アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件 (紅乃 晴@小説アカ)
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番外編
番外編 パルパルとログの愛の逃避行


ジェダイ「シスは敵!抹殺!」

ログ「落ち着け!!パルパル倒したら銀河がやばい!!」

ジェダイ「シスを滅せれば平和になるから大丈夫!!」

ログ「大丈夫じゃねえよぶち転がすぞ(物理)」

ジェダイ「アウウン!!(バターン)」

パルパル「グッジョブ、ログ。ところでウチの弟子にならね?」

ログ「それよかフォースの探究で銀河に旅に出ない?」

パルパル「イイね!あとはパドメちゃんとかに押し付けて行方くらますか!!」

アナキン「えっ?」
オビ=ワン「えっ?」
パドメ「えっ?」



 

 

アウター・リム・テリトリーのどこか。

 

「ログ、見ておくれ。これはまた素晴らしい発見だぞ」

 

高層ビル群の一角で見つけたフォースによって形成された異空間。その中へと踏み入ったパルパティーンこと、シディアス卿は出会した怪物の中から出た形成物を興味深そうに眺めてうっとりと目を光らせていた。

 

ライトセーバー二刀流による斬殺ショーを手早くこなした俺こと、ログ・ドゥーランもシディアス卿が手にする掌サイズのアンティーク調のものを見つめる。

 

不思議なフォースの感応波長だ。この空間そのものがフォースの感覚ではとても特殊なものであった。シディアス卿が行方をくらましたことで内部から崩壊した銀河共和国の追手を退け、銀河の果ての果てまでやってきた俺たちは、目にするもの全てが新鮮であり、新しい発見の毎日であった。

 

ジェダイやシスというしがらみもなく、シディアス卿も自分たちの銀河の誰もが踏破したことのない土地での探究に、その貪欲ともいえる知見をさらに深めている様子であった。

 

「ふむ、しかしログよ。ここは少しばかり甘ったるい空間よな」

 

「ええ、フォースを感じはしますが五感にも影響を与える作用が僅かにですが感じられます」

 

巨大な芋虫…見た目はコミカルで、芋虫に似合わないギラギラした歯が特徴的である原生生物をぶち殺したとはいえ、あたりには甘味類やお菓子、ケーキがべったりと散らばっているのが見える。

 

文明レベルではあまり進んでいない惑星ではあるが、この異空間もかなり特殊なものだった。フォースに導かれるまま、つまらない繁華街から裏道に入った俺たちを待っていたのは、このケーキ塗れの空間と、大きな口を開けて待っていた芋虫だった。

 

8等分ほどにスライスした死骸の傍ら、新しい発見にテンション爆上がりで周りが見えなくなってるシディアス卿を見つめる人影が3人。

 

やけにカラフルな髪色をした少女たちだ。

 

怪物の臓物を漁るシディアス卿にドン引きしている様子だが、これはまだマシぞ?この人、目を離すと普通に何が住んでるかわからない穴ぐらとかに入っていくからね?まぁシディアス卿の力があれば、ワンパンだろうが巨大生物だろうが一捻りでキャンと言わせれるだろうが。

 

かくいう俺がシディアス卿の後ろで腕を組みながら死骸やこの異空間を観察していると、その少女らの中で1番大人びている金髪の子が申し訳なさそうにこちらへ語りかけてきた。

 

「あ、あの…貴方たちは…その…魔法使い…なの?」

 

「ドウモ、ジェダイ=スレイヤーデス」

 

「アイエ!?」

 

「ログ、それを言うと冗談で済まないのでやめなさい」

 

やっべ、前世期ぶりに思い出したネタが通じてテンションが上がりかけたけど、フォースの感覚で察したパルパルに怒られちった。さすがはラスボス。察知能力はダンチだぜ。

 

「ところで、お嬢さん方はこんな場所でいかがなさったのかな?」

 

探究大好きおじいちゃんから、銀河のトップへ上り詰めた議長フェイスに切り替えたシディアス卿に、金髪の少女は何か言い淀んだ様子で言葉を選んでいる。はて、この容姿の子供…どこかで見たような気が…。どこだ、ウータパウあたりか?

 

「あ、あの。私たちからすると、なんで貴方たちがここにという感じでして」

 

「ああ、すまない。私はパルパティーンだ。なに、少しばかり歴史や貴重な遺産の探究が趣味でね。あちこちをこちらのログと共に旅をしてるんだ」

 

だいたい1星系あたりでフラフラと旅をしてるんだけどね。この星に来たのも食料の調達が主な目的だったけれど、シディアス卿が引き寄せられるようにこの場所を見つけたから。

 

「大丈夫さ、すぐに引き上げるとも。なにも心配はいらないさ」

 

フォースの感覚を隆起させてシディアス卿が手を振るって金髪の少女に暗示めいた言葉を送る。ジェダイでも交渉でよくやることで、読心術と相手の思考をフォースで流れを変えるという側面を持つその技は、意志がないものや年端が若ければよく効くものだ。

 

だが、その金髪の少女は俺たちの予想を遥かに上回る意志を持っている子供であった。

 

「誤魔化すのは効きません。あなた方が〝魔女〟を倒した以上、魔法少女として見逃すわけには…」

 

「ちょっと待ってくれ、魔女?魔女だって?ナイトシスターズの親戚か?」

 

「ナ、ないと…?」

 

「落ち着きなさい、ログ。いいかね?この星系はとても興味深いものが多くある。ナイトシスターズのような独特なフォースの形態を保って、フォースの深淵へ挑んでいるかも知れんぞ?迂闊に結論を急ぐではないぞ?」

 

「あ、あの…」

 

「わかっていますよ、シディアス卿。しかしこれが魔女と言われてもしっくりは来ませんな。それなら前に行った外縁惑星の原生生物のほうがよっぽど魔女らしい」

 

「えっと…」

 

「あの空間は不思議なものであった。四人の生贄が延々と殺人鬼に襲われ続ける異空間。その輪廻に巻き込まれたときは、流石の私も肝を冷やしたな」

 

「なに言ってるんですか、悠々と攻撃を避けてライトセーバーで首をぶった切ってたくせに」

 

「異空間から脱する方法を知るものを探すために四肢を達磨にして首筋にライトセーバーを当てて尋問をしていた君には言われたくないな。あの時の君の暗黒面は少々ぶるったぞ?」

 

「はっはっは、あの程度はまだまだですよ。フォースで爪を剥がすとかしてないですし」

 

「相変わらず、ストイックなことだ」

 

「ちょっと!!!!」

 

会話が弾んできた俺たちの間に割って入ってきたのは、淡い青い髪色をした少女だった。ふと、金髪の少女を見ると、無視されていたのか置いてけぼりにされたのか、涙目でたたずんでいるのが見える。

 

「マミさんの話を無視して盛り上がらないでよ!!アンタたちは何者なの?!」

 

その悲鳴のような荒げられた声に、俺とシディアス卿はお互いに顔を見合わせてからはっきりとした口調で答えた。

 

「フォースの探求者さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにこれ」

 

その光景を遠目に見ていた少女、暁美ほむら。これは二人のシスとジェダイが、星を救う物語である…そうなるかもしれないお話。

 

「すごいぞ!!!!ログ!!!!まったく感知することができない箇所から物体を錬成するとは!!!!一体どういう技術なのか!!!!もっと詳しく見せておくれ!!!!」

 

「落ち着けぇ!!パルパル!!!」

 

「いやあああああああ!!!」

 

「マミさぁああああん!!!?」

 

…むしろ、タガが外れたパルパルの冒険譚かもしれない。

 

 

 

end

 

 






きゅうべぇ「げぇ!!?ジェダイとシス!?」

さやか「私ってほんとバカ」

パルパル「暗黒面は素晴らしいぞぉさやかぁ」

マミ「もう死ぬしかないじゃない!」

ログ「喝!!その程度ではフォースへの道は開けんぞ、バダワンよ!」

杏子「くっそ!逃げ場がねえ!!」

ほむら「なにこれ」


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番外編 パルパルとログの愛の逃避行 その2

シリアスばっかりだったから息抜きでつい。
パルパルはログとあるからこそ輝くのだ。


 

 

「希望と絶望のバランスは差し引きゼロだって、いつだったかあんた言ってたよね。今ならそれ、よく分かるよ」

 

夜を迎えた街の中で、美樹さやかは正気を失った目つきで心配してくれる杏子を見つめた。

 

自身の願いに間違いはなかった。心から慕う相手の体を癒した。それに間違いはない。正しいことをしたと言い聞かせてきた。周りの声など聞きもしないで、ただそう信じ切って駆け抜けてきた道の果てがこのザマだ。

 

「確かに私は何人か救いもしたけどさ、だけどその分、心には恨みや妬みが溜まって。一番大切な友達さえ傷付けて」

 

魔女を手にかけて、道ゆく人の戯言にも手をかけて、自身の心すらも理解できなくて、挙げ句の果てに大切な友達であるまどかを傷つけた。そんな自分に、もう憧れの先輩のような正義の魔法少女を名乗る資格も、何もない。

 

何もない。何もなくなってしまった。

 

空虚で、無知で、虚無で。

 

怒りと悲しみと苦しみしかない。

 

それしか、無くなってしまったから。

 

「さやか、アンタまさか」

 

「誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。私達魔法少女って、そう言う仕組みだったんだね」

 

杏子の声も遠くなってゆく。目の前が暗闇に覆われる。ああ、これが、心から絶望するっていうことなんだ。まったく、こんなことになるなるまで自分でも気がつかないなんて…。

 

 

 

 

 

 

「あたしって、ほんとバカ」

 

 

 

 

 

 

 

「さやかぁぁっ!!」

 

彼女のソウルジェムが真っ黒に染まり上がったと同時に、世界ははじけ、新たなる産声が上がった。絶望と悲しみと虚無の海に、闇が落ちる。杏子の叫びも虚しく、魔女と化したさやかは、その力を制御することなく解き放った。

 

彼女が魔女化した様子を少し離れた場所から観察していたキュウべぇは、満足そうにその誕生を見守った。

 

「この国では、成長途中の女性のことを、少女って呼ぶんだろう?」

 

 

 

——だったら、やがて魔女になる君たちのことは、魔法少女と呼ぶべきだよね。

 

 

 

その綴られるはずの声は、キュウべえから発せられることは叶わなかった。

 

生体器官も何もかもが地球人とは違うインキュベーターである彼は、呼吸というものすらしないのかもしれない。酸素を求める必要もない体だったら、息苦しさも、痛みも感じないはずなのに。

 

そのとき、キュウべえは確かに〝自身の首が壮絶な力で締め上げられる〟という感覚を実感させれられていた。脳裏に焼けつくような苦しみが、その小さな体に襲い掛かったのだ。

 

「素晴らしい…素晴らしいぞ、魔法少女とは」

 

キュウべえの背後に、影が浮き上がった。真っ黒な外套に身を包む影。そのフードの下からは黄金の眼が二つ、まるで闇世に浮かぶ月のような美しさすら孕んだ光が浮かび上がっていた。

 

暗黒卿、ダース・シディアスは生まれ落ちた美樹さやかの魔女を見つめながら頬を吊り上げ、その誕生を祝う。

 

「ある一つのダークサイドの体現という物だ。恐れや妬み、怒り、悲しみ、絶望と虚無、そのすべてはダークサイドへと通ずる道となる」

 

「か、か…ら…だ…が…うご…か…」

 

シディアスから放たれるフォースは、キュウべえの自慢の生体器官の全てを完膚なきまでに押さえつけていた。まるでドラゴンの足によって押さえつけられているような…圧倒的なまでの力の差だ。不老不死…というよりも、意思を統合した集合生命体など、シディアスの知る銀河ではごまんといる。そんなもの、分離主義者のドロイド兵となんら差はない。

 

シディアスは目を爛々と光らせたまま、体の自由が奪われているキュウべえの横へと佇んだ。

 

「だが、あれはダークサイドそのものであり、知性も理もない存在。単に自身の中の暗黒面を制御できずに垂れ流す赤子と変わらん」

 

そもそも、ダークサイドそのものはフォースの一つの側面に過ぎない。光があるところに影ができるように、それは特別なものではなく、常に存在しているものだ。水と空気があるように、火と風があるように、土と緑があるように、それは当然の如く存在している。

 

その力を使役する者にシディアスは惹かれはするが、あれはあまりにお粗末だ。言うなれば火が制御できずに燃え広がっているに過ぎない。

 

差し詰め、ため込んだガスを爆発させていると言えよう。だが、その光景を目の当たりにした当人にしたら、その事実はあまりにも大きいものだっただろう。

 

「じゃあ…じゃあ!!魔法少女はいずれ、魔女になる宿命だと言うの…?私が行ってきたことも…全部、全部、魔法少女だった彼女たちを殺して…」

 

シディアスの後ろにいた少女、巴マミの叫びに、シディアスは簡潔な考察と推論を告げた。

 

「力とは循環する物だ。息を吸い、吐くように循環して成り立つ。魔法少女が魔女に、そして魔女となった者を狩るために魔法少女が生まれる。これもまた、力の循環の理に適った構造と言えよう」

 

「そんな…そんなこと…だったら…私は…」

 

私たちは…もともと魔法少女だった少女たちが絶望した姿を殺して、その骸から生まれた結晶を求めていたというのか。

 

そんな、負の連鎖にまみれたサイクルに囚われるというなら…だったら、もう私たちは。

 

「前を見ろ、パダワンよ」

 

絶望感に打ちひしがれることを、彼女の隣にいる師は〝許さなかった〟。その程度で絶望するほど、この道は平坦なものでは無い。そう言い聞かせるように、マミの師となったログ・ドゥーランは真っ黒なジェダイローブを下げて、マミの目線に合わせて言葉を紡いだ。

 

「まだお前は、フォースを知ったばかりだ。世界にはフォースが満ち溢れている。今、俺たちがいるこの場にも、空にも、空間にも、そして魔女と化した美樹さやかの身の回りにも」

 

「マスター…」

 

「シディアス卿が仰られたように、今の美樹さやかは陥ったダークサイドの力を垂れ流すことしか知らない赤子だ。人は誰しも、その側面を抱えて生きている。俺も、シディアス卿も、そして巴マミ、お前自身もだ」

 

立て。そう言う師に従ってマミは立ち上がった。魔法少女となって、一人でずっと戦ってきた。それが正しいと思っていたし、それが自分の正義だとも思っていた。魔女の脅威から人々を守るための存在としてあり続けることが。

 

そして、彼らと出会った。はからずしも、魔法少女として生まれ変わった故に感じることができたフォースを身につける修行を続けてきた。

 

ライトサイドも、ダークサイドも見た。

 

マミは乱れた息をゆっくりと整えて、感覚を研ぎ澄ます。大丈夫、マスターの言った通り、フォースはある。自分のすぐそばに、感じることができる。

 

「ライトセーバーを手にしろ、パダワン。フォースを感じろ、魔女となってしまった少女のフォースをだ」

 

ログに導かれるまま、彼女は自身の手で作ったライトセーバーを手に取った。青白い光が天へと伸び、そのプラズマの刃を感じながら、マミはフォースを研ぎ澄ます。

 

「む、無理だ…よ…魔女と…化した…魔法少女を…元に…なんて」

 

キュウべえの得意の交渉術を、今度はログが封じ込んだ。すでに原型が止めないレベルで地に押さえつけられるインキュベーターを見下げて、ログは冷たい目を向けたまま浅はかな彼らに言葉を告げる。

 

「貴様はフォースの全てを知らん。その一部を曲解し、それこそが自分たちの役割だと自負して驕る、愚か者だ。宇宙の延命?そんなものが、単なる種族に過ぎない貴様たちが為せるものか。フォースの全てを理解すらしていない稚拙な者たちが、図に乗ったことをほざくな」

 

そのまま、インキュベーターは生きたままコンクリートの床を突き破り、深い地へと押し込まれてゆく。きっと息絶えれば別の個体が来るであろうが、その身に刻まれたフォースの感覚があれば少しの間は大人しくしているだろう。

 

「パダワンよ。お前の生き方を決めるのはお前だ。フォースを感じろ。全てがそこにあり、知と星の声を紡いでくれる。それを受け取るのも、それを読み解くことも、すべては受け取るお前次第だ」

 

「…はい、マスター」

 

絶望感が漂うフォースは微塵も感じられない。さやかの微かなフォースを感じ取ったマミに迷いはない。ならば、やることは決まった。

 

3人はキュウべえがいた場所からフォースの力に身を委ねて飛び降りると、魔女の結界の前で途方に暮れている杏子の前へと降り立った。

 

「さて、ログよ。パダワンの修行にはこれとない試練となろう。余も学ばさせてもらうとしよう。フォースの暗黒面、その一つの体現がどれほどのものか」

 

両の手にフォースの稲妻を滾らせながら、シディアスは地獄から響くような笑い声を上げて嬉々としてさやかの魔女の結界へと進んでゆく。

 

頼むから試練的な部分を残しておいてくれよ、とログが顔をしかめるが、探求者モード全開となったシディアスを止める術など、この銀河には存在しないだろう。

 

「この素晴らしき暗黒面を持つ彼女を鍛えるのも、また一つの探究だろう」

 

結界に入った途端に襲いかかってくる彼女の使い魔たちを一閃の稲妻で灰へと還元しながら、シディアスはこちらを威圧的に見下げる魔女を見上げて声を高らかにあげた。

 

「インキュベーターよ、そして美樹さやかよ!!真なるダークサイドの…無限のパワーを知るがいい!!」

 

後日、さやかは語る。

 

自身の絶望など、暗黒面に比べれば砂粒にも満たなかった、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら「なにこれぇ」

 

 

 



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番外編 パルパルとログの愛の逃避行 その3

感想にあったほむらの能力やワルプルギスの夜に対するフォース側からの考察を取り入れました。


 

 

 

「時間を巻き戻す能力…か。どう考えます?議長」

 

巴マミの自室にて話し合いの場を設けた中、まどかの隣に座るほむらがポツリポツリと零すように教えてくれた魔法少女の能力。

 

過去へと逆行するという普通なら眉唾物の能力について、ログはやや思考の中で考慮した上で、さやかの隣で瞑目するように目を閉じているパルパティーンへ問いかける。

 

「ログ、君は〝はざまの世界〟というアーティファクトを知っているか?」

 

ゆっくりと目を開いたパルパティーンの発した言葉に、ログは自身の記憶を辿ってから答える。

 

「いえ、正確なことは。ジェダイの伝承によれば、はざまの世界では時間や空間的な3次元の事象もすべて物理的な現象によって観測ができるということしか…しかし、それは太古の文献により伝えられてきたことです。現実に存在するのですか?」

 

「惑星ロザル、そのジェダイ・テンプルの壁に描かれたモーティスの神々の古代壁画がある。

アーティファクトさえあれば、そこからはざまの世界へと干渉することが叶うようだ」

 

はざまの世界とは神秘的な世界だ。そこは時間と空間をつなぐ道と扉の集合体で、この世のあらゆる瞬間をひとつに結びつけている。

 

まさに、“全宇宙を支配可能な”空前絶後の力。

 

パルパティーン自身も昔、その世界に入るための鍵を探してはいた。今では求める必要もない代物となっているが。

 

「つまり、魔法少女となった彼女の装飾品こそが、その世界へ干渉するアーティファクトと?」

 

「ある種それに近いものか…いや、限定的なものであろう。はざまの世界は時間と瞬間を引き付け合う世界。必要ならば、過去で起こる事象すらも変異させることが叶う。だが、相応の危険も伴う。変えてしまった事象の影響で時空連結帯が歪みを生じ、その文明や歴史に関わる全てを飲みこみ崩壊させてしまう危険があるぞ?」

 

故に、その力の行使にはある程度の制約や制限…いわゆるルールを設けなければならない。

 

「暁美ほむらの能力は限定的…たとえば、指定したポイントへの逆行するというような制限を置くことで過去へのタイムリープを可能にするポータル的な役割を持つのだろう」

 

「マスター、フォースの力を使えば過去への逆行も可能なのですか?」

 

隣で難しい言葉をイマイチ理解できていない様子だった美樹さやかが、師となったパルパティーンへと質問する。フォースへの理解が深まったようではないか、とパルパティーンは満足そうにさやかの言葉に頷く。

 

「いかにもだ、我が弟子よ。フォースの力はあらゆる物に通じているのだ。過去と現在と未来にも等しくフォースは流れ、それは常に惹かれあっておる。フォース感応者が未来を予知できる起源もそこにあるのだ」

 

そのパルパティーンの言葉はログの隣にいるマミにも一種の希望的な考えを与えることになった。

 

「じゃあ、そのはざまの世界を上手く使えば過去に魔女になった少女たちを救うことも…」

 

「結論を出すには問題が多いぞ?パダワンよ」

 

過去に多くの少女がインキュベーターの囁きによって道を誤り、不適切な手段と方法でフォースのダークサイドの化身にさせられた。その過去を改編すれば、魔女の勢力図を塗り替えることも可能になるだろうが、それでもたらされる結果は多くの危険を孕んでいた。

 

「議長も言ったように、はざまの世界には常に危険が伴う。たとえばマミが一人の魔法少女を過去から救ったとして、その先の未来にどんな影響が出るかを予測することは不可能だ。下手をすればこの銀河が消滅する事態にもなりかねない」

 

故に、ほむらのような意識のみの過去への逆行のように制約と制限を設ける必要があった。過去と現在と未来に最も影響を及ぼすことなく、多分岐のマルチバースによる世界の再構築を可能にする。それがほむらの魔法少女としての能力の本質といえるだろう。

 

「インキュベーターが、このポータルの技術をどのようにして手に入れたのかは疑問だが…調べる必要もあろう。あのような種族に持たせて良い技術ではない」

 

「そうですね、議長。然る日をもってインキュベーターの母星へ赴く必要があります」

 

はざまの世界はフォース感応者や歴史的に見ても、あまりにも危険なものであり、安易に使用していいものではない。ましてや、個人の願いや手段として使うなど論外だ。ほむらにポータルを付与したインキュベーターの技術にも目を向ける必要はある。

 

「その前に、やらねばならぬこともあろう」

 

パルパティーンの言葉に、全員が唸るように顔をしかめる。それはほむらから伝えられた数日後に訪れる厄災だった。

 

「ワルプルギスの夜。超ド級の魔女か。噂程度にしかアタシも聞いたことないけど…いったいどれほどの絶望を持って生まれ落ちた存在なのか…」

 

「その結論自体が早計かもしれんぞ?」

 

想像のつかない怪物級のダークサイドを見つめる佐倉杏子に、パルパティーンは忠告するように声を紡いだ。

 

「ダークサイドが濁っているのだ」

 

パルパティーンの言葉にログは驚いた。ダークサイドもフォースの「ネガティブ」な側面に過ぎない。ライトサイドがその側面によって陰ることはあれど、ダークサイドが覆い隠されることは少ない。それも、パルパティーンの表現が陰りというよりも濁りだということにも。

 

「彼女は自身の呪いだけで魔女になったわけではあるまい。ダークサイドの化身とは、フォースの側面の結果だ。そこに手を加えることもできよう」

 

「インキュベーターが謀ったと?」

 

「左様だ。かの者たちならば、ワルプルギスの夜が生まれた瞬間になんらかの作用を与えることも可能だろう」

 

パルパティーンの推測と考察は的を射ているように思えた。

 

感情を無用の長物として切り捨てたインキュベーターなら、魔女化の際に生まれるエネルギー効率を上げるために素質のあった少女に手を加えることも厭わなかっただろう。現に、ほむらが救おうとしているまどかが実例として存在しているように。

 

「なんて奴らなの…少女の気持ちを弄んで…!!」

 

マミの噛み締めるような声に、さやかや杏子も共感した様子だった。それをみてパルパティーンはほくそ笑むのをログは横目で見つめる。

 

まったく、このおじさまは素敵なことを考えてらっしゃる。

 

パルパティーンの言葉はあくまで〝推測〟であるが真実ではないだろう。ダークサイドの常套句は裏切りと策謀だ。裏切り面が自分の存在によって薄れているとはいえ、パルパティーンの言葉巧みな誘導は健在。見事にマミやさやかたちの思考を誘導し、インキュベーターへの悪感情を高めている。

 

まぁ、マミもさやかもフォース感応者としての修行を始めたばかりだ。

 

マミは正義感は強いが、まだまだ心に弱い部分を抱えているし、さやかも同じだろう。それに、さやかは心に巨大なダークサイドを抱えている。二人とも鍛えれば稀代のジェダイやシスに届く素質を持ってはいるが、いかんせん修行する時間が足りない。

 

パルパティーンの言葉巧みな誘導を行うことで意思や敵意を向ける相手をある程度固定化させることも大事なのだろう。

 

しかし、魂…いや、フォースの固定化や時間への干渉といい、インキュベーターの行うことは少々度が過ぎたものであることも違いはない。

 

「それで宇宙の存命など笑わせる。あいつらはフォースの力を侮り、蔑ろにした。その報いを受けさせる」

 

フォースの流れを見るログがそう呟くと、結論は出たな、とパルパティーンは満足した様子で笑みを浮かべた。それはもう楽しげな…。

 

すると、今まで沈黙していたほむらが少し体を下げてから全員に向かって深く頭を下げた。

 

「ごめんなさい…私は…貴方たちを…信じることができなかった」

 

何度も過去へ逆行し、何度もこの時間を過ごしてきた。今まで存在しなかったフォースという可能性。それにほむらは望みをかけた。浅はかで都合がいい事だとは思う。パルパティーンやログの強さはほむらも身をもって知っていた。そんな偉大な彼らを利用するような真似をした上に、嘘をついていたのだ。

 

「私は…」

 

罪悪感と心が軋む感覚にほむらが顔を下げていると、その両肩に温かな手がそっと置かれた。顔を上げる。そこには自分が利用していたはずのパルパティーンとログが真っ直ぐにほむらを見つめていた。

 

「そなたは強い子だ、暁美ほむら。称賛に値する。かの有能なジェダイマスターであれど、幾年の歴史の繰り返しに挑めば心を暗黒面に染める者もいよう。だが、そなたは高潔な願いと意思で、ダークサイドの誘いを跳ね除け続けた。他ならぬ友を守るためにな」

 

「君を見つめるフォースは、その行先を示しているぞ、暁美ほむら。君の夜明けはくる。そして、我々はその夜明けを迎えるためにここに呼ばれたのだ。フォースの導きによってな」

 

二人の力強い言葉は温かなフォースと共にほむらの胸の中に落ちて、穏やかに溶けていく。そして二人の隣からマミとさやかが出てくるとほむらの手を握って言葉を繋いだ。

 

「暁美さん。貴方の思いを決して無駄にはしないわ。必ず、ワルプルギスの夜を倒して夜明けを迎えましょう」

 

「ダークサイドの力を身につけたさやかちゃんに任せなさい!どんな敵でも、マスターやドゥーランさんがいれば怖いものなしよ!」

 

さやかの宗教じみた声に顔をしかめながらも、杏子もワルプルギスの討伐に協力すると頷いた。その様子を見つめながら、パルパティーンは感慨深そうに目を細めた。

 

「まったく、これまでとはまったく異なるタイプのアプレンティスを迎えてしまったなぁ、ログよ」

 

「これもこれで新たなフォースの側面ですよ、シディアス卿。愉快愉快、しがない探求者二人旅だ。こう言ったこともご賞味というもんです」

 

パルパティーンの泣き言に似た声を、抑揚の良い声でログは笑い飛ばした。うむ、これもまた自身のフォースに対する修行修行。

 

「ならば、示さねばならんな。暗黒面の…いや、フォースの偉大な力を」

 

「ええ、シディアス卿。あの稚拙な種族に見せつけてやりましょう」

 

全員の意思を感じ取ったほむらは、瞳を涙で潤ませながら、か細い声で全員へ再び頭を下げて言葉を零す。

 

「みんな…ありがとう…!!」

 

ワルプルギスの夜が来るまでもう少し。やるべきことは定まった。ログは立ち上がって弟子たちへ笑みを向けてこう言った。

 

「では、行こうか。みんな、フォースが共にあらんことを」

 

 

 





さやか「ダークサイドの力を見せてあげるよ…!」

まどか「目がまっ金金!!」

恭介「さ、さやか…?」

さやか「執着することも、独占することも正しいことだったんだ…私、恭介が好き…好き好き好き!!」

恭介「ひえ」

杏子「力こそパワーだよ!!さやか!!」

パルパル「愛弟子のさやかを蔑ろにしたらフォースライトニングな」

恭介「理不尽!!」

ほむら「やっぱり信用してよかったのかしら??」

ログ「こりゃもうわかっんねぇな」

マミ「さやかさんんん!!!」



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番外編 パルパルとログの愛の逃避行 その4

パルパル、ログ、ガチギレ回


 

 

「いよいよね、暁美さん」

 

凪が立つ見滝原の市街地の中、暁美ほむらの隣に立つマミはスーパーセルの前兆とも思える暗く影は曇り空を見上げながら言う。

 

ほむら一人が立つはずであったこの場は、一人ではなく三人の魔法少女がすでに準備を終えて立っていた。否、そのうちの二人は、すでに魔法少女の枠から外れつつある者でもある。

 

「ワルプルギスの夜かぁ…一体どんな強大な敵か」

 

槍を肩に担ぎながらあっけらかんと言う杏子に、隣にいるさやかは魔法少女としての刀剣と、師の教えで作り上げた真っ赤なライトセーバーを手にする。

 

「マスターたちには、まどかの護衛をお願いした。私たちの力もフォースとの結びつきで増してる」

 

フォースの鍛錬も出来る限りしてきた。魔力もフォースも漲っている。あとは迎え撃つだけ。不気味な使い魔たちのパレードが過ぎ去り、かの舞台装置の魔女が現れるカウントダウンが始まった。

 

「暁美さん。信じなさい」

 

何も言わずにワルプルギスの夜の出現に備えるほむらへ、マミは恐れなく、穏やかな口調で言葉を紡ぐ。

 

「私たちのことを。それが無理なら…フォースを信じなさい」

 

カウントダウンが終わると同時、マミは青く光るライトセーバーを立ち上らせる。襲いかかってくるワルプルギスの夜の使い魔たちを、瞬時に切り捨て、身動きを封じるためにありったけの弾幕を展開した。

 

「今日こそ、勝負をつける…!」

 

ほむらも同時に駆ける。時間停止と世界中の軍事企業や自衛隊、軍隊から奪った火器弾薬を展開して、マミの波状攻撃と共にロケット弾や爆雷装置、炸裂弾をありったけ撃ち込む。

 

「まだまだぁ!!」

 

ガソリンや液体酸素満載のトレーラーをぶつけた上に、落下地点には所狭しと並べた地雷やC4爆弾を一斉に点火。爆炎に飲まれたワルプルギスの夜。その影を目掛けてマミやさやかも仕掛けた。

 

「こいつも持って行きなさい!ティロ・フィナーレ!」

 

「刀剣乱舞、全刀身射出!」

 

周囲に展開したマスケット銃と、最大火力を誇るティロ・フィナーレ。さやかは刀剣の切っ先をワルプルギスの夜に向ける形で出現させ、そのすべての刀身を弾頭の如く射出してゆく。

 

ほむらの貯めた火力と、マミとさやかの追撃。クレーターを生み出す猛攻を前にして、ワルプルギスの夜は…。

 

 

 

まったくの無傷であった。

 

 

 

 

「これでも…ダメだというの!?」

 

驚愕する三人目掛けて、ワルプルギスの夜から真っ黒な触手が伸びる。その攻撃の先に、使い魔たちをあしらっていた杏子が滑り込んだ。

 

「ロッソ・ファンタズマ!ぼさっとするな!ほむら!」

 

展開した幻影魔法は、幾人もの杏子を出現させ、ワルプルギスの夜の攻撃を迷わせる。その隙に一度体勢を整えるため、マミやほむらたちは撤退した。

 

距離を開けながら追撃するほむらたちであるが、その攻撃を物ともせずにワルプルギスの夜は見滝原市街地を悠然と浮游し、街を破壊しながら進んでゆく。

 

「この先には避難所が…進ませるわけには…!!」

 

その瞬間、ワルプルギスの夜があたり一面の構造物を巻き上げ、浮遊させた。足場を崩されたほむらたちがタタラを踏んでいる中、浮遊させた大きなビルが驚くほどの速さでほむらたちの元へと投擲される。

 

「がっ!!」

 

瓦礫をもろに受けたほむらたちは、そのまま廃墟と化したビルに叩きつけられる。コンクリートの壁を障子紙を突き破るような勢いで吹き飛ばしながら打ち付けられるほむらたち。

 

やっと止まったと意識が朦朧とする中、足元をみれば大きな岩塊に利き足が押し潰されていた。声にならない悲鳴を上げ、なんとか襲いくる痛みに耐える。口から鉄臭い匂いと共に、どろりとした赤い血が溢れた。脇腹に鉄筋が突き刺さっている。

 

ほんの一撃を食らっただけで、ほむらたちは満身創痍だった。

 

「これほど…だというの…」

 

鉄骨を無理やり引き抜き、潰れた足を引きずりながら立ち上がる。痛みで精神がどうにかなりそうであったが、ほむらは食いしばって歩いた。潰れた足を引きずりながら。

 

「私たちは…私はまた…勝てないというの…」

 

何度も繰り返した。

 

何度も、何度も、何度も。

 

どれだけ策を費やしても、どれだけ想いを持っても、アレには敵わない。勝つことができない。そもそもの規格が自分とは違う。それを思い知らされるばかりだ。

 

「せっかく…みんなが助けてくれたのに…私はまた…振り出しに…」

 

心がぶつりと切れて、なくなってしまいそうになる。足がほつれてほむらの体が倒れる。コンクリートに体を打ち付けて、脇腹から溢れる血が当たりに散らばった。

 

冷たい。体も、心も、何もかもが。

 

このまま諦めてしまった方が…諦めることができたらどれだけ楽になるだろうか。その思考に気がついたほむらは、咳き込んで、血を吐き出した口元を、ぐっと噛み締める。

 

「いやだ…」

 

嫌だ、嫌だ、嫌だ…嫌だ!!

 

ここまで戦ってこれた。仲間もいる。誰も失っていない。誰も壊れていない。みんながいてくれる世界にやっとたどり着いた。こんなところで…こんな結末で!!

 

「諦めるなんて…私は、絶対に嫌だ!!」

 

泣き声のような悲鳴を上げて、ほむらは涙を止めどうしなく流しながら、それでもと言って立ち上がろうとした。諦めてたまるものか。生きて、生き延びて、まどかを助けるために戦うんだ!!

 

そう決意したほむらの体は、不可視の力によって浮き上がる。

 

途切れかけた意識の中、ほむらの体を優しく誰かが受け止めてくれた。

 

「よくぞ、耐えた。暁美ほむら。人の境地でありながら、よくぞ」

 

真っ黒なローブに身を包む影。その人物の腕の中に降りたほむらは、かすれた目をローブの下から覗く優しげな老人へと向けた。

 

「パルパティーン…さん…」

 

シーヴ・パルパティーンがそこに立っていた。ほむらを抱える彼は、マミやさやかたちを救助したログへ、大怪我を負うほむらを託すように渡す。

 

「ログ、彼女を」

 

「はい、議長」

 

それだけ言うと、パルパティーンは崩れ落ちたビルからするりと身を落とした。まるで浮游するようにゆるやかに降りたパルパティーンは、ローブの下に隠れる視線を空に浮かぶ舞台装置へと向ける。

 

「ふむ、避難所に邪悪なダークサイドが忍び寄っている。そう思い見に来てみれば、やれやれ…こいつは何とも醜いダークサイドだ。見るに耐えん。あれほどの力を持ちながら、根元には邪悪と、怒りと、憎しみしかない」

 

純粋なダークサイドの力。だが、変わりはしない。ほかの魔女と何も。単なる憎しみや怒りから生まれたエネルギーをいたずらにひけらかして、振るい、辺りに暴力を撒き散らしている。それこそ、さやかの魔女化と変わらず、言葉を聞かぬ赤子が暴れていることと変わりはしない。

 

「故に、余は少々怒っておる」

 

黄金の眼となったパルパティーンは、空を見つめながら言葉を放った。

 

「どこかで見ておるのだろう?小さき、哀れで、稚拙なごみ虫よ。そなたたちが、あれを体現させたことに誇示を持つというなら、あまりにも愚かだ。ダークサイドの力の何たるかを知らぬ」

 

強大な影は、強大な光の陰影によって生み出される。影があるからこそ、光が輝く。光の輝き無くして、影は決して繁栄しない。

 

ワルプルギスの夜がいかに強大であろうと、それは明確な光がある故に存続できる事象的なものに過ぎない。その程度でフォースを、宇宙の延命ができるなど…片腹痛い!!

 

パルパティーンは、ダース・シディアスである。

 

歴代のシス卿中で、最も智命で、知識に富んだ彼は、両手に稲妻を宿してワルプルギスの夜と対峙した。

 

「ダークサイドの力を見誤ったか?インキュベーターども。余が直々にその真髄を指南してやろう…!!」

 

凄まじい雷撃の音と共に放たれたフォースライトニングは、巨大なワルプルギスの夜の体を一瞬で包んだ。肉は焦げ、装甲的な外殻は剥がれ、唇が深刻な火傷を負う。笑い声を上げていたワルプルギスの夜は、その痛みに悲鳴を上げた。

 

「どうした?邪悪な舞台装置よ。よもや、この程度で苦しいなどなかろうて」

 

苦しげにのたうつ魔女は、その苦しみから逃れようと雷撃を放つパルパティーンへ黒い触手やありったけの使い魔を手向かわせる。その様を見て、パルパティーンは笑みを浮かべた。

 

「哀れな…」

 

片手を下げて、袖に隠していたライトセーバーを抜く。赤い光刃は目にも留まらぬ速さで振るわれ、伸びていた触手は寸断され、襲いかかってきた使い魔はあっという間に両断された。

 

「小細工は通じぬ。余に全てを見せよ。でなければ、そなたはここで無様に解体されるだけだ」

 

その言葉に怒りを覚えたかのように、逆さであったワルプルギスの夜が起き上がった。触手がさらに増え、衝撃波と共にパルパティーンが立っていた場が瞬時に崩壊する。稲妻を振り払った魔女は咆哮をあげて、パルパティーンがいた場所付近の全てを吹き飛ばした。

 

残骸すらも塵芥と化す衝撃を放つ魔女は、本気を出した相手に敬意を示すとともに、苦しめた相手の死を喜び———。

 

「よくぞ戦った。だが、余の力には及ばぬ」

 

ズルリと、視界が〝ズレた〟。ワルプルギスの夜の頭部が、赤い溶断跡を残して、上下真っ二つに切り裂かれる。回転して落ちる魔女の頭部。死際に見えた視界は、彼女の肩口に乗る真っ黒な影を捉え、そして直後、青白い稲妻に焼かれた。

 

「舞台装置はそれ相応に、舞台へと組み戻されるがいい」

 

燃えカスと化したワルプルギスの夜の頭部を見下ろしながら、パルパティーンは死者を弔うように穏やかな口調でそう告げる。肩口から首を貫通させるように突き刺したライトセーバーを引き抜き、彼はふわりと浮かび上がると、頭部を失っても現存している魔女の肉体に、滅びの稲妻を撃ち放ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ば、馬鹿な…!!彼女は古代から現代まで語り継がれてきた古の魔女だ!!そんな簡単に…!!」

 

一部始終を見ていたキュウベエは、あまりにも呆気なく打ち倒された歴史上最強クラスの魔女のありさまを受け入れることができずにいた。

 

あのクラスの魔女を打ち倒すには、同等の素質を持つまどかが魔法少女になり、その命と引き換えに倒すしかないはずなのに。

 

「たかが、数千年の歴史でフォースの深淵にたどり着いたと思っていた貴様たちの失態だ」

 

そのキュウベエの背後。気配なく現れた人影に、キュウベエは本来なら捨て去ったはずの何かを感じ取った。

 

「ログ…ログ・ドゥーラン!!お前たちは…お前たちは一体…!!」

 

振り向きながら見上げる相手。青白い眼光を光らせる相手、ログ・ドゥーランに、キュウベエは明確な〝恐怖〟を抱いてしまっていたのだ。

 

「フォースの意思を司る者。かの意思はお前たちの屈曲した価値観を認めはしない。故にフォースの意思は〝私〟たちをこの星へと導いた。叡智を極めた文明が待つものは、その叡智にすり潰される結末しかあり得ない」

 

「ふざけるな!僕らはそうやって宇宙の命を絶やさずに守ってきた!そのエネルギーを対価にして、宇宙の生命を守ってきたんだぞ!」

 

「それが傲りだと言うのだ。小さく哀れな愚者よ。死に生命の灯火を見いだした段階で、貴様たちの知恵はそこで止まったのだ。貴様たちのいう宇宙の繁栄、宇宙の延命など、所詮は進歩ではなく停滞そのものだ」

 

あたりの瓦礫が浮かび上がる。まるでその場には重力などないと言わんばかりに。フォースの意思と一体と化したログは、かつてジェダイを滅ぼした時と同じように、この場にいるキュウベエへと歩み寄ってゆく。

 

「フォースの一つの側面のみ、上部だけを観測し、その全てを理解した程度で全能と謳った愚者よ。かの意思にお前たちの到達した解など不要。ならば、その罪を断罪しなければならない」

 

ライトセーバーを起動させ、キュウベエの前に立った彼から、尋常ならざるフォースが放たれ、その全てがキュウベエに襲いかかった。身動きなどできない。普段の全能的な余裕すら見せることはできない。個体という意思を持たないキュウベエが震える。その恐怖は、キュウベエの肉体を通して、すべてのインキュベーターへ伝搬した。

 

「フォースの意思として、私が貴様たちが超えたと思う「死」をくれてやる」

 

「や、やめろ…やめてくれ…やめろぉおおー!!」

 

振り上げられた一閃は過たず。ライトセーバーは恐怖に支配されたキュウベエの肉体を断ち切った。フォースの揺らめきが切り裂かれたキュウベエの肉体から立ち上り、消える。

 

スペアとして復活できるはずのキュウベエは、もう蘇ることはできない。そのフォースすら、ログは断ち切った。立ち上ってゆくキュウベエだったフォースに意識を向けながら、ログは遠くで見ているであろう、彼の同胞へ言葉を綴った。

 

「聞こえているか、インキュベーターども。貴様たちがこの罪を改めんと言うならば、次はその星そのものを断罪するぞ」

 

その日、インキュベーターは自分たちの知識がいかに愚かであるということを体に刻み込まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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番外編 ダークサイドの力は素晴らしいぞロォグ(ねっとり)

前の小話を書き直しました。
短編描きたい…!!


 

 

「目を覚ましたか?ドゥーラン、私だ」

 

「いや、誰だよ」

 

ジェダイとなって幾星霜。趣味がライトセーバーの鍛錬とフォースの瞑想ですと胸を張って言えるほど毒された俺は、久方ぶりのフォースの瞑想に唖然としていた。

 

おいおいおい、誰だよフォースの世界に金髪藍色の目をした美人さんを連れ込んだのは。しかもこれ…あ、どこかで見たなと思ったら前世で少し知ってるキャラじゃねぇか。瞑想のおかげで記憶の深淵へ潜りやすくなってるのか、前世の記憶が驚くほど蘇ってくる。

 

え、ついに俺は瞑想に飽きて新たなるフォースの扉を開いちゃったわけなの?なにそれ胸熱。

 

「余が分からんか?ドゥーラン。パルパティーンだ(顔FGOジャンヌ CV/坂○真綾)」

 

「いや、誰だよ(真顔)」

 

いやホントアンタ何してんのマジで(白目)

 

「仮にアンタとしてもどうしたんだよついに痴呆がはじまったか?または馬鹿なのか?頭が逝かれちまったのか?」

 

フォースの瞑想中なのか…普段では顔を合わせても社交辞令と張り付いた笑顔で右へ左へとダークサイド勧誘ワードを躱している相手になんの臆面もなく本音をぶつけてしまった。

 

いや、けど冷静に考えてみてくれ。優しげなおじさま風スターウォーズラスボスことパルパティーンが、美少女になって目の前にいるとか普通に考えて頭おかしいことを疑うだろ。

 

「何をいうか、これはそなたの願望を投射した姿であるぞ?」

 

なん…だと…?

 

ゾクリと背筋に嫌なものが走る。

 

え、議長って人の瞑想に勝手に入ってきてしかもその人の記憶遡って見れるの?ネタバレとかそんな話超えてSAN値削れない?俺の記憶覗くとかMAXのSAN値100として、1000D1のダメージ比率くらい洒落にならんよ?え、なにそれ知らん…怖。

 

「ふむ、しかし、なかなかそなたも強欲な部分があるのだな、こういった女性が好みだとは」

 

「勝手に人の記憶のぞいて投射したくせに何そのいい草。というか目の前でくるくる回るのマジでやめろよ、オイ」

 

「ルーラー、シーヴ・パルパティーンですよ!!(ジャンヌ外見andCV/坂本真○)」

 

「貴様ァ、坂本○綾さまの声で喋るなこの野郎!!!」

 

俺のSAN値がガリガリ削られるわそんなもん!!

 

ああやめてスカートひらひらさせないで。霊器再臨しないで。ジャンヌお姉ちゃんの格好になるとかほんとに気が狂ってるんじゃない?なにやってるのこのラスボス怖いんだけど。

 

「なんだ、面白くない。では、もう一人の候補を投射するか」

 

「え゛」

 

時のオカリナとか何とかの仮面とかで有名なゲームの効果音と共に眩い光に包まれたパルパティーン(外見ジャンヌ)。そしてアニメチックな演出が終わると、目の前には再び金髪赤目の美人さんが立っていた。

 

下から上に目をやる。その格好が何というか…ほぼレオタードに近い際どい格好をしていた。

 

「これも…またなんというか業が深いのぉ」

 

「なぜそれをチョイスした貴様ぁあああ!!」

 

CV水樹○々まで変わっとるやないかい!!

 

思わず頭を抱えて地面なのか何なのかわからない場所でのたうち回りたくなるが耐え忍ぶ。ジェダイとは忍耐なのだ(白目)。

 

た、たしかに金髪美人さんは好きだし、見てるだけ目の保養になる!!その中身がパルパティーンことシディアス卿とか知らなければなお良いがな!!くそったれ!!

 

「身長的にもそなたと並んだらちんちくりんなのが目に見えて」

 

「おい身長のことを言うなよ殺すぞ」

 

「すいませんでした」

 

一気に青白く光った眼光を元の色へと戻してゆく。危ない危ない。身長のことになるとすぐに頭に血が上ってしまう。落ち着け俺、まだフォースに身を委ねる場合ではない。ヒッヒッフーと呼吸を整えてから、目の前にいるパルパティーン(?)に呆れた目で言葉を投げた。

 

「え、これマジでパルパティーン、アンタなのか?」

 

左様と、金髪赤目の美人さんが頷く。とにかく何か別の格好になってくれない?テラテラしたレオタード風の衣装がチラチラ見えて気になってしょうがないんですマジで。そんな俺の懇願など知ったことかとパルパティーン(金髪美人)は腕を組んで語り始めた。

 

「余のフォースの力を得ればこういった事も可能。そなたの記憶にある〝嫁〟と言うものもダークサイドの知識があれば創造する事も可能なのだ、ドゥーラン」

 

っべーわ。

ダークサイドの叡智やべぇーわ。

 

これ現実の世界で証明したらシス・オーダー時代とは比べものにならんくらいの信者集まるんじゃね?ダークサイドの居心地は気持ちいいぞ(ねっとり)とか?いや、ダメだ。人間の業はやばいぞ?ドラゴンカー○EXとかまであるんやで?下手するとダークサイドより暗黒なものが誕生しかねん。

 

「さぁ、ドゥーラン。そなたは余の弟子となりダークサイドの知識を学ぶのだ」

 

そう言って手を伸ばしてくるパルパティーン(CV水○奈々)。瞑想中なのか、思考がかなり残念なことになっている俺は、差し出されたパルパティーンの手を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ログ!!」

 

「んがっ!?」

 

気がつくと目の前にアナキンの顔があった。その背後には無骨な鉄材の天井が見える。寝転がっているのか?そう思って、俺は体を起こした。座している足元には、フォース瞑想のための魔法陣が描かれていた。

 

どうやらフォースの瞑想中に寝入ってしまったようだ。

 

「うなされていたが大丈夫か?」

 

クローン戦争の最中だ。休息なしに戦い続けてきた無理が祟ったのか。ブリーフィングの時間になっても現れない俺はを心配して、アナキンは様子を見にきたのだろうが、寝入っていた脳が覚醒した瞬間に俺は両手で顔を覆った。

 

「あ……ぁあーー…これは…あぁああー」

 

そして唸るしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドゥーラン様はどうなされたのですか?」

 

瞑想室から一人で出てきたアナキンに、ついてきていたC-3POが問いかけたが、アナキンはなんとも言えない顔をして肩をすくめた。

 

「何か頭を抱えて俺を殺せって言ってたよ。落ち着いたらそろそろブリーフィングをするって伝えてくれ」

 

そういって去ってゆくアナキンの後ろ姿を見て、C-3POは電子音を響かせたR2と顔を見合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

これが夢だったのか、それとも別の何かだったのかはわからない。ただひとつわかっていることはある。

 

「夢の詳細はよく覚えていないが、思い出したらライトセーバーで切腹するので、オビ=ワンかアナキン、介錯を頼む」

 

瞑想室から出てきたログが開口一番にそう言ったことを聞いた二人は、顔を見合わせることしかできなかったとか。

 

 

 

 



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エピソード FN-2187
FN-2187とジェダイと


書きたかった短編です。
スターウォーズで好きなキャラなのでポチポチと進めます。


 

 

ファースト・オーダー。

 

武官派に対して、クーデター派と反乱軍による決戦は皇帝とダース・ヴェイダー、そして多くのシス・ストーカーを失った武官派が敗走。

 

新たに樹立された銀河連邦による永久停戦協定により、連邦軍へと属する事となった多くの帝国軍は武装解除と軍事縮小が呼びかけられたが、武官派は多くの物資、人員と共に銀河の未知領域へ逃亡した。

 

彼らはそこで新たな世代のストームトルーパーの編成や各種兵力の再配備といった軍拡を推し進め、シス・ストーカー、そして最高指導者スノーク率いる軍事組織「ファースト・オーダー」を結成。銀河連邦に対し宣戦を布告し、銀河各地でテロやゲリラ的な攻撃を続け、連邦軍との軍事衝突を繰り広げていた。

 

この小競り合いに目をつけたのが、帝国と反乱軍との戦いで私腹を肥やしていた軍事産業企業や、武器売買のバイヤーたちだ。

 

彼らは残った火種に油を注ぐようにファースト・オーダーに武器を流し、そしてファースト・オーダーに対抗するべく軍備の拡充が求められた連邦軍にも何食わぬ顔で武器や資材を売る死の商人。

 

帝国と反乱軍による大規模な戦争はなくなってはいたが、平和はまだ訪れる様子を見せていなかった。

 

そんな戦果の中、辺境の土地で民族浄化を掲げたファースト・オーダーの一部隊が抵抗する現地住人や戦士たちを次々と惨殺する事件が起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやだ。

 

広場に集められた住人たちを慈悲もなく撃ち殺していくファースト・オーダーのトルーパーたち。誰もが無感情に引き金を引く最中、一人のトルーパーは銃を上げることもできず、ただ目の前で無作為に打ち殺されてゆく住民を見つめることしかできなかった。

 

子供を庇って撃たれた母親は、亡骸となった子供の上に覆いかぶさるように倒れ、老人も、男も、関係なく撃ち殺された。倒れ伏し、光をなくした目がこちらを見ているような気がして、ハッと後ろへと後ずさる。

 

いやだ…。

 

抵抗する現地住人によって殺された戦友。吹き出した血のりと、戦友の手にべったりとついた血がヘルメットに刻まれている。

 

宇宙でも活動できるはずのヘルメットは空気を絶え間なく浄化しているはずなのに、血独特の鉄の匂いと生臭さが鼻について離れない。戦友の断末魔の悲鳴も。

 

いやだ…っ。

 

撃ち殺された住民たちが感情をなくした兵士たちによって穴の中に放り込まれてゆき、部隊長が放った火によって雑に燃やされ、浄化されてゆく。仄暗い瞳が炎に包まれてゆく様を見て、その死体の山の中に自分がいるという幻覚を見た。

 

咄嗟に吐き気がきたが、必死に堪える。

 

揚陸艇で母艦へと帰る最中、部隊長が作戦に参加しなかったことを叱責していたが、言葉が頭に入ってくる事はなかった。

 

いやだ!

 

母艦につき、通路を隊列を組んで歩く。足がほつれる。床が揺れる。息苦しい。苦しい。辛い。苦しい。辛い。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。

 

いやだ!!

 

隊列から静かに離れ、被っていたストーム・トルーパーのヘルメットを脱ぐ。新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んで呼吸を整えることに意識を集中する。

 

額には汗が滲んでいて、体はひどく寒い。指先が凍えているようにかじかんでいるのがわかった。

 

しばらく息を整えるのに集中している。

 

ふと、彼は奥に見える扉を見た。なんら変化がない通路の先にある扉。だが、何か違和感がある。何か、ザラザラとした感覚が胸の奥を撫でてゆくような違和感だ。おぼつかない足取りで通路を進む。

 

扉が近づけば近づくほど、その感覚は大きくなっていき、扉の前に立った瞬間に消えた。

 

手を扉にかざす。何も起こらない。体の芯を刺激していた違和感や、感覚もない。

 

気のせいか?そう自分の感じたものに疑念を抱きながら、扉のポーターに手をかざす。掌に内蔵されたIDによって認識され、扉は空気が抜ける音と共に難なく開いた。

 

中を見ると、誰かが立っていた。不自然なまでに誰もいない「通信室」の中で立っている誰かは、地につきそうなローブを身に纏って珍しそうに辺りを見渡しているように思えた。

 

「あ、アンタは…?ファースト・オーダー…?」

 

恐る恐ると言った風に言葉をかける。扉が閉まる音と共に、その人物は振り返った。フードを深く被っており、顔つきを窺うことはできない。たが、彼から聞こえてきた声は、どこか楽しげで、優しい音色をしていた。

 

「そう見えるか?」

 

「どちらかと言うと…」

 

ジェダイ。

 

その単語がパッと頭に浮かんだ。茶色と暖色を基調にした旧共和国の服装。そして腰にぶら下げるアタッチメントにブーツ。新人時代、夢に出るまで読まされ、体験させられた教本マニュアルで見た通りだ…。腰にぶら下がる、そのライトセーバーも。

 

「これか?ああ、これは親友から借りたものだ。俺のライトセーバーは、今頃彼女が見つける頃合いだろう」

 

彼は腰に下げるライトセーバーを大事そうに持ち、困ったように笑った。だが、問題はそんなことではない。言い分など知ったものじゃない。ぶら下げていたヘルメットを被り、即座にブラスターを構えた。

 

「な、なぜここにいる!?ここはファースト・オーダーの船で!ここはIDが無いと入れない通信室で!アンタは、ジェダイ…なんだろ?」

 

「俺がここにいることに何ら問題はない。だが、君だ。君のような人間は、ここにいるべき人間じゃない。それはわかってるだろう?誰よりも、君自身が」

 

静まりかえった湖に小石を投げ込むような…そんな感覚を覚える。彼はフードを外して真っ直ぐとこちらを見た。端正な顔つきのジェダイはブラスターを突きつけられながらも、その声色に変化を見せる事はなかった。

 

「な、何を言ってるのか分からないが動くなよ!こっちにはブラスターがあるんだ!!わかってるのか!?」

 

「君は自分の在り方を間違ってると思える人間だ。人を無作為に殺せず、躊躇い、迷い、そして痛みを知り、誰かのために悲しむことができる人間だ。君はここにいるべき人間ではない」

 

関係ない。全てが。そう言わんばかりに、ジェダイが真っ向から投げつけてきた言葉は胸に突き刺さった。ファースト・オーダーがとんでもない組織だということを理解できる理性と知性を持っているからこそ、その言葉はより深く胸に突き刺さった。

 

まるでこう言っているように見える。

 

ファースト・オーダーから逃げろ、と。

 

「無理だ!ファースト・オーダーだぞ!?逃げたら捕まえられて、殺されるか、再教育だ!戦闘マシーンになるまで戦闘カリキュラムから出してもらえない!地獄だ!!わかってるさ!!」

 

いつのまにか下ろしたブラスターを腰のホルスターへとかけて、ヘルメットを外して床へと叩きつける。

 

そんなこと、もうわかっている。

けれど、どうすればいい!?

 

子供の頃、思い出せなくなった両親から引き離され、延々と人を殺すことと兵士になることを叩き込まれることしかなかった自分に、今更ここから逃げろと!?そんな真似、無理だとわかっているのに。

 

「俺は…俺は臆病者なのかもしれない!今日だって戦えない人達を撃つ事を…銃を向けることを躊躇った!!ああ、そうだよ!!俺は戦えない!!臆病者だ!!だから、ファースト・オーダーから逃げることなんて出来ない!!そんな無謀な真似なんて」

 

「だが、君ならできる。なぜならフォースが君を呼び、君がフォースの導きを選んだのだから」

 

慟哭のような言葉を、ジェダイは簡単な言葉で遮った。簡単な、簡単すぎる言葉。フォースが選び、自分がフォースを選んだ?戸惑うこちらを見て、ジェダイは更に言葉を重ねた。

 

「この扉から感じ取った違和感に従って。君はフォースを知っている。なによりも、それが武器になる」

 

「…フォ、フォース?」

 

「あらゆる物質、事象、世界、空間、時間、宇宙に存在する自然的なエネルギーだ。君と俺の間にもあるし、君にも、俺の中にもフォースはある。そしてジェダイは、そのフォースと協調することで力を借り受けることができる」

 

そう言うと、彼は床に叩きつけたヘルメットへと手をかざす。するとヘルメットはふわりと浮かび上がり、そのまま空中を彷徨いこちらへと戻ってきた。両手を差し出してヘルメットを受け止めるとズシリとヘルメットの重さが手にのしかかった。

 

たしかに、今までヘルメットは〝宙に浮かんでいた〟のだ。フォースの力の一部を証明したジェダイは微笑み、こちらを見つめる。

 

「協調するためには己を律し、フォースと向き合い、瞑想する必要があるが、借り受けることは誰にでも出来る。難しいことはない。君は君の感じ取った直感に従うことだ」

 

その言葉にハッとする。扉から感じ取ったザラザラとした違和感。市民を撃ち殺せと命じられたときにも感じた嫌な感覚。その全てが、フォースによる何かのメッセージだったのか。そして、自分はそれを疑いつつも従った。正しいことだと思えたから。

 

「恐れるものは常に、それを疑う自分だけだ。だから自分を信じろ。君が信じることで、フォースはそれに答えてくれる」

 

微笑みながら言うジェダイ。その瞬間、背後にある扉が開いた。振り返ると自分の部隊に属するチーフリーダーの姿があった。目を見開く。ジェダイといるところを見られたか、と。

 

「FN-2187。通信室で何をしている」

 

すると、彼は何事もないように部屋へと入ってきて通信機器の点検を始めた。どうやら定期的な確認巡回らしい。基本ドロイドか無人の通信室の中を念入りに調べてから、チーフはジロリとした視線でこちらを見た。

 

「部隊長が貴様を呼んでいる。先ほどの件だろう。さっさと出頭するように」

 

「ま、待ってくださいチーフ!あの…」

 

「何だ?」

 

チーフの真横に、データを閲覧しているジェダイがいる。だが、明らかにそれが見えていないようだった。モニターが切り替わっているが、チーフの立つ位置からそれを確認することはできない。

 

彼には見えていないのだ。ジェダイの姿が。

 

「い、いえ、なんでもありません。すぐに出頭します…」

 

「ふん、相変わらず可笑しな奴だ。兵士として優秀でなければ貴様のような臆病者は、さっさと下層級へと追いやっていたものを」

 

こちらを見下すような目線と、今日の件の叱責のように捲し立てたチーフはそのまま最終巡回を終えて通信室を後にした。

 

再び二人きりとなった。なってしまった。振り返るとジェダイが満足そうに微笑んでいるのが見えた。

 

「アンタ…」

 

「そういうことだ。言っただろう?〝君がフォースを選んだ〟と。ならば、君がなすべき事は何か?」

 

思考をよぎるのは数々のファースト・オーダーの悪行。無実な市民たちの断末魔の叫び。その悲しみ。痛み。苦しみだ。

 

その全てから逃げてきた。

 

そんな自分であるが、今、この瞬間をもって、臆病者と罵られた自分は生まれ変わったような気がした。ジェダイは腕を組んでこちらをじっと見据えてくる。そして言葉を紡いだ。

 

「本来なら、それをゆっくり考えろと言いたいが、時間はない。だから君が選ぶんだ。君自身の意思で」

 

同時に走り出す。通信室から出て一直線に。向かう先は感じ取れていた。なんとなくイメージが思考の中へと飛び込んでくる。

 

目指す先は決まっていた。

 

「願っているよ。君とフォースが共にあらんことを」

 

通信室で一人となったジェダイは、新たな道へと走り出した「フィン」を見送りながら、その身体をフォースの粒子へと溶かしてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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不時着のトルーパー

 

 

 

〝ファイターの操縦なんてしたことがないぞ!?〟

 

感覚が赴くまま、TIE・ファイターの格納庫へと足を踏み入れた。導かれるままに監視の目を掻い潜り、エンジンが待機状態となっている最新型のファイターに乗り込んだところで、我に帰った。

 

ファイターのパイロット教育など受けていない。目の前に広がるコンソールパネルのどれがスイッチなのかも分からない。

 

〝感じるままに扱えって言われても!!〟

 

操縦桿を握りしめると、不思議と機体は自分の言うことを聞いてくれたような気がした。固定リブを引きちぎり、イオン魚雷を置き土産にして飛び立つファイター。

 

母艦であるスター・デストロイヤーの複雑な構造物を入り組むように飛んで少しでも早く船から離れるように舵を切る。無我夢中だ。周りの音も声も情報量が多すぎて思わず悲鳴を上げる。

 

〝くそ!!やっぱりファースト・オーダーから逃げるなんて無謀だったんだ!?〟

 

船が少し遠ざかったところで、後部から迫る熱源を感知したファイターのセンサーから警告ブザーが響いた。確認するまでもない。追尾してきているのはスター・デストロイヤーから発射された高精度追尾弾頭のミサイルだ。

 

拙い操縦の最中、直感的に理解する。この攻撃を避ける事はできない。

 

〝ミサイル…!?これ、避けきれ——〟

 

いや、これでいい。そんな声が聞こえたような気がした中、ミサイルの一撃がTIE・ファイターを捉え、左側面のソーラーパネルの大部分を吹き飛ばした。機体制御が叶わない中、吹き飛ばされた残骸と共にファイターは切り揉み、深い緑に覆われた惑星へと墜落してゆくのだった。

 

 

 

////

 

 

 

息苦しさを感じてハッと目を覚ました。途端、口の中に異物感を感じ、こみ上げてきたものと一緒に吐き出してのたうつ。泥臭さと気持ち悪さが一挙に来て気分は最悪だった。

 

仰向けからうつ伏せとなり、痛みが覆う体をなんとか起き上がらせようと地面に手を置いた。そこには鉄独特の冷たさはなかったが、代わりに自然的な寒さがあった。

 

湿っている。手を見ると水分を多く含んだ土がこびりついていた。あたりを見渡すと、自分が横になっていた場所が湿地帯であり、池のほとりであったことに気がつく。いや、池というより沼地というべきか。すぐそこでは不時着したであろうTIE・ファイターの残骸が泡吹きながら沼地へと沈んでいく様子が見えた。

 

どうやら大気圏をなんとか突破したファイターはこの沼地に墜落し、自分は運良く船から放り出されたのだろう。そう思いそうになっていたが、ふと思考を止める。

 

そんな都合よく、ほぼ無傷で船から放り出される事はあるだろうか?

 

墜落時。ミサイルが当たった衝撃で自分の意識は刈り取られていた。無意識に体は動くものだとは教えられたが、そこまで正確な動きをしているのは不自然だ。

 

トルーパーの装備から泥を払い立ち上がる。上を見上げても、宇宙で感じていた息苦しさや喧騒はない。空は厚い雨雲と霧で覆われていて、あたりには聞いたこともないような野鳥の声が。

 

「どうやら、道に迷っておるようだのぅ?んん?」

 

声をした方向へ咄嗟にブラスターを構えた。目にしたのは薄汚れたローブを身に纏う緑色の小人だった。

 

「ああ!撃つな馬鹿者!」

 

両手でブラスターから顔を覆い隠してある小人を見て、すぐに銃口を下ろした。相手は武器も持っていない様子であり、完全に怯えている。

 

「悪かったよ…。少し、気が動転していて」

 

「トルーパーにしては、やけに理性的だのぅ?」

 

腰のホルスターに武器を収めると、小人は小さな歩幅でこちらへと近づいてくる。まったく無用心な。こちらがファースト・オーダーの兵士であると知っていながら…そう思うが、もう自分は脱走した身。ここがどんな惑星なのかもわからないし、ここから出られる術も知らなかった。

 

「俺はもう…兵士じゃない。逃げ出したんだ。ファースト・オーダーから。恐怖のストーム・トルーパーの一人さ。それに、多くの恨みも買っているだろうし…」

 

「ここから出る術を知らぬというよりも、ここから動く未来が見えぬと言った様子かのぅ?」

 

腰を降ろして呟くように言った言葉を、緑の小人はまるで心を見透かしたように言う。ぞくりと感覚が研ぎ澄まされた。年老いたその眼光が自分の全てを見透かすかのように見えて。

 

「安心するがよい。若き兵士よ。この星にはワシともう一人、そしてお前さんしかおらん辺境の星じゃ」

 

かかか、と小人は笑う。その笑顔に少し心が落ち着いたような気がした。と、同時に体が震えてるのがわかる。沼地ですっかり体の体温が奪われたのだろう。トルーパーの生命維持装置もとっくに尽き果てているようだった。

 

「この星の夜は長い。若き兵士よ、ついてくるがよい。小汚い所ではあるが寝床くらいは用意できるじゃろう」

 

横に落ちている杖を拾い上げた小人は、軽やかな足取りで沼地の奥へと進み始めた。しばらく呆然とその場に立ち尽くしていると、奥に進んだ老人がこちらを急かしてくる声が響く。

 

ここにいても確かに何も始まらない。暗くかげり始めた空を見上げて、ブラスターをぶら下げたまま、奥へと進み続ける小人の後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「越えて行かれる役目が、マスターの務めですよね?マスター・ドゥークー」

 

「まったく、君にはいつも手を焼かされるよ」

 

ここは、惑星ダゴバ。

 

遠くから見つめる二人の淡いフォースの霊体、それにフィンは気付くことなく、かつてのグランドマスターの霊体の後を追って、かつて二人のジェダイが修行に明け暮れた森を進んでゆくのだった。

 

 

 

 



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ジェダイ

 

スターキラー基地破壊作戦。

1年前。

 

 

 

 

 

「マスターはジェダイに――世捨て人になれと言うのですか?」

 

トルーパーという立場から一変し、不時着した惑星ダゴバでフォース感応者として才覚を見いだされた彼は名を〝フィン〟と改め、自然界にあるフォースと向き合うための修行を始めた。

 

アナキンや、ルークといったフォース感応者とは言えないが、その素質は充分に〝ジェダイ〟となれるものを秘めていた。

 

そして、彼がジェダイの基本的な修行を終えた日、ヨーダはダゴバの小さな家の中でフィンとこれから進む道について話をしたのだ。

 

フィンの戸惑ったような言葉に、霊体であるヨーダは ふむ と考えるような仕草をして頷く。

 

「結果的にそのほうが世界のためということもあるということだ、パダワンよ」

 

ライトサイドで全てを照らせるほど、人の理とは明確なもので形作られていない。それは真実だった。現に、ジェダイでもライトサイドでも、光で照らせぬものがある。

 

照らせぬものを顧みずに進んだ道の先が何に繋がっているのか。それは、この場にいる〝誰も〟が知る過去であった。

 

「我々は光の眩さの中で立っている場所すらも見失っていたのかもしれん。眩しさと光によって生み出されるものもまた、視界を塞ぐ闇と同じ」

 

円状に作られた部屋は見る人からすれば、かつてのジェダイ評議会を連想させるような円状の部屋であった。コルサントのような調度品はないが、木製の座椅子の上に座る霊体、〝マスター・ウィンドゥ〟は過去の自分の過ちを見つめながら言葉を紡ぐ。

 

「私は…その光の闇の中で全てを見失った」

 

あの日。

 

あの運命の夜に、ウィンドゥは選択を誤った。

 

いや、ずっと前からだ。ジェダイ評議会という存在自体が破綻していた。自然と調和と平和と理念を掲げながら、その本質をシステムとして受け入れたことで、激しく動く時代についていくことも、ましてや見つめることすらも出来なくなっていた。

 

自身の弟子…フォースの本質を理解していたジェダイに首を斬り落とされるまで、ウィンドゥはその間違いを認めることができなかった。ジェダイとしてそれが正しいと信じ、それが間違っていないと信じていたから。たとえそれが思考停止だったとしても、当時の自分はその光を信じていた。

 

だが、今になって理解することができた。問いに対する遅すぎる答えではあったが。

 

眩しすぎる光。信じ切った景色は、時にそれ自身が身を惑わせる闇と化す。真っ白な闇。その闇に誰もが囚われていたのだ。〝彼〟を除いて。

 

結果、その光に飲まれジェダイは滅ぶべくして滅んだ。光と闇の中間にある人の理によって帝国と反乱軍という構図が生まれ、そして帝国は連邦へと生まれ変わった。

 

人の生きる指針が人の手によって定められた。

 

「古い教えや、受け継がれてきた知識という殻を破り、イデオロギーが成された。今の世はフォースという自然的なエネルギーを〝要素〟として認識している。その世界に、フォースを〝指針〟とする我々ジェダイは必要ない」

 

すでに連邦にいるフォース感応者の多くはジェダイやシスといった概念的な思想ではなく、自身の操れる力の要素のひとつとしてフォースを感じ取っている。

 

探究や研究をするのではなく、ごく当たり前に使うことができる才覚として認識し、それを受け入れることでフォースと向き合ってる彼らに、ジェダイやシスといった思想はもう必要ないのだ。

 

「では、何故…フォースは世界に存在し、それを感じ取れる人間が存在するのですか?」

 

「それは感じられる人間から見た一方向からの主観に過ぎないのだよ、若きパダワンよ」

 

フィンの問いに答えたのは、ウィンドゥの隣に腰掛けるマスター・キット・フィストーだった。彼もまた、ひとつの終わりを見つめたジェダイ・マスターの一人だ。

 

「フォースという天然的な力を定義するとしても、どれを取ろうが主観から観測するという法則から抜け出す事はできん」

 

それがたとえライトサイドであろうと、ダークサイドであろうと、ジェダイでもシスでもノーバディでも。フォースという力に触れた以上、それを定義しようとした瞬間に、結果は主観にしかならない。

 

フォースとはひとつであり、そして全てだ。どこにでもあって、どこにでも揺蕩う存在。空気にも水にも、真空にもフォースはあり、そしてそれは常に自然の中で揺らめき、バランスを保っているのだ。

 

「我々のようにフォースを感じることができる者たちもまた、その力に縋り付いている存在に過ぎず、一方向からの主観に囚われ続けていることになる」

 

まるで、フィンにはマスターたちの言葉が懺悔のように聞こえた。まるで自分たちのような在り方は初めから間違っていたのだと言わんばかりに。

 

「進んだ文明、人によって規律が重んじられる社会形式が構築される上で、その実は神秘や自然的な意識に重きを置く文明は過去のものとなってゆくのが摂理だ。進みすぎた文明はいずれはフォースを理解し、それを凌駕する技術を作り上げ、そして自然的な力や意志は技術に取って代わられることになる」

 

それは多くの歴史が証明している。古代では霊体を司るシャーマンや、霊媒師が主権を握り、そして時代が移り変わると、人は生き方を自ら考え、その自然的な感覚から遠ざかっていった。神秘から遠ざかり、そして引き換えに得た知恵と技術と主義で世界を切り開いてゆく。

 

その世界に、自然的な感覚やエネルギーは必要とされないのだ。

 

「存続はできよう。だが、それを主にした社会形成や、イデオロギーを作り上げる事は難しいものとなる。趣向や主義のひとつとして、我々の存在は新たなる世界の形式の一つとなってゆく」

 

あるいは思想。あるいは憧れ。あるいは興味。あるいは侮蔑。あるいは嫌悪。そういったものたちの対象として落とし込まれた世界の守護者たちは、訪れる新たな時代を前にしてこれまでの在り方を大きく見つめ直すことになった。

 

新たに象られてゆく世界を外側から見つめる者たち。問いかけられ、目が向かない限り、何者であるかも悟られない存在として、ジェダイという存在はこの世界に在り続ける事はできるだろう。

 

しかしフィンにとって、それは膨大たる時間の中で確かに共和国の平和を守ってきたジェダイたちに対してあまりにも不幸な仕打ちだと思えた。

 

「それは…悲しいことです…」

 

「それが進歩と進化というものじゃよ、若きパダワンよ。豊かな未来との対価に、我々のような存在は古きものとなるのが定めなのじゃ」

 

師が超えられる存在であり続けるように。試練も乗り越えられる存在であるように。進化というものについて行けなくなったものは、その時間に取り残され、風化してゆくのだ。

 

「ですが、まだ〝その時〟ではありません。マスター」

 

誰もがそういう思考を持っている中、まだ霊体ではない、みずみずしく若い肉体に魂を宿すフィンは、真っ直ぐな目と声で、熱を失ったマスターたちに断言した。

 

「銀河連邦が設立され、まだ数十年。無限に広がる星々との対立や軋轢はまだ残っています。そして、新たなる社会体制について行くことができない人々も、取り残された人々も確かにいます」

 

たしかに、世界は変わった。帝国と反乱軍が手を取り合い、銀河連邦が生まれたことは紛れもなく真実だ。だが、その変化について行けないもの達もいる。

 

確かにいるのだ。

 

そして、彼らが欲するのが新設された政府でも体制でもなく、もっと前時代的なものであることもフィンは知っている。

 

彼は見てきた。多くの人が新しい世界についていけず置いていかれ、何もできずにファーストオーダーに苦しめられている姿を。皮肉にもフィンは、その圧政を強いる立ち位置からずっと見てきたのだ。

 

故に知ってしまっている。目の前のマスターたちが焦燥するジェダイを必要としている人々を。

 

「かつてのジェダイは、フォースを研究する哲学者でした。そして旧共和国の守護者でもあり、調停を司る存在でもありました」

 

星々に赴き、政府では対応しきれない荒事や、争いの火種を取り除き、そして秩序と調停をもって平和を守ってきたのは、他ならぬジェダイだ。

 

だからこそ新たな世界に、その存在が必要とされている。

 

「ジェダイは戦士ではありません。ましてやライトサイドの従者でも。だから……俺はその本質と義務を全うします」

 

そこにあったものは、誰もが光の中で見失っていたものだ。暗黒面との戦い、そしてクローン戦争で見失ったこと。戦うことや争うことよりも尊重していたもの。

 

フィンの向ける眼差しは、本来あるべきライトサイドを見据え、銀河の守護者として誰もに必要とされた———ジェダイの姿だった。

 

これもまた自分たちに残された導きかもしれん。戦いに赴く戦士でもなく。あるいはフォースを探求する哲学者でもなく。

 

人が開いた新たなる道を照らすよう、その在り方を見つめ調和と調停を重んじる存在。

 

「それが、俺が目指す…ジェダイの姿です」

 

彼の決意が、消えかけてきた〝銀河の守護者〟たちに新たな火を灯した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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銀河の守護者として

 

スターキラー基地。

 

惑星を星系ごと粉々に吹き飛ばせる兵器へと変貌させた星一個分のファースト・オーダーの基地は、連邦軍艦隊の奇襲とベンとレイによる決死の突入作戦によって、その猛威を振るうことなく惑星の塵へと還ることとなった。

 

史実であれば、勢力の乏しい〝レジスタンス〟の基地へと報復措置を取るファースト・オーダーであるが、連邦軍は旧帝国軍と反乱軍を掛け合わせた勢力であり、その物量差はファースト・オーダーを軽々と超える組織となっている。

 

まさにファースト・オーダーは窮地に立たされていた。スターキラー基地からなんとか脱出したものの、残された戦力は最高指導者の乗る船とスターデストロイヤーの艦隊のみで、その姿は敗残兵と言っても過言ではなかった。

 

周りは白から暖色へと塗装されたスターデストロイヤーや、モン・カラマリ・スタークルーズからなる連邦軍の混成艦隊によって取り囲まれている。

 

だが、連邦軍は無闇に攻撃を仕掛けることはしなかった。

 

漆黒の中で輝く星の大海を一隻の交渉船が進んでゆく。向かう先は交渉の場として選ばれたファースト・オーダーのスターデストロイヤーだ。

 

「こちら、ファースト・オーダーの交渉船。貴艦はこちらの送るハンガーへと着艦されたし」

 

交渉船のキャプテンが固唾を飲む中、ファースト・オーダーからの通信が響く。

 

「大丈夫だ、キャプテン。交渉は長引くことはないだろう。気にせずに進路を進めるんだ」

 

同じく操縦室に入り、コクピットの後ろからスターデストロイヤーを見つめる人物が緩やかに進路を指し示す。

 

速度を落とした交渉船は着陸用のリブを展開してストームトルーパー達が見つめる中、ゆっくりとハンガーへと着陸した。

 

「将軍、連邦からの特使が到着しました」

 

赤い肩部装甲を身につけるトルーパーの隊長がブリッジにいる将軍へと報告する。報告を聞いたアーミテイジ・ハックス将軍は漆黒を基調としたコートを翻してブリッジを後にした。

 

 

////

 

 

 

「連邦から派遣された特使です。書簡と交渉を任されてここにやってまいりました」

 

しばらく応接用の部屋で待たされた後、トルーパーを引き連れて現れた将軍へ、ジェダイローブのフードを外したフィンは、連邦軍から預かった書簡を渡した上で、優勢である連邦軍からの伝言を伝えた。

 

内容としては至極当然、無条件の武装解除と降伏勧告であった。

 

「もはや、そちらに抵抗する力は残っていません。連邦の艦隊があなた方の艦隊を完全に包囲しています。増援信号を送っているようですが、手はありません。降伏を改めて打診します」

 

「我々に、連邦へ慈悲を乞えと言うのか?」

 

特使としての任務を全うするフィンの言葉に、ハックス将軍は書簡を一通り目を通してから不満げな声でそう問い返す。

 

「連邦は、すでにそれを通達しています。武装を解除し、降伏すればあなた方の身柄は保証します。ファースト・オーダーが拉致した人々に対しても、相応の対応を約束しましょう」

 

スターキラー基地の主戦力を鎮圧した時点で、連邦軍はファースト・オーダーへ降伏勧告を行っていた。にもかかわらず、彼らはスターキラー基地の兵器を強制的に発射しようとした。兵器の主導力部を破壊し、星の機能ごと基地を破壊した後も、敗走に至った敵艦隊にも、連邦軍は降伏勧告を続けたのだ。

 

それでも、ファースト・オーダーは折れない。交渉に来たとは詭弁とも言える様子で、フィンを睨みつけるハックス将軍は、恐れも慄きも無い平坦な声で宣言する。

 

「我々は連邦の薄汚れた兵士ではない。誇り高き帝国軍だ。断じて降伏は受け入れられない。徹底抗戦を貫く所存だ」

 

「…わかりました。とても残念です、将軍閣下」

 

尊厳なハックス将軍の物言いに、フィンもまた感情のない平坦な声でそう返した。憎しみも怒りも、戸惑いも迷いもない声色。彼らの歩む道は険しいだろうが、そう選択した以上、特使としての赴いた自分にしてやれることはない。

 

鼻を鳴らして踵を返したハックスの後ろ姿を見送る。特使としての役目は終わったフィンも帰り支度を済ませ、すぐに乗ってきた交渉船へと戻ろうとしたが、席を立ったと同時に僅かな揺れとフォースの乱れを感じた。

 

悟られないようフォースの感覚を鋭くする。おそらく、乗ってきた船はもう原型を留めていないだろう。共に来てくれた乗組員達のことを思うと胸が苦しくなったが、その悲しみに浸る暇すらファースト・オーダーは与えないようだった。

 

ハックス将軍が出て行った扉が再び開くと、そこには行手を遮るようにストームトルーパーの軍勢がフィンを待ち構えていた。

 

「FN-2187。俺を覚えているか?」

 

「ええ、よく覚えてますよ。チーフリーダー」

 

先頭に立っている赤い肩部装甲を身につけるトルーパーの声。フィンは聞き覚えがあった。自分がまだ、ファースト・オーダーに属していた時、そして逃げ出す間際に会話をしたトルーパーが目の前の相手であった。

 

「今は俺が隊長だ。よくも姿を見せることができたな?連邦の犬となったか?なんだ、その格好は。ジェダイの真似事でもしているつもりか?」

 

下から上に、値踏みするような目を向けるかつての上司の言葉に、フィンは感情を隆起させることなく、どこまでも平坦な声色でその侮蔑が混じった問いかけに言葉を返す。

 

「今の私は連邦の特使です。貴方たちと敵対するつもりはありません。それに、もう私はストームトルーパーではないのです」

 

あくまでフィンは特使だ。

 

連邦でも、ファースト・オーダーでも、ほかのどの組織にも肩入れせず、属さず、それでいて単独で道を切り開く力を持つ調停者として、この交渉を連邦政府から任された立場だ。

 

その言い草に腹を立てたかのように、トルーパーの隊長である相手は腰にぶら下げていたブラスターの銃口をするりと立っているフィンへと向けた。

 

「馬鹿馬鹿しい。貴様はあの頃から変わっていない。自分で何も決められない臆病者のままだ。射殺命令すら聞くことのできない腰抜けだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

フィン、お前はすでに知っているはずだ。自分にとっての敵が〝何か〟ということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分にとっての本当の敵…ですか?」

 

フォースの瞑想の中でしか現れなくなった彼は、まだトルーパーであった自分に変わるきっかけをくれた相手だった。霧のように漂うフォースの中で、彼はジェダイローブを揺らしながらフィンの問いに答えた。

 

「そうだ。ジェダイにとっての敵はシスや暗黒面…そういう考えもあるが実際は違う。ジェダイにとって最初に相対する敵は自分自身だ」

 

怒り、憎しみ、悲しみ、恐怖、嫉妬、執着心。その全ての感情や感覚は暗黒面へと通ずる戸口となる。

 

旧共和国のジェダイは、その戸口を閉ざすために体制をとった。ジェダイになれるのはフォース感応者、そして生後間もない子供のみに限定した対策だ。

 

成長する過程で手にする人間性や感受性を破棄し、自己顕示欲や独創性を廃棄して暗黒面へ通ずる戸口をそもそも〝存在しない〟ようにしようとした。自然的なフォースに順応するために。だが、それもまた間違いだった。

 

「人間性を捨て、フォースに順応したところで人の生で得られる感受性を捨て去ることは誰にもできない。それはマスターであったとしてもだ。怒りや恐怖、憎しみや妬みを捨て去った気でいても、扉は存在し続けている。それを意識していないから扉が開いても気が付かない」

 

そして気が付かないまま、自分が暗黒面に足を踏み入れる。自分はジェダイだと謳いながら。

 

「ライトサイドの中のダークサイド…」

 

思わずフィンは口ずさむ。かつての師達が言ったことだ。眩しい光の中にいると、光で何も見えなくなる。それこそが、ライトサイドの中にあるダークサイドだとも。

 

「光の中の闇だ。眩しすぎる光ゆえに目が見えなくなる。だからこそ、ジェダイにとってまず向き合うべきものは教えでもダークサイドでもない。自分自身だ」

 

座するフィンへ、彼はゆっくりと腰を下ろして目線を合わせる。その言葉の全てを伝えるかのように。ダゴバで作り上げたフィンのライトセーバーを見つめながら、彼は微笑んだ。

 

「フィン。まずは自分の中にある暗黒面を感じろ。扉を認識するんだ。怒りも憎しみもあるということを感じ取るんだ。その扉を開けることも、閉ざすこともできるように」

 

認識しないようにすることと、認識した上で制御するでは全くの別物だ。しかし、それをしなければジェダイは変わることがない。故に、彼はフィンへとその試練を与えた。なによりも辛く、険しい試練を。

 

「自分の選択を教えや感覚といった不明瞭なものに委ねるな。自分で決めるんだ。その扉をどう扱うかを。手放すか、それとも手をかけるか」

 

そう言って、フィンの方へと手を置く。その暖かさはハッキリとフィンは感じ取ることができた。優しい目だった。ヨーダや、ウィンドゥらがしていた目と同じ優しさが宿された目で、彼はまっすぐとフィンを見つめる。

 

「大丈夫だ、フィン。お前なら選べる。そして決められるはずだ。自分自身の在り方も」

 

彼の体はフォースへと溶けてゆく。瞑想の意識が表層へと上がってゆく。フォースを感じ取る集中力が途切れそうになる中、フィンは彼の言葉をしっかりと受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

フォースは常にお前と共にある。忘れるな、常に敵であるのは自分自身ということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の私はジェダイです、隊長どの」

 

ブラスターの銃口を前にしても、フィンの感情が揺らぐことはなかった。平坦な声色が変わることはない。まっすぐとヘルメット越しにある相手の目を見つめる。

 

「その手に取ったブラスターを下ろしてください。私は貴方たちと戦うつもりはありません。私は交渉に来たのです」

 

「ああ、だろうな?だが、徹底抗戦を宣言している我々が貴様を返すと思うか?貴様の生首を連邦に晒して、一人でも多くの汚れた兵士たちを地獄へと引き摺り込んでやる」

 

もとよりマトモな交渉に応じる必要もなかった。これは踏み台だと隊長は言う。憎き連邦を地獄の底へと引き摺り込むための踏み台。正気を失っている。フィンは改めてその事実を見た。

 

連邦軍に囲まれながらも戦うという狂気。それはもう、フォースでもどうすることもできない。

 

「まずは貴様だ。FN-2187。ファースト・オーダーから逃げたことを悔いて死ね!!」

 

隊長の指が、ブラスターの引き金を引こうとした瞬間。まるでプラズマの稲妻のように光が彼の視界で瞬いた。フォースの力で自分のライトセーバーを手繰り寄せたフィンが、同時にプラズマの刃を起動し、一閃を振り上げたのだ。

 

「があっ!?」

 

ブレることなく止まった刃と同じく、ブラスターを握っていた隊長の腕が、ぼとりと硬い床へと落ちた。後方にいるトルーパー達がどよめく。その一閃はまさに神速。どう斬られたか、それは当人でも理解することができなかった。

 

フィンはどよめくトルーパーたちを見渡してから、ゆっくりと振り上げた構えを解き、紫色のライトセーバーの刃を閉じる。

 

「次はありません。私は貴方達と戦うつもりは無いと言ってるのです。それとも、ここで全滅したいですか?」

 

それほどの力があると言っているような言葉。だが、トルーパーの誰もがその眉唾ものの言葉を信じざるを得なかった。今目の前にいる、かつてトルーパーだった相手に、勝てるヴィジョンを見ることが出来なかったからだ。

 

「愚か者が…ファースト・オーダーの…帝国の崇高な理念を理解できない腰抜けが…」

 

跪き、痛みに苦しむトルーパーの隊長。相手が紡ぐ恨言のような言葉に、フィンはライトセーバーを腰にかけながら、簡潔にその言葉を切り裂く。

 

「それは貴方からみた一方的な主観でしかありませんよ、隊長どの」

 

「この時代にジェダイなど要らない!貴様は愚か者だ!!」

 

吐き捨てるような言葉。

 

たしかに、連邦軍が銀河全体を統治しつつある今の世界に、〝ジェダイ〟という存在はいつか不要なものになるだろう。

 

それでも、とフィンは立ち上がった。そして今、ここにいる。一人のジェダイとして。

 

「そうかもしれません。けれど、それで救える誰かがいるなら、俺はジェダイであり続けます。フォースの導きを信じて」

 

隊長の横を通り過ぎて歩き出したフィン。ジェダイを止める者は誰もいなかった。誰もが心の中でわかっていたから。その戦いの虚しさを。

 

トルーパーたちが避けるように道を開く中、フィンは歩いてゆく。

 

その姿はまさに、銀河の守護者と呼ばれていた———ジェダイであった。

 

 

 

 

 



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本篇(プロローグ)
アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件


 

 

 

 

 

遠い昔、遥か彼方の銀河系で…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナキン・スカイウォーカーは孤独だった。

 

彼には愛する人も、尊敬できる兄のような師匠も、信頼できる弟子も、家族や相棒とも言えるドロイドも居た。

 

だが、それでも彼は孤独だった。

 

彼の心の奥底にある自尊心や、怒り、力を求める衝動、そして純粋すぎる心のあり方を、本当に理解できる者は居なかった。

 

彼が暗黒面に堕ちるきっかけになったのも、彼が本質的にジェダイの中で孤独であったことを、シス卿であるダース・シディアスに付け込まれたことが大きな理由とも言える。

 

もしも。

 

もしも彼に、心の内の全てを晒け出せる友がいたとしたら?親友と呼べる相手が居たとしたら?彼のたどる悲しい物語はどうなったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、そんなことを考えてもしょうがないけどな」

 

深夜の時間に慣れ親しんだコンビ二へ向かう道中でそんなことを呟いた。

 

スターウォーズ。

俺の青春のバイブル。

 

子供の頃から好きな作品であり、俺が剣道やフェンシングなどに興味を待つきっかけになったもの。

 

俺は翌月に公開されるスターウォーズの新作に備えて、過去作品を再び視聴していた。手堅くエピソード1から3を見終えて、備蓄していた食料がなくなったことに気づき、エピソード4から6に向けて小休憩を兼ねて、俺はコンビ二へ買い出しに出ていた。

 

アナキンがダークサイドへ堕ちる過程を描いた三部作、エピソード1から3。

 

それを見て、俺が痛烈に感じたのは「アナキンの孤独さ」だった。

 

選ばれた者と祭り上げられ、ジェダイ評議会からも警戒され、まるで腫れ物を扱うかのように。そんな環境に子供から成熟するまでの間置かれていたら、そりゃあ暗黒面にも堕ちますよ。

 

オビ=ワンも、弟子であるアソーカも、最強のジェダイであるヨーダも、そして妻であったパドメですら、彼の心の奥底にある孤独を理解してあげられなかった。

 

彼は自分の中にある大きな力を、ジェダイだとか、選ばれた者だとか、そういったもので押しとどめて、封印していた。パルパティーンこと、ダース・シディアスはその封印を解いたに過ぎない。

 

もし、彼がそんな抑圧を感じずに、その全てを曝け出していたら、どうなっていたのだろうか。

 

そんなことを考えてしまう。

 

「まぁ、それがあってこそのスターウォーズなんだけどなぁ」

 

コンビニを出て、俺は帰り道を急ぐ。

家に帰れば、エピソード4からまたスターウォーズの世界が始まるのだ。いつ見ても、何度見ても、その興奮は冷めることはない。

 

我が家まであと少しというところで、俺は背後にある違和感を感じた。俺が歩いてきたのは一本道。それも狭い路地だ。車が通ればすぐにわかるし、至る所にカーブミラーもある。

 

しかし、俺は背後に大きな存在感を感じた。

勘違いではない。背中にビシバシと明確な感覚が突き刺さっているのが分かる。

 

 

 

え、なにこれこわい。

 

 

 

 

俺はコンビニ袋をぶら下げたまま、恐る恐る背後へ振り返った。

 

そこには、黒いケープに覆われた一人の人間が立っていた。その眼光はフードに隠れているはずなのに、黄色く輝いているように見える。

 

その姿はまるで、シスの暗黒卿そのものだ。

 

「あ、あの…どちら様でしょうか…」

 

俺は静かにそう聞いた。

不審者?それともコスプレ?

それにしても時間は遅い。

 

そんなことを考えていると、相手は何も言わずに懐から二つの筒を取り出す。それを両手に携えた瞬間、二本の青く光る刃が姿を現した。

 

「は…?」

 

空気が焼けるような音を轟かせて現れたそれは、あきらかに、間違いなく…

 

黒装束の人物は、その二本の刃を翻して、まっすぐ俺に向かって駆けだした。

 

「いや…ちょっ…とぉおお!!?」

 

10メートル以上は離れていたはずだったのに、その人物は信じられない速さで俺の眼前に迫り、俺の胴に刃を突き立て、

 

刺した。

 

「はっ……!」

 

信じられないものを見てる気分だった。

黒装束の人物のフードが落ちる。

 

そこにあった人物の顔は———。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムスタファーの溶岩が赤く、その場にいる者を照らす。

 

オーダー66、クローン兵の反乱、そしてシスの復活と銀河帝国の樹立。

 

多くの事が起こり、ジェダイ寺院は破壊し尽くされ、ジェダイマスターの多くが戦死した。ナイト——、そしてパダワンである子供たちも。

 

子を身籠るパドメ、師であるオビ=ワンと共にムスタファーに降りたアナキンは、三人を出迎えた…変わり果てた親友の姿を見て、言葉をなくした。

 

「そんな…本当に…貴方が…あんな酷いことを…」

 

パドメが信じられないといった風に言葉を発する。

 

ジェダイ評議会の建物内で行われた虐殺。

 

子供すらも容赦なく殺した所業の指揮を取っていたのは、目の前にいる自分たちの親友だった。

 

「君は僕にとって、親友だった。親友だったんだ…!!なのに、なぜ裏切ったんだ!!」

 

悲しみと裏切られた怒りが合わさり、激情に囚われるアナキンが、声を荒らげて親友へ叫んだ。

 

オビ=ワンと共にグリーヴァス将軍の討伐に向かった後に、アナキンたちはオーダー66の罠に嵌った。クローン兵たちの反乱の中、命からがら生き残った二人は、激変したコルサントとジェダイ聖堂の姿に愕然とする。

 

アナキン・スカイウォーカーは、信じたくなかった。

 

パダワンの時代から共に研鑽を積み、パドメとの関係を後押してくれただけではなく、命令を無視し、ジェダイの掟を破ってまでも自身の母を共に救ってくれた親友。

 

アナキンにとって最高のジェダイであったはずの彼が、暗黒面に堕ちてしまった事実を、その事実を目の前にしてもアナキンは信じたくなかった。

 

だが、親友だった彼はアナキンの思いを踏みにじるように笑みを浮かべた。

 

「ジェダイは本質を見誤ったんだ、アナキン。フォースとの絆は汚され、今やジェダイは暴力装置へと成り下がった。世界に秩序と平和をもたらす存在では無くなったんだ」

 

「違う!すべてはシスが画策した計画で——」

 

「それでも、刃を振るい、この世界に災いと争いを呼んだのは紛れもない我々だ!!我々が殺した!!」

 

オビ=ワンの論する言葉を、彼は切って捨てた。

 

クローン戦争で多くの血が流れた。流れすぎたのだ。

 

そして、その一端を担ったのは間違い無くジェダイであり、戦いを深刻化させたのもジェダイだ。終わりのない闘争の中で、ジェダイの在り方は大きく歪められたのかもしれない。

 

黄金色となった目をギラギラと迸らせながら、彼は激情に染まった顔を落ち着かせて、アナキンとオビ=ワンへ再び語りかける。

 

「パルパティーン議長が帝国を築いた今、ジェダイという暴力装置は滅さなければならない」

 

「そのために殺したのか!!師も、仲間も、友も…あまつさえ、子供さえも…!!」

 

オビ=ワンの怒りにも似た声に、彼は動じる事はなかった。

 

そのために師であるマスターウィンドゥを殺した。

 

友であったキット・フィストーも手にかけた。

 

パルパティーンがほくそ笑む中で、数々のジェダイの首をはねた。

 

さも、それが当然であるかのように。

 

パドメは変わってしまった親友の姿に思わず涙を流して口元を覆った。映像の中にあった子供の胸をライトセーバーで貫いた時の彼の顔が、今目の前にするものと全く一緒だったからだ。

 

アナキンは震える手を握りしめて、届かないとわかりながらも抑えられない慟哭を放つ。

 

「僕は君が救世主だと信じていた!!僕なんかが救世主じゃない!!君がバランスをもたらす存在だったんだ!!君のおかげで僕は救われたんだ!!パドメも!!オビ=ワンも!!なのに!!」

 

そう叫ぶアナキンへ、彼はそっと手を差し伸ばす。それを見てアナキンはハッと顔を上げた。パドメとの結婚の後見人になると言ってくれた、あの時と同じような穏やかな笑みを持って。

 

「アナキン、オビ=ワン。なすべき事はわかっているはずだ。そう思うなら、俺と共に来い。共に今度こそ、ジェダイとして——いや、フォースと共に銀河に秩序と平和をもたらすんだ」

 

そして絶望の言葉をアナキンへ送る。

 

アナキンは頭を強く殴られたような感覚を味わい、しばらく立ち尽くしてから、小さく息を吐いて親友だった存在を見据えた。その瞳には、もう悲しみは無かった。

 

「アナキン…」

 

「パドメは船に。僕らは…なすべき事を為す」

 

「行くぞ、アナキン。友として、彼を終わらせるために」

 

そうパドメに伝えて、アナキンとオビ=ワンは自らのライトセーバーを起動させて構える。遠くでムスタファーの溶岩が天高く舞い上がったのが見える。

 

その溶岩の光を背に受けて、逆光の中で黄金の目を煌めかせながら親友だった男は、自らの青と、師の手を切り落として奪った紫のライトセーバーを両手に持って、起動させていた。

 

「終わらせられるか?この俺を…!!」

 

刃をギラつかせて、暗黒面に堕ちた彼は、英雄であり、親友であったアナキンたちに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

スターウォーズ

アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件

 

 

 

 

 

 

 




気が向いたら続きます。
というかスターウォーズはセーフなのだろうか…

暗黒面と英国面の力は素晴らしいぞ



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目が覚めたらセーバーを振り回すパダワンだった件

 

ログ・ドゥーラン。

 

それが、スターウォーズの世界に飛ばされた自分の名前だった。過去の記憶を取り戻したのか、はたまた名も知らぬジェダイ見習いに憑依したのかは定かではないが、ひとつだけ確かなことがある。

 

俺、ライトセーバーを持って、フォースを感じている!!

 

その感動だけが全てを上回った。自分がこの世界に飛ばされた意味も、理由も、訳も知らないままだったが、老齢のジェダイからライトセーバーの型と、伝統的な目隠しをして低出力のビームを弾く訓練の日々に自分でも驚くほど、のめり込んでいく。

 

ジェダイという古代から続く銀河最強の禁欲集団の中で、途中で記憶と性格が激変したというのに、ログ・ドゥーランは、ジェダイとしての才覚を発現することになった。

 

ジェダイ寺院の中、同年代のパダワンの中で最も真摯にフォースと向き合い、ライトセーバーを振るい、知と技を探究し、ライトサイドの道を行く彼の姿は、停滞気味だったジェダイ・オーダーの中でも新たな息吹として注目を集めていった。

 

そんなある日のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

狂ったようにフォースを感じるため瞑想部屋に篭って出ては、ライトセーバーを存分に振り回し、たまにジェダイに連れられて鬼畜と言えるミッションをこなして、ライトセーバーを振り回して、賊を排除する手伝いやコルサントの見回りをして、ライトセーバーを振り回して、部屋に帰って紅茶と醤油のような茶色いジャムをかけたパンを食らってベッドに沈む日々を送っていた。

 

そんな自分が、ある日突然ジェダイ・オーダーの顔ぶれの前に呼び出された。

 

マスターヨーダや、マスタークワイ=ガン、マスタープロ・クーンなどなどなど…錚々たる顔ぶれがフィクションではなく現実に自分の前にいる。

 

この世界にきたばかりの頃なら、感動のあまり泣き叫んで、パルパティーンがシスの暗黒卿です!!って叫んで気絶する自信があったが、今の自分は腐ってもジェダイとしての訓練を受けてきた身だ。

 

感覚的にマスタークラスのフォースを感じ取ってしまい、感動よりも重くのしかかるプレッシャーや息苦しさを感じてしまうほどで、別の意味で緊張の極地にたどり着こうとしていた。着込んできたパダワンの正装に、変な汗がどんどん広がって行く。

 

 

「君を私の弟子としよう、ログ」

 

 

一体何をされるのだろうかとビクビクしていたログに、目の前にいた褐色の肌の男性、メイス・ウィンドゥが単刀直入にそう言葉をかけた。

 

マスターウィンドゥがそう告げた瞬間、コルサントの幻想的な近未来景色が暗幕に覆われる。呆然とするログの周りで、席から立ち上がったマスターたちがライトセーバーを起動させた。

 

それはナイトへの昇格儀式だと、終わってからマスターウィンドゥから告げられた。

 

グランド・マスターが取り仕切って行われる儀式で、11人のジェダイ・マスターたちが暗いホールの中央部で、各自のライトセイバーを起動し、それらを床に傾ける。

 

そして、ナイト昇格の儀式を主催するグランド・マスターであるマスターヨーダが式文を朗読し始めた。

 

 

『我らはみな、ジェダイだ。フォースは我らを通じて語りかける。フォースは我らの行動を通じ、自らの存在と真実を宣言する。この日、我らはフォースの宣言を知るために…ここに集う』

 

 

三つ編み──パダワン・ブレードを切断された。割と気に入っていたのにと内心思いながら、年老いた見た目をするヨーダが向けた視線と、その重圧的な空気に息を呑む。

 

 

『前へ出よ、パダワン』

 

 

英才的なパダワンの修行で培われた挙動で、ログは踏み出してマスターの前へ立った。

 

 

『評議会の権限、そしてフォースの意思により、そなたは共和国のジェダイ・ナイトとなった』

 

 

フォースが語りかけてくる。

 

少し前に試練だと言われて、自作したライトセーバーを手に持てと多くのジェダイマスターが語りかけてきているような気がした。

 

 

『ライトセーバーを持て、ジェダイ・ナイト・ドゥーラン。フォースが共にあらんことを』

 

 

ログはライトセーバーを起動し、評議会のメンバーへ敬礼し、儀式が終了したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の才能は恐ろしいモノだった。

 

マスターウィンドゥは、弟子として最年少のナイトへと昇格したログ・ドゥーランの実力に称賛を送り、そして同時に彼の在り方を危惧していた。

 

ヨーダと二人きりになった部屋の中で、師として伝えるべきことに、ウィンドゥは初めて迷いを覚えていた。

 

彼は多くのことを学ぶ。そしてそれを余すことなく吸収して行くのだ。ウィンドゥが培ってきたジェダイとしての知識、フォースへの新たな接触、そしてライトセーバーの技術。

 

ジェダイ・オーダーにおける最高の剣士の1人であるウィンドゥから授かる技術を日を増すごとに研鑽し、鍛錬し、機械のように正確無比に繰り返す彼の動き。

 

ライトセーバー戦における近代的な7番目のフォーム、ヴァーパッドを考案したウィンドゥですら、その芸術的とも言える剣戟に魅了されるほどだった。

 

そして、同時に危うさを感じるのも事実だ。彼のフォースは直線的すぎる。好奇心と探究心を求めるがままに突き進む弟子の在り方は、ひとつ道を踏み外せば、ダークサイド…暗黒面に繋がる危険性を持っている。

 

彼は多くのことを学び、マスターたちからも信頼され始めている存在だ。

 

故に、ウィンドゥは弟子へ試練を与えることにした。

 

ミッド・リムとアウター・リムのほぼ境界上に位置する惑星ナブー。

 

牧歌的情緒に溢れた美しい惑星であるそこへ、近年通商連合が制定された法を無視した包囲網を張り巡らせたのだ。

 

平和的交渉を求めるナブーのアミダラ女王の意向に添い、特使としてジェダイマスターであるクワイ=ガン・ジンと、その弟子であるオビ=ワン・ケノービが送り込まれることが議会で決定された。

 

通商連合のヌート・ガンレイ総督はこの訪問に歓迎の意を示すものの、ウィンドゥにはどうにも嫌な感覚が付きまとっている。

 

オビ=ワンよりも遥かに若年ではあるが、実力は申し分ない。彼らに自分の弟子を同行させることを、ウィンドゥは壮麗な声でマスターヨーダに伝えるのだった。

 

 

 

 

 



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ファントムメナス
フォースとの戯れがジェダイの娯楽ってマジ?


やべぇ、やっちまった。

 

通商連合のハンガーに飛び降りた俺は、自分の失態に悪態を吐きたくなったが、寸でのところで堪えた。まだだ、まだ狼狽える時ではない。ジェダイは狼狽しないのだ。

 

暇があればフォースを感じるためにホイホイ瞑想をしてしまうため、マスタークワイ=ガンから「君はここで船の守りを頼む」と伝えられた時は、ヒャッホウ!これは僥倖だ!!と、瞑想に入ってしまったのが仇となった。

 

フォースの揺らめきを感じて、船が爆☆殺される前に、ライトセーバーでブチ壊した壁から逃げ出すことに成功した。

 

ひぇ危ねぇ。

 

そう言えば、この交渉が「ファントムメナス」の序盤であったことをすっかり忘れていた。危うくレーザーの閃光と共に、フォースと一体になってクワイ=ガンが来るのを待つ身となる所だった。

 

この世界に飛ばされてからというもの、勢いとノリと気合でフォースを習得し、何かが狂ったのかマスターウィンドゥの弟子となった為、死に物狂いでライトセーバーの各種型や、師が開発した型であるヴァーパッドの習得に打ち込んでいた。

 

そのため全く以って原作のことに考えを割く余裕がなく、瞑想と訓練と瞑想と訓練とライトセーバーを振り回してはフォースと戯れてウィンドゥにしごかれると言う地獄の日々を過ごしてきたのだ。もうこの世界に来てから何年経っているのかすらも分からなくなっている。

 

というかジェダイって禁欲スギィ!!娯楽の娯の字もないほど、楽しみがない!!瞑想に走っていたのはフォースと戯れるのが一種の娯楽と感じるようになっていたのかもしれない。はっはっはっ、さてはイカれてやがるな?そりゃあ、離反者やジェダイを辞める奴も出てくる訳だ。

 

久々にジェダイの試練以外で死にかけたことで、死んでいた感性が蘇ってきたような気がする。顔をあげれば、さきほどまで自分が乗っていた船が轟々と燃え盛っていた。

 

キャプテンと副長は残念なことになったが、憂いている暇はない。とにかく今はこの危機的状況をフォースの力で脱して、マスタークワイ=ガンや、オビ=ワンと合流するのが先決……。

 

《オイ、誰ダ貴様。侵入者カ?》

 

ふと、後ろを見るとドロイドの軍勢が。黄色の塗装を施されたリーダー格が、ブラスターをこちらに向けて力が抜けそうな音声の言葉を投げてくる。

 

オビ=ワンが言ってた嫌な予感はこれかよ(全ギレ)

 

交渉ができないドロイドの軍勢にため息を吐きながら、俺は腰に携えていたライトセーバーをフォースの力で手に手繰り寄せて、青い光を迸らせた。

 

《ジェダイダ!!》

 

青い閃光が振りかざされる先頭に立っていたリーダー型のドロイドにとって、それが最後のセリフとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

毒ガスで満たされた部屋から飛び出したクワイ=ガンとオビ=ワンは、交渉が一方的に決裂した通商連合の船の中を、フォースと一体となって駆け抜けていく。

 

おそらく乗ってきた船は撃破されただろう。通された部屋の中で感じたフォースの揺らめきから、それは二人とも理解できていた。共に派遣されたジェダイナイトであるドゥーランの消息も不明となったが、今は司令室を押さえることが重要だった。

 

ここは通商連合の旗艦。相手が強硬手段に出た以上、封鎖されたナブーが通商連合に制圧されるのも時間の問題だ。

 

ならば、手早く敵の首領を押さえるのがジェダイの特使としての役目だとクワイ=ガンは判断したのだ。

 

硬く閉ざされたブラストドアにライトセーバーを突き立て、扉を溶かしてゆく。フォースの力によって熱さは感じなかったが、この分厚さは骨が折れるぞ…。

 

「マスター!新手です!」

 

弟子であるオビ=ワンの言葉で、クワイ=ガンは打ち込んでいた作業を一旦やめてライトセーバーを構える。通路の奥から転がってきたのは、厄介な相手だった。

 

「デストロイヤードロイドだ!」

 

球体から変形してタレットのような形となったドロイドは、防衛のためのシールドを展開……する前に、オビ=ワンたちから見て通路の反対側から投擲されたライトセーバーによって胴と下半身が両断される。

 

「無事だったか、ドゥーラン」

 

残骸と化したデストロイヤードロイドの真上を宙返りを打って飛び込んできたのは、オビ=ワンより年下でありながら、ジェダイナイトとなったログ・ドゥーランだった。

 

傷ひとつないジェダイのローブを翻しながら、呼吸すら乱さずにログはクワイ=ガンとオビ=ワンへ一礼する。

 

「敵は船を…すいません。守りを任されたというのに」

 

仕方がないと、クワイ=ガンは気落ちするログの肩を叩く。

 

クワイ=ガンから見て、彼は実直なジェダイであった。そこはマスターウィンドゥとよく似ている。だが、決定的に違うのは、彼は未来を見るのではなく、明日や自身のすぐ先を見据えて生きているジェダイということだった。

 

未来を危惧するばかりではなく、今を見据える大切さを思うクワイ=ガンにとって、彼の存在は大きく、凝り固まったジェダイに新たな息吹を感じさせるモノだった。

 

反対に、オビ=ワンはログのことが得意ではなかった。

 

さきほどのライトセーバーの投擲も、ジェダイの型には存在しないものだ。自身の写し身であるライトセーバーを乱雑に扱う行いや、重要なことやすぐに動けることを判断し行動する力を、オビ=ワンはまだ理解していない。

 

「さて、また新手が来るぞ」

 

そう言ってクワイ=ガンは通路の奥へ意識を向ける。さっきは二体だったドロイドが、倍以上の数になってこちらにきているのがわかった。

 

「マスターの言った通りですね。交渉は長引きそうにありません」

 

そう笑みを浮かべていうオビ=ワンに、クワイ=ガンは小さく笑うと、二人を連れて走り出した。

 

こうなった以上、ナブーへの侵攻は止められない。とにかく今は、なんとかしてこの船から脱出することが重要だ。

 

そう思ってクワイ=ガンが輸送船へ繋がるダクトを調べていると、ハンガーへログが堂々と入っていく。慌ててオビ=ワンとライトセーバーを構えて後に続くと、そこには切り裂かれたドロイドの残骸の跡が散らばっていた。

 

「さ、輸送船のドックはこっちですよ」

 

何食わぬ顔でそういうログに、クワイ=ガンとオビ=ワンは顔を見合わせてから、ライトセーバーを仕舞ってログの後へ続くのだった。

 

 

 

 



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ジェダイは人の心がわからない

 

グンガンの協力のもと、ナブー首都へ到着したオビ=ワンは、師であるクワイ=ガンや、共に同行するログと共にアミダラ女王を救出。

 

格納庫のドロイドを蹴散らし、王族専用シャトルで何とかナブーの包囲網を突破することができた。

 

しかし、包囲等を突破する際にシャトルのハイパードライブが故障。コルサントへ辿り着くためには船の修理が必要となってしまった。

 

アウターリムにある惑星タトゥイーン。

 

修理部品を探すために降り立った船の中で、オビ=ワンは、クワイ=ガンと共に行かなかった事と、自分の代わりにログの同行を認めてしまった事を激しく後悔していた。

 

辺境の星であるタトゥイーンで、まともな手段でハイパードライブの修理品を手に入れることは難しいと予感していたが…よもや危険極まりないポッドレースの賭け…それも年端もいかない子供に自分たちの命運を賭けることになるとは。

 

賭け品としてナブーの船を賭けたと事後報告してきたクワイ=ガンの言葉を聞いた時は、思わず卒倒しそうになった。何故、そんな無謀な行為をしたのか…そもそも、ログが止めていればこんな事には―――いや、彼なら嬉々として師の提案に乗るだろう。

 

そんな場面を容易く想像できるため、オビ=ワンは思わず頭を抱えてしまった。

 

そもそも、ログとクワイ=ガンの組み合わせが不味い。オビ=ワンは顔を手で覆いながらそう思った。

 

マスターウィンドゥの弟子であるログ・ドゥーラン。近年最年少のジェダイナイトであり、品行方正とマスター陣営からは高い評価を受けているが、パダワン時代から彼を知っているオビ=ワンにとって、ログという男はあまりにも「特殊」だったのだ。

 

フォースへの感覚は自分より上だとはわかっているが、考え方や行動が直線的なのだ。ライトセーバーの稽古などでも、その感覚は如実に現れている。

 

型でも守りを重視するオビ=ワンと、攻めと虚像を織り成し相手のリズムを崩して一気に削り取るログのライトセーバーの型は、相性は最悪だった。そこにマスターウィンドゥが伝えたヴァーパッドが加わり、攻めの勢いは目に見えて手強くなっている。

 

そんな彼がジェダイの掟を息を吐くように破るマスターと手を組んだらどうなるか…結果は自分たちの命運を子供に託すという事になったが。

 

砂嵐が止まないタトゥイーンの景色を眺めながら、オビ=ワンは荒れた気分を落ち着けようとフォースを感じ取る。憎らしいほどにフォースはひどく穏やかで、揺らめいているのは自分だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

アナキン・スカイウォーカーってこの時点でやばいわ。

 

アナキンの母であるシミ・スカイウォーカーが用意してくれた豆のスープを飲みながら、クワイ=ガンと仲良さげに会話をするアナキンを見つめる。心は冷静。思考は沈着。しかしながらアナキンが無意識に纒うフォースの感覚が、自分の中にある何かを激しく刺激するのだ。

 

彼と会話をするマスタークワイ=ガンも同じ感覚を持っているのだろうか―――いや確実に感じ取っているはずだ。でないと、アナキンのポッドレースに命運をかけるという手段を取るはずがない。

 

マスタークワイ=ガンは愚か者ではなく、自分が出会ったマスターの中でも突出した賢者だ。彼もアナキンの揺らめきを感じ取っているなら、この決断は正しい方へ導いてくれるだろう。

 

俺のテーブルにあるカエルもどきの丸焼きを横取りしようとしたジャージャーの舌を掴み上げて睨むと、彼は居心地悪そうに舌を引っ込める。残念ながら、俺はマスタークワイ=ガンより寛大ではない。

 

「食事の方、ありがとうございます。スカイウォーカーさん」

 

クワイ=ガンがアナキンの血液採取をしている頃、食器を片付けるアナキンの母に、俺は一礼して礼を述べた。

 

「構いません。困った時はお互い様ですから」

 

そう言って微笑むシミ。彼女らの生活も裕福では無いだろうに。それでも健気に余所者である自分たちを持てなしてくれる彼女に、俺は長らく麻痺していた人としての心を刺激してもらえたような気がした。

 

ジェダイとは、禁欲的な存在だ。

 

家族との絆や愛に縛られず、フォースの導きの下、バランスをもたらす〝器〟で在らなければならない。故にジェダイになる素質を持つものは、幼い頃から親や兄弟から離され、一人の個として訓練に身を投じ、欲を滅していく。

 

確かにそれは尊く、素晴らしい存在なのかもしれない。完全なる器として存在できるならば…。

 

しかし、人や、生き物が生きていく上で、生命体というものはそこまで高貴な存在にはなれはしないのだ。

 

先ほどまで飲んでいた豆のスープ。

 

人は何かを食さねば生きていかれない。そこには倫理や価値観、宗教的な概念も混在する複雑怪奇なものだ。

 

何かを食べることだけでもしがらみがあるというのに、そんな不安定な存在が器になりきるなど、土台無理な話なのだ。限りなく近づくことはできるだろう。だが、その結果に待つのは繁栄と破滅のサイクルでしか無い。

 

光と闇。

 

世界というものは、そんな二分できるほど明瞭なものではない。故にバランスを保つ必要があるのだ。

 

その大切さを、俺はこの旅の中で取り戻しつつあるように思えた。微笑みをくれたシミへ、俺はジェダイローブから一つの〝お守り〟を取り出して彼女へ渡した。

 

「ジェダイに伝わるフォースの加護を受けたお守りです。〝かならず〟いつも身につけていてください。フォースが貴女や家族を守ってくれます」

 

もちろん、嘘だ。そんな便利なものを、ジェダイは持ち合わせていない。

 

ナブーのシャトルの中で、ジェダイのホロスコープの予備品をバラして作り上げた代物だが、効果は万全だ。こちら側に同じ部品から作った装置へ、フォースを流し込めば起動する仕組みとなっており、所持者の状況や場所を正確に読み取ることができるのだ。

 

アナキンにとって、生涯無二の家族。

 

そして彼の心に大きな傷をもたらす事件が来る。

 

最初は、そんな未来を危惧して用意していたものが、この心豊かな女性の温かさに触れた今では、心から彼女の無事を守りたいという一人の人間がいたのだ。

 

「…ジェダイは無欲で心がないと聞いていたけれど、あなた達は変わっているのね?」

 

一瞬、何かを勘ぐるような目をしたシミはそう言ってお守りを首に提げてくれた。彼女の言葉に、俺は取り戻した自分の笑みを浮かべて答える。

 

「ええ、俺は変わり者のジェダイ、ログ・ドゥーランですから」

 

そう答えたら、シミはおかしそうに笑っているのだった。

 

 

 



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クワイ=ガンの身長が190センチ超えってマジ?

 

アナキン・スカイウォーカーは不機嫌だった。

 

ポッドレースで優勝を飾り、文句なしの一等星になった。

 

出会ったジェダイから自分はジェダイになる素質があると伝えられ、共に行かないかと問われて天にも上がりそうな幸福感で満たされた。

 

母と別れる辛さはあるが、必ずジェダイとなって母のような奴隷を解放することを誓って、この星を旅立つことを決意した。

 

晴れ渡るほど気持ちは澄んでいたというのに、アナキンの感情は酷く荒んでいくようだった。

 

母との別れの時。

 

シミと楽しげに話すもう一人のジェダイ。

 

自分とは4歳しか違わないはずなのに、そのジェダイは自分をジェダイへと誘ってくれたクワイ=ガンと同じような落ち着きを持っているように思えた。

 

名はログ・ドゥーラン。ジェダイナイト。

 

実力としては、クワイ=ガンも認めるほどらしいが、アナキンはそれも気に食わなかった。

 

なにより、母が自分には見せなかった笑みを浮かべてドゥーランと話しているのが一番腹立たしかった。いつの間にか母が首から提げていた見慣れない物も、ドゥーランから贈られたお守りと言う。

 

きっと母の優しさに付け込む悪いやつに違いない!!

