IS転生 俺の相棒は胃薬です (魚介(改)貧弱卿)
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転生 物語の始まり

「はじめましてして、俺は笛吹巽(ウスイ・タツミ)

19歳の高校生だ…なんて、

誰に言ってるわけでもないがな…」

 

俺は重い足取りで、時に抗うようにゆっくりと学校へ向かいながら呟く

 

「…また…教科書取られた…」

国語Bのはいくらだっけな

 

まだバイトだってあるのに、

出費ばかりかさんでいく

 

「金は無い…」

 

学校を辞めれば三年までの努力が無駄になる、これ以上の出費は避けなくてはならない

 

「そう言って三年間も過ごして来たんだけどな…俺も懲りないなぁ…」

 

自嘲気味に笑いながら、俺は学校の門をくぐり…俺専用に用意されているチョークの粉が入ったバケツがひっくり返された

 

「もう慣れたよ…今日は二時間目から体育だから、放置で良いね」

 

致命的なタイミングでは目を閉じていた俺は、直撃回避をあえて行わずに

自ら受けることで間接的な嫌がらせを試みているのだが、どうやら『連中』は

無駄なお仕事にばかり

熱意も努力も無尽蔵に注ぎ込めるらしい

 

「そんな事に注ぐ力があるならもっと偏差値を上げれば良いのに…」

 

笑いながら校舎に入り

白い粉をばら撒きながら玄関を抜け

外靴のまま教室に向かう

 

なぜ靴箱を無視するのかって?虫とヘドロが詰まっているからさ

 

「そんなところ、

誰も開けたくは無いだろう?

さて、おはようみんな」

「死ね」

「臭い、キモい、近寄んないで」

「よー巽〜まーだ生きてんのかよ、

人様の迷惑になるから早く首吊れよ」

 

様々な声を浴びながら無視して

席に座る…もちろん担任も

俺がいじめられていることなんて気にしない、これがいつもの事だからだ

 

「さぁ、ショートホームルームだ、

今日の話題は特になし!お前らは何かあるか?」

「ないでーす」

 

クラス委員の廻栖や日直の鈴木が嫌そうな目をこちらに向けて来る

 

「そんなに人を見つめて楽しいかい?」

 

チョークで白く染まった紙を振りながら尋ねても、誰も返事は返さない

 


 

授業は、俺が一切の教科書を持たないことを除けば恙無く終了した

「いつも通り帰ろう…」

 

最近は虐めもひどくなって来ている

生活環境はともかく、

学校由来の記憶に良い思い出がない

 

「大丈夫かな…?」

繰り返すため息を吐きまくって

どうせ汚れすぎで使われてない学校の水道で頭を洗う…バイトに行くまでに

少しでもチョークの粉を落とすためである

 

よし

 

もうお分かりの通り、俺はいじめられている…きっかけはなんだったかも覚えていないが、小学校時代からずっとだ、事なかれ主義者が校長が故か、止めるべき学校すら黙認している

 

だが、この時はまだ

致命的な事態になるなんて

思ってもみなかった

 

「マジウザいし臭いんだけど

死んでくんね?」

「…………」

 

いつもの通り廊下で足や脛を蹴ってくるやつを躱し、ひっくり返されるゴミ箱を躱す

 

いつもの事であり、毎日のようにこんなことをしてくる連中が後を絶たない以上、慣れればどうってことはなくなる

 

「…もう慣れたよ」

「はぁ!?ッザッケンナ!

死ねやゴラァ!」

 

今日はいつもよりしつこいなぁ

なんて考えながら階段に降りて

 

()()()()()()()

「なっ!?」

 

足は空を蹴り、腕は宙を泳ぐ

そして、階段を踏み外した俺は

至極当然に

 

落下して叩きつけられる

 

1度目の人生で、俺の意識が残っていたのはそこまでだった

 

「……っ!?」

 

目を開く

 

「ここは…どこだ?」

 

視界には、どこもかしこまで現実感のない、テクスチャが欠落した平面的な世界

 

しばらく見回しても何もない…いや

人やそれに類するだろう者がずらっと並んだ列だけはある

 

「はい、今来たのだね、

最後尾に並んで順番待ちだ」

 

「えっ?」

「はいはい良いから行くんだ」

 

黄緑色の長衣(トーガ)を纏った長身の男が俺の手を引き、俺を列の方へと放り投げる

 

「うぉわっ!」

「わっ!」

 

やべ、最後尾にいた人にぶつかっちまった

「ごめん!大丈夫?」

「大丈夫だよ、この世界なら何があっても()()()()から」

 

慌てて手を貸して、引っ張り起こした少年は、そう言って笑った

「面白いよね、僕はこの世界なら

ごく普通に歩くことが出来きる

以前はどれだけ望んでもできなかったのに」

 

この世界に来て、

積年の願いが叶っちゃったよ、

と言って、少年はもう一度笑う

 

「そうか…よかった、

と言っていいのかは分からないな」

「良いよ、少なくとも僕は良い」

 

言い切った後、しばし話が途切れる

「……………………」

「……………………」

 

しかし、話が途切れてしまうと、沈黙が身にしみると言うもので、どちらとも

『…』に耐えきれず、口を開く

 

「ガンダムって、知ってるか?」

「ガンダム?知ってるよ、…むしろ僕にはああ言うものしかなかったから、ね」

 

目をつぶった少年は、笑みを消して

「僕はさ、ずっと病気がちで、病院に居たんだ、それでガンダムとかライダーとかレンジャーとかにはちょっと詳しいのさ」

「そうか、そりゃあよかった

…じゃあさ、ちょっと語り合わないか?結構暇っぽいし」

 

軽く手を振りながら聞いてみると

予想外の答えが返って来たので

少し、話を振ることにした

 

「それじゃあまずは、ガンダムはどの世代見た?」

「ファーストからトライエイジまでだよ」

 

「じゃあ、一番好きな世代は?」

「それはもちろんSEED、でも

OOとWも好きだよ?」

「有名なイケメン所を取りに行ったな…よし、じゃあSEEDでどの機体が好き?」

 

そんな他愛ない話をしながら

着々と時間を過ごして行く

 

そして、ついにその時は来た

「はじめまして…じゃないかな?

私はこの世界で転生、転移神を営んでる女神の、ニエシェケルよ、よろしく

…してる時間はないわ

手短に説明するけど、貴方は死んだの」

 

以上、個室みたいな場所にて、

謎の長身美女に言われた台詞である

 

「…という事です、転生しなさい

欲しいなら、いわゆる『転生特典』も上げるわよ(投げやり)

若いんだから洗脳とか催眠とか触手とかでしょ?分かってる分かってる」

 

一気に言い切られて混乱する

「いや待ってくれ、転生特典ってのはいわゆる『異世界転生』で付加される

『チート』って奴でいいのか?」

「ええ、その認識でいいのよ、早く決めなさいな、後数千人分同じ事やるんだから」

 

「…えっと…」

「もう、早く決めてって言ってるでしょ?お任せコースにしちゃうわよ?」

「それってさっきの催眠とかって事?だとしたら嫌だな…そうだな…」

 

考え込むと、

色々な欲しいものが頭に浮かぶ

時間停止、無限の剣製、星の聖剣

天の階梯、ドライバー、ポケモン

 

一度浮かぶときりがない

そのまま山のようなイメージが走り抜け…その先に見つけたのは

俺の一押し男性サーヴァント

『巌窟王/エドモン・ダンテス』の宝具

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル シャートディフ)による超速戦闘

 

「よし、決めました

岩窟王のスキル、宝具を特典にください」

 

女神はそれを聞くと

ぞんざいな口調で吐き捨てながら

 

「はいはい、もう時間切れだから

転生先はこっちで決めちゃうわね

それでは、贈り物を貴方へ(present foryou)

いってらっしゃい、新しい人生へ」

 

最後だけは優しく、俺の手を引き

「幸せになってね、不幸の宿命者(HardestLucker)くん」

 

俺の存在を消しとばした

 

 


 

こうして、俺は転生した

 

「…目を開けたぞ!見えてるか?

俺が父さんだぞ」

「聞こえるわけないわよ、まだ1歳にもなってないのに、でも言いたくはなるわよね」

 

俺はまだ一歳にもなっていない赤子らしい、良いぞ…少なくとも戦場が

関係するようなことはなさそうだ

 

今のうちに転生特典を把握しよう



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第2話

俺の転生特典『鋼鉄の決意』と『虎よ煌々と燃え盛れ(アンフェル シャトー ディフ)』は強力だが、そのデメリットは大きい

 

脳の使用領域を強引に広げ

思考速度を跳ね上がるのと

同時に肉体にそれを反映し、擬似的な時間加速現象を発生させるが、同時に自身の脳を破壊する

 

「お子さんは異常です」

沈痛な面持ちの医師が、両親に説明を始める、あぁ、ICUとかそういうもので

検査したせいで

脳の異常な活性化がバレてしまったらしい

 

「そんな、異常なんて!

どういうことなの!?」

「異常なのです、CTスキャンの結果とバイオマトリクス系の投影写真

サーマル画像、どれを取っても

この構造は人体としてあまりにもおかしいのです!

良いですか?まず、人類は

どんなに高度でも5%程度の容量しか稼働していないはずの脳が、お子さんは80%以上稼働している!それに骨密度や体脂肪率、どれも異常です

通常の離乳食程度では補給できないほどの量を要するはずです!」

 

これが異常と言わずになんなのですか!と叫ぶ医師を尻目に、俺は

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)を全開にして

 

超高速で思考、内容は

もちろん移動ルートの設定だ

 

「私たちの子供なんです!異常なんてて言わないでください!」

良いセリフだな、感動的だ

だが無意味だ

 

良し、ルート設定完了

このまま車で自宅まで連れて行ってもらってから、徐々に虐待されるまでの

チャート構築完了

 

実行開始(トライアルスタート)

 

「あう〜ぁあ」

取り敢えず言語は無理、

脳内の語彙は保持して置く必要があるため、早急に対応が必要

日本語、英語、独語、広東語

オリヤー語、アッサフ語、仏語、グロンギ語くらいで十分だろう

 

(よし、ここからは少し忙しいが、まだまだやれる、俺の人生はフリーダムだが

…戸籍は維持したいなぁ)

 

ぬるま湯の中の時だけは

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェルシャトーディフ)と鋼鉄の決意でゴリゴリ脳成長して

寝ても起きても思考加速状態を維持できるようにする

 

そのまま徐々に要求能力を上げて

少しずつ、少しずつ、しかし

限界ギリギリの効率で体を鍛え

 

「ごめんな、俺たちはもう

お前を愛せる気がしない」

 

ついに、ここまでやってきた

 

3歳にして自走可能な体力と身体、同様に黒い炎による飛行を密かに習得している俺は

この先の人生、大体生きていける

 

「さよならだ、巽」

 

ダンボールの中に収められた俺は

つぶらな瞳で両親を見つめて

 

「ぱぱ、まま(演技)」

 

ゆっくりと掴まり立ちして…(演技)

「おやすみ(演技)」

 

なんの苦労も考えずに寝る(演技)

 

完璧だ…この先会うことはないだろう両親に、最後だけは罪悪感を叩き込んで

戸籍抹消を防ぐ作戦!

 

あとは捜索届けでも出してもらって

死亡認定待ちすればいい

 

「…っ!あぁ、おやすみ」

「おやすみなさい、巽ちゃん」

 

そういえば、俺の名前って

前世と同じ名前なんだよな

 

あっさよなら両親(適当)

 

さぁて、明日から忙しくなる

まずは冬の寒さをしのぐために

布を集めないとな

 

「…アンフェル・シャトーディフ」

 

黒い炎を展開して

自らを焼く…これは防寒用にはならないな、なにせあんまり熱くない

 

「さて、どうするか…」

 

さすが、three years old(さんさいですー)

 

ガキくせえ声しか出ない

 

この先永遠に暇になったので

予定チャートを再構築していると

 

「こちらでしたか、笛吹巽様

社長からのプレゼントがございます、お乗りください」

 

現れたのは…セイバーオルタ

(メイドモード)

「はっ?!アイエエエ!?セイバーオルタ?セイバーオルタナンデ?」

 

「なんで、と仰られましても

私はここにおります、ただそれだけです…さ、お乗りください」

正直、メイドオルタとか死ぬ未来が丸見えであるが、

性能的には優越的な体力は

種族値の差で全く勝てないし

俊敏も耐久も勝てない…

 

「仕方ないか…わかった」

 

炎で浮いて、着地、浮いて、着地

月面じみたハイジャンプを繰り返して人並みの速度で移動して、車に乗る

 

3歳ボディが辛いぜ(慣れた)

 

「さて、どこに連れて行く気なのかな?」

「それは社長から伏せる様にと申しつけられておりますので、お答え出来ません

発車いたしますので、チャイルドシートにお座りください」

 

「あいよ、ってかもう座ってる」

「失礼致しました、それでは

発車いたします」

 

車に乗せられて軽く一時間ほど、数十キロ離れた場所だろう市街区を離れた

森にやってきた

 

「お降りください」

 

その声に従って降りた先には

一つのテントが立っていた

 

「社長からのプレゼントです

どうぞ、お入りください」

 

メイドオルタに促されてテントに入る

「…広いな」

 

「特殊工法で作られておりますので」

テントに入ってすぐに、一言

それにあっさりと返される

 

テントの中は、もはやテントとは呼べない内装であり、

軽くアパートの環境とも思える

 

「巽様、こちらをどうぞ」

メイドオルタは俺に手を差し出して

 

「手紙?」

「はい、社長からのお手紙です」

「すぐ開けてもいいかな?」

 

手紙を受け取りながら、確認を取る

「どうぞ、ご覧下さい」

「それじゃ、開けるよ」

 

小さい手で苦労しながら封筒を開ける、その内容は…

 


 

    ~臼井巽様へ~

 

このテントは気に入ってくれたかな?

 

怪しいとは思うだろうが、読んでみてほしい

 

君へのもう一つ贈り物が机の上にあるだろう

 

確認してみてくれ

 

移動兼連絡手段として特別なスマートフォンを送っておいた

 

様々なアプリケーションがインストールされている

 

是非活用してくれ

 

そしてこのテントについての説明だ

 

このテントは水道、ガス、電気が全て通っている

 

完全自動式自家発電がついているから、動力源についての心配は無用だ

 

さらに特別な機能で野生動物には襲われないから安心したまえ

 

私は決して怪しい者ではない

 

いずれ会うことになるだろう

 

その時は迎えを寄越す

 

来ることを楽しみに待っているよ

 

 

P.S.

 

テントには食材、飲み物が充実しているから遠慮なく使ってくれ

 

by社長

 


 

社長何者なんだよ…どう見ても怪しいよ

このテントどう考えてもサイズが合ってないよ!

 

「こちら、金品受領証明書となります、こちらにサインを頂けますか?」

「了解だ、ボールペンはある?」

「どうぞ」

 

メイドオルタが差し出したボールペンを取り、浮き上がってサインを書く

 

「確認しました、社有地ですので不動産手続きは必要ありません

以上を持ちまして、()()()()()()()()()()の受領を完了したものと見做します、以降の住居、法定的居住地を現在地とさせていただきますので、ご了承ください」

 

それだけ言って

メイドオルタが去っていく

「待った!」

「…なんでしょうか?」

 

「ここの周辺の地形を把握できないから、地図か何か無い?」

俺の呼びかけを聞きつけて

こちらを向いたメイドオルタは

再びこちらに寄ってきて

 

「この地図をお使いください、

この周辺は社有地の山となっておりますので、この先20kmほど民家、店舗はありません、必要なものがあれば、そちらの端末から連絡を下されば、即日お揃します」

 

「それは有難い…頼らせてもらう、この体では遠出はできない、20キロは歩けない、

どうせ監禁にも等しいんだから」

 

自嘲気味に笑いながら言うと

「………それでは、私はこれで

失礼します」

 

なんとも言えない表情になったメイドオルタはさっさと去って行った

 

「はぁ…まぁ良いか、『歩けない』とは言ったが『飛べない』とは言っていない

いざとなれば、飛べば良いだけの話だ…よし」

 

見せてもらおうか、貴社の

特別なスマートフォンとやらを

 

机に歩み寄った俺は

…机の上が見られないので

浮き上がって

 

「………………」

絶句した

 

そして、その瞬間、確信した

 

『この社長、転生者だ』

その理由がこれだ、このスマートフォン…

「ライズフォンじゃねえか!」

 

投げ捨てそうになるのを抑えて

起動してみる

 

「……よし、普通だ、

社長仕様とかじゃない…?

いやバイクアプリあるし」

 

やはり社長?いやまさか起動できるはずない…起動したらしたで危険だから止そう

 

俺はあっさりと思考を放り出して

テントの機能検証に入った

 

3歳ボディでだがな



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第3話 躍進

あれから一年程経った

 

テント(仮設とは言ってない)の生活は幸いにもそこそこ環境レベルが高く、本当にライズフォンからのメッセージで物資を要求できたりしたので

生活に困窮はしなかったが

 

一年の間に色々なことがあった

 

背が伸びたり、炎が強化されたり

ポ○モンが放映されたりだ

 

そしてなにより

 

…おめでとう!

3歳ボディは4歳ボディに進化した!

 

せめて後十年くらいは待ちになりそうだ

 

 

…今はライズフォンにインストールされていたFGOをやっている

 

暇つぶしにプレイして見たのだが

とかく星5が出ない、高レベルの星5を使えない新規ユーザーに対する厳しさが群を抜いている

 

ここまで遊びにならない遊びは

ゲーム版のビ○オペ以来だ

 

「…また爆死…140連爆死…」

 

高位レアは出ないのが基本とは言えど

ここまで出ないときついなぁ

結構リセマラしてみたが、それで100回やっても一回も出ずに挫折して星4二体で妥協したのだが

 

…巌窟王ピックアップ欲しいなぁ…そろそろ巌窟王戻ってきてくれないかなぁ

謎のヒロインでも良いや

 

とりあえずクイックの強い鯖を

俺はクリティカル厨なんだよ

 

「さぁて、今日はどうしよっかなぁ」

 

常時四倍速を維持できるようになった俺は、そのままの速度で言語や行動だけを減速し

 

うまく加速率を悟られないように動く方法を習得した

 

「…………」

今日も思考実験だ

ここがなんの世界か、あるいは如何なる世界かは不明だがとりあえず

何もしないわけにはいかない

突然世界が滅んだり、魔術師が襲って来たり

本持った魔物が訪ねて来たり

アラガミが出現したり

バイドが攻めて来たり

 

可能性はどこにでも転がっている

その中でも要注意な幾つかの世界における有効なシチュエーション実験を行う

 

まぁ最終的にガ○シュ世界なら

世界は修復されるのだが

龍が出て来たり、カースコーリング(呪いが呼んでいる)とかいわれたりしたら目も当てられない

 

エ○ァに乗って!とか

僕と契約してとか言われたら

それはそれで困るが…まぁ一応実験はしておく

 

「…スゥ……ハァ……」

 

大きく、ゆっくりと呼吸する

自分の中にある全てを吐き出すように

吐き出したものと入れ替えて

新しい空気を吸う

皮と骨と血脈と肉、全ての肉体を構成する要素を思考内で分解する

 

ゆっくりと、大きな呼吸を維持しながら、自分を分解して、再構成するのだ

人体図を思い浮かべる

皮膚を浮かせて、その下

 

あらゆる構造を思い浮かべて

自分自身の人体の、

完全な模型を頭の中に創造する

 

「少しでも矛盾があってはいけない

完璧に再構成するんだ…」

 

また一つ、呼吸する

肉を透けて、骨と神経、血管

 

臓器の蠕動すらも把握する対象だ

ゆくゆくは一刀修羅のように『全力を出し尽くす』くらいは出来るようになりたい

 

「!」

できた!完璧だ………矛盾はない

これこそ俺自身の体だ

 

……さぁ、次のステージだ

 

「スゥ……ハァ………」

 

()()()()()()()

生まれて来てから、今現在まで

全ての時を思い起こす

自分自身の人生を再体験する

 

何を得た?何を覚えた?

