蒼穹のファフナー EXTINCT ALVIS (naomi)
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File1

「ふぅー。なんとか生き延びたぜ」

 

ある時突如発見された『瀬戸内海ミール』により受胎能力を失い、新国連による核攻撃で壊滅した日本。その生き残った人々は『Arcadian Project(アーカディアン・プロジェクト)』

人類をフェストゥムから守り、文化と平和を次代へ伝えることを目的とした計画を遂行するそのための組織『Alvis(アルヴィス)』を結成し、『瀬戸内海ミール』を3分割していたことから3つのAlvisに別れ各Alvisが独自に活動していた。

この青年轟大智(とどろき だいち)は、第2Alvis『蓬莱島(ほうらいじま)』の防衛軍兵士として、己が愛し住む島の為日々を精一杯生きていた。

 

「主任、美空(みそら)主任。こいつどうにかなりませんか、このままじゃいつあいつらに対策されるか気が気じゃないですよ」

 

「…轟三尉、何度も言っているだろう。この『ウィダシュティン』が今の我々の技術の全てだ」

 

『ウィダシュティン』第2Alvis『蓬莱島』が独自開発した、対フェストゥム用人型決戦兵器。動力源を核エネルギーとし、対フェストゥム戦最大の難問『読心能力』にパイロットの生命活動を一時的に強制停止させ「そこに心が無い状態」を作ることで『読心能力』を防ぐ『ダウンライフシステム』を導入することでフェストゥムに対抗するすべを手にした。機体は内蔵されたパイロットの情報をフィードバックしフィードバックした情報と組み込まれた何十億通りの行動パターンの中から最適な行動をAIが判断し操作する自律思考型AI『ノイル』が機体を動かす。つまり『ウィダシュティン』は『半無人機』状態でフェストゥムと対峙する兵器である。

 

「でもよ、やっぱり自分の身体を全てAIに委ねるなんて恐怖でしかねえよ」

 

「敵の読心能力を防ぐ手段の一つだ改良は進めている我慢しろ」

 

(一番の欠点はやはり『ダウンライフシステム』か。生命活動を強制停止させて活動出来て最大で5分間、しかも再蘇生で失敗した死亡率が20%。『ノイル』もパイロットの情報に合わせてその行動を絞らせないが、時間が経つにつれ行動がパターン化される傾向がある…問題は山積みだ)

 

「優芽(ゆめ)頼むぜ」

 

「~。仕事中だバカ」

 

「わりーわりー気をつけます。美空主任」

 

「どこへ行く」

 

「検査だよ。またな」

 

大地は口笛を吹きながらブルクを離れた。

 

「検査の結果異常なし。お疲れ様でした。轟三尉」

 

「美空先生よ。このまま戦って俺は本当に大丈夫なのか」

 

「…生命の強制停止はやはり医療の立場から言わせてもらいますと、大変危険な行為であり即刻中止を要請します。ですが我が『アルベリヒト機関』の研究が遅れているのが原因で軍部がそうせざる負えないのも理解してます」

 

「なんで遅れてるんだ」

 

「研究対象であるコアが未だ研究対象として研究出来る程成長していないこと、そして我々としてはミールの軍事転用を反対しているからだと思われます」

 

「第1Alvis『竜宮島』と第3Alvis『海神島』と違い俺達は『平和』を求めてるんだからな」

 

「…」

 

「どうした宇美(うみ)ちゃん」

 

「多分。どのAlvisも『平和』を求めている点は一緒だと思います。求め方が違うだけで」

 

「どういうこと」

 

「私達は臆病なんですよきっと『ミールは研究対象であって、軍事利用するべきではない』って言ってますけど、この『ミール』という存在事態が私達にとって脅威であり。得体のしれない代物を利用するべきじゃないっていうのがこの第2Alvisの考え方だと思うの」

 

「臆病ね…宇美ちゃんは軍事利用は賛成なの」

 

「…私達が生き残るには理想論ではもう不可能な段階まで来てるとは思います。」

 

「固い」

 

「えっ」

 

「さっきから固いよ宇美ちゃん、俺達の間柄なんだからもっとフランクに行こうぜ」

 

「でも、今は仕事中ですし…」

 

「二人とも変に意地張っちゃってよ、あっ宇美ちゃんこの後優芽と飯行くけど一緒に食べない」

 

「でも二人のお邪魔じゃあ」

 

「別に優芽と二人じゃないぜ、パイロット連中とブルク組で議論するんだ今後の『ウィダシュテイン』の運用方法について、華がないからさ宇美ちゃん来てくれると助かる」

 

「じゃあ、仕事片付いたら合流します大地さん」

 

「おうよろしくな」

 

何気ない日々がこの島にもあった。そうこれまでは…

 

 

 




(秘匿通信…)

「誰だ、このコードを知る者はこの島にはいないはずだが」

「久しいな大門寺。今は大門寺司令と言ったところか」

「お前は…なんの用だ」

「今私はある新兵器を開発していてね。君達の力を借りたいんだ」

「…断る。私達はミールを軍事利用するつもりはない」

「そうか、また出直すよ」

(あの男からの接触…嫌な予感がする)