 

まだ9歳で甘えたがりなアナキンにとって、ドゥーランという男は母に近寄る悪い存在としか思えなかった。

 

母との挨拶を済ませた後に、振り返って見えた光景に嫌気がさしたようにアナキンは早歩きでその場を離れるように歩き出した。

 

母とドゥーランが話をしている光景を見ていたくなかったのだ。クワイ=ガンや、そんなアナキンの心情を知らないドゥーランに心配されながら、アナキンはふて腐れた様子で、修理を終えたナブーのシャトルに向かう道中を行く。

 

故に気がつかなかった。

 

シャトルを目前としたところで、背後から高速で迫る黒装束の男の姿に――。

 

 

 

 

 

 

「マスター!アナキンと共に船へ!」

 

くそったれ!!

 

思わず叫びたくなる衝動を抑え込みながら、俺は腰から抜いたライトセーバーを起動し、アナキンに気を取られていたクワイ=ガンに迫る真っ赤な凶刃を受け止めた。

 

スピーダーから器用に降りて、同時に斬撃を放ってきた黒装束の男。深くフードをかぶっているため、顔はよく見えなかったが、その禍々しい赤い光刃が彼の正体を証明していた。

 

咄嗟にクワイ=ガンも剣戟に加わろうとするが、俺はフォースで彼の向かってくる思いを留める。確かにクワイ=ガンは強いが、相手にするのは怒りと憎しみによる暗黒面の力を発揮した若者だ。ここで彼が防ぎ切れる保証はない。

 

クワイ=ガンは何かを悟ったように頷くと、困惑するアナキンを連れてナブーのシャトルへ走った。

 

「邪魔をするか…」

 

フードの奥から地獄の底のような声が響く。

 

えっ、喋るの?ここで?

 

エピソード1では驚くほど寡黙で、クローン戦争時ではこれまた驚くほどよく喋る彼を、俺は知っている。故に、ここで声をかけられたのが意外だった。

 

ウィンドゥから叩き込まれた守りの型を遵守しながら、赤い光刃を何度も受けてはそらし、跳ね返す。

 

それに苛立ったのか、相対する敵はフードの奥で黄色い眼差しをギラギラと煌めかせる。距離を取ってライトセーバーを構えるが、その気迫は原作のイメージとは全く異なっており、恐怖や痛みすら感じるほど禍々しかった。

 

「貴様が何者で、何が目的かは…この際どうでもいいが、ここを通すわけにはいかないな」

 

「身の程を知るがいい、若きジェダイよ…貴様のような小さなガキが俺に勝てるはずがない」

 

「身長のことを言うなよ〝殺すぞ〟」

 

ただでさえ成長期に伸びなかった身長を貶されて、俺は守りに徹しようとしていた意識を即座に切り替える。

 

フードの奥でニヤリと笑みを浮かべていた相手が、真顔になるのがわかったが既に手遅れだ。

 

 

 

テメェは俺を怒らせた!!

 

 

 

型を守りから攻めのヴァーパッドに切り替え、タトゥイーンの砂漠をフォースの力と共に蹴る。

 

一瞬で懐に入ったことに驚愕したのか、相手はライトセーバーを振るうが遅すぎる。一閃を躱してショルダータックルで相手の動きを崩して、ライトセーバーを突きの姿勢に構える。

 

「ま、まて…」

 

「死んで詫びろこのクソ野郎!!」

 

その一閃がフードの奥にいる相手の顔をエグろうとした瞬間、近くにクワイ=ガンが指揮して飛んできたナブーのシャトルがやってきた。シャトルの風圧で狙いが逸れ、敵のフードの一部を赤く切り裂いたことで正気を取り戻した俺は、オビ=ワンが手を伸ばすシャトルのタラップに向かって飛び上がる。

 

眼下を見れば、赤い皮膚と角を持った男――ダース・モールが呆然と俺を見上げているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

油断していたつもりはなかった。

 

飛び立っていくナブーの船を見つめながら、ダース・モールは伸びていた赤い刃を収めると同時に、額に流れた汗を感じ取っていた。

 

ついに始まるジェダイへの復讐。

 

それに先んじた急襲であったが、狙っていたマスタークラスではなく、同行していた年端もいかないジェダイに足止めされ、モール卿は苛立っていたのだ。

 

見た目に似合わない堅牢な守りで更に怒りが燃え上がり、モール卿はついに言葉を発してしまったのだ。

 

さっさと貴様を殺して、俺はマスタークラスを殺す。それによって、俺は真にシスの暗黒卿になれるのだ。

 

そう信じて、相手にならないであろうと思っていた敵へ言葉を投げた途端、守りの型をしていた敵が一気に殺気だって構えを変えたのだ。

 

それはまるで、人のものとは思えない感覚。巨大な肉食生物を前にしたような威圧感すら感じる殺気。平和と調停の象徴たるジェダイからは想像もつかない力強いフォースを感じ取って、モール卿はしばし呆然としてしまった。

 

勝負は一瞬だった。

 

苦し紛れに繰り出した攻撃は容易くいなされ、次に目にしたのは眼前に構えられたライトセーバーの切っ先であった。

 

あのタイミングで船が来なければ、きっと自分は頭部をズタズタに貫かれて、この辺境の地で死を迎えていただろう。

 

脱げたフードに手をやると、辛うじて躱せた一閃が切り裂いた傷がある。モール卿は、その傷にしばらく触れてからフードをかぶった。

 

面白い。

 

次は油断はしない。

 

勝てると言う自信を根底からへし折られたが、自身の気持ちに火をくべるには充分な衝撃であった。

 

慢心はしない。

 

次は必ず殺す。

 

モール卿は凄みに満ちた顔で笑みを作りながら、砂に埋もれたスピーダーを起こして、自らの船へと帰還するのだった。

 

 

 

 

 

 





ログ「この身長がサザエさんのタラちゃんみたいだってぇ!?」

モール卿「言ってない!!言ってない!!」

ログ「ぶるぁあああああ!!」

パルパティーン「えっ……何あいつ……知らん……こわ……」



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ジェダイと一人の人間の狭間で

 

 

「ヴァーパッドの使用を禁ずる」

 

コルサントに到着し、アナキンの審議が行われた後、マスターウィンドゥに呼び出された俺は、心血懸けて教え込まれた型の使用禁止令を言いつけられた。

 

解せぬ…とは言わない。

 

タトゥイーンでモールと戦った時、自分は底知れない何かに触れた気がした。150後半の身長に触れられて怒りを覚えたのは確かであったが、相手が暗黒卿であると知っていた故の事だったかもしれない。

 

フォースの暗黒面。

 

今まで繰り返してきた瞑想や、フォースの試練の中で度々垣間見てきたドス黒い怒りと憎しみを原動力にした負の側面。

 

マスターウィンドゥが伝授してくれたヴァーパッドは、暗黒面の淵に立って力を得る型とも言えた。ジェダイにはない攻めに特化した型は、時として暗黒面の扉を開く戸口ともなると、マスターウィンドゥは自室でそう言った。

 

「ログ。君の力は確かに凄まじい。だが、同時に危うさを感じる。しばらくはヴァーパッドの使用をせずに、基本の型とフォースの導きに身を委ねるのだ」

 

「はい、マスター」

 

「では、君には引き続きナブーの件を任せる。フォースが共にあらんことを」

 

マスターウィンドゥに一礼して、俺は彼の部屋を出る。ヴァーパッドは確かに強力であり、今の自分には扱いきれない型なのだろう。

 

しかし、ナブーの件に関わる以上、シスの暗黒卿と戦うことになるのは避けられない。俺の役目はアナキンやパドメを護衛することではなく、マスタークワイ=ガンや、オビ=ワンをサポートすることだ。

 

その中で、再びモール卿と戦うことになった時、果たして自分は暗黒面の力にあらがい、ジェダイとして立ち向かうことができるのだろうか。

 

「ドゥーラン」

 

通路を歩いていた俺を、誰かが呼び止める。振り返った先にいたのは、ジェダイマスターであるキット・フィストーだった。

 

頭髪のない頭部から後方に伸びた幾本もの触角と、瞳のない特徴的な大きな黒色の眼が俺を捉えている。まだ評議会入りをしていない彼は、戦士らしい出で立ちで俺に語りかけてきた。

 

「随分と落ち込んでいるようだな。何かあったのか?」

 

ジェダイの規範に則った理性的で誠実な人物である彼は、フォースの感覚から俺の悩みを感じ取ったのだろうか。にこやかな笑みを浮かべて語りかけてきてくれたマスターキットに、俺はウィンドゥから伝えられたヴァーパッド禁止令と、ナブーで待つ戦いに不安を抱いていることを正直に話した。

 

ジェダイって割と心のうちに溜め込む人が多いので、こう言った胸の内を吐き出せる相手は貴重だ。パダワン時代に型のひとつであるシャイ=チョーをマスターキットに教わってから、彼にはよく相談事を持ちかけるようになっていたので、彼も俺の悩みを真摯に聴いてくれた。

 

「君は自分のことをあまり信じていない」

 

話を終えて、マスターキットが放った言葉に、俺の心は跳ね上がった。

 

この世界に飛ばされてからというもの、確かに俺は自分自身を信じていない。

 

怖いのだ。ジェダイとなってから自分が変わっていく感覚が怖い。禁欲的なジェダイであろうとすればするほど、その不安は大きく俺の中で音を掻き立てていく。

 

故にライトセーバーの訓練に打ち込み、フォースとの絆を深めようと訓練に没頭していたのかもしれない。

 

「君の抱える思いは正しいだろう。だが、それが暗黒面に通ずる弱さにもなり得る」

 

「しかし、ジェダイではそれが試練だと教わっています」

 

「確かに試練ではあるが、試練とはただクリアするものでも乗り越えるだけのものでもない。その恐怖と共に歩み、自身の糧とするのが戦士として必要なこともある」

 

たとえば戦いで感じる恐怖。

 

たとえば敗北に怯える恐怖。

 

暗黒面に繋がる道でもあるそれを滅するのではなく、それを理解したうえで飲み込むことも大事だと、マスターキットは言った。彼が敵地でも笑みを絶やさないのは、その心得があるからこそだとも。

 

「君は君の信じる道を行くことだ。フォースは君を導いてくれるはずだ」

 

そう言って彼は俺の肩を優しくさすってくれる。

 

自分を信じること。

 

ログ・ドゥーランとして生きるのではなく、ありのままの自分を見つめて、そしてジェダイとしての行く道を見定めること。

 

俺は立ち上がり、マスターキットに礼を述べてから瞑想室を出た。

 

成すべきこと。

 

俺がジェダイとなったからこそ、できることを見つめる。

 

目を閉じてフォースの感覚を研ぎ澄ました。

 

揺らめきはない。

 

フォースは常に答えてくれる。

 

ありのままの自分を映し出す鏡として。

 

 

 

 

 

 

俺は目を開けて通路を歩み出した。

 

向き合おう。

 

自分自身の心と在り方に。

 

扉を抜けると、身支度を整えたアミダラ女王とマスタークワイ=ガンたちがいた。

 

俺も共に行こう。

 

自分の道を見極めるために。

 

戦いの時は刻一刻と、近づいていた。

 

 

 



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たった二人だけの戦争 1

 

 

ナブーに帰還したアミダラ女王は、ジャージャーと同じ種族であり、長年互いの種族間の干渉を避けてきたグンガンと和平交渉を成功させた。

 

今まで護衛対象であったアミダラ女王が実は影武者であり、彼女の従者として働き、タトゥイーンなどではマスタークワイ=ガンと行動を共にしていたパドメという少女が本当のアミダラ女王と知った時は、アナキンはひどく驚いた様子だった。

 

そんな波乱の中で進められるナブー首都の奪還計画。

 

同盟を結んだグンガンの軍勢がドロイドの大軍を引き付けている間に、少数精鋭で首都へ進行。パイロットたちによる司令船の撃破と、首都の中枢部にいるはずの敵の大将を抑える二面作戦となった。

 

ジャージャーを含めたグンガンがドロイドとの苛烈な戦いを繰り広げる中、首都網を突破したパドメやマスタークワイ=ガンたちは、ナブー・スターファイターが格納されている場所へと辿り着く。

 

パイロットたちがドロイドの攻撃を潜り抜けて出撃する中、アナキンは身を守るために咄嗟にスターファイターのコクピットへと乗り込んだ。

 

「クワイ=ガンさん!僕も一緒に行くよ!」

 

「だめだ、アナキン。君はそこでジッとしておくんだ」

 

先に進む皆と共について行こうとするアナキンを、マスタークワイ=ガンが凛とした声で静止させた。若干のフォースの流れも加わっており、もとより頑固だったアナキンは渋々とスターファイターのコクピットへと着席する。

 

格納庫から首都の中枢部には、大きなブラスタードアを通るのが最短ルートだ。パドメやナブーの護衛隊長を先頭に進む集団が、ブラスタードアの前にたどり着いた瞬間、まだ操作をしていないドアが緩やかに開いた。

 

その先にいるのは、漆黒のローブに身を包んだ一人の影だ。

 

その異様な出で立ちに、パドメやナブーの護衛隊長は思わず一歩後ずさる。

 

 

 

暗黒卿の一人、ダース・モール。

 

 

 

彼はついに、ジェダイの前に公にその姿を見せつける。フードを外して、十数本生える特徴的なツノと、般若のようなメイクが施された顔があらわになり、その真っ赤な眼光はすべての者の感覚を凍りつかせた。

 

「ここは我々が」

 

そんな張り付く空気の中、マスタークワイ=ガンとオビ=ワンが、パドメたちの前へと歩み出る。モール卿は何も言わないまま、現れた二人に関心がない眼差しを向ける。

 

別の道を探すために別れたパドメたち。

 

二人のジェダイは臨戦態勢を整えるように着流していたローブを脱いだ。だが、モール卿は何も言わず、何もせずに臨戦態勢となったマスタークワイ=ガンたちを黙って見据えている。

 

なんだ?何もしてこないのか?

 

「マスタークワイ=ガン」

 

動かないモール卿に警戒しながら、ライトセーバーに手をかけようとしていた二人の間から、一人の少年が更にモール卿に向かって歩み出た。

 

驚愕する二人を他所に、モール卿は先ほどまでの無関心な顔つきから、一気に激情に満ちた表情へと変貌する。

 

「この男の相手は、俺がします」

 

 

ジェダイナイト、ログ・ドゥーラン。

 

 

俺は、変貌したモール卿を真っ直ぐ見据えたままジェダイローブを脱いで、はっきりとマスタークワイ=ガンに伝える。

 

〝手を出すな〟と。

 

「無茶だ!一人で戦うのは危険すぎる!」

 

マスタークワイ=ガンの隣にいたオビ=ワンが声を上げるが、その動きを師が止めた。

 

手で制されたオビ=ワンは何も言うことができず、無謀とも思える戦いに挑もうとする俺の姿をジッと見つめる。

 

「待っていたぞ…貴様たちに思い知らせる…この瞬間を!!」

 

しゃがれた声を発し、真っ赤な光刃を両端に出現させながら、本来なら感情の起伏を見せなかったはずのモール卿が、シィイイと刃を漲らせてライトセーバーを構える。

 

「俺は答えを見つける。俺自身が目指す在り方を…信じるために」

 

腰にぶら下がっていたライトセーバーをフォースの力で手元に手繰り寄せて、青白い閃光を奔らせた。選んだ型は、守りでも、攻めに特化したヴァーパッドでもない。

 

この心を気付かせてくれた友が教えてくれた第一の型、シャイ=チョーだ。

 

二人の気配が明らかに変質する。クワイ=ガンとオビ=ワンは、それぞれライトセーバーを起動させるが、二人の間に立ち入る隙は全くなかった。

 

 

 

「行くぞ…殺してやる…ジェダイ!!」

 

「来い!!その暗黒を断ち切ってやる!!」

 

 

 

空気を切り裂くような音を振りかざしながら、モール卿は飛び上がると、背後へと回り込み、首を落とす一閃を放ってくるが、シャイ=チョーはそんな甘くはない。背面へ構えたライトセーバーを捻りながら、モール卿から放たれた閃光を切り払う。

 

青白と赤。

 

二つの閃光が煌めき、閃き、互いの思いを礎にナブーの格納庫でぶつかり合ってゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その戦いは、クワイ=ガンの想像を遥かに超えるものだった。

 

青と赤の光が目まぐるしい速さで交錯し、一方は怒りと憎悪に身を任せた暗黒面の力、もう一方はフォースとの繋がりを確固たるものとした基本に誠実かつ、忠実な戦いを繰り広げている。

 

その戦いは実に1000年ぶりとなるシスとジェダイの戦いだった。

 

両刀のセーバーを振り回すシスの戦士は、相対するジェダイナイトであるログの戦い方に決定的な攻めを見出せずにいるようで、その表情は険しいものとなっていた。

 

セーバーを扱う上で誰もが通る通過点として存在する基礎の型、シャイ=チョー。

 

7つのライトセーバー戦闘型のうち最も古いフォームであるシャイ=チョーは、ライトセーバーを使った基本的な動作でありながら、その実は実験的な戦闘型であり、ライトセーバー対ライトセーバーの決闘を想定しておらず、すぐに他の6つのフォームが戦闘体系の主流となった。

 

しかし、それでもなおシャイ=チョーは基礎的な訓練用フォームという地位にあった。

 

ほぼあらゆるジェダイの決闘者が、この戦闘型から何らかの教訓を得ており、各々の戦闘スタイルに要素を取り入れている。

 

粗野かつ荒削りで、ジェダイの哲学どおり、敵を傷つけるよりも武装解除することを目的とした思慮深い戦術。

 

ログ・ドゥーランはそんな基礎的な型と卓越した手腕とを合わせ、訓練されたシスの戦士と互角に戦いを繰り広げていた。

 

隣にいるオビ=ワンも、その戦い方に目を剥き、ライトセーバーを構えることも忘れてしまいそうになるほど、芸術的と言える剣舞に魅了されていた。

 

マスタークワイ=ガンも、実戦レベルまでシャイ=チョーを極めたジェダイは、共にマスターの地位にあるマスターキット・フィストーくらいしか知らない。

 

変則的な動きをするシスの戦士に対して、ログは無作為な剣舞を繰り出し、不規則に放たれるセーバーの一閃を尽く打ち落とし、弾き返していく。

 

熱と熱がぶつかり合う音が格納庫にしばらく響き渡ると、痺れを切らしたシスの戦士が格納庫からパワー発生装置へ続く通路の扉を無理やりこじ開けて、その場へログを誘っていく。

 

刃を交えながら通路を進む二人の戦いに、マスタークワイ=ガンも、そしてオビ=ワンも、加勢はおろか加わることすら出来なかった。

 

これが互いに初見ならば形は違っていたかもしれないが、モールはタトゥイーンで事実上の敗北を味わっている。今の彼に慢心も油断もない。一撃一撃が決殺の閃光であり、その乱舞を潜り抜けるログもまた、マスタークワイ=ガンたちとは別次元の戦いを繰り広げている。

 

パワー発生装置から立ち昇る光の中で、怒りに燃えるモールとログはライトセーバーをつばぜり合わせながら、互いが持つ全てを証明するように競い合った。

 

その戦い。マスタークワイ=ガンにとってそれは、二人が言葉を交わさずに会話しているようにも思えた。

 

どこかの星で聞いたことがある。

 

「剣舞の中で、戦士は一閃の中で幾億の言葉を交わす」と。

 

ライトセーバー同士の戦いの中で、彼らは会話をしているのだろうか。

 

誰も間に立ち入れない凄まじい戦いを繰り広げるモールとログの戦いを見つめながら、マスタークワイ=ガンとオビ=ワンは、ジェダイとして…一人の賢者として、新しい「何か」を目撃していたのだった。

 

 

 

 



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たった二人だけの戦争 2

 

 

「シィイイ!!」

 

光が激しく昇ってゆくパワー発生装置の中で、ダース・モールは相対するジェダイと剣戟を交わしていく。敵であるジェダイは、ライトセーバーの基本中の基本と言える動作でしか対応していないというのに、こちらが繰り出す攻撃を尽く防ぎ切っているのだ。

 

それどころか、モールが息をつこうものなら、ライトセーバーの乱舞の合間を縫うように切っ先が飛び込んでくる。

 

最初はその動きに困惑するばかりであったが、剣舞を重ねていくごとに見えてくるものもあった。敵の動きは基本に忠実が故に、そこから発展したモールの動きにも機敏に対応できているのだ。

 

剣尖を突き合いながら、モールの変則的だった動きも、繰り出される基本的な動きに倣うように基本的な動きへと変化し、ジェダイの動きに対応していくようになる。

 

戦いの様相は、感情的な力の押し付け合いから、互いの力量を見定めながら対等の力でぶつかり、相手の隙を突くという心理戦へとシフトしていく。

 

パワー発生装置のエネルギー放射区域へと二人は剣舞を競い合いながら突入していく。他のジェダイマスタークラスも後に続いているが、モールとジェダイの戦いに手を挟む様子はない。

 

放射区域がレーザーで遮断される。

 

真下へと伸びる巨大な排気ダクトがある部屋で、モールとジェダイは距離をとって互いを見つめた。

 

レーザーの向こう側には、こちらと隔てられたジェダイマスターたちが、モールたちを見つめている。

 

野獣のような獰猛な目を向けて、モールは駆け出す。構えを堅牢にするジェダイは、モールが繰り出した乱舞の全てを切り払い、柄で顔を突き上げようとしてきたモールのライトセーバーを、一閃のもと真っ二つに切り落とした。

 

一対であった光刃の片割れが途切れ、モールは顔色を変えたまま再び距離を取る。対するジェダイは、ライトセーバーを叩き切った姿勢のまま、ゆっくりと刃を捻り、モールを見据える。

 

「怒りだけでは、俺には勝てないぞ」

 

そう言葉を切り出したのはジェダイだった。いくつもの刃を交え、その交えた以上のことをジェダイは理解していた。

 

モールの心には、怒りと憎しみがある。しかし、その原点が定まってないのだ。

 

ジェダイに家族を殺されたか?またはジェダイに何か悲惨な目に遭わされたのか?答えは否だ。モールの心にある怒りには、決定的にジェダイに対する想いが欠けている。

 

なら、その怒りと憎しみの源泉は何なのか。

 

答えはすでに、モールの心の中で出ていた。

 

「貴様には分かるまい…俺の身から湧き出る怒りが…!!」

 

「それしか知らないから力に頼るんだ!もっと周りを見ろ!!お前の憎しみは、怒りは、悲しみは!!どこからきているか分かるはずだ!」

 

「黙れ!!」

 

彼は再び走る。

 

憎しみに顔を歪ませて飛び上がると、ライトセーバーを構えるジェダイへと切り掛かった。しかし、そこには先ほどまでの剣の冴えや、型に準じた美しさも品性もない。怒りに任せた力に頼る、荒削りな暴力だけで振るわれる刃だけがあった。

 

レーザーの向こう側で戦いを見つめるマスタークワイ=ガンにも、暗黒卿が見せる決定的な隙があるのはわかっていた。オビ=ワンですらも。

 

しかし、相対するジェダイはその隙を見逃して、暴力だけで振るわれるライトセーバーを受け流しているのだ。決定的な場面でも、彼は動じることなくライトセーバーをただ防御のみに使う。

 

いくつもの光の中。

 

モールの剣を受けるジェダイ、ログ・ドゥーランは、フォースの感覚を研ぎ澄ます。フォースは常に共にある。誰とでも。誰にでも。分け隔てなく存在し、その流れは深く意識を研ぎ澄ますことによって読み解くことができる。

 

たとえそれが、暗黒面に身を任せた戦士の精神であったとしても―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝怒りにのまれるな〟

 

 

 

暗闇の中で声が聞こえる。

 

荒れ果てた地。

 

小さく燃える焚き火が見える。

 

太陽が二つある情景。

 

 

 

 

〝貴様に何がわかる!!〟

 

 

 

年老いた彼は怒りの目を見つめて慟哭する。

 

彼には何もない。

 

何も持っていない。

 

 

 

 

 

〝その怒りはお前を壊してしまう!!〟

 

〝故郷も、家族も、自分の名前すら分からない……俺の何が、貴様に分かる!!〟

 

 

 

 

 

手に持っていたライトセーバーで、砂を巻き上げ、わずかに灯っていた火を消した。

 

空には星が広がっている。

 

稲妻が轟き、誰かの叫び声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

〝だが、俺とお前はここで出会えた。これもまた、フォースの導きだ〟

 

 

 

 

 

フォースは共にある。

 

いつ、いかなる時でも。

 

分け隔てなく、誰にでもあり。

 

誰とでも繋がることができる。

 

 

 

 

 

 

〝黙れ!〟

 

〝孤独は恐怖だ。だが、それで周りを見えなくしていることは、お前の弱さだ〟

 

〝黙れ…黙れ黙れ黙れ!!〟

 

 

 

 

 

聞きたくない!!

 

見たくない!!

 

俺は強い!!

 

強者なのだ!!

 

あの地獄のような日々を生き延びた…唯一無二の…!!

 

 

 

 

 

〝恐怖に呑まれて、怒りに身を任せるな。落ち着いて周りを見ろ。世界はこんなにも―――〟

 

 

〝黙れえぇええ!!!!〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダースモールは、自身の首筋に青い光が突きつけられていることに、ようやく気がついた。

 

目の前にいるログ・ドゥーランは、ライトセーバーを返して、彼の無防備な首へ刃を振るったのだ。

 

だが、ダースモールは生きている。

 

彼の首は、まだ焼き切れていない。

 

一体どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 

ふと、そばを見ると、レーザー遮断装置から出てきたジェダイマスターたちが、ライトセーバーを起動したまま自分たちを見つめている。

 

〝殺せ〟

 

モールは力のない目で、ログへそう訴えかけた。

 

だが、彼はライトセーバーを振ることなく、そっと下ろして、改めてモールと対峙するように構えを作った。

 

――そうか。そういうことだったのか。

 

モールは歪に歪んだ顔ではなく、穏やかな表情のまま笑みを浮かべる。

 

「貴様、名は何という」

 

「ログ。ログ・ドゥーランだ」

 

「俺はモール。〝ただのモール〟だ」

 

それだけ言葉を交わすと、彼は息を小さく吐き、赤い色の意味をなくしたライトセーバーを悠々しく構えた。

 

ここにいるのは、怒りや憎しみを植え付けられた操り人形のダースモールではない。

 

名も知らない。

 

故郷も知らない。

 

愛も、家族も知らない。

 

持っているものは、培ってきた戦士としての才覚だけ。

 

それを持って挑む戦士、モールが居た。

 

彼は駆ける。

 

それほどの大口を叩き、自身の道をこじ開けた相手の存在を確かめるため。

 

ただ、それだけのためにライトセーバーを振るった。

 

 

 

 

 



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たった二人だけの戦争 3

 

 

師であるマスタークワイ=ガンと共に、レーザー遮断装置から解放された私は、大きな排気ダクトの淵にいるドゥーランの下へと駆け寄ろうとした。

 

その姿はすでに勝敗が決しており、シスの暗黒卿の首筋へライトセーバーを振るい、1000年ぶりに現れたシス卿の首をはねるジェダイとして当然の責務を果たすものだと思っていた。

 

しかし、あろうことか彼は一閃を寸でのところで停止し、シス卿にトドメを刺さなかった。その行動に驚愕した私は、同じ思いであろうマスタークワイ=ガンと共にその場に立ち尽くしてしまった。

 

ドゥーランは何も語らず、セーバーの切っ先をじっと見つめるようにシス卿へと意識を集中させているようだったが、ひとときの間を置いて、今度は何とライトセーバーを下げたのだ。

 

二歩、三歩、四歩と立ち尽くすシス卿から距離を離してから、ドゥーランは再びライトセーバーを構える。

 

一体何を考えている…!!シスの暗黒卿を目の前にして!!

 

ジェダイの教えに則った考えのもと、激しい動揺と理解できない感覚が私の中で暴れまわっていたが、その時のマスタークワイ=ガンは、何か…新しいものを発見したときのような、興味深いという横顔をしたまま、ドゥーランとシス卿を見つめていた。

 

「貴様、名は何という」

 

そう呟いたシスの暗黒卿のフォースを感じ取って、私は驚愕した。

 

何も感じない。

 

暗黒面たる不愉快さや、ざわざわとしたフォースの揺らめき。怒りや憎悪によって生み出された力強いプレッシャー。

 

そのどれもを感じ取ることができなかった。彼が纏っていた殺気すらも。

 

「ログ。ログ・ドゥーランだ」

 

そんな彼に、ドゥーランは真っ直ぐとした声で答える。ライトセーバーの基本的な型であるシャイ=チョーの構えは解除しないまま、彼はただ静かに暗黒卿を見つめる。

 

「俺はモール。〝ただのモール〟だ」

 

そこからだ。

 

そこから、全てが変わった。

 

まずはシスの暗黒卿から信じられないフォースの漲りを感じ取った。しかし、そこに殺意や敵意はない。ざわざわとしたプレッシャーもなければ、揺らめきすらもないのだ。

 

そのフォースを感じ取ったのか、ドゥーランもすぐに構えを解除し、別の構えへと変貌する。伝統的な構えから、幾分もステップアップを経て生み出された戦闘特化型の構え。

 

ドゥーランが構えたのは、ヴァーパッドの構えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

モールの雰囲気が変わった。

 

シャイ=チョーで受けきれていたプレッシャーが、ほんの一瞬で崩された俺は、反射的に自分が最も信頼を置く技、ヴァーパッドへと意識を切り替える。

 

師には禁止されているが、相手が相手だ。

 

俺の今できる最高の力を発揮できなければ、避けられない死が待っているのは直感的に理解できた。

 

駆けてきたモールは、二対から一刀となったライトセーバーを振るい、交差を仕掛けてくる。セーバー同士がぶつかり合う独特な音を響かせた瞬間、モールは剣だけではなく体術も駆使してきた。

 

すれ違いざまに肘打ち、裏拳。気を取られれば足払いと、ライトセーバーに一辺倒だった彼の戦いは、この短時間の戦いで爆発的に進化したのだ。

 

「こいつ…!!」

 

ライトセーバーをひねり、迫った距離を離そうと最短距離に剣線を走らせるが、モールはそれを見切っていた。横一閃に放った閃光を彼は飛び上がることで回避する。

 

頭上から見下ろす彼と、目があった。そこには殺意や暗黒面の怒りはなく、純粋な闘志が漲る彼の瞳が揺らめいている。

 

「――シィッ!!!」

 

頭上から振り下ろされた斬撃。間一髪で避けたが赤い一撃は身に付けるジェダイの胴着の一部を切り落とした。

 

「お返しだ…!!」

 

振り下ろした一瞬の隙に、俺は無防備になったモールの顔面に拳を叩き込む。フォースによって強化された打撃にモールはタタラを踏むが、すぐに顔を振り払って斬撃の応酬を再開した。

 

先ほどとは比べ物にならない速さの攻撃、軌道、不規則さ。

 

ヴァーパッドを使っても、モールの攻撃はその攻撃性を上回る動きを持って、こちらの動きを止めてくる。さっきまでの攻防で得た経験など役に立たない。戦いの全てを再構築しながら、俺はモールとの打ち合いに神経を研ぎ澄ませる。

 

一瞬でも気を抜けば、首が飛ぶのはこちらだ。

 

思い出せ。セーバーを振るっていたあの時を。

 

思い出せ。ここまで培ってきた全てを。

 

思い出せ、思い出せ、思い出せ!!

 

でなければ―――負けるっ!!!

 

バチリッと刃が弾け、ほんの刹那の停止が俺とモールの間に訪れた。ライトセーバーを上へ構える彼と、下へ居合切りのような構えで置く自分。

 

「 「――ハァッ!!」 」

 

水の一雫が弾けるような時間の中、互いの全部を乗せた一閃が煌めいた。俺の肩にモールの切っ先が届き、俺の一閃はモールの左目から額にかけて赤い傷を残した。

 

カラン、と利き腕の力をなくした俺の手からセーバーが落ちる。顔に走った痛みに苦痛を覚えたモールは、俺をフォースで突き飛ばしたが、俺は咄嗟に彼の手を掴み後ろへと吹き飛ばされる。なんとか訪れる衝撃から切られた肩を庇おうとしたが、その衝撃は訪れなかった。

 

眼下に目をやると、そこに広がっていたのは巨大な排気ダクトの奈落だった。

 

「ドゥーラン!!!」

 

誰かの声が響き、虚空に伸ばされていた手が掴まれる。重力に従って俺の体は排気ダクトの側面に打ち付けられた。顔をしたたかに打ち付けて、思わず呻き声を上げる。

 

見上げると、俺の手を掴んでくれたのはマスタークワイ=ガンとオビ=ワンだった。そして同時に切られ、焼けただれた肩に激痛が走る。

 

俺は、落ちていくはずだったモールの手を掴んで踏ん張っていたのだ。

 

「ドゥーラン!手を離せ!!このままだと引き上げられない!!」

 

〝引き上げられない〟

 

その言葉の意味に、俺は怒りを覚えた。俺は下でぶら下がっているモールを見た。彼も傷ついた片目を閉じて、俺を見上げている。

 

「嫌だ!!」

 

「なっ…!?」

 

「絶対に離さない!!コイツはまだ、〝怒りと憎しみ〟以外の世界を知らないんだ!!」

 

その言葉を聞いて、一番驚いていたのはモール自身だった。俺は彼を握る手を強めて決して離さないように力を込める。同時に、モールを支える片腕から傷ついた肩へ負担がかかり、痛みは増していった。

 

「何を言ってるんだ!!相手は…」

 

「関係ない!!俺は俺の在り方を信じる!!彼からフォースを感じた!!だから!!」

 

ただ、彼は知らなかっただけだ。

 

怒りと憎しみ以外に、触れてこなかっただけなんだ。暖かさも、喜びも、感動にも触れずに来たから、持っている力の使い方を間違えたし、向かう道も間違えてしまったのだ。

 

だからこそ、彼は知らなければならない。

 

多くのものを。この広い世界を。

 

「ログ」

 

そう呼びかけられて俺は下へ視線を向けた。

 

そして目を見開く。

 

そこには、俺が掴んでいる腕にライトセーバーの切っ先を添えるモールの姿があった。

 

「俺の敗北だ。感謝する」

 

「やめろ」

 

「お前のおかげで、俺は新しい未来を見た」

 

「やめるんだ、モール」

 

「お前なら、負けはしない。俺が感じた怒りにも、恐怖にも」

 

「やめろ!!だめだ!!モール!!俺の目を見ろ!!」

 

必死に声を振り絞った。だめだ。やめろ。そうじゃないんだ。そうしないために、俺はお前を…!!そう目で訴える俺に、彼は自然な笑みを浮かべて、こういった。

 

 

「ありがとう、俺を見つけてくれて。―――フォースが共にあらんことを」

 

 

そう満足そうにモールは、自らの腕を、ライトセーバーで切り落とした。

 

「やめろおおおおおお!!!!!」

 

モールは俺を見上げたまま排気ダクトに落ちていく。俺の叫び声が遥か底へと続くダクトの中に響く。彼の体は小さくなって、やがて見えなくなった。

 

響いていたはずの俺の声は、もう聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

 

 



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クローン大戦
ドゥークー伯爵がオーダーを抜けたのってナブーの事件の2年後なんだって


 

「共和国の崩壊は、もはや時間の問題なのだよ。ドゥーラン」

 

真っ白な部屋の中で、ゆったりとした椅子に腰掛ける白髪の男性が、そう語りかけてくる。俺は意識を研ぎ澄ましながら、語りかけてくる男をじっと見つめた。

 

「私は、君より遥か昔からジェダイとなり、マスターヨーダから教えを受け、クワイ=ガンを育てた。そして同時に、共和国とジェダイの腐敗を目の当たりにしてきたのだよ」

 

彼の名はドゥークー。

 

ヨーダのパダワンとして修行を積み、一人前のジェダイになった彼は、マスターであるクワイ=ガン・ジンを弟子にとった。

 

しかし彼は銀河共和国政府にはびこる汚職に幻滅し、ジェダイ・オーダーを脱退していた。

 

「政治家の腐敗は、たしかに安定的な共和国の運営があったからこそです。マスタードゥークー」

 

俺はそんな彼と会話を重ねていた。

 

おそらく、〝なるべくしてなった道〟に彼は立っているだろうが、共和国の濁った目を憂いる気持ちは本物だったからだ。

 

俺の言葉にドゥークーは頷く。

 

「いかにもだ。だからこそ、変革が必要なのだよ。もはや共和国もジェダイも、腐敗や慢心を生み出す発生装置にすぎん」

 

「しかし、貴方が行おうとすることは世界を急変させます!急ぎすぎた変化は人々を置き去りにし、不安と、混乱、争いを呼びます!」

 

〝彼ら〟が起こそうとするのは大規模な争いだ。それも銀河全体を巻き込んだ途方もない戦い。

 

たしかにジェダイの思考停止な流れや、汚職にまみれ腐敗の苗所となってしまっている現状を打破する必要はある。だが、急ぎすぎた変化に人は付いてこれない。

 

共和国が今の繁栄を築くまで1000年以上も掛かったのだ。それを再構成するというなら、もっと時間をかけなければならないはずだ。

 

「故に、争いが必要なのだよ」

 

ドゥークーははっきりとした声でそう言った。

 

「わかるか?ドゥーラン。そうしなければ、変化の前譚にもならんのだ。そこまで世界は腐り果てている」

 

たしかに緩やかな変化で良い方向に変われるならいい。しかし、それにどれだけの月日がかかる?それで味を占めた者たちの目が本当に覚まされるのか?

 

ドゥークーはその答えを見つめ続けてきた。故に、ジェダイオーダーを離れたのだ。

 

「フォースのバランスを保つ時、ジェダイも人々も多くの血を流したのだ。その時がもう来ようとしている」

 

「しかし、変えられるはずです。未来は」

 

「予知として最善な未来を望むからこそ、それが腐敗の発生源になるのだ。マスターヨーダや、マスターウィンドゥは、この腐敗を断ち切らんと立ち上がろうとしているのかね?」

 

その言葉に、俺は何も言えなかった。

 

ただ、マスターたちは言うだけだ。

 

〝争いになってもジェダイにはどうすることはできない。我々は兵士ではないのだから〟と。

 

ジェダイは兵士ではない。フォースを通じて、秩序と平和をもたらすものだと。

 

しかし、そんなもの、とうの昔に破綻している。自分たちジェダイが真に秩序と平和をもたらすと言うならば、汚職も、分離主義者による争いも起きないはずだ。我々は兵士ではないと言葉に出している段階で、多くのジェダイは不変という諦めを抱えていることに違いはないのだ。

 

「君の無言が答えだよ、ドゥーラン。すべてはバランスを保つための手段だ」

 

「ですが!そのために多くの…多すぎる血が流れます!!」

 

俺は座っていた椅子から立ち上がり、瞑想するように座禅を組むドゥークーに向かって叫んだ。俺たちが傷つくのはいい。それは覚悟の上だ。しかし、何も関係のない人たちはどうなる?何も知らない無垢な人を平然と巻き込むことこそ、真に邪悪なことではないか?

 

「それを防ぎたいのなら、一刻も早く世界を変えることだ。私と共に来るのだ、ドゥーラン」

 

彼はそう言って、俺に向かって手を差し伸べる。

 

「君のような賢者は、ジェダイにいるべきではないのだ。クワイ=ガンや、オビ=ワンと共に、私のもとへ来い」

 

俺はしばし言葉を探った。たしかにそれが一つの道かもしれない。〝遠からずジェダイは滅ぶ〟。外界から来て、その未来を知っている以上、ドゥークーの言葉こそが痛烈に胸に刺さり、真実に近い言葉に震える。

 

しかし、だ。

 

「――マスタードゥークー。俺はジェダイです。俺の役目は、世界の秩序とフォースを通してそれを伝え、平和を守ることにあります」

 

俺は確固たる意志のもと、座るドゥークーへ、そう告げた。ほんのわずかな静寂が俺とドゥークーの合間に横たわる。

 

「それが、偽りで塗り固められた平和であったとしても?」

 

「その偽りを、本物に変える力がフォースにはあると、俺はまだ信じてます」

 

彼は真っ直ぐとした目で問いかけ、俺もまたドゥークーを真っ直ぐに見据えたままその問いに答えた。

 

俺が信じるのはジェダイでも、ジェダイマスターや評議会でも、ましてや元老院でもない。

 

フォースは語りかけてくる。

 

いついかなる時も。

 

モールの心の壁を開いてくれたように、どんな時でもフォースは流れ、その意思は読み解くことができるのだ。

 

―――たとえそれが、どんな相手であったとしても。

 

ドゥークーはしばし考えるように瞑目してから、心底残念そうに息をついて座禅を解いた。

 

「よかろう。ならば、君は君の納得いくまで自分の道を行くがいい」

 

彼は立ち上がると、白い霧の中へと消えてゆく。俺の視界の外へとゆっくりと歩いていく彼の背中は、霧によって閉ざされていく。

 

「だが、覚えておきたまえ。君は必ず、〝私の側へ〟来る。よく、覚えておきたまえ。ログ・ドゥーラン」

 

その言葉だけが脳内に響き渡る。

 

俺はジェダイ寺院の中でフォースとの共感を高めるために瞑想していた目を開いた。

 

 

 

 

 

 

瞑想室から出た俺はため息を吐く。

 

ナブーでの戦いから10年。

 

1000年ぶりとなったシスとの戦いで、ジェダイオーダーは浮き足立っていた。

 

警備網は強化され、ジェダイのパダワンたちへの教えも一層厳しくなり、ジェダイが担う任務も外交や交渉よりも、最も危険なネゴシエーションや、内情調査などが増え、任務に殉じて死亡する者も増える一方だ。

 

そんな中。

 

共和国とジェダイの腐敗を憂いて、ジェダイオーダーを脱退し、歴史の表舞台から姿を消したドゥークーが、銀河系各地の宙域で政治不安を煽っているという噂が流れた。

 

亡命したドゥークーがジェダイ・オーダーの下部組織を創っているのではないかという噂も流れる中、彼はオーダー脱退から8年間の間に、ラクサス星系のホロネット基地を乗っ取り、劇的に銀河社会に復帰したのだ。

 

その際、彼は政治腐敗の温床となっている共和国を非難し、分離主義者の活動を後押しする扇動的なスピーチをホロネットに発信した。

 

共和国を苦しめていた政情不安は激しい分離主義運動に発展し、何百という宙域が共和国が主体である銀河政府から離脱した。

 

ドゥークーはヤグデュルやスルイス・ヴァンも味方につけ、銀河系の南部に分離主義者支配の土台を築き上げた。

 

分離主義勢力に組した星系や企業は、ドゥークー伯爵のもとで独立星系連合を形成したのだ。

 

そんな相手の内情調査を言い渡された俺は、フォースの瞑想によるドゥークーとのコンタクトを幾度も試みていたが、結果は芳しいものでは無かった。

 

彼は本気だ。

 

劇中では利益と理想を求める悪役として登場した彼だが、接してみて本当に分かる。

 

彼は本気で、この腐り切った共和国と、堕落したジェダイオーダーを滅ぼし、新たなる秩序を作り上げようとしている。

 

「精が出るな、マスターログ」

 

瞑想でドゥークーと会話し、疲れ果てていた俺の後ろから、すっと影が差し込んできた。咄嗟に昂りそうになるフォースの感覚を何とか抑えながら、俺は振り返って声をかけてきた相手に目を向ける。

 

「パルパティーン…議長…」

 

惑星ナブー代表のパルパティーン元老院議員。

 

それは表向きの顔であり、本来の彼はダース・シディアス。

 

銀河元老院最高議長の座を手に入れるためにナブー危機を引き起こし、ジェダイ・オーダーを離れたドゥークー伯爵をシス卿“ダース・ティラナス”として弟子に取った。

 

表向きの姿である「パルパティーン最高議長」の権力を増大するために、今はドゥークーが主導で行なっている分離主義運動も、彼とドゥークーによる茶番劇に過ぎないのだ。

 

「また瞑想室に篭っていたのかね?」

 

白々しく語りかけてくるパルパティーンに、俺は一切の感情を殺した上で、笑みを作り上げて答えた。

 

「自分は、マスターではありませんよ。ジェダイナイトです」

 

「そうかね?私から見れば、君は立派なマスターだ。しかし、ふむ。実におかしいことだ。なぜ評議会は君をマスターにしない?」

 

まるで精神を直接撫で回すような言葉だ。アナキンにパルパティーンが接している時、アナキンは本当の家族と触れ合うような無防備さでパルパティーンの言葉を聞いてるが、その気持ちがよくわかる。

 

彼の言葉は甘く、優しく、そしてどこまでも入り込んでくる危険さを持っているのだ。

 

怖えよ。何平然とラスボスと話す機会がポンポンポンポン出てくるんだよ。

 

俺は内情で震える自身をため息と共に追い出しながら、そう言ってきたパルパティーンへ自分なりの答えを出した。

 

「俺を恐れているからです」

 

「ほほう。そういう割には冷静な声だな?」

 

「わかってます。自分のことですから」

 

「ナブーでシスの暗黒卿を助けようとしたことか?」

 

その言葉を聞いて、俺はパルパティーンの目を見た。フォースを研ぎ澄ましても彼に揺らめきはない。

 

弟子であったモールをシスから切り離した上に倒したのだ。怒り心頭で俺のことを見つめているかと思っていたが、パルパティーンには怒りなどなかった。どこまでも平坦なフォースが彼から感じられる。

 

いや、揺らめいているのは自分か。

 

俺はあの一件から、ジェダイオーダーから危険視されるようになった。予言の子だとマスタークワイ=ガンが連れてきたアナキンよりも、だ。

 

ジェダイにとってシスは宿命の敵だ。そんな相手に情けをかけるどころか、対話を試みるなど、ジェダイの騎士としてあってはならない行動だと、俺は激しく責められたのだ。

 

マスタークワイ=ガンや、ナイトに昇格したオビ=ワンからも、励ましの言葉は受けているが、上がそう考えている事実は変えられない。

 

「マスターたちが恐れているのは君ではない。君がもたらす変化だ。ジェダイとは特に保守的な存在だからな」

 

そう笑みを浮かべて言ったパルパティーンに、俺はジトっとした目を向ける。

 

「…貴方がそれを言いますか」

 

「ああ、そうだとも。マスターログ。故に変化は必要なのだ」

 

さすがは元老院最高議長だ。言うことはハキハキとしてらっしゃる。内部からも外部からも、自分の都合の良い方向へ物事を持っていこうとする彼だ。

 

ならば、聞こうではないか。

 

「…シーヴ・パルパティーン議長。ならば教えて頂きたい。貴方はどうやって世界を変えるのですか」

 

声に真剣味を帯びさせ、俺はパルパティーンにそう問いかける。言葉を聞いた途端、彼は浮かべていた張り付いたような笑みをやめて、ゆっくりと俺の下へと近づいてくる。

 

そして耳元へ口を近づけて、俺にしか聞こえない小さな声で呟く。

 

「―――それを知りたければ、君も踏み込むことだ。心の奥底で感じている、君自身の言葉にな」

 

背筋を冷たい何かで撫でられるような感覚が俺に走った。ハッと俺は彼の顔を見ると、パルパティーンの表情はさっきまでと同じく張り付いた笑みが戻っていた。

 

「さて、独立星系連合の脅威から、今は軍隊創設法案に関する話し合いが行われようとしている。君と私の友人であるアミダラ議員は、この法案に声高に反対した議員のひとりだ」

 

淡々と語るパルパティーンは俺の横を歩いていく。

 

「そんな彼女に危機が迫っているという。投票日当日になって彼女の命を狙う暗殺が行われるかも知れんな。連絡は追ってくることになるだろう。君の未来に期待しているよ。マスターログ。フォースが君と共にあらんことを」

 

そう言って去って行くパルパティーンに、俺は何も言い返せなかった。

 

「…ハァっ!!ハァっ…ハァ…」

 

彼の気配が完全に途切れるまで意識が張り詰め、彼が居なくなってから思い出したように呼吸を再開する。

 

あの感覚。

 

タトゥイーンで初めて味わった強大な〝何か〟。

 

その何かに心臓を鷲掴みにされたような…そんな嫌なプレッシャーが、いまだに俺の中に残っている。

 

俺は咄嗟に伸びたライトセーバーに掛かる手の力を解いて、パルパティーンが去っていった通路の先を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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ジェダイカースト最下位ですが何か?

 

 

最悪だ、くそったれ。

 

評議会からの指示を受けて、元老院議会に参加するためにコルサントへ訪れたアミダラ議員の出迎えに向かった俺は、船が降り立ち、アミダラ議員が船から降りてきた直後に起こった爆発に巻き込まれた。

 

くそ!なんたる体たらく!!

 

たしかに序盤でアミダラ議員が着陸した直後を狙って爆発が起こっていたのは覚えていたが、それを思い出したのはたった今という、何とも言えない不甲斐なさだった。

 

タラップから降りてきていたアミダラ議員の替え玉であるコーデをフォースで手繰り寄せはしたが、護衛の二人や外交船のクルーたちはダメだった。

 

俺は胸の中に収まったコーデを抱きとめながら、轟々と燃え盛るナブーの外交船を見つめた。

 

「戻ってくるべきではありませんでした」

 

その船を見つめていた俺の隣で、悲壮感に満ちた顔で呟くパイロットスーツ姿の女性。彼女こそが、ナブーのアミダラ議員だった。

 

硬直するコーデに一礼して、俺もアミダラ議員へ言葉をかける。

 

「議長の嫌な予感が当たったというところ…ですかね」

 

「お久しぶりです、ドゥーラン。しかし、私はそれ以上の恐怖を感じて仕方がないのです」

 

そう真剣な眼差しで告げるパドメに、俺は首を傾げる。くる答えはすでに思い出していた。

 

「ドゥークー伯爵が背後にいると、私は感じます」

 

銀河を二つに分かつ壮絶な「クローン戦争」が、すぐそばまで近づいていた。

 

 

 

 

 

 

「投票をどれだけ延期できるかは分からんのだ、友よ。多くの星系が次々と分離主義勢力に加わっているのだ」

 

心にも無いことを言うものだと、シディアスは「有能な政治家であるパルパティーン」の仮面を被りながら、目の前にいる多くのジェダイマスターたちを見つめていた。

 

彼らは能力はあったが、未来を見据えるあまり、物事の行先を見つめることを怠っている。故に今のような状況に陥っている。

 

「1,000年続いたこの共和国を2つに分かつことはできない。交渉は必ず成功させる。話し合いで、な」

 

ドゥークーと自分の猿芝居ということにすら気づかずに、マスターたちは本気で未来に対して思い悩んでいる。それがシディアスにとっては愉快で仕方なかった。マスターと名だたる多くのジェダイが、今や自分の掌の上だ。

 

「決裂した場合、ジェダイだけでは共和国を守りきることはできませんぞ。我々は平和の守護者であって、戦士ではないのです」

 

マスターウィンドゥのセリフが今のジェダイの思考停止具合を物語っていた。彼は自らが平和の守護者だとのたまっている。故に気づかぬのだ。見えざる脅威が、すでに彼らの首筋に手をかけ始めていることすら。

 

しかし、シディアスはまだ気を抜いていない。気を抜くわけにはいかなかった。そんな意識を切り替えるように、彼はジェダイで最も知恵を持っている存在へと話を振った。

 

「マスター・ヨーダ、本当に戦争になるとお思いですか?」

 

マスターヨーダは杖をしたたかに打って、未来へのフォースの共感を試みるが、その先にあるのは暗雲漂う幻惑だけだった。

 

「ふむ。ダークサイドがすべてを曇らせておる。不可能じゃ、未来を見ることはな」

 

この場で、すでにシスの勝利は揺るぎないものとなっていた。仮面の奥底でシディアスはしたたかに笑う。時代が、フォースが、まるで自分を後押ししてくれるように世界が動き始めているのだ。

 

もはや、ジェダイオーダーなど恐るるに足らず。仮に自分が倒れても、シスの勝利は揺るぎないものになるだろう。

 

しかし、足りない。

 

1000年の恨みはこの程度では足りないのだ。

 

もっと苦しめ、もっと破滅に追いやり、ジェダイの痕跡をこの銀河から消し去らない限り、シディアスの魂に刻まれた恨みは消えることは無いのだ。

 

そんな思考の中で、議長専用の部屋の扉が開いた。奥から現れたのは、正装へと身支度を変えたアミダラ議員と、ナブー有権者の面々。

 

そして、彼の顔を見て、シディアスは心の奥底で笑うことをやめた。

 

「アミダラ議員、あの発着場での悲劇は恐ろしいことじゃ。そなたの無事な姿を見て心がほっとしたわい」

 

マスターヨーダは、アミダラ議員〝だけ〟に意識を向けて語りかける。言葉を交わすマスター陣営の全員がそうしていて、彼女の背後で待機するジェダイナイトには一切の視線すら向けようとしない。

 

「私はドゥークー伯爵が背後にいると思っています」

 

「彼は政治的理想主義者であって、殺人者ではありません。議員も知っての通り、ドゥークーはかつてジェダイでした。暗殺など行うはずがありません。彼の人格に反します」

 

そう断言するマスターに、シディアスは小さな失笑を漏らした。見てみたまえ、アミダラ議員の背後にいるジェダイを。

 

彼ははっきりと分かっている。ドゥークーは自分たちが知っている存在からかけ離れていることを、彼は充分に理解していた。

 

にも拘わらず、マスターたちはジェダイのあり方に疑念や疑いすら覚えない。自分たちの見ていないところでドゥークーがどうなっていようが、ドゥークーがジェダイであったという過去が彼らにとっての全てだった。

 

全く以って下らない。

 

吐き気を催すほどの無頓着さだ。

 

「マスター・ジェダイ、議員をあなた方の保護下においてはいただけませんかな?」

 

その時、シディアスの中でほんのわずかな心が働いた。他の議員や、アミダラ自身の抗議の声があったが、シディアスにとってはそんなもの聞くにも値しない戯言だ。

 

「状況は深刻ですぞ?私はそう思いますな、議員。警備が増えればあなたにとって窮屈になることは十分に分かっています。しかし、仲のよい人物ならどうですかな?そう、旧友の―――マスター・ドゥーランのような人格者が、ね?」

 

そう言い放って、マスターたちはようやく発着場から彼女の警護にあたっていたジェダイナイト、ログ・ドゥーランへ意識が向いた。

 

ドゥーランはマスターたちの視線を受けながらも、身動ぎせずに自身の職務を全うしているように見えたが、シディアスにはハッキリと感じ取れた。

 

彼のフォースの揺らめきを。

 

「―――ドゥーランはまだナイトです、議長。彼を警護に付けるわけには行きませんが……確かに名案です。友人であるケノービなら、ちょうどアンシオンの国境紛争から戻ってきたところです」

 

シディアスは笑みを浮かべる。

 

彼らは気づかぬのだ。ドゥーランという男が如何に賢者であるかということを。故に、ジェダイという不安定な枠組みで爪弾き者に仕立て上げる。次は何をする?ジェダイから追放か?どうぞ、やってくれ。やってくれれば、彼の暗黒面の扉が随分と開きやすくなる。

 

彼の精神力は、シディアスですら驚くほどの強靭さを持っていた。

 

幾度となく仕掛けた罠にも掛からず、彼はジェダイ……というよりも、フォースとの対話をやめようとはしないのだ。まさに称賛に値する逸材。怒りや自尊心、欲望や権力にすら目を向けず、彼はひたむきにフォースと向き合っている。

 

フォースとは、この世の全てだ。

 

フォースがあるところに我々はいる。

 

我々がいるところにフォースがある。

 

怒りや支配に傾倒するシスでも、フォースとの共振は切っても切れない手段だ。

 

ジェダイはフォースと一体化し、シスはフォースを支配する。

 

だが、どちらとも決定的にフォースと共感などしない。

 

フォースに身を任せると言っても、それは一時的なものだ。フォースを通して感じる人への感覚を、ジェダイは相手を惑わすことにしか使わない。シスも同じくだ。

 

だが、彼は違う。

 

彼はこじ開けた。我が弟子の空っぽの心を。そして気付かせたのだ。我が弟子にない全てを。それを知った時、シディアスは愉快で仕方がなかった。

 

素晴らしい!なんとも素晴らしい!

 

この時になって、素晴らしい素質を持つ存在を二つと見つけることができるとは!!

 

アナキン・スカイウォーカー。

 

ログ・ドゥーラン。

 

とても魅力的だ。とても欲しい逸材だ。

 

彼らのどちらかを暗黒面に引き摺り込むことができれば、我が思い描く帝国は盤石のものになるだろう。

 

そうだ。

 

どちらか、片割れで構わない。

 

シスは常に、二人。

 

三人目のシスは必要ないのだ。

 

だから、彼らのどちらかが、シスの前に立ち塞がるというならば―――。

 

深い思考の中で、シディアスは笑みを終えて、改めてアミダラ議員の下へと視線を向ける。

 

「お願いしますよ、議員。よろしいですね?あなたを失うようなことがあれば…耐え難いことだ」

 

なんとも、便利なものだ。人への愛を演じるということは。シディアスはそれに納得してくれるアミダラ議員を滑稽に笑った。彼女を護衛するのはどちらでも構わない。彼女の身に起こることが、この物語の始まりとなるのだから。

 

「オビ=ワンにすぐに連絡させますよ、議員」

 

「ありがとう、マスター・ウィンドゥ」

 

そう会話を交わして部屋を後にするアミダラ議員の後ろ姿を見送るパルパティーン。そんな議長に、この部屋の中で何も語らなかったドゥーランは一目むけて、何か言いたげな視線だけ流すと、足早に部屋を後にする。

 

扉が閉まっていく隙間の中に映ったパルパティーンの顔は、深く笑みに包まれていた。

 

 

 

 



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ジャージャーが実質のナブー要人のNo.2って正気か?

たぶん今年最後の投稿です。

皆さん、来年もフォースと共にあらんことを




 

惑星コルサント。

 

ギャラクティック・シティにそびえ立っていたジェダイ・オーダーの寺院。

 

この建物はジェダイ・テンプル(聖堂)と呼ばれ、銀河系各地に築かれたジェダイ寺院の中で最も機能しているジェダイの本拠地だ。

 

ジェダイ・テンプルは5本の尖塔から成り立っている。

 

中央にある最大の塔は、ジェダイにとって最も神聖な場所であるテンプル・スパイア。

 

残りの4本は“評議会の塔”と呼ばれる塔だ。

 

テンプルが果たした主な役割は3つ。

 

ジェダイがフォースの意思を汲み取るための修道院。

 

ジェダイ・イニシエイトやパダワンがジェダイ・ナイトになるための学舎。

 

そしてオーダーの意思決定機関であるジェダイ最高評議会の本部として機能していた。

 

またテンプルには銀河系最大規模の情報保管施設であるアーカイブがあり、貴重なホロクロンもここに保管されている。

 

「随分と荒れているな?フォースの揺らめきが見えるぞ?」

 

塔から下へ降りる昇降機の中に居た俺は、目的の階の間で乗り込んできた人物に声をかけられた。

 

「マスタークワイ=ガン、マスターキット…」

 

振り返った先にいたのは、別の任務から帰還したばかりのマスタークワイ=ガンとマスターキット・フィストーだ。そしてマスターキットの傍には彼と同じ人間とは違う種族のパダワンがいる。

 

「ドゥーラン、紹介しよう。私のパダワンであるナダールだ」

 

「はじめまして、ジェダイナイト・ドゥーラン。噂は予々」

 

動き出した昇降機の中で、パダワンであるナダールが俺に視線を向けてくる。その目には明らかな嫌悪感…敵意にも似た眼差しがあった。

 

慣れたものだ。全く。

 

シスの暗黒卿とフォースの感覚を共有しただけでまるで異端者扱いだ。この10年間、俺はこの視線に晒され続けた。唯一しなかったのは、あの現場にいたマスタークワイ=ガンと、オビ=ワン、そして今でも話を聞いてくれるマスターキットくらいだ。

 

師であるマスターウィンドゥからは、ぶっちゃけて言えばほぼ見放されていると言ってもいいだろう。彼にとってシスとは絶対悪であり、シスとの交流を図った俺にも少なからずの暗黒面へ通ずる扉があると解釈されてしまっているようだ。

 

「君の立ち位置は、私も理解しているつもりだ。だが今は耐える時だ、友よ」

 

「わかってますよ、マスタークワイ=ガン」

 

「私は君が正しいと思っている。君のフォースに対する感覚は、私たちのそれと一線を画しているからな」

 

そう言って肩に手を置いて微笑んでくれるマスタークワイ=ガンに、俺は何度も心を救われている。四六時中、針の筵のような視線に晒され、しかも任務も振られずにただテンプルにいるだけなんて、拷問より酷いものだ。

 

おかげでこの十年間のほとんどをライトセーバーの鍛錬とフォースとの共感の瞑想に費やした。一歩間違えればフォースと一体化できるまである。

 

ささくれた心を優しく癒してくるクワイ=ガンの言葉に、正義感の塊のようなパダワン、ナダールが食ってかかった。

 

「マスタークワイ=ガン、お言葉ですが、ジェダイとしてシスを見逃した彼の感覚を、私は正しいとは思えません」

 

「よさないか、ナダール」

 

「彼は間違ってる!故にマスターたちは今のような立場に」

 

「確かに、俺は間違ってるのかもしれません」

 

ナダールの捲し立てるような言葉を遮って、俺はマスタークワイ=ガンと、マスターキットに向かってそう言った。

 

確かに、ジェダイとしての在り方の中で、俺は異端だ。そんなもの、はっきりと分かっている。俺自身が、一番よく思い知らされている。

 

シスの暗黒面と心を交流させ、フォースを通じて意識を通わせた。それが如何に危険な行為なのか。それが如何に無謀なのかも分かっている。一歩間違えれば、俺が〝モール〟になっていたのかもしれない。

 

けれど…。

 

「間違ってるからと…フォースとの対話をやめてしまったら、俺の今までを裏切ることになる」

 

俺はずっと、それを信じてきた。初めてライトセーバーを握ったあの時から。初めてフォースを感じたあの瞬間から。ずっとずっと、フォースを信じてきた。

 

フォースを疑ってはならない。

 

フォースは全てにあり、全てにフォースがある。

 

ならば、そこに〝差別〟は介在しないのだ。ジェダイとシス。二つの極地に共通しているのは〝フォース〟だ。それを通じて力を受けるか、支配するかの違いであるが、フォースに触れる以上、そこに共鳴を要求されるのは避けれない事実だ。

 

「ナダール、君はシスを悪と言ったな?」

 

「はい、滅するべき忌むべき存在です」

 

俺の質問に、彼は真っ直ぐとした目で答える。ジェダイの正義感や、倫理観に従った優秀なパダワンだ。だからこそ、俺はあえて聞いた。

 

「なら、仮にだ。君のマスターや他のジェダイが暗黒面に堕ちたら、君はどうする?」

 

「えっ…」

 

フォースが揺らめいた。その空間には、俺とナダールしか居ないように思えるほど、あたりは静まり返っている。俺は無意識に、意識を鋭くしていた。

 

「勝てるか?戦えるか?」

 

自身が師事する相手、自身が大事だと思える相手、自身の知る誰かが…暗黒面に堕ちた時、君はその相手を〝殺せる〟か?

 

ジェダイはその迷いすら断ち切るために、家族から素質あるものを切り離し、ジェダイとして訓練させる。だが、その教えをする者が暗黒面に堕ちた場合なら?

 

「私は…」

 

ナダールは初めて言葉に詰まった。

 

そしてイメージする。

 

自身の師であるマスターが、真っ赤なライトセーバーを持って自分の前に立ちふさがるイメージを。

 

ナダールは手が震えていることに気付いた。足も、呼吸も。まともに機能していない。まるで、どこか寒い場所へと押し込められたような息苦しさを感じる…。

 

恐怖だ。

 

恐怖がナダールを包み込んでいる。

 

ダメだ…そんなこと…ダメだ…ダメだダメだ!!

 

「その揺らめきに、目を向けることを躊躇うな、ナダール」

 

その恐怖による寒さの中で、ナダールの肩に俺は手を置いた。冷え切っていたナダールのフォースが、俺の手を中心に暖かさを取り戻していく。

 

その躊躇いに、迷いに、目を向けることをやめれば、そんなものジェダイなど…ましてや平和の守護者などと言える存在ではない。

 

「自分の想いに目を背けること…そんなもの、機械やドロイドと同じだ」

 

そう伝えると、ナダールは震える手を握りしめて視線を落とす。ナダールが感じた感覚こそが、フォースの暗黒面に通ずるものだ。それから目をそらせば、いつしか大きな痛みを…大きな損失をもたらすことを、自分たちは分かっていないといけない。

 

それを受け止めて、共に歩くことが、俺の信じるジェダイの道だった。

 

「俺はそれを辞めたくないんです、マスター」

 

真っ直ぐとマスタークワイ=ガンと、マスターキットを見つめる俺に、二人はしばらく考えたあとに、俺の両肩に手を置いた。

 

「ドゥーラン。私は君に伝えた。君の心を信じろ、君自身の在り方を信じろとね」

 

「君は君の信じる道を行くことだ。フォースは君を導いてくれるはずだ」

 

微笑んでくれる二人のマスターに、俺は心からの礼を込めて頭を下げた。昇降機の扉が開くと、そこにはジェダイ専用の港が広がっている。

 

「我々はコルサントを離れる。君の無事を祈っているよ」

 

ナダールを連れて降りていく二人のマスターに、俺は祝福と無事を祈る。マスターたちも、その心に気づいたのか、ジェダイらしい笑みを持って言葉を投げる。

 

「フォースが共にあらんことを」

 

「フォースと共に、マスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我々がここにいるのはあなたをお守りするためです、議員。捜査のためではありません」

 

コルサントのアミダラ議員が滞在する建物で合流したジェダイナイト、オビ=ワン・ケノービは、事件の真相を求めるアミダラ議員にそう回答する。だが、彼のパダワンであるアナキン・スカイウォーカーの思いは違っていた。

 

「君を殺そうとしているやつは見つけ出すよ、パドメ。約束する」

 

そう言って熱のこもった目をするアナキンを諫めるように、オビ=ワンはパダワンへ視線を向けた。

 

「命令を逸脱してはならんぞ、若きパダワン見習い」

 

「もちろん彼女を守る過程で、という意味ですよ、マスター」

 

「口答えは許さんぞ、アナキン。私の教えに注意を払うんだ」

 

「なぜです?」

 

当然のように言うアナキンに、オビ=ワンは呆気に取られたような表情をしたまま固まった。そんな師に、アナキンは自身の思っていることを簡潔に述べた。

 

「犯人を捜さないのなら、なぜ我々ジェダイが彼女のもとにいるんですか?守るのはジェダイではなく警備隊の仕事です。やり過ぎです、マスター。捜査も我々の任務の一環です」

 

確かに、議員に危機が迫っていると言うなら警備員を増やし、セキュリティを何重にも強化すればいいだけの話。もっと言えば、アミダラ議員を元老院専用の宿舎に入れてしまえばいいものを、彼女はいつも利用しているナブーの宿舎で寝泊りすると言う。

 

ジェダイを出すにはあまりも短絡的であるとは思うが…。

 

「…我々は評議会の指示通りに動くだけだ。自分の立場をわきまえろ」

 

アナキンとは違って、余計なことを考えないオビ=ワンはそう言うだけだった。

 

感情に直線的な思考をするアナキンと、普段は理性と論理をもとに行動するオビ=ワンとの決定的な違いであり、アナキンが不満に思う点でもあった。

 

まぁ二人でガンダークの巣に落ちたときは、さすがのオビ=ワンも本能的に行動して危機を乗り越える時もあったが。

 

「まぁまぁ…。おそらく、あなた方がいてくださることで、この脅威を取り巻く謎も解明されることでしょう。ではよろしければ、休ませていただきます」

 

そう断って、パドメは寝室がある場所へと向かってゆく。警備隊長らも持ち場に着き、アナキンとオビ=ワンは大きなホールにポツンと佇むことになった。

 

「ミーはまた会えて幸せね、アニー」

 

ナブーの要人となったジャージャーも、目に見えて顔色が悪いアナキンを励ますように声をかけて、昇降機があるホールの奥へと消えていった。

 

「彼女は僕のことが分からなかったよ、ジャー・ジャー。別れて以来、僕は毎日彼女のことを考えていたのに、彼女は僕のことを完全に忘れていた」

 

小さく、けれど悲壮感に満ちた声でそういうアナキンに、オビ=ワンは優しい目を向けて語りかける。

 

「お前は否定的に考えすぎだ、アナキン。心配するな。彼女は再会を喜んでいたぞ?」

 

「でも僕は―――」

 

「相変わらず女々しいことを言うな?スカイウォーカー」

 

悲壮感が突き抜けそうだったアナキンと、オビ=ワンの後ろから声がかかった。二人が振り返ると、数週間ぶりに顔を見たジェダイナイトが、悠然とこちらに歩いてきているのが見える。

 

「ドゥーラン」

 

げぇっ!と言いたげなアナキンの声に苦笑しながら、オビ=ワンは友との再会に握手で応えながら問いかける。

 

「どうしてここに?」

 

「アミダラ議員の囮役をやっていた女性を助けてね。警備隊長から感謝の言葉を伝えたいと連絡があったからさ。ああ、入場確認はジャージャーがやってくれたよ」

 

といっても、昇降機のホールで〝やぁ、ロニィ!アニーとオビーなら、この通路の先にいるね!ミーは疲れたから寝るよバァイ〟と言ってすれ違った程度だけど、とログが伝えると、オビ=ワンはなんとも言えない風に、顔を手で覆った。

 

「僕がなにを言おうが、あんたには関係がないだろ?ドゥーラン」

 

明らかに不機嫌さが増したアナキンに、ログは意地悪な笑みを浮かべてアナキンに視線を向ける。

 

「ほほう?すでにジェダイとしては俺より上だと?ライトセーバー戦では500戦500敗中の君が?」

 

「489戦中489敗だっ!!」

 

「オビ=ワン、彼のライトセーバーの腕は上がったのかい?」

 

テンプルで会うたびに突っ掛かっては訓練の模擬戦をして、ボコボコにやられるパダワンの成長ぶりを聞かれると、オビ=ワンは肩をすくめながらとぼけた。

 

「才能に見合った時間をスピーダーやポッドの操縦に向けているからな。その時間をセーバーテクニックに掛けていれば、マスターヨーダ並みの使い手になれたものを」

 

「もうなってますよ」

 

自尊心と慢心の塊のような顔をしながらオビ=ワンの言葉に反発するアナキンに、ログはため息を吐いた。

 

「なら、俺に勝ってから言うんだな。若きジェダイ」

 

「お前より身長は勝ってる」

 

「身長のことを引き合いに出すか?お?死ぬ覚悟は出来てるんだよな?」

 

今にもライトセーバーを抜いてバトルしそうな雰囲気に、さすがのオビ=ワンも仲裁するように間に入り込む。

 

「久々の再会なんだ。そういうことは…」

 

その時だった。

 

何か、嫌な揺らめきを感じる。

 

気がついたらログは走り出していた。

 

「マスター!」

 

「私も感じた」

 

そのあとにアナキンとオビ=ワンも続く。

 

パドメに断りなく部屋に突入したログとアナキンが、彼女のベッドにいた猛毒の生命体をライトセーバーで切り刻むと、二人の側にいたオビ=ワンが、窓の外にいる浮遊ドロイドに向かって飛びついた。

 

「おいいい!!命令を逸脱するなって言ったの誰だよ!?」

 

パドメを護衛するはずなのに、真っ先に真相と関わりありそうなドロイドに飛びつき、コルサントの夜景の中に消えていくオビ=ワンへ叫ぶログと、呆れた様子でスピーダーを取りに向かうアナキン。

 

ログもすぐにアナキンの後を追う。

 

その後、夜のコルサントの交通網に混乱を引き起こした上に、命令違反を犯したログとオビ=ワンとアナキンは、評議会にこってり絞られたあと、新たな任務を言い渡されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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愛と誠って人類の真理だよね

前回が今年最後と言ったな?

アレは嘘だ。

これが今年最後です。では皆さん良いお年を

フォースと共にあらんことを








 

ナブーの湖水地方へと身を隠すことになったパドメは、護衛のアナキンと共に湖水地方にある別荘から雄大なナブーの自然を見渡していた。

 

「ここには学校が休みのときによく来たわ。毎日あの島まで泳いだの。水は大好き。砂の上に寝そべって、太陽の光で乾かすのよ。そして、鳴いている鳥の名前を当てっこしたわ」

 

バルコニーに手をかけながら、パドメは美しい風景と一体になるように、燦々と煌く木漏れ日の中でアナキンにそう言葉を渡す。

 

そんな彼女に見惚れていたアナキンは、ひと拍子遅れてパドメの目を見つめた。

 

「僕は砂は嫌いだな。ザラザラしていて邪魔で不快で、どこにでも入ってくる。ここのとは違うよ。ここではすべてが柔らかくて滑らかだ」

 

アナキンは熱のある瞳をパドメに注ぎ、なでやかな彼女の髪の毛に指を通し、その香りを楽しむ。

 

全てが愛おしい。

 

全てが眩しい。

 

その時のアナキンの情熱の全てはパドメだった。

 

どこまでも穏やかだった。どこまでも静かで、どこまでも安らぎがある。永遠とも思える中で、パドメもアナキンを見つめる。

 

二人の熱は火となり、お互いの火が絡まり合って、激しく胸を締め付け、気持ちを火照らしてゆく。このまま何もかもの縛りから解き放たれて―――。

 

「んんっ」

 

そんな時の中に、咳払いが差し込まれた。ハッと止まったパドメとアナキンが向けた視線の先には、二人分の荷物を両手に持ったログが、困ったような顔をして二人を見つめていた。

 

「あー失礼、パドメ。荷物はどちらに?」

 

「え…ええ、使用人を呼んできます」

 

アナキンの肩に指を走らせ、名残惜しそうに彼のそばを離れるパドメ。議員である毅然とした理性が彼女にそうさせているのだろう。ログは両手いっぱいに抱えた荷物を置くと、不満そうに景色を眺めるアナキンの下へと向かう。

 

「スカイウォーカー」

 

「なんです?貴方も言いますか?…ジェダイで恋愛はいけないと」

 

苛立った眼差しを向けられていたが、ログは怒りも何もない目線…というより、若干戸惑ったような目をして改めてアナキンを見つめる。

 

「あー、なんだ。つまり、彼女のことを?」

 

ログに言われて、アナキンは自分が墓穴を掘ったことにようやく気がついた。何を言ってるんだ僕は!わざわざ自分から彼女のことを好きだと暴露するような真似をするなんて!!

 

羞恥心と自身の未熟さに感情が揺さぶられるアナキンに、ログは微笑みかけ、パドメがさっきまでいたアナキンの横に着いた。

 

「そういうところだ、スカイウォーカー。もう少し考えて動くことだ」

 

ザァっと風に木々の葉が躍る音が響く。湖畔の水は降り注ぐ太陽の光を反射させて色鮮やかにその芸術のような姿を刻々と変えていく。

 

穏やかなフォースだ。

 

大自然が持つエネルギーを体いっぱいで感じているログの隣で、アナキンのフォースはやや激しめに揺らめいていた。

 

「…評議会にいうんですね、僕のことを」

 

「何をだ?」

 

分かってる癖にと言わんばかりの目がアナキンから向けられるが、ログはとぼけるように肩をすくめる。アナキンは観念したように言葉を吐いた。

 

「僕がパドメのことを愛してしまっていることだ!貴方の立場は悪い。だから僕のことを言えば…」

 

「そんなことはしない」

 

アナキンの吐き出すような強い言葉を、ログは湖畔を見つめる視線を変えずにバッサリと切り返した。

 

「スカイウォーカー、君にとってのジェダイはなんだ?」

 

豆鉄砲を喰らったような驚いた顔をするアナキンを気にせず、ログは身なりを整えてアナキンに問いかけた。

 

君にとってのジェダイとはなんだ?と。

 

「ジェダイとは…規律を重んじて…世界の平和を…」

 

「そうじゃないぞ、スカイウォーカー。初めてマスタークワイ=ガンと出会ったときに思ったジェダイへの憧れを言うんだ」

 

真っ直ぐとアナキンを見つめて言うログに、彼は言葉を探したが上手く出てこなかった。

 

ジェダイは、アナキンにとっては夢のヒーローだった。いつしか、ジェダイがやってきては、奴隷に苦しむ人々を解放して世界に平和をもたらしてくれると信じていた。

 

だが、ジェダイはそんなものじゃなかった。限りなく不干渉で、限りなく平等なのだ。どちらかに肩入れなんてしない。その世界の在り方を個々に受け入れてしまう。だから、どちらが悪でどちらが正しいかなんて、明確な答えを考えない。

 

ジェダイにとっての悪は暗黒面だけだ。

 

アナキンにとってのジェダイとは、憧れのヒーローから自らを縛る牢獄のように思えるよう変わってしまっていた。

 

そんなアナキンの憂いる顔に、ログは笑みを作って彼の肩に手を置いた。温かな何かがアナキンへと伝わり、彼もログを見た。

 

「俺にとってのジェダイは、フォースが示す物を見通す存在だ」

 

たしかに、世界の秩序と平和を守るためにジェダイの規律や、掟も時には必要だ。しかし、それがフォースが示すものを陰らせるなら、そんなものに意味なんてない。

 

そして純粋にログは感じ取っていた。

 

この物語の先を知る存在としても、そして実在する二人のフォースの共鳴を見つめて、確信した。

 

「君と彼女のフォースは感じあっている。それがわかるか?スカイウォーカー」

 

そう断言するログに、アナキンは驚きを隠せないような顔で彼を見つめていたが、ログは続けて言った。

 

「君たちは正しい道に進んでいる。だから、それを信じろ。フォースは君たちと共にあるのだからな」

 

これは運命だ。

 

アナキンとパドメ自身の辿るべき運命の道。

 

アナキンが暗黒面に堕ちてまでも頑なに信じた愛の形であり、彼の心の拠り所になるモノだ。二人を引き剥がすことなど、何人たりとも出来やしない。それほどまでにログから見ても二人の運命は深く重なり合っている。

 

ジェダイの誰もが目を背ける深い場所で。故に彼はこの運命の中でも孤独を感じていたのかもしれない。パドメに理解してもらっても、ジェダイの誰もが見ようとしない、否定するばかりの繋がり。それこそがアナキンの力の源の一つであると言うのに、彼はその源を信じられずにいる。

 

だから、ログは後押しすることを決めていた。アナキンにとって、それは必要なことだから。

 

「…意外だ」

 

そう言ったアナキンの顔を見て、ログはギョッとする。彼の顔はいつも不満と苛立ちに満ちていたと言うのに、今の彼は泣き出しそうな、そんな顔をしていた。

 

「貴方はもっと…そういうことに無頓着な人だと思っていた」

 

アナキンから見たログ・ドゥーランは、どこまでもジェダイだった。掟や規律にがんじがらめなジェダイという組織の中で、彼はどこまでも真摯にフォースと向き合う存在だった。

 

彼の剣戟の冴えや、フォースへの感応力は、500回近く剣を交えているアナキンが一番よく理解できている。彼の感覚は、自分とは違う領域のものだとも。

 

だからこそ、ログ・ドゥーランはこう言った話には特に無頓着と思っていた。こういった想いがフォースとの共鳴の邪魔になると言って切って捨てるとも思っていた。

 

アナキンに、ログは笑みを作って肩に置いていた手でアナキンを優しく叩いた。

 

「俺はお前がそういうことに敏感だと知ってたよ。行こう、スカイウォーカー。彼女が待っている」

 

湖畔のバルコニーからパドメと使用人がやってきたのを見たログが、アナキンの横から入り口に向かって歩き出した時。

 

「アナキン」

 

そういって、アナキンはログを呼び止めた。振り返ったログに、アナキンは穏やかな笑みを作って彼に改めて礼をした。

 

「アナキンでいいよ」

 

心を許したアナキンに、ログも同じように親愛の笑みを向ける。踏み出したアナキンはログと隣り合わせになるように歩き、彼もアナキンと肩を並べて歩く。

 

「けど、次の勝負には僕が勝つよ」

 

「ほう?言ったな?なら後でパドメに見せるとしよう」

 

そう言い合いながら、二人はパドメが待っているコテージへと入って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝カミーノ…知らない星だが、共和国のメンバーか?〟

 

〝いや、アウター・リムの向こう側にある〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

水と雨の惑星カミーノ。

 

外銀河のカミーノ星系に属す海洋惑星であるその星は、銀河の南のはずれに位置し、知覚種族カミーノアンが暮らしていた。

 

惑星の表面は海で覆われ、軌道からでも確認できるほど激しい落雷と大嵐が絶え間なく続いている。政府である統治評議会は首相によって統括され、首都はティポカ・シティに置かれていた。

 

ジェダイの広大なアーカイブの中から〝何者かによって〟削除された惑星カミーノは、辺境の孤立した惑星だった。

 

「ボバ、お父さんはいらっしゃる?」

 

ティポカ・シティのアパルトメントに訪れたカミーノアンのトーン・ウィは出迎えてくれた幼い少年に和かな挨拶を交わして部屋に入ってゆく。そのトーン・ウィの後ろには、カミーノでクローン軍団を見たばかりのオビ=ワンが注意深く意識を張り巡らせながら続く。

 

部屋の奥では、トーン・ウィと年齢を重ねた体格の良い男性が言葉を交わしているのが見えた。

 

「ジャンゴ、おかえりなさい。実りある旅でしたか?」

 

彼女からの問いに頷く男性。トーン・ウィはある程度のところで会話を切り上げると、オビ=ワンを手招いて男性へ紹介する。

 

「こちらはジェダイ・マスターのオビ=ワン・ケノービ殿です。作業の進捗を確認に来られたのです」

 

「君がクローンの素体提供を?」

 

一礼すると、オビ=ワンは男性―――ジャンゴ・フェットへ単刀直入に言葉を切り出す。

 

「俺はただ宇宙に足跡を残そうとしているだけの単純な男だ」

 

フォースを纏ったオビ=ワンの言葉を軽い笑みを浮かべて受け流すジャンゴに、オビ=ワンはさらに意識を鋭くして問いを増やしていく。

 

「コルサントのような、はるか内縁の地にも足跡を残したことはあるのかな?」

 

「まぁ1、2回はな」

 

「最近か?」

 

そうだなと頷くジャンゴに、オビ=ワンは一呼吸置くと、姿勢を正し、ジャンゴを見つめながら核心を突く言葉を投げる。

 

「では、マスター・サイフォ=ディアスのことも知っているわけだ」

 

その質問を受けてから、ジャンゴも何かを感じ取ったのか、まだ幼い子へ認識できない言語で声をかけてから、さっきと変わらない笑みを浮かべたまま首を横へ振った。

 

「さてな、聞いたことがない。俺は今回の件は、ボグデンの月の1つでタイラナスという男に雇われたんだ」

 

「ほぅ、それは興味深いな」

 

ジャンゴは嘘を言っていない。彼にとってジェダイとは生半可な嘘が通じない相手であることを充分に承知しているからだ。

 

ジェダイとはフォースなどという不可思議で不明瞭な力を使って簡単に心の中へ土足で踏み込んでくる。嘘などというハリボテで壁を作っても、そこにできた隙間へするりと入り込んできては、隠そうとする思いを暴くのだ。

 

故にジャンゴは嘘をつかなかった。自分がクローンの遺伝子提供者であることには間違い無いし、ボグデンの月の一つでタイラナスという男にその話を持ち寄られたのも事実だ。

 

彼は聞かれたことを正直に話しただけだ。あくまで〝聞かれたこと〟だけであるが。

 

「軍隊は気にいったかい?」

 

ジャンゴは切り替えるようにオビ=ワンにそう切り返す。オビ=ワンも目つきを鋭くしたまま、ジャンゴの言葉に頷く。

 

「ああ、戦ってるところを見てみたいよ」

 

「やつらはよく働いてくれるだろうよ。俺が保証する」

 

そこから幾秒か、ジャンゴとオビ=ワンが睨み合ったが、彼から読み取れるものはないと判断したのか、オビ=ワンは研ぎ澄ましていた意識を戻して、ジャンゴへ手を差し出した。

 

「時間を割いてくれて感謝するよ、ジャンゴ」

 

「あぁ、ジェダイならいつでも歓迎さ」

 

笑顔でオビ=ワンの握手に応じるジャンゴ。トーン・ウィに連れられてアパルトメントから出て行くジェダイを見送り、二人の気配が完全に消え去ったのを確かめてから、ジャンゴは急いで荷造りを始めた。

 

「どうしたの、パパ?」

 

「ボバ、荷物をまとめろ。ずらかるぞ。それと、暗号通信で連絡を。電文はケースC560。宛先は―――ジェダイ、ログ・ドゥーランだ」

 

 

 

 



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若きジェダイよ、心に従え


新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

2020年も、皆さんがフォースと共にあらんことを





 

 

アウターリム・テリトリー。

惑星、ムスタファー。

 

「やはり思った通りだ」

 

警備の目を掻い潜って、溶岩の合間に着陸させていたジェダイ用の偽装貨物船に戻ってきたマスタークワイ=ガンは、船で待機していたマスターキットとパダワンであるナダールに記録してきたホログラムを見せた。

 

貴重な貴金属が溶け込み流れているムスタファーは、300年近くテクノ・ユニオンが鋼鉄事業を牛耳っているアウターリム屈指の資源惑星だ。

 

テクノ・ユニオンとは、テクノロジー企業によって構成されている商業ギルドであり、近年活発化している分離主義運動にて、ドゥークー伯爵が宣言した独立星系連合に加わった組織だ。

 

マスタークワイ=ガンたちが、この死の星に訪れたのは、ある極秘任務のため。そこで手に入れてきたものは、テクノ・ユニオンの生産計画のリストだった。

 

「この鋼材の輸出量は尋常じゃない。6年前から爆発的に資材の輸出量が増えている」

 

「ドゥーランの勘は当たったということか」

 

ホログラムの一部をなぞる様に指を走らせるマスタークワイ=ガンに、マスターキットも想像していた嫌な予感が当たってしまったことに憂いるよう腕を組んで唸る。

 

「どういうことですか?マスター」

 

高温を発する惑星での隠密活動に不慣れなナダールを残して任務を遂行したマスターたちに、パダワンは抱えていた疑問をぶつけた。

 

そもそも、なぜこのような場所にジェダイが。それも惑星の監視網に引っかからないように極秘裏に乗り込まなければならなかったのか。

 

ナダールの疑問に答えたのはマスタークワイ=ガンだった。

 

「評議会からドゥーランに出された指令は、マスタードゥークーの動向調査だった。しかし」

 

「元ジェダイマスターであるドゥークーだ。ジェダイとしての矜持もあると評議会の考えもあってな」

 

マスターキットが続けて言った言葉に、ナダールは思考を整理してまとめていく。マスタードゥークーは立派なジェダイマスターであった。そんな彼は志の違いで自らジェダイオーダーを離れた訳だが、ジェダイを辞した訳ではないとオーダーは認識している。

 

地位も名誉もある人物に疑いをかけて大々的な捜査を行うにしても、今の情勢やジェダイの在り方に疑問の声が上がっている中で、そんな真似をすれば暗黒面の付け入る隙を与えてしまうことを危惧したのか。

 

「なるほど…それで彼は」

 

「そう、ドゥークー伯爵の足取りを追ったのだ。彼自身の足取りではなく、資金源のな」

 

大した洞察力だ、とマスターキットもパダワンの洞察力へ満足そうに笑みを浮かべた。

 

人となりとジェダイという功績を見つめるばかりでは見えてこない闇だが、闇に一番通ずる道というものも暗黒面以外に存在すると、この案を提案したログが言っていた。

 

「たしかに、金銭面に意識を向けないジェダイの盲点だ」

 

結果は黒。

 

莫大な遺産とセレノーの伯爵の称号を受け継いだ彼は、表向きは共和国に異を唱える政治家的な側面があるが、その資産運用などアーカイブへの閲覧権を持つジェダイが本気で調べれば簡単にわかることだ。

 

「評議会に報告を」

 

「マスタークワイ=ガン、主な出荷先は?」

 

ジェダイ専用通信の準備を始めるマスターキットたちに、クワイ=ガンは投影されたホログラムを読み解いて答えた。

 

「ジオノーシスだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

穏やかな朝日がナブーに昇る。タトゥイーンとは違う優しい光がフォースとの瞑想に耽るアナキンの顔を照らしていく。

 

今のアナキンとフォースの繋がりは浅かった。深く繋がろうと深層へと潜れば潜るほど跳ね除けられるような感覚。

 

それはフォースが邪魔をしているのではない。アナキンの心が深層に降りることを妨げていた。

 

「行かないで」

 

物陰からこっそりと見つめていたパドメが、アナキンが瞑想するバルコニーから去ろうとしたとき、アナキンは瞳を閉じたまま零れるような言葉を出す。

 

「君がいてくれると、落ち着くんだ」

 

アナキン自身、わかっていた。今の自分は穏やかではない。揺れ動いている。それも激しく、動揺するように。顔が強張っているのも分かっていた。

 

「うなされていたわ。悪い夢を見たのね?」

 

「――ジェダイは夢を見ない」

 

「しかし、お前のフォースは揺らめいているぞ?アナキン」

 

そう言ってバルコニーの横にある木から横へ伸びる太い幹の上で座禅を組むように瞑想していたログがアナキンの側へと降りた。

 

「ログ」

 

「話してくれ」

 

驚いたように言うアナキンに、パドメと共に心配そうな目でログは懇願するように手を差し伸ばす。アナキンは幾らか躊躇うように思考を巡らせてから、観念したように二人に話した。

 

「…夢で…母さんを見たんだ」

 

苦しんでいた。

 

いまの君や、ログを見ているのと同じくらいはっきりと見えた、と。

 

その言葉を聞いて、パドメは悲しげにアナキンの手を握り、ログはこの時が来たかとアナキンを見つめる。しかし、決断するのはアナキンだとログは何も言わなかった。そもそも、彼から母の夢の話を聞いたのは今が初めてだった。

 

「母さんが苦しんでいる」

 

アナキンはさっきまでの迷うような眼差しのまま、パドメとログと地面を彷徨うように目線を走らせて、躊躇いがちに握ってくれるパドメの手を握り締めた。

 

「パドメ…君を守ることが任務なのは分かっているよ。ジェダイとしても…だけど……僕は行かなければならない。母さんを助けなければならないんだ」

 

アナキンは、そう言ってパドメもまた彼を労わるように抱擁する手に力を送る。彼はジェダイである前に人間であると言う部分をパドメは深く理解していた。そんな彼の根幹を成すのが、タトゥイーンで出会った優しい母であると言うことも。

 

〝だからこそ、今回は間に合った〟

 

「アナキン、覚えているか?お前の母に俺がお守りを渡したことを」

 

そう言ってアナキンに問いかけるログに、なんで今更それをと言わんばかりの表情になったアナキンは頷いた。

 

「ああ、はっきりと」

 

ああ、よかった。ログは心の中でそう息をついてからずっと胸元に提げていた首飾りを取り出す。それはアナキンの母であるシミに送ったものと同じ物だ。布製の袋に包まれていた中身をアナキンへ差し出す。

 

「これはジェダイのみが使えるホロクロンの一部だ。君の母に渡したものと一対になっている」

 

それを受け取ったアナキンは、ログとそれを交互に見つめる。ログは真っ直ぐとした目でアナキンを見つめて、ずっと言いたかったことを伝えた。

 

「君のフォースを流せ。どこにいても、君の母の場所を感じ取ることができる」

 

ザァっとナブーの湖畔に風が凪ぐ。

 

アナキンは心を静かにし、自分の母を思う気持ちをフォースに変えて、ログから受け取ったホロクロンの一部へ力を流し込んでいく。

 

〝あぁ、アナキン…助けて…〟

 

暗闇の中で聞こえる。

 

夢の中では朧げだった…助けを呼ぶ母の声が。

 

「…母さん!!」

 

今にも駆け出しそうなアナキンを、パドメがしっかりとした手で引き留める。

 

「私もいくわ」

 

「パドメ」

 

「私が共にいればいいのでしょう?」

 

彼女はログに任せようという考えも出てきたが、ログもすでに身なりを整えてアナキンと共に行くつもりだったようだ。若いジェダイの視線に、ログはしっかりと頷いて応える。

 

「すまない…行こう!」

 

そう二人に告げて駆け出すアナキン。

 

その表情にはもう迷いなんて無かった。

 

 

 

 

 

 

 



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ダークサイド

 

 

えっ、何これ怖っ…。

 

ホロクロンの反応を辿ってタトゥイーンへやってきた俺たちは、パドメを残してアナキンの母、シミ・スカイウォーカーが捕らえられている場所へ向かった。

 

そこはタスケン・レイダー、通称サンド・ピープルと呼ばれるタトゥイーンに住む原始的な知覚生物の集落だった。

 

タスケン・レイダーの部族が、水分農夫クリーグ・ラーズと結婚し奴隷から解放されたシミを誘拐。彼女はタスケンの拷問を受けており、アナキンと共に発見した時はかなり危険な状態であった。

 

拘束具を外したアナキンの腕の中で力なく笑うシミへ、俺は持ってきていた緊急用救急キットで応急手当てを施していくが、彼女の生命力を示すフォースが極端に弱まっていたことを知った。

 

くそっ、ここで死なせてたまるものか!

 

俺はこうなったときのために、この空白の10年をフォースの共感と触れ合いのために修行をしてきた。彼女の傷ついた腹部に手を滑らして、俺は意識を深く、鋭くシミのフォースへと集中させ、繋げていく。

 

俺の手を見て、アナキンはギョッとしたようにしていたが、それどころではない。俺はさらに意識を研ぎ澄まして自身のフォースを繋がったシミへと受け渡していくと、彼女の深傷は癒えていき、血は止まり、色艶を失っていた肌にも若干の血の気を取り戻させていった。

 

シミの生命力を示すフォースが穏やかになるのを確認してから、俺は彼女との繋がりを解いて、大きく息を吐いた。

 

ヒーリングフォース。

 

他者へ自身の生命力を内包したフォースを送り、傷を癒す術だ。クワイ=ガンに見せた時は「使いすぎると己の命すら相手に渡してしまう危険がある」と忠告された危険な技だ。力加減を間違えればこちらも動けなくなるし、なによりエネルギーの消費が激しすぎる。

 

シミの呼吸がひと段落したのに安堵して、俺はようやく気がついた。後ろから立ち上がる怒りに。

 

振り返ると、母を傷つけたタスケンに怒りを露わにするアナキンが立っていた。

 

え、なにこれ知らん…怖…

 

そう思えるほど、強烈で鋭いフォースがアナキンから放出されている。あ、これはアカン。怒りで周りが見えなくなってるやつやん。俺はシミから手を離して、フォースの導きに従って―――アナキンの頬をぶん殴った。それもグーで。

 

「ロ、ログ?」

 

唐突にぶん殴られたことに驚くアナキンの胸ぐらを掴んで、俺はそのままアナキンを自分の眼前へと引き寄せた。

 

「アナキン、お前の考えていることはわかる。しかし、今優先するべきことは何かを見失ったとき、何を失うか本当にわかっているのか?」

 

タスケン達にバレないように声を小さく言って、アナキンは渋々と言った様子でシミを抱き上げると、切って突入してきたテントから出ていく。俺も後に続こうと出たが、足元にあった薪が火を吹いた。

 

「―――ッ!!――ッ!!ッ!!」

 

言葉にならないタスケンの雄叫びが響き、闇夜の中で休んでいた戦士達が煙のように立ち上がる。手に持った型落ちのブラスターの火がこちらに向かって飛んできた。

 

「ログ!」

 

「行け!アナキン!目の前の優先するべきものを忘れるな!!行け!!行くんだ!!」

 

シミを抱えたアナキンではどうにもできない。俺はライトセーバーを起動させて、タスケン達が放つブラスターをことごとく跳ね返していく。

 

アナキンは躊躇いがちに俺を見てから、自分の母を抱えるとパドメが待つシャトルへと一気に走り出した。

 

そうだ、それでいい。

 

俺はアナキンの後ろ姿を見送ってから、彼を追おうと向かってくるタスケン達へ目を向けた。

 

なに。アナキンが怒っているのもわかる。あんな優しい人を良いように拷問されたのだ。怒りももっともだ。

 

だが――。

 

「俺の方がもっと怒ってる」

 

俺はブラスターもどきを振り上げて突撃してきたタスケンの腕を切り落とし、周りを囲もうとする蛮族達に鋭い視線を走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

初めてだった。

 

アナキンは母を抱えながらシャトルに乗り込み、ログから感じたものに背筋を冷たくさせていた。

 

母の無残な姿を見て我を忘れていたのは確かだった。ログが手を母に重ねた途端、弱っていた母の息が安定したことには驚いたが、それでも最愛の母をこんな目に遭わせた野蛮なタスケン達を許す気持ちは起きなかった。

 

ログは母から手を離すと、なにも言わずにアナキンの頬を殴りつけた。その行為にアナキンの怒りがどこかへ飛んでいった。

 

戸惑うアナキンを手繰り寄せるログ。

 

その言葉には迫力があったが、同時にアナキンが感じたことがない深い恐怖があった。

 

怒りだ。

 

アナキンの何十倍も、ログは怒っていた。その怒りを、彼は熱することなく、冷たい極寒の感覚を保持したまま維持していたのだ。

 

アナキンは言葉をなくした。

 

自分の怒りなど、ただの子供の癇癪だと納得してしまえるくらい、本質的な怒りと恐怖を目の当たりにした。

 

まるで巨大な漆黒の龍に睨み付けられているような悪寒が、背筋に走る。

 

気がつくと、アナキンの中で立ち上ろうとしていた怒りはすっかり無くなっていた。母を抱き上げて集落を後にしようとした時、一人のタスケンに見つかった。

 

ブラスターの雨が降り注ぐ中、彼は怒りとは程遠い毅然としたライトセーバー捌きでブラスターを四方へと飛散させていく。

 

〝行け!アナキン!〟

 

〝早く行け!行くんだ!!〟

 

両手が塞がっている自分では何もできない。アナキンは自分の未熟さを噛みしめながら大切な母を抱えてシャトルへと走る。

 

待っていたパドメに母を託して、アナキンは自身が走ってきた道を必死に戻った。フォースの力を借りて猛スピードでタスケンの集落へと戻る。

 

そして、アナキンがログの下へたどり着いた時。

 

腕や足を切り飛ばされ、地面に伏せるタスケン達の中に、ログはライトセーバーを地面に下げながら、砂漠の夜空の中に佇んでいるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝よぉ、クライアント。時は近いぞ?〟

 

〝ああ、では、契約通りに事を進めるとしよう〟

 

 

 

 

 

 



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規律とは破るためにある。これ鉄則です

 

 

 

カミーノから逃亡したジャンゴ・フェットを追っていたオビ=ワンは、ジャンゴが逃げ込んだ惑星ジオノーシスで、元ジェダイマスターであるドゥークー伯爵が、分離主義連合と手を組んでいるのを目撃した。

 

ジェダイ評議会にその真実を伝えようとしたが、突如として現れたバトルドロイドたちによって、彼はジオノーシスの牢獄へと閉じ込められることになったのだった。

 

「裏切り者め」

 

「まさか、友よ。すまないな、これは間違いだ。とんでもない間違いだよ。いやはや…やりすぎだな。困ったものだ」

 

牢獄へ入ってきたのは、オビ=ワンが目撃したドゥークー伯爵本人であった。彼は睨み付けるオビ=ワンに対して、穏やかな口調で謝罪する。

 

「ここではおまえがリーダーだろう、ドゥークー!」

 

あくまでシラを切るドゥークーに、オビ=ワンは苛立った口調でそう吐いて捨てた。目撃した分離主義者達との会話から推測すれば、この惑星で秘密裏に進められている計画の全てや、ここに逃げこんだジャンゴにも少なからず関わりを持っているに違いはない。

 

だが、ドゥークーのフォースは乱れなかった。

 

「私は何も知らなかったのだよ、本当だ。すぐに解放するよう申し立てるとしよう」

 

「ああ、はやくお願いしたいね。やることが残ってるんだ」

 

動じないドゥークーに、オビ=ワンも言葉を交わす事を諦めた。彼が言葉通りすぐに解放してくれるならそれでもいい。だが、事はジェダイの思想の中にいるオビ=ワンが思うよりも、もっと深刻だった。

 

「ああ。―――だが、聞かせてもらいたいのだが、ジェダイ・ナイトが…一体なぜこのジオノーシスにいるのだね?」

 

ドゥークーの問いかけに、オビ=ワンは感覚を研ぎ澄ます。だが、彼の思考やフォースは堅牢な守りによって閉ざされている。オビ=ワンは視線の凄みを消さないまま、ドゥークーへ問いかけた。

 

「ジャンゴ・フェットという賞金稼ぎを追っていたんだ。知っているか?」

 

「私の知る限り、ここには賞金稼ぎなどおらんよ。ジオノーシアンは利口だ。彼らは賞金稼ぎなどと言う連中を信用しないんだ」

 

「誰だって同じさ。でも奴は確かにここにいるんだ」

 

ジャンゴの船に取り付けたビーコンは間違いなくここを指し示している。おびただしい数の分離主義者達の船が停泊するジオノーシスに、ジャンゴは逃げ込んでいるのだ。

 

ドゥークーはしばらく捕われているオビ=ワンの周りを歩き回りながら、ゆっくりとした口調で口を開いた。

 

「これまで、君と顔を合わせる機会がなかったことが残念でならないよ、オビ=ワン」

 

君と私となら、良き友になれたはずだ。そう切り出したドゥークーに、オビ=ワンは底知れない何かを感じ取った。

 

彼との会話はまさに深い沼に足を取られるような感覚だ。ねっとりとした何かが、オビ=ワンの背後で生温い吐息を吐き、ゆっくりと体を包み込んでいくような……そんな感触がオビ=ワンの意識に入り込んできた。

 

「君のマスターであり、私のパダワンでもあったクワイ=ガンは、いつも君のことを高く評価していたからね。私は彼と共に歩んで行きたかった。彼ならば、今まさに助けになってくれただろうに」

 

「マスタークワイ=ガンが貴様なんぞと手を組むはずがない」

 

「決め付けはよくないぞ、若きジェダイよ。ジェダイの悪い癖だ」

 

頑なにジェダイであろうとするオビ=ワンに、ドゥークーは心からの忠告を送った。そう言った決め付けでジェダイがどれだけのものを取りこぼしてきたのか…。当人達は、取りこぼしているという事実にすら気付こうとしないのがドゥークーにとって憂いる事態だった。

 

「忘れたか?君が彼の弟子であるように、かつて彼は私の弟子だったのだ。彼は元老院の腐敗についてすべてを知っていたよ。私のもつ真実を知れば、それに歯止めをかけてくれただろう」

 

「――真実?」

 

「ああ、そうだ、真実だ」

 

ドゥークーは歩いていた足を止めた。オビ=ワンの目の前で立ち止まり、まっすぐと捕われているオビ=ワンの目を見据える。

 

「たとえば……共和国が、すでにシスの暗黒卿の支配下にあると言ったらどうするかね?」

 

その言葉に、オビ=ワンの目は驚いたように見開いたが、すぐにそれがドゥークーの誘い文句だと切り捨てて、眼光を鋭くさせた。

 

「そんな事はありえない。ジェダイが気付くはずだ」

 

だが、未来は暗黒面に閉ざされて見えていないのだろう?とドゥークーはオビ=ワンの毅然とした声に言葉を返す。

 

かのマスターヨーダですら、今の世界の行先を読み解くことができないのだ。ジェダイがジェダイであろうとすればするほど、見えるべき未来は閉ざされ、未来は暗雲の中に置き去りにされる。

 

「フォースのダークサイドがジェダイの見識を曇らせているのだよ。何百もの議員がすでにシス卿の影響下におかれているのだ。……稀代の暗黒卿、ダース・シディアスのな」

 

ドゥークーはニヤリと笑みを浮かべる。

 

そんな馬鹿な…そんな馬鹿な戯言を信じられるわけがない!!オビ=ワンの中にあるジェダイの思考がそう叫んでいるが、確かに状況を見るだけではドゥークーの言うことにも筋が通っている事も確かだ。

 

「少なくとも、君の友はすでに勘付いているように私は思うがな?ジェダイ・ナイトである、ログ・ドゥーランがね」

 

その言葉がオビ=ワンの何かに触れる。オビ=ワンから見ても、今のログの立ち位置は危うい。評議会からは白い目で見られ、ジェダイ勢力の中でも彼の居場所は極端に少ない。

 

にも関わらず、彼が頑なにジェダイとしてフォースと向き合うのはなぜか。破天荒なマスターであったクワイ=ガンと同じような雰囲気を持つ彼を思い返したオビ=ワンは、言葉を選びながらドゥークーを見つめる。

 

「…信じられんな」

 

「通商連合の総督も、かつてそのダース・シディアスと手を組んでいた。だが彼は暗黒卿に裏切られたのだよ。私に助けを求め、すべてを打ち明けてくれた」

 

そう言い終えてから、ドゥークーは改めてオビ=ワンへ手を差し伸ばした。

 

「君も私の仲間に加わってくれ、オビ=ワン。じきに君のマスターや、友であるドゥーランも〝私の側〟へ来る。そして皆で力を合わせ、シスを滅ぼすのだ!」

 

誘惑。心地の良い言葉がオビ=ワンの中へと入り込んでくる。だが……。

 

「…お前とは組めない、ドゥークー」

 

オビ=ワンは本質的にジェダイだった。ジェダイを裏切り、ドゥークーの本質を見極められないオビ=ワンにとって、彼と手を組むなどという選択肢は最初からありはしないのだ。

 

そう切って捨てたオビ=ワンをドゥークーは残念そうに見つめる。

 

「ならば、残念だ。君をここから解放してやることは難しくなったかもしれんな」

 

そう言い残して、ドゥークーはオビ=ワンが捕われている独房から足早に去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロォグ!!」

 

アナキンの声が聞こえる。

 

彼の母であるシミを救出し、水分農夫であるクリーグ・ラーズの下へと戻った俺たちは、安定し意識を取り戻したシミをクリーグに預けた。

 

しばらくはアナキンを母と二人きりにしようとパドメと共に船に戻った俺は、緊急暗号通信で送られていたオビ=ワンの通信を聞いたのだ。

 

評議会に通信をしたが、俺とアナキンはあくまでアミダラ議員を守ることが任務であると厳命されており、消息を絶ったオビ=ワンを救いにいく事は叶わないと思っていた。

 

『評議会の厳命は私を守ることよ。私はオビ=ワンを助けに行きます。私を守るなら、あなたもついて来なければならないわよ』

 

そう言って率先してジオノーシスに向かうことを決めたパドメに、俺とアナキンは顔を見合わせると笑みを浮かべて彼女に従うことを決断。

 

ラーズ夫妻と家族に見送られながら、俺たちはタトゥイーンを飛び立ってジオノーシスへと向かったのだ。

 

 

 

 

ドロイド製造工場のコンベアから落ちる風に飛び降りた俺は、アナキン達が見えないところまで落下してから腰に備わるワイヤーを使って最寄りの薄暗い場所へと難なく着地する。

 

彼らには心配をかけたが、R2やアナキンがいるのだ。ひとまずは無事だろう。

 

「名演技だったよ、クライアント。だが、ここまでめんどくさい手順を踏む必要があったのか?」

 

そう言って背中のジェットパックを使って下から上がってきたのは、マンダロリアンの装甲を身につけたジャンゴ・フェットだった。

 

「敵を騙すには、まず味方からと言うだろう?首尾は順調か?」

 

俺は着流すように羽織っていた外套を手頃な溶鉱炉へと放り投げてから、手を横へと広げると、ジャンゴもわかっているようにホルスターからブラスターを取り出して、卓越した射撃センスで俺の服の端へ閃光を放ち、焦げ目を作っていく。

 

何発か撃つだけで、激戦の末に捕らえられたジェダイの風貌の出来上がりだった。

 

「ああ、先約のクライアントにもバレてはいない」

 

「上出来だ」

 

次にライトセーバーをジャンゴに渡すと、彼は手際良く俺の手に手錠を嵌め始めた。その動きに寸分の余分な動きはない。すべて〝打ち合わせ〟通りだ。

 

「アンタの予見してた通りになってるな。これは、ジェダイに賭けて正解だったらしい」

 

「うるさいぞ賞金稼ぎ、契約料を伯爵の倍額払ったんだ。仕事はしてもらうぞ」

 

クローンのホストのためにドゥークーがジャンゴへ支払ったのは2000万クレジット。その倍額を超える5000万クレジットで、俺はジャンゴ・フェットを雇ったのだ。

 

彼と出会ったのは偶然という名の必然だ。評議会から言いつけられたドゥークーの内情調査で、ボグデンの月の一つに彼が向かう時期を知れた俺は、調査に出た際にドゥークーとの契約を終えたジャンゴを捕らえたのだ。

 

そのままジェダイ評議会に突き出そうとも考えたが、ジェダイ・テンプルがあるコルサントはすでにパルパティーンの支配下。迂闊にジャンゴを連れ帰っても共に口封じされるか、またはジャンゴが消されるのは明白だ。

 

クローンに関しても、第二のジャンゴにホストの話が行くだけであり、本質的にクローン戦争を止める事は不可能に近い。

 

よって俺はジャンゴを解放する条件として彼と契約を結んだ。

 

まず一つは、ジェダイとドゥークーに悟られないようにクローンのホストの契約を満たす事。次に、俺と会ったことを誰にも公言しないこと。そして最後に俺が指定した場所に再びやってくること。

 

次に俺がジャンゴと再会したのは、ボグデンの月で彼と激闘を繰り広げた5年後のことだった。

 

俺はドゥークーが支払った2000万よりも上である5000万クレジットでジャンゴを雇った。

 

資金源?ジェダイにはそんな金はない?

 

それは潔癖なジェダイであって、俺はそんな高尚なものじゃない。評議会やジェダイの多数から白い目で見られ、関心を集めなかったのが幸いした。

 

調査のたびに、俺は裏社会へと身を隠して潜り込み、賭博やカジノで金を稼いだ。名前も身分も変えながら。フォースを使えばイカサマなどいくらでもやりようはある。だが、連発するのは危険だ。ある程度負けつつ、利益を出す。金を手軽に増やすにはこれに限る。

 

あとはそれを資金源にして、ドゥークーの資金源の調査の際に投資などにも手を出し、短期間で金を増やすことに成功したわけだ。

 

というかジェダイの管理体制のガバガバぶりには驚かされた。そりゃ秘密裏にアナキンとパドメが結婚できるわけだし、ドゥークーの動きも見えないわけだ。せめて個人のクレジット口座くらい管理する体制を作れと突っ込みたくなるほど杜撰の極みであったが、今ではそれが良い隠れ蓑になっているので割愛しよう。

 

「そっちこそ、契約は忘れるなよ?」

 

そう言うジャンゴとの契約は他にもある。事が終われば彼とボバの身柄を保障するというものだ。これに関してはある程度目処は立っている。問題は他にあった。

 

「この先、お互いが生きて切り抜けられたらな」

 

「その点は心配していない」

 

待ち受けているジオノーシスの戦い。マスターウィンドゥに殺される未来が待つ戦いの中で、ジャンゴが生き残れる保証はどこにもなかったが、彼は渋みの効いた声ではっきりと断言する。

 

「アンタは俺より強い。それで充分さ」

 

「ご立派なことで」

 

そう言葉を交わして、俺はジャンゴに捕らえられると牢獄へと押し込められる。ライトセーバーを失ったアナキンと、パドメが同じ牢獄に放り込まれたのは、それからすぐ後のことだった。

 

 

 

 



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ジオノーシスの戦い 1

 

「メッセージを届けてくれたのかと不安に思いはじめてたところだ」

 

捕らえられたアナキンたちとは別の荷車に乗せられて運ばれたのは、かの有名なジオノーシスの闘技場…あるいは物見場である「ペトラナキ・アリーナ」だった。

 

煤汚れたジェダイの服を着るログは、呆れたように言うオビ=ワンと不満そうなアナキンの間に立つ柱へ鎖で固定されていく。

 

「受信と同時に転送しましたよ、マスター。それで助けに来ることにしたんです」

 

「全く、ドゥーランと一緒にさせておけば大丈夫かと思ってたのだがな」

 

「知らないのですか?ログはマスター・クワイ=ガンより過激な交渉の使い手ですよ」

 

「ああ、それならここの交渉も早く終わりそうだ」

 

好き勝手に言い合う二人の師弟の口喧嘩を聞き流しながら、ログはため息をついてアナキンに語りかけた。

 

「落ち着け、これくらいどうってことはないさ」

 

「これくらい?ああ、そうだな。敵陣のど真ん中で鎖に繋がれて、処刑用のモンスターの前で見せしめに殺されようとしている状況くらい、どうってことはないさ」

 

「野獣の巣穴に落ちた時よりはまだマシだな。明るいし」

 

そう言ってる間に、6本足で鋭い鎌のような爪を持つクリーチャー「アクレイ」や、2組の目を持つ獰猛な肉食獣「ネクスー」、サイのような硬い甲殻を持つ「リーク」といった処刑用のモンスターがジオノージアンによって闘技場へと連れてこられる。

 

なんでも、知覚生命体と猛獣との戦いを観戦する事がジオノージアンにとっての娯楽であり、それを「ペトラナキ」と呼ぶらしいので、アリーナにその名が付いたとか付いてないとか…。

 

「嫌な予感がします」

 

「気持ちを落ち着かせろ、集中するんだ」

 

そこでアナキンはハッと気がついたようにマスターとログへ言葉を投げた。

 

「オビ=ワン!ログ!パドメは…」

 

そう言った先の二人は、アナキンの後ろを茫然とした様子で眺めていて、アナキンも振り返ってみると、パドメはすでに鎖を外して柱の上へと登っていた。

 

「彼女すごいな」

 

「我々も見習うとしよう」

 

絶句するアナキンを他所に、ログとオビ=ワンも頷き合って迫ってくるクリーチャーの一閃を躱す。アクレイが放った鋭い爪の一撃を避けたオビ=ワンは、上手く鎖を切らせて身を脱出させる。

 

アナキンは突進してきたリークの頭突きを避けて背中へ飛び乗る。強靭な外殻から放たれた頭突きは立てられた柱を簡単に押し倒し、ログが囚われている柱ごとなぎ倒された。

 

「げっほげっほ…もっとマシなやり方はなかったのか?」

 

「文句言うなよ、ログ。君はオビ=ワンを」

 

「彼女は任せたぞ」

 

フォースによる疎通でリークを手懐けたアナキンと別れて、ログは手頃な石と千切れた鎖を持って拾ってアクレイに苦戦するオビ=ワンの元へと走ってゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなはずではないぞ!ジャンゴ!あの女を始末しろ」

 

一方的な殺戮ショーになることを期待していた分離主義連合のヌート・ガンレイ総督は、怒りに身を震わせながら忌々しいナブーの女王へ特徴的なヒダの付いた指を指し示した。

 

だが、ジェダイと処刑用のクリーチャーの乱闘をつまらなさそうに見つめる賞金稼ぎ、ジャンゴ・フェットはガンレイの金切り声を鼻で笑った。

 

「俺のクライアントはお前ではない」

 

「ちぃっ…賞金稼ぎめ…」

 

今にも怒りでどうにかなりそうなガンレイとジャンゴの間に、穏やかな口調でドゥークーが仲裁に入った。

 

「落ち着け、総督。落ち着くんだ。彼女は死ぬよ」

 

彼らに武器は無く、周りにいるのもジオノージアンや処刑用のクリーチャーだ。今は抵抗しているが時間が経てば劣勢になるのは目に見えている。

 

まさに高みの見物だ…と、ガンレイたちはそう思っているだろう。その茶番劇も仕組まれたものだと知っているのはドゥークーだけだ。

 

彼は動き回るオビ=ワンや、アナキン、そしてログの動きを注意深く観察する。それこそがドゥークーが担う役目だったからだ。あの三人は自身のマスターが気にかけるジェダイたちだ。できるなら無傷でこちら側に引き込めれば…。

 

その瞬間、紫色のライトセーバーが煌めく。

 

鋭い眼光を持ったジェダイマスターが、ヘルメットを外したジャンゴ・フェットの首元へライトセーバーの切っ先を振り向けたのだ。

 

「マスター・ウィンドゥ。君が来てくれるとはうれしいよ」

 

ガンレイら、分離主義連合の面々が狼狽る中、ドゥークーは動じなかった。むしろ当然と言えるように笑みを浮かべて、ジェダイ最強の剣士の一人として名高いマスター・ウィンドゥに語りかける。

 

そんなドゥークーを、ウィンドゥは意識を逸らさずに睨みつけた。

 

「パーティは終わりだ」

 

「勇敢だが…愚かだな、かつての友よ。多勢に無勢だ」

 

「そうかな?」

 

挑発する様なウィンドゥの言葉に続くように、アリーナの至るところからライトセーバーの光が迸る。観客に紛れ込んでいたジェダイたちが一斉に立ち上がった。

 

パニックに陥ったジオノージアンたちが飛び立つ中、ドゥークーとウィンドゥの睨み合いが続く。

 

「思い切りがいいな?ジェダイ・オーダーも。だが、多勢に無勢は変わりない」

 

名のあるジェダイたちが総出で攻めてきたというのに、ドゥークーのフォースに揺らめきはない。ウィンドゥがどう攻めるか考えていた時だ。

 

ドゥークーのフォースがわずかに揺らめいた。

 

「どういうつもりかな?ジャンゴ・フェット」

 

ドゥークーの横に控えていたジャンゴがヘルメットを被ってドゥークーの後頭部へ二丁のブラスターを突きつけていたのだ。あくまで声色を変えないドゥークーの質問に、ジャンゴは特に感情のこもっていない声で答える。

 

「ああ、俺は賞金稼ぎ。アンタの他にもクライアントがいて、もうアンタは俺のクライアントではないということさ」

 

「裏切ったのか…!?ジャンゴ!!」

 

「俺はもとよりそう言う存在だ。それ以上でもそれ以下でもないね」

 

ガンレイの怒声のような言葉をもあしらうジャンゴ。形勢は逆転したかと思えたが、すでにドゥークーは手を打っていた。

 

ウィンドゥが歩いてきた通路から無数の無機質の足音が響く。ライトセーバーを閃かせてウィンドゥが振り向くと、そこには新型のバトルドロイドの軍勢が迫っていた。

 

その隙をついて、ドゥークーは銃口を突きつけてきたジャンゴへフォースを叩き込むが、彼もすぐさまジェットパックを使って殺気を帯びたドゥークーから離れる。ドロイドに追い立てられたウィンドゥも続くように観覧席からアリーナへと飛び降りた。

 

そこからすぐに乱闘が始まる。

 

雪崩れ込んでくるバトルドロイドの軍勢を相手取って、少数精鋭のジェダイたちがブラスターを弾き返して反撃していく。

 

ブラスターでドロイドを次々と撃ち抜いていくジャンゴは、ログの側へと飛行すると腰にぶら下げていた彼のライトセーバーを投げ渡した。

 

彼と同等のクローンであるボバは、すでに愛機のスレーブⅠの発進準備を行わせていた。本来ならライトセーバーを渡してずらかる予定ではあったが、これほどの乱闘になれば逃げるのも難しい。

 

腕に備わる火炎放射器でドロイドを丸こげにしながら、二丁からなる鮮やかなブラスター捌きでジャンゴも次々とドロイドを討ち取っていった。

 

「ログ!」

 

「マスター・ウィンドゥ!」

 

乱闘の中で背中合わせになったウィンドゥとログ。二人は似たライトセーバーの型でドロイドを蹴散らしながら息を上げずに会話していた。

 

「お前の破天荒さにはほとほと手を焼かされる」

 

「けれどマスターは来ました。それが全てですよ」

 

クワイ=ガンから報告を受けたときは頭を抱えたものだが、自分がここに乗り込む決断をしたことと、この状況が起こった結果を省みる限り、今まで遠ざけてきた弟子がやってきたことが正しかったことが証明されたようなものだった。

 

紫と青のライトセーバーが交錯し、嵐のようなブラスターのほとんどを撃ち出された出所へと返却していく。

 

「話はこれが片付いてからにしよう。聞きたいこともある」

 

「ええ、ひとまずは賛成です」

 

今はとりあえず敵をどうにかすることだ。二人の師弟は止まっていた足を前へと動かし、ブラスターを跳ね除けながら迫るドロイドの大軍へと突撃していった。

 

「オビ=ワン!」

 

仲間から受け取ったライトセーバーで、ドロイドの攻撃を捌いていたオビ=ワンへ、よく通る声が響く。フォースの揺らめきを感じて振り返ると、鎌を振り上げたアクレイが自身に襲い掛かろうと迫っていた。

 

そんなクリーチャー相手に、ライトセーバーを掲げて挑んだのはオビ=ワンのマスターであり、ドゥークーのパダワンでもあったマスター・クワイ=ガンだった。

 

「マスター!」

 

「蹴散らすぞ!」

 

二人でアクレイを囲みながら飛んでくるブラスターも対処していく。慌ただしい戦いだとクワイ=ガンが思っていると、オビ=ワンは懐かしそうに笑みを浮かべた。

 

「司令船の中よりはマシみたいですね」

 

たしかに、ナブーの戦いよりはマシだな。オビ=ワンの言葉にフォースで応じながら、クワイ=ガンは弟子と協力してアクレイの足を切り落とし、その凶悪で残忍な猛獣へ終止符を打った。

 

アナキンやパドメも敵の乗り物を奪って応戦しており、アリーナの中はブラスターとライトセーバーが蠢くカオスと化していた。

 

「迂闊だぞ、ジェダイ!」

 

ログの背後から迫るドロイドを撃ち抜いたジャンゴ。その援護を受けたログは、何も言わずに手に持っていたライトセーバーをジャンゴの方めがけて刃を出したまま投擲する。

 

ジャンゴは身動ぎせずにライトセーバーを見据えていると、投擲されたライトセーバーはジャンゴのすぐ脇を通り過ぎて彼の背後にいた変形直後のデストロイヤードロイドの胴体を真っ二つに切り裂いた。

 

「迂闊だぞ?賞金稼ぎ」

 

フォースで手繰り寄せたライトセーバーを手に取りながらそう言い返したログ。

 

だが、状況はドゥークーが言ったように多勢に無勢だった。四方をドロイドに囲まれたジェダイ陣営は数で押されてゆき、アリーナの中央へと追い詰められる。

 

もう一息でトドメというところで、ドロイド軍は戦闘を止めた。

 

「マスター・ウィンドゥ!君たちは勇敢に戦った。ジェダイ・オーダーのアーカイブに表される価値があるだろう。だが、ここまでだ。降伏しろ。そうすれば命は助けてやる」

 

最後通告だと言わんばかりに、ドゥークーが高み台から高らかに宣言した。圧倒的に追い詰めてから見せる最後の希望。その悪の誘惑に、ジェダイたちは惑わされなかった。

 

「取引のための人質になるつもりはないぞ、ドゥークー!」

 

ウィンドゥがそう叫ぶと、ドゥークーは残念そうに目を伏せてから、手で合図を送る。銃を下げていたドロイドたちが一斉に攻撃準備へと入った。

 

「それは残念だ、かつての友よ」

 

だが、その攻撃が振り下ろされることはない。ウィンドゥたちが用意した奥の手でも…そして、その場を支配するドゥークーにとっても。

 

パドメが指をさす。

 

空から大いなる力が、翼を得て降り立ってきた。

 

 

 

 

 

 

 



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ジオノーシスの戦い 2

感想や誤字指摘、ありがとうございます!!

