ハイスクールD×D ~神魔兄弟の奮闘~ (さすらいの旅人)
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放課後のラグナロク
プロローグ


お久しぶりです。

久しぶりにこっそりとハイスクールD×D連載の第四弾を出しました。


『ふはははは! ついに貴様の最後だ! (けん)(りゅう)(てい)よ!』

 

 見ただけで怪人と思われる輩が勝利宣言するように高笑いをしていた。

 

『どうかな! 勝負ってのは最後までやってみねぇと分からねぇぞ! 行くぜ! 禁手化(バランス・ブレイク)!』

 

 イッセーそっくりの特撮ヒーローが画面で変身を遂げた。元来の茶髪からリアスと似た深紅色へとなって逆立ち、同時に全身から真紅のオーラを放出させている。

 

 その姿はイッセーの禁手(バランス・ブレイカー)そのものだ。

 

 俺――兵藤隆誠と(イッセーとアーシアを含めた)グレモリー眷族、イリナ、アザゼルは兵藤家の地下一階にある大広間で鑑賞会をしていた。

 

 巨大モニターに映る鑑賞作品は、俺も監修した『拳龍帝ファイタードラゴン』という特撮作品。現在、冥界で絶賛放映中の子供向けヒーロー番組だ。

 

 もう言わなくても分かるが、この作品は俺の弟――イッセーが主役だ。

 

 尤も、アレはイッセー本人が演じていない。イッセーと背格好が同じ役者にCGでアイツの顔を合成加工している。何れは本当にやってもらう予定で、修行の合間を縫って俺が時々演技指導中だ。と言っても、俺の場合は戦闘をメインとした指導だけど。

 

「……始まってすぐに冥界で大人気みたいです。特撮ヒーロー、『拳龍帝ファイタードラゴン』」

 

 イッセーの膝上に座っている子猫が尻尾をふりふりさせながら言う。随分と詳しい事で。

 

 ここまで大人気なのは正直言って予想外だった。放送開始されて早々に視聴率が五十%を超えるお化け番組になってると聞いた時、俺は思わず言葉を失って呆然としてしまう程に。子供に人気があるので、最初は十%程度の視聴率は出せるかもしれない、と言う予想を遥かに超えていたからな。

 

 物語のあらすじはこんなところだ。

 

 伝説のドラゴンと契約した若手悪魔の武道家イッセー・グレモリーは、悪魔に敵対する邪悪な組織と戦うヒーローである。

 

 強さを求め、強くなる為に戦う男。自身に迫りくる悪人を倒す為、伝説のファイタードラゴンとなる! ってなところだ。もうぶっちゃけ、ドラグ・ソボールの空孫悟と似たキャラだ。

 

 今まで編集でしか見なかったが、番組として見るのは初めてだ。近くにいるイッセーは今も恥ずかしそうに見ている。

 

 因みに著作権に関してはグレモリー家が仕切っている。番組を考案した俺も当然著作権を持っているが、殆どはグレモリー家に任せきりだ。冥界に関する番組は悪魔が仕切らないと色々と問題が起きかねないからな。俺としても、信用と信頼のあるグレモリー家だからこそ任せている。

 

 グレモリー夫妻から聞いた話だと、『ファイタードラゴン』で相当稼ぎ始めたようだ。グッズも販売開始したとかも言ってた。何とも行動が早い事で。

 

 しかも玩具版のブーステッド・ギアの試作型なんて送られてきたんだよな。恐ろしい程に精巧で、音声まで再現されてから、俺やイッセーも思わず感心したぞ。

 

『いくぞ、邪悪な怪人!』

 

 真紅の闘気(オーラ)を纏った『ファイタードラゴン』が一瞬姿を消すも、直後に怪人の目の前に現れて攻撃を仕掛ける。高速戦闘だけでなく、闘気(オーラ)弾による派手な爆破演出等も巻き起こっていた。

 

 その後、主人公は敵の新兵器の力でピンチになるが、そこへヒロイン登場となる。

 

『ファイタードラゴン! 来たわよ! 私の力を使って!』

 

 登場したのはドレスを着たリアス。彼女も当然本物じゃなく、リアスとよく似た背格好の役者にリアスの顔を加工している。

 

『来てくれたかっ、アリス姫! これなら勝てる!』

 

『ファイタードラゴン』をサポートするアリス姫が飛ばした紅い魔力をその身に受けた。これも言うまでもないが、アリス姫はリアスの役名だ。リとアを入れ替えて『アリス姫』。俺が考えた安直なネーミングだが、流石にリアスじゃ不味いので、敢えて別名にさせたって訳だ。

 

 そして紅い魔力を受けた主人公の身体が紅く輝き、パワーを取り戻して戦いを仕掛けていた。

 

「味方側にはファイタードラゴンの相棒役としてアリス姫がいてな。ピンチになった時、アリス姫からの魔力を送る事で無敵のファイタードラゴンになるんだ」

 

 俺の説明に反応したリアスがこっちを見る。

 

「……ねぇリューセー。グレイフィアに聞いたわ。アリス姫の案をグレモリー家の取材チームに送ったのはあなたよね? このアリス姫って、もしかして何れは『ファイタードラゴン』と……」

 

 リアスは何かを期待している様子で訪ねてきた。

 

「悪いけど、そう言うネタバレ的な内容は答えられないよ。取り敢えず今は、リアスの人気が一段と高くなったって事で満足しといてくれ」

 

「……分かったわ」

 

 俺からの返答にリアスは残念そうな表情をする。

 

 リアスの質問内容は、『アリス姫』と『ファイタードラゴン』が結ばれて夫婦になる予定はあるのか、と言う質問だ。いくら俺が監修者だからって、そう言った展開は物語を見ながら楽しまないとダメだ。こう言ったヒーロー番組は特にな。

 

 ………まぁぶっちゃけ、リアスが望んだ展開にしようとは思っている。俺としても、いくら『ファイタードラゴン』の設定が大して女に興味無い武道家だからって、『アリス姫』を戦いだけの相棒役だけで終わらせようと思っていない。恋愛シーンも時折出すつもりだ。流石に子供向けの番組だから、卑猥なシーンは一切無い健全なものだけど。

 

「ってか兄貴、やっぱり俺チョー恥ずかしいんだけど……」

 

「そう言うなって。初めて悪魔活動のデビュー早々大人気になるなんて、滅多に無いんだぞ」

 

 知っての通り、イッセーは先日のレーティングゲーム襲撃後に人間から転生悪魔となり、漸く正式なリアスの眷族となっている。妹分のアーシアも同様に。

 

 本来、眷族となったばかりの悪魔は雑用などの地道な活動からスタートするのが決まりとなっている。と言っても、眷族候補の時から既にやっていたが。しかし、眷族候補は悪魔としての経歴には一切入らないので、正式な悪魔となった事によって一からスタート状態となっている。

 

 だと言うのに、イッセーは最初の悪魔活動で早々に華々しいデビューした。冥界側からすれば、もう完全に順序をすっ飛ばしているも同然だ。

 

 当然、イッセーのデビューを快く思わない新米の眷族悪魔達もいるだろう。だが、イッセーは現赤龍帝で並みの上級悪魔を簡単に倒せる実力者。気に食わないという理由で襲撃したところで、返り討ちにされるのがオチだ。

 

 加えて聖書の神(わたし)の弟でもあり、名門のグレモリー家や魔王サーゼクスもバックにいる。そんな命知らずな真似が出来る新米がいたら、逆に驚いて感心する。ま、もし搦め手を使っての嫌がらせなんかしたら、相応の手を打たせてもらうが。

 

「こんな形でお前が有名になった事で、兄の俺としては鼻が高い」

 

「そうよね。幼なじみがこうやって有名になるって、リューセーくんの言う通り鼻高々よね」

 

 俺の台詞にイリナが賛同するようにキャッキャはしゃぎながら言う。もう『ファイタードラゴン』を存分に楽しんでいるみたいだ。

 

 イリナは天使だが、もうすっかりオカ研の面々にとけ込んでいる。俺も幼なじみとして接してくれるも、少しばかり聖書の神(わたし)に対する申し訳無さが感じるけど。

 

「そういえば、イッセーくんって小さい頃、特撮ヒーロー大好きだったものね。私も付き合ってヒーローごっこしたわ」

 

 と、イリナが変身ポーズをしながら言う。俺やイッセーが小さい頃に見ていたヒーローのものだ。

 

 言われてみればイッセーは空孫悟だけじゃなく、特撮ヒーローにも憧れていたな。特に変身シーンはキラキラしながら見ていた。

 

「確かにやったなぁ。あの頃のイリナは男の子っぽくて、やんちゃばかりしてた記憶があるな。それが今じゃ、俺好みな可愛い美少女さまなんだから、人間の成長って分からん」

 

 俺好みの辺りを聞いたイリナは、途端に顔を真っ赤にする。

 

「もう! イッセーくんったら、いきなりそんな風に口説くんだから! も、もしかしてそう無自覚にリアスさん達を口説いていったの……? だとしたら恐ろしい潜在能力だわ! 堕ちちゃう! 私、堕天使に堕ちちゃうぅぅぅっ!!」

 

 あっ、イリナの羽が白と黒で点滅してる。堕天するシーンは久しぶりに見たな。

 

 天使は常に清純な存在でなければならない。なので欲に負けたり、悪魔の囁きを受けると堕天してしまう。とんだ厳しい誓約を付けてしまったと、聖書の神(わたし)は今も少しばかり後悔している。

 

 イリナの堕天を見たアザゼルが豪快に笑っている。

 

「ハハハハ、安心しろ。堕天歓迎だぜ。何しろミカエル直属の部下だ。VIP待遇で席を用意してやる」

 

「いやぁぁぁぁぁっ! 堕天使のボスが私を勧誘してくるぅぅぅっ! 主よ、じゃなくてリューセーくん、助けてぇぇぇぇっ!」

 

「はいはい、分かったから」

 

 イリナは涙目で俺に向かって天の祈りを捧げていた。

 

 その堕天は何とかしてあげるから、取り敢えずその祈りは止めような。

 

 因みに堕天の止め方は、白と黒に点滅してるイリナの羽に触れて、聖書の神(わたし)のオーラをちょっと注げば元通りになる。これは聖書の神(わたし)ならではの方法だが。

 

「リューセーお兄さまのおかげで、イッセーさんが有名になるなんて嬉しいです」

 

「そうだな。私たち眷族の良い宣伝にもなる。隆誠先輩には感謝しないと」

 

 イッセーの隣にいるアーシアとゼノヴィアが楽しそうにしていた。

 

 アーシアから『リューセーお兄さま』……何度聞いても良い響きだ。

 

 初めてそう呼ばれた時の俺は感激の余り、涙を流しながら聖書の神(わたし)の姿になった直後、そのままアーシアを抱き締めてしまった。とても嬉しかったとは言え、妹にセクハラ行動をしてしまったのを後悔したよ。

 

 アーシアはアーシアで、俺に抱きしめられた事で物凄くパニックになっていたようだ。兄とは言え、聖書の神(わたし)からの抱擁なんて全く予想してなかったと言ってたし。因みにイッセーやリアス達が苦笑している中、ゼノヴィアとイリナは物凄く羨ましそうに見ていたそうだ。

 

 以前の事を思い出していると、何やら朱乃がイッセーの肩に顔を載せて、艶っぽい声を耳元で囁いている。

 

「イリナちゃんを口説くのもいいですけれど、そろそろ約束を果たしてもらないと困りますわ。ですよね、リューセーくん?」

 

 イッセーと頬ずりをしながら俺にも言ってくる朱乃。

 

 約束? 一体何の話だ?

 

 俺が必死に思い出している最中、イッセーの隣でアーシアが不機嫌となっていた。リアスも目元をひくつかせている。更には子猫も無言でイッセーの太ももを抓っていた。全員、イッセーと俺を見ながら。

 

「約束?」

 

「ちょっと待て朱乃。俺はここ最近、お前と直接約束した覚えは無いんだが……」

 

 イッセーと俺が聞き返すと、朱乃は満面の笑みで言う。

 

「デートの約束ですわ。ほら、ディオドラ・アスタロトとの戦いでイッセーくんが言ってくれたでしょう? 遊園地のチケットをあげるから、二人で行くと良いってリューセーくんが」

 

 ……………………あ、ああ~~。やっと思い出した。

 

 確か朱乃をパワーアップさせる方法として、イッセーにデートの誘いをしろって言ったんだった。

 

 もう色々な事があり過ぎたから、もう完全に忘れてたよ。と言うより、思い出してる暇なんか全然無かったし。

 

 それに、あの時の俺は阿呆のクルゼレイやシャルバ、アーシアの喪失、そして暴走したイッセーの事で頭がいっぱいだったからな。

 

「あー、確かに言いました」

 

「と言うか朱乃、お前ちゃんと覚えていたんだな」

 

 てっきり、朱乃も俺と同様に色々な事があり過ぎて忘れていると思っていた。

 

「もちろん。……もしかして二人とも、あれはウソなの……?」

 

 イッセーには目元を潤ませて悲しそうな顔をした後、俺にはジトッとした目で睨んできた。何か俺とイッセーに対する差が違うな。

 

「ウ、ウソじゃないです! だよな、兄貴!?」

 

「あ、ああ、勿論だ。遊園地のチケットもちゃんとある、ほら」

 

 俺が慌てながら、収納用異空間から遊園地のチケットを取り出して朱乃に見せる。

 

 チケットを見た朱乃はウソじゃないと分かったのか、更にギュッとイッセーを抱き締めて、心底嬉しそうな声音で言う。

 

「うれしい! ありがとう、お義兄さま! じゃあ、今度の休日、デートね。うふふ、イッセーくんと初デート♪」

 

 お義兄さまって……いくら何でも気が早過ぎだろ。それに朱乃からそう呼ばれると何か複雑だよ。

 

 それに加え、今の俺はとても不安だった。何故なら、俺とイッセーと朱乃を睨む女性陣を見ただけで何かが起こりそうだと確信しているから。




久しぶりに書きましたが、今回は原作の流れと大して変わりません。


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第一話

明けましておめでとうございます。

新年早々にすみませんが、今回は短いです。


 翌日の放課後。

 

 下校時間間近だが、俺達は気にしてないようにお茶を飲んでいる。イッセーたち二年生がやる予定の修学旅行の話を聞きながら。

 

 顧問であるアザゼルは今日部室に来ていない。この所、冥界に帰って各勢力との談合を行っている。本来であれば元トップの聖書の神(わたし)も参加すべきと思われるが、三大勢力の助っ人と言う立場である為に極力参加はしない。と言うより、積極的に参加したら聖書の神(わたし)がトップを退いた意味が無いしな。

 

「そう言えば、二年生は修学旅行の時期だったわね」

 

 リアスは優雅に紅茶を飲みながら言う。

 

「確か前に兄貴から聞いた話だと、部長と朱乃さんも京都に行ったんですよね?」

 

 イッセーの質問に朱乃が答えようとする。

 

「そうですわ。部長と一緒に金閣寺、銀閣寺と各所を回ったものですわ」

 

「そうね。けれど、意外に三泊四日でも行ける場所は限られてしまうわ」

 

 リアスが頷きながら話を続けようとする。

 

 イッセー達に計画的な行動をするように言ってると、朱乃が途端にリアスの失敗談を語ってくれた。最後に訪れる予定だった二条城に行く時間がなくなってしまい、駅のホームで悔しそうに地団太踏んでいたと。

 

「成程。だからあの時、リアスがおかしな行動をしていたって事か。これで漸く謎が解けたよ」

 

「リューセー、もしかして見てたの……!?」

 

 俺の呟きに反応したリアスが、頬を赤らめながらこちらを見る。

 

「ああ。二条城を見た後、駅のホームへ戻った時にリアスの姿を見かけてな。『上級悪魔のリアス・グレモリーに一体何が起きた?』ってな感じで」

 

 言うまでもないが、当時の俺は悪魔のリアス達に素性を知られないよう、普通の一般人として振舞っていた。

 

 あの時は安倍も含めた数人のクラスメイト達とグループで行動していて、偶然に地団太を踏むリアスを見た時は驚いたよ。一緒にいた安倍は俺と同じく疑問を抱いていたが、他のクラスメイト達は戸惑いつつも麗しのリアスを見れてラッキーだとはしゃいでいた。

 

 俺が去年の事を軽く説明すると、リアスは更に恥ずかしくなったのか、両手で赤くなっている顔を隠そうとする。

 

「まさか、リューセーだけじゃなく清芽さんにまで見られていたなんて……!」

 

「あらあら、うふふ」

 

 予想外に醜態を晒してしまったと後悔するリアスに、面白そうに見ている朱乃。

 

 因みにリアスが二条城へ行けなかった理由は、日本好きに加えて憧れの京都だった為、必要以上に町並みや土産屋に目が行って時間が掛かってしまったらしい。それだけ京都が楽しみだったと言うのがよく分かったよ。

 

 すると、イッセーが何か気付いたように尋ねようとする。

 

「修学旅行で訪れるまで京都へ行かなかったんですか? 移動は魔法陣ですればいいと思うんですが」

 

 そう言うイッセーに、リアスは人差し指をノンノンと左右に振った。

 

「分かってないわね、イッセー。修学旅行で初めて京都に行くからいいのよ? それに移動を魔法陣でするなんて、そんな野暮な事はしないわ」

 

「憧れの京都だからこそ、自分の足で回って、空気を肌で感じたかった。ってか?」

 

「その通りよ、リューセー」

 

 俺が繋げて言うと、リアスは正解だと頷く。

 

 日本好きなのは知っているが、リアスって本当にこういう関連は夢中になるなぁ。

 

 確か以前、次期当主になっても人間界と冥界を行き来しながら生活したいって俺とイッセーに言ってたし。

 

 それはそうと、今回の修学旅行にアザゼルも同行するとイッセーが言ってた。どうやらアイツも京都を堪能したいようだ。

 

 用意されたお茶を飲み干した後、リアスは話題を変えようとする。

 

「修学旅行もいいけれど、そろそろ学園祭の出し物についても話し合わないといけないわ」

 

 そう。リアスの言う通り、今回オカ研の議題は学園祭の出し物だ。

 

 駒王学園は、体育祭、修学旅行、学園祭は間が短くて連続で行う。行事関連は特に二年生が大変だ。

 

 朱乃からプリントを受け取ったリアスは、すぐにテーブルの上に置いた。これはオカ研の出し物を書いて生徒会に提出する物となっている。

 

 提出は本当ならもう少し先になるが、リアスはイッセーたち二年生の修学旅行を考慮して、早めに決めて提出する事になった。イッセー達が修学旅行に行ってる間、三年生と一年生で準備が出来るからな。

 

 修学旅行だけでなく、学園祭をやる事にアーシアとゼノヴィア、そしてイリナも楽しみにしている。教会トリオは、こういったイベントが大好きだからな。はしゃぐ気持ちは分かる。

 

「確か去年は……お化け屋敷でしたっけ? 俺と兄貴、その時は所属してませんでしたけど、本格的な作りで話題になってましたよ」

 

「そう言えば去年ウチのクラスメイトから聞いたが、随分リアルだったと言ってたぞ。まるで本物のお化けにしか見えなかったって」

 

 俺とイッセーは当時、オカ研を警戒してお化け屋敷に入らなかったから、話を聞いただけに過ぎない。

 

「そうね。本物のお化けを使っていたのだもの。それは怖かったでしょうね」

 

 さらりと言ってのけるリアスに、俺とイッセーは驚いた顔をする。

 

「ほ、本物だったんですか……?」

 

「おいおい、そんな事して大丈夫だったのか?」

 

 俺たち兄弟からの問いに、リアスは平然と笑顔で答える。

 

「ええ。人間に害を与えない妖怪に依頼して、お化け屋敷で脅かす役をやってもらったわ。その妖怪たちも仕事がなくて困っていたから、お互い丁度良かったのよ」

 

「いやいや、俺が訊いたのはそっちじゃない。そんな反則的な事をやったら生徒会が絶対に黙っていないと思うんだが」

 

 俺が細かく言うと、朱乃がリアスの代わりに応えようとする。

 

「リューセーくんの仰る通り、後で生徒会に怒られましたわ。当時副会長だったソーナ会長から、『本物使うなんてルール無視もいいところだわ!』って」

 

 矢張りな。あの真面目なソーナが見逃す筈がない。

 

 ってか、本当にルール無視もいいところだぞ。

 

「って事は、今年もお化け屋敷ですか? だったら段ボールヴァンパイアのサーカスでもやりますか?」

 

「ははは。それは名案だ、イッセー。引き籠もりを更に改善させる案としては良いかもしれないな」

 

 俺たち兄弟の発言にギャスパーがぷっくり頬を膨らませて、すぐにイッセーの頭をポカポカと叩く。

 

「先輩たちのいじわるぅぅぅぅっ! すぐに僕をネタにするんだからぁっ! 特にイッセー先輩はぁ!」

 

 ギャスパーはイッセーが卒業するまでは弄られるだろう。まぁその分、イッセーもイッセーで、貴重な男子の後輩の面倒を見る事になっている。

 

 にしても、ギャスパーは凄く進歩したよ。今までは俺が何とかしようと時間を掛けていたと言うのに、イッセーに任せた今はこうして部室で俺達と談笑してるんだよな。改めて考えると、イッセーは本当に凄いよ。流石は俺の弟だ。

 

 俺の考えを余所に、イッセーからの提案にリアスは悩んでいる様子だった。

 

「取り敢えず、新しい試みを――」

 

 リアスがそこまで言ったところで、全員のケータイが同時に鳴った。

 

 それが何を意味しているのかを知っているので、俺達は顔を見合わせていた。

 

「お前達、行くぞ」

 

 俺がそう言うと、リアス達はコクンと頷いて行動を開始する。




今回は話を区切る為に短くなってしまいました。


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第二話

今回は原作とは違うオリジナル路線です。


 ケータイから届いた報せには、『二つの廃工場に敵が潜んでいる』とあった。しかも、それらはかなり距離がある為、一つずつ対処するには時間を要してしまう。

 

 なので今回は、二手に分断して対処する事にした。グレモリー眷族+イリナは一つ目を、俺は二つ目を対応すると。

 

 俺の提案にリアス達は難色を示していた。いくら俺が強くても、一人だけでやるのは危険だと。

 

 その中で特に反対していたのは元教会出身のゼノヴィアと、転生天使のイリナだ。イリナは天使長ミカエルの命により派遣されてるので、万が一に俺の身に何かが起きたら大目玉を喰らうと大反対している。

 

 彼女達が反対する気持ちは分かる。俺は嘗て天界のトップとして君臨していた聖書の神だ。人間に転生したとは言え、ミカエルたち天使勢が未だに聖書の神(わたし)を敬い、各勢力からは警戒されている。そんな聖書の神(わたし)が単独行動したら、危険だと反対するのは至極当然だ。

 

 聖書の神(わたし)を心配する気持ちは分かるけど、今は三大勢力の助っ人の立場だから他のトップ達は違う。俺は積極的に動ける立場なので、単独行動をしても何ら問題はない。尤も、もし自分の身に何か遭った場合は自己責任になるがな。

 

 取り敢えずリアス達には一つ目の廃工場を任せるように言った俺は、すぐに転移を使って目的地から少し離れた場所へ到着するが――

 

「良いのか、イッセー? お前はもう正式なリアスの眷族なのに、こんな勝手な事をして」

 

「確かにそうだが、俺は今でも兄貴の側近的な立場なんだろ? だったら俺が一緒に行っても問題無い筈だ」

 

 イッセーが超スピードで接近して俺の肩に触れた為、一緒に転移する事になってしまった。

 

「珍しいな。俺が分断の提案をした際、必ずリアスやアーシアたち美少女側と行動する筈だと言うのに。リアスに怒られるぞ?」

 

 イッセーは俺の実力を理解と同時に大して心配はしてないから、リアス達の方へ行こうとする。しかし、今回はリアスの制止を振り切って俺と行動するとは。

 

「部長には後で謝るよ。それに、俺が行けば部長やイリナ達も少しは安心するだろうしな。兄貴だって、後々にアザゼル先生やミカエルさんから小言を言われるのは嫌だろ?」

 

「………まぁ、確かに」

 

 言われてみればイッセーの言う通りかもしれない。アザゼルはまだ良いとしても、後から知ったミカエルが小言ついでに護衛を付けるべきだとか進言するのが目に見えてる。

 

「けど、一体どう言う風の吹き回しだ? いくら理由があるからって、お前がそんな殊勝な事を積極的にやるとは思えないんだが。その気遣いは受け取っておくから、お前は早くリアス達の所へ――」

 

「無理すんなよ。ここ最近、参ってるんだろ?」

 

「っ……」

 

 俺がリアス達の所へ戻る様に言ってる最中、イッセーが突然真剣な顔をして言ってきた。

 

 ……まさかイッセーの奴、俺の心情を察して無理矢理付いてきたのか?

 

「何を言ってる? 常に元気な俺が参る筈が――」

 

「今ここには(おれ)しかいない。だから正直に言ってくれ。兄貴、ここ最近襲撃してる『禍の団(カオス・ブリゲード)』――英雄派の事を考えてるだろ? 特に神器(セイクリッド・ギア)の所為で、不幸な人生を送る破目になった奴等の事を」

 

「―――はぁっ。お前には敵わんな」

 

 またしても言ってる最中、今度は確信をついた事を言ってくるイッセー。反論出来ない程の大正解な為、俺は諦めるように嘆息する。

 

「いつから気付いていた?」

 

「襲撃者達がボロクソに罵倒しまくった兄貴の顔を見た後から」

 

「……そうか」

 

 つまり最初から気付いていたって事か。ったく。こういう事に関しては本当に鋭いな、俺の弟は。

 

 イッセーの言う通り、俺はこのところ参り気味だった。と言うより、悩んでいると言った方が正しいだろう。

 

 事の発端は、俺がリアス達と一緒に一回目の襲撃者達の対処をしている時だ。

 

 襲撃者は『禍の団(カオス・ブリゲード)』の英雄派で、構成員は全て人間だった。しかも全員が神器(セイクリッド・ギア)所有者。

 

 俺がリアスと一緒に指揮を執りながら戦っていると、英雄派の連中が俺を見た途端、悪魔のリアス達以上の憎悪を込めて睨んできた。

 

『聖書の神! 貴様の所為で俺は不幸のどん底を味わった! 貴様が、貴様が神器(セイクリッド・ギア)なんか作らなければ、こんな事にならなかったんだ!』

 

『俺は貴様を絶対許さねぇ! 殺してやる!』

 

『返せよ! 俺の人生を! 何もかもテメエが悪いんだ!』

 

『この疫病神が!』

 

 ってな事を罵倒されまくったよ。あの時は本当に内心グサッと突き刺さった。

 

 アイツ等は言うなれば、聖書の神(わたし)の被害者みたいな者達だ。

 

 聖書の神(わたし)は嘗て、人々を幸福にさせる愛と称し、『システム』で素質のある人間に神器(セイクリッド・ギア)を与える処置を施した。これが最善な方法だと。

 

 自分のお陰で幸せな日々を送っているだろうと、最初は思っていた。だが、人間に転生した後、それは大きな間違いだった同時に後悔した。神器(セイクリッド・ギア)を得られた事で幸福になったどころか、逆に不幸な人生を送ってしまう破目になってしまったと。

 

 数年前に(イッセー)と修行の旅をしていた際、一人の幼い神器(セイクリッド・ギア)所有者と出会った。その子は周囲の人間から迫害されていた。挙句の果てにはバケモノ扱いまでして殺そうとしていた程だ。俺とイッセーは速攻でその子を助け、迫害していた連中の記憶を消去させた。そして、その後にあの子が泣きながらこう言った。『どうして僕には、こんな物があるの?』って。

 

 あの時ほど、聖書の神(わたし)は自分がどれだけ思い上がり、愚かな事をしてしまったのだと果てしなく後悔した。イッセーからも、神器(セイクリッド・ギア)を与えた聖書の神(わたし)に対して罵倒した時も、結構グサッときたよ。

 

 故に決めた。もし神器(セイクリッド・ギア)の所為で不幸になった人間から罵倒されても、聖書の神(わたし)は全て甘んじて受け入れると。彼等からしたら、そんな事だけで許さないだろう。しかし、それが今の聖書の神(わたし)にしか出来ない事だ。

 

 だと言うのに、今回の襲撃者達から罵倒されまくった時は、もう本当に突き刺さる様に効いたよ。尤も、その連中は俺に対する罵倒に、ブチ切れたゼノヴィアとイリナによって徹底的に叩きのめされたがな。

 

 それ以降、立て続けに襲撃してくる英雄派の中に、最初の連中と同じ罵倒する者もいた。それが流石に何回も言われると、聖書の神(わたし)も流石に参るよ。不幸にさせた自覚があるとは言え、嘗て天界のトップだった者がこの程度でへこたれるとは少しばかり情けないな。

 

「……なぁイッセー、お前は今どう思ってる? 神器(セイクリッド・ギア)の所為で、人間を不幸にさせた諸悪の根源である聖書の神(わたし)を」

 

「は?」

 

「以前、旅をしてた時に言ってたじゃないか。『神器(こんなもの)を人間に与えた神様は一体何考えてるんだ?』と」

 

 イッセーが初めて聖書の神(わたし)に大して毒を吐いた内容は今でもハッキリと覚えている。今の聖書の神(わたし)にとって、(イッセー)の言葉が他の人間と違って一番効いたから。

 

「……ああ、確かに言ったな」

 

「今でも俺を一人の家族として接しているが、それでも色々と思うところはあるだろう? 何なら今ここで言ってくれ。もしくは殴っても良いぞ。その方がお互いにスッキリするからな」

 

 もしイッセーに罵倒されたり、殴られたとしても、俺は何の抵抗もせずに受け入れる。イッセーが弟とは言っても、聖書の神(わたし)の所為で神器(セイクリッド・ギア)を与えられた被害者の一人でもある。例えもし殺すような事をしても、相手がイッセーなら俺は受け入れるつもりだ。

 

「…………………」

 

「どうしたイッセー? 何故、何も言わない?」

 

「………はぁ。急に真剣な顔をして何言うかと思えば……やっぱり兄貴は意外とバカなんだな」

 

「ば、バカ?」

 

 思いも寄らないイッセーからのバカ発言に、目が点になって鸚鵡返しをする俺。

 

「確かに思うところはあるよ。愛を受け取れば幸福になれるって己惚れた神さまは今でも気に入らねぇよ。もし会えるなら文句を言いたいと思ってる。けどなぁ」

 

 と言って、イッセーは顔をグイッと近づけてくる。

 

「その神さまはもう存在してないだろ。今は人間に転生した元神さまで、俺の師匠になって鍛えてくれてる兵藤隆誠(あにき)だ。生憎俺は、現在(いま)の兄貴を責める気なんか微塵もねぇ。それに兄貴は人間になって気付いたんだろ? 自分の所為でどんだけバカな事をしたのかって後悔する程に。前の神さまが今でも生きてたら、そんなの気にしない筈だ。そう考えると、今の兄貴の方が前の神さまなんかより遥かに良いじゃねぇか。兄貴が昔のクソったれな神さまのまんまだったら、俺は今頃ぶん殴ってるよ」

 

「………………………」

 

 本心で言ってるイッセーの言葉に、俺は言葉を失っていた。と言うより、何も言い返せないと言うのが正しいか。

 

 俺が無言のままになってると、イッセーは近づけた顔を話してこう言う。

 

「俺が言いたいのはこんなところだ。ったく! 戦闘前だってのに、こんなこと言わせんなよ」

 

「…………ぷっ、くく、くくく………はははははははは!」

 

「何いきなり笑ってんだよ」

 

 耐え切れずに笑い出す俺に、顔を顰めながら言ってくるイッセー。

 

「ああ、悪い悪い。まさかお前からそんな風に言われるなんて思ってもみなくてな」

 

 俺は一通り笑い終えると、謝りながら理由を言う。

 

 あ~久々に笑った。こんなに心の底から笑ったなんて久しぶりだよ。おまけに今まで抱えていた物がスッキリしたように吹っ飛んでるし。

 

 さっきまでウジウジと悩んでいた自分がバカだったんじゃないかと思う程だ。イッセーの言う通り、俺は本当にバカだったかもしれないな。

 

 とは言え、いくらイッセーが責めないとは言っても、聖書の神(わたし)の所為で不幸にした人間に対しては受け止めないといけない事に変わりはない。

 

「ありがとな、イッセー。お陰で心が晴れたよ」

 

「は?」

 

「よし! 今日は久々にお前とコンビプレーでもやるか。即効で襲撃者共を片付けた後、すぐにリアス達と合流するぞ」

 

「お、おう……って! ちょっと待ちやがれ兄貴! さっきまで参ってた顔してたのに、何で急に元気になってんだよ!? 今日の兄貴は何か不気味なんだけど!」

 

 先に行く俺に、イッセーは文句を言いながら後から付いてくる。

 

 ああだこうだと言いつつも、俺とイッセーは襲撃者が潜んでいる廃工場の中に入る。

 

「来たか、聖書の神! 俺達は貴様の所為で不幸な人生を――」

 

「悪いけど、もう英雄派(おまえら)からの罵詈雑言は聞き飽きてるんだ。文句なら後で聞いてやるよ。行くぞ、イッセー。一分以内で片付けるぞ」

 

「おう!」

 

「え? ちょ、ちょっと待て! 俺達は貴様の被害者で――」

 

『ぎゃぁぁぁぁあああああああ~~~~~!!!』

 

 襲撃者達の行動に付き合う事なく、俺とイッセーは神器(セイクリッド・ギア)を使わせる前に速攻で仕掛けて全員をKOさせた。

 

 俺たち兄弟は今まで個人で戦っているが、格闘戦のコンビプレーも大得意だ。それに加えて個人の戦闘力以上の力を発揮する。なので神器(セイクリッド・ギア)に頼った未熟な戦い方しかしない襲撃者達を簡単に倒したのは言うまでもない。

 

 因みに俺達にKOされて今も気絶中の襲撃者達は、目覚めた後には記憶が消去されている為、何の情報も得る事が出来ない。最初の襲撃者達から同じ事が続いている。一応コイツ等は襲撃者である為、調べるだけ調べると言う事で冥界へ送る手筈になっている。

 

 一通りの作業を終えたので、俺はイッセーと一緒に転移術を使ってリアス達がいる一つ目の廃工場へ向かうと、もう既に片付いていた。何人か逃がしてしまったみたいだが、残りは全て冥界へ送るようだ。因みに俺の単独行動とイッセーの独断については、後でアザゼルに報告するらしい。

 

 その後、イリナから意見が上がった。今回や今までの英雄派の行動について。

 

 リアス達が色々な推測を立てるも、俺の方でアザゼルと話し合ってみるとと言う事で話を終える事にした。

 

 用が済んだ俺達は部室へ戻って一息ついた後、帰り支度をする中で朱乃が何故か鼻歌を歌っていた。

 

「どうした、朱乃。何か随分とご機嫌だが」

 

「それは当然。明日ですもの。自然と笑みがこぼれますわ」

 

「明日? ………ああ、そう言えば明日はアレだったな」

 

「ええ。デート。明日イッセーくんは私の彼氏ですわ、うふふ」

 

 危ない危ない。俺とした事がまたしても忘れてた。明日はイッセーが朱乃とデートする日だって事を。

 

 俺と朱乃の会話を聞いた直後に空気が変わり、女性陣全員の殺意がイッセーに向いていた。俺も俺で、朱乃のデートを手助けした事もあってか、リアスから睨まれたし。




今回は兵藤兄弟メインの話でした。


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第三話

今回も原作と違う流れです。


「それじゃあ小猫、今日もイッセーの治療を頼むよ」

 

「……分かりました」

 

 リアス達と一緒に戦闘から帰って来た俺は、部屋に小猫を連れてきた。削り取られてしまったイッセーの寿命を、小猫の仙術で治療させる準備を行う為に。

 

 イッセーは転生悪魔になる前に、シャルバとの戦闘で禁手(バランス・ブレイカー)に至った。が、その後に問題が起きた。暴走してる際、自分の命を闘気(オーラ)に変換して周囲の物を破壊し、更には俺と戦う時にも大量の闘気(オーラ)を使いまくった。

