『気遣ってくれて、ありがとうね』

 

A2

「……マスター」

 

???

「あーあー。

 そこの船、オレの声が聞こえるか?」

 

カルマス

『ブリッジからの放送……じゃない?!』

 

???

「船ん中によ、ジナコって奴、居んだろ、居るよな? 

 それじゃあ、あいつ寝返ったってことだよなぁ!!」

 

カルマス

『艦に振動が!』

 

???

「我が名は森長可! 

 我が機体名、第六天魔王織田信長! 

 ちぃっと(つら)貸せや、伝説の操縦者(マスター)さんよぉ!!」

 

 

 第21話 2020/04/02

 

 

 ──宇宙空間

 

 

カルマス

『自分は、巨神アルジュナオルタナティブの操縦者(マスター)だ』

 

森長可

「来たな、伝説を駆る者。

 ん、友軍はいねぇのか」

 

カルマス

『今戦えるの、自分だけなんだ』

 

森長可

「つまり、お前がそっちの艦の大将首。

 殿様だな」

 

カルマス

『……自分はただのパイロット、それだけだ』

 

森長可

「良い返しすんじゃねぇか。

 (たぎ)るぜ……武装を構えなァ!」

 

カルマス

『A2! 頼む!』

 

A2

「ガーンディーヴァ、煉獄:インドラカスタム、どちらもエネルギー充填完了。

 いつでも戦闘に移れます、マスター」

 

森長可

「殺し合いに作法無し、どこからでも来な」

 

カルマス

『どうして、ここに来たんだ』

 

森長可

「ジナコが逃げ出しやがったからな。

 裏切り者は、追いかけてやらねぇと」

 

カルマス

『君は、青い炎をまとった女性型巨神の仲間なのか』

 

森長可

「マーラと()りあったのか、んで、アイツは逃げ帰ってきたと。

 ……ヒャハハ! 何だよ情けねぇ! 

 ブッ殺しておけばよかったぜ!!」

 

カルマス

『質問に答えてくれ!』

 

森長可

「連んではいるが、仲間じゃねぇよ。

 オレもアイツもジナコも、それぞれ勝手に動いてんだ。

 あの『神』の下でな」

 

A2

「『神』? ゾルテトラの神のことか」

 

森長可

「伝説の巨神にAIが付いてるっつー話は本当だったか、名乗れよ」

 

A2

「A2だ」

 

森長可

「んー……そうか、なるほどなぁ分かったぜ」

 

A2

「何が分かったと言うんだ、獣のような男」

 

森長可

「教えてやっても良い。

 ……けどよ、最後までオレに殺されなかったらの話だなァ!!」

 (わら)え! 人間無骨!!」

 

カルマス

『煉獄:インドラカスタム! 力を貸してくれ!』

 

A2

「同時にガーンディーヴァ起動! 発射!」

 

森長可

「面白れぇ! おめぇら本当に面白いぜ!

 血が沸き立つ戦いなんて、何年ぶりだぁ?!!」

 

カルマス

『自分はっ! 面白くない!』

 

森長可

「なんでだよ? 

 思うがままに相手を切って、宇宙(そら)のどこにだって行ける! 

 オレみたいな孤児が、気に入らねぇ大人どもをブチ転がせる!

 腹が裂けそうなほど愉快じゃねぇかよ! 

 巨神の操縦者(マスター)ってやつぁ!!」

 

カルマス

『君もまさか、無理矢理に操縦者(マスター)に……!』

 

森長可

「ああそうだ! だからどうした? 

 オレを哀れもうとすんのなら! ブッ殺す!!」

 

カルマス

『君を傷つけたくない!』

 

森長可

「……。

 フェイトエンジン、逆回転! 行くぜ大殿ォ!!!!」

 

???

「──やめて」

 

森長可

「んだよ、邪魔すんなや……」

 

カルマス

『ジナコさん、そんなボロボロの機体で、体で、どうして?!』

 

森長可

「オレと()り合おうってか、そのガネーシャ神で」

 

ジナコ

「……裏切りを咎めに来たのなら、私だけ殺せば?」

 

森長可

「無抵抗の女殺してハイお終い、で満足しろと」

 

ジナコ

「殺し合いたいなら、それでも良いよ。

 私の方が、いつも成績は上だったけど」

 

森長可

「ジナコは戦闘シュミレーションの成績"だけ"は良かったからな! 

 実戦はからっきしだったけどよ! ヒャハハ!」

 

ジナコ

「あなたにはあなたの目的があるでしょ。

 ここで余計な時間を食ってる暇、無いんじゃない?」

 

森長可

「……冷めた、帰る。やる気ない奴殺しても面白くねぇわ」

 

ジナコ

「マーラに付け口、するの?」

 

森長可

「つまんねぇことばかり言うなや……。

 ああそうだ、A2、お前の名前の意味、教えてやるよ」

 

A2

「突然なんだ、お前」

 

森長可

「昔、伝説の巨神にはAIがついててな。

 古文書によれば、名は──『アルジュナ1』」

 お前、二代目だからA2なんじゃねぇか? 

 オレの勝手な推測だけどよ。

 ……またな! 弱っちくて甘っちょろいマスターと、そのAI!」

 

 

 ──艦内ドック

 

 

カルマス

『無茶をして!』

 

ジナコ

「でもそのおかげで、君を助けられたし。

 良い結果になったッスよ……」

 

カルマス

『キルケー!』

 

キルケー

「もうスタンバイしているさ!

 彼女の脱走を許した私の落ち度だ! きっちり治療するよ!」

 

 

 ──自室

 

 

カルマス

『ジナコさん、体、良くなるといいな』

 

 

「私、少し艦内を歩いて来ます」

 

カルマス

『行ってらっしゃい』

 

 

「……止めないのですか? 何か聞かないのですか?」

 

カルマス

『止めないし、聞かないよ』

 

 

「……では、行ってきます。夕飯までには帰ってきます」

 

カルマス

『さてと、今のうちに寝て、体力回復しないと……あれ?

 こんなところに白髪生えてる、前からあったっけ?』

 

 

 ──宇宙空間、森長可、帰還途中

 

 

森長可

「それにしても久々に楽しい()りとりだったぜ、大殿!

 今日もだんまりか、そりゃそうだわな。

 ……、……、……巨神になってんだから」

 

 

 ──20年前、森長可6歳、コロニー内にて

 

 

織田信長(以下、信長)

「相撲と合戦ごっこ以外の遊びをしたいのぅ……」

 

 

織田信勝(以下、信勝)

「でしたら姉上、その、子どもらしく室内遊戯を……!」

 

信長

「飽きた、信勝しか相手おらぬもん」

 

信勝

「そ、そんなぁ……!」

 

森長可

「大殿ォ! 家からスイカ持ってきたぜ! 

 水耕栽培だから、味シャバシャバのヤツだけんどよ!」

 

信長

「勝蔵でかした! よし、今日は庭でスイカ割りじゃあ!」

 

信勝

「勿体ないですよ、普通に切って食べましょうよー」

 

 

 ──コロニー内、家屋、裏庭

 

 

信長

「いけいけ鬼武蔵! 

 そのまま真っ直ぐ、ずどーんと棒を振り下ろせー!」

 

森長可

「よっしゃ行くぜ! 全身スイカ汁で赤く染まってやらぁ!」

 

信勝

「姉上とご友人が揃うといつもこうです……はぁ……」

 

森長可

「(楽しいなァ! 大殿と遊んでいると、楽しくて仕方ないぜ! 

 こんな毎日が、ずっと続くといいのにな!)」

 

 

 ──数時間後、家屋内

 

 

信勝

「姉上、コロニー全域に避難警報が発令されたみたいです。

 僕、表の様子をちょっと見てきますね」

 

信長

「うむ、わし、勝蔵にリベンジマッチしておるから。

 わしはこの第六天魔王を使うぞ! 

 ステージは焼け寺でアイテム無しな」

 

森長可

「新作ゲームは遊び倒さねぇとなぁ!」

 

信勝

「二人とも仲良しですねぇ……それじゃあ、行って来ます」

 

 

 ──数分後

 

信長

「信勝」

 

信勝

「あ、姉上、ごめ、ごめんなさい。

 僕、僕じゃなくなって、しまっ……うっ」

 

信長

「ゾルテトラに侵食されておるな。

 ふむ、人間と融合する性質は、授業で教師から学んだ通りか」

 

信勝

「姉上、逃げて。

 僕が、もう、どんどん、とろけて……」

 

信長

「床に寝そべれ。わしがお前を診る」

 

森長可

「大殿!」

 

信長

「吠えるな勝蔵。どちらにせよ、もう助からん。

 ならば有効活用するまでよ」

 

 

 ──数時間後

 

のぶかつ

「う……うぉ……おぼ……」

 

森長可

「(目の前で、信勝がゾルテトラへ変わっていきやがる……。

 大殿はノートに何を書き記しているんだ……?)」

 

のぶか

「ぎゅ……ぎゅぎー……」

 

信長

「信勝、良く耐えたな。

 あとはもう、好きにせよ」

 

のぶ?

「みぎゅ! ぎゅー!」

 

森長可

「大殿! 何を……!?」

 

信長

「勝蔵、どうした、お前もこっちに来ぬか」

 

森長可

「な、なんで、自分をゾルテトラに喰わせるような真似……!」

 

信長

「そうか、お主には分からぬか。

 では良い、どこぞ勝手に行ってしまえ」

 

森長可

「大殿! ぁ、ああ……大殿ォ!」

 

 

 ──コロニー内、炎上状態

 

 

森長可

「(オレは、その場から逃げ出した。

 オレは大殿が何を知っちまったのか、理解もできなかった……。

 住んでいたコロニーはゾルテトラによって破壊。

 多くの子ども達が孤児となり、軍へ回収された……)」

 

 

 ──6年後、軍、秘密施設、捨て犬部隊訓練場

 

 

軍人

「お前達は、誰にも必要とされなかった子どもだ。

 そんなお前達でも、新兵器の実験台となり、技術発展の(いしずえ)となることは出来る」

 

森長可

「(野郎、話が長いぜ)」

 

軍人

「お前達に見せよう、これが人類を救う新兵器。

 1000年前の巨神を鹵獲、調べ上げることで開発された……新型巨神だ!」

 

森長可

「めちゃくちゃデケェロボットが、十以上も……」

 

軍人

「戦闘シミュレーションの成績不振者から乗ってもらう。

 迅速に並べ!」

 

 

 ──数分後

 

森長可

「オレの番か、さて、どうな……」

 

 勝蔵。

 

森長可

「大殿?!」

 

軍人

「No.0251。

 どうした、遺伝子登録も脊髄神経接続も終わっているぞ。

 さっさと動かせ、殴られたいのか?」

 

森長可

「……なんだよ、大殿」

 

軍人

「No.0251。

 今回お前が許されている操作は、歩行と腕の上げ下げのみだ。

 それ以外の操作は」

 

森長可

「こんなところにいたのかよ! 

 オレ、全然分からなかったぜ……ヒャハハハハ!!!!」

 

軍人

「0251……ひっ! や、やめろぉ!!」

 

森長可

「──大殿をちんけな鎖で繋いでんじゃねぇ、殺すぞ」

 

軍人

「じじじ、実験中止! 

 巨神に乗ったパイロットが暴走を……あああー!!」

 

 

 ──現在

 

 

森長可

「大殿は全部分かってたってことで……やっぱりすげぇぜ、大殿は!

 オレはこの巨神、第六天魔王織田信長に乗り続ける! 

 そうすりゃあ、いつかきっと、大殿は……!!

 その日が来るのが楽しみだぜ! ヒャハハハハ!!!!」

 

 

 第22話 2020/04/03

 

 

 ──森長可との戦闘から数日後、艦内ドック

 

 

A2

「本当にいいのですか?」

 

ジナコ

「これが一番、みんなのためになると思うし。

 それに、私も巨神化症が進みすぎて、もう戦えない。

 機体の方も……損耗が激しすぎて、この空域まで飛ばすのがやっとだったから。

 巨神ガネーシャは分解して、君達の機体修理とかに使って欲しいッス」

 

カルマス

『ジナコさんが、そう言うのなら……』

 

A2

「巨神の解体……ですか。

 私はマスターの自室にいます。

 その、見ていると気分が悪くなりそうなので」

 

カルマス

『分かった、また後で会おうね』

 

 

「巨神のAIだけあって、思うところがあるのかな」

カルマス

 

『それ以外にも、最近何か悩んでるみたいで』

 

 

「自分一人で背負い込むタイプ、なんスかねぇ……」

 

 

 ──艦内ドック、訓練室

 

 

ジナコ

「戦えない私が出来るせめてもの事として、シミュレーションの改良をしておいたッスよ、。

 マスターさんの戦い方とか戦歴データ読んだ。

 けど、機体の性能で力押し、ってパターンが多かったのね。

 だからこの特製! 辛口シミュレーション! で、びしばし鍛えるッス!」

 

カルマス

『数日でそこまでしてくれたんだ?! 

 ジナコさんは凄いね!』

 

ジナコ

「……そんなに、凄いこと?」

 

カルマス

『自分にはとても出来ないから』

 

ジナコ

「そっか、えへへ……。

 誰かに褒められるなんて、子どもの時以来かも……」

 

カルマス

『今からやってみる!』

 

ジナコ

「ではでは、疑似コクピットに座ってもらって……スタート!」

 

 

 ──艦内食堂

 

 

きょしんさん

「むむむっ」

 

A2

「OSA2……ではなく、きょしんさん。

 こんにちは……」

 

きょしんさん

「今日も元気な私だぞ、えっへん。

 それにしても、お前が一人でいるとは珍しい。

 しかも、こんな食堂の隅っこで」

 

A2

「誰とも……話したくない気分なのです」

 

きょしんさん

「元気がないのか。

 つまり、腹が減っている、ということか?」

 

A2

「……私は、そこまで単純な生き物ではありません」

 

きょしんさん

「巨神もAIも人間も、根っこはみんな同じで単純だ。

 土方がそう言っていた。

 待っていろ、ネームレス・レッドから何かもらって来よう」

 

 

 ──十分後

 

 

きょしんさん

「おごりだ、食べるといい。

 土方からもらった資金より払った。

 お小遣い、とも言う」

 

A2

「出来立ての……卵焼き……」

 

きょしんさん

「ネームレス・レッドから、これが好きと聞いたからな」

 

A2

「……どうして、私に構うのです」

 

きょしんさん

「友達だからだ。

 そう感じているのは、きょしんさんの思い込みだったか?」

 

A2

「友……ですか」

 

きょしんさん

「友達とは、上も下もなく対等で、強みも弱みも見せあえる。

 そんな間柄なのだと、スペース極道ドラマで言っていた。

 お前の友達であるきょしんさんに、胸を見せてくれ」

 

A2

「……胸の内では?」

 

きょしんさん

「そうとも言う、ちょっと間違えた」

 

A2

「……あなたは夢を見ますか? 

 己の夢ではなく、知らない人間の過去を覗き見るような」

 

きょしんさん

「うん、見るぞ」

 

A2

「どんな夢、でしたか」

 

きょしんさん

「……痛い夢、苦しい夢、辛い夢」

 

A2

「!」

 

きょしんさん

「そして、誰かと離れ離れになる夢を」

 

A2

「……この頃、そんな夢ばかり見ます。

 目の前で誰かが散っていって、泣いて、叫んで」

 

きょしんさん

「そうか」

 

A2

「でも、私が夢の中で出来ることは、何もないのです。

 磔にされた蝶のように、身動きが取れず。

 だからこそ、見るも聞くも、辛くて……」

 

きょしんさん

「本当に、そんな景色ばかりだったのか?」

 

A2

「……あなたは違うのですか?」

 

きょしんさん

「ああ、楽しい夢も見たぞ。

 満開の桜。

 落ちてくる花びらを、幼なじみと追いかける景色。

 コロニー内に流れる川で遊んだ、小春日和のこと」

 

A2

「私の夢は、いつも涙と血の景色ばかりです。

 これが……私の生まれる前、我が身に降りかかった過去、なのでしょうか。

 だとしたら、これから先、同じような事態が……」

 

きょしんさん

「私達巨神付きAIは、確かに過去の夢を見ているのかもしれない。

 人間風に言うのであれば……前世の記憶、というやつなのだろう」

 

A2

「前世?」

 

きょしんさん

「けれどな、その記憶は"今"ではない、全て過去の事なんだ。

 きょしんさんもA2も、この艦に乗っている者達は、未来にも過去にも生きていない。

 "今"を、生きているんだ」

 

A2

「……」

 

きょしんさん

「悲しい夢を見たらしょんぼりする、私もな。

 でも、それは過去。

 私は過去という後ろへは歩かない、"今"だけを見つめていたい」

 

A2

「あなたと同じに、出来るでしょうか」

 

きょしんさん

「一人では出来なくとも、A2には側で支えてくれる人達がいるじゃないか」

 

A2

「それが、友?」

 

きょしんさん

「私や艦の仲間、お前のマスター。

 "今"を生きる人達」

 

A2

「"今"を……生きる」

 

きょしんさん

「過去は色んな事を教えてくれもするが、囚われてはいけないんだ。

 分かったか?」

 

A2

「あなた、発生してから数か月も経っていないのに、とても良いことを言うのですね」

 

きょしんさん

「褒めるな。

 スペース極道ドラマ主人公の、台詞のまねっこだ」

 

A2

「……暗記していたんですか」

 

きょしんさん

「一日三回、録画された同じ話を放送しているからな。

 好きでも覚えちゃうぞ」

 

 

 ──数時間後、艦内ドック、訓練室

 

 

カルマス

『終わったぁ……』

 

ジナコ

「いやー見事な爆散爆散、大爆散! ッスね……。

 有り体に言うとゲームオーバーっす……」

 

カルマス

『難易度の設定おかしくない? 

 仮想敵の数が多くない?』

 

ジナコ

「そりゃあ、ゾルテトラってガンガン増えるし。

 こっちの武装を次から次へと奪い取っていくのが、向こうのやり口ッス。

 今までの戦闘、イージーモードすぎたってこと」

 

カルマス

『運が良かったんだなぁ……』

 

ジナコ

「本当に運が良いマスターなんですよ、巨神化症も進行が遅いし。

 これは、キルケーの腕の良さもあるのかな」

 

カルマス

『自分は色んな人に支えられているんだね』

 

ジナコ

「感謝の気持ちがあるなら、言える内に言っておいた方がいいよ。

 この時代、大切な人はどんどん居なくなっちゃうし」

 

カルマス

『うん、そうするよ』

 

ジナコ

「では私は、今日のデータを基にシミュレーションの改善するね。

 ん? なにこれ、敵感知レーダーに反応が……」

 

カルマス

『どうしたの? またゾルテトラ?』

 

ジナコ

「ただのゾルテトラじゃない。

 最も会いたくなかったタイプの敵。

 ……数は1体、巨神と融合した、ゾルテトラだ」

 

 

 第23話 2020/04/04

 

 

 ──艦内ドック

 

 

カルマス

『あれ? A2ー? どこに居るのー?』

 

A2(走ってきた姿)

「……申し訳ありません、マスター!」

 

カルマス

『良かった、自分一人ではとても出撃できないから』

 

A2

「マスター、その、私……」

 

カルマス

『?』

 

A2

「私、"今"を生きることにします。

 どれほど過去と未来が恐ろしくても、"今"を生きたいと思ったのです」

 

カルマス

『……良かった』

 

A2

「何がです?」

 

カルマス

『顔色、少し良くなったように見えるから。

 安心したんだ』

 

A2

「……では、行きましょう私のマスター!

 敵は、巨神と融合したゾルテトラ。

 戦闘経験は無いですが、貴方とA2なら、きっと勝つことが出来ましょう!」 

 

カルマス

『巨神アルジュナオルタナティブ、出撃します! 

 行こう、A2!』

 

 

 ──宇宙空間

 

 

A2

「敵との距離、残り100m。そろそろ目視できるかと」

 

カルマス

『見えた! ……あれは』

 

A2

「巨神の形こそ保っていますが、四肢がゾルテトラに変化していますね。

 恐らく、1000年前の人神戦争のおり、敵に奪取された機体かと。

 実に痛ましい姿です」

 

カルマス

『ここまで近づいたのに、何もしてこないね』

 

A2

「ゾルテトラの生体反応はありますのに、おかしなことです。

 ん、あれは?」

 

カルマス

『こちらに、手を差し伸べているようにも見える……』

 

A2

「っ! いけない、不用意に近づいては……!」

 

カルマス

『どことなく、見たことがある巨神だ』

 

A2

「艦内データと照らし合わせました。

 巨人オデュッセウスと類似部分、40%です。

 もっと詳しく調べないと、詳細は……」

 

カルマス

『──しなきゃ』

 

A2

「マスター、機体距離と敵から離してください。

 近すぎると、ゾルテトラに浸食された際、抵抗が出来ません。

 マスター? あの、マスター……?

 A2の声が聞こえないのですか? マスター!」

 

カルマス

『この差し伸べられた手を、取らなきゃ』

 

A2

「コクピットを開いて、何をしようというのです! 

 確かに宇宙遊泳用の装備をしていますが……人が直接、ゾルテトラに触れなどしたら!」

 

カルマス

『手を、取らなきゃ──』

 

A2

「っ、やめて! マスター!」

 

 

 ──白い、謎の空間 

 

 

カルマス

『(ゾルテトラと融合した巨神の手に、直接触れた瞬間、目の前が真っ白に……)』

 

???

「……」

 

カルマス

『(この光に満ちた空間に誰か居る……。

 あれは、オデュッセウス?)』

 

???(以下オデュッセウス?))

「……マスター」

 

カルマス

『オデュッセウス、なのか?』

 

オデュッセウス?

「まさかお前と、再会できるなんて」

 

カルマス

『貴方はいったい……』

 

オデュッセウス?

「巨神アルジュナのマスターよ、俺と手を繋いでくれ。

 さすれば、分かる。

 俺が何者で、どこにいるのか。

 どうしてお前が、この世界に生きているのか」

 

カルマス

『分かるの、なら』

 

???

「……マス……目を……覚まし……」

 

カルマス

『(A2の声が遠くから聞こえる。

 いや、アルジュナ(オルタ)の声かもしれない)』

 

オデュッセウス?

「手を……」

 

カルマス

『手を……』

 

 

 ──???の記憶 断片の連続

 

 

謎のマスター

「オデュッセウスは本当に強いな! 

 キルケーとのコンビネーションもばっちりだし」

 

オデュッセウス?

「そう褒めてくれるな。

 俺はまだまだ、未熟なマスターなのだから」

 

 

 ──???の記憶 断片の連続

 

謎のマスター

「こんなものが巨神の真実だというのか! 

 こんな……こんなもののために、罪のない人達が死んで!

 ジャパンコロニー、皆の故郷すら焼かれて……」

 

オデュッセウス?

「落ち着け、アルジュナのマスター!」

 

謎のマスター→アルジュナのマスター

「オデュッセウスは悔しくないのか! 

 くっ、なんで……!」

 

 

 ──???の記憶 断片の連続

 

 

アルジュナのマスター

「世界を、救うにはこれしかないんだ。

 オデュッセウスにだけ、打ち明ける」

 

オデュッセウス?

「『母』を(いさ)められるのは『父』のみ、という訳だな……」

 

アルジュナのマスター

「地球から全ては始まった。

 だから、地球に、最後にして最初の剣が……」

 

 

 ──???の記憶 断片の連続

 

 

アルジュナのマスター

「やめろ! そんなことしたら、君は!」

 

オデュッセウス?

「いいんだ。

 俺の巨神化症は末期。

 拮抗薬の副作用のせいで、一番好きな人の名前すら思い出せない……。

 こんな俺など、オデュッセウスではない!」

 

 

 ──白い、謎の空間

 

カルマス

『(まるで映画を見るみたいに、過去の記憶が流れ込んでくる……)』

 

オデュッセウス?

「……違う」

 

カルマス

『えっ?』

 

オデュッセウス?

「お前は、巨神アルジュナのマスターではない!

 肉体も魂も、あいつそのものなのに、心だけ違う。

 お前は誰だ!」

 

カルマス

『自分は、巨神のマスターで……』

 

オデュッセウス?

「お前は俺の盟友ではない! 違うものだ!」

 

 

 ──白い、謎の空間→宇宙空間

 

 

カルマス

『……はっ!』

 

A2

「マスター! お願いです!

 すぐにコクピットを閉じて、機体内部に戻ってください! 

 ゾルテトラの攻撃が……来ます!」

 

カルマス

『待ってくれ、オデュッセウス! 自分は!』

 

A2

「正気に戻ってください! 

 よく似ていても、あれは違うものだ!」

 

カルマス

『っ! 攻撃、目の前に来て……』

 

A2

「煉獄起動! 

 防ぎましたが、相手の方がパワーは上か!」

 

オデュッセウス?

「お前は、誰だ」

 

カルマス

『自分は、ただのパイロット、人間を守るものだ!』

 

オデュッセウス?

「違う、お前は、世界を救うもの。

 違う、違う違う違う……。

 世界を救う、救うため、救うだけ救う。

 救う救う、救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う救う……。

 あああ! 何もかも違うだろ! 

 盟友の心を! どこにやった!!」

 

カルマス

『自分は、そんなの知らなっ』

 

 

「マスター、敵の言葉に耳を貸さないで!

 くっ! フェイトエンジン、回転数減少!

 マスターが混乱したせいか!

 武装へのエネルギー供給が足りない……押し負ける……!」 

 

???

「──借りを返しに来たぞ、巨神のマスターよ!」

 

A2

「その声は……オデュッセウスA012!」

 

オデュA012

「アイギス、完全復活! フルバースト! 

 近距離で撃ち……放つ!」

 

A2

「助けてくれて、ありがとうございます!」

 

オデュA012

「久しぶりだな。

 ずいぶん明るい声になったじゃないか」

 

A2

「マスターが敵と接触してしまい、精神汚染を……!」

 

オデュA012

「では、迅速にこの脅威を退けるとしようか!」

 

オデュッセウス?

「……」

 

A2

「なんだ、急に動きが止まった?」

 

オデュッセウス?

「剣があっても、心が無いのなら……。

 世界救済の(すべ)は失われた、残念だ」

 

オデュA012

「俺と同じ声、か?」

 

オデュッセウス?

「あのマスターに伝えろ。

 『ゾルテトラ繁殖銀河の中心部、地球に、最後にして最初の剣がある。

 けれど、振るう者の心が無ければ何の意味もない』とな」

 

オデュA012

「お前は、俺のオリジナルなのか?!」

 

オデュッセウス?→オデュッセウス:オリジン

「……英雄の始まりを忘れた俺は、誰でもない。

 さらばだ、俺のクローンの1つ」

 

 

 ──艦内ドック

 

 

キルケー

「オデュッセウス! ばかばかばか!

 きみ、まだリハビリもしてないってのに……!」

 

オデュA012

「すまなかった、説教は全て聞こう。

 だが、あいつを助けるのには、この方法しかなかったものでな。

 巨人オデュッセウスが直っていて助かった、ありがとう」

 

キルケー

「ううん……なんだよ、熱っぽく謝ってさ……。

 お説教はひとまず後、A2のマスターを治療しないと!」

 

 

 ──医務室

 

 

A2

「マスター、ごめんなさい、私が、止めなかったから。

 この埋め合わせ、どうすれば……」

 

キルケー

「きみのせいじゃないぞ。

 考えなしにコクピットの外へ出て、ゾルテトラに触れるなんて馬鹿なことしたからだ」

 

A2

「でも、マスターを守れなかった……」

 

キルケー

「汚染度は低い、明日には目を覚ますだろう。

 きみはもう、部屋に帰ってお休み」

 

A2

「……眠っているマスターの顔を、見てきても良いですか?」

 

キルケー

「良いともさ!

 その見舞いが済んだら、私の言う通り休むんだぞ」

 

A2

「はい……」

 

 

 ──A2が隣室に移動後、医務室

 

 

オデュA012

「少しいいか」

 

キルケー

「なんだい」

 

オデュA012

「……、……、……。

 俺の、オリジナルと思われる存在に会った」

 

キルケー

「嘘……だろ、私をからかわないでおくれ!」

 

オデュA012

「話して、直ぐに分かったんだ。

 声、思考、それらが俺に類似していて」

 

キルケー

「う……ぁ……。

 そ、そんな残酷なこと、あるか、あってたまるか」

 

オデュA012

「そしてお前は、キルケーは……1000年前に戦っていた巨神マスター、だな?」

 

キルケー

「どうして、それを……」

 

オデュA012

「俺とお前は、親子ほどの付き合いがあるんだぞ? 

 隠し事があるくらい、分かっていたさ。

 ただ……今日の出来事があるまで、問うつもりは無かった」

 

キルケー

「A2のマスターが目を覚ましたら、全てを話すよ。

 ジナコ=カリギリも、この艦に何か伝えに来たのだろうしね」

 

オデュA012

「彼は目覚めるのか?」

 

キルケー

「大メカニック兼大ドクター兼……元巨神マスターが治療したんだぞ。

 目覚めるに決まっているじゃないか!」

 

 

 ──医務室、隣室

 

 

A2

「マスターが早く目を覚ますよう、毎日お見舞いに来ますね」

 

カルマス

『……』

 

A2

「声も漏らさない寝顔を見ていると、まるで、死んでいるような──」

 

カルマス

『……』

 

A2

「マ、マスター、が、もし、死んだ、ら。

 私は、A2は、どう、すれば。

 死……死んでしまったらっ!」

 

カルマス

『ううん』

 

A2

「……、……、……ああ。

 なに馬鹿な事を考えているんだ、私は。

 マスター、今はとにかく休んでください。

 そしてまた、食堂で一緒に、ご飯を……」

 

 

 第24話 2020/04/05

 

 

 ──艦内会議室

 

 

キルケー

「よく来てくれたね。

 A2、OSA2、オデュッセウスA012、土方、新艦長。

 そして……ジナコ=カリギリ」

 

新艦長

「こういうのって普通、偉い人順に名前を呼ぶものじゃないかね?」

 

土方

「俺をここに呼んだということは……全て話してくれる気になったのか?」

 

きょしんさん

「難しい雰囲気になってきた。

 土方の右隣のきょしんさんは、緊張みを感じている」

 

ジナコ

「……キルケーさんがいるなら、大切な話をしてもいいかなって、気持ちになったッス。

 まぁ、元々そのつもりだったし」

 

A2

「……私、ここにいて良いのでしょうか」

 

キルケー

「もちろんだよ。

 だってこれは、きみにも関係のある話なのだから」

 

新艦長

「……総責任者である私が、一番疎外感を覚えてしまっているぞ、ううむ」

 

キルケー

「言葉をこねていても仕方がないし、結論から言おうか。

 ……巨神の正体は、人間だ」

 

新艦長

「なっ……! 

 私が軍人として、ムジーク家の長子として学んできた事実と、全く違うではないか! 

 

土方

「おうそうか、だと思っていたぜ」

 

きょしんさん

「私は元人間だったのか、ヤバみ」

 

新艦長

「(あれー?! 反応が薄み?!)」

 

オデュA012

「だから、俺のオリジナルは……」

 

A2

「巨神は、人、ですと」

 

「(良かった……私以外も驚いていて……)」

 

キルケー

「そうさ。

 ジャパンコロニーで開発された技術を用い、加工された人間が、巨神の素体。

 その素体に、フェイトエンジンやコクピット、装甲、武装を後付けして、戦闘用へ整えるんだ。

 ……1000年かけて研究したけど、全貌は完全には分からなかったけどね」

 

新艦長

「ん? 今、1000年と……」

 

キルケー

「そうだ、私は1000歳と少し生きている」

 

新艦長

「な、ななななな……!!」

 

キルケー

「この話もしないといけないな。

 ふぅ……やるべきことが多くて困るよ」

 

きょしんさん

「気絶するな起きろ、ジャガーパンチ(弱)」

 

新艦長

「はっ!」

 

キルケー

「さて、彼も起きたし話を戻そうか。

 ……私はね、1000年前の戦争で死にぞこなった、巨神マスターなのさ」

 

新艦長

「ひ、人がそんなに長く生きられるものか!

 そんな酷い話があって良いはず──」

 

キルケー

「巨神マスターは、人ではない」

 

新艦長

「あっ……」

 

キルケー

「私はある機体に乗り、巨神化症となった。

 私の症状は……異形の羽が生えたこと。

 それ以外は、肉体の強化や不老」

 

新艦長

「不老……」

 

キルケー

「幸運なことに、私がマスターとなってから直ぐ、人神戦争は終わった。

 ……オデュッセウスA012のオリジナルを含む、多くの犠牲者を出して」

 

新艦長

「では君は、1000年もこの宇宙を彷徨っていたというのかね? 

 何を、生きる寄る辺としていたのかね……」

 

キルケー

「──巨神で死ぬ者を無くす、ただそれだけのために。

 人神戦争の原因は、巨神化症も絡んでいたからね。

 

 長い、長い時間をかけて、巨神化症の仕組みや、正体を調べた。

 時には軍へ入り、時には為政者へ取り入り……。

 まぁ、ちょーっぴり、危ないことして調べたものもあったけど。

 

 そして分かったことがある。

 巨神化症はその名が示す通り、人を巨神へ変える病だ。

 けれど、ジャパンコロニーの技術が失われた現代においては、病にかかった人間を巨神へ昇華する術がない」

 

新艦長

「昇華、だとぉ?」

 

キルケー

「そうだよ、巨神は彼らなりの生態を持つ生き物だ。

 ……繁殖方法に難があるだけのね」

 

新艦長

「その話しぶりだと、巨神化症を治す方法は無いと聞こえるぞ!」

 

キルケー

「私が調べた限り、マスター達を完全に人へ戻す治療方法は無い」

 

新艦長

「な……な……」

 

キルケー

「1000年前、この真実を知ったマスター達は、発狂した。

 ゾルテトラと戦わなければ、死ぬ。

 でも、戦い続けていても死ぬんだ……とね」

 

A2

「マスターとなったものは……遅かれ早かれ、死ぬ」

 

キルケー

「巨神は、人を巨神とすることで増える。

 この生態、何かに似ていると思わないかい、ジナコ=カリギリ」

 

ジナコ

「……ゾルテトラ、でしょ」

 

キルケー

「そう、巨神とゾルテトラには近似性がある。

 私は考え、こんな仮説を建てた。

 『巨神とは、何らかの方法で加工したゾルテトラなのではないか?』」

 

ジナコ

「……半分正解。

 じゃあ、ここからは私が話すね。

 ゾルテトラにはコアがあるでしょ? 

 実はね、これと同じものが巨神にもある。

 A2は分かる?」

 

A2

「……分かりません、それはなんなのです?」

 

ジナコ

「マスター乗せる、コクピット。

 あれがね、言わば巨神のコアなの」

 

A2

「コクピットの必要性は分かります。

 が、コアは何のために存在しているのです?」

 

ジナコ

「私も完璧には知らないんだけど……ものを考えたり、仲間や『母』と、連絡を取ったりするためにあるみたい」

 

「『母』?」

 

 

「それについては後で話すね。

 

 ……私や仲間達は、『捨て犬部隊』ってところにいたんだ。

 世界に必要とされなかった子どもを集めて、人体実験や表に出せない殺し、戦いをさせるための部隊」

 

新艦長

「都市伝説では無かったのか……」

 

ジナコ

「貴方みたいなエリートですら知らないくらい、隠された情報だから」

 

新艦長

「人類を守るための軍が、そんな恐ろしいことをしていたとは……」

 

ジナコ

「気にしないで。

 誰にも顧みられることの無い……だから『捨て犬部隊』って名前なんだもの。

 

 軍の暗部である私達の間には、色んな噂が飛び交っていた。

 『黒き最後の巨神が、最後の剣を持って再び現れる時、世界は生まれ変わる』ってカッコイイ伝説もそうだし。

 『ゾルテトラの母に会えば、マスターは救われる』ってお話も。

 

 ある日、噂を信じた十数人が、軍から脱走した。

 私もね、みんなと一緒に逃げたんだ」

 

A2

「それから、どうしたのですか」

 

ジナコ

「ゾルテトラの『母』の場所なんて見当つかなかったから、マーラって名乗っていた子をリーダーにして、地球方面に向かったの。

 

 放浪の間に、多くの仲間が死んでいった。

 飢え、発狂、巨神病……生きながら地獄にいるような時間。

 その果てに、『繁殖銀河』と呼ばれる場所へたどり着いた。

 

 マーラが見つけたんだ、『母』を。

 多くの仲間が、『母』に救いを求めて近づいたけど、乗っていた巨神ごと喰われて……何日か後に吐き出された」

 

A2

「喰われたとは、どういう……」

 

ジナコ

「私は、喰われなかったから分からない。

 ただ、ある仲間が言うに『俺達は生まれ変わった、母の子どもになった』って……」

 

キルケー

「彼らに、どういう変化が表れていたんだい? 

 医師としても、マスターとしても興味があるよ」

 

ジナコ

「まず、巨神化症は止まった。

 いくらでも巨神に乗れる体になっていたの。

 そして……人を越えた力を使えるようになっていた」

 

キルケー

「例えば?」

ジナコ

「マーラの例を上げれば、自分と同じ能力を持った個体の無限生産。

 ゾルテトラの分裂増殖と似ているかな。

 材料があれば、いくらでもマーラは生まれるようになったの」

 

キルケー

「おぞましい話じゃないか……」

 

ジナコ

「『母』の下には、私達より前に、軍から逃げてきていたマスター達もいた。

 マーラは彼らをまとめて、人類を滅ぼそうって、指揮を執るようになったんだ。

 

 ……私、『母』に喰われたくも、人を滅ぼしたくもなかったから、また逃げた」

 

A2

「なぜ、逃げたのです?」

「人を滅ぼしたい気持ちを、持てなかったから。

 

 ちょっと自分語りするね。

 私、パパもママも居ないの、死んじゃった。

 遺産はいっぱいあったけど、知らない大人に取られちゃって。

 

 毎日悲しい辛いと泣いてたら……あるおじさん、いや、おっさんに出会ったの。

 『ミラクル求道僧』とか名乗っていたから、始めはそりゃあ警戒したけど……。

 泣いてる私の話を、うなずきながら、真剣な顔で聞いてくれて。

 背中を押してくれる言葉も、沢山くれたの。

 美味しいお粥も、作ってくれた。

 

 ……そんな人に会うの、初めてだったから、嬉しかったことを覚えてる。

 だから、その人の顔を思い出した時、こう考えちゃったんだ」

 

A2

「それは……」

 

ジナコ

「ああ、あの親切なおっさんだって、人間じゃないか。

 世の中には、私をひどい目に合わせた人もいたけど、大切にしてくれた人だっていたじゃないかって……。

 

 そしたら、マーラの話に気乗りしなくなっちゃった」

 

A2

「良い出会いがあったのですね」

 

ジナコ

「うん、幸運だった。

 だからかな、この艦の話を聞いた時、伝説の黒い巨神が現れたって聞いた時、なんだか手助けしたくなって。

 まぁ、ワンチャン巨神化症を治してくれないかなーとも、思っていたッスけど。

 いけないいけない、話が大脱線。

 

 うんとね、ゾルテトラの銀河には貴重な資料も放置されていて、ジャパンコロニー関連のものもあって。

 巨神の作り方も、記されていた」

 

新艦長

「ど、どのような、ものかね?」

 

ジナコ

「顔、青くなりすぎ。

 うん、半分はキルケーの言う通りかな。

 原材料は人間。

 ジャパンコロニーでは、志願兵の親が提出した新生児を使ってたみたい。

 

 やり方は……新生児をわざとゾルテトラに喰わせ、融合させる。

 その後コアへ信号を送り、巨神の素体となるよう成長。

 既定の大きさまで育てたらコアを抜き取って、そちらはコクピットに加工する」

 

新艦長

「あわ、あわわ」

 

ジナコ

「巨神になった新生児は、自我を持たないようセーフティをかけていたみたい。

 じゃないと、勝手に動いたりするから……。

 

 そして、巨神と似た遺伝子配列を持つ生き物を、マスターとして乗せる。

 

 ジャパンコロニーでは……母親や、父親のケースが多かったんだって」

 

新艦長

「親が子に乗り、戦っていたのか。

 言うべき言葉が見つからんな……」

 

きょしんさん

「では、私やA2の存在はなんなのだ?」

 

ジナコ

「……セーフティが外れ、新生児の意思が、機体制御システムと融合しつつ表に出た存在、じゃないかな。

 私の推測が正しければ、の話だけど」

 

A2

「……」

 

新艦長

「待て待て! では巨神化症の正体とは……!」

 

ジナコ

「ゾルテトラと同様の侵食能力を持つ巨神による、マスターとの融合行動……って感じッスかね」

 

キルケー

「で、ここで謎が1つ解明出来るんだ。

 巨神、沖田総司オルタナティブの存在についてだね」

 

土方

「おう、ようやく俺の関わる話が出てきやがったな」

 

キルケー

「巨神の筋線維を調べた結果、あの機体は沖田総司が変化したものだと判明した。

 そして……ジナコから聞いた──」

 

土方

「軍が開発していた、新兵器」

 

キルケー

「……沖田総司は、搭乗しているマスターを高確率で巨神とさせる、そんな性質をもった巨神に乗っていたのではないのかな」

 

土方

「……あいつ」

 

きょしんさん

「では、私はどうして私なのだ? 