大変励みになっております。ちなみにパルパル議長はとても楽しまれているようです。

フォースが共にあらんことを




どうも、ジェダイ・ナイトのログ・ドゥーランです。

 

ところで皆知ってるかな?クローンの攻撃でアリーナから脱出したジェダイたちが乗っていたのって、低空強襲トランスポートって言うんだって。

 

イカしたデザインだよね!まさに強襲艇みたいな形をしていて、剥き出しの兵員たちのため申し訳程度に付いてる電車の吊り革みたいな手摺り! そして辺りは通商連合率いるドロイド軍からの対空砲の嵐!

 

ディズニーランドでアトラクションとかであるなら是非とも乗ってみたいライド間違い無いね!HAHAHA!!

 

隣で飛んでいた別のトランスポートが爆★殺されたところで、いい加減に現実逃避はやめようと思う。

 

ジオノーシスの戦いはまさに混戦であった。

 

アリーナで合流したジャンゴのクローン兵たちの見事な連携と敵の虚を突いたトランスポートでの脱出はまさに神がかった作戦…と言えるわけないだろ!!

 

せめて護衛機くらい付けてください死んでしまいます。とは言っても、ジオノーシスの敵本拠地からの救出作戦だ。無理は言えないのは分かっている。

 

しかし、しかしだ。

 

さっきからチリチリと肌を焼くドロイドからの対空砲が怖い!怖すぎる!!十年間、フォースと会話をし続けたがために失われた人間性が取り戻されていく感覚だわ!やだ、ここってダクソの世界?ジェダイよ、今こそ人間性を取り戻せって?無理です。

 

隣で爆散し、チリとなっていくクローントルーパーを見て長らく失っていた…いや、初めて味わう戦争への恐怖に、俺は直面していたのかもしれない。

 

今になって思う。俺はまだまだ修行が足りなかった。いや、修行でどうにかなるのかも怪しいものだ。同じトランスポートに乗るアナキンやオビ=ワンは冷静そのものであり、剥き出しの兵員輸送ユニットの真横で対空砲が凄まじい衝撃で爆発しても身動ぎ一つしない。きっと彼らと自分は根本的な精神構造が異なるのだろう。今になって彼らの強さを思い知るジェダイ・ナイトです。

 

意地と根性で平静を装っているが、眼下に見える光景は映像で見るよりも遥かに戦争だった。

 

眼下にはおびただしい数のトルーパーとドロイドが戦いを繰り広げている。アリーナで自分たちを襲ってきたドロイドが可愛く見えるような光景だ。

 

並んで飛んでいたマスターウィンドゥたちのトランスポートは、クローントルーパーの集結地点へと着陸し、各マスタークラスのジェダイがトルーパーの小隊を引き連れて戦場へと駆け出していくのが見える。

 

 

俗に言う、クローン戦争の幕開けだった。

 

 

アナキンたちが乗るこのトランスポートは、逃げ出したドゥークー伯爵の姿を追って果てしなく続くジオノーシスの砂漠を低空で飛んでいる。

 

砂嵐がやってきていた。

 

見えなくなっていく戦場では、赤と青のブラスターの閃光が激しく交差しているのが見えた。長く続くクローン戦争が、今、目の前で始まろうとしている。

 

俺は今になって後悔を覚えた。もっとマシに動くことはできなかったのか。もっと言えば早々にドゥークーを仕留めていれば、こうはならなかったのじゃないか。パルパティーンを決死覚悟で暗殺するべきではなかったのか…。

 

多くの、多すぎる命が弄ばれ、失われていくクローン戦争。それをどうにか止めたいと思う自分がいて、どうにもならないと諦めているジェダイの自分がいる。

 

〝ほら、どうにもならなかっただろう?〟

 

心の奥底にいる真っ黒な自分が語りかけてくる。無駄な努力だと。たとえパルパティーンやドゥークーを倒せていたとしても、結果的に共和国とジェダイが滅ぶ未来は〝変えられない〟。

 

暗黒面を倒した先にある未来は何か?また千年にもわたる仮初の平和か?それとも…ジェダイ同士の殺し合いか。

 

フォースの揺らめきの中で見たヴィジョンが、俺を激しく揺さぶる。手探りで進めてきた全てが無駄だったと叩きつけられるような無力感。嵐の向こうで繰り広げられる壮絶な戦いが、それをより強く俺に突き刺していく。

 

俺は…俺は…。

 

何も変えられなかったのか…。

 

「気をしっかり持て、クライアント!」

 

そう言って、無意識にフォースの感覚を研ぎ澄ましていた俺の肩を叩いたのは、成り行きで乗り込んだジャンゴだった。

 

「アンタには俺との契約を果たしてもらう。こんなところで立ち止まるのは、俺やボバが許さない」

 

ジャンゴの言葉で、俺の中で湧き上がっていた黒い何かはスッと身を引いた。そうだ。俺はあのアリーナで死ぬはずだった彼の運命を変えた。〝運命を変えた〟のだ。これはほんの僅かな揺らめきなのかもしれない。

 

けれど、俺は確実に、この世界の在り方を変えたのだ。

 

「ああ、大丈夫だ。ジャンゴ。約束は果たす」

 

「そうか、なら俺は満足さ」

 

短い言葉を交わして、ジャンゴは中腰になって砂嵐に隠れているドロイドたちに注意を払った。

 

そうだとも、こんなところで…まだ始まったばかりの場所で躓いている場合ではない。まだ変えられる未来があるはずだ。

 

多くの血を流さない未来が。

 

アナキンや、パドメを…この世界で本当の友になった彼らを幸せにできる未来への道があるはずだ。

 

ドンっとトランスポートが揺れる。視界の横で、手摺りから手を離したパドメの身が宙へ浮いた。

 

「パドメ!!」

 

アナキンの声が聞こえる。気がつくと俺は、虚空に振るわれた彼女の手を掴んでいた。

 

「ドゥーラン!!」

 

気付いたオビ=ワンが俺に手を出すが間に合わない。俺はパドメを空中で抱き抱えると、手を伸ばすアナキン目掛けて彼女を押し出した。

 

〝死んでも彼女を守れ、アナキン〟

 

そう言って俺の体はトランスポートから放り出され、砂漠の嵐の中へと消えていく。

 

「ロォオオグ!!!」

 

誰かの声が遠くから聞こえた。

 

 

 

 

 

 



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ジオノーシスの戦い 3

ここから分岐点になります。

ヒロインはパドメという言葉。それは物語が進むにつれ、明らかになってゆくのだ…。





 

 

「起きろ、ジェダイ」

 

砂漠で大の字になって寝ていたところを、誰かに蹴られて目が覚める。見上げるとマンダロリアン装甲を身につけた男が、俺を見下げていた。

 

「手間をかけさせてくれるな、クライアント」

 

やる気なさげに手を差し伸べてきたジャンゴに、俺は甘んじてその手を借りて砂漠から立ち上がる。あたりには、こちらを捕獲しようとしていたのか、何機かのドロイドの残骸が転がっていた。

 

ジャンゴを見ると、彼は得意気に反対の手に持っていたブラスターをくるくると回し、そのままホルスターへと納めた。

 

「悪いな、口よりも先に手が出るモノでね」

 

パドメを庇ったのは、咄嗟の出来事だった。遠くを見つめると、すでに砂嵐もおさまっていて、遠くからはドロイドとトルーパーの戦う轟音が響いてくる。

 

「置いていかれたな。どうする?」

 

そう言ってくるジャンゴに、俺は言葉をかけずに裾にしまっていたコムリンクを取り出す。これはフォースを使うものにしか扱うことが出来ない通信装置だ。主にジェダイやシスが使う特殊な通信装置であり、これがあればある一定の範囲ならば中継機を介さずに直通で通信をすることができる。

 

そう、直通でフォースを持つ者と通信が出来るのだ。俺は応じてくれた相手に2、3口言葉を交わして早々にコムリンクを仕舞い込む。

 

「ジャンゴ、ひとつ頼まれてほしい事がある」

 

「報償次第だが?」

 

腕を組んでシレッと言うジャンゴ、ほほう、共和国のスターデストロイヤー級を買ってもお釣りが来る契約費を支払ったと言うのに、追加料を取ると申すか。

 

ちなみに俺の懐に残っているクレジットも5000万という途方もない出費に悲鳴をあげている。

 

交渉開始といこう。

 

「五万」

 

「サービスだ。八万なら手を打とう」

 

ジャンゴは腕を組んで首を横に振る。ふむ、こうなったら彼は頑なだ。もう少し譲歩しよう。

 

「六万」

 

「七万」

 

二人が息をついて言葉をそろえる。

 

「 「六.五万」 」

 

ガシッとジャンゴと手を組む。よし、交渉成立だ。残り10万ほどだが、ここから先は可及的に金が必要になる場面は少ない。のんびりバレないように増やして行こう。

 

「で、依頼内容は?」

 

装備を整えるジャンゴに、俺は依頼内容を伝える。なに、難しいことではない。ジャンゴにやってほしいことは、彼の今後にもつながる脱出劇なのだから。

 

その時、背後から不穏なフォースの違和感が俺の背中を貫く。

 

間髪入れずにライトセーバーを抜いて振り返った先には、無数のドロイドの群れと、その中心からゆっくりと、こちらに近づいてくる大きな影があった。

 

《貴様が、伯爵が言っていたジェダイか…思ったより小さいな》

 

マスクの奥から響くような特徴的な声。依頼内容を伝えたジャンゴも、あまりの威圧感にブラスターを抜く。

 

「行け!賞金稼ぎ!お前には役目がある」

 

目線だけ送ってそう叫ぶと、ジャンゴは少しだけ間を置いて、俺と現れたドロイドを何度か見てから、ブラスターを持ったまま後ろへと走り出し、そのままジェットパックで稜線の向こうへと消えていく。

 

《はっはっはっ!貴様を記念すべき五人目の獲物としてくれる…!!》

 

マントを脱ぎ去って姿を現した敵の手には、奪ったであろうライトセーバーが握られている。

 

彼はジェダイを殺すことに執念を燃やし、倒したジェダイのライトセーバーを戦利品としてコレクションしていた。

 

相手は、のちのクローン戦争で一役の大罪人となる存在…グリーヴァス将軍だ。

 

「気をつけたほうがいいぞ、将軍。今の俺は…機嫌が悪いからな」

 

対する俺はフォースを研ぎ澄まして、ライトセーバーのフォームを作る。その型は攻撃に特化した「ヴァーパッド」の型であった。

 

後ろから救援にやってきたトルーパーたちの援護射撃が始まる。

 

ちょうど良い、予定が崩れたが…想定範囲内。

すべては―――想定通りに進んでいる。

 

そう心の中で笑みを浮かべながら、ブラスターの光弾が煌めく中、俺とグリーヴァスはライトセーバーを交差させていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゥークーは予想以上の脅威だった。

 

パドメとオビ=ワンと共にドゥークーが格納庫に到着した直後、ドゥークーはフォース・ライトニングを放った。

 

咄嗟のことに気を取られたアナキンは、隣でオビ=ワンが目に見えないほどの速さであしらわれていく光景に思考が追いつかなかった。

 

オビ=ワンは、ライトニングをライトセーバーで受け止め、真っ赤なライトセーバーを下げて距離を詰めてきたドゥークーと対峙する。

 

だが、ドゥークーは終始、孫弟子のケノービを圧倒し、彼の手足を傷つけて身動きをとれなくした。

 

倒れたケノービに対する止めの一撃。

 

パドメの息を呑むような悲鳴を聞いて、アナキンは硬直していた思考と態勢を立て直して、なんとか封じたのだ。

 

「勇敢だな、坊や。だが、まだ訓練が途中だったと思ったが」

 

「覚えが悪い方でね…っ!!」

 

倒れているオビ=ワンからライトセーバーを受け取り、二刀流戦闘法「ジャーカイ」でアナキンは伯爵と戦う。

 

「ちぃい…!」

 

ドゥークーはアナキンの武器のうち、1本をすぐに破壊し、フォースプッシュでアナキンを突き放そうとしたが、意識を集中するアナキンはひらりとフォースの濁流を避けて、さらにドゥークーから距離をとった。

 

アナキンによって断ち切られた動力線。光が失われた格納庫の中で、赤と青のライトセーバーが鉄を焼くような音を響かせ、交差し合う。

 

「君はまだ傲りがあるようだ。その程度では私のジェダイの力には遠く及ばない」

 

「何がジェダイだ…シスの力に頼っているくせに!」

 

力任せに振り抜いた一閃を軽々とあしらわれるアナキンに、ドゥークーは不穏な笑みを浮かべながら言葉を吐いてゆく。

 

「あぁ、だが私の力はシスなどではない。私はジェダイの全てを凌駕する力を手に入れたのだ」

 

ほんの僅かな油断だった。

 

切り落とした動力源が、非常用のものに変わった境目を狙って、ドゥークーは戻った光源に目を眩ませたアナキンへ僅かにだがフォース・ライトニングを浴びせる。

 

「がっ…!!」

 

電気ショックのような衝撃を受けたアナキンは、肉体から煙を上げてその場に膝を落とした。皮肉にも、それは伯爵であるドゥークーへ、アナキンが跪いている構図となっていた。

 

「君への授業料に、その片腕でも貰っていくかな…!!」

 

ニヤリと笑みを浮かべるドゥークーは、そのまま赤いライトセーバーを振るい、若きジェダイ・パダワンの右腕を――。

 

 

 

切り落とせなかった。

 

 

 

「えっ…」

 

力なく膝をつくアナキンと、凶刃を振るったドゥークーの間に、白い一閃が分つように切り込まれていたのだ。

 

「何者だ…?」

 

ドゥークーが睨み付ける先。そこにあったのは、金茶色のフード付きローブと仮面を身に着ける影。

 

黄色いブレードを放つ特殊なライトセーバーを構えた存在だった。

 

「名前?そんなもの、今の俺にはない。そうだな…強いて言うなら〝ノーバディ〟とでも名乗っておこう」

 

ジェダイ・テンプルガードと同じ装いを持っているが、その人物の顔に付けられている仮面には、大きな傷があり、それは記されていたジェダイの紋章を塗りつぶすような傷痕だった。

 

「黄色いライトセーバーだと?」

 

テンプルガードとは、ナイトの中から選ばれるという無銘のジェダイだ。だが、彼らは文字通りジェダイ・テンプルを守る存在のはず。コルサントから程遠いジオノーシスに彼らがいるはずが無かった。

 

ドゥークーが距離をとってから斬りかかると、仮面の男は一つだったブレードを二つに増やして、ダブル=ライトセーバーを使った鮮やかなフォームでドゥークーと切り結ぶ。パドメに肩を貸してもらったアナキンや、オビ=ワンが見ても、仮面の男の身のこなしは一級品の技であった。

 

ドゥークーは正体不明の横槍に苛立ち、フォース・ライトニングを放つが、仮面の男はさらに柄の中心を可変させると、もう二つの光刃を出現させ、ライトニングを完全に防いでみせた。

 

十字を切るように展開するクアトロ=ライトセーバーを振り回して、ドゥークーと睨み合う仮面の男は、その下で笑みを浮かべる。

 

「言っただろう?俺は〝誰でもない〟と」

 

「君の正体には興味があるがね…!!」

 

その僅かな間。ドゥークーは手を横に翳すと、アナキンやオビ=ワンがいる場所の頭上にある燃料タンクをフォースでひしゃげ、倒壊させていく。

 

仮面の男はすぐ様ライトセーバーを仕舞って、三人の下へと落ちそうになるタンクをフォースで支えた。

 

「ドゥークー!!」

 

「これは始まりにすぎんよ、ジェダイたち」

 

燃料タンクが脇へと避けられる中、高笑いのような言葉を残したドゥークーの船が惑星の外へと飛翔していく。

 

ハッとアナキンは仮面の男を探そうとしたが、彼の姿はどこにもない。

 

あるのは、格納庫のすぐ脇から飛び上がった特徴的な輸送船、「スレーブⅠ」の後ろ姿だけだった。

 

 

 

 

 

 





クアトロ=ブレード・ライトセーバー

柄の両端にある放出口から、二つ同時に起動することも、片方だけ起動することも可能。使い勝手では、ダブル=ブレード・セーバーと同じ使い方ができた。

柄の中央部には折り畳まれた可変式の放出口が存在しており、最大展開で四つのブレードを展開する事ができる。

十字を切るようなライトセーバーは、殺傷能力を上げ、ブーメランのように放り投げることも可能(※イメージは風魔手裏剣「影風車」)

しかし、十字に展開したクアトロ=ブレード・ライトセーバーを完全に扱える熟練者は少なく、相手の意表を突いた奇襲などに用いられる事が多く、使い勝手も持ちにくさや、ライトセーバーで自身を傷つける危険性も高い。

よって後に、開発されるダブル=ブレード回転式ライトセーバーへ、全体的なデザインを引き継ぐことになった。

また、回転式ライトセーバーは、回転状態のまま頭上にかかげることで、ヘリコプターのようにして飛行することができる(事実)




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ダークサイドのとばり

 

 

 

「フォースは我らと共にありました、マスター・シディアス」

 

ジオノーシスからコルサントへ帰還を果たしたドゥークーは、真っ黒なローブを身につける暗黒卿、ダース・シディアスへ頭を垂れる。

 

「よくぞ戻られた、ティラナス卿。よくやってくれた」

 

「よい知らせをお持ちしました、閣下。戦争が始まりました」

 

そう言ってドゥークーが顔を上げると、シディアスはフードの下でニヤリと笑みを浮かべる。ジオノーシスの戦いや、決定的な場面で投入されたクローンの軍勢。そしてその争いの手配をしていたのも、タイミングもすべて、シディアスが主導権を握っていた。

 

この戦いに挑んだジェダイたちも、ほぼ全てがシディアスの掌で踊る道化と等しい存在となっていた。

 

「すばらしい。すべて余の計画通りに進んでいるな」

 

〝ただひとつの例外を除いて〟

 

シディアスは満足そうに頷きながら、誰にも知られていない場所を歩む。唯一、シディアスが見通せなかった存在は、「ノーバディ」と名乗ったジェダイテンプルガードの存在だった。

 

あの身のこなし、考えればそれが誰なのかは見当はつくが、そこに至る「過程」をシディアスは見通すことができなかったのだ。

 

考えが間違っていなければ、ノーバディは自分が知る存在。しかし、彼らは今やフォースの波の中に身を潜めている。見つけ出すのは困難極まりない。

 

そして、彼らは確実に「ログ・ドゥーラン」と関わりを持っているはずだ。

 

ジェダイのほぼ全てがシディアスの掌で踊る中、彼だけは自分の前に立って真っ直ぐとこちらを見据えているのだ。

 

彼の意思はフォースと深く結ばれている。ドゥークーの目論見を上回る一手を打ち、決定的な場面で彼を出し抜いたのだ。

 

報告によれば、彼を試す為に差し向けたドロイド軍の将軍グリーヴァスも、入手したライトセーバーを全て切り落とされた上に、脚部を切り裂かれ敗走すると言う結果だった。

 

彼はジェダイの中でも、アナキン・スカイウォーカーと並ぶ別格者だ。シディアスはその事実に笑みを浮かべる。

 

良いことだ。とても素晴らしいことである。

 

彼が目を付けた二人は、これから起きる大きな戦いの中で、その潔癖さを汚していくだろう。心を傷つけ、精神に暗い影が差し込んだ時が、シディアスが望むチャンスとなる。

 

この戦争は長い。やりようはいくらでもある。

 

その時間を制した時、暗黒面はついに世界を制するのだ。シディアスの笑い声が広いホールの中にこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり、そのときに現れたテンプルガードはジェダイの者ではないと?」

 

「テンプルガードがジオノーシスに出た記録はありません。マスターウィンドゥ」

 

ジェダイ・テンプルスパイアの中で、マスターウィンドゥの質問にオビ=ワンは簡潔に答えた。

 

ドゥークーとの戦いの中で現れたテンプルガード。その存在は今も謎に包まれており、このジェダイ・テンプルから彼らが出立した記録も残っていない。

 

となれば、彼らは別の場所を守護する存在か、あるいは別の勢力なのか…。

 

「…ドゥークー伯爵はシディアスが元老院を支配していると言っていましたが、信じられますか?私には信じられません」

 

オビ=ワンが悩んでいる理由としては、独房でドゥークーから言われた事もあった。もし仮に元老院がシスの支配下に置かれている場合、カミーノのデータ抹消や、秘密裏に進められていたクローンの製造、そして現れたテンプルガードの存在も深く調べなければならない。

 

「ダークサイドに与したのじゃ、ドゥークーはな。嘘と欺瞞、疑いを作るのが奴らのやり方じゃ」

 

「いずれにしても元老院に十分目を光らせておく必要がありますな」

 

マスターヨーダの言葉にマスターウィンドゥも同意する。

 

発信源がダークサイドに与した者だとすれば、こちら側を混乱させる思惑もあるのだろう。迂闊に信用するわけにもいかないが、政治面の不透明さもあり、ジェダイとしては常に意識を張り巡らさなければならないことに変わりは無かった。

 

「アナキンとドゥーランは、引き続きアミダラ議員の護衛でナブーへ向かっています。ドゥーランへの質疑は二人が戻ってからになるかと」

 

ログがこの十年間の間、水面下で動いていたことや、マスタークワイ=ガンや、マスターキット・フィストーらが調べている情報もある。

 

ナブー出発前にログが開示したデータを見る限り、クローン戦争の資金源はコルサントを中心にアウターリム・テリトリーを経由して銀河中に循環している。

 

誰も彼もが他人を疑うようになっているのだ。故にジェダイは自分たちの道を見誤ることが許されない。

 

マスターウィンドゥは疲れたように息を吐く。

 

「多くのジェダイが失われる戦いとなったな」

 

「認めざるを得ませんが、クローンがいなければ勝利はありませんでした」

 

オビ=ワンの言葉に、マスターヨーダは顔をしかめた。

 

「勝利じゃと?勝利と言ったのか?オビ=ワン、勝利ではない。ダークサイドのとばりが降りてきたのじゃ」

 

これから世界は暗い時代へと突入していく。マスターヨーダは揺らめくフォースを感じ取りながら、言葉を紡いだ。

 

「始まったのじゃよ、クローン戦争がな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナブーの美しい湖畔地帯。

 

そこにある小さな教会で、アナキン・スカイウォーカーと、パドメ・アミダラの結婚式は行われた。

 

式と言っても本当に儀式のようなもので、あたりには神父や、アナキンたちが信頼する存在しか立ち会っていない。

 

その立会人の中に、ログ・ドゥーランはいた。

 

「これがボガーノへの航路だ。大丈夫さ、まだ共和国にも知られていない惑星だ。身を隠すにはうってつけだろ?」

 

私服姿のジャンゴへ、俺は「ボガーノ」へ至る航路が入った端末を渡す。

 

ボガーノは帝国時代になっても発見されない辺境の惑星だ。湿地帯が多い場所であるが、自然が豊富であり、食料も申し分ない。依頼を果たしたジャンゴは、端末をポケットにしまいながら、あえて誘いをかけた。

 

「お前、俺と共に来ないか?俺たちなら、銀河最強のコンビになれるぞ?」

 

銀河最高の賞金稼ぎからの誘いに、小さく笑ってしまう。個人的には魅力的な話ではあったが、俺は首を横に振った。

 

「俺はジェダイだよ、賞金稼ぎ」

 

「そうだったな」

 

わかりきってたことだな、とジャンゴは肩をすくめる。そんな彼に、ジオノーシスで契約した金額が入ったケースを渡した。隣にいたボバがケースを受け取ると、偽装したスレーブⅠへと運び込んでいく。

 

「約束の分だ。残りの依頼の件、頼むぞ?」

 

そう言った俺の視線の先には、アナキンとパドメの結婚を祝福するシミ・スカイウォーカーや、シミと結婚したラーズ家が、義兄弟の結婚を祝っている光景があった。

 

ジャンゴに依頼していた件の中には、タトゥイーンから秘密裏にナブーへ彼らを連れてきてほしいと言う依頼もあったのだ。

 

「俺を誰だと思ってるんだ?」

 

そう言ってスレーブⅠへ向かうジャンゴ。彼からしたら、民間人を惑星から連れ出すくらい何と言うことは無いのだろう。

 

式が終われば、彼らをタトゥイーンへ送るまでがジャンゴの仕事となり、そのあとはボガーノへほとぼりが冷めるまで身を隠す手筈となっている。

 

ジャンゴが去ったあと、俺は湖畔のバルコニーに腰を下ろして結婚式の様子を眺めていた。

 

穏やかな木漏れ日と、湖畔から舞い上がってくる風の中にいる幸せそうなアナキンとパドメ。

 

本来なら、彼らを祝福してくれる者は居なかったが、今はアナキンの母や家族がいる。これは確かな繋がりとなっていく。

 

改めて俺は実感することができた。彼らの行く先をほんの少しでも変えることができたということを。

 

ふと、裾にしまっていたコムリンクへ通信が届く。コムリンクを起動すると、そこにはジオノーシスでアナキンたちを救った「ジェダイテンプルガード」の服装をした人物が映し出されていた。

 

《はじまったな、マスター》

 

仮面越し、そして変声機で変えられたくぐもった声が届く。彼が言うように、テンプルガードの〝変装〟をした男は、十年間の中で俺に仕えてくれる〝弟子〟となった人物だ。

 

「すまないな、ノーバディ。苦労をかける」

 

これからが大変だぞ、と伝えると、ノーバディの後ろには同じテンプルガードの服を着た二人の人影が、跪いて頭を下げた。

 

そうだ。この十年間、俺は何もしてこなかったわけではない。来るクローン戦争の中で、アナキンたちの未来を守る為。フォースの導くままに俺は行動を起こした。

 

口々に彼らは言う。

 

 

 

《すべては夜明けの為に》

 

「ああ、フォースの夜明けの為に」

 

 

 

 

まだ見ぬ未来が、訪れようとしていた―――。

 

 

 

 

 

 





クローン大戦編はこれにて終了となります。

次はシスの復讐から。クローン戦争編は番外編で描いていけたら良いな…。




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おっと手が滑って技術者が英国面に

クローン戦争編に出す予定の武器なの設定資料です

ブリディッシュサイドの力はすばらすぃぞルゥウウクゥウ(ねっとり





クアトロ=ブレードライトセーバー

 

柄の両端にある放出口から二つ同時に起動することも、片方だけ起動することも可能。使い勝手では、ダブル=ブレード・セーバーと同じ使い方ができた。

 

柄の中央部には折り畳まれた可変式の放出口が存在しており、最大展開で四つのブレードを展開する事ができる。

 

十字を切るようなライトセーバーは、殺傷能力を上げ、ブーメランのように放り投げることも可能。

 

しかし、十字に展開したクアトロ=ブレードライトセーバーを完全に扱える熟練者は少なく、相手の意表を突いた奇襲などに用いられる事が多く、使い勝手も持ちにくさや、ライトセーバーで自身を傷つける危険性も高い。

 

よって後に、開発されるダブル=ブレード回転式ライトセーバーへ、全体的なデザインを引き継ぐことになった。

 

また、回転式ライトセーバーは、回転状態のまま頭上にかかげることで、ヘリコプターのようにして飛行することができる。

 

 

 

 

全地形対応アーチャー自走砲トランスポート

(All Terrain Archer-SPA Transport)

 

略してAT-A-SPAT

 

偵察型のAT-STの頭部に大口径のビーム砲を積むと言う帝国きってのビックリドッキリメカ。

 

MS-1連動式重レーザー砲を二足歩行型のウォーカーに取り付けているが、バランスをとるため元車両と砲の向きが正反対。しかも主砲を発射するとコクピットが放熱のために摂氏120度に見舞われるため操縦手が避難しなければならない。

 

ぶっ放したらすぐに一目散に逃げることができるので、一撃離脱戦法を取ることが多い自走砲としてはある意味理に適った構造である。

 

 

 

 

 

 

 

 

グローリアス級スターデストロイヤー

 

スターデストロイヤーでは入れないような狭い宙域や、デブリ帯でも活用できるように軽巡洋艦に超ド級戦艦並の18インチビーム砲二門を搭載。搭載している砲門数が2門と異常に少ないが停泊しての動かない地上目標砲撃に有効。

 

当然ながら艦隊戦では確率論的に命中する弾数がそもそも実用レベルにならない。そんな大型軽巡洋艦を保有する意味は?と持て余して結局は軽巡洋艦に戻された。

 

この変態的発想は後のファーストオーダーが製造したマンデイターIV級シージ・ドレッドノート<フルミナトリックス>に影響を及ぼすことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハバクック級スターデストロイヤー

 

デブリ帯に浮かぶ隕石をくり抜いて作る格安宇宙戦艦。

 

重力場が乱れているため、反重力装置が作動しないが、損傷してもデブリ帯から小惑星を持ってきてくっつければ回復する

 

企画書をターキンに出したが一行目を読んだ段階で却下された。

 

 

 

 



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シスの復讐
話をしよう。あれはジオノーシスの戦いから3年後のことだ


 

 

19 BBY

 

コルスカ宙域―――惑星、コルサント。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しくなってきたぞ」

 

イータ2アクティス級軽インターセプターのコクピットの中で、立派な青年に成長したアナキン・スカイウォーカーはニヤリと笑みを浮かべながらそう言った。

 

クローン戦争の勃発から3年。

 

銀河共和国は分離主義者の独立星系連合を相手に善戦し、勝利は目前に迫っていた。

 

共和国はこの頃アウター・リム・テリトリーへの包囲攻撃を進め、ジェダイ・オーダーのメンバーもまた戦争の終局を予期していた。

 

そんな中、“シーヴ・パルパティーン”という名で共和国元老院の最高議長を務める傍ら、独立星系連合を影から操っていたシスの暗黒卿ダース・シディアスは、数十年がかりの陰謀の最終段階に着手していた。

 

シディアスはクローン戦争でジェダイが疲弊するのを待ち、シスが支配する新しい銀河系国家の創設を目論んでいたのだ。

 

アプレンティスであるドゥークー伯爵が独立星系連合の国家主席として計画に協力していたが、シディアスは年老いた伯爵よりも若くて強力な弟子を求めていた。

 

シディアスはかねてより目を付けていたジェダイ・ナイトのアナキン・スカイウォーカーと、ログ・ドゥーランを、フォースのダークサイドに引きずりこむため、共和国の首都惑星コルサントを舞台にした茶番を仕組んだのだった。

 

「マスター、前方にグリーヴァス将軍の船が見えます。ヴァルチャー・ドロイドを連れて徐行している船です」

 

星空のように広がる無数の光全てが、クローン艦隊と分離主義のドロイド軍の想像を絶する戦いの光だ。

 

ヴェネター級スターデストロイヤーから放たれるプラズマ砲で分離主義連合の船が爆散するのを避けて、アナキンのマスターであるオビ=ワン・ケノービは、コクピットから前方に浮かぶ巨船《インヴィジブル・ハンド》を見つめた。

 

「見えるぞ。あれなら侵入は簡単そうだな。オッド・ボール、聞こえるか?」

 

《聞こえます、レッド・リーダー》

 

「私の位置をマークしろ。中隊を後方に並べるんだ」

 

急遽、他惑星からコルサントへ呼び戻されたアナキンとオビ=ワンに課せられた任務は、グリーヴァス将軍によって誘拐された元老院最高議長であるシーヴ・パルパティーンの救出任務だった。

 

《後尾についています、ケノービ将軍。Sフォイルを攻撃ポジションにセット》

 

クローン兵たちが乗る170スターファイターは、余剰熱を逃すSフォイルと呼ばれる可変翼を動かしながら、アナキンとオビ=ワンのファイターの後ろへ編隊を組んで配置につく。

 

インヴィジブル・ハンドから発進したドロイドのファイターが嵐のように襲いかかってくる。その内の数機が、アナキンたちの後ろにいたクローンたちを捉えた。

 

《襲い掛かってきた!!援護を…!!》

 

「今援護に向かう!」

 

「いや、ダメだ。彼らに任せろ。我々も自分の任務を行う」

 

旋回しようとしたアナキンを止めるオビ=ワン。その物言いにアナキンはわずかにだが嫌悪感を覚える。クローン戦争は、代用が利くクローン兵を大量に投入した戦いだ。

 

だが、彼らは生きている。命令を聞くしか能がないドロイド兵とは違い、彼らは考えて行動しているのだ。アナキンとこれまで共に戦ってきたクローン兵たちの中にも、情を持つ勇敢な兵士はたくさんいた。

 

「しかし、見殺しには…」

 

「任せておけ、アナキン」

 

そう言って歯を食いしばったアナキンに、通信が入る。すると、オビ=ワンやアナキンのファイターの間を通り抜けるように、一機の黒と赤で塗装されたファイターが飛び去っていき、クローンたちを追い回していたファイターを次々と撃破していく。

 

機体をくるりと旋回させて、迫るミサイルをマニューバで躱した上に、敵ドロイドと巻き込むように撃ち抜いたファイター。

 

アナキンでも口笛を吹くほどの操縦センスを持つのは、ジェダイナイトのログ・ドゥーランだった。

 

「久しぶりだな、ドゥーラン」

 

「第二次ジオノーシス侵攻作戦以来か。あの件は不味かったな」

 

ジオノーシスでの戦いの後、ログも銀河の戦場を転戦しており、この戦いには報告のため、クワイ=ガンと共に戻っていたのが幸いし、参加する事ができた。

 

クワイ=ガンは地上に残り、評議会ともに混乱する場を収めるために奔走しているだろう。

 

「各機は配置につけ、グリーヴァスの船から敵を引き剥がすぞ」

 

《了解です、ドゥーラン将軍》

 

クローン兵に指示を出して、ログもアナキンたちに続いてインヴィジブル・ハンドに向かって前進して行く。

 

その後、ログはシールドゲートの破壊を忘れていたアナキンのおかげで、自慢のスターファイターの右半分が吹き飛んで格納庫内に不時着することになった。もちろん彼は無事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ようこそ、我が船に。ドゥーラン将軍》

 

あーもう、めんどくさい奴にあったよ。

 

アナキンたちと共にグリーヴァスの旗艦であるインヴィジブル・ハンドの艦内を探索していたところ、罠にハマって三人で運命のダストシュートへ脱出したのだが、自分だけ出るところが違っていたらしい。

 

ローブについたゴミを払いながら通路を歩いていると、マグナガードやバトルドロイドを連れてブリッジに向かっていたグリーヴァスと鉢合わせたのだ。

 

「ああ、歓迎感謝するよ。グリーヴァス将軍」

 

《ここが貴様の墓場となるのだ》

 

その台詞を聞いたのは何度目だろうか。

 

初めてジオノーシスで会った時は、勢い余って達摩にしてしまったが、それからというもの、グリーヴァスとは何度か戦っている。最後に戦ったのは、マスターキットと彼の元パダワンだったナダールと共に、グリーヴァスの根城に入った時だ。

 

あの時は口の悪いドロイドに身長のことを言われ、勢い余って腰を切り落としてしまったが、彼の底知れぬ逃げ足の速さに追いきれず、これまで逃してしまったわけだ。

 

懲りない男…もとい、懲りないドロイドだ。

 

「それはどうかな?議長を返してもらうぞ」

 

俺はライトセーバーを抜いてグリーヴァスと向き合う。マグナガードがエレクトロスタッフをブンブンしながら近づいてくるが、スタッフの根本を折り返して超至近距離からの一閃で即座に首を落とす。

 

隣で狼狽えたマグナガードを見逃さずに、ライトセーバーを投擲し、胴と腰を両断。すぐさまフォースでライトセーバーを引き戻し、シャイ=チョーの構えをとる。

 

《向こうには伯爵がいる。こちらは二人で楽しもうではないか》

 

マグナガードを相手にしていた隙に、周りはデストロイヤードロイドと、バトルドロイドで溢れかえっていた。これは骨が折れるぞ、と思いながら、フォースを研ぎ澄ましてゆく。

 

《武器を捨てろ、チビめ》

 

刹那。

 

そう言ったリーダークラスのバトルドロイドの上半身が宙に舞い、軍勢の後ろでほくそ笑んでいたグリーヴァスの背後へと火花を散らしながら落ちた。

 

グリーヴァスはドロイド。人間的な感覚はすでに捨てている。にも関わらず、彼は背筋に冷たい何かを感じていた。幻痛とでもいうのだろうか。ゾワゾワと嫌な感覚がグリーヴァスを苦しめる。

 

四肢を切り落とされ達摩にされた時も、腰を切り落とされた時も、逃げようとして上から踏みつけられた際にも感じたモノ。

 

《馬鹿者!奴の身長に触れるな!》

 

くぐもった声がうわずる。最近になって、それが久しく忘れていた恐怖だとグリーヴァスは気づいていた。

 

目の前で揺らめくフォースを持つ男が、構えを攻撃的なものへと変化させていくのがわかった。

 

「ほう、いい度胸だ貴様ら。ここで死んでいけ。足を置いて死ね。俺をチビと言ったやつは漏れなく死んでいけ!!」

 

あかん。

 

グリーヴァスはドロイドに足止めを命じて、一目散にブリッジへと逃げ込む。

 

ログとの戦いでグリーヴァスが培った物。それは逃げるタイミングを見極める目だった。

 

後ろでは凄まじい溶断音と、ドロイドたちの断末魔が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 



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アナキン・スカイウォーカー

 

アナキン・スカイウォーカーは誠実な人物だった。

 

クローン戦争初期。

 

パドメ・アミダラと許されない関係となった彼を支えたのは、兄のように信頼する師でも、相棒ともいえるドロイドでもなく、同じジェダイである盟友、ログ・ドゥーランだった。

 

あの結婚の後、秘密ではあるがパドメ経由で母や母と家族になったラーズ家とも交流が始まり、今でも良好な関係を保てている。コルサントへ帰還した際も、「そういう時間が大切だぞ」と、都合が合えばジェダイの任務をログが肩代わりし、アナキンは限られたパドメとの時間で愛を育んでいった。

 

クローン戦争の最中でも、彼は唯一無二の戦友であり、いつしかアナキンにとっての親友となった。

 

アナキンが危機の時は必ずログが助けに現れ、逆の時はアナキンがログを助けにやってくる。多くの仲間やジェダイたちと共に戦場を駆け抜け、多くの出会いと別れを噛み締めて、今の場所に立っていると言えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

アナキンはドゥークーを圧倒した。

 

暗黒面の力を頼らずに、理性と自制心、そして親友と研鑽したセーバーテクニックを駆使して、自分より遥かに知識と技量に差があるはずの伯爵を凌駕したのだ。

 

ドゥークーも、そしてそれを見ていたパルパティーンも、アナキン自身の成長に驚きを隠せずにいた。

 

本来ならば、クローン戦争初期のジオノーシスで、アナキンの腕を落とす手筈だったが、それは狂わされ、アナキンは五体満足の状態でクローン戦争を駆け抜け、議長や伯爵の思惑を凌駕する存在へと進化していたのだ。

 

オビ=ワンをフォースプッシュで吹き飛ばしたのも束の間、暗黒面の力に頼らずにアナキンはドゥークーを追い詰め、赤い光を放つライトセーバーの柄を切り落とした。

 

「降参しろ、伯爵」

 

武器を失った伯爵へ、青いライトセーバーを突きつけながら、アナキンは視線を鋭くさせて言葉を迫る。

 

「よくやった、アナキン。よくやった…その男を殺せ」

 

アナキンは、パルパティーンへ視線を向けた。

 

何を言ってる?勝負は決したはずだ。

 

そんな視線を向けるアナキンへ、パルパティーンは彼から信頼を受ける〝議長〟の仮面を曇らせながら言葉を続ける。

 

「その男を生かしたままでは、この争いに終止符を打つ事はできんぞ」

 

伯爵が驚愕したような顔を浮かべ、力なくアナキンを見つめる。たしかに、伯爵のせいで酷い目に晒された仲間もいた。自分も、オビ=ワンも、多くの人が傷つけられた。

 

しかし、本当に殺していいのか?アナキンはジェダイとして思考を彷徨わせる。武器を失い、抵抗できない相手を殺すことはジェダイでは禁じられてる。それはシスの道だ。

 

ログも可能な限りそうしてきた。助けられる命があるなら、それが何であれ手を差し伸ばすのが彼の在り方だった。フォースで深く繋がり、相手とわかり合うことができると、ログはずっと信じている。

 

「…できません。議長」

 

ここでドゥークーを殺すことは、共に戦ってきた親友を裏切ることになる。

 

「では、ジェダイに処遇を任せるのか?君の親友や、君を信じていない評議会に」

 

その心をパルパティーンは黒い言葉で塗りつぶしていく。いまだにジェダイのマスターたちは自分やログを信用していない。どれだけ功績を挙げようが、どれだけ多くの人を助けようが、認められることはなかった。

 

そこに不満を抱いているのも事実だし、アナキンが評議会を信用していないことも事実だった。

 

アナキンのフォースが揺らめく。

 

どうする。

 

殺すべきか。

 

それとも生かすべきか。

 

信用していない評議会に渡して?

 

ドゥークーがこれ以上、悲しい戦いの火種を生み出さないと、どこに保証ができる?

 

それならば…ここで自分が引導を渡すことが―――。

 

「やれ、アナキン」

 

パルパティーンの影が揺らめいて、アナキンの背中から腕を包み込んでゆく。彼はゆっくりとライトセーバーを振りかざし…無防備なドゥークーを…。

 

 

 

その時、アナキンの前に何かが滑り込んできた。黄色い閃光が眼前に現れ、アナキンは咄嗟にライトセーバーを防御の姿勢に構える。

 

バチリッと突如として現れた黄色い閃光と、アナキンのライトセーバーが火を散らした。

 

「無様な物だな、スカイウォーカー」

 

黄色いライトセーバーを振るうのは、煙のようにこの場に現れたジェダイテンプルガードの姿をした「ノーバディ」だった。

 

「ノーバディ…!なぜお前がここに居る!」

 

「少しコイツに貸しがあってな。ここで死なれるわけにはいかないのさ」

 

一つ起動していたブレードから、さらにもう一つのブレードを起動し、武器をダブル=ライトセーバーへ変化させたノーバディは、アナキンを退け、さらにフォースプッシュでアナキンを引き剥がす。

 

振り返ると、パルパティーンが地獄の底のような瞳でノーバディを見つめていた。その射殺すような視線を肩をすくめて受け流すと、ノーバディの背後から二人のテンプルガードが宙返りを打って現れる。

 

恰幅の良いテンプルガードと、線が細いテンプルガードが、呆然とするドゥークーに肩を貸して部屋から出る方へと走り出す。

 

「待て!!」

 

「貴様の相手は俺だぞ、スカイウォーカー!」

 

青と黄色のライトセーバーを閃かせながら、一進一退の攻防を繰り広げるアナキンとノーバディ。ドゥークーが部屋から出るのを確認してから、ノーバディはフォースの力と共に高く飛び上がり、高台へと上る。

 

「この戦争の終わりは近いぞ、スカイウォーカー。貴様に迫る魔の手には注意を払うことだ」

 

忠告するように発したノーバディは、腰にぶら下げていた球体状のものを掴み、アナキンの足元へと投げる。

 

それは眩い閃光と、聴覚を揺らす高周波を発し、アナキンや議長の目をくらませた。

 

閃光が晴れた頃には、ノーバディの姿やドゥークーの気配はなく、静寂だけがその場に漂っているのだった。

 

 

 

 

 



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コルサント・ダイナミックエントリー

 

 

尻が見える。

 

目が覚めたオビ=ワンの視界に入ってきたのは、弟子の尻だった。状況から見て担がれているのはわかるが、ここがどこなのか見当が付かない。

 

すると、真上でセーバーの斬撃音が響き、ドロイドの残骸がオビ=ワンの視界を上から下へと通過して行く。つられて下を見たら、遥か下まで見下ろせる昇降機の奈落が広がっていた。

 

「落ち着いて。ちょっとした問題に直面しているところです」

 

上からアナキンの声が聞こえる。肩越しに見る限り、アナキンといつの間にか合流しているログが壁にしがみ付いており、自分の眼下ではパルパティーン議長が必死な形相でアナキンの足にしがみ付いていた。

 

「やぁ、議長。私は何か見逃したか?」

 

「軽口を叩く余裕があるなら大丈夫そうだな、アナキン。放していいぞ」

 

オビ=ワンのユーモアに富んだセリフを聞いて答えたのは、上で三人分の体重を支えるログの苦悶に満ちた声だった。

 

グリーヴァス将軍との追いかけっこの果てに、損傷を受けたインビジブルハンドの船体が傾き始めていたのだ。

 

議長と気絶したオビ=ワンを背負うアナキンはこれ幸いと真横になった昇降機の中を走っていたが、ドロイドがバラスト装置で船体を元に戻した為、アナキンと議長は昇降機内で宙吊りに。

 

そして、グリーヴァスを追っていたログが姿勢を取り戻した船体の中を落下して、アナキンたちが掴まる昇降機の扉を打ち破ってきた為、落ちそうになった三人を捕まえていると言った状態だった。

 

「しっかり掴まって」

 

「何だあれは?」

 

アナキンがオビ=ワンにそういうと、彼は指をさしながら自分たちの頭上を見ている。アナキンが顔を上げると、そこには重力に沿って降下してくる昇降機がこちらに向かってきていたのだ。

 

「ああ、これは不味い」

 

懐にしまっていた通信端末を使ってアナキンは格納庫にいるはずの相棒へと声を投げた。

 

「R2!エレベーターを停止させろ!!」

 

だが返ってくるのは雑音だけ。きっとR2も船体が戻った衝撃で不味いことになっているのだろう。そうこうしている内に昇降機はどんどんアナキンたちへと迫ってきていた。

 

「間に合わない。飛ぶぞ!!」

 

えっ、とアナキンが言う前に、三人を支えていたログが縁から手を離した。迫る昇降機から逃げるように飛び降りるアナキンたちは、R2が開いた扉へ腰に備えたワイヤーを使って飛び込むことに成功する。

 

最後にログが飛び込んだ瞬間、頭の天辺スレスレを落下してきた昇降機が通り過ぎていった。背中にヒヤリとしたものが走りながらも、アナキンたちはすぐに立ち上がる。

 

議長はやや疲れた様子で肩で息をして、そっと呟いた。

 

「君たちの冒険はいつもこうなのかね?」

 

アナキンたちは互いに顔を見合わせて小さく笑って答える。

 

「今日はまだマシです」

 

「船が爆発してないからな」

 

そう言った瞬間、インビジブルハンドは大きな爆発に見舞われることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは不味いことになったな。

 

アナキンたちと共に非常用艦橋へやってきた俺は、コンソールパネルに指を走らせて絶望的な状況に頭を抱えそうになった。

 

脱出ポッドは全て排出されており、エネルギーもダウンしている。舵を取る機能すらまともに動かず、ダメコンすら怪しいときた。

 

ギシギシと船体が軋む音がする。

 

振り返ると、インビジブルハンドの船体の後ろから半分が引きちぎれて、コルサントの大気圏の中で火ダルマになっているのが見えた。

 

「軽くなった分、操作が楽になった」

 

肩をすくめながら言うアナキンに呆れながらも、俺も彼の操縦に合わせるように、慣れないドロイド用のコンソールパネルを操作して行く。

 

バキバキと辺りから音が響き始め、R2が悲鳴のような電子音を奏で始めた。

 

「フラップ全開、冷却装置も全開にするぞ!」

 

「タイミングは任せて」

 

アナキンの感覚へフォースを研ぎ澄まして行く。一寸の狂いも許されない中で、コルサントの大気圏をスクラップになったインビジブルハンドが飛んで行く。

 

「いや、これは飛んでると言うより落ちてるな」

 

「羽が付いてればどこだって飛んでるさ」

 

違いないと、アナキンの軽口に笑いながら大気圏を抜けたインビジブルハンドは、コルサントの港へと差し迫ってゆく。

 

火を吹きながら飛ぶスクラップは、周囲の消火船から水を浴びせられながら滑走路へ胴体着陸し、スクラップをさらに自壊させながら何とか船体を地へと降り立たせることに成功した。

 

「今回は軟着陸だったな」

 

「機体がバラバラになってない」

 

オビ=ワンの言葉に頷き、アナキンの肩に手を置く。彼も満足したのか、俺の置いた手を叩いて操縦席から立ち上がるのだった。

 

 

 

 

 



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戦争と悪夢

 

深い微睡の中。

 

黒い霧が全てを覆い尽くしている。

 

手を伸ばしても、視覚的にそれが見えることはない。全てが黒に覆われている。自身の体や手が存在しているのかもわからない。

 

静寂の中だったはずの景色から、声が聞こえてきた。遠く掠れるような声だが、それは徐々に輪郭を得て聞こえてきた。

 

〝やめて…やめて…!!〟

 

愛する者の嘆くような声。

 

とても苦しげだ。まるで呼吸ができないような掠れゆく声の中、名前を呼んでいる。続いて聞こえたのは、ライトセーバー特有の鉄を焼くような音だ。

 

〝何故だ!!何故なんだ!!私はお前を…!!〟

 

激情に似た声。兄のように信頼していた者の声。青い閃光が重なり合う中で、火が走り、怒りがフォースに乗って駆け巡ってゆく。

 

〝助けて…アナキン…!!助けて…〟

 

〝助けてくれ…アナキン…!!〟

 

二人が手を差し伸ばして助けを求めてきた。黒い霧の中、再び手を差し伸ばす。今度は自分の腕が見えた。大丈夫、体はちゃんとある。二人を助けられる。

 

僕はジェダイだ。

 

共に戦ってきた友と一緒なら――。

 

差し伸ばした手の先に青い一閃が立ち上った。その閃光の向こうには黄金色の瞳をした誰かが立っている。

 

波打つような強力なフォースが、体の自由を、意思を、決意の全てを叩き伏せていく。

 

『貴様らは…ここで…死ぬ…』

 

そこで、初めて気がついた。

 

肌を焼くような熱に包まれる場所に立っていることに。周りにはパドメと、オビ=ワンが変わり果てた姿で横たわっていた。震える手でなんとかライトセーバーを掴んで、光刃を起動させたが、そこに現れたのは真っ赤な光だった。

 

〝なんだ、これは…〟

 

そんな言葉を待たずに、目の前でブレードを構えていた影が一閃を放ってくる。咄嗟に受け止め、赤と青の光が稲妻を放った。

 

〝嘘だ…〟

 

その時、目の前に迫った影から真っ黒なフードが落ちる。

 

そんなバカな…そんなバカなことがあっていいのか。

 

驚愕する自分を他所に、剣を交える相手は恐ろしい形相をして鋭い視線を浴びせてきた。

 

『お前には何もできないぞ、アナキン…!!』

 

そこにいたのは――。

 

〝嘘だあああああ!!!!〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、暗い部屋の中でアナキンは体を起こした。目が覚めたアナキンは、自分の体が驚くほど汗ばんでいることに気がついた。

 

右手に違和感を感じる。

 

手を持ち上げると自分の腕が無くなったように見えた。瞬きをして顔を振ると、そこにはしっかりと自分の腕がある。

 

また、こんな夢だ。

 

アナキンは気落ちした中で、隣から穏やかな息遣いを感じ取った。隣で眠るパドメの髪をそっと撫でる。

 

コルサント上空での戦いの後、事件の後処理を引き受けてくれたログのおかげで、アナキンはパドメとひと時の安らぎを得ることができた。

 

彼女の妊娠が発覚したのは、ほんの少し前の事だ。

 

母であるシミ・スカイウォーカーや、ラーズ家にも祝福され、アナキンは今まで味わったことのない幸福感と同時に、ジェダイとしての行く先に不安を覚えていた。

 

オビ=ワンに伝えるべきか?彼もマンダロアの内戦にてサディーンへ秘めたる思いを持っていた。クローン戦争の中で、多くのことを共に経験してきた。今ならば…彼に自分とパドメの秘めたる関係を伝えても良いのではないだろうか。

 

そう思い始めた頃だった。

 

あの悪夢を見るようになったのは。

 

アナキンは右手で目元を押さえて深く息をつく。母の危機を察知した時の感覚と全く同じだった悪夢が、再びアナキンを苦しめている。しかも、その結末はまったくもって信じられないものだった。

 

黄金の目をした親友がパドメやオビ=ワンを殺して、こちらに刃を突きつけてくる。

 

そんなことはありはしない。そんな不幸なことはありえない。アナキンにとってログは、かけがえのない親友であり、アナキンが理想とするジェダイの一人だった。

 

フォースと深く繋がり、平和と調和のために闘う彼が、暗黒面に落ちるはずなんてない。

 

そんなことはあり得ないのだ。

 

万が一にも。

 

アナキンは隣で微睡むパドメの頬にキスを落として、再び眠りにつく。

 

コルサントの日は、まだ上がっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月が見えるバルコニーにやってきた俺は、コルサントの街並みをゆっくりと眺めていた。

 

上空であれほど大規模な戦闘があったというのに、ジェダイ・テンプル付近の街並みはいつもと変わりなく、空を飛ぶスピーダーが高速で行き交っているのが見える。

 

しばらくその光景を眺めていると、後ろから誰かが近づいてくるのがわかった。

 

「フォースの行く先に、何か見えたか?ログ」

 

語りかけてきたのは、マスタークワイ=ガンだった。彼もまた、コルサントの戦いに尽力したジェダイの一人であり、コルサントの混乱を収めるべく、司令塔の一人として戦いに参加していた。

 

彼がいなければ落ちてくる分離主義者たちの船や、アナキンや俺が乗っていた船の着陸でも、甚大な被害があったに違いなかった。

 

俺はコルサントの街並みを見つめたまま、隣にやってきたマスタークワイ=ガンに見えるように首を横に振った。

 

「何も見えません、マスタークワイ=ガン」

 

フォースと深く繋がり、共感できる感覚を培ってきたつもりだったが、戦争が深刻化していくにつれて、フォースの輪郭を捉えることができなくなってきていた。

 

フォースの導きが示すはずの道筋は、黒い霧に覆われ、多くの悲鳴が響き渡っている。まるでそれは、誰かが炎に焼かれているようにも思えた。

 

「フォースの流れに身を委ねるほどに…聞こえてくるのです。この戦争で命を落としていった者たちの苦しみや、痛み、絶望が」

 

瞑想を深めていくと、その炎の中から誰かの手が伸びてきて俺を掴んで連れて行こうとする。ここではないどこかへ。

 

俺は、フォースを感じることが出来なくなりつつあった。

 

「この戦いでは、多すぎる者たちが犠牲になった。我々の役目はそれを終わらせることにある」

 

マスタークワイ=ガンも、フォースの変化を如実に察知している様子だった。彼もまた、フォースの探究者の一人であり、クローン戦争の合間にもジェダイの寺院や、シスの歴史の調査を続けている。多くの文献でも、フォースとジェダイ、そしてシスは切れない関係性を持つ存在であることが書き綴られていた。

 

「ジェダイとは調和をもたらすモノだ。しかし、我々は剣を振るいすぎた。共和国の体制に不満を抱く分離主義…それ以前に、我々は戦い過ぎたのだ」

 

平和と調和の象徴。

 

欲望と渇望と利己意識のままに突き進むシスからフォースのバランスを保つために作り上げられたジェダイは、その身をどこにも加担させず、平坦な第三者として調律する存在だったはずだ。

 

だが、今はそうではない。

 

共和国という一勢力に加担して、それに抗う分離主義を討たんとする戦士たちとなった。マスタークワイ=ガンは、クローン戦争が始まってからずっと疑念に思っていた。

 

自分たちは本当にジェダイなのか、と。

 

「マスタークワイ=ガン」

 

俺は共にコルサントの夜景を見つめながら、マスタークワイ=ガンへ語りかける。彼はこちらを見ずに、ただ夜景を見つめていた。

 

「―――ジェダイは、ただの暴力装置に過ぎないのでしょうか」

 

戦争。戦い。分離主義との殺し合い。

 

多くのジェダイが死に、多くのクローン兵が消耗品のように殺され、多くの人々が戦禍に巻き込まれ、多くが大切なものを失っている。

 

苛烈な戦争の中で俺は、この世界に飛ばされた時に感じたフォースへの感動や、ジェダイとしての誇らしさがすっかり消えてしまっていた。

 

武器を持った分離主義者を切り捨てた時、絶望と悲しみに満ちた瞳から生命が失われていくのを見るたびに、俺の心とフォースの間に、決定的な溝が出来上がってゆく。

 

俺たちはジェダイなのか。

 

それとも戦争を助長する単なる暴力装置なのか。

 

根底にある疑問をぶつけると、マスタークワイ=ガンは、真っ直ぐとした目で俺を見て答えた。

 

「それを決めるのは、我々ではないさ。歴史が決めてくれる」

 

マスタークワイ=ガンはそういうと、俺の肩を叩いてテンプルへと戻っていった。バルコニーに静寂が戻ってくる。俺は夜景を見つめながら目を細めた。

 

マスタークワイ=ガンには言わなかったが、俺にはもう一つの不安があった。

 

夢に見る悪夢。

 

赤いライトセーバーを持ったアナキンが、シスの玉座に座っているビジョン。

 

それに貫かれる自分。

 

泣き叫ぶパドメと、光を失って死んでゆくオビ=ワン。

 

響き渡る笑い声。

 

 

 

 

 

―――させない。

 

そんな未来は絶対に起こさせない。

 

そのために俺は戦ってきた。アナキンやパドメが泣かない未来のために。フォースとの絆を揺らがされ、ジェダイを信じられなくなった俺が拠り所にしているものだ。

 

バルコニーに掛ける手にぐっと力が入る。穏やかに愛を育む彼らを守るためになら、俺は―――。

 

 

 

 

 

 

 

 



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母として、父として、友として。

 

 

 

 

《グリーヴァス将軍。分離主義のリーダーたちをムスタファーへ移動させるがよい》

 

薄暗い部屋の中で、ローブを身につけるシスの暗黒卿、ダース・シディアスは跪くグリーヴァス将軍へ緩やかに手を上げながら、抑揚のついた言葉遣いでそう告げる。

 

《かしこまりました、閣下》

 

《戦争の終わりは近いぞ、将軍》

 

くぐもった声で頭を垂れるグリーヴァスに、シディアスはそう言った。その言葉に、グリーヴァスはどこか違和感を覚える。コルサントの戦いが失敗に終わった以上、分離主義者たちの劣勢は決定的になる一方だ。それに、もっと深刻な問題もある。

 

《しかし、ドゥークー伯爵は依然、行方不明のままです。閣下》

 

ドゥークー伯爵は、何者かに拐われた。それだけは確かな情報としてグリーヴァスは入手していたし、マスターであるシディアスも熟知しているはずだ。

 

今大戦時に何度も邪魔をしてきたジェダイテンプルガードの姿をした「ノーバディ」たち。ダソミアでの手痛い失態と、ノーバディに付けられた顔の傷をサイボーグの手で撫でながら、グリーヴァスは邪魔をした敵に怒りを立ち昇らせて行く。

 

そんなグリーヴァスに、シディアスは落ち着いた口調で告げた。

 

《――彼の犠牲は、必要不可欠だったのだ。だがすぐに新しい弟子が手に入る。はるかに若く、より力強い弟子がな》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アニー、赤ちゃんが生まれたらナブーの実家で暮らしたいの」

 

コルサントのアミダラ議員専用のサロンで休むパドメは、ナブーの美しい景色や自然を撮った映像をアナキンに見せながらそう言った。

 

妊娠経過は順調であり、医療設備が整ったコルサントで出産すれば、何ら問題なく過ごすことは可能になる。肩の重い公務を優先していたパドメも、すっかり母親の姿となっていた。

 

「レイク・カントリーに行きましょう?そこなら誰にも分からないし…安全よ。シミお母様にも話はしているし、オーウェンさんも手伝ってくれるって。先に行って子供部屋を用意しておくわ。最適な場所があるの。庭のすぐそばよ」

 

映像をいくつもスクロールしながら、実家のある風景を見つめる。ナブー郊外、湖畔地域から少し離れた田舎町がレイク・カントリーだ。住むには困らない小さな村があるそこに、パドメの実家の屋敷がある。

 

映像の中には、屋敷の掃除を手伝いに来たオーウェンや、ガールフレンドのベルーも映っていて、公務で帰省したパドメたちと楽しげに写っている写真も幾つもある。

 

「…アニー?」

 

そんな映像に視線を向けながらも、アナキンの反応は薄かった。隣に座っていたパドメが視線が定まっていないアナキンの顔を覗き込んだ。

 

ふと、パドメに気がついたアナキンは困ったように笑って肩をすくめる。

 

「え、ああ、大丈夫さ。聞いているよ」

 

「子供が生まれたらどこに住むか、わかる?」

 

「ええ…と…」

 

まったくもう、と言わんばかりにパドメは顔を離して不貞腐れたように座り込む。機嫌を損ねたパドメに許しを乞うように、アナキンは彼女の柔らかな髪に指を通した。ただ、それさえもパドメには、アナキンが何かを誤魔化しているように思えた。

 

「アニー、本当にどうしたの?どこか上の空のように見えるわ」

 

いくつかの言葉の応酬を繰り返した後、しつこく食い下がるパドメに観念したように、アナキンは小さく息をついて、彼女の疑問に応えた。

 

「最近、夢を見るんだ」

 

「悪い夢?」

 

「母さんが傷ついている時によく見た夢に似ている」

 

「聞かせて、アニー」

 

言葉を濁しているアナキンと真っ直ぐに向き合うパドメ。彼はどこか恐れているような仕草をしてから、意を決してパドメに悪夢の正体を告げた。

 

「ログが…君とオビ=ワンを殺す夢だ」

 

恐ろしい夢だった。見るはずのない光景だというのに、あまりにもリアルな感覚にアナキンの手は無意識に震えている。それを察したパドメも、驚愕するように目を見開いていた。

 

「そんな…あり得ないわ」

 

「そうだ、あり得ないんだ…こんな夢を見ることすら…なのに。日に日に不安は大きくなってゆく…僕は…」

 

「アニー、ただの夢よ。そんなバカな話が現実になるわけないわ」

 

パドメも、ログ・ドゥーランという人物をよく知っている。アナキンと共に駆ける立派なジェダイだ。事実、パドメが危機に陥った時も彼はアナキンと共に真っ先にやってきて、自分たちを助け、導いてくれた。

 

他のジェダイには無い、アナキンと似た感性を持っている彼はパドメですら尊敬できる人格者であり、アナキンと自分の心からの友だと言える。

 

そんな彼が、そんな酷いことをするはずがない。あり得ない幻影に震えるアナキンを、パドメは優しく撫でた。

 

「貴方のお母様を救ってくれたのも、私や貴方の命を何度も助けてくれたのも、他ならないログなのよ」

 

母を救ってくれた時も。パドメとの禁断の恋への思いに背中を押してくれたのも。弟子の無実を証明するために共に評議会の決定に抗ってくれたときも。彼はいつでも、アナキンの味方でい続けてくれた。

 

「ああ、実現なんてさせない」

 

だから、そんな未来なんてないんだ。アナキンは震える手をぐっと握りしめる。パドメは優しく自身のお腹を撫でた。

 

「この赤ちゃんは私たちの人生を変えることになる」

 

ログが作ってくれた時間は、二人にとってかけがえの無い時間だった。彼がもたらしてくれた時間が無かったら、パドメもアナキンも、何も自覚も、覚悟も出来なかっただろう。

 

「女王は…私に元老院の仕事を続けさせないと思うわ。評議会もあなたが父親になったことを知ったら、あなたはジェダイから追放――」

 

「それでも構わない」

 

そう言ってアナキンはパドメを抱き寄せた。心からの言葉だ。たとえ、ジェダイから追放されようとも、彼女と、彼女が産む命が共にあるなら、何も怖くは無い。本気でアナキンはそう思えた。

 

「アニー」

 

「ログは言ってたんだ。愛する人を何より優先しろと。彼は常に行動と誠意で、それを僕に示して導いてくれた。だから僕は…」

 

「オビ=ワンは、私たちの力になってくれるかしら?」

 

そう不安そうに言うパドメに、アナキンは優しく笑みを作る。

 

「なってくれるさ。僕のマスターだからね」

 

誰一人として、あんな悪夢のような道にはいかない。アナキンはそう思っている。きっとこの幸せをみんなで分かち合える未来が来ると。

 

その時は、本気で信じていた。

 

だが、フォースの導きは―――

 

 

 

残酷だった。

 

 

 

 

 



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踏み絵

 

 

 

「二人の評議会への列席は認めるが…しかし、ドゥーランへのマスターの地位を与えることはできない」

 

「は…?」

 

パルパティーン最高議長から、ジェダイと元老院の架け橋として、代理人に選ばれたアナキンとログは、最高議長からの二人のマスターへの昇格の打診を受けて、マスターヨーダや、マスターウィンドゥが並ぶ評議会への召集が掛けられた。

 

その中で、パルパティーンからの打診を受けて出した評議会の結論が、アナキンが声を上げた判断であった。

 

「何ですって?」

 

アナキン・スカイウォーカーとログ・ドゥーランの評議会の参列は認めるが、マスター認定をするのはアナキンだけ。

 

その結論に意を唱えたのは、隣で黙って判断を聞いていたログではなく、アナキンだった。

 

「アナキン、お主はマスターとして相応しい存在となっている。だが、ドゥーランは…」

 

「どういうことですか?ひどい侮辱だ!」

 

アナキンは自分でも驚くほどの感情が制御できずに、その判断を下したマスターたちを見渡しながら怒声をあげる。

 

「ログは素晴らしいジェダイです!僕よりもずっとマスターに相応しい!数えきれない多くの星を救ってきました!なのにマスターじゃない!?そんなことが――」

 

「落ち着け、アナキン」

 

怒りにも似た感覚に苛まれるアナキンの肩を叩いて、ログは落ち着いた顔つきで激情に駆られるアナキンにそう告げる。

 

アナキンも、ログ自身がそう言うならと昂っていた自身の感情をどうにか押さえつけて頭を下げた。

 

「すまない…」

 

そんなアナキンにログは微笑むと、複雑な表情をするマスターヨーダや、マスターウィンドゥに一礼し、毅然とした態度で判断を受け取った。

 

「マスターヨーダの言い分も、自分は分かっています。しかし、私にとってジェダイは全てです」

 

「分かっておる…席に着きたまえ、マスター・スカイウォーカー、ジェダイナイト・ドゥーラン」

 

そう言って空いてる席へ促すマスターヨーダに従い、ログとアナキンは評議会の席へと腰を下ろすが、真正面にいるオビ=ワンから見たら、アナキンは全く納得した様子には見えなかった。

 

「では、これより評議会を始める」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マスターヨーダが大隊を連れてキャッシークへ赴くことが決定した評議会の後、マスターウィンドゥから残るように言われたログを残して、アナキンとオビ=ワンは、長く続くジェダイ・テンプルの通路を歩んでいた。

 

「こんな馬鹿な話がありますか?」

 

マスタークラスとなった弟子の放った一言は、とても不満げで怒りすら覚える感情がこもった声であった。

 

「評議会のメンバーにしておいて、マスターにはしない?ジェダイの歴史に前例がありません。これはログへの侮辱だ!」

 

やれやれ、戦時中の特殊な事例でなければ反対していたところだとオビ=ワンは内心思いながら、感情を荒立てるアナキンを見つめる。

 

「落ち着け、アナキン。大変な名誉だぞ?」

 

そう言ったオビ=ワンは、穏やかな笑みを浮かべたまま、アナキンを宥めるように言葉を選びながら彼に語りかける。

 

「お前の歳でマスターで、ドゥーランも共に評議員なんて、それこそ前例がない」

 

「僕は納得できませんよ」

 

そう即答するアナキンに、オビ=ワンは驚いた。少なからず、マスタークラスになることを望んでいたアナキンが、こうも不満をあらわにするとは。オビ=ワンから見ても、アナキンとログはマスターに相応しい充分な活躍をし、多くの銀河に光と平和をもたらしてきた。

 

アナキンもまだ精神的に鍛錬を積む必要はあるが、彼がマスターになれないのは何故かと嘆くたびに、ログは言った。

 

〝ジェダイ・マスターというのは、戦いの功績や力の強さで認められるものではない。フォースと深く繋がり、正しき知性と正しき精神をあわせ持ったジェダイが得られる称号だ〟

 

その度に、アナキンは感情的になっているところを指摘され、時には言葉を失い、時には感情的になってログと言い合いになったりと手を焼かされたものだ。

 

そんなアナキンが、自分のマスターへの昇格よりも、ログがナイトのままという結果に怒りを露わにするとは。

 

オビ=ワンも、評議会の内情を知るが故に、アナキンにかける慰めの言葉を言う権利は無かった。

 

「…実のところ、彼はこの戦争の裏側に関わりすぎているという噂もある。議長が、お前とドゥーランを通じて、ジェダイの問題に干渉しているだけに、評議会はそれを好ましいと思っていないんだ」

 

「ログが?」

 

そう言って疑問の目を向けるアナキンに、オビ=ワンは頷く。

 

「ジオノーシスの戦いで、彼は秘密裏に賞金稼ぎを雇っていた。結果的に事態は前向きに動いていたが、一歩間違えればとんでもない事態になっていただろう」

 

あの一件以来、その賞金稼ぎ『ジャンゴ・フェット』も行方不明。一説にはジオノーシスの戦いで戦死したとも言われているが、真相は闇の中だ。だが、オビ=ワンは彼の船がジオノーシスから飛び立ったことを知っている。

 

そしてアナキンも…。

 

「それだけではない。戦時中に現れた無銘のジェダイテンプルガードの存在。生きていたモールやシスの暗殺者であったヴェントレスとも、何らかの通じるものがあると評議会は考えている」

 

クローン戦争の中で現れた暗黒面の使い手を名乗るモールや、その仲間。そしてドゥークーが差し向けた暗殺者であるアサージ・ヴェントレスの存在も、不可思議な点が多い。

 

彼らは決定的なチャンスが訪れる時に、それに手を出さず、鮮やかともいえる撤退を行っているのだ。まるで、こちらと戦っている姿が幻影に見えるような行動。

 

そして、それに似た感覚をオビ=ワンは『ノーバディ』と呼ばれるジェダイテンプルガードの姿をした謎の存在にも感じることがあった。

 

この矛盾点が何らかの関係を持っている可能性は高い。それを危惧して、評議会はログのマスター昇格を頑なに認めなかったのだろう。

 

「ドゥーランが、暗黒面のスパイとでも言うのですか?」

 

「だからこそ、彼に議長の行動に関する全ての報告を求めるんだ。評議会はパルパティーン議長の思惑を、知りたがっている」

 

最近のコルサントの動きの不審さも増している中、ジェダイの問題に口を出しつつあるパルパティーンへの警戒も強まっている。彼がアナキンと、そしてログを指名したことは、評議会にとっても好都合と言えた。

 

アナキンはそこで理解した。

 

これは、ログに課せられたジェダイからの踏み絵なのだと。

 

「だから、ログをマスターにせずスパイに仕立て上げようと言うのですか!?それは、彼に対しての裏切りですよ!!」

 

「これは記録に残せない任務だ。アナキン」

 

「議長もログも悪い人じゃありませんよ、オビ=ワン!わかっているでしょう?!彼は…彼らは親切にしてくれました。僕がここに来たときからずっと助けてくれてたんです」

 

パルパティーンも、ログも、ジェダイとしてのアナキンを支えてくれた恩人だ。パルパティーンは祖父のように多くのことを聞き、そして教えてくれた。ログは親友として、パドメや自分のことを後押しし、導いてくれたのだ。

 

アナキンは、そんな二人を探るような真似を是とするジェダイ評議会に、軽い絶望と失望、軽蔑の念を覚える。スッと彼の目が鋭くなると、アナキンはオビ=ワンを見つめながら言葉を放った。

 

「マスター。貴方は…貴方たちは、ジェダイの規範に反することをログに求めています。共和国の在り方に反することをね」

 

共和国とは調停と平等をもたらす機関だと言うのに、その根幹を疑う行為をジェダイが行うなど、あってはならないことだ。そして何よりも、アナキンはオビ=ワンがログをそう言う目で見ていると言うことが気に食わなかった。

 

「友人でもある人への裏切りです。それこそおかしいでしょう…なぜそんなことを求めるんですか?」

 

そう問いかけるアナキンに対して、オビ=ワンはひとつ息を置いてから、簡潔に答える。

 

「――評議会が求めるからだよ、アナキン」

 

それは、オビ=ワンが考えることをやめていることの証明のようにアナキンには思えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 



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未来を知るが故に

 

 

 

 

スターウォーズ。

 

まだそれを娯楽として見ていた時。

 

通いなれた近所のコンビニに繋がる道。

 

見慣れたカーブミラー。

 

ジェダイの服とは違う、現代日本のカジュアルな服装。

 

そして、目の前には青いライトセーバーを二本、手に携えた黒尽くめの男が立っている。フードによって出来た影に閉ざされた顔からは、黄金色に光る眼光がこちらを睨み付けている。

 

腰に手を添える。そこにあるはずのない筒状の武器を手に取ると、こちらも青い光が天へと立ち上った。

 

独特な鉄を焼くような音と、高密度のレーザーブレードが奏でる周波音を響かせながら、俺は目の前に立つ黒い暗黒卿と相対した。

 

彼は何も語らずに、そこに立っている。

 

あの時と何も変わらない。けれど、俺は変わった。決定的なまでに変わっている。二本のライトセーバーを下げる暗黒卿は、ゆっくりと歩み出す。ジリジリと、その歩調を進めて、俺の下へと歩んでくる。

 

あの日から、俺は変わったはずだ。

 

フォースに触れ、ライトセーバーを振り回し、ジェダイとしての感覚に感動を覚えてから。

 

あの瞬間から、俺は変わったはずだ。

 

ジェダイナイトとして、ナブーで暗黒卿だったモールと戦い、彼と通じ合ったあの時から。

 

あの時から、俺は変わったはずだ。

 

アナキンと共に彼の行先を良いものへと変えるために。パドメとの愛を後押しして。クローン戦争で戦い。戦い、戦い、殺して、殺されるのを見つめて、命を奪って、奪われて、何もできないまま見ることしかできなくて、クローンは消耗品だと言わんばかりの戦いの中を駆け抜けて、駆け抜けて…。

 

気がつくと、暗黒卿は目の前にやってきていた。あの時見たような殺意や怒り、憎しみといった衝動はない穏やかなフォースを纏って、俺にライトセーバーを向ける。

 

黄金色の目をする彼はニヤリと笑ったように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――有史以来。

 

人類は、さまざまなエネルギーに触れ、文明は…ジェダイは…シスは…その導きによって果てのない時間の中を漂い、歩み、足跡を刻み進化を遂げてきた。

 

ならば…フォースが導く文明の行先は何だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝アナキンは弟同然です。私にはできません〟

 

〝ダークサイドに歪められたのじゃ、若きスカイウォーカーはな〟

 

〝私には…できません〟

 

〝おぬしの鍛えた少年はもういない。ダース・ヴェイダーに蝕まれたのじゃ〟

 

 

 

 

 

 

 

 

お前のフォースの行く先には何が見える?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝パドメ、アナキンはダークサイドに転向した〟

 

〝嘘よ…どうしてそんなことを言うの?オビ=ワン!〟

 

〝保安ホログラムを見たんだ…彼が映っていた…子供たちを殺していたんだ〟

 

〝アナキンじゃないわ!彼がそんなことするはずない!!〟

 

〝すべて議長が裏で仕組んだことだったんだ。この戦争も。パルパティーンが我々の探していたシス卿だったんだよ。ドゥークー伯爵が死んだ後、アナキンが彼の新しい弟子になったんだ〟

 

〝嘘よ…そんなの…嘘よ。信じない…信じられないわ!!〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この暗闇に包まれたフォースに肖る、ジェダイとシス。共和国の行く先には、何が見える?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝アナキン、私がほしいのはあなたの愛だけよ〟

 

〝愛では君を救えないんだよ、パドメ。僕の新しい力だけが救えるんだ〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗黒面は全てに通ずる。

 

光にも、闇にも。

 

 

『やめろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝「  」を失ったように君を失いたくないんだ。僕はどんなジェダイが夢見ていたよりも強い力を手に入れた。それを君のために使うんだ。君を守るためにね〟

 

〝分からないのかい?もう逃げる必要なんてないんだよ〟

 

〝僕は共和国に平和をもたらしたんだ。「  」より強くなった。「  」を倒すことだって…君と僕とで一緒に銀河系を支配しよう…僕らの好きなようにすることができるんだ!!〟

 

〝あなたのしたことのせいよ!!あなたがしようとしていることも!!もうやめて!!すぐにやめて!!戻ってきて、アニー…愛しているのよ!!〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前は目を逸らし続けているだけだ。

 

この闇の先に見える光景からただ、逃げているだけだ。お前はただの傍観者だと言うことも知らずに。

 

 

『やめろ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝嘘をつけ!!〟

 

〝連れて来たんだな!僕を殺させるために「  」を連れて来たんだ!!〟

 

〝違…ぅ…アナ…キン…〟

 

〝「  」。ジェダイの欺瞞はお見通しだ。僕はもうダークサイドを恐れない。僕の新しい帝国に平和と自由、正義、安全をもたらしたんだ〟

 

〝おまえは選ばれし者だった!シスを滅ぼすはずが、それに加わるとは!フォースに均衡をもたらすはずが、闇の中に屈するとは!〟

 

 

 

 

 

 

来るべき未来を変えようとして足掻いた結果、お前はこの光景を変えることができたか?この光景を亡き者にすることができたか?

 

『やめろ!!やめろ!!やめろやめろやめろ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝貴様が憎い!!「  」!!殺してやる!!〟

 

〝アナキン。お前を愛していた!!〟

 

〝殺してやる!!!!〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前には何もできない。

 

未来を知りながらも何も為せない…愚かで、矮小な存在よ…。

 

何も変えられない。何も、何一つとして、お前は流れるフォースの行く末を変えることはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝パドメはどこです?安全にしていますか?彼女は無事なのですか?〟

 

〝…おそらく、そなたが怒りによって彼女を殺したのだ〟

 

〝私が?そんなはずはない!!…彼女は生きていた。感じたんだ!!〟

 

〝嘘だ!!嘘だ嘘だ嘘だ!!ああああああぁああ!!〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、フォースの見せる文明の行く先だ。

 

 

『やめろおおおおおぉおおぉおお!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと、俺は目の前にいた黒い影をライトセーバーで刺し殺していた。

 

足元に横たわる黒い影。

 

雨が降る。

 

剥き出しのライトセーバーに雨が当たって、水が蒸発していく音が辺りに響く。

 

ずぶ濡れになった中で、俺はカーブミラーを見た。

 

そこに映っていたのは。

 

あの日と同じ、黄金色の目をした

 

 

 

 

俺自身だった。

 

 

 

 

 

 

 



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シスとジェダイと傍観者と

 

 

 

 

「嫌な予感がします、マスター」

 

トランスポーターとヴェネター級スターデストロイヤーが鎮座するターミナル。そこへ繋がる通路で、オビ=ワンと共に任務に出ることになったアナキンは、疲れた様子でそっと呟いた。

 

「ウータパウの任務。きっと骨が折れますよ」

 

アナキンが議長にオペラハウスへ呼び出された際に入手した情報では、ウータパウの議長からの外交連絡の中で断片的なメッセージが傍受されたことが明らかになった。

 

評議会は、コルサントの戦いから逃亡したグリーヴァス将軍率いる分離主義派がウータパウに潜んでいると断定し、交渉人として名高いオビ=ワン、そして荒事に対処できるアナキンを選抜し、二人をウータパウに送ることを決定したのだ。

 

「そうかもしれんな。だが、野生のバンサを追うようなことにもなりかねん」

 

「ジオノージアンに意味不明な寄生虫を植え付けられることに比べたら、まだ気分はマシだろう?」

 

「言えてるな」

 

見送りにと、二人と共に歩んでいるのはログだ。彼は引き続き、議長の代理人として任務に就く。心苦しいことだが、グリーヴァスを捕らえれば戦局は終結し、彼への扱いや不透明な任務が解かれることをアナキンたちは信じていた。

 

「マスター・スカイウォーカー。共に戦えるのは心強い」

 

トランスポーターへの入り口の前で、オビ=ワンは改めてマスターとなったアナキンへ笑みを送った。オビ=ワンは調和や調停を結ぶ交渉人としての任務は得意であるが、荒事になると後手に回ることが多い。飛ぶことなんてもっと苦手だ。アナキンが付いてきてくれるのは心から頼りになる。

 

そう言うオビ=ワンに、アナキンは驚いた様子で、頭を下げる。

 

「やめてください、マスター。僕はあなたを失望させてばかりでした」

 

マスターからの素直な称賛に慣れていないアナキンは、顔を陰らせながら本心からの言葉を紡いだ。

 

「教えをうまく理解できず、傲慢になっていました。申し訳ありません」

 

「おまえは強くて賢いよ、アナキン。おまえは私の誇りだ」

 

そう言ってくれる弟子の成長に満足したように、オビ=ワンはそっとアナキンの肩へ手を置く。小さな少年だったころからオビ=ワンはアナキンを訓練してきた。知るすべてを授けたつもりだ。

 

「おまえは私が望むよりはるかに偉大なジェダイになってくれた」

 

「光栄です、マスター」

 

「さて。私からの教えは終わりだ、マスター・スカイウォーカー。留守は任せるぞ、ログ」

 

トランスポーターとヴェネター級スターデストロイヤーの準備は整っている。タラップを降りていく二人を見送るログは、見下ろしながらオビ=ワンへ答えた。

 

「ああ、終戦祝いを万全に準備しておくさ」

 

頼むよ、と言うオビ=ワンの隣にいるアナキンの顔はどこか優れないように見えた。見送ってくれるログを見つめながら、アナキンのフォースは少しだけ鋭さを帯びてゆく。

 

「大丈夫だ、アナキン」

 

それを察したようにログはアナキンを見た。オビ=ワンの視線も加わり、僅かに狼狽えるアナキンを見つめながら、ログは言葉をかけた。

 

「お前はオビ=ワンのサポートを頼む。グリーヴァスを討てば戦争は終わりに近づく。将軍を失えば、分離主義者も対話のテーブルに着くしかなくなるさ」

 

「そうだな。あとは、議員の仕事になる。我々もやっと休暇が取れそうだ」

 

この戦争は長く続き過ぎた。失われた命も多く、失ったジェダイも多い。銀河中が深く傷ついている。二人が背負う責任も大きいが、それよりもこの戦争を終結させられると思えるなら、なんてことはない。

 

戦いさえ終われば、亡くなった者たちの鎮魂と安らぎを約束して、しばらくは修行に打ち込みたいよとオビ=ワンが呟いた。

 

「アナキン、オビ=ワン」

 

そんな二人をログは呼び止める。深くフォースを研ぎ澄ましながら、ログは二人へ告げた。

 

「フォースが共にあらんことを」

 

「さらばだ、古き友よ。フォースと共に」

 

その言葉を交わして、オビ=ワンたちはヴェネター級スターデストロイヤーへ乗り込んでゆく。ログは、飛び立ってゆくクローン船団をただ黙って見上げているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナキンと入れ替わる形で代理人の仕事を受け持つことになった。あの日に二人と別れてから何度も議長と顔を合わせる日々が続いている。

 

今日も、ウータパウにてグリーヴァス将軍を見つけたアナキンたちが交戦を開始した報告をするためにパルパティーンの執務室へとやってきていた。

 

本当ならば、あの身長disりドロイドの四肢をぶった切って引導を渡したいところであるが、アナキンたちがその思いを成就させてくれることだろう。

 

そう。

 

アナキンがオビ=ワンと共にウータパウに向かったのだ。

 

「議長、マスター・ケノービとマスター・スカイウォーカーの報告を受け取りました。グリーヴァス将軍と交戦中とのことです」

 

至極、心を穏やかに議長にそう告げる。アナキンが認められ、オビ=ワンと共に行くことを命じられた段階で必要条件は大まかにクリアしていることになる。

 

アナキンとパルパティーンを引き離せたことと、彼の中にある師への疑心感を払拭できただけでも上々の成果だ。

 

その報告に、パルパティーン議長はその表情を変えずにゆっくりと頷いた。

 

「我々はただ二人が勝ってくれることを願うだけだ」

 

「彼らは強いですよ、議長。なんの問題もありません」

 

張り付く笑顔でそう答えると、パルパティーンは深くため息をつきながら議長の座席から立ちあがると、こちらに向かって歩み寄ってくる。表情と感覚は崩さなかったが、心にあった警戒心の線が震えるのがわかる。

 

「ログ。君の才能をろくに評価できないような評議会にはまったく腹立たしい限りだ。なぜ彼らが君をジェダイ・マスターに昇格させなかったのか分かるかね?」

 

「さぁ。私のジェダイとしての素質不足かと」

 

「違う。まったくもって違うぞ、ログ。彼らは君を信用していないのだよ。彼らは君の未来を見ているのだ」

 

そう言って、パルパティーンは下からこちらを覗き見るような目で見てきた。明るく、人のいい顔つきをしながらも、仄暗い水の底のような冷たさを感じる目だ。

 

「君の力が制御できないほどに強くなることを彼らは知っている。ジェダイが君の周りに作り上げた欺瞞の霧から抜け出すんだ。私にフォースの繊細さを知るための手伝いをさせてくれ」

 

暗黒面がざわつく。フォースに揺らめきが起こった。彼は勝負を仕掛けつつある。その兆候を彼自身が示し始めた。

 

「議長…」

 

「ダース・プレイガス…我が師がフォースに関するすべてを教えてくれたのだよ。ダークサイドの本質についてもね」

 

彼は気づいている。

 

〝私〟の変化に。ログ・ドゥーランの異変に。

 

「君は知っているのだろう?私の正体を」

 

そう言葉を発した瞬間。ログの顔に張り付いていた人当たりの良い笑顔が消えた。いつから気がついたのか…そんな無粋なことは聞かない。きっと最初から気がついていたのだろう。

 

彼がナブーで初めてログと会った時から。彼が最高議長となってからずっと、彼は気がついていたのだ。パルパティーンがシスの暗黒卿であるという真実に気がついていることを、パルパティーンは感覚的に理解していた。

 

「大いなる謎を理解するためには、ジェダイのような独断的で狭い視野ではなく、あらゆる側面を理解しなければならない。現に君はそうしてきた」

 

最初はフォースに触れるだけで満足していた。ライトセーバーを振り回すことだけに人生を捧げていたのなら、また違う世界に至れたかもしれない。ジェダイなんていう鎖に繋がっていなければ、もっと違う価値観を持って、この世界で生を謳歌していたのかもしれない。

 

だが、ログは出会ってしまった。

 

アナキンやパドメ。オビ=ワンやクワイ=ガンなど、自分が心から大切だと思える人たち。映画の中の登場人物では言い表せない思いを持つ人たちに。

 

その柔らかいところへ、パルパティーンは手を突き刺してゆく。

 

「完璧で賢明。君が望む終着点はそこにある。君がモールやヴェントレスを引き入れたことに関しても辻褄は合うだろう。だが、それでは足りん」

 

全てを知っていると言わんばかりの顔で、彼はいう。

 

「その力を授けることができるのは私だけだ。フォースのダークサイドを学びなさい、ログ」

 

そうすれば君の愛する者たちを確実な死から救うことができるようになる、と。

 

ふと、彼の後ろで青いライトセーバーが立ち上った。振り返ると、ログが懐からライトセーバーを取り出して起動させているのがわかった。

 

「聞きなさい、ログ。ジェダイであることに迷うことはやめるんだ。私と知り合って以来、君は平凡なジェダイの人生ではなく、より大いなる未来を求めていた」

 

パルパティーンは立ち昇るライトセーバーに臆することなく、一歩、また一歩とログの元へと歩み寄りながら言葉を紡いだ。

 

「それとも私を殺してこそ、その大いなる未来に繋がるのかね?」

 

そしてついに、彼の前に立つとパルパティーンは笑みを浮かべたまま問いかける。探りを入れる。彼が何を心から思っているのかを聞き出す腹づもりだ。抜き出す情報を抜き出し、相手を出し抜く。それは、シスの手段の一つだ。

 

だからこそ、ログは単刀直入にパルパティーンの思惑に答える。

 

「あんたを殺しても、意味がないことくらい〝知っている〟」

 

「ほう、興味深いことを言うな?それは何故かね?」

 

「アンタを殺しても…いや、アンタがいなくなっても、共和国は近いうちに終わるからだ」

 

そう言って、ログはライトセーバーを仕舞い、懐へ納めた。その言葉は真実であり、事実だ。パルパティーンはログの言葉を黙って聞いている。

 

シーヴ・パルパティーンの計画はすでに完成している。このクローン戦争で共和国もジェダイも消耗しすぎた。いや、それ以前に誰も彼もが、何もかも信じられずにいる。

 

「アンタが居なくなっても、ジェダイは滅ぶ。その道は変えられない。…アンタはすでに勝負に勝っている。相手がそれを認めるのを待っているだけだ」

 

まさに玉座に腰掛け、戦いの結果を聞くだけの王だ。戦うジェダイの全てが、パルパティーンの駒に過ぎない。たとえ反旗を翻されようとも、暗殺されたとしても、この玉座に座れるものは他にいない。

 

「故に、私を殺しても問題はないだろう?そのライトセーバーを私の胸に突き立てれば、ほんの僅かな時間であっても共和国とジェダイを存えさせることができるぞ?」

 

「それが多くの人を救うことや、俺の思う未来を切り開くとは思えない」

 

パルパティーンの疑問に、ログは即答する。たとえ、彼をここで殺したとしても、未来を変えることはできない。結局、バランスをもたらすための戦いは避けられないのだ。

 

それに、ログにはもう一つの確信があった。

 

「なにより、アンタは死にたがっている」

 

その言葉を聞いて、パルパティーンは仄暗い水の底のようだった目を見開いた。ログはライトセーバーを収めると、彼の周りを歩き回りながら、まるで猛禽類のような鋭い視線とフォースを纏っていく。

 

「ずっと疑問だった。アンタは何度も勝利を手にするチャンスがあったはずだ。それこそ、クローン戦争が始まる前でも、始まった直後でも」

 

勝つチャンスもタイミングもいくらでもあったと言うのに、彼は頑なに忍耐でそれに耐えた。アナキンや自分をダークサイドに引き入れる思惑があるとは言え、勝利し、ジェダイを抹殺し、銀河帝国の皇帝となるだけならば、手段など選ばずとも成り得る力を、彼はすでに有しているはずなのに。

 

「アンタはシスの暗黒卿でありながら、心の奥底でシスの支配欲すら凌駕する探究心を持っている」

 

パルパティーンは、支配なんて微塵も興味がない。のちの銀河帝国時代でも、彼は治世や外交手段のほぼ全てをターキンやダース・ヴェイダーに任せており、フォースの根元を知るために歩みを進める探究者を優先しているのが、彼の在り方である根元の証拠だ。

 

「そしていつかは、自分が『ダース・プレイガス』になり、自分を超える弟子が自分を殺して、更なる英知に歩みを進めることを夢見ている」

 

大いなる知識と力を持った者に討たれること。それは新たなシスの誕生であり、絶対的に揺らぐことのない最高の力を持つ者の誕生を意味する。パルパティーンは――その瞬間を楽しみにしているのだ。

 

「アンタはとっくに、自分の死を受け入れている。生きていることに興味なんてないのさ。ただ、その死に意味を持たせたがってるだけなんだ」

 

アナキンの時も。

 

ルークの時も。

 

そして…その先の物語でも。

 

彼の局面は、自身を凌駕する存在への期待と、それに裏切られた落胆と、自身のフォースへの探究心を満たすことの繰り返しだ。

 

ログの言葉の数々にパルパティーンは驚いた様子を見せたが、次第にその表情には笑みが刻み込まれてゆく。それは「最高議長パルパティーン」ではなく、シスの本質を行くパルパティーン自身の笑みだ。

 

「…面白い。やはり、君は素晴らしい。私が見込んだ通りだ。だからこそ君が欲しい」

 

ウータパウにアナキンが師と向かった段階で答えは出ていた。そして今の言葉の数々でも。自身の夢、自身の思惑、そしてシスの知識と力を引き継ぐには、ログが相応しい。パルパティーンは手を煙のように上げて、迎え入れるようにログへ差し出す。

 

「君に足りない知識を私が与えよう。シスの知識をつけ、叡智を知り、そして私を殺すのだ。私が師にした時と同じように」

 

パルパティーンの言葉は暗く、広く、そして闇の中で響く言葉だった。ログはしばし彼を見つめると、視線を鋭くしてパルパティーンの声に応えた。

 

「残念だが、俺は師を殺す弟子にはなれない」

 

「何、私は辛抱強くてね。待つには自信がある。だが予言しよう。君は必ず私の側へと来る。ジェダイを滅ぼして…な」

 

そう笑みを浮かべるパルパティーンの瞳は、黄金色に輝いてた。

 

 

 

 

 

 



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シスの復活 1

 

 

それが起こったのはジェダイ・テンプルに戻ってきた時だった。

 

「なんのつもりだ?」

 

テンプルに入ってからただならないフォースの揺らめきを感じ取っていたが、人目のつかない通路に差し掛かった途端、柱の陰から何人ものジェダイが姿を現し、周りを取り囲んだのだ。

 

「とぼけるな。シスの手先め」

 

そう吐き捨てたのは、グリーヴァスの根城で命を助けたはずのナダールだった。多くのジェダイが起動させていないライトセーバーを片手に、こちらを睨みつけている。

 

「ジェダイナイト、ドゥーラン。非常に残念だ。残念でならない」

 

その取り囲む彼らを分けるように現れたのは、師であるはずのメイス・ウィンドゥだった。彼はゆっくりとこちらに歩み寄ると、ジェダイローブの一部に手を差し込み、そこから小型の機器を抜き取る。

 

それは、小さな形をしていたが、明らかに盗聴器の類だった。

 

「君とシス卿の会話は全て聞かせてもらった。残念だが、貴様たちの好きにはさせん」

 

それを手で弄びながら、彼ははっきりとした目つきでこちらを見据えている。そんな状況に陥っているというのに、自分の体を流れるフォースは至って正常そのものだった。

 

「マスター。ドゥーランのライトセーバーです」

 

「ありがとう、ナダール」

 

ナダールが抜き取ったライトセーバーを受け取るのは、ウィンドゥと共にやってきていた友であるはずのキット・フィストーだ。少なくともマスタークラスが四人、こちらを囲むのもクローン戦争で名を上げたジェダイナイトだ。

 

ウィンドゥはしばらく値踏みするような目つきでこちらをなじるように見つめてから、小さく息を吐いて言葉を続ける。

 

「ログ。議長…いや、シスとのケリが付くまではお前を拘束する。理由は言わなくても分かるな?」

 

「彼をどうするつもりなのですか、マスターウィンドゥ」

 

彼の言葉を待たずに、自然と言葉が溢れる。こちらの発言はまるで聞こえていないような素振りをするウィンドゥは、マスタークラスを連れて自分が歩いてきた反対方向へと歩み出した。

 

「答えろ。彼をどうするつもりだ」

 

今度は語気を強めて問いかける。盗聴器がローブに仕掛けられているなど、百も承知だった。彼らがこのような手段に出ることも、心のどこかで予感はしていた。

 

だが、ウィンドゥに問いかける言葉は、それよりも重要なことだった。彼の思う言葉と、議長に対する処遇次第で、共和国とジェダイの行く道は大きく変わることになる。

 

「…連れて行け」

 

だが、彼は答えることはなかった。こちらを見ずに放たれた言葉に、重い何かで頭を叩かれたような気になる。脳が痺れ、思考が膠着する。

 

「さぁ、早く歩け。裏切り者め」

 

気がつくと幾人のジェダイナイトがこちらを囲み、ジェダイテンプルガードらと共に、自分を牢獄へと連行していく。

 

「ナダール。これから何が起こると思う?」

 

拘束すらされない中で、先頭を歩くナダールへ問いかけた。

 

「シスは滅ぼされ、クローン戦争は終わり、世界は平和になるんだ。そしてそれは、お前が見る世界じゃない」

 

「シスを倒せば、世界は平和になるのか?」

 

「そのために僕たちは戦ってきた」

 

「違うぞ、ナダール。戦争は終わりなんかじゃない。わからないのか?消費されてきたクローン兵を持て余すことになったら?力を示し過ぎたジェダイを元老院が元の枠組みに戻すと、本気で思っているのか?」

 

答えは全てノーだ。戦争は終わらない。ドゥークーが言ったように、これは「始まり」に過ぎない。

 

仮に、ジェダイがシスを殺したら?パルパティーンという中枢を失った元老院が何をするか。消費されなくなったクローン兵。漬かり切った戦争経済の停滞による政治不安。

 

シスやジェダイなどいうよりも先に、世界が破滅に向かうことなど、少し考えれば誰にでも分かることだ。

 

「黙れ、シスの戯言など」

 

その思考停止な言葉に、ついに我慢が限界を迎えた。前を歩く彼の肩に咄嗟に手を伸ばし、声を荒げる。

 

「答えろ、ナダール!」

 

「黙れと言っているんだ!」

 

振り返ったナダールの手には、ブレードが起動したライトセーバーが握られていた。周りにいたジェダイたちもライトセーバーを起動し、ジリジリと自分の周りを取り囲んでゆく。

 

どうやら、脅しではないようだ。

 

フォースの揺らめきを感じ取りながら、〝私〟は落胆に似た息をついて、ナダールを見据える。

 

「そこまで腐っていたか…愚か者たちが」

 

裾から降りてきた〝ライトセーバー〟を握ると、そこから黄色の閃光が立ち昇る。

 

ギョッとしたナダールの背後。

 

彼らを護衛していたジェダイテンプルガードたちも黄色ライトセーバーを煌めかせる。援護に加わるのか?ナダールがそう思った矢先。

 

ひとりのジェダイがテンプルガードに切り殺された。

 

「すべては、フォースの夜明けのために」

 

人目がないテンプルの一角で、黄色と青のライトセーバーがぶつかり合い、やがて音は聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁマスター・ウィンドゥ。ついにグリーヴァス将軍が倒されたそうだね。それにしてもずいぶんと早いご到着だな」

 

とても気分が良かった。

 

現れた数人のマスタークラスのジェダイがこちらを見ているというのに、ひどく気持ちは穏やかで、まるで深い森林の中にいるような心地よさすら感じる。

 

「共和国銀河元老院の名において、議長。あなたを逮捕する」

 

その言葉が、すべてを物語る。全てが思うように動き始めた。ドゥークーや自分が始めた企みの「火」が、やっと彼らの背中に燃え広がった。すべてが、思い浮かべたイメージ通りに進んでゆく。

 

パルパティーンは不自然なまでに笑みを浮かべていた。

 

「…私を脅迫するつもりかね、マスター・ジェダイ?」

 

「貴様の運命は元老院が決める」

 

「残念だが、元老院はこの私だ」

 

そう淡々と答えると、彼らは有無を言わずにライトセーバーを抜いた。やれやれ、ゆっくりと会話する思考すら放棄したか。呆れたものだな。そう思いながらパルパティーンは呼応するように豪勢な席から立ち上がる。

 

「もう違うぞ、シスの暗黒卿め」

 

「では、反逆だな?」

 

返答のない答えに、パルパティーンは笑みを浮かべながら、袖に隠していた赤いライトセーバーを引き抜く。

 

もうすぐだ。

 

もうすぐ、私のシスとしての願いは成就される。この戦いが、それに至るための試練だと言うのならば、私は歓喜してその試練に挑もう。

 

フォースの力を借りて飛翔したパルパティーンは、剣を構えた思考停止者たちへ、自身の刃を構えるのだった。

 

 

 

 

 

 



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シスの復活 2

 

 

議長に呼び出される前、評議会からアナキンとオビ=ワンがグリーヴァスと戦闘を開始したことを知らされたログは、ひとまずはアナキンの安否を気遣うパドメに、その連絡を伝えに向かっていた。

 

「パドメ。アナキンたちがグリーヴァス将軍と交戦を始めたようだ」

 

「そう…」

 

C3POがパドメの横にたたずむ中、彼女は表情を固くしたままゆったりとしたソファへ重身を下ろした。

 

アナキンの子を宿した彼女の体は、普段は豪勢な元老院議員の服によってカモフラージュされているが、ログやアナキンの前では膨らみつつあるお腹がわかるような服装で出迎えてくれる。

 

「不安かい?」

 

パドメの横へ腰掛けるログもまた、彼女がわずかに震えていることに気がついた。問いかけにパドメは小さく頷く。

 

「ええ、今の元老院も、ジェダイも…この戦争自体がとても脆い何かの上に立っているように思えてならないの」

 

この戦争で散った多くの命。傷つけられた星々。大切なものを失った人たち。フォースを学ばなくともわかる程、その悲鳴が聞こえるこの戦いは、悲惨なものだった。だが、その終わりが見えてくればくるほど、その先に更なる闇が渦巻いているようにしか、パドメには思えてならなかった。

 

この戦いそのものが、その蠢く闇に向かう過程の一つではないかと思えるほど、今の共和国やジェダイは不透明で、不明瞭なものになっていた。

 

「心配しすぎさ。グリーヴァスを捕らえられれば戦争は終わるはずだ」

 

「ええ…でも…不安なのよ」

 

「パドメ…」

 

震える彼女の肩に、安心させようとログが手を差し伸ばした。

 

「こんなときに、アナキンが居てくれたら」

 

その言葉で、ログの手はピタリと止まる。俯く彼女に察せられないように肩に向かっていた手を下ろして、彼女の手の上に優しく重ね合わせた。

 

今、彼女が求めているのは他の誰でもなくアナキンだ。ログやオビ=ワン…他のジェダイでは替えられない、ただひとりの想い人。そんな彼女の不安を少しでも和らげるために、ログはパドメに微笑む。

 

「――彼はきっと帰ってくる。君と、君のお腹の中にいる子供の父親だからね」

 

アナキンは彼女を心から愛している。

 

生まれてくる命と向き合って、彼は強くなった。故にマスターにも認められ、今は師とともに敵の将軍と伝説的な戦いを繰り広げている。

 

だからこそ。

 

ログはアナキンの替わりにはなれない。

 

「私の不安が現実になった時は、アナキンを助けてね。ログ」

 

「任せておいてくれ、君たちは俺が必ず守る」

 

パドメに誓う。

 

そしてアナキンにも、オビ=ワンにも。

 

何があっても、彼らを守る。アナキンの替わりにはなれない自分であっても、それでも為せることを為すために。

 

たとえ、彼女の瞳に自分が映っていなくても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり来たか。ドゥーラン」

 

議長のいる塔に作られた簡易型のターミナル。そこにスピーダーで乗り付けてきたログを待ち構えていたのは、マスターキット・フィストーだった。

 

「わかって…ここで待ち構えていたのか、マスターキット」

 

スピーダーから降りたログが、冷ややかな声で問いかける。彼はいつもしていた自信たっぷりな笑みを浮かべずに、硬い目つきのままログを見つめていた。

 

「ナダールでは、君には勝てないとわかっていたからな」

 

簡潔にそう言ったキットに、ログは顔を硬らせる。彼は知っている。自分がここにやってきた以上、連行のために残った元弟子が既にこの世を去っているという事実に。

 

ログはナダールから奪ったライトセーバーを腰に備わるベルトから取り出して、マスターキットに向かって投げ渡した。せめてもの遺品のつもりだったが、キットはそれを受け止めると自分のライトセーバーも取り出して光刃を出現させた。

 

「情が無いんだな」

 

「だが、ジェダイとしての矜持はあるつもりだ」

 

意味のない問答だと思い、ログは彼の隙を窺いながらターミナルで円を描くように歩む。彼の腰ベルトには、ナダールから渡されたログのライトセーバーが下げられていた。

 

「そこを退け、マスターキット」

 

冷たい、鋭い刃のような声がマスターキットに放たれる。ログはジェダイローブのフードを被ったまま、その眼光を向ける。

 

「貴方なら…わかっているはずだ。マスターウィンドゥが議長にすることの後に待ち構えている未来を」

 

血で血を洗う内乱が始まる。

 

もし、マスターウィンドゥが議長を殺した場合、元老院から見れば明らかなジェダイによるクーデターに他ならない。民意で議長として選ばれたパルパティーンと違って、ジェダイは共和国を支える仕組みから成り立つ組織でしかない。

 

役割から外れた組織の暴走は、いつの時代、どの世界でも災いを撒き散らす元凶にしかならないのだ。

 

このままでは、まだシスとジェダイの代理戦争であったクローン戦争が生温く感じるほどの戦いが幕を開けることになる。

 

「それだけは止めなければならない。だから退いてくれ」

 

ログは懇願するようにキットを見つめた。

 

「頼む、マスターキット。貴方を殺したくはない」

 

心からの願いだった。できることなら、彼は殺したくはない。思考停止に陥ったジェダイの中でも、良識的であった彼は生きなければならないはずだ。

 

それになにより、彼はログにとって友だった。

 

「ドゥーラン。私は君に伝えた。君の心を信じろ、君自身の在り方を信じろとね」

 

二本のライトセーバーを携えるマスターキットは、立ち尽くすログに向かって言葉を紡ぐ。あの日、彼を迷いから解き放った言葉を繰り返すようにマスターキットは言った。

 

「君は君の信じる道を行くことだ。フォースは君を導いてくれるはずだ、と。…そして私には私の信じる道がある。私はその道を行く」

 

二刀流戦闘法「ジャーカイ」の構えをしたマスターキットを見つめながら、ログは手にしたライトセーバーから黄色い閃光を立ち上がらせる。

 

「それが破滅に繋がる道だとしてもか」

 

苦しげに言葉を使うログに、マスターキットはいつもの自信ありげな笑みを浮かべて、こう言った。

 

「それがジェダイの起こした責任だと私は思う。故にその責を負うだけだ」

 

二人はターミナルを駆け抜け、三つの閃光がそれぞれぶつかり合う。

 

しばらくの間、剣戟を重ねる音が響き合い、夜が落ちるコルサントの中で光が瞬き、やがて音は消えた。

 

無数の光が行き交う中、ログは自分のライトセーバーを拾い上げた。

 

しばらくの間、ログはコルサントの夜景を見つめながら愛用してきた自分のライトセーバーを握りしめる。脱げたフードを深く被ってターミナルから踵を返して、議長がいるはずの塔へと足を進めた。

 

その後ろで横たわる影を残したまま、ログはもう振り返ることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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シスの復活 3

 

 

「ログ!助けてくれ!ジェダイの反乱だ!」

 

パルパティーンの執務室に到着した時には、もう何もかもが手遅れのように思えた。

 

紫色のライトセーバーの切っ先を、無様にも這いつくばっているパルパティーンに突き付けながら、自分の師であった男は声高らかに宣言した。

 

「この場限りで終止符を打つぞ、シスめ!!」

 

「マスターウィンドゥ!」

 

俺はこの状況下でも、まだ希望を持っていたのかもしれない。自身のライトセーバーをフォースで手繰り寄せ、それと一体となって跳ね上がった体は議長とマスターウィンドゥの間へと滑り込む。

 

「貴様の言葉は聞かんぞ、ドゥーラン!」

 

「俺を逮捕しようが、処罰しようが、処刑しようが好きにすればいい!だが、彼とは然るべき場で言葉を交わすべきだ!!」

 

青と紫。師と全く同じ型を使って剣戟を交わす。背後にいるパルパティーンがニヤリと笑みを浮かべる。ああ、そうとも。すべてはもう手遅れだと分かっている。だが、それでも…!!

 

「元老院も法廷もこの男の意のままだ。生かしておくにはあまりにも危険すぎる!」

 

「そうやって視野を狭くして殺すというのですか!では、彼の意のままになる元老院や法廷はどうするのですか!」

 

共和国の腐敗はもはや致命的だ。だが、それでも彼らは民意と選挙によって選ばれた者たちだ。そんな彼らを「シスの息が掛かった者たち」と言ってジェダイが断罪すればどうなるか。つば競り合う閃光の向こうにいるマスターにはわかっているはずだ。

 

「元老院は納得しません!ジェダイと共和国での内乱になります!!取り消すべきだ!!」

 

「シスは邪悪の権化だ!ここで滅さなければならない!」

 

それでも、ジェダイとしての指針を揺るがさないウィンドゥとの戦いに、苛立ちと怒りが募ってゆく。このまま進んでゆけば、クローン戦争すら霞むほどの戦乱が来るというのに、その未来さえ見ずに、彼はライトセーバーを振るっている。

 

思考停止なんて言葉では収まらない。

 

未来を見つめるジェダイが…笑わせるッ!!