 

 命を使った為に死ぬ寸前となったイッセーは転生悪魔となるが、悪魔の寿命を使って正常な状態へと戻った。但し、その寿命は二~三十%以上失っている。

 

 悪魔は一万年近い寿命を持っているが、転生悪魔となったイッセーは他と違って七~八千年生きられない。それでも人間からすれば永遠に近いがな。

 

 しかし、イッセーは他のグレモリー眷族と違って寿命が短い分、一番最初に死ぬ事が確定済みだ。イッセーにはリアス達と同じ時間を過ごして貰いたいから、失った寿命を元に戻そうと考えた。

 

 その結果として、俺は小猫に仙術治療をしてもらうよう頼んだ。以前まで仙術を使う事を拒んでいた小猫だったが、心の整理がついたのか、今回の治療を快く引き受けてくれた。小猫としても、イッセーが自分より先に死んでしまうのは嫌みたいだ。

 

 なので俺は数日の間、効率の良い仙術治療法を小猫に一通りの事を教えた。教えられてる小猫はフムフムと学んだ後、イッセーに仙術治療を実践している。因みに『仙術治療の際は、肌と肌を直接合わせる事で回復が早くなる』と教えたら、小猫は顔を恥ずかしそうに赤くしながらも実践したそうだ。治療後にイッセーから聞いた後は、小猫も結構大胆になってきたなぁと思わず感心したよ。

 

「……あの、リューセー先輩。一つ確認が」

 

「ん? どうした?」

 

 俺の部屋を出ようとする小猫が、突然振り返って質問してこようとする。しかも顔を真っ赤にしながら。

 

「………こ、こんな事を訊くのはどうかと思うんですが……。もっと手っ取り早い方法は、ありますか? 例えば、その………ぼ、房中術とか」

 

「…………………」

 

 おいおい、よりにもよって俺になんつー事を訊いてくるんだよ。思わず無言になってしまったじゃないか。

 

 いくら俺が効率の良い仙術治療を教えてるからって、それは流石に返答に困るぞ。

 

 因みに房中術とは、分かり易く言えば男女の性行為である。イッセー風に言えばエッチするって事だ。

 

「……え、えっと……その方法は俺じゃなくて、治療してるイッセーに確認を取ってくれ。まぁ敢えて言うなら、それはそれで充分な治療になるって事だけは言っておく」

 

「………分かり、ました。変な質問して、すいませんでした。では」

 

 恥ずかしい質問をしてると自覚してるのか、小猫は確認した後に颯爽と部屋から出て行った。

 

 その後、小猫が本当に房中術を実践しようとしてるのか不安に思った。もしリアス達の耳に入ったら、とんでもない事になるかもしれないと。

 

 不安を抱いてる俺は確認と言う名目でイッセーの部屋に行くと、扉の前には何故か薄い白装束を纏った猫耳モードの小猫がいた。

 

「どうしたんだ、小猫? 治療はどうしたんだ?」

 

「……そ、それは」

 

 小猫が部屋の扉を指しているので、俺がその前に立って聞き耳を立てると――

 

 

『それじゃあ、イッセー。聞かせてもらおうかしら。さっき小猫と話していた房中術とか、異種族との交配とか、悪影響とかを全部』

 

『イッセーさん、ちゃんと聞くまで寝るのはダメですからね』

 

『ち、違うんです部長! アーシアも勘違いしている! 俺は別に悪い意味で言ったつもりじゃ……!』

 

 

 どうやら俺の不安は的中してしまったようだ。

 

 取り敢えず小猫には、今後暫く房中術についての話題は一切触れないようにと注意しておいた。

 

 

 

 

 

 

 次の日。休日。

 

 今日はイッセーと朱乃の遊園地デートする日だ。

 

 二人が出掛けた後、リアス達が動き出したのは言うまでもない。それは当然、イッセーと朱乃の後を追う為だ。

 

 この展開の後を考えた俺は――

 

「ふぅっ。取り敢えず逃走成功っと……」

 

 彼女達に気付かれないよう、コッソリと転移術を使って逃げ出した。今は自宅から少し離れた裏路地にいる。

 

 すると、リアス達のオーラを感じたから、俺はすぐに気配を消して隠れる。

 

 

「リアスお姉さま、リューセーお兄さまはどこへ行ったんでしょう?」

 

「どうせ、私達と同行するのが嫌で逃げたと思うわ」

 

「……こういう時のリューセー先輩は薄情です」

 

「ぼ、僕はリューセー先輩は用事があってお出かけしたんじゃないかと思いますが……」

 

「と言うか小猫ちゃん、どうして僕も一緒に来ないといけないの? イッセー先輩と朱乃さんのデートに、僕は関係ない筈じゃ……」

 

 

 アーシア、リアス、小猫、裕斗、ギャスパーがそれぞれ思った事を口にしながら、二人がいる遊園地へと向かっていた。

 

 ってか何だあの変装は? あからさまに怪しすぎるぞ。特に小猫とギャスパーが。小猫はレスラーの覆面してて、ギャスパーは紙袋かぶってるし。見ててあからさまに怪しいとしか言いようがない。裕斗は変装してないから問題無いが。

 

 まぁソレは別に、どうやら裕斗とギャスパーは俺の代わりとして連れて来られたようだな。すまん二人とも。あと裕斗にはお詫びとして、俺が修行相手になるから。

 

 取り敢えず今日は夕方まで家に戻らないで、どこか適当にブラブラする事にしよう。その時にはイッセーと朱乃のデートや、リアス達の追跡も終わってるだろうし。

 

 そう考えた俺は、リアス達の気配が遠くなったのを確認した後、彼女達とは別方向の道へ行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 で、俺が来たのは――

 

「と言う訳で、逃げてきたって訳ですよ」

 

「あらまぁ、リューセーちゃんも大変ねぇ」

 

 オカマのローズさんが経営してるオカマバーだった。ここ最近彼の店に来てなかったので、久しぶりに来店してる。

 

 平日は営業時間外だが、土休日だと今の午前中には喫茶店扱いとして営業している。なので今のローズさんの格好は普通の格好だ。

 

「それにしても、イッセーちゃんはここ最近モテモテねぇ。今までは全然そうじゃなかったのに」

 

 イッセーとのデートの事を話してると、ローズさんは面白そうに聞きながらそう言った。

 

「ですねぇ。俺達がリアス達がいるオカ研に入部して以降からでしょうか。アイツがそうなったのは」

 

 今までのイッセーは、学校の女子から嫌われている変態だった。なのに今は駒王学園トップアイドルのリアスや朱乃、更にはアーシアや小猫にゼノヴィアにまで好かれている。他には冥界にいるレイヴェルとか。勿論全員、イッセーを一人の異性として愛している。と言っても、彼女達は全員悪魔だけどな。

 

「ああ、そうそう。言い忘れてましたけど、イッセーは転生悪魔になって、漸くリアスの正式な眷族になりましたよ」

 

「ふ~ん。これでリアスちゃんも、堂々とイッセーちゃんを自分の眷族と言えるようになったのね」

 

「ええ。尤も、アイツにはもっと強くなってもらわないと困りますが」

 

 いくら念願だったイッセーの眷族化にしたからって、それを満足されては困る。リアスには今後、イッセーの主として更に精進しないとな。

 

「ところでリューセーちゃん。貴方、そろそろワタシに何か話す事があるんじゃないかしら? それとも、まだ待った方が良いの?」

 

 すると、ローズさんは急に真剣な顔になって俺に問う。彼の雰囲気を察した俺は、意を決して話そうとする。

 

 ローズさんと出会って数年経ち、これまで数々の恩がある。彼の素性は知っていると言うのに、未だに自分の正体を話さないのは正直言ってフェアじゃない。

 

 本当なら教えてはいけないが、幸い彼は三大勢力の裏事情を知っている人間だ。どの道、遅かれ早かれ知ってしまう事になるから、俺の口から直接話しておいた方が良い。

 

「そうですね。既に三大勢力が和平を結び、そして……聖書の神(わたし)の正体が公表された以上、もう貴方に隠す必要はありません」

 

 席を立った俺は少し離れると、ローズさんの目の前で真の姿――聖書の神(わたし)となる。

 

「御覧の通り、これが私の正体だ。我が名は聖書の神。嘗て天界を治めていた神だ……な~んてね。実は俺、人間に転生した元神なんですよ」

 

「あらあら、それがリューセーちゃんの本当の姿なの。まさかとは思っていたけど、本物の神さまだったのねぇ。可愛い人間のリューセーちゃんから超イケメンに大変身なんて……ワタシ、思わず惚れちゃいそうだわぁ♪」

 

「ハハハ。残念ですが、生憎と俺に男色趣味はありませんので」

 

 初めて聖書の神(わたし)を見たローズさんは惚れ惚れする様に言ってきたので、念の為に釘を刺しておいた。

 

 にしてもローズさん、俺が正体をバラしたのに随分と冷静だな。普通、こういう時は簡単に受け入れるとは思えないんだが。と言うか、薄々感付いていた様子だ。

 

「当然よぉ。今まで神器(セイクリッド・ギア)を使わずに、あんな常識外れな力を見たら、誰だって疑うわよぉ」

 

「さり気無く心を読まないで下さいよ」

 

 どうやら彼は俺が今まで見せた力を見て色々と疑問を抱いていたようだ。まぁ、言われてみればそれは当然か。

 

 この後、聖書の神(わたし)兵藤隆誠(おれ)の姿に戻って、ローズさんにこれまでの事情を話し始めた。




久々にオカマのローズ登場です。

恩人であるローズに本当の事を話す隆誠でした。


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第四話

今日は調子が良いので、一挙二話更新しました。


「なるほど。イッセーちゃんが禁手(バランス・ブレイカー)になれたのは、シャルバ・ベルゼブブの所為で……。話には聞いてたけど、旧魔王連中って本当に碌でもない連中なのね」

 

「全くですよ。と言っても既に瓦解してるので、後は残党共を片付けるだけです。ローズさん、万が一ソイツ等と遭遇した時は始末してもらっていいですか? 倒した後は()()しても構いませんので」

 

「あらぁ、嬉しいお知らせねぇ♪ 良いわぁ。もし来たら、ワタシがヌッポリ……じゃなくて、身体の隅々までジックリ教育してあげるわぁ♪ ウフフフフフ♪」

 

「言い直したところで大して変わってませんよ?」

 

 オカマバーで店長のローズさんに自分の事や、先日に起きた事件の経緯を話すこと約数時間。彼は仕事をしながらも俺の話をずっと聞いてくれた。途中で昼食として、ローズさんお手製のランチセットも美味しく頂いた。勿論、金は後でちゃんと払う。

 

 そして旧魔王派の残党処理を頼み、ローズさんが笑みを浮かべながら快く引き受けてくれたのを見て理解した。もしも残党共がローズさんと遭遇したら、死んだ方がマシだと思う奈落の底へ叩き落される事に。

 

「そう言えば話してる途中で思い出したんですけど、以前に其方で教育した堕天使は今どうしてるんですか?」

 

「ああ、ドーちゃんの事? 今はもうすっかりウチの従業員で、立派に接客しているわぁ。良かったら呼ぼうかしら?」

 

「……え、遠慮しておきます」

 

 ドーちゃんって……。アイツの名前はドーナシークで、嘗てはバカ娘こと堕天使レイナーレの配下だった男堕天使だ。

 

 それが今や、洗脳と言う名のローズさんの教育によってオカマ化し、完全な男好きとなってるか。確か以前、イッセーの悪友の一人――元浜の尻を狙おうとしてたな。

 

 後日、嘗て部下だったドーナシークの変わり果てた姿と現在を堕天使総督アザゼルに報告すると――

 

『ドーナシーク? 誰だソイツは? 知らないなぁ。こんなキモい奴を部下にした憶えはないし、見た事も無いなぁ。ってか、写真見せるな。見るだけで目が腐りそうだ』

 

 初めから知らないと記憶消去されてしまった。部下を簡単に切り捨てるとは、アザゼルは随分と酷いもんだ。訴えられても知らないからな。

 

「おっと、もうこんな時間ですか。すいません、長々と居座ってしまって」

 

 時計を見ると午後二時を指していた。この店には午前十時前に入ったから、もう四時間以上経っていた。時間が経っている事で既に他の客、と言うよりオカマの客も少なからずいる。何かさっきから、ローズさんと話したそうな様子だ。

 

「リューセーちゃんは特別だから、何時間居ても構わないわよ?」

 

「ははは。これ以上ローズさんを独占してたら、向こうのお客から文句を言われそうなんで退散します。はい、お代です」

 

 そう言いながら俺は財布から千円札を二枚出して支払う。因みにランチセットとコーヒー数杯分の料金だ。俺の場合は何割か引いてくれているので、通常の料金より安くなっている。他の客と同様に通常料金で構わないんだけど、ローズさんは俺に恩があるからと言って必ず割引してるんだよな。

 

「ごちそうさまでした。また来ます。もし何かありましたら、連絡しますので」

 

「いつでも来てねぇ~」

 

 店を出た俺は、適当に歩きながらイッセーの闘気(オーラ)を探ってみた。他にも朱乃やリアス達のオーラも含めて。

 

 え~っと、イッセーと朱乃は……もう指定の遊園地にはいないが、未だにデート中みたいでずっと傍にいるか。リアス達は……あれ? 何か二人から随分と離れているな。ついさっき確認した時は、憤怒のオーラを出しながらも一定の距離を保っていたのに。

 

 リアスはイッセー関連で嫉妬してる時、必ずと言っていい程に怒りのオーラを放つ癖がある。まぁ表面上には出さないが、探知した時には禍々しいオーラを感じるんだよなぁ。

 

 直接は見てないから分からないが、リアス達はイッセーと朱乃を見失ったか、もしくは撒かれたか。後者だったら、間違いなく朱乃の仕業だろう。そろそろ本格的に二人っきりの時間になりたい、ってな感じで。

 

 イッセーと朱乃のオーラが感じる方角は分かるが、何処にいるのかは分からないな。遊園地は場所を知ってたから特定出来たが、今アイツ等はあんまり人気がない所にいるとしか分からない。

 

 ……………これはあくまで俺の推測に過ぎない。まさか朱乃がこんな昼間っからイッセーとラブホテルに……いやいや、それは流石にないか。ってかアイツ等はまだ学生だから、そんな場所に入れる訳無いし。

 

 いくらなんでも考え過ぎ……ん? イッセーと朱乃のオーラの他に……って、おいおい! このオーラはまさか!?

 

 覚えがある複数のオーラを感じ取った俺は、すぐに人目が付かない所へ隠れて、すぐにイッセー達がいる所へ向かおうと転移術を使った。

 

 

 

 

 

 ど、どうしよう。俺はどうすれば良いんだ!?

 

 俺――兵藤一誠はさっきまで朱乃さんとのデートをしていた。陰から紅髪の追跡者さまご一行こと部長達のプレッシャーを感じながら。

 

 年相応の可愛い女の子の服装になってる朱乃さんと遊園地で一通り楽しみそこから出てすぐに急に予定外な事が起きた。朱乃さんが俺の手を引っ張って走り出し、部長達を撒こうと。俺は逆らう訳もなく、一緒に走り出す事によって朱乃さんと一緒に撒く事になったのは言うまでもない。

 

 そして、問題はその後だ。部長達を撒いたのは良いが、がむしゃらに走り回ったせいで、どこだか分からなくなって周囲を確認すると……何とラブホテルばかりある場所だった!

 

 部長達に知られたら大変な事になると思った俺は、すぐに朱乃さんを連れて出ようとした。しかし、朱乃さんが顔を細田まで真っ赤にしながら凄く恥ずかしそうに呟いた。『イッセーが入りたいなら、いいよ』と。そして今に至る。

 

 今の朱乃さんを見て断ってしまえば、男が廃るような気がしてならない! だけど後になって、部長に殺されてしまいそうで恐い!

 

 俺の頭の中を支配して戦っている。このまま行くんだ! ダメだ断るんだ! と言う二つの考えが!

 

 最大の決断を迫られる俺に、横から話しかける者がいた。

 

「ま~ったく、こんな昼間っから、女を抱こうなどとやるではないか、イッセーよ」

 

 ん? 何か聞き覚えのある声だ。思わず振り向くと、そこには帽子をかぶったラフな格好の爺さん。背後にガタイの良い男性とパンツスーツを着込んだ真面目そうな女の人だ。

 

 って! この爺さんは!

 

「オーディンの爺さん!?」

 

「ほっほっほ、久しいの、イッセー。北の国から遠路はるばる来たぞい」

 

 何と目の前には北欧の主神である爺さんがいた! ディオドラとの一戦以来じゃないか。

 

「ところでイッセーよ。ワシがこうして折角来たんじゃから、例の本を献上したらどうじゃ?」

 

「いやいや、そんな事より、何で爺さん達が此処に来てるんだ?」

 

 兄貴やアザゼル先生から爺さんが来るなんて話は全く聞いてないぞ。と言うより、テロが活発な時期に来たら色々と不味い筈だろ? と思っていたら、ロスヴァイセさんが入ってくる。

 

「オーディンさま! こ、このような場所をうろうろとされては困ります! か、神さまなのですから、キチンとなさってください! 聖書の神であるリューセーさんに知られたら呆れられますから!」

 

 おおっ。また爺さんを怒り出したよ。この前冥界で会った時もこんな感じだったな。

 

「よく言うわい、ロスヴァイセ。元勇者じゃったリューセーと別れる前に、ここに入りたかったと今でも未練がましくぼやいておったではないか」

 

「そ、それとこれとは別です! 私より、オーディンさまはご自重なさってください! あと、イッセーくんや貴女もです。ハイスクールの生徒なんだから、お家に戻って勉強なさい」

 

 ああ、ロスヴァイセさんは未だ兄貴に未練があるんだ。ああ言ってるって事は、まだ新しい勇者(かれし)が出来てないのか。

 

 ってか話を逸らす為に、俺達に正論ぶって怒ってもなぁ。今のロスヴァイセさんにはとても説得力が感じられない。

 

 まぁどの道、こんな空気じゃラブホテル入るか否かを決められないな……。

 

 畜生っ! 俺は心の中で慟哭していた!

 

 と、横を見れば朱乃さんが爺さんの付き添いと思われるガタイの良い男性に詰め寄られていた。

 

「……あ、あなたは」

 

 朱乃さんはその人を見た途端に目を見開いて、驚いている。ひょっとして見覚えのある人か? それにこの人のオーラは、何か朱乃さんと感じが似ている。

 

「朱乃、これはどういうことだ?」

 

 男性の方はキレ気味だ。声音を聞くだけで怒気が含まれているのが分かる。すっげぇ迫力だ。

 

「……あ、あなたには関係ないでしょ! そ、それよりもどうしてここにいるのよ!」

 

 さっきまで可愛かった朱乃さんとは別人のように、目つきを鋭くして睨み付けていた。あの朱乃さんがここまで睨むなんて……もしかして、この人は。

 

「それは今どうでもいい! とにかく、ここを離れろ。まだ学生のお前にはまだ早い」

 

 男性は朱乃さんの腕を掴み、強引にどこかへ連れて行こうとする。

 

「いや! 離して!」

 

 朱乃さんが必死に抵抗していた。

 

 男性は朱乃さんを知って、朱乃さんも男性を知っている。俺は何となくだけど分かった気がした。

 

「はいはい。そこまでにしような、お二人さん。こんな所でみっともない親子喧嘩なんかしないでくれ」

 

「へ? あ、兄貴!?」

 

『!』

 

 突然、転移して現れた兄貴が男性と朱乃さんの間に割り込んで止めた。

 

 兄貴の登場に俺だけじゃなく、朱乃さんと男性は驚いている。

 

「おお、リューセーではないか。お主も久しぶりじゃのう」

 

「りゅ、リューセー、さん。お、お久しぶりです」

 

 黙って見ていた爺さんは親しげに、ロスヴァイセさんは余所余所しい挨拶をする。

 

「ち、父上! これは私と朱乃の問題で……!」

 

 男性は兄貴に向かって父上と言った。端から見れば、中年男性が学生の少年である兄貴に向かってそう呼ぶのは無理があり過ぎる。

 

 だけど、俺はすぐに確信した。この男性は――

 

「今のお前は堕天使組織グリゴリ幹部、バラキエルとして来ている筈だ。――朱乃の父親だからって、何をしても許されるって訳じゃないぞ?」

 

「ぐっ……」

 

 ――やっぱり朱乃さんのお父さんだった。

 

 兄貴の言い分が効いたのか、男性――バラキエルさんは掴んでいた朱乃さんの腕を離した。

 

 何とか事無きを終えたと思った直後、

 

「リューセー!」

 

「へ? おわっ!」

 

 突如、いきなり現れた誰かが、そのまま兄貴に猛スピードで接近して抱き着いた。兄貴は何とか倒れずに踏ん張ると、抱き着いてきた誰かを見た途端に驚愕を露わにする。

 

 兄貴だけじゃなく、この場にいる面々も驚いた様子だ。

 

「またお前か、フレイヤ! いい加減、急に抱き着くのは止めろ!」

 

「だってぇ、リューセーに会いたかったんだも~ん!」

 

 兄貴に抱き着いたのは、亜麻色の長髪をした超美人――女神フレイヤさんだった。

 

 久しぶりに見たけど、この女神様は相変わらず兄貴の事が大好きだなぁ。兄貴は少し迷惑がってるけど。

 

「やれやれ、フレイヤ。勝手にいなくなったかと思えば、リューセーが来た途端に現れおって……」

 

「ふ、フレイヤさま! 貴女もオーディンさまと同じ神さまなんですから、リューセーさんにはしたない真似は……!」

 

 フレイヤさんの登場に、オーディンの爺さんとロスヴァイセさんは窘めようとしている。

 

 何かこの後、とんでもない事が起きそうな気がするな。




オリキャラとして女神フレイヤを久々に出しました。


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第五話

今回は少し長めです。


「ほっほっほ、というわけで訪日したぞい」

 

 兵藤家の最上階に設けたVIPルームでオーディン殿が、訪日した理由を話しながら楽しそうに笑っていた。

 

 日本に用事があるついでとして、この町へ来たんだと。まぁこの町は悪魔、天使、堕天使、三大勢力の協力体制が強いから安全だからな。

 

 家には俺やグレモリー眷族全員集合している。アザゼルもオーディンが来訪したのを聞いて、久しぶりに顔を出していた。

 

 言うまでもなく、イッセーと朱乃のデートは中断だ。あの後はリアス達と合流し、そのまま家にオーディン達を連れて帰って来た。その際に朱乃はバラキエルと会った事により、ずっと不機嫌のままだ。俺が間に入ってる事もあって、今は何とか落ち着いている。

 

 前にアザゼルから話は聞いたが、バラキエルと朱乃の確執は相当根深いようだ。朱乃はバラキエルと視線を交わさないどころか、完全に無視状態になっている。

 

 バラキエルとは久々に会ったけど、今も大して変わってないな。武人気質で堅物なところが。実力に関してもアザゼルと肩を並べるほどだ。一撃の攻撃力に関しては堕天使随一でもある。以前にイッセーが戦ったコカビエルは、自身が最強の堕天使と豪語していたが、バラキエルに比べれば程遠い。

 

「どうぞ、お茶です」

 

 リアスが笑顔でオーディンに応対していた。ついでと言っちゃなんだが、つい先程にイッセーの頬を思いっきり抓っていた。その後にはゆっくりとお話があるんだと。イッセー、生きろよ……。

 

 まぁ俺も俺で、それとは別の理由で逃げたいんだよな。さっきからフレイヤの奴が、座っている俺に抱き着いたままだから。北欧で名高い女神フレイヤが俺に抱き着いてるのを見たリアス達は、物凄く驚いていたよ。ゼノヴィアとイリナは相手が女神だからか、強く出れないでいる。

 

「構わんでいいぞい。しかし、相変わらずデカいのぅ。そっちもデカいのぅ」

 

 リアスと朱乃の胸を交互に見るオーディン。もう完全にエロジジイの顔だな。

 

 あとイッセー、文句言っても構わんが、家の中で暴れるのだけは勘弁してくれよ。

 

「もう! オーディンさまったら、いやらしい目線を送っちゃダメです! こちらは魔王ルシファーさまの妹君なのですよ! それとフレイヤさま、そろそろリューセーさんから離れたらどうですか!?」

 

 ヴァルキリーのロスヴァイセがオーディンの頭をハリセンで叩くと、次にフレイヤへ抗議する。

 

 オーディンは頭をさすりながら半眼になっていた。オーディンとロスヴァイセのやり取りは相変わらずだな。 

 

「まったく、相変わらず堅いのぉ。サーゼクスの妹と言えば別嬪さんでグラマーじゃからな、そりゃ、ワシだって乳ぐらいまた見たくもなるわい」

 

「ほ~んと、堅物なんだから、ロスヴァイセは。私はリューセーと久しぶりに会ったんだから、抱擁したくなるのはしょうがないでしょ」

 

 文句を言うオーディンとフレイヤ。こういう時の二人は息が合うんだよなぁ。

 

 すると、彼女についてオーディンがリアス達に紹介しようとする。

 

「こやつはワシのお付きヴァルキリーじゃ。名は――」

 

「ロスヴァイセと申します。日本にいる間、お世話になります。以後、お見知りおきを」

 

 オーディンからの紹介でロスヴァイセが挨拶をした。以前と違い鎧は着ていなく、パンツスーツを着込んでいる。流石に人間界、と言うより日本で鎧のまま着たら、コスプレと勘違いされるからな。

 

 今のロスヴァイセの見た目は、クールビューティーで仕事が出来る雰囲気だな。

 

 因みにフレイヤはリアスや朱乃と似たような服装だった。少し裾が短めの赤と白を合わせたワンピースで、如何にも俺と同い年だと思わせる可愛い女の子風の服だ。

 

「以前リューセーが彼氏じゃったが、今はフラれて新しい彼氏募集中の生娘ヴァルキリーじゃ」

 

「そして私フレイヤがリューセーの恋人で~す」

 

『ええ!?』

 

 オーディンとフレイヤが余計な追加情報をくれた所為で、狼狽しだしてるロスヴァイセだけじゃなく、(イッセーを除く)悪魔のリアス達+イリナが酷く驚いていた。

 

「そ、そ、そんな事を言わなくていいじゃないですかぁぁぁっ! わ、私だって、ずっとリューセーさんの彼女でいたかったんですよっ! リューセーさんが嫌いだからフッたんじゃないんですからねぇぇぇぇ! あのままリューセーさんがヴァルハラにいてくれたらぁぁぁ!」

 

 その場にくずおれて、床を叩き出したロスヴァイセ。

 

 別れ際の時は俺に新しい勇者(かれし)を作るって意気込んでいたのに……。結局はまだ引き摺ってたんじゃないか。って事は、未だ新しい勇者(かれし)に目星がついてないのね。

 

 ったく。さっきまでのクールビューティーだったイメージが一気に崩れたよ。

 

 リアス達は俺に訊きたそうな顔をしてるが、流石にオーディン達の前ではやらないようだ。でも、後で問い質す雰囲気を感じるが。

 

「まあ、戦乙女の業界も厳しいんじゃよ。器量良しでも中々芽吹かない者も多いからのぉ。それに最近では英雄や勇者の数も減ったもんでな、経費削減でヴァルキリー部署が縮小傾向での、リューセーからの提案で独り身となったこやつをワシのお付きにさせて職場の隅にいたのじゃよ」

 

「それにウチのヴァルキリー達って、奥手で夢見がちなのよね。理想の相手ばっかり追いかけてるから、あんなんじゃ勇者(かれし)なんて絶対出来ないわ。ま、私の理想の彼氏はリューセーだけどね」

 

 オーディンとフレイヤはうんうんと頷きながらそう言う。以前俺とイッセーがヴァルハラへ訪れた時、オーディンからヴァルキリー事情を聞いて、世知辛い時代になったと気の毒に思ったよ。思わず人間界の現代社会と大して変わんないじゃないかと。フレイヤの発言は敢えて無視させてもらうが。

 

 アザゼルがやり取りに苦笑しながらも口を開く。

 

「爺さん達が日本にいる間、俺達で護衛する事になる。バラキエルは堕天使側のバックアップ要因だ。俺も最近忙しくて、此処にいられるのも限られているからな。その間、俺の代わりとしてバラキエルが見てくれる」

 

「よろしく頼む。それと聖書の神(ちちうえ)、御挨拶が遅れてしまいましたが、お久しぶりです」

 

 言葉少なにバラキエルが挨拶をして、俺にも息子としての挨拶もする。

 

「あ~、バラキエル。出来れば俺の事はアザゼルみたく、名前で呼んで構わない。堅苦しい喋り方もしなくていいから」

 

「そう言われても……。むぅ、では隆誠殿……と、お呼びしても宜しいですか?」

 

「ああ、今はそれで良いよ」

 

 見た目中年男性のバラキエルから、父上と呼ばれるのは正直言って抵抗があった。聖書の神(わたし)の時は問題無いが、兵藤隆誠(おれ)に向かって父呼ばわりされると、周囲から見れば色々と突っ込みどころ満載だからな。

 

 それはそうと、俺達がオーディン達の護衛か。特にフレイヤが面倒だ。

 

「ところで爺さん、来日するにはちょっと早過ぎたんじゃないか? 俺やリューセーが聞いていた日程はもう少し先だった筈だが」

 

「全くですよ、オーディン殿。事前に来ると連絡してくれれば、こんなバタバタせずに済んだんですから。それに来日目的は日本の神々と話をつけたいからでしょう? ミカエルとサーゼクスが仲介で、アザゼルが会談に同席する予定だと」

 

「言っておくが聖書の神(おやじ)も俺と同席だぞ。三大勢力(おれたち)の助っ人なんだからよ」

 

 クソっ。アザゼルの奴め、俺だけ楽させないと釘を刺しやがって! 助っ人だからって、何でもかんでも頼ろうとするなよ!

 

「まあの。それと我が国の内情で少々厄介事……というよりも厄介なもんにワシのやり方を批難されておってな。以前ヴァルハラへ来たリューセーには話したじゃろう? 頭の固い奴等や、あの阿呆も含めて」

 

 ………ああ、言われてみれば確かに。特に俺とイッセーがヴァルハラへ訪れた時、一番嫌悪感を抱いていたのは北欧の悪神――ロキだった。アイツは俺達と会った瞬間、殺す勢いで追い出そうとしたんだよな。『ここは貴様等のような人間が踏み入る場所ではない!』と。まぁオーディンがいた事によって事無きは得たがな。

 

「成程。オーディン殿は奴等に妨害されないよう、先手を打とうと早めに行動したという訳ですか」

 

「その通りじゃ。なので日本の神々といくつか話をしておきたいんじゃよ。今まで閉鎖的にやっとって交流すらなかったからのぉ」

 

 オーディンは長い白髭を擦りながら嘆息していた。知ってはいたけど、どこの勢力も厄介事があるのは当たり前か。

 

「厄介事って、ヴァン神族に狙われたクチか? まさか聖書の神(おやじ)とイッセーがヴァルハラへ来たのが原因じゃねぇだろうな? 頼むから『神々の黄昏(ラグナロク)』を勝手に起こさないでくれよ、爺さん」

 

 アザゼルは皮肉気に笑う。

 

 失礼な。俺とイッセーはヴァン神族と事を起こしてなければ、接触もしてないっての。

 

「ヴァン神族はどうでもいいし、リューセー達とも一切関係無いわい」

 

「ならいいがな。そういや聖書の神(おやじ)、何でイッセーと一緒にヴァルハラへ行ったんだ?」

 

「ああ、以前にイッセーを連れて修行の旅で北欧を訪れた際、ヴァルハラへ行く機会があってな。その時に当時まだ見習いヴァルキリーだったロスヴァイセが――」

 

「りゅ、リューセーさん! そこは細かく説明しなくていいですから!」

 

 俺が説明しようとする所を、ロスヴァイセが顔を赤くしながら待ったを掛けた。

 

 どうやら彼女にとっては話して欲しくない内容みたいなので、俺は一部分を省略しながら、彼女を通してヴァルハラへ訪れた事を話す事にする。ロスヴァイセが自分の事を話さないかハラハラしながら聞いてる中、イッセーは苦笑しながら見ていたけど。

 

「あれ? なぁ兄貴、トップ会談やる前までは自分の正体隠してたのに、何で爺さん達には話したんだ?」

 

「ああ、それね。俺がヴァルハラで能力(ちから)を使ったのを見たオーディン殿が疑問を抱いて、その後に問い詰められたんだ。身内のお前や三大勢力に口外しない条件として、教えざるを得なかったんだよ」

 

「ほっほっほ。ワシに見られたのが運の尽きじゃったな、リューセーよ」

 

 してやったりと得意気に言い放つオーディン。

 

「まさかリューセーがそんなドジを踏んだとはな。嘗て完璧主義者だった聖書の神(おやじ)とは思えねぇ致命的なミスじゃねぇか」

 

 アザゼルも合点がいったと納得した顔をしている。

 

「仕方なかったんだよ。あの時は運悪く、聖書の神(わたし)が抑えてた能力(ちから)が暴走しかけたんだから。それにオーディン殿が俺の能力(ちから)の暴走を抑える為の術を使ってくれなかったら危ういところだったし」

 

「まぁそう言う事じゃ。ワシは言わば恩人と言ったところかのぉ」

 

 場合によっては死んでたかもな、と此処で言うのは止めておこう。イッセー達を無駄に心配させるだけだ。

 

 オーディンにも余計な事を言わないよう目を配らせると、察したように小さく頷いている。

 

「そうだったのか。じゃあそこのフレイヤさんが、兄貴を好きになってるのは前に言ってた一目惚れじゃなく、元は神さまだからか?」

 

「違うわよ、イッセーくん。私はヴァルハラで初めて会ったリューセーに一目惚れしたの。神とか人間とか関係無くね♪」

 

「その所為で俺はお前の兄――フレイから敵視される破目になったがな」

 

 イッセーに嘘を言ってないと答えるフレイヤに、俺は物凄く嫌そうに言う。

 

 あの時は本当に戸惑ったよ。ヴァルハラから少し離れた草原でイッセーと軽い組手をしてる最中、いきなり北欧の美女神フレイヤが俺の目の前に現れた直後――

 

『私、貴方の戦う姿を見て一目惚れしたわ! だから私の恋人になって!』

 

 ――と言う告白をされたぞ。余りの展開に俺だけじゃなく、組手をしていたイッセーですら目が点になってたからな。

 

 それからというものの、兄フレイの目を掻い潜っては俺に会って抱き着いてくるのがお決まりとなった。その所為でオーディンに茶化されるわ、フレイの他にフレイヤを慕ってる男神共に嫉妬されまくって散々な目に遭った。

 

 今の俺はロスヴァイセの勇者(エインヘリヤル)だと言っても、フレイヤは全然諦めようとしない。勇者(エインヘリヤル)の期間が終わった後も、こうして今に至るって訳だ。

 

 俺がフレイヤに惚れられてる理由を聞いていたリアス達は、少し気の毒そうな目で俺を見ていた。恐らく、俺に今も熱烈な恋愛感情を抱いてるエリーの事を思い出してるんだろう。

 

「ま、それよりアザゼル坊。どうも『禍の団(カオス・ブリゲード)』は禁手化(バランス・ブレイク)出来る使い手を増やしているようじゃな。怖いのぉ。あれは稀有な現象と嘗てリューセーから聞いたんじゃが?」

 

 突然、重要な話になった事でリアスたち眷族は驚いて顔を見合わせていた。

 

 どうやらアザゼルも俺と同じ考えだったようだな。英雄派の連中が度重なる襲撃を仕掛けた目的を。

 

「ああ、レアだぜ。だが、どっかのバカが手っ取り早く、それでいて怖ろしく分かり易い強引な方法でレアな現象を乱発させようとしているのさ。神器(セイクリッド・ギア)に詳しい者なら誰でも一度は思いつくが、それを実行するとなると各方面から批判される為にやれなかった事だ。成功しようが失敗しようが大批判は確定だからな」

