ドラゴンスレイヤー装備でゴブリンスレイヤーの世界に転移しました (土星土産)
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プロローグ

友達に消費するだけではなく生産するオタクになれと言われて書きました。



───これはいったいどういうことだろう。気がつけば森に立っていた。周囲を囲む草木を見て思考に耽る。人間あまりに理解できない状況の中にいると頭がどうも働かない。先程から頭の中で同じ疑問が延々と繰り返されるが答えが出るはずもなく堂々巡りである。もうすでにこの状況で2時間ほど経過している。

昨日はもう何周もやりこんだダークソウルリマスターをプレイしていたはずだ。

ダークソウルのその重々しい雰囲気。

鎧や剣などその中世ヨーロッパ風の厳しい装備品。

敵のデザインやクトゥルフ神話的な世界観など

どれもが大好きだった。

 

昔からヒーローのような騎士に憧れていた彼はそのゲームにそれはそれはのめり込んだ。

 

信仰と筋力技量にステータスを振りまくった聖騎士をイメージしたビルドの自キャラを使い、彼がもっとも愛するボスキャラであるオーンスタインの鎧を着込み、騎士風ロールプレイ(といっても喋れるわけではないのでジャスチャーなどによるものではあるが)をしつつオンラインで他人のプレイを手助けしていた。途中から記憶がないので寝落ちでもしたのだろう。となるとこの現状は夢だと考えるのが妥当なのだが──

 

「リアルすぎるな....」

 

そう、地面の質感、虫の鳴き声、植物の香り、何をとってもリアルすぎる。痛みがあれば目がさめるかと思い槍先で少し指を切ってみると鈍い痛みと共に血が流れる。理解の外だ。こんな夢今まで一度だって見たことがない。そして何よりも今の自分の姿が問題だ。視線を草花から自分の体に移すとそこには太陽光を反射し黄金に光る、見たことがないほど精巧な鎧があった。

 

「これ....オーンスタインの鎧だよなあ....」

 

黄金に輝く美麗な鎧に獅子の顔をした兜。

昨日ゲームで使用していた竜狩りの鎧そのものである。

 

 

そしてなにより意味不明なのが奇跡が使えたこと。

思いつきで腰についていた太陽のタリスマンを手に持ちゲーム中スロットにセットしていた《大回復》の奇跡を念じてみると先程の指の怪我が一瞬で消え痛みもなくなっていた。ゲームの中の技が使えたのだ。

 

ゲームの仕様が反映されているのか?

そう思い、その後試しに槍を振ってみると、武器なんて持ったことがなかったのに達人のような槍さばきを行えた。体が覚えているというのに近いか。

 

筋力はそもそもこんな重そうな槍を軽々扱えている時点で常人の域ではないだろう。直前までやっていたゲームの世界に転移.....そんな馬鹿らしい考えがふと頭の中を過ぎる。あり得るはずがない、本来真っ先に一蹴すべき考えだ。それでも一度浮かんだ考えはなかなか消えてくれない。もしゲームキャラのステータスが反映されているとするならあの槍さばきは技量のステータスの高さによるものだろうか。もしも本当にダークソウルの世界だったらハードモードなんてレベルじゃない。不死のはびこる、何度も何度も死ぬことが当たり前の世界だ。

どこにも救いなんてない。

 

今の俺は肉体的には人外レベルだろうがまず生き残る自信がない。しかし永久にここにいるというわけにも行かないのも事実である。

 

「きゃあああああああああ‼︎」

 

そう考えつつも動けないでいると遠くから突然女の悲鳴が聞こえた。恐怖を孕んだその声を聞き、急がなくては手遅れになると、確信にも似た予感がする。だがそれでも先ほどの妄想から来る恐怖が消えてくれない。もしも助けに行っても勝ち目のない化け物がいたら?待っているのは確実な死だろう。

 

行かなくてはいけないと頭では結論が出ているのに動けない。

 

頭がうまく回らない。何度も同じことを考えてしまう。

 

こんな自分が嫌になる。

どうしようもなく弱い自分が。

俺は.......。

 

 

 

──その時、ふとかつての記憶が蘇る。

 

かつて自分が憧れ、そして諦めた夢。

 

弱きを助け強きをくじく、そんな理想のヒーローのような騎士に彼はなりたかった。誰もが一度は大きすぎる夢を描き、そして不可能だということに気づき、諦めて大人になる。

 

だがその彼の子供じみた夢は成長しても完全には消えることはなく、それはゲームの中に投影された。画面の向こう側では何にだってなれた。

想像の向こうでは騎士でいられた。

 

いつかは、現実という壁の前に、憧れは憧れのまま消えるはずだった。

 

そうして身の丈にあった生活をし一生を終えていたのだろう。

 

だが、こうして現実にはありえないことが起きている。

 

今、少なくともかつての自分ではありえなかった力がある。

 

そして助けを求める人がいる。

 

──ここで変われなければ未来永劫変わることなんてできない!

 

 

 

足の震えは無視しろ。

 

恐怖など抑えつけろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

──今こそ、憧れを現実にしろ。

 

 

 

 

 

 

パチン、と頭の中で何かが弾けた音がした。

 

 

 

先ほどまで感じていた恐怖はもうなかった。

 

 

 

一歩目を踏み出し、駆ける。

 

恐ろしい速さで景色が流れ、悲鳴のしていたあたりに到着する。

 

たどり着いた先は少し開けた空き地のような場所で、周辺にあるのは木々と少し奥に洞窟があるだけである。しかしそこは凄惨な景色が広がっていた。

投石によるものだろうか、おそらく一撃で頭部を破壊された死体や

矢が何本もささり苦悶の表情を浮かべ絶命している若者とおびただしい量の血。

正しく地獄といっていい状況が広がっていた。

そして目を引くのがもう一つの異形の死体だ。

一体なんだこれは?人ではない。全身の肌が緑で身長が低い........初めて見る化け物が腹を切られ死んでいた。やったのはおそらくそこで死んでいる若者だろう。

 

「これは.....まさかゴブリンか?」

 

いろんなファンタジー世界で登場する魔物の特徴を持った化け物。こんなものはダークソウルでも見たことがない。まさかこの世界はダークソウル の世界ですらないのか?