それら全てを思い出す

 

「それは、必要だ…!」

思考速度を強化するだけでは足りない

自分の記憶全てを思い出せ

それは走馬灯を短縮する

 

脳を極限まで加速して、

加熱する思考をさらに進める

 

「っ!」

呼吸が乱れた

その瞬間、

浮かんで来た記憶たちが霧散する

 

「やり直しだ!」

再度坐禅を組み直して、

思考を深く沈める

 

自問自答だ

『何があったのか』『何を得たのか』『有効に使えているか』『忘れてはいないか』

 

繰り返す問いと答え

それは自分をループさせ

徐々に昇華させて行き

自我を無我へと至らせるだろう

 

そして、時全てを往復して

漸く全てを終えたそのあと

異常に疲労した思考を完全に停止して立ち上がる

 

「っ!」

 

全てを無視して腕を振る

倒れそうになる体を、

無意識に出た足が支える

 

テントの壁に設置された白い板を殴りつけて、蹴り飛ばす

 

そのあとはひたすらに

的が砕けるまで攻撃を続けて

砕けたら倒れるように眠った

 

翌日

「無我の境地…ってわけには行かないが、それなり…かな?」

 

俺は昨夜の自分が()()()()()()

砕けた的に視線を向けて

軽く笑い…砕けた的の残骸を

燃えないゴミに突っ込む

可塑性プラスチックで出来ているらしいから、専用の燃えないゴミ箱に

破片を捨てておけば

直接回収して再生してくれるらしい

 

全く、『紅コーポレーション』様々だ

 

「よしっと」

破片をゴミ箱に捨て終わった俺は

テントの外に出る

 

テントの裏側にあった模様

バーコード状の数文字列、9071(クレナイ)

 

そのロゴはこの世界では結構有名な企業のロゴらしい

 

こないだスマホで見てたアニメのポ○モンに挟まってCMでも出ていた

 

「そこの社長にはえらく気に入られているらしいしな…今更借金がどうこうとか言われたら返せる気がしないが…」

 

まぁ最悪の妄想はやめておこう

 

「…何が何だか…知らんしな」

 

転生者の可能性が高い社長に

同じ転生者として接触することも考えなくてはならない

 

4歳にもなったことだし

俺は浮遊で移動しつつ距離を稼いで

ある程度街に近づいたら徒歩で人目を欺き、街へと入る

 

………

やっぱり4歳ボディは早まったかもしれない、みんなこっちを見る目が完全に親とはぐれたガキを見る目だ

 

成長の時間が必要だな…

 


 

 

あれから十年が経った

 

俺も中学生程度までは成長して

頭の中はすでにオッサンレベルである…加速倍率は常時10倍、最高瞬間加速度750倍

持続時間的には30倍程度だ

 

筋力などもかなりの線

………であるはずだ

 

冗談半分で端末から依頼した握力測定機器の針が振り切るくらい…約200キロ

 

「冗談で済むレベルではない…(オレ)の身体能力は岩窟王(サーヴァント)のそれを引き継いだ訳でもないというのに…」

 

石を砕くなんてレベルには至っていないが、骨を砕くくらいなら可能だ

自動車のボンネットくらいなら引きちぎる事すらできる

 

鯖として見てもおそらく

筋力:E 敏捷:E++

程度の評価は出るだろう

 

耐久は無惨としか言えないが…

 

「まぁ、マイナスより先にプラスを考えよう」

 

頭を回した俺は

そのまま思考訓練に入る毎日欠かさず、イメージトレーニングでの組手と

実際に体を動かしての訓練

山肌を活かしての走り込みなどを行なっている

 

「どんな世界でも、体力があるないは生存力に直結するからな」

 

「良い心がけですね」

 

息を吐きながら一人で呟くと同時に

背後に出現した気配、それはセイバーオルタ(メイド)のものだった

 

「どうかしましたか?セイバーさん」

「今の私はメイドです…いえ、そうではなく、社長からのお届けものです」

 

背後に突っ立っていたメイドオルタは、いったん離れる旨を伝えてからその場を離れて

 

段ボール箱を持ってきた

「社長からのお手紙と、お届けものとなります」

「…はぁ」

 

とりあえず手紙を読ませてもらう

予測が正しければ、この手紙には届け物の内容が書いてあるはずだ

 

    ~臼井巽様へ~

 

やぁ、久しぶりだね

 

ライズフォンは活用してくれているかな

 

あれにはわが社が出している数多くのゲームがインストールされている

 

是非とも遊んでみてくれ

 

それと近々、新商品として君のよく知るモノを売り出すつもりだ

 

期待して待っていてほしい

 

今回は手紙はこれだけを伝える為の物ではない

 

君にあるものを送ろう

 

これは私からの気持ちだ

 

可愛がってやってくれ

 

by社長

 

 

「社長…今更だな…」

そもそも十年も同じ人物が立場を揺るがさずに社長を続けているという

驚異的な手腕に驚きながら

俺は落胆に近い声を上げる

 

「…あ、メイドオルタさん、段ボール受け取りますよ」

「お渡し致します、どうぞ」

 

渡された段ボールを開けると…

 

「こいつは…爆丸(ハロ)!?」

 

驚きながらも同梱の説明書をパラ見して、電源を入れて、システムを起動する

 

「ハロハロッ!」

赤い目をチカチカさせながら飛び跳ねる紫色のハロ

 

「おう、元気な事だな…」

「ハロッ!ハロッ!」

 

あええっと…

説明書を見るに、こいつは自己成長機能付きの学習型コンピュータを搭載しており、自分のプログラムを自分で作成してアップデートしていくらしい

 

「つまりはまだ喋れないのか…」

 

ある程度の言語なら理解できるようだが、プリセットされた単語くらいであり

あとは『学習』の結果

いかなる単語がいかなる状況、物体を示すかなどをを修得するらしい

 

『アレ』とか言われたら混乱してしまいそうだな…

 

「お渡しするプレゼントは以上でございます…最後に、社長から一つ」

「伺います」

 

俺の即答を聞いたメイドオルタは

軽く首肯して

 

「近々、一斉検査がある、君にはそれを受けてほしい、そうすれば君は

介入することができるだろう

この、無限の成層圏に

 

とかのことです」

 

そして、俺は悟った

この世界は…

『世界最大規模の出来レース』

インフィニット・ストラトスの世界だ

 

その瞬間、俺は頭を抱えて叫んだ

 

「やらかしたぁぁぁっ!」

 

この世界…転生特典がどうとか絶対いらない世界だったぁぁっ!

ヤバイヤバイ!絶対解剖されるって

束殺害END目指さなきゃヤバイって!

 

「…では、私はこれでお暇させていただきます、今後の予定と致しましては、来週の水曜日、一月一日にクレナイコーポレーション本社ビルにて、

 

社長と御面会頂きます

午前10時から具体的な行動方針などの打ち合わせを予定しておりますので、万障お繰り合わせの上、ご参加ください

よろしいですか?」

 

メイドオルタの冷たい声に

一抹の安心感すら覚えながら

俺は頭を戻して頷く

 

「も、もちろんさぁ…あ」

「何かお気づきの点がおありですか?」

「あぁ、送迎とかはある?無いなら無いで良いけど」

 

「無論、直接本社までお車でお送りさせて頂きます」

 

メイドオルタに隙はなかった

「了解だよ…頼んだ」

「他にご質問は」「無い」

 

俺のクイックキャンセルにも表情を崩さないメイドオルタは

「では、これにてお暇させて頂きます」

 

一礼して去っていった



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第4話 哲学者(フィロソフィア)

「お迎えにあがりました、笛吹巽様」

 

「うん、お迎えありがとう」

 

とりあえずメイドオルタに礼を言って、車から降りる

 

正面玄関前で止めてくれたようだな

「よし」

 

まずは本社ビルの威容を目に焼き…

シン・アスカとレイ・ザ・バレルが見えるのは気のせいなんですかねぇ

 

「ここからは、営業担当のルナマリアがご案内します、私は車を回してきますので

あとはルナマリアの方にお願いします」

 

「わかりました」

 

俺は、本社ビル前で待機していたルナマリアと挨拶を交わして

シン・アスカとレイ・ザ・バレルの前を通り過ぎる…正直呼吸が怪しい

 

「最初に、受付での登録となります

登録時に記録いたしますので、

まずは、こちらにご記入ください」

 

渡されたアンケート用紙の要項を

さっさと埋めていく

 

ええっと、名前は『笛吹巽』年齢『満14歳』性別『男性』に

公的身分『学生』…かな?

前にメイドオルタに聞いた所によると

義務教育の制度を利用して登校義務免除されてるらしいし、それで

 

「はい、終わりましたよ」

「ありがとうございます」

 

要項を埋め終わった用紙をルナマリアに返すと、受付に案内される

「いらっしゃいませ、ようこそ、クレナイコーポレーションへ」

 

その瞬間、俺は全てを諦めた

だってそうだろう?

目の前にマリア・カデンツァヴナ・イヴと小日向未来と立花響とかいう

超メンバーが揃ってるんだぜ?

 

393はともかくビッキーとたやマだぞ?

シンフォギア世界の主人公さんとアイドル大統領嬢に、最恐にして最狂最弱のギア『神獣鏡(シェンショウジン)』の使い手…

死んでしまう…

 

 

「目、目が死んでるっ!?」

「ちょ、巽さんっ!?」

 

ビッキーに名前呼ばれたような気がするけど俺は元気です(現実逃避)

 

「現実から逃げちゃダメです、私も昔…といっても、私じゃない『わたし(小日向未来)』ですけど

響との関係を気に病んで、現実から目を背けてしまった時期があります、そのせいで皆を傷つけてしまいました」

 

手を取られて、軽く引っ張られる

「だから、現実から逃げないでください、どんなに辛くても、悲しくても

逃げた先には、大きな悲しみしか待っていませんから」

 

「あはは…重い…」

 

真っ正面から目を見つめてくる393

その目はどこまでも深い翡翠色

 

「…はいはい、小日向さん、お客様相手に失礼でしょ、離れなさい」

 

マリアさんが後ろから小日向さんの肩をつついて、手を離させる

 

「あ、失礼しました」

 

「いや、良いんだ…ありがとう」

離された手を軽く振り、微笑む

「こちら、見学中の名札となります」

 

マリアさんから名札を受け取り、ビッキーの笑顔を眺めながら、ルナマリアに先導されて

本社ビルへと入る

 

「…最初に、社長にご挨拶いたします」

「初顔合わせってか?分かったよ」

 

エレベーターで10階に向かう

「10階は社長室、資料室となっております」

 

エレベーターはすぐに止まり、

10階を指し示した

 

「さぁ、お降りください」

「あぁ」

 

ルナマリアに促されてエレベーターを降り、正面の社長室に向かう

 

静かに、かつ聞こえるように

扉をノックする

「社長、ルナマリアです

笛吹巽様をお連れしました」

「入ってくれ」

 

その返事の2秒後、扉を開けるルナマリア

「お入り下さい」

「失礼します」

 

社会的マナーに従い、一礼してから部屋に入る

 

「待っていたよ、笛吹巽君」

「こちらこそ」

 

背中を向けた姿勢から、

椅子を反転させる社長……

 

「私はクレナイコーポレーション社長…いや

 

わたしはぁ、神ダァァァッ!」

 

壇黎斗

「神ィィッ!?」

「ゔぇぇあっはっはぁ!驚いているようだなぁっ!」

 

大仰なポーズと共に声を上げる

壇黎斗神は

 

「くっだらない嘘ついてんなや!」

唐突に出てきた男に頭をぶっ叩かれた

 

「ちょっ!大丈夫ですかっ?!」

「あぁ、この男にはこんくらいが丁度良え、むしろ足りんねん」

 

社長を叩いた男は、そんな

ぶっきらぼうな返事と共に

追加の一撃を入れる

「いつまで寝とんねん!」

 

「いった!何も叩くことは無いじゃないか

いつもながらひどいなぁ…」

 

急に口調を崩した社長神は

首の横に手をやり、

dummy(ダミー)

機械的な音声と共に

特徴的なメモリスティックを取り出した

 

「改めて自己紹介しようか

僕は紅奶晴羽(クレナイ・ハルナ)、このクレナイコーポレーションの社長、代表取締役を務めている」

 

自己紹介の最中に、光と共に

背格好も声も変わり…いや、戻っていく

 

「転生の前に一度、話したことがあったよね?覚えてるかな?」

 

神から元の…恐らくは本来の姿に戻った少年は、その少年としての笑顔を見せる

その笑顔に、

遥かかつての記憶が該当した

 

「君は!…彼か!」

「思い出してくれたか…笛吹巽ィ!

なぜ君の元にセイバーオルタが現れたのか、なぜ転生場所を知っていたのか!

なぜ君の生活を支援したのくわァ!

その答えはただ一つ………

笛吹巽ィ!

私が君と同郷同時代の、転生者だからダァ。アァーッハッハハハハハー!」

(アロワナノー)

 

急にテンションを上げた晴羽社長は…

再び後頭部を打撃された

「いつまでネタに走っている!」

「あいたっ!、ぶったな!今まで

誰にもぶたれた事ないのに!」

 

後頭部を押さえた晴羽は、例の天パのセリフを叫ぶが…流石に

 

「いや、さっき打たれただろ」

ツッコミを止めることも出来なかった

 

「な…なん、だと…」

まるで信頼していた友人に後ろから撃たれような表情をした晴羽は

ガクッと首を落とし

 

1秒ののち

「ネタはここら辺にしておいて、会社の紹介をしようか」

(切り替え早っ!?)

 

「とりあえず、僕の転生特典から説明するね…僕の転生特典は、覚醒ステージ3

『固有世界創生:軸と歯車の太陽系(スシテマース・ソーラァレ)

能力は…名前から分かると思うけど

自分の世界を所有する能力、中でもこの能力は機械関係の支配能力として覚醒している

 

最初は単純に空間を作るだけの能力だったんだけど、いつのまにか、ね」

 

「覚醒ステージってなんぞ…」

「それは俺が説明しよう」

 

突然口を出して来たのは、先程

晴羽社長をぶっ叩いた男

 

「俺はダース・オリーシュ(シスの主人公卿)…いや冗談だ、俺は九龍翼(クロウ・ツバサ)、お前たちの先代の転生者だ」

「………」

 

俺が呼吸を止めると

その男…九龍はニヤリと笑って

説明を始めた

 

「覚醒ステージとは『転生特典』の進化度合いを示す指標だ、一部の転生者は特典が成長する事があり、それが新たな機能を得る、あるいは既存の限界を超える成長を果たした時に『ステージ』が上がる

晴羽で言えば、ステージ1が

『固有世界創生』ステージ2が

『固有世界創生:歯車の星(ギア・ラーティア)

そしてステージ3が軸と歯車の太陽系(システマース・ソーラァレ)

こんな感じに、系譜のように段階立てて進化するんだが…晴羽はどうもステージ2で機械系に特化したらしいな」

 

「なるほど…」

 

「固有世界創生の成長は大きく言って三種類『空間拡張』『法則支配』『環境制御』で、晴羽は最初と最後、空間と環境が強く成長したらしい

最初は倉庫くらいだった空間が、今じゃ惑星単位なんだとさ」

 

笑いながら軽く手を振る晴羽をチラ見しつつ、話の続きを聞くと

 

軸と歯車の太陽系(システマース・ソーラァレ)は機械系最強の支配能力『機械仕掛けの大銀河(グレゴリアン・ギャラクティカ)』ほどじゃないが、機械への適応力が極めて高い能力だ、晴羽はその能力で自分の世界に工場を作ったんだと」

 

「なるほど…」

「ついでにここで働いてるのはほとんど、その空間内の工場で作られた機械人形(アンドロイド)…まぁ、Fateだのシンフォギアだののキャラがいる時点で大体わかるよな」

 

ニヤニヤ笑いながら晴羽を指差す九龍は、

「こいつ、機械人形作ってからずぅっとゲームだのアニメだののキャラを作ることに熱中しててな?終いにゃネットだぁゲームだぁから情報吸い上げて自己進化する成長プログラムなんてモンスタープログラム組み上げちまったんだよ」

 

言いながら指をルナマリアへ向ける

「そこで立ってるルナも、人間そっくりなのは外観と頭だけ、皮と外殻剥ぎ取ればスピーカーだの回線だのが丸見えだ…おっと、悪気があるわけじゃねぇ」

 

「…気にしないでください、笛吹様、私達が本質的に機械であり、0と1で構成された電気信号の元に命令文を実行しているのは確かですから」

 

笑いながら露悪的な口調で機械人形を見下すような発言をする九龍と

それを事実として受け入れている様子のルナマリア、

 

「だがそれは決して立場的差を表すものとは違う」

そこに、晴羽が口を挟んだ

 

「彼女らが01で記述される思考を持つのは事実だ、だがそれは人間も同じ

真なる覚醒め(シンギュラリティ)に至った機械人形は、人間と同質の存在になる、そして、その可能性は誰にだって存在するんだ

僕は全ての自我ある機械を一個の意志として尊重する、それがクレナイコーポレーションの理念、例えその意思がどこへ向いていても構わない

停滞や後退を選ぶのではなく前へと進み、可能性を掴み取る意志の力『創造力』の尊重だからだ」

 

自作の機械人形達に、相当に熱を入れているのだろう晴羽は

大きく手を振りながら

気合の入った演説を上げて…

「おっと、随分長く話してしまったね、笛吹君、まぁ、彼女らが我が社によって生み出された存在であることはご理解頂けたと思う、ここからは社内解説の時間だ、後でまた会おう…ルナマリアさん、引き続き案内を」

 

急にテンションを下げて

早口で良い切る

 

「はい、それでは笛吹様、これより社内施設、および各セレクションとメンバーの説明となります」

 

「了解だ」

 

さっと社長室を離れ、

エレベーターで一階下、九階へ降りる

 

「こちらは書籍部の管理階、通称を『大図書館(ライブラリ)』でございます

ここでは、我が社の歴史を始めとしたさまざまな記録や、出版している書籍の管理か行われています

 

ここにいるのは少々物音に敏感な方々なので、お気をつけください」

 

ルナマリアの先導に従い

板床で足音を立てないように歩く

 

「コピーライター…という建前でタダ飯を貰っている方々と、真面目に働いている方が居ますが、まずはコピーライター側に行きますよ」

 

「了解だ」

 

俺は極力足音を立てないように歩くが、それでも板床相手に誤魔化しは効かず…

 

ついにギィッと音が鳴ってしまう

 

「そこ、うるさいですよ」

僅かな足音にすらも指摘を刺さずには居られないようで、刺々しい言葉が…

「えっちゃん、そんな言い方じゃダメよ!ちゃーんと説明してわかってもらわなきゃ」

 

横から制止された

 

「はじめまして、私は雷、カミナリじゃないわ!そこのところもよろしく頼むわね!」

 

ぺこっ、とお辞儀をされる

敬意を払え雷、司令官は礼儀を守れと教えただろう…なんて言うつもりは無いが

なかなか可愛いな

 

「こっちは妹の…」

「電です。どうか、よろしくお願いします」

 

雷の後ろから出てきた少女…雷にそっくりだ…は、動きもそっくりに

ぺこっ、っとお辞儀する

 

「こちらこそ、雷ちゃん、電ちゃんに…そちらは?」

「謎のヒロインXオルタ…」

 

ムキュ、とチョコレートを口に放り込むエックスオルタ

 

一応名前は把握しているが、

礼儀として聞いておいた

『艦これ』より、『雷電姉妹』と

『Fate grund order』より

『謎のヒロインXオルタ』

がここのキャストらしい

 

「随分だなぁ…まぁ、よろしく」

 

次々にお菓子をヒョイパクするXオルタ…その様子を見て確信した

こいつがタダメシ枠だと

 

「そうだ、太郎さんも呼んでくるのです!」

急に電が叫ぶ

「どうした?」

「私たちコピーライターは『実際は何もしない職』なのです」

 

突然の暴露!?

 

「電、それは言い方が悪いわよ、正確には『ヘルパー』という表現が良いのかしら?私たちはいわゆるキャッチコピーとかも作るけど、それ以上に

ほかのセレクションの仕事が詰まっちゃってデスマーチになりそうな時に

ゼネラリストとして参加するの」

 

「その、体力要員が、太郎さん

本名は『佐藤太郎』…」

 

もしかして、あの人…?

 

「基本的に勤務形態は自由…だから…今は…焼肉タイム…」

 

やっぱあの人!?焼肉っ!?

