人でなく獣でなく (ヴェアヴォルフ)
しおりを挟む

プロローグ

 “人”とは人を表し、“狼”とは狼を表す。

 二つを組み合わせ呼ばれるは、“人狼”。

 四方世界において、彼らは“祈らぬ者”とされており人間をはるかに超える強靭な肉体と、俊敏性、野生の獣としての特性を併せ持った厄介な相手。

 

 はてさて、ここは四方世界。《幻想》と《真実》の神々が日夜ゲームに勤しむ【盤】であり、サイコロの出目によって【駒】達のすべては決まってしまうと言っても過言ではない。

 さて、場面は拮抗。《幻想》がサイコロを振ろうとしたところで覚知神が一つくしゃみをしました。

 突然の大きな音に驚いてしまった《幻想》はサイコロを思わず上へと投げてしまいます。

 クルクルと回るサイコロは、回転しながら自身のお気に入りを眺めていた地母神の頭にコツリと当たって、盤面へと転がります。

 覚知神がバツの悪そうに頭を掻き、地母神が頭を押さえましたが、出目は出目。

 今までにないダイスの動きに《幻想》は何が来るのか、わくわくと盤面へと目を落とします。《真実》もまた同じくです。

 果たして、現れるのは不思議な駒。

 獣のようで、人であり。人のようで、獣である。そんな姿をしています。

 神々は【駒】を等しく愛しています。それこそ、この【駒】が見た目こそ“祈らぬ者”であったとしても。

 

 とにもかくにもサイコロを振ろう。そう考えた《幻想》はサイコロへと手を伸ばし

 

――――――――あっ

 

 と、揃って声を上げます。

 新たな【駒】が自分でサイコロを退かしてしまったからでした。これは、少し前に現れた変なのと同じ行動だったのです。

 ただ違うのは、退かし方位。サイコロを動かされてしまった神様たちがその事に気づくのは、ほんの少し先の事。

 

 

 

 

 

 

 生まれた頃より、彼は浮いていた。

 父譲りの黒い毛並みと、母譲りの黄金の瞳。

 人狼特有の獣の後ろ足で二足立ち。上半身は、筋骨隆々としており下半身が貧弱に見えるようなそんな独特な前傾姿勢。

 鋭い鉤爪。巨岩を砕く腕力。猛牛の骨すらも一噛みで粉砕する咬筋力と強靭な牙。

 彼は、人狼族。その中でも取り分け、戦士としての血を受け継いだ存在であり生まれながらの戦闘強者であった。

 だが、不幸にも彼は怪物として重大な欠陥を持っていた。

 

――――――――…………ちちうえ。どうしてころさねばならないのですか

 

 それは、どうしようもない優しさ。

 怪物は魔神王に与して人を、他種族を襲う。

 殺す、食らうだけではない。孕み袋として攫って凌辱の限りを尽くす事も少なくない。むしろ、それがデフォルトであった。

 だが、彼は違った。

 自身の食べる以上の狩りは決して行わない。どうしても手に掛けねばならなかった時には、泣きながらその首を一息に潰して苦しませずに殺し、遺体は丁重に弔っていた。

 特に嫌ったのが、ゴブリン。

 単体ではあまりにも無力であるのに、数は無限に近く狡猾で恥知らず。自身の悦楽の為に人々を殺し、それが女性ならば強姦し、残忍に殺す事も。

 彼は、それらを嫌った。そして、ゴブリンの横行を止めず、剰え一緒になって暴虐の限りを尽くすような一族が嫌いだった。

 

 狼の寿命は、野生ならば十年持たないとされている。

 だが、人狼は魔物だ。その寿命は、基本的に長ければ百年単位でも余裕で生きている事も珍しくない。しかし、その実成長速度は一定の段階までは直ぐであり、凡そ数年で成人と言える段階に至る。

 

 そして――――――――彼は逃げ出した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 群れから逃げ出した人狼にとって外の世界は――――――――残酷であった。

 自分から群れを出てしまったが、それ即ち人と怪物の双方が敵となる事であったからだ。

 野生の獣含めた怪物たちとの縄張り争いなどザラであるし、人々とかち合えば何度となく討伐対象とされることも少なくは無かった。

 

 人狼は必要以上の接触と殺生を行おうとはしなかった。どうしても避けることが出来ないならば、己の肉体を用いて粉砕し、丁重に弔ってきたが避けられるならば避けるのが鉄則。

 期待が無かった訳ではない。いつか自分を受け入れてくれるような者たちが居るのでは、と考えなかった訳ではない。

 だが、現実は何時だって残酷で救いがない。

 “祈らぬ者”は須らく敵であったし、“祈る者”もまた等しく敵だ。酷い時など、襲われている商人を助けたというのに魔物と護衛の冒険者の双方から攻撃を受けた。

 何が正しいのか、何が悪いのかも分からない。ただ、人狼は何もかもを恨んで八つ当たりをしようとするには、その根っこが善良過ぎた。

 その結果、彼は逃げ回る事しかできない。どこへ逃げても石を投げられてきたのだ。それでも、誰かの傍に居たかったから。

 

 

 

 

 人狼は唐突にその臭いを嗅ぎ取り、その耳が小さな複数の足音を拾った。

 喉の奥から音がせり上がり、彼はグルルルル…………と不快そうに眉間にしわを寄せる。

 基本的な平和主義である人狼ではあるが、その実ゴブリンには容赦がない、何故なら、彼らは生きているだけでも他生物への害でしかないから。

 三メートル近い熊のような巨体を枝葉の中に紛れ込ませ、影となって駆ける。

 人々がぷにぷに柔らかいと触る事を楽しむ肉球の、本来の用途は消音となる。特に人狼の場合、その肉球は柔らかさと表面の硬さを両立しておりライオンゴロシと称される植物なども刺さらない。

 

 暫く走っていれば、やがてある洞窟へと辿り着いた。

 入口近くには、粗末なトーテムが立っておりこのゴブリンの巣には、スペルキャスターであるゴブリンシャーマンが居る事を示している。

 普通ならば警戒に値するが、“祈らぬ者”としての位階は人狼が上。冒険者の討伐難度としては金等級以上が適性であり堅牢な毛皮は、そんじょそこらの魔法では傷などつかない。

 直ぐにでも乗り込もうと一歩を踏み出そうとした人狼。だが、次の瞬間に影も残さずに彼はその場を跳び上がると茂みの中へと消えてしまった。

 

 彼が消えた後、少し時間をおいて現れるのは青年剣士、女武闘家、女魔法使い、女神官の四人組。

 人狼は茂みの中から、彼らを観察していた。

 実力は、彼が今まで出会った冒険者の中でも最低限、以下。少なからず見たことのある勇気と蛮勇をはき違え、ゴブリン程度と安く見ている典型的な全滅パーティの様相だ。

 

 人狼は考える。この手のパーティの後には、大抵実力者が派遣される場合が多いという事を。過去に、トロルの群れに突っ込んだパーティを救出するために現れた槍を振るう冒険者と一戦交える事になった経験が彼には有ったのだ。因みに、トロルの群れは人狼が全滅させ、どうにかパーティを助けたのだが、その直後に襲われていると勘違いされて戦闘になった。

 その際には、どうにかこうにか逃げ出す事に成功したのだが、それは平野であったから。狭い洞窟の中では到底逃げる事など出来ないし、必要以上に破壊してしまえば崩れかねない。

 彼が迷う間にも、パーティは洞窟の中へと向かう。トーテムも確認した筈なのだが、新米冒険者にそれが何なのか理解できるだけの知識を求めるのは酷というもの。

 流石に見殺しに出来ない。人狼は腹を括った。

 彼は知っている。人の女がゴブリンに凌辱の限りを尽くされた結果どうなるのかを。

 すぐさま、茂みから飛び出して、人狼は洞窟へと潜り込むのだった。

 

 

 

 

 見通しの甘さ。青年剣士は、その事を文字通り痛いほどに理解させられた。

 まず、狭い洞窟内でロングソードを振るおうとするのがそもそもの間違いであるのだ。

 最初こそ、数体のゴブリンを倒すことが出来た。だが、再度振るおうとした瞬間カッコイイというだけの理由で鍛冶屋の忠告も聞くことなく手に入れた剣は洞窟の天井に引っ掛けてしまったのだ。

 その結果、ゴブリンのこん棒を数発体に受けて昏倒してしまう。

 倒れれば、そのまま袋叩きに合う。そしてゴブリンというのは男に容赦はしない。

 

「た、助け…………!」

 

 所詮ゴブリンと侮った結果だ。彼が死ねば、幼馴染であり淡い感情を持っている女武闘家は激高し吶喊するであろう。

 それどころか、後方の挟み撃ちにより女魔法使いは毒の刃に倒れた。今も、女神官が【小癒(ヒール)】を掛けているのだが、焼け石に水でほとんど効果は見受けられない。

 彼は悔いた。こんな事ならば、もっと――――――――

 

「え…………?」

 

 今まさに凶刃に刺し貫かれめった刺しにされそうであった青年剣士の前に黒が割り込んでいた。

 ふさふさとしたソレは、見た目に反して堅牢らしく刃が欠けて錆びているナイフや、襤褸のこん棒程度では傷はおろか汚れの一つも付きはしない。

 同時に霞む視界で初めて気づく、この場の異常。

 ゴブリンたちも思わぬ乱入者に二の足を踏んで恐怖している。

 果たして、それは松明の灯りにに照らし出される。

 

「ウェアウルフ…………!」

 

 女神官が震える声でその名を呼んだ。同時に、辺りに仄かなアンモニア臭。

 女武闘家と青年剣士は、その体格に驚き。呼吸の荒い女魔法使いは、金等級案件の出現に混濁した意識のまま驚愕していた。

 ウェアウルフ。ゴブリンなどとは比べ物にならない“祈らぬ者”であり、純粋な肉弾戦では人類に勝てる見込みなどある筈もない。

 そんな怪物が自分たちを守る様にして、ゴブリンと相対している。

 

「Grrrr…………」

 

 人狼の喉が鳴る。裂けた様な大きな口が少し開かれ、その牙が覗いた。

 今の彼の位置は、背後からのゴブリンを殺して青年剣士の後ろ。青年剣士を守ったのは、豊かで大きな人狼の尾であったのだ。

 洞窟内は人狼にとって狭苦しいものであるが、尾を振るうだけでもゴブリン程度殺す事は訳ない。

 

「「GOBU!?」」

 

 二体のゴブリンは逃げる事も出来ずに振るわれた尾によって岩壁へと強かに叩きつけられ肉片へと変えられた。

 フン、と鼻を鳴らした人狼は不意に彼が助けた一党へと視線を送る。

 そして、自分の耳を塞ぐように自身の耳を指差して大きな手を当てる。

 最初こそポカンとその光景を見ていた彼らだが、二度三度と繰り返されればその意図が分かるというもの。

 だが、

 

「ま、待ってください!女魔法使いさんは、体が…………!」

 

 女神官が進言する。

 彼女の言う通り、毒に侵された女魔法使いは体が動かない。

 魔物相手に何を言っているのか、とも考えられそうだが人狼はチラリと倒れた女魔法使いへと目を向けた。

 少しの思考を挟んで、彼は動く。

 狭い洞窟の中で器用に動くと、女魔法使いの側へと座り込み、その大きな両手で彼女の頭を挟んだのだ。

 そして、洞窟の奥へと目を向ける。

 

「Suuuuu…………Aooooooooooo!!!!」

「「「ッ!?」」」

 

