漆黒の妖狐 (千本虚刀 斬月)
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1話 シンセイタン

 羽衣狐と呼ばれた大妖狐が居た。

 

その狐はかつて宇迦之御魂神の使徒として『葛の葉』と名乗った。

 

宇迦之御魂神とは、日の本の國における五穀豊穣の女神。葛の葉はかつてはその最上位眷族であった。

 

そんな天狐が道理から外れ、大妖怪 羽衣狐として幾度の憑依転生の果てに『死』の真理に致ろうとは。

 

だが『世界』はそれを許容することは決して無く、拒絶した。そして、羽衣狐の魂魄を内側から弾き出したのである。

 

 

 

 そして、弾き飛ばされた羽衣狐の魂魄は、次元の狭間を漂い、とある世界へと流れ着く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 羽衣狐は今生においても再び妖狐として産まれ落ちた。前世については、覚えて居ない。

 

両親は妖狐の中では末端程度の格であり、地方にある決して大きいとは言えない稲荷神社の管理を任されて居る、人間で例えるなら派遣社員くらいの地位で、裕福とは言い難い。正直、出世の見込みは薄い。

 

そんな壮年の夫婦の間に漸く授かった女児である。二人は愛娘に羽衣(はねい)と名付け、宇迦之御魂神に加護を嘆願した。唯、健やかなる成長を。

 

 

両親から見て、羽衣は幼少期から既に容姿端麗で文武両道、直観に秀でていて勘も鋭かった。両親揃って親バカ全開で可愛がる毎日であった。

 

だが同時に、妖としての負の側面に飲まれかねない危うさも度々見受けられた。獲物を弄んで嗤う、闇の化生としての側面。両親はそこだけが心配であった。

 

そんな愛娘の10歳の誕生日。学校から帰ってきた羽衣は白黒2匹のネコを連れていた。しかも、唯のネコでは無く、猫又の中でも希少な猫魈と呼ばれる存在だった。

 

話によれば、このネコは姉妹であり、両親は死んでしまったため身寄りが無い。黒猫の方は、名を黒歌と言い、羽衣と同い年である。白猫の方は、名を白音と言い、未だ5歳と幼い。

 

両親は愛娘の滅多に無い『お願い』を承諾。寧ろ、喜んだ。この娘は一人のままでは、いつかきっと闇に飲まれる。両親は常々その危惧が拭えなかった。恐らく、娘には守護るべき存在が必要なのだ。

 

しかし、その判断は最悪の事態を招く結果になるのだった。

 

一同はその運命を、未だ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界には異形種が数多存在している。妖怪を筆頭にした魑魅魍魎、須弥山に住まう仏達、世界各地で信仰されている神々、伝説に謳われる英雄の子孫、無辜の民草に災禍を撒き散らす存在として討伐された怪物。

 

そして、聖書に記載されている天使、堕天使、悪魔の3大勢力。数百年前に世界規模の大戦争を引き起こし、数え切れないほど多くの者達が死んだ。本来なら頂点に君臨し続けるべき(ヤハウェ)4柱の魔王(サタン)すらも、である。彼等は勢力の維持は疎か、存続すらも危ぶまれる事態に陥ったのだった。

 

そこで悪魔が苦肉の策として悪魔の駒(イーヴィル・ピース)なる極めて特殊なマジックアイテムをつくり出した。コレを使えば、純粋な神仏は不可能だが、それ以外の他種族を眷属として悪魔転生させられるのである。上位の悪魔には元から高慢な者が多かったが、より拍車が掛る事になってしまう。中には本人の了承を得るどころか、力尽くで強引に転生させて、呪いで縛って服従させる下衆な輩まで居る始末。おかげで、今や悪魔は各勢力から蛇蝎の如く忌み疎まれていた。

 

────そう、例えば()()()()()()・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禍福は糾える縄の如し。

 

災いと幸福は表裏一体で、まるでより合わせた縄のように代る代るやって来るもの。不幸だと思ったことが幸福に転じたり、幸福だと思っていたことが不幸に転じたりする。成功も失敗も縄のように表裏をなして、めまぐるしく変化するものだという。

 

物事は、些細な切っ掛け1つでいとも容易く反転してしまうものであるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 災禍というものは、何時も唐突に訪れる。そして、往々にして血の臭いを伴って、幸せな日常を塗り潰す。

 

その日、羽衣はいつも通りに学校から帰ってきた。だが、自宅の神社に近付くにつれて違和感が生じ出す。いつもなら出迎えてくれる黒歌と白音が、今日はその気配が無い。

 

家が見える位近くになると、嫌な予感はもはや確信に変る。家族の血の臭いが微かに漂ってきたのだ。必死になって縺れそうになる足を前に進めた。

 

漸く辿り着いた羽衣が見た光景は、俄には信じ難いものであった。

 

押し込み強盗(上級悪魔)に因る、正に犯行の瞬間であった。両親が惨殺され、親友であり妹でもある2人を誘拐されようとしている。

 

「・・・あ゛っ嗚呼、アアアアア!・・・ウア゛ア゛ア゛アアァァ!!」

 

その光景を見せ付けられた羽衣は絶望し、怨嗟と憎悪にによって染まる。無明(くろ)く、暗闇(くろ)く、真黒(くろ)く。

 

そして羽衣は羽衣狐だった記憶を取り戻した事で完全覚醒した。

 

否、してしまった。

 

敵意を感知し自動迎撃する10本の尾、周囲の者達が無明の深海に放り込まれたと錯覚する程に濃く重い妖気、狐尾の中に仕込まれた幾つもの武器、『鬼道』なる未知の術式。そして、()()()()()()()()()()()()()()()

 

黒瞳が極彩色に輝き、その眼には『死』が映る。

 

────嗚呼、世界はこんなにも『死』に満ちている。

 

 

 

 

 

 

 傲慢なだけの低俗な賊の末路など語るまでも無いだろう。

 

「そう言えば、前世でも切っ掛けは権力に溺れ欲に塗れた者共だったか。せっかく異なる世界に生れ直しても、結局は()()()()のか。まったく、我が事ながらつくづく業が深いものよ。だが」

 

重傷を負わされた黒歌と白音を『回道』で癒しながら、前世について語り聞かせる。

 

今生の両親を手厚く弔い、そして黒歌と白音に言い放つ。

 

「妾に着いて参れ!征くぞ!!」

 

 

 

 




勢い良く格好付けたものの、ぶっちゃけノープランだった羽衣狐様(ノ≧ڡ≦)


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2話 村雨

こまけぇこたぁいいんだよ!!


 当然ながら、妖怪であろうとも衣食住は必須である。だが実家でもある稲荷神社にこのまま居続けるのは、悪魔共(ゴミ)の所為で困難となってしまった。何時奴等の同族が報復に来るかわかったものでは無い。

 

いくら羽衣狐として覚醒したとしても、肉体が未成熟故に、虚化による全力解放や『死』の権能は過負荷が甚大である。黒歌と白音も居る以上、無茶は出来ない。

 

しかし、残念ながら悠長に考えていられる暇は無さそうだ。

 

先程撒き散らしてしまった霊圧に引き寄せられたのか、先程粛清した賊(悪魔)と同質の気配が近寄ってくる。しかも、雑魚とは言い難い者が数人。

 

この家を捨てざるを得ない、と判断した。

 

 

 

 

 

 

 何時だったか愛した男(ウルキオラ)が『相手から感じられる霊圧とは、ソイツが制御しきれずに垂れ流し、空費している分の霊力』等と嘯いていたことがあった。

 

つまりは、力ばかりで技術が成っていない、未熟の証明であると。もっとも、霊力とは魂魄が恒常的に発し続けるものであり、その力が強大で濃密なほどに制御も困難なものとなる。

 

妖怪とは畏れられる程に存在力が増す。しかし現状においては、3人共が未成熟であり、手勢も居らず、この世界における異形共の諸々の情報がまるで足りていない。そんな状態で悪戯にチカラをひけらかすのは、流石に愚行と言わざるを得まい。

 

今は潜伏して力を蓄える事を優先すべきとして、先ずは自身の力を磨く事に専念したのだった。

 

羽衣狐はコントロールを完璧なものとしエネルギーのロスや身体への負担を最小限に留め、攻撃の際ですら僅かも余す事無く使い熟す事で、オーラを漏らさない様にした。とは言え、虚化時には制御が若干甘くなるという欠点もあるのだが。

 

黒歌は多重障壁を常時展開する事で、隠形と防御を同時に為していた。日常的に()()()()に蓄積されていく余剰エネルギー分は、圧縮し結晶化させ、有事の際には術の威力を増幅させるバックアップとして使用する。

 

白音は仙術を以て、自身の気と自然のマナとの同調させ、隠すのでは無く紛らわせる方向性だ。妖怪が本能として持つ凶暴性が薄く、霊刀・村雨に担い手として認められた白音は仙術への適性も高かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 数年後、3人は表立って目立つ事無く、しかし充分に強くなっていた。

 

それも便()()()()()()()のお陰であるだろう。

 

この世界における安倍 晴明の末裔達にして、当代でも有数の魔獣使いの家系、安倍一族。狙って会いに行ったわけでは無く、偶然の巡り合わせである。ここまで縁が深いとは、因果を感じずには居られない。

 

今のところ、当主とは対等の契約を結んでいる。衣食住の保証される限り、()()()()()要望に応え一族の者を守護する。そういう内容でだ。

 

この世界の妖怪は、前世の世界に居た(あやかし)とは随分と違うらしい。やはり此処は異世界なのだと強く実感した次第である。

 

雪女もといイエティのステファニーとクリスティー姉妹。幼年期までは人間と変らない姿形なのだが、第2次成長期を境に、ゴリラになっていく。これには流石に、初めは羽衣狐も驚いたものだ。

 

人魚にしても、基本的には足が生えた魚である。アレでは人魚と言うより魚人だろう、と思ったが、何とか呑み込んだ。まあ、黒歌は実際にツッコんでいたが。稀にだが、童話然とした人魚も居るらしい。

 

羽衣狐としても、異形である事には何ら不満や忌避感など無い。前世ではその類いの輩も、配下の中には多く居た。ここの魔物達も、巫山戯ているようで実はハイスペックだったりする。

 

閑話休題(それはともかく)

 

仮にも拠点としている駒王町には、様々な怪異が跳梁跋扈している。何しろつい最近まで聖書陣営の奴儕が騒がしくしていたし、やっと派遣された管理者も箱入り小娘である。一応は名門出身で現魔王の妹らしいが、過保護に甘やかされてきたのが見て取れた。正直、余り期待は出来そうに無い。

 

案の定、町の統治は覚束ず、堕天使の小団やはぐれ悪魔などが頻出する有様。その手腕は稚拙であり、一般人に被害が出た後で漸く動き出す、と言った事も。

 

当然、他勢力からは舐められ、町民や同族の中にも面従腹背の輩は少なからず居るだろう。

 

例えば、()()()()()()が暗殺のために刺客を放つ、と言う事も―――――・・・・・

 

 

 

 

 草木も眠る丑三つ刻。駒王町のとある場所にて、その戦いは行われていた。

 

一方は、中学生位の3人の男女。『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』リアス・グレモリーと、その眷属で『女王(クイーン)』姫島 朱乃、同じく『騎士(ナイト)』木場 祐斗。

 

相手は、A級はぐれ悪魔である1人の男。

 

男の手には、異界から流れ着いたと言われる歪な刃。一度その秘められた能力を解放すれば、持ち主と同一化し、刃そのものと成る。身体硬度は正に鋼であり、身体からは無数の刃を射出でき、掌で触れれば相手のオーラを収奪出来る。しかして、歴代の使い手達を狂気に侵蝕し殺戮に駆り立ててきた、血に飢えた妖刀。その正体は、斬魄刀『梅針』である。

 

3VS1でありながらも、はぐれ悪魔が優勢だった。木場 祐斗は、唯一スピードで勝っていたものの、攻撃の威力的に決定打には及ばない。姫島 朱乃は、不意を突かれ魔力の大半を奪われた。リアス・グレモリーは、渾身の一撃ならば倒せるかも知れないが、そもそも当らない。

 

とは言え、圧倒的な差がある訳では無い。はぐれ悪魔とて相当に消耗しているが、誤魔化すのが巧いのだ。あくまで余裕を演じているだけ。しかし、気圧された姫島 朱乃が怯んで生じた隙を突かれ、完全に趨勢は決した。

 

そこからは一方的だった。木場 祐斗がリアス・グレモリーを庇って、重傷を負って倒れた。残るリアス・グレモリーは、激昂しながら攻撃を放つも、結果としては魔力を疲弊しただけ。

 

どう見ても詰んでいる。姫島 朱乃がなけなしの魔力で必死に転移用の魔方陣を描いているが、間に合わないだろう。転移し終える前に刃の雨が降り注ぐ可能性の方が非常に高い。

 

 

 

 

 

 

 齢十三を迎える。これは妖怪にとって、一人前と認められるようになる特別な日である。

 

幸か不幸か、白音は同時に初の実戦を迎える事となった。

 

「このまま見殺しは流石に駄目ですよね。あんなのでも一応は管理者ですし、後で悪魔達から文句を言われても困りますから。」

 

白音は自分の甘さに言い訳しながらも、隙だらけの頸に抜刀一閃し、はぐれ悪魔と対峙する。

 

想像以上の硬さに少し驚いた。小手調べ程度だったが、練り込んだ気を叩き込んだのに、一瞬ふらついただけで殆どダメージになっていない。芯まで届いていない。全力で無ければ斬れないか。

 

悪魔達も、驚きながらもちゃんと逃げてくれたようで、少し安心した。

 

「・・・一つ訊きましょう。貴方は、何故卍解しないのですか?―――それとも、出来ないのですか?」

 

「っ!?・・・小娘、何者だテメェ?()()の事を知ってんのか?」

 

一瞬の霊圧の乱れ。この反応、感じ取れる残存霊力、どうやら後者らしい。もし前者であったなら、自分一人では荷が重かった。

 

「いいえ、アナタの事は何も知りません。」

 

ただ、斬魄刀についてなら、ほんの少しだけ識っている。羽衣姉様から聴いていたから。

 

「アナタは危険です。―――濯げ『村雨』!」

 

躊躇無く、能力を解放する。同時に猫魈としての本性を露にする。

 

まあ、一応は羽衣姉様と安倍家当主の許可は下りたのだ。黒歌姉様の御陰で悪魔達の監視も無い。余り派手にやり過ぎなければ問題ない。

 

「我は刃なり。()()()は『梅針』!!ぬぅはあぁ!!」

 