 

「なんですか、その方法って」

 

 イッセーの問いかけに、アザゼルは答えようとする。

 

聖書の神(おやじ)からの報告で概ね合っている。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる作戦だよ。先ず、世界中から神器を持つ人間を無理矢理かき集める。そして、洗脳。その途中で恐らく、神器(セイクリッド・ギア)を生み出した存在――聖書の神(おやじ)に対する憎しみを募らせたんだろう。次に強者が集う場所として、超常の存在が住まう重要拠点に神器(セイクリッド・ギア)所有者を送る。それを禁手(バランス・ブレイカー)に至る者が出るまで続ける事さ。もし至れば、強制的に魔法陣で帰還させる。リアス達の対峙した影使いが逃げたのも禁手(バランス・ブレイカー)に至ったか、至りかけたからだろうな。尤も、聖書の神(おやじ)が戦った連中は全員神器(セイクリッド・ギア)を使わせる前に倒したが」

 

 やはりな。洗脳で聖書の神(わたし)を諸悪の根源扱いさせてたのか。道理で襲撃者の中に、同じ罵倒内容しか叫ばない訳だ。『お前の所為で不幸になった』、『許さない、殺してやる』、『人生を返せ』、『全部お前が悪い』と。まるでそう言う風に言えみたいな感じで、さっきの台詞を何回も何回も同じ事を言ってたんだよな。最初は奴等の罵倒で精神的に参ってたが、イッセーのお陰で心が晴れた後には考える余裕が出来た。アイツ等の言動は何かおかしいと。

 

 そう考えてるとアザゼルは続ける。

 

「これらの事はどこの勢力も、思い付いたところで実際にやろうとはしない。仮に協定を結ぶ前の俺が悪魔と天使の拠点に向かって同じ事をすれば、批判を受けると共に戦争開始の秒読み段階に発展する。俺は元からそんな事を望んじゃいない。だが、奴等はテロリストだからこそ、それをやりやがったのさ。人間に転生した聖書の神(おやじ)を憎しみの標的にすれば猶更に好都合だとな」

 

 『禍の団(カオス・ブリゲード)』は各勢力を恨んでいる連中なので、憎しみの対象である聖書の神(わたし)もいるから問題無いと言ったところか。その憎しみを利用するなんて、あの腐れ外道共は本当にいい度胸してるよ。

 

 すると、アザゼルの説明を聞いていたイッセーが急に疑問を抱いた顔になって俺を見る。

 

「ちょっと待て、俺はアザゼル先生が言った内容で禁手(バランス・ブレイカー)に至ったんだけど?」

 

「今更な質問だな。お前が強くなりたいって言ったから、俺はそれに応えたんだぞ。才能が無かったお前を強くさせようと考えに考え抜いた結果、強い相手と実戦形式でやらせるしかないってな。まぁ主に俺との実戦形式で何度も死に掛けたが」

 

「…………覚えてろよ、バカ兄貴。いつか必ずぶっ飛ばしてやる」

 

「ははは。楽しみに待ってるよ」

 

 恨み言を吐くイッセーに、俺は軽く流した。

 

「まぁどちらにしろ、人間をそんな方法で拉致、洗脳して禁手(バランス・ブレイカー)にさせるってのはテロリスト集団『禍の団(カオス・ブリゲード)』ならではの行動って訳だ」

 

「確かそれをやっている連中は兄貴も知ってるよな?」

 

 イッセーの問いに俺は答える。

 

「ああ。英雄派の主なメンバーは伝説の勇者や英雄の子孫が集まってるよ。身体能力に関しては天使や悪魔にも引けは取らない。神器(セイクリッド・ギア)や伝説の武具を所有してる。更には神器(セイクリッド・ギア)禁手(バランス・ブレイカー)に至っている上に、神滅具(ロンギヌス)持ちもいるときた。とまぁこんなところだ」

 

「何だそりゃ? そんな奴等が非人道的な事をしてるのかよ。つーか、本当に英雄や勇者の集まりなのか?」

 

 お、イッセーが良い所に気付いた。

 

「その内会って戦った際に分かる、とだけ言っておく」

 

 実は英雄の本質を全く理解してない、英雄気取りの悪ガキ共だって事をな。

 

「それよりも連中が禁手(バランス・ブレイカー)使いを増やして何を仕出かすか、問題じゃの」

 

 オーディンは深刻な顔をする事もなく、普通に茶を飲んでいた。相変わらずマイペースだな、この老神は。

 

「まあ、今はまだ調査中の事柄だ。ここでどうこう言っても始まらん。それで爺さん、どこか行きたいとこはあるか?」

 

 アザゼルがオーディンに訊くと、彼はいやらしい顔つきとなって両手の五指をわしゃわしゃさせた。

 

「おっぱいパブに行きたいのぉ! 前にイッセーから貰った本の広告に載ってたのを見て、是非とも行きたいと思ってたんじゃ!」

 

「ハッハッ、やはり見るところが違いますな、主神どのは! よっしゃ、いっちょそこまで行きますか! 俺ん所の若い娘っ子共がこの町でVIP用の店を最近開いたんだよ。そこに招待しちゃうぜ!」

 

 急に卑猥な話になった事で、俺は途中で聞く気にならなかった。

 

 盛り上がっている二人は、部屋を早々と退室した。アレが世界を守ろうとする首脳陣とは、世も末だな。

 

 さっきまで話を真剣に聞いていたリアスなんか、額に手をやって眉を顰めてるし。

 

「オーディンさま! わ、私もついていきます」

 

 あ、ロスヴァイセが律儀に追っていった。

 

「お前は残っとれ。アザゼルがいれば問題あるまい。この家で待機しておれ。どうせなら久しぶりに会ったリューセーとゆっくり話し合ったらどうじゃ? 寄りを戻す為の」

 

「そ、そんなのオーディンさまには関係ありませんから!」

 

「ちょっとオーディン! リューセーはもう私のよ! ロスヴァイセには渡さないんだから!」

 

「フレイヤさまはちょっと黙ってて下さい!」

 

 おお、フレイヤに口答えするとは。ロスヴァイセは成長したんだな。

 

 と言うやり取りをしつつも、彼女はそのまま付いていったようだ。本当に仕事熱心な事で。

 

 部屋に残された俺とグレモリー眷族、そしてバラキエルは同時に溜息を吐いていた。

 

 そして――

 

「ねぇリューセー、今夜は一緒に寝ない? あと出来たらリューセーの部屋で過ごしたいんだけど」

 

「却下だ。そんな事をあの超シスコンバカなフレイに知られたら後で殺される」

 

 フレイヤもマイペースなので、俺は更に溜息を吐いた。



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幕間

今回は前話が長かったので短い幕間話としました。


「なぁ朱乃、父親のバラキエルと話し合う気はないのか?」

 

「……あの人は、私の父なんかじゃありません」

 

 オーディンとアザゼルが風俗店へ向かった後、俺は朱乃と二人で話をしようと五階の廊下にいる。フレイヤには朱乃と大事な話があるから離れるよう言っており、今も最上階のVIPルームにいる。

 

 因みに俺が朱乃を連れて行くのを見たバラキエルが後を追おうとしていたが、来ないように言っておいた。このまま付いて来たら絶対に話し合いにならないのが分かっていたので。

 

 朱乃は俺からの問いに冷たく鋭い声で否定する。不機嫌極まりないと言わんばかりの表情で。

 

「どんなに否定した所で、バラキエルはお前の父親だよ。それにアイツもあの時、お前を父として心配を――」

 

 バラキエルをフォローする為に言いかけるが、途端に朱乃は言い放った。

 

「断じて父親じゃないわっ! もしそうなら、あのとき来てくれた筈よ!? 母さまを見殺しになんてしないわ!」

 

「………………」

 

 どうやら思っていた以上に朱乃とバラキエルの確執は深いようだ。と言うより、朱乃が一方的に嫌っているか。

 

 何とか話をしようとするバラキエルに、朱乃が頭ごなしに何もかも否定している。これじゃ和解なんて無理だな。まぁバラキエルも堅物で口下手な為、今もこうして和解しないのも問題だが。

 

 因みに俺は二人が不仲な理由を既にアザゼルから聞いている。本当なら親子間の話に首を突っ込みたくはないが、バラキエルが今後も俺達と会う事があるので、事情を知っておく必要があった。

 

「一つ訊こう、朱乃。バラキエルが母親を見殺しにしたと、本気でそう思ってるのか? アイツがそんな薄情者じゃないって事は、娘のお前が一番に分かっている筈だが」

 

「っ………」

 

 俺の台詞に朱乃は戸惑いの様子を見せる。

 

「即座に否定しないのは、分かっているみたいだな。なら良い。急に呼び出して悪かったな」

 

「……え?」

 

 確認した俺は話を終えて去ろうとすると、朱乃は次に素っ頓狂な声を出した。

 

「あ、あの、リューセーくん……」

 

「ん?」

 

「話はもう、終わりなの?」

 

「ああ、終わりだよ。こんな場所でお前にああだこうだと追求する気は無いし、偉そうに説教する気も無い。後はお前自身がどうにかする事だ」

 

 余りにも予想外過ぎると言う感じの朱乃に、俺は振り返らずに思ったままの事を口にする。

 

 自分から話を振っておいて、それはどうかと思われるだろう。俺が土足で踏み込むようにズケズケと言ったところで、却って朱乃の心を傷付けるだけだ。それどころか、余計にバラキエルとの関係が拗れてしまう。

 

 なので俺は、朱乃がバラキエルの事をどう思っているかの確認だけで済ませた。その結果、口で否定しても、内心ではバラキエルを父親と見ている事に俺は気付いた。なので後は、朱乃が動いてくれるのを待つだけだ。

 

「まぁ敢えて言うなら……そろそろ重い腰を上げて、一歩進んでみたらどうだ? その先でずっとお前を待ち続けている奴の為にもさ」

 

「え?」

 

「俺からはここまでだ。そんじゃ」

 

 遠回しな言い方だが、朱乃は理解してる筈だ。俺の言いたい事を。

 

 朱乃と別れた俺は廊下を突き進んだ後に左へ曲がると――

 

「盗み聞きとは感心しないな、イッセー」

 

「何だよ、やっぱ気付いてたのか」

 

 そこには隠れるように立ち止まっているイッセーがいた。向こうにいる朱乃は未だ立ち止まっているが、こちらには気付いていない様子だ。

 

「これでも闘気(オーラ)を消してたんだけどな……」

 

「完全には消えてなかったぞ。気付いてないから言っておくが、今のお前は今も闘気(オーラ)が垂れ流し状態になってるぞ」

 

「え、マジ?」

 

「ああ、マジだ」

 

 俺からの指摘に、驚いた顔をするイッセー。

 

 知っての通り、イッセーは悪魔に転生した事で身体能力の他に闘気(オーラ)も上がっている。特に闘気(オーラ)は人間の時と比べると、かなり上昇している。

 

 その為に今まで通り抑えても、上昇した分の闘気(オーラ)まで抑える事が出来なかったって訳だ。

 

 どうやらイッセーには、闘気(オーラ)の調節と制御の修行をもう一度やらせる必要があるな。こんな不安定のままでいると、下手をしたら暴走してしまう恐れがある。

 

 まぁ、それは後でやるからいいとしてだ。今は――

 

「それはそうとイッセー、いきなりで悪いがこのまま朱乃と鉢合わせて、少しの間だけ話し相手になってくれないか?」

 

「え? ……まぁ、それ位なら良いけど」

 

「頼んだぞ」

 

 朱乃にはイッセーで慰めて貰うとしよう。

 

 そして俺の言う通りに動くイッセーは、偶然を装って朱乃と会って話をしようとする。

 

 向こうに気付かれないよう盗み見ると、その先には朱乃がイッセーを抱きしめていた。突然の抱擁に戸惑うイッセーだが、何かを察したようにそのまま優しく抱こうとしている。

 

 確認した俺は即座に去り、VIPルームにいるバラキエルやリアス達には適当に誤魔化していた。




感想と評価をお待ちしております。


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第六話

久しぶりの更新です。

今回はフライング投稿にしますので。


 次の日、俺を含めたイッセーたちグレモリー眷族はグレモリー家主催で冥界のイベントに参加していた。因みにフレイヤも付いて行こうとしてたが、そこはロスヴァイセに頼んで引き留めて貰っている。

 

 今回のイベントに俺は参加してない。何故なら『ファイタードラゴン』の出演者――イッセー達の握手とサイン会がメインだから。今は少し離れた場所で見守っているだけだ。

 

 参加している『ファイタードラゴン』役のイッセーは勿論のこと、『アリス姫』のリアスの他にもいる。

 

 祐斗は番組内で敵役の『ダークナイト・プリンス』となっていた。格好は凛々しい鎧姿とマントを羽織っている。とある国の王子で、宿敵ファイタードラゴンのライバルと言う設定だ。

 

 王子に相応しい容姿端麗な事もあって、殆どの女性ファンが祐斗のところに並んでいる。ほんの一瞬だったが、イッセーが羨ましそうに見ていたし。因みにイッセーは殆ど男の子ばかりの子供たちだ。

 

 更に小猫も『デビルンキャットちゃん』としてファイタードラゴンの味方役になっていた。嫌がらず丁寧に応対している小猫は流石だよ。

 

 今のところイッセーは子供人気ナンバーワン、祐斗は女性人気ナンバーワン、リアスと小猫は中間、と言ったところか。

 

 ファン層を確認した俺は一旦楽屋テントに戻る事にした。

 

 すると、スタッフの一人が近づいてくる。

 

「どうでしたか、リューセーさま?」

 

 確認してきたのはライザーの妹――レイヴェル・フェニックスだった。

 

「もう少しで終わると思うから、そろそろ片付けの準備をしておくようにスタッフ達に言っといてくれ」

 

「わかりましたわ」

 

 彼女はグレモリー眷族達が冥界でイベントをすると聞き、アシスタントとして協力してくれていた。

 

「それにしても、まさかお嬢様の君が自分からアシスタントを志願するとはねぇ。まぁこうでもしないと、イッセーに会える口実が作れないからな」

 

「な、何を言ってるんですの! これはあくまで修行の一環ですわ! べ、別にイッセーさまに会いたい為って訳じゃありませんわ!」

 

「はいはい、そうでしたね」

 

 ちょっと苦しい言い訳をするレイヴェルに、俺は一先ずそう言う事にしておこうと聞き流す。

 

 だってコイツ、イベント開始前にイッセーを見た途端、凄く嬉しそうな表情をしてたんだよな。さっきの言い訳をされても、全然説得力が感じられない。

 

 そう思いながらレイヴェルと話していると、懐に入れてるケータイが振動する。気付いた俺は取り出して見ると、グレモリー夫妻と会う予定の時間前のアラームだと思い出す。

 

「レイヴェル。グレモリー夫妻に会う予定の時間になったから、俺はこのまま抜けさせてもらう。すまないが後の事は頼むよ。それとイッセーが戻ってきたら、人間界に帰還する準備をしておくよう伝えておいてくれ」

 

「あ、はい。わかりましたわ」

 

 グレモリー夫妻に今回の件について話し終えて人間界に戻った後、オーディンとフレイヤの護衛をしなければならなかった。

 

 あのエロ爺ときたら、来日してからどうしようもない注文ばかりしてるんだよな。風俗店に行くわ、道端歩いてる女性をナンパしたりでやりたい放題だ。

 

 それにフレイヤもフレイヤで、俺とデートしようと言って町へ無理矢理行かせようとしたり、一緒にお風呂に入ろうとしたり、更には俺の部屋に忍び込んで一緒に寝ようとしたりで。思わずヴァルハラに滞在した頃を思い出したよ。

 

 フレイヤを止めるのはオーディンの役目なんだが、今回はそれを全くやらないエロ爺と化している。どっちもやりたい放題してる所為で、ロスヴァイセの心労が絶えない状態だ。

 

「おっ、そうだレイヴェル。もし人間界へ来る予定があったら家に遊びに来な。その時に君の事を両親に紹介するからさ」

 

「わかりまし………へ?」

 

 言うべき事を言った俺は楽屋テントから出た直後、レイヴェルが顔を真っ赤にして物凄く慌てふためいていたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 冥界でのイベントやグレモリー夫妻との話を終え、オーディンとフレイヤの日本観光に付き合わされた後、俺はグレモリー眷族の男性陣を連れて修行の相手をしていた。

 

 

 ギィィィィンッ! ギィンッ! ギィンッ!

 

 

 現在は久しぶりに祐斗の相手をしている最中だ。

 

 神速で動きながら聖魔剣を振るっている祐斗に、俺は一歩も動かずにオーラを纏った木刀で全て防御している。

 

 自身の身体能力を向上している祐斗は、『騎士(ナイト)』の特性も加えて相当なスピードを見せていた。禁手(バランス・ブレイカー)となったイッセーにも引けをとらない程だ。

 

 未だ攻撃が当たらない事に祐斗は一旦距離を取った。その直後には僅かに息が上がっている様子が見える。

 

 俺が一歩も動かずに防御態勢を取り続けて、もうかなりの時間が経っていた。その間に祐斗は数え切れないほどの攻撃を仕掛けるも、俺に当てる事が出来ないどころか、一歩も動かせる事が出来ていない。

 

 端から見て、余りにも差が歴然としてる光景と思われるだろう。けれど、俺は俺で防御に集中しなければ不味いと思う程の状態になっていた。

 

 初めて会った頃の祐斗は、駒の特性と自身の能力に頼り過ぎている『宝の持ち腐れ』状態だった。その為に大して本気を出す必要もなく、ある程度は気を抜いても問題無かった。

 

 しかし、今は違う。あの頃と比較したら、もう明らかに別人じゃないかと思う程に急成長している。俺やアザゼルが課した修行によって、今の祐斗はイッセーと同様に並みの上級悪魔を圧倒出来る実力者となっている。

 

 たった数ヵ月の間にここまで強くなるのは本当に驚きだ。人間だった頃のイッセーを強くさせるのには相応の時間を要したんだが……。悪魔だから、もしくは祐斗が持っている才能、と言うべきかもしれない。

 

 因みに祐斗だけでなく、リアスたちグレモリー眷族も当然大きく成長している。攻撃力だけで言うなら、新人悪魔達の中でもトップクラスだ。

 

 さて、それはそうとしてだ。そろそろ俺も仕掛けさせてもらうとするか。

 

 格段に上がった祐斗の攻撃力と技量、そしてスピードは充分に見させてもらった。今度は攻撃に対する防御と回避、もしくはカウンターを見せてもらうか。

 

 そう考えた俺が攻撃の構えに移った直後、それを見た祐斗は即座に防御の姿勢に移る。

 

 

 ガギィィィィンッ! 

 

 

「ぐっ!」

 

「ほう」

 

 少し力を込めた俺の斬撃を、祐斗は聖魔剣で防いだ。

 

 だがそれは束の間で、俺は更に仕掛ける。一撃、二撃、三撃と、速さと重さを兼ねた斬撃を振るう。

 

 対して祐斗も負けじと俺の斬撃を防ぎ、躱し、更にはカウンターを打ってこようとする。剣の柄頭をボーリングの球のように膨れ上がらせ、俺の頭を横殴りしようと。

 

 ふむふむ。手加減してるとは言え、俺相手でもカウンターを仕掛ける程の腕前になったようだな。と言っても、俺やアザゼルから見たらほんの牽制程度に過ぎないが。

 

 だが、祐斗のカウンターは近距離戦メインの相手には有効だ。イッセーとゼノヴィアがそれに該当する。

 

 膨らんだ柄頭を空いてる片手で受け止めながら軌道をずらした俺は、無防備状態となった祐斗に回し蹴りを喰らわす。

 

「がっ!」

 

 腹部に直撃した祐斗は吹っ飛ぶも、即座に体勢を立て直す。

 

「剣だけに意識を向けるな。俺の攻撃は剣以外の攻撃もする事を分かっている筈だ」

 

「……は、はいっ! もう一度、お願いします!」

 

 俺の指摘に祐斗は力強く返事をした後、もう一度戦おうと構えようとする。

 

 どうやら身体も結構タフになっているようだ。さっきの回し蹴りは加減しても、並みの上級悪魔が受けたら確実に悶絶している。なのに祐斗は、そうならないどころか力強く立っていた。打たれ強くなって何よりだ。

 

「せ、先輩たちぃ! そこまでですぅ! と言うかもうとっくに制限時間が過ぎてますよぉ!」

 

「おい祐斗、早く俺に代われ! どんだけ待たせりゃ気が済むんだよ!?」

 

 ぴょんぴょん跳ねてベルを持って叫ぶギャスパーと、変われと祐斗に催促してくるイッセー。

 

 それを聞いた俺と祐斗はすぐに構えを解いた。

 

 今回の修行は模擬戦として制限時間を設けている。どうやら予定していた時間をかなり過ぎていたようだ。

 

 祐斗はまだ続けたかったのか、少し不満そうな顔をしながらもイッセーと交代しようとする。

 

 さて、お次の相手はイッセーか。おっと、その前に結界の強度を上げておかないとな。



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第七話

「イッセーくんの修行は、もう模擬戦じゃなくて実戦そのものですね」

 

「アイツはお前等と違って才能が無いからな。それを埋める為に多くの戦闘経験を積ませてるんだ」

 

 イッセーとの修行後、スポーツ飲料をあおりながら裕斗はそう苦笑していた。

 

 今は俺が各々に自主トレをやるよう課している。

 

 裕斗はさっきまで俺とイッセーの修行を観戦したせいか、急に疲れが出て休憩中。ギャスパーは空中を飛び回る小型ロボットを目で止める練習。あれはアザゼルが作ったギャスパー専用の練習アイテムだ。

 

 イッセーは闘気(オーラ)を解除し、自身の力をコントロールする為の瞑想をしている。俺のちょっとした重い枷を付けた状態のままで。

 

 禁手(バランス・ブレイカー)に至り、更に転生悪魔となったイッセーは、身体能力の他に闘気(オーラ)も急激に上昇している。それによってイッセーはここ最近、力が少し暴走気味になっていた。

 

 今までは俺の修行で長い時間を掛けて闘気(オーラ)を高めていたが、それがいきなり急上昇した。その為、今までコントロール出来た物が急に出来なくなっている。

 

 その証拠の一つとして、この前に俺が朱乃と話している時にイッセーが隠れていた時だ。アイツは気配と闘気(オーラ)を消していたと言ってたが、消してないどころか駄々洩れだった。消していたのは人間だった頃の闘気(オーラ)までで、悪魔となって急上昇した闘気(オーラ)は全く消せていなかった。

 

 このままでは不味いと思った俺は、イッセーに再度瞑想の修行をさせる事にした。自身の闘気(オーラ)の量を理解すると同時に、力に溺れて暴走させない為の瞑想を。

 

 知っての通り、転生悪魔となった者の中には、急激な力を得た事で制御出来なくなって暴走する事例がある。力に溺れた転生悪魔は挙句の果てに、主を殺して『はぐれ悪魔』となった後、理性を失った異形の怪物となる。

 

 弟がはぐれ悪魔となる事は絶対に無いが、急上昇した闘気(オーラ)を抑えきれずに暴走してしまう恐れがある。それを防ぐ為の対策として、再び瞑想をさせているという訳だ。

 

 もしも悪魔になって強くなったと慢心し、『今なら兄貴に勝てるかもしれないな』とイッセーがほざいた瞬間、力の差を徹底的に教えてやろうと一から矯正する予定だった。ま、それは杞憂に済んだがな。

 

「けど、お前も相当腕を上げたじゃないか。スピードやテクニックは、イッセーより上だぞ」

 

 俺がそう言うと、祐斗は首を横に振る。

 

「イッセーくんが超スピードの瞬間的なダッシュをするのを考えれば、僕に引けを取らないと思いますが」

 

「いいや、アレって凄そうに見えても実は直線での移動しか出来ないんだ。だからお前はさっき俺の超スピードに反応していたじゃないか。それに加えて、俺との模擬戦で縦横に高速移動しながら攻撃をするのはイッセーには出来ない。そう考えれば、祐斗もイッセーに負けてはいないって事だ」

 

「あくまでスピードやテクニックに関してです。パワーでは僕を圧倒的に上回っていますし。それに赤龍帝を相手にすると考えるだけで相当なプレッシャーです。イッセーくんがリューセー先輩との修行で繰り出した強烈なパンチが自分に飛んでくるのを考えるだけで肝が冷えます。命がいくつあっても足りませんよ」

 

 ふむ、祐斗はイッセーに対する戦闘評価は相当高いようだな。俺からすれば、祐斗も充分に戦えると思うんだが。

 

 それとは別だが、俺達はアザゼルとサーゼクスが作ってくれた頑丈なバトルフィールドで修行している。冥界グレモリー領のとある地下に作ったものだ。

 

 俺はともかくとして、イッセーと祐斗とギャスパーは能力上の関係で、普通の場所では思いっきり修行する事が出来ない。イッセーが本気になれば簡単に風景を吹っ飛ばし、祐斗は周囲を剣だらけにしてしまう。

 

 人間界で修行してる時は俺が結界を張っているが、それでも時々周囲に僅かな影響を及ぼしてしまう事がある。特に俺とイッセーが全力のガチンコバトルする時は、な。

 

 修行をやる場所が物凄く限られて難儀してる中、あの二人からプレゼントを頂いたって事だ。

 

 イッセー達がディオドラの件で活躍した褒美と、聖書の神(わたし)の身内を危険に晒したお詫びを兼ねている。

 

 家からは専用の魔法陣でジャンプして、この場所へ来ている。特殊な作りである上に、聖書の神(わたし)も一手間加えておいたので、テロリストに気取られる事はない。

 

 レーティングゲームに参戦する常連の上級悪魔は似たような場所を持っているが、若手悪魔のイッセー達は特例という形で頂いていた。因みに聖書の神(わたし)名義で、このバトルフィールドの管理者となっている。普通なら制作したアザゼルかサーゼクスの筈だが、修行場所に関しては聖書の神(わたし)に一任して欲しいんだと。

 

 まぁ俺としては冥界にも世話になっている身なので、ああだこうだと言えない。それにバトルフィールドの管理者ぐらいなら請け負っても問題ないからな。

 

 因みにこの特例は他にもいる。それは若手悪魔のサイラオーグ率いるバアル眷族達だ。特に主のサイラオーグは時間に空きがあったら、真っ先にバトルフィールドへ向かって修行してるようだ。イッセーと戦う為に備えて。

 

 他のグレモリー眷族達も当然利用しているが、今回は男組だけしかいない。ゼノヴィアも参加したがっていたが、アイツは後日に俺とマンツーマンの特訓に付き合う予定だ。それを聞いた祐斗が、少しばかり面白くなさそうな顔をしていたがな。

 

「あの、リューセー先輩。今更ですけど、僕達は強くなっていますよね……?」

 

 いつもの祐斗らしくない少し弱気な質問だった。

 

「勿論だ。こう言っては大変失礼だが、イッセーは当然としてお前もリアスと朱乃の力を疾うに超えている。並みの上級悪魔より遥かに上だ。祐斗は大丈夫だろうが、強くなったからって油断はするなよ」

 

「分かっています。僕やイッセーくんの能力は広く知られているから、対処されやすいんですよね?」

 

「その通りだ」

 

 祐斗の言葉に俺は頷いた。

 

 イッセー達の力は既にレーティングゲームの全冥界放送で広く知れ渡っている。なので他の上級悪魔は対処と言うより、倒す為の戦術を組み込んでくる。以前のシトリー戦では、ソーナがイッセーに真っ向勝負では勝てないと理解し、ルールを利用して倒したのがソレだ。

 

 対処だけじゃなく、コイツ等にも弱点は当然ある。

 

 イッセーは直情型な為、シトリー戦のように特殊ルールが設けられたら、そこを的確に突かれると負けてしまう。加えて強すぎる事もあって、イッセーと真っ向勝負せずに敬遠されてしまう。倒すとするならトラップかカウンター、もしくは龍殺しをメインにした攻撃を仕掛けるだろう。

 

 祐斗は防御力の低さと脚だ。修行によって防御力が多少高くなったとはいえ、あくまで必要最低限のだ。イッセーと違って、闘気(オーラ)を纏っての防御が出来ない。そして脚は長所であるが、短所でもある。もし脚を狙われれば、自慢のスピードを発揮出来ずにアウトだ。例えば、相手のスピードを遅くする神器(セイクリッド・ギア)所有者と遭遇したら場合とかな。

 

 そしてギャスパーは単独で戦える戦闘力はない。なので一人の時に狙われたら終わりだ。けど、単独では弱くてもサポートに適しているのから、誰かと組めばギャスパーは真の力を発揮する。

 

「そういや俺って悪魔になったから、龍殺しの他に光関連も弱点になっちまったんだよな。朝起きた時には、いつもよりダルく感じたし」

 

「ぼ、ぼ、ぼ、僕は弱くても皆さんの力になります……!」

 

 俺が一通りの弱点を言ってると、聞いていたイッセーとギャスパーが自主トレを一時止めて話に加わってきた。

 

「ギャスパーはともかく、イッセーは瞑想以外に光対策の修行も必要だな。今度の修行では最低でも聖書の神(わたし)の光を簡単に耐えきれるようにしないと」

 

「じょ、冗談じゃねぇ! 確か聞いた話じゃ、聖書の神(あにき)の光は特別で、まともに喰らったら二度と治療できないそうじゃねぇか! 弟の俺を殺す気か!?」

 

「大丈夫だ。そこは俺が上手くやるから心配するな♪」

 

「そんな笑顔で言われても全然説得力ねぇ!」

 

「とは言っても、お前は普段修行で俺の攻撃をずっと受けてるから、他の転生悪魔と違って光の耐性はそれなりにあるぞ」

 

「………え、マジ?」

 

 追加の特訓内容にイッセーが物凄く嫌そうに叫ぶも、俺が補足した内容を聞いた途端に目が点になる。

 

「ああ。それに加えて、お前には今も聖書の神(わたし)の加護が施されてるから、並みの天使や堕天使が放つ光を喰らってもダメージは殆ど無いぞ」

 

「……もうイッセーくんは転生してるけど、悪魔に加護を施す神って……」

 

「お、お二人が兄弟でも、そんなの見た事ないです……」

 

 俺の台詞に祐斗とギャスパーが苦笑していた。

 

 言われてみれば、確かにそうかもしれない。転生前の聖書の神(わたし)は悪魔を嫌っていたから、転生悪魔となったイッセーに加護を施すなんて絶対にしないだろうな。

 

「本当に色々と変わったな、聖書の神(おやじ)。以前まではアレほど悪魔を毛嫌いしてたってのに」

 

 すると、第三者の声がした。俺達が振り返るとアザゼルだった。

 

「ほら、差し入れ。女子部員お手製のおにぎりだ。あとフレイヤから聖書の神(おやじ)にだと」

 

 イッセー達が喜び、早速おにぎりを頬張っていた。フレイヤの差し入れは……リアス達と同じおにぎりでも、かなり不格好な形をしていた。イッセー達と違って不安を抱きながら食べるも……普通だった。具が入ってない塩気の強いおにぎりだけど、普通に美味しい。

 

「兄貴、アーシアの作ったおにぎりいらないなら俺が全部食うぞ?」

 

「冗談じゃない! 俺だって食べる!」

 

 大事な可愛い妹分が作ったおにぎりを食べない訳ないだろうが! 

