遊戯王ARC-V 千変万化 (ユキアン)
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第1話

「父さんは逃げてなんかいない。だけど、この場にいないのは事実だ。だから不戦敗でも仕方ない。だから、このオレ、ランキング4位、『千変万化』榊遊矢が新チャンピオン、ストロング石島にデュエルを申し込むぜ!!」

 

「ほう、榊遊勝の息子か。最年少プロとは聞いていたが、すでに4位だったか」

 

「昨日11位から上がったばっかでね。それで、オレからの挑戦は受けてくれるのかい?」

 

「ただのガキなら断る所だが、4位ならチャンピオンへの挑戦権が存在する。良いだろう、来い!!親父が逃げたんじゃないと証明してみせろ!!」

 

「そうこなくっちゃ。戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が、モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る。見よ!!これぞデュエルの最終進化系!!」

 

「アクション!!」

 

「デュエル!!」

 

「俺の先行だ。クリバンデッドを召喚。カードを一枚セットしてターンエンド。エンドフェイズ、クリバンデッドをリリースして効果を発動。デッキを5枚めくり、その中に魔法・罠カードがあれば1枚を手札に加え、残りを墓地に送る。俺は蛮族の狂宴LV5を手札に加える」

 

 

ストロング石島 LP4000 手札4枚

セットカード1枚

 

 

「オレのターン、ドロー!!まずは召喚師セームベルを召喚。そして効果を発動。セームベルと同じレベルのモンスターを手札から特殊召喚できる。オレは手札から白魔導士ピケルを特殊召喚」

 

セームベルの効果でピケルが呼び出され、仲が良さそうに二人ではしゃいでいる。

 

「カードを3枚伏せてターンエンド」

 

遊矢 LP4000 手札1枚

召喚師セームベル ATK800

白魔導士ピケル ATK1200

セットカード3枚

 

「なんだ、そのデッキは?」

 

「見て分かんない?」

 

「いや、まさかな。俺のターン、ドロー。魔法カード蛮族の狂宴LV5を発動、墓地からバーバリアン2号、手札から1号を効果を無効にして特殊召喚。そして2体をリリースし、現れろ、バーバリアンキング!!」

 

バーバリアン・キング(アニメ版) ATK3000

 

「バーバリアン・キングはバーバリアンをリリースして召喚した時、2回攻撃ができる。やれ、バーバリアン・キング!!小娘共を粉砕せよ!!」

 

「幼女に襲い掛かるなんてまさに蛮族!!この人でなし!!」

 

「デュエルにそんなものは関係ない!!」

 

「確かに。だけど、忘れちゃいけないな。彼女達はこんな見た目でも魔法使い。決して蛮族には手に入れることのできない力の持ち主達だ。そしてオレだって魔法使いだ。1・2・3!!」

 

バーバリアン・キングの棍棒がセームベル達を薙ぎはらう直前、オレを含めて煙に飲まれて姿を消す。

 

「どこに消えた!?」

 

「こっちだよ」

 

塔の上から声をかける。

 

「アクションマジック、大脱出を発動したのさ。バトルフェイズは終了させてもらったぜ」

 

両隣にいるセームベルとピケルが観客に手を振る。歓声があがり、二人が嬉しそうにする。

 

「くっ、ターンエンドだ」

 

「エンドフェイズ、伏せてあった偽りの種を発動。手札からアロマージ-ジャスミンを守備表示で特殊召喚」

 

アロマージ-ジャスミン DEF1900

 

「まさか、貴様、アイドルデッキか!!」

 

「ノンノン、こいつは確かにアイドルデッキに見えるだろうが、その正体はアロマージ軸の幼女デッキだ!!」

 

「大して変わらんだろうが!!」

 

「かわいいは正義だぜ、チャンピオン。見た目で侮ってると痛い目を見るぜ。お楽しみはこれからだ。リバースカードオープン、永続罠、潤いの風、乾きの風。まずは潤いの風でライフを1000払い、アロマージ-ローズマリーを手札に加える。さらにもう一つの効果、相手よりライフが少ない時500LP回復する」

 

遊矢 LP4000→3000→3500 手札1→0→1

 

「ライフが回復したことで乾きの風とジャスミンの効果が発動する。ジャスミンは1ターンに1度ライフが回復した時に1枚ドローする。そして乾きの風は1ターンに1度ライフが回復した時に相手の場の表側表示のモンスターを破壊する。オレはバーバリアン・キングを選択して破壊でターンエンドだ」

 

「なんだと!?なぜ、バトルフェイズにこれらを使わなかった!?」

 

「その方がエンターテイメントだからさ。大脱出以外を拾っていたらこいつらを発動したさ。舐めているわけじゃない。だけど、観客をもっと楽しませる演出ができたからやる。勝ち負け以前に楽しませるのがオレのエンタメデュエルさ」

 

ストロング石島 LP4000 手札3枚

セットカード1枚

 

「オレのターンだ。スタンバイフェイズ、ピケルの効果を発動。オレの場にいるモンスターの数かける400のライフを回復する」

 

遊矢 LP3500→4700

 

「そしてジャスミンの効果でドロー。いいカードだ。黒魔道師クランを通常召喚。ジャスミンのもう一つの効果、自分のライフが相手よりも多いとき、通常召喚とは別に、ジャスミン以外の植物族を召喚できる。来い、アロマージ-ローズマリー」

 

黒魔道師クラン ATK1200

アロマージ-ローズマリー ATK1800

 

「う~ん、セットカードが恐いな。潤いの風のサーチ効果でカナンガを手札に加えてカードをセット。ターンエンドだ」

 

遊矢 LP3700 手札2

召喚師セームベル ATK800

白魔導士ピケル ATK1200

アロマージ-ジャスミン DEF1900

アロマージ-ローズマリー ATK1800

黒魔道師クラン ATK1200

乾きの風

潤いの風

セットカード1枚

 

「俺のターン、ドロー!!くっ、カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「エンドフェイズに潤いの風のサーチと回復、そしてジャスミンの効果を発動。2枚目のジャスミンをサーチしてドロー」

 

ストロング石島 LP4000 手札3枚

セットカード2枚

 

「オレのターン、ドロー。スタンバイフェイズにピケルの効果で回復。ジャスミンでドロー」

 

遊矢 LP3200→5200

 

「手札を1枚捨ててツインツイスターを発動。魔法・罠を2枚まで選択して破壊する。オレはそっちの伏せカード2枚を選択」

 

「ミラーフォースと攻撃の無力化が!?」

 

「さあ、これで怖いものはなくなった。バトル、セームベル、ピケル、クラン、ジャスミンの順で攻撃だ!!」

 

「まだだ、まだ終わらん。ジャスミンのダイレクトアタック時、アクションマジック、回避を発動!!これで俺のライフは残る」

 

ストロング石島 LP4000→800

 

「それはどうかな?」

 

「なにっ!?」

 

「速攻魔法、ダブルアップチャンス。攻撃が無効にされた時、無効にされたモンスターの攻撃力を2倍にして再度攻撃できる。みんな、ストロング石島に抱きついて動きを封じるんだ」

 

ジャスミン以外の幼女たちがストロング石島の巨体に抱きついて動きを封じる。

 

「くそっ、離せ!!アクションマジックが」

 

「アクションマジックは拾わせないさ、ストロリコン石島!!」

 

「勝手に名前を改変するな!!」

 

「さあ、お楽しみはこれまでだ!!ジャスミンでダイレクトアタック」

 

ジャスミンの攻撃が当たる直前、抱きついていたみんながストロリコン石島を盾にするように背後に逃げる。

 

「くそおおおおお!!」

 

ストロング石島 LP800→0

 

「チャンピオンの座GET!!父さん、帰ってくるまではなんとか死守してみせるから、だから早く帰ってきて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

チャンピオンになって2年半、未だに父さんは帰ってこない。遊勝塾は父さんのファンだった人たちが辞めて、規模は小さくなった。オレはオレでラジオやインターネットの動画サイトでリクエストがあったカードをメインにしたデッキを紹介したり、遊勝塾の講師をしたり、チャンピオンの防衛戦をこなしながら過ごしている。

 

この2年半でいつまでチャンピオンの座を守ればいいのかと何度も自問してきた。正直言って疲れ切っていた。その姿に母さんや親しい皆が心配してくれるのだが、それが逆に辛いと感じてしまうほどに疲れ切ってしまった。最近では、柚子すら避けるぐらいに。作った笑顔で周りを楽しませるピエロ。それが今のオレだった。

 

オレは自分の笑顔を取り戻したい。父さんが心配するだろうから。だから、オレのことを知らない場所に行きたかった。半年の休暇を貰い、オレは旅に出た。そして、オレは戦場にたどり着いた。どうやってここまで来たのかははっきりと覚えていない。

 

だが、目の前で巨大な機械族モンスターが街を破壊している。そして、逃げ惑う人々をカードに変えていく奴ら。

 

「デュエルモンスターを侵略に使うなんて。許さない!!」

 

あの巨大な機械族モンスターの攻撃力は分からないが、とりあえず5000と仮定して攻撃力で倒せるデッキ。あれだ!!

 

「罠カードを3枚セットしてリリース、ウリア!!さらにディープ・ダイバーを召喚してモンスターゲートを発動。ディープ・ダイバーをリリースして通常召喚可能なモンスターを引くまでカードを引き、それ以外を墓地に送る。引いた闇の仮面を守備表示で特殊召喚。そして、墓地に送られたのは21枚の罠カード。これによってウリアの攻撃力は24000!!行け、ウリア!!彼奴らを止めろ!!」

 

ウリアの頭の上に立ち指示を飛ばす。目に見える範囲で10体のモンスターが見えるが、それらはウリアの一撃で破壊されていく。だが、その間にも逃げまどう人たちが次々とカード化されていく。そんな中、父さんと父さんのEMが一瞬だけ見えた気がした。だけど、それも見失ってしまう。気にはなるが、今はこの町を襲う奴らの相手が優先だ。

 

「ウリア、目に付くでかいのを破壊していけ!!」

 

ウリアの背中を滑り降り、近くにいたカード化を行っている仮面の男を殴り飛ばしてデュエルディスクを奪う。デッキを抜き取り、オレのデッキに入れ替えて戦場を走る。

 

「ゴブリンドバーグを召喚、効果でゴゴゴゴーレムを特殊召喚。2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。希望と可能性の光を身に纏い、未来を切り開け!!No.39 希望皇ホープ!!可能性の先にある奇跡の雷光、SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング!!そして手札のZW-阿修羅副腕と雷神猛虎剣を装備。全てを薙ぎ払え、ホープ剣ライトニングスラッシュ!!」

 

カード化を行っている奴らは色違いの制服を着ているので判別はしやすく、デッキもアンティークギアで統一されている。それらをライトニングの全体攻撃で打ち倒していく。ライフが0になった奴らは姿が消える。理由はわからないが、再び倒すことを考えれば楽でいい。あらかた片付けたところでこんな所に居るはずのない女の子を見つける。

 

「柚子!?」

 

柚子が誰かに追い詰められている。カード化なんてさせるか!!

 

「ライトニング!!」

 

オレの指示で、ライトニングが柚子と追い詰めている男の間に割り込み、雷神猛虎剣を振るう。男が後ろに跳躍し、その間にオレも柚子の前に立つ。そこで初めて相手の顔を見る。

 

「「何っ!?」」

 

男とオレが同時に驚く。そこにいたのは、オレと同じ顔をした男だった。

 

「オレと同じ顔だって?」

 

「貴方も、ユートじゃないの?」

 

背後に庇っている柚子がそんなことを言う。じゃあ、この娘は柚子じゃないのか。まあ、守るのに変わりない。

 

「分が悪そうだ。今日の所は引かせてもらおう。魔法カード、ヴァイオレットフラッシュ」

 

オレと同じ顔をした男が魔法カードを発動させると紫色の閃光が発せられ、収まった頃には男の姿は消えていた。

 

「瑠璃ーー!!何処にいるんだ!!」

 

「お兄ちゃん!?」

 

「そっちか!!っ、ユート?だがそのデュエルディスクは奴らの、両手にデュエルディスク?」

 

柚子に似ている女の子がお兄ちゃんと呼んだ相手が混乱している。

 

「とりあえず、オレには君達と敵対する気はないよ。それより、あの制服を着た連中はどうなってる?」

 

「あ、ああ、でかい機械族モンスターは全部あの赤い竜みたいなモンスターが倒した。今は大人しくしているがいつ動き出すかわからない」

 

「ああ、ウリアはオレが召喚したモンスターだ。放っておいても大丈夫だけど、あまり近づかないように」

 

「そうか。あのウリアとかいうモンスターのおかげで被害が格段に減った。制服組だが、ほとんどが撤退したようだ。今は救助活動中だ」

 

「そうか。なら、オレは避難所には行かない方が良さそうだから救助に回るよ。ああ、できればデュエルディスクを貸してくれないかな?あいつらから奪ったやつだと判別しにくいでしょ?」

 

「いいだろう。予備のディスクだ」

 

投げ渡されたディスクと奪ったディスクを交換して、再度同じ布陣を整える。

 

「あの、あなたの名前は?」

 

「オレかい?オレは、榊遊矢。世界一のエンタメデュエリストを目指してる男さ!!まずはこの街のみんなを笑顔にしてみせるさ!!」

 

「ふざけるな!!笑顔だと?この惨状を見ろ!!故郷を滅ぼされて、笑顔になどなれるわけがないだろうが!!」

 

「いいや、笑顔にしてみせるね。デュエルは侵略や復讐の道具なんかじゃない。最高の娯楽なんだから。昨日までの君だってそう思っていたはずさ」

 

「それは、だが、現実を見ろ!!今の俺たちに必要なのは笑顔なんてものじゃない!!奴らを滅せる力だ!!貴様もその力を俺たちに貸せ!!」

 

「確かに戦士である、あろうとする君はそうだろう。だけど、戦えない者達だっている!!そんな人たちが心折られ、生きる希望を失わないように笑顔が必要なんだ!!だから、オレはオレの戦い、みんなを笑顔にするエンタメデュエルをやめるつもりはないさ」

 

「エンタメデュエル、それに榊って、もしかして遊勝先生の?」

 

オレとそっくりな男に狙われていた瑠璃と呼ばれた女の子が父さんのことを知っていた。つまり、あの時見えたのは父さんなんだ。

 

「父さんのことを知っているの!?」

 

「えっと、榊遊勝先生、遊勝塾っていうのを開いていて、デッキはEM、マジシャンみたいな格好をしているけど」

 

「父さんだ。やっと見つけた。父さんもいるなら、みんなを笑顔にするなんて簡単さ。超一流と一流のエンタメデュエリストが揃ってるんだから」

 

「遊勝先生がよく話していた遊矢君なのね」

 

「どんなことを話したのか気になるんだけど」

 

「みんなを笑顔にするのを頑張ってるけど、それ以上にカードを愛しているって。捨てられているカードでデッキを作って、それでデュエルに勝利する。使われるモンスター達も、喜んでいるって」

 

「あ~、うん、確実に父さんだ。捨てられたカードでデッキを組んだのを知ってるの父さんだけだし」

 

はじめは、EMが使いにくくて使えるカードを探して捨てられているカードを拾い集めていただけなんだけどね。だけど、どんなカードにだって輝ける方法があることを知って、EMを輝かせる方法を見つけた。見つけたけど、そのおかげでオレのEM達を使うわけにはいかなくなった。誰も持っていないカード、ペンデュラム。オレが書き換えてしまったカード達。誰にも見せるわけにはいかなく、父さんとのデュエルとしか使えないカード達。だけど、あれ以上に見ている人たちを笑顔にできるカードはない。

 

「まずは救助作業だな。それから治療を行って、みんなを笑顔にするのは最後だ」

 

「待って、私も行くわ」

 

「瑠璃!?」

 

「ごめんね、お兄ちゃん。お兄ちゃんの考えもわかるけど、彼の考えの方が私には合ってるの」

 

そう言って瑠璃と呼ばれた少女は鳥獣族のエクシーズモンスターを特殊召喚して、その背に乗り、オレの首元を掴ませて空を飛ぶ。

 

「ちょっ!?」

 

「それじゃあ、お兄ちゃん後でね」

 

「瑠璃ぃ!?くっ、榊遊矢!!瑠璃に傷をつけたら許さんぞ!!」

 

首がしまって言い返せないどころか、窒息しそうになっているので先に体勢を整えるところから始める。鳥獣族エクシーズモンスターの足首を掴んで、逆上がりの要領で勢いをつけて飛び上がり、瑠璃と呼ばれた少女の隣に捕まる。

 

「ブハァ、窒息するところだった」

 

「へぇ、すごいね。あの状態から飛び上がるなんて」

 

「これでもアクションデュエルのチャンピオンだからね。あれぐらい出来て当然さ。オレの住んでいるところの遊勝塾はオレがデッキ構築なんかの座学を、父さんの友人の塾長がアクションデュエルの立ち回り方を実技で教える形だからね」

 

「すごいのね。あれ、でも私と同じぐらいの年齢だよね?」

 

「この前15になったばかりだよ。10歳からプロとして活躍して、12でチャンピオン。そこから2年半、チャンピオンと塾の講師と中学生を掛け持ちで活動してたんだけどね。だけど、無理をしすぎて心をね、病んじゃった」

 

「大丈夫だったの?」

 

「いいや。全然大丈夫じゃなかった。家族や幼馴染がオレのことを心配してくれているって頭では分かっているのに、それがチャンピオンだからって思うようになっちゃってね。このままじゃ、何を言ってしまうか怖くなった。だから、半年ほど休暇をもらって世界を旅してきた。オレのことを誰も知らない場所を求めて。そしてたどり着いたのがこの街だ。街が壊されているのを見て、オレは思い出した。デュエルは侵略や復讐の道具なんかじゃない。最高の娯楽なんだってことを。それをまずはこの街のみんなに思い出してもらいたい」

 

父さんだってそうだ。チャンピオンなんて物よりも榊遊勝という一人のデュエリストとしてみんなを笑顔にしていたんだ。

 

「チャンピオンなんて肩書きの前に、オレは榊遊矢って名前の一人のデュエリストなんだって思い出させてくれたこの街に、オレがとっておきの笑顔にしてみせる。それがオレが今一番やりたいことだ」

 

忘れていたワクワクをオレは取り戻した。このワクワクをみんなに届けるのがエンタメだ。さあ、どうやって届けようか。

 

「ねぇ、私にも手伝わせてくれる?」

 

「もちろんさ。オレが笑顔にできない人も、君になら笑顔にできるかもしれない。最終的にみんなが笑顔になればいいんだから」

 

「黒崎瑠璃、瑠璃って呼んで」

 

「じゃあ、オレも遊矢でいいよ。プロでの二つ名は『千変万化』多数のデッキを使うデュエリストさ。座右の銘は『誰にでも輝ける瞬間はある』稀にどう使っていいのかわからないカードはあるけどね。新しく製造されるカードに期待する」

 

「例えば?」

 

「同じレベル、同じ種族、同じ属性、攻撃力1901以上、通常モンスター、ステータスが両方低いカードかな」

 

「攻撃力1900?そんなラインあったかしら?」

 

「条件が攻撃力1500以下のリクルーターと地獄の暴走召喚が使えず、1900以上のモンスターとの戦闘で破壊されない翻弄するエルフの剣士やロードランナーを破壊できないラインだ。ステータスが高い方はいざ知らず、低い方はどうすればいいのかわからないや。まあ、持っていないからって理由か、デザインで気に入っているからとしか言いようがないかな。ああ、いや、禁止令や夜霧のスナイパーなんかの対象名を指定するタイプのカードを回避するためもあるか」

 

「すごい知識量ね」

 

「これぐらいは覚えてないとモンスター達を輝かせれないからね。あと、輝かせても負けるのは悔しい」

 

そんなオレの言葉を聞いて瑠璃が笑う。彼女は瑠璃なのに、柚子のことを思い出して胸が苦しくなる。

 

「うん、負けるのは悔しいよね」

 

「そうだよな」

 

オレの記憶にある柚子は笑顔じゃない。泣きそうな、苦しそうな、そんな顔しか思い出せない。エンタメデュエリスト失格だな。まあ、それがわかっただけでも意味はある。帰ったら、一番最初に笑顔にしてみせる。



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第2話

エクシーズ次元のハートランドにやってきて4ヶ月が経った。どうやらオレは次元を超えていたらしい。なんでだろうと悩んだこともあったが、それだけだ。みんなを笑顔にするのに忙しかったし、瑠璃がよく話しかけてきて隼が陰から覗き込んでいたり、ユートがミラーマッチでオレに負けて落ち込んだり、ハルトがオレに懐いてカイトが嫉妬して襲ってきてハルトに嫌われて落ち込んだのを光波竜以外の銀河眼で釣って復帰させたりと色々なことがあったからな。

 

「いいか、スタンダードにはエクシーズ以外にも融合もシンクロも存在する。融合やシンクロを使うからってアカデミアではない可能性が高い。分かってるか、隼」

 

「分かっている。仕掛けられない限りは手は出さない。だが」

 

「分かってる。相手がアカデミアで、侵略に積極的な奴なら、反逆の翼と牙で葬ればいい。それでスタンダードに行くのはオレと隼と瑠璃の三人なんだな?」

 

「ああ。オレとカイトはこっちに残る。こちらのことは任せろ」

 

「頼んだぜ、ユート。いざとなればフルバーンかデッキ破壊で一気に片付けろよ。まだ、倒れるわけにはいかないんだからな」

 

「負けた以上は分かっているさ、遊矢」

 

「でも、面白かっただろう?超量幻影騎士団は」

 

「まあ、確かにそうだな。あの超量エクシーズモンスターはかなり特殊だった。子供達も喜んでいたしな。エンタメデュエル、今なら思い出せる。デュエルは最高の娯楽だったことを。全てが終わったら、また、あの頃のような笑顔で溢れるようにしたいと」

 

ユートの言葉にみんなが首を縦にふる。

 

「さて、それじゃあ行くか。オレは帰るかだけどな。というか、未だにオレと父さんが次元を超えた原因がわからないんだよな」

 

父さんは、第一次アカデミア襲撃の際に途中まではいたことが確認されていたのだが、行方知れずとなってしまった。多分、他の次元に、融合次元に飛ばされたんだと思う。あまり心配はしてないけど。3年前は、まさか他次元に飛ばされてるなんて知らなかったから心配だったけど、今は知っている以上死んではいないって分かってるからな。

 

ちょっとグダグダになりながらもオレと隼と瑠璃の三人はスタンダード次元へと飛ぶ。

 

「ハハッ、何も変わってねえな。それが、今は何よりも嬉しい」

 

スタンダード次元へと戻る際に少しだけ不安があった。ハートランドのように舞網市がアカデミアの侵略を受けているんじゃないかって。それも杞憂で済んだことに安堵する。

 

「ここが遊矢の故郷なんだ。あら、ねえ遊矢、あれ!!」

 

瑠璃が何かに気づき、指を指している。指している先にあるものを見て笑いがこみ上げてくる。

 

「ごめんね、二人とも。先に用事を済ます必要があるみたいだ」

 

視線の先にはでかでかとオレの姿が映っている。

 

『半年ぶりのタイトル防衛戦、親子揃って逃走か?』

 

 

 

 

 

 

 

 

開始時刻が迫る中、オレは瑠璃のブレードバーナーファルコンに乗っている。

 

「遊矢、見えてきたわよ」

 

「助かったよ、瑠璃」

 

「ううん、お兄ちゃんのせいで遅れそうになっているんだからこれぐらいはね」

 

スタンダードに戻ってきて一番最初に行ったのが、LDSの社長、赤羽零児の元に隼を連れて行くことだった。本来なら防衛戦にまで時間がなかったので先に会場に向かって防衛戦を行ってから向かおうとしたのだが、隼が先に会わせろとうるさかったのでLDSに向かったのだ。そして、チャンピオンの知名度でごり押ししてなんとか赤羽零児との会談を取り付けて、ついでにペンデュラム召喚のことを仄めかしておいた。

 

その後、急いで会場に向かうために瑠璃に送ってもらっているのだ。そして時間ギリギリに会場の上空にたどり着いた。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

そのままブレードバーナーファルコンから飛び降り、2枚のカードをデュエルディスクに置く。

 

「EMバリアバルーンバグ、EMトランポリンクス」

 

2体のモンスターを踏み台にして地面に着地する。

 

「Ladies and gentlemen.榊遊矢によるエンタメデュエル、楽しみにしていてくれたかな?」

 

オレの登場に会場が盛り上がる。

 

「巷じゃ心を病んで逃げ出したって言われてるけど、この通り、新たなカードと共に帰ってきたよ。今日はみんなにその新しいカード達を紹介しよう。準備の方はいいかな、サイバー流師範マスター鮫島?」

 

「ええ、私も楽しみにしていましたよ」

 

「それじゃあ、ニコ・スマイリー!!デュエル開始を宣言しろ!!」

 

『えっ、あっ、はい!!戦いの殿堂に集いしデュエリスト達が、モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る。これぞデュエルの最終進化系』

 

「アクション!!」

 

「デュエル!!」

 

「先攻は挑戦者からなんだけど、サイバー流だと後攻のほうが有利だっけ?どうする?」

 

「では、後攻をもらいましょう」

 

「OKそれじゃあ、オレのターン。オレはペンデュラムモンスター、EMドクロバット・ジョーカーを召喚して効果を発動。召喚に成功した時、デッキから『EM』モンスター『魔術師』Pモンスター『オッドアイズ』モンスターをデッキから手札に加えることができる。オレはオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを手札に加えるよ。そしてフィールド魔法、天空の虹彩を発動。自分フィールドのカードを破壊してデッキから『オッドアイズ』カードを手札に加えれるよ。オレはドクロバット・ジョーカーを破壊して2枚目のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを手札に加える。そして、フィールドから墓地に送られたペンデュラムモンスターはエクストラデッキに加わるよ」

 

「普通のデッキに入っているモンスターがエクストラデッキに?」

 

「お楽しみはもう少し先さ。さらに手札を1枚墓地に送って魔法カードペンデュラム・コールを発動。デッキから名前の異なる『魔術師』Pモンスターを2枚手札に加える。オレは、慧眼と竜脈を手札に加える。カードを1枚伏せて、2体のオッドアイズをペンデュラムゾーンにセット」

 

オッドアイズをセットすると同時にオレの左右に青い光の柱が立ち上がり、その中にオッドアイズが浮かんでいる。そしてその下に4が書かれている。

 

「これは一体!?」

 

「そしてエンドフェイズ、ペンデュラムゾーンにセットされているオッドアイズを破壊する。そして攻撃力1500以下のPモンスターを手札に加える。オレはEMギタートルとモンキーボードを手札に加える。先ほどと同じようにオッドアイズはエクストラデッキに送られる。これでターンエンドだ」

 

榊遊矢 LP4000 手札4枚

場 天空の虹彩

セットカード1枚

 

「私のターン、ドロー!!」

 

「スタンバイフェイズにリバースカード発動、和睦の使者。このターン、オレのモンスターは戦闘では破壊されず、戦闘ダメージも受けない。まあ、モンスターはいないけどね。それからこのタイミングで和睦の使者を発動している理由がわからない人たちに説明しよう。通常魔法、ナイトショットというカードがある。このカードは相手の魔法・罠を破壊する効果があるんだけど、これに対象を取られたカードはチェーンで発動することができない。今ここでナイトショットを握られていた場合、オレの場はガラ空きとなり、サイバーの融合モンスターを出された時点でオレの負けとなる。そのリスクを回避するためのスタンバイフェイズでの発動だ。覚えておいたほうがいいよ」

