東方永魂録 (よつやれおん)
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第一期 流れ着いた神躰人
第一話


 -ある冬の日、幻想郷には雪がちらついていた。魂魄妖夢と藤原妹紅は一人の男の子と共に竹林へとやってきていた。-

 

「ねぇ妹紅、雪だるま作ろうよ」

 

「ああ、向こうの広場に雪がたくさん積もってるはずだ、ちょっと行ってみるか」

 

 優しい口調でそう言った妹紅は、

 

「んじゃあちょっと行ってくるよ、妖夢は疲れてるんだから、そこの椅子でゆっくりしていてくれ」

 

 と私に言い残し、男の子と共に広場へと向かっていった。

 

「...彼と出会ってから、私は大きく変わった」

 

 その通りであった。彼がこの幻想郷に来てから、私には色々なことがあった。それらを振り返ればひとつひとつの出来事が、私というものを変えていた。あの日、あの時から...

 

* * * * * * * * *

 

 まだ少し冬の寒さが残る春の日のことだった。

 私はいつも通り、幽々子様に食材調達を頼まれ人里にお使いに来ていた。

 里まであと少しのところまで歩いてきた。すると道の外れからガサガサと音がしたのだ。

 私は気になって声を掛けた。

 

「どなたかいらっしゃいますか?」

 

 すると、泥まみれになった男の子がフラフラとした足取りで草村から出てきたのだ。

 

「すいません...脅かして...しまいましたか...?」

 

 と言ったと思ったら道に倒れ込んでしまった。

 

「だっ、大丈夫!?」

 

 男の子は足から血を流していたのだ。私はこの男の子をすぐに処置してあげなければと思い、永遠亭の永琳のところまで連れて行こうと考えた。

 ひたすらに走り、私は竹林の前で止まった。だが、私は覚悟し、竹林に足を踏み入れた。

 

「お、おい、その子怪我してるな!」

 

そう声を掛けたのは、藤原妹紅である。この時が私と妹紅の出会いだ。逆にここまで生きてきて会ったことがなかったのだ。

 

「あ、そうなんです、永遠亭はこっちですよね」

 

 しかし食い気味に妹紅は言った。

 

「早く連れて行かなきゃ、お前さんよりも身軽な私が先に連れて行く」

 

 言うが早いか、妹紅はその男の子を背負って走っていった。

 私も先に行ってくれた妹紅を追うように永遠亭へと向かった。

 永琳のもとへ辿り着き、男の子はどうなったか訊くと、

 

「彼の足には鋭い石塊が入っている。どうやら何処かからそれが飛んできて足の中に入ったようね。今は応急処置をしてるだけだから、全治2週間はかかるんじゃあないかしら。」

 

 そう淡々と告げられた。私はあまりの痛々しさに顔をしかめて訊いた。

 

「そういえば、その男の子を連れてきてくれた女の子は何処にいるの?」

 

「ああ、彼女ならその男の子と一緒にいるよ」

 

 そう言って、永琳は男の子のいる部屋へと誘導された。部屋へ入るとすぐに、応急処置を終えベッドに横たわっている男の子と、その横に添うように椅子に座る妹紅がいた。

 

「二人とも揃ったことだし、まずは事情聴取をするわ」

 

 永琳はカルテボードを取り出して男の子の方を向いた。

 

「まず君に訊くわよ、君はどこに住んでいるの?」

 

「...どこでもない」

 

 この回答に場にいた一同は驚愕した。

 

「じゃあ、お父さんとお母さんは...」

 

 永琳は少し不安な顔で訊くと、頭にふと過った最悪の回答が返ってきた。

 

「...死んだ」

 

 部屋は大きな沈黙に包まれた。




はじめまして、四夜怜音です。初めてなので語彙力が低すぎますが、温かく読んでくださると嬉しいです。
不定期投稿になると思いますが、どうぞ宜しくお願いします!


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第二話

「...この子はどこにいたの?」

 

そう永琳に問われ、私はこの子を永遠亭に連れてくるまでの経緯を細かく説明した。

 

「これからこの子をどうして行こう...」

 

 もう今は事情聴取ではなくこの子をどうするかに話が移っていた。

 

「私がこの子を匿うよ」

 

 そう言ったのは、私だった。考えもせず口から言葉が出ていた。

 

「私もだ」

 

 妹紅もそれに続くように言葉を放っていた。

 永琳は少し私達の立て続けの発言に驚いていたが、やがて落ち着いたように言った。

 

「分かったわ。でもその子はまだ何者かわからない。怪我のことで、一応2週間はここで療養してもらうから何か分かることもあるかもしれない。引取ってから困ったときはすぐにここに来るのよ」