梅針は刀身射出するが、数量は大したものでは無い。響転(ソニード)で問題なく回避する。だが梅針は回避先まで予測していたようで、そこに多量の刀身が飛来し

 

「!――氷楯!」

 

氷塊を拵え眼前に敷く事で即席の楯にし、無傷で凌ぐ。

 

「ほう、さっきのガキ共よりは愉しめそうだな?」

 

舌舐めずりする様は、正に血に飢えた獣。突進し、手刀の連続突きを為てきた。威力はあるが、隙も大きい。

 

「甘いですっ!水垢離!!」

 

対魔の霊刀である村雨の冷清水を浴びせることで、邪気を洗い清める技。よく闇堕ちしかける二人の姉を正気に戻すために編み出した技である。悪魔に対して聖水に等しい効果があるのは、白音の抱える悪魔は邪悪の象徴という念(あの日のトラウマ)が反映されているからだろう。

 

「くっ、ぐうぅぅ!?・・・やってくれたなぁ、小娘ェ・・!」

 

いかに『梅針』が融合(しんしょく)しようとも、ベースとなっているのがはぐれ悪魔である以上、効果は抜群だ。硫酸を浴びたかの様に表皮が爛れている。

 

「だが、こんな程度じゃ俺様は倒せんぞお!!」

 

両掌を突き出し、刀剣射出。物量、速度、威力、全てにおいて脅威と言える域に達していた。

 

「!!縛道の三十九・円閘扇!!」

 

「グハハハ!無駄無駄アアァ!!」

 

悔しいが、このままでは間も無く防御は破られてしまうだろう。だが、もう少しは持つ。円閘扇を維持したまま、響転で後上空に跳んだ。円閘扇は耐えきれずに破砕したが、相手の射程範囲から僅かながらも逸れる事に成功する。

 

梅針は舌打ちし、再び狙いを定めようとする。しかし、その一瞬の隙を見逃す白音では無かった。

 

「させません!縛道の六十一・六杖光牢――――雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ」

 

後述詠唱する事で術式は完成し、これで容易には破戒出来ない。

 

「まっ、待て!待ってくれ!?」

 

白音は、焦る梅針の請いを聞き入れる事無く、必殺の気を練る。

 

「さようなら。――断瀑・穿!」

 

 

 

 

 

 はぐれ悪魔は消滅したものの、『梅針』は残ったまま。

 

駆け付けた安倍家当主も、降って湧いた厄介な案件に困惑する。

 

正直言って始末に困る。放置は論外として、先程の戦い振りを見る限り、リアス・グレモリーに預けるのも躊躇われる。封印処置も手間暇が掛るし、今回の様に盗み出される危険が常に付きまとう。

 

 

結局、今回の件は()()()()()()()()()()()()()()()()()条件で、悪魔が管理する事になった。その上で、この先もし何か問題が生じた場合、魔王サーゼクス・ルシファーが責任を負うとの事だ。

 

一先ずは一件落着と言っていいだろう。

 

何か盛大にフラグが立った気がするが、きっと気のせいだ。

 

 

 

 

 




村雨
刀身から水気を発生させ、寒気を呼び起こす。邪を退け、妖を治める退魔の霊刀でもある。
白音は、仙術等と併用する事で、以下の業を編み出した。

  

水垢離
冷清水を浴びせることで、邪気を洗い清める。

白霧霞
刀身から純白の濃霧を発生させる。感知系の異能力を無効化できる。

冷刃
相手を斬り裂き、傷口を壊死させる。または、相手を刺し貫き、内部から凍り付かせる。

氷楯
氷塊を眼前に敷く事で即席の楯にする。

逃水
見えて近づいてもその場所には居らず、さらに遠くに見える。まるで鏡花水月の如し。

滑水
水流の薄膜を纏う事で摩擦係数を激減させる。走行速力の底上げや、物理攻撃の受け流し等に使用する

断瀑
高圧力の激流で圧壊する。範囲を収束させることでウォーターカッターの様に切断に用いる事も可能。

天相従臨・叢雨皚皚
天候を支配し、制御下におく。雨と雪に特化している。

雪華葬
猛吹雪を発生させる。降雪は溶ける事無く、対象の悉くを凍て付かせる。

泡沫の波濤
浄化の清水を大量に発生させ、津波を起こし、全てを洗い流す。

凍禍
刀身にほぼ絶対零度の冷気を纏わせる。


周囲一帯に絶対零度の衝撃波を放つ。一撃必殺の威力を誇るが、僅かでも制御を誤ればオーバーフローで自滅する。


魔力や妖気や怨念を、鎮静し昇華させる事で無害化させる。自分や味方に使用した場合、明鏡止水の境地に到らせる事も可能。





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3話 Monster Master

夢にまで見たような世界は
争いもなく平和な日常

でも現実は日々トラブッて


 羽衣狐と黒歌は安倍家当主清明(はるあきら)の付き添いで、とある新種と思われるモンスターの調査と確保の為、遠出をしている。

 

羽衣狐としては、今生においても魑魅魍魎の主として成り上がっていくのも悪くは無いと思う。だか、如何しても為なければならない程の事かと言えば、否である。愛した息子はもう居ないのだから。他でもない、羽衣狐が自らの手で葬り去った。魂魄すら完全消滅した以上、復活の余地など何処にも無い。

 

今の生活には、存外に愛着が湧いている。何より、二人の妹を自分の不用意な気まぐれで危機に曝す気は無い。

 

ちなみにその二人の妹だが、少なくとも白音については斬魄刀『梅針』の一件で確実に悪魔に目を付けられてしまっただろう。ただでさえ希少かつ貴重な猫魈として拐かされかけた過去があるのだ。その過去は心的外傷後ストレス障害(PTSD)となり、今なお白音を苛んでいる。だがそれでも、既に仇を討ち終えている以上、悲哀と悔恨はあれども憎悪はない。

 

黒歌もまた、悪魔達を快くは思っていない。安倍家の手前もあり流石に積極的に敵対はせずとも、許容為かねる様で怨恨の念を燻らせている。

 

羽衣狐としても赦すつもりは無い。元より馴れ合うつもりは毛頭無いが、あの事を抜きに考えたとしても、正直言って悪魔達の事を信じる事は出来ない。現政権だけでも、傲慢な純血悪魔と他種から眷属に転生した者達(詐欺同然の手口で騙された者、脅迫や恫喝で下僕にさせられた者、諸々の権利を無視され只管に酷使される者、etc.)との軋轢が絶えず、刃傷沙汰に発展するケースも少なくない。加えて先代魔王達の末裔達が常に返り咲く機会を狙っているのだ。更に言えば、天使や堕天使とは冷戦状態であり、切っ掛け一つで総崩れを起こしかねない危うさがある。その様な有様で信用も信頼も出来る理由を探す方が難しいと言うモノだ。

 

異世界から漂流してきた存在も無視できない問題である。自分と梅針、実例が2つもある以上は他にも在って然るべきだろう。其れは詰り、あるいは、もしかしたら――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の一件についてだが、悪魔からの要請らしい。

 

何時も通りに世紀末覇者スタイルでUMAに騎乗し、更に怪鳥の背上に乗り付けながらの説明。不安定な場所かつ高空を高速移動中でありながら姿勢を全く崩さない。威風堂々たる佇まいは流石と言える。相変わらずその拘りの意味は良くわからないが。ちなみに、雪ゴリラの姉妹+末妹の雪娘も一緒に乗っている。

 

話を訊くに、件の未確認の新種と思しきモンスター群は、数刻前に突如として空間を裂いて出現。一様に同じ姿形を為ている。ビルに匹敵する体躯、黒いローブの様なものを頭からスッポリと被っており、白い仮面に、胸には大きな孔が空いている。この森林は悪魔にとって使役するのに都合のいい魔物の群生地であり、ここだけに生息するレアモンスターも何種類か居る。だと言うのにヤツラは周囲に居た魔物達や悪霊等を一頻り食い尽くしてしまった。その後は特に何かをするわけでは無く、魔窟に漂う瘴気を吸収する事に勤しむばかりで暴れ回る様子は無い。しかし、何時また暴れ出すか知れず、然りとて未知の怪物で在るが故に安易に討伐するのも少々躊躇われる。出来れば、生け捕りにして色々と調べたい。しかしヤツラは思いの外手強く、地獄の番犬と名高いケルベロスでさえ斃して喰ってしまう。そこで魔物使いとして世界的に高名であり可及的速やかに動く事の出来た安倍家に依頼が来たのだとか。

 

そう言いながら羽衣狐に写真を手渡してきた。その写真に写っていたものは、かつてウルキオラに視せてもらった大虚(メノスグランデ)の中でも最下級大虚(ギリアン)と呼称される存在。しかし実際の処、捕獲は困難なはずだ。何せ連中には反膜(ネガシオン)がある。使われてしまえば干渉は不可能となり見逃すしか無くなってしまうのだ。

 

「もう一度言うが、今回うぬ等に付いてきて貰ったのは、捕獲する際にそやらが再び暴れ出した場合、制圧ないし駆逐して貰うためだ。奴等は動作は緩慢だが、舌を使って獲物を貫き捕食する。その上、中々の威力の破壊光線を放つ事も出来るそうだ。ゆめゆめ油断はせぬ様にな?あくまでうぬ等の身の安全が優先ゆえ、殺害も止む無し。だg「でも、可能な限り生け捕りにして貰いたいわね。」

 

「「「!?」」」

 

「・・・何故此奴等がここに居る?」

 

「―――何でコイツ等がここに居るのにゃ?」

 

そこに居たのはリアス・グレモリーと、その眷属の2人。恐らく悪魔側が派遣した捕獲要員であろうが、よりにもよって此奴等とは。

 

 

3人は自己紹介もそこそこに此方に無言でジト目を向けてくる。「目は口ほどにものを言う」とは良く言ったもので、容易く察せた。大方、自分達3人掛りでも敵わなかった『梅針』を倒した白音について訊きたいのだろう。だが、魔王の妹にしてグレモリーの次期当主ともあろう者が自ら契約を破棄する訳にはいかない。そんなところだろう。

 

言わんと為ん事は嫌と言うほど伝わってきたが、だからといって懇切丁寧に説明してやるつもりは一切無い。さっさと仕事の話に移る。

 

悪魔側からの派遣戦力はこの3人のみ。それ以外にも一応、フェニックスの涙×5、特製の滋養強壮剤(DevilStaminaPortion)×3、試作品の捕獲用の魔球(MonsterBall)×3、を支給されて来たらしい。

 

 

話の最中、黒歌が念話を飛ばしてきた。

 

(ねえ羽衣、どさくさに紛れてアイツ等殺っちゃっていいかにゃ?)

 

その提案を暫し真面目に検討してみる。

 

あの餓鬼達が死ぬこと自体は構わない。だが意図的に死に追いやったことがバレた場合が面倒だ。あの随分と過保護な魔王を敵に回すことになり、現状においては業腹ながら勝ち目は無い。では放っておけば死ぬかというと、それも期待薄であろう。元より最下級大虚(ギリアン)単体の戦闘能力は然程でも無く、奴等でも2体までなら相手取れる程度であるし、支給されたという薬の類いや転移魔法がある以上は余程下手を打たない限り死にはすまい。仮に、思い通りに巧く排除できたとして、次に派遣されてくる輩は()()()()である可能性が高い。ならば、未熟で浅薄で在るが故に与し易くもある奴等の方がマシか。

 

(―――と言うわけで、殺すのは駄目じゃ。もっとも、奴等が窮地に陥ったとしても助けはせんがな。例え、その結果死んだとしてもな。)

 

(・・・ま、しかたにゃいかぁ。了解にゃ。)

 

 

 

 

 準備も完了し、戦闘開始である。開戦の合図として先制攻撃をリアス・グレモリーが撃ち、姫島 朱乃が自慢の雷撃で追い打ちを掛け、木場 祐斗が先陣を切って突貫する。それによって先ずは1体、捕獲に成功する。

 

『梅針』の件での失点を取り戻したくて仕方ないらしい。初手から派手にやっている。もっとも、威勢が良かったのは初めの内だけで、ギリアンの超速再生を上回る程の殲滅力を捻り出そうにも、数の暴力の所為で難しい。ギリアンが虚閃(セロ)を使い出し、一気に劣勢に陥っている。

 

しかしそれは此方も大差なかった。雪ゴリラの姉妹+末妹の雪娘は回避と防御は出来ても、攻撃力不足。清明(はるあきら)が騎乗している魔物も同様で、回避と攪乱がやっと。このままではジリ貧だ。そこに清明(はるあきら)に向かって虚閃(セロ)が放たれた。直撃コースで、防御も間に合わない。

 

「――縛道の八十一・断空!」

 

これが王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)黒虚閃(セロ・オスキュラス)であったなら断空のみでは防げなかったろうが、十刃(エスパーダ)どころが破面(アランカル)ですら無いギリアンの虚閃(セロ)程度であれば防げぬ道理は無し。

 

「・・・余興は終いじゃ。征くぞ、黒歌!」

 

「わかったにゃ♪いい加減、こそこそチマチマやるのも嫌気がさしてたし、ど派手にぶちかますにゃ!」

 

羽衣狐は十尾を展開し、二尾の鉄扇を構える。黒歌も妖気を全開で解放し、冷笑を浮かべながら詠唱する。

 

「千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手 光を落とす道 火種を煽る風 集いて惑うな我が指を見よ 光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎として消ゆ――

 

宣言通りの大盤振る舞い。詠唱の最中に放たれた虚閃の悉くは羽衣狐が鉄扇で打ち払う。

 

―――破道の九十一・千手皎天汰炮!!」

 

数体のギリアンが消し飛び、被弾したギリアンは超速再生し終える前に羽衣狐が蹂躙し殺しきる。残存するギリアン共は羽衣狐と黒歌の霊圧に気圧され、完全にこの2人だけに意識が向いている。

 

「何を呆けておる?ほれ、敵は未だ残って居るぞ?」

 

清明は我に返り、魔物達に指示を出す。悪魔達も辛うじて体制を立て直し、反撃に移る。

 

そこからは順調に、優勢に戦いを進めていける。

 

そう思われた時、空間が大きく裂け広がり、そこから放たれた光の柱がギリアン達を包み込んだ。

 

「!!・・・(反膜(ネガシオン)か。案の定、じゃな。)」

 

反膜はある種の絶対防御であり、此方からの攻撃の全てが拒絶されている。木場 祐斗が投擲した捕獲用の魔球(MonsterBall)も、姫島 朱乃の渾身の雷撃もリアス・グレモリーの全力の滅びの魔力も、清明の援護を受けた魔物達の合体業も、一切の効果が認められなかった。

 

漸く無駄だと悟った様で、口惜しそうに空間の裂け目を見遣り、固まった。()()()()()()にやっと気が付いたらしい。

 

途轍もなく巨大な、強烈な『死』のニオイを纏う、単眼の異形の怪物。

 

そして、その怪物を使役しているかの様に佇む男女。

 

ライトアーマーにマントを羽織り、太刀を佩いた壮年の男。

 

白濁した頭髪に、側頭部に角を生やした、妙齢の女。

 

「―――なん・・じゃと・・・?」

 

怪物(フーラー)については、まあいい。前世にウルキオラから聞いていたから、ギリアンの群勢と聞いた時点で出現は予想出来ていた。

 

妙齢の女については、何処かで見覚えがある。暫し観察して、思い出した。清明の末裔の一人で、確か「最も偉大な式神使い」とか自称していた。使い魔諸共に滅した筈だが、此奴も転生してきたクチか?

