New Japan Fleet (YUKANE)
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Episode.0 始まり

1991年12月25日ソ連が崩壊し,冷戦が終わるかに思われた。

しかし冷たき戦いは終わることはなかった。

 

ソ連崩壊に反対する人々は新しき国家を作るべくクーデターを起こした。そしてそのクーデターによってイルクーツクを首都とする新国家「シベリア社会主義連邦」が誕生した。

そしてシ連は世界中に社会主義の不滅を宣言した。

 

シ連設立の影響を日本が受けない訳がなかった。シ連の海軍の本拠地はウラジオストクにある為,シ連が太平洋に勢力を拡大する際は日本が障害へとなるからだ。

 

この事態に際して時の首相 渥美雄一は海上自衛隊の規模を拡大する新たなる計画「New Freet計画」を始めようとした。しかし,計画内に日本初の空母(・・)を導入すると分かると野党や一部国民から「9条に違反している」として批判を受けるも国会を押しきり,計画は承認された。

 

そしてそれから約30年が経った2024年。事件は起きた。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

この世界には佐渡島北西50kmの沖合いに7つの島で構成された列島 朱雀列島が存在する。

この列島は昔から国同士の争いの原因となる島だった。元は漢・隋・唐等の歴代中国国家が保有していたが,1281年の公安の役にて鎌倉幕府の名で上陸作戦が行われ,苦戦を強いられるも勝利を刻んだ。

 

その後日本が保有する事になるが,明・清等とはこの列島を巡って対立が発生し,幾度の戦いが発生した。

その後清は英国とのアヘン戦争等もあり手を引いた為に,朱雀列島は日本の所有となり1876年には各国に朱雀列島の日本統治を通告した。

 

その後はロシアへと守りの要として朱雀列島本島の蘭島の指令部を中心として朱雀基地が整備され,日露戦争時には朱雀沖海戦が発生するなど激戦が広げられた。

 

それから約40年経った1945年11月18日。日本が無条件降伏したにも関わらず,ソ連軍が上陸し約5年程占領するも,1951年のサンフランシスコ条約によって撤退し,日本に返還された。

 

しかしその後も「自国の領土」と言い続けるソ連に対して日本は列島に朱雀警備隊や旧式ながらもF-4EJ(ファントム) 6機を配備し,厳重警戒を行った。

シ連設立後は中国もその争いに加わり,列島を巡る対立は混沌を極めていた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

朱雀列島本島の蘭島。

この島は基本的に平坦で,中央部に役場と病院があり,漁港の他にも大型フェリーが停泊できる港を持つまさに朱雀列島の中心地である。

 

その島の北側にある自衛官寮屋上。そこに1人の自衛官が寝転がっていた。

 

「今日も疲れたな~」

 

彼の名は魚島敬次。朱雀警備隊普通科中隊の中隊長である。何故彼がここにいるかというと日課だからだ。

彼の住む寮は蘭島の町並みからは少し離れているために夜は五月蝿くなく,とても静かである。それに照明も少ない為に夜間の星空がくっきりと見えるのである。

その為に彼は当直以外の夜は毎回ここに来て,日々の疲れを癒しているのである。

 

(ここに来れば全てを忘れられる)

 

そして今日も訓練の疲れを癒すべくここに来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから起きる戦いを知らずに

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

彼が寝転がって約1時間後,彼は異変を感じた。突如としてジェット戦闘機が飛ぶ独特な音が聞こえたからだ。

だがジェット戦闘機なら蘭島の西の飛鷹島の航空自衛隊飛鷹島基地所属のF-4EJ(ファントム)だと思ったかもしれない。

しかし彼は違った。

 

「・・・・・何かが違う」

 

彼がそう思った理由は,ジェット機の音が島の外から聞こえるからだ。

仮にF-4EJ《ファントム》だとすると離陸する際の音が聞こえるのだが,その音が聞こえなかったからだ。

 

そしてなりより聞き慣れているF-4EJ(ファントム)とは明らかに音が異なるからだ。

 

「この音は一体・・」

 

その答えは直ぐに分かった。彼が立ち上がって音の鳴る方を見ると,超低空で水を巻き上げながら飛んでいる1機の機体がいたからだ。

 

その機体は自衛隊機とは明らかに違う曲線とコックピット付近にカーナド翼(・・・・・)を有していたからだ。

その姿を見て魚島は直感で感じた。その機体を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Su-27(フランカー)!!」

 

Su-27ことSu-33(フランカーD)は水が巻き上がる位の超低空を高速で飛んでおり,その胴体の下のパイロンには2発もの対レーダーミサイル(ARM) Kh-58(キルター)を装備していた。

 

そしてそのSu-33は蘭島から北東の方向を飛んで,その先の島を目指していた。

 

「そっちには日北島しかn・・・・・・!」

 

Su-33が飛んでいた方向にある日北島にある設備に気づいて彼は顔が青くなった。

 

「まさか・・・レーダーサイトを!?」

 

日北島には朱雀列島の防空の要「日北レーダーサイト」があるからだ。仮にそのレーダーサイトが使えなくなったら飛んでくる機体を捉えなくなるからだ。

 

つまり近づくまで,侵入してきた機体を捉えなれず(・・・・・・・・・・・・・・)に敵に先手を許してしまう事になるのだ。

 

この事は敵の航空機による攻撃や輸送機による空挺等を許してしまい,島が奪われかねないという最悪の事態になりかねないからだ。

 

 

この最悪の事態を察した魚島は直ぐに自分の部屋に戻り,基地へと向かう準備を整えた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

約20分後準備を整えた彼は蘭島の朱雀警備隊司令部へと向かった。

彼の準備の最中に爆発音が聞こえており,つまりレーダーサイトが破壊された(・・・・・)事を意味していた。

 

その事を裏付けるかのように司令部は非常に混乱していた。

 

「レーダーサイトがやられました!」

「何故気づけなかったんだ!?」

「超低空で飛んでたのでレーダーに反応しなかったんです!」

「のF-4EJ(ファントム)は飛んだのか?」

「2機がスクランブルしました!」

「隊長!飛鷹島基地の飛行場が破壊されました!」

「何だと!?」

 

飛鷹島の飛行場が破壊されたという情報が流れている最中別の場所では別の情報が話されていた。

 

「日北のレーダーサイトが破壊されたのは恐らくSu-33らしい。」

「ということはシ連軍が上陸するってことですか?」

「ああ,間違いないだろう。」

「なら早く迎撃体制を整えないと!」

「住民の避難も早くしないと!」

「と,とにかく急がないと!!」

 

まるで目の前で交通事故が発生したかのような状態になっており,例えデマでもそれが本当になっているかのような雰囲気だった。

 

魚島はこの状態を見て,困惑した。

 

「まるで纏まってない・・・」

 

彼が困惑している中,彼は警備隊長に呼び出された。

 

「魚島!ちょっと来てくれ!」

「了解!」

 

彼は急いで警備隊長の元に向かう。

 

「日北のレーダーサイトと飛鷹の飛行場が破壊されたのは知ってるよな?」

「はい。勿論です。」

「だったらお前に隊長命令を下す。」

 

魚島はこの時覚悟した。このような状態の場合の命令というと,「シ連軍から島民を守れ!」や「死ぬ覚悟で死守しろ!」等という死を覚悟するのような命令だと思ったからだ。

 

しかし現実は違った。

 

 

 

 

 

 

「お前は一部の隊員を引き連れて飛鷹島に脱出しろ(・・・・)

 

「・・・えっ?」

 

彼は困惑した。隊長や島民を捨てて逃げろと言っているだからだ。

 

「隊長!何故ですか!」

「何故とは?」

「島民を捨てて他の島に逃げろと言うのですか!?」

「ああ,そうだ。」

「自衛隊は国民を守る事が責務じゃないんですか!」

 

自衛隊の責務を捨てるという事に彼は反発した。しかしこの隊長の一言で黙る事になった。

 

「どれだけ奮戦してもこの島が落ちることは確定だ。それなら少しでも希望を残しておきたいからな。」

 

「・・・・つまり一回逃げて奪回の機会をうかがえということですか?」

「そうだ。その為には隊員を纏められる人が必要だろ?」

「それが私という事ですか。」

 

隊長は無言で頷いた。そして彼は覚悟を決めた。

 

「帰ってきたらもう一度会いましょう。」

「死亡フラグみたいなこと立てるなよw」

 

その言葉を交わして敬礼をした後,彼は司令部を飛び出した。

その様子を見ていた隊長は小さい声で囁いた。

 

計画はお前にかかってるさ(・・・・・・・・・・・・)

 

その直後,司令部はSu-33のGSh-30-1(30mm機関砲)の攻撃を受けた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

魚島は「飛鷹島に逃げろ」という命令で島へと渡れる方法である船を調達しに港へと向かっていた。

但し普通のフェリー等が泊まる民間港ではなく,漁船等が泊まっている島の南側の漁港だった。

 

その最中彼はある人物と出会った。

 

「中隊長!?」

「常盤か!」

 

魚島が出会ったのは彼の部下である常盤蒼也 2等陸尉だった。彼はレーダーサイトの爆発音を聞いて急いで準備して出てきた所だった。

よく見てみるとその後ろから多数の隊員が出てきていた。

 

「中隊長。何故ここにいるんですか?」

「・・・それは」

 

言いかけた直後,司令部の方で轟音が聞こえた。全員が司令部の方を見た。

そこにはガラスが何枚も割れ,壁にも多数の弾痕があり,司令部屋上の通信アンテナは無惨にもひん曲がっていた。

 

そして轟音の先には優雅に漆黒の空を舞うSu-33がいた。

 

「おい何があったんだ!?」

「司令部がやられたのか!?」

「隊長は!?隊長は大丈夫なのか!?」

 

隊員は非常に混乱しており,まるで訳が分からない様な雰囲気になっていた。

 

「もう・・何がどうなっているんだ・・」

 

隣の常盤も困惑している様に見える。このまま困惑したままなら奪回の機会ですら失われてしまうと判断した魚島は隊員達を諌めた。

 

「君達一回落ち着け!」

 

しかし混乱している隊員達は落ち着ける訳がなかった。この事を察した魚島は自らの懐から9mm拳銃を取り出し,上空向けて1発放った。

 

拳銃の音が響き,今まで落ち着かなかった隊員達は一瞬で落ち着いた。

 

「落ち着いたな。私はこの後飛鷹島へと渡ろうと思う。」

 

この瞬間隊員達はざわついた。

 

「中隊長!本気ですか!?」

「この島を捨てる気ですか!?」

「島民はどうするんですか!?」

 

隊員達から各種の非難を浴びながらも,彼は言った。

 

「私が島へと向かうのはただ逃げるだけじゃない。奪回の機会を伺って島を取り戻す為である。」

「・・・つまり機会が来るまで隠れるって事ですか?」

「そうだ。」

 

この発言に隊員達は黙ってしまった。

 

「この中で一緒に行きたいという者はいるか?」

 

隊員達は誰一人手を上げなかった。こんな危険な任務になんて誰も参加なんてしたくないだろう。しかしそんな中手を上げる者がいた。彼の部下常盤だった。

 

「常盤・・」

「自衛隊なんですから危険な事は覚悟してました。ですからこの任務参加させて下さい!」

 

この言葉の後に隊員達の中にも手が上がり始めた。

 

「自衛隊なんだからやってやるよ!」

「今までの訓練はこんな時の為だったんだ!」

「シ連め!今に見てろよ!」

 

約3分ぐらい経つと反対意見は一切なくなっていた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

魚島が漁港に向かうとそこには今に出港しようとしている漁船群がいた。

 

何故彼らが漁港行ったのかというと,民間港の船で向かうと時間が掛かる事ともし漁船だったら「島から脱出する島民の船」と思わせる事が出来るかもしれないからだ。

 

しかしそう思ってくれるという浅い期待の中,彼らは交渉を始めた。

 

「すいません!この船は今から出港するんですか?」

「ああ,そうだ!急いでるから話かけんな!」

「すいませんがこの船で飛鷹島まで乗せてくれませんか?」

「話聞いてなかったんか!?」

「それでも乗せて下さい!」

 

反対を受けながらも彼らは交渉を行った。そんな中交渉中だった船の船長が我々を見て叫んだ。

 

「あんた島の若い者と思ったら自衛隊の人かよ!?」

 

この言葉に周りの人々も手を止めて隊員達を見た。

 

「まさかあんた達島民捨てて逃げ出す気か!?」

「自衛隊は島守るためにあるんでねえか!?」

「この意気地無しめ!」

「はよ帰って島守れ!」

「島民はどんだけあんた達信用してたと思ったんだ!?」

 

数多く降りかかる罵倒・暴言の数々。島を捨てるという自衛隊らしかる判断に島民の怒りは爆発寸前だった。

 

「ですから我々は島を奪回するために一回脱出するんです!」

 

そんな事を魚島は言ったが島民に効果はなかった。

 

「ふざけんな!」

「はよ帰れ!」

「お前らなんかもう要らんわ!」

 

交渉決裂かと思われた時,1発の銃声が鳴り響いた。隊員・島民全員が振り向くとそこには,

 

「早く乗せないとこの銃あなた達に撃ちますよ!」

 

5.56mm機関銃(MINIMI)を持った女性隊員。月崎暦 3等陸尉だった。

 

「お,お前ら!自衛隊なのにそんな事としt」

「いいから早く準備しなさい!」

「わ,分かったからその銃を下ろしてくれ!」

 

MINIMIの銃口を向けられた船長達は慌てて出港の準備に取りかかり,それを隊員達も手伝いながら急いで船は出港した。

 

魚島の乗った船には他にも常盤等,5名の隊員が乗っていた。その中には先程活躍した月崎3尉もいた。

彼はその月崎に感謝の言葉を告げた。

 

「先程はどうもすまなかったな。」

「いえいえ。話を聞かないのなら武器を見せて黙らせた方が良いんですよ。」

「それは出来れば今回だけにして欲しいなw」

 

そんな事と話していると同じ船の常盤が質問した。

 

「ところで聞くけどそのMINIMIはどこから持って来たの?」

「この銃は基地内の保管庫から無理矢理持ってきたんですよ。」

 

この発言に二人は驚愕した。

 

「・・・・それって」

「大丈夫なの?」

 

この二人の心配発言に月崎は笑いながら言った。

 

「どうせ今混乱してるんですからばれないですよ。」

「・・・・・どうなってもしらないよ。」

 

そんな他愛な事を話していると漆黒の空から航空機の轟音が聞こえ始めた。

船の船長含め全員が空を見上げるとそこには中型の旅客機の様な機体が約6機が低空で飛んでいた。

その機体はシ連が有している輸送機 Il-76MDM(キャンディッド)だった。

 

そしてその機体の後ろの投下扉が開き,そこからパラシュートと着けた多数の兵士が降下し始めた。

 

「もう上陸がはじまったのか······」

 

魚島はそう蘭島を見ながら呟いた。




見て下さってありがとうございました。

この話が初投稿の話ですのでまだ慣れなくて,約半日かかってしまいました。

今度も宜しくお願いします。


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Episode.1 内閣

※11/6
「らいちょう1号」をMQ-9に変更しました。



朱雀列島にシ連軍が上陸してから約2時間後の午前3時29分,東京都千代田区にある首相官邸に黒く塗られたレクサス・LS600hLが到着した。

 

レクサスの扉が開かれるとそこから50代くらいの中年の男性が現れた。この男こそ日本のトップ 第100代内閣総理大臣の鈴村隆治である。

 

「首相お待ちしておりました。」

 

官邸に入るやいなや話し掛けたのは,若くして総理秘書官に就任した本庄香月である。

その凛々しく,美しい姿から「官邸の女神」とメディアから言われている為に総理と同じくらい有名である。

 

「話は聞いているが,ここでもう一回聞いてもいいか?」

 

そう言われると香月は直ぐに分かってる内容を話した。

 

「2月24日 1時丁度。シ連軍機が突如として領空内に侵入し,日北島のレーダーサイトを破壊。」

「その後飛鷹島の空港と蘭島の司令部を破壊したということか。」

「単純に言えばそういう事です。」

 

そう話している内に首相官邸地下に存在する危機管理センターへと到着した。センターの中はまだ半分位しか人が集まっていなかった。

 

「総理!!」

「防衛大臣!新しい情報はあるか?」

 

総理に質問されたのは現 防衛大臣の栃木昇治だ。彼も鈴村内閣のキーパーソンの一人だ。

 

「はい!どうやら日北のレーダーサイトを攻撃力したのはSu-33(フランカーD)と思われてます。」

「Su-33?」

「Su-33はSu-27(フランカー)艦上機(・・・)仕様です。」

「艦上機だと!?」

 

そう反応したのは現 経済産業大臣の音次辰馬。彼も鈴村内閣のキーパーソンの一人だ。

 

「艦上機ということは・・・・」

「近海に機動部隊(・・・・)がいるという事になります。」

「なんだと・・シ連の機動部隊は先日オホーツク海方面に向かったそうではないか!?」

「ほ,報告によればそうなのですが・・」

「裏を・・かかれたな。」

 

こんな混乱している状況の中,冷静な判断が出来る鈴村首相はある意味の超人と言えるだろう。

 

そんな中,栃木の元に新しい情報が届いた。

 

「そ,総理!海上保安庁からの連絡で,新潟航空基地所属のMQ-9(ガーディアン)からの連絡が途絶えたと!」

「なんだと!?」

 

鈴村が驚愕した理由は自衛隊の機体ではなく,海上保安庁(・・・・・)の無人機が落とされたという事だった。

 

「詳細を聞かせてくれ!」

「はい! 海上保安庁多千穂基地からの連絡が途絶えたという事で確認の為に向かったそうです。」

「・・・やらかしたな。」

 

彼の「やらかした」とは,海上保安庁に列島にシ連が上陸したことを伝えてなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)という事である。

つまりもし伝えていれば落とされずに済んだかもしれないからだ。

 

危機管理センターが静寂に包まれる中,その静寂を破る人物が現れた。

 

「遅れました!総理!」

「官房長官!」

 

まるでアフロのようなモジャモジャの頭をした彼こそが現 官房長官の大洋洋司。

彼は鈴村内閣のキーパーソンでもトップクラスの人物だ。

危機管理センターを眺めて彼は言った。

 

「副総理と外務大臣は?」

「副総理は今向かっていて,外務大臣は那覇からの機上の上だ。」

「渋滞にでも巻き込まれたのか?」

「こんな夜にか~?」

 

こんな感じで全く緊張感が無いような彼は静まり返った部屋を再び賑わせるのに十分だった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

約20分後副総理である大森弘正が到着し,午前3時57分 会議が始まった。会議の最初に栃木の口から語られたのは日北のレーダーサイト・飛鷹島の空港・蘭島の司令部が破壊された事だった。

 

「以上の報告によるとレーダーサイト・飛行場・司令部を破壊したのは艦上機であるSu-33だと思われます。」

「艦上機という事は近くに機動部隊がいるという事か。」

「可能性は高いと思われます。」

 

先程と似た内容の会話をしながら会議は進んでいった。

 

「また飛鷹島の監視所からの連絡によると,蘭島と飛鷹島に各5機ずつ輸送機(Il-76)が到来し,空挺部隊と空挺車両を投下したという情報が入りました。」

「空挺部隊!?」

「はい,空挺部隊と空挺車両によって恐らく両島は占領されたと思います。」

「防衛大臣。そうなると残りの島はどうなっているのかね?」

「恐らく空挺部隊だけでなく,上陸部隊もいると思われるのでその部隊で行われるでしょう。」

 

Il-76の輸送定員は凡そ200名程度だ。全ての島をそれだけで占領する事は不可能で,空挺部隊の人数も足りないだろう。

それならば重要でない島の占領は上陸部隊を待ってからでも大丈夫だからだ。

 

「つまり朱雀列島は占領されたと考えた方が良いかね?」

「・・・そう考えてもらって結構です。」

 

危機管理センターは静寂に包まれたが,それを打ち破ったのは鈴村首相だった。

 

「防衛大臣!各自衛隊に第77条に基づき,出動待機命令を発令せよ!」

「は!」

「それから朱雀列島に一番近い艦隊はどの艦隊だ!」

 

その返答をしたのは出動待機命令を出している防衛大臣 栃木ではなく,彼の部下から情報を受け取った総理秘書官の本庄だった。

 

「隠岐の島沖にて訓練中の第2機動部隊です!」

 

この時この場にいた全員が一斉に彼女を向いた。後ろで驚いている彼女を気にせずに鈴村は呟いた。

 

 

「よりによってあの艦隊か・・・・」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

隠岐の島から東に20km付近。暗く静かな漆黒の海を裂いて進む艦隊があった。

 

約10隻の艦隊は大きな八角形のAN/SPY-1Dを艦艇中央の大きな艦橋に4つ装備した“こんごう型護衛艦“「DDG-175 みょうこう」を先頭とし,その後ろには前の船とは大きく違う艦艇全部に滑走路のような平たい甲板が広がる船が2隻,その2隻とは少し小さい船が1隻が中央に陣取っていた。

 

この小型の全甲板の艦艇は“ひゅうが型ヘリ空母“「DDH-181 ひゅうが」。

 

そして2隻の大型の全甲板艦艇は元米海軍フォレスタル級航空母艦“あまぎ型航空母艦“「DDH-185 あまぎ(フォレスタル)」「DDH-186 かつらぎ(サラトガ)」だ。

 

 

そして「DDH-185 あまぎ」の中に新しく設置されたCIC(戦闘指揮所)の中央にある人物がいた。

 

 

 

彼こそがこの戦いの鍵を握る人物。

 

 

 

 

 

 

 

 

「DDH-185 あまぎ」艦長 桐島龍樹 一等海佐だ。




今回は前回より半分位です。


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Episode.2 艦隊

自衛艦隊司令部より艦隊に通信が入った。通信を受け取った隊員は驚きながらも,艦長へと報告した。

その内容はというと

 

 

 

『朱雀列島にシ連軍が攻撃を行い上陸した模様。今すぐ第2機動部隊は朱雀列島に急行せよ。』

 

 

という物だった。

 

この通信にCICはざわついた。今まで何回もシ連は領空・領海侵犯を行っていたのだが,遂に攻撃したという事態に動揺を隠せないのである。

 

そんな中,ため息をつく男が一人いた。

 

「・・・・・遂に始まったのか。」

 

その男は鼻の下と顎に髭を生やしたダンディーな顔をしており,頭に被ったあまぎの帽子を被り直す。

彼の名は水上玄弥。あまぎの船務長を勤めているあまぎ幹部の一人だ。

 

「いつか始まると思ったが,遂に来たんだな。」

「ああ,しかし朱雀列島の警備隊は一体どうなったんだ。」

「船務長。どこに攻撃を行ったか分からないが,上陸したというのなら警備隊と戦闘になる可能性は高い。」

「・・・まだどうなっているかという情報は分からないという事ですか。」

 

実際桐島の言ってる言葉は当たりだ。例え上陸しても迎撃を受け全滅したら元も子もない。なら占領の障害となる警備隊はその前に叩くのが当たり前だろう。

 

勿論その通りにシ連軍はレーダーサイトと滑走路と司令部を破壊して使えなくしている為,Il-76(キャンディッド)による空挺作戦が成功しているのである。

 

「それに通信によるとシ連は太平洋艦隊を出してきたとするらしい。」

「太平洋艦隊・・というとまさか!?」

「ああ,ウリヤノフスク級が配備されているな。」

 

ウリヤノフスク級。

それはソ連時代に計画された超大型の原子力空母だ。しかし実はこれは2代目ウリヤノフスク級と言った方が良いだろう。先代は黒海の造船所で起工されたが,ソ連崩壊の影響で建造は中断されスクラップになっている。

 

しかしシ連はその空母をウラジオストクに新しく作られた“アルチャフ造船所“にて2003年から建造が始まり,約10年かかってやっと就役したシ連海軍,いや世界でも最大級の空母を手にいれたのであった。

 

「ウリヤノフスク級はSu-33(フランカーD)Mig-29K(フルクラム)を計56機搭載している。」

「・・56機」

「我々の搭載機数は48機。警戒しとくべき相手だ。」

 

フォレスタル級ことあまぎ型はF-35(ライトニング)の垂直離着陸型の自衛隊仕様 F-35JBを12機。同じくF-35の艦上機型の自衛隊仕様 F-35JCを36機搭載している。数では負けていものの,戦闘となればそれは分からないかもしれない。

 

「しかし空母がいるとなると護衛の艦艇が多数いると思われます。」

「恐らくそうだろう。それに朱雀列島はシ連本土からも優に航空機が来れる距離にある。」

「海からでなく,陸からも航空機が来るってことですか。」

「但しそれはこっちも同じだ。やろうと思えばこっちだって艦隊の支援が可能だ。」

 

日本海の海は非常に狭い為に今回のように対岸の国同士で戦うという事は,本土に敵の攻撃が来るという危険にも去らされるのだ。

 

そんな事を聞きながら水上は机を叩いて叫んだ。

 

「しかもよりによって司令官がいない時に起きるとは!」

 

そうこの第2機動部隊を指揮する本来の人物石見惣一はいない(・・・)のだ。

 

「・・まさかあの事故もシ連が仕組んだわn」

「あれは霧でのハンドルミスによる事故だ。まさかあいつらが仕込んだなんt」

「そうか!ハンドルミスをするように霧を出したのか!」

「・・・・もう俺から言うことはない。」

 

こんな話をしているとCIC内から微笑が聞こえてきた。

 

出たよ船務長の心配性w

ああ,やっぱり出たよ「恐怖症の男」w

 

「恐怖症の男」それが彼の別名だった。由来は簡単だ,あらゆる物全てにおいて最悪の事態を想定して行動しているからだ。

それは度を越えていて,想定外の事態が起こると正に頭がパンク状態になることもあるのだ。

 

「船務長!」

「は! 艦長!」

「取り敢えず我々は朱雀列島へと向かう。これから本艦に艦長全員を集めて艦長会議を行う。」

「“CICは任せる“ってことですか。」

「ああ,各艦に連絡を!あと艦橋に甲板を開けるように言ってくれ!」

 

通信を確認したあと,桐島はCICから立ち去ろうとした。

 

「艦長!何処へ行かれるのですか?」

「会議の準備さ。」

 

そう言って彼はCICから立ち去った。

 

「・・・・・・・艦長もなんか海に染まってきたな。」

 

誰かがそんな事を言った。

 

「だよな~。約半年でやっと染まったよな。」

「元々あの人空一色だったのにな。」

「そういえばちょっとこれは聞いた話だけどさ。」

「なんだ?」

「どうやら本来は艦長になる予定だったのは,副艦長だったらしいぜ。」

 

その発言にCICはざわついた。しかしそれは直ぐに収まった。

 

「君達!もっと危機感を持てないのか!」

 

眼鏡をかけ直しながら叫んだ彼の名は宇津木直記。あまぎに搭載されている高性能20mm機関砲(CIWS )近接防御システム(Sea RAM )を指揮する砲雷長の立場についている。

 

「我々はこれから戦いの場所に行くんだぞ!そんな呑気にしていると船を沈めるぞ!」

 

こんな事を言われてしまえばもう黙るしかない。1分も経たぬうちにCICは機械のだす音以外聞こえなくなった。

 

「流石だな,人間コンピュータ。」

 

水上が声をかけるが,宇津木は冷静に答えた。

 

「あなたのその恐怖症も直ればいいんですがね。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

通信から30分も経たぬうちに各艦の艦長を載せた「DDH-181 ひゅうが」所属のMCH-101はあまぎの甲板へと降り立った。

機体右側に設置された扉が開き,艦長らが続々と降りてくる。それを桐島は自ら出向いて迎えた。

 

その様子をあまぎの甲板の中間に設置された艦橋(アイランド)から眺めているものがいた。

 

「航空主義者がどう考えているのか。楽しみだな。」

 

彼の名は長瀬竜也。そうあまぎの副艦長だ。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

午前7時丁度。あまぎ艦内の会議室にて会議が始まった。参加しているメンツは,

 

「DDH-185 あまぎ」艦長及び第2機動部隊司令代理 桐島龍樹

あまぎ副艦長 長瀬竜也

第47航空団司令兼飛行隊長 渡島音弥

「DDH-186 かつらぎ」艦長 葛城辰馬

「DDH-181 ひゅうが」艦長 九条霧矢

「DDG-203 あそ」艦長 鏡石博也

「DDG-204 たかちほ」艦長 花月大雅

「DDG-175 みょうこう」艦長 舘黒太

「DD-130 しらぬい」艦長 西園寺安月

「DD-124 はつづき」艦長 天空佑

「DD-125 しもつき」艦長 深見牧人

「DD-115 ながなみ」艦長 金島佑月

「DD-117 ふじなみ」艦長 倉島祥也

 

の計13名だ。

 

会議は桐島の言葉から始まった。

「全員知っていると思うが,本日0100に朱雀列島 日北島のレーダーサイトと飛鷹島の滑走路・蘭島の司令部を破壊した。」

「早速ですが質問をしても宜しいですか?」

「無論だ。」

 

手を上げたのは「DD-124 はつづき」艦長 天空佑だ。天空は桐島の方を向きながら質問した。

 

「攻撃を行ったのはSu-33(艦上機)と聞いてますが,つまり近海に機動部隊がいると見ても良いのでか?」

 

それに対する桐島の答えは・・分かってるだろう。

 

「ああ,勿論だ。恐らくシ連は太平洋艦隊を朱雀列島近海に展開させていると思われる。」

「・・バカな。確かオホーツク海に向かったはずでは!?」

「まんまと騙されたな。」

 

そう叫んだのは「DDG-203 あそ」艦長 鏡石博也だった。それに対して「DDG-204 たかちほ」艦長 花月大雅も反応した。

 

「・・・でもおかしいわね。」

「“おかしい“というと?」

 

疑問を出したのは「DD-115 ながなみ」艦長 金島佑月だ。彼女は第2機動部隊唯一の女性艦長だ。

それに対して疑問を持ったのは「DDG-175 みょうこう」艦長 舘黒太だった。

 