 その大口より放たれたのは、音響兵器もかくやと言わんばかりの爆音。

 巨体故に、その肺活量は人を軽く凌駕する。それを利用し放たれた咆哮は、質量兵器など目ではない破壊力をこの洞窟内で巻き起こした。

 咆哮を終えた人狼は一つ鼻を鳴らす。警察犬以上の嗅覚を持つ狼。その狼を凌駕するのが人狼の嗅覚であり、その探知範囲は森一つをカバーする事も出来る。

 音により耳から脳を破壊されたゴブリンはその尽くが目、鼻、口、耳より血を流し死滅する事となる。

 耳を塞いだ程度で防げるかと疑問に思えるが、それはソレ。何の為に指向性を持たせて吠えたのか、という事。

 

 洞窟内を一掃した事を確認し、人狼は耳を塞いでいた女魔法使いへと目を向ける。

 鼻を鳴らし、彼は女魔法使いの刺されたであろう患部へと口を近づけた。

 

「あっ…………!」

 

 女魔法使いの体が跳ねた。

 動く体を潰さないように両手で慎重に抑え、人狼は女魔法使いの患部より汚れた血液を吸い出していく。

 ゴブリンは毒を用いる。それも掠っただけでも重症化してしまうタイプの毒であり、新人の大半はその餌食となって命を落とすだろう。

 人狼にその毒は効かない。生命力に秀でているためだ。

 

 そして、サイコロは出会いを齎した。

 

「――――――――ゴブリン、ではないな」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 辺境の街。

 この街を拠点としたある冒険者が居る。

 ゴブリンという最下級の魔物ばかりを狩る彼は、いつしか在野で最上級とされる銀等級へと上り詰めていた。

 周囲からのやっかみは当然ある。だが、彼にとってゴブリンを殺す事が最上の命題にして人生全てを賭して行うべき事に他ならない。

 その原動力は、恨み、憎しみ、等々の負の感情。

 

 ついた異名は“ゴブリンスレイヤー”。吟遊詩人の歌にも成る程、彼の冒険というものは各地で知られている。

 

「あ、ゴブリンスレイヤーさん!お帰りなさい」

「戻った」

 

 冒険者ギルドの戸を開き夕日の射し込む施設内へと入ったゴブリンスレイヤーを笑顔で出迎えた受付嬢。

 彼の評価は、冒険者内では低いがギルドの側からの評価は高い。

 

「それで、その…………新人パーティは……?」

「外だ。少し、厄介な事になった」

 

 ことゴブリンに対して容赦の無いゴブリンスレイヤーの思わぬ言葉に、受付嬢は警戒を強める。

 彼女が考える候補としては、ゴブリンに逃げられた場合。この場合、新たな被害が周辺に出てしまうが、直ぐに依頼が来る為に対応は可能。

 もう一つは、ただのゴブリンの群れではなかった場合。統率者や、軍勢となった場合だ。

 だが、彼女の予想は裏切られる。

 

「人狼を保護した」

「…………はい?」

 

 受付嬢の思考が空白に染められる。ついでに、彼の報告を聞いていた周りの冒険者たちもだ。

 人狼は個体でも相当に厄介であるが、基本は群れだ。金等級の中でも取り分け戦闘能力に優れた者が選抜されるのはそれが理由となる。

 しかし、先程のゴブリンスレイヤーの言葉はよくよく考えればおかしいのだ。

 

「…………保護、ですか?」

「保護だ」

「捕獲でも確保でもなく?」

「保護だ」

「ち、因みに、その人狼は…………」

「外だ」

「新人に金等級案件を任せないでくださいよ!?」

 

 受付嬢は頭を抱えて叫ぶしかない。

 

 ところ変わって、ギルドの外。人だかりができており、その中央に相対するのは二つの一団。

 

「おう、お前。そこの人狼。前にあったよな?」

「…………」

 

 槍使いが凄むのは、その巨体を必死に縮こまらせて青年剣士や女武闘家の後ろに隠れようとしている黒い体毛をした人狼だ。

 実に情けない格好ではあるが演技ではないらしく、そのふさふさとした尾は股の間に引っ込んでしまっている。

 

「こいつがお前の言ってた人狼か?」

「ああ、そうだ。馬鹿みたいに強いくせして、逃げ腰一辺倒な奴でな。何でテメーがここに居やがる?」

「…………」

「答えやがれッ!」

 

 槍使いが凄めば、ビクリと人狼は震える。

 力の差はどうあれ、本来ならば逆になりそうな光景であるが、傍から見ればいじめっ子といじめられっ子にしか見えない。

 

「あま り、苛め ちゃ 可愛そう、よ?」

「ああ?魔物じゃねぇかよ」

「でも、いじめっ子は、貴方、ね?」

 

 見かねた魔女が助け舟を出してくる。

 そして彼女は妖艶な笑みを浮かべると、ふらりと人狼へと歩み寄った。

 

「はじめ、まして。大きくても幼い、子ね?」

「…………」

「この、子……子供よ。まだ、数年、ね」

「はあ?こんなにデカいのにか?」

「狼、としての、特性ね。二、三年で成体になる、と、群れで、学ぶ、の」

「じゃあ、そいつはどうなんだ?俺が戦った時も、一匹だけだったぜ?それどころか、トロルを皆殺しにして襲われてたパーティ、を…………」

 

 猛っていた槍使いは自分の言葉である事に気が付いた。

 人狼は群れで動くが、この人狼は一匹だけ。人の恫喝に怯え縮こまり、魔女の見立てでは子供であるという事。

 そして何より、彼は人を救っていた。同時に人だかりの中にも数人、ある話を聞いた覚えのある者がいた。。

 

「もしかして、“共殺し”か?」

 

 誰かが呟き、皆がハッとその顔を上げる。

 “共殺し”。吟遊詩人が謳うものの一つであり、知る人ぞ知る隠れた詩。

 

『人にあらず、獣にあらず。共を殺し、共と殺す。鋭き爪牙は血にまみれ、その背に突き立つ友の剣。慟哭は誰にも届かず、かくして人狼は独りとなった』

 

 救いは無い。人でもないが、同族を殺した獣は排斥の対象でしかないからだ。

 愛されず、愛を知らず、しかし全てを恨んで憎んで破壊するというにはあまりにも優しすぎて。

 

「…………?」

 

 プルプルと震える人狼は、不意に頭に受けた感触に顔を上げる。

 見れば、女武闘家の手がふさふさとした毛並みを撫でているではないか。

 

「心配しないの。ゴブリンスレイヤーさんも、説明してくれてる筈だし、皆が皆貴方を目の敵にしてるわけじゃないもの」

「…………」

 

 ジッと黄金の瞳が目の前の彼女を見続ける。

 不安に振るえていたその体は、震えを止めて巻き込んでいた尻尾が表に出てくるとその先端がユラユラと左右に揺れた。

 

「キューン…………」

 

 笛のような鳴き声を上げて、手にすり寄るその姿は狼というよりは、犬。それも子犬のようだ。

 魔物である事は事実。だが、その光景は毒気を抜かれること請け合いというもの。

 先程まで気炎を上げていた槍使いですら、その光景には苦笑いする始末であったのだから。

 

 どうにか場が終結し始めた頃、ギルドの扉が開かれた。

 出てくるのは、ゴブリンスレイヤーと彼に連れられた、受付嬢の姿。

 

「ほ、本当にウェアウルフ…………!」

「遅くなった」

 

 驚愕を口にする受付嬢を無視して、ゴブリンスレイヤーは一党へと歩を進めた。

 すると、

 

「…………!」

 

 ユラユラと揺れていた人狼の尻尾がより一層揺れ始めるではないか。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!お話は終わったんですか?」

「ああ。暫くの間は様子見という事になった」

「ギルドとしても戦力は多いにこしたことはありませんから…………ただ、場所はギルド内限定です。そして、もしもの事態には冒険者総出で討伐する事になります」

 

 受付嬢の言葉は、この場の面々が忘れそうになっていた緊張感を思い出させるには十分だった。

 再三述べるが、人狼は金等級案件なのだ。その強靭な肉体諸々含めて脅威以外の何物でもない。

 

 周りの目が再び気になり始めたのか、人狼は黄金の瞳を周囲へと向ける。

 そして徐にその場にしゃがんだ。

 いや、しゃがんだというよりも尻尾ごと巻き込んで毛皮の丸い塊になったという方が正確だろうか。

 もこもこと、しばらくの間動いていた毛玉は、やがてその動きを止めて、空気の抜けた風船のように一気にしぼんでいく。

 それこそ、元の大きさの三分の一以下だ。

 

「「「「は?」」」」

「…………?」

 

 毛皮が動き、現れたソレに一同揃って声を上げて首を傾げた。

 ピコピコと動く黒い狼の耳に、耳と同じく真っ黒な毛。褐色の肌に、つぶらな黄金の瞳。つんとした小さな肌にほんの少しだけ犬歯が伸びた歯並びが口の隙間から覗く。

 

「?」

 

 毛皮の中から現れたのは、褐色の肌をした獣の耳を持つ五歳前後の少年であった。

 周りからの視線を受けて首を傾げ、

 

「わんっ!」

 

 一声吠えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 ギルドの一角、片隅では今日も今日とて授業が開催されている。

 

「こんにちは」

「こぉおちわ!」

「こー」

「こー」

「んー」

「んー」

「にー」

「にー」

「ちー」

「ちー」

「はー」

「はー!」

「こんにちは」

「こーちは!」

 

 褐色の肌をして黒い毛皮をトーガの様に纏った少年と、そんな少年の前でため息をつく眼鏡をかけた女魔法使いの二人組。

 

「はぁ…………中々上手くいかないわね…………」

「う?」

「食べ物の名前は覚えるのに、発音に関しては致命的よね」

「あうっ」

 

 目の前で首を傾げる少年、人狼の額を人差し指で軽く小突き彼女は再び息を吐いた。

 人狼幼児化事件(受付嬢命名)から数日。女魔法使いを含めた青年剣士の一党は一から師への師事をしながら冒険者家業に勤しんでいた。

 そして決まった事なのだが、せっかく人型になれるのだからと人狼に言葉を教える事になったのだ。

 コミュニケーションに必要なのは、やはり読み書きのスキル。会話にしてもモノを知らなければろくにやり取りも出来はしない。

 

「せめて、挨拶はスムーズにできるようにしなさい。良いわね?」

「う?…………あい!」

「返事は良いのよねぇ…………」

 

 女魔法使いの頭痛の種は無くならない。

 人狼がこのような幼児の姿となっているのは、魔女曰く人化の術が生育年数に引き摺られるから、らしい。

 そもそも、この術自体も人狼という人の要素を持ち合わせた怪物であるから可能なのであって、人々に必要な術でない事も相まって研究が進んでいない分野でもあった。

 ただ、人狼少年への聞き込みから人狼という種族自体も余程のことが無い限りは人化の術を使わないという事が明かされた。

 理由としては、今の彼を見れば分かるが本来の姿に比べて圧倒的に戦闘能力その他諸々全てが劣化してしまうから。

 純粋に強い人狼は策を弄さない。そんな事をするぐらいならば、さっさと叩き潰す方がマシであるからだ。

 

「ねーちゃ」

「……何よ」

「こえ、なぁに?」

 

 考え込んでいた女魔法使いの前に、一冊の本が差し出された。

 そこに描かれていたのは一つの絵。

 両親とその間に一人の子供。その後ろ姿が黒い影のように描かれていた。

 

「それは……お父さん、お母さん、そして子供の絵よ」

「ちちうえ?」

「そうね。家族の絵よ」

「かぞく…………」

 

 その説明を聞き、人狼は食い入るように絵を見つめ始める。

 

 例え人まねをしようとも、見た目が幼児であろうとも人狼は人狼だ。怪物でしかない。

 群れを追われた子狼は、いつだって独りだった。

 

 

 

 