 

「それは…仕方ないのです」

電は急に消沈してしまった

 

「あ、電!元気出して!」

雷がフォローに回るが、涙目は回復しない

 

「…落ち着きなさい、電」

とりあえずゆっくりと頭を撫でる事にした

 

「…司令官さん…」

グズ目からもとのほんわか顔に戻った電を見届けてから、思案する

 

『タダメシ枠』がいるのは案外無駄ではない可能性もある

今の会社の一般的には

人材をギリギリにまで切り詰めて諸経費を削り落とし、かつ人を限界ギリギリにまで酷使してすり潰し、擦り切れたら交換する

 

というのが基礎スタイルだが、

デスマーチに対応しきれずに就業時間から翌日の始業時間まで残業して休憩時間も関係なく働くケースもある

そんな時にヘルパーが参加できるのは大きいだろう、新人のような役立たずではなく

 

ある程度の技能を心得たサポーターが増えてくれるのは純粋に戦力になる

 

「これもこれで、余裕を見た戦略ってことか?」

どうでも良いことを口走りながら、雷の方へ向き直る

 

「邪魔して悪かったね、俺たちはもう行くから、それじゃ」

「え?もう行っちゃうのですか?」

 

電が袖を引っ張るが

「すまんな、俺はちょっと社内案内で回ってるだけなんだ、縁があればまた会おう」

 

俺はその手を、優しく引き離す

「…また、いつか、なのです」

 

納得してくれたらしい電は、こちらに視線を向けて、微笑んでから去って行く

 

「…またな」

「また会いましょう!」

「それじゃ」

 

俺、雷、オルタの順の言葉と共に

俺は少し離れたところにいたルナマリアを促して、書籍部の面々を探そうとして

 

「おっと!お客人ですかな!?」

 

明るい茶髪に髭を生やした

緑の礼服に身を包むおじさんが

大声とともに訪ねてきた

 

「お客様です、笛吹様、こちらの方は『ウィリアム・シェイクスピア』、イギリスの作家…をモデルとした機体です」

 

ルナマリアは若干の嫌悪感を示しながらも、大きく表情を崩すことなく

()()()()紹介して…

 

「そんな言い方は良く無いわ?社長の言うように、『私達は人と平等』であるべきよ」

 

後ろから出てきた少女に気をとられる

 

「おお、ナーサリー!愛しの物語(ノウブル ストーリー)よ!」

 

「ナーサリー…?」

「はい、彼女は『ナーサリー・ライム』原点においては『未だ書かれざる物語の形』として描かれたキャラクター『相手を映す鏡』です」

 

シェイクスピアの呼び声に、ルナマリアが解説を入れる

 

「はじめまして、素敵なアナタ、わたしはナーサリー・ライム、貴方を映す鏡なの

さぁ、あなたの心を映させて?」

 

「…えぇっと」

「話さなくて良い、彼女は君自身の思考と感覚から君の輪郭を読み取るのです

彼女にはあらゆる欺瞞が通じない、何故なら彼女の鏡は貴方の姿ではなく

貴方の心を映すからです」

 

シェイクスピアの勢いに押される俺は

そのまま黙り込む

 

「…貴方はまるで、砂浜に打ち返す波のように、大きくて、静かで、安らいだ心の持ち主ね。一面ギッシリ本棚のシェイクスピアおじさまとは大違いだわ♪」

 

「………」

「あぁ、つばさおじさまとも似つかない、わたしの見た誰よりも大きなスケールね

…つばさおじさまはコンプレックスまみれだったもの、心のスケールはおおきいのに

みーんな自分の事で埋めてしまうのよ?それって実は、いけない事なのではなくって?」

 

クスクスと笑うナーサリー

「心には自分と他人が住んでいるわ、自分のこと、ひとのこと、思い出と考え

心のスケールがたくさんあるのに、みーんな自分の事で埋めてしまうなんて、無駄遣いだと思うの」

 

「なるほど、全く同感…だが」

「ハハハハッ!我輩豪快に馬鹿にされていますな」

「あぁその通りだなぁ…巽ィ」

 

後ろから、全く関係のない男の声

……………

「なぁに他人の悪口で盛り上がっとんねん、そんなのは面つき合わせて言えや!」

 

 

ゴン!と背後からド突かれる

「いってぇ!」

「九龍おじさま!暴力はいけないわ!」

 

ナーサリーの声に構わず俺の頭を締め上げる九龍

 

「九龍さん、それ以上は許容しません」

 

ルナマリアの鋭い視線で流石に止まった

 

「顔合わせも済みましたし、次に行きましょう」

「了解だ」

「俺もついてかせてもらう」

 

「それでは我輩はここで、さて、たしかこの辺りに新人の応募用紙の草案が…」

 

俺たちが離れることを宣言すると

途端に仕事に戻るシェイクスピア

 

「我々とてインスピレーションは有限ですからな、新人の力もどんどん取り入れて、空気を回して行かなくては!悲劇、喜劇、どんなストーリーであろうとその『独自性』こと我等が宝!我々が真に尊ぶべきものなのです」

 

随分テンション高いなぁ…

「シェイクスピアおじさまは忙しそうだから、わたしから言わせてもらうわね

みなさま、今日は『ご来店』ありがとう♪お陰で新しい閃き(inspiration)が貰えたわ」

「こちらこそ、かのウィリアム氏と…ナーサリー嬢、貴女にお会いできるとは

思いもしなかった、ありがとう」

 

俺が手を差し出すと、それに応えたナーサリーは笑顔で手を出して

握手を交わす

 

「それじゃあお別れね、あ!ちょっと待って」

 

トテトテと言わんばかりに

本棚の影へと去っていったナーサリーは、

すぐに戻ってきた

 

「これを貴方に、受け取って?この会社のパンフレットなの、もっとも、みんな人形だし、結局この世界では表に出せないから、絶版になってしまった古いものよ」

「あぁ、それじゃあ貰うよ」

 

俺はパンフレットを受け取り

「ありがとう」

一言礼を言ってから、踵を返し

 

「えぇ、これからも、どうか『大図書館(ライブラリ)』をご贔屓に」

 

九龍とルナマリアと共に

エレベーターへ乗った

 

「それでは、一階分降りて8階です、ここでは『特撮』特殊撮影技術を用いた映像作品の製作を行っています、

 

『○面ライダー』『ウルト○マン』など、現在様々なタイトルを撮影中…なのですが、セット数が膨大なため、このビルで直接作っているのではなく、撮影用のスタジオを使っています」

 

「……」

「よく来たね、私は戦極凌馬…物の本によれば、私は戦極ドライバーの開発者にして

仮面ライダー鎧武の直接的な元凶の一人、いわゆる黒幕側の人員だよ」

 

「…まさかアンタがいるとは思わなかったぜ」

「思わなかったかね?私は特撮のキャラクターであり、この場所に所属する上で

なんら障害となり得る要素を備えない人物である以上、ここにいる可能性は十分にある

それをイメージだけで排除してしまうのは些か以上の愚行ではないかな?」

「その性格が障害要素っていっても本人にはわからないものなのかな?」

 

俺はあえて意趣返しのつもりで

同じ返しを使ってみる

 

「そうかそれは面白い仮説だ、客観的な考証が必要だね…さて、実は

この特撮セレクションは私以外に『大空大地』『早田進』が所属しているんだが

実際のところ、二人は外のスタジオに出ていることがほとんどだ、二人には私から君のことを伝えておくよ」

 

「それは助かる、ありがとう」

 

「ルナマリア君も、それで良いだろう?わざわざ何処のエリアにいるかもわからない彼らに挨拶する為だけに移動するなどナンセンスだ」

「…はい、それでは、8階の二人はスキップして、7階に向かいましょう」

 

ルナマリアに促されて、俺は再び

エレベーターに乗り込んだ



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第5話 混沌を極めし者(クレナイコーポレーション)

「こちらです、7階、アニメーションの制作部門となります」

 

「ん?あ、君が…笛吹巽君か、初めまして俺は『創真晴人』仮面ライダーウィザードだ」

 

晴人さんと握手する

「よろしくお願いします、笛吹巽です」

 

その時、ぴこぴこというサウンドエフェクトとともに、白い服の男が現れる

 

「初めまして、笛吹」

「笛吹巽君だね、わかっているさ」

 

白いマントに浅水の混じった白髪

余裕ぶったボイスは…忘れもしない

 

「マーリン…」

「おや、僕のことを知ってるのかい?…いや、その様子だと『本体』のことを

知っているようだね、いずれにしても話が早くて助かるよ」

 

杖を携えた男、マーリンは

飄々たる態度で俺の横を通り過ぎ

創真晴人の座る席に近づく

 

「晴人君、このあたり、弄った方が良いんじゃないかな?」

 

指差すのは、ヒロインの食べているドーナツの画像

 

「えっと、プレーンシュガーだけど」

 

「そのプレーンシュガーの一辺倒こそ最大の敵だと思うよ、たまにはポン・○・リングとかどうだい?」

「プレーンシュガーだよ」

 

………この論争は終わりそうにない

 

「それじゃあ俺はこれで」

 

とりあえず嫌そうな表情でマーリンを見ているルナマリアさんを促して、次の階層を見せてもらう事にした

 

「6階、機械開発、設計部のフロアです。ここの担当は…」

 

「できる女、櫻井了子と」

「ロックマンXです」

「アクセルだよ」

 

3人の自己紹介を聞くところによると

どうやらロックマンとアクセルは

それぞれ機械開発部、櫻井了子さんはなんとIS開発部なんだそうだ

 

「私たち以外にも、このフロアが担当の人はいるわ」

 

フィーネとロックマンとか怖すぎる組み合わせなだけに、制御役はいるようだ

 

(誰だ…誰なんだ…?)

スリザリンは嫌だスリザリンは嫌だスリザリンは嫌だ

 

「明石ちゃんよ」

グリフィンドール!

 

「艦隊これくしょん、略して艦これのキャラクター、工作艦『明石』さんと」

「超高精度ボトムアップ型人工知能」

 

アクセルの言葉は、俺のライズフォンから流れた着信音で中断された

 

「すまない、出させてもらっていいかな?」

 

俺はフィーネとXとAXIに尋ねて

許可を取ってからライズフォンを取り出す

 

「やあ、巽くん、先程3人の話題に出ていたのは僕、フィリップだ」

 

電話でフィリップ?!

「僕の本体は超高精度人工知能の試験体として、地下のサーバーに存在する

だから、僕に人型のボディはないんだ、原典通り翔太郎と語り合えないのはいささか残念ではあるが、コピーが社の商品に入っている

唯一の例でもある

 

ライズフォンにプレ・インストールされている管理AIフィリップがそれだ」

 

「……」

 

なんかスゲーってのはわかった

…いや、とりあえずスマホにAI入ってるとかよく容量不足しなかったな

 

「容量の件は心配いらない、オクタコアの高密度CPUかつ、16テラバイトの『フィリップ』格納用の専用メモリーもあるんだ、それに

僕本体のバックアップは社長の持っているサイクロンオリジンに入っているからね」

 

「本当に使えるメモリってことか

そういえばダミーメモリを使ってたな」

 

「AtoZ 26のガイアメモリに加えて『C カリキュレーション』『T テラー』『Rリフレクション』なんかのメモリも入っている計50のメモリ群

シリーズ :仮面ライダーWの販売アイテム『ガイアメモリセレクター』さ、今度売り出す仮面ライダーの商品のうち、Wのメインアイテムらしい

 

ガイアメモリセレクター、アクセル、ダブル、ロストドライバー、各種武装と順次売り出すらしいよ?」

 

フィリップの話を聞いていると

後ろから電子音が聞こえた

 

「ハロ!ハロ!」

 

…なんだハロか

……………………ハロ?

 

「なぜハロが…?」

俺が転がってきたハロを拾うと

ちょうどその直後に

 

「こらハロ!どこいったんだよぉ〜!」

 

少年が走ってくる…その少年は

 

「フリット!フリット!

オキャク!オキャク!」

 

「え?どういうこと?…あ!すいません」

「はじめまして、フリット・アスノ君、笛吹巽だ、よろしく」

 

「いえ、こちらこそ

改めまして、フリット・アスノです

こちらでは機械開発に携わっています」

 

ハロを渡して、握手する

「彼は今、会社の視察中でね?いろんなところを回っているんですって

せっかくだし、見せてあげたら?貴方の開発してるシステム」

「AGEシステムのことですか?

あれはまだ未完成ですけど…」

 

どこかで聞いたシステムの名前を出してくるフリットに、フィーネは笑顔で

 

「だから、その未完成なシステムを完成させる一助になるかもしれないでしょ?

使えるものはなんでも使う

行き詰まった時はなんでも取り入れてみる、新しい道が拓けるかも知れないんだから」

 

言い切った…

やっぱ性格悪いなこいつ

 

「ええっと…それじゃあ

よろしくお願いします、エイジは向こうのルームに置いてありますから」

 

俺を先導して歩き出すフリットと

足元でバウンドするハロ

 

「ツイテキテ!ツイテキテ!」

「わかったわかった」

 

ルナマリアに一応言ってから

ハロとフリットについて

壁奥の部屋に入る…

 

「マジか……」

 

そこには原作通りのサイズで転がっている白い卵型の物体があり…この部屋の中央から外周までを埋めていた

 

これ絶対天井ぶち抜いてるよね

これが七階が小さかった理由か?

 

「エイジシステムの本体『エイジデバイス』とそっちの卵みたいなのが『エイジビルダー』です、けど…」

 

俺の疑問は結局形にならず

そのまま流されてしまった

 

「けど?」

「ビルダーが上手く作動してくれないんです、こっちから設計図を送ってるのに

真っ当に読み込んでくれなくって」

 

設計はあってるはずなんだけど…

と呟きながら歩き回るフリット

 

しかし、俺からすれば明らかな欠陥に気づいていないようだ

 

「そもそもこれ、コアユニットからのデータフィードバック、フィードフォワードしてる?情報のやり取りが一方的すぎるんじゃね?

生物的な自己進化を機械に再現するのなら、まずはデータの相互流通と

テストプラン作成、試験動作、テスト結果の報告、プランの修正ってやるんじゃないかな?」

 

「こっちから設計を送ってるので

それを製作してくれてないのは…」

「そのプランに設計上の欠陥があって、それを嫌がってビルダー側のAIが作製拒否してるってのは?」

 

俺の言葉に一瞬凄まじい表情になったフリットは、脇にあったタラップに飛び乗り

さすがアンドロイドなスピードで駆け上り、機械の筐体を開いた

 

そして、ワイヤーを取り出して、エイジデバイス、自分、エイジビルダーを直結する

 

「……………!」

カチャッ!と音を立てながら

コードを引き抜いたフリットが上の方から叫んで来る

 

「仰る通りでした!ありがとうございます」

「片付いたならそれでいいよ」

 

俺の返事を書いたかどうかは定かではないが、フリットはタラップを降りてきて

 

「本当にありがとうございます!まさかこちら側の設計不良を向こうが指摘していただけだったなんて!ホウレンソウは大切ですね!」

「鉄分補給にもいいしな」

 

「鉄分…?」

どうも俺のギャグはウケなかったようだ

 

「まぁ、なんにせよ問題が解決したならよかった」

 

フリットを促して

ルナマリアの待っている部屋に戻ろうとした、その時だった

「うぉっと」「きゃっ!」

 

ドアの開閉、向こう側にいた人物とまったく同じタイミングでドアを開けた俺は、

勢いが消費されないままになってしまい、体勢を崩してその人にぶつかりかける

 

「あ、大丈夫ですか?」

「大丈夫、平気だよ…そっちは?」

 

「こっちは問題ありません、なにせ鋼材製ですし…あ、申し遅れました

初めまして、

わたしは工作艦『明石』と申します」

「初めまして、笛吹巽です」

 

そこにいたのは、ピンク髪を無理やり纏めたような髪型にセーラー服の女の子

艦これの明石だった

 

「あ、明石さん!聞いてください

動いたんですよ!エイジが!」

「え?あの万年置物が!?」

 

「万年置物はひどいですよ!」

「動かない機械なんて置物ですよ、建造以来かれこれ5.6年ウンとも言わないじゃないですか」

 

「それが動いたんです!もう卵とは呼ばせませんよ!ちゃんと動いたんですから!」

「その時の動画データは?」

「もちろんですとも!」

 

急に盛り上がり始める機械組…

は取り敢えず無視する

 

「さて!次の階へ行こう」

 

二人を置いて俺はルナマリアの方に戻り、五階へと降りた

 

「えぇ、5階、研究室とゲーム開発部です、ここまでの説明でお分かりかと思いますが

社長の趣味である仮面ライダーのアイテム類を研究、開発している研究室と

いくつかのメインタイトルの連作ゲームを開発している開発部です」

 

ルナマリアさんの説明を聞きながら

5階のメインルームらしき部屋へと入る

 

その瞬間、聴こえてきたのは

 

「私は…神だ!!」

なんだかちょっと前に聞いたばかりの気がする絶叫だった

…なんか1000%の人に似ている

 

「アスラァァン!」「キィラァァアッ!」

 

すごく…コーディネイターです

 

「左席、アスラン・ザラ、右席、キラ・ヤマト、奥席、檀黎人です

この三人はゲーム開発のメインメンバーなのですが…何やら言い合いになっているようですね、こうなるとしばらくは止まらないので

ここは無視しましょう」

「はぁい」

 

まぁ、こうなった時の神の面倒臭さは把握しているつもりだ

否やはない

 

すぐさまに隣の部屋に向かう

「失礼しま〜す」

「…どうぞ!」

 

ん?この声は福士蒼汰さん?

まさか!

 

「どうもはじめまして、僕は宝生永夢、仮面ライダーエグゼイドです」

「どうも…小児科医さん」

 

当然ながらの握手である

 

「僕たちは今、『仮面ライダー』特に『平成ライダー』の変身システムを

現実に再現する仕事をしています…おーい!」

 

突然機械立ち並ぶ部屋の奥へと声を送る永夢

そして、それに応えるのは

 

「すごいでしょ!完璧でしょ!」

ビルドの桐生戦兎

 

「君が今、会社に来てるっていう笛吹君だね?初めまして、ところで今作っている物についてなんだけど…」

 

突然熱弁が始まった

この人は変なところでブレーキが利かないなぁ本当に

 

「とまぁこんな感じで、量子変換技術を応用した格納容器をベルトに付けて

ベルトからアイテムや変身用スーツを召喚できるようにすれば良いんじゃないかって

これ思いつく俺って凄いでしょ!さいっこうでしょ!てんっさいでしょ?!」

 

うん、このテンション

はっきり言ってウザい

 

「戦兎さん、そのくらいにしておきましょう、そろそろ企業機密に該当する話になりますから、ね」

 

さっと割り込んだ永夢さんが止めてくれた…ありがとう

 

「いけるいける!まだ行けるって!」

「ドクターストップですから!」

 

無理矢理にでも止めないと止まらないのか…平成黙ると死ぬシリーズのベルト最後のユーザーだけあるなぁ

 

「…さて、次に行きましょう」

「はい」

 

俺たちは、面倒ごとを察したルナマリアの案内に乗って、次の回へ移動するのだった

 

「こちらは4階、管理事務室です

会社としての情報の管理、事務処理を担当しているセクションですが…今は

休憩中のようですね」

 

ノックとともにメインルームへと入った瞬間、シャウトが響く

 

「行け!バナァァジィー!」

「リディさぁっん!」

 

「何やってんの!?」

俺は勢いよく扉を開け

あまりにも切羽詰まった空気を放っている室内に突入する

 

「………え?」

 

「「は?」」

 

そこにいたのは、携帯型ゲーム機

プレイスターライトヴァーダントを付き合わせたバナージとリディ

 

「ゲーム中かよ!」

「今は休憩時間だったので」

 

冷静なバナージの返しに時計を見ると、時刻は15:03、いつのまにか

かなり時間が経っていた

 

「なるほど、休憩中に失礼した

会社を見学させてもらっている笛吹巽だ、よろしく」

 

俺は右手を差し出し、握手を求める

 

「事務を担当している、リディ・マーセナスです、以後、お見知り置きを」

「あ、同じく事務担当のバナージ・リンクスです、よろしくお願いします」

 

二人と順番に握手する

結局二人は、管理事務と言いながら、実際の仕事としては書類の片付けと分類らしい

 

「説明ありがとう、だいたい把握出来たよ…それじゃあ次の階に行こう」

「いえ、一度10階に戻ります」

 

「え?」

 

俺の問い返しに、ルナマリアは

「時期に記者会見の発表が始まりますから、さぁ、笛吹さん」

 

笑顔でより混乱させる一手を打つ

 

「記者会見?何があるってんだ?」

内心いぶかしみながらも

捉えず大人しく従って、

10階へと向かうのだった

 

10階に着くと、エレベーターの前には晴羽が立っていた

 

「待っていたよ、もうじき会見を始める時間だ、見ていてくれ…」

[dummy!]

 

ダミードーパントの力で、檀黎人に変身した晴羽は、そのままメインルームへ入る

 

「10階は社長室…そして資料室と

…実は記者会見用のホールもある」

 

というか、社長室の前がそのままホールに使える、らしい

 

「15:30、時間です」

 

「報道の皆さん、お待たせしました

それでは…弊社より発表する

新商品について、記者会見を開始します」

 

社長のコールによって、

一斉にフラッシュが始まる

 

「皆様、今回は我が9071コンポレーションの会見にお集まりいただき誠にありがとうございます。

今回、わが社から新商品を発表いたします

 

皆様、我が社が放送している特撮。仮面ライダーはご存知でしょうか?

皆様は今のライダーベルトのオモチャに足りないものがあるとは思いませんか?」

 

一度タメを入れてから、強く

 

 

それは、()()()()ことです。仮にも変身ベルトなのですから変身しなければ意味がない。

 

そして今回、新たに売り出すのは新時代の変身ベルト!