「金島艦長。説明を。」

「オホーツク海から日本海に来るとなると絶対に宗谷海峡を通らざるを得ないないはずです。なのに奴らは我々に探知されずに来ました。」

「・・・まさか!」

「ええ,恐らくですが奴らは間宮海峡(タタール海峡)を通って来たと思われます。」

 

間宮海峡。

それはユーラシア大陸とサハリン島の間に存在する最短幅7.8kmの狭い海峡だ。

その名の由来は江戸時代に間宮林蔵が発見したことから日本ではそう呼ばれている。

 

「わざわざそっちを通ってくるとは・・」

「確かにあの海峡の両側はシ連の国内だから隠す事も出来る。」

 

「DD-125 しもつき」艦長の深見牧人と「DD-117 ふじなみ」艦長の倉島祥也が驚愕している中,桐島は発した。

 

「つまりはあれか。一回宗谷海峡を通ってオホーツク海にいると思わせて,間宮海峡を通過して日本海へと来たって事か。」

「そうとしか考えられません。」

 

金島は着席する。桐島は再び話始めた。

 

「我々はこれから朱雀列島へと向かう。しかしシ連が見逃すはずなかろう。」

「・・・・まずは恐らく潜水艦だな。」

「ええ,太平洋艦隊は887型(キロ級)971型(アクラ級)を持っています。」

 

そんな中今まで黙っていた長瀬が話し出した。それを「DD-131 しらぬい」艦長 西園寺安月が補足する。

桐島は二人を見ながら言った。

 

「奴らは空・水上・海中全てから我々を狙うだろう。我々は最大級の警戒で行かなければいけない!」

「潜水艦に対しては本艦としらぬいで対応します!」

「空に関しても本艦としもつきに任せて下さい!」

「ミサイルも我々イージス艦隊が全て落とそう!」

 

「DDH-181 ひゅうが」艦長 九条霧矢と「DD-124 はつづき」艦長 天空佑・「DDG-175 みょうこう」艦長 舘黒太が艦隊を守るべく叫んでる中それに水を差すような発言をする者がいた。

 

「ちょっといいかね?」

「葛城艦長。宜しいですよ。」

 

「DDH-186 かつらぎ」艦長の葛城辰馬。あまぎと共に第2機動部隊の主力を担う艦の1隻だ。彼は立ち上がって話し出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シ連が攻撃を行ったのは分かるが,まずはシ連と交渉してからじゃないのか?」

 

この発言に会議室は静寂に包まれた。



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Episode.3 対立

「・・・・・どういう事だ?」

 

葛城の言葉を桐島は尋ねた。

 

「そのまんまですよ。朱雀列島が攻撃を受けたのは事実だが,それが本当にシ連なのか分かってないではないか。もしシ連じゃない国だったらどうするんだい?」

「葛城・・・攻撃したのはシ連のSu-33で,Il-76が空挺部隊を降k」

「それだよ。それ! 上はシ連と決めつけているけどもしかしたら同じ機体を持っている別の国かもしれないよ。」

 

葛城のこの言葉に桐島は疑問を抱いた。

 

「Su-27とIl-76を持っている別の国・・・・・」

「あんた“攻撃したのは中国“とでも言いたいのか?」

「・・・・Su-33はJ-15(殲撃15型)。Il-76はY-20(運輸20型)って訳か?」

 

答えを出したのは長瀬だった。桐島が補足しているうちに長瀬は葛城の元へと詰め寄った。

 

「何かな?」

「“何かな?“じゃないあんたまさか相手が分かるまで動かない訳か?」

 

長瀬は葛城に詰め寄ってまるでヤクザのように質問をする。会議室が危険な雰囲気になりかけた時,それを救う救世主が現れた。

 

「はいはいストップ。ストップ。」

 

第47航空団司令兼飛行隊長の渡島音弥だ。

 

「どうやらお二人は長話になりそうだな。艦長会議はここで終わりにして後は彼らの対話としますか? 艦長?」

「よ,よし。艦長会議をこれで終了する。甲板のMCH101に離陸の用意を!」

 

艦長会議の終了が言い渡され,艦長達は心に何かを抱えながらも退室し,残ったのは桐島・長瀬・渡島・葛城の4人だけになった。

会議室は静寂に包まれていたが,その静寂は渡島によって破られた。

 

「お二人さん風に当たってないから考えが鈍くなってんじゃないか? とりあえず外に出ようか。」

「あ,ああ。」

「・・分かりました。」

 

長瀬と葛城の二人が退室した後,桐島は渡島に話しかけた。

 

「渡島飛行隊t」

「先輩でいい。」

「・・では渡島先輩。ありがとうございました。」

 

実は桐島と渡島は先輩後輩の関係で,浜松にある第21飛行隊で一緒に学んだ関係だ。

その後も築城の第8飛行隊でも一緒に空を飛んだ関係にある。その二人がこのあまぎで一緒になるというある意味奇跡ともいう関係かもしれない。

 

この二人は人前では艦長・飛行隊長と呼びあっているが,二人だけなら先輩後輩と呼びあっているのだった。

 

「なあに。前にあの騒動をなんとかしてくれた際の礼だ。」

 

「あの騒動」とは約半年前に発生した「F-35JC(ライトニング)水没未遂事件」の事だ。

事件の内容は第47航空団所属のF-35JCが着艦する際に船が波に揺らされてしまい,F-35が着艦コースからずれてしまい船から落ちかけたという事だ。

 

幸運にも甲板の端で止まった為に水没は免れたが,その際に航空団隊員と艦隊要員の間で喧騒が発生してしまい殴り合い寸前になったが,桐島が取りなした事によってその事態は避けられたという事件だった。

 

この事件は勿論メディアでも公開されたが「天候による事故」と処理された。

 

「あれはただ原因を言い合ってる奴らを取りなしただけです。」

「それはちょっと違う。」

「?」

「あの事故は波という自然現象に対応出来なかったうちらの問題だ。」

 

本来空自は地上に配備された基地に着陸する為,滑走路が動く事なんてあり得ない。

 

しかしここは海の上だ。波によって船が揺られ,滑走路が動く事なんて稀にあることだ。

渡島はそれに対応出来なかったパイロットの問題だとしたのだ。

 

「ですが,人間が自然現象に逆らえる訳が!」

「例え逆らえなくたって,俺達はその現象に乗ることは出来る。だろ?」

 

例えれば「流行に逆らえなくても,その流行に乗れば対応出来る」というのが彼の解釈なのかもしれない。

いろいろと突っ込みたくなるけど。

 

「おっと,こんな話してるんじゃなかったな。葛城と長瀬が待ってるぞ。」

「そうでした! すぐ行きます!」

 

そう言って桐島は部屋を急いで飛び出していった。

 

「・・・・ふっ。あいつは考えは凄いんだが,妙に脆いからな。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

あまぎの航空甲板から艦長達を乗せたMCH101が飛び立つ。ヘリの機内は搭載しているゼネラル・エレクトリック T-700のエンジン音とプロペラが回る回転音のみが響いていた。

 

そんな中「DDG-203 あそ」艦長の鏡石が呟いた。

 

「・・・・・やっぱり彼か。」

「予想はしていたがこりゃあなかなかだな。」

「このまま勝てるんですか?」

「もしかしたら奴らと戦う前に我々が壊滅ね。」

 

艦長達が二人の対立によって戦う前に艦隊が壊滅してしまうという最悪の展開を想像している中,みょうこう艦長の舘はただ一人で誰とも話さずに機体の窓から外を眺めていた。

 

何を考えているかなんて自分だけにしか分からないMy Worldに彼は浸っていた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

あまぎの広い航空甲板に二人は到着した。甲板にはいつでも出撃できるようにF-35JCが待機しており,その隣には羽を折り畳んだE-2(ホークアイ)EA-6C(プロウラー)が留置されていた。

 

航空甲板には海上という事もあって,そよやかな海風が吹いていて,まるで二人の間に吹いている冷たい風を表しているかのようだった。

 

そこへと桐島がタラップを駆け上がってやって来た。

 

「遅れしまってスマンな。」

「なあに。そもそも時間なんて決めてないんだから遅れるなんて概念はないぞ。」

「・・そうだったな。」

 

桐島と長瀬が話していると葛城が本題を話出した。

 

「で,僕が話していいかな?」

「ああ,聞こう。」

「僕がああ言った理由は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦争にさせない(・・・・・・・)為さ。」

 

「・・・・どういう事だ?」

「仮にシ連じゃない国が攻撃を行ったのにシ連が行ったと決めつけてしまったら,それは深刻な外交問題へと発展してしまう。そして最悪の場合 それは戦争へとなりかねない。」

「日本を戦争へと巻き込まない為。とでも言うのか?」

「正しくその通りさ。」

 

葛城の言葉の意味を知った彼らだが,二人の心は複雑な心境になっていた。

 

「日本を戦争に巻き込みたくないなんて言ってるけどよ・・その朱雀列島を占領した奴らとは戦うはめになるから結局戦争をしていると同じ事じゃないか!」

「俺も長瀬と同じ意見だ。戦いってもんは最終的には戦争に行き着くのだから。」

 

二人の鋭い意見を聞いた葛城だったが彼は更に二人を困惑させる発言をするのだった。

 

 

「戦争。戦争と言ってるけどさ。一体何処からが戦争なのさ(・・・・・・・・・・・・)?」

「!?・・・・」

 

二人の反応は正しく心の真意を突かれたかのようだった。

 

「・・分かってなかった見たいだね。戦争という基準も分からない人間が何故こんな所に来たのか知りたくなってくるよ。」

「か,葛城! お前!」

 

しかし長瀬の言葉は遮られる事になった。

 

 

 

 

 

 

『海中に反応あり! 自衛隊の船ではない! 総員対潜警戒!』

「せ,潜水艦!?」

「どうやら話は終わりのようだ。葛城艦長 我々のSH-60K(シーホーク)で貴艦に送ります。」

「もし機会があったなら又話して決着をつけようじゃないか。」

 

そう言って葛城は羽根を広げ始めたSH-60Kの元へと向かい,桐島はCICに長瀬は艦橋へとそれぞれ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして第2機動部隊の前の海の中には獲物を待ち構えている4隻の潜水艦()が待っていた。



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Episode.4 海の刺客

第2機動部隊が不明潜水艦を探知した頃,この艦隊の母港でもある舞鶴基地に併設されている自衛隊舞鶴病院の一部屋にある人物が入院していた。

その人物は本を読んでいると病室の扉が開き,御盆に切られたリンゴを乗せた20代位の少女が入って来た。

 

「お父さ~ん。リンゴ切ってきたよ~。」

「おお! 美空ありがとう!」

 

彼の名は石見惣一海将。そう第2機動部隊の本来の司令である。彼は約3週間前に自家用車の日産・ブルーバード U14型系 2.0SSSリミテッドを運転中に霧によってハンドル操作を誤り,ガードレールに激突。左足に全治1ヶ月の骨折を負ってしまったのである。

彼の事を「お父さ~ん」と言ったのは惣一の娘の石見美空。今は嫁いでいる為に名字は別になっているも,時間があればこうして見舞いに来てるのである。

 

「いや~本当にありがとう。お父さん美空が来ると元気が1000倍になるよ!」

「もう~。お父さん! それは言い過ぎw あ,皆さんもこれ食べますか?」

 

仲睦まじく会話をする家族二人に周りの看護婦や同じ部屋の患者も微笑ましく見守っている。皿に乗せられたリンゴに手を伸ばし,食べようとした瞬間彼の自衛官の勘が何かを察知した。

 

「・・・・・なんだ?」

「どうしたのお父さん?」

「何か・・嫌な予感がする。美空! 車を出してくれ!」

「・・・・はあ!?」

 

美空が呆れたように言葉を発するうちに惣一はリンゴを一飲みにし,ベットの側に立て掛けてあった松葉杖を持って今までの様子が嘘のように立ち上がった。

 

「お,お父さん! 本当に行く気なの!?」

「勿論だ! 美空も手伝ってくれ!」

「石見さん! 先生から今は安静にって言われてますよ!」

「今は安静にしてられないんだよ! 悪いけど邪魔しないでもらえる!」

「お,おい! 早く石見さんを止めろ!」

 

医者の言うことも聞かずに出ようとする惣一を看護婦や同室の患者達が急いで取り押さえる。しかし取り押さえても惣一は落ち着かずに暴れだした。

 

「は,話してくれ! 俺は行かなきゃいけn」

 

そんな惣一の顔の間近を果物ナイフが物凄い速度で通過して,窓際に置いてあった花瓶に刺してあるラナンキュラスの花柄を綺麗に切り裂いた。

全員がナイフが飛んできた方を見るとどす黒いオーラを纏って,不気味な笑顔を浮かべている美空がいた。

 

「き・ざ・む・よ。」

「・・・・・・・・はい。」

 

あんな不気味な笑顔でそんな事を言われたら誰であっても黙るしかない。

惣一は抵抗を止め持っていた松葉杖を置いてベットの上に戻り,上から毛布を被ってさっきの状態へと戻った。そんな父親の姿を見た美空はどす黒いオーラを消して,ドアを開けた。

 

「じゃあお父さん 帰るね!」

「あ,ああ。気をつけて帰るんだよ。」

 

美空は笑顔でドアを閉める。そして美空は先程の笑顔が消え,まるで何かを察してしまった様な顔でドアに寄りかかった。

余談だが美空のナイフで斬られたラナンキュラスの花言葉は「幸福」である。

 

「・・・・大丈夫だよね。音弥。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

桐島がCICに到着すると室内は潜水艦が現れた事もあって,落ち着きを失っていた。

しかし彼らが落ち着きを失っている最大の理由は「初めての実戦」だという事だ。

 

「・・遂に来たのか。」

「何だか不思議な気分だな。」

「俺達訓練通りに出来るのかな・・」

 

彼らは興奮というより不安の方が大きかった。もし自分が何かしてしまったら,もしミスを犯してしまったのならこの船(あまぎ)はどうなってしまうのかという恐怖に怯えていたのだった。

 

そんな彼らに声をかけたのは「人間コンピュータ」こと宇津木だった。

 

「君達は劇の練習とかで先生に「練習は本番。本番は練習と思ってやれ。」と言われなかったか?」

 

彼からの言葉に隊員達は顔を見合わせながら首をかしげた。

 

「今から始まる事態はいつもの訓練だと思え! もし誰かがミスをしてもそのミスは必ず誰かが直してくれる。だから! いつも通りに自分の成すべき事を行え!」

 

宇津木の言葉を受けて隊員達は勢いを取り戻し,「いつでもかかってこい!」状態へと変わった。

そんな様子を見た桐島は微笑んで囁いた。

 

「なかなかやるな。あいつも。」

 

その後直ぐに顔をいつもの冷静顔に戻し,CICを任せていた水上の元へと向かう。

水上は入ってくる情報を一つ一つ確認していて,余裕無いようにも見える。

 

「艦長! お戻りになられましたか!」

「船務長。潜水艦()について何か分かったか?」

「艦種は887型(キロ級)と思われ,全4隻で艦隊針路上約40kmに展開しています。」

「キロ級か・・971型(アクラ級)ではないのだろう?」

「それは確実です。」

「なら良かった。」

 

桐島がわざわざ聞いた理由は「アクラ級が原子力潜水艦」だからだ。

仮に敵が攻撃して,我々が反撃して撃沈したとする。もし相手が原子力潜水艦なら当たり場所が悪ければそこから放射線が海に広がり(汚染され)深刻な問題へとなってしまうからだ。

そうなって仕舞えば例え朱雀列島を取り返しても日本いや世界中から非難を浴びる事になってしまうのだ。

 

それだけは絶対に避けたい桐島はわざわざ聞いて確認したのだ。

 

「・・・最初は潜水艦が相手か。」

「会議の通りだったな。」

「艦隊に対潜警戒は出したんだろうな?」

「はい。陣形はどうしますか?」

「艦隊を輪形陣から単縦陣に変更しろ! 各艦に通達しろ。」

「了解しました!」

 

約10分後「DDG-175 みょうこう」を先頭に11隻が一直線に並び,空にはあまぎ・かつらぎ・ひゅうが・あそ・たかちほの各艦から発艦したSH-60JとKが哨戒についていた。

 

「奴らがもし魚雷(シクヴァル)を持っていたら射程はおよそ15km。後たった5kmで射程圏内にへと入る。」

 

水上の言葉の通り,シ連の潜水艦に装備されているVA-111(シクヴァル)は射程は最大15km程だが200ノット(370km)の高速で迫って来るために,通常魚雷の感覚で行ってしまえば易々と撃沈されてしまう。

 

『艦橋よりCIC。桐島艦長応答願います。』

「桐島だ。」

『艦長。ヘッドセットをお願いします。』

「分かった。」

 

桐島は通信機を置いてヘッドセットを掛けて通信を行った。

 

「副長。わざわざヘッドセットとは,何か大事な話か?」

『ええ,大事な話ですよ。』

「・・ちょうど俺も話そうと思ってたさ。」

 

こういう時は息が合う艦橋の長瀬とCICの桐島は真剣な顔をして話続けた。

 

『艦長は奴等が射ってくると思いますか?』

「・・・あり得ない(・・・・・)だろうな。」

『やはりですか。』

「ああ,おそらく奴等が狙っているのは・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「我々からの攻撃(・・)だ。」』

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

第2機動部隊から約20km地点の海中270m付近に鮫こと第17潜水艦旅団所属キロ級潜水艦

「B-187 コムソモリスク・ナ・アムーレ」

「B-190 クラスノカメンスク」

「B-274 ペトロパブロフスク・カムチャツキー」

「B-603 ヴォルホフ」

4隻が鶴が羽を広げた形の鶴翼陣に展開していた。

 

その内の1隻「B-190 クラスノカメンスク」に乗艦している第17潜水艦旅団司令 バレル・チェルベア大佐はソナー手の傍にいてじっと画面を見つめていた。

長い時間見つめている為にソナー手は仕事がやりずらそうに見える。

 

「動きはまだですか?」

「ああ,奴等は来てない。」

 

艦長と第2機動部隊の様子について普通に話してるが,実はこの時艦長が心は揺らいでいた。

 

(第2機動部隊が真上を通過するまであと20分。それまでにお前らが射たないと我々の負けだ。)

 

あくまでも第17潜水艦旅団の目的は“第2機動部隊からの攻撃を受ける“事である。

シ連からではなく,日本側から攻撃したとなるとそれは日本国憲法に違反する行為となって,国内を混乱させる事が可能で,更にシ連側も攻撃の大義名分を掲げる事が出来る為にこの任務は重要だった。

 

しかしもし第2機動部隊が攻撃せずに通過したとなると,それは作戦の失敗を意味しており,シ連の大義名分は全て消し飛ぶ事となる。

 

それだけは避けたいバレルは行動に移った。

 

「艦長。魚雷発射管を開いてくれ。」

「・・・・・は?」

「奴等に脅しをかける。その為には我々が狙える準備が整っていると宣言しなければいけないのだ。」

「では。 1・2番魚雷発射管注水!」

『注水開始!』

 

艦長が命じると共にキロ級の1・2番発射管に注水が始まり,終わると魚雷の入ってない(・・・・・)魚雷発射管の外扉を開口した。

 

「しかし。魚雷の入ってない発射管を開けるとは思いもしませんでしたよ。」

「そりゃそうだ。元々発射管は射つためにあるのだから。」

「これで相手は動きますかね?」

「動くさ。銃の引き金に手を当てたのに動かない人はいないだろ?」

 

しかし,第2機動部隊が動く前に動く物がいた。同じ第17潜水艦旅団所属の「B-603 ヴォルホフ」だ。

 

「ヴォルホフ 魚雷発射管開口!」

「ヴォルホフもかこれで奴等は動かざる終えない。」

「ええ,・・・・・・!? ヴォルホフ浮上して行きます!」

「な!? 何を考えているんだ! VLF用意!」

「きゅ,急に言われても無理ですよ!」

 

VLFとは潜水艦が海中で通信を行う際に使う方法だ。しかしそのアンテナは非常に長い紐の様な形をしている為に咄嗟の通信は不能で,また他艦の近くでやってしまうとそのアンテナがスクリューに絡まって同士討ちをしてしまう可能性がある。

 

そんな方法で米潜を損傷させたロシアのサソリがいたという事は置いといて,海中ではそのVLFとELF以外の通信方法がほとんどないのだ。

 

そしてヴォルホフはバレルにとって最悪の流れを引き寄せてしまう。

 

「・・!? ヴォ,ヴォルホフ魚雷発射しました!?」

「な,なんてこった・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風は我々に吹いているようだな。」



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Episode.5 初の戦い

『敵潜魚雷4本射ちました!!』

 

SH-60J(シーホーク)からの通信が敵が我々への攻撃のトリガーを引いた事を知らせた。

 

「艦隊接触まで何kmだ?」

『凡そ10km! 10時の方向です!』

「全艦対潜戦闘! 1発も被弾するな! 敵潜の正確な位置は分かるか?」

『まだ不明です!』

SH-60K(シーホーク)は推定潜伏海域でジュリーを行え! 「みょうこう」「はつづき」も急行せよ!」

 

桐島の号令が発せられると当時に艦隊先頭の「みょうこう」と「はつづき」が魚雷が発射された海域へと向かう。

それに伴って上空のSH-60Kも2隻より早く海域へとローターを全開に回して向かう。

 

「CICより艦橋 長瀬副長へ。」

『こちら長瀬。CICどうぞ。』

「操艦をそっちに任せる。」

『ふっ・・海の中の扱いは海の人間に任せろってか。面白い! 魚雷に正対する! あまぎ・ながなみ取舵30°!』

 

長瀬が命じると共にあまぎとながなみが大きく左側へと向き,魚雷に真っ正面の位置につく。魚雷と真っ正面になるという事は,船の艦首を向ける為に被弾する可能性が極めて少なくなるのだ。

 

しかしそれは1隻だけの場合と言っておこう。今海中に潜水艦は4隻いるのだ。もし1隻だけに艦首を向けてしまったら他の船に側面を見せる事になり,魚雷を船の土手っ腹に受けて瞬く間に沈んでしまう。

しかし長瀬がその様なミスを犯す訳ない。

 

「かつらぎ・ふじなみは面舵30°! 残りは直進!」

 

艦隊はあまぎ・みょうこう・はつづき・ながなみとかつらぎ・ふじなみと残りという3つに分かれ,第17潜水艦旅団へと向かってく。

 

「「あまぎ」から「はつづき」へ。魚雷を艦隊から反らせろ!」

『了解! 自走式デコイ(MOD)発射用意!』

 

「はつづき」の右舷に設置されている細長い4本の筒が正方形の形に積まれている装置 MODが動き,右側を向く。約10秒程経ってからその発射管から4本の黄色に塗られた小型の魚雷状のデコイが発射された。

 

発射されると共に4連装の90式艦対艦誘導弾の脇に搭載されている投射型静止式ジャマー(FAJ)からも黄色いデコイに似た物を発射された。

 

FAJは敵の魚雷への音響的妨害を行う為のデコイで,海面で浮遊して妨害音を発して魚雷を妨害し,目標を見失った魚雷をデコイへと食いつかせるのである。

 

「デコイ4本魚雷へと向かって行きます!!」

 

想定通り敵魚雷はデコイに食いついたが長瀬は心であることを思っていた。

 

(これは我々のデコイと敵の魚雷のどちらが先に負けるかの勝負・・なのかな。)

 

デコイの方向に魚雷は行った為に今は心配ないがデコイの燃料が先に尽きた場合,魚雷は艦隊へと向かってくるからだ。

なお魚雷が先に力尽きた場合はそのまま沈む為に問題はない。

 

その間にも「みょうこう」と「はつづき」は「ヴォルホフ」の方へと向かい,それよりも先に到着したSH-60Kが「ヴォルホフ」がいると推測される海域にソノブイを機体側面のソノブイ・ランチャーから投下する。

 

ソノブイは投下されるとパラシュートを開き,減速しながら海面へと向かっていく。海面に接すると分解して海面に浮かぶフロート&通信アンテナと潜水艦を探知する送受波器に別れる。

 

投下されたのはCOSSソノブイで,全指向性の送受波器を有するアクティブソノブイだ。

因みにアクティブとは木霊の様に自分から音を出して跳ね返って来たのを受信するタイプで,一方のパッシブは耳の様に周りの音を聞いて受信するタイプだ。

 

桐島の言った「ジュリー」とは,敵潜の推定潜伏海域にソノブイを投下し,その円周状にもアクティブソノブイを投下し,ソノブイから発信した音の反響から敵潜の場所を特定する方法だ。

 

そのCOSSソノブイが深度170m付近にいる「ヴォルホフ」を捉えた。

 

『敵潜探知!! 深度170m! 本機より東340mの海域!!』

「「みょうこう」「はつづき」!! 対潜攻撃開始せよ!」

「・・・・・やはり攻撃するんですか。」

 

桐島の攻撃命令にCICのただでさえ高い緊張感が高まった。CICの要員はほぼ全員が画面を見つめながら顔がこわばった。

 

「奴等は自分から弾を撃ってきたんだ。相手に弾を撃つということは撃たれる覚悟があるという事だ。それに自衛隊はいつまでも受け身ではない,時には自分から攻める事も必要だ!!」

「海上警備行動はまだ発令されていません。その状態で攻撃を行えば自衛隊法に違反します!!」

「・・・・・・やはり自衛隊はどこも同じか。」

「??」

 

水上他CIC要員がじっと耳を澄まして桐島の発言を聞いた。

 

「戦後日本は大戦の悲劇を避ける為に日本国憲法第9条を作った。だが日本はそれで死について恐怖を覚えた。

“戦争になれば絶対死者が出る“そう恐れて自衛隊を厳しく抑えた。

だがそれはもし戦争になってもすぐ行動出来ずに逆に日本を悲劇に貶める事になる。そうなっては自衛隊の意味がないではないか!!」

 

水上達はこの言葉を黙って聞くしかなかった。

 

「海上警備行動が出てないからと目の前の脅威(潜水艦)を攻撃しないのは,目の前の傷ついた仲間を見捨てるのと同じだ!!