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File2

仕事を済ませ急ぎ集合場所へ向かう宇美。

 

「いらっしゃい。おっ宇美ちゃんお疲れ様。大地達ならもう始めてるぞ」

 

「おっ宇美ちゃん。こっちこっち」

 

そこはもはやどんちゃん騒ぎの一角を担っていた。

 

「遅いわよ宇美」

 

「ごめんねお姉ちゃん…ってお姉ちゃんまたそんなに呑んで」

 

「呑んでないわよー、こらぁ大地あたひらの仕事にケチつけるんじゃないよ」

 

「うるへー。こっちは命張って戦ってんだ。もっと安心して使える兵器造りやがれー」

 

「あの…どこまで進みました。話し合い」

 

「いつも通り平行線ですよ美空先生。俺達パイロットは安全な兵器開発を要請してブルク組は応える努力をしてるの一点張り。かれこれ1時間ですか…でっこんな感じです」

 

「すみません。兵藤さん」

 

「なんで美空先生が謝るんですか。気にしないでください。いつものことです」

 

兵藤五郎(ひょうどうごろう)。防衛軍パイロットで大地とは同期の間柄感情のままに動く傾向にある大地を抑えるのはいつも彼である。

 

「先輩も美空主任もほんと飽きないですよね。今の僕らじゃどうしようもないんだから気楽に考えればいいのに。ねぇー奏さん」

 

「小太郎くん。私達を信じてくれてないんですね…」

 

「えっ、ちょっ奏さん。なんでそうなるの」

 

冬馬小太郎(とうまこたろう)。大地の後輩でパイロット組のムードメーカー、大地を師と仰いでおり大地も弟のように可愛がっている。

 

秋月奏(あきずきかなで)。優芽の後輩で優芽のことを心酔している。優芽も彼女の能力を高く評価しており、後継者として厳しくも温かい目で見守っている。

 

「お前ら羽目を外すなよ」

 

「ごろう。良い子ぶるにゃー」

 

「この◯◯◯」

 

「…すみません兵藤さん」

 

 

「ったく、毎度毎度連れて帰るこっちの身にもなって欲しいもんだ。おら小太郎、秋月行くぞ。すみません美空先生二人を頼みます」

 

「はい。おやすみなさい兵藤さん」

 

夜道で二人を引っ張り帰る宇美

 

「宇美ちゃん悪い。もう大丈夫だ」

 

大地は宇美に代わり優芽をおぶる。

 

「今日は俺の勝ちだな」

 

「まけてないもん」

 

「お姉ちゃんったら」

 

「こいつの酒癖どんどん悪くなってる気がするんだよな…」

 

「そうですか」

 

「ちょっと意地悪しすぎたか」

 

「お姉ちゃん最近仕事終わっても遅くまで機体の改良について考えてるみたいです」

 

「そっか…今度からはあまり言い過ぎないようにするか」

 

「大地さん…」

 

「どうした、宇美ちゃん」

 

「いえ、なんでもありません。ありがとうございました。送っていただいて」

 

「気にすんな。昔からのよしみじゃないか。おやすみな宇美ちゃん」

 

「はい。おやすみなさい」

 

いつもの1日が終わる。彼女の曇った心を除いては…




(よし、今日の仕事も終わった。…時間過ぎてる、急がなきゃ。…大地さんまた私を誘ってくれた…ダメダメ大地さんはお姉ちゃんの…はぁ)

「宇美くん少しいいかな」

扉が開くと大門寺が立っていた。

「大門寺先生どうされましたか」

「君にこの情報の解析を頼みたい」

「なんですか、これ」

「他の二つのAlvisに派遣した諜報員が手にした情報だ。我々の研究の役に立つ情報が入っているかもしれない」

情報を一通り確認した宇美は驚愕した

「…これは我々の理念に反する内容ではないですか先生」

「確かにそうだ。だが我々の研究を進める大きな足掛かりになるはずだ」

「ですが」

「研究が進めば、君のお姉さんの負担を減らせるかもしれない」

「それは…」

「頼まれてくれないか。ちなみに私が直々に会いに来たということがどういうことか、わかるね」

「わかりました…」

彼女の苦悩はここから始まった。


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File3

「メディカルルームを呼んでくれ、兵藤少尉の再蘇生が失敗した。緊急オペの準備を」

 

「兵藤しっかりしろ、兵藤」

 

「通ります。離れてください」

 

慌ただしく人が動くブルク内。

 

「襲撃してきたフェストゥムは無事退きました。しかし戦闘後に兵藤三尉の再蘇生に失敗。緊急オペにて一命はとりとめたものの復帰時期は見通しが経ちません」

 

緊急の会議を開く上層部。出席した宇美は現状を報告した。

 

「『ウィダシュティン』やはりリスクがでかすぎるな。新兵器開発とはいかんのかね」

 

「『ウィダシュティン』は現時点で我々に出来る対フェストゥム戦用の最高の兵器です。それ以外の方法や兵器は敵の『読心能力』で全く役にたちません」

 

「ではなんだ、我々は滅びを待てというのか」

 

