アクセル・ワールド クロム・ディザスター(チェリー・ルーク)撃破RTA オリジナル主人公チャート (透明紋白蝶)
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RTAパート
エピソード1 黒の王の帰還


オープニング~シアンパイル撃破まで


 はい、よーいスタート。

 触手鎧を身につけて闇堕ちしたショタっ子チェリーボーイを撃破するRTAはーじまーるよー。

 タイマースタートはNEW GAMEを押した瞬間(もう始まってる!)、タイマーストップは災禍の鎧を装備したチェリールークを全損させてポータルゲートから無制限フィールドを離脱した瞬間とします。

 本RTAに使えるふたつのモードのうち、今回は春雪くん成り代わり(不在)モードを選択し、キャラクリエイトに移ります。

 

 最初に要求されるセーブデータ名は入力速度を考えて『ピンクのブタくんは全身が性感帯』とします。キャラクターネームは自動生成なため入力できません。

 

 キャラクリエイトで設定する項目は心的外傷を三つとレベル1時点でのデュエルアバターのポテンシャル値の二つです。

 心的外傷は『盲目』『痩躯』『ひ弱(クソ雑魚体力)』の三つ、ステ振りの詳細はキャラクリ後の現実世界での肉体とデュエルアバターの生成のためのクソ長ロード中に説明していきます。

 というか今からですね。本当にクソ長なので大体の説明が終わると思います。タイマースタート前のタイトル画面で長々と説明しなかったのはこのためですね。

 

 キャラクリで設定した二項目ですが、心的外傷はデュエルアバターの方向性とは別に現実世界サイドで扱う肉体も心的外傷によって生成されます。

 ブレインバーストくんのデュエルアバター生成を原作ノベルにてもっ先は『理想像ではなく劣等感を読み取る』と述べていましたが、ゲームに落とし込まれる上でその設定はめんどくさかったらしく実質的に心的外傷から読み取れる理想像がアバターの姿となります。

 そのため『盲目』は目が良いアバター『痩躯』はマッチョ『ひ弱(くそ雑魚体力)』は持久力の良いアバターへと繋がります。

 原作通りの設定だとすれば巨大な目玉の親父が生まれるのではないでしょうか?

 とはいえ、同じ心的外傷を選択しても異なるアバターが生まれることなんてザラなので、最初のデュエルアバター確認が最初のリセポイントとなります。

 

 また、今回は肉体的な欠点を心的外傷に設定しましたが、これは思いっきり現実世界の肉体に反映されます。

 しかし、『盲目』属性を持つことになった主人公ではありますが現実世界の肉体を操作する時に視界が封じられるということはありません。

 ゲーム的な理由という訳ではなく、ニューロリンカーとかいうくっっっそ便利な機器があるからですね。

 視力と聴力ならばある程度補正してくれますのでそこまで致命的な属性ではありません。

 とはいえ、ニューロリンカーの補正も完璧ではないので五体満足の主人公のプレイの時と比べると得られる情報が若干劣化しますが。

 ヒロインズのご尊顔が若干ぼやけたりお声が聞き取りにくかったりしますが、そんなものRTAにはフヨウラ!

 

 後述するアバターのポテンシャルの方向性を強めるために『四肢欠損(両足)』なんて属性を設定したこともありますが、車椅子となるか倉崎楓子のような完成度の高い義足となるかでタイムに差がありすぎ、リセポイントが増えてしまうので見送ることにしました。

 今回設定した『ひ弱』も下手をすると五十メートルを()()だけで一時的行動不能となる可能性がありますが、セグウェイのようなアイテムを所持している可能性が高性能義足所持率よりは高いのでゴーサインをだしました。

 セグウェイの性能はピンキリですが、所持率は九割を超えてるので必然力により実質確定所持です。

 

 次に、ステータスつまり同レベル同ポテンシャルの法則に則ったポテンシャル振りですが、『Attack』『Defense』『Agility』の基礎ステータス三項目には最初から1ポイントずつ振り分けられている。

 『Special』『Ability』『Equip』のうち二項目以上には1ポイント以上振り分けないといけない。という制限の元に合計10ポイントを振り分けることになります。

 小数点第一位まで小刻みに振り分けることも可能ですので、実質的には100ポイントの割り振りとなります。

 そして、今回設定したステータスがこちら。

 

『Attack』2

『Defense』1

『Agility』2.8

『Special』1

『Ability』3.2

『Equip』0

 

 本当はAgilityを2.9、Abilityを3.1としたかったのですが、小数点以下の調整はスティックの倒し方が難しいのとそこまでタイムに影響しないことからAgilityが2.7以上2.9以下となれば問題ないことにしています。

 Abilityは残ったポイントを全部突っ込めばいいので振り分けは楽ですね。

 

 心的外傷も含め、キャラクリエイトをこのようにした理由ですが、今回はチェリー・ルークを撃破するのがゴールなため、赤の王との接触フラグとなる飛行能力を得なければなりません。

 飛行能力は『Special』『Ability』『Equip』のいずれの能力でも取得できる可能性がありますが『Ability』が一番確率として高いという事と、レベル1初期の時点では必殺技と強化外装、つまり『Special』と『Equip』はひとつしか取得できないのに対し『Ability』は複数入手出来ます。そのため、飛行アビリティのおまけがついてくる可能性があるので三択の内『Ability』にブッパすることになりました。

 振り分けなければならない二項目目に『Special』を選択した理由ですが『Equip』をゼロにしておかないとクソ雑魚飛行強化外装が初期装備となる可能性があるからです。

 せっかく『Ability』にポテンシャルの三割も振り分けて飛行アビリティの強化を目論んだというのにクソ雑魚飛行強化外装を入手してしまってはその瞬間にリセとなってしまいますので。

 まあクソ雑魚飛行必殺技を獲得する可能性もあるのですが、確率の問題で必殺技の方が飛行能力を得る確率が低いからそちらを選んだという訳ですね。

 ちなみに、基礎ステータス三項目の全てを『Special』『Ability』『Equip』のうちどれかが上回っていないと飛行能力の取得の可能性はゼロとなります。

 どれかひとつでも上回っていれば上回っていない項目でも飛行能力に覚醒する可能性があるのはバグかなにか?

 

 以上でキャラクリの説明を終わります。

 

 ………………すいませーん、変態速度中毒猫娘ですけどー。まだ時間かかりそうですかねー?(クソ長ロード)

 ロード長い、長くない? タイマースタートはロード終了後の暗転でよかったかもしれませんね(千年戦争アイギス王城奪還RTA並感)。

 このロードさえなければリセポイントだらけのチャートも走る気になるのですが、リセの度に長い時間待機する必要があるのはいやーキツいっす。

 

 

 皆様のためにーとかやってる時間がなかったので(編集時点の感想)さっさとこのゲームで選択できるゲームモードの説明をしていこうと思います。

 このゲーム、選べるモードは『春雪くん操作モード』『春雪くん成り代わり(不在)モード』の原作沿いの二つのモードに加え、原作に登場したレギオンひとつを選択して加入し、オリジナルストーリーを展開する『レギオンモード』とストーリーもクソもなく好きに東京を歩き回って喧嘩を売りまくる『フリーモード』があるのですが、原作沿いの二つのモード以外では飛行アビリティを使うことができません!

 まあ簒奪系の能力を得て春雪くんから奪えば可能なのですが、ネガビュ全員を敵に回して最悪リアル割りまでしてくるのでハードモードです。

 レギオンモードでは加速研究会に参加することも出来るのですが、幹部にならないとまともに庇護を受けられないのでカツカツチャートとなりますよ。やだ怖いやめてくださいアイアンマン!(スカイ・レイカー)

 

 四つのモードのうち、今回選択したのは『春雪くん成り代わり(不在)モード』です。

 原作の春雪くんのポジションにオリジナルキャラクターを配置し、そのキャラクターを操作して原作を辿っていき、白の王を倒すとエンディングとなるモードとなっております。

 ですが、今回は序盤のボスであるチェリー・ルークを倒すのをゴールとしています。理由は何個かあるのですが、触手を扱う鎧を装備して闇堕ちするショタとか最高でしょ?

 

 ちなみに、白の王撃破RTAの『春雪くん操作モード』のワールドレコード二十四時間を超えています。

 『春雪くん成り代わり(不在)モード』の場合前述の通り主人公次第で様々なイベントがスキップされるため十二時間程度まで短縮されるようですが、難易度が狂ってるので完走者が二人しかいません。

 具体的に省略可能イベントを可能な限りカットしていくと、こんな感じになります。

 

 原作二巻で赤の王との接触なし、それによってプロミネンスとネガ・ネビュラスの接点がなくなります。

 また、プロミネンスがチェリールークを断罪することが出来なかったため、条約違反によってイエロー・レディオの手でプロミネンスメンバーひとりが全損させられます。

 

『エネミー狩りを終えて帰還ポータルへ向かうチェリー・ルーク。

 飢餓感からか、不幸にも黄色づくめのサーカス団員を全損させてしまう。

 親を庇い、全ての責任を負ったスカーレット・レインに対し、サーカス団の主、イエロー・レディオが言い渡した示談の条件とは……』

 

 てな感じです。全損させられたメンバーが所属していたレギオンは全損させたレギオンのメンバー一人を選んで報復に全損させられるという条約なんですね。

 レギオンマスターを選んではいけないという文はありませんので、イエロー・レディオはスカーレット・レインを当然の権利のように選択します。

 大体はそこでプロミネンス幹部、三獣士の一人であるブラッド・レパードが身代わりになって手打ちとなるのですが、それによって赤と黄色のレギオンの関係は最悪に悪化します。

 それによってB(ブレイン)I(インプラント)C(チップ)を使った加速研究会のポイント稼ぎが暴かれるタイミングがかなり遅れます。

 それによってISSキットの配布規模が拡大して被害が広がります。

 また、スカーレット・レインは無制限中立フィールドのエネミー狩り中に加速研究会に闇討ちされ、強化外装を全て奪われ無限PKで全損させられます。

 ということで二代目災禍の鎧がフルスペックとなりどちゃクソ暴れます。

 赤の王が全損したことで、対加速研究会の共同戦線を張っていた七大レギオンの足並みは揃わなくなってしまうので、最終的には原作の数倍以上の戦力を持つ加速研究会とネガ・ネビュラスのメンバーのみで戦うことになるんですね。

 なんやこの無理ゲー……。

 

 そんなわけで本ゲームのRTA界隈ではチェリー・ルーク撃破RTAが主流となっています。仕方ないね(レ)。

 チェリー・ルークまでなら稼ぎをする必要がほとんどないため、それ以降のチャートと比べるとお手軽度が違いますから。

 

 そんなわけでロードが終了しました。(もう始まってる!)

 原作沿いルートの場合、開始地点は原作一巻の導入と同じです。つまり、授業中にいじめっ子である荒谷から主人公にメールが送られてくるシーンからですね。 

 人物同士の直接の会話は連打でスキップできるのですが、荒谷から送られてくるパシリ任命メールはスキップできません。

 大人しく視聴しましょう。この辺はチュートリアルとなっているので行動を端折ることが出来ないんですね。なので、コマンドを命令された通り焼きそばパン二個とクリームメロンパンを一個といちごヨーグルトを三個購入して屋上に持っていかなければなりません。

 盲目で身体能力に優れない主人公を力でねじ伏せるなんて……もっとも下劣で、憎むべき行為だと思います。

 

 あっそうだ。今回の主人公は肉体的にハンデがあるように設定しましたが、心的外傷をいい感じに組み合わせると身長は百七十センチ、体重が七十四キロの十三歳の中学一年生だとは思えない体格のイケメンが誕生することがあります。 その場合でも荒谷くんはコマンドを命令してきますし、遅刻した場合はチャーシューの刑とかいうよく分からない刑罰を科そうとしてきます。

 ちなみに、荒谷くんも身長は百七十センチ程で、空手をやっていてガッチリしているらしいですよ?

 

 はい、ニューロリンカーのメニュー操作などのチュートリアルをこなしていたら授業が終わりました。

 これより購買への移動を開始します。

 さてさて、今回のセグウェイくんは……。(ガサガサ)(カバンを漁る音)

 

 あれ、おかしいですね。セグウェイくんないですね? 教室の後ろに大きいセグウェイくんが置かれているか、机の横に中型のセグウェイくんが置かれているか、カバンの中に小型のセグウェイくんが置かれているかの三択で合計九十パーセントはセグウェイを所持しているはずなんですが……。リセかな?

 

 あ り ま し た

 

 どうやら最も小型のセグウェイくんだったようですね。

 小さすぎて見つけられなかった(盲目)。

 ちなみに、この最小セグウェイ君ですが『ひ弱』主人公の場合最も有用なセグウェイとなります。

 二番目は中型のものですね。 

 その理由ですが、階段を登る時には降りてセグウェイを上に上げなければならないのです。 

 貧弱主人公ではセグウェイという機械を持って階段を昇り降りするのはフルマラソンと同等の負荷がかかりますので、小型の中で重いものをツモると階段が鬼門となります。

 中型以上には自主的に階段を上る機能が付属しているのですが、小型にはありませんので。

 その点今回のセグウェイくんは143.000グラムという超軽量でお買い得となっておりまして……。

 

 嘘だよ。

 

 本当は三百五十グラム程度ですね。今回はハンドルにカスタマイズがされているみたいなので三百六十四グラム程度かと思いますが、五百グラム未満ならば階段の昇降もそこまできつくありません。精々空手部の部活程度です。

 中型のセグウェイくんでは持ち込みできない場所にも小型ならば持ち込みできるので、最強のアイテムという訳です。

 

 はい、セグウェイくんの話をしていたら購買での買い物が終わり、既に屋上の扉の前にたどり着いていますね。 

 一階にある購買から屋上までひ弱主人公を歩かせるとか人間のクズですね荒谷くんは。

 

 食事はセグウェイでの移動中に済ませているので、手近なトイレの個室で学内ローカルネットに接続してスカッシュをしに行きましょう。 

 ちなみに、移動中に食事を済ませて満腹度ゲージを回復している場合は荒谷くんにパンを渡した後に挟まれる食事チュートリアルがカットされ、その後教室に帰らずにフルダイブをすることでフルダイブチュートリアルから始まるスカッシュのチュートリアルをカットできます。 

 スカッシュのチュートリアルを受けるとその後に記録を残すためにもう一回プレイする必要があるので大幅なロスとなります。原作春雪くんのようにトイレでフルダイブしましょう。

 

 フルダイブすると、操作キャラクターが仮想のものに切り替わるため五体満足主人公と遜色ない操作が可能となります。

 スタミナの概念は存在しないのでさっさとスカッシュコーナーにイクゾ-!

 

 たどり着いたスカッシュコーナーでは一定のスコアを獲得するとこのモードでも変わらず幼なじみである倉嶋千百合がこちらにやって来るフラグが立ち、千百合が到着して少しすると強制ダイブアウトさせてきますので、それまでにスコアをできる限り獲得しておきましょう。

 スカッシュのスコア次第でキャラクリの時に振り分けた『Attack』と『Defense』の2つのポテンシャルが減少し、『Agility』に加算されます。

 スカッシュによるポテンシャルの変動で『Agility』が『Ability』を上回ったとしても飛行アビリティ入手条件が不達成となることは無いので安心してスコアを積み上げましょう。

 オカルトですが、ラケットを力一杯スイングするとポテンシャル変動で『Attack』と『Defense』のうち『Defense』の方が優先して下がりやすい気がしますので、力一杯死ぬほどでお願いします。

 RTAに防御力なんて必要ねーんだよ!

 

 はい、倉嶋千百合ちゃんが登場しました。ローカルネットだと猫耳に肉球ハンドでそれ以外はあんまリアルと変わりませんね。(陸上で鍛えられたおみ足が)すごくえっちだ……w。

 

 スカッシュの最終レベルは170でした。原作春雪くんは確か途中で千百合ちゃんに邪魔されて152でインチキしたもっ先は166だったかな? 

 ちなみに、加速コマンドなしの純粋な記録だとオンラインレコードはレベル364で加速コマンドのインチキありの記録は114514くらいだったかと思います。

 レベル364と言わず200の時点で十分に肉眼での確認が出来なくなりますので、そんなゲームをレベル114514まで設定した開発もそこまでクリアしたプレイヤーも頭がおかしいんだと思います。

 

さて、話を戻しましてこの時の千百合ちゃんとの会話と強制ダイブアウト後の会話で主人公と倉嶋千百合、黛拓武の三人の関係性がどのようなものかをおおよそ読み取れるのですが、連打で会話をスキップしているのでぶつ切りのセリフしか聞こえません。

 チェリールーク撃破RTAでは幼なじみとしての関係性がどうなっていようがぶっちゃけ関係ないので把握の必要が無いです。

 

 倉嶋千百合は主人公に直結してくれと言われたら(直結用ケーブル接続端子)を使わせてくれるというのと、黛拓武と恋人関係であるということ、後に生成されるライム・ベルの成り立ちに関係する思いは変わりませんし、黛拓武も幼なじみとしての関係性がどうなっていようと倉嶋千百合にバックドアを仕掛けていますし、もっ先が入院している病院にやって来てポイントウマウマしようとします。

 それだけは変わらないので、どんな関係性だろうと良いのです。

 

 お、主人公が千百合ちゃんと別れる前に千百合ちゃんが持ってきたお弁当のサンドイッチをひとつだけ食べた映像が見えた気がしました。

 胃袋壊れちゃう! 胃袋壊れちゃーう! 満腹でおかしくなりそうよー。

 

 はい、倍速しますぅぅぅ。

 午後の授業もチュートリアルゾーンとなっています。一コマ五十分程度はありそうですが、チュートリアルをこなし終わるとチャイムが鳴るのでできるだけ早くこなしましょう。

 はい、終わりました。ホームルームが終わったらセグウェイくんをかっ飛ばして(時速12キロメートル。はやい!)トイレの個室からフルダイブしましょう。

 

 ちなみに、ここで千百合ちゃんと接触するために適当な所で待機しているとルートが解放されます。必要ねーんだよ!

 千百合と拓武は幸せなキスをして終了。

 

 フルダイブしたら向かうのは当然スカッシュコーナーです。インチキしたもっ先がもっ先してくれます。 

 ちなみに、昼のスカッシュのレベル200以上かつホームルームが終わった瞬間にフルダイブして最短でたどり着くと必死の形相でラケットを振るうもっ先が見れるとかなんとか。

 原作では強制ダイブアウトによってゲームが終了せずに保持されたまま終わったところをもっ先が引き継いで加速コマンドのインチキをして春雪くんの興味を引くのですが、レベル200ともなると初見では加速コマンドを唱えるのが間に合わず、主人公が最後に確認したスコアでゲームが終わってしまいます。 

 どうにかして主人公スコアを抜いて興味を惹きたいもっ先は必死で頑張るらしいですが、残念ながら見た事ありません。 

 

「もっと先へ……《加速》したくはないか、少年」

 

 きたー! え? RTAなんだから連打で飛ばせって? なんで飛ばす必要なんかあるんですか(正論)。

 

 翌日昼にラウンジへのお誘いを受けたところでもっ先はログアウトしてしまいます。それを追ってこちらもログアウトし、セグウェイくんにもっと速く疾走(はし)れー! と言いながら帰りましょう。

 

 自宅の場所は千百合ちゃんと拓武くんと同じマンションで固定です。部屋番号は固定ではないようですが今回はエントランスから一番近い部屋でした。

 豪運かな?

 

 帰宅後にまずやることはセグウェイくんの充電です。充電切れになると動けなくなってタイムが壊れちゃいますので。

 お、このお家には三台も小型セグウェイくんがあるのか……。フリーモードで確認した情報ですが、この小型セグウェイくんはどちゃくそ高いです。

 神の下で五十七時間くらい労働を続ける必要があります。それが三台あるってことはかなり裕福な家庭なのでしょうね。

 

 次に家族構成の確認をする必要があります。それ次第で色々とこれ以降の行動が変わってきますので。

 お部屋を物色したりホームサーバーの写真を確認したりして予想しましょう。

 

 これは……(居)ねぇじゃな?

 どうやら母と子の二人暮しのようです。また、ホームサーバーに残された親子のやり取りを見る限り、母は短期出張を繰り返す激ヤバの研究者らしいです。

 盲目の子供を残して出張先で食べる飯はうまいか?

 そのためのニューロリンカー? あとそのためのセグウェイ?

 そう……。

 

 まあRTA的には最高の家族構成ですね。親戚もしっかりいるので従兄弟のサイトウトモコ(大嘘)ちゃんがしばらくしたら遊びに来そうですね(未来予知)。

 確認が終わりましたので、今日は寝ます。起きるのは翌朝ですね。夕食? なんの事だよ(満腹度160%)。

 

 おはようございますと起きました。 

 セグウェイと教材をしっかり持って玄関から外へ出ます。

 この時、セグウェイを持たずに玄関から外に出ると一瞬で学校にワープするために学校での移動を徒歩で行うことになってしまいます。絶対に忘れないようにしましょう。忘れていいのはバレンタインのお返しだけです。

 

 二日目の午前中の授業もチュートリアルです。早くこなすと早く授業が終わります。文部科学省に通報しちゃうからなお前な。

 四コマ目に荒谷くんから再びコマンド命令するメールが届きますが開く必要はありません。そのままゴミ箱にポイしちゃいましょう。

 開くとクソみたいなムービーを見ることになってその間行動不能になるのでロスです。

 しっかり持ってきたセグウェイくんに乗って第一次ラウンジ遠征にイクゾ-!

 

 ラウンジの入口で上級生に絡まれますが、なにいってだこいつと無視していると奥からもっ先が声をかけてきてくれます。

 これで入場可能になりますが、相変わらず何言ってるのかは分かりません。連打でセリフがぶつ切りだからね、しょうがないね。

 本当はしっかり声を聞きたいのですが、流石にこれ以降は連打することにしました。

 どうしても聞きたい方はレギオンモードでネガ・ネビュラスを選択すると過去のネガ・ネビュラスに所属できるので、そっちで姫のお声を無限に聞きましょうね。

 小学生時代のロリボイスも聞けますわゾ!

 

 はい、ブレインバーストのコピーインストールは無事に完了したようです。まあ当然だな?

 その直後、荒谷くんが乱入してきて主人公に向かって拳を振りかぶってきました。 

 そして、もっ先に言われるがままに加速コマンドを唱えて初期加速空間へと場面が移ります。

 

 ……おっ大丈夫か? 大丈夫か?

 

 初期加速空間に移った瞬間なにやら主人公くんが発狂し始めました。今まで見たことの無い会話イベントです。が、連打で飛ばします。

 今の会話イベントは本来発生しないものですので、完全にロスです。測ってみたら七秒ほどのロスですね。

 このあとノーミスなら余裕でお釣りが来るので続行します。

 

 はい、荒谷くんのグーパンを受けてもっ先の方へと自分から跳んでいきます。

 あ、今回は運がいいですね。無事に気絶出来ましたのでもっ先からこのあとニューロリンカーを寝るまで外さずにグローバルネットから切断しておけと説明されるイベントが丸々カットとなり、メモでの伝達となります。

 初期加速空間での謎会話イベントは余裕でペイできましたね。やったぜ。

 

 五コマ目の授業中に保健室で目が覚めました。

 脇の机に置かれていたメモで昼休みの顛末とニューロリンカーのことについての説明を受けました。保健室には自分の鞄やセグウェイくんがしっかり置かれていたため、早退すると保健医に告げてさっさと帰りましょう。

 放課後まで残るともっ先からの口頭での説明と、帰宅中に千百合ちゃんと拓武くんのふたりと遭遇して会話イベントが発生してしまいます。

 ひ弱主人公に許された数少ない短縮要素なため、決して無駄にしてはいけません。

 

 あっそうだ。盲目の人が頼るニューロリンカーの視覚補助機能ですが、グローバルネットに接続してないと機能を発揮できないらしいっすよ?

 ということで帰宅したら殴られたほっぺを冷やして食べ損ねた昼食を摂って寝ましょう。

 ちなみに、空腹状態のデバフはやばいのでしっかりご飯を食べるようにしましょう。同じく、睡眠不足や過労なんかもかなり重いペナルティがかかるので健康的な生活をするように。

 

 オッハー!

 もっ先の言いつけを守らずにグローバルネットにのりこめー!

 しっかりセグウェイくんを持って、しっかりセグウェイくんを持って(二重確認)玄関から外へ出ます。

 

 すると、本来なら学校へと場面が移動するはずですが、謎の世紀末フィールドへと誘われます。

 初見の場合操作方法のチュートリアルを受けずに初戦闘となるため勝つのは難しいですが、操作方法を知っているならば、こんにちわしたばかりのデュエルアバターの特性を把握することが出来れば十分に勝つことができます。 

 が、今回はさっさと負けることにします。

 負けないとアッシュ・ローラーくんちゃんがレベル2になれませんので。

 

 ちなみに、ここはデュエルアバター関連の第一リセポイントです。

 まずは自分のお名前を確認。ふむふむ《シャドウ・オウル》ですか。たしか過去のゲームでシャドウカラーを冠するアバターがいたような気がしますが、このゲームには存在しないため生成リストに存在しているようですね。

 また、今回注目するのは色ではなく名前です。

 オウル、つまりは梟ですね。飛行アビリティは鳥系の名前でないと得られないのでそうでなかったらリセです。

 確認作業も終わりましたので、さっさと負けるとしましょう。

 学校でもっ先にレクチャーされるまでインストメニューを開くことは出来ないため、詳細を確認することはできません。

 

 バイクに正面からはねられてダメージを計測しましょう。36(%)! 普通だな!(残りHP)

 かなり神装甲のデュエルアバターをてにいれることができました。防御力が低いってことは、ほかの能力が高いってことなんじゃないかな?

 

 手細いなー。女の子(ブラック・ロータス)みたいな腕してんなお前な(自己評価)。

 肘関節がなく剣みたいな腕をしてますがこれは一体……? 

 アビリティにはカラーチャートとは違い重複制限は存在しないので、黒の王と同じアビリティ終決の剣(ターミネート・ソード)ワンチャンあります?

 ただそうなると明らかに飛行アビリティの方にポテンシャルが足りないのでリセですね。

 Uターンして戻ってくるアッシュ・ローラーくんちゃんに向けて腕の先っぽ、つまり尖ったところを向けておきましょう。

 ついでにちょっと構えておくとギャラリーからの覚えが良くなります。

 正面からバイクで突っ込んでくるアッシュ・ローラーくんちゃんに向かって回避行動をとりましょう。回避しきれずに被弾してしまう程度がちょうどいいです。

 

 ついでに腕を振って一発当てておきますが、攻撃の感覚から残念ながら終決の剣(ターミネート・ソード)は所持していなさそうです。

 

 リセ案件が減ったんだから喜ぶべきじゃん。私はそう思いますけどね。

 

 あ、それでも尖った腕の攻撃属性は斬撃で間違いなさそうです。

 チェリー・ルーク戦では攻撃属性なんかどうでもいいのですが、それまでに何回か戦闘する機会がありますので、その時に癖のなく扱いやすい攻撃属性である斬撃はグッドです。

 シアン・パイルこと黛拓武くんに突き攻撃を連打するという外道ムーヴも可能になりました。 

 ま、やりませんけどね。普通にやる方が早いですし。

 

 はい、そんなこと言ってる間に負けました。基礎能力にぶっぱしてるデュエルアバターならともかく、アビリティ性能ぶっぱなので元々勝つのは難しいですし。放課後にアビリティを確認したらリベンジさせてもらいますね。

 

 戦闘終了後、場面は四コマ目の授業に移ります。荒谷くんは学校に来てませんでした。 

 原作ではもっ先が病院に運ばれたことで退学となった荒谷くんですが、主人公が春雪くんと比べると半分未満の体重だったためにもっ先はせいぜい打ち身程度の軽傷らしいです。なので、荒谷くんも一発退学とはならないのではないでしょうか? 

 まあ、彼らのニューロリンカーには違法アプリがわんさか入っているのでそこのチェックの有無次第ですかね。 

 

 四コマ目を終えたらさっさとラウンジへと移動します。

 もっ先と出会って三秒で直結して《黄昏》ステージでレクチャーを受けます。

 主人公のアバターを見てもっ先がかなり驚いている気がしますが、連打中なので気の所為ってことにしておきます。 

 RTA中に新規イベントぽんぽこ生やすのやめてくれませんかね……?

 

 チュートリアルに従ってデュエルアバターのステータスを確認しましょう。 

 アビリティくんは……ファ!? 

 なんだこれは……たまげたなあ。名称こそ異なりますが効果内容は白の王撃破チャート春雪くん不在モードで使われてたアビリティと酷似したものが生えてますね……。

 あまりの白の王特攻アビリティかつ心的外傷で狙って生えさせることが出来ないとされているアビリティのため検証はほとんどされていないのですが、このアビリティの占めるポテンシャルポイントはどんなものなんですかね……。

 とりあえず続行して飛行アビリティが生えないか性能がしょぼかったら白の王撃破チャートの体験版と割り切ることにします。

 

 肝心のアビリティ内容ですが、攻撃対象の明度次第で追加効果が発生するというものです。 

 明度が高いほど追加ダメージが発生し、明度が低いほどバッドステータスを与えるというものですね。 

 白の王撃破チャートですとこのアビリティをレベルアップボーナスで限界まで強化してダメージブーストし心意攻撃で白の王を三発で倒していました。 

 まあ、白の王は明度百ですし、多少はね?

 反対に黒の王ことブラック・ロータスにはアビリティでの追加ダメージは一切発生せず、基礎ステータスの低下や必殺技ゲージの減少などの効果がもりもり与えられるそうです。 

 結構アビリティポテンシャルが高い気がしますが、実際どうなんでしょうね。

 

 ちなみに、必殺技はサマーソルトでした。待ちガイルかな? 

 あ、脚にも関節はありませんでした。太ももから全て刃で、先端部分がトライデントのように三叉に別れている剣となっています。まるで黒の王みたいだあ……。

 

 そうこう言ってるうちになんかいつもより連打回数が多かった気がする黄昏ステージでの説明が終わりました。 

 会話の内容は今更説明するまでもないかもしれませんが、今朝方の対戦についてのものです。

 アッシュ・ローラーくんちゃんへの対抗策を授けてもらいました。が、必要ないです。

 原作で春雪くんがやった方法が低レベルのアッシュ・ローラーくんちゃんには刺さるってそれ一番言われてるから。

 ほかの会話は主人公によってまちまちなので把握してません。ぶつ切りのセリフの頭だけで会話内容全部把握出来る現代の聖徳太子はいらっしゃいませんか?

 

 はい、1800秒の対戦時間が終わって加速が解除されると主人公ともっ先は食事を開始します。

 それと同時に同級生ちゃんのセリフがあるので連打でスキップしましょう。主人公くんはマイペースにカレーパンを食べてました。

 将来的には世の中にある美味といわれるものを食べ尽くしてKMRカレーでも食べるのかな?

 

 セリフを読み飛ばすと場面転換です。次は放課後の校門前でもっ先から対戦をふっかける方法を教えてもらう事になります。

 チュートリアルの前に雑談がありますが連打で飛ばします。あ、これ『彼が振ったのだ』じゃなくて『彼が了承したのだ』ルートかもしれませんね。こっちのルートだとチェリールーク戦の前のクリプト・コズミック・サーカス戦での『零化』から復帰するのが僅かに早くなるので短縮要素のひとつです。

 連打で飛ばしたのではっきりしませんが、何となくそんな感じの雰囲気を感じました。

 

 チュートリアルに従ってアッシュ・ローラーくんちゃんに対戦を吹っかけましょう。

 レベルが上がったアッシュ・ローラーくんちゃんとの正面戦闘はバカらしいので原作の春雪くんの戦闘をなぞります。

 『盲目』を選択していますので、アビリティとしては発現していませんが視力が向上していますので、すれ違いざまの奇襲難度がかなり低下します。デュエルアバターの名前の通りに獲物を狩りましょう!

 

 はい、ファーストアタックに成功しました。アッシュ・ローラーくんちゃんがバイクから落っこちてプラ/シドとなっているのなら追撃をかけますが、残念ながらそうなってはいなかったので建物の外階段から屋上へと逃げます。

 あとは壁面走行で登ってきたあとにUターンする時に後輪を持ち上げてあげれば……持ち上げてあげれば……あ!!!!!!

 手が剣なので後輪掴めませんね……。仕方ないのでガチバトルします。 

 幸いにも精密攻撃がしやすい剣を持っていますので、狙える時はバイクのエンジンタンクを狙ってやりましょう。武器であるタイヤのパンクを狙うのは無謀ですが、タンクならワンチャンあります。

 ガチバトルになると時間がかかってしまうので急いで倒しましょう。

 Uターンの時に攻撃判定が消滅するので、狙うならその時ですね。 

 アッシュ・ローラーくんちゃん撃破RTAなんてデュエルアバターガチャをやっていた時の経験を生かしてUターン以外でも攻撃しますが。

 

 はい、倒しました。 

 このアビリティは明度が低い強化外装系のデュエルアバターとは相性が悪いですね。強化外装にはバッドステータスが与えられませんので。反対に明るい色の強化外装系は強化外装をぶっ壊しまくれるので相性がいいかもしれませんね。

 

 戦闘終了後、もっ先と千百合ちゃんの絡みがありますがやはり連打でスキップしましょう。

 その後のカフェでの純色の七王の話と倉嶋千百合シアン・パイル説なんて学会員が指を指して笑うだろう新説もスキップです。

 もっ先とバイビーしたらセグウェイくんでアクセルシンクロして倉嶋家のインターフォンを押して中に入れてもらい、千百合ちゃんとリミットオーバーアクセルシンクロします。 

 ブレインバーストのプログラムが存在しないこととバックドアを確認したら以降のフラグが立つので直結は終了ですが、その前に。

 いえーい拓武くんみってるー? と彼女からのビデオレターに何故か映ってるチャラ男みたいなことを考えておきましょう。

  

 帰宅後、ジャンボギョウザを食べて就寝します。都会少年は匂いが強いものしか食べられないのか……。

 

 はい、翌日は通学路でイベントがあります。千百合ちゃんと直結したことをもっ先に伝えるイベントですね。嫉妬が可愛らしいシーンですがやはり連打で飛ばしましょう。 

 学校に行くと新聞部からの取材なんかもありますがこれも連打でオッケーです。全て選択肢の初期位置で返答すると原作の春雪くんとほとんど同じ返事になりますので。

 

 授業中にやるチュートリアルはもうないため、授業シーンはカットされます。四コマ目が終わるともっ先に会いにラウンジに行くかどうかを問う選択肢が現れますがラウンジに行くとイベントシーンが挟まれるので行きません。むすっとしたもっ先が見たい方は自分で行ってくださいね。

 ということで学校での出来事は丸々カットされました。放課後に校門でもっ先と合流して直結しながら歩きます(セグウェイくん搭乗)。 

 残念ながら会話は全スキップですが、泣いてるもっ先のお顔は見れたのでオッケーです!

 

 という所で車に乗った荒谷くんがこちらに突っ込んで来るのに気づき、慌てて加速コマンドを唱えました。 

 名シーンなのですが、やはり連打のセリフ送りによってセリフがぶつ切りなためめちゃくちゃです。 

 レベル9バーストリンカーが所持ポイントの99%を支払うことで使用可能という二回目以降の使用ハードルがぐっと下がるガバガバコマンドでトランザムしたもっ先が主人公を突き飛ばして車から守るというシーンなのですが……。

 

 んんんんんんんんん????????

 

 なんか分かりませんが二人とも一緒に車に跳ねられてますね主人公がクッションになってもっ先は原作と比べたら軽傷かもしれませんが、こちらの画像には重なり合うように血まみれで倒れているふたりの姿が見えます。 

 ストーリーモードではリアルアタックが原因のゲームオーバーなんてないはずなんだよなあ……。なにこれ?

 

 あ、病院にシーンが移りまし……んんんんんん????

 なんかこの主人公くん着替えてこそいますがピンピンしてますね。

 今は現状の把握のために看護師さんからの話を一字一句噛み締めるように聞いています。 

 うん、もっ先は原作より軽傷っぽいですが意識不明で手術&ナノマシン治療中のようです。

 えがったえがった。これで黛拓武くんもここにやってきますね!

 あとは落ちぶれたエリート剣道少年である黛拓武くんを屈服させて黒に染めてやればいいだけです。

 ま、飛行アビリティの覚醒の有無というリセポイントがまだ残っているんですが。 

 新規イベントが沢山発生してるので若干不安です。

 

 ここからはミニゲームです。病院のローカルネットに接続してくるバーストリンカーぽいやつがいたらその度に加速して確かめるというものです。が、訪れる人達はほぼ全員成人しているため世界観を理解しているのなら加速するのは一度で済みます。

 なのでそのタイミングまでは放置です。

 

 み、み、みなさまのためにー。このような動画を……用意出来るわけがないので本RTA中に一切詳細が語られる機会がなかった主人公くんを紹介したいと思います。

 とはいえ放置時間は短いのでちょこっとだけですがね。

 

 主人公くん、本名は雪月(ゆづき)リッラブルナー(Lillaburnnr)というらしいです(読めない)。

 日本と北欧とのハーフですね。

 調べたところ、苗字は日本語に直すと紫の泉、または小さな泉となるようです。日本で言うところの小泉さんみたいな感じでしょうか。

 雪月くんのパパとママは離婚しているので、お母さんの方の苗字を使っているのですね。

 

 北欧ハーフとかいう最強の属性を持っている雪月くんですが、リアルワールドのステータス、その魅力(外見)値は平凡でした(ちなみに運動能力は最低値でした)。

 というのも盲目で焦点が合わない瞳を隠すためなのか、前髪が異常に長いからですね。 

 目隠れっ子真っ青なくらいの長さです。その癖して横や後ろ髪は短めに切られているのでアンバランスな仕上がりとなっています。ママ譲りのブロンドの髪をこんなにしやがって。狂いそう……!

 身長は155センチ、体重は36キロです。

 太いシーチキンが欲しい……(高カロリー)。 

 『痩躯』『ひ弱』のせいですっげーことなってるぞおい? 

 十三歳の男の子の平均が158センチの45キロ、女の子は154センチの45キロらしいです。

 女の子の腕みたいな足してんなお前な、そんなんじゃ虫も殺せねぇぞ。

 

 ちなみに好物は匂いの強い食べ物らしいです。カレーパンばっか食ってる、匂いの強い食べ物が好き。あっ……ふーん。

 

 はい、黛拓武が病院にやって来ました。どこか悪くなったのかな?(すっとぼけ)

 彼がシアン・パイルです。加速コマンドの喜びを知りやがって! 許さんぞ! 

 口元を隠すように手を上げた瞬間にさっさと加速して対戦を吹っかけましょう。

 この対戦がデュエルアバターに関連する最後のリセポイントとなっています。

 完全☆飛行☆能力☆アバターください!!

 

 ということで対戦開始です。

 最初は病院のエントランスで戦うことになりますが、屋上に行かないと戦闘が進行しないので最初の会話イベントを連打スキップしたらさっさと屋上に行きましょう。 

 はい、このことからも分かるように今回の戦闘はイベント戦です。レベルが3つも上の敵に勝てるわけないだろ! いい加減にしろ!