新たな疑問が生まれるが当然答えはない。

 

ふと思ったよりも冷静な自分に気づき驚く。本来なら泣きわめき胃の中のものをぶちまけるような状況だ。普段なら俺は絶対そうなると断言できる。現実感がなさすぎて感覚が麻痺しているだけか、この体だからか.....なんにせよこの状況ではそれもありがたい。

 

遅かったかと思ったが、死体の中に悲鳴の主であろう女がいないのに気づく。ここで戦闘があったことは間違いないだろう。あたりを見渡すと

血痕が点々と洞窟まで続いているのを見つける。

 

ゴブリンが相手だとするなら多くの創作物よろしく女をさらった可能性がある。まだ生きているかもしれない。彼らの骸をあとで弔うことを誓い血痕を追う。

 

「さあ蛇が出るか鬼が出るか」

 

彼は洞窟に足を踏み入れた。

 

 

**********

 

 

 

 

洞窟に入るとかなり暗かったがどうやらこの体は目も高性能らしく支障なくあたりを見通せた。どうやらいくつか道があるようだが血痕を頼りに先に進むと、ふいに前方で何かが飛んでくるのを感じ、次の瞬間には矢を()()()()()

 

「.......は?」

 

思わず間抜けな声が漏れる。

体が勝手に動いたと思ったら矢を掴んでいたのだ。怖すぎるだろう。

 

まだ状況が理解できずにいると次々と矢が飛んでくるがそれも体が勝手に動き槍で叩き落とす。自動迎撃システムでも搭載しているのだろうかこの体は。

 

よく見ると飛ばしているのはあの緑の化け物──ゴブリン達のようだがそれよりもその奥にある光景を認識し目を見開く。

 

奥に見えるのは洞窟の中でもひらけた場所。そこには一糸まとわぬ姿で転がされている女達がいた。腹に傷を負った黒髪の女性はすでに目から光が失われている。血痕がそこに続いているということは先ほどの悲鳴の主はこの女性だったのだろう。

間に合わなかった。そのことを認識し一瞬力が抜けそうになる。

だがダメだ。ここでへたるわけにはいかない。頭の隅でそう思考し、なんとか踏みとどまる。

 

次いで湧いてきたのは自分への怒り。

あの時悲鳴が聞こえてすぐに走っていれば間に合ったのではないか。そんな傲慢な怒り。だが悩んでいる時間などない。まだ生きている人がいる。ならば助けなくてはならない。

そのためにはあの化け物を殺さなくてはならない。

心が冷えていくのを感じる。

 

攻撃系の奇跡ではダメだ。彼女達まで巻き込んでしまう。

ならばこの槍を使おう。戦い方はわかる。

 

彼は奥に控えていたゴブリンの前まで一瞬で駆け、両手で持った槍を前方に突き刺す。

超人的な膂力をもってゴブリンはなすすべなく串刺しにされる。

 

仲間がやられたことに一瞬遅れて気づいたゴブリンも振り向く途中で背後から串刺しにされる。そのまま他のゴブリンの方向に投げ飛ばされ、それを避けようとゴブリン達の体勢が崩れる。そしてその隙を彼は見逃さない。

 

「GYAAAAAA!」

 

 

 

狭い洞窟内で長大な槍を振り回すなどどれだけの技術を必要とするのか。

だがこの体ならやれる。妙な確信があった。

思うがままに槍を振るう。

形容しがたい悲鳴と、肉が潰れる音とともに、ものの数十秒で

数匹のゴブリンが肉塊になる。

 

ありえない光景を目の当たりにした他のゴブリン達は逃げようと女達をおいて逃げた。いや、逃げてしまった。

彼は女達の存在から広範囲の攻撃を使えなかった。ゴブリン達は女達を盾にして逃げるべきだったのだ。だがゴブリン達には不幸なことに、そして女達や彼には幸運なことにそこまで頭が回るものが群れの中にはいなかった。

 

 

 

──これで躊躇なく攻撃ができる

 

女達を背にして彼は立つ。槍の先端に雷が走る。膨大な魔力が集められ、バチバチと音を立て次第にその光は強くなり、薄暗い洞窟を白く染める。

 

 

 

───その槍の名は〈竜狩りの槍〉。

 

神々の王に仕えし大英雄の魂から作られたまごうことなき神代の武器。

 

 

数多の不死の竜を屠ってきた雷の神器。

 

 

 

その一撃が、今放たれた。

 

 

 




オーバーキル!!

もっとギャグっぽい感じになるはずだったのに重くなった....
はよ原作キャラと絡ませたい

主人公の技などはいろいろゲームよりスケールがでかくなってます。
フレイバーテキストのスケールに合わせているイメージです。
主人公は使えないけどもし墓王の大剣舞とか使ったらヤバそうですね。

主人公のビルドは筋力30技量50 信仰が50でほかは持久力と体力にちょこちょこ降ってるイメージです。 作者自身は脳筋だったので筋力と信仰だけが50を超えてるのですが技量武器もかっこいいの多いんですよね。

完コス中に飛ばされたので主人公は盾がないです。所持していたはずのアイテムも出せなくなってるちょいハードモード。 頑張れ主人公。


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剣の乙女は夢をみる

ずっと読み専だったので
感想がこんなに嬉しいものだと知りませんでした。

本当にありがとうございます。


朝日を体に浴び、目を覚ます。

寝ている間に汗を随分掻いたようで体に張り付く服が気持ち悪い。

あまり良い目覚めとは言えないだろう。

 

今日は随分と懐かしい夢を見た。最近ではあまり見なくなっていたもう随分と昔の記憶。

 

 

北の大迷宮に挑むよりもさらに前。

 

神殿に引きこもる原因となった冒険。

 

少しでも困っている人たちの力になれれば、

そんな思いで冒険者になった。

 

だがその初めての冒険で私は失敗した。

最下級のモンスターであるゴブリンに私は負け、目の光すら失った。

 

 

私があそこにとらわれてどれくらいの日数が経っていたのかはわからない。

いつ終わるともしれない拷問のような時間は私の精神を削り取っていった。

ゴブリン達は泣き叫ぶ私を何度も陵辱した。

思い出すのも忌まわしい記憶.....。

 

だがそんな物語にもヒーローが存在する。

 

あの日私は彼に出会った。

 

 

 

♦︎

 

 

その日もゴブリン達がまた女の子を連れてきた。

その子はすでに負傷していて遠目からでもそう長くはないように思えた。

そんな状態でありながらゴブリン達は気にした様子もなく腰を振っている。

もうなんども見た光景だがそれでも慣れることなどない。

 

神に祈りを捧げる。そして願う。誰でもいい、

誰かこの地獄から救ってくれ、と...

 

 

 

 

 

そしてその願いは果たされた。

 

 

 

 

 

美しく、強大な雷の光が視界いっぱいに広がる。

眩い雷光が解き放たれ、断末魔をあげる暇もなく小鬼達が絶命する。

 

 

あの醜いゴブリン達はなすすべなく蹂躙された。

 

あの日私は彼に何を見たのだろう。

救世主、それも正しいだろう。

彼は間違いなく英雄であり救世主だった。

だがそれだけではない。

 

 

 

 

 

 

 

そうだ、私はあの日からずっと──

 

 

 

 

 

 

 

 

「クシュン!」

 

 

自分のくしゃみで思考が打ち切られる。どうやら思考に没頭していたようだ。

汗で濡れた服を着たままでは風邪を引いてしまう。

着替えるとしよう。

 

先ほどまでの暗い雰囲気はもうない。

 

「竜狩りの騎士様....」

 

 

何せ今日は彼と会える日なのだから。

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

どうも竜狩りの騎士です。

 

なんかこれ自分で名乗るの恥ずかしいな。

本当の名前思い出せなくなったからしょうがないけど。

なにそれ怖い。

 

こっちの世界に来てから10年以上経ったし流石にもう夢かどうかなんて疑ってない。

俺は異世界に転移した。

しかも転移した直後はわかってなかったんだけど最初に助け出した女の子がね.....剣の乙女様(少女)でした。

 

何でだよ!!

