問題児たちと血を受け継ぐ者が異世界から来るそうですよ?(リメイク版) (ほにゃー)
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プロローグ

血を受け継ぐ者のリメイクです。

よろしくお願いします。


雪が降り、辺り一面銀世界となっている。

 

そんな中、雪道を踏みしめ、一人の少年が帰路に付いていた。

 

黒いコートに銀髪と赤い目が特徴的な少年だ。

 

「ああ………またクビか……今月どうしよう……」

 

肩を落とし、トボトボと歩く姿は誰が見ても悲しそうだった。

 

それもそのはず、彼は今月に入って三件目となるバイトをクビになったのだ。

 

見た目の所為で不良と思われ、またつい売られた喧嘩はつい買ってしまう癖もあり様々な問題を起こしてしまうため、何度もバイトをクビになっている。

 

通っていた高校も、不良との喧嘩が原因で半年前に退学になっている。

 

「はぁ………親父は元気にしてるかなぁ………」

 

そんなことを呟きつつ、二年前から行方不明となっている父の事を思い出し、空を見上げる。

 

「寒っ……!早く帰るか」

 

身震いし、コートを着直し少年は家へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまっと」

 

誰も返事を返さない薄暗い部屋に入り、電気をつける。

 

ポストに入っていた電気やガス、水道代などの振込用紙の入った封筒を雑に玄関の下駄箱の上に置き、部屋に入る。

 

「ん?」

 

その時、あることに気づいた。

 

今朝、家を出る時には無かった物が、テーブルの上にあった。

 

『月三波・C(クルーエ)・修也殿へ』

 

それは一通の手紙だった。

 

「俺の名前だ……それに、ミドルネームまで」

 

修也は自身のミドルネームを誰かに話したことはない。

 

基本的には月三波修也で通している。

 

その為、ミドルネームがあることは誰も知らない。

 

そもそも玄関の鍵も部屋の窓も閉めているのに手紙があること自体不自然な話だ。

 

念のため、部屋中の窓を確認するが、鍵はしっかりと掛かっていた。

 

「どこの誰だが知らねぇが、随分と面白いことしてくれるじゃねぇか」

 

そう言う修也は笑っていた。

 

父親が行方不明になって二年間。

 

愛想笑いはしたことあっても、心の底からの笑みを浮かべたことはなかった。

 

修也は高鳴る鼓動を抑え、封を破り、手紙を読む。

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

己の家族を、友人を、財産を世界の全てを捨て、

我らの“箱庭”に来られたし』

 

読み終えた瞬間、妙な浮遊感を感じた。

 

思わず下を見ると、巨大な天幕に覆われたと都市が見えた。

 

そして、下に落ちてる感覚がきた瞬間、修也は全てを悟った

 

手紙は、未知なる者による未知の世界への招待状なのだと。

 

「はは……家族を、友人を、財産をか……面白れぇじゃねぇか!」

 

元より、修也には友人と呼べる者はいない。

 

これと言った財産もない。

 

家族は二年前から行方不明の父以外だと、顔も知らない、そもそも生きてるのかも分からない母親のみ。

 

(父さんの事は少し不安だが、ああみえてかなりのタフガイだ。俺が居なくなったって知っても、元気にやってくれるはずだ。それに―――――)

 

「あの世界は、俺みたいな奴が住むには住みにくかったしな。父さん以外の未練なんてこれっぽちもないからな!」

 

そう思い、上空4000mから、落下し、緩衝材のような幕を幾つか通り、湖が見えた。

 

「そう言う歓迎かよ」

 

「きゃ!」

 

「わっ!」

 

そして、ばしゃん、と4つの音を立て、修也達は水の中に落ちる。

 



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第1話 異世界で問題児たちと知り合うそうですよ?