 

 妹紅と私は頷き、この件について誰にも話さないと約束した。次にここにくるのは一週間後の昼ということになった。

 

 一連のことが少し落ち着き、私は冷静になって男の子を見た。男の子はまた寝てしまっている。

 着替える前の泥まみれの服を見て、この子はどうしてこうなっているのか、そして何処から来たのかと考えを巡らせる。

 

「な...どうしてこんなになっちゃったんだろうか」

 

 妹紅も同じことを考えているようであった。

 

「そうですよね...親がいなくなってからどんな生活をしてたんだろう...」

 

「敬語じゃなくていいんだよ、あと自己紹介してなかったな、私は藤原妹紅。いつもあの竹林でダラダラしてるよ」

 

「わかった...私は魂魄妖夢。いつも白玉楼で幽々子様の従者として過ごしているの」

 

 お互いに自己紹介もしていなかったことに気づき、ようやく二人は名前を知り合った。

 

「じゃあよろしく、妖夢」

 

「よろしくね、妹紅」

 

 その時、ベッドから声がした。

 

「僕は、どうすればいいんだろう...妹紅さん...妖夢さん...」

 

 彼は起きていたのだ。そしてずっと話を聞いていたのだ。私たちはすぐに男の子の方を向いた。男の子は大粒の涙を流しながら言った。

 

「僕のお父さんもお母さんも、殺されたんだ...もう僕を育ててくれる人はいない...親戚の中でも生きていると知らせがあった人は...未だに誰もいない...」

 

 私はとても驚き、声も出なかった。彼の親は、病気で死んでしまったわけでもなく、何者かによって殺されたのだと...。きっと親が、自分たちが殺される前に遠くへ逃してあげたが、誰からも忘れられてしまい、ここ幻想郷に来たのだろう。

 

「僕は...どうすれば...」

 

「私たちがこれから匿ってあげるんだから、安心するんだよ」

 

 そう妹紅は告げた後、ちょっと待ってねと言い、部屋を出て行き、私を部屋の外へと手招きした。妹紅は私に言った。

 

「妖夢、お前さんは半人半霊だよな」

 

「ああ、そうだよ、それがどうかしたの?」

 

 私は不安になって訊いた。すると、予想だにしなかったことを告げられたのだ。

 

「私の推測ではあるけど、恐らく彼も半人半霊だと思う。しかも特別な...」

 

 私はとても驚いた。何故なら、私自身が半人半霊なのに、その私が、彼の身体の霊魂を全く見受けられなかったからだ。妹紅は続けた。

 

「彼には恐らく物凄い能力がある。半人半霊なのに霊魂がお前さんにさえ見えないのはその為だと思う。私は長い間生きてきたから彼が特別な半人半霊であることはなんとなくだけど感じた。だから私は、同じ種である、妖夢、お前のもとで匿っていてくれないかな。私も出来る限り人里で何か買って白玉楼まで行くから、お願い」

 

 妹紅からの願いを、最初は快く受け入れようとした。しかし、幽々子様が良いと言ってくれるかが分からない。私はこれでも従者の身である。しかも男の子の事を他の人に話しては情報が広まる可能性が高まる為、いくら主人といえど難しいかもしれない。

 

「でも、私の主人が良いって言うか...」

 

 妹紅は迷いなく返事した。

 

「妖夢、お前のご主人様ならきっと大丈夫なはず」

 

「じゃあ、幽々子様には状況を説明するね」

 

 てっきり説明しなければと思っていた。

 

「それは言わないで、絶対に。理由なしでも幽霊を匿ってるんだよ、それならお前のご主人様はこの子のことも匿ってくれるはず。私が頼んでみる」

 

 決意の目で妹紅は頷いた。そして私は、眠る男の子に布団をかぶせて、妹紅と共に歩き出した。

 




うーん本当に同じ口調しか使えないなぁと悩んでいる人です。
第三話は少し遅れると思いますm(_ _)m


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第三話

 私は妹紅と共に永遠亭を出て妹紅の家へやってきていた。

 

「ちょっとお茶を出すから、そこに座って待っててちょうだい」

 

 私にそう言うと、妹紅は部屋の奥の台所へ消えていった。私はひとりで考えていた。あの男の子は本当に半霊を持っているのか。私の目がよほどおかしくない限り、私には半霊が見えないなどと言うのはあり得ない話だ。幽々子様の霊も、もちろん私の霊も、私は普段気にもせずに視界に入る。

 妹紅はもしかすると預かりたくなくて適当に彼が半人半霊であると言ったのかもしれない。

 

