現代鬼狩り忌譚 (さかえださかな)
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基本設定+おまけ(予告編)

(キャプションより)
現代に鬼殺隊がいたら?というifものパロディです。一部キメツ学園の設定を流用しています。原作と同程度のシリアス・鬱展開・欠損等のグロシーンが含まれます。捏造設定の嵐ですので、1ページ目の設定を見てダメそうでしたらブラバしてください。書き手は強めの幻覚をキメています。正気に戻るな


設定

 

概要

人間を「鬼」に変える特殊なドラッグが巷で蔓延っている昨今、事態を問題視したある組織が秘密裏に結成され、ことの収拾に乗り出した。その名も、誰が呼んだか「鬼殺隊」。悪鬼滅殺をモットーに今宵も彼らは人知れず鬼を討伐していく。

 

設定

・リコリス

人を鬼と呼ばれる怪物に変化させてしまうドラッグ。常習性・依存性が非常に高く、1度服用してしまうと断薬はかなり難しくほぼ不可能。繰り返し投与することで強さが上がるが、許容量を超えると内部から肉体が自壊してしまう。成分の一部に鬼舞辻無惨の血液が含まれている。薬液、錠剤、カプセル、粉薬など形状は様々。どの形でも効果は同じ。

・リリー

リコリスの影響で鬼化してしまった者を弱体化させる薬。まだ人には戻せないが、定期的に服用すれば少しずつ理性を取り戻すなどの効果がある。ただし、1度の投与では効力が発揮されないので繰り返し服用しなければならない。1度断薬してしまうと副作用(鬼化の進行)の危険性が跳ね上がる。そうなると対処法が殺すしかなくなってしまう。そのためリリーを投与された鬼は厳重な監視下に置かれている。現在は禰豆子がそれに該当する。

・ウィスタリア

鬼化人間のみに作用する薬。名の通り藤の花から抽出した成分を含んだ、鬼専用の毒薬。鬼の身体を腐食させて殺す効果があり、僅かな量でさえ異常なまでに効力が強い。人には無害だが劇薬なことに変わらないので、基本的には薬の扱いに長けた熟練者が使用に際し立ち会う。捕らえた鬼の処分、自ら望んで鬼化した隊員への処刑に使われることが多い。

・ブルーローズ

鬼化人間に遭遇してしまった一般人にのみ使用れる薬。上級隊員及び最高戦力である柱は必ず任務の際に携帯している。効能は鬼に関する記憶のみを抜き出して封印すること。基本的な使い方は証拠隠滅用だが、鬼に大事な人間を食われたり、大事な人間が鬼になってしまった人の記憶を忘却させ、トラウマを作らないようにするためにも使われる。1度の服用で効果が発揮されるが、とても強い薬なので稀に記憶が混濁する可能性がある。耐性があるとそもそもきちんと効かない場合もあるので万能ではない。

・鬼

便宜上、鬼と呼ばれているが実際にはリコリスの影響で異形と化した元人間のことを指す。書類の上では「鬼化人間」と称される。異常発達した身体能力、自己回復・再生能力などを持ち、強烈な食人衝動を抱えているため誰彼構わず人を襲い食い殺す。飢餓状態に陥ると身内でさえ手にかけてしまう。稀に人だった頃の記憶や人格を残す者もいるが、基本的には鬼化人間に過去の記憶はなく人格も悪辣なものに変化してしまう。リコリスを多量摂取、または人間の捕食量によって強くなり、最悪の場合は血鬼術という特殊な異能を用いるようになる。鬼の操る異能は物理法則を超越したものが多く、鬼殺隊はメカニズムの究明に追われている。

・鬼殺隊

鬼(鬼化人間)を討伐、または捕獲するために自衛隊と警察が非公式に手を組み、結成した専門部隊。秘密裏に発足した特殊組織なので世間一般に名前が知られてはいけないルール(鬼の存在が認知されていないので)。便宜的な所属は皇室(及び宮内庁)。何故ならトップが宮家と縁の家柄(産屋敷)だから。正式な人数は不明(秘匿されている)。数百を超える隊員が所属し、日夜鬼から人を守るために命がけで戦う。鬼の血鬼術にも対抗できる戦闘力を持つ最高位の隊員を「柱」といい、トップの産屋敷一族に次いで組織の運営に関する意思決定権を持つ。

・キメツ学園

表向きには定時制の中高一貫校。実際には鬼殺隊を養成する教育施設であり、鬼によって身内をなくし行き場のない子供の保護も兼ねている(小学生以外は児相預りだが、中学生以上は自由意志で鬼狩りになる選択肢が与えられる)。生徒は自分でカリキュラムを組み、鬼殺隊に入るための訓練を受けながら学業をこなす日々を送っている。彼らの指導のため、柱や上級隊員が教師として任務の傍ら教育に当たる。元柱や引退した隊員も職員として協力している。

・日輪刀

正確には刀であったり銃であったり、使い手によって形状や使用法には大きく違いがあるものの、広義には鬼を殺す専用の武器を日輪刀と呼ぶ。名の通り基本的には刀剣。作成においては鬼の回復能力や再生能力への阻害効果を持つ特殊金属を使用している。製造には莫大なコストがかかり、また原料も希少なため大量生産は不可能。柱などの上級隊員にのみ単独所有と常時使用が認められ、見習いや下級隊員は自分専用の日輪刀を持たない。任務に際し、難易度や危険度に応じて汎用型が貸与される。