 

「確かに私の手札にはナイトショットがありますが、そこまで読み切りますか」

 

「アクションマジックだって万能じゃない。最低限の保険は用意しておくものだよ。それでどうする?」

 

「そうですね、サイバー・コアを召喚して効果でサイバー・ヒドゥン・テクノロジーを手札に加えます。そして、カードを2枚セットして、融合を発動。手札のサイバー・ドラゴンと場のコアを融合。融合召喚、サイバー・ツイン・ドラゴン!!そしてターンエンドです」

 

鮫島 LP4000 手札2枚

場 

サイバー・ツイン・ドラゴン ATK2800

セットカード2枚

 

「オレのターン、ドロー!!まずは、EMギタートルとモンキーボードをPゾーンにセット。ギタートルの効果を発動。もう片方のPゾーンに『EM』カードが発動した場合、ドローできる。よってドロー。そしてモンキーボードは発動したターンのメインフェイズにデッキからレベル4以下のEMモンスターを手札に加えることができる。オレはEMペンデュラム・マジシャンを手札に加える。そして速攻魔法、揺れる眼差しを発動。Pゾーンに存在するカードを全て破壊し、破壊した枚数によって効果が増える。2枚破壊したことで相手に500ポイントのダメージを与え、デッキからPモンスターを手札に加える。オレは貴竜の魔術師を手札に加える。そして竜脈の魔術師と慧眼の魔術師をPゾーンにセット、慧眼の魔術師の効果を発動。もう片方のPゾーンに『魔術師』か『EM』カードが存在する時、このカードを破壊し、慧眼の魔術師以外の『魔術師』Pモンスターをセットする。オレは竜穴の魔術師をセット」

 

素早く効果を処理したためにスケールがまともに表示されていなかったが、竜脈の魔術師と竜穴の魔術師の下に1と8が表示される。

 

「さあ、お楽しみはこれからだ!!揺れろ、魂のペンデュラム。天空に描け、光のアーク!!ペンデュラム召喚!!エクストラデッキより舞い戻れ、EMドクロバット・ジョーカー、慧眼の魔術師、EMモンキーボード、そして真打ち、雄々しくも美しく輝く二色の眼、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!!」

 

EMドクロバット・ジョーカー ATK1800

慧眼の魔術師 ATK1500

EMモンキーボード ATK1000

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン ATK2500

 

一瞬にしてオレのモンスターゾーンに4体のモンスターが現れたことに、オレと上空にいる瑠璃以外が驚愕を露にしている。

 

「さて、ここでペンデュラム召喚について説明しよう。必要なのは2枚のPカード、このモンスターと魔法カードが一緒になったようなカードだ。このPカードを2枚をPゾーンにセットすることでセットしたPカードのスケールの間のレベルのモンスターを手札、あるいはフィールドで破壊されてエクストラデッキに送られたPモンスターを特殊召喚できるのさ。今回の竜脈の魔術師と竜穴の魔術師は1と8、つまりはレベル2から7までのモンスターが同時に特殊召喚可能なんだ。そして制限は1ターンに1度、メインフェイズにしか行なえないだけだ。今回は召喚していないけど、もう一体のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンも召喚は可能だったよ。それからPゾーンのカードが破壊されない限り、再びこんな形の陣営を組み直せる。それがペンデュラム召喚さ!!またPゾーンに置かれたPカードは魔法カード扱いとなる。だからサイクロンなんかで破壊できる。ただ、ペンデュラム召喚はチェーンを組まない特殊召喚だから、セットされたタイミングで発動しないとペンデュラム召喚を防ぐことはできないから注意しような」

 

「確かにすごい召喚ですね。同時に特殊召喚するということでしたが、奈落の落とし穴の場合はどうなるのです?」

 

「その場合は攻撃力1500以上の全てのモンスターが破壊され除外されるよ」

 

「なるほど。ですが、貴方の場のモンスターはサイバー・ツインよりも攻撃力が下です。どうするおつもりですか?」

 

「慌てない慌てない。ペンデュラム召喚は確かに強力な召喚方法だけど、これ単体では真価を発揮しているとは言えないんだ」

 

「真価を発揮していない?」

 

「オレのモンスター達をよく見て」

 

「モンスターを?守備力の方が大きいモンキーボードが攻撃表示、いや、そこではない。名前にペンデュラムがつくオッドアイズ、違う、なら、何が」

 

「答えはこれだよ、レベル4のEMドクロバット・ジョーカーと慧眼の魔術師でオーバーレイ!!」

 

「なんと!?エクストラデッキの上限は15枚なのでは!?」

 

「確かにデッキとしての上限は15枚だけど、ペンデュラムは別さ。2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、漆黒の闇より愚鈍なる力に抗う反逆の牙!!今、ここに降臨!!ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン!!」

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK2500

 

現れるのはユートの切り札、の模造品だ。効果が微妙に違っていて一概にどちらが強いかは言い切れないが、オレはこっちの方が使いやすいと思う。

 

「ペンデュラム召喚の真価は、ペンデュラム召喚から別の召喚へと繋げることさ。ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果を発動。ORUを二つ取り除き、相手フィールド上のモンスター1体の攻撃力を半分にし、その数値の分だけダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの攻撃力を上昇させる。トリーズン・ディスチャージ!!」

 

サイバー・ツイン・ドラゴン ATK2800→1400

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK2500→3900

 

「くっ」

 

「このまま攻撃でもいいけど、さらに続けるよ。墓地の貴竜の魔術師の効果を発動。自分フィールド上のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンのレベルを3つ下げ墓地から特殊召喚する。そしてこのカードはペンデュラム・チューナーさ」

 

「まさか」

 

「レベル4になったオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンに、レベル3貴竜の魔術師をチューニング。シンクロ召喚、オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン!!1ターンに1度、こいつが特殊召喚された時に自分Pゾーンのモンスターを特殊召喚できる。オレは、竜穴の魔術師を特殊召喚。この効果を発動したターン、このカードは攻撃できない。だから、レベル7、オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴンと竜穴の魔術師をオーバーレイ!!ランク7、オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン!!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン ATK2800

 

「そして、手札からオッドアイズ・フュージョンを発動。場のペンデュラム・ドラゴンと手札のEMペンデュラム・マジシャンを融合、オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン!!」

 

オッドアイズ・ボルテックス・ドラゴン ATK2500

 

「エクシーズ、シンクロ、融合までも」

 

「本当は儀式も突っ込んであるんだけど、生憎と手札にないんでね。ボルテックスの効果を発動。特殊召喚された時、相手の場の表側表示のモンスター1体を手札に戻す。サイバー・ツインを戻してもらうよ。そしてサイクロンで右のカードを破壊」

 

「サイバー・ヒドゥン・テクノロジーが」

 

「さあ、バトルだ!!モンキーボードで攻撃、この瞬間にアブソリュート・ドラゴンの効果を発動。ORUを一つ取り除き、攻撃を無効にする」

 

「自分の攻撃を?まさかダブルアップチャンス!?」

 

「アブソリュート・ドラゴンの効果は終わってないよ。攻撃を無効にした後、墓地から『オッドアイズ』モンスターを特殊召喚する。蘇れ、メテオバースト!!」

 

オッドアイズ・メテオバースト・ドラゴン ATK2500

 

「3体のオッドアイズとリベリオン・ドラゴンでダイレクトアタック!!」

 

「まだです!!手札から速攻のかかしを、発動しない!?」

 

「メテオバーストが場にいるとき、相手はバトルフェイズ中にモンスターの効果を発動できないんだ。というわけで、お楽しみはこれまでだ!!撃滅のクアッドブレイク!!」

 

「ぬわあああああ!!」

 

鮫島 LP4000→0

 

 

 

 

 

 

「遊矢ーー!!あなた、一体どこに行ってたのよ!!行き先も告げずに、連絡も一切なしで、予定の日程になっても帰ってこないし!!おばさん、遊矢までいなくなっちゃうんじゃないかって、ずっと心配して、私だって、心配で。遊矢~~、無事でよかった~~!!」

 

デュエルを終えて控え室から母さんや柚子に連絡を入れて5分ほどで柚子が控え室に飛び込んできた。最初は怒鳴っていたのに最後には泣きながらオレに抱きついてくる。笑顔にしてやりたいけど、多分怒らせることと悲しませることしかできないだろうな。

 

「ごめんな、柚子。心配かけた。色々あって、さっき舞網に戻ったばっかなんだ。旅のことはまだ話せないことが多いけど、それでも旅に出てよかったと思ってる。やりたいこととやらなきゃいけないことをオレは見つけたから。だから、しばらくしたらまた舞網から離れるよ。多分、チャンピオンの座も降りる必要があると思う」

 

「やっぱりなの?チャンピオンが嫌になったの?エンタメデュエルが辛いの?」

 

「違うよ、柚子。オレがやりたいこと、そのためにはチャンピオンとか講師の掛け持ちができないんだ。どれもが中途半端になるから。嫌になったわけでも、辛いわけでもない。まあ、半年前と今のオレのエンタメデュエルは違うものだろうけどな」

 

「なら、私も一緒に」

 

「ダメだよ、柚子。今の柚子じゃあ、連れていけない。それにあまり連れて行きたくもない」

 

「どうして!?」

 

「力不足ってこともあるけど、あんな経験はしてほしくない」

 

「あんな経験?」

 

「今は、あまり詳しく話せない。上の判断待ちだ」

 

「上?それって」

 

「それも話せない。頼むから何も聞かないでほしい。ほとんど話せない」

 

「何よそれ!!なんで何も話せないの!!」

 

「ごめん、その訳も話せない」

 

ドアがノックされて瑠璃が控え室に入ってくる。

 

「遊矢、お兄ちゃんが交渉がある程度まとまったから明日の10時にもう一度訪ねてくれって」

 

「分かった」

 

「その子が遊矢の言ってた柚子!?」

 

「誰!?」

 

瑠璃と柚子がお互いの顔を見て驚いている。

 

「本当に遊矢とユートみたいにそっくりね」

 

「その子、誰なの、遊矢?」

 

「彼女は黒崎瑠璃。旅先で知り合った。柚子にそっくりで間違えたのがきっかけ。この街には瑠璃のお兄さんも一緒に来てる。ちょっと確認しないといけないこととか色々あってね」

 

「ねえ、彼女は知っているの、遊矢が話せないことを」

 

「……当事者だからね」

 

「……そう」

 

柚子がオレから離れてデュエルディスクを構える。

 

「私とデュエルしなさい!!」

 

「柚子!?」

 

「ふぅ~ん、なるほどね。いいわよ。でもここじゃあ狭いから場所を変えましょう。遊矢はお義母さんに会っているといいわ」

 

今、瑠璃のお母さんの発音が変だった気がする。柚子は余計に怒気が膨らんだ。一体、何がどうなってるんだ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、遊矢がわざわざ気を利かせてステージを借りてくれたし、やりましょうか」

 

「絶対に負けない!!」

 

無駄に力が入っているどころか、明後日の方向を見ているわね。

 

「構えだけでわかるわ。断言してあげる貴女は私よりも弱い」

 

デッキを少し弄ってからデュエルディスクにセットする。

 

「バカにして!!」

 

「「デュエル!!」」

 

「私の先行からね。まずは永続魔法、黒い旋風を発動してBF-精鋭のゼピュロスを召喚するわ。黒い旋風はBFが召喚された時、その攻撃力より低い攻撃力を持つモンスターをデッキから手札に加える。私はBF-月影のカルートを手札に加えて、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

瑠璃 LP4000 手札2枚

BF-精鋭のゼピュロス ATK1600

セットカード2枚

 

「私のターン、ドロー!!魔法カード、独奏の第1楽章。私の場にモンスターがいない時、手札・デッキからレベル4以下の『幻奏』モンスターを特殊召喚できるわ!!私は幻奏の音姫アリアを特殊召喚!!そして幻奏の音姫ソロを召喚してリリースしてトランスターンを発動!!レベルが1高い同じ属性・種族のモンスターを特殊召喚するわ!!来て、幻奏の音姫エレジー!!私の場に『幻奏』モンスターが存在するとき、カノンは特殊召喚できる!!そして永続魔法一族の結束を2枚発動!!これでエレジーの効果と合わせて私の場のモンスターの攻撃力は1900アップするわ」

 

幻奏の音姫アリア ATK1600→3500

幻奏の音姫エレジー ATK2000→3900

幻奏の音姫カノン ATK1400→3300

 

「バトルよ!!エレジーでゼピュロスに攻撃!!」

 

「やはりね。貴女は私よりも弱いわ。トラップカード、ブラック・ソニック。『BF』モンスターが攻撃された時に発動できる。相手フィールド上の表側攻撃表示のモンスター全てを除外する」

 

「そん、な、私の場が……ターン、エンド」

 

柚子 LP4000 手札0枚

一族の結束

一族の結束

 

「私のターンね、ドロー。手札からRRーバニシング・レイニアスを召喚して効果を発動。手札からRRーナパーム・ドラゴニアスを特殊召喚」

 

RRーバニシング・レイニアス ATK1300

RRーナパーム・ドラゴニアス ATK1000

 

「バトルフェイズ、ナパーム、バニシング、ゼピュロスの順にダイレクトアタック。ゼピュロスの攻撃時にカルートを墓地に送り攻撃力を1300アップさせるわ」

 

「きゃああああああっ!?」

 

柚子 LP4000→0

 

デッキを元に戻してから柚子に歩み寄る。

 

「ねっ、貴女は私より弱かったでしょう?遊矢の側に立つには力が足りない」

 

「そんなことない!!もう一度よ!!もう一度デュエルしなさい!!」

 

「無駄よ。気持ちが定まっていない今の貴女じゃ何回やっても無駄。カードが迷っているの。遊矢は貴女が側に来ることを望んでいないの」

 

「そんな。なんでよ、なんで顔が一緒な貴女が遊矢の側に居れるのよ!!今までずっと一緒だったのに、私から遊矢を取らないでよ!!」

 

柚子が泣き始めるけど、私が望んでも手に入らない物を持っている柚子に予想以上の大声を出してしまう。

 

「泣きたいのはこっちよ!!なんで貴女がその場所にいるのよ!!私が望んでも手に入らないのに!!貴女に私の気持ちが分かる!!遊矢はずっと貴女のことを気にかけて、これから起こるであろう危険から遠ざけて、お姫様として扱ってくれているのに!!私がいくら望んでも、遊矢は仲間としか見てくれない。側に何人もいる仲間の一人にしか!!」

 

私も涙をこぼしながら、柚子に全てを叩きつける。

 

「遊矢のおかげで私たちは踏みとどまれた!!遊矢のエンタメデュエルが、私たちを導いてくれたの!!だけど、遊矢が特別扱いするのは貴女だけ!!貴女の方が遊矢に近いのに!!それなのに貴女が遊矢を理解してあげない!!ふざけないでよ!!」

 

私は、遊矢のことが好きだ。だけど、遊矢の中には常に柚子がいた。だから、諦めようとした。仲間の一人として一緒に笑っていられれば十分だって。でも、柚子を見て考えを改める。柚子に遊矢は渡さない。違うわね、遊矢を奪い取ってみせる。

 

「決めた。私は遊矢を奪い取ってみせる。貴女は遊矢に相応しくないわ」

 

「……させない。遊矢は絶対に渡さない」

 

「勝手に言っていなさい。私はただ鉄の意志と鋼の強さで奪い取るまでよ!!」

 

遊矢が悲しむだろうから、いま少しだけは預けておいてあげるわ。だけど、いずれ奪い取る。邪魔するものは全て焼き払ってでも。



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第3話

今回はかなり独自解釈・予想が含まれております。読まなくても話に支障は出ませんので気になる方は前半を飛ばしてください。


 

 

久しぶりの自宅に戻り、ゆっくりと休むことができた。母さんは何も聞かずに、ただお帰りと言ってくれた。それから遅くなるなら連絡ぐらいしなさいと拳骨も貰った。それがありがたかった。隠し事をしていると言わなければならないのはオレにとっても辛いことだから。

 

朝食のパンケーキを食べ終わった後は身だしなみを整えて、変装用の衣装を用意してからLDSに向かう。かあさんには、昨日のペンデュラムの量産に関してLDSで打ち合わせがあると言ってある。実際、それは真実だ。ペンデュラムはデュエルをさらに進化させる。そのためにはどんどんカードを量産して普及しなくてはならない。

 

それとは別としてアカデミアの侵略行為に対しての対策なんかも話し合わなくてはならない。赤羽零児と手を組まないとハートランドの立て直しはどうすることもできない。

 

約束している時間の10分前にLDSに到着し、そのまま社長室へと通される。扉の先には赤羽零児が待っていた。

 

「おはよう、寝坊しちゃったかな?」

 

「いや、時間通りだ。榊遊矢。昨日のデュエルは見せてもらった。ペンデュラム召喚、あれは確かに素晴らしいものだった。中々に興奮させてもらった」

 

「そう言ってもらえて嬉しいよ。それで、隼から説明されていると思うけど、アカデミアのトップ、赤羽零王、奴は君にとっての何?」

 

「血の繋がった父であり、私たち家族を捨てた敵だ!!」

 

「そうか」

 

その答えを聞いてオレは昨日使ったデッキを投げ渡す。

 

「昨日のデッキ、解析するなりしてペンデュラムを量産して普及してほしい」

 

「いいのか?」

 

「いいさ。デュエルの可能性はもっと大きくなってほしい。それがオレの望み。いつかはオレさえも超えるデュエリストが現れるのをオレは待っているんだ」

 

「超えるデュエリストが現れたら?」

 

「一人のエンタメデュエリストとして再出発さ」

 

オレの答えに赤羽零児から笑いが溢れる。

 

「君は本当にバカだ。黒崎隼から話を聞き、ハートランドの現状も見せてもらった。それでも君は人の笑顔のためにデュエルを行ってきたのだな」

 

「それがオレの誇りだからな。それにピエロはサーカスの花形だぜ」

 

「そうか。それから、すまない」

 

急に赤羽零児が頭を下げたことに首をかしげる。

 

「何がだ?」

 

「君が心を病んでしまった原因の一端が私にあるからだ」

 

原因の一端、繋がりが見えないが繋がりがありそうな部分はあそこにしかない。

 

「父さんは、協力者だったんだね」

 

「気づいたのか!?」

 

「オレは多分、何か強力なカードを生み出したか、拾ったからだろうけど、父さんが次元を超えるには事故か、転移装置を使うかだ。それで原因の一端があるってことは、転移装置を使ったんだろう?」

 

「そうだ。3年前のあの日、私に協力してくれていた彼は父を説得すると言って融合次元へと飛んだ。父と遊勝さんは、友人だったそうだ。だから、友人である自分が止めると。だが、帰ってこなかった。君達の話でエクシーズ次元に飛ばされたことがようやく分かったほどだ」

 

「なるほどね。その父さんはまた何処かの次元へと飛ばされた。スタンダードでもないのなら、シンクロ次元、もしくは融合次元に」

 

「おそらくはそうだろう。君には本当にすまないことをしてしまった」

 

「いいよ。オレも、今は秘密にしている。3年前、オレに事実を離さなかったのは仕方ないことだと思うから。それよりも今後をどうするかだ。アカデミアの目的がわからないけど、鍵を握るのはエクシーズ次元の瑠璃、スタンダード次元の柚子、シンクロ次元と融合次元にいる同じ顔を持つ二人。そっちがメインだろうけど、それらとは別にオレと同じ顔を持ち、召喚名をその名にもつドラゴン、エクシーズ次元のユートとダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン、スタンダード次元のオレとオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン、融合次元のユーリとスターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン、そしてシンクロ次元のオレと同じ顔を持つ誰かとシンクロ・ドラゴン」

 

「重要なのはおそらくだが前者なのだろう。後者は、おそらくは前者を守るために存在する何かだろう。そう考えるのが自然だ」

 

「だろうね。さて、話は変わるけど問題だ。赤羽零王はスタンダード次元ではなく、態々融合次元で1から立場を作り戦力を集めて、侵略を開始した。何でだと思う?」

 

「それが何か意味があるのか?」

 

「意味は絶対にあるさ。同じ結果にたどり着くなら誰だって楽はしたいはずだ。そしてそれが融合次元に渡った理由だ」

 

「融合次元でなくてはならない理由?」

 

「エクシーズ次元に行ってみてわかったよ。エクシーズ次元ではエクシーズ関連のカードが力を持ちやすいんだ。おそらく、シンクロ次元ならシンクロ関連のカードが、融合次元あら融合関連が、スタンダードはペンデュラムだね。ペンデュラムカードの創造が、エクシーズ次元じゃできなかったんだ」

 

「なるほど。つまり、父は何かを融合するためにこの世界を捨てたのか」

 

「たぶんね。さて、この仮説が正しいとすれば柚子たちの正体がおぼろげながら見えて来る。そこにペンデュラム、融合、シンクロ、エクシーズ、各召喚をそのまま柚子たちで当てはめるんだ」

 

「つまり、融合ならすべてを一つにして条件にあった新たなものを生み出すか」

 

「そうだな。まあ特徴を際立たせるなら、全員レベル3で柚子がペンデュラム、瑠璃はエクシーズ素材にする際に2体分になる効果モンスター、シンクロ次元のはチューナー、融合次元のは融合素材の代わりになれる融合モンスターかな?」

 

「柊柚子とシンクロ次元の者がチューナーだというのは分かる、レベル3の理由も黒崎瑠璃が素材2体分になれるというのもだ。だが、なぜ融合次元のが融合素材の代わりになれる融合モンスターなのだ?」

 

「いや、ユーリとデュエルしている時にちょっとだけ話題に上がって、ポンコツ臭がしてきて」

 

オレの言葉に赤羽零児の顔が引きつる。

 

「もしかして知っているのか?」

 

「いや、ああ、知り合いといえば知り合いか。一度だけ融合次元に、父の説得のために向かったことがある。その時に、少しだけ会ったことがある。名はセレナだ。彼女の性格が変わっていないのなら、確かにポンコツだろう。だが、デュエルの腕は確かだ」

 

「ポンコツな柚子や瑠璃か。あまり想像がつかないや」

 

「話がずれたな。つまり父は融合を行おうとしているのだな」

 

「たぶんね。それで、最初の仮定、柚子たちが世界にとって何か重要なもので、オレたちと各ドラゴンが守護者で、プロフェッサーは柚子たちを狙っている。プロフェッサーの融合の先にあるのはおそらくプロフェッサーの望む新たなスタンダード次元だろうな」

 

「新たなスタンダード次元?」

 

「この次元、スタンダードって呼ばれてるけどおかしいとは思わなかったか?」

 

「ペンデュラムが公表されたのはつい昨日の話だ。別段おかしいことではない」

 

「そうか?各次元の名前はその次元において最も主流な召喚方法を冠している。それならこの世界の最も主流な召喚方法は?」

 

「……通常召喚、あるいはアドバンス召喚か」

 

「そうだな。だが、この次元は全ての召喚方法が揃う特別な次元だ。そのことからアドバンス次元なんて呼ばれ方はしていない。だけど、スタンダードって名前がつく必要があるのか?」

 

「……なるほど。確かにそうだ」

 

「つまり、スタンダードってのはそのままの意味で受け取る必要があるんだ。つまり、デュエルモンスターズの基準はこの世界。融合だけでもシンクロだけでもエクシーズだけでもない。それらが全て揃っているのが本来のデュエルモンスターズなんだ。そのスタンダードに新たな召喚方法が生まれても、それはいずれスタンダードになる。それがこのスタンダード次元なんだろう」

 

「つまり父が目指す新たなスタンダードとは」

 

「2種類だ。融合のみの新たなスタンダードか、それとも全ての次元をスタンダードに引きずり込むか。どちらにせよ、混乱するだろうな。それこそ神とも言えるような力で強引に全てを捻じ曲げない限り」

 

「ならばやはり止めなくてはならない。協力してもらえるだろうか?」

 

「う~ん、とりあえず条件が一つ。プロフェッサーの野望を止めた後だけど、可能ならでいいけど努力して欲しいことが一つあるんだ」

 

「何だ?」

 

「各次元をつなぐゲートみたいなものを作って国交でいいのかな?とりあえずそんな感じに物も人もある程度行き来できるようにしてもらいたい。デュエルモンスターズの可能性は無限大だけど、時間がかかる。その可能性をできるだけ早く手に届く位置に持っていきたい。後、エンタメデュエルで世界に笑顔を届けたい」

 

「ああ、いいだろう。段階的に順次開放という形にはなるだろうが、約束しよう。どのみち黒崎兄妹からハートランドの復興支援を頼まれているからな」

 

「ありがとう。それじゃあ、『千変万化』の力、託すよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤羽零児との協力体制を確立した後、ペンデュラムに関する講座を週1で遊勝塾主催、LDS協賛で行うことにして、場所はLDSのホールを借りることにするまで話が進んだ。その後、更衣室を借りて変装(ネクタイなしの黒いスーツを着崩して、髪をオールバック)をしてから隼と瑠璃に会いに行く。二人はこのままスタンダード次元へと留まり、対アカデミア部隊『ランサーズ』に所属することになっている。そして、ランザーズへの参加メンバーは次の舞網チャンピオンシップの結果によって選出されるらしい。

 

二人はLDSからの推薦で出場する予定だったのだが、瑠璃はそれを断り、自らの実力でその権利を勝ち取るためにLDSに所属したそうだ。

 

「公式戦で8連勝か、公式戦で50戦以上で勝率6割が大会の出場権みたいね」

 

「そうだったっけ?昔のことであまり覚えてないな」

 

「ふん、呑気なものだな。この次元のデュエリスト達は」

 

「平和な頃のハートランドの住人にそっくりそのまま返すよ。それにしても今からだと50戦は無理だね。となると8連勝か」

 

「試合の方は大会に間に合うように組んでくれるみたいだから、それまではアクションデュエルに慣れるところからかな」

 

「そっか、なら、今日は街の案内をして明日は遊勝塾でアクションデュエルの簡単な講義をやろうか。実際にやってみないとアクションカードが分かりにくいからね」

 

「ありがとう、遊矢。お兄ちゃんはどうする?」

 

「オレは開発の方に協力する。それからユースチームの実力を測ってほしいと頼まれている」

 

「そっか。3年前に比べれば多少は強くなってるし、1対1ならオベリスクフォースには負けないと思うよ。ただ、集団戦術には慣れてないからね。そこら辺を鍛えてあげて」

 

「ああ、良いだろう」

 

「さてと、それじゃあどこから案内しようか?」

 

「とりあえずはカードショップを何件かと、それから服を見に行きましょう。ハートランドより舞網の方が服のセンスが良いみたいですし」

 

 

 

 

 

 

 

「アルティメット・ファルコンでダイレクトアタック!!」

 

「蘇生してマスドライバーで全モンスターを射出。ふはははは、これがガエルドライバーの力だ!!」

 

「「ぐわああああ!?」」

 

ナンパJ LP900→0

ナンパK LP4000→0

 

新しく購入した服に着替えた瑠璃を狙ってナンパを仕掛けてくる相手を怖いお兄ちゃんと一緒に潰し終えること早3組目。隼は大真面目に潰しにかかっているけど、オレは面倒になってガエルドライバーで爆殺した。

 

「鉄の意志も、鋼の強さも持たない貴様らに瑠璃は渡さん!!」

 

「まあ、そういうわけだから、隼が大人しいうちに引き上げたほうがいいよ。リアルファイトでも強いから」

 

それを聞いて慌てて逃げ出す二人組みを見送りながらデッキを戻す。

 