 

「多くの血が流れることになるんだぞ!ウィンドゥ!」

 

俺の叫びに、マスターもまた暗黒面の縁に立った中で答えた。

 

「シスを倒せばその未来は回避される!」

 

愕然とする。

 

その盲目的なシスとジェダイの関係に固執した言葉が、〝私〟の心を掻き毟る。

 

愚かしい言葉の応酬。

 

その全てが暗い霧へ覆われていく。

 

 

 

「この愚か者が!!」

 

 

 

ライトセーバーから片手を離して、稲妻が轟く。予想だにしていなかったフォースにより起こる稲妻を受けたウィンドゥは、膝を突きながら恨めしげに見下げる私を見上げる。

 

「ドゥーラン!!シスに加担するか!!」

 

「〝私〟が動くのはフォースの導きによってだけだ!!」

 

再会した彼との乱舞のような立ち回りに、マスターウィンドゥは違和感を覚えた。まるで自分が教えてきた弟子とは違う動きを繰り出してくる。

 

「ドゥーラン…!?」

 

ライトセーバーの斬撃の中、ウィンドゥは弟子だった男の目を見つめる。その目は黄金色でも、彼本来の深緑の瞳でもない。蒼白い眼色に染まり、感じ取れるフォースの流れも全く異なっていた。

 

「まだ足りないというのか!!まだ、ジェダイだと、秩序や平和だと宣いながら、ライトセーバーを振るい続けて来たというのに、足りないというのか!!」

 

剣戟を徐々に圧倒してゆく。防戦に回るしかないウィンドゥを追い詰めながら、身を委ねるまま、感じるがままにライトセーバーを振るう。

 

「暴力装置に成り下がるとは…この愚か者め!!」

 

その叫びと共に、手首を捻った一閃がライトセーバーを持つウィンドゥの手をはねた。議長との戦いで砕け散った窓から放物線を描いて落ちてゆくウィンドゥの手とライトセーバー。

 

その武器をフォースで手繰り寄せて、青と紫の光を携えると、そのまま痛みに苦悶の表情を浮かべるウィンドウの首元に、まるでハサミを添えるかのように光刃を突きつける。

 

「…言い残すことはあるか、マスターウィンドゥ」

 

蒼白く光る瞳で見下ろす弟子を見上げて、マスターウィンドゥは深く息をついてから清らかな声で答えた。

 

 

 

「――フォースが共にあらんことを」

 

 

 

その瞬間に、ログは彼の首を切り裂く。焼けた鉄のような匂いが鼻腔を刺し、師であった彼の頭が床に転がってゆく。力をなくした彼の体はゆっくりと倒れてゆき、光点が瞬くコルサントの摩天楼の底へと落下していった。

 

「素晴らしい…素晴らしいぞ。若きドゥーランよ」

 

それを静かに見下ろしていたログの後ろから、パルパティーンがまるで煙が立ち昇るように現れる。人望と優しげな顔つきを残したまま、彼は黄金色の瞳をログの後ろ姿に向けていた。

 

「そなたは自分の宿命を成し遂げたのだ。余の弟子となるがよい。フォースのダークサイドの使い方を学ぶのだ」

 

ゆっくりと、染み渡るように言い聞かすパルパティーンの言葉。ログは携えていた二本のライトセーバーから光刃を消し去ってから、ゆっくりと背後にいるパルパティーンへと振り返った。

 

「いえ、シディアス卿。私にはまだ為すべきことがあります。まだ、私がジェダイである内に」

 

その瞳を見て、パルパティーンは浮かべていた笑みを無くした。それは怒りや憎悪ではなく、純粋に驚愕したからだ。

 

蒼白く光り続ける眼光は、敵意も殺意も感じられない。そこにあったのは、いつも瞑想で感じられるフォースの揺らめきだけだった。

 

「…全てに終止符を打ちに行くというのか?ドゥーラン」

 

パルパティーンの問いかけに、ログは肯く。

 

「はい……暴力装置となってしまったジェダイを後世に残すのは危険すぎます。ここでとばりを下ろすことが、まだジェダイである私に課せられた責ですから」

 

「そなたは、フォースを見つめ続けているのだな」

 

パルパティーンは、普段は絶対に見せない悲しげな目をしてログを見つめていた。彼は今まさに、フォースに身を委ねる存在となった。なることができてしまった。シスでも、ジェダイでも、フォースに触れることしかできないというのに、彼はすでに人としてでなく、もっと別の〝何か〟になっているように思えた。

 

クローン戦争の終焉を迎える最中。

 

議長がシスであることを理由に民意すら無視して議長を暗殺しようとしたジェダイに絶望した。

 

議長のもとにやってくる前に、待ち受けていたキット・フィストーを殺した。

 

議長の暗殺が共和国の内乱に繋がることを知りながら、ジェダイとして戦争に加担した責任を取るとして、自身の死を受け入れてしまい、それがログの心に決定的な傷を残すことになった。

 

故に、思想に傾倒しすぎた今のジェダイ組織を終わらせる責任を取るために、彼は――。

 

「シスとして…いや、人としてそなたに足りてないものがようやく分かった気がするぞ、ドゥーラン。そなたは…自分自身を…」

 

パルパティーンは、そう決意するログの中に、シスとしても人間としても決定的に欠落している〝あること〟に気づく。

 

だが、ログはそれをわかっていると言わんばかりに、パルパティーンへ頭を下げた。

 

「その先に貴方がいると言うなら、その時はどうか私の師として、お導きをお願いします」

 

そう告げるログの思惑を、パルパティーンは理解していた。彼はシスに、暗黒面に身を委ねることはない。それすら利用してフォースの示す道を進んでゆくのだろう。シス・マスターのシディアスである自分すら欺いて、そしてログ自身すら、その供物として。

 

故に、パルパティーンは彼を認める。自身を利用し、後に裏切るというなら…それで自分を殺すというならシスの本懐を遂げることに繋がるのだから。

 

「――良かろう。そなたの覚悟を見せてもらおう」

 

議長の元を去るログの背中に、パルパティーンは言葉を紡いだ。

 

「だが、そなたのフォースは強い。強力なシスとなるであろう。私の元へ戻ってきた際は、こう名乗るがよい。――ダース・ヴェイダーと」

 

 

 

 

 

 

 

 



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崩壊の序曲

 

 

惑星、ウータパウ。

 

原生の植物と硬い岩肌に覆われたこの地では、グリーヴァスを討伐したアナキンとオビ=ワンが、残っていた分離主義のドロイドから惑星を解放するために奮闘を続けていた。

 

だが、それは思わぬ形で終わりを迎える。

 

「オビ=ワン!」

 

地下水脈から洞窟へと上がったアナキンは、周囲の様子を窺うオビ=ワンに小さな声で話しかける。ドロイド討伐の先陣を切っていた二人は、突如としてクローンの攻撃に晒され、そのまま地下水脈がある地下へと落下したのだ。

 

信じられない高さからの落下だったが、自分たちを乗せてくれていたヴァラスティルが身を挺して二人を助けてくれたため、アナキンたちはほぼ無傷で着水することができたのだった。

 

「クローンたちが反乱…!?一体なにがどうなっているんだ」

 

岩陰に身を隠しながら様子を窺うオビ=ワンは、反旗を翻したクローン兵たちの姿に驚愕しながら辺りを見渡している。

 

「状況がわかりません。こんな状態では他のジェダイに連絡も…」

 

「コムリンクを使えば逆探知で探し出される…。とにかく、この惑星から脱出するしかない」

 

オビ=ワンの提案にアナキンは頷いて答える。

 

「僕が先導します。グリーヴァスの船があるはずです」

 

そう言ってアナキンが音を立てずに身を隠していた洞窟から身を出した時だった。

 

「動くな、ジェダイ」

 

背後からブラスターを構えたクローン兵たちが、姿を見せたアナキンの背を捉える。

 

「あぁ、これは不味いな」

 

そう言いながら洞窟の中から連行されそうになるアナキンを見つめるオビ=ワン。パルパティーンの命令でアナキンを見つけ次第、こちらに連行するようにクローン兵たちは命令されていたのだ。

 

だが、その判断がオビ=ワンたちを救うことになる。

 

「アナキン!上だ!」

 

ハッと空を見上げると、狭い渓谷の穴の中へ、一機の強襲用トランスポーターがアナキンたちの頭上へと降りてくるのが見えた。

 

「トランスポーター!?」

 

兵員輸送部の両サイドから突き出た銃口や、トランスポーターに備わる銃座から光弾が放たれて行き、アナキンを取り囲んでいたクローン兵や、オビ=ワンの近くや渓谷の底にいた兵士たちを次々と薙ぎ払ってゆく。

 

「スカイウォーカー将軍!」

 

降り立ったトランスポーターに乗っていたのは、アナキンとオビ=ワンがよく知る人物だった。

 

「レックスか!?それに…」

 

「ノーバディ…!ジャンゴ・フェットだと…!?」

 

壁面にいるクローン兵たちからの攻撃を躱し、マンダロリアンの鎧を身につける賞金稼ぎは飛翔しながら敵を撃ち抜いて行き、レックスの隣ではブラスターの光弾を黄色いライトセーバーで弾き返すノーバディの姿もあった。

 

「救助に来ました!早くこちらへ!」

 

そう言って手を差し伸ばすレックスに、オビ=ワンは迷いがあった。本当に彼を…クローン兵を信じていいのか。

 

そんな迷いがあるオビ=ワンの横をアナキンは駆け抜けると、手を伸ばすレックスの手を借りてトランスポーターに乗り込んだ。

 

「アナキン!」

 

「今は迷ってる場合ではないです!」

 

それに僕はこんなところで死ぬわけにはいかないんです。その言葉を飲み込みながらも、オビ=ワンに手を差し伸ばすアナキン。彼も決断して、ブラスターが飛び交う中を駆け抜けると上昇するトランスポーターへと飛び乗る。

 

ジャンゴやノーバディも回収したトランスポーターは、そのまま渓谷を脱すると近くに待機していた輸送船へと一気に着艦する。

 

「我々の船へお連れします」

 

輸送船も猛スピードでウータパウを離脱。

 

オビ=ワンとアナキンが率いていたクローン部隊が集結する場所とは反対側へと向かうと、そこには一隻のヴェネター級スターデストロイヤーが鎮座していた。

 

「レックス、一体なにが起こってるんだ?」

 

「反乱です、将軍。クローン兵はそういう風にプログラムされています」

 

ヴェネター級に到着してから、足早に司令室に向かうオビ=ワンは、ついてくるレックスへと問いかける。

 

「待て、プログラムされているのか?」

 

「その通りです。我々はプログラムされたチップを切除したので影響はありませんが、他の者たちは…」

 

そう言ってレックスは肩を落とした。いくら異常事態とは言え、兄弟たちを撃つのは流石に心が痛む。この船を操るのは、戦争の中で助けてくれた協力者や、レックスと同じく制御チップを切除したクローン兵たちだ。

 

アナキンはいぶかしむように顔を硬らせる。

 

「一体、誰がそんなことを…」

 

「わかっていただろう?全ての元凶が誰なのか」

 

アナキンの呟きにそう言葉を差したのは、ジェダイテンプルガードの姿をするノーバディだった。

 

「言ったはずだぞ、スカイウォーカー。貴様に迫る魔の手には注意を払えとな」

 

マスク越しにくぐもった声でそういうノーバディに、アナキンも怪訝な顔つきになる。クローン戦争で目的も得られるものも判明しなかった勢力であり続けたノーバディ。彼らはまるでこうなることが最初からわかっているような雰囲気を漂わせていた。

 

「緊急コード9-13。どの周波数にも応答がない」

 

通信機でジェダイ専用の緊急暗号通信を試みるものの、応答はなかった。そんな中で、通信室に入ってきた人影を見て、オビ=ワンはギョッと目を向く。

 

現れたのは、ウータパウで現れたジャンゴ・フェット本人だった。だが、マンダロリアンの鎧を着ているジャンゴは自分の後ろにいる。思わず二人の間に視線を彷徨わせた。

 

「父さん、敵の追跡は振り切ったよ」

 

そう答えながらヘルメットを脱いで現れたのは、少年から青年へと成長したボバ・フェットだった。今になってみれば、身長も小柄であり、感じる力にもどこか若々しさがあった。

 

そんなことに今更気がつくとは、とオビ=ワンは自身が感じたショックの大きさを今更になって痛感する。

 

「よくやった、ボバ」

 

自分の〝息子〟の活躍に満足そうに頷いたジャンゴは、カミーノとジオノーシス以来の再会となったアナキンとオビ=ワンへ笑みを向けた。

 

「久しぶりだな、マスタージェダイ。ひどい目にあった様子だが」

 

ひどい目はもっとあったけどね、とアナキンは答える。そんな軽口を聞いてオビ=ワンも少しだけ冷静さを取り戻すことができた。

 

「なぜ我々を助けた」

 

「依頼だ。ウータパウにいるジェダイを助けて欲しいとな」

 

「誰からの依頼だ?」

 

「それは言えない契約になっている」

 

淡々と答えるジャンゴに、オビ=ワンはフォースの感覚を鋭くさせていくが、感づいたジャンゴはそれを制するようにオビ=ワンの目の前へ指を立てて制する。

 

「おっと、マインドトリックをしても無駄だぞ?話した瞬間に、俺はそいつに斬り殺されるからな」

 

目配せの先には、腕を組んで様子を見ているノーバディの姿があった。オビ=ワンも観念したように息を吐いて、疲れた目でノーバディへ視線を移す。

 

「なら、せめてその仮面の下の正体を教えてほしいものだがな、ノーバディ」

 

その言葉に、ノーバディは応じることなく黙って腕を組んだまま立っていた。しばらくすると司令室の扉が開き、通信官を担当するクローン兵がノーバディへ報告にやってきた。

 

「ノーバディ。オルデランの元老院議員からの信号を受信しました」

 

わかった、こちらで聞こう。そう答えるノーバディに敬礼を打つと、通信官はすぐに司令室へデータを入力した。

 

《マスター・ケノービ》

 

ジェダイの緊急回線に応じたのは、オルデランの議員であるベイル・オーガナであった。

 

「オーガナ議員。クローン・トルーパーが反乱を起こしたのです。助けが必要です」

 

《こちらもマスター・ヨーダを救出したところだ。この反乱はいたるところで起こっている。こちらの座標を送信しよう》

 

送られてきたものは、ジェダイの緊急時に使用される予定だったアウターリムの外れの宙域だ。何箇所か点在する場所の一つだが、ここを知るジェダイは限られている。

 

進路をそこへ定めると、ノーバディは疲弊したアナキンとオビ=ワンを見つめる。

 

「話は彼らと合流してからだ。ケノービ。そこで全てを話そう」

 

その時、すでに時代は大きく動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェダイ・テンプルでも、異変が起こっていた。夜のとばりが降りる中、軍足の足音を奏でながら、完全武装したクローン兵が大軍でこちらに向かってきているのだ。

 

「武装したクローン兵が?」

 

「一体なにが起こっているというんだ。とにかく正門前にナイトたちを集めろ」

 

ただならぬ様子に警戒心を強めるジェダイたち。敵がまず攻めてくるであろう正面の門にナイトたちが集結する中、扉はゆっくりと開かれた。

 

ライトセーバーを構えるジェダイたちは、その扉を開けて〝一人〟で入ってきた人物を見てライトセーバーを下げた。

 

「ログ・ドゥーラン?」

 

ジェダイの中でも卓越したセーバーテクニックとフォースと深く向き合っていることで名を知られているログが、一人正面扉からテンプルへと入ってくる。

 

なにが起こっているのかと、一人のジェダイがログに問いかけようと近づいた瞬間、一閃が煌めく。赤く焼けたジェダイローブと共に、近づいたナイトが力なく倒れたのだ。

 

正面に集まっていたやり手のナイトたち、計八人が瞬く間のうちに斬殺されてゆく。

 

残ったジェダイたちが見たのは、蒼白く眼光を光らせ、まるで今にも泣き出してしまいそうな顔をしたログの表情だった。

 

 

 

 

 



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フォースの導くままに

 

 

 

「マスタークワイ=ガン!クローンが反乱を!」

 

ジェダイナイトであり、マスター・イーノ・コルドヴァのパダワンであるシア・ジュンダは、自身のパダワンであるトリラ・スドゥリと共に、聖堂のジェダイ・イニシエイトたちがいる部屋で、マスタークワイ=ガンと運良く合流することができた。

 

「ああ、わかっている」

 

怯えているイニシエイトたちをなだめるクワイ=ガンだが、事態は悪い方へと進むばかりだ。遠くからは誰かの苦しむような声が響き、ブラスターの音とライトセーバーの音が聞こえてくる。

 

「マスター!テンプルが制圧されるのも時間の問題です!」

 

「子供達だけでも、どうにか逃さなければ…」

 

パダワンのトリラの言葉に、ジェダイナイトであるシアも作戦を巡らせるが、決定的な打開策は見つからない。すでに出入口はクローン兵に包囲されている上、彼らは下のフロアから徐々に上へと上がってきているのだ。

 

「外にスピーダーはあるが、すでにクローン兵に包囲されている」

 

そう言ってクワイ=ガンは、イニシエイトたちがいる部屋から伸びる通路へ顔を覗かせ、状況を見る。すでにスピーダーがあるバルコニーには、トランスポーターから降下してきたトルーパーの小隊が包囲網を展開しているのが見える。

 

「手際が良すぎます。まるで最初からそうするようプログラムされているかのように…」

 

「マスター・コルドヴァの予見が当たりました…」

 

トリラの言葉に続いて、シアも自身のマスターが予見した破滅的な未来の言葉を思い返す。マスターコルドヴァはこうなる未来を予見してから、シアを残してジェダイ存続のために旅に出てから消息を絶っているのだ。怯えるトリラの肩に手を置きながら、シアも迫り来る恐怖と向き合う。

 

そんな二人に、マスタークワイ=ガンは穏やかな声でこう言った。

 

「破滅は当たった。だが、我々はまだ滅んでいない」

 

「なんだ!?」

 

その直後、バルコニーにいたトルーパーたちが騒ぎ始める。こちらの位置がバレたかと、三人が身を屈めていると、外のバルコニーに光弾が降り注ぎ、屯していたトルーパーたちを次々となぎ払っていった。

 

「死にたくなければさっさと船に乗りな、ジェダイ!」

 

一掃したバルコニーに降り立ったのは、オンボロの小型貨物輸送船であり、後部ハッチからそう言葉を発しながら降りてきた姿に、シアは驚いたように目を剥いた。

 

「テンプルガード…!?」

 

クワイ=ガンは後ろへと注意を払う。すでに異変に気がついたトルーパーたちがこちらに向かってくる気配があった。イニシエイトたちもいる以上、クワイ=ガンに迷ってる時間は残されていない。

 

「いくぞ、シア!」

 

そう言ってイニシエイトたちと共にオンボロの貨物輸送船に走り出す。シアとトリラも続くと、通路の角からトルーパーの一団がその姿を現した。

 

「逃すな!撃て!」

 

ブラスターが放たれてゆく。イニシエイトの後方を走っていたシアとトリラがライトセーバーを起動させて、放たれるブラスターの嵐を撥ね除けるが、その数にも限界はあった。

 

まだ未熟なイニシエイトの背中がブラスターに撃ち抜かれ、幼子の体が床に横たわった。

 

「ダメ!!」

 

トリラの悲鳴のような声が響く。シアも全力で応じ、クワイ=ガンも後方へと宙返りを打って防衛に参加するが、数が多すぎる。

 

「ふん、ジェダイを救うことになるとはね!」

 

苦戦する二人のもとに、バルコニーに降り立っていた線の細いテンプルガードが加勢した。黄色のダブルライトセーバーで目まぐるしく飛んでくるブラスターを弾き返してゆき、フォースを使って彼らの死体を他のトルーパーにぶつけるなど、その手腕は他のジェダイよりも長けていた。

 

さらに体格の良いテンプルガードも加わり、ブラスターの防衛に尽力する。

 

「すまない、助かる」

 

「構わんさ。すべてはフォースの夜明けのためだ」

 

クワイ=ガンの言葉に体格の良いテンプルガードは応じて、剣尖に意識を集中していく。イニシエイトたちを輸送船に導きながら、ブラスターを防いでいたテンプルガードたちも後部ハッチへと足を踏み入れた。

 

「出しな!」

 

線の細いテンプルガードの怒声のような声に応じて、輸送船はふわりと浮かび上がる。

 

「まだテンプルにはジェダイや…子供たちが!!」

 

「もう限界だよ!それとも、自分たちもそうなりたいのかい?」

 

後部ハッチからテンプルを見つめながら言うシアとトリラに、テンプルガードは怒鳴りつけるように現実を突きつける。眼下には燃え盛る塔が見えた。他の塔にいるイニシエイトやジェダイたちは間に合わない。

 

クワイ=ガンとわずかなイニシエイトたちを乗せた船はクローンたちの追撃を振り切り、コルサントから脱出していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事態は悪い方へと進んでいた。

 

コルサントの居住地からでも、ジェダイ・テンプルが燃えているのはハッキリと見えた。パドメは自身が感じていた不安が現実のものになったような絶望感を味わっていた。

 

ふと、一台のスピーダーが自身のバルコニーに降り立つと、そこからはジェダイローブをはためかせたログが降りてきているのが見えた。

 

「ログ!大丈夫なの?」

 

バルコニーから入ってきたログに歩み寄りながらパドメは問いかける。彼の体の端々には焼け焦げた後や、傷がついているのが見え、先程までログが戦いの中に身を置いていたことは一目瞭然だった。

 

「ジェダイ聖堂が攻撃されたと聞いたの。ここからも煙が見えるわ」

 

「――大丈夫さ。〝なにも〟心配はないよ」

 

ログの体へ伸ばそうとした手を、彼はやんわりと避けながら穏やかな声でそう言った。その言葉の影に、パドメは違和感を覚えた。

 

「なにが起こっているの…?」

 

彼女の疑問にログはしばらく沈黙すると、徐にローブから一つの航路図を取り出し、彼女へと渡した。

 

「パドメ。今、この世界は局面を迎えている。できるなら、黙ってこの場所へ向かってほしい」

 

「この宙域は?」

 

「そこでアナキンが待っている。言えることはそれだけだ」

 

淡々とそう言うログに、パドメは感じ取っていた違和感が確信的なものに変わった。けれど、その正体に迫ることができない。

 

「…ログ?」

 

恐れるようにパドメはログに言葉を重ねると、彼はいつものように〝笑み〟を浮かべ、パドメの肩にそっと手を置いた。

 

「信念を持つんだ、パドメ。すぐに何事もよくなる」

 

手袋越しのその手は、信じられないほどの冷たさを持っていた。身が捩れるほどの冷たさが、パドメの中へと入ってくる。

 

「〝私〟は、重要な任務を預かった。分離主義勢力がムスタファー星系に集結している。そこに向かう。――未来は変わる。約束するよ」

 

そう言い残して、彼は踵を返した。

 

「ログ!」

 

「C3PO、彼女やアナキンたちを任せるぞ」

 

「待って!ログ!」

 

見送る二体のドロイドに言葉をかけて、足早にバルコニーに向かうログをパドメは手を伸ばして呼び止めようとしたが、その手がログに届くことはなかった。

 

彼はバルコニーの入り口で振り向くと、まっすぐとした目でパドメを見つめた。

 

「パドメ、アナキンと幸せになるんだ」

 

そう言ったログに、パドメは何も言えなくなった。

 

彼はいつもそうだった。

 

彼と初めて会った時も、アナキンとの仲を後押ししてくれた時も、結婚式の仲人を受けてくれた時も、クローン戦争の中でも…。

 

彼は、どこか遠くの場所から自分たちを見つめているような目をしていた。まるで自分たちとは違う世界に生きているような儚さと脆さを持った目をして、彼は見守り続けているように感じた。すぐそこに居るというのに、アナキンもオビ=ワンも居ると言うのに。

 

アナキンへも、そして自分へも、彼からの愛は感じたけれど、彼自身が自分を見つめているところを誰も見たことがなかった。

 

バルコニーから飛び立つスピーダーに乗り込んでいる彼の目は、まさにそんな目だった。まるでどこか、遠い世界へ旅立ってゆくような…そんな不安を感じる目をしていた。

 

「パドメ様」

 

「…船の準備を」

 

議員である以上、不測の事態に備えてコルサントに残るべきなのかもしれないが、パドメはそれよりもログの今まで感じたことがない異常性を恐れた。

 

アナキンと共にいれば安心するのも事実であるが、今の彼にはアナキンやオビ=ワンがなによりも必要なのだと思えた。

 

遠くへ行ってしまいそうな彼を引き止められるのは、その二人しか居ない。だからこそ、パドメはログから渡された場所へ向かうことを決断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスタークワイ=ガン!」

 

「無事であったか。オビ=ワン、アナキン」

 

ベイル・オーガナが指定した宙域に漂うヴェネター級スターデストロイヤーにたどり着いたマスタークワイ=ガンたちを出迎えたのは、先に到着していたオビ=ワンとアナキンだった。

 

「ウータパウでなんとか…何が起こったのですか?」

 

司令室へと向かうと、オーガナ議員とマスターヨーダが情報収集を急いでいたが、そのどれもが信じられないものだった。

 

「何千もの兵たちがジェダイ聖堂を攻撃していた。だからマスターヨーダを探しに向かったのだ」

 

「聖堂から何か連絡はありましたか?」

 

「受け取ったぞ、暗号化された避難メッセージをな」

 

そう答えるマスターヨーダに従って、オビ=ワンとアナキンも受信されたメッセージに視線を走らせる。

 

「すべてのジェダイに聖堂への帰還を命じている。戦争は終わったとな」

 

悲しそうに息をつくヨーダに、オビ=ワンは息を巻いて言葉を発する。

 

「では我々も戻らなければ!仲間とはぐれたジェダイが戻れば、罠にはまって殺されてしまう」

 

「はい、マスター。多くの命がかかっています」

 

オビ=ワンの言葉に同意するアナキンの背後から、くぐもった声が響く。ジェダイたちを見つめるのは、幾人ものマスクをかぶったジェダイテンプルガードたち――「ノーバディ」だった。

 

「だが、それは勇敢ではなく、無謀だ」

 

腕を組んだままそう言うノーバディに、ヨーダは杖を突きながら彼らの前へと歩み出て、見下ろしているノーバディを見上げる。

 

「いい加減、そのマスクを外してもらえるかの?ノーバディよ」

 

フォースによるマインドトリックもない、ヨーダからの言葉に、ノーバディはしばらく瞑目するように言葉を絶ってから、ゆっくりとそのマスクを外した。

 

「やはり、モール…そなたであったか」

 

マスクの下から現れたのは、ナブーでログとの激闘を果たし、自ら片腕を切り落として排気口へと落ちていったはずのモールだった。

 

クローン戦争の最中にも、オビ=ワンやアナキンの前に現れては、幾度とライトセーバーの剣戟を交わしたこともあり、当のアナキンたちは驚いた様子でテンプルガード姿のモールを見つめていた。

 

「それだけじゃないぞ」

 

そう言ってモールの背後にいる者たちに視線を向けると、他のテンプルガードたちも自らのマスクを脱いでゆく。クワイ=ガンたちを助けた「ノーバディ」は、モールと同じくアナキンたちと何度も戦いを繰り広げたアサージ・ヴェントレスや、サヴァージ・オプレス。

 

そしてその輸送船を操縦していたテンプルガードたちがマスクを脱いだ瞬間、アナキンはさらに驚愕の表情を浮かべる。

 

「アソーカ!バリスも…」

 

アナキンのパダワンであり、ジェダイ・パダワンであったバリス・オフィーの引き起こしたテンプル爆破事件の際、ジェダイ評議会に失望してジェダイを去ったアソーカ・タノも、「ノーバディ」としてそのマスクを被っていたのだ。バリスは護送中に消息を絶っていたのは知っていたが、まさかアソーカと行動を共にしているとは思いもよらなかった。

 

「未来を見通すことは叶わなかったようですな、マスター・ヨーダ」

 

そんな彼らの後ろから現れたのは、クローンの指揮官を示す制服を身に纏ったかつての敵…ドゥークー伯爵だった。

 

アナキンとオビ=ワンが咄嗟にライトセーバーを手にかけるが、ドゥークーはそれを一瞥するだけで、視線をすぐにヨーダへと戻す。

 

「ドゥークー…」

 

「ここにいる全員が、分離主義にも、共和国政府にも。ジェダイとシスにも疑問を覚え、そこから脱した者たちだ」

 

そして私自身も、とドゥークーは言葉を続ける。シディアスと共謀してこの戦争を引き起こした身ではあるが、彼が自分を利用しているだけだったことに気がついたドゥークーは、モールたちと共謀し、暗黒卿を出し抜き、姿を隠すことを画策した。

 

結果的にコルサントの戦いでギリギリのタイミングではあったが、それは達成され、今はこの船に身を寄せる身となっている。

 

モールはアナキンたちの前に歩み出る。

 

「誰もが〝何者でもあり〟、誰もが〝何者でもない〟。だから、俺たちはノーバディと名乗っていた」

 

「指揮は、ログ・ドゥーランが執っていたのかの?」

 

感慨深いような声でそう問いかけてきたヨーダに、ドゥークーは小さく笑い声をあげてから、まるで小馬鹿にするような口調で首を横に振る。

 

「言ったはずですぞ?マスターヨーダ。我々は〝何者でもない〟と。我々が向かう先の存在意義は「フォースの夜明け」です」

 

「フォースの夜明け?」

 

「俺たちが信じているのはジェダイでも、シスでもない。フォースの導く感覚のすべてだ」

 

感じられなかったか?それとも信じられなかったか?こういう未来が待ち受けているということを。

 

どこかで変えられると思っていたのか?

 

それとも、そんな破滅的な未来は来るはずがないと?

 

そう問いかけるモールに、オビ=ワンやヨーダは何も言い返せなかった。フォースが暗黒面に覆われ、未来が見えなくなった。そのことに、こういった事態を考えなかった訳ではないが、その予測を軽んじ、戦い続けていた結果が、今だ。

 

「未来よりも現実を見つめられなかった段階で、お前たちの意義はジェダイから外れている。フォースは世界を望んだ。故に今の結果が我々の前に純然と横たわっている」

 

故に今、その流れに抗うような真似をしても無駄だと言うこともノーバディであり、ただのモールでもある彼は深く理解している。抗う故に失われる命もある。ならば、そうなる前に逃げるべきだ。

 

モールは〝そうやって教えられてきた〟。

 

結果を優先するあまり、自身の命を失っては元も子もない。この作戦も、〝彼〟が自分に与えた最後の試練でもあった。自分たちは既に彼の手を離れている。ここから先は、教えられたことを純然に果たしていくだけだ。

 

「それでも、僕は行くよ」

 

ここに残るべきと言うことを示唆するモールに、アナキンは毅然とした声でそう言った。

 

「アナキン」

 

「助けられる命がそこにあるなら、僕はそこに向かう。それに、ここにログがいたら彼もそうする。絶対に」

 

自分の親友なら、助けられる命は絶対に見捨てない。テンプルが襲撃されているなら、彼は絶対に戦っている。多くを守るために戦っているはずだ。

 

ならば、助けにいかなければならない。それが彼の親友である自分の役目だ。

 

そうまっすぐとした思いを伝えるアナキンに、オビ=ワンも頷いた。

 

「ああ、そうだな」

 

今すぐにでもコルサントに。そう言って発艦ベイへと歩み出そうとしたアナキンを、レックスが呼び止めた。

 

「スカイウォーカー将軍」

 

彼はそれ以上言わずに、手に持っている端末から通信情報をアナキンへと見せた。そこに映っていたのは、ナブー議員専用の宇宙船だった。

 

「パドメが!?」

 

レックスと共に発艦ベイへと走り出したアナキンを見送るオビ=ワンへ、クワイ=ガンとヨーダが語りかける。

 

「オビ=ワン、私とマスターヨーダも共にテンプルの信号を止めよう。君たちは、道を切り開いてくれ」

 

「わかりました」

 

それぞれが動き出そうとしている。しかし、それが行先を過酷なものにしていくことを知らない。

 

モールは悲しげに目を伏せ、マスクを被る。

 

〝彼〟はすでに〝彼〟ではなくなっているだろう。それを知っていたが故に、自分たちに最後の試練を与えた。

 

自分たちにできるのはここまでだ。

 

あとは、フォースの導くままに。

 

ただ、それだけだった。

 

 

 

 



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最後の希望を持って

 

 

 

 

「逃げるべきです」

 

アナキンたちがウータパウに旅立った後、ボガーノの秘密基地でホログラムの通信を受けるノーバディたちの中で、マスクを被っていないアソーカが、映像越しに最後の試練を伝えるログへ言葉をこぼした。

 

その場にいるバリスや、モール、ヴェントレスたちもアソーカのこぼした言葉に何も言えずに、じっと彼らの行く末を見つめる。

 

だが、同時にそれは、ノーバディたちにとっての総意でもあった。

 

「ログ、どうして貴方が…そこまでする事があるんですか!?」

 

彼の伝えた試練は、試練と呼ぶにはあまりにも酷いことであった。こちらの試練というより、彼自身に課せられた宿命とも言える内容だ。

 

フォースの示す行く先に身を投じるため、彼は〝ログ・ドゥーラン〟ではなくなってしまう危険もあるというのに、彼はその選択を受け入れてしまっている。

 

「貴方は充分に戦ってきた!クローン戦争の中で、多くの人を助けてきたのよ!?」

 

ログは戦い続けてきた。

 

アソーカの師であるアナキンと共に、多くの戦場を駆け抜けて、クローン兵を救い、戦禍に巻き込まれている現地惑星の住人や、多くのジェダイたちを導いてきた英雄的存在だ。

 

幽閉されていたバリスと共に、ジェダイを抜けたアソーカを「ノーバディ」としてスカウトしてきたときは驚きを隠せなかったが、クローン戦争の中でノーバディたちを指示していたのがログだと知ると、多くのことに合点がいく。

 

彼は常にバランスを守ってきたのだ。すでに崩れている天秤を支持し、死に体の共和国とジェダイの中で、彼はバランサーとしての役目を果たし続けていた。

 

しかし、それももう…限界が来ている。

 

ジェダイがやっていることは、たしかに平和の使者とは程遠い。過去のジェダイの在り方から完全に逸脱している。

 

けれど、それを…

 

「アソーカ」

 

顔を伏せるアソーカに、映像の向こう側でジェダイのローブを身につけるログが微笑みかけた。

 

「たしかに逃げることも正しい選択だろう。だが、それで世界がクローン戦争よりも酷い火に焼かれてゆくことを……この世界が焼かれてゆくことを、俺は見過ごす事ができないんだ」

 

フォースとの共鳴を続ける中で、暗闇の中に包まれていく未来を見た。

 

シスの玉座に座るアナキンを見た。

 

死んでいるパドメや、オビ=ワンを見た。

 

炎に包まれる…銀河を見た。

 

何度も問いかけた。なぜそうなるのか。なぜそんな未来が来るのか。なぜ…自分がこの世界の異物としてやってきたのか。

 

ただ、ひとつわかっていたことは、自分という異物が混入されたこの世界から逃げ出してしまえば、自分が見た未来が現実のものになるということだけだ。

 

そしていつしか、ログは思うようになった。

 

きっと自分は…この世界の未来を…アナキンや彼らの運命を…変えるためにこの場所へとやってきたのだ、と。

 

「けど…貴方が貴方じゃなくなったら…なにも…!!」

 

「人には、定められた運命がある。俺はそれに導かれたんだ」

 

「けど…でも!!そこに貴方が居ないじゃない!!そんなの…ダメだよ!!ダメ!!」

 

アソーカはそれでも首を横に振る。ログの持つ愛の大きさをアソーカは知っている。クローン戦争の時から、彼の愛は多くの者を救ってきた。

 

アナキンが…オビ=ワンも。

 

なのに、それなのに、愛されている者の中に〝彼自身〟が居ないなんて、みんなが悲しむ。

 

「ダメ!ダメよ!そんなこと!!」

 

「アソーカ!!」

 

ホログラムでしかない映像に手を伸ばそうとするアソーカを隣にいるバリスが必死に抑えた。衝動的にアソーカがバリスを見ると、昂っていた想いが沈んでゆく。バリス自身も、唇から血が滲むほど、彼の下した決断に納得しようと必死だった。

 

ジェダイに不信感を抱き始めた頃から、バリスは師よりもより人間らしい感性を持つログへ、心の内を相談するようになっており、バリスの起こした爆破事故も、彼自身が幽閉されているバリスを解放し、真っ先に彼女に謝罪をしたのだ。

 

(君の葛藤を見つめきれなかった自分の責任だ)

 

そう言って彼は深く自分を責めた。彼が導いた結果でもないと言うのに、彼はずっと崩れ落ちそうな顔をして、バリスの起こしたことを悔やんだのだ。

 

彼女も、そしてこの場にいるモールも、そんなログの在り方に心を動かされたのだ。苦しんで、もがいていた自分を見つけてくれたのは、他ならないログだったはずなのに…。

 

「俺たちは〝どこかの誰か〟であり、同時に〝何者でもない〟。だから、ここまでやってこれた。みんなには、感謝している」

 

どこか遠くにいるような彼は、笑みを浮かべたまま集まった「ノーバディたち」に語りかける。その中で、彼と一番付き合いが長いモールが頭を垂れて奥歯を噛み締める。

 

「マスター…」

 

「モール、後は頼んだ。この因縁は〝ジェダイ〟が終止符を打つ。お前たちは、その先にある夜を切り開いてくれ」

 

「マスター。アンタは…俺を見つけてくれた」

 

グッとモールの手に力が籠る。

 

彼から言い渡された試練は二つ。

 

一つは指定された場へ赴き、その場にいるジェダイを救出すること。そしてもう一つは、その後の世界を見つめ、理不尽な圧政に苦しむ者を守る存在であることだ。

 

彼は予見している。

 

ジェダイと共和国の終わりを。

 

だからこそ、決着は〝ジェダイ〟が付けるということも導き出しているのだ。

 

「アンタが見つけてくれたから、俺はここに来れたんだ」

 

故にモールは、彼を止める言葉が出なかった。出すわけにはいかなかった。ダソミアでログと再会し、彼の元でフォースとの繋がりを強固にする修行を続けた結果、モールもまた、フォースの示す先の一端を垣間見た。

 

ログが自身をすり減らすほどの闇が、その先に待ち構えている。そしてそれを変えるチャンスを掴むために、彼は今までのジェダイとしての全てを賭して戦い続けてきた。その姿を隣で見てきたモールだからこそ、彼を引き止める言葉を紡ぐことができなかった。

 

己の無力さに怒りが立ち昇る。

 

「ブラザー」

 

サヴァージに、肩を掴まれてモールはハッと我を取り戻す。ログが望んでいる「ノーバディ」の在り方は、そんなものではない。

の在り方は、そんなものではない。

 

彼は、そうならないために自分を鍛えてくれたのだ。

 

「――みんな」

 

映像の前で、ログは最後に集まってくれた彼らを見つめる。

 

「フォースと共にあらんことを、願っている」

 

そう言って、彼は深く頭を下げてから通信を終えた。ホログラムが消え去った部屋の中で、モールは自身のライトセーバーを握りしめると、傍に置いていたジェダイテンプルガードのマスクを被った。

 

それに倣って、全員が同じマスクを身につけてゆく。

 

「フォースの夜明けのために」

 

やるべきことは、決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナブーの船の中で、アナキンは目を見開いたまま、コルサントに潜入したヨーダと、マスター・クワイ=ガンから送られてきた映像を食い入るように見つめてから、そっと呟いた。

 

「嘘だ」

 

「アナキン…」

 

隣にいるパドメが、震えるアナキンの肩に手を添える。映像に映っていたのは、テンプルで起こったジェダイ大量虐殺の映像だった。

 

「こんなの、嘘だ」

 

そこには、目を覆いたくなる惨状と、迎え撃つジェダイたちをライトセーバーで次々と屠ってゆく影が揺らめいてる。フードを揺らしてジェダイナイトの胸を貫いたのは、ログ・ドゥーランその人であった。

 

「オビ=ワン。彼は…本当にダークサイドに転向したの?」

 

「わからない。だが、ジェダイ・テンプルを襲い、多くのジェダイや子供達を殺したのは……間違いなく、ドゥーランだ」

 

「嘘だ!!」

 

オビ=ワンの言葉を強く否定するように、アナキンはパドメの手を払い除けて立ち上がり叫んだ。

 

「アナキン!!」

 

「こんなの、嘘に決まっている!彼が…彼がそんな真似をするはずがない!!」

 

「アナキン!!現実を見るんだ!!」

 

「嫌だ!!」

 

モニターを指差すオビ=ワンの声を拒絶して、アナキンは映像から目を逸らす。信じられない。信じられるわけがない。自分が何より立派だと思えていたジェダイであるログが、あんな凄惨で酷いことをするなんて。

 

きっとこれは間違いだ。ヨーダや、クワイ=ガンがログを貶めようと映像をすり替えたに違いない。そんな根も葉もない現実逃避を繰り返し続けては、アナキンは映像からゆらゆらと幽鬼のような足取りで離れてから、ソファへとへたり込んだ。

 

パドメやオビ=ワンが、心配そうな目で座り込むアナキンと視線を合わせるように屈んで、弱々しい彼の目を見つめる。

 

「オビ=ワン…僕は…僕は…」

 

逃れられない現実を突きつけられて、アナキンは師であり、兄のような存在でもあるオビ=ワンへ、観念したように心にあった恐怖をポツリとこぼした。

 

「夢を見たんです…」

 

パドメが殺される夢を。

 

オビ=ワンが殺される夢を。

 

そして瞳を黄金色に輝かせて、こちらに刃を振るってくるログの姿を。

 

「アナキン」

 

「僕には…僕にはできない!!彼を倒すなんて…僕には…!!」

 

アナキンは顔を覆ってうずくまった。彼と対峙すること、彼と生死をかけて刃を交えることを想像するだけで体が震える。彼は誰よりも自分を理解してくれている気がした。そして自分も。

 

変わり果てた親友の姿を見つめて、アナキンは正常な判断をできる状況ではなくなっていた。

 

「アニー。どうか希望を捨てないで」

 

そんなアナキンに、パドメは優しく語りかける。まだ希望は失われていないと心強い言葉を口にして。アナキンは泣き出しそうな顔を上げてパドメを見つめると、彼女は微笑みを返した。

 

「彼はムスタファーで待ってる。だから、みんなで行きましょう。彼と…話をするために」

 

「パドメ」

 

「議員の意見には、私も賛成だ」

 

オビ=ワンも、頷いてくれた。心強い師が、アナキンの肩に手を置く。彼自身もログがなぜああなったのかを問わねばならない義務があった。ひとりのジェダイとして。

 

「行こう、アナキン。彼のもとへ」

 

「はい、マスター…!」

 

船はムスタファーへと舵を切る。

 

赤く染まる惑星の上で待つ、親友の元へ。

 

彼と、言葉を交わすために――。

 

 

 

 



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アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件

 

 

 

「皇帝は…議長は…我々と約束をしたのだ!戦争は終わった…平和に…」

 

ニモーディアンのルーン・ハーコの言葉を終える前にライトセーバーを振るう。焼けた傷だけを残して命の火が消えたルーンの肉体が倒れ、ムスタファーの管制台に体を打ち付けてから、床へと転がる。

 

青いライトセーバーを握りしめたまま、申し訳程度にしか配置されてないドロイドを切り裂き、情けなく逃げ惑う分離主義の中核者たちを切り裂く。

 

鉄を焼く音。

 

セーバー独特の剣戟の音。

 

くぐもったニモーディアンや、分離主義者たちの断末魔。

 

鼻腔を刺す死の匂い。

 

その全てが、この部屋で行われていた。最後に残ったヌート・ガンレイは、震える手と目つきで、フードを被った暗黒卿に縋り付くように懇願する。

 

「ジェ…ジェダイは…非武装の敵を殺さない筈だろ!?ジェダイの掟は…!!」

 

彼が最後にすがった希望は、直ちにその希望を断ち切った。下から突き上げられるような形でガンレイを貫くライトセーバー。彼はしばらく目を見開いたまま呆然とすると、消えるライトセーバーの光刃と共にぐらりと体を落とした。

 

ガンレイがすがり付いていたマントは、彼が倒れたことで引き剥がされる。

 

そこに立っていたのは、光を失ったライトセーバーを持つ、ログ・ドゥーランだった。

 

「それを捨てるために俺はここに来た」

 

ガンレイの骸の足を掴んで彼は死体だらけになった部屋を進んでゆく。この場にいる者は全員、自分が殺した。何も思わなかったかと言われたら嘘になるが、必要な犠牲だと言い聞かせて刃を振るうことは叶った。

 

ギシギシと心が音を立てて軋むのがわかる。

 

ジェダイを斬った時も。

 

マスター・ウィンドゥを斬った時も。

 

そして、マスター・キットを殺した時も。

 

その痛みは増すばかりで、治ることはない。あの瞬間から、自分は最早「ログ・ドゥーラン」から逸脱している存在なのだろう。今までも、そしてこれからもずっと。

 

「これで、名実ともに稀代の殺戮者だな…俺は」

 

ガンレイの体をバルコニーに持ってきた彼は、ムスタファーの発着地にナブーの宇宙船が着陸するのを見つめる。

 

彼は瞳を青白いモノから黄金へと変化させていた。ここまでの舞台は整えた。ここまで必要だと思えたことは全て結果を残してやり通してきた。

 

フォースの導き…今はそんなモノ、気にすることはない。きっとこれもまた、バランスを保とうとするフォースの導きなのだろう。だが、今はそんなこと、どうでもいい。

 

ログはライトセーバーを煌めかせながら、バルコニーからナブーの宇宙船を見つめる。

 

「あとは…アナキン。お前次第だ」

 

それだけ言うと、彼は起動したライトセーバーを振り下ろすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ログ…」

 

船から一人で降りたパドメは、しばらくしてから発着地の奥にある通路から、ログがやってくる姿を見た。

 

「やぁ、パドメ。ここに来てくれると思っていたよ」

 

彼は何かを片手にぶら下げたまま歩んできて、パドメから見ても数メートル先でパタリと足を止める。顔にはまるで張り付いたような笑顔が浮かんでいた。

 

その違和感が、パドメの不安な気持ちを加速させていく。

 

「ムスタファーで…ジェダイ・テンプルでも…貴方は…」

 

どちゃり、パドメの前に何かが放物線を描いて投げ込まれた。足元にまで飛んできた液体に視線がおちて、パドメは口を手で覆った。

 

「戦争は終わったよ、パドメ」

 

そこにあったのは、自身を何度も貶めようとしてきた分離主義者の一人、ヌート・ガンレイの生首だった。傷は焼け爛れていたが、その隙間を縫うようにニモーディアン特有の独特な血液が流れ出ており、それがパドメの足元にまで飛んできたのだ。

 

「ああ…そんな…ログ…」

 

「戦争は終わった。新しい時代が来る…パドメ、君たちは幸せになれるんだ」

 

彼はまるで自分を見ていないような目線をしたまま、張り付いた笑みを絶やさずにそう言う。

 

「その代償は何なの?あなたは善良な人よ!そんなことはしないで…!!」

 

「私は…俺は、強い力を手に入れた。それを君たちのために使うんだ。君たちを守るためにね」

 

そうだろう?アナキン。そう言ったログにつられて、パドメは後ろへ振り返る。そこにはナブーの後部ハッチに姿を現したアナキンとオビ=ワンが静かに佇んでいた。

 

「ログ…」

 

「アナキン、オビ=ワン。ジェダイの欺瞞はお見通しだ。暴力装置でしかないお前たちには何もできない。もうすぐ新しい時代が来る。平和と正義、秩序と安全をもたらしたんだ」

 

 

 

 

ムスタファーの溶岩が赤く、その場にいる者を照らす。

 

 

 

 

 

オーダー66、クローン兵の反乱、そしてシスの復活と銀河帝国の樹立。

 

 

 

 

 

多くの事が起こり、ジェダイ寺院は破壊し尽くされ、ジェダイマスターの多くが戦死した。

 

ナイト――、そしてパダワンである子供たちも。

 

 

 

 

 

子を身籠るパドメ、師であるオビ=ワンと共にムスタファーに降りたアナキンは――変わり果てた親友の姿を見て、言葉をなくした。

 

「本当に…貴方が…あんな酷いことを…」

 

パドメが信じられないといった風に言葉を発する。

 

ジェダイ評議会の建物中で行われた虐殺。

 

子供すらも容赦なく殺した所業の指揮を取っていたのは、紛れもなく目の前にいる自分たちの親友だった。

 

「ログ!!君は僕にとって、親友だった。親友だったんだ…!!なのに、なぜ裏切ったんだ!!」

 

悲しみと裏切られた怒りが合わさり、激情に囚われるアナキンが、声を荒げて親友へ叫んだ。

 

オビ=ワンと共にグリーヴァス将軍の討伐に向かった後に、アナキンたちはオーダー66の罠に嵌った。クローン兵たちの反乱の中、命からがら生き残った二人は、激変したコルサントとジェダイ評議会の姿に愕然とする。

 

アナキン・スカイウォーカーは、信じたくなかった。

 

パダワンの時代から共に研鑽を積み、パドメとの関係を後押してくれただけではなく、命令を無視し、ジェダイの掟を破ってまでも自身の母を共に救ってくれた親友。

 

アナキンにとって最高のジェダイであったはずの彼が、暗黒面に落ちてしまった事実を、その事実を目の前にしてもアナキンは信じたくなかった。

 

だが、親友だった彼はアナキンの思いを踏みにじるように笑みを浮かべた。

 

「ジェダイは本質を見誤ったんだ、アナキン。フォースとの絆は汚され、今やジェダイは暴力装置へと成り下がった。世界の秩序と平和などもたらす存在では無くなったんだ」

 

「違う!すべてはシスが画策した計画で――」

 

「それでも、刃を振るい、この世界に災いと争いを呼んだのは紛れもない我々だ!!我々が殺した!!確かにジェダイがすべて悪い、罪があるとは言わない。だが罪がなくとも、責任はある。俺たちは多くの悲劇を見逃した。多くの悲鳴を聞き捨てた。そのせいで、どれだけの命が終わったか、数えられるのか? 救えた命があったはずだ。守れた心があったはずだ。全ての悲劇を無くすことはできなくとも、ほんのわずかな行いで減らすことができたはずだ。ジェダイ・オーダーの実態を、クローン戦争の悲劇を知れば知るほどに、犠牲者を救えば救うほどに、どうしようもない怒りが、憎悪が増した。堕落への憤怒は途切れず、苦痛への悲哀が濃くなっていった。なんとしてでも変えなければならないと決意した。決して許してはならないと、思った。」

 

オビ=ワンの論ずる言葉を、彼は切って捨てた。

 

クローン戦争で多くの血が流れた。流れすぎたのだ。

 

そして、その一端を担ったのは間違い無くジェダイであり、戦いを深刻化させたのもジェダイだ。終わりのない闘争の中で、ジェダイの在り方は大きく歪められたのかもしれない。

 

黄金色となった目をギラギラと迸らせながら、彼は激情に染まった顔を落ち着かせて、アナキンとオビ=ワンへ再び語りかける。

 

「パルパティーン議長が帝国を築いた今、ジェダイという暴力装置は滅せなければならない」

 

「そのために殺したのか!!師も、仲間も、友も…あまつさえ、子供さえも…!!」

 

オビ=ワンの怒りにも似た声にも、彼は動じる事はなかった。

 

そのために師であるマスターウィンドゥを殺した。

 

友であったキット・フィストーも手にかけた。

 

パルパティーンがほくそ笑む中で、数々のジェダイの首をはねた。

 

さも、それが当然であるかのように。

 

パドメは変わってしまった親友の姿に思わず涙を流して口元を覆った。映像の中にあった子供の胸をライトセーバーで貫いた時の彼の顔が、今目の前にするものと全く一緒だったからだ。

 

アナキンは震える手を握りしめて、届かないとわかりながらも抑えられない慟哭を放つ。

 

「僕は君が救世主だと信じていた!!僕なんかが救世主じゃない!!君がバランスをもたらす存在だったんだ!!君のおかげで僕は救われたんだ!!パドメも!!オビ=ワンも!!なのに!!」

 

そう叫ぶアナキンへ、彼はそっと手を差し伸ばす。それを見てアナキンはハッと顔を上げた。パドメとの結婚の後見人になると言ってくれた、あの時と同じような穏やかな笑みを以って。

 

「アナキン、オビ=ワン。なすべき事はわかっているはずだ。そう思うなら、俺と共に来い。共に今度こそ、ジェダイとして――いや、フォースと共に銀河に秩序と平和をもたらすんだ」

 

そして絶望の言葉をアナキンへ送る。

 

アナキンは頭を強く殴られたような感覚を味わい、しばらく立ち尽くしてから、小さく息を吐いて親友だった存在を見据えた。その瞳には、もう悲しみは無かった。

 

「僕が守りたかったものは、パドメが愛した共和国と民主主義だ」

 

「アナキン…」

 

「パドメは船に。僕らは…なすべき事を為す」

 

「行くぞ、アナキン。友として、彼を終わらせるために」

 

そうパドメに伝えて、アナキンとオビ=ワンは自らのライトセーバーを起動させて構える。遠くでムスタファーの溶岩が天高く舞い上がったのが見える。

 

その溶岩の光を背に受けて、逆光の中で黄金の目を煌めかせながら親友だった男は、自らの青と、師の手を切り落として奪った紫のライトセーバーを両手に持って、起動させていた。

 

「終わらせられるか?この俺を…!!」

 

刃をギラつかせて、暗黒面に落ちた彼は、英雄であり、親友であったアナキンたちに向かって走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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運命の戦い 1

 

 

パルパティーンは銀河帝国樹立を宣言した後、誰もいなくなった元老院のホールで一人、フォースの瞑想に更けていた。

 

すべては、自分の思い描いた通りに進んでいる。オーダー66、ジェダイの滅びも間近とも言える。まさに絵に描いたような理想的な状況が、自身の手の上にあるとも思えた。

 

だが、彼のフォースには揺らめきがあった。暗黒卿、ダース・シディアスはシスの教えに殉じている。ライトサイドを信仰するジェダイとは対極の位置にありながら、その本質はフォースを司ることに変わりはない。

 

故に、シディアスは自身の中に虚無があることを見つめていた。理想に近づけば近づくほど、業火のように燃え盛っていたシスの息吹が小さくなってゆく。

 

フォースの深みを見つめるたびに、それはより顕著にシディアスの元へと姿を現しているようにも思えた。

 

「新しい弟子を手に入れたそうじゃの、皇帝。それとも、ダース・シディアスと呼ぶべきかな?」

 

ふと、フォースの瞑想が終わりを迎える。目を向ければ、護衛のエンパイアガードたちが、壁に叩きつけられて意識を失っている姿があり、さらに視線を下げると、年老いた「グランドマスター」が、シディアスを見つめていた。

 

「マスター・ヨーダ。生きておったか」

 

あまり驚いた声ではない。むしろ当然とも言えるような口調で、シディアスは自身を「暗殺」しにきたジェダイを出迎える。だが、グランドマスターでも真相を見つめることはできなかったようだ。

 

「傲慢のあまり盲目となったか、マスター・ヨーダ。彼はまだ、余の弟子ではない」

 

「欺瞞と嘘はシスの常套句じゃからのぅ。だが、その弟子がジェダイ・テンプルを襲ったのは覆らんぞ?」

 

その言葉を聞いて、シディアスは改めて目を伏せた。

 

「そうか…彼は殉じたのか」

 

ジェダイとして間違ったジェダイの時代を終わらせるために…。その道こそ、シスの道に入ってしまったほうがどれほど良かったものか。彼は自身に降りることのない罪と重石を背負う道を選んだのだ。

 

「ならば、余も彼の覚悟に応え、行く末の先に殉じなければならん。マスター・ヨーダ」

 

シディアスは伏せていた目を黄金に煌めかせながら、手からフォースの力を雷へ変換させた「フォース・ライトニング」を撃ち放った。怒りを感じない攻撃に、マスター・ヨーダは不意を突かれて雷と共に壁へと叩きつけられる。

 

「このときを長い間待っておったぞ、小さき緑色の友よ。ついにジェダイは滅びるのだ」

 

「そうはさせんぞ。おまえの支配もここまでじゃ。これでも長かったがの」

 

したたかに打った体を起き上がらせながら、マスター・ヨーダも反撃と言わんばかりにフォースの波をシディアスに向けて放った。その余波を受け止めた上で、シディアスは高く飛び上がるとマスター・ヨーダの前へと降り立つ。

 

「支配?まるでお前たちジェダイが今まで共和国を支配していたような言いようだな?マスター・ヨーダ」

 

その言葉に、マスター・ヨーダの顔が歪むのをシディアスは見逃さなかった。

 

「憎しみでジェダイを滅ぼす?いいや、違うな、間違っている。この世界が、宇宙がそれを望んでおるのだ。それが分からんのか?マスター・ヨーダ」

 

「お主が仕掛けた戦争じゃ。それを無視することはできんぞ」

 

その言葉に、シディアスは地獄の底のような笑い声を上げて、のけぞるように天を仰いだ。

 

「豊かな世界、平和な時、緩やかな破滅。余が手を下さんでも、ジェダイも共和国も終わっていただろうに」

 

見えていないはずがない。見えていたはずの未来から目を背け続けた結果、共和国とジェダイの終わりがやってきた。シディアスが手を下すまでもなく、その滅びは必ず訪れていた。形や姿を変えて、必ずやってきていたのだ。

 

「愚か者めが…真実から目を背けた上に、その傲慢な思考が、彼を貶めたことにすら気が付かぬ。そして余も…彼の在り方に気付くことは出来なかった」

 

シディアスは、自身の元へと来ることをせずに、自ら決着を付けるために歩んでいったログを思い返す。彼の在り方は、すでにジェダイやシス…そういった「誰かが決めた理」…在り方から外れているのだ。

 

「彼はフォースに殉じておるのだ。深く、誰よりも深くな。最初は、何だったのかはわからぬが…おそらくその根底にあるのは「愛」、すなわち善意の究極であろう。この世界を…あるいは誰かを…あるいは愛するものをより良い未来へ導くため。彼は、もはや余にも止めることは叶わぬ」

 

赤い光がシディアスの手から立ち昇る。マスター・ヨーダも呼応するように腰にぶら下げていたライトセーバーを手元へと手繰り寄せ、緑の光を閃かせた。

 

「そしてまた、余を止めることもできんぞ、ジェダイ。彼がダース・ヴェイダーとなった暁には、我らよりも強くなろう!」

 

「新しい弟子を信頼しすぎると取って代わられるぞ。おぬしがフォースのダークサイドを信頼しているようにな」

 

ジェダイらしい言葉だとシディアスは吐き捨て、そして笑みを浮かべる。

 

「彼が余を終わらせてくれると言うなら、喜んで受け入れよう…だが、マスター・ヨーダ。その役目を果たすのはそなたではないっ!!」

 

光と闇の均衡をかけた戦いが始まる。そして、その闇はまさに、光を消し去ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした…二人がかりでその程度か…!!」

 

ムスタファーの施設の中で、アナキンとオビ=ワンの攻撃を二刀のライトセーバーで受け切りながら、ログは怒声のような声を荒げて、二人を睨みつける。

 

アナキンの攻めの型には防御を、オビ=ワンの防御の型には攻めを。ログの両手はまるで二人のジェダイのような動きを可能にしており、アナキンとオビ=ワンの巧みな連携を叩き落とした上で、彼らが苦手とする動きで二人を圧倒した。

 

「アナキン!!」

 

ログが放った閃光のような一閃に防御を余儀なくされたアナキンを助けるために、オビ=ワンがログへと距離を詰める。

 

来ると思っていたよ…!!それを逆手に取ったログは、オビ=ワンが攻勢に入る隙を縫うように距離を詰めると、ライトセーバーを持っている手をつかみ上げて無防備な腹部へフォースの力を借りた肘打ちを数発叩き込む。

 

「がはっ…!?」

 

マスター・ウィンドゥが体術を得意としているように、ログも近接格闘戦を習得している。ドロイドの硬い外装すら打ち砕く打撃は、オビ=ワンの腹部に痛烈な痛みを走らせた。吹き飛ばされた彼はなす術なく床へと叩きつけられる。

 

「ライトセーバーに頼りすぎるからこうなる!!」

 

「オビ=ワン!!」

 

うずくまるオビ=ワンに向かって、ライトセーバーを軽く振るう仕草を交えて近づいてゆくログへ、アナキンは決死の近接戦を挑む。わかっているように振り返ったログは、二刀から閃く剣戟を放ち、アナキンの攻勢を打ち払って逆に押し返した。

 

「ログ!!やめろ!!」

 

つば競り合うライトセーバーの向こう側で、アナキンが悲壮な顔をしたままログへと叫んだ。だが、彼の顔つきは変わることはない。力の均衡が徐々に崩れていく。

 

「アナキン…もう俺を言葉では止められないぞ!!」

 

光が走る。

 

競い合っていたアナキンを押し返したログは、ライトセーバーを構えてアナキンと相対し、黄金色の瞳で彼を見据えた。

 

「殺す気でこい…!!でないと…俺がお前を殺すぞ!!アナキン!!」

 

アナキンはグッとライトセーバーを握りしめ、口を固く噤む。加減して倒せる相手ではないことはわかっている。気を抜けば敗北するのは自分自身だ。アナキンはライトセーバーをゆっくりと構えて、険しい顔つきでログと向き合う。

 

「ロォオオグ!!!」

 

「さぁこい、アナキン!!」

 

フォースと一体になって駆け出すアナキンを、ログは二刀のライトセーバーで迎え撃つ。

 

そうだ。

 

それでいい。

 

アナキンの放つ剣戟を打ち払いながら、ログはムスタファーのさらに奥へと歩みを進めていく。

 

そうだ。そのままでいい。

 

その先に――俺が望む、未来があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 



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運命の戦い 2

 

ムスタファーの赤い溶岩の川が眼下に見える橋の上で、3本の青い光と、紫色の光が揺らめきながらぶつかり合っていた。

 

分離主義者達の死体が溢れる制御区画から出た三人は、剣戟を重ね合いながら、地獄の様相を映すムスタファーの火山地帯で死闘を繰り広げていた。

 

「アナキン!二人でやるぞ!」

 

「はい、オビ=ワン!」

 

腹部の痛みを何とか抑えながら、オビ=ワンはアナキンと共にログへ挑む。こうも長期戦になれば、疲弊するのは二人を相手取るログの方だった。ずしりと軋む体を奮い立たせながら、彼は向かってくるオビ=ワンとアナキンの連携を防ぐ。

 

「そうだ…それでいい…それで!!」

 

その瞬間、ログの瞳にヴィジョンが映る。アナキンの隣で共に戦う自分の姿がある。なぜ、自分は彼の隣に居続けることができなかったのか…そんな自問が思考に湧き出して、ログは目を見開いた。

 

本当なら、彼と共に未来を見たかった。本当なら、彼らと共にジェダイとして生きたかった。本当なら、愛した彼らをそのまま愛していたかった。

 

本当ならという思いが溢れ出す。そう思える相手を見つめる中で沸き立つ感覚が、ログの意識にノイズを発生させていた。

 

そしてそれは、致命的な一瞬となった。

 

「…――ッが!!」

 

オビ=ワンの振るったライトセーバーが、ログの片腕を切り裂いた。ウィンドゥのライトセーバーを持っていた腕は、放物線を描いて溶岩の川の中へと落ちてゆく。痛みで意識がはっきりする。ノイズは消え去っていた。痛みが…より体を、意思を、鮮明に形作ってゆく。

 

切り裂かれたと同時に、ログは切り抜いて隙が生まれたオビ=ワンの肩へ、残った腕に持っているライトセーバーの切っ先を突きつける。

 

くぐもったオビ=ワンの声が響き、彼の肩はひどく焼け焦げた。だらりと下がったライトセーバーを確認して、ログはそのまま痛みに硬直したオビ=ワンを通路の端まで蹴り飛ばした。

 

「オビ=ワン!!」

 

「なんてやつだ…片腕を失っているのに…!!」

 

吹き飛ばされたオビ=ワンの肩は、酷く抉られていてとてもじゃないがライトセーバーを振るえる状態ではない。咄嗟にオビ=ワンを庇ったアナキンは、溶岩の逆光の中、片腕を失ったまま立っているログが、こちらを睨み付けていることに気がついた。

 

「来いよ…アナキン…」

 

なんという…ことだ…。彼は片腕を失っているというのに、まるで表情を変えないでライトセーバーを構えたのだ。その姿に、アナキンが知っているはずのログ・ドゥーランの姿は存在していない。

 

「ログ!!もうやめるんだ!!勝負はついたぞ!!君は道を誤ったんだ!!」

 

切りかかってくるログの剣戟を逸らして、アナキンは叫んだ。心の痛みがはちきれんばかりにアナキンを重く締め付けていく。ライトセーバーを握る手が震える。それが戦いの最中だったとしても、アナキンにはハッキリと自覚できた。

 

「ジェダイは滅びなけばならない…!また繰り返したいのか!まだ足りないというのか!すでにあの頃の平和なんてどこにもないという事を知りながら、足掻くか!!」

 

そんなアナキンに、ログは眼光を鋭くして吐き捨てた。ナブーで過ごした時も。アナキンと初めて出会ったあの時も。まだスターウォーズという物語を愛していられたあの瞬間すら…もう取り戻すことのできない遠い過去にある。

 

そこからあるのは、血塗られた泥沼のクローンとドロイドの戦争。そして腐り切った旧体制にしがみつく死に行く者たちだけだ。

 

「何度繰り返せば満足する!!ここで終わらせなければ…クローン戦争よりも酷いことになる…!!」

 

その言葉に、アナキンは理解が追いつかなかった。ログは暗黒面に落ちたはずなのに、彼はなぜ世界を憂いて戦っているのか。シスは自身の欲と力のためにフォースを使うというのに…まるで、彼の言い草は「ジェダイであったころ」のログそのもののように思えた。

 

「ログ…!!僕は君とは戦いたくないんだ!!」

 

気がつくと、アナキンはライトセーバーを下げていた。オビ=ワンが叫んでいる。けれど、アナキンはライトセーバーを構える気が起きなかった。そんなアナキンに、ログはほんの僅かに目を開いてから、ゆっくりとアナキンへ歩み寄る。

 

「防御を外すとは…愚かな行為だ!!」

 

だが、返ってきたのは拒絶だった。振るわれたログの一閃を咄嗟に受け止めながら、アナキンは光の向こう側にいるログへ紡ぐ言葉を止めなかった。

 

「心が背いている。ログ…君の中に善の心を感じる。葛藤があるんだ!」

 

「葛藤など…ないっ!!」

 

「ならば、なぜ僕に優しくしてくれたんだ!なぜ僕とパドメの愛を後押ししてくれたんだ!こうなるなら、僕を殺せたはずなのに!!」

 

なぜ母を共に救ってくれた。なぜライトセーバーのテクニックを不器用なりに教えてくれた。なぜ自分を大切だと言ってくれた!!

 

今のログはアナキンが知るログではない。しかし、アナキンが知るログならば、こんな迷いのある決断をするはずがない。

 

「自分を取り戻すんだ!ログ!暗黒面や…憎しみに囚われてはいけないと教えてくれたのは君だ!!なら、君にだって出来るはずだ!!」

 

ライトセーバーを打ち払って、ログがアナキンから距離を置く。彼はしばらくムスタファーの溶岩に照らされながら、熱風の中でボロボロになったジェダイの服を揺らしている。

 

「アナキン…お前は勘違いしている」

 

ログはゆっくりとそう言った。

 

「俺は自分を失ってはいない。俺は俺の意思で、ここに居る」

 

その言葉に、アナキンは絶望を覚えた。黄金色に光る目が、アナキンの心を引き裂く。ログは一切の震えがない手でライトセーバーを掲げて、アナキンを睨んだ。

 

「見くびるなよ、アナキン。戦わないというなら、お前に待っているのは死だけだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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運命の戦い 3

 

 

 

「衰えたものだな…マスター・ヨーダ」

 

静かになった元老院の議会ホールの中で、ジェダイ・マスターのローブを見つめながらパルパティーンは誰にも聞こえないような声で、そっと呟いた。

 

彼との戦いは熾烈を極めたが、結果は見えていたと言える。仮にマスター・ヨーダがパルパティーンを討ち倒せていたとしても、帝国政府はつつがなく、その勢力を銀河全域へと広めてゆく。ジェダイの生き残りたちの排除も進み、シスが滅びようともジェダイが滅びる定めは変えられない。

 

そして、結果はパルパティーンの勝利で終わった。マスター・ヨーダの力は凄まじいものであったが、長年この時のためにダークサイドの力を蓄え、準備をしてきたシスと、その場当たり的な対応でしか対処できなかったジェダイでは、その戦局を覆すことなど出来なかった。

 

マスター・ヨーダがシスに敗れたと同時に、時代はジェダイを切り捨てたのだ。

 

「閣下。死体はやはり見つかりません」

 

「では、生きているのでしょうか」

 

側近やクローン兵の報告を聞きながら、パルパティーンは特に関心があるような様子もなく、クローン兵へ言葉を紡ぐ。

 

「徹底的に探せ。それと大尉。シャトルをいつでも飛び立たせられる準備を」

 

彼の思考は、すでに最強のジェダイ・マスターから別のものへと移っていた。

 

「ドゥーランに危機が迫っておる…あるいは…」

 

彼にとっての終局か。パルパティーンはフードを深く被りながら息をつく。フォースの揺らめきが正しい事柄を伝えているというなら…彼をシスへ引き入れることは難しいだろう。

 

ログ・ドゥーランは、その終わりに救いを見出してしまっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター・ヨーダ!」

 

元老院の施設にある隠し通路から出てきたマスター・ヨーダを迎えたのは、フードを深くかぶって変装するマスター・クワイ=ガンであった。彼もコルサントに侵入していたが、マスター・ヨーダの命により、シス卿の暗殺とは別の任務を遂行していた。

 

「暗殺は…失敗じゃ。力不足であった」

 

力なくそう言うマスター・ヨーダに、マスター・クワイ=ガンはいくつか入手したホロクロンを見せる。

 

「ジェダイ・テンプルの地下には、やはりシスの遺跡がありました」

 

ジェダイ・テンプルに残されていたジェダイの記録に加えて、本来なら足を踏み込むことを許されないテンプルの地下で、マスター・クワイ=ガンは大規模なシスの遺跡を発見したのだ。

 

その言葉を聞き、マスター・ヨーダは感慨深く瞳を伏せながらそっと言葉を発した。

 

「そうか…我々も長らく、シスの手の内で踊らされていたのかのぅ」

 

その言葉に、マスター・クワイ=ガンは何も言わなかった。いや、それよりも、その言葉にすら疑念を抱き始めている自分がいることにマスター・クワイ=ガンは気付き始めていた。

 

ログ・ドゥーランの生き様。彼が残した足跡を入手したマスター・クワイ=ガンは、マスター・ヨーダを見ずに呟く。

 

「あるいは、我々が道を見失ったとも」

 

その言葉に、マスター・ヨーダは何も答えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

溶岩が照らす橋の上に差し掛かった2人の影。

 

1人はライトセーバーを持ちながらもジリジリと後退するアナキン・スカイウォーカー。

 

そしてもう1人は、片腕を失いながらも乱れることのないフォースを揺らめかせて向かってくるログ・ドゥーランだ。

 

「お前には失望したよ、アナキン。俺の期待外れだった」

 

片腕を失いながらも、ログの威圧感は全く衰えていない…それどころか大きな悪魔…黒いドラゴンになっているようにアナキンには見えていた。幾度の夢の中で見た、漆黒の悪夢の龍がそこにあった。

 

「選ばれし者でありながら、その体たらくだ。そんなことでは俺を倒せんぞ」

 

「僕は…君と戦いたくない…ログ!!」

 

黄金色の目に貫かれながらも、アナキンは彼の中にある善意を信じた。信じたかった。この期に及んでもそれに縋り付くことしかできない自分に、ひどく焦燥と怒りを覚える。

 

ライトセーバーを握りしめながら、後退するアナキンに、ログは残念そうな目を向けながら言葉を放つ。

 

「戦わなければこの瞬間は終わらないんだよ、アナキン。俺かお前。生き残るのはどちらかだけだ」

 

このムスタファーに、自分と、彼が来た瞬間に運命は決定付けられたのだ。ここでどちらかが滅びるか、生きるか。それを選択しない限り、この銀河にもたらされた動乱は消えない。この瞬間が永遠に続く。永遠に…。

 

アナキンの絶望した顔に、小さな笑みを浮かべながら、ログは遠くで噴火するムスタファーの火山を見上げる。

 

「お前が戦わないと言うなら…お前の悪夢は現実のものとなる」

 

アナキンの胸の鼓動が妙に鮮明に聞こえる。彼は、知っているのか…自分が見た悪夢を。その懐疑の目を見て、ログは確信したように笑みを深めて、ライトセーバーの切っ先をアナキンへと向ける。

 

「お前を生きたまま捕まえて、お前の前で、パドメとオビ=ワンを殺そう。お前にたっぷりと助けを求めさせてからな…!!」

 

決定的だった。

アナキンの中にある何かが爆発した。

 

「やめろぉおお!!」

 

さっきまですくんでいた足は力強さを取り戻していて、腕から振るわれるのはクローン戦争で培ってきた必勝の剣戟だ。フォースと一体となって飛び上がったアナキンの攻撃を受けながら、ログはさらに閃光を翻す。

 

火山に照らされる橋の上で、目まぐるしい速さの光が煌めき、ぶつかり合った。

 

「ロォオオグ!!」

 

勝負は一瞬だった。

 

ログがいるところよりも高さがある場所へと飛び乗ったアナキンが、大きくその一閃をログへと放った。

 

一撃目はいなされた。軽々と払われた剣戟に怯まずに、アナキンはログを下がらせるためにライトセーバーで突きを放つ。

 

あくまで敵を下がらせる牽制のため。ジェダイの型でも基本的な突きだ。

 

そして、それは―――。

 

「そうだ…それでいい…」

 

ログの体を貫いた。

 

なんだ。

 

何が起こっている。

 

アナキンは自分の目の前にある光景が飲み込めなかった。

 

ログは、アナキンの放ったライトセーバーの一撃を防御するどころか、構えすら取らないまま受けたのだ。

 

青く光る刃が、ログの胸部を貫いているのが見える。

 

咄嗟に、ライトセーバーの光をなくすと、ログは今までの威圧感の一切を失って、その場に崩れ落ちた。

 

「ログ…そんな…何故なんだ」

 

遠くで火山が猛る音が聞こえる。地獄のような光景の中で、アナキンは震える声で呟いた。橋の脇へ背を預けるように崩れ落ちたログは、火山から流れてくる風に髪を踊らせたまま、何も発しない。呼吸をしているようにも思えない。

 

信じられないほどの静寂がアナキンを襲った。

 

「避けられたはずなのに…なぜ、攻撃を受け入れたんだ…」

 

渾身の一撃を跳ね除けられ、牽制のつもりで放った一閃がログを捉えた。避けられるはずの一撃だったはずだ。彼なら、難なく払い退けて「甘いぞ、アナキン」と言って、訓練用のセーバーであしらわれていたはずなのに。

 

目の前にあるのは、ただの虚無と、悲しみと、戸惑いと、虚しさだけだ。

 

「ログ…なぜだ…何故なんだ…!!」

 

 

 

 

「お前が…俺にとっての英雄だからだ…」

 

 

 

アナキンの悲痛な言葉に、ログは抑揚のない声でそう言った。

 

胸を焼かれた痛みと、腕をなくした痛みから、体の感覚はほとんど無くなっていたのに、アナキンの泣きそうな声だけは、はっきりと聞こえていた。

 

体を起こすこともせずに、少しだけ咳き込んでから、ログは見下ろすアナキンを見上げた。その目は…彼らしい本来の瞳の色へと戻っていた。

 

「お前は、その道を行くんだ…もう、ジェダイだとか…戦いに苛まれることはない…お前の先には…未来がある…お前たちは…幸せになれるんだ」

 

火山の火柱が上がる。ログは最後の力を振り絞って感覚が遠くなっている腕を持ち上げると、最後となるフォースの共鳴を果たした。

 

「だから、これでいいんだ」

 

呆然としているアナキンを、フォースで吹き飛ばす。後ろから追ってきていたオビ=ワンが、吹き飛んできたアナキンを受け止めるが、2人は橋へと折り重なるように倒れる。

 

刹那。

 

ログがいた場所を、噴き上がった溶岩が襲い掛かった光景を、アナキンは見てしまった。

 

「ログ!!なんでだ!!なんで…君は…自分を愛することをしなかったんだ!!」

 

ずっとそうだった。

 

彼はずっと、僕を後ろから見ているだけで。

 

彼からの愛はあるのに。僕らからの愛はあるのに。彼は自身を愛してなかった。自分をどこか遠い世界に追いやるような形にこだわって…。

 

僕は…彼の在り方に、頼り切ってしまったのだ。パドメとの愛を育めたのも、自分がパドメとの間にできた子供の父親になる覚悟を決めさせてくれたのも。ジェダイ・マスターになれる自分になれたのも。

 

すべて、彼がいてくれたからだというのに…なぜ、彼は愛を受け止めてくれなかったのか。

 

アナキンの慟哭が溶岩の雨の中で響き渡る。

 

「アナキン!!」

 

オビ=ワンがフォースでアナキンに降りかかろうとしていた溶岩の塊を吹き飛ばして、アナキンの肩を掴んだ。雨の向こう側しか見ていないアナキンの体を、反対側の方へと引きずるように連れてゆく。

 

「オビ=ワン!!待ってください!!ログが!!」

 

「ダメだ!彼はもう…」

 

「ログ!!」

 

アナキンは身じろいでオビ=ワンの手を振りほどこうとした。溶岩の嵐は激しさを増すばかりで、その力は橋すら寸断していく。

 

「アナキン!!クローン兵がくる!!このままではパドメも危険だ!!」

 

「彼を置いていけない!!」

 

軋む音が響く橋の上で、オビ=ワンは狼狽るアナキンを掴み上げて声を荒げた。

 

「彼は死んだ!!アナキン!!」

 

その言葉と同時に、溶岩が降り注いだ箇所が致命的な損傷に耐えきれず、ゆっくりと溶けて落ちてゆく。ログがいた橋は支えを失って溶岩の川の中へと落下していった。

 

アナキンは何も言えなかった。

 

何も、感じることができなかった。

 

彼の死を知らせるフォースすらも。

 

「船に戻るんだ…行こう。アナキン」

 

崩れ落ちた橋と、戻ってきた静寂の中で、オビ=ワンはアナキンの肩へ手を置く。優しさと温かみがある手を肩に感じながら、アナキンはライトセーバーを握りしめ、オビ=ワンへと振り返った。

 

「…はい、オビ=ワン」

 

そう答えたアナキンと共に、オビ=ワンはパドメが待つシャトルの場所へと歩んでゆく。ふと、アナキンは足元に落ちている何かに気がついた。

 

拾い上げると、それはログが愛用していたライトセーバーだった。

 

振り返る。

 

そこには、さっきまで繰り広げていた激闘の痕跡はなく、火山の遠い轟音が響き渡っているだけだった。

 

 

 

 

 

 



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戦いの後

 

 

シャトルへ戻ってきたアナキンの様子を見て、パドメの表情は青ざめた。半ば、オビ=ワンに肩を貸してもらう形で帰還したアナキンは、覚束ない足取りで側にあるソファーへ、崩れ落ちるように腰を落とした。

 

「アナキン…」

 

疲弊しきったアナキンの側に、パドメが寄り添う。火山の灰で煤汚れた彼の顔を指でなぞりながら、疲れを隠せないアナキンの虚な瞳を優しく見つめる。

 

「パドメ」

 

「ログは…?どうなったの?」

 

その言葉を聞いて、アナキンは見てわかるほどに震えていることにパドメは気がついた。震える手を持ち上げて、アナキンは両手で顔を覆い隠す。

 

「彼は…死んだよ。僕が…彼を殺してしまった」

 

まるで子供が癇癪を起こしているような…幼さすらあるくぐもった声と、肩を震わせるアナキンに、パドメには掛けられる言葉が見つからなかった。

 

「アナキン…」

 

穏やかなフォースを持って、オビ=ワンが焦燥するアナキンの肩を優しく撫でる。少し落ち着いたのか、アナキンの震えは少しだけ収まっているように見えた。

 

「休んだ方がいいわ。C3PO。頼むわね」

 

プロトコルドロイドであるC3POと共に、シャトルに備わる寝室へと連れて行かれるアナキンを見つめて、パドメは深く息をついた。

 

そんな彼女の隣に、オビ=ワンは緩やかに腰を落とす。彼もまた、疲れ切った顔をしていた。

 

「私が付いていながら、何もしてやれなかった。彼にログを倒させるべきではなかった」

 

「ログは…本当に暗黒面に?」

 

パドメの問いかけに、オビ=ワンはすぐに答えることはできなかった。しばらく言葉を探すように思考を巡らせてから、険しい顔つきでパドメの方へと視線を向ける。

 

「正直なところ…私にもわからない。彼がなぜ、ああなってしまったのか」

 

少なくとも、最期にアナキンと会話していたときに彼から邪悪な感覚を感じることはなかった。そうオビ=ワンが答えると、自動操縦で飛び上がったシャトルに通信が届く。

 

発信源はマスター・ヨーダからだった。

 

「ランデブーポイントの連絡だ。ひとまずはそこに向かおう」

 

そう言い残して、オビ=ワンはパイロットルームへと向かう。パドメは顔を落として項垂れるようにソファーへ身を委ねる。お腹の中にいる鼓動が大きく聞こえたような気がした。

 

パドメは命を育む自身の体を優しく撫でながら、窓の外に見える流れ行く星々を見つめて呟く。

 

「ログ…貴方は…何を思って私に会いにきたの…?」

 

バルコニーから向けられた彼の顔を、パドメは忘れることができなかった。彼は…何のためにここで戦うことを決めたのか。

 

その真意を知ることは難しい。彼は居なくなってしまったのだから。静かな宇宙の中を飛んでゆく銀色の船は、地獄のような惑星に別れを告げて、ハイパースペースへと飛び込んでゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ムスタファーに降り立ったパルパティーンは、その惨状を目の当たりにしていた。

 

フォースの導きに従ってムスタファーへやってきた彼が見つけたのは、溶岩の河岸に打ち上げられていた存在だった。

 

「なんということだ…まだ生きているのか」

 

目で見て、すぐに判断することは叶わないほどに、そこに横たわるログ・ドゥーランは、変わり果てた姿をしていた。

 

体のほぼ全てが重篤な火傷に侵され、オビ=ワンに切り落とされた腕はもちろん、すべての四肢が焼け落ちており、それが人間であるということすら判別できないほどに、業火に焼かれた姿をしている。

 

しかし、信じられないことに彼は生きている。否―――、生かされているというべきなのだろうか。

 

「医療ポッドを早く!」

 

側近や、同行していたクローン兵たちが大急ぎでシャトルから医療用ポッドを持ってこようと駆け出した。そんな喧騒の中、パルパティーンは横たわっているログの下へと歩み寄る。

 

焼けただれて、中が露出するほど傷ついた彼の体にフォースを送り込み、その傷にそっと手を添える。

 

「ドゥーラン。余がわかるか?」

 

滴が落ちるような声で、パルパティーンはログへと語りかける。だが、彼は何も答えない。何も感じさせてくれない。

 

ただ死ぬことすら許されない不死者のように生かされて、ただ存在するだけの存在と成り下がっていることが、パルパティーンにはわかった。わかってしまった。

 

なんて酷い。そして、なんて美しい。

 

フォースの導きに殉じる結果がこれだというなら、彼のやってきたことは全てが徒労に過ぎないのだろう。

 

彼が望む終焉を、フォースは認めなかった。

 

その結果が、どうなるのか。

 

シスの英知を持つダース・シディアスでもそれを読み取ることはできなかった。

 

パルパティーンは医療ポッドが来るまでログの傷に手を当てて、フォースを送り続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《貴様の言葉は聞かんぞ、ドゥーラン!》

 

《俺を逮捕しようが、処罰しようが、処刑しようが好きにすればいい!だが、彼とは然るべき場で言葉を交わすべきだ!!》

 

ランデブーポイントで、モール率いるノーバディや、マスター・ヨーダやクワイ=ガンと合流したオビ=ワンは、疲れ切って寝ているアナキンをそっとしておき、彼らが待つヴェネター級スターデストロイヤーの中で、一つの映像を見つめていた。

 

《元老院も法廷もこの男の意のままだ。生かしておくにはあまりにも危険すぎる!》

 

《そうやって視野を狭くして殺すというのですか!では、彼の意のままになる元老院や法廷はどうするのですか!元老院は納得しません!ジェダイと共和国での内乱になります!!取り消すべきだ!!》

 

その映像は、パルパティーンを逮捕…いや、暗殺しようとし、彼を追い詰めたマスター・ウィンドゥの前に現れたログ・ドゥーランとのライトセーバーを用いた言葉の応酬だった。

 

《シスは邪悪の権化だ!ここで滅さなければならない!》

 

《多くの血が流れることになるんだぞ!ウィンドゥ!》

 

言葉と共に、ライトセーバーの応酬も激しさを増してゆく。閃光の向こうでマスター・ウィンドゥに斬りかかるログの顔は、今にも泣き出しそうな悲しみに満ちた顔をしていた。

 

《シスを倒せばその未来は回避される!》

 

《この愚か者が!!》

 

鋭い一閃がログから放たれる。そこから戦いの様子が一変した。青白く光るログの眼光が冴え、師であるはずのマスター・ウィンドゥを圧倒し始める。そして、彼の腕を切り飛ばしたログは、そのままマスター・ウィンドゥと自身のライトセーバーで――。

 

そこで映像は途切れる。破壊されるジェダイ・アーカイブでマスター・クワイ=ガンがこれを見つけたのは偶然だった。

 

そもそも、このデータ自体が、ログ自身が厳重に管理していた情報データであり、予定ではクローン軍の進行によって破壊し尽くされるジェダイ・テンプルと運命を共にするはずだったデータだ。

 

シスの遺跡を発見したクワイ=ガンには、同時にジェダイ・アーカイブのデータを抜き出し、保護する命令も下されていた。その過程、データを管理するものがいなくなったアーカイブで、マスター・クワイ=ガンはこれを見つけたのだ。

 

「ドゥーランが言っていたように、あのままシスを倒したとしても、ジェダイと共和国内での内乱は避けられないものとなっていたでしょう」

 

映像を見つめていたのは、ジェダイたちだけではない。フォースの夜明けを目的とする「ノーバディ」たちも共にその光景を見つめている。その中にいるドゥークーが深い息をつくように呟く。

 

「クローン兵の実権が共和国にある以上、分離主義者の次はジェダイだった。ジェダイは、あの戦争で力を示しすぎたのだよ」

 

どちらかの勢力に肩入れをした時点で、もうジェダイは平和の調停者でも、それを維持・守護するためのシステムでもなくなってしまった。ドゥーランは、彼は…それをずっと危惧していた。

 

「しかし、方法はあったはずです。内部から改革し、その未来を回避する方法も」

 

「その前に、ジェダイはクローン戦争に関わりすぎたのだ。我々が彼の忠告を聞き入れていたとしても、すでに遅すぎた」

 

オビ=ワンの言葉を、彼のマスターであったクワイ=ガンが否定する。ジェダイが下した判断を覆すにしろ、何もかもが既に手遅れだった。議長が…パルパティーンが、元老院の議長になった段階で、この結末は決定づけられていたのかもしれない。

 

「ジェダイがクローン戦争から手を引けば、世界は分離主義勢力に落ちていただろう。そして、それを防ぐために戦い続けてきた結果が、このザマだ」

 

「モール!!」

 

腕を組んだまま侮蔑するようにジェダイたちを睨み付け、そう言葉を吐いたモールに、ドゥークーが諫めるように言葉を発する。だが、モールの言葉もまた事実だ。アソーカとバリスも彼と同じような意見だった。

 

「言ったはずです、マスター・ヨーダ。ジェダイは本来の役割から逸脱した存在になったと」

 

「故に、ドゥーランは我々のような存在を組織したのだ。ジェダイでもシスでもない、新たな第3の調律者たちとしてな」

 

ノーバディたちの言葉を黙って聞いていたヨーダは、小さく手に持っている杖で床を叩いてから、深く閉じていた瞳を開き、言葉をこぼす。

 

「…隠遁するしかあるまい。我々はすでに時代から拒絶されたのじゃ」

 

「マスター・ヨーダ」

 

その決定に異を唱える者は、誰もいなかった。ヨーダはしばらくジェダイや、ノーバディたちを見つめて、そっと瞳を伏せる。

 

「この事実は、マスター・スカイウォーカーには?」

 

その問いに、オビ=ワンは言葉を無くした。あまりにも、酷すぎる。ログを追い詰めたのは、他ならぬ自分たちだ。道を誤っていたのは…自分たちも同じだった。

 

「彼に伝えるには酷すぎます…」

 

「オビ=ワン」

 

オビ=ワンはその声を聞いて咄嗟に振り返る。その先にいたのは、パドメに付き添われながら立っているアナキンがいた。モニターには、ウィンドゥの首をはねたログの姿が映し出されている。

 

「アナキン…」

 

アナキンは幽鬼のような足取りでモニターの前に歩む。苦渋の決断を下したログに、感じることはたくさんあった。

 

もっと話をして欲しかった。

 

もっと言葉を交わしたかった。

 

もっと彼が抱えているものを分けて欲しかった。

 

けれど、現実にこうなってしまったのだ。拭うことのできない現実が、アナキンの前に横たわっている。

 

「ログは…ずっと、そうやってきたのですね…全く…まったくもって愚かだ…」

 

「マスター・スカイウォーカー」

 

ヨーダの声に、アナキンは抑えていた激情を溢れさせた。彼の怒りは、一種の限界を超えていたのだ。

 

「ログをあそこまで追い詰めたのは、シスなんかじゃない!僕たちジェダイだ!!ジェダイが剣を振るったんだ!!クローン戦争で!!彼は…それに気付いていたんだ」

 

顔を覆う。仮にログがジェダイを説得していたとしても、モールが言うように分離主義の台頭によって共和国も平和も滅んでいただろう。その逆であったとしても、共和国はシスの手中へ収められている。ジェダイとして為せることは残されていない。

 

それをわかりながら、彼は剣を振るい続けたのだ。

 

「何がジェダイだ…何がフォースだ…彼の心の中にある苦しみに気付かないまま、彼は背負ったんだ。世界の行く先を…自分の死で、ジェダイが今まで犯してきた過ちを清算するために」

 

そして、その終止符を打つように自分がログを殺した。その結果だけが残ってしまった。アナキンは自身の浅ましさを悔いる。彼が与えてくれたものに、なんの疑いも持たなかった自分の幼さを呪った。

 

「アナキン!言葉が過ぎるぞ!ジェダイとして…」

 

「僕はもうジェダイなんかじゃない!!もうたくさんだ!!」

 

そう言ってアナキンはオビ=ワンを睨み付けた。

 

「アナキン…」

 

「フォースとの絆を閉ざすか?マスター・スカイウォーカー」

 

ヨーダからの言葉に、アナキンは湧き上がっていた怒りを沈めると、腰から自身のライトセーバーと、ムスタファーで回収したログのライトセーバーをホログラムのそばへと置いた。

 

「僕はもう、ジェダイに希望を抱いたりなんかしない。暗黒面にも、誰にも」

 

アナキンはライトセーバーから離れると、オビ=ワンやヨーダ、クワイ=ガンに背を向ける。

 

「僕は、ジェダイを抜ける」

 

 

 

 





とりあえずここまで走ってきたんですが、エンディング(ジェダイの帰還)までの流れは決まってるんですが、正直なところ書きたい描写やストーリーの部分を端折りながら駆け抜けてきたところもあるので、一度アンケートを


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黄昏の中で

 

夢を見ていた。

 

もう随分と、昔に感じられる夢だ。

 

あの日、あの瞬間に、俺はログ・ドゥーランとしてスタートを切った。

 

通い慣れていたはずの小さな路地は、今になっては別世界のように見えて。いや、実際には別世界なのだろう。自分があの世界で過ごした時間は、すでに元いた世界よりも多い。

 

コンビニ袋をぶら下げた自分が目の前にいる。あの時と変わらない。何も知らないままライトセーバーに貫かれた自分自身。

 

「満足したか?」

 

ラフな格好をする相手が、ログへと語りかける。こちらは黒い服を身に纏っていて、手にはライトセーバーが握られている。

 

「お前が望んだ結末に、満足はできたか?」

 

アナキンの孤独を知って。

 

フォースに触れ。

 

世界の行く先を見据えて。

 

多くのことを学び、多くのことに触れ、多くを見たログ・ドゥーランは、満足したのか。

 

アナキンは、暗黒面に落ちなかった。ドゥーランが望んだ、アナキンを一人ぼっちにさせないために尽くした全てが報われたはずだ。

 

だが、何故だ。

 

なぜ、こんなにも虚無が胸の中にあるのだろうか。

 

そのために駆け抜けてきたはずだというのに、心の中には満足感どころか、あれだけ感じていたアナキンへの愛も、友情も、優しさも感じられない。

 

冷たさがあった。

 

後悔と、虚しさがあった。

 

そのためだけに、走ってきたというのに。その果てにあったものが、こんなにも残酷なものだったとは…。

 

自分はいったい、何のために世界を変えようとしたのか…いや、何のためにかは知っている。アナキンを一人にしないために、俺が一人になった。

 

ただ、それだけのことだ。

 

それだけが、今の自分にある真実だ。

 

「安心しろ、これからは俺がお前を愛してやる」

 

目の前にいるあの時の自分は、優しく微笑みながら歩み寄る。

 

悠然と手を広げて。

 

敵ではないという意思を示して歩いてくる。

 

彼がドゥーランの前に立った瞬間、胸に熱が走った。

 

 

 

視線を落とした先にあるのは、

 

赤いライトセーバーの光だった。

 

 

 

「ここから、始まる。全てがな」

 

 

そう言って笑みを浮かべる過去の自分の顔を手で覆い隠すと、裂けるような痛みと共にドゥーランの意識は闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴェイダー卿。余の声が聞こえるか?」

 

生命維持装置という楔から解き放たれたログ・ドゥーランは、そばに立つ黒装束の男性をマスク越しに見つめた。

 

彼はしばしの沈黙を持った。四肢はまだ起き上がった施術台の上に固定されている。固定されているはずだ。なのに、感覚がない。何も感じない。冷たさだけが体を駆け巡っている。

 

ドゥーランは、何も言わずに固定されている四肢をフォースでこじ開けて、地に立とうとしたが、うまく立つことができなかった。

 

奇しくも、その姿はそばに立つ黒装束の男性へ忠誠を誓うよう、膝ついているようにも見える。

 

「……はい、シディアス卿」

 

そう言って彼は何も言わずに黒装束の男、ダース・シディアスに頭を垂れる。その姿を見たシディアスは、少し目を見開いてから、しっかりとした言葉で語りかけた。

 

「そなたは…ログ・ドゥーランか?それとも、ダース・ヴェイダーか?」

 

暗闇から立ち上がるように、ドゥーランは立ち上がる。黒を基調としたサイボーグの四肢と、生体機能のほとんどを失った体を維持する生命維持装置が胸で光天を煌めかせる。

 

深淵のようなマスクの奥で、彼は声を発した。

 

「何なりと、ご用命を。我がマスターよ」

 

シディアスは、ひどく落胆した。

 

本来ならば、力を失った彼が手駒になったことを喜ぶべきであろうが、なによりも「ログ・ドゥーラン」という命が消え去っていることに、シディアスは酷く悲しみを覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナブー郊外の田舎町。

 

閑散としているが、穏やかな人の営みがある小さな町の中で、美しさを持ったままのパドメが、二人の小さな子供を連れて歩いている。

 

一人は、ルーク・スカイウォーカー。

 

もう一人は、レイア・スカイウォーカー。

 

ナブーの自然豊かな環境の中で、二人は穏やかに育ち、豊富な経験と知識を持つジェダイであるクワイ=ガンからも少しずつ教えを受けてもいる。

 

緩やかな人通りの中を駆け抜けてゆくルークとレイアを見つめるパドメは、ふと、悲しげな顔をして青空が広がっている宇宙を見上げた。

 

この場にいて欲しい、想い人に心を馳せて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アナキン、新しい依頼が来たぞ」

 

オーウェンの言葉に、アナキンは「すぐに行く」と伝えて、手に馴染んだ工具箱を持ち上げた。

 

タトゥイーン。

 

アナキンはパドメや自身の子供を置いて、一人この星へと戻ってきていた。母であるシミ・スカイウォーカーや、ラーズ家の面々と交流を深めながら、アナキンは宇宙船の中古部品を売るワトーの伝を使い、今はジャンクの修理や、宇宙船の修理人として生計を立てていた。

 

今回はモス・アイズリーに出向いて、ジャバ・ザ・ハットお抱えの船の修理という大仕事がある。これを成功させれば、ハット族やモス・アイズリーに寄港する船からも信頼されることになるだろう。

 

ワトーから買い取った修理部品と工具を積み込んだスピーダーを準備する中、一人のジェダイローブを着た人物がアナキンの元へとやってきた。

 

「アナキン…」

 

「何を言われても、戻る気はありませんよ。オビ=ワン」

 

現れたのは年齢を重ねつつあるオビ=ワンだった。

 

彼もまた、ナブーにいるクワイ=ガンと共にルークやレイアを教育する家庭教師兼、ジェダイの教えを伝える役目に徹することを決めている人物だったが、フォースとの絆を断ったアナキンを心配する気持ちもある。

 

オビ=ワンの言葉を待たずに、アナキンは準備を終えたスピーダーのエンジンをかけた。

 

「帝国の束縛も強くなってきている…いずれはナブーにいるパドメや、子供たちも危害が及ぶぞ?アナキン」

 

「それでどうするんですか?帝国と戦争をするんですか?ジェダイだの、掟だの、教えだのと言って」

 

オビ=ワンの言葉に、もうウンザリだと言わんばかりにアナキンは苛立った様子を見せた。

 

「パドメは決めたけど、僕は子供たちにフォースの使い方を教えるのは反対なんですよ。あんなもの、災いしか呼び込まない」

 

「それを決めるのは若きスカイウォーカーたちだぞ、アナキン」

 

「その教えのせいで、いったいどれだけの人が傷ついたと思っているんですか!!」

 

オビ=ワンの言葉に敵意に似た感情を露わにしてアナキンは言葉を荒げた。すいません、と呟きながら、彼はスピーダーへと乗り込む。

 

「アナキン」

 

モス・アイズリーに向かおうとするアナキンへ、オビ=ワンは言葉を紡いだ。

 

「フォースと共に在らんことを、願っている」

 

アナキンは、何も言わないままスピーダーのスロットルを入れて走り出して行った。

 

砂煙りと静寂が砂漠を照らす中、オビ=ワンは遠く輝く二つの太陽を見つめて、ジェダイローブをはためかせるのだった。

 

 

 

 



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ローグ・ワン
スカリフの戦い 1


 

スカリフ。

 

0 BBY。

 

ジン・アーソの元に集まった戦士たちにより結成された「ローグ・ワン」は、窮地に立たされていた。

 

海岸線沿いに展開していたローグ・ワンを、現れたウォーカーが追い散らしたのだ。

 

その過程で数名の反乱軍兵士を失いながらも、ベイズとチアルートは十数名の生き残りとともに海岸に出て、浜辺へと走る。

 

ウォーカーが放つ重レーザー砲に吹き飛ばされる仲間を見つめながら、水際の塹壕へとその身を滑り込ませた。

 

「くそっ!!あんなデカブツ…どうしろと言うんだ」

 

そう吐き捨てるベイズに、そばにいた仲間がロケットランチャーを差し出す。ベイズはニヤリと笑うと、受け取ったロケットランチャーで、ゆっくりと歩み寄ってくるウォーカーの頭部を砲撃した。

 

黒煙を上げてたじろぐウォーカーだったが、それは一瞬だけウォーカーの姿勢を崩すだけであり、大きなダメージを与えるには至らなかった。顔をしかめるベイズに、ウォーカーは重レーザー砲の砲口を向ける。

 

漆黒の砲口へレーザーが収束していく瞬間、空から撃たれたレーザーが的確にウォーカーの重レーザー砲を撃ち抜いた。

 

赤く染まった鉄屑はウォーカーの頭部の下から剥がれ落ちると、次にはコクピットであるウォーカーの頭部を吹き飛ばし、兵員輸送を目的とした胴体部も続けて破壊した。

 

「スカイウォーカー将軍!!」

 

青いXウイングの小隊から離れたのは、先頭を飛んでいた赤いXウイングだった。同じくUウイングも引き連れてベイズたちの前に降り立ったXウイング。そのコクピットから降りてきたのは、ジンと同じくらいの年齢であろう金髪の若者だった。

 

「僕はルーク・スカイウォーカー。貴方たちの手助けをするために来ました」

 

ヘルメットやパイロットスーツすら身につけていないスカイウォーカーと名乗った若者は、古い衣装を身につけてベイズやチアルートの前に現れる。

 

すると、撃破されたウォーカーの足元から次々とトルーパーたちが現れてこちらに攻撃を放ってきた。塹壕に身を隠すベイズたちと違い、ルークは砂浜をかけて攻撃を放ってくるトルーパーたちの下へと走り出した。

 

「チアルート!!あいつは死ぬ気なのか!?」

 

突然の自殺行為に声を大にして驚いたベイズと違って、チアルートは盲目の目を見開いて走り出したルークを見つめた。

 

「いや。彼は、フォースと共にある」

 

チアルートの言葉に、ベイズが首を傾げていると、走り出したルークが青いライトセーバーを抜き放ち、群がっていたトルーパーたちの攻撃をはじき返して突貫する。

 

「ジェダイだ!!」

 

ライトセーバーに切り捨てられ、悲鳴のような声をトルーパーたちが上げてゆく。飛来する閃光のことごとくを打ち返すルークの圧倒的な力の前に、その場にいたトルーパーたちはなす術なく打ち倒され、レーザー銃の喧騒に巻き込まれていた海岸線は、いっときの静寂に包まれた。

 

「話は将軍から聞いています。とにかく、内部に侵入した人たちのためにも、僕らはここで時間を稼ぎましょう」

 

そう言ってライトセーバーを収めたルークは、制圧した区画を見渡すと次に爆発が起こっている場所を見つめて先導して走り出す。

 

ベイズとチアルートは互いに顔を見合わせると、急に現れた頼もしすぎる援軍の後に続くよう走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルークがスカリフの戦いを知ったのは、ひとえに偶然であった。

 

妹であるレイアは、ジェダイの訓練から身を引き、母がそうであったようにナブーの元老院議員として政治活動に身を投じていたが、ルークはマスターであるクワイ=ガンや、オビ=ワンのもとでジェダイの訓練に励んでいた。

 

ナブーの奥地で修行の日々に打ち込んでいる中、皇帝が樹立した帝国の脅威に対抗するべく設立された反乱軍と、ジェダイ狩りをする帝国軍に対抗する「ノーバディ」が、帝国がとある極秘兵器を作り出そうとしている情報を入手する。

 

それは、惑星一つなら簡単に破壊してしまうと言う脅威的な兵器だった。それが完成し、帝国が使用すると言うなら、帝国の方針に従わない惑星や勢力が危機に瀕することになる。

 

皇帝であるパルパティーン一強の政治体制を持つ帝国は、他の惑星の文化や文明を抑圧し、統治する姿勢を構えており、そこから銀河を巻き込んだ小競り合いが頻発しているのだ。

 

「マスター・クワイ=ガン!なぜ、彼らを助けてはならないのですか!!」

 

ナブーの奥地に作られた小さなジェダイ寺院の中で、ルークはマスターであるクワイ=ガンに言葉を放った。

 

ここに訪れていたノーバディのメンバーであるトリラとクワイ=ガンの言葉を耳にしたルークが、その脅威となる兵器の破壊に協力すると言いだすのは必然だった。

 

だが、クワイ=ガンはルークの行動に許しを出さなかった。

 

「若きスカイウォーカーよ。お前はまだ修行を終えていない。それに、我々ジェダイの本質は秩序と調和だ。どちらかに肩入れをすれば、ジェダイの本質を見失うことになる」

 

「ならば、マスターはなぜこの力を僕に教えたのですか!?銀河は今、帝国の圧政に苦しんでいるではありませんか!!それを救うために、マスターは僕にジェダイの訓練を施したのではないのですか!?」

 

マスターの言葉を、ルークはそう切り返す。

 

ジェダイとは、たしかに秩序と調和をもたらす存在だ。そうルークは教わってきた。しかし、今が乱れ、秩序がなくなり、調和もない世界だと言うなら、それを正しい方へ導くのもジェダイの役割なのではないか?

 

そう訴えるルークに、年老いたクワイ=ガンは首を横に振った。

 

「私たちは、それで過ちを犯した。どちらかに肩入れをすると言うことは、その方が正しいと我々が考え、認めてしまうことになる。それが正しいことだと」

 

だが、世界は黒か、白かと二分できるほど明瞭なものではない。そのあり方を遵守しすぎた故に、ジェダイは滅び去り、帝国という存在が生まれたのだ。

 

「しかし、マスター!!」

 

「ルーク。君は自身の修行に打ち込めばいい。争いを起こす陣営が人だというなら、その結果を生み出すのも人だ」

 

「それで、世界が闇に包まれてもいいのですか!!」

 

ルークの叫びに、クワイ=ガンは言葉を返すことができなかった。そうならないようにしてきたつもりだった。オビ=ワンを導いた時も、今よりも未来を優先するジェダイの在り方よりも、今を見据えてそれを大切にすることがより良い未来に繋がることになると信じていた。

 

だが、現実は違った。

 

自分がオビ=ワンを導いていた時から、ジェダイや共和国の崩壊は始まっていたのだ。長く続いた体制は崩れ去り、クローン戦争が始まり、世界は大きく乱れた。

 

そんな中で樹立した銀河帝国。

 

形はどうであれ、世界は一つのあり方に向かって進んでいっている。その中で起こる反対勢力との小競り合いに、ジェダイが介入する事は正しいのか、クワイ=ガンには、その未来を見通すことができなくなっていた。

 

ダゴバにいるヨーダや、生き残りジェダイ・オーダーに不信感を抱いたジェダイたちを抱えるノーバディたちが、帝国との戦いに踏み切らないのも、そのことが起因しているのだろう。

 

未来を見通せない。そんな不安定なものに介入するべきではない…と。

 

「マスター・クワイ=ガン。それは間違っている」

 

思考の中にいたクワイ=ガンを切り捨てたのは、ルークだった。間違っていると、若きジェダイは師の教えを受けて立ったのだ。

 

「未来が見えないことに怯えるだけじゃ、何も変えられない。未来も、そして過去に犯した過ちも!!」

 

「ルーク」

 

「母は言ったんだ。僕やレイアがこの時代の希望だと。なら、僕はその希望の役目を果たす」

 

ルークはそう言って、ライトセーバーを握りしめるとナブーの寺院から飛び出してゆく。クワイ=ガンは、走り出したルークを何度か呼び止めたが、彼は振り向くことなく走り続けた。

 

ふと、そこでクワイ=ガンは気がついた。

 

いつかの、自分が間違っていると思っていた元老院の思考停止な考え方。今を見つめず、未来を見つめるだけの存在に、自分がなっていたということを。

 

クワイ=ガンは、歩み出した若きスカイウォーカーを見つめた。

 

彼の歩みは、確実にこの世界の流れを変え、決定付けるものになるだろう。しかし、その先に待つ試練を彼は知らない。

 

そして、その試練を共に受けなければならない「父」のことも。

 

「アナキン…時はもう近いぞ」

 

クワイ=ガンはくたびれた髭をナブーの風にそよがせながら、静かな自然の中で、そっと呟くのだった。

 

 

 

 

 

 



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スカリフの戦い 2

 

シタデル・タワー周辺の戦いは、まさに苛烈を極めていた。

 

反乱軍でルークが率いていたブルー中隊が帝国軍の航空部隊と熾烈な空中戦を繰り広げる真下では、送り込まれた増員と共にトルーパーと対峙するローグ・ワンの姿がある。

 

「将軍!背後に敵機が!!」

 

ブルー中隊長であるアントック・メルシ将軍のXウイングが、TIEストライカーに執拗に狙われる。軌道を細かくずらしながら、ストライカーからの攻撃を避けるが、直撃は時間の問題だった。

 

「機体を右にずらせ、将軍」

 

ふと、負荷に耐えていた将軍の元へそんな通信が入る。アントック将軍がすぐさま機体を右へずらすと、肉薄していたストライカーが頭上からレーザーで穿たれ、火を噴きながらトルーパーたちの元へと墜落してゆく。

 

「全く、賞金稼ぎに助けられるとは思ってもなかったぞ」

 

「これもクライアントからの依頼だ」

 

そう言って将軍が頭上を見上げながら笑みを浮かべると、旋回しながら現れたのは古びた外装を特徴とするスレーブIだ。

 

スカリフへ駆けつけたのは、ルークだけではない。反乱軍の中核を担うレイアから、正規ルートで依頼がかけられたボバ・フェットも同じくだった。

 

「操縦は任せるぞ」

 

「了解」

 

そう言ってボバは、操縦を同乗してきたレックスに任せてスカリフの地へと飛び降りる。突然現れたマンダロアのアーマーを身につけた賞金稼ぎに、トルーパーはたじろぐ。

 

その隙をボバは見過ごさない。ホルスターから抜いた父譲りのブラスターの二丁を撃ち放ちながら、見当違いな場所へブラスターを放つトルーパーたちを撃ち抜いてゆく。

 

老齢を迎えるレックスが操るスレーブIも、帝国軍の戦闘機を叩き落としており、戦況は彼らの側に傾きつつあった。

 

地に降り立ち、背中に背負うミサイルを敵が密集しているところへ撃ち込むと、コムリンクから通信が入った。

 

「状況は?」

 

「こっちはマスタースイッチのコントローラーへたどり着いたところだよ、ボバ。そっちは大丈夫そうだね」

 

通信先にいるのは、マスタースイッチの場所を制圧したルークだった。コムリンクに応じながら、飛来する光弾を弾き返し、ボバへ軽快な言葉を送る。

 

「俺はそっちがのたれ死んでいるかと期待したのだがな」

 

「よく言うよ、レイアに頼まれたからって通常料金の半額で受けたんだから。君も僕とおあいこさ」

 

「それをレイアに言ったら、お前を炭素冷凍にして部屋に飾るからな」

 

そんな言葉を交わしながら、ボバはこちらに向かって破砕性グレネードを投げようとしているトルーパーを打ち抜く。スイッチが押された破砕性グレネードは手から抜け落ち、その場で幾人かのトルーパーを巻き込んで爆発した。

 

そんなボバを、コードを背負ったボーディが見つめている。

 

「早く秘密兵器とやらのデータを送るぞ。そのあと、この船で脱出するのだからな」

 

ボバの言葉に無言で何度も頷くボーディを見てから、背中のジェットパックで次の標的を倒すために飛び上がる。

 

時間は刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デス・スターがスカリフの軌道にハイパースペース・ジャンプした。

 

それを指揮するターキンは、宙域で戦闘している反乱軍の相手を後で到着する「者」に任せて、デス・スターのハイパーレーザーを起動させた。

 

星を破壊するまでもない。ターキンは邪悪な笑みを浮かべながら、威力を下げたハイパーレーザーを射出。

 

その光線は、シタデル・タワーで倒れているクレニックがいる最上部を吹き飛ばし、基地周辺の沖合に着弾。

 

眩い閃光は昼間だったスカリフの空を、茜色に染め上げるほどだった。

 

「ブルー中隊!離脱せよ!」

 

アントック・メルシ将軍の号令と共に、茜色に染まるスカリフの空へ、XウイングとUウイングの編隊が離脱してゆく。

 

その様子を、誰にも気づかれることなく海岸線へ辿り着いたジンとキャシアンが見つめている。遠くの沖合では、デス・スターが放った閃光がまるで朝日のようになっていて、足を負傷したキャシアンと、満身創痍のジンはその膨らんでゆく光をぼんやりと眺めていた。

 

「届いたかな」

 

ジンは溢れてゆく光を見つめながら、隣にいるキャシアンへ語りかける。

 

「きっと届いているさ」

 

キャシアンは、そんなジンに笑いかけながら答えた。シタデル・タワーは粉砕されたが、ローグ・ワンの尽力や、ジンの言葉に突き動かされて援軍にきてくれた反乱軍の誰かが、きっと打ち上げたデータを受け取ってくれているはずだ。

 

ジンとキャシアンは迫りくるであろうスーパーレーザーの衝撃波を待ちながら互いを抱きしめ合い、ゆっくりと運命を…。

 

「諦めるにはまだ早いぞ?」

 

二人しかいないはずの場に、くぐもったマスクから言葉が聞こえた。気がつくと、キャシアンとジンの体はふわりと宙へ浮いていた。何事かと目を向けると、体は砂浜からみるみる遠ざかってゆき、やがて二人は柔らかな砂浜から硬い鉄の床へと降り立った。

 

「出せ!!」

 

目を向けると、そう叫ぶベイズと傍に黙って立つチアルートが居た。ベイズの言葉よりも先に、操縦桿を握るボーディは乗ってきた輸送船を最大出力にしてスカリフのシタデル・タワー周辺から離脱を始める。

 

閉まって行くハッチからは、光に飲み込まれて行くシタデル・タワーと帝国軍の施設が見えた。

 

「間一髪、だったな」

 

再びくぐもった声が聞こえる。見上げると、ジンとキャシアンを抱えていたのは、銀色のマンダロアのアーマーを身に纏った戦士だった。

 

「ボバはうまくやったようだな。上出来だ」

 

共に大気圏外へ脱出するスレーブIを眺めながら、老齢となった一流の賞金稼ぎ「ジャンゴ・フェット」は、立派に成長した息子の姿に満足した様子で頷く。

 

ハット族から依頼された輸送任務達成後に、血相を変えたボバがスカリフへ向かうと言ってきた時は何事かと思ったが、その発信先が旧友の娘と息子だと知った以上、ジャンゴもただ見ているだけなのは心苦しかったようだ。

 

「こちらジャンゴ。任務は達成した。ただ重傷の者もいる。俺たちは先に離脱するぞ」

 

「ありがとうございます、ジャンゴさん」

 

通信を投げたのは、隣を飛んでいる赤いXウイングだ。コクピットからR2と共に合図を送るルークを見つめて、ジャンゴとボバ、そしてジンたちを乗せた船は船団と分かれてハイパースペースへと入った。レイアからの依頼はローグ・ワンの援護と救出だ。単独で離脱したのちに、彼らをヤヴィンへ送り届ける手筈となっている。

 

ルークはそのまま、妹がいるプロファンディティへと合流し、反乱軍と共にヤヴィンへと帰投する予定だった。

 

だが、そこでルークは何かを感じ取った。

 

デス・スターからは反対側に位置するこちらに、何かが向かってくる。Xウイングをコルベットの「タナヴィーⅣ」へ懸架しながら、そのざわつきを感じ取っているルークの視界に、離脱しようとしていた反乱軍の正面を陣取るようにスターデストロイヤーが現れたのが見えた。

 

そこでルークは直感する。

 

そのざわつきは、確実に自分を捉えていると言うことを。

 

 

 

 

 

 



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暗黒卿

 

プロファンディティ内部では、シタデル・タワーから送信された帝国の秘密兵器の設計図の転送が行われていた。

 

「データは移せたか!?」

 

そう急かす乗組員に、データを転送する者は「焦るな」と言葉を放つ。プロファンディティのブリッジは、すでに現れたスターデストロイヤーの猛攻により吹き飛ばされ、この船の制御を担う装置の全ては破壊されている有様だった。

 

惑星一つ分ほどの大きさを誇るデス・スターの設計図だ。その膨大なデータを転送するにも時間を要する。急かされながらも何とか設計図のデータを小さな端末へと移した乗組員たちは、すぐに駆け出し、連絡口がつながっているタナヴィーⅣの方へと向かおうとした。

 

その時だ。

 

プロファンディティの照明が一気に落ちたのだ。

 

「な、なんだ…?」

 

暗闇が降りて、静寂が支配する。宇宙空間のような静寂が、乗組員たちがいる通路を満たしていた。彼らは無意識ながらも感じ取っていた。想像を絶する何かがこちらに向かってきていることを。

 

武装した彼らはブラスターを引き抜き、暗闇に覆われた通路の彼方へ銃口を向ける。嫌な汗が背中から吹き出し、額を伝う。誰もの息遣いが聞こえてきそうな静寂。その静けさが頂点を迎えた瞬間。

 

暗闇の中に赤い光が立ち上った。

 

「シスの…暗黒卿」

 

誰かが言葉を漏らす。

 

「撃て!!」と悲鳴のような叫び声が響いた瞬間、その場にいる誰もがブラスターを放ち、放った誰もが跳ね返されたブラスターに胸を焼き貫かれた。

 

最前列付近でブラスターを構えていた6〜8名は居たはずの射撃手が、ブラスターを一発放っただけで全員が絶命し、床に倒れたのだ。

 

端末を持った乗組員にとって、信じられない光景だった。暗黒卿は赤い光の刃を一閃させただけで、飛んできた全てのブラスターを〝同時〟に跳ね返したのだ。

 

最前列の者が一斉に崩れ落ちたのを見て動揺する他の射撃手の手から、不可視の力でブラスターを奪い去ると、暗黒卿は刃を翻した。

 

まずは一閃で茫然と立つ乗組員の首を切り落とし、最短動作で次の獲物の胸を貫くと、距離を詰めながら他の者たちを蹂躙してゆく。叫び声すら上げる間もない。

 

隣にいた仲間がフォースで手繰り寄せられると、すれ違いざまに切り刻まれた。死体と化した仲間の姿に目もくれず、暗黒卿はこちらに歩んでくる。

 

まずい…まずい…まずい…!!

 

避けられない死が目前に迫っている。守ってくれる仲間は全て死に絶えた。逃げようにも足がすくんで動くことすらできない。

 

圧倒的すぎて、彼は何もできなかった。

 

硬直する彼の手に握られている端末を目指して、暗黒卿はその足と光刃を邁進させてゆく。ふと、固まっていた乗組員の後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。

 

走ってきた足音の主は、乗組員の上を宙返りを打って飛び越すと、暗黒卿の前へと降り立った。

 

「下がって。ここは僕が引き受ける」

 

ルーク・スカイウォーカーは、そう言って暗黒卿「ダース・ヴェイダー」の前へと躍り出て、ライトセーバーを閃かせた。

 

ルークは目の前に立つ存在へ視線を鋭くさせる。自分の心をざわつかせていたのは、目の前にいる相手だと確信したのだ。

 

暗黒面に通ずる訓練はオビ=ワンや、クワイ=ガンと行っており、その中で体感したものはあったが、目の前にする相手はその時感じた以上の「何か」を感じる。

 

「…っはぁ!!」

 

ルークは基本的な「シャイ=チョー」の構えから一閃。上段から下へ振り抜くような一撃を放つが、ヴェイダーは軽くいなして攻撃を払い除ける。やはり一筋縄ではいかない、そうルークが警戒心を一つ上げた時だ。

 

目の前に赤い閃光が迫った。

 

「…っ!?」

 

咄嗟に顔を避けてライトセーバーを振るうが、その赤い光は、さきほどまで自分の頭があった場所を的確に捉えていた。青のライトセーバーで跳ね除けられたそれを、何事もなく手元に戻すヴェイダーに、ルークはヒヤリとした汗を流した。

 

何をした…?相手が何をどう放ってきたのか、全くわからなかった。

 

手堅くオビ=ワンの得意とする防御の型を取ったルークに、ヴェイダーは何も言わないままジリジリと距離を詰める。

 

こちらが動こうとした瞬間に飛来する閃光に、ルークは構えを堅牢にして受けることしかできなかった。防御を強化したために、相手の攻撃がよく見えるようになってはいたが、ヴェイダーの攻撃をルークは「見ること」ができなかった。

 

いうならば、ブラスターを跳ね返すときの先読み染みた防御をするので精一杯なのだ。手が動いたと思った瞬間、自分の四肢や頭部を捉える斬撃が飛来するフォースのビジョンが克明に見える。それを頼りに反射的に逸らし、打ち払うことしかできない。

 

強い…!!