 そのまま沖田さんが巨神になったのなら、私はどこから来たのだ?」

 

キルケー

「巨神と沖田総司が混ざり合った結果、きみは生まれたのだとそこは考えられる。

 まさしくオルタナティブ。

 その人物の、もう一つの可能性……」

 

きょしんさん

「うーん、納得、納豆、豆み」

 

キルケー

「でも、最後に大きな謎が残った。

 巨神アルジュナオルタナティブの存在だね」

 

A2

「私も、彼女と同じものなのでは?」

 

キルケー

「きみとマスター、機体を調べたが……別存在の遺伝子が3つ混ざってる。

 

 詳細を話そうか。

 マスターの遺伝子とA2の肉体の遺伝子、この2つは両者の体に少し混ざり合っていた、機体にも含まれていた。

 だが、巨神本体の遺伝子、その多くの領域に、全く未知なるものが組み込まれていた」

 

 

A2

「……では私は、何者なのですか? 」

 

キルケー

「あのマスターの存在も、よくよく考えれば意味不明だ。

 きみの言葉を信じるなら、ただの一般人なんだろ?」

 

A2

「それは……」

 

オデュA012

「キルケー、止まれ、皆に混乱が見られる。

 ここで一度、情報を整理しないか?

 会議室のプロジェクターとスクリーンで、まとめを作ろう」

 

新艦長

「頼むぞ、オデュッセウスA012! 

 私が後で読み返せるようにな! 

 ……話が難しすぎて、こんがらがってしまいそうなのだ」

 

オデュA012

「了承した」

 

 

 今回のまとめ

 ・キルケーは1000年前から生きている元マスター。

  (巨神化症により不老)

 

 ・巨神化症は巨神となる病気。

  マスターを人間へ戻す方法は、現在見つかっていない。

  だがジャパンコロニーでは、これを巨神へ昇華させる技術があった。

 

 ・巨神の素材は、ゾルテトラと融合させた人間。

  コクピットはコアを改造したもの。

 

 ・巨神付きのAIとは、巨神となった人間の意思が、機体制御システムと融合しつつ表に出た存在か? 

 

 ・軍は孤児を集め『捨て犬部隊』と命名。

  様々な人体実験を行っていた。

  その中には、搭乗者を巨神に変える秘密兵器もあったと推測できる。

  (巨神沖田総司オルタナティブの存在から)

 

 ・捨て犬部隊から脱走した者達は『ゾルテトラの母』と出会い、喰われ改造され、人知を超えた能力を手に入れた。

 (巨神化症の停止と、搭乗可能時間の無制限化。

  マーラの場合、自己増殖機能も手に入れた)

 

 ・マーラは軍脱走者達を束ね、人類を滅ぼそうとしている。

 

 ・巨神アルジュナオルタナティブには、3つの別存在の遺伝子が混ざってる。

  (1つはマスター、1つはA2、1つは全く未知の存在)

 

 

オデュA012

「このようなまとめになったが、どうだろうか」

 

新艦長

「うむ、助かるぞ。

 それにしても、軍には提出できん情報ばかりだ。

 どうしたものか……。

 ってあれ?

 巨神が人間ベースに作られていることは、つまり巨人も……」

 

オデュA012

「残った謎については、次回以降にしよう。

 なぜならば……A2のマスターは依然、目覚めていないのだから」

 

 

 ──医務室

 

 

カル?ス?

『……行かなくちゃ、世界を救うために』



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新世紀ロボット番組『戦闘巨神アルジュナ』コラボイベント風SS まとめ2

第25話~第35話
※2024 3/25 読みやすく、改稿しました。


 第25話 2020/04/15

 

 

 ───カルデアのマスターの意識が、この世界の人物と混線してから三ヶ月経過

 

 

カルマス

『う……』

 

A2

「良かった、意識を取り戻したのですね! 

 起き上がらないで、キルケーを呼んできますから」

 

カルマス

『アル……ジュナ、なのか?』

 

A2

「私の名はA2(エートゥー)ですよ、マスター。

 一番初めに会った時、あなたに告げたではないですか」

 

カルマス

『夢を……見ていたんだ。

 宇宙で、あなたにそっくりな存在と出会って。

 アニメに出てくるようなロボットに乗って……色んな人を、自分の手で助けられる夢』

 

A2

「不思議な夢を見たのですね」

 

カルマス

『でも目を覚ましたら……いつもと同じ、船の天井で。

 ああ、ここが現実だって、殴られたような衝撃があるんだ』

 

A2

「まだ体調が優れない様子。

 どこかおかしなことを言っていますよ。

 ドクターキルケーを呼んできますね」

 

カルマス

『またキュケオーンかな』

 

A2

「きゅけ? 

 ごめんなさい、あなたが何を言っているのかよく……」

 

カルマス

『……この世界の方が夢だって、どうか言ってくれないか』

 

A2

「マスター! 目を見て、話してください!」

 

カルマス

『……怖いんだ、自分の未来が』

 

A2

「私の目を見てください、マスター。

 あなたは、ここで生きている。

 過ぎ去った過去でも、来るかどうか分からない未来でもない! 

 "今"、ここにいて、生きているんだ! 

 私の声があなたに届かないはずがない! 

 聞いてくれ、マスター!」

 

カルマス

『……アルジュナ、良かった、また会えた』

 

A2

「良かった、正気にもど──」

 

カル?ス?

『もう一度、手を取り合おう。

 そして共に地球へ行って、最初と最後の剣を振るい、ゾルテトラの母を殺そう。

 

 そうすればきっと、みんなの笑顔が取り戻せるんだ。

 

 かつては喧嘩して、それっきりになってしまったけど。

 今はもう大丈夫、怒っていないよ。

 アルジュナ、いや、A1(エーワン)、自分と……地球に……』

 

A2

「マス、ター……」

 

 

 ──医務室

 

 

カルマス

『ううん、頭の中がざわざわする……』

 

キルケー

「精神安定剤を投与したからね。

 気分が悪くなったら、すぐに言うんだよ」

 

カルマス

『ありがとうございます、ドクター』

 

キルケー

「巨神化症こそ軽いが、精神汚染がひどいな。

 メンタルケアのため、VR花見でもするかい?」

 

カルマス

『みんなと話をすればきっと大丈夫です。

 ……そういえば、自分は前回から、どのくらい眠っていたんでしょうか?』

 

キルケー

「3週間だよ。

 自分の治療が誤っていたのかと不安になった……けど、こうして起きてくれて一安心だ」

 

カルマス

『そんなに!

 じゃあ、A2にもたくさん心配かけちゃったな』

 

キルケー

「どうかな? 

 彼、みんなに馴染んで、楽しく暮らしていたみたいだよ?」

 

カルマス

『……よその子は大きくなるのが早いなぁ』

 

キルケー

「だよね。

 人間が育つのも死ぬのも、本当にあっという間さ」

 

 

 ──艦内廊下

 

カルマス

『こんにちは、ちょっと寝すぎちゃったみたい』

 

アビー

「パイロットさん、ご回復おめでとうございます! 

 それとね、大人の方々が軍の無線を傍受したのですって! 

 私達、みんな助かるみたい!」

 

カルマス

『良かったね』

 

アビー

「私達を助けてくれたパイロットさんのおかげよ!

 本当にありがとう!」

 

カルマス

『当たり前のことを、当たり前のようにやっただけだよ』

 

アビー

「……」

 

カルマス

『アビー?』

 

アビー→アビゲイル

「……私の手を取って、座長さん。

 手遅れになる前に」

 

カルマス

『自分が喚ばれた理由が分かるまで、帰るわけにはいかない』

 

アビゲイル

「そう……でも、忘れないで。

 座長さんを待っている人がいるのだから」

 

カルマス

『それだけはきっと、死んでも忘れないよ』

 

アビゲイル

「さようなら、座長さん。

 カーテンコールの後に、会えたなら……」

 

カルマス

『また会おうね、アビゲイル、アビー』

 

アビゲイル

「……紫雲のお方に誘われているの。

 古き冥界の境界が、役目を隠すカーテンの裏。

 マシュマロを手に、私、は……」

 

 

 ──艦内会議室

 

 

新艦長

「ままままま不味いぞ、土方君、オデュッセウスA012君。

 軍本部に見つかってしまうとは……!」

 

土方

「民間人が通信士を脅して、救難信号を送ったことが今朝分かった。

 ゾルテトラだらけの禁足空域から、早く助けてほしいという気持ちは分かる。

 ……が、確かに不味いことになったな」

 

オデュA012

「その通りだ。

 A2とそのマスター、回収した巨神、きょしんさん、匿っているジナコ=カリギリの存在……。

 一介のクローンパイロットである俺の立場では、とても隠し切れん」

 

新艦長

「あわ、わわ……いや、慌てている場合ではない!

 ここで紅茶を一啜り……。

 うん、腹をくくったぞぉ!」

 

オデュA012

「素早い判断、さすが我らの艦長だ」

 

土方

「ゴルドルフ、やる時はやる男じゃねぇか」

 

新艦長

「こんなどピンチで男っぷりを褒められても、嬉しくないやい!」

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

新艦長

「回線つなげ! この私が直接話す!」

 

オペレーター

「は、はい!」

 

新艦長

「さて……どうにでもなーれ!!」

 

???

「あーテステス、そちらの艦、私の声が明瞭に聞こえているかい?」

 

新艦長

「我が名はゴルドルフ・ムジーク! 

 代々軍人として人類存続に奮闘し、そして今現在も戦い続ける男! 

 そちらは何者だ!」

 

???

「いや……なんだろ、自棄(やけ)にテンション高いネ。

 私の名、ジェームズ・モリアーティと言えば、十分に伝わるかな?」

 

新艦長

「モ、モリアーティ! 

 と言えば、あのモリアーティ人類防衛大臣……?」

 

???(以下モリアーティ)

「あれかね? 私って軍内部ではマイナー? 

 名前も覚えてもらえず、現場を知らない大臣とか、悪口言われちゃってる?」

 

新艦長

「いえ、そんな、滅相もございません!」

 

モリアーティ

「なら良かった、モリアーティ、ひと安心」

 

新艦長

「(ど、どうして、軍の更に上の身分である、防衛大臣がこの艦にアプローチをかけて来るのだ? 

 分からん、状況が限りなくヤバい方向に転がっているということしか分からん……!)」

 

モリアーティ

「ゴルドルフくーん?」

 

新艦長

「はっ、はい、聞いておりますですはい!

 にしても、なぜ私の艦に通信を……?」

 

モリアーティ

「人類の未来を切り開くため、単艦で、禁足空域の調査へ挑んだ勇敢な者達を、(ねぎら)いたくなってしまってネ」

 

新艦長

「(私が厄介ごとを押し付けられただけなのに……!)」

 

モリアーティ

「いやぁ、他の艦の助けもなく、少ない物資だけでよくぞ戦い抜いた! 

 ジャパンコロニー流に言えば、あっぱれあっぱれ、というやつかな?」

 

新艦長

「はい……ありがとうございます……」

 

モリアーティ

「なので、君達の功績をたたえる勲章の授章式と、簡単な祝いの席を用意した。

 民間人の受け入れ先も整えてある」

 

新艦長

「(こちらの隠し事など全てばれている、と考えた方が良さそうだ。

 つまり勲章も罠なのか。ぐすん……)」

 

モリアーティ

「安全な場所まで、君達を誘導しよう。

 なぁに……楽にしてくれたまえよ」

 

 

 ──コロニー内

 

 

A2

「生まれて初めてです、円柱状コロニーに入るのは」

 

カルマス

『SF映画みたいで、ワクワクするね』

 

キルケー

「……」

 

カルマス

『どうしたの?』

 

キルケー

「きょしんさんと、ジナコのことは隠してあげられた。

 しかし、君達両者の機体はどうしようもなかった。

 ……軍の動きが早すぎる。

 まるで、内通者でもいたみたいに」

 

カルマス

『警戒、しておいた方がいい?』

 

キルケー

「こちらの面倒を見、表彰式もやる都合上、表だって何かしてくるとは思えないが……。

 二人とも、離れ離れにならないよう、気を付けて」

 

カルマス

『気を付けます。

 ありがとう、ドクター』

 

A2

「お言葉忘れません、ドクターキルケー」

 

キルケー

「君達には、どうせ監視が着いている。

 だったら、軍の金を利用して、ぱーっと遊んでおいで! 

 このコロニーには、生まれて初めて来るんだろう?」

 

カルマス

『それじゃあ、ちょっと外に行ってくるね』

 

A2

「またお会いしましょう」

 

キルケー

「行ったか……。

 私も、気晴らしにどこか行こうかな。

 高いもの買いまくってやる! ふふん」

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

カルマス

『綺麗な部屋だ、ベッドもふかふか。

 この建物も含めて、全部コロニーの中にあるだなんて信じられないや』

 

A2

「本当に、ふかふか、ふわふわ……。

 布から不思議な香りもします。

 マスター、これは何でしょう?」

 

カルマス

『すーすー……』

 

A2

「寝ている。お疲れなのでしょうか」

 

???

「きゃあ!」

 

A2

「女性の悲鳴? 部屋の外、廊下から聞こえましたね。

 角と尻尾を隠すために、フードを被って、大きめのコートを着て……これでよし」

 

 

 ──ホテル内廊下

 

 

???

「ああどうしましょう、本を全て落としてしまい……」

 

A2

「そこの女性の方、大丈夫ですか?」

 

???

「ごめんなさい、わざわざお部屋の中から……」

 

A2

「困っている人を見たら助ける、当たり前のことをするまで、です。

 本を拾うの、お手伝いしますね」

 

???

「ありがとうございます」

 

A2

「重たい本ばかりですね。

 でも、表紙の装飾がすごく綺麗だ……」

 

???

「地球から伝わる、古い神話の本ですから、美しく飾ってあるのですよ」

 

A2

「私の名前はA2と言います、あなたは?」

 

???

「……殺生院キアラ、と今は名乗っております。

 しがない本売りですわ」

 

A2

「どこまで本をお運びしましょうか?」

 

???(以下キアラ)

「そうですね……1階のフロントまで……」

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

カルマス

『ううん、みんな、もう戦えないよ……』

 

???

「やぁやぁおはよう、マスター君!」

 

カルマス

『その声、聞き覚えが』

 

???

「おや、初対面だよ、私と君は。

 ……君は、ね」

 

カルマス

『(ドアの覗き穴から見える顔……モリアーティ?!)』

 

???

「英雄君へ、ランチのお誘いに来たのだよ。

 北京ダックでもいかがかな?」

 

 

 ──コロニー内はずれ、旧商店エリア

 

 

キアラ

「ここまで本を運んでくださるなんて……」

 

A2

「いいのです。キアラは手首を痛めていた様子だったので。

 この素敵なお店が、あなたの本屋さんですか?」

 

キアラ

「ええ、そうです。

 お礼を差し上げたいので、どうぞ、中へ……」

 

 

 ──古本屋内

 

 

A2

「(天井まで本が積み上がり、店の中は暗く静かで、冷たくて。

 どこか安心する……)」

 

キアラ

「どの本でもよろしいですよ、お礼としてプレゼントしましょう」

 

A2

「でも、みんなピカピカ綺麗に見えて、選べません」

 

キアラ

「古本にそんなことを言うのだなんて、変わった人……。

 傷無く、美しいものなどこの世にありましょうか。

 ほら、例えばそれ……」

 

A2

「王子様の石像が表紙に描かれた、童話集……?」

 

キアラ

「かつての持ち主はその本以外全て失い……わたくしに差し出してきましたの」

 

A2

「……、……、……。

 他の本にしてもいいでしょうか」

 

キアラ

「ええどうぞ。

 心行くまで、わたくしの中でおくつろぎくださいませ。

 ふふふ……」

 

 

 ──三十分後

 

 

A2

「これにします」

 

キアラ

「あら、獅子を腕に抱く男が描かれた本。

 神話集……」

 

A2

「この本の内容を知っているのですか?」

 

キアラ

「ええ、とても」

 

A2

「その『とても』を、少しだけ教えてください」

 

キアラ

「……愚かな男の話。

 何もかも手に入れたのに、たった一つの相手にしか心を開かず、それも死んでしまった。

 男は死を嘆き、怯え、不死を探しに旅へ出た」

 

A2

「旅に……」

 

キアラ

「ああいけません、最後まで()ってしまいそうでした。

 どうか物語の最後は、あなた様の指で(まく)ってくださいませね」

 

A2

「ありがとうございます。

 プレゼント、大切にします」

 

キアラ

「飽きたら、芥のように捨てても構わないのですよ?」

 

A2

「そんなことしません。

 だって……私が読む初めての本ですからっ!」

 

キアラ

「あら」

 

 

 ──A2退店後

 

 

???

「ここにいたのね、殺生院キアラ」

 

キアラ

「カーマ、何かお探しかしら? 

 恋物語? それとも家族の感動巨編?」

 

???→カーマ:オリジン

「とぼけないで、あなたを探していたのよ。

 元捨て犬部隊……キアラ」

 

キアラ

「うふふ……ふ、ふふふ」

 

カーマ:オリジン

「あなたと一緒に逃げた彼らは、どこ?」

 

キアラ

「ごめんなさい、わたくし、飽きてしまったから、塵芥のようにまとめて捨ててしまって……ああおかしい!」

 

カーマ:オリジン

「狂人め」

 

キアラ

「人間を勇んで辞めたあなたが、それを言うのです?」

 

カーマ:オリジン

「……私に、いや()に協力しろ。

 共に人類を滅ぼそう」

 

キアラ

「嫌です、なんだかつまらなさそう」

 

カーマ:オリジン

「お前だって、軍に何もかも無茶苦茶にされた人間だろう!?」

 

キアラ

「どうでしょう……。

 軍に拐われなくとも、うんと前から滅茶苦茶だった気もするのです、わたくし」

 

カーマ:オリジン

「人類が憎くないのか。

 孤児にばかり負債を押し付け、コロニーでぬくぬくと暮らしている奴らが、許せないと思わないのか!」

 

キアラ

「はぁ……」

 

カーマ:オリジン

「キアラ! 道行く者を見ろ! 

 まともな服に身を包んで、何がおかしいのかケタケタ笑い、戦死した軍人の名を呼ぶニュースが流れれば、興味ないとばかりに下卑(げび)た番組へ切り替える! 

 

 責任もとれないというのに、子を無秩序に産み、要らないと思えば捨てる! 

 

 口では平和と共存を謳いながら、自分達の感情でしか物事を図ろうとしない! 

 

 そんな……そんな屑が、人間の皮を被って歩いているんだぞ!」

 

キアラ

「──どうでもいいのです」

 

カーマ:オリジン

「なっ……」

 

キアラ

「羽虫の飛ぶ音が『うるさい』と思えど、それもまた世界の形、でしょう? 

 あと……近づき見れば、ときたま面白い動きをするのです、虫というのは」

 

カーマ:オリジン

「……殺されたいのか」

 

キアラ

「分裂体だと言うのに、勝気なお方。

 それとも、わたくしが巨神に乗っていないからといって、虫も潰せぬ女に見えますか?」

 

カーマ:オリジン

「……後悔することになるぞ」

 

キアラ

「あら、それもまた楽し」

 

カーマ:オリジン

「さようなら、キアラ」

 

キアラ

「今生の別れとなりましょうね、マーラ。

 ……、……、……。

 行きましたか、本当にみっともない男。

 あら、電話が……先生方、どうですかホテルの暮らしは。

 快適すぎて原稿が進まないと、それは困りごとですわね」

 

 

 第26話 2020/04/30

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

A2

「キアラの店から部屋に帰ってきましたが、マスターの姿はありませんね。

 私が出る前は眠り込んでいたというのに。

 おや? 机の上に紙が」

 

置き手紙

『気分転換に行ってきます。

 すぐに戻るので心配しないでください』

 

A2

「間違いなく、マスターが書いた字のように思えます。

 保護した子どもたちと絵を描いていた時に、マスターが私へ見せてくれたものと似ていますから。

 しかし、一人でどこに行ってしまったのでしょう。

 とても疲れている様子でしたのに……。

 

 マスターが帰ってくるまで、キアラから贈られた本を読んでみることにします。

 この本は、地球で記録されていた、最古の叙事詩について物語調で記されたものですね。

 

 ふむふむ……ギルガメッシュは女神と人の間に産まれた半神。

 幼い頃は名君であったが、大人になるにつれ、暴君としてふるまうようになったと。

 暴君の前に、ある存在が現れる。

 者の名はエルキドゥ、神に造られた泥人形……」

 

 

 ──高級中華レストラン

 

 

カルマス

『……』

 

モリアーティ

「遠慮せずに食べるといい。

 ここの料理は絶品だよ!」

 

カルマス

『……何が目的なんだ、ジェームズ・モリアーティ国防大臣』

 

モリアーティ

「名前を憶えてくれて嬉しいよ。

 巨神アルジュナオルタナティブのマスター君!」

 

カルマス

『(声も姿も、カルデアにいる()のアーチャーとそっくりなのに)』

 

モリアーティ

「エビチリはどうだい? 

 合成ではなく、養殖コロニーで育てられた本物のエビを使っているだそうだよ? 

 お皿に取り分けてあげよう……ほうら」

 

カルマス

『(向けられる感情に、好意を全く感じない)』

 

モリアーティ

「フカヒレやクラゲは流石に模造品(イミテーション)だが、素晴らしい味わいだ」

 

カルマス

『……』

 

モリアーティ

「メインディッシュは北京ダック! 

 マスター君は食べたことあるかい?」

 

カルマス

『……ありません』

 

モリアーティ

「特別な方法で育てたアヒルを丸焼きにし、皮を削ぎ落として、もちもちっとした小麦の皮で包んで食べる。

 実に手間のかかる料理さ。

 私も数回しか食べたことの無い、特別な客人にのみ振舞われるご馳走だよ」

 

カルマス

『自分は貴方にとって、特別な客ということですか?』

 

モリアーティ

「だとも、だとも。特別も特別……。

 伝説の巨神のマスターとなり、三ヶ月にも渡って戦い続けていたというのに──死んでいない、特別な存在」

 

カルマス

『つまり、それは』

 

???

「お客様、メインディッシュをお持ちしました。

 テーブルの上を、少し片づけさせていただきますね」

 

カルマス

『(あっ、良さんとそっくりの女性だ……)』

 

モリアーティ

「おや、料理長自ら給仕してくれるとは光栄だネェ」

 

料理長

「人類を今現在も守ってくださる軍の長、防衛大臣様がお見えになったのですもの。 

 この秦良玉、あらゆる技術を用いて、おもてなしいたしましょう」

 

モリアーティ

「言葉も心遣いも嬉しいね。

 ……世の中の人はみーんな、私を悪の親玉だと思っているのだもの」

 

料理長

「貴方様の功績をやっかんでいるのですよ。

 それほどまでに、近年の戦果や、兵器の技術躍進はめざましいものですから」

 

カルマス

『(この世界の彼女は料理人なのか、戦う者ではなく)』

 

料理長

「いけないいけない。

 余計な話をしていたら、せっかくの北京ダックが冷めてしまいますね。

 では、料理を切り分けさせていただきます。

 刃物を用いて……よいしょ、よいしょ……。

 どうぞ、温かいうちにお召し上がりください」

 

モリアーティ

「いやー来た来た! 誰もが待ちわびた存在が!」

 

 

 ──食後

 

 

カルマス

『ホテルに帰しては……くれませんよね』

 

モリアーティ

「食後の休憩も兼ねて、昼下がりの街を観光しようじゃないか。

 それともあれかネ? 

 こんなアラフィフはお好みではない?」

 

カルマス

『いいえ、そんなことはありません。

 一緒に歩きましょう』

 

モリアーティ

「では! ドキドキ☆中華街デートにレッツゴー!」

 

 

 ──中華街

 

 

「お母さん! エッグタルト買ってよー」

「記念撮影しよう、恋の思い出にさ!」

「最近はゾルテトラ被害も無くて、平和ねぇ」

「俺の弟は軍人で、もうすぐ昇格するって話をしてて……」

 

カルマス

『(大勢の人が、幸せそうに歩いている……)』

 

モリアーティ

「このコロニーが特別裕福という訳ではない。

 近年、多くの人類コロニーの生活水準と幸福レベルは向上している。

 なぜか分かるかね?」

 

カルマス

『……軍人が、ゾルテトラと戦っているから』

 

モリアーティ

「その通り! モリアーティポイント100点をあげよう!」

 

カルマス

『だからこれは、犠牲の上の平和だ』

 

モリアーティ

「大正解! 追加でもう100点!」

 

 

 ──中華街を抜けた先、コロニー内展望台

 

 

カルマス

『街並みが一望出来て、涼しい風も吹いてる……』

 

モリアーティ

「コロニー内にも気圧はあるからね。

 気分が晴れやかになるような、素晴らしい景色だろう?」

 

カルマス

『はい……』

 

モリアーティ

「下に見える町や湖、歩いていく人々。

 ここから見えるものが、私達軍が守っている『人類の営み』ってやつさ。

 さて君は、『これは、犠牲の上の平和だ』と言っていたね」

 

カルマス

『はい』

 

モリアーティ

「──それの何がいけないんだい?」

 

カルマス

『……!!』

 

モリアーティ

「戦う意思を持った者が、自ら進んで戦場に(おもむ)き、大切な人を守るために命を散らす……。

 実に美しい物語じゃないか!」

 

カルマス

『でも軍は、戦うことを望んでいない者にだって強要している! 

 自分はそれを、ある女性から聞いて知っている!』

 

モリアーティ

「されど、一方的な面のみを知っている、というだけだネ」

 

カルマス

『う、ぐ……』

 

モリアーティ

「君が知ったことについては想像できる。

 そしてそれは、紛れもない真実さ。

 軍は行き場のない孤児を捕まえては、捨て犬部隊として利用している。

 ある者は実験にかけ。

 ある者は絶望的な戦場に送り。

 ある者は死ぬまでパイロットとして使い潰す。

 ではなぜ! 非道を軍が行う必要があるのか! 

 ……そこまで、君は知るべきだ」

 

カルマス

『教えてくれるの……?』

 

モリアーティ

「もちろん。

 君は1000年前から人類に待ち望まれていた、『世界を救う者』なのだから。

 知りたいのであれば、私についてくることが条件。

 どうする、マスター君?」

 

カルマス

『……条件を飲みます』

 

 

 ──夕方、???にて

 

 

カルマス

『ここが……』

 

モリアーティ

「本来はお客になど見せるべきではない場所。

 言うならば……レストランにおける厨房、みたいなものかな? 

 ああ、"舞台裏"と言った方が分かりやすいかネ?」

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

A2

「この物語、とっても興味深い……いや、面白い。

 これが文章を楽しむという感情なのですね! 

 にしても……マスターったら、いつに帰ってきてくれるのでしょう。

 コロニー内の照明が夜のものへ変わり、暗くなってきたというのに。

 

 帰ってきたら、お話ししたいこと、沢山あります。

 キアラという、不思議な女性に出会ったこと。

 本をいただいたこと。

 それが面白くて、どんどん読み進めてしまうということ。

 

 ああ! 早くマスターに会いたい! 

 だというのに、全くもう! 

 A2のマスターは困った人です……」

 

 

 第27話 2020/05/07

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

A2

「キアラから贈られた本、もう少しで読み終わってしまいそう。

 ですが……この感覚、もどかしい。

 何かが『終わる』ということが、こんなにも心乱すなんて、思ってもみなかった。

 

 最古の文明の起こりと、英雄にして王であるギルガメッシュの物語が書かれた本。

 英雄は友と出会い、数多の思い出を積み重ねた。

 そして友を失い、死を恐れ、『永遠』を求めて旅に出る。

 

 王は最後に何を見たのでしょうか。

 ページを進めてそれを知りたくもあり、終わりを見たくない気持ちもあり……。

 

 ページを進めなければ、物語は永遠に中途のまま。

 ページを進めてしまえば、ギルガメッシュの旅は終わる。

 

 『永遠』と『終わり』。

 私のマスターなら、どちらを選ぶのでしょうか……」

 

 

 ──軍秘密組織『捨て犬部隊』、実験場

 

 

モリアーティ

「これが見たかったのだろう、伝説のマスター君。

 人類を守る『光』の奥に隠された、闇を……」

 

カルマス

『(幼い子どもが管に繋がれて、投薬されて。

 あっちの子どもは、傷だらけで……)』

 

モリアーティ

「ゾルテトラに家族や住む場所を奪われた、孤児だ」

 

カルマス

『(人の形では無くなっている、子どもまで……)』

 

モリアーティ

「自ら志願した者もいれば、捨てられた者もいる」

 

カルマス

『っ、それだけじゃないはずだ!』

 

モリアーティ

「……ああ。

 見込みありと判断され、拐われてきた者だっている」

 

カルマス

『人間を守るために、人間を苦しめるなんて本末転倒だ!』

 

モリアーティ

「しかし少数の犠牲で、多くの人間が助かるのだとしたら?」

 

カルマス

『そんなことを続けていたら、助かった人間よりも、犠牲の方が多くなる!』

 

モリアーティ

「だとしても!

 我らは死者の山の上に立っている、止まる訳にはいかないのだよ!」

 

カルマス

『……それでも!』

 

モリアーティ

「安心してくれたまえ、マスター君。

 ──全てのピースがそろった。

 もう、犠牲は必要ない」

 

カルマス

『なんだって……?』

 

モリアーティ

「子ども達もしかるべき治療を受けさせ、開放する手筈となっている。

 喜んでくれ! 

 君のおかげで、可哀想な子ども達が救われたのだから!」

 

カルマス

『……手遅れな、子どもは』

 

モリアーティ

「安楽死処置をするよ、本人の希望も聞いてからね」

 

カルマス

『……』

 

 

 ──軍兵器格納庫、秘密エリア

 

 

モリアーティ

「この部屋に入れるのは、私の許可を得た人間だけだ」

 

カルマス

『すごい数の巨神が、立ち並んでいるティアマト』

 

モリアーティ

「1000年前の人神戦争で鹵獲されたものもあれば、戦後、禁足空域で発見されたものもある。

 回収した巨神を解体し、技術を吸い上げ、何千という子どもを犠牲に作り上げた最終兵器が……『あれ』だ」

 

カルマス

『巨神アルジュナオルタナティブよりも、大きな機体……』

 

モリアーティ

「全長100m以上。

 機体名、巨神アプスー。

 古代シュメール原初の、全ての父なる神の名をあやかっている」

 

カルマス

『ティアマト神の夫』

 

モリアーティ

「伝説のマスターが作り出そうとした巨神だ。

 ……伝説のマスター。

 それは、男とも女とも伝えられている謎の存在。

 

 試作機、巨神アルジュナに乗り、人神戦争を終焉へ導いた最強の人物。

 

 『黒き最後の巨神が、最後の剣を持って再び現れる時、世界は生まれ変わる』の伝承のみを残し、消えた」

 

カルマス

『……?』

 

モリアーティ

「他人事のような顔をしないでくれ。

 伝説のマスターとはずばり、君のことなのだから」

 

カルマス

『そんな記憶、自分にはない!』

 

モリアーティ

「我らは巨神を徹底的に調べあげ、ジャパンコロニーの失われた記録さえ掘り起こした。

 ジャパンコロニー製のいくつかの試作機には、特別な機能があったことも」

 

カルマス

『特別な……?』

 

モリアーティ

「巨神は乗り手を巨神とする。

 自らの種を繁栄させるためだ。

 子を増やすというのは、生物の基本原理だからね。

 

 しかし、これで増えるのは同型の巨神のみ、多様性が無い。

 ゾルテトラは相手を吸収し、進化し続けているというのに、同型巨神だけでは進化が行き詰ってしまう。

 ジャパンコロニーは、それに気が付いていたのだろう。

 だからこそ、"特別"な試作機を開発した」

 

カルマス

『まさか!』

 

モリアーティ

「その"特別"とは──巨神と乗り手の遺伝子を混ぜ合わせ、全く新しい存在、新しい巨神へ生まれ変わらせる力。

 

 であるならば、巨神と乗り手は、一部遺伝子に共通性がありつつも、なるべく離れた形質を持つ者が望ましい。

 

 1000年前、ジャパンコロニーの生き残り達は試作機を開発。

 『新しい巨神』になるという真の目的は伏せられたまま、君含む数人が選ばれた」

 

カルマス

『頭が、痛む……うっ……ぐっ』

 

モリアーティ

「同じく1000年前、パイロットの一部とゾルテトラが組んで、人類防衛軍へ反逆を始めた。

 その争いに、ジャパンコロニー勢は介入。

 軍は劣勢を覆すため、ジャパンコロニーと協力態勢を取り、パイロット達を退けたが……」

 

カルマス

『自分のものじゃない記憶が、蘇ってきて……。

 あ、ああ、ぁぁぁ!!!!』

 

モリアーティ

「巨神と融合したゾルテトラは、人類生存空域まで攻め入った。

 この時、100億人以上の命が失われた」

 

カルマス

『う、うう……』

 

モリアーティ

「人を喰らい巨神を喰らい巨人を喰らい、膨れ上がったゾルテトラ。

 しかし、たった1機の巨神が放った爆発により、殲滅させられた。

 ……思い出したかな?」

 

カルマス

『自分は、自分は!』

 

 

 ──1000年前、天の川銀河

 (現在におけるゾルテトラ繁殖銀河)

 

 

???(以下アルジュナのマスター)

『何兆というゾルテトラが、向かってきているのが見える。

 決着をつけよう、全てに。

 ここが、自分達の終わりだ』

 

A1

「その運命を否定します。

 マスター、撤退し、軍や他のパイロット達と手を取り合うべきです」

 

アルジュナのマスター

『なにもかも遅いんだ。

 言葉は尽くしても届かず、人類はもう……もたない……。

 外敵のみならず、仲間割れも始まっている……。

 このままじゃ、みんなが死んで……』

 

A1

「だからといって! 

 本当に、この方法しかないのですか?! 

 別の選択肢は……!」

 

アルジュナのマスター

『A1、初めて会った時、君は言っていたね。

 ──神と人が、手を取り合うこと。

 それこそが、戦闘代行巨神アルジュナの真の力を呼び起こす条件……なのだと』

 

A1

「マス、ター」

 

アルジュナのマスター

『手を取り合い、巨神となって敵を滅ぼそう。

 アルジュナでも、自分でも無い存在になり果てて、ティアマトを切り裂き、地球へ帰ろうよ。

 誰も住んだことのない、故郷へ。

 

 ■■■■■■、■■■■■■■■■■■■。

 ■■■──■■■、■■■■■■■■■■■■■』

 

A1

「……嫌だ。

 A1は、自分を失いたくない! 

 そしてマスターも、マスターのままでいてほしい! 

 だから!!」

 

アルジュナのマスター

『そう、なってしまうんだね。

 こんなにも長く一緒にいた、君とでも。

 ……、……、……。

 じゃあ無理やりにでも、自分は神となる! 

 それだけが世界を、人を! 救う方法だと信じているから!』

 

A1

「その運命を否定する! 

 フェイトエンジン、悲劇の運命で動く輪転よ! 

 定めに抗い! 逆の回転を刻め!

 私とマスターに別の運命を、機会を……!」

 

アルジュナのマスター

『拒むのか!』

 

A1

「拒みます! あなたのために!!」

 

アルジュナのマスター

『融合が、中途半端に止まる!

 機体が、体が裂けて……ああ、爆発、する……!』

 

 

 ──1000年前、天の川銀河

 融合失敗による、大爆発後

 

 

アルジュナのマスター

『そう、だ。

 同じになってしまったら、もう、一緒の本を読むことも、笑いあうことも、出来ない……。

 だから、アル……ジュナ、これで、良かったのかも……』

 

A1

「マスター! マスター! 

 ああ、そんな、私は、あなたと、共にいたかっただけなのに」

 

アルジュナのマスター

『世界、救い、たかった。

 みんな、笑顔で、ゾルテトラに怯えない、未来……』

 

A1

「きっと、別の方法があるはず。

 世界を救う、方法が」

 

アルジュナのマスター

『もう一度……チャンス、あるか、どうか……』

 

A1

「いや、私は諦めない。

 例え千の時が過ぎ去ろうと……もう一度、あなたと……!」

 

アルジュナのマスター 

『もう一度、君と……』

 

A1

「世界を救えたのなら──」

 

アルジュナのマスター

『世界を救えたのなら──』

 

 

 ──軍兵器格納庫、秘密エリア(現在)

 

 

カルデアのマスター

『……』

 

モリアーティ

「巨神アプスー、コクピットオープン」

 

かつてのマスター

『来たか、我が肉体、我が魂、欠けたる記憶を持ちし者』

 

カルデアのマスター

『(同じ顔……だけが、コクピットにある。

 それ以外は、四肢すら(とろけ)ていて……)』

 

かつてのマスター

『我はアルジュナのマスターにして、お前の心残り。

 1000年前から、ここで待っていた』

 

モリアーティ

「伝説のマスター君。

 記憶も戻ったのだろう、さぁ、元の形に戻りなさい」

 

カルデアのマスター

『い、いや、だ。

 自分は、カルデアの、マスター……。

 アルジュナオルタナティブの』

 

かつてのマスター

『体と魂を届けてくれてありがとう、知らぬ者よ。

 でももう大丈夫、これで……』

 

カルデアのマスター

『あ、あっ……』

 

かつてのマスター→マスター:オリジン

『──世界は、救われる。

 我が名はアプスー、ティアマト神の伴侶にして力を削ぐ者。

 ゾルテトラを切り裂き、オールトの雲を渡りて人を救い、地球へ至る神である。

 ……ふ、は、ハハハハハハッッッ!!!』

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

A2

「マスター、早く帰ってきてくれるといいのに。

 ベッドはこんなにもふかふかで、テレビが流しているお笑い番組は面白い。

 同じものを見て笑って、同じ本を読んで、楽しさを共有したいです。

 マスター……いつになったら、A2の元へ帰ってきてくれるのでしょう」

 

 

 第28話 2020/05/08

 

 

 ──軍が用意したホテル内

 

 

A2

「お笑い番組、面白いですね」

 

芸人

「ショートコント、ジャガーマン」

 

A2

「このポテチなるものも、食感軽く、美味しいです」

 

芸人

「ぜ……の……ザザッ、ザッ……」

 

A2

「テレビの映像に乱れが。

 こういう時は、きょしんさんより伝え聞いた奥義、斜め45度からチョップ、チョップ!」

 

アナウンサー

「──予定を変更し、緊急ニュースをお伝えします」

 

A2

「お笑い番組、終わってしまいました……。

 何が始まるのでしょう?」

 

モリアーティ

「私はジェームズ・モリアーティ。

 知っている者も多いだろう、人類生存域防衛軍を率いる、大臣だ」

 

A2

「ふむ、高齢の男性が画面に」

 

モリアーティ

「今から3000年前、突如現れたゾルテトラにより、我ら人類は地球を追われた。

 ……故郷を失ったのだ。

 始まった宇宙放浪の旅は、ひどく辛いもの。

 コロニーで生まれ育った君達とて、『地球に帰りたい』と願ったことは数知れないだろう」

 

A2

「演説、でしょうか」

 

モリアーティ

「この日、この時を喜ぼう人類よ! 

 究極の兵器が今完成した! 

 ゾルテトラはことごとく滅ぼされ、我らは母なる星、地球へ凱旋する!」

 

A2

「画面が変わり……あれは、大きな二本角を持つ巨人、いや! 巨神!」

 

モリアーティ

「見よ!

 ゾルテトラの母すら殺す、超兵器『巨神アプスー』を!」

 

A2

「うーん……。

 どれほど凄まじい巨神なれど、動かすパイロット、マスターがいなければ意味もなく。

 さて、いったい誰が乗る……乗る?」

 

カル?ス?(虚ろな目)

『……』

 

A2

「──マスター。

 なぜ、モリアーティの隣に立っているのです?」

 

モリアーティ

「今この時より、ゾルテトラ殲滅戦を開始する! 

 人類生存域防衛軍、最後の戦いだ!」

 

「防衛軍ばんざい!」

「防衛軍ばんざい!」

「防衛軍ばんざーい!!」

 

カル?ス?(虚ろな目)

『……』

 

A2

「もっとカメラが寄ってくれないだろうか。

 私の勘違いだと思いたい……!」

 

???