「モテモテだな、瑠璃」

 

「有象無象に好まれてもあまり嬉しくないわ。それに軽い男は嫌いよ」

 

瑠璃のきつい物言いに苦笑が漏れる。それにしても、柚子と同じ顔なのにここまで差が出るか。まあ、瑠璃の方が雰囲気が大人っぽいからな。その差だろう。

 

「はぁ、ゆっくりと街を見ることもできないなんて」

 

「なら、遊勝塾に来る?もう講義は終わってるだろうから人は捌けてるはずだし、遊ぶにはアクションフィールドが一番だ」

 

アクションフィールドはオレの庭だからな。二人を連れて遊勝塾に向かうと、そこにはいつもとは違い多くの塾生が残っていた。

 

「あれ?とりあえず裏口に案内するよ」

 

二人を連れて裏口から入ると電話が延々と鳴り続けていた。そして、塾長が俺に気付いて駆け寄ってくる。

 

「遊矢ーー!!よくぞ帰ってきてくれた!!朝からずっとこんな感じで、みんなペンデュラムのことを聞きたがっていて詰め寄せてるんだ!!」

 

「なるほどね。じゃあ、そっちの方の報告と告知をしないとね。LDSの方に話をつけてきて、向こうにペンデュラムの開発・生産は任せちゃったから。それからこっちの主催で場所だけ借りて週1でペンデュラムの講義をやることになったんだ」

 

「そうか。負担は大丈夫か?昨日のデュエルを見た限りじゃあ、悩みは吹っ切れたのはわかるが、今度は肉体的に辛くなると意味がないからな」

 

「大丈夫だよ。肉体的にはあんまり変わらないからね。それより、紹介しておくよ。旅先で世話になった黒崎隼と瑠璃」

 

「柚子?」

 

「似ているけど別人だよ」

 

「初めまして、黒崎瑠璃よ。こっちは私のお兄ちゃんの」

 

「黒崎隼だ。オレ達こそ遊矢に世話になった。今回も遊矢に手を貸してもらっている」

 

「本当に柚子じゃないみたいだな。ああ、オレは柊修造だ。この遊勝塾の塾長をやらせてもらってる。本来は遊勝さんが塾長だったんだけどな。遊矢もまだ若いから名だけの塾長だけどな。アドバンス召喚しか教えられないし」

 

「こんな風に言ってるけど騙されないでね。塾長の本気のデッキ、帝バーン1kill風味だから。ライフを8000にしても回せば後攻のスタンバイフェイズで全部削られるから」

 

「こら、遊矢!!過去をほじくり返すな!!」

 

「10歳児相手に大人気なく吹き飛ばしたんだよねー。ライフを8000にしたのもそっちの方が楽だからって理由だし」

 

「いや、だから遊矢黙れ」

 

「ごめん、ごめん。それじゃあ、集まっている人たちには1回デュエルを見せてから解散してもらうよ。デュエルコートを使うよ、塾長」

 

「ああ、頼む」

 

服を着替え直してデュエルコートに顔を出すと歓声が上がる。

 

「やあ、みんなよく来てくれたね。今日はみんなにお知らせすることがあるから静かにしてもらえるかな?」

 

少しずつ静かになってきて、声が全員に届くと感じたところでLDSとの話し合いの結果を伝える。みんなはペンデュラムが量産されることに喜び、講義の予約に走り出す。話を最後まで聞いていないと損をするんだけどな。残ったのは遊勝塾のジュニアユース組だけだった。

 

「さて、それじゃあ最後にペンデュラムを相手にデュエルしてみる?」

 

「「「はい、は~~い!!」」」

 

「よし、それなら鮎。やってみようか」

 

「うん、遊矢お兄ちゃんがいない間も、いっぱい考えて強くなったよ」

 

「そうか。それじゃあ、やろうか。今回は普通にスタンディングでやるよ」

 

「わかったよ」

 

デッキを入れ替えて構える。

 

「「デュエル」」

 

「まずはオレから行こう。まずはペンデュラム召喚に必要なペンデュラムカードを場にセットするよ。でも、手札には欲しいペンデュラムカードがないからサーチするよ。手札から【召喚士のスキル】を発動。デッキから【クリフォート・ツール】を手札に加える」

 

「【召喚士のスキル】ってレベル5以上の通常モンスターを手札に加えるカードじゃないの?」

 

「そうさ。ここがペンデュラムカードの特殊なところなんだ。ペンデュラムゾーンにセットするまではペンデュラムカードはモンスターカードとして扱うんだ。【クリフォート・ツール】は通常モンスターでもあるから召喚士のスキルで手札に加えられる。オレは、スケール9の【クリフォート・ツール】をライトペンデュラムゾーンにセット」

 

オレの左側に青い光の柱が現れ、その中にツールが浮かんでいる。

 

「ペンデュラムゾーンにセットされたカードは魔法カード扱いになる。だから魔導師の力の上限値が更に1000上がって3500になるよ。まあ、このデッキには入ってないけどね。そして【クリフォート・ツール】の効果を発動」

 

「えっ、通常モンスター、そうか、魔法カード扱いだからそっちの方は効果があるんだ!!」

 

「よくわかったな、鮎。その通り、モンスターとしての効果がなくてもペンデュラムの効果を持つ場合があるんだ。もちろん逆もね。【ツール】の効果はライフを800払い、デッキから『クリフォート』カードをサーチするんだ。オレはスケール1の【アセンブラ】を手札に加えてそのままレフトペンデュラムゾーンにセット」

 

次は右側にアセンブラが現れる。

 

「これでペンデュラムスケールがセットされる。2枚のペンデュラムカードのスケールの間の数字をペンデュラムスケールって言うんだ。それじゃあ、今のオレのペンデュラムスケールは幾つか分かるかな?」

 

「えっと、ツールが9でアセンブラが1だから2~8!!」

 

「そう、オレのペンデュラムスケールは2~8!!つまりレベル2~8の召喚条件・特殊召喚条件を持たないモンスターを手札と、エクストラデッキに加えられたペンデュラムモンスターを1ターンに1度、同時に特殊召喚できる!!それがペンデュラム召喚!!」

 

「じゃあ、ほとんどのモンスターが呼び出せるんだね」

 

「ところがクリフォートはちょっとだけ特殊なんだ。『クリフォート』モンスターの共通のペンデュラム効果、オレは『クリフォート』モンスター以外特殊召喚できない。そしてクリフォートには今の所エクシーズもシンクロも融合も存在しないんだ。さらに言えば、ペンデュラム召喚、【ゲノム】【アーカイブ】」

 

クリフォート・ゲノム ☆6→4 ATK2400→1800

クリフォート・アーカイブ ☆6→4 ATK2400→1800

 

「弱くなっちゃった!?」

 

「『クリフォート』モンスターは多くの共通効果を持っているんだ。ペンデュラム効果の方は説明したからモンスターとしての共通効果を説明しよう。まずは、リリースなしで召喚できる。次に、リリースなしでの召喚、または特殊召喚するとレベルが4になり、元々の攻撃力が1800になるんだ。そして通常召喚した『クリフォート』モンスターは自分のレベル以下のレベル、またはランクのモンスターの効果を受けない。ちょっとした実験用のペンデュラムカードが『クリフォート』なんだ。シンクロやエクシーズに派生しない分、ペンデュラムの動きがわかりやすいだろう?」

 

「うん」

 

「それじゃあ、カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

榊遊矢 LP3200 手札1枚

P1[クリフォート・アセンブラ][クリフォート・ツール]P9

クリフォート・ゲノム ☆4 ATK1800

クリフォート・アーカイブ ☆4 ATK1800

セットカード1枚

 

「私のターン、ドロー。やった、魔法カード【テラ・フォーミング】を発動するよ。デッキからフィールド魔法をサーチするの」

 

「おっ、『アクアアクトレス』でフィールド魔法ってことはあれかな?」

 

「【湿地草原】を手札に加えてそのまま発動するよ。フィールド上の水族・水属性・レベル2以下のモンスターの攻撃力は1200アップするよ。そして【アクアアクトレス・テトラ】を召喚して、【テトラ】の効果を発動するよ。デッキから『アクアリウム』カードを手札に加えるよ。私はね、えっと、【水照明】の方が上昇値は高いから【水照明】を手札に加えて【水舞台】と一緒に発動するよ。この3枚で【テトラ】がパワーアップ」

 

アクアアクトレス・テトラ ATK300→1500

 

「それじゃあバトルだよ。【テトラ】で【クリフォート・ゲノム】に攻撃」

 

「攻撃力が低いのに、破壊時に効果でも?」

 

瑠璃が首を傾げているが仕方ない。

 

「ダメージ計算時、【水照明】の効果で【テトラ】の攻撃力が倍になるよ」

 

「倍!?」

 

アクアアクトレス・テトラ ATK1500→3000

遊矢 LP3200→2000

 

「破壊された【ゲノム】はエクストラデッキに送られる」

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだよ」

 

鮎 LP4000 手札2枚

場 湿地草原

アクアアクトレス・テトラ ATK1500

水照明

水舞台

セットカード1枚

 

「さて、オレのターンだな、ドロー。よし、それじゃあ『クリフォート』の切り札を見せてやる。【ツール】の効果を発動して、デッキから【アポクリフォート・キラー】を手札に加える。そしてペンデュラム召喚!!手札とエクストラデッキから【ゲノム】を特殊召喚して3体の『クリフォート』をリリース。現われろ、全てを命の停止させる心なき冷たき機械【アポクリフォート・キラー】」

 

アポクリフォート・キラー ATK3000

 

「アポクリフォート・キラーは特殊召喚できず、『クリフォート』を3体リリースしなければ召喚することができない。そして魔法・罠の効果を受け付けず、アポクリフォート・キラーのレベル分以下のレベル・ランクのモンスター効果を受け付けない。また、このカードが存在する限り、特殊召喚されたモンスターの攻撃力を500ポイント下げる。まだもう一つ効果があるけど、先にリリースされた【アーカイブ】と【ゲノム】の効果を発動。ゲノムがリリースされた時、相手の魔法・罠を破壊できる。オレは【湿地平原】と【水舞台】を破壊する。そして、【アーカイブ】場のモンスター1体を手札に戻す。【テトラ】を手札に戻す」

 

「ええっ!?」

 

「さらに【アポクリフォート・キラー】の効果を発動。相手は手札・場からモンスターを1体墓地に送らなければならない」

 

「ううっ、手札から【アクアアクトレス・アロワナ】を墓地に送るよ」

 

「カードを1枚セットして、【アポクリフォート・キラー】でダイレクトアタック。エンドフェイズ、【アセンブラ】の効果を発動。アドバンス召喚を行ったターン、アドバンス召喚のためにリリースした『クリフォート』モンスターの数だけドローできる。オレは3体リリースしたから3枚ドローだね」

 

遊矢 LP1200 手札3枚

P1[クリフォート・アセンブラ][クリフォート・ツール]P9

アポクリフォート・キラー ATK3000

セットカード2枚

 

「もう少しなのに。ドロー」

 

鮎が手札とにらめっこをしながら考え込む。考え込んで、お手上げのポーズをしてからサレンダーする。

 

「【アロワナ】があればなんとかできたんだけどなぁ」

 

「【アポクリフォート・キラー】の一番の弱点は攻撃力を超えられることだからな。【アロワナ】と【水照明】のコンボだけは絶対に防ぐよ。セットカードは【サイクロン】と【奈落の落とし穴】さ。それよりも自分で【湿地草原】にたどり着けたんだな」

 

「うん。一杯勉強して、カードショップを歩いて探したんだよ」

 

「ちゃんと勉強してたんだな。偉いぞ。そんな鮎にご褒美だ。鮎のデッキに合いそうなカードだ」

 

ポケットからカードを3枚取り出して手渡す。

 

「【ペンギン・ソルジャー】【進化する人類】【帝王の烈旋】?」

 

「使い方はまた勉強だな。分からなかったら訊きに来ればいいからな」

 

「うん、ありがとう。遊矢兄ちゃん」

 

「よし。それじゃあ、今度はペンデュラ召喚をやってみたいのはいるか?『クリフォート』を貸してやるよ」

 

「「「はいはいは~い」」」

 

「じゃあ達也。相手は」

 

「私がお相手しましょう」

 

「柚子姉ちゃん?」

 

「顔はそっくりだけど別人よ。私は黒崎瑠璃。あっちにいるのが私のお兄ちゃん」

 

「オレが旅先で会って仲良くなったんだ。デュエリストとしても強いよ」

 

「少なくとも柚子よりは強いわよ。昨日も圧勝したし」

 

「柚子お姉ちゃんを!?」

 

「色々と焦っていたみたいでね。あれなら鮎ちゃんの方が強いんじゃないかしら?」

 

「柚子が焦ってる?」

 

やっぱりアカデミアとの戦いに連れて行かないって言ったことに、特に弱いからって言ったのがまずかったか?

 

「遊矢兄ちゃん、多分遊矢兄ちゃんが考えてるの見当はずれとまではいかないけど、微妙にずれてると思うよ?」

 

「ずれてる?」

 

「瑠璃お姉ちゃん、遊矢兄ちゃんこんなのだけどそれでもいいの?」

 

「それだからこそいいんですよ。実力で奪い取ってこそです。もう少し大人になれば鮎ちゃんにもわかりますよ」

 

オレ以外のみんなが理解しているみたいだ。一体なんだって言うんだ?

 



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第4話

『超重武者』の使い方がよくわからずにかなり強引に回してます。そして瑠璃は瑠璃で『RR』に使わせてはいけないフィールド魔法のせいで手札が有り余って逆に困りました。


 

 

「永続トラップ【シモッチによる副作用】を発動。これによって相手のライフを回復する効果は全てライフにダメージを受けるに変更されます。つまり、正答だろうと誤答だろうと発動した時点でダメージは確定。事前調査でこのアクションフィールドのカードはライフの増減の量が異なるだけで全てクイズカードであることは知っています。つまり、貴方の戦術は破綻する。デュエルの答えは一つではない。無限の可能性を手繰り寄せるのがデュエルです!!」

 

「【ワンダーレシピ】にチェーンして【サイクロン】を発動。【食罪庫】を破壊します。これによってワンダーレシピが参照する数は0。よって0体を特殊召喚して効果は解決です。材料がなくともお客様を満足させるのが一流のシェフです。状況に合わせた料理ができないのであれば二流も同然。必ずしも美味しい料理が正しいとは限りません!!」

 

「【アルティメット・ファルコン】は効果を受け付けません。よって【ペタルエルフ】の効果も受け付けませんので攻撃表示のままです。攻撃を続行。さらに【ブレイズ・ファルコン】の効果を発動。ORUを一つ取り除き、相手フィールドの特殊召喚されたモンスターを全て破壊し、500ポイントのダメージを与えます。【タロットレイ】を破壊して500ポイントのダメージ。エンドフェイズに【アルティメット・ファルコン】の効果で1000ポイントのダメージを与えます。占いごときで未来を知った気になるなど浅はかです。自分自身で未来を切り開く。そのための鉄の意志と鋼の強さを備えた私に占いで見通せると思わないでください!!」

 

 

 

「調子はいいみたいだな、瑠璃」

 

LDS近くの喫茶店でバナナパフェを食べながら瑠璃の戦績に目を通していく。アクションデュエルは体を動かしまくるのでアクションデュエルをメインに行うデュエリストはカロリーが高いもの、甘いものが好物なのだ。

 

「ええ。どうしてもデュエリストの質が今のエクシーズ次元のデュエリストの質に劣るし、こっちだと複数の召喚方法があるから、どうしても薄くなっちゃうのかしら?」

 

瑠璃は対面の席に座ってイチゴパフェを食べている。

 

「その可能性はあるね。カードプールの量が全然違うからね。でも、その分楽しめたでしょう」

 

「うん。皆思い思いのデッキを組んでるから楽しいわ。今のハートランドでは、対アカデミア用のカードを生産するので精一杯ですから。どうしても似たり寄ったりのデッキになってしまうから」

 

「それももうすぐ終わる。ペンデュラムカードの生産も始まったし、それの扱い方もガンガン公開して行っている。その中の精鋭を選りすぐり、アカデミアの野望を潰す。それからはLDSの協力で再興。オレもチャリティーイベントもガンガンやるつもりだ。ハートランドはすぐに笑顔があふれる街に戻るさ」

 

「そうですね。そのためにも私ももっと頑張らないと」

 

「あの、チャンピオン。デッキ診断をお願いしてもいいでしょうか?」

 

「うん?あれ、もうそんな時間だった?」

 

慌てて時計を見ると確かにデッキ診断の時間になっていた。

 

「ごめんね、瑠璃。次の仕事に行ってくるよ」

 

「いえ。頑張ってくださいね」

 

席を立ち、伝票を持ってレジに向かい会計を済ませてからデッキ診断に来た子と一緒にLDSの一室に向かう。

 

「あの、先程の人は、その、チャンピオンの恋人なのですか?」

 

「へっ?いいや、違うよ。半年の休暇の間に旅先で出会ってお世話になったんだ。それで、舞網に用があるっていうんで一緒に帰ってきて、そのまま色々とね。今度のチャンピオンシップに出るために、公式戦8連勝を目指してる最中。もう6連勝だからあと2戦だね」

 

「えっ?でもチャンピオンが戻ってきてからそんなに時間が経っていませんよね?」

 

「だから公式記録は6戦6勝。勝率10割」

 

「すごいですね」

 

「まあ、デッキ診断とかこまめにしたからね。扱うカードもすごいからね。ちなみに主戦力のモンスターは通称特殊召喚絶対殺すマンだから。ほい、入って」

 

ハートランドから戻ってから少しでもデュエリストの質を高めるためにデッキ診断の仕事をしている。赤羽零児にも協力してもらい、場所だけでなくデッキ診断後に診断で紹介されたカードがLDS系列のショップで割引が行われるようにもしてもらった。これで少しでもアカデミアに対抗できればいいんだけど。

 

「それじゃあ、デッキを見せてもらえるかな?」

 

デッキを預かりカード別に広げてデッキを確認する。

 

「ふむふむ、トークン主体の『冥界ターボ』にペンデュラムを加えてリリース要員を確保した形か」

 

デッキを元に戻してデュエルディスクに装填してシャッフルを行い、5枚ドローする。5枚を書き出して先行1ターン目の動きを見てからデッキに戻し、シャッフル後に再び5枚ドローする。それを繰り返してバランスを確認する。

 

「なるほどね。中々高レベルでまとまっているね。ペンデュラムのために多少バランスが崩れた感じかな?」

 

「そうなんです。できれば安定性を高めたいのですが、どうすればいいでしょうか?」

 

「そうだね。まずはトークン主体に戻すのが一番早いね。だけど、それじゃあ面白くないし、逆にペンデュラムを主体にしよう。まずはトークン生成の魔法を抜いて、ペンデュラムに『魔術師』を使っているけど、こっちの方がリリース要員を確保しやすいよ」

 

部屋の端末を弄ってモニターに映し出すのは『イグナイト』達だ。

 

「『イグナイト』は両方のペンデュラムゾーンに『イグナイト』がセットされている時に両方を破壊してデッキから戦士族・炎属性モンスターをサーチするんだ。そして『イグナイト』は戦士族・炎属性モンスターだ。また、通常モンスターだからこういうカードでサーチもできる」

 

次に映し出すのは【召喚師のスキル】【苦渋の決断】どちらも通常モンスターをサーチするカードだ。

 

「これで安定してリリース要員を確保できる。これらを『冥界ターボ』に必須なカードと混ぜ合わせて、こんな感じかな?」

 

『冥界ターボ』に必要【冥界の宝札】にあると便利な【アドバンス・ゾーン】回転率を上げるための【アドバンス・ドロー】と【トレード・イン】それからレベル8の便利なモンスター【神獣王バルバロス】【堕天使アスモディウス】【古代の機械巨人】をピックアップする。それらの後にランク3・6・8の汎用エクシーズを並べる。

 

「そんでもって今のデッキを登録してっと。ほい、この端末で今のデッキと新しいデッキとデュエルが出来るから試してみるといいよ。まあ、初めはデッキの回し方と端末の操作の説明するから見てるといいよ」

 

モニターでデュエルが開始され、手札を見る。よしよし、ちゃんと回るな。【召喚師のスキル】で【イグナイト・ウージー】をサーチして【ウージー】と【イグナイト・キャリバー】をセットして効果で破壊して【イグナイト・イーグル】をサーチ。【苦渋の決断】で【イグナイト・マグナム】を手札と墓地に。そして【マグナム】【イーグル】をセットして効果で破壊して【イグナイト・マスケット】をサーチして【マスケット】と【イグナイト・ドラグノフ】をセットしてペンデュラム召喚。エクストラから【ウージー】【キャリバー】【マグナム】【イーグル】を特殊召喚して【ウージー】と【キャリバー】で【永遠の淑女 ベアトリーチェ】をエクシーズ召喚してORUを1つ使ってデッキから【ラーの翼神竜ー不死鳥】を墓地に送って【マグナム】と【イーグル】で【炎星皇ーチョウライオ】をエクシーズ召喚して、ORUを1つ使って墓地の【ウージー】を回収。Pゾーンの【マスケット】と【ドラグノフ】を破壊して【キャリバー】をサーチしてエンド。

 

「これが基本の動きだね。あとはペンデュラム召喚でリリース要員を特殊召喚してアドバンス召喚していく形だね」

 

「なるほど。ですが、足りないカードを買うとなるとどれぐらいになりますか?」

 

足りないカードをリストにしてもらい計算していく。

 

「ええっと、割引を使って30万円だね。DPだと50000程になる。高額になっている原因は、【ラー】だからそれを抜いて、強いんだけど代用がないわけでもないから【ベアトリーチェ】も抜いてもいいね。これで13万ほどまで下がる。優先的に必要なのは『イグナイト』だから、それだけの場合は5万5千、サーチを突っ込んで7万弱ってところかな」

 

「やっぱりそれぐらいはしますか」

 

「シングル購入だからね。『イグナイト』に関してはパックを大量に購入する方が安く済むかもね。ただ、その場合は割引が効かないよ」

 

「そうですか。なら、もう少し考えさせてもらいます」

 

「それもいいね。周りにも色々と聞いてみるといいよ。お金のことだから慎重に考えてね。はい、これが今回のデッキ診断の割引券。これを持ってLDS直営店のショップに持っていけば今回紹介したカードと汎用カードが割引になるからね。店員さんに確認してみてね」

 

「ありがとうございます」

 

そんな感じで6人ほど捌いていく。やはり既存のデッキにペンデュラムを組み込もうとして失敗しているパターンが多い。まだ慣れていないのが問題なのだろう。これもしばらくすれば落ち着くはずだ。仕事も終わったので、瑠璃の次の対戦相手が気になりデータに目を通す。相手は、なるほど。明日はちょうど休みだし、迷いは振り切れたか、確認しに行こうか。

 

 

 

 

 

 

珍しいことに今日は遊矢が観戦にやってきている。相変わらず変装しているけどね。試合会場には既に対戦相手が到着していた。白い学ランにリーゼントに下駄を履いた漢を体現するかのような相手だった。

 

「来たか。俺は権現坂塾の権現坂昇だ。この男、権現坂、新たな不動のデュエルを世に見せよう!!」

 

「不動のデュエル?」

 

まさか、不動性ソリティア理論のことでしょうか?いえ、違うでしょうね。不動の意味は別にあるのでしょう。それに、今までの相手よりも覚悟がにじみ出ています。これは、強者の気配。スタンダードにも遊矢や零児のようにここまでの覚悟を持っている同年代がいるとは。私も手を抜くわけにはいきませんね。サイドデッキからカードを選び、デッキの『BF』カードと入れ替える。

 

「負けるわけにはいきません。私にも背負っているものがありますから」

 

デュエルが始まる。先行は私か。手札を見て取るべき行動を選択する。

 

「フィールド魔法【コズミック・フロンティア】を発動。エクシーズ召喚に成功した時、カードを1枚ドローします。そして【RR-バニシング・レイニアス】を召喚。このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、私は更に『RR』を召喚することができます。2体目の【バニシング・レイニアス】を召喚し、更に『RR』の召喚権を得ます。手札から永続魔法【RR-ネスト】を発動して効果を使います。私の場に2体以上の『RR』が居る時、1ターンに1度、デッキ・墓地から『RR』を手札に加えることができます。これで3枚目の【バニシング・レイニアス】をサーチして召喚」

 

「レベル4が3体。来るか!!」

 

「2体の【バニシング・レイニアス】でオーバーレイ。エクシーズ召喚、【RR-フォース・ストリクス】エクシーズ召喚に成功したので【コズミック・フロンティア】でドロー。【フォース・ストリクス】効果を発動。ORUを1つ使い、デッキから更に『RR』をサーチします。私は【RR-ファジー・レイニアス】を手札に加えます。【ファジー・レイニアス】は場に『RR』モンスターが存在するとき、手札から特殊召喚できます。【バニシング・レイニアス】と【ファジー・レイニアス】でオーバーレイ。2体目の【RR-フォース・ストリクス】。【コズミック・フロンティア】でドロー。【フォース・ストリクス】の効果で【RR-レトロフィット・レイニアス】を手札に加えます。そして墓地に送られた【ファジー・レイニアス】の効果で【ファジー・レイニアス】をデッキからサーチして【レトロフィット・レイニアス】を召喚。【RR-シンギング・レイニアス】は私の場にエクシーズモンスターが存在するとき、手札から特殊召喚できます。そして【レトロフィット・レイニアス】は1体で2体分の素材となります。2体分の【レトロフィット・レイニアス】と【シンギング・レイニアス】でオーバーレイ。【星守の騎士 プトレマイオス】。【コズミック・フロンティア】でドロー。ORUを3つ取り除き【プトレマイオス】の効果を発動して自身を素材に【サイバー・ドラゴン・ノヴァ】をエクシーズ召喚。更に【ノヴァ】を素材に【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】をエクシーズ召喚。【コズミック・フロンティア】でドロー。【エクシーズ・ギフト】と【エクシーズ・トレジャー】を発動。【ギフト】は2体の【フォース・ストリクス】のORUを使用して2枚ドロー。【トレジャー】は場のエクシーズモンスターの数だけドロー。カードを4枚伏せてターンエンド」

 

瑠璃 LP4000 手札5枚

場 コズミック・フロンティア

RR-フォース・ストリクス DEF2500

RR-フォース・ストリクス DEF2500

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ATK2500

RR-ネスト

セットカード4枚

 

「これほどの展開を行ったにも関わらず手札が減っていないとは、見事!!だが、この男権現坂、引くわけにはいかぬ!!俺のターン、ドロー!!」

 

力強くドローしたカードが光っているように見えた。これはまずいかもしれない。

 

「これが俺の出した不動のデュエルの答えだ。俺はモンスターをセットし、カードを2枚セットする。これでターンエンドだ」

 

権現坂 LP4000 手札3枚

セットモンスター1枚

セットカード2枚

 

デッキ内容がわからない。これが不動のデュエル?いや、違う。これは下準備だ。

 

「私のターン、ドロー」

 

【ツイン・ツイスター】を引けなかったか。押されているわね。ならば現状のカードで対処する。

 

「リバースオープン【ゴッドバード・アタック】【フォースストリクス】をリリースして、セットカード2枚を破壊する」

 

「リバースカードオープン。【ブレイクスルー・スキル】を発動。1ターンの間、相手のモンスターの効果を無効にする。対象は【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】だ」

 

「おっと、それは通さないわ。【インフィニティ】の効果を発動。ORUを1つ使い、効果を無効にするわ」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ATK2500→2300