 

 そう思いながら、俺はアーシアお手製のおにぎりも頬張る。うむ。フレイヤと違って優しい味で癒される。

 

 休憩する俺達の傍にアザゼルも座って笑う。

 

「嘗て天界にいた頃とは別人だよな、聖書の神(おやじ)。もし此処にミカエル達がいたら驚愕もんだぞ」

 

「だろうな。だが、もうあの時の聖書の神(わたし)じゃない」

 

「それが今は家族思いな兵藤隆誠ってか? サーゼクスと同じシスコン付きで」

 

「ほっとけ」

 

「シスコンは否定しないんだな、兄貴」

 

 アザゼルと俺の会話に思わず突っ込みを入れるイッセー。

 

 それはしょうがないだろう。アーシアみたいな可愛い妹分がいたらシスコンになってしまうんだからさ。と言うかそれ、イッセーも似たようなものだろうが。

 

 イッセーの突っ込みを聞いたアザゼルが、何か思い出したように訊こうとする。

 

「そういやイッセー、聞いたぜ。お前が将来リアスのもとから独り立ちするときが来たら、アーシアとゼノヴィアを連れて行くんだって?」

 

 何? それは初耳だぞ。イッセー、そう言う話は前以て俺にも言っておけ。お前のやる事に口出しはしないが、アーシアに関する事は言って欲しい。

 

「ええ、まあ」

 

「やるじゃねぇか。悪魔になったばかりなのに、もうそこまで先の事を考えてるとはな」

 

「いや、なんていうか、アーシアとはずっと一緒にいるって約束しましたし。俺もアーシアも一緒にいたいんです。それにゼノヴィアとの悪魔稼業も楽しいかなーって」

 

 な~んだ。もう既にアーシアとそう決めていたのか。だったら猶更、俺が口出しする必要はないな。アーシアはイッセーの事が大好きだし。ゼノヴィアがイッセーに付いて行こうとする理由は分からんが。

 

 返答を聞いたアザゼルが、イッセーの頭をくしゃくしゃ撫でている。

 

「イッセー。お前が将来独立して『(キング)』になるのは分かった。だったらひとつ覚えなければいけない事があるぞ」

 

「………犠牲(サクリファイス)、だろ?」

 

 確認する様に答えるイッセーに、アザゼルは感心する。

 

「その通りだ、イッセー。ゲームのとき、手駒を見捨てなければいけないことが必ず起きる。その時、おまえはどう出るか。そこで『(キング)』としての資質が試されるんだよ」

 

 ここから先はアザゼルと俺が、イッセーに『(キング)』としての在り方を一通り説明した。将来出来るであろう眷族を犠牲にする覚悟を。

 

 まぁその前に、今のイッセーには『(キング)』のリアスを勝たせる為の覚悟を持ってもらわない。ゲームの際、目の前で倒れた眷族を捨てる覚悟を。そして……リアスを勝たせる為に自分を犠牲にする覚悟もな。

 

 一通りの話を終えると、アザゼルはイッセーに別の確認をしようとする。

 

「なぁイッセー、おまえがスケベなのは知ってるんだが……もしも半裸の女が出てきたら、どうする?」

 

「眼福です!」

 

 イッセーの即答にアザゼルと俺は肩を落とす。

 

「こりゃダメだ。なぁリューセー、こいつすぐに負けるぞ?」

 

「どうやらお前には理性を保つ修行も課しておく必要があるな。『(キング)』になろうとするなら猶更に」

 

「何でだよ!?」

 

 心外だと叫ぶイッセーだが、俺は本気で不安だった。

 

 ここ最近は真面目に戦っていたイッセーだが、コイツは根っからのドスケベだ。ライザー戦ではドレスブレイクを使って、女性眷族を裸にさせた前科がある。

 

 今後の修行について考えながらおにぎりを食べ終えると、一緒に食べ終えたイッセー達は気合を入れた。

 

「よーし、兄貴! もう一度、組手をやろうぜ!」

 

「ちょっとイッセーくん、今度は僕の番だよ」

 

「ぼ、僕も先輩と修行したいんですが……」

 

「う~ん、順番的に考えてギャスパーだから……。じゃあイッセーは裕斗と組手をやってもらおうか。実力が近い者同士の組手も良いもんだぞ」

 

 俺の提案にイッセー達が驚いた顔をする。特に祐斗は予想外と言わんばかりの反応だ。 

 

「祐斗が相手、か。確かに兄貴の言う通り、それも良いかもな。じゃあ祐斗、相手してくれるか?」

 

「う、うん。僕は構わないよ。でもイッセーくん……本当に僕で良いのかい?」

 

「おう。一度お前ともやってみたいと思ってたからな。少し付き合ってくれよ、親友」

 

「っ……うん! 勿論だよ、イッセーくん!」

 

 拳を突き出すイッセーに、祐斗もそれに倣ってイッセーの拳と突き合わせる。

 

 ………う~ん。これは普通に男の友情と言える会話なんだが……この光景をクラスメイトの女子達が見たら、何故か変な方向に誤解するような気がする。だって祐斗がイッセーの台詞を聞いた途端、嬉しいのか少しばかり頬を赤らめてるし。

 

 まぁ祐斗にしては、同い年であるイッセーから名前で呼び合える親友と認識されてるので猶更嬉しいんだろう。

 

 そんな中、二人は俺達から少し離れた場所で組手を開始した。俺はギャスパーの修行をやろうとしたら、アザゼルが手招きする。

 

「リューセー、ちょっといいか」

 

「どうした?」

 

「おまえさんが考案したスピンオフ作品が採用されたぞ」

 

「何!?」

 

 予想外の台詞に俺は思わず驚愕の声を上げる。

 

 おいおい、ちょっと待て。アレは俺の悪ノリで考えた作品だぞ。絶対に採用されないと思ってたのに。

 

「リューセー先輩、スピンオフ作品って何ですか?」

 

「ああ、それは――」

 

「セラフォルーが出演してる番組『魔法少女マジカル☆レヴィアたん』の外伝作品――『魔女っ子姉妹物語』だ」

 

 ギャスパーの問いに答える途中に、アザゼルが割って入る様に答えた。

 

「アザゼル、人が答えてる最中に言うなよ」

 

「悪い悪い。ってか、随分と思い切った作品を考えたな。セラフォルーと対抗でもする気か?」

 

「別にそんな気は無い。以前にリアス達を幼児化した時に、こんな作品はどうだろうかと考案しただけだ。って、そんな事はどうでもいい。問題は何で『魔女っ子姉妹物語』が採用されたかだ」

 

 アレは二人の少女(モデルはミニリアスとミニソーナ)が魔女っ子になって、弱い悪の魔法生物から大好きな家族を守ろうとするだけの拙い内容だってのに。

 

 サーゼクスやセラフォルーだったら絶対に採用するだろうが、冥界側のテレビ局はすぐに認めない。

 

 イッセー主演の『ファイタードラゴン』は、イッセーがレーティングゲームで子供達に大注目されていたから採用された。なので、次の作品を投稿したところでソレが必ず人気になるとは限らないから。

 

「ああ、それな。テレビ局のプロデューサーが、ホームドラマ的な番組を考案してたところ、偶然にリューセーが投稿した作品内容を見た途端に即効で採用したそうだ」

 

「本当に凄い偶然だな」

 

 プロデューサーが偶然目にした途端に採用って……どんだけの確立だよ。そんな展開は全然考えもしなかったぞ。

 

「で、だ。これにはプロデューサーからちょっとした条件があってな」

 

「どんな条件だ?」

 

「モデルにした小さいリアスとソーナを出演させるようリューセーに説得して欲しいんだと。あとそれを聞きつけたサーゼクスとセラフォルーも二人の家族として出演させて欲しいときた」

 

「アイツ等も一枚噛んでるのか!」

 

 道理で動きが早い訳だ。サーゼクスとセラフォルーの事だから、この前に送ったミニリアスとミニソーナの写真を見て、今度は実物も見たくなったんだろう。

 

 アイツ等の事だから、可能な限りで魔王の権限を使ったと思う。そうでなきゃ、こんなに早く作品の採用なんかされはしない。

 

 と言うかセラフォルー、お前それで良いのか? 悪ノリとは言え、俺はお前の主演番組を基にして考案したんだぞ。

 

「因みにリアスとソーナ以外の出演予定者はいないのか?」

 

「一応候補は出てるみたいだが、魔王さま達からの熱い要望があってな」

 

「つまり、アイツ等以外は認めないって事か」

 

「そう言うことだ」

 

 ったく、あのシスコン共め。自分達が頼めないからって俺に丸投げするなよ。

 

 …………まぁ良いだろう。魔王二人が動いている以上、作品が採用されたならやるしかない。

 

「……はぁっ、分かったよ。後で俺の方からリアスとソーナに掛け合ってみる」

 

「おう、頼むぜ」

 

「そんじゃギャスパー、待たせて悪かったな。修行を再開しようか」

 

「は、はい! お願いします!」

 

 了承した俺はギャスパーの修行を再開しようと、アザゼルから少し離れて始める事にした。

 

 因みにイッセーと裕斗は――

 

「はははは! やっぱりすげぇじゃねぇか、祐斗!」

 

「それは嬉しい台詞だよ、イッセーくん!」

 

 互いに禁手(バランス・ブレイカー)となって、両者負けじと互角の戦いを繰り広げていた。それでも祐斗が少し押されているが。

 

 ふむ。やはりイッセーにとって、祐斗は丁度良い相手のようだ。ゼノヴィアも祐斗と同じく力を付けてるから、今度はイッセーと彼女を戦わせてみるとしよう。

 

 ギャスパーの修行をしながら、俺はイッセーの修行プランを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 後日、リアスとソーナに番組出演の交渉をするも――

 

「冗談じゃないわ! どうして私がそんな恥ずかしい番組に出演しなければならないの!?」

 

「お断りします。お姉さま関連の番組に出演する気は毛頭ありませんので」

 

 言うまでもなく速攻で断られた。

 

「まぁまぁそう言うなって、お二人さん。魔法少女と言っても――」

 

 断られてもそう簡単に引かない俺は、あの手この手を使って必死に彼女達との交渉を続ける。

 

 そして何とか交渉した結果、リアスとソーナは渋々と引き受けてくれた。大して人気が出なかったら速攻で番組を降りると言う条件付きで。

 

 俺も俺で、そこまで人気が出る番組じゃないと予想していたので、彼女達の条件を受け入れた。

 

 だがしかし、俺やリアスとソーナはこの時に全く想像すらしなかった。『魔女っ子姉妹物語』が、『魔法少女マジカル☆レヴィアたん』と並ぶ人気作品になってしまう事を。




色々と突っ込みどころのある内容だと思いますが、感想と評価をお待ちしています。


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第八話

 オーディンが来日して数日経ったある日の夜。

 

 八本脚のある巨大な軍馬――スレイプニルの馬車に俺やグレモリー眷族、アザゼル、オーディン、フレイヤ、ロスヴァイセが乗っていた。

 

 現在は空を飛んでおり、広い夜空を移動中だ。

 

 外には護衛として祐斗、ゼノヴィア、イリナ、そしてバラキエルが空を飛んでついてきていた。テロリストなどの襲撃者をいつでも迎撃出来るように。

 

「日本のヤマトナデシコはいいのぉ。ゲイシャガール最高じゃわい」

 

 オーディンが満足げな表情で笑っていた。

 

 更には――

 

「ねぇねぇリューセー、私は貴方のお部屋で二人っきりで過ごしたい~。だからもう家に戻ろうよ~」

 

 フレイヤがずっと俺の腕に引っ付いて恋人みたいに甘えていた。

 

 オーディンとフレイヤに言わせてくれ。お前等もういい加減にしろ!

 

 と言うか、護衛として同行してる俺達の身にもなれ! いくら日本の神々と会談をやる前だからって、キャバクラや遊園地に行ったり、寿司屋に行ったりと好き勝手やり過ぎだ。フレイヤはフレイヤで密かに俺をラブホテルに連れて行こうとしてたし。

 

 因みに俺達は未成年、高校生と言う事もあって、場所によっては店内に入れず、入り口付近の待合室で待機してる事も多かった。

 

 端から見てオーディンはエロ爺、フレイヤは色ボケ女だよ。これがかの有名な北欧の神々だと到底思えないだろう。

 

 俺だけでなく、グレモリー眷族も全員疲れた表情だ。アーシアもイッセーの肩に頭を寄せて眠っちゃってるし。正直言って今すぐ彼女を家に連れてベッドで寝かせてあげたいよ。

 

 朱乃は………心ここにあらずだな。話しかけるなってオーラが全身から放ってるよ。ああなってるのは言うまでもなく、バラキエルが俺達と同行してるからだ。

 

 フレイヤはともかく、問題はオーディンの相手だ。未成年お断りの店に入れない事で憎悪の念を抱いてるイッセーが怒ると、「耳が遠いから聞こえんぞい」とか「アザゼルさんや、おっぱいはまだかい?」とボケ老人みたいに惚けている。

 

 本当なら懲らしめたいところだが、オーディンは大事な客である為に手が出せなかった。加えて会談を控えてる身だから、俺達の所為で台無しにする訳にはいかない。

 

 なので、俺は会談後に実行する事にした。「帰国前にオトメ達がたくさんいる店に連れてってあげます」と俺が言うと、オーディンは何の疑いもなく「それは楽しみじゃ」とニヤけながら了承してくれた。

 

 その返答を聞いて俺はほくそ笑みながら、その店にいる店主に連絡した。豪華プランの予約をする為に。因みに俺の近くで聞いていたイッセーは密かに、「爺さん、生きろよ……!」とオーディンに向けて合掌していた。

 

 絶対に抗議してくると思うが、俺は一切嘘を吐いていないと惚けるつもりでいる。漢女(オトメ)達がいる店を紹介しただけだと。

 

「オーディンさまにフレイヤさま! もうすぐ日本の神々との会談なのですから、旅行気分はそろそろお収め下さい。このままでは、帰国した時に他の方々から怒られます」

 

 ロスヴァイセはこの数日、必死に我慢しつつもクールに対処していた。けれどもう限界のようで、額に青筋を立ててぶちギレ寸前だ。

 

「まったく、おまえは遊び心の分からない女じゃな。もう少しリラックスしたらどうじゃ? そんなだから新しい男が出来んのじゃよ」

 

「そうよそうよ。もう少し柔軟になりなさいよ。言っておくけど、リューセーはもう私のだから寄りを戻そうなんてしないでね」

 

「か、か、彼氏は関係無いでしょう! す、好きで独り身やっているわけじゃないんですからぁぁ! それにフレイヤ様はいつからリューセーさんの彼女気取りなんですかぁぁぁっ! もういい加減に離れてくださぁい!」

 

 ありゃりゃ、また涙目になっちまった。ってか、俺に引っ付いてるフレイヤを引きはがそうとしてるし。もう本当に面倒くさいわ、北欧勢は。そろそろ本気で帰りたくなって来たよ。

 

 ガックンッ! ヒヒィィィィィィィンッ!

 

 そう思った直後、移動中の馬車が突然停まり、急停止の衝撃波が俺達を襲った。

 

 不意の出来事によって、全員が態勢を崩していた。

 

「なぁ兄貴、これってもうお決まりのアレだよな?」

 

「ああ、そうだな。碌でもない事が起こるパターンだ」

 

 全員が慌てている中、俺たち兄弟は冷静に会話をしている。修行の旅で、こう言うのはよくあったからもう慣れている。

 

 スレイプニルの鳴き声を聞く限り、何か遭ったと言う事だ。

 

 俺たち兄弟は顔を見合わせて頷いた後、速攻で馬車から出て飛翔する。外ではバラキエルを中心に裕斗とゼノヴィアとイリナがそれぞれ展開し、戦闘態勢になっていた。

 

 因みにイッセーは悪魔になっているから、翼を出して空を飛ぶ事が出来る。が、既に人間の頃から飛翔術を使えるので翼は大して意味は無い。

 

 外に出た俺とイッセーはいつでも迎撃出来るよう、用心の為にオーラをいつでも開放出来る状態にしていた。イッセーもその気になれば、禁手(バランス・ブレイカー)になれる。

 

 そして前方には男性らしき者が浮遊している。少々目つきが悪い端正な顔立ちをした奴だ。オーディンの正装と似た黒いローブを身に纏っている。

 

 男性を確認した俺とイッセーは目を見開いた。何故なら目の前に奴は知っている奴だからだ。

 

 こちらの反応を見た男性はマントをバッと広げると、口の端を吊り上げて高らかに喋り出す。

 

「はっじめまして、諸君! そしてひっさしぶり、聖書の神に赤龍帝! 我こそは北欧の悪神! ロキだ!」

 

 男性――ロキの自己紹介に誰もが目元を引き攣らせている。

 

 俺達の後から出てきたアザゼルが黒い翼を羽ばたかせ、俺の近くで浮遊する。

 

「本当に久しぶりだな、ロキ。この前に俺とイッセーがヴァルハラへ訪れた以来だな。それで、一体何の御用かな?」

 

「ロキ殿、この馬車にはそちらの主神であるオーディン殿が乗られている。それを承知の上での行動だろうか?」

 

 俺とアザゼルが冷静に問いかけると、ロキは腕を組みながら口を開いた。

 

「いやなに、我等が主神殿や女神が、我等が神話体系を抜け出て、我等以外の神話体系に接触していくのが実に耐えがたい苦痛でね。我慢出来ずに邪魔をしに来たのだ。もうついでに、この町は以前我等の領域(ヴァルハラ)に土足で踏み込んだ身の程知らずな兄弟の故郷なので、我の傷付いた心を癒す為の復讐を兼ねて来たのだよ」

 

 悪意全開の宣言に加え、俺たち兄弟に対する復讐と言う名の仕返しだった。相変わらずな物言いだな。

 

 それを聞いたアザゼルと俺は口調を変える。

 

「堂々と言ってくれるじゃねぇか、ロキ」

 

「何が復讐だよ。俺たち兄弟と会って早々に自分勝手な言いがかりで喧嘩を吹っ掛けたのはお前じゃないか、ロキ。あの後にオーディン殿に絞られたってのに、全然懲りてないようだな」

 

 平和な日常が好きなアザゼルや俺にとって、それを乱そうとする奴は大嫌いだ。目の前で堂々と宣言したロキが特に。

 

 アザゼルと俺の台詞を聞いて、ロキは楽しそうに笑う。

 

「それに自分の発言が矛盾してるって事に気付いてないのか? お前だって今こうして他の神話体系に接触してるだろうが」

 

「他の神話体系を滅ぼすのならば良いのだ。和平をするのが納得出来ないのだよ。我々の領域に土足で踏み込み、そこへ聖書を広げた元凶――聖書の神(きさま)が特にな!」

 

「……そんな大昔の話を引っ張り出されても困るんだがな」

 

 人間に転生した聖書の神(わたし)はもう無関係、とは言わない。だからと言って、今の聖書の神(わたし)ではもう、どうする事も出来ないのが現状だ。

 

「更に許しがたい事に聖書の神(きさま)はあろう事か、人間に転生して兵藤隆誠と言う名で赤龍帝を連れて、再びヴァルハラへ赴いた! 貴様の所為で我等の主神殿が、こうして他の神話体系と接触してしまったのだからな!」

 

「何か人を元凶扱いみたいに言ってるな。ってか、例えオーディン殿が聖書の神(わたし)と会わなかった所で、どっちみち他の神々と交流する予定だったぞ。三大勢力が和平を結んだのを好機としてな」

 

「だとしても貴様が一番の切っ掛けである事に変わりはあるまい、聖書の神。そして主神オーディン自らが極東の神々と和議をするのも問題だ。これでは我等が迎えるべき『神々の黄昏(ラグナロク)』が成就出来ないではないか」

 

 どうやら今でも『神々の黄昏(ラグナロク)』を起こしたい考えのようだ。三大勢力だけじゃなく、人間側からみれば物凄く傍迷惑極まりない行為だ。そんな物が起きてしまえば最後、世界が滅ぼされてしまうから。

 

 すると、ロキの言い分を聞いていたアザゼルは指を突きつけて訊いた。

 

「ひとつ訊く! おまえのこの行動は『禍の団(カオス・ブリゲード)』と繋がっているのか? と言ったところで、それを律儀に答える悪神さまでもないか」

 

 訊くだけ無駄かと思うアザゼルだったが、ロキは面白くなさそうに返す。

 

「あの愚者たるテロリストと我が想いを一緒にされるとは不快極まりないところだ。此処へ来たのは己の意思で参上している。オーフィスの意思はない」

 

 予想外な返答にアザゼルは体の力が抜けていた。

 

「どうやらロキは何処ぞの堕天使達みたいに、独断で動いているみたいだな」

 

「一々俺を見ながら言うんじゃねぇよ、リューセー」

 

 意味深に言う俺に、アザゼルは鬱陶しそうに言う。

 

 さぞかし耳が痛いだろうなぁ。嘗てアザゼルの部下――女堕天使レイナーレと堕天使幹部コカビエルが独断で駒王町へやって、俺達に喧嘩を吹っ掛けてきたんだからな。

 

「ったく、『禍の団(カオス・ブリゲード)』じゃねぇのかよ。だが、これはこれでまた厄介な問題だ」

 

「そうだな。んで、オーディン殿。貴方がこの前仰ってた問題の阿呆が来たんですが?」

 

 俺が馬車の方へ顔を向けると、オーディンがフレイヤとロスヴァイセと引き攣れて馬車から出ていた。足元に魔法陣を展開して魔法陣ごと空中を移動していく。

 

 オーディンは当然として、さっきまで俺の腕に引っ付いていたフレイヤも真剣な顔となってロキを睨んでいる。睨む、と言うより不快と言った方が正しいか。

 

「すまん、リューセー。まさかロキが自ら此処へ出向くほどの阿呆とは思わなくてのぉ」

 

「ロキ、私とリューセーのデートを邪魔するなんて……随分いい度胸してるじゃない」

 

 オーディンが俺に謝罪しながら言ってると、フレイヤはロキに向かって不機嫌な表情で言い放つ。フレイヤって良い所で邪魔されると、こんな感じで怒るんだよなぁ。

 

「ロキさま! これは越権行為です! 主神やフレイヤさまに牙を向くなどと! 許されることではありません! しかるべき公正な場で異を唱えるべきです!」

 

 ロスヴァイセは瞬時にスーツ姿から鎧に変わり、ロキに物申していた。

 

 だが、肝心のロキは聞く耳を持たないようだ。

 

「たかが一介の戦乙女ごときが我が邪魔をしないでくれたまえ。我はオーディンとフレイヤに訊いているのだ。まだこのような北欧神話を超えた行いを続けるおつもりなのか? そして人間に転生した聖書の神と、転生悪魔になった元人間の赤龍帝とも交流を続けると?」

 

 返答を迫られたオーディンは平然と答えた。

 

「そうじゃよ。少なくともお主よりもサーゼクスやアザゼルと話していた方が万倍も楽しいわい。聖書の神(リューセー)赤龍帝(イッセー)との交流も含めてな。それに日本の神道を知りたくての。あちらもこちらのユグドラシルに興味を持ったようでな。和議を果たしたらお互いの大使を招いて、異文化交流しようと思っただけじゃよ」

 

「私もオーディンと一緒よ。それに鎖国同然だったヴァルハラの生活に飽き飽きしてたの。ロキだって知ってたでしょ? 私がずっと退屈な日々を送っていた事を。そんな時に日本からやってきたリューセーやイッセーくんとの出会いがなければ、私はずっとあのまま生ける屍も同然だった。だから、私はもう元の退屈極まりない生活に戻る気なんか無いわ。ロキが起こしたがってる『神々の黄昏(ラグナロク)』なんて以ての外よ」

 

 それを聞いたロキは苦笑した。

 

「……認識した。なんと愚か極まりないことか。――ならば元凶の聖書の神を殺し、ここで黄昏を行おうではないか」

 

 その直後、ロキの全身から凄まじい程の敵意を丸出しにした。そして俺に対する殺意も含めて。

 

「それは、三大勢力や聖書の神(わたし)に対する交戦の宣言と受け取っていいんだな?」

 

 俺が最後の確認をしても、ロキは不敵に笑むだけだ。

 

「当然だ。特に聖書の神、貴様だけは絶対に我が手で殺してやる」

 

「……そうか、なら――」

 

 

 ドガァァァァァァァァンッ!

 

 

 俺が言ってる最中、ロキに凄まじい波動が襲い掛かった。



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第九話

「おいおい。いきなり何をやってるんだよ、ゼノヴィア」

 

 俺が少々呆れながら、デュランダルを振るったゼノヴィアへ向けながら言った。今も聖剣から大質量のオーラが立ち上っている。

 

「申し訳ありません。主……ではなく隆誠先輩を元凶扱いする暴言に我慢出来なく攻撃しました」

 

 そう言い放つゼノヴィアに思わず苦笑する俺。

 

 ……まぁ良いか。どの道、ロキと戦う事に変わりはないからな。それに――

 

「やはり、私の攻撃は効かないな。流石は北欧の神か」

 

 ロキがアレくらいでやられる奴じゃないのは既に知っている。

 

 ゼノヴィアの言う通り、攻撃を受けた筈のロキは何事もなかったように空に浮いていた。しかもダメージすら受けていない。

 

「聖剣か。確かにいい威力だが、神を相手にするにはまだまだ。そよ風に等しい」

 

 ノーダメージ姿のロキを見た祐斗は聖魔剣を創り出し、イリナも光の剣を手に発生させていた。

 

「ふははっ! 無駄だ! そこの聖書の神と違って我は純粋な神なんでね、たかが悪魔や天使の攻撃ではな」

 

 ロキが左手を前にゆっくりと突き出す。

 

 その手からプレッシャーだけでなく、光り輝く粒子が集まろうとしている。圧倒的な力を圧縮された塊となって。

 

「やらせるかよっ!」

 

Welsh(ウェルシュ) Dragon(ドラゴン) Barance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!』

 

 突然イッセーが気合の入った声を出した途端、ドライグの機械的な声も聞こえた。

 

 その直後にはイッセーの体を赤い闘気(オーラ)が包み込み、髪が逆立って真紅に染まっていく。

 

 僅かな時間だけで禁手(バランス・ブレイカー)となり、そのまま超スピードでロキ目掛けて突進する。

 

 突然の不意打ちにロキは驚いた顔をするも、イッセーが繰り出す打拳を軽やかに避けた。

 

「――っと。忘れてた忘れてた。ここには聖書の神だけでなく、赤龍帝もいたんだった。以前ヴァルハラへ来た時とは比べ物にならないほど強くなったな。――だが」

 

 そう言ってロキは再び左手を突き出し、再度光の粒子を収束させていく。

 

「その程度の強さで我と挑むにはまだ早い!」

 

「ドラゴン波ぁっ!!」

 

 放たれるロキの波動に対し、イッセーはカウンターとして最大威力を誇るドラゴン波を撃った。

 

 

 ドッパァアアアアアアアアアアアンッ!!

 

 

 二つの凄まじい波動が宙で派手にぶつかった瞬間、勢いよく弾け飛んだ。

 

 それによる爆風が襲い掛かろうとするが、俺はこの場にいる裕斗達と馬車を守ろうと防御結界を張る。イッセーは俺達がいる場所から離れ過ぎて除け者となってしまったが、あの程度の爆風で参るほど柔じゃないから心配ない。

 

 ロキは相変わらずの無傷……とは言い難かった。波動を放った手が火傷しているように煙が立ち上っている。少しばかりダメージを与えたようだ。

 

「おいおい、嘘だろ……?」

 

「……ふむ、どうやら我は赤龍帝を少しばかり甘く見過ぎていたな。この我に傷を負わせるとは面白い限りだ。これは面白くなりそうだ。嬉しくなるぞ。取り敢えずこの場は笑っておこう。ふはははははっ!」

 

 どうやらイッセーが一切手加減せずに撃ったドラゴン波でも、まだまだロキには届かないようだな。あれでも一応名の知れた神だから、そんな簡単に倒せる相手じゃない。

 

 だが、それでも充分に凄い事だ。ロキはゼノヴィアの聖剣を受けても無傷だったのに対し、イッセーのドラゴン波では傷を負わせている。神を相手に傷を負わせるのは即ち、勝てる可能性があると言う事だ。尤も、あくまで可能性に過ぎないので、必ず勝てると言う訳ではないがな。

 

 そしてリアスや朱乃達も翼を広げて馬車から出てきた。特にリアスは滅びの爆裂弾(ルイン・ザ・バーストボム)をいつでも撃てるように、凄まじい程の紅いオーラを纏っている。ロキと対峙している者は全て臨戦態勢だ。

 

「その紅いオーラに紅い髪。グレモリー家……だったか? 確か現魔王の血筋だったな。堕天使幹部が二人、天使が一匹、悪魔がたくさん、赤龍帝と聖書の神も付属。オーディンにフレイヤ、ただの護衛にしては厳重だ」

 

「お主のような大馬鹿者が来たんじゃ。結果的に正解だったわい」

 

「それでロキ、この後どうするつもりなのかしら? いくら貴方でも、これだけの人数をたった一人で勝てると思うほどバカじゃないわよね?」

 

 オーディンとフレイヤの台詞にロキはうんうん頷き、不敵な笑みを一層深めた。

 

「確かに貴女の仰る通りだ。ならばここは援軍を呼ぶとしよう」

 

 そう言って、マントを広げて高らかに叫ぶ。

 

「出てこいッ! 我が愛しき息子よッッ! そして、女神フレイヤの英雄よッッ!」

 

「ッ!?」

 

 ロキの叫びに一拍空け、宙に歪みが生じる。フレイヤが聞き捨てならなかったのか、目を見開いている。

 

 ヌゥッと空間のゆがみから姿を現したのは――灰色の狼と男だった。

 

 十メートルはある巨大な灰色の狼に俺、と言うより聖書の神(わたし)には見覚えがあった。

 

 狼はこちらを見た瞬間、グレモリー眷族たち全員が全身を強張らせて震えていた。イッセーですら狼を見た瞬間に震えながらも警戒している。

 

 威嚇でもないのに、ただ視線だけでコイツ等を射抜くとは相変わらずだな。

 

 無論、リアス達だけじゃない。俺とアザゼルですらも、奴の登場に緊張している。

 

「お、おい兄貴、あの狼ってまさか……!?」

 

 狼を警戒してか、イッセーはすぐに距離を取り、俺の隣に浮遊しながら確認してきた。

 

「ああ、あれは――神喰狼(フェンリル)だ。しかも聖書の神(わたし)を殺せる危険な魔物でもある」

 

 俺の台詞に全員驚愕し、同時に納得していた。

 

「フェンリル! まさか、こんなところに!」

 

「……確かにマズいわね」

 

 フェンリルの危険性を理解してるのか、祐斗やリアスは完全な警戒態勢になっていた。

 

「イッセー。以前にも教えたが、アレは最悪最大の魔物の一匹だ。そして聖書の神(わたし)や他の神々をも確実に殺せる牙を持っている。もし噛まれたりしたら、その強固な闘気(オーラ)を簡単に貫くから注意しろ」

 

「わぁーってるよ。赤龍帝(おれ)聖書の神(あにき)にとって最悪な相手だって事はもう理解してる」

 

 更に警戒を高めるイッセーに、ロキがフェンリルを撫でながら言う。

 

「そうそう。気を付けたまえ。こいつは我が開発した魔物のなかでトップクラスに最悪の部類だ。何せ、こいつの牙はどの神でも殺せるって代物なのでね。試したことはないが、そこの聖書の神や他の神話体系の神仏でも有効だろう。上級悪魔でも伝説のドラゴンでも余裕で致命傷を与えられる。おっと、忘れるところだった。そこにいる奴も一応紹介しておこう」

 

 フェンリルについて説明したロキは、次に現れた筋肉質の美丈夫を指す。

 

「コイツの名はオッタルと言ってな。嘗てフレイヤが多くの(だん)(しょう)を抱えた中で最も愛した人間の男だ。以前まで魂だけの存在だったが、今は我が用意した仮初の肉体を与え、こうして復活した。どうかな、フレイヤ。貴女が嘗て愛した男と再会した気分は?」

 

 まるで反応を楽しむように問うロキ。アイツは自分がとんでもない事を仕出かした事を分かってながらも訊いているな。本当に性格の悪い奴だ。

 

 フレイヤは北欧の女神として、オーディンやロキに並ぶほどの有名な存在だ。伝承の中に、美と愛の女神としても知れ渡っている。

 

 美と愛の女神などと聞こえは良いが、実際は色恋沙汰が絶えない問題だらけな女神だ。人間側から見れば『色ボケ女』と呼べる。嘗てのフレイヤは正にソレだった。

 

 しかし、今のフレイヤはもう恋愛に興味を失って退屈な日々を送り続けていた。人間に転生した聖書の神(わたし)と出会って再び恋愛に走るまでは。

 

「………一応確認させて。ロキ、貴方がオッタルを連れて来ていると言う事は……私の部屋に忍び込んだのかしら?」

 

「ああ、貴女がオーディンと一緒に冥界へ行ってる時にこっそり拝借させてもらったよ。帰ってきても全然気付かなかったのは、それだけ聖書の神に夢中だったようだね」

 

 フレイヤからの問いに、ロキは何の悪びれもせずにあっさりと答える。

 

 その瞬間――フレイヤの全身から凄まじい殺気が放たれた。しかも怖い笑みを浮かべながら。イッセーやリアス達なんか、フェンリルとは違う意味でフレイヤに恐怖している。

 

「ふ、ふふ、ふふふふふふふふ………随分と良い度胸してるじゃないのぉ、ロキぃ。私の大事なものを盗むなんて……覚悟は出来てるわよね?」

 

「落ち着かんか、フレイヤ。逸る気持ちは分かるが、今は迂闊に動くでない。ロキの傍にはフェンリルがおるんじゃぞ」

 

 今にも突撃しそうなフレイヤをオーディンが抑えようとしていた。

 

 非力そうに見えるが、外見とは裏腹に途轍もない力を持っている。それはロキにも引けを取らないほどの力だ。

 

 フレイヤの伝承には戦闘に関するものもあった。途轍もない破壊の力を秘めており、世界に影響を及ぼしかねないほどだ。下手をすれば、ロキが望む『神々の黄昏(ラグナロク)』を引き起こす可能性だってある。

 

 オーディンはそれを危惧してるから、早まった行動をさせないように宥めている。俺としても、ここでフレイヤに力を開放して欲しくない。

 

 どうでも良いんだが、オッタルが現れてからずっと俺を凝視してる。一体どういうつもりだ?

 

「ロキよ、何故にそやつを手駒として連れてきたのじゃ? お主には自慢の息子共がおるんじゃから必要無いだろうに」

 

「確かに我も最初はそんなつもりなど毛頭無かった。だが、この男から叶えたい願いがあるからと懇願されてな。我はその願いに応えてやったのだ」

 

「願いじゃと?」

 

「そう。それはそこにいる――聖書の神だ」

 

「………は? 俺?」

 

 いきなりの名指しに俺だけでなく、オーディン達も不可解な表情をする。

 

 ちょっと待て。俺はオッタルとの面識なんか無いぞ。当時の聖書の神(わたし)は勿論のこと、転生した兵藤隆誠(おれ)とも会ってなんかいない。全くの初対面だぞ。なのに何でオッタルが俺に用があるんだよ。

 

「この男は魂となって保管されても、フレイヤに眺められているだけで満足な日々を送り続けていた。だが……そのフレイヤが急に見向きもされなくなった事に不安を抱いてな。それを我がコイツに理由を教えた途端、凄まじい憎悪と怨念が混じる色と変わり果てた。余りの事に流石の我も驚いたよ。愛する女との時間を奪われた嫉妬のみで変貌するとはな。余りにも滑稽だったが、笑わせてくれた褒美として願いをかなえてやる事にしたのだよ。オッタルが聖書の神を殺す為に必要な仮の肉体を」

 

 ロキの長ったらしい説明を聞いた俺は辟易してきた。オッタルの一方的な逆恨みに対して。

 

 ったく。この前に戦ったラディガンといい、オッタルといい。何で俺は一方的に言い寄られてる女の関係者から、ここまで恨まれなければならないんだよ。もう訳が分かんない。イッセーやリアス達はフェンリルを警戒しながらも、凄く気の毒そうに俺を見ているし。

 

「………聖書の神……貴様だけは……絶対に許さん……!」

 

 すると、ずっと無言だったオッタルがポツリポツリと喋りながら、手にしている大剣を構えようとする。

 

 何かもう、アイツは完全に俺を狙う気満々だ。ロキやフェンリルをどうにかしなければいけないってのに……!

 

「さて、オッタルの紹介はこんなところだ。一先ず聖書の神の相手はオッタルに任せるとして、我が息子フェンリルには――」

 

 すーっとロキの指先がリアスに向けられる。

 

「本来であれば、北欧の者以外に我がフェンリルの牙を使いたくはないのだが……。まあ、この子に北欧の者以外の血を覚えさせるのも良い経験になるだろう」

 

 ロキがフェンリルに差し向けようとするのは、

 

「――魔王の血筋。その血を舐めるのもフェンリルの糧となるだろう。――やれ」

 

 言うまでもなくリアスだった。

 

 

 オオオオオオオオオオオオオォォォォォオオオオオンッッ!

 

 

 指示を受けたフェンリルは、闇の夜空で透き通るほど見事な遠吠えをしてみせた。

 

 

 ヒュッ!

 

 

 一迅の風が吹いた。眼前のフェンリルが俺達の視界から消える。

 

 だが――

 

「俺の大事な女に触るんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 

 ドゴンッ!

 

 

 リアスの眼前に現れて神速で襲い掛かるフェンリルに、イッセーがフェンリルの横顔を思いっきり殴り飛ばしていた。

 

 多分イッセーの事だから、自分が物凄く恥ずかしい事を言ってる事に気付いてないだろうな。リアスは大事な女と聞いた瞬間、不謹慎ながらも顔を赤らめているし。

 

「イッセー……」

 

 顔を赤らめているリアスはイッセーを見る。

 

「大丈夫ですか、部長? ケガは?」

 

「い、いえ、だいじょうぶよ。イッセーが助けてくれたから」

 

 その言葉を聞いたイッセーが安堵して息を吐いている。

 

「イッセー、リアスが狙われたからって焦り過ぎだ」

 

「わ、悪ぃ、兄貴……」

 

 俺の指摘にイッセーが申し訳なさそうに謝ってくる。

 

「取り敢えず、お前はリアスと一緒に下がってろ。もうついでに、咄嗟に躱したその傷をアーシアに治してもらえ」

 

「くっ……やっぱり分かってたか……」

 

 すると、イッセーは急に腹部を手で押さえた。そこからはドクドクと血が流れ始めている。

 

「イッセー!」

 

「イッセーくん!」

 

 リアスと朱乃が悲鳴のような声をあげていた。

 

 イッセーが傷を負った原因は分かっている。そうなったのはフェンリルがやったからだ。

 

 その証拠に、フェンリルの左前足の爪先から血が付着している。奴はイッセーの攻撃を受けた後、咄嗟に爪を振るっていた。それに気付いたイッセーは何とか躱して致命傷を避けたが、それでも決して浅くはなかった。

 

 だが、問題はそこじゃない。イッセーが禁手(バランス・ブレイカー)となって強固な闘気(オーラ)を纏っている筈なのに、それを簡単に斬り裂いた。フェンリルの攻撃力は知ってはいたが、本当に途轍もないな。

 

 イッセーは致命傷を避けて何とか浮遊しているも、あの出血を抑えなければ不味い。

 

「アーシア! 早くイッセーの治療を頼む!」

 

「はい! イッセーさん! 早く!」

 

 馬車で待機してる回復役のアーシアが涙交じりで叫んだ。

 

 本当だったら俺も一緒に治療したいところだが――

 

 

 ガギィンッ!

 

 

「ちぃっ! お前に構ってる暇はないんだよ!」

 

「聖書の神、殺す……」

 

 アーシアに指示した直後、オッタルが突進して仕掛けてきたから無理だった。オッタルの大剣を防ごうと、咄嗟に収納用異空間から槍――聖槍(ホーリーランス)を取り出している。

 

 リアス達から馬車から少し離れると、奴は俺だけにしか興味がないように追撃してくる。

 

 ってかオッタルが使ってる大剣……よく見ると『魔剣レヴァンテイン』じゃないか! ロキの奴、オッタルにとんでもない武器を持たせやがって!