 冒険者にとって必須の技能は戦闘技術、そして逃走技術の二つであろう。

 前者はともかく、後者に関しては首を傾げる白磁等級が多いのだが、

 

「「「あああああああっ!?」」」

「Aooooo!!!!」

 

 街の外に広がる森の中、必死の形相で逃げるのはいつぞやゴブリンにフルボッコにされそうになっていた青年剣士と女武闘家、女魔法使いの三人組。

 彼らの後から時折立ち止まりながら追いかけているのは、元の三メートルに迫る黒毛の巨体に戻った人狼だった。

 

 背を見せて逃げる、という行為は隙だらけだ。

 人間の目は後ろ正確には、前方百何十度という範囲までしか見えておらずそれより後ろは首をひねるしかない。

 そして、逃げ続ける為には脚力体力の他に、空間認識能力も必須。

 

「――――――――あっ!」

 

 かけていた三人の内、女武闘家の足が地面から顔を出していた木の根に絡め捕られる。

 咄嗟の事であったが、受け身を取って体を強打する事は無い。無いのだが、転んでしまえば自然とその足は止まるという訳で。

 

「Gurrrrr…………」

「ッ…………!」

 

 追いつかれるのもまた必然であった。

 眼前に居る人狼に、自然と女武闘家の喉が鳴る。

 その口が大きく開かれルビーの様に紅く輝く大口が彼女の顔面へと迫り、

 

「わぷっ!ちょ、待っ…………!」

 

 ベロりと大きな舌でその顔面を嘗められた。

 人狼にしてみれば、この必死な訓練もお遊びでしかない。追いかけっこをして、捕まえたら噛みつくのではなくその顔を嘗める事で人狼の勝ち。

 そして捕まえたら、

 

「貴方の尻尾に包まれるのよね」

 

 ふわふわとした体毛の尾に巻き取られて他の捕まるであろう二人を眺めるのだ。

 

 それから五分後、青年剣士も女魔法使いもアッサリと捕まり三人仲良く尻尾に巻き取られ、人狼は満足そうに頷く。

 この状態の人狼は喋ることが出来ない。正確には発声に関する器官が無く、声というか雄叫びを上げる程度しか出来ないのだ。

 

「おう、来たか」

「Grurrrr…………」

「あ、なたは、さがり、な、さい………怯えてる、わ」

「へいへい、わーってるよ。そっちの剣士だけ寄越しな。俺達と組手だ」

 

 戻ってきたギルド裏の訓練場。そこで人狼を待ち受けていたのは槍使いと魔女の二人組。少し離れたところでは彼らの一党、そのリーダーを務めている重戦士と女騎士の姿もある。

 人狼を監視するために割り当てられた彼らだが、人狼本人が青年剣士の一党の側を離れたがらなかった為に監視ついでに鍛錬の相手となっていた。

 

 実力はまだまだだ。だが、事実死にかけたという現実を目の当たりにして彼らは強くなる道を模索し始めていた為に、それは渡りに船。

 それぞれがそれぞれの師の元へと向かう中で、女武闘家が相対するのは――――――――人狼だ。

 

「それじゃあ、頼むわね?」

「Gau!」

 

 構えた彼女の前で、人狼もまた前傾となり両腕を前へと垂らして爪先で数度地面を引っ掻いた。

 

「――――――――シッ!」

 

 仕掛けたのは、女武闘家。

 踏み込みからの拳が、綺麗に人狼の左ほおをへと叩き込まれていた。

 綺麗な一発だが、如何せん筋力骨格毛皮と、全てが人の範疇ではない人狼には毛ほども効果が無い。

 そして、人狼は拳を受けながら見えるように(・・・・・・)右腕を掲げて振り下ろす。

 金等級ですら場合によっては見逃す人狼の動きを、白磁級の彼女が見切れるはずもない。その事を、人狼はよく理解していた。

 故に、初動のみを見えるようにしたのだ。そして、そこから攻撃を繰り出す。

 加減は十二分にしている。それでも一撃でホブゴブリン程度ならば容易く殺せるのだから、やはり怪物の怪物たる所以というものだ。

 

 女武闘家はそれから必死に回避と攻撃を織り交ぜながら人狼へと向かっていった。

 彼女が編み出そうとしているのは、対怪物の格闘術。

 ゴブリンとの一件で彼女は痛感していた。己の身に着けた技術は、どこまで行っても対人格闘であり怪物を相手どるには手段も威力も足りないのだと。

 例えば、体格差で自身よりも大きな怪物には打撃が通じず、極め技に持ち込もうにも力任せに振りほどかれるだろう。

 例えば 自身よりも小さければ距離感の問題から最適な距離で打撃を繰り出せず、結果的に威力不足になりかねない。

 その他にも、堅牢な外骨格を殴り壊す事など今の彼女には出来ないし、スライムなどの流動体に有効な浸透勁などは無論体得していない。

 当たり所が悪ければ間違いなく死ぬようなこの状況。有効打が出せればそれで終わるが、それまでは逃げる事すら許されない現実。温く見えようとも女武闘家にとっては命懸けであった。

 

「―――――ハァ……ハァ……!」

 

 肩で息をしながら、女武闘家はそれでも拳を、蹴りを放ちながら攻撃を回避しつつ、再び攻めるの繰り返し。

 二度とあんな目に遭わないために、彼女は拳を振り抜いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 “祈らぬ者”というのは、そのまま祈る者である冒険者との対比とされている存在だ。

 その筆頭であるのは、ゴブリンだろう。

 残虐で悪逆非道を働き、しかし数ばかりが多く弱い事も相まって人々の認識が甘い事を良い事に増え続けるそんな畜生たち。

 

「ごぉぶり?」

「ゴブリンだ」

 

 山道を行くゴブリンスレイヤー。そして、彼の隣を行くのは小柄な幼児の姿となっている人狼。その後ろから、ゴブリンスレイヤーについてきた女神官。

 今回の依頼は、山奥の砦に住み着いたゴブリンの討伐。既に被害者が出ており、討伐に善意で向かった冒険者一党も戻ってきていない。

 

 本来ならば、ゴブリンスレイヤーと彼についてきた女神官だけのパーティであるのだが、この場に人狼が居るのは当然理由がある。

 人狼は、彼に懐いている節があった。それこそ、ゴブリン退治に向かう彼の後をついて行こうとするほどに。

 二度ほど置いて行かれ、その都度彼が帰ってくるまで街の入口に蹲っていたのだ。

 

 本来の姿が怪物であろうとも、街での見た目は子供。流石にそんな子供が日がな一日膝を抱えて門を見続けているというのは外聞が悪い。

 ついでに、冒険者への鍛錬も手伝っているという事で、こうして特例だが外へ出る事が許されたのだ。

 

「ねーちゃ!」

「は、はい!な、何ですか?」

「ごぉぶり、つよ?」

「え?………………ええ、そうですね。大変な相手かもしれません」

 

 天真爛漫な人狼の言葉に、女神官が思い出すのは最初の冒険。

 あの時、人狼が割り込んでこなければ間違いなく全滅していた。それどころか、死ぬよりも酷い目に遭っていたかもしれない。

 ゴブリンは、決して強くない。それこそ、村人ですら一匹二匹程度追い払う事は出来るのだ。

 だが、追い払うだけでは足りない。追い払われたゴブリンというのは逆恨みとでも言うべき感情を募らせてゴブリンスレイヤー曰く渡りとなり、力を付けて戻ってくるから。

 

 暫く景色の変わらない山道は続く。その間、人狼はゴブリンスレイヤーや女神官へと様々な質問を行っていた。

 一人だけ、ピクニックにでも来たかのような気楽さだ。だがそれも、その鋭敏な嗅覚がある臭いを嗅ぎ取ったところで止まる。

 

「………!にーちゃ!」

 

 小さな手が前を行こうとするゴブリンスレイヤーを引っ張った。

 

「どうした」

「ごぉぶり。まえ」

「成る程、そろそろか」

 

 人狼の言葉を読み取って、ゴブリンスレイヤーは革袋と矢筒、弓を準備していく。

 

「えっと、どうするんですか?」

「正面から俺と女神官の二人で行く。奴らを油断させるためだ。そして、メディアの油で奴らの砦に火を放つ。人狼」

「あう?」

「お前は、元の姿で周りを狩れ。ゴブリンは生き意地汚い、死んだふりや抜け穴から逃げるだろう。お前はそれを狩って来てくれ」

「みぃなごーろ?」

「ああ、ゴブリンは皆殺しだ」

「あう!」

 

 万歳と手を上げた人狼は、すぐさまトーガの様に纏う毛皮で全身を包み込む。

 すると、毛皮はまるで空気の入っていく風船のようにどんどん膨らみ、やがてその大きさは三メートルに迫るほどへ。

 

「Grrrrr………」

「よし、行け」

 

 ゴブリンスレイヤーの言葉に反応し、人狼はその巨体を茂みの中へと躍らせていった。

 その黒い毛皮を見送り、彼もまた己の準備に勤しむ。

 

「あ、あの、ゴブリンスレイヤーさん」

「なんだ」

「えっと、狼さんを一人にしても良いんでしょうか」

「ゴブリンは臆病だ。自分よりも圧倒的な強者を前にすれば逃げ出すしかないクズだ。人狼が隣に居て万が一その正体が露見すれば奴らは逃げ出す。ならば猟犬に使う方が効率よく奴らを殺せる」

 

 珍しく長々と語ったかと思えばかなりの早口で、しかも終始しているのはゴブリンを殺す事にのみだ。

 だからこそ、小鬼殺し(ゴブリンスレイヤー)であるのだが。

 

 

 

 

 

 

 小鬼にとって人間は男は食らい、女は犯して孕ませ数を増やす手段でしかない。

 要するに娯楽のための道具だ。

 砦を根城とした彼らは、近くの村から女性を攫って慰み者として、更に彼女を助けに来た冒険者たちも同じ目に遭わせていた。

 このまま数を増やす。彼らの算段はそんなものであるし、ただただ悦楽の為に殺し、犯し、食らう。獣よりも劣る畜生であった。

 

 だが、この日その天国は地獄へと変わる。

 

「“いと慈悲深き地母神よ…………!か弱き我らをどうか大地の御力でお守りください”『聖壁』」

 

 燃え盛る炎に巻かれて逃げ惑っていたゴブリンたちは、その大半が入口を塞いだ障壁により煙と炎に巻かれて絶命していく。

 力自慢だったホブなども、この壁は突破できずに炎の中へ。

 どうにか障壁が張られる前に外へと逃れたゴブリンたちもまた、ゴブリンスレイヤーの刃と火矢の前に絶命した。

 死にゆく同族たちを尻目に、一部のゴブリンはどうにか砦の脱出を果たそうとしていた。

 その先に何が待つのかも知らずに。

 

「Gobu!」

「Gobubu!」

 

 耳障りな歓声を上げて長い穴倉を抜けて陽の光を確認したゴブリンは我先に外へと出ようと足を速めた。

 そして、出た直後にそれは視界に入り込む。

 夜の様につやのある黒い毛並みに、黄金の瞳。子供ほどの大きさであるゴブリンとは比べ物にならない大きな体躯。

 地面に垂らされた大木の様に太い両腕。その先端には、鋭い鉤爪。

 

「Grrrr…………!」

 

 如何に馬鹿なゴブリンといえども、目の前の存在がどんなものか理解できなはずもない。

 

「Gobu…………!」

「GARUAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

 最後の抵抗というように粗末な短剣を構えるゴブリンであるが、そんな物目の前の存在にしてみれば爪楊枝以下の代物でしかない。

 怪物、人狼は雄叫びを上げる。ライオンの咆哮に生き物の恐怖を増幅させる効果があるが、人狼の咆哮は音の衝撃だけで周囲の草木を騒めかせ心をへし折る。

 逃げる気も失せ、ゴブリンは等しくその爪によって命を刈り取られていった。

 