「そうは言っていません。しかし現在の我々の知識と技術ではこれが限界なのです。ブルクの面々は責められません」

 

荒れる会議。口論が飛び交うなか宇美はふと大門寺からの視線に気がつく。目を合わせると彼は首を縦に振った。

 

「一つ。提案があります」

 

「美空先生。提案とは」

 

「我々の保有するミールの軍事転用です」

 

鎮まりかえる上層部

 

「どういうことかね美空先生」

 

「…研究を進めていく内にミールには『学習能力』があり、ミールが自らの経験を通じてあらゆる派生をしていく可能性があることがわかりました」

 

「派生とは」

 

「…学習さえすれば環境をコントロールしたり、人類について理解をし共存出来る可能性もあります」

 

「それは本当かね」

 

「その可能性は高いかと思われます」

 

「しかし何故、軍事転用する必要がある」

 

「ミールには『コア』という形で複数に分岐してもらいその『コア』を兵器に組み込むことで『コア』がフェストゥムの『読心能力』の壁となり我々の思考を読めなくしてくれます」

 

「なんと…」

 

「それにより『ライフダウンシステム』を組み込む必要が無くパイロットが『生きたまま』戦闘が出来るためこのような事態を防ぐことが出来ます」

 

「しかし、ミールの軍事転用など我々アルベリヒト機関の理念に反するぞ。それをしないため我々は3つのAlvisに別れたのではなかったか」

 

「…確かにその通りです。ですが我々のこれまでの研究成果でこの問題を解決するには時間が足りません。解決する前に滅びます」

 

「…」

 

「私はミールを軍事転用化した兵器開発を提案します」

 

「許可しよう」

 

「司令。しかし」

 

「この島のために命懸けで戦うパイロット達の命が最優先だ。我々の理念は捨てない限り生き続ける」

 

「しかしそのような兵器どう開発するのです。現段階では机上の空論なのでは」

 

「それは私が手配しよう。各Alvisの友人とコンタクトをとり技術協力を要請しよう」

 

「…あてがあるのですか」

 

「第1Alvis『竜宮島』そこの関係者なら恐らく…な」

 

「…わかりました」

 

「他の皆もいいかね」

 

沈黙が続く。これにより『ウィダシュティン』に代わる新兵器開発が始まった。




(これは凄い…ミールの分身である『コア』を組み込むことでフェストゥムの読心能力を防ぎ、フェストゥムの同化現象からも守る)

(機体と一心同体になることで機体を『操作する』ではなく自分の手足のように動かすことが出来る『ニーベルング接続』)

(パイロット同士の思考を共有する『クロッシング』を行うことで、より高度な連携による戦闘が可能となる)

(第1Alvis…流石ね、さすが母体が日本自衛軍の研究機関なだけある。ここまで研究が進んでいるなんて。この兵器名は…)

(…ファフナー)


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File4

「体調はどうですか兵藤三尉」

 

「美空先生。まだ身体が重いですね」

 

「…ごめんなさい。私達の研究が進んでいれば三尉がこんな目に合うことなかったのに」

 

「謝らないでください。再蘇生に失敗し命があるだけ俺はついてます」

 

「三尉…」

 

「そういえばさっき大地達がはしゃいでました。『ウィダシュティン』に代わる新兵器が開発されることになったとか」

 

「はい。今日丁度外部から招いた技術顧問の方がみえます」

 

「そうですか…あの機体達と別れるのも少し名残惜しですが、あのリスキーな機体に代わる新兵器楽しみです」

 

一方のブルクには技術顧問が挨拶に来ていた。

 

「大門寺司令の紹介で特別技術顧問をすることとなった。『ミツヒロ・バートランド』だよろしく頼むよ諸君」

 

「第2Alvis『蓬莱島』ブルク主任。美空優芽だ、よろしく」

 

「美空…あぁ美空宇美の姉か彼女は」

 

「宇美なら多分メディカルルームじゃないか」

 

「そうか、後で挨拶しにいくとしよう」

 

「でっ、おっさん私達はどこから取りかかればいいんだ」

 

「今一度しっかりと目を通してくれたまえ『ファフナー』の設計図を1時間後始めよう」

 

「わかったよ」

 

「相変わらず、はしたない娘だ」

 

「さっさといけクソ野郎」

 

ミツヒロは挨拶周りに行った。

 

「優芽。あのおっさんと知り合いか」

 

「大地か、ミツヒロ・バートランド。昔宇美が世話になってた関係で何回か顔を合わせてるよ私はあの男の人を見下した感じがだいっ嫌いだったよ、もう顔見ることないと思ってたけど、技術顧問がよりによってあいつとはな」

 

「…なんかお前それだけじゃないだろ。イラついてる訳」

 

「…この『ファフナー』って兵器。ミールの力を使うんだとよ、ったく私の苦労の時間返せってんだよ」

 

「確かにな、俺達の島の理念をねじ曲げてまで手を出した新兵器だ。期待してるぜ美空主任」

 

「調子のいいこと言うな、お前もこいつの操作訓練とかあるんだろうからしっかり確認しておけよ」

 

「久しぶりだね宇美」

 

「バートランドさん。お久しぶりです」

 