ダークソウル の世界じゃなくてゴブスレの世界ってっ!

関係ないじゃん。

 

 

ゴブスレとかアニメ見たくらいだし原作知識なんてないようなもんだ。

ほぼ何も知らないよ!

ていうかそもそも原作通りに進んでないんじゃないか。

 

だってデーモンやばいのいたし。

あれダークソウル の世界の住民でしょ。混沌属性だからいいの?

 

あと一番やばかったのがあの「黒竜」が攻めてきたとき。

ダークソウルのボスキャラなんて大体トラウマ製造機だしその時は流石に死ぬかと思った。

 

多分10回やったら9回は確実に死んでた。

勝てたのは本当に奇跡だね。

 

1人じゃまず瞬殺されてた。何だよあの化け物。ゲームでもやばかったけどさ。

仲間の存在のありがたさに泣きそうになったよ。

ゲームじゃ基本ソロだったし。

まあ最近はみんな忙しいみたいでなんかソロばっかな気がするけど.......

俺嫌われてないよね?

 

 

ゲームとの違いといえば

アイテムとかたくさん所持してたはずなんだけどほとんどは念じてみても出せそうになかった。あれば色々と有用なアイテム多かったのに残念だ。

 

基本的に武具は全滅。最初から装備してた竜狩り装備一式とタリスマンだけ。

指輪だけは袋に入っててなんとか取り出せたけど。

プレイヤーの心強い味方の盾もないってどういうことなの......

 

消費系アイテムはもう全滅でした。篝火ないし要するにエスト瓶もない!

ルナティックモードかな?

回復は奇跡か、もしくは仲間に頼ってる状態です。仲間ってあったけえなあ。

 

そもそも篝火がないから死んだらどうなるのかも予想がつかないんだよね。

だから復活はないものと考えて生きてる。

死に覚えなんてできるわけがない。怖いし。

 

あとふつうに喋ると対人でテンパるからゲームみたいな騎士ロールプレイしてたら習慣付いて

ふつうに喋れなくなった。

この体謎すぎるよ......まあ割と助かってるからいいけど。

 

まあそんなこんなでいま俺は冒険者序列2位の金等級として生きてる。

一瞬だけ騎士団にも居たんだけど。

 

 

一番上の白金等級は伝説の勇者らしいので実質最上級といっていいだろう。

 

ただね.....その伝説の勇者の子見たんだけどね。あれやばいわ。

勝てないわ。なんだあの火力。最初なんか手ほどきとか言って王様の命令で先生やらされたけど一瞬で追い抜かれていったよ。

すごい娘もいるねほんと。世界は広い。

 

 

 

とかなんとか色々言ってるうちに目的地に到着。

王都の一角にあるオサレなカフェ。そこで俺は今日大事な仲間である

剣の乙女ちゃんと会う約束をしている。

 

木の扉を開け店に入ると奥の席にすでに彼女が座っているのを見つける。

 

待たせるわけにもいかないので早足でそこまで行く。

 

「すまない。待たせたな」

 

「いいえ、わたくしが少し早めにきてしまっただけですわ。どうぞお座りになってください」

 

謝意を述べ席に座る。

 

「貴公とこうして落ち着いて話すのも久しぶりか」

 

「あら、私は何度かお誘いしましたのに貴方は王都に帰ってきたと思ったらすぐどこかへ出てしまうのですもの」

 

「それは........すまなかった」

 

「ふふ.....冗談ですわ。 貴方が人々のために身を削って戦っていることを知らない者はいませんから...。貴方の献身を疑うものなどこの国にはいないでしょう。でも........覚えておいてください。たまには立ち止まって休むことも大事ですわ」

 

「ああ.....ありがとう。よく覚えておこう」

 

久しぶりの会話で内心テンションだだあがりだ。舌がよく回る。え?お前全然喋ってねえだろって?

失礼な。これでも喋ってる方だ。ていうか最近はソロ行動が多くてそもそもあんま言葉を口にしてないわ。切ない.......。

 

 

 

しかし、 “献身” か.........

俺はそんな言葉を使われるような出来た人間じゃない。

 

今でもあの日助けられなかった女の子の顔が忘れられない。

全てを救えるなんて思い上がってはいないけど

力を持ってこの世界にきたのには意味があるはずだと思いたかった。

誰かを助けたいと思った。だから頑張れた。

だがこの10年どれだけの命が手からこぼれ落ちただろう。罪悪感を振り払うために槍を振るう。戦いを続けるのは何も考えなくて済むからだ。

俺は───

 

........といかんいかん思考が暗くなってる。俺の悪い癖だ。

乙女ちゃんのおっぱいでも見て癒されよう。

 

 

──しかし本当に凶悪なおっぱいだ。これはすごい。

フルフェイスの兜をかぶっていてよかったと心から思う。

ガン見してもバレないからね!

 

「────ですか?」

 

おっと おっぱいを見すぎて上の空になっていた。

バレるとまずいのでつい反射的に返事をしてしまった。

 

「......ああ」

 

「.............やはり貴方は変わりませんね。」

 

どうやらおっぱいを見ていたのはばれなかったようでなにより。

まあバレてるのかもしれないけど。

 

...........しかし“休むことも大事”か、たまには王都でゆっくりしてみるのも良いかもな、なん考えてみる。

 

 

 

 

そして次の日、ギルドから俺の辺境出張が言い渡された。

 

 

あれぇ?

 

 

 

 

*************オマケ*************

 

 

「貴公とこうして落ち着いて話すのも久しぶりか」

 

なんて彼が口にする。低くて落ち着いた声だ。

この声を聞くと安心する。

 

しかし久しぶりなのは彼が、強い魔物が出たと知らせが入るとすぐ討伐に向かってしまうからだ。そう思ってつい意地悪を言ってしまった。

 

彼は自分が戦うことで助かる人が居るなら、じっとしていることなんてできない人だ。それを私は知っている。何より私はそんな彼に助けられたのだから。

 

しかしそんな彼を見ているとどうしても不安になってしまうのだ。

彼はまごうことなき英雄だ。それはその力だけでなく精神のあり方も。

 

故にどうしても自分を、他人より下に置いてしまっている。

瀕死の怪我を負ったことだって一度や二度じゃない。

彼が居なくなるのが怖い。本当はずっとそばにいてほしい。

しかしそれを口にしてしまっては彼を悩ませるだけだとわかっている。

だからたまには休んで欲しいとしか言えなかった。

 

わかっている。そんなことを言っても彼は立ち止まらないと。

 

「もう知っていると思いますが辺境に強大なデーモンが出現したとの報告がありました 」

 