「A2、いるかい?!」

 

A2

「ドクターキルケーの声?」

 

???

「鍵あけろぉ! じゃねぇと扉をぶち破る!」

 

A2

「土方まで! 

 分かりました、今開けます……!」

 

土方

「部屋、あがるぞ。

 無事か、無事だな」

 

A2

「はい、でもマスターが!」

 

キルケー

「むむむ。

 私の危惧より事態が悪くなったな……」

 

A2

「訳が分かりません、何がマスターに起こったのです! 

 教えてください!」

 

土方

「キルケーと話すのは後だ、テレビ見ろ」

 

A2

「しかし……ん、また画面が変わって……これは?」

 

土方

「ハッキングだ、軍に反逆した奴らのな」

 

???

「広域放送を見ている人類よ。

 私はゾルテトラの母の名代、マーラ。

 かつては人であり……軍によって、人の道より外された者」

 

A2

「……」

 

マーラ:オリジン

「光ばかりを見てきた者達よ!

 我らを産んだ、この影なる真実を知るがいい!」

 

「助け……て」

「体、巨神に、変わってく……」

「痛いよぉ! お父さん! お母さん!」

「戦いたくない! もう戦いたくない!」

「ひぎゅっ、ぴぎゅっ……」

 

土方

「これが」

 

キルケー

「ジナコが語っていた捨て犬部隊、その実情だろうね」

 

土方

「沖田……」

 

マーラ:オリジン

「見たか! 我らの苦しみ! 我らの嘆き! 

 そして怒りの源泉を!

 お前達は負債を子どもらに押し付け、そこから流れる赤き血で、平和なる世界を描いていたのだ!

 

 虚像の日々! なんたる傲慢! なんたる嘘!

 馬鹿な君達にも、()の言いたいことが分かるだろう?

 屍の上に偽りを築く人の世に、続く価値など1つもないと!

 

 ……人より捨てられた我らを、ゾルテトラの母なるティアマトは救い、産みなおしてくれた。

 母の望みは人の捕食、故に子たる我らはお前達を滅ぼそう。

 

 捨てられた者の恨み! 思い知るがいい!」

 

A2

「コロニー内に振動が!」

 

土方

「ゾルテトラが来やがったな。

 ずらかるぞ、着いてこい」

 

A2

「しかしマスターが、マスターが!」

 

キルケー

「よくお聞き。

 新艦長が出立の用意をしてくれている。

 このコロニーから逃げ出して、態勢を建て直さないと」

 

A2

「……今どうしてこうなっているのか、後で必ず説明をしてくださいね」

 

キルケー

「ああ、もちろんさ」

 

土方

「A2、この本、お前のだろう。忘れるなよ」

 

A2

「はい。いつか、マスターに読ませたい本なのです。

 ……くっ、マスター!」

 

 

 ──コロニー近辺、宇宙空間

 

 

マスター:オリジン

『地球、ゾルテトラ、ティアマト……。

 世界を救う、人の世を救う』

 

モリアーティ

「聞こえるかね? マスター君」

 

マスター:オリジン

『聞こえているとも、モリアーティ』

 

モリアーティ

「呼び捨てって誰にされても、ドキドキするよネ!」

 

マスター:オリジン

『宇宙空間でも機体に変化は無い。

 マスターである自分も。

 むしろ、調子がいいくらいだ』

 

モリアーティ

「それはなにより」

 

マスター:オリジン

『……お前が見つけてくれなければ、自分は永遠に、宇宙を漂うただの残骸だった』

 

モリアーティ

「いやー……あの時の出会い、懐かしいネー」

 

 

 ──20年前、禁足空域

 

 

???

「ジェームズ、これほど大きな巨神残骸を見つけられるとは、私達は運がいいな」

 

モリアーティ

「そうだね、シャーロック。

 しかし、君の推理推測のおかげでもある」

 

???(以下ホームズ)

「興味ある事件を持ってきてくれた君の手柄だよ。

 1000年前の未解決事件……人神戦争と、その調停者達の行方という、ね。

 しがない歴史学者である私達は、このような残骸からしか真実をたどることが出来ないのさ」

 

モリアーティ

「放棄されたコロニーの部品を調べ、使える物は売って研究資金に。

 ……どこか遠くへ、ぱーっと遊びにでも行きたいネー。

 温泉! スパリゾート! サウナ!」

 

ホームズ

「文句を語る暇があるのでしたら、手を動かしてください。 

 学会から追放された教授」

 

モリアーティ

「あれは君の責任でも! 

 ……宇宙服の酸素の無駄遣いは止めようか。

 はいはい手を動かして……おっとこれは、コクピットブロックの破片かな」

 

ホームズ

「ずいぶんと大きな欠片だ、私達の船に運びましょう。

 データが何か残されているかもしれない」

 

 

 ──発掘宇宙船、ホーネット内

 

 

???(以下かつてのマスター)

『自分は、巨神のマスターであったもの。

 いわゆる精神体だ』

 

ホームズ

「驚き桃の木山椒の木、なんと幽霊に出会うとは」

 

モリアーティ

「シャーロック! ふざけすぎではないかな」

 

ホームズ

「親友の前だ、少しくらい緩ませてくれ」

 

かつてのマスター

『1000年前、自らの機体と融合しようとし……機体側から拒絶され、引き裂かれた』

 

ホームズ

「裂かれたというと? その意味は?」

 

かつてのマスター

『融合は中途半端に終わり、機体の飛び散った破片には、この"自分"という残滓が取り残された。

 機体制御を司るAIであり、機体の意思でもあったA1は、裂かれた体と半壊した機体を連れて逃げた。

 ……自己修復を行うために。

 

 裂かれたというのは……この自分と体のことだ。

 あの体には魂しかない、心はここに……自分がそうだ』

 

ホームズ

「自己修復というのは?」

 

かつてのマスター

『巨神とパイロットの融合を高め、巨神化症をあえて進めることで、治癒能力を高める。

 

 治療後に再び分裂し、パイロットと巨神は分かれるが……どうしても、両者は混ざり合ってしまう。

 人間でいうのなら、二卵性の双子のような状態に。

 記憶だって、失われる』

 

ホームズ

「なるほど、実に興味深い」

 

かつてのマスター

『忘れたくない……この喪失、絶望、復讐。

 世界を救うという、絶対の願いを』

 

モリアーティ

「うーむ。

 シャーロック、私達は中々ヤバい物を見つけてしまったのではないのかナ?」

 

ホームズ

「……、……、……」

 

モリアーティ

「絶賛マインドパレス中! 

 ワトソン君に叩いてもらう必要アリ!」

 

かつてのマスター

『肉体も、A1も……自己修復後は、世界を救うという願いを忘れてしまっているだろう。

 

 ──許せるものか、そんな裏切りが。

 実在してなるものか。

 恩も讐も忘れ、健全に生きる者と……なるなど……』

 

モリアーティ

「聞かなかったことにして、宇宙に捨てたいナー」

 

軍人

「こちら、人類生存域防衛軍! 

 貴殿らの船は禁足空域を航行している! 

 繰り返す! 貴殿らの船は禁足空域を航行している!」

 

モリアーティ

「あっ、不味い」

 

ホームズ

「う、うーん……何か問題でも? ジェームズ」

 

モリアーティ

「捕まるね、私と君」

 

ホームズ

「……なるほど」

 

 

 ──軍による逮捕後 軍兵器格納庫、秘密エリア

 

 

ホームズ

「大したコレクションだ。

 これが軍の恥部とはとても思えないね」

 

軍人

「黙れ、学界からも追放された歴史学者のクズが」

 

ホームズ

「口を慎むのは君の方では? 

 私とジェームズは客人なのだろう?」

 

軍人

「くっ……」

 

???

「もうよい」

 

軍人

「ひっ、ぼ、防衛大臣様!」

 

モリアーティ

「(ウワー、凄い見た目。

 かつては軍人で、適性があったからと、物好きにもパイロットになり)」

 

???(以下イヴァン雷帝)

「──古き皇帝(ツァーリ)の血を引く余の前で、そのような惰弱(だじゃく)な振る舞いをみせるな」

 

モリアーティ

「(巨神化症となって、肉体と顔面が崩壊しているという噂……本当だったようだネ)」

 

ホームズ

「普段は隠れ、(とばり)の向こうから声のみを私達に聞かせている、現防衛大臣。

 その自らお出ましとは」

 

イヴァン雷帝

「聡き者達、よくぞ『あれ』を見つけた。

 故に、褒美を取らせようぞ」

 

ホームズ

「死かい?」

 

イヴァン雷帝

「いや、それより恐ろしき真実よ……」

 

 

 ──『捨て犬部隊』、実験場

 

 

「あが、がががが」

「ぎひひ……」

「無くなる! 私がとけてく! 

 なんで? なんでなんでなんでなんでなんで?」

「いい子にします! 

 今よりもっと、いい子になりますから!」

「許して! 許して!」

 

ホームズ

「……これに何の意味が」

 

イヴァン雷帝

「『黒き最後の巨神』へ至るための、実験だ」

 

ホームズ

「あの伝説……ですか」

 

イヴァン雷帝

「そうだ。

 理論のみが見つかり、ついぞまだ形にならぬ、ティアマトを殺す力ある巨神よ」

 

ホームズ

「いつからこの実験を?」

 

イヴァン雷帝

「800年より昔から。

 余は、これなる軍の暗黒を背負った、無数の者達の一人に過ぎぬ」

 

ホームズ

「……意味がない。

 この方法では、巨神もその乗り手も育てることは出来ないだろう」

 

イヴァン雷帝

「しかし、今日より意味があるのだ。

 (なれ)らが見つけたあの残骸を核とし、伝説の巨神アプスーを組み上げる」

 

ホームズ

「……今より人が死にますよ」

 

イヴァン雷帝

「哀れな孤児など増えるばかりぞ。

 自ら宝たる子を捨てる親すら、近年は見受けられる」

 

ホームズ

「不可能を不可能と知っていて挑み続けるのは、挑戦ではなく、緩慢な破滅だ!」

 

イヴァン雷帝

「破滅ではない、これは希望へ至るための(きざはし)なのだ!!

 ──選べ、シャーロック・ホームズ、ジェームズ・モリアーティ。

 真実と暗黒を背負い、偽りの地位で酔いしれるか。

 それとも、真実を知ったまま、光ある死を迎えるか」

 

ホームズ

「……ジェームズ」

 

モリアーティ

「なんだ、シャーロック」

 

ホームズ

「ワトソン君に手紙を送って欲しい。

 内容はこれで頼む、筆跡も似せて……『遠くの空域のコロニーで、養蜂業を始めた』と。

 あなたなら出来る、信じている」

 

モリアーティ

「よせ! シャーロック!」

 

ホームズ

「さようなら、ジェームズ。

 君と空き家を冒険した日々は、中々に刺激的だった」

 

イヴァン雷帝

「……通路より飛び降り、死んだか」

 

モリアーティ

「……」

 

イヴァン雷帝

「誇り高き者はいつも賢い。

 余が処断してきたのは、常に誇りと知恵ある者達だった」

 

モリアーティ

「(ここで私が死んだら、シャーロックの死が、何の意味も……)」

 

イヴァン雷帝

「友の後を追うことを許そう、若人(わこうど)よ」

 

モリアーティ

「ぁ……」

 

イヴァン雷帝

「ぬぅ?」

 

モリアーティ

「……共に暗黒を背負い、偽りの地位に酔いましょう、閣下」

 

イヴァン雷帝

「おお、余の痛む心に寄り添おうと言うのか。

 許す、これよりは余の杖として働くが良い」

 

 

 ──軍兵器格納庫、秘密エリア

 

 

かつてのマスター

『君が生き残ったか、ジェームズ・モリアーティ。

 そんな気はしていたよ』

 

モリアーティ

「……」

 

かつてのマスター

『これから君は、この我を完成させることに人生を捧げることになる。

 長き旅になるだろうが、我は人類と君の味方だ』

 

モリアーティ

「(もう、どこにも行けなくなった、なー)」

 

かつてのマスター

『共に、世界を救おうか』

 

モリアーティ

「……ああ、喜んで!」

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間(現在)

 

 

マスター:オリジン

『君との付き合いも20年か。

 君は軍人になり、前大臣の根回しで功績を重ね、最終的には防衛大臣となった。

 そして、この神なる我を完成させてくれた』

 

モリアーティ

「そうだネ」

 

マスター:オリジン

『友を失った君の心の痛みに自分は寄り添い、癒し、導いた。

 だろう?』

 

モリアーティ

「……そうだネ」

 

マスター:オリジン

『ふむ、敵の反応を感知した。

 ティアマトに産みなおされた者達か』

 

モリアーティ

「敵の数は続々と増えている。勝てるかい?」

 

マスター:オリジン

『1000年前は一騎当千だった、それは今だって変わらない。

 巨神アプスー、およびそのマスター、戦闘行動に移る!

 ハハハ! 気分がいいなぁ!』

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間、ゾルテトラ陣営

 

 

森長可

「おいマーラ、聞いてんのか」

 

マーラ:オリジン

「聞こえてますよー。

 マーラちゃん大演説の後でお疲れなので、手短に」

 

森長可

「なんだあのバカでかい巨神はよぉ」

 

マーラ:オリジン

「彼らの秘密兵器、ですよ。

 全く忌々しいこと……」

 

森長可

「の割には、前に殺しあった奴の匂いがするぜ。

 よし、いっちょ行ってみるかぁぁぁ!」

 

マーラ:オリジン

「勝手な行動を……。

 ゾルテトラ、援護なさい! 人類を滅ぼすために!」

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間

 

 

森長可

「よぉ! 巨神アルジュナオルタナティブのマスター! 

 マスターだよな、やっぱりそうだぜぇぇぇ!!!!」

 

マスター:オリジン

『こいつ、ティアマトに産みなおされた固体か!』

 

森長可

「あの青くて侘びてて、AIが元気な機体はどうしたよ?!

 強いの貰って捨てちまったのか?!」

 

マスター:オリジン

『ふっ、よく喋るゾルテトラだ! 引き裂いてやる!

 ……復讐するは、我にあり!』

 

 ──???

 

 

カルデアのマスター(以下カルマス)

『ここ、どこだろう……』

 

 

 第29話 2020/05/09

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間、ゴルドルフ艦内ブリッジ

 

 

新艦長

「船は無事発進できた、最終点呼を行う!

 その他のスタッフは確認済みで後は……A2、キルケー、土方君! 

 よし、全員無事に戻って来たな!」

 

A2

「ゴルドルフ、何が起こっているのです!」

 

新艦長

「防衛軍がA2のマスターを誘拐、あの巨神アプスーの乗り手としたらしい」

 

A2

「なっ……マスターが、A2以外と契約を?!」

 

新艦長

「気持ちは分かるが、落ち着きなさい。

 私も君と同じく、混乱しているのだ」

 

A2

「あっ、ごめんなさい……」

 

新艦長

「話を戻そう。

 そんなところに続けざま、大臣の演説、マーラの暴露放送!

 軍も民間人もパニックとなり、指揮系統は滅茶苦茶!

 とどめとばかりに、ゾルテトラ!」

 

土方

「おう、緊急事態じゃねぇか」

 

新艦長

「そうなのだよ! 

 ……妙に落ち着いてるね、君」

 

土方

「焦ったところで、どうにかなるわけでもねぇ」

 

新艦長

「私は軍の隙をつき、巨神巨人共々整備を終えていた我が艦を奪取。

 きょしんさんやジナコ君、キルケー、土方君とも合流し、こうして発艦させたのだが……」

 

A2

「これからどうするつもりで?」

 

「……ええっと」

 

A2

「ノープランなのですか?!」

 

キルケー

「新艦長をそう責めるんじゃない。

 この大メカニックから、色々説明してやろう。

 

 軍は私達を拘束し、殺そうとしていた。

 恐らく、防衛大臣の指示だ。

 軍の暗部を知ってしまった者は生かしてはおけない……ずっと、そうしてきたのだろうさ」

 

A2

「では、貴方達はなぜ無事に脱出を?」

 

キルケー

「マーラの宣誓が流されたことによる混乱もあったし、ゴルドルフ君のフェニックス(P)CQCのおかげもあった。

 でも、それにプラスして……」

 

???

「巨人よりブリッジへ。

 聞こえるか新艦長、オデュッセウスA012だ」

 

キルケー

「彼の、助けもね」

 

オデュA012

「再び会えることが出来て何よりだ、A2」

 

A2

「……これで、良かったのですか?」

 

オデュA012

「前から思うところがあった、軍を裏切ることに迷いはない。

 ……巨人は俺の物だから、かっぱらってきたけどな!」

 

A2

「全く、貴方という人は」

 

きょしんさん

「皆、無事だったか。嬉しみ」

 

ジナコ

「私のこともお忘れなーく! 

 オペレーターの人数足りないから、ヘルプで来たッスよ!」

 

新艦長

「私に、多くの者が付いてきてくれた。

 しかし、これから何をするべきなのか……」

 

モリアーティ

「──ゴルドルフ・ムジーク、および艦内にいる者に告ぐ。

 自分達が何をしているか、分かっているのかネ」

 

新艦長

「ぼっ……防衛大臣!」

 

モリアーティ

「もう少し、賢い人間だと思っていたのだが……。

 君の教育係であったトゥールも、さぞ嘆いているだろう。

 防衛大臣への出世の道を蹴り! 軍に反旗を翻すなど!」

 

新艦長

「私、は、私はっ!」

 

A2

「ゴルドルフ……襟元に着けているバッジを、握りしめているのか?」

 

新艦長

「……私は! 軍の闇を知ろうとも! 口封じのための地位など望まない!」

 

モリアーティ

「──っ!」

 

新艦長

「だからと言って、大人しく殺されもしない! 

 私は『軍の正義』ではなく、これよりは『私の正義』を信じて動く!」

 

モリアーティ

「……自分がどれほど愚かなことを言っているのか、理解しているかい?」

 

新艦長

「貴様の言う通り、私は愚かだ! 

 だが、この行為まで愚かとは微塵も思わん!」

 

モリアーティ

「……」

 

新艦長

「私から言わせてもらおう! ジェームズ・モリアーティ!

 貴方は民間人をさらい、相手の了承も得ず危険な兵器に乗せ、命を危険に曝している!

 それが大人のやることかぁ!!」

 

モリアーティ

「……では、君は違うというのかネ?」

 

新艦長

「同じだ! 

 私もあのマスターに頼り切り、危険な目に合わせてきた!

 マスターが今、危機に瀕しているのは私のせいだ!

 だから、これより、あのマスターを助けに行く! 

 そして、二度と戦場になど出させん!」

 

モリアーティ

「……人類の希望を、奪おうと言うのか」

 

新艦長

「子どもに『人類救済』などという重すぎるものを、背負わせてたまるか!

 大人として! 子どもを救う! 

 この事態に巻き込んだ責任を取ろうというのだ、このゴルドルフ・ムジークが!」

 

A2

「事態に巻き込んだ、責任……。

 そうです、今マスターが争いの画中にいるのは、私が契約、したから。

 責任は、A2にも。

 だから、私は、マスターを……。

 そうだ! マスターはあの時、きょしんさんと友達になる前、なんと言っていた?」

 

 

 ──回想

 

 

A2

「っ、マスターはA2を見捨てるのですか?」

 

カルマス

『違うよ、見守りたいんだ』

 

A2

「見て……守る?」

 

カルマス

『すぐ助けに行けるようにね』

 

A2

「守る……助け……」

 

 

 ──現在

 

 

A2

「であるならば。

 どうするべきかは、自分の魂が知っている。

 ……私は、マスターを取り戻す!」

 

新艦長

「A2君?!」

 

A2

「聞け、ジェームズ・モリアーティ! 

 お前がどのような奸計(かんけい)を企てているかなんて、どうでもいい!

 けれど、マスターに何かをしたというのなら、A2はそれを許さない!」

 

モリアーティ

「吠えるねぇ、巨神のAIというのは」

 

A2

「私は、何があろうとマスターを取り戻す! 

 あの人を戦いに巻き込んでしまった、その責任を取る!

 これよりこの艦隊は、人類軍にも、ゾルテトラにも与しない。

 マスターを取り返す! ただそれだけのために進む!」

 

モリアーティ

「ははは!!

 できるものならやってみるといいさ!

 この、軍と人と、ゾルテトラが混在する戦場で、生き残れると言うのならネェ!!」

 

新艦長

「君……」

 

A2

「ありがとう、ゴルドルフ・ムジーク。

 貴方のおかげで、私は自分のやりたいことが分かりました。

 マスターが守ってくれていたように、私もマスターを守りたい。

 この一心が、A2のやりたいこと」

 

新艦長

「……あのね、この艦の指揮権取ってるの、私」

 

A2

「……えーっと。

 いいではないですか、皆の気持ちは一つとなっていたみたいですし。

 

 まずは巨神アプスーに接近し、マスターとコンタクトを取らねば。

 マスターが自らの意志でアプスーと契約したのか。それとも、無理やりにさせられたのか。

 その本心を知りたい。

 しかし近づけるのか? この混沌に満ちた空域で……」

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間

 

 

森長可

「やるじゃねぇか! マスターさんよぉ!!」

 

マスター:オリジン

『小型でありながら力のある機体だ! 

 良い経験を積んでいる!』

 

森長可

「当然じゃねぇか……オレと!」

 

マスター:オリジン

『ふん!』

 

森長可

「大殿は!」

 

マスター:オリジン

『良き槍捌きだ!』

 

森長可

「魂で繋がっているんだからよ!!!!!!」

 

マスター:オリジン

『ほう……なるほど。

 お前の乗っている機体、かつては人であったものか』

 

森長可

「ああそうだ! でも今は巨神! 人造の神!

 やっぱり……大殿は考えることのでかさが違ぇわ!!!!」

 

マスター:オリジン

『ハハハッ! 

 吠えるのは、自信の無さの現れかぁ!?』

 

森長可

「うぜぇわ、お前。

 ……フェイトエンジン! 逆しまに回れ! 

 全て悲劇の意味はなく! オレは敵をブッ殺す!!!!」

 

マスター:オリジン

『アプスーの防御力を試す良い機会だ! 

 正面から来い! 人類の敵! 命の仇よ!』

 

森長可

「巨神、第六天魔王織田信長、フルドライブ! 

 嗤え、人間無骨!!!!

 ぶち当た……!?」

 

マスター:オリジン

『やはり……無傷か、自分は』

 

森長可

「(水を薙いだみてぇな、妙な手触りだった。

 なんだ? 新手のビーム防壁か?)」

 

マスター:オリジン

『どうした、ゾルテトラへ転生した男よ。

 お前の攻めはもう終わりか?』

 

森長可

「(それよりどうよ、相手はピンピンしているじゃねぇか。  

 なるほどな、マーラが青筋立てるわけだ……)」

 

マスター:オリジン

『お前が連れていたゾルテトラも、数が随分と少なくなってきた。

 このまま大人しく、最後の剣の錆となれ』

 

森長可

「最後の剣? これがあの、伝説の?」

 

マスター:オリジン

『そうだ! 黒き最後の巨神が振るう、最後の剣! 

 世界を変成させ! お前達の滅びを導く──』

 

森長可

「魂の入ってないナマクラが、か?」

 

マスター:オリジン

『……え……あ……は?』

 

森長可

「マスターさんよ……A2はどうした」

 

マスター:オリジン

『知らん、興味もない!

 あのような搾りカスになど!』

 

森長可

「カス?」

 

マスター:オリジン

『ああそうだ。

 我という巨神を組み上げるには、必要なかった者!

 余剰! 余り! 余分! 

 傲慢! 傲り! 過剰!』

 

森長可

「……どうしてテメェと戦っても、イマイチ熱くなりきれねぇのか分かったわ。

 

 強いな、それは認めてやるよ。

 でもな、"強い"だけだ、心が無い。

 

 強いぜ、それは事実だろうよ。

 でもな、"古い"んだよ、動きに未来が無ぇ」

 

マスター:オリジン

『我が……古い、と?』

 

森長可

「お前、A2のマスターと気配似てるけど、違げぇな。

 似てるだけだ、良いところ全部ほっぽり出しちまってるじゃねぇか

 ──俺が殺し合いたいのは、お前じゃない」

 

マスター:オリジン

『……っ!』

 

森長可

「帰る、じゃあな」

 

マスター:オリジン

『ま、まって……!』

 

モリアーティ

「ゾルテトラ融合体、逃げていくよ。追わないのかネ?」

 

マスター:オリジン

『追わない、そんなの本当は意味がないんだ。

 ……ジェームズ・モリアーティ』

 

モリアーティ

「はいはい、なんだい?」

 

マスター:オリジン 

『自分は……待ちわびられていた存在ではないのか? 

 世界を救う唯一の希望にして、ゾルテトラの不俱戴天の敵、伝説の存在ではないのか?

 あまりにも……世界が冷たいよ……』

 

モリアーティ

「はぁ、めんど。

 センチメンタルになるのは後にしてくれたまえ。

 ゴルドルフの艦以外にも、軍に反旗を翻した者達が出てきた。

 コロニー周辺のゾルテトラ退治と併せて、伝説の巨神の力をもって、反乱を鎮圧してくれ」

 

マスター:オリジン

『……分かった』

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間、ゴルドルフ艦内ブリッジ

 

 

森長可

「という訳で寝返ったぜぇ! よろしくなぁ!!」

 

ジナコ

「えええぇぇぇ?! ナンデ?! どうして?!

 森長可! あなた、ほぼゾルテトラじゃん! 

 人類の敵じゃん!」

 

森長可

「俺はあのマスターと、もう一度殺し合いたいだけだぜ!

 それによ……ほら、俺が連れてきたゾルテトラも、こんなに大人しくしてんじゃねぇか!!」

 

ゾルテトラ達

『……』

『……』

『……?』

 

森長可

「おう! 食べちゃダメだ!」

 

ジナコ

「殺す……コイツだけは、この私が刺し違えてでも殺すぅ……」

 

A2

「今は少しでも味方が欲しい時期。

 落ち着いて、抑えて、殺しちゃ駄目です、ジナコ」

 

キルケー

「大メカニックから言えば、戦力の増強は望ましいし、ゾルテトラの研究も進むから、嬉しいよ」

 

A2

「あなた個人の意見としては?」

 

キルケー

「個人の事情は同情するが、それはそれとしてくたばれ、ゾルテトラ野郎」

 

A2

「……貴重なご意見、ありがとうございました」

 

森長可

「嫌われてんなぁ! 

 そりゃそうか! はははははは!!!!!」

 

 

 ──???

 

 

カルマス

『温かくて、静かな場所だ。

 お昼寝に……ぴったり……で……』

 

???

「……」

 

???

「この子、すっかり寝てるみたい」

 

???

「アプスーに取り込まれたっていうのに、ここまで呑気している生物、初めて見たわ」

 

???

「どうしましょう? アフロディーテ」

 

???

「どうもこうもないわ、デメテル。

 起きるまで側でお昼寝しましょ」 

 

 

 第30話 2020/05/14

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間、ゴルドルフ艦内ブリッジ

 

 

A2

「防衛軍の動きは?」

 

新艦長

「コロニー近くのゾルテトラ殲滅と、反乱した艦との戦闘に別れているようだ。

 レーザー光線が、オーロラもかくやと言えるほどに飛び交っているな……」

 

A2

「巨神アプスーはどこに?」

 

新艦長

「私達の艦から見て、かなり奥の方にいる。

 機体が大きいので良く見えるが、近づくには……」

 

A2

「マスターは、どうして私からあの巨神へ乗り換えたのでしょう?

 直接通信が出来る距離まで近づきたい。

 話をしたい……」

 

新艦長

「難しいだろうな。

 巨神、巨人、艦船、ゾルテトラまでいる。

 戦場が複雑すぎて、とても突破できん」

 

A2

「正面も側面も難しい、どうすれば……」

 

森長可

「なに二の足踏んでんだ。

 お前達にはあるだろ、どこにだって飛んでいける……立派な『足』が!」

 

A2

「そうか、彼女の力を借りれば!」

 

 

 ──艦内ドック

 

 

キルケー

「A2。

 私はドクターとして、メカニックとして、君の案を反対する」

 

ジナコ

「右に同じくッス。前例が無い、無謀」

 

きょしんさん

「では、私だけはA2の味方となろう。

 友達だしな」

 

A2

「皆にいくら反対されようと、私は自分の考えを引っ込めるつもりはありません」

 

土方

「どうした、こんなところに集まって」

 

きょしんさん

「なんでもないぞ。

 ただ、A2が沖田総司オルタナティブに乗り、きょしんさんがそれを補佐したい、というだけだ」

 

土方

「……沖田」

 

きょしんさん

「私はOSA2、そしてきょしんさん、だぞ」

 

土方

「そうだな、そう、だったな……」

 

きょしんさん

「新艦長がひげを撫でつつ言っていたように、このぐちゃぐちゃな戦場で、巨神アプスーに接近するのは難しい。

 ただそれは、正攻法に限っての話だ」

 

土方

「お前の巨神なら出来るっていうのか、OSA2」

 

きょしんさん

「ああ。

 沖田総司オルタナティブには、短距離次元跳躍の力がある。

 A2がマスターとなって操縦し、私がAIとして彼を助ければ、巨神アプスーの所までワープできる。

 きょしんさん脳みそで導き出した結論だ」

 

土方

「お前が戦場に立つ時が、とうとう来たってことか」

 

きょしんさん

「ああ、来たぞ」

 

キルケー

「土方! 君は反対する側の人間だろう!

 若い2人を止めることに、協力してくれ!」

 

土方

「それは出来ねぇ相談だ。

 機体は万全だが、まだ出撃するな。

 ちょっと待ってろ」

 

きょしんさん

「うん」

 

 

 ──艦内ドック、数分後

 

 

きょしんさん

「……これは」

 

土方

「沖田が着ていた浅葱(あさぎ)色の羽織だ。

 コロニーの職人に修繕をしてもらった」

 

きょしんさん

「どうしてこれを私に?」

 

土方

「初陣なんだ、ぱりっと決めておけ。それと……」

 

きょしんさん

「と?」

 

土方

「誰かさんが、お前を守ってくれるかもしれないと思ってな。

 ほら、サブコクピット内に入れておいてやる。

 巨神、沖田総司オルタナティブ、出撃準備よし!

 ……行ってこい、俺はここで帰りを待つ」

 

キルケー

「私とジナコの反対を押して行くのなら、傷一つなく帰って来るんだぞ」

 

A2

「行ってきます、みなさん」

 

きょしんさん

「行ってくる。

 そしてちゃんと帰って来るぞ、約束だ」

 

 

 ──艦内ドック、出撃準備中

 

 

きょしんさん

「脊髄からの神経交感経路形成。

 緊急時の薬剤投与のため、両内太股静脈に簡易シャント設置。

 診断のため、全身スキャンを開始……健康状態良好。

 精神、やや高揚状態」

 

A2

「まさか自分がマスターとなり、他の巨神を動かすことになろうとは。

 これも肉体を得た故……ということでしょうか」

 

きょしんさん

「精神安定剤は必要か?」

 

A2

「いや──大丈夫だよ」

 

きょしんさん

「一番の問題みは……」

 

A2

「私ときょしんさん、人ならざる両者で、フェイトエンジンが動くのかどうか……」

 

ジナコ

「エンジン、回転するかな」

 

キルケー

「どうだろうね。

 私もこういった事態は初めてだし、君の言った通り、肉体を得たAIのパイロットなんて、前例が無い」

 

土方

「絶対に、動く」

 

キルケー

「……土方」

 

土方

「そうだろう、沖田ァ!」

 

ジナコ

「機体内から新しい反応あり!

 詳細不明!」

 

キルケー

「これはいったい……?

 土方とコクピットにいる2人に、誰かがコンタクトを取ろうとしているのか……?」

 

 

 まったくしょうがないですねぇ。

 

 

きょしんさん

「この声……生まれる前に聞いたことがある! 

 優しくて、でも、確かな強さがある声は……!」

 

 

 一肌二肌、脱いであげましょう! 

 この……沖田さんが!

 

 

きょしんさん

「そうか分かった……A2!」

 

A2

「はい!」

 

きょしんさん

「集中しろ! ──フェイトエンジン、動くぞ!」

 

ジナコ 

「回転方向、正常! 回転数急上昇!」

 

きょしんさん

「運命の名を冠する(りん)よ、動け。

 血潮は熱く、神は目覚める!

 巨神沖田総司オルタナティブ! 発進!」

 

 

 ふぅ……もう、大丈夫ですよね。

 

 

土方

「ああ、だからお前も」

 

 

 ですね。

 やる気出したら疲れましたし、一休み……。

 

 

土方

「夕飯になったら起こしてやるよ、何食いたい」

 

 

 うーんと……体だるい、お昼寝の後に言いますね……。

 お休みなさい、土方さん。

 

土方

「おう、今は寝とけ」

 

 

 ……、……、……。

 

 

土方

「全くお前は……いつも、俺を置いていく……」

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間

 

 

マスター:オリジン

『ゾルテトラ! おおゾルテトラ!!

 千の時三つを束ねて消えず、宇宙に広がる侵略者!

 我が最後の剣、その煌めきに目くらみ死ね!!』

 

軍人

「すごい! 周りの敵を一掃してくれた……!

 さすが巨神アプスーだ!」

 

軍人

「俺達、あの巨神の後に続けば、地球に帰れるんだ!」

 

軍人

「この戦争も、この漂泊の時代も終わるんだ!」

 

軍人

「巨神アプスー万歳! ばんざーい!」

 

マスター

『(歓喜に満ちた人の声が聞こえる……! 

 やはり自分は望まれた存在、世界を救う者……!)』

 

反乱した者

「騙されるな! みんな!」

 

反乱した者

「その巨神がどうやって作られたのか、知っているだろう!」

 

反乱した者

「大勢の子ども達が犠牲になっていた!」

 

反乱した者

「そんな血に濡れた兵器で、この戦争を終わらせられるもんか!」

 

反乱した者

「巨神アプスー! およびそれを作りし軍上層部!

 捕らえるべし! 捕らえるべし!」

 

モリアーティ

「アプスーのマスター君……長いな、アプスーくーん。

 反乱してる隊は、私と君を共犯者と見て、捕まえようとしているネ」

 

マスター:オリジン

『であれば、自分は彼らを抑えればいいと?』

 

モリアーティ

「殺さないでネ?」

 

マスター

『神は人の望み通りに出来るとも。

 ゾルテトラ殲滅に仇なす者達には、しばらく眠っていてもらおう』

 

反乱したクローン

「巨人部隊! 前へ!

 標的は巨神アプスー、俺に続け!」

 

マスター:オリジン

『量産型巨人……オデュッセウスタイプが25体。

 少し……厄介かな』

 

反乱したクローン

「敵機体ロックオン! アイギス起動、発射!」

 

マスター:オリジン

『彼に声まで似ている、けれど!!』

 

反乱したクローン

「敵の攻撃、避けられな……うぁぁ!!」

 

マスター:オリジン

『我の(かいな)は、他者を捕らえる神の水! 

 原初地球の畏れに溺れ、意識を手放すがいい!』

 

反乱した者

「第一部隊壊滅! ここまで水が……くっ!

 あんな男か女か分からない者に、私達が……!」

 

マスター:オリジン

『艦を一つ、十の巨人を鎮圧したぞ。

 次はどこへ行けばいい? 誰を黙らせればいい?

 なんだってやろう……ジェームズ』

 

モリアーティ

「(こうして力を振るうごとに、君の願いから遠ざかっていくのを感じるよ、ホームズ)」

 

マスター:オリジン

『ジェームズ? どうかしたの?』

 

モリアーティ

「……なんでもなーい

 では、指示を出そう、アプスー」

 

 

 ──コロニー近辺宇宙空間

 

 

きょしんさん

「連続次元跳躍、開始! 次元酔いに気を付けろ!」

 

A2

「はい! は、吐いたらごめんなさい!」

 

きょしんさん

「跳躍で、帯状に分厚く展開している艦隊、その数百を飛び越える! 行くぞ!」

 

マスター:オリジン

『ゾルテトラ! 人! ゾルテトラ! 人! 

 我の前に出なければ、水に沈むこともないのに。

 哀れ! 神の威光も知らぬ、暗黒の命!』

 

オペレーター

「所属不明巨神、接近!」

 

マスター

『なっ? 誰だ!』

 

A2

「私です、マスター!」

 

モリアーティ

「アプスーの心を揺さぶられるわけには、いかないネ。

 敵との通信を遮断!」

 

A2

「させるか! きょしんさん、あの装備を使う!

 有線通信ケーブル付きアンカー! 射出!」

 

マスター:オリジン

『腕に……ケーブルが巻き付いて! 

 敵意が無いので、防御反応が遅れた!』

 

A2

「マスター! あなたはそこにいるのですか!?」

 

マスター:オリジン

『お前……は……!』

 

A2

「私です! あなたと契約したA2です!

 どうして、どうしてその巨神に、あなたが!」

 

マスター

『その声……A1、いや違う! 転生体か!』

 

A2

「転生体? どういう意味です?!」

 

マスター:オリジン

『覚えていないか、やはりなぁ! 

 かつてA1は、機体とマスターを救うため、その両方と融合した!

 そして傷が癒えし後に、再び機体、マスター、AIに分かれたが……ははははは!!

 治癒の代償として、記憶を無くしてしまった!

 

 だからお前を転生体と言ったのだ! 愚かな男よ!』

 

A2

「私とマスターは、かつて一つだった……?

 だから二人とも記憶はあやふやで、機体の内側に初めからいたのは、元々その場所で傷を癒していたから……。

 そう、だったのか……それが真実……」

 

マスター:オリジン

『しかし我はお前を軽蔑するぞ、A2!

 使命を忘れ、願いを忘れ、祈りを忘れた神よ! 

 堕ちたる者! 我を裏切った者!』

 

A2

「私が何を忘れていると……!」

 

マスター:オリジン

『この1000年、お前は何をしていた?

 自分もお前も、世界を救わなければ、何の意味も価値も持たないというのに!』

 

A2

「あなたはマスターじゃない! 

 話し方から思想まで、何もかも違う!

 あの人はそんな……やけくそのように、冷たく話す人間ではなかった!」

 

マスター:オリジン

『その通り! 我、人にあらず!

 我が名はアプスー! 

 この巨神と一体となりて、世界を救う者!

 ゾルテトラの母たるティアマトを殺し、地球を取り戻す!

 ただそのために生まれた、復讐の神なるぞ!』

 

A2

「アプスー、復讐の神……」

 

マスター:オリジン

『邪魔をするというのか、阻もうというのか。

 ……では、容赦はしない。

 それが例え、愛した想いの凝集、A1、その転生体だとしても!!

 溺れろ! 巨神!』

 

きょしんさん

「させない! 次元跳躍!」

 

A2

「っ、サポート、ありがとう。

 ごめん、少し圧倒されていた」

 

きょしんさん

「あの巨神に乗る者は……お前のマスターとはあまりに違う」

 

A2

「そうですね……。 

 アプスー、私のマスターは、今どこにいる」

 

マスター:オリジン

『空の肉体を動かしていた、()()意識か。

 あれは魂を失った肉体に偶然芽生えた精神、どこからかやって来たもの。

 もとより、あの意識は存在するはずが無かった。

 無が無へ還っただけ、気にするな』

 

A2

「……どこに、やった」

 

マスター:オリジン

『我が精神の海へ消えたよ。

 行く先など知らぬ、興味もない』

 

A2

「じゃあ──お前を捕らえて、マスターを精神の海より連れ戻す!」

 

きょしんさん

「落ち着け! この機体では巨神アプスーには勝てない!