 世の中にはレベル4で止めて無制限フィールドのショップで強化外装を買いまくって同レベル同ポテンシャルをぶっ壊すバランスブレイカーもいるとの話ですが、レベル1という手札が少ない初期アバターでジャイアントキリングはかなり難しいです。最低でも飛行アビリティが欲しいですね。

 

 屋上で会話を混じえながらしばらく普通に戦います。シアン・パイルくんは一年でレベル4になり幹部候補とも呼ばれていただけあって、屋上での戦闘からしばらくするとTASさんでも避けることが出来ない攻撃を繰り出してきます。

 つまりイベントシーンの挿入ですね。それまでに体力が三割を下回っているとイベントシーンの挿入で強制敗北ですのでしっかり体力を維持していきましょう。

 

 …………。 

 早くー、まだー? その恰好似合ってんねー?(近接の青のくせに中距離武装)早く出してよー。 

 見たーいー、見たーいー、パイルがイク(スパイラル・グラビティ・ドライバー)とこ見たーいー。

 

 ………あくしろよ。すいませーん、ギャラリーですけどもまだ時間かかりそうですかね?

 

 あ!!!!

 

 そう言えばイベントの内容はシアン・パイルくんの必殺技にボコボコにされるものですので、必殺技ゲージを貯めてもらう必要があったんですね。

 主人公くんが初期から持っているアビリティの効果で攻撃の度に必殺技ゲージを削ってるせいで全然イベントが開始しないんですねー。

 ふざけんな!! はい、ということで攻撃を自重して必殺技ゲージを貯めてもらうように立ち回りを切りかえました。 

 その間にちょっと雑談をしようと思います。

 

 シアン・パイルのシアンですが、調べて見ればわかると思いますがかなり明るい青色なんですね。明度にして82%だとか。

 主人公くんが初期から持っていたアビリティは明度の低い対象に攻撃するとバッドステータスを与える能力が上がるのですが、明るい色に対してのバッドステータス付与はあんま効果がありません。

 では、なぜ明るいシアン・パイルくんの必殺技ゲージをゴリゴリ削っていたのかですが……。

 シアン・パイルくんって手足にダークブルーの装甲があるんですよねー。体力維持のために回避しながらちまちま攻撃すると当然攻撃は手足に集中しまして、そのせいで対象の色が明度の低い色だと認識されたのではないかなーと。 

 

 ……アビリティの詳細をじっくり読んで理解してる時間なんてRTA中に取れるわけないから勘違いも多少はね?

 終わり! 閉廷! age禁止&レスひ不要です。

 

 皆さん! イベントシーンが開始されましたよ! こっちを見ろォ! (HNZWナオキ) 

 

 シアン・パイルくんが主人公の胸を踏みつけてようやく溜まった必殺技ゲージを解放します。おせぇんだよォ! 

 スパイラル・グラビティ・ドライバーはシアン・パイルくんのレベル3必殺技であり、範囲は真下のみとかなり使い勝手が悪いですが、その威力は凶悪です。 

 シアン・パイルくんは病院のエントランスでステージの破壊は難しいと言っているのですが、なんとスパイラル・グラビティ・ドライバーは屋上の床に寝そべった主人公を対象として発動したのにも関わらず、病院の五フロアの床全てをぶち抜いて主人公を一階のとある部屋に叩きつけます。

 破壊力ありすぎィ! なお、イベントシーンですので体力を三割以上に保っていれば一割弱は確定で残ります。破壊効果に比べて実際のダメージがしょぼすぎる。アッシュ・ローラーくんちゃんのタイヤアタックのほうが食らってんだよなあ(64%ダメージ)。

 

 主人公が叩き落とされた部屋はもっ先がリアルで眠っている部屋です。彼女は主人公を自動観戦リストに入れているので意識がないまま加速しているのですね。 

 主人公は大なり小なりもっ先に『救われた』と考えるようになるため、原作の春雪くんと同じように懺悔して覚醒します。

 覚醒内容は……はい、飛行アビリティです! 強度次第ですがもう運だけのリセポイントはありません。やったぜ。

 

 ぶち抜かれて空が見える天井の穴から一気に空へと飛翔します。うーん、上昇力がちょっと弱めな気がしますね。まあ許容範囲ですが。

 

 眼下にはギャラリーに語りかけていたシアン・パイルくんと飛行型アバターの登場に湧いているギャラリーたちが見えます。

 

 (レベル4でレベル1のキャラクターを倒し損ねてギャラリーに演説するのは)気持ちよかった? 気持ちよかったんだね。じゃあ、死のうか。

 

 シアン・パイルくんを空へと攫うと命乞いをされますので、助けてあげましょう。申し訳ないがオンライン対戦でのフリーフォールはNG(第五世代並感)。

 会話を連打スキップしすぎると助けないを選択してしまい、以降のストーリーを思案パイルというネガ・ネビュラスの軍師無しで進行するハメになりますので、絶対に助けるように。 

 本RTAでもクリプト・コズミック・サーカス戦で彼がいるのと居ないのとでは難易度が雲泥の差ですので絶対に助けるように。絶対に助けるように。

 屋上の床に降りるともっ先が意識を回復して屋上にやってきてブラック・ロータスに変身します。

 ん? ここも少し連打回数多いですね。主人公しだいで会話内容が多少変化するのですが、誤差の範囲内に含まれないくらい連打数が増えてます。具体的には二秒くらいですか。誤差だよ誤差!

 

 ブラック・ロータスを抱えて飛び、加速世界に宣戦布告します。

 

 これにてエピソード1、黒の王の帰還を終わります。

 ご観覧ありがとうございました。

 

 




ただの原作コピペじゃねーか! ふざけんな!!
エピソード1はチュートリアルだからね、しょうがないね
なおエピソード2でゴールな模様


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エピソード2 宣伝広告詐欺の大男

文字数膨らんだせいで(27000字)後半疲れてちょっとアレだけどリアルパートが早く書きたいので初投稿です。

~タイマーストップまで


 ようやく悪堕ちショタと出会えるエピソード2はーじまーるよー。

 エピソード1ではストーリー上必ずやらなければならない戦闘がアッシュ・ローラーくんちゃんとシアン・パイルくんの二人しかありませんでしたが、エピソード2ではいっぱい対戦します。アクションゲームみたいになってきたじゃないか。

 

 さて前回はブラック・ロータスによりネガ・ネビュラスの復活が宣言されました。

 セーブ確認が入りますがロードしてやり直すのは本ゲームだと多大なロスとなるためセーブする必要は無いです。

 すぐさま画面を閉じてエピソード2へと移行しましょう。

 エピソード2の冒頭ではエピソード1のあとの黛拓武くんの行動がノベル形式でざっと表示されますが、一文字も読まずにページ送りを繰り返してスキップします。

 倉嶋千百合と黛拓武のラブコメイベントを読む必要はないです。拓武くんのお財布が最高級パフェの奢りで爆発しますが、リア充なので仕方ないでしょう。

 

 そして、ノベルをスキップすると即座に対戦フィールドへと場面が移ります。

 ランダムで選択されるレベル1からレベル3までのバーストリンカーとの三連戦です。一度でも負けるとこの後の領土戦にレベル1で参加する羽目になりますので絶対に負けてはいけません。

 この三連戦では対戦相手に飛行型デュエルアバターへの対応プログラムが組み込まれていないので割かし楽に勝てますのでアバターの性能の把握などもここで済ませてしまえば一石二鳥となります。

 

 飛行アビリティを持っている場合、この三連戦での戦闘は派手に破壊可能オブジェクトを壊してゲージを貯めて空からの強襲で倒すようにしましょう。

 前述の通り相手には空に対する対応がお粗末なので簡単に大ダメージを与えられるというのと、ブレイン・バーストというゲームではなく本ゲームに設定されたプレイヤースキルの覚醒条件を満たすためでもあります。

 プレイヤースキルは要はこちらの操作に一定のプラス補正が入るものでして、空からの攻撃を続けていればダメージなんかが上がりますし、原作ノベルで春雪くんが習得したエアリアルコンボや柔法なんかもプレイヤースキルとして入手すると対戦での使用に補正がかかります。

 心意技なんかもプレイヤースキルですね。

 ですが、エピソード3で能美征二に心意を使われるまではロックされている機能なので使うことはできません。残念だなあ。

 

 そんなプレイヤースキルですが、チェリー・ルーク戦までに『エリアル』『ガンナーリーディング』の二つは確実に入手しましょう。

 実質的な飛行戦闘が可能なチェリー・ルークとの戦闘で必須となります。

 次に『柔法』『ダイブアタック』『エアリアルコンボ』の習得を狙いましょう。

 これらは閃きではなく熟練度的な反復行動での取得となりますので戦闘中にそれらの行動を出来るだけ取るようにしましょう。

 それぞれ説明しますと、『エリアル』は飛行アビリティを使用して飛んでいる時にあらゆる行動に補正がかかります。飛行型アバターの命となるプレイヤースキルのひとつです。

 『ガンナーリーディング』は原作ノベルで春雪くんが習得した『銃弾回避』の上位スキルとなっています。見てから回避ではなく、発射の前に射線が見えるようになるスキルですね。射撃予測線を予測するとかそんな感じです。

 クロムディザスターの能力にこれの完全上位互換があると言えば強力さが分かるでしょうか?

 『ガンナーリーディング』は射撃武器の軌道が分かりますので、これを利用してチェリー・ルークのワイヤーフックでの空中制動を予測して有利に戦います。

 ランダムバトルの敵に射撃型が一人もいなかった場合でも自宅での赤の王との対戦で遅延行為を働きながら訓練すれば『銃弾回避』を習得して、そしてそのまま一足飛びに『ガンナーリーディング』まで成長させることが可能です。

 

 『柔法』『ダイブアタック』『エアリアルコンボ』の三つは原作で春雪くんが使用していた技術ですね。本来は『ダイブアタック』の優先度が一番高いのですが、ブラック・ロータスと同じ欠点を持つ今回のアバター、シャドウ・オウルには柔法が必須となります。入門編の『ガードリバーサル』の習得はしておきたいです。クリプト・コズミック・サーカスとの対集団戦の生存率に直結しますので。

 『ダイブアタック』『エアリアルコンボ』の二つは戦闘時間の短縮のために覚えたいものですので、最悪覚えられなくても問題ありません。

 

 はい、ランダムマッチ三連戦が終わりました。対戦相手に遠距離アバターがいなかったので『エリアル』の熟練度をあげるために急降下攻撃を繰り返して三勝しました。

 あ、この段階でレベルアップが可能になっていてもまだレベルアップしないでください。三連勝後のバーストポイントは300~309になるため、直ぐにレベルアップすると『エピソード1.5用心棒(バウンサー)』へとルート変更されてしまいますので。

 直後に行われる領土戦チュートリアル報酬で数十のバーストポイントがもらえますので、その時にレベルアップすればルート変更はありません。

 

 それでは三連戦中に飛行能力の評価を行いましたので、領土戦のチュートリアルを背景に語っていこうと思います。

 

 シャドウ・オウルの飛行能力ですが、最高速と加速力と上昇速度でシルバー・クロウに大きく劣っていますが、初速と静音性と降下速度と必殺技ゲージの燃費では上回っているように感じられました。

 シルバー・クロウの飛行アビリティを百点として評価すると、シャドウ・オウルの最高速は七十点、加速力は七十点、上昇速度は五十点くらいですね。

 そして初速は百五十点、静音性は二百点、降下速度は百三十点、必殺技ゲージの燃費は百二十点くらいでしょうか。

 シルバー・クロウの飛行能力を百点とした時の総合評価とした時の点数は六十点くらいですかね。

 飛行型アバターとしてのメリットがごっそり逝っているので、ほかのところで上回っていてもそこで取り戻すことが出来ないんですね。

 シャドウ・オウル本体が速度型でなければ今回の飛行アビリティでも点数は上がったかもしれませんが、速度特化であることを考えてこの点数となりました。

 原作主人公なだけあってシルバー・クロウには無駄がみつかりませんね。

 とはいえ、本RTAで使う飛行能力としての考えるなら百点に近い数字をあげられると思います。

 チェリー・ルーク戦に必要な飛行能力の項目は一に初速で二に燃費なんですね。『ガンナーリーディング』を持っているのが前提となりますが、ワイヤーの発射先を予測して初速で潰し続けることでチェリー・ルークの高速戦闘を封じることが出来るということからこのような順番となっています。

 燃費は単純にチェリー・ルークの装甲が硬すぎて攻撃してゲージを補給できないためにゲージマックスからの飛行時間を伸ばすためです。

 

 はい。チュートリアルが終わりました。領土戦の本番に移ります。

 あ、その前にレベルアップ作業ですね。

 原作ノベルだとアバターの基礎能力の微上昇が自動で行われ、その後に四つのレベルアップボーナス候補からひとつを選択して大幅強化という形だと思うのですが、本ゲームでは『ポテンシャルポイント増加』『必殺技獲得』『アビリティ獲得』『強化外装獲得』の四項目からひとつを選んだ後に自由にポテンシャルポイントを振り分けるという形式になっています。

 原作とは違いレベルアップでの自動能力強化がありませんのでポテンシャルポイントを振り分けなかったステータスはレベル1の性能のまま一切成長しません。

 本RTAではレベル4(神がかり的なマッチング運があれば5)までレベルアップしますが、その全てのレベルアップ作業で『ポテンシャルポイント増加』を選択し、『Ability』に五割、『Agility』に三割、『Attack』に二割、振り分けきれなかった端数を『Defense』に振り分けていきます。

 一度のレベルアップ作業中で同じ項目に振り分け続けると倍々に消費ポイントが増えていき、どうしても端数が生まれてしまうのでできるだけ端数を作らないような振り分けをしつつ、どうしても生まれてしまった端数はないよりはマシな『Defense』に振り分けましょう。

 本RTAでは必殺技ゲージは全て飛行に使いますので、必殺技は初期から全く強化されていなくても問題ありません。

 

 エンディング、つまり白の王を倒すのならば平均的なアバターの方が楽なんですけどね。

 ASブッパみたいな育成をしてるとレベル7くらいの敵の牽制必殺技一発で死ぬこともありますので基礎三能力は低いものでも一定以上の水準を保っている必要があります。

 

 今回はチェリー・ルークだけを仮想敵としていますのでピーキーでオッケーですけどね。

 ということでレベルアップボーナスを振り分けまして、本RTAでは二回しかやる機会のない領土戦の一回目をやっていきましょう。

 

 シアン・パイルとのタッグでの領土戦の場合、領土戦のルールのせいで強制的に2対3での戦闘を強いられます。

 ですが、この戦闘では対戦相手にレベル4以上のバーストリンカーは登場しないため、レベル4のシアン・パイルに暴れてもらえば人数差を覆すこともらくちんとなります。

 なので領土戦では中央部にある要塞拠点(ストロングホールド)と呼ばれる必殺技ゲージ補給エリアを維持するのが基本となります。

 シアン・パイルくんはレベル4までのレベルアップボーナスを全て必殺技の取得に使っているので、ゲージがあればサイキョーです。

 ま、通常の領土戦でも要塞拠点(ストロングホールド)維持戦法から外れることは少ないので慣れてる人ならば普通にやるだけでいいってことですね。

 

 というわけでシアン・パイルくんを持って中央の要塞拠点(ストロングホールド)に向かって飛んでいるのですが……手足が剣であるせいで急激な方向転換をすると足に掴まってるシアン・パイルくんの体力ゲージが僅かに減ってますね……。

 終決の剣(ターミネートソード)のアビリティは所持していないので手足の剣の静止状態の攻撃力はほぼないのですが、それでも形状のせいで攻撃力が僅かにあるせいですねこれは。

 領土戦では対戦相手を全滅させられなかった場合チームの残りHP比率で勝敗が決定しますので、フレンドリーファイアは厳禁です。慌てず騒がず落ち着いて中央に向かいましょう。

 

 到着しました。飛行中でも無視できない曲がり角が多くて時間がかかりましたがそれでも対戦相手は中央にたどり着いてないみたいですね。

 理想はこちらが到着した直後に敵が来る事なんですが、地上の障害物が多いステージをツモってしまったので仕方ないですね。

 三十秒後に要塞拠点(ストロングホールド)の占拠が終わり必殺技ゲージが補充され始めるので、ゲージが満タンになったら空から索敵して攻撃していきましょう。

 シアン・パイルくんは拠点に残して必殺技連打で暴れてもらいます。拠点を占拠している状態の彼ならば二人のレベル3バーストリンカーを相手にしても有利に戦闘を運んでくれますので放置してても問題ないです。

 シアン・パイルくんが敵を二人倒し終わるまではプレイヤースキル習得のためのプチ稼ぎ時間です。対戦相手の名前を確認して稼ぎ相手にふさわしい相手を探してタイマンしましょう。

 

 今回対戦するバーストリンカーはかけるっ(ランナー)。ハンサムなマスクと、均整のとれた体。

 まだレベル3のこの少年は、私の特訓相手を務める事が出来るでしょうか?

 それでは、ご覧下さい。

 

 最初に要塞拠点(ストロングホールド)の元にたどり着いたのはインディゴ・ランナーというアバターでした。暗めの色なのでわかりづらいですが、近接の青ですかねー。色の名前からRGBを弾き出して推測しろって? ハハ……。

 

 ランナーくん一人のところを見るとこちらが要塞拠点(ストロングホールド)の占拠を始めたことに焦って先行してきたんでしょうね。

 あとからやってくる敵二人をシアン・パイルくんに任せてインディゴ・ランナーくんをエリア外へ誘導しましょう。というより、ガードノックバックで押し出す感じですかね。

 ゲームシステムとしてのプレイヤースキルでは取得していませんが、コマンド入力でエセエアリアルコンボを打ち込んでランナーくんと要塞拠点(ストロングホールド)付近のエリアを離脱します。

 現状ではエセエアリアルコンボなので必殺技ゲージの回収が追いついていませんが、プレイヤースキルとしてエアリアルコンボに覚醒するとゲージ回収率が消費を上回るようになるので通常対戦でのストレスが激減します。

 今回の対戦相手には射撃系の敵がいなかったため、『柔法』と『エリアル』及び『エアリアルコンボ』の熟練度を稼いでいきます。

 必殺技ゲージがなくなるまで若干浮きながら攻撃を仕掛けることで『エリアル』及び『エアリアルコンボ』の二つの熟練度を稼ぐことができます。途切れず続ければ続けるだけ獲得熟練度の最終値に倍率がかかるので途切れさせずにゲージ全て使って攻撃を仕掛けましょう。

 ゲージがなくなったら次は『柔法』のお時間です。敵の攻撃をひたすらイナシましょう。

 ……いやーキツいっす(満身創痍)。四肢刀剣アバターってなんなん? 刃の攻撃力と比べて剣の腹部分の防御力が貧弱すぎるでしょ……。

 柔法獲得は急務ですねこれは。

 体力が無くなるとシアン・パイルくんが生きてても負けになりますので、この対戦での熟練度稼ぎは中断してランナーくんをさっさとダイブアタックで倒してしまいましょう。

 プレイヤースキルとしてダイブアタックを得るのはとても簡単でトドメに使っていけば少しあとにある連戦区間の序盤あたりで得られます。

 

 あっおい待てい! 逃げんじゃねぇよ!

 ダイブアタックのために空高く飛んだからって逃げたらアカンやろ……。

 シルバー・クロウよりも上昇速度が遅い弊害ですね。彼は一瞬のアビリティの使用で二十メートルほど飛びあがれますが、シャドウ・オウルくんは上にはそんなに速く飛べないので地上戦からのダイブアタック移行には時間がかかってしまうんですね。

 水平方向への初速はシルバー・クロウを上回っているのですが……。

 高度を確保してから追いかけましょう。

 いやー、速いですねランナーくん。さすが走者の名前を持つだけのことはあります。

 

 この辺でぇ、面白いゲームの走者、募集してるらしいっすよ? やりませんか? やりましょうよ! 俺もやったんだからさ。

 

 おっぶぇ!(グレイズ) 追いかけていたら飛ぶ斬撃が目の前を通り過ぎました。これが嵐脚ちゃんですか……。

 

 カラーサークルで言うとどのくらいだ?

 紫です……。 

 紫じゃねぇ! RGBで言えRGBで!

 

 どうやらインディゴはRGB値でいうとR:75 G:0 B130の紫色に該当するカラーとのことです。

 つまり彼は近接の青ではなく近接も遠距離もできる紫色だったんですね。

 お前のカラーチャート判断ガバガバじゃねぇか(呆れ)。

 

 ま、『ガンナーリーディング』の熟練度が溜まるので嵐脚をギリギリで避けながらダイブアタックを決めましょう。

 嵐脚は見るからに威力が高いですがモーションが大振りでわかりやすいので躱すのも簡単ですね。不意打ち以外は怖くないです。

 

 はい、三叉に別れたシャドウ・オウルくんの足先がランナーくんの額を捉えました。痛覚再現のあるこの世界で脳天串刺しとか考えたくないですね……。ランナーくんのご冥福をお祈りしましょう。

 要塞拠点(ストロングホールド)に残してきたシアン・パイルくんですが、画面上部のステータスバーを見る限り優勢のようですね。 

 というかレベル1とレベル3の二人を相手にしていたはずですが、既にレベル1の方はお亡くなりになっています。

 戻らなくても直ぐに試合終了になりそうですが、戻って不意打ちダイブアタックが決まれば僅かな短縮と熟練度が得られるので戻ることにします。

 あ、要塞拠点(ストロングホールド)が見えてきたところでシアン・パイルくんのレベル4必殺技『ライトニング・シアン・スパイク』で対戦相手が溶解しましたね。

 『ライトニング・シアン・スパイク』は巨大な杭打ち機の杭を丸々一本プラズマ化して撃ち出す中距離技です。属性は『炎熱・貫通』となっています。そのことから杭のプラズマ化は熱することで起きていると推測できますが、鉄をプラズマ化するのに必要な熱量はどんなものなのでしょうか?

 途方もない数字になる気がしますが、そんなものを食らってしまった対戦相手くんの御冥福をお祈りしましょう。

 ま、ゲーム内の現象にツッコミ入れてたらキリがないのでね。所詮レベル4必殺技ですしそこまでやばいものでは無いでしょう。

 

 ちなみに、領土戦を終える事で、これ以降杉並第三戦区及び第四戦区がネガ・ネビュラスの領土となり、以降乱入を拒否できるようになります。

 つまり虫除けスプレー常時使用状態ですね。これをオフにするか領土の外に出れば野良でのランダム戦闘が始まりますが、本RTAでは野良戦闘での稼ぎは一切しませんのでオフにすることは無いです。 

 全て強制戦闘で稼ぎきります。まあ、強制戦闘に全部勝たないと赤の王との接触までにレベル4になれない可能性があり、そうなると無制限フィールドに入ることが出来ずにチェリー・ルークに挑めないので、負けたらリセですが。

 あ、通常プレイなら野良戦闘で稼げば問題ないので負けても平気です。気軽にプレイしてくれよなー。

 

 この後は病院のICUから一般病棟に移されたもっ先のお見舞いに行くとイベントが始まります

 お見舞いの品次第でクリプト・コズミック・サーカス戦での『零化』時間が短縮され、戦闘難度が低下するのですが、お見舞いの品を買いに行く時間はロスなので最初から用意されてる『ブラック・ロータス』とランダムのお花のみを持っていきます。今回用意されていたのはフリージアですね。これから加速世界を敵に回すもっ先にはふさわしい希望の花ではないでしょうか? 止まるんじゃねぇぞ……。

 ちなみに、お見舞いにブラック・ロータスとホワイト・コスモスを持っていくと開放される原作乖離ルートがあるのですが、前提条件が解明されていないためやったことは無いです。

 原作沿いモードで原作解離ルートってなんだよ(哲学)。

 オープニングからルート解放までのノーカット動画が某所に投稿されているのですが、それを元に有志が条件の解析作業中とかなんとか。頑張れ!

 

 はい、お見舞いイベントの会話は連打で飛ばします。ぶつ切りボイスがだんだん癖になってきちゃったよ……。やばいやばい。

 

 会話イベント後は十連戦です。

 十連戦が終わると一気に時間が飛んで原作二巻の時系列に合流します。 

 十連戦の注意事項ですが、飛行型アバターを使用している場合四回戦以降は飛行型アバターとの戦い方を理解した遠距離狙撃アバターとマッチングする可能性が高まります。

 狙撃アバターに撃ち落とされる、もしくは敗北するとその度に主人公にイベントポイントが加算されていき、心的外傷によって許容値は違いますが、一定値を超えると銃弾避けミニゲームが十連戦後に開始されますので、できる限り回避していきましょう。

 とはいえ敵の位置もわからない第一射を避けるのはプレイヤースキルの『銃弾避け』または『ガンナーリーディング』が無いとかなり難しいので祈りましょう。

 

 ちなみに、銃弾避けミニゲームですが、カットできるので単純にロスということもありますが難易度がとても高く、マズルフラッシュを見てから銃弾回避に失敗すると確率で主人公が激痛によって強制ダイブアウトされます。

 クリア出来るまで繰り返すことになるのですが、何度も失敗して激痛による強制ダイブアウトを繰り返していると現実世界の主人公にバッドステータスがついて対戦時にパフォーマンスを発揮できなくなってしまいます。 

 なので銃弾避けミニゲームはカットする必要があるんですね。カットできなかった場合は最初の強制ダイブアウトまでにクリア出来なければよっぽどタイムが良くない限りリセですね。

 

 はい、第六戦で遠距離狙撃アバターとマッチングしました。

 レベルアップのタイミング上、六戦目での遠距離狙撃アバターとのマッチングは最悪です。

 というのも、レベルを2から3に上げられるにのが六戦目終わりなのに対し、六戦目からは対戦相手のレベル上限が5になるんですね。恥ずかしくないのかよ(初心者狩り)。

 とはいえ確定でレベル5との戦闘になるわけではなく、2から5までのランダムですので、4以下を引けば全く問題ないんですけどね。 

 今回の対戦相手のレベルは5です(真顔)。張り切っていこう!

 

 今回のステージは雲海ステージのようです。勝ったな(確信)。辛いわー豪運すぎて辛ーー!

 雲海ステージは地面がとても柔らかく、行動がしにくい他に一定以上の速度で壁に突っ込めば向こう側に抜けることが出来るステージとなっています。また、高高度設定のためかなりの頻度で突風が吹き荒れます。風が吹いてるから安心!(狙撃)

 さらに、三回戦以外のアバターがタイムを殺しに来てる防御型アバターだったため、戦闘時間が長引いてその結果いつもよりも熟練度を稼ぐことが出来、『エリアル』と『エアリアルコンボ』をプレイヤースキルとして獲得出来ています。 

 接近してタコ殴りにしちゃうからなお前な!

 あ、こちらのアバターは拳が剣なので(激うまギャグ)タコ殴りじゃなくて十七分割ですね。

 

 ということで対戦開始です。ステージにぷかぷか浮いてるレベル1やどみが戦法をしてきそうな白い綿を憎しみを込めてぶち壊していきましょう。いたずらごころと陰キャ戦法を許すな。

 雲海のこのオブジェクトは背景と同化していて見つけにくいためか、必殺技ゲージの補給量が多いです。こちらのアバターは目が良いため比較的見つけやすく、早々にゲージマックスとなりました。

 相手の準備が終わる前にさっさと空から強襲して接近戦に持ち込みましょう。こんなぶよぶよ地面なんて歩くわけないでしょ。

 

 狙撃アバターとの対戦中に飛ぶ場合ですが、ガイドカーソルの方向を目を皿にしてガン見しましょう。

 運が良ければ弾が見えるかもしれません。

 また、上下、もしくは左右に無駄に移動することで狙いを正確につけられないようにしましょう。あとはお祈りです。

 当ててこないでくれよなー頼むよー。

 

 ……ガイドカーソルを頼りに進んでますがなかなか見つかりませんね。地面と壁の白以外には空の水色しかない雲海ステージなら赤系のアバターは見つけやすいと思うのですが。

 

 はい、初弾避けました! 勝ったな。

 偏差射撃もできないとか辞めたらこの仕事。

 ……対戦相手は見つけられましたか? つっかえ!

 対戦相手が見つけられないのとマズルフラッシュも見つけられなかったのとで状況はなんも良くなってません。誰かいるー? 誰かー!

 あ、ガイドカーソルが反転しました。対戦相手の真上を通り過ぎたってことですね。隠れる系の技を使ってるみたいです。挨拶前のアンブッシュは一度しか許されてないのでさっさと出てきて、どうぞ。

 この類のハイディングは距離が近づけば看破できますので、Uターンしたら高度を下げて探してみましょう。

  

 あああああああもうやだああああああああ!!!(被弾)

 ライダーたすけて!(アッシュ・ローラー)ライダー助けて!(日下部綸)

 

 生きてるー! 地面が柔らかい雲海ステージで助かりましたね。体力が三割ほど残りました。

 Uターンを狙い撃ちやがって許さんぞ! 静止対象射撃の喜びを知りやがって……俺にもやらせろよ(飛行アビリティ+遠距離攻撃能力)。

 雲海ステージ特有の突風はどこ……?

  

 ハイディング中でこそありましたが近くで射撃の瞬間を視界に入れることが出来ましたので、相手の姿を目視することができるようになりました。 

 もう許さねぇからな!

 残念ながら翼に穴が空いてしまい高高度を飛ぶことは出来なくなってしまいましたが、低空飛行による加速は可能です。壁を突っ切って血祭りにしてやりましょう。

 二枚ほど壁を抜けて雲海の所々に配置されてる硬質な床があるエリアに辿り着くと、狙撃銃を持たない赤色のアバターがこちらを待っていました。 

 ちなみに、硬質な床の正体は雹です。三十六立方メートルの雹……普通だな!

 当然滑りますがそもそもシャドウ・オウルくんはホバー移動アバターですし、飛行アビリティで浮いてるので関係ないです。

 飛行アビリティの超スピードで接触してエアリアルコンボをぶち込んでやるぜ!

 

 ……何だこのおっさん!? カラーチャートに較べて近接戦闘がうますぎるでしょ……。 

 レベル5のバーストリンカーともなると二年から三年くらいプレイしてるのがゴロゴロいるんで、カラーチャート外の行動も上手いってのはよくあることなんですが、エアリアルコンボを初見でここまで捌くとかありえないんだよなあ……。

 確認してみましたが赤色に見える紫色って訳でもないみたいです。近接戦闘の適正はないです。なーい!

 

 まあ、明るい赤色をしているのでこちらの初期アビリティの追加ダメージの恩恵もあって結構削れています。このまま攻撃し続けて倒してしまいましょう。

 

 ……なにそれは(困惑)。紙みたいな白い箱を身代わりに数メートル距離を取られました。

 『ダンボールガード!』と叫んでいたので必殺技なんだと思います。えぇ……。 

 プレイにも動揺が見られますね。さっさと距離を詰めて、どうぞ。

 

 ヤメテ、ヤメテヤメテヤメテ。こいつラピッドファイア付けてるよ!(ガトリング召喚必殺技)

 

 この距離での超スピード連射は詰みです。

 今回は今までの対戦相手のレベルが総じて高めであり赤の王との接触までにレベル5になれる可能性があるくらいのポイントが溜まってたのでここで負けてもレベル4に到達できる可能性は残ります。

 このあとの連戦でも高レベルと対戦できる事を祈ってさっさと負けて次に行くのが正解なんだよなあ……。 

 撃ち落とされたことと狙撃アバターに負けたことで銃弾回避ミニゲームのポイントが加算されますが、二回くらいなら大丈夫でしょ。

 さっさと負けてくれよなー頼むよー。

 

 うせやろ? 五秒間のガトリング掃射を避けきるとかこの人おかしい……。(自画自賛)

 よしじゃあぶち込んでやるぜ! 

 ハンターキラー発射!(飛行アビリティ)

 

 いやーこの勝利は嬉しいですね。『銃弾回避』系の熟練度は避けた弾数が多いほど加算されていきますので、ガトリングを避けたということで狙撃銃なんかの単発攻撃と比べたら一発辺りの熟練度に下降補正がかかっているかもしれませんがかなりの熟練度になってるはずです。 

 あとはさっさとトドメをさしてこの熟練度をマルっと持って帰るだけですね。負けたら四分の一とか辞めたくなりますよぉ。

 

 ちょ、すいません! すいません! ちょっと止めてもらっていいすか?(突然の敗北)

 ちょ、はじめっから、すいません。はじめっからお願いします。 ちょ、タイムないんで。

 

 なんかリボルバーで脳天やられて死にました。

 前述の通りリセはしませんが今回の敵である『ケチャップ・スネーク』は後でフリーモードでボコボコにしようとおもいました。

 狙撃もできてガトリングもできてリボルバーの抜き撃ちも出来てCQBも出来るとか控えめに言って厨性能ですね。

 レベル3に上がる前にこんなのとマッチングしてしまったクズ運を呪いましょう。

 残る四戦で一度もレベル2とマッチングしなければレベル4になるためのポイントは足ります。

 ま、レベルアップ後に残るポイントは20もないくらいになると思うのでバーストリンカーとしては危険域ですがね。

 この十連戦が終わったあと、無制限フィールド入りまでの残る対戦はブラック・ロータスとシアン・パイルとの三人で行う領土戦一回と赤の王との戦闘一回のみです。

 領土戦は実質的な勝ちイベントなのでポイントは減りませんし、赤の王との戦闘は負けイベですがほとんどポイントは減らないので《アンリミテッド・バースト》のための10ポイントは確実に残るのでチェリー・ルークを倒しに行くことは可能です。負けたら全損ですが負けないので問題ないですね。

 

 はい、七戦目はレベル4を倒してレベル3にレベルアップしました。レベルアップボーナスの振り方はレベル2の時と同じです。

 八、九、十戦目はレベル5とマッチングして何とか勝てたのでリセはなしですね。

 レベル5とのマッチングが多すぎてもしかしたら余裕でレベル4到達できるかもしれません。(どっちだよ)

 このあとの領土戦の対戦相手のレベル次第ですね。レベル合計が最低値の組み合わせでもレベル4にはなれるのでRTA的にはもうポイント要らないんでどうでもいいですけど。 

 寧ろ低レベルと当たった方がタイムを考えたらいいですね。あ、でも柔法が欲しいので稼ぎができる相手が一番嬉しいです。

 

 最強の味方を使って敵を蹂躙する領土戦はーじまーるよー。

 タイマースタートは面倒くさいので対戦画面の上部に表示されるタイマーで計測します。一秒未満のタイムは計測できませんがそんなものはフヨウラ!

 領土戦が開始したら速攻で必殺技ゲージを貯めましょう。呼び水のゲージさえ確保できれば飛行アビリティの初速を使った破壊力上昇攻撃が使えるようになるのでそこから大規模破壊を行ってゲージをマックスにします。

 ゲージが溜まったら最強の味方であるブラック・ロータスと頼れる必殺技マシーンのシアン・パイルを要塞拠点(ストロングホールド)まで運搬しましょう。

 あとは敵がさっさと来るのを祈りつつ待機していましょう。一人で飛び出して行くよりもブラック・ロータスのサポートをする方が早いです。

 敵がまとまって三人来ました。

 ブラック・ロータスが必殺技を使いました。

 勝ちました。

 残ったカウントは1466ですので……記録は334ですね。まあまあではないでしょうか。

 熟練度稼ぎは全く出来ませんでしたが問題ないです。柔法なんていらねぇんだよ!

 

 次の場面はエピソード1のラストからだいたい三ヶ月くらい経った時間軸となります。

 野良のバーストリンカー達も飛行アビリティへの対応方法を理解したAIに完全に切り替わりますのでわからん殺しでポイントを稼ぎたいならもっ先のお見舞いに行かずに無限に対戦していましょう。

 

 はい、三ヶ月後です。 

 久しぶりに主人公くんの現実世界の肉体が表示されましたね。 

 現在地は男子トイレ! 便所飯かなにか?

 

 ……はあああああ(クソデカため息)。

 一回しか撃ち落とされてないですし一回しか負けてないのに銃弾避けミニゲームイベントが開始されました。初撃を避けてさっさと終わらせましょう。

 銃口とにらめっこするのは楽しいですか?

 

 このミニゲームの何がクソって発射までの時間が最大で三分もあるってことなんですね。

 春雪くんは三十分モードでやってました。RTAナメてんの?(巨大貫通ブーメラン課長猫)

 ガバガバのRTAですがセグウェイくんのおかげで試走と比べて今のところ五分早いのでこのゲームには五分までかけていいことにします。

 ちなみに全てのガバをなかったことにしたらセグウェイくんだけで十五分くらい縮まってるはずでした。

 ツモ率3%未満の最小型セグウェイくんは神、ハッキリわかんだね。

 

 はい、一発目は回避に失敗しました。あと四分半ですね。

 ……って一度で強制ダイブアウトですか!?

 春雪くんは二回回耐えたんですけど?

 

 暗転ながいっすね。……ファッ!? なんでもっ先が表示されるんですか(困惑)。何だこの会話イベント!?

 初めてのイベントなのでじっくり観覧しましょう(現状把握のために連打スキップは見送ることにします)。

 

 お昼になってもラウンジに来ないし電話にもメールにも返事をしない主人公を不審に思ったもっ先が対戦をふっかけて主人公の居場所をブレインバースト内で探った結果トイレで気絶しているのを発見して保健室まで運んできてくれたそうです。

 隠れてたのは男子トイレなんですがそれは大丈夫なんですかね……。

 気絶の原因を探るために勝手に直結して色々探られた結果銃弾回避用の違法改造アプリは禁止となりました。やったぜ。

 現状は把握したのでこれ以降の会話はスキップしますね……。

 

 保健室のベッドで寝たら放課後でした。 

 教室で授業を受ければ自動でスキップしてくれるのですが、保健室だと睡眠を取らないといけないのがめんどくさいですね。

 ただ、銃弾避けゲーム関連のロスはスキップしなかった会話を含めても五分未満に治まったのでオッケーです!

 さっさと帰ってサイトウトモコちゃんとこんにちわしましょうねー。

 

 セグウェイくんに乗って帰宅します。犬のように駆け巡るんだ!

 

 帰宅するとサイトウトモコちゃん(大嘘)がお出迎えしてくれます。今回の主人公くんのママは親戚は外国にいると思うんですけどそこんところどうなんですかね?

 サイトウトモコちゃんが作ってくれたクッキーを食べ終わるとミニゲームが発生しますので、それまでの会話は全てスキップしましょう。

 やっぱりパティスリー・ラ・プラージュ仕込みのクッキーは美味いな。生地がさくっとしていてそれでいて硬すぎないすっきりした(意味不明)美味さだ。生地には天ぷら粉を使用したのかな?(クッキーの天ぷら)

 

 というわけでミニゲーム開始です。

 自分にこんな親戚はいるのか? という疑問を持った主人公によるサイトウトモコちゃんの化けの皮剥しイベントですね。

 とはいえ簡単にはいきません。サイトウトモコちゃんはベタベタと積極的に主人公とコミュって来るので探りを入れる機会がないんですね。

 盲目ではなく、うなじフェチな主人公ならサイトウトモコちゃんの首筋にあるニューロリンカーの跡をした日焼けから一発で看破できるのですが、盲目主人公の場合取得情報の劣化によって気づくことができません。

 盲目主人公にした場合唯一タイムが伸びる可能性があるのがこのミニゲームです。

 まあ別口の解決方法があることと、タイムアップのお風呂の時間まで気づけなくても全体のタイム収支で考えるとプラスなので問題は無いです。

 早期解決の方法ですが『このミニゲームより前にホームサーバーのアルバムを確認しておく』『自宅の飲料にジュースがない』『紅茶を用意してある』の三つの条件が必要となっています。

 ホームサーバーは初日の家庭環境把握のために覗いていますし、あとの二つの条件は達成済みです。というのも、ジュースは買いに行かないと家に置かれないからですね。紅茶はコーヒーと一緒に最初から家に配置されていました。大量に。

 紅茶がない場合は適当なパックでいいので通学路を実際に歩くパートの時に通り道で買っておきましょう。

 

 この条件を満たしてあるとサイトウトモコちゃんがミニゲーム中にお花をつみに行きます。 

 カフェインの摂取による利尿作用……効果があるかもしれないな。

 その間にこの部屋のどこかにあるサイトウトモコちゃんのニューロリンカーを探し当てればミニゲームクリアとなります。ここかあ!(一発ツモ)

 

 ハトコのサイトウトモコちゃんはバーストリンカーで赤の王で本名は上月由仁子ちゃんって言うんだってさ! ユニコーン!!