ここで奴等を追い払わなければ艦隊に被害が出て,傷つく隊員だって出てくる! それでもいいのか!?」

 

誰も口出しなんて出来ないと思っていた中,宇津木が話し出した。

 

「艦長。私はよろしいかと思いますが,せめて「みょうこう」と「はつづき」の艦長に聞くべきだと思います。」

「・・・・・それもそうか。「みょうこう」「はつづき」と繋げてくれ。」

 

それから1分も経たぬ内に通信が繋がった。

 

『こちらみょうこう艦長の館です。桐島艦長何かありましたか?』

「これから貴艦に敵潜への攻撃を命じたいのだが,貴方はどう思う?」

『私は桐島艦長の命令に従うd』

「いやそう言うのではなくて。」

『??』

「貴方自身がどう思っているのかを聞きたいんだ。」

『!!』

 

攻撃に対する自分の意見を問われた館は,一息おいて答えを言った。

 

『私は攻撃すべきだと思います。仮に攻撃せずとも敵潜は海域から離脱すると思いますが,絶対もう一回現れるでしょう。

もし攻撃を行えば敵潜は損傷もしくは撃沈(・・)出来ます。そうなったら他の船もそうは手出しできないと思います。』

「・・それが貴方の意見か。天空艦長はどう思う?」

『僕も館艦長と同意見です。』

 

二人の決意を聞いた桐島は薄く微笑みながらCICに叫んだ。

 

SH-60K(シーホーク)へ! 目標敵潜! 魚雷2本発射!」

『了解!!』

 

SH-60Kのウェポンベイから2本の短魚雷が投下され,海へと沈んで行く。

一定の深度につくと海中の「ヴォルホフ」に向けて先端を向け,一直線に向かって行った。

 

「「はつづき」も07式発射!! 「みょうこう」はRUM-139(VLA)発射用意! 但し命令があるまで撃たない様に!」

 

「はつづき」の前甲板のMk.41垂直発射システムのセルの蓋が開き,鮮やかな赤色の火を排出しながら07式垂直発射魚雷投射ロケットが発射された。

 

07式は前部弾体部に魚雷が搭載されている対潜ミサイルで,前部弾体部分を切り離した後,パラシュートで減速しながら海面へと魚雷を投下する。

 

魚雷は着水後,パラシュートを切り離して標的の潜水艦へと向かっていく。

 

そして第17潜水艦旅団にも動きがあった。

 

『敵潜魚雷発射! 我々の魚雷へと向かって行きます!』

「恐らくデコイだ! 注目してろ!」

『はっ! あっ!! 残りの艦も魚雷発射管開口!』

 

第17潜水艦旅団全艦が発射管を開いたという事は艦隊を射程に捉えた(・・・・・・・・・)という事である。

 

『「しらぬい」・「たかちほ」・「しもつき」面舵30°!!』

「各艦潜水艦に向け魚雷発射管を向けろ! いつまでも撃てる体制にしておけ!」

 

「しらぬい」・「たかちほ」・「しもつき」が面舵を切って第17潜水艦旅団にT字の状態になる。

各艦は68式3連装短魚雷発射管を左舷に向けた。

 

「・・・・どうか食いついてくれ。」

 

CICの誰かがそう祈る中,双方の魚雷が交錯する。我々自衛隊の魚雷はシ連の魚雷が向かう方へと向かって行った。

 

『敵魚雷に食いつきました!』

「「みょうこう」! VLA発射!!」

 

「みょうこう」の前甲板のMk.41VLSのセルの蓋が開き,RUM-139(VLA)が放たれる。仰角40°の角度で低高度に上昇したVLAは「ヴォルホフ」のいる海域へと向かっていった。

 

一定の地点で弾頭後部のロケット・モーターが切り離れ,海面に着水する。海中に潜ったMk.46短魚雷が「ヴォルホフ」へと高速で向かっていく。

 

「敵潜付近で自爆させろ!」

『はっ! 魚雷自爆させます!!』

 

それから10秒も経たぬ内に「あまぎ」から約8kmの海域の海面に白色の高い水柱が盛大に上がった。

 

その勢いは上空のSH-60Kが急いで離脱する位の大きさだった。

 

『て,敵潜浮上してきます!!』

「艦長。どうしますか?」

「・・・・・・見逃してやろう。」

 

艦隊から約9km付近で水が巻き上がり高い波しぶきとなり,鯨の潮を想像させる。

その波しぶきの中から漆黒に塗られた鉄の鯨 887型(キロ級)潜水艦が浮上してきた。

その船体は複数の傷があり,所々にヒビも入っていて戦闘どころか潜航も不可能な状態になっていた。

 

「艦長。敵潜から通信です。」

「読んでくれ。」

「ええっと。「本艦は第17潜水艦旅団所属 B-603 ヴォルホフ。現在潜航不能。降伏も受け入れる。」だそうです。」

 

事実上の降伏とも受け取れる通信だったが,桐島は水上と話した通りの事を行った。

 

「「ヴォルホフ」に通信。「我々は貴艦を見逃す。貴艦の母港へと帰還せよ。」とな。」

「了解しました。」

 

「ヴォルホフ」への通信が行われ,約5分後「ヴォルホフ」は母港のあるウラジオストク方面に浮上したまま向かって行った。

 

その後第17潜水艦旅団 3隻も静かに海域から離脱して行った。




学校始まったので更新が遅くなります。

申し訳ありません。


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Episode.6 知り始める人々

第2機動部隊と第17潜水艦旅団が戦闘を行っていた頃。

 

東京都大田区の羽田空港第3滑走路に1機の機体が着陸した。

白い機体に青いライン。エンジンは機体後部に2基設置され,水平尾翼は垂直尾翼の最上部に取り付けられており,会社の社長が乗るようなビジネス機を想像させる。

 

この機体は航空自衛隊所属のU-4多用途支援機。民間のガルフストリームⅣの自衛隊仕様で,主に総理大臣等の移動の際に使用される。

 

そして今回も内閣にとって重要な人物を乗せて沖縄県那覇市 那覇空港から飛んできたのである。

 

U-4は第3滑走路からトーイングカーに誘導されてスポット V1へと向かう。

 

機体の停止位置に着くと機体左前に設置されたドアが開き,機体内蔵のエアステアが自動で展開され,タラップの下には漆黒に塗られたトヨタ・クラウン S22#型が後部ドアを開けて待っていた。

 

U-4のドアが開き,中から40代くらいの中年だがカッコよさを持った男性と,眼鏡をかけまるで秘書のような感じを醸し出している女性が現れた。

 

二人はタラップを降りて,クラウンへと乗り込む。乗り込んだのを確認するとドアが閉められ,クラウンは動き出す。

 

男性の名は安川孝之。鈴村のキーパーソンの一人で外務大臣を勤めている。彼は朱雀列島侵攻の前日 23日に沖縄県に飛び,1月18日に尖閣諸島沖で発生した中国軍艦船による領海侵犯事件の対応を現地調査する予定だった。

しかし,シ連が朱雀列島に侵攻したとの情報を受け急遽U-4で帰還したのだ。

 

「しっかし面倒な事になったもんだ。なんでこんな時期にシ連が朱雀列島に侵攻するなんて。」

「戦いなんて始まるタイミングなんて分かりませんよ。偶然今日だったというだけですよ。」

 

安川に冷静に声をかけたのは外務事務次官の三崎霞。24歳の若さながらその優秀さで外務事務次官へと登り詰めた外務省きってのエリートだ。

 

「君はそうやっていつも変わらないねぇ。」

「私は常にどの様なことにも対応出来る様にしているだけです。」

「固いなぁ~。そんなだとお婿さん貰えないよ。」

「貰えなくても良いですよ。それよりも大臣。早く官邸に報告した方が良いと思われます。」

「それもそうだな。」

 

三崎に促されるがまま安川はスーツのポケットからスマホを取り出し,電話をかける。

宛先は勿論官邸だ。

 

安川が電話をしている最中三崎は,自分の鞄からノートパソコンを取り出し,キーボードを叩いて画面を操作する。

 

「はい・・・・はい・・・・・・分かりました。あと20分位で着くと思います。それでは。

官邸は朱雀列島の事態を電話塔の故障(・・・・・・)と発表する様だ。」

「また強引な手をとりますね。国民にばれたらどうするんでしょうかね。」

「恐らくばれるまでに済まそうという沙汰だろうな。」

「そう簡単にシ連が終わらせてくれると思いませんがね。」

「それはやってみないと分からないさ。」

 

二人を乗せたクラウンは東京の摩天楼(高層ビル群)を走って行く。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

朱雀列島攻撃が始まってから約11時間後の東京都千代田区の高層ビルの3階にある新聞会社。いや正確にはネット新聞会社と言った方が良いだろう。

 

国内でも有数のネットニュース会社 OREjournal。そのオフィスの扉を1人の女性が手にコンビニの袋を下げながら開けた。

 

「編集長。お昼買ってきました!」

「おう! そこに置いといてくれ。」

 

編集長と呼ばれた男がこのOREjournalトップ 荻窪大介。

そして彼の事を編集長と言った彼女はOREjournal記者の瀧川沙織。

OREjournalでも有数の記事を書くエリート記者だ。

 

「編集長。言われた通り焼肉弁当買ってきましたよ。」

「済まないねぇ急に頼んじゃって。」

「いえいえ大丈夫ですよ。

ですがいつもは自分で買う編集長が今日はどうしたんですか?」

「瀧川。これを見てくれ。」

 

荻窪の操作していたパソコンの画面を瀧川は隣から見る。画面にはこう書いてあった。

 

「“朱雀列島の電話塔が故障し,通話不能。復旧には一週間かかる。“これって。」

「ああ,政府からの発表だ。」

「これを見てくれって私もちゃんとスマホで見ましたよ。」

 

先程官房長官 大洋が記者会見で発表した“朱雀列島との通話が不能“というニュースは瞬く間に各種報道機関に取り上げられ,瞬く間に日本中を駆け巡った。

勿論それはこのOREjournalも同じだ。

 

「瀧川。政府によると電話塔が故障したとなってるな。」

「ええ,勿論です。それがどうしましたか?」

「じゃあこれを見てもか?」

 

荻窪がパソコンを操作し画面を変える。荻窪が写し出した画面は“Twitter“で,朱雀列島という言葉で何件もの投稿が上がっていた。

その内容はというと

 

『俺日本海沿岸に住んでんだけどさ。さっき家の近くの浜に漁船が流れ着いて,人が要るっぽかったから近くに行ったら,「戦争が始まった!!」とか言ってきてね。でその人は朱雀列島からやって来たらしいんだ。

みんなどう思う?』

『戦争ってマジな話!?』

『いやでもまだ情報が少なすぎるから断定は出来ない。』

『まじか~戦争になったら俺の街攻撃来たりするのかな~ww』

『えぇ~!? もう最悪なんだけど!? ゆーたんまだ死にたくなぁ~い!!』

『もし戦争だったら相手は何処なんだろうな? まあ自衛隊が倒してくれるよ。』

『戦争なんて絶対にいや!! 皆さん戦争に反対しよう!!』

 

「・・・・・・これって・・」

「どうやら話題は電話塔じゃ無いみたいだ。」

「で,でも政府は電話塔の故障だっt」

「これを見てもか?」

 

瀧川の見た画面に写っていたのは漆黒の空を優雅に飛ぶSu-33の写真だった。

 

「これシ連機ですか!?」

「そうだ。シ連海軍のSu-33 艦上戦闘機。通称フランカーD。」

「か,海軍!?」

「こいつは艦上戦闘機。つまり空母から発進する。言ってしまえばF-35JCと同じだ。」

「F-35JCと同じ?・・・・・・・・!?」

 

この時瀧川の頭をある予感が横切った。

 

「ま・さ・か。シ連の機動部隊が朱雀列島に向かってるって事ですか!?

「声でかい!」

 

瀧川の発言に周りの社員全員が注目する。二人は目をキョロキョロして焦った。

 

しかしそんな状態はある男で解消された。

 

「編集長! ただいまもどr あぁ!!」

「進一~。全く何やってんだ。こんな段差で転けて。」

 

扉の段差で躓き転んでしまったのはOREjournal 記者の木戸進一。瀧川には及ばないものの,journalを裏から支える一人だ。

 

「すいません編集長。急いでたもんで,例の写真とか見っけて来ましたよ。」

「本当か!! よし瀧川! 移動するぞ。」

「瀧川さんも連れていくんですか?」

「エリート記者を舐めない方が良いぞ。」

 

編集長含め三人はオフィスから壁1枚隔離された部屋へと移動する。

移動を終えると木戸は持っていた茶色の封筒から何枚もの写真を机に出した。その写真はどれも護衛艦や自衛隊機の写真だった。

 

「編集長これであってましたか?」

「200点満点だ。で横須賀基地についてはどうだった?」

「外から見ても分かるぐらいに車とトラックが行き交っており,とてもドタバタしているようでした。」

「車やトラックは民間のではないな?」

「はい! ちゃんと調べましたもの!!」

 

話している二人を横目において,瀧川は写真を取った。彼女の写真には横須賀のヴェルニー公園から撮ったと思われる護衛艦 こんごう型イージス護衛艦が写っていた。

 

こんごう型イージス巡洋艦は世界で2番目のイージスシステムを搭載し,かつ海上自衛隊初のイージス艦でもある。

彼女(こんごう型)の特徴は前甲板のオート・メラーラ 127mm砲で,これを装備している海自のイージス艦はこんごう型だけである。

 

横須賀基地には太平洋防衛を行う第1機動部隊と,首都東京防衛を行う第6護衛艦隊が配備されている。

 

写真に写っているのは第6護衛艦隊所属の「DDG-173 こんごう」で,第6にはもう1隻「DDG-177 あしがら」も配備されている。

 

「編集長これは?」

「見ての通り海自のイージス艦だ。どうやら出航準備中らしい。」

「分かるんですか?」

「進一。港の動きはどうだった?」

「まるで落ち着きがなく,とても急いでいる様な感じでした。」

「このように海自の各所港が急に慌ただしくなり始めたんだ。」

「急にですか?」

「ああ,今朝からだ。」

 

編集長が手に取った写真は横須賀ではなく呉・舞鶴・佐世保の港の物で,それはどれも落ち着きを失っているように感じられる。

その中でも一際際立って落ち着いていないのが,

 

「・・舞鶴・港」

「舞鶴は日本海の防衛の要として昔から重要視されている。今はいないが第2機動部隊の母港さ。」

「日本海・・・・・自衛隊・・・・・朱雀列島・・!?」

 

この瞬間瀧川の頭が何かが思い付いてしまったらしい。

 

「編集長!! 申し訳ながらも考えを言っても宜しいですか?」

「どうやら気づいたみたいだな。」

「朱雀列島の電話塔故障とほぼ同時に自衛隊も慌ただしくなった。これはほぼ同時なのは明らかにおかしいです。

つまり今朱雀列島では電話塔故障として隠さないといけない位の緊急事態(・・・・)が起こっていると。」

「おそらくそうだろうな。で相手は多分シ連だろう。」

「ですがこんな事があるんですか?」

 

彼女の推測は正解だ。

朱雀列島にシ連が侵攻という緊急事態に日本政府と自衛隊は慌ただしくなっており,そんな状態で国民に情報が伝われば国内のすべてが混乱する事は間違いないだろう。

 

そんな最悪の事態を避ける為にこの事態をあえて報道してないのだが,現代はネット社会。ネットから様々な情報が黙っていても流れてくる。

中にはデマ情報もあるのだが,時にテレビ等が報道しないような情報も流れてくるから油断出来ない。

 

現に今ネットの話題は朱雀列島についてだが,時々いる推測民は流石としか言い様がない。少なすぎる情報で様々な推測を行い,中にはぶっ飛んだ物もあるが,真実を正確に捉えた物もあるためその凄さには脱帽する。

 

話がずれたがこんなにも少ない情報でここまで考えれた瀧川を評価したい。

しかし彼女は不安な様だ。

 

「自分で言ってなんですが本当にこんな事が起こってるんでしょうか? たまたま朱雀列島の電話塔故障と自衛隊の緊急事態が偶然にも重なっただけなんて事もありますし。

それにまだシ連との関わりなんて全く証拠がありませんし。」

 

そんな不安そうな様子を醸し出している瀧川に大窪は1枚の写真を見せた。

 

「これって民間のビジネスジェットじゃないd・・・!?安川外務大臣!?」

 

写真に写っていたのは羽田空港スポット V-1に止まるU-4から降りる安川外務大臣だった。

進一はここまで撮ったのか!! と思いだがこの写真は他の人が撮ったのを許可を貰って印刷したもので彼の写真ではない。

 

「えでも待って下さい!! 安川大臣は確か23日から那覇の方に行ってましたよね? なんでこんな早くに帰ってきたんですか?」

「要は外務大臣が出なければいけない事態が発生したのだろう・・・・・な。」

「外務大臣って事は外交・・・・・・・ま待って下さい!?」

「気づいたみたいだな。朱雀列島の電話塔故障・自衛隊の緊急事態・外務大臣の緊急帰還この事が偶然重なると思うか?

こんなあり得ない事が同時に起こってるということは何れかが繋がっている見ていい。もしかしたら全部繋がっているかもな。」

 

大窪の言っていることは大正解だ。全てが繋がって真実へと導かれるのだが,この事に早く気が付いた編集長は天才なのかもしれない。

 

「編集長この3つが重なる可能性が最も高い事態って?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・シ連による朱雀列島侵攻。」

「おそらくそれが一番だろうな。だがまだ確信がない。木戸お前は舞鶴の第2機動部隊について,瀧川は政府の様子について調べて報告するように!!」

「「分かりました!!」」

 

二人は大きな返事をすると編集長室のドアを開け,勢いよく外へ飛び出して行った。

1人残った大窪は自分以外聞こえるか分からない位の声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どちらにしろ大変な事が起こったな。第2機動部隊(あんたら)がどう動くか見せて貰うよ。」




本文の一部が消えて萎えていた為遅くなりました。申し訳ございません。

あとタグを数個追加しました。


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Episode.7 2人の言い訳

日本時間午前8時丁度。朱雀列島蘭島 朱雀警備隊司令部

 

正確には司令部跡地だ。司令部の窓ガラスはほとんどが割れており,壁や天井も弾痕でボロボロになっている。

その室内にはシ連製のアサルトライフル AN-94で武装した兵士に監視されている朱雀警備隊の主要幹部がいた。

隊員達は全員落ち着いている。彼らの手は縄で縛られており,簡単にはほどけない。仮にほどいたとしてもAN-94 の銃口から5.45x39mm弾を食らって生き延びれる保証はないからかもしれない。

 

そんな事で待っていると司令部のドアが開けられた。豪快に空いたドアからロシア人らしく図体が大きい人物を中心に約10名位の人物が入ってきた。

 

10人組は隊員達の目の前にドンと立つ。その中でも一番図体の良い人物が隊員達を上から眺めた。

眺め終わると隣に立っている眼鏡の仕官に小声で話し出した。

 

「あなた方がこの列島防衛の自衛隊員ですか?」

 

その流暢な日本語に自衛隊員達は驚くも,直ぐに答えを返した。

 

「ああ,朱雀警備隊長の北西(きたにし)だ。ここには朱雀警備隊の幹部全員が揃っている。」

「本当に全員ですか? 誰か逃げ出したりしてるのではないのか?」

「もし疑うのならその辺りに警備隊全員の名簿がある。それで確認すればいいんじゃないか?」

 

単純な事を言った北西に対してロシア仕官はボロボロになったファイルを目の前につきだした。

 

「確認しようにもその名簿がこんななんでな。あなた方の話しか確認のしようがない。」

 

この発言に北西は戸惑いながらも話し出した。

 

「ここにいるのが全員だ。もし疑うのであるのなら全員に聞いてみてはどうだろうか?

私達は全員の顔を知っているからな。」

 

シ連仕官は北西の顔をじっと見つめ,ため息をつき,隣の図体のいい仕官と耳打ちで話し出した。

北西も聞こうとしたが,小声で話していた事とシ連兵士に睨まれた為に諦めた。そもそもロシア語で話している為,内容は分からなかっただろう。

 

「そこまで言うのならそうなんだろうな。その事を追求するのは止めとこう。

 

これからあなた方はシ連の監視化に入って貰う。もし変な動きをしたら即銃殺だ。いいな!!」

 

北西達は頷く。そもそもこの状態では頷くしか方法がないだろう。

 

「では収容場所まで来てもらおう。早く立ってくれ。」

「その前にちょっといいか? 何ちゃんと立って話すさ。」

 

北西はシ連兵士の手を借りて立つ。北西とシ連仕官の身長は約5cm程違う為に北西が見上げる形になった。

 

「なんだ? 質問なら手短にな。」

「手短にはならないが質問だ。この島いや列島の住民は全員無事か?」

 

真剣な目で北西が聞きたかった一番の事を聞いた。

 

自衛隊というのは戦闘から国民を守り,少しでも国民を助ける為にある。もしそれが出来なかったら,自衛隊は存在の意味を失ってしまうからだ。

 

シ連の攻撃を受けた蘭島含む朱雀列島では恐らく激しい混乱が発生しているのは間違いないだろう。

そんな混乱で神経を磨り減らした島民達は同じ島民同士で問題を起こしていないのだろうか?

 

それが北西の一番知りたかった事だった。

 

 

 

 

「それに関しては問題ない。約100名程が逃走し,約20名が混乱で怪我をしただけで,死者はいない。

 

これでいいか?」

 

「ああ,何一つ問題はない。ありがとうな。あ,最後にあんたの名前を聞きたいんだがいいか?」

 

足早に去ろうとした仕官は振り替えって北西に向けて話した。

 

「私はシ連陸軍中佐レアル・ストラータだ。覚えて貰えなくても結構だ。

それとこっちからも1つ。後々司令部を攻撃したパイロットが謝罪に来るそうだ。あの攻撃は通信塔破壊するだけだったそうだ。」

 

そう言い残して,レアルは去っていった。

 

司令部の外には一門の機関砲を装備し,履帯の足回りを持ち,まるで戦車と思わせる車両 BMD-4が止まっている。

 

BMD-4は空中投下可能な歩兵戦闘車(IFV)で,占領時にIl-76から蘭島に3両,飛鷹島に4両・多千穂島に2両が投下されたのだ。

 

その奥には北西らと同じようにして拘束された自衛隊員らがおり,捕まっているにも関わらず静かに歩いていた。

 

その様子を見つめていたレアルに声がかかる。

 

「レアル。ここにいたのか。」

「ユラージ司令。何かありましたか?」

 

シ連陸軍中将 ユラージ・コラチョフ

 

シ連陸軍第3軍司令で,先程言っていた図体の良い人物とは彼の事である。

 

「先程の自衛官の話だがあれは信じられるか?」

「先程の話とはどの内容の話ですか?」

「ああ,ここの隊員はこれで全員だという話だ。参謀はどう思う?」

「私はあり得ない(・・・・・)と思います。」

「やはりか。」

 

レアルは冷静に理由を話し出す。

 

「いきなりの攻撃に流石の日本でも混乱するでしょう。その混乱の最中に恐怖心で逃げ出す兵士も1人はいると思います。奴等はその様な兵士は1人もいないと言ってましたが,恐らく逃げ出した兵士達を庇ったのではないでしょうか?」

「庇ったのというのはおかしいのではないか?」

「言い方が悪かったですね。逃げ出した兵士達を隠した(・・・)のではないでしょうか?」

「隠したといってもこの島には隠れる場所なんてほとんどない。別の島に隠したのか?」

 

蘭島は前も書いたかもしれないが,基本的に平坦な島で,一番高い場所で約28m程の本当に平らな島だ。

それに加えて蘭島は島のほとんどが住宅や店舗で覆われており,隠れられる様な森林はほとんど存在しない。

 

仮に住宅に隠れようとしても,シ連兵に見つかる可能性が高く,森林に隠れたとしても森林の規模が小さい為に直ぐに囲まれ,全滅する事は間違いないだろう。

 

そうなると自動的に蘭島から脱出という考えが浮かぶだろう。

 

「奴等が向かった島か・・・・・参謀はどう思う?」

「恐らく飛鷹島か多千穂・端樹・日北・玉瀾島のどれかでしょうがどの島かは分かりません。」

「まあいつか分かる事だ。仮に戦闘になっても抑えられるだろう。それに彼ら(・・)も来ることだし。」

 

話が終わったと判断したレアルは次の話に話題を降った。

 

「司令。1つお聞きしますが島民達はどういう状態ですか?」

「ここの島民達はとても落ち着いている。不気味さを感じるよ。」

 

実際拘束された島民達はほぼ全員が落ち着いてシ連軍の指示に従っている。

シ連側から見ると一切逆らう気がない為に気が楽かと読者は思うが,実際のところ逆にこっちの方が怖いのである。

 

ある土地を占領する場合,普通ならば土地に住む住民らによる抵抗があるのはほぼ確実だろう。

 

それが今回は一切無かったのだ。その様な場合は住民らを重度に警戒するのは当たり前だろう。

 

上述の事から島民らの警戒にあたっている兵士達は恐らくだが物凄いストレスを感じていると思うだろう。

 

「確かにそうですね。ですが抵抗しないからと油断しては行けませんよ。

司令は元という国を知ってますよね?」

「昔のモンゴルだったか?」

「正確にはモンゴルの中国の名です。」

 

元とは13世紀から14世紀まで存在した世界最大の帝国モンゴル帝国の一部で,その支配範囲は東アジアから北アジアまでに及んだ。

そんな元には朝鮮こと高麗も隷属したが,唯一隷属せず逆に撃退した国があった。

 

「それが・・・・日本か。」

「ええ,2回もの元の侵攻を防ぎきり東アジアで唯一元に隷属しなかった国です。

その血はこの島々の人々にも受け継がれています。今は大人しく従ってますが,いつ我々に反旗を翻すかは分かりません。」

「どちらにしろ面倒な事を受けてしまったな。」

「ですがこれが終われば司令は大将への進級です。それを期待して頑張りましょう。」

 

そう言って二人は仮の司令部である島の役場へと向かって行くのであった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

蘭島から西南に約15kmの位置に位置する飛鷹島。ここには民間の飛鷹島空港・航空自衛隊の飛鷹島基地がある重要な島だ。

 

「・・・・・・・・・・Il-76(キャンディッド)

 

飛鷹島基地に白い翼を棚引かせながら着陸したシ連空軍所属の輸送機Il-76 NATOコードネーム キャンディッド。

Il-76は日本ではほとんど見られない四発の輸送機で,他に見れるのは米空軍のC-17 グローブマスターⅢ位だろう。

 

そんな機体が約7機連続して着陸していく。輸送機が7機も連続して着陸とはどんなにカッコいいのやら。

 

しかし此処は戦場。魚島達(彼ら)にそんな事を考える余裕はなかった。

 

「合計9機。今来た機体にはたっぷりと物資が積まれているんだろうな。」

「良いですね~隊長。あれうちらも使えますかね?」

「お前がもしロシア語を読めたならな。」

 

話しているのは蘭島を脱出した魚島と常盤だ。漁船に乗せて貰ってそのまま飛鷹島東側の砂浜海岸に下ろしてもらい,その後彼らは山中に隠れて身を潜めたのだった。

 

彼らの総員は約30名。こんな少数では島奪還なんて夢のまた夢だ。それならば「機会が来るまで待とう」と生き延びる為のサバイバル体制を整えているのである。

 

「しかし彼奴ら直すの早いですね~。1時間位前まで直していたのに。」

「恐らくだがあの揚陸艦から下ろした機材で直したんだろうな。全く恐ろしいな。」

 

“あの揚陸艦“とは先程飛鷹島の北東部の港 飛鷹港に到着した「BDK-91 オレネゴールスキイ・ゴルニャーク(以下ゴルニャーク)」の事で,ゴルニャークから下ろされたトラック4両と各種兵員・自衛隊が残した機材等を用いてSu-33に破壊された滑走路を使える位に直したのであった。

 

その結果先程から輸送機等が着陸しており,もしこのまま続くとこの飛鷹島がシ連の重要拠点になるのは間違いないだろう。

 

その時,上空から独特な音が聞こえ始めた。

 

その音はジェットエンジンとは全く違う回って風を切っているかの様な感じで,それに上空を飛ぶ飛行機とは明らかに高度が低すぎる。

 

魚島は感じとった。

 

(これはヘリコプターの音だ。しかも我々と相当近い!)

 

そして取った行動が彼らの命運を分けたのだった。

 

「常盤伏せろ!! ヘリが来る!!」

 

二人が地面とほぼ同じ高さになって,身を潜めていると約20m位上を1機のヘリコプターが通過した。

 

ヘリコプターの形状はいつも見るような丸い形を一切しておらず,全体的にかくばっており,無骨な印象を見てる者に与える。

またコックピットの下には細長い銃身が装備され,その機体が攻撃用だと示している。

 

Mi-28N(ハボック)・・・・・・」

 

Mi-28N NATOコードネーム ハボック。

 

Mi-24(ハインド)の後継として開発され,一時は不採用になるもミリ波レーダーを搭載したタイプが陸軍に採用され,現在はシ連陸軍の主力ヘリとして各種戦場に顔を出している有名な機体だ。

 

「攻撃ヘリまで来るとは奴等も本気だな。」

「ですけど中隊長。あのヘリってここまで飛べますかね?」

「多分だがあの揚陸艦に着陸して給油したんじゃないのか?」

 

Mi-28Nの航続距離はおおよそ460km。シ連の最南端の都市 ウラジオストクから朱雀列島までは約500km。たった約40kmではあるが届かないのである。

 

しかし朱雀列島の周りには機動部隊。そして彼らは知らないが日本海には多数のシ連海軍艦船が航行している。

その艦船に着艦して燃料補給を行えば何とかして辿り着けるのである。

 

その為に航続距離の短い機体でもこの列島に辿り着けるのである。

 

但しヘリ等限定だが。

 

Mi-28N(ハボック)が飛行場の方に向かうと草影が揺れる。

魚島と常盤が懐から9mm拳銃をゆれた方に構える。

 

「中隊長!!」

 

出てきたのは仲間の自衛官 豊島1等陸曹だった。

 

「豊島か~。びっくりさせないでよ。」

「すいません。声をかけようとしたら奴等のヘリが飛んできたので。」

「私を呼んだからには何かあったのか?」

「はい。定期警戒中の隊員から仲間を見つけたという報告が入りました!」

 

豊島のこの発言に二人は沸き立った。

 

「何!? 別の隊員もこの島にいると言うのか!? その隊員の元へ今すぐ連れていってくれ!!」

「了解!! ついてきて下さい!!」

 

豊島を先導にして2人は森林を駆け抜ける。ちゃんとした道など1つもなく,草木を掻き分け,足場の悪い不安定な地面をその足で踏んで進む。

5分ぐらい経つと彼らが拠点にしている洞窟が見えてきた。洞窟の入り口に立っている隊員が敬礼をし,2人も急ながら敬礼を返す。

 

洞窟を入って直ぐの場所にその仲間は座っていた。

 

「中隊長。彼らが森林にいたところを我々が発見して,この洞窟に連れて来ました。」

「よくやった豊島。・・・彼らは航空自衛隊か?」

「はい。その様に話しております。」

 

彼らの服装はグレーの迷彩が施された作業服(改)を着ているが,重い装備は全て外されており,“直ぐに脱出しなければいけないから重いものは捨てていく“という焦った様子が優に想像できる。

 

魚島が彼らに近づくとその中の1人が急に立って,魚島の胸ぐらを荒々しく掴み叫びだした。

 

「何故お前達は逃げて来た!? 何もせずに奴等に島を渡すというのか!!

お前達は何で戦わなかった!? お前達が戦ってれば島を奪われずにすんだかもしれないんだぞ!!」

 

急な暴言に周りの隊員達は慌て始めた。状況がよろしくないと感じた常盤が急いで魚島と胸ぐらを掴んでいた隊員を引き離した。

 

「君落ち着いて!! この人は警備隊の中隊長だよ! 君は礼儀というのを知らないの!?」

「そういうあんただって1発も銃弾を撃たずに奴等から逃げた。それでいいのか!?

この島と島民達を守るのが我々自衛隊の役目だ!! それを放棄して自分達だけ助かるとかどういう事だ!?」

「それは違う!! 俺達は奴等から島を取り戻す為にあえて逃げてk」

「そんなの言い訳だ!! “島を取り返す為に逃げる?“子供でも分かる位に矛盾している!

そんな為に逃げるのなら奴等から島を守って清々しく戦死すればいいのに!!」

「今の発言はどういう事!? 納得出来ないけど!!」

「2人とも一旦落ち着け!!」

 

白熱し始めた2人を魚島が止めに入る。

 

「そんなに騒いでも何も変わらない! 水でも飲んで落ち着け!

それと君の名前を聞いていなかったな。名前と所属と階級は?」

「航空自衛隊 第11航空団 308飛行隊所属 2等空尉 妙高恵哉。」

「では妙高2尉。あなた方は何故ここに来たのだ?」

「・・・・・・・・基地空襲から逃げて来たんだ。」

 

妙高は俯きながらボソボソと呟いた。

 

弱々しい声で呟いていたが,いきなり顔を上げ魚島へ叫んだ。

 

「俺達はは戦う事が出来なかったから,逃げて来たんだ!!