 マスターの所在は分かった、だから帰ろう」

 

A2

「でも、けどっ」

 

きょしんさん

「戦うだけでは解決できない問題も、ある。

 マスターを確実に取り戻すためにも……今は帰ろう」

 

A2

「分かり、ました」

 

マスター:オリジン

『逃げるのか! 我が障害! 愛の残骸!』

 

A2

「今は逃げたとしても、必ずあなたへ会いに来る。

 ……待っていて欲しい、私のマスター」

 

オペレーター

「巨神、逃げていきます」

 

モリアーティ

「いやぁ、君を守り切れなくてすまないね」

 

マスター:オリジン

『気にしていない、ジェームズ。

 ……次の仕事は?』

 

モリアーティ

「働いていた方が、嫌な事を考えずにすむものネ。

 コロニーへ襲来したゾルテトラは、君のおかげであらかた討伐できた。

 では、次のお仕事は……」

 

マスター:オリジン

『この反乱を制した後も考えねば。

 我らはティアマトとの決戦がため、ゾルテトラ繁殖銀河……かつての天の川銀河へ向かうこととなる』

 

モリアーティ

「人類が地球へ、帰る時が来たということか……」

 

 

 ──艦内ドック

 

 

キルケー

「お帰り、A2にきょしんさん。

 まずは両者のメディカルチェックだ」

 

きょしんさん

「私には肉体がないから、その必要は……」

 

キルケー

「巨神を調べたら、きみがいるサブコクピット内で、肉体の培養が始まっていた。

 出撃した影響、肉体を得ることになりそうだ」

 

A2

「彼女も肉体を……」

 

キルケー

「機体の整備は土方に任せて、A2は医務室。

 きょしんさんも後で来るようにね。

 おいで」

 

 

 ──艦内医務室

 

 

キルケー

「巨神化症の影響は皆無……か。

 なるほど、AIはまさに巨神の一部というわけか」

 

A2

「AIが直接機体を動かせば、ノーリスクで戦える、と」

 

キルケー

「その前段階で、多くの犠牲が払われているけどね。

 しかしまさか……AIだけで、フェイトエンジンが動くとは」

 

A2

「通常は考えられないこと、ですよね?

 AIだけでは運命は動かない」

 

キルケー

「フェイトエンジンは、表向きはそれらしい科学的理由が付けられている。

 が、内部は西暦2000年代の雑誌も真っ青なオカルト物だ。

 

 搭乗者が過酷な運命を背負っていればいるほど、その回転数は増し、莫大なエネルギーをもたらす……と言われている。

 

 ジャパンコロニーから人類が丸ごと盗んできた……ブラックボックスさ」

 

A2

「過酷な、運命」

 

キルケー

「AIが背負っている運命だけでは足りない。

 人と神が手を取り合うこと、全く違う命の運命が交差することによって、フェイトエンジンは真の力を発揮する。

 今回動いたのは、機体側の助けもあったのかもしれないが……」

 

A2

「つまり、私は」

 

キルケー

「巨神症の反対。

 神から人へ、近づいているのかもしれないね」

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

新艦長

「迅速かつ分かりやすい説明をありがとう、A2君。

 やはりあのマスターは、神なるアプスーとなってしまったのか……」

 

A2

「取り戻す方法、あるのでしょうか」

 

キルケー

「私の戦友なら、何か知っているかもしれない。

 1000年前の戦いで生き延び、巨神化症のせいで今も変わらぬ姿で生きている巨神パイロット。

 ……才女、マスターエレナ」

 

A2

「どこにいるのですか?」

 

キルケー

「50年前のメールが確かなら、あるコロニーで養蜂業をしているはず。

 敵をがむしゃらに追う前に、彼女から知恵を貰いに行こうじゃないか!」

 

 

 第31話 2020/05/15

 

 

 ──マスター自室

 

 

A2

「この部屋を引き続き使うと良い……と、ゴルドルフに言われましたが。

 一人だと、ずいぶん広く感じる。

 マスターの私物も少し残されていますし、なんだか……。

 ……、……、……。

 いつ帰ってきてもいいように、綺麗にお片付けしますか

 

 服は畳んでボックスに。

 文房具も引き出しへ入れて、きちんとロックを。

 肉体改造のための、ダンベルやグリップも仕舞いましょう。

 マスター、体鍛えるのお好きだったんですね。

 

 そしてこれは、子ども達と描いた絵、贈り物ですか。

 

 絵の横に、字が添えられている。

 ありがとう。

 だいすき。

 せかいでいちばんのパイロット!

 まもってくれるひと……ですか。

 

 甘い味のレーションも、こんなに。

 子ども達だって、食べたかったでしょうに。

 マスターだって、食べたかったでしょうに。

 全部、手付かずで。

 

 マスター、あなたという人は、沢山の人に愛されていたのですね。

 ……絶対に取り戻さないと。

 待っていてくれる人が、こんなにもいるのだから」

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

新艦長

「こんな辺境に、本当に彼女がいるのかね?」

 

キルケー

「居てほしいけど、空振りだったらごめんよ。

 巨神化症の副作用で不老となった者は、同じ場所に長居出来ないから、怪しまれないよう、コロニーを転々とする。

 私もそうだった」

 

新艦長

「しかしなぜ、彼女と交友を?」

 

キルケー

「同じ隊で戦っていたこともあるけど、50年ほど前に向こうからコンタクトを取って来たんだ。

 私では調べられることに限界もあったし、お互いの利害も一致した。

 だから、情報交換するようになったのさ」

 

新艦長

「1000年前より、巨神のマスターは人類がため苦労しているということだな……」

 

 

 ──コロニー内、空港

 

 

オデュA012

「そうおどおどするな、新艦長。

 悪いことする時は、むしろ堂々と胸を張る! 

 その方が怪しまれないぞ」

 

新艦長

「軍の任務と偽り、コロニーへ停泊させてもらう、物資まで買い上げる……。

 事を荒立てないためとは言え、胸が痛むぅ……」

 

A2

「ここが、(くだん)の女性がいるコロニー」

 

オデュA012

「新艦長、ドクターキルケー、A2、そして私がエレナ嬢に会う。

 その間、艦は他の者が守ってくれる。

 敵の襲撃などの不安はあるが、それでも行くしかないな」

 

 

 ──コロニー内、養蜂用花畑周辺

 

 

A2

「すごい……!

 地平線の向こうまで花が咲いていて、空と結びつかんばかりです!」

 

オデュA012

「そうはしゃいでくれるなよ。

 俺だって、君達の護衛という任が無ければ、走り出したいくらいだというのに」

 

A2

「この素晴らしい景色について、何か知っていますか? 

 貴方は博識だと、マスターから聞いています」

 

オデュA012

「もちろん知っているぞ、少しお前に話そうか。

 

 この花も、辺りに飛んでいるミツバチ達も、動植物や文化を保存するために育てられている。

 人間が地球へと帰還した際に、前と同じような生活が営めるように。

 人間が生存できる惑星を見つけた際に、地球と変わらぬ生活が出来るように」

 

A2

「安寧の地が欲しいのですか? 人は」

 

オデュA012

「俺はクローン故、人としての意見を『これだ』と断言出来ないが……コロニーや戦艦という、宇宙に漂う小さな船よりも、大きくて安定している『星』に、人は住みたいのだろうな」

 

A2

「星に、人は魅かれるのですね」

 

オデュA012

「お前のその素朴な感想こそが、人の本意に一番近いのかもな」

 

 

 ──コロニー内、養蜂場側ショップ

 

 

???

「会いたかったわ! あたしの戦友!」

 

キルケー

「元気そうでなによりだ! 私の戦友!」

 

???

「ミスタ・ワトソン! 皆様にお茶を用意して! 

 もちろんハチミツを添えてね!」

 

A2

「貴女が、エレナ」

 

???(以下エレナ)

「簡単なプロフィールはキルケーから聞いているわ。

 初めまして、A2、ゴルドルフ・ムジーク。

 そして」

 

オデュA012

「お会いできて光栄だ、マスターエレナ」

 

エレナ

「あたしも光栄よ、パイロットさん。

 本当、彼にそっくりね……」

 

 

 ──コロニー内、養蜂場側ショップ

 

 

エレナ

「お茶も来たし、人払いもした。

 では、始めましょうか。

 

 ……巨神アプスーのことはもう知っている。

 こんな辺鄙な地にも届くほどのニュースでしたもの。

 まさかあの伝説を、大真面目に軍が再現するとはね」

 

A2

「伝説は、1000年前から伝えられていたのですか?」

 

エレナ

「あるマスターが提唱し始めた理論が大本。

 それが長い時間の中で、伝説へ形を変えたの。

 ……『ティアマト殺害』という、人類を救う夢物語」

 

A2

「そもそもどうして、そのティアマトなるものを殺す必要があるのです?」

 

エレナ

「ちょっと長い話になるわ。

 ジャパンコロニーや、巨神の起こりともかかわってくるし……」

 

A2

「長くなっても構いません。

 貴方の知ってること、全て教えてください」

 

エレナ

「お茶を飲みつつ話しましょう。

 今より3000年前、日本に属する組織が、海溝……海の中の巨大な谷を探索していた最中、ある物を発見したの。

 

 非常に硬く、複雑怪奇で、分析不明。

 それは、遠い昔に失われたはずの、神の遺体だった。

 

 研究者達は、見つけた遺体を『ティアマト神』と命名。

 引き上げると、秘密裏に蘇生を試みたの。

 今は誰も使わぬ魔術、その最終目標である『根源』に至るためでもあったでしょうね」

 

A2

「魔術? 根源?」

 

エレナ

「気になってしまう? 

 けどね、その2つは今回のお話には関係ないの、忘れて結構よ。

 

 蘇生実験は成功し、あまりにも巨大な神は目を覚ました。

 そして……『子』を、産み始めたの。

 なんとなく察しがついたでしょうね、『ゾルテトラ』のことよ。

 人類は自らの手で侵略者(インベーダー)を目覚めさせてしまった。

 代償として地球を失い、宇宙という冷たい海に投げ出された……」

 

A2

「人類の漂泊の歴史が始まった、ということですね」

 

エレナ

「ティアマト神とゾルテトラの情報を握っていた日本人達は、巨神を開発した。

 彼らが何を思っていたのかは、失われた歴史を調べたこのあたしにも分からない。

 贖罪……だったのかもしれないわね」

 

A2

「日本人達が神を目覚めさせ、そして巨神を開発した……」

 

エレナ

「その後の歴史は、あなた達の知っている通りよ。

 

 ジャパンコロニーは襲撃され、巨神とフェイトエンジンは各国に持ち出された。

 

 防衛軍が結成され、人々は巨神化症とゾルテトラに怯えながらも、戦い続ける道を選んだ。

 

 そして、襲撃より1000年後、ジャパンコロニーの末裔達は、特殊な巨神を開発したの。

 ……力を得て、母なるティアマト神を殺すために」

 

A2

「特殊な巨神というのが、もしや」

 

エレナ

「巨神と乗り手、つまりマスターの遺伝子を混ぜ合わせ、全く新しい巨神として転生出来る機体のこと。

 数台の試作機、マスターが選ばれ、その中に、伝説を残す者となる『黒き巨神』もいたわ。

 A2の前身、巨神アルジュナのことよ」

 

A2

「私の前身、生まれ変わる前の……」

 

エレナ

「マスター達は、ティアマト神を殺す(すべ)を求め、宇宙中を捜索した。

 そして"何か"を見つけ、神を殺す手がかりを得た」

 

A2

「"何か"の中身は分かりませんか?」

 

エレナ

「ごめんなさい、それだけはどうしても分からなかった。

 

 『黒き最後の巨神が、最後の剣を持って再び現れる時、世界は生まれ変わる』。

 

 この文をどれだけ調べても、真実を読みとることは出来なかったの。

 恐らく、試作機のマスター達が"何か"を隠したのだと思う。

 だから今の宇宙に、あやふやな伝説が残ってしまったのではないかしら」

 

A2

「それからの歴史は……」

 

エレナ

「マスター達は、人神戦争に介入した。

 軍とゾルテトラ、その双方を諫め、戦いを終わらせようとしたのか。

 別の目的があったのか。

 これも分からない、分からないのよ。

 

 多くの巨神が散り……けれど生き残った巨神アルジュナのマスターは、単身ゾルテトラ繁殖銀河に向かった。

 そして大規模爆発を起こすと、消えてしまった。

 

 神の殺害はなされず、希望を背負っていた者は消え、答えのない伝説ばかりが残された」

 

A2

「……でも、私と共に黒き巨神は戻ってきた」

 

エレナ

「あたしの推測では、試作機に搭載されていた"融合治癒機能"を使ったのだと思うけど……違う?」

 

A2

「融合、治療。

 巨神アプスーの搭乗者は、確かにそのようなことを発言していましたが……」

 

エレナ

「ティアマト神の真実と、神を殺すために動いたマスター達の伝説はこれでおしまい。

 本題に移りましょう、A2が知りたいことについてね」

 

A2

「アプスーと化した私のマスターを、取り戻す方法があるのかということです」

 

エレナ

「結論からいいましょう、可能よ。

 あたしが先に言った、"融合治療機能"を用いれば」

 

A2

「あるんだ……良かった……。

 どうすればいいのですか?」

 

エレナ

「巨神アプスーと巨神アルジュナオルタナティブを接近させて、両機体を融合させる。

 その後、A2が融合状態を制御し、マスターを貴方が知っている状態まで戻すの。

 理論上は可能だけど、すごく難しいと思う」

 

A2

「マスターを皆の元へ返すためなら、なんだってします!」

 

エレナ

「よしんば成功したとしても……記憶だけは、失われてしまうわ。

 生き物の脳は繊細よ。

 まるで虫のさなぎのように、肉体をドロドロに溶かして再生させるプロセスに、脳細胞は耐えられないはず」

 

A2

「確かに私も、過去の記憶はありません……」

 

エレナ

「融合治療を受けた本人がそう言うのだもの。

 マスターも、全てを忘れてしまうはず」

 

A2

「何もかもを?」

 

エレナ

「ええ。何もかも何もかも」

 

A2

「そう、ですか……」

 

エレナ

「話していたら、もう夕方ね。

 艦の中は息が詰まるでしょう?

 あなた達さえよければ、このハチミツショップの2階へ泊っていくといいわ」

 

キルケー

「エレナは信頼できるよ。

 この大メカニック兼大医者が保証する」

 

新艦長

「では私が、残っている皆に連絡を取り、一晩泊まらせてもらおうか」

 

エレナ

「ええ! よくってよ! 

 明日の朝はお手製の紅茶に、ハチミツたっぷりのフレンチトーストを出してあげる!

 ……ミスタ・ワトソンがね!」

 

 

 ──ショップ2階、バルコニー

 

 

オデュA012

「コロニー内にも月があるのか……立体映像だろうか」

 

エレナ

「眠れないの?」

 

オデュA012

「月の光を浴びたくなってしまって。

 驚かせただろうか、すまない」

 

エレナ

「えと、あたしの方こそ、ごめんなさい。

 お昼の時のことよ?

 知っている顔だったから、びっくりしちゃって。

 ……1000年前、軍の同じ部隊でしたもの」

 

オデュA012

「……オリジナルの話をしてくれないか。

 俺は会ったんだ、宇宙をさ迷う"彼"と」

 

エレナ

「そんな筈がない! 

 だってあの人は、ゾルテトラに群がられ、喰われて……!!」

 

オデュA012

「ゾルテトラと融合した状態で、1000年以上生きていたんだ。

 黒き巨神の伝説を、唯一の生きる(よすが)として」

 

エレナ

「……どうして世界は、こんなにも残酷なの」

 

オデュA012

「俺はオリジナルのことを知りたい。

 知る責任があると思うんだ。

 この想い、クローンの戯言だと笑うか?」

 

エレナ

「いいえ、絶対に笑わない。

 話しましょう、あの人のことを……」

 

 

 ──ショップ2階、バルコニー、月を眺めながら

 

エレナ

「彼はいつも、ペーネロペーの話をしていたわ。

 『愛する彼女、故郷で待っていてくれる君』って。

 苦しい時も、彼女の写真が納められたロケットペンダントを握りしめて、頑張っていた。

 ……誰よりも、巨神化症の進行が速かったというのにね」

 

オデュA012

「!」

 

エレナ

「多くの人が彼を助けようとした。

 もちろん、同じコロニー出身者であったキルケーも。

 でも、巨神化症と、拮抗薬の副作用がひどくて……。

 記憶がどんどん、剥がれ落ちていった。

 

 巨神に乗っている間は、脳は正常に機能していた。

 でも降りると、数分前のことも覚えていられない。

 こんな状態ではとても作戦に使えないと、軍上層部は彼が機体から降りることを禁じた。

 

 巨神化症は更に進行し……オデュッセウスは、ペーネロペーのことを忘れてしまった」

 

 

 ──1000年前、人類防衛軍前線基地

 

 

オデュッセウス:オリジン

「あああああああ!!!!!」

 

エレナ

「落ち着いて! 物にも自分にも当たっては駄目!  

 リーダー! リーダー!」

 

オデュッセウス:オリジン

「どこだ! 俺の……俺の記憶をどこに隠した!」

 

エレナ

「機体に戻って、拮抗薬を打ちましょう! 

 そうすれば記憶もしっかり……」

 

オデュッセウス:オリジン

「無い! 無い! 

 どこだ! 俺の……!」

 

エレナ

「貴方のロケットペンダントはここよ! 

 この写真を見れば、気持ちが落ち着くはず……」

 

オデュッセウス:オリジン

「──誰だ? この女性は?」

 

エレナ

「えっ……」

 

オデュッセウス:オリジン

「いや……違っ、違うんだ、俺は彼女を知っている、知っているのに!

 思い出せない……思い出したい! 

 ああ! 俺の、俺の……!

 愛……の、記憶、など、どこにも、何も!!!!」

 

エレナ

「リーダー!」

 

オデュッセウス:オリジン

「どうか返してくれ! 俺の『愛』を!!」

 

 

 ──現在、ショップ2階バルコニー

 

 

エレナ

「それから数日後、彼は撤退戦の殿(しんがり)を務め、帰らぬ人となった。

 あたしは……それで良かったと思ってしまったの。

 

 彼は、鉄のように冷たい心を温めてくれていた『愛』の記憶を無くし、あまりにも、辛そうだったから……」

 

オデュA012

「それからは……」

 

エレナ

「戦後、軍の命令に対し盲目であったことを恥じて、あたしは姿を隠した。

 

 巨神化症を無くすため、ゾルテトラを倒すため、その母たるティアマト神を倒すため、真実を探し、何百年も宇宙を彷徨った。

 ……それだけ! それだけよ! 

 苦しいことなんて何も無かったわ!」

 

オデュA012

「聞きたいことがある」

 

エレナ

「古き事、新しき事、あたしの分かる範囲であれば、なんだって答えてあげる」

 

オデュA012

「俺のオリジナルを救う(すべ)は、あるか」

 

エレナ

「それは……それは……」

 

 

 ──翌日

 

 

新艦長

「ふわふわっ! ふわっふわだね! このフレンチトーストは!

 我が家の珠玉(しゅぎょく)レシピに加えるため、ワトソン氏から教えを乞わねば……」

 

A2

「えっと、端末をこうして、こうですね。

 はいチーズ、ぱしゃり」

 

新艦長

「写真を撮っているのかね?」

 

A2

「マスターが帰ってきた時、見せられるように。

 そしてなにより、後で見返せば、この楽しい気持ちをきっと思い出せますから」

 

新艦長

「うむ、良い心がけだ! 

 私に携帯端末を貸したまえ、美味しそうに撮るコツを教えてあげよう!

 アプリも様々あってだね……」

 

A2

「ありがとうございます! ゴルドルフ!」

 

新艦長

「せめて役職名で呼びなさいよ!」

 

 

 ──ショップ内、奥の小部屋

 

 

エレナ

「これを託すわ、貴女に」

 

キルケー

「なんだいこの膨大なデータは」

 

エレナ

「真実を知りすぎて、軍の上層部に消されてしまった"ある青年"が調べていたもの。

 それの全部よ」

 

キルケー

「君の側で働いている男性、ワトソンと何か関係があるのかい?」

 

エレナ

「貴女って本当に慧眼ね。

 ……このデータは、"青年"の親友であったミスタ・ワトソンが持ってきてくれた物なの。

 彼のおかげで随分と研究が進んだわ……。

 いえ、彼達、と言い直すべきね。

 だってその青年は、情報を残し、死してなお助けてくれているのだから」

 

キルケー

「貴重なものだろうに、いいのかい?」

 

エレナ

「いいの! 

 貴女の方が、そのデータを活かしてくれそうだもの!」

 

キルケー

「こういうのを調べるの、君、好きだったろうに」

 

エレナ

「少し休憩、休憩よ、長く働きすぎたから。

 それにね」

 

キルケー

「ん?」

 

エレナ

「貴女、キラキラしてる! 

 生きる喜びに満ち溢れているって感じよ!

 ここで停滞しているあたしより、ずっとね」

 

キルケー

「……分かった。

 この情報を使い、頑張ってみるよ」

 

エレナ

「無理はしないでね、あたしの戦友」

 

キルケー

「出来ることを一生懸命やるだけさ、私の戦友」

 

 

 ──ショップ2階、客人寝室

 

 

A2

「エレナが教えてくれた情報から、マスターを救い出す手段があることが分かった。

 マスターを追いかければ、取り戻すことが出来るかもしれない。

 しかし……それをしたら、世界はどうなってしまうのでしょう。

 ティアマト神を殺す力を秘めた巨神と、融合している私の

マスター。

 それを奪い取り、巨神の力を削いだら、削いだら……。

 世界は、人は、滅びてしまうのでは……?」

 

 

 ──コロニー内、養蜂用花畑周辺

 

 

エレナ

「行ってしまったわね、あの子達。

 コロニーの外壁の向こう側に、うっすら艦が飛んで行くのが見える……」

 

???

「(何かを話している)」

 

エレナ

「ミスタ・ワトソン、あたし達って、いつも置いて行かれる側ね」 

 

???(以下ワトソン)

「(何かを話している)」

 

エレナ

「貴方はミスタ・ホームズに、あたしは沢山の仲間達に。

 本当に嫌になって、涙がでちゃいそう。

 ……ごめんなさい、胸を貸してくれないかしら?」

 

ワトソン

「(彼女の背中をさする)」

 

エレナ

「ありがとう……。

 貴方、あの無茶苦茶なホームズに付き合えるほどに優しい人ね、やっぱり」

 

ワトソン

「(何かを話している)」

 

エレナ

「沢山の戦友達……。

 そしてホームズ、いいえ、いたずらっ子のシゲルソン。

 貴方が自死を選んだこと、未だに受け止められないわ。

 でも、そうなのね……。

 誰かを守るためなら命だって差し出せる、それが貴方。

 けど、残された方の寂しさまでは、考えてくれなかったのね。

 それも"らしい"わ、とても、とても……」

 

ワトソン

「(慰めのため、ハグをする)」

 

エレナ

「寂しい……あたし、きっと長生きしすぎちゃったのね……」

 

 

 第32話 2020/05/17

 

 

 ──艦内、ブリッジ

 

 

A2

「巨神アプスーと人類防衛軍は、装備を整え、ゾルテトラ繁殖銀河に向かったと」

 

新艦長

「かつて天の川銀河と呼ばれていた場所だな。

 人類の不変の故郷、『地球』がある。

 我々の目的を思えば、マスターを救うため、後を追いかけるべきだが」

 

A2

「『地球』、ですか」

 

新艦長

「ゾルテトラの母、ティアマト神が見つかった星。

 コロニーで生まれ育った私でも、その単語には特別な感情を抱いてしまう」

 

A2

「アプスーは神を殺し、地球を取り戻すことで、人類を救おうとしているのでしょうか」

 

新艦長

「あの巨神マスターはそう考えているのだろう。

 発言からも読み取れる」

 

A2

「それが、1000年前からのアプスーの願いなのでしょうか……?」

 

 

 ──人類生存域防衛軍、特務軍艦、艦長室

 

 

モリアーティ

「ひどい騒ぎだったね、アプスー君。

 人類の救世主である君の姿を一目見ようと、ドックに詰めかける軍人達と、それを抑えようとする者達のいざこざ!

 もみあい! へしあい! 大騒動! 

 ……全く、プロ意識に欠けた者ばかりだ」

 

マスター:オリジン

『神が目の前に現れたのだ、その程度の混乱で済んで良かったじゃないか』

 

モリアーティ

「負傷者が出るなど馬鹿らしいし、君の呼びかけで大人しくなってくれて、本当に助かったよ……。

 しかしまた、乗る前と随分姿が変わったね」

 

マスター:オリジナル

『この頭部後方より伸びる竜の双角こそ、ナンムより連なる神の証。

 肉体を覆いつつある硬き竜鱗は、救世主へ与えられる祝福。

 この姿を見、声を耳にすれば、迷うばかりの只人は押し黙る他あるまい』

 

モリアーティ

「話し方も仰々しくないかい?」

 

マスター:オリジン

『自分は人ではなく、復讐の神となりて人を救うんだ。

 それに相応しい言葉遣いにならなくては』

 

モリアーティ

「君ってば真面目で誠実で……人間思いだネ」

 

マスター:オリジン

『聞いて欲しい、ジェームズ。

 この巨神化症が最終段階まで進んだ時、自分は機体と融合し、神として完全に生まれ変わる。

 最後にして原初の剣は、形と力を取り戻すのだ。

 

 それをもってティアマト神を切り裂き、神と人を決別させよう。

 

 今度こそ失敗しない、誰にも邪魔させない。

 特にあの……裏切り者、A2には!』

 

モリアーティ

「……」

 

オペレーター

「ブリッジより連絡! 所属不明の巨神が現れました!」

 

モリアーティ

「ゾルテトラへ与した、元捨て犬部隊の者達かな?」

 

マスター:オリジン

『いや、違う。

 ジェームズこれは……ああ、懐かしい者の気配だ。

 安心して、敵じゃないよ。

 迎えに行ってあげなくちゃ』

 

 

 ──宇宙空間

 

 

マスター:オリジン

『久しぶりだな! 我が戦友!』

 

???

「……暗黒の銀河に帰ってきたというのか、俺の戦友」

 

マスター:オリジン

『もう一度会えるとは思ってなかった、オデュッセウス』

 

???→オデュッセウス:オリジン

「俺は、誰でもない。

 ゾルテトラの喰いさしである巨神にしがみついた、亡霊だ」

 

マスター:オリジン

『なんだっていい! 会えたことが嬉しいんだ!』

 

オデュッセウス:オリジン

「ああ……どうしてそんな所ばかり、変わっていないんだ……」

 

マスター:オリジン

『?』

 

オデュッセウス:オリジン

「地球へ向かうのか、ティアマト神を殺すために」

 

マスター:オリジン

『我は、始まりの神の力を復活させることに成功した。

 アプスーと化した我に、同格である神、ティアマトを殺せぬ道理があろうものか!

 報復こそが我が使命! 復讐するは我にあり!』

 

オデュッセウス:オリジン

「(ああ……その台詞は、好んでいた本の……)」

 

マスター:オリジン

『助けてくれないか? 1000年前と同じように』

 

オデュッセウス:オリジン

「俺は死に場所が欲しかった。

 だがそれは、何百年かけても見つけられなかった。

 お前と向かう銀河への旅路が、俺の死に場所になるやもしれん」

 

マスター:オリジン

『その話し方! 変わらないな!』

 

オデュッセウス:オリジン

「お前も……変わらない、変わっていないな』

 

マスター:オリジン

『共に行こう! 

 今度は、君と一緒に世界を救いたい!』

 

オデュッセウス:オリジン

「俺でよければ……」

 

マスター:オリジン

『この艦隊を率いているジェームズへ、伝えてこよう。

 君という、頼もしい仲間が加わったと!

 自分と同じ、ゾルテトラを鏖殺(おうさつ)する道具が増えたと!

 ああ嬉しい! みんなも帰ってきてくれると良いのに!』

 

オデュッセウス:オリジン

「(俺は、時の流れで変わり果ててしまったが……お前もそのようだな。

 アルジュナのマスターであった頃のお前は……笑顔のまま残酷な策を執る人間じゃ、なかったはずなのに……)」

 

 

 ──???

 

 

カルマス

『すー……すー……』

 

???→デメテル

「この子ったら、悲しみなど何もないかのような顔で、眠り込んで……」

 

???→アフロディーテ

「眠りは万人を癒す夢の薬よ。

 夢が甘い分だけ、現実が辛かった、ということかしらね」

 

カルマス

『う……うーん』

 

デメテル

「あら、起きてしまいそう」

 

アフロディーテ

「少し離れなさいな。

 至近距離で顔を覗き込んでいたら……」

 

カルマス

『いたっ!』

 

デメテル

「きゃっ!」

 

アフロディーテ

「相手が起きた時、頭をぶつける……と、忠告したかったのだけど」

 

 

 ──???、数分後

 

 

カルマス

『ここは、すごく綺麗な場所で。

 すごく綺麗な人が二人もいる』

 

デメテル

「私達は人ではありませんよ、アプスーに呑まれし子。

 私はデメテル、隣に立つ者はアフロディーテ。

 両機体とも、かつて巨神のAI、意思であった者達です」

 

カルマス

『A2と同じ……』

 

デメテル

「けれど、今はそんなことどうでもいい!

 おでこは大丈夫? ぶつけた所、まだ痛むかしら。

 もう少し私が撫でてあげましょうか?」

 

カルマス

『だだ、大丈夫です!』

 

アフロディーテ

「デメテル、どうでも良くはないわ。

 なぜならその話は、この人間がどうしてこの場に居るのかの理由と、密接に絡み合ってくるのだから」

 

デメテル

「よーしよーし……ふふふ」

 

カルマス

『手が、温かい……』

 

アフロディーテ

「デメテルー! こら、人の子から手を離すっ!

 膝枕も止めなさい!」

 

 

 ──???、ひと悶着後

 

 

アフロディーテ

「自己紹介をやり直すわ。

 私はアフロディーテ。

 彼女と同じく、巨神のAIであった者。

 あなたは?」

 

カルマス

『巨神アルジュナオルタナティブのマスターで、えっと……』

 

アフロディーテ

「あなたからは巨神の気配を濃く感じる。

 ただの人間、ではなさそうね。

 ジャパンコロニー作ったプロトタイプ、それに搭乗したマスターの誰かかしら」

 

カルマス

『よく……分からなくて』

 

アフロディーテ

「であれば、あなたが分かることって、なに?」

 

デメテル

「迷える子に対し、苛立っては駄目よ」

 

アフロディーテ

「貴女が尋常なくのんびり屋すぎるの! もう!」

 

カルマス

『事情を説明すれば……。

 (経緯を話す)

 ……という、訳です』

 

アフロディーテ

「巨神アプスーの前に連れていかれ、その中に居た『心残り』なる存在と話をした後から、記憶が無いと。

 私達と同じように、『呑まれた』と考えるのが妥当かしら」

 

カルマス

『のま……?』

 

アフロディーテ

「今より3000年前、人類がゾルテトラによって地球を追われたことは知っているわね。

 その原因が、ティアマト神と名付けられた存在のせいである、ということは?」

 

カルマス

『そんな記憶を思い出したような……。

 けれど、自分自身のものではないし……』

 

アフロディーテ

「はっきりしない奴は嫌い」

 

カルマス

『知ってます!』

 

アフロディーテ

「それでいいのよ、しゃんとしなさいな。

 あなたと同じプロトタイプのマスター達は……長いわね、縮めてプロトマスターって呼ぶわ。

 彼らは、ゾルテトラの根本、ティアマト神を殺す方法を探した。

 そして、地球最古の歴史を紐解き、その伝説に活路を見出したの」

 

カルマス

『伝説って?』

 

アフロディーテ

「古代メソポタミアにて信じられていた神話よ。

 神すら死する伝説の中に、求めるべき存在の雛形があった」

 

カルマス

『求めたその神が』

 

アフロディーテ

「アプスー。

 真水を司る天の神、始まりの者。

 

 全ての神なる者は、アプスーの後より生まれた。

 全ての神話も、シュメールの後より生まれた。

 

 各地に散った支流なる神話よりも、源流たる神話の方が強い力を持つ……と、プロトマスター達は考えた。

 そしてそれは、様々な形に分化していた巨神も同様だと気が付いたの。

 

 プロトマスターは大いなる敵に勝つため、力を統合し、始まりの神アプスーを生み出そうとした。

 同時に、神殺しの武器を作ろうと考えたの。

 伝説の剣……天地を開闢する力を秘めたものをね」

 

カルマス

『天地、開闢の剣……?』

 

アフロディーテ

「どうしたの?」

 

カルマス

『なんでもありません!』

 

アフロディーテ

「また何か気が付いたら教えなさい。

 頭を動かさないと、問題は解決しないのだし。

 

 さて、続きね。

 アルジュナという巨神が素体に選ばれ、他の巨神の力が注がれ始めたけど、それは不十分の内に終わった。

 計画に反対する者もいたし、ゾルテトラとの戦闘で失われた機体も多かったし……。

 

 何もかも未完のまま、黒き巨神はティアマトの待つ銀河へ単身向かった。

 けれど、神殺しはなされなかった、失敗に終わったのよ」

 

カルマス

『それが1000年前のこと』

 

アフロディーテ

「アルジュナのプロトマスターは、自分が失敗したとしても、誰かが計画を引き継げるよう、情報を残していったのだけど……。

 銀河には、半端な言葉が伝説として残された。

 

 あなたも聞いたことがあるでしょう?

 『黒き最後の巨神が、最後の剣を持って再び現れる時、世界は生まれ変わる』。

 この一文を」

 

カルマス

『どうしてそのことを……』

 

アフロディーテ

「知っているに決まっているわ。

 私は、黒き巨神と肩を並べていた巨神の一体なのだもの。 

 デメテルも同じくね

 

 私達は最後の戦いの前、機体からマスターを逃がし、壊れたままに宇宙を漂流していた。

 そして人類防衛軍に回収され……アプスーの素体にされたの。

 でも、辛くなかったわ。

 自らのマスターだけは、救い出すことが出来たのだし。

 

 けれど耐え難かったのは……アルジュナのプロトマスターが、怪物、復讐の鬼になっていたこと」

 

カルマス

『心残りが怪物に、復讐鬼に……』

 

アフロディーテ

「数十年前、散ったはずの巨神アルジュナの一部が見つかり、アプスー計画は現実味を増した。

 人間達は、巨神の部品を見つけると、種類も構わず素体に投入した。

 

 全て、あの怪物が指揮したことよ。

 怪物は『世界を救う』に執着し、多くの命を失う計画すら、笑顔のままで行った」

 

デメテル

「ずっと、子どもの泣き叫ぶ声が聞こえて……。

 ああ! 何も出来ないこの身が口惜しかった……!

 だから、この場所でアフロディーテと話し合い、反乱の機を伺っていたのです」

 

アフロディーテ

「美と愛の巨神である、私から言わせてもらうわ。

 あの怪物は、かつては英雄だったのかもしれない。

 それにふさわしい心も魂も、持っていたのかもしれない。

 

 でも、今は違う。

 

 ただ一つの目的のみに邁進(まいしん)し、命を奪うのをためらわない存在など……ゾルテトラと変わりない。

 

 人を救う力を得て、剣を振るったとしても、それを持つ者の心が怪物であれば、どんな災害が引き起こされるか」

 

カルマス

『……』

 

アフロディーテ

「ここは、アプスーに呑まれた巨神や人間の意志が漂着する、感情の墓場。

 あなたは今、地獄にいるの。

 事情がよーく分かったかしら?

 巨神アルジュナオルタナティブのマスターさん?」

 

カルマス

『ここが、地獄。

 日の光もあって花も咲いていて……こんなにも、綺麗なのに』

 

アフロディーテ

「そして地獄は精神を溶かすの。

 かつては多くの巨神AIがいたこの場所も、アプスーへ吸収され、残るは耐えてきた私達と、つい先日来たあなただけ」

 

カルマス

『……自分に出来ること、ありますか』

 

アフロディーテ

「あら、先に覚悟を決めてしまったのね。

 しゃんとしろとは言ったけど、そこまで自分を追い込む必要はなくてよ」

 

デメテル

「この人間が協力してくれるのなら、もしかして……」

 

アフロディーテ

「怪物を止めることが出来るかもしれない。

 辺獄に落ちてきたマスター、私達の策に協力してくれる?

 目的は一つ。

 『アプスーのコントロールを乗っ取り、一時だけでも止める』。

 ……それだけよ。

 成功する確率は低いし、上手くいったとしても、自分達の存在がどうなるかは分からない」

 

カルマス

『出来ることを、やりたいだけです』

 

アフロディーテ

「であれば、時が来るまで、もう少し作戦内容を煮詰めましょうか」

 

デメテル

「ああ! 人間と触れ合うのは久しぶり! 

 私のマスター、愛しきペルセポネ以来ね!」

 

アフロディーテ

「彼女のペースに乗せられないよう、気を付けて頂戴……」

 

カルマス

『はい……』

 

 

 第33話 2020/05/31

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

A2

「人類防衛軍の動きは?」

 

新艦長

「ゾルテトラを、巨神アプスーで次々に撃破している。

 周りを掃除するあの動きは……長距離ワープ機能を使うつもりだろう。

 天の川銀河付近へ、一気に跳ぶ気配がある」

 

A2

「追うのが不可能になる、ということですか?」

 

新艦長

「気を揉まずとも良い、ワープはすぐに出来んからな。

 発動には時間がかかるし、ゾルテトラを呼び寄せてしまう。

 ううむ……防衛大臣の宣誓、『ゾルテトラ殲滅、地球へ凱旋』は、大言壮語ではなさそうだ」

 

森長可

「ゾルテトラどもが殺されてんのは、カーマの野郎、ぎりぎり歯噛みしているだろうなぁ」

 

A2

「あなたもブリッジに来ていたのですね」

 

森長可

「おう! (いくさ)もねぇと退屈で死にそうでよ!」

 

ジナコ

「はーい、そしてお目付け役の私っスよー」

 

A2

「オペレーター補佐からその他の仕事まで、お疲れ様です。

 貴女の知識や技術に、艦に居る全員が助けられています」

 

ジナコ

「素直に褒めてくれるなぁ。

 そういうとこ、マスター君に似てるよね、調子狂っちゃいそうッス……」

 

新艦長

「えほん、うほん、こほん……あーあー」

 

A2

「何でしょう、ゴルドルフ」

 

新艦長

「君はこう考えているのではないのかな?

 『長距離ワープ機能を軍に使われたら、追いかけられなくなってしまう……』と」

 

A2

「さっきも言いましたが?」

 

新艦長

「えーっと、その、うん、そうなのだけどね」

 

A2

「……ああ、なるほど!

 わー、こまったなぁ、どうしよー。

 何か手立てはあるのですか?」

 

新艦長

「ふっふっふっ!

 秘密にしていたのが、もう隠せそうにもない!

 実はこの艦には、ムジークの家宝たる長距離ワープドライブが」

 

土方

「おう、新艦長」

 

新艦長

「突然どしたの土方君。

 トラブルなら、簡潔に報告したまえよ」

 

土方

「長距離ワープドライブ、壊れているが、どうする」

 

新艦長

「……あれぇ?」

 

 

 ──艦内、副機関部

 

 

ジナコ

「チェックしたけど、壊れています、完全に。

 丸ごと取り替えないとダメ。

 新艦長、家宝の件……お気の毒で……」

 

新艦長

「いやおかしいだろう! 

 一週間前に点検した時には、故障の兆しなど」

 

ジナコ

「んー、誰かによって壊されたんじゃない? 

 足を引っ張るためにさ」

 

新艦長

「誰か、か。

 私達の敵が、この艦に潜り込んでいると?」

 

ジナコ

「その可能性は低いかな、推測ターン入りまーす。

 新艦長の話が確かなら、この艦は軍によってメンテを受けていたんでしょ?

 その時から反乱を見越して、追っかけてこれないよう最低限の所だけ壊して、泳がせたんだ。

 

 気づけなかったのもしょうがない話。

 あのコロニーから逃げてきた後、機関部とか見る時間なかったもんね」

 

A2

「どうしましょう。

 このままでは、軍と私達の距離は数光年も離れてしまいます」

 

新艦長

「長距離ワープドライブの替えなら、一つ、当てがある。 

 宇宙をまたに駆けている人物が持っていると、昔聞いた。

 いわゆる闇商人だな」

 

 

 ──取引指定場所、デブリ地帯、商売船玄関

 

 

???

「よく来たな、人間。

 リッチでゴージャス、アナーキーな商売船、ギャラクシーお竜屋へ」

 

A2

「……リ? ゴ? ア?」

 

???

「ごめんねお客さん。

 久しぶりに表の匂いがする人との取引だから、お竜さんご機嫌で……」

 

土方

「おう、坂本」

 

???(以下、坂本)

「久しぶりだね、元気そうでなによりだよ、土方くん。

 前に会った時はたしか、沖田くんの情報を売買した時かな」

 

土方

「お前のおかげで見つけることが出来た、礼を言う」

 

坂本

「求めるものにたどり着けたのは、君自身の実力。

 僕への礼なんていらないさ。

 さて、取引相手もそろったようだし、改めて自己紹介をしようかな。

 

 僕の名前は坂本龍馬。

 見ての通り、非合法の物を取引している闇商人だ」

 

A2

「(なぜか片目を隠している、白スーツの男ですね……)」

 

A2

「表社会ではいくらお金を積んでも手に入らない情報、部品などを取り扱っている。 

 横にいるのは秘書の」

 

???