 

圧倒的な実力差にルークは毒づく。相手にする暗黒卿は何も分からないが、ひとつだけ確かなことは、今の自分ではヴェイダーに勝てない。ただそれだけだ。

 

「早く逃げろ!」

 

ふと、後ろに意識を向けると、ルークとヴェイダーの戦いに気押されていた乗組員がやっと逃げ出そうとしているところだった。もつれる足を引きずって、仲間が待つところに急ぐ乗組員。

 

そんな彼へ、ヴェイダーはライトセーバーを投擲する。円盤のように回転する閃光は逃げようとしていた乗組員の命を簡単にむしり取る。力を無くした手から、デス・スターの設計図が入った端末が落ちた。

 

「やめろ!!」

 

得物を投げたヴェイダーへ、ルークは青いライトセーバーを振りかざした。今なら勝機がある!そう判断したルークは、ヴェイダーが取った行動に目を見開いた。

 

なんとヴェイダーは、腕を掲げてルークの一閃を受け止めたのだ。

 

フォースを纏わせた腕は、ジリジリとライトセーバーを斬り込ませていたが、ルークの一撃を受け止めていた。それに驚愕するルークを、ヴェイダーは反対の腕を使ってフォースの力で捕らえる。

 

「がっ…!!」

 

首を凄まじい力で締め上げられるルークに為す術はなかった。ヴェイダーの腕に食い込んでいたライトセーバーはだらりと地に落ちて、ルークの四肢の自由は奪われる。

 

そのままヴェイダーは腕を振るうと、ルークの体を、まるでピンボールのようにプロファンディティの通路の壁、床、天井へと叩きつけてゆく。フォースで体を防御しているとは言え、想像を絶する力で叩きつけられるルークの体はみるみる傷ついていく。

 

数度打ち付けられた体を、無言のままヴェイダーはゴミを捨てるように放り投げた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

打ち付けられた体に、もはや体力は残っていない。ルークは震える手を彷徨わせて自分のライトセーバーを掴んだ。

 

だが、見上げた先には赤いライトセーバーを握るヴェイダーが立っている。

 

圧倒的な力の差の前に、ルークの中で芽生えていた正義感やジェダイとしての誇りが折れそうになった。

 

そんなルークの体を、誰かが見えない力で後ろへと引き寄せた。通路を飛ぶように後ろへ流れてゆくと、真っ白な明かりがついた船内へと体が下ろされた。

 

カラリ、と床には乗組員が落としたデス・スターの設計図もある。

 

目の前を見ると、赤い刃を振りかざしたヴェイダーの姿が、ブラスターシールドの扉で見えなくなってゆく光景があった。

 

「ダース・ヴェイダーに一人で立ち向かうなんて、相変わらず無茶をするわ」

 

プロファンディティからタナヴィーⅣへと引き入れたのは、レイア・スカイウォーカーだった。彼女は、ルークが危機に瀕した瞬間に、フォースの力を使ってルークの体と、デス・スターの設計図を手繰り寄せたのだ。

 

 

 

 

 

 

宇宙へと発進してゆくタナヴィーⅣの姿を真空の宇宙の中で見つめながら、ヴェイダーはライトセーバーの出力を切った。

 

真っ黒な外套を翻し、ストームトルーパーを引き連れて彼は歩む。

 

あの船が行く先の見当はついてる。

 

そしてあのジェダイも。

 

マスクの下に隠された顔は、焼け爛れながらも不気味な笑みを浮かべているのだった。

 

 

 

 

 

 



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新たなる希望
始まりの地平線へ


 

 

「デス・スターの設計図はメイン・コンピュータにはありません」

 

プロファンディティから逃亡したタナヴィーⅣを捕縛した帝国軍。その指揮をとるダース・ヴェイダーは、タナヴィーⅣのキャプテンの首を締め上げながら報告してきた部下の言葉を聞いていた。

 

「設計図はどこにある」

 

グッと締め上げる力を増しながら、ヴェイダーはタナヴィーⅣのキャプテンに抑揚のない言葉で問いかけた。

 

「せ、設計図など知らない…この船は外交船だ…我々は外交任務中だ」

 

「外交船だというのなら特使はどこにいる」

 

息も絶え絶えと言った風にキャプテンは答えていたが、ヴェイダーの次の質問に答えることは叶わなかった。ガクリと力の抜け落ちたキャプテンだったものを通路へ放り投げると、ヴェイダーは黒い外套を翻して後方にいるストームトルーパー達へ指示を出した。

 

「司令官、設計図が見つかるまでこの船を徹底的に調べ上げろ。そして乗員たちを私のもとへ連れて来い。生かしたままでだ」

 

そう言われるなり散開して行くストームトルーパー。ヴェイダーも他の通路へと歩み出して行く。義肢から伝わる感覚を研ぎ澄ましていると、通路の隅で何かが横切ったのが見えた。

 

銀色と金色の何かが横切ったように見えたが、ヴェイダーはあえて目を瞑った。記憶の片隅にある何かが見逃せと言っているかのように。

 

程なくして、気を失った姫君がトルーパー達によって運ばれてくる。ヴェイダーは運ばれてきた姫君が目を覚ますのを腕を組んでジッと待っているのだった。

 

 

 

 

 

 

「ダース・ヴェイダー。乱暴が過ぎるわね。帝国元老院も今度ばかりは黙っていないでしょう。外交船を攻撃するなんて」

 

通気口へ逃れたルークは、目を覚ましたレイアとヴェイダーの会話をひっそりと息を潜めて聞いていた。

 

「見え透いた芝居はやめたらどうだ?レイア・オーガナ。今回は貴女が得意とする慈悲深い任務ではないのだろう?」

 

レイアは、スカイウォーカーの名を持ちながら、あえてオルデランのオーガナ議員の娘となった。これは母の知恵でも有り、オルデランのオーガナ議員の意向でもある。母のパドメから政治関連の教育を受けたレイアが、アナキンの娘であることを悟らせないために講じた策であったが、ダース・ヴェイダーも議員達も、レイアがパドメとアナキンの娘であることを知っていない様子だった。

 

母譲りの度胸の良さと毅然とした態度で向き合うレイアに、ヴェイダーは指を差しながら深淵から響くような声で彼女の恐怖心を駆り立てようとする。

 

「反乱軍とこの船が深い関わりにあるのはわかっている。彼らの送った設計図がどうなったのか…私はそれを知りたいだけだ」

 

凍て付くような冷たい言葉。だが、レイアは動じなかった。まるで何も知らないような口ぶりで、ヴェイダーの言葉に首を傾げる。

 

「何を言っているのか…。私は帝国元老院の一員としてオルデランへの外交任務に就いているのです」

 

その様子を見たヴェイダーは、すぐに方針を切り替えた。レイアの後ろにいるトルーパーたちへ指示を出す。

 

「続きは、我々帝国のステーションで聞くとしましょう。連れてゆけ」

 

幾人のトルーパーたちに連れて行かれるレイア。タナヴィーⅣがスターデストロイヤーに捕縛されている以上、彼女を救出して脱出するのは至難の技だ。

 

ルークは妹が言った作戦を実行するべく通気口を進む。彼女は自身を囮にして、ルークとデス・スターの設計図を逃す作戦を打ち立てたのだ。

 

レイアの身を危険に晒すことになる作戦だが、多くの犠牲を払って入手した設計図を失うわけにはいかない。彼女はルークの反対を押し切ってヴェイダーにわざと捕らえられたのだ。

 

タナヴィーⅣから帝国軍の輸送船へ忍び込んだルーク。

 

作戦としては簡単だ。師であるクワイ=ガンや、オビ=ワンがやったことと同じく、囮として「タトゥイーン」へ放ったポッドを追うために降りる輸送船に忍び込み、タトゥイーンへ降りる。

 

ルークはポケットに忍ばせたデス・スターの設計図を握りしめるのだった。

 

 

 

 

 

 

ヴェイダーはフォースを張り巡らせながら思考を巡らせていた。

 

この船には確かに乗っていたはずだ。

 

すでに滅んだはずの「ジェダイ」が。数分前まで懸架されていたXウイングが消えているのを見ると…。

 

「彼女を拘束するのは危険です、ヴェイダー卿。このことが漏れれば元老院が反乱軍支持に傾きかねません」

 

隣にいる部下がそう具申してくると、ヴェイダーは黒い甲冑越しに言葉をかけてきた部下を見据える。

 

「反乱軍と彼女の関係は決定的だ。反乱軍の基地を見つけるための唯一の手がかりであり、交渉材料ともなるだろう。この船の遭難信号を送信し、元老院に搭乗者は全員死亡したと報告するのだ」

 

「ヴェイダー卿、デス・スターの設計図はこの船にはありません」

 

他の部下が、そう報告してきた。

 

「送信も一切行われていませんでした。戦闘中に脱出ポッドが射出されましたが、それにも生命体は乗っていませんでした」

 

となれば、可能性は二つとなるか。タナヴィーⅣの腹にいたはずのXウイングか、それとも放出された脱出ポッドか。どちらにしろ、手を打つ必要はある。

 

「分遣隊を送り込んで脱出したポッドを回収させろ。何としても見つけ出すのだ、司令官。今度ばかりは誰にも邪魔はさせん」

 

そう指示を出したヴェイダーは踵を返してタナヴィーⅣを後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アウター・リム・テリトリー。

 

そこに存在する惑星、タトゥイーン。

 

銀河の中心から離れた辺境にあるアケニス宙域で、タトゥI 、タトゥIIと名付けられた連星の太陽の周りを304日かけて公転しているその惑星は、発見された当初は恒星だと思われていた。

 

太陽から遠く離れているにも関わらず、海ははるか昔に干上がり、ほぼ全域が砂漠に覆われている。

 

「アナキン」

 

砂漠しかない惑星で、水分農場を営むラーズ家。今は亡き夫婦が営んでいたそこは、息子であるオーウェン・ラーズが引き継いでいた。

 

オーウェンが呼びかけると、縦穴式の住居の一室から、一人の人物が出てきた。

 

「なんだい、オーウェン」

 

アナキン・スカイウォーカーは、呼び掛けられたオーウェンに問いかけると、彼は指で住居の向こう側を指した。

 

「利水分離器のコンバーターの調子が悪いんだ。見てもらえるか?」

 

「そろそろ寿命だと思ってたよ。すぐに行く」

 

地下から水を抽出するための機械が寿命を迎えていることは、アナキンもよく知っていた。ここ最近は騙し騙しで修理はしていたが、そろそろ本格的に交換する必要があるだろう。

 

工具箱と修理道具を担いで住居の上へと上がると、アナキンは足を止めた。

 

「ルーク…」

 

そこにいたのは、自分の息子だった。彼はスピーダーから降りると、先に出ていたオーウェンと挨拶を交わしていた。

 

「オーウェン叔父さん、久しぶり」

 

「大きくなったな。お父さんの若い頃にそっくりだ」

 

握手とハグを交わすと、ルークは砂を踏みしめながら呆然と立っているアナキンの下へとやってくる。

 

「ルーク、久しぶりだな」

 

「母さんの誕生日以来だよ、父さん」

 

「こんな砂しかない星に…どうしたんだ?」

 

ルークがこの僻地に来ることは無かった。スカイウォーカー家の重要な日には、アナキンがナブーへと帰るようにしており、基本的にアナキンがオーウェンたちと暮らす中で、ルークやレイアがここに来ることは無かった。

 

「助けて欲しいんだ」

 

そんなルークが真面目な目で言葉をかけてくる。アナキンは誤魔化すような笑みを浮かべて身振り手振りで言葉を探した。

 

「なんだ、船が壊れたのか?ここにある部品でいけるならすぐにでも直せるが、部品が特殊なら町にでないと…」

 

そう言った矢先、スピーダーから見慣れたドロイドが二体やってきた。

 

「アナキン様…」

 

C-3POと、R2-D2。その二体を見て、アナキンは数日前から感じていた嫌な予感が的中したのだと確信した。スピーダーもよく見れば帝国軍のものであり、おそらくルークが何かしたのだろう。

 

「ルーク。わかっているはずだ。父さんはもうジェダイじゃない」

 

「けれど、帝国が!シスの暗黒卿が反乱軍を滅ぼそうと迫っているんだ!敵には強力な兵器がある。星ひとつを破壊してしまうものが!」

 

「それで、どうするんだ?お前はジェダイとして戦争に参加するのか?クローン戦争のように」

 

そう言ってアナキンは工具箱を持ち直してオーウェンから依頼された機械の修理へと足を向けた。

 

「父さん!!」

 

「仮に帝国に勝てたとしても、その次に待っているのは共和国同士の内乱だ…ルーク、悪い事は言わない。今のうちに手を引け」

 

「見捨てろというんですか?!」

 

淡々と修理をする父にルークは悲鳴のような声を上げるが、アナキンは冷静な口調でルークをなだめるように言葉を紡ぐ。

 

「その身を大事にしろと言っているんだ、ルーク。ジェダイだの、シスだの、フォースに絡んで生きているとその力に飲まれる事になる」

 

そのせいで、自分はかけがえの無い友の痛みにも気付けずに最悪の形で別れてしまったのだから。そう言うアナキンをルークは真っ直ぐと見つめる。

 

「…父さんも、かつてはそうだった」

 

「昔のことだ。今はしがない修理工に過ぎない」

 

父さん!そう言ってアナキンを引き止めるルークは、最後の手段だと心に決めて真剣な声でこう言った。

 

「レイアが、助けを求めてるんだ」

 

その言葉にアナキンの手が止まる。

 

見計ったようにR2が身を捩らせながらアナキンとルークの前に出てくると、タナヴィーⅣの船内で、レイアがドロイドたちを脱出させる間際に撮った映像の一部が投影された。

 

《助けてください、アナキン・スカイウォーカー、オビ=ワン・ケノービ。あなた達だけが頼りです》

 

明らかに何かを切り取っているシーンだけを投影している。ひたすらその言葉を繰り返すレイアの映像を見せられて、アナキンは観念したように息を吐いてR2をジト目でみつめた。

 

「卑怯だぞ?R2」

 

アナキンはパドメとレイアに弱いことを、ルークはよく分かっていた。

 

ルークたちがジェダイの修行を受ける時も、アナキンは凄まじい有り様で反対していたのだが、一度決めたことには頑として動かないパドメと、レイアの強請りに参って泣く泣く認めた話は、オビ=ワンから耳にタコができるほど聞かされていたものだ。

 

アナキンは手早くオーウェンの依頼を終えると、道具を片付けてルークに伝えた。

 

「オビ=ワンと、モス・アイズリー宇宙港までは案内する。知り合いに良い腕を持つパイロットがいる。船は宇宙一速いポンコツ船だがな。だが、そこまでだぞ?」

 

そう言ってスピーダーの鍵を取りに行くアナキンの背を見つめながら、ルークはスカリフの戦いで出会ったジンの言葉を思い出した。

 

突破口を掴んで、さらに先にあるチャンスを掴む。それを繰り返していけば見えるはずだ。

 

きっと見えてくるはず。勝利へ続く光が…。

 

ルークはその言葉を胸に、黄昏に沈む二つの太陽が浮かぶ地平線を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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銀河最速のスクラップ

 

 

 

「このバトル・ステーションが完全に機能するようになるまでは我々は脆弱だ」

 

デス・スターの内部では、帰還したヴェイダーの報告を受けた指揮官たちが会議室で激論を交わしていた。皇帝シーヴ・パルパティーンが銀河帝国を樹立して暫く、帝国軍も巨大化し、組織を担う指揮官たちの意見が対立することもよくある事であった。

 

「反乱同盟軍は極めてよく武装されている。君が思っている以上に彼らは危険な存在だ」

 

慎重派である指揮官はそう指摘するが、武闘派の指揮官はその意見を鼻で笑った。

 

「危険なのは君の艦隊にとってだよ。このバトル・ステーションは違う」

 

なにせ「銀河帝国最強の要塞」なのだ。反乱軍などという惰弱な組織に打ち負けるようなものではない。むしろそれを完膚なきまでに打ち滅ぼすために建造された兵器である。

 

だが、慎重派は輪をかけて警戒心を強めていた。

 

「それだけではない。反乱軍は帝国元老院にも支持を拡大しつづけている…このままでは我々の立場は…」

 

「帝国元老院などもはや心配の種ではなくなった」

 

会議室に凛とした声が轟いた。同時に部屋に入ってきたのはウィルハフ・ターキン提督だ。

 

彼は銀河帝国最大の実力者のひとりであり、クローン戦争時代から指揮を取っている名将であり、政治家。「ターキン・ドクトリン」を唱え、帝国の思想を具現化した超兵器、デス・スター・バトル・ステーションの建造と指揮に携わっていたのだ。

 

「皇帝が議会を永久解散されたとの知らせが入ったところだ。旧共和国の最後の遺物が一掃されたという訳だな」

 

ヴェイダーを伴って席につくターキンが満足そうに呟くと、慎重派の指揮官の顔がどんどん青ざめてゆくのがわかった。

 

「そんな馬鹿な…皇帝はいかにして、帝国行政を維持なさるおつもりなのですか?」

 

「各領域の総督が担当宙域を直接統治する。各地の星系に恐怖が浸透するのだ。このバトル・ステーションの恐怖がね」

 

「では反乱軍はどうなるのです?」

 

そう切って返す指揮官に、ターキンは何も言わずにじっとその者の目を見つめる。絶対零度と言えるような視線に射抜かれながらも、慎重派の指揮官は声を是としてターキンに言葉を申す。

 

「反乱軍が、奪われたステーションの完全な技術情報を手に入れれば、弱点を探り出してそれを突いてくることも不可能とは言い切れません」

 

「その設計図ならばすぐに我々の手に戻る」

 

意を決して申した指揮官の言葉を、ターキンの後ろに控えるヴェイダーが淡々と切って返した。それに同調するように武闘派の指揮官も口火を切ってゆく。

 

「彼らがどんな技術データを手に入れようと、反乱軍がこのステーションに行う攻撃はすべて無意味に過ぎないよ。このステーションはいまや宇宙で最強の力を手に入れた。それを使えばいい」

 

デス・スターに絶対的な信頼と自信を抱く武闘派の意見が会議室に響く中、その言葉をヴェイダーはフンと鼻で笑ってあしらった。

 

「築き上げた科学技術の恐怖を過信し過ぎるのは悪い癖だな。惑星を破壊できる力としても、フォースの力の前には取るに足らん存在に過ぎん」

 

その言葉が癪に触ったのか、武闘派の指揮官の目つきが変わる。

 

「魔術で我々を脅すような真似はやめてくれたまえ、ヴェイダー卿」

 

彼は席から立ち上がると、ターキンの後ろにいるヴェイダーの近くへと歩み、黒甲冑に身を包む彼を見下ろした。

 

「古めかしい宗教へのあきれた情熱は認めますが、その魔術やらで盗まれたデータ・テープを取り戻してくれたのかね?それとも反乱軍の秘密要塞を見つける千里眼でも与えてくれたのかね?その異様な魔術で我々を納得させるというならそれくらいのことを…」

 

それは一瞬だった。

 

見下ろしていた武闘派の指揮官の顔つきが一変するや、その体は不可視の力によって自由を奪われ、空中へと浮き上がる。

 

まるで空中で磔にされたかのように武闘派の指揮官が苦しげな呻き声を上げる中、ヴェイダーは何かを握りしめているような手を眼前に掲げて武闘派の指揮官を締め上げてゆく。

 

「ほう、私を見下ろして話を垂れるとは、いい度胸をしているな。フォースの力を侮辱することは許さん」

 

地獄のような静寂が会議室を支配する中、締め上げられる指揮官のうめき声だけが聞こえる。

 

「もういい。ヴェイダー卿、放してやれ」

 

恐怖に似た何かを存分に植え付けた中で、ターキンはヴェイダーへ言葉を投げた。ターキンの言葉に頷くヴェイダーは、磔にしていた指揮官を壁へ叩きつけてから、黒い外套を翻してターキンの後ろへと控える。

 

咳き込みながら蹲る武闘派の指揮官を一瞥してから、ターキンは恐怖が張り付いた顔をする他の指揮官たちを見渡した。

 

「口論は無意味だ。ヴェイダー卿は、このステーションが完成するまでに反乱軍要塞のありかを見つけ出してくれるだろう」

 

そのときこそ即座に一撃で反乱を壊滅させてくれる。そう言ってターキンはニヤリと笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラーズ家から峡谷の外れに進んだところにあるオビ=ワンの家へルークを案内したアナキンは、レイアからの通信メッセージに目を通した。

 

どうやら、息子の相棒となったR2には帝国軍が誇る最強の兵器の設計図が入っているようで、それをレイアの支援をしているオルデランへ届けてほしいとの願いだった。

 

まずは外交努力で、その最強の兵器の使用の禁止と即時解体を議会を通して帝国政府へ強く求めるつもりなのだろうが、相手は強硬に銀河の統治を目指す帝国だ。外交でそれが叶うことは考えづらい。

 

故に、陰ながら反乱軍の支援を行うオルデランに向かうことで、外交と反乱軍の両面で帝国の増長する力をなんとか抑えようとするのが本質らしい。

 

ルークとレイアという愛弟子の頼みから、オビ=ワンは同意し、共にオルデランへ向かうことになった。あとから聞いた話だが、どうやらナブーにいるクワイ=ガンからの連絡もあったようで、オビ=ワンは早々に準備を終え、ルークがやってくるのを待っていたらしい。

 

アナキンは、そんな二人の姿を見ても共に行くことに同意しなかった。ジェダイを止め、フォースとの絆を絶った今の自分はしがない修理工だ。あの激動の時代の自分に戻る気など、アナキンには起きなかった。

 

そして、三人と二体のドロイドはタトゥイーンで一番大きい港である「モス・アイズリー宇宙港」へとたどり着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご紹介にあずかったハン・ソロだ。<ミレニアム・ファルコン>の船長をしてる」

 

怪しげで見たからにお尋ね者が集まるBARに案内され、アナキンが紹介したのはルークより少し年上の男性、ハン・ソロだった。

 

隣にはウーキー族のチューバッカもいる。

 

「ラーズのおやっさんの話じゃ、あんたら特急でオルデラン星系行きの便を探してるんだってな?」

 

「ああ、その船が高速船ならばね」

 

「爺さん、ファルコンを知らないのか?ケッセル・ランを12パーセクで駆け抜けた船だ。帝国軍の宇宙船を出し抜いたこともある。言っておくが田舎の大型クルーザーじゃないぜ?コレリア製の大型船…いわゆるスターデストロイヤーのことを言ってるんだ」

 

オビ=ワンとルークが、チューバッカの隣に座るアナキンを見るが、彼は何事もなく肩をすくめる。どうやら、この青年が言うことは本当のことらしい。オビ=ワンが怪訝な顔つきで見ていることに気がついたハンは、肘を机に置いてオビ=ワンの顔を覗き込むように乗り出して言った。

 

「だから、スピードは任せておきな、爺さん。で、積荷は何だ?」

 

「乗客だけだよ。私と、この少年、ドロイドが2体。質問は一切なしで頼む」

 

「おっと…ラーズのおやっさん。この二人は何か厄介事でも起こしたのか?」

 

その言い方はよくないぞ、とアナキンはため息をつきながら相変わらず表情を変えない師の顔を見つめながら、長年世話を見てきたハンの言葉に頷く。

 

「気にするな。その分料金は弾んでくれる」

 

「なるほど、それは厄介だな?なら割り増し料金をいただくぜ。前金できっかり10,000だ」

 

その金額を聞いて顔色を変えたのはルークだった。10,000クレジットなど、その気になれば大型の宇宙船が買える金額だ。ほんとうにこのハン・ソロという男にそれだけの価値を生み出すことができるのか…。

 

ルークがフォースを研ぎ澄まそうとしている隣で、オビ=ワンは何事もなく頷いてハンの提案を受け入れた。

 

「とりあえず20,000払おう。そしてオルデランに到着したときに追加で15,000だ」

 

なんだと…?とハンの雰囲気が変わる。ここでもう一押しと、チューバッカの隣でアナキンも言葉を紡いだ。

 

「ついでに向こう一年、専属でファルコンの面倒を見てやる」

 

「マジか…?35,000に加えて、ラーズのおやっさんが一年、ファルコンの面倒を見てくれるのか?おやっさんが付いてくれるなら、この一年でケッセルを8パーセクでぶっちぎれるぜ」

 

金額だけでもかなりの好条件に加えて、ハット族や、タトゥイーンの名のある者たちが全員知っている修理工「アナキン・ラーズ」の専属点検を受けられるのだ。下手をすれば予約半年待ちもある腕利きのメカニックが愛機であるミレニアム・ファルコンを見てくれるだけで、ハンにとって仕事を受けるには十分な理由となった。

 

「オッケーだ。この話乗った。あんたらの準備が出来次第飛べるぜ?船はドッキング・ベイ94だ」

 

船の場所を聞いて、三人は席を立つ。ルークが帝国から奪ってきたスピーダーを売れば、前金分はなんとかなるだろう。ゴロツキどもの脇を通りながら、ルークは父に問いかけた。

 

「…父さん、良かったの?一年間も契約するなんて」

 

そう問いかけてくる息子に、アナキンは少し困ったような顔をして答えた。

 

「あのガラクタは弄りすぎたんだ。父さんじゃなきゃ直せないのさ」

 

「そう言うと思ってたよ…」

 

なにせ銀河一速いスクラップだ。それを聞いた段階で、ルークには父が深く絡んでいるということなど、想像するまでもないことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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失った何かを求めて

 

 

深く、深く。

 

思考と感覚の海へと潜る。

 

粘膜のような海原を潜り、深く、深く、底へと降りてゆく。

 

フォースを研ぎ澄ませ。

 

感覚を鋭敏に。

 

呼吸する息遣いすら感じずに、何もかもの感覚を捨て去り、深淵なる領域へと降りる。

 

そこに、彼は座していた。

 

白くかげる世界の中。全てを捨て去ってようやくたどり着ける境地に、いつも彼は座している。腕を規則的に組み、座禅を組み、瞑目するように目を伏せて、彼はその場に座しているのだ。

 

叶うのは、その姿を見ることだけ。

 

感じることができるのは、彼がそこにいるという事実だけ。

 

言葉を交わすこともできず、目を合わせることもできない。

 

彼はいつもそこにいる。

 

そこにい続けて、座して

 

〝フォースと共にある〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シディアスと名乗って19年の月日が流れようとしていた。

 

ギャランティック・シティにある豪邸と化した自身の部屋の一室。パルパティーンは、こだわった調度品や、設備が何もない、シスの陣が描かれた部屋の中で目を開いた。

 

普段は一滴たりともかかない汗が、額を伝って落ちる。それほどまでに、パルパティーンは深くフォースの領域へと降りていたのだ。

 

この19年。探究を重ね続けて至った極地の一つが、この瞑想だった。通常のフォースの瞑想とは比べ物にならない集中力と体力を要するものであるが、得られるフォースへの感覚は凄まじく、今のパルパティーンは、19年前とは比べものにならないほどフォースへの理解を深める存在へと変化していた。

 

だが、まだ足りない。届かないのだ。

 

パルパティーンは年老いた体をあげると、部屋からゆらゆらと出て行く。深く潜った影響で悲鳴を上げる体を、玉座へと下ろし深く息をついた。

 

探究と研究は、確実に実を結んでいるはずなのに、パルパティーンは自身が前に進んでいる実感を得ることは無かった。この19年の月日の中、一度として得ることはない。

 

パルパティーンの行く先には、必ず彼がいるのだ。深く潜った先で見た光景の中、自分はそこに至るだけで精一杯だというのに、彼はそこに居続け、フォースと共にあるのだ。

 

届く気配すらない場所で、彼は自分を見つめている。至るだけで命を削ってしまいそうな場所で、彼は待ち続けているのだ。

 

パルパティーンは、疲労が抜けてきた体で、あがってきた報告書に目を通してゆく。

 

ヴェイダー卿が、レイア・オーガナの尋問を始めたようだ。彼女は反乱軍が入手したデス・スターの設計図の在り処を知っている。故にヴェイダーやターキンは、執拗に彼女への尋問を続けているようだ。

 

だが、パルパティーンにとってそれは些細なことだ。いや、彼が帝国を設立した時から…「ログ・ドゥーラン」が「ダース・ヴェイダー」に変貌してから、パルパティーンはたどり着けない道に立っているような感覚に襲われていた。

 

ダース・ヴェイダー。

 

帝国樹立の日に、生まれ落ちた…ログ・ドゥーランの残光。

 

あの存在の中に、パルパティーンが知るログ・ドゥーランは存在していなかった。所々に彼らしい懐かしさはあるが、それはこの世界に残ったカケラと残光に過ぎない。

 

アレは、ログ・ドゥーランの残光。

 

黒い甲冑を纏うことで人の形を保っている何かだ。

 

あの日から、パルパティーンが焦がれた何かは永遠に失われたままだ。手の届かない場所に行ってしまった何かを求めて、パルパティーンはフォースの探究を続けている。

 

彼は玉座から立ち上がると、19年前から変わらないギャランティック・シティの煌く夜景を見つめるのだった。

 

 

 

 



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Cー3PO「私、実は宇宙旅行が嫌いなのですよ」


僕はラスボスや敵キャラをヒロインにしてしまう病気でも患っているのだろうか…かっこよく描きたいだけなのに…

ぐぬぬ


 

 

「ハン…。ハットから聞いたぞ?」

 

約束通り、ファルコンの専属契約をしたアナキンは長年使い込んだ工具を仕舞いながら、ジャバと気まずそうに話していたハンに声をかけた。アナキンの言葉に、いつもは飄々と言葉を交わすハンも、気まずそうに口をつぐむ。

 

このタトゥイーンは、権力を持つものと、信頼を得られるものが絶対だ。それ以外の事に意味はあまりない。アナキンも、引退するワトーから持つものを引き継いだときに、それを思い知っていた。

 

この星は、何もかもがあらゆる意味で原始的なのだ。下手をすればクレジットでさえ意味を為さないこともある。そんな中で積み重ねる権力者との信頼関係は、金や命では代替できない貴重なステータスでもある。

 

「運び屋が積荷を捨ててしまったら、なにが残るんだ?」

 

「命あっての物種って言うだろ?おやっさん」

 

そう言い訳をするハンに、アナキンは再び溜息をついた。ジャバから聞いた話では、ハンが捨てたのはアウターリムでも珍しい種類のスパイスだったようだ。

 

「用意した二重底はどうしたんだ?」

 

「あれに入れる時間がなかったんだよ。心配するなって、ちゃんと耳を揃えた上に色をつけて返すさ」

 

今のハンには、このチャーターの仕事で手に入る金のことしか頭にないらしい。この星で生きていくには前向きかもしれないが、若さゆえの危うさもハンは持っていた。アナキンは船の点検をするハンの肩に手を置いて、注意深く目を走らせる。

 

「気を付けろ、ハット族は裏切り者を許さないぞ?忠告はしたからな?」

 

仲の良かった密輸業者が、次の日には南の砂漠で干からびていたなんて聞きたくはない。以前もそんなことがあったからこそ、アナキンは真剣な眼差しでハンに言葉を投げた。

 

「わかってるさ。任せておけって、おやっさん」

 

その言葉がこの若者に届いたのか…。少しばかり不安になりながらも、アナキンも長年付き合いがあるハンの言葉を信じるしかない。

 

そうこうしている内に、C-3POとR2を連れたオビ=ワンと、ルークがドックへとやってくる。

 

「これは…また…」

 

「ガラクタの塊?」

 

「スクラップの方が正しいかも」

 

息子が言わんとすることを言い当てようとしたら、それよりも酷い言葉が返ってきた。ただのスクラップではない。「銀河最速」のスクラップだ。

 

「おいおい、こう見えてもコイツは光速よりポイント5速いんだぜ。見た目はアレだが、中身で勝負ってやつだぜ、坊主。ラーズのおやっさんや、俺が特別な改造をいくつも加えてある。まあ、急いでるようなんで乗ってくれ。さっそく出発しよう」

 

そう言ったハンが、オビ=ワンやルークを手招いて、ファルコンの下部にあるタラップへと案内する。二体のドロイドと、師が乗り込んでゆく様子を見つめていると、ルークがタラップの途中で立ち止まった。

 

「父さん…」

 

悲しげな…いや、どこか期待を込めた眼差しで見つめてくるルークに、アナキンは困ったような笑みを浮かべて、首を横に振った。

 

「一緒には行けない。わかるだろう、ルーク」

 

ここには、ここの生活がある。世話になっている従兄弟であるラーズ夫妻にも、何も言付けていない。それに、来週には新しい顧客と、ハットが所有する大型船の定期点検の仕事もある。

 

そう言うアナキンに、ルークはフォースを研ぎ澄まして言葉を放つ。

 

「父さん。僕がここに来られたのは…」

 

「フォースの導き、と言うんだろう?だが、父さんは違う。その導きを無視し続けてきた」

 

何度も、語りかけてくることはあったが、その全てからアナキンは耳を閉ざしたのだ。フォースとの絆を絶っている自分は、もう過去のような戦いはできないし、それに参加する勇気や力も湧いてくる気配はない。

 

「母さんは言っていたよ。父さんは必ず力になってくれるって」

 

パドメのことを出されるが、残念だがそれだけは変えられないことだった。

 

「けれど、父さんはジェダイには戻れない」

 

「アナキン」

 

そう断るアナキンに声をかけたのは、タラップへ戻ってきたオビ=ワンだった。歳を取った自分の師は、あの日からさらに深みを増した言葉でアナキンへ語りかける。

 

「フォースを恐れてはいけない。昔のお前なら、恐れなかったはずだ」

 

「今は違う。クローン戦争から何もかもが変わったんですよ、オビ=ワン」

 

「それは君の見るひとつの側面にすぎんよ。もっと心をよく澄ませることだ、アナキン。お前には出来る」

 

そう言うオビ=ワンの言葉を、アナキンは深く心へと沈ませてゆく。たしかに、自分が見ているのは側面のひとつであろう。しかし…全体をよく見ようとして、自分たちは過去に取り返しのつかない過ちを犯したのだ。

 

その罪悪感が、未だにアナキンの背中にべったりと張り付いて離れない。

 

あのとき———ライトセーバーで親友を貫いたあの瞬間から、アナキンは…。

 

「オビ=ワン…僕は…」

 

「居たぞ! その船止まれ!!」

 

アナキンの言葉を待たずに、背後から大声が響いた。アナキンが振り返ると、白い装甲服を身に纏った兵士たち…ストームトルーパーたちが、ミレニアム・ファルコンへ銃口を向けていたのだ。

 

「チューイ!出発するぞ!」

 

「父さん!!」

 

咄嗟の出来事にアナキンは差し伸ばされたルークの手を取る。ハンも乗り込んでミレニアム・ファルコンはブラスターの火花を散らしならドックから浮き上がってゆく。

 

「やれやれ、私こう見えても宇宙旅行嫌いなのですよ」

 

座席に座って悠長にそうお喋るキンピカドロイドに頭を抱えたくなる衝動をなんとか抑えながら、アナキンはコクピットへ駆け込んでゆくハンに続いて、ファルコンへ入ってゆく。

 

「帝国軍がここまで追ってきたのか!」

 

「ああ、どうやらそうらしい!やっこさん、船も丁寧に持ってきてるらしい。おやっさんが連れてきた客たちは、思った以上に切羽詰まってたらしいな!」

 

タトゥイーンの大気圏を抜けると、すぐに満天の星と二隻の真っ白なスターデストロイヤーがこちらを見据えているように見えた。二隻が見えたのも束の間、帝国軍が保有する緑色の閃光がファルコンへと襲いかかってくる。

 

「しっかりつかまってろ!光速にジャンプする計算が終わるまで偏向シールドを張っておけ!」

 

「取り付けた演算機はどうした?」

 

「あんな複雑な装置、俺じゃ扱えないに決まってるだろ!」

 

そう悲鳴のような声を上げるハンに、アナキンが呆れると副長席に座るチューバッカが獣らしい雄叫びを上げた。だが、それは野性味というより、焦りやパニックに似た声色だ。

 

「落ち着け、チューイ!敵の戦艦は2隻だ。回り込んで俺たちを挟もうって魂胆だぜ」

 

操縦桿を巧みに操作しながら、スターデストロイヤーの砲火を避けるハンの後ろから、ルークが訝しげな顔つきでファルコンのコンソールを見つめた。

 

「振り切れないのか?高速船だろ?」

 

「黙ってろ、坊主。それとも宇宙空間に放り出されたいか?ハイパースペースにジャンプしちまえば安全だ。他にもいくつか奥の手がある。引き離してやるよ」

 

ドンっと大きな揺れが船体に伝わると、スリルを楽しむようにハンは2隻の大型戦艦に笑みを魅せる。ぐるりと旋回するファルコンの後ろでは、外れたターボレーザーの閃光が色を放って爆ぜる。

 

「楽しくなってきたぞ」

 

はて、どこかで聞いた言葉だとオビ=ワンが思いながら、操縦にテンションを高めてゆくハンへ問いかけた。

 

「光速ジャンプに入るまで、あとどれくらいだ?」

 

「演算コンピュータの計算が終わるまで…」

 

「もう済んでる」

 

そう声が聞こえてハンが振り返ると、外付けした光路演算装置を持ったアナキンがひらひらとそれをかざした。再びコンソールを見ると、行先はアナキンが言うようにセットされていた。

 

「ああ、よし、じゃあジャンプだ」

 

相棒のチューバッカと顔を見合わせてから、ハンは何事もなかったかのようにファルコンのジャンプへ至るレバーを引くと、船は光の尾に包まれて、ハイパースペースへと旅立ってゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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悪の暗黒卿


お待たせしました。更新再開です。


 

 

「総督、オルデラン星系に到着しました」

 

ヴェイダーとストームトルーパーに囲まれたまま、デス・スターの展望室へと連れてこられたレイア姫は、そこから覗くオルデランを見据える人物に心当たりがあった。

 

囲まれていた包囲網が解かれ、レイアは手錠をされた手を下げたまま、勇ましく展望室で待っていた男の元へと歩み寄ってゆく。

 

「ターキン総督。ヴェイダーの鎖を握っていたのはやはりあなただったのね。連れてこられたときにあなたの悪臭を感じたわ」

 

「最後まで魅力的ですな、オーガナ姫。あなたの処刑命令書にサインするのが私にとってどれだけつらいことだったか分かりますまい」

 

わざとらしく肩を落とすターキンの目は、その素振りと似合わない冷酷な色に染め上がっていた。凍てつくような眼光を前にしても、レイアは臆することなくターキンを睨みつける。

 

「あなたにその責任を負う勇気があるとは驚きです」

 

「…レイア姫、処刑の前にあなたをこのバトル・ステーションの完成を祝うセレモニーにご招待したかったのですよ。これでもはや皇帝に逆らう星系はなくなるのです」

 

見なさい、この堅牢なステーションをと大きな素振りであたりに手を指すターキン。たしかに、このステーションは大きい。惑星クラスという破格のバトル・ステーションなど、現実的に考えても圧倒的な防御力と機能性を兼ね備えていることは明白だった。

 

だが、それでも宇宙すべてを掌握するには足りない。それをレイアは分かっていた。

 

「それは間違っています、総督。こぶしを握り締めれば握り締めるほど、多くの星系が指の間をすり抜けていくのよ?」

 

「それも、このステーションの力を知るまでです。実は最初に破壊される惑星を選んだのはあなたなのですよ」

 

ターキンの放った言葉に、レイアははじめて表情を変化させた。唖然とする彼女を尻目に、ターキンは暗闇の宇宙に浮かぶオルデランの星を再び見つめる。

 

あの星は、レイアにとって故郷同然の場所だ。豊かな自然と、調和と平和を愛する民たちが住む美しい星であり、それを支配しようとする帝国にとっては目障りな星でもある。

 

「あなたが反乱軍基地の場所をなかなか教えてくださらないので、私はあなたの故郷であるオルデランをこのステーションの破壊力をテストするための実験台として選んだのです」

 

「やめて!オルデランは平和な惑星よ!?武器もありません!!」

 

「では、他の標的をお望みか?軍事目標でしょうか?それならば、その星系の名を言いなさい」

 

取り乱したレイアに、ターキンはさらに詰め寄る。彼女の顔から色が抜け落ちてゆくのが手に取るようにわかった。ターキンの凄みは、その目にあった。手を出すまでもなく、ゆっくりと見えない手でレイアの首を締め上げてゆく。

 

「姫、この質問にも飽き飽きしたのでこれで最後にしましょう。反乱軍基地はどこですか?」

 

トドメとも言えるターキンの声に、レイアは幾つか口を噤んでから、観念したように息を吐いた。

 

「…ダントゥイーンよ。基地はダントゥイーンにあるわ」

 

その言葉を聞いて、ターキンは満足そうに笑みを浮かべる。後ろに控えるヴェイダーは何も言わないまま、機械的な呼吸音を響かせていた。

 

「ふむ。聞いたか、ヴェイダー卿?素直な女性だな。───作業を続けろ。準備でき次第砲撃するのだ」

 

「なんですって?!」

 

無情に言い放たれたターキンの言葉に、レイアは今度こそ驚愕する。取り乱すレイアを、ターキンは一瞥してから鼻で笑った。

 

「お人よしにもほどがありますな。ダントゥイーンは遠すぎて効果的な見せしめにはならないのですよ。しかし心配は無用だ。反乱軍の友人たちもすぐに始末してくれる」

 

デス・スターのレーザー砲にエネルギーが充填されてゆく。眩しいとも思えた光が一閃すると、五つの緑色の極光がデス・スターから放たれ、その光は一直線にオルデランへと降り注ぎ……ほんの僅か、一瞬のうちに美しいオルデランの星を吹き飛ばしたのだ。

 

「ああ…なんてこと…」

 

白い炎と光を撒き散らしながら宇宙の屑と化したオルデランを目の当たりにしたレイアは、愕然とその光景を見つめることしかできなかった。

 

すっかりと威勢をなくしたレイアを見て、ターキンは後ろに控えるストームトルーパーへ指示を出した。

 

「進路をダントゥイーン方面に向けろ。姫君は用済みだ。独房へ連れて行け」

 

幽霊のようなおぼつかない足取りで展望室を後にするレイアを見送ったターキン。その後ろにはまるで暗闇を形取ったようなマントを地に下ろしているヴェイダーが佇んでいた。

 

「…これで満足かね?ヴェイダー卿」

 

ターキンが片腕を軽く上げると、爆散した塵を映していた展望室の映像がパラパラと崩れ落ちてゆき、立体映像が瞬時に崩壊した。同時に、オルデランを映していた展望室のガラスがスライドすると、本来ある展望室が姿を現す。

 

その景色には、爆散したはずのオルデランが美しさを保ったまま、星の大海のなかを悠然と浮かんでいる。その近辺には、数隻のスターデストロイヤーが浮かんではいたが、オルデランは〝爆発〟などしていなかった。

 

「彼女はオルデランが破壊されたと錯覚したでしょう。苛烈な拷問と投獄、あの精神状態では精巧にできたホログラムと実物の区別はつきますまい」

 

「私としては、星一つを見せしめに破壊したほうがデス・スターの脅威性を知らしめる機会にはなるとは思うのだがね」

 

不服そうに言うターキンに、ヴェイダーはマントを翻して星の海に浮かぶオルデランを目にしていた。すでに包囲網は構築されつつある。平和主義を貫いていたオルデランだが、その星の議員であるレイアが反乱分子との繋がりを見せたのだ。

 

星に帝国軍がやってきて、その内政を調査することになるのも致し方あるまい。

 

「ターキン総督。貴方の悪い癖だ。いたずらにこの基地の最大値を見せしめる。たしかに各星系を震え上がらせることは可能でしょう。しかし、武器というのはここぞという時に見せるからこそ、相手の心をへし折る唯一の武器となるのです」

 

力こそ屈服させる最大の武器だと、ターキンはクローン戦争の時から考えてきた。善悪に人間的な感情を入れず、常に合理的であり、常に効率性を考えてきた彼だ。デス・スターの力を示せば、効率よく相手に恐怖を植え付けることができる。

 

だが、それは言ってしまえば「こちらには星一つを破壊できる術がある」というカードを相手に見せることになる。

 

力が強いカードは確かに絶対的な地位を保つが、どの理にも、それを覆す道筋が用意されているものだ。だからこそ、そのカードを切る瞬間は見極めなければならない。

 

そして、それはオルデランを破壊する今ではないのだ。

 

「では総督。私はオルデランへ向かいます。彼女の故郷だ。彼らが反乱軍と通ずる何かを知っているはず。本当に反乱軍が〝ダントゥイーン〟にいるかという言葉も踏まえて、ですが」

 

「ああ、任せるぞ。ヴェイダー卿」

 

マントを翻して展望室を後にするヴェイダーを見送ってから、ターキンは展望室から宇宙を目にする。

 

自身が力と痛み、恐怖で相手を支配するというなら、ヴェイダーはそのすべてを屈服させる何かを持っているのだろう。握っていた手から溢れる手汗を指で擦りながら、ターキンはヴェイダーの行動の意味に思考を巡らせた。

 

 

 

ダース・ヴェイダー。

 

シスの暗黒卿。

 

 

 

フォースの暗黒面を司り、真紅のライトセーバーを振るうその姿は、恐怖の象徴たる存在にふさわしい。その存在がこの銀河にいるという現実だけで、銀河を震え上がらせるものだとターキンには思えてならない。

 

だが、彼を取り巻く激情とも思える在り方とは違い、ヴェイダーから降りてくる帝国の理念というものは実に堅牢であり、紳士的な側面を有しており、それはターキンにとっても予想外の側面をもたらした。

 

彼自身が打ち立てたターキン・ドクトリン思想。

 

ヴェイダーは、それを逆手に取ったように、帝国傘下になることに難色を示す惑星と交渉を進めたのだ。

 

ターキンの過剰とも言える規律の遵守と、それに反する者たちの粛清と弾圧、虐殺という恐怖の看板を着せて、その水面下で帝国に有利な条件を飲ませて僅かな自治権とほんの僅かの自由という飴を与えて飼いならす。

 

それも、ジェダイの生き残りを根絶やしにするために銀河中を駆け回る役目に徹しながらだ。

 

その手腕は皇帝の傀儡と成り果てたと噂される物とはかけ離れた異常性をターキンに味わわせていた。ライトセイバーを翻して、暗黒騎士さながらに戦う側で、優秀な統治者として管理も怠らない。ターキンにとって敵に回したくない者は誰かと問われれば、間違いなく皇帝とヴェイダー卿をあげるだろう。

 

中でも、ジェダイの生き残り…いや、クローン戦争時から〝ジェダイ〟の在り方からはかけ離れた組織である「ノーバディ」との戦いは激戦であったと聞く。

 

ヴェイダー卿と彼らは幾度と剣を交えている。

 

いわく、フォースの夜明けを目指す存在として、ジェダイでもシスでもない勢力として力をつけてゆく「ノーバディ」にはターキンも何度も煮え湯を飲まされてきたものだ。

 

 

そして、本格化しつつある反乱軍との戦いが苛烈を極めている。

 

 

銀河帝国の圧政に反対していた一部の帝国元老院議員たちが、銀河系各地で散発的に展開されていた帝国への反抗活動を密かに支援し、活動を結びつけるネットワークを構築している。

 

それは共和国再建同盟へと発展し、反乱同盟軍と呼ばれる軍事組織が結成されることとなった。

 

彼らは反帝国派の力を借りて軍事力を整えて、帝国軍へのゲリラ戦を展開している。

 

反乱軍は目の上のタンコブと言えるほど邪魔な存在だ。

 

こちらが悪くない条件で帝国の傘下に入るよう交渉を続けていた惑星や国家を根こそぎ反乱軍へ迎え入れ、帝国側に付くなど悪魔の所業と言わんばかりにネガティブキャンペーンを展開してくるのだ。

 

レイア姫のこぼした情報で反乱軍の息の根を止められることを願うばかりだ。しかし、ターキン自身の直感が訴えてくる。〝ダントゥイーン〟に自身が望む物は何もない、と。

 

ターキンは息をつくと、発進した探索船からの情報を得るために、足早に司令部へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 




どうも、作者です。随分とお待たせしてましたが、かなりシナリオが迷走してしまったことと、最新話を無かったことにしたことをお詫びいたします。

正直、続けるかどうかもかなり悩みましたが、定めた結末に向かわせるためにシナリオを再構築したり、スターウォーズの映画を見いたりし、インスピレーションを受けて手直しを続けてきましたので、更新を再開しようと思い、最新話を更新いたしました。

ひとまずは、エピソード7までは頑張って描きたいと思いますので、皆様よろしくお願いします。



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ジェダイトレーニング

 

 

タトゥイーンの包囲網を脱したミレニアムファルコンの中では、手隙になったルークが久し振りとも言えるオビ=ワンからの指南を受けていた。

 

自律駆動するポッドから放たれるレーザーをライトセーバーで防ぐという単純な修行ではあるが、これがまた難しい。設定がライトセーバーの型ごとにあり、中でもオビ=ワンが得意とする防御の型の設定がとんでもなく早いレーザー設定となっているのだ。

 

ルークは子供時代にかぶっていた目隠しをせず、オビ=ワンとクワイ=ガンから学んだ型を正確に繰り出し、恐ろしい速さで射出されるレーザーの全てを防ぎ切っていた。

 

その傍らでは、C-3POたちがチューバッカとのボードゲームを楽しみ、その横ではアナキンが持ってきていた工具の手入れをしていた。

 

「ハッハー!ノロマな帝国軍とのゴタゴタはもう大丈夫だ。逃げ切ってやったぜ」

 

ハイパースペースの移動航路を入力し、オートパイロットに設定し終えたハンが、堂々とリラクゼーションルームへと入ってくるが、その言葉に返す声は誰からもあがることはなかった。

 

「……って、誰も感謝してないようだな。まあいいさ、オルデランにはものの数分で到着するはずだ」

 

不満そうにどっかりと通信機用の椅子へと腰を下ろしたハン。その目線の先では、R2が操作する盤上のモンスターが王手の一撃をチューバッカへ浴びせていた。

 

「こっちは正々堂々とやってますよ。叫んだってダメですからね」

 

対戦結果が気に入らない様子のチューバッカが、声を上げて抗議の意を示すが、C-3POはその不満を跳ね除ける。それを聞いていたアナキンが、拭いていた工具を下ろしてため息を吐く。

 

「言うとおりにしてやれ、C-3PO。ウーキーを怒らせるのは賢明とは言えないぞ?」

 

「しかしながらアナキン様、ドロイドを怒らせるのは構わないのでしょうか」

 

「まぁ、ドロイドは負けたからって他人の腕を引っこ抜いたりはしないだろう。だが、ウーキーは、どうかな?」

 

いつぞやのバーで腕をもがれた賞金首はかわいそうだったな、とアナキンが思い出すように語ると、C-3POが止まる。

 

目の前にいるチューバッカはやる気満々と言わんばかりに拳を作って骨を鳴らして、オールバックのように生える体毛を後ろへと流して整えていた。

 

これは、間違いなく負けたらC-3POの腕が引っこ抜かれるか、R2の頭が引っこ抜かれるかのどちらかだろう。

 

「よく分かりました。新しい作戦で行くぞ、R2。ウーキーに勝たせるんだ」

 

小声でR2に伝えるC-3POたちを一瞥してから、アナキンは別の工具の手入れへと移った。その視線の先では、小休憩を終えたルークが再び自律駆動したポッドを前にライトセーバーを構えている。

 

「忘れるな、ルーク。ジェダイは内を流れるフォースを感じることができるのだ」

 

奥から見つめるオビ=ワンの声に感覚を研ぎ澄ませながら、ルークは降りかかるレーザーをライトセーバーで華麗に受け流して行っていた。それを初めて見るハンは、面白げに口笛を吹いている。

 

「…オビ=ワン、それって行動を支配されるということ?」

 

「まぁ、ある程度はな。しかし、同時に命令にも従ってくれる」

 

フォースというものはそういう物だ、と教えるかつての師の言葉を聞いて、アナキンはうんざりした様子で工具の手入れを続ける。フォースなんてものは毒にも似ているものだと、今のアナキンには思えてならない。それに身を委ねることが如何に危険な行為か、彼は身をもってその片鱗を味わっていたのだから。

 

「まやかし宗教や古臭い武器じゃ突きつけられたブラスターには勝てないぜ?」

 

その教えに待ったを掛けたのはハンだった。フォースの教えを説くオビ=ワンと、それを熱心に聞くルークを怪訝な目で見つめる彼に、ルークは問いかける。

 

「あんたはフォースを信じないのか?」

 

「坊主、俺はこの銀河から端から端まで飛び回ってきたんだ。変わった代物もたくさん見てきた。だが、万物を支配する万能の力の存在を信じさせてくれるようなものには一度もお目にかかったことがないね」

 

ハン・ソロという男は、そういう人物であるということをアナキンはよく知っていた。彼は自身が体験したことを確固たる土台として生きている男だ。窮地にも立ち、トラブルや、命の危機も自身の力で脱してきた。そこにフォースの導きや、ジェダイらしい考え方など介在しない。

 

全てを己が運と実力で乗り越えてきたからこそ、彼はフォースという偶像的な力を信じることができなかった。

 

「俺の運命を支配する神秘的なエネルギー・フィールドなんてものは存在しないのさ。そんなものは単なるトリックやナンセンスだ」

 

そう切って捨てるハンのいい草に、年頃らしい反感を抱いたのがルークの隙だった。閃光のように放たれたレーザーが、ルークの肩と太ももを捉えたのだ。低出力とはいえレーザーだ。軽い火傷を負うのも仕方がない。そうやって体に覚え込ませていくこともジェダイのトレーニングには必要であった。

 

「まだまだ自身の精神に頼り過ぎているな、ルーク。君の父上も、君と同じ歳くらいのときは同じミスをしていたものだ」

 

「…本当なの?父さん」

 

突然、オビ=ワンに言葉を振られたアナキンも、幼少期はルークと同じような訓練を受けたものだ。あの駆動ポッドに何度世話になったか。ルークと同じ歳の時は身体中に火傷のあとが残っていたものだ。それに自分の親友との模擬戦にも一度も……。

 

「昔のことを持ち出さないでくれよ、オビ=ワン」

 

過去を振り返りそうになった自身の精神を治めて、アナキンは嫌そうな顔でオビ=ワンへそう返す。すると、ルークよりも驚いた顔をしたハンが、おずおずと手をあげるような素振りを見せた。

 

「おい、ちょっと待った。ラーズのおやっさんもそうだって言うのか?」

 

ハンが駆け出しだった頃から面倒を見てくれていたラーズのおやっさんが、まさか噂で聞くジェダイだとか?そんなもの信じられないと言った顔で見てくるハンに、アナキンも「真にうけるな」と言葉を返す。

 

「僕はしがない修理工だよ、ハン。見ての通りさ」

 

そう言ったと同時、オビ=ワンが手を振るう。停止状態だった自律駆動ポッドが急に動き出すと、工具を拭いているアナキンへレーザーを数発放った。

 

苦笑していたアナキンは、即座に目つきを変えて拭いていた棒状の工具を振るい、飛来するレーザーの全てを工具で受け止めたのだ。タトゥイーンでも高値である特殊合金の工具の表面に軽い傷がつく程度で済んだが、それを見たハンとルークは驚きのあまり目を白黒させていた。

 

「腕は衰えていないようだな?だが、剣筋に迷いはある」

 

悪戯心が過ぎるぞ、と元師であるオビ=ワンを睨みつけてから、アナキンは大きなため息をついて席に腰を下ろし、手に持っている汚れた工具の手入れを再開する。

 

「やめてくれ、オビ=ワン。僕はもう違う」

 

そう、違うのだ。

 

親友をこの手で殺したあの日。

 

あの日から、アナキンはフォースとの絆を絶った。

 

絶ったはずなのに、フォースは変わることなくアナキンへと語りかけてくる。それがアナキンを悩ませるものになるとも知らずに。

 

ルークとレイアの修行を目にして、フォースを閉ざす扉を叩かれるような感覚に嫌気がさして、アナキンは一人辺境の土地であり、自身の故郷であるタトゥイーンへと身を隠したのだ。

 

だが、フォースとの絆はそう簡単に断ち切れるものではない。

 

今もなお、フォースはアナキンを導いている。彼が望む望まざるに関わらず、その行先には常にフォースがあった。

 

そして今も。

 

「オルデランに着いたようだ」

 

それが、新たな道へ続くことも悟らせずに…。

 

 

 

 

 

 



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帝国パーフェクト制圧教室

 

 

コア・ワールドのオルデラン星系に存在する山に覆われた地殻惑星、オルデラン。

 

銀河共和国の末期に、クイーン・ブレア・オーガナがオルデランを統治し、彼女の夫のベイル・オーガナ元老院議員が銀河元老院で惑星の代表者を務めていた。

 

皇帝シーヴ・パルパティーンにより、銀河帝国が誕生した後、オルデランは旧共和国の再建を目指す組織、反乱同盟の創設に際して重要な役割を果していた。

 

反乱軍の内情を知るルークやオビ=ワンにとって、この惑星に到着することは重要な意味を持っていた。レイアが託したR2が持つバトル・ステーションの解析が、この星にある施設で出来るからだ。反乱軍の秘密拠点でもあるオルデランなら、相応の対応も行える上に、ハンに支払う報酬も潤沢に準備することも可能だろう。

 

《ドッキング・ベイ48番へ着陸してください》

 

「こちら、ミレニアム・ファルコン。了解した。な?言っただろう、チューイ。ちょろい仕事さ」

 

オルデランの管制指示に従って、ハンはミレニアムファルコンをドッキング・ベイへと入港させた。着陸したファルコンのハッチから降りるルークとオビ=ワン。続くようにハンも降りてくるが、誘導員やスタッフ、それを言うよりも誰一人としての気配を感じることができなかった。

 

「オルデランへようこそ!って感じかな」

 

誰もいないドッキング・ベイの中で、ハンが手を広げてそう言うが、ルークとオビ=ワンは明確に嫌なフォースの揺らめきを感じ取っていた。

 

あまりにも不自然に、人の気配が無いのだ。

 

『動くな!』

 

突然、ドッキング・ベイから外へ繋がる扉が開くと、白い特徴的な装甲服を身につけた兵士たちが雪崩のように押し入ってきた。手を挙げろ!と怒声のような声が上がり、ハンはもちろん、ジェダイであることを隠しているルークやオビ=ワンもひとまず従うように手をあげる。

 

『確認しました。タトゥイーンから逃れた船と一致します』

 

帝国のストームトルーパーだ、とハンが言うと、ルークも小声で「知っているよ」と答えた。最悪のタイミングだ。こっちはバトル・ステーションの設計図を持つR2もいる。相手は大勢、こっちは師であるオビ=ワンと自分一人だ。

 

ここにトルーパーたちがいるということは、オルデランの中枢部はすでに帝国の手に落ちたということになるだろう。

 

「嫌な予感がするぜ」

 

そう呟くハンの腰には、DL-44重ブラスター・ピストルがぶら下がっている。素人から見れば分からないが、ハンの意識はすでにブラスターに伸びていた。一瞬の隙があればすぐにブラスターを引き抜く準備ができていると言える。

 

ルークもアイコンタクトでオビ=ワンと目を合わせて、辺りにいるトルーパーたちを注意深く観察していた。

 

すると、指揮官らしきトルーパーが、他のトルーパーを引き連れて並んでいるルークたちの元へと近づいてきた。

 

『ご苦労。乗組員は彼らか』

 

そう指揮官が声を発した瞬間、ルークたちの脇を赤い光がかすめて飛来し、ブラスターをむけていたトルーパーたちをなぎ倒すように吹き飛ばした。

 

『なんだ!?』

 

トルーパーたちが異常を察知する前に、隙をついたハンはブラスターを引き抜いて近づいてきていた指揮官とトルーパーたちを撃ち倒す。ルークとオビ=ワンも、手をかざしてフォースを送り込むと、並んでいたトルーパーたちが一斉に見えない力で吹っ飛ばされていった。

 

振り返ると、ファルコンの銃座にチューバッカが乗り込んでいるのが見えた。荷物を下ろす準備をしていたアナキンとチューバッカが、気付かれる前にファルコンの迎撃システムで押し入ってきたトルーパーたちを迎撃したのだ。

 

「乗り込め!」

 

ハンの叫び声のような声に頷き、オビ=ワンとルークもファルコンのハッチへと向かうために身を翻した。

 

その時だった。

 

動揺が広がるトルーパーの中から、一つの黒い影が飛び上がって、ルークの前へと降り立った。

 

黒い外套。漆黒の手袋とブーツ、そして洗練されたマスクを被る黒い影は、腰からあるものを取り出して、起動させた。

 

赤く迸った光は、ルークやオビ=ワンが待つ安定した光の刃と違って、炎のような揺らめきを放つ刃だった。それが十字を描くように柄から放たれる。

 

クロスガード・ライトセーバー。

 

主要ブレードに加えてクロスガード・ブレード、あるいは“鍔”と呼ばれる2本の小さな刃が放出される古い設計思想のライトセーバーだ。

 

ヒビが入ったカイバークリスタルから放たれる不安定な光は、まるで炎のような立ち上る光を再現している。

 

それを目撃した瞬間、ルークも呼応するようにライトセーバーを引き抜いた。

 

「やはり、貴様はジェダイだったか…!!」

 

マスク越しに放たれるくぐもった声と同時に、クロスガード・ライトセーバーを振るう黒き戦士。その一撃を防御の型である「ソレス」で受け凌いだ。

 

フリーハンドの人差し指と中指を伸ばして前に突き出し、ライトセーバーを持つ手は大きく後ろに引くという、弓を引き絞ったような独特な構えをするルークに対し、黒い戦士が取った構えは対ライトセーバー戦を想定した「マカシ」の構えだった。

 

「吧っ!!」

 

黒い戦士の一号の気迫と共に放たれる一閃は洗練されたライトセーバーテクニックだった。オビ=ワン直伝のソレスを駆使して受けるルークでも、一閃ごとにその切っ先が描く剣戟が如何な境地にあるかを理解するには申し分ないほどだった。

 

師であるオビ=ワンですら目を瞠る攻撃を放つ黒い戦士。だが、タイミングが悪かった。いくつかの剣戟を交わしたと同時に、ルークとオビ=ワンによるフォースプッシュを受けた黒い戦士は、壁際まで後退させられることとなる。

 

「スタンバイだ!ラーズのおやっさん!亜光速エンジンを始動してくれ!!」

 

ハッチから上がったハンの声に応じて、そのまま飛び立ったファルコン。

 

黒い戦士にファルコンを追う術はなく、周りのトルーパーたちがブラスターを放つ中、彼は飛び立ったファルコンを見上げ、揺らめくようなライトセーバーを収めた。

 

「どうやら、相手も相当の手練れだったようだな」

 

黒い戦士の背後から、声が降ってくる。

 

ファルコンを見上げてきた戦士は、相手を確認するまでもなく、振り向くと同時に跪いて頭を垂れた。

 

「ヴェイダー卿、申し訳ありません。完全に私の力不足でした」

 

頭を垂れる先にいたのは、オルデランの首脳部を制圧したばかりのヴェイダー卿だった。暗闇を象ったマントを翻すヴェイダーは、跪く黒い戦士の傍に歩む。

 

「どうやら、相手は我々が想像しているよりも遥かに強力なようだな、〝カイロ・レン〟」

 

カイロ・レン。

 

そう呼ばれた黒い戦士は立ち上がると、精巧な仮面越しに悔しげな目をしているように見えた。

 

「…筆頭騎士などという名に相応しくない戦果でした」

 

レン騎士団の筆頭騎士であるカイロ・レンを連れてきて正解だったと言えた。レン騎士団は、ヴェイダーが創設した治安維持を目的とした騎士団だ。

 

遠く無い未来で実現されるはずだった騎士団がなぜ、今の世界にあるか。

 

その答えは、ヴェイダーが発案した治安維持部隊にある。圧政を敷けば敷くほど抵抗を強めるのが市民たちの思考でもある。故に、市民たちを納得させる何かがあればいい。

 

たとえば、帝国に従順するならば市民の生活を保障しよう。

 

たとえば、帝国に反する反社会組織から財産や生活を守ろう。

 

たとえば、インフラがない場に整った政治や生活、社会能力を与えよう。

 

その一環で創設されたのがレン騎士団だった。彼らの目的は帝国市民の保護と救済、そして帝国に反旗を翻す敵の迎撃と排除だ。ヴェイダーは徹底してトルーパーへ独断による支配や恫喝、帝国傘下へと入った市民への差別や暴行を禁じた。そんなトルーパーたちを統べ、一拠点の兵士達として機能させているのがレン騎士団と言える。

 

彼らは帝国内の強力な戦力であると同時に、ジェダイ狩りに特化した者たち。そして、帝国傘下の市民から英雄として讃えられる存在だ。

 

誉れ高く、正々堂々と戦い、弱者を守るカリスマを備える彼らがいることで、帝国傘下の市民たちはある程度の制限を受ける代わりに、強者に怯える生活から解放され、秩序ある社会体系を築くことができていたのだ。

 

金を払えば必ず供給される物品。

 

徹底して整備されるインフラ。

 

クレジットという共通通貨で取引ができる市場。

 

そして、その秩序を維持する騎士団。

 

その効果は帝国に属する政治屋たちの浅はかな予想を遥かに上回る効果を発揮した。市民の中には、将来の夢に騎士団を志して帝国に志願する者も出るほど、ヴェイダーが打った政策は市民たちに大いなる納得を与えたのだ。

 

「気にするな、カイロ・レン。貴公の行動のおかげで相手の戦力を分析する事はできた。これで対策の立てようもあろう」

 

「ええ。しかし、ここはすでに我々帝国の地です。あの者たちを逃すことはありません」

 

「なら、次はその一閃を相手に届かせることだな」

 

ヴェイダーの言葉に「必ず」と答え、彼はクロスガードライトセーバーを腰にぶら下げて、足早にドッキング・ベイを後にする。

 

それを見送ったヴェイダーは、月のように遠くに見えるデス・スターを見上げた。ここから脱した以上、デス・スターのトラクタービームの範囲内であることは間違い無い。逃げる事は不可能と言えるだろう。

 

「ヴェイダー卿、シャトルの準備が整いました」

 

トルーパー・コマンドの報告を聞いて、ヴェイダーもマントを翻してシャトルのある場所へと向かう。

 

ここにくる直前で感じ取った何か。

 

忘れていた、とても懐かしいような感覚。

 

その正体を知るため、ヴェイダーもまたデス・スターへと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだったんだ…さっきの…心臓が鷲掴みにされたような感覚は…」

 

オルデランを脱したファルコンの中で、操縦席をハンとチューバッカに譲ったアナキンは、さっきの発着ベイで感じ取ったフォースの強烈なイメージを忘れることができずにいた。

 

フォースとの絆を絶ってから初めて感じた現役の頃と等しいほどの力強いフォースだ。

 

「帝国軍!?冗談じゃないぞ!オルデランが制圧されてるなんて話は聞いてないぞ!」

 

「まさか惑星の裏側に隠れていたのか?」

 

突如して現れた帝国の軍勢にハンが怒りを露わにする中、オビ=ワンは冷静に情報を分析していた。たしかにオルデランは反乱軍に対して多大な貢献をしてきた惑星だ。だが、オルデランの議員メンバーであるベイル・オーガナや、アナキンの娘であり身分を偽っているレイアがいる限り、元老院の目があるうちは容易に手出しできるはずがない。

 

側で、肩で息をするルークもオビ=ワンと同じ意見だった。だが、さっき剣戟を交わした相手のことも初めてだった。

 

あのバトルステーションが完成してからというもの、今まで続いた帝国の在り方の方針に変化が現れているというのだろうか?

 

ふと、ハンがオルデランを脱していく先も無いファルコンの視界の前へ指を差す。

 

「あれは月か?オルデラン星系にあんな衛星は存在しないぞ」

 

徐々に近づいてゆく白い星。その姿を見たルークとオビ=ワンの顔から色が抜け落ちてゆく。

 

「…いいや、あれは月じゃない。宇宙ステーションだ」

 

その静かな声に、ハンは「なんてこった」と悲鳴のような声を上げ、すぐにファルコンの操縦桿を操作してゆく。

 

「こいつは不味いぜ。すぐに逃げるんだ!反転しろ!チューイ!」

 

そう指示をだすが、チューバッカの操作にファルコンは従う気配がない。手順をいくつか試しても効果がないことに唸り声を上げるチューバッカへ、ハンは諦めるなと声を荒げた。

 

「くっそ!なんだよ!チューイ!補助パワーもあげろ!」

 

「無駄だ、ハン!これは…トラクター・ビームに引っ張られてるんだ!」

 

解析を終えたアナキンが伝えると、ハンは即座に意識を切り替える。

 

「こりゃあ、出たとこ勝負ってわけになるか」

 

潔くスイッチを切ったハン。その場にいる全員が眼前に迫った帝国驚異のデス・スターを見つめる。

 

太陽の光を遮る巨体の中に吸い込まれる最中、アナキンは小さくオビ=ワンへ呟いた。

 

「これは過激な交渉になりそうですね」

 

ここまでくればヤケクソだ。アナキンもハラを括った。さっき感じたフォースのざわつきの正体を知るためにも――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ジェダイが共和国見捨ててたら万事上手くいってたんじゃね?

 

 

 

「本当に信じられない!ルーク!なんで貴方がここにいるの!?」

 

牢屋から出たばかりだというのに、レイア姫というお嬢さんはやけに元気だな、とハンはストームトルーパーの装甲服を窮屈そうに身につけながら思っていた。

 

このバトルステーションことデス・スターへと乗り込む羽目になるわ、ラーズのおやっさんが用意していた二重底に隠れる羽目になるわ、挙げ句の果てにストームトルーパーの身包みをはいでデス・スター内部に潜入していると来ている。

 

ウーキー族であるチューバッカを連行するフリをして、このデス・スターに囚われているレイア姫を助け出すという流れになったが、明らかな規約違反だとハンは内心で顔をしかめていた。

 

なぜかチューバッカは勇んで姫さんの救出に協力していたが、ハンに至っては完全に被害者だ。本当ならば、あのオルデランの地に降り立ち、ルーク達をほっぽり出せばこちらの商売は完了しているはずだというのに。

 

「妹が帝国のデス・スターに囚われていて、拷問を受けてるなんて知ったら助けに来るのが兄じゃないのかい!?」

 

「呆れた!せっかくこの基地の設計図を託したっていうのに!スカリフの犠牲を無駄にするつもりなの!?」

 

真っ白なドレスを身につける姫と言い合いをしているのは、この施設にレイアが捕われていることを知って顔を真っ青にしていたルークだった。

 

トラクタービームのスイッチを切るために別行動をしているオビ=ワンが部屋から去ったあと、R2がレイアが捕われている独房の場所を特定したのだ。

 

「R2は大丈夫さ、父さんが見てくれてる」

 

この破壊兵器の設計図を持っているR2は、C-3POと共に部屋に残る選択をしたアナキンが見てくれている。鉄火場から離れてしばらくの父がそういう選択をする事はわかっていたが、ルークとしては共にレイアを救って欲しいという子供らしい思いもあった。

 

だが、そんなルークの思いをレイアは「信じられない」といった驚愕の目で見つめる。

 

「お父様を巻き込んだの!?ルーク!お母様との約束を忘れたとは言わせないわ。お母様はお父様をジェダイやシスの因縁に巻き込まないことを条件に貴方が反乱軍に入ることを認めて…」

 

「待て待て待て、待ってくれよ。俺を置いてけぼりにするな」

 

これ以上ほっておくと騒ぎを聞きつけたトルーパーたちが来るまで続きそうだ。そう判断したハンが、兄妹喧嘩に待ったをかけた。隣にいるブラスターを持ったチューバッカも唸り声を上げた。

 

「ああ、お前さんの言う通りだ」

 

「で?貴方とこの歩く絨毯は何者なの?」

 

「俺はハン・ソロ、ミレニアム・ファルコン号の船長。こいつはウーキー族のチューバッカ。俺の相棒さ。まぁ、この坊主とオビ=ワンって親父さんをオルデランまで送るちょろいチャーターの仕事を受けてたはずだったんだが…」

 

うんざりした様子のレイアの不躾な言い方にため息をつきながらハンは答えた。チューバッカはハンとレイアを何度か目線を彷徨わせてから小さく吠え声を出した。

 

「わかってる。そう喚くな」

 

「とにかくここを出よう。オルデランも帝国の監視下にある。まずは脱出して反乱軍の基地に向かわないと」

 

「何を言ってるの?オルデランは…」

 

「綺麗な山々だったよ。帝国のくそったれがいなければな」

 

狭い監獄の通路を、トルーパーたちの死屍累々をまたぎながら進むルークたちに、オルデランのことを聞いて呆気に取られるレイア。そんな彼女を連れて、通路を抜けた先にあるドアをルークがフォースを使ってこじ開けた。

 

そして、その先に待っていたのは白い装甲服の兵士たちではなかった。

 

「レイア!」

 

ルークの叫びと共に、チューバッカとハンがまるで条件反射のようにブラスターを構えて閃光を放つ。

 

迸ったブラスターの光。それは目前に迫ったところで不自然に停止した。

 

ルークは咄嗟に腰からライトセーバーを手に取る。3人の目の前で待っていたのは、オルデランで出会った黒い戦士、カイロ・レンだった。彼の後ろには、同じように漆黒の装甲服と外套を組み合わせたような格好をするマスクをかぶった戦士たちが手をブラスターの光弾目掛けて掲げてきた。

 

ハンとチューバッカから放たれたブラスターの光は、あろうことかカイロ・レンの後ろに控える者たちから放たれるフォースによって止められていたのだ。

 

「やめておけ。そんな武器では我々に勝つ事は容易ではない」

 

そう言ってカイロ・レンが手繰るように手を握りしめると、ハンとチューバッカの手からブラスターが引っ張られるように離れた。それを確認してから、フォースで止められていたブラスターの光は行く先を変えられてデス・スターの堅牢な柱へと傷をつけるに終わった。

 

「やはり、貴様が潜り込んでいたか。ジェダイ」

 

「お前たちは…」

 

「我々はレン騎士団。私はその騎士団の筆頭騎士を務めているカイロ・レンという者だ」

 

ライトセーバーを互いに手に取った状態で睨み合うルークとカイロ・レン。

 

そんな彼を、ルークは師から聞いていたような怒りの力を使って戦いを挑んでくるシスの暗黒卿のように思えたが、カイロ・レンはすぐに襲うような真似をせずに、その場にとどまったまま自身の名を名乗った。

 

まるで戦いの前に潔く相手に敬意を払う中世の騎士のような出立を思わせるカイロ・レン。彼はマスク越しのくぐもった声で、ルークに問いかけた。

 

「さて、ジェダイ。貴様をここで始末することが我々の役割ではあるが、貴様にいくつか聞かなければならないことがある。その剣技…誰の師事を受けた?」

 

「さぁ、答える義務はないね」

 

「好戦的な言葉だな。ジェダイとはもっと利口だと思っていたが。貴様はクローン戦争を知らずに訓練を受けたのだな?目的はなんだ?共和国政府の再建か?それともジェダイオーダーの再建か?」

 

「お前たち帝国の支配から、虐げられている者たちを解放するためだ」

 

言葉の応酬の中、ルークの答えにカイロ・レンは思わず笑ってしまった。何を笑っているのか、とルークの隣にいるレイアの凄みのある目を見てから、数回咳払いをしてから大袈裟に肩をすくめる。

 

「ああ、失礼。あまりにも常套句過ぎて思わず笑ってしまった。我々の支配から人々を解放するだと?」

 

小馬鹿にするような言い草がルークやレイアのしゃくに触ったが、カイロ・レンはそれを気にしない様子で言葉を続けた。

 

「お前は知らないのか?過去のオーダーが何を行ったのか。名のあるジェダイ・マスター達が座していたオーダーがあったというのに、なぜ共和国が倒れて帝国が樹立されたか」

 

「それは貴方達が共和国政府を壊したからよ」

 

「そんなもの、皇帝が手を下さずとも滅んでいたさ。穏やかな繁栄に身を委ね、明日を見ずに未来を見つめ過ぎたジェダイたちの過信と慢心によってな」

 

銀河共和国は、帝国が誕生するまでにわたって銀河系を統治した民主主義国家だ。

 

平和と正義の守護者であるジェダイ・オーダーに助けられ、共和国は1000年以上もの間、全面戦争を経験することなく運営された。だが、その1000年という月日は、共和国内部を腐り落とすには充分な時間と言えた。

 

共和国の慢心。ジェダイの慢心。今を見ずに1000年という長すぎる繁栄が生み出した偶像の未来を見るばかり。

 

結果として、ナブーの侵略と呼ばれる大規模な危機が銀河共和国を襲った。そして果てに銀河系全土を巻き込むクローン戦争が勃発した。

 

「だからこそ、私たちが共和国を取り戻す。正しい世界の在り方に戻すために」

 

レイアの言葉に、カイロ・レンも、その後ろにいるレン騎士団の騎士達も呆れた表情をマスクの下で浮かべていた。何一つとして、今の世界のあり方を理解していない無能者の言葉だ。

 

カイロ・レンは気を取り直し、改まって言葉を紡ぐ。

 

「おまえ達の言う共和国を取り戻してどうなる?その先には何がある」

 

「自由よ」

 

「ああ、そうだろう。そこには自由がある。だが、我々の考える「自由」とはかけ離れたものだ。自由とは何か?抑圧のない世界か?誰もが言論を以って歩み寄ることができる世界のことか?」

 

民主主義とは何か?共和国の在り方が世界の秩序をどう守った?言論の自由、人権の自由、自由、自由、自由。その呪われた言葉のせいで誰が虐げられ、誰が苦しめられたか。その言葉の意味を本当に理解しているのか?

 

「我々にとって、貴様達が叫ぶ自由と正義という言葉はあまりにも意味がない。〝自由という言葉以外、何もない〟のだ」

 

そう。カイロ・レンの言葉は事実だった。反乱軍がいう自由の先には何もない。帝国を打ち倒して、今の帝国よりもより十全な国家体制を銀河に施行することができるというのだろうか。

 

「帝国ができて、世界は、銀河はどうなった?恐怖による抑圧と反乱者達の弾圧。だが、それと引き換えに秩序と規律を銀河の隅々に行き渡らせることができた。物々交換でしか成り立っていなかった社会体制を立て直し、銀河の端に行ってバーに入っても、クレジットという共通通貨で代金を支払えるシステムが確立された。辺境のアウターリムでだぞ?共和国時代にそんなことができたか?」

 

共和国の政治の主戦場はコアワールドだ。アウターリムのことなど端から見ていない共和国主義者だからこそ、そういうことを言える。

 

1000年という繁栄の偶像に縋る者達が、帝国から国家運営を取って変わったとしても、アウターリムで通貨を使って、金を出せば必ず物品を入手できる社会体制を実現できるわけがない。

 

そんな世界の秩序を成立させたのは、間違い無く帝国の力があってこそだ。

 

「けれど、そこには抑圧と弾圧、恐怖が付き纏うわ!」

 

「仕方のないことだ。そうしなければそこまで成り立たせることができなかった。まずは共和国が築いた腐敗した部分を切り落とす必要があった。でなければ過去の繰り返しにしかならん」

 

ターキンドクトリンもそのための政治施策だ。弱肉強食を地でゆく原始社会がアウターリムにごまんと存在している。ならば、郷に入って郷に従うのが筋とも言える。

 

ターキンドクトリンの施策は理に適っていた。

 

その星を統べる強者達を圧倒的な力で下し、その星を帝国が望む社会へと変革させる必要があるのだ。

 

「だからこそ、我らのような存在が必要となる。銀河の隅々にいる帝国傘下の市民達を守るための騎士達がな」

 

弱肉強食。その体現者がカイロ・レンのような騎士団だった。適切な政治を思考する者、その示された道を守り、守護する者。共和国末期ではジェダイが思考も守護も担っていた。だから綻びができた。〝守護者が戦士の真似事をして〟、〝守護者が政治屋の真似をして〟、そんな不安定な世界を作り出した共和国は、そうなるべくして滅んだ。

 

「我々は純粋なフォースを身につけて戦う騎士だ。我々が政治の舞台に立つ事はない。〝我々は政治屋や策謀者ではないのだから〟」

 

いつかのジェダイマスターが言った。

 

〝我々は戦士ではない〟と。

 

なら、そうならなければ良かった。戦士ではなく守護者だというなら、それに徹すれば良かった。共和国が新たな政治体制に切り替えられても、ジェダイの在り方を崩さなければ未来は違っていたかもしれない。

 

だが、ジェダイはクローン戦争で戦うことを選んだ。それが大いなる間違いだとも知らずに。

 

「多くのジェダイの生き残りの中でも、こちらの考えに賛同して軍門に降る者はいる。その幾人かは、今のレン騎士団に所属している者なのだ」

 

〝戦士が政治家や守護者の真似事をして何になる〟

 

ヴェイダーがレン騎士団の皆に語った言葉だ。

 

語るに落ちる立ち位置を持つ者と、武器を手に戦う戦士。その分断を明確にし、戦士は思想家達が示した道を切り開く存在となるのだ。

 

そうあるべきだと、カイロ・レンは信じている。

 

「故に、改めて言おう。ジェダイよ」

 

そう言ってカイロ・レンはルークへと手を差し伸べる。

 

「我々の傘下に、騎士団へと加われ。その力をいたずらにジェダイなどという盲目的な思想に使わず、我々と共に帝国の秩序と規律を守ることに殉ずるのだ」

 

その言葉に、レイアはルークを見た。カイロ・レンから送られてくるのは穏やかなフォースだった。微睡のような誘いの中、ルークは差し伸べられた手に応じるように、ライトセーバーのスイッチを起動する。

 

「…僕はジェダイだ。父や師がそうであったように。シスの皇帝が座する帝国の傘下に加わるつもりはない」

 

帝国がシスの手によって作り上げられた世界だというなら、いつか今の在り方がより恐怖や痛みを伴う危険がある。シスの激しい怒りが銀河を燃やし尽くす。その未来だけは避けなければならない。痛みを伴う変化に、何の意味もありはしない…!!

 

「そうか」

 

ライトセーバーを抜いたルークを見て、カイロ・レンは残念そうな声を吐いてから、腰に備わるクロスガードライトセーバーを手に取った。彼の後ろに控える騎士たちは、カイロ・レンに加勢する様子を見せず、ロッドスタッフを構えたまま後ろへと下がった。

 

「ならば……交渉決裂だな、ジェダイ」

 

その瞬間、カイロ・レンが握るライトセーバーから真っ赤な炎が立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 



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未来の担い手へ告ぐ 1

デス・スターの内部へと潜入したオビ=ワンは、目的であったトラクタービームの制御装置の電源を落とすことに成功していた。

 

クローン戦争でも、敵の中枢に忍び込むことは慣れていた。フォースを限りなく穏やかにし、自身の存在を薄く、薄くすることでほぼ無音でデス・スターの施設内を移動することができる。

 

故に、オビ=ワンは自身が感じ取った懐かしさがあるフォースの揺らめきに戸惑っていた。自身の感覚を研ぎ澄ますことにより、それは明確に感じ取れてしまった。

 

とても懐かしい。その感覚は、遠き日だと思えるクローン戦争時代の頃のオビ=ワンを鮮明に思い出させるもので、オビ=ワンはその懐かしさの正体を探るように引き返すべき道をさらに奥へ、奥へと突き進んでゆく。

 

共和国時代から続く無機質な角ばったデザインをあしらわれた通路を進む中、オビ=ワンは通路の先に揺らめく暗闇に気がついた。

 

それは煙のように佇んでいて、オビ=ワンが自身の目の前に現れるのをじっと待っているかのようにも見えた。火のない煙のようだったその暗闇は、オビ=ワンの元へと歩き出した。

 

ダース・ヴェイダー。話に聞いていた帝国最強と呼ばれる暗黒卿は、固いブーツで床を鳴らし、オビ=ワンの元へと近づいてくる。その姿を見て、オビ=ワンは初めて抑えていたフォースを鋭く滾らせた。

 

「待っていたぞ、オビ=ワン・ケノービ」

 

「まさか…とは思っていたが。やはりお前の正体は…」

 

震えるような声で言葉を告げようとしたオビ=ワンの声をかき消すように、真っ赤なライトセーバーがヴェイダーの手から立ち上がる。それに呼応するように、オビ=ワンも腰に備わるライトセーバーをフォースの力で自身の手へと手繰り寄せる。

 

「貴様というジェダイの象徴の一人を殺すことで、銀河帝国はより強いものとなる。貴様も、私が殺してきた数多のマスターたちと同じく、帝国の礎となるのだ」

 

「そうはさせんぞ、この悪魔め!」

 

ヴェイダーとオビ=ワン。その〝会話〟は刹那的だった。青白く閃くオビ=ワンのライトセーバーと、ヴェイダーの一閃。わずか一合の打ち合い、光が弾け、鉄が焼ける音が幾つも響く。

 

弓を引くような独特な構えを主とする「ソレス」の型からかけ離れた構えをするオビ=ワンのライトセーバーの型は、クローン戦争時代のそれよりも遥かに防御に特化したものと化していた。オビ=ワンはヴェイダーの放つ斬撃の全てを受け流した上で、その装甲に覆われた肩部へ一閃をかすめさせた。

 

それがいかに極地の戦いであるか、ヴェイダーは即座に理解することはできた。だが、オビ=ワンの型には決定的に欠けているものもわかった。肩についた傷を気にしない様子でヴェイダーは再びライトセーバーを構える。

 

「力が衰えているようだな、オビ=ワン。かつての剣戟の冴も感じられん」

 

その言葉に、オビ=ワンの表情が変わることはない。だが、あの一合の撃ち合いで自身に欠けているものを看破されるとは。並のシス卿なら相手にならないほどの領域へと上り詰めたオビ=ワンは悟られない心の奥底で戦慄する。

 

事実、防御に重きを置きすぎた結果、オビ=ワンが得意とした敵の攻撃の隙を突いた必殺の一撃に剣技の冴えが失われていたのだ。

 

「ワシを殺すことはできんぞ、ヴェイダー」

 

そう言って、オビ=ワンは青眼の構えでライトセーバーを構える。青白く光る剣先を円を描くように揺らめかせ、落ち着いた声でヴェイダーと対峙していた。

 

「たとえワシが殺されても、ワシが育てた希望が立ち上がる。ヴェイダーという残光を解放させるためにな」

 

その言葉の端で、剣線が動いた。再び火の出るような熟練した剣技の打ち合いが始まる。ヴェイダーの放った矢のような連撃をいなし、オビ=ワンは剣を滑らせるように横から撃ち込む。だが、その悉くが赤い刃によって打ち返された。

 

オビ=ワンがソレスの型を極めたように、ヴェイダーもあの日から研鑽を続けた剣があった。ゆらりと、オビ=ワンと鏡合わせするように構えをとっていたヴェイダーが、腕を上に掲げ、セイバーを横に倒すような独特のフォームを構えた。オビ=ワンは「厄介なものだ」と内心で毒づく。

 

その構えは生前の〝彼〟が得意としていた型と同じ……「ヴァーパッド」の構えであった。

 

「今の貴様など、恐るるに足らん」

 

機械の足で地を蹴るヴェイダーは、一足でオビ=ワンへと迫る。超攻撃型の構えをしたヴェイダーと、鉄壁の防御力を誇るオビ=ワンの構え。剣戟は永遠とも思える打ち合いへと発展する。

 

鉄の焼けるような斬撃音が辺りに響き、堅牢な通路の構造体に赤い尾を作るような傷跡を刻み、時には動力系統のパイプを切断しては辺りに火花が散った。

 

通常照明が落ちた暗闇の中、青と赤の光の線が立ち上がり、それが瞬くように煌き、打ち合い、互いの能力を引き出してゆく。

 

(なんて剣線だ、防御に徹することしかできないとは…!!)

 

四肢からフォースを感じられないはずなのに、ヴェイダーの動きはそのハンディキャップを感じさせない滑らかな動きだった。ライトセーバーを回転させて反動をつけたヴェイダーは、両の手で構えていたオビ=ワンの鉄壁の防御を崩す。

 

だが、翻した剣を打ち込むには時間が足りない。オビ=ワンは弾かれたライトセーバーをすぐに防御の型へと変えようとしていた。

 

そう、セイバーを打ち込む隙がない。ただそれだけだ。

 

「ぐっ…!!」

 

気がつくとオビ=ワンの腹部に強烈な痛みが走る。視線を下へ降すと、そこにはヴェイダーの義手が放った打撃が深々と突き刺さっていた。フォースで体を補強しているとはいえ、機械の、それもフォースを纏った一撃。それはオビ=ワンの動きを止めるには十分な効果をもたらした。

 

(このままでは…!!)

 

首を落とさんと迫る赤いライトセーバー。その降りかかった一撃を、オビ=ワンはわざと姿勢を崩すことで躱すことができた。羽織っていたジェダイのローブの端を切り裂かれる。

 

姿勢を崩したオビ=ワンは、フォースの力に身を委ねてぐるりと体を横に回転させながら、人の力では再現できない動きでヴェイダーとの距離を取る。

 

それを見越していたように、ヴェイダーは距離を取ったオビ=ワンへライトセーバーを投擲する。刃が現れたまま飛来する一閃。オビ=ワンは息をつく間も無く、その一撃を防ぐが、追い討ちのようにヴェイダーがフォースプッシュを放つ。

 

なす術なく壁へと叩きつけられたオビ=ワン。深く被ったフードの奥で、したたかに打った体の痛みを耐えながら顔を上げる。そこには赤いライトセーバーを振りかざすヴェイダーの姿があった。脇にある自身のセイバーへ手をかざし、手繰り寄せられたライトセーバーを起動して、振り下ろされた真っ赤な一撃を受け止める。

 

「貴様を永遠に葬ってやろう!オビ=ワン!」

 

ジリジリと鍔競り合うヴェイダーのマスクには、漆黒の闇しかない。底の無い深い闇。赤い光に照らされたそれは、より邪悪なもののようにオビ=ワンの目には映った。

 

オビ=ワンに焦りはなかった。フォースと繋がる感覚をより鮮明にしてゆき、力に勝るヴェイダーの一撃を凌ぎながら、彼の体へと手を指す。

 

まだ戦いは終わらない。

 

オビ=ワンのフォースプッシュに押されたヴェイダーは、血を払うようにライトセーバーを一閃させ、再びヴァーパッドの構えをとってオビ=ワンと向き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オビ=ワン…?」

 

ドロイドたちとファルコン号を目指してたアナキンは、感じ取った師のフォースの揺らめきに違和感を覚えた。何か胸に迫るものがある。焦り?悲しみ?怒り…?

 

「アナキン様、お体の調子がよろしく無いのですか?」

 

ジェダイを離れてから久しく感じていなかった感覚に戸惑った様子のアナキンは、心配するC-3POの言葉に答えることなく、唐突に走り出した。

 

「アナキン様?あぁ、アナキン様、どちらへ?」

 

置いていかれるC-3POとR2には目もくれず、アナキンは敵がいるかもしれないデス・スターの通路を駆け抜ける。何か嫌な予感がある。とても嫌な感覚。これをアナキンは知っていた。

 

母や、パドメや──親友が危険な目に遭う前に感じる前兆。だが、今感じるものは今まで以上に大きく、危険だということをアナキンに知らせているようなものだった。

 

フォースを頼らずに駆ける体は、長年鍛錬をさぼっていたツケか、すぐに酸素を求めて疲労をあらわにしていた。だが、アナキンに止まる選択肢などない。

 

ただ駆ける。足が棒になろうとも。

 

今までは、〝彼〟が背中を押してくれていた。だが、もう押してくれる者はいない。だから、自分が走らなければ。

 

もう何も失わないために──。

 

 

 

 

 



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未来の担い手へ告ぐ 2

 

 

 

 

「がはっ!!」

 

開け放たれたブラスタードアから、ライトセーバーを持ったルークが転がるように飛び出してきた。額には汗を流し、着こなしていたトルーパーの装甲服も胸部と腕部、そして脚部と体の動きの妨げにならないところ以外脱ぎ捨てている。

 

まるで、クローン戦争時代のジェダイの姿そのものだな。ルークをフォースプッシュで吹き飛ばしたカイロ・レンは映像でしか見たことがないクローン戦争時の映像と、今のルークを照らし合わせる。

 

炎のように揺らめくクロスガードライトセーバーを手首のスナップで一回転させてから、対ライトセーバー戦を想定した「マカシ」の構えを取る。

 

「その程度か、ジェダイ。他のパダワンの方が歯応えがあるぞ!」

 

「くっそ!!カイロ・レン!!」

 

立ち上がって攻め立てるルークの一撃を簡単に受けたカイロ・レンは、受けたライトセーバーの光を逸らすように円を描いた剣閃を払い、ルークの動きを封じる。今度はこっちだ。そう言わんばかりに対ライトセーバー戦に特化した動きは容易くルークを窮地へと追い込む。

 

デス・スターの通路の中、オビ=ワンから教わった防御の型である「ソレス」を駆使して剣を捌くルークだが、攻勢を続けるカイロ・レンの攻撃に返す術を見いだせていない。

 

なんとか隙を生もうと振りかざされたカイロ・レンのライトセーバーをタイミングを合わせて弾き返したルークは、一気に攻めようと身をかがめる。だが、彼ははじき返したはずの一撃の反動を上手く利用した上で、後ろから振りかぶった様子で再び真っ赤な光の刃をルークのライトセーバーへと叩きつけた。

 

「どうした、攻めないのか?その型は守りに徹するわけではない。相手の攻撃を守りで受け、その攻撃の隙を的確に突く型のはずだ」

 

より大きな力で弾かれ、後退を余儀なくされたルークへ、カイロ・レンはクロスガードライトセーバーの切っ先で床に焼け跡の尾を引きながら近づいてゆく。苦し紛れに放ったルークの袈裟斬りを上体を捻るだけで避ける。次いで繰り出される切り払いも避ける。返ってきた三撃目を振り抜かれるタイミングに合わせて弾き返すと、無防備になったルークへ、外套を翻して鋭い回し蹴りを放つ。

 

ドロイドたちが磨いた床を背で滑るように這うルークに歩み寄りながら、カイロ・レンはあまりの拙さに苛立ちをあらわにしていた。

 

「どうした?それとも私の攻撃に隙がないとでも言うか?それなら、お前に待つのは死だけだ!!」

 

容赦のない赤い閃光がルークへ襲いかかる。必死の抵抗を見せているが、ルークの実力が襲いかかるカイロ・レンに届いていないことは、その場にいる誰の目から見ても明らかだった。

 

「ルーク!!」

 

レイアが悲鳴のような声を上げるが、その行先はレン騎士団の戦士たちによって塞がれていた。ハンもチューバッカも、もう一人の騎士に睨みつけられて、苦戦を強いられるルークの手助けに向かうことができない。

 

レン騎士団の掟の中で、騎士とジェダイとの戦いに加勢する無粋な真似は禁じられている。交渉を失敗した以上、帝国の規律に準じて、歯向かうジェダイは撃滅しなければならない。

 

レン騎士団の中でも、カイロ・レンは最もその掟を遵守してきた騎士だ。彼の激情とも言えるライトセーバーの技は多くの歯向かってきたジェダイや反乱分子を屠ってきた。そんな彼の戦いに水を差す真似は許されない。

 

故にレン騎士団の騎士たちは、その戦いの決着がつくまで加勢も妨害もせず、ひたすらにレイアとハンたちの行動に目を光らせていた。

 

(くそっ…!!)

 

もう何度床に転がされた…!?立ち上がりながら、ルークはライトセーバーを構える。師であるオビ=ワンから聞いていたが、彼から教わった「ソレス」という技は、対ブラスターや、対武器に関しては無類の防御性と強さを誇る構えとなるが、対ライトセーバー戦だけは相性が悪かった。

 

防御に重きを置くソレスでは、ライトセーバー戦に特化した相手と対峙した際、その攻防が長引く危険があったからだ。現に、オビ=ワンが過去に戦った時は戦いが長期化し、相手を逃す隙を与えてしまうという失敗をしてしまったこともあるほどだ。

 

だが、今のルークにはソレスでカイロ・レンの攻撃を受けながら勝機を狙うことしか叶わなかった。

 

認めたくはないが、ライトセーバーテクニックでは確実に目の前にいる敵の方が上だ。ここで功を焦ってソレス以外の型に移れば、ルークの未熟さと相まって即斬殺されることは明白だった。ひたすらにガードを続けて、針の穴のような隙をつく勝機を待つことしか、今のルークにはできなかった。

 

そして、そんな隙を見せるほどカイロ・レンも甘くない。ライトセーバーばかり防御するルークの注意が散漫になった瞬間に、今度は腹部へ拳を数発打ち込む。

 

むせて完全に動きが止まったルークを、蹴り飛ばして転がす。

 

何度も繰り返した攻防だった。すでに息も絶え絶えのルークを見つめて、カイロ・レンは今度こそ、その未熟な腕ごと切り落とし、胸に炎のような赤い刃を突き立てようと両手で柄を持ち、いつでもその一撃が出せるよう準備を整えた。

 

「はぁ…っ…はぁ…っ…オビ=ワン…?」

 

だが、ルークはカイロ・レンを見ることはなかった。横を見て戸惑った様子を見せる。気がつくと、ルークと戦っていた中で自分たちは格納庫の近くまで戻ってくるハメになってしまったようだ。

 

下部の格納庫にも繋がる深い穴の向こう側。視線を向けていたルークに倣うようにカイロ・レンも視線を彷徨わせた。その先には深くフードをかぶったジェダイと、自身の上の人間であるヴェイダー卿が、凄まじい速さで剣技を重ねていた。

 

ルークと自分の戦いが子供のチャンバラに思えてくるほど、その戦いは自分たちが目指すセーバーテクニックの境地であるようにも思えた。

 

数合の打ち合いを終えて、肩で息をするジェダイ。その彼が、ブラスタードア、深い穴の向こう側で呆然とこちらを見ているルークの姿に気がつく。

 

「ルーク…アナキン。フォースと共にあらんことを」

 

ヴァーパッドの構えをするヴェイダーへ視線を戻すと、オビ=ワンはニヤリと笑みを浮かべ、ライトセーバーをまるで騎士が盟約を誓うように、自身の前へと捧げるように構えた。

 

そこで出来た隙を、ヴェイダーが見逃すわけがなかった。セーバーを構えたオビ=ワンへ、真っ赤なライトセーバーを走らせ…そしてジェダイのローブだけを切り裂いた。

 

セーバーを捧げるように抱えていたはずのオビ=ワンの姿が、まるで煙のように消えたのだ。

 

ローブと、彼が長年愛用したライトセーバーを残して。

 

「オビ…」マスターァアアアァアァア!!!

 

オビ=ワンの悲鳴が聞こえたような気がした。声を上げようとしたルークの思考が、それを制する叫び声によって飛散した。気がつくと、ルークの視界の横で、下の格納庫まで繋がる大穴を躊躇いなく飛び越えた一人の影が、オビ=ワンのローブを踏みつけて確認するヴェイダーへと向かっていくのが見えた。

 

「アナキン様…!?」

 

「父さん!?」

 

アナキンを追ってきたC-3POの驚愕と同じタイミングでルークも驚きを隠せなかった。普段はタトゥイーンの修理工であったはずの父が、たった一足で奈落の穴のような大穴を軽やかに飛び越えて手を翳していたのだ。

 

オビ=ワンのローブから引き寄せられたのは、彼が愛用していたライトセーバーだった。その武器をフォースの力によって手に取ったアナキンは、憤怒に誘われるままライトセーバーの光刃を滾らせてヴェイダーへと斬りかかる。

 

「貴様!!よくもオビ=ワンを!!」

 

初撃を受け止められたアナキンは戸惑う様子なく、手を素早く引いて二連の斬撃を繰り出すが、これもヴェイダーのライトセーバーによってはじき返された。

 

ならばとアナキンはフォースと一体となって、ヴェイダーの背後へロンダートするように飛び越えた。完全に背後をとったアナキンが、着地と同時にセーバーを振り抜く。

 

しかし、その一撃が届くことはなかった。

 

「なんだ、その拙いライトセーバーの剣線は。死ににきたか」

 

ヴェイダーは義手である腕部へフォースを送り込み、簡易的なシールドとして扱ったのだ。オビ=ワンのセーバーが届かない。わかっている。しかしそんなこと関係ない。アナキンは己の奥にある憤怒を解放するようにヴェイダーのライトセーバーを切り払ってから再び斬りかかろうと姿勢を沈めて地を蹴った。

 

「父さん、だめだ!!」

 

強化材質で作り上げられた床が、アナキンのフォースによって強化された脚力によってひび割れ、耐えられなくなった粒が散弾のように後ろに降りかかる。

 

だが、ルークは咄嗟の判断でヴェイダーに斬りかかろうとしていたアナキンをフォースで手繰り寄せた。

 

そのルークを仕留めようとカイロ・レンがライトセーバーを振りかざして迫ろうとした。その時だった。

 

「船が入ってくるぞ!?」

 

ファルコンが停泊している格納庫へ、一隻の船が無理やり押し入ってくるのが見えた。アナキンを手繰り寄せたルークは、憤怒に震える父を押さえつけて、火花を散らしながら格納庫へ押し入ってきた船の衝撃から身を守った。

 

着陸とはお世辞にも言えない操縦。その船の後部ハッチはすでに開いていて、船が安定したと同時にハッチにいた二つの人影がルークに襲い掛かろうとしていたカイロ・レンや、レイアたちを捕らえる戦士たち目掛けて飛び降りた。

 

「行きますよ、カル!」

 

「ああ、わかってるよ。トリラ!」

 

そう言葉を交わした二つの影は、着地すると同時に懐から取り出したライトセーバーを起動させる。現れたのは黄色の光刃であり、その光だけで彼らが何者かを示すには十分な力を発揮した。

 

「〝ノーバディ〟か!!」

 

レン騎士団の言葉を合図に、降り立った二人の〝ノーバディ〟は、カイロ・レンや他の騎士たちと交戦を開始する。解放されたレイアやハンたちも、雪崩のようにあらわれるストームトルーパーたち目掛けてブラスターを放ちながらアナキンを抑えるルークの元へと駆け寄ってきた。

 

「離せ!!ルーク!!」

 

ルークの下で叫ぶアナキン。だが、ルークは離すつもりはなかった。あのカイロ・レンよりも上の敵だ。オビ=ワンですら敵わなかった相手に、ブランクのある父が勝てるはずがない。

 

「ハン!船を!!」

 

黄色のライトセーバーを振るう二人の戦士をルークは見つめる。彼らも相当の手練れだ。カイロ・レンの攻撃を難なく跳ね除ける男性は、相当なフォースの使い手だと一目見るだけで分かった。

 

ファルコンのエンジンに火が入ったことを確認してから、ルークは父を引きずるようにタラップへ上がると、傍に落ちていたトルーパーのブラスターをフォースで手繰り寄せ、狙いを定めて撃ち放つ。この光弾はヴェイダーがいる部屋のブラスタードアを誤作動させた。

 

逃すまいと追ってくるヴェイダーがブラスタードアの向こう側に消えていく。

 

「ヴェイダァアアアァアァア!!」

 

暗黒卿が見えなくなる直前に、アナキンが獣のような慟哭を放った。ファルコンのハッチが閉まる。それを確認したハンとチューバッカは、脇目も振らずにファルコンをデス・スターから脱出させたのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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新たなる希望

 

 

デス・スター破壊作戦から二日後のことだった。

 

オビ=ワン・ケノービという偉大なマスターを失ったアナキンは、デス・スターを破壊して祝賀ムードとなっている反乱軍から離れた場所で、偉大なるジェダイマスターの死を悼んで瞑想を続けていた。

 

「父さん」

 

座禅を組むアナキンの周りには、岩や小枝、枯れ葉が浮かび上がっており、アナキン自身も座禅の姿勢のまま空中にゆらりと浮かび上がっている。それを見たルークが驚くほどに、自分の父のフォースは衰えていなかった。絆を絶っていたというのが嘘に思えるほど、父はフォースとの通い合いを成立させていたのだ。

 

ルークの声に呼応して、アナキンの周りに浮いていた岩が緩やかに降りると、アナキンもその身を地へと下ろしてから、瞑目していた眼を開く。

 

「少しは、気持ちの整理がついた気がするよ。ルーク」

 

修理工の時から着ていた作業着から、オビ=ワンが愛用していたジェダイのローブを身に纏うアナキンは、穏やかな顔でルークへそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

オビ=ワンを亡くした直後の父は、正直に言えば見ていられないほど荒れていた。あれほどまでに精神が乱れていた父を見たのはルークは初めてだった。

 

帝国の追手を振り切り、ヤヴィン4へとたどり着いたルークたちは、デス・スターの設計図の解読から得られた弱点への一点攻撃を作戦として、ヤヴィン4から出撃する反乱軍と共に出撃したのだ。

 

ハンはジャバ・ザ・ハットへの支払いがあったためタトゥイーンへと戻る決断をしたが、アナキンはルークと共にデス・スターの破壊作戦への参加を打診。急遽用意されたXウイングを駆って破壊作戦へと加わったのだ。

 

ジェダイであるルークと、その扉を再び開きつつあったアナキンの機動力は凄まじく、クローン戦争時のようにジェダイ・ファイターを筆頭とした反乱軍がヤヴィンに迫るデス・スターを強襲。

 

そして反撃に出てきたのは、ダース・ヴェイダーが駆るTIE・アドバンストX1と、レン騎士団が駆るTIE・インターセプターだった。

 

反乱軍がTIE・ファイターとの交戦を始める最中、ジェダイとシスの空中戦は苛烈を極めた。デス・スターのトレンチ(溝)へ降りるアナキンたちのファイターを追って、ヴェイダーたちもトレンチへと入る。

 

狭く制限されたトレンチを、レッドリーダーやゴールドリーダーが信じられないような速度で駆け抜け、その上でアナキンたちはヴェイダーたちと空中戦を繰り広げていたのだ。

 

若きエースであったウェッジ・アンティリーズや、ビッグス・ダークライターの活躍もあり、反乱軍はトレンチにあるハイパーマター反応炉へと通じる換気ダクトへの攻撃を開始する。しかし、直径わずか数メートルしかないダクトへ攻撃を遂行するのは並みのジェダイでも至難の技であった。

 

ゴールドリーダー、そしてレッドリーダーという手練れのパイロットが挑むが、どれもが失敗に終わる。最後の希望でウェッジとビッグスがトレンチランに挑む中、アナキンはヴェイダーやレン騎士団の相手を一手に引き受け、ルークへ援護に向かうように指示を出す。

 

だが、アナキンの巧みな防衛網を掻い潜ったカイロ・レンがダクトへと迫るルークたちを追うこととなった。ビッグスが犠牲となり、ウェッジも被弾し戦線を離脱する。

 

カイロ・レンのTIE・インターセプターが迫り来る中、絶望的な状況だったルークを救ったのは、タトゥイーンへ向かっていたはずのハンのミレニアム・ファルコンだった。

 

カイロ・レンの機体をトレンチの外へと弾き出したハンに導かれ、ルークは見事にダクト内へプロトン魚雷を命中させる。

 

ヤヴィン4の目前へと迫ったデス・スターは、それを指揮するウィルハフ・ターキン総督と共に宇宙の塵へと帰ったのだった。

 

 

 

 

オビ=ワンを称える墓石の前へとやってきたアナキンとルーク。

 

爆散したデス・スターをみたアナキンの中に、かつてのナブーの危機や、クローン戦争で感じられた勝利の美酒というような感覚は渡来しなかった。

 

あったものは、オビ=ワンという家族同然だった人物の死という悼と、虚しさだけだった。

 

ルークとレイアが生まれて今まで、アナキンはタトゥイーンで多くの人と出会った。ジェダイだった頃には得られない人との繋がりや、信頼関係、金を用いた商売、時にはギャンブルごともあった。

 

立ち上る暗黒面の誘いが、ジェダイだった時と比べて驚くほど遠いものに感じられた。人としての人理を生きた中で得た教訓は、ライトサイドとダークサイドという明確に分かれた二つの道よりも、はるかに大きな中道をアナキンに指し示していたのだ。

 

故に、アナキンは自分に問いかける。こうやってフォースとの絆を取り戻した理由は何か。オルデランや、デス・スターで感じた心臓を掴まれるような感覚はなんなのか。ダース・ヴェイダーという闇の向こう側にみた〝何か〟。

 

オビ=ワンの敵討ちや、ヴェイダーに殺されたジェダイたちを思って、ライトセーバーを取ったわけではない。ただ、ここで眼を背けてしまえば、自分が自分で無くなってしまうような感覚がアナキンの中に生まれていたのだ。

 

「父さんは、これからどうするつもりなの?」

 

「…修行を再開する。こうなった以上、父さんも無視をしていられない。それにタトゥイーンに戻ればオーウェンたちにも迷惑がかかるしな」

 

ルークの問いかけにそう答えたアナキンは、腰に下げたライトセーバーを取り出した。オビ=ワンが愛用していたライトセーバーだ。

 

丁寧にそれを持っていた布で包んでから、墓石の前へ安置すると、アナキンは眼を閉じてフォースを流した。すると、オビ=ワンのライトセーバーを包んだ布は、ゆっくりと裂けた地中へと深く埋葬されてゆく。もう会うことができない師への弔いだった。

 

それを見つめたルークを背に、アナキンは立ち上がる。

 

疑問は多く残った。

 

実際にデス・スターを攻めてわかったが、帝国は最新鋭のバトルステーションであるデス・スターを守る気はなかったように思えた。

 

こちらの戦力も、スカリフの戦いで大きく削られていたとは言え、デス・スターの護衛にインペリアル級スターデストロイヤーが出てきてもおかしくないはずだった。なのに、護衛艦は愚か、戦闘機の数すら明らかに足りなかった。

 

まるで、デス・スターを落としてくれと言わんばかりの采配だ。

 

共和国を亡きものとした皇帝の用意周到さとは思えない杜撰な防衛網だったことに、アナキンは腑に落ちない感覚を持っていた。

 

そもそもの話、なぜデス・スターの設計図を反乱軍が手にすることができたのか?ゲイレン・アーソという男が開発者であるというなら、皇帝は何故、裏切り者である彼に眼を光らせなかったのか?あれほどの致命的な欠陥を、皇帝が見誤ることなどない。共和国時代、パルパティーンの側にいたアナキンだからこそ、彼の思慮深さや、観察眼の鋭さは身に染みて理解している。

 

今の帝国の在り方は、虫穴だらけだ。統治がうまく行ってるように見える、砂上の城とも言える。

 

それに、ヴェイダーが刃を振るったあの時…オビ=ワンが自ら死を選んだ行動にも、何か意味があるのかもしれない。

 

とにもかくにも、アナキンの中に生まれた疑問の答えを得るためには、再びフォースとの絆を得て、戦いの場に身を置く必要があった。

 

「まずは、落ち着けるところを探さないとな。反乱軍について行っても、修行を再開できるとは思えない」

 

「僕も共に行きます。このままでは…カイロ・レンは愚か、あのレン騎士団を倒すこともできません」

 

ルークもアナキンと同じ意見だった。フォースでもライトセーバーのテクニックでも、カイロ・レンは愚か、彼が率いるレン騎士団に対処することも難しいだろう。一から修行をし直す必要があった。

 

だが、問題は修行場だ。

 

ナブーの奥地に作ったジェダイ寺院もあるが、自分たちはすでに帝国に見つけられている。クワイ=ガンや、アナキンの妻であり、ルークの母でもあるパドメや、ナブーの人々に被害を出すわけにもいかない。

 

しかし、ルークはまだ修行中の身であり、アナキンは久しく閉ざしていたフォースと通い合わせたばかりだ。手ごろな修行場など、知るわけもなく───。

 

「なら、打ってつけの場所があるよ」

 

そう言いながら、アナキンとルークの前に姿を現したのは、二人と同じくライトセーバーを腰にぶら下げている人物。

 

シスでもジェダイでも、反乱軍でも帝国でもない、〝フォースの夜明け〟を追い求める中立組織「ノーバディ」のメンバーである「カル・ケスティス」と、「トリラ・スドゥリ」だった。

 

カルが肩に背負うドロイド、BD-1がホログラムをアナキンとルークの前に投影する。それは、どの天体図にも載っていない、幻の星だった。

 

「ボガーノ。俺たちノーバディの本拠地だ。どの天体図にも、星系図にも載っていない星だよ」

 

「私たちの目的は、あなた達をこの星に呼ぶことにある」

 

カルの言葉の後にトリラも続き、彼女は手に持っていたコムリンクを起動させると、そこにはジェダイ時代から知る旧友のマスターが投影された。

 

《マスター・スカイウォーカー。戻られると信じていました》

 

「マスター・シア…懐かしいですね」

 

《あの大戦の後、貴方は行方を眩ませてしまいましたからね。帝国の通信を傍受していたときは驚きました》

 

マスター・イーノ・コルドヴァのパダワンであり、マスターでもあるシア・ジュンダ。久々の再会を喜んでいる彼女であったが、アナキンは怪訝な顔つきになる。

 

「モールの率いる組織か?」

 

「知ってるなら話は早い」

 

あんた達に見せたいものがある。そうカルとトリラが言うと、彼らの後ろへヨット型の宇宙船「スティンガー・マンティス」が降り立った。深く言葉を交わす必要はないだろう?とカルがマンティスへ二人を誘う。

 

たしかに、この場にいても反乱軍に引き止められるのが関の山だ。祝賀ムードの彼らには申し訳ないが、邪魔が入らない修行場が手に入るならこちらとしても申し分はない。アナキンはルークと顔を合わせると、反乱軍を指揮する決意をしたレイアと、巻き込まれながら尽力してくれたハンに心の中で謝罪して、カル達が手を伸ばすマンティスへと乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうか、マスター・オビ=ワンは〝理解していた〟か…。

 

 

 

 

 

そう捉えてよろしいかと。彼はフォースの使い手であると同時にクワイ=ガンと同じく賢者でもありました。

 

 

 

 

 

ヴェイダー卿。奴の死は其方の未来に変化を与えたかね?

 

 

 

 

 

いえ、マスター。未来は限りなく〝そこ〟にあります。ターキンがデス・スターと共に散った事実も、そこに帰結するかと。マスターが待ち望んだ未来は、そう遠くないものになりましょう。

 

 

 

 

 

そうか。よい……よいぞ。私は、19年という長い月日を待った。その待った時間を、裏切らない結果となることを願っているとしよう。ヴェイダー卿、おそらくターキンが押さえていた武官が多くの銀河に現れることになろう。だが、貴公は今までと同じように動いてもらおう。頼むぞ?

