評決へ集え (COTOKITI JP)
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可能性の始まり

またもや続くかも分からない新作を飽きもせずに投稿してしまった……。



穴によって海の大半が失われ、荒野と化した世界の中に一つの街があった。

 

その中にある大きいとも小さいとも言えない酒場があり、今はとても人が多かった。

 

しかし、目的は酒でも飯でもなく、そこにあったラジオから流れる音声だった。

 

《我々は!自由意志の下、世界初の統一国家の樹立を宣言する!!》

 

ラジオからは、力強く、しかし若さを感じる怒声が聴こえてくる。

 

そう、ラジオの先にいる彼は、世界初の統一国家を作ろうとしているのだ。

 

この新たなる試みに民衆は皆注目している。

 

彼が樹立を宣言した統一国家。

 

その国の名前は─────

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

曇天の空に幾百にも重なったエンジン音が響き渡る。

空を覆い尽くすが如く、群れながら飛んでいるのは、議会直轄の飛行隊、雇われの飛行隊、それに近隣の街の自警団まで駆り出されている。

 

その飛行隊の数、およそ百二十機。

 

戦争でも起こす気かと思うような数の戦闘機と爆撃機。

まぁこれから起こすのは殆ど戦争のような物だが。

 

雲の下を突き進む群れの中に、六機の戦闘機がいた。

 

『一式戦闘機 隼』

 

それが彼女等の乗る戦闘機の名前。

 

《今日なんか天気悪くなってきてない?》

 

隼の内の一機に搭乗していたパイロットにしては服装がやけにカジュアルな少女、『キリエ』が気だるげに無線機越しに僚機へと話し掛ける。

 

既に雲は空の殆どを覆い隠し、青空は雲の上へと隠れてしまった。

 

こんな状態では雨が降るだろうし最悪、更に天候が悪化して撤退を余儀なくされる可能性も考えられる。

 

それに彼女等のようなパイロットにとって空というのは自分の第二の住処とも言える場所だ。

悪天候になれば、テンションが下がるのも仕方が無いだろう。

 

《確かに……このままでは飛行船の電探にも障害が発生するかもしれないな》

 

《あと雲の上からの奇襲にも警戒するべきですわ》

 

《……これから更に天候が悪化する可能性大》

 

皆いつも通りにコミュニケーションを取りつつその場での適切な行動を取る。

 

イケスカ動乱に劣るとはいえ、百二十機も集まるとエンジンによる騒音で敵機の接近に気付きにくくなるという難点がある。

 

結局索敵の全部は目で行うしかない。

 

外を見ても似たような形の雲が前から後ろへと高速で流れていくだけの光景が延々と見えるだけで、彼女等に限らず、ここにいる皆が退屈していることだろう。

 

計器版に取り付けられている航空時計に視線を移すと、時刻はちょうど早朝の四時を指していた。

 

予定では間も無く攻撃目標へと辿り着くはずだ。

 

《見ろ、もう既に目標が目視で確認できるぞ》

 

《ホントだあった!》

 

前方には、爆撃目標である国家の樹立を宣言する武装勢力の本拠地とされている大きな街、『ルベンリ』があった。

 

凄まじい規模のビル街を見下ろしながら本拠地があるという街の中枢へと進み続けた。

 

機体を逆さまにして街を見下ろしていたキリエの僚機である『チカ』が異変に気付いたのは正にその時だった。

 

《ねぇねぇ》

 

《どうかしたの?》

 

さっきからずっと街並みを眺めていたチカから無線が入った事に気づいたキリエはどうしたのかと聞く。

 

《なんか……ビルの隙間から光が────》

 

直後、激しい閃光が視界を奪い、同時に鼓膜が破れかける程の爆発音が聴こえた。




最後で何があったか、感の鋭い人ならば容易に分かることでしょう。


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山猫の忘れ物

〈ルベンリ中央管区 ライヒ空軍基地〉

 

ルベンリという街は余りにも大きく、小国に匹敵する程の領土を有する。

その為、街は占領した新国家軍によって東西南北と中央に管区を設けられ、それぞれの指揮官がそこにいる全部隊の指揮権を持っていた。

 

爆撃隊の標的になっていたのが中央管区にある『ライヒ空軍基地』だった。

 

ライヒというのは新国家軍の総司令官が名付けたのだが、その規模は正に空軍基地と呼ぶに相応しい。

 