・御三家

鬼殺隊の全権を掌握するトップである産屋敷、その補佐を務める煉獄、鬼狩りのノウハウを管理する継国の3つの家を指す。

産屋敷→千年以上の長い歴史を誇る名家中の名家。皇族に次ぐ権力と知名度を持ち、表向きには国内有数の資産家であるとされる。一方で長きに渡り鬼舞辻と対立しており、ついに大正からは私設の軍隊である鬼殺隊(前身)を発足、撃破まで追い詰めた。その後は隊を一度解散させるも、現代になって鬼の復活を悟り各所に働きかけて鬼殺隊を復活させる。

継国→戦国時代から今に続く由緒正しい武家の一族。代々鬼狩りの技術や知識を受け継ぎ、大正まで密かに鬼狩りを遂行していた。大正になって鬼殺隊と鬼の交戦が激化したのをきっかけに、産屋敷に協力するようになる。鬼狩りに必要不可欠な呼吸術のエキスパート。現代でも産屋敷と共に鬼殺隊の運営に関わり、技術面でもサポートし続けている。

煉獄→平安時代から産屋敷に仕える家臣団の1つでありその筆頭。かつては貴族、のちに武家としての側面を持つようになったが大正では鬼殺隊の前身となった組織で主戦力として継国共々活躍した。当主は必ず柱になる決まりがあり、日頃から厳しい鍛錬を積んでいる。煉獄家が代々受け継ぐ刀が鬼を殺すことができると判明し、日輪刀の発明のきっかけとなった(継国はそれより前に日輪刀と同じ材料を使う武器の開発に成功し、鬼狩りに用いている)。

 

キャラクター(メイン)

・炭治郎

15歳。実家はパン屋。2年前まで鬼とは無縁の平和な生活を送っていたが、妹と下校中に鬼に襲われ、間一髪命だけは助かるものの妹は意識不明の重体に陥った。その間の記憶は失われているが、討伐任務に当たった冨岡からの説明を受けて鬼殺隊への入隊を決意。キメツ学園へ編入し鬼を狩るための技を磨いている。高等部へ内部進学したタイミングで妹は目覚めるが、既に鬼化が進行していた。本来ならばウィスタリアが投与され処分されるはずだったが、兄妹が首魁である鬼舞辻無惨と遭遇している可能性が明らかになったのと、検査の結果、彼女に食人衝動が欠如している事実が判明し処分は見送りに。今は妹を人間に戻すことを目指し、仲間と共に訓練と任務をこなしている。

・善逸

16歳。元鬼殺隊員であり現役時代は柱だった桑島の養子。旧姓は吾妻。小さな頃から鬼殺隊に入るための訓練を桑島手ずから指導しており、若輩ながら新進気鋭のエースとして任務に駆り出されている。本来は卒業まで単独任務はない(同レベル帯と複数での合同任務は生徒も経験を積ませるために行う)が、彼は特例でそれが許されている。階級も同年齢ではトップ。数少ない、柱と同じように「日輪刀」の常時所有が許可されている生徒でもある。

・伊之助

15歳。炭治郎、善逸と共にキメツ学園へ通っている生徒。唯一の肉親である母親を鬼に殺されており天涯孤独の身の上。幼少期は雪深い山麓で孤独に生きていたが、偶然に偶然が重なり鬼殺隊が保護に成功した。当初は普通の子供として育てられていたが、母の仇を討ちたいという本人たっての希望で入隊へ向けて訓練を受けるため、キメツ学園へ入学。見習いながらも優れた才覚を発揮し、善逸と共にエース級の活躍を認められ、その後炭治郎と共に日輪刀を得た。

・禰豆子

炭治郎の妹。兄と共に下校中のところを鬼舞辻無惨と遭遇し、口封じのため彼の血液を大量に注がれてしまう。本来なら許容量を越え鬼化せず死んでいるはずなのだが、その後の2年という時間を代償に耐えてみせ、無惨の血液に含まれる鬼化の成分を制御することに成功した。異例の食人衝動を持たない特殊な鬼であり、精神退行してしまったものの理性と人格は残っている。鬼化前の記憶は不明。おそらく完全に消去され、人に戻っても復活する望みは薄い。長らく経過観察のため隔離されていたが鱗滝と冨岡の尽力もあり一定の自由が条件付きで許可された。今はキメツ学園中等部に在籍。真菰、錆兎、時透などの同世代の隊員または、兄である炭治郎が常に傍で付き添う。

 

キャラクター(サブ)

・冨岡義勇

キメツ学園教師兼、鬼殺隊の柱。討伐任務で竈門兄妹と遭遇し、2人を信じて道を示した。所有している日輪刀は脇差と太刀の二振り。脇差が主武器。鱗滝に師事していた。錆兎、真菰の兄弟子にあたるが、直接的な関係はない。

・胡蝶しのぶ

高等部3年生であり鬼殺隊の上級隊員。薬学に精通しており対鬼毒薬の開発研究を専門とする。日輪刀は注射器。唯一、ウィスタリアやリリー、ブルーローズ等の劇薬について常時所有と使用が許可されている。のちに功績を認められ、姉共々柱へ昇格する。

・胡蝶カナエ

鬼殺隊の柱でありキメツ学園教師。日輪刀は特殊な繊維で作られた護符。単純な戦闘力は低いが鬼の捕獲、無力化などの支援に長けており、妹と並び重宝されている。

・栗花落カナヲ

胡蝶姉妹に引き取られた養子。善逸と同じく日輪刀(ライフル)の常時所有と使用が認められた上級隊員。遠隔からの狙撃を得意とする。稀に見習いである炭治郎達と一緒に戦うことも。