 

問題は男、と言うよりは佩いている刀である。感じ取れる霊圧の質から、恐らくだが斬魄刀と思われる。鍔に輪が付いた、やや特殊な形状をしている。男本人は、悪魔特有の魔力を有し、現魔王ルシファーの妹(リアス・グレモリー)に対し嫌悪と侮蔑を抱いている様だ。

 

「―――よもや、このような場で見えようとは。・・・まあいい。どのみち、忌々しき偽りの魔王の血筋は根絶やしにするつもりだったのだ。些か時期尚早ではあるが、死んで貰おう。」

 

男は憤怒と怨恨を滾らせながらそう言い、リアス・グレモリーに対して殺意を向ける。

 

そこから暫くの間、問答が繰り広げられた。

 

 

曰く、初代魔王の末裔や派閥の悪魔の大半は『禍の団(カオス・ブリゲード)』とやらに所属し、現悪魔体制の転覆を目論んでいるのだとか。そこには魔術師の類いも少なからず居て、白濁の女(やはり安倍 雄呂血であるらしい。この世界においても、三代目当主として生れ、泰山府君祭を以て生き存えていたとの事だ。)もその内の1人だと。

 

「何だかんだごちゃごちゃ言ってるけどさぁ、結局のところは悪魔陣営の内輪揉めで、私達は関係なくにゃい?」

 

「まあ、そうじゃな。じゃが、ああもペラペラと情報を吐いている辺り、流石に逃がすつもりは無いのじゃろう。」

 

大凡、悪魔諸共この場の全員を鏖にしてしまおうという魂胆なのだろう。自信過剰で愚昧な、この手の輩としては典型的すぎる思考。

 

「あ~あ、お手本みたいな見事なフラグ建てだにゃー。」

 

黒歌は獰猛に嗤う。とても、愉しそうに。

 

 

 

 

 

 

 



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4話 鈴虫

人は皆すべからく悪であり
自らを正義であると錯覚する為には
己以外の何者かを 己以上の悪であると
錯覚するより 他にないのだ
確信した正義とは、悪である
正義が正義たり得る為には
常に自らの正義を疑い続けなければならない


 悪魔の男(シャルバ・ベルゼブブ)は、一頻り怨敵の身内(リアス・グレモリー)に罵倒を浴びせた事で少しは落ち着いたらしく、安倍 雄呂血に撤退を命じる。

 

「貴様はフーラー(これ)を連れて失せよ。万が一にも斃されてしまっては詰らぬからな。」

 

安倍 雄呂血は不服そうではあったが、渋々ながらも大人しく従い、撤退する。

 

シャルバ・ベルゼブブはそれを確認し、強固な結界を展開した。外からの邪魔が入らない様に、獲物を決して逃がさない様に。

 

「ふん!まあ、ちょうど()()()の試し斬りの相手を探していたところだ。―――――鳴け『清虫』!」

 

あの斬魄刀はその銘の通り、鈴虫の鳴き声の様な音波による攻撃を旨とする様だ。共鳴によってオーラの流れを掻き乱し、暴発を誘導し自滅に誘う事すら可能とする。

 

もっとも、その手が通じるのは未熟者だけ。実力者ならばその程度でコントロールをかき乱される事など無いのだから。

 

しかしながら、その未熟者にはリアス・グレモリーや姫島 朱乃、残念ながらクリスティと雪娘が含まれてしまっていた。特にリアス・グレモリーは魔力操作が雑なくせにポテンシャルが高いのが仇となっていた。

 

「フハハハハ!!無様だな、グレモリーの姫君よ!滑稽な姿をさらしたまま、死ぬが良いわ!!―――清虫二式・紅飛蝗!!!」

 

斬魄刀を振り、斬撃軌道に大量の刃が形成され、広範囲に降り注ぐ。

 

破壊力そのものは大したことは無く、ステファニーの氷雪の楯だけでも辛うじてだが防ぎきれる威力である。もっとも、奴にとって最重要なのはリアス・グレモリーとその眷属であり、刃の大半をその3名に割り振っていた、というのも大きいだろう。そして集中攻撃を受けた3名は、先のギリアン戦での消耗やダメージと併せて満身創痍の有様。

 

更には、『鈴虫』の副次効果と自身の持つ権能『蠅の王』を併用する事で、羽虫の大群を召喚し使役しだした。

 

「小娘、貴様はただ殺すだけでは飽き足りん。生きたまま少しずつ、熔かすように咀嚼される気分を、存分に堪能させてくれるわ!!」

 

蒼空を埋め尽くす程の鈴虫、蟋蟀、蝗虫、蠅の大群。全てが魔蟲であり、通常の羽虫とは一線を画す。それが一斉に我等全員の事を貪喰しに殺到してくる。

 

成程、七大罪の暴食を司り、邪悪の樹(クリフォト)において愚鈍を司る、ベルゼブブの末裔らしいやり方と言えるだろう。生理的嫌悪を抱かずには居られない、なんとも嫌らしくて悍ましい攻撃。

 

だが、しかし

 

「「五月蠅い!!」」

 

羽衣狐の呪層界・怨天祝祭で強化された双蓮蒼火墜が、その大半をあっさりと消し飛ばした。

 

そして黒歌の、詠唱の代わりに普段から宝石に貯蓄していた余剰霊力(特製のバックアップ)を用いて即時発動させた飛竜撃賊震天雷砲がシャルバに放たれた。

 

「!!?」

 

しかし、曲がり形にも真の魔王を自称するだけはあり、本人のスペックだけは無駄に高く、防御障壁を咄嗟に展開した所為で無傷である。だが、両掌は痺れ、顔を顰め

 

「っ!何処の馬の骨とも知れぬ下女風情が、真の魔王たるこの私に、何をした―――!!!」

 

キレた。

 

「こうも容易く剥げるとは、安い鍍金じゃの。」

 

「こんなに簡単に溢れちゃうなんて、狭量な器だにゃん。」

 

ステレオで煽られた事で更に激昂し、幾重のも魔方陣を展開し多属性同時砲撃を行ってきた。下手な術者では反属性同士が対消滅を起し、攻撃が成立すらしない。しかしシャルバは、粗いながらも一応は相乗させ一纏めに出来ている。ソレを考えるとセンスも相応にあるのだろう。

 

上手く挑発に乗ってくれて助かった。もしも卍解『清虫終式・閻魔蟋蟀』を使われていたなら、厄介この上無かった。その内心をおくびにも出さず、あくまで余裕の態度で煽り続ける。

 

「いや、それは悪手じゃろう。のう、()()()()?」

 

三尾の太刀を抜刀一閃。それだけでシャルバの攻撃は完全消滅した。その実、下位十刃の王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)にも匹敵する代物だったのだが、一つの極大放射光線と成っていたが故に、簡単に『死』(殺せ)た。

 

「・・・・・・なん・・だと・・?」

 

「どうしてって表情してるけど、わかんないかにゃあ?アンタの攻撃、確かに見てくれは派手なんだけどさぁ、その割に中身が詰ってないのよね。スッカスカにゃん。」

 

「バカなっ!?今の私の力は()()()()()()()によって前魔王と同等のものとなっているのだぞっ!!?・・・ならばこれでどうだアアアァァ!!!――清虫百式『狂枷蟋蟀(グリジャル・グリージョ)』オオォッ!!」

 

シャルバの全身が黒い体毛で覆われ、腕が四本に増え、背中には二本の大角と四枚の蠅翅、目は大きな複眼に、魔力の量も質も劇的に上昇した。しかし、頭に血が上りすぎていて、己の失言に気付いていない。

 

しかしオーフィスとは、思わぬ大物の名が出て来たものだ。もしこれが戯言で、あの焦った態度が演技であったのなら、シャルバは滑稽な道化を敢て演じていることになる。相当な役者だ。ゴールデンラズベリー賞間違いなしと思いきや、ゴールデングローブ賞だって受賞出来るだろう。まあ、流石にソレは無いか。

 

だが、それを黙って聞き流せなかったらしい()()()()()()が口を挟んできた。傷や消耗は回復薬の類いで癒したのだろうが、そもそも此奴等では万全の状態であったとしてもシャルバには敵わない。

 

「せっかく奴の意識を我等に集中させ、矛先が向かぬ様に立ち回っておったのにのぅ。格が違うことくらい理解できようにな・・・」

 

「いや本当、台無しだにゃん。空気読めなさすぎでしょ。そのまま寝てなさいよね、まったく・・・」

 

 

清明(はるあきら)達には、その意図を念話で伝達していた。だから今は、自衛と結界の解析に専念してくれている。だと言うのに・・・いや、舌戦であれば或いは?そう思い、羽衣狐と黒歌は一先ず成り行きを静観することにした。

 

だがしかし、案の定と言うべきか、やはりと言うべきか、稚拙な罵り合いが展開された。お互いが相手に対して捻りの無い罵倒をぶつけるだけで、無駄にヒートアップしていく。

 

そしてとうとう我慢できなくなった連中は、物理的言語に訴えだした。

 

木場 祐斗が魔剣創造(ソード・バース)で造った魔剣では強度がまるで足りず、鋼皮(イエロ)を貫くどころか逆に魔剣の方が砕け散る。姫島 朱乃の雷撃砲も、リアス・グレモリーの滅波も、諸共に鎧袖一触で消し飛ぶ有様。

 

「ククククク、この程度かね?では、お返しだ。なに、遠慮せず受け取ってくれ給えよ!―――九相輪殺(ロス・ヌウェベ・アスペクトス)!!」

 

為す術無く直撃を受け、倒れ伏す3人。しかしながら、辛うじて生きている。否、敢て生かされている。

 

「フハハハハハハハハハ!!先程も言ったであろう?ただ殺すだけでは飽き足りん、となあ!!そうやって無様を晒しながら待っているがいい。丹念に嬲ってサーゼスクへの宣戦布告にしてくれるわ!」

 

つい先程まで羽衣狐と黒歌の2人の事は脅威と見なしていたのに、リアス・グレモリーに気をとられすぎて失念するような愚は犯すなど、全く度し難い愚かさだ。

 

だがこれで()()()()()使()()()()()、悪魔共の介入や監視の心配は無い。その点は寧ろ好都合でさえある。

 

「これで此方も、気兼ねなく全力を出せるというものじゃ!」

 

羽衣狐は虚化する。霊圧はより強大となり重厚濃密、常闇の如き禍々しい妖気(モノ)に変る。そして黒歌も魔獣戦形・厭離黒猫戦姫を発動させる。猫又の別側面である火車の能力を纏い、冥界の瘴気を取込み、自身を凶化させる。漆黒よりも暗い黒焔を以て、対象の()()()()()()を焼灼し尽すのだ。生命ならざる亡者であろうと例外では無く、魔法や術式の類いにさえも有効である。

 

「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ――」

 

「こっちもいい加減、我慢の限界だにゃ!!――縛道の六十三・鎖条鎖縛!!」

 

「!!?グウッ、私とした事が・・・だが、今の私にこの程度の術など「遅いわ!――破道の九十・黒棺!!」

 

しかし狂枷蟋蟀(グリジャル・グリージョ)は伊達では無く、強固な鋼皮(イエロ)と超速再生を誇る為、これでも致命傷には未だ届かない。

 

「隙アリにゃん♪―――滅活黯燒!!」

 

黒歌の誇る奥義が完全に決まった。相手の物理的強度も魔術的防壁も一切無視して、活力源(魔力、体力、生命力等を含めた全エネルギー)を無に帰する。しかし、対象の内在エネルギーが膨大である場合、完全な活動停止に致までに幾何かのタイムラグが生じる。その間に何かしらの方法でエネルギーを補充されれば無為となってしまうのだ。

 

「グッゴウ、ヴァア゛ア゛アアア゛ア゛ア゛ア!?な、何なのだこれは――!!しっ、死ぬ!死んでしまう?真の魔王たる、この私が、こんなところで?否、断じて否だ!!」

 

既に『鈴虫』の開放状態を保てず、オーフィスの蛇も消失。尚も、シャルバは往生際悪く足掻こうとする。最後の力を振り絞って転移用魔方陣を描き、しかし甲高い波砕音を響かせ砕け散った。

 

清明(はるあきら)がシャルバの多重複合結界を解析し掌握、逆用してシャルバの退路を鎖したのである。

 

シャルバの面貌が絶望に染まり、せめて誰か一人でも道連れにしようと視線を彷徨わせ

 

「疾く逝ね。―――王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)!!」

 

 

 

 

 

 

 

後に残っているのは斬魄刀『清虫』のみ。

 

こうして旧魔王派の筆頭だったシャルバ・ベルゼブブは死亡した。

 

 

 

 




今後出す予定のある(出るとはいっていない)キャラ
ウルキオラ、ギン、バラガン、土蜘蛛、草冠宗次郎の氷輪丸
検討中
九条望実、シエル、安倍吉平、ネロ・カオス、スターク&リリネット、蒼崎橙子、獅子劫界離、イリーガルレアのキャラ
出さないつもりのキャラ
ノイトラ(原作以上の散り様ハードル高すぎ)、サーヴァント、BLEACHの原作生存組、型月作品主人公達


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5話 信田の妖狐

 シャルバはテロリストになっていたとは言え純血悪魔、それも魔王ベルゼブブの正式な血統だった。それを、如何なる理由があろうと悪魔ですら無い部外者が殺した、と言うのは悪魔上層部の間で問題になったらしい。

 

これがリアス・グレモリーとその眷属であったのならここまで問題視はされなかっただろう。同じ純血悪魔で、名門グレモリー家の姫君、何より現魔王ルシファーが溺愛する妹なのだ。しかし羽衣狐と黒歌は悪魔ですら無い部外者にも関わらず、魔王すら斃しうる力を持っている。この点も、取分け面子を重視する至上主義な連中にとって大層気に食わなかったのだ。

 

協力者の女が安倍家のかつての当主であったのも理由の一つではあるが。

 