 

 

 

 

 

仰せのままに、マスター。

 

 

 

 

これで、望む条件はすべて揃った。バランスを取り始めていた世界は再び動き出す。あとはフォースの導くがまま。アナキン・スカイウォーカー……そなたが真にフォースに選ばれた人というならば、余の元へと参じるが良い。さすれば、余が望む未来を掴むこともできよう…。残光の形を取り戻すために、な。

 

 

 

 

 

 

 



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帝国の逆襲
トワイライト・ボガーノ


 

 

アウター・リム・テリトリー。

ボガーノ。

 

あるジェダイが粛清前に見つけた惑星であり、帝国が台頭したこの時代でも、その星は観測されたどのチャートにも記載されていない幻の星。

 

ハイパースペースから出たスレーヴⅠは、ボガーノ衛星軌道上から一気に降下するとメサと湿地帯で形成された惑星の空へと姿を現した。

 

しばらく飛行すると古代のゼフォ種族が建造した巨大な宝物庫が見えてくる。そこを麓とするように、宝物庫の下には小さいながらも宇宙船の発着所や、施設が建てられており、スレーヴⅠは降下すると、空いている発着所へと機体を下ろした。

 

「これで全てか?ボバ」

 

輸送ハッチから荷物を下ろしていた船の主に、マンダロリアンの装甲服とは違う、くたびれたクローントルーパーの装甲服をラフに身につけた老齢の男、ジャンゴ・フェットが声をかける。

 

「そのつもりだよ、父さん。まったく…ハット族の相手をするのも大変だ」

 

ヘルメットを脱いで息を吐いたのは、立派な成人へと成長を遂げたジャンゴの息子であり、クローンでもあるボバ・フェットだ。彼が下ろしてきた荷物は、タトゥイーンのジャバ・ザ・ハットから支払われたクレジットや、ボガーノに帰還する最中に買った物資などで、まだスレーヴⅠの中に山のように積まれている。

 

「そういうな、息子よ。ああ見えても彼らは立派なクライアントさ。そんな彼らが、運び屋であった手駒にあそこまで躍起になるとは…」

 

「ハット族は反乱軍にも帝国にも屈しないつもりさ。アイツらの関心は信頼と金。それに尽きる」

 

「この仕事をわかってきたじゃないか」

 

ジャンゴは、思わず愚痴を吐くボバの様子をおかしそうに笑う。根無し草の賞金稼ぎというものはそういうものさ、とも。

 

そういう父の言葉に、ボバも顔をしかめながら同意していた。なまじ、規律や思考に律儀な友人たちがいるからこそ、抱えることができる悩みでもあるが、ジェダイのような宗教じみた戦士になるつもりは、ボバには毛頭ない。こういった賞金稼ぎの方がよほど身の丈にあっている。

 

帰ってきた息子と言葉を交わすジャンゴ。その頭上をヨットタイプの宇宙船が過ぎ去った。スレーヴⅠが停泊する隣の発着所へと着陸したその船からは、普段のローブとは違い、動きやすさや輪郭をはっきりとさせた格好をしたシア・ジュンダが、カルとトリラを連れて降りてくるのが見える。

 

「あぁ、ジャンゴ。彼らを知りませんか?」

 

こっちに気がついたシアが発着所の間を通って問いかけてきたが、ジャンゴは腕を組んで首を横に振った。

 

「知らないな。俺たちはアンタらの仲間じゃない」

 

いつもこれだよ、とカルが肩をすくめると隣にいるトリラが少し楽しそうに笑い、彼女の肩に乗っているBD-1が愉快そうな電子音を鳴らした。

 

「わかってるわよ、ジャンゴ。けれど、新参者の私達より、あなたの方がこのボガーノのことをよく知ってるんじゃなくて?」

 

心の奥底を見つめてきそうな目つきで言うシアに、ジャンゴは両手を上げて降参だというポーズで答えた。

 

「負けたよ、北の渓谷さ。この時間なら、あの親子はそこにいる」

 

ジャンゴの答えに、シアは礼を伝えてからポケットに入れていたクレジットをジャンゴへ渡して渓谷へ続く道へと降りてゆく。なんだ、よくわかってるじゃないかと、現金主義者でもあるジャンゴは受け取ったクレジットを懐にしまう。

 

「見てないで手伝ってくれない?」

 

「わかった、何クレジットで手を打とうか」

 

「そう言うと思ったよ」

 

天を仰ぐように呆れる息子を見つめながら、ジャンゴは小さく笑って彼が苦戦している物資のコンテナを持つのを手伝うのだった。

 

 

 

 

 

 

見晴らしがいいメサの上。太陽の光の下、青白い光を放つ刃を、全く同じ型で繰り出す二人のジェダイがいた。

 

その型は流れるように大気を切り裂きながら舞い、ライトセーバーを振るう二人の影は乱れることなくピッタリと揃ってその切っ先を自在に操っていた。

 

フォームII、またの名をマカシ。

 

伝統的な7つのライトセーバー型の中で、対ライトセーバー戦を想定し作られた物だ。

 

精確さと効率性に重きを置いており、これを繰り出す者は自身の武器を失う状況を的確に回避しつつ、最小限の動作で身を守ることができる。

 

優雅で集中的と描写されるマカシ。

 

それは敵の裏をかくためのバランスとフットワークを基本としていた。

 

湿地帯の泥を跳ね除けながら繰り出される剣戟は叩き切るような大振りな動きよりも打突や浅い切り込みを多用し、強さよりも流動的で正確な無駄のない動作を重視した。

 

ドゥークーを始め、クワイ=ガンなどのジェダイがその技を身につけたが、クローン戦争時にはヨーダにも勝ると言われたほど極めたのが、アナキン・スカイウォーカーだった。

 

その彼の息子であるルーク・スカイウォーカーは、修行時代からフォームⅠであるシャイ=チョーや、フォームⅢのソレスを重点的に身につけていたため、父の指導のもとライトセーバー戦を想定した修行に明け暮れていたのだった。

 

「マスター・スカイウォーカー!」

 

マカシの剣舞を繰り出すスカイウォーカー親子の元に、渓谷に作られた足場を通ってやってきたのは、シアだった。アナキンとルークは剣舞を切り上げると、ライトセーバーを腰へと収納してシアを迎えた。

 

「シア、僕はもうジェダイ・マスターじゃないさ」

 

「私にとっては変わりません。マスター・ケノービと同じように。貴方たちに見せたいものが。すぐに本部へ来て欲しいの」

 

「なんなんだ?」

 

随分と慌てている様子だとアナキンが言葉を交わすと、シアは顔つきを暗くしてから二人へと言葉を出した。

 

「反乱軍の秘密基地が、帝国に嗅ぎつけられた」

 

シアの言葉に、アナキンとルークは顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「惑星ホスか。帝国もよく見つけたものだ」

 

「彼らはデス・スターを破壊された。その報復として反乱軍の行方を血眼になって追っているのよ。探査ドロイドを銀河中にばら撒いて」

 

「ボガーノが見つかるのも時間の問題と言ったところだねぇ。どうするんだい?」

 

アナキンたちがボガーノの中枢部へと戻ってくると、シアから情報を受け取っていた「ノーバディ」のメンバーたちが立ち話ながら今後の方針について話し合っていた。

 

現リーダーであるモール。

 

実行部隊を取り仕切るアサージ・ヴェントレス。

 

そして、それらを補佐するのはアナキンのかつてのパダワンだったアソーカ・タノだ。

 

アサージからの問いかけに、モールは腕を組んだまま緩やかな声で答える。

 

「どうもしない。我々の目的は反乱軍の動向や帝国の動向に左右はされないのだから」

 

「反乱軍を見捨てるのですか?」

 

ノーバディの意思でもあるモールの決断に異議を唱えたのは、アナキンの隣にいたルークだった。他のメンバーが見つめる中、ルークは前に出てモールへと具申する。

 

「これほどのフォースとの繋がりを持っている貴方たちは、なんで帝国に立ち向かおうとしないのですか!!」

 

「立ち向かって、何になる?」

 

「ルーク、この話ならもう何度も」

 

モールの単調な切り返しと、隣にいるシアがルークに言葉をかけたが、まだ若いジェダイであるルークには納得できるものではなかった。

 

「僕は納得できません!今も帝国の圧政は強まるばかりで、人々は苦しんでいる。なのに、何もしないなんて…」

 

その言葉に、モールはあきれたように息をついてから、その赤と黄色の眼光を若きスカイウォーカーへと向けて語った。

 

「帝国が圧政を強いる理由を作ったのはお前たちにも原因はある。デス・スターを破壊されたからじゃない。その中にいた優れた統治者を倒してしまったからだ」

 

帝国の圧政は、銀河帝国が宣言されてから始まっていたがまだ緩やかな物であったと思い知る。デス・スターが反乱軍によって破壊されてから、帝国の圧力は強まるばかりで、強硬的な政策も次々と取り入れられるようになっていたのだ。ただ、その原因は帝国内部で完結する話ではない。

 

「ターキン総督は帝国軍内でもかなりの力を持っていた。だからこそ、彼が抑えていた派閥や、人脈もあった。けれど、それがデス・スターと共に亡くなったのよ」

 

「今の帝国にとって、圧政も反乱軍の掃討も、皇帝陛下にパフォーマンスするための動機しかないねぇ。空いているターキンのポジションに誰が座るか、みんな必死なのさ」

 

アソーカとアサージが言うように、今の帝国はターキンというグランド・モフの地位が空席となったため、内部闘争で荒れていると言ってもいい。次の「ターキン」は誰なのか。誰が彼の後継者になるのか。帝国軍の高官の意識にあるのはそれがほとんどだ。

 

その中で見せしめに星が破壊されたり、帝国市民が虐殺されたなんてものもあり、穏やかであった帝国の統治は一気に恐怖政治へと転がり落ちているようにも思える。

 

「けれど、それで無関係な人が苦しんでいるのは事実だ。だから、反乱軍に手を貸して…」

 

「反乱軍に手を貸してどうする。帝国を打ち倒すのか?そして1000年続いた共和国の再建か?笑わせてくれる」

 

『お前たちの理想には〝自由〟しかない』。ルークの中で、カイロ・レンから言われた言葉がフラッシュバックした。モールの言う指摘も、このボガーノでの修行で幾らか理解することはできたが、それを飲み込めと言われてもまだ若いルークには難しい物でもある。だが、モールは容赦しなかった。

 

「クローン戦争でどっぷりと戦争経済にハマった銀河経済が、銀河帝国の力だけで立ち上がっていると思うか?反乱軍の兵器や戦闘機、武器、弾薬、基地設備、それらを作るための材料はどこから供給されている」

 

「それは…」

 

「光と闇、正と負、陰と陽。帝国と反乱軍。お前たちは同じ武器を同じ場所で買って戦い合ってる。結局、彼らがぶつかることができているのは、クローン戦争の利潤を忘れられない政治家や武器商人たちが後押しする延長線なのさ」

 

彼の表示するモニターには、TIE・ファイターを作る企業と、Xウイングを作っている企業が同じであることを指し示していた。それを見て、アソーカも落胆する。

 

たとえ、このまま反乱軍が帝国を倒し、共和国を復活させても今の世の中の仕組みが変わらない限り、また新たな帝国、新たな反乱軍が生まれて、戦争が起こり…そういった負の連鎖は永遠に続いていく。これでは根本的な解決になっていない。

 

故に自分たちは、大局的な物の見方をしない。もっと明日を、近くの未来を見つめてフォースの先を見つめなければならないのだ。

 

「けれど…それで帝国の好きにさせるわけにはいかない。終わらない戦いなんて、どこにもないんだ!!」

 

「ルーク!!」

 

そう悲鳴のような声を上げて、ルークはアナキンの制止も聞かずに司令室から飛び出してゆく。おそらく自分の船が止めてある発着場へと向かったのだろう。やれやれとアナキンもルークが出て行った後を追おうとして足を向けた時だった。

 

「スカイウォーカー。やはりお前は俺たちと共には来ないか?」

 

腕を組んだまま、こちらを見ずに言うモールの言葉に、アナキンは動かしていた足を止めてたたずんだ。その言葉は、このボガーノに来てから何度も言われている物だった。

 

「お前ほどの力をいたずらに消耗して何になる。息子と同じように反乱軍に加担するか?そうすれば、クローン戦争と同じ過ちを繰り返すことになるぞ。お前ならそうならないと言うのか?そんな保証はどこにもないというのに」

 

そもそもの話。

 

世界のバランスの在り方と、フォースのバランスは絶対的に等しいわけではない。

 

だが、今ジェダイやノーバディが、どちらかの陣営に加担すれば、天秤は傾く。その結果、帝国が敵になるか、ノーバディが敵になるのか、それとも良き理解者になるか、それは天秤が傾いてからじゃないとわからないことだった。

 

あえてモールは問うた。「それを踏まえた上でお前は息子と共に反乱軍の元へと向かうのか」と。

 

「モール。僕は戦争を終わらせるために戦うわけじゃない。その真意を知るために向かうんだ。なぜ、皇帝は…パルパティーンは、この戦争を続けているのか。やり方は他にいくらでもあるというのに、彼はクローン戦争の延長線を描いているだけだ」

 

アナキンはモールの方を振り返らずに言葉を続けた。

 

確かめなければならない。

 

フォースが強く、そう語りかけてくる。

 

あの時のアナキンもオビ=ワンも、盲目的にジェダイや、共和国の体制を信じすぎていた。自分の目で確かめもせず、〝親友〟の声も聞き漏らして。彼の孤独、彼の痛み、彼の苦悩…自分はそれを何一つ理解できていなかった。

 

「だから、確かめるよ。自分の目で。自分の耳で。そして答えを自分で出す。それが僕に課せられた…フォースと歩み始めた使命だ」

 

覚悟を決めた顔つきで答えたアナキンに、モールは瞑目するように眼を閉じてから、ゆっくりと開けてアナキンを見据える。

 

「その先に、何が待っていたとしてもか?」

 

「それを知るために、僕は再びライトセーバーを握ったんだ」

 

穏やかなフォースであった。明らかにクローン戦争の時よりも力強く、根強いものとなっているだろう。モールは小さく声を漏らしてから、アナキンへと向き直った。

 

「アナキン…辛い道のりになる。だが、フォースはお前を導いている。乗り越えるのはお前自身だ。フォースと共にあらんことを」

 

「さらばだ、古き友よ。フォースと共に」

 

その言葉を交わしてから、アナキンは部屋を後にする。不安そうにモールを見つめるアソーカ。わかっている。彼が歩もうとしている道は過酷そのものだ。だが、進む以上、フォースは何かを示そうとしている。

 

その先に、たとえ何が待っていようとも。

 

今はただ、静かにモールはその行先を案じることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ホスの戦いって64のゲームが印象的だよね。あれ?知らない?そう…

 

3ABY。

 

アウター・リム・テリトリー。

アノート宙域、惑星「ホス」

 

ホスの戦いと呼ばれる銀河史の歴史的な戦闘。

 

この戦いは帝国軍が辺境の惑星ホスにある反乱軍の秘密拠点、エコー基地を発見したことから始まった。

 

偵察用のヴァイパー・プローブ・ドロイドの報告で基地の場所が判明した後、帝国軍の艦隊が反乱軍を亡き者とするために進軍を開始したのだ。

 

その艦隊に属するインペリアルII級スター・デストロイヤー<エヴィセレイター>の指揮を取っていたギャリック・ヴェルシオ提督に課せられた任務は彼が組織したインフェルノ隊を先遣隊として派兵し、AT-ATや、AT-STなどの地上兵器を完全に降下輸送させることにあった。

 

娘であるアイデン・ヴェルシオをはじめ、デル・ミーコやギデオン・ハスクで運用される少数精鋭のインフェルノ隊は、一般のトルーパーたちも連れて問題なく降下地点を確保。艦隊のスター・デストロイヤーに格納されている地上部隊は降下輸送機に乗り込み、次々と白く光るホスへと運び込まれて行っていた。

 

同時に、反乱軍のいるエコー基地からずいぶんと離れた位置に、エヴィセレイターは配置されていた。大袈裟に言えば、惑星の反対側と言ってもいい位置だ。随伴している駆逐艦を含めて、この場にいるのはわずか数隻ほど。

 

ギャリックに言いつけられた任務の範疇には、隙をついて惑星の反対側から逃げようとする反乱軍の撃滅も項目として盛り込まれていたが、稚拙な反乱軍の設備では、ハイパースペースから現れた帝国の艦隊を察知してから、惑星の反対へ逃げるほどの準備を整えることは不可能に近いだろう。

 

管制官がホスの大気や地上に眼を光らせているが、宇宙に向かって上がってくる機影は一つとして観測されていない。

 

なんとも楽な任務だな、気を引き締めつつもギャリックはうっすらとそんなことを考えている。

 

そもそもの話だ。反乱軍の基地があるホスにこれほどの大部隊を展開する必要が本当にあるのだろうか。

 

たしかに彼らは帝国にとって悩ましい種であることは変わりはない。帝国の統治下の惑星や、組織にネガティブキャンペーンを行い、帝国への反旗を煽っている現実も認めよう。

 

だが、それ以前に帝国内部の情勢はどうだ?デス・スターが破壊されて3年だ。その短い3年と言う間に、19年と言う歳月をかけて築いてきた帝国の統治が揺らぎはじめているというのだ。

 

デス・スターの破壊により、グランド・モフであったターキン総督をはじめ、有能な高官たちがまとめて消え去ってしまったという事実が、帝国の未来を暗く陰らせることになっている。

 

今回の任務も、ターキン派閥にいた自分は閑職へと追いやられ、手柄を狙う武官たちが獲物に群がるアリのように我先にとホスへと乗り込んでいる。手柄や利潤を求めるあまり、適切に統治されていた地域にまで綻びが生じている。

 

この3年で帝国から離反した国や勢力は多くあった。ひどい税収に晒されている惑星も増えた。ギャリックの出身惑星であるヴァードスもそのひとつだ。

 

それほどまでに、今の帝国内部はひどく脆いものとなってしまっている。

 

敗走し、ゲリラ的な作戦を展開する反乱軍を血眼になって追い立てるよりも、崩れかかった帝国内の情勢を立て直すが先だろうに。

 

その発言権すら許されない軍閥へと傾倒している帝国を憂いながら、ギャリックはひとまずは今の任務に集中しようと気を引き締める。

 

輸送を終えたら、帰還するインフェルノ隊を伴って逃げようとする反乱軍を撃破する手筈になっているのだ。今は哀れな彼らが逃げる素振りを見せるか、監視するほかない。

 

そう思考を切り替えて管制官に地上の搬送状況を聞こうと固いブリッジの床から踵を返そうとした時だった。

 

「ヴェルシオ提督!ハイパースペースから脱した反応アリ!当艦の直上です!!」

 

管制官の一人が声を上げて報告をしてきた。なんだ?帝国軍の増援か?だが、そんな情報を受け取ってはいない。となると、ハイパースペースから現れた物は、窮地の反乱軍を手助けに来た組織だろうか。

 

惑星の反対側なら手薄だと考えただろうが、ツメが甘かったな。そう内心で呟くギャリックの思考は、次の管制官の言葉を聞いて思わず固まるのだった。

 

「データ照合……イータ2アクティス級軽インターセプター?これは…ジェダイ・スターファイターです!!」

 

それは、現存ではあるはずのない戦闘機。ギャリックも過去の噂話でしか聞いたことがなかったもの……ジェダイの乗る戦闘機だった。

 

ギャリックは楽な任務だと慢心した自身を恥じた。この瞬間を持って、このホスの衛星軌道は最も危険な前線へと変貌したのだ。

 

「管制官、直ちに援軍の要請を。そして、スローン大提督に通信を繋げ」

 

ギャリックは静かな声で管制官に告げると、直上に現れ、ハイパースペース用のユニットから分離した二機の機影を鋭い目付きで見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか敵の目の前に出ることになるなんて思ってなかったよ!!」

 

どこから拾ってきたのか。父が用意していたすでに骨董品に近いスター・ファイターとハイパードライブが搭載されたユニット。

 

スター・ファイター二機がドッキングできるそれを使って、シアから教えてもらった座標にある惑星、ホスへと向かった二人を待ち構えていたのは、スター・デストロイヤーからの砲撃であった。

 

R2の悲鳴のような電子音が聞こえる。コクピットで操縦桿を操るルークは、スターデストロイヤーや、駆逐艦から放たれるレーザー砲火を掻い潜る。

 

「あぁ、まぁ楽に到着できるとは父さんは思ってなかったけどな」

 

そのルークの動きにぴったりと付いてくるのは、黄色いカラーリングを施されたファイターに乗るアナキンだ。今回は相棒であるR2を息子に貸し出しているため、タトゥイーンで修理工をしていたときに見つけたドロイド部品で修理したR5-D4を載せていた。

 

肝が座っているR2に比べて、R5は砲火が掠めるたびに縮み上がりそうな電子音を奏でてアナキンに離脱するように促したが、彼は笑って返す。

 

「これくらい訳はないな。グリーヴァスの船の方が厄介だった」

 

その呟きに、息子であるルークは返す余裕もない。デストロイヤーから放たれるレーザーを避けて、とにかく肉薄することしか頭になかった。

 

「落ち着くんだ、ルーク。闇雲に近づこうとしても袖に振られるぞ。思考して飛ぼうとするな。感じるんだ」

 

機体を無理やり動かしているようにも見えるルークの乗り手よりも、アナキンの方がスムーズに挙動しているように見えた。砲火を放つレーザー砲台を的確に撃ち抜いたアナキンのファイターは、弧を描いてデストロイヤーの真っ白な外壁へと一気に肉薄する。

 

「シールド発生器を狙え」

 

デストロイヤーのブリッジに迫るアナキンは、スイッチを操作してから一気にトリガーを引いた。緑色の閃光が迸り、放たれた一撃はデストロイヤーのブリッジ上部にあるシールド発生器を爆散させた。

 

その隣では、なんとか追いつくことができたルークが、父と同じようにシールド発生器へプロトン魚雷を放って破壊する。

 

残りはデストロイヤー下部にある発生器だが、上部と違って下部の発生器は大きい分、耐久性も高い上に防御に配置されたレーザー砲も尋常ではないのだ。それに手間取れば、デストロイヤーに艦載されているTIE・ファイターも出撃してくる危険もあった。

 

「もう十分だ、ルーク。相手の足はこれで止まるだろう」

 

アナキンとルークのファイターは、デストロイヤーの後部にある巨大なノズルへと旋回する。砲火はあるが、前方に比べればまだマシと言える範囲だ。

 

ボガーノでアナキンはのんびりとライトセーバーの修行をしていたわけではない。ジャンゴの輸送仕事や、銀河を飛び回るシアたちと共に各地を回って、必要なものを揃えていたのだ。

 

今乗るスター・ファイターも、アナキンがタトゥイーンに隠していたものであり、いざと言うときのためにメンテナンスを施していたのだ。

 

性能は劣るが、機能としてはクローン戦争時代のものと変わらない。本来ならオビ=ワンにも渡すつもりであったが、その機体には息子であるルークが乗っている。脳裏によぎったものを振り払って、アナキンは眼前に浮かぶ白き巨船を見据えた。

 

「チャンスは一度だぞ、ルーク」

 

「わかってるよ、父さん」

 

ファイターの先端に備わる特殊兵装は、ボガーノを離れる前にジャンゴから渡された餞別だった。機体を翻したアナキンたちの機体は、砲火を吐き続けるデストロイヤーへ、その特殊兵装を撃ち放つ。

 

それは、青白い光の尾を残して、デストロイヤーの巨大な三つのノズルの隙間へと命中。すると、デストロイヤーは青い稲妻に包まれ、白く光っていたノズルから一気に光が失われていった。

 

アナキンたちが放ったのはイオン魚雷だ。

 

ビークルや固定兵器に重度のイオン・ダメージを与え、システムの機能停止やそれ以上の損害をもたらすことができる代物であり、その一撃は元気だったスター・デストロイヤーの砲火を一瞬で沈黙させるものだった。

 

「今のうちに進むぞ」

 

アナキンの声に「わかった」と答えると、二機のジェダイ・スターファイターは沈黙したスター・デストロイヤーを尻目に、まだ静かな惑星ホスへと降下してゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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アナキンは立派なジェダイマスターになった……とでも、思っていたのか?

 

 

 

極寒の地である惑星ホスの表層は、ウォーカーで押し寄せる帝国軍と、エコー基地のシールド発生器を死守する反乱軍の抵抗によって激戦区と化していた。

 

堅牢なウォーカーの装甲に対抗すべく、反乱軍側で用意されたスノースピーダーが低空飛行で飛び交い、AT-STや対空兵装を持ったトルーパーたちがウォーカーの足へワイヤーを掛けようとしているスピーダーを撃破しようと躍起になっている。

 

そのエコー基地の激戦区より後方。エコー基地の地下ドックでは、爆撃や重レーザー砲による地響きによって、氷のトンネルのあちこちから小さな氷塊や、雪が降ってきていた。

 

どっさりと落ちてきた雪を頭に乗せたチューバッカは、ファルコン号の点検口から上半身を上げて不満げに吠え声を上げる。

 

「喚くな、チューイ!部品がないのはわかってたことなんだから、文句を言うな!」

 

ファルコン号の下では、溶接機材を持って突貫の修理を行なっているハン・ソロがいて、ヒステリックに吠える相棒へ落ち着くように声を上げたが、それでもチューバッカからの不満の声は収まることはない。

 

「ああ、お前がそう言うなら俺も文句を言いたいね!デス・スターの破壊作戦から3年、なし崩し的に反乱軍と一緒にいたが、もう我慢の限界だし、ジャバ・ザ・ハットに借金は返さなきゃならないし、たどり着くまでに指名手配されてる!おまけにファルコンの整備を受け持ってくれるはずのラーズのおやっさんが行方知れず!まったく大したもんだな!」

 

自分をこの鉄火場に巻き込んだ張本人だと言うのに…まぁ、デス・スターでルークやラーズのおやっさんを助けたのは、自分の意思ではあるが。とはいえ、そのために三年間も帝国の追撃を反乱軍と共に逃れる羽目になり、ジャバ・ザ・ハットに約束していた報償金すら届けられていない。

 

届けようにも、ファルコン号のハイパードライブ用のコンピュータが今までに無いほどヘソを曲げているときている。反乱軍の整備員も何度かファルコンを見ているが、アナキンの手で魔改造されたスクラップ相手になす術もなく、アナキンの次にこの船を熟知しているハンとチューバッカが自ら整備を行なっている有様だった。

 

スパナを雪山へと投げ捨てるハンに、チューバッカは顔をしかめながら小さく唸り声を上げた。

 

「ラーズのおやっさんは仕方ない?ああ、そうだろうな。今頃ジェダイとかいうオカルトにハマってるだろうぜ!そら、はやく手を動かせ!敵は待ってくれないぞ!」

 

出来上がったらこんな危険な惑星からさっさとエスケープだ!!そう言ってハンが再び点検口に顔を突っ込もうとした時だった。

 

「ハン!」

 

後ろから声をかけられて、ハンは顔を下ろす。梯子の下へとやってきたのは息を切らし、肩を上下させているレイアだった。手に持っていた工具を腰へ仕舞い、ハンは梯子から一気に雪の地面へと降りる。

 

「レイア、状況はどうなってるんだ?」

 

「よくないわ。ウォーカーからの攻撃が始まった。今はまだシールド発生器と反乱軍の同志たちが持ち堪えているけど…時間の問題ね」

 

「ああ、だろうな。シールド発生器が破壊されれば軌道上からスター・デストロイヤーの砲火に晒されることになるだろうしな」

 

そうなればどうなるか。想像することはたやすい。きっとエコー基地は跡形もなく吹き飛ぶことになるだろう。ここが地下とは言え、衛星上からの攻撃なら、この程度の地下施設など、岩盤ごとめくり上げることになる。

 

シールド発生器が要となっている以上、時間の猶予は少ない。基地外側に展開するイオン砲から放たれる攻撃により、衛星上のスター・デストロイヤーの動きを封じられているとは言え、シールドが消えれば手の施しようもなくなる。

 

「殿を担ってくれる同志たちには…なんと言えば…」

 

結果、シールド発生器を死守する部隊は、真っ先にその犠牲となる。レイアや反乱軍のリーダー格の者たちがその作戦を決定した段階で、そうなることはわかっていた。それでも、今前線で防衛網を築き、戦っている兵士達は自ら志願して戦場へと赴いたのだ。

 

気を落とすレイアの肩をハンは優しく手をやって安心するよう笑顔を向けた。

 

「そう気を落とすなよ、レイア。奴らもそれを知ってる上で、その任務に志願したんだ。レイアや後方部隊は、とにかく脱出することだけを考えるんだ」

 

そう言うハンへ、レイアは「わかっているわ」と頷く。ヤヴィンの戦いから、彼女は反乱軍と共に多くの惑星や国、世界を見てきた。中には、帝国によって苦しめられる人々もいた。だが、同時に帝国のもたらした秩序を壊さないでくれと願う人々もいた。

 

そんな市民からすれば、反乱軍はようやく整えられた秩序を壊す異端者に過ぎず、早々に星を後にすることも少なくはなかった。

 

帝国のもたらした物は、レイアが想像していたものよりも遥かに強大だった。整えられたインフラや、通貨市場。市民を蔑まず、市民を守るために逆賊と戦う兵士たち。それを指揮するレン騎士団。市民たちにもたらされた恩恵は、過去の共和国政府が霞むほど潤沢であり、満ち足りていた。

 

……果たして、自分たちは一体何のために戦っているのか。

 

秩序と正義、自由を示すために希望を持って戦っていたというのに、その希望は驚くほど小さくなってしまっている。レイアは、自分の戦うための意義を見失いつつあった。

 

「レイア」

 

そんな彼女を導く存在が現れたのは、帝国の追跡を逃れ、このホスに身を隠した頃だった。

 

声をかけられた方へ振り返ると、そこにはこの極寒の地には似合わない壮麗な姿の女性が居た。

 

「お母様!」

 

パドメ・スカイウォーカー。

 

反乱軍では親しまれている〝アミダラ〟で通っている彼女は、駆け寄ってくる愛娘に微笑みを送る。彼女が反乱軍に加わったのは、占拠されたオルデランの議員であるベイル・オーガナ議員からの要請があったからだ。

 

議員としても旧友の仲であるパドメは、当初はアナキンのこともあり、反乱軍への援助は陰ながら行なっていたものの、本格的な参加への言及は避けていた。

 

だが、事は一年前に動いた。

 

比較的、穏やかな制圧を受けていたオルデランの帝国軍が突如として虐殺や市民への圧力をかけ始めたのだ。それに抗議したベイル・オーガナ議員は、帝国軍によって処刑された。

 

この件の指揮を帝国から任されたのは、ミスローニュルオド…通称〝スローン大提督〟。

 

現在、デス・スター破壊による帝国上層部の空白の座席に手をかけている有力な帝国軍人であり、その性格は残虐非道だ。彼は反乱軍を一網打尽にするような計画は立てず、小規模ながら確実な殺戮を選択し、反乱軍を敗走へと追いやっていた。

 

そして、彼が息巻くと他の帝国武官も揃って帝国が今まで施策してきた体制を逸脱するような、権力を振りかざす体制へと踏み出したのだ。

 

その歪みは瞬く間のうちに帝国勢力内へと伝播し、今まで秩序と平和を約束していた帝国の統治にも影響を与え始めている。帝国とは対等の政治体制を保守してきたナブーにも、その脅威は迫った。

 

パドメが反乱軍に加わったのは、その無法者たちを断罪し、旧体制の帝国士官たちとの交渉に挑む目的もあったのだ。

 

「第二部隊も範囲網を突破したわ。私たちもそろそろ発ちましょう」

 

すでに後方部隊の半分がホスから脱出し、合流ポイントで待つ反乱軍の艦隊へ合流するためにハイパースペースへと入っている。パドメやレイアを乗せる船も間も無く出航する手筈だ。

 

「動くな」

 

パドメがハッと息を飲む。パドメの背後にいたのは、メタリックブラックの装甲服を身につけたストーム・トルーパーだった。しかもただのトルーパーではない。装備から見て洗練された兵士であり、その動きも他の兵士たちと比べれば雲泥の差がある物だった。

 

インフェルノ隊、隊長であるアイデン・ヴェルシオは銃口を構えたまま通信機をつける。

 

「こちらアイデン、反乱軍基地で要人を捕らえた。連行する」

 

彼女がパドメたちのもとにたどり着いたのは偶然であった。父であり、司令官でもあるギャリック・ヴェルシオ提督から送られた通信をもとに、地上へ下ろしていたTIE・ファイターで、降りてきたジェダイ・ファイターを追跡したアイデンは、反乱軍の秘密通路を発見。

 

精鋭であった反乱軍の兵士を打ち倒した彼女は、地下のトンネルを進んでこの場へとたどり着いたのだ。

 

「なるほど、帝国軍の特殊部隊ってわけね」

 

「どうやってここまで…」

 

「誰かに道案内でもしてもらったのか?」

 

手を上げても砕けた口調をやめないハンに、アイデンは苛立った顔をヘルメット越しに向けながら低い声を上げた。

 

「黙れ。じきにシールド発生器も破壊される。多くの反乱分子を逃すことになるが、中核であるお前たちを捕らえればあとは烏合の衆だ。なんとでも…」

 

その言葉は、突然遮られた。アイデンの身は驚くほど速く宙へと浮かび上がり、その場で固定されたように止まった。なんだこれは…。体が動かない。それを自覚してから、アイデンは自分の呼吸が止まっていることに気がつく。

 

壮絶な力で首を締め上げられ、アイデンはヘルメットからくぐもった声をあげた。

 

「がっ…はっ…!?」

 

かろうじて動く腕が、与えられない酸素を求めてばたつく。そのアイデンの背後。ローブを身に纏った影が、腕を彼女へと掲げていた。

 

フォースグリップで、彼女の首を締め上げていたのは…アナキンだった。

 

 

 

 

 



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レン騎士団って結局何やったんや…?

 

 

ホスの格納庫へ飛び込むことになったアナキンとルークのジェダイ・ファイター。

 

そこへ飛び上がるよう降りた二人へ、通信を受けていたカーリスト・ライカン将軍が到着した二人のジェダイへと挨拶を交わす。

 

ライカン将軍は、現エコー基地の司令官であり、前衛部隊が帝国軍と交戦してる最中に脱出の手筈を進める任務も請け負っていた。

 

そんな彼と言葉を交わすルークを他所に、アナキンは感じ取った愛おしいフォースを辿ってスノースピーダー用の格納庫から更に奥へと歩みを進める。

 

そこで目撃したのが黒いトルーパーに銃口を突きつけられたパドメとレイアだった。

 

「よくも僕の家族に…銃口を向けたな…!!」

 

宙に浮かばされ身動きが取れない中、アイデンは想像を絶する力で首が締め上げられてゆく中、地獄の底から響いてくる声がベッタリと鼓膜から脳へと張り付くように響く。

 

首元がギシギシと音を軋ませ、気道が完全に塞がれている。その痛みと苦しみはアイデンが持つ屈強な戦士としての意思や志しを根こそぎ捻じ伏せ、彼女の意識を断ち切るには充分すぎる効力を発揮した。

 

指先だけで相手の命を刈り取れそうなほど、その手を震わせるアナキン。その思考は薄暗く、冷たいものに支配されそうになっていた。

 

「アナキン!!」

 

ふと、声がアナキンへ降り注ぐ。

 

「お父様!!ダメ!!」

 

パドメの声に続くように響くレイアの声に、ハッと意識を取り戻したアナキンは力んでいた指先をほどいた。驚くほど素早くフォースは飛散し、その圧力から解放された黒いストームトルーパーは糸が切れた人形のようにその場に倒れ込む。再び動く様子はない。アナキンのフォースグリップで完全に意識を絶たれたのだろう。

 

パドメは一歩手前で防ぐことができたことに安堵しながら、息を荒げるアナキンのもとへレイアと共に駆け寄った。

 

「大丈夫、私とレイアは大丈夫だから…」

 

息を整えるアナキンは、自身の内に湧き上がってきたフォースへの衝動を強靭な精神力で何とか抑え込む。いつもこうだ、とアナキンは心の内で毒づいた。家族に危険が及ぶと後先を考えず、目の前の事しか見えなくなる。昔から治らない部分であり、過去から付き纏う闇そのものだとアナキンには思えた。

 

この衝動に駆られた時、いつも脳裏に浮かび上がるのはムスタファーで自身のライトセーバーに貫かれた親友の最期の姿だ。

 

嫌な記憶。だが、決して忘れる事がない記憶だ。アナキンは張り付くイメージを振り払うように小さく息を吐き出してから、こちらの心配をするパドメへと向き直る。

 

「パドメ、なぜ君がここにいる…?」

 

レイアやルークが反乱軍に何かしらの形で加担していることは、父であるアナキンも把握はしていた。だが、妻であるパドメがよもや反乱軍に属しているとは、ボガーノで修行していた時でも聞いたことがない情報だった。追いついてきたルークも驚いた様子でパドメとレイアへ視線を彷徨わせていた。

 

「皇帝が元老院を解散させたことは知ってるわよね?帝国の圧政も力を増している。帝国内の提督たちは血眼になって武勇を上げようと、各地を戦場にしているのよ?」

 

現にナブーも攻撃を受けた、とパドメは続ける。ナブーのボランティアガードや、反乱軍から志願された防衛隊に加えて、グンガンの前リーダーであったボス・ナスから正式に指名され新たなリーダーとなったジャー・ジャー・ビンクスの指揮のもと、グンガンの戦士たちもナブー防衛戦線へ加わり、帝国を退けたという。

 

事態を重く見たパドメが行動するのは必然だろう。ホスに到着した時は司令官のライカン将軍と共に頭を抱えるレイアの姿が印象的であった。

 

「それにアナキン?娘が一人で立ち向かうのを黙って見ているなんて、私ができると思う?」

 

「君らしいと言えば、君らしいよ。パドメ」

 

妻の行動力とバイタリティはしっかりとレイアに持っていかれたと思っていたが、彼女もまだまだワンパク王女様のままだった。

 

困ったように笑うアナキンに、パドメが微笑みを送る中、いい雰囲気を邪魔するようで悪いが、と後ろに控えていたハン・ソロがごほんと咳払いし、チューバッカが小さく声を上げた。

 

「あー、失礼。お取り込み中すまないが、何?レイアの父親はラーズのおやっさんで、ミス・アミダラは嫁さんってことか?」

 

ハンにとって、アナキンはタトゥイーンで腕が凄まじく立つ修理工というイメージで固定されていた。反乱軍に入ってから、シスやジェダイのことを本格的に知った身であるから、そんな修理工のオヤジさんが過去のクローン大戦の英雄的なジェダイ・マスターであり、反乱軍の中核を担うレイアや、ジェダイであるルーク、そしてアミダラ将軍の家族と来ている。

 

大抵のことには驚くつもりはなかったが、今回ばかりは例外だなと、ハンは小さく肩をすくめた。

 

「ハン、すまない。お前との約束を…」

 

「ああ、申し訳ないと思ってくれてるだけ充分さ、ラーズのおやっさん。できれば今すぐにでもファルコンをオーバーホールして欲しいところだけど…」

 

そうハンが続ける前に、基地内が大きな揺れに見舞われ、あとを追うように地響きのような轟音が基地の前線方向から聞こえてくるのがわかった。雪の塊を受けたR2とC-3POが「嫌な予感がします」と電子音声を垂れ流した。

 

「そうも言ってられんか」

 

《シールド発生器がやられた!!総員、基地を放棄!直ちに脱出せよ!》

 

基地内に前線からの通信が入る。アナキンはレイアとパドメの肩を抱いて二人を抱き寄せる。しばらくはまた離れ離れになるだろう。けど、必ずまた会う。この抱擁は、そのための約束だった。

 

「ハン!レイアとパドメは任せるぞ!ルーク!一緒に行くぞ!帝国が基地内に来るのを足止めする!」

 

「ああ、任せてくれ。ラーズのおやっさん」

 

ジェダイのローブを翻して前線方向へルークと共に駆けて行くアナキンを、パドメが声を上げて呼び止めた。

 

「アナキン!気をつけて」

 

「パドメも。レイア、母さんを頼むぞ」

 

「任せて、お父様」

 

母譲りの力強い返しをするレイアに、アナキンは笑みを送るとライトセーバーを腰から引き抜き、弟子であり、息子であるルークと共に前線へ再び駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 

「大提督、ウォーカーが反乱軍基地のシールド発生器を破壊しました」

 

ホスの攻略の艦隊の旗艦。

 

インペリアル級スター・デストロイヤー<キメラ>のブリッジで側近の報告を聞き終えた青い肌の男は、その真っ赤な目を流すように伏せて、側近の報告にうなずく。随分と手間取ったとは思えたが、問題はあるまい。憎き反乱分子の基地を吹き飛ばすことができるのだから。

 

「よろしい。では予定通り、基地内部へトルーパーたちを投入しろ。将校以外は捕虜とする必要はない」

 

チスの男性である、ミスロー二ュルオド、通称〝スローン大提督〟は、真っ白な帝国軍服とたっぷりの階級章がついた胸元を勇ましく張りながら後ろに手を組んで簡潔にそう述べた。

 

「どうせ、あの基地と運命を共にするつもりで戦っていた者たちだ。殺せ」

 

その赤い目に見せられた側近は恐怖に顔を強ばらせながらも、一礼を返して足早に伝令を下すため通信室へと踵を返した。早々に衛星上からの掃射で反乱軍共を一掃しても構わないが、それではまた散らばった敵を探す羽目になる。

 

奇襲は愚かな身内のせいで失敗に終わったものの、得られるものは多いだろう。反乱軍もそこまで周到に逃げる算段をつけられるとは考えにくい。つまり、敵基地へ手早く侵攻し、残っている者たちから向かう先を聞きだす術はいくらでもあろう。

 

「さて、君たちにも働いてもらうぞ?そのためにわざわざ辺境の惑星から召集したのだからな」

 

足元で士官たちが忙しなく動き回る中、スローンはブリッジから一望できるホスの惑星を見つめる。その脇には、クローントルーパーのエリート分隊である「パージ・トルーパー」を従え、黒と灰色を基調にした戦闘服を身につける尋問官たちが静かに佇んでいた。

 

「承知しております、スローン大提督。任務は必ず」

 

ナインス・シスターであるマサナ・タイドが一礼すると、スローン大提督は彼女ら尋問官で構成された組織〝シス・ストーカー〟の面々を一瞥してから、踵を返してブリッジを後にした。

 

スローンが去った後、パージ・トルーパーたちを従えて格納庫へ向かおうとするナイシス・シスターは、通路の反対側に立っていた騎士団へ目を向ける。

 

「随分と不服そうだね、サー・カイロ・レン?今回の任務は騎士団のお気に召さないのかい?」

 

何も言わないでいたレン騎士団の筆頭騎士であるカイロ・レンへ、ナインス・シスターは挑発するような口調で告げる。その言葉に思うところがあったのか、カイロ・レンの横に控えていた一人の騎士が苛立った様子で武器に手をかけて歩み出た。

 

「貴様…!!」

 

「よせ。無用な争いは許さんぞ」

 

激昂しかけた部下を、カイロ・レンは冷静な声で宥める。今は反乱軍の掃討作戦中。仲間内の無用な争いは避けなければならないし、そのためにカイロ・レンは騎士団を率いているわけでもなかった。その態度を見て、ナインス・シスターはつまらなさそうに鼻を鳴らした。

 

「忠義か、正義感か。立派なものだけれど、この作戦でそんなものが役に立つとでも言うのか?」

 

「…我々騎士団の存在意義は、帝国自治内の秩序と正義、そして弱者の剣となり盾となることだ。断じて貴様たちのように争いを好み、血を好み、戦いを欲しているわけではない」

 

淡々と答えるが、カイロ・レンの言葉には綻びがあった。デス・スターが破壊され、帝国の統治力が乱れる中、その余波は騎士団にも深く影響した。与えられる任務には今までは考えられなかった残虐性が増え、市民に畏怖されるような真似を強要される。

 

レン騎士団の本質は秩序と平和、そして正義を守ることだ。間違っても戦いや殺人を楽しんだり、無力な人々を虐げるものではない。帝国の指揮官からそう言った圧力があるたびに、カイロ・レン本人が出向き、交渉や対抗措置を取っているものの、その対応にも限界はあった。騎士団から今の帝国のやり方について行けず去る者もいた。

 

それを脆弱だと唾棄して、シス・ストーカーたちは意地汚い笑みを浮かべる。

 

「我々もまた帝国の繁栄と支配を可能にする者たちだ。サー・カイロ・レン。お前は〝あのお方〟の教えについていけず、見捨てられたのだ。貴様など…結局、その騎士団も神輿でしか…」

 

ナインス・シスターがそこまで言葉を走らせた瞬間、カイロ・レンはその場でクロスガードライトセーバーを引き抜き、揺らめく赤い炎を立ち上らせる。

 

「騎士団を侮辱することは誰であろうと許さんぞ。それを弁えろ、尋問官ども」

 

鋭く放たれたフォースの濁流は凄まじく、ナインス・シスターは僅かに身動きを封じられ、彼女の後ろにいたパージ・トルーパーたちは踏ん張って耐える事しかできず、中にはその圧力に耐えきれずに膝を着く者もいた。

 

冷や汗をかくナインス・シスターを一瞥すると、カイロ・レンは出したライトセーバーをしまい腕を組んだ。その漆黒のマスクから覗く眼光が、彼女の浅はかな思考を貫くように射抜く。

 

「他所の者の意思は関係はない。俺は俺のやり方で帝国の在り方を示す。ただそれだけだ」

 

「……いいさ。その結果はすぐにわかる」

 

行くよ、とカイロ・レンのフォースから解放されたトルーパーたちを連れて格納庫へと向かう尋問官。彼女らの後を見送ると、横へ控えていた騎士である「マレック」が怒りをあらわにした様子で具申した。

 

「サー・カイロ・レン。彼らシス・ストーカーのやり方は義に反します!あれではまるで、人の怒りや憎悪そのものだ」

 

「わかっている、サー・マレック。我々騎士団が帝国の秩序と正義とするなら…彼らストーカーは帝国の怒りと恐怖の体現者だ」

 

尋問官は、レン騎士団が躊躇うような残虐性のある任務を好み、市民を差別し、恐怖させ、従えさせている。自分たちの指針とは雲泥の差であり、それはまさに暗黒面のあり方そのものだとカイロ・レンには思えた。彼らは純粋に悦楽と欲望を満たすためだけに行動している。例え任務であったとしても、そこに悦楽を覚えればそれは仕事ではなく快楽殺人と同義だろうに。

 

まったくもって愚かだ。暗黒面を知るゆえに、カイロ・レンはその力に溺れる彼らを唾棄する。その恐怖と力を振りかざして、その先に何があるのかをまったく理解できていない。

 

なぜ、彼らのような組織を帝国は作ったのか。それを知るのは皇帝とその側近であるヴェイダー卿だけだ。

 

「しかし…彼のやり口は…あまりにも非道です」

 

マレックの悲しむような声にカイロ・レンは頷くと、目の前に広がる真っ白なホスの惑星を見つめながら答えた。

 

「ああ、そうだ。故に、この場に我々がいるのだ」

 

 

 

 

 



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極寒の地での戦い


誤字報告いつもありがとうございます。
感想もありがとうございます!!パルパルの人気に毎回笑ってますw


 

 

 

前線が崩壊したホスの積雪上の戦いは混沌を極めていた。

 

ウォーカーによって破壊されたシールド発生器はすでに意味を成しておらず、前線で防衛戦を維持していた反乱軍も、捨て身で撤退していく兵士たちの時間を稼いでいた。

 

だが、帝国の攻勢は凄まじく、掘られた塹壕で構築されていた防衛線は突破され、ストームトルーパーの軍勢はスノースピーダーが置かれる格納庫まで迫っていた。

 

「退け!ここはもう持たないぞ!」

 

特別偵察部隊「シュライクス」の一員であるカルアン・イーマットがホスの戦いに巻き込まれたのは悲運だった。

 

本来なら反乱軍の合流地帯や移動先を偵察し、安全を確保することにあったが、彼らが乗り込むはずだった船がウォーカーの放った流れ弾に命中してしまったのだ。新たな脱出船に乗り込むために格納庫へと戻ってきた彼らは、防衛線を突破してきたトルーパー部隊と遭遇。

 

なし崩し的に敗走する反乱軍を援護する形で戦線へ入ったカルアンは、ヤヴィンの戦い直後に帝国に捕らえられた時と同じよう、死を覚悟していたが、彼らに銃口を向けていたトルーパーたちが固まったようにブラスターの引き金の指を下ろした。

 

「ジェダイだ!!」

 

誰かがそう叫ぶ。カルアンたちも跳ね返ったように後ろへ視線を向けると、二人の人影が宙返りを打ってカルアンたち反乱軍の兵士たちの頭上を飛び越えた。

 

鉄を焼くような音と共に立ち上がった二本の光の刃を見た途端、敵であるトルーパーたちは恐れ慄くようにブラスターの雨を落としたが、その剣閃が閃くたびにビームはことごとくはじき返され、無造作にブラスターを構えていたトルーパーたちへと襲い掛かった。

 

カルアンは雪上を駆け抜けてブラスターを弾き返す若者、ルーク・スカイウォーカーの隣へと躍り出ると、ルークの死角からブラスターを見舞おうと構えていたトルーパーを打ち抜いた。

 

「スカイウォーカー将軍!援護します!」

 

カルアンの大声で沸き立った反乱軍兵士たちも、現れたジェダイに続くようにブラスターを撃ち放ち、攻勢を続けていたトルーパーたちを一挙に敗走へと追いやるには充分だった。

 

「君たちは先に退却を!!」

 

帝国軍からのブラスターを弾くアナキンの怒声のような声に、反乱軍の部隊長たちが撤退するように声を上げる。相手の攻勢の意を削いだとはいえ、物量では圧倒的に帝国軍が勝っている以上、基地防衛の意味を失った反乱軍がなすべき事は、少しでも多くの人員や物資を逃すことにあった。

 

「父さん!!トルーパーがくる!!」

 

ルークの声に応じて、アナキンはブラスターからの防衛に焦点を置いた型「シエン」を駆使して、次々と押し入ってくるトルーパーたちが放つブラスターの光を押し返し、機銃を設置しようとしている兵士たちをフォースプッシュで押し倒してゆく。

 

そろそろ頃合いかと二人が判断しようとしたとき、閉じかけていた格納庫の扉を巨大な爆発が包み、その黒煙から真っ黒な帝国軍の宇宙船が現れ、トルーパーたちの上を飛び越えて旋回すると、後部ハッチを開いた状態でアナキンたちの前に止まった。

 

「見つけたよ、ジェダイ!」

 

間髪入れずにその船から、漆黒の装甲服に身を包んだパージ・トルーパーたちと共に、ナインス・シスターが飛び降りてくる。目元を隠すシールド越しに見える眼はギラギラと光っていた。

 

「尋問官か!」

 

「お前たちを八つ裂きにし、ワンパの餌にしてくれる!」

 

独特な声色で向かい合ったアナキンにそう吐いたナインス・シスターは、ダブル=ブレード回転式ライトセーバーから、真紅の光刃を出現させて構えた。

 

半分がルークの方へ向かったパージ・トルーパーたちの残りが、ナインス・シスターの背後からアナキンへブラスターを放つ。その閃光を弾くアナキンの隙を突いて、ナインス・シスターがアナキンへ飛びかかった。

 

背後で跳ね返されたブラスターの餌食となったトルーパーたちの崩れ落ちる音が聞こえる中、ナインス・シスターとアナキンは数度の剣戟を交わしてからセーバー同士をぶつけ、鍔競り合う。

 

「その動き…やはりお前たちは〝ジェダイ〟か!」

 

「元はそうさ。だが、我々は新たなる力を手にした。ジェダイでは太刀打ちできない、暗黒面の力だ!」

 

光刃を押し返すナインス・シスターに、アナキンは押された反動を使って宙返りを打つと、距離をとっては、かつての師が構えていた弓を弾くような構えを主とする「ソレス」を構え、ナインス・シスターと向き合った。

 

「その感情に頼った力では、僕には勝てないぞ!!かつての暗黒卿たちがそうであったように…!!」

 

「ほざけ!!」

 

回転式のライトセーバーを高音を奏でて振り回しながら、シィイと歯をむき出しにして闘志を露わにするナインス・シスターは、回転するライトセーバーをそのまま投擲する。

 

その一閃を斬り返すと、ナインス・シスターは飛び上がり、フォースで投げたライトセーバーを引き寄せる。着地と同時に放った一撃を、アナキンは難なく受けそらした。横なぎの一撃、そこから振り抜く一閃、その全てを受けては逸らし、相手の動きを見極める。

 

クローン戦争当時では、攻撃主体の型を多用していたアナキンであったが、タトゥイーンでの隠居生活や、ルークとの修行の中で自分の在り方を見つめ直した彼は、攻撃と防御を両立する方向へと舵を切ったのだ。

 

ソレスの達人でもあったオビ=ワンの姿を思い返しながら、ナインス・シスターからの攻撃を受け流すアナキンは、剣劇の最中で彼女の戦闘スタイルを読み解き、その決定的な隙を見極めて、一閃を振るった。

 

「あ゛ぁっ!!」

 

その一撃は、セーバーを握るナインス・シスターの腕を切り落とした。腕と共に無造作に落ちるライトセーバーを、アナキンは遠くへと蹴り飛ばし、切り落とされた腕を抱いて膝をつくナインス・シスターへライトセーバーの切っ先を向ける。

 

「終わりだ、降伏するんだ」

 

その力は圧倒的だった。奥では勇ましく挑んだパージ・トルーパーたちを返り討ちにしたルークが辺りに注意を払ってからライトセーバーを収める姿が見える。ブラスターを持ったトルーパーたちもあらかた片付けた様子だった。

 

二人のジェダイに囲まれるナインス・シスターは悔しそうに顔を歪めながら、震える目をアナキンへと向けた。

 

「我々に敗北という言葉はない…!!」

 

その瞬間、再び轟音が響く。ナインス・シスターたちが乗ってきた船を押し除ける形で格納庫へ新たな帝国の船が降りてきたのだ。

 

着陸と同時に開くハッチから、硬いブーツの足音を響かせながら、3人の黒い影がゆっくりと降りてきて、アナキンとルークを睨みつけた。

 

「カイロ・レン…!!」

 

「また会ったな、未熟なジェダイ」

 

3人の長であるレン騎士団の筆頭騎士、カイロ・レンは雪上に降りると、腰にかけているクロスガードライトセーバーを手に取り、そこから真っ赤な光刃を立ち上らせた。

 

「この前より僕の力は倍になっていると知れ!」

 

「いいだろう。その傲慢が命取りだ」

 

その言葉を交わした刹那、ルークはライトセーバーを起動させて向き合うカイロ・レンへとブレードを翻した。弾け合うような剣戟を開始したルークとカイロ・レンを見て、若かりし頃の自分がフラッシュバックするアナキンは、振り返した記憶を追いやりながら声を上げた。

 

「よせ!ルーク!相手を…ぐっ!?」

 

その声を許さなかったのは、カイロ・レンの後ろに控えていた二人の騎士だった。ナインス・シスターをフォースで船側へと引っ張った騎士マレック・レンは、共に真紅のライトセーバーを握り、アナキンへと襲い掛かったのだ。

 

数撃の剣舞を重ねて、アナキンははっきりと自覚する。この二人は先ほどの尋問官とは比べものにならないほど強敵であると。

 

アナキンが型をジュヨーへと切り替えると、二人の騎士はそれぞれ距離を取る。マレック・レンの手からフォース・ライトニングが放たれ、アナキンは眩い稲妻をライトセーバーで受ける。

 

その隙をついた残りの騎士が近づくが、アナキンは空いた手でフォース・ライトニングを放つマレックを吹き飛ばし、襲いかかってきた騎士の一撃を弾いた。だが、それは悪手だったとアナキンは気がつく。

 

弾いた相手のセーバーの根本には銃口が備わっており、弾いたと同時にその銃口はアナキンを捉えていたのだ。カウンターのように繰り出されたブラスターの一閃は、アナキンの頭部目掛けて繰り出された。

 

(アナキン!!)

 

どこからから声が聞こえた。アナキンはその瞬間に全てのフォースの感覚を研ぎ澄ませた。体を地へと放り出した彼は、フォースの流れに身を任せて人体の力では再現できない動きで雪に弧を描き、体を回転させて迫りくるブラスターを躱したのだ。

 

下から正眼の構えのようにライトセーバーを握るアナキンに、二人の騎士は警戒心をさらに跳ね上げて真紅のブレードを構えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

氷を掘って作られたトンネルの中で、赤と青のライトセーバーがぶつかり合っていた。

 

くそっ!ルークは心の中で毒付きながら、降りかかるカイロ・レンからの一閃をなんとか受け切っていた。本来なら修行を重ねた「マカシ」を駆使して挑みたいが、攻撃の巧さや隙のなさはカイロ・レンが上回っているため、防御に特化した「ソレス」を織り交ぜることによって、ルークはなんとかカイロ・レンとの攻防に追いすがっていた。

 

トンネル内の氷をライトセーバーが溶断し、二人が剣閃を重ねた後には幾つもの傷跡が壁や床に刻まれていた。

 

素早くライトセーバーを振りかざしたルークへ、一合のもと幾つもの攻撃が叩き込まれ、息を合わせた攻防の中でルークとカイロ・レンは鍔競り合った。

 

「その程度か…?ジェダイ!!」

 

赤と青の光がカイロ・レンの漆黒のマスクに映り込む。ルークは押されるライトセーバーを力任せに押し返し、フォースプッシュでカイロ・レンを押し出そうとしたが、彼の動きはそれより早かった。

 

押し返したルークの隙を突いて放った蹴りが見事に命中すると、ルークは通路の出口まで吹き飛ばされ、無造作に放置された物資用コンテナに体を打ち付けた。

 

カイロ・レンは体を打ってうずくまるルークへクロスガードライトセーバーを投擲する。その光景を見たルークは必死に投擲された一撃を弾くと、コンテナを飛び越えて再び格納庫へと着地した。

 

その時だった。

 

「スターファイターか!?」

 

重ブラスター砲の発射音が轟くと、アナキンを囲んでいた騎士は素早く防御態勢へと入った。現れたのは、ルークやアナキンたちが乗っていたジェダイ・ファイターだった。

 

「いいぞ、R5!!」

 

笑みを浮かべるアナキンへ、操縦を司るR5やR2は軽快な電子音を奏でて、コクピットキャノピーを開く。アナキンの声に従い、ルークもすぐに飛び上がって、二人はドロイドが自動操縦するファイターへと乗り込むと、そのまま格納庫から一気に離脱していった。

 

ルークが振り返ると、そこには真っ黒な外套をはためかせながらこちらを見つめているカイロ・レンの姿があった。そして、それはすぐに見えなくなる。真っ白な銀世界を背に置いて宇宙へと離脱するアナキンたち。

 

カイロ・レンとの技量の壁に悔しさを噛み締めるルークを他所に、アナキンは二人の騎士から難を逃れた時に聞こえた微かな声を思い返していた。

 

(惑星ダゴバへ向かえ。そこでお前たちを待っている人がいる…フォースと共にあれ)

 

「オビ=ワン…?」

 

その声は、あまりにも自分がよく知っているものであった。だが、彼はもういない。デス・スターで、あのシスの暗黒卿によって倒されてしまったのだから。心配そうに電子音を奏でるR5に「大丈夫だ」と答えて、アナキンは操縦桿を傾ける。

 

「父さん、反乱軍の合流ポイントに向かうの?」

 

「いいや、違う。惑星ダゴバへ向かう」

 

驚くほどの即答だった。ハイパースペース用のユニットにドッキングする父に続くルークは、その返事に首を傾げた。

 

「ダゴバ?あの星に反乱軍の基地なんて…」

 

「古い知り合いがいる。そんな予感があるんだ」

 

ルークの戸惑った声にアナキンは答えると、二人のファイターは、そのまま尾を曳く星々の景色を飛び越えて、ハイパースペースへと飛び込んで行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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フォールンオーダー

「着いたぞ、ジオノーシスだ」

 

スティンガー・マンティスのコクピットで、船長であるグリーズ・ドリタスがそう告げると、乗船していたカル・ケスティスは、トリラ・スドゥリ、そしてナイトシスターであるメリンらと共に、荒野の大地へと降り立った。

 

アウター・リム・テリトリー。

 

アケニス宙域に属するジオノーシスは、砂漠の惑星であった。

 

月と彗星の衝突によってできた巨大な小惑星帯のリングに囲まれ、地表には岩石の荒野と砂漠が広がっている。その光景を見て、まだ銀河の果てが見えないメリンは感慨深そうに息をつく。

 

「本当に砂漠しかない土地なのね」

 

「ジャクーよりはマシさ。あそこは温度もこことは比べ物にならない」

 

ナイトシスターの伝統的な衣装束から、環境に応じて変更できる服装へと変えたメリンの言葉に、カルはBD-1を肩に乗せたまま答える。ジオノーシスは荒野であるが、ジャクーやタトゥイーンは完全な砂漠惑星。まだ暑さもマシなジオノーシスのほうがよほど居心地は良かった。

 

「おしゃべりは程々に。私たちはここへ観光しに来たわけじゃないんだから」

 

「わかってるよ、トリラ」

 

二人を諫めるように言うトリラに従って、カルたちはジオノーシスの荒野を歩く。しばらく進むと、赤い地表と幾つもの尖塔が現れ、崖から覗く眼下には荒野には似合わない機械的な地下施設が広がっていた。

 

その様子を見て、メリンが顔をしかめ、少しよろめく。肩を抱いてカルが受け止めると、彼女の体はわずかに震えていた。

 

「メリン、何かを感じるのか?」

 

「ええ…ここでは…恐ろしいことがあった。ダソミアで起こったことと同じような何かが…」

 

緑色の煙のような陰影を浮かび上がらせるメリンの脳裏には、聞き取ることができないほどの断末魔の叫び声が聞こえてくるようだった。ダソミアで起こった殺戮。その後に残されたメリンが感じ続けていた、息が詰まりそうな重みがあるように思えてならない。

 

顔色を悪くするメリンの側に、後から付いてきていたシア・ジュンダが荒野を見渡しながらカルたちに声をかける。

 

「——かつて、この星にはジオノージアンという種族がいたわ。クローン戦争の時よ」

 

この地で生を育んでいたジオノージアンは不運にも利己的で、合理的だった。共和国に組みさずに分離主義者と手を組んでおり、同時にシスの暗黒卿とも手を組んでいたのだ。知性的なジオノージアンが設計した〝究極兵器〟を作り上げるために。

 

「デス・スターを完成させた帝国は、秘密を知るジオノージアンを皆殺しにしたのね…。BD-1が生命体反応をキャッチできなかったのもそれが理由」

 

「酷いな…」

 

シアの説明を聞き終えたカルが簡潔に心に感じ取った思いを口に出した。

 

「けれど、身から出た錆とも言える最期ね」

 

「虐殺することはなかったはずだ。それも種族を根こそぎなんて」

 

トリラの言うことも尤もだ。彼らは分離主義者、それもシスに加担したのだ。嘘と虚構が常套句であるシスが、ジオノージアンの要求すべてに応じることなど考えにくい。彼らは信じた闇に裏切られてこの世を去ったのだ。だが、それでも、その最期はあまりにも凄惨で、惨いものであった。

 

「デス・スターの設計図を知っている以上、秘密裏に敵国への対抗策で建造されるわけにもいかなかったんでしょうね」

 

シアがそう続けても、カルの心が晴れることはなかった。物体のフォースの記憶を読み取ることができる彼は、より顕著にジオノージアンの最後を感じ取ってしまっていたからだ。そんな中、カルのコムリンクに通信が入る。

 

《お楽しみのところ悪いが、俺たちの仕事が何だったか覚えてるやつはいるか?ん?》

 

「わかってるさ、グリーズ」

 

《ああ、それならよかった。安心だな》

 

マンティスの船長であり、このチームのムードメーカーでもあるグリーズの言葉を聞いてから、カルたちは自分たちの目的である場所へと移動を開始する。ワイヤーを崖に固定し、茶色い岸壁を降りてゆくと、さっきまで感じることのなかった鉄の床の感触を踏み締めた。

 

「この星にはドロイドを生産する工場があると同時に、大規模な鉄鉱山もあるの。ドロイドのボディや装甲を作るために使われる鉄は全てこの星で賄われてるの」

 

「今まで無人だったはずのその鉱山に出入りする組織があると…?」

 

シアの言葉に問いかけたトリラ。彼女の質問には、通信を繋ぎっぱなしにしていたグリーズが答えた。

 

《あくまで噂だがな?だが、ハクシオン・ブルードが躍起になって追ってる案件なだけの情報価値はあるな》

 

〝ハクシオン・ブルード〟は、アウター・リム・テリトリーで活動する犯罪シンジケートだ。過去の一件でカルが捕らえられ、アリーナで怪物たちと戦わされて以降、向かう先で邪魔をしてくる厄介者たち。

 

だが、カルたちにとってハクシオン・ブルードは無関係な存在。彼らがカルを敵視する理由はないが、カルの仲間であるグリーズを目の敵にするには十二分な理由があった。

 

「また揉め事?グリーズ?」

 

うんざりするハクシオン・ブルードの名を聞いたカルがうんざりした様子でグリーズに聴くと、彼は誤魔化すように早口で答える。

 

《まさか。俺はもうギャンブルには手を出してない。日がな一日、マンティスで観葉植物を育てたり、腹を空かせて帰ってくるお前たちにステーキを焼いたりするくらいな日々だ。まぁ…なんだ、過去のことを引っこ抜けばだがな?》

 

「グリーズ?」

 

《わかってる!トリラ、そう怒ったような声で呼ぶな!とにかくこんな気味の悪い星からはさっさと抜けちまおう》

 

そう言い終えてコムリンクを切ってしまったグリーズに、全員が呆れたように肩をすくめる。「私は彼のこと好きよ」と、まだ迷惑をあまりかけられてないメリンが挙手してフォローするが、あまり効果はなかった。

 

「とにかく、廃墟になった工場を調べるしか他ないわね」

 

「ああ、それにグリーズの言う通り、ここは嫌な予感がする。早めに立ち去った方が良さそうだ」

 

シアの言葉に賛同したカルは、嫌な予感を外へと追い出し、トリラたちと共に廃坑となったジオノーシスの地下へと飛び降りてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

地下へと降りたカルたちが目撃したのは、かつては分離主義者たちが戦力として扱っていたドロイド工場の跡地であった。

 

潤沢な資源から掘り出された材料を用いて、ジオノージアンはドロイドを作り上げていたのだ。

 

だが、その工場も今では廃墟同然。クローン戦争を彩ったドロイド兵もスクラップ同然。まさにつわものどもが夢のあと、と言ったところだろう。

 

だが、奥へとカルたちは足を進める。相棒であるBD-1は、廃墟と化した工場という目先の情報ではなく、より奥底にある〝何か〟を発見していた。廃墟の中を進むカルたちが、工場の最下層にたどり着いた時だ。

 

奥底から何かが動く音がカルたちへと届く。

 

「稼働している…。ドロイドたちが何かを作ってるぞ」

 

通気口を抜けた先、点検用通路から工場の様子を見つめるカルたちは、作業用のアームやドロイドが何かを製造している現場を目撃したのだ。

 

「やっぱり廃墟になったという噂はカモフラージュだったのね。カル、トリラと共に制御室へ、私はドロイドの注意を逸らすわ」

 

ブラスターを腰に下げるシアが慎重にそう言うと、彼女のパダワンであったトリラが小さく笑った。

 

「懐かしいですね、マスター。あの時も貴女が前に出て私やパダワン見習いを守ってくれました」

 

彼女が思い出していたのは、コルサントを逃れた後の事だった。クローンの反逆、オーダー66によって多くのジェダイが命を落としたあの時、シアは共に脱出したジェダイ・イニシエイトを守るために単身で帝国率いるクローン兵と戦いに挑んだことがあったのだ。

 

その過去を思い返して、シアは申し訳ないようにトリラへ視線を送る。

 

「トリラ、私は守れてはいなかったわ。ノーバディに属することになってから、私は見た通りフォースとの絆を絶ったのよ。それは今でも変わらないわ」

 

「けれど、マスターは正しいことをしたはずです」

 

そう言ってくれるかつての弟子に、シアは力なく首を横へ振った。思い出すのは、トリラたちを守るために戻った瞬間。トルーパーに押さえつけられたトリラ、そして銃口を向けられ怯える子供たちだ。あの時、モールや他のノーバディたちが助けに来てはくれたが…。

 

「貴女たちを守るために私はダークサイドに手を伸ばしかけた。他のノーバディたちの助けがなければ、私は今頃もっと多くの大切なものを失っていたはず…だから、私は…」

 

その瞬間、カルたちがいた点検用の通路が赤い光によって溶断された。支えていた柱ごと切られたことで、カルたち全員が下へと投げ出される。カルはメリンを、トリラがシアを庇う形で着地するが、体を強く打ち付けた二人は、しばらく鉄の床の上で呻く。

 

「来ると思っていたぞ。半端者たち」

 

その声に、カルが顔を上げた。真っ赤な鉄が溶鉱炉へと流し込まれている光景を背に、ブーツの音を響かせながら無精髭を生やした男が笑みを浮かべてカルたちへと歩み寄ってくる。

 

「タロン・マリコス…!!」

 

声を上げたのは、カルの腕の中から立ち上がったメリンだった。ナイトシスターの一件で、ジェダイを仇とすり込まれた彼女にとって、その首謀者であったタロンには並々ならぬ感情があったからだ。激情に顔を歪めるメリンを見て、タロンはわざとらしくお辞儀をするような素振りを見せる。明らかな挑発だ。

 

「メリン、元気にしていたか?ダソミアを出て世界が広がったであろう?」

 

「喋るな、このペテン師め」

 

「人聞きの悪い言い方はよしてくれ。私は実に真実を君に伝えただけだ。〝ジェダイがダソミアの戦士や君の姉妹を殺した〟とな」

 

そう答えたタロンに、緑炎の塊を手に宿らせるメリン。怒りに身を任せる彼女の肩を、立ち上がったカルが押さえた。穏やかなフォースを流して、怒りに震えるメリンをなんとか落ち着かせる。

 

「ジェダイではないだろう!彼らを虐殺したのは分離主義者たちだ!」

 

「いいや、違うぞ?ケスティス。ジェダイが殺したのだ。旧共和国の評議会がライトセーバーを手にクローン戦争に乗り出した段階でな」

 

カルの問いに、タロンは簡潔に答えた。それが全てだと言わんばかりに。その余裕とも思える表情に、トリラも苛立たしげに顔をしかめた。

 

「こじ付けを…!!」

 

「だが、正しい物の見方だ。ジェダイが平和の守護者ではないと理解しているのはお前たち〝ノーバディ〟であろう?何を異議を申し立てる必要がある。ジェダイがライトセーバーを手に戦場に出た段階で、本質から外れていると理解しながら、お前たちは何故ダークサイドの力にあらがう」

 

「その力もまた、単なる一方からの視点から見た在り方に過ぎないからよ、タロン・マリコス」

 

「ははっ、賢くなったな?トリラ。もうパダワンからは卒業といったところか」

 

カルたちの周りを、タロンはまるで獲物を狙う猛獣のように歩み、間合いをはかる。彼の手には、すでに二刀のライトセーバーが握られていた。

 

「かつて、そのすべてに気がついた偉大なジェダイがいた」

 

緊張感に包まれる中、元ジェダイであったタロンは語り部のような口調で言葉を紡ぐ。

 

「共和国の平和の守護者などという無駄な肩書きに惑わされず、フォースの真意を見つめる偉大な存在。クローンに裏切られた私はそこでようやく気づかされた。彼という存在のあり方こそ、私が求めた真なるジェダイへの道なのだと」

 

そして同時に、それが私に新たな道標を示した。ジェダイ評議会などと言う偽りの守護者どもとは違う、はっきりとした道を。そう語るタロンに、カルはライトセーバーを構えて声を上げた。

 

「答えろ、タロン!お前はここで何をしている!このドロイドたちは何を作っているんだ!!」

 

「いいや、何も?私がここにいるのも後片付けと言っていいだろうな」

 

「とぼけたことを…!!」

 

「とぼけてなんていないさ。すでにここは〝用済み〟。お前たちがここに来る段階で計画を明かすほど、我々が間抜けに見えるか?」

 

すでにこの場所を使って行う計画は終了している。あとは無意味に動き続けるこの工場を跡形もなく消滅させることが、私の任務だ。そう続けたタロンに、シアは目を細めた。

 

「我々?タロン、貴方は…」

 

その言葉を、鉄を切り裂く音が遮る。タロンの両の手から伸びる赤い光刃は、鉄の床に真っ赤な爪痕を残し、その威光を示す。

 

「お前たちは罠に嵌ったのだよ。私の手で引導を渡すためにな…!!」

 

これは…まずい!カルの直感が叫んだ。ダソミアで戦った相手とは違う何かを、今ははっきりと感じる。

 

「構えろ、トリラ!!」

 

言われるまでもない、そう言わんばかりにカルとトリラは懐から黄色い光を立ち上らせるライトセーバーを構える。シアもブラスターを構え、メリンも両手に緑炎を纏った。それを見ても、タロンは瞳を黄金色に輝かせて笑みを浮かべる。

 

「すべては、あの方のために…!!」

 

二つの赤い刃を地に迸らせて、タロンは構えたカルたちへと襲いかかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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敗軍の将は兵を語らず

 

 

 

惑星、ダゴバ。

 

アウター・リム・テリトリーのスルイス宙域に属した沼とジャングルの惑星であるその星は、豊かな生態系とフォースに満ち溢れ、都市やテクノロジーは存在せず、人の手が入っていない未開の自然が広がっていた。

 

クローン戦争の最中、ジェダイのグランド・マスター・ヨーダは、フォースに導かれ悪の洞窟で未来のヴィジョンを見た。

 

クローン戦争終結時、予見されていた未来が実現すると、オーダー66を生き延びたヨーダはダゴバに身を隠し、長い隠遁生活を開始したのだった。

 

「ジェダイは…滅ぶべくして滅んだのじゃよ。マスター・スカイウォーカー」

 

訪れたアナキンと、その子供であるルーク。彼らに対して、ヨーダはまるで贖罪のように言葉を綴った。古く倒れた巨木の根に居を構えたヨーダは、豪雨が降りしきる中、揺らぐ焚き火に目をやりながら過去を思い返す。

 

結局のところ、ダゴバで見た未来の予見を知っていてもなお、ジェダイ・オーダーの破滅とシスの台頭を防ぐことができなかった。あの瞬間から、今までの全てが間違いだったと思えるほど、ヨーダの心は疲れ切っていたのだ。

 

「ワシらジェダイは、それに気がつくのが遅すぎたのじゃよ。ワシは…パルパティーンを、いや…ダース・シディアスを暗殺する瞬間も、奴から逃げたときも、それに気づくことができなかった。情けない話じゃ…こうやって、ダゴバに逃げ込み、袂を別けた弟子に諭され、ようやく我らの過ちに気が付くことができたなぞ…」

 

そう言うヨーダの横には、同じく老齢となり、ノーバディや伯爵という地位すら捨てたドゥークーが居た。

 

彼もまた、世界の在り方やフォースと向き合うことに疲れ切っていた。

 

ダゴバでヨーダと出会うことを決めたのは、ジェダイとシス、そしてノーバディという地位を駆けたことで得た知識を、ヨーダに伝えると同時に、これから先のフォースをどう見つめるか、瞑想する目的もあった。

 

「今更…!!それを言って何となると言うのですか…!!」

 

ヨーダの言葉に、アナキンは激昂したように言葉を吐く。そんな父を見ることは初めてであった。ルークは父のフォースの乱れに驚きを隠せないまま、それでもとヨーダに問いかける。

 

「しかし、ジェダイ・オーダーを再建できれば、新たなる平和の守護者として…」

 

今では、立ち位置は違えど多くのフォースの感応者がいる。カルや、トリラ、そしてモールたち。彼らを説得すれば、より良いジェダイ・オーダーを再建できるとルークは考えていた。

 

だが、その考えにかつてのグランド・マスターとその弟子は、首を横へ振った。

 

「その考え自体が我々の傲りだったのだよ、若きスカイウォーカーよ。平和の守護者として立つことがジェダイの真の役目だと決めつけ、見方を固定化したのがそもそもの間違い。フォースを通じてあらゆる側面から物事を見つめるのが務めであった。しかし、我々はそれを放棄したのだ」

 

そう答えたドゥークーの言葉に、ルークは酷く既視感を覚える。それではまるでナブーで争い事から遠ざかろうとしたマスター・クワイ=ガンと何も変わらないではないか。ルークは苛立ちに似た感情を抱いた。

 

「では、ジェダイは世捨て人になれと?」

 

「そう言ったこともフォースの導きかもしれん」

 

「しかし、世界は変わり続けてます。急速な変化は混乱と、不安と、争いを生む。それを無くし、より良い平和な未来へと足掛かりを、踏み台を作るのがジェダイ・オーダーの役割では?」

 

そう告げたルークの言葉に、ドゥークーは少し驚いてから、懐かしそうに目を細める。

 

〝いかにもだ。だからこそ、変革が必要なのだよ。もはや共和国もジェダイも、腐敗や慢心を生み出す発生装置にすぎん〟

 

〝しかし、貴方が行おうとすることは世界を急変させます!急ぎすぎた変化は人々を置き去りにし、不安と、混乱、争いを呼びます!〟

 

フォースの瞑想の最中で交わした言葉が遠い過去にある。ドゥークーは、用意したダゴバのハーブで作った茶を木彫りの器に注ぎながら話し始めた。

 

「かつて、多くのジェダイの中でもたった一人、マスター・ヨーダと別れた道を歩んでいた私にそう言ったジェダイがいた。彼はとても優れたジェダイであり、あらゆる側面をフォースを通じて見つめ、そして思考し続けていた」

 

その者は、ジェダイの中ではあまりにも異質で、浮き上がるほど特別な存在にも思えた。まだドゥークーがジェダイ・オーダーから抜ける前のこと。彼は暗黒卿であったはずのダース・モールの心の奥底を紐解き、そして理解したのだ。ジェダイとしてあるまじき行為だというのに、彼はそれを是として考え、そして行動に移し、誰もが予想だにしてなかった結果をもたらした。

 

彼は、多くを見つめていた。ライトサイドも、そしてダークサイドすらも。

 

「ログですね」

 

思いふけるドゥークーへ、アナキンは察したように答えを投げる。その言葉に、息子であるルークは困惑した様子だった。

 

「父さん…?」

 

父が名を出したのは、母が語ってくれた人物の名だった。父と母、そしてオビ=ワンやクワイ=ガンとも共通だった友人であり、最大の理解者であったと聞く古き友。彼はクローン戦争で父の身代わりとなって死んでしまったと聞く。

 

「ログ・ドゥーラン。かつて、ジェダイ・オーダーにいた若く、強く、そして聡明なジェダイであった」

 

「彼はマスターになる素質があった。誰よりも偉大な。そんな彼を追い込んだのは、僕たちジェダイ・オーダーだ」

 

深い信頼と、思いが篭るフォースとは裏腹に、アナキンの顔は酷く怒りと悲しみに満ちているようにも見えた。

 

ログ・ドゥーランの話は、母は常に父がいない場でルークやレイアに語ってくれた。一度レイアがログの話を父にしてしまった時がある。その時の父は酷く動揺し、取り乱していた。泣いているレイアと、父に寄り添う母を見た結果、ルークもレイアも、父の前でログの話をすることは一切無かった程に。

 

「怒りに満ちておるな、マスター・スカイウォーカー。だが、その怒りを我々は受けなければならない。咎とも言えよう」

 

ヨーダの言葉に、アナキンの怒りが収まることはなかった。彼にとって、その言葉を発していい者はジェダイには居ないのだ。自分を含めて全てが、彼をあのような末路に追い込んだ者たちだから。

 

「ログ・ドゥーランは見抜いていたのだ。ジェダイ・オーダーが本質的なジェダイの思想から外れていると言うことを…いや、そもそもジェダイとシスという思想すら、彼は違った視点を持って見つめていたのかも知れん」

 

「その、ログ・ドゥーランは…どうなったのですか」

 

母が語ることがなかったログの最期。彼はアナキンとオビ=ワンから、グリーヴァス将軍の討伐の最中に殺害されたと聞いている。だが、誰に、どうやって倒されたのか、なぜ倒れてしまったのか、その真相をパドメは決してルークたちに語ることはなかった。

 

「彼の名はまさに動乱の記録だ。クローン戦争末期、ダース・シディアスによるクローンの反逆があった。多くのジェダイが死んだ。そして、そのジェダイ抹殺を先んじて行ったのが…」

 

「やめろ!!!」

 

ドゥークーの語りを止めたのは、アナキンだった。見るからに顔を青くし、息を荒くするアナキンの姿。

 

彼にとって、忘れたくても忘れられない罪。

 

まだ覚えている。

 

彼を…親友だと信じていた相手を貫いた感触。

 

声や、フォースの感覚すらも。

 

その全てがアナキンの背に重くのしかかっていた。乱れる呼吸を整えるアナキンを見つめて、ヨーダは小さく息をつく。

 

「彼は殉じたのだ。ジェダイとして。クローン戦争で歪み切ったジェダイの思想を断つため」

 

今になって理解できる。彼はシスや暗黒面に落ちたわけではない。殉じたのだ。シディアスが言った言葉通り。ログ・ドゥーランはその身を賭して、ジェダイの時代に終止符を打つこととなったのだ。

 

「そんな…では、ジェダイとは…シスとはなんなんですか?」

 

震える声で、ルークはかつてのグランド・マスターへ本質を問いかける。では、ジェダイとは?シスとは?滅びるべくして滅びたジェダイと、この世の全てを恐怖と暴力で支配下に置くダークサイドと、どういう違いがあって、どんな世界が真に求めるべきものなのか。ルークは分からなくなってしまった。ヨーダは言葉を選ぶように瞑目する。

 

「フォースのライトサイドとダークサイド。その中道には、多くの運命が渦巻いておる。全てを二つに分かつことなど不可能なのじゃ、若きスカイウォーカーよ」

 

「では、どうすればいいんですか?」

 

「伝えることじゃ」

 

ヨーダは簡潔に、ルークへ伝える。

 

「学んだことを伝えればよい。強さ、技術。それに弱さ、愚かさ、失敗も」

 

かつての自分たちはそれを怠った。成功とジェダイの思想ばかりに傾倒し、自分たちが犯した過ちの全てをフォースの冥界へと閉じて、それから目を逸らし続けた。滅ぶべくして、ジェダイは滅んだ。

 

ならば、自分たちの務めは滅びを避けることでも、ましてやそれを不死鳥の如く蘇らせることでもない。

 

「失敗は最も大切じゃ。失敗は最良の師となる。わしらは追い越されるために存在する。それこそがすべてのマスターの真の責務なのじゃ」

 

そう言って、ヨーダはアナキンとルークを見つめる。そして、その彼らを後ろから見つめる〝古き友〟にも。

 

「そのために、ぬしらはここへ導かれたのじゃ」

 

では、最後の修行を始めよう。グランド・マスターは二人に告げると、かつての弟子であるドゥークーと共に立ち上がる。

 

これが自分たちにとって、最後の役目だった。

 

 

 

 

 



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帝国の陰謀

ジオノーシスの地下工場の中。

 

幾つもの柱を足場にして飛び交うトリラは、黄色の光を放つライトセーバーを携えて、一気に足場から飛び降りた。眼下では巨大なコンベアの上で同じ色のライトセーバーを振るうカルと、赤い二対のライトセーバーを翻すマリコスが剣舞を閃かせてぶつかり合っている。

 

トリラが飛び降りてくることを察知していたマリコスは、カルをフォースプッシュで押し出し、振り返り様に飛びかかってきたトリラへ回し蹴りを繰り出す。

 

「トリラ!!」

 

足場を飛び回るアタルの型を使うトリラが吹き飛ばされたのを見たカルは、腰を落とし再びマリコスへとライトセーバーを振りかざす。

 

「その程度か!!」

 

「マリコォォス!!」

 

ブレードをぶつけ合い、弾かれ合う。プラズマで形成させる刃は膨大な熱エネルギーと、アーク波を放って辺りを照らし、往々にして激しい剣戟が繰り広げた。

 

「フォースの乱れを感じるぞ。お前はまだジェダイに縋り付いてるのか?あの戦争で死んだマスター・タパルの背を見て!!」

 

「黙れ!!」

 

セーバーのスパークを挟み、ニヤリと笑みを浮かべるマリコスを睨み付けるカル。だが、その力量差は遥かであり、マリコスの余裕さを崩すには力は及ばなかった。剣戟を重ねる中で、マリコスは距離を置くと、フォースの力で両の手に携えていた赤いライトセーバーを空中に浮かして弧を描かせてゆく。

 

「何者でもあり何者でもないと唄うノーバディが笑わせる。貴様は所詮、古き思想から脱却できずに足掻く、哀れな童にすぎん!!」

 

腕を組んでそう吐き捨てるマリコス。その隙を逃すまいとメリンが緑炎の魔術をぶつけるが、彼は宙に浮くライトセーバーを翻してメリンの放った魔術を尽く討ち払った。

 

カルは歯を食いしばりながら硬い鉄の床を蹴ってマリコスへと駆ける。ライトセーバーの切っ先から放つ突き、そしてそこから手首のスナップで放つ横なぎ、真上に構えた袈裟斬りと放つが、その全てをマリコスは躱し、足の踏ん張りが疎かになったカルの刃をすくい上げるように払った。

 

「カル!!」

 

地に転がるカルを援護するシアのブラスターの一撃は、マリコスの背後へと伸びるが、彼はその閃光に一瞥もくれずライトセーバーを振るってシアのブラスターを弾き飛ばした。

 

「その程度の覚悟でフォースの夜明けなど、片腹痛い!!」

 

シアは自分の迂闊さを呪った。メリンもトリラも、マリコスが放つダークサイドの力に太刀打ちできていない。カルも打ち付けられた体を庇いながら立ち上がるが、その実力差は火を見るよりも明らかであった。

 

「さぁ、どうする。カル・ケスティス。お前にその道を選ぶ覚悟が本当にあるのか?」

 

肩で息をするカルへ、真っ赤なライトセーバーの切っ先を向けるマリコス。そんな彼を見据えながらも、カルもまた刃を収めていたライトセーバーを起動し、構えた。

 

「覚悟ならある…!!」

 

「ならば、その覚悟と共にここで果てるがいい!!」

 

一閃、二閃。カルの構えたライトセーバーに斬りかかるマリコスの刃は、彼の体を揺らして、ライトセーバーを揺るがし、そして3撃目でカルの防御の型を完全に崩した。決定的な隙だ。ライトセーバーを構えたトリラが駆けながら叫ぶ。シアも、メリンもだ。彼女たちがカルを守ろうと体を向かわせるが、それでもトドメの一撃を振るうマリコスの方が早い。

 

カルの背中にいるBD-1が悲鳴のような電子音を奏で、カルは迫り来る赤い光を前にグッと身を固めることしかできなかった。

 

静寂。ライトセーバーの一撃が放たれてどれだけ経ったのか。だが、驚くほどにカルの体に痛みと熱さが迸ることはなかった。恐る恐ると目を開くと、そこには斬りかかろうとしていたマリコスのライトセーバーの刃が、まるで時間を止められたように存在していた。

 

光が蠢くことで、カルはようやくマリコスのライトセーバーが不可視の力で押し留められていることを知る。

 

後ろ踏みで迫ろうとしていた赤い光刃から逃れたカルは、マリコスの後ろで手を差し伸ばしている人影を見つけた。

 

「これはこれは…モール卿。お前が自ら出てくるとは」

 

マリコスは振るっていた刃をまるで何かから引き抜くように振るって、後ろへと振り返る。そこには、マリコスの刃へフォースの力を送っていたモールの姿があった。

 

格好は、クローン戦争の時に発足したノーバディが身につけていたテンプルガードの戦闘服のままだが、その至るところは継ぎ接ぎだらけで、彼の顔を隠していたマスクもない。老齢となったモールは目を細めながら、力のあるマリコスを見つめる。

 

「答えろ、タロン。お前はここで何を〝任されていた〟?」

 

「そこまで知っているなら、答える理由はないであろう?モール卿、お前がノーバディからモールに戻った日から、こうなることは予見できていたはずだ」

 

「答えろ、〝マスター〟は本気なのか」

 

声色にフォースを織り混ぜて、モールは問う。彼がマスターと呼ぶのは、後にも先にも二人だけだ。蓄えた髭に手をやりながらマリコスはモールの思惑を読み解き、得心がいったように頷く。

 

「ああ、本気だとも。でなければ、こんな辺境の地でコソコソと準備などするものか」

 

そう言い終えたマリコスの背後に、帝国軍の輸送船が轟音と共に降りてきた。無理やり船体を入れたため、老朽化した工場のパイプや柱が落ちてくるが、マリコスはそれらを全く気にせずに開かれたハッチへと乗り込み、モールやカルを見渡した。

 

「いいか、これが〝序章〟となる。その先にあるものが真なる世界か、それともフォースの夜明けか。その答えを得る時を楽しみにしているぞ」

 

不敵な笑みを残したマリコスは、閉じられてゆくハッチの奥へと消えてゆき、帝国の船は再び轟音を上げて地下工場から地上、そして宇宙へと飛び立ってゆくのだった。

 

「モール…」

 

「俺にも気になることがあってな。だが、奴がここにいた事が、何よりの答えだ」

 

マリコスが去った先を見上げるモールに、シアが話しかけるが、彼は落ちている破片の一つを拾い上げてから答えた。

 

「彼は、ここで何をしていたというの?」

 

「作っていたのさ。新たなる兵器を」

 

その言葉に、シアは顔を暗くさせた。シアたち、チームマンティスが幾月もかけて調査していたもの。噂程度の話しか掴めなかった物の断片が確かにここにはあった。

 

モールが取り出して起動する電子端末に浮かび上がったシルエット。そこには、帝国の第二のデス・スターのデータが映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

アウター・リム・テリトリー。

 

惑星ベスピン

 

アノート宙域に属した大型のガス巨星であるこの星は、居住に適した大気層もあった。

 

ベスピンのガス層は貴重なティバナ・ガスの源で、複数の採鉱施設でガスの収集や製錬が行われていた。クラウド・シティもそうした施設のひとつで、雲の中に浮かぶ巨大なメトロポリスだった。

 

そのクラウド・シティの中で、今はハン・ソロの悲鳴が響き渡っている。

 

ホスから脱したハンのファルコン号は、ハイパー・ドライブが故障していたため彼は「かつての友人」ランド・カルリジアンが所有するガス採取コロニー・クラウド・シティに進路を取った。

 

だが、その足取りを賞金稼ぎであるボバ・フェットは気づいており、ボバは逃亡者たちの追跡を始めた。

 

カルリジアンがハンたちの到着の直前に帝国の〝スローン大提督〟の圧力に屈し、クラウド・シティの中立を遵守するという条件で取引に応じたことを明かした。スローンは彼らを拘束し、ハンから反乱軍の合流ポイントを聞き出すだけ拷問し、その悲鳴がクラウド・シティの施設内にこだましていたのだ。

 

「ソロの身柄は了承した。だが、レイア姫やアミダラ議員の身柄の話は契約違反だ」

 

幾人の護衛であるトルーパーを引き連れる青い肌と赤い目をしたスローンに、ボバはマスク越しに物申す。

 

ボバの目的はジャバ・ザ・ハットから依頼されたハンの身柄を抑えることにある。そして、旧知の仲であるレイアとパドメの救出も密かに企てていたが、その目論見は目の前にいるスローンの一声によって潰えようとしていた。

 

「勘違いするなよ?賞金稼ぎ。君のクライアントは私だ。彼女たちの身をどうするかは、私が決める」

 

「ヴェイダーから俺は任務を受けた。レイア姫やその関係者がいた場合はヴェイダーの元に送り届けるまでが、俺の仕事のはずだ」

 

だからクライアントはアンタではない、とボバははっきりとスローンへ告げた。ハン・ソロを追っていたボバの目的は事実であるが、レイアやパドメは想定外もいいところだった。その場合は依頼者へ送り届ける手筈となっている。この賞金稼ぎとしての仕事の依頼口は、ダース・ヴェイダーからの直々の依頼のはずだ。だが、スローンは憎たらしい笑みを変えず、見下すような目つきのままボバへと告げた。

 

「ならそうなったことを伝えるために、君一人でヴェイダー卿のもとへ向かうがいい」

 

それだけ伝えると、スローンは踵を返してトルーパーたちと共に施設の奥へと消えてゆく。あとを追おうと踏み出そうとしたが、失った片手を義手に変えたナインス・シスターたち尋問官によって行手を遮られる。

 

「これ以上、スローン大提督は話すことは無いよ」

 

報酬が欲しいなら大人しく引き下がることだね、威圧的な物言いで告げるナインス・シスター。腰に視線を落とせば、その手には回転式ダブル=ライトセーバーが握られている。周りにいるパージ・トルーパーたちも同じように戦闘態勢を取っていた。

 

ここで事を起こすのは得策ではないな。

 

「承知した」

 

短く告げると、ボバは装甲服とスカーフをなびかせて通路を歩み出した。ハンのことは知ったことではない。彼はハットとの約束事を違えた愚か者だ。

 

だが、レイアはちがう。

 

彼女がハン・ソロと共にいたことはボバにとっては全くの想定外であった。

 

ナブーの幼少期から知る彼女を捨て置くことは、ボバにはどうしても出来なかった。彼女の頼みでボバは父に頼み、スカリフの激戦区にも赴いたほどだ。

 

なんとかして彼女と母親であるパドメを逃さなければ。心の奥底で思考を続けながら、彼は賞金稼ぎらしく、時がくる事を待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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カイロ・レン

 

 

アウター・リム・テリトリーと、ミッド・リムの境界線上に位置する惑星ナブーには、豊かな自然があった。

 

首都であるシードから離れた郊外、レイク・カントリー。草原と湖畔から織り成される自然の造形は美しく、この星に隠居するマスター・クワイ=ガン・ジンは、この地に小さなジェダイ寺院を作り、ルークとレイアのフォースの鍛錬を指導した。

 

ナブーの観葉植物や果実、花が飾られるサロンのような温室の中、枯れた花に残る種を採取していた老齢のクワイ=ガンのもとへ、漆黒の外套とマスクを身につけた人物が訪ねてきた。

 

「珍しい客人だな」

 

入り口で立ち上がった影のように佇む相手を見ずに、クワイ=ガンがそう言うと、硬いブーツの音を石畳に響かせながら、その人物、カイロ・レンは外套をはためかせてサロンへと入った。

 

「驚かないのだな、マスター・クワイ=ガン」

 

「予見はしていたからな」

 

老齢を迎えても衰えない体格。白髪となった長髪と髭をこしらえるその姿を見て、カイロ・レンはマスク越しに怪訝な顔つきとなった。

 

自分がここを訪れたのは機密だ。レン騎士団もスローンも知ることはない。上司であるダース・ヴェイダーも。なぜ、彼は自分が来ることを予見していたのか。そのフォースの揺らめきを察したクワイ=ガンは、手にとっていた機器を下ろしてカイロ・レンを見る。彼の出で立ちは、くたびれたジェダイ・ローブ姿だった。

 

「よくわからないといった顔だが、フォースの見識を疎かにしてはならんな、若き騎士よ。未来に意識を向けることに重きを置いて、今を疎かにしてはならん」

 

クワイ=ガンは、未来視よりも今生きるものたちのフォースを尊重する。カイロ・レンが理由がどうあれ、クワイ=ガンを意識し、訪ねに来たということは、今の生がフォースに働きかけたのだ。クワイ=ガンからしたら、それを感知したに過ぎないが、それもまた、長年の修行で体得できる極地の一つでもある。

 

「では、貴方はどう未来を見ている。俺には、見えていない。今を疎かにするなとは、今苦しむ帝国市民を助けてやることができない我々の在り方そのものの矛盾だ」

 

カイロ・レンに戦いの意思はなかった。クワイ=ガンが整えるジェダイ寺院のサロンには色とりどりの花や果実が飾られており、その植物たちが発する香りは彼の心を安らぐに充分な効果を発揮していた。

 

視覚的にも、体感的にも、フォースは穏やかであり、この場で瞑想することができれば、普段よりも深くフォースを感じることができるだろう。

 

手袋越しに花ひらに触れるカイロ・レンは、自身がここに訪れた理由を語り始めた。

 

「騎士団は、帝国市民の平和と正義を司るものだ。だが、今の治世は、悪意と憎悪と混沌に満ちている。デス・スターもろとも、帝国の中核者たちが一掃されてからだ」

 

「君はそれを、運命だと思うかね?」

 

「いいや、思わない。だから、ここに来た。賢人であるマスター・クワイ=ガン、あなたならば…」

 

レン騎士団を発足してから、自分たちは帝国の治世が行き届く場所で反逆者たちから市民を守り、己が信じる正義と理念のために剣を振るってきたはずだ。だが、今はその理念から遠く、スローン大提督の意向により、帝国の治世はより暴力的であり、憎悪や怒り、悲しみに包まれていると言えた。

 

そんな世界で、自分たち騎士団の在り方は正しいのだろうか。帝国の治世を守り、市民を守り、己が信じる正義を貫くことこそが、自分たちの使命ではないのか。

 

心に芽生え始めた矛盾。納得ができない今を見つめ、その答えがほしい。カイロ・レンが敵であるはずのジェダイ・マスターを訪ねた理由はそれであった。

 

目の前にいる賢人、マスター・クワイ=ガンならば、この矛盾に満ちた今を打破する答えを知っているかもしれない。問えば教えてくれるかもしれない。そんな期待があった。

 

だが、カイロ・レンの思惑とは別にクワイ=ガンには気がかりな点があった。

 

「残念だが、君の求める答えを私は出すことはできんよ。若きカイロ・レンよ…それとも、それは君自身の問題ではないのかね?」

 

その言葉を発した瞬間、カイロ・レンが纏っていた穏やかなフォースが一気にざわついたことをクワイ=ガンは感じ取った。

 

彼もまた、ルークやレイアに比類するほどのフォースの持ち主であり、その感覚は二人よりも強く、完成しているとも言える。よほど優秀か、または厳格なマスターによって鍛えられたということが簡単に理解できてしまうほどに。

 

そして、そのざわめきは怒りや憎しみから起因するものではなく、戸惑いや深い悲しみが奥底にあった。

 

カイロ・レンは、クワイ=ガンの言葉にしばらく黙り込んでいたが、ゆっくりとマスクの横へ手をやる。すると、空気が抜ける音と、顔を固定していた部分が解除された。そのままカイロ・レンはマスクを脱ぎ去る。

 

現れたのは、端正な顔つきと優しげな瞳。思慮深かった彼の父親からは想像もできない正義感に満ちたフォースを纏う年相応の若者であった。

 

カイロ・レンはマスクを静かにテーブルの上へ置くと、花の前に置かれた小さな椅子へと腰を下ろした。

 

「父は、一つのことに執着しています。俺が生まれる前よりもです。それを取り戻すことに全てを捧げている。あの人にとっては帝国がどうなろうが構わない。きっと俺のことも」

 

帝国政府が樹立した年、彼は生まれ落ちた。ルークやレイアと同年代でありながら、彼の人生に親や家族の温かみは存在しない。彼の存在自身が、父親にとっては考慮するものでもなかったのだろう。

 

支配した旧共和国や、さまざまな権力にも興味を示さない父親は、ある一つのことに没頭した。そして、その中からカイロ・レンは弾き出されたのだ。

 

「故に、君は騎士となったのか?」

 

クワイ=ガンの問いかけに、彼はうなずく。このマスクや騎士団も、父と別った自分が生きていく中で得た信念であり、教訓でもある。カイロ・レンは小さく、その真意を語った。

 

「俺は父の名を継ぐことすらできない出来損ないです。このマスクは、無力な自分を、出来損ないの自分を強くする。正義と秩序と平和のために。そのために作ったんですよ、〝カイロ・レン〟という名の平和の象徴…騎士を」

 

人々を治めるにも、秩序や法と言ったものが必要であると同時に、彼らを守る偶像も必要だったのは事実だ。それならば、他にもやり方や道はあったであろう。

 

フォースの感応者であったから、尋問官になるという道もあった。それか、父から離れ、帝国というものに関わらずアウター・リムのどこかで普通の人間として過ごして、人と会って、誰かを好きになったり嫌いになったりして、もしかしたら誰かと家庭を築いていたのかもしれない。

 

父からの興味もなく、生きる指針も目標もなく生を受けていたならば、きっと自分の歩む道は今と異なっていただろう。

 

父が唯一、追い続ける者の存在を知らなかったら、〝カイロ・レン〟という偶像は今の世に生まれ落ちることはなかった。

 

シスの頂点に立つ父「ダース・シディアス」すら焦がれるフォースの見聞と人格を持つ偉大なジェダイ。そして同時に、道を踏み外したジェダイ・オーダーに終焉をもたらし、自分たちの未来を守ってくれた英雄的存在。彼の生涯や軌跡を知り、その背中を見つめ、追いかけるために、彼は弱き自分を捨て、名を授かり、人々を守るための騎士団を作り上げた。

 

カイロ・レン。

 

このマスクと称号は、ログ・ドゥーランへの憧れや情景、感謝からもたらされるものであった。それが良き理由であろうが、悪しき理由であったとしても。

 

心の内を伝えた若きカイロ・レンに、マスター・クワイ=ガンは蓄えだした髭に手を添えながら、瞑目する。彼が求める道は厳しいものとなる。だが、闇しかないわけではない。その向かう先には必ず光がある。

 

「ならば、君はフォースに従いなさい。その行先に君が求める答えがあるだろう」

 

クワイ=ガンは目を開き、カイロ・レンへ伝えた。それが彼への答えだった。淀むことなく、飾ることもなく、ましてや陰ることもなく、フォースは彼を導いていく。今から未来へ続くビジョンが、クワイ=ガンには感じ取れたのだ。

 

「フォースの導くがままに…ならば、俺は確かめなければならない。見極めるために」

 

今の自分を取り巻くフォースが正しいなら、それを確かめなければならない。たとえ、その道が今の帝国の在り方から逸れようとも。

 

ある一つの答えを得たカイロ・レンは、傍に置いていたマスクを改めて身につける。空気の閉まる音と共にマスクは体の一部のように固定され、視覚と感覚は一人の男からカイロ・レンへと再構築された。

 

「貴方の弟子を殺すことになるかもしれないぞ?」

 

マスク越しにくぐもった声でクワイ=ガンへそう問いかける。すると、彼は微笑んでカイロ・レンへと言葉を紡いだ。

 

「未来を見つめることよりも、目の前のことに集中しろ、若き騎士よ。考えるな、感じるんだ」

 

「ジェダイである貴方らしい言い草だ」

 

クワイ=ガンの物言いに、カイロ・レンは小さく笑うと外套を翻してジェダイ寺院を後にする。辿ってきた石畳の道を歩み、小高い丘を下る彼に、丘の上から穏やかな追い風が降りてきた。

 

「カイロ・レンよ。フォースが共にあらんことを」

 

その声を聞いて振り返る。

 

そこには、風と共に舞うくたびれたジェダイローブがナブーの山間の谷へと流されてゆく光景があった。

 

それと同時に、この地に降りたってから感じていた力強いクワイ=ガンのフォースを感じ取ることができなくなっていたことに、カイロ・レンは気がつく。

 

「フォースと共に、マスター・クワイ=ガン」

 

この世から離れ、フォースと一体となった賢者へ最大の敬意を示し、カイロ・レンは一人、歩み出す。

 

向かう先はベスピン。

 

目的もすでに決まっていた。

 

 

 

 

 

 



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生まれた場所こそが〝世界〟の全てであった

 

 

「ソロを炭素冷凍に?俺に死体となったオブジェクトを渡すつもりか?死ねばハットが黙っていないぞ?」

 

ベスピン、クラウド・シティのカーボン凍結装置が備わる施設の中、幾人のトルーパーを護衛に悠然と立つスローン大提督に、ハン・ソロの引き渡しのために呼び出されたボバは、怪訝な顔つきで、そう言葉を吐いたスローンを睨み付ける。

 

カーボン凍結。

 

その名の通り、炭素冷凍であるそれは、もともとは不安定な物質を閉じ込め、安全な保管や運搬を可能にするテクノロジーだ。

 

ベスピン・モーターズ社製のカーボナイト保管リパルサー・スレッドを用いてカーボン凍結が行われていることは、運搬業も熟すボバも周知の事実であった。しかし、この技術はあくまで〝不安定なガス〟や〝エネルギー物質〟などを封じ込めるための技術であり、当然ながら知的種族などの生き物に対する使用は想定されていない。使えば命の保証はないだろう。

 

ジャバ・ザ・ハットが依頼した内容はハン・ソロを生きて連れてゆくことだ。カーボン凍結により命を失った彼を持っていったところで、ハット族が代金を支払うなど考えづらい。

 

だが、スローンはボバの発言など知ったことかと言わんばかりに見下した物言いで返した。

 

「皇帝の指示でもある。これが成功すれば、手軽に捕虜を冷凍し収容所へ移設できるのだからな」

 

「体の良い人体実験というわけか…」

 

苛立つように言うボバに、スローンは鼻で笑って答える。

 

「何を足踏みをする?賞金稼ぎ?貴様たちにとっては金が全てではないのか?」

 

「だが、通すべきものある。俺は父からそれを学んだ」

 

「偉大なるジャンゴ・フェットからか?フン、与太話に過ぎないことを過信すれば、君もいつかは痛い目を見ることになるぞ?」

 

所詮は大戦の時の話。帝国支配下となって表舞台から姿を消した父の話を与太話と一蹴するスローンに、ボバは言い難い怒りに似た感覚を覚えた。共に賞金稼ぎを業(なりわい)とするが、父は偉大な賞金稼ぎだ。言葉では言わないが、ボバが父の背を追っていることも事実。

 

そんな父の歴史を与太話とこの男は一蹴したのだ。正直に言うならこめかみにブラスターを突きつけて引き金を引きたい気分だが、相手は帝国軍の大提督であり、クレジットを出す相手だ。

 

「かもしれないな」

 

湧き上がる怒りを噛み砕き、ボバは素っ気なく答えた。帝国がこれほどの規模で動いているのだ。ハンを炭素冷凍することは決定事項なのだろう。彼が万が一にも死亡した場合は、その賠償金を帝国にふっかけてやるか、と意識を切り替える。

 

そんなことを考えていたボバの前に、手錠で拘束されたままトルーパーたちに連行されるハンの姿が見えた。そして、その後ろにいる者たちも。

 

ウーキー族の後ろにいるレイアと、彼女の母であるパドメ・アミダラ…またの名を、パドメ・スカイウォーカー。

 

彼女たちとボバは古くから交流があった。父がアナキンとパドメを救出してから、極秘裏の運送依頼を受け、何度かスカイウォーカー家とボバは顔を合わせている。まだ幼いレイアに、スレーヴⅠに乗せてとせがまれ、父に内緒でナブーの軌道上まで上がったこともあった。そのあと、父やアナキンから叱られはしたが、ボバにとってはかけがえのない思い出だった。

 

彼女が政治家の道を志した時も、オルデランを通じて反乱軍に加勢した時も、ボバ自身は反対だった。

 

父と共にクローン戦争の鉄火場を潜り抜けてきたからこそ、ルークはともかく、レイアには様々な思惑や野望、野心、欲望が渦巻く人間の醜い側面を知らずにいてほしかった。

 

何よりも、賞金稼ぎとして生きる自分の世界を知ってほしくなかった。

 

やめろ、そんな目で俺を見るなよ…レイア。

 

助けを乞うような目を向けるレイアの視線に耐えきれず、ボバはマスク越しにそっと目を逸らした。今の自分は帝国側に雇われる賞金稼ぎだ。高尚な思想や、理念を持つレイアたち反乱軍や、帝国軍ですらない。クレジットで人の命を狩り取るロクデナシだ。

 

そんな中、白い煙が立ち昇る炭素冷凍装置の前にトルーパーによって連れ出されるハンを、レイアが引き留めた。

 

「ダメよ!ハン!炭素冷凍だなんて…」

 

「死にはしないさ」

 

肩をすくめて、ハンはいつもの調子で答える。人…ましてや、生き物が味わったことのない未知の行為だ。人道に反する以上に、非道で、残酷な行為だ。

 

ただでさえ、ハンはレイアやパドメの代わりに帝国の凄惨たる拷問を受けている。強がってはいるが、精神も肉体もボロボロになっているはずだった。

 

レイアの後ろにいるチューバッカが、悲しげな声色で吠えるが、ハンは元気付けるようにチューバッカへウインクを返した。

 

「ハン、貴方は勇敢な戦士です。だから必ず、生きて戻って」

 

パドメは、エコー基地から逃れる際にデブリに逃げ込むなんて言う破天荒さを見せたハンに驚きはしたものの、その心の奥にある勇敢さや、正義感を認めていた。

 

彼は立派な男であり、今も足がすくみそうな恐怖があるだろうに、毅然とした態度で帝国と向き合っている。

 

彼を失うことはあまりにも手痛い仕打ちだ。未だ先が見えない帝国と反乱軍の戦い。より先にある〝未来〟では、彼のような自由の象徴が必要となるはずだ。

 

その思いを込めて告げたパドメの言葉に、ハンは驚いた顔をするが、頭を下げて礼を持って答えた。

 

「光栄ですよ、アミダラ将軍」

 

その時、レイアは母の隣を飛び出して、死地に向かうハンへ縋り付くように寄り添って、その口元へ口づけを交わした。

 

誰もが言葉をなくした。

 

母や周りの目すら気にせずに口づけを交わす二人。彼女とハンが、デス・スターを破壊してから育んできた愛は、二人が想像するよりもずっと大きなものとなっていた。

 

「愛してる」

 

「知ってたさ」

 

トルーパーによって引き剥がされた最愛の人へ、レイアはようやく育んできた思いを告げて、ハンはいつものようなニヒルな笑みを浮かべながら頷く。手錠が外され、炭素冷凍がセットされてゆく。

 

スローンが手を上げた。

 

それを見たベスピンの技師が、炭素冷凍装置の起動キーに手をかけようとした瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、俺はなんて馬鹿なんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰かが自虐に満ちた悲鳴を上げた。すると、突如としてソロの両脇にいたトルーパーが倒れる。致命傷となる場所へ、赤いブラスターの閃光が命中したのだ。ハンが驚いた様子でレイアたちを見た。

 

だが、彼女たちが撃ったのではない。

 

レイアの視線を追うと、そこにいたのは父から譲り受けたブラスターピストルを二丁、腰のホルスターから引き抜いたボバ・フェットの姿があった。

 

「早くこっちへ!」

 

パドメの大声で、止まっていた時間がようやく動き出した。火花が散る炭素冷凍装置から駆け出したハンは、レイアたちと合流すると、彼女たちを監視していたトルーパーを、ポッカリと開いた通路の外側へと体当たりで押し出す。

 

悲鳴を上げて煙の中に闇へと落ちてゆくトルーパー。その中で、ボバはレイアたちが逃げられるよう退路を作りながらブラスターを撃ち放った。

 

彼女が何かを叫んでいたが、ボバは聞こえないフリをした。

 

愛するものを目の前で失う辛さを、ボバはなぜか知っているような気がした。口づけを交わす二人を見たボバには、転がる父のヘルメットのビジョンが見えた。ショックも大きかったが、それ以上に大切な何かをボバはうっすらと感じ取っていたのだ。

 

「裏切るか!!賞金稼ぎ!!」

 

隣で倒れるトルーパーに目もくれず、さっきまで余裕がある笑みを浮かべていたスローンが、怒りに赤い瞳を滾らせながらブラスターで次々と帝国兵を撃ち抜くボバへと非難の罵声を浴びせる。

 

そんなもの、慣れたものさとボバはマスクの下でほくそ笑んだ。

 

「ハンの身柄は貰っていく、あとの仲間も」

 

「帝国に逆らうか!」

 

「アンタは俺のクライアントではないのでな!!」

 

そう答えを突き返したボバは、轟々と立ち昇る炭素冷凍装置の煙へリストに備わる火炎放射器を放つ。放たれた炎の渦は圧縮された煙に引火し、炭素冷凍装置を木っ端微塵に吹き飛ばした。

 

爆殺前に、レイアたちを逃した通路へとジェットパックで逃れたボバは、扉を閉める措置をしてから操作装置を数発ブラスターで撃ち抜き沈黙させた。

 

「何をボサッとしている。先に進むぞ」

 

そんなボバを見つめていたレイアたちへ、彼は何食わぬ声で指示を出すと、先に出て走り出した。この先には船の発着場がある。帝国兵の駐留を良しとしない勢力が脱出準備を整えてくれているはずだ。

 

思考を止めれば、ハンとレイアの姿を思い出してしまう。今はとにかくできることをするべきだ。そう無理やりでも意識を切り替えて、ボバに先導される形でハンやレイアたちは通路を駆け抜けてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

クラウド・シティ、行政府を担う市街地は地獄と化していた。もともとクラウド・シティはディバナ・ガスの採取コロニーであり、その豊富な資源の供給を盾に帝国政府とは良好な取引関係にあった。

 

クラウド・シティを治めるランドーニス・バルサザール・カルリジアン、通称ランド・カルリジアン執政官は徹底して中立を貫き、帝国政府からの武力的な支配は受けないとした上で、帝国自治内の決め事には従い、市民や経済の安定を図っていた。

 

しかし、スローン大提督がその秩序を完全に崩壊させたのだ。カルリジアンのもとに訪れたハン・ソロら一行を引き渡すことを条件に、帝国はクラウド・シティに武力的な干渉はしないと約束していたはずなのに、その内容は彼と背後にいる武官たちによって歪曲された。

 

結果、クラウド・シティにはトルーパーたちが派遣され、抵抗した市民や自警団が逮捕、虐殺されるという悲劇が引き起こされていたのだ。

 

「クラウド・シティの住民には今までの行いを後悔してもらうよ。反抗するものは全員逮捕だ。発砲も許可する」

 

その指揮系統の全権を任されていたのが、尋問官であるナインス・シスターであった。アナキンに切り落とされた片手を義手に変えた彼女は、部下であるパージ・トルーパーに指示を出す。

 

彼女たちのやり方は恐怖と暴力による支配だった。抵抗するものは見せしめのように殺され、従ったとしても彼らは恐怖に怯えることになる。怒りと恐怖を扱うシスに傾倒した尋問官にとって、それは躊躇いがないことであった。

 

シティの制圧を進めるナインス・シスターの横に控えていたトルーパーがコムリンクで通信を受ける。相手はスローン大提督だった。

 

「ナインス・シスター、炭素冷凍室で問題が」

 

遠くで爆発音が聞こえる。施設内にいるが、雲の上に浮かぶクラウド・シティにその爆発の振動は伝わってきた。おそらく、ハン・ソロやレイアを助けにきた〝誰か〟がいるのだろう。

 

「お前たち、行くよ」

 

ナインス・シスターが指示を出すと、数名のパージ・トルーパーが武器を構えたまま先に通路をゆくシスターに続く。

 

行政府の広間を抜けて炭素冷凍設備がある塔へ向かうシスターたちが、全員で出口である巨大なブラストドアに近づいた時、閉ざされていたブラストドアがゆっくりと開いた。

 

開いたドアの先には、黒いローブを着た誰かが佇んでいて、シスターたちの行手に立ち塞がった。

 

シスターは感じ取ったフォースに息を呑んだ。目の前にいたのは、レン騎士団筆頭騎士であるカイロ・レンだった。

 

「これはこれは、レン騎士団の筆頭騎士どの。御足労して頂いたが、貴方がする仕事はここにはないですよ?」

 

突然現れた騎士団の長に、シスターは警戒心を緩めずに高圧的な声で出迎える。フードを深くかぶる彼の顔は、さらに奥にあるマスクによって閉ざされており、その真意を見定めることはできない。

 

とにかく、ここで邪魔をされるのは厄介だ。シスターの指示で2名のパージ・トルーパーがカイロ・レンの行動を制限しようと近づいてゆく。二人の手が彼に触れようと伸ばされた瞬間、カイロ・レンはフォースの力で腰に備わるクロスガード・ライトセーバーを手にして、身を翻した。

 

ナインス・シスターたちの足元へ、先に出たトルーパーのヘルメットが無残に転がってくる。目を剥くナインス・シスターよりも、パージ・トルーパーたちの防衛本能の方が早かった。

 

ブラスターを構えて狙いを定めたと同時に、カイロ・レンは手を突き刺すように伸ばすと、開いた手を握りしめて手繰り寄せるように引き寄せた。すると、トルーパーたちが構えたブラスターがまるで見えない糸に引っ張られたように手からこぼれ落ちて、カイロ・レンの背後へと吹き飛んでいく。

 

次に目にしたのは、真っ赤に立ち上ったライトセーバーの刃だった。

 

「貴様!我々尋問官に歯向かうのか!?」

 

トルーパーたちを切り伏せたカイロ・レンへ、ナインス・シスターは回転式ダブルブレード=ライトセーバーを手に持って詰め寄る。

 

「歯向かう?さきに道理を外れたのはそちらだろう…!!」

 

突如として起こった騎士団による尋問官への襲撃。赤い光刃が幾度もぶつかり合い、閃光が辺りを照らす。影のような外套を揺らめかせながら、カイロ・レンは繰り出されるナインス・シスターの一撃を受け流し、そらし、切り払う。一見、攻勢に出ているのはナインス・シスターであったが、戦いを制していたのはカイロ・レンだった。

 

「やはり貴様は出来損ないだ!シスにもなれず、ジェダイにも傾倒できずの半端者風情が!!」

 

その事実に気づかず、己の力を過信するナインス・シスターの攻撃を受けながら、カイロ・レンは無言だった口を開いた。

 

「その言葉…俺はシスがどうだとか、ジェダイが悪だとか、そんな言葉が大嫌いだった」

 

押していたナインス・シスターの一閃を潜り抜けてカイロ・レンは彼女の逃げ道を塞ぎ、十字に光刃が伸びるライトセーバーを前に構えながら、ジリジリと彼女との距離を図っていた。

 

「シスとジェダイという思想が、帝国の市民の安泰と平和の何に意味を成すんだ?シスは銀河を統治する偉大な存在であり、ジェダイは旧共和国の遺物だと?その思想の違いが平和と正義の何になる?」

 

何を言っているんだ?ナインス・シスターは、矢継ぎ早に放たれるカイロ・レンの言葉の真意を理解できずにいた。彼が語る言葉の意味は、思想的なことだ。だが、騎士団がこちらを攻撃した意味を宿していない。極めて思想的な言葉だった。

 

「皇帝がシスの暗黒卿だから?ヴェイダー卿がシスの暗黒卿だから?故にシスは偉大であり、ジェダイは悪だと?無知な市民には差別も、弾圧も、殺戮も搾取も公認される?」

 

そう言い終えると、カイロ・レンは揺らめく炎の刃の切っ先を真っ直ぐにナインス・シスターへ向ける。

 

「そんなことは断じてない。そんな思想に傾倒した平和や正義など、断じて正しきものと言えるものか」

 

カイロ・レンにとって、シスも、ジェダイも、思想に過ぎない。どちらとも彼にとっては〝どうでもよかった〟。

 

事実、出来損ないと揶揄され、見向きもされなかったのだから、このまま逃げ延びて、一人の男として世に関わらず、静かに暮らす道もあっただろう。

 

だが、彼はその思想や言葉から連綿と続く愚かな戦いを…そのせいで傷付く多くの帝国市民たちを見過ごすことができなかった。

 

「故に、俺は騎士団を作った。我々は貴様たち暗黒面に立つ者たちの尖兵ではない。ましてやその逆も然り」

 

彼にとって、帝国の理念も武官たちの高尚たる武功も、野心も、野望も興味などない。帝国という〝世界〟が、彼にとっての世界だった。旧共和国など知ったものか。彼が生まれ、育ってきたのは帝国という治世で成り立つ世界ただ一つだ。

 

その世界で生きる多くの人のために、騎士団は存在する。

 

「我々はレン騎士団は、帝国市民の剣であり、盾であり、最後に頼るべき砦だ」

 

このクラウド・シティも、中立とはいえ帝国の管轄内で管理される場である。今、トルーパーたちによって理不尽に捕らえられ、殺戮の恐怖に晒されている誰もが、帝国のデータバンクに登録されている市民の一人だ。

 

カイロ・レンにとって為すべき使命は十全に機能する。

 

「尋問官ども、貴様らが帝国市民から搾取と弾圧を強要するというなら、我ら騎士団の名を以って、この刃で切り捨てよう!!」

 

 

 

 

 



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運命の赴くままに

 

 

 

コルサント。

 

別名、インペリアル・センターとも呼ばれるこの惑星は、帝国政府の首都惑星であり、銀河系社会の中心地だった。

 

惑星全体を覆うように形成されるギャラクティック・シティと呼ばれる都市の中では、エアスピーダーやスターシップの往来が旧共和国時代と変わることなく流れている。

 

そのコルサントにある皇帝の座するインペリアル・パレスは、元はジェダイ・テンプルであったが、共和国とジェダイが崩壊し、銀河帝国が樹立した際、皇帝であるシーヴ・パルパティーンの皇居として改築され、今は古きジェダイ・テンプルの面影は残されていなかった。

 

「シディアス卿、計画は順調です。大提督はベスピンへ」

 

その皇居の中、多くのジェダイマスターたちが通っていた長い通路の中。通路には皇居護衛に選別されたトルーパーたちが立ち並んでおり、陽の光を利用した自然照明は松明へと変わり、悠然だったその場に陰影を下ろしている。

 

その中を、真っ黒な外套を翻させながらヴェイダーはシスの暗黒卿であり、皇帝であるダース・シディアスこと、パルパティーンと共に歩んでいた。

 

パルパティーンはシディアス卿が身につける顔を隠すほどの外套を身につけておらず、旧共和国時代と変わらない大らかな外見をした〝最高議長〟の姿のまま、ヴェイダーの隣にいた。

 

「ヴェイダー卿、そなたにあの者を託して正解だったか、それとも時代のフォースにそぐわぬ者のままか、見定めるときだな」

 

皇位継承者と表向きは語りながらも、その実は幾人ものフォース感応者の母体を利用したデザインベイビーの一人。

 

そもそも、そのデザインベイビーの話にパルパティーンは乗り気ではなかった。帝国を打ち立て、ジェダイを一掃したパルパティーンの胸にあったのは、満足感ではなく虚無だったからだ。

 

帝国政府の運営にすら興味を示さないパルパティーンに、帝国運営のために子孫を残す提案をしたのは側近たちであった。パルパティーンが倒れれば、そのカリスマ性で打ち立てられた形は簡単に崩壊するだろう。その名を引き継ぐ者は必ず必要であった。

 

だが、名も思い出せぬ血を引き継ぐ彼の者たちの中に、パルパティーンの目を引く者は誰一人として居なかった。

 

そんな中、隣にいるヴェイダーが一人の子孫に興味を示した。それがフォースの導きであったのかは定かではないが、ヴェイダーは生まれ落ちたその者を鍛えた。アプレンティスではなく、一人の戦士として。

 

やがて、その者は自らをカイロ・レンと名乗り、騎士団を作り上げた。皇帝が見向きもしない帝国の秩序と市民を守るためと謳って。はからずとも師となったヴェイダーに倣うようにマスクを被った。

 

「カイロ・レンは優秀ですとも。彼には多くのフォースが宿っている」

 

パルパティーンの呟きに、ヴェイダーは当然と言うように答えた。カイロ・レンは優秀な戦士だと断言できる。彼を一人前の戦士として鍛え、共に逆らうジェダイを屠り、その力を帝国の秩序と平和を守るために示し続けた。そして、今彼は新たな選択をしようとしている。

 

彼ら騎士団を〝道化〟であるスローンの元に付けたのは正解と言えただろう。

 

「だが、マスター・ドゥーランには劣る」

 

そのヴェイダーの満足げな声に、パルパティーンは一石を投じる。途端、ヴェイダーの声は不機嫌なものとなり、フォースも鋭さを増した。

 

「ドゥーランは死にました、シディアス卿。彼は満足して果てたのです」

 

そして同時に、彼はその先にある未来を放棄した弱者だ。フォースの導きに従えばいいものを、かの者はその役目を放棄して〝選ばれし者〟と揶揄された友を守ることを選んだ。故にログ・ドゥーランという男は死に、その代替としてダース・ヴェイダーが生まれたのだ。

 

皇帝が追い求める存在など、もはやこの世界に、この宇宙にひとかけらとも残っていない。にも拘わらず、パルパティーンは探し求めている。探せば見つかると信じ続けている。

 

すると、パルパティーンはヴェイダーへとフォースを放った。その目は黄金色に輝いている。ヴェイダーもまた、義手となった手にフォースを纏い、皇帝から放たれる圧倒的なフォースに対抗する。

 

そう、〝対抗〟できてしまっていた。

 

「抜け殻が喋るものか。彼は生きておる、そなたはその器でしかない」

 

「何をそこまで求めるのですか、あの者に」

 

「全てだ、ヴェイダー卿」

 

バチリ。皇帝から放たれるフォースが稲妻へと変異する。ヴェイダーはライトセーバーを抜き放ち、その稲妻を真っ赤なプラズマの刃で受け止めた。眩い光を打ち払い、ヴェイダーはその光刃をパルパティーンの眼前へと向けた。

 

周りのトルーパーたちが皇帝に仇なすヴェイダーへブラスターを向けた瞬間、数十人のトルーパーたちの首が一斉に絞め上がり、足が地から離れ浮き上がった。

 

「その男の意思などフォースの意思の前には無益です。シディアス卿」

 

睨み合うパルパティーンとダース・ヴェイダー。二人はフォースの牽制を続け、やがてパルパティーンの目が黄金色から元の色彩へと戻った。同時に、ヴェイダーが絞め上げていたトルーパーたちも地に下された。全員が既に意識を失っており床へと倒れ伏せたが命は刈り取っていない。

 

「そなたは変わらぬな。あの時のまま、何一つとして。進歩も、後退もない」

 

パルパティーンは、そのヴェイダーの姿を見て落胆した。彼には憎悪も怒りも喜びもない。彼を突き動かすのは常にフォースだ。フォースの意思と導きで彼は歩み続ける。

 