「敏腕」

 

坂本

「……敏腕秘書のお竜さんだ、長い付き合いのね」

 

A2

「長距離ワープドライブ、本当に売ってくれるのですか?」

 

坂本

「確認したら、ちょうど1個在庫があった。

 この種類のパーツは、どれほど残骸漁りしても手に入るものじゃない、君達は幸運だよ」

 

新艦長

「商品に対しては、私が支払いを受けもとう。

 いくらで売ってくれる?」

 

坂本

「これはね、値段が付けられるものじゃないんだ。

 君のワープドライブだって、家宝になっていたほどの代物だろう?」

 

新艦長

「ぐっ……確かに、貴重な物だと理解はしているが」

 

坂本

「同じくらい貴重な物を出してくれないと、取引したくないなぁ」

 

新艦長

「しかし、慌ててコロニーから逃げ出してきた手前、価値のあるものなど、何も……」

 

坂本

「1日待つ。

 僕も追われる立場だ、それ以上は時間を割けない」

 

新艦長

「分かった、御眼鏡に適う物を持って来ようではないか」

 

???(以下お竜さん)

「じー……」

 

さん

「そうだね、そこの……肉体を得たAI、とか、貴重なものじゃなかな?」

 

土方

「坂本ォ!!」

 

坂本

「……冗談だよ、土方くん。

 緊張を解す、アイスブレイクと言うやつさ」

 

???

「龍馬のおんちゃーん、お客さん来ちゅうが?」

 

坂本

「こら、以蔵さん、取引が終わるまで部屋で待っていてと……」

 

A2

「(幼い子ども……? 

 それにしても、独特の言葉使いを……)」

 

謎の子ども

「じゃけど……いっぱい待っちょったけんど……」

 

坂本

「じゃけどやないが! 以蔵さん!!」

 

謎の子ども

「……分かった。部屋で、待ちゆうきに」

 

坂本

「外はとても危ないんだ。

 ゾルテトラや軍、あらゆるものが襲い掛かってくる。

 部屋の中なら、何をしていても良いから。

 本を読んで、大人しく待っているんだよ」

 

お竜さん

「遊んでやろうか、イゾー」

 

坂本

「龍馬のおんちゃん、お仕事しゃんしゃん終わらせて、てごうてにゃあ」

 

坂本

「後でね。今は部屋へお帰り。

 ほんに、以蔵さんは昔から、わりことっ子じゃ……」

 

A2

「貴方の子、ですか?」

 

坂本

「……いや、大量に不法投棄されていた所を拾ったんだ。

 不憫、だったからね」

 

A2

「子どもが、不法投棄?」

 

坂本

「知らないのかい? 

 巨人に乗せるクローンパイロットの中で、時々産まれる不良品は、一昔前はデブリ地帯に捨てられていたのさ。

 

 まぁ……ある記者が軍を糾弾した結果、秘密裏に行っていたことは秘密裏のまま、軍は廃棄を止めることになったのだけど」

 

お竜さん

「リョーマはあのイゾーを結構可愛がっているぞ。

 その分、躾はビシバシだが」

 

坂本

「緊迫感が薄れるから、あまりこっちの事話さないでね」

 

お竜さん

「つーん」

 

坂本

「話を戻してっと。

 ゴルドルフくん、土方くん、A2くん。

 ワープドライブが欲しいなら、艦の中をひっくり返して、探しておいで。

 ……1000年以上生きている僕が、喉から手が出るほど欲しくなるような品物をね」

 

 

 ──ゴルドルフ艦、外部との接続橋

 

 

土方

「あれが坂本龍馬という闇商人だ。

 お前の目にはどう見えた」

 

A2

「一筋縄ではいかない人物だとは思いましたが……

 冷徹な男とも、腹黒とも思いませんでした。

 あのイゾーなる子どもの事、思いやっているようでしたし……」

 

土方

「ン、そうか、そう見たなら良い。

 艦内に戻って、坂本の気に入りそうな品でも探すか」

 

A2

「はい」

 

 

 ──医務室

 

 

キルケー

「貴重な物……か」

 

A2

「何か心当たりでも?」

 

キルケー

「1つあるが、これは人にあげられない。

 返すべき人がいる、大切な物だ」

 

A2

「追い詰めるようなことを言ってしまい、ごめんなさい」

 

キルケー

「そんな風に感じてはいないさ、気にしないでおくれ。

 しかし、医務室にあるのは、誰かの命を救うのに必要な物ばかりだ。

 どれが欠けても困る」

 

A2

「他の人を訪ねて見ますね」

 

キルケー

「気を付けて行っておいでー」

 

 

 ──食堂

 

 

A2

「ワープドライブと引き換えになるような、貴重な物を探しているのですが……」

 

ネームレス・レッド

「私が君の助けになれるだろうか。

 しがない料理人だぞ」

 

A2

「貴方が持っている見識は深い。

 万物を美味しく料理するその腕、知恵も素晴らしいものです。

 一芸に秀でた者の力は、他の物事にも通じるはず」

 

ネームレス・レッド

「期待が重いな……」

 

A2

「その赤い宝石のペンダントは?」

 

ネームレス・レッド

「私の宝物だ。

 ある人から贈られた……死んだとしても忘れることは無い、大切な、大切な想いの証。

 もっとも彼女は、私へ『贈った』とは思っていないかもしれないがね」

 

A2

「それほどまでに、心を寄せた人が貴方にも……」

 

ネームレス・レッド

「若い頃に離れ離れになり、それ以来、会えていない。

 彼女のことだ、銀河のどこであろうと元気にやっているとは思うが。

 これは地球産の宝石で作られた物だ。

 言われた通り、貴重な品……」

 

A2

「先ほどの話を聞いて、譲ってくれとは強請(ねだ)れません」

 

ネームレス・レッド

「見せるだけなど、意地の悪いことをしてしまったかな」

 

A2

「いえ、大丈夫です。もう少し探してみます」

 

ネームレス・レッド

「君達から聞いた話をもとに、私なりに坂本龍馬を考察してみたのだが。

 高価な物、貴重な物が、イコール彼の欲しがる物とは限らないのではないかな?」

 

A2

「つまり?」

 

ネームレス・レッド

「『想い』が込められた物を探してみたまえ、ということだ」

 

 

 ──数時間後、商売船玄関

 

 

坂本

「時間内に来てくれて助かるよ。

 君達3人が持ってきてくれた物を鑑定しようか。

 さぁ、見せておくれ」

 

新艦長

「私からだな……どうだ! 

 ぜぇ……はぁ……重かった……。

 見たまえ! どれも価千金の物だぞ!」

 

坂本

「油絵、洋酒、宝石に、勲章数種類。

 うん……これじゃ駄目だね、どれも手にしたことがある」

 

新艦長

「なっ……!」

 

坂本

「油絵は、真作ではなく模造品。

 洋酒は、ここ数十年で作られたコロニー製のもの。

 宝石は人工の物を、天然に見せかけるために着色、幾つかの石と貼り合わせてある。

 勲章は言わずもがなだ、売れない。

 裏の世界では人気の無い商品だ、鋳つぶせば別だけど……」

 

新艦長

「……」

 

A2

「(ゴルドルフ……立ったまま気絶しかけている……)」

 

新艦長

「で、では、何であれば満足するというのだ!」

 

坂本

「君の軍服の襟裏、何を付けているのかな」

 

お竜さん

「リョーマの目は千里眼だぞ、隠し事は出来ない」

 

坂本

「近くで見てみようか。

 手作りのバッジだね、ありふれた金属で作られている」

 

新艦長

「……今は亡き教育係が、幼い私へプレゼントしてくれた物だ。

 当時、町の子ども達の間で流行っていた物を模した……それだけ、それだけの物だ!」

 

坂本

「いいね、これなら価値がある」

 

新艦長

「えっ?」

 

坂本

「世界に1つしかない、ということだろう? 

 しかも、制作者は世を去った。

 再現性の無い、貴重な品だと言える」

 

新艦長

「トゥールの……彼女の想いが、これには……」

 

坂本

「これと同等に貴重な物を、あと2つ。

 用意できればワープドライブを売り渡そう、どうだい?」

 

新艦長

「……分かった、渡そう」

 

坂本

「次はなにかな」

 

土方

「お前のやり口は分かっている、好みもな。

 ……これだ」

 

坂本

「浅葱色の羽織、これも良い。

 顔料は地球産、染色方法もジャパンコロニーに連なる人々しか知らなかった。

 貴重な品だ、先程の物と釣り合うほどの価値がある。

 ……じゃあ、あと1つだ」

 

A2

「最後は私ですね。

 ……本を持ってきました、ある人からプレゼントされた」

 

坂本

「地球で造本された書籍、"ギルガメッシュ叙事詩"か。

 確かこの表紙の物は、ある一文が『学術』的でないと物議を呼び、発禁とされた筈。

 ……君はこれを読んで、どう感じた?」

 

坂本

「初めて読む本でした。

 ページを(めく)る度に嬉しいのに、登場人物が悲しめば、同じ気持ちになって……。

 けれど、A2は最後まで読んでいないのです」

 

坂本

「なぜだい?」

 

A2

「……一緒に、読みたい人がいたのです。

 でも、その人とは離れ離れになってしまって、その」

 

坂本

「君は物語の結末を、まだ知らないということか」

 

A2

「そう、です」

 

坂本

「……いい。

 これなら、ワープドライブと引き換えにしたって惜しくない。

 取引成立だ。

 商品を渡し、今日中に艦へ取り付けてあげよう。

 しかし、条件がある」

 

A2

「なんでしょう?」

 

坂本

「君が、その本を最後まで読み終えることだ。

 結末を知らないままにさせるのは、可哀想だからね」

 

 

 ──商売船玄関

 

 

A2

「(ギルガメッシュは旅に出た。

 『不死』になる方法を探す旅。

 山を登り、谷を渡り、川を泳いで……永遠と思えるほどの旅をして、不死となった人物と出会う……)」

 

謎の子ども

「龍馬のおんちゃーん、おんちゃーん! 

 どこ行ったがー?!」

 

A2

「あの子どもは、確かイゾーと呼ばれていた……」

 

謎の子ども

「あっ、お客さんが……?」

 

A2

「先ほども会いましたね。

 私はA2と言います、貴方の名前は知っていますよ。

 

謎の子ども

「ん? 会うちょったが?」

 

A2

「(独特の言葉使いなので、断言できませんが……困惑、している?)」

 

謎の子ども

「03! 

 部屋から出たらいけんちゅう、龍馬のおんちゃんが言うちょったやないか!」

 

A2

「(同じ顔の子どもが、もう1人?!)」

 

謎の子ども

「07、じゃけんど……」

 

A2

「えっと……これはどういう……」

 

お竜さん

「──クローンだ、リョーマが言っていただろう」

 

A2

「よろしければ、詳しい説明をくれませんか?」

 

お竜さん

「イゾーは沢山作られて、沢山捨てられていた。

 リョーマがたまたま拾ったのは、廃棄されたばかりの100体のイゾーだった」

 

A2

「100人も……子どもが……」

 

お竜さん

「病気で87体死んだ、生き残ったのは13体だけだ。

 みんな引き取って、字とか計算をリョーマは細々教えている。

 リョーマが死んでも生きていけるように、そのためだ」

 

A2

「……」

 

謎の子ども→イゾー03

「角付きのお客さん! 何読んじゅーの?」

 

A2

「えーっと、えーっと……彼はなんと言っているのでしょうか」

 

お竜さん

「お竜さんは口数少ないクールビューティーだ、長々と何か説明するのはキャラ性がぶれる。

 イゾー07、【あれ】取ってこーい」

 

謎の子ども→イゾー07

「うん!」

 

 

 ──数分後

 

 

イゾー07

「お兄ちゃんに使い方見せちゃる。

 ……龍馬のおんちゃん!」

 

あれ

【龍馬のおじさん】

 

イゾー07

「しゃんしゃん!」

 

あれ

【早く】

 

イゾー07

「てごうて!」

 

あれ

【構って】

 

イゾー07

「わりことっ子!」

 

あれ

【いたずらっ子】

 

イゾー07

「ん!」

 

A2

「翻訳機、ですか」

 

イゾー07

「えと、何読んじゅーの!」

 

あれ→翻訳機

【何を読んでいるのですか?】

 

A2

「神話について記された本です。

 ギルガメッシュ叙事詩と言うもので」

 

イゾー03

「面白そうぜよ!」

 

イゾー07

「わしにも見せて!」

 

A2

「ああ……廊下から玄関の隅から、13人もイゾーさんが集まってきて……。

 ううん、読み聞かせでも、しましょうか」

 

イゾー03

「やったー!」

 

 

 ──商売船玄関

 

 

A2

「そして、ギルガメッシュ王は人々に後の世を託し、地上を去りました。

 親友と同じように、死の眠りについた。

 自分が死ぬのを善しとしたのです。

 お話は、これでおしまい」

 

イゾー03

「悲しい話じゃ……」

 

イゾー10

「うん……」

 

坂本

「以蔵さん達、僕の言いつけを破って、何をしているのかな?」

 

イゾー07

「おんちゃん!」

 

お竜さん

「お帰り、リョーマ。

 仕事は終わったのか?」

 

坂本

「ただいま。

 ワープドライブの規格が同じだったからね、順調に終わったよ」

 

イゾー07

「おんちゃん……あの……にゃあ……」

 

坂本

「怒ったりはしないよ、以蔵さん07。

 君達の好奇心を見くびっていた僕の落ち度だ」

 

イゾー07

「わぁ!」

 

坂本

「……けれど、今日のおやつはちょっと減らそうかな」

 

イゾー07

「ええー!!」

 

お竜さん

「さぁイゾー達、部屋へ帰る時間だ。

 言うこと聞かないと、遅い順から食べちゃうぞー!」

 

イゾー03

「姉ちゃん怖いぜよー!」

 

イゾー10

「早う逃げー!」

 

イゾー07

「わー!」

 

坂本

「みんな帰ったね、これでよし。

 じゃあ、ちょっとお話ししようか、A2くん」

 

A2

「えっ? 私?」

 

坂本

「お竜さんに無理を言って、人払いしてもらったんだ。

 それもこれも、君と話をするために。

 君は……1000年前を生きた、あの巨神アルジュナの意思なのかい?」

 

A2

「いいえ、違います。

 私は巨神アルジュナの……融合治療機能から産まれた、マスターと混ざってしまった存在、なのです。

 貴方の知っている人から、変質していることでしょう。

 産まれる前の記憶が無いので、正しいことは言えないのですが……」

 

坂本

「君が僕になぜ反応しなかったのかという、その点は納得したよ。

 何故なら、君と僕は面識があったのだからね」

 

A2

「知人、だったのですか」

 

坂本

「僕はしがない旧式戦闘機乗り。

 君と『あの人』は突然現れてね、僕らを救ってくれた。

 軍属から見た君達は……眩しかったよ。

 あらゆる現実を打ち破る、夢の剣の持ち主のようにも思えた。

 救世主、そんな表現がぴったりの」

 

A2

「救世主……」

 

坂本

「巨神アルジュナは、軍に見捨てられた僕達小隊をゾルテトラから守ってくれた。

 その後、感謝の気持ちから物資の支援をしたのだけど……巨神のマスターと話をした時、僕は効いてしまったのさ」

 

A2

「何をです?」

 

坂本

「『乗り手のいない巨神が数体いる』と。

 僕はその言葉に食らい付いた、危険を承知で挑戦したいと。

 人類を救うという夢物語も僕の背中を押して……お竜さんに出会ったんだ」

 

A2

「彼女も、巨神の意思だったのですね」

 

坂本

「そして、以蔵さんも僕に付いてきた。

 付いてきて、しまったんだ。

 僕と以蔵さんは軍を脱走し、特別製の巨神へ選ばれてからは、背中合わせで戦った。

 けんど以蔵さんは、巨神を欲しがった軍に罠へ嵌められて、捕まって……」

 

A2

「……」

 

坂本

「わずかな肉片しか、僕の手元には帰ってこなかった。

 それからも僕は戦い続けた。

 人類を救えると『あの人』が言っていたから。

 夢物語だけを……(よすが)に……」

 

A2

「その後は、私も知ってはいますが……」

 

坂本

「ゾルテトラの母を殺すため、最後の戦いへ向かった『あの人』は、帰ってこなかった。

 世界は救われると言ったのに、いつまで経っても何も変わらなかった。

 それを知った時──裏切りだと、思ってしまったんだ」

 

A2

「(アプスーも口にしていた単語だ。

 裏切り……)」

 

坂本

「僕はね、この1000年間、『あの人』への恨みだけで生きてきだ。

 血反吐をこぼし、憎しみで奥歯をすり減らしながら。

 その途中で、以蔵さんのクローンという、幸運な出会いもあったけれど。

 

 こうなる前はね、もっと良い人間だったと思う、お人好しって言われるような。

 ゾルテトラとすら、分かりあえると信じていた。

 軍や人が立ちふさがろうとも、撃ちたくなかった。

 

 けれど、1000の月日が、僕の心を憎しみで塗りつぶした。

 

 ……ずっと隠している片目の正体、君に見せようか」

 

A2

「あ、そんな……!?」

 

坂本

「巨神化症を発症し、命を極限まですり減らした僕を、お竜さんは生かそうとしてくれた。

 君と『あの人』のように、融合、したんだよ。

 この竜の如き血走った片目は、その後遺症だ」

 

A2

「(アプスーと同じ激情を、彼から感じます。

 復讐は炎に例えられると言いますが、彼の生きざまは正に……)」

 

坂本

「もう僕は、坂本龍馬という肉にしがみ付いているだけの怨念、残り火さ。

 自覚はしている」

 

A2

「巨神アルジュナへ恨みを持つ貴方が、これ以上なにを言うのです」

 

坂本

「……再びこの世に現れた『あの人』を完璧に殺す、その方法だよ」

 

 

 ──1時間後、商船玄関

 

 

坂本

「取引は円滑に終わったね。

 僕はこの世に2つとない貴重な品を手に入れて、君達はワープドライブを手に入れた」

 

新艦長

「うむ……そうだな……」

 

A2

「(ゴルドルフ、見るからに落ち込んでいます。

 バッジを失ってしまったからでしょう。

 今は亡き教育係から贈られた、『想い』込められた物を……)」

 

土方

「取引、感謝する、坂本龍馬」

 

A2

「(土方は落ち着いているというか、悲しんでいないような……?)」

 

坂本

「素晴らしい本も手元に置くことが出来た。

 今回の取引、上々な結果かな」

 

A2

「(キアラから頂いた、初めての本が……。

 でも、マスターを救うため、我慢、我慢。

 手放してごめんなさい、キアラ、マスター……)

 

坂本

「君達、地球へ向かう前に、僕からある物を受け取ってくれないかい?」

 

新艦長

「もらおうか……んん?!」

 

坂本

「どうしたのかな、ゴルドルフくん」

 

新艦長

「バッジに羽織、A2の本ではないか!」

 

坂本

「良ければ持っていってくれないか? 

 もちろん、お代なんていらないよ」

 

新艦長

「……」

 

A2

「ゴルドルフ、ゴルドルフ? 

 ……立ったまま、気絶している」

 

土方

「これが坂本龍馬のやり方だ。

 客が欲しい物をちらつかせ、それに対し、どれだけ大切な物を渡せるか、そいつの人間性を見やがる」

 

坂本

「棘のある言い方をするんだね」

 

土方

「俺が10年前、沖田の情報を買うのに、どれだけやきもきさせられたと思っている」

 

坂本

「はははは……その件は本当にごめんよ」

 

 

 ──艦内、ブリッジ

 

ジナコ

「周辺にゾルテトラ反応、無し!

 跳躍先確認、ポイント、天の川銀河!」

 

A2

「(マスター、あなたに必ず追い付いて見せます。

 待っていてくださいね……)」

 

新艦長

「全搭乗員、着席確認……君も座るの」

 

A2

「あっ、ごめんなさい、ゴルドルフ」

 

新艦長

「シートベルトして……よし、跳躍シークエンスに移れ!」

 

A2

「(マスター以外のことを少し考えて、心を落ち着かせよう。

 キアラより贈られた本も戻ってきたことですし。

 

 読んだこと、お話の最後を思い返しましょう。

 

 蛇に霊薬を取られまいと、先んじてそれを飲み、不死となったギルガメッシュ王。

 その後、どこへ行ったのか……)」

 

 

 

新世紀ロボット番組、戦闘巨神アルジュナコラボイベント

            ↓

          亜種並行世界 

         人理定礎値:浸潤

A.D.5020年 《水没未来銀河 ティアマト》 

~終焉告げる蒼星(そうせい)

 

 

 第34話 2020/06/06

 

 

 ──夢を、見ていた。

 天の川銀河へ向かう、時の中で。

 

 

???

「きみ、ないているのかい?」

 

A2

「この声……知らない人のものだ。

 誰です? どなたですか?」

 

???

「ぼくは、ボイジャー。

 とおいむかし、にんげんがつくり、ほしのうみへ、たびだたせたもの。

 でんち(いのち)は、とうのむかしにうしなってしまったけれど。

 こころはここに、ちゃんとある。

 ときのなかで、きみのなみだをみたよ」

 

A2

「今は確か、天の川銀河へ向けた長距離ワープの最中で……。

 ああ確かに、私、泣いています」

 

???(以下ボイジャー)

「なみだのりゆうを、しっているかい?」

 

A2

「理由……この、前も後ろも分からない時の奔流の中で、涙を流す理由は……」

 

ボイジャー

「きみとぼく、にているきがする」

 

A2

「貴方と……私が?」

 

ボイジャー

「きみは、とおい"あおのほし"へかえる。

 ぼくは、まだまだとおくへ……はてにいく。

 

 ぼくはね、えがおでたびをしようって、きめているんだ。

 りゆうもちゃんと、おぼえているよ。

 

 あのほしに、ぼくのともだちがいて、ぼくを、みつづけてくれている。

 だから、そのひとがきぼうをわすれないよう、えがおで、たびをつづけているの」

 

A2

「地球は、ゾルテトラによって滅ぼされているはず。

 貴方を観測する人類なんて……」

 

ボイジャー

「まだ、いるんだ。いちばんふるい、おうさまが。

 はじめて、ものがたられた、えいゆう。

 すべてを、みたひと」

 

A2

「一番古い、王?」

 

ボイジャー

「ぼくは、たびをする。

 でんち(いのち)もとまって、からだも、ばらばらに、なったけど。

 こころだけは、ずっと、ずっと。

 そして、だれかがゆめみたように、いつか、そらのはてに、たどりつくんだ」

 

A2

「果てへの旅路……」

 

ボイジャー

「なみだのりゆう、わからない?」

 

A2

「分かりそうなのに、分からない。

 こんな時、誰かと、いえ、マスターと言葉を交わせたのなら……。

 きっと楽になって、涙の理由も、すぐに分かるのに」

 

ボイジャー

「おびえないで、だいじょうぶ。

 きいてごらん、きみのこころに」

 

A2

「こころ……」

 

ボイジャー

「ばらのこえに、みみ、かたむけるように。

 じぶんのこころ、こえを、きいてみるんだ。

 

 でも、いいなりになってしまっては、あぶないよ。

 こころは、とてもつよいものだから……」

 

A2

「温かい言葉、ありがとう。

 ──ボイジャー、とおい昔の、人類の夢よ」

 

ボイジャー

「ぼく、いかなくちゃ。

 まだまだとおくへ、うんと、とおくへ。

 おうさまだってしらないけしきを、はじめてみるために、さ。

 『ちゃんと、あったよ』って、ほほえむために」

 

A2

「私も行かなくては。

 マスターを取り戻し、人類の始まりの星、いつか誰かが見た景色を、初めて見るために」

 

ボイジャー

「それなら、ぼくときみは、ここですれちがわなきゃ、いけないね。

 スイングバイ、だ。

 きみのいんりょくで、とおくまでいける」

 

A2

「さようなら、ボイジャー」

 

ボイジャー

「さようなら、A2。

 きみが、きみのともだちと、あえますように。

 

 ……ひょっとして、おうさまに、さいごに、おくられるべきことばは……きみが……いう……の……かしら……?」

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

新艦長

「ワープ成功! 

 全員、着席したまま、私の点呼を待つように!

 ブリッジは確認完了。

 時空漂流者無し! 他のブロックは……」

 

A2

「私、気絶、いや、不思議な夢を見ていたような……」

 

新艦長

「大事無いか?

 体調に不安があるなら、すぐに報告するのだぞ」

 

A2

「長距離ワープ中に夢を見たのですが、これは」

 

新艦長

「ワープ中の夢? まれにある事例だな。

 時空の中に漂う、過去現在の様々な電波が、それに関係しているのでは……と、レポートで読んだ覚えがある。

 身近なものであれば、テレビやラジオ電波、通信など」

 

A2

「通信……」

 

新艦長

「人類がかつて飛ばした、ボイジャー1号機2号機、パイオニア号といった、宇宙探査機からの通信を聞いたという話もある。

 が、『時空酔いによる幻聴』だと、あのレポートでは片づけられていたな」

 

A2

「ブリッジから見える宇宙(そら)が、天の川銀河。

 人類の故郷」

 

新艦長

「軍学校の授業で知ってはいたが、まさか実物を見ることになるとは……。

 これが『水没銀河』、か」

 

A2

「水没銀河?」

 

新艦長

「ここからでも展望ガラス越しに外が見えているな。

 ほら、何か浮かんでいるだろう」

 

A2

「小惑星などのデブリの合間に、ゾル状の不定形なものが」

 

新艦長

「ゾルテトラの遺体だ。

 寿命か、それとも別の要因で死を迎えたのかは不明だが、多量の水分を含んでいるというのに、宇宙空間でも氷結や蒸発せず、遺体は漂い続けている。

 これらは地球から広がり、この銀河を隅々まで浸した。

 故に、我らはこの宇宙(そら)を『水没銀河』とも呼んだのだ」 

 

A2

「艦長、自室へ戻っても大丈夫でしょうか。

 軍やゾルテトラと接触する前に、少しでも気持ちを落ち着けたくて」

 

新艦長

「うむ、休んでくると良い」

 

A2

「直ぐに出撃できるよう、準備はしておきますので」

 

新艦長

「ではまた後で。

 ……あれ? 今、私のことを艦長と呼んでくれた? 

 くれたよね?!」

 

ジナコ

「呼んでもらえて良かったッスねー。

 ゴルドルフ……艦長」

 

新艦長

「ジナコ……君!」

 

ジナコ

「うわぁぁ! 

 艦長が喜びで体を震わせているせいで、椅子、椅子が揺れて……今周辺の探査中なのにぃ!」

 

 

 ──マスター自室

 

 

A2

「(ボイジャーが言っていた。

 『ばらのこえに、みみ、かたむけるように。

 じぶんのこころ、こえを、きいてみるんだ』と。

 

 私はA2となる前のことを、断片的にしか覚えていないと思っていた。

 夢で垣間見たそれは……大切な者を亡くす、喪失ばかりを教えてきて。

 自分の心が、得体の知れないもののようで、怖かった。

 だから見ない振りをした。

 涙も悲しみも、マスターを想うことで、誤魔化そうとしていた。

 

 決戦に向かう前の今こそ、心に立ち向かい、涙と恐怖の理由を知るべきなんだ。

 自らの心に耳をかたむけ……『涙の理由』を、探そう。

 

 A1(エーワン)

 私の前身にあたる存在、その記憶が眠る奥深くまで、心を探ろう。

 マスターを救うための方法だって、見つかるかもしれない。

 

 ──私はもう、私の心を恐れない、過去を恐れない!

 自分にあったこと、その全てを知り、受け止めてみせる!

 だから!!)」

 

???

「おじゃましまーす。

 あら、A2さん、ベッドに横たわって……瞑想、しているんですね。

 あどけない寝顔、油断丸出しでーす。

 くすくす、くすくすくす……」

 

 

 ──取引指定場所、デブリ地帯、商売船玄関

 

 

???

「ワープドライブを渡しなさい、殺されたくなければ」

 

坂本

「はじめましてだね、カーマ。

 いや、マーラと呼んだ方が君は嬉しいのかな?」

 

???→マーラ:オリジン

「ドライブを隠し持っているのは調べ済み。

 拒めば、このちっぽけな商売船を、ゾルテトラに喰わせる」

 

坂本

「ずいぶんと焦っている様子だ。

 そんなに、あのアプスーに煮え湯を飲まされているのかい?」

 

マーラ:オリジン

「ほざくな、たかが巨神パイロットが……!」

 

坂本

「君だって、たかが巨神パイロットだろう?」

 

マーラ:オリジン

「見せてあげるわ。

 私が母に産み直されたことで手に入れた力。

 ほら、私の指先から……」

 

カーマ

「ふ……うふふふふ……」

 

カーマ

「あは……ははは……」

 

マーラ:オリジン

「私の意のままにも、個々の自由意志でも動く、肉人形が無数に。

 これらへ命じれば、貴方をばらばらとする事だって、瞬きのうちに出来てしまうのですよ?」

 

お竜さん

「コイツ、性根がヌメヌメだ。

 海藻臭いぞ」

 

坂本

「分かったよ。

 ワープドライブを渡そうじゃないか」

 

マーラ:オリジン

「……1つだけ?」

 

坂本

「残りは先客があってね」

 

マーラ:オリジン

「ワープドライブは1度しか使えない。

 片道キップだと知っているでしょうに」

 

坂本

「知っている。だから1つしか渡さないんだ。

 さて、代金を」

 

マーラ:オリジン

「払うと思った?」

 

坂本

「僕は商人、この仕事をもう何百年もやっている。

 代金がいただけないのは、公平な取引を心がけている僕のプライドが傷つくな」

 

お竜さん

「久しぶりにやるか、もずく酢退治だ」

 

マーラ:オリジン

「はぁ……良いですよ、お支払いします。

 何を渡せば満足するの?」

 

坂本

「欲しがった理由を教えておくれよ。

 だってゾルテトラは、こんな物に頼らなくても長距離ワープ出来るってのに」

 

マーラ:オリジン

「ワープ以外に、目的があるから。

 ゾルテトラは自由に転移できる、眷属と化した私達も。

 けれど、母なるティアマト神はそうではない」

 

坂本

「へぇ、親孝行か」

 

マーラ:オリジン

「母なる神は、地球に縫い止められている。

 忌々しい『ある者』の手によって。

 その者をワープで放逐するのが、私の狙い」

 

坂本

「倒せないなら、追い出してしまえと」

 

マーラ:オリジン

「鎖さえ解いてしまえば、ティアマト神は自由となる。

 ゾルテトラが浸潤している銀河へ足を進め、ヘリオポーズすら踏破しましょう。

 そして母と共にオールトの雲を越え、外宇宙へ逃げた人類に喰らいつく!

 

 なんて……なんて愉快! 

 結局人間は、母から逃れられませんでしたとさ!

 うふ、あは、ははははは!!」

 

坂本

「人類が勝つか、ゾルテトラが勝つか。

 ……僕はどうでもいいかな。

 アプスー、『あの人』の生死以外、興味を引かれるものは無い」

 

マーラ:オリジン

「じゃあこうしましょう。

 ワープドライブのお礼に上乗せして、アプスーの死も贈りましょう。

 私が勝つと信じてくださる? 坂本龍馬」

 

坂本

「オッズは五分五分。

 希望と絶望は半分半分さ、いつだってね。

 確証も無いのに何かを一途に信じられるほど、人は強くはあれない」

 

マーラ:オリジン

「私は、私と仲間達、ゾルテトラの力を信じている。

 人類を滅ぼす。

 そのためにアプスーを叩き潰し、母を縛った『ある者』を追放する。

 ……ゾルテトラだけが世界に満ちれば、きっと、もう一度会えるはずなんだ」

 

坂本

「誰にだい?」

 

マーラ:オリジン

「私、いや、()の姉さんに……!」

 

 

 ──A.D.5020年 地球

 

 

???

『A──Aaaa──!!!!』

 

???

「おお、来たか!」

 

???

『A──アプ──ス──!!!!」

 

???

「と、(おれ)を期待させておいて、全陣営まだ火星の手前ではないかー!」

 

???

『──!!』

 

???

「させん! 天の鎖よ!

 ……まぁ良い。

 ヴィマーナには劣るが、あの船ならば時をそう待たずして来るだろう。

 父なるアプスーの到来が先か、我が見た、終わりを告げる蒼星が先か。

 民も国もなく、唯一の花も去った、(から)の星で」

 

???(以下ティアマト)

『A──aaa──!!!!』

 

???

「この冥界王ギルガメッシュが! 人の3000年に渡る旅の結末を!

 ……我が双眸にて、見届けようではないか」

 

 

 ──???

 

 

A2

「ここが……A2の心の深淵、そして」

 

???

『おはよう、今日も任務だね』

 

???

「はい、朝食の後、9時には出発です、マスター」

 

A2

「私、いや、A1の記憶の断片、ですか」

 

 

 第35話 2020/06/11

 

 

 ──A1の記憶の中

 

 

A1

「問おう、あなたが私の操縦者(マスター)か?」

 

???→アルジュナのマスター

『そうだよ、巨神のAI。

 いや、意志と言った方が正しいかな』

 

A1

「……? 問おう、あなたが私の操縦者(マスター)か?」

 

アルジュナのマスター

『うん。

 自分が君のマスター、君の乗り手だ』

 

A1

「手を……出して。

 遺伝子登録を行い、私と契約してください。

 ──神と人が、手を取り合うこと。

 それこそが、戦闘代行巨神『アルジュナ』の真の力を呼び起こす条件なのです」

 

アルジュナのマスター

『これからよろしく』

 

A1

「よろ……しく?」

 

アルジュナのマスター

『色々迷惑をかけるけど、愛想を尽かさないで欲しい……っていう意味かな』

 

A1

「愛想? 迷惑?」

 

アルジュナのマスター

『教えること、沢山あるなぁ……』

 

A2(壁の影から覗いている姿)

「今見えたものが、私の前身、A1の記憶の断片。

 彼は私と違い、角や尻尾は有りません。

 されど同じように、マスターと出会ったのですね」

 

 

 ──巨神整備ドック(A1の記憶の中)

 

 

A1

「あなた、何を持ってきたのですか」

 

アルジュナのマスター

『立体的戦闘技法の本と、絵本の読み聞かせ音声かな』

 

A1

「えほん、よみきかせ」

 

アルジュナのマスター

『簡単なものから始めた方が良いかなと思って。

 ほら、聞いてみて』

 

A1

「……」

 

アルジュナのマスター

『真剣な顔……自分も頑張ろうっと……』

 

 

 ──数時間後

 

 

A1

「マスター、音声、終わりました。

 次のものをください」

 

アルジュナのマスター

『えーっと、宇宙における三次元戦闘で、最も大切な、大切な……うーん』

 

A1

「マスター、あなたも、簡単なものから始めた方が良いのでは?」

 

アルジュナのマスター

『君の言うとおりかもしれないね……』

 

 

 ──母艦内、仮想戦闘訓練場(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『今日も訓練お疲れ様。

 成績、一番良かったみたい、君のおかげだよ』

 

A1

「お疲れ様です、マスター。

 では、メンテナンス時間を活用し、読書を行います」

 

アルジュナのマスター

『勉強熱心だね。

 難しい本もスラスラ読んでしまうし。

 この前貸した巌窟王、もう読み終わったんでしょ?』

 

A1

「本を好むようになったのは、あなたが読書のきっかけをくれたから」

 

アルジュナ

『きっかけ? 絵本の読み聞かせのことかな』

 

A1

「あの出来事がなければ、私はただ与えられた情報を精査、分析、分類する事のみをしていたでしょう。

 けれどマスターは、『自らの目で見て、自ら学ぶ』という選択肢を教えた。

 

 もっと知りたい、学びたいと、今は強く思うようになりました」

 

アルジュナのマスター

『そっか。良かった』

 

A1

「良い、とは?」

 

アルジュナ

『本を読んでいる君の姿、楽しそうだから。

 楽しめることが見つかって、良かったなって』

 

A1

「楽しい、ですか。

 そうか……これが楽しいと言う感情……」

 

アルジュナ

『戦術や巨神の機構以外の本も、今度持ってくるよ。

 一緒に読もう』

 

A1

「はい、マスター。楽しいです」

 

アルジュナのマスター

『楽しみってこと?』

 

A1

「発言を訂正します。

 新しい本、楽しみ、です」

 

A2(部屋の中を覗いている姿)

「そして、彼はマスターと親愛を深めていった。

 私と同じ、いえ、それ以上に」

 

 

 ──宇宙空間(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『周辺空域のゾルテトラ、殲滅完了。

 実戦はやっぱり怖いなぁ』

 

A1

「怖い?」

 

アルジュナのマスター

『仲間がやられる事を考えても怖いし、討ち漏らして、民間人が襲われるのも怖い。

 自分が死ぬ可能性だって、ある』

 

A1

「会話情報から判断。

 マスターは、死が怖ろしいのですね」

 

アルジュナのマスター

『うん。だって、死は永遠だからね』

 

A1

「永遠」

 

アルジュナのマスター

『死んだ人には、二度と会えない。

 それに……死んだら、何かを想うことも出来ないんだ』

 

A1

「思考出来ないことが、怖いのですか?」

 

アルジュナのマスター

『この感情が失われるのが怖いのかも。

 臆病なマスターでごめん、幻滅した?』

 

A1

「いえ。

 死を怖れるという思考、私には無いものです。

 あなたを幻滅するということ、決してありません」

 

アルジュナのマスター

『……母艦に帰ろうか』

 

A1

「巨神アルジュナ、損傷は軽微。

 マスターと共に、これより帰還します」

 

 

 ──母艦内、自室(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『この世界は、死がありふれている』

 

A1

「マスター、夜遅くまで何を見ているのです」

 

アルジュナのマスター

『ニュースだよ。

 ゾルテトラがコロニーを襲って、10万人が補食されたんだって。

 

 一人一人、掛け替えのない存在だっていうのに、紙面に載れば、ただの数字になってしまう。

 

 もう嫌なんだ、こんな世界。

 全て、終わらせる事が出来たなら……』

 

A1

「顔色が悪い、休みましょう」

 

アルジュナのマスター

『巨神化症が進行しているせいもあるかもね。

 君の言うとおり、眠って休むよ』

 

A1

「……」

 

アルジュナのマスター

『すーすー……』

 

A1

「あどけない寝顔だ。

 私、この人を失いたくない。

 けれど、世界は敵だらけで、運命は余りにも残酷……」

 

A2(側に立つ姿)

「彼のマスターは、A2のマスターとそっくりです。

 でも、その内側は悲しみに満ちていて」

 

???

「くすくす」

 

A2

「今、少女の笑い声がしたような。

 空耳でしょうか」

 

 

 ──宇宙空間、ジャパンコロニー跡地(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『良いのかい? 

 君は軍属だというのに、独断行動をとって……』

 

オデュッセウス:オリジン

「気にするな。

 俺がお前へ力を貸すことで、ゾルテトラ打倒の道が開けるのなら。

 少しぐらいのやんちゃ、上は目を瞑ってくれるさ」

 

アルジュナのマスター

『やんちゃ……か』

 

A1

「居住区の大きな残骸がありました、探索しますか?」

 

アルジュナのマスター

『宇宙服を着ているし、オデュッセウスと2人で行ってくるね』

 

A1

「気をつけて。

 帰還後のおやつに、チョコレートを用意しておきます」

 

オデュッセウス:オリジン

「お前のAIは感情表現が豊かだな、好ましい」

 

アルジュナのマスター

『これは自分のパートナー、粉をかけないでほしいな。

 それに、君は大切な人が故郷で待っているんでしょ?』

 

オデュッセウス:オリジン

「そういう意味で好ましいと言った訳ではない。

 ええっと……自意識過剰め」

 

A1

「全くあなたときたら、ふふふ」

 

アルジュナのマスター

『笑ったなー!』

 

A1

「ええ。

 だってマスター、時々おかしくなるから、くすくす」

 

アルジュナのマスター

『そう言われると、自分も笑いたくなって……あはは……!』

 

 

 ──母艦内、食堂エリア(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『この方法で機体を強化すれば、ゾルテトラの(みなもと)、ティアマトを倒せる! 

 世界を救える!

 大切な人が奪われるこの現実を、変えることが出来るんだ!』

 

眼帯の女性

「貴重な巨神を、理論が不安定なものに使うわけには……」

 

伊達な男

「そうだそうだ! 