 ちなみにミニゲームをクリアできなかった場合はお風呂イベントに突入します。小学五年生と中学一年生の混浴……健全だな!

 

 あ、ちょっと待って! あるじゃん! ニューロリンカーそこにおいてあるじゃん! 無視して他のところ探しに行かないで!

 どうやら主人公だけではなくプレイヤー側も盲目だったみたいですね(他人事)。

 ニコちゃんがお花摘みから帰ってきてしまったので早期決着は不可能になりました。

 大人しくお風呂イベントで解決しましょう。ミニゲーム中には日焼けに気づくことができませんが、お風呂イベントの時には気づいていますので。

 

 残りのミニゲーム時間は会話を全て飛ばすことで省略しましょう。

 はい、タイムオーバーです。お風呂イベントですが春雪くん操作モード及び視覚または四肢に障害がない主人公の場合はあとからニコちゃんが入ってきますが、条件を満たしている場合は最初からニコちゃんと一緒に入ることになります。懐柔策のためとはいい体張りすぎじゃないですかね?

 血涙で貧血になりそーよー。ということで会話は全部飛ばします。当たり前だよなあ?

 小五ロリに洗体される喜びを知りやがって! 許さんぞ!

 部活の先輩の体を洗わさせられるホモもいる中で小五ロリに洗ってもらえるノンケもいるなんてこの世の中は不公平ですね。ココアライオンすると事案になってしまいますのでしてはいけない(戒め)。

 

 洗ってもらったあとはニコちゃんの頭を洗ってあげることになります。女の子のお髪を触りやがって、許さんぞ! 髪フェチの喜びを知りやがって!

 はい、ここで盲目の主人公くんはニューロリンカーから送られてくる視覚映像によってようやく首筋にある日焼け跡に気づきます。

 指摘するとニコちゃんは風呂場を飛び出してニューロリンカーを装着してトンボ帰りしてきます。体も拭かずに脱衣所から出ていったせいで酷いことになってそう……。

 

 はい、会話を挟んだ後に対戦開始です。

 赤の王スカーレット・レインは不動(イモービル・)要塞(フォートレス)だの鮮血の(ブラッディ・)暴風雨(ストーム)だのという二つ名があるレベル9バーストリンカーです。 

 レベル3が勝てるわけがないんだよなあ……。

 とはいえ今回のスカーレット・レインは本気ではありません。行動パターンも完全ローテーションで偏差能力もそこまで高くないのでやろうと思えばタイムアップまで粘ることも可能です。

  

 対戦開始時の互いの距離は二メートルもありません。今回は一メートルです。近スギィ! 

 必殺技ゲージがないとどうにもならないので強化外装を完全に装着したスカーレット・レインに開幕から張り付きましょう。 

 張り付いた場合排熱機構やらバーニアを仕事させて剥がそうとした後にミサイルでフィールドをぶっ壊して離脱ついでに必殺技ゲージを貯めてきます。

 春雪くん操作モードの場合メタルカラーの炎熱耐性で無視できますが、メタルカラーの耐性がない場合は致命的な致命傷となります。気をつけましょう。 

 お、やっぱり強化外装に攻撃して必殺技ゲージ回収できてますね。低レベルの場合強化外装の装甲に弾かれてダメージを与えるには装甲の隙間とかを狙う必要があるのですが、今回は初期アビリティのおかげで僅かにダメージが入っているのだと思います。強化外装は外付けHPなので画面上部の体力バーは全く削れていませんが、必殺技ゲージが増えているのでダメージを与えられているのでしょう。 

 そろそろミサイル発射に切り替わるので懐から移動してマンションの外側に面する方向に移動しておきましょう。

 はい、ミサイルが来ました。最初の数発は至近距離での対処となります。回避してもいいのですが後方で発生した爆風で飛行アビリティが乱れることがあるので刀剣類を持っているのならミサイル後部にある信管を切り離してやりましょう。近接信管ではないのでぶつからなければ起爆することはありません。

 これによって僅かに必殺技ゲージを補給できるのでうま味です。

 こちらに向かってこなかったミサイルはマンションを破壊し尽くします。自宅が一階であるため、今回の戦闘開始地点は必然的に一階です。このマンションは二十階を超える巨大な建物のため、床と柱しかない風化フィールドとはいえ瓦礫が大量に降ってきます。瓦礫に対処しながら崩落から逃れましょう。ここで逃げながら瓦礫をどれだけ破壊して必殺技ゲージを補給できるできるかがこのあとの熟練度稼ぎの時間に直結しますので、手近なものはスパスパと切り裂いていきましょう。

 飛行アビリティを使っている場合は背中から生える翼にも当たり判定があるので、そちらに瓦礫が引っかからないように。慣れていない場合は飛行アビリティを中断して範囲外に移動してもいいと思います。

  

 崩落後、スカーレット・レインはマンションの崩落で獲得した必殺技ゲージを使って極太のビームを放ってきます。 

 掠っただけで春雪くんは片腕がもげて二割弱程度のダメージを受けましたがメタルカラーでない場合五割は逝きます。こちらの体力はわざと被弾して必殺技ゲージに変換するためのリソースですので、ゲージが沢山あるときに被弾してはいけません。 

 100%から溢れた分が無駄になってしまい稼ぎができる時間が減ります。

 

 これ以降のスカーレット・レインの行動パターンは通常兵装での攻撃、全兵装一斉解放の必殺技の『ヘイルストーム・ドミネーション』、極太ビーム必殺技の『ヒートブラスト・サチュレーション』のローテーションです。 

 これらをひたすら回避し続けて『ガンナーリーディング』の熟練度を貯めるので今から倍速です。

 

 ということで由仁子ちゃんが作ってくれたクッキーにちなみましてこのようなものをご用意しました。

 

 はい、上月由仁子ことスカーレット・レインとの初戦での各攻撃パターン回避方法の解説ですね。

 被弾するとハートのクッキーが半分に割れてしまいますので。

 今回は安全に回避することよりも熟練度稼ぎのためにギリギリで回避する方法を示していきます。

 

 通常兵装ですが、機銃とミサイルと主砲の三つがあります。

 まずは機銃です。掃射が開始されたら横方向へとスライドしていきます。今回のスカーレット・レインは偏差力が弱いのでこれだけでグレイズ達成となり熟練度が貯まります。

 コツですが、初弾と自分の位置関係は垂直になるように意識してでやりましょう。 

 角度がついていると機銃の旋回速度が変化して被弾または熟練度の加算が止まってしまうことがあります。

 

 ミサイルの解説に移ります。今回はミサイルの無力化手段の有無で二つのパターンを解説します。

 ミサイルを無力化できない場合、当然回避するしかありません。本来ならスカーレット・レインはミサイルを手動で爆破することが出来るのでギリギリ回避は不可能なのですが、今回は手動起爆をしてこないのでギリギリ回避が可能となります。 

 このミサイルは誘導ミサイルとなっていますので、急激な切り返しが本来有効な手段となっています。

 が、これだと最初の数発程度しか熟練度判定が発生しません。スカーレット・レイン戦は確定で風化ステージなため、ステージエフェクトとして発生する突風を利用してミサイルの群れから数個のミサイルを突出させ、それを誘爆させた後に後続のミサイルに突っ込み、するすると抜けていくと多くのミサイルから熟練度を得ることができます。 

 ただ、これも誘爆手段がないと男起爆になってしまいますので多くのアバターは切り返しでの回避が基本になると思います。

 

 次に、刀剣類を持つ場合の話をします。

 まずはミサイルに背中を向けて真っ直ぐ逃げましょう。

 着弾の寸前にほぼ百八十度切り返して3先頭のミサイルの真横を抜け、その流れで信管を切り離します。下手なところを切ると爆発するので注意です。

 また、ミサイルは複数個同時に飛んできますのでこちらにもほぼ同時に対処する必要があります。『エリアル』を習得していない場合不可能な動作になりますが、持っている場合はそこまで難しくありません。 

 

 次、主砲の超高熱ビームです。必殺技と比べると細いですが弾速は速いですし太さも十分あります。

 これは主砲がねっとりとこちらを照準してきますので、それが見えたら機銃とミサイルが途切れている隙に一時停止して主砲の発射フラグを立たせ、その半秒後に全速力で上下左右のいずれかへと加速して回避しましょう。

 再照準までは七秒となっています。それを忘れずに、常に主砲に気を配りながら他の兵装に対応しましょう。

 主砲の解説をしたので必殺技の方の主砲、『ヒートブラスト・サチュレーション』の回避方法も説明しましょう。

 後述の全兵装一斉解放の『ヘイルストーム・ドミネーション』の直後に確定でやってきます。正確には必殺技ゲージがあればなのですが、『ヘイルストーム・ドミネーション』による地形破壊で毎回100%に回復するので確定です。

 

 『ヒートブラスト・サチュレーション』も発射を確定させるために的を動かさないという動作は同じですが、範囲がエグすぎて一時停止からの再加速では掠ってしまいます。

 なので、最高速で移動しながらスカーレット・レインに向かって減速無しの方向転換をして主砲を正面に見すえ、発射が確定した瞬間に九十度折れ曲がって範囲外に離脱します。

 これでも飛行アビリティの性能によっては被弾してしまうため、スカーレット・レイン戦までの間にどの方向への移動が最も速度を出せるのかを把握しておいて下さい。

 今回のアバターのシャドウ・オウルくんですと、真横への移動では十中八九被弾するのでシルバー・クロウを上回る降下速度を使って回避していますね。ただ、降下する場合だけはステージエフェクトの突風に気をつけてください。基本的に下から巻き上げるように吹きますので。

 

 最後に『ヘイルストーム・ドミネーション』の回避方法の説明です。通常兵装の一斉射。正確には九秒間機銃とミサイルを発射し続け、主砲を三発発射するという攻撃になります。

 この必殺技のエグいところは機銃やミサイルを一発でもくらった場合ヒットストップで動けないうちに残りの攻撃をすべてくらうということです。当然即死です。

 ミサイルは熟練度稼ぎの対象として見ずに切り返しで回避しましょう。ただし、切り返しができるタイミングは主砲の反動で僅かに機銃の狙いが甘くなる瞬間のみです。 

 ミサイルの速度は基本的にこちらの飛行速度より早いので主砲のタイミングまでどうにか対処し続けましょう。

 機銃は通常時の避け方と一緒で大丈夫です。ただし、主砲が発射された直後には機銃に対して垂直方向にいることを心がけましょう。

 最後の主砲ですが、通常時とは違い正確に狙いをつけずに発射してきます。三秒に一発ですので主砲のビームが壁となってミサイルや機銃を回避できなかった、なんてことがないように主砲の向きを常に把握しておきましょう。

 

 はい、稼ぎが終わりました。今回は負けイベントなため、十連戦の時とは違って対戦中にもりもり熟練度が加算されていきます。

 最後はスカーレット・レインの攻撃をかいくぐりながらジョイント部分に特攻を掛けましょう。運がいいと不動要塞の二つ名を持つ彼女を動かすことが出来ます。これによってもっ先に褒められ、次の無制限フィールド突入の際に全ての行動にプラス補正が入るようになります。

 一番隙が大きいのは『ヘイルストーム・ドミネーション』のあとです。コックピットとスラスターのジョイント部分が狙いどころです。 

 ZECTと共にありィ――――!

 

 対戦が終わるとニコちゃんとの短い会話の後に学校のラウンジに切り替わり、その後屋上に場面が移ります。焼いてかない?

 もっ先と転校してきてハカセくんになった黛拓武くんとの三人で先日のこと、つまり赤の王が主人公の前に現れた理由の考察が始まりますが、当然のようにスキップです。予想外なことが起きなきゃ連打をやめる理由はないですからね。

 

 はい、学校パートが終わるともっ先と我が家へと歩きます(セグウェイくん搭乗)。

 この時に道中のスイーツ店でケーキを買って帰りましょう。このあとの空気が若干緩和され、ハカセくんのストレスポイントが抑制されることで無制限フィールドでのパフォーマンスが僅かに向上します。

 この後はラストダンジョン手前まで全て会話シーンなので連打し続けましょう。

 

 連打中暇なのでタイマーストップ時のデュエルアバター、シャドウ・オウルくんの詳細でも眺めてみましょうか。

 はい、表示します。

 

 レベルは4、完走時は基本的にこれですね。理論上は5になれるのですがそこまでポイントが溜まったことはありません。

 所持バーストポイントは38ですね。クリプト・コズミック・サーカスのメンバーを何人か倒したことで加算されたポイントになります。

 能力値評価は『Attack:D』『Defense:E』『Agility:B』となっています。FからAまでの評価となっていて、同レベルアバターの平均値がC評価になるらしいです。単純な身体能力だけ見るとそこまで強くはないアバターですね。

 続いてオプションを見ていきましょう。 

 『Special Move:1』『Ability:2』『Enhanced Armament:0』つまり必殺技が一個、アビリティが二個、強化外装が零個となっています。 

 内訳は必殺技が『Flash kick』アビリティが『Shadow Edge』『Wing of Freedom』となっています。

 『Flash kick』はサマーソルトキックです。ブレインバーストでは必殺技の使用にボイスコマンドが必須なのですが、フラッシュキックと聞いてピンとくるバーストリンカーはいるのでしょうか?

 今まで一度も使いませんでしたが、足技をメインとした近接戦闘アバターが持っているとかなり便利な必殺技となっています。

 『Shadow Edge』は例の白の王RTAで採用されるアビリティの亜種ですね。効果は二つあります。

 

 一つ目の効果は攻撃の命中時に相手の装甲値を無視して一定のダメージを与えるものです。

 このダメージは相手の色が明るければ明るければ明るいほど増加します。

 また、完全な黒を攻撃した場合以外はどんなに暗い色のアバターを攻撃した場合でも極小の追加ダメージが発生します。

 二つ目の効果は命中時に一定時間ステータス低下のデバフ付与、もしくは必殺技ゲージを減少させるものです。

 また、発動中の必殺技やアビリティが発動中の場合、その効果を減少させることもあります。

 これらの効果はワンヒットごとに抽選され、効果量は相手の色が暗ければ暗いほど増加します。

 一つ目の効果と同様に完全な白を攻撃した場合以外はどんなに明るい色のアバターを攻撃した場合でも極小の効果が発生します。

 

 今回発現した飛行アビリティの総合力からこのアビリティのポテンシャル値を調べてみましたがそこそこ低かったです。

 シルバー・クロウのヘッドバットの倍くらいですかね。あれはあれで威力と属性がかなり優遇されてる技なのですが、シルバー・クロウは飛行アビリティにかなりのポテンシャルを注いでいてヘッドバットは出涸らしですので、その倍程度というのが如何に低いか分かるかと。

 正直、このアビリティがここまで軽いポテンシャル値で得られた理由がわかりませんね。バグかな?

 

 二つ目のアビリティ、つまり飛行アビリティの『Wing of Freedom』は以前性能について説明しているというのもあり、あまり説明する必要は無いかもしれませんね。

 アビリティの説明も必殺技ゲージを消費し続けて飛行するという簡単なものですし。

 特筆する点があるとすればシルバークロウの飛行アビリティと比べると静音性がえげつないという所くらいですかね。

 というか風切り音すら僅かに低減されるほどですね。シルバー・クロウの飛行アビリティは自ら音を発生させているくらいに自己主張が激しいものなので、その差がわかるかと。

 まあ静かだからなんなのって話なのですが。

 飛行アビリティなら速度とかにポテンシャルを注いで欲しかったですね。以上です。

 

 ……会話パート長いなあ。まあ仕方ないですね。途中でスキップ不可の先代のクロム・ディザスターの討伐リプレイが挟まれますので。荒谷くんのコマンドを命令メールと同様にスキップできない映像です。

 その前後にも強化外装の説明やら無制限フィールドの説明やらがありますので。

 

 ということで、ブレインバーストに関連する主人公くんの現実世界サイドに設定された能力についても見てみましょうか。と言っても確認するのは以前説明した『プレイヤースキル』のみですが。

 現在習得しているものは『エリアル』とその下部ツリーにある『ダイブアタック』と『エアリアルコンボ』、『銃弾回避』が成長した『ガンナーリーディング』、それからマッチングが片寄って防御型アバターと連戦した時に獲得した『フェイント』です。

 『柔法』は熟練度八割くらいなんじゃないでしょうか。この時のステータスを確認することは出来ませんのでわかりませんが、少なくともまだ得ていません。

 もうちょっと時間があるので獲得予定がなかったために説明してなかった『フェイント』についてお話します。

 早い話がモーションキャンセルして別のコマンドを繰り出すことが出来るプレイヤースキルですね。習熟すると一定時間にキャンセルできる回数が増えます。防御が硬いアバターの防御をすり抜ける時に重宝します。

 

 ……連打も終わりましたので、この時にレベル4になることが出来るポイントを保持しておきながらレベル4以下の場合に発生する選択肢に回答します。

 早い話が無制限フィールドにはレベル4以上じゃないと入れないがレベル3から4にあげるポイントは足りているか? という質問に対する答えです。

 マージンは全然足りない、というかこの時点だとレベルアップ後に残るポイントは十四ポイントだけなのですがそれでもレベルアップは出来るので問題ありません。

 さっさとレベルアップしてボーナスを振り分けましょう。

 今までのレベルアップと全く同じ振り方で問題ないです。

 ちなみに、この選択肢の前にマージンがない状態でレベルアップすると何故かもっ先とハカセがマージン不足に気づいてタッグを組んで野良対戦しに行くイベントが発生するのでポイントがギリギリの場合はこの時にレベルアップするようにしましょう。

 

 レベルアップを終えるとあとは連打してるだけで直ぐに無制限フィールドへと移動します。

 もっ先とニコちゃんとの個別コミュイベやらがありますが全部読まずに飛ばします。

 

 はい、ラストダンジョンの無制限フィールドにやってきました。

 クリプト・コズミック・サーカスとこ集団戦と実質イベント戦闘なラスボス、チェリー・ルークとの戦闘をこなし、無制限フィールドから離脱するとタイマーストップです。

 あと少しなのでがんばりましょう。

 

 無制限フィールドに入ったらエネミーに気づかれないように各々必殺技ゲージを確保します。

 主人公がゲージを100%にするとその時点でほかの全員がゲージ空っぽでも自動的にイベントが始まって彼らのゲージもマックスになるのですが、そのくせして破壊可能オブジェクトを壊してゲージ補給を始めるため、ここは彼らより先にどれだけのオブジェクトを壊せるかという勝負になります。

 ゲージが溜まると主人公の飛行アビリティでとんで行くことになるんですが、その際にどこに誰が捕まるのか一悶着起こります。

 当然会話は全部スキップです。

 

 ……はぇーこんなこともあるんですね。主人公のアバターが腕関節がなく、手のひらもないアバターなため人を抱えるというのができないと判断されたのか、ブラック・ロータスの背中と尻を両手の剣の腹で支えそこに座ってもらい、スカーレット・レインは肩車、シアンパイルは三叉に別れている足先の嶺の部分に掴まる形となっています。

 移動速度ペナルティーがいつもよりキツイです。こんな所に落とし穴があったなんて……。

 スカーレット・レインの誘導でしばらく飛んでいると地上から攻撃が飛んできて着陸を余儀なくされます。

 その後、クリプト・コズミック・サーカスのメンバーを連れて現れたイエロー・レディオによってレッド・ライダー全損時のリプレイが再生され、ブラック・ロータスが零化して一時的戦闘不能に陥ります。戦闘開始です。

 

 最初はシアン・パイルくんが自分を囮にして三人で逃げろと言うのですが、無視してクリプト・コズミック・サーカスのメンバーに攻撃を仕掛けましょう。イベントが発生するまでスカーレット・レインは戦闘に不参加です。

 

 この前ケーキを買って帰ったことでパフォーマンスが僅かに向上しているシアン・パイルくんをカバーするように動けば最終的な戦力が増加するので彼が倒されないように気を配りながら立ち回りましょう。

 一定時間経過するとイエロー・レディオの必殺技、『愚者の(シリー・)回転木馬(ゴー・ラウンド)』が発動されます。

 間接の黄色のレベル9が使うだけあって異常なまでに強烈な幻覚攻撃です。この技の継続中はまともに戦うことが出来なくなるので自衛だけを頑張りましょう。

 発動前の戦闘時間でシアン・パイルを十分に介護できている場合はこの技が終わるまでシアン・パイルも耐えきります。

 

 あーもうイライラする(ピネ)。俺もうね、荒らすわ。

 ということで近くに味方がいないことを確認したら暴れましょう。方向感覚はガバガバになりますが距離感覚までは変化しないので、近くに味方がいないなら当たり判定を常に発生させることで敵を牽制できます。特に今回は全身凶器なのでその効果は言うまでもないでしょう。

 『愚者の(シリー・)回転木馬(ゴー・ラウンド)』が終わるとスカーレット・レインが戦闘に参加して三十人を吹き飛ばしたと噂されるその対多数戦闘能力を披露してくれます。本気のレベル9の戦闘は必見です。

 

 はい、あと三十秒で『愚者の(シリー・)回転木馬(ゴー・ラウンド)』が終わるとスカーレット・レインが教えてくれました。あと三十秒間暴れ続けましょう。

 シアン・パイルくんもなんか暴れ始めてますね。体力を見る限り生き延びられそうです。よかった。

 

 はい、『愚者の(シリー・)回転木馬(ゴー・ラウンド)』の終了とともにスカーレット・レインが強化外装を展開して戦闘に参加してくれました。

 これからしばらくスカーレット・レインに取りつこうとしてくる敵を排除し続けることになります。

 シアン・パイルくんも生き残っているので楽なミッションになりそうですね。

 春雪くん操作モードだとメタルカラーの弱点をつくアバターが配置されていますが、オリジナル主人公の場合そんなことはありません。エアリアルコンボで無限に必殺技ゲージを回収しながら高速機動でスカーレット・レインに近づく敵を弾き飛ばしていきましょう。

 

 スカーレット・レインの戦闘参加から一定時間が経過するとジャミングアバターによる妨害が開始され、機銃による攻撃以外の全てが停止してしまいます。

 この時のスカーレット・レインは対処出来る範囲がかなり狭くなってしまうので早急にジャミングの主を倒す必要があります。

 強化外装を剥かれて体力がなくなるまで辱められてしまいますのでね。申し訳ないが年齢制限が上がるようなシーンはNG。

 ジャミングくんの位置はランダムです。今回は……イエロー・レディオのそばにいますね。

 いやーきついっす。イエロー・レディオは積極的には戦闘に参加してきませんが、近づけば攻撃してきます。レベル9なだけあって妨害能力だけではなく通常戦闘能力も高いのでこの時点では倒すことは不可能です。

 ジャミングくんはこのタイミングで倒さなくても平気なんですが、この時に倒すとスカーレット・レインの武装の消耗が小さくなり、チェリー・ルーク戦で火力が増すのでタイム短縮につながります。

 うーん。イエロー・レディオは舐めプしてくれるのでとりあえず仕掛けてみましょうか。

 

 ダイブアタックでジャミングくんを串刺しするべく強襲します。はい、イエロー・レディオに防御されました。しってた。なんなんそのバトン。

 エアリアルコンボで攻略を試みますが無理っぽいですね。この前戦ったケチャップ野郎とは比べ物にならないくらい完璧に防がれています。

 ではブラック・ロータス復帰イベントを速めるためにお話をしに帰りましょう。

 ジャミングくんを倒せれば復帰を早めるよりもタイムの短縮になるんですけどねー。

 

 ということで離脱しよう……と思ったんですがそのために攻撃の手を緩めたら思いっきり殴られてブラック・ロータスのところまで吹き飛ばされました。腕の骨が折れた……(左手欠損)。チェリー・ルーク戦で立ち回りに気をつける必要がありますが直ちに影響はありません。

 また、主人公がピンチなほど復帰を早くすることができますので寧ろプラスなのかもしれません。

 

 はい、ブラック・ロータス復帰です。黒の王の戦闘しっかり見とけよ?

 ということで無双開始です。ジャミングくんは……まだイエロー・レディオのそばにいますね。 

 仕方ないのでそこら辺のモブを攻撃してチェリー・ルーク戦に向けて必殺技ゲージを回収しましょう。

 ん? おおおお!!! このゲームには自身と戦闘スタイルが同一のアバターを手本とすると一時的に成長にブーストがかかるシステムがあるのですが、ブラック・ロータスを手本にするとブーストやばいっすね。

 この土壇場で『柔法』が使えるようになりました。無制限フィールドでは熟練度がリアルタイムで加算されるんですね。ブラック・ロータスが復帰してしばらくするとイエロー・レディオとのタイマンが始まり、それから少しするとこちらの戦闘が終了してしまうのでそれまでが稼ぎ時です。

 片腕が使い物にならなくなっているのでそれを補うための足技に関連する熟練度を貯めましょう。 

 熱心に稼いでいた訳では無いため習得はできていませんが、エアリアルコンボをしている間は足も攻撃に織り交ぜられているので熟練度はそこそこ溜まっています。頑張って稼ぎましょう。

 ゲージを回収するための敵はまだまだ沢山いるので必殺技のサマーソルトを使って熟練度を貯めます。必殺技で獲得できる熟練度は通常より多くなるように補正がかかるので。

 

 あー、これ強いっすね。必殺技ゲージを維持することを考えないなら飛行中のサマーソルトかなりつよいっす。これこれまでの戦闘でしっかり使ってたらタイム縮んだんとちゃう?

 次走る時は心的外傷で飛行アビリティとサマーソルトの両立がしやすい組み合わせを探してみようと思います。

 お、黒と黄の王が戦い始めました。ジャミングくんが巻き込まれないように離れていきますので、さっさと殺そうぜ!

 稼ぎにゲージをかなり使ってしまったので効率が悪いダイブアタックは封印し、地面を舐めるように飛んでジャミングくんに近づきましょう。

 はい、エアリアルコンボ。どうしても速度が緩むことがあるのですが、その時にサマーソルトを起動すると宙返りモーションに速度補正がつくので簡単に速度を回復することができます。

 DPS壊れるー!

 

 はい、ジャミングくん倒しました。それと同時にスカーレット・レインから広範囲攻撃が飛んでくるので離脱しましょう。これでクリプト・コズミック・サーカスの遠距離攻撃部隊は壊滅です。

 近接攻撃部隊もほとんどブラック・ロータスが無力化してるので完全勝利ですね。

 あとはチェリー・ルークがやってくるまで王の対決を眺めてましょう。

 シアン・パイルくんは地味ながらしっかり生き残ってたみたいです。流石元幹部候補。

 ちなみに足技のプレイヤースキルは獲得できませんでした。後で確認してみたら熟練度97%でとまってました。悲しいなあ。

 

 こうやって眺めてるとさっきのイエロー・レディオとの攻防がどんだけ舐めプされてたのかわかりますね。狂いそう……!

 

 はい、チェリー・ルークくんが降臨しました。不意打ちとはいえイエロー・レディオが反応することも出来ず胸を貫かれるとか災禍の鎧のバフエグいっすね。

 ちょっと待って? ショタ要素が入ってないやん! 声変わり前の男の子が闇堕ちしたって聞いたから早く会いたくて走ったの! はああああ。あほくさ。身長百七十センチ超えとか辞めたらこの仕事? 

 カタログ詐欺野郎解体ショーの始まりや!

 

 イエロー・レディオは目立ちたがり屋で言動がウザいクズですが、レギオンメンバーは大切にしています。

 領土戦などに用いる味方にバフを与える必殺技を使ってチェリー・ルークから狙われにくくしたあと、自分が殿を務めて離脱ポイントに撤退していきました。

 スカーレット・レインはしばらく戦闘に参加してくれないのでネガ・ネビュラスの三人でチェリー・ルークに対処しましょう。

 イエロー・レディオを容易く貫いた剣は掠っただけで死にますので頑張って避けてください。

 

 とはいえ戦闘の要はブラック・ロータスなため、こっちはちょっかいをかけて攻撃を通せる隙を作るだけです。攻撃はこっちに飛んでこないと思うので巻き添えを喰らわないようにだけ気をつけましょう。

 シアン・パイルが生きているおかげで生まれる隙が増えて与えられるダメージが加速してますね。

 はい、チェリー・ルークの体力が一定以下になるとスカーレット・レインがブラック・ロータス諸共極太ビームで攻撃してきます。

 チェリー・ルークは大ダメージからの痛みでダウンするのですが、スカーレット・レインは心理的な問題でトドメを刺すことができません。RTA舐めんな!

 

 はい、ここからが正真正銘のラストバトルです。

 首を掴まれてプラーンとしてるスカーレット・レインを救出するためにチェリー・ルークに突撃し、ワイヤーでの空中制動をしながら離脱ポイントに逃げるチェリー・ルークをぶっ倒すのが目標です。

 戦法は単純です。スパイダーマのようにワイヤーを巻きとることで高速移動するチェリー・ルークをワイヤーを切断して速度調整を出来ないようにして建物に激突させるだけ。ね、簡単でしよ?

 逃げないと今度こそトドメを刺されると理解してるチェリー・ルークは反撃こそしてきますがその行動は逃げるためのものです。

 何度ワイヤーを切られてもワイヤーでの移動を諦めないのでボロボロになるまでやってやりましょう。

 

 ……とは言いましたが、なかなか難しいです。

 まず、『ガンナーリーディング』の効果でワイヤーの射出先を把握し、ワイヤーが壁に突き刺さり巻き取りが開始され、チェリー・ルークが最高速に到達したところで攻撃が命中するように調整して飛行アビリティで加速して飛び込みます。 

 加速が甘いとワイヤーをどうにも出来ずに転生チェリー・ルークに轢かれて異世界転生(再走)する羽目になります。

 これを相手がダウンするまで繰り返します。

 本当は春雪くんのように背中にワイヤー繋げて綱引きするのが楽なのですが、こっちの方が早いのでこっちを採用しました。

 

 はい、ワイヤーの射出先が見えましたね。チェリー・ルークは初速は微妙なので十分に追いつけます。『盲目』によって視力がいいアバターを用意したのでワイヤーがしっかりと見えてます。

 ピンとワイヤーが張った瞬間から二秒後に最高速になるので、その直後に攻撃できるように調整しましょう。

 

 無事にワイヤーをぶっ壊せました。このままならば壁にぶつかりますが、空中で新たなワイヤーを射出する可能性もあるので、壁に飛んでいくチェリー・ルークを追いかけてワイヤーの射出線が見えたら射線に飛び込んでいきましょう。そうすると排除しようと攻撃してくるので避けます。当たったら即死しなくても復帰までの間に距離を取られて離脱されますので転生です。

 あとはこれを繰り返すだけですね。ラストバトルですが倍速します。

 

 倒したあとの断罪からの会話イベントからの離脱の瞬間まで倍速で行くので完走した感想ですが、見たことないイベントが無限に生えてきてRTA中断して普通プレイにしようかと何度も思いましたが最小型セグウェイくんをツモってたのでなんとか走りきることが出来ました。

 反省点としては対戦のガバが多かったことですかね。十連戦のところはチャートの立てようがなく、アドリブでやらなければならないのですがそこの対応力が低いかなと思いました。

 特に六戦目のケチャップ・スネークですね。あそこでしっかり勝っていればその時点でレベルアップできたのでそれ以降の対戦が若干短縮できたと思いますので。

 今度フリーモードで低レベルキャラを使って無限に乱入してアドリブ力を鍛えようと思います。

 これからの活動は今回の記録を見返しながら条件を推測して今回スキップしたイベントを回収したいなと思っています。RTAはしばらくお休みですかね。飛行アビリティとサマーソルトの両立確率が高いキャラクリも模索したいですし。

 

 あ、離脱ポイントが見えてきましたね。途中まではみんなと一緒に移動しなければなりませんが一定の距離まで近づいたら一人だけひと足早く離脱しても問題ありません。

 ここでタイマーストップ! 記録は……まあ自己べを下回ってますね。それでもこの記録を投稿したのは今回のRTAで沢山生えたイベントを人目に晒しておきたかったからだったりします。

 結局飛ばされたイベントたちですが、その内容を見たいバーストリンカーたちがゲームを盛り上げてくれることを祈っています。

 

 それでは、ご観覧ありがとうございました。




リアルパートは通常の二次創作のように書くのでほかのRTA作品のような文章を欲しがっている方の期待には応えられない可能性があります。

あとリアルパート一話を投稿するまでの間は完結扱いにしておきます。


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導かれた影
ほんの少し刺激のあった、それでも変わらない日常


(RTA要素は)ないです
ただの主人公ポジ成り代わりアクセル・ワールドの二次創作、はーじまーるよー!


「はあ……」

 

 無言でため息をして授業中にも関わらず送られてきたビデオメールを開く。視界を覆う派手なエフェクトにストレスを感じるがシークバー機能を意図的に排除するソフトを使って作られたこのメールの最後の部分を知りたければ流しっぱなしにするしかない。

 

 送り主は荒谷という不良だ。五月の大型連休明けに目をつけられてから五ヶ月間、毎日この時間にメールを送ってくるため、今までの人生でメールを受信した回数だけならば荒谷は五指に入るほどになっていた。

 六、九、十月の九十日に、それぞれおよそ半分ずつの五、七月合わせて三十日、ここから土日を抜いたおよそ九十日に一日一通ずつ送られてきたメールが人生の受信回数で五指に入るということは、自分と定期的に連絡を取る相手が四人以下しかいなかったということにほかならないのだが。

 

 今日は、というか今日も焼きそばパンふたつにクリームメロンパンがひとつ、そしてデザートのいちごヨーグルトが三つという要求をされた。

 焼きそばパンは取り巻きのふたりが、クリームメロンパンは荒谷が食べるのだろう。

 学生向けに安価な購買の中では、かなり高い部類に入るメロンパンを三つ要求しないのはこちらへの配慮なのか、それとも取り巻きに対する自分が上であるということを示すポーズなのか。

 どうでもいいが、毎日同じものばかり食べて飽きないのだろうか? それも、毎日同じカレーパンを買って食べているこちらが人に言えることではないか。

 

 授業が終わると手探りでカバンから重心制御移動補助機械、フリームーヴを取り出して搭乗し、購買部へ移動する。

 一年生の教室は三階、購買部は一階、そして荒谷への受け渡し地点は三階のひとつ上の屋上だ。

 同年代で一二を争うほどスタミナが少ないと自負しているので、この昇降が一番辛かったりする。

 そのせいで、学校に行きたいと思っていた過去の自分の気持ちに唾を吐いて学校に来たくないと言いたくなるほどだ。

 

 購買部で荒谷に指定された商品を購入したあと、焼きたてで香ばしい匂いがするカレーパンを購入して屋上への階段を上る。

 もちろん、レシートは別にしてある。金に困っている訳では無いが搾取され続けるのは望むところではないため、今年度の終わり辺りに諸々の証拠とともに警察機関へ提出しようと考えているのだ。

 すぐさま通報して軽い指導が入るよりかは十万単位のカツアゲとそれに付随する小犯罪たちによって少年院にぶち込まれてくれた方が溜飲が下がると言うものだ。

 そのためにも邪悪な思考は心の奥に仕舞い込んでおく。

 屋上で受け渡しを済ませると、ソーシャルカメラ、つまりは監視カメラの範囲外に連れ込まれるのを防ぐために速やかに屋上をあとにする。

 アレがない所で人と交流するなど自殺行為だからだ。

 三階と屋上を繋ぐ階段の踊り場に置かれている椅子に腰掛けて、休憩をしながらスパイス香るカレーパンを楽しんだ後、学内で唯一、個室となるトイレに移動した。

 荒谷に対するストレスを人知れず発散させるためには誰にも邪魔されることの無いトイレが一番だった。

 

「ダイレクト・リンク」

 

 クソッタレな肉体から解き放たれる魔法の呪文をつぶやくとあらゆる感覚が体とともに溶けはじめる。完全に感覚が消失すると同時、速やかに肉体が再構成され、それが終わればメルヘンな森の中で二本の足で立っていた。

 フルダイブという意識を電子の世界に飛ばす行為は、ここ十数年で爆発的に普及したニューロリンカーという首に装着するツールによって誰でもどこでも一言呟けば行えるようになっていた。

 ここは、学内に設置された学内ローカルネットのフルダイブエリアだ。ローカルネットを設置している学校は少なくないが、フルダイブエリアまで用意している学校はそのコストからして多くはない。

 通学が楽だったということもあるが、学内でもフルダイブできるという点を気に入ってこの梅郷中を進学先に選んだのだった。

 

 データ上にしか存在しない仮想の現実が直接脳内に映し出されるため、現実の如何なる景色よりも鮮明に映る森を一瞬であるが十分に楽しんだ後、仮想の世界ゆえに疲れ知らずの肉体で飛び跳ねるように走り出した。

 目的地はゲームコーナー。とはいえ、学内ローカルネットに設置されるのは知育系やスポーツゲームのみである。ゲーマーたちにはそんな場所をゲームコーナーだと認めることすら拒絶されそうだが、スポーツゲームがあるのならばそれで十分だった。

 

 道中の広場でスノーブラックと呼ばれる美しいアバターの少女を中心に交流している生徒達の後ろを通り抜けて、コーナーについてからは知育ゲームをしながら駄弁っている生徒を脇目にゲームコーナーを上へ上へと登っていき、異常なまでに運動量を要求するが故に不人気となったスカッシュコーナーにたどり着いた。

 ゲームを起動して現れたラケットを握れば、テニスボールがどこからともなく発射されてスカッシュが開始される。

 

 打って打って打って打って、ボールが視認できる喜びを噛み締めながら打って、ボールに追いつける喜びを噛み締めながら打って、ボールを追い続けられる喜びを噛み締めながら打つ。

 ゲームレベルが進行することで速度が上昇する。ボールの像は最早球形から線へと変わっていた。

 それでも、見ることが出来るなら打てる。

 さらにレベルが上がり、ボールが分裂した。像は映っている。ならば打てる。

 さらに増えた。打てる。

 ボールが合体し、速度が急激に上昇した。まだ見える。

 

「ユキ!」

 

 ボールが跳ねる音とそれを追うために走り回る音しか無かったスカッシュコーナーに幼馴染の声が響いた。

 スカッシュには力を入れて臨んでいるが、知り合いを無視する程ではない。最後に次を考えない渾身のスイングでボールを打ち返してコートに背中を向けた。

 

「チユリちゃん、どうしたの?」

 

 倉嶋千百合。物心着く前からの幼馴染であり、健常者の被験者として二年前まで協力してくれていた恩人でもある。

現実の体を動かすのが大好きな彼女がフルダイブエリアにまで来るなんて珍しい。

 

「どうしたの? じゃないわよ!」

 

 いつまであんな奴らの言うことを聞いているつもりなのか。とチユリちゃんは言った。

 荒谷のパシリとなっておよそ半年。最初は受け渡し場所も人の目の少ない場所だったが、こちらが反抗しないのをいいことに荒谷たちは増長し、一般生徒の憩いの場となっている屋上での受け渡しを要求するようになっていた。

 こちらの狙い通りだということも知らずに。

 人の目に触れることは計画のうちだったが、そこにチユリちゃんが入っていたのは想定外だった。色々な意味で知られたくはなかったことだからだ。

 

「別に……。チユリちゃんには関係ないでしょ」

 

 少年院計画にチユリちゃんの存在は不要だ。その事について話に来たのだったらこれ以上の会話は無意味である。こちらとしては、何も話す気は無いのだから。

 