彼のことだ、すでに情報を手にしているはず。

そして彼は戦いに行くでしょう。それもいつものように一人で。

 

かつては何度も共に戦ったが彼は一人でなんでも出来てしまう人だ。

本当に私たちが彼に必要なのか、不安になる。

金等級はそれぞれが忙しく

最近の彼は魔物の討伐に一人で臨むことがほとんどだ。

それはしょうがないことなのかもしれない。

生半可な実力では彼の足を引っ張るだけになってしまう。

そして彼は仲間を見捨てることなどできない以上それは致命的だ。

だから彼は一人で全てを背負う。

 

私は王都を離れるわけにはいかない。

だけど、それでも彼がもしも、助力を願うなら

私は全てを放ってでも付いて行ってしまう。付いて行きたくなってしまう。

 

「今回も一人で向かうのですか?」

 

答えのわかっている質問をする。

 

「......ああ」

 

そうだ。彼はそういう人なのだ。初めから分かっていたこと。

決して私に負担をかけることは言わない。言ってくれない。

 

「.............やはり貴方は変わりませんね」

 

全てを彼が背負う必要などないのだと言いたい。

誰よりも幸せになってほしいと思う。

しかしそういう人だからこそ

 

 

 

 

 

 

──私はあの日からずっと、どうしようもなく想い焦がれているのだ。

 

 

 




乙女さんまじ乙女
ギルドや方々に話を通しておいてくれるくらい
有能さんです。



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受付嬢は回想する

番外編として載せればよかった部分も多くなっちゃったんですが書くのが楽しくて本編で出しちゃいました。ごめんなさい......








 

 

 

 

むかしむかし、光と秩序と宿命の神々と、闇と混沌と偶然の神々のどちらが世界を支配するかを戦争ではなくサイコロで決めることにしました。

 

 しかしいつまでも決着がつきません。

 そして神々はサイコロだけでは飽きてしまいました。

 

 彼らは駒と、駒を置く盤面として彼らの住む世界を作りました。

 

 そんなある時、一人の騎士が現れました。

 

 彼らの理に縛られない異質な駒(イレギュラー)

 そんな存在を神々は、ある者は嫌悪し、ある者は好ましく思いました。

 

 彼が世界に与える影響は水面にたつ波紋のように広がります。

 静かに、しかし確実に──。

 

 

 

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 辺境のギルドに勤める受付嬢は普段と少し雰囲気の違うギルドを見渡しため息をつく。

 今日はギルド全体がいつもよりも騒がしく落ち着きがない。

 といっても白金という例外を除いて、事実上の最高クラスである金等級の冒険者がこの辺境を訪れたのだから仕方ないのかもしれないが──。

 

 現在、当の竜狩りの騎士はすでにギルドを後にしている。

 

 何やらゴブリンスレイヤー のことを気にしているようで、

 想い人について聞かれた受付嬢は張り切って色々話したのだが

 先程新人の女神官と駆け出し冒険者の一党がゴブリン退治に行き、

 ゴブリンスレイヤーが彼らのあとを追うようにギルドを出た話をすると

 何やら慌てた様子で出て行ってしまった。

 まだ悪魔(デーモン)の話もできていないのに、と受付嬢は一人ごちる。

 

 彼が去ったあとでもギルド全体が──駆け出しの冒険者などは特に──浮ついている。

 

 

 冒険者にとって等級の持つ意味は大きい。

 一つ等級が違えば待遇も信用も当然得られる報酬も大きく違う。

 だからこそ査定は厳しく行われ

 強さだけでは足りず、人格もそれに見合ったものが求められる。

 つまり首に提げる小板の色はギルドからの信頼の証そのものだ。

 

 そんな彼らにとって金等級とは雲の上の存在だ。

 

 限られたものが到達できる英雄。

 そこには嫉妬などもあるがそれと同じくらい確かに憧れや敬意が存在する。

 

 

 

 受付嬢にとって彼は恩人のような存在だった。

 受付嬢──彼女は彼と会うのは初めてではなかった。

 

 それは都にいた時、成人する以前のこと。

 

 

 ♢

 

 

 

 

 ──それは貴族の娘として参加した大貴族の邸宅で開かれた舞踏会でのことだった。英雄達が魔神王を倒し一時脅威が取り除かれてから都ではこういった豪奢なパーティが連日行われている。

 

 子供ながらにその会で得る人脈などの重要性は理解していたがそれでも息の詰まる貴族同士の腹芸や、お世辞に疲れた彼女が向かったのは庭園のベンチだった。そこは月の光を浴びて輝く花々が咲き誇る幻想的な場所。

 そこにいた先客が彼である。

 

 その時すでに金等級冒険者として名を馳せていた彼だが、その時は普段の厳しい獅子の兜も鎧も身につけていなかった。

 その胸に揺れる金色の小板がなければ誰かもわからなかっただろう。普段はあまり見せることのない素顔があらわになっていた。

 

 

 だからだろうか、あまり萎縮せず話しかけることができたのは。

 

「美しい場所ですね」

 

 彼が私の方を見る。少しだけ間を開けて「ああ」と短い同意が返ってくる。

 

「私このお花を見るのが好きなんです。名前も知らないんですけど、とても綺麗で見ていると心が落ち着くんです」

 

「......この花は弄月花といって、十分な栄養と入念な手入れを必要とする花だ。その分美しいが.......都以外で見るのは現状難しいだろう」

 

 その表情には少しだけ陰りが見えた。

 都の外は今もなお魔物の脅威にさらされ続けている。

 高価な観賞用の植物などを育てる余裕はどこもないのが今の状況なのだろう。

 

 

「花にお詳しいのですか?」

 

「いや、庭師の受け売りだ」

 

 彼はあまり饒舌な方ではないのだろう。しかし、ぶっきらぼうではあるが真摯に会話しようとしてくれているのがわかった。

 

 

「パーティには参加しないのですか?」

 

 話題を変える。こんな場所に一人でいるのだ。きっと彼も息苦しさを感じたのだろう、と勝手な親近感がわく。

 

「どうにもああ賑やかなのは性に合わなくてな。それに私は戦うことしか能がない男だ。あの場所にいる資格はないよ」

 

 物憂げな表情を浮かべる彼は何を思っているのだろうか。

 

「そんなこと言わないでください! 私は一人では何もできません。

 

 貴方に資格がないと言うなら、何もない私はどうすればいいのですか」

 

 彼ら冒険者の働きがどれだけの人々を救ってきただろう。ああいったパーティが開けるのも彼らのおかげだ。

 私たちが手を血に染めることもなく生きていられるのは彼らがその分

 手を汚しているからだ。讃えられるべき偉業を他ならぬ彼に否定されたように感じてしまった。

その思いと今まで人知れず抱いてきた無力感が押し寄せてきて思わず語気が強くなる。

 

 

 

 

 彼は一言すまない、と口にした。

 

 場を静寂が支配する。

 

 数分して、沈黙を破ったのは彼だった。

 

「........先程貴公は自分の無力を嘆いているようだったが、冒険者だって一人では何もできない。サポートしてくれる人達がいるから戦える。帰る場所があるから頑張れる。

 

 踊るにもパートナーがいるだろう? 私は先程貴公が踊っているところをみたが、貴公の踊りはパートナーを輝かせるような、とても美しいものだった。

自分が何かを成すのも才能だがそれを輝かせるのもまた才能だ。

貴公には私にない才能がある。それは十分な力だろう」

 

 

 その言葉は私にとって救いの言葉だった。

 彼にそんなつもりはなかったのだろうけど、でもあの時

 私のひそかに抱いていた夢を後押ししてくれように感じた。

 戦うことができなくてもできることはあると思えた。

 

「.......だから私に.......