お前達のように戦えるのに逃げて来たのとは違う!!」

「君の言ってることも矛盾しているぞ。

例え恐怖で逃げ出したとはいえ,基地には一丁位銃はあるだろう。それで戦おうとは思わなかったのか?」

 

魚島が鋭い言葉をぶつけるが妙高は更に叫んだ。

 

「お前達は何もせずに逃げた!! 俺達は空襲の前にF-4EJ(ファントム)を離陸させた! お前達とは違う!!」

F-4EJ(ファントム)を離陸させた?」

 

初めて聞く発言に魚島や常盤らは顔を見合わせた。

 

「知らないのか? 日北のレーダーサイトが破壊された後308飛行隊のF-4EJ(ファントム)が2機スクランブルしたんだ。

その後も残りの4機も離陸させようとしたんだが,滑走路が破壊されて飛ばせなかったんだ。」

「それでその飛んだ2機はどうなったの?」

「・・・・・・・・恐らくだが落とされただろう。40年ものの旧式だったしな。」

 

その瞬間洞窟内は静寂が支配した。その静寂を破ったのは魚島だった。

 

「・・・仮に落とされたとしたならそのパイロットはどうなったんだ?」

「・・・・・・まだ分からない・・・・・」

 

たった七字の言葉で再び洞窟は静寂に包まれた。しかし今回の静寂は今までのとは明らかに重かった。

自衛隊で初の戦死者(・・・)が出たかもしれないという残酷すぎる事態に全員が混乱を隠しきれていない。

 

そんな中でも妙高は叫んだ。

 

「戦えるのに奪回の為と言って逃げて来たお前達とは違って! こっちは可能な事は行ってから逃げて来たんだ!!

こっちは死者が出てるかもしれないというのに!! お前達なんかと一緒にするな!!」

 

妙高の思いに言葉をかけることの出来る人物はこの場には誰もいなかった。

そんな事はお構い無しに妙高は叫び続ける。

 

「あんたたちが逃げるとか言っている内に死者が出た! 命を捨ててまでもこの島を守った人間と命を捨てるのが怖いから逃げて来た人間のどっちが正しいかなんて一目瞭然だ!!

俺達はそのパイロットの意志を受け継いで来たんだ! 」

「ちょっと待ちたまえ。君の言葉には矛盾がある。

パイロットの意志を受け継ぐと言ってるが,まだパイロットが死んだとは分からない。

それに逃げたという事に関しては我々も君達も同じだ。理由は違けれど我々は同士なのだよ。」

「だからどうした!! 守るために頑張った人の後をついで何が悪い!!

それに死んだのはそいつだけじゃない!! AH-1S(コブラ)のパイロットもだ!!」

「!?」

 

AH-1S コブラ

 

ベル・ヘリコプターが開発した世界初の攻撃ヘリコプター。

 

世界中に攻撃ヘリコプターという新しい機種を産み出したこのAH-1の日本版 AH-1S(コブラ)

 

現在はAH-64D(アパッチ・ロングボウ)等の配備で若干旧式にはなったものの,現在も陸自攻撃ヘリコプターの主力を担っている。

 

飛鷹島にはそのAH-1S(コブラ)が4機配備され,第7対戦車ヘリコプター隊を編成していたのだ。

 

「第7対戦車ヘリコプター隊の隊員達はどうなった!? AH-1S(コブラ)のパイロットとはどういう事だ!?」

「俺達はF-4EJ(ファントム)の後にAH-1S(コブラ)を出撃させようとしていたんだ。だが滑走路と格納庫が破壊され,1機だけになってしまったんだ。

それでもそのパイロットは出撃を望んだ。シ連の空挺部隊が降下した時に出撃して,戦車を1両撃破したのだが・・・・・携帯ミサイルで撃墜された。」

「・・・・・・パイロットは脱出したのか?」

「物凄く近い距離で撃墜されました。脱出する暇なんてありませんでした。」

 

彼らは絶望した。

 

今まで自分は自衛隊として隊員達を守っていると感じて行動していた。

 

誰も傷つけない。誰も死なせない。

 

それこそが自衛隊だと。

 

だが自分達の知らない所で隊員が死んだ。

 

皆を守ろうとして,皆を救おうとして死んだ。しかも自分達は今までそれを知らなかった。

 

 

 

 

 

彼らの思いは簡単に崩れ落ちたのだった。



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Episode.8 鷲 離陸

2024 2/24 12:21

新潟県 佐渡島 佐渡市 佐渡分屯基地

 

この基地は標高1042mの妙見山の山頂にJ/FPS-5固定式警戒管制レーダーが配備されている。

このレーダーサイトは朱雀列島を覆う範囲を索敵する事ができ,先程も飛鷹島に着陸するシ連機をここはしっかりと捉えていた。

 

そのレーダー画面を眺めていた歌島謙伍3等空曹は疲れていた。さっきから機体を表した光点を何十個も見ている為であった。

人間は単純な事やつまらない話を聞いていると眠くなるのは誰でも同じだった。

 

しかしその眠気は一瞬で吹き飛んだ。

 

何故ならレーダーの左上の端に現れた20以上もの光点を見たからだ。

彼は目を疑った。今までは最大でも5つ程だったのにいきなり20もの光点が現れたのだ。しかもその光点は今までの機体より小さく写っていた。

小さく写るという事はその機体が小さいか,機体がステルス形状をしている可能性がある。その2つが当てはまる飛行機が世界には存在するのかというと存在する。

 

 

 

 

 

 

 

戦闘機という機種が。

 

 

 

「大陸方面より多数の機体確認!! 光点の大きさから戦闘機と思われます!!」

 

この発言で室内はどよめいた。

 

「大陸からの増援か。歌島! 機数は何機だ!?」

「前後合わせて凡そ25機!! 前が15,後ろが10だと思われます!!」

「前後別れている? 何がしたいんだ?」

 

歌島らはレーダー画面をまじまじと見つめた。

 

前の連隊は朱雀列島上空へと差し掛かる。“このまま着陸するのか?“ その様な推測を彼らはしたが外れる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その連隊は朱雀列島上空を通過したのだった。

 

「そのまま通過した!? 奴等何をしようとしているんだ?」

「空中警戒にしても数が多すぎます。このままだと本土方面へ向かいます。

小松基地に連絡しときますか?」

「それがいいな。小松基地に連絡!」

 

隊員達は何処へ向かうか分からない光点を見つめる。一体何処へ行き,何をするのか。

隊員達には不安が募っていた。

そんな中,隊員の1人がある事に気づいた。

 

「ちょっと待って下さい。この連隊の向かってる直線上にあるのって・・・」

 

全員が光点の直線上の先を目で辿った。そして1つの答えに辿り着いた。

 

「まさか奴等の狙いは・・・・・佐渡分屯基地(ここ)か!?」

「もしここがやられると朱雀列島方面の探知が輪島でしか不能になります!!」

「小松に連絡!

敵戦闘機隊,佐渡を空襲する恐れ多し!! 至急航空隊派遣を要する!!」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

12:40

福井県小松市 航空自衛隊小松基地

 

この基地は民間と共同で使用しており,滑走路等も共同な為にスクランブルしようとしても民間機がいるために出来ないという何とも珍しい光景を見ることが出来るらしい。

 

作者は小松なんか行ったことない。というか北陸にすら行ったことない。

 

小松基地の施設内の会議室。

ここには第306飛行隊(ゴールデンイーグルス)のパイロット達が集められていた。

 

F-15Jのパイロット 咲田龍磨もその1人だ。彼は306で最年少のパイロットで,「小松一の秀才」と言われてるだとかなんだとか。

 

会議室の扉が開き,306飛行隊の隊長と第6航空団司令 橘州和空将補が入ってくる。

 

「敬礼!!」

 

副隊長の号令の元パイロット全員が立ち上がり,敬礼を行う。

 

「下ろしてよい。さて急に集まってもらった訳だが,これから橘司令から話がある。

皆しっかりと聞くように!」

 

306飛行隊隊長の 大門駿の言葉の後,州和空将補が隊員達の前の教壇に立った。

 

「なぜここにいきなり集められたか。皆さん分からないでしょう。

今から話すことは他言無用ですので気をつけて下さい。

 

本日午前1時。シ連が朱雀列島を占領しました。」

 

唐突な発言にパイロット達は動揺した。そんな中でも咲田は冷静に質問した。

 

「橘空将補。朱雀列島には308飛行隊が配備されていたと思われますが,どうなったのですか?」

 

橘は一息おいてから答えを言った。

 

「分かってる情報によると,6機中2機が離陸したものの撃墜され,残りの4機は離陸する前に滑走路がやられ,そのまま破壊されたとの事です。」

「・・・・・パイロットはどうなりましたか?」

「詳細不明です・・・・・・」

 

パイロット達の雰囲気は一気に重くなる。仲間を失うことは今までも事故等で何回かあった。

 

しかし今回は仲間が戦死(・・)したかもしれない。もしかしたら脱出(ベイルアウト)して助かっている可能性も捨てきれない。

 

だったら彼らの空気が重くなったのは何故かだが,理由は明確単純。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分がこれから誰かを殺すかもしれない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

人殺しという罪を犯してしまうかもしれないという事を察してしまったからだ。

 

そしてその不安は的中してしまうことになった。

 

「話が止まってしまいましたね。

先程佐渡のレーダーサイトがシ連機を15機程探知しました。恐らく戦闘機隊と思われます。

この部隊は佐渡のレーダーサイトを破壊する為に出撃したようであります。

佐渡が使えなければ朱雀列島奪還に大きな支障をきたします。

そこであなた方第306飛行隊に出撃命令が下りました。」

『!!』

「あなた方は浜松のE-767(AWACS)と合同で佐渡が攻撃される前にシ連機を迎え撃ちます。」

 

初めての実戦。パイロット達の心は全員が不安・恐怖に囚われていた。

 

「つまり我々にシ連機を撃墜せよと言うのですか?」

 

咲田が橘に聞く。彼自身もその内心は揺らいでいた。

 

「彼らがそのまま去るとは思えません。撃墜は免れられないでしょう。

あなた方はとても受け入れられないですがね。」

「との事だ。10分後に出撃する。全員出撃準備!! 解散!」

 

橘が話し終わると大門が解散を言い渡す。隊員達は直ぐに部屋を飛びだし,ロッカールームへと向かう。

咲田も一緒にロッカールームへ向かおうとしたが,

 

「咲田ちょっと待ってくれ!!」

 

橘に呼び止められ,ドアの前から2人のいる方に引き返す。

 

「咲田君。君はこの飛行隊(ゴールデンイーグルス) 1のパイロットと聞いております。

そんな君に別任務を与えます。」

 

橘は背後に置いてあったホワイトボードに赤のホワイトボードマーカーで書き始めた。

 

橘が書いたのは右下を向く3つの三角形とその奥の1つの丸だった。

 

「この3つの三角形をシ連機とします。ちょうど15機ですので1つで5機ずつですね。

咲田君。戦闘機対戦闘機の戦闘では戦闘機以外にどの様な機体が必要ですか?」

「敵機を正確に捉え,我々に指揮を行う早期警戒管制機です。」

「素晴らしい。100点です。ではその機体はどの位置に展開しますか?」

「主に空戦空域より後方の上空です。」

「こちらも正解です。もしその機体が消えてしまえば(・・・・・・・)部隊はどうなりますか?」

「・・・・・・・・・連携が取れなくなり,相手に不利になります。」

 

この時咲田は察してしまった。自分が呼ばれた理由を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の機体にAIM-120(アムラーム)を搭載して,シ連の早期警戒管制機を撃墜しなさい。」

 

 

 

AIM-120(アムラーム)とはアメリカのヒューズ(現:レイセオン)が開発した空対空ミサイルで,AIM-7(スパロー)の後継として開発された。

 

このミサイルの特徴は今まで母機誘導(SARH)だったのをミサイルのみで誘導可能な自律誘導(ARH)したファイア・アンド・フォーゲット(撃ちっ放し能力)を有している事だ。

 

これによって母機はミサイル発射後直ぐに離脱が可能になったのだ。

 

なお現実世界ではAIM-120は現時点では空自に導入されていない。

 

「・・・・・・何故ですか。墜ち落とさないで追い払う事は出来ないのですか?」

 

咲田の質問は当然だ。

 

機体を墜とせという事は,自分に人を殺せ(・・・・)と命じられた様なものだ。

 

橘は咲田に向き合って答える。

 

「撃墜しなければなりません。

彼ら(シ連)はもうF-15Jを撃墜したのです。撃墜したという事は撃墜される覚悟があるという事です。

それにもしその1機を撃墜されれば敵は混乱し,撤退する可能性だってあります。

これは守るための撃墜なのです。我々自衛隊員もシ連軍の隊員も。」

 

この言葉に咲田は何も言えなかった。

 

「・・・・了解しました。咲田三等空尉直ちに出撃します。」

 

咲田の敬礼に橘も敬礼で返し,下ろすと直ぐさま部屋を飛び出し駆け出した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「AIM-120装着完了しました!!」

 

耐Gスーツを装着し,FHG-2ヘルメットを手に持って現れた咲田に風見美亜三等空曹が装着完了を伝える。

 

「機は出せるか?」

「燃料補給・弾薬装填完了済。いつでも飛ばせます!!」

 

咲田は頷き,飛行前の外部点検に入る。機を時計周りに見て異常がないか確認するのだ。

確認が終わるとキャノピーの脇に置かれている梯子に登って機体上部を点検する。

 

異常が無いのを確認すると,コックピットのキャノピーを開け,コックピットの座席へと乗り込み,ヘルメットを装着する。

 

F-15Jのエンジン プラット・アンド・ホイットニー/石川島播磨 F-100-IHI-100を点火する前に70項目にも及ぶチェックを行うのが正規の手順だが,緊急事態という事もあってスクランブル時の12項目で済ませた。

 

風見にエンジン始動の合図の指一本を上げ,エンジンマスタースイッチとエンジン燃料スクーター(JFS)をオンにする。

 

約15秒待つとスタータのレディランプが点灯し,火災警告灯が点灯していなかったら,メインエンジンをスタートさせる。

 

再び風見に指を2本立てて合図し,右側のエンジンスロットルフィンガーリフトを上げる。

 

右エンジンが点火し,スロットルを18%にし,ファンタービン入り口温度計が600°に安定したら同じ手順で左エンジンもスタートさせる。

 

両方のエンジンを点火したら,JFSスイッチをオフにする。代わりに空気取り入れ口ランプをオート,ECCスイッチをサイクルにする。

 

次にテストスイッチボタンを押して,各システムの警告灯が正常に点灯するかチェックし,同時に慣性航法装置(INS)調整(アライメント)を実施する。

 

それが完了するとチェックリスト通りにタキシー前チェックをし,完了したら風見が前輪の輪止めを外しタキシングを開始する。

 

ブレーキの動作確認・飛行計器の確認をチェック。滑走路に入る前に風見等のメカニックが外部点検を行い,それと共にAIM-120(アムラーム)の安全ピンを抜く。

 

小松空港のランウェイ24エンドにF-15J(イーグル)がタキシングする。

 

離陸前の最終確認としてレーダーをONにし,ハーネス・射出座席アーム・舵作動・フラップ距離ポジション・トリム距離位置・キャノピーが閉じてるかをチェックし,警告灯が点灯していなかったら管制塔からの離陸許可を待つ。

 

『Duck10 離陸許可』

「Duck10 了解。」

 

2基のプラット・アンド・ホイットニー/石川島播磨 F100-IHI-100の排気口が赤く輝き,排気で周りに陽炎が現れ始める。

 

F-15Jはランウェイ24より離陸する。上空にF-15J(イーグル)が舞い上がり,機首と胴体のランディングギアを収納する。

 

「Duck10 作戦空域へと向かいます。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

能登半島先端部の珠洲岬から北北西に60kmの上空。ここを306飛行隊のF-15J(イーグル)9機が飛んでいた。

 

その後ろには浜松基地所属のE-767が遥か上空を飛んでいた。

 

咲田の機体は珠洲岬から東に100kmの上空をたった1機で飛んでいた。

 

そして彼らのレーダーには総勢15機もの敵機が写っていた。

 

『こちらDuck1 作戦開始時間だ。全機当初の通り敵編隊へ向かえ!! Duck10はAWACSを! 頼むぞ!!』

「Duck10 了解!!」

 

咲田の機体のレーダーにも敵編隊の姿は見えていた。総勢9機の306飛行隊は果敢にも15機の敵機へと挑もうとした瞬間。

 

異変が起きた。

 

『!? データリンクブラックアウト!? 通信不良か? 他の機はどうだ!』

 

突如としてデータリンクがブラックアウトしたのだ。

大門は電子対抗手段(ECM)と判断した。しかしそれ以外のAN/APG-63 火器管制レーダー等は正常に動いているのだ。

 

つまりこの事態はECMではないのだ。

 

『Duck2 こっちも同じです!!』

『Duck3 Duck2と同じです!』

『Duck4 同じく!!』

『全機繋がらない!? AWACSに何かあったのか!? Duck10そっちがどうだ!?』

「こちらDuck10 こっちも同じくブラックアウトしました。」

『全機ブラックアウト・・・・・・一体何が起こってるんだ!?』

「大門隊長。もしかしてですが・・・・・・・」

 

この時佐渡のレーダーサイトは捉えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レーダーから消えるE-767(AWACS)の姿を。



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Episode.9 見えなきAWACS

E-767(AWACS)が落とされた!?』

「はい・・・・・それが一番妥当かと。」

 

E-767が落とされるという想定外の事態に二人は処理が追い付いていなかった。

 

「隊長どうしますか? AWACSを失ったということはいわばリーダーを失った状態です。

この状態で戦闘を行うのは多少・・いや相当不利です。」

『確かにそうだが,相手を目の前にして逃げるなんて相手さんが許してくれないだろう。

それと咲田。お前は自分の使命を果たすべきだ。お前が奴等のAWACSを落とせば同じ状況になって,撤退するかもしれない。』

 

咲田は少し間を置いて返答をした。

 

「・・・・・淡い期待ですが,やらないよりまだましかもしれませんね。」

『お前にかかっている頼むz!?』

 

大門の話を遮る位大きなブザー音が通信機越しにコックピットに鳴り響いた。

このブザー音は射撃管制レーダーにロックオン(・・・・・)されましたという警告だ。

 

『ロックオンされた!? すまん通信切るぞ!!』

「・・・・・・・奴等は我々に圧倒的優勢の位置にいる。それを見逃さない戦闘機乗り(パイロット)はいない。

ならその優勢を終わらせるだけだ!!」

 

咲田のDuck10は翼を翻し予定発射ポイントへと向かっていく。

 

それから5分もたたないうちにDuck10の機上レーダーは1つの小さな光点を写し出した。

その光点は今にも消えてしまいそうな小ささで,鳥と見間違えかける位だった。

 

(鳥か?・・・・・・・いや待て! レーダーに写る鳥なんかいるか!!)

 

急いで操縦桿を左にきり,それと共に乗機も左にバンクする。

それから30秒もたたないうちに1機の機体が高速で機体の右側を通過していった。

その機体は左に旋回し,Duck10の横に並走した。

 

その機体を見つめながら咲田は呟く。

 

「Su・・・・・・57」

 

Su-57

 

第5世代戦闘機に分類される戦闘機で,高いステルス性とマッハ2の最高時速を有し,F-22(ラプター)に匹敵する性能を持っているとされている。

 

しかしながら実際はまだ不明な点が数多いのが事実だ。

 

(まさか彼奴が落としたというのか・・・・・)

 

その推測は正解だ。

 

このSu-57はE-767をIzdeliye810で撃墜したのだ。

 

Izdeliye 810とは,Mig-31Mの次期主武装としてR-33長距離空対空ミサイルを改造したR-37のSu-57搭載可能なタイプだ。

 

射程がブースター無しで200kmあるために爆撃機の迎撃やAWACSの撃墜が主な用途と思われる(作者調べ)

 

ともかくそのSu-57は現在F-15Jと並ぶという異様な光景を演出していたのだった。

 

(Su-57(お前)は何をする気だ。俺の機体を落とす気か? それとも本隊を攻撃するのか?

この距離なら04式か20mmで落とせるかもな。だがもしもそれが狙いなら奴の思惑どおりだな。)

 

Duck10にはAIM-120(アムラーム) 2発と共に両翼のハードポイントに04式空対空誘導弾を1発ずつ装備している為に一応空対空戦闘は可能なのだが重いAIM-120を装備しながらの戦闘は急な回避等が出来ないという制約が出来てしまうので咲田はできる限りの避けたかったのだ。

 

しかしそんな不安は一瞬で吹き飛んだ。

 

Su-57はDuck10の斜め上に移動し,機体を上下に微かに揺らしバンクしたのだ。

 

「・・・・・まさか俺を空戦(バトル)に誘ってるのか?」

 

1分位同じことをやった後,Su-57はコックピットの中のパイロットが見える位に近づき,機体の下に下がりそのまま遠ざかっていった。

 

「・・・・諦めたのか。諦めてくれて結構だ。だがいつかお前とは戦うかもしれないな。

だが奴に気をとられ過ぎた。急がないと。」

 

それから10分ぐらいでDuck10のレーダーに光点が写る。

 

「見えた!!」

 

Duck10のレーダーには悠然と空を舞う1機のA-50(シュメーリ)が写っていた。

 

A-50 シュメーリ NATOコードネーム メインスティ。

 

Il-76をベースに開発された空中早期警戒管制機。胴体上部のレドームによって低空は200km,高空は300kmの捜索範囲を有すると言われている機体だ。

 

「FOX3!!」

 

F-15JのハードポイントからAIM-120が切り離され,ミサイル後部のロケットに点火し直進していく。

 

 

 

 

 

2基のAIM-120は寸分の狂いなく命中した。

 

A-50を写した光点はレーダーから消えていった。

 

「こちらDuck10 MissionComplete これからそちらに合流します。」

『良くやった咲田!! 早くこっちに合流してくれ! 数で押されている!!』

「分かりました! 直ぐに向かいます!」

 

Duck10は180°旋回して空戦ポイントへと向かっていく。通信では嗚呼言った咲田だったが,心では疑問を抱いていた。

 

(なんであの管制機はチャフとフレアを巻かなかったんだ・・・・・まるで撃ち落としてくれ(・・・・・・・・)と言っているようだ。)

 

Duck10は2基のノズルに紅い火を宿して空を鳥のように舞っていた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「AWACSが落とされた・・・・・・・か。」

 

桐島は「あまぎ」CICに設置されている地図を見ながらE-767を表した将棋の王将の駒を“撃墜されました“と裏返しにする。

 

「よりにもよってE-767を先に狙うなんてな。これじゃあ上手く連携がとれずに苦戦するな。」

 

桐島の発言に渡島が付け加える。

 

現在CICにはあまぎ艦長兼臨時指揮官の桐島。あまぎ副長 長瀬・第47航空団司令 渡島・あまぎ船務長 水上の四人が集まっている。

 

集まっている理由は勿論“シ連機編隊をどうするか“である。

 

「ちょっと未熟者で悪いがAWACSってのは海でいうと旗艦を真っ先に撃沈されたという解釈でいいか?」

「まあそういう解釈でもいいですよ副長。もっと分かりやすくするとAWACSはオーケストラで例えると指揮者。

そしてそれに従う機体は指揮者の指揮棒に従って演奏する演奏者さ。」

「つまり指揮者がいないと空戦という演奏は成り立たないということだな。」

「副長それぐらいにしてください。話を早く始めましょう。」

「ああ,済まないせんp・船務長。」

 

ちょっと会議とはずれた話をした長瀬を水上がただす。

この二人は先輩・後輩の関係にあって,ついうっかりしていると先輩と言いかける事が度々ある。

 

「取り敢えず現在の状況を再確認します。

シ連軍は15機の戦闘機で佐渡分屯基地のレーダーサイト破壊を狙っていると思われます。

これに対抗するために小松所属の306飛行隊と浜松からE-767が急行します。

しかしながらE-767は撃墜され,それに対してDuck10がシ連の機体を撃墜し現在に至ります。」

306飛行隊(ゴールデンイーグルス)か・・・・・彼奴のいる部隊だな。」

「あいつ?」

「咲田のことか。桐島の後輩さ。」

「艦長。余談は止してください。話が進みません。」

 

長瀬に続き桐島も水上の注意を受ける。これではまるで似た者同士だ。

 

「現在の状態はどちらも指揮系統を失っています。その為に接近しての乱戦となっています。」

「確かにそうだが・・・・少し可笑しいな。」

「可笑しい?」

「やっぱり船に乗ってもパイロット時代の感覚は捨てられないか。

艦長の言う通りこの戦闘は少し可笑しいな。」

「艦長。解説してくれませんか?済まないが空についてはさっぱりなのでね。」

 

長瀬の頼みもあり,桐島は地図上の将棋の駒を指差しながら話し始める。

 

「さっきも船務長が言ったが,どちらも指揮系統を今は喪失して,どちらも自分の機体のレーダーと見える視界のみが頼りなはずだ。

なのに敵編隊はまるで指示通りに演奏(戦闘)している。」

「指揮者を失っても一瞬足りと乱れない演奏ってのは常識的にはあり得ない。

俺も曖昧だがあの音を失ったベートーベンは2人(・・)で演奏の指揮を行ったことで成功したらしいがな。」

「・・・・・・・2人で指揮?・・」

 

渡島の発言に長瀬が食いついた。

 

「副長? 何かありましたか?」

「もしかしてだが・・・・・AWACSがもう1機(・・)がいて,その機体が指揮を執ってるんじゃないかと考えたのだが,パイロットとしてはどうなんだ・・・・?」

 

長瀬が発言しているのにも関わらず,顔を向けずに桐島と渡島は地図を眼孔が開くかのような勢いで見つめている。

 

「そうか・・・・・・・・その手があったか!!」

 

まるで息を吹き替えしたかの様に2人は長瀬と水上を置いて話し出す。

 

「我々は敵のAWACSが1機しかいないという前提を作らされていた。

しかもその1機はもう撃墜されたから敵にAWACSはいないと完璧に信じこんでしまった。」

「だが本当はもう1機AWACSが存在して,どこか別の場所から指揮を執っていた・・・・・これなら全てが繋がる!!」

「なるほど・・・・・・これだったらあの機がチャフもフレアも巻かずに撃墜されたのも撃ち落とされる(・・・・・・・)事が必要だったという事か!!」

 

2人のテンションに残りの2人はついていけなかった。

 

「つ,つまりは本当のAWACSが別の場所から指揮を執っているという事ですか?」

「正しくその通り!!」

 

桐島の答えを聞き,水上は即座にCIC内に表示されているレーダー画面を見つめた。

 

「ということはこの画面の中にいるという訳ですか?」

「ああ,そうだ。この中から見つけなければならない。骨が折れそうだな。」

 

4人は画面を見つめ,不審な機がいないか確かめ始めた。レーダー画面上では306飛行隊とシ連機の戦闘はシ連が優勢だった。

画面上ではシ連機3機撃墜対し306は3機喪失していた。

 

数では同じだが割合でいうと

シ連 3÷15=0.2

306飛行隊 3÷10=0.3

 

このように306の方が損失率が多いのであるのだ。

 

そしてその不審な機は直ぐに見つかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これこそが本当の指揮者だ。」

 

桐島は戦闘空域から北西に60kmの地点に1つだけ佇む光点を指差した。

 

「この機ですか? この機は恐らくですが朱雀列島近海の哨戒を行っていると思われます。

現に飛行空域がほとんど動いていません。」

「シ連の哨戒機となると妥当なのはIl-38(メイ)だな。勿論別の機体という可能性もあるがぁ?・・・・・・桐島。お前当たりだな。」

「どういう事ですか? あとこういう場所では艦長とお呼び下さい。」

 

水上の注意も聞かずに渡島は説明しだす。

 

なおIl-38 NATOコードネーム メイはIl-18旅客機を改造した対潜哨戒機だ。

 

「普通哨戒ってのは一定の間隔を持って行うもので,奴等もやっているように見えるな。

だがさっき艦長が指差したポイントだけ他より間隔が狭い。

つまりこれはこの機体は哨戒機ではないという可能性が高い。哨戒機以外で長時間空中に留まる機体となれば・・・・・AWACS(・・・・・)しかない!」

「ええ,それに今調べましたがA-50(メインスティ)ならこの位置からでも充分に戦闘空域をレーダーに捉える事が可能です。

ですので間違いありません。」

 

2人のパイロットの感というのかまでは分からないが,鋭すぎる判断に残された2人が少し引きぎみになっていた。

 

「艦長・・・・言ってはいけないのですがパイロットを続けられた方が良かったのでは?」

「空と海の両方を知れるというのなら断る理由はなかったさ。」

「艦長。それでこの推測を直ぐに横須賀に送りますか?」

「いや。横須賀に送っていては対応が遅くなる。ここは我々だけで何とかしないといけない。」

「ならどうしますか? この機にSM-2(スタンダード)でも撃ち込みますか? それともESSMですか?」

 

長瀬の問いに桐島は一息ついて答える

 

「いや。こんな長距離からミサイルを撃てばチャフとフレアを巻かれて終わりだ。それ以外の方法で落とす。」

「それ以外の方法・・・・・・・まさか!?」

「?・・・・・・・・!?」

 

長瀬が桐島の考えを冊子,それに続いて水上も気づいたようだ。

 

「渡島飛行隊長。」

 

桐島は渡島に向き合って言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロウ隊の出撃準備を。」



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Episode.10 弱さ

※祝!! 10話※


「クロウ隊をか?・・・・・・・SM-2じゃあ駄目なのか?」

 

予想通りの反応だ。

確かにSM-2でも対処は出来るが,それじゃあ無理だ。分かっているかもしれないけれど教えるしかない。

 

「長距離からのミサイルは俺達パイロットからしたらチャフとフレアを巻いて,即逃げるのが鉄則だ。

SM-2を撃って追い払うことは出来るがそれでは306飛行隊を救う事は出来ない。」

「だからといってわざわざ航空隊を出すのか?」

「ならばチャフとフレアを出せない位の近距離から撃墜(・・)するしかない。」

 

撃墜と言った瞬間周りの空気が重くなった気がした。いやそうだろう俺の言ってることは自ら撃墜を命じた(・・・・・・・・)のだから。

 

だがこれから我々が挑むのは戦いだ。死の無い戦いなんてこの世に存在しないのだから。

 

「クロウ隊の内4機程を出撃させ,2機がAWACSを撃墜。残りの2機が迎撃に来る機を迎え撃つ。」

 

クロウ隊とはあまぎに搭載されている航空隊の名称で,F-35JC15機で構成されている。

 

因みにF-35JCとはロッキード・マーティン F-35の艦上機仕様 F-35Cの自衛隊改良版だ。

改良内容としてはM61 バルカン 2基を搭載した程度だけどな。

 

あまぎにはこのJCが36機搭載されていて,それぞれ15機ずつの本隊と3機の予備隊に分けられる。

分けられた部隊にもそれぞれ“クロウ“・“イーグル“というコールサインが付けられている。

 

それに加えてF-35JB 12機で“ストーク“の計3つの航空隊がこの船には乗っている。

 

“クロウ“・“イーグル“・“ストーク“とはそれぞれ“(カラス)“・“鷲“・“(こうのとり)“だ。

 

「全機では向かわないのですね。」

「この状況では全機を出撃させる必要性が無いからな。」

 

たった1機の機体に15機も出撃させるなんて非効率すぎる。それに下手すれば迎撃に急行したシ連の戦闘機隊と戦う羽目になるかもしれない。

そんな奴等に時間を割くわけにもいかないしな。

 

「残りの機は艦隊の防空にあたるという事で宜しいでしょうか?」

「いや艦隊の防空についてはかつらぎのクレインを使いたいんだが・・・」

あいつ(葛城)が頷くか?」

「話して見れば分からないさ。」

 

あんな事を口走ってしまったが多分無理だろう。そもそもこの作戦にも反対しそうな奴が承諾する訳ない。

 

「とりあえず決まりで良いか?