修也と二人の少女、一人の少年が同時に湖の中に落ち、全員が濡れる。

 

「信じられないわ!まさか、問答無用で呼ばれて、水の中に落とされるなんて!」

 

「右に同じだ。クソッタレ。これなら石の中に呼び出される方がよっぽとマシだ」

 

「石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう。身勝手ね」

 

「三毛猫……大丈夫?」

 

ニ、ニャ~(じぬかとおぼった)……』

 

「とりあえず、そこの岸に上がらないか?」

 

四人は湖から上がり、服を絞る。

 

「此処……何処だろう?」

 

三毛猫を抱えた少女が言う。

 

「さあな、世界の果てっぽいものが見えたし大亀の背中じゃあねーか」

 

此処が修也たちにとって知らない場所でまた、未知の世界であるのは確かだ。

 

服を絞りおえヘッドホン少年が顔を向ける。

 

「一応確認しとくが、お前たちも変な手紙が来たのか?」

 

ヘッドホン少年は、髪をかき上げながら聞く。

 

「そうだけど、まず“お前”って呼び方を訂正して。私は久遠飛鳥よ。以後気を付けて。それで、そこで猫を抱えている貴女は?」

 

飛鳥は猫を抱えた少女に質問をする。

 

「………春日部耀。以下同文」

 

「そう。よろしく、春日部さん。それで、そちらの黒いコートの貴方は?」

 

耀の自己紹介が済み、今度は修也に矛先が向いた。

 

「月三波修也だ。取りあえずよろしく」

 

修也はまだ相手のことを信じれていないので、ミドルネームは伏せて自己紹介をした。

 

「分かった」

 

「分かったわ。よろしくね、修也君。最後に野蛮で狂暴そうなそこの貴方は?」

 

「見たまんま野蛮で狂暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれ」

 

「取扱説明書をくれたら考えてあげるは十六夜君」

 

「今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

心からケラケラ笑う十六夜

 

傲慢そうに顔を背ける飛鳥

 

我間せず無関心を装う耀

 

そして、少し一歩引いた位置で辺りを見渡す修也。

 

個性的なメンバーである。

 

「てか、召喚されたのに誰もいないってのはどういうことだ?こういう場合この“箱庭”ってのを説明する奴が現れるもんじゃねえのか?」

 

「そうね。説明のないままでは動きようがないわね」

 

「……この状況に対して落ち着き過ぎてるのもどうかと思うけど」

 

「同感だが、お前も落ち着き過ぎだよ」

 

耀の隣で修也は冷静にそうツッコンだ。

 

そう言う修也も、かなり落ち着いている。

 

「取りあえず、そこに隠れている奴に話を聞くか?」

 

そう言って十六夜は近くの茂みの方を見る。

 

「あら、気づいてたの?」

 

「当然。かくれんぼじゃ、負けなしだぜ。月三波と春日部も気づいてんだろ」

 

「風上に立たれたら嫌でもわかる。」

 

「まぁ、人の視線や気配にはそれなりに敏感なんでな」

 

言葉に反応したのか、隠れていた人物が現れた。

 

「や、やだな~、御四人様、そんな怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?」

 

現れたのは、ミニスカートにガーダーソックスを履き、頭にウサ耳を生やした少女だった。

 

「なんだ?バニーガールか?」

 

「ウサギ人間かしら?」

 

「……コスプレ?」

 

「痴女じゃね?」

 

上から順に十六夜、飛鳥、耀、修也の順番だ。

 

「ちょっと待って下さい!御四人様方、好き放題にいい好きです!というより、最後の方は失礼にも程があります!」

 

ウサ耳少女が怒りを露わにして切れる。

 

「俺達は前振りなしに呼ばれた揚句、湖に叩き落され全身ずぶ濡れにさせられたんだが………その辺どう思うよ、十六夜君?」

 

「全くだぜ。これじゃ~怒りが収まらないなぁ~」

 

「同感ね。ちゃんと説明はしてもらうわよ」

 

「同じく」

 

悪そうなことを企む修也たちの思惑に感づいたのか、ウサ耳少女がたじろぐ。

 

「そ、それに関しては黒ウサギのミスです。申し訳ありません。」

 

ウサ耳少女がウサ耳をへにょらせて謝る。

 

「それで許すと思うか?」

 

「ま、待ってください!ここは一つ穏便に黒ウサギの御話をどうか聞いていただけませんか?」

 