・不死川兄弟

兄の実弥は柱として日夜任務に駆り出されており、多忙な日々だが合間を縫っては亡き母に代わり弟達の面倒を見ている。日輪刀は拳銃と小太刀の2種。弟の入隊を認めていない。稀血により鬼を幻惑させたり、量や体質によっては昏睡させる程の威力がある。

弟である玄弥はリコリスに耐性を持つ特殊体質であり、許容量さえ守れば、一時的に鬼化によって身体能力を底上げして戦うことができる。日輪刀はショットガン。炭治郎達と同期。

・時透無一郎

中等部生徒であり鬼殺隊の柱。入隊から2ヶ月後には単独任務を任される程の上級隊員へと成長し、史上最年少で柱に上り詰めた天才。日輪刀は一対の小刀。禰豆子の監視役。

・甘露寺蜜璃

元キメツ学園生徒であり、今は普通の大学に通っている学生。学業の傍ら鬼殺隊の柱として任務をこなす。日輪刀はワイヤーと鞭。常人より筋力と筋肉密度が異常に高い特殊体質を持つ。

・伊黒小芭内

鬼殺隊の柱でありキメツ学園教師。日輪刀は蛇腹剣。常に蛇を連れ歩く。

・宇髄天元

鬼殺隊の柱でありキメツ学園教師。日輪刀は爆弾。音や光が少ない特殊な爆弾で、効果範囲は狭いが非常に殺傷能力が高い。薬剤耐性が非常に高い特殊体質の持ち主。

・煉獄杏寿郎

キメツ学園教師であり鬼殺隊の柱。鬼殺隊最古参の家系である煉獄家の次期当主。日輪刀は家に代々受け継がれてきた刀(前述の日輪刀プロトタイプ)。年の離れた弟である千寿郎を鬼殺隊に入れる訳にはいかないと思っている。

・悲鳴嶼行冥

当代最強と名高い鬼殺隊の柱であり、キメツ学園教師と実家である寺の住職という3足のわらじを履いている。盲目だが透き通る世界を見る特殊な「眼」の持ち主。日輪刀は戦鎚。

・鱗滝、錆兎、真菰

キメツ学園の職員及び生徒。鱗滝は用務員として働く一方で生徒達の訓練をサポートする指導者。理性や人格を残す鬼に暗示をかける特殊技術を持つ。錆兎、真菰は中等部生徒として入隊を目指し訓練に励んでいる。同組の時透と並び、禰豆子の監視役を務める。そのため見習いとしては異例ながら日輪刀を常時所有。禰豆子に異変が起きたり身に危険が迫った時のみ、臨時使用が許可されている。

・珠世、愈史郎

鬼舞辻の呪いを自ら外し支配下から逃れ、鬼殺隊に協力する鬼の女性。鬼としてたくさんの人間を食べてしまった贖罪のためと憎き無惨を必ず殺すために鬼化人間を人に戻すための薬を作ろうとしている。愈史郎は人を鬼から戻す実験の過程で作られた人工の鬼。この世で唯一人から鬼となった者ではない。

・村田

鬼殺隊員。鬼殺歴は長いが、成人していて表の仕事(サラリーマン)が忙しくあまり任務に当たれない。階級は低いが炭治郎達の先輩。

・後藤

鬼殺隊の後方支援を担当する部隊「隠」の1人。ブルーローズの単独所持と使用が許可されている程のベテラン。事後処理や証拠隠滅、被害者の保護やその後の生活支援などを隠の彼らが一手に引き受けている。経理など事務仕事や細かい雑事も彼らの役割。

・継国(弟)

本名は継国縁壱という。あまり下の名前で呼ばれることはなく、基本的には継国弟と周りから呼称されている。御三家である継国の当主。鬼殺隊における最高位である柱よりも更に上の階級を持ち、煉獄家と並び産屋敷の補佐を務めている。規律を乱さないため通常任務には出ない。首魁である鬼舞辻無惨に関する事案のみ取り扱う。炭治郎・禰豆子が無惨に遭遇している可能性が判明してからはキメツ学園へ生徒として臨時編入、彼の同級生としてしばらく行動を共にするように。若輩ながら悲鳴嶼を超える技量の持ち主であり、鬼殺隊の前身組織と比較しても間違いなく最強の武力を誇る。日輪刀は打刀。継国家に伝わる名刀であり、煉獄家の刀と並んで国宝級の一振りとされている。

・産屋敷耀哉

現代鬼殺隊のトップ。千年以上続く宮家に次ぐ名家である産屋敷一族の当主。虚弱体質で短命であり長く生きられない。全ての隊員の動きを完全に把握しており本拠地で遠隔指示する。任務の割り振りなども全て彼の役目。鬼舞辻無惨には今までも先祖や大事な部下を殺された恨みがあり、個人的にも隔意と憎悪を抱いている。

 

キャラクター(敵)

・鬼舞辻無惨

千年以上前からこの国の暗部に潜む鬼の首魁。不老不死の妙薬を作るためのヒントである「青い彼岸花」を求め、かつて大量の鬼を生み出し激甚な被害をもたらした。大正時代、鬼殺隊の前身組織によって1度は討伐されるものの、実は死んでいなかった。活動不可能に陥るまでの多大なダメージを負ったが長い時間をかけて回復し、現代になって復活。製薬会社を興しリコリスを製造、秘密裏にばらまいては青い彼岸花に関するものを見つけ出すため、着々と手駒を増やし続けている。千年以上前は産屋敷一族に連なる人間だった。現当主、耀哉と瓜二つの姿をしている。