「ありがとうございます!」

 

いてもたってもいられなかった。

 

彼にお礼をいい私は走り出していた。

後ろから小さなつぶやきが聞こえた気がしたが私には気にしている余裕がなかった。自分の歩みたい道が鮮明になったような感覚。

 

今でもあの日のことは鮮明に覚えている。

 

 

 

 

 ──あの日以来、ギルドの研修中などに遠くから見る機会はあったが話す機会はなかった。

 

 きっと彼はあの時のことも覚えてはいないのだろう。

 それでもあの言葉は私にとって大事な宝物なのだ。

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

俺は今急いでいた。

辺境のギルドに着いてすぐに

受付嬢ちゃんから4人の駆け出し冒険者の話を聞いてまず確信した。

 

──これ原作開始のタイミングだわ。

 

原作のとおりなら彼らはここで死ぬだろう。

 

結構前から辺境に原作主人公であるゴブリンスレイヤーがいるのは知っていたし、情報もちょびちょび集めてはいたんだけどなかなか会える機会がなく(決して会う勇気がでなかったとかではない! たぶん)

割とブラックな環境に忙殺されていた。まあ望んでやってたんだけど。

 

集めた情報ではまだ彼は一人でゴブリン退治をしているようだったしまだ原作開始までは余裕があんのかなとか呑気に構えていた過去の自分を全力でぶん殴りたい。

 

そもそもゴブリンスレイヤー という作品は「勇者がいて魔王がいて」

というような王道ファンタジーなのだがそれでいて、勇者が強大な敵と対峙する間に別の場所でただ愚直にゴブリンを退治し続ける男が主人公だ。故に主人公であるゴブリンスレイヤーが世界の命運に関わることはない。

 

さらに俺に原作知識があまりない上、なにぶん見てから何年もたっているので記憶にも欠落がある。それもあって原作をあまり気にすることをやめた。

目の前の人達を守るだけでも手一杯でその余裕もなかった。

 

 

だというのにたまたまデーモン退治に訪れたらちょうど原作が始まる日って出来すぎだろ!

神も悪魔もいる世界なのでシャレにならないが超常的な力すら疑ってしまう。

 

 

 

恐らくこれから駆け出し冒険者の一党はゴブリン退治に向かい女神官を残し壊滅する。

ゴブリンの戦闘能力は決して高くない。むしろ人間の子供程度の力しか持たないゴブリンは文字通り最弱の魔物だろう。ゴブリンの恐ろしさはその数と奴らのもつ悪意だ。新人の冒険者がゴブリンを舐めてかかり死ぬのはこの世界では珍しくもない。

 

 

そしてそんな中で女神官とゴブリンスレイヤーは出会うのだ。

 

残酷な世界を女神官が知り、成長するためのイベントであり

ヒーローとヒロインの会合でもある。

 

 

 

俺がやろうとしていることは原作を最初から変えてしまう可能性もある。

そもそも俺がいる時点で少なからず影響は出ている。しかし、

もしも女神官が主人公とパーティを組まなかったらそれは変化として大きすぎるだろう。バタフライエフェクトという言葉のように、蝶の羽ばたきがこの先どのような変化をもたらすのかは俺にはわからない。

 

だけど....未来がわかっていて、それを変える力も持っていて何もしないなんてのは嫌だ。俺は何を目指していた。何のために戦ってきた。

.....人を助けるためだろうが。

 

助けられる命を見捨てるなんて真似をしたら

俺はなりたかった自分に一生なれなくなる。

 

だから──

 

「間に合ええええええ!!!」

 

何としてでも救ってみせる!

 

 

♦︎

 

 

 

剣士、女神官、女武闘家、女魔術師の4人がうす暗い洞窟を歩いている。

 

「大丈夫でしょうか......相手のこともよくわからないのにいきなり飛び込んでしまって.」

 

「まったく心配性だなあ。神官らしいといえばらしいけどさ」

 

女神官のつぶやきに剣士が返す。お金がないから装備も準備も不足していた。

それでもゴブリン程度ならなんとでもなると剣士は言う。

 

 

「ゴブリンくらい子供だって知ってるだろ?俺は村にきたのを追っ払ったことだってあるぜ」

 

そう剣士が言えばそんなことで威張るなと女武闘家が返す。

 

「ま、俺たちならたとえ竜が出たってなんとかなるさ!」

「..........ずいぶん気が早い」

 

 

 

 

楽しげに会話する彼らを見ても女神官の胸中に渦巻く不安が消えることはなく、より大きくなっていく。

 

気づけば女武闘家と剣士はずいぶん前の方に行ってしまったようで

彼らとの間の距離が広くなってしまっていた。

 

 

──それに最初に気づいたのは女神官だった。

 

ガラリと何かが崩れる音。

 

「今、何か崩れるような音が.......」

「どこから?前?」

「後ろから、ですけど」

 

女神官の言葉に女魔術師は苛立つ。

心配性だとしても最初からずっとこの調子では慎重というより臆病だ。

この洞窟は一本道だ。後ろに何かがいるわけがない。

そう言おうとして──振り向いた女魔術師の視界にはたしかに崩れた、

というより掘り穿たれた岩があった。

そしてそこから飛び出してくる醜悪な怪物(ゴブリン)たち。

 

「ゴブリン?!」

 

その突然の事態に混乱しながらも呪文を唱えられた彼女は優秀なのだろう。

 

「《サジタ......インフラマラエ....ラディウス》!」

 

 

赤く燃える《火矢(ファイアボルト)》がゴブリンの顔を貫く。

やった!そう思ったのもつかの間、

次の呪文を唱えるよりも他のゴブリン達が殺到してくる方が速かった。

 

彼女の誇りであり生命線の杖を奪われ、目の前でへし折られる。

 

「このぉ..!!!こ、のぉ!」

 

もはや半狂乱になって女魔術師は暴れた。

 

それに苛立ったのか小鬼が錆びた剣を彼女の腹に突き立て抉った。

 

「うわああああっ...!」

 

臓腑をえぐられた彼女の悲痛な叫びが響き渡る。

 

「この!離れなさい‼︎」

 

女神官は彼女を救おうと非力な腕で錫杖を振り回す。小鬼達は警戒からか少しだけ後ろに下がり、その間に女神官が奇跡を使う。

 