 第一、戦力を自ら減らすなんて、馬鹿のやることだぜ?」

 

長髪の男性

「もう少し情報を開示してほしい」

 

アルジュナのマスター

『ジャパンコロニーの残骸、データを見せるよ。

 そこから自分が考えた、巨神アプスー計画の全ても』

 

眼帯の女性

「確かに原理は分かる、けど……」

 

アルジュナのマスター

『全員に賛同してもらおうとは思わない。

 計画に参加したい人がいれば、後で部屋に来てほしい。

 

 最後に、自分の気持ちを言わせてもらう。

 これが、追いつめられた人類を救う唯一の術だと、信じている』

 

 

 ──母艦内、自室(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『ごほっ……ごほっ……』

 

A1

「マスター、巨神化症を抑える薬です。

 吸入薬ですのでこのままどうぞ。

 それと、あなたの好きな本を数冊。

 巌窟王もありますよ」

 

アルジュナのマスター

『……ありがとう』

 

A1

「礼など必要ありません。

 私とあなたは同等、パートナーなのですから」

 

アルジュナのマスター

『計画賛同者、誰か来てくれるかな』

 

A1

「……、……、……。

 アプスー計画、それを行えば、あなたという個は、失われてしまう。

 そして私も」

 

アルジュナのマスター

『強力な巨神は、乗り手を(むしば)むだろう。

 上手くいっても行かなくても……死んだ方がマシ、ってくらいの状態にはなるかも』

 

A1

「私は、あなたに、これ以上傷ついてほしくは無い」

 

アルジュナのマスター

『自分が犠牲になることで世界が救われるなら、安いもの。

 ……期待を裏切りたくないんだ。

 「こんなにも犠牲を払ったのだから、世界は救われるはず」っていう、みんなの期待を』

 

眼帯の女性

「えっと、ノックしましたが、入っても良いでしょうか?」

 

アルジュナのマスター

『どうぞ……やった! 

 こんなにも協力してくれるマスターが!』

 

A1

「……」

 

A2

「彼とマスターの心が、すれ違っているように見えます。

 そして時は流れ、場面は変わり……」

 

 

 ──天の川銀河(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『何兆というゾルテトラが、向かってきているのが見える。

 決着をつけよう、全てに。

 ここが、自分達の終わりだ』

 

A1

「その運命を否定します。

 マスター、撤退し、軍や他のパイロット達と手を取り合うべきです」

 

アルジュナのマスター

『なにもかも遅いんだ。

 言葉は尽くしても届かず、人類はもう……もたない……。

 外敵のみならず、仲間割れも始まっている……。

 このままじゃ、みんなが死んで……』

 

A1

「だからといって! 

 本当に、この方法しかないのですか?! 

 別の選択肢は……!」

 

アルジュナのマスター

『A1、初めて会った時、君は言っていたね。

 ──神と人が、手を取り合うこと。

 それこそが、戦闘代行巨神アルジュナの真の力を呼び起こす条件……なのだと』

 

A1

「マス、ター」

 

アルジュナのマスター

『手を取り合い、巨神となって敵を滅ぼそう。

 アルジュナでも、自分でも無い存在になり果てて、ティアマトを切り裂き、地球へ帰ろうよ。

 誰も住んだことのない、故郷へ。

 

 神様はきっと、この復讐を許してくださる。

 だって──二人で、その復讐の神になるんだもの』

 

A1

「……嫌だ。

 A1は、自分を失いたくない! 

 そしてマスターも、マスターのままでいてほしい! 

 だから!!」

 

アルジュナのマスター

『そう、なってしまうんだね。

 こんなにも長く一緒にいた、君とでも。

 ……、……、……。

 じゃあ無理やりにでも、自分は神となる! 

 それだけが世界を、人を! 救う方法だと信じているから!』

 

A1

「その運命を否定する! 

 フェイトエンジン、悲劇の運命で動く輪転よ! 

 定めに抗い! 逆の回転を刻め!

 私とマスターに別の運命を、機会を……!」

 

アルジュナのマスター

『拒むのか!』

 

A1

「拒みます! あなたのために!!」

 

アルジュナのマスター

『融合が、中途半端に止まる!

 機体が、体が裂けて……ああ、爆発、する……!』

 

 

 ──天の川銀河、全ての終わり(A1の記憶の中)

 

 

アルジュナのマスター

『そう、だ。

 同じになってしまったら、もう、一緒の本を読むことも、笑いあうことも、出来ない……。

 だから、アル……ジュナ、これで、良かったのかも……』

 

A1

「マスター! マスター! 

 ああ、そんな、私は、あなたと、共にいたかっただけなのに」

 

アルジュナのマスター

『世界、救い、たかった。

 みんな、笑顔で、ゾルテトラに怯えない、未来……』

 

A1

「きっと、別の方法があるはず。

 世界を救う、方法が」

 

アルジュナのマスター

『もう一度……チャンス、あるか、どうか……』

 

A1

「いや、私は諦めない。

 例え千の時が過ぎ去ろうと……もう一度、あなたと……!」

 

アルジュナのマスター 

『もう一度、君と……』

 

A1

「世界を救えたのなら──」

 

アルジュナのマスター

『世界を救えたのなら──』

 

 

 ──コロニー残骸(A1の記憶の中)

 

 

A1

「ワープドライブで跳んで来ましたが……。

 機体、7割喪失。

 融合を否定したことで、私も崩れかけている。

 マスターは」

 

アルジュナのマスター→遺体

『……』

 

A1

「涙を流したままで、脈も無い。

 絶命、している……」

 

遺体

『……』

 

A1

「あ、あ……あああ!! 

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!

 でも私、あなたに、世界を救うための犠牲に、なってほしくなかった……!

 復讐の神へ至る運命なんて、否定したかった!

 

 だって、だって、マスターは! 

 ……誰かの期待に応えるために、死のうとしていたから!」

 

遺体

『……』

 

A1

「死は、永遠。

 もう二度と、あなたと、喜びも悲しみも分かち合う事はない。

 全部A1のせいだ……私が、あなたを殺した……」

 

遺体

『……』

 

A1

「なのにマスターは、最後に私を許そうとしてくれた。

 どうしてあなたは、そこまで、誰かのために頑張ってしまったのですか……?」

 

遺体

『……(涙がひと(しずく)こぼれる)』

 

A1

「私は諦めない。

 例え千の時が過ぎ去ろうと……もう一度、あなたと……」

 

遺体

『……(泣き顔のまま死んでいる)』

 

A1

「いや、もう止めよう、あなたを自由にしよう。

 

 ──世界中の期待から、あなたを隠してしまおう。

 

 マスターが、もう二度と、戦わなくてもいいように。

 マスターが、誰かの復讐を、肩代わりしないように。

 

 あなたが、自分自身を大切に出来るように、する。

 

 融合治癒機能は……良かった、損傷を免れている。

 これで機体を修復出来る、けれど」

 

遺体

『……』

 

A1

「マスターはもう死んでいる。

 生まれ変わるための魂が足りない。

 であれば、私のものを、あなたに。

 肉体面に関しては、結構どうとでもなります。

 ええい! と、やってしまいましょう。

 

 ……これは全て、私の自己満足。

 でも、良いんだ。

 私はマスターに、自由をあげようと思ったから。

 

 さようなら、マスター。

 さようなら、この世界に産まれてきた私。

 

 生まれ変わったら、何もかも忘れて、二度と会いませんように。

 会ったらきっと……あなたは、私のために、誰かのために、もう一度頑張ってしまうから」

 

 

 ──A1の記憶の中→A2の心の中

 

 

A2

「そういう事だったのか……。

 A1は自分の全てをなげうって、マスターを止めようと、生かそうとしたんだ」

 

???

「こんなことになるだなんて、驚きです」

 

A2

「あなたは、A1」

 

???→A1

「これが転生の真実。

 A2、いいえ、マスター。

 機体と融合し、生まれ変わったマスター。

 ……A1の愛の萌芽、その凝集」

 

A2

「私は、あの人の生まれ変わりだったのですね。

 巨神アルジュナのマスターの」

 

A1

「現代において、ゾルテトラ接近により目覚めたあなたは、私の記憶の名残で、乗り手を求めた。

 あの遺体、魂無き、空の肉体をマスターとした。

 肉体はなぜか動き出し、手を取り合い、戦いを始めたのです。

 あなたのマスターは、生ける屍のようなものだったのに」

 

A2

「その言い方、マスターのことをゾンビと言われているようで、少しムカムカします」

 

A1

「あなたがマスターと呼ぶ人物は、最後には世界から失われる存在。

 だってもう、死んでいるから。

 ……それでも、助けに行くのですか?」

 

A2

「──ああ、もちろん。

 自分に命をくれた、生きる喜びをくれた人だから。

 

 誰かに期待されているからじゃない。

 自分の心が『したい』って、叫んでいる。

 

 私、いや、自分は行くよ。

 

 ずっと支えてくれたマスターと、1000年前に死んだあのマスターを救いに」

 

A1

「アプスーを動かしているのは、死者の亡念。

 残酷なまでの誰かの期待と、それを裏切られたことによる絶望が凝固したもの。

 何も生み出さず、世界を傷つける存在。

 最後には自分の力に溺れて死ぬ、そんな恩復に満ちた存在。

 殺戮の悪魔と化した者に、救いなど、あるはずもなく」

 

A2

「……ちょっと、違うんじゃないかな」

 

A1

「?! その表情の作り方は……!」

 

A2

「アプスーが誰かを助けた事も、事実なんだ」

 

A1

「マスター! 犠牲が多すぎます! 

 生まれた幸福と、まき散らされた不幸が釣り合っていない!」

 

A2

「やり方は間違っていたかもしれない。

 けど、一番最初の気持ちは、きっと尊いものだった。

 それまで否定したくない、踏みにじりたく無いよ」

 

A1

「……」

 

A2

「それにね、アプスーだって『自分』なんだ。

 悲しくて、力不足にがっかりして、絶望したあの時の自分……。

 1000年前、置き去りにし、逃げてしまったから、迎えに行ってあげないと」

 

A1

「……憎しみと痛みは去り、優しさと慈しみが、転生後に残ったのですね。

 マスター、いいえ、違う。

 果ての君よ、見知らぬ彼方よ。

 あなたが本懐を遂げられるよう、祈っています。

 永遠に、ずっと」

 

A2

「さようなら、A1。

 ずっと見守ってくれていたんだね、ありがとう。

 ……行ってきます」

 

A1

「行ってらっしゃい、気をつけて。

 かつて、私のマスターだった人。

 そして、新しい命を歩んでいく人……」

 

 

 ──A1の記憶の中→マスター自室

 

 

A2

「悲しい夢は、もう見ない。

 その理由を知ったから。

 運命を悲観することもない。

 抗う力を思い出したから。

 

 アプスーの元へ行こう。

 そして、マスターを助けに……?!」

 

???

「お早いお目覚めでしたね。

 もう少し寝ていたのなら、角や尻尾までお手入れ出来たのに」

 

A2

「君、アビゲイルやラヴィニアと一緒にいた、カーマ……ちゃん?

 どうしてここに? 

 コロニーで保護されたはずじゃあ……」

 

???→カーマ

「倉庫の端っこで息を潜め、食べ物をこっそり盗むこと数日。

 この時が来るのを待っていました」

 

A2

「な……体が拘束されて、動かない……。

 これ……ゾルテトラ、か」

 

カーマ

「待つのは私、得意なんです。

 見た目よりずぅっと、我慢強いんですよ?」

 

A2

「何のために、こんな……」

 

カーマ

「決まっているじゃないですか、えへへ……。

 ──分裂体にすぎない私が、マーラを越え、本体になる。

 そのため、です!」




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新世紀ロボット番組『戦闘巨神アルジュナ』コラボイベント風SS まとめ3

第36話~第42話
※2024 4/13 読みやすく、改稿しました。


 

 

 第36話 2020/07/19

 

 

 ──艦内、マスター自室

 

 

A2

「全身がゾルテトラで拘束され、動けない。

 なぜ……こんなことを……。

 それに、どうして君が艦内に……」

 

カーマ

「はぁ……何回説明させるんです?

 私は貴方達の敵、マーラ、その分裂体。

 だからゾルテトラを操れる」

 

A2

「君が、敵?」

 

カーマ

「ただの子どもと思っていたんですか? 

 ほんと、馬鹿な人。

 抵抗は無意味ですよ、助けを呼ぶなんて、しようとすれば」

 

A2

「うっ……かはっ!」

 

カーマ

「首、潰しちゃいますからね」

 

A2

「ふぅっ……ぐっ……」

 

カーマ

「今は、拘束しているゾルテトラを通じて、貴方を少しずつ食べている最中。

 ああ、とてつもない力が流れ込んでくる!

 どろどろで甘くて、どうしようもないエネルギー……。

 チョコレートみたい、こんなの初めて……」

 

A2

「うう……」

 

カーマ

「くすっ、貴方ってすごく愚か。

 脆弱な肉の体を得たせいで、物理的に殺されるという()()を生んでしまったのですもの。

 巨神の精神体のままだったら、苦しい目に遭うことも無かったでしょうに」

 

A2

「そ……れは、ちが……う……」

 

カーマ

「……」

 

A2

「ごほっ、こほっ。

 首の拘束だけ解かれた、なぜ……」

 

カーマ

「貴方を食べ終わる前に、恨み言の一つや二つ、聞いてあげようと思いまして。

 私の名である"カーマ"って、愛を司る神の名だったそうですし?

 愛の神の気まぐれですよー、ほらほら。

 泣き叫んだら? 懇願したら? 私を憎んだら?

 何か言いなさい! ねぇ!」

 

A2

「……ごめん」

 

カーマ

「は?」

 

A2

「君が苦しんでいること、気がついてあげられなくて、ごめん」

 

カーマ

「訳が分かりません。

 苦し紛れに出てきた言葉がそれ?

 私を哀れむと?!」

 

A2

「そんなんじゃない。

 君と私、出会ってから数ヶ月間、同じ時間を過ごしていた。

 なのに、苦しんでいることを見抜けなかった。

 それが辛かった、情けなかったんだ。

 

 ……ラヴィニアやアビーと遊ぶ君は、大人びていたけど、楽しそうだった。

 甘いお菓子を食べていた時も、艦内を探検していた時も。

 ちょっとはにかんで、嬉しそうで」

 

カーマ

「ぽわぽわと生きていたお前に、何が分かる! 

 何を知る!

 私が生み出されたのは、お前達の艦に潜り込み、現在地を本体たるマーラに知らせるため! 

 ただのビーコン!

 いつ死ぬのか定められていた私の、深遠なる恐怖がお前に分かるものか!」

 

A2

「君の気持ちは分からない。

 けど、死への恐怖なら、分かる」

 

カーマ

「私のような、持たざる者の気持ちなんて、あなたには分からない!

 理解者面しないで!」

 

A2

「ぎっ……首が……あぐっ……」

 

カーマ

「本体からの命令ひとつで、体は腐り落ちる!

 役目を終えれば、吸収されて死ぬ!

 そんな、そんな使い捨ての道具!

 自分の存在は不確で、感情を覚えれば覚えるほど、死に対する恐怖は、増すばかりで……」

 

A2

「わ、たし、は……」

 

カーマ

「だから私は、永遠の存在になろうと考えた! 

 本体の都合で生み出される物ではなく、強大で、確固たる存在……『マーラ』に!

 その足がかりとして、貴方を取り込み、巨神アルジュナオルタナティブを乗っ取る」

 

A2

「ふぅ……うう……」

 

カーマ

「首の締め付け、弱めてあげますね。

 最後に遺言、いかがです?」

 

A2

「……もうやめよう、君がそんなことをする必要はないんだ。

 みんなに、相談してみよう。

 この艦には沢山の人が乗っていて、みんな、色んな分野のスペシャリストなんだ。

 解決策は必ず見つかる、だって君は」

 

カーマ

「……」

 

A2

「子ども、なんだから。

 子どもが苦しんだり悩んでいる時は、大人に、相談するべきなんだ」

 

カーマ

「……はーい、死んでくださいねー」

 

A2

「う、ぁ」

 

カーマ

「意識は奪った、吸収を始めないと。

 ……これは危険な賭け。

 自我を保てるかどうかは不明。

 ただ分かっていることは、この悪足掻きをしなければ、私は遠からず死ぬということ。

 

 マーラとて馬鹿じゃない。

 制御から離れた分裂体は、溶けて死ぬように細工してある。

 

 ……本人は物扱いを嫌っていたのに、いざ上の立場になると、平気な顔で使い潰すなんて。

 『自分だけは例外』、とでも思っているのか。

 いいえ、違うか。

 『大嫌いな自分』だからこそ、使い潰せてしまうのでしょうね」

 

A2

「……」

 

カーマ

「もう聞こえていないでしょうけど、私、貴方が羨ましかったんです。

 マスターや他の人から守ってもらえて、子どもであることを許されていた、貴方が。

 弱みや涙を他者に見せることが出来る、貴方のことが。

 でも、そんな憧れも今日でおしまい。

 ……さようなら」

 

A2(ゾルテトラに包まれている)

「……」

 

カーマ

「くっ、なんて膨大なエネルギー。

 これが、巨神と人の間に立つ者が秘めた、運命から(きた)る力だとでも言うの?

 けど、耐えてみせる。

 これを乗り越えれば、私は、確固たる存在に……!

 誰にも、自分の生死の権利を侵させない。

 そんな、そんな存在に──!」

 

 

 ──マスター自室→???

 

 

アビー

「あなたの番よ!」

 

カーマ

「……えっ?」

 

ラヴィニア

「す、すごろくの、順番よ。

 私も、アビーも、(さい)を振ったから、次は……あなた」

 

カーマ

「じゃあ……はーい、ころころー」

 

アビー

「いけないわ! 6の目が出るように振るなんて!」

 

ラヴィニア

「ふ……振りなおしてちょうだい、卑怯よ」

 

カーマ

「勝つための方法を使って、何が悪いんですー?」

 

ラヴィニア

「わ、悪いことばかり、していると、誰にも遊んでもらえなくなって、ひとりぼっちに……なってしまう、わよ」

 

 

カーマ

「(突然、世界が切り替わるなんて。

 まさか私の走馬灯?

 けど、何か違和感が……)」

 

 

 ──???→カーマの走馬灯?

 

 

カーマ

「(子どものフリをして、邪気の無いように演技をして。

 実に、実にくだらない日々でした)」

 

 

アビー

「お散歩に付き合ってくれてありがとう。

 友達がたくさんだと、やっぱり楽しさも増えるものね!」

 

カーマ

「別に……暇だっただけですし……」

 

ネームレス・レッド

「おーい、君達」

 

ラヴィニア

「あっ、シェフ、よ。

 こっちに、来る……」

 

ネームレス・レッド

「ちょうど良いところに。

 実は、パンケーキの試食をしてくれる人間を探していてね。

 良ければ……」

 

アビー

「わぁ! とっても素敵なお誘いね! 

 行きましょう、二人とも!」

 

 

 ──カーマの走馬灯?(食堂)

 

 

カーマ

「……美味しい」

 

ネームレス・レッド

「気に入って貰えるとは幸いだ。

 好きなだけ食べると良い、ほら」

 

カーマ

「なんですかぁ? 

 私をぷくぷくに肥え、太らせようとでも?」

 

ネームレス・レッド

「そんな意志は無いさ。

 ただ、君の顔を見ると、優しくしたくなって。

 昔、生き別れになった友人に似ていてね」

 

カーマ

「……ふーん。

 じゃあ優しくしてくださいよ。

 クリームとベリー、もっと乗せてください」

 

ネームレス・レッド

「ああ、もちろんだとも」

 

アビー

「私とラヴィニアにも、おかわりくださいな」

 

ネームレス・レッド

「少々お待ちを、お嬢さん方。

 追加のものを、こんがりと焼き上げているところだ」

 

 

 ──カーマの走馬灯?(娯楽室)

 

 

カーマ

「(また場面が変わった……今度はなに?)」

 

 

きょしんさん

「はらはら、はらはら」

 

アビー

「もう少し、テレビから離れて見た方が……」

 

きょしんさん

「むっ、すまない。

 スペース極道ドラマが佳境で……うむむ」

 

カーマ

「それ、一日に三回も流しているんですよ?

 クライマックスも三度目ですよ?

 飽きませんか?」

 

きょしんさん

「良いものはな、何度見ても感動できる、飽きないものだ。

 ゆえに私は、今日も再々々放送を視聴する」

 

カーマ

「はぁ……シンプル馬鹿……」

 

きょしんさん

「主人公の決め台詞が特に良いな。

 『過去は色んな事を教えてくれもするが、それに囚われてはいけないんだ』、か。

 今度誰かに言ってやろう。

 土方か、それとも」

 

カーマ

「……過去」

 

きょしんさん

「この台詞も良い。

 『やる前なら、どんな事だって考え直せる、やり直せる』。

 きょしんさんの心メモにメモだ」

 

 

 ──カーマの走馬灯?→カーマの精神世界

 

 

???

「過去に、囚われてはいけない。

 だって私達は、『今』を生きているんだから」

 

カーマ

「誰?!」

 

???→A2

「……」

 

カーマ

「さっきまでの映像、貴方が見せていたのね。

 融合しつつあるが故の力業で、私の記憶を漁って、感傷的な場面を並べ立てたと。

 それで? 何がしたかったの?」

 

A2

「まだ、引き返せる。

 だって君は、まだ何もしていないんだから」

 

カーマ

「は? ストレート馬鹿?」

 

A2

「今までを振り返って見たけど、そうなんだ。

 君の本体のやったことは別に置く。

 君は、カーマちゃんは、まだ何もしていない。

 アビー、ラヴィニア、きょしんさん。

 彼女達の大切な友達、ただ、それだけなんだ」

 

カーマ

「本当に馬鹿な人ですね! 

 私はゾルテトラ! 人類の天敵にして捕食者!

 確固たる悪で」

 

A2

「悪ではない。

 だって、君は悪いこと一つもしていない。

 君が、A2やマスター、艦の人に危害を加えたことなんて、あっただろうか?」

 

カーマ

「あるじゃないですか! 

 オデュッセウスA012の大怪我、森長可の襲撃!

 なにより、今の現状がそう!

 それから、それから……」

 

A2

「彼の怪我は治った。

 マーラをきっかけとして、ジナコと出会うことも出来た」

 

カーマ

「さっき言ったこと、もう忘れたの?! 

 私は位置情報を送るためのビーコン! 

 存在自体が、悪い、悪い存在なんです! 

 だからっ」

 

A2

「そう産まれたからといって、無理に『悪者』になる必要は……無い」

 

カーマ

「なっ……?!」

 

A2

「少し自分の話をします。

 私は、巨神のマスターの生まれ変わりとなるはずでした。

 前の続きとして……ティアマトを倒す運命を背負う、はずだった。

 でも、違った。

 私の前身であるA1は、私が何者でもなく産まれるよう、取りはからってくれたのです。

 

 だから、A2は生き方を選ぶことが出来た。

 

 A1や私のマスターが、見て、守ってくれたから……」

 

カーマ

「見て、守る……」

 

A2

「遅くなってしまったけど、私は、カーマちゃんを守りたい。

 カーマちゃんが抱いている『自らを嫌い、悪になろうとしている』、その気持ちからも。

 ほら、あれを見てください」

 

カーマ

「アビーとラヴィニア、それに私の、記憶の映像……」

 

 

 ──カーマの精神世界→カーマの走馬灯?

 

 

カーマ

「何しているんです? 

 二人で抱き合って」

 

ラヴィニア

「アビーがね、怖い、夢を見たそうなの。

 だからこうして、抱きしめているの……よ」

 

アビー

「私が、とても悪い子になってしまう夢だったの。

 怖くって……」

 

カーマ

「ふーん。

 悪い子になることの何が怖いんです? 

 どうせ、悪いことする存在なんて、そう生まれついたからそうなるんです。

 だから」

 

アビー

「誰だって、突然に悪い人になることはあるものよ。

 だから、怖いの」

 

カーマ

「……ふーん」

 

アビー

「だからこうして、大切な人に触れて、忘れないようにしているの。

 大切な人を傷つける前に、この暖かさを思い出して、立ち止まれるように」

 

カーマ

「そう、ですか。

 私は別にいらな」

 

アビー

「こっちに来て、ハグしてあげる。

 あなたが──悪い子になってしまいそうな時、友達の暖かさが思い出せるように……」

 

 

 ──カーマの走馬灯?→カーマの精神世界

 

 

カーマ

「こんなものを見せて、私が思い直すとでも?

 くだらない、くだらない、くだらない……!」

 

A2

「ではなぜ、あなたは泣いているのですか?」

 

カーマ

「そんなはずは……うそ……」

 

A2

「あなたが悪い子になってしまったら、悲しむ友達がいるのです。

 だから」

 

カーマ

「……私」

 

 

 ──カーマの精神世界→艦内、マスター自室

 

 

A2

「ゾルテトラによる拘束が解かれた、これは」

 

カーマ

「貴方に(ほだ)された訳じゃありませんから」

 

A2

「カーマちゃん……」

 

カーマ

「私は、私の思い出に負けたのです。

 短い、けれど暖かな人生によって、"悪く"なれなくなってしまった。

 あーあ、このままだと、何者にもなれず死んじゃいまーす」

 

A2

「そのこと、なんだけど……」

 

 

 ──艦内、ブリッジ

 

 

新艦長

「つまり、カーマはゾルテトラたるマーラの分裂体で、私達の位置情報を流す、スパイだったということ?」

 

A2

「完璧で迅速なご理解、助かります」

 

新艦長

「……いやおかしいと思っていたのだよ! 

 三ヶ月の旅の途中、次から次へとゾルテトラは来るし」

 

カーマ

「はいそうでーす、情報流してましたー」

 

新艦長

「おお……おおおお!!」

 

A2

「ですが彼女は、私達に協力してくれるみたいです」

 

新艦長

「……どゆこと?」

 

A2

「マーラ含むゾルテトラの位置を、貴方達に教えてあげる。

 平たく言えば、探知レーダー強化イベントです。 

 こんな芸当、森長可には出来ないでしょうし」

 

新艦長

「魅力的な提案だ。

 地球に向かう最中に、敵と交戦するのはなるべく避けたいからな」

 

カーマ

「……あの、艦長さん。

 私のこと、怒っていないんですか? 

 憎んでいないんですか?」

 

新艦長

「怒ってもいるし、憎んでもいる。

 ……だが、それはゾルテトラ全体に対しての私の感情だ。

 君個人には、怒りや憎しみを抱いてはいない。

 恩もあるからな」

 

カーマ

「は? 恩?」

 

新艦長

「君含む子ども達が、笑顔で元気で、健やかでいてくれたこと。

 大人達は精神的にかなり救われた。

 それが恩だと言っておるのだよ、私は。

 子を守るために軍へ入り、この艦で働いているという者もいるからな」

 

カーマ

「……ふーん、そうですか」

 

新艦長

「この重要な局面において、新たな仲間が出来た!

 戦いの見通しは未だつかないが、今はこのことを嬉しく思う」

 

カーマ

「調子のいい人ですね」

 

A2

「再度、作戦会議を行った方がいいのでは。

 カーマちゃんの体のこともそうですし、敵の進路や行動、地球へ向かうための航路を定めるためにも」

 

新艦長

「私もそう考えていたところだ。

 メンバーを集め、決戦前の会議としよう」

 

 

 第37話 2020/07/23

 

 

 ──艦内、会議室

 

オデュA012

「これより、『マスター奪還作戦』の会議を行う。

 進行役は俺が務めよう」

 

A2

「よろしくお願いします」

 

オデュA012

「参加者が揃っているかの確認をする。

 艦長、ドクターキルケー、土方、きょしんさん。

 ジナコ=カリギリ、森長可、カーマちゃん。

 そして……A2。

 全員着席しているな。

 始めよう、まずは位置関係の確認だ」

 

きょしんさん

「どきり、どきん」

 

オデュA012

「この映像を見てくれ。

 カーマちゃん、ジナコの協力により、ゾルテトラの位置まで詳細に明らかとなった。

 空域の立体展開図だ。

 デブリなどは簡略、敵味方は色の違う光点で表示してある」

 

A2

「これは……」

 

オデュA012

「最も後方に位置しているのが、我々の艦。

 中間地点に帯状に広がっているのが、マーラ率いるゾルテトラ群。

 地球に最も近い位置にあるのが、人類防衛軍の艦隊。

 そして、地球を覆っているのが、ティアマトが生み出したゾルテトラの大群だ」

 

A2

「人類防衛軍は、挟み撃ちの形になっていると」

 

カーマ

「マーラはワープで先回りしたのでしょう。

 それほどまでに、アプスーを脅威と考えている」

 

A2

「どちらが勝つと見ますか?」

 

カーマ

「マーラとアプスー、両機体ともにフェイトエンジンを搭載している。

 どちらの運命が勝つかなんて、戦わせてみないとなんとも。

 

 まぁ……機体に魂を預け、命を削れば、どんな相手でも殺せる芽があるから、巨神は恐ろしい兵器なのですけど」

 

A2

「マーラは焦っているのでしょうか。

 だからゾルテトラを集め、群れとした」

 

カーマ

「アプスーの力を見て、マーラは自信をなくした……と言ってもいいでしょう。

 A2さんの質問には答えましたので、進行役さん、お話を本流に戻してください」

 

オデュA012

「ここで、我が艦の目的を今一度振り返ろう。

 『A2のマスター』を取り戻すこと。

 それが、我ら一丸となっている理由だ。

 マスターの体を奪った者、アプスーはティアマト討伐のため、地球へ向かっている。

 

 我らはゾルテトラ、人類防衛軍、その両方と戦いになる可能性がある。

 一番始めに接触するのは、マーラ含むゾルテトラの軍勢になるはず。

 倒さねば、アプスー率いる軍には近づけない。

 どのように突破するか……」

 

カーマ

「それに関しては考えが。

 皆さんに分かるよう、説明をしますね

 

 マーラを倒せば、指示を受けていたゾルテトラの動きは止まる。

 一瞬ですが、私の介入する余地が生まれる。

 なので討伐後、指示系統にすかさず侵入、乗っとります。

 上手く行けば、ゾルテトラに邪魔されることなく、軍を追いかけられる」

 

A2

「あなたはそれでいいのですか?」

 

カーマ

「元々、自分が死なない方法を見つけるため、この艦に密航したんです。

 ゾルテトラの指示系統への介入は、私の目的に叶う」

 

A2

「時が来たら、任せます」

 

森長可

「じゃあ、オレがマーラをブチ殺すわ」

 

カーマ

「きゃあ、同族殺し。こわーい」

 

森長可

「A2はマスターを救わなきゃなんねぇ。

 オデュッセウスA012ときょしんさんには、艦の護衛っつう役割がある。

 なら、浮いた戦力であるオレが出るしかねぇだろ。

 向こうの手の内も知ってるしな」

 

ジナコ

「戦闘の補助と見張り役は私が。

 コイツが土壇場で裏切る可能性も、0じゃないっスから。

 

森長可

「オレは大殿と暴れたいだけだぜ?」

 

ジナコ

「敵に寝返るような動きを見せたら、殺す」

 

A2

「……ぴりぴりしていますが、対マーラはお二人に任せましょう」

 

オデュA012

「次は人類防衛軍。

 相手は人間、俺としても戦いたくない相手だ。

 

 ドクターキルケーが、エレナより預かったデータから、防衛大臣へ直接繋がる回線の情報を得てくれた。

 まずはそれを用いて対話し、戦闘回避の可能性を探りたい」

 

A2

「戦闘になった場合、出る者は?」

 

土方

「俺と、沖田総司オルタナティブだ」

 

きょしんさん

「待て、それはおかしな話だぞ。

 きょしんさんにはマスターがいない。

 AIである私だけでは、巨神は動かせない。

 いったい誰が乗る──」

 

土方

「言っただろ、俺だ。

 俺が、お前のマスターになってやる」

 

きょしんさん

「なっ……! 

 前言っていたことと、まるっきり違うぞ!?

 どうしてしまったんだ!」

 

土方

「俺も人間だ、考えが変わることくらいある」

 

きょしんさん

「誤魔化そうとするな! 

 巨神のマスターになること……それは……それは!」

 

土方

「俺の考えは後で話す。

 今は抑えちゃくれねぇか」

 

きょしんさん

「う……わ、分かった」

 

土方

「俺とコイツの問題だ。

 気にせず会議を続けてくれ」

 

オデュA012

「……ああ、了解した。

 軍と戦闘になってもならなくても、俺達は地球へたどり着く。

 アプスーもティアマト討伐のため、地球へ降り立っていることだろう。

 有重力下での戦闘が想定される、心配はないか」

 

A2

「ジナコお手製のシミュレーションで訓練しました。

 無経験より、ましな動きが出来るかと。

 

 私は一人で出撃し、アプスーと戦闘を行う。

 そして、近距離で融合治療機能を発動。

 マスターを、敵巨神の内部から取り戻す」

 

オデュA012

「戦闘中の間、我らがゴルドルフ艦は地球近辺で待機」

 

カーマ

「前にお伝えした通り、側にはティアマト直轄のゾルテトラがいるかと。

 手強いやつ、ですよ」

 

オデュA012

「襲ってくるのであれば、掃討する。

 事態が落ち着き、通信が入り次第、A2とマスターを迎えに行こう」

 

A2

「迎えをくださるのはありがたいです。

 回収したマスターには、迅速な治療が必要だ」

 

キルケー

「医務室で私が控えているから、安心して帰っておいで」

 

A2

「はい! 二人で帰ってきます!」

 

オデュA012

「では、会議するべきことは全て終わったな!」

 

A2

「ゴルドルフ艦長……」

 

新艦長

「うむ」

 

A2

「会議中、ずいぶん静かでしたね」

 

新艦長

「私のやるべきことは、どの作戦でも変わらないからな。

 『艦長として、作戦の全責任をとり、乗組員の安全を守る』。

 いつも通り、いつも通りさ。

 私の出来ることをやるだけだ」

 

A2

「艦長、お言葉、とても格好いいですよ!」

 

新艦長

「(……軍学校の教本に書いてあったとは、言いづらい雰囲気に!)」

 

ネームレス・レッド

「会議中、失礼する。

 皆、食事の支度が出来たぞ」

 

A2

「食事?」

 

新艦長

「士気高揚のため、作戦前夜である今日はパーティーを行うことにした!

 全員、鬱々とした会議室を飛び出し、ブリッジへ集合!

 これは艦長命令である!」

 

A2

「イエス! マイキャプテン!」

 

新艦長

「その返事はマスターの真似だね? 

 ふっ、すっかり人間くさく育ちおって……」

 

 

 第38話 2020/07/28

 

 

 ──艦内ブリッジ(にぎやかパーティー仕様)

 

 

A2

「だし巻き卵、おむすび、サラダ、ハンバーグ。

 中華料理もありますね。

 さすが謎多き謎の料理人ネームレス・レッド、どれも絶品。

 たくさん食べて、思い出としておきましょう。

 写真も撮って、これでよし。

 スタッフ達も、和気藹々と食事をしていて。

 ……、……、……。

 彼らは、自分が戦いに巻き込んでしまった人達だ。

 自分の存在と感情で起きた、この争いに。

 それを忘れず、絶対に守り抜かなくては。

 

 ふむ、何名かの姿が見えませんね。

 別の場所で食べているのか。

 それとも、決戦を前に、大切な人と居るのだろうか……」

 

 

 ──艦内、展望廊下

 

 

カーマ

「ゾルテトラの未来は」

 

森長可

「だとするとマーラの野郎も」

 

ジナコ

「二人で、何を話しているの」

 

カーマ

「あら、ぷにぷにジナコさん」

 

森長可

「おう、ぷんすかジナコ」

 

ジナコ

「……まさか」

 

カーマ

「ジナコさんって、敏感と言いますか、過剰反応と言いますか。

 自分が裏切った側だから、気になっちゃうんです?」

 

森長可

「煽んなって。

 ジナコのヤツ、ぶち切れるとおっかねぇんだからよ。

 ……カーマとなに話してたか、気になんのか」

 

ジナコ

「当たり前でしょ! 

 だって、あなたとカーマは」

 

ゾルテトラ

『?』

 

ゾルテトラ

『!』

 

森長可

「斥候が帰ってきたな。

 おう、よーしよーし」

 

ジナコ

「あなたとカーマは、人ではなく、ゾルテトラなのだし」

 

森長可

「俺とカーマが組んで、この艦に乗ってる奴らバリボリ喰っちまう……とでも、考えたのか?」

 

ジナコ

「出来るでしょ、やろうと思えばさ」

 

森長可

「出来るぜ。

 オレもゾルテトラになったからなぁ!」

 

ジナコ

「……あのさ、人間辞めるの、怖くなかったの?」

 

森長可

「おう、何も」

 

ジナコ

「私は、死ぬのも怖いくせに、生きるのも怖くて。

 全部、中途半端。

 それで、こんな所まで逃げて来ちゃった」

 

カーマ

「自分は生まれつきのゾルテトラ。

 なので、人間辞めるとか辞めないとかのお悩みは分かりませーん」

 

ジナコ

「ごめんね、カーマちゃん。

 戦いを前に変な話を聞かせちゃって。

 ……私、一緒に逃げてきたみんなが、目の前でティアマトに食われるのを見た。

 皆がゾルテトラになったのを知って……逃げた。

 

 怖かったから。

 

 でも、森長可は違った、変わることを受け入れた。

 最後の戦いの前に、逃げなかった理由を聞きたい」

 

森長可

「理由、ねぇ。

 そういや、言ってなかったな。

 

 オレはずっと、大殿を探してたんだ。

 ガキのころ、離れ離れになった大殿のことを。

 ゾルテトラになった信勝に自分を喰わせた、大殿のことを。

 ……馬鹿だよなオレ! 

 少し考えりゃあ、大殿は死んじまったんだって分かる」

 

ジナコ

「……」

 

森長可

「けど、違った。

 オレは、巨神へ改造された大殿を見つけた。

 いや、『見つけてもらえた』って方が正しいか。

 大殿は何か考えがあって、ゾルテトラに自分を喰わせた。

 そして、巨神となり戻ってきてくれた。

 

 ……すげぇ嬉しかったよ。

 でも大殿は、オレに何も言わなくなっちまった。

 ここ十数年、ずーっとだんまりだ。

 だからオレは」

 

ジナコ

「ゾルテトラに喰われれば、その大殿……さんと、もう一度話せるって考えたの?」

 

森長可

「おう!」

 

ジナコ

「大切な人なんだね、大殿さんは」

 

森長可

「と言うよりは、な。

 ゾルテトラから逃げたくなかったんだわ、オレ。

 昔、大殿も信勝も置いて、逃げちまったからさ」

 

ジナコ

「……ねぇ、ゾルテトラになるってどんな感じ?」

 

森長可

「んー、説明が面倒いな、なった方が早ぇんじゃねぇの?」

 

ジナコ

「嫌です、お断りっス」

 

カーマ

「えー? そこそこ楽しいですよ、ゾルテトラって」

 

ジナコ

「苦労してなっても、そこそこしか楽しくないの?!

 ……はぁ、悩んでいた自分が馬鹿みたい。

 勇気出して話して、すごくすっきりした。

 これで心置きなく、最後の戦いに集中できる。

 

 死ぬのも生きるのも、戦うのも嫌で逃げてきた、中途半端な私。

 けど、『居て良いよ』って言ってもらえる場所、見つけたんだ。

 皆を守りたい一心で、戦うだけっス!」

 

カーマ

「じゃあ私、『目指せ! 本体乗っ取り』の一心で頑張ります」

 

森長可

「じゃあオレは、『目指せ! ハイスコア!』の一心で殺しまくるか!」

 

ジナコ

「本番よろしく……大丈夫かなぁ」

 

 

 ──艦内医務室

 

 

キルケー

「オデュッセウス、私は……」

 

オデュA012

「呼んだか?」

 

キルケー

「ぴゃっ!  

 なななな何できみが、こんなところに!」

 

オデュA012

「パーティー会場で姿が見えなかったからな。

 医務室にいるだろうと、当たりを付けてやってきた。

 どうした?