「…………」

 

 血塗れの爪。その先端の臭いを嗅いで眉根を寄せた人狼はふと、ゴブリンの出てきた穴へと目を向けた。

 音も臭いもしない。しないのだが、自分と似た臭いのする(・・・・・・・)男に言われたことを思い出していた。

 

「スーーーーー…………」

 

 上半身が一回り以上膨らむほどに息を大きく吸い込み、その巨体が若干仰け反る。

 

 

「Fuuuuuuuuuuu!!!!」

 

 口をすぼめて吐き出される息は、術などではない。ないのだが、その破壊力は嵐でも吹き込んだのではないかと思えるほどのモノ。

 それこそ、少し離れた砦が火山の噴火でも起こしたかのように空へと業火を弾けさせるほどの威力であった。

 

 金等級案件、人狼。その身体能力は伊達ではない。

 

 

 

 

 

 

「―――――これにて辺境勇士小鬼殺し山砦の段。終幕」

 

 とある街の一角。吟遊詩人は深々と頭を下げていた。

 冒険譚に聞き入っていた人々が硬貨を受け皿へと放っていく。

 

「ねぇ、ちょっと」

「ん?なんだい?次の公演はもっと先だが?」

「そうじゃなくて、さっき謡ってた人って本当に居るのよね?」

「ん?ああ、勿論さ!西の辺境の街、そこを拠点にしてるって話だよ」

「そう…………それじゃあもう一つ聞かせてくれない?」

「答えられる事なら」

「“共殺し”の人狼の話は、しってるかしら?」

「ああ、それかい?ここ最近は西の辺境で確認されたらしいね」

「そうなの…………都合がいいわね」

 

 そこで、吟遊詩人は息をのんだ。

 目の前の相手は、森人であった。それも、上の森人と呼ばれるような美貌と可憐さを併せ持った美しい容姿をしていた。

 

「オルクボルグ、それに“共殺し”。待ってなさいよね」

 

 出会いの時は近い。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



「…………」

「はうぅ…………ふかふかですねぇ」

 

 ピタピタと降る雨の中大木を雨宿として天幕を張って、二人と一匹は足止めを受けていた。

 雨というのは冒険者の天敵である。

 濡れれば体温を奪われてしまうし、松明などは使えなくなってしまう。雨が降った後も水けを含んだ地盤は緩くなり道がぬかるんだり、土砂崩れなどが起きてもおかしくはない。

 そんな雨であるが、存外二人は快適に過ごせていた。

 理由は、二人がより添っている人狼にある。

 豊かな毛並みは羊などには劣ろうともふかふかとしており皮膚を守るために目が細かい。豊かな尻尾で包まれれば即席の寝袋代わりにもなる。

 何より人狼の嗅覚と聴覚は雨程度では鈍らないし、その濃密な獣の臭いはその他野生動物を寄せ付けない。

 

「狼さん、寒くありませんか?」

「…………」

 

 尾にくるまれている女神官が問えば、人狼はコクリと頷いた。

 狼と呼ばれるだけあって、彼の横顔は凛々しく時折零れる欠伸など人の頭程度ならば容易く飲み込まれてしまいそうなほどの大口。

 それだけではない。今、ゴブリンスレイヤーが寄りかかっている分厚い毛並みとその下の筋肉も、その全てが人では間違いなく届かない領域であるのだから。

 

「あふ…………」

 

 女神官は欠伸を零し、夢の中へ。ゴブリンスレイヤーもまた、鉄兜越しであり表情などは分からないのだが眠ってしまったらしい。

 残る人狼も体を少し膨らませて目を閉じた。

 シトシトと梢と天幕を打つ雨音と、燃え尽きた炭が崩れる音だけがそこに響き夜の帳は下りてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 吟遊詩人たちが謳う辺境の詩において最も、という訳ではないが多いのはゴブリンスレイヤーについてのモノだろうか。

 脚色を加えられた勇士像というのは、客受けが良い。

 そして、次に多いのが“共殺し”の詩。こちらの場合は、勧善懲悪の様なものではなくどちらかというと、悲しい内容ばかり。

 誰もが魔物である事も忘れて感情移入してしまう事もしばしばだ。

 

 そんな件の人狼はというと、

 

「今日の御飯は貴方の仕留めた大角鹿ですよ」

「わんっ!」

 

 ギルドの後方に広がる訓練場の片隅で元の姿に戻り、尻尾を振りながら肉に貪りついていた。

 その姿は完全に犬のそれなのだが、見た目は凶悪。太い大腿骨であろうともバリバリ噛み砕いてしまっている。

 世話係に上から任ぜられてしまった受付嬢は、瞬く間に鹿一頭を平らげてしまう人狼に対して若干頬を引きつらせるのだが、特に何かを言う訳ではなかった。

 この状況。人狼が少しでも気が向けば容易く受付嬢は殺されるだろう。それこそ、普通の犬のように首筋を掻いている後ろ足に引っ掻かれるだけでも致命的だ。

 一種の職務怠慢なのかもしれない。だが、如何せん見た目と中身のギャップが大きすぎて危機感というものを忘れさせるだけのモノを人狼は持ち合わせていた。

 

「はぁ…………皆さんが貴方みたいに素直でいい子なら良いんですけどねぇ…………」

「?」

 

 思わず、受付嬢の口から洩れた口に、しかし口の周りを嘗め回していた人狼は首を傾げるだけ。

 ただ、彼女が呟くのも無理は無いのだ。

 冒険者というのは、心のどこかで魔物というのを嘗めている。それが顕著なのが初心者なのだから笑いの種にもなりはしない。

 

「あ、先輩!クロちゃんのお世話終わったら戻ってきてくださーい!」

「あ、はーい!それじゃあ、貴方はここで寝ます、よね?」

「わふっ!」

 

 後輩に呼ばれて、受付嬢はギルドの中へ。

 残された人狼はと言うと、ギルドの壁に背を預けて足を投げ出し空を見上げた。

 いい天気だ。突き抜けるような青空には小鳥が飛び、どこかの花畑から風によって運ばれてきたのか白い羽の蝶が飛び、人狼の鼻先へと止まった。

 

「…………ッぷしゅ!」

 

 むずむずとした鼻先の感触に、くしゃみが一つ。

 それ一発で子供一人なら余裕でひっくり返る肺活量だ。身体能力お化けは伊達でも酔狂でもないのだ。

 穏やかな風に目を細めて、人狼は大きな欠伸を一つする。

 犬の欠伸というのは何も眠いから、と言うだけではないのだが彼の場合はこの穏やかな陽気に充てられて眠気を覚えたためのもの。

 そのままウトウトと舟をこぎ、その黄金の瞳は瞼の向こう側へと―――――

 

「あ、いたいた」

「…………?」

 

 夢の世界に旅立とうとしていた人狼を引き戻したのは、聞き慣れた声。

 目が開かれれば、青年剣士の一党が人狼の元へと向かってくるのが確認できる。

 

「もしかして、寝ようとしてたか?悪いな、一仕事行く前に人狼に会っときたくてさ」

「私たちが生きて帰ってこれたのも貴方のお陰だもの。まあ、験担ぎよ」

「…………感謝を伝えない程、恩知らずじゃないもの」

 

 三者三様。それぞれが、人狼へとそんな言葉をかけて行く。

 彼ら彼女らの装備も結構変わった。

 それぞれ、元の服の下には鎖帷子を着ているし、青年剣士は背中にはロングソードだが腰にはショートソードも装備しており、左前腕には小振りなラウンドシールド。右手には籠手を着け、肩当胸当てのみならず、背中にも防具を付けた。

 女武闘家も両手足に籠手と脚絆を付けており、動きやすさを重視して装甲は薄めだがその分急所などには多めに防御が施されていた。

 そして女魔法使いはと言うと。肌の露出を極力無くし、マントの下には鎖帷子を二重に施す事で突きのみならず斬撃にもある程度耐えられるようになっていた。

 何より、ポーションの類もケチる事無くそれぞれがベルトポーチに収めており、背嚢などに関しても最低限食料などを突っ込むばかり。

 

「これから、仕事だからな。お前に助けられた命だし、無駄にしないぜ」

「わふっ!」

 

 青年剣士の言葉に反応し、人狼は一声吠えると尻尾含めて丸くなり毛玉となる。

 見慣れた光景だ、次の瞬間にはそこに居るのは褐色黒髪の幼児であるのだから。

 

「にーちゃ、ねーちゃ!い、いってら、しゃい!」

 

 がばっ、と両手を挙げて万歳をする人狼。

 仕草が幼いが、人化の術は人としての年数(・・・・・・・)に影響を受ける。五歳前後の無垢な子供というのが彼なのだ。

 

「「「……ッ!」」」

 

 そして、そんな人狼を見た三人はと言うと口元を抑えて各々が溢れ出る“愛”を堪えていた。因みに“愛”は鼻から出る。

 

「ぜってぇ帰ってくる!」

「ええ、勿論よ…………!今なら、ゴブリンの巣だって潰せるわ…………!」

「焼き尽くすわよ…………鼠ごときが私の道を塞ぐんじゃないわよ…………!」

 

 やる気が天元突破し、その背から気炎を立ち昇らせる三人は、白磁等級である筈なのだが気迫だけならば銀等級にでも並びそうな勢いで仕事へと向かっていった。

 その背が、人狼の視力でも見えなくなるまで彼は手を振り続け、今度は幼児のままギルドの壁に背を着けて座り込む。

 知り合いとの会話で少しはマシだが、そもそも寝ようとしていたのだから眠気は今も残っている。

 大きく欠伸をし、身に纏った毛皮が程よく日光の熱を吸収して温まり睡魔がひたひたと彼の意識を―――――

 

「人狼」

 

 どうやら、眠れるのはもう少し先であるらしい。

 

 

 

 

 

 

 妖精弓手は、このギルドに来て何度目か目を見開くこととなった。そしてそれは、彼女の連れでもある蜥蜴僧侶と鉱人道士も同じくであったのだ。

 事の発端は彼ら3人がそれぞれの種族の代表として、そして先遣隊としてゴブリン退治に駆り出されることになり、そこで只人の代表としてゴブリンスレイヤーを求めたことに始まる。

 ゴブリンが相手であれば、報酬すらも興味が無い彼のお陰かとんとん拍子に話が進み、連れとして女神官が加わったところで、妖精弓手がふと、訪ねたのだ。

 

曰く、“共殺し”がどこに居るか、と

 

 これは何も討伐対象として見ているとかではなく、純粋な興味からだ。

 予想外だったのは、その件の“共殺し”がこのギルドの預かりとなっている点。

 というか、ゴブリンスレイヤーが手を引いて連れてきたのが毛皮を体に巻いた眠たげな幼児であったことが驚きの主な原因か。

 

「ちょ、ちょっと、オルクボルグ。その子が、“共殺し”なの?」

「ここに居る人狼はこいつだけだ」

「子供じゃない!?」

 

 妖精弓手が頭を抱えて叫ぶ。

 そんな目の前の彼女の理由など知る由もない人狼はと言うと、ゴブリンスレイヤーと手をつないだままコクコク舟をこいでいた。今にも倒れそうだ。

 満腹となり眠気が来ていた状態で、2度も無理矢理起こされたのだ。睡魔の波状攻撃をうけて、その瞼は既に限界であるし思考の8割はお空の彼方に旅立っている。

 今すぐにでもその場で倒れそうな彼の様子にハラハラする女神官をよそに、鉱人道士がゴブリンスレイヤーに問うてくる。

 