「まさかあれほど反対していた君が提案したと聞いて私は嬉しいよ」

 

「千鶴先生はお元気ですか」

 

「千鶴…あぁ彼女なら元気なんじゃないか」

 

(あれ、一緒じゃないの…)

 

「一通り施設の状態を確認したが、ファフナーの完成にはブルクの彼等だけでなく君達研究者のスキル向上も必須だ。期待しているよ」

 

「はい」

 

ミツヒロが技術顧問に就いて約1か月。第2Alvis初の試作機ファフナーが完成した。

 

「ようやく完成だ。機体名はなんて名前にする」

 

「まだだ自惚れるな、こいつは本来のファフナーの性能の半分にも満たない実験機だ仮コードで『EF-1』とでもしておきたまえ」

 

「なんだよシラケるな」

 

「パイロットの接続テストを直ぐに始める準備したまえ」

 

テストパイロットには大地が選ばれた。

 

「大地。その…気をつけてな」

 

「なんだ優芽心配してくれんのか」

 

「〜うっさい。早く行ってこい」

 

「りょーかい。美空主任」

 

(確か、この指輪に指を通すんだよな…痛ってーこの身体に接続されるやつスゲー痛いじゃん)

 

「轟少尉だったか、EF-1を起動したまえ」

 

「了解」(こいつは俺で俺はこいつ。目を意識しろ…)

 

「…視界良好」

 

「よしこれより起動試験を始める。準備したまえ」

 

ここで生まれた希望。だが希望が全て希望のままであるとは限らない…

 

彼らは知らなかった、ファフナーがやがて己にも牙を向く兵器であることを。



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File5

EF-1の起動試験成功から半月、ファフナーの量産が急ピッチで行われ、量産型ファフナー『グノーシス・モデル』が完成、ある程度のフェストゥムに対する戦闘での成果が出たことから主力兵器は完全にファフナーに切り替わった。

 

一方、大地・優芽・宇美・小太郎・奏の5人はミツヒロの命でEF-1をもとに改良し一騎当千の力を持つファフナーを開発する【『ウィダシュティン・モデル』開発計画】のメンバーに選ばれ日々、試験や実験に明け暮れていた。

 

「轟一尉。今回からこれまでにない症状が出るかもしれない、異変を感じたらすぐに報告したまえ」

 

「了解。始めます」

 

改良されたEF-1の起動試験が始まる。

 

(今のところは変化は無いが…何処が改良されたんだ)

 

(大地さん…)

 

「宇美震えてるぞ、大丈夫か」

 

「お姉ちゃん。大丈夫…大丈夫だから」

 

「宇美…」

 

 

〜1時間前〜

 

「失礼します。バートランドさん」

 

「どうした宇美。もうすぐ改良型の試験前だろ」

 

「『グノーシス・モデル』に『コア』が使われていないというのは本当ですか」

 

「よく調べたね。そうだ『グノーシス・モデル』に『コア』は使われていない」

 

「なぜですか、それではただの人型兵器じゃあないですか」

 

「理由は色々あるが、まずはファフナーという兵器をここの人達に信用してもらう必要があったからね、比較的簡単に製造出来るこのモデルを採用した。ある程度成果が出ていることでこれまでのリスキーの塊のような君達の兵器よりは信用されているはずだ」

 

「…確かにそうですね」

 

「次に君は重要な点を見落としている。『コア』は『ミール』の分身つまり大量生産出来るわけじゃない。『ミール』は大変貴重だ。ファフナーの基礎設計もまともに出来ていない状態でミールを使った試験機を作って失敗した場合のリスクが高すぎる。そしてもう1つの理由はこれまで君達に提供したデーターには記述していないが、ここまで調べた君の頑張りにご褒美として君だけに教えよう」

 

「ファフナーの秘密ですか」

 

「そう本来の『コア』を内蔵したファフナーはね、『同化現象』のリスクがあるんだ」

 

「なっ、どういうことですか」

 

「フェストゥムは元々『北極ミール』の手足の存在。勿論君達Alvisが持つ『瀬戸内海ミール』も同質の存在だ。そのミールを核として使っているからね『同化現象』を発現するんだ」

 

「そんな…確か今回の改良で」

 

「そうEF-1にはこの島のミールから取り出したコアを使用した。ここからが本当の計画の始まりだ」

 

 

「こちらEF-1。試験を止めてくれ」

 

「轟一尉どうした」

 

「同化現象だ」

 

「なんだって、試験中止。奏急いで機体を強制停止させて」

 

「はい」

 

「いや続けろ」

 

「何言ってんだあんた」

 

「今回の試験からつきまとうリスクだ。これが乗り越えられなければ計画は永遠に成功しない」

 

「そんな大地」

 

「出来るかねEF-1」

 

「マジかよ…」

 

「パイロット。バイタル異常意識不明」

 

「おいおっさん」

 

「やむ終えん。試験中止だ」

 

辛うじて大地は同化を間逃れた。

 

「宇美。大地を急いでメディカルルームに運んでくれ」

 

「うん。姉さんついてきて」

 

三人はメディカルルームへ直行した。

 

「うむ…彼の容態が安定するまで休憩としようか」

 