「《いと慈悲深き地母神よ、どうかこの者の傷に、御手をお触れください》」

それは治癒の奇跡。傷を癒す神々の御業。

 

 

女魔術師の腹の傷が塞がり始める。

 

 

 

そこでようやく異常に気づいた剣士と女武闘家が駆けつけてきた。

 

「おのれゴブリンどもめ!よくも皆を!」

 

剣士は雄々しく叫びながら小鬼を切りつける。

アドレナリンによって多少の痛みは打ち消され、一種の全能感に包まれる。

 

──彼はずっと騎士になることを夢見ていた。

 

どうすればなれるのかは知らない。

しかし弱くてはダメなのだろう。

物語に聞いた騎士とは怪物を倒し、悪を討ち、世界を救う者なのだから。

 

 

憧れと今の自分を重ねる。

女性を守り剣を振る自分はまさに騎士ではないか。

そんなことを考えた瞬間だった。

 

 

胸を切られながらも生きていたゴブリンによって太ももを刺される。

 

「うっ!ああっ..!こ、のぉ!」

 

剣士はなんとかそのゴブリンに攻撃を繰り出し完全に息の根を止める。

しかし、そこに新たなゴブリンが襲いかかる。

 

「邪魔だあああ!」

 

 

剣士の、切り返すべくふり抜かれた長剣が、鈍い音を立て洞窟の岩窟の岩壁に突っかかった。終わった。剣士は自分の死を予感する。

 

 

──本来、彼はそこで死ぬはずだった。

 

彼だけではない。

本来の辿るべき道筋では女魔術師も死に、女武闘家も思い人を失ったうえ、陵辱の果てに絶望を味わい村に引きこもってしまった。

 

この世界ではよくある話だ。

駆け出しの冒険者が全滅することも女が小鬼に陵辱されることも。

 

本来彼らもその一例となるはずだったのだ。

 

そう.........()()()

 

だがこの世界では違った。

 

ひとりのイレギュラーが賽の目すら覆すことが起こり得るのだ。

 

「GYAAAAAAAAA⁈」

 

ゴブリンの悲鳴が突如響き渡る。

 

見ればゴブリンの腹から巨大な槍の穂が生えていた。

 

十字架の形状をした黄金の槍が勢いよく引き抜かれる。

 

致命の一撃(クリティカル)

 

支えを失ったゴブリンの体が地面にうち捨てられる。

 

 

彼は──剣士は思い出す。

子供の頃寝る前に何回も母にしてもらった英雄のお話。

強大な敵を倒し、弱き人々を守る、彼のなりたかったような本物の騎士。

数多の竜を屠ってきた竜狩りの英雄。

 

 

 

剣士は見た。

薄汚れた洞窟にあっても

黄金の輝きを放つ、獅子の鎧を纏った騎士の姿を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここではないどこか。

ずっと遠くて、すごく近い場所で。

《幻想》と呼ばれる神さまがサイコロを振っていました。

 

わりと良い目が繰り返され、《幻想》もご満悦。

ですがサイコロは神様の思い通りにはなりません。

 

あっと可愛らしい悲鳴をあげ《幻想》は顔を覆いました。

なんともまあ酷い出目です。

 

それを《真実》と呼ばれる神さまが笑います。

 

しかし仕方ありません。

自分の冒険者達が死んだら、

次の冒険者を用意してもう一度やってみましょう。

 

その時、盤面にとある駒が現れました。

 

《真実》がうなり、《幻想》が嬉しそうに笑います。

 

駒であって駒ではない、「彼」の登場です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

✳︎✳︎✳︎オマケ(少女と男の昔話)✳︎✳︎✳︎

 

 

 

 

月光の当たる庭園で、俺はとんでもなく沈んでいた。

前世の頃からこういう賑やかな集まりは苦手だった。

 

 

しかし今日はそれだけじゃない。

魔物よりも百倍恐ろしいイベントが今行われているからだ。

 

──その名は舞踏会。

大げさだとバカにすることなかれ。

貴族社会ではかなり重要なイベントなんだよ。

 

俺は前世でもダンスなんてしたことがない。

まあ出るからには練習もしたさ。

でも普段戦闘で期待以上に動いてくれるこの体はダンスになると急に

ポンコツになるのか、一人ではろくに上達もせず。

睡眠時間を削り得たものはクラゲのような奇怪な動きだけ。

俺は絶望した。

 

 

他の金等級冒険者はどうしても出席できないらしく俺だけどこまでもぼっちというのも落ち込む要素の一つだ。

剣の乙女ちゃんはすごく申し訳なさそうにしてたけど......。

 

俺がたまたま予定が空いてたのもそうだが他と比べて

俺の立場は少し特殊だ。

 

俺がこの世界に来てすぐの頃、出自も不明で色々見たことのない技を使う

無駄に力を持った黄金の騎士なんて怪しいと疑ってくれと言っているようなものだ。だがそこに利用価値を見たのだろうか、城に呼び出されまして。

 

そしてそのとき俺は秘密裏に国王とある契約を交わした。

 

その結果いくつかの縛りと引き換えに金等級の冒険者達の中でもかなりの自由を得ている。契約といっても対等ではなく、王の命令は基本的にはきく必要があるが。

 

そして今回の舞踏会に来ざるを得なかった理由もそこだ。

 

まあそれはしょうがないのだが........冒険者相手にダンスを求めないでくれよおおおおお!

 

騎士っつっても中身ただの庶民なんだから。

見た目で判断してはいけないね。

悩んでる間も時は流れる。

 

 

........うん。どうにかしてここを抜け出そう。

緊急の用事ができたとか今すぐ鍛錬しなければ!とかなんでもいいから抜け出さなくては社会的に死ぬ。

 

そんなことを考えていたところだった。

 

 

「美しい場所ですね」

 

目の前に超絶美少女がいた。

さっき最初に会場で見たすっげえ綺麗な女の子じゃん。

ダンスもめちゃくちゃうまかったし記憶に残っていた女の子だ。

 

驚きすぎて思わず返事が遅れてしまった。

感じ悪いとか思われてないよね??

 

黙ってたら少女の方から話しを続けてくれた。

コミュニケーション能力が最下層まで振り切ってるからねこの口。

正直すごく助かる。

 

「パーティには参加しないのですか?」

 

とか思ってたらすごい痛いとこをつかれた。

まあパーティ会場にいないで庭園のベンチにぼっちで座ってる奴なんて変だよね。きっと優しさから気を使ってくれたのだろう。

飲み会に一人はいる気遣い上手な優しい先輩をイメージしてしまった。この娘かなり年下なのに.....。

 

.......まあ正直にダンスできないんですって答えるしかないか.....。

 

 

「どうにもああ賑やかなのは性に合わなくてな。それに私は戦うことしか能がない男だ。あの場所にいる資格はないよ」

 

なんかかっこいい言い回し出た。

まあもう慣れたけどこの口ほんと絶好調だな。

 

「そんなこと言わないでください!」

 

怒られました。ごめんなさい!てすぐ謝っちゃったよ。

初対面の美少女に怒られるのってご褒美とかいう奴いるけど

やられてみなよ。ふつうに落ちこむぞ。

 

 

話をきくとどうやら彼女は力不足で悩んでいるらしい。

............え?なんで?さっき踊り見たけどめちゃくちゃうまかったよ?