その名も『リアライズコレクション』

 

RLC(リアライズコレクション)は今までベルトの機能はそのままに、

更にリアルに成長いや、進化しました。

今回売り出すRLC(リアライズコレクション)には4つのグレードが存在します。

 

今まで売り出していたコンプリートセレクションは最高グレードの物でもレベル3相当、そして新規設計されたレベル4には発光、変身音、セリフ、BGM(サウンドエフェクト)、だけでなく!周囲へエフェクトの投影(エリアエフェクト)、更に強化変身用ガジェットがついています」

 

堂に入った演技で

胸を張って言い切った

その言葉は、取材班を沸かせて…

 

「さて!ここで皆様も疑問に思われたでしょう、()()()()()()()()()()()()()()()のか」

 

次の一言に引きずり込んだ

 

「それは何故か!」


 

 

 

「………はぁ……」

 

「記者会見おつかれ」

「お疲れだよ本当に」

 

ぐてぇ、とした様子の晴羽が愚痴り始める、本当に大丈夫だろうか

 

「体が持たないよ…メモリの毒素がぁ」

「井坂かお前は」

 

既にダミーを解いているが

メモリを取り出して

 

最終的には身体中にコネクターが無数に現れる人のようなポーズになる晴羽

 

「お前もう寝てろよ」

「寝てられないよ…今日はISの起動試験だからさ」

「マジか!ってマジか……」

 

仮に動かせたとしても世界最強の後ろ盾(ブリュンヒルデ)付いてないから研究所で解体…って

扱い完全にモルモットじゃんそれ

 

「うぉぉいやだぁ…」

「いやだぁ……」

 

二人して嫌がりながら

結局は黒服連中に連行されて

 

「結局この機体かよ…」

「まぁ、そうなるよね」

 

第2世代型IS・近接優越機:打鉄

に接触していた

 

「redy-?Go!」

「ボルテック フィニッシュ!」

 

ちなみに、二人とも動かせた

 

「…で、こうなったわけか」

 

二人に届いたのは、IS学園の入学()()()

 

当然ながら晴羽にも届いているし

晴羽自身も入学するつもりのようだ

 

「社長は神に任せても仕事とかあるんじゃないのか?」

「あるけどさ…拒否権がないんだよね

この命令書、よく見ると

『開封時点で発効』って書いてあったし…これ見てよ」

 

さっと出される入学命令書(同じ紙)

 

その最後には…

 

「国璽?マジか!」

国の正式決定として天皇家保管の印璽が押されていた、しかも2枚目に入ってるのは

 

総理直筆のメッセージと記名

 

なにやってんだよ暇なのか

 

 

「仕方ない…か」

 

こんなもん全部カットしてた千冬姉(ブリュンヒルデ)ってスゲーとしか思えないのだが

 

結局、IS学園に…丁度年齢的にもあっていたため、一年生として入学することになった

 

しかし

 

「国籍捏造してまでやるかよ…」

 

俺に用意されたのは

親無き子としての立場ではなく

新たな戸籍登録

 

晴羽は建前上一般家庭の子供であるため、そんな面倒くさいことにはなっていないが、俺は親と縁を切った身だし、捨て子だからな

 

「…じゃあ姓は『笛吹』名は『巽』、そのままでいいか」

 

こうして、俺は新たなる家

笛吹家の世帯主兼主たる納税者にして笛吹家当主の座に着くのだった

 

「もっとも俺の代で出来た家だし

俺が当主なのは当たり前だよなぁ?」

 

「そうだろうね、そもそも現代の家に当主ってあるの?」

「あるんだよ、一応、戸籍の表記的には世帯主がそれに当たるんだぞ?」

 

「へぇ…」

 

緊張感のない会話をしながらクレナイコーポレーションの本社ビルに戻る

 

「今三月で、四月から入学、そこまでの間になにものかに襲われる可能性が高い

というわけで、君にはテストパイロットとしてウチに所属してほしいんだ、そうすれば『公式テストパイロットとして雇った人員』という名目で警護出来るからね」

 

「なるほど…わかった

どうせ無くすようなものも無いし

その話、受けさせてもらう」

 

俺の言葉に、笑みを浮かべた晴羽と

互いに手を差し出して

 

固く、握手を結んだ

 

 

こうして、俺はクレナイコーポレーションに入社した

 

「じゃあ!IS部門だから、入館証は銀時計だね!」

「他はあんのか?」

「えっと、受付がコサージュ

事務が腕輪、特撮がネクタイ、ISが銀時計、機械がチョーカー、RLC(リアライズコレクション)開発がベルト装飾のチェーン、書籍部が(しおり)、アニメ開発部が指輪…あと警備員がアンクレットにアイドルがサングラス

 

コピーライターはヘアピンに営業・交渉部が携帯端末、情報管理がタブレット型端末に…ぁ、あと食堂が口紅…もちろん本物じゃないけど」

 

「本物は消耗品だしなぁ」

「で、まぁ、どういうことかというと

各セクションごとにバラバラなアイテムで、ICチップが入ってるよ」

 

「結局ICチップかよ…」

 

まぁ、そんなことは置いておいて

社長室へ向かう

 

「じゃあ、僕の世界で君の専用機を作ろう、固有世界創生軸と歯車の太陽系(システマース ソーラァレ)は機械特化型だから、信頼できると思うよ」

「そうか、ならそっちのラボで頼むよ」

 

「じゃあ行こうか」

 

晴羽が右手を掲げる

その瞬間、()()()()()()()()()

 

それは世界が入れ替わる異常性の発露

異世界からの来訪者にのみ許された

常軌を逸した特殊処理

 

そう、己の身に宿した特典の成す

自身の世界への突入である

 

「とりあえず、迎えを呼ぶから待っててね」

 

そう言って晴羽は笑いながら

ビルドフォンをどこぞへと繋げ…

 

「先輩!乗ってください」

 

数分と経たずに、迎えは来た

………え?

 

混乱する俺をよそに

さっさと迎えの()()()()()乗り込む晴羽

 

「さぁ、早く」

「お…おう」

 

若干ながら気圧されていた俺も

慌ててリムジンに乗り込む

 

「さぁて、行こうか!この世界は広大だから、ちゃんと移動手段を用意しないと

自分でも困ってしまうんだ

…あ、言い忘れてけど、この世界でもライズフォンは使えるよ?

だから外とも連絡が取れる」

 

「そうか…」

 

あまりのスケールに押されて

リアクションが受け身になっている気がするが、それはおいておいて…

 

いやだからってリムジン呼ぶ?!

 

「社長だからね♪」

「♪じゃねぇよ!ってかどんだけ長いんだよこのリムジン…」

 

困惑する俺に対して

晴羽は輝く瞳を向けて

 

「作って見たかったから!」

 

あまりにも快活に、マッドサイエンティストじみた答えをを言い放った

 

「もういいよそれで」

 

俺は思考を放棄して

ただリムジンでの旅を過ごすことにした



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第6話

「…えっと…これは」

 

リムジンを降りた先にあったのは

…どう見ても、カルデア

 

「ここは…」

「晴羽先輩のシステマースソーラァレ、内部の…市役所になったカルデアです」

「やっぱりかぁ…ハハッ…」

 

乾いた笑い声しか出てこないが

原作通りの雪山でもないのに

なぜカルデアかあるのかと言うと

 

「トリスメギストスを活かしてデータの統括保存、引き出しを行う市役所的な扱いをされている施設です、統括管理局、とも呼ばれています」

 

「なるほど分からん」

 

結局まるで分からなかった

 

「所属の皆さんへの連絡は済んでいますので、中に行きましょう」

 

言われるがままにカルデアに連れ込まれ

 

「カルデアス…これが」

 

青く輝く、巨大な地球儀

魔術により、地球そのものの霊

ガイアを降霊した擬似天体、

地球の縮小モデル

 

それがカルデアス

 

「わかっているじゃない!貴方みたいな一般市民が軽々しく目に入れる事が出来るようなものじゃないのよ」

 

高飛車な声がホールに響く

それはあまりにも突飛で、

調子が外れていた

 

「あ、()()()!…ちょうど良かった、今から施設紹介を兼ねて、自己紹介をしようと思っていたので、一番槍をお願いします」

「え?ちょっと!それって捨て石よね!?」

 

「何をいうんですか!捨て石なんかじゃありません!ちゃんとした栄誉であり、私たちの道を切り開く指針になってくださいと言っているだけですよ」

 

 

二人は俺たちそっちのけで

口論を始める

 

「あのー?」

 

晴羽が口を挟みに行き…

 

その直後、女同士の喧嘩に口を挟んだ男の哀れな末路が展開される方思いきや

 

「仕方ないので、私が先に行きます

…改めまして、マシュ・キリエライトと申します、この統括管理局、フィニス・カルデア所長を務めております」

 

「副所長の天文科教授(ロード・アニムスフィア)、オルガマリーよ、カルデア内部の研究所、天文台としての機能は私が統括してるわ」

 

「…えっと、医務、衛生管理のセクションリーダー、ロマニ・アーキマンだ

他にも色々やってるから、何かお困りの事があれば任せてくれ」

 

「転生者の笛吹巽だ、よろしく

……言うことないよね?」

「転生者の紅奶晴羽だ、よろしく」

 

《いや知ってるよ!》

《知ってますよ!》

 

その場全員からツッコミが入るのだった

 

 

「あ、それは置いておいて

まだ紹介されてないメンバーがいる

彼女は研究室にいる事が多いから、こちらから出向こう」

 

ロマニに館内を案内されて

迷路のような複雑な道を進む

 

「ここは………」

 

しばらくの間、進み続けて

たどり着いたのは

 

謎の工房

 

「よく来たね!このダヴィンチちゃんの魔術工房に!」

「っ?!」

 

物陰から出現したのは

レオナルド・ダ・ヴィンチ

(モナリザバージョン)

 

「レオナルド・ダ・ヴィンチ?」

「そうだよ、私はダ・ヴィンチちゃんさ!」

 

テンションの高さでは他の追随を許さない自己紹介を終えた後、俺たちは

 

 

 

なぜか裏山に来ていた

 

「なぜ一旦カルデアに入ったのに裏山に来たし…」

「それはね…?」

 

晴羽は、木の根元に隠してあったレバーを引き、その瞬間

 

床が陥没した

 

「今度は落下オチかよーっ!?」

「これはどうにも慣れないなーっ!」

 

二人して落下しながら、会話する

もちろん、予告なしに落下させて来た晴羽は許さない

 

「はぁっ!」

足元に炎を放射して、減速する

そしてゆっくりと降下を開始

 

一方の晴羽は空間転移じみた挙動で下の床面に移動、それズルくないか?

 

「…ふっ、世界所有はこれが便利だねぇ」

「セコイぞそれ!転移じゃねえか」

 

「セコイ?僕自身の所有する能力で、僕が保持する世界を自由に操れなきゃ

それこそおかしいでしょ?」

「……確かにそうではあるが…」

 

「おいお前ら!」

 

口喧嘩を始めた俺と晴羽に、後ろから声がかかる

 

その声は、紛れもなく

「「団長!!」」

「おう」

 

鉄華団団長

オルガ・イツカの声だった

 

「…お前ら、強引に落下なんざしやがって、作業の邪魔なんだよ」

 

「あ、はいすいません」

俺が謝ると、頭を掻いてそっぽを向く

 

「あぁ、そりゃいんだよ、で?お前がアレか?新しい転生者か?」

「はい、しばらくお世話になっておりました、笛吹巽です」

 

そうかそうか、と腕を取られる

「こっちだ、付いて来な

ここでは俺達、鉄華団の連中が、任務終わりに屯してんだがよ、MSハンガーも兼ねてるっつー仕様上、こっちの世界ではISも、ここで作ってるんだ」

 

案内された先は、岩盤を空洞化して作ったらしい巨大な洞窟のような空間

 

「うぉぉ…」

「ハッ!すげぇだろ?」

「すごいっす」

 

後ろからついて行きながら、すごいすごいと感想だけは唱える俺と

その更に後ろから笑っている晴羽

 

「…よぉし、お前らぁっ!」

ハンガーの真ん中から、大声を上げる団長

 

「採鉱作業は終わっても!設計開発は終わらねぇ!仕事に戻れ!」

《オス!》

 

強い声とともに、その辺に座っていたり、立っていたりした鉄華団員達が動き始める

 

「お前のIS、設計、開発、組み立てまで一括で受けたのが俺達、鉄華団…なんだが

 

肝心のお前自身がいなかったせいで

今の今まで決まってなかったことがある、お前が決めてくれ」

 

「…決まっていなかったこと?」

「それは開発コンセプトだよ、巽君」

 

晴羽が後ろから歩み出てくる

 

「開発コンセプト…たしかにそれは個人によって変わるか、じゃあ

どんな環境、戦場にも対応できる汎用機体、でお願いします」

「無茶言ってくれるなぁ…まぁいい、顧客の要望に出来るだけ応えるのが俺たちの仕事!

お前のために、万能の汎用機体を仕上げやるさ!」

「ちなみに、僕の機体はもう組み上がっているよ?まぁそれはまたのお楽しみだけど」

 

せっかく格好をつけたというのに

その直後を潰しにいく晴羽

 

「オルガ、俺はどうすればいい?」

そこに出て来たのはオルフェンズ主人公、三日月・オーガス

 

「ミカか、お前は…そうだな

腕とか足のパーツごとに作るから、稼働時の負荷テスト要員をやってくれ」

「了解」

 

さっさと指図を飛ばしていくオルガ

 

「…とまあ、コンセプトは汎用機体でいいとして、あとは基本の構造とか、いろいろ決めてもらうぞ?」

「ええっと、じゃあ…」

 

 

結局そのあと

いろいろ聞かれたのだが

きっちりと要望は伝えた

 

出ないと近接武器を投擲すれば遠距離にも対応できる!だから全距離対応!これぞ汎用!

とか言われかねないからだ

 

流石にそれはまずいからな

 

「…そんなことになってはくれるなよ」

 

その後、元の世界側に復帰して

(ISの世界をこう呼ぶ)

 

俺は晴羽が社長特権で用意してくれた社宅にいくのだった

 

「……IS学園とか行きたくねぇ…」

 

正直、あれは一夏ハーレムを作るために束が操作した事実上の箱なので

その中に異物が入れば一夏に対する女子の人気が分割されてしまう可能性がある

排除に動こう!という可能性が出てくるのだ、それは絶対に嫌でしょう?

 

「……はぁ………」

 

長い夜は、こうして更けていく



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第7話自己紹介

アレから時はたち…IS学園入学日

 

「…あぁ………」

「どうしたんだい?」

 

ため息をつきながら、

社宅を出て、晴羽と合流する

 

「それじゃあ行こうか、今日は入学日だからね、絶対遅刻できないよ?」

「遅刻するつもりなんてねぇよ」

 

「……だと良いけどね?」

「不安なこと言うなよ…」

 

二人で歩きながら話し込んでいると、違和感を感じた

 

「…待て、晴羽」

「?どうしたの?」

 

晴羽を呼び止める

「これは異様だ、現在時刻は午前6:40

この時間だと小学生や社会人がいても良いとは思わないか?」

「たしかに、この時間だと、そうだね」

 

「そして、ここは住宅街だ、商店街ならまだしも、ここまで人気が無いのはおかしく無いか?」

「たしかに、それはそうだ」

 

そう答えた瞬間、ライズフォンから着信音が鳴る

 

「いいか?」

「もちろん」

 

二つ返事で許可してもらえたので

俺はライズフォンを起動して

耳元に翳して…

 

「今すぐにそこから逃げてくれ

付近にISコアの反応5機、機種はラファール3機、打鉄2機と断定した」

 

フィリップの声が聞こえた

「朝からどんなことになっとんねん…」

「初日の朝とは一体…」

 

晴羽と俺の言葉は完全にシンクロしていた

 

「初日の朝って、大人しく、静かに楽しく登校できるものだと思ってたんだけど

みんなこうなのかな?」

「これが普通の学校生活か…みたいなこと言うなよ?絶対にそれは間違ってるからな?」

 

病気で学校にほとんど行っていなかった晴羽は知らないのだろう、

平日の朝の喧騒とは

決してビッグな人型兵器に襲われるような物理的に騒がしいものでは無いと

 

「それくらいは分かってるけどさ

言いたくなるものじゃ無い?」

「そうだね…are you ready?」

「オーケー!」

 

暗号的な隠喩で、走る用意を伝え…

「3…2…」

「「1…」」

 

「「GO-!」」

 

二人で一気に走り出す

 

「織斑先生になんていう?!」

「何にも!」

 

無論、逃走ルートそのものは確保されている、のだが、

「問題はそれを俺たちが!」

「走りきれるかどうか!」

 

後ろからどう見ても女性上位主義者の集団がISで、しかもアンリミテッド臭い威力のビームを撃って来るに至り

俺は()()()使()()()()()()()

 

「晴羽!掴まれ!」

「…了解!」

 

伸ばした腕にしがみつく晴羽を確保して、俺は靴の中に炎を灯す

 

目立たないように、極めて小規模だが、黒い炎が湧き上がる

 

「カウントアップ サーティーンサーティ(13秒間30倍)

衝撃歩法(インパクトハイク)スタート!」

 

瞬間的に30倍速に引き上げた速度を使って、足を強く踏み込み、体重とバネを

跳躍力に変換、派手にタイルを砕きながら

 

ほぼ水平に加速する

 

「なっ!撃て!」

 

焦ったか、碌な狙いもなく

指揮官らしきラファールの女が指示を出す

 

そういえばアイツだけラファールリバイブだ、装備更新の頻度が低いのか

それとも装備自体が良く無いのか

どちらでもいいが、

『敵のISは古い』

 

「それがわかれば十分か」

ラファールリバイブの機能的に追いつけるスピードではあるが、ラファール2機、打鉄2機から離れることを嫌ったのか、追撃に突出しては来ない

 

せっかくのお誘いを蹴るとは

失礼な奴だ(よく分かっている)

 

「…焦るな!ここは駅に近い、直線の動きを狙え!」

「まさか…連中、わざわざ人払いまでして人狩りかよ!?」

「さすが僕たち、有名人だなあ…」

 

現実から逃げ始めた晴羽を担いだまま、遮蔽物を求めて走り…隠れる事なく、射線を遮る為の盾として走り続ける

 

「…よし!手配終わったよ」

「なんの!?」

 

「とにかく早く1番ホームに!」

「了解!」

 

情報交換も返事も最小限に

ただひたすらに走り、

 

「ついたぞ晴羽!」「…今ちょうど!」

 

その瞬間、ホームに

どこからか音が鳴り響く

 

テレテテ テレテッ! テレテテ テレテッ!

 

その軽快な音は、どこかで聞いた

いや聞き慣れたような

 

「デンライナー!?」「早く!」

 

俺の叫びと、晴羽の声が重なる

 

「…っ!」「ジャンプ!」

 

急いでデンライナーに飛び乗る?

そして、そのままデンライナーで学校へ向かった

 

 

「…今時はこんな電車もあるんですね」

「学校に直接電車が乗り付けるなどありえん」

 

先生二人は密かに呆れていたという

 

 

静粛性のかけらもないその列車から男二人が出てきたのだが特に追求されることもなく

すんなりと教室にたどり着いた

 

「…しかし、居辛い」

「…まぁ、ね」

 

俺の席は窓側一番奥の後ろ

一夏は三番目の一番前

晴羽は廊下側の一番後ろだ

 

「………………」

晴羽は自分の席に着くや否や持参品らしいノートパソコンをひろげて

キーボードを打ち始める

俺は特にすることもないので眠る

 

「……」

 

「……………」

 

教室全体を分離した空気が包む

女子たちが騒ぐ声と、男子が沈黙する重苦しい対比はそのまま空気に温度差を生んでいた

 

『カタカタカタカタカタカタ!』

 

凄まじい速度で打鍵音が響く

晴羽の手元にあるpcからの音だ

 

「ぶつぶつぶつぶつぶつ」

 

ひたすら何かつぶやいているが

よく聞こえないので無視する

 

山のようなウインドウが開いているpcには、さまざまな内容の情報が描かれている

 

「…」

天道やらシェイクスピアやらとメールの送り主の名前がチラ見えしたのは気のせいだろう…そういうことにした

 

「……」

男子勢が各々沈黙するなか、女子勢の熱は一層加速して行き

 

「ねぇ誰が話しかける?」

「織斑くんカッコいい…」

 

無茶苦茶な雑音が教室に流れる

無論、俺たちは完全無視だ

 

一夏と隣の女の子が話し始めた

…あれは、篠ノ之箒か

 

それに聞き耳をたてる女子、積極的に混ざろうとする女子が分かれる

当然俺たちは無視する

 

そして、

「全員揃ってますねー、それでは、SHR(ショートホームルーム)を始めますよ」

 

パタパタという足音ののちに

入室してきた山田先生が

ショートホームルームの開始を宣告する、

 

「それでは皆さん、一年間

よろしくお願いしますね」

 

…誰も答えへん…悲しいなぁこれ…

 

「自己紹介を始めたいと思います」

 

めげない先生は、表情も変えずにそう言い切ると、その直後に

相川清香…出席番号一番以外取る気がない苗字の人物、が席を立ち

 

「出席番号一番!相川清香でーす♪」

 

テンションの高い紹介を始める

…が、クラスのみんなは(一部除く)

織斑一夏に釘付けである

…さっすがイケメン指数高いだけある

 

かたや俺は…10段階中で6〜7

と評価されれば十分に高いと思うレベル、晴羽も顔だけはイケメンと言えなくもないが、挙動不審が過ぎる

 

「笛吹君」

「はい、笛吹巽です

…趣味は読書と執筆、特技は記憶と描画、好きな色は桜と翡翠色、苦手な事は忖度と暴力、嫌いなタイプは無駄に騒ぎ立てる人です以上」

 

シーン…と沈黙する教室

その少し後…

やはり考え事でもしていたらしい

織斑が呼ばれても反応がない

 

「織斑くん、織斑一夏くん!」

 

「はっ!はい!」

 

急に頭をあげる一夏と、それにちょっと驚く山田先生

「あっ、あの、大声出してごめんね?でもね、自己紹介『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね

だからごめんね?自己紹介してくれるかな?ダメかな?」

 

「あ、そんなに謝らなくても

っていうか自己紹介しますから

先生落ち着いてください」

 

先生をなだめる生徒、というある意味珍しい展開が発生したものの

 

順調に話が進んで

立ち上がった一夏は…

 

「えっと…織斑一夏です…」

そのまま立ち尽くした

 

「貴様は自己紹介もまともにできんのか」

一言とともに、教室に入ってきたのは

 

IS国際大会モンテグロッソ第一回、総合優勝の最終勝者、世界最強(ブリュンヒルデ)の名を戴く、メタ的視点から見ると世界最初のISパイロットでもある

 

織斑千冬先生である

 

その瞬間、爆音が轟いた

「キャーッ!」

 

騒がしい、本当に

 

「毎年よくもこれだけバカが集まるものだ…いや、意図的に集めているのか?」

 

「もっと罵って!」

 

もうダメだなこの連中

 

「自己紹介の続きに戻れ」

「はい!」

 

クラス連中が一気に静まり返り

なにかの儀式のように静粛に進んでいく…

 

「紅奶 晴羽くん」

「……インターフェースに若干の不満がある…いや、これはGUIの相性が悪いのか?