・黒死牟(十二鬼月/上弦の壱)

戦国時代、継国家当主として産屋敷と共に鬼狩りを務めていた。十二鬼月の初代であり、現代において唯一残ったメンバーである(他の面子は大正時代に討伐されている)。現代で復活するまで無惨の肉体を守り抜き、鬼殺隊から隠し通した功労者。人間時代の名前は「忌み名」として本人も忘却し、人間側も消したため不明。ただ1人、縁壱のみが知る。

(継国巌勝→継国縁壱の双子の兄であり、本来は彼が今の継国家現当主である。黒死牟を幼くしたような姿をしている。7歳の頃、手製の笛を弟に託して行方不明となった)

・童磨(十二鬼月/上弦の弐)

万世極楽教という新興宗教の教祖として人間社会にも比較的名前が知られている。美女の肉しか食べない偏食家。信者だった伊之助の母親が自分の正体に気付いたため殺した。

・猗窩座(十二鬼月/上弦の参)

人間時代は将来を期待された武道家だったが、恨みを持つライバルに仕組まれてリコリスを服用してしまい、鬼と化す。人間時代の記憶や人格は完全に消失。無惨に絶対服従を誓う。

・堕姫/妓夫太郎(十二鬼月/上弦の陸※旧)

人間時代は水商売の母親が捨てた子供で、幼少期は孤児院で育てられる。職員や他の子供に迫害や差別を受け、ついに耐えかねて2人して脱出。各地を転々としながら兄は日雇いの仕事で妹を育て、妹は援助交際で稼いでいた。しかし些細なミスから妹はカモ(実はシマで勝手に荒稼ぎしていた妹を処罰しにきたヤクザだった)に殺されかけ、偶然現場に居合わせた兄も報復しようとしたが逆にやり返される。瀕死の2人へリコリスを投与し、鬼に変えて救ったのが無惨だった。以降、鬼として生きていくことに。

・獪岳(十二鬼月/上弦の陸※新)

善逸の血の繋がらない兄。桑島に養子として迎えられる前から、鬼殺隊を離反し鬼側に寝返るまでの間は義弟と共にいた。元柱である桑島に師事しながらも見習いの域を出ない自身に対して、早々に才能を発揮しカナヲ共々上級隊員に成り上がった善逸に嫉妬し逆恨みしていた。その悪意が、鬼側に目を付けられ鬼殺隊と師範を裏切るきっかけとなる。謝花兄妹が討伐されたのち補填として上弦の陸に。呼吸術及び日輪刀(アーチュリー型)を使う異例の鬼。

 

 

 

 

おまけ

 

 

 炭治郎がキメツ学園に編入して数ヶ月が経った。この間、本当に色んなことがあったのだ。リコリスにより昏睡状態に陥った妹を鬼殺隊の皆さんに助けてもらい療養施設に預けてから、編入手続きを行ったり入学試験に備えて勉強したり、合格したあとも先達となる他の隊員に顔見せをしたり。

 特に現在の「柱」と呼ばれる面々と顔合わせしたときの恐怖といったら筆舌に尽くし難い。やたらに個性的な連中ではあったが。まだ訓練を開始していない一般人の炭治郎でさえ、怖気が走るような威圧感をまともに喰らい、本気で縮み上がってしまった。長男だから耐えられたがこれが次男だったらきっと卒倒していただろう。

 御館様と呼ばれる、鬼殺隊の頂点に君臨する若君──産屋敷耀哉がとりなしてくれなければ一体どうなっていたことやら。ちなみに一般の入隊希望者が柱達に謁見することはないらしい。炭治郎が鬼共の首魁・鬼舞辻無惨と遭遇している可能性があったから、緊急で拝謁の機会を設けたのだとか。

 とはいえ炭治郎は鬼舞辻の姿をよく知らない。禰豆子がリコリスのせいで昏倒する瞬間までの記憶がないのだ。まるでそのシーンだけ丸ごと「削り取られた」ように。記憶が編集されている、とでも言えばいいのか。

 それを説明したら柱達には露骨にガッカリされた。炭治郎本人の責任ではないものの、やっぱり申し訳ないと思う。せめて何かヒントとなるようなものくらい、覚えていられたらよかったのだが。

 その後、無事に編入試験をパスし晴れてキメツ学園の生徒──つまり、鬼殺隊の見習い隊員となった炭治郎は同い年の伊之助、1つ年上の善逸と友人になった。きっかけは同じ割り当てとなった合同任務である。

 柱や上級隊員は単独任務が振り分けられるが、見習いや下級隊員は複数で同じ任務に当たる規則となっている。理由は単純、その方が生き残れるからだ。

 日本刀型の汎用日輪刀をそれぞれ貸与された伊之助、炭治郎と既に自分の武器を持っている善逸の3人で、廃屋に住まう人間時代は元作家だったという鬼と対峙した。十二鬼月の下弦にも劣らない力を持った鬼に辛勝した彼らは、そこで互いの実力を認め合いついに友人関係に至った、という次第である。

 以来、炭治郎は何かと彼ら共に行動するようになった。他にも柱に兄がいるという不死川玄弥、善逸同様に専用の日輪刀を持つ隊員である栗花落カナヲとも親しくなった。彼女も「姉」にあたる存在が柱なのだとか。

 5人はクラスがバラバラなので(そもそもカナヲと善逸は先輩である)、授業はなかなか一緒にならないが昼休憩によくランチを共にしたり、休日は遊びに出かけることもある。この前などは炭治郎の実家であるパン屋にみんなが来てくれた。張り切って作った4人の顔に似せた新作はあまりウケなかったが。