 

もう一枚のカードは、【テイクオーバー5】、通常魔法だったか。囮だったのかしら?また外したか。モンスターを破壊したほうがよかったかもね。展開するか否か。ここは様子見で展開はやめておきましょう。でも、モンスターぐらいは確認しないとね。

 

「バトル、【インフィニティ】でセットモンスターを攻撃」

 

「セットしていたのは【巨大ネズミ】だ。破壊されて効果を発動。デッキから攻撃力1500以下の地属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚する。俺は【超重武者ビッグベン-K】を特殊召喚。更に【ビッグベン-K】の効果を発動。召喚・特殊召喚された時、表示形式を変更することができる。【ビッグベン-K】を守備表示に変更」

 

超重武者ビッグベン-K DEF3500

 

攻撃力1000なのに表示形式が変更できて守備力3500とは。攻撃表示なら吸収することができたのに。これは少し裏目に出てしまったわね。

 

「【RR-トリビュート・レイニアス】を召喚して効果でデッキから『RR』カード、【RR-リターン】を墓地に送るわ。それから【RR-ネスト】で墓地の【バニシング】を手札に加える。そして【インフィニティ】の効果を発動。フィールドの攻撃表示のモンスタ-1体を自身のORUとして吸収する。私は【トリビュート】を吸収してターンエンドよ」

 

瑠璃 LP4000 手札6枚

場 コズミック・フロンティア

RR-フォース・ストリクス DEF2500

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ATK2500

RR-ネスト

セットカード3枚

 

「俺のターン、ドロー!!スタンバイフェイズ、墓地の【テイクオーバー5】を除外して更に1枚ドロー。メインフェイズ、墓地の【ブレイクスルー・スキル】を除外して、【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】の効果を無効にする」

 

「2枚とも墓地から除外して発動するカードだったとは。【インフィニティ】の効果を発動するわ」

 

サイバー・ドラゴン・インフィニティ ATK2500→2300

 

「これで条件は揃った。このモンスター達は俺の墓地に魔法・罠が存在しない時、手札から特殊召喚できる。出でよ【超重武者ヒキャ-Q】【超重武者ホラガ-E】」

 

「なっ、そんな条件を持つモンスターをデッキに入れているのに魔法・罠を入れるなんて、まさか!?」

 

「そうだ、俺のデッキの魔法・罠は墓地から除外することで効果を使えるものばかりだ。そしてレベル8【ビッグベン-K】にレベル2【ホラガ-E】をチューニング。荒ぶる神よ、千の刃の咆哮と共に砂塵渦巻く戦場に現れよ!!シンクロ召喚!!いざ出陣、レベル10【超重荒神スサノ-O】!!」

 

超重荒神スサノ-O DEF3800

 

「見ているか、遊矢!!これが俺の答え、これが俺の『不動のデュエル』だ!!」

 

「見てるよ、権現坂。今のお前に迷いは見えない」

 

「ああ、そうだ。お前と同じく、俺も俺の道を見つけた!!見ていてくれ、遊矢!!」

 

なるほど。友人、違うわね、親友なんだろう。完全に素の遊矢だ。そっか、柚子以外にも素の遊矢を知っている人がいたんだ。まあ、それも普通か。けど、いいなぁ。私はたまにしか見れないんだけどなぁ。

 

「行くぞ!!」

 

「あいやそこまで!!この勝負、我が息子、昇の負けとする。不動のデュエルとは何事にも動じぬ心こそ肝要。勝つために他流派の技を盗んだ時点でお前は負けていた!!」

 

「それは違うぞ、親父殿。これが俺の不動のデュエルだ!!」

 

「お前の?」

 

「親父殿、親父殿は何に不動の真髄を見られた?」

 

「無論、先代の、儂の親父殿の背中だ。一切の迷いなく、状況にも、世間にも流されず、自分自身のデュエルを行う漢の背中だ!!」

 

「だが、俺は他の物に不動の真髄を見た!!俺は親父殿が幼い頃に連れられ嵐に見舞われたあの山にこそ不動の真髄を見た!!何が相手であろうと、決して負けない強さを山に見た!!それを信じていた!!それでも、昨今のデュエルの環境は変わった。様々な召喚方法、新たなカード群に俺は自分を見失いかけた。そんな中、旅に出る直前の遊矢に俺は尋ねた。そして遊矢の答えは『もう一度山に行けばいい。もう一度その山から不動を見せて貰えばいい』と。そして親父殿が知るように山に篭った。そして山の持つ真の不動を俺は知った」

 

「それは、なんだというのだ」

 

「山は不動に有って不動で有らず!!」

 

「何!?」

 

「山は不動に見える。だが、実際には少しずつ変化している。それは木々の成長、食物連鎖、四季の変化、天候による変化、その他多くの変化を山は行っている。それでも山は不動だと見れた。何故ならその変化の全ては土台があってこそ起こりえることだからだ。そして、土台だけでは山とは言えぬ。色々な変化が起こり、それを支える不動の土台が存在する。それが、俺が知った山の真の不動!!不動に有って不動で有らず!!例え表面上(デッキと戦法)が変化しようとも、それを支える|不動の《不確定なアクションカードに頼らずにどっしりと構える》心構えがあれば、不動のデュエルだと、俺は主張する!!それによって破門されても構わん!!俺は俺の信じた道を行く!!それが俺の答えだ!!」

 

「昇、お前」

 

「待たせてしまったな」

 

「悪いと思うのなら、これからその本気を見せてください。久しぶりに、遊矢やお兄ちゃん以外で本気を出せそうなので」

 

軽い挑発を入れて闘気をみなぎらせる。遊矢に影響を受けているとはいえ、ハートランドでもここまで漢を体現しているデュエリストはいない。その本気が私は見たい。

 

「ああ、これが俺の全力だ!!【スサノ-O】の効果を発動!!1ターンに1度、俺の墓地に魔法・罠が存在しない時、相手の墓地から魔法・罠を1枚選択し、俺の場にセットする。そしてこの効果でセットしたカードがフィールドから離れた場合除外する!!俺は【エクシーズ・トレジャー】をセットして発動!!2枚ドローする」

 

「相手の墓地の魔法・罠が使えるなんて」

 

「さらに【ヒキャ-Q】の効果を発動!!このカードをリリースして、【超重武者装留チュウサイ】を相手フィールド上に守備表示で特殊召喚する。その後、カードを1枚ドロー!!」

 

超重武者装留チュウサイ DEF0

 

「続いて【超重武者装留イワオトシ】を【スサノ-O】に装備。そして【超重輝将サン-5】をライトペンデュラムゾーンにセット!!」

 

「このタイミングでペンデュラム!?いえ、召喚が目的じゃない!?」

 

「一瞬で見破るか。だが、バトルだ!!」

 

「守備表示モンスターだけで?」

 

「【スサノ-O】は守備表示で攻撃ができ、さらに守備力を攻撃力として扱いダメージ計算を行う!!」

 

「何よ、そのキワモノ!?」

 

「【スサノ-O】で【チュウサイ】を攻撃!!」

 

「【インフィニティ】がいるのに守備の【チュウサイ】を攻撃。まずい、どっちかが貫通で、もう片方が攻撃回数の増加だ!?リバースカード【ダメージ・ダイエット】!!このターン私が受けるダメージを全て半分にします!!ぐっ!?」

 

瑠璃 LP4000→2100

 

「完全に読まれたか。【サン-5】の効果を発動。自分の場の『超重武者』モンスターが相手のモンスターを破壊した時、続けて攻撃することができる。【スサノ-O】は超重武者として扱う効果が存在する。続いて、【サイバー・ドラゴン・インフィニティ】を攻撃!!」

 

瑠璃 LP2100→1350

 

危なかった。油断したつもりはなかったけど、一撃で刈り取りに来た。まるで土砂崩れのように。直前まで危険だと感じさせなかった。彼は不動の山そのものね。ゾクゾクするわ。

 

「カードをセットしてターンエンドだ」

 

権現坂 LP4000 手札2枚

[超重輝将サン-5]P8

超重荒神スサノ-O DEF3800

超重武者装留イワオトシ(超重荒神スサノ-Oに装備)

セットカード1枚

 

「いいわ、楽しいわ。こんなデュエルは久々よ!!私のターン、ドロー!!」

 

さて、どうするか。仕留めきれそうにないわね。とりあえずは【スサノ-O】を処理しましょうか。

 

「【ファジー】と【シンギング】を特殊召喚して3体目の【フォース・ストリクス】をエクシーズ召喚。【コズミック・フロンティア】でドロー。【フォース・ストリクス】の効果で【シンギング】を手札に。手札から魔法カード【RUM-レイド・フォース】を発動!!ORUが無い【フォース・ストリクス】でオーバーレイ・ネットワークを再構築。獰猛なるハヤブサよ。激戦を切り抜けしその翼翻し、寄せ来る敵を打ち破れ!!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!ランク5【RR-ブレイズ・ファルコン】!!【コズミック・フロンティア】でドロー!!」

 

RR-ブレイズ・ファルコン ATK1000

 

「【ブレイズ・ファルコン】の効果を発動!!ORUを1つ取り除き、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター全てを破壊する!!」

 

「させん!!手札から【超重武者装留ファイヤー・アーマー】を墓地に送り【スサノ-O】の守備力を800下げることで、このターン【スサノ-O】は破壊されない!!」

 

超重荒神スサノ-O DEF3800→3000

 

「ならばバトル!!【ブレイズ・ファルコン】はダイレクトアタックができる!!」

 

「ぬぅ!!なんのこれしき!!」

 

「さらに手札から速攻魔法【RUM-レヴォリューション・フォース】を発動!!【ブレイズ・ファルコン】でオーバーレイ・ネットワークを再構築。誇り高きハヤブサよ、英雄の血潮に染まる翼翻し、革命の道を突き進め!!ランクアップ・エクシーズ・チェンジ!!ランク6【RR-レヴォリューション・ファルコン】!!【コズミック・フロンティア】でドロー!!」

 

RR-レヴォリューション・ファルコン ATK2000

 

「【レヴォリューション・ファルコン】で【スサノ-O】を攻撃」

 

「【スサノ-O】の守備力の方が高いのに攻撃?」

 

「【レヴォリューション・ファルコン】が特殊召喚されたモンスターと戦闘を行う時、相手のモンスターの攻撃力・守備力を0にする」

 

「なんだと!?だが【スサノ-O】は破壊されない」

 

超重荒神スサノ-O DEF3000→0

 

「メイン2、【RR-ネスト】で墓地の【バニシング】を回収してカードを2枚伏せてターンエンド」

 

「メイン2終了時、【スサノ-O】の効果で【ダメージ・ダイエット】セットする」

 

「くっ、相手ターンにも使えるなんて。それにチェーンして【ダメージ・ダイエット】を除外。このターン、効果ダメージを半分にする。意味はないけどね。ターンエンドよ」

 

瑠璃 LP1350 手札6枚

場 コズミック・フロンティア

RR-フォース・ストリクス DEF2500

RR-レヴォリューション・ファルコン ATK2000

RR-ネスト

セットカード4枚

 

「俺のターン、ドロー!!俺は再び【ヒキャ-Q】を特殊召喚して効果を発動!!このカードをリリースして、【超重武者装留ビッグバン】と【超重武者ココロガマ-A】を相手フィールド上に守備表示で特殊召喚する。その後、カードを2枚ドロー!!そして【超重武者タマ-C】を召喚する。そして【タマ-C】の効果を発動!!自分のフィールドに『超重武者』モンスター以外のモンスターが存在せず、自分の墓地に魔法・罠が存在しない時、相手フィールド上表側表示のモンスター1体を素材にシンクロ召喚を行える」

 

「相手の場のモンスターを素材に!?」

 

「俺はレベル3【ビッグバン】にレベル2【タマ-C】をチューニング!!剣を極めし者よ、二振りの剣戟と共に血潮渦巻く戦場に現れよ!!シンクロ召喚!!いざ出陣、レベル5【超重剣聖ムサ-C】!!このカードがS召喚に成功した時、墓地から機械族モンスターを手札に加えることができる。俺は【ヒキャ-Q】を手札に加える」

 

超重剣聖ムサ-C DEF2300

 

「バトルだ!!【ムサ-C】で【ココロガマ-A】に攻撃!!メイン2、【スサノ-O】で【レイド・フォース】をセットしておこう。ターンエンドだ」

 

権現坂 LP4000 手札2枚

[超重輝将サン-5]P8

超重荒神スサノ-O DEF0

超重剣聖ムサ-C DEF2300

超重武者装留イワオトシ(超重荒神スサノ-Oに装備)

セットカード2枚

 

強いわ。だけど、そろそろ終わらせましょうか。

 

「私のターン、ドロー。よし、行ける!!【バニシング】を召喚して【バニシング】を召喚して【RR-ネスト】で【バシニング】を回収して召喚。そして3体でオーバーレイ!!雌伏の隼よ、逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ!!エクシーズ召喚!!【RR-ライズ・ファルコン】!!【コズミック・フロンティア】でドロー!!」

 

RR-ライズ・ファルコン ATK100

 

「【ライズ・ファルコン】の効果を発動!!ORUを1つ取り除き、相手フィールド上の特殊召喚されたモンスターの攻撃力分、攻撃力をアップさせ、さらに特殊召喚されたモンスター全てに攻撃することができる!!」

 

RR-ライズ・ファルコン ATK100→2800

 

「ぬぅ、まずいか」

 

「さらに【レトロフィット・レイニアス】を召喚してオーバーレイ!!希望と可能性の光を身に纏い、未来を切り開け!!【No.39 希望皇ホープ】【コズミック・フロンティア】でドロー!!そして【ホープ】でオーバーレイ・ネットワークを再構築、可能性の先にある奇跡の雷光、【SNo.39 ホープ・ザ・ライトニング】!!【コズミック・フロンティア】でドロー!!」

 

SNo.39 ホープ・ザ・ライトニング ATK2500

 

「【シンギング】を特殊召喚して、リリース、喰らえ!!2枚目の【ゴッドバード・アタック】対象はセットカード2枚」

 

「ぬぅ、一応【スキル・プリズナー】を【ムサ-C】に発動」

 

「行け!!【ライズ・ファルコン】!!全てを灰塵にかせ!!そして殺りなさい【ライトニング】!!ライトニング・スラッシュ!!」

 

「まだ終わらん!!手札から【速攻のかかし】を「無駄よ、【ライトニング】の攻撃中は全てのカードは発動できない。さらにORUを2つ取り除き攻撃力を5000にする!!」

 

「なんだと!?ぬおおおおおおおおおっ!!」

 

権現坂 LP4000→0

 

攻撃力5000となった【ライトニング】のダイレクトアタックを受けてなお、その場から吹き飛ばされることなく受け止めるその姿はまさに不動。彼も遊矢と同じく超一流だ。

 

「私に【ライトニング】まで切らせるなんて思いもしませんでした。お見事です」

 

「いや、まだまだ修行が足りなかった。上には上がいるものだな」

 

「凄かったぜ、権現坂」

 

観客席から遊矢が飛び降りてこちらにやってくる。

 

「遊矢、これが俺の答えだ。いつかはお前と肩を並べれるだけの力を手に入れてみせる」

 

「ああ、権現坂なら出来るさ。それから、こっちは瑠璃。柚子に似てるけど別人で、旅先で知り合ったんだ」

 

「黒崎瑠璃です。柚子とはいいお友達(恋敵)ですよ。顔だけじゃなくていろんな意味でそっくりです」

 

「……う〜む、応援してやりたい気持ちはあるが柚子のこともある。付き合いが長い分どうしてもな」

 

「構いませんよ。柚子にも言いましたが鉄の意志と鋼の強さで奪い取るまでです」

 

「柚子と喧嘩でもしてるのか、瑠璃?」

 

「柚子にも言ったことがあるが、敵は強大だぞ」

 

「その分、達成感がありますから。諦める理由はありませんね」

 

「そうか。ならばこの件に関してはこれ以上は何も、いや、頑張れとだけ言わせてもらおう」

 

「ありがとうございます」

 




コズミック・フロンティアは漫画版のZEALに出てきたカードです。おそらくエクシーズ次元では禁止行きでしょうね。ホープに突っ込むとタクティクス・チェンジと合わさってデッキがすごい勢いなくなります。


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第5話

 

 

舞網チャンピオンシップ当日、LDSの社長室で携帯端末を使ってプロデュエリストのガチのデッキを使ったデュエルのデータを見ながら戦えそうな者をピックアップしていく作業を隼と共にこなす。

 

「とうとうこの日がやってきたね」

 

「ああ、この大会の結果とプロの中でのエンターテイナーとしてではなく、ガチのデッキを使いこなす者を選出する。人数によってはチームを複数作り行動することになるだろう」

 

「シンクロ次元へ協力を依頼するチーム、スタンダードを防衛するチーム、エクシーズ次元へ救援に向かうチームあたりだね」

 

「そうだ。優先するのはシンクロ、スタンダード、エクシーズだ。エクシーズ次元には悪いが、今でも曲がりなりにも防衛ができているのなら優先度を下げざるをえない」

 

「仕方あるまい。だが、出来れば物資を送ってもらいたい。余裕はあるが、それでも辛い生活を多くの者が強いられている」

 

「分かっている。災害時に現場に運ばれるものだが用意してある」

 

「助かる。俺は大会が終わり次第、物資を運ぶためにエクシーズ次元に戻る。瑠璃のことは任せるぞ、遊矢」

 

「任せとけって。まあ、瑠璃になら背中を任せられるし、権現坂もそうだな。塾長も熱血デッキじゃなくて帝を使えば敵無しだ」

 

「ユースチームは、やはり集団戦になると負けるだろうな。基本は3人1組でスタンダードで防衛を行ったほうがいいだろう。バーン対策をしっかりしておけばなんとかなる」

 

「そうか。では、そろそろ会場に向かおうか。主賓として挨拶を行わなければな」

 

「オレもエキシビジョンのために会場に行くけど隼は?」

 

「瑠璃の応援だ」

 

「客席はこちらで押さえてある。だが、こちらから連絡を入れた時は」

 

「分かっている。瑠璃も自分の応援を優先された知れば怒られるからな」

 

「では全員で行くとしよう。中島、車を」

 

「はっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕込みは万端、体調はバッチリ、デッキもOK、時間もあと10秒、それじゃあIt’s show time!!

 

「イヤッホーー!!」

 

足場にしていたアイツの紙飛行機から飛び降りる。そのままステージに五接地転回法で着地する。高々50mからの着地なんて超一流のアクションデュエリストなら出来て当然だね。隣にいる零児がなんか引きつった顔をしているけど、なまってるのかな?社長業で忙しそうだもんね。

 

「プロを目指すのならその第一歩と言えるこの大会に参加する選手諸君。勝ち進めば栄光の未来が待っている。負ければまた挑戦する道が現れる。オレも零児もかつては通った道だ。後輩達に先輩であるオレ達からの餞別だ。これよりエキシビジョンマッチを行うよ。今回の俺のデッキ名は怪獣カバゴンだ。さあ、お楽しみの始まりだ。ニコ・スマイリー、デュエルの開始を宣言だ!!」

 

『はっ、はい、デュエル開始!!」

 

「「デュエル」」

 

「私の先行か。君とは久しくデュエルをしていなかったな」

 

「そうだね、零児。社長業で忙しくて3年ちょっとぶりかな」

 

「ならばこそ、私の成長を君にみせつけよう。私はスケール1の【DD魔導賢者コペルニクス】とスケール6の【DDケルベロス】でペンデュラムスケールをセッティング!!これで2から5のモンスターを同時に召喚可能となる」

 

「早速来るか」

 

「わが魂を揺らす大いなる力よ。この身に宿りて闇を引き裂く新たな力となれ。ペンデュラム召喚!!現れろ、黒き翼を持つ偉業の神【DDバフォメット】そしてチューナーモンスター【DDゴースト】そして【DDネクロ・スライム】を通常召喚。レベル4の【バフォメット】とレベル1の【ネクロ・スライム】にレベル2の【ゴースト】をチューニング!!闇を斬り裂く咆哮よ。疾風の速さを得て新たな王の産声となれ!!シンクロ召喚、生誕せよれべる7【DDD疾風王アレクサンダー】」

 

DDD疾風王アレクサンダー ATK2500

 

「私は墓地に送られた【ゴースト】の効果を発動。同じく墓地に存在する【バフォメット】を選択し、同名カードをデッキから墓地に送る。そして【ネクロ・スライム】の効果を発動。このカードと融合素材になる【DDゴースト】を墓地から除外し、DDD融合モンスター1体を融合召喚する」

 

「墓地から融合か」

 

「自在に形を変える神秘の渦よ。闇に蠢く亡霊を包み込み、今ひとつ隣りて新たな王を生み出さん。融合召喚!!生誕せよ、レベル6【DDD烈火王テムジン】」

 

DDD烈火王テムジン ATK2000

 

「【アレキサンダー】の効果を発動。場にDDモンスターが召喚・特殊召喚された時、墓地からレベル4以下のDDモンスターを特殊召喚できる。甦れ、【バフォメット】。そしてテムジンの効果も発動し、同じく【バフォメット】が特殊召喚される。2体の【バフォメット】でオーバーレイ!!この世の全てを統べるため、今世界の頂きに降臨せよ。エクシーズ召喚!!生誕せよランク4【DDD怒涛王シーザー】」

 

DDD怒涛王シーザー ATK2400

 

「ペンデュラムからシンクロ、融合、エクシーズ。見事に使いこなしているね」

 

「感心するのはまだ早い。手札から【独占封印の契約書】を発動する。相手フィールドにエクストラデッキからモンスターが特殊召喚された時、私のフィールドに同じ召喚法で特殊召喚されたモンスターが存在していれば召喚を無効にする」

 

「つまりオレは融合、シンクロ、エクシーズを封印されちゃったってわけか」

 

「そうだ。君の多彩なモンスターでの戦術はこれで破綻する。ターンエンドだ」

 

赤馬零児 LP4000 手札0

DDD疾風王アレクサンダー ATK2500

DDD烈火王テムジン ATK2000

DDD怒涛王シーザー ATK2400

独占封印の契約書

 

「オレのターン、ドロー。これはすごいね。ここまで王様が揃うとどんな相手にでも勝てるかもしれない。だけど、王様の部下たちが小さないざこざから大きな戦いになり、それによって太古の眠りから怪獣が目覚めちゃった」

 

ソリッドビジョンの地面が崩れていき、王たちがそれに飲み込まれ、地面から巨大なモンスターが姿を現す。

 

「なっ、何が起こった!?」

 

更に地面から現れたモンスターに引かれるようにオレの場にも空から巨大な3つ首のドラゴンが姿を現す。

 

「通常魔法【妨げられた壊獣の眠り】フィールド上のモンスターを全て破壊。その後、名前の異なる『壊獣』モンスターをお互いの場に特殊召喚するカードさ。零児の場に現れたのは【壊星壊獣ジズキエル】で、オレの場に現れたのは【雷撃壊獣サンダー・ザ・キング】だ」

 

壊星壊獣ジズキエル ATK3300

雷撃壊獣サンダー・ザ・キング ATK3300

 

「【ブラックホール】でよかったのではないのか?」

 

「いやいや、このカードじゃないと怪獣カバゴンを呼び出せないんだよ。カバゴン達は楽しいことが大好きでね、楽しい場所を壊されないために現れるんだ」

 

「カバゴン?しかし、効果を読む限り『壊獣』モンスターは自分の場に1体だけという制約がある。どうやるつもりだ?」

 

「それじゃあ皆、カバゴンを呼ぼうか。皆の声に釣られてカバゴン達はやってくるよ。行くよ、せ~の」

 

『『『カバゴーン』』』

 

会場にいる子供達のカバゴンを呼ぶ声と共にサンバが流れ出す。

 

「この演出は!?【カバーカーニバル】!?」

 

「Exactly、オレの場にカバゴン達がやってきてくれたよ」

 

カバートークン ATK0

カバートークン ATK0

カバートークン ATK0

 

カバートークンの登場に観客ががっかりする中、3体のカバートークンが楽しそうにダンスを踊り、2体の壊獣も誘うけど、2体に一蹴される。

 

「楽しいダンスを断るどころか、邪魔をされてカバゴンたちは怒って本気を出すみたいだね」

 

オレの言葉と共に3体のカバートークンがサンダー・ザ・キングを誘導して巨大な鍋に放り込んで料理を始める。そして出来上がった料理をオレにも分けてくれて、それを皆で食す。するとカバートークン達が光を放ちながらジズキエルと同じ大きさにまで大きくなる。

 

榊遊矢 LP4000→7300

カバートークン ATK0→3300

カバートークン ATK0→3300

カバートークン ATK0→3300

 

「これは、一体!?」

 

「速攻魔法【神秘の中華鍋】と通常魔法【シャイニング・アブソーブ】さ。【神秘の中華鍋】は自分フィールドのモンスターをリリースしてその攻撃力か守備力分のライフを回復し、【シャイニング・アブソーブ】は相手の光属性モンスターの攻撃力分、オレの場のモンスター全ての攻撃力がアップする。そして、【中華鍋】と装備カード以外で特殊な演出のない攻撃力アップ系のカードをチェーンさせると大体こんな演出になるんだ」

 

この演出に会場中が大いに盛り上がる。零児は最初は困惑していたけど、ソリッドビジョンの新たな可能性に興味が向いたみたいだな。

 

「さあ、カバゴンが壊獣を止めてくれるよ。【下克上の首飾り】をカバートークンに装備してバトルだ。行け、カバゴン達!!」

 

2体のカバートークンが周りに被害が出ないように押さえつけ、【下克上の首飾り】を装備したカバートークンがタックルでジズキエルをぺしゃんこにする。更にタックルの衝撃で零児が吹き飛ぶ。

 

「【下克上の首飾り】は通常モンスターにのみ装備でき、相手よりレベルが低い時、レベルの差かける500ポイント攻撃力がアップする。レベルの差は9で4500アップだ」

 

カバートークン ATK3300→7800

零児 LP4000→0

 

壊獣を止めて満足したのか、ぽんと軽い音と共に煙となってカバートークンが元の大きさに戻って締めのダンスを踊る。オレも一緒にダンスを踊ってポーズを決める。満足したのか、またもとの大きさに戻るときのようぽんと軽い音と煙となって消える。

 

「皆、楽しんでもらえたかな?環境の変化について来れずに自信を失っている子も居ると思うけど、恥じる必要はない。ペンデュラムやエクストラデッキを扱わなくたって、こんなことが出来る。デュエルは無限の可能性を秘めているんだから。さあ、舞網チャンピオンシップ、開幕だ!!」

 

オレの言葉と共に花火が上がり、舞網チャンピオンシップが開催された。それにしても零児が何も言わないな、と思ったら倒れたままになっている。打ちどころが悪かったか?