デザイン自体は悪く無いはずだが…」

 

「晴羽くん?」

 

「リテイクになるならなるで日程を少しずらして、後の方にねじ込まないと

それ以前にフリット君とAXL(アクセル)にも負担をかけるし、ちゃんとデザイン科にも掛け合って修正を…」

「晴羽くん?」

 

「そもそもの話」「晴羽」

 

山田先生の声には気づいていないようなので、俺が声をかける事にした

「どうしたの?」

「お前の番だぞ」

 

「なにが?」

ふざけた顔のまま、

ぼけっと聞き返してくる晴羽

 

「自己紹介だ、馬鹿者め」

 

「え?…あぁ紅奶晴羽です

……特に言う事ないな」

 

「自分の略歴くらい解説せんか」

千冬さんナイスフォローに乗っかった晴羽は、笑顔でサムズアップしつつ

 

「紅コーポレーションでCEO(代表取締役)をやってます、あと…こっちでも多少テストとかはやる事になるから宜しくね?」

 

「えぇぇっ!?」

 

ここでもまた、叫び声が響いた

 

「…何故だ…解せぬ…」

 

「解せそこは、社会的身分ってやつや、法律的には差別されなかろうと身分学歴出身で差別されんのが社会の常識って奴や」

 

俺の声を返したのは…織斑先生の後から入ってきた渋メン…

 

「「翼っ!?」」

「九龍先生や、しばき倒すぞお前ら」

 

まさかの展開、先生枠に九龍さんが入ってくるとは思わなかった

 

…首のプレートを見るに

これで数学教師を騙っているらしい

 

「教員免許もってたんですか?」

「持ってるでー?現役の高校教師やからな、そら持っとるわ」

 

「…ガチで持ってたんだ…」

 

「一年担当の数学教師、これからみんなと最低一年やってく事になる

九龍翼や、今日は顔見せに紹介だけさせてもらうわ…ほな」

 

言うだけ言って去っていく九龍

 

「…ずるい…」

 

あんなにあっさりと面倒な話を終わらせられるなんてずるい…

 

その後、粛々と……粛々?と?

自己紹介は進むのだった



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第8話1日目

「どうにかやり過ごしたな…」

 

原作の3倍増しレベルで騒いだ女子どもを躱し尽くし、定例の

「電話帳と間違えて捨てました」

 

には「電話帳は古紙回収に出せ、燃えるゴミにするな」

としっかり突っ込んだ

 

さてこの後はたしか…

 

「ちょっとよろしくて?」

やる気のない顔をした一夏に

セシリアが話しかけるシーンだ

 

「はぁ?」

「まぁっ!なんですのそのお返事!

わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのでは無いかしら?」

「悪いな、おれ、君が誰だか知らないし」

 

その光栄、という部分に

馬耳東風とでも言いたかったのだろうか、言葉のチョイスが悪かったな

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にしたら入試主席のこのわたくしを!?」

 

入試主席、という話にはちょっと引っかかって来るところもある

実際のところ

男子特例扱いの俺達は入試を受けていない、入学命令書に従っているだけだ

だからテストを受けるのならば話は変わるだろう

 

「質問いいか?」

 

一夏はまくし立てるセシリアの前に手をかざして、一言

 

それにセシリアはキメ顔アングルを、取った直後に

 

「ふっ!下々のものの要求に応えるのも貴族の務めですわ、よろしくてよ」

 

と、決め台詞を放つ

しかし、その相手は極めて真顔で

 

「代表候補生って…なに?」

 

前提条件をひっくり返すような一言を叩き返してきた

それはIS関係を志すものなら

まず知っているだろう一言

 

モンテグロッソ出場国における国家代表、その候補生を意味する単語

『代表候補生』それを知らないと宣うような輩がISの専門学校であるIS学園にいると思っていなかったのであろう、クラスのほぼ全員

(とぼけた顔の一夏と予測していた俺たちを除く)がひっくり返り

 

セシリアなど、ひきつけのように震えている

 

「信じられませんわ!日本の男性というのはみんなこれ程に知識に乏しいものなんですの?常識ですわよ?じょうしきぃ!」

聞かれたことそっちのけで身勝手な曲解と憤慨(国家批判)を始めるイギリス候補生

 

そして、輪をかけてバカな輩(一夏ヤロウ)がしびれを切らして追撃する

 

「で…代表候補生って?」

「国家代表IS操縦者のその候補生として呈出されるエリートのことですわ!単語から想像したらわかるでしょう?」

 

「いやわからんだろ、なんの国家代表候補なのかまるでわからんし」

「代表の()()であって、あくまで代表ではないあたりポイントだね」

 

「なんですのその言い様は!」

セシリアはこっちに首を向けて怒鳴りかけて来て「電話だ」

 

そんな事は関係ないとばかりに

晴羽は腕時計型携帯端末(スマートメモリーディスプレイ)の着信を受ける

 

自由だなぁ

 

「な…この私を無視ですって!」

 

セシリアはさらにボルテージを上げるが、実害はないので完全放置する晴羽

無論俺もそれに追随し

 

「…言いたいことは言ったか?一夏にはこちらから教えておくからエルゥィートさんは優雅に座ってたら?」

 

「ですから!何ですのそのふざけた発音は!」

 

話を打ち切る方針を示すと、また噛み付いてくる

 

「わからないのか?話を打ち切ろうとしているんだ、俺たちは忙しいんだし、くっだらない自慢に付き合ってる暇はない」

「僕達は企業所属なものでね

スケジュールだって分単位なんだ」

 

一夏はともかく、俺と晴羽に容赦はない

にべもなく切って捨てると

無駄にプライドの高いセシリアは俺の方によってきて

 

「この入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートを相手に何を言っているか分かっていますの?!」

「あれ?俺も倒したぞ?教官」

 

机の板を叩きながら怒鳴ってくるが、それに一夏が反応した

 

「私だけとお聞きしたのですけれど?」

「女子では、ってオチじゃないのか?」

「そもそも俺なんて試験受けてすらいないし、やれば多分落とせるぞ?」

「僕達は入学命令書に従って入学しただけだし、基礎学力とか期待されても…ね」

 

二人ともそれっきりにして

俺は口を閉ざし、晴羽は電話の方に戻る

 

「…晴羽だ、そうか……SBのチームトレミーを派遣してくれ…それで済む」

 

その一言の真意を問いただす

その直前にチャイムが鳴った

 

「…食堂行くか?」

「あぁ、最初だからね…もっとも、食べる気にはならないけど」

 

晴羽の表情は暗いが、それを気にしているような奴はクラスにも、学校全体にも俺だけなようだ

 

「…仕方ないか」

 

すぐに売り切れてしまうだろう人気メニューをあきらめて、俺はハムカツの確保を狙いに走った

 

「-晴羽、なにがあった」

「…あったんだよ、言えないことが」

 

「それなら、深く追求はしない」

 

それきり話を打ち切り

食事に集中する

 

それから時は過ぎ

放課後になり、

俺たちは山田先生に呼び出されていた

 

「ごめんね、いま寮に飽き部屋がないの」

「構いませんよ、どうせ僕たちは企業所属、社宅から通えばいいだけの話です」

「…ラファールだの打鉄だのに護衛されながらの登校は御免ですがね?」

 

isに攻撃されている、

と暗に仄めかしつつ山田先生の方を見る

 

「よかった♪それじゃあ社宅からの通いということでいいですね?」

「「了解」」

 

「まて二人」

 

二人して回れ右したその瞬間

後ろから出てきた千冬先生が声をかけてきた

 

「…実は最近、株を始めてな、注目株は分かるか?お前達は目端が効きそうだ」

 

晴羽が意味不明と言わんばかりの顔になるが、それを制して

 

「…では、イチゴを買いませんか?甘いものが出来ているそうですきっと上がりますよ、あと、イチゴは先端部分が一番甘いと言います、天使の口づけのように」

 

ニヤリと笑いながら告げる

 

「なるほど、わかった、

その方面で考えてみよう…下がって良いぞ」

「了解」

 

俺は晴羽を伴って

職員室を辞するのだった

 

そして、その後

きた時のようにやってきたデンライナーに乗って

 

「で、なんの話だったんだ?突然株?」

晴羽が疑問の表情を浮かべて話しかけてきた、のだが、無論の話

突然株なんて始めるわけがない

 

「単なる隠語、注目株ってのは俺達に攻撃してきた要注意isのこと、イチゴってのは」

 


 

「一小隊五人編成、三角陣で、先頭のリーダー機はラファール…と」

「何を言っているんですか?」

 

「なぁに、巽が教えてくれただけの事、すぐに対応するさ」

 

無表情のまま答える千冬先生は

どこか微笑んでいるように見えた

 

「私は…どうすればいいんでしょうか…」

 

山田真弥の安息は遠い

 


 

「まぁ、別に?そろそろ僕たちの専用機も完成するし?完成したらあんな連中は敵じゃないんだけどね?」

「…無駄に悔しがるな、晴羽」

 

晴羽とともに社に帰ってきたところで、何やら言っていたので、諫めることにした

 



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第9話

どうも、お久し(三ヶ月)ぶりです

作者の片割れがやる気を失って新作を描き散らかしはじめたので、ここからは不定期更新となります


で、二日目になったわけだ

 

この日にちょうど怒る現象がある

それは…そう

クラス代表の決定に関する言い争い

 

『織斑一夏』を推すミーハーどもと『自意識過剰馬鹿』のいがみ合い(一方的な言いがかり)ののちに勝手にキレたセシリアが決闘を申し込む

というのが原作の流れだったはずだ

のだが、原作に於いては女子しかいなかった環境に、すでに俺たちが介入している以上

その票は割れると思われる

 

顔ランクから推定して各人に入る票の割合は

織斑:7 俺:1 晴羽:2

 

の7:1:2

 

セシリア(自薦)の一票分をのぞいて、おおよそこんな感じになるだろう

 

構いはしないが

俺に入る票はゼロであって欲しい

なぜなら、まだ俺の専用機体は完成していないからだ、

 

あの鉄華団連中が作った機体を、『慣らし無しでも十分に使える機体』にしてくれるとは限らないし、そもそも完成しない可能性も高い

 

真っ当に使えないから動けません

からの動けないから負けました

 

なんて即落ち二コマ

話にもならないだろう、当然ながら続くイベントでの評価に大きな影響を及ぼすはずだ

 

 

「…どうするかな…」

「どうもしょうがないよ?」

 

朝っぱらから元気に晴羽が笑っているが、その目元は到底笑っているとは言えない

やはり原作改変に対する評価や現象の変化に対する計測を厳密化せねばならないか

 

そういうのは向いてないんだが

記憶と現実の照合と整合性の確保は俺がやらなきゃいけないらしいな

 

不都合な事実の隠蔽とか

時間軸の誤差修正とか、そういった細かい事は晴羽と九龍さんのサポートがあれば不可能ではないと思うが、やはり大規模になってくると俺達だけの勢力では十分なレベルに修復できない可能性は高い

これは危険だ、やはり原作介入を序盤で行ってしまった以上、世界の前提条件が変動しているだろうし、それと関係性を見出せそうな情勢変化をプロファイルし、それを可能な限り原作に寄せるべくコントロールをせねばならない

 

…苦行かよ!

 

「じゃあ僕はもう行くよ、頑張って」

「誰が頑張るかよ…俺は嫌だぞ…」

 

晴羽の腕をズルズルとひっぱりながら引きずられて学校…正確にはデンライナー…へと投げ込まれる、腕だけで自分よりデカい人一人を丸ごとぶん投げるとかこいつも相当人外だな

 

「はーい発車しまーす!」

「テンション高いよお前…」

 

そのまま同行しつつ、頭を巡らせる

ここでどうすれば俺の評価を下げられるか、どうすれば俺の分の票を織斑に押し付けられるか

 

…………総合的に考えた結果

現状では無理だという判断が出た

 

そりゃそうだよなぁ…

 

うん、どうしようもないや

 

「ついたよ、巽くん」

「きいてるよぉ…」

 

「あーゆーれでぃ!?」

「できてるよぉ…」

 

「お前たちの平成って」

「みにくいよぉ…」

 

そうこう言っている間に

学校の前についてしまった俺たちは

黙々と学校に入り…やたらと広い敷地を歩き、校舎へと入り…共にげんなりした顔であの瞬間を待つ

 

それだけのダメージが予定されているのだから、嫌そうな顔でも文句は言わせない

 

そして、朝のホームルームをやり過ごし

その瞬間が訪れた

 

「では、クラス代表を決める

立候補はいるか?」

 

ここでは誰も手をあげない

セシリアもこのタイミングで自薦しては効果が低いと思ってか『誰もいないのならわたくしが』なんて消極的に言い出そうとするタイミングを探しているようだ

 

しかし、そこで

原作の流れは降りかかる

「私は織斑くんを推薦しまーす」

「あ、わたしも!」

「わたしもです!」

 

そう、一人を皮切りに、物珍しさ(イケメン)に釣られた女どもが騒ぎ始め

その結果として、クラスのほぼ全員がこの流れに同調、織斑がクラス代表に決定

という流れになり…

それを不服として

 

「わたくしが代表になるのが当然ですわ!」

 

と叫ぶわけだ

それ自体はどうでもいい

だってどこにでもいる自意識過剰な妄想女の妄言でしかないから…しかし

文化的後進国がどう

その一言が出た瞬間、

晴羽の顔色が変わった

 

「なぁ、セシリア・オルコット

直前の発言について正当性が疑わしい意見があったように思えるのだが

『日本が文化的に後進国』とはどういう意味だ?」

「えっ?」

 

「日本が文化的に後進国とはどういう意味だ?発言の意図を問うている」

「それは、わたくしの祖国たるイギリスに比べて文化的成熟度が低水準であると言っているのですわ、普通なら文面から理解できるでしょう

この程度のことも分からないなんて、やはり男は無能ですのね」

 

「ほう、無能か?ならお前の方はどうなんだ?」

 

「何ですって!?代表候補であるこの私を愚弄するつもりですの?」

「お前の方がよほど日本を、いやさ世界を侮辱しているんじゃないのか?

自覚すらしていなかったか 嘆かわしいことだ…いつからイギリスは誇りを失ったんだ?こんな程度の低い奴を代表候補なんかに立てるだなんて

イギリスisの先行きは暗いな」

 

笑うように吐き捨てた晴羽

そこまで行くともはや言い掛かりだと思うのだが、俺も日本人の端くれ

 

…ここでは日本国籍すら取得した直後だから本当に端くれ…でもあるし

祖国自慢に他国を貶めるのは違うというモラル面の指摘くらいならしてやりたい

のだが、どうやら晴羽が先に切れたようだ

 

もう一夏そっちのけで

セシリア⇄晴羽の口論が起こっている

 

「なんですって!私のみならず私の祖国すら貶しますの?男というのは本当に度し難い愚か者ですわね!」

「……」

 

晴羽は突然の逆切れに閉口している…というか呆れているようだ

 

「そうかね…自分のことを棚に上げて人を責めるよりは真っ当だと思うぜ?」

 

なら俺も、少しは口を出させてもらう

 

「貴方には聞いていませんわ!」

「そう?別に良いけど

まずは自前の理論を自壊させないように気を付けろよな」

「聞いていないと言っているでしょう!」

「だから聞かせてるんだよ

日本とイギリス比べてるらしいけどな?そもそも南極と同じ中立領であるis学園の敷地内でそれを言うってことは戦争の火種になりうるってことだ

自国内で国民が自分の国を持ち上げるのは別に構わないがな?自国以外でそれをやると反感を買うって教わってないのか?」

 

「そんなことはどうだって」

「よくない」

 

すかさず反論で口を封じ

「そもそもお前には国家代表としての自覚がない、他国を侮辱するのはマナー違反という話じゃないんだぞ?お前が…まぁ現状では絶対にあり得ないが国家代表になったとして、その立場で同様のことを言った場合、それはイギリスの総意として認識される、どういう意味か分かるか?」

 

「当然ながら、イギリスが、日本を、公然と貶めるというのなら、日本も応じざるを得ない

具体的には国連を通じて正式に抗議を行うだろうね、is発祥の地にしてis学園の所在である日本が」

 

晴羽もノリノリで合いの手を入れて来るが、つまりはそういうことだ

日本の国際的な立場はともかく、今のセシリアの物言いは完全にレッドカードレベルである

 

原作でもたしか指摘されていたことだ

それにおれはこれを追加する

 

「そもそもイギリスは日本に対してどこが優れているんだ?『衣・食・住』を考えるなら有名どころとしてはフランスが先を行くんじゃないのか?」

 

衣はファッションショーとして有名なパリコレがあるし、建築様式としてもフランスやギリシャが有名だろう、そしてイギリスに『旨い飯』ランキングで勝ち目はない

「うぐっ!それでも未だに第三世代機を開発できていないような日本に対してはisで優っていますわ!」

 

急にドヤ顔になったセシリアだが

 

「残念ながら篠ノ之束に限って言えば既に第四世代機の実験が終了しているという話があるんだ?未だに第三世代が試作のラベルを取れないようなイギリスよりはマシだと思うよ?」

 

晴羽の一撃で沈黙した

そして

 

「そ、そこまでいうなら決闘ですわ!日本のisがそんなに強いなら

その実力をお見せなさい!」

「あぁ良いぜやってやるよ!」

 

一夏も話が簡単になったからか、元気を取り戻した様子で介入してくる

この段階になったら俺はもうすることはない

 

「なにを話は終わったとでも言うような顔をしていますの!?そこの貴方達もですわ!」

「「え?!」」



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第10話クラス代表決定戦

「そこの貴方達もですわよ!」

 

その一言、それが異様なまでにトントン拍子で進んだ、もとより他人事であり、自分らにとっては見世物でしかないが為に気軽に迷惑を撒き散らす一般女子生徒達によって強引にレールを敷かれ、その上をディーゼルエンジン積んだ一夏に引き摺られているような気分だ

 

結局その日の授業など何一つ聞いている余裕がなかったが、寮に戻ってきた後

いったん落ち着いて、原作の流れを思い起こしてみたのだが…

 

「それで、結局のところ、俺はどうすればいいんだ?」

 

この一言に尽きる、俺はこうならないように頑張って用意をしていたはずなのに

このままでは、いつのまにか

『主人公』(ヒーロー)である織斑一夏の為に前座をやらされる負け犬ポジが確定してしまう

 

「専用機は未だ開発途上だし、することもないんだから寝てれば?」

 

「いや寝てたらダメだろ、試合来週だぞ来週、でも下手に汎用機使ってたら感覚がズレるから再調整が必要になる云々って言われて訓練禁止なんだよなぁ…」

「オルガは凝り性だからね、歳星(偽)で今頃設計図睨んでるんでしょうよ」

 

掛け合いをしながら頭は止めない

どう動くかのシュミレーションやら、攻撃を受けたときの立て直しの動作確認などisを実際に使わなくでできることはある…のだが、

百時間以上isを動かしている(うろ覚え)総合的な訓練量だけなら四人中最高であり、現時点で唯一ちゃんと専用機持ちとしての訓練を積んでいるセシリアに対する戦闘である以上、やはり実機訓練は外せない

 

武装の全てはブレード一本、射程距離極短(というかほぼ接触距離)の近接特化isをつかう一夏相手という話でもなく

『超高速で一直線突進』というような稚拙な作戦は通用せず、セシリア相手では遠距離戦主体の戦術は分が悪い

 

「こればっかりは機体の形状や性能やらの特徴も顕著になってしまうし

迂闊な作戦を立てて機体に合わないんじゃ困る」

 

どうしようもないことはどうしようもない

機体がない上に訓練もダメというのなら、もう理論シュミレートくらいしかすることはない

 

………どうしよう

 