 しかし私の考えがまとまる前に妹紅は緑茶を淹れて戻ってきた。

 

「はいどうぞ、どこかの吸血鬼が飲んでるお茶よりもこっちの方が美味しいと思うんだけどな」

 

 そう言ってにこりと微笑む。この気遣いを見ると、妹紅が嘘をついているなど全く思えない。

 妹紅は半人半霊ではないではないかという思いに対し、こんな優しいのに嘘をつくとは考えられないという思いがある。

 

「おい、聞いてるのか?」

 

 気がつくと妹紅が私の顔を覗き込んでいた。

 

「あ、ごめんね」

 

「疲れてるんなら少しは休んだ方がいいよ?」

 

 妹紅は私が聞いていなかったことを気にしない様子で言った。

 言い出した方がいいのだろうか。しかし私はとりあえずこのことに対して考えるのをやめた。私があの子を見ていくのは決まっているのだから。

 

「うん、ありがとう」

 

 私はこう答えて、笑った。

 その後私は妹紅とさまざまな話をしてから帰った。最後に妹紅は、

 

「困ったらいつでも来てね、私はお節介なもんで、世話ならいくらでもできるからさ」

 

 と言ってくれた。とりあえず、今日は幽々子様にも何も言わずに寝ることにしよう。

 

 

 -同じ日に、紅魔館の主人、レミリア・スカーレットは従者の十六夜咲夜を部屋に呼んでいた。-

 

 

「咲夜」

 

「はい、何でしょうか」

 

お嬢様は私を呼んでから、言った。

 

「いまから1年後、ここ幻想郷は大きな危機に浸る運命にあるわ」

 

 突然言われたものだから、私はとても吃驚した。

けれどもお嬢様は、私の反応が想定内だという表情をし、話を続けた。

 

「幻想郷と言っても、私達と、一部の人達だけだけどね。」

 

 私は本当にお嬢様が何を言っているのか分からなかった。お嬢様は昔から、奥に何かが秘められた口調で私に話してくるが、私は大抵理解出来ないのだ。

 

「私なりに調べてみる事にします。」

 

 お嬢様はにこりと笑ってから言った。

 

「とりあえず紅茶を頂戴。」

 

「かしこまりました。」

 

 そう言って私は部屋を出た。

 私たちと関係があるが、一部の人…。博麗の巫女と関係するのだろうか。とりあえず今は異変の気を感じないので、頭の片隅に入れておき、私は仕事に戻った。

 

 

「ようやく彼奴も例の場所に辿り着いたみたいだな」

 

 漆黒の仮面をつけた男達が集まる中、リーダー格のような、一際目立つ男は言った。

 

「着々と準備しているのか?」

 

「はい、エネルギーの採取は比較的好調に進んでおります」

 

 一人がひれ伏して報告していた。

 

「なるほど分かった、例の場所までの輸送ラインの確保も次にやるように」

 

「了解致しました」

 

 そして、リーダー格の男は最後に念を押すように睨みつけて言った。

 

「絶対に情報を漏らさぬように」

 

「はい!」

 

とある満月の夜、侵略者Sによる計画は順調に進められていた。




今回も読んでくださりありがとうございます!
内容がかなり濃い回で、文字数が少なめになってしまいました。読みやすいように情報は少なめを目指しています。


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第四話

 「幽々子様、朝ごはん作りましたよー」

 

 朝食を作り終え、幽々子様に持っていきながら考えていた。あの男の子を見つけてから一日経った。私はもうすぐ彼を引き取ることになるが、その先どうすればいいのか。妹紅は気にしなくていいと言っていたが、きっと妹紅も考えているのだろう。とにかく何をするにしても、あの子がどうしてここに来たのかをまず知らなくてはならない。妹紅と早く話し合いたい気分だ。

 

「あれ、妖夢食べないの?」

 

 幽々子様に不思議そうな目を向けられ、私はあたふたしながらなんとか謝り、ご飯を食べ始めた。もう今日は妹紅に会うまで、このことを考えるのをやめようと思った。ずっと考えていてもキリがない。

 

「ご馳走様でしたー!やっぱ妖夢ちゃんのご飯はいくらでも入るわー♪」

 

「いや、早すぎますよ幽々子様、そんなに早食いすると太りますよ?あ、幽霊だから太らないのかぁ…」

 

「ええそうよ、だからお代わり頂戴!」

 

「お昼沢山作るので我慢してくださいー…」

 

「わかったわよぉ」

 

 こんな日常の会話ももしかするとこの一週間で終わってしまうかもしれない。今を大切にすることが大事だと。妹紅にも伝えてあげなければならないな。

 