 そういう訳で割と炭治郎は恵まれている方なのだ、と思う。多分。

 少なくとも、柱の1人である胡蝶カナエと上級隊員であるその妹・しのぶが共同で管理する療養施設で、未だこんこんと眠り続ける禰豆子に比べたら。リコリス、忌まわしいその毒薬に肉体を冒され、あれからずっと彼女は意識を取り戻さずにいる。明るい日差しの降り注ぐ部屋で、穏やかな寝顔をさらす妹は変わらずに愛らしいが、早く起きてほしいと切に願った。

 炭治郎は待っている。長い眠りから覚めた妹が笑顔を浮かべられるようになることを。そしてこの手で鬼の親玉たる鬼舞辻無惨を倒すときを。

 強くならなければ、自分の日輪刀を持てるくらいに。カナヲや善逸達に追いつき、追い越し、あの途方もない高みに位置する柱に並び立ってみせる。もう2度と失いたくない。家族も、友人も、誰もかも──。

 ……2度と? はて、自分は過去にも誰かを喪った経験があっただろうか? 否、遠方に住む親戚の炭吉は今も健在だし、病弱だが父だって生きている。母も、他の弟妹も。では誰を亡くしたというのだろう。分からない、何も。

 気が付けば病室を照らす陽の光はすっかり赤みがかっていた。夕陽が窓の向こうに林立するビル群を焼き焦がさんとしているかのように暮色へと染め上げる。あの輝かしい日輪が沈めば、もう鬼の領域(じかん)だ。じきに夜が来る。そしたら仕事を始めなければ。

 胡蝶姉妹から施設の管理を任されている隊員・神崎アオイに挨拶したあと、炭治郎はキメツ学園にある自分の個室に制服を仕舞う。禰豆子のいる療養施設と校舎は同じ立地にある。これだけ近いといつでも見舞いに来れるから楽だ。

 予め貸与を申請していた刀をいつも世話になっている隠の後藤から受け取り、メッセージアプリで事前に打ち合わせしていた集合場所へ向かう。もう既に、おなじみとなったメンバーが集まっていた。遅い、と怒る伊之助に謝ると、他のメンツは気にするなとばかりに笑いかけてくれた。

 行こう、とカナヲが手を差し出してくれる。怖いよぉ、と怯えながらも善逸は逃走たけはしない。本日は非番の玄弥が行ってらっしゃいと送り出す。ひとつ頷き、炭治郎は1歩を踏み出した。

 

 これから向かうは死地、命のやり取りをする浮世に作り出された地獄のレプリカ。殺して殺されてが当たり前にある場所。

 そこでは今日も、人知れず戦っている者たちがいる。市井に生きる人々が、何の変哲もない当たり前の日常を当たり前に享受できるように。鬼に殺された者、鬼に大事な者を奪われた人間の思いを背負い、その積念を晴らすため。夜の帳が落ちると共に彼らはその手に刀を握るのだ。

 彼ら戦士達を──現代鬼殺隊、という。

 

 

◆◆◆

 

 

 目の前に立ち塞がるのは下弦上位、あるいは上弦の下位相当の力を持つ鬼だ。血鬼術こそまだ発露していないが時間の問題だろう。目算で100……いや、とっくに300以上はもう喰っている。それらが数体。中天に座す満月を覆い隠すように仁王立ちし、こちらの動向を伺っていた。少しでも動けば食い殺す、という殺気を漲らせている。

 だが、それがどうしたというのだ。こんな「雑魚」に手こずるようでは、目的が果たせるわけがない。相手にしている時間はない、さっさと倒して「仕事」に戻らなければ。

 ふぅ、と小さくため息を零して彼は黒一色で仕立てたスーツに装備したホルダーから一振りの刀を鞘走らせる。途端、鬼共が一斉に踊りかかってきた。甘い、そんな猿にも劣る連携でこの自分が殺せるものか。

 400年続く鬼狩りの技を舐めるな。言葉にせず呟き、漆黒に煌めく刀身を振りかぶる。

 

 一閃。

 

 それでカタがつく。横薙ぎに振るわれた切っ先が、誤たず鬼の頸を斬り飛ばした。綺麗に頭部が吹き飛び、断末魔を周囲に撒き散らしながら巨大な首から下の身体がサラサラと塵と化す。もうじき頭も同じようにして消え去るだろう。

 刃に付着した血脂をふるい落とし、鉄錆色の鞘に納刀してから彼は何事もなかったように再び歩き出す。実際、彼にとっては予定外の鬼の襲来など些事でしかない。そんなものは昼下がりのコーヒーブレイクと同じようななのだ。

 鬼よりももっと大事なことがある。一族に関わる、そして自分自身にとって最も大事なことが。それは──。

 

「兄上。あなたの御身は必ずや、この継国縁壱めが見つけ出してみせます。そして鬼舞辻無惨……我が兄をかどわかしたお前だけは、決して許さぬ。この手でその首をば斬り落とす。……絶対に。『今回』は失敗しない、今度こそ!」

 

 

 

 

 今宵もまだ鬼狩りの長い夜は終わらない。 全ての鬼を残らず仕留めるその時まで。鬼の始祖を打ち倒すまでは──。



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キミはぼくたちの光

 竈門炭治郎は現在、高校一年生になったばかりの学生である。東京でも23区から少し離れた下町住まいで、実家は昔ながらのパン屋を経営している。日本中のどこにでもいる、ごく普通の、平凡な、何の変哲もない──そのような形容の似合う少年に過ぎなかった。2年前までは。