あの日、ムスタファーの溶岩によって焼き切られた彼を助けた時から、ヴェイダーは常にフォースの意思のまま動き続けている。その鎧の内にあるものは〝人〟ではなく、フォースだ。

 

ヴェイダーの中に〝彼〟は居ない。

 

「行くのか?ヴェイダー卿」

 

外套を翻して通路の先あるターミナルを目指すヴェイダーにパルパティーンは語りかけると、ヴェイダーは振り返ることなく、機械によって構成された声を紡いだ。

 

「ええ、運命が私を呼んでいるのですよ、シディアス卿」

 

もはや師と弟子という関係すら破綻している。ヴェイダーは、パルパティーンに生かす価値があるから殺すことはない。そしてパルパティーンもまた、ヴェイダーに利用価値を見出しているから殺さない。

 

二人は皮肉にも利害関係が一致している故に、共にいるのだ。

 

通路を歩んでいくヴェイダーの後ろ姿を見つめながら、パルパティーンは深く息をつく。だが、これでいい。彼の行く未来に、自分が求めるビジョンが映っているのだ。パルパティーンは通路を行き、一人コルサントの夜景が見えるバルコニーへと出た。

 

「フォースの意のまま…そなたは変わらぬ。あの日から…故に、ワシは焦がれるのだ。その先を見たそなた自身を」

 

そう呟くパルパティーンの視線の先では、一機のTIE・アドバンスドが飛び立ち、コルサントの軌道上に浮かぶスターデストロイヤーへと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くのか、マスター・スカイウォーカー」

 

ダゴパで受けた修行は、多くを学ぶきっかけとなったと、荷物をジェダイ・ファイターへ積み込むアナキンは痛感していた。

 

暗黒面。ヨーダや、ドゥークーが体験した暗黒面の修行をルークと共に行ったのだ。

 

多くのビジョンを見た。

 

自分がダース・ヴェイダーになっていたビジョンを。パドメとオビ=ワンを斬り殺す自分を。そして、友と刃を交わした過去を。

 

その修行の最中、ルークは出会ったハンや、妹であるレイアの苦痛をフォースを通じて感じ取ったのだ。アナキンもだ。それに、アナキンには娘の苦痛だけではない、懐かしくもある何かを感じたのだ。

 

「暗黒面が強くなっておる。息子と共にゆく道は修羅だぞ?お主に伝えたいことは多く、学ぶことも多い」

 

「残って、修行に専念しろと言うのですか?マスター・ヨーダ。それでは、ジェダイと何ら変わりません。世捨て人と何も」

 

ヨーダの忠告に、アナキンはそう返した。全く、父が父なら息子も同じだわいとヨーダは呆れたように肩を下ろしたが、ここで修行に付していれば必ず後悔することになるとアナキンは知っていた。

 

何よりも愛する者を大切にする。ジェダイの掟には絶対にないことを大切にしろと言った友のためにも、アナキンはここに留まる選択などしない。

 

「時代は、我らとシスの闘争を望んでいないのかもしれんぞ?マスター・スカイウォーカー」

 

《だが、それこそ見えぬ未来の思う壺ではないか?》

 

ドゥークーの声にそう返したのは、アナキンではなかった。3人が意識を向けると、ダゴバの池のほとりに腰掛けている一人のジェダイマスターがいた。彼の体は半透明で、青白いフォースに満ち溢れていた。

 

霊体となったクワイ=ガン・ジンがそこにいたのだ。

 

《アナキン、私の教えを忘れるな。フォースは常に、お前と共にある。未来ではなく、今もな》

 

「マスター・クワイ=ガン…」

 

フォースを感じ、ルークが師の死に悲しみを抱いた。ナブーで彼が霊体となったとき、ルークとアナキンたちにも悲しみのようなイメージが溢れたが、事実が目の前に現れた途端、ルークの悲しみは現実のものとなった。

 

目に涙をにじませるルークに、クワイ=ガンは優しく微笑みを送った。

 

《悲しむな、若きパダワンよ。時が来たのだ。オビ=ワンと同じように》

 

「マスター・クワイ=ガン。オビ=ワンはなぜ…」

 

アナキンの問いにクワイ=ガンはしばし言葉を濁した。彼の問いはもっともだ。なぜ、あのときオビ=ワンは一人でダース・ヴェイダーへ挑んだのだ。勝ち目のない戦いとも、彼は賢者であり偉大な男だった。そんな彼が、何の勝算も計画もなく無謀に挑むはずがない。

 

《彼はフォースに殉じたのだ、アナキン。君と同じように、彼もまた憂いていたのだ》

 

その言葉に、アナキンは目を見開く。まるで自分が感じ取った感覚を見透かしているように。クワイ=ガンは若きあの日に出会った時と同じように、アナキンの肩に手を置いた。

 

《故に君は知らねばならん。君を導くフォースの行先を。アナキン、フォースと共にあることを忘れるな、いついかなる時も》

 

そう言って、クワイ=ガンの霊体はゆっくりと消え去る。感じ取ったフォースは遠く、はるかへと過ぎ去っていくようにも思えた。

 

「父さん」

 

「行こう、ルーク。運命の呼ぶがままに」

 

ルークの言葉に答えたアナキンは、そのままジェダイ・ファイターへと乗り込み、軌道上に浮かぶハイパースペースユニットへと上昇していった。

 

「厳しい戦いになる」

 

「だが、新たな夜明けの始まりです。マスター・ヨーダ」

 

ダゴパで二人を見送るヨーダに、ドゥークーはそう答えた。この未来を予見したからこそ、ドゥークーは一人、ヨーダの元へと訪れ、アナキンとその息子を鍛えたのだ。ここで自分たちに課せられた役目は終わりを迎えたのだ。

 

「そうじゃの、ドゥークー。我らが閉ざした帳〝とばり〟に昇る新たな夜明けじゃ。それを見つめることもまた、残ってしまった我らの役目じゃろうて」

 

遠くなってゆく光を見上げながら、ヨーダもそう呟く。光が消え去り、ダゴパに自然の音が響く。やがて、二人の人影はフォースへと溶け合い、誰もいなくなったのだった。

 

 

 

 

 



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宿命の戦い 1

ベスピンのクラウド・シティにある船の発着場にたどり着いたレイアたちだったが、すでにそこにはクラウド・シティの住民たちを不当な形で拘束し、我が物顔で闊歩しているストームトルーパーたちで溢れかえっていた。

 

物陰に身を潜めると、ボバは腰の小物入れから小さな玉を取り出して目につかないように転がす。小型カメラとセンサーが内蔵されたその玉を通じ、ヘルメットに備わるカメラを下げたボバは当たりを見渡した。

 

「くそっ、こっちにも帝国兵が」

 

発着場は特に警備が厳重であった。愛機であるスレーヴⅠも、ハン・ソロのミレニアム・ファルコン号の周りには多くの兵士たちが警戒するようにうろついている。

 

ブラスターを引き抜くが、ここで騒ぎを起こせば数の暴力に晒されることは明白だった。

 

「で?俺たちを助けたくせにノープランか?賞金稼ぎさんよ」

 

吠えるウーキーのチューバッカと、ハンに呆れたように言われたことがボバのシャクに触った。振り返りながら怒気に満ちた目でハンを見る。残念ながら、その睨みに近い目つきはヘルメット越しでハンに見えることは無かった。

 

「黙ってろ荒くれ者、レイアや彼女の母がいなければ、貴様は今頃炭素冷凍だったぞ!!」

 

その声が致命的だったことを、ボバは賞金稼ぎになって初めて後悔することになった。警邏していたトルーパーに発見されたと同時に、ボバのすぐ脇にある建物の壁から火花が走ったのだ。

 

条件反射のようにブラスターで応戦し、こちらに気がついたトルーパーはなんとか片付けたが、芋づる式に他のトルーパーもこちらを感づいている。打ち倒したトルーパーのブラスターをハンたちの方へと蹴りやると、彼らもブラスターを握って反撃へと転じた。

 

「くそ!だから俺は賞金稼ぎが嫌いなんだ!!」

 

「うるさいぞ、ロクデナシめ!元はと言えばお前がさっさとハットに金を持っていかないからであってな!!」

 

「口よりも手を動かしなさい!!」

 

「 「やってるよ!!」 」

 

レイアの悲鳴のような声に二人揃って答えながらブラスターの引き金を引いて、引いて、引きまくる。

 

二丁拳銃のボバが恐ろしく早い速度でトルーパーたちを屠ってゆくが、その数は減るどころが増える一方だ。このままでは発着場に着く前にジリ貧となってやられてしまう。

 

そんな激戦の中、ベスピンのガス雲を突き破って、一隻の真っ黒な船がボバたちの頭上を通り過ぎた。

 

「なんだ!?」

 

駐留されていたTIE・ファイターをなぎ倒して爆発が起こる。幾人かのトルーパーたちが爆風で吹き飛ばされる中、悠然と空いたスペースへと降り立った黒い船。その下部に備わるハッチが開いたと同時に、二人の黒い騎士甲冑姿の男がタラップから降りてきた。

 

「まったく、うちの団長は無茶をするよ」

 

「今回ばかりは貴公に同感だな、せめて一口二口、説明はほしかったな」

 

タラップを硬いブーツで叩くような足跡を奏でて降りる二人は、そんな軽口で言葉を交わし合いながら、クラウド・シティの地へ足を踏み入れた瞬間に腰に携えていた真っ赤な光刃のライトセーバーを起動させて駆け出した。

 

「レン騎士団…!?」

 

援軍…とは言い難い。この作戦に彼らは要請されていない。そして何より、彼らは銃口を向けた先ではなく、真っ直ぐにクラウド・シティの住民たちをいたぶるトルーパーたちに向かって駆け出していたのだ。

 

すれ違いざま、彼ら二人が駆け抜けただけでその直線上にいたトルーパーたちが次々と切って捨てられ、倒れてゆく。

 

苦し紛れに放つブラスターを難なく跳ね返しながら、その撃った張本人のトルーパーの軍勢を文字通り一刀両断して、レン騎士団の二人の騎士は手に待つライトセーバーの切っ先を帝国兵へと向けた。

 

「貴様ら、よくもやったな。帝国市民に危害を加えるとは…そこまで落ちたか、下衆ども!」

 

撃て!!そうトルーパーの隊長が悲鳴のような声を上げると二人の騎士へありったけのブラスターが降り注いだ。その渦中の中を舞うように光刃を閃かせて閃光を弾き返す二人。

 

もはやハン・ソロやレイアに構っている場合ではなくなった。救援の通信を受けて帝国側は地上に降ろしていたAT-STも二人へ差し向ける。

 

ブラスターとライトセーバーが組み合わさった独特の武器を手にする騎士と別れた騎士マレックは、2本目のライトセーバーをフォースで手繰り寄せて向かってくるAT-STへと駆け出した。

 

馬鹿め!生身の人間がウォーカーに勝てるものか!その場にいる誰もが安直にそう思っていた。機械の塊であり、二足歩行のウォーカーには重ブラスター砲の他にもミサイルやロケットランチャー、果てには機雷も搭載されている。いくらライトセーバーを使おうが、所詮は人間でしかない騎士に何ができる。

 

しかし、彼らは侮った。フォースの力とダークサイドの力。それらを併せ持ちながらも帝国の市民を守るためにセーバーを振るう信条を守り続けている彼らの実力を。

 

駆ける騎士マレックは、AT-STが重ブラスター砲を放つと同時に飛び上がると、フォースの力に身を委ねて、ウォーカーを飛び越えるような鮮やかな跳躍を魅せる。

 

頭上を通り過ぎた辺りで、マレックはウォーカーの精密回路が密集している装甲板をライトセーバーの一閃のもと切り開き、着地と同時に切り開かれた装甲へ短く、細く、力が込められた〝フォース・ライトニング〟を打ち込む。

 

途端、制御回路に想像を絶する過電流が流れ込んだAT-STは瞬く間のうちに火に包まれ、コクピットがある特徴的な頭部が跡形もなく吹き飛んだ。

 

その間、わずか数秒の出来事であった。

 

誰もが唖然とする中、奇しくもレイアたちの前に陣取ることになった二人の騎士は、まばらに撃たれるブラスターの光を弾き返しながら物陰からこちらを窺うレイアたちに言葉を発した。

 

「お前たちを助けるわけではない。だが、俺たちは今は身内争いで手一杯だ。だから俺は何も見ていなし、何も知らない」

 

ブラスターを光刃で弾き返し、一体となっている銃口を構えてトルーパーを倒す騎士。彼がそういうと、レイアたちは互いに顔を見合わせてから一気に発着場へと駆け出した。

 

「…感謝します」

 

すれ違い様にレイアから言われた感謝の言葉。彼女たちは帝国市民でもないし、帝国の体制に不満を抱いて反乱を起こす危険分子の内の一人だ。

 

だが、その時は確かに彼にとって彼女たちの在り方は心地よいものとなっていた。

 

雨霰のように降り注ぐブラスターの全てを跳ね返した彼は、閃光が止んだ一瞬の隙にライトセーバーを投擲。ロケットランチャーを構えようとしていたトルーパーの手元に、回転する真っ赤な光刃が直撃した。

 

同時にロケットに引火、爆発。

 

多くのトルーパーたちがなぎ倒されてゆく中、フォースの力に沿って手元に帰ってきたライトセーバーを構えて、漆黒の騎士は全員を見下ろせる場所で声を上げた。

 

「我が名は騎士ブリッジャー!誇り高き、エフライム・ブリッジャーの息子だ!悪族へと落ちた帝国兵ども!騎士の名に誓い、帝国市民の盾となり剣となるため、お前たちの蛮行を止める!!」

 

反対側にはフォース・ライトニングでAT-STを無力化してゆくマレック。そして正面にはブリッジャー。カイロ・レンの側近であり、彼に次ぐ強さを騎士団で誇る二人は、そのまま狼狽るトルーパーたちに向かって駆け出してゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベスピンへ到着したアナキンたちは、フォースの感覚を頼りに気配が感じられないクラウド・シティ内部を進んでいた。

 

クラウド・シティはベスピンの大気中に浮かぶ都市だ。限られた土地の中にある建物は複雑に入り組んでいて、扉も通路も多く、その行先は多分岐している。

 

そんな複雑な都市形成を成しているというのに、アナキンたちが歩む道はまるで一本道のようだった。他の通路は扉とシャッターで閉じられており、進む道はどう動いても一方向しかない。

 

そして、アナキンたちが感じるフォースはその進む先から発せられていた。

 

「父さん」

 

ルークの言わんとしていることをアナキンは理解していた。これは明らかな罠だ。ダゴバでマスター・ヨーダやドゥークーが懸念していた通り、このフォースの感覚は自分や息子であるルークを誘っている。

 

だが、そんなこと百も承知だ。

 

実の娘や妻が危険な目に合っている以上、二人に立ち止まる理由はない。それに、アナキンが感じている感覚、とても懐かしいようなフォースは進むにつれて強くなっていた。

 

ふと、アナキンたちが長い通路に差し迫った時、閉じられていた正面にある扉がゆっくりと開いた。そこには、真っ黒な外套を身につけ、顔を覆い隠すマスクをしている男が立っている。

 

カイロ・レンだ。

 

彼の背後には黒の装甲を身につけるパージトルーパーの他に、ナイトシスターの姿も見られた。ただ、彼らはすでに息絶えていた様子だった。両手と頭部を失っている尋問官の姿は、カイロ・レンが扉を潜ったと同時に自動で降りる扉の向こう側へと消えてゆく。

 

「父さん、先に行って」

 

影が立ち上がったように佇むカイロ・レンを前に、ルークが父の前へと出た。ルークとカイロ・レンの間には因縁めいたフォースが漂っている。アナキンはその決意に満ちた息子の声に従うよう、空いている別の通路へと走っていった。

 

二人は何も言わないまま、ほぼ同時に身につけていたマントを脱ぎ、青と赤のライトセーバーを起動させる。

 

「待っていたぞ、ジェダイ。お前の真意を確かめるために」

 

それはもはや宿命だった。カイロ・レンが今の帝国の敵になろうが、指針は変わらない。帝国市民に危害を加える者が帝国だろうが反乱軍だろうが関係ない。目の前にいるジェダイでも、容赦はしない。

 

ルークも応じるようにライトセーバーを握りしめ、二人は狭い通路の中、じりじりと距離を詰めて前へと出た。

 

 

 

 

 




ロザルとキャッシークへの重圧的な帝国の支配が行われておらず、市民や先住民への配慮がされた管理体制が敷かれる。

オーダーを離れ、ノーバディとなっていたケントー・マレックは引き続きヴェイダー卿に仕えていたが、残存するジェダイ討伐時に命を落とす。

一方、帝国との交渉をする父と共にいたエズラは、フォース感応者として勧誘された。

亡き父の意思を継いで帝国に入ったギャレン・マレック、帝国の体制に不満を抱いていないエズラ、そして父であるパルパティーンから見放されたカイロ・レン。

3人は共にヴェイダーからの試練や訓練を受けたのち、帝国市民を守るために騎士団を結成したのだった。



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宿命の戦い 2

誤字報告、毎度ありがとうございます。感想も励みになっております。落ち着いたらログとパルパルの話、描きたいな。

エピソード6は短くなるかも…


 

 

高速シャフトリフターが上がった先。非常用の明かりが点灯する部屋の中は、ひどく荒れ果てていた。

 

炭素冷凍を目的にした施設であるそこは、ボバが発火させたガスの影響でズタズタに引き裂かれており、炭素冷凍装置も破壊されている。断裂したホースからは冷却用のガスが吹き出しており、あたりは異様な匂いと煙に覆われていた。

 

リフターを降りたアナキンは、網目状の鉄の床を軋ませながら歩く。

 

彼の見上げる先。

 

火によって炙られて黒くくすんだ階段の上に、それは佇んでいた。

 

真っ黒な外套と、骸を思わせるマスクをつける男、ダース・ヴェイダーは真っ赤な光刃を出現させたライトセーバーを手にした状態で、見上げるアナキンを見据えていている。

 

「待っていたぞ、アナキン・スカイウォーカー」

 

マスクでくぐもった……いや、声帯が焼かれているため、電子音声で構成されたヴェイダーの声が響く。応えるようにアナキンは歩み出すと、ゆっくりと黒ずんでいる階段を登った。

 

「フォースが増している。どうやら、前回とは違ってフォースとの絆を取り戻したようだな」

 

その言葉と同時に、アナキンはローブを脱ぎ捨て、腰に備わるライトセーバーを引き抜く。弓を引き絞るような独特の構えを織りなす。

 

防御を主眼にした亡き師が愛用した型である「ソレス」。攻撃主体の型を得意とするアナキンがこの防御の型を選んだのには、明確な理由があった。

 

じりじりとライトセーバーの光刃にプラズマの粒子が迸る中、アナキンは鋭い目つきとフォースを維持したまま、この場に来て真っ先に聞くべき問いをヴェイダーへ投げる。

 

「ダース・ヴェイダー。僕はお前に問わねばならないことがある」

 

認めたくない。考えたくない。そんなことはありえない。

 

心の奥底でアナキンは自分が発しようとする言葉に耳を覆いたくなる衝動があった。彼はあの時に死んだ。目の前でムスタファーの溶岩に飲み込まれて死んだのだ。生きているはずがない。

 

彼は死んだのだ。

 

あの惨状で生きているとしたら…それはもう…。

 

ダゴバで見た暗黒面のビジョンが、アナキンの心を鷲掴みにした。ヴェイダーの仮面の向こう側にいた者、それがオビ=ワンだったことも、息子のルークだったこともある。あるいは自分自身。

 

だが、そのどれもがアナキンが恐れるものではなかった。

 

それは悪夢だった。試練でも訓練でもない。夢を見る中で現れたヴェイダーのビジョン。そのマスクの下にいた者。それこそがアナキンが恐れる者だった。

 

引き下がりそうになる心をぐっと押しとどめて、アナキンは目の前に立つ骸の仮面を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は、ログなのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長い沈黙だった。

 

振り絞るようなアナキンの声を耳にしてから、ヴェイダーはプラズマで満たされる光刃を地に向けたまま佇む。

 

時折聞こえるガスの噴出音が聞こえるだけで、あたりにはライトセーバーの独特な音だけで満たされ、それ以外の全てが静寂だった。

 

「衰えたものだ、スカイウォーカー。ログ・ドゥーランは死んだ。この私が奴に終止符を打ったのだ」

 

そのヴェイダーの言葉で、アナキンの疑念は確信に変わった。同時に、深い悲しみと絶望に突き落とされた。ああ、なんていうことだ。あまりのショックに顔を覆いたくなる。だが、相手はそれを許さないだろう。アナキンは師と同じ型を構えたままジッとヴェイダーを睨みつけた。

 

「人間は、生き物はフォースの器になんてなれやしない!!ログ!!自分を取り戻すんだ!!」

 

その悲痛な叫びは、ヴェイダーの放った一閃によって遮られた。一合で放たれる無数の斬撃を切り返し、アナキンとヴェイダーは間合いを取った。

 

「無意味な問答だ、アナキン・スカイウォーカー。お前も道を違わなければ、私のような完全なる全能の存在になれたものを!!」

 

「人が人である限り、完全なものになんか成れない。それを教えてくれたのはログだ。不完全でも、大切なものを守る大切さを伝えてくれたのが…!!」

 

プラズマの光刃がぶつかり合う。鉄網の床を二人のブーツが蹴り、立ち上る煙をライトセーバーが切り裂く。ヴェイダーの放った袈裟斬りの一閃をアナキンが躱すと、その先にあった施設を保持する柱の一本が真っ二つに切り裂かれる。

 

溶断された柱は自重に耐えきれずに折れると、底の見えない煙の闇へと轟音を立てながら倒れ落ちていった。

 

「フォースに勝る摂理など、この世に存在しない。まやかしや愛などというものは、人が生み出した幻想に過ぎん」

 

「彼はその幻想の大切さを誰よりも理解していたんだ!!僕に伝えてくれたように!!」

 

彼はいつも、それを教えてくれた。

 

母を共に救ってくれた時も、パドメとの愛を認めてくれたときも、共にクローン戦争を駆け抜けた時も。彼は誰よりも優れたフォースの使い手であると同時に、アナキンに家族の尊さと愛の大切さを教え、導いてくれた。

 

だから、今度は僕が彼に教える。

 

彼から教えてもらえた「愛」を。

 

なによりも自分を愛せなかった親友に、その大切さを伝えるために。

 

「目障りなジェダイめ、貴様もオビ=ワン同様、この私が永遠に葬ってくれる!!」

 

そのアナキンの思いを切り裂くように、ヴェイダーは怒声に満ちた声で言葉を発する。彼の構えが変わった。アナキンの内面にある警戒心が一段階跳ね上がった。

 

ヴェイダーの取った構えが、生前ログ・ドゥーランが最も得意とした攻撃特化の型「ヴァーパッド」だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

クラウド・シティの通気用の通路の中で、カイロ・レンとルーク・スカイウォーカーは熾烈な戦いを繰り広げていた。

 

互いに攻撃型のライトセーバーの閃光を振るい合い、狭い通気用の通路の壁には高熱で付けられた傷跡の尾を伸ばして残してゆく。

 

独特なスパーク音とプラズマの揺らぎが生み出す剣戟は、一種の演舞を思わせるように激しく、鮮やかで、過激な激突であった。

 

「どうした?この程度か、ジェダイ!」

 

通路の先に出る少し大きなホールで、カイロ・レンはクロスガードライトセーバーを閃かせた。ブレードを弾き上げられたルークは、弾かれた反動を生かしたまま防護を怠らず、その場で宙返りを打って、ライトセーバーを構え直した。

 

「お前の意思の強さはこの程度なのか?お前のやっていることは、悪戯に過去の規律に縋り付いたジェダイの真似事に過ぎないぞ!!」

 

「くっ!!カイロ・レン!!」

 

ルークの雄叫びと共に再び剣を重ねる二人は、ホールの真ん中で激しく剣舞を競い合う。

 

体を入れ替えて攻防を目まぐるしく入れ替えていた二人は、やがてその場から動かずにライトセーバーを振るい始めた。スパーク音とセーバーを振るう音が徐々に加速してゆき、渾身の一撃を見舞うタイミングを見計らう。

 

「俺が目指すものは帝国市民の平和と安全、それを司る正義を貫くだけだ!貴様のような過去にしか縋ることのできない者に負ける道理はない!!」

 

カイロ・レンの声と共に、必殺の剣がセーバーの乱舞の中から射出された。ルークも同時に剣を閃かせ、赤と青のセーバーが凄まじいスパークを発生させながらぶつかり合う。

 

引くも押すもできない鍔迫り合いだ。

 

二人は互いに理解し合うように、手のひらにフォースを漲らせて、セーバーの隙間からぶつけ合った。

 

カイロ・レンとルーク。

 

その二人から発せられるフォースの力は常軌を逸しており、ホールに張り巡らされたパイプや柱の、壁をひしゃげさせ、くの字に折り曲げた。

 

反発し合う二人のフォースはやがて許容量を超えた。カイロ・レンとルークはまるで磁石が反発し合うかのように反対方向へと弾き出される。互いが壁に体を打ちつけ、もんどり打ちながら、痛みに震える体を起き上がらせる。

 

「…ジェダイの本質を見誤るな、お前はまだ世界の在り方を知らない。平和と正義のあり方も!!」

 

震える手を気合いで動かし、カイロ・レンは床に転がった自分のライトセーバーをフォースの力で手繰り寄せ、再び赤い光刃を漲らせた。

 

ルークも立ち上がり、肩を上下する激しい呼吸を整えながらライトセーバーを構える。

 

「帝国を倒し、俺たち騎士団を倒したあと、お前たちジェダイは何になる?共和国政権を復活させ、また平和の守護者だとのたまいながら、ライトセーバーを振るうのか?それでは何も変わらない。単なる暴力装置へと成り下がったジェダイと何ひとつとして!!」

 

 

また無秩序の世界へと還りたいか!

 

力を持つ者が全てであると言わんばかりの世界に!

 

銀河帝国がもたらした規律と秩序を破壊してでも、お前たちは自分たちの正義が正しいと聞く耳を持たないか!!

 

ライトセーバーの剣戟の中、地獄から響くようなカイロ・レンの叫びに、ルークもライトセーバーで応戦しながら顔をしかめた。

 

クワイ=ガンの言葉を無視して、なぜ自分は反乱軍に加わり、ライトセーバーを振るったのか。レイアが反乱軍に加わっていたから?ジェダイを復興させて、共和国を蘇らせたかったから?自分の力を誇示したかったから?

 

どれもが違う。今のルークにならそれが分かる。本当に為すべき使命が別にあるということも。きっとレイアも、アナキンもわかっているはずだ。

 

自分の師であったオビ=ワンが殉じた道。それが答えに繋がっているのか。ルークにはまだ、その答えを見いだせていない。

 

そして、それはカイロ・レンも同じであった。

 

「貴様が、また時代を繰り返すことを目指すと言うなら……お前にそれ以外の可能性を感じられなかったら、レン騎士団の名において、帝国に仇なす貴様たちの命を断つ!!」

 

クロスガードライトセーバーの切っ先をルークに向けてカイロ・レンは咆哮する。フォースのパワーに傾倒した考え方だ。ルークは深く息を吐いて、ライトセーバーを構えた。

 

互いが求めるものは、とても似通っている。もしかしたら同じものなのかもしれない。違うかもしれない。

 

そして、その答えは戦いの中でしか得られないということを、ルークは理解していたのだった。

 

 

 

 



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宿命の戦い 3

 

 

 

「あーくそ!!ああも敵が多かったら船を上げてもシールドを展開する前に落とされちまうぞ!」

 

ハンのファルコンとボバのスレーヴⅠが停泊する発着場へとたどり着いたレイア達であったが、その場はベスピンの抵抗勢力と帝国軍の銃撃戦が繰り広げられている激戦区だった。

 

抵抗勢力を指揮するランド・カルリジアンにハンが「よくも帝国に俺たちを売ったな」と文句を言うが、今はいがみ合っている場合じゃない。それにハンもランドからファルコンを巻き上げた経歴や、諸々の悪どいことをしていたので正直に言えばどっちもどっちであった。

 

「帝国はどれだけの戦力をここに持ち込んだというの!?」

 

「そりゃあ、惑星ひとつ制圧できる分だろ!!軌道上にはスターデストロイヤーが艦隊で待ってるんだからな!」

 

「ご親切な情報どうも!!」

 

ボバの大声にハンが開き直った様子で叫んだ。ブラスターの閃光が辺りで火花を散らし、ファルコンの足元に隠れながら銃撃戦に応じるチューバッカも不満げな吠え声を轟かせた。

 

「あぁ!わかってる!!」

 

だからそんなに喚くな!とハンがチューバッカを抑えるが、彼が吠えたのはこの状況に対する文句ではなかった。「え?何?後ろを見ろって!?」ハンが振り返ると、そこには新たに投入されたウォーカーが向かってきていた。

 

だがおかしい、そのウォーカーからパイロットが降りてくるではないか。

 

「AT-AT?いや、あれは…伏せろ!!」

 

ボバがヘルメットに備わる望遠レンズでその独特なシルエットを捉えたと同時に、その場にいる全員に伏せるよう指示を出した。ランド達も伏せた瞬間、AT-ATから放たれた巨大な光は眩い閃光と化して飛翔し、クラウド・シティのタワーひとつを容易く粉砕したのだ。

 

「なんだありゃあ!?」

 

瓦礫と粉塵が辺りに降り注ぐ。レイアとパドメがグッと出そうになる悲鳴を抑えながら耐える中、ハンがとんでもない破壊力を持つ兵器に目を剥いていた。

 

「AT-A-SPATだ!!くそ!帝国め!あんな兵器を出して喜ぶか!変態め!!」

 

「ボバ!!口が悪いですよ!!」

 

昔から父に似た口調をよくパドメに注意されたが、今はそれどころではない。現れたウォーカーはとびきりにヤバイ兵器だった。

 

偵察型用のウォーカーに、MS-1連動式重ターボレーザー砲を取り付けていると言う帝国きってのビックリドッキリメカだ。

 

バランスをとるため元車両と砲の向きが正反対。そのシルエットはボバから見ても一目瞭然だった。

 

しかも噂に聞けば、その頭部にくっ付けた主砲を発射すると、コクピットが放熱のために摂氏120度に見舞われるというクソッタレな仕様になっているため、操縦手が避難しなければならない。

 

が、実戦に投入してみると、ぶっ放したらすぐに一目散に逃げることができるので、一撃離脱戦法を取ることが多い自走対戦車砲としてはある意味理に適った構造であることが判明した故に、帝国軍は拠点制圧作戦で数機のAT-A-SPATを運用していたのだ。

 

「あんなもの食らったらひとたまりもないぞ!?ファルコンのシールドなんて紙切れみたいなもんだ!!」

 

帝国のデストロイヤーの対空砲を掠めるだけでブザーがなるシールドだ。あんなとんでもない重ターボレーザーなんて食らえば、ファルコンは文字通りスクラップと化すだろう。もちろん、スレーヴⅠのシールドでもあのレーザーに耐えれる代物ではない。

 

ボバは立ち上がるとブラスターを構えるレイアとパドメの元へと走った。

 

「レイア、俺がスレーヴⅠに向かってカノンで奴を倒す。そのあとはなるべく敵を引きつけるから、お前たちはあのスクラップで全速力でベスピンを離脱しろ」

 

宇宙に脱して、ハイパースペースにさえ入れば、なんとでもなる。ボバがそういうとレイアは信じられないものを見るような目でマンダロリアンのヘルメット越しにボバを見つめた。

 

「そんな、ボバは…!?」

 

「元は俺が蒔いた種だ。賞金稼ぎとしてのケジメはつけなければならない」

 

「ダメよ!!一緒に逃げましょう!?貴方だけが残るなんて…!!」

 

「行くんだ!レイア!!ミセス・アミダラ、彼女を…オイ、ロクデナシ!!彼女を頼むぞ、約束しろ。彼女を守ると」

 

爆音とレーザーの火花が散る中、ボバはヘルメットを脱いでその端正な顔立ちをハンへと向けて問いかけた。ハンはしばらく、ボバの目を見つめてから、ファルコンのタラップを下ろすスイッチを押し叩いた。

 

「わかった。約束する」

 

ダメよ!!そう言うレイアをパドメとチューバッカがファルコンへと運び込んでゆく。ランド達も共に離脱できればいい。全員が頷くとそれぞれが離脱する船へと乗り込んでゆく。

 

「ボバ、フォースと共にあらんことを」

 

ファルコンに乗り込む寸前、パドメがボバへそう言葉をかけると、彼はニヒルな笑みを浮かべてから父から譲り受けたマンダロリアンのヘルメットを被って二丁のブラスターを構えた。

 

「俺は俺の流儀しか信用してないんでな」

 

背中に備わるジェットパックで空を飛翔し、ボバは押し寄せるトルーパー達を両の手に持つブラスターで一掃して、スレーヴⅠへと滑り込む。独特なコクピットへと入ると、すぐに機首に備わるレーザー砲を起動させて、ターゲットであるAT-A-SPATへ狙いを定めた。

 

レーザーの重い発射音が響く。スレーヴⅠから発射されたレーザーはパイロットが操縦していないAT-A-SPATを次々と吹き飛ばした。後ろを見ればファルコンやベスピンの船が飛び立ってゆくのが見える。

 

途端、ボバの体が激しい揺れに襲われた。モニターを見ると、AT-A-SPATの他に通常のAT-ATもこちらに向かってきているのが見えた。

 

スレーヴⅠのエンジンはまだ暖まっていない。レーザーで応戦するが、数の違いが大きすぎる。

 

「くっ…ここまでか…!!レイア…ルーク…!!」

 

数台のAT-ATに囲まれた状態の中、ボバは操縦桿を握りしめながら襲いかかってくるウォーカーたちの攻撃に備えた。

 

だが、ウォーカーたちのレーザー砲が火を拭くことは無かった。二足歩行のAT-ATのコクピットを、緑色の砲火が穿ったのだ。突然の攻撃にコクピットが丸ごと吹き飛んだウォーカーは、足だけを残してしばらく佇むと、音を立ててその場に崩れ落ちた。

 

「TIE・ファイター…?敵同士でやり合ってるのか!?」

 

ボバがスレーヴⅠから降りた先で見た光景は、頭上を編隊を組んだTIE・ファイターが飛び交い、連携してウォーカーや、クラウド・シティの住民へ危害を加えていた帝国軍の兵士たちを吹き飛ばしていたのだ。

 

戸惑いが隠せないボバの先へ、ガスの雲を裂いて現れた輸送船の小隊が降り立つ。後部のハッチが開いたと同時に、帝国兵と同じ白い装甲服を着た兵士たちが降りてきて隊列を組んだ。

 

「降りろ降りろ!!降下ポイントを確保するぞ!」

 

指揮する色付きのボーダーラインや、カラーリングが施されたトルーパーの指示のもと、帝国兵よりも統率された動きをする兵士たちはすぐにベスピンの街中へと進軍してゆく。TIE・ファイターの攻撃によって乱された帝国兵たちを蹴散らしながら進む兵士たち。

 

その違いは一目でわかった。降り立った部隊が身につける装甲服は、型は古いものだが明らかな〝クローントルーパー〟の装甲服だったからだ。

 

「ボバ・フェットだな、よくぞここまで耐え忍んだ」

 

「お前たちは…兄弟なのか?」

 

「俺はエコーだ。この見た目の通り、体のほとんどはサイボーグだがな、あっちはクロスヘア、テック、レッカーだ」

 

第二部隊として降り立ったのは、サイバネティクス手術を受けた歴戦のクローン兵士であるエコーだ。彼が指差す方にも、年老いているが貫禄があるトルーパーたちがいる。

 

彼らが指揮をするのはクローン兵ではなく、騎士団や帝国が管理する地域から志願してきた者たちだった。彼らは精鋭であり、老兵でもあるクローン兵からの訓練を受けており、民間人からの応募で集められた兵士とは思えない統率性と戦闘力を備えていたのだ。

 

「ブラスト分隊は東側のターミナルを確保だ!行け行け!!」

 

クローントルーパーの装甲服を着た兵士たちが電撃的にベスピンのクラウド・シティに展開し、帝国軍を打ち破る光景。それはファルコンで離脱したレイアたちも目撃していた。

 

「これは…」

 

なぜ、ストームトルーパーと、クローントルーパーが戦闘を起こしているのか。まるでクローン戦争時代にタイムスリップしたような感覚に陥るパドメの横で、ファルコン号へ一つの通信が入った。

 

《久しぶりですね、アミダラ議員》

 

「ウルフ・ユラーレン!!」

 

そこに映し出されていたのウルフ・ユラーレン提督だった。

 

彼は共和国時代のクローン戦争から戦う古強者であった。戦時中は共和国宇宙軍の提督としてヴェネター級スター・デストロイヤー<レゾリュート>を指揮し、将軍であったアナキンとたびたび行動をともにした。

 

厳格なユラーレン提督は、無謀で自由奔放な性格のアナキンの行動に悩まされることも多かったが、ジェダイ・ナイトの勇敢さを高く評価していた。

 

クローン戦争が終わり、新たに銀河帝国が誕生した後、ユラーレンは宇宙軍を退役して帝国の情報管理局の副長官となっていたのだ。

 

《帝国軍では副長官ではありますがね。今では帝国軍…というべきかもわかりませんが》

 

「どういうことなのです?」

 

怪訝な顔をするパドメの顔を見てから、ユラーレンは咳払いをしてから、現在の状況を率直に伝えた。

 

《反乱です、いや、クーデターというべきでしょう。レン騎士団を中心に、銀河各地で帝国兵や将校たちが武官たちへの反抗作戦を開始したのです》

 

彼らはやり過ぎました、と彼は続けてパドメに話した。ターキン総督やヴェイダー、レン騎士団が築き上げたモラルを瞬く間のうちに崩した。このままでは帝国の内政は一気に崩れることになる。

 

「そうなる前に、前体制派閥の貴方たちが立ち上がったということですか?」

 

《議員、間違っても貴方達反乱軍の企てに加勢する勢力だとは思っていただきたくない。我々は帝国の秩序と正義を守るために立ち上がったのです。打ち崩すのではなく、内部から変えるために》

 

そう言って帝国軍の軍帽を下げたユラーレンの通信は終わりを告げる。

 

パドメたちがファルコンのコクピットから空を見上げると、大気圏スレスレを飛んでいる彼の船が、レゾリュートの形がはっきりと見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

炭素冷凍室から場所を変えたアナキンとダース・ヴェイダーは、大きなガラスがある中央シャフトに繋がる部屋の中でライトセーバーをぶつけ合っていた。

 

ヴァーパッドの型から繰り出される幾千の攻撃の全てが必殺。アナキンは師匠から学んだソレスの型を駆使して防衛に徹し隙を窺うが、超攻撃型のヴァーパッドに付け入る隙はない。

 

一閃を避けて身を翻したアナキンだったが、避けたと同時に次の攻撃が飛んでくるのだ。ライトセーバーで受けるが、体勢は大きく崩されて、必然的にアナキンはヴェイダーとの距離を取った。

 

「アナキン・スカイウォーカー。お前は昔から変わらず臆病なままだ。失うことを恐れ続けている。いつ、その手からこぼれ落ちるかわからないものを守るために躍起になっている」

 

電子音で構成される声帯が、不気味なまでに低い声を発していた。そこにかつての友の面影はない。まるで機械が決められた文字の羅列を読み上げているようにも思えた。

 

呼吸音だけが静寂の中に響き、アナキンはプラズマの刃を構えたままジリジリとヴェイダーの動きを見極める。

 

「目を覚ませ、アナキン・スカイウォーカー。お前の生きる道は私と同じだ。選ばれし者としての責務を果たす義務があるはずだ。お前は選ばれたのだ、フォースの意思に」

 

同時に繰り出される連撃。数秒の中に凝縮された光刃の一閃を潜り抜け、躱し、打ち払い、切り抜ける。

 

身体中が悲鳴を上げているようだった。

 

相手の動きは無駄な部分を削ぎ落とされており、相手の手足や首を切り裂くことに特化している。そんな相手の一撃を紙一重で躱していく作業をアナキンはとてつもない集中力の中で実行していたのだ。

 

「フォースは、自然にあふれるエネルギーそのものだ。運命や宿命を指し示すのは、僕ら人間の主観で決め付けている側面に過ぎない…!!フォースはもっと自然で、どこにでも溢れているんだ…!!それを運命の意思だとして、受け皿になる在り方は間違っている!!」

 

幾つかの剣を受け止めた中で発生した鍔迫り合い。ライトセーバーのスパークに顔を照らされながら、アナキンは必死にヴェイダーへと言葉を放ったが、暗黒卿は聞く耳など持たずに更なる闘争の火を燃やした。

 

「そうしなければ、この銀河は滅ぶぞ。選ぶ余地など存在しないのだ、アナキン・スカイウォーカー」

 

選んでいてはキリがない。ヴェイダーの言わんとしてることはアナキンと十分に理解した。ダゴバでの修行は肉体面よりも、感じ方や思考のパターンを身につける修行となったのだ。

 

「バランスを保つために、私たちはこの世に降り立ったのだ。ライトサイドと、ダークサイドのバランスを保つために…!!」

 

「違う!!そんなものに、人の命は左右されない!!人にはそれを切り開く力がある!!フォースには存在しない力だ!!」

 

ライトセーバーがぶつかり合うスパーク。鍔迫り合うアナキンの言葉に、ヴェイダーはその剣で振り払うようにソレスの型から繰り出される攻撃をいなす。

 

「ならば、お前はなぜジェダイとして戻った。なぜライトセーバーを握った。お前もまた、そのフォースに導かれた故にだろう。アナキン・スカイウォーカー」

 

なぜ、ライトセーバーを再び握ることにしたのか。

 

なぜ、閉ざしていたフォースの感覚を、絆を再び取り戻したのか。

 

なぜ、彼はこの場に来たのか。

 

ジェダイという枠組みの中で英雄となったアナキンに、ヴェイダーは問いかける。何のために戦うのか。ジェダイとして戦場へとアナキンは戻ってきたのか。

 

「僕は…僕は…」

 

引き絞るようなアナキンの声であったが、彼は大きく息を吸い込んでライトセーバーを構える。その姿はデス・スターで剣舞を交わし合ったジェダイマスター、オビ=ワンと同じだ。

 

(君が感じる使命は、本当に必要なものか?)

 

脳裏を過ぎるフォースと言葉にヴェイダーが顔をしかめると、その前に立ったアナキンは真っ直ぐとヴェイダーを見た。

 

「僕はジェダイではない!!」

 

はっきりと口にして、声にしてアナキンは自身の意思を明確に言葉とした。ジェダイは、あの日、ムスタファーの戦いの後にやめた。今の自分に、そんな高尚な名はない。フォースを感じとり、そしてライトセーバーを振るう……ただの……。

 

「僕は、お前を止めるためにやってきた、〝ただのアナキン・スカイウォーカー〟だ!!!!」

 

青と赤の光刃をぶつけ合いながらアナキンが叫んだ。あの時とは違う、と。そしてヴェイダーとの距離を開けた瞬間だった。

 

「よく言ったぞ、アナキン・スカイウォーカー」

 

天井を円状に切り裂いて飛び降りてきたのは、赤と黒の体色に覆われた一人の戦士だった。

 

着地した姿勢から立ち上がった彼は、身につけてきたフードを下ろす。その下から出てきたのは、体の模様が織りなす独特な風体と、頭から生える角だった。

 

モール。

 

この世界で死ぬ運命から脱した彼は、最初のノーバディ(誰でもあり、誰でもない)となり、銀河中を駆け抜けてきた。ログが予言した共和国の終わりに備えて。

 

「帝国の軍勢がこちらに向かっている。お前の娘や妻は我々の同志が保護した。目的は達したぞ、スカイウォーカー。ここは俺に任せてくれ。あの人のことも」

 

レン騎士団と協力してベスピンの市民の救助に現れたノーバディたちは、トルーパーたち共に進撃し、囚われの市民たちを解放しているだろう。同じく、アナキンの家族たちもだ。

 

「モール…」

 

「後のことを頼むぞ、アナキン」

 

振り返らずに言うモールに、アナキンは何も言わずにその場を後にした。本当は残って、ログの在り方をどうにかしたかったが、モールのフォースを感じ取ったアナキンは、そのすべてを諦めたのだ。

 

それほどまでに、この老齢となったモールの体から溢れるフォースは力強い何かを宿していたのだ。

 

「モールか…久しいな」

 

何一つとして口調も声色も変えることなく、ましてや懐かしさなど微塵もないヴェイダーは、現れたモールへライトセーバーを構えながらそう言った。

 

「お前は俺を見つけてくれた。真っ暗な暗闇と怒りしかなかった世界から連れ出してくれたんだ」

 

シス…ダース・シディアスに拉致される形で地獄に叩き落とされ、怒りと憎しみでしか動かなかった自分を見つけた男は、紛れもなく目の前にいる姿に変わり果てていた。そのフォースから一切、自分を見つけてくれた恩人の気配を感じとることはできなかった。

 

「お前から受け取った使命は果たした。だから、今度は俺が見つける番だ」

 

静かにモールは言うと、腰に備わるライトセーバーを引き抜き、ゆっくりとヴェイダーに見せつけるように構え、両刃の黄色い光刃を出現させた。

 

「それもまた、フォースの導きならば」

 

躊躇いなく、敵対行動をとったモールを〝処理〟するために動き出したヴェイダーに、年老いたモールはライトセーバーを回転させながら受けて立った。

 

赤と黄色の光刃の向こう側。骸のマスクをかぶった姿を見つめながら、それでもとモールはヴェイダーに言葉を投げた。

 

「たとえ道半ばで倒れようとも、ログ…お前自身の夜明けに繋がるなら、本望だ」

 

すべては…。

 

フォースの夜明けのために。

 

 

 

 

 

 



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宿命の戦い 4

 

 

 

「さぁ、行くよ。仕事の時間だ」

 

幾人のトルーパーたちと共にクラウド・シティへと降り立ったノーバディの古参メンバーの一人であるアサージ・ヴェントレス。

 

彼女は、夫であり戦友でもあるクインラン・ヴォスと共に輸送船から降りると、黄色いライトセーバーを引き抜き、前線で戦うレン騎士団の援護へと加わった。

 

「お前たちは…」

 

「今回ばかりは協力するよ、サー・マレック。私たちの任務は苦しんでいる市民を守ることにあるからね」

 

帝国兵のブラスターを難なく弾き返す二人に、騎士マレックとブリッジャーは互いに顔を見合わせるが、すぐに意識を切り替えて戦闘を再開した。

 

帝国兵は突如として現れた〝レン・アーミー〟の軍勢を前にして指揮系統が完全に混乱していた。電撃的な作戦は効果を遺憾無く発揮し、制圧された各所からは救助を求める市民たちが殺到し、レン騎士団と兵士たちの指示のもと、収容作業が進められていた。

 

「民間人の収容用の輸送船、準備ができました」

 

「頼むぞ、キャプテン。俺たちは取り残された人を救出に向かう」

 

「御武運を、サー・ブリッジャー」

 

駆け出してゆく光刃を携えた騎士や戦士たちを見送った後、エコーや他の指揮者は収容が進められていく様子を見つめながら声を張り上げた。

 

「各員、民間人の収容を!敵勢力がインバウンドするまで残り5分だ!撤退準備急げよ!」

 

退けたとは言え、帝国軍の戦力は計り知れない。ベスピンに差し向けられた兵は、スローン大提督や武官たちからしたら、雀の涙程度の戦力なのだろう。こちらに向かってくる敵の反応は、旧共和国製の艦艇で構成された反抗勢力の艦隊の数倍の規模にあたる。

 

まともに相手をすれば戦いにもならないだろう。故に、今は救助を求める市民たちを収容し、撤退することがなによりも重要だった。

 

 

 

 

 

 

クラウド・シティの最下層までたどり着いたカイロ・レンとルークは、噴き上がるガスと風に身につける衣服をはためかせながら、ライトセーバーの剣戟を交える。

 

真っ赤なライトセーバーがルークの一撃を跳ね除けると、一閃。上から下へと振るわれた一撃を紙一重で避けたルークだったが、すでに気力も体力も限界を迎えつつあった。

 

「終わりにするか?続けるか?ジェダイ」

 

「それを決めるのは、お前じゃないぞ…カイロ・レン!」

 

互いに死力を尽くしていた。クロスガードライトセーバーを向けるカイロ・レンも、ここまで手こずることは考えていない。互いに肩で息をする中、カイロ・レンは真っ直ぐとライトセーバーを構えて、こちらを見据えるルークへ何度目かわからない問いをかけた。

 

「スカイウォーカー。お前は本当にジェダイなのか?旧体制を信用するただのジェダイで満足するのか?」

 

旧共和国…いや、それ以前から連綿と続いてきたジェダイのあり方。教えや規律。シスとの因縁。それを引き継いで、ジェダイ・オーダーを復活させることが本当に世界が良くなる方向に力を働かせるのだろうか。

 

カイロ・レンにはそうは思えなかった。過去から続く重い足かせであり、鎖だ。オーダーがあっても、クローン戦争は止められなかったし、なにより平和の守護者だというなら強者に震える弱者が銀河に存在することもなかった。

 

結局のところ、ジェダイというのは人がフォースの側面を概念化させた思想でしかない。万能でも全能でもないのだ。永久に続いてゆく完璧なシステムなど、この世には存在しない。だからこそ、レン騎士団や帝国という、時代と歴史の流れから生まれるシステムがあるのだ。

 

ルークもそれを十分にわかっていた。

 

ダゴバでの修行、そしてボガーノでの修行。多くの星の滅びと繁栄を見た。その中には平和もあったが、ジェダイの求める永遠の大安など、どこにも存在しなかった。

 

でも、と。ルークは前を向いた。それでもと歯を食いしばって、カイロ・レンを見た。彼が求める物が、この剣戟の中でルークにも見えたのだ。

 

「…カイロ・レン。僕はジェダイだ。師や、父がそうであったように。けれど、過去の体制に与することはない」

 

かつて父が夢見たジェダイとして。銀河を飛び回り、奴隷や、理不尽な理由で虐げられ、悲しんでいる人々を解放する秩序と正義を司る存在として、ジェダイは有り続ける。

 

そこにオーダーや、評議会など必要ない。上や下も存在しない。フォースとの関わりを持つ誰もが平等であり、同じなのだ。

 

塔〝テンプル〟も必要ない。そこにあるのは均等に置かれた円〝ラウンド〟だけだ。

 

「ジェダイは、平和を守護する守り手だ。だから、僕はその使命に殉ずる。多くの人を助け、解放するために」

 

満遍なく、偏りもなく、主義や主張も、思想も体制もいらない。ジェダイとは…否、フォースと向き合い、運命と向き合い、それに答える。弱き者を導き、力ある者を導き、ダークサイドへ理もなく落ちた者を討つ。

 

それがルークの見つめるジェダイの本質だった。

 

その答えを得たカイロ・レンは、しばらくベスピンの風に服を揺らしながらたたずみ、構えていたライトセーバーの刃を収めた。

 

いいだろう。それがジェダイの本質だと見つめるなら、その行先を見定めることが、レン騎士団を率いる自分の役割なのだと思う。

 

帝国の正義と平和のために。

 

弱き者の盾となり、秩序を保つために。

 

似ているようで異なる道ではあろうが、されど、どちらかを滅ぼす必要はない。共にある事が認められる寛容さもまた、フォースの持つ側面の一つなのだから。

 

「カイロ・レン!ルーク!」

 

ルークもセーバーを収めたと同時、下層部まで降りてきて声をあげたのは、マンティスから降りてきたシアと、カルたちだった。

 

「マスター・シア!」

 

「帝国の軍勢が来るぞ!早く脱出を!!」

 

二人から少し離れた場所から声を上げたカルに、ルークが答えようとした瞬間だった。

 

二人が立っている通路が突如として爆発に見舞われたのだ。揺れる足場にタタラを踏むルークが目撃したのは、帝国軍のTIE・インターセプターの姿だった。先行してきた帝国の増援部隊が、航空戦力を先に投入してきたのだ。

 

それを知る猶予もなく、再びルークたちがいる通路はTIE・インターセプターのレーザー砲火に見舞われ、二人は爆発に巻き込まれた。

 

爆風によって吹き飛ばされたルークは、シャフトの側面に体を叩きつけられたのち、そのままクラウド・シティの吹き抜けの空間へと落ちていった。

 

シアやカルの声が微かに聞こえたが、爆風のダメージとカイロ・レンとの戦いの影響で、ルークに残された力は僅かしか無かった。

 

「ぐ…はぁ…」

 

ダストシャフトへと落ちたルークは、そのまま通路内を転がるように落ちてゆき、シティの外縁部へと放り出された。手を伸ばし、フォースの力を借りてなんとか下部のアンテナ部へと掴まることはできたが、それ以上のことは叶わなかった。

 

「力が…くそ…」

 

身をよじってアンテナに掴まる。だが、このままでは体力切れで底のないベスピンの空へと落ちてゆくことになるだろう。カイロ・レンも同じように爆発に巻き込まれていたが、彼が放っていたフォースを感じ取ることもできなかった。

 

「父さん…レイア…」

 

意識が霞む中、ルークはフォースを辿った。その流れは、ミレニアム・ファルコンのコクピットシートにいたレイアへと届く。

 

「ハン、待って。…ルークがいるわ」

 

「なんだ?アイツが?どこに!?」

 

「分かるのよ。そのままクラウド・シティの真下へ!」

 

レイアの指示に従って、ハンはクラウド・シティの外縁部へと舵を切った。

 

のちに、アンテナに掴まっていたルークを救助した彼らであったが、カイロ・レンの消息を掴むことはできなかった。

 

 

 

 

 

 

ヴェイダーの元から離れたアナキンは、通路で鉢合わせた帝国軍のトルーパーたちをあしらい、自身とルークが乗ってきたジェダイ・スターファイターのある発着場へと急ぐ。

 

だが、たどり着いた先にあったのは、ぼろぼろに破壊されたスターファイターと帝国兵の軍勢だった。

 

ドアを出たと同時にその光景を見たアナキンは素早くライトセーバーを構えたが、トルーパーたちはブラスターを構える間も無く、不可視の力によって押し出されて、ベスピンの空へと吹き飛ばされていった。

 

「アナキン!」

 

「アソーカ!」

 

合流したのは、避難するクラウド・シティの市民たちを先導していたアソーカと、バリスだった。彼女たちとアナキンを追っていた帝国兵たちが現れたせいで、久々の出会いを喜ぶ暇もない。

 

「まったく!相変わらず無茶をするマスターなんだから!」

 

「無駄口を叩いても終わらないわよ、アソーカ!マスター・スカイウォーカーも早く!」

 

ライトセーバーで市民たちを守りながら後退するアソーカたちに合わせて、アナキンも防衛線に加わる。

 

すると、発着場へと輸送機が到着する。そのハッチからガトリングブラスターを構えたクローントルーパーのレックスが、3人の援護へと入った。

 

「レックス!」

 

「スカイウォーカー将軍!こちらへ!早く!」

 

市民たちを先に乗せてから、アソーカとバリスも輸送船へと続くタラップに足をかけた。アナキンも最後の帝国兵を弾き返したブラスターで仕留めてから走り出したが、その足はタラップの手前で止まった。

 

ゆっくりと振り返る。

 

そこには真っ赤なライトセーバーを携えたダース・ヴェイダーが佇んでいた。

 

こちらに向かって歩いてきているヴェイダーへ、アナキンとアソーカとバリスはライトセーバーを構えて迎え撃つ。

 

「ヴェイダー…!!」

 

「逃すとでも思っているのか」

 

歴戦の戦士である3人を前にしても怯む様子も見せないヴェイダーは、セーバーを構えて攻撃態勢へと入った。そのヴェイダーの頭上を何かが飛び越える。

 

「ヴェイダァアっ!!」

 

黄色い光刃を出したまま宙返りからヴェイダーの目の前に着地したのは、傷だらけとなったモールだった。

 

「モール卿!!」

 

2対の光刃を出すライトセーバーは真ん中で叩き切られ、モールの体の至る所には重度の裂傷や焼き傷が刻まれている。焼きで閉じられていない傷口から、緑色の血液が溢れ、地面に滴る。

 

「来るな!アソーカ!!」

 

その様子にアソーカが飛び出そうとしたが、ピシャリとした声でモールはアソーカの援護を止めた。

 

「邪魔をするか、モール。見逃すチャンスを与えたというのに」

 

「言ったはずだぞ、ヴェイダー。俺が今度は見つける番だと…!!」

 

身体中に走る痛みを噛み殺して、モールは一刀の光刃を振るった。深傷を負っても、モールの素早い攻撃は健在だっだが、その全てをヴェイダーは難なく受け止めて逸らした。

 

「愚かな選択だ。故に貴様は死ぬ。ここで、その私の手によってな」

 

「モール卿!!」

 

このままでは、彼はやられる!!そのビジョンを見たアナキンがモールとヴェイダーの戦いに踏み込もうとしたが、モールはアナキンたちを見ずに、フォースプッシュを放って彼らの介入を阻止する。

 

それはまるで、お前たちには他になすべき事があるだろうと言っているように思えてならなかった。

 

「将軍、ダメです!帝国軍が来ます!」

 

「ダメ!置いていくなんて!!」

 

レックスの言葉に首を振るアソーカとバリスへ、モールはヴェイダーの一撃を受け止めながら、背後にいる彼女らへ声を紡いだ。

 

「行け、アソーカ。みんなを頼む」

 

〝フォースが共にあらんことを〟

 

その言葉は、発せられることはなかったが確かにアナキンたちに聞こえた。輸送機のハッチが閉じられてゆく。

 

「モール!!」

 

ハッチの向こう側で戦い続けるモールの姿が目に焼き付いて離れない。クラウド・シティの上で戦う彼を残して、輸送船は空へ舞い上がった。

 

「出せ!!ベスピンから離脱するぞ!!」

 

大気圏を離脱してゆく輸送船。それと入れ替わるように到着した帝国軍の戦闘機部隊が、クラウド・シティの頭上を通過してゆく。

 

ヴェイダーは真っ黒な外套をベスピンの風に踊らせながら佇む。

 

その手には、半ばから切り落とされたライトセーバーが握られていたのだった。

 

 

 

 

 



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暗闇で笑う者

 

インペリアル級スター・デストロイヤー<キメラ>のブリッジへと戻ったスローン大提督は、逃げ去ったクーデター勢力の後を見つめながら思考に耽っていた。

 

「本格的なクーデターか。どうするつもりだ?スローン大提督殿?」

 

その背後にいるのは、ジオノーシスでカルやトリラたちをあしらって帰還したタロン・マリコスがいた。銀河の星々を見つめるスローンに、マリコスは臆面なくそう言った。

 

スローンは視線を外に向けたまま、マリコスの問いかけに答える。

 

「予定に変更はない。向こうが蜂起してくるなら都合がいいではないか。この際に、帝国の力の強さを示し、弱く腐ったところを切り落とせばいい」

 

「だが、あっちにはレン騎士団やノーバディ共がついている。いいのかね?」

 

マリコスの言葉にスローンはさして興味を抱かなかった。

 

反乱分子のクイーンとプリンセスを取り逃がしたのは痛手ではあったが、クーデターを引き起こしたユラーレン率いる勢力は、総勢合わせても武官派の戦力の四割にも届かないほどだ。帝国領内には多くの武官がいる。時間さえあれば鎮圧するなど容易であろう。

 

「構わんよ。理想と利潤の区別すらつかぬ騎士たちなど利用価値も少ない。故に、君たちのような力を誇示する存在がいるのだろう?タロン・マリコス」

 

スローンの手元には、シスの力を使役できる「シス・ストーカー」が残っている。タロン・マリコスを含め、その多くは歴戦の強者。恐るものなどない。

 

スローンは手元にある保存媒体を手で遊ばせながらほくそ笑む。

 

「ならば、臆することはあるまい。我々には新たなる叡智もある故にな」

 

起動した記憶媒体には、第二となる最強最悪の破壊兵器のデータが浮かび上がっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

「第二のデス・スター…ですか」

 

ヴェネター級スター・デストロイヤー<レゾリュート>。そのブリッジに招かれたパドメは、ユラーレンの言葉に耳を疑う。

 

信じがたい話ではあるが、あの星一つを容易く破壊できる兵器が、皇帝から武官派へ建造指示が発せられていたことをユラーレン提督一派は突き止めたのだ。

 

「まだ我らも断片的な情報しか入手できておりません、議員。だが、武官派閥がデス・スター規模の兵器を手に入れればやることは決まっています」

 

「力と暴力による銀河の支配ですか」

 

そのパドメの言葉にユラーレンは頷く。あれほどの強大な力を手に入れれば、武官派の帝国勢力が各星系を制圧にかかるのも時間の問題と言えよう。それに、帝国のお膝元でもあるコルサントでも不審な動きが見受けられた。

 

「プリンス・シゾール…その背後にあるブラック・サンも動き出しています。我らはまず彼らを抑え、来るべき日に備えます」

 

貴方たちを保護したのは、あくまで服務規定に則ったまでです、とユラーレンは口上を述べる。ファルコンに乗ってきたレイアやルークも、ベスピン制圧時に逃れてきた避難民扱いだ。長年付き合いのあったアナキンの親族と聞いた時は耳を疑ったが、彼は私情を業務に差し込むほどの愚者ではない。

 

そう取り繕うようにいうユラーレンに、パドメは優しげな笑みを浮かべる。

 

「ユラーレン提督、感謝します。願わくば、貴方たちと共に歩みたかった」

 

「ならば、帝国に下るべきですな」

 

パドメの政治的な手腕を駆使した交渉であったが、その開幕をユラーレンは軍人らしい言葉で切って捨てた。

 

「提督、わかっているはずです。私たちが立ち上がり、なすべきことは何かということを」

 

「我々は腐っても帝国軍人ですよ、議員。反乱分子になる気はさらさらない」

 

そもそも、ベクトルが違うのですとユラーレンは言葉を続けた。反乱軍は帝国を倒して共和制への回帰を望んでいるはずだ。先行きの見えない政治政策に乗るほど、自分たちは落ちぶれていない。

 

そして、帝国政府を打ち倒すつもりでもないのだ。これはクーデターだ。武官派の強行的な政策に異を唱えて自分たちは立ち上がっている。

 

そして、その点をパドメはよく理解していた。

 

「ならば、中身を変えるということに関して興味はありません?」

 

そう言って彼女は以前から試行していたある方針をユラーレンに見せた。

 

途端、彼の顔色が変わる。

 

パドメはこういった場面を幾度と乗り越えてきた傑物だ。彼女の打ち出した施策については、すでに多くの賛同を得ている。名簿の中には、反乱軍の名だたる高官の名も刻まれていた。

 

「……詳しく聞きましょう、議員」

 

ある種の確信を得たパドメは、目つきを変えたユラーレンとの〝過激ではない〟交渉を始めてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コルサント。

 

インペリアル・センター内部。

 

「目が覚めたか、わが息子よ」

 

朧げな意識が回復した時に飛び込んできた声に、カイロ・レンは目を見開いた。マスクはない。素顔のまま、彼は手足を固定されて吊るされていることに気がつく。

 

目の前には真っ黒なローブに覆われた老人が立っていた。その黄金に光る目を、カイロ・レンはよく知っていた。

 

「シーヴ・パルパティーン…いや、シディアス卿と呼ぶべきですか?」

 

自身の〝父親〟であるはずの男。現帝国の皇帝であり、宇宙の覇権を握ったシスの暗黒卿だ。目つきを変えずにいるカイロ・レンに、シディアスは笑みを浮かべて彼の武勇を称えた。

 

「そなたは、余の想像を超える成長を見せた。素晴らしいぞ。余の目に適うものはおらぬと思ってはいたが…そなたをヴェイダー卿に託して正解であったな」

 

「何が目的ですか。俺はもう、あなたの息子という居場所に興味はありません」

 

ダークサイドの誘いを、カイロ・レンは真っ向から跳ね除けた。そんなものに縋るほど愚かではない。あくまで手段、戦うための術と自分の中で答えを出している以上、シディアスがいかなる揺らぎをかけてもカイロ・レンは折れることはない。

 

「その目、そなたの師とよく似ておる。よく鍛えてあるな。よいぞ、そなたの魂はまさに最適なものとなった」

 

だが、それは〝彼個人の意識〟である。

 

その生まれの起源の全てをシディアスは把握していた。

 

生まれ落ちた後のことには興味はなかったが、その手前まで目を光らせていたからこそ、シディアスは手に入れた〝息子〟の完成度に喜びを覚えた。

 

「故に、ワシからそなたに贈り物を贈ろう」

 

黄金の目がカイロ・レンの双眼を見据える。シディアスは掌でカイロ・レンの頬を緩やかに撫でると、言葉を続けた。

 

「オーダー・エグゼキューズを実行せよ、わが僕となれ」

 

途端、カイロ・レンの様子が一変した。まるで争うようにグッと顔をしかめ、苦しむ様子を窺わせる。汗をかいて、身体中が拒絶反応を起こしていたが、それに争うことはできない。

 

彼は、デザインベイビー。

 

言うなれば、クローンたちと同じ出自だ。

 

ならば、彼らと同じように〝制御下に置くこともできる〟。

 

シディアスが発した言葉は、カイロ・レンへ生まれる前から刻まれていた呪詛であった。

 

拘束が解かれ、地面に落ちるカイロ・レンは、そのままシディアスの足元で首を垂れた。

 

「わかりました…マスター・シディアス…」

 

完成された〝しもべ〟となったカイロ・レンの様子を見たシディアスは、薄暗いホールの中で笑い声を響かせる。

 

もう直ぐだ。

 

もう時は来た。

 

全てが最終段階へと入る。

 

 

 

 

 

あとは……私が取り戻すだけだ。

 

失った、彼のすべてを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ジェダイの帰還
シス



これが私のファイナルオーダーだ(ガチギレ)

いよいよエピソード6です。駆け抜けます!!



 

 

 

 

 

私が初めて彼と出会った時。

 

自らの手で殺したはずのダース・プレイガスの亡霊を目にしたような気分に陥った。

 

(シーヴ・パルパティーン回顧録より引用)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シスというものは、フォースのダークサイドを使う。

 

フォースという存在そのものは、ジェダイともシスとも共通する自然的なエネルギーだ。

 

そして、それぞれが信仰する主観は、創設された総意の主観。いわばフォースに対して見つめている一方向の側面に過ぎない。

 

ダークサイドは、フォースの…否、人のネガティブな感覚によって観測された側面、それらを制御し、得ることが許された力だ。

 

妬み、恨み、怒り、強欲、権力への固執や、支配欲。それらの感覚はフォースの力を効率よく引き出すことに長ける。誰もが心の奥底で思っている悪感情をさらけ出してこそ、シスは強大な力を得ることができるのだ。

 

故に、シス・オーダーに属するものは自身の願望や野望、目的に忠実であり、その集団の実も銀河系の覇権を眈々と狙っていた。

 

フォースのポジティブな側面を信仰するジェダイ・オーダーとの間には、およそ1,000年以上に渡って長い確執の歴史を持ち、その間に幾度も戦争で対立していた。

 

 

 

クローン戦争。

 

 

 

シスが何度目かの覇権を握るきっかけとなる事変の数千年前に、シス・オーダーは創設された。シス・オーダーは常にジェダイ・オーダーと敵対関係にあった。

 

それは当然であろう。

 

初代のシスは、フォースのダークサイドに手を出し、そしてジェダイとしては捨てるべきであった部分を捨てきれず、それらを持ったままフォースと向き合う術を学んだはぐれ者だったからだ。

 

シス・オーダーは、ダークサイドから立ち昇るフォースの力を駆使し、多くの星を蹂躙し、略奪し、怒りと憎悪の炎に身を捩った。

 

力でねじ伏せ従えた奴隷の力を利用し、シスは自らを王とする帝国を築き上げ、銀河系の支配権をめぐって何度もジェダイ・オーダーと戦争を行った。

 

巨大なカイバー・クリスタルを利用した大型超兵器。ドロイドや武器、兵士を揃えて、ジェダイ・オーダーを窮地へと追いやったシス帝国は、惑星コルサントに神殿を建て、そこには莫大なダークサイドの力が集まるようになった。

 

しかし、その繁栄は長くは続かなかった。

 

権力を手に入れるための戦いは、最終的にシスを壊滅に追い込んだ。

 

ジェダイの反撃?力で支配した者たちの反乱?いや、どれも違う。シスは、己が身を投じた炎によって焼けただれ、燃え尽きたのだ。

 

ダークサイドの力は、シスを互いに対立させたのである。

 

仲間内でのいがみ合いや、思想の対立により暗殺や殺人が横行し、シスはジェダイに倒される以前にその数を減らしたのだ。そして最終的にジェダイによってほとんど滅ぼされてしまった。

 

その後、ジェダイはシスの力を押さえつける目的で神殿の上にジェダイ・テンプルを建築した。度重なる戦争と内部抗争、虐殺と謀略の果てに、シスは故郷すらも放棄した。

 

凄惨たる戦いを生き延びたシス卿ダース・ベインは、シスによる内紛を未然に防ぐため、2人の掟と呼ばれるルールをつくり、同時期に存在するシスの人数は二人までと定めた。

 

それが、この世に続くシスの絶対的な掟だった。

 

偉大なるシスの暗黒卿であったダース・プレイガスもまた、その掟を遵守する高明な男であった。

 

ダース・プレイガスは男性のシスの暗黒卿で、ある時ナブー出身の人間であるシーヴ・パルパティーンを弟子として選んだ。二人は不死の秘密を探るとともに、銀河共和国をシスが支配するというかねてからの計画にも取り組んでいた。

 

ダース・プレイガスはとても強く、フォースを司るミディ=クロリアンに働きかけ、生命を作り出したり、人を死から遠ざけることもできた。

 

その力は絶大であったと同時に、彼の唯一の恐れでもあった。その力を失い、自身の歴史すらも残せずにこの世から消えて無くなるという恐怖。

 

不運なことにその恐れは現実となった。

 

ある時点で、師から学べるものを全て学んだシディアスは、プレイガスが寝ているところを殺害した。

 

「不幸にして彼は弟子にすべての知識を与えていたのだ。そしてその弟子が彼の寝込みを襲って殺害したのだよ。皮肉なことだ。他者を死から救うことはできても、自分自身を救うことはできなかった」

 

いつかの日に、アナキンに語った話だ。

 

師から学べることを学んだつもりでいた。それがシスの在り方でもあるとも理解していた。だが、彼から学ぶことはできても、それを伝える術と知識を網羅することは叶わなかったのだ。

 

誰もが利用し、利用され、利益と損失の秤に身を置き、言葉巧みに操り、そして搾り取ってゆく。

 

そんな化かし合いの世界が残った。

 

真理からは遠く、理想もなく。人の業が蔓延り、その積み重ねと清算が連綿と続く世界だけが続くと、私は達観していたのだろう。

 

だが、彼は違った。

 

シスでもなく、ましてやジェダイの在り方からも逸脱していたのだ。

 

フォースの側面とは、主観から形成された一方向の側面に過ぎない。ライトサイドもダークサイドも、それを感じた当人の主観に依存するしかないのだ。

 

彼にとって主観そのものがフォースの全てであった。彼は弁えていたのだ。フォースの元を辿れば、それが自然的なエネルギーであるということを。ポジティブな感覚も、ネガティブな感覚も、その全てが生き物が勝手に決めつけた主観でしかない。彼はその考えを端から放棄していたのだ。

 

とても自然体であり、フォースと向き合う。真理へと歩みを進め、その理想を見つめる賢人。

 

彼ならば、すべてを見つめることができるのかもしれない。ジェダイやシス、ライトサイドやダークサイドといった主観や価値観に囚われることなく、満遍なく見通し、フォースの在り方を証明する。

 

いつしか、私の探究は彼の在り方へと向いていた。シスは欲望に忠実なのだ。どこまでも中道を行く彼のあり方は、平坦であった私の道のりに活気をもたらした。

 

険しく、厳しく、それでいて高みであること。

 

死すら達観していた生き方に刺激をもたらす彼を、私は取り戻さなければならない。

 

取り戻して今度こそ、そのすべてを伝え、私は死と向き合うことができるのだ。

 

 

 

 

 

 

 



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英雄、運命の詩を奏で——

フォースが共にあらんことを。




〝それ〟は愚かなる名だ。

 

だが時代と世界は、その名を求め、慟哭をあげた。

 

不屈の英雄。

 

この物語は、彼の歩みの奇跡…。

 

 

 

 

 

 

スターウォーズ

エピソード6

 

ジェダイの帰還

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤヴィンの戦いから4年。

 

4ABY。

 

アウター・リム・テリトリー。

 

モッデル宙域。

 

————森の月、エンドア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カイロ・レン…!!目を…覚すんだ!!」

 

第二のデス・スター内部。

 

ターボリフターが見える大きなホールの中、ルークはライトセーバーを巧みに扱いながら、向かってくる漆黒の仮面を被ったカイロ・レンの赤い一閃を受け止めながら叫んだ。

 

「目を覚ます?なにを言っている。我〝オレ〟はすでに目を覚ましているぞ、ジェダイ」

 

ベスピンの爆発で失ったルークのライトセーバーは、スカイフックの戦いの最中で作り直された。ダッシュ・レンダーや、ボバたちと共に駆け抜けたプリンス・シゾールとブラック・サンとの戦いを潜り抜けたルークは、フォース感応者として大きく成長していた。

 

その緑光の刃で受け止めるルークの視線の先で、赤い稲妻のような模様が付け加えられたマスクを被るカイロ・レンは、抑揚のない声でルークの叫びに淡々と答える。

 

「自分の心を呼び覚ますんだ!君は騎士だ!シスの手先なんかじゃない!!」

 

「哀れにもシス・マスターに捕まり、哀れにも洗脳され、哀れにも信念や意志を踏みにじられ、哀れにもジェダイと戦いあっているとでも言った方がいいか?」

 

攻撃的な型「ジュヨー」から繰り出される斬撃は、ルークの今までの経験をへし折らんばかりの勢いで振るわれた。

 

フォースのダークサイドの淵に立って扱うこのフォームは、カイロ・レンと抜群の相性を見せた。太刀筋がまったく予測できない。フォースの感覚、呼び掛けられるモノに従って身体を駆動させることで、ルークはライトセーバーの剣戟をなんとか凌ぐ。

 

横なぎの一閃を受けたルークは、フォースの力を受け入れて飛び上がり、肉薄するカイロ・レンから一度距離を取った。

 

「我は元からこうであった。こうなるためにデザインされ、生まれ、そうなった。全てがフォースによって定められていたに過ぎない」

 

彼が感じたこと。彼が学んだこと。彼が慈しんだこと。彼が歩んできた道全てが、この瞬間に通じさせるための〝手段〟にしか過ぎず。

 

届かなかった運命が、カイロ・レンとルークを嘲笑うかのように聳えた。

 

「我は器。ヴェイダーも器。そういうにはあまりに粗末な入れ物。そして予備品に過ぎない」

 

彼は自嘲するように言い放った。

 

父の象徴のための留魂として作られ、父が求める存在を受け入れる器として作られた。どれもこれも期待外れだったくせに、皇帝はカイロ・レンを選んだ。

 

ヴェイダーの肉も、彼の肉も、それ全てが器への生贄であり、同時に無くても困らない〝予備品〟だ。燃え上がる炎のような光刃を構えたまま、彼は語る。

 

「知っているであろう?死しても尚、フォースに語りかけることができるのだ。形を成して存続できることがわかっているのに、なぜ器にこだわる必要がある?」

 

オビ=ワンも、クワイ=ガンも、多くのマスタークラスのジェダイが死後も意識を保ち、現界し、フォースを通じて世界へと語りかけることができるというのに。その事実を知りながら何故肉体にこだわる必要がある?

 

そう言い放ったカイロ・レンを見て、ルークは顔を覆いたくなる絶望感を味わった。だが、ここで諦めるわけにいかなかった。

 

ここで諦めて下を向けば、なにも変わらないからだ。

 

ジェダイとして何を成すのか。ベスピンで問われたカイロ・レンの言葉に、ここで膝をつけば裏切ることになる。ジェダイの本質は救うことと守護すること。諦めれば、過去となったジェダイ・オーダーと何も変わりはしない。

 

「それでも僕は…君と戦いたくないんだ。カイロ・レン!!」

 

暗黒面は誰にでもある。自分自身にも、大切な人にも。それから目を背ければ、待っているのは途方もない自責の念と、後悔だけだ。

 

だから、諦めない。ルークはライトセーバーを握りしめる。ここで諦めてなるものか。そう誓って、自分は父と共にこの場へとやってきたのだから!!

 

「すべては幻影。蜃気楼。泡沫の夢だ。幻だったのだ。我の全てが、生きていたことも生まれたことも、その全てが!!」

 

駆けるカイロ・レン。フォースのダークサイドを手繰り寄せて飛び上がった彼は、真っ赤な刃を振り上げてルークへと襲いかかった。緑光と赤い光のぶつかり合いは、目線の先でスパークが迸る。

 

「お前もそうだろう、ジェダイ…!!今度こそ斬り捨ててやる。何もかも…そうすれば、この長い銀河の夜も覚めるだろう!!」

 

「それでも、君は騎士カイロ・レンのはずだ!!僕がジェダイであるように!!」

 

「黙れ!!」

 

凄まじい速さの刃の応酬が繰り広げられる。目にも留まらぬ、常人では途端に体の四肢が切り落とされることになるであろう速度のぶつかり合い。

 

一手、二手、三手。

 

相手の動きを予測し、フォースの語り掛けを見て、思考を手放して剣戟を繰り広げる。

 

怒りと憎悪に任せた力を上から下へと振るったカイロ・レンの一撃に、ルークは後ろへと遠のいて受け流した。

 

「すべてはこの時、この日、この瞬間のため!!彼はその一瞬に全てを注ぎ込んできたのだ。報われなければならない!!そのためにも…我は!!」

 

残された時は僅かだ。故にたどり着かねばならない。運命が交わり、その道を示した。時は今夜。時は刹那。その瞬間、その一閃を掴み取るために星を燃やし、砕き、踏み倒してきた。

 

夜明けはすぐだ。もう夢は覚める。あとは、この闘争の赴くがままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良いぞ、アナキン。良いぞ、ヴェイダー。そうだ、そうすればいい。それが正しいのだ。

 

戦え、戦うのだ。ジェダイもシスも、ライトサイドもダークサイドもない。ようやくだ。ようやくこの長い夜に終わりがくる。

 

戦え、アナキン。戦え、ヴェイダー。

 

さすれば彼は蘇るであろう。

 

フォースに選ばれた者、フォースの器となってしまった影。彼らの意思のぶつかり合いは、この場では留まらないフォースのうねりを生み出す。

 

隔てる世界を余は埋めた。

 

フォースの深淵へと旅立った彼を呼び起こす全てが揃った。

 

深く、深く、深淵へと届く鉄槌を。

 

それでいい。

 

その意思さえ呼び起こせば……。

 

 

 

 

 

 

 

 





シナリオの草案を考えてるとき

楽曲、EGOIST様の「英雄 運命の詩」を聞いた時からパルパティーンの持っていき方を決めていました。

あともう一曲、Kalafina様の楽曲で影響が大きく出ている部分はありますが、それはまた後ほどに…

本当にいい曲ですよ。


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作戦準備と交渉と。

 

 

 

 

———数週間前。

 

アウター・リム・テリトリーのどこか。

 

 

 

 

 

 

MC80スター・クルーザー。

 

一般的にモン・カラマリ・スター・クルーザーと呼ばれる反乱軍の主力艦である。

 

帝国宇宙軍が使用したくさび型のインペリアル級スター・デストロイヤーと対称的な外見を形成するモン・カラマリ・クルーザーは卵形の突起に覆われた流線型の船体をしていた。

 

外見に似合わず、モン・カラマリ・クルーザーはターボレーザー砲やイオン砲、トラクター・ビーム発生装置、シールド発生装置といった高度な武装を施されている。

 

他にも医療船やフリゲート艦艇が飛び交うXウイングの中を航行しており、その艦隊の旗艦ともなっている<ホーム・ワン>はギアル・アクバー提督の指揮下の船であった。

 

「皇帝は致命的ミスを犯しました。攻撃のときです」

 

ホーム・ワンのブリーフィングルームに集まった反乱軍のパイロットや戦士たちの前で、元老院議員であり、パドメや死亡したオーガナ議員とも盟友であるモン・モスマ最高指導者が口火を切ってそう言い放った。

 

中央にある投射装置が駆動すると、緑の月エンドアの周回軌道上に浮かぶ第二のデス・スターの立体映像が全員の前で映し出された。

 

「ボサンのスパイの情報、そして反武官派の帝国軍の協力のもと、建造されている新しいバトル・ステーションの正確な座標が掴めました。このデス・スターの攻撃システムはまだ未完成であることも分かっています」

 

ジオノーシスで建造された鋼材が運び出されたことから察知された第二のデス・スター。それはまだ完成まで程遠く、中枢部の建設と一部の外殻が組み立てられている最中だ。

 

加えて、帝国艦隊は反乱軍に加えて各惑星で反旗を翻したクーデター派の帝国勢力を相手にすることで手一杯であった。その戦力の多くを銀河全域に散らばっており、防御も比較的手薄となっている。

 

「しかし何より重要な点は、皇帝自身が建設の最終段階視察のため、デス・スターを訪れているということです。……この情報を手にするまでに、反乱軍も、そしてクーデター派の帝国軍人も、多くの者が犠牲となりました」

 

そう悲しげに噛み締めるように言ったモン・モスマはその場を指揮官であるアクバー提督に譲り離れる。

 

魚人を思わせる独特な外見をしているモン・カラマリ種族であるアクバー提督は、浮かび上がるデス・スターのモニターを見つめた。

 

「見ての通りデス・スターは森の月エンドアの周回軌道に浮かんでおる。デス・スターの攻撃システムは未完成であるが、その防備メカニズムは極めて強力である。…すなわち、森の月エンドアから放射されるエネルギー・シールドに守られているのだ」

 

浮かび上がるモニターには、森のエンドアから放たれるエネルギー・シールドで覆われたデス・スターの姿があった。

 

ヤヴィンの戦いで討ち取ったデス・スターは、強力な攻撃性能を持っていたが、今回は圧倒的な防御力をどう崩すかが課題となってくる。

 

「まずは森の月エンドアへ降りて、エネルギー・シールド発生装置を破壊。シールドが消えたと同時に艦隊がデス・スターへ攻撃を仕掛け、突入部隊が建造中のデス・スターへと突入。中央のメインリアクターを破壊し、デス・スターを完全に破壊する」

 

「第二デス・スターは、武官派閥や今の帝国にとっての強力な圧制装置になります。ここで討たなければ、デス・スターは完成し、惑星を破壊できる恐怖で銀河系は帝国に支配されることになるでしょう」

 

アクバーに続くように声を上げたのはパドメだった。集まった最高指導者の一人となったパドメは、ここから先に続く世界を築くにしろ、まずは第二のデス・スターを破壊しなければならないと訴えた。

 

惑星を跡形もなく吹き飛ばす力を秘める兵器を武官派が手中に収めれば、彼らはさらなる暴力と恐怖で銀河系を征服することを目論むはずだ。

 

「デス・スター突入部隊には、カルリジアン将軍が志願している。エンドアへは、鹵獲した帝国軍のシャトルを使い潜入する。貨物船を装い、部隊をエンドアへと送り込み、山間部にあるエネルギー発生装置を破壊するのだ」

 

あまりにも無謀な作戦だ、とその場にいる誰もが思った。エンドア周回上はデス・スター建造のため帝国軍艦隊が張り詰めており、その防衛網も完璧だ。

 

加えて、エンドアに降りるためにはエネルギーシールドを解除させる必要がある。ここで貨物船が偽物だと察知されれば、デス・スターの破壊作戦が失敗することになる他、集結した反乱軍の勢力も危険にさらされることになるだろう。

 

「で?そんな危険な任務には誰が赴くのですか?」

 

そう言ったのは、ハン・ソロの隣に座っているレイアだ。これほどの危険な任務、かなりの実力者でなければ危険すぎる。すると、説明をしていた反乱軍の高官が、レイアの隣に座るハンを見つめた。

 

「ソロ将軍、部隊のメンバーは集まってるかな?」

 

驚いた顔をしてこちらをみるレイアを置いておき、ハンは少し困ったような口ぶりで答える。

 

「あー、部隊は揃ってるんだが…貨物船のパイロットが足りていなくてな」

 

「なら、俺が着こう」

 

ハンの言葉に真っ先に反応したのは、マンダロリアンのヘルメットを脱いで話を聞いていたボバ・フェットだった。ハンがボバを見上げるが、彼は当然と言わんばかりの表情をしている。

 

続くようにチューバッカが共に行くことをハンに告げた。

 

「きついぜ?二人とも。やめておいた方が…」

 

「お前のようなロクデナシ一人に任せておく方が危険だろ。だろ?チューバッカ」

 

ハンの言葉に喧嘩を売るような口調であるが、ボバの言い草はいつものことで、ブラック・サンとの戦いでも、彼はハンやルークとは抜群のコンビネーションを見せていた。ボバの言葉にチューバッカも同意するように唸り声を上げる。

 

「現在2名」

 

面白いと言わんばかりにほくそ笑むハン。その隣にいるレイアも共に行くと告げた。他の指導者たちが少し言いたげな顔をしたが、パドメが了解と告げる。

 

自分の娘だ。

 

止めても黙ってついて行くだろう。自分もアナキンが行くならそう言っていただろう。

 

「スカイウォーカー将軍は?」

 

「彼らは交渉に赴いています。アクバー提督。ジェダイの騎士は平和と秩序の使者です。彼らもまた、我々の戦いに力を貸してくれるでしょう」

 

そう言ってパドメは湧き立つ反乱軍の戦士たちを見つめる。アナキンとルーク。あの二人がこの作戦の要になるのは必定だ。

 

故に二人も、それに備えた交渉をするために銀河を飛び回っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アウター・リム・テリトリー。

 

惑星ロザル。

 

カイバークリスタルが採掘できる惑星であり、帝国政府が樹立した初期の頃から帝国との通商を行う惑星。

 

かのレン騎士団に所属するサー・ブリッジャーの生まれ故郷であるこの惑星には、古くから存在するジェダイ寺院も存在していた。

 

「君と話せてよかったよ。アソーカ」

 

「私もよ、マスター」

 

ベスピンでの決起。レン騎士団を主としたクーデター派閥の多くは銀河各地へと点在しており、このロザルもクーデター派の拠点となっていた。

 

友好的な国交から一転し、帝国アカデミーかTIE・ファイターの生産工場のスタッフとして働くかの二択を武官派の帝国軍に迫られたのと、ロザルを制圧しようとした帝国軍を撃退したノーバディたちの活躍によって、ロザルにある帝国施設のほとんどを無傷に回収することができたクーデター派は堅牢な防衛基盤を作り上げ、武官派の侵入を許すことのない惑星へと成長させたのだ。

 

アナキンとルークがロザルに訪れたのは、第二のデス・スター破壊作戦の際に、反乱軍側に協力してくれるようにノーバディを説得するための交渉が理由であった。

 

だが、彼らもクーデター派と共に武官派によって虐げられている市民を救うために奔走している身だ。

 

銀河周辺に散乱している帝国軍の勢力の注意を逸すことはできるだろうが、破壊作戦に手を回せるかと聞かれれば、答えは難しいものであった。

 

「わかっている。こちらも無理に協力してくれとは言わない。だが、時が来ればそうなる」

 

今のノーバディをモールに代わって率いているアソーカ・タノに、アナキンは共に発着所へ向かいながら言葉を交わした。

 

「ダークサイドの影響が大きくなっているのは確かね。例の尋問官…シス・ストーカーが各地からエンドアに集められている話も聞くわ」

 

「今回の作戦で、僕らは大きな一手を打つ。危険な戦いになるだろう。けれど、為さなければならないことだ」

 

その言い草は、クローン戦争時代を思い出させるものだった。アナキンはそう言って危険な敵地へと乗り込んでゆくジェダイであった。誰よりも勇ましく、誰よりも強く向かうマスターの背中を見て、アソーカは悲しげに目を細める。

 

「皇帝を…パルパティーン議長を倒すの?」

 

彼にとって。アナキンにとって皇帝は…パルパティーン議長は特別な存在であった。帝国の皇帝だからと言って切り捨ててるほど割り切れる相手でもない。そのアソーカの思考に気がついたのか、アナキンも足を止めてアソーカを見つめる。

 

「わからない。けど、向き合わなければならないことは確かだ。かつて、ログがそうしたように」

 

皇帝を倒すのが目的ではない。そもそも、そればかり考えてジェダイも反乱軍も、誰もが皇帝の考えを理解しようと動かなかった。

 

あの時は、何もかもが既に手遅れだった。

 

ナブーの戦いで始まり、クローン戦争の火蓋が切って落とされた段階で、もう手のつけられないところまで来てしまっていたのだ。

 

誰もが時代の流れと、暗黒面に押し流されている中、ログだけは流れに疑問を持ち続け、皇帝であったパルパティーン議長の在り方を見つめ続けたのだ。フォースの囁きに向き合って。

 

フォースの呼びかけに耳を澄ます。そしてそれを正しい道か、悪しき道かを考え戦う。それが彼の示した道であり、これから先を示す重要なものにもなる。

 

アナキンも、その在り方を信じようと決めたのだ。

 

「変わったわね、アナキン。前まではフォースの導きに従っていた。けど、今は自分で道を決めて戦ってる」

 

アソーカの言葉に、アナキンはグッと目を閉じる。瞑目するような顔つきにアソーカが首を傾げるが、アナキンにとってはそれが心に抱えた暗黒面の……後悔の一部だった。

 

「僕は…僕は止めなきゃならない。ログを…ああしてしまったのは僕たちジェダイの責任だ。彼がジェダイに終止符を打つまでにあんな姿になってしまったというなら、僕は彼に取り付いたフォースと決着をつける」

 

誰よりも自分の隣に立ち、誰よりも背中を押してくれた親友。彼がああなってしまうまで気が付けなかった自分が、本当に親友だと言えるのだろうか。パドメとの愛を育む代償として、自分はログをフォースの器にしてしまったではないか。

 

考えれば考えるほど、後ろに引きずられるような感覚に襲われる。後悔と悲しみが心に重くのしかかる。

 

「…アナキン。その道が、ヴェイダーを倒すことになっても?」

 

アソーカの声に、アナキンは目を開いて前を見据えた。後悔は重く、悲しみも迷いもある。けれど、それでも前に進まなければならない。ずっと迷いの連続だった。分岐と選択の連続だった。そして選び抜いた道にアナキンは立っている。

 

失いたくないものを守るために。

 

確固たる決意を胸に。

 

「それが、彼を救う道だと言うならね」

 

そう答えたアナキンたちの先に、一隻の輸送船が停泊していた。それはハン・ソロが乗るミレニアム・ファルコンを製造したコレリアン製の輸送機、YT-2400BT貨物船…通称「アウトライダー」であった。

 

「父さん。準備ができたよ」

 

船の持ち主であり、密輸を専門にする男「ダッシュ・レンダー」と共に発進準備を進めるルークに、アナキンは手を振ると隣にいるアソーカに別れの言葉を告げた。

 

「アナキン。…どうか死なないで」

 

「フォースの夜明けを祈るよ、アソーカ」

 

古き友であり、弟子であった彼女に別れを告げたアナキンは、タラップへと足をかけるとアウトライダーはロザルを飛び立って行くのだった。

 

 

 

 

 




帝国の影編は、とりあえず本編を書き終えてからゆっくり描いていきます。


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ダークサイドと、ライトサイドと。

 

 

 

 

 

「皇帝陛下。シャトルの準備が整いました。デス・スターでヴェイダー卿がお待ちです」

 

コルサント。

 

帝国の中心とも言えるインペリアル・センター。その皇帝の執務室に姿をあらわしたカイロ・レンは、赤い傷跡を象ったマスクを被り、玉座に座する皇帝の前に膝を折って跪く。

 

彼が準備していたのは、森の月エンドアの周回軌道上で建造が進む第二のデス・スターへ視察に向かうためのインペリアル・シャトルだ。

 

「わかった。下がるが良い、カイロ・レン」

 

玉座に座したままのダース・シディアスは身に纏った真っ黒なローブとフードの下から眼下で跪くカイロ・レンを一瞥してから、まるで興味がないような感情のない声でそう返す。

 

彼は立ち上がると、しばらく辺りを見渡してから、シディアスへ一礼して執務室を後にしてゆく。

 

シディアスは玉座から立ち上がると、床にまで届くローブを従えて悠然と歩み、コルサントの幻想的な都市風景を一望できるバルコニーへとたどり着く。彼はしばらく高速で行き交うスピーダーが織りなす光の筋を見つめてから、ゆっくりとバルコニーの入り口へと振り返った。

 

「人払いは済ませておる。姿を見せてはどうかな?〝マスター・ケノービ〟」

 

無駄に姿を隠すのはやめろ。そう言わんばかりに言い放ったシディアスの言葉に呼応するように、薄暗いシディアスの執務室の奥から、青白いフォースの光が現れる。

 

半透明の身体、ジェダイローブを身につける長身の男性…第一のデス・スターで霊体化したオビ=ワン・ケノービが、その場に立っていた。

 

「議長。やはり気がついておられたのですね」

 

待ち受けるシディアスのもとへ歩み寄ったオビ=ワンは、当時では考えられないような穏やかな顔つきでシディアスへ言葉を放った。

 

対するシディアスも、ジェダイへ向ける憎しみや、暗黒面の立ち上るような怒りも出さないでいて、まるで共和国時代に戻ったかのような感覚だった。

 

「君は交渉に長けていたからな?マスター・ケノービ。フォースの霊体となってもヴェイダー卿の説得を続けていたのも知っておる」

 

「ええ、徒労に終わりましたが…彼は、もうドゥーランではありません。議長もわかっておるのでしょう?」

 

第一のデス・スターで霊体化したオビ=ワンは、暗黒面に落ちたと思っていたログをライトサイドへ引き戻すために交渉を続けていたのだ。

 

彼もまた、アナキンと同じくログを前にして何も出来なかった身だ。タトゥイーンや、ルークたちを鍛える傍で、彼もまたフォースへの理解を深めようと修行に励んでいた。

 

だが、彼の本質は堅実なジェダイ……ジェダイらしいジェダイだ。交渉を重ねたとしても、ログをこの世界に〝呼び戻す〟ことなど叶わないと、シディアスは答えを聞く前から分かり切っていることであった。

 

「彼にもはや、ドゥーランの魂は無い。フォースが彼を生き永らえさせている。外側だけが生きている。あれでは生きた骸です」

 

「何を言うか、貴様たちが彼をあの有り様にしたのだろう!偉大なるジェダイたちが、あの有り様の存在を作り出したのだ」

 

シディアスの叫びは、まるで悲鳴のようだった。オビ=ワンはその慟哭にダークサイドを感じることはできなかった。あるのは深い悲しみと、暗黒面では考えられない慈しむ心だ。

 

そして、その感覚をオビ=ワンは味わったことがあった。

 

ナブーの戦いで、ログがダース・モールを〝ただのモール〟へと戻した瞬間だった。

 

あの計り知れないフォースの光を、オビ=ワンはシディアスから感じ取っていた。

 

「議長…」

 

「……もう、わかっておるのだろう?マスター・ケノービ。ジェダイは…私が手を下さずともいずれ滅んでおった。私が私の師であるダース・プレイガスを殺し、新たなシス・マスターにならずとも、共和国も、ジェダイも、滅んでおった」

 

たとえば、シディアスが何も為さない単なる市民として平和に生活していても…たとえば、単なる元老院議員として職務に励んでいたとしても、共和国と分離主義者との諍いは起こっていただろう。プレイガスが生きていたとしても、シディアスと同じように手を下して内乱を起こし、共和国は崩落し、ジェダイは危険分子としてこの宇宙から排除される末路を辿っていただろう。

 

シディアス…暗黒面(ダークサイド)が押し進めたのは、その滅びへの帰還を数百年ほど早めた程度に過ぎない。

 

もし、シディアスがあの場でマスター・ウィンドゥに殺されても、それはそれで未来の結末の一つであったのだろう。力を持ちすぎたジェダイと、それを恐れる共和国によるクローン戦争に次ぐ内乱。共和国体制も、分離主義もない、血みどろの戦いで世界は暗黒に落ち、混沌となっていた。

 

あの凄惨たるクローン戦争の被害がマシだと思える犠牲者と戦いの血、絶望と悲劇を生み出し続けながら……。

 

「ログは、その犠牲を最小限に留めるため…己の身を供物として捧げたのだ。彼は誰よりも偉大なフォースの感応者だった。彼がフォースに導かれずとも、誰かが選ばれておった。無意識なるフォースの大いなる宇宙の意思によって、選ばれし者として……」

 

それこそ、その素養がある者なら誰でもよかったのではないかと思える。アナキンはもちろん、バリス・オフィーやアソーカ・タノ……ジェダイを離反した者たちも、そういった素質を持っていたのかもしれない。

 

あるいはお主自身であったかもしれんぞ?マスター・ケノービ。そう言って黄金の眼を向けるシディアスに、オビ=ワンは深く息をついて、まっすぐと見据える。

 

「議長、貴方はまだ…ジェダイを憎み、シスによる銀河の征服を胸に抱いて進んでいるのですか?それとも、単なるフォースの探究者として、ログを取り戻そうとしているのですか…?」

 

ダース・ヴェイダーとフォースを通じて心を通わせたが、あの暗黒騎士の中にあったものは果てのないフォースと、無心。あの肉体の中に、ログは存在しない。それだけははっきりとわかる。それでも、シディアスはオビ=ワンの問いに頷く。

 

「……彼の在り方は、まさに解読できぬ現象。宇宙そのものと言ってもよい。彼を呼び覚ますことで、我々が今まで信仰していた…知ってきた…伝えてきた知識や常識の全てが変わってしまうことになるかもしれん」

 

「ジェダイとシスの在り方を壊すことが…?」

 

「左様、そもそも…ライトサイドもダークサイドも、それを観測してきた者たち、我々の祖先の主観により凝り固められた思想に過ぎぬ。怒りや恐怖、安心や平和、愛や憎しみ。その両方の側面を学ばなければ、真なるフォースの使い手とは呼べぬ」

 

いつか、アナキンやログにも言った言葉だ。ジェダイの側では学ぶことができない知恵や経験を、ダークサイドで学ぶことで望んだ力を手にすることができると。それこそ、一方的な物の見方から語った話だ。自分も結局はジェダイと同じであり、片方の局面からしか物事を見ていなかった。その思考こそが最初から間違っていたのかもしれないなとシディアスは笑う。

 

「アナキンもまた、その可能性を秘めていた者だ。彼はフォースから生まれ、フォースにより育てられた。いつしかその役割を担う存在になるはずだった。だが…それを上回るフォースへの理解をログは得た…得てしまった」

 

驚異的なミディ=クロリアンの数値を誇るアナキン。彼がジェダイの道を単に歩んでいれば、こういった結末にならずに済んだかもしれない。だが、彼に「フォースに選ばれた者」以外の要素と素質を開花させたのは、間違いなくログの働きがあったからだ。

 

故に、アナキンはあの運命の日にオビ=ワンと共にウータパウでグリーヴァス将軍討伐へと向かったのだ。

 

「フォースにより生み出されたアナキンに「人として」の喜びと、「生命」の尊さを教え、彼という存在を吹き込んだのは紛れもなくログだ。アミダラや、マスター・ケノービでも、そして私でもなく…な」

 

 

ログはひとえにこの宇宙にある全てのものに愛を見い出していた。ライトサイドにもダークサイドにも、ダース・モールや、暗黒面に落ちた者たちにも…そして、シディアス自身にさえも。

 

「愛の大きさと、尊さと、その強すぎるパワーを知るがために、彼は自分自身を愛しておらんかった。故に彼は…フォースの器になることができた…できてしまったのだ」

 

「議長…」

 

オビ=ワンの霊体の横を通り過ぎて、シディアスは彼へ振り返ることなく言葉を綴る。

 

「私は取り戻すぞ、マスター・ケノービ。彼を取り戻すことが、私がダークサイドの道へ堕ち、フォースを探究する者として与えられた使命だ。彼がもたらす、新たなるフォースの側面を知り、それを後の世に正しく伝えるためにな」

 

そして漆黒の影の中、シディアスの両眼が黄金の眼光を放つ。オビ=ワンから見てもそのフォースからは計り知れない力と、ダークサイドの炎が立ち昇る。

 

「その道を邪魔する者がおるなら、容赦はせん。誰にも邪魔はさせん…それがたとえ、何者であったとしても」

 

そのまま足取りを緩めずに執務室を後にするシディアス。それを見送ったオビ=ワンの霊体は、まるでフォースに溶け合うようにその場から飛散し、消えてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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誉あるならず者達

 

 

 

「おいおい、正気かい?二人揃って」

 

惑星ロザルでの、ノーバディたちとの交渉を終えたルークたちを乗せたアウトライダーの中で、操縦をLE-BO2D9ドロイド、通称リーボに任せた密輸業者であるダッシュ・レンダーは、客室で唐突に話を持ってきたスカイウォーカー親子の言葉に頭を抱えた。

 

密輸業者ダッシュ・レンダー。

 

彼はハン・ソロと同じく、銀河の端から端までを改良型YT-2400貨物艇<アウトライダー>で銀河系を駆け巡っていた。

 

ホスの戦い以前のダッシュは、あくまで中立の立場を守ろうと努めたが、やがて苦戦を強いられている同盟軍のために食糧輸送の任務を引き受けるようになっていた。

 

彼らの秘密基地での任務を任されたダッシュはホスへの配達を行っていたとき、帝国軍による攻撃が開始され、ダッシュは反乱軍と帝国の戦いになし崩し的に巻き込まれてゆくことになる。

 

時には勇敢にも無人のスノースピーダーに乗り込み、帝国軍のAT-ATウォーカーに対する遅延作戦に参加し、時にはルークやアナキンを狙う暗殺ドロイドIG-88を追ってオード・マンテルへと駆け抜けた。

 

そして、ダッシュとスカイウォーカー親子は、共にボサンのスパイを支援し、帝国軍の貨物船<スプローサ>から第二のデス・スター計画の情報を入手することに成功したのだった。

 

その後もダッシュはルークたちを手助けし、コルサントにあるプリンス・シゾールの宮殿に潜入した。

 

後に「スカイフックの戦い」と呼ばれる帝国首都の上空で激しい宇宙戦から生還した後、ダッシュは反乱軍の一員としての人生に別れを告げ、密輸業者へと戻っていたのだ。

 

「ああ、だからアウトライダーの脱出艇を貰いたい。君たちは艦隊前で僕たちを射出してから、全速力でハイパードライブへ入ってアウター・リムの端まで逃げてくれればいい」

 

反乱軍内部でも伝説的な活躍を見せたダッシュに対して、アナキンはどっかりと船内の椅子に座ったまま立ち尽くすダッシュへと告げる。

 

「報酬は前払いで3万クレジットだ」と付け加えるが、ダッシュにとってみたらそれどころの話ではなかった。

 

「だから待てって!金の問題じゃねぇよ!」

 

飲料水が入るボトルが乗っているテーブルを乱暴に叩いたダッシュは、心の起伏すら見せないアナキンとルークにひどく苛立った。

 

ダッシュ自身がそこまで気がかりになっていることは、アナキンたちのことだった。

 

デス・スターは建造の真っ最中で、外には艦隊がウヨウヨいる。しかも皇帝まで視察に来てる。バンサの毛一本でも抜けれる包囲網じゃない。そんな渦中に脱出艇で突入するなど、自殺行為どころか、死にに行くようなものだ。

 

「聞いてくれ、ダッシュ。僕らが皇帝やヴェイダーのもとに行くことは宿命なんだ」

 

「そんな宿命なんてクソ食らえだ。ジェダイだのシスだの意味わからん存在より、俺にとってお前たち二人は友だ。友がみすみす死にに行く様を、黙って見てろというのか?!」

 

《僭越ながら申し上げさせて頂きますが、貴方達二人がデス・スターに単身で乗り込み、生還する可能性は…0.0000001%にも届きません。つまり…死にに行くようなものです》

 

コクピットでアウトライダーの操縦を担う忠実なドロイドの相棒リーボは、短気だが信頼性は高かった。ダッシュの副操縦士および補佐の役割を担っている。

 

当初、リーボは訪れた宇宙船の安全標準を検査するために使用されていたが、検査の間、ある貨物船がリーボを載せたまま、エッセレスを離陸してしまったのだ。

 

他にすることがなかったリーボは、この船の機械工として働き始め、幾度と無く主人を変え、彼を所有した密輸業者たちはそのたびに新しい能力を追加していった。

 

そして、リーボは最終的にダッシュ・レンダーの手に渡った。

 

その前にはアウター・リムを旅するコメディアンの所有物となっていたこともあり、ユーモアのセンスも習得していたのだった。ダッシュはリーボに高度な修理技術と操縦技術を与え、長距離シグナル・チャンネルを備えたコムリンクを内蔵させていた。

 

そんなリーボが冗談を言わずにそう台詞を導き出した以上、アナキンたちが平然と言った事の内容がどれほど気が狂っているものか、言わずとも理解できるほどであった。

 

興奮気味のダッシュに、アナキンは極めて冷静でリラックスするような口調で彼に言葉を放つ。

 

「ダッシュ。頼む、僕は行かなきゃならないんだ。ヴェイダーが、僕を呼んでいる。彼は…僕の親友だった男だ。止めなくてはならない。ああいう風にしてしまった責任が、僕にはあるんだ」

 

「僕もだよ、ダッシュ。スカイフックの戦いで、カイロ・レンと会った。彼は生きていた…けれど別人のように変わっていた。レン騎士団の仲間の声すら届かないほどに。僕が言って話せば彼を取り戻せる。彼には、騎士としての信念が残っているはずだ」

 

アナキンとルークが言うヴェイダーと、カイロ・レンの話くらいダッシュも十分に知っていた。なにせスカイフックの戦いで現れた帝国勢力を指揮していたのがダース・ヴェイダーであり、その勢力の戦闘機パイロットとして前線にいたのがカイロ・レンだからだ。

 

彼らの強さは並大抵のものではない。何の素養もない相手が挑んだ瞬間に、そのカリスマ性と力強さで瞬く間の内に消え去ってしまうことになるだろう。

 

無謀な戦いだ。そんなものに命をかける意味がどこにある。そう心の中で吐き捨てるダッシュに対して、アナキンもルークも決して折れない意志を持った眼で訴えかけてくる。情に弱いダッシュだ。何の関わりもないはずだったのに、何度反乱軍やルークたちのために命を張ったことか。

 

その眼にダッシュは弱かった。

 

「わかった!わかったよ!そんな目で俺を見るな…あー…ったく。リーボ、エンドアまでの最短航路を計算してくれ。だがトラクタービームに捕まる距離はダメだ。ギリギリまで近づいて…この二人を下ろす」

 

そう言ったキャプテンに、リーボは半ば呆れながらも了解と返して座標のセットを始める。感謝しようとする二人に、ダッシュは待ったをかけて加えるように条件を放った。

 

「約束しろ。二人揃って生きて帰ってこい。これが果たされなかった場合、反乱軍に毛が生えないくらいに賠償金を請求してやるからな」

 

「….ありがとう、ダッシュ」

 

「それから、まずは前払いで3万。それがなきゃ話はなしだ。忘れるなよ?」

 

それだけ言い残してから、自身もコクピットへと入ってゆく。ダッシュの後ろ姿を見つめてから、アナキンは困ったような笑みを浮かべて呟いた、

 

「そう言うと思ったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の月、エンドア。

帝国軍トランスポート基地付近。

 

「エネルギー発生装置までかなり距離があるわ。警備も厳重よ」

 

道中、イウォーク種族の熱烈な歓迎と関係改善というイベントがあったハン率いる破壊工作部隊は、帝国軍の基地や施設が一望できる高台まで迫っていた。

 

双眼鏡を覗くレイアの言葉通り、エンドアからデス・スターへ放射されるエネルギー発生器までの道のりは決して楽なものではない。

 

「なぁに、心配ないさ。俺とチューイでもっとやばい場所に飛び込んだことがある」

 

「その時はどうしたんだ?」

 

自信気に言うハンの言葉に、森林に溶け込みやすい色彩のマンダロリアン・アーマーを身に纏うボバが鋭い質問をすると、何度か言葉を濁してからハンは答えた。

 

「あー…まぁ、成り行き任せってところだ。うまくは行ったぞ?」

 

「当てにならない経験則をどうも。まったく…」

 

「おい?着いてくると言ったのはお前だぞ?賞金稼ぎ」

 

「俺はお前がレイアを危険な目に遭わせないために同行しているだけだ、ロクデナシめ」

 

「下らないことで口論するのはやめなさい、二人とも」

 

いつもの流れで口論を始めたハンとボバのやり取りをうんざりした様子で諫めたレイアは、後方で周辺偵察をする指揮下の部隊長へ声をかけた。

 

「アンドー将軍、どう攻略するか案はありますか?」

 

ローグ・ワン〝ならず者たち〟を率いるキャシアン・アンドーは、側でトランスポート基地を双眼鏡で確認しているボーディーの肩を叩いた。

 

「ボーディー、警備はどんな感じだ?」

 

「AT-STとAT-AT、うわぁAT-A-SPATまでいるぞ…人員も配置も完璧。はっきり言ってかなり厳重だ」

 

発着場や停泊地がある以上、ウォーカーもごまんと居るのは明白だった。しかも帝国きってのビックリドッキリ変態兵器まで完備されている。相手はここの防衛にかなり本気のようだ。

 

「まぁ、もっと分の悪い戦いはあったさ」

 

「楽じゃ無さそうだな。ちょっときついだろうが、なんとかなる。行けるよ」

 

《スカリフの敵中突破よりはマシに思えますね》

 

そういうのは、ローグ・ワンの部隊に所属する戦士たちだった。スカリフの戦いで一度破壊されたK-2SOは、キャシアンが持っていたバックアップのおかげで復活を果たしており、その漆黒の体を他の兵士たちと同じように屈めさせながら、キャシアンたちの言葉に合わせるよう軽口を叩く。

 

とにもかくにも、まずはあのトランスポート基地をどうにかしなければ先に進んでもジリ貧になるだけだ。「よし」とキャシアンが言葉を紡ぐ。

 

「装備を整えろ。持てるものは何でも持っていけ。攻撃時間まで時間はない。すぐに打って出る」

 

そう言った瞬間、その場にいる全員が準備を始めた。ライフルを肩にかけ、サーマルデトネイター(手榴炸裂弾)を持ち、イオン魚雷をかき集める。キャシアンは奥にいたリーダーたちを呼び集めた。

 

「メルシ、パオ、ベイズ、チアルート。君たちに部隊をそれぞれ預ける。それを率いてトランスポート基地周辺に展開。エネルギー発生器から距離をとって、こことあそこ。適切な位置にたどり着いたら…派手にぶっ放なそう。なるべく分散して、敵の戦力を引き裂く。十人を百人、百人を千人に見せるんだ」

 

少ない人数を多く見せて敵を撹乱する。ローグ・ワンの得意な戦術だ。装備も潤沢であり、敵もスカリフの防衛網に比べたら遥かにお粗末だ。

 

「〝失うもののない戦士が鋭い棒を手にすれば、無敵だ〟」

 

キャシアンの隣にいるジン・アーソが、かつて共に戦った戦士の言葉を思い返すように言う。自分たちはそうやって、幾度も戦場をかけて勝利を積み重ね、希望の火を大きくしてきた。

 

「敵はきっとエネルギー発生器の周りに待ち構えている。私たちの目的がそこだと知っているから。けれど、他の場所はそうなるとは思ってもいない。エネルギー発生器とは関係ない場所が攻撃されるなんて考えてもいない。だからそこを突く」

 

愛銃となったブラスターを腰に差したジンが立ち上がると、他の部隊の仲間たちも一斉に立ち上がった。

 

「みんなが撹乱している間に、私とキャシアンとボーディー、K-2SOで敵のウォーカーを奪う。ソロ将軍の部隊は、その間にエネルギー発生器の破壊を」

 

「わかった。じゃあ、あんた達が派手にぶっ放した後に動くとしよう」

 

ハンの言葉に頷くと、ローグ,ワンは一斉に山道を降りてゆく。これでトランスポート基地からの増援を気にする必要はなくなった。彼らが騒ぎを起こしている間に、山中を抜けて、一気にエネルギー発生器を破壊する。

 

「ソロ将軍、イウォークの部族長が」

 

そう思案していると、イウォーク達と会話をしていたC-3POがハンに報告をした。

 

「なんて言ってる?」

 

「丘の上に秘密の抜け穴があると」

 

 

 

 

 

 



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エンドアの戦い 1

 

 

アウトライダーから脱出艇でデス・スター軌道へと突入したアナキンとルーク。非武装であり、シールドすら発生できない脱出艇であったため、下手をすれば警戒しているTIE・ファイターに撃ち落とされる危険も予想はしていたが、二人の予想は思わぬ形で裏切られた。

 

トラクタービームで捕捉された脱出艇の周りを4機のTIE・ファイターが編隊飛行しながら出迎えると、そのまま脱出艇をデス・スターのトランスポートへと誘導してゆく。

 

青色のフィールドを突破した先、アナキン達の乗る脱出艇が緩やかにトランスポートへ着陸する。扉が開いた先で見えた光景に、アナキン達は目を見開いた。

 

そこには軍隊整列をしたストームトルーパーたちがブラスターを掲げてアナキン達を出迎えていたのだ。

 

ジェダイローブ姿の二人はデス・スターのターミナルへと降り立つと、毅然とした態度と歩みでやってくる帝国士官の姿が見える。

 

彼は二人の前で立ち止まると、素早く敬礼をして頭を下げた。

 

「お待ちしておりました。スカイウォーカー様。皇帝陛下がお待ちしております」

 

ついて来てくださいますね?そう言った士官に、アナキンとルークはアイコンタクトを交わすと、そのまま歩き出した士官の後を着いていくのだった。

 

ターボリフトへと案内された二人は、手錠をかけられる素振りもなくストームトルーパーと士官に導かれて、デス・スターの中枢部へと足を踏み入れる。高速で上昇してゆくリフトの扉が開く。

 

その先には、外の景色が一望できる部屋があった。まるでクローン戦争時に乗り込んだグリーヴァスのインヴィジブル・ハンドの一室を思い出させる内装であり、その部屋の奥には大きな玉座があった。

 

「きたか、アナキン。久しいな…」

 

その声が響くと同時に、窓側を向いていた椅子が反転する。

 

玉座に座していたのは、真っ黒なローブに身を包んだシーヴ・パルパティーン本人であった。

 

「パルパティーン…議長…」

 

あの日、ウータパウへ旅立つ前に挨拶を交わした時と変わらない顔をしているパルパティーンを見て、アナキンは言葉を漏らした。

 

「そなたと言葉を交わすのも面白いが…余がそなたらを招き入れた理由についてはおおよその予測はついておろう?」

 

護衛や衛兵を下がらせたパルパティーンは、席から立ち上がると歩んできたアナキンとルークを、黄金に輝く眼で見据える。まるで心の奥底まで見透かされているような目つきだ。

 

アナキンはグッと顔を硬らせ、ルークは皇帝を睨み付けていた。

 

「ログを…彼を取り戻すためですね?議長」

 

「素晴らしい洞察力だ。そなたもまたフォースの器となる素質を持っていた者。だが、すでに手遅れだ。そなたは余にとって敵、そして同時にドゥーランを取り戻す鍵だ」

 

鍵?パルパティーンの口から発せられた言葉を理解する前に、アナキンとルークの左右にある扉が開く。そこに立っていたのは、ダース・ヴェイダーと、カイロ・レンだった。

 

漆黒の煙が揺らめく。すでに彼らからは強大なダークサイドの力がみなぎっているのがわかった。歩み出した二人のシスの戦士は、腰に備わるライトセーバーをフォースで手繰り寄せて、床に向かって伸びる光刃を出現させた。

 

「事は全て余の思い描いた通りに進行しておる。森の月エンドアにいるお前の友人たちは罠に足を踏み入れた。反乱軍の艦隊も同じだ。シールド発生装置の場所を同盟軍に漏らしたのも余がした事だ。少人数の攻撃ではどうにもならぬ」

 

アナキンとルークも、背中を合わせるようにして向き合い、ライトセーバーを抜く。じりじりとシスの戦士とアナキン達の距離が縮まった。

 

「シス・ストーカーが手ぐすねを引いて待っておる。気の毒にお前の友人たちが到着するときも偏向シールドはビクともしておらんだろう」

 

笑みを浮かべながら言葉を綴るパルパティーン。その彼の眼前で、繰り出されたライトセーバーの一閃がはじけあい、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

迸るスパーク音とライトセーバーの閃光を目にして、パルパティーンは静かにほくそ笑む。

 

いいぞ、それでいい。

 

それこそが彼を取り戻すための行程なのだから…。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、第2デス・スターの攻撃準備を終えた後、反乱軍のカルリジアン将軍は、ミレニアム・ファルコンに乗り込み、XウイングやAウイング、Bウイング、Yウイングから成るスターファイター部隊を伴ってエンドア星系に到着した。

 

先頭を飛ぶランドのミレニアム・ファルコンから全機へ通信が飛ぶ。

 

「全機、攻撃態勢へ」

 

「レッド・リーダー準備よし」

 

「グレイ・リーダー準備よし」

 

「グリーン・リーダー準備よし」

 

名のあるパイロットたちが応答すると、ランドに続いて先頭を飛ぶウェッジ・アンティリーズがXウイングのレーザー砲放熱用の翼を開き、彼の駆る機体は文字通りエックスの文字を浮かび上がらせた。

 

「全機、Sフォイル翼を攻撃ポジションへ」

 

ウェッジに続くように、各ファイターも放熱翼を攻撃ポジションへと駆動させた。

 

あまりにも無謀な作戦。そんなことはわかっている。しかし、やらねばならない。巨大な第二のデス・スターを前に、アクバー提督は祈るように声をあげた。

 

「フォースと共にあらんことを」

 

一方、先頭を飛ぶランドは、隣にいる副操縦士のナイン・ナンヘデス・スターのシールドが解除されているかスキャニングをかけるよう指示を出したが、返ってきた返答はあまりにも驚く言葉だった。

 

「妨害電波が出ている?じゃあ…俺たちが来ることを知られていたのか…!全機、攻撃中止!反転しろ!シールドは生きているぞ!」

 

ランドの悲鳴のような言葉に応じて、デス・スターへ突入しようとしていた戦闘機やフリゲート艦が続々と反転してゆく。モニターには映らないが、妨害電波が出ている以上、シールドが生きている可能性は高い。まだハンたちがシールド発生装置を破壊できていないということだ。

 

「提督!セクター47に敵艦です!」

 

「これは罠だ!」

 

その直後、混乱する反乱軍艦隊の前にエンドアの裏側に配置されていた帝国軍艦隊が姿を現した。

 

アクバー提督の旗艦、モン・カラマリ・スター・クルーザー<ホーム・ワン>に率いられた反乱軍艦隊は、インペリアル級スター・デストロイヤーの大艦隊と交戦を開始することになる。

 

「すごい敵機の数です!!」

 

矢の雨のように飛んでくる敵のTIE・ファイター部隊を前に、パイロットたちが必死に機体を操る。緑色の極光が走り、アラームが鳴り響いた。

 

「各隊、戦闘機部隊と交戦開始!!ホーム・ワンを守れ!」

 

「レッド・リーダー、了解した!」

 

即座に応戦態勢に入る反乱軍の戦闘機部隊だが、数の差は圧倒的であった。しかし、大艦隊がいながら何故、スターデストロイヤーは前に出てこない?そんな疑問を感じながらも、ランドや他のパイロットたちは襲いかかってくる帝国の戦闘機との熾烈なドッグファイトを開始するのだった。

 

 

 

 



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エンドアの戦い 2

 

 

 

エンドアの軌道上で、反乱軍と帝国軍の激しい戦闘が繰り広げられる中、エンドアのエネルギーシールド発生装置施設でも、ブラスターの光弾が飛び交う戦闘状況が発生していた。

 

施設にたどり着いたハン達。ローグ・ワンが仕掛けた撹乱作戦で施設の守りは手薄になると考えていたが、その施設の防衛を任されていた相手が悪すぎた。

 

真っ赤な光剣を下げて、ハンや反乱軍達のブラスターを弾き返すのは、エネルギーシールド発生器を守護するために配置された尋問官だった。

 

「ノコノコとやってきたな?反乱軍ども。撹乱作戦は褒めてやろう。だが、この発生装置を抜けれると思うなよ?」

 

「くっそ!!尋問官か!!厄介な!!」

 

たった3名の尋問官。トルーパーの数も多くはない。だが、それが致命的な戦略差となってしまっていた。ブラスターの波状攻撃を加えても、彼らは難なく光弾の雨を弾き返す。

 

トルーパーもジェダイ狩に特化したパージ・トルーパーだ。ガトリング式のブラスターをお返しと言わんばかりに撃ち放ち、反乱軍を一切寄せ付けない。

 

ハンが身を乗り出してブラスターを放つが、その鉄壁の防衛戦を崩すには戦力が足りなすぎた。

 

「俺が相手だ、シス・ストーカーめ」

 

ハンがその声に気がついたのは、隣にいたボバ・フェットが背中に備えるジェットパックで飛び立った後だった。火を吹きながら空を飛ぶボバは、先抜けにガトリングを好き勝手撃ってくるパージトルーパーへ、手首に備わる小型のリストミサイルを放った。

 

吹き飛ばされたトルーパーたちの真上にたどり着くと、もう片方の手に備える火炎放射器で迎え撃とうとしたトルーパーを火達磨にしてゆく。

 

「ハッ!!たかが賞金稼ぎに何ができる!!」

 

尋問官の一人が言葉と共に投げた回転式ダブルブレード・ライトセーバーを、ボバは身を翻してひらりと躱し、銃口を向けた。

 

「何でもできるさ!!」

 

寸分違わずに放たれたブラスターは、無防備な尋問官のもとへと迸るが、相手はフォースの力で投擲したライトセーバーを引き戻し、アクロバティックな挙動でボバの精密な射撃を容易く回避する。

 

わかっていたさ…!着地するボバは身を翻して躱した尋問官たちへすでに照準を定めていた。ジェットパックに備わる最大火力であるミサイルを、身をかがめて発射した。

 

着弾と共に広がる爆風で、尋問官の体が乱れる。今だとリストからワイヤーを射出し、高圧的であった尋問官の一人を拘束する。

 

「小癪な!!」

 

そのまま空に飛んで引きずってやる!飛び上がろうとしたボバに、拘束される尋問官の隣にいた他の尋問官が、フォース・ライトニングをボバへと放った。

 

「がはっ!!」

 

飛び上がろうとしていたボバの体は稲妻の痛みに苛まれ、過電流で暴走したジェットパックに身を振るわれたボバは、そのまま巨木へと体を叩きつけられる。

 

「ボバ!!」

 

「貴様は愚かものだ、帝国に従順に従っていればよかったものを!!ここで反乱軍共々死ぬがいい!!」

 

レイアの悲鳴のような声が聞こえる中、目の前で尋問官が真っ赤なライトセーバーを振り上げているのが見えた。他の反乱軍も残りの敵との交戦で手が離せられない。

 

まだだ…!俺はまだ…!!振り下ろされる真っ赤な光刃を前にしてもボバは諦めなかった。溶断されるとわかっていながらも、長年愛用したブラスターを盾にするように眼前に構える。

 

その時だった。

 

ボバの視線の先。尋問官たちの背後へ、〝何か〟が降り立った。

 

「なんだ!?」

 

降り立った衝撃は、フォースの波動へ変換され、パージ・トルーパーや尋問官たちを吹き飛ばしてゆく。着地した地点が軽いクレーターとなってる中、膝を折っていた〝何か〟はゆっくりと立ち上がる。

 

「反乱軍の手助けをすることは癪ではあるが…今は同じ目的を掲げる者達だ」

 

真っ黒な外套と独特な仮面を被るのは、帝国軍きってのレン騎士団の筆頭騎士の側近、サー・マレックであった。

 

「貴様は…レン騎士団のギャレン・マレック…!!」

 

尋問官の驚愕した声と共に、着地した騎士マレックの背後から、幾人の「クローントルーパー」たちが姿を見せた。間違いない、彼らはクーデター派閥の帝国兵たちであった。

 

彼らも反乱軍と同じく、エンドアに物資を届けるため向かう貨物船に偽造し、森の月へと潜入していたのだ。

 

「ご名答。騎士マレック、推して参る!!」

 

ライトセーバーを二本。両の手に携えたマレックが口上と共に構えると、整列したクローントルーパーの姿をした兵士たちも、武器を構えて交戦を開始する。

 

ボバが空を飛び二丁のブラスターを放ち、ハンがレイアと共に銃撃戦を制し、ストームトルーパーと、クローントルーパーが銃撃戦を繰り広げる。

 

イウォークたちの援護もある中、おなじ赤い光刃を出現させたサー・マレックは、三人の尋問官との剣戟を開始して行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「スローン大提督、反乱軍の艦隊はデス・スターの攻撃で混乱しています。どうなされますか?」

 

スーパー級スター・デストロイヤーである《エグゼクター》のブリッジで、艦の指揮を取るファーマス・ピエットが、艦隊の総指揮を取るスローンへと疑問を投げかける。彼は外で反乱軍が窮地に立たされてゆく様子を見つめながら、ピエットへ言葉を返した。

 

「座して待とうではないか、ピエット提督。彼らの目的はデス・スターの破壊。だが、肝心の目的はエネルギーシールドによって阻まれ、さらにはスーパーレーザー砲が飛んでくるのだ」

 

デス・スターの砲台がパッと光った瞬間、反乱軍の船一隻が跡形もなく消滅した。スーパーレーザー砲はすでに完成している。このまま手をこまねいていたら、反乱軍の全滅も時間の問題だろう。

 

「となれば、次に彼らの取る行動はこちらの大艦隊への肉薄だろう。デス・スターの攻撃を避けるか…あるいは道連れにして自滅するか。どちらにしろ、数でも質でも、圧倒的に勝る我々の勝利に揺るぎはない」

 

まるで反乱軍など眼中にない物言いをするスローンへ、ピエットは視線を細めながら、彼が気がかりするもう一つの要素を問いかける。

 

「…彼らは仕掛けてくるでしょうか?」

 

その言葉に、スローンは表情をやや険しくしながら頷いた。忌々しい〝ノーバディ〟たち。誰でもあり、誰でもないと謳いながら、こちらの邪魔をしてくる組織だ。彼らが反乱軍の一大反抗作戦を指を銜えて見ているはずがない。

 

「来るだろう。それを見越して我々は準備をしてきたのだからな」

 

そう言ってスローンはブリッジの奥を見つめる。そこには二つの愛剣を見つめるダークサイドの戦士、タロン・マリコスが静かに佇んでいるのだった。

 

 

 



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エンドアの戦い 3

 

 

 

「艦長!エリア25に敵増援を確認!」

 

モン・カラマリ・スター・クルーザー<ホーム・ワン>のブリッジで、モニタリングしていた通信士が叫ぶ。すでに戦況は混迷を極めていた。すぐ横にいたフリゲート船がデス・スターのスーパーレーザー砲に穿たれ、瞬時に爆散し、星屑へと帰った。

 

操舵手が船を操るが、デス・スターは目と鼻の先だ。どれだけ回避行動を取ろうが射程範囲から逃れることは不可能だ。

 

周囲には緑光のレーザー砲を放つTIE・ファイターがごまんといて、応戦する反乱軍のスターファイターが必死の防衛を行うが、反乱軍の戦力は目に見えて削り取られつつあった。

 

「ええい!倒しても倒してもキリがないぞ!」

 

レッド・リーダーであるウェッジが僚機のXウイングと隊を組んで敵を撃ち落とすが、落とした分の倍の数がすぐに現れる。機体を鋭く旋回させるが、少しでも逃げれば敵の軍勢はホーム・ワンへと襲いかかることになるだろう。

 

「スターデストロイヤーに取り付け!このままではデス・スターのスーパーレーザー砲の餌食になるぞ!」

 

ミレニアム・ファルコンを操るカルリジアン将軍が全部隊への通信でそう告げる。すでに反乱軍の艦隊はデス・スターから逃れるために退路へと転進しており、その先にはスターデストロイヤーの大艦隊が待ち受けていた。

 

激しい艦隊戦が繰り広げられる中、先陣を切るミレニアム・ファルコンが、帝国軍の旗艦であるスーパースターデストロイヤーの懐へと飛び込んだ。

 

「こちらもスターデストロイヤー艦隊の集中砲火を浴びることになるぞ!カルリジアン将軍!」

 

「デス・スターの攻撃よりはマシです!何隻かは道連れにできるでしょう…!」

 

ホーム・ワンの艦長であるアクバー提督の言葉に、カルリジアン将軍は苦しげな声でそう返した。捨身の戦いであることは彼が一番理解していた。だが、踏みとどまらなければ、ここまで出た犠牲の全てが無駄になる。立ち止まることも、後ろに引くことも許されない。

 

それは、カルリジアン将軍に続く反乱軍のパイロットたちも同じ心境であった。

 

「敵の戦闘機が多すぎる!!」

 

そう叫んだXウイングが火に包まれ、切り揉みながらスターデストロイヤーのシールド発生ドームへとぶつかり、墜落した。僚機の死に様に視線を奪われたYウイングも、二機のTIE・ファイターに取り付かれ、そのエンジンを穿たれた。

 

「や、やられた…!!」

 

肩翼のエンジンがふきとび、コクピットも爆発に包まれる。ウェッジも他のパイロットも、自身の周りのことで精一杯だ。次々とスターファイターが落とされて行く。

 

「くそ!このままではジリ貧だ…!!」

 

ハン…俺たちを無駄死にさせないでくれ…!カルリジアン将軍が小さく呟いた時、その後方にいたホーム・ワンが新たな反応を捉えた。

 

「提督!後方にハイパースペースから出てくるものが!帝国軍のスターデストロイヤーです!」

 

デス・スターと帝国の大艦隊の線上。反乱軍の艦隊を挟むような形で、その船はハイパースペースから飛び出してきた。数隻のスターデストロイヤー級で編成された艦隊は、完全に反乱軍艦隊の後方を押さえている。

 

「挟み撃ちか!?」

 

「いえ、違いますよ。アクバー提督。どうやら間に合ったようです」

 

その出現に驚愕するアクバー提督。そんな彼とは違い、冷静な目でハイパースペースから出てきた艦隊を見つめるパドメは、小さく笑みを浮かべながら確信していた。

 

現れた艦は砲塔を構える。狙いは反乱軍か?誰もが息を呑んだ瞬間、放たれた極光はホーム・ワンや他反乱軍の船の頭上を飛び越え、襲い掛かろうとしていたスターデストロイヤーのブリッジを見事に捉えた。

 

「TIE・ファイターを発進させよ!目標はスーパースターデストロイヤーだ!通信を反乱軍の主力艦へ」

 

現れたのは、ヴェネター級スター・デストロイヤー<レゾリュート>だった。クーデター派を指揮するウルフ・ユラーレン提督は、随伴する護衛艦からも次々とTIE・ファイターを発進させる。

 

肩翼を白く塗装したクーデター派のTIE・ファイターの編隊が飛び立つ姿を見つめながら、ユラーレンは通信に応じた相手を見据えた。

 

「アミダラ議員、お久しぶりです」

 

「お元気そうで何よりです、ユラーレン提督」

 

にこやかに言葉を交わす二人。

 

それ以上の口上は必要なかった。ユラーレン提督がクーデター派を引き連れてこの場に現れたことが、パドメにとって最高の答えだったからだ。

 

「これより我が艦隊は反乱軍と共同戦線を張る!武力と恐怖で世界を押さえつけようとする武官派たちの蛮行を我々はこれ以上、見過ごすことはできない!!すべては、帝国自治の正義と秩序のために!!」

 

全宙域に向けた通信でユラーレン提督は声を上げた。劣勢を強いられていた反乱軍のパイロットや戦士たちも一気に沸き立つ。この勢いを活かすほかはないと、カルリジアン将軍も全パイロットへ通信を繋いだ。

 

「心強い味方だ!各機、白いラインが入ったTIE・ファイターは味方だ!決して撃ち落とすなよ!!」

 

武官派の帝国軍も突如として奇襲をかけてきたクーデター派の対応が後手に回っている。この攻勢を必ず手にしなければならない。

 

ここで勢いに乗らなければ、クーデター派と反乱軍合わせた戦力でも上回る武官派に勝つことはできない。ここで勝利を逃せば、武官派の力は盤石になり、手がつけられなくなる。

 

故に、クーデター派はさらなる一手を打った。

 

「スーパースターデストロイヤーへの活路を開け!突入部隊の準備を!!」

 

「突入するのか!?スーパースターデストロイヤーへ!?」

 

すでに兵員を乗せたシャトルがレゾリュートから発進していた。TIE・ファイターの編隊に護衛されながら、シャトルは一直線に艦隊を突っ切って中央へ鎮座しているスーパースターデストロイヤーへと向かう。

 

「我々の目的は旗艦の掌握だ。大艦隊とはいえ、旗艦が落ちれば戦力も後退する!!」

 

「各機、突入艦艇を援護しろ!!」

 

即応したカルリジアン将軍の言葉に従い、多くのスターファイターが進んでゆくシャトルの援護へと入った。

 

「邪魔をさせるな!帝国こそが我々の守るべき故郷だ!!」

 

シャトルの行手を遮る敵の船を、前に出たスターデストロイヤー《エヴィセレイター》が粉砕する。艦長であるギャリック・ヴェルシオの指示に従うインフェルノ隊も、反乱軍と共にシャトルの護衛へと加わり、ついにスーパースターデストロイヤーへと到達した。

 

偏光シールドを突き破ってスーパースターデストロイヤーの格納庫へと突撃したシャトルは、待機していた敵スターファイターを押しつぶし、軍勢を押し戻し、両翼をもがれ、火花を散らしながら不時着する。

 

鈍い音と鉄が擦れる音が響くシャトル。滑るように不時着したシャトルの前、まるでそれがやってくることを知っていたように歩み寄ってくる男は、ニヤリと笑みを浮かべながら悠然と両手を広げた。

 

「待っていたぞ、フォースの使者たちよ」

 

ハッチが開く。不時着の影響でボロボロになった船内からはスパークが迸っていた。

 

「ついに今時代のダークサイドとライトサイドの雌雄を決する時が来た」

 

シス・ストーカーのリーダーであるタロン・マリコスが両手を広げながら言葉を紡いだ瞬間。

 

赤いライトセーバーの刃が立ち昇った。

 

漆黒のマントをはためかせながら、ボロボロになったシャトルから、レン騎士団の騎士であるサー・ブリッジャーがスーパースターデストロイヤーの格納庫へと降り立つ。

 

「光は闇に落ち、世界は新たなる帝国の秩序と力で支配されるのだよ。ノーバディ…そしてレン騎士団も不要だ」

 

カルとトリラ。

 

ケイナン・ジャラス。

 

アソーカとバリス。

 

サヴァージ・オプレス。

 

フォースと通じ合った戦士たちが船から降りてくると、マリコスの後ろにも、その数を上回る尋問官たちが現れた、一斉に赤いライトセーバーを起動させた。

 

「好きにはさせんぞ、蛮族どもめ」

 

ノーバディのメンバーの前に立ったレン騎士団のサー・ブリッジャーが特徴的なライトセーバーを眼前に構えながら、まるで誓いを立てるかのように声を荒げた。

 

「我々が…騎士たちが守ろうとした世界を壊させはしない」

 

ここでケリを着けるぞ!!