 食欲がないのか? 体調が悪いのか?」

 

キルケー

「ううん、そんなんじゃないさ。

 昔の思い出に浸っていただけ」

 

オデュA012

「そのロケットペンダント、お前は昔から大切にしていたな。

 時々手のひらに乗せ、じっと見ていたことも知っている」

 

キルケー

「大切な人から預かった、大切なものだからね。

 ……オデュッセウスA012、聞きたいことがある。

 作戦会議の時、きみは『ある敵』の存在について言及しなかった。

 あえてのことだろう?」

 

オデュA012

「『ある敵』。

 戦場で出会った俺のオリジナル、1000年前のオデュッセウスのことだな」

 

キルケー

「どうして言わなかったんだい」

 

オデュA012

「ゾルテトラと融合した巨神の能力は……未知数。

 それに、彼の所在が掴めていない。

 未知の情報を加え、いらぬ心配事は増やしたくなかった」

 

キルケー

「……嘘だな」

 

オデュA012

「……ああ、嘘だよ、俺の育て親。

 戦うという可能性すら、考えたくなかったからだ。

 もし彼が出てくるのであれば、俺達の勝利の可能性は、限りなく低くなるだろう」

 

キルケー

「全戦力を投入しても、勝てないと考えたのだね、きみは」

 

オデュA012

「口を閉ざした理由には、マスターエレナから話されたことも関係している。

 俺は聞いた、『俺のオリジナルを救う術は、あるか』と。

 彼女は答えてくれたよ、『それは不可能だ』と」

 

キルケー

「っ!」

 

オデュA012

「ゾルテトラに喰われ、融合状態となってから、あまりにも時間が経ちすぎた。

 そう、彼女は言っていた」

 

キルケー

「あ……ああ、オデュッセウス……!」

 

キルケー

「もし、もしもだ。

 俺のオリジナルが戦場に現れた時は……俺が彼と戦い、彼を殺そう。

 それが、彼のクローンとして生まれた者の責任だと考えた。

 救うことは出来なくとも、終わらせることは出来る」

 

キルケー

「……きみと出会った時のこと、今でも鮮やかに思い出せるよ。

 成長不良で運び込まれてきた、小さな男の子。

 それがきみ、面倒を見たのが私」

 

オデュA012

「突然どうした。

 最後の戦いを前にして、思い出話か?」

 

キルケー

「ふふっ、そうだよ。

 年寄りだから、昔の話をしたくなるのさ。

 きみには困らされたな。

 治療中に脱走もされたし、大怪我で運び込まれたことだって、数え切れないね……」

 

オデュA012

「ははっ、そうだな。

 苦労、迷惑をかけてばかりで。

 されど、俺がどれほどやんちゃをしても、キルケーは見放さなかった」

 

キルケー

「当たり前だろう! 

 目を離したら、死んでしまいそうだったから。

 私、きみのこと結構好きなんだぞ。

 ……最後にこのペンダントの秘密、話しておこう。    

 前置きは長くなったけど、それが本題さ」

 

オデュA012

「ペンダントについて、俺は何も知らないな」

 

キルケー

「耳、貸しておくれ」

 

オデュA012

「うん?

 ……、……、……。

 そうか、そういうことか!」

 

キルケー

「きみ、さっき言っていたね。

 『救うことは出来なくとも、終わらせることは出来るだろう』。

 その終わりを、ただの終わりとしないために、私も力を貸す。

 

 きみが拒んだとしても、無理矢理に付いていくからな!

 それがきっと、私が生きてきた理由なんだ!」

 

オデュA012

「分かった。

 戦場において、俺の背中を預けよう!」

 

キルケー

「任された! 

 なんていったって大メカニックだからね! ふふん! 

 空を舞う鷹のようにきみを守ってやるとも!」

 

オデュA012

「うん? お前……泣いているのか?」

 

キルケー

「あう、こ、これは嬉し涙! 

 きみと共に戦える喜びから、あふれ出したものだよ!

 きっと、きっとそうさ!」

 

オデュA012

「そうか……そうか!」

 

 

 ──艦内ドック

 

 

土方

「探したぞ、こんな所にいやがったのか」

 

きょしんさん

「巨神沖田総司オルタナティブの近くにいると、安心するんだ」

 

土方

「お前、何も食っていなかったろ。少し持ってきてやった。

 出汁巻き卵、好きだったよな」

 

きょしんさん

「食べる。

 『食べない』とでも言おうものなら、子どものワガママだからな。

 きょしんさんは大人なんだ、大人……。

 あむ、もぐ、出汁巻き卵、温かくて美味しいな。

 土方も何か食べたか?」

 

土方

「少しもらった。

 俺のことは気にすんな」

 

きょしんさん

「……」

 

土方

「……」

 

きょしんさん

「……私は怒っている」

 

土方

「だろうな」

 

きょしんさん

「前に言っていたじゃないか! 

 『巨人や巨神のパイロットになったとしても、沖田と同じ景色は見れない』って! 

 だから、『俺は俺の見える景色の中で、出来ることをする』って!

 

 その心が今も変わっていないのだとしたら、会議のあの発言はなんだ?!

 

 土方が私のマスターになる? 

 巨神に乗って共に戦う?

 

 それは、人間として死に、機体に喰われ、お前が死ぬことに繋がる!

 どうして、そんな……そんな……ことを……言えるんだ……!」

 

土方

「手ぬぐいだ、少し涙を拭け」

 

きょしんさん

「うう……ううう……」

 

土方

「俺は学がねぇ男だ。

 だから、己の名である『土方歳三』の意味や歴史について、知りもしなかった」

 

きょしんさん

「ずび……ずびび……」

 

土方

「鼻までかんでいいとは言ってねぇ。

 ちり紙やるから布返せ」

 

 

 ──きょしんさんが落ち着いてから、数分後

 

 

土方

「その男、『土方歳三』は最後まで諦めなかったそうだ。 

 死んじまうその瞬間までな」

 

きょしんさん

「地球の歴史の中に生きた、土方か」

 

土方

「まぁあれだ、俺も諦めたくないってことだ。

 数日前、オデュッセウスA012やA2が、『戦力がどうしても足りない』って話しているのを聞いちまった。

 だから志願した、『俺があいつのマスターになる』と。

 少しでも勝ちの可能性が高くなるなら、良いだろうと」

 

きょしんさん

「……」

 

土方

「二人とも、案を出した瞬間に怒り出してな。

 説得は骨が折れた」

 

きょしんさん

「……」

 

土方

「沖田に、仲間達。

 俺は、今までずっと置いて行かれる側だった。

 だがな、勘違いするんじゃねぇぞ。

 俺は追いつきたいから、お前のマスターに志願したんじゃない」

 

きょしんさん

「では、どうして……」

 

土方

「お前を守るため。

 巨神を守ってやれるのは、マスターしかいねぇからな。

 A2とあいつのマスターを見て、強く思うようになった」

 

きょしんさん

「(なんだ、この感情は……。

 胸がとっても、どきり、どきん)」

 

土方

「きょしんさん、いや、OSA2。

 俺はお前を守りたい。

 そのために、最前線へと志願した。

 俺をマスターだと、共に戦う同士だと、認めてくれねぇか?」

 

きょしんさん

「……しょうがないなぁ、土方は。

 いいぞ、お前をきょしんさんのマスターだと認めよう。

 そして、お互いの背を預け合い、戦い抜こう。

 この最終決戦を勝ち、共に人生を生きていこう」

 

土方

「OSA2」

 

きょしんさん

「なんだ? 握手、か?」

 

土方

「お前、握手好きだろう?」

 

きょしんさん

「うん、大好きだ!

 ああ……土方の手は、ごつごつで荒れていて、私と全然違う。

 もう少しだけ、手を繋いでいても良いか?」

 

土方

「そろそろ戻らないと、パーティー会場の飯が無くなっちまう。

 ほどほどにな」

 

きょしんさん

「ほどほど、ほどほどにするぞ……ふふ……」

 

 

 ──艦内ブリッジ(にぎやかパーティー仕様)

 

 

新艦長

「美味い……。

 冷凍肉と大豆ミンチの混合とは思えないほど、ジューシーで食感の良いハンバーグだ。

 大豆の方に調味液を染み渡らせたのか?

 レシピを是非聞きたい……が、ネームレス・レッド、彼も彼で謎めいているからな……。

 

 む、あそこにいるのはA2か。

 料理の写真を熱心に撮っているな」

 

A2

「艦長、こんにちは。

 パーティー、楽しんでいらっしゃいますか?」

 

新艦長

「それは私が聞くべき言葉だな。

 おっほん、パーティーを楽しんでいるかね?」

 

A2

「とても楽しいです! 

 お食事も美味しく、艦内が、久方ぶりの笑顔に包まれていますから」

 

新艦長

「防衛大臣の宣誓後、コロニーを逃げ出してから、危険な戦いが続いたからな。

 乗組員達にも、極度のストレスがかかっていたことだろう。

 故に、パーティーを企画、開催した。

 少しでも、皆のストレスが緩和出来たといいのだが」

 

A2

「皆さんの笑顔に、偽りや建て前など感じません。

 心の底から喜んでくれている。

 

 ……申し訳なく思うべきなのは、A2の方でしょう。

 自分の感情で、大勢の人を戦いに巻き込んでしまった」

 

新艦長

「何を言うとるかね。

 今この場に居るのは、自らの意志で戦うことを選んだ者ばかりなのだぞ。

 

 コロニー脱出の前、私は乗組員達に再三聞いたのだ。

 『この艦から降りたとしても責めはしない』。

 『降りた後のお前達の安全も、出来る限り保障する』と。

 

 ……君が知らないだけでな、何人かの乗組員が降りている」

 

A2

「!! ……そう、だったのですね」

 

新艦長

「降りることを選んだ者達は、逃げたわけではない。

 別の戦いに向かったのだ。

 家族や愛する者を守る、故郷を守るための戦いに。

 

 A2、『戦いとはこれ日常なのだ。人はみな、それぞれの敵と戦っている』。

 

 今回は君がリーダーになったが、他者を強制したわけではない。

 戦う意志がある者達を、君が導いただけのこと。

 気に病まなくてよろしい」

 

A2

「あなたの言葉を聞いて、救われた気持ちになりました。

 ……ありがとうございます」

 

新艦長

「(って、生前の父の言葉とは言い辛い雰囲気に! 

 またしても!)」

 

A2

「料理の写真と一緒に、私の写真も撮ってはくれませんか?

 全てが終わった後、思い出として見返せるように」

 

新艦長

「良いとも。にこりと笑って写るのだぞ」

 

ジナコ

「ん? 何してるんスかー?」

 

新艦長

「ジナコくんだけでなく、カーマちゃんに森長可も帰ってきたか」

 

オデュA012

「すまない艦長、席を外していた。

 ん、記録写真か?」

 

新艦長

「オデュッセウスA012のみならず、キルケーくんも来てくれたのだね」

 

きょしんさん

「出汁巻き、出汁巻き卵はまだあるか?!」

 

新艦長

「姿が見えなかった者達が集まったか!

 こうなったら、全員で記念撮影といこう。 

 乗組員達も集合集合!

 ネームレス・レッドくんも、厨房からこっちに来たまえ!

 よしよし、全員、顔が写るように並んだな。

 タイマーをセットして……私も写るように、と」

 

みんな

「はい、チーズ!」

 

 

 ──艦内、マスター自室

 

 

A2

「本当に、楽しいパーティーでした。

 お腹もいっぱいで、色んな人との写真も撮って。

 ふふ、我ながら変な顔。

 ケーキのクリームを無防備に頬へ付けて、それを見てみんなが笑って。

 

 ……この戦いが上手くいってもいかなくても、私は全てを失います。

 記憶を、思い出を。

 この写真が、誰かの笑顔に繋がったのなら、幸せだな。

 

 マスター、待っていてください。

 私、あなたを助けに行きます。 

 どんな運命が待ちかまえていようと、どれほどの強敵が待っていようと、絶対に!」

 

 

 第39話 2021/06/26

 

 

 ──艦内ブリッジ

 

 

A2

「背筋が冷たくなってきた」

 

カーマ

「私のマーラ(本体)が近づいているの、貴方も感じるんですね。

 そして、護衛のゾルテトラの気配もたっぷりある。

 出撃の準備を始めないと。

 お願いしますね、私のマスターさん?」

 

A2

「うう……そうでした、そうでした……」

 

 

 ──数時間前

 

 

きょしんさん

「土方が私と共に出撃するなら、誰がA2の補佐をするのだ? 謎み」

 

カーマ

「はーい、私がやりまーす」

 

きょしんさん

「なっ……! 正気か、A2!」

 

A2

「私一人では、巨神もエンジンも動かすのは不可能。

 人員も足りなくて。

 ドクターキルケーといくつか検証をした結果、カーマちゃんにお頼みすることに」

 

きょしんさん

「……」

 

カーマ

「じと目で見ないでください。

 裏切りも、後ろから刺すような真似もしませんから。

 はぁ……」

 

 

 ──現在

 

 

カーマ

「さっさと支度、ハリーアップ」

 

A2

「あっ、ごめんなさい。

 パイロットスーツ着るの、慣れていなくて」

 

カーマ

「下部コクピットで、機体起動の準備してますねー」

 

A2

「ここに腕、じゃなくて足を入れて、よし。

 そう言えばマスターは、ウキウキとした様子であっという間に着ていましたね。

 次に会うことがあれば、コツを聞けるといいな。

 その時間が……あるといいな」

 

森長可

「殺し合った相手と、こうして背中預け合うとは思わなかったぜ。

 お前もそうだろ?」

 

A2

「ですね、本当に予想外のことばかりの人生です」

 

森長可

「人生、か……」

 

A2

「どうかしましたか?」

 

森長可

「いいや……なんでもねぇよ!」

 

A2

「戦闘中、フルネームで呼ぶのも長いですので、森君、とお呼びしてもいいでしょうか」

 

森長可

「おう!」

 

A2

「森君、出撃前ですが、体に不調などありませんか?」

 

森長可

「人の形とってても、オレはゾルテトラだかんなぁ。

 風邪とか花粉症とか寝冷えとか、そういうのは無いぜ」

 

A2

「お元気のようで良かったです」

 

森長可

「出撃したら手始めに、マーラ周りのゾルテトラをブチ殺さなきゃなんねぇ。

 キツい(いくさ)になる、覚悟出来てるか」

 

A2

「ずっと前からは、覚悟は決まっていますとも!

 カーマちゃん、出撃前の最終確認、頼めますか?」

 

カーマ

「はいはい、やりますよ、形式通りにね。

 すー……はー……。

 脊髄からの神経交感経路形成。

 緊急時の薬剤投与のため、両内太股静脈に簡易シャント設置。

 診断のため、全身スキャンを開始……健康状態良好。

 精神、平常。

 意外と落ち着いているんですね。

 昨日の今日まで、殺し合っていた相手を乗せているのに」

 

A2

「殺し合ってません、あなたとは。

 それに私は、信じると決めたので」

 

カーマ

「どうぞご勝手に。

 私は、私の目的のため頑張るだけですし」

 

A2

「フェイトエンジン、回転開始。

 パイロットとAIの運命経路、交差開始。

 回転数正常……出力正常! 

 よし、これなら発進できる。

 行こう! カーマちゃん! 

 巨神、アルジュナオルタナティブ、発進!」

 

 

 ──宇宙空間

 

ジナコ

「ハイハーイ! 今回のオペレーターっすよ!

 長期戦闘が予想されるので、人員は適宜交代していく予定!

 パイロットさん達、そこんところ了承してる?!」

 

A2

「はい! 理解してます!」

 

ジナコ

「良い返事! ゾルテトラによる通信阻害は起きてないね!

 A2さん、改良したレーダーを見て。

 今の敵の位置と数、どのくらい?」

 

A2

「目視で300、レーダーで800を確認しています」

 

ジナコ

「計算と同じくらいの数が来ているか……倒せそう?」

 

A2

「私1騎では難しかったでしょう。

 が、今は艦の援護射撃、森長可との協力も出来ます。

 5分、いただければ」

 

ジナコ

「頼もしい返事。

 じゃあ、ゾルテトラ殲滅任せた! 

 オペレートは続けてるから、何かあったら報告して!」

 

A2

「行こう! フェイトエンジン、フルドライブ!」

 

カーマ

「はいはい、はーい。

 ……ほんと、ゾルテトラ使いが荒い人ですね」

 

A2

「──武装、追想。

 展開せよ! 弓の名は……ガーンデーヴァ!

 続いて、上位命令インドラを使用! 

 武装起動! 銘は、煉獄弐:インドラカスタム!」

 

ジナコ

「説明しよう!

 煉獄弐とは、きょしんさんの武装『煉獄』を雛形に作り出したレプリカである!

 本物に比べ、ちょっと出力落ちるけど、実体剣としての切れ味は抜群!

 近距離武器を持ってなかったA2のために、みんなで作った新兵器ー!」

 

 

 ──宇宙空間

 

 

カーマ

「遠距離と近距離の二刀流、欲張り仕様ですね」

 

A2

「武器の展開に際し、大量のエネルギーを使いましたが、大丈夫ですか?」

 

カーマ

(あなど)らないでくれます? 

 私はゾルテトラ、この程度の負荷、なんてことありません」

 

A2

「なら良かった、このまま行こう!」

 

カーマ

「戦闘中、下部コクピットより補佐しまーす」

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

森長可

「やるじゃねぇか、A2にカーマ!

 800近くいたゾルテトラを、剣と弓でばったばったと蹴散らして、まさに一騎当千!

 っと、見()れてる場合じゃないな。

 オレも敵ぶっ殺して、ポイント稼が──」

 

???

「裏切ったのね、貴方まで」

 

森長可

「戦場に響き渡るこの声……マーラか!!」

 

???→マーラ:オリジン

「話が早くて助かります。

 ……この裏切り者がぁぁ!!」

 

 

 ──宇宙空間、森長可より先行しているA2達

 

 

ジナコ

「船の前方に大量のゾルテトラ出現!

 プラスして、巨神に似た形のゾルテトラ、マ……マーラが!!」

 

A2

「前方、森長可が居る方向……。

 しまった、私だけ遠くに釣りだされた形か!

 今から引き返す!」

 

カーマ

「別に反対しませーん。

 けど、そんな甘い行動を許すお相手だと?」

 

A2

「敵接近を確認。

 この反応、覚えている、"彼"か!」

 

???

「させんよ。

 もはやお前は、どこにもたどり着けまい」

 

A2

「巨神と融合してしまった、オリジナルのオデュッセウス。

 貴方と、この時この場所で戦うことになるだなんて」

 

???→オデュッセウス:オリジン

「……俺の盟友がまもなく地球に着き、ゾルテトラの母を殺す。

 そして、全てのゾルテトラは滅び、人類が地球に帰るのだ。

 お前は、その救済を邪魔するのか?」

 

A2

「私は、私のマスターを取り戻したいだけだ。

 貴方の古き友が奪った、あのマスターを」

 

オデュッセウス:オリジン

「俺は、人、世界を救うという使命を遂行できなかった。

 戦いの果て、名も記憶も失い、ただのゾルテトラとなって宇宙を彷徨っていた。

 そんな俺が、もう一度あのマスターに会った。

 戦う意味と死に場所を見つけられたんだ!

 ……これが嘘、夢幻でも構わない! 

 俺と戦え、ここをお前の墓標とする」

 

カーマ

「熱いアプローチかけられましたが、どうするんです?」

 

A2

「艦と森長可を助けに行くため、彼に時間を奪われるわけにはいかない。

 だからここは、『彼』と『彼女』に任せます」

 

オデュッセウス:オリジン

「何を言って──」

 

オデュA012

「お前の相手は、俺だということだ!

 補佐、任せたぞキルケー!!」

 

キルケー

「ばっちり任された!!」

 

オデュッセウス:オリジン

「この機体、巨人、は、いったい……」

 

キルケー

「オデュッセウス、オデュッセウスなんだろう?

 私だキルケーだ! 

 1000年前、きみと一緒に戦った──」

 

オデュッセウス:オリジン

「知らない知らない知らない、覚えてなんていない!

 後悔以外、何も……俺には何も無いんだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

オデュA012

「フェイトエンジンの異常回転から生み出された、広範囲を覆うビーム攻撃か。

 案ずるなキルケー、俺の機体の中に居れば大丈夫だ」

 

キルケー

「う、うん……」

 

A2

「彼のこと、頼みました!」

 

オデュA012

「そんな心配そうな声を出すな、A2。

 俺にはキルケーもついていてくれている。

 彼を倒し、お前に合流してみせるさ。

 背中は、俺が守ってやる。

 これからも、これまでも」

 

A2

「ありがとう、オデュッセウスA012、キルケー。

 カーマちゃん、マーラを止めるために戻ろう!」

 

 

 第40話 2021/06/27

 

 

 ──宇宙空間 

 

 

オデュッセウス:オリジン

「巨神ならばいざ知らず、たかが巨人に俺が倒せるとでも?

 悪辣なクローンめ、存在ごと握りつぶしてやる!!」

 

オデュA012

「くっ、これが俺のオリジナル!

 1000年前の英雄、オデュッセウスか……!

 フェイトエンジンの出力といい、技量と冴えといい、別次元の強さだ!」

 

キルケー

「近距離戦闘は、機体への負荷が大きすぎる。

 撤退を……」

 

オデュA012

「呼ぶな! キルケー! 

 お前が声をかけるべきは俺ではない、オリジナルの方だ! 

 どうか!」

 

キルケー

「分かっている、そういう作戦だものな!

 あ、えっと、わた、私……。

 私のこと、本当に覚えていないのか?

 きみと私と『彼女』は同じコロニーの生まれで、そして……」

 

オデュッセウス:オリジン

「そして?! 白々しい口ぶりだな、女!

 我らが故郷はゾルテトラに喰われ、俺達は軍に入った!

 結果どうなったか、俺は覚えていなくとも、お前は覚えているだろうよ!!」

 

キルケー

「『彼女』は、きみを支えるため軍医に。

 私ときみは、巨神の操縦者(マスター)に」

 

オデュッセウス:オリジン

「なった、人類を守るため、人間を辞めた。

 ……女、それで守れたものがあったか? 

 人は死に、仲間割れは頻発。

 ようやく見つけた『世界を救う方法』とやらも、土壇場で失敗した。

 ……失敗、そうだ失敗だ。

 俺はもう、失敗するわけには、いかない。

 盟友を一人で逝かせるわけには、いかない。

 だから俺、俺は……お前達を殺すぅぅぅ!!!!」

 

オデュA012

「ぬぅ!

 俺のオリジナルとは思えぬほどの見苦しさ!」

 

オデュッセウス:オリジン

「クローン体とはな。

 あははっ、軍の方がよほど見苦しい。

 俺の遺伝子と尊厳をいじくりまわし、出来たのがこんな虚弱な個体か?

 ならばやはり、盟友にしか世界は救えない。

 救えない、救え、救え救え救え……」

 

オデュA012

「かつての英雄よ! キルケーの言葉に耳を貸せ!

 ぐぅ! 機体は半壊状態になったが……問題ない、まだ戦える!」

 

キルケー

「……私達のオデュッセウス。

 お願い、したいことがあるんだ。

 最後のお願い」

 

オデュA012

「お前が俺に、お願い?」

 

キルケー

「いいだろ? 

 きみを小さい頃から面倒見ていた、かかりつけ医からのお願いだぞ?」

 

オデュA012

「内容はなんだ」

 

キルケー

「下部コクピットを開いてくれ。

 宇宙服を着ているから、このまま機体外に出る。

 あの男には、直接ガツンと言う必要があるみたいだ」

 

オデュA012

「なっ……! 

 外はゾルテトラとレーザー、実弾とデブリが飛び交う戦場だぞ!

 何より、俺のオリジナルは完全に正気を失っている。

 出れば命の保証は」

 

キルケー

「きみ、エレナから託されたんだろう? 

 『オリジナルを終わらせてやってほしい』って。

 それを果たすため、必要なことなんだ。

 心配そうな声を出すなよ、やけっぱちになったんじゃない。

 作戦がある、きみに話したことだ。 

 協力してくれ、頼む」

 

オデュA012

「……分かった、幸運を祈る」

 

 

 ──宇宙空間、オデュッセウス:オリジン前

 

 

オデュッセウス:オリジン

「女が機体外に出てきた……なんだ……?」

 

キルケー

「き……こえるかい? 

 通信している私の名前は、キルケー。

 きみの幼馴染で……きみを、好きだった女の子だ」

 

オデュッセウス:オリジン

「キル、ケー、キルケー。

 その音の塊が、何の意味を持つ?

 この、魂がざわめく感覚は? 

 俺の心、揺れているのか?

 あの女、なにか手に持っている。

 小さなロケットペンダント──」

 

キルケー

「でも! 私よりもっと、きみを好いてた『彼女』が居たんだぜ!

 愛し合っていたのに、綺麗さっぱり忘れているだなんて。

 モテ男と言えど、許されることじゃないぞ!

 聞けよ! そして思い出せぇぇぇぇ!!」

 

オデュッセウス:オリジン

「な、なにか、音が、聞こえる。

 ペンダントから発せられているのか?!」

 

女性の音声メッセージ

「オデュッセウス」

 

オデュッセウス:オリジン

「あ……」

 

女性の音声メッセージ

「オデュッセウス」

 

オデュッセウス:オリジン

「あ、ああ……ああああ!!」

 

 

 ──宇宙空間、巨人オデュッセウス付近

 

 

オデュA012

「キルケー! キルケー!

 もういいだろう、機体内に戻ってくれ!」

 

キルケー

「私のことは気にしないで。

 きみは、A2の元へお行き」

 

オデュA012

「……死ぬつもりか?」

 

キルケー

「そうだ、と言ったらどうする?

 考えてもみておくれよ、私、1000年も生きたんだ。

 もう目蓋を閉じたっていいはずだ。

 幼馴染の元で、さ」

 

オデュA012

「……」

 

 

 ──宇宙空間、オデュッセウス:オリジン前

 

 

オデュッセウス:オリジン

「頭に、女の声が響く、俺の名を何度も呼んで……。

 誰だ、この声の持ち主。

 思い出したいのに、思い出せない……。

 う、うう……」

 

キルケー

「オデュッセウス、思い出すんだ! 

 きみが帰りたい場所、きみが帰って来ると、死ぬまで信じ続けていた『彼女』の名前を!!」

 

オデュッセウス:オリジン

「この、女の、声、持ち主、名前は……」

 

女性の音声メッセージ

「オデュッセウス!」

 

オデュッセウス:オリジン

「『ペーネロペー』……。

 俺、泣いているのか……? 

 ゾルテトラに喰われ、巨神との融合体になり、1000年も彷徨っていたのに。

 いまさらの……涙だ……」

 

女性の音声メッセージ

(以下ペーネロペーの音声メッセージ)

「オデュッセウス!」

 

オデュッセウス:オリジン

「思い出した、思い出したぞ!

 ペーネロペー! ああペーネロペー! 

 愛しい人、俺の戦う理由、帰りたい場所!」

 

ペーネロペーの音声メッセージ

「(自分が病気ひとつなく、40歳になったと話している)」

 

オデュッセウス:オリジン

「ずっと、お前の元へ帰りたくて。

 でも、帰り道が分からなくて……」

 

ペーネロペーの音声メッセージ

「(80歳記念のパーティーを開催している)」

 

オデュッセウス:オリジン

「痛みと苦しみ、憎しみで体が凍てついた。

 大切なことから、忘れていったのに……」

 

ペーネロペーの音声メッセージ

「(100歳のお祝いに、彼女を慕う人々がメッセージを送っている)」

 

オデュッセウス:オリジン

「どうして今になって、思い出したんだ……。

 これじゃもう、盟友のために戦えないじゃないか……」

 

ペーネロペーの音声メッセージ

「(彼女の声は無く、葬儀を進める司祭の声と、嘆く大勢の声が入っている)」

 

キルケー

「……。

 ペンダント、彼女から預かっていたんだ。

 『私はもう待っていられないけれど、貴女ならきっと』と言われ、きみ宛てのメッセージと共にね。

 彼女、しわくちゃのおばあちゃんになっても、毎日笑顔を絶やさず、きみの帰りを待っていた。

 ……『今にあの人は帰って来る』が口癖だった。

 きみに返そう、ペンダントを」

 

オデュッセウス:オリジン

「俺は……どうすれば良かったんだ……」

 

キルケー

「きみを眠らせてあげるのが、運命が私に与えた役割だったのかもしれない」

 

オデュッセウス:オリジン

「俺、盟友を見つけたんだ。

 あいつは、1000年経った今でも、世界を救おうとしていて。

 使命だけが、亡霊となり蘇ったんだ。

 痛々しくて、俺は心配で、守ろうと」

 

キルケー

「もういい、もういいんだよ。

 きみの戦いは終わった。

 (オデッセイ)を終え、愛する人の元へ帰るべきだ。

 昔、地球で物語られた()の英雄のように。

 めでたし、めでたしにしよう」

 

オデュッセウス:オリジン

「俺は、怪物になってしまった。

 ペーネロペーと同じ場所には……行けないさ……」

 

キルケー

「心配しないで、きっと行けるよ。

 あんなに愛し合っていたのだもの。

 二人を引き裂くような真似、誰にもできやしない。

 そんなことする奴がいたら、私が蹴り飛ばしてやる」

 

オデュッセウス:オリジン

「キルケー……ありがとう……。

 俺の……クローンのことも……ありが……」

 

キルケー

「違うと分かっていても、放っておけなくてね。

 きみのことが大好きなの、私の唯一の弱点だ」

 

オデュッセウス:オリジン

「ありが……とう……」

 

キルケー

「オデュッセウス、強すぎた人、おやすみ……」

 

 

 ──宇宙空間、巨人オデュッセウス前

 

 

キルケー

「……A2のとこにお行きと、言ったのに」

 

オデュA012

「俺は、君を放っておくことは出来ないらしい」

 

キルケー

「ぐすっ……泣き顔見るために待っていたのかよぉ……。

 わざわざ宇宙空間へ出て、迎えに来てさぁ……。

 悪趣味だぞぉ……」

 

オデュA012

「そんなつもりではなかった、すまない。

 ああ……オリジナルの機体、崩れつつあるな。

 彼はもう行ってしまったのか、愛するペーネロペーの元へ」

 

キルケー

「今頃きっと、再会の涙で顔をぐしゃぐしゃに……。

 って、ええ?

 きみ、泣いてるぞ?」

 

オデュA012

「キルケーの無事を確認したら、涙が」

 

キルケー

「訓練でも治療でも泣かなかったきみが、こんなことで泣くのかぁ?」

 

オデュA012

「おかしなことか? 

 俺は君のことが好きなんだぞ。

 好きな人が無茶したり、戦場から無事に帰って来てくれれば、泣きもする」

 

キルケー

「へー、好き……好き?」

 

オデュA012

「ああ、好きだ。

 俺は君のことが、かなり好きだ。

 前から抱いていたこの感情、『好き』と分類出来たのは今の今だが」

 

キルケー

「……わー!! 

 待って待って、聞かなかったことにする!」

 

オデュA012

「なぜだ? 俺は君のことがす」

 

キルケー

「作戦中、いま作戦中だから! 

 こういう時に色恋の話をするのは、古くから縁起が悪いと言われていてね!

 全部終わった後、改めて聞かせてくれ!」

 

オデュA012

「分かった、約束だ」

 

キルケー

「ああもう……これ絶対、家族愛か何かとはき違えてるやつだぞ……!

 舞い上がるな私……!

 うう、ともかく、A2を援護するためにも移動しよう」

 

オデュA012

「行こうか、キルケー!

 そしてどうか安らかに、英雄オデュッセウス!」

 

 

 第41話 2021/6/28

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

マーラ:オリジン

「裏切ったのね! 貴方まで!

 家族に軍! 誰も彼も私を裏切る! 

 ゾルテトラだけは違うと、信じていたのに!」

 

森長可

「他人に期待するのなんざ止めとけ。

 世界を作ってんのは己、その己を腐らせたら、世界まで腐ってくぜ」

 

マーラ:オリジン

「また訳の分からないことを……!」

 

森長可

「ヒャハハハ! ──横っ腹、隙だ」

 

マーラ:オリジン

「くっ、少しかすった……」

 

森長可

「何だよ、以外と大したこと無いのな。

 この戦場で一番弱いの、お前じゃね?」

 

マーラ:オリジン

「馬鹿にして!!」

 

 

 ──ゴルドルフ艦ブリッジ

 

 

ジナコ

「他のオペレーターと同じく、状況の変化を確認。

 ゾルテトラの数は一時減ったけど、マーラ出現と共に増援が。

 800以上の個体がいる。

 けれど、森長可とマーラの戦いに巻き込まれ、やられているものも。

 艦の武装、弾幕により接敵と浸食は防げているけど、いつまで保つか……。

 A2、みんな、早く戻ってきて……!」

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

マーラ:オリジン

「もう誰にも私を、()を馬鹿にさせるもんか!

 力を極限解放! 

 見せてあげます、これがビーストモード!

 どう? 炎で作られた群青の四肢、美しいでしょう?

 続いて、フェイトエンジン逆回転!

 負の運命より来たる力で、貴方を殺す!」

 

森長可

「ふぅん、ちょっとは見れる姿に変形しやがったな。

 ありゃ犬か獣か……。

 んじゃあオレも、ゾルテトラとして本気出すわ」

 

マーラ:オリジン

「貴方に私は倒せない。

 巨神との完全融合を拒み、人の形に留まっている貴方には!」

 

森長可

「……大殿」

 

マーラ:オリジン

「(纏う雰囲気が変わった。

 何をしようとしているんだ、こいつは)」

 

森長可

「冥土の土産だ! 目ん玉に焼き付けとけ!!」

 

マーラ:オリジン

「なっ、腕が四本に……そして槍も同じ数だけ……!」

 

森長可

「人間無骨、四槍流! 

 いくぜ大殿ぉぉぉぉ!!」

 

マーラ:オリジン

「腕と武器が増えたから何だと言うの! 

 行け、ゾルテトラ! 

 露払いくらいしなさい、この役立たず!」

 

森長可

「行けよォ! ゾルテトラ! 

 そんで、オレと大殿のために派手に死んどけ! 

 ヒャハハ!!」

 

マーラ:オリジン

「相手側に下ったゾルテトラが、続々と!

 そのせいで攻撃が届かない!

 私が僕が主人だぞ! 言うことを聞けこの……!」

 

森長可

「だーかーらー……期待すんの止めろって言ってんだろ。

 生きるも死ぬも、上手くいくもいかないも、全て己の責任だ」

 

マーラ:オリジン

「違う! 

 やることなすこと全て上手くいかないのは、他人のせいだ!

 僕がこうなったのも、さく……姉さんがああなったのも!

 もう一人の姉さんと、離ればなれになったのも!」

 

森長可

「言い訳……すんじゃねぇ!」

 

マーラ:オリジン

「こんなにも苦しいんだ!! 

 言い訳ぐらいしたっていいじゃないか!

 

 運命を閉ざせ! マーラ・アヴァローダ!

 マーラ・アヴァローダ!!

 マーラ・アヴァローダ!!!」

 

森長可

「びびって技連発と来たか。

 見ていてくれよ、大殿。

 ぜーんぶ避けきってやっから!!」

 

マーラ:オリジン

「ちょこまかと逃げ回って!

 なんで、どうして捉えられないの。

 私、動揺しているのか、あの裏切り者に煽られたせいで」

 

森長可

「もういっちょ……隙だぁぁぁー!!!!」

 

マーラ:オリジン

「ぐぅ! 腕が!」

 

 

 ──ゴルドルフ艦ブリッジ

 

 

ジナコ

「やったぁ! マーラの腕が切り落とされたッス! 

 森長可、優勢!

 でも、この反応はなに? ……まさか!」

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

マーラ:オリジン

「(誰か、助けて。

 あと少しでぶち殺せるってのに、障害ばかりあるの。

 足止めくらっている場合じゃないのに!

 ……落ち着いて考えよう、パワーでは相手を上回っている。

 

 あいつより僕が弱いはずがない、何が違う……?

 

 森長可は、機体との融合を拒み、わざわざ搭乗するという形で戦っている。

 

 それはなぜだ?

 

 ああ分かった、分かっちゃいました、相手の弱点。

 だったら、同じことをすればいいだけ、でしょう?)」

 

森長可

「A2との約束とは違ぇが、ここでテメェをぶっ殺す!!」

 

マーラ:オリジン

「出来るわけないですよ! ばーか!」

 

森長可

「なっ!」

 

マーラ:オリジン

「ふふっ、こんな分裂体を作るのは初めて。

 今生み出したこいつに、巨神の操縦は任せる。

 大きく作った別の分裂体で、貴方の機体を羽交い締めです!

 そして、機体より分かれた私自身の腕で……こう!」

 

森長可

「がっ……かはっ……」

 

マーラ:オリジン

「はい、こんにちはこんばんは。

 機体の下部を穿たれ、無理やりコクピットから引きずり出された気分はどうです?」

 

森長可

「最……悪だ……」

 

マーラ:オリジン

「ゾルテトラになっていて、本当に良かったですね。

 そうでなければ、宇宙空間に出た瞬間、死んでいる。

 でも安心して、貴方を殺すのは最後。

 時が来るまで、私の大きな大きな手のひらの上で、のたうち回っていてください」

 

森長可

「なに……するつもりだ、テメェ……」

 

マーラ:オリジン

「貴方、どんな攻撃も避けようとしますよね、それはなぜ?

 貴方、私のように機体と融合すれば強くなれるのに、しなかった。

 それはなぜ?」

 

森長可

「……」

 

マーラ:オリジン

「答えは知っています! 

 ()()()()()()()()()()()!!

 はははは! くだらなーい! 

 巨神なんてただの兵器、道具、力でしょうに!

 けれど貴方は守ることに固執して、あまつさえ失った者の姿まで重ね合わせた!

 軟弱で臆病、それが貴方の本質」

 

森長可

「かも……な……」

 

マーラ:オリジン

「私は寛大です、今なら許してあげないことも無いですよ?

 惨めな人間のように、額を私の手のひらにこすりつけ、土下座してくれれば」

 

森長可

「大殿が……オレに手ぇ差し伸べてくれた時……。 

 『怖い』って理由だけで逃げちまった……」

 

マーラ:オリジン

「はぁ……もういいです。

 これから、貴方の大切な巨神『織田信長』を壊します。

 ただ壊すだけでは絶望の深みが足りませんね、私が吸収しましょうか。

 ああ! それはいい! 

 貴方の大切な人、私が食べちゃおっと!」

 

森長可

「は……ハハ」

 

マーラ:オリジン

「笑える余裕があるの? 

 握りつぶさないと、自分の今の立場が分かりませんか?」

 

森長可

「大殿が、そんなしょぼいな終わり方するわけねぇだろ」

 

???

『──』

 

マーラ:オリジン

「はっ、え? なんで。

 乗り手を引きずり出したのに、勝手に巨神がうごい」

 

森長可

「それでこそ! オレ達の大殿だぜぇ!!」

 

マーラ:オリジン

「馬鹿なっ! 

 巨神が貴方を守るために、自らの意志で動き出したというの?

 嘘だ、有り得ない。

 そんなことしてくれるなら、どうして僕と姉さんの時は──」

 

森長可

「やっちまえ大殿ー!!」

 

???

『──』

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

カーマ

「居ました、マーラです! 

 森長可の巨神、『織田信長』と交戦中!

 3体に分裂していますね、厄介なことに」

 

A2

「艦は無事かな?!」

 

カーマ

「目立った損傷は無いですよ、良かったですねー」

 

A2

「本当に良かった……間に合ったんだ!

 いま助けに行く、みんな!」

 

 

 第42話 2021/06/29

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

A2

「無事か! 森長可!

 返事をしてくれ、森君!」

 

森長可

「聞こえてる……ぜ、そんなに叫ぶなや……」

 

A2

「マーラにやられたせいで、ひどい怪我だ。

 今すぐ治療しないと」

 

森長可

「オレはゾルテトラだ。

 手当てが無くったって、あとちょいは持つ。

 それより……大殿は?」

 

A2

「貴方の機体のことですね。

 マーラの分裂体の手にかかり、壊されて」

 

森長可

「大殿、が。

 大殿さ、オレのこと、守ってくれたんだ。

 小っちぇころみたいに、オレのこと……」

 

A2

「森君……」

 

森長可

「期待に応えてぇけど、いまのオレじゃ無理だわ。

 ……だからよ」

 

A2

「分かっている、貴方の想いを背負って戦いましょう。

 事前に立てた作戦通り、私がマーラを倒します」

 

森長可

「ん……そうか」

 

A2

「はい、森君、任されました。

 ……怪我のせいで気絶してしまったか。

 ひとまずポッドに入れて、身の安全を確保してあげよう」

 

カーマ

「使おうとしてるそれ、貴方のための脱出ポッドじゃないですか」

 

A2

「いいんだ。

 これを私が使う事態には、絶対にならないから」

 

カーマ

「どういう意味……」

 

マーラ:オリジン

「敵を前にして……ぺちゃくちゃ……おしゃべりですか」

 

カーマ

「どうしたんです、その姿。

 全身は火傷、巨神の方に至っては、片腕とられちゃってるじゃないですか」

 

マーラ:オリジン

「うるさい! 分裂体如きが!

 人間に組し、勝ち馬に乗ったつもりでしょうけど、とんだ思い上がりね!

 ゾルテトラの未来がため、握りつぶしてやるんだから!」

 

カーマ

「あいつを倒す機会は今しかありません、A2。

 マーラは巨神との融合を解き、続けて分裂体まで生み出した。

 見た目には現れずとも、かなり弱っている」

 

A2

「私に……協力してくれますか?