「技術顧問。この事態の説明を求めます」

 

「本来のファフナーであの同化現象は付き物だ」

 

「どういうことっすか、今までのファフナーではこんなこと起きなかったのになんで」

 

「今までのファフナーにコアは内蔵してないからな、当然だ」

 

「嘘だ…EF-1開発したときから内蔵してたじゃないですか」

 

「あれは、替わりの物だよ『ライフダウンシステム』の入れ物をコアに似せて組み込んだだけだ。もちろんシステムは起動しないよう改良してな」

 

「そんな…」

 

「このEF-1が始めてコアを内蔵したファフナーだ。そしてファフナーには常に『同化現象』のリスクが付きまとう。二人も忘れずこれからの計画に挑みたまえ。私は少しここを離れる。君達も自由にしたまえ」

 

立ち去るミツヒロ。その後ろ姿を見ている二人の顔は青ざめていた。



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File6

EF-1で初の同化現象が発現して3日後。再び起動試験が始まった。

 

「おいおい小太郎のやつ大丈夫なのかよ、俺がやるからあいつじゃなくてもいいだろ」

 

「落ち着け大地。気持ちはわかる。あの時の経験を踏まえて調整してる大丈夫だよ」

 

皆に不安な表情が出ている1人の男を除いては。

 

「EF-1始めたまえ」

 

「…了解いきます」

 

「…どうしたのEF-1応答を」

 

「こちらEF-1。助けてください…ココロにはいってくる…」

 

「試験中止。医療班に出動要請」

 

急ぎ運び出される小太郎

 

「小太郎さんしっかり」

 

「小太郎おい、小太郎」

 

「…奏も行ってきな」

 

「…はい」

 

胸ぐらを掴む優芽。

 

「おっさん。何を企んでいやがる」

 

「企むだと」

 

「この期に及んでまだシラを切る気かテメー」

 

「何をどう思おうが君の勝手だが、君達の技術不足を私の責任に擦り付けてもらっては困るな」

 

「なんだと…」

 

握り拳を振り上げる

 

「美空主任。そこまでだ」

 

「大門寺司令」

 

「疲れているだろう。少し休んできなさい」

 

「ですが…わかりました」

 

「すまない。内の者が」

 

「全くだ。外部の人間に手を出そうとするなど教育がなってないな。事を荒立てないだけ感謝して欲しいものだ」

 

「しかし、我々の仲間に犠牲を出すような実験を野放しには出来ないということを警告しておく。別のアプローチで開発してくれたまえ」

 

「ベストを尽くそう」(犠牲無くして技術の進歩などあり得ない。だからお前は甘いのだよ大門寺)

 

 

メディカルルームには4人が集まっていた。

 

「先輩ここは」

 

「小太郎。メディカルルームだわかるか」

 

「俺…生きてる」

 

「あぁ、お前はここにいるぞ小太郎」

 

「バイタルも安定。最悪の事態は間逃れました」

 

「良かった…良かったです」

 

「泣くな奏。ったく」

 

「宇美ちゃん。ちょっといいか」

 

「轟一尉。はい」

 

席を外す二人。

 

「ファフナーのリスク…知ってたの」

 

「…知ったのはつい最近です。」

 

「そっか、ならいいや。ごめんつい疑っちまった」

 

「大地さん。私が必ず解明して、貴方を…貴方達を守ってみせます」

 

「期待してるぜ。宇美ちゃん」

 

メディカルルームに戻った二人

 

「優芽。起動試験再開するぞ」

 

「大地。ちょっと待て今のまま起動試験は危険だせめてもっと改良してから」

 

「俺は、優芽達技術スタッフも宇美ちゃん達研究者もそしてなにより自分自身を信じてる」

 

「そんな根性論でどうにかなるかよ、頭を冷やせ」

 

「…」

 

「宇美。お前もなんとか言ってやれ」

 

「私は出来ることなら止めて欲しい…けど大地さんを信じたい」

 

「宇美…」

 

「宇美ちゃん…ありがとう。3時間後始めるからよろしくな皆」

 

 

「準備はいいかねEF-1」

 

「いつでも行けます」

 

「よろしい。では起動試験開始」

 

緑色も結晶が大地の腕から徐々に侵食し始める。

 

(ぐっううー。ファフナーは機体とパイロットが一体となって初めて完成する兵器。つまりこのファフナーは俺であって、俺はこのファフナー…)

 

「…大地」

 

「大地さん…」

 

「俺は…お前だ。お前は俺だー」

 

結晶はバラバラに砕け散った。

 

「バイタル正常。スパイラル係数予測必要係数を維持…起動試験成功です」

 

喜びを爆発させる一同

 

「よくやった轟一尉。これでこの計画も最終段階に突入だ」

 

ようやく完成した第2Alvisオリジナルファフナー。このファフナーが導く先は果たして…




「大地が起動試験成功させたんですって」

「はい。これから計画は最終段階に入るそうです」

「それまでには俺も復帰出来るかな」

「このまま順調にいけばきっと出来ます。頑張りましょ兵藤三尉」

「はい…おやすみなさい美空先生」

「おやすみなさい」

(大地、やったんだな。待ってろ俺もすぐに復帰して…)