 彼は今でも、愛する家族である一つ下の妹が昏倒した瞬間だけを鮮明に覚えている。

 暮色に染まる空、夕闇に沈む街の片隅で力なく倒れ伏す彼女。いつも屈託なく笑っていた顏は凍りついたかのように固まり、何の表情も浮かべてくれない。

 当時、まだ幼かった彼でも軽々と抱え上げられてしまうほど細く華奢な身体は、虚脱したまま全く動き出す気配を見せない。か細い呼吸と微かな心音だけが生きている証。

 どうして、こんなことに。

 問いかけても誰も何も応えてくれない。ただ、いつまでも醒めない深い眠りについた妹だけがそこに居た。

 

「お前の妹を襲ったのは『鬼』だ。鬼の手により鬼と化したのだろう、もう既に遅かったか……鬼化が進行している。妹はそのうちに人を食い殺そうとするぞ、鬼は人を食わねば生きてゆけぬ生き物だから。救いたいなら我々の元へ来い。そのまま放置しておけば、その少女はいずれ我々の『敵』となり、首を斬らねばならなくなる」

 

 途方に暮れ、このまま病院に駆け込めばいいのか自宅へ連れ帰るべきなのか考えあぐねていた炭治郎に、ある提案をしたのは後に師匠となる老人だった。天狗の面で顔を隠し帯刀している浮世離れした雰囲気の老爺は、呆然としていた彼へ手を差し出す。この手を取れ、と言うように。

 

「今はまだ、その娘を人に戻すことは適わない。だが、然るべき処置をすれば一先ずの安寧は得られる。……少し勘違いをさせたか、お前に反対する権利はない。このまま我々の手を取らぬというなら、妹の首は──斬る」

 

 鯉口を切り、すらりと鞘から一振りの日本刀が抜かれる。斜陽を受けて輝く刀身は深い水の色に染め抜かれ、鋭い鋒が音もなく抱き上げていた妹の首筋にひたり、と当てられた。あとほんの僅かでも力を入れられれば、青い刃によって彼女は物言わぬ骸と化してしまう。

 少年は脅迫さながらの提案に対し、刃先を凄まじい握力で握り込みながら宣う。ぽたぽたと手のひらから血が垂れるのも構わず、

 

「禰豆子は殺させない。俺は必ず妹を助けます」

 

 燃え上がる炎のように熱く、凍てつく氷のように冷えきった眼差しを向けた。

 

 天狗面の老人は矍鑠と笑い、手を離すように言ってからさっと刃に付いた血を振り落として納刀する。まだ鍛えていない少年に代わって少女を背負い、皺だらけの手を改めて差し出した。

 

「共に来い。お前は今日から鬼狩りとなる。我々と同じ業を負って生きるのだ。……覚悟は、あるか」

「もう、決めました。俺は揺らぎません」

「なら良い。着いてこい、しばらくは家に帰れると思うな。この娘はこちらで預かる」

 

 一瞬だけ不安そうに見上げた子供の頭を軽く撫で、老爺は穏やかな声音で告げた。

 

「不安がるな、何も心配は要らない。お前が必ず助けるのだろう?」

 

 面に隠れて見えなくとも、彼が笑っていると確かに分かる。少年には誰よりよく利く鼻があったから。「匂い」で理解できるのだ。謎の老人は信頼に値する人物だと。

 これは後に判明したことだが……あのとき禰豆子はショックで昏睡状態に陥っていたが、ひとたび目を覚ましたならば飢餓によって周りの人間を残らず食い殺していた可能性があったという。幼い少女が哀れで醜い食人鬼になるところを間一髪、老人が現れたことで最悪の未来は回避されたのだ。

 目に入れても痛くないほど可愛い妹がおぞましい化け物として跋扈し夜な夜な人を襲い食らうなど、兄として耐えられない。そうならなくて良かった、本当に。

 あの日から未だ禰豆子は目覚めない。然るべき処置とやらをされて以降、夢の世界に旅立ったままだ。2年という長い時間を費やさなければならないほど、少女の身に起こった異変は甚大な影響をもたらしたのだ。

 きっとあれから禰豆子は戦っているのだと炭治郎は思う。鬼は人を食う生き物だ、人を食わねば生きられぬ。人を、愛する者を食べたくないのならば、なんとしても耐えねばならない。飢餓の苦痛に耐え、本能を理性で制御し、抑えなければならない。堪えて、堪えて、そうしてようやく鬼は浅ましい欲から解放される。

 眠る少女の横顔は安らかだけれど、果たして本当にそうだろうか。

 苦しいはずだ、辛いはずだ。人を食いたかろう、血を飲み干し、皮を裂き、肉を食み、骨をしゃぶり、全てを胃の腑に落とし込みたかろう。その欲望を封じようと眠りによって戦っている。

 燦々と日の当たる窓際で、固く目を閉ざした禰豆子を見つめる度に、ただ願うより他にない。どうか勝ってくれ、この兄に首を斬らせないでくれ、と。そして一刻も早く目を覚ましてくれますようにと。

 愛する家族のため、平和を享受する無辜の民のため。今日も少年は刃を振るうのだ。

 

 

◆◆◆

 

 

 2年前。当時まだ中学生だった炭治郎は年子の妹である禰豆子と共に下校中、鬼に襲われた……らしい。

 らしい、というのはその間の記憶が丸ごと吹っ飛んでいて、ハッキリと思い出せるのが妹が昏倒した瞬間だけだからだ。人を「鬼」と呼ばれる化け物に変えてしまう危険な薬により、人外となった禰豆子は意識を取り戻す前にある薬を投与され、それ以来ずっと眠ったままだ。