クロウ隊4機で敵AWACSを撃墜するという事で。」

 

俺が顔を見上げると全員顔を横に振らなかった。

 

「飛行隊長。クロウ隊の赤羽にパイロットを選抜するように言って下さい。

10分後の13:45から会議を行いますので召集もお願いします。はい解散!!」

 

解散の言葉で渡島先輩はすぐさまクロウ隊隊長 赤羽正敏三佐を探しに行き,長瀬はCICを後にする。

俺は水上が定位置についたのを確認すると洗面所へと向かう。

 

運良く洗面所には誰もいなかった。

 

俺は手をボウルの様にして水を溜め,勢い良く顔へとぶつける。

 

俺は罪を犯した。

 

いくら後輩や仲間を守るとはいえ,人殺しを命令した。シ連のAWACSは恐らくA-50(シュメーリ)だろう。

A-50は乗員16名。俺の一言で16もの()が消される。

 

ボタン1つで幾つもの火が消える。

 

いくらE-767の21名が殺られたとはいえこれは許されるのだろうか。

 

多くの人を守る為・彼らが戦ったから死者が少なくなった・1人より大勢。そうやって世界は少ない犠牲で助かる多くの命に喜んでいた。

 

それは悪いことではなくむしろ良いことだ。

 

だが俺には何か引っ掛かる。

もしかしたらその犠牲になった人も何かの方法で救えたのでは無いのか。

少ない犠牲で多くの命を救うのが常識で良いのか。

 

俺の考えは正しいのか間違っているのか全く分からない。

 

 

そしてこの思想から俺は逃げることなんて不可能なんだ.....

 

「なんか悩んでいるのか? 桐島。」

 

名前を呼ばれ,振り返ると入り口に寄り掛かっている渡島先輩を見つけた。

 

「先輩・・・いつからそこに」

「赤羽にすんなり会えたんで,お前のあの表情からしてなんか苦しんでいる様な気がして探して見つけた訳さ。」

 

やはり先輩だ。俺以外で俺の事を一番詳しく知っている。

 

「やはり撃墜命令か?」

「・・・・・先輩に隠し事は効かないみたいですね。俺は撃墜という罪を命令しました。例え守る為とはいえ人が死にます。

そしてこの命令によってさらに消える命は増えると思います。俺はその重圧にいつまで耐えられるのか........」

 

俺の心境に先輩は優しく話しかける。

 

「お前が命令したとしてもそれがきっかけにはならないさ。日本だって囮ながらもAWACSを撃墜した。

自衛隊が敵機を撃墜したということは,真っ向から戦う(・・・・・・・)という宣言をしたようなものだからな。

それにもしかしたら連絡が無いだけでもう奴等に死者が出ているかもしれない。

死者が存在しない戦いなんてない。

俺はお前のやりたい事を支えるだけだ。ただし・・・」

 

先輩は口調を変えて俺にたった1つの願いを言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰も死なずに帰らせろ。」

「・・・・・あの悲劇(・・・・)は2度と起こしません。」

 

あの悲劇とは,2017年の“松島F-2B墜落事故“の事だ。この事故の概要は訓練中だった第21飛行隊所属のF-2Bが海上に墜落し2名の殉職者を出した事故だった。

 

墜落の原因は機体のフラップの整備不良でパイロットは帰還すべく最後まで操縦桿を握っていたそうだ。

 

俺は墜落するのを空から眺めているしかなかった。

 

この後F-2Bは約3ヶ月の飛行停止になり,俺はF-2のパイロットにはなれなかった。

 

墜落する瞬間は今でも度々思い出す。意図も簡単に2人が死んだ。

そのパイロットの1人とは飛ぶ前に話していたがまさかこんなにも簡単に失うとは思ってもいなかった。

 

「先輩・・・・・・・・・・」

 

俺は先輩の方を向き,宣言する。

 

 

 

 

 

 

「必ず全員無事に帰らせます。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

やっぱり艦長は分からない.......

 

俺の出身地の長野県松本に海なんてない。

だから昔から海に憧れていた。小5の臨海学校で富山に行って,初めて海を見た。

 

その時の感情は今でも覚えている。まるでサファイアの様に輝いて,空の色をそのまま写しているかの様な美しさだった。

 

そして海に惚れた。そして海の闇も見た。

 

臨海学校2日目の12時頃だっただろう。その日は大雨で予定した行程が中止になり,部屋で待っていた。そして俺の目の前で海保船が激突した。

ぶつけられた方の船は転覆し,赤い艦底を海の上に突き出していた。

 

ぶつけた方の船は雨が叩きつける中海上に留まり,人を救助しているのを俺はじっと見つめていた。

 

その事故は“富山沖海保船衝突転覆事故“として約1ヶ月位ニュースや新聞で持ちっきりだった。

いつもは読まない新聞を熱心に読む俺に両親が“事故を見て可笑しくなってしまった“と言ってたのを覚えている。

 

ニュースでは“あんな悪天候の中出港した海保船が悪い“と言ってたがそれは違う。

彼らだって誰かを救うために・誰かを守るために・誰かを助けるために出港していた。

例え自分が死んでも守りたい物があるから。

 

俺はあの時海を守りたいと思った。

 

 

 

でもなんで今こんな戦場のど真ん中に俺はいるんだろう。

 

「一体俺はどこで道を間違えたのかな?」

「副長? 何か言いました?」

「いいや,独り言だ。」

 

航空甲板に目を向けると艦橋前の艦載機エレベーターに乗せられたF-35JCが格納庫から上がってくる。

エレベーターが甲板に着くと,牽引機によってカタパルトへと牽引されていく。

 

「遂に・・烏が飛び立つのか。」

「話によるとシ連の警戒機を撃墜するだとか。」

「おぉ,遂にやっちゃうのかよ! 自衛隊。」

「でもまだ確実な話じゃない。副長 その話ってどうなったんですか?」

 

やっぱりこういう話は副長の俺に来る。まあ,いいだろう。どうせ黙っても後々話が来るのだから。

 

奴ら(シ連)は我々に銃を向け,その引き金に手をかけている。彼奴ら(クロウ隊)はその引き金を壊す為に出撃するんだ。」

「正しくその通りだな。」

 

俺の話に相槌をうったのは第47航空団司令の渡島音弥だ。恐らく出撃見送りに来たのだろう。

団司令はカタパルトから飛び立つクロウ隊を見ながら呟く。

 

「お前達に罪なんてない。誰かが罪を着せたとしたら俺はそれからお前らを守ってやる。」

「また艦長と話したんですか?」

「あぁちょっとな。」

 

艦長と団司令は所謂先輩と後輩の関係にあって,二人だけで話すことも多い。

下手すれば俺と艦長の話より多いかもしれない。

 

「団司令と艦長ってよく話してますよね?」

「ああ,艦長も恐らく俺とは話しやすいのだろう。」

「団司令曰く艦長ってどんな人なんですか?」

「? しってるんじゃないのか?」

「そうではなくて団司令がどう思ってるかですよ。」

 

俺はまだ艦長(あいつ)の事を詳しく知らない。先輩の団司令なら色々と知らないことを知っているのではという賭けだった。

 

そしてその賭けは当たりだった。

 

「あいつは強くて脆い。」

「言ってることが矛盾してますよ。どっちが正しいのですか?」

「どっちもだ。あいつはガラスの様にとても硬い。しかしある一定の値を越えると割れて壊れる。

それがあいつだ。」

 

意外だった。俺は彼奴の硬い部分しか見ていなかった。

 

人には絶対に脆い部分があるが,彼奴にはないと思っていたがそれは違っていた。

あいつはある意味強い壁で囲われているだけで,それが崩れるのは容易い。

 

「つまり強さと脆さが紙一重という事ですか。」

「そうだ。今までの経験上こういう戦場こそ強さを発揮して壊れやすい場所だ。」

「ちょっと待ってください。それじゃあ艦長がいつ壊れても可笑しくないという事ですか?」

「言ってしまえばそうだ。だから副長が」

 

団司令の言葉はCICからの言葉で遮られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

E-2(ホークアイ)より敵機探知!! “ウリヤノフスク“からのSu-33 7機だと思われます!!』




この作品を読んでくれている皆様に質問です。

この作品ってどうなんでしょうか?
ちゃんと良作なのか駄目な駄作なのか作者だけでは分かりません。

もし良かったら作品に対する評価を感想に書いて貰えませんか?

こんな頼みをするのは申し訳ございませんが宜しくお願いします。


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Episode.11 防衛出動

話は約1時間前の13:30分位に遡る。

 

東京都 千代田区の内閣官邸地下の危機管理センターは重苦しい空気に包まれていた。

 

「E-767撃墜に加え,306飛行隊3機被撃墜ですか・・・・」

 

現時点で306飛行隊はSu-27(フランカー) 4機撃墜するもF-15J(イーグル) 3機を失っていた。

この時今まで撃墜されたことのない“無敗の鷲“はその名を失っていた。

 

「宣戦布告もなしにここまでの被害とは・・・・・これは国連安保理に訴えましょう!!」

「副総理待ってください!! 確かに国連に訴えった方が良いですがまずは自国で解決の糸口を見つけましょうよ!!」

「官房長官! それが出来ていたら苦労はしないぞ!!」

「副総理と官房長官! どっちも落ち着いてください!!」

 

大森と大洋が言い争いを始めるが本庄が収める。

 

「副総理。まずは段階を踏んで行きましょう。我々はこの事態を国民に伝えない事にしました。

という事は早期に事を納めなければなりません。こんな場所で争っている暇はありませんよ。」

「そうですね。先程は失礼しました。」

 

副総理 大森が謝罪し,会議は再会される。

 

「しかし,どういたしますか? 現時点で小松の306飛行隊は敵部隊に圧されています。

残りの303飛行隊も増援として送りますか?」

「それでは別方面からの攻撃に対応出来ないではないか!?」

「その場合はスクランブル待機の機体が何とかするだろう。もしそれでも駄目なら百里の第7航空団からF-35JAもしくは第2機動部隊からF-35JCの増援を送って貰うしかないな。」

「しかしそれでは関東方面の防空網に穴が空いてしまう!? それに第2機動部隊からだと今度は第2機動部隊が危険に晒されてしまう!!」

「じゃあどうすればいいんですか!? 官房長官!? このままこうやって纏まらないと更に被害が拡大しますよ!!」

「皆さん落ち着いてください。防衛大臣の言う通り,まずは方針を纏めましょう。」

「申し訳ありません総理。では総理の考えをお聞きしたいのですが。」

 

大洋の要望に鈴村は一息おいて答える。

 

「まずは朱雀列島の状況を確認しなければいけません。衛星写真と偵察機の写真を使って確認しましょう。」

「総理。わざわざ偵察機を使わなくとも衛星写真だけで十分だと思います。

それこそ偵察機を送れば撃墜され,また戦死者が増えることになりますよ。」

「それについては問題ありません。RQ-4(グローバルホーク)という無人機を送り込ませます。

それならば撃墜されても人的被害は出ませんよ。」

 

RQ-4 グローバルホーク

 

アメリカ ノースロップ・グラマン製の無人偵察機で,ジェネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズのMQ-1(プレデター)とは違って完全なる非武装の機体だ。

 

「成る程確かにそれなら人的被害は出ませんね。」

「では防衛大臣。三沢基地の方に連絡して下さい。」

「承知しました。冠城君お願いする。」

 

冠城(かぶらぎ)と呼ばれた人物は部屋を急いで飛び出て行った。

それと入れ替わりに外務事務次官の三崎が部屋に入ってきて,安川に耳打ちする。

 

「総理。シ連大使館に交渉に言った椿島からの連絡ですが・・・・・・・シ連(奴ら)は“朱雀列島(バレリ オーストラフ)は元から我々の領土だ。今回はそれを取り返しただけだ。“の一点張りだそうです。」

「そんなのでたらめじゃないか! 何故それなら佐渡に連隊を向かわせたのだ!? 問い詰めればいいんじゃないのか!!」

「副総理。よろしいでしょうか?」

「三崎君だったな。良いぞ。」

「取り敢えず落ち着かれてみてはどうでしょうか? そんなに興奮されては冷静な判断等取れないと思われますが。」

「三崎君の言う通りだ。副総理一回外に出て,外の風に当たられてはどうかね?」

「・・・・・・・分かりました。そこまで言うのなら。」

 

そう言って副総理は部屋を退出した。退出した直後鈴村は立ち上がった。

 

「宣戦布告も無しにここまで我々はやられ,なおかつ彼方は自国正義ですか・・・・・・・防衛大臣。」

「はっ。」

 

防衛大臣・・いやこの時室内にいる人物はこれから話される発言を予想出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「内閣総理大臣として全閣僚の同意を得,防衛出動(・・・・)を自衛隊全部隊に命じます。」

 

防衛出動

 

日本に対する外部からの武力攻撃・武力攻撃の危険が生じる危険が迫る時・日本の存立が脅かされる危険が生じる際等日本を防衛する必要があると認められた場合に内閣総理大臣の命令で自衛隊が出撃する事である。

 

現時点では日本国憲法が定められてから一度も発動された事はない。

 

「ですが総理。現在第1機動部隊は米軍第7艦隊との演習中で直ぐには向かわせられませんよ。」

「確かに直ぐには向かえませんね。ですがこれは“海上警備行動“の粋を越えています。

我々日本はシ連が戦争を挑みに来た(・・・・・・・・)と判断しなければなりません。

ならば我々は戦争を行う覚悟で挑まなければなりませんよ。」

「守る為の戦いですか・・・・」

 

守る為の戦争・・・・・・・しかしその様な理由で戦争が始まることが少なくなかった。

再び太平洋戦争の様な悲劇が起きるのではないだろうか。その様な不安が一部の人物の頭を過っていた。

 

「総理! 各自衛隊の幕僚長が到着しました!」

 

本庄の言葉と共に危機管理センターのドアが開き,3人の人物が入ってくる。

3人はそれぞれ各自衛隊のトップである 幕僚長だ。

 

「こんなお忙しい中お呼びして申し訳ございません。私達 日本政府は“防衛出動“を命じようと思います。各自衛隊はどう動くかを教えてもらえないでしょうか?」

「わかりました総理。では陸上自衛隊から話させてもらいます。」

 

陸上幕僚長 周防憲司は話し出した。

 

「発動後は全駐屯地に待機命令を出します。なお習志野の第一空挺団と特殊作戦群 相浦の水陸機動団 宇都宮の中央即応連隊(CRR)に関しましては現在召集をかけています。

及び北海道の第7師団は,シ連が上陸してきた際の迎撃体制の構築を行っています。」

「ええ,宜しいです。特に水陸機動団は舞鶴港の方に移動をお願いします。」

「分かりました。ですが水陸機動団はヘリを持っていないので第8飛行隊のヘリを借りるので時間がかかりますが宜しいですか?」

「構いません。移動出来れば良いのですから。航空自衛隊の方はどうですか?」

 

航空幕僚長 葛城武功は答えだす。

 

「こちらも全基地にスクランブル待機を命じ,万が一に備えて高射群も待機させました。」

「分かりました。特に高射群に関しましては即発射可能な状態にしといてください。」

「分かってます。いつシ連の弾道ミサイル(ICBM)が飛んでくるか分かりませんので。」

「そうですか。海上自衛隊の方はどうですか?」

 

海上幕僚長 藤崎忠敬は答えだす。

 

「佐世保の第3機動部隊に尖閣方面へ,大湊の第5護衛艦隊は津軽海峡方面へ出撃させました。横須賀の第6護衛艦隊は東京湾の警戒にあたります。

それに加え,大湊の第3潜水艦群(・・・・・・)もシ連本土方面へ出撃させました。なお呉の第1輸送隊も何処へでも出航可能です。」

亡霊艦隊(ファントムフリート)を出撃させたのか・・」

 

亡霊艦隊・・・・それが第3潜水艦群の俗称だった。

 

「あの艦隊はシ連艦隊向けの艦隊です。ここで出さなかったら折角買った(・・・)意味が無くなりますもの。」

「懐かしいですね4年前の購入(・・)の際は内閣不信任決議が出るまで荒れましたからねぇ。」

「その際は大変ご迷惑をおかけしました。」

「いえいえ4年も前の話です。それよりも話の続きを。」

「はっ,先程の艦隊に加えて八戸・館山・厚木・舞鶴・小松島・鹿屋・那覇の航空隊はシ連潜水艦警戒の為に哨戒任務につき,岩国のEP-3も日本海近海を飛行し,情報を集めています。」

 

EP-3

 

それはP-3Cの電子戦データ収集機であって,胴体前面下面・胴体上面にレドームを搭載し,電子戦に関する様々なデータを収集する重要な機体で,その内部は国家機密レベルとされている。

 

「EP-3は電子戦の機体でしたよね? 確か偵察写真の機体もいたと思うのですがそれに関してはどうなってますか?」

「OP-3Cの事ですね。その機体も岩国の第31航空群にて待機しております。」

 

OP-3C

 

EP-3Cと同じく胴体前部下面にレドームを搭載し,側方画像監視レーダー(SLAR)長距離監視レーダー(LOROP)を装備している画像データ収集機だ。

 

「総理。アメリカにはどの様に伝えますか?」

「私が大統領と電話会談します。及び中国にも接触してください。何か聞き出せるかも知れませんので。」

「分かりました。三崎連絡してくれ!」

 

三崎は安川及び鈴村に会釈すると部屋を飛び出していった。

 

「ではここで一旦休憩をとりましょう。14時になりましたらまた再会しましょう!」

 

事実上の休憩となり,危機管理センターから多数の人々がドアを開けて外へ向かう。

煙草を吸いに・飲み物を買いに・家族に電話をしに様々な理由はあれど皆休憩時間を思いのままに過ごそうとしていた。

 

鈴村も外の空気を吸いに部屋(危機管理センター)を後にする。

その際に栃木の隣を通った鈴村は耳元で囁いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白鳥(・・)を横田の方に向かわせて下さい。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

私 本庄香月は今自販機で缶コーヒーを選んでいる。

 

約10時間位部屋(危機管理センター)に閉じ籠ってた為にもう体が悲鳴をあげそうだ。

その体を強制的だが起こすために缶コーヒーを飲もうという策略だ。

 

しかし思わぬ難敵 種類選びが立ち塞がった。

 

ここはストレートにブラックが良いのか? それともミルクが混じった優しいカフェオレか? いやここは案外選ばないエスプレッs

 

「早く選んで下さい。ずっと待っているんですけれど。」

 

後ろからのいきなりの発言に慌てて振り向く。そこにはさっき外務省に連絡すべく飛び出していった三崎が手を組ながら立っていた。

 

「三崎外務事務次官!? さっき電話しに行ったはずでは!?」

「それは既に終わりました。それよりも早く決めて下さい。もう3分ぐらい並んでいるのですが。」

 

3分間もあんな恥ずかしい事を見られていたとは・・・・・あぁ穴があったら飛び込みたい気分だ。

取り敢えず三崎さんは額に怒りマークが見えそうな位怒ってるから急いでブラックコーヒーを選んで離脱しよう。

 

私が自販機で前から去ると三崎さんは素早く紅茶を選び,私の側に寄ってくる。

 

「遂に始まってしまいますね。」

「朱雀列島での戦いですか?」

「それ以外何が始まるというのですか?」

 

こうやって話して見るとやっぱり三崎さんって他の人と何かが違うと思う。

彼女は24歳の最年少で外務事務次官になった本当のエリートだ。だがそれ故に一部の政府関係者からは評判が良くないとか。

 

「この国は一回全てを失い,そしてもう一回作り直された。

2度と国を失わないために。

だけど今その定義は崩れています。80年ぶりとも言える戦争によってこの国は何かを失うでしょう。」

「・・・私には言っている意味があまり分かりませんが,これから始まるのは“日本の領土を守る戦い“です。言ってしまえば“失った物を取り返す戦い“ですが。」

「・・・・・・・・・やっぱりこの国は反省していませんね。」

 

何かとてもシリアスな話になってきた・・・・・・やっぱり天才って何処かが壊れているのかな?

 

「約80年前 自国存続の為としてアメリカと英国に宣戦布告した日本。ですが自国存続と言いながら逆に自国を滅ぼした。

そして今,世界で5本の指に入るぐらいの強国 シベリア連邦と戦いを知らない国 日本が戦えばどっちが勝つかは明確でしょう。」

「だけど日露戦争という前例が」

「あれは本当に偶然が重なって勝てただけです。本当なら敗北していたでしょう。

あそこでもし負けていたら日本(この国)も変わったと思いますがね。」

 

一体なんなんだろうこの人は。日本を滅ぼしたいのか? それとも日本(この国)を救いたいのか?

まるで読めない感情に困惑しているとあっちが私が考えていた事を話し出した。

 

「私の考えている事が読めないと思ってるでしょう。私はただ“日本を戦争という悪夢から覚ましたい“だけですよ。」

 

そう言って飲み終わった紅茶のペットボトルを自販機の隣のゴミ箱に捨てて去っていった。

 

私は本当にあの人が分からない。

 

だけど1個だけ確信出来た。

 

 

 

 

 

あの人には裏があるという事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ,大丈夫ですよ。私の存在はバレていません。日本は“防衛出動“を決めました。

あなた方の行動も第2段階に移るべきです。それでは。」



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Episode.12 2つの空

※ 祝UA1000!※


「あまぎ」を飛び立ったクロウ隊のF-35JC 4機はAWACSがいると思われるポイントへと向かっていた。

 

空は何事もなかったかのような静かさをしており,パイロットが不気味だと感じる位だった。

 

『ここって本当に戦場なんですよね? 全くそんな気がしないな~。』

『だよな。訓練中の様に感じるよ。』

『これが訓練だったらいいんだけどなぁ~。』

「お前達。今は任務中だ。私語は控えろ。」

 

クロウ隊隊長 赤羽政敏がパイロット達を注意する。

 

(やっぱり団司令(かしら)の言ってた通り,我々はこういう事態に慣れていないんだ。

もしかしたら夢物語や絵空事だったらと思っているのかもしれないな。)

 

今まで日本が遭遇した外国との危機は1999年の“能登半島沖不審船事件“や2004年の“漢級原子力潜水艦領海侵犯事件“等しかなく,言ってしまえばこういう事態にあまり慣れていないのである。

 

近くに脅威が存在しているにも関わらずここまで危機感を抱いて無いという矛盾した状態になっているのだ。

 

(自衛隊の弱点は戦いを知らないという事だ。戦いを知らないのは良いことなんだが,それがこういう場面で障害を起こす。

戦いを知らなければいざというときに対応出来ず隊員(仲間)を失う,戦いを知ってても隊員(仲間)は失われる。

自衛隊(我々)はどっちがいいのだろうか・・・・)

 

赤羽の考えは隊員の通信で途切れる事になる。

 

『隊長! レーダーに反応あり!!』

(いた!!)

 

赤羽のヘルメットマウントディスプレイ(HMD)のPPIスコープに1個の光点が写りだす。

 

赤羽はこの機体こそAWACS(我々の標的)だと確信した。

 

「標的は目の前だ! 全機兵装使用自由(Weapons free)!! もし奴らがやって来たら全力で墜とせ!! 以上(オーバー)!!」

『隊長! 目の前の機体は哨戒機とかではなくて,AWACS何ですよね?』

「恐らくA-50(メインスティ)だ! 護衛機はいないようだが何が起きるか分からない。

用心してかかれ!!」

 

4機のうち2機が周辺警戒に向かい,残された2機が光点へと向かう。

 

3分も経たぬ内に04式の射程 35kmの圏内に入る。

 

「FOX2!!」

 

その合図と共に2発の04式空対空誘導弾がウェポンベイから切り離れて,目の前の機へと向かっていった。

 

約30kmもの近距離で撃たれてしまったのならもうかわす手だてはない。もしこれが戦闘機なら旋回し,チャフ・フレアを巻けるがこれの機は早期警戒機。レーダー等の精密機器を山程積んでいる。

こんな機体がかわせる訳がなかった。

 

2発の04式は寸分の狂いなく,命中した。

 

(・・・・・・すまないな。もし怨むのならそれはシ連(祖国)を怨んでくれ。)

 

彼は黒煙を立てながら墜ちていくA-100の上空を通過し,旋回して「あまぎ」へと機首を向けた。

その時艦隊からの通信が入った。

 

『クロウ隊聞こえるか? こちら第2機動部隊。現在我が艦隊に敵編隊が向かっている!

クレイン隊が迎撃するがもしもの時はそっちに頼むかもしれない!!』

「艦隊が!? お前達聞いたか? 今すぐ艦隊に帰るぞ!!」

『Crow2 了解!』

『Crow3 Copy(コピー)!』

『Crow4 Copy(コピー)!』

 

4機のF-35JC()第2機動部隊()へと全速力で向かって行った。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「状況はどうなっている!?」

「艦長。E-2(ホークアイ)より本艦隊に接近する敵編隊を補足したとの連絡です。」

 

現在CICの中は蜂の巣をつついたかのように混乱していた。

桐島は水上の元へと向かう。

 

「遂に来ました! いつか来るとは分かってましたがこのタイミングとは。」

「船務長。そんなことをぼやいても何も変わらない! 何かを変えるには行動しかない!」

 

そう言って桐島は艦隊全体が写っているディスプレイの元へ向かう。

 

「敵機は7()機?・・・・・・・・確か6機と言っていなかったか?」

「それなんですけど,どうやらその機体は飛鷹島から離陸して合流した(・・・・・・・・・・・・・)らしく・・・こちらも詳しくは・・・・」

「取り敢えず敵ということは確定だな。艦隊上空に機体はいるか?」

「クレイン隊の機体が3機哨戒についています!」

「・・・・・・クレイン隊って「かつらぎ」のか?」

 

桐島は隊員を“あり得ない“と言うような顔で見つめた。

 

(あの葛城が警戒機を出した!? あの保守的堅物の葛城が!?)

 

桐島の脳内は困惑していた。今まで言うことを聞かなかった子供がいきなり言うことを聞いた様な感じだ。

彼が(えが)いている“葛城“は一匹狼なのかもしれない。

しかしその結果彼は一時的ながら周りの声が聞こえなくなっていた。

 

「・・・・・・長。桐島艦長!!」

「す,すまん!!」

「艦長! 早く判断を!」

「そうだったな。「あまぎ」より全艦に達する! 対空戦闘用意!! 艦隊輪形陣に移行!!」

 

輪形陣

 

その名の通り円の形の陣形で。中央に戦艦・空母等の主力艦を置き,周りを巡洋艦や駆逐艦等の護衛艦を配置した防御を重視した陣形である。

主に対潜水艦・航空機に対して強力な防御力を誇っているが,対艦戦闘には不利な防御一択の陣形だ。

 

桐島の指示のもと艦隊は動きだし,「あまぎ」と「かつらぎ」を中心にし,「しもつき」を先頭に,「ひゅうが」を最後尾に,「あそ」と「たかちほ」を両脇に配置した輪形陣が完成する。

 

「しかしあの葛城が航空隊を出すとは・・・・」

「先程葛城と通信しましたが,「敵を攻撃するのは納得出来ませんが,艦隊を守らなければ全てが始まりませんから」と言って承認したようです。」

「成る程なぁ~。だが上げてくれたのが幸いだったな。」

 

桐島はディスプレイを見つめながら呟いた。

 

「クレイン隊頼むぞ。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

第2機動部隊より40kmの空域。この紺碧の空を3機のF-35JCが飛んでいた。

 

「艦隊防空警戒の筈がまさかマジで艦隊防空をやるはめになるとはねぇ~。」

 

彼の名は黒川秋葉。名だけ聞くと女の子に聞こえるがちゃんとした男子だ。

彼は若くしてクレイン隊の隊長を任されており,これからの躍進も期待されている有望な人物だ。

 

現在,彼は敵機との交戦を楽しみにしていた。今までの実戦訓練では味わうことが出来なかった撃墜を出来るからだ。戦闘機乗りのやることはたった1つ 敵機を撃墜する事(・・・・・・・・)だ。それ以外にやることはない。

 

艦隊・作戦の障害となる敵機を墜とす。それこそが戦闘機乗りの使命だと彼は思っているのだ。

 

「来た!!」

 

Crane1のHMDには6()個の光点が写っていた。

 

その内の2機が我々の元へと向かってくる。

 

(俺達を墜とそうとしているのかもしれないが,逆に墜としてやる!!

中立国だからと言って舐めるなよ!!)