 

 オーディンから聞いた話だと、『魔剣レヴァンテイン』は自身が抱いてる憎しみを糧にして威力が増す。その代償として、徐々に思考がまともに判断出来なくなる狂戦士(バーサーカー)と化してしまう。自身の意思で剣を手放さない限り。

 

 だが、ロキから肉体を与えられているオッタルには関係無い。コイツは元から俺を殺す事だけしか考えてないので、代償なんか関係なく剣を振るい続ける。ハッキリ言ってラディガンより厄介な相手だ。

 

「ほう。我が貸し与えた武器をあそこまで使うとは、流石は嘗てフレイヤの英雄をやっていただけの事はあるな。これは予想外な展開だ」

 

 オッタルの猛攻を見たロキが感心する様に言い放つ。 

 

「今のところ聖書の神が防戦一方だから、この隙に赤龍帝を始末しておこうか。我に傷を負わせ、剰えフェンリルの動きに追いつくほどの実力を身に付けた以上、見過ごす事は出来ん」

 

 あの野郎、やっぱりイッセーを警戒し始めていたか!

 

 すぐに駆け付けたいが、オッタルの奴が思っていた以上に厄介で行けないし!

 

「ロキィィィィィィッ!」

 

 アザゼルとバラキエルが光の槍と雷光をロキ目掛けて大出力で放った。

 

「ふんっ。フェンリルを使わずとも、堕天使二人程度では我の相手は無理だ」

 

 堕天使勢の最強格二人が放った攻撃を、ロキは北欧の術で魔法陣の盾を展開して容易に防いだ。

 

 それを見たロスヴァイセが加勢しようと攻撃魔術を放ったが、ロキの防御魔法陣が上な為に通用しなかった。

 

 アザゼル達を攻撃を防ぎながらも、ロキはイッセー達に狙いを定めている。更にはフェンリルも一緒に。

 

「いい加減にしろ、オッタル! 貴様はロキの都合の良い操り人形にされてる事に気付いてないのか!?」

 

「……殺す、聖書の神。フレイヤ様を誑かした貴様を殺す……」

 

「くっ! どうやら既にまともな思考じゃないようだな……!」

 

 今のオッタルは俺を殺す事だけしか考えていない人形同然みたいだ。恐らくロキは与えた肉体に、従順に動く為の細工を施したに違いない。

 

 フレイヤには悪いが、コイツを――

 

Half(ハーフ) Dimension(ディメンション)!』

 

 

 グババババンッ!

 

 

 すると、聞いた事のある声と音がした。

 

 リアス達に襲い掛かろうとしていたフェンリルを中心に空間が大きく歪んでいくのが見えた。フェンリル自身も空間の歪みにその身を捕らわれて、動きが封じられている。

 

 そして――

 

「ダーリンにしては珍しいじゃない。こんな相手に梃子摺るなんて」

 

 

 ドドドドドドォンッ!

 

 

「ッ!」

 

 こちらも聞き覚えのある声がした直後、オッタルの背中に強烈な魔力弾が当たった。それを受けているオッタルは少しばかり顔を歪めている。

 

 不利だと悟ったのか、一旦俺達から離れようと距離を取った。

 

 俺とオッタルの間に一人の女性悪魔が降りてくる。

 

「はぁい、ダーリン。久しぶりね♪」

 

「エリー……」

 

 俺の目の前に現れたのは夢魔(サキュバス)のエリーだった。嘗て冥界の元アルスランド家の次期当主――エリガン・アルスランド。

 

 ………まさかこの女が俺を助けるとはな。

 

 リアス達の方を見てみると、そこには予想通りと言うべきか、イッセーのライバルである白龍皇ヴァーリがいた。

 

 ヴァーリ達の予想外な登場にロキが嬉々として笑むも、流石に不利だと思ったのか一時撤退をした。空間転移術でフェンリルとオッタルも一緒に。




新しいオリキャラのオッタルと、久々に登場したエリーでした。

先に言っておきますが、この作品のオッタルはダンまちのオッタルと違いますので。


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第十話

今回はいつもより短めです。


「それで、一体どう言うつもりで俺達の前に現れたんだ?」

 

 ロキ達の撤退を確認後、アーシアと小猫にイッセーの治療をするよう馬車の中へ移動させた。

 

 その間に俺達は場所を変えようと、助太刀してくれた者達を連れて地上へ降りていた。今は駒王学園近くにある公園にいる。言うまでもなく一般人達が来ないよう、人除けの術は施し済みだ。

 

 俺が問うと、白龍皇――ヴァーリは嘆息しながら苦笑する。

 

「随分な言い草じゃないか、聖書の神。そちらが不利な状況だったから助太刀したと言うのに」

 

「ああ、そこは大変感謝しているよ。本当だったら俺が個人的な礼をしたいところだ。けど生憎、今の俺は聖書の神(わたし)としてアザゼル達と一緒にオーディン殿やフレイヤの護衛をしているんだ。だから今はお前達を『禍の団(カオス・ブリゲード)』に所属しているテロリスト共と見ざるを得ないんだ。それに――」

 

 ヴァーリに今の俺は聖書の神(わたし)が三大勢力の助っ人として動いている事を言いながら、チラリと視線を横に移す。その先には、ニッコリと笑みを浮かべているエリーがいる。

 

「君が何故か同行しているエリーの事もあって、思わず碌でもない事を企んでいるんじゃないかと思ってな」

 

「ひっど~い。ダーリンが私をそんな風に見てたなんてショックだわ」

 

「何がショックだ、白々しい。今まで俺達の前に現れて碌な事しなかっただろうが」

 

 ショックを受けたジェスチャーをするエリーに俺はバッサリと切り捨てるよう言い放つ。

 

 リアスたちグレモリー眷族も同感だと頷いているのか、揃ってエリーを殺気を出しながら睨んでいる。嘗てコカビエルと一緒に現れて俺達と敵対し、更にはアーシアを攫ったディオドラの手助けをした件があるから、エリーに対する警戒感が半端ない。

 

「エリガン・アルスランド。白龍皇と一緒にいるとは言え、よくも私たちの前に姿を現わせたわね」

 

「あら? 随分と強気な発言ね、リアス・グレモリー。やっとイッセーくんを正式な眷族に出来たからって増長してるの? 多少強くなったところで、今も私の相手にすらならないと言うのに」

 

「ッ!」

 

 挑発するエリーに、リアスの身体から凄まじい魔力を放出しようとしている。下手をすればエリーに滅びの力をぶつける勢いだ。

 

 リアスは短気な性格だが、エリーの言い方が問題だ。アイツは態と煽ってリアスの反応を楽しんでいる。

 

「止めろ、リアス。コイツはこういう女だって事を知ってる筈だろ?」

 

「……くっ」

 

「エリガン、向こうを刺激する発言は止めてもらおうか。俺達と同行してる間は指示に従う条件の筈だ」

 

「は~い」

 

 俺はリアスを宥め、ヴァーリがエリーを窘めた。

 

 と言うかエリーの奴、今はヴァーリ側に付いているのか。てっきり、もう『禍の団(カオス・ブリゲード)』から抜けたと思ったんだが。

 

 これは先日サーゼクスから聞いた話だが、どうやらエリーは死んだディオドラ・アスタロトの用心棒として雇われただけじゃなく、旧魔王派のシャルバ達とも繋がっていたらしい。嘗てアルスランド家はあの連中と懇意な関係だったと。恐らくエリーはその事もあって、シャルバ達に従わざるを得なかったんだろう。

 

 しかし、その旧魔王派は既に瓦解した。なので既にお役御免となったエリーは『禍の団(カオス・ブリゲード)』と縁を切ったと思っていた。そして何れ一人で俺の前に姿を現わして戦いを挑もうと。

 

 だと思っていたんだが、それが今も『禍の団(カオス・ブリゲード)』に残ってヴァーリ達と同行しているとはなぁ。どういうつもりなのかは分からんが、何か理由がある筈だ。まぁ、俺が問い詰めたところで教えないと思うがな。アイツは俺に嘘は言わないが、答えたくない事は秘密にしたがるし。

 

「先ずは確認させてもらおうか、エリー。今回ヴァーリと一緒に来てまで俺達の前に現れたのは、何か良からぬ目的があるからか?」

 

「いいえ。私は久しぶりに愛しのダーリンと再会する為に、ヴァーリくん達に付いてきただけよ。今回は裏事情なんか一切無く、私個人の意思で動いているわ。信用出来ないなら、私の頭の中を探っても良いわ。勿論、そうしていいのはダーリンだけよ」

 

「あっそ。じゃあ俺達が今敵対しているロキとは密かな取引とかしてないだろうな?」

 

「そんな下らない事は一切してないと断言するわ」

 

「………はぁっ。分かった、信じよう」

 

「ちょっとリューセー、たったそれだけの質問だけで信じるの!?」

 

 嘘を言ってないと判断した俺が信じた事に、リアスは正気なのかと問い詰める。

 

「コイツは普段から秘密主義な女だが、俺に一切嘘は言わん。過去に何度も戦った事はあるが、少なくとも俺を騙して陥れるような手段を取らないのは確かだ」

 

 尤も、それは俺相手に限った話だがと付け加えた。

 

 不本意だが、エリーは俺に(一方的な)恋慕の情を抱いている。なので俺を屈服させる為に、いつも正々堂々の真っ向勝負を仕掛けてきた。自分が勝ったら何でも言う事を聞いてもらうと。

 

 リアスは俺の言い分に納得したのか、取り敢えずと言った感じで引き下がる。

 

「念の為に言っておくがエリー、リアス達に下らん事をしたらどうなるか覚悟しておけよ」

 

「分かってるわ。彼女達に一切手を出さないから安心して。だけど……それとは別に、どうしても許せない事があるのよね」

 

 すると、さっきまでニコニコしていたエリーが急に殺気立った。俺の腕に引っ付いているフレイヤを見ながら。

 

 因みにフレイヤはエリーが『愛しのダーリン』と聞いた瞬間、いきなり俺に引っ付いてきた。エリーに見せ付ける様に。

 

 それを見たのが原因なのか、エリーはもう我慢の限界が訪れたかのように殺気立ったと言う訳だ。

 

「そこの貴女、確か女神フレイヤだったかしら? どうして私のダーリンにくっ付いてるの? さっさと離れてくれない?」

 

「何が私のダーリンよ。リューセーは私の恋人なんだから、こうするのは当然じゃない。そう言う貴女こそ、私のリューセーに馴れ馴れしくダーリンなんて呼ばないで欲しいわね」

 

 殺気立つエリーにフレイヤも負けじと睨む。

 

 あとフレイヤ、俺はお前の恋人になった覚えはないからな。お前が勝手にそう思ってるだけだ。

 

 しかし、エリーにはとても聞き捨てならない発言だったのか、フレイヤに対する殺気をもう一段階上げている。

 

「ふざけた事を言うわね。あのオッタルって言う愛人や多くの男達と関係を持っていたのに、今度はダーリンと恋人だなんて……本当に伝承通りの色ボケ女神だったのね。どうせ何れダーリンに飽きて、他の男と宜しくするつもりなんでしょ?」

 

「男を食い物にしている夢魔(サキュバス)風情に言われたくないわ。聞いた話だと貴女、実の兄と肉体関係だったそうじゃない。いくら悪魔だからって、それは流石に引くわ。貴女みたいな変態夢魔(サキュバス)なんかにリューセーは相応しくないわ」

 

「生憎だけど、それはもう昔の話よ。今はダーリンと純愛な関係を築こうとしてるの。軽い気持ちでダーリンに手を出そうとする貴女と違ってね」

 

「本当に失礼な夢魔(サキュバス)ね。私はリューセーを運命の相手と見てるから、ずっと愛するって決めてるの。不純だらけな貴女と一緒にしないで」

 

「あらあら、言ってくれるじゃない。色ボケ女神の分際で……!」

 

「こっちだって低能な変態夢魔(サキュバス)に言われたくないわ……!」

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ! ビキビキッ!

 

 

『………………………………』

 

 …………………お前等、喧嘩するのは勝手だが俺を巻き込まないでくれ。

 

 エリーとフレイヤの凄まじい殺気と怒気の所為で、周囲に張られている結界が罅割れようとしている。

 

 二人からの巻き添えを喰らいたくないのか、アザゼルやオーディンにグレモリー眷族、そしてヴァーリ達がいつの間にか避難している。アイツ等、完全に俺を助ける気は無いようだ。薄情な奴等め。

 

 すると、馬車の中から治療を終えたであろうイッセーが出てきた。

 

「………え? 何、この超重くて息苦しい空間は?」

 

 事情を呑み込めていないイッセーは思わずそう呟く。しかし、俺の方を見た途端に納得して、声を掛けようとせずアザゼル達の方へと行っていた。

 

 おいこらイッセー! 無視してないで助けろ! 何でこう言う時だけ空気読んで逃げるんだ!?

 

 そしてアザゼル達はエリーとフレイヤを俺に任せようとしたのか、向こうで話を勧めようとしていた。俺が抗議の視線を送るも、完全無視だよ。

 

 俺が女二人の争いに巻き込まれてる中、ヴァーリはこう提案していた。

 

「今回の一戦、俺は兵藤一誠と共に戦ってもいい。あんな神如きに俺のライバルを横取りされては我慢ならんからな」

 

 ロキと戦う為に自分達と手を組もうと。ヴァーリ達を除く、この場にいる全員が驚愕したのは言うまでもなかった。

 

 ………どうでもいいけどさぁ、俺を挟んで言い争っているエリーとフレイヤをどうにかしてくれないか?




久々に登場したエリーとフレイヤの言い争いに辟易するリューセーでした。


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第十一話

久しぶりの投稿です。


 翌日、兵藤家の地下一階の大広間に全員集まっていた。

 

 俺やグレモリー眷族にイリナ、アザゼル、バラキエル、シトリー眷族に……そして、ヴァーリチーム+エリーと言う異様な面々が揃っている。

 

 ヴァーリや美猴がいるのは別に良いんだが、問題はエリーだ。共闘するとは言え、正直色々と複雑な気分だよ。リアスも彼等やエリーの同席に最後まで反対していたが、俺やアザゼル、更にサーゼクスの意見を聞いて渋々承諾する事となった。

 

 因みにエリーに関して俺が責任持って対応する事となっている。もしも裏切り行為が発覚した瞬間、俺とイッセーが全力で倒す手筈だ。イッセーは頷き、エリーも了承している。加えて、ヴァーリ達もエリーの事を完全に信用はしてないみたいで、もしもの時は自分達も対処すると言ってきた。

 

 俺に惚れている事もあって一切嘘は吐いてないエリーだが、それでも油断は出来ない相手だ。色々な意味で、な。

 

 まぁエリーだけでなく、ヴァーリ達にも言える。ロキを屠るとか言って共闘を持ちかけてくれたが、ライバルのイッセーを横取りされたくないと言う理由だけじゃない筈だ。何か別の目的もあると見るべきだろうな。

 

 因みに北欧組のオーディンとロスヴァイセ、そしてフレイヤは別室で本国と連絡を取り合っている。どうやら向こうも、ロキが日本に来た事で相当大問題らしい。

 

 ヴァルハラには他の神話体系と同盟を結ぶ事に反対する連中はいる。だが三大勢力と表立って敵対するだけの度胸はないから、オーディンは敢えて放置していた。ロキが俺達の前に姿を現わして敵対するまでは。

 

 それはそうと、俺達はロキ対策について話し合いを始めていた。

 

 今回の件については魔王サーゼクスも知っている。勿論、堕天使側や天界にも情報は伝達済みだ。

 

 何としてでもオーディンの会談を成就させる為、三大勢力が協力して守る事が決定した。

 

 協力と聞こえはいいが、協力態勢の強い此処にいるメンバーのみで力を合わせて何とかしろと言う意味だ。当然、三大勢力の助っ人である聖書の神(わたし)も加わる事になっている。

 

 早い話、ロキを俺達だけで退けろと言う事だ。

 

 相手は人間に転生した聖書の神(わたし)と違って純粋な神。だが、問題は奴が引き連れている魔物――神喰狼(フェンリル)とフレイヤの英雄――オッタル。

 

 フェンリルは生み出したロキを凌ぐ正真正銘の怪物。封じられる前のニ天龍に匹敵するほどの力を持っているらしく、アザゼルやタンニーンでも単独では勝てない相手だ。

 

 当然、未だ二天龍の力を完全に引き出せていない赤龍帝(イッセー)白龍皇(ヴァーリ)では歯が立たない。人間に転生した聖書の神(わたし)も含めて。………尤も、それは能力に関しての話だが、ここでは敢えて省かせてもらう。

 

 次にオッタルは嘗てフレイヤの英雄であり、その中でも最強の武人だったとフレイヤ本人が言っていた。聞いた話によると、オッタルは誰よりもフレイヤを深く敬愛しており、強大な魔物相手に一切怯まず戦い続けたようだ。人間の身でありながらも、神に匹敵するほどの力を持っているとか。

 

 昨日に僅かな時間だったが、奴と手合わせした時に相当の実力者だと分かった。ロキに仮初の肉体と武器を与えられても、流石は武人と思わせるほどの力と剣筋だった。ああ言う奴とは、別の出会いで手合わせしてみたかったと思う程に。

 

 しかし、今のアイツは俺を殺す事しか考えてないロキの操り人形だ。フレイヤを奪ったと勝手に思い込んだ逆恨みで。嘗て戦ったラディガンと同じ理由だから嫌になるよ、本当に。

 

 そんな厄介な存在達により、ロキとの一戦で残りのメンバーで死力を尽くせば勝てるんだが、それでも犠牲は出る。何名か戦死するのは確実だとアザゼルが真剣な顔で言う程に。…………もしも本当にそうなる場合、聖書の神(わたし)の命一つで何とか済ませたいがな。

 

 だったら加勢を頼めば良いと思われるだろう。しかし、残念ながら期待できない。しかもどの勢力からも、だ。理由は英雄派から神器(セイクリッド・ギア)所有者を送り込んでくるテロ行為は未だ断続しており、各勢力を混乱させているからだ。

 

 その為に各重要拠点は警戒を最大にしており、戦力を避けない状態だ。因みに天界にいるミカエルから――

 

『神よ、申し訳ありません……。本来であれば即座に我々が神をお守りしなければならないと言うのに、どうか不甲斐ない私を罰して下さい……!』

 

 映像用の通信で聖書の神(わたし)を見て早々に頭を下げ、更には自分に対する罰を求めてきたよ。

 

 一先ずは『全然気にしてないから』と言っておいた。アイツは天界の長としてやるべき事をやっているから、罰しようなんて気は元から無いので。

 

 なので加勢が頼れない以上、出来るだけ犠牲を出さないようにして勝つ方法を探っている。

 

「まず先に。ヴァーリ、お前が俺達と協力する理由はなんだ?」

 

 ホワイトボードの前に立ったアザゼルが一番の疑問をヴァーリにぶつける。

 

 俺達に協力する理由を、この場にいる誰もが気になっている事だ。

 

 アザゼルからの問いに、ヴァーリは不敵に笑むと口を開く。

 

「ロキとフェンリル、そして英雄オッタルと戦ってみたいだけだ。美猴たちも了承済みだ。あとは俺の得物(ライバル)を横取りされるのは我慢ならない。これらの理由では不服か?」

 

 相変わらずヴァーリはイッセーに強いライバル意識を向けてるな。それだけ以前の戦いで心に響いたと言う事か。理由を聞いたイッセーは少し嫌そうな顔をしているが。

 

 それとは別に、アザゼルは怪訝そうに眉根を寄せている。

 

「まあ、不服だな。だが、戦力として欲しいのは確かだ。そこのエリガン・アルスランドも含めてな。今は英雄派のテロの影響で各勢力ともこちらに戦力を避けない状況だ。英雄派の行動とお前らの行動が繋がっているって見方もあるが……お前の性格上、英雄派と行動を共にするわけないか」

 

「ああ、彼らとは基本的にお互い干渉しないことになっている。俺はそちらと組まなくてもロキ達と戦うつもりだ。――組まない場合は、そちらを巻き込んででも戦闘に介入する。更に聖書の神には、エリガンをぶつけさせる」

 

「私はダーリンと戦わせてくれるなら、全然問題無いわ♪」

 

 ……嫌な脅しだ。組むなら、俺達と共にロキを倒す。その逆なら、ロキを倒す為に俺達ごと攻撃する、か。更には(俺限定で)エリーからの妨害も含めて。

 

「サーゼクスも相当悩んでいる様子だったが、旧魔王たちの生き残りであるヴァーリからの申し出を無下に出来ないと言っていてな。本当に甘い魔王だが、おまえを野放しにするよりは協力してもらった方が賢明だと俺も感じている。エリガン・アルスランドに関しては、聖書の神(おやじ)に任せるしかないが」

 

「納得できないことのほうが多いけれどね」

 

 リアスがアザゼルの意見にそう言う。文句はあるが、悪魔の王たる魔王が良しとするならば、リアスも強くは言えないからな。

 

 ソーナもかなり不満のある表情だが、それでも了承している。特にエリーを睨んでいた。そうしているのは、アイツが以前にコカビエルと一緒に駒王学園を戦場にさせた件があるからだ。自分の愛する学園を勝手に戦場とさせた事に憤っていたし。

 

 厄介なヴァーリやエリーが勝手に動かれるよりは、監視下に入ってもらった方が対処はしやすい。どちらも面倒な事に変わりは無いが。

 

 因みに素直なアーシアはヴァーリに助けてもらった事もあって、大して疑問を持っていない様子だ。エリーに対してはディオドラの件もあって少し戸惑い気味だが。他の眷族達は彼女と違って文句ありそうだが、渋々応じている。エリーに対して少し殺気立っているが、そこも我慢してもらう。

 

 すると、アザゼルはヴァーリをジッと見ている。

 

「何か企んでいるだろうがな」

 

「さてね」

 

「怪しい行動を取れば、誰でもお前を指せる事にしておけば問題ないだろうな。エリガンも含めて」

 

「そんな事をするつもりは毛頭無いが、かかってくるならば、ただでは刺されないさ」

 

「私もよ。ダーリンやイッセーくんはともかく、貴方達に殺される気なんか毛頭ないわ」

 

 アザゼルの言葉にヴァーリは苦笑し、エリーは妖艶な笑みを浮かべて言い返す。

 

「……まあ、ヴァーリとエリガンに関しては一旦置いておく。さて、話はロキ対策のほうに移行する。オッタルに関しては後でフレイヤに確認するから、一先ずはロキとフェンリルの対策をとある者に訊く予定だ」

 

「ロキとフェンリルの対策を訊く?」

 

 アザゼルがリアスの言葉に頷く。

 

「そう、あいつ等に詳しいのがいてな。そいつにご教授してもらうのさ」

 

「もしかして、あの惰眠ドラゴンの事か?」

 

 俺からの質問にアザゼルは再度頷く。

 

「ああ。五大龍王の一匹、『終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)』ミドガルズオルムだ」

 

 やっぱりな。まぁ確かにあのドラゴンなら知ってるだろう。

 

「まあ、順当だが、果たしてミドガルズオルムは俺達の声に応えるだろうか?」

 

 ヴァーリの問いにアザゼルは答える。二天龍、龍王のファーブニルとブリトラ、そしてタンニーンの力で龍門(ドラゴン・ゲート)を開き、そこからミドガルズオルムの意識だけを呼び寄せると。

 

 確かにその方法なら、アイツと話せるかもしれない。当の本人は今も北欧の深海で眠りについてるから、()()()()()()直接会う時間なんて無いから無理だ。

 

 聞いていた匙が戸惑うも、アザゼルは安心する様に待機しろと言っていた。その後に奴はバラキエルを連れて、大広間から出て行く。

 

 残されたオカルト研究部と生徒会。そしてヴァーリたち面々だ。

 

 すると――

 

「ダーリン!」

 

「おわっ!」

 

 エリーが俺に抱き着いてきた。

 

「い、いきなりなんだ!? と言うか抱き着くな! 離れろ!」

 

「何よ。あの女神は良くて、私はダメなの?」

 

 何とか引っぺがすが俺だが、それでもまた抱き着いて来ようとするエリー。

 

 いきなりの事にイッセー達はポカンとしている。

 

「お前、この前まで俺達と敵対してたろうが!」

 

「今は共闘してるんだから良いじゃない。それに……あの色ボケ女神とダーリンとの関係も聞きたくてね。どうしてあの女と恋人になってるのかしら?」

 

「あれはフレイヤが勝手に言ってるだけだ。お前と同じく自分勝手な理由でな」

 

 いきなり会って早々俺に熱烈な求愛をしてくるエリーも、フレイヤと全く同じだ。俺の事を好きになる女って、何でこんな自分勝手な性格なんだよ。

 

「私をあんな女と一緒にしないでよ。まぁそれよりも、私をダーリンの部屋に案内して♪ そこで私とダーリンの子供を作りたいわ♪」

 

「どっちもやなこった」

 

 エリーとそんな事をする気など毛頭無いが、万が一にもそうなった場合には俺は間違いなく死ぬだろう。

 

 知っての通り、エリーは夢魔(サキュバス)。コイツの事だから、容赦なく俺の精根を吸い尽くす筈だ。仮に辛うじて生きていたとしても、俺はもう二度と子供を産めなくなると思う。

 

 俺としては出来れば極普通な恋愛をして、自分が心から愛している女性と結婚して子供を作りたいと思ってる。なのでアブノーマルなエリーやフレイヤは断じてお断りだ。

 

「あ、あの、イッセーさん。リューセーお兄さまが……」

 

「良いんだ、アーシア。取り敢えずエリーの事は兄貴に任せとけ。ゼノヴィアとイリナ、お前等もだぞ」

 

「くっ! あの女、主である隆誠先輩にああも馴れ馴れしく……!」

 

「後でミカエル様に報告しておく必要があるわね……」

 

 因みに俺とエリーのやり取りに、イッセー達は手を出さないでいた。

 

 イッセー。前に言ったが、黙って見てないで少しは兄の俺をフォローしてくれ。もしフレイヤが戻ってきたら、また面倒な事が起きるんだからさ。



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第十二話

今回はイッセー視点です。


 エリーについては兄貴に任せた俺――兵藤一誠は、先生が帰って来た後に匙とヴァーリと一緒に転移魔法陣で兵藤家から飛んだ。

 

 以前に兄貴と一緒に出会ったアイツを呼び寄せる為だ。どうやら特別に用意したところで意識を呼び寄せないとダメらしい。

 

 着いた場所は白い空間だ。辺り一面真っ白な空間で何もないかと思いきや、視界に入った先には大きなドラゴンが佇んでいた。

 

「先日以来だな、お前たち」

 

「タンニーンのおっさん!」

 

 元五大龍王タンニーンのおっさんがいた。ミドガルズオルムを呼び出すのに各ドラゴンの力が必要だと言ってたから、ここにいるのは当然だ。

 

「……ふむ、そちらがヴリトラか」

 

 おっさんが匙を見る。その匙はおっさんを見た途端にビビッて全身を震わせていた。

 

「ド、ド、ドラゴン……龍王! 最上級悪魔の……!」

 

 見ただけで緊張と尊敬が混じってる様子が分かる。

 

「緊張し過ぎだぜ、匙。このおっさんは強面だけど、いいドラゴンなんだからよ」

 

「ば、バカ! 最上級悪魔のタンニーンさまだぞ! お、お、おっさんだなんて無礼にも程があるぞ!」

 

 まぁ確かに匙の言う通りだろうな。俺も最初におっさんと会った時はすげぇ緊張した。けどまぁ、友好的なドラゴンだって分かってるから、畏まる事も無く普通に接してる。

 

 すると、匙が俺に指を突きつけて説明しようとする。最上級悪魔について云々と。

 

 冥界でも選ばれた者しかなれず、更にはレーティングゲームの現トップ10内のランカーが全員最上級悪魔。冥界での貢献度、ゲームでの成績や能力、それら全て最高ランクの評価をしてもらって初めて得られる、悪魔にとって最上級の位だと。

 

 嘗て兄貴と一緒に冥界で修行しに行った時に知ったが、匙からの説明に改めて認識した。

 

 最上級悪魔か。何れ聖書の神(あにき)を倒すには不十分な物だが、転生悪魔になったばかりの俺には辿らないといけない険しい道だな。そこは地道に頑張るしかないか。

 

「……白龍皇か。兵藤隆誠から聞いてはいるが、妙な真似をすればその時点で俺は躊躇いなく噛み砕くぞ」

 

 睨みながら警告するおっさんに、ヴァーリは苦笑していた。

 

 そんな中、先生は術式を展開し、専用の魔法陣を地面に描いていく。光が走って行き、独特の紋様を形作っている。

 

「しかし、あやつ、本当に来るのだろうか。俺も二、三度程度しか会った事がない」

 

 嘆息しながら呟くタンニーンのおっさん。

 

「二天龍がいれば否でも応でも反応してくるだろうさ」

 

 先生が魔法陣を描きながら言う。

 

「多分ですけど、俺の闘気(オーラ)を感知したら来てくれると思いますよ」

 

 俺の台詞に先生やおっさんだけじゃなく、ヴァーリと匙もこちらに視線を向ける。

 

「それはどう言う事だ、兵藤一誠?」

 

「まさかとは思うが、ひょっとしてミドガルズオルムに会った事があるのか?」

 

「ええ。前に兄貴と一緒にヴァルハラへ来た時、オーディンの爺さんから許可貰って深海に行ったんですよ」

 

 兄貴から海の中でも自由に移動出来る『潜水の加護』って術を施されてな。あの時は人魚気分で泳いでたから凄く楽しかったよ。まぁ兄貴から『アホなことをやってないで、さっさと行くぞ』と窘められたけど。

 

「ミドガルズオルムと一通り話した後、機会があったらまた会おうって約束もしまして。兄貴から聞いてませんか?」

 

「初耳だ。出来ればそう言う事は前以て話してくれ。ったく、リューセーの奴……」

 

 兄貴に対して悪態を吐く先生だが、それでも魔法陣を描いている手を止めていない。

 

「となると、兵藤一誠は知っているんだな? あやつの怠け癖を」

 

「ああ、最初は起こすのに俺や兄貴も苦労したよ。聞いた話だと、アイツは世界の終わりまで深海で過ごすと言ってたけど、アレってマジなのか? 俺はてっきり冗談かと思って聞き流していたけど」

 

「残念だがそれは本当だ。俺も数百年前に聞いたから間違いない」

 

「ええ~……」

 

 あれはやっぱりマジで言ってたのか。一緒に聞いた兄貴が溜息を吐いていたのって、本当にやると思って物凄く呆れていたんだろうな。

 

「さて、魔法陣の基礎は出来た。あとは各員、指定された場所に立ってくれ」

 

 先生に促され、俺達はそれぞれ、紋様が描かれたポイントに立った。

 

 それらの紋様には、二天龍、龍王を意味するんだと。

 

 俺達が指定ポイントに立ったのを確認した先生は、手元の小さな魔法陣を操作して最中調整をしようとする。

 

 すると、淡い光が下の魔法陣を走り出した。俺は赤く光り、ヴァーリは白く光る。先生は金色で、匙が黒、おっさんは紫色に光り輝く。

 

 この色って各ドラゴンの特徴を反映した色かな? 俺の闘気(オーラ)の色は赤だし。

 

『その通りだ。相棒が察した通り、それぞれが各ドラゴンの特徴を反映した色となっている』

 

 あ、やっぱり。補足説明あんがと、ドライグ。

 

 因みに残りの五大龍王の色は?

 

『ティアマットが青で、玉龍(ウーロン)が緑だ』

 

 へぇー。あ、そういや思い出したけど、ドライグって五代龍王の中で会いたくないのはティアマットだったな。何で会いたくないんだ?