「お昼前には帰って来るのでちょっと外に行ってきますね」

 

幽々子様は笑顔で答えた。

 

「いってらっしゃい」

 

 私は一人で、何故か分からないがもう慣れてしまった迷いの竹林の前までの道を早足で歩いていた。

彼が今何歳くらいなのかも分からないし、どのような性格なのかも分からない。私は彼を引き取るまでのこの間にできることを見つけようとした。

 

「おはよう妖夢」

 

 気づけば目の前には妹紅がいるではないか。

 

「おはよう」

 

「今何か考え事してたね、きっと彼の事考えてたんでしょ」

 

 そう妹紅に突かれ、私はこくりと頷いた。

 

「私たちが、彼を引き取るまでの間にできることは何かないかなって思ってて」

 

 そう言うと妹紅はニコリと笑って人差し指を立てて言った。

 

「そうだろうと思っていたよ、私にいい考えがある」

 

「よかった、このまま何もしないのはちょっとあれかなって思ってたんだよね」

 

 すると妹紅は笑ったまま続けた。

 

「それだよそれ、何もしないの」

 

「えっ!?」

 

 私は思わず立ち止まってしまった。

 

「多分彼を引き取ってから私たちはとても忙しくなる、だから今のうちにしっかり平常を覚えるんだよ」

 

 私は『平常を覚える』という言葉の意味がしばらくよく分からなかった。妹紅はさらに続けた。

 

「彼が来てからの生活は、平常ではない。あくまでも外から来たばかりの人間なんだからね。あとはあまり準備されすぎても向こうが困っちゃうだろ?」

 

 妹紅の説明を聞いて私は朝のことを思い出した。幽々子様と話していて気づいたこと。こんな日常の会話ももしかするとこの一週間で終わってしまうかもしれない。今を大切にすることが大事。

 

「そうだね、私のいつもを忘れないように。幽々子様と笑顔で過ごせる日々を忘れないようにね」

 

 妹紅は私の手を取り言った。

 

「人里で団子買ってきたから早く食べよう、話はそのあとだよ」

 

「うん」

 

 私たちは色々な世間話をしながら妹紅の家へ向かった。

 

「じゃあいつも通りお茶を出すから待っててね」

 

 そう言うと妹紅は台所へ行った。

 

「気楽に、か…」

 

 今の私に、彼がプラスされるだけ。今の幸せを離してはいけない。なるほどその通りだ。妹紅をこれからも信用していっていいのかなと少し思った。とするとあの時の話は…

 

「よし、出来たよ」

 

 妹紅がお茶と団子を持ってきてくれた。

 

「ありがとう、いただきます」

 

「うん、私のお気に入りだよ」

 

 妹紅もそう言うとすぐにパクリと団子を食べ始めた。ゆっくりといつもの時間が二人の間に流れていた。

 




今回も読んでくださりありがとうございます!
前回と対照的に、あまり心情変化の激しくない回となりました。読みづらいかもしれません…


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第五話

 私と妹紅は団子を食べ終わり、彼の話をしていた。

 

「私たちそもそもなんで彼を引き取るって言ったんだろう」

 

「体がそうしろって言ってたみたいな感じなのかな」

 

「それが一番近いのかぁ」

 

「けれど今私たちは彼をどうしていけばいいのか全くわからない」

 

「妹紅の言う通りなんだよね」

 

「けれど、また彼がきてから直感でわかるんじゃないか?」

 

「そうだといいけれど、あまり勘に頼りすぎない方がいいと思うよ」

 

「妖夢は仕事で勘なんて使ったらものすごく怒られるのか?」

 

「いや、そういうわけじゃあないけれど…」

 

「じゃあいいじゃないか」

 

「うーん…」

 

「今私達に出来ることは平常を過ごすことだって言ったよね?」

 

「難しいなぁ」

 

「そんな難しく考えないでよ、私なんてしょっちゅう子供見てるんだからちょっとは信頼して欲しいよなあ」

 

 結局このような話が続いてしまい、彼が来てから何をすればいいのか決めることはできなかった。しかし、私は物事を難しく考えすぎなのかもしれないと思い少し気が楽になったような気もした。

 

「んじゃあまた今度ね、明日になってやっぱりなにかしてあげなきゃとか言うんじゃないよ?私に任せな」

 

「うん、ありがとう、またね」

 

 私の足取りは、来た時よりも軽くなっている気がした。

 

 

「ウドンゲ、何か動きはわかった?」

 

「はい、永琳様。彼はまだ自分が魂魄分家であることを知らないようです。」

 

「つまり、あの子は自分が半人半霊であることも知らないのね」

 