「関係っ……! あんた、逃げずに待ってなさいよ!」

 

 リンクアウト! と、叫んでフルダイブエリアから退出したチユリちゃんを見て、内心でヤバいと呟いた。逃げずに、つまり現実世界で移動せずに待っていたらめんどくさい事になりかねない。

 始まったゲームを放り捨てて追いかけるようにフルダイブエリアを退出した。

 

 VR空間と比べて酷く重い体でトイレの個室から飛び出して、逃げ出すべく男子トイレの入口の境界をまたいだ。あとはフリームーヴに乗ってどこへともなく消えればいいだけだ。

 

「あたし、逃げるなって言ったよね?」

「……あは、チユリちゃんは中に入ってこれないでしょ? 外で待ってようと思っただけだよ。それで、なんだっけ?」

 

 カバンから取り出したフリームーヴを床に置いて、振り返ってチユリちゃんのほうを向く。

 外で待つ分にはフリームーヴを取り出す必要は無いのだが、そこに指摘が入ることは無かった。

 

「もういいわ。ユキがあいつらのことに触れられたくないのはわかったし。でも、ユキはしっかりご飯食べてるの? あいつらが食べてるの随分高いでしょ。だから――」

「毎日しっかりカレーパンを食べてるよ」

「――あたし、お弁当作ってきた」

 

 ほら、とカレーパンの包装紙を取り出すのとチユリちゃんがちいさなバスケットを取り出すのは同時だった。

 

「そうだったんだ。ごめんね、あたしお節介ばっか――」

「このカレーパンの包装紙昨日のだった。毎日同じものを食べてると今日食べたのかも曖昧になっちゃうね。貰ってもいいかな?」

 

 正直、少食なのでカレーパンひとつでお腹はいっぱいだ。それでもチユリちゃんもこちらが少食であることは分かってるはずなので用意されたものはそこまでの量はないだろう。

 バスケットをカバンに仕舞って背中に隠そうとするチユリちゃんの動きを遮って、バスケットを受け取る。

 

「トイレの前では食べたくないし、移動しようか」

 

 チユリちゃんが作ってきてくれたのはアンチョビサンドだった。美味しいには美味しかったのだが、カレーパンとアンチョビサンドの二つで胃のキャパシティは限界だ。今日の夕食は抜かないとダメだな。

 

◇――◆――◇

 

 放課後、いつもならば日が高いうちに帰るのだが、今日は事情が違った。

 胃の中身が重すぎて帰宅中に角から人が飛び出したりして来た時に急停止する動きで吐く未来が見えたのだ。授業中は静かでよかったが、放課後ともなると教室は賑わう。体を休める為にも静かな場所――図書室で休憩中だ。

 

「やっぱり紙媒体の書籍は読めないな」

 

 昨今の電子化で紙媒体の書籍の数は減少傾向にあるが、それでも一定数は存在する。

 せっかくレアな紙媒体が集まる図書室に来たのだから読んでみようと思ったのだが、残念ながら読むことは出来なさそうだった。 

 

 本を閉じて机に置くと、小さくフルダイブコマンドを唱えて学内ローカルネットへと移動した。

 フルダイブ中は現実の体の感覚は喪失するため、胃の重さも忘れることが出来るからだ。

 向かう場所はスカッシュコーナー。感覚がないとはいえ現実の体は満腹なため避けようかと思ったのだが、ではどこに行くかと自問した時、別の行き先を浮かべることが出来なかったのだ。

 

 パコンパコンとボールをはね返していく。

 見えるなら打てる。見えるなら打てる。分裂しても見えているのなら順番にはね返していけばいい。さらに早くなっても見えるなら打てる。

 ピコン、とゲームレベルが上昇した音がした。それでも、見えるなら打てる。朧気な軌跡ではあったが、確かに見えていたボールはしかしラケットにかすることなく後ろに抜けていき、コートから出たところで掻き消えるように消滅した。

 

「見えたのに、打てなかったっ!」

 

 ゲームレベルを確認すると177と記されていた。このゲームをやっているのは自分一人だし、ここまで到達したのは初めてだ。

 当然、ハイスコアランキングで一位にあるのは自分の名前。そう、思ったのだがトップツーの記録は自分の名前ではなかった。

 一位、スノーブラック、ゲームレベル188。

 二位、スノーブラック、ゲームレベル182。

そして三位にレベル177の自分の名前が入り、四位にはレベル172のスノーブラックがいた。

 それより下には自分の記録がズラっと並び、レベル百を下回ると一度だけ遊びに来たのだろう生徒達の名前が表示されていた。

 

 三回で自分を上回る人物。しかも、最初のプレイだろう四位の記録だって昼休みまでの自分を抜いた記録だった。

 スノーブラック。梅郷中の生徒会役員であり、文武両道で人柄も良い。黒雪姫なんて名前が罷り通るくらいには外見も整っていて、にも関わらず自分よりもこの世界に適応している。

 天は二物を与えずとはいうが、どこにでも例外は存在するらしい。 

 別に、VR適正を誇っていたわけじゃない。スカッシュは荒谷たちから与えられたストレスを吐き出すためのものであり、ただの趣味だった。

 それでも、ここまで圧倒的に抜かれるとくるものがあるのは確かだった。

 

「あのバカげたスコアを出したのはキミか」

 

 どうやら、今日のスカッシュコーナーは人気があるらしい。聞き覚えはあるが聞きなれない声に顔を上げると、現実の姿をそのままトレースしてから改造したのではないかとおもうほどデジタル臭さのないアバターが立っていた。

 

「スノーブラック……」

 

 声なくつぶやくと、彼女はどれ? と、スカッシュのリザルトを覗き込んだ。

 

「驚いたな。最初の記録も抜かれるとは思っていなかったのだが」

 

 呟いたあと、黒い傘の先を剣のようにスカッシュのコートに突き立てた彼女は言った。

 

「もっと先へ……加速したくはないか、少年」

 

 あまりに突拍子のなく、要領を得ない発言に、こちらは呆然とするばかりだった。

 

「その気があるなら、明日の昼にラウンジまで来て欲しい」

 

 こちらの高身長の鳥人アバターの頬を指先でなぞってそう言った彼女は、瞬きをした次の瞬間には消え去っていた。

 いっそ幻覚なのではとすら思う出来事だったが、ローカルネットの接触不可能設定の壁を貫いて頬に残された指先の体温は紛れもなく現実だった。

 

「加速……」

 

 繰り返してみるが、その意味はわからなかった。ただ、同年代のそれとは明らかに違う雰囲気を纏った彼女ならばこちらの問題を解決する手段を知っているかもしれないと思った。

 呼び出しに応じる対価として、質問のひとつくらいはさせてもらおう。

 そう思って仮想世界を離脱すれば、胃の重さはいくらかマシになっていた。

 窓から外を見れば日も落ちてきている。これ以上待機すれば帰るのも難しくなってしまうので、さっさと家に帰ることにした。

 スパイスを効かせた特製のビーフシチューを温め直して翌日に持ち越せるようにしたらすぐに寝てしまおう。どのみち、今晩食事できるお腹の具合ではないのだから。




もうちょっと書き終わってから投稿しようかと迷いましたができるだけ早く出したいと思い投稿することにしました。
自分の書いた文章を元に書いていくのは三次創作を書いているような気にもなりますね。


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ぶち壊れた現実とぶち壊した人生

書かないといけないところが上手くかけてない気がすると悲しいけど初投稿です
対戦は次かその次くらいになるかと思います


 目が覚めたのは午前三時だった。

 早く起きすぎてしまったかと思ったが、睡眠時間を数えてみると九時間ほども眠っていたようだ。遠足を前にした子供のような心は失われているようだった。そもそも、経験したことすらないため最初から持っていたのかすら不明だが。

 

 ビーフシチューに火を入れ、その間に湯を沸かす。朝はコーヒーを一杯飲むのがルーチンワークだ。とはいえ、ブラックでは飲めないので砂糖を加えて飲むのだが。ミルクは加えない。それではせっかくの香りが薄まってしまうから。

 全粒粉を使った香り高いパンを軽く温めてさらに香りを引き出すと、自信作で三日目のビーフシチューと一緒に食す。

 さすがに食材の痛みが怖いので残ったシチューは今日のお昼に学校に持って行って食べてしまおう。

 早食いではないが、そもそもの食事の量が多くないために十分ほどで完食すると、洗浄機に皿を移して配布された課題を始める。

 課題の時間は朝起きてからというのが基本だった。

 一時間半程で課題をおわらせると、登校まで暇な時間ができてしまった。

 いつもならば課題が終わって少しすれば登校の時間となるのだが、早起きした今日はそうでも無い。

 

 ふむ、と頷いて。ギョウザのタネを冷蔵庫で寝かせると美味しくなるという情報を小耳に挟んだのを思い出した。

 手間がかかる料理は土日で作るが、ここまで時間があるのならタネを作っておけば夜に数個を皮に包んで餃子を食べられるだろう。

 既に夕飯は餃子の口だ。少食ではあるが、食事には人一倍こだわりがあるのだから夜に餃子以外は受けつけないだろう。

 

◇――◆――◇

 

 昼休みの訪れを告げるチャイムが鳴った。昨日ときっかり同じ時間に荒谷からメールが送られてきたが、それは開くことなく証拠フォルダへと転送しておいた。 

 今までは用事がなかったから従っていたが、こちらの問題を解決できる可能性がある人からの呼び出しを受けている身である。彼らのパシリをして時間を無駄にする気は毛頭なかった。

 一日くらいならば無視したとしても荒谷も問題を起こすことは無いだろう。

 

 教室を出て階段を降りて一階まで移動すると、そのまま購買を通り過ぎてラウンジへと向かった。

 日差しが差し込み、丸テーブルが余裕を持って置かれているラウンジは梅郷中の中で最も上等な空間であると言われている。そのため、一年生は利用しないという暗黙の了解があるのだが、それを知っていてなおこの場に呼び寄せた彼女はいい性格をしていると言えるだろう。

 人混み、というほど混雑している訳では無いが少なくない人がいる中でフリームーヴを利用するのは困難だ。ラウンジの手前で降りてバッグに仕舞い込むと、ザ・私立校のお嬢様といった感じの上級生に声をかけられた。

 こちらのネクタイの色で下級生だと知った上での声掛けは、わずかな不満を滲ませていた。下級生が踏み込むなと言いたいのだろう。去年は彼女もこの場に踏み込むことが許されなかったはずだ。だからこそ、許せない。 

 だが、それでもこちらはこのラウンジの一番奥にいる彼女に用があるのだった。

 先輩に用があるんです。と、軽くあしらって浅く礼をすれば、それだけで上級生は引いてくれた。

 そもそもラウンジの利用制限は校則でもなんでもなく、ただそういう空気ができているだけであり、無理に従わせることなど出来ないからだ。

 

「こんにちは、先輩。座ってもいいですか?」

 

 入口の女生徒同様の視線を投げかけてくる生徒達の中を抜け、奥で紙媒体の書籍を読んでいる彼女に声をかけた。

 顔を上げた彼女は目を丸くしたあと、一瞬間を開けて構わないとも。と、着席を促した。

 

「驚いたな。まさかこの中を抜けてこれるとは思わなかったのだが」

「そう思って呼び出したのならなかなかのサディストですね。それで、呼び出した理由を聞かせてもらいたいのですが。加――」

「まあまて。その話をする前に、これを受け取ってもらえないか?」

 

 加速。という言葉を遮って彼女が差し出してきたのは彼女のニューロリンカーに片側のプラグが刺さっている有線直結用の接続端子だった。

 

「先輩はこちらのことをある程度把握しているのでしょう。その上で聞きますが、自分にそれを差し出す事の意味は理解していますか?」

「勿論だとも。キミが私たち以上にニューロリンカーを大切にしているということは把握している。密談だけならば思考発声を用いた通話をしても良いのだが、今回ばかりはこれが必要なのだ。初対面の私を信頼しろとは言えないが、どうか受け入れてもらえないだろうか」

 

 有線直結通信。互いのニューロリンカーを専用のコードで繋ぐことを指す。

 ほかの電子機器でもそうであるように、無線接続とは違いおよそ全てのセキュリティを無視した操作を行うことが出来るようになる。

 それは、現代人にとってはプライバシーの全てを直結相手に晒すという意味を持っていた。

 勿論、エンジニアなどがメンテナンスのために自身のニューロリンカーとメンテナンスをするニューロリンカーを直結する場合もあるが、その場合の接続先のニューロリンカーは相手の首にはない。

 そんなこともあり、現代では互いの首にニューロリンカーが装着された状態での直結は恋人同士などといった深い信頼関係にあるということの証なのだ。

 

 そして、ニューロリンカーを大切にしている……依存していると言っても過言ではない自分は、相手の首にニューロリンカーがある状態での直結は誰が相手でも基本的に許したことは無かった。

 

「……分かりました。その代わり、そちらの話が終わったらこちらから一つ質問をしてもいいですか?」

「構わないとも。私の話にキミがどのような回答をしようとも、キミの話に真摯に対応することを誓おう」

 

 その言葉を聞いて端子をニューロリンカーに挿入した。有線直結を告げる警告表示が出るが、いまさら読むまでもなく、そちらには全く目を向けずに先輩をじっと見つめていた。

 

『そこまで見つめられると流石に照れるな』

『こちらが自衛のために先輩が怪しい行動をしないか見張っているのを理解しての発言ならば、先輩の心臓には毛が生えているのでしょう』

 

 そういう間にも、彼女の手は一ミリも動かなかったし、視線だってこちらに向けられたまま、一ミクロンだって動かなかった。

 ニューロリンカーの操作を完全に思考のみで行うことは出来ない。ハンドモーション、あるいは視線。もしくはボイスコマンド。それらがなければニューロリンカーで何かを行うことは出来ない。

 つまり、先輩はこちらになにかする気は無いと行動で示しているのだ。

 

『私も乙女だぞ? 心臓に毛が生えているなんて言わないで欲しいものだな』

『それはすいません。それで、直結までする必要がある用とは一体?』

『うむ。それを話すためにはキミにひとつのソフトを送信しなければならない。そのソフトはキミの現実を完膚なきまでに破壊し、そして劇的に再構成するだろう。受け取ってもらえるか?』

 

 これが、最初の分岐点。ここで拒否したとしてもこの後のこちらからの質問にはきっと誠実に答えてくれるのだろう。ならば、他人からソフトを受け取るなどというリスクのある行動はしなくても良い。

 だが、現実を破壊し、再構成するという言葉に強く惹かれ、思考の間もなく瞬時に頷いていた。

 

【BB2039.exe を実行しますか? Y/N】

 

 先輩が空中に一度だけ指を滑らせると、こちらにはそのようなウィンドウが表示された。

 実行ファイル名から何かを読み取ることは出来ない。ならば考えるだけ無駄だ。受け取ると言ったのだから、受け取ればいい。思考を挟まず先輩と同様に最低限の動作で実行すると、こちらをじっと見つめるその瞳にわずかな驚きが見えた気がした。

 

 直後、互いの視線を遮るように仮想の炎が舞い上がった。炎はゆらりと漂い、そして一つの塊になるように集結し、そして弾けるとひとつのタイトルロゴを作りだした。

 

『《BRAIN BURST》……随分と容量のデカいソフトですね。インストールに三十秒もかかるソフトなんて今日日なかなかお目にかかれませんよ』

『無事にインストールできたようで何よりだ。適正の確信はしていたが、いざとなると不安だったのだがね』

『適正? 容量の問題ではなく?』

 

 尋ねると、このソフトは高レベルの脳神経反応速度を持つ者にしかインストールは出来ないという答えが返ってきた。利用ができない、ではなくインストールが出来ないとは驚きである。

 

『このソフトのことだが、口で説明するよりも実際に体験する方が理解できるだろう。私に続いて唱えてくれ』

 

 わかりました。と返事をする前に、賑やかでありながら静かなラウンジに相応しくない声が響いた。

 

「てめぇ、めく……雪月! バックれてんじゃねぇぞ!」

 

 はあ、と溜息を吐く。どうやら荒谷は一日も我慢できなかったようだ。

 不良にはラウンジの不文律などなんの効果もないのか、不快だと目で語る上級生たちの視線を浴びながらズンズンとこちらに歩いてくる。

 

 これではこちらの少年院計画がおじゃんではないか。だが、今の状況ならばそれを早めることが出来るかもしれない。多数の生徒の目と、そしてソーシャルカメラの監視下にある状況。学校の人気者である先輩と直結しているという状態。

 ここまで揃っているのなら役満だ。そう思うと、心の奥底に閉まっておいたはずの邪悪が浮かび上がってくる。

 

「ナメてんじゃねぇぞ!」

 

 恐らく、隠しきれなかった笑みが見えたのだろう。今にも爆発しそうな顔をして荒谷が叫んだ。

 

「キミはたしか、アラヤくんだったな」

 

 学校の人気者である先輩の言葉は、そんな荒谷の爆発を僅かに抑制してみせた。

 しかし、続く言葉は人気者であり人格者であるとされる彼女の口から出たものとは思えないものだった。

 

「雪月くんに話は聞いているよ。間違って動物園からこの中学に送られてきたのではないかとな。……あまりの低能さはチンパンジーにも劣るのではないかとちょうど話していたところだ」

 

 先輩の言葉に便乗して、二つのファイルを空間に投影する。それは、今までに送られてきたビデオメールのうち一通と、送信日と同日のレシートがひとつだった。

 

「猿だって悪いことする時はバレないように気をつけるんじゃないかな?」

 

 この言葉が起爆スイッチだった。

 煽った甲斐があり、荒谷は右拳を高く振りかぶったのだ。これで暴力事件が発生。余罪は恐喝が確定。ソーシャルカメラの範囲内での出来事だ。言い逃れはできない。

 ただ、この後にどうするかは決めてなかった。頬を殴られたらそのまま首までやってしまって死ぬんじゃなかろうか?

 

『叫べ、《バースト・リンク》!』

『バースト・リンク!』

 

 ほとんど反射的にその言葉を唱えると、とてつもない衝撃音が世界を揺るがした。荒谷の拳が急加速して頬を殴りつけてきたのかと思うほどだった。

 その音と共に世界がモノトーンの青に染まった。そして、一秒後にはこちらの頬を殴り抜いているだろう荒谷の拳が止まっていることに気がついた。 

 いや、拳だけではない。荒谷も、ラウンジの生徒達も、そしてラウンジから見える中庭の風に揺れる草花たちも。

 

 その世界は、青く染まっていることと停止していること以外は紛れもなく現実世界そのもので、しかしこの世界は確実に仮想世界だった。それは鮮明に映る景色が証明している。 

 そして、ラウンジだけではなく、写真で切り取ったかのようにそこにいた生徒達までも存在するこの世界は最初からモデリングされて用意されていた世界などではなく、この瞬間に切り抜かれ、生成された世界なのだと理解出来た。

 

「完成していた! 存在していた! なのに、なぜ届かない!! 作れたのはこれに劣る劣悪なものだけ! ソーシャルカメラを正しく使うことが出来ればこんなに綺麗な世界を作れるというのに……!」

「落ち着け、雪月くん」

 

 先輩に諭されて、何とか落ち着く。しかし、ブレインバーストへの興味は増すばかりだった。この世界の元となったのがソーシャルカメラの映像であること以外は全く理解ができないのだから。

 

「この世界は?」

「加速世界。ブレインバーストが我々の意識を千倍に加速すると同時に、ソーシャルカメラの映像を元に生成した世界だ」

 

「ソーシャルカメラ単体でここまでリアルな世界が作れるのか……。カメラの死角は?」

「推測補完されているよ。この机の裏を見てみるといい」

 

 覗き込んでみれば木製の机の裏は、まるでプラスチックのようなのっぺりとしたポリゴンとなっていた。

 デザインはともかく、形がここまで正確なのはさすがだと言わざるを得ない。

 ソーシャルカメラの性能の十パーセントも引き出せていなかったという訳だ。

 

「加速とは?」

「文字通りの意味だ。止まっているように見えるこの世界は現実の千分の一で動いているのだよ。ほら、ほんの僅かだが拳が動いているぞ」

「どんなロジックなんです? ニューロリンカーにそんな機能があるとは聞いたことも無い」

「ふむ。キミはニューロリンカーの作動原理を知っているか?」

「もちろん。必要にかられて勉強しましたから。お陰で盲目の人間の視覚をニューロリンカー単体で補完するのは不可能だということも理解してしまいましたが」

 

 僅かでも視力があるのならば量子接続によってその瞳が捉えた映像がニューロリンカーに送られ、ニューロリンカー内蔵のカメラが捉えた映像を元に鮮明化や補完をすることが出来るが、元となる映像がなければどうにもならない。ニューロリンカー単体では人の瞳の代行をすることは出来ないのだ。

 そこで目をつけたのがどこにでもあるソーシャルカメラ。母の伝手でアクセス権を得て、知人であり恩人である人にシステムの構築を手伝ってもらい、チユリちゃんに頼んで健常者がニューロリンカーの補助を受けた場合の視覚を把握して、試行錯誤した結果が今使っている補助ソフトだ。

 尤も、欠陥品……というより未完成品であることを今突きつけられたのだが。

 

「……聞いていたか?」

「すいません。自分の不甲斐なさを再認識していたところです。……要は、人間に備わってる機能の倍率をニューロリンカーを用いて跳ね上げると同時に負荷を無くしているって訳ですね?」

「ざっくり言ってしまえばな。と、そろそろ時間だな。このまま話していてはキミが殴られる姿をスローで見ることになってしまう」

「解除コマンドは? 殴られるのはいいですがそれを観賞する気はないですよ」

「避ける気は無いのだな? この力があればこの拳を容易く回避し、逆に攻撃は全て当てられるようになるぞ?」

「まさか。荒谷を少年院に送るために今まで我慢してきたのに今更台無しにはしませんよ」

 

 言って、しまったと思った。他人を犯罪者にするために行動をする人間なんて碌でもない人間だ。折角ブレインバーストというソーシャルカメラが捉えた映像を十全に扱うソフトを知る人間に会えたというのにそれが原因で話を聞けなくなるのは避けたかった。

 

「なるほどな。キミに関する情報と実際の印象が噛み合わなかったのはそのせいか。私はいいと思うぞ。その為にも、キミに一つアドバイスをすることにしよう。加速が切れたら右後方に飛べ。あとは私が上手いこと進めてやる」

 

 自分の右後方、そこではテーブルを挟んで先輩が椅子に座っていた。たしかに、一人より二人だ。だが。

 

「分かりました。先輩は怪我はしないでくださいね。取り巻きの人達が荒谷みたいになるのはゴメンですよ」

「煩わしい一部を君にけしかけて排除するのも悪くないかもしれないな……。冗談だ。怪我なく進めるとも。それでは、加速解除コマンドを教える。上手くやれよ」

 

 バースト・アウト。と、先輩が発声すると、加速世界からその姿が掻き消えた。

 さて、首がポッキリ逝って死なないように衝撃を逃がさないとな。

 加速が切れればここまで鮮明に状況を理解することは出来ない。だから、今のうちに記憶しておく。

 

「よし。バースト・アウト」

 

 加速世界から抜け出ると、直後に頬に痛みを感じた。衝撃を受け流すように首を回し、そして右後方へと跳ぶ。しかし拳が完全にふり抜かれた瞬間、意識が暗転した。

 どうやら、貧弱な肉体は衝撃を逃しても荒谷の拳に耐えられなかったらしい。



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非日常は連鎖する

対戦は次回です
おそらく今回限りの登場となるだろう主人公以外のオリキャラが一人登場します(今後も別のオリキャラは登場の可能性あり)


「どこだ……」

 

 寝かされていたベッドから起きあがり、首元のニューロリンカーのカメラを動かすために上半身を捻って周囲の確認をする。

 これが健常者ならば眼球をグリングリンと動かすか首を軽く捻るだけでいいと言うのだから羨ましい。

 ニューロリンカーから送られてくる映像の鮮明化に成功したとしてもこの視野の狭さだけはどうにもならないだろう。

 

「起きたか、雪月くん。それにしてもキミは見た目以上に軽いな。私も吹き飛ばされようと思っていたのだが余りの軽さに受け止めることが出来てしまったよ」

「それは良かった。先輩に怪我をさせたら大変ですからね。それで、荒谷は?」

 

 ベッドサイドに腰掛けていた先輩からの説明では、計画は狂ったが気絶した被害者がいた事で簡単にコトを進めることが出来たらしい。荒谷は既に警察署へ送られており、先輩が機転を効かせてこちらのニューロリンカーから抜きとったビデオメールとレシートを提出したことで暴力事件と合わせて少年院行きは確定だそうだ。

 さらに、十中八九出てくるだろう梅郷中の不良の中で流通してる違法ソフトの類いなんかもあれば少なくともこちらの在学中には出てこれないだろうとのこと。

 そいつはよかった。決め手となるのが違法ソフトな気もしなくはないが、それでも結果に変わりはないのだから。

 

「それで、先輩はどうしてここに? 何時間気絶していたのかは知りませんが授業中のはずでは?」

 

 保健室の窓から射す陽の光は明らかに昼のそれであった。間違いなく授業中のはずだ。

 

「ん、保険医の先生が勘違いの末に気を利かせててな。私達は既に早退済み、ということになっているよ」

「あー、そうですか。そういえば、先輩からの頼みってなんだったんですか? コピーインストールをすること……なんてわけないですよね? こっちの問題のせいで話が中断されまいましたし」

 

 たしか、ブレインバーストの機能の説明に入るところで荒谷が来たはずだ。説明の後にはブレインバーストを用いた、あるいは関連した頼みが先輩にはあったはずである。

 

「その事だがな、アレにはまだ秘められた機能があり、その機能に関する問題なのだ。機能の解放には一晩眠る必要がある。明日、もう一度説明をしようと思うのだが構わないか?」

「構いませんが、新規ユーザーの自分が手助けできることなんですか?」

 

 加速以外に機能があることも驚きだが、その機能で見ず知らずの男と直結する必要があるほどの問題に直面するというのも驚きだ。

 もしかしたら単純に、新規ユーザーを招待することで先輩に何らかのメリットがあると言うだけなのかもしれないが。

 

「勿論だ。頭数が必要でな。一度限りのコピーインストール権を使って失敗してしまうのを避けるために色々と計画を立てたものだ」

「スカッシュのインチキとか?」

「うむ。……インチキした記録を抜かれるとは思っていなかったがな。複数回記録を重ねておいてよかったと思うよ」

 

 個人的には、スカッシュの記録よりも先輩の雰囲気に惹かれてラウンジに行ったわけだし、スカッシュの記録が無くてもこうなっていたと思うけどね。

 というか、今コピーインストールは一度だけと言ったか? インストール条件を考えるとブレインバーストのユーザーはそこまで多くないのかもしれないな。

 

「そういえば、キミからの質問とは一体なんなのだ?」

「同年代らしくない雰囲気の先輩なら視覚補完のアップグレードの糸口を見つけてくれるんじゃないか、と思ってましてね。ローカルネットのアバターも綺麗でしたし。そっち方面の知識も人並み以上にありそうだと。まあ、あのソフトの存在が糸口そのものですけどね。あんなに綺麗に即時生成できるとは思いませんでした」

「そうだったのか。しかし、キミが本来しようとしていた質問が解決したとはいえ、質問の権利が消失する訳では無い。なにか聞きたいことがあれば聞きに来るといい」

 

 うーむ。他に特別質問したいことなんてないぞ? だからといって後回しにして何ヶ月後かにってのも違うだろう。こういう口約束はさっさと履行するに限る。

 

「あ、それじゃあ先輩の好みのタイプを教えてください」

「な、なんっ!? キミはそんな質問で本当にいいのか? 先の質問とは随分と気色が異なるが」

 

 目を見開いて驚いた先輩は咳払いを交えつつそう言った。

 

「こういうのって残しておくとめんどくさいですしね。学校の人気者である先輩の理想が知れるなら男子生徒どころか一部の女生徒も発狂して喜ぶんじゃないですか?」

 

 あの荒谷でさえも先輩に名前を呼ばれた時には嬉しそうな表情をしていたし。まあ、直ぐに怒りに呑まれたんだが。

 

 その後、吃りながら語った先輩の異性のタイプはなんともつまらないものだった。『好きになった人が好みの外見』『引っ張ってくれたりしてくれる人が良いが、やはり好きになった人がタイプ』纏う雰囲気なんかからは想像もつかないメルヘンな恋愛観である。それに、あだ名に違わずお姫様願望も多少あるようだ。

 

「なるほど、この情報を売って回ることは?」

「ダメに決まっているだろう!?」

 

 まあ、売る相手が居ないのだが。精々チユリちゃん程度か? しかしチユリちゃんは同性愛者ではないし、そもそも彼氏持ちだ。買うことは無いだろう。

 

「ふう。そろそろ調子も戻ってきましたし、帰ることにします。今日はありがとうございました。明日も昼にラウンジでいいですか?」

「……そうだな。ラウンジで待っているとするよ。ああそうだ。学内ローカルネットから切断されたらグローバルネットには接続せずに、ニューロリンカーを首に装着したまま登校まで過ごすように」

「今なんて?」

 

 気のせいでないのならばグローバルネットに接続するなと言われた気がしたのだが。

 

「ニューロリンカーを装着したままグローバルネットには接続せずに登校までの時間を過ごすようにと」

「先輩は車にはねられて死ねと仰るので? 交通ナビもグローバルネット経由のソーシャルカメラによる視覚補正もなしに街を歩いたら一瞬で死にますよ?」

 

 元々ソーシャルカメラのない自宅ならともかく、人も車も沢山ある街中でニューロリンカーのカメラから送られてくる映像一つだけを頼りに帰宅をするとしたら十回は死ねる自信がある。

 そもそも何故そうしなければならないのだろうか。

 

「すまない。失念していた。うむ、それならば今日明日は私が登下校に同行しよう。それなら問題ないか?」

「まあ、はい。そもそも何故グローバルネットに接続してはいけないんです? そこを解決できるのなら先輩に手間をかけさせることも無くなると思うんですが」

「早い話が同ソフトユーザー同士の通信が発生する可能性があるからだな。そこで相手よりも有利にコトを運ぶには色々と説明する必要があるが、翌日にならなければ説明のしようもないのだ」

「そですか。じゃあエスコートお願いしますね」

 

 加速を使ったユーザーとの通信なんて考えたくもない。何をするかは不明だがニュービーがレクチャー無しに踏み込めば酷い目に会うのかもしれないと考えれば、グローバルネットに接続しないことは最大の防御作なのだろうと思えた。

 

◇――◆――◇

 

「あら雪月、こんな時間にどうしたのよ? 美人さんと一緒に中抜けなんてビックリだわ」

 

 先輩のお陰でグローバルネットに接続することなくエントランスまでたどり着いたところで、中から出てきた白衣の影に声をかけられた。

 体を逸らして首のニューロリンカーのカメラを上に向けて顔を確認すれば、わかっていたことだがそこに居たのは我が母、ミーミだった。

 

「ミミちゃんこそどうしたのさ、今月は上野で缶詰だって聞いたけど?」

「可愛いわが子が不良に殴られたって聞いたじゃない? 全部丸投げして帰ってきちゃったわ」

「ところでミミちゃん、酔ってるよね?」

「酔ってないわ」

 

 この女! 息子をダシにして酒を飲みに帰ってきやがった!

 酔ってないという時は確実に酔っているのだ。酒を一滴でも飲めば酔いが回るのが我が母なのだから、本当に酔ってない時は飲んでないというのだ!

 

「それじゃあ先輩、今日はありがとうございました」『コレに絡まれないうちに早く帰ることを強くオススメします』

「ああ、先走ることのないようにな」『親子水入らずを邪魔しないように退散させてもらうとするよ』

 

 直結していたコードを抜いて先輩に返却すると、彼女はミミちゃんにペコリと礼をして踵を返して行った。

 

「あ、お姫さ――」

「ミミちゃんは食事はどうするの? 冷凍してある食材を溶かせばなんとか用意できると思うけど」

 

 先輩を追いかけようとする母親の前にスライドして妨害する。ついでに大好きな食事についての話題を振ることで意識をこちらに向ける。

 少食なくせに料理にうるさいのは母からの遺伝なのかもしれなかった。

 

「何用意してんの?」

「ギョウザ」

「うん、食べる。それじゃあわたしはお酒買ってくるわ」

 

 じゃねー、と横をすり抜けられたが先輩は既に離れているだろうし、母は目の色を変えてギョウザに食いついたのでこれで一安心だ。 

 無人となったエントランスを抜けて自宅の扉を開け、着替えた後に今日の弁当を取り出した。

 結局ラウンジでの出来事があったために食べられなかったシチューだ。入れ物の保温性能のおかげか、そこまで冷えてなかったが皿に移して温めることにした。

 その間に餃子のタネの確認やその他の材料の確認をしていたのだが、皮がないことに気がついた。

 

「そういえば帰りに買ってこようと思ってたんだった」

 

 ミミちゃんに連絡……は、グローバルネットに接続が必要だし、後で買ってくるしかないか。

 視覚補完のことを無しにしてもグローバルネット不接続はかなり不便なことがわかった。

 ブレインバーストは加速の代償に危険を与え、安全でいたいのならば不便を受け入れるしかないソフトなのかもしれない。

 それも、ユーザー同士の通信の内容次第ではあるのだが。

 

「ただいまー! お姫様拾ってきたぞー!」

「お、お邪魔します」

 

 ……嘘でしょ。ミミちゃん破天荒すぎ。

 慌てて玄関まで行くと、ミミちゃんの言葉は虚言ではなく、先輩の声は空耳ではなかったようだ。

 

「……いらっしゃい、先輩。そういえばお昼は食べましたか?」

「コンビニで買おうと思ってたところで母君に捕まってしまってな」

「雪月シチュー冷凍してあるでしょ? 出したげて」

 

 そういうことになった。 

 冷凍のシチューはミミちゃん用のため、スパイスは少なめだ。先輩でも問題なく食べられると思うが、それでいいのだろうか。

 

 キッチンに引っ込み、シチューの解凍作業をしながら適当なおつまみを作成する。

 ミミちゃんのことだから先輩が食事しているのを見たら自分も飲み始めるに決まっているからだ。

 それにしても、向こうでは何を話しているのだろうか? 先輩に失礼がないことを祈るばかりだ。

 

「お待たせしました。パンが多いかもしれませんが余らせても全然問題ないので」

 

 自分の分と先輩の分を机に運び、ミミちゃんにはフランスパン三本に明太マヨやチーズ、バターなどを載せた皿を渡しておく。

 焼いたりするのは自分でやってくれという意思表示だ。

 

「まだシチューある?」

「ミミちゃん規格で冷凍してたから一人前くらいはあるんじゃないかな?」

 

「すいませんね、あんな母で」

「元気でいいではないか。ところで、これはキミが?」

「はい。口に合うといいですが」

「いや、随分と美味しそうだ」

 

 いただきます。と、手を合わせて食べ始める。

 ミミちゃんがキッチンに引っ込んでいるため静寂が食卓に降り立った。

 

「……おいしい」

 

 先輩のその言葉は誰に聞かせる気もなかったものなのだろうが、静かすぎてこちらの耳にまで届いてきた。 

 返事をする訳では無いが、口にあってよかったと内心で胸をなでおろして食事を再開した。

 

「どう姫ちゃん? うちのシチューは美味しいでしょ?」

 

 ミミちゃんがシチューに浸したパンを齧りながら戻ってくるなり先輩に感想を求めた。……いくらなんでも行儀が悪すぎる。

 

「ん、とても美味しいです」

「でしょー? 本人がスパイスキチだけど普通に作らせれば美味しいものが出来るのよこれが。婿にどう? ハンデはあるけど家事能力は十分よ?」

「あんま先輩を困らせないように。それに、相手は完全にハンデを克服してから自分で見つけるからミミちゃんが心配することじゃないから」

 

 だって、とミミちゃんが先輩の長所を羅列していく。褒め言葉の羅列に先輩の頬が僅かに朱に染まった。

 確かに見た目はいいし成績だって優秀、ニューロリンカーについて語れる程度にはこちらはの理解もある。性格だって外面は取り繕えているし、時折垣間見えた本当の顔だって個人的にはイイとおもうが……。

 

◇――◆――◇

 

「そろそろ日も暮れますがどうします? 泊まっていくというのならミミちゃんの未使用の服なんかはありますしウチとしては構いませんが」

 

 先輩の家がどこかは知らないが明日の朝に迎えに来てもらうのならば泊まってもらう方がいいのかもしれない。

 

「ん、そろそろお暇させてもらうとするよ。なかなか帰って来れない母君との時間を邪魔してしまってすまなかったな」

「いや、それを言うならこっちこそ申し訳ないです。一応フォローするなら友達がほとんど居ない息子がかわいい女の子を連れてきたから張り切ってしまった……のかもしれません」

「そ、そうか。では、また明日迎えに来る。八時前辺りで問題ないな?」

「はい、それでお願いします。……ミミちゃんが戻ってくる前に」

 

 帰宅準備を始めた先輩を手伝い始め、玄関まで見送るとその扉が外側から開いた。

 

「ギョーザの皮買ってきたよー! ん? 姫ちゃん帰っちゃうの?」

「は、はい。親子水入らずの邪魔になってしまうかと思いまして」

「ギョパだよ? おうちの方にはわたしからもお願いするから泊まってってよ」

「ミミちゃん、あんま先輩を困らせるようなこと言わないで」

 

 なんでこんなタイミングで帰ってくるのだ。先輩が帰るなら安全に帰れるようにと前もってミミちゃんに買い物に行かせていたというのに……!

 

 その後、ミミちゃんのあまりの気迫に折れた先輩はギョウザを食べたあとにタクシーで帰るということで折衷案としたのだった。

 ほんと、ごめんなさいとしかいいようがなかった。




こんなに会話文が多い作品は初めて書いているのかもしれません
会話文が読みにくかったりしたら教えてくれるとありがたいです

あと食事方面にピントが寄ってるのは序盤だけの仕様となっています


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世紀末な世界と世紀末な夜の話

「……なんだ、ここ」

 

 目が覚めた時、立っていたのは荒廃した世界……と言えばいいのだろうか? 世紀末な感じのあふれる薄暗い都会の通りだった。

 そもそも、目が覚めた瞬間に立っているのがおかしいのだ。何となく悪夢を見た時の感じと体調が似ているし、もしかしたらまだ夢の中なのかもしれない。

 そう考えれば、首を捻って顔を動かせばそれだけで周囲を見渡せることにも説明がつく。

 あるいは、仮想世界の中だということも有り得るがいくらミミちゃんでも寝ている息子をVRポッドにぶち込むことは無いだろう。

 

 今までは夢といえば現実世界のことに関連するものが多かった。それが悪夢となれば尚更だ。

 しかし、今回は視覚情報の上部にはAR情報が表示されている。これは……格ゲーだろうか。中央にカウントダウン、その左右に一本ずつ二本のゲージ。

 その下にはシャドウ・オウルとアッシュ・ローラーと書かれたキャラクター名か、アカウント名を示すだろう名前が。

 画面の構成的にこちらがシャドウ・オウルなんだろうが、シャドウとアッシュならアッシュの方が良かったかな。

 なんて思いながら夢の世界を旅するために一歩踏み出そうとすると、異質な感覚を感じた。

 浮いてる? いや、違う。浮いていること自体も慣れない感覚だが、何度か体験したことはある。

 膝がない。足が曲がらない。なんなんだこのアバターは。中の人が思ったように操作できないアバターなんて素人の作品にも程がある。関節の設定は組立の基本、初歩の初歩だろうに。

 あと、目で見れる仮想世界でのみ許された動作である首を曲げて視線を下ろすという動きで下肢を確認した感じ、黒くて細い。いや、これは平べったいのか?