しっかりとアスファルトで整備された滑走路に、沢山の格納庫やパイロット達の宿舎、それに多くの参謀将校の集まる大きな司令部の建物に充実した対空兵器。

 

新国家軍の総司令部もその中央管区に存在したため、そこが狙われるのは必然的であった。

 

まぁ、そこを焼け野原にする筈の爆撃隊は現在火炙りにされているが。

 

空軍基地の滑走路脇には他の対空砲と比べて明らかに大きい固定砲台とそれを運用する兵士、そして一人の軍服を身に纏った男とその隣に立つやけに奇抜なスーツを着た男がその赤熱した砲身を眺めていた。

 

その砲台が他の対空砲と違う点を三つ挙げるとするならば、まず一つ目に、口径が大き過ぎる。

 

20mmは兎も角、88mm、それどころか恐らく150mmを遥かに超える口径をその砲は持っていた。

 

二つ目に、発射方式が普通の砲と異なるという事だ。

この砲は『多薬室砲』に分類される。

 

詳しい原理は省くが、簡単に言えば複数の薬室を用いて弾頭を連続で加速させ、高初速で撃ち出すという物だ。

 

三つ目に、この砲に使用されている砲弾は只の砲弾ではない。

 

この砲に使用されている砲弾……それは『核弾頭』。

 

「これは……確かに……驚異的だ……」

 

派手なスーツを着た若い男が口に手を当てながら先程まで爆撃隊がいた筈の場所を見つめていた。

 

「言っただろう?アイツらと俺たちじゃあ、質の差が違うんだよ」

 

その隣にいた軍服の男が自慢気に口角を上げながら答える。

 

「『ヒュージキャノン』……本当は対空兵器ではないんだが、あの威力を見れば、航空機相手にも通用すると分かっただろう」

 

爆煙の漂う空を一瞥し、ヒュージキャノンの方へと視線を移す。

 

「オーバードウェポンは他にもある。 戦争が激化すればいつかお披露目する事もあるだろうな」

 

「こんな兵器があったら、僕達も勝てたんだろうけどなぁ〜」

 

スーツの男も、残念そうな顔でヒュージキャノンを眺めている。

 

「後悔先に立たず、だ。 まだ残党がいるみたいだし、残党狩りとしよう」

 

「了解」

 

滑走路にてアイドリング中の戦闘機へと向かっていく男の背中をスーツ男は追っかけていった。

 

「さぁ、この世に秩序を取り戻すとしよう。 『イサオ』」

 

「分かってるさ。 全ては救済の為、だろ?

 

 

『メルツェル』」

 




一話一話は基本短めなのでゆるして。

それとACを登場させるかさせないか、感想にて意見が欲しい所です。


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Nobody want Peace.

〜side:レオナ〜

 

私は無線機に向かって必死に捲し立てる。

あの爆発が起きた瞬間、百期以上いた筈の大編隊はパッと見でも分かるぐらいに壊滅していた。

 

せめて自分の僚機の安否だけは確認したかったので、無線機を使ってザラ、キリエ、チカ、エンマ、ケイトへとひたすらに呼び掛けるが、聴こえてくるのはノイズばかりで何も聞こえない。

 

「クソっ!電波障害か!?」

 

舞い上がった紙屑の如く墜ちていく戦闘機だった残骸の中から目を皿にして探し続け、それはようやく見つかった。

 

どうやら爆心地から一番離れていたのは幸運にも私達だったらしく、あちこちを見渡すと合計で五機、僚機は全機生き残っていることが確認できた。

 

高度を私に合わせてきた僚機の内の一機、その中にいたザラは手信号で撤退を提案した。

 

それに私も手信号で答え、編隊を組みなおした後は即座にその場を離脱しようとした。

 

突如、真下から飛んで来た曳光弾の群れが先頭にいた私の機体を貫いた。

 

まるで三十ミリに撃ち抜かれたかのように左主翼に大穴が開き、そこから大量の燃料が噴き出した。

 

それならまだ良いが、問題は操縦席にまでその銃弾が被弾した事だ。

 

被弾した数発の内一発が操縦席を貫き、内部で炸裂したのだ。

 

「ぐうぅっ!?がァァァ!!」

 

突如としてやってくる左腕からの激痛、足元に垂れ落ちる大量の血液。

自分がどれ程の傷を負っているかなど明白であった。

 