「たぶんそうだと思います」

 

「なるほどね、預け先があの食いしん坊の所だから、何か変なこと教えなきゃいいけども…」

 

「一言言っておきましょうか?」

 

「いや、どうせアイツは知ってるよ」

 

「アイツ?」

 

「不老不死」

 

「なるほど、永琳様もアイツ呼ばわりするようになったんですか」

 

「そんなことはどうでもいいのよ」

 

「そうですか」

 

「私達もそろそろ動かなきゃいけないかもね」

 

「わかりました」

 

 

 ー来たる引き取りの日、妖夢は幽々子から買い物を頼まれ外に出ていたー

 

「おお妖夢、早かったね」

 

「うん、幽々子様から買い物頼まれてるからパパッとやっちゃおうかなと思って」

 

「そうなんだね」

 

 話しているうちに私たちは永遠亭の前にいた。

 

「よし、妖夢、行くよ」

 

「うん」

 

 屋敷に入ると永琳が笑顔で立っていた。

 

「随分と早かったわね」

 

「うん、幽々子様から買い物頼まれてて」

 

「そうなのね、それじゃあこっちに来て」

 

 私たちは彼のいる病室に向かった。

 

「足はしっかり治ったから、しばらくこの二人に見てもらってね」

 

「わかりました」

 

 彼は落ち着いた口調で答え、続けた。

 

「よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくね」

 

 妹紅も笑顔で言った。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 私たちはそう言って永遠亭を後にして、人里へ向かった。

 人里へ着き、幽々子様から頼まれた物を買いながら、男の子と話をしていた。

 

「そういえば、名前はなんて言うの?」

 

 と妹紅は尋ねた。親のことしか聞いていなかった為、この子の名前を知らなかったのだ。

 

「...名字は永山、名前は...無いんだ...」

 

「無い...?」

 

 と私は繰り返した。

 

「無いと言うか、本当はもちろん名前はあるけど、その名前は捨てた。昔あった名前は知らない」

 

 私は何を言っているのか分からなかった。恐らく妹紅もそうだろう、ものすごくしかめ面をしている。

 

「...分からなさそうだから詳しく話すよ...」

 

 そう言って男の子はゆっくりと話し始めた。

 

「僕の生みの親は、僕が物心つかないうちに、何者かに殺された。僕だけが助かって、僕は親戚に預けられ、育てられた。名前も新しく付けられ、しばらくはこの人たちの家族であると思っていた。だけど、全然違った。僕はこの親戚の家族がだんだん嫌いになっていき、ついに家出をしたんだ。親戚につけられた名前も捨て、僕は名無しの人となった。そしたら何処かから石が飛んできてこの様だ。これが僕がここにこうしている理由」

 

 彼の話は私達の推測を大きく超えていた。家出をして彷徨い、この幻想郷に辿り着いたのだ。男の子は続けた。

 

「そして僕は、今から僕が名乗る名前を考えるんだ。もう決まったようなものだけど」

 

 私たちは黙って男の子の言葉を聞いていた。

 

「『永山 紅夢(えいざん こうむ)』。妹紅の紅と、妖夢の夢で、紅夢。」

 

 私達の名前が使われるとは到底思ってもいなかった。本当に彼には吃驚する。

 

「私らの名前なんかでお前の大切な名前を決めちゃって良いのか?」

 

 妹紅は確かめるように声をかける。

 

「うん、二人に助けられたんだから...あと...気に入ったから...」

 

 彼は恥ずかしそうに答える

 

「それじゃあ、よろしくな、紅夢」

 

 妹紅が笑顔で返事した。

 

「よろしく、紅夢」

 

 私も笑顔で返事した。

 

 紅夢との新しい生活が始まった...




今回も読んでくださりありがとうございます!
今回はかなり内容が多かったですね。ああこの文字数は基本期待しないでください…((


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第六話

「...で、この子を匿ってほしいと...?」

 

 私たちは買い物を終え白玉楼に到着し、妹紅から幽々子様に直々に交渉をしていた。

 

「そうなんです、この子は今生きる場所が無いんです、お願いできま...」

 

 妹紅の言葉を遮り、幽々子様はキラキラした目で答えた。

 

「頼みたいのはこちらの方よ、妖夢よくやったわね。あなた本当に可愛い子ねぇ、名前なんて言うの?」

 

 早速紅夢に話しかけていた。

 

「永山紅夢です。よろしくお願いします」

 

 紅夢は丁寧にお辞儀をした。

 

「よろしくね紅夢、あなた疲れてるんでしょ、お茶でも飲みましょう、妖夢、お茶を4人分出しなさい」

 