あなたはそこにいますか


(なんだ…心に入ってくる。やめろ入ってくるな…オレがオレじゃあなくなっていく…ダイチ…ウミ・サ・ン…)


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File7

「あれから改良を重ねてついに完成か『ファフナー ウィダシュティン・モデル』」

 

「これまでと違うのは背面部にホーミングレーザーっていう武装を追加したことね。あのおっさん…じゃなくてバートランド技術顧問によれば、パイロットのイメージによってレーザーがあらゆる屈折をして敵を攻撃するそうよ」

 

「それはすげーな明日の運用テストが楽しみだぜ」

 

「それとバートランド技術顧問の指示で『ノイル』も内蔵しているは」

 

「『ノイル』を。意味あるのか」

 

「『ノイル』に組み込まれたデータがその戦闘における最適行動を計算しパイロットをサポートしてくれる。これは私達とバートランド技術顧問の共通見解よ」

 

「なるほどな、それは心強い」

 

「大地。どこへいくの」

 

「ちょっと検査へ、なんでも重大な話があるそうだ」

 

「私も行くわ」

 

「…わかった。行こうぜ」

 

メディカルルームで検査を受け、診断結果に二人は愕然とした。

 

「同化が進んでいるってどういうこと宇美」

 

「…ウィダシュティン・モデルを初めて起動試験で動かせてから、遺伝子レベルで小規模な同化現象が起きていることがわかったの。この遺伝子の同化による変化が轟一尉をウィダシュティン・モデルに搭乗させることに成功させたと推測しています。ただ…ファフナーに乗り続けるたびに、いや乗らなくても急激なスピードでその遺伝子細胞が他の遺伝子に影響する関係で…」

 

「はっきり言ってくれ。美空先生」

 

「轟一尉は余命長くて3年です」

 

「そんな…なんとかならないの宇美」

 

「今の私達の技術では無理だわ姉さん」

 

「そんな…折角ここまで来たのに」

 

「バートランド技術顧問に確かめたらさらっと言われました。『ファフナーは本来シュナジティックコードが未発達で未形成の未成年がパイロットを務める兵器』だと轟一尉の例は前例が無く私も驚いたって」

 

「あのクソ野郎」

 

「よせ、優芽。初めての同化現象が発現した時からファフナーがリスクのある兵器だということはわかっていた」

 

「大地…でも」

 

「ごめんなさい。大地さん私達の研究がもっと進んでいれば」

 

「あと3年あるんだ。その間に解決策を見つけてくれたら大丈夫だよ宇美ちゃん」

 

「大地さん…」

 

「二人ともそんな顔すんなよ、明日の実戦テストが無事成功するようにパーっとやろうぜ」

 

「…そうね。わかったわ今日は負かすんだから覚悟しなさいよ。そうと決まれば早速二人に連絡よ」

 

優芽は自分に言い聞かせるように走り去っていった。

 

「姉さん…」

 

「宇美ちゃん。五郎はどうだ」

 

「まだ目覚めません。急に意識を失ってから眠り続けています」

 

「そうか…。ありがとう大事なことを教えてくれて」

 

「大地さん…」

 

「今日は遅れず来てくれよ」

 

「はい。もちろんです」

 

元気だがどこか寂しげなその後ろ姿を宇美は静かに見守った。

 

「くそー。死にたくねー、死にたくねーよ」

 

自室に戻り拳を壁に打ち付け声を圧し殺しながら大地は一人涙した。

 

 

 

「世話になったなミツヒロ」

 

「いや、こちらとしても良いデータが得られた。なかなか有意義な日々だったよ」

 

「見ていかないのか明日の実戦テストは」

 

「向こうでの仕事が山積みだからね。依頼は果たしたし去るとするよ、また会う日があるといいな」

 

「そうだな…」

 

「去らばだ健闘を祈っているよ」

 

こうしてミツヒロは第2Alvis『蓬莱島』を離れた。

 

 

「いらっしゃい…おっ宇美ちゃん珍しく間に合ったね。あっちにいるよ」

 

「美空先生珍しい~始まりに間に合った」

 

「よし。まだ1人揃ってねーけどはじめっか」

 

「明日の実戦テストの成功と兵藤三尉のお早い目覚めを願って…」

 

「乾杯~」

 

 

「二人とも気をつけて帰ってね」

 

「美空先生も大変ですがお気をつけて」

 

「ありがとう。おやすみなさい…もう演技は済んだ。姉さん」

 

「やっぱり宇美にはバレたか」

 

「全然呑んでないんだもん。二人も気付いてたんじゃない」

 

「そうかね…ってなんでコイツはガッツリ呑んでるかな」

 

「のんでらいよ~優芽ちゃん」

 

「ちょっと、あんた支えるの大変なんだから動くな…ってどこ触ってんだバカ」

 

「いった~い」

 

倒れる大地慌てて二人で起こす。大地をおぶり二人はゆっくり家路に着いた。

 

「やっと着いた」

 

「姉さんお疲れ様」

 