今までに感じた事が無い程の激痛に、左腕を見遣ると、スロットルレバを握っていた左腕は銃弾の炸裂による破片であちこちの肉が抉れており、そこから大量出血を起こしていた。

 

《……ナ……!……レ……ナ!!……レオナ!!大丈夫!?》

 

どうやら通信が回復したらしく、ザラがこちらの無事を確認しようと叫んでいるのが聴こえた。

 

左腕はもう使えない。

だが敵に先手を打たれた時点で撤退も出来ない。

 

つまり、今私達に出来る唯一の事は……

 

「……大丈夫だ!まだ、戦える!」

 

戦う事だけだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇

〜side:???〜

 

《あれ、珍しい。 メルツェルが一撃で敵機をやれないだなんて》

 

無線越しにイサオが本当に驚いているかのような声を上げている。

一方で俺はキャノピィを隔てて煙を上げる隼を見ながら僅かに顔を顰めた。

 

確かにあれは致命傷だ。

だが完全に撃破は出来ていない。

操舵関係が生きている以上、逃げられるかもしれない。

 

「機関砲がジャムを起こした。 モーターカノンと左主翼の方だ」

 

《あらら、ツイてないねえ》

 

「まぁいい、まだ右主翼に一丁と機首に二丁ある」

 

隼の編隊が散開したと同時に俺もエルロンを切り、先程撃った奴とは別の隼に斜め上から攻撃を加える。

 

相手の反応が良く、主翼の機関砲弾は躱されたが機首の機関砲弾は左主翼から尾翼にかけて数発命中した。

 

速度計は既に時速七百キロメートルを指していた。

速度に乗った機体を思い切り上に上げ、高度を取る。

 

速度性能の低い隼なら着いてくることは出来ないだろう。

これに着いてこれるのはアメリカかイギリス辺りの機体くらいしかいない。

少なくとも自分が知る限りでは。

 

最近ではジェット戦闘機の配備も他の所でされてきているようなのでいつ着いてこられるような奴が来ても良いように用心はしておいた方が良さそうだ。

 

 

そう考えればあの隼はやけに時代遅れな機体だ。

日本機乗りも見た事はあるがだいたい重武装、大馬力エンジンでパワーアップされた新型ばかりだった。

 

それ程に彼女等は金が無いのか、それともこの世界ではそれが当たり前なのか。

今はまだ理解には程遠い所だ。

 

「攻撃を仕掛ける。 イサオは後方の隼をやれ」

 

《了解!》

 

ある程度上昇したところで反転し、俺の部下を追っていた二機の隼へと機首を向ける。

 

角度的にも速度的にも充分に当てられる。

だがMG151が一丁しか使えないので弱点を正確に撃ち抜く必要がある。

 

操縦桿を握る手に力が入る。

大分距離が縮み、光学照準器の円の中に先頭の隼が収まった。

 

速度は更に上がり、隼とすれ違うのはほんの一秒足らずの時間だった。

 

しかし、二機の隼は驚くべき反応速度で俺達の攻撃を急旋回で回避した。

運動性能の優れた隼だからなせる技なのだろう。

 

《うわっ避けられた!さすが『コトブキ』だなあ》

 

「褒めてる暇があるなら反転して再攻撃するぞ」

 

操縦桿を斜め上に引き起こし、先程の二機を視界に捉える。

少しずつ高度を上げながら隼の腹に照準を合わせる。

 

あと三秒で撃とう。

 

 

豆粒ほどの大きさだった隼が次第に大きくなっていく

 

 

もう敵機は目と鼻の先だ、今撃っても多分当たる。

 

 

漸く発砲しようとした矢先に管制塔からの無線が入った。

 

《管制塔から全機へ、RTB。 繰り返す、目的は達成された。 全機帰還せよ》

 

淡々と告げる管制官の声を聴き、俺達は即座に反転して基地の方角へと離脱する。

 

編隊は素早く組み直され、役目を終えた迎撃隊は基地へと帰る。

 

敵機が追ってくる様子はない。

あれだけの損害を被れば当たり前だが。

 

俺は後ろを見つめるのをやめ、目先にある街へと視線を移した。

 

「世界は違えど、やる事は同じ……か」




またまた更新が遅れてしまった。
本作品ではなるべくマイナーな機体を主に出していきたいと思うのですが、もし意見や要望がありましたら感想にてお願い致します。


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