あれってこの世界だと水準以下なの?そんなことないよね。

 

沈黙がきつい。

何か言わなきゃ。考えろ!考えろ!

 

 

「...........先程貴公は自分の無力を嘆いているようだったが、冒険者だって一人では何もできない。サポートしてくれる人達がいるから戦える。帰る場所があるから頑張れる。

 

 踊るにもパートナーがいるだろう? 私は先程貴公が踊っているところをみたが、貴公の踊りはパートナーを輝かせるような、とても美しいものだった。

自分が何かを成すのも才能だがそれを輝かせるのもまた才能だ。

貴公には私にない才能がある。それは十分な力だろう」

 

考えた結果すんごいのが出た。

 

こちらの世界に来てから喋った中で記録更新級の長文である。

 

だが言いたかったことは伝わったはず。

そうだ、一人では無理だったが教えてくれる相手がいるならなんとかなるかもしれない。

招待された舞踏会を抜け出すなんて良くないに決まってるしな。

この娘すごい上手かったし。

 

 

よし恥を忍んででも言おう。聞かぬは一生の恥だ。

 

「だから私に......」

 

──ダンスを教えてくれないか?

 

 

「ありがとうございます!」

 

言い切る前にお礼を言われました。なんで?

ダメだ。考えても全くわからん。

すごく嬉しそうな、満面の笑みを浮かべた少女が走り去っていく。

後に残るのはベンチに座って固まる俺だけ。

 

「...........え?」

 

そのつぶやきは夜風にさらわれ空気に溶けて消えていく。

 

なんだろうなあ.....

 

俺は舞踏会を抜け出す理由作りを始めたのだった。

 

 

 

 




評価バーに色がついてる!!!
泣きそうになってる土星土産です。



受付嬢ちゃんは金ピカ丸に恋愛感情とかは全然ないです。

あと関係ないんですけど遠い旅路というタイトルで他のダクソオムニバス小説を書きましたのでもしお時間があれば見ていってくださると嬉しいです!


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小鬼殺し

もう一個の方書いてたら予定より遅く.....。

ていうか2話から3話でお気に入りが10倍くらいに増えて軽くパニックになっています。

読んでくださる皆様本当ありがとうございます。



あっぶねえええええええええ!

 

本当ににギリギリだった。

 

 

 

俺が駆けつけた時に最初に見たのは地面に倒れ臥す女魔術師とその側に立つ女神官と女武闘家。

 

そして奥でゴブリン相手に大立ち回りを演じる剣士の姿だった。

 

すぐに女神官に解毒剤(アンチドーテ)を投げ渡し剣士の下に走る。

 

 

剣士の使う剣が壁に突っかかったのと俺がゴブリンを殺したのはほぼ同時だった。

 

剣士がこちらを見つめ呆然としている。

 

あと数秒遅ければ、きっと間に合わなかっただろう。

 

 

 

ゴブリンに一撃を入れてすぐ俺は剣士をかばうようにゴブリン達と向き合う。

 

 

ここまで狭い洞窟だと長大な槍も邪魔になるので一旦置き、持ってきた鉄製の棍棒(クラブ)を取り出す。見栄えも何もない無骨なもの。だがそれだけに扱いやすい。

 

この世界に来てから買った何の効果もない武器だ。

この世界で手に入れた武器は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()武器の扱いは自分の技術だけで行う必要があるが、ゴブリンが相手ならそれでも問題はない。

 

 

ただ思いっきり振るだけでもこの体の筋力で振るえば十分強力な凶器になる。

そしてここは逃げ場のない洞窟だ。

 

俺はそれを力任せにゴブリンの顔に叩きつける。

 

まず一匹が頭部を潰され脳漿が洞窟の壁に飛び散る。

 

しばし呆然としていたゴブリン達だったが仲間が殺され、状況を理解したのか一匹が飛びかかってくる。

そこに上手いことタイミングを合わせてスイング。

 

骨の折れる嫌な音を響かせながら吹っ飛び、地面に何度かバウンドして動かなくなった。

 

「GRUAAAA!」

 

背後から突然の雄叫びが上がる。

振り向きざまに見たものは錆びた剣を振り上げたゴブリンだった。

 

この狭い場所で回避は間に合わないと判断し腕で受ける。

 

カンっという高い音とともに刀が鎧に弾かれたことでゴブリンが硬直する。

 

俺は目の前で停止するゴブリンの頭を掴み、そのまま地面に叩きつけた。

 

化け物に一歩踏み入れた筋力での叩きつけに地面に小さなクレーターが生まれる。少しの間ピクピクと痙攣していたがだんだん動きが小さくなっていき最後はピクリとも動かなくなった。

 

 

「これで終わりか。」

ひとまずは乗り切ったようである。

 

後ろでは女魔術師が回復を終えたようだった。

ゴブリンを排除した俺は負傷した剣士に駆け寄る。

 

 

「あ……あなたは.....」

 

「私のことはいい。それよりもこれを。」

 

右手に持ったポーションを彼に渡す。

原作では死んでしまった彼がこうして生きていることに何とも言えない感情が湧き上がる。

 

この世界に来てすぐのころ、救えなかった女の子のことが思い起こされる。

あの時と似た状況。だが結果は違う。()()()()()()()()()

 

「そこの女魔術師殿が回復したらこの場を動こう。早くこの洞窟を離れた方がいい。」

 

「た……助けてくれてありがとうございます! もしあのままだったら俺、どうなってたか……。きっと仲間も……。」

 

「気にするな。たまたま通りかかっただけだ。」

 

随分無理のある言い訳をしてしまった。

 

「いいえ!私からもお礼を言わせてください。……正直、油断していました。ゴブリン相手に負けるわけないって……私達なら平気だって……。」

 

女武闘家が悔しそうに拳を握る。

この世界はどこまでも残酷だ。

ある日突然隣にいた者がいなくなることがある。

愛する者が陵辱され、死ぬよりも酷い苦痛を味わうことがある。

 

よくあることだ。そう言ってしまえばそれまでだ。しかしそれを少しでも変えたくて俺も戦った。それでもたくさんの人たちが目の前で死ぬのを見てきた。

 

 

「弱いものでも集まれば強者を倒し得る。それを学べたのだ。貴公らはきっと強くなる。」

 

 

 

 

ダークソウルでは雑魚亡者が一番強いとか言われてたりしたけどその理由は数だ。タイマンならドラゴンでも殺せるが相手が多数になると一瞬でボコボコにされる。

ささいなことで死に直結する。正直こんな抜けてる俺が生きてこれたのも運の要素が大きいだろう。

俺も今だって油断すればゴブリンに殺される可能性は十分ある。

 