悪魔上層部にとって看過しかねる、場合によっては脅威になり得る集団と見做された。悪魔陣営に下り従う意志がないのなら危険分子として処刑すべきだと宣う奴等まで居たらしい。

 

その所為で羽衣狐と黒歌と清明(はるあきら)は悪魔共から取り調べを受ける羽目になった。

 

羽衣狐の正体が葛の葉の生まれ変わりであることや、黒歌と白音が猫又の上位種の猫魈であることが露見してしまった。まあ、この程度の情報漏洩は想定済みで許容範囲内だが。

 

無論、全てをバカ正直に話すわけは無い。平行世界での(羽衣狐としての)諸々、『死』の権能、虚化は黒歌と白音と清明以外には話していない。黒歌の魔獣戦形・厭離黒猫戦姫、白音の村雨の業も同様。何時れは知られる事になる可能性はあるが、その時はその時だ。

 

『回道』についても黙秘する事にした。この世界では治療回復に特化した術式の類いはほぼ存在せず、基本的には神器(セイクリッド・ギア)やマジックアイテムやポーションに頼っている有様。その状況で『回道』の事を知られたら、面倒な事になるのは分かりきっていた。

 

「(悪魔の駒(イーヴィル・ピース)なんて代物を創り出せる位じゃ、そういった術式体系を築けぬ道理はあるまいに、何故しなかったのか甚だ疑問よな?)」

 

「(殺れる前に殺れば無問題って事?どんだけ能筋揃いなのにゃ?そんなんだから、どの陣営も頭数減りまくって困った事になってるんだにゃん。)」

 

取り調べの休憩時間中に念話で愚痴り合ったりしていると、清明と銀髪女中の悪魔(グレイフィア・ルキフグス)が入ってきて、無罪放免で釈放される事に決まったと言う。もしかしたら、日本神話勢力との関係悪化を恐れての判断かも知れない。羽衣狐自身はとっくに宇迦之御魂神との縁は切れているが、それでもかつては最高位の眷属だったのは事実なのだから。

 

元々は悪魔からの緊急要請を受け、その仕事の最中に巻き込まれた形である。そもそもの依頼自体は完璧とは行かずとも達成は出来ているし、結果的にではあるがシャルバを斃した事でリアス・グレモリーと眷属達の命は助かったのだ。おまけに斬魄刀『清虫』まで()()()()()()のだから、少なくとも一方的に糾弾される謂れは無い。

 

謝罪と魔王ルシファーの「今後も出来るだけ協力し合える関係を築いていきたい。」という言伝を受け取り、一同は漸く帰宅する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は、案の定と言うべきか、やはりと言うべきか、悪魔共が執拗に干渉してくるようになった。

 

時折、はぐれ悪魔や強大な魔獣の討伐の協力要請などがある。報酬も前払いの上に色付きなので引き受けては居る。しかし、確かに悪魔陣営との接点は過多とさえ言えるが、だからといって全面的に賛同し協調しているわけでは無い。

 

伝説の妖狐の生まれ変わりである羽衣狐、仙術に秀でた種族と名高い猫魈である黒歌と白音、その誰もが既に上級悪魔に相当ないし凌駕し得る戦闘能力を誇るが故に、勧誘が多く煩わしい事この上無い。偶に強硬手段に及ぼうとする不埒な輩も居るが、その手合いは殺す事無く丁重に(容赦なく再起不能にして)リアス・グレモリーに引き渡している。やり過ぎだと文句を言われる事もあるが、正当防衛の範疇であろう。無論の事、証拠についても抜かりは無い。ボイスレコーダーを常備し、悪魔と邂逅した際は必ずスイッチを入れるようにしている。連中は人間を見下しているため、この手の文明の利器に対する警戒心がとても薄いのだ。御陰で引き渡しの時に揉める事が殆ど無い。

 

そういった細々とした面倒事は多々あれど、今のところは取り立てて目立つような大きなトラブルなどは無い。

 

禍の団(カオス・ブリゲード)』や旧魔王派も表立った行動は何も無く、現悪魔政府の上層部は毎日のように紛糾するばかりで遅々と進まぬ会議を繰り返しているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日はリアス・グレモリーに駒王学園高等部の旧校舎(オカルト研究部)に呼び出されている。

 

安倍家次期当主の清芽は高等部の3年、白音は高等部の1年、どちらもオカルト研究部には所属せず悪魔達とは一定の距離を保ったビジネスライクな付き合い方を徹している。羽衣狐と黒歌に到っては駒王学園の生徒ですら無い。

 

そして、こちらの()()()が1名。

 

そして、黒い髪に翡翠色の瞳に白い肌、喉元の孔と側頭部の破れた仮面に斬魄刀を携え、石造の様に無機質な痩身の男性である。異世界より来たりし虚無を司る魔神、ウルキオラ・シファーである。

 

 

態々足を運んでみれば、教会から派遣されてきた使者というのは聖剣使いを謳う2人の小娘と一匹のドラゴン。そのドラゴンの正体は童話竜(メルヒェンズ)の中でも『シンデレラ』と称される極めて希少なドラゴンだ。もっとも、成体の状態で無いが故に殆どの者が気付いてさえ居らず、気付ける者は抑興味自体無いか明かすつもりが無い。

 

曰く、堕天使組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』幹部のコカビエルが各地の教会に保管されていた聖剣エクスカリバ―の幾つかを強奪した。目的はいまだ不明瞭だが、賛同した協力者達と共に駒王町に潜伏していると思われる。教会上層部は『禍の団(カオス・ブリゲード)』の関わりを大層危惧している。判明している共犯者は3名。『皆殺しの大司教』と悪名高いバルパー・ガリレイ、戦闘本能と破壊衝動に呑まれきった狂人フリード・セルゼン、オレンジアフロに☆マークのゴーグルを着用した男ガンテンバイン・モスケーダ。

 

話の内容はやや想像以上で気になる点は幾つかあったが、会議の展開は寧ろ興醒めだった。

 

仮にも土地の管理を任された上級悪魔を相手に、随分と一方的に要求を突きつける。その様子は端から見れば「虎の威を借る子狐」と言った風情だ。それに対して、悪魔のガキ共は随分と舐められていると感じた様で、魔剣の小僧と助平丸出しな餓鬼は特に突っ掛かっていく。

 

結局、2VS2の模擬戦闘が行われる事になった。

 

 

自慢気に見せびらかしていたエクスカリバ―とやらも別段脅威と言うほどでは無く、小娘2人の実力もやはり大したものでは無かった。聖剣込みならば、ギリアン程度になら勝てる位のレベルだろう。

 

強いて見所を上げるなら、赤龍帝くらいか。宿主の小僧自身は良く見積もっても精々が道化でしか無く、戦闘面ではゴミ同然だが、中に宿っている赤龍帝ドライグは別だ。もし十全に力を発揮出来る様になれば、完全虚化した黒崎一護に匹敵するやも知れぬ。

 

 

 

だが蒼髪の小娘が思わぬ愚行に走った。

 

「そこの男、酷く退屈そうだな。見ているだけではつまらないか?なら、私と一つ手合わせしてみないか?」

 

ウルキオラに聖剣を向けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




独断と偏見による大凡の戦力比
下級≒(ホロウ)巨大虚(ヒュージ・ホロウ)
中級≒最下級大虚(ギリアン)
上級≒従属官(フラシオン)3ケタ(トレス・シフラス)
最上級~魔王≒十刃(エスパーダ)
覇龍(ジャガーノート・ドライブ)≒完全虚化一護
オーフィス≒無月ノーリスクで撃ち放題一護

大体この位だと思ってます


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6話 堕天使

あけおめ
ことよろ


 ウルキオラとゼノヴィアとの試合、その内容は勝負と表現するのも烏滸がましいものだった。

 

ゼノヴィアの破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)ではウルキオラの鋼皮(イエロ)を突破するどころか傷すらも付けられなかったのだ。

 

ウルキオラは一切の感情の発露も霊圧の漏洩も無く、一歩も動かず左手だけで全ての斬撃を捌ききっている。ゼノヴィアの闘志も攻撃も全て空転させている。

 

対峙しているゼノヴィアは、まるで立体映像かなにかを無為に斬り続けている様な気分になり、虚無感に苛まれ出している。

 

「くそっ!何なんだ貴様は!?魔術師の作ったゴーレムでももっと活きてる感じがするのに、お前からは何も感じない!!」

 

ゼノヴィアは恐怖に呑まれそうになっている己を鼓舞するために雄叫びを上げ、破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)での渾身のフルスイング。

 

成り立ての下級悪魔では余波だけで致命的だろう威力。だがウルキオラは左手のみで掌握しきった。

 

「・・・・・・・・・なん・・だと・・?」

 

そして、其れでも尚ウルキオラはゼノヴィアの事を視ても居ない。

 

ゼノヴィアとて若輩の身でありながら既に数多の怪異を倒滅し、将来有望な代行者として名を馳せている。だからこそ分かってしまう。例え真の切り札(デュランダル)を抜いたとしても、もう一人の聖剣使い(紫藤イリナ)ドラゴン(エリー)が加わろうと、結果は何も変らなかっただろう。彼我の戦力差は推し量る事さえ能わない程に絶対的な差があるのだと。

 

 

 

 

 ウルキオラにとって正直に言えば、ゼノヴィアに視るべき所は何も無い。魔剣の小僧との小競り合いで既に大凡の力量は推し量れた。隠している切り札がどれ程の代物かは判らないが、注意の必要はあれど警戒には値しないだろう。

 

この町で()()()()()つもりであるならこの学園は重要な監視対象である筈だ。実際、現在進行で遠くからの複数の視線を感知している。更に言えば、ウルキオラが戦い出してから視線が増えた。そして視線の殆どはゼノヴィアでは無くウルキオに対してのみ向けられている。

 

ウルキオラはゼノヴィアをあしらいながら探査回路(ペスキス)を全開にしてそれぞれの視線元を探る。

 

警戒故の監視、不躾な観察、純粋無垢な興味と()()()()()()、汚泥の様な殺意と挑発する様な敵意、etc.

 

様々な視線の中でも特に目立つのは、無限そのものとしか思えない超越存在(龍神オーフィス)と旧知である老朽を司る傲岸不遜な暴君(バラガン・ルイゼンバーン)とその他の有象無象、そして聖剣使いの人間(エクソシスト)破面(アランカル)知らない種類の霊圧(堕天使)の一団。

 

ウルキオラが己等の存在を感知したと理解したバラガンとドラゴンは、用件(あいさつ)は済んだ、と言わんばかりに早々に立ち去った。

 

バラガンやガンテンバインがこの世界に居ると知れたのは収穫だった。だが、彼方にもウルキオラがこの世界に居ると知られた以上、必ず何かしらの形で干渉してくる。特にバラガンが相手ではどう転ぼうとも穏やかでは済まないだろう。警戒せねばならない。

 

この世界に来て未だ間もない為、暫くは目立つ様な派手な動きはするつもりなど無かったというのに。

 

そろそろ煩わしくなってきた小娘の相手を切り上げるために、渾身と思われる一撃を左掌で止める。

 

 

 

 

 羽衣狐にすれば予想通りであり、黒歌にとっては期待以上であり、白音と清芽にとっては想定以上であり、もう一人の聖剣使いの小娘や悪魔の餓鬼共にとっては驚愕の余り絶句するほどのものだったらしい。

 

しかし、羽衣狐だから気付けた。ウルキオラの余裕が薄れ、何かに警戒している事に。

 

無論、小娘達や悪魔の餓鬼共が原因では無い。

 

羽衣狐はそっと周囲を厳探し、汚泥の様な殺意と挑発する様な敵意に気付いた。先程まで話題となっていた件の騒動の下手人で間違いあるまい。

 

成程、コカビエルは神話に謳われる程の歴戦の猛者。肩書きの数々を額面通りに受け取るなら、ウルキオラが警戒心を抱くのも無理からぬ事であろう。羽衣狐はシャルバ・ベルゼブブとの戦闘経験があるからコカビエルの力の上限も大体想像できる。だがウルキオラはこの世界に来て間も無いために、それが難しい。況してやそれなりの霊圧を誇る破面(プリバロン・エスパーダ)が共に居るのだから尚更に警戒してしまうのだろう。

 

だが、それだけでも無いはずだ。ウルキオラが警戒する程の脅威、看過するには危険に過ぎる。後ほど確りと訊いておかねばなるまい。

 

 

 

 

 

 教会が今回の案件で派遣してきた雑魚エクソシストの所為で町に滞在している怪異達はピリピリしている。

 

大人しく犯人一味の捜査とメインアタッカー達のサポートに徹しているのなら未だしも良かったのだが、中には異端と見るや侮蔑し得物をちらつかせる輩も居る。

 

怪異の類いとは人間に畏れられてこそ価値がある。舐められて見下されて、虚仮にされたままで終わらせられるわけが無い。売り言葉に買い言葉で小競り合いになる事もしばしば。

 

更に言えば、コカビエル一味は雑魚エクソシストを積極的に狩って回っており、品の無い血のニオイが町中の彼方此方から漂う有様。

 

町に連中が死の間際に抱いた怨念が沈澱していき、どんどん陰気に倦んでいく。まるで地獄の瘴気の様に、秘めたる本能や衝動を暴き立てようとしてくる。

 

この地に災禍を呼び込むための呪法の下拵えなのだろうが、()()()()()()()()()()()()()

 

思い出す。そもそも、羽衣狐自身も前世では幾多もの人間の生き肝を喰らい、怨念で漆黒に染まった池の水を(清明)の産湯にしたのだ。それが文字通りの意味で違う世界に生まれ変わり、最近は日和って温くなってきていた。だがそれでも、羽衣狐が庇護し愛するのは極一部の者に限られ、悪魔は元より大多数の住民も対象には含まれていない。ただ、いたずらに祟りや呪いを振り撒いて愉悦に興じる気にもならなくなった。

 

まあ今は『禍の団(カオス・ブリゲード)』、無限の龍神(オーフィス)太古の昔から虚圏の帝王だった破面(バラガン・ルイゼンバーン)と言った極大の不安要素の所為でそれどころでは無いのも大きいのだが。

 

コカビエルは確かに堕天使組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』幹部の中でも武闘派の戦狂いと名高い。率いる一味は少数ながら精鋭で、手際の良さから連携も上手くとれている様子。だが実際に戦った場合、手の内を幾らか曝す羽目になるとしても最終的には勝てると断言できる。無いとは思うが『神の子を見張る者(グリゴリ)』そのものがコカビエルに加担するなら流石に話は変るし、余り考えたくは無いが『禍の団(カオス・ブリゲード)』が本格介入した場合は敗北すら視野に入れなければならない。

 

「やれやれ・・・全く、ままならぬものよのぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




早くウルキオラのド派手な戦闘を書きてぇ

後、バラガンとハーデスのキャラ被ってる問題


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7話 下卑た狂喜

 聖職者であるエクソシスト達が末期に抱いた様々の負の念が、怨念と化していく。その怨念の所為で駒王町の氣が濁り、澱み、腐っていく。

 

テニス部の活動を終え、帰宅中の清芽と白音。

 

「まったく、これでは此方の気が滅入ってしまいますわね。教会の皆様方には可及的速やかな解決を願いたいものですわ。」

 

白音としても心底同意する。仙術使いとしては、今の町の空気は耐え難く不快だ。

 

だが、教会が派遣してきた人員だけでは、聖剣奪還までは出来るかも知れないが、犯人一味の打倒は不可能だろう。

 

ふと見知った一行を見つけた。神父の格好をし更にフードを目深に被った悪魔3人、路地裏に続く狭い路に入っていった。

 

白音が周囲の気配を探ると、幾何か離れた位置に先日の聖剣使い達の氣が感じ取れ、どうやら3人の後を付いてきている模様。何かしらの取引でもして協力関係を結んだのだろうか?