 

Crane1の操縦桿を左に傾け,それと共に機体も傾く。2機の内の1機がこっちへと向かってくる。

 

両機の距離は20km足らずになった。

 

コックピットにブザー音が鳴り響く。前も書いたかもしれないがこのブザー音はレダーに捉えられたという事だ。

ブザー音が鳴り響いてから20秒程経って,後ろを取っていたSu-33の翼から2発のミサイルが発射される。

 

(撃ったか!!)

 

2基のR-73(アーチャー)がCrane1に向かってくる。R-73は赤外線ホーミングの為,F-35JCのプラット・アンド・ホイットニー F135-PW-100の発する熱源へと向かっていく。

 

黒川は直ぐさまスイッチを操作してAN/ALE-45J(チャフ・フレアディスペンサー)からフレアを巻き,高度を上げる。巻かれたフレアにR-73は吸い寄せられて爆発する。

 

「やってくれたな! 今度はこっちの番だ!!」

 

Crane1はそのまま機体を宙返り状態に持ち込む。出来る限り旋回半径を最小にとり,ターンするであろうSu-33の背後につく作戦だ。

 

この時彼の体には相当な加速度(G)がかかっている。もしこの状態が長く続けば,脳に酸素が供給出来ずに視野を失う“ブラックアウト“や脳に血流が充分行き渡らなくなり,色調を失う“グレイアウト“,血液が眼球の血管に集中し視野が赤くなる“レッドアウト“等を引き起こす可能性があり,非常に危険な状態である。

 

それに加えて先程Su-33はターンすると言ったがあれは単なる推測(・・)で,実際にそうなるかは分からない(・・・・・)のである。

 

つまりこれは一か八かの大きな賭けであった。

 

そしてその賭けは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒川の勝利だった。

 

(見えた!)

 

旋回した黒川の目線の先にはSu-33の姿がしっかりと見えていた。

そして直ぐに操縦桿のボタンを押した。

 

「FOX2!!」

 

04式が切り離れ,ロケットに点火し,Su-33へと向かっていく。

 

1基の04式はSu-33に吸い込まれるように近づき,

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Su-33の翼の付け根に命中した。

 

命中した部分から翼は折れ,燃料に引火し黒煙を吐き出している。機体はバランスを失い,回転しながら高度を落としていく。

 

降下していく最中,キャノピーの硝子が割れ,中からパイロットが空に放出される。

どうやら敵機のパイロットは脱出(ベイルアウト)した様だった。

 

(あのパイロットは賢明だ。艦隊に戻ったら直ぐに助けてやるよう言っておくぞ。)

 

そんな事を思っているとCrane2から通信が入る。

 

『Crane2よりCrane1へ。こちら敵機を撃墜しました! 以上(オーバー)!』

「了解した! パイロットはどうだ?」

脱出(ベイルアウト)した模様です!!』

「そうか! なら良かった! 残りの4機はどうした!?」

『現在Crane3が迎撃しているみたいだが・・・』

 

その時Crane3から救援要請ともとれる通信が入った。

 

『Crane3より全機へ! こちらは敵機4機を迎撃するも抜けられた!!』

『抜かれた!? ミサイルは撃たなかったのか!?』

『ミサイルは全発撃った!! だが全部チャフとフレアでやられた。』

「なんてこったこりゃあ失態だ・・・・・・兎も角艦隊に連絡を。」

 

Crane1は艦隊へと連絡を入れる。

 

「Crane1より艦隊へ! 2機を撃墜するも4()機に抜けられました!! 以上(オーバー)!」

『「あまぎ」よりCrane1へ。良くやった救助ヘリ(HH-60)の発艦を準備しておく,クレイン隊は増援に警戒してくれ! 以上(オーバー)!』

 

クレイン隊3機は機首を朱雀列島に向け,飛び去っていく。

 

そして日本初となる艦隊vs戦闘機の戦いが始まるのだった。




今回から後書きに何か書こうと思います。

10話で読者のコメントを募集?しましたが,一切来なかったのでメンタル凹みましたw

世間はコロナですが作者の住んでいる県はまだ感染者が出てないので慢心してます。

最後に読んで下さってありがとうございました。


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Episode.13 迎撃

第2機動部隊とシ連機との戦いが開幕しようとしている頃,OREjournalの編集長室では荻窪大介がパソコンと向き合っていた。

 

「美保からC-2離陸・第3機動部隊に第5護衛艦隊がいきなり出港・小松から実弾装備のF-15Jが10機離陸・・・・・・・こんな事態は今まで一度もなかった。つまり今までにない何かが起こっているのか。」

 

彼のパソコンの画面にはネットにかかれた自衛隊の情報が写されていた。

普段とは違う様子の自衛隊に違和感を覚える人が多かったのが彼にとって幸いだった。

 

「政府は何かを隠蔽しているが,人々は気づき始めているぞ。」

 

正しく日本国民は気づき始めていた。朱雀列島との連絡不通からの自衛隊の不審な行動に疑問を持つ人々がネットで様々な意見を飛ばしていたのだった。

 

そこへ取材に出ていた瀧川と木戸が帰ってきた。

 

 

「編集長。取材から帰ってきました!」

「おお,2人とも一緒に帰ってくるとは。もしかして2人一緒に調べていたのか?」

「いえ,ちょうど帰ってきたのが同じだっただけですよ。」

「そうか。瀧川は何か分かったのか?」

 

瀧川は肩掛けカバンからあり得ない位に沢山の写真とメモを取り出した。

流石の量に2人も引き気味になった。

 

「私は3時間程内閣府前で張り込んでいたのですが,人や公用車の動きが桁違いでした。

そして車の動きを様々な方法で追跡したのですが,ほとんどが外務省・防衛省そしてシ連・中国大使館へと向かってました。」

「様々な方法?」

「実際に追跡もしましたし,他に張り込んでいた記者同士でも連絡を取り合って確認しました。」

 

瀧川の報告に荻窪は疑問を抱き,質問した。

 

「瀧川。シ連と中国の大使館ではどっちが多かった?」

「圧倒的にシ連大使館でした。」

「成る程・・・・どうやらシ連が絡んでいるのは間違いないみたいだな。

木戸はどうだ?」

 

木戸もリュックから写真を取り出す。

 

「横須賀基地も慌てたように動いていました。それとネット情報ですが,各基地からあわただしく哨戒機が離陸していったようです。」

「哨戒機・・・・・・潜水艦対策か。米軍の様子はどうだった?」

「近隣住民によると,“今日になって急に騒がしくなった“との事です。」

 

その時,パソコンに通知が入る。荻窪は通知の内容を確認すると興奮気味に話し出した。

 

「面白い情報が入ったぞ! 見ろ! これが何か分かるか?」

「これって・・・・・・・パトリオットですか?」

 

パトリオット

 

アメリカ陸軍が開発した地対空ミサイルだ。日本は弾道ミサイルに対する備えとして,1985年からライセンス生産されており,航空自衛隊 高射群に配備されている。

 

この兵器が動いたという事はICBMが飛んでくる(・・・・・・・・・・)かもしれないという事なのだ。

 

「シ連はRT-2PM(シックル)RT-2PM2(シックルB)RS-28(サタンB)

中国はDF-5(東風5)DF-31(東風31)DF-41(東風41)を持っている何か動かしてくるかもしれないな。」

 

荻窪の独り言に瀧川と木戸は顔を見合せ,おどおどしながら質問した。

 

「編集長・・・・・・・・今までずっと思っていたのですが,なんで兵器事情に詳しいのですか?」

 

実はこの男 大の軍事マニアなのだ。自衛隊・米軍・シ連軍挙げ句の果てには北朝鮮軍など様々な軍の情報を知っており,国内だけでなく外国の基地公開等に行くなど,その熱意は本物だ。

その結果,自衛隊と米軍の広報に顔を知られているのは余談だ。

 

だがこのOREjournalでは全くその一面を見せていないので,この事を社員達は知らない。

 

「ともかく,ICBMを持っているのはシ連と中国と北朝鮮だが,北は日本と事を構えたくないだろう。

それにシ連と北朝鮮は仲が悪い(・・・・)からな。」

シ連(あの国)真意(・・)を唯一見抜いたのが北朝鮮でしたからね。」

 

シ連と北朝鮮の話は後にするとして,荻窪は情報を纏め始めた。

 

「今までの情報から推測すると・・・・・・・日本はシ連と戦いを始めたのかも知れないな。」

「朱雀列島の件・不審な自衛隊・・・・・辻褄が合います!」

「ですが編集長!!」

「ああ,分かっている。真の問題はそこじゃない。未だに政府が何にも話していない(・・・・・・・・・・・・)事だ。」

 

その通りだ。彼らが今まで話していたのはあくまで推測でしかない。

政府からの発表は“朱雀列島の電話塔故障による通信不能“のみであった。

だがそれでは何故急に自衛隊が動き出したのか矛盾が発生してしまう。

その矛盾がなんなのかを探した結果この考えに至ったのだ。

 

荻窪は椅子を回し,窓から下の道路を見つめながら,呟いた。

 

「だが1つだけ言えるとしたら。もしこの事が発表されたら,国民の怒りという火はそうは消えなくなるぞ。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「敵機4機接近中!! 距離33km!!」

 

追尾担当士官の叫びがCICに響き渡る。室内には緊張が高まる。

桐島と水上の顔にも緊張が漂っている。

 

「艦長。奴等のミサイルの射程にはとっくに入っている。なのに何故撃ってこないんですか!?」

 

水上が桐島に疑問を言った。戦場における疑問は自分の命を失いかけないからだ。

 

「恐らく段階的に撃ってくる。一気に来るより何回かに別れて来る方が効果は高い!

・・・・・・もしかしてだが,我々を引き付けたいのではないのか?」

「しかし,仮にそうだとしても一体何から引き付けたいのでしょうか?」

「それは敵にしか分からないさ。」

 

2人の話に砲雷長も加わってくる。

 

「艦長。本艦も全火器の使用は可能です!!」

「砲雷長。防衛は頼むぞ。」

「応急工作員も万全の体制だと言ってました。」

「鷲尾の兄か?」

 

“鷲尾の兄“とは「あまぎ」応急長の鷲尾颯太の事だ。兄と言うのだから勿論弟もいる。

弟については後で語ることにしよう。

 

「えぇ,「この命に変えても船を沈めません。」と言ってましたよ。」

「一回の被害毎にそう言わないで貰いたいがな。」

 

そんな話を遮る様に敵は仕掛けてきた。

 

「敵機ミサイル発射!!」

「数と方向は!?」

「計4発!! 「かつらぎ」に向かっていきます!!」

「「あそ」ESSM(シースパロー)発射!!」

 

輪形陣の左端の「あそ」から4発のESSM(シースパロー)が放たれる。

4発のミサイル同士は艦隊の10km先にて交錯し,消滅する。

 

「全発撃墜!!」

 

CIC内に歓声が起きる。だが桐島はそれを抑えた。

 

「油断するな。次は本艦に来るぞ!!」

 

その直後狙ったかのようにCIC内にブザー音が鳴り響く。

 

「敵機からレーダー波照射!!」

「来るぞ!!」

 

艦隊に隙を与える暇なく,4発のkh-35(AS-20)が放たれた。

 

「敵機ミサイル発射!! 4発本艦に向かってきます!!」

 

桐島は即座に無線機を取って連絡する。

 

「「はつづき」・「しもつき」にESSM(シースパロー)の発射を!!」

『こちら「はつづき」了解!!』

『「しもつき」了解!!』

 

「はつづき」と「しもつき」のMk.41 VLSからRIM-162(ESSM)が2発ずつ放たれる。

 

4発のESSMはKh-35と交差し,その光点が消えた。

 

「敵ミサイル全発げき・・・・・」

 

レーダー士官は喜びの報告をするが,その喜びは一瞬で消える。実戦はそんなに甘くなかった。

 

「残った1基が本艦に向かってきます!!」

20mm機関砲(CIWS)迎撃開始(コントロールオープン)!!」

 

宇津木の合図と共に右舷前方に設置されている2基の20mm機関砲(ファランクス)の1基が火を吹き始める。

毎秒50~70発の連射速度で,放たれたM51通常弾はKh-35に多数あたり,衝突直前爆発した。

 

100mも離れていない距離で爆発したため,爆風がもろに艦に直撃し,艦は揺れた。

 

「うおぉ! やはりなかなか揺れるな。」

「艦の被害は!?」

「現在把握中です! ですが直撃していませんので,死者は出てないと思います。」

 

CICの隊員の報告は水上は激しく過度に反応した。

 

「直撃していなから死者が出ていない!? そんな戯言は戦場に通用しないぞ!!

戦いでは何が起きるか分からない! 一体どういう形で死ぬかは分からない!!

私自ら艦内を見て確認する!! 艦長。CICをお願いします!」

 

そう言って水上はCICを飛び出していく。彼が出ていくと隊員達がざわつき出した。

 

「船務長があんなに怒鳴るなんて初めて見た・・・・・・」

「噂には聞いていたが本物は凄いな・・・・」

 

そんな話に宇津木が合いの手を入れる。

 

「君達の噂というのは“船務長の覚醒“の話か?」

「はいそうです。砲雷長知っているのですか?」

「私はあの人の後輩だぞ。知ってるもなにも体験したのだから。」

 

宇津木の話に室内から「すげぇな・・」・「一体何をしたんだ・・」・「俺に聞かれても・・」なんて声が聞こえてくる。

 

そんな室内でも桐島はただ黙ってディスプレイをみつめていた。

 

「追尾担当士官。確か敵編隊は7機だったはずだが,この海域には6機しか来ていない。

残りの1機はどこに行ったんだ(・・・・・・・・・・・・・・)?」

「えっ・・・・・・・」

 

追尾担当士官が驚愕する。確かにそうだ。

E-2(ホークアイ)からの連絡では敵機は艦隊からの6機に飛鷹島からの1機を加えた7機で来ていたはずだ。

しかしクレイン隊が接敵した時には既に6機になっていた。

 

じゃあその1機は何処へ行ったのだ?

 

「別方向から仕掛けてくる可能性がある! 絶対に見つけてくれ!!」

「分かりました!!」

 

士官は急いで捜索しだす。そして

 

「み,見つけました!!」

 

追尾担当士官の指先には,たった1機で飛んでいる光点が写っていた。

これこそあの消えた1機だと桐島は確信した。

 

「成る程。こいつから目を逸らしたかったんですね。」

「そうみたいだな。だが何をしたいんだ?」

 

その機体は艦隊に向かって飛んでおらず,逆の本州方面へと飛んでいた。

CICの隊員達は何処へ向かって飛んでいるのかさっぱり分からなかった。

 

しかし,桐島はあることに気がついた。その機体の進行方向を指で予想しだした。

そしてある場所にたどり着く。桐島の顔は真っ青に変わる。

 

「まさか・・・・・・・・・・・まずい!!」

 

桐島のただならぬ様子に宇津木が対応した。

 

「あの機体の行き先が分かった・・・・・・・」

「あの機体は何処へ向かうのですが!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「航空自衛隊小松基地だ!!」




読んで下さってありがとうございます。

今回は内容が内容ですので少なくなりました。
因みに小松に向かっている機体ですが,Su-33・35・57ではございませんので,そこは次回をお楽しみに。

余談ですが今度新作を連載しようと思いますので,宜しくお願いします。


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Episode.14 小松の空

小松基地内のある部屋。ここには第303飛行隊(ファイティング・ドラゴンズ)のパイロット達がアラート勤務(スクランブル待機)していた。

 

パイロット達は雑談・スマホ・テレビ・トランプ等で暇を潰していた。

 

ここから北東に行った場所ではさっきまで戦いが発生していたにも関わらず,ここではいつも通りの日常が続いていた。

 

しかし,その日常も一瞬にして消える。

 

突如として室内にアラート音が響き渡る。スクランブル発進の合図だ。

 

待機していたパイロット達は直ぐ様格納庫へと急行する。木更津現和のその中の1人だ。

 

木更津が格納庫につくと,既に乗機のF-15Jには04式が4発搭載されていた。

彼は直ぐ様コックピット脇のタラップを上り,コックピットへと乗り込む。

 

エンジンを始動し,ミサイルの安全ピンを抜き,レーダーON等の確認を行い,木更津の機体は出撃準備を整えた。

格納庫(ハンガー)からエプロンへと機体が出ると,管制官からの通信が入ってくる。

 

『敵機は基地までもう70kmを切った!! 絶対に小松の上空に入られる前に落とせ(・・・・・・・・・・・・・・・)!!』

『聞いたか? 分かっているだろうがこの小松の空には入れさせるな!!行くぞ!!』

「Pigeon2 了解(ラジャー)!」

 

Pigeon1以下2機はランウェイ06へとタキシングする。木更津がふと脇を見ると,誘導路の隣にトーイングカーに牽引された日本トランスオーシャン航空(JTA)の旅客機が止まっていた。

 

「Pigeon2よりPigeon1へ。時間的には定期便の小松→那覇便が離陸する筈ですが,それに関しては大丈夫ですか?」

『Pigeon1よりPigeon2へ。それに関しては問題ない。管制員がしっかり取ってくれるそうだ。

それにここはスクランブルが多いんだ。客だって仕方ないと思うさ。』

 

小松基地は日本海に2つ(・・)しかない戦闘機配備基地かつ,シ連機の領空侵犯には飛鷹島基地の第311飛行隊と共に向かうことがあるため,那覇・千歳と並びスクランブルが多い基地の1つだ。

 

スクランブルがかかったのなら旅客機は待っていなければならないので遅れが発生してしまうが仕方ないだろう。

 

ある小松が舞台の作品では「譲り合って使う」と言ってたが,そんなこと出来るんですかね?

 

『Pigeon2 Cleared for takeoff(離陸を許可する)!! 』

「Pigeon2 了解(ラジャー)!!」

 

2機のF-15J(イーグル)はランウェイ06を離陸し,敵機の方へと機首を向けた。

 

Pigeon2の捜索レーダーには1個の光点が写っていたが,彼らの視界には一切見ることが出来なかった。

 

「Pigeon2からPigeon1へ。敵機を視認出来ません! 虚偽報告(ゴースト)ではないんですか!? 以上(オーバー)!」

『Pigeon1からPigeon2へ。それは無い筈だ! もし上にいなかったら下を見ろ!! 以上(オーバー)!』

 

通信が切れると直ぐ様Pigeon2は180°回転する。木更津が目を開けた瞬間,光点の正体を発見した。

 

「いた!! Pigeon2よりPigeon1へ! 敵機は海面スレスレを飛んでいる!! 以上(オーバー)

 

その機体は水面ギリギリの高さで,小松の街へと飛んでいた。

 

特徴的なキャノピーでまるでカモノハシの様な機首をした機体を彼は知っていた。

 

「Su-34・・・・・・・・・」

 

Su-34 NATOコードネーム フルバック

 

Su-27を改造発展させた戦闘爆撃機で,Su-24(フェンサー)の後継機として開発された。

この機体はカナード翼等Su-27との違いが各所に見られるが,一番の特徴は並列座席のコックピットだろう。

世界中の軍用機を見ても,あの様な形をしたキャノピーはないだろう。

 

今そのSu-34は海面スレスレを上手に飛び,小松の街へと向かっていた。

 

『奴はSu-34(フルバック)だったか・・・・全機絶対に入れさせるな!! 以上(オーバー)

「奴を小松の空に入れてたまるか!!」

 

Pigeon1は操縦桿を右に切り,機体を右旋回させる。Pigeon1はSu-34の正面へと向き合う。どうやら正面から阻止する様だ。

 

翼の根元に装備されたJM61A1 20mmバルカン砲が火を吹き,20mm口径弾がSu-34へと向かう。

 

だがSu-34はそれを読んでいたかの様にフラップを操作し,エンジンの出力を上げて,上空へと舞い上がる。

 

しかし,その機体の先にはPigeon2が既に待機していて,Su-34へと向かってくる。

 

こちらもPigeon1と同じく20mmバルカン砲を放つ。しかし木更津は機体の動きに驚愕した。

 

シ連機名物 変態機動だ。

 

Su-34はまるでエンジンの火が消えたように失速する。しかしそれでも機体はバランスを保ったまま高度を下げていった。

 

普通ならここで失速したまま墜落するのだがシ連機は違う。なんと再び体制を戻し,加速しだした。

 

一言で言うなら「あり得ない・・・・・」だろう。

 

(敵前であんな飛び方・・・・・・・パイロットは正気か!?)

 

攻撃を交わされた木更津は直ぐ様追いかけるべく体制を立て直そうとしたが,彼は気づいた。

 

(このまま行ってしまえば海に突っ込む!!)

 

直ぐ様操縦桿を引き,機首を上にあげる。F-15Jのエンジンの排気で海の水が舞い上がり,キャノピーにも水滴が何滴も着き出す。

 

そのままPigeon2は上空へと上昇する。横を見るとPigeon1も同じく並んでいた。

 

だが忘れていないだろうか? Su-34はどこに行ったのだ?

 

捜索レーダーを見ると,Pigeon2の直線上にSu-34を示す光点が写っていた。

そしてその光点の下には・・・・・・・

 

「入られた・・・・・・・」

 

小松の街が広がっていた。

 

彼らが何故小松の町に入られる前に落とそうと懸命になっていた理由を教えよう。

 

もし街の上空に侵入機が入っても撃墜する事は無論可能だ。しかしその場合確実に撃墜した機体の部品,もしくは機体そのものが街に落下してくる可能性がある。

 

それによって怪我人もしくは死者が出たとなれば大問題である。

そもそも上空に入られた事も大問題だが・・・

 

実際にも1964年の町田米軍機墜落事故や1977年の横浜米軍機墜落事件では地上に墜落したことによる死者が発生しており,この前例から考えれば街上空で落とそうとはしないだろう。

 

つまり自衛隊はSu-34(・・・・)を落とす事が不能(・・・・・・・・)になったのだ。

 

落とす事が不可能になったが,この状況でもパイロット達は諦めなかった。

 

まずは街上空から追い出すことを実行しだした。Pigeon1.2がSu-34の後方につくが,シ連機特有の機動性に圧倒されていた。

 

(頼む! どうかその空から去ってくれ!!)

 

だが彼の思いはあっさりと裏切られる。

 

Su-34は4発のもKh-55(ケント)を放った。

 

即座に地上に配備されていた味方航空施設防衛機関砲(VADS)のM128 20mm機関砲がミサイルに火を吹くが,マッハ0.5近い速度で迫ってくるのを捉える事は不可能だった。

 

4発のミサイルは糸に繋がっているかのように,小松空港の滑走路に命中した。

 

滑走路に4つの盛大な爆炎が起こり,アスファルトが舞い上がる。

爆炎は消え始めるが黒煙が多数発生し,黒煙の隙間からは滑走路には着弾時に出来たクレーターがその姿を表していた。

 

たった一瞬にして小松基地はその機能を失った。

 

小松基地が使用不能になった。これはつまり,日本海に戦闘機を飛ばせる基地がなくなった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ということである。

 

ということはシ連機を迎え撃つ事も,朱雀列島のシ連軍を攻撃する事も,第2機動部隊を援護する事が不可能になったのだ。

 

だが百里の第3飛行隊や築城の第6・第8飛行隊を飛ばせば出来ないこともないが,そもそも時間がかかってしまい間に合わない可能性がある事と,それぞれ“首都圏防衛“・“九州の防衛“という重要な役割を担っているので実質無理だと言えよう。

 

その引き金を引いたSu-34は悠然と飛鷹島への帰路についたが,自衛隊がそれを見逃す訳がなかった。

 

VADSと同じく基地に配備されていた基地防空用地対空誘導弾が放たれた。

 

Su-34は直ぐ様チャフとフレアを巻こうとしたが,近すぎた。

 

2発がSu-34のリューリカ=サトゥールン AL-31F-M1エンジンに命中した。命中した部分からは黒煙が上がり,隙間からは火が燃え上がっていた。

 

機体はバランスを崩しながら,小松沿岸に墜落した。

 

「敵機小松沿岸に墜落!! パイロットはどちらも脱出した模様!! 以上(オーバー)!!」

『了解した!! 直ぐ様救難隊のUH-60J(ロクマル)を・・・って飛ばせないな!?

おい早く救助のヘリか船を手配しろ!!』

 

管制員達が困惑しているなか木更津は先程小松→那覇のJTAが離陸しようとしていたのを思い出した。

 

直ぐ様右旋回しながら機体を確認する。黒煙に阻まれてしっかりと捉える事が出来ないが,隙間から純白に塗られている機体の姿をチラチラと確認できる。

 

JTAの機体は誘導路にいる状態だった。爆発をスレスレでかわせたようだった。機体の乗客は脱出用スライドで脱出していたが,空から見ても乗客が混乱している様子が伺える。

 

それもそのはず,これから那覇に行こうとしたらいきなり滑走路が爆発したからだ。

乗客達は燃え上がる炎から逃げようとしているが,今の状況が信じられないという人も多くいた。

 

そしてその様な事態は空港内や小松の街でも発生していた。

 

いきなり轟音と共に自衛隊機では無い機体が上空を飛び,その機体から何かが発射され,その直後小松空港から爆発の轟音が響き渡り,それにつられて見た人達は滑走路から黒煙が立ち上がっているのをしっかりと目に焼き付けていた。

 

その様子を人々はスマホで撮影し,次々とネットへと上げ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして日本国民は今までに無い事態が発生していると知ることになった。




今話も読んでくださってありがとうございます。

同じく連載している「ありふれた世界とありふれた仮面ライダー」の方が話少ないのに人気がこれよりも高いんですよね。

やっぱりオリジナル作品って難しいですね。

ですけど二次創作とは違って自分がやりたい事だけをやれるのがオリジナルの良さですかね?