 

その瞬間、シスの軍勢と〝フォースの夜明け〟を望む者たちの最後の決戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 



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エンドアの戦い 4

 

 

デス・スター内部。

 

エネルギーシャフトにかかる通路の上で、剣戟が響き合う。皇帝が玉座から高みの見物をしている中、光刃を振りかざしたヴェイダーの一撃を、アナキンは巧みな剣捌きで受け流す。たった数秒の攻防で、幾つもの斬撃が飛び出し、スパークとプラズマのぶつかり合う音が辺りに散った。

 

「ログ!!」

 

受けた斬撃の威力を殺さず、回転するように刃を振るったアナキンと、剣を構えたヴェイダーの刀身が鍔迫り合いを起こした。スパークの光の奥で、アナキンが骸のようなヴェイダーのマスクを見つめながら声を詰まらせる。

 

「その名は私には何の意味もなさんと言ったはずだ!!アナキン・スカイウォーカー!!」

 

ヴァーパッドの型から繰り出される超攻撃的な連撃を、アナキンは型を自在に変え、防御と虚構、受け流しを織り混ぜ、体を飛躍させ、飛び跳ね、極地へも達そうとする斬撃の尽くを躱した。玉座から見下ろすパルパティーンも、その鮮やかな殺し合いを見て楽しんでいた。

 

息をすることも忘れてしまいそうな、濃密な攻防。その一閃を打ち払って後ろへとバックステップをしたアナキンは、床に手をつきながら悠然と剣を構えるヴェイダーを睨みつけた。

 

「僕は君を殺した。あの日、ムスタファーで戦ったときに。たしかに僕がライトセーバーで貫いたんだ」

 

忘れることはない。あの溶岩に照らされた光景を。彼の身をライトセーバーで貫いた感覚を。その全てをアナキンは覚えている。

 

「だからこそ、魂を失い、フォースの器となった君の肉体を終わらせる責任が僕にはあるんだ。君と世界を繋ぎ止めるものを、今度こそ断つ!!」

 

「やってみせろ、アナキン・スカイウォーカー。それこそがフォースへの反逆と知れ!!」

 

大口を叩いたな、とヴェイダーは義肢にフォースを送り込み、硬いデス・スターの床を踏み抜く。硬く打ち付けられたはずの床に足跡を穿つほどの力を見せ、ヴェイダーは巧みにセイバーを振るうアナキンへと肉薄する。

 

「選ばれし者など笑わせる!!所詮貴様も、人としての運命から逃れられぬ、あの男と同じよ!!失うことを恐れ、ジェダイであり続け、ジェダイを終わらせたあの男と!!」

 

「ログは偉大なジェダイだ!!」

 

「弱き者だ!故に私という存在がある!!」

 

「勝手なことを!!」

 

まるで神話のシスとジェダイの戦いの再現だ。積み上げてきた研鑽と技力を持って命を削り合う戦い。その均衡が傾く兆候は見えない。アナキンもヴェイダーも、互角の戦いを繰り広げる。

 

「すぐに決着はつく。皇帝のしもべとなったカイロ・レンが貴様の息子を討ち取り、そして貴様もその後を追うのだからな!」

 

膝をついたアナキンめがけて振り下ろした光刃。それを受ける先にあるアナキンへ、ヴェイダーは勝ち誇ったような声色で言葉を発したが、受け取ったアナキンの顔が揺らぐことはなく、逆に笑みを持ってヴェイダーの一撃を弾き返した。

 

「さて、どうかな!!息子のルークは、僕よりも往生際が悪いぞ!!」

 

 

 

 

 

 

アナキンと別れ、パルパティーンの傀儡と成り果てたカイロ・レンと戦うルークもまた、佳境を迎えていた。底知れぬダークサイドの力を持ってして、カイロ・レンはクロスガードライトセーバーを振り、防御に徹しようと構えたルークの身を吹き飛ばす。

 

フォースの力も上乗せされた斬撃を殺しきれず、ルークの体は優に数メートルを滑空し、帝国の堅牢な壁に身を叩きつけられる。鉄がひしゃげた音と、回路が破壊されたことで起こったスパークの火花が、痛みで床にうずくまったルークに降りかかった。

 

「カイロ・レン…!!目を覚ますんだ!!」

 

衝撃で肺の中の空気の殆どが絞り出されてしまったルークは、勇み足で向かってくるカイロ・レンへ何度目かになる言葉を投げる。しかし、彼は止まることなく進み続け、膝をつくルーク目掛けてセーバーの切っ先を向けた。

 

「これで終わりにしてやるぞ、ジェダイ!!遊びはここまでだ!!」

 

切っ先を構えたカイロ・レンは、そのままルークの顔を貫こうとセーバーを突き出す。相手はライトセーバーを展開すらしていない。

 

あまりにも無防備であり、非力。

 

勝ったと心の内で確信した瞬間、突き進んでいたセーバーの切っ先は、まるで壁に打ち当たったかのように塞き止められた。

 

「な…っ!?」

 

その光景を見て、カイロ・レンはマスクの下で目を見開く。ルークはありったけのフォースを手に宿し、〝素手〟でカイロ・レンが放ったライトセーバーの切っ先を受け止めていたのだ。

 

正気じゃない。プラズマの塊であるライトセーバーを手で受け止めるという発想ができるなんて、しかもそれを躊躇いなく実行するなど。

 

その恐れにも似た驚きの最中、カイロ・レンはルークの背後に幻視した。長髪と蓄えた髭を備えるジェダイ・マスターの霊体がそこに立っているように見えた。

 

自分が最期に会った、賢者であるマスター・クワイ=ガン。彼は怒りに身を委ねているカイロ・レンへ穏やかなフォースを手渡し、ルークの肩へ手を添えた。

 

「カイロ・レン!!戻るんだ!!」

 

手の一点に収束させたフォースが辺りに広がる。セーバーごと押し切られたカイロ・レンの体はふわりと浮き上がり、今度は彼が大きく吹き飛ばされ、轟音を立てて壁へと叩きつけられた。

 

めり込んだ体がしばらく壁にへばりつき、体の力を失ったカイロ・レンの肉体は、紐が切れた操り人形のように地面へと倒れた。

 

火傷を負った手を向けるルークが、倒れたカイロ・レンを見つめてから張り詰めていた息を吹き出し、呼吸を整える。まったく息ができなかった。それほどまでに集中したフォースの扱い。ライトセーバーを素手で受け止めるなど、普通では考えられない事をやってのけたのだ。

 

しかし、ルークには確信があった。絶対に受け止められると信じることができた。その確信の根源がなんであれ、ルークはその力を持ってしてカイロ・レンの一撃を受け止めたのだ。

 

ふと、ルークは立ち上った影を感じ取った。

視線をあげる。そこにはマスクが砕け、素顔を晒したカイロ・レンが立っていた。

 

「我が…負ける…そんな…我は…俺は…」

 

すぐにルークもライトセーバーを手に取るが、光刃を出す前にその感覚は消え去った。カイロ・レンから立ち上った暗い影。その影が苦しんでいるように見えたからだ。苦しげな声でうめくカイロ・レンは、膝を落とし、何かに抗うように頭を掻き毟る。

 

ふわりと、懐かしい匂いがした。これは、幼い頃にレイアと共に修行を積んだ、ナブーにあるジェダイ寺院の……。

 

「俺の…俺の体から…出て行け!!」

 

咆哮があがる。カイロ・レンの肉体から立ち上っていた影は、断末魔の悲鳴を上げて吹き上がり、やがて飛散した。瞬きをしてルークは目にした光景を改めて見たが、飛散した影の姿はない。

 

強すぎるダークサイドの力が生み出した幻影だったのか。

 

影が去ったあと、息を切らして手をつくカイロ・レンの元へと、ルークはゆっくりと歩み寄った。

 

「カイロ・レン」

 

「ルーク…スカイウォーカー…」

 

「戻ったのかい?」

 

息も絶え絶えなカイロ・レンに語りかける。彼はなにも言わず、四つん這いになったまま顔を下に向けている。噛み締めるように手を握りしめて、乱れた呼吸の中で、彼は呟いた。

 

「長い悪夢だったよ…ジェダイ。とても長い悪夢だった」

 

「まだ間に合う。カイロ・レン。共に行こう」

 

まるで懺悔するかのような言葉に、ルークはピシャリと告げた。その懺悔など許さない。許す時間もない。ルークは項垂れたままのカイロ・レンへ手を差し伸ばす。彼はもう、ダークサイドの傀儡でも、パルパティーンの操り人形でも無かった、

 

「俺は…多くの過ちを犯した。その罪は背負わなければならない…」

 

差し伸べられた手を一瞥し、カイロ・レンはゆっくりと立ち上がる。砕け散ったマスクの断片を壊れないように持ち上げ、見つめた。

 

これは自分が強くあるための仮面。あるいは象徴。あるいは変化のための楔であり、同時にその縋った心がパルパティーンを呼び込むきっかけともなった。そのかけらを、カイロ・レンは握る手を緩めて地へと落とした。

 

これに頼るのは最後だ。素顔を取り戻したカイロ・レンは、隣に立っているルークの目を見る。

 

「その罪を贖罪したとき、その手を取ると約束しよう。ルーク・スカイウォーカー」

 

「あぁ、わかった」

 

短い、けれど多くの思いを持った言葉を交わした二人はライトセーバーを腰へとしまい、歩み出した。向かう先は、皇帝が待つ玉座だ。

 

必ず、ここで決着をつける。その決意を胸に。

 

 

 

 

 

 

 

エンドアの森の戦いは混戦を極めつつあった。イウォークの襲撃に加え、クーデター派の帝国軍が乱入。

 

ストームトルーパーと、クローントルーパーの戦いを目にしたイウォークたちが戸惑ったような声を上げた。

 

反乱軍もクーデター派へと加勢し、形勢は一気に膠着状態へと陥った。

 

「進め!!敵の陣形を崩すんだ!!」

 

隊長であるハンの声に従い、誰もが戦っている。そのハンの後ろ、頭を倒そうとブラスターを構えた帝国軍の高官。次の瞬間、ハンの脇すれすれをかすめるブラスターが火を吹き、彼を狙っていた高官は胸を穿たれ、絶命した。

 

「気を付けろよ、ロクデナシめ」

 

二丁のブラスターを回転させて腰のホルダーへと収めるボバの物言いに、ハンはうんざりしたような顔をしてから、お返しと言わんばかりにブラスターを無造作に構えて撃つ。すると、今度はボバの背後にいたトルーパーが倒れた。

 

「そっちも気を付けろ、賞金稼ぎ」

 

一方、レイアはシールド発生器へと繋がる施設の扉を開けるために奮戦していた。

 

「R2!メインゲートの扉を開けません!今すぐにゲートの正面に!!」

 

通信機で呼びかけるレイア。その視線の先で、赤色のライトセーバー同士が、苛烈な銃撃戦の最中でぶつかり合っていた。

 

「裏切り者め!!貴様も帝国の理念に反するか!」

 

「その理念を捨てたのは貴様達だろう!!帝国市民の命すら厭わない貴様達に与える慈悲などない!!」

 

尋問官であるシス・ストーカー。

帝国市民を守るために結成されたレン騎士団。

 

それぞれの戦士がフォースの力に身を委ね剣舞を繰り出す。三人の尋問官を一人で相手とるサー・マレックは、矢のように放たれる尋問官たちの斬撃をいなし、大立ち回りを演じている。

 

「減らず口を!!」

 

リーダー格の尋問官がセーバーを振るった。その隙をマレックは見逃さない。振りかざされたセーバーを紙一重で避けると同時に、注意が散漫となった片割れの尋問官へセーバーを振るう。マスクに覆われた二つの頭部がエンドアの森へと転がった。

 

「ふん、邪魔者が消えて清々した。これでこの星の支配権は私一人のものだ」

 

「そうはさせんぞ、悪魔め」

 

仲間を失っても動じない尋問官を相手に、マレックは二刀のライトセーバーを逆手に持って構えた。

 

「邪魔な騎士団など、最初から要らなかった!!お前達さえいなければ、ダークサイドの力に市民をひれ伏せさせたものを!!」

 

「市民あっての帝国!市民の繁栄あっての秩序だ!!それすら忘れたか!!」

 

枯れ葉が敷き詰められた地を蹴ってぶつかり合う二人は、放たれたブラスターを弾き返し、剣閃を凌ぎ合う。横なぎ、突き、袈裟斬り、横払い。多くの剣を競い合わせ、互いに化かし合う。そして、その均衡は突如として崩れた。

 

「従わない者は処断するだけだ!!」

 

大振りになった尋問官のライトセーバーを掻い潜ったマレックの一撃が、最後の尋問官の胸を貫いたのだ。信じられないと言った目をして自分の有様を見た尋問官は、マレックがライトセーバーを切ったと同時に倒れ、動かなくなった。

 

「その支配欲が、シスそのものを滅ぼしたのだ。なぜ、それを分かろうとしなかった」

 

二刀のライトセーバーを腰に収め、マレックは誰に言うでもなく一人言葉を走らせる。すぐそこでは、トランスポートを制圧したローグワンと、ウォーカーを奪ったジンたちが応援に駆けつけていた。

 

これでエンドアの森の戦いは終止符を打った。月のように浮かぶデス・スターを見つめながら、マレックは小さく呟く。

 

「お前達は、道を踏み外したのだ。帝国者としての道をな」

 

 

 

 

 



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エンドアの戦い 5

 

 

 

「全ては無意味だ、アナキン・スカイウォーカー。貴様はここで私に殺されるのだ」

 

排気ダクトが連なるエリアへと差し掛かったアナキンとヴェイダーの戦い。

 

ダクトが破壊されたことで生じた煙に乗じて、姿を隠したアナキンを注意深く探しながら、ヴェイダーは通路を歩んでいた。

 

もう何十手と切り結んだ攻防であったが、二人の実力はほぼ互角。機械の四肢と呼吸システムによって管理されたヴェイダーのタフネスさと比べると、長期戦になればアナキンが不利になることは明白だった。それを承知した上での作戦。おそらく、この排気ダクトへと退路を選んだのもアナキンの咄嗟の判断であったのだろう。

 

だらりと自然体にライトセーバーを下げたまま悠然と歩くヴェイダーは、どこかに隠れて様子を窺っているであろうアナキンに対して言葉を紡いだ。

 

「決着をつける?そんなもの、とうの昔に付いているだろう?貴様が私になる前の存在を穿ってから」

 

ムスタファーでログがアナキンに討たれることを望んだ段階で、彼が望む望まざるに関係なく、二人の戦いはアナキンが生き残ったことで完結している。そのことに満足したからこそ、この肉体は空となり、それを良しとしないフォースの意思が、ヴェイダーという器を宿したのだ。

 

「そら、簡単な話だ。すでに決着など付いてる。貴様が私の前に現れた段階で、結末は決まっていたのだ」

 

その結末で良かったというのに。それで彼は満足したというのに。それでも足掻いて、それが納得できないから、アナキンもパルパティーンも、ヴェイダーの前に現れたのだ。決着など、とっくに付いているというのに、それが認められないから足掻いている。

 

ここまでくるのに、そんな下らないことに縋って、反乱軍や帝国と分かれて、シスやジェダイだと謳って、刃を重ねて歩んできた。

 

それでも、まだ足りないと言って、走って、走ってきた。

 

「あの結末で足りぬと言うなら、まずはエンドアにいる貴様の娘を殺そう。船に乗る妻を、この場にある息子を、タトゥイーンにいる貴様の親族を皆殺そう」

 

反乱軍を殺そう。歯向かうものを全て殺そう。ジェダイに関わったもの全てを消してやろう。スカイウォーカー家を知るすべての存在を消し去って、全てを無に還してやろう。

 

「貴様の大切なものを全て失えば、そんな幻影からも逃げられる。フォースの深淵に立つために失うものを無くせ。できないというならば仕方がない」

 

故に、貴様を殺して、私がそれを果たそう。

 

機械化された音声がダクトに響く。ふと、ヴェイダーが背後から立ち上る気配に気がつく。振り返ると、すでにライトセーバーを起動させたアナキンが、そこに立っていた。

 

皮膚を切るような緊張感の中、両者の視線が交錯する。奇しくも構えは同じ、剣を持つ手をだらりと下げた自然体であった。

 

自身の心音が大音量に聞こえるような静寂が、二人の間に横たわっていた。

 

剣舞の始まりは唐突なものだった。

 

かすかに響いた鉄を打ったような音が響くことを合図にして、両者の間に火花が散った。赤と青の光が互いに喰い合う。甲高い音を残して間合いを取る両者の頬や黒い装甲に薄く刻まれた傷が、生まれた。

 

最速。最短。アナキンは勝負をかけた。

 

持久戦に縺れ込ませるにはアナキンの衰えた体力では分が悪すぎる。ひと呼吸でライトセーバーを斜めに構えると、一閃を皮切りに流れるような剣舞が炸裂する。ヴェイダーもそれに応じ、2人の振るう光刃が狭いダクトの通路内で乱舞した。

 

刃を鍔迫り合わせ、アナキンが力任せに通路の出口までヴェイダーを押し除けたが、その押し出す力を逸らし、ヴェイダーは鮮やかに体を翻し、アナキンの猛攻を躱した。

 

バランスを崩したアナキンへ、ヴェイダーの一閃が降りかかる。疲労がピークに達しようとしていたアナキンは、その一撃をギリギリで逸らすことしかできなかった。ライトセーバーの柄にヴェイダーの一閃がかすめ、アナキンの手から放たれていた青白い光が突如として消え去る。

 

……終わりだ!

 

得物を失ったアナキンを見て、ヴェイダーは大振りした腕を引き絞るように構え、止めの一撃をアナキンの元へと繰り出そうと踏み込み…、

 

地に膝をついた。

 

「ダース・ヴェイダー」

 

ヴェイダーの脇腹を、青白い光が貫通したのだ。突き出されてすぐさま引き抜かれた一撃であった。大振りから構えに移行する僅かな隙間に、アナキンは勝機を賭けたのだ。

 

だが、おかしい。アナキンのライトセーバーは放った一撃で破壊できたはずだ。身を焼き貫かれた苦痛から顔を上げる。そこには、壊れたはずのライトセーバーから、青白い光を立ち上らせて構えているアナキンの姿があった。

 

「それは…」

 

その手に収まるものは、アナキンの物ではない。確かに見覚えがあった。すでにヴェイダーがヴェイダーになる前の記憶であったが、そこには確かに、彼が知る物があった。

 

「ログ・ドゥーランの…ライトセーバー…か…」

 

ムスタファーで、火山にログが焼かれた後にアナキンが拾った彼のライトセーバー。オビ=ワンが、この戦いになる直前に霊体で現れ、アナキンにログのライトセーバーを託したのだ。

 

タトゥイーンで、オビ=ワンはずっとそのライトセーバーと向き合っていた。苦悶と、苦しみがこびりついたログのライトセーバーと。アナキンも握りしめた瞬間に、ログの残留思念を読み取った。

 

そのライトセーバーに込められた深い悲しみを。

 

「ヴェイダー、お前の言う通りなのかもしれない。お前の言った通り、すでにログはこの世界に居ない。僕たちは居なくなった者の影を追い続け、それに怯えてきた半端者なのかもしれない」

 

彼を殺したのは僕だ。

彼をそうしたのはジェダイだ。

彼をそうせざるえない道へと誘ったのは世界だ。

 

そして、目の前で膝をついているヴェイダーは、その意志の残光。彼がいなくなったというなら、その残光をこの世界に縛り付ける意味もないはずだ。

 

「だからこそ、僕は…」

 

「素晴らしい。いいぞ、アナキン」

 

その言葉を遮ったのは、通路の先に繋がっていた玉座であった。見上げる階段からパルパティーンが降りてくる。その表情はまさに、待ち望んでいた瞬間がやってきたと言わんばかりの顔つきであった。

 

「そやつを殺せ」

 

まるで歓喜するように、パルパティーンは膝を折ったヴェイダーを見下ろしてアナキンへ告げた。計画では、アナキンが勝利しようが、ヴェイダーが勝利しようが問題などない。

 

パルパティーンが再現しようとしたのは、あの帝国が樹立した時の激闘そのものだ。

 

フォースの流れや意思を、あの時と同じような場面に導くこと。そして、その瞬間に鍵となるアナキンか、ログの残光であるヴェイダーが死亡すれば、失われたログの元へと続くフォースの扉が現れると計画していたのだ。

 

「抜け殻でしかないそやつなど、なんの価値もない。ログの肉体という順応性の高い利点を除けば、そやつが生きていることも値しない骸だ」

 

さぁ、殺せ、アナキン。殺して失ってこそ、その先に開く扉があるのだ。その扉を開く鍵を、そなたは持っておる。ログ・ドゥーランと同じように。真っ黒な外套の下から、その期待に満ちた目をアナキンへ向けるパルパティーン。

 

カイロ・レンを取り戻したルークたちが、玉座へと戻ってきたのも、そのタイミングであった。ログのライトセーバーをぶら下げてヴェイダーの前に立っているアナキンを見て、ルークとカイロ・レンは息を呑んだ。

 

「父さん…!!」

 

幾ばくかの沈黙のあと、アナキンはログのライトセーバーの切っ先を持ち上げ、その光刃のスイッチを切った。とたん、パルパティーンの顔つきが変わる。

 

「僕は、僕は殺しはしない」

 

明確な拒絶だった。パルパティーンが欲するログの回帰を、アナキンは望んでいなかったからだ。

 

彼は、もう死んでいる。

 

この世にいないのだ。ヴェイダーとの戦いでそれを知ったアナキンにとって、これ以上のことは、全て無意味に思えてならない。

 

「僕はジェダイでも、シスでもない。英雄でもない。〝ただのアナキン・スカイウォーカー〟だ。シーヴ・パルパティーン」

 

ヴェイダーに背を向けてアナキンは茫然と立ち尽くすパルパティーンと向かい合った。彼もまた、自分と同じだ。あの日に負った深すぎる傷を抱えて動けなくなっているだけだ。

 

「お互いに、もう見えなくなった人の影を追うのはやめましょう。彼はもう…居なくなったんです。議長…」

 

ヴェイダーの言う通り、もう既に決着は付いていた。パルパティーンが帝国を樹立した日に。アナキンがログの身をライトセーバーで貫いたときに。

 

「だまれ!!!」

 

慟哭と共に、凄まじいフォースの流れがアナキンへと襲いかかる。壁際まで吹き飛ばされたアナキンは、なんとか着地はするがその痛みに顔を歪ませる。

 

「彼を呼び戻せるのだぞ!!それを諦めろというのか!?フォースの深淵たる知識を前にして、諦めろと!?ふざけるな!!」

 

再び目を向けたパルパティーンの目は、黄金色に染め上がっていた。両手に稲妻を迸らせ、あふれるエネルギーで辺りの物を破壊しながら、その怒りをあらわにしてゆく。

 

「諦めてなるものか!!踏みにじってなるものか!!そのために彼は礎となったというのか!?ジェダイなどという下らない思想を終わらせるためだけの礎に!!そんなもの、余は認めん!!余の待望を前にして、そんなものを認めてなるものか!!」

 

「パルパティーン議長!!」

 

「違うぞ、アナキン。余の名はダース・シディアス。シス・マスターであり、ログの唯一のマスターだ!!」

 

撃ち放たれた電撃を、アナキンは手に持っていたログのライトセーバーを起動させて受け止める。凄まじい威力のフォース・ライトニングは、その場で踏ん張ることしか認めず、アナキンの動きを封殺する。

 

「シディアァァアアス!!」

 

電撃を放つシディアスの背後へ、飛び上がったカイロ・レンがクロスガードライトセーバーを振りかざして襲いかかる。

 

「自ら呪縛を解いたか、我が息子よ」

 

その一撃を空いた手の袖からライトセーバーを下ろしたシディアスは、たやすく打ちとめた。感心はする。脳内に埋め込まれたバイオチップの思考操作を打ち消しても、自分に挑んでくる強さに。

 

「俺は、あんたの息子なんかじゃない!!ここであんたを倒す!その知識は危険すぎたんだ!!」

 

「身の程を知れ、愚か者よ。そなたら程度では余を倒すことなど不可能だ」

 

その程度では足りぬわ!!父の援護に加わろうとしていたルーク目掛けて、シディアスは片手の僅かな動きのみで襲いかかってきていたカイロ・レンを操り、矢のように撃ち放つ。

 

「ルーク!!」

 

「愚か者が!!フォースの何たるかを理解せぬ者たちめが!!ならば余が相応しい死をくれてやる!!その身を以ってして、ダークサイドの…無限のパワーを思い知るが良い!!」

 

シディアスがフォースを手繰り寄せるように力を放つ、手に持っていたライトセーバーが浮かび上がり、体勢を崩したカイロ・レンやルークとの剣戟を始めた。

 

手を一切下さずとも、卓越したライトセーバーの動きでルークとカイロ・レンを釘付けにするシディアス。

 

「どうした!!この程度で戦うとは!!なんたる無知なことか!!身の程を知れ、アナキン・スカイウォーカー!!」

 

シディアスから撃ち放たれた稲妻が、アナキンを襲った。防御する間も無く穿たれ、その衝撃と共に吹き飛ばされたアナキンは、無骨な鉄骨へその身を打ち付けた。

 

「がはっ!!」

 

握っていたログのライトセーバーがシャフトの底へと落ちてゆく。

 

「これで終わりだ、もう一人の選ばれるはずだった者よ。フォースの意思への礎となるがよい」

 

両の手に火花と化したフォースの稲妻を持つシディアスが、身動きの取れないアナキンへ邪悪な笑みを向け、極光へと達したフォース・ライトニングを放つ。

 

だめだ。どうにもできない。肺の中の酸素すらも失ったアナキンは、迫る稲妻を茫然と見つめる。視界の端で、ルークが叫んでいる姿が見えた。

 

手に武器はない。あれほどの電撃だ。受ければ…命はない。しかし、目的は達した。彼の執着をほんの僅かにでもくじけたと言うなら、満足だ。悟ったように迫り来る光を見つめる。

 

そんな彼の前に、影が立ちはだかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

もう随分と、昔に感じられる夢。

 

 

 

 

 

 

 

あの日、あの瞬間に、俺はログ・ドゥーランとしてスタートを切った。

 

通い慣れていたはずの小さな路地は、今となっては別世界のように見えた。自分があの世界で過ごした時間は、すでに元いた世界よりも多い。

 

コンビニ袋をぶら下げた自分が目の前にいる。あの時と変わらない。何も知らないままライトセーバーに貫かれた自分自身。

 

こちらは黒い服を身に纏っていて、手にはライトセーバーが握られている。

 

結末を知った。

 

アナキンの孤独を知った。

 

フォースに触れた。

 

世界の行く先を見据えた。

 

多くのことを学び、多くのことに触れ、多くを見た俺は、満足したのか。

 

確かにアナキンは暗黒面に落ちなかった。

 

ドゥーランが望んだ、アナキンを一人ぼっちにさせないために尽くした全てが報われたはずだ。

 

だが、何故…こんなにも虚無が胸の中にあるのだろうか。

 

誰も傷つかない未来を見つめて、アナキンとパドメや仲間が笑える未来に向かって駆け抜けてきたはずだというのに。

 

心の中には満足感どころか、あれだけ感じていたアナキンへの愛も、友情も、優しさも感じられない。

 

冷たさがあった。

 

後悔と、虚しさがあった。

 

そのためだけに、走ってきたというのに。その果てにあったものが、こんなにも残酷なものだったとは…。

 

自分はいったい、何のために世界を変えようとしたのか。

 

アナキンを一人にしないために、俺が一人になった。

 

本当に

 

 

 

 

 

 

本当に?

 

俺は一人になったのか。

 

視線を落とした先。

 

そこにあるのは赤いライトセーバーの光だった。

 

真っ赤なプラズマの光が腹部を貫いている様を見て、俺の意識は表層へと蘇る。そうだ。これで満足したと言った。けれど、やり残したことがある。

 

無意識に、俺の手は自分を貫くライトセーバーの光刃へと伸びた。刃を握りしめる。熱い何かが手に広がったが、痛みは感じなかった。

 

後悔がある。何の?

 

虚しさがある。何に対しての?

 

その答えを、俺は知っていた。知っているからこそ、その道に落ちたというのに。

 

 

 

 

 

〝悪いな、俺を待っている人がいるんだ〟

 

 

 

 

ズルリと引き抜いたライトセーバーを掲げながら、空を見る。

 

フォースと一体になっても、俺が世界と繋がっていられたのは、そんな人間らしい感覚であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに…!?」

 

シディアスから驚愕の声が漏れ出した。その稲妻の前に悠然と飛び出したのは、さっきまで倒れていたはずの…ヴェイダーだった。

 

真っ赤な光剣をかざし、シディアスから放たれる電撃を身をもって受け止める。馬鹿な、すでに意識など存在しないはずだ。ダース・ヴェイダーという傀儡は存在しないはずだ!セイバーのプラズマで許容できない稲妻がヴェイダーの機械の体を駆け巡り、生命維持装置の全てを破壊する。アナキンに穿たれた傷から入った電力は残されたヴェイダーの僅かな肉体を焼き切った。

 

しかし、彼は引かなかった。背後でその光景を目の当たりにしたアナキンを一瞥し、空いた手を宙へと伸ばす。

 

 

「『議長、ここで決着です』」

 

 

機械音声ではない声が響いた。

 

同時に、シャフトへと落ちていったはずのログのライトセーバーが、魔法のように導かれ、手をかざしたヴェイダーの元へと舞い戻る。

 

二刀となった光刃を交差させ、膨大なフォースの稲妻を受け止める。

 

シディアスは思考が真っ白に染まっていた。彼の背後には、幾人ものフォースの霊体が立っていた。ジェダイも、シスも、彼が導き、彼が裁いた者も。その多くがそこにいた。

 

彼らは手を伸ばす。まるでヴェイダーの背を後押しする様に、まるでフォースを送り込むように。

 

 

ああ、そうか。

 

そうだったのか。

 

そんなにも…単純なことであったか…。

 

 

差し伸ばされた手先から見える光。

 

シディアスが放っていた稲妻は反転する。

 

その瞬間、玉座があった部屋は眩い光とフォースの激流に包まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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フォースの夜明けへ…。

 

 

 

「うっ…」

 

鈍痛の中、目を覚ます。アナキンが見た光景は、まるで猛烈な力で吹き飛ばされた有様となっていた皇帝の玉座であった。

 

体に降りかかった瓦礫を振り払いながら立ち上がる。さっきまで毅然と在ったはずの室内は、完全に荒れ果てている。

 

配管は折れ、至るところから空気やガスが漏れ出しており、壁に備わるコンソールパネルからは火花が散っていた。

 

「父さん…」

 

「ルーク、カイロ・レン…」

 

声に振り返ると、そこにはルークと、彼に肩を借りるカイロ・レンの姿があった。彼らもまたボロボロの出立であり、この場が凄まじい衝撃波に見舞われたことを物語っている。

 

アナキンは、何かに導かれるように瓦礫が散乱した部屋を歩む。

 

天井から剥がれ落ちた調度品を躱しながら玉座の近くへと進むと、衝撃波の爆心地のような跡の場所で、横たわっているシディアスを抱き抱えるヴェイダーの姿があった。

 

いや、もうアナキンは気がついていた。

 

ヴェイダーから流れ来る懐かしいフォース。それは紛れもなく、ログのものであった。彼が抱くシディアスは、自身のフォース・ライトニングの影響を受けたせいか、顔の半分が焼け爛れており、深くかぶっていたフードもずれ落ちていた。

 

ログの腕の中で、シディアスは目を覚ました。

 

「あぁ…やぁ、ログ。戻って…きたのだな…」

 

『「はい、議長」』

 

かすれた声で呟くシディアスの声に、ログは頷いて答えた。すでにヴェイダーの生命維持装置は破壊されており、人工声帯も呼吸器も機能していないはずなのに、凛とした生前のログの声が響く。

 

その声を聞いて、シディアスは小さな笑みを浮かべた。

 

「そなたが…余の元へ戻ってくるのを…ずっと…待っておったぞ…」

 

『「お待たせしてすみません。議長、あなたに教えを乞う時が来ました」』

 

「うむ…そうであろう…そなたはやっと…余の弟子、〝ダース・ヴェイダー〟となるのだな…」

 

その先に共に歩む道があるなら、その時はどうか導きを——。ジェダイ聖堂を破壊する前、ムスタファーで死する前に交わした会話をシディアスは思い出す。彼が再び戻ったその時、ログは自分の弟子となると約束した。

 

その約束を彼は忘れていなかったのだ。

 

ああ、それだけ聞けて…満足であった。

 

今まで抜け落ちていた何かが、シディアスの中へと戻ってきた。足りていなかったものをようやく彼は取り戻したのだ。

 

「…さぁ…共に行こう…ログ。フォースの真なる意味を見つけるために…」

 

『「ええ、貴方とならどこまでも付き合いますよ」』

 

そう言葉を残して、シディアスはゆっくりとまぶたを下ろした。まるで眠りに落ちるように。その肉体を膝をついて抱くログの元へ、アナキンは歩みを進める。

 

「……ログ」

 

近づくたびに、彼への想いがあふれた。謝りたいことも、怒りたいことも、喜び合いたいことも。ログ、僕の子供はちゃんと育ったよ。パドメとも仲良く過ごしているよ。君のおかげで、母も穏やかな時の中で逝くことができたんだ。

 

伝えたいことが溢れて、そして何を言えばいいか見失ってしまうほど。

 

「ログ…僕は…僕は…っ」

 

言葉を選べずに、アナキンは膝を落とした。自然と、その頬には涙が伝っていた。止めようのない思いが溢れる。

 

『「ありがとう、アナキン」』

 

ぐちゃぐちゃになっていた思考に、その声は染み渡るように届いた。顔を上げる。そこには確かにヴェイダーがいたはずだった。漆黒の外套と、骸のようなマスクを身につけていたはずの騎士は、ジェダイローブを身につけた温かな肉体へと変わっていた。

 

あの日の、親友であったログ・ドゥーランが、そこにいた。

 

『「あの時はすまなかった。お前にはいつも、辛い思いをさせてしまっていた」』

 

「違う、ログ。君がいたからだ。君がいてくれたから…僕は〝こうやって〟生きていることができたんだ」

 

君がいなければ、僕はもっとひどいことをしていた。君がいなければ、僕は自分を許せなかった。君がいなければ、僕が〝ダース・ヴェイダー〟となっていた。

 

彼がいたからこそ、自分は息子や娘、妻という家族と愛を知って、生きてこられたんだ。礼を言うべきは自分の方だと言うのに。

 

彼は笑って首を横に振った。礼を言うのはこちらの方だと言って。

 

『「…みんなが俺を見つけてくれたんだ。だから、アナキン。お前はもう幸せになっていいんだ」』

 

「ログ…」

 

彼は宇宙が見える窓を見つめる。視線の先では、帝国軍の勢力を跳ね返し、反撃に出た反乱軍や、クーデター派の姿が見える。旗艦である船を抑えられ、統制が乱れた武官の帝国軍が破れるのも時間の問題だ。

 

『「見えるか、アナキン。フォースの夜明けがくる。あとの世界は、お前たちに託すぞ」』

 

その言葉と同時に、デス・スターが激しい揺れに包まれた。崩壊していた部屋の天井から、ぶら下がっていた機械部品や、瓦礫が落ちてくる。その様子を察したルークが、膝をつくアナキンの肩に手を置いた。

 

「父さん!デス・スターへの攻撃が始まった!早く脱出を!」

 

きっとハンたちがシールド発生装置を破壊したのだろう。デス・スター内部への攻撃が始まれば、この場にいる自分たちも危険にさらされる。ルークの言葉を理解したアナキンが迷ったような目でログを見た。

 

「ログ、君を置いていくなんて…」

 

そう言うアナキンに、ログは穏やかな顔つきのまま答えた。

 

『「安心しろ、アナキン。もう大丈夫だ。フォースを探せ、そこにいつも、〝俺たち〟はいる」』

 

さぁ、行け。ログの言葉をアナキンは噛み締めるように聞くと、カイロ・レンに肩を貸すルークを連れて部屋の出口へと向かう。向かう最中、一際大きな揺れと瓦礫が崩れるような音が響いた。

 

アナキンが振り返る。

 

さっきまでログとシディアスがいたはずの場所は、もう影も形も残っていない。まるで最初から誰も居なかったような静寂があった。

 

「ありがとう…ログ。………さようならだ」

 

言葉を残して、アナキンはこちらを呼ぶルークが待つエレベーターへと向かった。もう心にしこりはない。彼を探す幻影もない。

 

アナキンの中に残ったのは、彼との別れを終えた故人を思う心だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇には、寒さ。

 

光にも、寒さ。

 

老いた太陽は熱を生まぬが、

温もりは吐息と命にある。

 

命にはフォースがあり、

フォースには命がある。

 

そしてフォースは、永遠にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、そこは船の中であった。

 

小さな船。

 

皇帝になってから慣れ親しんでいた豪勢な船とは違い、必要最低限な機能と、人を星から星へと運ぶ機能しか持たない大きさ。

 

コックピットから見える景色は、見たことのないものであった。色鮮やかな彩色がうねりを上げて入り混じり、温かな光がこの身を照らしてくれている。

 

まるで、陽だまりの中にいるような心地よさがあった。すべてにフォースが溢れている。

 

ふと、隣の席に目を移す。

 

そこには、操縦桿を握る…若き日のログが、あの時の姿のまま座っていた。

 

彼は、何も言わないままだった。

 

ただこちらを見て微笑み頷くと、前を向いて船を進め続けてゆく。

 

これから、この船と共に果てのない旅が始まる。

 

いまだ足を踏み入れたことない世界への大いなる旅路。

 

フォースの真の意味を知るための、探求の旅。

 

フォースの夜明けがくる。

 

その心地の良い高揚感を胸に、私もまた船の行き先を見つめる。

 

 

 

 

 

星は続いている。

 

フォースは永遠に。

 

この道は果てなく続く。

 

行こう。

 

その果てのない旅路を見つめるために。

 

 

 

 

 

 



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エピローグ
新たなる希望へ


 

 

 

 

 

 

 

34ABY

 

惑星コルサント。

 

第二のデス・スター破壊から.30年後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フォース・アカデミー主席卒業生、ベン・スカイウォーカー。貴殿をレン騎士団長とし、ここに筆頭騎士の称号、〝カイロ・レン〟の名を授ける」

 

ジェダイテンプル、そしてインペリアル・センターと名を変えてきた建物。その内部にある大きなホールでは、訓練と勉学を終えた学生たちの卒業式典が執り行われていた。

 

フォース・アカデミー。

 

帝国政府が、共和国主義の議員たちとの交渉テーブルに着き、帝国制から連邦主義へと移行したとき、テンプル・シード(種の塔)とも呼ばれる学舎としてこの建物は生まれ変わった。

 

多くのフォース感応者やジェダイが学び、鍛錬し、そして本拠地として利用していた建物は、フォース感応者のみと言う制限から大きく開かれ、フォースへの考え方だけではなく、政治面やパイロット候補、ありとあらゆる分野の勉学を学べる場所として、今では銀河に認知されていた。

 

今回の卒業生たちは、その中でも特殊な分野の生徒たちであり、その多くの生徒が連邦軍への入隊が決まっている。フォース感応者だけではなく、技術者やパイロット、航海士などなど、幅広い分野の勉学を修めたものたちがそのホールには溢れていた。

 

「終わったな、マスター・スカイウォーカー」

 

「終わりましたね、サー・カイロ・レン」

 

レイアとハンの息子であるベン・ソロの晴れ舞台を眺めていたのは、この学園でフォースへの考え方や、心得を教えるため、教鞭を振るうルークと、パルパティーンの息子という呪縛から解放されたカイロ・レンであった。

 

「やめてくれ、それはベンに譲った名前だよ」

 

ルークは大戦後、「ジェダイ」としてのテンプル創設は諦めていた。ジェダイという一方向から見た思考主義を持ち込んだところで、うまくいかないとわかりきっていたからだ。

 

しかし、世界にはフォースを感じ取る者は多く、同時にライトサイドとダークサイドがあるのも事実。彼らを導く何かは必要であった。

 

故に、アナキンとルークは共にアカデミーの設立を提案。パドメやレイアたちの協力のもと、騎士団や生き残ったノーバディの面々と共に、ジェダイにもシスにも囚われない新たなる学問としてフォースへの語り口を開いたのだった。

 

ちなみに、ルークが担当するのはライトサイド科。そしてカイロ・レンが担当するのはダークサイド科であった。

 

「ルーク伯父さん!」

 

カイロ・レンと雑談していると、卒業式典の正装からラフなシャツと動きやすいパンツ姿となったベンが駆け寄ってくる。腰にはハンと同じブラスターと、カイロ・レンと同じクロスガードライトセーバーがぶら下がっていた。

 

「ベン、これからアウター・リムで任務なのだろう?」

 

「はい。ですので出発前に挨拶に。マスターにも」

 

そう言って、ベンは2人に頭を下げる。ルークは伯父であり、先代カイロ・レンはベンから見ればマスターにあたる。ライトサイドとダークサイドの中道を行く彼は、二人にとって新たなる可能性の塊でもあった。

 

「気をつけるんだぞ?ベン。ファースト・オーダーを侮ってはならん」

 

そう言って、カイロ・レンはベンに忠告する。

 

エンドアの戦いで第二のデス・スターが破壊され、さらにジャクーの戦いで大敗を喫した武官派の帝国軍は、連邦化した政府から完全に離反し、残党勢力を集め「ファースト・オーダー」を設立した。

 

シス・ストーカーの生き残りもいる中、ダークサイドの力と帝国の本来のあり方を正そうと各地でテロ活動をするゲリラと化している悩ましい存在でもある。

 

訓練学校時代でも、幾度とベンたちもファースト・オーダーとの戦いに派遣されており、卒業した彼らは本格的にその戦場へと身を置くことになるだろう。

 

「わかってます。俺にも仲間がいますから」

 

心配するカイロ・レンに笑顔で答えるベン。その後ろからジャケットが特徴的な友人が、ベンを呼んでいるのが見えた。そろそろ出発の合図なのだろう。

 

「では、行ってきます」

 

「ベン、フォースが共にあらんことを」

 

振り返って行こうとするベンへ、ルークはそっと声をかけた。形式化した言葉であるが、その繋がりを大事にする自分たちにとっては大切な言葉だ。ベンも振り返り、頷く。

 

「フォースと共に」

 

その言葉と共に、ベンは再び仲間の元へと駆け出してゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、ベン。やっぱり騎士甲冑着ようぜ?あんなかっこいいもんをなんで辞退するんだよ」

 

アカデミーの発着場は多種多様な種族の戦士たちによって活気に満ち溢れていた。人種限定とされた帝国の制度から連邦へと変わり、連邦軍は多様性と調和が強調されている。

 

そんな中を歩くカイロ・レンの称号を得た騎士こと、ベン・スカイウォーカーは、歴代の騎士とは出立が全く異なっており、動きやすいジャケットとパンツ姿が。腰に巻くガンベルトには、愛用のブラスターとライトセーバーが備わっている。受け取った騎士服も、今は自室のクローゼットの中だ。

 

もったいない、と隣を歩むベンの学友であり、戦友でもあるポー・ダメロンは思っていた。スパイス密輸で捕まった彼の才覚を見抜いたベンが、更生のためにポーをアカデミーに放り込んだ時からの付き合いであるが、ベンが昔ながらの形式やしきたりにこだわっていないことは、ポーが一番よくわかっている。

 

しかし、もったいない。

 

あの騎士服は防御性や快適性にも優れている。なによりかっこいいじゃないか。それを着ずに、ラフな格好でいる彼の指針に納得が行かなかっただけだ。隣にいるアストロメク・ドロイドのBB-8も不満げなポーに電子音を奏でた。

 

「あの格好は堅苦しくて苦手なんだよ、ポー。これくらいの動きやすさが好きなのさ」

 

「ライトセーバー使えるくせに、ブラスター好きだもんな。お前も」

 

「備あれば憂いなしってやつだよ」

 

そのまま二人は発着場の中心へと歩いてゆく。アカデミーの発着場は広大であり、スターデストロイヤー級の船が2隻も停泊できるのだ。すでに人員の乗り込みも始まっており、下層に降りているスターデストロイヤーには調査用のビークルや戦闘機の運び込みも始まっている様子が見えた。

 

「部隊の準備は整っています、サー・カイロ・レン」

 

その様子を見ていたベンへ、ピシリとした敬礼で報告をしてきたのは、屈強に鍛えられたベンと同じほどの体格を成している女戦士、ファズマであった。

 

惑星パナソスのサイアー族である彼女も、ポーと同じくベンによってその才覚を見出されており、アカデミーへの推薦をもらって兄のケルドと共に勉学に励んでいた。兄ケルドは文明が劣る故郷を救うべく政治学を、戦士の素質があったファズマは連邦軍への入隊を決め、今はそれぞれが別の道を歩んでいた。

 

部隊を仕切る副長に任命されたファズマは、今回の任務のためのあらかたの準備をすでに済ましていた。

 

「ありがとう、ファズマ。先行は俺とポーで。部隊の指揮は任せる」

 

「了解しました」

 

敬礼を打って踵を返すファズマを見送り、ベンはポーと共に自身の船に向かう。

 

アイデン・ヴェルシオ将軍指揮のもと発令された今回の任務は、調査員の報告で発覚したファースト・オーダーの新兵器の調査、そして破壊任務だ。断片的な情報ではあるが、その兵器は悪名高いデス・スターと同じく、惑星を簡単に破壊する力を持つと言われている。そんなものが実在すれば、コルサントや連邦政府へと加入した銀河系に危機が迫ることになる。

 

すでに先遣隊が出発しており、まずは彼らから情報を聞き出すことになるだろう。

 

自身の船のもとについたベンは、荷物の運び込みをしているドロイドたちに礼を言いつつ、準備していた荷物を担ぐ。

 

ミレニアム・ファルコン。

 

伝説の英雄であり、自分の祖父であるアナキン・スカイウォーカーが手を加えた銀河最速のスクラップ。本来なら父の愛用機であったが、ギャンブルに目がない父の特性を利用し、ポーをプレイヤーに、ベンが後ろについたサバックで見事にハンから勝ち取ったのだ。

 

コクピットに座るベンとポー。二人は手際よく船を始動させて、準備を終えた部隊へと通信をつなげた。

 

「さぁ、いくぞ。みんな」

 

浮かび上がった連邦軍はコルサントを後にし、広大なアウター・リムへと続くハイパースペースへとジャンプしてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ベンもますます、ハンに似てきたな」

 

任務に向かってゆくベンを見送ったルークは、ふとそんなことを呟く。その言葉には、隣にいたカイロ・レンも頷いていた。

 

結局、連邦化された政府の高官という役職に馴染めず、チューバッカと共に銀河へと繰り出した親友。家に帰らない父を見て育ったベンは、ソロの名を嫌ってスカイウォーカーと名乗る始末であるが、家族愛が無いかと聞かれれば否であった。

 

年頃になったベンを救ったのはハンであった。定期的にベンを連れ出しては、アウトローな世界を共に駆け巡る。ライトサイドとダークサイドの中道を見つけ出したのは、ハンの世界観を見せたことが効果的だったのだろう。

 

結果的に自身の流儀を逆手に取られ、愛機であったミレニアム・ファルコンを息子に譲ることになったが、それでもハンは愚痴をこぼしながらも嬉しそうに笑っていた。

 

「それをレイアの前で言ってやるなよ?ショックで寝込んじまう」

 

後ろからルークに声をかけてきたのは、愛用していたマンダロリアンの装甲服を脱いで、立派な兵士教官の役職に収まっているボバだった。彼もまた、ルークと同じようにアカデミーで教鞭を振るう身だ。

 

「ハンは今どこに?」

 

「さてな、大方チューイとアコギな小銭稼ぎでもしてるんだろう」

 

「相変わらず君はハンが嫌いなんだな、ボバ」

 

「一生かかってもアイツとは仲良くなれんよ」

 

軽口を叩き合う中であるボバとハンであったが、幼い頃から無茶をするルークやレイアの面倒を見ていたボバは、その面倒見の良さを遺憾なく発揮していて、ハンの息子のベンにブラスターの扱い方や、狩りの仕方をよく教えていた。

 

おかげで、ベンはレイアにもハンにもない強さを身につけていることになったが、そのわんぱくぶりにルークもカイロ・レンもよく手を焼かされたものだった。

 

そんな思い出を思い返していると、ふとルークは気がつく。

 

「そういえば、君の娘はどうしてるんだい?」

 

隣にいるカイロ・レンに問いかけると、彼はコルサントの空を見つめながら呟いた。

 

「レイか。あの子は……今はジャクーだな」

 

 

 

 

 

 

 



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フォースの覚醒

 

 

 

5ABY。

 

武官派の帝国軍の残党兵と、反乱軍とクーデター派により勃発した、艦隊戦。

 

通称、ジャクーの戦い。

 

武官派の帝国軍を追い詰めた戦いは、双方の総力戦となり、このジャクーの地には反乱軍の船も、帝国軍の船も沢山落ちた。

 

あの戦いから30年近く経過し、墜落した船は荒凉としたジャクーの地に鋼鉄の鉱山を築き上げた。ジャクーに住う人々にとって、その鉱山から得られるパーツは貴重であり、このニーマ・アウトポストでも多くのゴミ漁りが鋼鉄の山へと上り、型落ち寸前のジャンクパーツを集め回り、その日の食い扶持を稼ぐために奔走していた。

 

砂漠と荒野が広がるジャクーではあるが、その禁欲的な大地は他の要素も呼び込んでいた。フォースへの信仰を共にした遺跡だ。不運なことに、その遺跡の真上にスターデストロイヤーの一隻が墜落しており、歴史的な価値があった寺院の殆どがその鋼鉄の塊によって押し潰されてしまっていた。

 

信仰者たちの誰もが寺院の再建を諦め、この30年の間にジャクー各地に聖域を築き上げたのは必然であった。

 

誰もが近づかず、風化したフォースの寺院の跡地。

 

そこへ墜落したスターデストロイヤーの残骸の壁に、レイは張り付いていた。

 

 

 

 

緑色の遮光レンズと強烈なジャクーの日光から身を守るために身につけるマスクや、砂漠用の衣装。腰のポーチに備えるワイヤーを手際よく残骸の突起へと引っ掛けて、厚手の手袋越しにするりするりと残骸の跡を降りてゆく。

 

目的はこの鋼の山脈の地下深く。デストロイヤーの残骸を降ったレイは、腰に下げているライトセーバーを取り出した。

 

それは父と彼の親友となったルーク・スカイウォーカーと共に試練を終え、手にしたライトセーバーだ。緑光のライトセーバーをライトのように照らしながら、まるで導かれるようにポッカリと開いた洞窟を進む。

 

しばらく暗闇を歩くと、人工的に整えられた霊廟にたどり着いた。ライトセーバーをしまい、レイは手製のセンサーを起動する。あたりに測定用の光が瞬くと、手に収まるセンサーに霊廟のマッピング映像が映し出される。そのマッピングデータに従って霊廟を進む。

 

スターデストロイヤー墜落の影響であちこちの柱や通路が痛んでいたが、レイは体を縮こませ、くねらせ、狭い通路や穴を通り、やっとの思いで目的の場所へと辿り着く。

 

そこには不可視の力で浮かび上がっている〝ファインダー〟があった。レイがセンサーを確認してから頬を吊り上げた。

 

「あった」

 

小さく息をつくようにレイは呟くと、宙に浮かぶファインダーの元へと近づく。そっと手をかざし、フォースでのアプローチをかけた。ファインダーはさまざまなデータが格納された端末であり、フォースを扱うものしか触れることができない代物だ。不正な手順で取り出そうとすれば、そのファインダーは即座に自壊する。

 

レイがフォースを送り込むと、宙に浮かぶファインダーは緩やかに動き出し、そしてレイの手へと収まった。

 

 

 

 

 

 

 

霊廟から再びデストロイヤーの鉱山を登って、レイは自身が潜って行った入り口へと帰ってきた。早朝まで夜営して出発したというのに、もうジャクーの太陽は傾き、空は茜色に染められつつあった。

 

「見つけたわ、D-O」

 

相棒であるドロイド、D-Oにそういうと、一輪車のような体躯をしたドロイドは電子音を奏でながら主人の帰還を喜んだ。

 

父と母がインプットしてくれたD-Oは、幼い頃からのレイの友達だ。ちゃんと生き物の友達もいるけれど、フォースの訓練を終えて早々に旅に出た自分に付き合ってくれるのはD-Oくらいだ。

 

だが、レイは寂しくはなかった。

 

母も父も知っているし、時には船の中で通信もしている。帰る場所がちゃんとある旅というのも、楽しいものであった。

 

しかし、なぜレイは旅をしているのか?フォース感応者であり、卓越したライトセーバーセンスとフォースを持つというのに、彼女は連邦軍への入隊も、レン騎士団への加入も断った。

 

きっかけは、アカデミーのグランドマスターであった「アナキン・スカイウォーカー」の死だった。

 

連邦創設に携わったパドメ・スカイウォーカーと共に、ルークやカイロ・レンと共にアカデミー発展のために尽力した。

 

彼の老後は後任の教育に注力し、パドメが亡くなった半年後に、彼女と同じく親族に見看られながら、穏やかにその人生に幕を閉じた。

 

転機となったのはレイが17歳の時であった。

 

アナキンの孫であったベンや、息子のルークたちと共に、アナキンの遺品の整理をしている時、彼女は一つの「ファインダー」を見つけたのだ。老齢を迎えたアナキンが、一人旅に出てそのファインダーを持ち帰ってきたのだとルークに聞いた彼女は、スカイウォーカー家に頼みファインダーを譲り受けた。

 

そして幾度の試しを繰り返し、ついに彼女はファインダーの謎を解き明かしたのだ。

 

《よく見つけたぞ、我が孫娘よ》

 

サバイバルキットから取り出した簡易食料をじゅうじゅうと音を立てるフライパンの上で膨らませる。

 

特定のフォースを流し込むことで起動したファインダーからは、穏やかな顔つきの老人が楽しそうな様子で浮かび上がっていた。ファインダーに格納されていたものは、ある人物が記録したホログラムだった。それも鮮明に。

 

ファインダーは銀河各地にあり、その痕跡を辿ってゆけばフォースの全てを記録した、フォース・ファインダーが完成するというものだった。

 

レイが旅に出たのは、そのファインダーを全て集め、フォースの全てを記録したファインダーを完成させることだった。それがアナキンの夢であり、自分の目指すものだと思ったからだ。

 

《見てくれ、この壁画にはフォースの印が描かれている。何千年前のものだ。まだライトサイドとダークサイドが明確化される前のものだろう。あくまで〝書物〟の中ではな》

 

老人は遺跡の壁を指し示しながら興奮した様子で壁画の内容を解説しており、レイは数冊目になったノートを開くとフライパンで作ったパンもどきをかじりながら老人が説明する内容を的確にメモしていく。

 

《だが、そなたも気づいておろう。この壁画に描かれているものと同じものが、過去の寺院にあったということを。つまり、ジェダイとシスが分かれる前と思われていた時代に、すでにライトサイドとダークサイドの対立があったということだ》

 

なんですって?レイは残ったパンもどきを口の中に放り込むと、食い入るように浮かび上がるホログラムを見つめる。アカデミーでも、古伝史としてライトサイドとダークサイドの歴史を学ぶが、ホログラムの老人が言うことが正しいなら、その歴史がひっくり返る大発見だ。

 

だが、と老人が他の壁画を見せるとその大部分が真っ白に削りとられていた。

 

《不可思議なことに、それを示す壁画が塗りつぶされておる。何者かの手によって。我々はその背景を探す必要があるようだな》

 

レイは残念そうに息を吐いてから、手に持っていたメモを砂の上に投げ出す。そうは簡単に真実を明かすことは難しい。3年に届きそうな旅の中でレイが学んだことであった。

 

さて、と老人が言う。彼はどのファインダーでもその言葉から、レイへのメッセージを残していたのだ。

 

《次のヒントを出そう。〝遠き黄昏の中、白壁の島でそなたを待つ〟。レイ、そなたを楽しみにしておるぞ》

 

レイは投げ出したメモを拾い上げて、消えたホログラムが言っていた言葉をメモし、他のページからヒントに沿う要素に目を走らせると、満足したように笑みを浮かべた。

 

「やったわ。ついに手がかりを掴んだわ」

 

雲を掴むような感覚だったものが、現実味を帯びてきた。レイは嬉しさと興奮で、乱雑にサバイバルキットを袋へと詰め込み、愛機であるXウイングの後部座席へと放り込んだ。

 

ルークから譲り受けた機体は、型落ち品であるがきっちりとメンテナンスされており、快適性もよかった。シートを倒せば寝床になる。屋根がないのが玉に瑕だが、その場合は洞窟や屋根になるものを現地で調達すれば問題ない。

 

ジャクーを出発する準備を進めていたレイは、ふと背後に懐かしいフォースを感じ取った。

 

「君の探究心は、どうやらお爺さん譲りのようだね、レイ」

 

耳に届いた言葉に、レイは振り返る。そこには、青白い光を放つ、半透明な霊体……アナキン・スカイウォーカーが立っていた。

 

「マスター・スカイウォーカー…?」

 

ジェダイローブに身を包む霊体のアナキンはレイに微笑むと言葉を紡いだ。

 

「君がここにやってきたら、渡して欲しいと頼まれたんだ。ついておいで」

 

なぜ?彼がここにいるのか。そんな疑問すら持たせる間も無く、アナキンはジャクーの荒野を進み出した。レイは見上げるD-Oと顔を合わせると、慌てて荷物を腰に巻いて先をゆくアナキンの後を追った。

 

しばらく砂丘の尾根を歩くと、荒れた岩肌の洞窟の入り口へと辿り着く。口を開けた洞窟を見つめるレイの隣で、アナキンは腰に手を当てて辺りを見渡した。

 

「ここだ」

 

そして、そっとアナキンが手をかざすと砂漠や砂に覆われていた洞窟の中が揺れ始めた。砂は波が引くように下がってゆき、岩肌しかなかった洞窟内に、フォースの陣が描かれた床が姿を現す。その中央には、大きな石造りの箱が安置されていた。

 

「開けてみなさい」

 

戸惑ったように、しかしフォースの囁くままに石造りの箱へと向かうレイに、霊体のアナキンは手をやって開けるように促す。

 

砂埃を落としながらレイが箱の蓋を開ける。そのには、一本の筒状の何かが布に包まれて保管されていた。手にとって、丁寧に包まれた布を外してゆく。

 

「これは…ライトセーバー…」

 

手にずっしりと重みを感じさせるそれは、見慣れないライトセーバーだった。ルークのものでも、アナキンのものでもない。だが、とても古く、多くの思いがこもったライトセーバーであることはわかる。

 

「マスター・スカイウォーカー。これは誰のライトセーバーなのですか?」

 

「それは、次の手がかりの場所にたどり着いたらわかるとも。フォースが君を導いてくれる」

 

さぁとアナキンはレイが向かうべき次なる地へと指し示す。しばらくレイはアナキンの顔を見つめてから、腰のポーチに手に入れたライトセーバーをしまい、その場から歩き出した。目的地はすでに決まっている。

 

「さぁ、行くがいい。君の行く先はフォースに満ちているぞ?レイ」

 

夕陽に包まれるジャクーの地を、D-Oと共に歩くレイの背中を見つめながら、アナキンは目を細めながら呟くと、緩やかに流れた砂塵と共にフォースの中へと溶けてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その惑星のほとんどは海面だった。大きな岩の島が点在しているが、その殆どが火山性の島であり、Xウイングを降ろす場所すらない。

 

その中でも、一際大きな島があった。岩肌が緑で覆われたその島に近づくと、Xウイングを下ろすには十分な広さの場所を見つけた。D-Oの補助を受けて着陸させたレイは、コクピットからするりと降りる。

 

森から出てきた小動物の奇異の視線を感じ取りながら、レイはコクピットの後部座席からポーチを取り出し、腰に巻きつけると一心不乱に坂道を登り始めた。

 

地面に敷き詰められた石造りの階段はとても古く、あたりには朽ちた遺跡が点在している。ここには、太古のジェダイ寺院があったのだ。もはや過去の繁栄は窺えるものではないが、今のレイには関係のないものだ。

 

息を切らしながら険しい山を登ってゆく。やがてレイは小さな広場へと出た。あたりには原始的な家屋が点在しているが、人らしい気配は感じない。慌てて隠れる小動物くらいしかいなかった。

 

レイは急に足を止めた。

 

フォースのうねりを感じ取った。

 

レイは導かれるままに草原を進むと、森の外れ、崖から海を眺めるように立つローブを着た人影を見つけた。こちらに背を向けているその人物をレイがじっと見つめていると、視線に気がついたその人が振り返った。

 

フードをかぶっていて顔は見えなかったが、レイはその人物が誰かを知っているような気がした。

 

「ここに辿り着くとは、正直思ってはいなかったな。…君の名を聞かせてくれないか?」

 

彼が問いかける。レイは、腰に下げたポーチから、ジャクーでアナキンから託されたライトセーバーを取り出し、フードをかぶった相手に差し出して答えた。

 

「レイよ。レイ・パルパティーン」

 

これからいったい、どんな冒険が待っているのだろう。

 

レイの心にあったのは、新たなる旅路への期待と、楽しみであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件。

 

END

 

 

 

 

 








書き切りましたあああああああああ!!!
ありがとうございます!!!!!!!
これにて、アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件は終わりとなります!!ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!!紆余曲折あった話ではありましたが、思い描いたエンディングにたどり着けてホッとしております。これも感想やお気に入りをしてくださった皆様のおかげです。

本当に、ここまで応援してくれた皆様、ありがとうございました。楽しんでくれた皆がいなければ完結できませんでした。

これからもスターウォーズの広大なストーリーは続いてゆくでしょう。その新たなるサーガを僕もファンとして楽しみにしていきたいと思います。これからもスターウォーズストーリーを楽しんでゆきましょう。

それでは

May the force be with you.





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RISE of Force
物語のあと。


 

 

秘密の惑星、エクセゴル。

 

古来より銀河系の未知領域に属す惑星であり、伝説においてシスの隠された星としてその名は記されていた。

 

惑星上に浮かぶ幾千のスター・デストロイヤー。武官派が、連邦と化した政府を打倒するために用意した最終作戦「ファイナル・オーダー」は決行されようとしていた。

 

無人の大艦隊による銀河の征服。船一隻には惑星を破壊できるエネルギー砲が積まれており、その艦隊が一度銀河に飛散すれば、銀河中の惑星がスター・デストロイヤークラスまで小さくなったデス・スターの脅威に晒されることになる。

 

おそらく、ファイナル・オーダーの目標となるのは連邦首都となった惑星コルサントだ。連邦議会とフォース・アカデミーなどの政府基盤を司る機関が集約された星が破壊されれば、連邦体制が乱れることになる。

 

その隙に武官派の士官たちによる銀河征服が敢行され、銀河は再び帝国の手に落ちると言うシナリオとなる。

 

「なんとしてもスター・デストロイヤーをエクセゴルから出してはならん!!全艦、攻撃!!」

 

「レッド・チーム、ゴールド・チームはブラック・チームに続け!ファルコンを目印にして砲塔を破壊するんだ!!」

 

その進撃を阻止するべく、エクセゴルに到着した連邦艦隊と、ファイナル・オーダーの艦隊による戦闘が勃発。

 

歴戦の艦長であるアクバー提督指揮による旗艦からなる連邦艦隊は、エクセゴルから出立しようとするファイナル・オーダー艦隊の頭上を取り、その進路を妨害。連邦軍きってのエースパイロット、ポー・ダメロンやレン騎士団のパイロットによる奇襲攻撃により、ファイナル・オーダー艦隊の足は止められていた。

 

苛烈な空中戦が繰り広げられる中、エクセゴルの地表に存在するシス寺院の中。

 

降り立ったレン騎士団の長であるベン・スカイウォーカーと、探究の末にこの星への道を切り開いたレイ・パルパティーンは、窮地に立たされていた。

 

「そなたらの生体エネルギーを得た余の力があれば、銀河を手中に収めるなど容易いことよ」

 

武官派とシス信者によって蘇った皇帝、シーヴ・パルパティーンは、レイとベンの心にあるダークサイドを巧みに操り、シスの陣営へと取り込もうとしたが、二人からの返答は拒絶であった。その言葉に怒った皇帝の残光は、二人から溢れる生体エネルギーを得て、完全なる存在として復活を果たしたのだ。

 

共にライトセーバーを構えるベンとレイだが、生体エネルギーを吸われた二人は息も絶え絶えであり、笑みを浮かべる皇帝から放たれたフォース・ライトニングを受け吹き飛ばされる。

 

「余の遺恨もここで消え去る。連邦という惰弱な存在を消し去り、再び余が皇帝として銀河へと君臨するのだ」

 

高笑いする皇帝を睨みつけながら、ベンとレイはライトセーバーを握りしめて立ち上がる。ここで負けるわけにはいかない。

 

フォースがささやいている。

 

彼を逃しても、見逃してもならない。

 

ここで必ず決着をつけなければ、再びライトサイドとダークサイドの飽くなき戦いが始まる。

 

ベンとレイは互いの顔を見合わせて頷く。ライトセーバーを構え、見下ろす皇帝と対峙する。この命で差し違えても、必ず皇帝を———。

 

「よくぞ戦ったな、レイよ」

 

その時、寺院の中に声が響いた。シス信者の声や皇帝の高笑いすらもかき消す、しかし、穏やかな声。ベンとレイが振り返ると、そこには古びたローブを羽織り、フードで顔を隠した人影があった。

 

レイはそれを知っている。いつかの島でライトセーバーを手渡し、自分をフォースの導きへと連れ出してくれた存在だ。

 

「オールドマスター…?」

 

レイに名乗っていた彼は緩やかな歩調で歩き、レイとベンの間を抜けて皇帝がいる玉座の前へと出た。その姿を見て、笑みを浮かべていた皇帝の顔つきが一変する。

 

「馬鹿な、何故貴様がここにいる…!!ログ・ドゥーラン!!」

 

皇帝の言葉と同時に、オールドマスターと呼ばれた彼はフードを脱ぎ去った。その下にあったのは、旧共和国時代の姿のままであるログ・ドゥーランその人であった。

 

「俺はフォースであり、フォースは全てにある。彼にも、彼女にも、そしてお前にも。この星の全て、銀河の全てにフォースは満ち溢れていて、フォースがあるところに俺はいる」

 

「余の在り方を汚した大罪人めが!」

 

「それはそなたのことではないか?シーヴ・パルパティーンよ」

 

絶叫のような皇帝の声に答えたのは、ログではなかった。まるで煙が立つようにログと皇帝の間にフォースの渦が上がり、そのもやが晴れると同時に、真っ黒なローブに身を包んだ老人が姿をあらわす。

 

レイが幾度も目にしたファインダーから語りかけてくれていた優しげな顔つき。レイが震える声で言った。

 

「貴方は…」

 

その声に振り向く。レイにとっての祖父は、優しげな笑みを浮かべて頷いた。

 

「レイよ。大きくなったな。そして美しくなった。私の幻影が随分と世話をかけてしまったな」

 

シーヴ・パルパティーン。フォースの中から現れた人物に、皇帝は目を見開き、口をアングリと開けた。そんなバカな…そんな馬鹿げた話があるものか。シーヴ・パルパティーンは死んだのだ。〝第二のデス・スターの中で死を迎えたはずなのだ〟!!

 

「馬鹿な…余の肉体は滅んでいた。余こそが、史上一人のシス・マスターだと言うのに」

 

「今に固執するとは何とも初歩的な物言いだな?私の偶像よ。シス信者にとって帝国と皇帝が力強い結びつきで繋がれてるとは知ってはいたが、よもや私のクローンを使ってファーストオーダーを操っていたとは…哀れなものだ」

 

蘇った皇帝を前にして、パルパティーンは哀れな物を見つめる目でそう呟く。震える声で信じられない様子でいる皇帝がひどく愚かに見える。彼は信じきっている。シーヴ・パルパティーンは死に、今復活を果たした自分こそが本物であるということを。だが、パルパティーンにとってそんなものに意味などなかった。そもそも、もう意味などありはしないのだ。

 

「余の肉体は滅んでおる。だが、フォースを前にして肉体にこだわる必要がどこにある?血肉によって得られる生など、フォースが渦巻く生き物のなりわいの一つにすぎぬと言うのに」

 

たしかに、〝シーヴ・パルパティーンは第二のデス・スターで死亡した〟。それはどの時間、どの時空においても変えられない真実であり、それによりフォースのバランスがもたらされたのだ。何人たりともその真実を覆すことはできない。たとえそれが、パルパティーン本人であったとしても。

 

だが、その真実にこだわる必要がどこにある?

 

少なくとも、あの第二のデス・スターで死亡したパルパティーンの死には意味があった。フォースのバランスを取り戻したという意味が。その意味があるだけでも、彼は満足したはずだ。

 

彼にとって死は〝事象〟に過ぎない。あるのはフォースへの知識とシスとしての本懐だ。彼は〝弟子であるダース・ヴェイダーの手によって命を落とした〟のだ。弟子によって生を終わらせることができたパルパティーンに、無念はあれど後悔も遺恨もない。それこそがシスとしての本懐なのだから。

 

故に、目の前にいる復活した皇帝が、哀れに見えて仕方がなかった。

 

「余こそがシーヴ・パルパティーンよ…世迷言を言うか、裏切り者が!」

 

「私は裏切ってはおらぬよ。私はシスだ。だが、そなたらが裏切ったのだ。フォースの側面であるダークサイドの教えを。シスたる由縁の全てを」

 

「ほざけ!!」

 

皇帝の手に迸るフォース・ライトニングが走る。その一撃を、パルパティーンは緩やかに上げた片手のみで受け止めた。慟哭とも思える一撃はあまりにも力弱く、己から遠い。そして無知だ。パルパティーンは思慮深い顔つきで言葉を紡ぐ。

 

「そなたはダークサイドの力を知らぬ。ライトサイドを知らぬ。フォースを知らぬ。何もかもを知らぬ。故に、私には勝てん」

 

受け止めたフォース・ライトニングにさらなるフォースを加え、雷の稲光を大きく瞬かせる。何も言えずに立つ皇帝という名の〝偶像〟目掛けて、パルパティーンは手に宿したフォースを解き放った。

 

「何故ならば…私こそが、ダース・シディアスなのだから」

 

その光はシス寺院を照らし、哀れにも〝皇帝〟を崇拝したシス信者もろとも打ち消してゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファイナル・オーダーを打倒し、武官派で構成されたファースト・オーダーとの戦いに勝利した連邦軍は祝賀ムードに包まれていた。

 

エクセゴルから程近い惑星へと帰還した連邦艦隊の誰もが長きにわたって繰り広げられてきた戦いの終わりに喜び、失った者たちへの鎮魂に祈りを捧げる。

 

シスを打ち倒した英雄として讃えられるベンとレイであったが、その祝賀式典にレイは姿を見せることはなかった。単身、Xウイングを駆る彼女は、オールドマスターであるログと最初に出会った水の惑星へと向かった。

 

太古のジェダイ寺院の残骸が残る島へと降りたレイを待っていたのは、あの日の姿のままだったログとパルパティーンであった。

 

「お爺さま…」

 

長く、長く探していた。ファインダーから語りかけてくれる自分の祖父を。彼はフォースそのものであった。肉体という鎖にすら縛られることなく、自由に銀河を飛び回る探究者。

 

パルパティーンは訪ねてくれた孫娘に微笑む。手には最後のファインダーが握られており、それをレイへと差し出した。孫の手へと受け渡されたファインダー。

 

それにレイがフォースを流し込むと、そのファインダーは砂のように溶けて、惑星の風に流れて散っていった。驚いた顔をするレイに、パルパティーンは悪戯っぽく笑ってみせる。

 

「わかっておろう、レイよ。そなたこそが、フォース・ファインダーなのだ。そなたが経験したこと、学んだこと、探求したことこそが、フォースへと通じておる。そなたは、スタートラインに立ったのだ」

 

「スタートライン…?」

 

「そうだとも。我らは常にスタートラインに立っておる。過去の栄光や、過去の成功の光によって、そのことを見失っておるのだ」

 

パルパティーンは大海原を見る。この海の広大さ。深く、浅く、そして小さく、広く。こんな場所よりも何百、何千、何億、何兆倍も広い銀河に、知識と経験は眠っているのだ。

 

フォースの全てなど、ちっぽけなファインダーに収まるはずがない。フォースとはこの銀河のように広く、深淵の如く深さを持っている。

 

「今までの経験と成功。その光の裏側にこそ、我らが知るべき真実が隠されておるのだ。それを見つけることをやめてはならん。そこにこそ、探求と浪漫があるのだ」

 

探究すること。探し、追い求め、掴み取ってまた走り出す。それこそがフォースだ。終わりなどない。掴んだ先には続きがあるのだ。それを終わりにするか、続けるかは、それを見た者の主観によって決められているだけであって、終わりなど存在しない。故にと、パルパティーンは微笑む。

 

「そなたの冒険は、ここからはじまるのだ。何、銀河は広い。そなたの冒険は浪漫となり、伝説となる。その行く道の先で、我々は待っておるぞ?」

 

握りしめた祖父の手を握りしめて、レイは頷く。

 

「はい、お爺さま」

 

「ただのレイ・パルパティーンよ。そなたがフォースと共にあらんことを願ってある」

 

その言葉とともに、ログとパルパティーンはフォースの粒子となって、風の中へと消えた。きっとまた銀河へと旅立ったのだろう。

 

レイは草原の中に立つ。

 

海原の地平線には太陽が沈もうとしていた。地平線が終わりじゃない。それを見つめることが終わりじゃない。その先へと歩んでゆく。ずっとずっと、歩み続ける。

 

それこそがフォースなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はレイ。

 

ただのレイ。

 

そして、これから冒険へと繰り出す。

 

新たなるフォースの導きを信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

end






ここまで読んでいただき、ありがとうございます。皆様のアクセスや感想が大変励みとなりました。

これまで作品のURLを貼っておくので興味があればご覧ください。

(完結済)

機動戦士ガンダムSEED
白き流星の軌跡
https://syosetu.org/novel/183599/

魔法少女リリカルなのは外伝
Memory of Maxwell
https://syosetu.org/novel/219562/

(連載中)

エルフ「ウチの夫が黒騎士で最強な件について」
https://syosetu.org/novel/220195/

お付き合い頂き、ありがとうございました。
別作品でも小説を書いてゆくので、機会があればよろしくお願いします。



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フォースの覚醒
新章、序章


友達に言われて練りました。

断片的に書いてきたものを少し書き足そうとおもいます。拙い文章ですがよろしくお願いします。

マンダロリアンは面白いぞ!!

ケノービの話も楽しみだ!!



 

 

 

 

銀河は広く、無限にある。

 

その全てにフォースはあり、フォースは貴方と共にある。

 

ひとつであり、全て。

 

無限であり個人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠い昔。

 

はるか彼方の銀河系で……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霞む夕焼けが見える。

 

眩しさに目を凝らして、私はその光を見つめた。

 

二つの太陽。地平へと落ちてゆく暖かさ。

 

命のいぶき。死と闇の冷たさ。

 

夕日には不思議な光がある。それはどこか、フォースの瞬きに似ているような気がした。

 

 

 

 

「あなたは誰?」

 

 

 

 

呼び声が聞こえた。

 

暑い風がしんと静まり返る。

 

砂漠だ。足が砂に埋まる感覚がある。とても慣れ親しんだ場所のように思えた。

 

荒野で誰かが問いかけた。

 

杖をついて、フードを被った老いぼれたサブラクの男が振り返りながら答えた。

 

 

 

「私は〝何者〟でもない」

 

 

 

 

水と霧の静けさがあった。空を見上げても分厚い雲で覆われていて、星々の輝きなど長きにわたって見えていない。

 

太陽の暖かさも水が奪い去る。豊かな緑と生き物のいぶきも冷たさが覆っているように感じた。

 

そこには誰もいない。

 

誰かはいる。しかし実在しない。

 

淡い光が視界の端に映ったような気がした。身の丈ほどあるローブとフードを被った人影が暗く沈む穴蔵を見つめている。

 

 

 

「俺はこのために生きてきた」

 

 

 

墜落する感覚。落ちてゆく感覚。沈む感覚。

 

むせ上がるような息苦しさ。寒さ。冷たさ。

 

その全てを覚えている。まだ何も知らなかった時、その冷たさを味わった。息苦しさも、死に纏わりつく冷たさと恐怖も。

 

フォースには暖かさがあり、フォースには冷たさがある。

 

そしてフォースは永遠にある。

 

 

 

「けれど、戦う理由がない」

 

 

 

真っ赤な光が銀河を裂いた。

 

愛する者も、親しい者もいない。

 

孤独の怖さ、虚しさ。

 

生きるには何かに縋るしか、信じるしかなかった。

 

手には真っ赤なライトセーバーが迸っている。

 

 

 

「誰にも止められない」

 

 

 

怒りは強さに。憎しみは強さに。

 

欲望と待望は無限に増大する。

 

卑しさを糧に。正義を掲げる。

 

 

 

「私が」

 

 

 

あなたを受け継ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「多くの噂を聞いたわ」

 

「事実だ」

 

「すべて事実だ」

 

 

問いかけに名の知れた彼は静かに答えた。父でもあり、友でもあり、全てを見てきた彼は部屋中に広がったホログラムを一望してから小さく微笑む。

 

 

「暗黒面も、ジェダイも実在する」

 

 

扉は誰の中にもある。

 

私にも、貴方にも、君にも。

 

その扉を知ることが重要なのだ。

 

 

 

 

「フォースがお前を呼んでいる」

 

 

 

大海原を前に、老人が待ち望んでいたように言った。多くを知り、多くを学び、多くを見てきた彼は訪れるはずの未来を見据えている。

 

 

 

「……受け入れるのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナキンの親友になろうとしたら暗黒面に落ちた件

 

「フォースの覚醒」編。

 

 

 

 

 

 



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ぶらり無断二人旅の巻

 

 

銀河に危機が迫っていた!

 

エンドアの戦いから30年後。銀河帝国が銀河連邦と名を変えて銀河に平和が訪れている中、連邦から離反した帝国武官派はスノーク最高指導者が率いる新たな組織「ファースト・オーダー」となり、反連邦を掲げて戦いを繰り広げていた。

 

連邦軍は銀河中で起こるファースト・オーダーのゲリラ的な攻撃に対応している中で新たなる新兵器の情報を入手した。

 

それは惑星一つを丸ごと改造した巨大兵器であり、その脅威は30年前に猛威を振るったデス・スターを上回るものであった。

 

連邦協議会は、その新兵器の調査をするため銀河連邦軍に兵器の調査を指示する。そんな中、連邦軍のエース、ポー・ダメロンと、レン騎士団の筆頭騎士であるカイロ・レンことベン・スカイウォーカーは、秘密裏に得た情報から惑星エルベへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

34ABY

 

惑星エルベ。

 

 

「なぁ、ベン。こんなところに情報屋はいるのか?」

 

 

コルサントとは比べものにならないほど質素な市街地にやってきたポーは、意気揚々と扉をくぐったベンに戸惑った様子で問いかけた。

 

中の様子は容姿さまざまなエイリアンがごった返していて席に座って酒を楽しむなんて規律はない。

 

足元には巨漢のエイリアンが青あざを作って伸びているし、向こうに見える妖麗なエイリアンが吸っているモノは明らかに銀河連邦で禁止されている薬物だろう。

 

まさに悪党の溜まり場。そんな中を特に気にしない様子でベンは進んでゆくとカウンター越しに注文をしていた。

 

 

「ポー、ここでそんなキョロキョロするなよ?目をつけられやすいし、カモられる」

 

「そうは言っても落ち着かないぞ」

 

「気の持ちようさ。こっちから手を出さなければ向こうも刺してなんかこない」

 

 

マスターから出された飲み物を受け取ってクレジットを払う。ふむ、こんな僻地でもクレジットが通貨として機能しているものか、とベンは感心しながらポーにも飲み物を渡した。

 

ポーが恐る恐る一口飲む。

 

うん、甘酸っぱさと痺れるような口当たり。そして後から押し寄せる苦味と喉越し。

 

 

「うぇ、酷い味だ」

 

 

一口で半分ほど飲み切ったベンと違い、ポーは口に合わなかったのか少し飲んですぐにボトルを机に戻した。

 

この手のゲテモノだが、ベンにとっては懐かしい代物だ。ハンやボバと共に旅をしていた頃にかなり飲み慣れていた。

 

 

「まぁ肩の力を抜くにはちょうど良かっただろ?」

 

 

口直しの水を求めたがそんな優しいモノはこの店には置いていない。恨めしげな目を向けながら共に出されたナッツ系のつまみを口に放り込むポー。すると今度はあんまりな甘ったるさに顔をしかめていた。

 

その傍で、ベンは久々に味わうなんとも言えない味の飲み物を楽しんでいる。

 

二人が悪党の溜まり場でもあるバーにやってきたのはある目的があった。

 

それはファースト・オーダーが開発している惑星一つ丸ごと武器にした新兵器の情報を知るため。連邦への協力者である情報屋が新兵器の内容を少し掴んだのだ。

 

連邦軍総出で情報収集をしているのだが、その内容はどれもハズレ。まるで雲を掴むかのような状況に、情報屋が持ち込んできたものは天にも縋る代物であった。レン騎士団のメンバーは難色を示したものの、情報があるなら確かめるのがベンの流儀だ。

 

反対を押し切って、ポーと二人で情報屋が潜伏している惑星エルベにやってきたのだった。

 

 

「おい、貴様」

 

 

ふと、ポーが隣に目を向ける。かなり高圧的な物言いで声をかけてきたのはポーの身長よりもかなり大柄で毛むくじゃらなエイリアンだった。

 

 

「てめぇの存在が気にくわねぇ」

 

 

いきなり何を言ってるんだ?と言いたくなるような文句の言い方だ。文句をつけられても「適当にあしらうべき」と店に入る前にベンに言われたことを思い出したポーは、売られた喧嘩を買いそうになる感情を抑えてにこやかに返した。

 

 

「ああ、悪いね。よく言われるもので」

 

「俺が気にくわねぇって言ってるんだ!」

 

 

言葉のチョイスが悪かったかな?と思う前にポーの体は軽々と宙に持ち上げられた。俺は銀河連邦に指名手配されている宇宙海賊だぞ!と宣いながら首根っこを掴んで持ち上げたポーをガクガクと揺らす。

 

 

「おいおい、勘弁してくれ!さっき飲んで食べた気持ち悪さが込み上がってくる!」

 

 

喚き散らすポーと荒くれに、マスターが警戒心を高めたような目をした。下手をすればポーごと通報されかねない。

 

 

「いや、悪いね。連れが迷惑をかけた」

 

 

すると、スルリとポーとの間に割って入ったベンが荒ぶる巨漢に落ち着いた声で語りかけた。

 

 

「君は怒っていない。そうだろう?」

 

 

手をかざし、ひらりと荒くれの前を生き来させると激昂していたはずのエイリアンは途端に落ち着いた。

 

 

「あ、あぁ…そうだ。俺は怒っていない」

 

「店に迷惑をかけて申し訳ないと思っているか?」

 

「ああ、申し訳ないと思っている」

 

「なら、謝って店を出るんだ。わかったな?」

 

「ああ、謝って店を出て行くよ」

 

 

手をひらりとかざすベンの言葉を反復するように言ったエイリアンは、店のマスターに謝って、店内にいる客にも謝ってフラフラと店を出て行った。

 

 

「フォース?」

 

「さてね?素直な人だったんだよ」

 

 

咳き込みながら問いかけてくるポーに、ベンは肩をすくめて応えた。あの手の単細胞にはフォースの誘導がとてもよく効く。ここで無闇にライトセーバーを出せばファースト・オーダーに通報されかねない。連邦に通報されても無断で出てきた二人には相応の処分が待っているのだが。

 

 

「すまないね、マスター。迷惑料だ」

 

 

ベンが出したクレジットを何食わぬ顔で受け取ったマスターも止まっていたコップ拭きを再開する。こう言ったゴロツキの巣窟で一番強いのは金ということが証明されたわけだった。

 

 

「失礼、その見事な手腕はかの有名なレン騎士団とお見受けするが?」

 

 

背後から突然、そう言葉がかけられた。反射的に振り返った若者二人に老齢を迎えた賢者はニコリと微笑む。

 

 

「君たちならここに来ると思っていたよ」

 

 

ベンたちに声をかけたのは、彼が幼い頃からよく知る銀河系探索者である「ロア・サン・テッカ」であった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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気になることはあったけどあえて試練として残しておくね!

 

 

 

 

 

「銀河を長いこと旅してきた中で、多くの悲惨な現状を目にしてきました。ジェダイなくしてフォースのバランスは保たれない」

 

 

銀河の探索者と呼ばれるロア・サン・テッカは、惑星エルベにある簡素な自宅にやってきた旧友にそう言葉を告げた。

 

かつて共和国に代わって台頭した銀河帝国時代の只中。テッカはジェダイが反逆を犯したという皇帝の主張を信じず、常に真実の探求を続けた。

 

経験豊富な旅人ゆえ、テッカは銀河辺境領域を巡る探索者だった。

 

エンドアの戦いで銀河連邦が誕生したのち、テッカは銀河の星々に関する情報を連邦に提供し、新政府の統治に貢献した実績を持っている。

 

帝国の官僚たちと反乱軍の司令官たち、そして皇帝が永遠に破棄した銀河評議会の議員たち。足並みが揃わない彼らからしても、テッカの情報は大きな助けとなった。

 

銀河連邦軍、そしてジェダイやシスと言った思想に囚われない新たなるフォース感応者たちの在り方が形作られてゆく中で、テッカは追い求めていた真実と出会った。

 

 

「ログ・ドゥーラン卿、ジェダイや…いや、シス。ダークサイドとライトサイドの教えとはこの銀河にもはや必要はないものなのでしょうか?」

 

 

フォースを信奉する者らしいシンプルな客間に招かれた相手、ログ・ドゥーランはテッカの問いかけを真っ直ぐに聞いていた。

 

テッカがログと出会ったのはエンドアの戦いからしばらく後のこと。レイアとハンの息子、ベンが生まれた年であった。

 

テッカがジャグーにあるジェダイ寺院の調査に赴いたタイミングで意図してなのか偶然なのか、彼はフォースの深淵たる結末と出会ってしまったのだった。

 

 

「ロア・サン・テッカ。君が言う通り、たしかに世界にはジェダイやシスと言った思想を依代にしたい者もいるのだろう。君のようにな?」

 

 

そう告げたのはログではない。彼が佇む場所の前にある椅子に座る人の良さそうな顔つきをした老人が茶を啜りながら答えたのだ。

 

その顔をテッカは忘れたことはない。今、自分の家に訪れているのは紛れもなくシス・マスターであるはずの「ダース・シディアス」なのだ。

 

 

「ふむ、いい茶を使っているな?輸入先はロザルかね?」

 

「ええ、シディアス卿。あそこは長閑な農地があります。騎士ブリッジャーはいい商いを見つけたものです」

 

 

銀河連邦となった後、騎士の座を後任に譲ったエズラ・ブリッジャーが故郷であるロザルに戻り、父と共に農地改革と行政復興を行なったのは有名な話だ。

 

ガイバークリスタルの名産地でもあるが、それよりも名を馳せているのが豊かな土壌と環境で育てられた茶葉である。最高級品になれば末端価格がとんでもない額になるゆえ、僻地であったロザルは目覚ましい発展を遂げているとか。

 

 

「マスター・シディアス。貴方は悪名高きシスの暗黒卿であったのでしょう?共和国を滅ぼし、ジェダイを滅ぼし、銀河帝国を築き上げた貴方がどうして権力や欲望を捨ててでも銀河連邦を静観できるのでしょうか?」

 

 

いつの日か、ジャグーで出会った二人の賢者…いや、かつて銀河を恐怖と力で支配していた皇帝に、テッカは恐る恐ると問いを投げかけたことがあった。

 

するとシディアスは、彼が知るどんな顔よりも穏やかな笑みを浮かべて答えた。

 

 

「それに勝るものを見つけたからだ、ロア・サン・テッカよ」

 

 

その言葉には纏わりつくような嘘や嫌悪感はなく、どこか晴々とした感覚さえ込められていた。フォース感応者から見たら、シディアスから溢れるフォースは驚くほど穏やかである。

 

 

「銀河は広いぞ?なにせまだまだ我々も探求の戸口にすら立ってないのだからな」

 

 

アウターリム・テリトリーの外側、まさに未確認領域の先へと足を踏み入れたシディアスを待っていたのは、多くの発見と驚きであった。

 

その全てをまとめろと言われたらパルパティーン議長時代の数倍の時間が掛かるほど。

 

それでも銀河は際限なく広がっている。帝国時代にあれほど枯渇していたのが嘘のように思えるほど、世界は驚きと新しい出来事に溢れているのだ。

 

本来なら、シディアスもそのお供をするログも、この世界に関わるつもりは毛ほども無かったのだが、事情が少し変わっていた。

 

 

「ジャグーのジェダイ寺院に立ち寄っていたのはある種の手掛かりを得るためでもある」

 

 

実際、ログもパルパティーンもそれを知るためにこの銀河系へと舞い戻ってきたのだ。

 

 

「シスやジェダイと言った思想に縋る者たちの末路、とでも言うべきことかな?今君たちが血眼になって調べている惑星を丸ごと兵器にした基地も〝始まり〟に過ぎない」

 

 

この老人は、いったいどこまで「見えているのか」。テッカは少し恐ろしくなった。本当は全ての結末を知っているのではないかと思えるほどに。

 

しかし、ならば問わなければならない事もある。

 

 

「では、なぜシディアス卿自身がその始まりを止めにならないのですか?」

 

 

ふと、テッカに言われてシディアスは驚いた顔をしてから愉快そうに笑った。たしかにそれはそうだな、と。そうすれば幾分か、銀河連邦という国づくりは穏やかで健やかな政治をすることができるかもしれない。

 

だが、繁栄に甘んじさせるほどこちらは手を貸すつもりもなかった。

 

それにと、シディアスは飲み終えたカップを机に置いてほくそ笑む。テッカの背中に冷たい何かが走る。その笑みはシスの暗黒卿と言えるほど邪悪さを纏う攻撃的な笑みであった。

 

 

「我々が終わらせれば、何も得ないだろう?故に試練と訓練を与えるのだ。新たなる息吹に」

 

 

これは酷な話だ、とテッカは思った。彼らからすれば銀河の危機すら試練になってしまうのか。

 

今を駆ける、シスでもジェダイでもない新たなフォースの命たちを〝目覚めさせる〟ための試練と。

 

 

「この時代にもジェダイは必要なのだと、そなたは言ったな?だがそれを決めるのは過ぎ去った我々ではない。ましてや年老いた者たちでもない」

 

 

今を生きる若者と、それを見つめた者たちが後の世で語り継ぐことで決まるのだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霞のようにフォースと一体となって消えた旧知の二人を思い返しながら、テッカは惑星エルベの道を歩く。

 

予言通り、若く力のある彼らがやってきた。

 

それだけで、銀河の探究者であったテッカは満足していた。伝説のジェダイと、伝説のシス。二人の賢者が言った試練に立ち向かう勇者たちがいる。

 

それだけで充分だ。

 

 

「さて、ベン。それにポー。君たちが望む情報を渡そう。それは君たち…そして銀河連邦とこの銀河にとっての試練となるだろう。私はその行先を見つめさせてもらう」

 

 

首からぶら下げたデータ端末を訪れた若者二人へと託す。それがテッカに与えられた役目だ。

 

外で騒ぎが起こった。

 

悲鳴が上がる。

 

この場所が「ファースト・オーダー」にバレたのだ。

 

なぜバレたのかは問わない。しかし、これが試練であることに変わりはない。

 

戸惑う二人を部屋から追い出し、テッカは終えた役割をじっと見つめる。かつてシスの賢者が座っていた席には誰もいない。

 

 

 

 

フォースと共にあらんことを。

 

 

 

 

誰もいない部屋の中でテッカがそう呟く。

 

外の騒ぎはいつのまにか聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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古き物語との邂逅

 

 

サヴァリーンは、銀河系のアウター・リム・テリトリーに属す海洋と砂地の惑星だ。

 

広大な海に囲まれた砂の陸地に、サヴァリアンと呼ばれるスピリチュアルな人間の住民が住んでおり、ほんの少し前までは、その星はいかなる公的記録にも記されていない未認可の宇宙港、いわゆる“シャドウポート”として利用されていた。

 

サヴァリーンのナコティック・コーストにあるビス精製所は、惑星ケッセルから貴重な鉱物を運んできた密輸業者たちに秘密基地として利用されていた。

 

以前、自分の父と親しい関係であり、ベンの父親でもあるハン・ソロに枕物語でその星の話を聞いたことがある。ベンと私は互いの家に行き来していて、その日長旅から帰ってきたハンがベンの部屋にやってきて、同じベッドで私とベンが寝ているのには大層驚いていた記憶がある。

 

と、言ってもその時は私とベンは5歳ほどで単に仲のいい親戚みたいな関係だったけど。

 

そして、何か物語を聞かせてとベンがハンにせがんだ。早く寝なさいというと私とベンがお話をしろーのコールをして、チューバッカの吠え声で観念したのか、ハンは昔話をしてくれた。ケッセル宙域をわずか12パーセクで突破した話や、その宙域で見たとてつもなく大きな宇宙怪獣の話や、ランドーが二人を見捨てて逃げ出したこととか。

 

その話の舞台の一つが、今私が立っている星である。

 

海岸線を臨む辺境の星だが、私が見る限りそこまで田舎という印象はない。というのも、銀河連邦が設立されてから、この星はシャドウ・ポートではなく、正式な宇宙港として機能し始めたのだ。今では密猟者たちはなりを潜め、観光や仕事で訪れる人々で賑わっていた。

 

ハンとチューバッカを乗せたミレニアム・ファルコンが不時着(ハンは華麗に着地したと言っていた)した場所には海を見渡せる海岸街が出来上がっていて、私がいるのは市街地の真ん中だった。

 

 

「やっぱり間違ってたのかな?」

 

 

ノートを開きながら辺りを見渡して静かにつぶやくと、隣にいるD-Oが小さな電子音で私を慰めてくれた。

 

 

「遠き黄昏の中、白壁の島でそなたを待つ…この文字をアストロメック・バイナリーとオムニシグナル・ユニコードで解読した場所がここなんだけど……」

 

 

私の目の前には一軒のバーがあった。白塗りの壁で、青い屋根の隠れ家チックなバーなのだが、アウターリム・テリトリーで隠れ家的なという言葉は通じない。見た目がそうなら真面目にそこは犯罪者の溜まり場か、隠れ家なのだ。とりあえず、ノートを広げて店の前に立っていても仕方がない。

 

ノートをカバンに突っ込むと、そのまま店の扉を開けた。後ろにいたD-Oも何とか着いてきてくれるが、その様子は明らかに怯えていた。タトゥイーンでジャワ族に連れ去られそうになったことがトラウマになっているらしい。振り返った私を見て、凄まじい電子音と共に早く帰ろうと催促してくる。

 

 

「そう言わないで、D-O。あんたみたいなちびっこドロイドをバラバラにしようとする奴なんて居ないわ」

 

「お前のような小娘ならバラバラにするかもな?」

 

 

後ろからそんな言葉がかけられた。声の先へ視線を向けると見た目からして「ゴロツキ」といった二人の男がニタニタとした笑みを浮かべて私を見ていた。思わず、「冗談でしょ?」と内心でつぶやくが、相手はお構いなく私の肩に手を置いてきた。

 

 

「結構金持ちのとこのお嬢さんじゃ……」

 

 

その言葉が終わる前に、男のいやらしい笑みは真顔に変わる。眼前に淡い緑色の光が立ち上がっているのが見えたからだ。私は腰からライトセーバーを抜き、男の眼前で起動した。顎下から貫くこともできたが、正当防衛と言い逃れができるわけもないのであくまで牽制の意味もこめてだった。隣にいた男の仲間も息を呑んで腰のホルスターにあるブラスターに手をかけた。

 

 

「死にたくなかったら…なんて決まり文句を言わないでよね?」

 

 

動いたら、どうなるかわかってるわよね?そんな意味合いを込めた眼光で二人を睨みつける。ほんの少しの膠着時間を置いて、バーの奥にある個室から笑い声がかすかに聞こえてきた。

 

 

「見かけによらず、ずいぶんと強かな子だな」

 

 

ゆるりと個室の席から立ち上がったのは全身黒尽くめの男だった。するりと音を立てずに近づいてくるその影のような風貌に、私は目を凝らす。かすかにだが、フードの奥から赤い炎のような瞳が伺えた。

 

 

「ち、違うんだよ…ボス・ドライデン…俺たちはただ…」

 

 

すっかり震え上がった二人のゴロツキが言った言葉に、私はハンの昔話を思い返した。ボス・ドライデン。それはアウターリムを陰から支配していると噂されている犯罪シンジケート、クリムゾン・ドーンの親玉の名だった。

 

ドライデンが指をかざすと、二人は「ひぃ」と情けない声を上げてすぐさまバーから逃げ出して行ってしまった。彼はとくに彼らについて言及するでもなく、店のマスターに「迷惑をかけた詫びだ」、と銀河共通のクレジットが入った袋を渡した。

 

 

「まさか悪名高いシンジケートのクリムゾン・ドーンのボスに会えるなんて予想してなかったわ」

 

 

ライトセーバーを腰にしまって私は悠然と佇んでいるドライデンにそう言った。D-Oが発狂するような電子音を奏でているが、この星が彼の率いるクリムゾン・ドーンの勢力地域なら逃げ出すことは叶わない。ならば、ここで話をつけるのが最善手だと思った。

 

 

「バーに来て立ち話もアレだろう。こちらにかけなさい」

 

 

誘われるまま、私は彼が最初に座っていた個室へと向かい、ドライデンの向かい側に座った。彼はフードを脱がないままテーブルに置かれたコップを両手で持ってクルクルと中の液体を回していた。

 

 

「私を誘拐して身代金なんて要求しても無駄よ。銀河連邦が黙ってない。レン騎士団もね」

 

「あぁ、銀河連邦とは長い付き合いだ」

 

「指名手配されているから?」

 

「協力関係という意味だよ。いわゆる利害の一致というやつさ」

 

 

どうだか、と私はため息をついた。銀河連邦はコルサントに拠点を置いてはいるが、旧帝国軍の施設をそのまま使っている。つまり、すでに銀河のあちこちに銀河連邦の拠点があり、アウターリム・テリトリーの犯罪を見逃さないように目を光らせているのだ。そんな状況下でわざわざ犯罪シンジケートと手を組むなんて、怪しいものだと肩をすくめる。

 

だがドライデンは私の言葉を真っ向から遮る。

 

 

「実際にそうだ。銀河は広い。コア・ワールドとアウターリム。その全てを一組織が管轄するなんて無理な話だ。帝国のような武力と恐怖による弾圧もな?」

 

 

いくら勢力が大きいとは言っても必ず見えないもやが出てくる。そこが犯罪者たちにとって都合がいいのだ。タトゥイーンしかり、このサヴァリーンしかり。目を凝らせども見えてこないものも存在する。

 

 

「この土地のように、力ある者が全て罷り通るなんて世界もごまんとある。強いて言うなら……銀河共通の通貨で酒が飲めるという体制を維持できているだけ連邦政府は立派なものと言えるな」

 

「それと貴方が銀河連邦と協力関係にある話にどう繋がるわけなの?」

 

「アウトローな世界にはアウトローなやり方がはまるという訳だ、お嬢さん」

 

 

それはまぁ、否定できないなと思ってしまった。現に連邦政府が設立されてから間もない時期は、ハンやローグワンと言った荒くれ者たちが連邦法ギリギリのグレーゾーンを綱渡りして交渉や情報収集をしていたとも聞いている。付け加えるようにドライデンはつぶやく。

 

 

「規制されれば抜け道を見つけるのが犯罪者だ。ならその抜け道をどうする?抑圧に抗うのが生命の性だ」

 

「その監視する役目を担っているのが貴方という訳?」

 

「監視と言うなら半分は正解で、半分は不正解になるな。すべてはフォースに帰結する」

 

 

その言葉に私は思わず固まった。まさか犯罪シンジケートのボスから「フォース」という言葉が出てくるとは予想していなかったからだ。

 

 

「すべては循環だ。力で抑圧してもどこかに流れ出てしまう。もしくは力に抗う勢力が出てくるか……どちらにしろ、循環に答えはある」

 

我々が飲んでいるこの水が大地に帰り、またこのコップに戻ってくる原理と同じように、すべてはフォースの循環の中にある。そう言って彼は弄んでいたコップに口をつけ、残っていた酒を全部飲み干した。

 

 

「……貴方は誰?」

 

 

おもわず口にしていた。するとドライデンは被っていたフードを脱ぎ、真っ直ぐとした目で私に言った。

 

 

「とうの昔に本当の名は捨てた。私はドライデンであり、そして〝何者〟でもない」

 

 

その目を私は知っている。古い友人の目にそっくりだったから。

 

 

「フォースはすでに道を示しているぞ、若き探究者よ。お前の目的は私に有った」

 

 

長らく待ったぞ。全く…随分と待たせてくれるじゃないか。そう呟いた彼はサブラク特有のツノと赤と黒の独特な刺青が入る顔でニヤリとほくそ笑む。

 

そこで私はフォースのゆらめきを感じて、この旅路が間違っていなかったことを確信した。

 

解読した暗号が示していたのは「場所」じゃない。

 

目の前にいる「彼」だったのだから。

 

 

 

 

 



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