 

「ふむ、もしかして囮捜査と言うやつかしら?少し、気になりますわね。」

 

清芽は興味津々と言った様子で首をつっこみたそうにしている。白音にしても気にならないと言ったら嘘になるが、清芽が同行している現状では少々悩ましいところだ。

 

清芽とて自衛の手段は無くも無い。確かに陰陽術や鬼道を習ってはいるが、その腕前は未だ未熟と言わざるを得ない。式神行使や呪術については流石に優秀だが、未だ中級下位と言ったところ。白兵戦はからっきしだ。

 

そう逡巡している間に事態が動いてしまった。人払いの結界が一帯に展開されたのだ。

 

結界の基本にして極意は、異常を周囲に覚らせない事。だというのにこの結界は余りに露骨だった。

 

更に奥にはもう1種の結界。来る者は拒まず、去る者は逃がさないタイプの結界。

 

「――誘い、ですね。」

 

「釣られてきた方々まとめて一網打尽しようということかしら?随分と自信家ですこと。」

 

路地裏の奥から剣戟音が漏れ響くと同時に、清芽と白音の背後から殺気と共に光槍が降り注ぐ。

 

「!?危ない!」

 

「きゃっ!!」

 

咄嗟に回避したものの、結界内部に追い込まれてしまった。そして、獲物を逃がすまいと立ち塞がる堕天使の分隊。

 

コカビエルに付き従う堕天使なのだろう。霊圧から察するに中級1下級4と言ったところか。

 

更に、後方には哄笑を上げながら凶刃(エクスカリバ―)を振う破戒僧侶(サイコキラー)と、必死に食らいつく若手下級悪魔3人。少々意外だが、戦闘の趨勢は拮抗している。今のフリードは複数のエクスカリバ―を同時に所持するに留まらず行使できている事実に舞い上がって酔っている。本来であれば多彩な武装とえげつない戦法、品性下劣な口撃をもっと織り交ぜていただろうに、エクスカリバ―に固執してしまっている。故に、悪魔達はエクスカリバ―に意識を全集中させている事が功を奏しているのだ。

 

下級堕天使達は舌舐めずりしながら光槍を手に形成し、愉悦に貌を染める。しかし、その狂喜は軽くて薄くて安っぽい。正しく雑魚モブの典型例であろう。

 

「ふふ、こうなっては戦うしかありませんわね、白音?」

 

「・・・同感ですが、何でちょっと嬉しそうなんですか?(もしかして、軽く瘴気に当てられてます?)」

 

白音は村雨を構え、清芽は呪符を手挟む。

 

狭い路地裏では堕天使の飛翔能力や数の利をまともに活かせず、逆に猫の機動力を活かせる地形である。

 

白音の霊圧に恐れを為した下級堕天使達は、弄べる程容易い獲物では無いと理解した様で、光槍を一斉に投擲してきた。

 

「!――呪相・密天!!」

 

清芽は投槍の軌道をずらし、すかさず白音が斬り込む。

 

即座に2体が灰燼と帰し、斬撃から逃れようと上空へ飛上がった2羽に清芽が蒼火墜を放ち、1羽は焼滅し、1羽は黒翼を失い墜落。小隊長の中級堕天使が庇うために前に出るが、白音と鍔迫り合い、その隙に清芽が呪相・氷天でトドメを刺す。更に、氷のせいで退路が塞がった状態だ。

 

その有様に破戒僧侶(サイコキラー)が若手下級悪魔3人を相手にしながら侮蔑の嘲笑を浴びせる。

 

「おいおいおい。旦那ァ、普段あんだけ偉そうにしてたクセにそいつぁちょいとダセェんじゃねーデスかね~?ビッチ2匹くらいさっくり殺ちゃってくださいよ~!」

 

「ッ黙れ!・・・こうなっては致し方あるまい。」

 

中級堕天使は光の短剣を幾つか形成し、後方の清芽を狙い撃つ。

 

そうなると白音としては清芽を庇う事になり、隙が生じてしまった。即座に追撃に備えて身構える。

 

だが中級堕天使は懐から小瓶を取り出し、中身を呷る。途端に霊圧が大きく上昇した。圧だけならリアス・グレモリーを少しだが確実に上回っている。

 

「ふふふ、連中からは随分とふっかけられたが、高値に見合う効果はある様だな。」

 

「――成程、噂に聞く『蛇』ですか。少し、厄介ですね・・」

 

これで連中が『禍の団(カオス・ブリゲード)』と関わりがあるのは確定。その関係がただの取引程度に留まっているのなら未だしも、事と次第によっては予期していなかった大物が追加で派遣されるかも知れない。

 

(そうで無くとも、最上級堕天使(コカビエル)元十刃の破面(ガンテンバイン)が『蛇』の効力を得て強化されたら、本気になった姉様達やウルキオラさんでもないと太刀打できないでしょうね。少なくとも今の私ではきっと勝てない。)

 

あるいは、それこそが狙いなのかも知れない。話に聞いたバラガン・ルイゼンバーンの性格は、目的のためなら部下の犠牲を厭わない暴君だという。コカビエル達に『蛇』を渡したのも、今のウルキオラさんの力を推し量るための当て馬として利用している可能性もある。

 

「おんや~?愉しいバトルの最中にのんびり考え事かい?そんなんじゃさ、死んじゃうよ?死んじゃうぜ!死んじゃえよッ!!」

 

そう言いながら狂神父は襲いかかって来た。しかも、白音では無く、力の劣る清芽に。

 

側に控えている老神父(バルパー・ガリレイ)の助言のおかげもあって、夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)の能力で幻覚を見せ、自身を透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)の能力で不可視状態にした事で若手下級悪魔3人を巧く欺いた様だ。

 

だが

 

「へぶらっ?!」

 

仙術使いの猫魈として突出した感知能力を誇る白音には通じない。そもそも、最強と謳われた聖剣の一つと言えど、砕け散った成れの果て。個々の能力は中級鬼道並の性能しか発揮出来てない。

 

「アナタ達は危険です。―――濯げ『村雨』!」

 

能力を解放する。同時に猫魈としての本性を露にする。

 

狂神父は先の白音から受けた仙術白打に因って氣流が大いに乱れている。下手をすれば氣が暴発し、経絡に致命的な損傷を負いかねない。

 

「縛道の三十・嘴突三閃!!」

 

清芽が追い打ちを掛け、壁に貼り付けた。

 

「ぐっ!このっ、くされビッチ共があぁ!!」

 

「フン!先程は何やらほざいてくれたが、そのザマか!所詮は人間だったな、クハハハ!」

 

堕天使は増大した力任せに大量の光短剣を形成し、一斉に射出する。

 

若手下級悪魔3人は自分の防御で精一杯。狂神父は壁が破壊された事で解放された。そして白音は清芽の前に立ち

 

「―――断瀑!!」

 

薙ぎ払う。これで堕天使は片側の黒翼を失い

 

「見事だ、猫妖怪!」

 

ようやく到着した教会の聖剣使いの破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の袈裟懸けのフルスイング。

 

堕天使は断末魔を上げる間もなく消滅した。

 

「マジかよ!?クソッタレ、やっぱり全然アテにならねぇじゃねぇか!!」

 

「反逆の徒め!神の名の下に、断罪してくれる!」

 

「ハッ!俺の前で、抜かしてんじゃねぇや!このビッチが!!・・・だが、流石に分が悪ぃや。ってな訳で、逃げさせて貰うぜ!次は最っ高に愉快なオブジェにしてやるからよ、楽しみにしてろよ。この、くされビッチ共があぁ!!」

 

狂神父はフラッシュグレネードで隙を誘い、逃亡する。老神父(バルパー・ガリレイ)はそもそもとっくに失せていた。

 

即座に追跡に移行する教会の使徒達と魔剣の先輩。

 

「・・・私達は「無論、帰って報告です。」

 

報・連・相は確りと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アフロさん強化しよう。同僚達が小説で大分強くなってたのに1人だけ据え置きってのもアレだし。
てかコカビエル陣営全体的に戦力増強しないとウルキオラどころか羽衣狐と黒歌の出る幕無いし・・・


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8話 元十刃破面VS童話竜

 その夜、悪魔から夕刻の出来事の顛末が伝えられた。

 

あの後、聖剣使いの小娘二人と魔剣の小僧と末端のエクソシスト数名で逃走するフリードを追跡し、アジトの一つを突き止めたらしい。しかし、意気揚々と突入して、結果は惨敗。雑魚数名はその場で惨殺され、エクスカリバ―は2振りとも強奪され、小娘2人と小僧は辛うじて五体満足なものの身心共に重傷。

 

コカビエル等はリアス・グレモリー等の目の前で3人をゴミ同然に投げ捨て、侮蔑と嘲笑が多分に入り交じった宣戦布告をしたらしい。曰く、深夜に駒王学園にて聖剣を統合し、ついでにリアス・グレモリー眷属とソーナ・シトリー眷属を蹂躙して、あわよくば休戦状態だった戦争を再開させるつもりなのだとか。

 

直接布告を受けたリアス・グレモリーは眷属揃って嚇怒を滾らせながらも、3人の応急処置と、各方面に対する報告と、曲がり形にも駒王町の管理者として住民に対する緊急事態警告にと、大忙しのようだ。

 

とは言え、連中の実力では素のコカビエル1人にすら敵わぬのは明白だった。おまけに、夕刻の小競り合いで連中は禍の団(カオス・ブリゲード)から『蛇』を仕入れていると発覚した。策も練らず、戦力も整えず、勢いと感情にまかせて特攻した餓鬼共の落ち度であろう。もはや自殺行為も同然と言っても過言では無い。

 

悪魔の餓鬼共も流石にそれは理解しているのか、上層部に戦力増援要請を打診したのだが、中々決らないらしい。禍の団(カオス・ブリゲード)が絡んでいると分った以上、上層部の保守派が渋るのも無理からぬ事だろう。そして、そういう場面で白羽の矢が立つ(面倒事を押し付けられる)のは安倍家というのが最近の定番の流れになりつつある。

 

此方としては、仕事を受けるのは吝かでは無い。無論、相当以上に吹っ掛けてやったが。相手方も、この際金銭で片付くのなら背に腹は代えられぬと、此方の要求した報酬を確約したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 コカビエル一党との決戦において、ディフェンスチームとして清明(はるあきら)と清芽はソーナ・シトリー眷属と共に結界を担当。

 

討伐の為のアタッカーチームとして、教会の使徒として派遣された栗色ツインテール小娘(紫藤 イリナ)猪突猛進蒼髪小娘(ゼノヴィア)ドラゴンのエリー(童話竜シンデレラ)、リアス・グレモリー眷属、葛の葉狐(信田 羽衣)仙術に秀でた猫魈姉妹(黒歌と白音)と虚無を司る破面ウルキオラ・シファー。

 

既にして戦陣の中央に座するは堕天使組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』幹部のコカビエル。彼の者を筆頭に『皆殺しの大司教』と悪名高いバルパー・ガリレイ、戦闘本能と破壊衝動に呑まれきった狂人フリード・セルゼン、元十刃破面(プリバロン・エスパーダ)ガンテンバイン・モスケーダ。そして、魔方陣にて5振りの聖剣『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』『夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)』『透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)』が統合されようとしている。

 

 

成程、砕け散ったなれの果てで、2振りを欠いた不完全な状態とは言えど伝説の聖剣。5振り統合状態でも、使い熟せればそれだけで死神の副隊長レベルに達し得るかも知れない。加えて、『蛇』に因る強化。更には禍の団(カオス・ブリゲード)の援軍または乱入の可能性。

 

此方は2人が既に切り札(エクスカリバ―)を奪われ(本人達曰く、切り札の更に奥の手があると)、もう一人(魔剣の小僧)と共に負傷消耗を僅かながらも引きずっている状態。一人(エロ餓鬼)は威勢だけは良いが、思慮浅薄。二人の女悪魔もガンテンバインやコカビエル相手となると戦力不足。エリーとか言うドラゴンは、能力は知らないが霊圧だけならガンテンバインとも渡り合えそうだ。

 

「さて、()()()()にようこそ。伝説の妖狐 葛の葉狐、猫魈 黒き戦姫と白き剣巫、そして最精鋭破面(エスパーダ)ウルキオラ・シファー。――それで、魔王はどうした?サーゼクスかセラフォルー、最低でもその眷属共くらいは来るのだろうな?」

 

「ふん!お生憎様だけど、貴方達程度に魔王様方が態々お越しになるまでも無い

 

轟音と共に巨大な光槍が体育館を爆散させた。苛立ち紛れに放った攻撃ですら無い1撃で、だ。

 

「・・・ふん、まあいい。小娘共だけならオードブルが精々だが、猫魈姉妹(スープ)葛の葉狐(魚料理)ウルキオラ(肉料理)、口直しの童話竜(ソルベ)と揃っている。援軍の雑兵(サラダ)魔王共(メインディッシュ)その眷属共(デザート)は多少遅くてもよかろう。」

 

ちょうどエクスカリバーの統合が完了したらしく、コカビエルは即座に気を取り直し、まるで高級フルコースディナーを前にしたかのように心躍らせてさえ居る。

 

「さて、先ずは食前酒だ。フリード!」

 

「へいへい。まーったく、ボスってば人使い荒いよねぇ。でもでも、伝説の聖剣ちゃんを使えるなんて光栄の極みってなもんだぜ!ところでさ、ボス?何なら連中みぃんな俺っちが喰っちまって良いんですかねぇ?」