前回書いた機体についてですがまさかのSu-34でしたww
・・・・・・そもそも考えた人なんているわけありませんねww


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Episode.15 政府の信用

「不味いことになりましたねぇ……」

 

鈴村含め内閣全員が重苦しい雰囲気に包まれていた。

 

理由は単純。シ連に小松基地を空襲され,使用不能にされたのだ。

 

この事によって日本海に対する戦闘機基地が完全に失われ,日本海でシ連が優勢の状況という日本にとって不利な状況になっていた。

 

だがそんな事より重大な問題が発生していた。

 

人々が日本とシ連と戦っている事を知ってしまったのである。

 

現在ネットは物凄い勢いで荒れていた。政府・自衛隊に対する批判,戦いという単語によって起きた混乱の情報,シ連に対する批判等人々が言いたい放題の荒れぷっりだった。

 

このままこの状態が続けばいつデモが起きても可笑しくなく,日本が自滅してしまう可能性もありうるのだ。

この事態にため息をつきながら大洋官房長官が呟きだした。

 

「公表しなかった事が裏目に出たか……にしてもここまでとは。」

「官房長官。国民は言ってしまえば火薬庫です。何も起こらなければ平穏ですが,もし誰かが政府への不満という火を放り込めば瞬く間に燃え上がり誰も消せなくなってしまうのですぞ!」

 

安川外務大臣の言葉はその通りだ。一度ついてしまった火は消すのに時間が非常にかかる。

そしてその火はいつ隣の火薬庫に引火して取り返しのつかない事態に陥る事もざらじゃない。

 

「しかしこの状況は非常に不味いです。現在日本各地で物質の買い占めが多数発生しているとの事です。

もしこの状況が続くとしたら暴動やクーデターが起きるのも時間の問題です。」

 

音次経済産業大臣が深刻そうな顔で訴えた。

 

音次の心配は的を得ていた。現在は日本各地では非常食・水・乾電池・トイレットペーパー等の消耗品が物凄い勢いで消えていた。

 

もしこの状況が続いた場合,国民同士が物質を巡って争い初め,その矛先が政府に向き国民による暴動や政府に対するクーデターが起きる事は確実と言っていいだろう。

 

国内が混乱してしまえばシ連と戦う事など不能になり,敗北は免れないだろう。

 

「間違いなく日本はシ連と戦争という火によって混乱するでしょう。そしてその火を消すには長い時間と外部からの強力な消火剤(・・・)がいるでしょう。」

「消火剤・・・・・・・交渉もしくは・・・・・勝利(・・)

「我々の選択は2択に絞られましたね。」

 

交渉と勝利の2択。もしここで敗北(・・)という最悪の爆薬が落とされてしまえば日本の崩壊(・・)は間違いないだろう。

 

つまり日本はどちらにしろシ連と戦わざるおえなくなったのだ。

 

「総理どういたしますか!?」

 

鈴村は閉じていた目を開く。その目は覚悟を決めた目であった。

 

「17時から記者会見を行います。準備をお願いします。」

 

鈴村の言葉に人々がどよめきだした。その中でも特に狼狽えたのが総理秘書官の本庄だった。

 

「良いのですか!? 国民に更なる混乱を招くかもしれませんよ!?」

 

本庄の意見はその通りだ。国民が混乱している時にシ連と戦ってますと発表すれば更に混乱するのは間違いなく,下手をすれば日本だけでなく世界中が混乱に陥る事も目に見えていた。

 

「確かに私の言葉で国民は更に混乱するでしょう。ですが例え私が話さなくても混乱は免れません。

それならば不確かな情報よりも正確な情報で混乱した方がマシかと私は思います。」

 

1mmもぶれることのなく的を得た正論に本庄は何も言うことは出来なかった。

 

「宜しいですか? では17:00から官邸の記者会見室で会見を行います。

官房長官宜しくお願いしますよ。」

 

その言葉を言い終えると鈴村は扉を開け,退室した。まもなく19:00の記者会見に向けて準備が始まったが,その中に不気味な笑顔を浮かべている人物がいることには誰も気がつけなかった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

16:55

首相官邸の記者会見室には多数の報道記者が詰めかけていた。

その事態について何が起きているのか・首相はいったい何を話すのか等の話題で記者達の話は持ちきりだった。

 

17:00丁度。

首相官邸の記者会見室に鈴村が現れると,記者達が一眼レフでフラッシュを焚く。

フラッシュの光を浴びながら,鈴村は会見台へと登った。フラッシュが止むと,鈴村は落ち着いた口調で話し出した。

 

「会見場にいる記者方。そしてこの会見を見ている国民の皆様。

今いったい何が起こっているのか分からないと思われます。今から日本が対面している事態についてお話ししましょう。」

 

鈴村は一息おいて,記者達に向かって話し出す。

 

「本日朱雀列島にシ連軍が上陸し,占領しました。」

 

総理の言葉に会見場は静まりかえる。まるでフィクションの様な事をいきなり言い出した鈴村に記者達は動揺し,戸惑い始める。

それは会見を見ている人々も同じだった。ビルに設置してある大型モニター等でも生中継されていた為に街を歩く人々・電車の中でスマホで会見を見る人々・家のテレビで家族と共に見ている人々等日本国民全てが鈴村の言葉に動揺を隠せなかった。

 

それを見透かした様に鈴村は再び話し出した。

 

「皆さんも信じられませんよね。ですが私の言ったことは事実です。

先程も言ったように本日01:00 朱雀列島 日北島のレーダーサイトをシ連艦隊の艦載機が攻撃を行い,その後に各島に上陸,占領しました。

取り敢えず話を切りましょう。記者の皆様も色々と聞きたい事があるでしょう。」

 

鈴村が話し終わるとほぼ同時に記者達は思うがままに鈴村を質問攻めした。

 

「朱雀列島に配備されている 朱雀警備隊の隊員は無事なのか! お答え頂きたい!」

「朱雀列島の島民は無事なのですか!」

「何故政府はこの事態を隠蔽していたのですか!!」

「シ連に交渉は行ったのですか!?」

「この事態に自衛隊は動いているのですか!?」

 

記者達が物凄い勢いで言葉を発し出した。言葉と言葉同士がぶつかって発言が途切れ途切れになるくらいになっていた。

 

「私は聖徳太子ではありませんので,いっぺんに言われても聞き取れませんよ。

それにそんなに騒がれては私の話等聞こえませんよ。記者にとって私の話が重要ではないのですか?」

 

鈴村の言葉に記者達は何も反論出来ずに静かになりだした。

 

「まず朱雀列島の現状ですが,蘭島・飛鷹島・多千穂島・築館島にシ連軍は上陸した模様で,各種装備品を揚陸し防衛を行っている思われます。

朱雀警備隊については詳しい状況が未だに不明な為,回答を差し控えさせてもらいます。」

 

鈴村が話し終わると,記者の1人が立ち上がり,大声で叫びだした。

 

「首相はさっきから“模様“や“思われます“と言っているが占領から16時間も立っているのに詳しい状況がまだ分かっていないのですか!?」

 

記者の怒号とも言える質問に周りにいるベテランの記者達ですら引いていたが,鈴村は落ち着いて答える。

 

「先程“占領から16時間も“と言いましたが,そもそもまだ占領から16時間しか(・・)たっていないのです。

それにシ連に関する正確な情報がまだ入っていないのです。

現在シ連に対して交渉を行うと共に各所から情報を集めています。

今はネット社会ですから様々な情報が直ぐに入ってきます。ですがネットに載っていない情報に関して調べるとしたらあなた達記者は根気強く調べると思われます。現在の我々も根気強くシ連軍を調べています。

自身が根気強く調べているのに早く調べろって言われるのは嫌ですよね?」

 

鈴村の言葉に怒号を上げた記者は一言も反論出来ずに席に座った。

周りの記者からは微かな嘲笑いが漏れていた。

 

「話に戻りましょう。朱雀列島の島民に関しては詳細が未だに不明ですが,衛星写真によるとどうやら施設に集められていると思われています。

それは朱雀警備隊も同じで,負傷者や死者がいるのかも不明です。」

 

鈴村は一区切り置くと,再び話し出した。

 

「現在,シ連に対して交渉を行っていますが,ちゃんとした回答はまだ得られていません。その為,中国等にも交渉を行っていますが,同じ状況です。

自衛隊に関してですが,現在朱雀列島に向け,近海で演習を行っていた第2機動部隊を急行させています。また自衛隊各部隊についても,いざというときに備えて待機させています。」

 

第2機動部隊。この単語に記者達は大きく反応した。第2機動部隊の母港は舞鶴だ。そして第2機動部隊も目的は“日本海の防衛“つまり対シ連用の艦隊とも言って良いのだ。

 

「第2機動部隊に関しての詳しい情報をお答え願いますか?」

「今から8時間程前,第2機動部隊に対してシ連潜水艦から魚雷が発射されました。

第2機動部隊はこれに対し,艦隊防衛の反撃を行い敵潜水艦1隻を損傷させました。

そして今から約2時間程前にも敵航空機からミサイル攻撃を受けました。

こちらに関しても全発撃墜し,艦隊に被害は出ておりません。」

「そのミサイルを撃った機体についてはどうなったのですか?」

「敵機は6機編隊で接近し,上空に上がっていたF-35JCによって2機が撃墜されました。

パイロットに関してはどちらも無事です。」

 

鈴村のこの発言に記者達は反応した。

“自衛隊が初めて戦った“

創立から80年。遂に自衛隊が戦ったのだ。国を守る為の自衛隊が初めて本当の仕事 国家防衛をしたのだ。

記者達は次々に手に持っているメモやスマホに記録していった。新聞やニュースに載せる為だ。

 

果たしてどのような解釈で載るのか。それは誰にも分からない。

記者の1人が内容を書き終わると,立ち上がった。

 

「では石川県の小松基地が攻撃された事に関して一言お願いできますか?」

「小松基地はシ連軍の機体が低空で市内に侵入し,ミサイルによって滑走路を破壊しました。

この事による民間機への被害はないと確認されました。」

「情報によりますと実弾を装備した戦闘機が出撃したとありますが,それで迎撃はしなかったのですか?」

「それに関しては佐渡のレーダーサイトを攻撃しようとしていた別の航空隊に対応していました。」

 

別の航空隊・・・・・・この単語に記者達が反応しないわけなかった。

 

「その航空隊に関しては何かお答えする事は出来ますか?」

「出来ますが覚悟を決めて聞いてください。シ連軍は15機もの戦闘機によって佐渡に配備されているレーダーサイトを攻撃すべく日本領空に侵入しました。

これに対応すべく,小松基地から第306飛行隊所属のF-15J 10機と浜松基地の第602飛行隊のE-767 1機が急行し,その結果F-15J 3機とE-767が撃墜(・・)され,E-767の乗員21名が戦死(・・)したと確認されました。」

 

戦死。日本人がもう2度と聞きたくない言葉が総理から出た。会見場の記者は兎も角,会見を見ていた人々もざわつき出した。

会見場は今までにないぐらいに混乱しており,まるで先生のいなくなった教室のようだった。

そんななか1人の記者が立ち上がりながら叫んだ。

 

「先程死者はいないと言ったが出てるではないか!! 矛盾しています! 総理どういう事ですか!?」

 

彼の発言をきっかけとし,多数の記者が怒号を唱え出した。

 

「そうだ! 戦死者が出てるではないか!!」

「もしこの話が出なかったら隠蔽する気だったのですか!?」

「そもそも何故撃墜されたのですか!!」

 

怒涛の怒号でも鈴村は冷静に返答した。

 

「先程も言った通りシ連軍機は我が国の領空に侵入しました。

そもそも最初に撃墜されたのは自衛隊機です。警告を行う前に撃墜された為に航空隊は自己防衛とレーダーサイト防衛の為に戦闘を行い,敵戦闘機を4機と早期警戒機2機を撃墜しました。」

 

再び会見場がざわつき始める。自衛隊機よりシ連軍機の方が被害が大きかったからだ。

彼らは再び立ち上がって怒号を唱えようとしたが,別の記者が手を上げた。

 

「この事態にアメリカは動くのかお答え願いたい!」

「先程アメリカ大統領と電話会談を行いました。アメリカはこの事態に関しては日本に任せるとしたそうです。

ですがこの先の状況が変わればアメリカは動くこともあり得ると大統領は言ってました。」

「電話会談を行ったと言いましたが,アメリカ政府にはこの事態を伝えたのですか?」

「伝えました。シ連に対抗出来うる唯一の国家ですからね。」

 

この鈴村の発言に記者達は再び立ち上がって,次々に怒号を発した。

 

「政府は国民には伝えないのに,アメリカには伝えたのか!!」

「国民の信頼より国の関係を取ったのか!!」

「そもそも何故我々に情報を公開しなかったのですか!!」

「総理! 答えて貰いたい!!」

 

こんな怒号が飛び交う中でも鈴村は冷静に対応した

 

「簡単な話です。混乱を招く恐れがあったからです。そもそも公表しようにも正確な情報がまだ入っていませんでした。

正確な情報も無しに無闇に公表すれば日本は混乱し,最悪の場合自滅(・・)してしまう恐れがあったために公表を控えさせて貰ったのです。」

 

この鈴村の発言に記者達は納得できない様子で怒号を唱えた。

 

「国内が混乱って,政府が公表しなかったから今こうなっているのですよ!!」

「そうだ! もっと早く公表すれば混乱はもう少し収まったかもしれませんよ!!」

「この様な事態を招いたのは政府だ!!」

 

もう言いたい放題の記者達だったが,鈴村の次の言葉で更に爆発する事になった。

 

「情報というのは全てが正しい訳ではありませんが,人間というのはまず知った情報を全て鵜呑みにします。

例えその情報が間違っていたとしてもあんまり信じようとはせずに貫き通します。あなた方だってそうですよね? 最初に学んだ事を正しいと貫き通す。

この様な事態でその様な事が起こってしまっては人々は何もかもを信じられなくなります。あなた方はそれでも宜しいのですか?

さて,申し訳ございませんがもう時間が来てしまいました。最後に質問したい方は居られますか?」

 

唐突とも言える会見終了に記者達の半数以上が立ち上がって怒号を唱え始めた。

だがその中でも果敢に手を上げる人物がいた。

 

手を上げたのは,あのOREjournalの瀧川沙織だった。

 

「OREjournalの瀧川です。シ連が朱雀列島以外も占領する可能性はあるのですか?」

「無いとは言いきれません。ですのでこの会見を見ている皆さん。日本は太平洋戦争以来の危機が迫っています。今までの日常は一瞬で消えます。

もしかしたら明日この東京にシ連のICBMが降ってくるかもしれません。皆さんには今まで以上の政府への協力を要請する事になります。

最後に国民の皆様にこの様な事態を招いてしまい,申し訳ございません。」

 

その言葉を最後に鈴村は会見場を後にした。記者達からは「総理!!」「総理大臣!!」と言う声が起きていたが,この時瀧川は確信していた。

 

日本が再び戦争という荒波に呑まれ始める事に。




読んで下さってありがとうございます。

4月1日連載開始の小説の方に時間を取られてしまって更新が遅くなってしまいました。申し訳ございません。

恐らくですが4月1日以降は更に更新が遅くなるので読者は覚悟して下さいww


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Episode.16 次段階

「明日のニュースはとても荒れますね。」

「炎上どころじゃないですよ。もう爆発と言っても問題ない位です。」

 

会見場を後にした鈴村は危機管理センターに戻りながら,独り言を呟くと本庄が言葉を返した。

事実各放送局が番組を急遽取り止めて報道特番を組んでおり,新聞社も号外を街中で配り始め,国民に確実に情報が伝わり始めたのだった。

 

しかし配られた情報はテレビ局や新聞社によって何らかの脚色がされており,国民一人一人の解釈もあって現在ネットは今までに無いぐらいに火が燃え上がっていた。

 

事実これは政府が公表しなかった事もあるが,日本にとって最悪のタイミングでの小松基地空襲,これではまるでシ連に嵌められた(・・・・・・・・)ようだった。

 

「今の我々の最大の課題は戦いを終わらせる(火を消す)事です。

もしここで勝利()ではなく敗北()を注いでしまったらそれは日本の崩壊を意味します。」

 

そう言うと鈴村は危機管理センターの扉を開けて室内に入った。危機管理センターは様々な言葉が飛び交っており,混乱していた。

総理が帰ってきたと分かると各所から悲鳴とも言える報告が入った。

 

「総理! 経済産業省の連絡によると,各百貨店・量販店・スーパーマーケット・コンビニ等で多数の買い占めが発生しており,トラブルが発生しているとの事です!!

また買い占めた物の転売も相次いでいるとの事です!」

「国土交通省によると東海道・山陽・九州・東北・北海道・上越・北陸・山形・秋田各新幹線に乗客が殺到し大規模な混乱が発生しており,東北・東名・新東名・関越・中央各高速道路でも各所で渋滞が発生し,事故も多発しているとのことです!!

また国際線・国内線問わず空港と港にも殺到しているそうです!!」

「外務省も各国から連絡が入っており,担当の役員が対応にあたっていますが数が多いために追い付いていないとの事です!!」

「・・・・・・・・・予想通りですか。」

 

鈴村は会見によって国内が混乱するのをゆうに予想できた。ダムがたった1ヶ所の水漏れで崩壊する用に混乱した人々が更に混乱するのは容易だった。

 

「総理! 官邸前でデモ隊が集まっているとの事です!」

「放って置きなさい! 今は構っている暇はありません!」

 

また政府役員が急いでデモ発生を報告するが,総理は無視するように言った。

 

「総理いいのですか!?」

「そんな物に構っていれば貴重な勝利へのタイミングを逃してしまいます。

それによって日本が崩壊なんていう喜劇は誰も望んでいません。」

 

デモ隊に対処していた結果朱雀列島を完全に奪われ,シ連が上陸して国を奪われるなんておとぎ話にも無い事だ。そんな事が起きてしまえばの日本・・・・いや世界1の無能総理として受け継がれる事になるだろう。

 

そこへ急ぎながら榑木渉(くれきわたる)がやって来た。彼はここでは語られていないが,朱雀列島奪還に向けて編成された朱雀列島奪還陸海空統合任務部隊(JTF)から情報連絡の為にやって来たのだった。

 

「申し訳ありません。国会前が渋滞していたもので。」

「大丈夫だ。こんな状況だからな。」

 

渋滞によって予定より10分位遅れてしまった為に急いで謝罪する榑木を栃木防衛大臣が宥めた。

 

「例え遅れても情報が伝われば良いんですよ。では榑木二佐。作戦内容の説明を。」

 

榑木が危機管理センター(ここ)にやって来た理由はJTFの作戦説明の為であった。日本は朱雀列島の早期奪還を望んでいる。それに答える為にJTFは作戦を立案したのだ。

 

榑木は持ってきたノートパソコンを操作して画面を朱雀列島近海の地図に変えると,同じく持ってきたレーザーポインターで指しながら説明しだした。

 

「まず第2機動部隊より陽動の攻撃隊を出撃させ,築館・多千穂双方を奇襲します。陽動隊によって敵が引き付けられている隙に入間より離陸したC-2 3機によって特殊作戦群1中隊を降下させます。

降下させた特殊作戦群は飛鷹島の飛鷹島空港及び基地を使用不能にします。」

 

説明が終わると各所から“おぉ!“と歓声が上がった。中には明らかに顔をニヤリとさせていた。

 

そんな中大洋官房長官が手を上げた。

 

「質問を宜しいかね?」

「はい大洋官房長官勿論です。」

「では,なぜその2島が標的なんだ? 敵に大きくダメージを与えるには蘭島と飛鷹島の方が良いと思われるが。」

「飛鷹島にはSu-27と思われる戦闘機が10機程配備させており,尚且つ両島には各種防空兵器が多数配置されています。こんな場所に攻撃隊を突入させれば撃墜は免れないとされました。

その為にヘリしか配備されていない築館島とコンビナートがある多千穂島に攻撃を行う事で最低限の被害で敵を引き付ける事にしました。

何よりこの攻撃は陽動ですので,敵を引き付けられれば成功です。ダメージは大きい方が良いですが,小さくても良いのです。」

 

その答えに大洋は納得し,「そうだな」と言った。すると安川 外務大臣の隣にいた三崎が手を上げた。

 

「がやから失礼します。特殊作戦群によって飛行場破壊とありますが,ちゃんと破壊出来る装備があるのですか?」

「それについては安心してください。特殊作戦群と共に,82式通信指揮車 1両・カールグスタフ(84mm無反動砲) 3基・パンツァーファウスト3(110mm個人携帯対戦車弾) 3門。そして16式機動戦闘車(・・・・・・・)を降下させます。

なお対空用として91式携帯地対空誘導弾(P-SAM)も下ろします。」

 

16式という単語に再び“おぉ!!“という歓声が上がった。16式という読者全員が分かっていると思うが,日本初の装輪装甲車 16式機動戦闘車だ。

採用されてから8年程たつが,74式戦車を駆逐して現在も自衛隊の主力車両として君臨していた。

 

特殊作戦群は16式の装輪による機動性と市街戦などに有効であるとして機甲教導連隊より借り受けて訓練していたのを飛鷹島攻撃に使用するのだ。

 

なお実際の特殊作戦群が市街戦を想定しているかは分からないので,そこへのマジレスは勘弁してください。

 

話が逸れたが人々のざわつきが収まるのを待ってから再び話し出した。

 

「特殊作戦群降下完了を持って作戦の第1段階を終了とします。

第2段階は舞鶴港へと向かっている第1輸送隊に水陸機動団員を乗せ,築館島に上陸させ島を奪還します。

もし作戦が計画通り進むのであれば同じ頃に飛鷹島の飛行場を破壊出来ていると思われます。

シ連が航空基地能力を失ったと判断されたら,第2機動部隊による空襲を決行。敵指揮系統を寸断します。

指揮系統の壊滅を持ってして空挺団を降下させ,蘭島を奪還します。」

 

2段階の上陸作戦によって各島を確実に制圧する。たった数時間でこの規模の作戦を立案したJTFには歓声が上がる。ここにいる半分の人間は“これはいける!“,“シ連め! 遺書でも書いて待ってろ!“ともう勝った様な発言をしていたのだった。

 

そんな中音次経済産業大臣が手を上げて,質問した。

 

「私は軍事に関してはあまり詳しく分からないのだが,航空基地能力を失ったとあるが,その基準はどのくらいだね?」

「基準としては“滑走路が破壊されていること“,“機体の3分の1が破壊された“の2つが揃ったらと決められました。」

「滑走路破壊と機体の3分の1は求めすぎと言いたいですが,片方だけでは制空権を取れない可能性がありますからね。仕方ありませんね。」

 

鈴村の言うとおり特殊作戦群1中隊 100名で尚且つ短時間で滑走路と機体の2つの目標を破壊しなければいけないという過大すぎる要求だが,どちらかが残ってしまえば今後の作戦に多大な影響を与えるために確実に使用不能にするためには仕方ないのだった。

 

「もし作戦のどれかが失敗した場合はどういたすのですか?」

「その場合はその時点で作戦中止とします。もしそうなった場合は航空自衛隊と第2機動部隊の全戦力を持ってして数で押す作戦となります。」

「ちょっと待てくれ!? もしかしてだが失敗した場合を想定していないのか!!」

「言ってしまえばそうです。」

 

榑木のストレートな言葉に室内はざわついた。そのざわつきの中,鈴村が呟いた。

 

「戦争というのは数での戦いでもあります。それに第二次世界大戦はいわば数での戦いでした。

最終的には数になります。日本とシ連の数の戦いですか・・・・・・」

「総理。もう分かっているのではありませんか?」

「・・・・シ連いやロシアが得意としているのは物量戦(スチームローラー)です。

敢えて相手が得意とする戦いを挑むのは無能以下です。その様な事にならないように充分に対策をして実行をお願いしますよ。」

「現在三沢基地より無人偵察機が偵察に向かっています。また衛星写真も使用して正確な情報を纏めあげています。

戦いを終わらせる為にこの作戦を必ず成功させて見せます!」

 

“作戦を必ず成功させる“榑木の強い意思を受け取った鈴村は立ち上がった。

 

「それが大事です。では作戦は明日の02:00を持って決行とします。この作戦をOperation朱雀(オペレーション朱雀)と命名します。

全員一致団結して作戦にあたって下さい!」

 

鈴村の言葉に閣僚全員が頷き,オペレーション朱雀の決行が決まった。

鈴村は閣僚と室内の全員の顔を見ると,「ありがとう」と言ってドアへと歩きだした。

 

「総理。何処へいかれるのですか?」

「家族に連絡してきますよ。さっきから通知が鳴りやみませんからね。

全員一回落ち着いて次の行動に移りましょう。」

 

そう言って部屋を出ようとする鈴村に栃木防衛大臣が話しかけた。

 

「総理。宜しいですか?」

「えぇ,防衛大臣。ちょうど私も話したいと思いましたもの。」

 

鈴村と栃木はそのまま危機管理センターを出て行った。他の閣僚達も背伸びをして,疲れを解し始めていた。

 

だが彼ら(・・)は気づいていなかった。既に情報が漏れていたことに・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本(イポーニィ)朱雀(PHENIX)築館(やかた)多千穂(swordfish)に0200に戦闘機()を向かわせる模様。

人々(People)は革命寸前。あと一回で崩壊(ヴァイオント)のきっかけが産まれる。

By Cape』




こんなご時世で時間が余りまくっているのに更新遅くてすいません。

今回出てきた九州新幹線は長崎ルートが開通しており,北海道新幹線は数年早いですが札幌まで開業していると頭に入れといてください。

最後の暗号?に関してですが
日本→日本のロシア語読み
朱雀→英語でフェニックス
築館→館→やかた→それ以外思いつかなかった。
多千穂→太刀魚→英語でソードフィッシュ
戦闘機→鳥→そのまんま
人々→英語でPeople
崩壊→崩壊と言えばダム→イタリアで2000人もの死者を出したヴァイオントダムから
Cape→もう答えです

てな感じです。適当ですんませんね。


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Episode.17 Global Hawk

朱雀列島の北東の海上。紺碧の海と瑠璃色の空が漆黒の闇に包まれている中,銀色の1匹の鳥が飛んでいた。

 

この鳥は鴎や鶴等の生きている鳥とは違って,桁違いに大きくその外皮も羽毛ではなく,鉄で覆われていた。

 

この鳥はRQ-4 グローバルホーク。この機体はライアン・エアロノーティカルもとい,ノースロップ・グラマン社製の無人偵察機だ。

 

この機体は老朽化していたRF-4E/EJを置き換える為に航空自衛隊に導入され,偵察航空隊こと無人機航空隊所属として三沢基地に配備されている。

 

現在この機体は朱雀列島へ向け,飛んでいた。飛んでいる理由は単純明快に偵察だ。

朱雀列島に駐留しているシ連軍の正確な情報を入手するために飛んでいた。シ連機に撃墜される可能性も非常に高いがRQ-4(こいつ)は無人機,言ってしまえば大きなドローンだ。撃墜されたって失うのは機体のみ。なので安心して戦場に突っ込ませる事が出来るのだ。

 

·········戦後の代機に関しては気にしないとしようね。

 

話を戻して約20分程で朱雀列島上空に達する。蘭島,飛鷹島,多千穂島の順で偵察を行うが,いつ落とされるかは分からない。

だから3島全てを偵察出来る,若しくは1島も出来ずに落とされるかもしれない。

 

三沢基地の操縦役は無事偵察出来る事を祈るのみだった。

 

現在の時刻は20:00を回っていた。カメラに写っているのは何も見えない暗闇で,写っている画面には操縦役の顔が鏡の様に跳ね返っていた。

 

その漆黒の闇に1つの光が写る。蘭島の光だ。

 

果たして蘭島のシ連軍施設かは定かではないが,兎も角蘭島上空に到達したのだ。現時点では地上の防空部隊は何の動きも見られないが,いつ動くかは分からない為にモタモタしてられないが,その為に急いで離脱して締まったら偵察が出来ないという複雑な矛盾が起きていた。

 

だがこの場合は偵察を優先しなければならない為に速度を落として蘭島の上空を飛んだ。

 

画面にはグローバルホークの合成開口レーダー(SAR)によって写された蘭島の街並みが鮮明に写っていた。

 

そして街並みと共に各所に配備されているシ連軍の装備も写っていた。T-80と思われる戦車。トラックに搭載された対空ミサイル。駐車場にラインを無視して置かれているトラック。

 

他にも様々なシ連軍の装備がこの画面には写っていた。正確と捉えれた装備を操縦役の後ろの隊員が一個一個タブレットに打ち込んでいった。

 

結局蘭島の防空部隊は一切反応しなかった。本当に動いているのか心配になるくらいだ。

 

そして飛鷹島へと向かおうとした刹那,画面にノイズが発生したと思うと,漆黒に染まりそのまま永遠に途切れてしまったのだった。

 

「くそ!! 落とされた!!」

 

操縦役は机を叩きつけた。これから肝心の飛鷹島を偵察しようとした矢先に落とされたのだ。

不満が爆発するのも当たり前だ。

 

「落とされたか。何で落ちたんだ? 地対空ミサイルか?」

「恐らく航空機だ。島からは発射炎が見えなかったからな。」

 

グローバルホークのカメラにはミサイルが放たれた時に見える闇夜を照らす紅い鮮やかな炎が一切見られなかった。

これはつまり地上部隊からの攻撃ではなく,航空機による攻撃だと考えられた。

 

「これからという時になんで落とすのかな·····」

「そう落ち込むなって。確かに落とされたのは悔しいが蘭島の司令部らしき物は確認出来たな。これで白鳥(・・)のお膳立ては出来たな。

あとは白鳥が横田(・・)につくのを待つだけだな。」

「白鳥か·······」

 

そんな話をしているとふと気づいたのか,操縦役は窓を見た。

 

三沢基地(うち)は大丈夫なんですよね?」

「一応ここの飛行隊全機出撃準備は整っているらしいがな。」

 

窓の外にはエプロンに三沢基地所属の第302飛行隊のF-35Aと第4飛行隊所属のF-2AがそれぞれAIM-120(AMRAAM)22式空対艦誘導弾(ASM-3)を装備して待機していた。

三沢基地はシ連への前線基地の1つであるため,いつでもスクランブル出来る様に準備されていた。

 

とそこへ1人の隊員が扉を開けて入ってくる。隊員の手には1枚の紙が握られており,元々室内にいた隊員の1人が受け取った。

 

受け取った紙を見た隊員は目を見開いて唖然とした。別の隊員がその紙を奪うとこっちも目の眼孔を見開いた。

 

「なんだと·········俺達の行き先は違かったな。」

「えっ? どういう事ですか?」

 

受け取った隊員は操縦役にその紙を渡した。渡された操縦役も目を見開いて驚愕した。

 

「マジですか········」

「マジのようだな···」

 

外で牽引車のエンジン音が響きだすと,一気に騒がしくなりだした。

牽引車によってF-2Aがエプロンからハンガーへと入っていった。

 

「装備変更か? F-2の装備を22式から何に変更するんだ?」

「もしこれが本当なら対地(・・)兵装だよな。」

 

F-2Aの22式空対艦誘導弾がハードポイントから取り外された。そして代わりに搭載された装備はこの後の戦いを示すものだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

代わって偵察を受けた朱雀列島の蘭島。蘭島の朱雀警備隊の司令部であった建物は今は朱雀列島占領軍の司令部へと変わっていた。

 

その司令部に占領軍参謀のレアルがやってきた。中にいる占領軍司令のユラージに報告する為だ。

日本語で「警備隊長室」と書かれた部屋にユラージはソファーに座っていた。

 

「艦隊より報告です。敵偵察機を撃墜したとの事です。」

「偵察機か。こんな夜中でも自衛隊(奴ら)は飛ばすんだな。」

 

ユラージの手前に置かれているテーブルには糧食の空きパックが無造作に置かれていた。だがそれを包んでいた袋らしきものにはロシア語ではなく日本語で「戦闘糧食Ⅱ型」とかかれていた。

 

「それは······自衛隊の糧食ですか? 我々の糧食は底をついていませんが。」

「私が頼んだのさ。軍人なら他の軍の糧食位食ってみたいだろ。」

 

ユラージは敢えて自衛隊の糧食を食べたようだ。戦闘糧食と同じく日本語で「天然水」と書かれたペットボトルの水を飲み干すとそのままテーブルに放り投げた。

 

「自衛隊の糧食は旨いな。もしかしたらシ連軍(うち)より旨いぞ。」

 

自軍の糧食に対する愚痴とも言える言葉を言うと,偵察機について思い出したのかレアルに質問した。

 

「偵察機がやって来たという事は自衛隊の反撃が始まる可能性が高いな。

それについては何か入っているか?」

「それに関してCopeからの報告が入っています。

“日本は第二機動部隊から攻撃隊を出して多千穂・築館の両島を攻撃して我々を引き付けている隙に飛鷹島に特殊部隊を空挺降下させる”との事です。」

「攻撃隊を囮にして特殊部隊を送り込むのか。上手い作戦だな。」

 

ユラージは自衛隊のたてた作戦を褒め称えたが,それと共に複雑な表情に変わった。

 

「しかし不味いな。今航空隊はほとんどボリショイ基地に帰してしまったな。

飛鷹島には配備されている機体は無いのだろ?」

「飛鷹島飛行場には戦闘機はいません。飛鷹島の滑走路は朝までには完全復旧しますがそれまで敵は待ってくれないでしょう。

そうするよりもボリショイ基地か艦隊より増援を送って貰う方が無難でしょう。」

「そうだな········航空隊は今何機上がっているんだ?」

「Su-35 4機のみです。」

 

レアルの報告にユラージは溜め息をつくと,諦めた様に呟いた。

 

「·······艦隊に増援を頼むしかないか。」

「それが1番です。」

 

2人は溜め息をつき,何も喋らなくなった。室内は外の軍用車の動く音と,何も知らない鳥の鳴き声以外聞こえなくなっていた。その静寂を破ったのはレアルだった。

 

「ユラージ司令。当初の計画では,敵が攻撃してきた際は攻撃を行う前に迎撃する事になってますが当初の通りに致しますか?」

「いや。自衛隊機にはしっかりと役割を果たして貰おう。」

「と言うと?」

「攻撃隊を最大限まで引き付けたあと,撃墜する。そうすればその特殊部隊だって降下する前に落とすことも出来る。」

 

ユラージの考えにレアルは納得した様に頷いた。ユラージは続け様に命令を出した。

 

「多千穂と築館の防空部隊には迎撃体制を整える様に言ってくれ。それと築館のヘリは全て飛鷹島に避難させてくれ。流石にヘリを置く場所はあるだろ?」

「えぇ,あると思います。直ぐに連絡致しますね。飛鷹島の防空部隊にも迎撃体制を取らせますか?」

「··········いや。特殊部隊には飛鷹島に降下して貰おう。」

「···何故ですか?」

 

唐突とも言える作戦変更にレアルは内心では驚きながらも,それを顔に出さなかった。

それに気づいたがどうかは定かでは無いが,ユラージは自身の考えを言い出した。

 

「島に落ちて貰っても結構だ。その場合は島内に残っている残兵と合流して一気に叩くことも出来るからな。

もし事態があっちに傾いてもこっちには切り札(・・・)があるからな。」

 

特殊部隊と残兵を一緒に叩くという大きな賭けに出たユラージだったがその顔は勝利を確信しているように見えた。

 

レアルもそれを認めたが,ユラージとは違ってその顔は複雑だった。

 

「切り札の使う場所を間違えないようの祈っておきますよ。」

 

そう言い残すと部屋を去っていった。1人だけになったユラージは胸ポケットから煙草(カールトン)を一本出して,ライターで火をつけて吸い出した。

 

煙草によって上機嫌になったかは分からないが,その顔は再び勝利を確信していた。

 

「お前達が正面から来るなら,此方は全力でそれを潰させて貰おうか。」




前話から一週間たっているのに今話の文字量·······
僕って本当に遅筆なんですね。内容もあれなのに更新ペースもあれって·······

余談ですがRQ-4 1機の値段ってwiki曰く25億だそうです。
空自「·········」


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Episode.18 フラストレーション

更新遅くなってすいません!!