「はい、幽々子様」

 

 私に向けて妹紅はウィンクして、言った。

 

「紅夢と幽々子さん、上手く合ったみたいで、良かったよ」

 

「本当にその通りで」

 

 私は嬉しくなって笑った。

 

 お茶を出した後、私は妹紅と話をしていた。

 

「上手く合ったのは良かったけれど...紅夢は足を怪我しているから、まだ心配だよ」

 

 私は紅夢が無事に住む場所を見つけられた事に安堵する一方、足の怪我に心配をしていた。

 

「その件は、私と永琳先生に任してください」

 

「れ...鈴仙、お前も心配で付いてきたのか?」

 

 妹紅がすかさず反応する。

 

「いや、いきなりいなくなったので、助手の私に付いて行けと指示が出たんですよ。そうしないと、まともに居場所も知らずにフォローするなんて無理な話でしょう?」

 

 確かに鈴仙の言う通りだ。永琳に何も言わずに永遠亭を出て行ったことに今更気づき、申し訳なくなってしまった。

 

「私も協力するからもし何かあったら声かけてください、それでは私忙しいから帰りますね、また一週間後に。」

 

 そう言って鈴仙はすぐに駆けて行ってしまった。

 

「紅夢って、恵まれてるな」

 

 妹紅は呟く。

 

「見つけてもらって、怪我の治療してもらって、住む場所もらって、今は遊んでるんだから、呑気なものだよ」

 

「確かにね」

 

 私も同情の声をあげる。

 

「けれど、幸せそうで良かった。なんか本当にお母さんになったみたい」

 

 妹紅も頷く。

 

「じゃあ、またここに来るから頑張ってね」

 

 そう言って妹紅も帰って行った。もう日も西に傾いてきた。私は十二人前の夕食を作り始めた。

 未だに妹紅の言う、紅夢が半人半霊であるということが信じられないでいる。まだ人魂の気配が感じられないからだ。もしかすると、紅夢は、私がまだ小さい頃に聞いた、別タイプの半人半霊なのかもしれない。〇〇人みたいな感じだった気がする。何という名前だったか、思い出せそうで思い出せない。

 むしろ紅夢が半人半霊だというのも妹紅の思い違いなのかもしれない。

 

「僕も準備手伝うよ」

 

 いきなり後方から声をかけられ、私は吃驚してしまった。

 

「え、あ、できるの紅夢?」

 

 しどろもどろな返答をしたせいか、紅夢は少し不思議そうな顔を浮かべたが、すぐに笑顔で言った。

 

「うん!」

 

「じゃあ、そこの野菜を切って大きいざるに入れておいてくれる?」

 

 紅夢は質問を返す。

 

「これは野菜炒めに使うの?それによって切り方が変わると思うけど」

 

「そうそう、よろしくね」

 

 野菜を紅夢に頼み、私は肉の準備をしていたが、意識は紅夢の方に向いていた。

 

「...紅夢って、器用なんだね」

 

「そう?ありがとう、一応毎日手伝いはしていたからね」

 

 親戚が嫌いだとは言っていたが、手伝いをたくさんさせられたのだろうか。まだ共に過ごし始めて少ししか経ってないため、紅夢のアクションひとつひとつに対して深く考えてしまう。

 

「...妖夢?出来たよ?」

 

「は、あ、うん、ありがとう」

 

 紅夢はまた不思議そうな顔を浮かべた。しかしあまり気にすることなくまた会話を戻した。

 

「妖夢、こんなにたくさん食べるの?」

 

「いや、私じゃ無いよ」

 

 妖夢は笑いながら答える。

 

「幽々子様は食いしん坊だから一人で十人前くらい要るの」

 

「誰が食いしん坊なの?」

 

 私はぎくりとした。幽々子様に聞かれてしまった、陰口は幽々子様の嫌いなこと、説教が待っている、そう思っていた。しかし幽々子様は笑顔で言った。

 

「紅夢君がいるからここは許してあげるけど」

 

 そして紅夢の方を向き

 

「まだまだ育ち盛りなんだから沢山食べるんだよ」

 

 と声をかけて自分の部屋へ帰って行った。

 

「幽々子様って、こうやって気配なく移動できるの、だから気をつけなよ」

 

 紅夢はまた不思議そうな顔をし、言った。

 

「僕、幽々子様が来たって分かったよ?」

 

 予想が確信に変わった。紅夢はただの半人半霊では無い、別タイプの半人半霊だと。妹紅に報告しよう。しかし紅夢にいきなりこんな事を言ったら戸惑うだろうから、とりあえず紅夢には...