 

──その時、俺の耳が()()()の足音を聞いた。

一種類は恐らくゴブリンのものだ。気配を殺しているつもりらしいが十分対処はできるだろう。だがもう一つの方、これは──

 

 

 

 

「っ……!危ないです‼︎」

 

 

 

女神官が突然悲鳴をあげる。見やればやはり後ろから新手のゴブリンが短剣を持って忍び寄って来ていた。奇襲をかけるつもりだったのだろう。

 

──しかし、それは失敗に終わる。

 

「GUAAAAAAI?!」

 

 

「……まず一つ。」

 

 

 

 

 

なぜなら()が来たのだから。

 

 

 

 

 

 

突如飛来した短剣が、忍び寄ってきていたゴブリンの喉元に突き刺さる。

恐ろしいほど正確な投擲技術だ。

 

女武闘家達はそこで初めて()の存在を知覚したのか慌てて振り返る。

 

闇の中から姿を表したのはあまりにもみすぼらしい格好の男。

薄汚れ、ツノの折れた兜と鎧、中途半端な長さの剣と松明。

 

幽鬼のような出で立ちの男がこちらに歩いてきている。

 

俺はあの男を知っている。

 

 

あの不恰好な装備は、ただゴブリンを殺すため、実用性だけを追求した結果だということを知っている。

 

ゴブリン達を殺しその結果どれだけ沢山の人が救われたかを知っている。

 

彼は決して勇者のように選ばれた存在ではなかった。世界を救うこともないのだろう。だがそれでも彼は紛れもない英雄だ。

 

「あ……あなたは……?」

 

 

兜の下の表情は窺い知れないが、その問いにスリットから覗く視線が女神官へと向かう。

 

この光景を画面越しに俺は見たことがあった。

 

ここが、全ての物語の始まりなのだ。

 

 

 

彼がその名を口にする。

 

 

 

 

 

小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやあどうも金ピカ騎士こと竜狩りの騎士です。

ただいま街に戻り、受付嬢ちゃんと仕事の話をしているところです。

 

今日もすでに色々あったし、一区切りついたらそろそろ休暇でもとってゆっくり休みたいなあとか思う今日この頃。

 

え?ゴブリンはどうしたって?

 

まあ普通に全部主人公(ゴブリンスレイヤー)が倒しました。

やっぱかっこよかったね。

剣士達を置き去りというわけにもいかないしゴブリンスレイヤーが「好きにしろ」っていうから結局俺ら全員で付いて行ったんだけど正直要らなかったかも。俺ほとんどなんもしてないし。

 

 

経験を感じさせる洞窟の探索や、容赦も油断もなく効率的にゴブリン達を倒していく様は圧巻だった。

 

 

駆け出し冒険者一行も各々思うところがあったようで。

 

 

冒険者を今後続けていくならいい教訓になっただろう。

 

彼らのゴブリンスレイヤーを見る目には確かな敬意が感じられた。

 

女神官ちゃんは中でもゴブリンスレイヤーに対して感じるものが大きかったようでなんかこの冒険のあともゴブリンスレイヤーについて行く気らしい。

 

そこは原作通りになりそうで正直なところ少しだけホッとした。

 

見る目といえば剣士の俺を見る目がなんというか凄いことになってたな。

 

鬼気迫る表情というか……特に何かを言ってくるわけではないのだが視線がやけに熱かった。

 

まさか彼はホのつくモの方なのだろうか。

 

……え? 違うよね?

 

 

 

 

 

 

……とにかく無事に彼らを助けることができたしゴブリンスレイヤーとも知り合いになれた。

 

 

 

満点に近い結果なのではないだろうか。

 

「──と、ここまではよろしいですか?」

 

「あ、ああ聞いているとも」

 

危ない危ない思考に没頭して受付嬢ちゃんの話を聞き逃すところだった。

 

はじまりは正体不明のデーモンと最初に相対した銅級冒険者の一党が一瞬で全滅しかけたことらしく、強大な力を持っているだけに対処に困っていたらしい。

費用はかさむが銀等級冒険者達をギルドで複数雇うなどの対応をしようとしていたところ俺が来ると都から報告があって驚いたらしい。

 

まあ実際ほとんど被害が出ていないので本来国の難事に対処する金等級冒険者が動くことはほぼ不可能だ。あくまで俺が例外的なだけで。

 

ギルドとしても未知のデーモンに辺境でも数少ない、虎の子の銀等級をぶつけることはあまりしたくなかっただろうしちょうど良かったのだろう。

今わかっている情報は全て開示してくれている。

といってもまあほとんど何も分からないようなものなんだけど。

 

 

「なによりも特徴的なのがこのデーモンは一定範囲から出ないという点です。相対した冒険者の方々も逃げに徹した結果デーモンの方が撤退したようです。」

 

 

どうやらこちらからちょっかいをかけなければ攻撃もしてこないらしい。

 

まあ強い悪魔が出た割には街が平和そうだなとは思ってたけど。

 

 

ある意味無害といえば無害なのだがそのままにしておくわけにもいかない。

急に活発に動き出す可能性もないではないのだ。

そもそも近くにデーモンがいたらその地の人々の気が休まるはずもない。

 

 

 

個人的に気になる点もあるが……。

 

 

 

 

受付嬢ちゃんの話は終わり、話題はゴブリンスレイヤー君の話になった。

彼女は原作通り彼に好意を持っているのだろう。

なんかデーモンの時より話に熱が入ってる気がする。

 

 

 

 

何はともあれ俺のやるべきことはデーモンの討伐だ。

 

今日はもう日が暮れるので明日の朝にでも出発するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう! ちゃんと聞いてるんですか!」

 

 

「……すまない。」

 

聞いてます。すみません。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 

 

と、そんなわけで朝から半日歩いてその突如出現したデーモンのいる遺跡に来たわけだが。

 

……いや、あのね。もしかしたら、とは思ってたよ?

 

なあんかこの遺跡もデーモン遺跡に似てる気がしてたし。

 

 

嫌な予感もしてたさ。

 

デーモンの見た目の話を聞いてるときとか嫌でも頭に浮かんじゃったからね。

 

 

 

硬い石のような見た目の体に、湾曲した巨大な角を生やし、

 

手に持つのは巨体に見合ったサイズの刺又。

 

そして何よりも()()()()()()()()()()異形の悪魔。

 

この特徴を全て持ってる奴なんて俺は一つしか知らない。

 

 

 

 

ダークソウルに出てくる混沌の炎で楔石が変化した結果生まれたデーモン。

ボスキャラでもユニークキャラでもないが下手したらボス以上に火力が高く序盤で挑むと痛い目を見る、俺もトラウマがいくつかある、そんな敵。

 

 

 

──“楔のデーモン”との戦いが今始まった。

 

 

 

 




ほんとに軽い気持ちで書いてしまって今どうしようって感じです。

もっとちゃんと練って書けばよかった......


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