「宇美もね、…ったく。なんで爆睡するかな。こっちはもっと一緒にいたいのに…」

 

「姉さん…」

 

「あー、今のなし。忘れなさい」

 

「妹の前でまで照れなくてもいいじゃん」

 

「それもそうね。…宇美付き合いなさい」

 

「うん。いいよ」

 

缶ビールを開け静かに乾杯する二人

 

「こうやって、二人で呑むのいつぶり」

 

「多分初めてじゃない。姉さん家ではあまり呑まないし、けど呑むと泥酔して帰ってくるし」

 

「そうだっけ」

 

「うん。毎回毎回おぶるの大変なんだからね」

 

「そっか、そうだよね。今大地おぶって帰ってよくわかったし気をつけるよ」

 

「…ねえ姉さん。結婚しないの」

 

思わず吹き出す優芽

 

「なんでいきなりそうなる」

 

「だって。付き合ってどれくらい経つよ」

 

「付き合っては3年だな」

 

「大地…起きたか」

 

「あぁ今な、あれここどこ」

 

「私達の家だ」

 

「あれいつもの場所は」

 

「とっくにお開きしてるよ」

 

「全然記憶がない」

 

「泥酔してたからねこれまでで一番」

 

「ねえ、3年ってどういうこと」

 

「プロポーズは18くらいからしてたけど、なんでか優芽に断られ続けてな3年前にようやくOKもらえたんだ」

 

「あんなにカップル感出してたのになんで」

 

「それは…そのいいのかなって思って」

 

「なにが」

 

「本当に付き合っていいのかなって」

 

「自分の気持ちに素直になればいいじゃんか」

 

「そんな訳にはいかなかったのよ。あの子の気持ちを想ったら」

 

「あの子…」

 

「っもう。この話はおしまい。さっ呑みなおそ」

 

「うし、じゃあ明日の成功を祈って乾杯」

 

三人は幼き日の思い出を語り合い日を跨いだ。

 

「姉さん。お待たせ…」

 

宇美の視線のさきには満月を見ながら肩を並べる二人の姿があった。

 

「ねえ…大丈夫だよね」

 

「実戦テストといっても『ノイル』搭載の無人機だろ大丈夫だろ」

 

身体を引き寄せる大地

 

「俺を信じろ」

 

「うん…」

 

(おやすみなさい。姉さん、大地さん)

 

彼女は静かにその場を離れた。

 



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File8

ついに、その日が訪れた。

 

「これより、ファフナーウィダシュティン・モデルの実戦テストを開始します」

 

「ウィダシュティン・モデル起動」

 

「了解。起動します」

 

指定ポイントに到着したウィダシュティン・モデル

 

「ノイル戦闘機部隊を展開」

 

10機近い戦闘機が上空を飛び始める。

 

「これから投入する兵器は全て無人機です。全て破壊してください」

 

「了解」

 

「テスト開始」

 

(空の敵…飛行能力のないウィダシュティン・モデルにはキツイな…試しめてみるか。イメージして…当たれ)

 

無数のホーミングレーザーが空の戦闘機を次々と撃ち落とす。

 

「全機破壊を確認」

 

「素晴らしい装備だな、地上にいても空の敵を一網打尽に出来る訳か、パイロットのバイタルは」

 

「正常値を維持」

 

「ブルク。機体は」

 

「現時点で問題はありません」

 

「よし、次のテストだ」

 

「はい。近接戦闘のテストに入ります。3機のノイル搭乗型グノーシス・モデルです速やかに排除してください」

 

「了解。…『ノイル』起動」(スゲー相手の動きがわかる)

 

「ノイル搭乗型グノーシス・モデル全機撃破。所要時間…3分です」

 

「何百回と戦闘を繰り返し進化したノイルを搭乗した機体を3分で…凄まじい戦力だな」

 

上層部もご満悦のようだ。

 

「テスト終了。ウィダシュティン・モデル帰投せよ」

 

「了解。ウィダシュティン・モデル帰投します」

 

「大地お疲れ様」

 

「優芽。通信に入りこんで大丈夫なのか。上も聞いてるかも」

 

「別に労いの言葉くらい聞かれたって問題ないわ、早く祝杯を挙げましょ」

 

「そうだな」

 

「じゃあね、さあ祝杯よ」

 

「美空主任。ウィダシュティン・モデルに異常発生」

 

「えっ」

 

「ったく優芽のやつ呑みたいだけだろ」

 

(あなたはそこにいますか)

 

「えっ」(この声…五郎)

 

 

あなたそこにいますか

 

 

「なんだ同化現象だ…はっ、なんだよこれ」

 

ウィダシュティン・モデルのモニターには兵藤五郎が無数に写し出されていた。大地の腕から緑の結晶が侵食し始める。

 

「うぁ…」(ノイルが勝手に起動した…これは)

 

「ダメです。ウィダシュティン・モデルへのアクセス拒否されました」

 

「そんな…大地、応答して大地」

 

「CDCへこちらウィダシュティン・モデル…総員この島から脱出を」

 

「轟一尉。何があった」

 

「フェストゥムに機体が侵食されいます。このままでは…」

 

「ウィダシュティン・モデルがホーミングレーザーを乱射」

 