「かみきり丸よ。わしとしても、この耳長に同意するわけじゃないがこのボウズは只人の子供にしか見えんぞ?」

「俺は人狼を見せただけだ」

「あ、あの、とりあえず狼さんを寝かせてあげませんか?頑張ってますけど、そろそろ…………」

 

 流石に眠れないままふらふらしている姿を不憫に思ったのか、女神官が人狼を抱き上げて、提案する。

 

 その後、ゴブリン討伐に寝こける人狼を連れていくかどうかで一悶着起きるのだが、彼は知る由もない。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 夢を見る 夢を見る 夢を見る

 

 胎児はクルクル夢を見る

 

 人にも成れず 獣にも成れず

 

 半端モノは夢を見る

 

 

 

 

 

 

 パチパチと弾ける薪の音。

 

「~♪」

 

 ユラユラと赤い光に照らされて、黒髪ケモ耳頭が左右に揺れる。

 

「ふむ、これで食べごろでしょうな」

「にく~!」

 

 万歳と手を挙げ立ち上がった人狼。

 そんな幼さマックスな彼に差し出されるのは肉の串焼き。

 

「熱いゆえに、気を付けて食べられよ」

「あい!」

 

 穏やかな笑みを浮かべた蜥蜴僧侶が串を受け取った人狼は、人化した状態の小さな口で肉へと大きく齧り付いた。

 ピリリとした辛味と肉汁の豊満な旨味。

 きらりと目を輝かせた人狼は、

 

「うまい!」

 

 叫んで一心不乱に肉を貪り始めた。

 そんな幼児の姿を横目に、妖精弓手は頬杖をついて息を吐く。

 

「まさか、“共殺し”がこんな子供だなんて…………」

「そう不貞腐れるな、耳長。事実、このボウズが人狼である事はわしら自身の目で確認したではないか」

「それは、そうだけど…………」

「そんなだから、金床なんじゃ」

「だ・か・ら!誰が金床よ!」

 

 アンニュイな雰囲気もどこへやら、最早恒例にすらなりかけている鉱人道士と妖精弓手のやり取り。

 喧嘩であるのだが、武器を抜く所まではいかないために、これは一種のコミュニケーションである事は確かだ。

 そんな二人のやり取りをバックミュージックに、女神官は左隣に座る人狼の油でベタベタとなった口周りを手拭いで拭いていた。

 

「はい、綺麗になりました」

「う?あいあとー!」

「いいえ。狼さんには助けてもらってますからね」

 

 にこにこと再び肉に向かっていく人狼を横目に、女神官も己の持ち寄った豆のスープに口を付けた。

 各々がそれぞれ食事を口にし、交流を深める中再び話題を投じるのは妖精弓手。

 

「そういえば、みんなはどうして冒険者になろうとしたの?」

「なんじゃ、藪から棒に。んなもん、世界中の旨いものを食うために決まっておろう」

 

 この串肉の様にな、と鉱人道士は呵呵大笑すると齧り付く。

 種族柄肉を食べない妖精弓手は、そんな彼にジト目を向けていた。

 

「私は、外の世界に憧れてよ」

「拙僧は、異端を殺し位階を高めて竜となる為だ」

「えっと、その……成人に合わせて、誰かの役に立ちたくて、でしょうか」

「ゴブリンを―――――」

「アナタは何となく分かるから良いわ」

 

 各々の理由を聞きながら、妖精弓手はふと未だに肉をぱくつく幼児を見た。

 見た目は子供、本質は怪物。金等級案件である人狼という種でありながら、どう見たって彼は子供でしかなかった。

 そんな存在が群れを離れて、独りとなる。

 結果、ついた呼び名は“共殺し”という救いの無いものであった。

 

「あなたはどうして、独りなのかしらね」

 

 思わず、ポツリと妖精弓手は呟いていた。

 それほど大きな言葉ではなかった―――――のだが、丁度会話の切れ目であり火が弾ける音だけが聞こえる静かな夜では十分すぎる声量であった。

 

「おいおい、耳長よ。ヒトにゃあ触れちゃならないタブーってもんがあるだろ?」

「な、何よ!みんなだって気になるでしょ!?」

「それはそうじゃが…………」

 

 いさめようとした鉱人道士であったが、彼とて気にならないわけではない。

 ぶっちゃけ、この場の戦闘能力において人狼が間違いなくトップだ。それこそ、暴れられれば止めるどころか逃げる事すら難しい。

 そんな相手と同じ釜の飯を食う。気にならない方がおかしいというもの。

 自然、一人を除いた視線が人狼へと集まるというもので。

 

「…………?」

 

 当人は、全く話を聞いてはいなかったが。

 串肉の最後の一口を頬張り、視線に気づいた人狼は首を傾げて見返していた。

 

「あなたの話よ。どうして、人に紛れて飼い犬の真似なんてしてるの?」

「んー…………?」

 

 もぐもぐと口を動かし首を傾げた人狼は、何やら考え込みその喉を動かして口の中身を飲み込んだ。

 熱い呼気を吐きだして、

 

「にげた」

 

 ただ一言だけ、呟く。

 情報が足りないと思われるが、だがその実この言葉以上に彼の現状を表わすものは無い。

 

 親から逃げた。血縁から逃げた。群れから逃げた。“祈らぬ者”から逃げた。無益な殺生から逃げた。

 

 逃げて逃げて逃げ続けて、今の人狼は西の辺境へと納まったのだ。

 いや、これもまだ仮宿に過ぎないか。未だにギルドの上層部が人狼の扱いに困っているように、人間の全てが人狼に対して好感情ばかりを向けてくる訳ではないのだから。

 

 様々な想像を掻き立てる一言を放った人狼は、しかしそれ以上の言葉を連ねるつもりは毛頭ないらしい。

 というか、言葉を知らない人狼には連ねる為の語彙が無いのだ。助けた三人だけでなく、様々な人々が彼には言葉を教えているのだが、如何せん身に付くのは食べ物ばかり。

 

「にーちゃ、ちーず」

「…………これか」

 

 暗くなった周囲など知った事かと、人狼は満腹に程遠いのか武器の手入れをしていたゴブリンスレイヤーへとここ最近でお気に入りの食べ物を強請りにかかった。

 取り出されるのは両掌に収まる程度の分厚い楕円形。

 ゴブリンスレイヤーは手入れしていた投げナイフを置くと、別のナイフを取り出し楕円形から鋭角の三角形を切り出して、人狼が食べ終わった串を通して手渡した。

 

「少し、火にかざせ」

「あーい」

 

 いつも通りだ。少なくとも、人狼はその事を悩んでいない。

 今を楽しみ。今を尊ぶ。そんな生き方をしていれば自然と過去を思い出さなくて済むし、暗いものを見なくて済む。

 わくわくとチーズが溶ける様子を眺めている人狼に、四人も毒気を抜かれ肩に籠っていた力も抜けた。

 

「はぁ…………まあ、考え続けても意味がないって事よね。それより、オルクボルグ!そのチーズ、わたしにも寄越しなさい!代わりに、森人に伝わる保存食あげるわよ!」

「ほう、森人の秘伝か。とすれば、わしもこいつを出そうかの」

「ふむ、沼地の獣の肉も未だまだある。拙僧の故郷の味をもっと振舞おうではないか」

「あ、乾燥豆のスープもどうぞ。体が温まりますよ」

 

 各々が持ち寄る品々。

 チーズを刺した串を咥えた人狼はジッと、それらを眺めて鼻を鳴らした。

 食べるばかりで、自分に出せる物が無い。そもそも、人狼は元の姿となれば余程の環境でなければ適応できるのだから、旅の準備や食料の運搬などしない。

 その土地その土地での生態系の頂点。単独でも十分脅威であり、それが群れているのだから並大抵の生物では太刀打ちできないからだ。

 

 そんな人狼。チーズを食べ終えると、串を火の中へとくべて徐にその場から後転し始めるではないか。

 突然の奇行に皆が頭に?を浮かべる中、その小柄な体は纏った毛皮の向こう側へと消えて、次の瞬間には黒毛の獣へとその姿を変えていた。

 すわ敵襲か、と身構える一同だがそれを人狼は手を突き出す事で押しとどめる。

 そして、その巨体が夜陰に紛れて一瞬のうちに消えて、ものの数秒で戻ってくるではないか。

 その腕には小山になりそうな、白い果実の山。

 

「それって……白林檎かしら?」

「白林檎じゃと?こいつは何とも珍しい。それに、よく熟れておるな」

「どれ一つ…………ほう、甘い果汁があふれてきますな!」

「これを私達の為に?」

「っ…………!」

 

 女神官が問えば、人狼はコクコクと何度も頷いた。

 全員に行き渡ってもまだ少し余る白林檎。

 人の姿へと変わった人狼は、しゃくしゃくと林檎に齧りつき、その口の周りを果汁で汚していく。

 

 人にも成れず、さりとて獣としてもあれないそんな存在。

 言うなれば0に近い存在であるのだ。つまりは生まれて間もない子供であるという事。

 子供は、真似て成長していく。真似て学んでいくのだ。

 

 今回も同じこと。自分でできる何かを考えて、それを実行した。

 まだまだ子供である事には変わりがない。しかし、芽生え始めた何かは、彼の中で確かに育ち始めていたのだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 夕暮れ時、ゴブリンスレイヤーの一党は問題の遺跡、その近くの茂みへと身を潜めて状況を伺っていた。

 

「見張りが居るわね。それに、アレは狼かしら」

「群れが豊かな証だ。そうでなければ、奴らにとって餌でしかない」

「でも、大丈夫なの?ゴブリンは夜行性じゃない。これから活発になるなら、次の昼を待った方が―――――」

「いや、見張りを立てる群れは“夜”であった場合の方が警備が厳しい。今の時間帯は奴らにとっての“早朝”。見張りの注意力も散漫になる」

 

 妖精弓手は淡々と語るゴブリンスレイヤーに関心の目を向けた。恐らく、冒険者の中でも彼ほどゴブリンに詳しい者はそう居ないだろう。

 なぜなら、彼らは弱い。対策を練るという事は、相手は強敵であるというのが相場である。

 

 距離にして数十メートル。地点は風下であり、狼にも察知されない距離。

 妖精弓手は、弓に矢をつがえた。

 

「…………ッ!」

 

 長距離射撃の基本は呼吸を詰める事。不必要な呼吸というのは体に予想外の動きで手元を狂わせてしまうから。

 一射で見張りの二体を殺し、もう一射によって狼を殺す。風の動きを読み切った彼女の見事な弓の腕だからこそ成せる絶技である。

 

「………………」

 

 その様を、黄金の瞳は真っ直ぐに見ていた。

 人狼にしてみれば、狼というのは見た目が近いだけで種族的な物では全くの別。

 狼はあくまでも動物だ。対して人狼というのは魔物、怪物等々通常の生き物の理より外れた存在。

 

 どこか遠い目をする人狼をよそに、一党は行動を開始した。

 まず最初にやるべきことは、ゴブリンスレイヤーも徹底的にやっている事。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?」

 

 妖精弓手が叫ぶのも無理はない。何故なら、彼は死んだゴブリンの腸を引き釣り出そうとしているのだから。

 彼曰く、

 

「ゴブリンは女子供の匂いに敏感だ。森人の匂いにもな。だからこれで消す」

「う、嘘でしょ?!嘘よね?!ま、まさかそれを…………!」

「被れ」

「嫌よ!ちょ、あなたからも何か言ってあげて!」

 

 頼みの綱というように、妖精弓手は女神官へと駆け寄る。

 だがしかし、

 

「慣れますよ」

 

 頼みの綱は死んだ眼で見返すばかりで諦めの境地。

 彼女の悲鳴がこだまする。

 

 