 そんなアバターでも移動することは可能だった。普段から使っている重心制御移動補助機械のフリームーヴのように重心を傾けるとその方向に移動できたのだ。

 方向転換も……できる。思考のみで方向転換ができる理由は不明だが、二十年前のゲームで移動スティックとカメラスティックを同時に倒した時のようなその場で回り続ける動きが可能だった。

 夢だからと納得してしまうのは容易いが、夢でその動きができるということは人間にはそれを行う神経が存在する可能性がある。

 実際に存在する能力を使って動いているのならばこれを現実に持ち帰って量子接続で機械に命令できるようにすることが出来れば生活がさらに楽になるだろう。

 まあ、貧弱な肉体なのは何らかの障害があっての事ではない。幼い頃から仮想世界に浸りっぱなしだったせいで体力がなく、体力がないから運動ができないというスパイラルにハマっているだけなのだから。日常生活をさらに楽にしたいのならば動体視力が絶無でもできるトレーニングを頑張ってすればいいだけである。

 

 折角の明晰夢なのだからと思考を切り上げて移動を開始すると、この世紀末世界は我が家の周りをかなり正確に再現していることがわかった。

 世紀末風に改変されてるが道の走り方なんかがモロである。

 夢でこんな世界を構築できるくらいには自宅周辺をキッチリ把握していたのだなと自賛していると、炎の弾ける音以外には無音だった世界に継続的な轟音が響いた。

 

「バイクか?」

 

 ミミちゃんの帰省ついでに外国を回った時に耳にした内燃機関を用いた内臓を震わせるようなエンジンの音に似た聞き覚えがある音だった。

 世紀末風にアレンジされて壊れている建物たちから車道に視線を動かしてみると、その向こう側に何人かのヒトガタの影があるのがわかった。

 ロボットと世紀末のクロスオーバー? 我ながらすごい世界をつくりあげたものだ。世紀末といえばモヒカンと筋肉だろうに。

 

「なーんか見たことある気がするんだよな、アイツ」

「俺も。ただ名前は知らないぞ?」

「シャドウってどこの黒寄りだ? 見た目的に青かね」

 

 大通りの向こう側だと言うのにすぐそこにいるように見える手振りで彼らが話しているのは分かったが、バイクの音で声までは聞こえなかった。

 

「久々の世紀末ステージでラァァッキィィ!」

 

 エンジンの音に負けない世紀末な声が聞こえて振り返ると、こちらに向かって歩道に乗り上げたバイクで突進してくる骸骨マスクが見えた。

 

「うっ――」

 

 嘘だろ、と発声する間もなく撥ね飛ばされ、世紀末化した店舗の脇にあったフェンスブロックに叩きつけられた。

 

「痛い……」

 

 夢で痛みは感じないって嘘だったのかよ。それでもバイクに撥ねられてコンクリートに叩きつけられてこの程度と考えれば夢は痛みに鈍感になる世界というだけなのかもしれない。

 足同様に肘関節のない平べったい板となった腕をどうにか地面につっかえて起き上がると、バイクは急ブレーキによるタイヤと地面との摩擦によって白煙を上げながらターンしている所だった。

 また突っ込んでくるつもりかよ。壁を背後にできればバイクで突っ込んでくることがなくなるかもしれないが、位置関係的に不可能。

 少なくともコンクリートの破片が散乱しているこの場よりも車道の方が避けやすいだろうと最大限に重心を傾けて移動を開始した。

 

「オマケに相手は紙装甲のニュービー。メガラッキィィ!」

 

 こちらの横移動にも問題なくハンドルをさばいて叫びながら突っ込んでくる声で思い出した。

 そう言えばこれロボットと世紀末をクロスした格ゲーだ!

 バイクが迫ってくるのに合わせて跳躍しようとしたが、ホバー移動のためか跳ねるような動きが出来ずに足先がバイクの前輪に引っかかってしまい、へそを軸に横回転しながら吹き飛ばされた。

 視界上部のゲージを確認してみればシャドウ・オウルの名前の上にあるゲージがごっそり削られている。残っているのは三割? いやもう少し少ないか。二発しか攻撃を受けていないのにこのダメージ量とは、この格ゲーは低体力のワンコンボ、ワンぶっぱを通せば勝てるハイスピードゲームなのかもしれない。

 ならばニュービーでもワンチャンあれば勝てるかも。と、気合を入れてバイクに対峙してみたものの、跳ねたり飛んだりする方法がわからず、バイクの突進を完全にかわすことができずに体力を削り切られてしまった。タイムアップ近くまで粘ったのは往生際が悪すぎただろうか。

 

 小パンもキックもなく、コマンド技もゲージ技も使われず、ただ移動ボタンと強攻撃のボタンのみで負けたような感覚だった。世紀末な世界が崩壊していく。勝者が決定したことで対戦ステージとしての役目を果たしたからだろうか? そんなことを考えながらフルダイブから現実に戻る時特有の浮遊感を感じていた。

 

◇――◆――◇

 

「バカもの!」

 

 誰かの声が聞こえると同時、背中を支えられ、それと同時に首に装着していたニューロリンカーが抜き取られた。

 それによってニューロリンカーによる視覚補助が消滅し、世界が闇に飲まれた。

 

「ひいっ!」

 

 背中を支える手から跳ね起きて体を捻っておしりで床を捉えると手とおしりで後ずさるように距離をとった。

 誰なのか、なぜ家にいるのか。少なくとも十年以上聞き続けたミミちゃんの声ではなかった。

 

「まて!」

 

 いきなり人のニューロリンカー外してくる人間の言うことを聞くわけないだろ! そんなことを考えながらさらに距離をとると、手が空をついた。それにより体勢を崩し、落下していく。

 あ、これまずいやつ。

 受け身のタイミングも取れない自分は転んだり倒れたりしたらひたすら祈るしかない。

 痛みに備えて元々見えていない目をぎゅっと閉じていると、しかし待っていたのは柔らかい感触と落ち着くような香りだった。

 

「だから待てと言ったのだ」

 

 先程の声が支えてくれたのだろうか。そう思えば見ず知らずの声への恐怖感も僅かに薄れるものだ。

 

「ニューロリンカーを戻す。グローバルネットには接続するなよ?」

 

 グローバルネットに接続するな? やはり悪人なのでは……そう思ったところでそのワードに聞き覚えがあることを思い出した。

 

「先輩?」

「そうだ。いきなりニューロリンカーを抜いて悪かったな」

 

 ニューロリンカーがあるべきところに戻され、そして量子接続用のわずかな待機時間の後に接続が完了したことを告げるアナウンスウィンドウが表示される。

 同時にニューロリンカーのカメラの映像が黒一色だった視覚を塗りつぶした。見えるのは自室……ではなくリビングの天井か?

 

「……えっと、ありがとうございます。ソファーから落ちたところを支えてくれた。で合ってます?」

「礼は不要だ。いきなりニューロリンカーを外したのだ。責められることはあっても感謝されることではない」

 

 起き上がってクッションに座り先輩に向き直って聞くと僅かに掠れたような声で先輩はそう言った。

 

「えっと、色々確認したいことがあるんですけど、先輩はなぜウチの中にいるんです?」

 

 昨晩の出来事を思い出せなかったが、その前の約束の通りならば先輩はタクシーで帰宅しているはずだ。

 

「その説明をするには昨晩何があったのかを理解する必要がある。一応聞いておくが、覚えていないのだな?」

「餃子を焼き始めた辺りならなんとか覚えてますけど……夢見が悪かったせいもあるのかそれ以上は」

 

 そうか。と先輩は言って説明を始めた。

 昨晩、帰宅の約束をした先輩は我が家の餃子パーティに参加した。

 ミミちゃんに色々聞かれながらも美味しく餃子を食べていた先輩だったが、ミミちゃんがお酒を飲み始めてからはあら大変。普段は他人に酒を飲ませようとすることがないミミちゃんだったが、先輩が居たためかテンションが爆上げで未成年である息子とその先輩に酒を飲ませはじめたのだ。

 渡された酒が初心者でも飲みやすいというタイプの酒であり、酒精にやられた未成年ふたりはミミちゃんの速度に合わせてどんどんと酒を飲んでいく。

 いくら飲みやすいとはいえ酒は酒。紅潮した見た目もそうだが酒臭くなってしまった先輩をタクシーに預ける訳には行かないというわけでミミちゃんの強権で先輩は泊まりが決定。

 餃子を食べ終わってもミミちゃん秘蔵のつまみで飲み続け、それぞれが寝落ちするまで酒盛りは続いたという。

 これで先輩がウチにいる理由は理解出来たが、その後の。つまり先ほどのことの経緯についても先輩は話し始めた。

 

 まず、ミミちゃんの次に起きた先輩はミミちゃんに言われるがままに酒の匂いを落とすために入浴、ミミちゃんは先輩に着替えを渡してさっさと出ていったらしい。肝臓が強すぎるミミちゃんはいくら酒を飲んでも寝ればケロッとしてしまうのだ。呼気検査にも引っかからないレベルのアルコール分解能力である。

 

 そして風呂から出て着替えた先輩がリビングに戻ってくると、目が覚めたのかソファーから起き上がる後輩の姿が見えたという。その後輩は虚空に指先を向けて何かを操作し、その数秒後、ふっと腕の力が抜けたように脱力し、支えを失った上半身が倒れ始めたのだという。

 それを支えた先輩は二秒を数えてニューロリンカーを後輩の首から外し、それに驚いた後輩に怯えられ距離を取られて、ソファから落ちる寸でのところで再びキャッチをした。というわけらしい。

 

「えっと……なんというか、本当にすいません。確実に学校には間に合わない時間なんですが、今日はどうします?」

「母君経由で私たち二人は学校を休むと連絡してもらったよ。風呂を頂いたとはいえこの声では聡いものには気づかれてしまうだろう」

 

 息子を助けてくれたお礼に深夜までパーティに付き合わせてしまったとミミちゃんは学校に伝えたそうだ。泥を被れるいい大人……と言いたいところだがその実態は未成年飲酒をさせる悪質酔っ払いだった。

 

「おそらくキミは、私がニューロリンカーを抜く前に見慣れない、しかしこの周辺と地理が酷似した世界でこれまた見慣れないアバターを用いて格闘ゲームをしていたのではないだろうか?」

「はい。ロボと世紀末と格ゲーをクロスさせたような所にいました。夢だと思ってたんですが、現実だったりします?」

 

 そして先輩がニューロリンカーを抜くまでにカウントした二秒のことを考えると、もしかしてあそこは加速世界か? だとすればあそこまで完璧に再現されたフィールドも理解出来る。

 

「その通りだ。察しがいいな。とはいえ、説明は後回しにしよう。とりあえず、キミも酒の匂いがひどいから風呂に入ってきたらどうだ?」

「……そうします。多分三十分前後かかると思うんでその間は自由にしていてください」

 

 匂ってみたが、強烈に酒臭かった。

 

「あ、必要ならブレスケアはそこの棚で消臭スプレーはそっちにあります。制服に酒の匂いが染み付くのはまずいでしょう」

 

 十月とはいえ若干寒くなってきたこの頃には似つかわしくない薄手の黒パジャマを着た先輩にそう言うと、今度こそ風呂場に向かった。

 

「あ、待て!」

 

 先輩はこちらを呼び止めると先に脱衣所に入っていき、ビニール袋を持って出てきた。

 

「んー、脱いだ制服とかですか?」

 

 返事はなかったが、無言の圧力を感じたためさっさと脱衣所に引っ込むことにした。

 




レベル差の勝利ポイントの移動の話と
カラーサークル決定の意識が外に向いてるとかなんとかって話どこら辺にありましたっけ?
巻数だけでも教えて貰えると嬉しいです

今回は賛否あると思いますが先輩を家に泊まらせて学校を休ませるのは組立的に必要だったので……
あと本格的にRTAとズレてきましたね。大筋は変わりませんが細部は変えていくつもりです


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ブレインバーストの開始

あけましておめでとうですがクリスマスも大晦日も三賀日も変わらぬ時間を過ごしております


『それではブレインバーストの正体の説明と行こう。とはいえ、キミはもう実体験をもっておおよそを把握しているだろうがな』

『いや、でも本当ですか? 加速なんて訳分からないテクノロジーを使って、ソーシャルカメラもハックして、フィールドを即時生成までしてやるのが格ゲーなんて』

 

 風呂上がりに遅めの朝食を済ませると、ミミちゃんの書き置きを軽く読み飛ばした後に先輩と直結をして話し始めた。

 人の目も耳もないとはいえブレインバースト、加速についてはできるだけ秘匿しておくべきだからだそうだ。

 

『製作者本来の意図は恐らくそうなのだろうな。しかし、プレイヤー――バーストリンカーの多くは製作者の意図から外れ、今や対戦は手段になりさがっている』

『手段? 戦わないといけない理由があると?』

『ああ。加速には回数制限があるのだよ。インストール時点で最大100回というな』

『その補充方法が対戦、と。そういえば、さっきの対戦の後に何かの数字が減少したって表示があったような。それが残弾数だと?』

『加速の度に一点ずつ消費し、勝てば相手からポイントを奪い、負ければ奪われる』

 

 それでは最終的に収支が合わない。対戦の度にユーザーが保有する総ポイントは減少するしかない。あるいは、デイリーボーナスやミッション、NPCと戦うことでポイントを得られるモードがあるのかもしれないが。

 そう聞けば対戦以外のポイントの補充方法はあるが、それは容易いものではないとのことだ。一度限りのコピーインストールが成功すれば世界に百ポイントが増えることもあってなんとか枯渇するということにはなっていないらしいが、どちらかといえば減少傾向らしい。

 

『そろそろ実際の対戦の手順を試してみようか。乱入待ちで勝ち続ければ加速のためのポイントを節約できるが、相手を見て対戦相手を選ぶ方が勝率は高くなるだろう』

 

 バーストリンク! と、唱えると世界が青く染まって現実の肉体から自作の鳥人アバターへと意識が移った。

 先輩も学内ローカルネットで使っているアバターへと姿を変えていた。

 

「おや? 我々のニューロリンカーのカメラが捉えた映像だけにしては再現度が高いな」

「ウチにはカメラが結構あるので。ホームサーバー経由でこちらのニューロリンカーに映像を送ってきてるんですよ」

「グローバルネットには?」

「接続されてないです」

「なら平気か……順序が入れ替わるが、バーストリンカーはリアル割れを禁忌としている。理由はわかるか?」

「負け続きでポイントが枯渇寸前の人間が暴力に訴える可能性があるから……ですか? そういえばポイントがなくなったらどうなるんです? 加速しないことには対戦も吹っかけられない。乱入された場合にもポイントを払うことが出来ない」

「その場合は……」

 

 先輩は十分に溜めたあと、強制アンインストールだと重々しく言った。

 

「かく言う私もリアル割れをしていてな……相手のリアルを割るためにキミを協力者にしようと思ったのだよ」

「リアル割れって……具体的にはどんな手段で行われるんですか?」

「色々あるがな。ガイドカーソルと呼ばれる相手のいる方角を示す機能が指す先を見てやればその方向に生身の相手がいるということが分かる。ブレインバーストの対戦の初期位置は現実の場所だからな」

「でも、それは確度としては下の下ですよね? この場所から西を指したとしても条件に当たる人間は数千じゃ効きません」

「ああ。だからカーソルの本数を増やすのだ。キミは対戦の時に対戦相手以外の人影を見なかったか?」

 

 車道の向こう側にいた影以外にも何個かの影があったのを覚えている。

 

「それはギャラリー――観戦者だ。観戦したいアバターの名前を自動観戦リストに入れていると対戦開始時に自動加速して対戦フィールドに入ることが出来る。そして、ギャラリーにもガイドカーソルが存在しているのだ」

「その線が交わったところに相手はいるってことですか。一軒家なんかだと割と特定されそうで怖いですね」

「そういうわけだ。今回の敵は学内ローカルネットに現れる。グローバルネットで特定するよりは簡単に出来るはずだ」

 

 なるほどな。グローバルネットから隔離されている学内ローカルネットに現れるからこそ学内に協力者を用意する必要があったわけか。ただ、それの理屈で言うのなら学内に二人以上敵がいるというわけである。

 リアルを割って条件を互角に持ち込んだとしてもニュービーを抱えるこちらの不利は変わらないのではないだろうか?

 

「その心配はない。今となっては迂闊の極みだが、私は対戦用のアバターを封印していてな。その代わりに戦闘力皆無のアバターとしてフィールドに降り立ったのだが、その時使っていたアバターがこれなのだ」

 

 そうして先輩は現在のアバター――現実の体を素体に改造した姿を指さした。

 

「それは……」

「入学の時も、新入生が来た時もマッチングリストを確認していたのだがな。誰も表示されていなかったから油断していたよ」

「ネットワーク切断以外にマッチングリストから消える手段はない……ですよね。どういうカラクリですか?」

 

 生徒は登校から下校までローカルネットの接続が義務付けられている。切断しようものなら校内放送で名指しだ。

 

「さてな。それを明らかにする為にもキミには協力してもらわなければならないという訳だ。それでは私を観戦リストに入れるのと同時に諸々のチュートリアルを始めようか」

 

 言われるがままに新規に出現していたアイコンに触れ、その中から出現したマッチメイキングの項に触れた。

 

「ブラック・ロータス」

「それが私の名前だ。このネットワークに接続しているのが私たちだけならばそこにほかの名前は存在しないはずだ」

 

 いくらソーシャルカメラにハッキングできるとはいえスタンドアローンに接続できるなんて機能まではないらしい。

 

 名前をクリックして自動観戦リストに追加し、対戦を申し込んだ。

 

◇――◆――◇

 

 瞬間、世界が再構築される。青く停止したリビングから壁も天井も取り払われ、ソファとテーブルは形をそのままに枯れた木のような外見に書き換えられる。外の世界は深いオレンジに染まり、地面は無数に生えてきた雑草が埋めつくした。

 周囲を確認してみると、今いる場所は巨大な木の根元となっていた。

 視覚情報上部に二本のゲージが生え、その中間にカウントダウンタイマーが現れる。【FIGHT】の文字をかたどった炎が現れ、弾けるとタイマーのカウントが始まった。

 

「…………それが君のデュエルアバターか。《シャドウ・オウル》強そうな名前じゃないか」

「フクロウは猛禽類ですからね。それにしても、色はどうにかならないんですか? 選べるなら別の色がいいですよ」

「残念ながら作り直しは不能だ。バーストリンカーとしてある限りキミはそのアバターを使い続けなければならない」

「そうですか。ま、それならそれでいいですけどね。一人称のゲームですし、自分の姿を見ることなんてそうないでしょうしね」

 

 どうやら、シャドウ・オウルを作ったのはこっちの深層心理にあるネガティブな感情を読み取ったブレインバーストのプログラムだそうだ。

 それならこの色も納得である。影色は全ての色で最も嫌いな色だったからだ。

 肘と膝がなかったり指がなかったりする平べったい四肢をしている理由はよく分からないが。

 それから、先輩に教えて貰ったが足先は先端がそれぞれ三叉に別れているらしい。先程の対戦では角度の問題で見えなかった場所である。

 

「正直、そうやって割り切れるキミが羨ましいよ。私が本来のアバターを利用していないのはまさしくそれが理由だからな。今更な言葉になるが、今ならキミはブレインバーストに関する全てを聞かなかったことにして変わりない日常に戻ることが出来る。加速なんて怪しいテクノロジーもリアルアタックの脅威も全てを忘れて」

「ありえないですね。既に壊れて再構成された現実から戻ることはできません」

 

 加速の怪しさとか、リアルアタックの脅威とかそんなものは理由にはならないのだ。

 

「ではチュートリアルを始めようか」

 

 先輩はそうか。と頷いてレクチャーを始めた。

 コマンドリストを開くとそこに表示されていたのは通常技が四肢で斬りつける《スラッシュ》、四肢で突く《トラスト》の二種。

 必殺技は宙返りして蹴りつける《フラッシュキック》のみだった。

 

「なんかしょぼくないですか? 昇〇拳枠が埋まってるとしてもあと波〇拳くらいは欲しいですよ」

「レベル1の近接アバターはだいたいそんなものだ。コマンドリストにない動作でもダメージは与えられる。それに、コマンドとは別にアビリティや強化外装というものも存在している可能性がある。確認してみてくれ」

 

 別窓を開いて調べてみると、アビリティがひとつ存在していた。攻撃命中時に追加効果が発生し、その内容が相手の色によって変化するというものだ。

 

「ほう。近接戦闘の補助としては上等なものでは無いか?」

「そうなんですかね? そういえば今んところ全員色が名前についてますが、それに意味はあるんですか?」

 

 聞いてみると、青が近接、赤が遠隔、黄が間接に秀でた能力を持っていて緑や紫はその中間の性質を持つのだという。

 『シャドウ』は恐らく青系統の暗色だという事だ。まあ、近接コマンドしかないキャラが赤とか黄色ってことは無いだろうしな。

 先輩の『ブラック』はなんなのだろうか。そう思ったが聞く間もなく次のステージへと先輩がチュートリアルを進めた。

 内容は、特殊で四肢に関節がない欠陥があるアバターの操作指南だった。

 

 ホバー移動の扱い方、関節を使わないで四肢を振るう方法。それらを一通り教えられた頃には1800あったはずのカウントは二桁まで進んでいた。

 

「お疲れ様。特殊なアバターではあるが使いこなせば強くなることは私が保証してやろう。とはいえ、同レベル同ポテンシャル。如何なるアバターでも使いこなすことさえできれば高みに至れるのだがな」

「そういえば、二回攻撃を貰ったら体力が三割を下回ったんですけど、このゲームってワンチャンゲーですか?」

「……いや、平均的な同レベルの近接アバター同士が戦い続けても五分から十分くらいは戦闘が続くはずだが」

 

 移動方法や形だけではなく能力値の配分までピーキーのようだ。

 加速の――正確にはソーシャルカメラの映像をこの上なく正確に利用するソフトを失わないように精進しなければな。

 決意とともに加速世界の崩壊が始まり、気がつけば現実世界に戻っていた。

 

『この後どうします? ちょっと休憩したいです』

『連続の加速は時間感覚の崩壊を招く。それでいいと思うぞ』




実は19巻までしか持ってないのでそれ以降で黒の特性とかのカラーサークルについて語られていたら知りえなかったりします。

あと『影色』って現実にあるのでしょうか? アイシャドウのページしか出てこなかったのでないと信じたいですが
作品の中でどういうものなのかということは固めてありますが、現実のそれとは解釈が違う可能性があります。


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リベンジソード

 バーストリンク!

 

 通算七回目の加速を行使する。現実世界の時刻はちょうど放課後に差し掛かった頃だった。

 グローバルネットに接続した状態で加速をすると、日中はそれぞれの学内ローカルネットに接続していただろう初見のバーストリンカーの名前がマッチングリストにズラっと表示された。

 

 シアン・パイル――先輩のリアルを割った相手――は居ないか。グローバルネットを切断しているのか、それとも学校にまだ残っているのか。そもそもこの杉並第三戦区にはいないのかは定かではないが、もしこのリストにいたのだとすれば梅郷中のローカルネットに表示されないのは何らかのカラクリがあるのかと推測もできたのだが。

 では、と次に探すのはアッシュ・ローラーの名前。セカンドファイトでリベンジとはならなかったが(先輩による何度かの訓練の後に昼間にグローバルネットに接続しているバーストリンカー二人と戦い、一勝一敗という結果になった)それでも出来るだけ早くリベンジをしておきたかった。

 

 アッシュ・ローラーは……あった。

 確率は非常に低いが、加速中にも乱入される可能性はあるためさっさと対戦をスタートする。

 

 生成されたステージは世紀末フィールド。同日、同一カードでの対戦は同じステージが生成される可能性がかなり高いらしい。

 事実、先輩との直結対戦でも黄昏ステージ以外を引いたのは一度だけだった。

 

 今朝のアッシュ・ローラー戦の内容を伝え、世紀末ステージの特性を教えてもらい、対策を練った結果導き出した戦法はアンブッシュ&エスケープ。

 待ち伏せからの奇襲で体力を削り、バイクで侵入が難しいエリアに逃げ込んでタイムアップ勝ちを狙う戦法だ。

 ブレインバーストは対戦格闘ゲームではある。楽しみたい気持ちももちろんあるが、それ以上に映像を瞬時に3Dフィールドに変換する能力を持つツールであるという認識が強い。

 ある程度ならば過程や方法を無視して勝利という結果を求めることに忌避感はなかった。

 

 奇襲を成功させる為にもそれを狙いやすい場所への移動を開始する。自宅周辺の地図を思い出して良さそうな場所をピックアップしておいたため移動は迅速に行われた。

 あとは爆音とともにこちらへと走ってくるのを待つだけだ。

 暫くするとバイクのエンジン音が聞こえ、五十メートル圏内に入ったためにガイドカーソルが消滅する。これで相手からはこちらの正確な位置が把握できなくなった。しかし、こちらからはその姿は丸見えだったし、仮に見えなかったとしてもバイクの音で位置は丸わかりだった。

 こちらに向かって大通りを直進してくるのを見てタイミングをはかり、そして通りにかかる歩道橋から身を踊らせた。

 

「あぶねっ!」

 

 尖った先端を持つ三叉の足先で串刺しにしてやろうとした攻撃だったが、僅かに目算を見誤り、そして相手が咄嗟に首を曲げて回避運動を行ったことで額を足先が捉えることは無かった。

 そのままファーストアタックが失敗してしまえば心理的なアドバンテージのひとつもなく戦うことになってしまう。

 

「メガラッキィィ!」

 

 相手の喜びの声を聴きながら空中で腰をひねり、足――剣の腹で殴りつける形にして少しでもダメージを与えようとした。

 その瞬間、足の付け根が九十度回転し、腹と刃の位置が逆転した。

 ザッという音とともにうなじを斬り付けることに成功し、その衝撃で相手がバランスを崩したのが見えた。

 足先から着陸し、バイクに乗ってフラフラとする後ろ姿を見るがそのまま倒れる雰囲気はない。

 

「くそっ」

 

 欲を出せばここでクラッシュしてほしかった。そうなればバイクが本体だろうアッシュ・ローラーの戦闘力は激減し、近接アバターとして生まれただろうこちらの優位に戦闘を運べたかもしれないからだ。

 だがクラッシュしないならそれはそれでいい。バランスを取り直しターンして来る前にバイクで侵入ができないところに行ってしまえばいいのだから。

 

 逃亡先に選んだのはビルの屋上。

 細道なんかはソーシャルカメラ圏外の可能性もあり、正確に再現されていない場合はバイクで通行可能になる可能性が有る。

 しかし、おんぼろの外付け階段以外に登る手段がない世紀末ステージのビルの屋上ならば、バイクで登るのは不可能だ。

 途切れたりぐらついている外階段を操作に慣れたホバー移動アバターでジャンプしたりしながら登りきると、屋上の縁から下を覗き込んだ。

 

「なんか街を破壊してるのは必殺技ゲージを貯めているのか?」

 

 確認してみるとこっちのゲージは体力が十割、その下の必殺技ゲージが一割ほど溜まっていて、アッシュ・ローラーは体力が九割、必殺技ゲージが三割ほどになっていた。

 

「ポテンシャルはバイクに注ぎ込まれてるから必殺技があったとしてもさほど強くないとは思うけど……」

 

 先輩に言われた同レベル同ポテンシャルの法則というものはこの世界では絶対視されているらしい。

 今は廃れた格ゲーでも全キャラ同ポテンシャルを目指して作られていただろうし、それでも強キャラ弱キャラが存在していたのでそこまで信頼出来る法則ではなさそうに思えるが。

 それでも、格ゲー制作の気持ちと同じようにできるだけそうしようとする力は働いているはずだ。

 

「いい気になってんじゃねーぞノッポ! すぐに今朝みたいに踊らせてやるからな!」

 

 そう叫びながら通りをウィリーしながらビルに突進してきたアッシュ・ローラーは、なんとそのままビルの壁を走り始めた。

 

「あー……」

 

 今朝とは違い限られたスペースの屋上なら戦いやすさは段違いだろう。でも、勝てるかは不明。

 飛び降りてどこかバイクの侵入が難しいポイントに行くか?

 いや、飛び降りる時の落下ダメージがどのくらいになるかが不明だ。下手したら耐久力のないこのアバターは一撃死なんてこともありえるかもしれない。

 ……戦うしかないか。跳び方は理解している。屋上のサイズゆえに加速しきることも出来ず、そして落下しないようにするために直ぐに減速する必要があるのなら、問題なく勝てるかもしれない。

 壁を登りきり、そして勢い余って空へと射出されたバイクを巧みに操って屋上に着地したアッシュ・ローラーは何かを話し始めた。

 こちらはそれを黙って聞く。正面戦闘となることは確定したが、勝利条件は変わらない。こちらの体力の方がが多い状態でタイムアップすればいいだけなのだ。タイムアップまでの時間を消費してくれるのならば聞かない理由がなかった。

 

「今朝てめーを倒したおかげでようやくレベルアップできるようになってさぁー、レベルアップボーナスを何にするか迷ったけど結局壁面走行能力を取ったんだよね。こーいう戦法をぶっ潰すためによ!」

 

 キャラの強化要素がある格ゲーが無いわけじゃないが、強化度合いが違うキャラを問答無用で対戦させるってのは下手したらクソゲー認定待ったナシじゃないか?

 ただ、壁面走行能力が意味をなさないこれ以降の戦闘ではレベルアップの恩恵はさほどないのかもしれない。そう納得してアッシュ・ローラーの動きを睨むように観察し続けた。

 

「じゃあいくぜぇ!」

 

 エンジン音が激しくなり、後輪が白煙を立てて回転をし始めた。次の瞬間、放たれた矢のように一直線にバイクがこちらへ突っ込んできた。

 方法を知ったことで可能となった跳躍でバイクを避けると、一番近い柵の方に下がっていく。

 落下を恐れて速度が緩むことを期待しての行動だ。

 

「まぐれがいつまで続くかなぁ!?」

 

 再び突っ込んできたバイクをかわし、タイミングを理解する。それから何度も避け、タイムを確認すると残り九百秒だった。

 

「ダァー! 次でぜってーぶっ潰す!」

 

 再び突っ込んできたバイクを同じように跳ぶことで避けるが、跳躍先にバイクの後輪が飛んできたことで吹き飛ばされて地面を転がる結果となった。起き上がって何があったのかを確認してみれば前輪があった場所が黒く焦げており、そこを中心に後輪の位置が百八十度移動していた。

 

「ジャックナイフをして後輪を振り回したのか……」

「大ー正ー解! とろい電動二輪じゃできねーテクだぜ! 俺様としてはこのままタイムアップでいいがそれだと乱入された側とはいえクールじゃねぇ。このままぶっ潰すぜ!」

 

 その言葉に反応して体力を確認してみれば、三割近く吹き飛んでいた。これではタイムアップした時に負けるのはこちらだ。つまり、攻撃を仕掛けなくてはならない。

 しかし、逃げに徹しないという宣言はありがたいものだった。おそらく、アッシュ・ローラーはブレインバーストを加速ツールとしてではなく格闘ゲームとして認識しているのだろう。

 ならばここからはゲーマーとして相手をしよう。

 

「またまた吹っ飛べや!」

 

 再び横方向への移動で回避しようとすると、アッシュ・ローラーは前輪のブレーキをを固めて後輪を浮かせる。浮いた後輪が進行エネルギーによって加速し、こちらの進行方向に合わせて左側から飛んでくる。

 回転方向を確認した瞬間、右方向に切り返し、そのまま斜め前方へ跳躍する。

 二百度と少しほど後輪を回した後に後輪が地面につく。飛んだ場所はタイヤの殴りつけが及ばないエリアだった。

 

「切り返し能力舐めんな!」

 

 ホバー移動のシャドウ・オウルは足を踏み出して移動している訳では無いため重心移動さえできてしまえば急激に真逆へと加速することが出来る。スカッシュでインチキをした先輩の記録をひとつだけとはいえ抜いた仮想世界での動体視力は伊達ではなく、後出しの回避が成立していた。

 

 前輪でブレーキを踏み、動力である後輪を浮かせたことで完全に停止しているアッシュ・ローラーへと飛びかかり、腰をひねって尖った腕の先端を突き出した。

 今度こそその額を突き刺すことに成功し、骸骨のフェイスマスクにヒビが入る。クリティカル扱いなのか、大きく体力が削れこちらと同じ割合程度まで減少した。

 

 インパクトを確認すると直ぐに重心を斜め後方に倒すとこれまた通常の二足歩行アバターではありえない攻撃直後の滑らかな後方への移動が成立し、急発進したバイクを避けることに成功した。

 

「てんめぇー! キモい動きをしやがって……今朝のヨチヨチ歩きとはえれー違いじゃねーか」

「動き方を理解できればこんなもんってことだよ!」

 

 一言ずつの会話のドッジボールを済ませたあと、対戦ゲーらしい戦闘が始まった。どちらかと言えば格ゲーではなくギャングとかマフィアが車を乗り回すゲームでバイクに乗ったキャラを攻略しているような感覚だったが。

 

 ホバー移動の訓練時間は加速世界換算で三時間弱。それだけあれば基礎の移動方法が身につくのは当然だった。そのせいでかなり脆いと指摘された剣の腹の部分を補う戦い方の練習はしきれていないのだが。

 アッシュ・ローラーが剣の腹を的確に狙える近接格闘アバターでなかったのは幸いだった。

 

「僕の勝ち」

「次は負けねーぞ。シャドウ・オウル」

「シャドウは嫌いだからオウルって呼んでくれ。アッシュ・ローラー」

 

 互いの体力が二割ほどまで減少した対戦終盤で、ついにアッシュ・ローラーがジャックナイフのベクトル管理を誤り、座席から吹き飛ばされた。

 その隙を見逃さずに地面に投げ出された剣を突きつけて僅かに会話をすると、そのまま突き刺して体力を全損させた。

 

 勝敗が決し、世界が崩れていくのと同時、バトルリザルトが表示されて勝利報酬として20ポイントが加算されたのを確認した。

 格上狩りをするとポイントの奪取量が増えるようだ。『親』に養殖してもらったりなんかして実力に見合わないレベルになると大変そうだなと思った。

 もちろん、激戦を交わしたアッシュ・ローラーのことをそう思った訳では無いが。

 

◇――◆――◇

 

『見事な勝利だったぞ、シャドウ・オウル』

『ありがとうございます。とはいえ落馬事故がなければ分かりませんでしたけどね』

『運も実力のうち、とは言うが今回のは百パーセントキミの実力だぞ?』

 

 加速世界から戻ってくるなり直結していた先輩に称賛の言葉を貰った。しかし、今回の勝ち方が運による勝利ではないとはどういうことだろうか。

 

『キミのアビリティだ。恐らくだが、攻撃を命中させる度にアッシュ・ローラーの筋力を低下させていたのだろう。それが積み重なって元々そこまで筋力がある訳では無いアッシュ・ローラーは回転に耐えることが出来ずに吹き飛んだのだ』

『なるほど。対戦中に意識はできてませんでしたが言われてみるとそうかもしれないですね。近接アバターの補助アビリティとしては優秀だという言葉にも納得です』

 

 追加ダメージと不利な効果を与える『シャドウエッジ』というアビリティ。その割合は相手の色に依存するが、それでも命中の度に有利になっていくのならば確かに優秀だ。

 

『なんだ? 信用してくれていなかったのか』

『ピンと来てなかっただけですよ。訓練でブレインバーストの知識があることは十分にわかってましたからね』

『私もキミに頼るが、だからこそキミも迷ったり困ったりした時は私を頼ってくれ』

 

 先輩はそう言って互いを繋いでいた直結ケーブルを回収した。これはブレインバーストの話題は一旦終わりというポーズだ。

 

「よし。では祝勝会に…………考えてみれば私はキミのことをそこまで知らないな。濃厚な時間を過ごしたせいで出会ったのがこの間ということをすっかり忘却していた」

「なんでしたっけ。恋人と一緒にいると心臓の鼓動が早まり、その結果思考速度が上がって長く感じるとかって先輩言ってましたよね?」

「うむ。確かに昨晩は心臓の鼓動がやけに早かったぞ」

「……それ、好きな人と一緒にいるとかそんなのと関係なくミミちゃんのせいじゃないですか……。ご迷惑をおかけしました」

「気にするな。キミが私を揶揄おうとするからそう返したに過ぎん。楽しい時間だったぞ」

「それは良かったです。とはいえ、出会ってからの時間を考えると普通に長いですしね。昨日の昼からずっと一緒に居るんですよ? 実質的に初対面の瞬間から今まで。この口から出会って二日目の先輩を揶揄う様な言葉が飛び出るのも正直びっくりですもん」

 

 そうして話していると、滅多に鳴らないインターフォンが来客を告げる。

 

「私が出ようか?」

「いや、先輩はお客さんですし座っていてください」

 

 インターフォンとニューロリンカーを繋げて来客を確認すると、相手は千百合ちゃんだった。

 殴られて早退して学校を休んだ幼なじみを心配して来てくれたのかもしれない。

 自作の視覚補完プログラムの完成からは学校に行くための訓練があり、一年ほどのブランクがあり、そのまま疎遠になっていたが幼馴染の絆はやはり存在していたらしい。

 

「幼なじみでした。多分心配してきてくれたんでしょうね」

「私はそろそろ帰ろうか? 幼なじみということは積もる話もあるだろう」

「いや、大丈夫です。玄関で少し話してきますので。……その間ホームネットのアルバムでも見て見ますか? 色々と理解できるかもしれませんよ」

「そうか。ではそうさせてもらおう。祝勝会の内容は期待しておいてくれ」




アッシュ・ローラーの口調むっず
今回参考にしたのが一巻だからかもですが
東京タワー行きのところを読んで参考にしてれば別だったかもしれませんね


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真実

「こんにちは、千百合ちゃん」

 

 玄関を開けると、そこにはインターフォンからの映像に違わず千百合ちゃんが一人立っていた。

 制服のままであるし、我が家には帰宅の動線をほんの僅かにずらせば来ることが出来るのでまだ家に帰る前なのだろう。

 

「学校休んだって聞いてきたんだけど、怪我は平気?」

「怪我自体は大したものじゃなかったみたいだから大丈夫だよ。今日休んだのだって寝坊したのと、あと念の為だったし」

 

 ミミちゃんから学校に伝わっている理由とは違うがそれも問題ないだろう。昨今の学校では『○○くんはナニナニのため今日はおやすみ』なんて生徒達に伝えたりはしないのだ。

 

「それ寝坊したからってのが理由の大半じゃない?」

 

 心配して損した。と千百合ちゃんはごちると、玄関に置かれている靴に気がついた。

 

「あれ? ミミさん帰ってきてるの?」

「昨日は帰ってきたよ。おかげで晩酌に付き合わされて大寝坊ってわけ。本人は一眠りしてアルコールを分解した後にとんぼ返りしたみたいだけど」

「え、でもその靴……」

 

 すっ、と横にスライドして視線を遮った。なんとなくだが、千百合ちゃんに先輩が家にいることを悟らせるのは問題な気がしたからだ。

 下手をすれば今朝から一緒だったということが千百合ちゃんのなかで真実になりかねない。

 昨今の学校では休んだ理由は伝えないが、休んだという事実は誰でもしることが出来るからだ。

 それを知ったとき、どういう式が千百合ちゃんの脳内に描かれるのかは想像に難くない。

 

「学校の方はどうだった? 荒谷の処分とか聞いてない?」

「あいつらは学校に来てなかったみたいだけどどうなったのかはわかんない。でも、先輩から聞いた話だと今日は学内の不良のほとんどが休んでたって聞いたしアレがきっかけで何かあったのかも」

「そっか。今日はありがとうね。この前のサンドイッチのお礼も兼ねて今度シチューでも持っていくよ」

「ほんと? ユキの料理久しぶりだなあ。お母さんも喜ぶよ」

 

 無事に話題をそらすことに成功し、そろそろお開きの雰囲気にもすることが出来た。これで先輩と千百合ちゃんが接触することもないだろう。

 

「そういえば、二年の黒雪姫さんと直結してたってホント?」

 

 かなりやばい所をつつかれたかもしれない。言い訳を考えるために間を開けてから答える。別に千百合ちゃんと恋人関係な訳では無いが、他人と直結しないというのは幼馴染二人の中ではいまさらな事実となっているからだ。

 

「あー……うん。といってもローカルネット内での例のソフトの調整を手伝ってもらってただけなんだ。ほら、あの人なら人望もあるし、副会長だから頼りやすかったし、人目のあるところなら変なことも出来ないでしょ?」

「ユキさ、痛いところを突かれると早口になるの変わってないね」

 

 うそっ、と口元を抑えると、千百合ちゃんはやっぱり。と笑った。

 

「その靴、ウチのローファーじゃない。中に黒雪姫さんがいるならちょっと言っておきたいことがあるから呼んできて欲しいんだけど」

 

 それとも上がっていい? と言ってきた千百合ちゃんに、イエス以外の答えは許されなかった。

 

「先輩、幼馴染が先輩とちょっと話したいって言ってるんですけどいいですか?」

 

 千百合ちゃんを玄関に上げてリビングに引っ込むと仮想のアルバムをめくっている先輩に問いかけた。

 

「ん、構わないが……。先にどんな用なのか聞いてもいいかな?」

「多分、昨日のことだと思います。結構過保護なやつなので、もしかしたら先輩のせいで殴られたとか思って何か言いたいのかもしれません」

 

 良い奴だから怒らないでやって欲しいと伝えると、先輩は勿論だと答えた。

 

「それに、その考えは間違いではないだろうしな。キミの計画ではアラヤくん達を処分するのは先のことだったのだろう? ならば、あの場で私が黙っていればあのようなことにはならなかったかもしれないしな」

 

 直結していた時点で単細胞の荒谷ならば殴りかかってきていたかもしれないと思ったが、先輩のifを否定する言葉にはならないため飲み込んでおく。

 先輩を連れて玄関に戻ると、千百合ちゃんは誰かと話していた。当然だが、そこには誰もいないし、イマジナリーフレンドを持っているようなキャラでもないため通話をしているのだろう。

 千百合ちゃんが思考発声できないのは変わらないようだ。

 

「千百合ちゃん、お待たせ」

「あ、ママ。ユキが戻ってきたから一旦切るね。うん、すぐ戻る」

 

 通話を終えて千百合ちゃんが振り返る。その瞬間、世界が青白く凍結した。加速だ。グローバルネットには接続していないというのに、何故?