「謝罪なら、後でいくらでも聞いてやるよ!」

 

そう言うと十六夜は、ウサ耳少女もとい黒ウサギに向かって回し蹴りを打つ。

 

「きゃっ!?」

 

黒ウサギは後方に宙返りし、木の枝に立つ。

 

が、その瞬間背後から木から木へと飛び移りながら、耀が接近する。

 

黒ウサギはソレに気づき、慌ててその場を飛びのき、同じように木から木へと移動する。

 

「『鳥たちよ。彼女の動きを拘束しなさい!』」

 

今度は飛鳥がそう命じると、空を飛んでいた鳥は一斉に黒ウサギへと向かう、動きを妨害する。

 

「えっ!!?ちょ、ま、待ってくださ――」

 

「待つと思うか?」

 

最後にいつの間にか黒ウサギの頭上を取っていた修也が、上空から蹴り掛かる。

 

黒ウサギは咄嗟に蹴りをガードするも、そのまま地面へと落ちた。

 

「い、イタタっ………!」

 

「さて、それじゃあ素敵な言い訳と謝罪、聞かせてもらおうか?」

 

いつの間にか全員が集合し、黒ウサギの前に立つ。

 

「み、皆さまお待ちください!先ほどもおっしゃいましたが、どうかここは黒ウサギの話を……」

 

「断る」

 

「却下」

 

「お断りします」

 

「聞く気が無い」

 

「あっは、取り付くシマもないですね」

 

ウサ耳少女もとい黒ウサギはバンザーイ、と降参のボーズをする。

 

そんな中、いつのまにか黒ウサギの背後に耀が立っていた。

 

「えい」

 

「フギャ!」

 

すると、力ない声で黒ウサギの耳を強く引っ張る。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!」

 

黒ウサギは耀を怒るのに夢中で、今度は背後から来る十六夜に気付いていない。

 

「へえ? このウサ耳って本物なのか?」

 

十六夜は黒ウサギの右耳を掴む。

 

「なら、私も」

 

飛鳥も左から左耳を掴み、引っ張る。

 

「ちょ、ちょっと待――――――」

 

黒ウサギの言葉にならない悲鳴が森中に響き渡った。

 



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第2話 箱庭の説明と初ゲームだそうですよ?

「あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

黒ウサギは涙目になりながらorzの形になって落ち込んでいる。

 

「いいから、さっさと説明しろ。」

 

取りあえず、話だけ聞くことになり修也たちは黒ウサギの前の岸辺に座る。

 

黒ウサギは気を取り直したのか咳払いをし、両手を広げた。

 

「それではいいですか、皆様。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!ようこそ“箱庭の世界”へ!我々は皆様にギフトを与えられたものたちだが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼントさせていただこうかと召還いたしました!」

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆様は、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその“恩恵”を用いて競い合う為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

黒ウサギの説明に飛鳥が手を上げて質問する。

 

「まず初歩的な質問からしていい? 貴女の言う“我々”とは貴女を含めた誰かなの?」

 

「YES!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある“コミュニティ”に必ず属していただきます♪」

 

「嫌だね」

 

十六夜が無情にも断る。

 

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの“主催者(ホスト)”が提示した商品をゲットできると言うとってもシンプルな構造となっております」

 

また、十六夜に切れて説明を始める黒ウサギ。

 

「主催者って誰?」

 

耀が控えめに手を上げ聞く。

 

「様々ですね。修羅神仏が人を試すための試練と称して行われたり、コミュニティの力を誇示するために独自に開催するグループもあります。前者は自由参加ですが、“主催者”が修羅神仏のため、凶悪かつ難解で中には命を落とす物もありますが、その分見返りは大きいです。場合によっては新しい“恩恵(ギフト)”を手に入れることもできます。後者は、参加にチップが必要です。参加者が敗退すれば“主催者”のコミュニティに寄贈されます。」

 

「後者は俗物ね。チップには何を?」

 

「様々です。金品・土地・利権・名誉・人間……そして、ギフトも賭けることができます。新たな才能を他人から奪えればより高度なギフトゲームを挑む事も可能です。ただし、ギフトを賭けた場合、負ければご自身の才能も失われるのであしからず」