 

 

 

 

 ゴブリンスレイヤーを先頭にして、一党は遺跡の中を行く。灯りといえば、彼の持つ松明位か。

 

「…………」

 

 コツコツと床や壁を自身の剣でつつきながら進む彼。これは何も、遊びではなく罠などを事前に見破る為の動きであり、盲人の白杖と同じ効果。

 人が仕掛けた罠ならばそこまで簡単ではない。だが、ゴブリンの罠は基本稚拙だ。悪辣ではあるが複雑な仕掛けを組み立てる頭は無い。

 

 松明の灯りに照らされた通路。その壁には何やら様々な絵が描かれていた。

 

「ふむ、拙僧の見立てとするならばここは過去に神殿であったようだな」

「このあたり一帯は、神代に大きな戦争があったと言われています。神殿、というよりも砦、かもしれませんね。人の手で作られたことは確かですけど…………」

「人は去り、代わりに小鬼が住まう、か。残酷な…………む、どうした人狼殿」

「おおかみ」

 

 女神官に手を引かれていた人狼が指さす先。そこには、人のような黒い影が幾人も描かれており、黒い大きな獣と相対している姿を壁画がある。

 成る程確かに、と蜥蜴僧侶は頷く。見方によれば黒く大きな獣が狼に見えてくるというもの。ただどちらかというとこの獣は四足ではなく、

 

「人狼、でしょうな。二足の後ろ脚に発達した上体と―――――そして月に吠えるこの姿は」

「じんろー」

 

 呻くように呟く蜥蜴僧侶は、分かっているのかいないのか判別できない人狼の小さな頭に手を置いて髪を混ぜっ返した。

 人化状態では分からない存在感。神代の壁画にも残されるような怪物。

 分かっていても懸念を抱いてしまうのは致し方ない。

 

 よしよしと撫でられる人狼であるが、そんな彼よりも今この一党には沈んでいる者がいる。

 

「うぅ…………臭いよぉ、気持ち悪い…………」

 

 ゴブリンの体液に汚れた妖精弓手は、涙目のままヨタヨタと歩いているのだ。

 必要な事であると理解はした。だが、その心が付いてくるかと問われれば、否だ。むしろ、誰が好き好んで生き物の腸の汁等を被りたいと思うだろうか。

 いつもならば揶揄う鉱人道士ですらも、流石に哀れと思うのか声を掛けるのを躊躇う始末。

 とはいえ、そのまま仕事を果たさないような彼女でもない。汁を掛けたゴブリンスレイヤーへの怒りを力に変えて、前へとズンズン進んでいく。

 

「ねーちゃ、おこ?」

「ふむ、怒っておるがありゃ仕方ないじゃろうな。わしとて、ゴブリンのモツぶっかけられるなんぞ御免被る」

「ん、アレくさい」

「耳長のにはいってくれるな?また不貞腐れてしまうのはちと、面倒じゃからのう」

「あい」

 

 二人のひそひそとした話し声は、恐らく聞こえている。

 閉鎖的な遺跡の通路であるし、周りも静か。ゴブリンの気配も声も、臭いすらも未だ届かないこの場では声量を抑えてもどうしても聞こえてしまうというもの。

 だが、その上で妖精弓手は黙殺した。鉱人道士の子供を表するような言葉にはムッと来たがそれに乗ってしまえば相手の思うつぼ。

 何より、ここは敵地のど真ん中。騒げばその結果最悪を招く可能性とて十分にある。

 

「―――――止まって」

 

 先頭を変わった妖精弓手がその言葉を放ったのは、遺跡に潜ってしばらく経ってからだった。

 彼女は野伏。斥候や罠の探索はお手の物である為、それに気づくことが出来た。

 

「鳴子か」

「ええ、そうね。設置されてから時間が経ってないから分かったけど」

「やはり妙だ。これまでにトーテムを見なかった」

 

 ゴブリンスレイヤーの言葉に、周りが首を傾げる中彼との仕事が多い女神官が気づく。

 

「えっと、つまりゴブリンのシャーマンが居ないという事ですか?」

「呪文遣いが居ないなら楽出来て良い事じゃない」

「いや、察するに知識層の居ないゴブリンの群れが罠を張る事がおかしいと言いたいのでは?」

「ああ。ただのゴブリンではこんなものは仕掛けられんし、“早朝”にだらけずに見張りをするなどあり得ん」

「ゴブリンを指揮する者が居ると?」

「そうみるべきだ」

 

 感圧式の鳴子を躱して一同は、左右の分かれ道の分岐点へ。

 どちらも広がる先は、闇だ。少なくとも、視覚では判別つかない。

 しかし、

 

「…………!」

 

 スンッ、と鼻を鳴らした人狼が右の道へと駆け出した。

 ペタペタと素足の音が響き、残りの面々が呆気に取られてその背を見送るしかない中で最初に動き出すのは、ゴブリンスレイヤー。

 鎧を鳴らして、彼もまた駆け出していた。

 慌てて追いかける一党。その状況で、妖精弓手が問う。

 

「ちょ、ちょっと!急にどうしたのよ!」

「人狼の鼻が嗅ぎ取った。急がなければ手遅れになる」

 

 そんな後方の会話。それらを無視して、人狼は鼻に従い駆けながら、元の姿へと戻っていく。

 二足から四足へ。戦闘は別として、彼ら人狼は通常の移動ならば四足歩行の方が早いのだ。

 その勢いのまま、暗闇に紛れる黒い体は猛進していき、やがて一つの扉の前へと辿り着く。

 酷い悪臭の立ち込める部屋だ。だが、人狼は何のためらいもなくその中へと扉を突き破って飛び込んでいた。

 黄金の瞳は夜目が利く。暗闇であろうとも、そんな事は何の関係も無い。

 

「………して………」

 

 人狼の優れた聴覚が、その音を捉えた。

 小さくかすれた声。

 

「……ころして…………」

「!」

 

 鼻の曲がりそうな悪臭の中、何度もうわ言の様に呟かれる声。

 そして、人狼の瞳はその光景を捉えた。

 壁に磔の様にされたエルフの女性の姿を。

 酷いものだ。凌辱の限りのみならず純粋な暴力も振るわれていたのかその頬は腫れているし血も流れている。流した涙の痕はくっきりと刻まれ、美しかったであろう髪もくすみ切っている。

 

 人狼は一切の警戒をすることなく、彼女へと直ぐに近寄っていた。

 瞬間、

 

「GOBU!!!!」

「こいつを殺してよ!!!!」

 

 汚物の中から飛び出してくるゴブリンと、叫ぶ森人の女性。

 ゴブリンの手には、汚物に汚れた刃物がある。完全な不意打ちであるし、毒による追撃で確実に侵入者を殺せる―――――筈だった。

 

「GO…………!?」

 

 強靭な肉体に、刃毀れした手入れされていない刃物が通るものか。

 ゴブリンの突き出したダガーは、その先端が僅かに毛皮を押すだけで刺さる様子など欠片も無い。

 硬直した醜悪なその頭に、完全に包み込んでも余りある手が押し付けられる。

 

「…………」

 

 それはまるで豆腐でも握り潰したように他愛なく、アッサリとしたもの。

 ゴブリンの頭部は完全に破壊され、その小さな体が僅かに跳ねると首無しとなってそのまま後方へと倒れて動かなくなった。

 人の振るう棒きれでも容易く破壊されるような脆い骨格なのだ。であるならば、巨岩すらも毟れる人狼の握力を受けて原型を保つ事など出来るはずもない。

 

 待ち伏せを意に返すことなく、人狼は掌についた脳梁などの滓を払って森人の吊るされたロープを爪で切り裂き壊れ物を扱うように抱きかかえた。

 ぐったりとした体。その汚れ切った頬を人狼は気にする様子もなくその分厚い舌で嘗めとっていく。

 親狼が子供へと行うグルーミング。そこに宿るのは愛情に他ならない。

 

「…………」

 

 掠れた視界の中、森人の女性は体躯に似合わずキューキューと喉を鳴らし、暗がりでより一層際立つ月の様な黄金の瞳が心配に揺れる様がよく見えた。

 

「だい、じょうぶよ…………」

 

 思わず、彼女は震える手で人狼の頬を撫でていた。

 

 強く、大きく―――――か弱い子供。

 獣が持ち合わせるべきでなかった感情を持ち合わせた哀れな怪物。

 

 淀んだ意識の中、彼女は独り怯える子狼を撫で続けるのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 カラカラとサイコロが振られる。

 出た目の結果、駒の運命は決まり、悲劇も喜劇も運しだい。

 

 そんなサイコロを振らせないのは、二つの駒。

 一つは只人であり、大局を左右するような運命の担い手には成れないが、それでも前に進む駒。

 一つは怪物であり、人間より遥かに強く、そして真っ白などっちつかずの駒。

 

 神々はどちらの駒にも注目していた。していたが、その目線は別だ。

 前者はドン引きしながら見ているし、後者の場合は何処か親の様な目線であったから。

 

 彼らの運命は未定。さりとて、周りの流れが引きずり込み、抗う事など許さない。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 人狼にとって、この状況は経験にない。

 元の姿のまま佇む彼の胸元。分厚い毛並みには、妖精弓手が抱き着いていた。

 オロオロとしながら、何度となく他の面々に顔を向けたりしているのだが、如何せん警戒を怠る訳にもいかない。

 実際のところ、人狼の側が一番安全である。彼の毛並みはゴブリン程度の攻撃ならば傷一つ付く事は無いし、ふさふさとした尻尾で覆ってもらえばそれだけで人一人を守るうえでは十分すぎるシェルターと同義になるのだから。

 

「この遺跡の地図があった。あの森人の使っていたものだ」

「先が続いておったのは通路の左側ではないか?」

「ああ」

「床の擦り減り具合が違ったからの。わしら鉱人にとって石、金、酒は慣れたものよ」

「そうか」

 

 種族柄の知識を披露する鉱人道士であるが、ゴブリンスレイヤーの食いつきはお世辞にも宜しくは無い。

 ただ、彼の知識には刻まれている事だろう。知らない事を、知らないと言える彼は、言い換えれば受け入れるだけの下地があるという事。

 事実、ゴブリンスレイヤーは己が特別ではないことを痛いほどに知っているし、理解し、痛感し、骨身に刻んでいると言えるだろう。

 故に、

 

「行くぞ」

 

 その足は止まらない。泣いても笑っても、ゴブリンは止められないし場合によってはあらん限りの苦痛を持って殺されることになるだろう。

 

「これはお前が持て」

 

 言って、彼は未だに打ちひしがれているであろう、妖精弓手へと血濡れた背嚢を向ける。

 無遠慮だ。少なくとも、女神官からすれば少々モヤッとするような振る舞いであり、決して褒められたような物ではないだろう。

 だが、彼は不器用な男。気の利いた言葉など出てこないし、言葉を選ぶことも無い。

 とはいえ、この場での最適解でもあった事は間違いない。

 

「…………ありがとう、人狼」

 

 抱き着いていた人狼から離れ、妖精弓手は床に転がる背嚢を手に取った。

 涙の痕もある、やつれた様な表情もしている。だが、その目は真っ直ぐに先を見据えていた。

 

「人狼。お前はそのままだ」

「…………?」

「この先、何らかの不確定要素が来た場合人型のお前は役に立たん。分かるな?」

「!」

 

 先行するゴブリンスレイヤーの指示に、人狼は頷くことで返答を返した。

 ゴブリンシャーマンなどが居ない状況での罠の設置や、見張りの有無。

 それら要素が、彼の脳裏にへばりついて離れない。

 通路の闇は、未だに続いている。

 

 

 

 

 

 