 そんな考えを他所に世界が再構築されていき、次の瞬間には見覚えのある黄昏ステージにシャドウ・オウルの姿で立っていた。

 右上に浮かぶ名前は……ブラック・ロータス。なぜ、このタイミングで?

 

「済まないな、こんなタイミングに。ホームネット経由で乱入させてもらった。少し、話しておきたいことがあるのだ」

 

 はあ。と、頷いてそこら辺の脆い木を切断して切り株を作る。

 即席の椅子だ。なお、シャドウ・オウルが座る場合には長座体前屈のポーズにならざるを得ないため作った椅子は一つだけだった。

 

「まず、キミに聞いてもらいたい話がある。できれば話したくなかったことであり、そして話さなければならなかったことだ。現在の加速世界のことについては話したな?」

「純色の六王が分割支配していて停滞気味だというやつですか?」

「そうだ……。だが、そうなった理由は話していなかったな。これは私の過去の罪の告白であり、そしてキミに隠し事をして、騙して利用しようとしていたことの告白でもある。だが、こうなってしまった以上キミに話さないのは話すこと以上にリスクがあると判断したのだ」

 

 先輩は渋い顔をして話し始めた。

 純色の六王が七王であったこと、レベル9のサドンデスルール、巨大レギオン間で結ばれようとしていた停戦協定と、その会談での裏切り。

 

「――私は知りたい。ブレインバーストの存在理由とその目的を。そのために生きていると言ってもいい程だ」

 

 自身を加速世界最大の裏切り者であり賞金首であり臆病者であると告げた先輩は、軽蔑したか? と聞いてきた。……正直、噂として聞こえてきた学内での先輩のイメージとも、実際に接して感じた印象ともかけはなれた行動だった。

 だが、人には裏と表だけでは足りないくらい無数の思考と人格がある。自分だって荒谷を破滅させるための思考をしていたのだ。今更誰かを糾弾できる立場にはないだろう。だから、正直に思っていることを伝えた。

 

「驚きました。先輩は今でもチャンスがあれば王たちの首を落としてレベル10になろうとしている。間違いないですか?」

「ああ。その通りだ。それは、ブレインバーストの終了を意味するものであるかもしれない。キミの目的とは相反するものだ」

「そうですか……。でもそっちの方が健全ですよ。ゲームは所詮ゲームですから。コミュニケーションツールやらとして使われ出してゲームが緩やかな死に向かうなんてよくあることです。それを許さない先輩は六王の誰よりもブレインバーストを愛している。でも、もしこちらの目的が達成される前に動き出すのならばその前に教えて欲しいですね。その時には連続で加速して解析をしたいですし、それでも間に合わなければ開発者に会った時にこのことについて話せたら話してきて欲しいです。それが叶うなら、シャドウ・オウルはブラック・ロータスの子として、加速世界最大の共犯者になることを誓います」

「そうか……。私のことを認めてくれてありがとう。素直に嬉しいよ。そして、私はキミの頼み事を可能な限りこなすことを誓おう。親としてキミを守り、共にあることを誓おう」

 

 そして場を静寂が支配した。あまりにも劇的な関係の変化だった。確かにこの話は今までの関係が破壊され、別の形で再構成してしまう爆弾だったのだろう。

 しかし、その爆心地となった更地では新たな関係が築かれた。とても大きく強固で、そして誰にも許されないだろう関係だ。

 

「えっと、それだけじゃないですよね? 話そうと思ったきっかけを教えて貰ってもいいですか?」

 

 たっぷり百カウントも見つめあったあと、静寂を破って質問する。残るカウントは六百程度だった。

 

「そうだな……。ではまず、ひとつ聞いておきたいのだが玄関にいた彼女はキミの幼なじみで間違いないか?」

「生まれた頃からの幼馴染です。ミミちゃんは産後一年くらい休んでたみたいですがそれでも呼び出されたりすることがあったのでその時に預けられたり、一歳になってからはその頻度も上がりましたし」

 

 盲目の赤ん坊をよくも預かってくれたものだ。千百合ちゃんのお母さんには頭が上がらない。

 

「そうか……。今朝、私はシアン・パイルの正体をおおよそ把握していると言ったのは覚えているか?」

「はい。先入観を与えないために次の乱入までは黙っていると言ってましたね」

「……実はだな」

 

 先輩は僅かに逡巡した後にひとつのファイルを転送してきた。て、対戦中にもやり取りできるんですかい。

 

「そのファイルは一週間ほど前に纏めたものだ。私が乱入された時間と場所、そしてガイドカーソルの方角。その先にいた生徒達のリスト。そして複数回、線上に存在していた生徒のピックアップがされている」

 

 何故今送ってくるのか。それを何となく察しながらファイルを開き、そして手っ取り早く最下部の結論を覗いた。

 

「千百合ちゃんがバーストリンカー? でも……いや、状況証拠もあるしなあ」

「驚かないのだな?」

「いや、加速のタイミングとさっきの話に加えてこのファイルがこのタイミングで送られてくるってことはそうなんじゃないかって察しがついたので」

 

 でも、正直なところ信じられない気持ちがあるのも確かだった。

 だって、思考発声すら出来ないのにブレインバーストのインストール条件を満たしているとは考え難いし、それ以上にブレインバーストの穴をついてマッチングリストに載らないようにしたりできるとは余計に思えなかった。

 

「正直に思ったことを言っていいですか?」

「幼馴染であるキミの感想は参考になるだろうな」

「ぶっちゃけ、バーストリンカーであるとは思えません。仮に千百合ちゃんがシアン・パイル本人だったとしてもマッチングリスト非表示の細工ができるとはとてもとても」

「だが、今までの状況がそうではないと言っているぞ?」

「分かってます。シアン・パイルである可能性は非常に高いでしょう。でも、細工が出来ないのは百パーセント自信を持って言えます。だから……シアン・パイルの裏にはもう一人以上の誰かが潜んでいる……はず、です」

「なるほどな……親、あるいはレギオンメンバーからその細工プログラムが受け渡されたと思っているわけだな?」

「そうだとすれば敵はシアン・パイル一人ではなくなります。リアル割りをして脅すよりどうにか懐柔出来ればなと」

 

 先輩は目を閉じて思考したあと、立ち上がって言った。

 

「そうだな。だが、彼女がシアン・パイルであるという証拠は確保しておきたい。懐柔に失敗した場合でも対処ができるように」

「分かってます。なので、手っ取り早く直結して確かめましょう。千百合ちゃんがシアン・パイル本人なのかの確認も出来ますし、プログラムの正体もわかるかもしれません。ついでにプログラムを共有している相手を暴くこともできれば万々歳です」

「……幼馴染相手に容赦ないな。だが、どうやって直結をする? 先日までのキミならばともかく、私と直結した事でバーストリンカーになった可能性が高いキミとそう易々と直結するとは思えないが」

「それについては考えがあります。任せてください」

 

 先輩に作戦を伝えると、先輩は苦い顔をした。

 

「……キミは、怖いな。しかしそれが有難い。だが、失敗した場合は無理矢理にでも彼女と直結させてもらう。邪魔はしないでくれよ?」

「千百合ちゃんは優しいですから。成功すると思いますけどね」

 

 そう言って僅かにカウントが余る対戦を終了させる。対戦フィールドが崩れていき、フルダイブ終了時特有の感覚に襲われる。

 この後は個人的に最もしたくない行動をすることになるが、それもブレインバーストを守るため、そしてブラック・ロータスの共犯者として必要な行動なのだ。

 千百合ちゃんには申し訳ないが、騙させてもらうし場合によっては酷いことをするかもしれない。それでも、完璧な視覚補完ソフトの完成をさせたかった。



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ミッション

「確かキミは、倉嶋千百合くんだったかな」

 

 加速が終了すると先輩と千百合ちゃんは普通に話し始めた。

 千百合ちゃんの要件は予想通りで、最初は荒谷に殴り飛ばされた幼馴染を受け止めたことへの感謝の言葉があったが、その次には荒谷が拳を振り上げた原因が先輩にあるとして苦言を呈した。

 先輩はさすがと言うべきか全く堪えていないかのようにそれを受け止めて一言謝るとしかし、と千百合ちゃんを煽り始めた。

 みんなの人気者の副会長、黒雪姫のイメージとはかけ離れた言動に千百合ちゃんは面食らったものの、先輩のメインタンク真っ青の挑発スキルの前にはなすすべもなく声を荒らげての舌戦が開始された。

 正直、これは千百合ちゃんがシアン・パイルであり、いつか子にしようと思っていた幼馴染を横からかっさらわれたから怒っている……なんて推測を意味をなさない程の先輩の煽りスキルの高さなのでもう少し手加減をした方がよかったのではないかと思う。

 

「キミはそう言うが、現に私は母君に招かれてこの家にいる。雪月くんも迷惑には思っていないはずだ」

 

 そうだろ? と先輩が確認するようにこちらの腕を掴んで抱き寄せようとするが、それを振り払い、壁に寄りかかるとそのまま壁沿いに後退する。

 

「ユキは迷惑に思ってるみたいですけど?」

 

 今度は千百合ちゃんが肩に手を乗せてきて勝ち誇るが、その手も振り払ってさらに後退すると、二人の間の空気が一変する。

 

「まて、キミは今、見えていないのか?」

「先輩はわかってないですね。ユキが作ったソフトがあるんですから見えなくなるわけないに決まってるでしょう。今のはカメラの範囲外から接触したから驚いちゃっただけですよ」

 

 先輩大正解。加速から戻って直ぐにソフトを終了させていた。完成から二年ほど、自発的にオフにしたのはこれが初めてだった。

 この場にいるのが二人しかいないとは分かっていても見えない状態で誰かに触れられるのはひどく怖い。予定していた行動ではあるが、ほとんど素のままの行動でもあった。

 

「いや、あのソフトは現在不安定な状態なのだ」

「どういうことですか!?」

「昨日、私と彼が接触した理由は聞いているか?」

「調整がどうとかって」

「その通りだ。予想外のアクシデントがあったせいで不具合が発生してしまってな。その修正のために今日は時間を使っていたのだよ。そこでだ、こうなった場合の対処法を倉嶋くんは知っているか? 昨晩は母君が対応してくれたが私は見ているしかできなかったのだ」

「多分大丈夫だと思います。それで、ソフトの方は大丈夫なんですか?」

「直結して視聴覚情報を転送すればひとまず平気なはずだ。昨晩も最終的にはそうしてから応急処置をした」

「直結……」

「無論、責任を取って私がするから倉嶋くんは直結ができるように彼を落ち着かせてくれるだけでいい」

 

 という設定だ。実際、過去ソフトが完成する前にフルダイブ空間から現実世界に戻ってきたことで視覚が封じられたときに何度か発作のように暴れてしまうことがあったのでその対処法を千百合ちゃんは知っているが、しかしソフトに不具合などないし、つまり昨晩の出来事も嘘である。

 それもこれも全ては千百合ちゃんと直結するために考えた作戦だ。

 千百合ちゃんがシアン・パイルならば直結を渋る可能性もあるが、それでもこうすればきっとできると踏んでのことである。

 上手く事を運べば間接的に先輩と千百合ちゃんが直結でき、そうなった場合先輩の技量の前では千百合ちゃんのストレージは丸裸同然だった。

 

 千百合ちゃんに落ち着かせてもらい、リビングに移動して座ると、それと同時に視覚補完ソフトを再起動させる。

 それまでは疑われないために実際にソフトを停止させておく必要があったが座ってしまえば演技の必要は無い。

 見えないというだけでストレスが溜まるので早めにみえるようにしたかったのだ。

 

「助かった。このあとの調整だが、よければ協力してもらえないだろうか? 三人で直結して差分を取る必要がある作業者があるのだが、母君は立場上私と直結することが出来なくてな、それが出来れば安定するはずなのだが」

 

 先輩はそう言ってケーブルを取り出して直結すると、もう一本を千百合ちゃんに渡してから作業を始めた。

 もちろん、行う作業などあるはずないのでこれも演技である。

 ここで千百合ちゃんがこちらのニューロリンカーと直結して間接的に先輩と千百合ちゃんが直結することになればそれでよし、ダメならば先輩が応急処置を終わらせたということにして直結を終了し、こちらは改めて千百合ちゃんと直結してデータを取ってどうにか修正を試みるという建前で直結をお願いするという作戦だ。

 

「やります!」

 

 ただ、千百合ちゃんが躊躇うことなく一瞬で直結してきたことで作戦は無意味となったのだが。

 

「えっと、あたしはこれからどうしたらいいですか?」

『……雪月くんの指先を目で追って貰えれば良い。それにしても、初対面相手の直結を躊躇わないとは驚いたな』

「ユキが先輩のことを信用して直結しているのに、そこであたしが直結しないのはユキを信用しないことになると思いませんか?」

 

 なかなか嬉しいことを言ってくれる。ここ一年は接点が薄かったし、その前の一年は完全に接点皆無となっていたというのに、今でも昔と変わらない信頼を寄せてくれているのは嬉しいことだ。

 そんな千百合ちゃんを騙してストレージを暴くことに罪悪感を感じないこともないが、しかしそれはそれ。

 先輩をソフト完成のための協力者とするために必要なことであるため、罪悪感程度ではやらない理由にはならなかった。

 

『よし、データ取りは終了だ。あとはこちらでやれるからケーブルを抜いてもらって構わないぞ』

「え、もう大丈夫なんですか?」

「私とそれ以外の人間の視覚情報データの比較ができればそれでよかったのだ。おかげで無事に作業を終われそうだ」

 

「今日はありがとね、千百合ちゃん」

「ううん。荒谷の時に協力できなかったから、こんなことでいいならいつでも言ってよ」

 

 荒谷のことは完全に一人で解決するつもりだったので気にする必要は無いのだが……。もしかしたら先輩が関係したことで自分が何も出来なかったと比較してしまっているのかもしれない。

 だが、その罪悪感によって先輩と千百合ちゃんの直結が為されたと考えるとそれもいい方向に進んだと言えるだろう。

 

「あ、ママだ。……うん。すぐ戻るね。ということであたし、今日は帰るね。今度のシチュー期待してるから。……先輩も今日はすいませんでした」

「……いや、私も感情的になってしまったからな。今後は雪月くんを通して接することが増えるだろうし、仲良くして貰えたら嬉しい」

「はい! ユキのことお願いします!」

 

◇――◆――◇

 

 千百合ちゃんが帰宅したあと、すぐさま直結して先輩は話し始めた。

 

『結論から言うとだな……彼女はシアン・パイルではなかった』

『一本とはいえ十数回分の位置情報を元に全てに存在していたのは千百合ちゃんだけだったんですよね? 千百合ちゃんのリンカースキルを考えると可能性は低いですが先輩すら欺いたってことはないんですか?』

『千百合くんはシアン・パイルではなかったが、彼女を踏み台としてローカルネットに接続していた人間がいたのだ。そいつが十中八九シアン・パイルだろうな』

『校内の人間ではなく、バックドアを使っているならばローカルネットから切断しても校内放送がかかることもない。対戦後に先輩が加速してマッチングリストを確認する前に切断していたからこちらからアクションをかけられなかったってわけですか』

 

 そういう事だろうな。と先輩は言ってブレインバーストそのもののハックがされたわけではなかったのだと胸をなでおろした。

 

『逆ハックを仕掛けてプライベートデータをぶっこ抜いた結果、相手に察知されてグローバルネットを切断されてしまったが、抜き取れた情報だけでリアル側から十分に特定が可能だ。一応聞いておくが、黛拓武という名前に聞き覚えはあるか?』

『幼馴染です。千百合ちゃんと三人で小さい頃は一緒に遊んでました。時期はわかりませんがいつからか千百合ちゃんと付き合っている筈です』

『幼馴染ということは彼もこのマンションに?』

『寮制の学校に行ったとは聞いていないので今も上の方に住んでると思います』

『……そうか。ならば私がここに居ることで彼に対して圧をかけることが出来るな。今日も泊まっていいだろうか』

『拓武くんも情報を抜かれたことには気づいてるんですよね? 考えたくないですが彼が実力行使にでてきた場合対処できませんよ? 千百合ちゃんもですが幼馴染二人は運動部なので』

『ならば尚更だ。キミがリアルアタックで全損させられてしまう可能性は排除したい。私がいれば自らやってくることも無いだろう』

『そうかもしれないですけど……』

 

 勝率は二勝二敗で五割とはいえ、つい先程はレベル2のアッシュ・ローラー相手に勝つことが出来たのだ。先輩だって実力を褒めてくれたというのに、その直後で直結対戦に持ち込まれたらそのまま全損させられると思われているのは少し悲しかった。

 

『そう気を悪くするな。シアン・パイルはレベル4。それに加えてシアンという色は純色の青にほど近くシンプルで強力な色だろう。シャドウ・オウルと得意とする距離が同じだろうと予想できる以上、キミでも勝つのはなかなか難しいはずだ』

『……レベル4ってかなり高いんですね。そりゃあ先輩がそう思うわけか。ところで、リアルを割ったわけですがこれからはどう動くんですか? 何らかの取引は必要になりますよね?』

『そうなるな。こちら側からポイントの提供を持ち掛ければそう悪いことにはならないだろう』

 

 用意が出来次第伝えるのでその時にセッティングを頼むと先輩は言った。

 バックドアなんかを仕掛けていたので昔とは性格なんかも変わっている気がするが、それでも大丈夫だろうか。

 最悪、千百合ちゃんを巻き込んでしまおう。二人の関係が悪くなるかもしれないことに罪悪感はあるが、必要ならばやらなければならない。

 案外、ブレインバーストとの出会いで拓武くんも人が変わったのかもしれないと考えると親近感を感じてしまうのだった。




スマホのインディーズゲーにハマってしまったので投稿ペース落ちます
日にち明けると書くの難しい


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凍てついた世界で

チャートから外れた展開書いてるせいで難しいけど次回で合流できるので筆が早くなるかもしれません


 出会ってからコレで三日目。にも関わらず同じ空間にいた時間は四十時間に到達しているだろう。あまりに濃密な時間を過ごしたせいで他人との距離感の取り方が崩壊し、千百合ちゃんと同等かそれ以上の位置に先輩を置いていた。

 話題は尽きることなく、直結しながら今朝出た家へと歩いていた帰路だった。

 

 視覚補完ソフトの補助として利用していた一定以上の速度で接近する物体に反応するソフトが強烈な警告音を発した。

 周囲の確認が苦手な自分より先んじて先輩が振り返ると、その先には明らかにAIの制御を外れてこちらに突進してくる白い乗用車があった。

 考えるよりも先に、行動するよりも先に。唱えたのは昨日今日で何度も唱えた魔法の言葉だった。

 世界が青く染まり、猛スピードで動いていた車も急激に動きを遅くさせる。

 十メートルほど離れて歩いていた他人は完全に停止したように思えた。

 改めて状況を確認すると、車との距離は十メートルもなく、自分と車との間にはこの状況では頼りないガードレールがひとつあるだけだった。

 初期加速空間に設定している鳥人のアバターで歩き、運転席を確認するとそこに居たのは狂気に顔をゆがめた荒谷だった。

 拓武くんがリアルを割られたことで実力行使に来たのではないことに安心すると同時に、ツマラナイことで危険にさらされている現状にひどく落胆していた。

 

「すいません。つまらないことに巻き込んでしまって」

「冷静なのだな、キミは」

 

 同じく加速していた先輩に謝ると先輩は取り乱すことのないこちらの様子に対する指摘をしてきた。冷静? 違う。開き直っているのだ。急加速に制限をかけてあるフリームーヴ(セグウェイ)の機動力であの車を避ける事は不可能。

 降りて駆け出そうにもそもそも自分の走力は亀並みだ。つまり、どうやっても避けることは出来ない。ならば今更取り乱しても無意味なのだ。

 考えることはどう追突されるか、撥ねられたあとにどうするかの二つだけである。

 

「先輩は走って逃げてくださいね。この距離なら直撃はないでしょう」

「キミはどうするのだ。アラヤくんのことは私にも責任がある。自分一人だけ助かるつもりは無いぞ」

「だからって二人で事故るのはありえないでしょう。加速の力を使えば怪我を軽く出来るでしょうし、先輩が逃れるのがベストですよね。こうして話している間にも車は近づいてきますし、先輩はさっさと加速を終了して動き出してください」

 

 こちらはもう少しここに残って追突の瞬間に最適な体勢でいられるようにするつもりだった。先輩に迅速な行動を促すが、しかし聞こえてきた言葉は加速終了のコマンドではなかった。

 

「ダメだ。何故ならばキミが轢かれる結末はベストではないからだ」

「先輩は面白いことを言いますね。黒雪姫という存在を知っていただけの時と、スカッシュコーナーで初めて話した時、ラウンジで会話した時、家で過ごした時。時間が経つにつれてどんどん新しい表情が見つかる。でも、流石にこんな顔があるとは思ってませんでしたよ」

「私は実現しない現実から目を逸らして理想を口にしている訳では無いぞ。あるのだよ。ブレインバースト――加速にはこの現実から二人とも無傷で生還する力が」

 

 二秒後には確実に接触している車から逃れる方法があると? そんなわけが無い。しかし、ソーシャルカメラのハッキングに思考の加速という力が存在するブレインバーストならばありえる気がした。

 

「なんですかそれは? まさか思考だけではなく肉体まで加速させるというんですか?」

「その通りだ。肉体すらも加速させるコマンドがブレインバーストには存在する」

「…………そいつは凄い。まさかほんとにあるとは思いませんでした。明日の筋肉痛と乗用車との追突なら筋肉痛の方が百倍マシです。それで、コマンドは?」

 

 その問いに、先輩は加速世界換算で一分近くの沈黙を返した。

 

「そのコマンドはレベル9のバーストリンカーがポイントの九十九パーセントを消費することが条件とされたコマンドだ。それを使ってキミと共に車から逃れる。それが私のベストだ」

「すいません、もう一回言ってもらっていいですか? 目だけではなくて耳までイカれてたみたいで、固定値ではなく割合でポイントを使うと聞こえたんですが。しかも、残るのは一パーセントだとか」

 

 二年近く対戦を行っていなかったらしい先輩だがそれでも現在の保有ポイントは相当のものだろう。

 それは至上目的であるレベル10へのレベルアップには直接的には必要ないものではあるが、しかし王たちと戦うためには必要となるリソースのはずだ。

 それをほぼ全て使ってレベル1のニュービーを助ける?

 そんなものがベストであるはずがない。そもそも、自分は追突されたとしても死ぬとは限らないのだ。死ななければバーストリンカーとして活動することは出来る。

 ならば先輩がそんな出費をする必要は無いのだ。

 

「その通りだ。一パーセントを残してポイントを支払うことで現実の肉体を加速させ、二人で助かると私は言った」

「なぜ? なぜ、そんなことをするんですか」

「キミが私の子であるからだ。何より、キミが私の共犯者であことを誓ってくれたように、私は親としてキミを守ると誓ったはずだぞ」

 

 確かに、そんな誓いはあった。シャドウ・オウルはブラック・ロータスの子として加速世界最大の共犯者になることを誓った。それに対し先輩はその前にした頼み事――視覚補完ソフト完成のための協力――をこなし、そして親として守り、共にあることを誓った。

 しかし、それは加速世界での事のはずだ。拡大解釈したとしても昨日拓武くんからのリアルアタックを懸念して泊まったようにブレインバーストに関連する出来事のみのはずだ。

 なぜならば、こちらはシャドウ・オウルとしてしか誓っていないのだから。

 にも関わらず先輩が現実世界でも守ろうとするのはおかしいのだ。全く釣り合っていない。

 

「そんな口約束で夢を投げ捨てると? 溜め込んだポイントとたかがレベル1のニュービーの怪我程度ならばどちらが重要かなんて考えるまでもなく分かるはずだ!」

「考えるまでもなくキミの安全の方が重要だな」

 

 話にならない。不平等なんてレベルじゃない。もはやその思考は主に仕える奴隷のものだ。

 

「……仕方ないか。強行してしまうのは容易いが、その後の関係に亀裂が生じてしまうのは本意ではない。私の秘めた思いを話そう。笑ってくれるなよ?」

「何を聞いても変わりませんよ。話してる暇があるならさっさと逃げてください」

 

 先輩から視線を外して自分の現実の肉体の横に立ち、車を睨みつける。

 あとはタイミングを図って加速を終了し、最適な耐衝撃体勢をとるだけだ。

 頑として話を聞かない態度を取れば先輩だってこの時間の無意味さを理解して逃げてくれるだろう。そう思っていたのだが……。

 

「好きだ」

「は?」

 

 不意打ちのハードパンチに思わず反応すると、先輩は蠱惑的に笑って現実の肉体とは違い長身の鳥人アバターの頬に手を伸ばしてきた。

 

「好きだと言ったのだ。だから私はキミが傷つくのを見ていられない。それこそ、レベル10に到達し、BB開発者と邂逅するためのリソースの大半を使ってもキミを助けたいと思うくらいには」

 

 ありえない。と思った。何故ならばソレは、加速世界換算で何年十何年、下手すらばそれ以上の時間を切磋琢磨してきた友を裏切ってまで達成しようとした目的であるはずだからだ。

 たたが恋愛感情ごときでそれをなげうつなんて考えられない。

 自分が恋をしていると仮定して、恋をした相手のために視覚補完ソフトの完成を遠ざけてまで何かをするだろうか?

 

「先輩が二年以上もの間加速世界から隠れていたのはそんなことをするためだったんですか? 恋愛感情は論理的な思考を妨げますよ」

 

 先輩は驚くくらいに大人びた思考ができる。ならば、恋に目を曇らせていても指摘さえすれば正常な判断ができるはずだ。

 

「その通りだ。私は生まれて初めて芽生えた感情に支配され、合理的な判断をすることが出来ていない。そもそも、私自身この感情が恋愛感情であるのかすら把握出来ていないのだ。私が長年追い求めていた究極の速さを体現し、私が加速というインチキをして刻んだ記録のひとつを素のスペックで超越する在り方に魅了され、キミの背中に未来の加速世界の真なる王の姿を見た」

 

 開き直って語り始めた先輩の雰囲気は、昨日、どうしてもブレインバーストの存在理由とその目的を知りたいと口にしたものと同一だった。

 だからこそ、それが先輩の心からそのまま溢れ出た言葉だと理解出来てしまう。

 それでも、心の中に存在する天秤が揺らぐことは無かった。先輩がレベル10に到達することは自分の目的を達成するためには必要かもしれないプロセスなのだ。

 そのクリアを遠ざけてまで怪我を回避したいとは全く思えなかったからだ。

 

「真なる王の前に跪きたい。支配されたい。そう思う感情とは別に、現実のキミと知り合って生まれた感情もある。内に秘めた壮大な野望とは裏腹に、その器は非常に華奢で、庇護欲を掻き立てられた。強く在ろうとするキミの中にも弱さが感じられ気がつけば守り、支えてやりたいという気持ちすらも芽生えていたのだ」

 

 加速世界での長年の経験によるものだろうか。今まで誰にも悟られないようにしていたものは容易く暴かれていたらしい。

 もしかしたら、四肢が刀剣のデュエルアバターの生成に関わるものを悟ったのかもしれない。

 にも関わらず、それに対する嫌悪感は微塵も感じていなかった。もしかしたら隠している癖に察してもらいたかったのかもしれない。

 

「私の心は気絶したキミを受け止めたその時から相反する二つの感情に支配されているのだよ。それを纏めて考えた時、キミのことが好きなんだなと思ったに過ぎない。もしかしたら恋愛感情などではなく、もっと悍ましい感情なのかもしれないが、私は私の心の導くままにキミを助けたい」

 

 強烈な感情を叩きつけられたからだろうか。それとも先輩のような存在が混沌とした感情を向けてくれていることが嬉しかったからだろうか。

 感情は思考を鈍らせる。自分で言ったばかりの言葉の通りに思考を鈍らせ、「わかりました」と、先輩が肉体を加速させるコマンドを使うことを了承していた。



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変わらない結末

 そのコマンドはフィジカルフルバーストというらしい。

 先輩が唱えた瞬間、全ての動きが千分の一倍速となっているはずの初期加速空間から見る世界で先輩の体が目に見えて動き始めた。

 現実世界のそれよりは遅い動き。それでもここから連続して動いていることが見られる速度というのは、肉体の加速度は何倍なのだろうか?

 少なくとも、予想していた二倍、三倍程度という加速度ではない。

 その程度ならば翌日筋肉痛に苦しめられるだけだと楽観していたが、ここまで早くなるのなら話は別だ。

 

 よく見れば現実世界の先輩の顔は痛みに歪んでいるし、どんなに軽くても入院コースだろう。筋肉の断裂か。もしくは骨に異常が生じるかもしれない。

 先輩はこうなることが分かっていたのだろうか。ポイントの九十九パーセントだけではなく、こんな苦痛まで支払って助けたいと思ってくれていたのだろうか。

 

 そう思うと、たかが恋愛感情などと言っていた自分が恥ずかしく思えてきた。

 先輩が現実世界の僕の手首を握り、そして移動を始める。

 一歩、二歩と先輩が歩くとそれに引き摺られるように現実世界の体は移動していく。

 これは、自分も病院の世話になるかもしれないなと思いながらも、しかし轢かれるよりはマシだろうなと思いながら経緯を見守る。

 加速を中断しないのは現実に戻った場合痛みを感じることになり、それによって先輩の行動を邪魔しかねないからだ。

 

 あと二歩。それだけ進めば荒谷がハンドルを瞬間的にきってホーミングしてきたとしても確実に回避しきれるという所だった。

 先輩の動きが止まった。何故? そう思ったのは一瞬で、直ぐに答えは浮かんできた。

 つまり、肉体加速の時間制限。思考加速ですら制限がかけられているのだから肉体加速にはもっと厳しい制限があってもおかしくなかった。

 

 安全地帯まではあと二歩だが、逆に言えば未だ危険地帯にいるということである。

 あとは加速を終了して自分で動かなければならない。

 先輩は通常の時間軸に戻った以上動くことは不可能だろう。この細腕で先輩を抱えて、すでに五メートル前後の距離まで近づいた車から逃れることが出来るだろうか?

 いや、やらなければならない。先輩が身を切って行動したのだ。ここで轢かれるという結末を変えることが出来なければ完全に無駄となってしまう。それだけはありえない。

 

 自分の体勢を確認する。地面に着くのは右足からだ。先輩の速度をそのまま利用してみせればこの距離でも逃れることは可能なはずだ。だからこそ、一歩目は絶対にしくじってはいけない。

 

「バースト・アウト!」

 

 加速から戻った瞬間、真っ先に感じたのは先輩に握られている左手首の痛みだった。しかし、それをねじふせて力の抜けている先輩の掌を一度振り払い、そして絶対に離さないように強く握りしめた。

 あとは右足で地面を強く踏み締めて、飛べばいいだけだ。

 絶対にしくじらないつもりで踏み出した右足は、しかし先輩の速度を乗せることが出来ず、むしろブレーキを踏むような着地となってしまった。

 

 バースト・リンク!

 

 ブレインバーストの加速機能にはかなわないが、心臓のクロックが上昇したことで平常時の数倍の思考速度となっていた現実世界で、思考発声を使うことで瞬時に加速して状況を確認する。

 車との距離はもう二メートルもない。いつの間にかガードレールを突き破って歩道に乗り上げてきていたらしい。

 ガードレールの尊い犠牲のおかげかギリギリ轢かれてはいないが、次に加速を解除した瞬間、右足で地面を蹴って左足を踏み出す前に確実に接触するだろう。

 

 何を成すべきかは心に決めた。幸いなことに、先輩が移動してくれたおかげか、荒谷のテクがカスだったからか。正面衝突という形ではなくなっている。超スピードの車とはいえ、端の方にぶつかるだけならば怪我の度合いも下がるはず。

 開き直りは覚悟に変わる。一度は失敗した。次善策くらいはこなしてみせろ。

 

 バースト・アウト!