 

「ふはっ、出来るものならやってみるが良い。貴様程度に殺せるのであれば、だがなあ?」

 

「オーケーオーケー、それじゃ…いっちゃいまショウタ―イム!!」

 

フリードが哄笑を上げながらエクスカリバ―を握った途端、剣が黒く薄汚れていく。この町に澱のように堆積していた黯い瘴気と、彼奴自身の邪悪さとが合わさり、聖剣を犯したのだろう。

 

「▇▅▅▇▅▇▇▇▅▅▂▂▅▂!!▇▅▅▇▅▇▇▇▅▅▂▂▅▂!!」

 

醜悪さに痺れを切らしたかのようにドラゴンが襲いかかった。

 

「「エリー!!?」」

 

「ああん?テメ―は後でちゃんと喰ってやっから!それまでは空気読んですっこんでな!」

 

フリードはエクスカリバ―の破壊+天閃の一撃をカウンターで叩き込んでKOしようとし、寸前でドラゴンが消え失せたのだった。

 

「!!こりゃまさか透色竜鱗(ステルス・スケイル)かよ!?んなもん、そこいらの雑魚ドラゴンが使えるようなもんじゃねえっつうの!!」

 

そして、月下にて再び姿を現したドラゴンはもはや別ものと化していた。

 

戦場に満ちる黯い瘴気を掻き消す霊圧、流麗たる白銀の巨躯、硬質鋭利な6本指、額の冠状の角。その正体こそは童話竜(メルヒェンズ)シンデレラに相違ない。

 

エリーはいきなり校庭一帯に星灰(スターアッシュ)と呼ばれる竜鱗を撒き散らし、一斉に起爆させた。

 

とは言え、これでダメージを負ったものは居なかったが。此方は元から攻撃範囲外だったのと、防護結界によって全員無傷。敵方は、コカビエルは言うに及ばず、バルパーは護られ、フリードもあの程度の威力では自力対処し軽傷止まり。

 

そして

 

「…成程な。それこそが真の姿で在り、真の能力ってェ訳だ。だがな、生憎とコッチにだって真の姿ってヤツはあるんだぜ?――なあ、龍拳(ドラグラ)!」

 

元十刃破面(プリバロン・エスパーダ)ガンテンバイン・モスケーダと童話竜(メルヒェンズ)シンデレラ エリーの死闘の火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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9話 月下流麗

 聖剣を巡る多種族混合戦線の幕は切り落された。

 

だが、この期に及んで自身の感情に固執して問答を開始する餓鬼が居た。

 

魔剣の小僧は敵の老神父に詰め寄り、老神父は小僧の悲憤を嘲笑っている。挙句の果てに老神父は強化アイテムらしき結晶体を侮蔑と共に小僧の元に投げ捨てる。

 

トドメも刺してない相手に慢心を晒し、反撃の余地を与える。それも、乱戦状態で敵は他にも居ると言うのに。大物ぶって余裕を醸しているつもりなのが一層、愚劣極まる。

 

結果として、魔剣の小僧は覚醒を果たし、神器(セイクリッド・ギア)における極致禁手(バランスブレイカー)に到ったのだ。

 

成程、双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)か、吠えるだけの圧はある。魔力の密度にしても、今までの魔剣が綿菓子とするなら、今の聖魔剣はアイスキャンディくらいはあるだろうか。

 

栗色ツインテール小娘(紫藤 イリナ)猪突猛進蒼髪小娘(ゼノヴィア)もまた己が真の切り札を披露する。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ……我が声に耳を傾けてくれ。―――デュランダル!」

 

存外に上等な切り札だったようだ。感じ取れる圧は隊長格の斬魄刀にも比肩し得る。使い熟せればノイトラの鋼皮(イエロ)を斬り裂く事も出来るだろう。

 

そして、紫藤 イリナの刀。あれは()()()()()()()()()だ。今宵まで気付けなかったのは、恐らく擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)で霊圧を偽っていたのだろう。

 

「さあ、いくよ!――羽搏きなさい『劈烏』!」

 

刀身が多数の手裏剣に分裂し、それぞれを任意で操作できるようだ。…正直、六番隊隊長の朽木 白哉が有する千本桜の下位互換としか思えんが、無いよりはマシか。

 

更に言えば、女悪魔3人と、赤龍帝の餓鬼も控えている。

 

コカビエルは座したまま笑みを浮かべて観覧、まだ本格参戦する気は無いらしい。ガンテンバインはシンデレラと死闘の最中。老神父は端から戦力外。つまり、敵一人(フリード)に対して、三人以上で挑みかかる構図だ。

 

流石にこれだけの好条件が揃えば、いくら何でも負ける事は有り得まい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 白銀の月光に濡れる巨躯、翼を広げ空を舞う姿は、幻想的で見惚れる程に美しい。だがしかし、有する爪は鋼鉄すら裂く凶器であり、体躯に見合うタフさと体躯にそぐわぬスピード、透色と追尾爆撃の性能を併せ持つ頑強で再生可能な鱗、咆吼の音圧は解放状態のグリムジョーのソレに匹敵する。

 

相対するは、鱗甲板を纏し翼無き龍。軽快なフットワーク、見た目以上のパワーと堅硬な身体、濃密な霊圧によって放たれる光線と砲弾。近接の拳打が主戦法だが、中距離での撃ち合いや範囲攻撃も可能。龍顎の如き両拳による蹂躙は、並大抵の魔物など容易く挽き潰す。

 

 

エリーは教会の使徒、神罰の地上代行者として相応しいように祝福と洗礼を施されている。故に、その霊圧は聖性をおび、邪悪な存在は胡散霧消する。それは、本体のみならず、身体から離れた星灰(スターアッシュ)にも適応される。

 

「▇▇▅▇▅▅▂▂!!▇▇▇▅▅▂▂▅▂!▇▅▅▇▅▇▇▇▅▅▂▂▅▂!!」

 

音圧だけで下級悪魔程度は鎮圧しかねない咆吼をあげるエリーに対して、ガンテンバインは響転(ソニード)で加速し、身体を丸めた状態で体当たりを敢行する。現状の薄い弾幕では突破は容易く、爪での迎撃も僅差で間に合わない。やはりスピードにおいては、僅かだが確実にガンテンバインがエリーを上回っている。

 

カウンター気味に体当たりが直撃し仰け反りはすれど、急所の冠角は未だ無傷。しかし、エリーは危機感を覚えたらしく星灰(スターアッシュ)を散布し弾幕を濃くしていくが

 

「ふん!甘ェよ――百連虚弾(シエントス・バラ)!!」

 

撒き散らされる端から撃ち落としていく。無限装弾虚閃(セロ・メトラジェッタ)には遠く及ばずとも並大抵の破面には出来ぬ芸当。元十刃破面(プリバロン・エスパーダ)の面目躍如と言ったところか。

 

ならば、とエリーも負けじと透色能力を併用し出す。が、結果は同じく、悉く撃ち落としていく。

 

「▇▇▇▅▅▂▂▅▂!?」

 

「は、何でってか?簡単な話よ…()()()()()()()()に付き合った甲斐はあったってワケだ!」

 

今のこの戦場には、町中に澱のように堆積していた黯い瘴気が流れ込み続け、常に満たし続けている。

 

例えば、空気の流れは目に見えずとも煙を使えば可視化できる。それと同じように、瘴気を打ち消す聖性を逆手にとって炙り出す。ちなみに、()()()()()()()()()()()()は邪悪に犯され染まってしまっているため、瘴気の揺らぎも極僅かである。

 

更に言えば、この空気はエリーにとっては微弱ながら毒であり、ガンテンバインにとっては虚圏(ウェコムンド)と遜色無いレベルで能力発揮出来る環境となっている。

 

しかし、それは同じく破面であるウルキオラにも適応される事だが。そして、ウルキオラとガンテンバインは同種族ではあっても、決して同位でも同格でも無い。

 

小細工は通じないと覚ったエリーは、高火力を集中させての正面突破、パワープレイによる早期決着を目論む。ただでさえガンテンバインは未だ『蛇』を使って居らず、長期戦になるほどエリーは瘴気に蝕まれていく。更にはコカビエル。一応、悪魔勢の要請で安倍家の者達が控えて居るが、エリーからすれば碌に情報も無く信じ難い存在だ。

 

「はっ!良いじゃねぇか、その思い切りの良さ。嫌いじゃねぇぜ?―――乗ってやるよ!」

 

エリーは己が最強の技『メガフレア』を放ち、ガンテンバインもまた最強の技で迎え撃つ。

 

主よ我等を許し給え(ディオス・ルエゴ・ノス・ペルドーネ)―――王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)!!」

 

 

 

かくて両者の勝負は決着と成った。

 

勝利したのは、ガンテンバイン・モスケーダ。

 

エリーは冠角に亀裂が入り、破砕寸前。絶命間近の有様だが、金髪娘悪魔の発する癒しのオーラに包み込まれ、徐々にダメージが修復されていく。しかしあの様子では、命は取り留めるにせよ、当面は戦力には成り得まい。もはや脅威では無い。

 

そして、肩で息をするガンテンバインの耳に甲高い破砕音が響く。見ればエクスカリバ―ごとフリードが斬倒されるところだった。そして聖魔剣の小僧に詰め寄られているバルパー。

 

疲弊を好機とみたのか、得物を向けてくる聖剣使い(ゼノヴィア)死神擬(イリナ)。未だ座したまま動かないコカビエルを警戒し隙を窺う悪魔、倍加能力を高めている赤龍帝の餓鬼と魔力を練り上げている女悪魔2人。

 

「…はん!使()()()()()()()()()()()()()ってのに尚も命を尽すかよ。忠誠、恩義、責務、いや信仰か?何に為よ、そこは大したモンだ。」

 

教会の使徒である2人と、かつて教会に使えていた2名が少しの間停止した。

 

「「「「―――は?・・・・・なん・・・だって…?」

 

「敢て偏屈な言い方をするなら、今の教会は詐欺集団も同然ってワケだ。神は何時でも貴方を見守っている、信じるだけで幸せになれる等と曰う。純朴な者達の足下を見るような甘言で惑わし寄せ集め、寄付と称する金集め。挙句の果てに教義という洗脳を施し、実験材料にする。・・・全く以て救われねぇ話だ。同情するぜ…」

 

「ふ、ふはははははは!!やはりか!やはり神は死んでいたか!!そうだろうな!本来交わる事の無い聖と魔の融合など、聖と魔の均衡が著しく崩れている何よりの証明!!真の魔王達と共に神もまた死んでいない限り起こりえぬ!!」

 

狂喜乱舞するバルパー、狼狽する4名のガキ、絶句する悪魔達、それらを嘲笑いながら隠匿されていた事実を明かすコカビエル、その隙に戦闘態勢を整えるガンテンバイン。

 

そして、()()()()()()()()()()()()手合い。そう、今まさにガンテンバインの目の前にいる男。

 

「ガンテンバイン、貴様()()()よりも随分と力をつけたな。一体、()()()()()()()?」

 

「・・・・・()()()から大凡2年、と言ったところです。」

 

「…そうか。貴様には訊きたいことが出来た。故に、殺しはせん。もっとも、無傷で済ませてはやれそうにないが…」

 

そして遂に、最強の脅威が動いた。そう、最初から今ガンテンバインの眼前に居る男(ウルキオラ・シファー)以上の脅威などこの町に存在しない。そんな事は分っていたし、覚悟の上だった。つまり、ここからが本番で、掛け値無しに死力を尽さねばならぬのだ。出し惜しんでいては、戦いにさえならず己は屍と成り果てるだろう。

 

即座に『蛇』を呷り、霊圧を煉り上げる。硬く鋭く、鍛えられた刃のように。

 

「!?」

 

次の瞬間、消えたと思ったら斬魄刀を垂直に振り落とされていた。咄嗟に装甲に覆われた両腕を盾にしながら全力の響転(ソニード)でバックステップ。

 

装甲は裂かれ、肉は斬られ、骨にまで食い込んだものの、腕はまだ繋がっている。

 

ウルキオラはそのまま響転(ソニード)でガンテンバインの背後に迫り、再度一閃。

 

「ッ舐めるな!!」

 

龍顎牙の如き手甲をカウンターとして石膏像のような面貌に叩き込もうとしたが、ウルキオラはソレを読み切っていた。更にカウンターを合わせられ、装甲の無い前胴を袈裟懸けに斬られた。

 

「消耗無しの十全な状態だったのなら、もう少しマシな戦いになっていたかもな。」

 

「――クソッ・・・」

 

ガンテンバインは血に塗れ、地に倒れ伏し、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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10話 ―――――――鎖せ

コカビエルさん頑張って色々盛ってみたけど自分じゃここらが限界だった。
済まぬ。


 霊威という言葉が在る。一個体の霊子濃度を指し示し、かつては死神の強さ指標の一つだった。一般隊士で20等、副隊長で5~4等、隊長で3等以上、と言うのが大まかな目安である。

 

そして霊威が一定以上に達すると、他者からは霊圧として知覚できなくなり、近くに居るだけで魂魄が圧壊してしまう。視れるタイプからすれば、霊威が上昇するほど暗く重い色彩で塗り潰されて視える。

 

例えば、崩玉と融合した藍染 惣右介は隊長達ですら霊圧を認識できなくなり、一般人ではただ近付いただけで塵になった。或いは、コヨーテ・スタークとリリネット・ジンジャーバックが破面化して分裂する前、周囲に屯していた虚達が恒常的に垂れ流しているだけの霊圧に耐えきれず滅亡していった。

 

だが今のウルキオラは、超越者のレベルでは無い。あくまで刀剣解放無しの通常状態での話だが。まあ素の状態でも、己の霊圧を完全に制御していて漏洩していないから傍からは感じ取れないし、無駄がない分非常にコストパフォーマンスがよく、内在霊力は相当なレベルで凝縮されていて鋼皮(イエロ)の硬度や斬魄刀の強度も十刃時代とは段違いに上昇している。

 

相対するコカビエルは、3等霊威に届くかどうか。純粋な実力は、先程倒れたガンテンバインをやや上回る程度。今のウルキオラであれば単独であっても王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)帰刃(レスレクシオン)無しでも斃せるだろう。もっとも、それは『蛇』のない素の状態での話だが。

 

 

 

 

 コカビエルは漸く玉座から立ち、地に降り立った。既に『蛇』を服用し強化済みである。

 

フリードはエクスカリバ―ごと斬倒され、ガンテンバインもウルキオラに鎧袖一触され、バルパーは元から戦力外、付き従ってきた数少ない堕天使達も既に居ない。

 