 

 

 

 

 

 

 

赤馬零児の融合、シンクロ、エクシーズの連続召喚もすごかったけど、遊矢はその上を行くのね。と言うより、演出が上手すぎる。中華鍋を使わなくても、アブソーブを撃ってカバートークンで相打ち、残りでダイレクトでも良いし、サンダー・ザ・キングでジズキエルを戦闘破壊してカバートークンの攻撃でも良かったはず。それなのに、態々中華鍋を使ってそれを食べてパワーアップなんて演出をして更に装備魔法で攻撃力を上げるなんてね。意外と下克上の首飾りがカバートークンの衣装にマッチしている辺りが狙ってやったんでしょうね。

 

私の本来のデッキみたいだったな。『LL』モンスター、大空を自由にさえずり飛び回る鳥たちみたいな明るくて楽しいデッキ。あの子達にはこんな戦いのために使いたくないと思い、お兄ちゃんのRRを使わせてもらっている。

 

また、楽しいデュエルをエクシーズ次元でやりたい。そんなことを思い出させてくれるデュエルだった。遊矢はいつでも誰かを笑顔にして、大事なことを思い出させてくれる。そんな遊矢に思い続けられる柚子が憎い。そんな心がカードにも伝わったのか、何枚かのエクシーズモンスターの効果が書き換わり、新たなカードが生まれる。楽しむためのデッキに合う暴力的なカードがひっそりと。

 

 

 

 

 

 

 

遊矢、また楽しそうにデュエルするようになってる。なんで?なんで私じゃ駄目だったのに、あの瑠璃って子が遊矢を元に戻せたの?私の方が遊矢との付き合いが長いのに、なんで遊矢のことが分かるのよ。私のほうが遊矢の事を知っているはずなのに。私のほうが遊矢が好きなのに。

 

やっぱり、今の私のデッキじゃダメだ。遊矢は似合っているって言ってくれたけど、このデッキじゃ、このカードじゃ瑠璃に勝てない。もっと力が必要だ。もっと私に力があれば、遊矢は私を見てくれるはずだ。

 

もっと、もっと、誰にも負けない力が欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

なんなんだ、あの男は?あんな幼稚で無駄が多いタクティクスで、何を笑っているんだ?あれが、この世界のチャンピオンだと?笑わせてくれる。この世界のデュエル戦士の底が知れる。予定を変更だ。まずはあの男を倒して一気にこの世界を私の前にひれ伏せさせてやろう。

 



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第6話

「うえっ、ひっく、ぐずっ」

 

「ああ、もう、泣かないの。セレナは強いんでしょ」

 

ものすごい敵意を露わにしてカードにしてやるとか言ってきたから、ついついエンタメのガチヒール役でデュエルしてしまい、キーパーソンの融合次元の柚子に似ている女の子、セレナをガチで泣かせてしまった。今は、瑠璃達が宿泊しているホテルに移動中だ。零児に連絡して部屋も用意してもらっている。

 

「わたしな、んか、ごみだ。よわい、やくた、たずなん、だ」

 

「はいはい、セレナは役立たずなんかじゃないよ。オレが強すぎるだけだから」

 

ヒッポに乗って空を移動しているけど、これが普通に歩いて手を引いていたら職質を受けてただろうなぁ、と思いながらホテルの屋上に降り立つ。ヒッポから降りると、そのまま体育座りでぐずっているセレナを抱きかかえて瑠璃の部屋に移動する。

 

「瑠璃~、ごめんだけど、ちょっと面倒を見てあげてくれない?やりすぎた」

 

「ガチ泣きなのね。一体何をやらかしたのよ」

 

「ちょっと、エンタメのガチのヒール役でデュエルをね。諦めずに何度でも立ち向かってくるからへし折ったほうが良いかなって、手加減を忘れて10戦ほど」

 

瑠璃は呆れながらもセレナを風呂場に案内して使い方の説明をしながら服を脱がせて放り込んでくる。

 

「内容は?」

 

「先行【異星の最終戦士】とか、先行3【クェーサー】とか、『エンジェルパーミ』とか、『満足バーン~アマゾネスを添えて』とか、典型的なビートダウンだったから【ユベル】を立てるだけで止まったし」

 

「容赦なさすぎよ。全くもう、女の子を虐めて楽しいの?」

 

「面目ない。正直、持ってるデッキだとかなりのプレイミスをしない限り負ける気がしなかったんだ。強いとは思うんだけど、一回止めるとグダグダで、二回止めるともうリカバリー不能だから」

 

そう説明しながらセレナが使っていたカードを思い出しながら相性の良さそうなカードをピックアップする。闇属性・獣戦士族だからサーチとサルベージに【炎舞ー「天キ」】【ダーク・バースト】【融合回収】だろう。それから補助に【最終突撃命令】【ブラック・ガーデン】でいいかな?後は変わり種に【マスク・チェンジ・セカンド】と【M・HERO ダーク・ロウ】だな。もうちょっと、消耗を抑えたいな。【ブランチ】なら、いや、【置換融合】違うな。短期決戦と割り切って防御を捨てて【流転の宝札】を突っ込んだほうが良いかな?チューナーを積んでシンクロもいいな。エクシーズはランク4が作りにくいな。ランク7も作れるが、融合モンスターか。ならランク2だな。ガンテツを量産して攻撃力をあげようぜ。【団結の力】で良いか。微妙だな。汎用のカードを積めばもう少しは安全になるはずだ。

 

「シャンプーが切れているのだが」

 

そんな声が聞こえたのでカードから目を離して声の方を見て

 

「うわああああ!?なんでタオルを巻くことすらしてないんですか!?」

 

慌てて瑠璃が走ってセレナを風呂場に押し込む。何やら色々押し問答があったみたいだがそれも落ち着いたみたいだ。瑠璃が顔を真っ赤にして戻ってくる。

 

「見ました?」

 

「あ~、顔をそらしたけど、バッチリ」

 

「忘れなさい!!」

 

「分かってる、分かってる!!それより、傍に付いていたほうが良い気がするんだけど。オレは、ほら、隼の部屋にでも行ってるからさ。準備ができたら呼んでくれればいいから」

 

「そうしてもらえますか」

 

「うん。あっ、このカードをセレナに渡しといて。少しはマシになるはずだから」

 

それだけを言って、素早く部屋から出る。セレナがまた動き出す気配を感じたので急いでだ。廊下に飛び出してドアを閉めて凭れる。

 

「意外と胸が大きかったな。それと下、生えてなかったよな。まさか他の三人も?いやいや、忘れろ。忘れるんだ」

 

一瞬だったけどはっきりと見ちゃった。身体はバッチリ反応している。ああ、もう、出来る限り意識を反らしてるのによ。はぁ、今日、まともに眠れるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

「がるるるるるるる!!」

 

「一晩で何をやらかした?」

 

「「いや~、それがもうね、あははははは、ごめんなさい」」

 

翌日、セレナに会いに来た零児が部屋の隅で威嚇を続けるセレナを見てため息をつく。それに対してオレと瑠璃が平謝りをする。

 

「最初はまあ、知っての通りボコってガチ泣きされて連れてきたんだけどな。その後は調子を取り戻して瑠璃に喧嘩を売ってボロ負けしてまた泣きに入って」

 

「そのままでは話もできないので荒療治をしようとして失敗したんです」

 

「シールド・デッキに負けてから吹っ切れてあんな感じに」

 

「そのデッキは?」

 

「ほい」

 

零児がざっとデッキに目を通す。シンクロとエクシーズが1枚ずつ混じっていたためにデッキ枚数は43枚になってはいるが

 

「これがシールド・デッキだと言われても誰も信じないな」

 

どう見ても完成された『マジシャン・ガール』デッキに零児がため息をつく。

 

「いや、本当にショップで3箱程買ってきて目の前で8パック選んで、中身を見てからもう1パック選んで開けただけだから」

 

「だからと言ってだな」

 

「その前に私が徹底的に躾けます。この駄犬、一般常識が欠けすぎて周りとのコミュニケーションすらまともに出来ませんから。どれだけ苦労したことか」

 

うん、大変だった。2回ほど瑠璃から目潰しを食らったぐらいだから。どんな育てられ方をしたんだろう?駄犬はひどい言い方だけど、ポンコツぐらいは許されると思うんだ。

 

「と言うわけで、遊矢、私の試合が終わるまでは部屋から出さないように」

 

「ああ、うん、分かった。オレの方でもちょっとは頑張ってみるよ」

 

せめて分かりやすいトラップカードを回避できるぐらいにはなってもらいたい。それでも柚子よりは強いけど護衛対象が増えるとか勘弁してほしい。

 

 

 

 

 

 

私の調子が悪かったわけではない。だが、私は遊矢に勝てなかった。そして今も

 

「ライフを半分払い【ヒーロー・アライブ】を発動。デッキから【E・HERO シャドー・ミスト】を特殊召喚。特殊召喚された【シャドー・ミスト】の効果を発動。デッキから【チェンジ】速攻魔法を手札に加える。【マスク・チェンジ】を手札に加える。手札から【融合】を発動。【シャドー・ミスト】と手札の【E・HERO バブルマン】を融合。闇を纏いし英雄よ、強欲なる水を操りし英雄と一つとなりて、悪を極寒の闇へと誘え!!融合召喚!!極寒を操る最強のHERO【E・HERO アブソリュートZero】そして、【マスク・チェンジ】を発動!!場の『E・HERO』を墓地に送り、同じ属性の『M・HERO』を特殊召喚する。最強のHEROよ、その力の全てを開放し、悪を打ち砕け!!変身召喚!!【M・HERO アシッド】そして【Zero】と【アシッド】の効果を発動!!【Zero】が場から離れた時、相手フィールドのモンスターを全て破壊し【アシッド】が特殊召喚された時、相手の魔法・罠を全て破壊する!!更に、【マスク・チャージ】を発動。墓地から『HERO』モンスターと『チェンジ』速攻魔法を手札に加える。【シャドー・ミスト】と【マスク・チェンジ】を手札に加える。【E・HERO エアーマン】を召喚して効果を発動、デッキから『HERO』を手札に加える。デッキから【E・HERO オネスティ・ネオス】を手札に加えて効果を発動。墓地に送り【アシッド】の攻撃力を2500アップさせる。総攻撃だ!!」

 

「うわああああ!?」

 

セレナ LP4000→0

 

「これがHEROの鬼畜の一部だ」

 

「これで一部だと!?」

 

「やろうと思えばLP10000位なら飛ばせるぞ。むしろエクストラデッキの枚数でこの程度になってるとしか言えないな」

 

これで抑えているだと!?

 

「お前は、何故そこまで強いんだ」

 

「別にオレが強いってわけじゃないさ。ただ、オレはカード達を輝かせたいんだ。どんなカードにも活躍させる方法があるはずなんだ。それを考えて、そうしたいと強く願ってデッキを組んで、カードを信じてドローする。それだけさ。オレが強いんじゃない。カード達がオレに力を貸してくれているんだ」

 

そう言って笑う遊矢のことが理解できない。理解できないのに切り捨てることが出来ない。意味がわからない。そんなことで強くはなれないはずなのだ。にも関わらず、遊矢は強い。それは瑠璃にも言えることだ。

 

私と同じ顔をしている瑠璃は、私と似ているところがあるが、一番違うのは遊矢を理解しているかどうか。その差がデュエルにも出ている。此処ぞという時に、その場をひっくり返すカードを瑠璃は引き当てる。そして何度も負けた。遊矢のように複数のデッキを使うのではなく、多少のカードを入れ替えるだけのデッキに。

 

カードパワーは1枚を除いてほぼ互角、タクティクスもほぼ互角、カードの相性もほぼ互角。だが勝てない。その差が遊矢を理解しているかどうか。

 

「あとは、そうだな、セレナは何のためにデュエルをしているんだい?」

 

「昨日から何度も言っているだろうが。プロフェッサーの野望を叶えるために他の次元を侵略するのだ」

 

「で?」

 

「で?」

 

「いや、侵略した後は?」

 

「それは、あれ?」

 

「うん、おかしいことには気づけたみたいだね。偉い偉い」

 

「う、うるさい!!そういうお前はどうなんだ」

 

「オレ?オレは皆を笑顔にしたい。皆が笑顔って言うことは皆が楽しんでいるということさ。もちろん、オレも一緒にだ。父さんは皆を楽しませていた。オレは皆を楽しませて、一緒に楽しみたい。それがオレのエンタメデュエルだ」

 

「楽しむというのがわからない。何故楽しむ必要があるというのだ」

 

そう言うと遊矢はプレイングミスをしたような顔をする。

 

「そっか。セレナは楽しいってことがどういうことなのか分からなかったんだね。う~ん、屋上でいいかな?」

 

遊矢に連れられて屋上に行くと、遊矢がテストモードで【超カバーカーニバル】を発動する。

 

「とりあえず、セレナも一緒に踊ってみようぜ」

 

「私は踊ったことがないんだが」

 

「じゃあ、練習だ。【カバートークン】の真似をしてみて。行くよ」

 

音楽に合わせてカバートークンが踊りだし、1フレーズを繰り返し続ける。とりあえず遊矢に言われたとおり、カバートークンの真似をする。それが完璧になると次の振り付けに行き、それを繰り返す。いつの間にか遊矢はもう一つのデュエルディスクに黒い縁のカードを置いて楽器を持ったモンスターを召喚していた。遊矢はそれらと一緒に楽器を演奏しながら踊っている。そしていつの間にか、私は曲に合わせてダンスを踊りきっていた。まるでコンボが綺麗に決まったような感覚に戸惑う。

 

「セレナ、こっちを見て」

 

遊矢が鏡を向けていて、そこには今まで見たことのない私が映っていた。まるで目の前にいる遊矢のような顔だ。

 

「これが楽しいって感情で、今のセレナは笑顔なんだよ。オレは皆を笑顔にしたい。だって良い気分で誰の迷惑でもないだろう?」

 

「そうだな。良い気分だ。初めてじゃない気分だ。これが楽しいってことなんだな、遊矢」

 

「そうさ。皆がこの気持ちを共有できれば勝ち負けなんかは関係無い。楽しかった、またやりたい、今度は負けない。前向きな気持だけになる。それが延々と繰り返されて広がっていく。これもある意味で侵略さ」

 

「これもか。なんだろうな、悪くないように思える」

 

「誰も悲しまないからさ。だけどね、この力が足りない時がある。カード化すれば、その家族は悲しむさ。デュエルが出来ない子だっている。それを笑いながらカード化するあの仮面たちは好きじゃない。笑顔に変える暇が許されないのなら一人でも救うために力を振るわなければならない時もある。オレにとってアカデミアの仮面達はそういう存在なんだ」

 

「な、に?どういう、ことだ?」

 

「そのままの意味だ。オレは少し前までエクシーズ次元に居た。そこでアカデミアと戦っていたんだ。瑠璃と隼はエクシーズ次元の住人だ。目の前で何人も笑いながらカードにされるのを見ている」

 

「バカな!!そんなこと、ありえない!!」

 

笑いながら、戦えないものまでカードにするだって?崇高なる使命を持ったアカデミアがそんなことをするわけがない。そう思っていたのだが、遊矢が取り出したカードを見て何も言えなくなる。カード化された人間のカードなのだが、デュエルディスクを装着せずに何かを抱きかかえている女性と誰かに抱きかかえられている赤ん坊のカードだった。

 

「間に合わずに目の前でカード化されたんだ。回収される前にオレが拾ってずっと持ってる。この子はヒッポのことが大好きでさ。背中に一緒に乗って空を飛ぶと物凄く喜んでくれてたんだ」

 

遊矢の言葉に胸が張り裂けそうになる。今の今まであれだけ楽しいと思っていたのに。

 

「何故だ、何故、そんな光景を目の当たりにして皆を笑顔にしたいだなんて言えるんだ」

 

「諦めていないからさ。カード化する技術があるんなら、逆にカードから元に戻すことだってできるはずだ。オレの力なんてちっぽけなものさ。オレのこの手だけじゃあ、少しの人しか救えない。だけど、この手を誰かと繋いで、その誰かがまた別の誰かと手を繋いていけば、もっとたくさんの人を救える。誰かと誰かを繋ぐ架け橋を、オレは笑顔で作り出してみせる。だから、諦めたりなんかしないのさ!!」

 

「遊矢」

 

「そしてデュエルは最高のコミュニケーションなんだ。デュエルをすれば相手の気持が伝わる。相手に気持ちを伝えられる。それを観客とも共有する。それがオレのエンタメデュエルだ!!」

 

ああ、分かった。こいつのデュエルの意味が分からなかった理由が。あの時のデュエルは子供と子供を繋ぐためのエンタメデュエルだったんだな。だから派手なのにプレイングミスをしたように『壊獣』を【神秘の中華鍋】で料理するようにしてみせたりしていたんだ。攻撃力の上がった【サンダー・ザ・キング】で破壊するんじゃなくて、コミカルに見せるためにカバートークンを強化して【シズギエル】を破壊したんだな。そういうことか。普通のプレイングならミスにしか見えないが、子供達から『壊獣』を穏便に除去するためのプレイングとしてなら正解なんだ。

 

「まあ、見せてやれない時もある。オレは『千変万化』様々なものに変化するのはデッキだけじゃない。デュエルスタイルだってそうさ。まあ、もう知ってるだろうけどね」

 

まあ、完全にヒール役だったな。うん、あまり思い出さないでおこう。【異星の最終戦士】怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合を終えてホテルに帰ってくると、セレナと遊矢の仲がぐっと近づいていた。予想はしていたけど、遊矢に絆されたか。分からなくはないけど、ライバルが増えるのは歓迎できない。まだ男女の仲を理解できないでしょうけど、今でも独占欲ぐらいは持てるでしょう。だけど、絶対に渡さない。

 

 

 

 

あった、お父さんが封印していたデッキ。お父さんはプロ時代に帝デッキ以外にもう一つのデッキを所有していた。だけど、あまりの強さに自ら封印したデッキがあるって遊勝叔父様が話してくれたことがある。よっぽどのことがなければ使うことがないデッキ。遊矢が少しの間借りて、自ら制限をかけても『四肢がもがれ、翼を剥がされ、牙を抜いてもまだ強かった』『ドラゴン族のサポートに入れたはずなのに、いつの間にかドラゴン族がサポートしていた』『首を落としたら首だけで他のドラゴンに寄生して暴れた』『巣を焼き払ったら胴体を暗黒物質で再構成した』と言わしめたデッキのリミットレギュレーション仕様。このデッキなら瑠璃にも勝てる。絶対に遊矢を取り戻す。

 

 

 

 

 

 




柚子が手にしたデッキでリミットレギュレーションに引っかかっているカード

制限
未来融合(OCG)
次元誘爆(OCG)
異次元からの帰還(OCG)
異次元からの埋葬(OCG)
手札抹殺
ハーピィの羽根箒
氷結界の龍トリシューラ

準制限
No.11 ビッグ・アイ
超再生能力


……親が檻の外に解き放たれて元気です。


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第7話

 

街全体を使ったサバイバル形式のバトルロイヤル。その試合中に、アカデミアの襲撃が起こった。零児からの連絡を受けて現場に急行する。

 

「飛ばせ、レッドアイズ!!」

 

3対1で襲われ、今にもカード化されそうになっている所に黒炎弾を放って邪魔をする。

 

「ここからはオレが相手だ!!」

 

「チャ、チャンピオン!?」

 

「今すぐ逃げろ!!他にも襲われている奴が居たら数で押せ。こいつらはバーン主体だ。こいつも持って行っとけ!!」

 

バーンメタのカードを何枚かまとめて渡して走らせる。

 

「貴様、まさかエクシーズ次元の賞金首の片割れ!?」

 

「エクシーズ使いか、それともデッキがコロコロ変わる方か!?」

 

「見たら分かるだろうが!!構えやがれ!!」

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

「先行はオレだ。手札の【真紅眼の黒竜】を墓地に送って【紅玉の宝札】を発動。2枚ドローして、デッキから【真紅眼の黒炎竜】を墓地に送る。デッキから2枚目の【真紅眼の黒炎竜】を墓地に送って魔法カード【レッドアイズ・インサイト】を発動。デッキから【真紅眼融合】をサーチして発動。デッキから2枚目の【真紅眼の黒竜】と【ライトパルサー・ドラゴン】を融合。可能性を秘めし紅き眼の竜よ、心理を司る光と闇より生まれし竜と混じりて流星となりて降り注げ!!融合召喚!!来い、【流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン】!!」

 

流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン ATK3500

 

メテオ・ブラック・ドラゴンが流星と共に空から舞い降りて現れ、流星がアカデミアを襲う。

 

「「「うわあああああああああ!?」」」

 

オベリスク・フォースA LP4000→2600

オベリスク・フォースB LP4000→2600

オベリスク・フォースC LP4000→2600

 

「な、何が起こった!?」

 

「【メテオ・ブラック】が融合召喚に成功した時、デッキから『レッドアイズ』モンスターを墓地に送り、送ったモンスターの攻撃力の半分のダメージを与える。どうやらバトルロイヤルでは相手全員にダメージを与えるようだな。都合がいい、喰らえ!!【黒炎弾】3枚!!」

 

「バカが【真紅眼の黒竜】が場に居ないのに【黒炎弾】が使えるものか」

 

「残念だったな。【真紅眼融合】で特殊召喚したモンスターは【真紅眼の黒竜】として扱う。つまり、3500の【黒炎弾】だ!!」

 

「「「なっ!?」」」

 

メテオ・ブラック・ドラゴンが撃ち出した3発の炎弾に飲み込まれアカデミアの三人が消え去る。すぐさま次の獲物を求めて零児に連絡を取る。既にユースチームが何人かカードにされているが大会の参加者はまだ全員無事らしい。瑠璃もアカデミアを優先して狩っているそうだ。柚子が無事なのかどうかを確認してもらうと

 

『何!?『征竜』だと!?』

 

「はあっ!?アカデミアに『征竜』使いだって!?」

 

まずい、1killデッキの準備をしなければ。

 

『違う、柊柚子が『征竜』を使っている。しかも、これは、親が3、子は2か。他にも一線級のドラゴンに【トリシューラ】に【F・G・D】まで』

 

「塾長の封印してるデッキじゃないか!?持ち出したのか!?」

 

『柊プロが絶対に勝たないといけない時にだけ使っていたデッキか。調整だけは続けていたのか』

 

「ごめん、オレがちょっと前に気になって借りて調整した。ランク7がポンポン出てきて6・9シンクロも簡単に湧いてくるふざけたデッキだった。色々制限して組んでも『四肢をもがれ、翼を剥がされ、牙を抜いてもまだ強かった』って感じだった」

 

『だろうな。だが、柊柚子が持っていてくれてよかった。あのデッキでは負けるほうが難しい』

 

「それでも危険な目に会わせる訳にはいかない。位置は?」

 

『氷山エリアだ』

 

「くっ、反対方向か」

 

『新たな転移反応だ。地図をそちらに送る』

 

送られてきた地図に目を向けると直線コースにかなりの人数が現れている。

 

「くそっ!!待ってろよ、柚子!!」

 

再びレッドアイズの背に乗り戦場を駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝てる。この『征竜』なら『幻奏』と違って瑠璃にも勝てる!!これで遊矢を取り戻せる!!

 

「見つけたぞ、セレナ様だ!!」

 

いつの間にか青い服に仮面をつけた男たちに囲まれていた。

 

「なに、貴方達は」

 

「何をおっしゃっているのです。我々はオベリスクフォース。プロフェッサーの指示を受けてセレナ様をお迎えにあがったのです」

 

「おい、こいつまさかセレナ様じゃなくて捕縛対象の方じゃないのか?」

 

「ならば捕縛するぞ!!」

 

オベリスクフォースを名乗った仮面の男たちがデュエルディスクを構える。

 

「いいわ、相手になってあげる」

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

「俺のターン、【古代の機械猟犬】を召喚、カードを1枚伏せてターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー【古代の機械猟犬】を召喚して効果発動。相手の場にモンスターが居る時、600ポイントのダメージを与える」

 

「バトルロイヤルだからこそのコンボね」

 

柚子 LP4000→3400

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

「俺のターン、【古代の機械猟犬】を召喚して効果を発動。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

柚子 LP3400→2800

 

オベリスクフォースA LP4000 手札3枚

古代の機械猟犬 ATK1000

セットカード1枚

 

オベリスクフォースB LP4000 手札4枚

古代の機械猟犬 ATK1000

セットカード1枚

 

オベリスクフォースC LP4000 手札4枚

古代の機械猟犬 ATK1000

セットカード1枚

 

「私のターンね。ドロー、永続魔法【未来融合 -フューチャー・フュージョン】を発動。エクストラデッキから【F・G・D】を選択して公開。その後融合素材をデッキから墓地に送り、2ターン後に融合召喚されるわ。私はデッキから【巌征竜 - レドックス】【瀑征竜 - タイダル】【焔征竜 - ブラスター】【嵐征竜 - テンペスト】【エクリプス・ワイバーン】を墓地に送るわ。墓地に送られた【エクリプス・ワイバーン】の効果を発動。デッキからレベル8の光属性【光と闇の竜】を除外。そして【龍の鏡】を発動。今墓地に送った5体を除外して融合。5色の竜よ、野望を糧に交わり産まれよ、融合召喚!!【F・G・D】!!更に除外された『征竜』達の効果を発動。除外された『征竜』と同じ属性のドラゴンを手札に加えるわ。なお、『征竜』は3つの効果を持つけど同名ターン1でどれか1つしか発動できない。その効果の中には手札・墓地の同属性、またはドラゴン族を2枚除外することで手札・墓地から特殊召喚する効果があるわ。だけど、そのデメリットは機能しない。私は【地征竜 - リアクタン】【水征竜 - ストリーム】【炎征竜 - バーナー】【風征竜 - ライトニング】を手札に加え、【エクリプス・ワイバーン】が除外されたことで自身の効果で除外していた【光と闇の竜】を手札に加えるわ。そして今手札に加えた『子征竜』は自身と同属性モンスター、あるいはドラゴン族を手札から墓地に送ることでデッキから親を呼び出す。【リアクタン】と【伝説の白石】を墓地に送り、デッキから【レドックス】を特殊召喚。更に墓地に送られた【伝説の白石】の効果で【青眼の白龍】を手札に加える。【ライトニング】と【青眼の白龍】を墓地に送って、デッキから【テンペスト】を特殊召喚。2体の『征竜』でオーバーレイ。幻を操りし機械の獣よ、その力で世界を制せ!!エクシーズ召喚【幻獣機ドラゴサック】ORUを1つ取り除き【幻獣機トークン】を2体特殊召喚。【ドラグニティ-ブラックスピア】を通常召喚。2体の【幻獣機トークン】に【ブラックスピア】をチューニング。世界を滅ぼせし禁忌の竜よ、今此処に降臨し敵を滅ぼせ!!シンクロ召喚!!【氷結界の龍トリシューラ】そして効果を発動。相手の場・墓地・手札を1枚ずつ除外する。誰でも良いわね、とりあえず一番最初の貴方の伏せカードと手札を1枚ずつ除外しておきましょう。【アドバンス・ドロー】でトリシューラをリリースして、2枚ドロー。続いて【バーナー】と【光と闇の竜】を墓地に送ってデッキから【ブラスター】、【ストリーム】【エクリプス・ワイバーン】を墓地に送って【タイダル】を特殊召喚。【エクリプス・ワイバーン】の効果で【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】を除外。2枚目の【龍の鏡】で墓地の『子征竜』と【エクリプス・ワイバーン】を除外して2枚目の【F・G・D】を融合召喚。最後に手札を1枚墓地に送って【ツイン・ツイスター】を発動。残りの伏せカードも破壊」

 

 

柚子 LP2800 手札0

F・G・D ATK5000

F・G・D ATK5000

幻獣機ドラゴサック ATK2700

焔征竜 - ブラスター ATK2800

瀑征竜 - タイダル ATK2600

 

「さて、バトル。【F・G・D】で1体ずつ、残りで最後の一人に残りの3体で攻撃」

 

「「「うわあああああ!?」」」

 

オベリスクフォースABC LP4000→0

 

3対1でも余裕で勝てる。ふふふっ、私は力を得た。この力なら遊矢を取り返せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「零児、一体どういうことだ!!柚子は、柚子はどうしたんだ!!言え!!何があった!!」

 