 

 瞬間、胴体に感じた衝撃とともに意識は暗転した。

 

◇――◆――◇

 

 次に目が覚めたのは白い天井が見えるベッドの上だった。見えているということはニューロリンカーも無事だったらしい。

 空気感からして十中八九病院だろう。

 包帯こそ巻かれているものの、左手首と胴体にわずかな痛みを感じる以外は問題なさそうだった。

 すぐさまナースコールを押すとあれやこれやと人が来て状況を説明される。

 自分の怪我とか、荒谷のこととか。そんなことはどうでもよかった。

 

「先輩は!?」

「車との衝突での怪我はそこまで酷くはありません。ただ、建築物との激突による怪我で現在手術中です」

「手術室はどこですか?」

 

 病室で寝ているようにと諭す医師から無理矢理に手術室の場所を聞き出し、痛みこそないものの確実に運動量が低下していて、もともと長距離の徒歩移動が得意ではなかったがなんとか移動し、手術室を見ることが出来る長椅子に到着すると、そこに座って入口を見つめながら祈った。

 

 医師は言わなかったが、先輩の怪我は僕のせいだろう。なぜなら、同じ位置にいたにも関わらず僕は建築物に叩きつけられていないからだ。

 車にぶつかったあとのことは記憶にないが、手術が必要なほどの激突ならばボディアーマーがあったとしても幾らかのダメージは残るはずだ。

 それがない。つまりは、また先輩に受け止めてもらったのだろう。その分先輩は強くぶつかり、怪我の度合いが深まった。

 僕が軽かったからこの程度で済んだのかもしれない。しかし、僕が運動できる人間ならばそもそも走って避けれたかもしれないし、そこまでいかずとも最後の踏み込みをしくじることは無かったかもしれない。

 自分の不甲斐なさを恥じ、そして辛いからなどと言って甘ったれずに運動をしようと誓った。

 

 そして、僕が荒谷に殴られたと聞いて帰ってきたミミちゃんの置き土産であるハイテクボディアーマー。これがあったからこそ僕はあそこで冷静に開き直れたが、荒谷の事件の当事者は僕だけではなかったのだ。ミミちゃんの先輩の気にいり具合からすれば、言えば先輩の分も用意されたはずである。

 荒谷たちは少年院にぶち込まれて終了と高を括っていた甘さが先輩の怪我を招いたとも言える。

 ならば、次は失敗しない。シアン・パイルのリアルを割ったからそこで終了。ではない。確実に続きはある。先輩のニューロリンカーは院内のローカルネットに接続されているらしい。つまり、院内からは乱入できるということである。

 そして、先輩の意識は今はない。ならば絶対にシアン・パイル、黛拓武はやってくるのだ。

 入口を見張り、来た瞬間、ブラック・ロータスに乱入するためにローカルネットに接続した瞬間、こちらから乱入してシアン・パイルを倒す。

 先輩の見立てではシアン・パイルに残されたポイントは少ないということだ。ならば、レベル1がレベル4を倒せば全損させられるかもしれない。

 一度では無理でもギャラリーを利用してシアン・パイルからこちらに挑ませる流れにすることが出来れば二度、つまり八十ポイントを削ることが出来、ほぼ確実に全損させられるだろう。

 幼馴染とかそんなのは最早関係なかった。

 今いる世界は現実世界だが、ここに居るのはシャドウ・オウルなのだ。ならばブラック・ロータスの共犯者として行動をしなくてはならない。

 

 気がつけば、時刻は午前二時を過ぎていて、肩にかけられた毛布と、掌に握られていた先輩の生徒手帳だけがその場にあった。

 看護師がホットコーヒーを持ってきてくれたので有難く受け取ると、看護師はようやくまともに反応してくれたと安堵の息を吐いていた。

 時間が飛んでいる数時間はまともな受けごたえをしていなかったらしい。

 

 しかし、その間に何があったのかは覚えている。例えば先輩の関係者だという弁護士が来たということだったり、先輩のニューロリンカーがオンラインであることもその時話されたことだろう。

 ならば問題は無い。やることは変わらないのだから。

 

 驚くべき速度で時計の針は進んでいき、夜勤の職員達は退勤して行った。そしてエントランスが解放され、一般の人間が入館できるようになる。

 そして八時過ぎ。来た。見覚えのある、見慣れた顔の幼馴染であり、最大の敵である黛拓武が。

 

 院内ローカルネットへの接続は時間がかかるが、ニューロリンカーのスペックによってその時間は僅かに前後する。

 黛拓武が操作し始めてから平均時間後の加速では先輩に乱入を許してしまうかもしれない。

 計四度、加速時間換算で四時間の間マッチングリストを眺め続け、千分の一倍速で時間が進む現実世界で黛拓武のニューロリンカーが院内ローカルネットに接続し、マッチングリストにシアン・パイルの名前が表示された瞬間、その名前を選択して乱入した。




次は遅れますが一話でシアン・パイル戦をやるので長くなります


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VS

魔改造注意


「初めまして、シアン・パイル。突然ですがあなたには死んでもらいます」

 

 対戦開始直後、声が届く距離まで近づくとシアン・パイル=幼馴染の黛拓武に対してそう話しかけた。

 シアン・パイル。先輩に外見を聞いていたが、実際に目にすると出てくる感想は『強そう』の一言だ。

 百八十に迫るかという身長に、鍛え上げられたかのようなぶっとい四肢。それに相応しい胸板の厚さだった。

 装甲に包まれていない部分はブラックのボディースーツのようなデザインとなっているものの、胸や肩、肘より先や頭部などの装甲に包まれている部分の色は深い青色。

 純色の青に近いというのはその通りで、ぱっとこの色を出されて『この色の名前は?』と聞かれればノータイムで『青』だと答えるくらいには青かった。

 さらに、()()には直径十五センチ程の筒が沿うように装着されており、その先からは尖った釘のような金属光沢のあるものが飛び出ている。

 その筒は巨大なものの、シアン・パイルのサイズのおかげか、トンファーのような武器にも見えなくはなかった。

 

 確かに、接近戦にはとても強そうなアバターだ。冠する色の時点でわかっていたことだが実際に見てそう思わされた。

 そして、シアン・パイルのレベルは4。対するシャドウ・オウルのレベルは1。

 戦いの舞台とするのは共に近距離であり、先輩の言う通り勝てる可能性は低いのだろう。それでも、今回に限っては勝たなければならない。

 ならば、やはり実際に戦う時間を短くしてタイムアウトを狙うのが一番勝てる可能性があるだろう。

 そう計算して話しかけたのだが、シアン・パイルはこちらの不躾かつ挑発的な発言に対して即座に返答はしなかった。

 

「ユキ? その話し方は一体どうしたのさ。君らしくないよ。まるで初対面のようじゃないか」

 

 右手を顎に当てて僅かに首をかしげたあと、シアン・パイルはそう返事をした。

 僅かにシャドウ・オウルの正体が割れていないことを期待したが、そんな都合のいいことは無かったらしい。

 

「二年もあれば色々変わるんだよ。現実世界で不完全とはいえ視覚を得たり、ブレインバーストとの出会いだったりね。そっちだってそうでしょ? 昔の君からは考えられない行動をしている」

「……ちーちゃんの件かい? それとも、黒の王に対する執拗な乱入かな? どちらも彼氏として、バーストリンカーとして問題がある行為には思えないけどね。それを言うなら君の方が問題だよ。彼氏持ちの女の子と直結して、加速世界最大の裏切り者の子にもなっているんだから」

 

 それもそうかな、と思うが全て必要なことだったのだ。互いに自分の行いを悪い事だとは思っていないというのは共通しているようだった。

 どう返事したものかと考えていると、シアン・パイルが左手の筒を振り回した。

 飛び出した先端がステージの壁を切り裂き、金属の外殻とその内側の粘液や小虫などを撒き散らした。

 もう戦闘開始なのかと一瞬身構えたが、シアン・パイルはそのまま戦闘態勢に移行することは無く話し始めた。

 

「《煉獄》ステージ。流石にステージ破壊は難しいかな」

 

 先端を右手で拭うようにして粘液を払う動作をしてステージの詳細を教えてくれた。

 こちらの知っているステージは世紀末と黄昏程度なのでその情報は喜ばしいものだが、何故教えたのだろうか。

 シアン・パイルと、二年前までの拓武くんとの差異を認識しきれずに困惑する。

 

「そろそろいいかな? もう三百秒だ。ギャラリーも退屈しているだろうし戦い始めないかい?」

 

 視界上部に映るカウントは千五百をちょうど下回ったところだった。

 まだ二十五分も残っている。せめて、あと五分くらいは稼ぎたい。

 シアン・パイルがこちらを初心者だと侮って色々と上から教えたい、優越感に浸りたいというのならばと今度は質問した。

 

「ギャラリー? ローカルネットにもギャラリーは接続できるのか?」

 

「結局のところ、ブレインバーストはソーシャルカメラの映像ありきだからね。そしてソーシャルカメラとグローバルネットは繋がっている。観戦中にローカルネットの中で何かをするということは出来ないけど観戦程度ならなんの問題もないよ。例外は直結対戦くらいかな」

 

「……こんな閉所でギャラリーは観戦できるのか?」

 

 病院のエントランスは決して狭くないが、グローバルネット下のエリアと比較すると確実に狭い。

 そもそも、建物の中であり壁があるため観戦も難しいだろう。

 

「一応手元にモニターを呼び出せるんだけどね。それでも迫力には欠ける。多分、ここなら屋上に集まってるんじゃないかな? ほら、上に行くよ」

 

 そう言ってシアン・パイルはこちらの横をすり抜けると、背後にあったエレベーターに乗って移動して行った。

 少ししてエレベーターが戻ってきて、おどろおどろしいベルの音とともに扉を開ける。

 さて、どうするか。ここで屋上に行くのは容易い。そして、この場にとどまってタイムを稼ぐのもたやすい。

 しかし、お互いに体力の残量は百パーセント。

 このままのタイムアップではドローとなり、シアン・パイルのポイントを削ることは出来ない。

 ここからさらにタイムを稼いでしまってはシアン・パイルもこちらと同じ作戦に切りかえ、両者無傷のまま対戦が終了しかねない。

 

 エレベーターに乗り、屋上へ動かす。ギャラリーを気にしていたシアン・パイルにはありえないとは思うが、到着直後の奇襲もありえなく無いため扉の正面に立つのではなく、平べったい体を活かしてボタンなどを設置するために僅かにせり出している場所へと身を潜めた。

 

 暫くすると扉が開き、煉獄ステージの黄ばんだ日光がエレベーターの中を照らす。

 そこに人型の影はなく、少なくとも正面で待ち構えているということはなさそうだった。

 無論、扉の横に張り付いている可能性もあるため、大きく跳躍して屋上に飛び出すと、シアン・パイルは屋上の中央に堂々と立っていた。

 

「それじゃあ、始めようか。本当はまだ話したいことはあるけど、折角のポイントがもったいないからね。それに、ギャラリーに退屈させるのもね。対戦終了後に話させてもらうよ」

 

 シアン・パイルはそう言って左腕の筒を腰だめに構えると、先端をこちらに向けた。

 

 足は踏ん張るように広げられており、少なくとも距離を詰めるために駆け出してくるようには思えなかった。

 カウンタータイプのバトルスタイルなのか?

 そう思った瞬間、バシュンという噴出音とともに筒の後端から炎が噴出し、先端から飛び出していた杭が射出された。

 

 それを避けられたのは偶然だった。

 たまたま飛来物に対して僅かに距離を取るようなゲームをやり込んでいて、たまたま肘関節がなかったから避けられただけだった。

 スカッシュをやっていなければポジションを変えることも出来ずに貫かれていただろうし、肘関節があれば反射的に打ち返そうとふり抜かれた手が正確に先端を捉えて貫かれていただろう。

 関節一つ分自由度が低下していたからこその回避だった。

 

「初見で避けられるとは思わなかったよ」

 

 伸ばされた杭が筒へと収納されていく間、シアン・パイルはそう呟いた。

 純色の青にほど近い色にも関わらず、中距離へ射出できる武装持ち。この意外性はたしかに初見には辛いだろう。

 杭が筒に戻りきり、再び射出される前に接近しようと駆け出すと、筒に戻り切っていない杭を振り回してシアン・パイルはこちらを牽制してきた。 

 射出時のそれと比べると威力はかなり低下しているだろうが、無視できるような威力でもないだろうその杭の攻撃を受ける訳にも行かず、ホバー移動のおかげで急停止も急加速もたやすい移動性能の高さを活かして杭を躱して射程外に逃げる。

 その間にも杭は収納されて短くなっていき、当然射程も短くなる。

 杭の収納を追いかけるようにシアン・パイルに近づけば、当然こちらが攻撃するよりも先に杭の収納が完了する。

 筒の先端から覗く杭を注視して直線上に位置しないように気をつけながら至近距離で攻撃のタイミングを伺っていると、しかし杭は射出されることなく、シアン・パイルがさらに距離を詰めて肉薄してきた。

 全体像ではなく杭に集中していたせいで対応が遅れ、右手での牽制のパンチが直撃し、続く本命の大質量の筒での殴りつけも貰ってしまった。

 

「パイルだけだと甘く見ないで欲しいな。これでも僕は近接の青なんだ。接近戦だって十分できるつもりだよ」

 

 吹き飛ばされるのと同時に自分からさらに後ろに下がって杭の射程距離から逃れ、体力を確認する。

 残る体力は七割と少し。かなりのダメージを負ってしまった。これが必殺技を除いて最大火力だろう杭の射出となればどこまでダメージを受けるのか。ますます受ける訳には行かなくなったが、筒の先端を把握しながらの接近戦はかなりきついだろう。

 しかし、こちらの攻撃手段は近接攻撃だけ。シアン・パイルの体力をこちらより減らさなければいけないのだから、近づく他なかった。

 

 杭の射程距離に入ると同時、射出された杭がこちらに迫る。この距離ならば問題は無い。

 それがあるとわかっているなら回避は可能だ。余裕を持ってとは行かないが、かすることも無く回避してさらにシアンパイルに近づく。

 杭が振り回されるが、まだほとんど収納されていない状態では先端に感じる重さはかなりのものなのだろう。

 一度足を止めて回避したため半分ほど収納されていた前回と比べてキレがわるい。

 そのため回避しながら近づくことは出来ていたが、ある程度の杭が収納されるとキレが良くなり、近づくのが難しくなった。

 結局、至近距離にたどり着いたのは前回と同じく杭が完全に収納された直後だった。

 しかし今回は恐れもせずにさらに飛び込んだ。

 さっきのシアン・パイルは確かに杭の先端をこちらに合わせるような動きはしていたが、しかしこちらも派手に動き回っていた訳では無い。

 メインの攻撃手段として杭を扱って勝ち上がり、レベル4という壁を超えたベテランならば容易に射線を合わせられるはずだった。

 にも関わらず射出しなかったのは、杭が収納されてもすぐには再射出できないのではないかと考えたからだ。

 

「リロードにはまだかかると思ったのかもしれないけど、甘いよ」

 

 プシュっという噴出音とともに筒の後端から僅かに炎が上がり、杭が射出された。

 それは正確に顔面を捉えていたが、意図的に体勢を崩すことでギリギリかする程度のダメージに留める。

 人間の耳が顔の横についていたら確実にモゲていただろうヒットも、このアバターの顔の側面には何も無いため輪郭をこする程度になっていた。

 

「避けたはいいけどそれじゃあ良い的だよ!」

 

 地面に対して急角度で立っていて、普通ならばそのまま重力に負けて倒れ込む体勢となっていた所にシアン・パイルの右足が飛んでくる。

 しかし、シャドウ・オウルは普通じゃない。

 接地してさえいれば、バランスさえ取れていればどんな体勢でも立つことが出来るし、最高速を出すことが出来る。

 前進から後退へと瞬時に切り替えて体勢はそのままにキックを躱すと、から振ったその足に向けて腕の剣で切りつけた。

 ダークブルーのブーツに剣はしっかりと命中し、シアン・パイルの体力を確かに削る。 

 蹴り抜いた方向へ押し出すような剣撃はさらにシアン・パイルの体勢を崩し、その隙に懐まで潜り込んで連撃をあびせる。

 

 しかし、シアン・パイルはまるで堪えていないかのように地面に手をついて受身を取って立ち上がると、そのまま跳躍してさらに距離を取った。

 

「気持ち悪い動きをするなあ……それに、ダメージの割に必殺技ゲージもあまり溜まってないし」

 

 反応してゲージを確認してみればこちらの体力は七割に到達し、必殺技ゲージは五割ほどになっている。

 対してシアンパイルの体力は八割ほどで、必殺技ゲージは二割も溜まっていなかった。

 

 おかしい。シャドウ・オウルのアビリティはシアンカラーに対しては必殺技ゲージの減少よりもダメージの上昇効果の方が高いはずなのに。

 もしかして、ダメージが上昇した上でこの程度のダメージなのか?

 レベル差という言葉が重くのしかかる。

 

 それでもこれまでに互いに切った手札の枚数ではこちらの方が有利だ。 

 体力では負けているが、互いに手札を切っていってダメージを累積させ合うならば最終的な収支はこちらに軍配が上がるかもしれない。

 

 第一、シアンパイルが切った手札は初見殺しの中距離武器と、そちらに意識を寄せておいての意識外からの近接攻撃。分かっていれば対処可能の、つまり死んだ手札だ。

 対してこちらが切ったのはホバー移動での変則機動。わかっていても対処は難しいはずだ。

 いける! 自分を奮い立たせて再び接近し、射程に入った瞬間に射出された杭を今度はギリギリで回避する。 

 あちらもこちらの回避の癖を読み取って寄せてきているのだろうか。

 長期戦を目指していたが、圧倒的な経験差があるため長期戦は逆に危険かもしれないと理解する。

 

 伸びた杭に対して、横から剣で攻撃を加える。

 おそらく強化外装だろうこの杭に攻撃してもダメージにならないことはアッシュローラーとの対戦で強化外装というものを知ったために理解している。

 今回の攻撃の目的はシアン・パイルが予期しない杭の先端の動きによって体勢を崩すことだ。

 踏ん張られたことでほんの僅かしか隙は生まれなかったが、二秒も杭が動かない時間があれば十分に距離を縮められる。

 杭の先端を追い越して接近し、攻撃を浴びせるとシアン・パイルは右手一本での防御を行った。

 詳しくはわからないが、左手を使わないのは筒に原因があるのだろう。

 パンチではなく斬撃であるこちらの攻撃はしっかり振ることさえできればどこに当たっても一定のダメージが保証されている。

 杭が戻ってもその瞬間に最大火力の射出が出来ないことはさっきの射出の際に後部から吹き出した炎の大きさで予想出来ている。

 ならば杭が収納され切った瞬間に次の行動を開始すれば問題は無い。

 そう思って攻撃を続け、視界の端で杭が収納されたのを確認した。直後――

 

「《フラッシュ・チャージ》!」

 

 シアン・パイルが叫び、杭が射出される。筒の後部から吹き出す炎の大きさは通常時の――初撃のそれよりも大きく、そして杭の射出速度はこちらの知るものの倍以上となっていた。

 回避動作に移った瞬間には杭はこちらの体にめり込んでおり、左腕が半ばから食いちぎられて杭の先端と共に彼方へと飛んでいく。

 

 左腕に与えられた衝撃できりもみ回転しながら後ろに吹き飛び、なんとか着地して杭の先端を見れば、既に収納が始まっているにも関わらずその先端の位置はこちらの知る射程の限界よりもはるか先にあるように思えた。

 収納のあいだ、シアン・パイルが呟いた。

 

「この必殺技を使うのも久しぶりだな。レベル4になってから初めてじゃなかったかな」

 

 必殺技。ゲージを確認してみればシアン・パイルのそれは確かに減少している。現在値は一割もない。

 こちらへダメージを与えて補充された後にその数値ということは、元々二割もなかったそれをほとんど全部使っての必殺技だったのではないだろうか?

 

「僕の杭が収納後にも待機時間が必要だというのは正しい認識だよ。より正確には、収納後にチャージが始まって、ゲージが溜まりきると最大出力での射出が可能になるだけでゲージが溜まり切ってなくても射出はできるんだけどね」

 

 それが連射と威力の低下のカラクリか。

 

「今使った必殺技はチャージゲージを必殺技ゲージで補う最初から持っていた必殺技でね。使うゲージ量は一割とチャージゲージの不足分。それで通常できない二百パーセントまで充填されるって仕組みさ」

 

 立ち回りを上手くすれば連射の必要は無いし、二百パーセントチャージもほかの必殺技と比べてコスパが悪いから最近は使っていなかったと続けられる。

 

「それでもゲージが貯まりにくいらしい君との対戦なら使い勝手のいい技かもね。本当は派手なゲージ百パーセント技を使いたいとおもっていたんだけど、それは諦めることにするよ」

 

 そして、レベル4までに積み上げたシアン・パイルの膨大な手札の数と、質に任せた蹂躙が始まった。

 

 接近するところまではなんとか出来る。それでも片腕を失ったことで手数は減少し、ダメージを積み重ねられない。 

 フラッシュ・チャージによる速射に警戒すればさらに手数は減少する。

 そこに突き刺さるのは二割強の必殺技ゲージを使うシアン・パイルのレベル2必殺技、《スプラッシュ・スティンガー》。胸部装甲の隙間から小さな釘が大量に射出され、炸裂する。

 体を守るようにかざした右手の剣の腹に大量の釘が打ち込まれ、先輩から構造的に脆弱であると指摘されていた剣の腹から右手は粉々に砕けた。

 それでも両足も剣である。しかし、機動力を確保したまま足での攻撃はまだ習熟していないものだった。

 蹴撃に意識を割いた結果回避行動が疎かになり、逆に蹴り飛ばされて地面に打ち付けられる。

 

「これで終わりかな。初心者だって言うのに結構楽しめたよ。これから使うのは使い勝手が悪い代わりに最大威力を誇るレベル3の必殺技だよ」

 

 そう言って巨大化された筒と、先端が潰されてハンマーのような形になった鉄杭の先端が胸に押し付けられた。

 

「《スパイラル・グラビティ・ドライバー》!」

 

 大音量の駆動音とともに筒の後端からは何度も巨大な炎が排出され、それが十に到達しようかという所でハンマーが回転しながら射出された。

 本人が言う通り最大火力だということは嘘偽りない真実のようで、対戦開始時に破壊は難しいと言っていたステージの床を何枚も粉砕して一階のフロアへと叩きつけられた。

 

「あれ……体力残ってる」

 

 痛みに呻きながらも対戦が終了していないことを不思議に思いステータスバーを確認すると、四割ほどだった体力は残り数パーセントではあるが確かに残っていた。

 

「最大威力ってのも大した事ないな……」

 

 タイムは残り二百秒ほど。生存していたとはいえかすれば即死するこの体力では勝ちの目もない。 

 積み重ねてきた覚悟はぽっきりと折れてしまい、負け惜しみのようなことを呟くことしか出来なかった。 

 気持ちの悪い煉獄ステージにいつまでも寝転がっているのを拒否して上体を持ち上げると、奇跡的にか。あるいは運命なのか。

 叩きつけられた一階のフロアは、ERのマイクロマシン室のようだった。

 煉獄ステージのデザインを守りながらも、しかしおとぎ話のような黒い茨のベッドに横たわっていたのは背中から蝶の翅を生やした眠り姫だった。

 

「先輩、ブラック・ロータス。ごめんなさい。あなたは僕に関わったからポイントを大量に失い、大怪我をして、そして意識の戻らぬままに全損の危機に晒されている。共犯者として誓ったにもかかわらず、あなたを守ることが出来なかった。希望を、ブレインバーストの存在を教えてくれたあなたの目的をこんなくだらない事で潰えさせてしまう。この対戦が終わったら、きっと僕もブレインバーストをアンインストールします。本当は惜しいけれど、何を犠牲にしてでも完成させると誓っていたけれど、それでもあなたの体と心を守れなかった僕があなたからの贈り物で願いを叶えるのは間違っているでしょう」

 

 折れた腕を眠る先輩の上に翳して呟いた。 

 折れていなかったとしても剣の腕では先輩に触れることも出来ない。

 折れる膝がないから崩れ落ちなかっただけで、気分的には膝をついて項垂れた状態だった。

 

 ――キミの背中に真なる王の姿を見た。

 

 意識の無いはずの先輩の体から、事故の直前に告げられた言葉が聞こえた気がした。

 王。先輩はこんな人間に自分の世界の王の姿を見たと言った。跪いて支配されたいとすら。

 そして、その身を守るために自分の全てを投げ打って、現実でも加速世界でも危機的な状況へと身を落とした。

 ならば、最後の瞬間までシャドウ・オウルは気高くあるべきだ。諦めることは即ち先輩の行動を否定することだ。先輩を貶める行為だ。

 

 ――抗え。どうにもならない現実に。

 ――君臨しろ。誰よりも高みに!

 

 突如、全身が燃えるように熱くなった。これは、意思だ。

 絶対にやり遂げると、一度は粉々になった覚悟の欠片が圧縮され、そうして生まれた熱だ。

 その熱は体内だけではとどまらず、背中から加速世界へと放出される。

 熱は翼となり、気がつけば病院の一階ではなく、屋上でもなく。世界を見下ろす遥かな空へと君臨していた。

 

 屋上ではシアン・パイルがこちらを見上げている。脇の建物ではギャラリーが賑わっている。

 それらの全てを見下ろして、シャドウ・オウルとして、加速世界最大の裏切り者であるブラック・ロータスの共犯者として気高く君臨する。

 ならば、やることはただ一つ。 

 戦うのだ。体力が僅かしかなくても、アバターが動いて、目の前に対戦相手がいるのなら、勝ち目がどれだけ低くても戦え!

 

 そう。シャドウ・オウルが腕のみならず脚まで剣であるのは第二の移動手段――翼で行動しながら攻撃を重ねるためなのだ。

 そしてなにより、冠する名前の通りに上空からの強襲でで獲物を仕留めるためなのだ。

 

 シアン・パイルは空に留まるこちらに筒を向けている。シアン・パイルもまた、戦う気なのだ。

 自身の開けた穴から天井のある一階層下に逃げ込めば、急降下による攻撃を封じ、閉所で杭を簡単に命中させられるにも関わらず、そうしないのは戦う意思があるからなのだ。

 ならばやるしかない。かすりすらさせずに完璧に杭を避けて、その上で一撃で仕留める。

 カウントが百からひとつ時を刻み、二桁となった瞬間、戦闘が再開され、そして終わった。

 




エピソードワンの一番の山場を8000字ちょっとで終わらせていいものなのだろうか……
別視点とか書くかもしれません(未定)

シアン・パイルですが
パイルドライバーが右手から左手に変更されて
レベル1必殺技が生えて
多分パイルドライバーの仕様も僅かに変更されてます
まだ変更点は残ってますが……


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リザルト

なんかランキング入りしてたので慌てて書き上げました
評価を入れてくれたりブクマしてくれた方はありがとうございます
一巻分はあと二、三話で終わると思います


 勝った。守った。

 シアン・パイルから四十ポイントも奪い取った。

 そのポイントは、決して少ないものでは無い。

 ならば、焦って何度も乱入し、そして黒の王の存在を報告するのではなく、溜め込んだポイントを簒奪しようとすらしていたことからポイント残高が危機的状況にある事が予想されるシアン・パイルでは払いきれない額だったと言えるだろう。

 

 幼馴染からブレインバーストを奪った。拓武くんにもブレインバーストによる他者との繋がりはあったはずだ。それを奪ったことに微塵も罪悪感がないと言ったら嘘になる。

 それでも、自分が自分であるために、ブレインバーストを解析して完全なる視覚補完プログラムを完成させるために、それは必要なことだったのだ。

 罪悪感を噛み砕き、それを飲み込んでいく。その上で活動していかなければならない。

 そもそも、千由里ちゃんの時にそうすると決めていたのだから、今更それを貫き通せないというのはその時の気持ちが嘘になってしまう。

 

「隣いいかな?」

 

 心の整理をしていると、今聞きたくない声ランキングを断トツで駆け抜ける声が聞こえた。

 それも仕方が無いだろう。なぜならば、加速世界との接点がなくなったとしても黛拓武という少年は現実世界ではこの病院に居るのだから。

 

 返事をする前に座った拓武くんとの間にわずかな沈黙が流れた。

 

「まずは、おめでとう。かな? 跳躍の枠から外れた飛行アビリティは初めて見つかったはずだよ」

「それが全損させられた相手への最初の言葉でいいのか?」

 

 恨み言とかそういうのがあるだろうに。ブレインバーストに対する思いが軽かったのならばその言葉が出るかもしれないが、バックドアに加えて事故翌日に学校を休んでまで来るくらいなのだからそれに対する思いは相当のはずだっただろうに。

 

「…………どうしてそんな結論に至ったのかに興味はあるけど、僕はまだ二百ポイント以上保有しているよ」

 

 まだ、全損していない? シアン・パイルは生きている? ならば、先輩は? ブラック・ロータスは? 対戦終了からは軽く三十秒は経過している。対戦の一度や二度程度なら余裕で済ませられる時間だ。

 

「ユキの先輩には乱入してないよ。僕が今日ここに来た理由はユキと話したかったからだしね。事故があったって聞いてこれ以上遅らせると悪いことになると思ったからなんだ」

 

 ……どういうことだ? こちら側の想定していたシアン・パイル像と、その目的からはかけ離れている。

 

「僕がユキの先輩に何度も乱入してきた理由は分かるかい?」

「先輩の溜め込んだポイントを奪うためじゃないの? 報告報酬だけじゃなく、先輩の保有しているポイントすら独り占めしようとした」

「なるほどね。僕はポイント全損の危機に陥ってたと予想されていたわけか……」

 

 確かに、客観視すればそう考えるのが一番自然だと拓武くんは呟いた。

 

「結論から言うと、それは間違いだ。僕の目的は君の先輩との対談だったからね。ちーちゃんを《子》にしようと思ったらローカルネットに同業者が、それも指名手配中のユキの先輩がいるものだからね。直接話して信用できると思うか、なんらかの契約が結ばれればコピーインストールを試そうと思ってたんだ」

 

 そもそもポイント残高が不安なら何度も何度も乱入しないよ。と拓武くん。

 ドローで終わった試合でも加速のために使ったポイントが返還されることは無いため、二十ポイント弱を捨てたことになるという。

 

「バックドアは?」

「《親》に渡されたんだよ。使えってね。剣道部の先輩が親だから距離感的に従わない訳にもいかなくてね。毎朝報告をさせられるから大変だったよ」

 

 バレてしまったし、今度ちーちゃんに謝ってしっかり削除しておくと拓武くん。

 ついでにギャラリーなどを通じてバックドアの存在を広めるという。

 そうすることでバグや不具合などはいつの間にか修正されるのだとか。

 逆に言えば、少数で秘匿しているバグは修正されないのだろうか?

 

「つまり、僕達の勘違いだったってこと? 拓武くんは千由里ちゃんの安全が確保されれば他人に先輩のことを話すつもりもなかったし、今日来た理由も先輩が意識不明でローカルネットに接続されているのを知ったからでもなんでもなく。ただ千由里ちゃんを子にしたかったから行動していただけと?」

「そういうことになるね。でも、ユキたちの行動も当然だよ。自己防衛は基本だからね。だから、勝ち取った四十ポイントのことは全く気にする必要は無いよ」

「それは全く気にしてない。幼馴染を全損させたってなると流石に罪悪感が刺激されてただけだから。余裕があるなら気にならない」

 

 二年で図太くなったねと呆れたように笑う拓武くんをみて、昔とは少し形が変わったものの良い関係を築けそうだと感じ、それを少し嬉しく思った。拓武くんが千由里ちゃんを子にできたならば、昔のように三人で活動する時間も増えるかもしれない。

 そうして事故から張りつめていた糸が僅かに緩んだ瞬間、世界が青く染まった。

 さらに地面に近い位置から変化は始まり病院はわたあめのように輪郭をたもてなくなり膨張し、自分の体は世界が青く染まった瞬間に意識が移った鳥人のアバターの足元から黒く薄い剣へと作り替えられていく。

 

 乱入された? 一体誰に? 一番疑わしいのは拓武くんだが、隣を見ると拓武くんは未だに青く固まったままだ。

 乱入者が拓武くんならば今頃シアン・パイルが隣に立っているはずだ。

 ならば、気を抜いている間に第三者のバーストリンカーが病院に来て加速をした?

 シャドウ・オウルを対戦相手に選んだのはなぜだ? 最初に選ぶのは加速世界に飛び込んだ直後の世間知らずでもなければ最も目を引かれるだろうブラック・ロータスのはずだ。

 しかし、シャドウ・オウルを対戦相手に選んだということは……既にブラック・ロータスには乱入したあとだということか?

 

 解決したと思った問題が、最悪の結末に着地したことを覚悟しつつ、シャドウ・オウルにアバターが作り替えられ、そして対戦が始まって相手の名前を確認できるようになるのを待つ。

 FIGHTを象った炎が浮かび上がり、弾けるとその炎が視界上部に集まってステータスバーとその下部の名前が表示される。

 

 誰だ。と、睨みつけるようにして名前を読み上げた瞬間、胸に衝撃を受けて後ろにスライドする。

 

「先輩。目が覚めたんですね……」

 

 乱入者はブラック・ロータス――先輩だった。

 それはつまり、意識不明だった先輩が復活したということであり、先輩が全損する可能性が無くなったということでもあった。

 先輩は学内ローカルネットのアバターのまま首元に抱きついてきていて、頭を何度か撫でるとふわふわした地面に降りて話し始めた。

 

「キミが大空に飛び立って直ぐに目が覚めたよ。キミは、やはり素晴らしいな。誰よりも自由に、この加速世界で活動出来る。その翼は、加速世界で初めて確認されたものだ。気高く地上を見下ろし、そして何者にも縛られないそのあり方は王に相応しい……」

「みたいですね。今までのアビリティはどこまで行っても跳躍の枠から外れなかったとか。王ってのはやっぱりよく分かりませんけど、そう評価してくれる先輩の顔に泥を塗らないように、自分に誇れるように、最後の瞬間まで諦めないようにしようとは思いました」

「む、ユニークアビリティだというのに驚かないのだな?」

「さっき聞きましたから。実は……」

 

 シアン・パイル、つまり拓武くんから聞いたことをそのまま先輩に伝えた。

 先輩は何回かツッコミを入れてきたが、本人から聞いた僕同様に納得したようだった。

 

「なるほどな。ならば取り敢えずはシアン・パイルくんに伝えておいてくれ。私は倉嶋くんがバーストリンカーとなっても襲うことはないとな。本人との対談は私の面会が可能になってからだろうな。対戦フィールドではギャラリーの目が……いや、違うな」

 

 先輩はそろそろ私も逃げるのを辞めるべきだろうと言った。

 

「子であるキミが気高く在るとして、私に泥を塗らないようにとしてくれているのならば、私が自ら泥に潜んでいるのは間違いだろう。本来のアバターを封印から解き放ち、加速世界にその存在を示そう」

 

 先輩がコンソールを操作すると、足元からそのアバターが作り替えられる。

 スリットの入ったロングスカートが一気に短くなり、刀剣のようにギザギザに分割される。

 露出したタイツに包まれた脚とグローブに包まれていた腕は柔らかな曲線からぴしっとした直線へと変化し、先端は針のように鋭くなる。

 濡れ羽色の長い髪は光に溶けて消え、代わりに翼をはためかせた猛禽のような形のフェイスマスクが出現し、そして弾けるようなエフェクトが一瞬その姿を覆い隠すと、次の瞬間には完全にデュエルアバターへと変化を完了した先輩の姿があった。

 

 それは、黒曜石のように美しいアバターだった。

 全体的なデザインはシャドウ・オウルに似ている。むしろ、肘や膝の関節のない素人クオリティのシャドウ・オウルをプロのデザイナーとモデラーがリメイクして作り出したかのようなアバターだ。 

 もしくは、ブラック・ロータスを見て憧れた素人が作り出したのがシャドウ・オウルだろうか?

 特に機能面での差がありそうなのはブラック・ロータスも四肢は刀剣であるが、その位置は肘・膝より先に限定されており、振るうのは容易そうな所だろうか。

 先輩がシャドウ・オウルに的確なアドバイスを出来たのも納得出来るアバターだった。

 

「……綺麗だ」

「ん、そうかな? キミの趣味にこの黒は合わないと思うが……それに、誰かと繋ぐ手すら私には無い」

「手が無いのは同じじゃないですか」

「私の場合は静止状態でも破壊力があるのだよ。それこそ、投げ技を基本とするアバターが棒立ちの私を掴もうとすればその手指が欠損するほどのな。誰かに握ってもらえるキミとは違い、私は差し伸べられる手すらも跳ね除けてしまう。ブラック・ロータスはその色といい四肢といい、全てを拒絶する私の心が作り上げた醜悪なアバターだよ」

 

 デュエルアバターを理解するということはその者の心の傷を理解するということだ。

 それは、自分のデュエルアバターを知るということは蓋をして隠しておきたいものだけを的確に映し出す鏡を見るようなものだというわけか。

 

「黒は全ての色を内包する色です。何者にも染まることを拒む拒絶の色ではありません」

「いい。無理に褒める必要は無い。キミが自分の色を気に入らないのならば、私の色だって同じはずだろう?」

「違います。僕が嫌いなのはシャドウ――影色です。自分の色を持たず、ほかの色とは違い()とは決して相容れない、影にしか存在しない最悪な色だから。僕の瞳を常に占有する色だから嫌いなんです。一方黒は全てを受け入れる素晴らしい色だ。きっと、シャドウ・オウルが黒色のアバターに対して行動を阻害する能力を得たのは籠の鳥にして手元に置いておきたいからです」

 

 デュエルアバターは本当に自分の心を映し出す鏡なのだ。自分の四肢が刀剣である理由や飛行できる理由は分からないが、シャドウ・オウルに設定された色やアビリティというのはわかりやすい。 

 黒にデバフを与えるのは手元から離れさせないため。白にダメージを与えるのはきっと心のどこかで白を憎悪しているためだろう。

 とてもわかりやすく、自分のあり方を指摘している。

 

「全てを切断する四肢は足を引っ張ろうとするような、それこそ六王たちの停戦協定のようなものに縛られない美しいあり方を反映したのかもしれませんね」

「もういい。キミがそう思ってくれているのはよく分かった。恥ずかしいからやめてくれ」

 

 表情の見えないデュエルアバターではあるが、確かに照れている声色であったので褒めるのをやめることにした。

 

「これからはどうしますか?」

「ギャラリーたちの前で復活の宣言をする。シャドウ・オウルひとりのギャラリーだけではなく、対戦相手のギャラリーを巻き込んで多くのバーストリンカーに知ってもらいたい。レオニーズの幹部候補として知られているらしいシアン・パイルに協力してもらえればそれでいいのだが……」

「じゃあ戻ったら聞いてみますね。……そういえばこの対戦のギャラリーは? シャドウ・オウルは飛行アビリティを披露したこともあってシアン・パイル側からこちらにも登録してきた人数はそこそこだと思いますけど」

「そこは裏技というやつだ。直結対戦以外にもギャラリーを排除する手段はあるのだよ」

 

 先輩はひとつ咳払いすると、さて。と話題を切りかえた。

 

「良かったら残る時間、私を抱えて飛んでもらえないか? キミの見る景色を体験してみたい」

「いいですけど、どうやって飛びますか? 互いに手のひらがないと掴まることもできませんよ」

「私が君の腕に座るようにするというのはどうだ? キミの剣は振るわなければ破壊力は生まれないからな」

 

 私が白系統のアバターならアビリティでダメージが発生していただろうが、黒に与えられるデバフは飛行には関係しないだろうと先輩。

 

「なるほど。それじゃあ必殺技ゲージを稼いできますね」

 

 その後、残った二千カウントほどを白く染まった《雲海》ステージの飛行に費やした。

 先輩は飛行の感覚を絶賛し、毎日でも飛びたいと言う程だった。




鬼に笑われそうですが三巻以降を書くことになった時は改めてRTAパートも書いた方がいいのだろうか
ちょっと悩んでいます
その時はチェリールーク撃破後のセーブデータを利用した白の王撃破チャートのエピソード別参考記録とかそんな感じになりますかね


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幼馴染

 シャドウ・オウルとシアン・パイルの激闘の翌日。土曜日。多くのバーストリンカー達が領土戦への気合十分で早起きをしていた。

 そんな中、領土戦ではない、通常の対戦が杉並エリアで行われた。それ自体は不思議なことでもなんでもない。領土戦に参加しないバーストリンカーも少なくない数存在しているし、なによりその時間は領土戦の開始時刻より前だったのだから。

 対戦カードは先日と同じシャドウ・オウルとシアン・パイル。 

 ギャラリー達は飛行アビリティを持つシャドウ・オウルの戦いが見れると湧いたし、それを差し引いても前回のこのカードは激闘だったためギャラリーたちの感情の針は振り切れていた。

 しかし、その僅か数分後、対戦はシャドウ・オウルとシアン・パイルの二人の同意によってドローとなり終了された。

 戦闘行為が一切なく、ギャラリー達は落胆するかと思われたが、しかし対戦終了後のギャラリーたちは感情が爆発していた。

 それは、シャドウ・オウルが翼を広げ、自身と同様の四肢が刀剣の黒いアバターを胸に抱いてギャラリーたちの前に現れたからだ。

 シャドウ・オウルに抱えられていたアバター――黒の王、ブラック・ロータスは天を指しギャラリーたちに告げた。

 今日この時を以て黒の王とそのレギオン、ネガ・ネビュラスの活動を再開すると。

 六王たちの築く偽りの平和を打ち砕くと。

 

 ギャラリーたちの反応はまちまちで、黒の王の活動していた二年以上前からバーストリンカーだった者達は黒の王の対戦が再び見ることが出来ると興奮したり、現在の加速世界の秩序が崩れ、自身が全損してしまうのではないかと恐怖したりした。

 実際に黒の王を知らない比較的新参のバーストリンカーはそんな先輩バーストリンカー達の姿を見て興奮したり、あるいは魔王のように黒の王のことを伝えられていた者は恐怖したりとギャラリーたちは混沌としていた。

 黒の王の宣言から少しして、落ち着きを取り元してきていたギャラリーの誰かがようやくあることに気づいた。

 シャドウ・オウルの初陣――アッシュ・ローラー戦から少なくないバーストリンカー達が感じていた既視感の正体に。

 二人が並び立てば一目瞭然であった。しかし、今日この時、一番最初に目が向いたのはシャドウ・オウルの翼。次に意識が向いたのは黒の王の宣言。

 そして落ち着いて、やっとシャドウ・オウルが黒の王と酷似した姿を持つことに気がついた。

 特異な姿のシャドウ・オウルが初戦とその次で人が変わったかの様にその操作能力が向上していたことや、こうして黒の王を抱えて現れたことから、シャドウ・オウルが黒の王の《子》ではないかと。

 

 それとほぼ同時にシャドウ・オウルとシアン・パイルの対戦は終了し、その直後、現実世界換算にして十秒とかからずに六王のレギオンの主要メンバーや、加速世界の情報通などに黒の王の復活が伝えられた。

 加速の性質上、情報の伝達は一瞬で行われるのだ。

 そして、その数時間後、青のレギオン――レオニーズでは一人のハイレベルバーストリンカーが断罪され、そして幹部候補として名高く、レギオン外にも知名度が高かった一人のバーストリンカーが追放処分となった。

 そして、黒の王のレギオン、ネガ・ネビュラスが復活すると聞いて興味本位で多くのバーストリンカーたちが杉並を訪れたが、その日の領土戦でブラック・ロータスとシャドウ・オウルの両名と戦うことは無く、杉並の領土戦は勝者無しの空白地帯のまま終了した。

 

◇――◆――◇

 

「……ということなんだ。本当にごめん!」

 

 夕方。僕の家では何年かぶりに幼なじみ三人が揃いテーブルを囲んでいた。

 しかし、それを包む空気は団欒としたものではなく、どこか重苦しいものだった。

 それも当然だろう。僕と拓武くんはブレインバーストの事で千由里ちゃんを騙していて、それを謝るために呼び出したのだから。

 

「……ねえ、バックドアってなに?」

 

 良くないものってことは分かるけど。と小さく千由里ちゃん。拓武くんがかなりの覚悟で謝罪したものの、その全てを理解することは出来なかったらしい。

 

「所謂ウイルスかな。視聴覚情報とかを直結せずに確認できたりもする」

 