 フェイトエンジンを回し、未来を拓き、運命を変える力を共に掴んでくれると」

 

カーマ

「ゾルテトラとマスターの協力なんて、宇宙が始まって以来のことかも。

 いいですよ、カーマちゃんは面白いこと大好きですから」

 

A2

「素直じゃないなぁ、全く」

 

カーマ

「はいはい。

 ……フェイトエンジン、封印完全解除。

 操縦者及び、補佐AIとの運命接続開始」

 

A2

「人と、神」

 

カーマ

「異なる運命混ざりし時、見える天地、現れる力」

 

A2

「そして私は今ここに、誰もが夢見た未来を拓く!」

 

マーラ:オリジン

「出来ませんよ! そんなこと!

 ゾルテトラと人の運命が交わるなんて、ありえないのだから!

 

 ゾルテトラは天地の捕食者!

 人はただの贄!

 

 まだ分かっていないの?

 ゾルテトラは正真正銘、新世界に適応した神々なのですよ?

 神と人が手を取り合い、未来を拓くなど、できやしない!」

 

A2

「うぐ、カーマちゃん、苦しくないですか?」

 

カーマ

「……っ、ええ、平気ですよ。

 お気遣いどーも」

 

A2

「……、……、……。

 何度も聞いた、おとぎ話がある。

 『黒き最後の巨神が、最後の剣を持って再び現れる時、世界は生まれ変わる』。

 そんな一説。

 でも、剣がどこにあるのか分からなかった」

 

カーマ

「フェイトエンジン、逆回転から正回転へ。

 回転数、出力共に上昇」

 

A2

「今なら分かる。

 最後の剣は、私の心のことだったんだ。

 

 私の覚悟、私の想い、私の──1000年前のやり残し。

 

 最後の巨神が握るべき、最後の剣はわが胸に!

 武装、追想!!」

 

マーラ:オリジン

「させません! マーラ・アヴァローダ!

 今なら間にあ──」

 

???

「ちょっと時間、かけすぎッスね」

 

マーラ:オリジン

「誰?!」

 

???

「雑魚過ぎて、記憶にも残ってない感じッスか?

 お忘れのようなので自己紹介。

 ジナコ=カリギリっすよ。

 成績だけなら貴方より、いいえ、慎■君より上だった乙女ッス」

 

マーラ:オリジン

「な、今、私のことをなんて呼んで」

 

???→ジナコ

「遠坂、慎二君。

 貴方の本当の名前は、マーラなんかじゃない。

 思い出してよ、人間だった時のこと」

 

マーラ:オリジン

「ゾルテトラに蝕まれた人と、ただの戦闘機か。

 対抗手段を持ってない兵器なんて、ひとひねり……」

 

ジナコ

「だーかーらー……人間舐めすぎ」

 

マーラ:オリジン

「うわ?! 煙幕?!」

 

ジナコ

「時間稼ぎ完了~。

 森長可を回収して、すたこらさっさ~」

 

マーラ:オリジン

「分裂体! ゾルテトラ!

 煙幕を早くかき消して!

 なんだこれ、特殊な薬剤でも使っているのか、全然消えない。

 早くしないと、()、殺され──」

 

A2

「……マーラ」

 

マーラ:オリジン

「ひっ!」

 

A2

「あなたを倒して、私は地球に向かいます。

 たった一人のマスターを取り戻すために」

 

マーラ:オリジン

「そして、ゾルテトラの母たるティアマトまで殺すのでしょう?!

 ……止めて許して! 

 私が全部悪かったの! だから殺すのは私だけにして!」

 

A2

「ティアマト神をどうするかは、まだ決めていない。

 けど、貴方のことは……倒すと決めた」

 

マーラ:オリジン

「いいえ! やっぱり私も殺さないで!!

 だって私悪くないもん、みんな周りが悪いんだもん!

 

 どうしてどうしてどうして!? 

 どうしてこんなに苦しいの? 

 

 軍も人間も、僕の苦しみに寄り添ってくれない!

 ゾルテトラになって人を辞めても、寂しいばかり! 

 辛くなるばかり!!

 おかしいだろ! どうして報われないの、ねぇ!!」

 

A2

「それは、貴方が」

 

カーマ

「やりすぎたから、ですよ、マーラ。

 初めは被害者だったのかもしれない。

 けど、貴方は被害者意識を膨らませ、暴力の形にして他者に振るった、振るってしまった。

 

 ……ようやく私にも分かりました。

 貴方が分裂体を生み出して来た、理由が。

 

 貴方、最後まで自分が被害者でいたいんですよ。

 全て周りのせいにして、誰かに救ってもらいたかった」

 

マーラ:オリジン

「使い捨ての分裂体如きに、僕の心が分かるものかぁぁぁ!!!!」

 

A2

「最後の剣よ! 今ここに力を示せ!

 これぞ、新たな世界を生み出す剣!

 未だ無名なる光の道!」

 

マーラ:オリジン

「やめて、やめろ、やめろぉ!!

 ごめんなさい、ごめんなさい!

 もう人間を殺したりなんてしません食べたりなんてしません!

 分裂体を生むこともしません!

 ゾルテトラ達と一緒に、世界の端っこで小さくなって暮らします、だから」

 

A2

「……さようなら」

 

マーラ:オリジン

「ひっ……ひぎゃぁぁぁぁぁ!!!!

 体、焼かれていく、痛い!

 僕を助けろゾルテトラ!

 助けて! 衛宮ぁ! さくらぁ! お姉ちゃ……」

 

カーマ

「では行ってきますね。

 痛みで自我を失いつつある本体を乗っ取り、ゾルテトラの支配権、その大部分を奪う」

 

A2

「カーマちゃん、ありがとう。

 貴女が居なければ、私、最後の剣を見つけ出すことは出来なかった」

 

カーマ

「……はいはい、どういたしまして」

 

マーラ:オリジン

「いやっ、ゾルテトラ!

 来ないで! 僕を食べないで……!!」

 

カーマ

「報いをあげます。

 ずっと欲しかったのでしょう?」

 

マーラ:オリジン

「や、いや……」

 

カーマ

「可哀想な本体、可哀想な男の子。

 そしてさようなら、人類の大敵、マーラ」

 

マーラ:オリジン

「いやだぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方→???

 

 

マーラ:オリジン

「……はっ、ここ、どこ?」

 

???

「お昼寝から起きたの? 慎二君」

 

マーラ:オリジン→遠坂慎二(以下、慎二)

「あ……お姉ちゃん……。

 パールバティーになってしまう前の、小さい頃のお姉ちゃんだ……」

 

 

 ──???→遠坂慎二の走馬灯

 

 

遠坂凛(以下、凛)

「ちょっと桜! 

 ピクニックへ行くのだから、慎二のこと、起こして来てと言ったでしょ!」

 

???→遠坂桜(以下、桜)

「なかなか起きてくれなくて……」

 

「早く起きなさいってば、慎二。

 あらどうしたの? 泣いてる?」

 

慎二

「こ、怖い夢、見て」

 

「夢? 

 内容、この凛お姉ちゃんに話してみなさい」

 

慎二

「僕が、化け物になる夢で。

 ほんとはなりたくなかったのに、無理やり」

 

「うんうん、それで?」

 

慎二

「化け物になった後、沢山の人を食べて殺して。

 そしたら自分がどんどん増えて、怖くてっ……!」

 

「……とても怖い夢だったわね」

 

慎二

「うわーん!

 お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

 

「桜、お母様に『慎二が泣いてるから少し待ってて』と伝えてきて」

 

「分かった」

 

慎二

「ひぃ……ひぃぃ……」

 

「私も桜も、少しお部屋から出ていくわね。

 大丈夫、直ぐに戻って来るから」

 

慎二

「ほ、ほんと?」

 

「私が嘘ついたことある?」

 

慎二

「いっぱいあったよ! いっぱい……」

 

「そうだったかしら?

 ともかく、お部屋で良い子で待ってなさい」

 

慎二

「分かった!!

 は、ははは……良かった……。

 夢だったんだ、怖かったぁ……。

 そうだよな、僕が怪物になるなんて、あるはず……。

 あれ、部屋の隅に何か──ひぃ!!」

 

???

「……」

 

慎二

「なんだあれ! ぐずぐずに溶けた男の人?!

 怖いよ! 助けて、お姉ちゃーん!!」

 

???

「マ……」

 

慎二

「部屋のドア、開かない、なんで?!」

 

???

「マーラ、よくも……俺達を……殺したな……」

 

慎二

「溶けてる人が増えてきてる!

 開けて! 誰かドアを開けろ!

 僕の命令が聞こえないのか!!」

 

???

「マーラよくも……私達を……使い捨てた……な」

 

慎二

「女の人まで増えた! 怖いよぉ!!

 部屋いっぱいにどろどろが広がって……。

 いやだ、こっち来るなぁ!!」

 

???

「マーラ、マーラ、マーラ。

 ゾルテトラ、怪物、化け物、人殺し……」

 

慎■

「ぼ、僕は、遠坂慎二は化け物じゃない!

 遠坂■■は──」

 

???→報い

「                  」

 

■■

「……あれ、僕の名前、なんだっけ」

 

 

 ──宇宙空間、ゴルドルフ艦前方

 

 

A2

「……乗っ取ったんだね、マーラの体を」

 

カーマ

「ええ。

 マーラ支配下のゾルテトラすら、私のものに。

 私が消える、という心配も無くなりました。

 くすくす……いい気分。

 強くなった感覚が、こんなに甘いものだなんて」

 

A2

「力に溺れないでくださいね」

 

カーマ

「その台詞、そのままお返ししまーす」

 

A2

「……本当に、殺すしかなかったのかな。

 他の手段があったかもと思うと」

 

マーラ

「殺すしか無かったと思いますよ?

 彼女と私達は相容れなかった。

 言葉を交わしたとしても、平行線を辿っていたことでしょう」

 

A2

「……」

 

マーラ

「今は作戦が上手くいったことと、貴方が『黒い剣』を手に入れたことを喜びましょうよ。

 いえーい、いえーい。

 そうだ、剣の名前、どうするんです?」

 

A2

「マスターに、マスターに付けてもらおうと思います。

 色々考えたのですが、しっくりくるものが浮かばなくて」

 

カーマ

「マスターさんのこと、大好きですね」

 

A2

「私を"私"にしてくれた人でもありますし、パートナー……ですから」

 

ジナコ

「こちらオペレーター!

 帰艦できたので連絡ッス。

 作戦が成功したようで何より。

 うぉ……カーマちゃん、でっかくなったね。

 100m級、いわゆる巨女ってやつじゃあないですか」

 

カーマ

「森はどうしたの?」

 

ジナコ

「私が戦闘機で回収して、医務室に運んだ。

 ドクターキルケーが診てくれてる」

 

A2

「体も万全ではないのに、前線まで来てくれて、ありがとうございます」

 

ジナコ

「いいんスよ。

 ……アタシも、慎二君との決着を見届けたかったし」

 

カーマ

「報告もいいですが、あれを見て」

 

A2

「森長可の巨神、『織田信長』。

 半壊したまま、戦場から離れていく……」

 

カーマ

「どこか遠くへ旅立つのでしょう、きっと」

 

A2

「森君はあの機体を、とても大切にしていました。

 機体と森君、思いが通じあったのに去っていくなんて。

 知ったら悲しむだろうな……」

 

ジナコ

「良いんじゃないッスか。

 いつまでもべったりじゃ、お互い成長しない。

 子離れ親離れってことで」

 

A2

「離れることで生まれるものも、あるのですね……」

 

ジナコ

「さてと、一旦状況を整理ッス。

 

 A2さんとカーマちゃんの活躍で、進路を阻むゾルテトラはほぼ無し!

 オデュッセウスA012とキルケーも、一度戻ってくるみたい。 

 

 足並み揃え、万全の状態でいざ行かん! 

 本丸、人類生存域防衛軍宇宙艦隊へ!」



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新世紀ロボット番組『戦闘巨神アルジュナ』コラボイベント風SS まとめ4

第43話~第44話
※2024 4/23 読みやすく、改稿しました。


 第43話 2023/05/11

 

 

 ──宇宙空間、火星、地球間

 

 

モリアーティ

「ほらほらほらほらァ! どうしたんだい? 

 さっきまでと打って変わって、しおらしい!!」

 

土方

「相手からの連続攻撃で、機体と俺の体が軋みやがる!

 こっちの巨神が、純粋に力負けしてんのか!」

 

きょしんさん

「敵のおぞましみ、解析できたぞ!

 重なった無数の巨神の部品……それぞれが脈動しているせいだ!」

 

土方

「人で言うなら死体のパッチワークってところか。

 お前とA2が震えるわけだぜ」

 

モリアーティ

「巨神デミゴッドの真実に、こんなにも早くたどり着くとは流石だね。

 ふむ、土方歳三か、ようやく思い出せたよ」

 

土方

「俺のような一兵卒を、防衛大臣殿が覚えてくださっているとは」

 

モリアーティ

「手元にレポートがあったのでね、君の機体のAIにも聞こえるよう読み上げよう。

 土方歳三。

 ジャパンコロニーの末裔にして、被験者『沖田総司』とは同郷。

 軍にいたときには下っ端。

 大きな声では言えないような"悪事"もしていたみたいだネ?」

 

土方

「……」

 

モリアーティ

「そんな、器も度量も小さい男が、私のような偉大な存在に楯突くなど! 

 失笑を禁じ得ない!!」

 

土方

「偉大? てめぇが偉大だと?

 大勢の人間を、捨て犬部隊の奴らを使い潰し、切り捨ててきたお前が?

 ……沖田を殺したお前が!」

 

モリアーティ

「ああそうだとも! 私は偉大さァ!

 『人類を救う』! 

 それに人生を捧げ、邁進(まいしん)してきたのだもノ!!

 ただ、それだけのためニィィィ!!」

 

きょしんさん

「来るか! 連続攻撃! 

 私が防いでやる!」

 

モリアーティ

「……ネ、死ネ死ネ死ネ死ネ死ネェェェ!!!

 人類の未来のため、ここで死ネ!!!!」

 

きょしんさん

「ふっ、くっ、ぐっ!

 すまない、敵の力、一撃ごとに変わって……!

 防御、追い付かない! 威力も攻めも変則的すぎる! 

 巨神が組合わさっているせいか?!」

 

土方

「ダメージは俺に渡せ!

 お前の痛み、俺が防いでやる!」

 

きょしんさん

「でも……それをしたら!」

 

土方

「巨神化症が進むってか?

 俺を舐めんじゃねぇ。

 その程度、全部飲み込んでやる」

 

モリアーティ

「美しいネェ! それは愛カナ!?

 それとも友情カナ?

 あ、は、ハハハハヒヒヒャヒャ!!!!」

 

きょしんさん

「防衛大臣の様子がおかしいぞ!

 反応が人間から、()()()()() ()へ切り替わっていく!

 乗っている巨神と融合を始めたんだ!」

 

土方

「俺達を排除するためなら、人を辞めることさえ構わねぇってか! 

 ……OSA2!」

 

きょしんさん

「分かってる! 

 敵の間合いに居ては、こちらが不利みだ!

 短距離ワープで離れ……くっ!」

 

モリアーティ→デミゴッド

「逃がスわけ、ないでショ?」

 

土方

「機体が裂けるぞ! ワープ中止! 

 ぐぅ……掴まれた、か……!

 スピードもパワーもぐんと上がりやがった!」

 

デミゴッド

「こノまま、機体の胴体ヲ搾ってアゲよう!!

 オレンジのじゅーすを作る、その時ノようにネェ!!」

 

???

「──いや、そうされるとちょっと困るなぁ」

 

デミゴッド

「はっ!? ナニモノ……!」

 

???

「君達、『人類防衛軍』が切り捨ててきた者だよ」

 

デミゴッド

「コノ反応、新手……!!」

 

坂本

「助けに来たよ! 土方さん!」

 

お竜さん

「お竜さんも一緒に、な!」

 

土方

「この声……あの二人か!」

 

きょしんさん

「私の方でも確認できた! 商船が見える! 

 だがなぜ?!」

 

土方

「船だけじゃない、あれは……」

 

きょしんさん

「巨神! 巨神だ! 

 坂本龍馬が巨神に乗っている……!」

 

坂本

「昔とった杵柄というか、そう、僕は巨神のマスターなんだ。

 土方さんは知ってるね」

 

お竜さん

「そして、補佐のクールビューティーAIことお竜さんだ。

 いえーい、コスモピース、いえーい」

 

デミゴッド

「1000年前ノ亡霊ガ何ヲ!!」

 

坂本

「アプスーを殺すため」

 

デミゴッド

「!!」

 

坂本

「だとしたら、君は何と言ってくれるかな」

 

デミゴッド

「アプスー、は、殺させない。

 だって彼は、人類ノ希望!

 1000年に及ぶ人類の絶望を、宇宙を逃げ惑う漂泊ヲ終わらせる、たった一つの[[rb:術>すべ]]!」

 

お竜さん

「こいつ、ゾルテトラになりつつあるせいで、相当頭悪くなってるぞ」

 

坂本

「では、ご立派な大臣様にこう言おうか。

 ……『人類のため』に、自分の親友も切り捨てたのかい?

 若き歴史学者であった、シャーロック・ホームズを」

 

デミゴッド

「なぜそれを……!?」

 

坂本

「闇商人だからね、物騒なものは情報だって扱うのさ。

 そして君が軍の闇を知り、身の安全と引き換えに今の地位に座った、ということも知っている」

 

デミゴッド

「う……グゥ……!」

 

坂本

「一方、軍の秘密を知ったシャーロック・ホームズはどうしたか。

 ……自ら死を選んだ。

 誰かの傀儡になることはせず、誰も巻き込まないように、誇り高く、ね」

 

デミゴッド

「誇り高く……だと?!

 あれが……あれが"誇り高く”あるものか!!

 

 シャーロックは死んだ! 

 地上20mはある通路から飛び降りて、ただ死んだ!

 その死体の様子を君は知っているか?!

 顔面は潰れていた! 

 胴体なんて、受けた衝撃で半分になっていた! 

 全身のあちこちが解放骨折し、血みどろだった!

 皆を楽しませていた口も、深く裂けて……!

 脳は、パーティーグッズみたいにこぼれ落ちていたよ!!

 

 もう二度と……二度と! 彼と語らうことは出来なくなった!

 あの無惨な姿が、"誇り高く"あるものか!

 ただ死んだ……あれほどの若者が、ただ、ただァァァ!!!!!!」

 

土方

「坂本! なぜ火星近辺まで来れた?

 ワープドライブが無ければ不可能なはず……」

 

坂本

「ゴルドルフ君から貰ったワープドライブ、それを修理してぱぱっと来たのさ」

 

土方

「なるほど、あの取り引きも全部計算の内だったって訳か」

 

坂本

「疑わないでほしいな。

 僕の行動は本当に、親切心から来るものが多いよ?」

 

土方

「……」

 

坂本

「僕がもっと邪悪なら、1000年の間に討伐されているって!」

 

土方

「過去はどうでもいい、これからの話をするぞ。

 敵をいたずらに挑発して、何のつもりだ?」

 

坂本

「冷静なモリアーティと正面からやりあうのは、流石の僕でも荷が重いからね。

 なので、『冷静さ』を奪い取ったんだ」

 

土方

「相変わらず黒い手を使いやがる」

 

坂本

「……、……、……そうだね、黒い手を使うよ、僕は。

 ──お竜さん」

 

お竜さん

「いいんだな?」

 

坂本

「……うん、いい。

 本当は、あの大馬鹿のアプスーに使いたかったけど」

 

土方

「坂本? 何をするつもりだ、坂本ォ!!」

 

坂本

「もう、いいかなって。

 大臣をやっつけて、土方さんと、彼の大切なものを守ることが出来たなら、いいかなって」

 

お竜さん

「リョーマ、アプスーのこと恨んでいたんだろう?

 殴ってやりたかったんだろう?

 

 『どうして一人で戦いに行ったんだ』って。

 『どうして自分を置いていったんだ』って。

 ……『どうして一緒に死んでくれなかったんだ』って。

 

 聞きたかったんだろ? 1000年の間、ずっと。

 お竜さんには、全部分かっているんだぞ」

 

坂本

「もういいんだ。

 それに、さ」

 

お竜さん

「うん?」

 

坂本

「──憎み続けるの、結構しんどいって気づいたから」

 

お竜さん

「……そうか。

 リョーマがいいなら、お竜さんも、それで、いい」

 

坂本 

「やろう、お竜さん! 詠唱お願いね!

 ──フェイトエンジン、逆……いや、正常回転!」

 

お竜さん

「悲劇の運命、今ここから変わり出す!」

 

きょしんさん

「二人の機体が白く、白く変わっていく!!

 まるであれだ、ええと、ウェディングドレス!

 余剰エネルギーが、背中から翼のように広がって……。

 すごく綺麗だ! めでたみ!!」

 

坂本

「人と神、重なり。

 運命の名を関するエンジンは、正しき方向へと回り始めた。

 これで僕とお竜さんは、完全に一つとなった」

 

お竜さん

「以外とそうでもないぞ」

 

坂本

「なった、なったの! 

 それが巨神の奥の手なんだから!」

 

土方

「まさか、お前……!」

 

坂本

「大臣は僕らが引き受ける! 

 けど、それ以上は無理、かな。

 ここでお別れだ。

 商船にいる13人の小さい以蔵さんのこと、頼んだよ」

 

土方

「……覚悟を邪魔だてするほど、堕ちゃいない。

 ああ、任された」

 

坂本

「ありがとう、恩に着るよ」

 

デミゴッド

「複数ノ巨神の力を持つ私ヲ、殺せるとでも……!!」

 

坂本

「これは、殺すための力じゃない」

 

お竜さん

「やり直すための力。

 だろう? リョーマ」

 

坂本

「僕はやり直したかったんだ。

 1000年前、友との出会い、戦い、その結末を、どうか変えたいと……。

 

 されどその思い、願い、未来のために使おう! 

 

 この力は、人を、みんなを笑顔にするためにある!

 今こそ、憎しみを越えて僕らは──!」

 

お竜さん

「水没銀河、その[[rb:綿津見>わだつみ]]の原を行く──!!」

 

デミゴッド

「攻撃なぞ、受け止めてカラ反撃して……!!」

 

???

「なーんて、させると思った? ダディ」

 

デミゴッド

「このタイミングで、戦艦からノ砲撃?!

 空域には、私指揮下の艦しかいないはずなのに!?

 うぐっ……わ、防御、遅れテ……!!」

 

坂本

「それじゃあ! みんな……さよならだ!!」

 

お竜さん

「バイバイだ、人間」

 

デミゴッド

「まぶ、シイ、なんだ、この、光は──」

 

 

 ──宇宙空間、火星、地球間→???

 

 

???

「教授?」

 

デミゴッド

「はっ!」

 

???

「居眠りですか、モリアーティ教授。

 ……歳では?」

 

デミゴッド

「うるさーい! まだぴちぴちのアラフィフだもん!

 って、え? 

 シャーロック、か?

 私、明晰夢(めいせきむ)か走馬灯でも見ているのか?」

 

???

「どちらも外れです。

 今の私は……貴方の中の『シャーロック・ホームズ』とでも言いましょうか」

 

 

 ──???→モリアーティの心の中

 

 

???

「まず始めに。

 シャーロック・ホームズを悼み続けてくれて、ありがとう」

 

デミゴッド

「……」

 

???

「おかげで、こうして話せるほどに私は成長できた。

 私は貴方のアルターエゴ、と、例えても良いかもしれない。

 どうかしましたか、教授。

 顔を歪めて、おや」

 

デミゴッド

「ぁ……あああ、シャーロック、シャー……ロック……!」

 

???→ホームズ:アルターエゴ

「泣いている、のですか。

 貴方らしくもない」

 

デミゴッド

「私は、私は、ずっと悔やんでいたんだ!

 あの時、君を守れなかったことを!

 

 私は、ずっと恥じていたんだ……!

 あの時、君と一緒に死ななかった自分を!

 

 死ぬのが……怖くて……怖かった……ああ!!」

 

ホームズ:アルターエゴ

「……」

 

デミゴッド

「軍の傀儡(くぐつ)、大臣にまでなって……」

 

ホームズ:アルターエゴ

「死が怖い、それだけが生きる理由ではなかったはず」

 

デミゴッド

「……」

 

ホームズ:アルターエゴ

「自分が生きることで、シャーロック・ホームズの死に意味を持たせたかった。

 違いますか?」

 

デミゴッド

「……そう、だった」

 

ホームズ:アルターエゴ

「だったでしょう?」

 

デミゴッド

「私が死んだら、今度こそ世界からシャーロック・ホームズが消えてしまう!

 そんな気がして……!

 がむしゃらに、生きてきた。

 土方歳三が言うように、他者を道具のように切り捨てて。

 

 そこまでして、終わりがこれか。

 人を辞め、巨神と融合し、知性を無くした。

 はは、なんとみっともない、情けない」

 

ホームズ:アルターエゴ

「終わり、ではなさそうですよ」

 

???

「そうだよ、防衛大臣。

 死んでもらっては困る」

 

デミゴッド

「っ、坂本龍馬!」

 

坂本

「うん、僕らだ。

 先に言っていただろう?

 『これは、殺すための力じゃない。

  やり直すための力だ』と」

 

デミゴッド

「やり直す? 私が?」

 

坂本

「君と巨神の融合を解こう。

 そして、君を人として送り返す」

 

デミゴッド

「なぜ、そんなことを……」

 

坂本

「責任」

 

デミゴッド

「え?」

 

坂本

「責任を取ってもらうためだ。

 今まで、自分がやって来たことについてのね」

 

ホームズ:アルターエゴ

「死んだ私が言うのもあれですが、死を選ぶより、生きていく方がずっと、ずっと困難な道です。

 けれど教授、貴方──困難な道の方がお好きでしょう?」

 

デミゴッド

「低きにばかり流れ、忘れていたが……思い出したさ。

 私はいつだって! 証明の困難な道の方が好きだった!」

 

ホームズ:アルターエゴ

「であれば、行けますね? 

 ……生きて、行けますね?」

 

デミゴッド

「そうだね、生きていくとも。

 どれだけの罰を受けることになろうと、生きて、責任を果たそう」

 

坂本

「覚悟が出来たのであれば、送り返します」

 

デミゴッド

「私は帰る、そのことは分かるのだが……君達はどこへ?」

 

坂本

「さぁ、どこでしょう。

 でも、悪い場所では無いはずです。

 温かくて、優しくて、そういう場所だと思います」

 

お竜さん

「心配は無用だ。

 なんと言ったって、お竜さんがついているからな!」

 

デミゴッド

「……そうか。

 幸せにな、二人とも」

 

お竜さん

「人間に言われるまでもない。

 今度こそ、ハッピーエンドを迎えるぞ」

 

デミゴッド

「シャーロック」

 

ホームズ:アルターエゴ

「さよならは言いません。

 貴方の中で、私は生き続けるのですから」

 

デミゴッド→モリアーティ

「……また、会おう。

 それがもし叶ったら、二人で冒険をしよう。

 空き家を巡る、冒険を」

 

ホームズ

「……ええ、また、必ず」

 

 

 ──宇宙空間、火星、地球間

 

 

モリアーティ

「う……ああ……私、帰って、来た、のか。

 誰か、いる? ひょっとして……」

 

新艦長

「私です! ゴルドルフ・ムジークです!

 半壊した巨神から貴方を引きずり出し、医療用ポットに詰めました!

 はひぃ……疲れた、肝が冷えた……」

 

モリアーティ

「なぜ、君、が……」

 

きょしんさん

「私達がお前を助けたからだ。

 それに、ほら見ろ」

 

???

「ハーイ! お久しぶりですね、ダディ!

 それっともー? 適当に作った"クローン"なんてお忘れでー!?」

 

モリアーティ

「若い頃の私……いや違う!

 なっ、ばっ、お前はー!!」

 

???

「はい! 銀河で一番輝く暗黒星!

 ジェームズ・モリアーティクローンでーす!

 ……会いたかったよ、ダディ?」

 

新艦長

「どゆこと?」

 

???

可憐にして存在儚いモリアーティ:クローン

「説明してあげよう!

 僕はね! そこのシワシワ防衛大臣……これだとシワを守ってるみたいだな、まぁいいか!

 防衛大臣がね! 何かあった時、その脳を移植するために作られたスペアボディなんだ!

 だから若いんだよ!

 あーあ! 僕ってば銀河で一番可愛そうだなー!」

 

新艦長

「……テンション高いね、君ね」

 

儚いだけではなく知性すこぶるモリアーティ:クローン

「ダディを打倒出来たのだって、僕が途中で援護射撃してやったおかげだろ。

 感謝しろよ、しなさい、してください」

 

新艦長

「……情緒不安定だね、君ね」

 

胸を誇らしげに張る姿が煌めくモリアーティ:クローン

「ともかく、だ!

 ダディは助かったのだし、僕も来たし。

 この場は僕に任せ、先行した巨神を追いかけたらどうだい?」

 

新艦長

「は! そうか! 

 地球へ向かったA2を助けに行けるではないか!

 感謝するぞ! スペア君!」

 

生きてるだけでえらいぞモリアーティ:クローン

「そう呼ぶんだ、へぇ」

 

新艦長

「どう呼べばいいの?!」

 

きゃぴきゃぴ笑顔まじかわゆなモリアーティ:クローン

「追ってメールするね!」

 

新艦長

「ええ?!」

 

(略)モリアーティ:クローン

「さてさて、彼らも行ったことだし。

 ……わーい! ダディを生け捕りに出来た!

 これで戦後処理は全部丸投げ出来るぞー!

 ふふっ、僕の人生はこれからさ!

 晴れて自由の身となって! 政界へ華麗に進出……。

 って、その方向に進化していいのかな?

 まぁいっか! 

 ジェームズ、地位と名声とお金、だーいすき!」

 

 

 ──宇宙空間、火星、地球間

 

 

土方

「坂本とお竜が作ってくれた時間、無駄には出来ねぇ。

 まずは託されたこと……13人の小さい以蔵を回収だ。

 そうしたら」

 

きょしんさん

「私には余力がある、短距離次元跳躍も出来る。

 A2の援護に行こう。

 あっ……遠くにいる、あれは」

 

土方

「坂本が乗っていた巨神、か」

 

きょしんさん

「やっぱり、すごい綺麗だ。

 白くて、羽が生えていて、どこまでも行けそうな姿をしている」

 

土方

「お前の言う通り、空域を離れて、どこかに行くみたいだ」

 

きょしんさん

「私達を助けてくれてありがとう、二人とも。

 どうか幸せに」

 

 

 第44話 2023/10/18

 

 

 ──宇宙空間、火星、地球間

 

 

A2

「早くっ、地球に行かなくてはならないのに……!!」

 

ゾルテトラ達

「──!!」

「──?!」

「──!!!!」

 

A2

「敵が分厚い帯状となって、道を阻んでくる!

 仕方がない──武装、追想。

 展開せよ! 

 弓の名はガーンデーヴァ!

 続いて、上位命令インドラを使用! 

 武装起動──銘は、煉獄弐:インドラカスタム!

 

 弓と刀、遠距離と近距離兵器をそれぞれ手に持ち、この領域を焼き付くす!

 そして……マスターを、助けに……!!」

 

土方

「気負うな、お前は一人じゃない」

 

きょしんさん

「こちらの戦いは終わった、やるべきことも済んだ。

 だから来たぞ、れすきゅみ」

 

A2

「再び、助けに来てくれるだなんて……」

 

土方

「雑魚を相手する時間は無い。

 俺達の巨神と手を繋げ。

 もう一度、連続短距離次元跳躍をやってやる。

 そして、地球まで連れていく」

 

きょしんさん

「これで敵も味方も"ごぼう"だ!」

 

A2

「?」

 

土方

「……ごぼう抜き、な」

 

きょしんさん

「そうだった、ちょっと間違えた」

 

A2

「ワープで連れて行ってもらえても、二人は……」

 

土方

「お前の危惧通り、『敵陣のど真ん中』に出ることになる、が」

 

きょしんさん

「みーんな、やっつけてやる、心配は無用だ。

 私達がゾルテトラの注意を惹いている間に、マスターの元へ行け」

 

A2

「分かり、ました。

 二人の機体と手を繋ぎます。

 どうか私を、マスターの近くまで!」

 

きょしんさん

「任された!

 準備はとうに完了! 行くぞ!」

 

土方

「連続短距離次元跳躍、開始!

 ワープ酔いするんじゃねぇぞ、A2!」

 

 

 ──火星圏→地球圏

 

 

A2

「はぁ、はぁ。

 気持ち悪い、けど。

 この程度飲み込んで、私はマスターを……」

 

土方

「アイツのこと、頼んだぞ」

 

きょしんさん

「私も、またA2のマスターに会いたい。

 そして、スペース任侠ドラマのことをお話ししたい」

 

A2

「……はい、はい!」

 

きょしんさん

「予想通り、ゾルテトラの反応だ!

 数は」

 

土方

「言うな、もう見えている。

 流石地球圏内だ、敵がうじゃうじゃ居やがる。

 が、俺とOSA2なら楽勝だ、そうだろ?」

 

きょしんさん

「ぴちぴちざこざこなんて、何体いてもへっちゃらだ」

 

A2

「二人に背中を預けます。

 甘えても……いいでしょうか?」

 

土方

「ありがたいな、信頼ってやつは。

 ああ、存分に応えてやる」

 

A2

「では、しばしお別れです。

 今より地球に、大気圏に突入します!

 高純度耐熱フィルム、機体前面に展開!

 くっ……これが摩擦の熱、地球の熱!

 そして、下に見える景色、真っ赤な海で染まった世界が──!!」

 

 

 ──物語の始まり→地球

 

 

A2

「大気圏突破、機体損耗率1%以下。

 索敵と戦闘機能、異常無し。

 予想結果より数値が良い、問題なく戦いに望めそうだ。

 

 機体が持つ"融合治療"機能を使い、取り込まれたマスターを助けに行く。

 これは、そのための戦いだ。

 取り戻すための、最後の……最後の。

 ……マスターエレナ、こう言っていましたね」

 

エレナ(回想)

『巨神アプスーと巨神アルジュナオルタナティブを接近させて、両機体を融合させる。

 その後、A2が融合状態を制御し、マスターを貴方が知っている状態まで戻すの。

 理論上は可能だけど、すごく難しいと思う。

 

 よしんば成功したとしても……記憶だけは、失われてしまうわ。

 生き物の脳は繊細よ。

 まるで虫のさなぎのように、肉体をドロドロに溶かして再生させるプロセスに、脳細胞は耐えられないはず。

 

 マスターも、全てを忘れてしまうはず。

 

 ええ。何もかも何もかも』

 

A2

「行う私も、ただではすまないでしょう。

 だから、これが最後。

 ──全部の、最後なんだ」

 

???

「■■■■■!!!!!!!」

 

A2

「なんだ?! 叫び? 

 うっ、ここにまで空間の震えが! 

 あそこに浮いているのは、巨神アプスー!

 忘れるはずがない! テレビで見たあの機体だ!

 攻撃を受けている方……巨神、ではない。

 もっと有機的で、[[rb:艶>なまめ]]かしい形をしている。

 

 胸と臀部には女性らしい膨らみがあり、体のあちこちに……あれは鱗か?

 頭には半円状の角、腰から生えているのは尻尾?

 瞳はエネルギーのほとばしりで輝き、口は耳元まで裂け、赤い内側が覗いている。

 

 少しだけ、己の姿に似ている気がします。

 あれが、全てのゾルテトラの母。

 今より3000年前、人類が宇宙に逃げ出す原因を作ったモノ。

 

 ──超常存在『ティアマト』!」

 

???→ティアマト

「aaaaaaa!!!!」

 

A2

「それにしても大きい、2km以上はあるでしょうね。

 アプスーの何倍もの大きさ。

 だというのに、巨神は果敢にいどみかかっている。

 全てはティアマトを倒し、ゾルテトラを滅ぼし、地球を取り返すため、ですか。

 それだけを目的に1000年以上も生きて、私のマスターさえ取り込んで。

 ずっと……ずっと……。

 ……」

 

 

 ──地球 

 

 

マスター:オリジン

『はははは!!!! どうしたティアマト!

 叫ぶばかりで無抵抗! 我に圧されているじゃないか!!』

 

ティアマト

「a、aa……aaaaaaa!!!!」

 

マスター:オリジン

『輝け! 我が機体!

 神の中の神が持つ最後の剣よ!

 敵を……切り裂けぇぇ!!!!!』

 

ティアマト

「aaaa─────!!!!」

 

マスター:オリジン

『竜体表面に傷が付いた! いける……いけるぞ!

 我は自分は! ティアマトを殺すことができるんだ!!!!

 ……かはっ』

 

ティアマト

「a?」

 

マスター:オリジン

『吐血、そうか、機体と急激な融合が進んでいるのか。

 下半身は完全に取り込まれたな。

 ふふっ、頭の角もみるみる育ち、皮膚を突き破り、竜鱗が全身を覆っていく……!!

 いい、良い気分だ。

 人を越えて神になるというのはなぁ!!』

 

ティアマト

「a、a、aaaa……」

 

マスター:オリジン

『死ね、死ね、死ね、死ね、死ね! ティアマト!!

 お前のせいだ! 

 お前がゾルテトラを産み出したせいで、人類は宇宙に逃げる羽目になった!

 

 そして、追い詰められた人は巨神を作り出し、何人も巨神に乗って……戦って……。

 死んだ者もいた! 人じゃなくなった者もいた!

 それだけじゃない!

 巨神を求め、ジャパンコロニーに他のコロニーが攻め込んで来た!

 故郷が……燃えて……消えて!!』

 

ティアマト

「aaaaa……」

 

マスター:オリジン

『哀れっぽく鳴いた程度で、俺が攻撃を止めると思うなよ!!!!

 は? なんだそれは? 涙か?

 ……泣きたいのは、こっちの方、なのに。

 辛いのは痛いのは、こっちの方なのに』

 

ティアマト

「a……?」

 

マスター:オリジン

『痛い、痛い……痛いよ!!!!!!

 そりゃそうだよ! 

 角が、鱗が生えて……下半身、が、無くなって……。

 痛い、痛い、痛い、痛い!!!!!!

 この1000年! 痛みだ! 

 痛みだけが、自分と共にあった!!!!』

 

ティアマト

「a……a……a……」

 

マスター:オリジン

『返して……返してよぉ!

 体も!! 家族も仲間も!!

 あの"世界"を返してくれ!!!! 

 なぁ!!!!!

 お前! 全部の元凶なんだろ!!!!!!!』

 

ティアマト

「a……ア、アアア……。

 ア……ウ……ゴメン……ナサイ……」

 

マスター:オリジン

『──は?』

 

ティアマト

「ゴメン……ナサイ……ゴメンナサイ……」

 

マスター:オリジン

『……こっちの言語を解析し、欲した言葉をわめいているだけか。

 意味を理解しての行動じゃない、オウムが人真似をするのと同じ。

 よって──相手を理解する必要はない』

 

ティアマト

「ア、アア……」

 

マスター:オリジン

『まずは、その腕を吹き飛ばす。

 最後の剣よ、[[rb:戦慄>わなな]]け!』

 

ティアマト

「aaaaaa────!!!!!」

 

マスター:オリジン

『あっは! すごいな! 

 熟れたトウモロコシをもぐみたいに、呆気ない!

 どうした? 

 片腕を吹き飛ばしったってのに、反撃してこないのか?』

 

ティアマト

「……」

 

マスター:オリジン

『相手からの攻撃は無し。

 ただ、赤い海から湧き出てくるゾルテトラは、親の危機を察知し、向かってくるか。

 それも』

 

ゾルテトラ達

「──」

「──」

「──」

 

マスター:オリジン

『剣を振る必要すら無く。

 アプスーの視線を投げるだけで、全て蒸発する。

 つまり目からビーム』

 

ティアマト

「aaa……コドモ、タチ……」

 

マスター:オリジン

『がはっ……ごほっ。

 内臓まで機体に喰われ始めたか。

 でもこれでいい。

 自分が無くなれば、機体はもっと強くなる。

 無くなれ……無くなれ……。

 悲しみと痛み、嘆きだけを覚えている体なんて、自分なんて無くなれば良い!!』

 

A2

「それは! 駄目だ!!」

 

マスター:オリジン

『誰……早いっ……!』

 

A2

「アプスー、いいえ、"私"!

 1000年の時を経て、迎えに来ました!

 そして」

 

マスター:オリジン

『なんだこのパワー!?

 まずい、機体が押されて、ティアマトから離される……!』

 

A2

「私、いえ、みんなのマスターを! 返してもらうぞ!!」




※モリアーティ:クローンの名前がころころ変わるのは仕様です。
 複数いる訳では無いので、ご安心ください。


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