遊矢が零児の胸ぐらをつかみ、今までに見たことのない位の怒りの表情を見せる。アカデミアの襲撃が始まってから半日、とりあえずの撃退は終了した。そして生存者を確認し、その中に柚子がいなかった。

 

「零児、頼むから隠し事は止めてくれ。オレはお前を恨みたくない」

 

「私にも何が起こったのか分からないのだ。その時の映像がある。多少見やすいように加工はしてあるが、それ以外に細工は一切ない」

 

零児がそう言ってモニターに映し出した映像には柚子がオベリスクフォースを蹴散らした後にユーリに絡まれ、そこにバイクに乗って現れた遊矢達と同じ顔の男と共に消え去るシーンだった。

 

「詳しいことはわからない。おそらくだが、別の次元に転移したと思われる。転移先は現在調査中だ。そして、何故転移が起こったのかはわからない。アカデミアの転移技術とは別物であるためか反応はない上に、あのバイクに乗った男が転移してきた時の反応とも違う。そして、もう一度よく見てもらえば分かるが、転移の直前、柊柚子のブレスレットが発光している。まるであの二人を割くかのようにだ」

 

「……どういうことだ?何故、あの二人なんだ?いや、それならオレとユートと瑠璃でもあの現象が起こって、違う、オレとユーリと瑠璃でもなかった。柚子だからなのか、オレが原因か」

 

遊矢が何かを考え始める。

 

「どういうことだ。前提が間違っていたのか?だが、それだと説明できないことが、なんだ、何を見落としている。だめだ、情報が足りない。今は、置いておくしかないのか。ごめん、頭を冷やしてくる。明日のランサーズの結成式までには戻る。少しだけ一人にしてくれ」

 

そう言って出ていく遊矢を追いかけようとしてお兄ちゃんに腕を取られる。

 

「今はそっとしておいてやれ。色々な感情があいつの中で複雑に絡み合っている。それを周りに見せたことにすら、あいつは苦しんでいる」

 

「なんでよ?吐き出した方が楽になれるわ!!」

 

「瑠璃、あいつは何者だ?」

 

「遊矢は遊矢じゃない!!何を言い出すの」

 

「そうだ、奴は遊矢だ。そして遊矢は自他共認める一流のエンターテイナー。誰かを楽しませ、喜ばせるのがエンターテイナーだ。それ以外の感情を持たせてしまうのは自分の否定だ。先程の零児に掴みかかる行為をオレ達に見せてしまったことすら、あいつは苦しんでいるんだ」

 

「なによそれ。それじゃあ遊矢はずっと苦しむだけじゃない!!どうやったら苦しみから開放されるっていうの」

 

「もう忘れてしまったのか?遊矢は、遊矢のエンタメデュエルで楽しみ、喜ぶ者達を見るのが一番好きなのを。だが、それもしばらくは出来ない。耐えるしかない。遊矢も、オレ達も」

 

お兄ちゃんの私の腕を掴んでいるのとは逆の手から血が落ちる。強く握りしめすぎて切れたのだろう。それを見てしまったら、もう動けなかった。やっぱり私は柚子が大嫌いだ。ここまで遊矢に思われているのだから。私が同じような目にあっても、必死に探そうとするだけであそこまで取り乱すことはないはずだ。それが羨ましくて、憎い。その心にカードが応え、生み出される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴーグルをかけてヒッポに跨り舞網の夜空を駆ける。

 

「なあ、ヒッポ。どうしていつもこうなんだろうな。なんでいつも力が足りないんだろうな。何かが起こって、それをその場で対応できずに、対処療法しか出来ない。父さんが居なくなった時も、ハートランドの時も、あの親子達の時も、そして、柚子」

 

「ヒッポー」

 

「オレのエンタメデュエルじゃあ、守れないのかな。誰かが泣かないようには出来ないのかな」

 

オレのエンタメデュエルが間違っているとは思わない。だけど、その所為で何かを取りこぼしてしまっている。何処か、流されてしまっている自分がいる。その先に嫌な予感が、破滅の未来が待っているように感じているのに。

 

「ヒッポ、オレ、自分が情けなくて、悔しくて、怖いよ」

 

ゴーグル内に涙が溜まる。それを誰かに見せる訳にはいかない。それが一流のエンターテイナーだから。

 

「ヒッポヒッポ」

 

「ありがとう、ヒッポ。慰めてくれて」

 

ヒッポがオレを励ましてくれているが、今だけは泣かせてくれ。弱い所は誰にも見られたくないんだ。久しぶりだよ、泣くなんてさ。まだ幼い頃、そう、デュエルを始めた頃、弱いからと捨てられてしまったカード達を拾い集めていた頃以来か。どうやってもデュエルに勝てなくて、それでもなんとかしてカード達を使ってあげたくて、負けては泣いていた。それを慰めてくれて、一緒にカード達を輝かせるためのコンボを考えてくれたのが柚子だった。そして、そんな柚子を笑顔に出来たのが何より嬉しかった。それがオレのエンターテイナーとしての始まりだ。

 

「それなのに、オレは、柚子にあんな顔にしかしてやれなかった」

 

なんと説明すれば良いのかわからない。一番近いのは捨てられた子犬とか、親を見失った子供の顔が近いか?そんな顔をして、無理矢理デッキを回している姿が脳裏にこびりついている。これが初心を忘れた罰なのか。

 

「そして、シンクロ次元のオレと似た顔をした男。やはりと言うべきなのかな、ユーリやユートと同じで若干の嫌悪感を感じた。映像なのに」

 

皆には黙っているけど、ユートやユーリに嫌悪感を抱いてしまう。ユーリは仕方ないかも知れない。だが、気心もしれているユートにも未だに嫌悪感を感じてしまう。理由はわからない。だけど、その原因があの現象の理由だ。オレ達の中でオレだけが仲間外れな理由。何が原因なんだ。

 

「答えは、たぶんデュエルでも出ないだろうな」

 

新たにエクストラデッキに産まれた3枚のドラゴンを取り出す。

 

「【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】【クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン】【クリアウィング・ファスト・ドラゴン】オレとあいつによって生み出されたドラゴン達。お前たちはオレに何をさせたいんだ」

 

【ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン】【スターブ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン】【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】【オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン】

 

エクストラデッキからの召喚方法の名を持つドラゴン達。お前たちはオレに何を望むんだ。お前たちが語りかけてくれているのは分かる。だが、何を求めているんだ。力を貸してほしい、だが、その時ではないとしか返さないお前たちは何を知っている。念の為にこの4体を同時に扱うデッキとカードを作り出しておこう。他にも産まれたカードを確認しないとな。

 

だけど今は、辛いことや苦しいことや悩みから目を逸らそう。このゴーグルを掛けている間だけは、オレはチャンピオンでもエンターテイナーでもない、ただの榊遊矢に戻ろう。ゴーグルを少しだけ外して溜まっていた涙を落とす。街の灯りに照らされて星屑のような輝きを放ちながら夜の闇に飲み込まれていく。

 

 

 

 

 




征竜が全然回ってないですね。これだけ動いているのに回っていないと感じる征竜怖い。


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第8話

色々と批評を受けながらも先日とうとう終わってしまったARC-V
もうDDDが並ぶ場面を見ることもできなくなるマスタールール4
不安が先行するブレインズ



 

「増援はまだなのか!?」

 

「おい、背中を見せるな」

 

「うわああああ!?」

 

ああ、もう、いくら本拠地とは言えオベリスクフォースより多すぎだろうが。ゴヨウ・ディフェンダーの顔は見飽きたぞ。バトルロイヤルを生かして守備力20000前後をキープしているが、こちらは24体で融合した【キメラテック・オーバー・ドラゴン】に【メテオ・ストライク】と【安全地帯】と【デビリアン・ソング】でシンクロ召喚を邪魔しているからこその状況なのだ。

 

「ああ、もう、どうしてこうなるかな!?」

 

増援にやってきた警察っぽい存在を蹴散らしながら4時間ほど前を思い出す。

 

 

 

 

 

ランサーズの結成式後、予定通り3チームに別れた。まずはエクシーズ次元行き、これには隼とユースチームが向かうこととなった。向こうは未だにアカデミアからの襲撃があるからな。ある程度の数と力があるユースチームが支援物資の輸送を担当する。

 

次にスタンダートの防衛チーム。これには一般市民とプロから選抜された者が付くことになった。これまでのオベリスクフォースの傾向からのオレ監修のバーン・融合メタデッキが支給される。あとは、数で押せばなんとかなるはずだ。

 

最後にシンクロ次元に協力を求めるのがオレ、零児、零羅、セレナ、瑠璃、権現坂、塾長、デニス、月光、日光となっている。デニスは今回の大会で見つけた掘り出し者だ。中々柔軟に動ける人材として専用のペンデュラムも開発することになるぐらいには期待している。零羅は零児の弟らしい。『CCC』と言うカテゴリーのカードを扱う。対属性メタカテゴリーらしい。単一属性で挑むと死ぬな。それとも【御前試合】で嫌がらせの方向のほうが良さそうだ。月光と日光は零児が雇った裏業界のフリーのデュエリストで忍者だ。リアルファイト要員でもあるそうだ。

 

そんなメンバーでシンクロ次元にやってきたのだが、転移先が分かれてしまったのかオレの側にはセレナと瑠璃と日光だけだった。とりあえずは合流を優先しようとしたのだが、セレナの大ポカで警察っぽいのに追われることになった。日光に二人の護衛を頼んでオレが囮になったんだけど、オベリスクフォースと違い、奴らはバイクという機動力を持っているのが厄介で逃げ道のことも考えて移動しながら【キメラテック・オーバー・ドラゴン】で暴れているのだ。

 

「ちっ、挟まれたか」

 

途中から誘導されている感じはしていたが橋の上に誘導され前後を挟まれた。水面までは100mってところか。ええい、やるしかない!!【キメラテック・オーバー・ドラゴン】を踏み台にして橋から飛び降りる。

 

「飛び降りた!?」

 

「自殺か!?」

 

死にはしないだろうけど、痛いだろうなぁ。水面に飛び込み、デュエルモードからテストモードに切り替えて【素早いマンボウ】を召喚して掴まる。とりあえず街の外縁部から内縁部にまで移動して、下水の出口を見つけてそこから街に忍び込むことに。そこそこ移動してマンホールを押し上げる。おかしいな、変に重い気がする。マンホールをなんとか押しのけて這い上がり、元に戻して立ち上がり、ふらつき、壁に凭れる形になる。

 

「あれ?」

 

なんだ?身体がまともに動かない。おいおいおい、一体何が起こってる。膝が笑い始め、めまいまでしてきた。目が霞み、とうとう体を支えきれなくなって倒れる。意識が混濁していく中、聞き慣れた声が聞こえてくる。

 

「……ーゴ!?しっか……」

 

「ゆ、ず?」

 

柚子ではない誰かに抱きかかえられ、そこで意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーゴにそっくりな彼を保護してから一日、未だに意識を取り戻さない。最初はユーゴだと思って連れ帰ったんだけど、見たことのないデュエルディスクにデッキも見たことのない機械族のデッキ。エクストラデッキには紫色や黒色の枠のカードが入っていた。それに、腰とジャケットの裏にはデッキホルダーがびっしりと付いていて、どれもが全く異なるデッキだった。シンクロモンスターのデッキもあったけれど、上と下で色の違うカードなんかもあった。それから風邪にうなされながら知らない人の名前やお父さんを呼んで、求めている。そして、何かに怯えている。

 

ここまでユーゴと違う部分が見えたら、顔はそっくりでも別人にしか見えなくなった。どんな人なんだろうな、この人は?これだけのカードを持ってるのだからトップスの人なのかな?それにしては全身ずぶ濡れだし、服も丈夫だし上等なものだけどトップスの人たちが着ているような感じでもない。なら、どこか遠くからの旅人?でも、移動手段も鞄も持ってなかった。どこかに置いているだけ?

 

「ぅぁ、こ、ここ、は?」

 

「気がついた?」

 

「……あ、ああ。君が、助けてくれたの?」

 

「まだ起きちゃだめよ。すごい熱だったんだから」

 

起き上がろうとする彼をもう一度寝かせる。

 

「すまない。この礼はちゃんとするよ」

 

「いいのよ、気にしなくても」

 

「それじゃあオレの気がすまないから。とりあえず、宿泊費の一部だとでも思って受け取ってくれ」

 

そう言って近くにおいてあったデッキケースからシンクロモンスターを取り出して私に渡してくる。

 

「【スターダスト・ドラゴン】」

 

「素材の制限なしでそこそこの攻撃力と守備力、自らをリリースして効果破壊を無効にして破壊する効果。そしてエンドフェイズに自己蘇生を果たす」

 

素材の制限がないのにこの性能、明らかにトップスの人達が使うようなカードだ。そんなカードを簡単に渡してしまうなんて、この人は一体何者なの?

 

「貰いすぎだわ」

 

「気にするな。余っているんだ。使われないカードほど可哀想なカードはないんだ。だから使ってやってくれ」

 

それだけを告げるとまた意識を失うように眠ってしまった。

 

【スターダスト・ドラゴン】

 

まるでユーゴの【クリアウィング・シンクロ・ドラゴン】のような力を感じさえするカード。キングのエースに似た力を感じられる。レベルと種族しか類似点がないのにそう思える。

 

 

 

 

 

 

 

オレがリンに助けられて2日、ようやく体調が戻って動けるようになった。お礼はどんなものが良いかと聞いたのだが、【スターダスト・ドラゴン】だけでも貰いすぎだと言い切られて何も渡せない。仕方ないので子供達にエンタメデュエルを見せてあげたり、デュエルの指導をしてあげたりする。住んでいる環境を見て理解していたが、デッキが恐ろしく噛み合っていない。【ギガンティック・ファイター】を持っているのに、戦士族が2枚しかなかったり、【アーカナイト・マジシャン】があるのに魔力カウンター関連のカードが無かったりとぼろぼろだ。それでも楽しそうにデュエルをしている。

 

そうだよな、デュエルは本来こういうものだ。それを武器にしているオレたちが異常なんだよな。だけど、そうしないと守れないものもある。リアルソリッドビジョン、登場が早すぎたということか。人類が正しく扱えなかった、そういうことなのだろう。

 

悩むのは後にしよう。とりあえず、もっと笑顔が増えるように子供達を連れてカードを拾いに行こう。結構な枚数が落ちてるみたいだからな。回収すれば十分使えるはずだ。

 

他の誰かがアクションを起こすまでは待ちの選択しかできないのが辛いけど、リンの傍を離れるわけにも行かないしな。塾長たちは無事だろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

徳松 LP4000 手札0

花札衛-雨四光- ATK3000

伏せ2枚

 

「これでオレの必勝コンボは完成した。もうドローすら必要ない!!これでもまだ生温いことが言えるか!!」

 

「熱を忘れたプロに居場所なんてない!!そんな熱を忘れたアンタにはオレが熱血指導だ!!ドロー!!」

 

「甘ぇんだよ!!【雨四光】の効果を発動!!相手がドローした時、1500のダメージを与える!!」

 

「甘いのはそっちだ!!今ドローした【禁じられた聖杯】を発動!!場のモンスター1体を選択し、そのモンスターの攻撃力を400アップさせ、効果を無効にする!!」

 

「何!?」

 

花札衛-雨四光- ATK3000→3400

 

「続いて【愚かな埋葬】を発動。デッキから【弧炎星ーロシシン】を墓地に送り、永続魔法【炎舞ー天磯】を発動。デッキから獣戦士族を手札に加える。オレは【熱血獣士ウルフバーク】を手札に加えて召喚。【ウルフバーク】の効果を発動。墓地から獣戦士族・炎属性・レベル4を効果を無効にして守備表示で特殊召喚する。【ロシシン】を特殊召喚して、更に永続魔法【炎舞ー天枢】を発動。この効果により、オレは1ターンに1度、通常召喚に加えて獣戦士族を通常召喚できる。【熱血獣王ベアーマン】をリリース無しで召喚。【ベアーマン】はレベル8だがリリース無しで召喚できる。リリース無しで召喚した場合、攻撃力は1300になるが問題ない。【ベアーマン】の効果を発動。オレの場の獣戦士族・炎属性・レベル4のモンスターをレベル8に変更する」

 

「レベル8が3体?チューナーもいねぇようだがどうするってんだ?」

 

「こうするんだよ。レベル8の【ウルフバーク】【ロシシン】【ベアーマン】でオーバーレイ!!3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!!【熱血指導王ジャイアントレーナー】」

 

熱血指導王ジャイアントレーナー ATK2800

 

「ほう、シャバにはそんな召喚があるのか」

 

「エクシーズ召喚は同じレベルのモンスター2体以上に重ねて召喚する方法だ。特殊召喚されたエクシーズモンスターは素材となったモンスター、ORUを墓地に送ることで効果を発動する。【ジャイアントレーナー】の効果を発動。ORUを1つ取り除き、カードを1枚ドローして公開する。そのカードがモンスターなら800のダメージを与える。そしてこの効果は1ターンに3回まで使える。行くぞ!!オレはORUを3つ取り除く!!さあ、熱血指導だ!!」

 

デッキに指をかけ、熱を失ってしまったプロデュエリストに熱くたぎる思いを思い出させるために、全力で引き抜く。かつて遊勝さんがオレを救ってくれたように、今度はオレがこの人を救ってみせる。

 

「1枚目【ウルフバーク】、2枚目【ベアーマン】、3枚目【RUMーアージェント・カオス・フォース】よって1600のダメージだ!!」

 

「ぬおおおっ!?」

 

徳松 LP4000→2400

 

「更に【アージェント・カオス・フォース】を発動。このカードは自分の場のエクシーズモンスターのランクを1つ上げた『CNo.』、または『CX』にランクアップさせる。ここからが本当の熱血指導だ!!【ジャイアントレーナー】をランクアップエクシーズチェンジ、来い、【CX 熱血指導神アルティメットレーナー】」

 

CX 熱血指導神アルティメットレーナー ATK3800

 

「【アルティメットレーナー】も同じ効果を持つ。行くぞ、ドロー!!【禁じられた聖杯】よってダメージはなしだ。【ジャイアントレーナー】の効果を使ったターン、オレはバトルを行えない。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

柊修造 LP4000 手札2枚

CX 熱血指導神アルティメットレーナー ATK3800

炎舞ー天磯

炎舞ー天枢

伏せ2枚

 

「さあ、どうする。オレの手札には【ウルフバーク】と【ベアーマン】がいる。次のターン、もう一度【ジャイアントレーナー】が出て来る。そして【アージェント・カオス・フォース】はランク5以上のモンスターが特殊召喚された時、墓地から手札に加えることが出来る。必勝コンボは既に崩れた。さあ、どうする徳松さん、いや、エンジョイ長次郎!!」

 

「うるせぇ!!その名は捨てたんだ!!それに必勝コンボはまだ生きている!!」

 

「いいや、デュエルに必勝なんてものはない。あるのは面倒くさいだけだ。どれだけ強力なモンスターだろうと、どれだけ強固なロックだろうと、どれだけ殺意の高いバーンだろうと、どれだけ緻密なコンボだろうと、やぶれないものものなんてない!!それがデュエルだ!!思い出せ、アンタにだってそんな思いがあったはずだ!!例え負け続けようとも、勝ち続けようとも、デュエルは楽しいものなんだってことを!!エンジョイ長次郎の名から分かる。昔のオレとは違ってアンタは誰よりも楽しんでいたはずだ!!」

 

「昔の、お前さん?」

 

「オレがこの街からずっと遠くの街でプロだった頃、オレは『帝王』の二つ名で呼ばれていた。強力なモンスターの連続召喚で徹底的に相手を叩き潰すスタイル。しかも、基本は2軍デッキでそれを行い、2軍デッキでは対処できないと感じた相手には1軍デッキを使って徹底的に相手を叩き潰してきた。そんなオレにファンは付かなかったよ。試合の度にブーイングなんて当たり前だ。だが、そんなことはどうでも良かった。オレは相手を叩きのめせればそれでよかった。デュエルを楽しんでるんじゃない。相手を叩きのめすのが楽しかったんだ。デュエルモンスターズを始めた頃は、ただただデュエルすることが楽しかったはずなのにな」

 

今だからこそ思い出せるようになった。あのまま『帝王』をやっていれば、今でも暴力的なデュエルしかできなかっただろう。

 

「そんなオレにデュエルの楽しさを思い出させてくれた人がいた。その人に負けてオレはプロを辞めた。そしてその人に弟子入りした。『帝王』の二つ名を捨て、今じゃあ遊勝塾の熱血講師、柊修造だ。エンジョイ長次郎、アンタだってまだやり直せる。聞こえないか、あの音が、声が」

 

収容所中から徳松さんのデュエルを見せろと看守にカードを渡す声と、この部屋まで走ってくる音。そして、先頭の者が柵の前にまでやってきた。

 

「やった、まだ終わってねぇぞ」

 

「徳松さん、待ってました」

 

「こりゃたまんねえな」

 

「これだけの観客が集まったんだ。もっと熱く盛り上げよう!!」

 

「うるせえ!!オレのターン」

 

ターンを宣言してからも中々ドローをしない。だが、ドローを促すように観客達が長次郎コールを行う。そして、とうとうドローする。

 

「エンジョイ!!」

 

「「「しびれる~」」」

 

「来たぜ、魔法カード【超こいこい】を発動。デッキからカードを3枚ドローし、ドローしたカードが『花札衞』なら特殊召喚し、それ以外なら墓地に送り1000のダメージを受ける!!」

 

「ギャンブルか。それがアンタの切り札か」

 

「そんなんじゃねえよ。こいつはオレの生き様よ。行くぜ、オレの運命を賭けたドローだ!!」

 

「待ってました!!」

 

「世界一!!」

 

「デュエルとはすなわち人生なり。人生は一度きり、勝つ日もあれば、負ける日もある。負けを恥じず勝って驕らず、すなわちレッツエンジョイ!!」

 

「「「「「エンジョイ!!」」」」」

 

「1枚目」

 

「「「こいこい、こいこい、こいこい」」」

 

「エンジョイ!!」

 

「「「エンジョイ!!」」」

 

「引いたのは【代償の宝札】よって墓地に送られる」

 

エンジョイ長次郎 LP2400→1400

 

「2枚目!!」

 

「「「こいこい、こいこい、こいこい」」」

 

「エンジョイ!!同じく【代償の宝札】よって墓地に送られる」

 

エンジョイ長次郎 LP1400→400

 

「2枚目も外した」

 

「馬鹿野郎。破壊されたのは【代償の宝札】だ。どんな方法でも墓地に送られれば2枚ドローするカードが2枚も墓地に送られたんだ。これはむしろチャンスなんだよ」

 

「その通り。ここまでは想定通り!!そして3枚目!!」

 

「「「こいこい、こいこい、こいこい」」」

 

「エンジョイ!!【花札衛-松に鶴-】よって特殊召喚される。ただし、この効果で特殊召喚されたモンスターの攻撃力は0となり、レベルは2となる」

 

花札衛-松に鶴- ATK0

 

「そして、墓地に送られた【代償の宝札】の効果で4枚ドロー!!【神秘の中華鍋】で【松に鶴】をリリースして守備力分のライフを回復する」

 

エンジョイ長次郎 LP400→2400

 

「そして【超勝負!】を発動!!【雨四光】をエクストラデッキに戻し、そのシンクロ素材となったモンスターをレベル2として墓地より特殊召喚する。来い、【松に鶴】【芒に月】【桐に鳳凰】【柳に小野道風】その後、1枚ドローし、ドローしたカードが【花札衛】ならレベル2にして特殊召喚する。【花札衛】以外なら俺の場のモンスターを全て破壊し、ライフを半分失う!!」

 

「あの4枚で【雨四光】5枚で出すなら【五光】足りないのは【桜に幕】引くか、エンジョイ長次郎!!」

 

「言ったはずだ。勝つ日もあれば負ける日もある。引こうが引くまいが、それこそ人生。すなわちエンジョイだ!!」

 

勢い良く引いたカードは【桜に幕】よって特殊召喚され、場には5体のモンスター、チューナーが1体。来る!!

 

「俺はレベル2の【桜に幕】【松に鶴】【芒に月】【桐に鳳凰】にレベル2の【柳に小野道風】をチューニング!!その神々しさは聖なる光。今、天と地と水と土と金となりて照らせ。シンクロ召喚!!【花札衛-五光-】」

 

花札衛-五光- ATK5000

 

「攻撃力5000、それに魔法無効に戦闘するモンスターの効果を無効。ものすごい制圧力だ」

 

「これが俺の切り札よ!!そしてカードを2枚セットし【手札抹殺】を発動。【ウルフバーク】と【ベアーマン】を墓地に送ってもらおうか」

 

「くっ、2体を墓地に送り2枚ドロー」

 

このカードじゃダメだ。他のカードじゃ遅い。

 

「そして今伏せた2枚目の【超こいこい】を発動!!【松に鶴】【芒に月】【桐に鳳凰】をレベル2で特殊召喚!!」

 

「うおおおおおおおっ!!連続で決めてきたぞ!!エンジョイ長次郎が帰ってきた!!」

 

「最後に伏せていた【札再生】墓地から【花札衛】をレベル2で特殊召喚する。【柳に小野道風】を特殊召喚。再び現れろ【雨四光】」

 

花札衛-雨四光- ATK3000

 

「バトルだ。【五光】で【アルティメットレーナー】を攻撃!!」

 

「【ダメージ・ダイエット】を発動。このターン、オレが受けるダメージを半分にする」

 

柊修造 LP4000→2800

 

「【雨四光】でダイレクトアタック!!」

 

「【ダメージ・ダイエット】で半分だ」

 

柊修造 LP2800→1300

 

「オレはこれでターンエンドよ。さあ、お前さんの最後のドローだ!!」

 

徳松 LP2400 手札0

花札衛-五光- ATK5000

花札衛-雨四光- ATK3000

伏せ2枚

 

「諦めた時点でデュエルには勝てない。行くぞ、オレのターン!!燃え上がれ、オレの魂よ!!ドロー!!」

 

「その瞬間、【雨四光】の効果を発動。1500のダメージを与える」

 

「墓地から【ダメージ・ダイエット】を除外して効果を発動。このターン、効果ダメージを半分にする。ぬお!?」

 

柊修造 LP1300→550

 

「さらにカウンター罠【強烈なはたき落とし】を発動。今引いたカードを墓地に送ってもらう。どうでい、【手札抹殺】の時に盤面をひっくり返せるカードを引いていなかったようだからな。これで俺の勝ちだ」

 

「ああ、確かに【手札抹殺】の時は勝てなかったよ。だが、条件はアンタが揃えてくれた。行くぞ、デュエルモンスターズ史上最強の除去方法、【五光】と【雨四光】をリリースし、【溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム】をエンジョイ長次郎の場に攻撃表示で特殊召喚!!」

 

「なにっ!?」

 

溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム ATK3000

 

エンジョイ長次郎がラヴァ・ゴーレムの檻に閉じ込められる。

 

「檻の中で更に檻に閉じ込められるとは。なんという凶悪犯なんだ(棒読み)」

 

「何だこいつは!?」

 

「そいつは相手の場のモンスター2体をリリースして、相手の場に特殊召喚することしか出来ない変わったモンスターだ。そしてコントロールするプレイヤーのスタンバイフェイズ毎に1000のダメージを与える。だが、これで終わりだ。魔法カード【所有者の刻印】を発動!!全てのモンスターのコントロールを元々のプレイヤーに戻す!!」

 

エンジョイ長次郎が檻から釈放されて、今度はオレが収容される。

 

「バトルだ!!オレの熱血が全てを燃やし尽くす!!修造・熱血・ファイヤー!!」

 

「ぐおおおおおお!?」

 

エンジョイ長次郎 LP2400→0

 

ラヴァ・ゴーレムの攻撃でエンジョイ長次郎が吹き飛ばされ、オレも檻から釈放される。揺られてちょっと気持ち悪い。デュエルでは勝ったが、観客である囚人たちからは長次郎コールが鳴り止まない。

 

「久々に楽しいデュエルだった」

 

エンジョイ長次郎が起き上がり、観客に向き合う。そして両手を上げて高らかに宣言する。

 

「エンジョイ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行政評議会の者です。榊遊矢、リンの2名はフレンドシップカップへの出場が認められました。尽きましたはご同行を願います」

 

子供達が起きる前にリンと二人で朝食の用意をしている所に白服達が現れる。

 

「フレンドシップカップ?登録した覚えはないんだけど」

 

「出場登録は行われている。これがその書類だ」

 

白服がデュエルディスクを操作して登録書を見せてくれる。この字は零児の字だな。つまりは参加しろと言うわけか。リンの方も零児の字ということは、参加にかこつけて保護するということだろう。

 

「なるほど、事情は理解した。だけど、ちょっとだけ待ってくれるかな。子供達の食事を用意してからこっちも準備があるから。逃げはしないから中で待っていてくれても、いいよな、リン」

 

「えっ、ええ。大丈夫だけど」

 

リンは行政評議会、言ってしまえば最高権力者の命令よりも子供達を優先しようとする行為に少し驚いているようだ。朝食の用意をして子供達への置き手紙を用意してから拾ったカードで作ったデッキをテーブルに置いておく。頼むぞ【スクラップ】たちよ。子供達を守ってやってくれ。

 

白服達に連れられた先では、零児たちと言うか、全員が揃っていた。塾長と権現坂とデニスと知らない男は手錠を付けられてるが何があったんだ?