 

『……そんな事よりも、魔法陣が発動したぞ。今はそっちに集中しておけ』

 

 何だ? ドライグが俺の質問に答えないって珍しいな。

 

 集中しろと言われたが、数分間その場で立ち尽くすだけだった。

 

 一先ず黙って見ていると、魔法陣から何かが投影され始めた。

 

 立体映像が徐々に俺達の頭上に作られていくも、それはどんどん広がっていく。匙なんか驚いた顔をしている。

 

 そして、俺達の眼前に映し出されたのは、この空間を埋め尽くす勢いの巨大な生物だった。

 

 …………おおう。久しぶりに見たけど、相変わらずでけぇな。

 

 姿はでっかい蛇だが、頭部はおっさんと同様のドラゴンだ。長い体でとぐろを巻いている様子だった。

 

「なんつーか、以前に見たグレートレッドが小さく見えるな。それでも実力は向こうが断然上だけど」

 

「そうだな。大きさだけで言うならグレートレッドの五、六倍はあるだろう」

 

 おっさんから改めて言われると、ミドガルズオルムは本当に怪獣の域を超えてるな。

 

 色々な意味で驚いている中、俺の耳に特大に聞き覚えのある音が飛び込んできた。

 

『……………………ぐごごごごごごぉぉおおおおおおおん………………』

 

 あ、やっぱりいびきだった。

 

 本当に寝てばっかりだな、このドラゴンさんは……。

 

「案の定、やはり寝ているな。おい、起きろ、ミドガルズオルム」

 

「お~~い、起きてくれ、ミド」

 

 タンニーンのおっさんと俺が話しかけると、ミドガルズオルムはゆっくりと目を開いていく。

 

『………………懐かしい龍の波動だなぁ。あとこの前聞いたばかりの声も聞こえる。ふあああああああああっ……』

 

 ミドガルズオルムが大きなあくびをする。でっけぇ口だな。おっさんを余裕で丸のみ出来る大きさだ。

 

『おぉ、タンニーンじゃないかぁ。久しぶりだねぇ。イッセーはこの前会ったばかりだねぇ』

 

 相変わらずゆったりとした口調だ。

 

 この前会ったとは言うけど、もう数年前の話だ。まぁコイツからすれば短い時間だろうが。

 

 因みに俺が呼んだミドと言うのは、ミドガルズオルムを略した名前だ。当人、じゃなくて当龍はその呼び方が気に入ったのか、今後はミドと呼んでくれと言われてる。

 

 ミドが俺達を見渡すと、少し不思議そうな顔をしている。

 

『……アルビオンまでいる。……ファーブニルと……ヴリトラも……? ひょっとして、世界の終末なのかい? そうなる前にイッセーとリューセーにまた今度会う約束した筈なんだけど、忘れられたのかなぁ?』

 

「いや、違う。今日はおまえに訊きたい事があってこの場に意識のみを呼び寄せた」

 

「ってかミド、お前に会うって約束は俺や兄貴もちゃんと憶えてるから安心してくれ」

 

 タンニーンのおっさんと俺がそう言うが……。

 

『あ~それを聞いて安心したよ………ぐ、ぐごごごごん……』

 

 ミドは安堵した途端に再びいびきをかき始めた。

 

「寝るな! 全く、おまえと玉龍(ウーロン)だけは怠け癖がついていて敵わん!」

 

「頼むから起きてくれミド! こっちは非常事態なんだからさ!」

 

 怒るおっさんと叫ぶ俺。ミドは大きな目を再び開けていた。

 

「……タンニーンはいつも怒ってるなぁ。イッセーもせっかちだねぇ……。それで僕に訊きたいことってなんなのぉ?」

 

「おまえの兄弟と父について訊きたい」

 

 おっさんが単刀直入に訊く。

 

 ミドにそれを訊く理由は、目の前にいるドラゴンはロキによって作り出されたドラゴンだからだ。その為にロキがミドの父親で、ロキに作られたフェンリルは兄弟の関係だ。

 

 これはオーディンの爺さんから聞いた話だが、ミドは強大な力を持っていながら、その巨体と怠け癖から北欧の神々も使い道が見い出せず、海で眠る様に促したようだ。世界の終末が来た時にだけ何とかしろと言って。当然、最終的な判断を下したのがオーディンの爺さんだ。

 

 なのでミドはずっと深海で眠り続けている。『終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)』と言う正に異名通りの龍って訳だ。

 

『ダディとワンワンのことかぁ。いいよぉ。どうせ、ダディもワンワンも僕にとってはどうでもいい存在だし……』

 

 とても親子とは思えない発言だが、実際は本当にそうだ。もしもそうでなかったら、ロキはフェンリルだけじゃなくミドも連れてきている筈だ。アイツは最初からミドを当てにせず、戦力外扱いと言う名の放置をしている。

 

『あ、そうだイッセー。ちょっと聞かせてよぉ』

 

「なんだ?」

 

『アルビオンとの戦いはやらないのぉ?』

 

 俺とヴァーリを交互に大きな目で見て問う。

 

「もう既にやって一回負けたよ。今度やる時は絶対勝つ。けど今は訳あって、共同戦線でロキとフェンリルをぶっ倒さなきゃいけなくてな」

 

「待て、兵藤一誠。何を勝手に――」

 

 俺の返答にヴァーリが反論しようとするが、すぐに先生が止めた。

 

 聞いたミドは笑ったような顔をする。

 

『へぇ、おもしろいねぇ……。二人が戦いもせずにならんでいるから不思議だったけど、もう既に戦って負けたのかぁ。もし勝ったら僕にも教えてねぇ』

 

 ミドがそう言った後、改めておっさんからの質問に答えだした。

 

『知ってると思うけど、ワンワンはダディよりも厄介だよぉ。牙で噛まれたら死んじゃう事が多いからねぇ。でも、弱点もあるよぉ。ドワーフが作った魔法の鎖――グレイプニルで捕らえる事が出来るよぉ。それで足は止められるねぇ』

 

 ワンワンは当然フェンリルを指してる。ミドから見れば、フェンリルは小さなワンワンか。

 

「それは既に認識済みだ。だが、北からの報告ではグレイプニルが効かなかったようでな。それでお前から更なる秘策を得ようと思っていたのだ」

 

 そういやフェンリルはその鎖が弱点とか言ってたな。トリックスターと呼ばれているロキの事だから、フェンリルの弱点対策を立てた上で俺達に戦いを挑んだんだろう。

 

『……うーん、そうなるとダディは、ワンワンを強化したかもしれないねぇ。それなら、北欧のとある地方に住むダークエルフに相談してみなよぉ。確かあそこの長老がドワーフの加工品に宿った魔法を強化する術を知っているはずぅ。長老が住む場所は以前リューセーに教えたけど、アルビオンの神器(セイクリッド・ギア)に転送するよぉ。なにせイッセーは戦いが専門だからねぇ』

 

「ほっとけ! 普段から寝てばっかりいるミドに言われたくねぇよ!」

 

 ミドの余計な発言で思わず突っ込む俺。

 

「ってかイッセー、そいつと随分仲良いんだな」

 

「俺としては、ミドなどと言う呼び方は初めて聞いたぞ」

 

 ミドがヴァーリに情報を転送してる最中、先生とおっさんが苦笑しながら言ってくる。

 

「――把握した。アザゼル、立体映像で世界地図を展開してくれ」

 

 情報を捉えたヴァーリが言うと、先生はケータイを取り出して操作した。すると、画面から世界地図が宙へ立体的に映写される。それを見たヴァーリは一部分を指す。先生は素早く、その情報を仲間に送り出していた。

 

「……ほう。よくもまあ、そんなことまで知っていたな。ずっと寝ているとばかり思っていたんだが」

 

 おっさんが感心する様にミドに言った。

 

『まあねぇ。地上に上がった時、色々とエルフやドワーフに世話になったからさぁ』

 

 それは俺と兄貴も前に聞いた。でも、俺としては今でも疑問に思う事がある。

 

 その巨体でどうやって世話になったんだ? 怪獣の域を超えたデカさだと、確実にエルフやドワーフの里で世話になれるとは思えないんだが……。

 

「で、ロキ対策はどうだ?」

 

 おっさんは次にロキについて訊く。

 

『そうだねぇ。ダディにはミョルニルでも撃ち込めば何とかなるんじゃないかなぁ』

 

 ミドの話を聞いて、先生は顎に手をやった。

 

「つまり、基本は普通に攻撃するしかないわけか。オーディンのクソジジイが雷神トールに頼めばミョルニルを貸してくれるかどうか……」

 

「あれは神族が使用する武器の一つだからな。あのトールが簡単に貸すとは思えない」

 

 先生の意見にヴァーリがそう言う。

 

『それだったら、さっき言ったドワーフとダークエルフに頼んでごらんよぉ。ミョルニルのレプリカをオーディンから預かってたはずぅ』

 

「物知りで助かる、ミドガルズオルム」

 

 先生は苦笑しながらミドに礼を口にした。

 

 すると、ミドは再び俺に顔を向ける。

 

『そうそうイッセー、前から気になってたんだけどさぁ。リューセーって一体何者なのぉ? 初めて会った時にダディみたいな神の波動を感じたから、普通の人間じゃないのは分かってたんだけどぉ』

 

 あ、ミドは知らなかったか。前に会った時の兄貴は三大勢力に知られないよう正体を隠していた時期だったからな。もう知れ渡ってるから、教えても問題無いだろう。

 

「兄貴の正体は『聖書の神』だ。何でもシステムって物を使って人間に転生したんだと」

 

『………あのリューセーが聖書の神だったのかぁ。これは驚いたよぉ』

 

「その割には大したリアクションじゃないな」

 

『何となくだけどそんな感じはしてたんだぁ。でもそっかぁ、彼があの聖書の神だったとはねぇ…………噂じゃかなりのドラゴン嫌いだって聞いたんだけどなぁ』

 

「ん? 何か言ったか、ミド?」

 

 最後の部分がボソボソ言ってて聞こえなかったので確認するも、ミドはデカい頭をフルフルと横に軽く振る。

 

『何でもないよぉ。イッセー、今度はリューセーを連れて深海に遊びに来てねぇ。さーて、そろそろいいかな。僕はまた寝るよ。ふあああああっ』

 

 久々に喋って疲れてきたのか、ミドは大きな欠伸をする。更に少しずつ映像が途切れてきた。

 

「ああ、すまんな」

 

 おっさんの礼にミドは笑んだ。

 

『いいさ。イッセーと楽しくおしゃべりできたからね。じゃあ、また何かあったら起こして』

 

 ミドがそう言い残すと、映像がぶれていき、ついには消えた。

 

 久しぶりに会ったけど相変わらずだったな。

 

 こうして龍王ミドガルズオルムからの情報を得た俺達は、動き出す事となった。

 

 のだが――

 

「その前に兵藤一誠、今後はミドガルズオルムに間違った情報を伝えるのは止めてもらいたい。あの時の勝負は俺が敗北したと言っているだろうが」

 

「本当にしつこい奴だな、お前は。俺が負けたって事実を伝えただけだ。別に何も間違っちゃいねぇよ」

 

「大間違いだ! 大体キミは――!」

 

「それはお前が――!」

 

 ヴァーリが異議を申し立ててきたので、再びあの時の勝負についての議論をする破目になってしまった。

 

「………一体何なのだ、この議論は? 自分の負けを主張し合う二天龍なんて初めて見たぞ」

 

「イッセーだけじゃなく、ヴァーリも相変わらず譲らないか。にしても珍しいな。あのヴァーリが子供みたいに感情を露わにしてまで主張するとは」

 

「え? え? か、会長から聞いた話だと、兵藤と白龍皇の戦いって相打ちだったんじゃないのか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、兵藤家では――

 

「ちょっと変態夢魔(サキュバス)! 人が目を離してる間にリューセーに抱き着かないで!」

 

「色ボケ女神に言われる筋合いなんか無いわね。貴女こそ、勝手にダーリンと恋人扱いしないでもらいたいわ」

 

「…………お前等、いい加減にしないと俺も流石に本気で怒るぞ」

 

 いつの間にか戻って来たフレイヤが隆誠に抱き着いてるエリーを見た途端に喧嘩を始めていた。二人がそれぞれ隆誠の片腕に引っ付きながら。

 

 そろそろ我慢の限界が訪れようとしているのか、隆誠のこめかみから青筋が浮かんでおり、今にも怒りのオーラが爆発しそうだった。




 原作と違い、この作品のイッセーはミドガルズオルムと対面しているのでクールに対応しています。


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第十三話

一ヵ月以上空けてすいませんでした。

あと今回はフライング投稿です。


 イッセー達がミドガルズオルムと話し終えた翌日の朝。

 

 朝食を済ませた俺達は地下の大広間に集まっていた。俺――兵藤隆誠やグレモリー眷族、そしてシトリー眷族も今日は学校に行かない事になっている。と言っても、俺達を模した使い魔達が代わりに学校生活を送ってもらう予定だ。因みに俺は改良した影武者人形を使って学校に向かわせている。

 

 ロキとの戦いが近づいている為、今回ばかりは休まないといけない。イッセー達は平穏な学園生活を送れない事に残念がっていた。言うまでもなく俺も同様だ。

 

 特にソーナは生徒会長である事もあって、自分が学園に行けない事にもどかしさを感じている。「自分のいない間に何か起こらないか?」と落ち着かない様子だ。

 

 すると、アザゼルが小言を呟きながら現れた。しかも顔が不機嫌極まりない様子で。

 

「オーディンの爺さんからのプレゼントだとよ。ミョルニルのレプリカだ。ったく、あのクソジジイ、マジでこれを隠してやがった……!」

 

「本当に昔っから食えないねぇ、あのご老神は」

 

「ところで兄貴、これが本当にミョルニルなのか? 俺はてっきり、ゲームでよく見るド派手な形をしたハンマーだと思ってたんだが」

 

 アザゼルと俺の話を余所に、レプリカを見たイッセーが問う。

 

 その疑問はある意味当然かもしれない。今、俺達の前にあるミョルニルのレプリカの見た目が、日曜大工で使いそうな普通のハンマーだからな。一応、豪華な装飾や紋様が刻まれているが、それでも日常的な物に見えてしまう。

 

「まぁゲームじゃ派手な形状をしてる武器ほど強いって言うお決まりだけど、現実はそうでもない。これは正真正銘、北欧の雷神トールが持つ伝説の武器のレプリカだ。見た目とは裏腹に、神の雷が宿っているぞ」

 

「へー、確かに言われてみりゃそのハンマーから凄ぇ力を感じるな」

 

 改めてミョルニルのレプリカから感じる力を探知したイッセーは考えを改めていた。

 

「それでロスヴァイセ、これは誰が使っていいんだ?」

 

「はい、オーディンさまよりこのミョルニルのレプリカをイッセーくんにお貸しするそうです。どうぞ」

 

 そう言ってロスヴァイセはイッセーにミョルニルのレプリカ(以降はハンマー)を渡す。

 

「じゃあイッセー、試しに闘気(オーラ)を流してみろ。量は半分以下でいい」

 

「おう」

 

 俺の指示にイッセーは闘気(オーラ)をハンマーに流し込んだ。

 

 直後、カッと一瞬の閃光が走った。その後にハンマーがぐんぐんと大きくなり――

 

「おわっ! とととと……!」

 

 

 ズドンッ!

 

 

 既にイッセーの身の丈を越す巨大なハンマーとなって、急な重さによってイッセーがバランスを崩して大広間の床に落としてしまった。

 

 落下した衝撃により、大広間自体が大きく振動してしまっている。

 

「わ、悪い兄貴! 半分以下に流し込んだつもりなんだが……!」

 

 イッセーは謝りながら、巨大化したハンマーを力一杯持ち上げた。

 

「ほう。たった半分以下の闘気(オーラ)で、そこまで大きくさせるとは凄いじゃないか」

 

「感心してる場合じゃねぇだろうが。イッセー、もう少し闘気(オーラ)を抑えろ抑えろ」

 

 俺の台詞にアザゼルが突っ込みながらも、イッセーに嘆息しながら言う。それを聞いたイッセーは言われた通り、更に闘気(オーラ)の量を抑えた途端、縮小し、両手で振るうに丁度いいサイズとなった。

 

「ったく。禁手(バランス・ブレイカー)でもないのに、よくもまぁ軽々と持てるもんだ。それだけ聖書の神(おやじ)に鍛えられてるって証拠か」

 

「そう言う事だ。取り敢えずイッセー、もう止めていいぞ」

 

「了解っと」

 

 アザゼルが少し呆れてる中、俺に言われたイッセーがハンマーから手を離す。すると、ハンマーは元のサイズに戻った。

 

 どうでも良いんだが、ヴァーリの奴が面白そうに笑みを浮かんでいる。何かまるで、『俺の宿敵(ライバル)だからこれ位は当然だ』みたいな感じで。

 

「つーか、これマジでレプリカなのか? 本物じゃないかって思う程に凄ぇ力を感じたぞ」

 

 ハンマー、と言うよりミョルニルに対して認識を改めているイッセーが――

 

「かなり本物に近い力を持っているぞ。本来、神しか使えないんだが、バラキエルの協力でこいつの使用を悪魔でも扱えるよう一時的に変更した」

 

「先に言っておくが、無暗に振るうなよ? もしお前が禁手(バランス・ブレイカー)状態でそれを全力で振るったら、高エネルギーの雷でこの辺一帯どころか、駒王町その物があっと言う間に消え去るからな」

 

「マジか! うわっ、怖い!」

 

 アザゼルと俺の言葉を聞いて戦慄した。 

 

 取り敢えずイッセーにロキ対策の武器が用意出来たので良しとしよう。

 

「ヴァーリ、どうせならおまえもオーディンの爺さんに強請ってみたらどうだ? いまなら特別に何かくれるかもしれないぞ」

 

 アザゼルが愉快そうにそう言う。

 

 しかし、当のヴァーリは不敵に笑いながら首を横に振った。

 

「そんな借り物の武器はいらないさ。俺は天龍の元々の力のみを極めるつもりだ。兵藤一誠と再び戦う時に無粋な装備などいらない。それに俺が欲しい物は他にあるんでね」

 

 凄くどうでも良いように言ってるけど、イッセーを凄く意識しているようだ。それに気付いたのか、イッセーはジッとヴァーリを見ていた。

 

 ヴァーリはイッセーと戦う前まで大した事の無い相手としか見てなかった。けれど、それが今やイッセーとの再戦による決着を心から待ち望んでいる。

 

 勿論、イッセーも同じ気持ちだ。だが生憎、イッセーは才能が無い為に、天龍以外の力も補わなければヴァーリと互角に戦う事が出来ない。本人としては自力で勝ちたいだろうが、それが無理だと理解してるから何も言わないでいる。

 

 弟の心情を察してる最中、アザゼルが美猴に話しかけていた。初代孫悟空からの伝言を聞いた瞬間、顔中汗ダラダラ出して青褪めている。

 

 タンニーン相手に勇猛果敢に挑んでいた奴は、どうやら初代相手には形無しのようだ。因みにタンニーンは決戦日に来る予定で、今は冥界で待機中となっている。

 

 すると、美猴と話し終えたアザゼルが俺に視線を向ける。

 

「そういやリューセー。そっちの方はどうなんだ? 俺達がミドガルズオルムに会ってる最中、フレイヤからオッタル対策について訊いたんだろ」

 

「まぁな。と言っても殆どはオッタルの戦い方と実績ばかりだったが」

 

 取り敢えず俺はアザゼル達に昨日の内容を説明する。

 

「昨日も聞いた通り、オッタルはフレイヤが抱えていた英雄の中で最強と呼べる武人だ。当時の奴はフレイヤより授かった伝説の武器や防具で、どんな相手でも勇猛果敢に挑んで数々の偉業を成し遂げ、多くの神々からも称賛される程らしい。戦い方は至ってシンプル。力をメインとした剣技に加え、鍛えられた肉体と怪力による格闘戦法。小細工など一切使わずに正々堂々な戦いを好む生粋の武人だ。イッセーやヴァーリなら、そう言う相手は大歓迎だろ?」

 

 俺の問いにイッセーとヴァーリはコクンと頷く。真っ向勝負が好きな二人なら、オッタルと気が合うだろう。

 

「だが今のオッタルはロキの操り人形で、俺を執拗に狙う殺人鬼同然の狂戦士(バーサーカー)になっている。奴が愛用していた武器と防具はないが、ロキから仮初の肉体と『魔剣レヴァンテイン』を与えられている。ほんの僅かだったが、戦闘能力は当時の頃と全く衰えてないとフレイヤが見解したらしい。あとこれは予測だが、オッタルにはフレイヤを認識出来ないよう仮初の肉体に細工を施しているかもしれない。フレイヤ曰く、主の自分を見ても何の反応もしないのは絶対におかしいってな。俺がオッタルと戦ってる最中に止めろと何度も叫んでいたが、当の本人は完全無視……と言うより本当に聞こえてないかもしれないと言ってた。確かに考えてみれば、フレイヤに関する対策を施さないとオッタルは戦力にならないどころか、却って邪魔な存在になってしまうからな。早い話、今のオッタルにフレイヤをぶつけても無駄って事だ。なので俺がアイツと戦うしか方法はない」

 

 俺からの説明にアザゼルやイッセー達は揃って眉を顰めていた。ただでさえロキやフェンリル相手に梃子摺るのに、ここで聖書の神(わたし)と言う最大戦力の一つがオッタルの方に割かなければいけない事を認識したから。

 

「やれやれ、やっぱりそうなるか。本当なら聖書の神(おやじ)にはロキの相手をさせたかったが」

 

 心底残念そうに言うアザゼルに俺は苦笑する。

 

 元神とは言え、聖書の神(わたし)ならばロキと対抗出来るとアザゼルは思っていたんだろう。確かに俺が聖書の神(わたし)の姿で戦えばロキと対抗出来るだろう。

 

 しかし、そうするにはフェンリルをどうにかしないといけない。神殺しの牙を持ってるフェンリルに噛まれたら殺されてしまうので。

 

 俺からオッタルの話を聞いたアザゼルが咳払いして、俺たち全員に言う。

 

「それじゃあ、作戦の確認だ。先ず、会談の会場で奴が来るのを待ち、そこからシトリー眷族の力でお前達をロキとフェンリル、そしてオッタルごと違う場所に転移させる。転移先はとある採石場跡地だ。広く頑丈だから存分に暴れても問題無い。ロキ対策の主軸はイッセーとヴァーリ。二天龍で相対する。オッタルの相手はリューセーとヴァーリチームのエリガン。最後にフェンリルの相手は他のメンバー――グレモリー眷族とヴァーリのチームで鎖を使い、捕縛。そのあと撃破してもらう。分かってるだろうが、絶対にフェンリルをオーディンのもとに行かせるわけにはいかない。あの狼の牙は神を砕く代物だ。主神オーディンと言えど、聖書の神(おやじ)と同様あの牙に噛まれれば死ぬ。なんとしても未然に防ぐ」

 

 作戦の内容に誰もが頷く。俺としてはオッタル戦でイッセーをパートナーにしたかった。けれど、ロキ対策用のハンマーを所持しているので無理だ。久しぶりの兄弟コンビプレーが出来なくて残念だが、二天龍のヴァーリなら大丈夫だ。宿敵(ライバル)とは言え、イッセーと組んで戦う事にヴァーリは何の異論もないので。

 

 エリーが俺の方へ回ったのは、『ダーリンがオッタルと戦うなら私もそっち側に行く』と言ったからだ。その発言に誰もが文句を言わなかった。不本意だが、ヴァーリと同様に何を考えているのか分からないエリーは俺の傍に置かせた方が良いとアザゼルが了承しているので。エリーはリアス達だけでなく、ヴァーリチームのメンバーからも余り信用されてないから、俺に回るのはある意味当然かもしれない。

 

 まぁ戦闘面に関して、それなりに信用出来る相手だ。過去に何度も戦ってる事もあって、エリーの戦い方を理解しているので。

 

 因みにそのエリーだが、今はこの場にいない。あの後にフレイヤと言い争っていたので、我慢の限界に達した俺は二人纏めて、聖書の神(わたし)能力(ちから)で作った光の鎖で拘束させた。

 

『ちょっとリューセー! いくらなんでも女神の私に対して酷過ぎない!?』

 

 フレイヤは文句を言ってたが、俺は気にせずオーディンに引き渡した。

 

 そして――

 

『ああ、私の身体がダーリンに縛られてる……。緊縛プレイも良いかもしれないわぁ♪』

 

 エリーは俺が拘束した事で変なスイッチが入ったのか、恍惚な表情となって悶えていた。その場にいた面々がドン引きする程に。

 

 その後は別室に放り込み、更には俺が施した結界に閉じ込めている。その際、『今度は放置プレイ……これも良いわぁ♪』とか言ってたが無視した。

 

 言っておくが、俺はフレイヤとエリーに卑猥な拘束なんかしてない。ミノムシみたくグルグル巻きにしただけだ。

 

「さーて、鎖の方もダークエルフの長老に任せているから、完成を待つとして、後は……。リューセー、匙の方だが」

 

「それはお前に任せるよ」

 

 確認してくるアザゼルに俺がそう言うと、名前を呼ばれた匙が反応した。

 

「あの、俺が何ですか?」

 

「おまえも作戦で重要だ。ヴリトラの神器(セイクリッド・ギア)あるしな」

 

「今回は匙にも存分に働いてもらうぞ」

 

 アザゼルと俺の一言に匙は目玉が出るほど驚いていた。

 

「ちょ、ちょっと待って下さいよ二人とも! お、俺、兵藤や白龍皇みたいなバカげた力なんてないっスよ!? とてもじゃないけど、神様やフェンリル相手に戦うのは無理です! て、てっきり会長たちと一緒に皆を転移させるだけだと思ってましたよ!」

 

 自分は戦力外だと必死に言ってくる匙に、俺とアザゼルは嘆息した。

 

「勘違いしてるようだから言っとくが、何も前線で戦えとは言ってない。お前には味方のサポートをやってもらいたいんだ」

 

「さ、サポートっスか?」

 

「リューセーの言う通りだ。お前が持ってるヴリトラの力は、最前線で戦うイッセーとヴァーリのサポートに必要なんだよ」

 

 そう言ってアザゼルは更に付け加える。

 

「だが、その為にはちょっとばかしトレーニングが必要だな。試したい事もある。ソーナ、少しの間こいつを借りるぞ」

 

 ソーナに確認を取るアザゼル。

 

「それはよろしいですが、一体どちらへ?」

 

「転移魔法陣で冥界の堕天使領――グリゴリの研究施設まで連れて行く」

 

 楽しげな顔をするアザゼルに、俺はすぐに察した。

 

 コイツの事だから、恐らく地獄とも思えるトレーニング内容を面白可笑しく匙にやらせようとするだろう。

 

「なぁ兄貴、先生があんな顔するって事は地獄行き確定のしごきだろ」

 

「よくわかったな、その通りだ」

 

 コッソリと訊いてくるイッセーの問いに答える俺。その直後にイッセーは匙に憐憫の眼差しを送っていた。

 

「匙、先に言っとく。多分だけど先生のしごきは地獄だ。無事に生きて帰って来いよ」

 

 匙の肩に手を置いたイッセーは凄く気の毒そうに言った。それを聞いた匙は更に尻込みする。

 

「はっはっはー。じゃあ行くぞ匙」

 

 笑みを浮かべて言うアザゼルは嫌がる匙の襟首を掴み、そのまま魔法陣を展開した。

 

「い、嫌だぁぁぁっ! 助けてぇぇぇぇぇっ! 兵藤ぉぉぉぉっ! 会長ぉぉぉぉっ!」

 

 魔法陣が光り輝き、泣き叫ぶ匙を包んでいく。

 

 アザゼルと匙の姿が消えると、イッセーは敬礼をする。勿論それは匙に対するものだ。

 

「つーか、匙に俺達のサポートをさせるって、どうするつもりなんだ?」

 

「アザゼルの話だと、イッセーとの一戦で匙の内に眠るヴリトラが反応し始めていたようだ。ドライグもそう感じているんだろう?」

 

『ああ。俺もヴリトラが反応したのを確認した。間違いない』

 

 俺の問いにドライグが全員に聞こえる様に答えた。

 

 すると、イッセーが何か思い出した顔をしてドライグに話しかける。

 

「そういや、ドライグ。久しぶりに会ったアルビオンとは何か話さないのか?」

 

『いや、別に話す事もないが……。なあ、白いの』

 

 そう言ってドライグが話しかけると――

 

『ふんっ、赤いのと話す事などない。拳龍帝などと言う腑抜けた奴は断じて私の宿敵ではないからな』

 

 久しぶりに聞いたアルビオンの声は随分と辛辣だった。と言うより、アルビオンが何か剥れてるような気がする。

 

『おいおい、随分な言い草じゃないか。拳龍帝と呼ばれているのは宿主の兵藤一誠だぞ』

 

 ドライグは何か察したのか、大して気を悪くせずに言い返した。

 

『誇り高き二天龍だった筈なのに、それが今や多くの小さな子供に好かれているではないか。これを腑抜けと呼ばずして何と呼ぶ、赤いの。テレビで宿敵を模した「ファイタードラゴン」などというヒーロー番組を見た時に、私は情けない気持ちでいっぱいだったぞ』

 

『そう言うな、白いの。これでも俺は結構気に入ってるんだ。白いのもやってみれば、俺と同じく気に入るかもしれないぞ』

 

『世迷言を。私がそんな低俗な物に現を抜かす訳が――』

 

 二天龍の会話に、ヴァーリが不可解そうな表情となっている。

 

「アルビオン、前と言ってる事が違っていないか? 兵藤一誠を模したテレビ番組を見ていた時、ドライグに対して矢鱈と羨ましがっている発言をしていたと言うのに」

 

『よ、余計な事を言うなヴァーリ! 大体私がいつそんな事を言った!?』

 

 ああ、そう言うこと。ヒーローと称されて大人気となってるドライグに嫉妬して、辛辣な毒を吐いていたのか。

 

 既に察したドライグは気付いていながらも、アルビオンの発言を軽く聞き流していたって訳ね。

 

「兵藤一誠。俺はこういう時、アルビオンになんて言うべきだろうか?」

 

「知るか。んなこと俺に訊くな」

 

 ヴァーリからの問いに、イッセーが即座に突っぱねたのは言うまでもない。

 

 一先ず二天龍の事は後回しだ。俺達が今やるべき事は、対ロキ戦の為に備えて準備を進める事なので。



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第十四話

 準備を進めていく中、俺は作業部屋でイッセーにミョルニルの使い方のレクチャーをしていた。

 

「……なぁ兄貴、ちょっと訊きたいんだが」

 

 レクチャーを受けているイッセーが、急に真面目な顔になって俺に問おうとする。

 

「何だ?」

 

「朱乃さんについてなんだが、何であの人はお父さんと仲が悪いんだ? 俺、バラキエルさんがそこまで悪いお父さんには見えないんだが……」

 

 その問いに俺は判断に迷った。教えても良いかダメかと。

 

 けれど、イッセーの疑問は至極当然だった。この数日の間、朱乃のバラキエルに対する態度が余りにも辛辣だったから。対してバラキエルは朱乃に話しかけようとするも、向こうが無視するから結局諦めている。

 

 そんな場面を何度も見ていたから、イッセーが気にならない訳がない。俺だってアザゼルから聞いてなければ、一体あの親子に何があったのかと気になって調べようとするだろう。

 

 本当なら俺じゃなくリアス、もしくは朱乃本人に訊いて欲しいが……当の二人は別件対応中だ。それにとても話せる雰囲気じゃない。

 

 状況が状況なので、ここは俺が教える事にした。

 

「……聞いた話だと、母親の死が原因らしい」

 

 イッセーにミョルニルをしまうように言った後、アザゼルから聞いた話をそのまま説明しようとする。

 

 朱乃の母親は日本のとある有名な寺の巫女だった。

 

 名は姫島(しゅ)()。だから朱乃は母方の姓を名乗っている。

 

 姫島朱璃が寺の近くにある日、敵勢力に襲撃されて重傷を負ったバラキエルが飛来する。彼女は傷付いたその堕天使の幹部を救い、手厚く看病した。彼女はその時バラキエルは親しい関係になった後、その身に子供を宿したそうだ。

 

「なんつーか、ファンタジー系の恋愛ドラマとかでよくあるパターンだな」

 

 イッセーのツッコミに俺は特に否定せず、話を続ける。

 

「バラキエルは朱乃の母親と生まれたばかりの朱乃を置いていくわけにもいかず、近くで居を構え、そこから堕天使の幹部として動いていたらしい。その時の三人は慎ましい生活でありながらも、とても充実して幸せな日常を送っていた。……だが」

 

 その幸せは長く続かなかった。

 

 母親の親類は何を勘違いしたのか、堕天使の幹部に娘が洗脳されて手籠めにされたと思い込み、とある高名な術者達をけしかけたようだ。

 

 言うまでもなく、バラキエルの力で退かれていた。しかし、術者の中にはバラキエルにやられて恨みを持つ者も現れた。

 

「何だそりゃ? 自分達から勝手に仕掛けといて、バラキエルさんを恨むなんざ筋違いじゃねぇか」

 

「堕天使に負けた事で相当プライドが傷付いたんだろうな。そしてその連中は堕天使と敵対している者達へ、バラキエルが住まう場所を教えたんだと」

 

 ここまで言ってイッセーは何となく分かった表情となる。

 

「運悪く、その日は偶然にバラキエルが家を空けていたんだ。アザゼルからの呼び出しを受けてな。敵対勢力は朱乃と母親が住まう家を躊躇せずに襲撃した。バラキエルが危険を察知して駆け付けた時には……。朱乃は母親が命懸けで庇ったおかげで助かった。だが、母親は残念ながら……」

 

 俺が人間に転生し、イッセーを連れて各国を旅して、堕天使の幹部が他の勢力に恨みを抱かれているのを知った。朱乃の母親を殺した敵対勢力も、さぞかし堕天使勢を恨んでいたんだろう。

 

「それが原因で、朱乃は堕天使に対する憎しみが募ったようだ。そして殺された母親の無念を抱き、父親のバラキエルに心を閉ざしたんだと」

 

 朱乃とバラキエルが険悪になった理由を知ったイッセーは言葉を失っている様子だ。

 

 今はリアスの眷族となっているが、彼女に会うまでの朱乃は天涯孤独な身となって各地を放浪していたらしい。

 

「とまあ、そう言う事があったって訳だ」

 

「………話は分かった。けど、一つだけ納得出来ねぇところがある」

 

 そう言ってくるイッセーに、俺はどこら辺が納得出来ないのかと尋ねた。

 

「バラキエルさんを呼び出したアザゼル先生についてだ。あの人は知ってた筈だろ? バラキエルさんや朱乃さん達が敵に狙われてるって事を。そんな状況の中、どうして先生はバラキエルさんを呼び出したんだ?」

 

「……」

 

 アザゼルを咎める感じで言うイッセーに俺は無言になった。

 

「あんまり言いたくないが、朱乃さんのお母さんが殺されたのは――」

 

「――そう。原因を作った俺が全部悪いのさ」

 

「「!」」

 

 イッセーが言ってる最中、第三者の声が聞こえた。

 

 俺たち兄弟が振り返った先には、いつの間にか部屋に入っているアザゼルが佇んでいる。

 

「先生……」

 

「どうした、アザゼル。VIPルームで作業してたんじゃなかったのか?」

 

 また前みたいに勝手に入室してきたので咎めようとしたが、少し悲痛な表情だったので敢えて何も指摘しなかった。

 

「一段落ついたから、お前らの様子を見に来たんだ。入ろうとした矢先に、朱乃の過去話が聞こえちまってな」

 

「……それで先生、自分が悪いってどういう事ですか?」

 

 イッセーはアザゼルの返答が気になったのか、理由を尋ねた。その事にアザゼルは説明しようとする。

 

「あの日、確かにバラキエルを招集したのは俺だ。イッセーの言う通り、バラキエル達が狙われてるって事も知っていた。けれど、どうしても奴じゃないとこなせない仕事があったんだ。だから、無理を言って呼び寄せたんだよ。そのわずかな間に……。俺が朱乃とバラキエルから、母と妻を奪ったんだ」

 

「……先生。だから朱乃さんのこと、バラキエルさんの代わりにみようと?」

 

「…………」

 

 再び尋ねるイッセーにアザゼルは何も答えなかった。それを察したのか、イッセーはもう訊こうとしない様子だ。

 

 すると、部屋の扉からノックがした。俺がどうぞと入室許可を出すと、扉が開いて誰かが入ってきた。

 

「失礼する、聖書の神。アザゼル、ここにいたのか」

 

 入って来たのはヴァーリだった。

 

「ああ、おまえか。どうだ?」

 

 アザゼルの問いかけにヴァーリは手を前に突き出し、小さな魔法陣を宙で展開した。

 

 ほう、これは北欧の術式じゃないか。もう使えるようになったんだな。

 

「北欧の術式はそこそこ覚えた。ロキの攻撃にいくらか対抗出来るはずだ」

 

 思った通りの返答だった。流石はヴァーリ、お見逸れした。

 

 習得出来たのは、今もヴァーリが手にしている本をずっと読んでいたからだ。

 

 こう言うのは悪いが、イッセーは魔術に関する知識はあっても、それを実行出来る才能はない。

 

 魔術と言うのは簡単に習得できるモノじゃない。魔術その物の理論を完全に理解し、それを魔力に変換させる為の演算能力を必要とする。なので魔術は頭脳などの知力を求められるから、それが大してないイッセーには無理だ。

 

 ヴァーリからの返答を聞いたアザゼルはそれを確認して頷いていた。

 

「分かった。……さて、邪魔しちまったな聖書の神(おやじ)。俺は少し休んでくる」

 

 そう言ってアザゼルは部屋を出て行った。

 

 此処にいるのは俺とイッセー、そして――ヴァーリ。ライバルがいるからか、イッセーは少しばかり警戒している様子だ。

 

「聖書の神、少しばかり此処にいて良いか? 勿論、そちらのやってる事に邪魔をするつもりはない」

 

「どうぞご自由に。そこにあるソファにでも座って寛いでいいぞ」

 

 俺が許可を出すと、ヴァーリは言われた通り俺が指したソファに座った。そのまま例の本を読み返している。

 

 ヴァーリは必要のない時は、美猴達と外に出ていた。勿論俺と一緒にいたがってるエリーも連れてだ。当の本人は外へ行く度に物凄く嫌がっているが、ヴァーリの指示に渋々従っている。

 

「いいのか、兄貴? ヴァーリを居させて。ここは兄貴の作業部屋なんだろ?」

 

「構わん。今は見られて困るような物は置いてない」

 

 少し休憩するかと言うとイッセーも頷き、ヴァーリから少し離れる。作業部屋に置いてある冷蔵庫を空け、冷たいジュースを二本出して、一本をイッセーに渡す。

 

「で、この後はどうするんだ? まだ続けるのか?」

 

「そうだな。ここでいくら学んだところで実際に使いこなさないと意味が無いから……いっそ実戦形式でやってみるのも良いかもな」

 

 俺が実戦形式と言った瞬間、本を読んでるヴァーリがピクリと反応した。俺は気付いているが、一先ず気にしない事にする。

 

「お、いいねぇ。そっちの方が俺としては分かりやすくて助かる。相手は兄貴か?」

 

「ああ、俺の事を悪神ロキと思ってやるといい。神の姿になったら、更に緊張感が持てるだろう?」

 

「今更そんなモノなんかねぇよ。こちとら元神さまの弟だ」

 

「それもそうか」

 

 こりゃ一本取られたと笑いながらジュースを飲む俺。

 

 確かにイッセーは俺が修行の旅に連れて行った事によって、未知の経験をしまくった事で肝が据わっている。更には多くの知識と経験も積んで。

 

 加えて、嘗てヴァルハラに訪れて多くの神達と対面した事もあるから、今更神相手に怖気づいたりしない。後はもう勝つか負けるかだ。

 

「しかしまぁ、今度は本気でロキと戦う事になるとはな。ってかあの悪神、何であそこまで邪魔してくるんだ? 今の兄貴みたいに平和を満喫しようって気はねぇのか?」

 

「そんな気はゼロだと断言出来る程に無い。奴は今も『神々の黄昏(ラグナロク)』の成就こそが全てだから、俺やお前にとっての平和は非常に耐えがたい苦痛なモノとしか見ていない。それは当然、ロキみたいに平和が嫌いな連中もいる筈だ」

 

 神と言う存在は人間や悪魔以上に長く生き過ぎている為、娯楽や刺激を求めてしまう。それが例え滅びの道を辿る事になっても。

 

 俺の話を聞いて何か思うところがあったのか、イッセーは本を読んでいるヴァーリに話しかけようとする。

 

「おいヴァーリ、本を読んでいながら聞いてたろ。おまえはどうなんだ? 今の世界は苦痛か?」

 

 ヴァーリは本を閉じて、真っ直ぐとイッセーの方へと顔を向けて答えようとする。

 