「…僕も僕のis作るので忙しいんだよ、いや製造自体はすぐにできるんだけど

それだけじゃなくて調整やプログラムの書き換えが必要になるからね」

 

先ほどからずっとキーボードを叩いていた晴羽は、俺のことを完璧に無視したまま声だけを投げてきているようだ

 

「…製造だけならできるのか?」

「AEGシステムはその為にあるんだよ、すぐにできる…でも、プログラム書くのは人力だし、事前に用意したものとはいっても、実際に出来上がる専用機に対して直接適用できない『噛み合わない』状態の可能性もある、だから調整とかに手間がかかる」

 

「なーる…諦めて寝るか」

 

俺はできない方はできないと認める派である

 

そして、残酷なまでにそのまま時は過ぎ、気づけばいつもどおりの肉体トレーニングしかしていない状況で一週間がすぎてしまっていた

 

「…はぁ」

「どうした織斑、そんな疲れた顔で」

「ん?…あぁ 笛吹か、…どうしたも何も、箒のやつ、この一週間isの訓練全然させてくれねぇんだよ、鍛え直すとか言ってよー」

 

突然なため息の理由を聞けば

篠ノ之箒プレゼンツの特訓についての文句だった

 

「…生身でしか訓練できないのは俺も同じだ…それに、箒………?…あぁ、お前の隣の席の女か?…まぁ、生身と同じ感覚で動かすモノなのだから、生身で動くことにも意味はある

それに」

 

「それに?」

 

「『鍛え直す』という事はつまり、そいつは以前のお前を知っていて、その『以前のお前』は『今のお前』より強かったのだろう?感覚を取り戻しておいて損はない筈だし、最低限の体力を養う程度の訓練にはなるんじゃないか?」

 

一応擁護しているつもりではあるが

特訓自体は…まぁ非効率だろうな

最適なのは一夏が打鉄を使った上で、箒は複数の人員を用意した上で第二世代機であるイギリス製機体『メイルシュトローム』を使った射撃戦を演じてセシリアのis 『ブルーティアーズ』のビットによる多角射撃を再現した『対遠距離戦闘』の訓練を積む事なのだが、やはりそう何機も訓練機を借りられるようなはずはない

 

…うん、総合的に考えた上で、やはり今の彼にできるのは打鉄で格闘戦の練習、程度だろうし、それならシャドーで剣を振っているよりも生身で相手取った方が訓練としての形にもなるか

 

結局、1対1でできルー形にするならそれが最適、と取ることもできる判断だし

悪くないとは思う

 

「でもだからと言ってよぉ」

「isを使って訓練しようにも、訓練機と専用機にはレスポンスや機動性に違いがあるからな、変に癖や先入観的な慣れをつけるよりは

最初から『そういうモノ』として専用機だけに特化したパイロットに仕立てた方が、動きとしては良いと思うぞ」

 

「ビギナーが鈍い機体に慣れちゃって高機動型を使いこなせない、みたいなやつだね」

「急にエースコンバットみたいに聞こえるようになったんだが?」

 

横から入ってきた晴羽にツッコミを入れる

 

「単純にできる中での最善ってだけだろ、できなかった努力を悔やむより

できる努力を尽くそうぜ」

 

結局の一言を叩きつけて

俺は、本日に行われるクラス代表決定戦の開始宣言を待った




まだ開始しないです


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第11話 陽炎

「…行くか」

「応」「うん」

 

晴羽と共に、一夏と並んで歩く

アリーナまでの道は短い

 

そして、アリーナに入り、今度は選手用のピットへと向かう、俺たちが行うのは

原作とルールが若干異なる

 

第1試合俺vsセシリア

第2試合一夏vs晴羽

 

第3試合1と2の勝った方同士で

第4試合1と2の負けた方同士で

最後にまだ当たってない人と

 

の順で戦う事になる総当たり戦

当然ながら、セシリアは覚醒状態になるためには一夏と戦う事が必須であるので、最初に戦うのが有利

一夏は単一仕様能力(ワンオフアビリティ)の都合上、非常にシールドエネルギーの損耗が早いために

後々で戦う方が有利になるから、俺は2戦とも少しだけ有利であるが…

 

正直、一切練習なしの状態でどこまで戦えるかは我ながら疑問である

 

最終的に結局届かなかった専用機のことはさっぱりと忘れつつ、ピットには汎用機のラファールを運んでもらって、それを起動する

 

その寸前

 

「笛吹くぅうぅぅうん!」

 

山田先生が息を切らしながら走ってくるのを見て、手を止める

「どうしたんですか?」

「届いたんです!専用機が!」

「良かったじゃないか!」

 

ぜぇぜぇと息苦しそうだが

それでもなんとか説明を始める山田先生

 

「…今更ですか?」

 

〈僕も想定外だったよ、まさかこんなに遅いとはね〉

 

控え選手として反対側のピットで待機している晴羽からの通信が入った

〈さっき完成したって連絡があったから僕の世界から転送したんだけど…オルガはやっぱり止められちゃったみたいだね〉

「is学園は男子禁制だからな

パイロットでもないオルガは流石に入れなかったか」

 

〈「止まるんじゃねぇぞ……」〉

 

晴羽と俺の言葉がハモる

やはり考えることは同じか

 

「すでに専用機としての調整を終えているそうなので、そのまま戦えると思います!」

 

息を整えたのか、山田先生の説明にも少しだけ落ち着きが戻ってきた

「コレを」

 

差し出されたのは、細い銀のチェーンに、半透明ながらに鮮やかな白赤青のトリコロールカラーで彩られた八面体状の結晶がついたペンダント

 

「笛吹くんの専用機、ストライクです!」

 

「ストライク!?」

〈オルガが言うにはG兵器のなかでも一番要望に近い機体のX-105ストライクをisとしてリビルドしたんだって…さぁどうぞ、起動して〉

 

「お、おう!

X-105 ストライクガンダム 起動!」

 

音声認証が起動し、

俺の体を機械の装甲が覆う

その瞬間、世界が焼き付いた

 

黒く焼ける

体全てが引きちぎられるような激痛を訴える、それを認識するよりも早く

直接脳に膨大極まる情報が流れ込む

 

反射的に思考速度を750倍、すなわち最高倍率にまで引き上げてもなお足りない

それでも激痛は止まらない

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

焼けついて歪んだ世界の中で

全てが焦げて壊れていく

 

視界がブラックアウトし

機体自体のパワーアシストがダウンする

 

俺の肉体が限界を迎えて

思考速度の750倍が強制解除され、同時にis ストライクも停止した

 

「笛吹くん!?」

 

慌てて駆け寄ってくる一夏と山田先生と、そしてどこかへと視線を飛ばしている晴羽だけが見えた

 


 

その声は、戦慄とともに聞こえた

 

「なんですの、今のおぞましい絶叫は」

「うるさい」

 

今はそんな事に構っている余裕はない

「オルガ!これはどういう事だ!?

あからさまに過負荷すぎるだろう!クソッ!馬鹿野郎が!」

 

実に都合良く通信不通状態になっているオルガに悪態をついてピットを飛び出す

 

「クソッ!」

 

「お待ちなさい」

 

()()()()i()s()を起動して最短距離を飛ばそうとしたその瞬間、セシリアに呼び止められる

 

「なんだよ今余裕がないんだ」

「それは私にだって分かりますわ

ですが、これは試合、自己管理もできない選手に、出場資格などありません、貴方が今飛び出せば、同じ汚名を背負う事になりますのよ?」

 

舌打ちと毒づきで不満を表現しながら

せめてこれだけはと救護班の手配を急ぐ

 

「…ダヴィンチちゃん、急いでくれ…!」

 

「…………」

 

結局その後、彼が目覚めることはなく

試合をスキップして

一夏vs僕の試合になってしまった

 

「…心配だが、仕方ない!」

 

彼と違って、素材のせいで作成に時間がかかるisは、まだ完全な姿ではない

十分な機動性と装甲こそ備えているが

まだその本質の能力を再現できていないのだ

 

「紅奶晴羽 アカツキ

出るぞ!」

 

完全ではないが故に

一夏との戦いは万全を期する必要がある

いくら全身装甲型(フルスキン)の機体だからと言って、零落白夜を発動した雪片をまともに受ければエネルギーバリアも役に立たない以上、装甲の損壊は免れない

 

特に装甲の厚いブロック部で受ければ問題はないが、実体剣である以上は、やはり衝撃による装甲材の変形と盾自体の劣化はある

零落白夜を見たらシールドで防御し続ける戦法が確実か

 

 

 

迷いを振り切ってピットからアリーナに入った僕は、同じように飛んで出てきた一夏へと視線を飛ばす

 

開始のホイッスルが鳴るが、やはり動かない一夏

 

どうやら形態変化前の白式を使っているようだ

 

「…一夏、何があった?」

「アイツが…笛吹が倒れた」

「………………」

 

「お前の機体も同じところで作ってるんだろ!?試合なんてやめてisを停めろよ

じゃないとお前もいつああなるか分からないんだぞ!」

「構うものか…いや、僕と彼のisは開発セクションが違うんだ…大丈夫さ

巽君のisは少しパイロットに無理をさせる仕様だったみたいだけど

僕のは自分で開発してる

自分で作ってる機体なんだから問題ないよ」

 

「…」

 

やはり表情の暗い一夏に後ろ髪を引かれるが、

 

僕は社の不祥事を責任を持って解決(形態変化より前に君を撃破)しないといけないから

 

「速攻でカタをつけさせてもらう!」

 

独自に追加している装備

ガーベラ・ストレートを輝かせて突進する

 

形態変化するとSE(シールドエネルギー)も全回復してしまうが

フィッティングとフォーマットを済ませるより前に仕留めてしまうために

格闘装備である『ガーベラ・ストレート』を持ってきたのだからそれは想定済み

 

「行きます!」

「ぅぉっ!」

 

突進からの右突きを回避した一夏は、なおも話しかけてくるが、そんなことは時間稼ぎと割り切って無視する

 

「お前!笛吹が心配じゃないのかよ!」

「心配だよ、で、それと試合がどう影響するのさ」

 

イグニッション・ブースト

本来は高等技術だが、僕は何十回何百回と繰り返したシュミレーションの結果

システム側に全てを任せてイグニッションブーストを使う事に成功した

 

ブレードを振り切った瞬間の推力を餌に、細かく方向を調整して横飛びする

横飛びに合わせて剣を薙ぐことで

白式の背中に傷をつける

その直後にまた横へ飛ぶ

その軌道は一夏の白式を中心とした三角形を描き、五芒星へと変化していく

 

「まだまだ加速するぞ!」

「んのやろぉぉっ!」

 

徐々に目が慣れてきたのか

高速移動に合わせて一夏も動き始める

 

徐々に撫で斬りが当たらなくなってきて、回避率が30%を超えたところで

五芒星軌道の連続イグニッション・ブーストを中止し、角度を変更する

次に来るはずだった場所を避けた一夏に、ちょうど当たるように

 

体当たり、それも風を切る形状の肩からの体当たりだ、白式に激突したアカツキは、その勢いから自らも激しくSEを減じながらも停止はせず

 

逆に相手の体勢を大きく崩す事に成功した、

 

「これで止めだっ!」

「まだぁっ!」

 

逆袈裟斬りの一撃が一夏の白式を切り裂くその一瞬、驚異的な機動力で白式がブレードを振り下ろし、そのままの勢いで振り切った

 

ガーベラ・ストレートは日本刀型

基本的に激突を想定していない、斬撃特化のブレードであり、未だ名も無きブレードはそうではなかった

 

パキャァァン

という、澄んだ音と共に

ガーベラ・ストレートが砕け散る

 

「チッ!」

 

砕けたガーベラ・ストレートには目もくれず、実装できた数少ない武装のうち片方

試製71式防盾でブレードを防ぐ

 

そして

 

もう片方の武装である

『シラヌイ・ドラグーン』が8機

シールドを回り込み、

全方位から同時にビームを発射

 

あっさりと、白式のSEを消し飛ばした



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第12話 クーゲル・リュミエール

一夏を倒した僕は一気にピットへと戻り、そのままisを解除する

待機形態のisには自己修復機構が自動的に働き、ある程度までは損傷を自動的に修復できる

 

「…次の一夏とセシリア戦の間だけでも、回復しておかないとな」

 

SEの回復を狙うべく、少しでも機体を休ませる事にした僕は、クレナイコーポレーションのスパコン、フィリップに指示を送った

 

 

原作通りの流れで一夏が惜敗し、

セシリアvs巽の大戦が消滅した事で自動的に順番が回って最後の戦いになった

 

僕vsセシリアの戦いが始まる

 

「…一夏さんにはギリギリまで追い詰められてしまいましたし、ティアーズも失ってしまいましたけれど…それでも易々と負けてはさしあげられませんことよ?」

 

「いちいち間延びする謎の嬢語はどうにかならないのか…?まぁどうでも良いけど

時間もできたし、汎用武装(ワイドアームズ)も形にはなったんだ

僕だって、そう簡単にはやらせない」

 

破壊されたガーベラ・ストレートに代わって展開された武装は、同型の刀

 

「先ほどと同じ刀…ですの?」

「いや、これはさっき使っていたガーベラ・ストレートと対になる剣

タイガー・ピアスさ、本来なら二刀流なんだけど、僕自身の力量から片方ずつにしているだけだよ」

 

セシリアの問いにこたえつつ

AGE(エイジ)システムでつい今さっき作ったという事実は隠す

 

「そうですか…自分の実力を弁えるということは重要ですものね」

「全くその通り、背伸びをしても結局無理の代償が降りかかるだけだ」

 

ブレードを軽く振り、不知火パックのスラスターを起動する

 

「さぁ、やろう」

「望むところですわ」

 

その言葉と同時に試合が開始され

セシリアはスターライトMk Ⅲを構え、ほぼ同時に(ノータイムで)撃つ

 

僕はイグニッション・ブーストで加速し、それを躱して同時に共通規格の汎用武装(ワイドアームズ)であるビームカービンで単発射撃

大した効果は期待できないが

それでもただ撃たれるよりはマシ

 

向こうのスターライトMKⅢから放たれたビーム弾が僕のISである

アカツキに着弾

 

そして、アカツキの本来の装甲性能を発揮する

 

「ヤタノカガミッ!!」

 

ビームカービンの弾を躱したセシリアに、ビームが跳ね返される

「っ!二連射!?」

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

期を見たりとばかりにイグニッション・ブースト、急速に加速した僕は

そのままセシリアに向けて突撃し、左手のタイガー・ピアスを振りかぶる

 

「させませんわ!」

 

セシリアの手中にはショートブレード

その名は『インターセプター』

名の通りに『割り込み(インターセプト)』を掛けてたのだ

 

「貰いますわっ」

「くっ!」

 

右手のビームカービンをトリガー引きっぱなしで振り、擬似的にブレードにして、そのままぶつける

セシリアはそちらに対処を迫られ

ビームカービンを短刀で貫く

その瞬間、内部カートリッジが爆発して、短刀(インターセプター)を破壊した

 

そしてそのまま、左手(タイガーピアス)の一撃を入れる!

 

「取った!」

「ですからぁっ!」

 

袈裟斬りの一撃は、対IS刀

『葵』で弾かれていた

 

「そう易々と負けられないと言ったはずですわ!」

「それは打鉄の刀?!」

 

「その通りですわ、一夏さんにティアーズを破壊されて、拡張領域に随分と空きができたもので、隠し玉として持たせていただきましたの」

 

「…君、近接は苦手なんじゃなかったの?」

「苦手ですわ、ですが、それが近接をできない理由にはなりませんもの」

 

「随分と勤勉なことで…」

 

ため息をつきながら一旦離れ

すかさず放たれるティアーズのビームをタイガー・ピアスの鎬で受け流す

 

「ビームを切った…?」

「光を切るのは、水を切るより遥かに容易い」

 

実際はビームコーティングが施されているから、直撃でも弾けるというだけなんだけど…まぁここは格好良く?

 

「行くよ…てぇぁぁぁぁっ!」

 

大上段の構えで突撃の姿勢を取り

セシリアの連射をあえて装甲で受けながら突進する

 

「なんですのその装甲は!」

「ヤタノカガミダァッ!神の才能だぁぁっ!ふぁぁっはぁっはぁっはぁ!」

 

執拗にセシリアを追いかけて

ついに追い詰める

 

「っ!…ここまでですの…?」

「私の才能の前にぃいひざまづけぇぇぇっ!」

 

そのまま上段からの面打ちを仕掛け、その瞬間、セシリアの体当たりを喰らう

 

「ぐぼがぁぁっ!?」

 


視点チェンジ

 

「ビームを切った…?」

「光を切るのは水を切るのより遥かに容易い」

 

彼が無造作に放ったその一言で、わたくしに残された数少ない武器であるスターライトMkⅢ、その優位性であるところの遠距離からの攻撃能力が完全に喪失したことを確認したわたくしは、それでもただやられるなどと言う屈辱を受け入れはせず

全力で抗う為に

 

全力で逃げ回ることを決めました

前の試合からして武装以外の損失のないわたくしと違って、彼は僅かなりともダメージがあるはず

 

SEの残量で勝負がきます時間切れまで逃げ切れば勝ちにはなる

 

 

…そんな見苦しいモノを勝ちと呼べるの?…いえ、勝利は形ではなく結果

最終的に勝てばそれで良いのです!

 

「行くよ、てぇぁぁぁっ!」

 

特殊な造形の白と赤の刀…タイガー・ピアスを大きく振りかぶる構えで突進してくる彼

その姿は酷く無防備で

その装甲型と言ってもダメージの余地は大きいように見えました

 

その瞬間、わたしくはスターライトM kⅢの引き金を引いていました

そう、一矢でも報いるために

 

しかし

 

「なんですのその装甲は!」

 

奇怪なことに、最初は単なる飾りだと思っていた金色の装甲がビームを吸収して

まるごと反射してきたのです

その光景に、わたくしは最初に放った一撃も跳ね返されていた事を察して

一気に飛び上がりました

 

「ヤタノカガミダァッ!神の才能だぁっ!ふぁぁっはぁっはぁっはぁ!」

 

一瞬にして異常なまでに気迫を引き揚げた彼は、そのままわたくしに突進してきて

今度は『葵』の展開も間に合わない事を悟りながら、頭を巡らせ

回避ルートを探し続ける

 

どれだけ無様であろうと

負けるわけにはいかないと

動き続け、考え続ける

 

しかし、ついにアリーナ最上部、障壁に道を遮られ、隅へと追い詰められてしまう

 

「っ!…ここまでですの…?」

「私の才能の前にぃいひざまづけぇぇぇっ!」

 

当たってもダメージにならないと確信しているからか、もはや銃には脅威を感じないとばかりに真っ直ぐに飛び込んでくる彼

そして、わたくしは

 

何をするかと考えるよりも前に

体が動いていた

 

「ぐぼがぁぁっ!」

 

「…先ほどあなたが取っていた手、使わせてもらいましたわ」

 

本来ならば自分のSEも削ってしまう体当たりは避けるべき手段、しかし

相手の態勢を崩す為の

起死回生の一手としてならば!

 

「打つ価値のある一手ですわ!」

 

葵を出現させて、刃筋など通す余裕もなく、それでも一撃を当てる

 

「ぬぐぅぁっ!」

 

たしかに、一撃として『入った』感覚

手応えはあった

 

「このままっ!」

「させん!」

 

体制を切り替えて

追撃に入ろうとしたわたくしに

さらなる一手が待ったをかけてくる

 

強烈な閃光と爆発的な音

それは

「ショックスタナー、閃光手榴弾…規格化していて良かったよ」

 

そう、手持ち武装どころか

手榴弾などという古典的なモノ

 

しかし、それはたしかにハイパーセンサーを撹乱し、過剰な負荷を掛けて

一瞬のみ空白の時間を作り出す

 

「パンツァーアイゼン…は無いから、リールフィッシャー…もないか…そうだな」

 

右手を掲げて次々に武装らしきものの名称を宣言している彼に対して

牽制がわりにスターライトを撃ち

反射されてくる弾を躱そうとして

 

バチィッ!という

絶対防御の発動音を聴いた

 

「っ!もう見抜いたのか…」

 

彼の持つ装甲は、完全な遠距離攻撃無効化ではない…?いや、何発撃っても無効化されていたのですし、それは無いと考えるべき

ではなぜ反射されなかったのでしょうか

反射される場所に限りがある…?

 

「まさか!」

彼の装甲は、黄金の部分のみがビーム反射機能を有し、他の色の部分はそうではない?

 

「気づかれたなら隠す必要もないか」

 

薄く呟く彼の声を、ハイパーセンサーで強化された聴覚が聞き取る

 

「このまま攻め落とします!」

「仕方ないなぁ…全く!」

 

やや下方正面からイグニッション・ブーストで急接近してくる彼の姿を捉えて、こちらは対応して『葵』を振るために若干の前進を含んだ動きで振りかぶる

 

「ぜぇぇぁっ!」

 

彼のタイガー・ピアスに合わせて

擦り込むような動きで刃を擦れ違わせ、そのまま振り下ろす

 

「ふっ!」

 

しかし、それも上手くは決まらない

前進装甲型の彼のisは通常のタイプに比べて重い代わりに硬い

装甲が強い

わたくしにも『零落白夜』のような装甲突破能力があれば…いえ!