 

そういう黒ウサギの顔には黒い影があった。

 

「そう。なら最後にもう一つ。ゲームそのものはどうやって始めるの?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、期日内に登録すればOK!商店街でも商店が小規模のゲームを行っているのでよかったら参加してください」

 

「……つまりギフトゲームとはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」

 

お?と驚く黒ウサギ。

 

「ふふん? 中々鋭いですね。しかしそれは八割正解二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか!そんな不逞の輩は悉く処罰します。しかし!先ほどそちらの方がおっしゃった様に、ギフトゲームの本質は勝者が得をするもの!例えば店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればただで入手することも可能だと言うことですね」

 

「そう。中々野蛮ね」

 

「ごもっとも。しかし“主催者”全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます。ですが、話を聞いただけでは分からないでしょうし、ここは一つ簡単なゲームをしませんか?」

 

そう言うと、黒ウサギは一束のトランプを取り出す。

 

「最初にも言いましたが、この世界にはコミュニティというものが存在します」

 

そういいながら黒ウサギはトランプを取り出し、シャッフルしながら説明を続ける。

 

「この世界の住人は必ずどこかのコミュニティに所属しなければなりません。いえ、所属しなければ生きていくことさえ困難と言っても過言ではないのです!」

 

そう言い指を鳴らすと、どこからともなくカードテーブルが現れる。

 

「みなさんを黒ウサギの所属するコミュニティに入れてさしあげても構わないのですが、ギフトゲームに勝てないような人材では困るのです。ええ、まったく本当に困るのです、むしろお荷物・邪魔者・足手まといなのです!まぁ、自信がないのであれば、断って下さっても結構ですよ?」

 

あからさまな挑発に、十六夜、飛鳥、耀の三人は眼を細める。

 

そんな中、修也は黒ウサギの表情に僅かばかりの動揺があるのが見え、訝しげに黒ウサギを見る。

 

事実、それは当たっていた。

 

黒ウサギはとある理由で、修也たちを自身のコミュニティに所属させねばならなかった。

 

この挑発に乗ってゲームに乗ってくれれば良し。

 

更に乗ってくれれば、どのような手段でこのゲームを乗り切るのか、実力も見れるので良し。

 

だが、もし激怒でもされて帰られたりしたり、他のコミュニティに行くとでも言われたら黒ウサギは是が非でも止めないといけない。

 

これは一つの賭けだった。

 

「随分と素敵な挑発だな。いいぜ、乗ってやるよ」

 

十六夜がそう言ったのを皮切りに、飛鳥と耀もゲームに乗った。

 

修也も、気になることではあったが、敢えてゲームに参加することにした。

 

「それで、ルールは?」

 

「ルールは簡単。この52枚のトランプから絵札を選んで引いてもらうだけです。ただし、引けるカードは一人一枚で、チャンスは一回」

 

「方法はどんなことをしてもいいの?」

 

「ルールに抵触しなければ。ちなみに黒ウサギは審判権限(ジャッジマスター)という特権を持っていますので、ルール違反は無理ですよ?ウサギの目と耳は箱庭の中枢と繋がっているのです」

 

「チップは?お前の言う恩恵(ギフト)ってのを賭けるのか?」

 

「今回皆様は箱庭に来てばかりなので、チップは免除します。強いていえば、あなた方のプライドを賭けると言ったところでしょうか」

 

「私達が勝ったら?」

 

「そうですね。その時は、神仏の眷属であるこの黒ウサギが、なんでも一つあなた方の言うことを聞きましょう」

 

「ほぉ、なんでもか?」

 

軽薄そうに笑う十六夜の視線が黒ウサギの豊満な胸部へと向けられる。

 

それに気づいた黒ウサギは慌てて胸を庇う。

 

「で、ですが性的なことは無しですよ!」

 

釘をさす黒ウサギ、そして、十六夜に白い目を向ける飛鳥と耀。

 

「冗談だよ。さっさと始めようぜ」

 

「それでは、ゲーム成立ですね!」

 