 

「そうか、紅夢は凄いな、私分からなかったよ」

 

 そう笑顔で言った。そして続けて

 

「後、幽々子様は陰口が大嫌いな人だから、絶対にしないようにね」

 

「うん」

 

 紅夢はそう返事し、再び手を動かし始めた。

 

「もう手伝いはいいよ、助かったよ、ありがとう」

 

 紅夢はふうと息をつき、

 

「うん、こちらこそなんか色々とフォローしてくれてありがとう」

 

 と言い、去っていった。

 私の思考は紅夢のことで埋まっている。いつか解決してくれと、そう願いながら私は夕食を作り続けた。

 

 夕食を食べながら、紅夢は幽々子様としりとりをしていた。

 

「め、メンチカツ?つ、、ツナマヨ!」

 

 幽々子様も楽しそうだ。

 

「ツナマヨねぇ、美味しそうねぇ、んじゃあ、よもぎだんご!」

 

 こんな日常的な会話を聞きながら、私は小さい頃に聞いた半人半霊の種類を次々と思い出していた。

 

“半人半霊とは、人間と幽霊のハーフであり、人間の身体に霊魂がくっついていて、普通は霊魂が体の周りを飛んでいて、周りに見える状態だが、霊魂が身体の中に入り込んだままであるタイプも存在する。ごく稀に、霊魂を、身体の中も外もどちらにでも自分の意思で動かせる『神躰人』という半人半霊もいると言われている。また、これらの判別法もある、それは....”

 

 判別法も思い出した私は、夕食を腹一杯食べて寝始めた幽々子様に気づかれぬよう、紅夢を手招きした。

 

「どうしたの?」

 

 紅夢の問いかけに私は答えた。

 

「ちょっと食後の散歩に出かけよう?」

 

 そう言って私は紅夢と夜道を進み始めた。




今回も読んでくださりありがとうございます!
前回、長い回を期待するなと言いつつも最長です。あと二回くらいは特別に作品が長いと思われます。


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第七話

東方永魂録 第七話

 

「そこの団子屋さん?」

 

 紅夢に訊かれ、笑顔で答えた。

 

「そうそう、好きなの買ってきてねー」

 

 私は団子屋さんに足を踏み入れる紅夢を後ろから見ていた。

 すると、紅夢の身体から霊魂のようなものがチラチラと浮かんだり身体に戻ったりを繰り返すのが見えた。私は心底驚いた。妹紅が永遠亭で言っていたことは正しかったのだ。彼は紛れもなく、神躰人だったのだ。

 

「はーい、買ってきたよー!」

 

「うん、じゃあ月でも見ながら屋敷で食べますか!」

 

 そう声を掛け、私は紅夢に何と言うか考えながら、白玉楼への道を再び戻っていった。

 

 私と紅夢はふたり月の下で、白玉楼の縁側に座っていた。

 

「じゃあ、早速食べよう!」

 

 笑顔で封を開けて団子を頬張る紅夢を見ながら、私は声を掛けた。

 

「今からとても大事な話をするからしっかり聞いてね、私の言うことがあなたにとってとても衝撃的なことかもしれないけれど、あなたが知っていなければならないことなんだ。どうかそこだけは許してね」

 

 紅夢は何のことかさっぱり分からないと言う顔をしていたが、やがて落ち着いた声で返事した。

 

「分かった、しっかり聞くよ」

 

 私は頷き、大きく息を吐いて、話し始めた。

 

「まず端的に言うよ、あなたは半人半霊なの。半人半霊というのは、人間と幽霊のハーフなの。人間の姿をしているけれど、心には霊の一面もあるの。実際私はそうよ。でもただの半人半霊。あなたは多分、『神躰人』という人なの。この神躰人ってのはとても希少で、霊魂という、半人半霊の持つ意思のある霊の魂を、本来身体の外か中にしかおいておけないのに、どちらにも置くことができる特別な半人半霊なのよ、ここまで一気に難しいこと言ったけど分かる?」

 

 紅夢はまだ理解が追いつかないようだが、私に訊いてくる。

 

「その、霊魂?ってやつは、悪いものなの?」

 

「いや、違うよ、あなた自身の意思で霊魂を操ることもできるよ」

 

 続けて紅夢は訊く。

 

「動かすには、どうすればいいの?」

 

 私はにこやかに笑いながら答えた。

 

「それは人それぞれだと思うよ、けれど私は一番最初、願った気がする」

 

「願う?」

 

「そう、願う。動いてください!ってね」

 

 私は実際に願うような姿勢をとって言った。

 

「意外と簡単そうだね」

 