わたくしには多角射撃能力がある

それだけで十分!

 


 

 

互いの装甲とSEの削り合いに発展した至近距離戦を見つめながら

誰かは笑った

 

「まだ未熟だが伸び代はある…か、全く、期待していなかった所から面白いものが出てきたものだ…だが、あのままでは削りきられるぞ?

 

さぁ、これにどう対応する?」

 

その影は揺るがない

 


 

剣と銃、そして爆弾が幾筋も交錯する中

時代に互いの力は、(SE)は弱っていく

 

「あはははっ!もっと僕を笑顔にしてよ!」

「急に人が変わったように…きゃぁっ!」

 

イグニッション・ブーストを3連発

角度をつけて急旋回、エイジシステムから転送されて来た鋼糸をタイガー・ピアスにくくりつけて、タイガー・ピアスを投擲、そのまま振り回す

 

「あはははっ!」

 

「くっ!」

 

速度を維持したまま放り投げて

タイガー・ピアスを爆発させる

先ほど転送されて来た閃光手榴弾をくくりつけていたのだ

 

「あははは!」

 

爆発と同時に突撃、

右手のビームサーベルのコネクターにエネルギーを収束させる

 

アストレイでレッドフレームが使っている『光電球』と同じ技術だ

 

「せえぁぁっ!」

 

全エネルギーを込めた光電球…いや、

『クーゲルリュミエール』

を、掌底に載せて叩きつけるっ!

 

 

「終わりダァァっ!」

 

その瞬間、試合終了のブザーがなった

 

「シールドエネルギー、エンプティ

勝者 セシリア・オルコット」

 

 



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第13話

「あ、やべ」

 

そんな間の抜けた声とともに

私の勝利が告げられて

 

「え?………」

「おめでとう、君の勝ちだよ」

 

そう、私は自分でも知らないうちに、いつのまにか勝利していたのでした

 

「わたくしの…勝ち…ですの?」

「その通りだ、試合は終わったぞ、早くピットに戻れ」

 

千冬先生の声が聞こえたその瞬間、わたくしはようやく意識を現実へと戻して

 

「納得いきませんわ!」

「いいから早く戻れ!」

 

千冬先生に怒鳴られてしまいました

 

「…仕方ありませんわ…」

 

私は破壊判定寸前のダメージ表示が展開しているブルー・ティアーズを浮遊させ

ピットに戻って

 

今度はピット同士の通信回線を開きました

 

「紅奶さん、先ほども言いました通り

わたくしは今回の結果について

納得が行っておりませんわ」

〈そう、でも君が勝ったことには違いないんだし、君が代表だ、大人しく

全戦全勝の結果を以て代表をやりなよ〉

 

紅奶さんからの声は素っ気なく

視線はあらぬ方向を向いて…いえ

明確に彼のisの方に向いていました

 

今のわたくしでは

彼の視線一つにすら値しないと言うの

 

…そう、やはり彼も本当は決着が不服で…

 

えぇ、そうに違いありませんわ!

ならばこそ、ここはわたくしが提案を出さねばなりませんね

 

「今度行われるリーグマッチの前哨戦、そこで決着といたしましょうか!」

〈おう〉

 

返事は端的に一言

ですが、そこには強い意志が感じられました、必ずや再戦と、今度こそ納得のいく決着をつけようという意志が

 

「…その時は…正真正銘の勝利を収めて見せますわ」

 


 

「!」

 

時間的には昼なのだろう、明るい部屋で目を覚ました俺は

ガバッと飛び起きようとして

体が動かない不自由に驚く

 

「………そういうことか

 

つまるところ、俺は倒れたらしい

どうも俺専用と言っていたisは超高負荷、超高感度のレーダーを無理やり頭に直結してくるような馬鹿な設計をしていたようで

俺の頭が750倍まで加速できなきゃイカれて死んでいた可能性が高いだろう

 

「…次は1000倍目指すか…」

 

現実的には800倍が妥当だろうが

最終目標を1000倍とすれば

通過点を800にできるし

それでいいだろう

 

「とりあえず…ナースコールどこだ?」

 

こういうのは大概ベッドの…枕側にあるんだが、…あった

 

脳内の加速をしようとするたびに頭がズキズキ痛むが、特段の変わったことはない

加速ができないわけでもない

たんなるダメージだろうが

修復の完了までは加速は封印しよう

 

「…うぉ……」

 

本当に体が動かない

いや、10倍速から戻れば認識上は早いんだが、それでも客観的に遅いのはわかる程度に遅い…だいぶ寝ていたな、これ

 

「あった…よし」

 

ナースコールを押して、

腕を戻す

たったこれだけの動作に軽い疲労感を覚えるレベルで肉体の能力が落ちている

その事実を重く受け止めながら

看護師を待った

 

「……………………」

 

忍耐には慣れているし

そもそも時間感覚が十倍速のせいで狂っているのだが、まぁまぁ早く来てくれたと思う

 

「あ、目覚めた?」

 

「…………アンタは…」

「あれ、分かんない?期待外れかな♪じゃあ…名乗ってはあげないっ」

 

来たのは

ナース衣装のウサギだった

 

「篠ノ之束」

「ん、わかってるじゃん

イイよイイよ〜、親しみを込めて束さんと呼びなさい!…嘘、絶対呼ばないで」

 

「お、おう」

 

なんというか、勢いが強い

それに、なんか明るいように見える

 

「それでね、今回来た理由はね

たった一つなんだけど

()()()i()s()()使()()()()()

 

その声は

ひどく鋭く、硬く、そして冷たかった

 

「俺が、俺たちが適性者だから

では答えにならないかい?」

「なるわけないだろクソガキ」

 

ニベもないなぁ全く

あぁそんな甘い殺気じゃガキしか脅せないよ、俺はそんなガキじゃないんだ(脳内)

俺は物理の直接攻撃にも耐えてきたエリートなんだぜ?(脳内)

 

「それじゃあ敢えて言わせてもらうよ

お前のセキュリティ、ガバガバかよ

ブラックボックス化も甘い、コピー対策も不十分、緊急停止スイッチすらも『赤月』の中に放置、クレナイコーポ舐めてんの?」

「ガキが、言ってくれるじゃんか

現段階から30年後レベルのセキュリティに文句つける奴とか初めて見たよ

それに、コアのランクのことをどうやって知った、お前だけじゃないけど

それはまだ知られるはずの無い情報だぞ」

 

視線のぶつかり合いは

…どちらともなく終わった

 

「知りたいなら教えるよ」

「やだ、知りたく無い

なんか嫌なことを聞きそうだもん」

 

俺の言葉に対する返事は適当で

しかし明確な拒絶

 

「でも、さ…isコアをどうやって作ったのかは聞かせてよ」

「ん、わかった

俺ともう一人の適性者…『紅奶』は別に、最初から適性者だった訳じゃなくてな

純粋に機械部品のロボでisに迫ろうとした…兵器としてじゃない、マルチフォームスーツとしての『インフィニット・ストラトス』に対して

全環境対応型の人型マシンの遠隔操作で対抗しようとした

…んだが、やっぱ遠隔操作は無理がある、同じレベルの機動を再現するならどうしても人間が直接使う必要があるってんで、最終的には同じような装身型に落ち着いた

 

その結果が、isとほぼ同じ機能を有する強化外装骨格とその制御装置

んで、色々と機能を追加して…

自己進化機能とか色々詰め込んだ結果…なぜかisコアが出来ていた

しかも、女にしか使えないロックが無い」

 

「……………」

 

静かにしているウサギに視線を戻して

「とりあえず、俺とあいつは

isを作りたくて作った訳じゃ無い、むしろ作りたかったのはeosの方だ

何故かisになったけど」

 

「…なるほどね…束さんのブラックボックスを開錠したんじゃなく

別の方向から同じ形に進化した

なるほど、分かったよ

認めよう、今は君がすごいと」

 

「俺だけじゃ無いよ、俺はソフト方面には向いてるけどハードを開発したのは晴羽だからね、褒めるならあいつにしてやってくれ」

「そう、なら別に良いや

…それはそれとして…君にプレゼントをあげよう」

 

厄ネタの匂いがプンプンするプレゼントとやらを拒否しようとした瞬間

 

「それっ!」「ぐがっ!?」

 

鋭い痛みとともに注射針が腕に突き刺さる

 

「ふっふ〜ん!youにナノマシンをpresent!」「なぜ英語おっ!?……っ!」

 

体内で炎を発動、無理やりに血管内のナノマシンを焼却しようとするが

やはりナノマシンとて耐熱性があるのか、体内で出せる程度の規模の炎では全く効かずに通られてしまう

 

「まぁまぁ安心しなさいって

身体回復用の医療型だよ…君の使ってたアレ、みたけどさ?どう見ても人が使うようなものじゃないよ

あんなのはisだなんて認めない

あんな負荷のゲテモノなんて使わされたんだから、ダメージも残ってるだろうと思ってね」

 

話が一部繋がっていないが

それはまぁウサギクォリティ

しかたあるまい

 

「で、ナノマシンですか?」

「そうそう、私みたいに細胞単位のオーバースペックって訳にはいかないと思うけど

ちょーっと強化も入ってるし、しばらくすれば普通に動けるようにはなるでしょ

あ、それじゃあ束さんそろそろ帰るから、まったね〜!」

 

ウサギはウサミミをぴょこぴょこ動かしながら帰っていった…

 

「…はぁ…本物の看護師が心配だ」

 

おそらくどこかで足止めを食らっているのだろうまだ皆看護師さんを哀れに思いながら立ち上がり、炎でわずかに浮かぶ

 

「…よし、浮けるな」

 

よく考えると純粋に機械系の世界でこんな転生特典持ってる俺は相当な異端だな

 

いや別に今更だが

 

「よし、体もだいぶ動くようなってきたし…っと」

 

枕元に置いてあった鞄や荷物を回収して、中身を漁り…普段用のライズフォン…ではなく、二つ折り式のガラケーを取り出して

「0 0 0 enter」

 

フィリップへの直通回線を繋いだ



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第14話 紅緊急会議

「フィリップ、起きたんで連絡した、俺だ…問題なことに謎のナノマシンが体内に混入している、念のためにメディカルチェックをお願いするよ」

 

「了解した、ナノマシンだね?

精密検査が必要になると思うから、こっちに帰っては来れるかな?」

 

フィリップとの通信は社専用端末の000の三桁キーで直通回線を使える、これは社長以下社員全員の端末で使えるものなのだが、アクセス権は端末の設定によるので、それを知っている人物は意外と少ない

 

のだが、俺はそれを使えるので

躊躇なく連絡をつける

これで晴羽とその他幾人かに情報が伝わるだろう…盗聴対策は施しているが

あまり長くは使えないとみたほうが良い

 

「晴羽と合流し次第の話だけど、出来るだけすぐに戻るよ…じゃあさっさと切るぞ」

「はい、晴羽には伝えておくよ」

 

「了解、俺は大人しく寝とくよ」

 

そして、通信を切り

俺は本来の看護師を待ちながら寝る事にした

 


 

「よし、ではこのアイデアについてだが…?通信だと?」

 

社長(神)の会議中に急に電話がかかってきた、とはいえ車内ほぼ全員がアンドロイド、ガイノイドなので内蔵装置の方の通信機での通話であるが

 

「さきほどようやく《彼》が目覚めたようだ、本人から電話があった

彼のisについては現状所在不明だけれど、確認したところ負荷値の判定はG+

よくもまぁ目を覚ませたものだよ

一歩間違えなくても死んでしまう所だったんだ、当然ながら相応の責任は取ってもらおうじゃないか」

 

フィリップの声が会議室に響く

そして、その声は

 

「is開発部門、オルガ・イツカおよび櫻井了子、この二人がメインとして開発されていた機体『ストライク』この機体の欠陥が露呈したわけだが…一体どうしてくれるんだい?」

 

どこまでも冷え切っていた

 

「待ちなさい、それは私の責任よ

彼の機体は高負荷高性能を念頭に置いた高機動汎用機体、そのシステムの開発者は私、責任は私が取るわ」

 

通信に答えて席を立つ了子=フィーネコピー

 

「シンフォギアと同じような段階式のロックでは足りなかった、機体自体の使用検証、実機での運用実験の不足、ダイレクトフィードバックシステムも不完全な状態での強引な運用、言い訳はいくらでもできるけれど

それでも私の能力不足には違いないもの」

 

フィーネはどこまでも毅然としてフィリップの映像を睨む

「私の解体で済むならそうして頂戴、メンテナンスや次世代機の開発については後継機体に任せるわ」

 

「何を言っているのかな?」

 

しかし、フィリップの声は硬い

 

「その程度で済むのなら最初から会議を中断してまで提示してはいないよ、櫻井女史

僕は君の解体を進言しているわけじゃない、ただストライクの機能上の欠陥を是正して、然るべき処置を取った上で彼に謝罪するべきだと言っているんだ」

「…むしろそれでは軽いのではないか?」

 

ゼロの言葉に軽く頷く者達を見ながら、ロックマンが反論する

 

「彼女だけに責任を問うのは間違っているよ、同じ開発セクションなら所属していた僕だってそれに問われるべきだ」

「いや、君は機械系の開発部を外れていたからね、厳密には違うセクションに所属している、むしろ追加で問うべきはオルガ・イツカの方だろう」

 

フィリップの無機質な声は

一切の変調なく

 

「俺が責任どうこうなんて言える立場じゃねえのはわかってるだろうが

一つ言わせてもらおう」

 

そして、会議室には変調が生まれた

九龍翼、乱入である

 

「まず最優先にするべきは

ストライクの回収じゃないか?

今の問題はそこを考えるべきだ

もしこのまま流失なんて事になったら最新技術やこの世界には存在しない技術がそのまんま流れちまうんだぜ?」

 

「それはまずいな…1000%まずい」

 

頭の悪い発言をしているのは

社長と同じ顔をした白スーツの男

最近新造された社長役の予備機体(早い話が交代要員なのだが)の天津垓である

 

「今の段階で技術漏洩なぞ許すわけにはいかないのは確かだ」

「ならどうするというんだ?」

 

冷静すぎるツッコミが社長(神)から社長(45%)に入った

 

「俺達鉄華団がストライクの捜索に入る、フィーネは後継型機体の製作を

マンパワーはどうせ足りてるんだ、

ここからは足の勝負だぜ!」

 

「…なら出来るだけ早く見つけてくれ、もう行っていいぞ」

「おう!ミカ、ビスケット!」

 

通信を掛けて鉄華団を動かしたらしいオルガは再び席に座る

 

「鉄華団代表として俺は会議を聞かせてもらうぞ」

「…よい、全て聞かずとも通信のデータを送る」

 

ゼロの言葉がオルガの背を押し

鉄華団は全員出撃態勢に入った

…とは言っても、is島に入れるのは女性だけ、ガンダムバティンとガンダムマルパス、そしてガンダムアザーゴならば透明化できるが

都合上、常時透明化を強いられる状態の3人を追加したところでさほどの違いはなく…やはり足りないだろう

 

「なら、どうするか

と言ったところだが…」

 

「躯体の換装なら任せなさい、遠隔操作のボディだけでいいなら二時間でできるわ」

「エイジビルダーの準備してきます!」「あ、ボクも手伝いますよ!」

 

フリットとAXL(アクセル)が走りだして行き、フィーネがデバイスにデータを転送しはじめる

 

「…その連中は除いて会議を続行するべきではないか?」

「1000%同意する」

「僕もそう思うよ」

 

幾人かを欠きながら

ゼロ・45%・フィリップにとりなされた会議が再開した



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第15話 颯爽登場!中華美少女

「ついさっき正式に決定したけど、クラス代表は織斑君に決まったよ」

 

手元にホログラフィックスクリーンを浮かべていた晴羽がスクリーンを消し

一夏に向かって口火を切る

 

「ええぇっ!?でも俺は1勝2敗だし、1勝も不戦勝だぜ?」

「私たちは辞退しましたの

各々の理由で、互いにクラス代表には不足するものがある、として」

 

「…そういうことだ、頑張れ織斑、お前がナンバーワン(クラス代表)だ」

 

ワンサマーがテンプレ展開を迎えている間

俺は…

 

病院を抜けて学校に来ていました

 

「というわけで、おめでとう一夏

俺たちは上手いこと抜けられたし、華麗に頑張ってくれたまえ」

「エリック上田!」

 

「え?うぉぁぁぁ!?(迫真の演技)」

「えっ??!!」

 

俺達の寸劇に本当に天井を見上げて

そこにオウガテイルの一匹もいないことを確認してからようやく単なるおふざけと納得したらしい一夏

 

「さて、それで…」

「お前達はだまって待機の一つもできんのか」

 

一閃

襲い来る出席簿を喰らう一夏と

それに対応して腕をぶつける俺

そして俺の犠牲により砕け散った出席簿の破片がブチ当る晴羽

 

「腕折れたかもしれん…」

「痛って!痛って!破片尖ってるからヤバイよ!痛いから!これ刺さってるんだけど!」

 

騒ぐ晴羽に、砕け散った出席簿を未練ありげな目で見つめる織斑先生

そして痛がる織斑(男)

 

「いって〜」「一夏さん、大丈夫ですの?」

 

「「心配するのそっち!?」」

「当たり前ですわ、なぜ自分から怪我をするような人のことを気にしないければいけませんの?」

 

セシリアの声はにべもなく

掴み所もなかった

 

「…はぁ…よし、治った」

 

俺は服の中でこっそりと炎を使い

時間を体ごと加速することで相対的に回復能力を活性化し、骨と腱が引きちぎられて砕けたグロ肉状態の腕を修復し、晴羽もダヴィンチちゃん特製の回復薬(内服用の錠剤タイプ)で血を強引に留めていた

 

「…口の中に転移?」

「exactry」

 

転生特典の大々的な行使はよくないので、極めて小規模なものだが

お互いの特典が大活躍しているようだ

 

案外転生特典っていうのは

こういった細々としたことに使うのが本来の目的なのかもしれない

 

まぁこいつは大々的に使ってるけど(例:紅コーポレーション)

 

「あ、織斑先生

これ使ってください」

 

晴羽が手元のバッグに手を突っ込み(おそらく中は紅の倉庫に接続されているのだろう)取り出したのは

 

外見的にはなんの変哲もない出席簿

 

「…ウチの試作品です、強度は十分あることは保証できますよ」

 

「そうか」

 

そっと受け取られたそれは

【振ると爆音が鳴る出席簿、名付けて出席砲だよ】

 

…どうも、折り紙の紙鉄砲のようなものらしい

 

俺の目の前の空間に突然浮かんだホログラフィックスクリーンに書かれたその文章は、その直後に消失する

 

【ブーブークッションとかと同じようなジョークグッズ、『joker's』シリーズだよ、今のところはこれくらいだけど、後々には『座ろうとすると瞬間移動するイス=イイッス』とか『接続している間は端末を起動できなくなる充電器=リアジュウ電機とかいろいろ考えているよ】

 

おっおう…随分恐ろしいアイテムだな

 

【アイテムは色々あるからね

joker'sは今後も展開していくよ】

 

「…ところで、この出席砲?考えたのは誰なんだ?」「神ダァァ」

 

「………なるほど」

 

ロクでもないアイデアは一級品だな、あの神は

 

自分が社長代理であるという自覚はあるんだろうか?まぁ経営が傾いていないからいいか(頭ZAIA)

 

「これでもジョークグッズとしては需要あると思うし、コンペに負けたらそれまでだよ

試作品開発の段階だからね」

 

さっと教団についた織斑先生に視線を戻し、各々の席に戻る…唯一被害に遭っていないセシリアがうらやましいぜ

 

 

なんて考えている間に

先生の発表は終わっていた

俺達はずっと話題にしていたし、今更どうでもいい事だが

一応祝福しておいてやる

 

「よし、とりあえずこれで面倒ごとは押し付けられたな!」

「おめでとう僕達、これで面倒ごとは押し付けられたよ!」

 

「待てよ!晴羽お前」「僕は会議とか調整とか色々ある関係で多忙なんだ

時間が足りない」

「勝率が足りない」

 

例外気味ではあるが

なんとしてでも一夏をクラス代表に据えたいウサギの意思もあって

俺も晴羽も辞退が認められている

 

「俺の為に再戦はしないらしいし

残念なことに俺は脱落なんだよ

んじゃ頑張ってくれ『最終勝者(オリムラ)』君」

 

「それで頑張れるかよ…」

 

なんとも覇気のない返事と共に

授業が始まった

 


 

「んで、今度行われるクラス対抗戦(リーグマッチ)なんだけど」

 

「楽勝だよねー」

「専用機持ちは一組と四組しかいないっていうし〜」

 

一組の名も無き女子がフラグを立てていると、その直後に扉が開く

 

「その情報、古いよ!」

 

2組クラス代表、モンテグロッソ中国代表候補生、鳳・鈴音(ファン・リンイン)

颯爽登場であった

 

「おわり」

「ちょっと?!何急に終わらせてんのよ!ねぇ!」



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第十六話

「颯爽登場!」

「銀河美少年!タウっ…バーァン!」

 

「繋げるな!」

 

馬鹿な!鈴の奴

俺と晴羽渾身のスタードライバーネタを!?