 一方で炭治郎は鱗滝と名乗る老人の元で鬼を狩る術を学んでいる。もう禰豆子のような被害者を出さないように、そして妹を人に戻す手がかりを探すために。

 特殊な武器による斬首によってしか死なぬ鬼を殺すには、死ぬほど辛い鍛錬をこなす必要がある。彼はハード極まるそれに耐えた。妹がなんとかして食人衝動を跳ね除け、飢餓と戦っているのだから、兄が同じく戦わねばどうする。その一心で必死にくらいついた。

 学校も変わらざるを得なかった。定時制私立の中高一貫校、キメツ学園。表向きにはただのセレブ校だが実際はとある者達の育成機関である。

 炭治郎も目指すそれは、鬼狩りだ。人喰いの鬼を殺す組織、鬼殺隊。

 なによりも強さを求められる、強くなければ入れない、だから少しでも強くならなくては。刀でも銃でも、なんでもいいから使えるようになり、鬼を殺せるようにならねば。

 覚悟を決めた彼は平和な現代日本での暮らしを捨て、修羅の道へと分け入ったのだ。

 ──そうして、2年が経過した。

 

「高等部入学おめでとう、炭治郎」

 

 いつものように天狗面をしたままの鱗滝が柔らかな声で祝いの言葉を述べた。それにはいくつもの意味がある。単純に進学を祝う気持ちだけではなく、長く厳しい訓練を達成したことへの賞賛と、今までよく生き延びたという喜び。

 なにより、より激しい訓練が待ち受けている高等部への入学が叶ったというのは、つまり鬼狩りとしての素質があると認められた事実を意味する。もし適性がないとされていたらとっくに親元へ帰されていた。無駄死にされては困るからだ。

 鬼、鬼狩り、妹、それらにまつわる記憶を全て薬で消し去り昼の世界へ帰す。あらゆる手段でもって秘密を守り命も守る。そうとならなかったのは僥倖というより他にない。彼は鬼狩りを目指しても良いと許された、だから今、ここにいる。

 師範、ありがとうございますとはにかみながら口にする弟子をぐっと抱き寄せる。この温もりが奪われなかったことが、なによりの誇りであり喜びだった。

 彼はきっと今より強くなる。誰より心も身体も強い人間になる。人の想いを背負って往く子供は、どれほど血に塗れようと「太陽」であり続けるだろう。そう、予感させた。

 

「……これを」

 

 鱗滝が手渡したのは一振りの刀である。藤紫色の質素な意匠を施した鞘に納められているのは、艶をまとった漆黒の刃だ。師範たる彼がこんこんと湧く泉のごとき美しい青色の刀を佩くのに対し、この刀はまるで何か畏ろしいものを封じたような、そんな禍々しい気を漂わせている。妖刀、だろうか。

 刃渡りは脇差と打刀の中間ほど、あまり長くない。鍔はシンプルな円形で、表面がごつごつしている。色味が金色がかっているのも合わせて、教科書で見た月の写真に似ていた。

 

「その時になったら授けるように、と言い渡されていた。おそらく今がその時なのだろう、と思った。実際には何時を指して告げたのか、それは知らない。ただお前に下賜する、とだけ仰っていた」

 

 炭治郎はどなたがそのようなことを、と訊ねてみたが鱗滝は教えるつもりがないらしく首を横に振るばかりだ。鬼狩りの頂点たるお館様だろうか、しかしそれなら隠す必要はないはずだ。では何某か。もしや、

 

「継国……?」

 

 うっかり口にしてしまった名前に、鱗滝は何も言わない。面で分からないがたぶん表情も変えていないだろう。それで、あぁやっぱり、と分かってしまった。

 こんな妖刀じみた一振りをこしらえる必要のある一族など、柱にだって存在しないだろう。禍霊(まがつひ)か妖物の類でも封じ込めているかのような刀が要るなんて、あの家くらいなものだ。

 

「良いか、これは『印』だ。首魁を誘い出すための。だから普段は持ち歩くな、まだお前の手には余る。この刀を手にする時、それは柱になった時だ。それまでは励め、精進するのだ、刀の力に負けぬように」

 

 この令和の世の中で何を世迷言を、と言いたい気持ちはある。炭治郎がただの中学生だった時分なら言葉にしていた。だが、今の己は鬼を狩るのを生業とする者を志している。すとんと受け入れられてしまった。

 

「この刃は400年、鬼の血を吸ってきた。殺された鬼共の、恨み、つらみ、憎しみ、怒り……あらゆる感情が呪いとなって染み付いている。それを昇華できるのはひたむきで絶え間ない慈悲と慈愛だ。この刀は殺意でもって振るうことは許されない。さすればお前も生きながらの鬼となる。鬼の身を持たずとも人は容易く鬼になる。それは鬼狩りとは呼べない。ただの悪鬼羅刹でしかない。慈しみと哀れみの心をゆめゆめ忘れるな、──人は、成りたくて鬼に成るのではないのだから」

 

 慈悲と、慈愛。ひとを食らう浅ましい、悍ましい生き物への。望まずに負った宿業から解き放ち、輪廻の輪へ戻してやるための刃。と、師は言い含める。

 哀しい、虚しい生き物になってしまった者を往くべきところへ行かせる救済の一振りなのだと。数多の血を吸ってきた鬼殺の刀だからこそできるのだと。

 