 紅夢の顔から不安そうな感じが少しなくなったように思った。

 

「やってみる?」

 

「うん、やってみる」

 

 そう言って紅夢は目を瞑り、ぶつぶつと願い始めた。すると、紅夢の身体からポンと霊魂が出てきた。

 

「すごいよ、紅夢、出たよ!動いてってお願いしてみたら?」

 

「え、出たの?じゃあ...前に出てって願ってみるよ」

 

 紅夢はまた目を瞑り、何やらぶつぶつと呟くと、霊魂がずっと前に動いた。

 

「...すごい」

 

 紅夢は呆然とその霊魂を見ていた。その霊魂は、紅夢の眼と同じ黄色の光を発していた。

 私も当然、神躰人を見るのは初めてなので、声も出さずに見ていた。

 

「...僕、この子...もう一人の僕と仲良くなれるよう頑張るね」

 

「うん、頑張れ」

 

 二人は笑いながら、その霊魂を見つめていた。

 

「僕、もう眠いや」

 

 しばらくして、紅夢は声を上げた。

 

「じゃあ、寝ようか」

 

 そう言って私は紅夢を自分の部屋へと連れていった。

 

「ここが私の部屋で、あなたは私の横で寝るってことで大丈夫?」

 

「うん、おやすみ」

 

 紅夢は目を擦りながら布団に入り、すぐに寝てしまった。すやすやと寝息を立てて寝る紅夢を見ながら私は一人呟いた。

 

「片付けて私も寝るか、今日は色々忙しかったな」

 

 そう言って、私は夕食を片付けて布団へ入った。

 

 次の日、朝早くに私は目が覚めた。まだ紅夢は横で寝ている。私は大きく伸びをして、一人静かに掃除を始めた。

 

「朝から掃除、凄いな」

 

誰の声かと思って振り返ると、そこには右手を腰に置いて立っている妹紅がいた。

 

「こんな朝早くから、妹紅の方こそどうしたの?」

 

「どうしたのって、紅夢のことを聞きにきたんだよ、朝じゃないと他の奴に聞かれる可能性上がるからな。初日だったし沢山知ったことあったろ?」

 

 たしかにそうだ。真っ昼間に話していると誰かに聞かれるということを考えていなかった。やはり私一人では紅夢を匿うことはできないと痛感した。

 

「う、うん。そうだよね」

 

 そう言って、私は昨日知ったこと、彼が『神躰人』であることなどを妹紅に話した。

 

「...で、妹紅のいう通りだったというわけだね」

 

「だから言ったろ?まあそんなことは良くて、彼奴の年は幾つなんだろうな」

 

「え、突然...?」

 

 たしかに気になるところだ。年によっては...まさか...

 

「慧音に世話になるかどうかってところなんだよ」

 

 やはりそうだった。年によっては勉強をしなければならないのだ。彼は見た目だと10歳くらいのように見えなくもない。

 

「今日起きたらちょっと訊いてみるね」

 

 私はそう言って妹紅と別れた。帰り際に、何かあったらすぐ来るからなと言ってくれたのがとても嬉しかった。

 掃除を終え部屋に戻ると、紅夢はいなかった。布団は片付けてあり、灯籠も消えていた。もしかすると思い、ある場所へ行くと、紅夢は一人で突っ立っていた。

 

「やっぱりここで”あれ“してたのね」

 

 ここは、昨日団子を食べた場所、そして”あれ“とは、霊魂を動かす練習だ。

 

「お...おはよう、何も言わずに部屋から出て行ってごめんなさい」

 

 私は微笑んで答えた。

 

「いいのよ、次やらなければ怒られないと思うよ。ところで、何か上達したの?」

 

 紅夢は即答した。

 

「カクカク動かすんじゃなくて、なめらかに動かせるようになった...くらいかな」

 

「すごい進歩じゃないの?」

 

 私は心から感心していた。昨日まで、前後にしか動かせないような状態だったのにもうなめらかに動かせるとは...私は別段努力した記憶もないからそれが果たして難しいことなのかは分からない...

 

「ありがとう」

 

 紅夢は顔を少し赤くして照れながら続けて言った。

 

「今日の朝ご飯も手伝うよ」

 

 私は少し戸惑いながらも答えた。

 

「え、ありがとう、じゃあ幽々子様が目覚める前に作っちゃいましょう」

 

 紅夢は笑顔で頷いた。

 

「うん!」

 

 二人は並んで台所へと歩いていく。大きい影と小さい影、新しい朝の日の光に照らされていた。




今回も読んでくださりありがとうございます!
かなり前に予め書いておいたものなので少し文が変かもしれませんが耐えていただければ(((


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