「・・・・・結局、誰も彼もこの俺について来られなかったか。…だがしかし、既に賽は投げられたのだ!今更引き下がれるものか!!俺は、俺一人になろうとも、戦争を再開する!!今度こそ、ハルマゲドンを成就させてやる!!」

 

鬼気迫る形相で戦争への渇仰を謳う。同時に、コカビエルの周囲にピンポン球サイズの光球が何十何百と形成されていく。

 

「その手始めが、貴様等だ!現魔王サーゼスク・ルシファーの妹!『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』リアス・グレモリー!!そして当代の赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)の宿主!バラキエルの娘よ、貴様であっても容赦はせん!死ねぇ!!」

 

全ての光球から一斉にレーザー光線が射出された。コカビエルの対魔全方位殲滅業『神威天導輝(カナン)』が炸裂した。

 

『光』の最大の特性は速度であろう。真空条件下においては約30万 km/s、宇宙最速(近年では光より速い存在も提唱されているとかいないとか)である。ならば、その速さを活かさぬ手はあるまい。

 

しかしこの業、速さと範囲に重きを置きすぎた為、威力そのものは大したものでは無い。光を弱点とする悪魔には特攻ダメージが入るものの、天使や堕天使だと中級でも直撃を受けても耐えられるだろう。――それが1発だけならば。

 

幾百もの光線が全方位に一斉に放たれ、回避はおろか防御すら到底間に合わない。足りない威力は圧倒的多数でカバーする。まさに必中不可避の奥義と言っても過言では無い。

 

無論、他の連中もただ見ているだけでは無い。ゼノヴィアはデュランダルを前に翳し、紫藤 イリナは身を屈め手裏剣を遮蔽物として周囲に展開、木場 祐斗は光喰剣(ホーリー・イレイザー)を形成し、兵藤 一誠は限界まで高めた赤龍帝の力を二人に譲渡し、リアス・グレモリーと姫島 朱乃はフルスロットルの魔力砲撃を撃ち放つ。ウルキオラは倒れ伏すガンテンバインも纏めて『鏡門』で守護、羽衣狐と黒歌と白音も同様に『鏡門』で対処。ちなみに、誰からも庇ってもらえなかったフリードとバルパーは流れ弾に当って死亡した。

 

「甘いわ!!『蛇』の恩恵を受けた今の俺の最大連射数は1980だ!耐え凌ぎきれるものか!フハハハ「煩い奴だ。今の貴様の態度は、随分と余裕が無く映るぞ?」―――なんだと?」

 

「なんだ、理解できなかったか?ならば、分かり易く言い直してやろう。――あまり強い言葉ばかりを使うと、弱く見えるぞ。()()()()

 

「ッッ貴様!!よくもほざいたな!!この期に及んで霊圧も碌に発することも出来ぬ分際で!」

 

コカビエルはいとも容易く挑発に乗り、全方位に発散していた光線をウルキオラ1人に集中砲火する。

 

「戦闘中に相手から感じられる霊圧とは、ソイツが制御しきれずに垂れ流し、空費している分の霊力だ。・・・・・だが、そうだな。無駄を抑えてため込むばかりでは、ストレスまでため込んでしまう。偶には()()()()()も悪くないか…」

 

ウルキオラはガンテンバインだけを被う小規模な『鏡門』を更に展開する。そして、斬魄刀を構え、解放した。

 

「―――――――鎖せ『黒翼大魔(ムルシエラゴ)』」

 

膨大濃密な霊力が立ち登り、豪雨となって降り注ぐ。霊圧とは別のナニカとしか思えない重厚な圧は、まるで無明の深海にでも転移させられたのかと錯覚する程。ウルキオラ本人と既に知っていた羽衣狐以外は、身内である黒歌と白音すら絶句。直接対峙しているコカビエルは戦慄の余り凍りついている。

 

「どうした?自慢の攻撃が止んでいるぞ?」

 

「ッオ、オオオオオオオォォォ!!!」

 

コカビエルは恐怖に呑まれて居た己を必死に鼓舞し、立て直しを図る。

 

「そうだ、それでいい。動揺するな。構えを崩すな。意識を張り巡らせろ。この先、一瞬も気を緩めるな。」

 

そうして両者は槍を形成し激突する。が、結果は一方的だった。そもそもコカビエルは槍を持上げ動き出そうとした段階で、一歩も動けていなかった。その状態で手にした槍は砕け散り、左腕と左翼の半分超を失った。

 

「僅かでも反応できたのは褒めてやるが、たった一撃でこの様か。・・・些か、拍子抜けだな。」

 

一説では、コカビエルはかつて天体の兆しを人間に教えたことで堕天し、四番目に数えられるようになったのだとか。ウルキオラもまた、かつては第4十刃(クアトロ・エスパーダ)だったこともあり、コカビエルに期待していた節があったのだが。

 

「ッ未だだ!まだ終わらんよ!!」

 

コカビエルは全ての力を振り絞り、極光を煉り上げる。コカビエルの最強の業。それは文字通りに、神から賜った威光を以て尽敵螫殺する閃き。

 

「成程、決死の特攻か。確かに、これは侮れんな。」

 

ウルキオラもまた、霊子を集束させる。凡てを鎖す、黒より暗い真黯の霊圧を。

 

ウルキオラの『黒虚閃(セロ・オスキュラス)』と、コカビエルの『神威聖裁熒(メギド)』が同時に撃つ放たれ、激突する。

 

結果は、またしても一方的だった。黒虚閃(セロ・オスキュラス)神威聖裁熒(メギド)を掻き消し、コカビエルの命すら鎖しきったのだ。

 

そもそも神に背き天の座から堕とされた存在、今更になって都合良く神の威光を振り翳していい道理などある筈が無い。

 

コカビエルの最大の敗因は、『今』を容認できずに自ら『先』を鎖し、過去の栄光に縋った事であろう。そう、彼奴はそもそも()()()()()()()のだ。

 

コカビエルが今際の際に浮かべた表情は、漸く終わることが出来る安堵のそれだった。

 

 

 

 

 

 戦いは終わった。

 

首謀者コカビエル、殺戮狂神父フリード・セルゼン、聖剣偏愛老害バルパー・ガリレイ、何れも死亡。元十刃破面(プリバロン・エスパーダ)ガンテンバイン・モスケーダ、ウルキオラが鹵獲。

 

駒王学園、半壊。リアス・グレモリー眷属及び教会の使徒、負傷者多数。安倍家一行、損耗無し。聖剣エクスカリバ―、何れも刀身は破砕したものの核は無傷で回収。

 

任務自体は一応達成したが、惨憺たる有様だ。

 

この件を切っ掛けに各勢力の状勢や均衡が大きく揺らぐ事だろう。必然、多大な混乱が生じる。先ず間違いなく『禍の団(カオス・ブリゲード)』は好機と乗じてくる。もしかしたら、全世界規模の大乱戦にも発展し得る。

 

それは・・・嗚呼、とても()()()()()

 

 

 



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11話 後始末

 ウルキオラの黒虚閃(セロ・オスキュラス)によって決着はついた。しかし、駒王学園を被っていた結界は完全に崩壊。

 

本来はここで帰刃(レスレクシオン)を解除し、霊圧を鎮めるべきだろう。消耗や負傷があるに為よ、校庭の悪魔達や教会の聖剣使い等は、ウルキオラの霊圧に充てられて身動きできずに居る。このままでは遠からず街の住人達にまで影響が出るだろう。

 

だが

 

「ふふふふ、面白い!実に面白いぞ!面倒なおつかいでも引き受けてみるものだな。よもや、これ程の強者と見えることが出来るなんてな!」

 

その者は、純白の全身鎧、8枚の光翼、各所の宝玉、人間とドラゴンと悪魔の気配(3種類の霊圧)を包括していた。

 

「随分と意気軒昂な事だ。…それで、貴様は何者だ?」

 

「おっと、そうだった。俺は『白龍皇』アルビオンを宿す者、ヴァーリ。『神の子を見張る者(グリゴリ)』から派遣されてきた。アザゼルからコカビエル達を無理矢理にでも連れ帰るように言われてたんだ。――もっとも、首謀者のコカビエルとフリードとバルパーは死んでしまっている。生き残っているのは、ガンテンバインだけか…」

 

ヴァーリは倒れ伏したままのガンテンバインを回収しようと近づくが

 

「生憎だが、コイツには訊きたいことがある。どうしても欲しいのなら、力尽くで持っていくか、俺の訊きたいことを訊いた後にもう一度来い。」

 

ウルキオラとヴァーリは、刹那の睨み合い。

 

「――――――止めておこう。個人的には何時か戦ってみたいが、今じゃ無い。今回は、遅れてしまった俺に落ち度がある。貴方の存在を知れただけでも収穫だとしておこう。」

 

「・・・・・・賢明な判断だ。今この場で戦った場合、死ぬのは貴様だろうからな。」

 

ヴァーリは肩をすくめ、立ち去ろうとするが

 

「おっと、そう言えば、貴方の名を訊いておきたい。そのくらいは良いだろう?」

 

「・・・ウルキオラ。それが俺の名だ。」

 

「ウルキオラ、ね。ああ、覚えたよ。では、()()()()また会おう。」

 

『無視か、白いの』

 

霊圧に充てられて呆けたままの餓鬼の赤い籠手からだ。赤龍帝が己の意志を発露させたと言うことか。

 

『起きていたか、赤いの』

 

対し、白龍皇もまた己の意志を発露させた。

 

『せっかく出会ったというのに、この状況下ではな』

 

『…まあいいさ、どのみち何時か戦う宿命だ。たまには、こういう事もあるだろう』

 

『また会おう、ドライグ』

 

『じゃあな、アルビオン』

 

今度こそ、白龍皇ヴァーリは飛び去っていった。警戒していた『禍の団(カオス・ブリゲード)』乱入の様子も無い。

 

漸くウルキオラは帰刃(レスレクシオン)を解除し、霊圧を鎮める。

 

「…まったく、ガンテンバイン(破面の男)はまだしも、1番上等な獲物(コカビエル)まで独り占めしおって。御陰で妾と黒歌は、この件では殆ど見ているだけで終わってしまったでは無いか。」

 

黒歌も同調し文句を垂れてくる。羽衣狐と黒歌は妖怪としての闘争本能が旺盛なタイプで、血を好む性分だ。瘴気の影響で渇いていたというのに、結界の補助強化くらいで殆ど見てるだけと言うのは些か以上に退屈だったらしい。

 

「「――――――」」

 

「・・・・・分った、この穴埋めは必ずする。」

 

「…ならば良し!」

 

「言質とったにゃ!もし約束破ったら剣千本差しの刑に処すにゃ!」

 

ガンテンバインを止血程度に治療し、担ぐウルキオラ。

 

「では、グレモリー先輩方、私達はこれで失礼させて頂きます。申し訳ありませんが、諸々の後始末はそちらでお願いします。」

 

()()管理責任者であり、学園の先輩でもあるリアス・グレモリーに挨拶を済ませる白音。

 

「ッま、待ちなさい!」

 

「「「・・・・・」」」

 

心底煩わしいと言わんばかりの視線に晒され、あっさり押し黙って目を逸らしてしまう。仮にも統治者として君臨する立場だというのなら、あまり無様を晒さないで欲しいものだ。

 

「皆さん、負傷し、消耗も著しい様子。今夜は身体を労る事を優先した方が良いのでは?」

 

「~~~~~ッッ!!後日、ちゃんと訊かせて貰うわよっ!?色々とね!」

 

「…はい。それでは、さようなら。」

 

 

 

 

 

 

 

 数日後の放課後、旧校舎の応接間にて今案件についての事後処理報告と今後に対するミーティングが催された。参加メンバーは以下の通り。

 

(キング)』リアス・グレモリー、『女王(クイーン)』姫島 朱乃、『騎士(ナイト)』木場 祐斗、『僧侶(ビショップ)』アーシア・アルジェント、『兵士(ポーン)』兵藤 一誠。そして、新たに2名。『騎士(ナイト)』ゼノヴィア・クァルタ、『戦車(ルーク)』紫藤 イリナ。ちなみにこの両名、神の『死』を知り異端認定された挙句、悪魔に転生したにも拘わらず聖剣適正値は変らず、斬魄刀に関しては悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の影響を受けて硬さと重さが増したのだとか。

 

(キング)支取 蒼那(ソーナ・シトリー)、『女王(クイーン)』真羅 椿姫、『騎士(ナイト)』巡 巴柄、『僧侶(ビショップ)』花戒 桃と草下 憐耶、『戦車(ルーク)』由良 翼紗、『兵士(ポーン)』匙 元士郎。ちなみに、近々戦力増強も兼ねてルー・ガルーと言う男を勧誘予定らしい。

 

安倍家次期当主兼当主代行の安倍 清芽、信田 羽衣、信田 黒歌、信田 白音、ウルキオラ・シファー。そして、ガンテンバイン・モスケーダ。

 

先ず事後処理について。童話竜(メルヒェンズ)シンデレラのエリーはダメージを無事に完治させ天界に帰還。5つのエクスカリバ―は剣身は破砕したが核は回収出来たためエリーが天界に持って帰った。校舎は六~七割程度は損壊していたはずだが、始業までのたった数時間で修復。バルパー・ガリレイとフリード・セルゼンやその他エクソシスト達の遺体は教会が引き取り弔うそうだ。

 

堕天使の総督であるアザゼルから「本案件はコカビエルの独断専行であり、他の幹部達は直接関与はしていない。現にコカビエルの身勝手な暴走を止めるべく白龍皇を派遣した。」と声明があったらしい。

 

そして、ガンテンバインの知る『禍の団(カオス・ブリゲード)』の凡ての情報を、改めて直接ガンテンバインに語らせた。とは言え、鵜呑みにすること出来ない。これは別にガンテンバインの虚偽申告の可能性を疑っているわけでは無く、所詮は一介の戦闘要員で重要なポストに就いていたわけでは無く、そもそも『禍の団(カオス・ブリゲード)』自体が不安定で流動が激しいからだ。

 

その際、(ホロウ)破面(アランカル)、死神や斬魄刀など、異世界から流れ着いた存在について()()()()説明させられるハメになった。

 

かつてウルキオラは羽衣狐率いる京妖怪達に共眼界(ソリタ・ヴィスタ)を使い映像を交えながら説明した。しかし、今回はあくまで口頭での概要説明のみだが。訊いた話ではリアス・グレモリー眷属は以前に死神の斬魄刀や最下級大虚(ギリアン)との交戦経験があるらしく、わざわざ眼球を抉ってまで映像付の懇切丁寧な解説をしてやる必要は無い。

 

 