 隊列のフォーメーションとして狭い通路などは自然と一列となるのが定石だ。

 今回の場合、斥候諸々を熟せる妖精弓手と、ゴブリンに対する知識の抜きんでたゴブリンスレイヤーが先頭と二番目。その後ろがそれぞれ術士であり遠距離手段のある鉱人道士と回復可能な女神官。その後ろを、蜥蜴僧侶が続き、バックアタック警戒に人狼が来る流れ。

 

「…………」

「どうですかな、人狼殿。背後は万全か?」

「……!」

「その姿となると、喋ることが出来ないのは難点でしょうが、味方として見るならばこれ以上の心強さはありませぬぞ」

「ッ……ッ……」

 

 蜥蜴僧侶との会話、というか一方的な一人語りに、人狼が身振り手振りで何とかコミュニケーションを取ろうとする何とも微笑ましい光景。

 もっとも、蜥蜴僧侶が相手にしているのは自分よりも更に大きな怪物であり、振り回す身振り手振りですら巻き込まれれば骨に何かしらの異常が出そうな相手であるのだが。

 

 途中休憩をはさみ、一党は回廊へ。

 

「わあ…………!」

 

 女神官が声を上げるのも無理はない。

 天まで聳えるような回廊は遥か上方に迄続いており、月明かりが射し込んできているのだ。

 今が仕事ではなく、冒険であったならばどれほど良かっただろう。

 

「…………ッ」

「ええ、分かってるわ」

 

 元の姿となり、人化以上に鋭敏となった嗅覚を持つ人狼が気づき、それに妖精弓手も応える。

 二人が見下ろすのは、回廊の下。

 月光に照らされ、所々崩れた回廊の瓦礫が降り積もったそこに居るのは最弱にして、最悪の怪物。

 

「どうだ」

「見てのとおりよ。まだ起きていないけれど、ざっと見ただけで五十はくだらないわね」

「問題にもならん」

 

 数とは武器であり、その事をよく知っているはずのゴブリンスレイヤーが、しかし数を一考に挟まない。

 流石に妖精弓手も眉根を寄せた。

 一同の視線を集め、ゴブリンスレイヤーは作戦を語っていく。

 

「火責めでもなされるのですかな?」

「人狼をけしかけるだけだって言うなら、違う作戦を推すわよ?」

「火や人狼よりもより確実な方法だ」

 

 各々の出来る事を、出来る範囲でやる。何度も、そう言う彼の性格が如実に出た作戦。

 

 先方は、鉱人道士。

 

「“呑めや歌えや酒の精 歌って踊って眠りこけ 酒呑む夢を見せとくれ”『酩酊』」

 

 詠唱を終えると同時に酒を口に含んで空へと吐き出す。

 範囲を指定し、その中に居る相手を問答無用で酩酊させ行動不能にする術である。

 そこに続いて、女神官が奇跡を行使する。

 

「“いと慈悲深き地母神よ 我らに遍くを受け入れられる 静謐をお与えください”『沈黙』」

 

 こちらも、酩酊と同じく範囲型の軌跡。

 効果は音消し。叫ぼうが喚こうが、音を完全に消してしまうというもので、起き上がっていたゴブリンが騒いでいたが欠片も声は響かず、酩酊の効果で倒れ込んでいた。

 そして締め。

 近接が可能な四人が一匹ずつ確実にゴブリンの息の根を止めていくのだ。

 戦いではない、一方的な駆除。まるで、虫でも潰すようだ。

 

(血で、滑って…………!)

 

 慣れない妖精弓手は血で滑る黒曜石のナイフに四苦八苦しながら一匹、一匹とゴブリンを殺していく。

 周りでは、蜥蜴僧侶が魔法で生み出した『竜牙刀』を用いてゴブリンの首を掻っ切っており、その反対では人狼が握力を持ってゴブリンの頭を握り潰していた。

 どちらのやり方も、妖精弓手には真似できない。であるならば、自分と同じ状態であろう、ゴブリンスレイヤーへと目が行くというもの。

 彼は、己の剣を使っていなかった。

 ゴブリンの振るう短剣などを使って一匹を殺せば、また別の武器を手に取る、その繰り返しだ。

 

 如何に相手が魔物であろうとも、一方的に寝入りを襲って殺し続けるこの状況は心に来るものがあった。

 少なくとも、慣れてはいけない。慣れればそれは人としての何かが終わってしまう事に他ならないのだから。

 

 五十匹以上の大群ではあった―――――が、それを四人で分担すれば一人頭平均で十匹以上か。作業効率なども加味すれば更にその量にはバラツキが出るだろう。

 

「…………」

 

 すべて仕留め終わった彼らに言葉は無い。

 一方的な虐殺に言葉など不要であるし、まだまだ道の先は続いている。

 ゴブリンスレイヤーを先頭として、一同が向かうは、回廊の最下層に通じる大きな通路だ。

 待ち受けるのは―――――



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む



 等級とは何も適当につけられたものではない。

 当然のことながら、つけられた等級が高ければ高いほどに難易度、危険性などが増すという事であり、つまりは危険性を周囲に喧伝する効果がある。

 例えば、人狼は金等級案件。身体能力や群れである事を加味しており好んで虐殺を繰り返す事から、この等級が割り振られていた。

 例えば、ゴブリン。場合によっては素人でも倒せるため、割り振られるのは白磁など。だが、強化種などに関してはその括りではなく、英雄などともなれば銀等級案件となるだろう。

 

 

 

 

 

 

 ソレ、はこの事態の元凶。

 

 曰く、全身装甲に分厚いタワーシールドを持った戦士をその防御事殴り潰した。

 曰く、詠唱遣いをより強力な魔法によって焼き殺した。

 

 まさしく怪物であり、少なくとも人間がどうこうするには荷が勝ちすぎる代物である事は確か。

 

人喰い鬼(オーガ)…………!」

 

 妖精弓手が弓に矢をつがえながら、呻く。他の面々も一人を除いて緊張した面持ちで目の前に現れた怪物に向かっていた。

 只一人、

 

「ゴブリンではないのか」

 

 ゴブリンスレイヤーを除いて。

 冒険者からすれば、ゴブリンよりもよほど危険な相手である筈なのだが、彼は歪みない。

 

 しかし、オーガに対して火に油を注ぐといった意味合いではあまりにも失言が過ぎる。

 

「魔神将より、軍を預かるこの我を侮っているのかァ!!!!」

 

 人間の数倍はある巨大な体躯と、その肉体全てを覆う強靭な筋肉の鎧。

 それらを合わせ、手に持ったメイスの一撃は容易く地盤を破壊する。

 散開してその一撃を躱した一同に、更なる追撃が襲い来る。

 

「“カリブンクルス クレスント”」

 

 オーガの右手が掲げられ、その上に現れるのは巨大な火球。

 

「『火球』じゃと!?しかし、この大きさは…………!」

 

 鉱人道士が叫ぶように、オーガの生み出した火球はまるで太陽の様な大きさであったから。巻き起こる熱波だけでも肺が焼かれてしまいそうになる。

 

「皆さん!私の後ろに!」

 

 動いたのは、女神官。

 回避もくそも無い範囲攻撃を耐えるには、彼女に頼るほかない。

 

「“いと慈悲深き地母神よ か弱き我らを どうか大地の御力でお守りください”『聖壁』」

「“ヤクタ”」

 

 放たれた火球と障壁が激突する。

 少しの拮抗、さりとて出力の違いから障壁には大きな亀裂が走っていた。

 

「矮小な人間ごときの奇跡で我の魔法を止められると思うなッ!!!!」

「ッ!」

 

 壁が破られるのも時間の問題であるこの状況で、動いたものが居た。

 僅かに薄くなった業火の中、ソレは己の肉体に全てを委ねて駆け抜け、跳ぶ。

 

「Gaaaaaaa!!!!」

「貴様は…………!」

 

 咆哮と共に右拳を後方に置いた人狼は宙を飛ぶ。

 狙うは―――――オーガの顔面。

 

「ブッ!?」

 

 ミシッメキッ……と鈍い音を立てて人狼の拳がオーガの顔面へと突き刺さる。

 一瞬の間をおいて、その巨体は勢いよく後方へと吹き飛び通路脇の壁へと背中から突っ込んでいった。

 

 石造りの床に降り立った人狼。その全身からは若干の焦げ臭さと、薄く立ち上る煙が嫌に目立っていた。

 人狼の肉体は強靭だ。しかし、どこまで突き詰めても有機物、つまりは生物としての道理からは逃れることが出来ない。

 息を止めれば苦しくなる。動き続ければ疲弊する。空腹になれば何かを食べなければならないし、喉が渇けば水を飲む。

 そして、当然燃える。ふさふさとした体毛は、火が天敵であった。

 

「おのれぇ…………!」

 

 ガラガラと瓦礫を砕きながら、オーガは頭を振って立ち上がる。

 黄色く淀んだ眼は憤怒に染まり、真っ直ぐに人狼を捉えて離さない。

 

「貴様か!その黒毛に黄金の瞳!思い出したぞ、人狼の中に裏切り者が出たとな!」

「Grrrr…………」

「牙を向けるか、この我に!魔物より外れ、人間でもない貴様ごときが!」

 

 オーガは猛り、得物の切っ先を向ける。

 事実、この場を分けるならば魔神王の軍勢であるオーガ、それを打倒せんとする冒険者、そしてそのどちらからも微妙な位置にある人狼。

 だが、少なくともこの場では話は別。

 

「人狼を軸にする。散開だ」

 

 ゴブリンスレイヤーの命令に従い一同が動き始めた。

 妖精弓手は上階へ。弓矢を使う彼女は遠距離こそが主戦場だ。そして、蜥蜴僧侶に鉱人道士が術を行使する。

 

「Garuaaaaaaa!!!!」

 

 先陣にして真正面から突っ込むのは人狼。その人外の脚力と感覚を持って、オーガへと向かっていった。

 オーガとしてもこの状況、一番厄介なのは人狼だ。幼いとはいえ、その肉体は強靭。正面からの殴り合いとなればその分隙を晒す事になるだろう。

 

「嘗めるな、若造が!」

 

 繰り出されるのは振り下ろし。

 人狼の脳天を目掛けて振るわれた一撃だが、彼は自分から見て左側へとズレながらその一撃を紙一重で回避する。

 オーガがメイスを持っているのは、左腕だ。この場合、どちらに避けても同じように見えるがその実、剣ではないのだから誤り。

 そもそも、メイスというか棍棒というのに振るうべき方向というものが無い。剣と違ってどの体勢からもただ振り回すだけで相手に痛打を与える事こそが利点の一つであるからだ。

 この場合も、オーガは振り下ろした一撃をそのまま横薙ぎへと繋げることが出来る。というか、現に繋げていた。

 オーガから見て右へと左腕を大回りで胸元へと引き寄せるようにメイスを振るう。

 

「チッ、ちょこまかと!」

 

 再び間一髪、メイスは空を切った。

 人狼は真横から迫るメイスを、棒高跳びの背面跳びの要領で躱していたのだ。

 そして、これが人狼の狙い。

 実際にやってみれば分かるのだが腕を胸元に引き寄せるようにして振るいながら腰をその方向へと捻ると体がねじれ振るった腕の背中側が無防備に晒されることになるのだ。ボクシングなどでフックを躱した打ち終わりが狙われるのはこの為。

 

「“仕事だ仕事だ土精ども 砂粒一つ転がり廻せば石となる”『石弾』」

「そこよ!」

 

 無防備な背中へと襲い来る礫の嵐と、オーガの左目を射貫いた一矢。

 だが、前者はその体を揺らす事は出来ていても貫通することは不可能。矢に関しても僅かにその姿勢を揺らがせる程度にしか効果を発揮しない。

 