 

「零児、何がどうなってるの?」

 

「そういう君こそ何をしていた?」

 

「オレ?セレナがポカをやらかして、日光に二人を任せて囮になってただけだよ。まあ、その後に体調を崩してリンに保護されてた」

 

「何をどうやったら彼女と出会えるのかは知らないが、良くやったと言っておこう。事情の説明は?」

 

「してない。そっちに任せるよ。幸いなことに瑠璃がいるからね、セレナとは顔合わせだけでいいでしょ」

 

「おい、どういうことだ、それは」

 

セレナがなんか吠えてるけど、セキュリティに追われるきっかけを作ったのをもう忘れたのだろうか?

 

「えっ、直接言ってほしいの?」

 

「……いや、やっぱいい」

 

そうした方が良い。またガチ泣きされても困る。

 

「ねえ、遊矢。貴方は一体?」

 

「あ~、まあ、色々な事情があるとしか言えないかな。何処まで話して良いのかとか、そういうのが判断できないからトップの零児に聞いてくれ」

 

「分かった。遊矢がユーゴにそっくりなのも何か事情があるのね」

 

「それはリン自体にも言えることだ」

 

「話を戻そう。当初の目的を果たすために君にはジャック・アトラスを倒して欲しい」

 

「オッケー。あれ、でも確かフレンドシップカップの優勝者しか挑戦権がなかったんじゃあ?」

 

「そうだ、だからフレンドシップカップにも優勝してもらう」

 

「何か制限とかは?」

 

「ない。存分に君の力を見せてくれ」

 

「それに加えて君にはエキシビジョンマッチに出てもらう」

 

零児の隣、隣?上?まあ、高いところにいる五人の年寄りの中で最も目付きの悪いおじさんがそう言ってきた。

 

「エキシビジョンマッチ?」

 

「そうです。フレンドシップカップの前夜祭。それのメインイベントとしてフレンドシップカップの優勝者以外に、キングとデュエルを行える。それがエキシビジョンマッチです」

 

「それに出てもらい、何処までやれるのか。本戦の前のテストだと思ってもらってもかまわない」

 

「これは私達からの慈悲でもある。全く知らない相手に勝てとは言わない。一度だけその身でキングの力を味わってもらう。ですね、議長」

 

「はい。貴方もチャンピオンならデュエルを行うのが一番でしょう。ただし、エキシビジョンでは勝って貰っては困ります。そして態と負けて貰っても困ります。キングに違和感を持たせることなく、会場を盛り上げてデュエルを終わらせて下さい。それが、我々からの条件です」

 

「そのエキシビジョン、あなた方もご覧になられるのですよね?」

 

「もちろんです」

 

「観客の期待に答えるのも私、『千変万化』の務めです。そしてお見せしましょう。超一流のエンタメデュエリスト、榊遊勝の息子にして一番弟子、榊遊矢のエンタメデュエルを」

 

久しぶりの制限デュエルだ。難しい注文だけど、やってみせるさ。

 

 




ARC-Vではとうとう最後の最後まで完治することなかった振り子メンタル
運動できない奴は死ねという五光の魔術師
ロリをショタとして扱う契約を破棄しまくるブラック経営な社長
口下手すぎるパパン's
結局どうなったのかわからない遊矢シリーズと柚子シリーズ
株が上がり続けた権現坂
作中屈指のエンタメだった遊矢vsデニス

いつものことですが突っ込みどころ多いなぁ。


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第9話

「ドローソースはこれで十分だろう。とにかく掘りまくってキーカードを用意しないと。あ~、【融合】は2枚で【置換融合】を1枚突っ込んで、【融合回収】は1枚あれば、いや、2枚積むか?本番のことも考えると【マスク・チェンジ】は入れたくないんだよな。【ミラクル・フュージョン】は3枚、モンスターは全部ピンでいいか」

 

前夜祭のエキシビジョンに向けてデッキの調整を急ぐ。まさか連れられたその日が前夜祭とかスケジュール詰めすぎだよ。Dホイールの練習もしておきたいのに、それに加えてアクションデュエルの要素を加えた【クロス・オーバー・アクセル】を使用するだなんて。

 

「とりあえずメインの40枚っと。EXは下手にエクシーズを入れるよりも融合オンリーでいいよな。この15枚でいいよね」

 

用意したデッキをケースに収める。丁度いいタイミングでノックされる。

 

「どうぞ」

 

「失礼します。スーツとヘルメットです。サイズは合っているはずです。市販の物をサイズ調整しただけですので、微調整が必要なら直ぐにできます」

 

「ありがとう、助かるよ。すぐに着替えるからちょっとだけ待ってね」

 

一流のマジシャンでもあるオレにとって早着替えは必須スキルでもある。10秒で着替え終え、練習用のコースに案内してもらう。Dホイールに搭乗し、簡単な操作のレクチャーを受けてからデッキをセットして走り出す。意外と安定しているけど、思った通りには動かせない。無理な走りはできそうにない。【スカルライダー】に乗ってのデュエルの方が楽かな。

 

無理矢理時間を作ってもらったので練習に時間を執れなかったけど、無様な姿を晒さずにすむ。一度控室に戻り、ソファーに寝転がって本番までの時間を潰す。

 

「そろそろお時間です」

 

「うあっ?ああ、もうそんな時間?」

 

ソファーから飛び起きて伸びをして体を簡単に解す。

 

「うっし、行こうか」

 

移動中、何度も案内の少年がチラチラとオレのことを見てきていた。

 

「どうかしたのかい?」

 

「あっ、いえ、その、榊遊矢さんは、他の地区でのチャンピオンなんですよね?」

 

「そうだよ。まあ、正確にはチャンピオン代理ってのが正しいかな。本来のチャンピオンが行方不明で、ちゃんとデュエルで勝ったわけじゃないからね」

 

「でも、変わらなかったんですよね」

 

「どういうことだい?」

 

「キングは、変わってしまった。コモンズのスラムで育った彼はキングになり巨万の富を得てから僕達を見下すようになってしまった。ずっと、応援していたのに。カードがなければくれてやる。お前にふさわしいカードをなって、このカードを」

 

「【調律の魔術師】じゃないか。効果は微妙に違うけど」

 

案内の少年が見せてくれたのは【調律の魔術師】単体では使い難さ抜群だけど、ちゃんと見れば優秀だ。低レベルチューナーで闇属性で魔法使い族、サポートカードは豊富で攻撃力も低いので落とし穴系列のカードに引っ掛かりにくい。何より可愛い。キングも中々良いセンスを持っている。

 

「良いカードじゃないか」

 

「っ!?貴方までそんなことを言うんですか!!」

 

案内の少年が激怒するが、デュエリストとしてのレベルが低いんだろうな。デュエル語もほとんど扱えないんだろう。オレは直接会って、そういう風に言われて渡されたわけじゃないけど、キングが言いたかったことは完璧に分かるもの。

 

「レベル1、闇属性、魔法使い族、攻撃力400、チューナー。サポートカードは豊富で相手の除去から逃れやすい。良いカードだ。効果は癖が強いけど、逆に言えば、使いこなせればデュエリストとしての腕が上がっているという証拠にもなる。キングはこう言いたかったんだろう。これを使いこなして伸し上がって来いって。与えられるんじゃない、自ら勝ち取れって」

 

「そんな簡単に言わないで下さい!!僕らにはカードを買うことすら難しいのに。それなのにどうやって勝ち取れって、あいた!?」

 

不平不満しか口に出さない少年にでこぴんを御見舞する。

 

「キングだってコモンズのスラム出身だったんだろう。皆が諦めていく中で、頑張って、それこそ死に物狂いで、カードを拾い集めた。最初は寄せ集めだったろうさ。それでも少しでも相性の良いカードを、コンボが出来るカードを探して、考えて、勝って、負けて、勝ちの方が多くなって、勝ち続けて、そしてキングになった。君はキング以上に努力をしたと言えるかい?」

 

「それは、でも貴方は」

 

「1年」

 

「えっ?」

 

「父さんから貰ったデッキじゃなく、初めて自分のデッキを作って、初めて勝つまでにかかった時間。オレは負け続けたさ。大人だけでなく同年代にも負け続けた。それでも、オレは、オレが作りたかったデッキで勝てるまで諦めなかった。この世に不必要なカードなんて存在しない。そう証明したかった。オレは、キングの気持ちが分かるよ。彼は待っているんだ。最底辺から自分は頂点まで上り詰めた。オレに続けと、彼はずっと待っているんだ。だけど、君みたいに努力することを、登ることを止めてしまう皆を見てがっかりして、それでもここまで来いと何度でも訴える。次の世代は育っていっているんだ。5年かかろうが10年かかろうがキングは、ジャックは待ち続けているんだ」

 

メモ帳に孤児院の住所を書き込んで渡す。

 

「ここ数日オレがお世話になっていた孤児院の住所だ。そこに孤児院の皆で拾って作ったデッキを置いてきた。子供達にはデュエルで大事なことを教えた。行ってみると良い。そして、今日のデュエルを見て、ジャック・アトラスに向き合ってみるんだ」

 

「キングに、向き合う」

 

それから少年は【調律の魔術師】をもう一度見て、懐にしまい込む。少年が案内を再開してDホイールが置いてある場所に連れられる。

 

「なっ、違うDホイールだって!?」

 

「どうかされましたか?」

 

「今日のデュエル用のデッキ、練習に使ったDホイールに装着したままだ」

 

少年が青い顔をして頭を慌てて下げる。

 

「あっ、説明をし忘れていました。申し訳ありません!!」

 

「取りに行って間に合うかい?」

 

「いえ、もう10分で試合が。取りに行けば20分はかかります」

 

「そうか。ならば5分でデッキをでっち上げる!!」

 

急いで控室に戻りサイドデッキと余っているカードを広げて必要なカードを取捨選択して素早くデッキを組み立てる。下手なコンボを考えている暇はない。この大会のことも考えて試合ではなく大会を1つのステージに仕立て上げるマイクパフォーマンスも適当に組み立てる。

 

「君はデッキを取ってきてくれるかい。試合まではマイクパフォーマンスで繋げるから、観戦はできるはずさ」

 

「ですが」

 

「なぁ~に、こういう逆境で燃え上がらずにどうするのさ。それにデッキは仕上がった。君も急いで」

 

55枚のレギュレーションも確認し終えてDホイールが置いてある場所まで戻ってデッキを装填する。司会のメリッサさんの紹介と共にアクセルを全開にして会場に飛び出す。スタート位置に着いた後、キングの紹介が始まり、1輪のDホイールに乗って颯爽と現れる。

 

「キングは1人、このオレだ!!」

 

う~ん、格好いいな。そしてやっぱり口下手みたいだ。理解してくれる人がいないのが原因だろう。こういう人に限ってデュエルでは饒舌なんだよな。そんなことを思いながら、キングを挑発する。

 

「キングの座はどうでもいいけど、ピエロは1人、このオレだ!!」

 

会場の張り詰めていた空気がオレの台詞で変な笑いの空間に早変わり。キングへの注目が全部オレに集まった。

 

「ふん、自分で笑い者になりにきたか」

 

「ピエロは観客を笑わせるのが仕事さ。だけどな、サーカスでは一番重要な役割を持った配役でもある。こうやって日常から非日常への案内人で、夢を見せる大切な役割だ。笑われてるわけじゃない。オレが笑わせたんだ。貴方なら、オレが言いたいことが分かるはずさ」

 

「お前」

 

「皆と一緒に楽しむ。それがオレのデュエルだ」

 

「くっ、くははははは、良いぞ!!お前となら最高のデュエルが出来る!!」

 

「オレもそう思う。だけど、今日は前菜だ。オレの一端を見せるだけ」

 

キングにだけ聞こえる小声から会場中に伝わるぐらいの大声に変える。

 

「本日はフレンドシップカップにお招き頂きありがとうございます。この度はこのシティとオレの住む舞網の間での友好関係の構築のためにはるばるやってきました、舞網地区チャンピオン、プロデュエリスト、次世代ルーキーを集めたチーム、ランサーズのエース榊遊矢です!!今日はエキシビジョンという形で、一足お先にキングであるジャック・アトラス氏とのデュエルを行わさせて頂き、感謝しています。明日のフレンドシップでもそうですが、我々ランサーズはそれぞれがとある『テーマ』を表現するデッキを用意してきています。何故かと言いますと、我々舞網地区のデュエリストは人気も重要だからです。強さだけでなく、『テーマ』にプライドを乗せる。それがどういった魅力を発揮するか、お楽しみ下さい。そして、オレのテーマは『HERO』、他のメンバーは『忍者』や『魔王』や『ブラック経営者』なんてのもいます」

 

ブラック経営者(DDD)』に会場がまた笑い出す。コストは踏み倒すわ、そっちから契約を破棄しているのに違約金をとるわ、独占しようとするわ、圧迫面接までする最低企業だよ。まあ、国営企業なのに保険に入っていなかったのか、怪獣が5頭ほど暴れて倒産したけど。

 

「さあ、それでは『HERO』の序章、仲間の制止を振り切り、別の宇宙からやってきた孤独な『HERO』の戦い」

 

マイクパフォーマンスを終えてメリッサさんに手を振って進行を促す。

 

「今日は本気ではないということか。行政評議会にでも言われたか」

 

「それもあるけど、ちょっと不手際もあってね。本来用意したデッキではないのは確かだ。だけど、気を抜けば一瞬で葬ってやるぞ!!」

 

「良い気迫だ!!来い!!」

 

「それでは、【クロス・オーバー・アクセル】セット、ライディングデュエル」

 

「「アクセラレーション!!」」

 

アクセルを全開にするが、フルチューンを施されているキングのDホイールに引き離されないようにするので限界だ。

 

「先行はオレだ。貴様のデッキのテーマが『HERO』だと言うのなら、オレのデッキのテーマは『魂』!!オレはチューナーモンスター【レッド・リゾネーター】を召喚。『レッド』モンスターの召喚に成功した時、手札から攻撃力を半分にして【レッド・ウルフ】は特殊召喚できる。レベル6【レッド・ウルフ】に、レベル2【レッド・リゾネーター】をチューニング!!王者の咆哮、今、天地を揺るがす!!唯一無二なる覇者の力、その身に刻むがいい!!シンクロ召喚!!我が魂!!【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

 

現れたのはオレの持つレッド・デーモンズの亜種。キングと共に激戦を潜り抜け、その力を増しているのが感じられる。これがキングの魂。たとえ傷つこうとも、雄々しく、傷跡すらも誇りだと言わんばかりに見せつけてくれる。これを見て、キングが、ジャックが言いたいことを完全に理解する。オレの想像は合っていた。オレはここまで傷ついたが、ここまで来れた。次はお前達の番だと。

 

「ジャック、アンタは最高のデュエリストだ」

 

「カードを2枚伏せてターンエンドだ。次は貴様の番だ。見せてみろ、貴様の誇りとやらを!!」

 

ジャック LP4000 手札1枚

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

セットカード2枚

 

 

「ああ、見せてやるぜ!!オレのターン、ドロー!!オレは【おろかな埋葬】を発動。デッキから【E・HERO ネオス】を墓地に送る。そして【O-オーバーソウル】を発動。墓地から『E・HERO』通常モンスターを選択して特殊召喚。来い、遠い別の宇宙から平和を守るためにやってきた正義のHERO!!【E・HERO ネオス】」

 

E・HERO ネオス ATK2500

 

「通常モンスターだと?」

 

「【ネオス】は仲間と協力することで真価を発揮するHEROだ。だが、仲間達はまだ成長しきっておらず時を待っている。装備魔法【ネオス・フォース】を【ネオス】に装備!!」

 

E・HERO ネオス ATK2500→3300

 

「バトルだ。【ネオス】で【スカーライト】を攻撃!!ネオス・フォース!!」

 

【ネオス】が右手に集中したエネルギーを【スカーライト】の顔面に叩きつけるが、【スカーライト】は破壊されずに【ネオス】の右腕を左手で掴んで投げ飛ばす。

 

「リバースカード【レッド・クリスタル】このターン、『レッド』モンスターは破壊されない!!」

 

「だが、ダメージは受けてもらう」

 

ジャック・アトラス LP4000→3700

 

「オレはカードを2枚伏せてターンエンド。エンドフェイズ、【ネオス・フォース】はデッキに戻る」

 

榊遊矢 LP4000 手札1枚

E・HERO ネオス ATK2500

セットカード2枚

 

「オレのターン!!【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果を発動!!自身の攻撃力より低い攻撃力を持つモンスターを破壊し、破壊したモンスター1体につき500のダメージを与える!!アブソリュート・パワー・フレイム!!」

 

やばい、アクションカードはあった。こいつなら発動させるのはこっちだ。

 

「リバースカードオープン【神秘の中華鍋】を発動する。【ネオス】をリリースして攻撃力分ライフを回復させる!!」

 

【スカーライト】の炎にあぶられる前に【ネオス】が急いで鍋に飛び込みライフというスープになって消える。

 

榊遊矢 LP4000→6500

 

「ならばバトルだ!!【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】でダイレクトアタック!!灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング!!」

 

「うわああああああ!?」

 

ちょっ!?よりにもよってパンチかよ!?

 

榊遊矢 LP6500→3500

 

「アクションマジック、【ダメージドロー】2000以上のダメージを受けた時に発動できる。カードを2枚ドロー!!」

 

「ほぅ、それがアクションカードとやらか。何やら拾っていたが、そういうカードか」

 

「そうさ。手札に1枚しか持てないし、セットも出来ないけど、手札誘発みたいにいつでも手札から発動できるカード、それがアクションカードさ。ジャックもどんどん拾って使ってみてくれ」

 

そう言うと、ジャックはちょうど近くにあったアクションカードを拾い上げる。

 

「なるほど。こういうカードか。オレはカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

ジャック LP3700 手札2枚

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

セットカード2枚

 

 

「オレのターン、ドロー!!【死者蘇生】を発動!!甦れ【ネオス】!!そして、フィールド魔法【摩天楼 -スカイスクレイパー-】を発動。バトルだ」

 

「【ネオス】の方が攻撃力が低いのに攻撃だと?」

 

「【摩天楼 -スカイスクレイパー-】の効果を発動!!『E・HERO』が攻撃する時、相手のモンスターの攻撃力が高かった場合、攻撃力を1000アップさせる。行け、スカイスクレイパー・オブ・ネオス!!」

 

「アクションマジック【不撓不屈】を発動!!【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】はこのターン、戦闘では破壊されない」

 

「ダメージは受けてもらう!!」

 

ジャック・アトラス LP3700→3200

 

「ええい、また破壊できなかったか。カードを伏せてこれでターンエンドだ」

 

榊遊矢 LP3500 手札1枚

場 摩天楼 -スカイスクレイパー-

E・HERO ネオス ATK2500

セットカード2枚

 

「オレのターン!!【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の効果を発動!!アブソリュート・パワー・フレイム!!」

 

「くっ、【ネオス】!!」

 

榊遊矢 LP3500→3000

 

「バトルだ!!【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】でダイレクトアタック!!」

 

「永続トラップ【正統なる血統】を発動。墓地の通常モンスター1体を特殊召喚する。【ネオス】を守備表示で特殊召喚」

 

「攻撃は続行する。【ネオス】を攻撃、灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング!!」

 

「対象の【ネオス】が破壊されたことで【正統なる血統】も破壊される」

 

「榊遊矢!!貴様は何を考えてそんなデッキを作った!!腑抜けたデュエルをする位ならサレンダーしろ!!」

 

「最初に言ったはずだよ。これは序章だ。【ネオス】は本来の力を発揮できていない。だから何度も破壊される。だけど、【ネオス】はHEROだ。何度でも立ち上がり、平和を守るために戦う!!それがHEROだ!!」

 

「ならば、本来の力を見せてみよ!!カードを伏せてターンエンド」

 

ジャック LP3200 手札1枚

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト ATK3000

セットカード3枚

 

「なら、【ネオス】の本来の姿を見せよう!!ドロー!!【カードガンナー】を召喚して【機械複製術】を発動。デッキから【カードガンナー】を2体特殊召喚。そして3体のカードガンナーの効果を発動。デッキからカードを9枚墓地に送る。そして攻撃力を1500アップ」

 

カードガンナー ATK400→1900

 

「そんなモンスターでどうする」

 

「これは下準備さ。もう一手間加えるけどね。リバースカードオープン【ハイレート・ドロー】自分の場の機械族モンスターをすべて破壊し、破壊したモンスターの分だけカードをドローする。そして【カードガンナー】は破壊された時にカードを1枚ドローできる。よって、6枚ドロー!!」

 

手札を見て、とりあえず動けることを確認する。

 

「お楽しみはこれからだ。序章は終わり第1章の始まりだ!!【コンバート・コンタクト】を発動。手札とデッキから『N』モンスターを墓地に送って2枚ドロー。【コクーン・パーティ】を発動。墓地に存在する『N』モンスターの種類の数だけデッキから『C』を特殊召喚する。【ネオス】の危機に成長しきっていない仲間が駆けつける。そして、その友情が奇跡を呼び起こす。永続魔法【コクーン・リボーン】を発動。フィールドの『C』モンスターを墓地に送り、対応する『N』モンスターを墓地から特殊召喚する。現れろ、ネオスペーシアン達【アクア・ドルフィン】【ブラック・パンサー】【エア・ハミングバード】【グラン・モール】【フレア・スカラベ】」

 

繭に包まれた動物たちがオレの場に現れ、そして一気に成長する。

 

N・アクア・ドルフィン ATK600

N・ブラック・パンサー ATK1000

N・エア・ハミングバード ATK800

N・グラン・モール ATK900

N・フレア・スカラベ ATK500

 

「そんなモンスターで何をする気だ」

 

「まあ、待ちなって。【エア・ハミングバード】の効果を発動。相手の手札1枚につきライフを500回復させる」

 

榊遊矢 LP3000→3500

 

 「【スペーシア・ギフト】を発動。『N』モンスター1種類につき1枚ドローする。5枚ドローして、通常魔法【ヒーロー・マスク】を発動。デッキから【ネオス】を墓地に送り【ブラック・パンサー】を【ネオス】として扱う。行くぞ、ジャック!!これが【ネオス】の力だ!!【ネオス】と【アクア・ドルフィン】と【エア・ハミングバード】をデッキに戻す」

 

「デッキに戻す?一体何をするつもりだ」

 

「3つの力が1つとなった時、はるか大宇宙の彼方から、最強の戦士を呼び覚ます!!トリプルコンタクト融合!!銀河の渦の中より現れよ!!【E・HERO ストーム・ネオス】そして効果を発動。全ての魔法・罠を破壊する!!」

 

E・HERO ストーム・ネオス ATK3000

 

「そうはさせん。リバースカード【デモンズ・チェーン】を発動。【ストーム・ネオス】の効果と攻撃を封じる!!」

 

「ならば、2枚目の【オーバーソウル】で【ネオス】を呼び戻し、【グラン・モール】と【フレア・スカラベ】と共にデッキに戻してトリプルコンタクト融合!!来い【E・HERO マグマ・ネオス】」

 

E・HERO マグマ・ネオス ATK3000

 

「さらに【ミラクル・コンタクト】を発動。墓地の3枚目の【ネオス】と【ブラック・パンサー】【N・グロー・モス】をデッキに戻し、トリプルコンタクト融合!!【E・HERO カオス・ネオス】効果を発動。コイントスを3回行い、表の数で効果が変わる」

 

リアルソリッドビジョンで3枚のコインが生み出され、それを掴んで空高く投げ上げる。結果は全て表。

 

「相手の場のモンスターを全て破壊する」

 

「くっ、リバースカード【リボーン・パズル】効果で破壊されたモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。甦れ【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】」

 

「フィールド魔法を【ネオスペース】に張り替える。コンタクト融合で現れたモンスターは通常の空間ではエネルギーの消耗が激しく、エンドフェイズにEXデッキに戻ってしまう。だが、【ネオスペース】は【ネオス】達の故郷の宇宙。エネルギーが尽きることはない。そして【ネオス】とその融合体の攻撃力が500アップする。カードを4枚セットしてバトルだ!!【マグマ・ネオス】はフィールドのカード1枚に付き攻撃力が400アップする。オレの場には3体の【ネオス】とカードが5枚に【ネオスペース】ジャックの場には【スカーライト】と【デモンズ・チェーン】とセットカードが1枚。そして【クロス・オーバー・アクセル】の全部で12枚。よって4800アップ」

 

E・HERO マグマ・ネオス ATK3000→3500→8300

 

「スーパーヒートメテオ!!」

 

【マグマ・ネオス】が殴りかかりに行く。アクションカードは明らかにDホイールで取りに行けない頭上。だけど、この攻撃で決まらない。オレのデュエリストとしての勘がそう訴えている。そして、そのとおりになる。ジャックのDホイールが壁を駆け上がってジャンプし、【スカーライト】が足場となって、更にジャンプしてアクションカードを手にする。

 

「アクションマジック【奇跡】これによって【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】は破壊を免れ、ダメージも半分となる」

 

ジャック・アトラス LP3200→550

 

「【カオス・ネオス】で攻撃!!」

 

「永続トラップ【キング・スカーレット】を発動。これにより【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】の破壊を無効にし、さらに【キング・スカーレット】をチューナーモンスターとして特殊召喚」

 

ジャック・アトラス LP550→50

キング・スカーレット DEF0

 

「オレはこれでターンエンドだ。見たか、ジャック。これが【ネオス】とその仲間達、HEROの強さだ!!」

 

榊遊矢 LP3500 手札1枚

場 ネオスペース

E・HERO ストーム・ネオス ATK3500

E・HERO マグマ・ネオス ATK8300

E・HERO カオス・ネオス ATK3500

永続魔法 コクーン・リボーン

セットカード4枚

 

「確かに見せてもらったぞ、榊遊矢。【ネオス】と貴様のHEROに掛けるプライドを!!ならばこそ、オレも見せよう!!我が魂の輝きを!!オレのターン!!【ミラー・リゾネーター】を召喚。オレの道はオレが作る!!聞け、オレの魂の鼓動を!!感じるか?オレの命の高ぶりを!!見るが良い!!これがオレのデュエル!!飽くなき挑戦を続ける王者の叫び!!」

 

ジャックのDホイールがどんどん加速していく。それと同時にどんどんとジャックの力が【スカーライト】に伝わっていく。来るか、ダブルチューニング!!