「なに。ファフナー部隊を出撃させて取り抑えろ」

 

大門寺の指令を受けたファフナー部隊が出撃する。

 

「大地先輩、待っててください。今助けるんで」

 

「よせ…離れろ」

 

「武器が全然効かないぞ、距離をとれ仕掛けて…」

 

瞬殺されるファフナー部隊。小太郎の機体が辛うじて生き残る。

 

「小太郎。応答しろ、小太郎」

 

「先…輩。危ないじゃないっすか」

 

「脱出しろ」(『ノイル』が勝手に起動した…)

 

ホーミングレーザーが小太郎の機体を集中砲火した。

 

「小太郎…嘘だろ、小太郎…小太郎」

 

ウィダシュティン・モデルは躊躇無く蜂の巣となった機体を踏み潰し進み始める。

 

「ウィダシュティン・モデル再びホーミングレーザーを乱射。一部こちらに直撃…」

 

炎上するCDC。指示を仰ごうと通信を試みていた各部署が混乱に陥った。

 

「我々の信念をねじ曲げて得た結末がこれか…」

 

実戦テスト終了後に検査をする準備のためメディカルルームにいた宇美は、CDC崩壊の一報で初めて現状を知った。

 

「姉さん。無事…そんな」

 

急ぎブルクへ向かった宇美。目の前は瓦礫の山と化していた。周囲には横たわる人々が点在している。

 

「奏さん。しっかり」

 

「美空先生…主任が危ない」

 

「奏さん…奏さん」

 

辺りを見渡すと傷つきながらもウィダシュティン・モデルとコンタクトを試みる優芽の姿があった。

 

迫るウィダシュティン・モデル

 

「大地しっかりして、大地」

 

しっかりとした足取りで目の前に巨体の機体が向かってくる

 

「姉さん危険よ離れて」

 

「ダメよ、大地が大地がまだそこにいるんだから」

 

ウィダシュティン・モデルが優芽の前で立ち止まった。

 

「大地…そうよ、落ち着いて。今私が助けるから」

 

(優芽離れてくれ頼む。…よせ何をするつもりだ。やめろ…やめてくれ)

 

その刹那

 

ウィダシュティン・モデルはその大きな両腕で拳を天に突き上げ一気に振り下ろした。

 

「姉さんーーー、きゃあー」

 

(優芽ーーーあぁ、ああぁ…うわー)

 

ウィダシュティン・モデルはもはや手のつけられない状態となっていた。

 

「うっ…」

 

先程の爆風で飛ばされたが辛うじて一命を取り留めた宇美。

 

「姉さん…あぁ。姉さん」

 

もうそこには彼女しかいなかった。

 

(大地さん…貴方はもうそこにはいないんですか…大地さん)

 

そこにあの悍ましい機体はもう居なかった。

 

(まだこの機械活きてる…。あの機体はまだこの島にいるのね)

 

 

…フェンリル認証コード起動カウントダウンに入ります。

 

ボロボロの身体を引きずりながら。宇美はとある場所を訪れた。

 

(これは、私達が貴方を無理やり傷つけた罰なの…私があの時、先生を止めてたらこんなことにはならなかったのかな…ごめんね皆。ごめんなさい。ねえ、もう私ここにいることが辛いの…だから、お願い)

 

宇美が触れている結晶が徐々に宇美の身体を侵食する。

 

(そう。そうして貴方と、貴方と一つにさせて。ハハ…ハハハ…アハハハハ。皆ごめんね、ごめんなさい。姉さんごめんなさい。大地さんごめんなさい。…大好きでした)

 

 

フェンリル起動

 

「第2Alvisのフェンリル起動を確認。総員衝撃に備えてください」

 

高波が第2Alvis周辺に展開していた人類軍艦隊を襲う。

 

「暴走して全てを消し去ったか、誰だかはわからないがいい判断だ」

 

「よろしかったのですかMr.バートランド、大事な実験機だったのでは」

 

「暴走されては何の価値も無い。テスト前に性能データは取ったし、このテストも彼らのCDCをハッキングしておいたからデータは取れた、さぁ私の仕事が山積みなんだ早々に帰還しようじゃないか」

 

(未発達のミールでは私の目指す最強のファフナーは完成出来ないな…やはりあの島のミールが必要か)

 

「わかりました」

 

こうして一つの島は消えた…

 

 

 

「…とこれが今回調査した島の記録だ」

 

「ご苦労だったな」

 

「俺達の技術がその遠因になってるってのが…くそ」

 

「彼らの葛藤と生きたいと思う意思が今日の我々の機体の発展に繋がっていると信じよう」

 

「また背負うものが増えちまったな。真壁」

 

「…そうだな」




「帰ったかミツヒロ」

「洋治か、そっちは順調か」

「研究は順調だよ。私の求める可能性の扉が開かれつつある。彼等は」

「我々の研究の糧となってくれたよ」

「そうか…」(さらばだ大門寺。安らかに眠れ)

「この実験で我々の求める『救世主』の完成は大きく近付いた、待ってろフェストゥム。お前達を滅ぼすファフナーを必ず私が完成させる」


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