「炭治郎。光になれ、お前は誓ったのだろう、家族を救うと、妹を人に戻すと。ならば決して憎悪と憤怒に目を曇らせるな。殺意に囚われるな。心にいつも光を。人も鬼も遍く照らす陽光であれ」

 

 共に志を同じくする、力となってくれる者達は必ずいるのだからと彼は笑う。友として心を砕いてくれる者達が。

 本当に俺にもそのような仲間ができますか、と尋ねた炭治郎の肩を鱗滝は優しく叩く。案ずるな、と言いたげに。

 

「道先が明るいかどうかは分からない、未来は誰にも分からない。でも、希望を持って力を尽くすことはできる。未来をつくるのはいつだって、今を生きる人間だ」

 

 鬼狩りの進む道は果てしなく暗い。鬼の生きる世界は闇そのものだ。だから彼らに光を届けてやってほしいのだと老爺は語る。そうあれかしと望む。

 

「頑張れ。‪──お前ならできるだろう」

 

 そのように鼓舞されたのなら、一家を守る長男としては頑張るしかないだろう。いつだって守るべきものがあるから、長男は頑張れるのだから。

 

 

◆◆◆

 

 

 遠い昔、人を鬼に変える恐ろしい怪物がいた。彼奴により人は鬼と化し、夜の世界に跋扈し始めた。

 暗所に紛れて人を食う不死身の化け物、それが鬼。鬼は人より生まれ出ずる。成りたくて成るのではない、勝手に鬼にされるのだ。そうして多くの人間が怪物にされた。

 鬼は同胞たる人を食う。飢餓に狂い、本能に操られ、畜生ではなく人の血肉を求める。人を食わねば生きられぬ。食わずにはいられない。人を食わぬ鬼などいない。誰一人。

 人は鬼に勝てない。鬼は不死身であり、強力で、素早く、異能を使う。生物として圧倒的な差がある。人が下等なら鬼は上等だ、生身のままでは生き餌と成り果てるより他にない。そう、あくまで「生身」では。

 日輪刀、と名付けられた武器がある。名の通り刀である。かといい刀の形をせぬものもある。それも日輪刀である。日輪刀は鬼を斬る。鬼を裂く。鬼を撃つ。鬼を射止める。要は鬼殺しの道具だ。

 鬼の急所、唯一の弱点は首にある。日輪刀で首さえ断てば鬼は死ぬ。不死身だが、死ぬのだ。しかし死しても肉の身は残らず、塵と化して消え去る。微かな残骸さえなく、身に纏うものを置き去りにして。それが鬼の最期である。虚しい生き物の哀しい末路である。

 鬼狩りは鬼を殺す者共だ。人が鬼にされぬよう、鬼が人を食わぬよう、そのために生まれそのために生きる者達だ。人を守り、鬼を討つのが宿願である。彼らは強さを求め、強くあらんとする。身も心も。歴史は古く、鬼狩りは常に鬼と共にあった。

 悪鬼滅殺を掲げる鬼狩りはかつて、本懐を成し遂げたという。文明花開く大正の頃、100年より向こうの時代、鬼を生み出し鬼の始祖たる首魁を討った。葬った。確実に、──と思われていた。

 首魁は、始祖は、生きていた。辛くも生き残り、以前のように気ままに活動はできずとも、なんとか命をながらえた。そのまま亡びゆく運命にあった悪鬼を救い出し、守った者がいたのだ。死にかけの鬼へ手ずから血肉を分け与え、鬼狩りの目を欺き、人の世に紛れて。

 かくて鬼の父であり母でもあるその者は、2度の大戦を経た現代において息を吹き返す。復活したのだ。死を間際としながらも、長い時間をかけて。生存を悟られぬようじっと息を殺し、身を隠し、力を蓄え、そうして再びこの世に蘇った。不死鳥のように。

 

 彼の者、その名を鬼舞辻無惨という。

 

 手駒たる鬼を増やし、奴隷たる鬼を産み、鬼の頂点に君臨する怪物は今日も気だるげに笑う。全てはたったひとつの願いを叶えんがために。無敵であれ、弱点なき完全無欠たれと彼は望む。野望を抱くでもなく、欲するのはただひとつ、生きること。

 生きて、生きて、生きるのに飽くまで生きる。誰にも平等に与えられし「死」という運命から逃れ、永遠に生きる。それこそが彼の者の欲だ。最後まで生きる。だからこそ鬼となった。鬼のままでいる。人の身では生きられぬのならば。では、鬼であればよいのだから。鬼こそが、生き続ける唯一の「よすが」なのだから。

 犠牲も、秩序も、鬼には要らない。通用しない。鬼より劣る生き物に憚る理由がどこにあろう。彼らは餌だ、喰らってしかるべき存在だ。ヒエラルキーの1番下なのだ。

 安寧も、幸福も。全ては生の上に成り立つ。生きていなければ幸せにはなれぬ、安寧を得られぬ。だとするならばなんとしても生き続けなければ。生きてこそ全てが掴める。生きるがゆえに全てが我がものとなる。

 だから生きる。鬼として生きる。今までもこれからも、この先にある悠久は己だけのものだ。誰にも与えない、誰にも奪わせない。永遠を知り、永遠を有すのは、己だけでいい。自分にだけ権利があり、資格があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鬼舞辻無惨はまだ知らない。気づかない、分からない。既に自分がこの世界を統べる覇者ではないことを。己の首に届かんとする刃が、今にも研ぎあがらんとしていることを──。



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