「まず、俺達はこの世界の者じゃねぇ。こことは違う世界、虚圏(ウェコムンド)から来た。気が付いたらこの世界に居たと言うべきかね?そこはまさに(ホロウ)の『世界』でなァ、ああ虚ってのは悪霊だ。人間の魂が長期間成仏できずに彷徨い続けた結果、渇きや餓えに堪えかねて心を失い堕ちたモノさ。身体のどっかにある孔と、白い仮面が特徴だ。まあ、コッチじゃそうはならねぇみたいだがな。まあそれはいいとして、虚にも幾つかの階級があってな。並の虚、身体と霊圧がちょいとデカい巨大虚(ヒュージ・ホロウ)、幾百の虚が互いを喰らい続け生まれた大虚(メノスグランデ)。で、そのメノスの中に更に3つの階級があってな、1番下の雑兵が最下級大虚(ギリアン)、ここから共食いを繰り返すことで中級大虚(アジューカス)に進化する。さらに共食いを繰り返すことで極僅かな者が最上級大虚(ヴァストローデ)に到達する。」

 

「今は『禍の団(カオス・ブリゲード)』の主戦力の1人らしいバラガン・ルイゼンバーン、奴は弱肉強食の虚圏を統べる帝王として永らく君臨し続けていた暴君だ。奴や俺達は、虚の仮面を剥ぐことで、魂の限界を突破して新たな力を手にし、破面(アランカル)と言う虚の上位に位置する種族に進化を果たしている。」

 

「あ、あの~、私の劈烏も元は貴方達の世界のものなんですよね?」

 

「(未だそこまで説明していないが、斬魄刀が教えたのか?始解を習得しているなら、最低限は会話と同調が出来ていると言うことだし、有り得なくも無いか。)そうだ。死神の主武装で、斬魄刀と言う。コチラの世界ではどうか知らんが俺の元々居た世界の死神とは、プラス(浮幽霊)を成仏させソウル・ソサエティ(霊界)に送り届けたり、虚を斃す事で世界の霊的な均衡を保つバランサーでもある。死神達の斬魄刀は破面のソレとは異なり、虚を斬り伏せることで、虚となってからの罪を濯ぎ、その魂を元の人間のものへと戻し成仏させる。」

 

「以前にリアスや貴方達が戦い、今は悪魔側が管理している『梅針』『鈴虫』もその斬魄刀なのでしょうか?解析したところ、更なる力を秘めている可能性がある、との話ですが、実際は如何なのですか?」

 

「斬魄刀は2段階の解放を可能とする。一段階目の斬魄刀の能力解放を始解、二段階目の能力解放を卍解と言う。解放後の形状や特殊能力は斬魄刀ごとに千差万別だ。卍解状態の戦闘能力は一般的に始解の5倍から10倍にも及びうる。もっとも、それ故に斬魄刀戦術の奥義とされ、才能がある者でも習得だけで10年、使い熟すには更に10年以上かかる。」

 

まあ、あくまで通説であって、当然例外は存在するのだが。

 

「なら、私もその卍解に至れたなら、破面相手でも渡り合えるかもって事ですか?」

 

「・・・理屈の上ではそうなるな。」

 

 

最低限な情報は共有し終えただろう。各々様々な反応を示している。

 

明確に強化の可能性が提示されたことで沸き立つ紫藤 イリナとリアス・グレモリー眷属、やや顔を顰めながら思慮に没頭しているソーナ・シトリー他数名、話しについて来れずどうリアクションして良いか分らない様子の馬鹿、直立不動の捕虜、泰然自若と紅茶や菓子を口にしている者達、等といった具合だ。

 

暫くして、一通り考えが纏ったらしい。

 

「さて、皆聞いてちょうだい!近々、聖書の三大勢力の代表達が集まって会談を開く予定なの。今回の案件も議題に上る事になるわ。その際に、当事者である私達に直接報告をして欲しいと要望があったのよ。無論、貴方達もだからね!」

 

「・・・とおっしゃいましても、私達にだって都合というものが御座いますわ。せめて具体的な日取りを教えてくださらないかしら?」

 

「細かい日程調整はこれからだけど、一応は授業参観日の後くらいになりそうだと聞いてるわ。」

 

「そうですか。父にもその様に報告して、予定を空けておくようにしておきますわ。」

 

「よろしく頼むわね。それまで、決してガンテンバイン(そこの捕虜の男)には勝手をさせないようにね?本当に、絶対だからね!?」

 

「それはもしかして、フリなのかにゃ?」

 

「違うわよ!!!」

 

「黒歌、揶揄いたくなる気持ちも分かるが、漸く終わりかけていた話が、無駄に拗れて長引くのはつまらん。今は流石に控えよ?」

 

ブチ切れ寸前のリアス・グレモリーと、何とか宥め賺そうとする他の悪魔達。その様子を愉しんでいる悪い大人の女達、呆れる他の面々。

 

 

多少ぐだついた場面もありはしたものの、まあ何はともあれ、本日の会合談議は終了。深夜と言って差し支えない時刻だった。

 

宙には欠けゆく月に叢雲が翳らす。この後の往く道程を暗喩しているような気がした。

 

 

 

 

 

 



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12話 海

 

 

 

 

 

 

 

 コカビエルの聖剣騒動から幾何かの時が経過し、夏の季節に差し掛かっている。

 

聖書の3勢力は何処も会談のための準備に追われ大忙しらしい。

 

会場が駒王学園ということで、リアス・グレモリー眷属とソーナ・シトリー眷属も、様々な雑事に動き回っている。

 

主な下準備を終えたら、来日してくる各上役の案内や接待で不備や粗相をしないようシミュレート。

 

名門での上級悪魔で、魔王の妹で、曲がり形にも土地の管理者として、やるべき事は多い。それでもまだ学生と言う事で、仕事量は忙殺とは程遠い分量だ。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな悪魔共を尻目に、安倍家はプチバカンスとして海水浴場に訪れている。

 

羽衣狐は黒のビキニに薄いレースパレオと麦わら帽子、黒歌は黒のマイクロビキニの上に薄地の白Tシャツ、両者ともに自身のスタイルと美貌に自信があるため何憚る事無く堂々としている。白音と清芽は競泳用にフィンとシュノーケル、だがその所為でメリハリのきいたボディラインが浮き彫りになっている。女性陣揃ってスタイル抜群の美形故に人目を惹いて止まない。

 

ウルキオラはバミューダパンツにパーカーを羽織っていて、ガンテンバインはトランクス、清明はブーメランパンツで流石に何時ものUMAに騎乗していない。小柄で痩躯のイケメン、メキシカンボクサーのようなアフロ男、四十半ながら迫力溢れるゴリゴリの巨漢と、統一性の無いメンズとなっている。

 

ここは安倍家の保有するプライベートビーチでは無い。やや時期尚早ではあるが、一般の海水浴客も少ないながら居るのだ。人化擬態が出来ない、一目で人外と分る異形の連中は連れてきていない。

 

まだ本格シーズンでは無いのと、異様な風体の野郎共の御陰なのか、勇猛果敢な勇者(バカなナンパ男)を相手取る等といううんざりする程アカ塗れのテンプレイベントに遭遇せずに済んでいる。

 

このまま何事も無く・・・そう考えていた時期があった。

 

 

 

 

 

 女性陣が着替えている最中に、男衆が大きめのパラソルと折りたたみのテーブルとイス、浮輪やビーチボール等の準備も一通り終える。

 

皆揃って、軽くじゃれ合い、さあ、遊ぶぞ!と言うところで突如発生した濃霧に包まれる。即座に集合し、戦闘態勢を整え、堅固な結界で守護る。

 

霧が晴れた時には何処かに転移させられ、大量のゴミクズが群がってきた。

 

一応は悪魔のようだが、もはや原形を留めていない。多種多様な生物が不規則に入り交じって、オーラもヘドロの様に濁っている。自我も崩壊しているのか、呻くぐらいで意志の発露が見られない。まるで、拉致だか売買だかで調達して、無理矢理に強化して使い捨ての尖兵に仕立て上げられた様な有様。

 

そして、我こそが指揮者と言わんばかりに舞い降りてくる男。

 

慇懃無礼な態度と、侮蔑と嘲弄の混じった言動。そして、卑屈さが滲み出ていた。

 

「お初にお目に掛かる。俺は真のアスモデウスの血を引く者。クルゼレイ・アスモデウス。『禍の団(カオス・ブリゲード)』真なる魔王派として、シャルバ・ベルゼブブの仇討ちを、真なる魔王の血筋が負けたままでは面子が立たぬのでな。後は、負けた上に寝返った裏切り者(ガンテンバイン)の処理と、コレ等の実験もか…ふん!正直、反吐が出る程おぞましい実験内容だが、所詮は偽りの魔王共の恩恵を享受するだけの下級悪魔だ。どれだけ使い潰そうと構うものでは無い!」

 

どうでもいい御託を並べている間に羽衣狐と黒歌と清明が結界の解析を試みるが、揃って結果はエラー。

 

ソレを見て勝ち誇るクルゼレイだが

 

「バカが。隙だらけだ!」「ですわ!」

 

清芽の呪法とガンテンバインの蹴撃が炸裂…する直前にオーラを爆発的に開放する事で難を逃れる。

 

成程、圧の強さといい、密度といい、質といい、コカビエルに勝るとも劣らぬだろう。

 

つまりは、()()()()だ。

 

「塵が、目障りだ――縛道の六十一・六杖光牢」

 

「いきます!最大級の――断瀑!!」

 

必殺に足る筈の大洪水は、突如海中から飛び出した海竜によって阻まれた。

 

そして、クルゼレイを守護るように立ちはだかる褐色肌に眼鏡の女悪魔。凄まじい形相で睨み付けてきた。

 

「キメラ共!!行きなさい!!」

 

寄って集って来たキメラ群に、ウルキオラは虚弾(バラ)の連射で迎撃。急所と思われる部位を吹き飛ばすが、穴を埋めるカタチで他生物のパーツが生えてきた。頭部を吹き飛ばしても頸から即座に蟒蛇が生えてきたり、千切れ飛んだ腕から毛深い蹄が複数生えてきたり、と言った具合だ。増殖能力とは、無駄に手間取らせてくれる。

 

一秒程度の隙に、女悪魔とクルゼレイは濃霧に包まれ、戦場から消失していた。逃げ足だけは一級品と認めざるを得ない。

 

残っている雑魚の掃討については特に問題ない。増殖能力が意味を成さない攻撃も、増殖能力を凌駕する速度と規模の攻撃も、手段は揃っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 一行は全員無事に元の海水浴場に帰還。最後はウルキオラの王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)で結界をぶち抜くという、かなり力業に訴えるカタチになってしまったが、ヨシ!

 

「まったくも~~!せっかくのいい旅夢気分が大にゃし!!」

 

「うむ。次に会った時は、八つ裂き程度では飽き足りぬなぁ?」

 

「なんたる非道!!高貴なる者にあるまじき行いですわ!!」

 

「もうお昼。疲れました・・・お腹が空きました…」

 

等々、せっかく盛り上がって居た楽しい気分に水を差された事、非道な所行に対する不快感、肝心の敵を逃がしてしまった事、心身の疲労と空腹によるイラつき、様々の不満が愚痴となって噴出している。

 

その間にウルキオラは、先の戦闘記録にクレームを添えて悪魔陣営に送付を行う。

 

元はと言えば、現悪魔陣営の政権奪取の際の詰めの甘さと、その後のどっち付かずな中途半端な対応が原因と言える。此方は飛び火を受けた様なものなのだから、多少の文句も言いたくなる。

 

置き去りにしてしまっていた貴重品やらの荷物等は無事で、皆が安堵し着席する。

 

「まあまあ、落ち着くが良い皆の者。一先ず、昼餉にしようでは無いか。腹が満ちれば、多少は気も収まろう。」

 

ちゃっかり海竜のテイムに成功していた清明は、大きめのクーラーボックスから弁当を取り出し、テーブルに狭しと並べていく。

 

定番の海の家は利用しない。破面(アランカル)の二人は他者の魂魄か自然天然の食物しか摂取できず、化学調味料の類いは受容れられないのだ。人並みには食べられるし、味も分るのだが、やはり栄養として吸収出来ないのでは食事の意義も半減というもの。

 

 

メニューは稲荷寿司(プレーン、枝豆+ひじき+鶏挽肉、生姜+鮭フレーク+白ごま)、厚焼き玉子、鶏もも唐揚、トマトとオニオンのサラダ、カットフルーツ盛り合わせ、アイスハーブティーor林檎発泡酒(シードル)

 

 

わいわいと賑やかに全てを食べ終え、気を持ち直し意気揚々な一行。特に羽衣狐は何時もより趣向を凝らした稲荷寿司でテンション回復していた。

 

そもそも、今日の目的はバカンスだ。しっかり気分を切り替え、享楽に興じるべきだろう。端末が振動し、通知表記に魔王の名が表示されようと、もう知らぬ。今日はもう仕事の話はしない、考えないと決めたのだ。

 

清明筆頭に白音と清芽はシュノーケリング、黒歌とガンテンバインはボディボードで果敢に波を攻めている。浜辺に残ったのは羽衣狐とウルキオラは、初夏の浜辺と潮騒と蒼穹を肴に、キンキンに冷えたリモンチェッロを堪能する。

 

「せっかく海に来たのじゃ。彼奴等が戻ってきたら、荷物の見張りは任せて、妾等も波と戯れようではないか。」

 

「…そうだな。確かに、海水浴場に来ておいて一度も海に入らないのでは何をしに来たのか分らん。」

 

 

この両名は普段、霊力を自身の周囲から数㎝の間隔で一切の漏洩無く循環させている。だが、それによって霊威は緩やかだが恒常的に高まっていく。今や弱者では触れる事さえ叶わず、極狭い範囲から少しでも外からは霊圧を感知できないのに、下手に手を突っ込むと霊威で圧壊しかねないという、意図せずしてステルストラップの様になってしまっている。何の心配も無く直接触れ合える存在は稀少とさえ言える。

 

羽衣狐とウルキオラはお互いが安心して信じられる、心から愛おしい存在だ。まあ、表現の仕方は動と静で真逆ゆえの食い違いも生じたりするのが玉に瑕だが。

 

 

「しかし、あの二人は熟年夫婦かってくれぇの落ち着いた分り合ってる感があるなぁ?」

 

「うむ。だが、その割には結婚やその先に進展しようとせんのがな…」

 

「まったく、もどかしいにゃ!こうなったら、ちょっとやらしい空気に「おやめなさいませ!」

 

「そうですよ、黒歌姉さん。ソレは流石に野暮です。」

 

等々、周囲をヤキモキさせ、揶揄れたりもしている。

 

 

 

 

 

 

 



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