 

「ん…あれ?お前もしかして鈴音か?」

「ひ、久しぶりね!一夏!」

 

おっと、主人公一夏の台詞が入った

ここからは彼のステージ(鎧武)

なので、俺達脇役は道を譲ろう

 

(実は誰か知ってるが)「誰だ?」

 

敢えて空気を読まずに割り込むだけ割り込んだ晴羽に、張りのある声が直撃した

 

「私は凰・鈴音(ファン・リンイン)、中国の代表候補生よ!」

「俺の幼馴染のリンだ」

 

「………」

「…………」

 

クラスの面々はその瞬間

一瞬でシンクロして、押し黙った

 

「しかしあんた、少し見ない内に何isなんて動かしちゃってんのよ」

「そういうそっちこそ」

 

なにやら再会補正の高いテンションで話し合っている二人の背後で

般若の如き形相に成り果てている箒の存在が理由であることは、想像に難くないであろう

 

「…………すまない、

もうじきHR(ホームルーム)が開始時間になる、なのでそろそろ……えっと、ファンさん?は帰った方が良いだろう、このクラスの担任はご存知世界最強(ブリュンヒルデ)だ、出席簿を喰らいたくなければ撤退するべきだと思うが?」

 

「うっ……千冬さんの一撃……しかも出席簿…?帰らせてもらうわ……」

 

なにやら急に肩を落として

歩き去っていった鈴

 

そして

無情にもチャイムは鳴る

 

「戻るのが遅いぞ鳳!」

「ひっ!ひゃい!」

 

スバァーン!!という、何かが爆発したような音とともに、悲鳴が聞こえる……どうやら一撃受けてしまったようだ

 

哀れなり、中国代表候補(おおとりすずね)

 

 

そして、この爆音は

「試験通りの性能が確認できた…最高だね」

「やはりこれはあの…出席砲か」

 

exactly(その通りだよ)

 

通信で連絡を取り合うながらクスリと笑う

 

「貴様らもなにをしている!」

ガラッ!と教室に踏み込んでくるや否や大声をあげる織斑先生に

晴羽が突撃する

 

「さぁ先生!出席簿ご使用の感想をどうぞ!」「あぁ最高だよ……お前にも一発食らわせてやろう」

 

その瞬間、賢明なる者は身を伏せて耳を塞ぎ、愚かなる女子はその姿を静観した

 

そして

 

ズバァーン!

 

溢れる爆音が全てをなぎ倒した

 

 

 

「レビューにはその身で体験するのが一番だろう?」

「うごぁぁぁぁぁ………貴重な脳細胞が……」「聴覚が……」

 

敢えて聴覚レベルを押さえて脳破壊を防いでいても、なおもダメージを受けるほどの大音響とは、これはもはや兵器なのでは……?

 

「おかしい…設計段階ではこんな威力はないはずなのに……」

 

「『織斑先生が使ってる』っていう条件の下でか?」

「それは想定していなかったよ……」

 

どうも晴羽の想定が甘かったようだ、紙一枚ですらも魔導騎士にかかれば鉄パイプを切断するというし、織斑先生(ブリュンヒルデ)が使うのならばただの出席簿を持ってですらもisの装甲を破壊できるに違いない

 

「チッフ……お前おかしいよ……」

「世界最強がおかしいのは当然だろう?」

 

ことあとしばらく晴羽は起き上がってこなかった

 

 

「…大丈夫か?」

「九龍!?」

「先生と呼べや」

 

晴羽の頭に追い討ちゲンコツ一発を入れた翼は、同時に誰にも見えないように、晴羽のホログラムキーボードに触れる

 

『俺用のは完成したか?』

『現在完成率は85%クルーズモードなら通常通り、スペックは万全

それ以上の機能は未実装だよ』

 

瞬時に手元のデバイスで情報が行き交い、翼せんせーは満足げな表情になる

 

「それじゃあ今日のhrは俺が担当するからよろしくな?」

副担の山田先生がいない代わりに、なかなかのイケメンである九龍がホームルームを執り行う…それに燃えない女子はいなかった

 

「うぉー!」

「やる気が湧いてきますよ!」

「きゃー!」

 

なんというか女子は群れると鈍くなるというが、その通りなようだな

「よし、それじゃあ段取り踏んでいくぞ、今日の朝礼当番だれ?」

 

「はーい!私です!」

 

手をあげるのは名も無き女子生徒

…たぶん名前はない

 

とはいえ、原作は顔出しにしか出てこなくても、ちゃんとパーソナルデータは存在している

 

「はーいじゃあ朝のSHR始めまーす!」

 

テンションが高い女子たちによるショートホームルームのあと、クラス代表によるクラス対抗戦(トーナメント)が近い事が宣伝され

一夏にプレッシャーがかかる

 

当然俺たちは出ないので構わない

どころか晴羽は今にも寝そうだ

 

「おい晴羽」

「………………」

 

眠ってやがる…早すぎたんだ

(風の谷)

 

「クラス対抗トーナメントは各クラス代表しか出ないから俺達はやることないよ…

ないよ、やることないよぉ!」

「剣ない事件やめろ」

 

突然ハイテンションになった晴羽の怪演は結局ごく一部にさか認識されていなかったが

その元ネタを知っている俺たちからすれば爆笑である…が、それは理性で抑えて

 

『いくら無いって言ってもゴーレムは来るだろ』『だから対策してあるよ

対策あるよぉ!』

『だからあるないコールやめろっての』

 

 

 

そして、その日の昼休み

 

 

「待ってたわよ!一夏!」

「…………」「!」「……」

 

俺はそのセリフを邪魔しないためにそっと離れて…全力で首を突っ込む態勢だった晴羽の首を掴んで影に引っ張り込んだ

 

「それで二人は、どういう関係なんだ?」

 

開口一番に突っ込まれるところは

やはり関係のチェックか

 

一夏は年ごとに別の女と出会っては別れているから必然的に知り合いも多いが

こういうブッキングには苦労するのだろう……せいぜいがんばれよ



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第17話

「それで、二人はどんな関係なんだ?」

 

晴羽の言葉に、共に幼馴染を自称し始めた『篠ノ之 箒』(しののの ほうき)『凰 鈴音』(ファン リンイン)の二人

 

見る見るうちに険悪な雰囲気を放ち始めた二人から、馬鹿晴羽を引き剥がし

(アニメ展開を見たかったのはわかるが)

少し離れた席に座る

 

とはいえ、壁仕切りとは逆の、通路を挟んだ隣のボックスであるため

距離的には離れていても視界は良好

二人+一夏の口論を見るにはちょうど良い位置だ

 

 

詳しい流れは俺たちが介入していないから原作と同じ、なので原作を見ることを勧める

 

簡潔に書くのなら『篠ノ之箒幼馴染時代』is発表→束に巻き込まれて箒転校→『凰鈴音幼馴染時代』→鈴音帰国→中学卒 の流れに従う形で時代が推移しており

互いに互いを知らないという状況が明らかになった上で

鈴音のほうが『結婚の約束をした』と言い出すわけだ

 

まぁその内容は未熟な中学生らしい『毎日味噌汁を作る』というような古臭く稚拙なもので、『毎日酢豚を作る』という文だったのだが、その意味を理解していなかった馬夏はそれを覚えているにも関わらず、『毎日酢豚を奢ってくれる』と勘違いしていた

 

鈴音はそれに大層お冠であり

その屈辱(一方的かつお門違いなものだが)をクラス代表トーナメントで晴らすと言ってきたわけだ

 

ちなみに現在の時刻は

午後19時、現在の所在地は

クレナイコーポレーションの本社ビル6階、機械開発部門である

 

「で、フィーネさん」

「分かっているわよ、ストライクのデチューンは現在設計段階よ

性能にリミッターを掛けるだけではうまく動いてくれないし、センサーの超感度が売りの機体なのにそれを下げたら並みの第二世代機にも遅れを取りかねない駄作に成り下がっちゃうわ」

 

「了解、じゃあ今は代用でラファール使いますわー」

「申し訳ないけど、そうして頂戴…ネフシュタンが使えれば…はぁ…」

 

 

「「いや完全聖遺物(それ)はダメだから!」」

俺と晴羽の声が完全に一致した瞬間であった

 

無限の再生能力。

言葉にすれば簡単だが

それを再現するためには永久機関か質量無限増大のどちらかの禁忌を破る必要があるので、どちらにしろアウトだ

 

そもそもSE(シールドエネルギー)を自力で回復するなんてのは、開発者(デザイナー)が使用者を勝者にするために『絶対勝てる機体』として作った八百長機体である紅椿だけである

 

無限くいしばりとかやめてくれよー

頼むよー

 

というわけだ

そもそも絶対防御がどうこうよりも早く回復する関係上、相手のエネルギーが尽きるまで耐えるだけで自動的に勝利するし、それでなくても弾数制限や残エネルギー量を一切気にしないという絶大にすぎるアドバンテージがあるわけだし

適当に撃ちまくるだけで(試合なら)勝てるのだ

 

「俺はそんなチーターにはなりたくないし」「そうだな…『システム上勝てる』機体なんてのは勝負にならないわけだしな…」

 

「その機体の使い方さえ把握してればな、『絢爛舞踏』が常時発動かつ展開装甲の完全操作が出来ればシステム上負けないんだから、使いこなせなきゃ普通の機体と変わらないよ」

 

晴羽と俺とでチート機体を安易に作ってしまう束をディスりながらとりあえずラファールを受け取る

 

「データ取り用の改装機体だから壊さないように気をつけてね?」

「分かってますよ、大丈夫!」

 

機体を専用化はせず

待機形態(仮)の状態である

左腕用の腕輪にして(これはフィーネが設定してくれた)腕につける

 

 

「で、暁と模擬戦するって?」

「第三世代機相手に第二世代機で戦うのって、どのくらい難しいかを知りたいし

それにアレだ、そのファンネル射撃はのちのセシリア戦で役に立ちそうだから」

 

場所は晴羽の世界の中のアリーナ…というか、グラウンド?

 

いかにもなフィールドが広がる擬似環境エリアのなかの一角にあるisの操作練習用の無人エリアだった

 

「よし、暁…起動!」

「ラファール  take off」

 

シーデス機体特有の動きで

ふわり、と浮き上がった晴羽に対し、俺は機械らしく強引な挙動で浮き上がる

 

「いくぞ!」

「こい!」

 

一気に突撃した俺は、蝙蝠のような骨しか残っていない翼からエネルギーを解放し、それを吸収してさらに再放出、さらに吸収して再再度放出!

 

都合三回分の加速で超加速する

イグニッション・ブーストって、出来てはいるけど理論は不明、という

不透明な技術だから、解析をお願いしてたんだけど

 

「そんなの分かり切ってるわよ」

の一言でバッサリされて

そのあと詳細なレポートをもらい

それを読み込んだ結果…理論上は可能な筈の複数回同時圧縮イグニッションは

なぜ行えないのかはすぐに判明した

単純にisの外殻の強度が足りないのだ

 

故にアラートに止められる

ならば、単純に耐えられる強度を用意すればいい

 

それは簡単なことだ、そう

ガンダニウムがある、サイコフレームがある、PS装甲がある、この『軸と歯車の太陽系』に於いては、その程度の話は楽勝で片付くのだ

 

というわけで、最高5回分の圧縮イグニッション・ブーストに成功したデータを持つこの機体『ラファール・エンプティ・ドレス』…別名を『魚の骨』を使って、速度で上回る戦い方をする

 

「というわけだ!」

「プレラーティかな?!」

 

ビームサーベルを発振される前に突撃して、加速しながら太刀を展開、

それを一気に突き出し…投擲する

 

危なげなくそれを弾く晴羽

しかし、視界を遮る太刀が行き過ぎるまでの一瞬、その視界は閉ざされ…

その一瞬は、俺にとって捉えるに難くない時間として与えられた

 

「しぇぁあっ!」

 

突き出すのは本命のシールド

先端を削った尖形のシールドは

無論盾として使うだけではなく、その先端による打突をも可能とする

 

「たては…さいきょうなのです!」

「たてにもーっと、頼っていいのよ!」

 

絶望的なビジュアルの男二人での格闘戦、二人とも声真似が妙にうまいのが救いか

 

「シールドは邪魔だなおい?」

「クラス、シールダーのサーヴァントがいるものでね」

 

「ローマ(ボソッ)」

「黄金聖闘士が来るからやめて!」

 

悲痛な叫びは、結局なんの意味もなく

そして晴羽が憂慮していた

ローマ座の黄金聖闘士はというと

 

…警備部の控え室にいたため、別に呼ばれたことを感知していなかった

 

 

「うぉぉっ!」

「盾と棒があれば十分!」

 

突き出される盾は風を切り

反撃は拳と槍を織り交ぜ、互いに互いの攻撃をかわし合う

 

どれだけの時が経ったのか

それも考える余裕はないが

時間加速を使わずにやればこの程度か

 

「…スタートアップ」

 

時間加速、5倍速

五倍に引き上げられた体内速度をそのままに、急激に減速した相手の槍を

上に乗ることで足場とし

跳ね上げられるそれを利用して跳躍

 

さらにビームライフルを放つ

当然それはシールドで弾かれるが

バリアは無展開、シールドに傷が刻まれる

 

「はぁぁぁっ!」

「っ!」

わずかでも狙いを逸らせば装甲材に反射される事も厭わず、俺は躊躇なくビームライフルを連射し

 

全弾を完全に命中させる

 

「流石だね、思考加速ってのは」

「へっ…よくいうよ全くね」

 

着地の反動を無理やり

慣性制御で上方向へ変換して、

大きく飛び上がる

 

「エアキック・ターン!」

 

跳躍した直後、その起動を読まれた反撃

飛行方向の160°変換によって

相手の方向に向けて急加速突進する

 

「これで俺の…勝ちだ!」

 

減速する視界の中で

晴羽が笑うのが見えた

 

「!」

 

反転加速をかけるも、

PICの性能が追い付かず

 

そのまま、急激に展開した十数メートルの剣に貫かれる

 

「試作剣、対艦刀askaionn

実際に対艦刀を作ったらこうなるっていう試作用のブレードだよ」

 

「…そうかよ…」

 

決着の光が浮かぶ視界で答えた

 

 

ラファールエンプレスは

ものの見事に大破した



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クリスマス特別編 サンタ

①ウチの束さんはゆるゆるやわやわ
②晴羽はイケメン
③束さんは巽を同類と思っている


「で、貰ってしまったが、どうする?」

 

「……どうする……といっても、食べるしかないよね」

 

貰ってしまった、というのは

冷蔵庫に入れられたクリスマスケーキ

ケーキ兼プレゼント、というべきだろうか?

 

「お前、ワンホール食べ切れるか?」

「無理、僕には無理」

 

そう、このケーキ

6号サイズワンホールの……いわばパーティ用ケーキなのである

クリスマスパーティーに出すのなら文句ない出来であるが、だからといって

たった二人で食べ切れるほどのサイズではない

 

「一夏を呼ぶか?」

「いや、たしか一夏はまだみんなのオールナイトパーティーに参加してるよ

シャルロット達に引っ張り出されてたし」

「……そうだな」

 

沈鬱な空気が流れる

冷めたコーヒーとすっかり熱が抜けてしまった『元』カフェオレを二人で啜りつつテーブルの向こうにある冷蔵庫を眺める

 

「プレゼントを無碍にするわけにもいかないし、クレナイコーポの社屋ならたしか……」

「-40°で凍結保存、か?

少しずつ食べようというのはわかるが、それはそれで無碍にしている気がするぞ」

 

二人の議論は終わらない

 

 

「……結局少し食べて終わりか」

「先生達に切り分けるってのもダメだったし、本当に凍結保存かな」

 

イリヤが作ったとするなら大した腕前だ

そもそもイリヤスフィールフォンアインツベルンに料理の経験などないだろうし

()()本人の腕なのだろう

 

「仕方ない、このまま腐らせてしまうよりはマシだろう」

「そだね」

 

ケーキの箱を閉じて空間転移した晴羽がそのまま姿を消す

 

「歯磨いて寝るか」

 

いくら炎があっても歯を磨くのは習慣だし、衛生観念から見て当然のことだ

 

「……午前2時、もう寝ないと明日に障るな」

 

雪の降る中、夢と流星と(イリヤ)を迎え

プレゼントを受け取った

子供達の夜は更けていく

 

「晴羽!巽!」

「おはよう、一夏」

「おう」

 

朝一番一夏に声をかけられて

ウザがりながらも返事を返す2人

正直に言って『モテる男は女とだけ絡んでいればいい』『さっさと失せろ』オーラがガン出しになっているのだが、一夏はそれに全く気づく様子がない

 

「お前らクリスマスパーティー途中で抜けやがって!おかげで大変だったんだぞ!」

「……ぶっちゃけ僕らいない方がいいだろうさ」

「俺が居ようと居まいと関係なかったと思うぞ?」

 

息の揃った連続攻撃で一夏の魂の叫びを遮断する二人、そしてそのまま一夏を黙らせるべくプレゼントを投げつけた

 

「「ざまぁ」」

 

「お前らァァァァッ!」

「ははッ!笑ってられれば良いじゃないか

僕なんて笑えないよ?

なんせ今までもらった事なんてなかったんだし!」

「……哀切な声はどうにかならないのか」

 

「ならなんで交換会抜けたんだよ」

「ぇ?だって束さん来たし」

 

クリスマスパーティーのプログラムにあったプレゼント交換会

二人はその途中に起こったウサギ(たばね)乱入事件に乗じて抜け出してきたのだ

 

「これ以上面倒なことはしていられないからな」

 

そろそろ時間、というところで言葉を切り

そのままクラスへと向かう

3人揃ってA組ではあるが、席は離れている

もらったプレゼントが誰の出したものかを知りたがっている彼女たちの好奇心を利用して

一夏に人だかりを作って構わせてやった

 

「ねぇねぇ!」「一夏くーん!」

「このマリモ誰のだかわかる?」

「ちくわ大明神」

「ねぇ誰よ今の」

 

大盛況に埋もれてこちらに注意を向けられなくなった一夏を尻目に悠々と教科書を出して

その直後に驚愕

 

「……マジかよ」

 

教科書の表紙に貼り付けられていた付箋

兎型のそれは間違いなく

 

「あのウサギのラボの所在…!?」

 

特大の爆弾(プレゼント)を投げつけてきたウサギのものだった

 

「晴羽」「うん」

 

晴羽も同じものを見たのか、血相を変えて立ち上がる

 

「製造機に事故があったみたいなので現場を確認に行きます」

「同じく!」

 

適当に言い訳を捏ねて走り出した

 

「晴羽、人目を避けてデンライナーッ!」

「いやゲートを使う!トイレに!」

 

男子トイレに飛び込んだ晴羽が開いた空間転移ゲートへとダイブし

そのまま世界を飛び越えて行く

 

「「転移ッ!」」

 

連続展開されたゲート、制御限界で遠い場所になってしまったゲートへ、青黒い炎が道をつなぐ

 

座標把握は完璧

光に迫る超速でのステルスも完璧

そして移動先での行動も、完璧

仕掛けられていた監視カメラやセンサーをステルス突破して、そのままラボへ侵入した。

 

「……あ、きたね〜二人とも

いらっしゃーい!」

 

天井から聞こえたその明るい声に警戒する二人だが、降ってきたのは

 

「present for yours!」

 

投げられてきた小包が二つ

炎で反撃するべきかを一瞬考えて、普通に受け止める

 

「……中身は?!」

「それはお楽しみ、さぁ開けてみて!」

 

晴羽が前に出て、こちらに声をかけてくる

 

「先にどうぞ」

「……わかった」

 

意を決して小包を開ける

中に入っていたのは見覚えのある球体

 

「予備に保管していた番外機(ロストナンバー)コア、あげちゃった!」

「……晴羽、次はお前だ」

 

「了解……うわ……」

 

晴羽も自分の小包の中をみて驚嘆の声を上げる

 

「それはヒトの思考パターンを封入した超回光クリスタル、てきとーに作ったけど要らないからあげる!」

「……禁忌をホイホイと……」

 

人間の思考パターンのコピー

それは『ヒトの人たる意志』を複写し、模造する禁忌の術

あるべきではなく、記されるべきではない

そんな禁忌の技術でできた結晶を捨てる感覚で人に渡してしまうそのウサギに恐怖しながら、

晴羽はそのクリスタルを仕舞い込んだ

 

「二人には私のプレゼント渡してなかったからね、もーっ!なんでいなくなっちゃうのさ!」

「……そりゃあ……」

「突然乱入なんてするからだよ」

 

ぷんすかぷん!と自分で言いながら怒るジェスチャーを取った束を見ながら

そっと呟く二人、しかしその言葉は確実に届いているにもかかわらず黙殺され

 

「さぁ、私にプレゼントちょーだい!」

 

サンタ衣装のウサギが跳ねた



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