 でも拓武くんは位置情報の利用程度しかしてなかったらしいけど。と、補足とともにフォローしようとしたが、その直前に信じられない! と千由里ちゃんは爆発した。

 今にも席を立って出ていこうとする千由里ちゃんを何とか留まらせ、なんとか場を保つ。

 その後の拓武くんの言い訳によってバックドアの仕掛けられていた期間が短かったこと、バックドアを利用していた時刻が平日の昼間に集中していてプライバシーをそこまで侵されていなかったことが判明し、そして拓武くんも先輩に強要されていたということで千由里ちゃんは今度拓武くんに駅前のクレープを奢ってもらうという条件付きで怒りを収めた。

 折角怒りが収まったのに再び点火するのもと思ったが、続いて僕も千由里ちゃんに謝罪をした。

 

「この間の直結なんだけどさ、あの時ソフトの不調だって言ってたけど嘘なんだよね」

 

 本当はわざとオフにしてたし、席に着いてからは再起動してたのだと伝える。

 

「千由里ちゃんのストレージを漁って確かめたい事があったから騙してたんだ。ごめんね」

「知ってた」

「え?」

 

 再び爆発すると思われたが、意外な反応が返ってきて思考停止する。

 

「なんとなく動きに違和感があったから分かってた。理由はわからなかったけどなにかそうする理由があるんだろうなって。つまりたっくんが仕掛けてたやつのせいなんでしょ?」

 

 絶望したような目でこちらを見てくる拓武くんには申し訳ないが、正直に話すことにした。

 

「まあ……ね。千由里ちゃんの位置情報から先輩に悪戯が多発してたから。犯人はバックドアを介した拓武くんだったんだけど。でも、先輩と拓武くんの間ではしっかり和解してるし、拓武もしっかり罰を受けたから!」

 

 今度は一切間を開けずに捲し立てるようにフォローする。事実、拓武くんはレギオンを追放され、少ないとはいえ保有ポイントの半分を支払っているのだ。これ以上の罰はあまりにも酷である。

 

「そ、なら許す。しっかり謝ってくれたんだしあたしも怒鳴ったりしないわよ。あ、でもたっくんはクレープじゃなくてパフェね。この前オープンしたお店の一番高いやつ」

 

 ごめん、拓武くん。謝罪とともにこっそりクーポンサイトのリンクとおよそ半額分のキャッシュを送っておいた。

 ちなみに、謝罪でクーポンを使おうとするとは何事かと怒った千由里ちゃんがパフェを追加注文したせいで支出はかえって増えてしまったらしい。しかし、二つ目は二人で食べさせ合うことが出来たと後で嬉しそうに拓武くんから伝えられた。

 

「それで、僕達がこんなことをした理由なんだけど……」

「たっくんのバックドアのせいじゃないの?」

「拓武くんがそれを仕掛けるハメになった理由だね」

 

 と、ブレインバーストの事を千由里ちゃんに打ち明けた。

 なかなか信じようとしなかった千由里ちゃんだが、実際に何度か加速をしてそれを証明すると、何とか信じてくれたようだった。

 決め手は宿題を二秒で終わらせたことだろう。確実に。

 

「あたしもやる。たっくんもユキも、黒雪姫先輩もやってるんでしょ? ならあたしもやる」

「僕もちーちゃんを誘おうと思ってたんだ。ただ、対戦系のゲームだからちょっと心配でさ。止むおえなくバックドアを仕掛けて梅郷中のローカルネットを覗いたらほかのプレイヤーがいたもんだから先に話をつけようと思ってたんだけど」

「言い訳はもういいの! たっくんは心配性すぎなんだから……」

 

 照れ隠しのように声を大きくした千由里ちゃん。僕は一体何を見せられているのだろうか? 人の家だぞここ。

 

「ただ、先輩が大変なのとちょっとゲーム内が荒れてるから千由里ちゃんにはしばらく待って欲しいんだ。早くて先輩が退院するまで、遅くても来年度の頭までには安定させるからさ」

「そんなに危ないわけ?」

「先輩が二年間グローバルネットに接続出来なかったくらいには」

「にっ……! あんたたち馬鹿じゃないの!? そんなのさっさと辞めなさい!」

 

 当然の意見だった。グローバルネットは現代人になくてはならないものだ。それに二年間も接続できなくなる可能性があるソフトなんて関わらない方がいいに決まっている。

 

「無理だよ。アレは僕の目的のひとつの姿だから。カメラの映像を精密かつ即時3Dフィールドに作り替えることが出来る能力はいかなるリスクを背負っても関わり続ける理由になる」

 

 グローバルネットは視覚補完に必須なものだ。接続できなくなるのはかなり辛いことである。しかし、同時にブレインバーストを深く知ることが出来れば視覚の問題は視点が首であるということ以外全てが解決されるのだ。

 

「僕も黒雪姫さんに迷惑をかけちゃったからね。贖罪の為にも辞めるつもりは無いかな。それに、ただ危険なだけのソフトじゃないんだ。さっき見せた能力もそうだし、なにより面白い。じゃなければちーちゃんを誘おうとしたりしないよ」

 

 拓武くんは贖罪などと言っているが、先輩は今朝の宣言のためにギャラリーを借りたことでチャラだと考えている。元々こちら側の勘違いだったこと、別件とはいえレギオン追放処分を受けていることを考えてのことだろう。

 しかし、それでも拓武くんは納得していないようだった。今後は、正確には来週の領土戦からはネガ・ネビュラスの一員として杉並エリアを支配下に置くための協力をしてくれるつもりらしい。

 無論、ネガ・ネビュラスの支配下に杉並が置かれれば乱入拒否ができるようになり、千由里ちゃんをバーストリンカーにした時の安全性が向上するという理由があるからかもれないが。

 

「あきれた。でもしかたないわね。二人とも一度こうだと言ったらテコでも動かないのはあたしが一番よく知ってるし、もう何も言わないわよ。でも、何かあったら絶対に相談すること!」

 

 こうして、僕達幼馴染は全てを晒し合い、二年前までの関係性を取り戻した。

 きっと僕は何かがあればまた二人を裏切って、騙して行動してしまうかもしれないが、できる限り誠実に生きていこうと心に誓った。




アンケートです
RTAではカットされた用心棒エピソードですが、二次創作パートでは発生します
そこで質問なんですが、一巻と二巻の間に挟んだ方がいいですか?
それともそこまで続くか未定で絶望的な十巻まで温めた方がいいですか?
つまり読みたいか読みたくないかってことなんですが
RTAで釣り上げた読者が多いと思うので一応聞いておきます 

普通に書く場合は一万から三万字くらいの章になるかと思います


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解決と新たな問題

拓武くんとオリ主の一人称被ってるやん!と思ってましたが3巻を読んでたら拓武くんの一人称は「ぼく」であることに気づいたのでこれからは「ぼく」と言わせることにします
オリ主は「僕」です

また、もっ先が原作と比べて軽傷だったりオリ主とハルユキ君の思考回路の違いで各イベントの時系列に若干の変化があります
ご了承ください


「《ライトニング・シアン・スパイク》!」

 

 シアン・パイルの強化外装の先端から光線となった鉄杭が射出され、対戦相手を呑み込んだ。

 その体力を全損させると共に光線は途切れ、強化外装はその全体から蒸気を噴出していた。

 ただの演出ではなく、排熱が行われているのだろう。

 

「ハデだなあ」

 

 対戦が終了したため、翼を畳んでシアン・パイルの横に着地し、初めて見た必殺技への感想を述べた。

 

「ぼくのフィニッシュ・ブローだよ。ゲージを十割食うしこの後は《パイル・ドライバー》は使えなくなるけど射程、速度、範囲、威力。どれをとってもぼくの手札では一番だ」

「僕にもフルゲージ技欲しいな。《フラッシュ・キック》は一割しか使わないしね」

「ユ……オウルには翼があるじゃないか。あれもゲージを使うんだからフルゲージ技とは相性が悪いんじゃないかい?」

「それもそうか。レベルアップできるようになったらアビリティ強化を選ぶことにするよ」

 

 会話の途中もプシュー、ガシャンガシャンという強化外装からの音は長々と三十秒以上も続き、結局対戦終了までの猶予時間中に再び強化外装の姿を見ることは出来なかった。

 

◇――◆――◇

 

「お疲れ様。今日も余裕の勝率維持だ」

「二対三でもやれてるのは拓武くんが千由里ちゃんのためにって張り切ってるからだよ」

「それを言うならユキだって張り切ってるじゃないか。マスターの安全のためにって」

「まあね」

 

 シアン・パイルとの病院での激闘から約一週間。

 シアン・パイルは青のレギオン、レオニーズを追放されると即座に黒のレギオン、ネガ・ネビュラスへと所属することになった。

 それは贖罪であったし、自分の彼女が安心して加速世界にやってこれるような舞台づくりのためでもあるという。

 

 そしてシアン・パイルが加入して二度目の土曜日。

 青のレギオンから追放された翌週である一度目の土曜日でタッグを組んで杉並第三及び第四戦区をネガ・ネビュラスの支配下に置く事に成功し、今週はその維持のための防衛戦を行っていた。

 本来領土戦はワンチーム三人以上で行うものであり、防衛側の人数に合わせるように攻撃側のメンバーが自動調整される。

 僕と拓武くんの二人で領土戦を行っている。しかし最小単位は三人であるため、二対三で戦っていたのだ。

 さらに言うならば僕達はレベル1と4のペア。

 レベル4である拓武くんは相応の強者だが、六王のレギオンからネガ・ネビュラスの復活を許さないとばかりにハイレベルの幹部たちが刺客として送られてくると思っていたため戦力という意味では不安があったのだが……。

 しかし、実際の対戦相手はレベル4以下のバーストリンカーばかりで、対戦相手の三人のレベルの合計値が10を超えるということも無く、なんとも拍子抜けな領土戦となった。

 

 それでも僕のレベルを上回るメンバーだけで構成されたチームなどもあったものの、拓武くんが獅子奮迅の活躍をして数的不利を跳ね除けてなんとか勝率七割五分をたたき出し、支配条件である勝率五割を見事に達成したのだった。

 

 杉並に送られてくる戦力が少ないのは様子見なのか、それとも単純に六王たちはネガ・ネビュラスにそこまで興味が無いのかは定かではないが、もしこの状態が続くとしたら千由里ちゃんがバーストリンカーになる日も遠くはないだろう。

 

◇――◆――◇

 

 歩きなれた病院の通路を進む。

 一週間のうち三日か四日はこの病院に来ていたため、職員の人もこちらの顔を覚えたようだった。

 今日は、先輩が一般病棟に移され、面会が可能となる日だ。今までは一日十数分程度、院内ネットワークを利用したARチャットができた程度なので直接顔を合わせるのは二週間ぶりだ。

 ARの道案内を辿りながらしばらく()()と、病院の最上階の角部屋にたどり着いた。

 スライドドアの向こうには先輩がいるのだろう。

 ノックをした瞬間、即座にドアがスライドして部屋の中が伺えるようになる(三回目のノックのあと、四回目に入るよりも早くにドアが開いた。中の患者はドアの外に備え付けられたカメラで訪問者を確認できるとはいえ驚くべき反応速度だ)。

 

「えっと、お久しぶりです。で、いいんですかね?」

「ネットでは毎日のように話してるとはいえリアルでは久しぶりだ。悪くないと思うぞ。来てくれて嬉しい。ありがとう、雪月くん」

 

 結局、出会いから一ヶ月近く経っても先輩から僕への呼び方は『ユキ』に変化することは無かった。

 曰く、オンリーワンな呼び方をしたいから。だそうだ。

 確かに、先輩が知る僕の交友関係――千由里ちゃんと拓武くんは『ユキ』と呼び、『雪月』とは呼ばないが、母親であるミミちゃんからは雪月と呼ばれているし、クラス内で呼ばれる時は(苗字が横文字でで呼びにくいため)雪月と呼ばれることが殆どであり、オンリーワンとは程遠く思えた。

 それでも、僕の親しい人という枠組みに限れば雪月と呼ぶ人は先輩を含めても三人で、僕はその全員に無限大の感謝をしていた。ならば、先輩から雪月と呼ばれる事に距離感を感じることは無いし、寧ろ嬉しかった。

 

「そうだ。これ、お見舞いの品です」

「『ブラック・ロータス』と『フリージア』だったかな。この時期に綺麗に咲いているのは珍しい。ありがとう。花瓶に活けておいてもらえるか?」

 

 現代では品種改良も進み、時期ではない花でも値は張るが年中綺麗なものを購入できるようになっている。お金についてはこれっぽっちも不便していないため、折角だからときれいな花を選んだのだ。

 

 ベッドの傍の椅子に腰掛け、いつもの様に今日何があったかをお互いに話すこと少し。先輩がひとつ咳払いをして真面目な顔をした先輩が話題を切りかえた。

 

「それでは、例の件の報告を聞こうか」

 

 この二週間、加速世界についての話題には一切触れていなかった。単純に院内のローカルネットにログが残ってしまう恐れがあったからだ。

 ()()()からコードを取り出し、自分のニューロリンカーに接続してもう一方を先輩に渡すと、二週間ぶりのワイヤードコネクションの警告が表示された。

 

『拓武くんの《親》であるレオニーズのハイレベルリンカーが配下に使わせていたバックドアですが、先週にマッチングサーバーにパッチが当たって完全に対策が取られました。また、使用者は全員レギオンを追放処分、配布元の《親》は処刑されたそうです。それでもプログラムの製作者の名前は言わなかったそうですが』

 

 先輩は大方黄色あたりが首謀者だろうと言い、いつか吊し上げてやると指先を揃え、ピンと伸ばした腕を窓の向こうに伸ばしてから話題を切りかえた。

 

『それで、我々のレギオンはどうだ?』

『杉並第三及び第四戦区は維持してます。拓武くんが張り切っているのと送られてくる戦力がしょぼいお陰ですね』

『そうか。しかしアクティブ二人で二つのエリアを維持するのは流石だな。六王たちの所からハイレベルリンカーが送られてこないのは奴らもどうするか迷っているのだろう。下手につつけば戦国時代となりかねないからな』

『こちらが反逆の準備を整えるまでまごまごしていてほしいものですね。千由里ちゃんもバーストリンカーになる時期が早まるかもしれませんし』

『そうだな。二月までに何も起きなければしばらくは安泰だろう。新年には高確率ではしゃぐ奴が現れるからな。それが無ければ事件も起こるまい』

 

◇――◆――◇

 

「よし!」

 

 先輩が一般病棟に移った次の土曜日、領土戦の勝利によってバーストポイントが加算され295ポイントから315ポイントとなった。 

 レベルアップが可能となったというアナウンスに従ってメニューを開く。 

 今回の対戦で今日の領土戦も終了なため、来週の領土戦までレベルアップ情報を秘匿できるのは随分なアドバンテージだ。

 そう。今まで、シャドウ・オウルは領土戦以外の一般対戦を両手で数えられる程度しかしていない。飛行アビリティを披露した対戦ともなると片手で足りるだろう。 

 それは、先輩が復帰するまで確実に領土を守るため、加速世界の全員が理解していない飛行アビリティに対する有効な戦術を組み立てるための情報を与えないため。 

 それでも領土戦の勝率と、レベル差による加算ポイントは大きく、三週間でレベル2に到達できたのは順調だと言えるだろう。

 メニューを開いてさっさとレベルアップ処理をすると、残った加速時間でレベルアップボーナスを決める。

 表示された選択肢は四つ。『基礎能力強化』『新規必殺技獲得』『既存必殺技強化』『既存アビリティ強化』が表示されている。

 必殺技強化の項目はそもそも既存の必殺技を使っていないことを考えて選択肢から外すとして、残る選択肢はどれも魅力的だった。

 拓武くんとの会話ではアビリティ強化を選ぶと言ったが、しかし実際に目の前に選択肢が来ると悩みどころだ。

 

「ちょ、オウル、もしかしてレベルアップした?」

「今回の勝利でポイントが溜まったからね。この戦闘回数でレベルアップできたのはパイルのお陰だよ」

 

 ありがとうと伝えると、シアン・パイルは膝をついて蹲ってしまった。

 

「なんてことだ……。オウル、加速が終わったらそっちに行く。領土内なら乱入拒否はできるし、キミからも誰かに対戦を申し込まないように。いいね?」

 

 フェイスマスクの奥から覗く鋭い眼光にようやく自分が何をしたのか思い至った。

 

「残ポイント15……レベル1(格下)に負けたら全損……?」

 

 最早レベルアップボーナスに呑気に迷っていていい話ではない。先輩と、ブラック・ロータスとの誓いが果たせなくなる可能性が、自分の目的すら達成できなくなる危機が目の前に迫っていた。

 

 だが、こんな時だからこそ『欲』を排した冷静な思考ができる。

 新規必殺技獲得は名前しかわからず、どう強化されるかがわからない不安定なものだ。故に選択肢から外される。

 これで残るは基礎能力強化とアビリティ強化の二つ。

 基礎能力強化は攻防速の向上だろう。しかし、飛行アビリティが強化されれば速度は上がるし、《シャドウ・エッジ》――相手の色によって命中時の追加効果が変動するアビリティが強化されれば追加ダメージが増え、実質的に攻撃力が上昇する。

 ならば、元から突出しているアビリティ強化すれば問題ないだろう。

 特化型は正しく運用できれば無類の強さを発揮するはずだ。

 

 一切躊躇なくボーナスを決定すると、これからどうやって全損の危機から脱するかの思考に沈んだ。




ということで用心棒エピソードやります
アンケートのご協力ありがとうございました

時系列の変化は一般病棟に移るのが一週間早くなったり、通常対戦をしない分レベルアップが遅れたりですね
荒谷の事件も一日早くなってたりします


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用心棒

遅れてごめんなさい
三日に一度なんて無理なことはもう言いません
でも一週間に一度と定めるとそれもオーバーしてしまいそうなので五日に一度くらいのペースを目指したいと思います


「ぼくのポイントの半分を君に移す。今回のことは事前に注意していなかったぼくの責任だ」

 

 そう言って拓武くんは直結用のケーブルの端子を差し出してきた。

 領土戦で稼いだポイントは二百を超えている。

 つまり、ここでそれを受け取ればその半分の百ポイントに加え、それまで拓武くんが所持していたポイントも加算されて即死はありえなくなる。

 

「だめだよ。これを受け取ってしまったら僕達は今のままではいられなくなる」

「どうして!? ユキは言っていたじゃないか。()()()()の為ならば手段は選ばないと!」

「ここで拓武にくんに負い目が出来てしまったら、今後僕は先輩を第一に考えられなくなるかもしれない。これは、僕が在りたい現実を保つことと、加速世界での活動方針を両立するための選択なんだ。それに、先輩が、《親》がしなかったことを《子》がする訳にはいかないよ」

「そうかい……。なら仕方ないか。代替案はふたつあるよ」

 

 そう言って拓武くんは自身のニューロリンカーからケーブルを抜くと話し始めた。

 

「まずひとつは領土内に篭もってカモを見つけること。つまり乱入拒否の特権を使った対戦相手の選択。ユキのアバターなら一方的に勝てる相手もいるだろうしね。それでも、全損危機のプレッシャーという魔物とも戦わなければならないけどね」

「それはダメ。僕は割とプレッシャーに弱いんだ……。それは置いておくとしても、一般対戦に出るのはこの際仕方ないけど、悪評がつくような行為はダメだ。それはネガビュの名を汚すことになる」

「だよね。なら、選択肢はひとつだけ。『用心棒(バウンサー)』を雇う事」

「用心棒?」

 

 オウム返しすると、拓武くんは用心棒こと、アクア・カレントについて説明し始めた。

 

「ぼくがバーストリンカーになる前から用心棒として活動している唯一にして凄腕の用心棒――初心者救済人だよ」

「唯一……。プレイスタイルとするのは割に合わないんだろうね。全損危機の初心者を助けるなんて明らかに地雷だし。その人のレベルは? 実質一対二になるタッグマッチで勝てるんだしやっぱりハイレベル?」

 

 質問すると、拓武くんは首を横に振った。

 

「アクア・カレントの二つ名に《唯一の一(ザ・ワン)》というものがあるんだ。その名の通り、用心棒はレベル1なんだよ」

「……中の人がすごい強いタイプ?。二年もやってるなら保有ポイントも相当だろうし、レベルを上げたら王に匹敵する強さになるんじゃ……」

「さあ? どうなんだろうね。さて、用心棒への依頼だけど、対価は実際に依頼するまでは分からないんだ。確かなのはバーストポイントでは無いということだけ。リアルマネーやリアルを要求される可能性もある。それでもいいかい?」

「大丈夫。それで、連絡は取れるの?」

「こういう時に使える集会所があるんだよ。それじゃあ、今日は解散で。ぼくは連絡を取りに行ってくるから」

 

◇――◆――◇

 

 翌日曜日、僕は拓武くんに連れられて領土の外――御茶ノ水に向かって電車で移動していた。

 ぶっちゃければ自作の視覚補完ソフトが完成する以前、つまり視覚が機能していない状態で外に出ることはほとんどなかったし、その数少ない外出は車で移動するか、マンション内の移動のどちらかだったため、乱入を防ぐためにグローバルネットを切断して視覚が封じられている今の状態はとても不安である。

 もし、拓武くんと繋いでいる手が離れてしまったら発狂してしまうかもしれないほどだ。

 

「降りるよ」

「う、うん……」

「大丈夫? 抱えようか?」

「平気。それに、今後はこういう活動も増えるかもしれないし慣れていかないとね」

 

 拓武くんの提案を却下し、手を引かれながら電車を降りる。

 駅のホームは車内ほど人に溢れていないためかいくらか圧迫感も薄れ、一安心する。

 待ち合わせの場所は御茶ノ水駅から徒歩五分の店内ローカルネットを備え付けてある個室カフェにしてもらったため、あと少しの辛抱だった。

 ローカルネットに繋ぐことさえできれば、店内に設置されているソーシャルカメラに映る映像を利用できるからだ。

 

 ちなみに、今回の『待ち合わせ』は店内ローカルネットを利用した加速によるものではあるが、僕が入る部屋は指定されている。

 つまり、それが用心棒――アクア・カレントが要求する対価なのだ。

 正直、リアル割れは怖かったりする。

 用心棒の評判のひとつにタッグを組んでいる間に依頼主を全損させたことは無く、そして世話になったバーストリンカーの大半が今でも活動しているというものがあるらしいが、悪評のあるネガ・ネビュラスの一員であり、そして視覚障害のある僕にもそれが適応されるかは分からないからだ。

 それでも、用心棒の評判を信頼し、今日ここまで来たのだった。

 つまり、僕の中でリアル割れによるPKの危険性排除より幼馴染三人組としての関係の維持の方が上回ったということである。

 

「着いたよ」

「……よし、見えるようになった。拓武くんまでリアル割れする必要は無いし、ここからは別行動ね」

「そうだね。ぼくは適当な個室に入ってるから終わったら呼んでね」

 

 そうして拓歩くんと別れると、店員を呼び出して待ち合わせの部屋番号を告げる。

 このカフェでは待ち合わせをする場合には店員を介して先に部屋に入っている客に確認の連絡が行き、その後に部屋に案内されるシステムとなっているからだ。

 

「……確認できました。それでは、ご案内します」

 

 店員の言葉と同時にインスタンスキーが発行され、退店までの短い間だけ待ち合わせの部屋の鍵を開けられるようになった。

 

「ご注文は店内ネットを介してお願いします」

 

 部屋の前まで案内してくれた店員はお辞儀をして踵を返して行った。このカフェは注文も商品の配膳も店員の手を介さない。

 注文はローカルネットで行い、商品は各個室に設置されている配膳機に届くようになっているのだ。

 つまり、完全な密室である。……勿論、ソーシャルカメラは設置されているが。

 インスタンスキーを使って入室すると、そこにあったのは空になったコーヒーカップがひとつと、その席の横にある荷物置きにあるショッピングバッグが一つだけだった。

 当然、アクア・カレント本人は居ない。

 

「確か……」

 

 自分の荷物を置いてからショッピングバッグの中に手を入れると、ひんやりとした硬質なものに指先が触れた。

 それを取り出してみれば、ニューロリンカーの普及で需要が低下したタブレット型デバイスであった。

 先輩がこの二年間のグローバルネット切断生活で利用していたというタブレットではあるが、僕がこれに触れたのは二年前に一度だけだ。

 二年前にソフトが完成し、視力を得たのならば使えるかと思って触れてみたのだが、そうでもなくそれ以来一度も触れていなかった。

 久しぶりに見るデバイスを知識の中から起動方法を引っ張り出して起動すると、モニターが発光して何かを表示させた。

 

「んー……。やっぱり見えないな」

 

 旧世紀の老眼の人がやるようにデバイスとの距離を調整して確認を試みるが、二年前と同様にモニターに表示されているものを確認することは出来なかった。

 正確には、二つのエリアのようなものが表示されていることはわかるが、その詳しいデザイン、書かれているであろう文字が潰れて読めないのだ。

 

「そうだ。バースト・リンク」

 

 机の上にデバイスを置き、天井に設置されているソーシャルカメラに画面が映るようにしてから加速し、初期加速空間に移ると予想通りモニターの中身が綺麗に表示されていた。

 その内容は名前を入力しろという簡潔なもので、もうひとつのエリアは文字入力用のキーボードであった。

 そこにマイクのアイコンが浮かんでいるのを発見し、その位置を把握すると同時に加速を終了した。

 

「《シャドウ・オウル》」

 

 音声による名前の入力が完了すると、パシャリという音がして画面が切り替わった。

 同時にフラッシュが炊かれていたため十中八九写真が撮られたのだろう。

 切り替わった画面は肌色と黒が主な色となっていて、恐らく僕の写真だろうということが予想できた。

 暫く待機していると再び画面が切り替わり、最初の状態に近いものへと変化した。

 おそらく何らかの指示だろうと当たりをつけ、再び加速して画面を確認すると今から十分後に依頼を開始するというメッセージが表示されていた。

 僕はこのまま準備を整えて待機していればいいようだった。

 ちなみに、このとき確認したマッチングリストには別室で店内ローカルネットに接続しているシアン・パイル以外の名前は存在していなかった。

 

 加速を終了して飲み物と軽食を注文し、三分と経たずに届いたそれらを摘みながらメンタルを整えていると、先にトイレに行っておいた方がいいかという至極当然なことに思い至った。

 加速中に尿意を感じ続けているなんてことは絶対に嫌である。

 

 部屋を出てARの案内板を頼りに店内を移動していると、曲がり角から現れた人物にぶつかってしまった。

 それは、動体視力が絶望的な視覚補完ソフトの問題でもあったし、最近まで使っていたフリームーヴ(セグウェイ)に自動ブレーキ機能があったことで曲がり角に対する注意が薄れていたのも原因だろう。

 病院でのシアン・パイルとの対戦以来、持ち歩いてこそいるもののフリームーヴを使用していなかったからこその衝突だった。

 

 ぶつかった人物もまさか角から人が出てくるとは思わなかったのか、精々小学校低学年程度の体重しかない僕との接触で尻もちをつくように倒れ込んでしまい、荷物を落としてしまっていた。

 

「ごめんなさい!」

 

 ぶつかった感触からして恐らくは女性。いつまでも押し倒している訳にはいかないため脆弱な腕の筋肉をフル稼働させて床を衝き、上体を起き上がらせて相手の荷物を拾い集める。

 幸い、落ちたのは小さな手提げバッグが一つとそこから零れたハードカバーと筆記具が数本だけだったため、速やかに集めることが出来た。

 

「すいませんでした……」

「構わないの……あ、それは――」

 

 既に壁に手をついて立ち上がっていた相手に謝り、ハードカバーと筆記具を渡してからもう一度しゃがみこみ、バッグを拾おうとすると、それよりも早く相手の手がバッグに伸び、()()と攫って行った。

 それだけならばなんの問題もなかったのだが、相手が掴んだのはバッグの底面部分。

 同時に、バッグに手を伸ばしていた僕の指先がその留め具に触れてしまい、中身が飛び出てしまった。

 何個かの内容物が落ちる中、貧弱な動体視力が神がかり的な活躍をし、一番近くに落ちてきてきたひとつのアイテムをキャッチすることに成功した。

 それは、僕の手のひらよりは一回りほど大きく、ひんやりとしていて、キャッチした際に押し込んだ側面の突起から手を離すと発光して何らかの画像をその表面に写し出した。

 その画像は肌色と黒が主なもので、どこかで見たことがあるような印象のものだった。

 

「返してください」

 

 どこで見たんだったかと考えながらぼけっとそれを眺めていると、バッグから零れた他のものを回収した相手がそれを回収した。 

 追いかけるように視線を動かすと、それはバッグにしまわれ、その流れで身長差から今まで確認していなかった相手の顔を見た。

 今の時代にしては珍しい眼鏡をかけた彼女は、こちらをじっと見つめながら動こうとはしていなかった。

 

「あの、トイレ行きたいんでいいですか? 今回のことはすいませんでした」

「………………わかったの」




用心棒はあと二話くらいかと思います
それまでお付き合い下さい


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アクア・カレント

素早い更新(自画自賛)


「着いてくるの」

 

 トイレから出ると、出口付近に残っていた先程のメガネの人に腕を掴まれて連行された。

 不意打ちだったにも関わらず足をもつれさせて倒れなかったのは奇跡だろう。もしそうなってしまっていたら抱きつくような形になっていたに違いない。

 

 通常の監視カメラとは別にあらゆる場所に設置されているソーシャルカメラは犯罪の抑止の意味で設置されていて、なにか起こった場合あとから映像を確認する形になるが、暴行などのAIでも簡単に判断できる犯罪行為や、公共の場での過剰な接触などが映った場合は設置場所の責任者の元へと通知が飛び、映像が確認できるようになっている。

 先程の接触は明らかに事故であったが、今回そうなっていた場合は確実に通知が飛んでいたことだろう。

 

 振り払うべきかどうするべきか。振り払った場合、そのあとはどうすればいいのか。

 学内という閉鎖的な環境以外での対人経験は皆無に等しいため悩んでいると、そこまで広くない店内での移動なため直ぐに目的地に着いたようで、先導する彼女はこちらに向き直って足を止めた。

 しかし、それに引かれていた僕はそうはいかない。そもそも、ここまで早歩きで移動していた彼女についてこれたのが奇跡だったのだ。つまづいて、転んでいないのは偶然の産物に過ぎない。

 つまり、ブレーキを踏めずに彼女に再び衝突した。

 

「すいません……」

「問題ないの」

 

 今度の衝突では倒れ込むことなかった彼女は僕を抱きとめると平静な声色でそう言った。

 ニューロリンカーの視界範囲の都合上表情を伺うことは出来なかったが、おそらく怒ってはいないのだろう。

 

「ここって――」

「入るの」

 

 足が止まったことでAR表示されている情報に意識が回るようになった。

 視界の端にはインスタンスキーが強調表示されており、つまり僕がつい先程まで利用していた部屋の前に立っているということを告げていた。

 

 この人は何故僕が利用している部屋を知っているのだろう、という疑問が頭をよぎったが、こちらが迷惑をかけたことは事実である。

 このカフェでは最初の一品に場所代が上乗せされるが、その程度で済むなら飲み物一杯を奢って話し合うのも悪くないかと思った。

 しかし、そうなると問題なのは時間だ。

 アクア・カレントとの約束の時間までもう五分もない。それまでにこちらの問題が解決すると考えるのは甘すぎるだろうし、接触があるだろう開始時刻の加速では謝罪から入ることになるかもしれない。

 そこまで考えたところで強調表示されているインスタンスキーに手を伸ばして部屋の鍵を開けようとした。

 しかし、インスタンスキーに触れる前に部屋の鍵は開き、彼女は中に入って行った。

 

 どういうことだ? 店員? しかし、店員は識別タグを頭上に浮かべているはず。

 ダブルブッキング客? ……いや、機械で管理されている現代でそんなことが起こるとは考えにくい。

 そうして、漸くそんなことよりも高い確率を有する人物が脳内に浮かんだ。

 ただ、それだけでは口に出さなかっただろう。口に出すだけでリスクがあるからだ。

 しかし、先程の見た画像が何だったのかを今になって理解したのだ。

 あの画像は、きっとこの部屋で僕を撮影したものだ。

 撮影後にタブレットに表示されていたものと色の配置が酷似していた気がする。

 ここまで要素が集まっているのならば、逆にそうでない方がおかしい。

 

「アクア・カレントさん?」

 

 僕がそう問いかけると、空のコーヒーカップが置かれた席に座った彼女は一瞬呆けた顔をした後、背もたれに寄りかかり天を見上げた。

 

「…………今気づいた?」

 

 やらかしたと表情で語る彼女に対して、僕は正直に答えたのだった。

 

「とんだ早とちりだったの……」

「あの、『用心棒』との契約は継続って事で大丈夫ですか?」

 

 向かい合って座り、落ち込んでいるアクア・カレントさんを見て不安になり問いかけてみると、彼女はイレギュラーな状況ではあるものの仕事はすると断言してくれた。

 

「本当ならローカルネット内の加速で済ませたかったけど、折角顔を合わせたのだからこれを使うの。それなら万が一も防げるから」

 

 そう言って差し出されたのは反対側の端子が既にニューロリンカーに接続された直結用のケーブルだった。

 

「……ベテランって、直結に抵抗とかないんですかね?」

 

 そうは言うものの、僕自身も昔からしたら考えられないが、先程出会ったばかりの他人から差し出されたケーブルを受け取って自分のニューロリンカーに接続した。

 それによって彼女のニューロリンカーが得ている彼女の体格などの具体的な情報がこちらに流れてきて、視覚情報を補強し、より鮮明にその姿が映った。

 ついさっきまでも感じていたが、コートで隠してこそいるものの女性的な印象を隠しきれていないような美人であった。

 先輩といいアクア・カレントといい、古参のバーストリンカーには美形しかいないのではと思ってしまう程だ。

 

『わたしは今、二つの可能性を検討してるの。あなたがものすごく演技のうまい食わせもので、わたしのリアルを割るために接触してきたのか、それとも正真正銘のおっちょこちょいなのか。わたしとしては、前者の可能性が高いと思ってるの』

『なるほど……』

 

 相槌を打っているような状況ではないが反射的に口から相槌が飛び出してしまったため、疑惑を晴らすために弁明の言葉を追加した。

 

『どちらかといえば後者なんですけど、自分がおっちょこちょいと認めるのはなんか違いますね……。ただ、過去の依頼者から信頼を得ている用心棒をPKして彼ら彼女らから恨まれるようなことはネガ・ネビュラスの置かれた状況からしてありえないということで納得していただければ』

『確かに、今のあなた達が不特定多数から追加の負の感情を受けるのは得策だとは思えないの。それに、領土戦での合計レベル差が大きい対戦での勝率が七割を超えているあなたがニアデス状態だなんてにわかには信じがたかったの。ただ、あなたがポイントが溜まり次第マージンを取ることもなく直ぐにレベルアップ操作を行ってしまうようなおっちょこちょいだと考えればこれも納得がいく』

 

 まさか勝率まで知られているとは思わなかった。

 喧伝している訳でもないし、領土戦は一般観戦不可のため、対戦相手が僕らを相手に勝率何割だと話したところでそれ以外の相手とも戦っている僕らの勝率を割り出すのは難しいからだ。

 

『随分詳しいんですね』

『通常対戦に出てこないあなたが自分のことをよく知らないのは仕方ないと思うけど、加速世界ではどこに行ってもあなたの話題ばかりなの。ただ一人の完全飛行型で、通常対戦に出てこない。そのレアリティの高さにあなたの姿を見るためだけに即席のレギオンを作って杉並まで遠征する古参もいるの』

 

 確かに、六王のレギオンではなく、レベル4前後のバーストリンカーが領土戦にやってきたことも一度や二度ではない。

 その多くは領土戦であるというのに数の利を捨てたタイマンを申し込んでくることが多く、実戦経験という意味では大きく貢献してくれていた。その分、レベル以上の強さを持つ彼らに勝つのは至難の業であり勝率は犠牲になっていたのだが。

 

『ちなみに、今の加速世界でのあなたの評価は「王のために献身的に働く親衛隊」、「敵軍の有望格を引き抜いたヘッドハンター」なんてものがあるの。特に青のレギオンからのヘイトはすごいの。あとは狡い手ばかり使う癖に王道を弁えていたり、戦い方が飛行アバターっぽくないって言われていたりもするの』

『はは、随分言われてるみたいですね……ただ、これで一般対戦も解禁なのでそこらに対する需要もみたせるかもしれませんね』

 

 かなり注目されるだろうけどよろしくお願いしますと告げると、彼女は観戦者の数に対するプレッシャーなど微塵も感じてないかのように頷いた。

 

『それでは仕事内容を確認する。あなたのポイントが五十ポイント代に回復するまでガードするの。対戦エリアは最初はここ、千代田戦域で戦って、相手がいなくなったら隣の秋葉原に移動。問題は?』

『あー……実は僕、リアルでの移動能力が死んでるので秋葉原に移動する場合は迷惑をかけるかもしれません』

『了解したの。なら、このエリアの相手には片っ端から乱入するの』

『僕も頑張りますね』

 

 かなり強いだろうことが予想されるとはいえ、相性の問題や単純なレベルの暴力というものに苦戦することもあり得るだろう。わがままを言う以上おんぶに抱っこではなく頑張らなくてはいけないな。

 

『グローバル接続したら、直ぐに加速』

『わかりました』

 

 そうしてタイミングを合わせると店内ローカルネットに接続したままグローバルネットに接続し、同時に加速した。

 初期加速空間に現れた彼女は眼鏡をかけたカワウソという動物系アバターであり、リアル割れへの対策はバッチリに思えた。

 そもそも、先輩が対戦用のアバターを自分の姿をそのまま写したアバターに設定していた方が問題なのだが。

 アバターを眺めていると、彼女はマッチングリストを開いて迷うことなくその中間に手を伸ばした。

 

「ちょ、いきなりミドルレベル相手ですか?」

 

 マッチングリストはレベル順でのみ表示される。つまり、昇降順問わず真ん中に表示されているのはミドルレベルという事だ。

 連携の確認なんかのためにまずは同格相手に対戦を申し込むとばかり思っていたのだが……。

 

「万が一に負けたとしてもミドルレベルのペア相手ならば一発で全損することは無いの。連携の確認をするにしても相手はある程度強い方が良いし、どうせローラーするんだから順番の問題なの。それに、このペアはよく知っているの。彼らはポイントに余裕があるから正面から戦えるはず。加えてあなたが苦手としている近接戦闘で高火力を叩きつけてくるアバターでもないの。あなたがしっかり実力を発揮できれば問題ない」

 

 全損チャレンジをしているニュービーに言ってくれる。

 確かに理屈でいえばその通りだがそれが通るのならメンタルスポーツなんて呼ばれているもの達は廃れているはずだ。

 

「ちなみに、わたしのアバターは外見から男性型女性型を判断しにくいの。もし、ポイントが回復しきるまでに見極められたらご褒美があるの」

「え? ブレインバーストのアバターの性別はリアルとおなじなんじゃ?」

「わたしはまだ、わたしが女だとは一言も言っていないの」

 

 確かにそうではある。しかし、わざわざ自分の性別を告げる人間が存在するのだろうか?

 そもそも、ああまで綺麗なくせして男だというのも詐欺である。……もしかしたら、その思考を逆手にとっているのかもしれないが。

 そんなくだらないことに意識が向いたためか、程よく脱力することが出来、また全損しないために戦うというネガティブな目標の他にご褒美を貰うために戦うというポジティブな目標が追加され、いつのか間にかプレッシャーは霧散していた。

 

「始めるの」

 




次で対戦、その次に仕事終了後の会話で用心棒編は終わります(予定)
ついでに早く投稿できたご褒美に評価とか感想とかを強欲におねだりしたいとおもいます


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