「苦痛と言うより、退屈なだけだ。だから、今回の共同戦線は楽しくて仕方がない」

 

 如何にもヴァーリらしい返答だった。口元が怖いぐらいに吊り上がってるし。

 

 イッセーとは違って根っからの戦闘狂だ。呆れるほどに。

 

「だが俺から言わせれば、キミを羨ましく思うよ。平和を満喫しておきながらも、聖書の神のおかげで常に実戦の日々を送っているんだからな」

 

 確かにヴァーリからすればそうだろうな。倒したい相手である聖書の神(わたし)が、弟の赤龍帝(イッセー)を強くさせようとキツい修行をさせている。強い相手を求めてるヴァーリからすれば、羨ましがるのは当然か。

 

 予想外な返答だったのか、イッセーは虚を突かれたように少し困惑気味だった。

 

「今だから言えるが、最初はキミのことを大した才能が無くて、聖書の神に鍛えられても俺以上に強くなる事はないと思っていた。だが、キミは俺の予想を裏切っただけでなく、いままでの赤龍帝とは違う成長をしている。聖書の神の助力だけでなく、ドライグと対話しながら、赤龍帝の力を使いこなそうとする者は歴代の中で初めてだろう」

 

「え? そうなのか、ドライグ?」

 

 イッセーが自分の左手に向かって言うと、手の甲が光り出した。

 

『その通りだ。以前も言っただろう? 聖書の神に言われたとは別に、おまえは歴代のなかで一番俺と対話する宿主だ。更には俺の力に溺れず、過信せず、赤龍帝の力を使いこなそうとしている。尤も、相棒が聖書の神に鍛えられてる時点で、そんな心配は微塵もなかったがな』

 

 確かにイッセーが思い上がった行動をすれば、俺が即座に矯正する事となる。

 

 俺が内心頷いてると、ヴァーリが続く。

 

「今まではただ思うがままにその強力で凶悪な力を振るう宿主ばかりだった。最終的にドライグの力に溺れ、戦いで散っていった」

 

『おまえは歴代で一番才能の無い赤龍帝だが、それを分かっていながらも聖書の神からの指導で強くなろうとしている。――同時に』

 

「歴代で一番力の使い方を覚えようとしている赤龍帝だ」

 

 ドライグとヴァーリにそう言われたイッセーは少し照れた様子を見せる。

 

「随分と期待されてるじゃないか、イッセー。兄の俺としては鼻が高いぞ」

 

「うっせ……」

 

 憎まれ口を叩くイッセーだが、俺は大して気にしない。それどころか愉快そうに笑みを浮かべる。

 

「もし実現出来るのであれば、将来、俺のチームとキミのチームでレーティングゲームみたいな戦いをやってみたいものだ。最後は当然、俺とキミでの大将戦を」

 

「へぇ、それはいいかもしれないな。つっても、今の俺は『兵士(ポーン)』になったばかりだし、俺に付いてきてくれるのはまだ二人で当分先の話だ」

 

「もう既に二人いるとは、随分と幸先がいいな。もしやグレモリー眷族の誰かなのか?」

 

「ああ、お前もよく知ってる二人――アーシアとゼノヴィアだ」

 

 ほほう。アーシアは当然として、まさかゼノヴィアもイッセーに付いて行く予定だったとは。それだけイッセーに惹かれたと言う証拠なんだろうな。

 

 嘗て神に敵対する者は嫌悪感丸出しのガチガチな信徒だったのに、今は転生悪魔となったイッセーと一緒にいたがるとは。随分と大きく変わったもんだ。勿論良い意味で。

 

「元聖女と聖剣使い、か。キミの事だから、他にも既に目をつけている相手がいるんじゃないのか?」

 

「いねぇよ。いくらなんでも買いかぶり過ぎだ」

 

 いや、イッセーは気付いていないが実はもう一人いるんだよな。ソイツは冥界にいるご令嬢――レイヴェル・フェニックスだ。

 

 知っての通り、彼女もイッセーに惚れている。更には弟の力になりたいと言っていたので、イッセーがチームに入ってくれと勧誘したら喜んで受け入れるだろう。そうなったらアーシアと同じく『僧侶(ビショップ)』枠だ。

 

 既にイッセーは『僧侶(ビショップ)』二人、『騎士(ナイト)』一人を確保済みである。残った枠は果たして誰になるのか非常に楽しみだよ。

 

「うむうむ。いいのぅ。青春だのぉ」

 

「って、オーディンの爺さん……!」

 

「ねぇねぇリューセー、私達も青春しよう」

 

「お前は相変わらずブレないな、フレイヤ」

 

 俺たち兄弟とヴァーリの間にオーディンが現れ、更にはフレイヤが俺の腕に引っ付いてきた。

 

「今回の赤白は、実に個性的じゃい。昔のはみーんなただの暴れん坊でな。各地で好き勝手に大暴れして、色んなものを壊しながら死におった。実に迷惑極まりなかったわい」

 

「そうそう。ヴァルハラにも勝手に土足で上がり込んだ挙句、私が好きだった風景も吹っ飛ばしたのよね」

 

 ため息混じりにオーディンとフレイヤはそう語った。

 

 二人に付いてきていたロスヴァイセも言う。

 

「確かに片方は卑猥なドラゴンで、片方はテロリストという危険極まりない組み合わせですけど、意外に冷静ですね。出会ったら即対決が二天龍だと思っていました」

 

 ロスヴァイセの言ってる事は間違ってない。嘗ての二天龍はその通りの事をしていた。

 

 だと言うのに、イッセーとヴァーリは戦わないどころか仲良く話している。それ自体が異様な光景とも言えよう。

 

「ところで白龍皇。お主は……どこが好きじゃ?」

 

 オーディンがいやらしい目つきでヴァーリに訊く。……おいおい、まさかヴァーリ相手に猥談か?

 

「なんのことだ?」

 

 ヴァーリは意味が分からなかったのか、首を傾げながら聞き返す。

 

 それを聞いたオーディンはロスヴァイセの胸、尻、太腿を指していく。

 

「女の体の好きな部分じゃよ。因みに赤龍帝のイッセーは乳じゃ。白龍皇のお主も何かそういうのがあるんじゃないかと思うてな」

 

「生憎、俺はそういう関連に興味などない」

 

「まあまあ、お主も男じゃ。女の身体で好きな部分ぐらいあるじゃろう」

 

 再度訊いてくるオーディンに、ヴァーリは付き合いきれない雰囲気を見せるが、それでも答えようとする。

 

「……しいて言うなら、ヒップか。腰からヒップにかけてのラインは女性を表す象徴的なところだと思うが」

 

 何気なく答えたヴァーリ。

 

「……なるほどのぉ。ケツか。イッセーとは対照的じゃのう。ついでにリューセー、お主はどうなんじゃ?」

 

「それは前に言った筈ですが?」

 

 ヴァルハラに来た時、オーディンから猥談をされた事があった。その時にイッセーは『おっぱいが好きです!』と答えていたがな。

 

「『好きな女が出来れば関係無い』などと言う模範的な回答なんぞ却下じゃ。ほれ、白龍皇も答えたんじゃから、お主も思い切って言えい!」

 

「あ、それは私も知りたい。ねぇねぇリューセー、どこが好きなのか教えてよ~」

 

「ふ、フレイヤさま! そのような事を知ってどうするおつもりなんですか!?」

 

 フレイヤがオーディンに便乗して尋ねてくる事で、ロスヴァイセが咎めるように言った。けれど、彼女もチラチラと気になるような目で俺を見ている。イッセーとヴァーリも同様に。

 

 どう答えようかと悩んだ結果――

 

「……敢えて言うなら、髪ですかね。綺麗な髪をしている女性を魅力的に感じますので。髪は女の命とも言いますし」

 

「……お主、髪フェチじゃったのか。神なだけに」

 

 無難な答えを出すも、オーディンは意外そうな顔をして言った。イッセー達も同様の反応をしている。

 

 別に神だから髪が好きと言う訳じゃない。あとダジャレで言ったつもりは毛頭無い。

 

「因みに兄貴が魅力的な髪だと思ってる女性は?」

 

「ノーコメント」

 

「え~~~!? そこが重要な所なんだから教えてよぉ!」

 

 イッセーの問いに答えないでいると、フレイヤがすぐに抗議してきた。

 

 フレイヤとこの場にいないエリーは綺麗な髪をしてるが、一方的に想いをぶつけてくる女は論外だ。

 

 もし答えるとしたら……今のところはロスヴァイセだ。個人的に彼女の流れるような長い銀髪は綺麗に思っている。尤も、それを口にしたらフレイヤとエリーが何を仕出かすか分からないので答えるつもりはない。

 

「……か、髪の手入れは、重点的にやっておく必要がありそうですね」

 

 聞いていたロスヴァイセが何やら髪を意識しているようだが、俺は敢えて気にしないでおく事にした。

 

 その後もちょっとした話が続く。すると、オーディンとロスヴァイセは別の用事を思い出したのか、嫌がるフレイヤを無理矢理連れて部屋から出て行った。



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第十五話

久々の更新です。


「イッセー、また闘気(オーラ)が昂ってる。もう一回深呼吸をして全身を落ち着かせろ」

 

「お、おう……すぅぅぅぅ……はぁぁぁぁ~~~~」

 

 ミョルニルを使っての実戦形式をやろうと思っていた俺だが、急遽変更する事となった。理由は勿論ある。闘気(オーラ)制御(コントロール)を改めてやる必要が出来たから。

 

 イッセーがミョルニルに闘気(オーラ)を流し込むと、上手く調節できない為に不安定な形となる。ロキと戦うと言うのに、そんな状態で挑むのは不味いと危惧した俺は、ミョルニルのレクチャーを後回しせざるを得なかったと言う訳である。

 

 そして現在。空いてる部屋でイッセーは上半身はTシャツ、下はハーフパンツと言う軽装で座禅を組ませている。自身の闘気(オーラ)を抑える為の瞑想だ。

 

 因みに俺も同じ軽装姿で、一緒に瞑想をしている。戦いに備える為には何事も準備が必要なので、俺自身もやっておこうと思ったので。

 

 瞑想を始めて約一時間経つと、イッセーの昂ってる闘気(オーラ)が漸く安定しかかってるのを感じ取った。

 

「今日はここまでだ。もう崩しても良いぞ」

 

「―――っ。はぁぁぁ………」

 

 俺の台詞を聞いた瞬間にイッセーは座禅を崩し、そのまま大の字となって倒れた。俺は座禅を崩さないまま、首だけ動かしてイッセーの方を見ている。

 

「何かいつもと違って疲れたぁ~。自分で言うのもなんだけど、俺の闘気(オーラ)ってあそこまで暴れない筈なんだけど……」

 

「そりゃ悪魔になった事で、お前の闘気(オーラ)が急激に上昇したからな」

 

 人間だった時のイッセーは俺の修行でコツコツと上昇させていた。しかし、今は転生悪魔化によって順序を吹っ飛ばすかのように闘気(オーラ)が上昇したから、簡単に制御出来ないのは当然と言える。

 

 やはり瞑想をしておいて正解だったと、俺は改めて確信した。もし瞑想をやらせずにロキと戦ったら、イッセーは自身の闘気(オーラ)を制御出来ずに暴走する恐れがある。そうなってしまえばロキに隙を突かれて負けるどころか殺されてしまう。

 

 ミョルニルのレクチャーも大事だが、それを使おうとするイッセー自身が先ず己の力を制御しなければ話にならない。そう考えた俺は、ロキとの決戦前に可能な限り瞑想を重点的にやらせようと決意する。

 

「イッセー、決戦前に必ず闘気(オーラ)をコントロール出来るようにしておけ」

 

「分かってる。こんな暴れ馬状態でロキに挑んだらあっさり負けちまうのが目に見えてる」

 

 天井を見ながら言うイッセーは、どうやら分かっていたようだ。闘気(オーラ)をコントロール出来ないままではロキに勝つ事は出来ないと。

 

 余計なお節介だったかと思ってると、突然ガチャっと部屋のドアが不意に開いた。

 

 俺とイッセーは誰が入ってきたのかを視線を向けると――白装束姿の朱乃が入ってきた。しかも思い詰めたような表情で。

 

「あれ? 朱乃さん?」

 

「どうしたんだ、朱乃? 俺達に何か用か?」

 

「……………」

 

 俺たち兄弟が問うも、朱乃は答えようとしない。そのまま此方へ近づいて、片手で俺の左手を軽く掴んでくる。

 

「リューセーくん、ちょっとよろしいですか?」

 

「ああ、いいけど」

 

「?」

 

 頷きながらすぐに立ち上がると、朱乃は左手を掴んでる俺を連れて移動する。と言っても、イッセーから少し離れた程度だが。

 

 イッセーが首を傾げてる中、朱乃は急に小声で俺に話しかける。

 

「すみませんが、イッセーくんと二人っきりにさせてもらえませんか?」

 

「え?」

 

 朱乃からのお願いに俺は疑問に思った。

 

 イッセーの腕に溜まったドラゴンの力を吸い出す行為はこの前やったばかりだから、それをまたやるにしてはまだ早い。何より、イッセー本人も今のところ大丈夫なので必要無い筈だ。

 

 それが目的じゃないとすれば――

 

「……朱乃、お前まさか」

 

「………………」

 

 俺がもしやと思って確認するように言ってみると、案の定と言うか朱乃は顔を真っ赤にしていた。

 

 ……はぁっ、やっぱりそう言う事か。 

 

 本当なら俺が今すぐ止めるように説得すべきだろう。

 

父親(バラキエル)過去(むかし)の事を一時的に忘れたいが為にイッセーと性行為したところで、何の解決にもならないぞ』

 

 そう言って止めれば、図星を突かれた朱乃は逃げ出すように部屋から出て行くだろう。尤も、その後は俺がいない隙を狙ってイッセーに迫ろうとするだろうが。

 

 だけど、今の俺にはそれが言えなかった。深刻に思い詰めた表情をしている朱乃を見ているから。

 

 それに加えて、あの朱乃が恥を忍んでまで俺に頼み込んでくると言う事は、それだけ覚悟を決めたと言う証拠だ。

 

 ここは何れ義妹(いもうと)になるであろう朱乃の意を汲むか。そしてイッセーに思い詰めた朱乃を任せようと。

 

 無責任に思われるかもしれないが、イッセーなら朱乃を何とかしてくれるかもしれないと俺は思っている。俺やアザゼル、そしてバラキエルでは出来ない事をイッセーは必ずやってくれると。

 

「……はぁっ。リアス達には黙っといてやるから、好きにしな。ついでにカギは閉めておけよ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 俺が了承の返事を聞いた朱乃は顔を赤らめながらも礼を言ってきた。

 

「イッセー、今日の修行はここまでだ。俺はもう部屋に戻って寝るから」

 

「え? あ、ああ、わかった」

 

 言うべき事を言った俺が部屋から出てドアを閉めた直後、カチッとカギを閉める音がした。

 

 やっぱり俺の思った通り、朱乃はイッセーと……って、これ以上は無粋だから止めておくか。

 

 後はイッセーがどうにかしてくれるだろうと思いながら自分の部屋へ戻っていると――

 

「ダーリン♪」

 

「それ以上近付いたら光の槍をぶっ放すぞ」

 

 辿り着いた瞬間、どこからか現れたエリーが俺に近付きながら抱き付こうとしていたので、俺はすぐに警告をした。

 

 俺が本気だと分かったのか、エリーは諦めたように足を止める。

 

「ちょっと~、あの色ボケ女神は良くて私はダメって差別よ」

 

「お前、以前まで俺達と敵対してた事を綺麗さっぱり忘れてるだろ」

 

 エリーの事を信用してると言ったが、警戒を緩めたりはしない。いくら俺に対して嘘は吐かないと分かってても、この得体の知れない女は色々な秘密を抱えているので。

 

「そんな事ないわよ。だけど、それで私のダーリンに対する愛は全く変わらないから♪」

 

「……あ、そう。それで、俺に一体何の用だ? ヴァーリ達の監視下に置かれてるお前が、一人で勝手に動かれるのはこちらとしては非常に困るんだが」

 

 この前は光の鎖でグルグル巻きにして結界付きの部屋に閉じ込めていたが、美猴達が外に出る時に同行させる必要があったので解除していた。

 

 だと言うのに、こんな堂々と単独で動いてリアス達と遭遇したら、確実に面倒事が起きてしまう。

 

「あの鬱陶しい色ボケ女神がいないから、ダーリンとちょっとばかりお話しようと思ってね。あ、信用出来ないなら鎖で縛ってもいいわよ。それはそれで興奮するから♪」

 

「…………はぁっ。付いてこい」

 

 自ら縛られてもいいとエリーの発言に内心呆れつつ、一先ずは気にしないでおく事にした。

 

 お前と話す事は無いとヴァーリの所へ送り返したいところだが、そう簡単に諦めない性格なのは分かっていたので、俺の部屋へ招こうとする。

 

 許可を貰えたと嬉しげに入るエリーは、部屋に入って早々に周囲を見渡す。

 

「へぇ~、ここがダーリンの部屋なのね。何だか彼氏の部屋に入ってるみたいで緊張するわ」

 

「誰が彼氏だ」

 

 まるで恋人気分を味わってるエリーの発言に俺はしかめっ面で言い放った。

 

「でも、案内されるならダーリンの寝室にして欲しかったわ。二人っきりで話すには――」

 

「それ以上ふざけた事を言うと、マジで追い出すぞ」

 

「――OK。ここは部屋を案内してくれた事で妥協するわ」

 

 俺を怒らせると不味いと思ったのか、エリーは両手を上げて降参のポーズをとった。

 

 一先ずは部屋にあるソファーに座らせるよう促した後、飲み物を用意しようとする。

 

「何かリクエストはあるか?」

 

「ダーリンが用意してくれるなら何でも良いわ」

 

「そうかい」

 

 エリーは嘗てリアスと同じ貴族悪魔だったので、ここは紅茶を用意しておくか。

 

 そう思いながら紅茶セットを出してすぐ、電気ポットに入ってるお湯を使って紅茶を淹れる。

 

「ほれ、紅茶のストレートだ」

 

「あら嬉しい。私の好きな紅茶を用意してくれるなんて」

 

 紅茶が入ったカップを渡すと、エリーは嬉しそうに受け取ってすぐに飲み始める。

 

「はぁっ……。今まで飲んだ紅茶の中で格別に美味しいわ」

 

「そうか? 俺は普通に淹れただけな上に、お前からしたら安物の紅茶だぞ」

 

「ダーリンが淹れるから美味しいのよ。うふふ、悪魔の私がダーリンの淹れてくれた紅茶を飲んだと天使達が知ったら、果たしてどんな面白い反応をするかしら♪」

 

「アイツ等がそんな些細な事で反応する訳ないだろうが」

 

 いくら未だに俺を父と慕ってるからって、悪魔に紅茶を飲ませた程度で怒るほど狭量な天使(むすこ)達じゃない。

 

 馬鹿馬鹿しいと思いながらも、エリーの向かいにあるソファーに座りながら自分の淹れた紅茶を飲む。

 

「まぁそんな事は如何でもいいとしてだ。俺に話って一体何だ?」

 

「もう、ちょっとくらいは余韻に浸せてよね。折角ダーリンのお部屋に入って紅茶を頂いてるのに」

 

「リアスが敵対してるお前に対して神経尖らせてるんだ。それ位は察しろ」

 

 アイツは今もエリーをこの家から追い出したいのを我慢している。俺としてもこれ以上リアスのストレスを溜めて欲しくないから、さっさと用件を済ませようと思っている。

 

 すると、俺の台詞を聞いたエリーはクスクスと笑い始める。

 

「あらあら、あんな家柄しか取り柄のない弱者(こむすめ)に気を遣うなんて。ダーリンってば本当に優しいのね」

 

「その小娘の温情によって、この家に滞在出来てる事を忘れないで貰おうか?」

 

「むぅ……」

 

 少しばかり調子に乗った発言をするエリーに俺が牽制すると、言い返せなくなったのか再びカップに口を付けて紅茶を飲む。

 

「それじゃ、本題に入るわ。今度の戦いで私とダーリンが相手をするフレイヤの元英雄――オッタルについてなんだけど……ダーリンはどうするつもりなのかしら?」

 

「どういう意味だ?」

 

 質問を質問で返す俺にエリーは気を悪くする事なく答えようとする。

 

「オッタルを殺すか殺さないのかって事よ。敵になったとは言え、オッタルは元々フレイヤの所有物。ダーリンはそれを考慮して、殺さずに捕らえるんじゃないかと私は思ったの」

 

「………………」

 

「アレでも一応は嘗てフレイヤの為に仕え、ヴァルハラの神々からも称賛された英雄の一人。万が一に殺した際、魂までも滅ぼしたら確実に面倒な事になるとダーリンは考えた筈よ」

 

 確かにエリーの言う通り、俺もそれは考えた。オッタルを大事にしていたフレイヤの事を考慮し、肉体は滅ぼしても魂だけは必ず返そうと。

 

 しかし、今のオッタルはロキによって改造されている上に、手加減して勝てる相手だと微塵も思っていない。そんな事をすれば殺されてしまう。

 

「安心しろ。フレイヤからちゃんと許可を貰っている。オッタルが俺達と敵対している以上は仕方ないってな」

 

「へぇ、あの色ボケ女神にしては随分と思い切った決断をしたのね。てっきりダーリンにお願いして、『絶対に殺さないでね』って我儘を言うかと思ってたのに」

 

「今回やる会談を必ず成功させようと、アイツもそれだけ覚悟を決めたって事だ。そう言う訳で、お前が気にする必要は一切無い」

 

 エリーの事だから、戦闘中に俺が足手纏いになるのではないかと危惧していたんだろう。もし的中したら、自分だけでオッタルの相手をする為に、コイツなりの気遣いで俺を外そうと考えていたに違いない。

 

「と言う事は、ダーリンも初めからオッタルを殺すつもりでやるって思っていいのかしら?」

 

「ああ。元からそのつもりだ」

 

「ふぅん、それを聞いて安心したわ」

 

 俺の返答を聞いて満足したのか、エリーはカップに残っている紅茶を一気に飲み干す。

 

「お代わり頼んでも良い?」

 

「一杯だけで充分だと思うんだが」

 

「だって会談はもうすぐだし、ロキとの戦いが終われば暫くダーリンと会えないだろうから、今の内に飲めるだけ飲んでおきたいのよ。ダーリンの淹れる紅茶は凄く美味しいから」

 

「はいはい」

 

 空になったカップを受け取った俺は席を立ち、再び紅茶を淹れた。

 

 今度は少し多めに入れたカップを渡すと、エリーはまた味わって飲もうとする。

 

 ……俺の淹れた紅茶って他と比べて本当に美味いのか? ローズさんに比べたら大した事はない筈なんだが。

 

 不可解に思いながら自分の淹れた紅茶を飲む俺だが、エリーが思うほどにそこまで美味しいとは思えない。

 

 あ、そう言えばこっちもエリーに訊きたい事があるんだった。

 

「おいエリー、今度は俺から質問させてもらいたいんだが」

 

「ん? 何かしら?」

 

 美味しそうに紅茶を飲んでるエリーが一旦止めて、俺の方へと視線を向ける。

 

「お前、夢魔(サキュバス)形態からもう一段階変身出来るそうだな。それがお前の真の姿なんだろ?」

 

「!」

 

 先程までニコニコとしていたのが打って変わり、驚愕の表情となった。その直後、俺に途轍もない殺気をぶつけてくる。

 

「………どうしてダーリンがそれを知っているのかしら? その情報はアルスランド家だけしか知らない筈よ」

 

「前に戦ったラディガンの奴が口を滑らせてな。まだ未熟で暴走するそうだが、それでもアイツより実力は上だとも言ってたぞ」

 

 戦闘中にラディガンが言ってた事を教えると、エリーは物凄く不愉快そうに表情を歪めている。

 

「あの男、よりにもよってダーリンにペラペラ喋る何て余計な真似を……! もうあんな(クズ)を私の兄だなんて微塵も思いたくないわ……!」

 

 この瞬間、エリーは完全に兄のラディガンを忌まわしき存在と認識したみたいだ。

 

 とても嘗て兄を愛していた妹とは思えない罵倒に、俺は僅かばかり死んだラディガンに同情した。もし聞いていたら、あの男は間違いなく絶望の表情を浮かべながら慟哭しているだろうと。ま、俺にとっては非常に如何でも良い事だが。

 

 しかし、まさかあのエリーが此処まで毒を吐くとはな。それだけコイツの真の姿は俺に知られたくなかったと言う証拠か。

 

「先に言っておくが、俺はお前の真の姿を見たいだなんて微塵も思ってないから安心しろ」

 

「……思ってなくても、それを知られた時点で嫌なのよ。ダーリンにだけは絶対知られたくなかったのに……!」

 

 うわっ、いつものエリーじゃない。これマジでショック受けてるぞ。

 

「一応これも確認したいんだが、もしオッタルと戦って不利な状況になったらどうするんだ? やむを得ず、真の姿になるのか?」

 

「嫌、絶対に嫌……! イッセーくんならまだしも、ダーリンには見せたくない。あんな醜い姿は絶対に……!」

 

 どうやら自身が死にそうになっても、俺がいる限りは絶対真の姿にならないようだ。

 

 エリーは人間形態だけでなく、夢魔(サキュバス)形態でも絶世の美女と呼べる端整な容姿だと言うのに、そこまで酷くなるものなのか? 俺にはとてもそうは思えないんだが、まぁ本人が醜いと言ってる以上は相当酷いんだろう。

 

「……あ~、その、悪かったな。嫌な事を訊いて」

 

「…………………」

 

 俺が謝ってもエリーは何の反応もせずに顔を俯かせている。

 

 いつもの調子だったら――

 

『全くよ。私の乙女心を深く傷付けたダーリンには責任を持って一緒に寝てもらうわ』

 

 ――とか何とか言っている筈だ。

 

 なのに今のエリーからそう言った返しが一切ない。これは本当に重傷モノだ。

 

 不味いな。ロキとの戦い前なのにエリーをこんな状態で戦わせたら、却って足を引っ張られてしまいかねない。

 

 しかも今回は俺が原因を作ってしまった。これでロキ達との戦いで負けてしまったら、間違いなく俺は糾弾されるだろう。主に冥界の貴族悪魔共がこれを機に、色々な責任を押し付けてくるのが容易に想像出来る。

 

 ………はぁっ、仕方ない。エリーをこんな状態にしたんだから、ここは俺が責任を持って何とかするしかないな。

 

 そう思った俺はカップをテーブルの上に置き、傷心状態となっているエリーに近付く。

 

「おいエリー。お詫びって訳じゃないが、今夜は俺と一緒に寝るか?」

 

「…………え?」

 

 思いも寄らない台詞だったのか、エリーはゆっくりと顔を上げる。

 

「但し、キスや性行為の他に精気を吸うとかは一切無しで、ただ俺を抱きしめるだけだ。それを了承するなら、俺と一緒に寝てもいい。どうする?」

 

「……ほ、本当に、良いの? 私が、ダーリンと一緒に寝ても……」

 

「ああ。お前の知られたくない秘密の棚を、俺が引っ張り出してしまったからな。それ位の責任は取るよ」

 

「…………ダーリン!!」

 

「おわっ!」

 

 責任を取ると聞いたエリーは途端に涙目となり、そのまま俺に勢いよく抱き着いてくる。

 

「ダーリンからそんな事言われるなんて、私……凄く嬉しくて甘えたくなっちゃう!」

 

「………言っておくが今回限りだからな。それを忘れるなよ?」

 

 念を押す俺にエリーは何度も頷く。

 

 その後、寝る準備をした俺は寝室に向かうも――

 

「お前……その格好で俺と寝るつもりか?」

 

「だって、これが私の寝間着なんだもん」

 

 思わず突っ込みを入れた。ってか、もんって言うな。

 

 今のエリーはブラやパンツなどの下着を一切つけず、殆ど透けてる薄いネグリジェを纏っているだけ。ぶっちゃけ素っ裸も同然だ。

 

 俺が少しばかり後悔してると、エリーは気にせず俺のベッドに入ってそのまま抱き着いてくる。

 

「ふふふ♪ 夢にまで見たダーリンとの添い寝。こうしてるだけで身体が疼いて、このままエッチしたく――」

 

「おっとエリー、あんまり調子に乗るなよ」

 

 抱き付きながらも、俺の股間に触ろうとしてきたので咄嗟にエリーの手首を掴んで阻止した。

 

「言った筈だぞ。そう言う行為は一切無しだってな」

 

「……は~い」

 

 警告を聞いて漸く諦めたのか、エリーは俺を抱き枕のように少し強めに抱き着く。それによって、エリーの肌が直に密着した。

 

 せめてもの抵抗なのか、大きくて柔らかい胸の感触を強調するように強く当てている。だがしかし、俺にはそう言った色仕掛けは通用しないので、単に柔らかい物が当たってる程度にしか思ってない。

 

 別に俺は不能と言う訳ではない。嘗て長い時を生きた聖書の神(わたし)の記憶と経験がある事で、そう簡単に興奮して性行為に走ろうとしないだけだ。それを知ったイッセーからは『実は爺さんみたいに枯れてるんじゃねぇか?』と本気で心配されたが。

 

 とは言え、いつまでもエリーを放置してたら俺の約束を破りそうだったので――

 

「おいエリー、ちょっとこっちを見ろ」

 

「ん?」

 

 俺の呼び声に反応したエリーが見上げた瞬間、頬に軽いキスをしてやった。

 

「え? え? え?」

 

「今夜はこれで我慢しろ」

 

 俺にキスされた事が凄く意外だったのか、エリーは惚けた顔になるも――

 

「~~~~~~~~ッ!!」

 

 一気に顔を真っ赤にさせて、そのまま顔を俺の胸に埋めた。

 

 何だコイツ? サキュバスの癖に、随分と初心な反応してるんだが……これが本当に何度も俺に性行為を迫ろうとしていた奴なのか? 全くの別人としか思えん。

 

 まぁ取り敢えずコイツの色仕掛けがやっと止めてくれたから、このまま寝るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ダーリンのバカ。いきなりキスするなんて反則よ。これじゃ今まで迫ってた私がバカみたいじゃない……! どうしよう、このままだと本当に本気で………あのお方に背いちゃうじゃない……!」




 突っ込みどころ満載なところがあるかと思われますが、取り敢えず感想をお待ちしています。


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幕間

今回はタイトル通り短い内容です。


「おっぱいメイド喫茶希望です!」

 

「それでリアス、ウチの愚弟がこんな卑猥な希望を出してるがどうなんだ?」

 

「訊くまでもなく却下よ」

 

 イッセーが希望した内容を確認する俺に、リアスは嘆息しながら否定する。

 

 今日の部活動は、学園祭で催す出し物について話し合っていた。ロキ戦の前に何を悠長な事をしてると思われるだろうが、平穏な日常生活も大事なので、今日だけは学園に通える事になっていた。

 

 そんな中、イッセーが卑猥なメイド喫茶を希望していた。どうせこの愚弟の事だから、リアスと朱乃を筆頭に胸を強調した喫茶店をやれば、学園祭の売り上げトップを狙えると思ったんだろう。

 

「一つ言っておく。もしそうなったら、他の男子達にリアスと朱乃の胸を見られる事になるんだぞ」

 

「リューセー先輩の言う通りだよ、イッセーくん。本当にそれで良いのかい?」

 

「――っ!」

 

 俺と裕斗の意見にイッセーが衝撃を受けたような顔になった。

 

 学園の二大お姉さまと称されているリアスと朱乃の胸は、この学園の男子達なら誰だって見たいだろう。しかし、今その二人の胸を独占しているのはイッセーだけだ。そんな美味しい思いをしてる愚弟が、他の男子達に見せる訳がない。

 

 事の重大性を漸く理解したみたいで、イッセーは悔しそうに断念する。

 

「……くっ、無念だ。これじゃ、おっぱいお化け屋敷も無理か……」

 

「当たり前だ」

 

「……そんなことを考えていたんですか、どスケベ先輩」

 

 イッセーの失意の言葉に俺が呆れながら突っ込み、小猫も同様に呆れていた。

 

 非常に残念がるイッセーにリアスが溜息混じりに言う。

 

「あのね、イッセー。エッチなのは確かに高いポイントを取れそうだわ。けれど、生徒会が許さないでしょうし、教員の方々も却下するでしょうね」

 

 そりゃそうだ。と言うか、常識的に考えて、んなもん絶対やらせる訳にはいかない。

 

 因みに俺がリアスに去年と同じにするのかと聞いてみたが、リアスとしては「同じ事を連続でしたくない」との事で却下なんだと。

 

 加えて、メイド喫茶は他の所でもやろうとしているそうだ。尤も、オカ研がやれば同じ喫茶店でも勝てる。理由は至極簡単。一言でいえば、ここにいる女子のレベルが高いからだ。

 

 更には他と同じ事をしたくないリアスはそれもダメだと言ってるので、

 

 リアスが一人一人に案を訊いても、これと言って斬新なものがでなかった。

 

「リューセー、貴方からは何かないかしら?」

 

「う~ん、そうだなぁ」

 

 最後となった俺は少し考える仕草をする。

 

 他の所と同じ内容はダメと同時に、イッセーが考えてる卑猥なものもNG。

 

「じゃあ『脱出ゲーム』ってのはどうだ?」

 

「『脱出ゲーム』?」

 

 俺が出した案にリアスが分からなそうな表情で鸚鵡返しをした。他の部員も分からないのか、彼女と同様の反応だ。

 

「あ、それ知ってる。ゲームやバラエティ番組とかでやってた、閉じ込められた所から制限時間内に脱出するアレだろ?」

 

「そうだ」

 

 イッセーが簡単に説明しながら訊いてきたので、俺はすぐに頷いた。

 

「内容としては、『各部屋に設置してある迷路やクイズ、ミニゲーム等を制限時間内にクリアして脱出できれば成功。もし出来なければその場で即失格。そして脱出に成功した挑戦者には、オカルト研究部が用意した賞品を進呈』。とまあ、この場で咄嗟に考えたルールだが、部長のリアスとしてはどうだ?」

 

「中々面白そうね。それは是非とも候補の一つに入れさせてもらうわ」

 

 リアスにとっては嬉しい案だったみたいで、何の文句一つ言う事なく候補となった。

 

 他の所と同じでない上に卑猥なものでもないから、部員達からも反対意見がない様子だ。

 

「……どスケベ先輩と違って、リューセー先輩の案は凄くまともですね」

 

「うぐっ!」

 

 ボソッと呟く小猫の台詞に、何かが刺さったように苦しそうな声を出すイッセー。

 

 小猫は相変わらず、卑猥関連になると辛辣だな。それでも嫌ったりはせず、今も甘えるように(イッセー)の膝の上に乗っているが。

 

 すると、少し居心地が悪くなっているだろうイッセーが苦し紛れの提案を言おうとしている。

 

「……オカルト研究部の女子、誰が一番人気者か、とかはどうかな?」

 

 小声で言ったイッセーの呟きに、女子全員が反応して顔を見合わせた。俺と裕斗も興味深そうにイッセーを見ている。

 

「それも良いかもしれないが、生憎このオカ研にはリアスと朱乃がいるからなぁ。事実上二人だけの勝負にしかならない」

 

「だとしても、二大お姉さまのどちらが人気か気になりますぅ」

 

 俺が苦笑しながら言ってると、ずっと静かだったギャスパーがぽろっと漏らした事に、リアスも朱乃と顔を見合わせていた。

 

「「私が一番に決まってるわ」」

 

 リアスと朱乃の声が重なった直後、睨み合いを始めた。二人は笑顔だが、どちらも怖いオーラを漂わせている。

 

「あら、部長。何か仰いました?」

 

「朱乃こそ、聞き捨てならない事を口にしなかったかしら?」

 

 う~む、朱乃の調子がだいぶ戻っているようだな。あの時の深刻そうな表情とは大違いだ。

 

 俺がエリーと一緒に寝た翌日、朱乃に確認をした。余りにも無粋だと言う事は重々承知しているが、それでも少しは気が晴れたかの確認をしたかった。

 

 朱乃は頬を赤らめながらも、二人っきりになった後の事をある程度話してくれた。性行為に迫ろうとしたが、『同情的なもので抱きたくない』と拒否された後、自分を優しく抱きしめてくれたそうだ。

 

 普段スケベな事ばかり考えているあの愚弟が、珍しく誠実な対応をしたんだなぁと内心思った。てっきり朱乃の誘惑に負けて、あっさりと性行為に走ると思ってた。

 

 ………と言うのは勿論冗談だ。イッセーは朱乃がここ最近思い詰めていたのを知っている。だから俺は必ず止めてくれるだろうと既に予想していた。もしイッセーが相手の心情を一切気にしないで性行為に走り出すゲス野郎だったら、俺の方でとっくに阻止している。

 

 過ちが起きなかったのは取り敢えず良かったが、それでも朱乃とバラキエルの親子関係が未だ拗れてる事に変わりはない。どうにかあの親子のどっちかが歩み寄って……と言うより、朱乃の方から踏み出してくれなければ始まらないか。

 

 そう考えている中、リアスと朱乃の口喧嘩が始まった事により、会議はご破算だ。催し物決定の会議は後日に持ち越しとなったのは言うまでもない。

 

 出来れば、イッセーたち二年の修学旅行前までに決まって欲しいもんだ。

 

 それとは別に、オカ研の顧問であるアザゼルはさっきから部室の隅で茶を飲んでいる。いつもなら俺達の会議を見ながら面白そうに口出しするが、今回は珍しく静観していた。それどころか窓から外の夕暮れを見て、ぼそりと呟く。

 

「……黄昏か」

 

 それを聞いた瞬間、俺を含めた此処にいる全員が真剣な面持ちになった。何しろ、この後に俺達はロキと決戦だから。

 

 そして部活終了時間のチャイムが学園中に鳴り響く。

 

「今の時代に神々の黄昏(ラグナロク)が不要だ。ついでにバカな事を仕出かそうとしている愚神(ロキ)にきっちりと教えないとなぁ、アザゼル」

 

「ああ、そうだな」

 

「お前達も教えてやれ。俺達の大事な平穏をぶち壊そうとする、あの大馬鹿者にな」

 

『はい!』

 

 聖書の神(わたし)の言葉として受け取ったのか、イッセー達は力強い返事をした。そして決戦の時を迎えようと、俺達は行動を開始する。




次回は漸くロキ戦です。


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第十六話

久々の更新で短いです。


 決戦の時刻。今はもう既に夜となっている。

 

 俺達はオーディンや日本の神々が会談する予定である、都内のとある高層高級ホテルの屋上にいた。

 

 高層ビルだけあって、風が激しく吹き荒れている。

 

 此処ではない周囲のビルの屋上にはシトリー眷族が各々配置され、既に待機していた。遠目で見なくても、彼女達が発してるオーラで人数も把握済みだ。

 

 だが、その数の中に匙のオーラは感じられない。この場にいないと言う事になるが、彼は遅れると事前に聞かされていた。どんな特訓をやらされているのかは知らんが、戦闘終了後に登場は流石に勘弁して欲しい。

 

 アザゼルも同様にいなく、会談での仲介役を担う為にオーディンやフレイヤの傍にいる。本当だったら俺も一緒に仲介役になっていたが、オッタルの件もあって、今回はイッセー達と同じく戦闘側に参加している。その為、俺がアザゼルの代理として総大将になったのは言うまでもない。尤も、それは名ばかりに過ぎないが。

 

 戦闘に不参加であるアザゼルの代理として、バラキエルがこの場で待機。ロスヴァイセも北欧側の代表として戦闘に参加しており、以前に見た鎧姿で待機中だ。

 

 そして遥か上空にはタンニーンもいる。流石に巨大なドラゴンの姿を人目に付けば大騒ぎになるのは確実なので、悪魔側の方で一般人に視認出来ない術を施している。

 

 少し離れた所にいるエリーやヴァーリ達も待っている。

 

「――時間ね」

 

 リアスが腕時計を見ながら呟いた。

 

 それは会談が始まった時間だ。今頃ホテルの一室で大切な会談が始まっているだろう。

 

 アザゼルやオーディンなら問題無く成功すると確信している。フレイヤは少しばかり性格的に問題あるが、重要な会談に関して真面目にやるから大丈夫だ。念の為に俺が『会談に成功したら俺と二人っきりのデートでもどうだ?』と言った瞬間、フレイヤは今まで以上に物凄いやる気を見せていたので。因みにエリーが知ったら百パーセント面倒事になるので伏せている。別に付き合ってもいないのに、何でこんな事をしなければならないんだか。

 

 まぁそれはそうと、残すは奴が来るのを待つだけだ。

 

 ロキの性格から考えて――

 

「――兄貴」

 

「ああ、来たな」

 

 どうやって来るかを考えてると、隣にいるイッセーが声を掛けてきた。それに反応した俺は上空を見上げる。

 

「小細工なしか。恐れ入る」

 

 ヴァーリが苦笑しながらも、俺と一緒に上空を見ていた。

 

 

 バチッ! バチッ!