「おの―――――ッ!」

「Guruaaaaaaa!!!!」

 

 叫ぶ前にその顎へと拳が叩き込まれ、オーガの体が大きく仰け反り、口を勢いよく閉じた反動か己の鋭い牙によって千切れた舌が飛ぶ。

 

「~~~~~ッ!」

 

 舌とは血管の集まりであり、多くの神経も集まっている。舌噛み切って死ぬというが、出血多量に至るまで地獄のような苦しみを味わう事になるらしい。

 口元を抑えてもんどりうって倒れたオーガは、その場で悶絶している。

 如何に化物といえども、痛覚はある。痛いものは痛いし、血だって流れるのだ。

 

 倒れるオーガの腹。そこ目掛けて、回廊の壁面を足場に駆けまわった人狼は勢いそのままに突っ込んでいく。

 如何に毛玉といえども、筋肉質な体というのは重い。そして、速度+重量はそのまま破壊力に直結させることが可能。トラック事故が酷い事になるのも、重量があり一定以上の速度を発揮できることが一因と言える。

 

「ゴフッ!?ギ、ギザマ…………!」

 

 左目と舌の再生が終わったオーガであったが、人狼の突撃により起き上がろうとしていた体は再び床に叩きつけられる事になる。

 

「Gaaaaaaa!!!!」

 

 起き上がろうとするオーガの上に乗り、人狼はその両こぶしを連続で振り下ろし、その凶悪な面を更に変形させんと滅多打ちだ。

 爪と牙を使わないのは、オーガの強靭な筋繊維には本能的に効果が薄いと知覚しているため。

 だからこそ殴る。毛皮が天然の防具となり、拳を痛める事も無いのだ。存分に、念入りに殴り続ける。

 

 だがしかし、相手もさるもの引っ掻くもの。伊達に威張り腐っていた訳ではない。

 

「調子に……乗るなァアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 鉄塊すらも一撃で歪ませる怪力を持って、拘束を弾き飛ばす。

 吹き飛ばされた人狼は、空中で姿勢を制御すると床へと四足の体勢で降り立った。

 

「半端モノ風情が…………!」

「Grrrrr…………!」

 

 最早、互いしか見えていないようなこの状況。

 

「死ねェエエエエエエ!!!!」

 

 再び振り落とされたメイス。その瞬間に、人狼は前へと飛び出している。

 

「すぅうううう…………!」

 

 大きく息を吸い込んで毛並みを膨らませ―――――大きくなった尾を体の前へと回して真正面から、メイスの一撃を受け止めていた。

 

「がふっ…………!」

 

 当然、いかに人狼が強靭であり、堅牢であろうとも正面からオーガの全力を受け止められる保証など何処にもない。

 現に盛大な粉塵を上げてその体は床へとめり込んでおり、受け止めているが嫌な音が全身から聞こえていた。

 しかし、

 

「ぬっ…………!」

 

 がっしりと掴まれその上、尾まで絡ませられたメイスは持ちあがらない。

 少なくとも、オーガであろうとも、人狼に抑えられたままこのメイスを振り回す事など出来ないだろう。

 

 武器を持つ者というのは、大なり小なり武器に対する愛着とでも言うべきか、手放せないタイムラグのような物がある。

 例に漏れず、オーガもまたメイスを取り返そうと意識がそちらを向いていた。

 

「―――――馬鹿め」

 

 瞬間、空間が弾け飛ぶ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10

―――――人でもなく獣でもないのならば、自分は一体何なのだろうか。

 

 

 

 

 

「…………?」

 

 パシャパシャと耳元を濡らす水の音を聞きながら、人狼はぼんやりと目を開けた。

 痛む体が起き上がる事を許さず、その霞んだ視界は回廊のはるか先にある空は、そろそろ夜の帳もどこかへと行ってしまいそうな様子だ。

 なぜ自分がここに居るのか、人狼は思い出せない。

 ただ、傷む全身だけが何かを思い出させようと急かしてくる。

 

「良かった、目が覚めたのね」

「?」

「オーガと戦ってから、気絶してたのよ。思い出せるかしら?」

「……………………」

 

 自分を上から覗き込んできた妖精弓手の言葉を受けて、人狼は考え込む。

 少しの間をおいてみれば、混濁していた意識も覚醒しそれに合わせて記憶の方もハッキリとし始めた。

 思い出すのは、体にのしかかる超重量。全身の骨が砕かれてしまうかもしれないと思えるほどの重さであり、とてつもない痛みを伴った。

 そして、その直後に巻き起こった衝撃。

 

「何が起こったのか分かってない顔ね」

 

 ぼんやりしている人狼の反応を見て、妖精弓手は指を立てて説明を行う。

 曰く、オーガを倒したのはゴブリンスレイヤー。『転移』のスクロールを海底へとつなげ、開くと同時に圧縮された水が解放され高圧水流としてオーガの胴体を切断、周囲の水はその名残であるという事。

 一通り、説明を聞き既に脅威が失せた事を把握した人狼はその体から力を抜いた。

 

「とりあえず、戻るわよ。人型になれるかしら?」

「?」

「あなたを抱えて歩けるわけないでしょ。僧侶より大きいじゃない」

「…………」

 

 妖精弓手の言葉を受けて、人狼は痛む体を無理に動かした。

 毛並みの豊かな尻尾で全身を包み込み、大きく膨らむと、次の瞬間にはいつもの少年の姿へと変化。だが、その褐色の肌には打撲の痕が痛々しく残っており、心なしか両腕の骨も歪に歪んでいるようにも見えた。

 

「ほら、おぶってあげるから」

「う…………」

 

 あの巨体の質量は何処へ行ったのか、妖精弓手は軽々と人狼を背負って見せた。

 今回の戦闘。とどめの一撃(ラストアタック)こそゴブリンスレイヤーであったが、人狼がいなければ紙一重の部分が多かった。

 女神官は奇跡を使い切っているし、蜥蜴僧侶も余裕があれども『竜牙兵』はもう出せない。鉱人道士も術はまだ使えるが、それでも1~2回程度。オーガ以上の敵が仮に居るとするならば心もとない。妖精弓手もまた、要所要所で矢を放っていたために残弾心許なく、近接戦闘が得意な訳でもない。

 残るゴブリンスレイヤーも戦えはすれども、手札は少々削られてしまっている。

 何より、人狼が動けない。今も、背負ってもらっている妖精弓手に全てを預けて掴まる様子もない程だ。

 

「…………」

「ここまでじゃ、かみきり丸よ」

「さよう。流石に拙僧らも消耗が激しすぎるというもの。特に、人狼殿は『治療』などの回復系が効きにくい様子。疲労困憊からの全滅も、冒険には珍しくはありませんな」

「私の矢もあと数本で打ち止めよ。それに、人狼が動けないわ。この子守りながらじゃ満足に戦えないでしょ」

「引き際が分からんほど、いかれちまってる訳じゃあるまい?」

「ゴブリンスレイヤーさん!」

 

 徒党を組む面々それぞれから言われ、ゴブリンスレイヤーは熟考する。

 パーティの疲弊具合はムラがあれども等しく疲れ切っている。仮に進めばどうなるかなど、新米の冒険者であっても明らかな事だろう。

 不意に、彼は傷付いた体を癒す為か、眠り始めた人狼へと目を向けた。

 

「―――――いや、ここまでだ」

 

 かくして一党の最初の冒険に幕は下ろされる。

 

 

 

 

 

 

 ツンと鼻に突く薬草のニオイ。

 

「~~~~っ!」

「ほら、暴れない」

「やっ!くさっ!」

 

 パタパタと足を振って頭を振って嫌だ嫌だと駄々をこねる人化状態の人狼を、しかし妖精弓手は逃がすことなく捕まえ押さえ込み、軟膏を傷へと塗り込んでいた。

 オーガ討伐の末、一同は辺境の街へと帰って来たのだがここで問題が発生した。

 休んだことにより回復した蜥蜴僧侶や女神官が奇跡を持ってメンバーを回復する中、どうにも人狼にだけは術の掛かりが悪かったのだ。

 結果として折れた骨や裂傷の類、少なくない火傷など全身の傷が多量に残ってしまっていた。

 どうしたものかと頭を悩ませ、そして発案されたのがコレ。

 流石に人狼そのままの状態では嫌がって行う身動ぎ一つでも石造りの家屋を破壊しかねない為に、人化させその上で薬を使うというものだった。

 当人は嫌がったが、如何に怪物としての回復能力を持っているとはいえ限度がある。何より骨折などは確りと固定しておかなければ変な治り方をしてしまいかねない。

 というわけでこうして妖精弓手が秘伝の軟膏を使っているのだが、如何せんニオイがキツイ。

 それこそ、そこまで鼻の良くない人間ですら近寄るだけでも顔を顰めるようなニオイなのだ。

 人間よりもはるかに鼻の良い人狼からすれば近寄りたくもないものであり、ましてやそんなものを体に塗るなど冗談ではない。

 ただ、本気で逃げていないのは偏に自分を抱え上げる妖精弓手を慮っての事。仮に本来の姿で暴れれば、彼女はミンチよりも酷い有様になりかねないだろう。

 

「ほら、終わったわよ」

「うぅぅぅ…………」

「唸らないの。これも怪我を治すには必要なんだから」

 

 ぷっくり、と頬を膨らませた人狼の体には真っ白な包帯があちこちに巻かれており、特に肩回りと両腕は動かせない様に固定するほどの徹底ぶり。

 

「あーん」

「…………あー」

 

 妖精弓手の差し出した肉の刺さった串へと、人狼は大口を開けて齧り付く。

 そんな二人の様子を、席の体面に座る鉱人道士と蜥蜴僧侶は流し見ていた。

 

「すっかり弓手殿は、人狼殿の姉君のようですな」

「かーっ!小娘が調子に乗っておるだけじゃろうて。それよりも、鱗の」

「人狼殿の件でしたならば、拙僧からは何とも。恐らく、モンスターであるから、としか」

「ふむ……しかし、困ったもんじゃわい。戦力としては申し分ない、が回復に関しては己の回復力次第。場合によっちゃあ人狼を連れる事がデメリットにもなる」

「しかしながら、人狼殿の戦力として見るならば値千金。前衛としてもこれ以上の者は、在野にはおりますまい」

「そりゃ、わしも分かっとる」

 

 一党を組んだわけではない。というか、“祈らぬ者”をパーティメンバーに加えるなど聞いた事も無い事例だ。

 それでも心配の言葉が二人から出てくるのは、根っこの部分が善良であるからか。

 

「別に、気にする事ないでしょ?」

 

 二人の会話が聞こえていたのか、妖精弓手が話しに割り込んでくる。

 

「この子がどうあれ、私達を守るために戦ったのは事実でしょ。なら、悩む事なんて何もないわ。デメリットよりもメリットの方があるんだもの。それで良いじゃない」

「そうは言うがな、耳長の。わし等やこの街の冒険者ならばいざ知らず、他所ではどうにもならんぞ」

「少なくとも、この見た目ならバレないわよ」

「?」

 

 妖精弓手が示す彼女の膝の上に乗った人狼は口の周りを肉の油で光らせながら首を傾げていた。

 こんな姿を見て誰が、金等級案件の人狼だと思うだろうか。少なくとも、彼の本来の姿を知るこの場の面々ですらその事を忘れそうなほどに幼い動作は警戒心をなくさせる。

 

「…………まあ、考えても仕方がないか」

「人狼殿、こちらの肉も美味ですぞ」

「ん~!」

「こら、暴れない。骨がまだ治って無いでしょ」

 

 気の抜けるやり取り。さりとてそれは日常という名の尊いものだ。

 

 何故なら日常は、至極あっさりと壊れるのだから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。