 

「オレはレベル8の【レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト】にレベル1【キング・スカーレット】と【ミラー・リゾネーター】をダブルチューニング!!王者と悪魔、今ここに交わる。赤き竜の魂に触れ、天地創造の雄叫びをあげよ!!シンクロ召喚【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント ATK3500

 

ダブルチューニングで現れたシンクロモンスターに会場中が熱気に包まれる。オレの持っているダブルチューニングモンスターとはどう効果が違う。

 

「【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】の効果を発動。このカード以外のすべてのカードを破壊する。アブソリュート・パワー・インフェルノ!!」

 

「正統進化の効果か!!リバースカード【コンタクト・アウト】場の【マグマ・ネオス】をEXデッキに戻し、デッキから素材を特殊召喚する」

 

同時にアクションカードを探して拾い上げようとして、届かない。だが、【グラン・モール】が地下から現れてアクションカードを弾き飛ばしてくれたのをキャッチする。

 

「よし、場のカードが全て破壊された後、アクションマジック【ニトロ・ターボ】を発動。手札から魔法を発動させる。【リバース・オブ・ネオス】は、【ネオス】の融合体が破壊された時、デッキから【ネオス】を特殊召喚する。その後、【ネオス】の攻撃力を1000アップさせる。戦いはまだまだ終わらせない!!」

 

E・HERO ネオス ATK2500→3500

 

「着いてこれるか、榊遊矢!!バトルだ、【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】で【ネオス】を攻撃」

 

「攻撃力は同じ、ということはアクションカードが勝敗を分ける。良いぞ、勝負だ、ジャック!!」

 

アクセルを全開にしてジャックのDホイールの真後ろを走り、スリップストリームで距離を詰めていく。そして、アクションカードを取る一瞬の隙を付き、前に出る。

 

「アクションマジック【飛翔】攻撃力を600上昇させる!!」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント ATK3500→4100

 

腕をつかみ合っていた【タイラント】が翼を広げて飛翔して上空から【ネオス】を押しつぶそうとする。その前にアクションカードを拾い、墓地から罠を発動させる。

 

「墓地の【スキル・サクセサー】を除外して効果を発動。攻撃力を800アップさせる」

 

「甘い!!【レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント】の効果を発動。1ターンに1度、バトルフェイズ中に発動した魔法・罠を無効にして破壊し、攻撃力を500アップさせる」

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント ATK4100→4600

 

「織り込み済みさ。アクションマジック【ジャンプコース】攻撃力を1000アップさせ、もう一枚、よし、【飛翔】で更に600アップ」

 

E・HERO ネオス ATK3500→4500→5100

 

3枚のカードで【ネオス】が【タイラント】よりも高く飛び上がり、ラス・オブ・ネオスの構えで降ってくる。だけど、2枚目を拾って体勢が崩れた所をジャックが追い抜きアクションカードを取られる。

 

「アクションマジック【スリップ】相手のモンスターの攻撃力を600下げる」

 

E・HERO ネオス ATK5100→4500

 

ええっ!?その名前ならアクショントラップじゃないのかよ。ええい、アクションカードはこの先に2枚。同時に取るのは不可能。時間的にはそれが最後のアクションカードだ。ジャックが右のカードを拾い、オレが左のカードを拾う。ジャックが使わない。なら先にオレが。

 

「アクションマジック【立体交差】お互いのモンスターの攻撃力を入れ替える!!」

 

E・HERO ネオス ATK4500→4600

レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント ATK4600→4500

 

「ふっ、普段のオレなら使わないのだろうが貴様となら悪くはない。アクションマジック【クラッシュ!】全ての表側のカードの効果を無効にし、バトル中のお互いのモンスターを破壊、その後攻撃力の合計分のダメージをお互いのプレイヤーに与える!!この効果に対してチェーンすることは出来ず、ダメージを無効にすることも出来ない!!」

 

「げえ!?【決戦融合-ファイナル・フュージョン】の上位互換!?」

 

本来使うはずだったデッキの切り札の上位互換に驚く。【ネオス】と【タイラント】の攻撃がお互いを捉えて大爆発を起こす。その爆風に煽られて、アクションマジック名の通り、オレとジャックのDホイールがクラッシュする。

 

榊遊矢 LP3500→0

ジャック・アトラス LP50→0

 

危なかった。超一流のデュエリストじゃなかったら死んでいたところだよ。クラッシュしたDホイールからデュエルディスクの部分を強引に外しとって起き上がる。オレのDホイールが下に来るように動かしたからジャックの方のDホイールは無事みたいだけど、オレの借り物は完全にぶっ壊れている。

 

「ジャック、無事?」

 

「無論だ。この程度、昔からよくあることだ。良いデュエルだった。今度は最初から本気のデュエルを楽しみにしているぞ」

 

そう言って右手を差し出してくるジャックと握手をして、心配している観客達に笑顔で手を振る。その瞬間会場が今日一番の盛り上がりを見せる。当初の予定とは大きく異なってしまったけど、会場が盛り上がって行政評議会の依頼通りジャックには勝たずに済んだ。最後は結構本気でやっちゃったから今になって冷や汗が出るよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すげえ、あいつすげえよ。最後の2ターンまではオレもジャックと同じでムカついてた。せっかくのデュエルだってのに、明らかに手を抜いていた。それが一気に変わった。連続ドロー、連続召喚、なにより柚子がやっていた融合召喚を更に難しくしたようなトリプルコンタクト融合、初めてのはずなのにジャックに引けを取らないライディングテクニック。どれをとっても最高のデュエリストだ。あいつのチーム、ランサーズだっけ?そいつらも凄いデュエリストの集団なんだよな。そんな奴らとデュエルが出来るなんて楽しみだぜ。柚子はたしかに凄いけど、柚子自身の力じゃない気がする時がある。何処か、デッキが答えてくれていない。そう感じる時がある。それが原因でランサーズに入れなかったのか?

 

 

 

 

 

遊矢がこの世界に来ている。私を追いかけてきてくれた。遊矢に似たユーゴは『征竜』で何度もボコったおかげである程度従順にはなってきたけど、勝手に動く癖だけはどうしようもなかった。勝手にフレンドシップカップに登録されたけど、これなら遊矢に見てもらえる。私も遊矢の隣に、傍にいれるって証明できる。お父さんも瑠璃もフレンドシップカップに出場している。二人にも分からせる。この力で。遊矢、もう少しだから待っていてね。

 

 

 

 

 

この衣装に袖を通すことは二度と無いと思っていた。だけど、オレ自身の決着を付けなかったせいで柚子は力に飲まれている。引退した時にデッキを手放していればよかったんだ。過去に完全に決着を付ける。『帝王』の最後の大会だ。遊勝さん、今回だけはオレはエンタメを忘れます。絶対に柚子を取り戻してみせます。

 

 

 

 




最初はリアルで所持しているデッキにモンスターがネオス3枚だけのデッキでジャックとデュエルをしようと考えていたのですが、序盤みたいな展開が蘇生札が切れるまで延々と続くことになっておもしろくないと感じたために大量ドローからの連続コンタクト融合に変更。そうすると今度はジャックが一気にピンチになってしまったために最後のアクションカード合戦+引き分けならこれしかないだろうと【決戦融合-ファイナル・フュージョン】の上位互換のようなアクションカードも用意したりとやりたい放題してしまいました。


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第10話

トップス1の大富豪に雇われたデュエリスト LP4000 手札0

氷結界の龍トリシューラ ATK2700

氷結界の龍トリシューラ ATK2700

氷結界の龍トリシューラ ATK2700

 

黒崎瑠璃 LP4000 手札0

 

『フレンドシップカップ1回戦第1試合は先行1ターン目にして勝負が決まってしまったのでしょうか。ランサーズの黒崎瑠璃選手、手札を全て除外されてしまいました』

 

高価なカードを惜しげもなく大量投入ですか。ですが、この程度ならどうとでもなる。相手はもう勝った気でいるようだけど、甘い。甘いのはスイーツだけで十分。いや、遊矢と甘い空気は作り出したい。周りが砂糖を吐く位、イチャイチャしたい。そのまま結婚して子供を作って大往生までしたい。そのためにもとりあえず勝とう。

 

「私のターン、ドロー。相手の場にのみ特殊召喚されたモンスターが存在する時【逆境の宝札】が発動出来る。2枚ドロー!!うん、勝った」

 

『おーーっと、瑠璃選手、勝利宣言です。一体どうやるのか!?』

 

「ライフを1000払い【簡易融合】を発動。EXデッキからレベル5以下の融合モンスターを融合召喚扱いで特殊召喚する。おいで【LL-インディペンデント・ナイチンゲール】を融合召喚。【簡易融合】で召喚されたモンスターは攻撃できず、エンドフェイズに破壊される」

 

黒崎瑠璃 LP4000→3000

LL-インディペンデント・ナイチンゲール ATK1000

 

「はっ、そんなモンスターでどうしようってんだ?それにエンドフェイズに破壊されるようなモンスターで壁にもならない」

 

「そんなこともないんですよね。まあ、効果を説明しましょう。簡単に言うとレベルの上昇と攻撃力の上昇と完全効果耐性、そしてバーンですね。レベルの上昇は発動せず、攻撃力の上昇は500。バーンはレベル1につき500のダメージです。とりあえず、500のダメージを受けてもらいましょう」

 

雇われ LP4000→3500

 

「痛くも痒くもねえな」

 

「まあ、そう言っていられるのも今のうちです。私は【ナイチンゲール】をリリース。現れよ、暴虐なる力の信奉者【The tyrant NEPTUNE】」

 

The tyrant NEPTUNE ATK?

 

「攻撃力が決まっていない?それどころか、一体のリリースでレベル10?」

 

「【The tyrant NEPTUNE】は1体のリリースで召喚が可能なの。そして攻撃力は召喚のためにリリースしたモンスターの攻撃力の合計値となる。つまりは1000ね」

 

The tyrant NEPTUNE ATK?→1000

 

「たかが1000でどうする」

 

「説明はまだ終わってないわよ。さらに召喚のためにリリースしたモンスター1体を選択し、その名前と効果を得る。【ナイチンゲール】の名前と効果を得る。つまり、レベル1に付き500の攻撃力がアップ。【NEPTUNE】はレベル10、よって攻撃力は5000アップする!!」

 

The tyrant NEPTUNE ATK1000→6000

 

「こ、攻撃力6000だと!?だが、オレのライフは、あっ」

 

「そう。残らない。【ナイチンゲール】は1ターンに1度レベル1に付き500のダメージを与える。つまり、毎ターン5000のダメージを与えることが出来る。吠えなさい【NEPTUNE】」

 

【NEPTUNE】の号砲に巻き込まれて相手がDホイールごと吹き飛ばされて転倒する。転倒する手前のアクションカードを拾ってみれば、それは【加速】だった。これを拾っていればもう少し生きれたのに。

 

 

 

 

 

壊れたDホイールの代わりにエクシーズ次元のアレンから貰ったローラーシューズを改造して出力を上げることによってライディングデュエルに対応させた。下手にDホイールに乗るよりこっちの方が慣れてるからやりやすい。それにこの方がHERO達と一体化出来る。

 

「【ネオス】以外にもHEROはいるんだぜ!!【ネオス】は『N』と共に宇宙の神秘という力を扱うHEROだ。そしてこの宇宙には自然の力を扱うHEROが存在する。来い『E・HERO』達よ。魔法カード【融合】を発動。【融合回収】で【融合】と『HERO』を回収して再び融合。【ミラクル・フュージョン】で墓地から『HERO』を除外して融合。【平行世界融合】で除外されている『HERO』で融合。【エクストラ・フュージョン】でEXデッキから融合。どこからでも『HERO』は駆けつける。仲間のために、平和のために、何度でもだ。そして、HEROに救われたものたちが、それに続くために科学の力で悪に立ち向かう!!速攻魔法【マスク・チェンジ】!!【Zero】よ、科学の力を身に纏い、悪に立ち向かえ!!変身召喚!!全てを撃ち抜くガンマン【M・HERO アシッド】そして【Zero】と【アシッド】の効果を発動!!相手のフィールドを全て破壊する。絶対零度!!アシッド・レイン!!これがHEROの力だ!!」

 

 

 

 

 

 

「瑠璃も遊矢も勝ったか」

 

『帝』デッキを調整しながらモニターを見る。次の試合はクロウとセキュリティ代表か。余っていた『BF』カードを譲ったから今まで以上に安定して大展開が可能になったクロウに負けはないだろう。

 

「次はオレと、相手は柚子か」

 

行政評議会の連中はオレの頼みを聞いてくれたようだ。相手は柚子。絶対に止めてみせる。普通の『帝』から対遊矢用に作成した1killデッキをLDSの力で更に強化したこのデッキで、柚子に教えてやらなければならない。自分が手にしているのは力ではなく暴力であるのだと、同じ暴力の力で分からせなければならない。遊矢の、遊勝さんのデュエルと暴力のデュエルは正反対だってことを。

 

扉がノックされ、案内人が入ってくる。オレはデッキの調整を終え、マント羽織り、兜を被る。う~む、歳をとって分かるが、これは恥ずかしいな。色んな意味で黒歴史だ。コレに加えてゴテゴテした籠手や脛当てを自腹で用意してたんだよな。スポンサーが付いていなかったから大会の賞金だけで家賃や食費をやりくりし、余った金は全部デッキ強化のためにカードを買い漁り、時には地下デュエルにまで手を出した。酷い生活を送っていたな。

 

そんなオレを救ってくれたのが遊勝さんで、二人で開いた遊勝塾。だけど、最初はオレは笑顔を取り戻せなかった。どうしても、『帝王』としてのデュエルが顔を出してしまう。だけどそんなオレに笑顔を取り戻してくれたのが遊矢と柚子の二人だ。例え血が繋がっていなくても(・・・・・・・・・・・)あの二人のお陰でオレは笑顔を取り戻せた。デュエルの本当の楽しさを、遊勝さんのような観客の反応に合わせて対話のように行うデュエルではなく、ただ楽しそうにモンスターを召喚して一緒に遊ぶ二人を見て、本来の楽しみ方を思い出せたんだ。だから、今度はオレが柚子に教えてやらなければならない。暴力はより強い暴力によって潰されるということを。

 

特別に用意してもらった見るからに魔王の愛機ですというゴテゴテの装飾を施してもらったDホイールに跨り、ウィリー走法でウィングを削りながら火花を飛び散らせて会場に入場する。洋子さんに習っておいてよかった。こういうのは威嚇が大事だからな。お陰で明らかに思いが行き過ぎていた柚子が唖然として素に戻っている。

 

「お父さん、何、その格好?」

 

「柚子、オレの、『帝王』の『征竜』を持ち出したのはまだ良い。だが、今のお前では遊矢の隣にも、それどころか守ってもらう資格すらない」

 

「なっ!?」

 

「遊矢は知っているが、お前には教えていなかったことを教えてやる。暴力はより強い暴力に潰される。見せてやろう、プロの、永代チャンピオン『帝王』のデュエルを!!一度だけチャンスをくれてやる!!このデュエルの間だけ、お前を娘だとは思わん!!」

 

『さあさあ、開始前の論戦は終了。親娘対決、勝つのはどちらか?それではフィールド魔法【クロス・オーバー・アクセル】セット、ライディングデュエル』

 

「「アクセラレーション!!」」

 

再びウィリーで火花を飛び散らせながら先行を柚子に渡してやる。手札を見て『帝』がオレに力を貸してくれるのを実感する。すまんな、これが最後のデュエルだ。それなのにお前達をコストにしか使ってやれない。柚子が『征竜』を回し、盤面を整えていく。その隙に、こっそりとアクションカードをDホイールに引っ掛けておく。柚子が長い長いターンを終わらせた結果がコレだ。

 

柊柚子 LP4000 手札0

F・G・D ATK5000

F・G・D ATK5000

真紅眼の鋼炎龍 ATK2800

幻獣機ドラゴサック ATK2600 

永続魔法 未来融合

 

柚子の勝ち目はなくなった。

 

「柚子、お前の負けだ。オレのターン、ドロー!!フィールド魔法【チキンレース】を発動」

 

「【真紅眼の鋼炎龍】の効果が発動。相手がカードの効果を発動する度に500のダメージを与える!!」

 

柊修造 LP4000→3500

 

「【チキンレース】の効果を発動。ライフを1000払い、3つのうち1つの効果を発動できる。オレは相手のライフを1000回復させる!!」

 

「えっ?」

 

『おおっと、これは一体どういうことだ!?ただでさえ効果を発動する度にライフが減るのに、ライフを払って相手のライフを回復させた!?』

 

「【真紅眼の鋼炎龍】の効果が発動。相手がカードの効果を発動する度に500のダメージを与える!!」

 

「【チキンレース】の効果。ライフが少ない方のプレイヤーへのダメージはすべて0となる。そして【チキンレース】を張り替えて更に効果を発動!!1000回復させて、張り替えて更に1000回復させる」

 

柊修造 LP3500→500

柊柚子 LP4000→7000

 

「そしてカードをセットして【ブラスティング・ヴェイン】を発動。自分のセットカードを破壊して2枚ドロー。破壊されて墓地に送られた【代償の宝札】で2枚ドロー。【逆境の宝札】で更に2枚ドロー。【成金ゴブリン】を3枚発動。3枚ドローして、相手のライフを3000回復させる」

 

柊柚子 LP7000→10000

 

「次に【邪怨帝 ガイウス】をコストに【トレード・イン】を発動。2枚ドローして同じように【トレード・イン】更にもう一度【トレード・イン】続いて【凡神の帝王】を発動。手札から『帝王』魔法・罠、【真源の帝王】を墓地に送って2枚ドロー。墓地の【凡神の帝王】を除外してデッキから3枚の『帝王』魔法・罠を選択する。オレは【凡神の帝王】【凡神の帝王】【帝王の深怨】を選択。相手はこの中から1枚選択し、選択されたカードを手札へ。残りはデッキに戻す」

 

「【凡神の帝王】はまたドローされるから、【帝王の深怨】を選択するわ」

 

「ならば【帝王の深怨】を手札に加えて手札の【光帝クライス】を見せて【帝王の深怨】を発動。デッキから【凡神の帝王】を手札に加えて発動。【帝王の開岩】を墓地に送って2枚ドロー」

 

「くっ、意味がなかった」

 

「まだまだ続くぞ。【帝王の烈旋】を発動してカードを1枚セット【真紅眼】をリリースして【光帝クライス】をアドバンス召喚。オレのセットカードと【クライス】を破壊して2枚ドロー。手札が3枚以上の時に【無の煉獄】は発動できる。デッキから1枚ドローしてエンドフェイズに手札をすべて捨てる。さらに2枚発動。それから【闇の誘惑】2枚ドローして【邪帝ガイウス】を除外。やっとか。【テラ・フォーミング】を3枚発動して【擬似空間】を3枚手札に加えて張り替えていく。そしてカードを2枚伏せて【命削りの宝札】を発動。手札が3枚になるようにドロー。2枚伏せてターンエンド。エンドフェイズ時に【無の煉獄】で手札を全て墓地に送る」

 

 

柊修造 LP500 手札0

場 擬似空間

セットカード4枚

 

「何がしたかったのかは分からないけど、このまま私が押し切る!!私のターン、ドロー!!」

 

「スタンバイフェイズ、【マジカル・エクスプロージョン】を発動!!墓地の魔法カード1枚に付き200のダメージを与える。墓地にある魔法カードは26枚、よって5200のダメージを与えるんだが、これが切り札だ!!チェーンして【ライフ・チェンジャー】」

 

「『【ライフ・チェンジャー】?』」

 

「知らないだろうから説明しよう。効果は単純だ。お互いのライフの差が8000位上の時に発動できる。お互いのライフを3000にする」

 

「『えっ?』」

 

柊修造 LP500→3000

柊柚子 LP10000→3000

 

「希望を持たせて、それを摘み取る。その瞬間こそ、そいつの心が表面にはっきりと浮かび上がる。一度に5000以上のダメージ、こいつは効くぞ。オレがチャンピオンだった10年で何人が引退しただろうな。はっきりとは覚えていない。ほれほれ、アクションカードが落ちてるぞ」

 

青ざめている柚子が急いでアクションカードを拾い、嬉しそうにする。

 

「アクションマジック【加速】「アクションマジック【ノーアクション】アクションマジックを無効にする。さらに威力が上がったな」そ、そんな!?」

 

拾わずにDホイールに引っ掛けて隠し持っていたアクションマジックを発動してダメージを確定させる。

 

「言ったはずだ。暴力はより強い暴力に潰されるだけだと。終わりだ柚子」

 

【マジカル・エクスプロージョン】の巨大な魔力弾が柚子とDホイールを飲み込む。

 

「きゃああああああ!?」

 

柚子 LP3000→0

 

デュエルが終了すると同時にオートをマニュアルに切り替えて柚子の落下地点に急ぐ。抱きかかえようと手を伸ばすも、目の前に転倒しているDホイールが目に入り、Dホイールから飛び降りて柚子を空中でキャッチして抱き込み、受け身も取れずにコースに叩きつけられる。だが、親の意地で柚子に怪我を負わせないようにだけ気をつける。Dホイールは激突し、そのままスタジアムの壁に激突して炎上する。

 

「ゆ、柚子、大丈夫か」

 

「お父さん、血が」

 

ああ、視界の右半分が赤いと思ったら血が流れてるのか。

 

「オレは大丈夫だ。それより、怪我はないか」

 

「私よりお父さんは大丈夫なの」

 

「オレのことはどうでもいい。お前が無事ならそれで」

 

ヤバイなこれは。右腕が折れたか。

 

「あっ、デッキが。お父さんのデッキが2つとも」

 

燃え盛るDホイールを見て柚子が顔を青ざめる。

 

「いいさ。お前が無事なら。『帝王』はとっくの昔に引退したんだ。あんなものよりも、柚子の方が大切なんだから。柚子、お前が何を思って『征竜』を持ち出したのかは知らない。けどな、借り物の力じゃあ何も得ることは出来ない」

 

左手で柚子が家においていた『幻奏』デッキを取り出して渡す。

 

「お前は自分のデッキと向き合う時が来たんだ。目先の力じゃない。本当に必要な力となるように。それから遊矢が心配してたぞ。巻き込みたくなかったのにって後悔もしてた。柚子、自分の気持ちを優先してると瑠璃ちゃんに取られるぞ」

 

軽い発破のつもりでそう柚子に告げ、大会運営の担架に乗せられて会場を後にする。

 

 

 

 

 

 

修造おじさん、あそこまで強かったんだ。熱血デッキしか見たことがなかったから。それにしても永代チャンピオンってことは10年間負け無しってことよね。それなのに、一度も噂を聞いたことが無いってことは、あの態度でお客からのブーイングも完全に無視してたのよね。う~ん、ずっとあのままの修造おじさんが想像できない。それにしてもデッキよりも柚子ちゃんを優先して怪我もひた隠しにして、本当に愛してるんだな。それを柚子ちゃんは理解してるのかな。次で完全決着をつけようかしら。チャンスはあげる。だけど、遊矢は絶対に渡さない。ただでさえ、セレナが構って欲しそうな猫のように遊矢に付き纏っているのに。我慢なんてしてられない。ノック?一体誰が、貴方は!?提案?ふ~ん、少し考えさせてちょうだい。

 

 

 

 

 

 

【Zero】からの【アシッド】怖い。【ダーク・ロウ】のハンデス除外怖い。【超融合】怖い。HERO専用融合魔法怖い。スカイスクレイパー直焼き怖い。簡易スカイスクレイパーシュート怖い。なんであんなにも必殺ルートが多いのに素材がゆるいのか。うん、貴様は!?何?ふむふむ、いや、えっ、まさか。いや、そうなのか?だとしたら、でも、それはダメだ。だが、それも、何?場合によっては丸く収まる?う~む、とりあえず話だけは聞こう。

 

 

 

 

 

 

ジャックとのデュエルでもそうだったけど、次から次へとHEROが飛び出してくる。孤児院の皆も楽しんでるかしら。遊矢は本当にカードに愛されている。子供達と数日歩くだけでまともなデッキが作れるぐらいに、カードが遊矢のもとに集まってくる。一枚一枚じゃ弱いはずなのに、皆が揃うと凄いコンボが生まれる。遊矢はシンクロ専用のテーマのデッキを手をつなぐデッキだって言ってたっけ。単体では弱いかもしれないけど、互いの効果を組み合わせて、手と手を繋ぐように組み合わせることで自分達を大きく表現する。それがシンクロ召喚なんだって。そう言って見せてくれたデッキは低レベルのモンスターばかりのデッキで、エースのシンクロモンスターはその低レベルのモンスターの力を借りて強くなるモンスターだった。【ジャンク・ウォリアー】遊矢はそのモンスターこそがシンクロ召喚を生み出した人の思いを表現しているモンスターだと思っている。

 

もしシンクロ召喚がなかったら、低レベル低攻撃力のモンスターは見向きもされなかったはずだ。そんなモンスターたちの手を取り合い、共に立ち上がる。そして相手とも最後には手を取り合う。そんな思いがシンクロ召喚を生み出したはずだと。その思いが様々なシンクロモンスターを生み出し、今の環境を生み出した。だけど、その過程で最初の思いが見失われてしまった。手を取り合えず、上と下が産まれた。それをキングが一度は切り開いたけど、それだけだった。だから遊矢が、ランサーズ達が切り開いた道をこじ開ける。手を取り合って、平和を乱そうとする人たちから笑顔を守るために。だけど遊矢は苦しんでいる。

 

まだ私と同年齢なのに、その両肩に重圧を背負って。押しつぶされそうになっているのに笑顔を顔に貼り付けて。もう休ませてあげて良いはずなんだ。熱だけじゃなく重圧に苦しむ姿を見てしまったから。意識が朦朧としていないと素の自分を出せない不器用な人なんだ。子どもたちにエンタメデュエルを教えていても、心の底からは楽しんでいない可哀想な子供なんだ。一番認められたい人に見てもらえない。それが一番辛そうだ。自分でも気づいていないんだと思う。

 

こんなことに気づきたくなかった。そうすれば瑠璃がセレナを牽制しながら遊矢に近づこうとしてガン無視された挙句に零羅に取られたりするのを見て笑っていられた。忍者の日光と月光に対抗してマジシャンとしての技量で似非忍法を使って追いかけっこをする姿を見て笑えた。よりモンスターとスピードと一体化するために少し変わったローラーシューズを改造してスピードを出しすぎて転倒して不貞腐れるのを見て笑えた。

 

ユーゴとは別の意味で目を離せない。ユーゴはなんだかんだで放っておいても最後には何事もなかったように帰ってくる気がする。だけど遊矢は最初に出会った時みたいに、どこか人目につかない所で倒れてる姿しか想像できない。誰にも迷惑をかけないようにひっそりと。

 

そんなことを考えていたから気づかなかった。誰かが私の背後に忍び寄っていたことに。

 

 



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