 

 

 突如ホテル上空の空間が歪み、大きな穴が開いていく。

 

 そこから出てきたのは当然――悪神ロキと神喰狼(フェンリル)、そしてオッタルだ。

 

 思った通り、やはり正面から堂々と来たようだ。

 

「バラキエル」

 

「承知。――目標確認。作戦開始」

 

 俺が呼ぶと、バラキエルは耳に付けていた小型通信機に指示を送った。その直後、ホテル一帯を包むように巨大な結界魔法陣が展開していく。

 

 ソーナを始めとしたシトリー眷族が俺達とロキとフェンリル、オッタルを戦場に転移させる為、大型魔法陣を発動させたのだ。

 

 当然ロキも感知してる筈だが、向こうはただ不敵に笑みだけで無抵抗の姿勢だった。まるでこうなる事を初めから分かっていたように。

 

 そして、魔法陣に包まれた俺達は――――――大きく開けた土地へと転移された。

 

 既に使われていない古い採石場跡地で、周囲は岩肌だらけとなっている。此処がロキ達との決戦の場だ。

 

 隣のイッセーや後方のアーシア、リアスと眷族を確認。イリナやバラキエルにロスヴァイセも同様。

 

 エリーも含めたヴァーリ達も少し離れた場所に転移していた。

 

 対して、前方にはロキとフェンリルとオッタル。特にオッタルの奴は、今か今かと俺に襲い掛かりそうで、途轍もない殺気をぶつけている。

 

「トリックスターと呼ばれるお前が何もせず見守っていたのは、こうなる事を既に予想していたのか?」

 

 俺の問いにロキは笑う。

 

「その通り。どうせ抵抗してくるのだろうから、ここで始末してその上であのホテルに戻ればいいだけだ。遅いか早いかの違いでしかない。会談をしてもしなくてもオーディン達には退場して頂く」

 

「けどその前に、ヴァルハラに来た元凶と言う理由で聖書の神(わたし)を殺すんだろう? そうなれば、三大勢力の戦争を再開出来る口実になるからな」

 

『!』

 

「ほう。やはりそこまで見抜いていたか」

 

 リアス達が驚愕しているのを余所に、ロキは全く動じないどころか更に笑みを深めていた。

 

「いくら『神々の黄昏(ラグナロク)』を成就させたいと言っても、ロキ一人だけで三大勢力や各神話体系を相手にするのは無理だ。そこでお前は考えた。人間に転生した聖書の神(わたし)を殺して全世界に宣言すれば、例えどんな結果であっても、各勢力は以前と違って必ず何かしらの行動を起こすとな。特に反応を示すのは三大勢力側の天使勢だ。そこをロキが情報操作すれば、聖書の神(わたし)天使(こども)達はお前の操り人形の如く掌の上で踊らせる事が出来る筈だと。そうなれば三大勢力の足並みが乱れるどころか折角締結された同盟も決裂し、再び三大勢力の戦争が起きて、更には『神々の黄昏(ラグナロク)』も成就出来ると言う非常に好都合な展開にもなる。例えオーディン達の始末に失敗しても聖書の神(わたし)さえ殺せば、世界は必ず再び混乱するとな。以上が俺の推測だ。どこか間違いがあれば遠慮なく指摘してくれ」

 

「ふははははははは! 大正解だ! どうやら腐っても聖書の神のようだな!」

 

 一切否定せず、愉快だと言わんばかりに大笑いをする悪神ロキ。

 

「しかし、見抜いていながら何故私の前に姿を現すと言う愚を犯している? それは自ら死に足を踏み入れているも同然だぞ。本来であれば、聖書の神(きさま)もオーディン達と一緒に会談をすべきだったであろうに」

 

 そう。奴の言う通り、聖書の神(わたし)がこの場にいるのは最も危険だった。もし俺が死んだ時点でゲームオーバーになってしまう。何もかもが、な。

 

 因みにこの推測をアザゼル達に話した際、俺が戦う事を真っ先に反対した者達がいた。教会出身のゼノヴィアとイリナ、そして妹分のアーシアが。当然リアス達も参加しないべきだと言っている。

 

 だが、それでも俺は参加すると皆の反対を押し切った。ロキ側にはオッタルと言う非常に厄介な相手がいるに加え、自分だけ安全な場所へ隠れて皆に任せる訳にはいかないと。

 

 万が一に俺が危険な状態に陥った際、アザゼルよりある物を貰っている。この場から強制的に避難させる為のアイテムを。それを身に付けない限り、参戦は許可しないってな。自分だけ逃げる対策を立てられるのは非常に気が乗らないが、それでもイッセー達と戦えるならと敢えて承諾してる。

 

聖書の神(わたし)より、自分を心配したらどうだ? この後に敗北する自分を、な」

 

「―――よかろう。人間の身になり堕落した元神には、先ずは堕落した英雄(オッタル)と殺し合ってもらおうか。どうやら我慢の限界が訪れてるのでな」

 

「ウゥゥゥゥゥゥ……!!」

 

 そう言いながらロキはオッタルの方を見ると、もう暴れる寸前に陥っている。あと数秒したら、ロキの命令を無視して俺に襲い掛かって来るだろう。

 

 因みに俺がロキと話してる間、イッセーはいつでも禁手(バランス・ブレイカー)になれる準備をしていた。同時に昇格(プロモーション)も含めて。

 

「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 その瞬間、オッタルが雄叫びをあげながら俺に向かって突進してきた。



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第十七話

「イッセー、ロキは任せたぞ」

 

「ちょっとダーリン、私にも言ってよ~!」

 

 兄貴は俺――兵藤一誠にそう言った直後に上空へ飛翔すると、オッタルも追いかけるように飛んでいく。

 

 その後に、少し離れた所からエリーが不満そうに言いながら二人に続いて飛翔した。

 

 本当は俺も行きたかったけど、戦う相手がロキなので、取り敢えずオッタルの方は兄貴達に任せるしかない。

 

 さて、やるか。昇格(プロモーション)禁手化(バランス・ブレイク)だ!

 

Welsh(ウェルシュ) Dragon(ドラゴン) Barance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!』

 

 赤い閃光を放ちながら、俺の体に赤龍帝の力が闘気(オーラ)となって包み込み、髪が逆立って真紅に染まっていく。よし。前の時と違う(・・・・・・)

 

 転生悪魔となって初の禁手化(バランス・ブレイク)だった為、力が思うように振るえなかった。闘気(オーラ)が完全に制御(コントロール)出来なかった為に。

 

 けど、ロキとの戦いに備えて昂る闘気(オーラ)を抑える為の瞑想を続けた結果、前回と違って以前のように制御(コントロール)出来ている。

 

Vanishing(バニシング) Dragon(ドラゴン) Barance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!』

 

 ヴァーリは俺と違って、以前見た時の白い全身鎧(プレート・アーマー)に身を包んだ。

 

 禁手化(バランス・ブレイク)が完了した俺とヴァーリが同時にロキの前に出る。

 

 それを見た事に、ロキが歓喜した。

 

「これは何と素晴らしい! 二天龍がこのロキを倒すべく共同するというのか! 特に赤龍帝! 前に会った時より、また更に腕を上げたではないか! これほどまで胸が高鳴る事はないぞッ!」

 

 直後、ヴァーリが仕掛けた。空中で光の軌道をジグザグに生み出しながら、高速でロキに近付いていく。

 

 俺はそれと違い、構えながらも身体を少し屈ませた瞬間、ロキ目掛けて高速の低空飛行をする。

 

 空中からヴァーリ、地上から俺がそれぞれ突っ込む!

 

「赤と白の競演ッ! こんな戦いが出来るのは恐らく我が初めてだろうッ!」

 

 嬉々としたまま、ロキは全身を覆うように広範囲の防御式魔法陣を展開させた。

 

 と、思いきや、その魔法陣から魔術の光が幾重もの帯となり、俺達に放たれる。

 

 見た感じ、追尾性の高い攻撃だ。空中を飛び回るヴァーリ目掛けて、幾重もの光の帯が向かっていく。

 

 同時に俺の方も何十もの攻撃が前方から放たれてきた。

 

 チラリと見た程度だがヴァーリは問題無いだろう。空中で曲芸みたいに飛び回っていたのが視界に入ったので。

 

 対して俺は――このまま突貫だ! 避ける必要なんかねぇ!

 

 

 キィンッ! キィィンッ!!

 

 

 俺の体に魔術の攻撃が当たる瞬間、包んでいる紅い闘気(オーラ)が全て弾いていた。ヴァーリとは違うが、この闘気(オーラ)も出力が高いほど強固な鎧となる。

 

 右拳に力を込め、ロキ目掛けて低空飛行のまま最大加速で突っ込む!

 

 

 バリンッ! バリィンッ!

 

 

「ッ!」

 

 闘気(オーラ)に包まれている右拳により、ロキを覆う魔法陣が全て音を立てて消失する。

 

 これには予想外だったのか、流石のロキも驚愕している様子だ。

 

 すると、空中にいるヴァーリから途轍もない魔力を感じた。思わず見上げると、ヴァーリの手元に魔力以外の術式が展開していた。

 

 あれは北欧の攻撃式魔術だ。以前ヴァルハラでオーディンの爺さんが兄貴にレクチャーした時に見たのと似てるが、あそこまでバカげた術式は展開してねぇ!

 

「――取り敢えず、初手だ」

 

 

 パァァァアアアアアアアアアッ!

 

 

 あの野郎、俺がロキに接近してるのに何の躊躇いもなく掃射しやがった! いくら俺がロキの防御を崩したからって、少しは考えて攻撃しやがれ!

 

 そう思いながら超スピードで回避+退避すると、採石場の三分の一ほどを包むほどの規模の一撃が降り注いだ。

 

 攻撃が止むと、ロキのいた場所は――全く底の見えない大きな穴が生まれていた。

 

 なんつーか……まるで地球を侵略しに来たベジターの相棒だったヤサイ人――ナパーが大地に底の見えない穴を開けた『オーラ破』みたいだな。俺もやろうと思えばできない事もないが。

 

 ヴァーリの事だから一応攻撃範囲は狭めたんだろうが、使い始めた事もあって完全にコントロール出来てないようだ。いくらアイツが天才だからって、覚えてすぐ使いこなすなんて無理だろう。兄貴も空孫悟たちの技を初めて使った際、調整するのに少しばかり苦労している。

 

「ふはははは!」

 

 突如、高笑いが聞こえてくる。

 

 そこへ視線を向ければ、宙に漂う人影――ロキだ。ローブはいくらか破れても、奴自身は全くの無傷だ。

 

 くそっ。やっぱ躱してやがったか。ヴァーリが術式を放った瞬間、咄嗟に転移術を使っていたのを見えた。反応が一秒遅ければ、それなりのダメージを与えていたんだが。

 

 だったら今度は俺の出番だ! 腰に付けていたハンマー――ミョルニルを手に取り、練習通り闘気(オーラ)を送って少し大き目なサイズにする!

 

 

 バリバリバリバリバリバリィッッ!!

 

 

 兄貴に教わったやり方で、無駄に大きくさせない為に闘気(オーラ)を凝縮したまま送り込んでいると、ハンマーから凄まじい雷が帯び始めた。

 

 両腕を振り上げ、そのままロキに突き付ける。

 

 すると、ロキがそれを見て目元を引くつかせた。

 

「……あれはミョルニル……いや、レプリカか? だとしても、あの危険なモノを少々面倒な赤龍帝に渡すとは。オーディンとフレイヤめ、それほどまでに会談を成功させたいか……ッ!」

 

 どうやらロキは俺に少しばかりの警戒をしながらも、オーディンの爺さんやフレイヤさんがコレを渡した事にキレているようだ。

 

 ノーマル状態だと若干ふらついたが、禁手(バランス・ブレイカー)の今だと問題無い。と言うより、もう軽々と触れる。

 

 振り上げたまま、構えた格好で――

 

「なッ!!」

 

 超スピードを使って一瞬でロキに接近した。

 

 突然目の前に現れた事に驚くロキだったが、ハンマーを振り下ろす俺を見て即座に避けた。

 

 そして、ハンマーが地面に激突――

 

 

 ゴァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 

 

「………え゛?」

 

 した直後、俺の視界に映ってる前方の地面が雷を縫うように舞っているかと思いきや、ヴァーリ以上に破壊した大穴が出来上がった。

 

 この光景を見た空中にいるヴァーリも動きを止めており、ロキですら驚愕の表情をしていた。多分だけど、部長達も同じ反応をしてると思う。

 

 おいおい……俺まだ本気じゃねぇのに、何でもう採石場の半分以上が大穴になっちゃってんの?

 

「ふはははははははは!」

 

 若干呆け気味となってる俺にロキが再び高笑いをする。

 

「素晴らしい一撃ではないか! その槌は本来力強く、そして純粋な心の持ち主にしか扱えない。貴殿は邪な心があるのをヴァルハラへ来た時に知ってたから、恐らく雷が生まれないと予想していた。だが、あの強力な雷を生みだせるようにしたのは、恐らく聖書の神が何かしらの細工をしたのであろう?」

 

 その読みは大当たりだ。

 

 ロキの言う通り、俺はハンマーを振り回せても、スケベな為に雷まで出す事は出来ない。けど、そこを聖書の神である兄貴がカスタマイズしてくれた。ハンマーを通して、俺の闘気(オーラ)を雷に変換させようと。

 

 これはレプリカだからこそ出来た荒技だ。兄貴曰く『もし本物だったら、かなりの時間を要して今回の戦いには絶対間に合わない』らしい。

 

「ふっ。流石は俺の宿敵(ライバル)。そうでなくては」

 

 どうでもいいが、なんかヴァーリの奴が俺を凝視してるような気がする。取り敢えずは無視しておこう。

 

 そんな中、さっきまで笑っていたロキが真面目な表情となった。

 

「赤龍帝、その槌を持っている貴殿は少々危険だ。ここからお遊びは抜きにしようッ!」

 

 ロキが指を鳴らすと、今まで様子を見ていたフェンリルが一歩前に進みだした。

 

 同時に奴の両サイドの空間が激しく歪みだす。

 

 出て来たのは――灰色の毛並みに鋭い爪、そして感情がこもらない双眸と大きく裂けた口。それも二体だ。

 

「スコルッ! ハティッ!」

 

 ロキの声に呼応するように、二体は天に向かって吼えた。

 

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 

 月の光に照らされて、二匹の巨大な獣の狼が咆哮をあげていた。

 

 マジかよ!? 確かフェンリルは一匹だけじゃなかったのか!?

 

 当然俺だけでなく、この場にいる全員が驚きの顔だった。ヴァーリだけは楽しそうだが。

 

「この二匹はフェンリルの子供達だ。親のフェンリルよりも多少スペックは劣るが、牙は健在だ。神はおろか、貴殿らも簡単に葬れるだろう」

 

 フェンリルに子供がいたのかよ……くそっ! こりゃ完全に誤算じゃねぇか!

 

 ミドはあの二匹の事を言ってなかったが……恐らく知らないだろう。知ってたら教えてくれている。そう考えると、ミドが今も深海でグースカ寝てる時に、親フェンリルが子供を作ったかもな。

 

 最悪だ。一匹だけでも厄介なのに、子供とは言え二匹もいるって……マジで最悪だよ! こんな事ならオッタルと戦えば良かった!

 

 そう思ってると、ロキが親子のフェンリル三匹に指示を送り出す。

 

「さあ、スコルとハティよ! 先ずは父と一緒にミョルニルを手にしてる赤龍帝を始末しろ! その牙と爪で食らい千切るがいいっ!」




原作と違ってロキはイッセーを少々警戒しています。

感想お待ちしています。


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第十八話

 ロキがフェンリル達に俺を殺す出した瞬間――部長が手を挙げた。

 

「にゃん♪」

 

 黒歌が笑むのと同時に親フェンリルの周辺に魔法陣が展開し、地面から巨大で太い鎖が出現した。魔法の鎖、グレイプニルだ。既に届いていたけど、持ち運ぶのが難儀なため、黒かが独自の領域にしまい込んでいた。本当だったら兄貴がやる筈だったが、オッタルと戦わなければいけない事情があったので、やむを得なく黒歌に任せるしかなかった。

 

 出現した鎖をタンニーンのおっさん、バラキエルさんに続き、後方に控えていたメンバー全員が掴み、親フェンリルの方へ投げつける。

 

「ふはははははっ! 無駄だ! そんな物(グレイプニル)は、とうの昔に対策済み――」

 

 

 バヂヂヂヂヂヂヂッ!

 

 

 哄笑するロキの思惑が外れたように、ダークエルフによって強化された魔法の鎖は意思を持つように親フェンリルの体に巻き付いていった。

 

 

 オオオオオオオオオオオンッ……。

 

 

 親フェンリルが苦しそうな悲鳴を辺り一帯に響かせる。

 

「――取り敢えず親のフェンリル、捕縛完了だ」

 

 バラキエルさんが身動き出来なくなった親フェンリルを見て、そう口にした。

 

 本当だったら一番厄介な敵を制止させた事に大喜びしたいとこだが、生憎とまだ一匹だけだ。アレ以外に二体の小フェンリルがいる。ロキ曰く、『スペックは落ちても、神を屠る牙は健在』だから。

 

 そのロキは予想通りと言うべきか、焦った様子は全然見受けられなかった。未だ不敵に笑っている。

 

「ふむ、少しばかり赤龍帝を意識し過ぎたか。ならば――スコルとハティよ! 予定変更だ! 父を捕らえた不届き者たちを、その牙と爪で食らい千切るがいいっ!」

 

 指示された子フェンリル二匹は、風を切る音と共に折れの仲間たちの元へ向かっていく。一匹はヴァーリのチームへ、もう一匹はグレモリー眷族の方へ。

 

 もう鎖は親フェンリルの方に使っちまったから無い。一旦ロキは後回しにすべきかと考えていると――。

 

「ふん! 犬風情がっ!」

 

 

 ゴオオオオオオオオオッ!

 

 

 タンニーンのおっさんが業火の炎を口から吐き出し、それで子フェンリル二匹を包み込んだ。

 

 並みの相手なら即座に焼死する威力だが……子フェンリルは何事も無かったかのように動き続けている。ダメージは受けてるが、怯む様子は全くなかった。

 

「赤龍帝、どうやら仲間の方へ向かいたいようだな。だが貴殿の相手は我である事を忘れていないか?」

 

「!」

 

 すると、ロキが俺に向かってどデカい魔術の球を撃ちだしてきた!

 

 手にしてるハンマーで打ち返したかったが、反応が遅れた為にギリギリで避けた。けど、それは却って正しい判断だと認識する。俺を包み込んでる赤い闘気(オーラ)の一部が消しゴムを使って消されたかのように貫通していたから。

 

 さっき俺に使った魔術の光は闘気(オーラ)で防御出来たのに、今度は難なく貫通かよ。余裕そうな顔をしながら、本当にお遊び抜きでやってるようだ。

 

白龍皇(おれ)もいるという事を忘れないでもらおうか、ロキ。半減の力がうまく発動せずとも、その力を少しずつでも削らせてもらう!」

 

 今度はヴァーリが手元から幾重にも北欧の術式を混ぜた魔力の攻撃を撃ちだした。殆どはロキの魔術でなぎ払われるが、何発かは奴の体に当たるも、大したダメージを与えている様子はなかった。

 

「忘れてはいないさ白龍皇! 短期間で北欧の魔術を覚えたのは流石だが――まだ甘い!」

 

 虹のように輝く膨大な魔術の波動をロキが放つも、ヴァーリは背中の光の翼を大きく展開して迎撃しようとする。

 

Divide(ディバイド)Divide(ディバイド)Divide(ディバイド)Divide(ディバイド)Divide(ディバイド)Divide(ディバイド)Divide(ディバイド)!!』

 

 白龍皇の能力――ディバイン・ディバイディングが発動し、ロキの攻撃を連続で縮小させていく。

 

 アレを見てると、新校舎を半分にした技を思い出す。あの時は手加減していたが、今は本気だ。分かってはいたが、どうやら本当に修行して新しい能力を得てるようだな。

 

 とは言え、いくつか撃ち漏らしたものがヴァーリの鎧を撃ち抜いていた。が、ヴァーリは即座に復元させていく。

 

「隙ありだ!」

 

「っ!」

 

 ヴァーリを攻撃して気を取られてるロキに仕掛けようと、即座にハンマーを小さくして一旦仕舞い、そのまま超スピードで突っ込んでいく。

 

 既にハンマーを持った俺を警戒しているから、何の考えも無しに振るえば簡単に躱されてしまう。だから最大の隙を見せない限り使う事は出来なかった。

 

 気付いたロキは再び魔術で迎撃するが、今度は俺の方が速く――

 

「だぁっ! ぜあぁぁぁぁぁ!」

 

「ぬっ、小癪な!」

 

 

 ダァンッ! ダダダダンッッ! ドゥン!

 

 

 懐に入って早々に強く握りしめた拳で攻撃するが、向こうは咄嗟に腕で防御する。

 

 防がれた俺は臆する事無く、拳だけでなく肘や膝に脚と、純粋な格闘戦へと持ち込んでいく。

 

 けど、ロキも負けじと魔術を使わずに俺に合わせた格闘をする。

 

 コイツ、見た目とは裏腹に格闘戦も出来るのかよ!

 

「ロキ、俺と兄貴の修行をバカにしてたくせに、お前もやれるんだな!」

 

「ふはははは! 我はこんな野蛮な戦いなど好まぬが、出来ないと言った憶えはないぞ!」

 

 

 ドゴォ! ドォォンッッ!

 

 

 拳や脚が激突する度、そこから発する衝撃波で大気が震えていた。

 

 回し蹴りをする俺にロキは腕で防御でいなしながら、もう片方の開いてる片手を此方に向けて魔術の光弾を放った。

 

 それを見て即座に超スピードで躱し、そのまま距離を取り、お返しをしようと開いた両手を前に出し――

 

「はぁっ!」

 

 

 ズオォォッ!

 

 

 ドラゴン波ではないが、それなりの威力がある闘気(オーラ)波を撃ち放った。

 

 俺が放った一撃に、ロキは不敵に鬼気迫る表情を浮かべて真正面から俺の攻撃を受け止め――

 

 

 ドンッ!

 

 

 そのままヴァーリの方へといなした。俺の闘気(オーラ)波はそのままヴァーリの方へ向かうが、アイツはすぐに高速で動いて避ける。

 

「ふはははは。白龍皇の方は熟練した強さを誇っている。そして赤龍帝は神であるこの我相手に近接戦を仕掛けるだけでなく、先程の凄まじいオーラを放つとは。本当にヴァルハラへ来た時とは大違いだ。もはや別人ではないかと思うほどに成長したではないか。流石だ。あの聖書の神に鍛えられているのは伊達ではないようだな。この我も内に響いたぞ」

 

 俺の攻撃を防御していたロキの手足は軽く痙攣している様子だった。

 

 これが魔術や小細工抜きの真っ向勝負だったら勝てるかもしれないが、相手はあのロキだ。ヴァーリと共闘してるからって、決して油断できない。

 

 どうしようか。アイツの事だから俺がサポートに徹しようと、ヴァーリや仲間に力を譲渡すると分かった途端、即行で狙ってくると兄貴に言われたな。

 

「高速で動き回る白龍皇よりも――やはりミョルニルを持った赤龍帝だ! 倍増した力を譲渡をされたら面倒極まりない! 先ずは貴殿からぶっ殺しだッ!」

 

 くそっ! 何で俺が考えていた事を読みやがるんだよ! 顔に出してねぇ筈なのに!

 

 完全に狙いを定めたロキが此方を向く。

 

「――この俺を無視するとはいい度胸だ」

 

 瞬時に動いたヴァーリが、俺に攻撃の矛先を向けていたロキの背後を捕らえた。

 

 けど、ロキは全く焦った様子は見せていない。それどころかまるで引っ掛かったかのように笑みを浮かべ………っ! 不味い!

 

「下がれヴァーリ! そこは罠だ!」

 

「!」

 

 

 バグンッ!

 

 

 俺の声に反応したヴァーリだったが一足遅く、横から現れたフェンリルの大きな口に喰われた。

 

「ぐはっ!」

 

 吐血するヴァーリ。例の牙が白銀の鎧を難なく砕き、ヴァーリの体すら完全に貫いていた。

 

 白龍皇の鮮血によってフェンリルの口元を赤く濡らしている。

 

 やっぱり罠だったか。ヴァーリの神経を逆撫でさせる為に、態と無視(・・・・)しやがったんだ。その結果、見事に引っ掛かったヴァーリはフェンリルの牙の餌食に……!

 

 ………ん? ちょっと待て。よく見たらあのフェンリルは子供の方じゃない。大きい親の方じゃねぇか! 鎖で捕縛されていた筈なのに、ってまさか!

 

 俺が振り向いた先には、子フェンリルが口に鎖を咥えていた。思った通り親を開放する為に、俺の仲間と戦う振りをしていたようだ。

 

「ふははははっ! まずは白龍皇を噛み砕いたぞ!」

 

 まるで上手く言ったように哄笑するロキ。やっぱり全部思惑通りに動かされていた! 

 

 あの野郎にとって、親フェンリルが最大の武器。なのに捕縛されたのを見ても大して気に留めなかったのは、俺達に親フェンリルへの意識を逸らす為の策略だったんだ!

 

 そして子フェンリル二匹が最大の切り札と思わせるよう、俺の仲間達と戦わせる嘘の命令を出して、親フェンリルをグレイプニルから解放させる。そして自由になった親フェンリルが無防備な姿となってるロキを助けさせようと、仕掛けてるヴァーリに奇襲をさせたってところだろう。

 

 くそっ! 『策が成功したからって油断するなよ。ロキのやる事には必ず何か裏がある筈だ』って兄貴に言われたのに! 完全に失態だ!

 

 ともかく今はヴァーリの救出だ! 非常に情けないが、俺一人でロキは倒せない!

 

 突貫する俺に親フェンリルはこの前の事もあってか、少しばかり身構える様子を見せていた。

 

「この駄犬がッ!」

 

 俺が鼻面に闘気(オーラ)を纏ったストレートを打ち込もうとする――と見せかけて直前に超スピードで姿を消し、親フェンリルの背後に現れる。

 

 アレと真正面で戦ったら手痛いしっぺ返しを食らうのは分かっていた。だから虚を突かせてもらう!

 

 背骨ごと砕こうと、渾身の一撃を繰り出すも――何と親フェンリルが俺と同じく超スピードで姿を消しやがった!

 

「げっ!」

 

 背後を取った親フェンリルが爪を振るおうとしていたので、俺は再び超スピードで躱し反撃する。が、向こうも同じく躱して反撃。もう完全にイタチごっこも同然だった。

 

 あの駄犬、ヴァーリを咥えたままでも俺と同じスピードを出せるのかよ! ふざけやがって!

 

「離れろ! 兵藤一誠!」

 

 タンニーンのおっさんが火炎の球で支援してきたので、俺は言われた通り離れた。凄い熱量と大きさの炎だが、親フェンリルは逃げる素振りを見せようとしない。

 

 いくらフェンリルでも、元龍王タンニーンの攻撃は――

 

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 

 透き通る美声での咆哮がこの一帯の空気を震わせ、おっさんの炎を打ち消しやがった! 嘘だろ! 俺でも簡単に防げない龍王の一撃を咆哮だけで削除かよ!

 

 すると、フェンリルの姿が一瞬で消えた。

 

「おっさん! 避け――」

 

 

 ザシュンッ!

 

 

 俺が言ってる最中、何かが斬り裂かれる音がした!

 

「ぐおおおおおおっ!」

 

 おっさんの悲鳴が聞こえた。

 

 生半可な攻撃が一切通じないおっさんの体をズタズタに斬り裂いてやがるッ! 本当に厄介だな、あの爪や牙は!

 

 最強の生物と呼ばれている誇り高いドラゴンがこうもあっさりとやられるって最悪だ。……つっても、それに対抗出来る存在だっている。『最強だからって必ずしも絶対ではない』と兄貴が言ってた。目の前のフェンリルが正にソレだ。

 

 負傷してるおっさんは奥歯にしまっていた回復アイテム――フェニックスの涙を使って傷を治していた。今回のロキ戦に、メンバー全員フェニックスの涙を所持している。悪魔サイドからの物資として。

 

 俺は今のところ無傷だが、いつでも出せるように懐にしまっている。もうついでに、兄貴から貰った別の回復アイテムも一緒に。

 

 それにしても、フェンリルの規格外っぷりには驚かされる。伝説のドラゴン三体を相手にして、今も余裕を見せて戦うなんてとんでもない怪物だッ!

 

 俺がタンニーンのおっさんに加勢したところで、フェンリルは何の障害にもならないように、あの恐ろしい爪を振るうだろう。アレに当たったら最後、俺の闘気(オーラ)を身体ごと簡単に斬り裂かれる。

 

 残念だけど、今の俺じゃフェンリルを完全に捉えきれない。爪や牙だけじゃなく、あの反射神経とスピードの所為で攻撃が全然当たらない。捨て身覚悟でやれば当たるかもしれないが、リスクが余りにも高過ぎるから悪手だ。

 

 くそっ! こんな時に兄貴がいてくれたら……! 今はオッタルと戦ってるから無理だと分かってても、どうしてもそう考えちまいやがる!

 

 いっそのこと、この状態のままアレ(・・)をやって――いや、ダメだ! まだ制御(コントロール)も出来ないどころか、使ったらすぐに身体がぶっ壊れちまう! やるだけ無駄だ!

 

 とは言え、この状況は余りにも不味い。何とかヴァーリを助け出さないと!

 

「まだ赤龍帝が健在だから、念の為にこいつらも出しておこうか」

 

 すると、ロキの足元の影が広がり、そこから――いきなり巨大な蛇が出た! と言うより、身体が細長いドラゴンだ!

 

 ……って、よく見るとあの姿! かなり小さいけど、間違いなくアイツだ!

 

「ロキめ! ミドガルズオルムも量産していたかッ!」

 

 タンニーンのおっさんが憎々しげに吐いた。

 

 その通りだ。この前会ったミドそっくりで、タンニーンのおっさんぐらいのサイズのミドが……五匹いやがる!

 

 

 ゴオオオオオゥッ!

 

 

 ミドの量産型共が一斉に炎を吐いてきやがった。

 

 だが!

 

「ドラゴン波ァァァァァ!!!」

 

 

 ドォォォォォォオオオオオオオオオオオンッッ!!

 

 

 量産型ミドの炎はフルパワーに近い俺のドラゴン波で吹き飛ばした。

 

 タンニーンのおっさんに比べれば、あんなもん大した事ねぇ!

 

「ほう。量産とはいえ、ミドガルズオルムの攻撃をたった一撃で吹き飛ばすとは見事ではないか」

 

 自分が優勢なのか、ロキの野郎は俺に称賛の言葉を送っていた。

 

 余裕ぶりやがって! 絶対あの顔にハンマーで当ててやるから覚えてろ!

 

 兄貴、情けなくて悪いけど一刻も早くオッタルを倒して加勢してくれ! やっぱり俺達だけじゃフェンリルは抑えきれねぇ!




次回はリューセー側の視点になります。

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