そう言うや否や、虚空から羊皮紙が現れる。

 

「それは?」

 

契約書類(ギアスロール)です。いわば、ゲームに関する契約の書。そこにゲームのルールや勝利条件、敗北条件などが記載されています」

 

『ギフトゲーム名:スカウティング

・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

         久遠 飛鳥

         春日 部耀

         月三波・C・修也

 

・クリア条件 テーブルに並べられたカードの中から絵札のカードを選ぶ。

・クリア方法 選べるカードは一人につき一枚まで。

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

                            “サウザンドアイズ”印』

 

契約書類(ギアスロール)を読み、修也は自身の名前の所にミドルネームのCがあることに気づき、見られない様に指で隠しつつ、他の三人にも見せる。

 

「OK、わかった。だがその前にそのカードを調べさせてもらおうか」

 

十六夜と飛鳥、耀の三人も内容を確認しOKを出す。

 

「構いませんよ?」

 

そう言って黒ウサギはトランプを渡してくる。

 

十六夜はカードを一枚一枚確認し、次に回す。

 

飛鳥はカードを確認するふりをして、一枚の絵札の裏に爪で後を付ける。

 

耀も同様にカードを確認するふりをして、一枚の絵札に三毛猫の唾液を擦り付ける。

 

最後に、修也は絵札の一枚に自身の血を軽く擦り付ける。

 

「では、ゲーム開始でーす!」

 

ハイテンションな黒ウサギをスルーし、飛鳥が他の三人の方に顔を向ける。

 

「誰から行く?」

 

「なら、俺から行かしてもらうぜ」

 

十六夜が名乗りを上げ、前に出る。

 

「さっきは素敵な挑発ありがとよ。これは、そのお礼だ!」

 

そう叫び、十六夜は一枚のカードに手を叩きつける。

 

その衝撃で、他のカードが跳ね上がり、バラバラとテーブル上に落ちる。

 

中にはカードが捲れて表が見えてるものもある。

 

無論、その中にも絵札が何枚がある。

 

「じゃあ、私コレ」

 

「私はこれ」

 

「なら、俺はこいつ」

 

ソレに便乗して、修也たちは絵札を手に取る。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!今のは「ルールには抵触してないぜ? 並べられたカードから絵札を選べ、一人一回一枚まで。違うか?」

 

黒ウサギの待ったに十六夜は反論する。

 

「うっ、箱庭の中枢から有効であるとの判定が出ました………飛鳥さんと耀さん、修也さんの三人はクリアです。ですが、十六夜さんはまだです!」

 

「安心しろって。俺もクリアだよ」

 

そう言って、十六夜が触れていたカードをめくると、そこには♣のK(キング)があった。

 

「ど、どうして………!」

 

「全部覚えた。カードの並びをな。ちなみに、こいつが♦の9、隣が♣の2、そして♠のJ(ジャック)だ」

 

十六夜の言う通り、順に捲られたカードの数字とマークは当たっていた。

 

「貴方、やるわね。お陰でこっちの考えていた手が無駄になったわ」

 

「うん」

 

「そいつは悪かったな」

 

「ま、いいじゃねぇか。お陰で全員クリアなんだしよ」

 

四人で笑いあっている中、黒ウサギは落ち込んでいた。

 

「さて、それで勝負は俺達の勝ちだ。早速、言うこと聞いてもらうぜ、黒ウサギ」

 

「せ、性的なことはダメですからね!」

 

「それもそそられるが、今はいい。俺が聞きたいのはただ一つ」

 

十六夜が目を細めて、修也たち三人を見まわし、天幕に覆われた都市を見上げる。

 

そして、何もかも見下すような視線で一言

 

「この世界は…面白いか?」

 

十六夜の目は至極真面目だった。

 

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』

 

手紙にはそう書いてあった。

 

修也たちは全てを捨てて箱庭に来た。

 

それに見合うだけの催し物はあるのか?

 

それは、ここにいる四人には重要なことだった。

 

十六夜の質問に黒ウサギはニッコリ笑いながら宣言する。

 

「YES。『ギフトゲーム』は人を超えたものたちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 



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