「あまぎ」の艦内食堂で長瀬は食事を食べていた。今日のメニューはチキンソテーだったが,軍隊唯一の楽しみだと言われている食事は楽しめなかった。

 

因みに言っておくが2024年の2月24日はマジで土曜日ですのでカレーは出せませんでした。

 

「副長。前よろしいですか?」

「北条先生か。いいぞ。」

 

長瀬の前に衛生士の北条樹が座る。彼は「あまぎ」の衛生士として艦内で出た負傷者や病人への対応を主に行っている裏方の柱の一角だ。

 

「北条先生。どうなんだ? 艦内の医療体制はモツか?」

「今日だけで約7名。全て軽症でしたが,もしこれが続けばそうはもたないことは確実です。

医療品にもベットにも限りがあります。本艦だけでなく,他の艦だって同じでしょう。」

 

北条先生は重苦しい顔でそう言った。そうなることは長瀬も承知だった。

戦闘が起きるということは負傷者が出る。戦闘が激化していくにつれて負傷者は増加していき,最終的に死者も出る。

そうなった場合医療品等は息を吸うように減っていく。

 

「舞鶴の港から「いなわしろ」が向かっている。明日の早朝位には合流して補給出来ると思うが,それでモツか?」

「どうでしょう········恐らくはもたないかと。医療品以外にも消えていくものも確実でしょうね。」

 

消耗品が消えていくのは時間の問題だった。

 

「副長!!」

 

突如として叫びと共に5名程の隊員が長瀬のテーブルの横に並んだ。並んだ隊員の真ん中の3等海尉が前に出て

 

「副長!! 何故攻撃を行わないのですか!! シ連(奴ら)は朱雀列島を占領しているんですよ!!

日本への侵略するものを防ぐのが自衛隊ではないのですか!!」

 

と息を切らしながら訴えた。大声の訴えに周りの隊員達は目を向けてざわつき出した。その目は熱意に満ちていた。

長瀬は溜め息をつくと,静かで且つしっかりとした声で言った。

 

「お前達は血を見たいか?」

「えっ·········」

 

果敢に騒ぎ立てていた隊員が一瞬で静まった。

 

「見たくないだろ? 血を見たいだなんて殺人鬼の言うことだ。

お前達の言ったことは言ってしまえばそういう事だ。自衛隊は殺人鬼ではない。無駄な死などあってはいけないんだ。」

 

長瀬は冷酷にただ真実を述べた。長瀬だってこうなる事を分かっていた。

自衛隊の弱点の1つが即座に行動出来ない点だ。だがこれは他の軍にもあるかもしれない。

 

しかし僕が言いたいのは,“自己防衛以外の攻撃が出来ず,例え侵犯されても政府から許可が出ない限り攻撃は出来ない”という事だ。

 

もし仮に許可前に攻撃を行った場合,それは憲法違反になるに加えて野党や国民から厳しく追及される。

 

自衛隊というのは強いが,重大な欠陥を抱えているのだった。

 

先程熱意のある目と言ったが,正確に言えば熱意に満ちすぎている目だ。

今だけを考え,後の事を考えない。3等海尉は正にその典型的な例だった。

 

「確かに自衛隊は日本を守る組織だ。だが他国の軍のようにただ敵を倒せばいいんじゃない。

最低限の戦闘で勝利を手にする。それが自衛隊だ。」

 

そう言うと長瀬は食べ終わったステンレス製の食器を持って返却口へと向かった。

食器を返却口に返して立ち去ろうとしたが,3等海尉の前を通った際に,

 

「確かにお前の気持ちは分からないこともない。だがそれで多くの血が流れてしまえば元も子もない。

その為にも今最低の犠牲で且つ最大の効果を得られる作戦を司令部は立案している。その結果に期待しといてくれ。」

 

そう言って食堂を退室した。その姿が見えなくなると北条先生が独り言の様に呟き出した。

 

「あの顔は···········悩んでいるんだな·····」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

長瀬が部屋に入るとそこには桐島と渡島が話ながら待っていた。

 

「待たせてすまないな。少し食堂であってな。」

「いや大丈夫だ。恐らく若手の不満でも聞いていたのだろ?」

 

行動を当てられた事に内心驚愕しつつも,冷静に答えた。

 

乗員(あいつら)は今まで明確な勝ち戦が無いのが不満らしくフラストレーションが溜まりに溜まっているらしいぞ。

今はまだ大丈夫だが,これがいつ暴発するかは分からないぞ。」

 

長瀬の言葉に分かっていたかのように桐島の表情は変わり,左腕をテーブルにおいて頬杖をついた。

 

「ストレスを分かりやすく言えば風船だな。ストレスという空気が注ぎ込まれ続けると,風船という器がいつか破裂する。

そうなってしまえばもう器が直らない限り誰にも止められない。

それを防ぐためにもこの作戦は必ず成功させなければいけない。」

 

桐島はホワイトボードに貼り付けられた朱雀列島の地図を指差しながら説明しだした。

 

【挿絵表示】

 

「本艦隊の航空隊を使って朱雀列島上空及び多千穂・築館両島の地上戦力を破壊する。

その隙に飛鷹島に特戦群を降下させる。これが作戦の内容だ。」

「航空隊だけでか?」

「そうだ。少ない航空隊だけで制空権と地上攻撃を両方攻撃になんて司令部も無理難題を押し付けたもんだ。」

 

桐島は作戦に不満そうな表情をしていた。そこに渡島が朱雀列島上空の航空機について説明しだした。

 

「現在E-2(ホークアイ)によると,朱雀列島上空にはSu-35と思われる機体が4機とA-50(メインスティ)1機,Il-38(メイ)が3機だ。

作戦を確実に成功させるにはA-50(メインスティ)の撃墜は絶対条件だ。」

 

地図の上には占領軍司令部を意味する赤い磁石とSu-35の黒の磁石 4つとA-50とIl-38の黄色の磁石が置かれた。磁石の位置は朱雀列島を覆うように展開していた。

朱雀列島の左側には第2機動部隊の「あまぎ」「かつらぎ」に見立てた青と護衛艦の緑の磁石が置かれており,その前にE-2の黄色の磁石が置かれた。

 

そしてその前に黒の磁石が置かれた。

 

「航空隊はイーグルとストークを送る予定だ。「かつらぎ」のファルコンとスパローは万が一に備えて残しておく。」

「なるほどな·······それで本心は?」

 

長瀬のその言葉に桐島は“ふっ”と笑うと手を組み直して,長瀬を向いて言い出した。

 

「葛城がこの作戦を認めるわけ無いだろ。葛城は言ってしまえば堅物だ。

昔の自衛隊の意志があいつの芯まで浸透している。戦わない軍隊·······名の通りの“堅物”それが葛城だ。」

 

自衛隊はNew Fieet計画で空母(守るための力)を手に入れ,今までの方針を変えた。

だが方針を変えても人はついていけない。人の心を変えるのは外見を変えるよりも難しい。

 

葛城は正にそうだ。自衛隊当初の方針を今でも貫こうとしている。

故に午前中の様に考えの違う桐島と対立した。そして葛城はこの作戦を受け入れようとはしないというのも桐島は分かっていた。

 

「「かつらぎ」の航空隊には艦隊の防空を担当して貰う。それなら奴も納得するだろうしな。それに·····」

「それに?」

「万が一失敗したとしても反撃手段を残しておけるからな。」

 

桐島はそれを利用した。かつらぎの航空隊を艦隊防衛且つ反撃の手段としたのだ。

 

「いや,EA-6C(プラウラー)位は出して貰おう。それぐらいなら葛城()だって納得する筈だ。」

 

EA-6Cとは米海軍が使用していたEA-6B プラウラーを日本独自に改造した物で,各空母に2機ずつ配備されていた。

2機ずつしかいないのは予算の関係上である·········悲しいね。

 

「話を戻すが,結論から言えば作戦は成功出来るのか?」

「·······計画ではイーグルでA-50(メインスティ)とSu-35を墜とすが,地上攻撃に関しては航空隊だけでは不可能だ。なら別の手段でも使うまでだ。」

「別の·······手段?」

 

桐島は多千穂島の近くに青の磁石を置いた。

 

「「たかちほ」を多千穂へと向かわせる。「たかちほ」は5inch砲(大砲)を2門搭載しており,かつイージスシステムも搭載している。

空と地上両方に対応出来る万能艦だ。将棋で言うところの飛車だな。」

「確かに「たかちほ」と鏡石艦長はエリートだから問題ないと言いたいが,戦場ではエリートという肩書きは一切無い。

何が起きても可笑しくない。」

 

わざわざ護衛艦の1隻を送る。しかもイージス巡洋艦を。大胆ともいえる戦術だ。

艦隊の護衛艦を1隻減らすということはそれだけ危険は高まる。それがイージス艦なら尚更だ。

 

現代置けるイージス艦の立ち位置は戦艦と同格。言ってしまえばイージス艦を失うと言うのは戦艦を失うと同格,若しくはそれよりも大きい緊急事態だ。

 

「万能艦であるという事は,失った場合の損害も大きい。金銭面もだがそれ以上に艦隊のバランスが崩壊しかねない。

ここでもし失ったらシ連(奴ら)への反撃は不可能(・・・)だ。」

 

飛車は縦と横に何マスでも動かせ,裏返せば斜めにも動かせる万能な駒だが,使い道を間違えれば戦局を180°変えてしまういわば勝敗を分ける鍵という事だ。

 

「分かっているさ。俺は空自脳だがそれぐらいは分かる。危険な任務だが,その分成功した場合の効果は比べ物にはならない。

やる価値は非常に大きい。」

「だが戦いは何が起きるか分からない。失敗した場合はどうするんだ?」

「上によるとこの作戦が失敗した場合等に備えて八戸と鯖江と米子のミサイル連隊を万が一の為に展開するとの事だ。

及び三沢・八戸・築城・新田原の航空隊にも出撃準備をかけたそうだ。」

「八戸と鯖江に米子か········日本海何処でも対応出来るようにしているんだな。」

 

八戸の第4と鯖江の第8,米子の第7地対艦ミサイル連隊には12式地対艦誘導弾が配備されており,日本海全体をカバー出来るようになっていた。

 

三沢に関しては前話で説明したが,航空自衛隊築城基地の第8・第6航空隊のF-2A/B及び新田原基地の第305飛行隊のF-15J/DJが出撃準備を整えていた。

 

小松基地が使用不能になった今,朱雀列島に一番近い戦闘機が配置されている基地は三沢だが,三沢だけでは対応出来ないために他の基地にも支援する事になったのだが·······

 

松島は除くとしても,千歳はシ連対策で,百里は都心防衛,那覇は中国機へのスクランブル対策の為に支援が可能だったのは築城と新田原だけであった。

 

八戸航空基地は海自の基地だが,第2航空群のP-1とP-3CにRMG-84(ハープーン)を搭載してF-2と共に対艦攻撃を行えるようになっていたが,哨戒に駆り出されている機もあるために総数10機程だった。

 

「今第1機動部隊は米海軍第7艦隊と演習中 第3機動部隊は尖閣へ,第4・第5・第6艦隊は防衛中·······増援は無理だな。」

「せめて可能性があるのが第5護衛艦隊だが·····そうなると北海道の防衛が手薄になるから無理だろうな。」

 

第5護衛艦隊は大湊を母港とする艦隊で,イージス艦 3隻を有する強力な艦隊だが現在は津軽海峡付近に展開しており,この後北海道北西の海域に移動するために増援は見込めなかった。

 

「在日米軍は······いや決まっているな。」

「動かないだろうな。米軍が加わったら世界大戦になるってアメリカさんは分かっているさ。」

 

アメリカが動くという事はシ連との全面戦争を意味し,つまりそれは核兵器による世界の崩壊(・・・・・・・・・・・)を意味する。

 

勿論それはアメリカも分かっているし,シ連も分かっている。

だからアメリカは動かない。つまりは“日本だけで終わらせてくれ”という事にもなる。

そしてシ連も動かない。奴らの狙いはあくまで日本であってアメリカではないからだ。

 

「つまりこれは日本に課せられた試練という事だ。これを乗り越えなければ日本は新しいステージには進めないという事だ。」

 

桐島は立ち上がって冷静にそう言うと,薄く微笑んでこう言った。

 

「作戦は明日の02:00開始だ。天王山を制するのはどっちだろうな?」




今回朱雀列島の地図を載せました。目次の部分にも載せておくのでこれを見ながら今までやこれからの展開を予想してください。

しかしオリジナル作品は伸びないね·······更新前はオール赤バーを想像してたんですがね······

やっぱ更新ペースかな·········


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Episode.19 DDG-203 たかちほ

3/25日 0:40 朱雀列島南西海域

 

ただ月の光が跳ね返る黒い海を1隻の巨大艦が切り裂きながら航行していた。

 

巨大な船体に六角形の形をしたレーダーを船体と同じく巨大な艦橋の周りにつけ,前甲板には今では珍しく主砲を2つ搭載していた。

 

「DDG-203 たかちほ」艦長 鏡石博也一佐は艦長ながら艦橋(ブリッジ)に現在はいた。

肩にかけた双眼鏡を構えて漆黒の世界(暗闇)を見つめていた。

 

「今夜は月があるとしてもやはり夜の海は何にも見えないな。」

「これでも明るいですよ。新月の時なんてもっと見えませんよ。」

 

鏡石の独り言に隣にいた見張り員が返した。鏡石は砲雷科であるためにこういう見張りは体験したことがなかったのだ。

 

「作戦の為に外を確認しに来たが,まさかここまでとはな。

本艦が同名の装甲巡洋艦()じゃなくて良かったよ。」

「同名というと·······新戦艦の方ですか?」

「何故そっちが先に思い浮かんだんだ?」

 

新戦艦について知りたい人はGO〇GLE先生に行きなさい。

 

鏡石は双眼鏡を肩から外すと,艦橋を去って戦闘指揮所(CIC)へと向かった。

CICの隊員達は皆顔がひきつっていた。

 

“多千穂島へ接近し,対艦ミサイルを引き付け,航空隊を支援せよ”

 

敵地に接近して対艦ミサイルを引き付けろ。自殺命令にも聞こえるこの通達に皆が複雑な心境をしていた。

 

勿論鏡石も分かっていた。この状況で戦場に突入すればミスが起きるのは素人でも分かる。

 

となれば戦闘前にこの状況を何とかしなければいけないかったが,鏡石にはそのシナリオは出来上がっていた。

 

鏡石は通信機を取って艦内全体に聞こえるようにした。

 

「あ~ 艦内に聞こえているかな? 艦長の鏡石だ。

恐らくだが乗組員の皆は先程通達された命令に戸惑っているだろう。当たり前だ。敵地に単艦で突入なんてまるで生身でライオンの檻に特攻してこいと言ってるみたいだなw」

 

CIC内に笑いが広がる。

 

「皆ここからは真剣に聞いて欲しい。何故我々がその様な危険な任務に選ばれたのか?

我々がただの駒だからか? いや違う我々こそがこの任務をこなせるからだ!! 我々でなければこの任務は達成出来ない!!

我々の任務は非常に重大だ。この結果次第で全てが変わると言っても過言ではない!!

乗組員総員意を決して当たって欲しい!!」

 

鏡石のその熱意の籠った言葉に艦内の隊員達は決意を決めた。

中でも機器越しではなく直接その声を聞いたCICの隊員達は

 

「艦長!! この船に乗り込んでいる乗組員にその言葉を必要とする奴はいませんよ!」

「そうですよ艦長! ここには選ばれた人しかいないんですよ!!」

「そうだったな········でもお前達だって顔が強ばってたぞ」

「それは言わないでください!!」

 

再びCICに笑いが飛ぶ。そんな様子に鏡石は心が少し和んだようだった。

そして先程桐島から言われた言葉を思い出した。

 

(この任務はいぶき型でしか出来ない桐島はそう言ってた·········「あそ」もいるなかで本艦が選ばれたという事は本艦の方が優れているという事なのか?

それだけ責任は重大だな。)

 

ここで唐突だがいぶき型について説明する。

 

いぶき型イージス巡洋艦は,自衛隊初の巡洋艦で,スペックは以下の通り。

 

排水量 10030t

全長 190.6m

全幅 24.8m

機関 ゼネラル・エレクトリック LM2500×4/2軸 120000馬力

速力 32ノット

兵装

Mk.45 5inch単装砲×2

高性能20mm機関砲(CIWS)×2

Mk.41 VLS 56セル×2

17式艦対艦誘導弾(SSM) 4連装発射筒×2

Mk.32 短魚雷発射管×2

搭載機

SH-60K(シーホーク) 哨戒ヘリコプター×2

 

全長等はまや型と20mしか変わらないが,兵装等は桁違いだ。

 

New Freet計画によって計画され,DDG-201 いぶきからDDG-208 ばんだいまでの計8隻が建造され,それぞれ第1・第2・第3機動部隊と第5護衛艦隊に配備されているが,この艦の建造によって防衛費が吹っ飛んだ為に一部国民からは「金食い虫」「お飾り」,野党からは「攻撃型イージス艦」と呼ばれている不運な艦でもあるのだ。

 

だがその実力は本物で,米海軍を持ってしても“タイコンデロガ級(うちの)を持ってしても勝てない”と言われる程だ。

 

SPY-1D(V)(レーダー)に反応あり! 本艦より10時方法に艦影 1!」

 

レーダーを写したディスプレイには左斜め上に光点が1つ写っていた。

光点は左斜めから中央に向かっており,明らかに「たかちほ」に対応する動きだった。

 

「艦種識別!! ステレグシュチイ級です!!」

「フリゲートか!」

 

ステレグシュチイ級はシ連のフリゲートで,1番艦は2007年就役の2024年現在だと10年程前の船で時期的に言うとあたご型と同じ位の時期だ。

 

「恐らく哨戒中だと思われますが,艦長どうしますか? この距離ですと17式(SSM)でアウトレンジに撃沈する事が出来ますが。」

「いやそうなったら多数の死傷者が出る。それは自衛隊の望むことではない。」

「ではどうしますか?」

 

鏡石はCICの全員に聞こえるように言った。

 

「精密射撃で兵装を破壊する。それならば最低限の被害で済ませる事が出来る。」

「というとまさか······Mk.45 5inch砲(艦砲)を使うんですか?」

「その通りだ。」

「正気ですか!?」

 

砲雷長が驚愕の声をあげた。艦対艦ミサイル(SSM)ではなく,艦砲による攻撃を選らんだ鏡石に対する声だ。

艦砲による攻撃という事は相手の攻撃圏に入ることでもありため,こちらが被弾する可能性も高まる。

 

しかもその船が現代の軍艦なら尚更だ。現代の軍艦は砲撃戦を想定していないどころか想定されていない。

 

つまり言ってしまえば1発被弾したら終わり(・・・・・・・・・・)だ。

 

「SSMでの撃沈も可能だが,その場合確実に死者が出る。ならば砲撃によって確実に無力化した方が自衛隊に泥を塗らないだろう。」

「そういうことですか······でしたらブルカノ弾を使ったら如何でしょうか? ブルカノの射程は約100km。アウトレンジに攻撃出来ますが?」

「確かにその方が本艦に取っては有利だな。だがそれでは精密性が失われる。

奴の兵装を破壊するのには通常弾を持ってして行うのが最もだ。それに·········」

「それに?」

「アウトレンジはフェアじゃないからな。」

「········戦いにフェアなんて存在しませんが。」

 

砲雷長の反論も出来ない正論に鏡石は微笑むと,通信機を取って艦全体に伝えた。

 

「総員戦闘用意!!」




今回あり得ん程に短けぇ··········

でも更新ペースは早かった········

長文で早い更新ペースの人って化け物だな········と身を持って知りました。
読者的にはどっちが良いんですかね?


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Episode.20 開幕

※祝UA2000!!

長かった······

そして小松基地の場所を石川県ではなく福井県だと書いてしまってた·······


2024年 3月25日 1:16

漆黒に覆われている日本海 朱雀列島西方50kmの海域。ここには今2隻の船が航行していた。

 

片方は日本が誇るイージス巡洋艦 いぶき型イージス巡洋艦3番艦 DDG-203 たかちほ。

もう片方はシ連が誇るステルスフリゲート ステレグシュチイ級フリゲート 335 グロームキー。

 

この日本海でフォークランド紛争以来の艦同士の戦いが始まろうとしていた。

 

「敵艦距離35km! 敵艦増速!」

「来るぞ·····」

 

敵艦が速度を上げて「たかちほ」に接近する。両艦の距離は次第に近づいていった。

 

「敵艦ミサイル発射!! 総数4!」

 

先手をとったのはシ連だった。敵艦中央部より轟音と煙を上げて,4発の3M24(ウラン)が放たれる。

4本の光の矢はレーダーに誘導されるがままに「たかちほ」に向かってきた。

 

電子戦(ECM)開始!!」

妨害電波(ジャミング)照射!」

 

コントロールパネルのスイッチを押すと電子戦装置 NQLQ-2Bが作動する。この装置より放たれた探知妨害電波は着実に3M24(ウラン)慣性航法装置(INS)アクティブ・レーダー・ホーミング(ARH)に影響を与えた。

 

3基のミサイルの軌道が乱れたかと思うとそのまま海面へと永遠にダイブした。

だが未だに一基の3M24(ウラン)は飛び続けた。

 

「敵ミサイル3基落下! 1基が本艦に向かってきます!!」

「主砲射撃用意!」

 

前甲板のMk.45 5inch砲がミサイルの向かってくる方に回転する。62口径長の砲身が少し上へと向き,ミサイルへと照準を定めた。

 

「てぇ!!」

 

砲身より砲弾が放たれ,空中で2つの異なる弾丸が激突する。激突した2つの弾丸は激しく光を放った。

 

「敵ミサイル全発撃墜!」

「よくやった。主砲を目標へ!」

「了! 第1主砲 艦対艦ミサイルランチャー(SSM)! 第2主砲 垂直発射装置(VLS)! 照準よし!」

 

第1・第2両主砲が左へ旋回し,目標に照準を定める。

 

「てぇ!!」

 

第1・第2主砲より数秒の時間差で放たれた砲弾が空を切り裂き,羽衣のような白い空気の幕を舞いながら突き進む。

 

糸がついているかのように目標に突き進んだ砲弾が時間差で着弾する。

艦前方と中央に光が爆ぜ,光が収まると代わりに黒煙と紅い炎が現れた。

 

「両目標に命中確認!! 」

「第1主砲 魚雷発射管(SUM)! 第2主砲 A-190 100mm単装砲(敵艦主砲)! 照準よし!」

 

砲塔が小さく動き,次の目標に照準を定めた。

 

「てぇ!!」

 

再び主砲が火を吹く。闇を切りながら目標に着弾しようとしたが,ここは戦場だ。想定外の事態なんてざらにある。

そして今想定外の事態が起きようとしていた。

 

「敵艦主砲旋回!」

 

あと数秒で着弾しようとした刹那,前甲板のA-190 100mm単装砲が回転し,火を吹いた。

 

「敵艦発砲!!」

 

一瞬にしてCIC内が緊張に包まれる。

 

1発でも被弾したらそれは艦の機能喪失を意味する。ここで被弾してしまったらこの後の作戦が全て消えることになる。

 

被弾してはいけない。艦の為にも,作戦の為にも,この船に乗っている乗組員の為にも。

 

鏡石はその頭脳をフル回転させる。答えを見つけるのに時間はいらなかった。

 

「機関後進!!」

「了····後進!?」

「いいからやれ!!」

「了! 後進全速!!」

 

ゼネラル・ダイナミックス LM2500のガスタービンが高速回転し,船を後進させた。

急な後進に乗組員達はバランスを崩し,咄嗟に周りの物を掴んでバランスを立て直した。

 

艦首の数m先に砲弾が着弾する。マストと同じくらいに高い水飛沫が舞い上がり,甲板や艦橋を濡らした。

着弾の衝撃によって発生した振動が収まると,CICの1人がボソッと発した。

 

「敵弾をかわしたのか······」

「よくやった····敵はどうなった!?」

 

急いで要員がパネルを操作して敵艦を確認した。

 

「敵艦沈黙!! 損傷は甚大と思われます!」

「ディスプレイに写せるか?」

「今写します!」

 

CIC正面のディスプレイに映像が写し出される。

画面に写っていたフリゲートは前甲板と艦中央から黒煙と炎を上げており,被害は甚大に見えたがそれは兵装だけであって航行用の装備は無傷(・・・・・・・・・)だった。

 

「あの船はフリゲートながらよくやりましたね。」

「そうだな。発光信号を送れ。“貴艦直ぐ様この海域より退却せよ”」

 

艦橋脇のデッキに設置された30cm信号探照灯から発光信号で文章が送られる。

 

送られて数分後に敵艦は大きくカーブを描き出した。

 

「敵艦,舵を北に向けています。」

「これで終わったな·······進路を多千穂島へとれ!!」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「ここまで正確に兵装を破壊するとはよくやったな。」

「今の軍艦では昔のような砲撃戦は想定されていません。ここまで危険な任務を損害0でやるとは流石鏡石艦長だ。」

 

「たかちほ」より送られた映像をCICで見ながら桐島と水上は感想を残した。

現代の艦船同士の戦いを艦砲で制する。常識では考えられない戦いにCIC要員は皆が見いっていた。

 

「すげえな。本当に武装だけを破壊したんだろ?」

「そうとしか考えられないだろ。確かに黒煙は上がっているが,船体はなんともなってないからな。」

「本当に凄腕だな····」

「砲雷長。どう思います?」

 

話かけられた宇津木砲雷長は冷静に映像から情報を切り取った。

 

「中々の腕だな。私は「たかちほ」の砲雷長を知らないが,相当な凄腕だな。

それとやはり鏡石艦長の指揮能力の高さだろうな。」

 

それと共にやはり鏡石艦長を評価した。こんなに皆から称賛されていると知ったら鏡石艦長はどう反応するのだろうか?

 

「やはり鏡石艦長は艦対艦ミサイル(SSM)という手もありながら敢えて砲撃戦(これ)を選んだのは無駄な死傷者や損害を抑えるためでしょうか?」

「確かに最低限の損害のみで終えるのも目的だろうが,この戦闘の目的にはパフォーマンスも入っているだろうな。」

「パフォーマンス?」

 

唐突に桐島から出た戦場の相応しくない言葉に水上は戸惑ったが,桐島はその反応を分かっていたかの様に説明しだした。

 

「普通は艦砲でなんて行わなずミサイルで一瞬で終わらせる。なのにわざわざこれを選んだという事は我々の実力を知らしめる為なのさ。」

「我々はシ連(お前達)よりも優れているという事を分からせる為ですか?」

「そうだ。この情報が正確に伝わればシ連兵の中には恐怖を覚えたりする者が現れるだろう。

そうなってくれれば艦隊若しくは軍全体に劣等感が植え付けられるかもな。

まあただの淡い期待だがな。」

 

そう言って一回話を切ると,通信機を手に取った。通信機ボタンを押して,通話を始めた。

 

「飛行隊長。航空甲板の様子は?」

E-2C(ホークアイ)EA-6C(プラウラー)は既に両艦から発艦済みだ。

数分前にイーグル隊が発艦を完了した。今からストーク隊が発艦だ。』

「了解した。事故がないように頼むぞ。」

 

通信を切って,通信機を置くと1度目を閉じて30秒程たつと再び開けた。

 

「これより作戦を開始するが,我々の作戦内容を再確認する。イーグル隊は上空の早期警戒管制機(AWACS)Su-35(フランカーE1)を落として制空権を確保。

その後ストーク隊が築館・多千穂両島の対艦ミサイル(SSM)と地上施設を攻撃し,破壊する。

偽装されている物に関しては「たかちほ」の囮で引き付け,発射位置が特定次第ストーク隊が攻撃する。」

 

ディスプレイには築館・多千穂両島と敵機の様子を写されており,その画面と自らの視線が合う位置に1枚の写真を並べた。

 

「その写真は?」

「これは衛星写真とOP-3Cが撮ったものを合わせた物だ。これによって我々は築館島の阿月空港に多数のヘリ部隊が駐留している事を確認出来た。」

「勿論このヘリ部隊も攻撃するのですね。」

「そうだ。ヘリを残してしまえば特戦群の被害が大きくなりかねないからな。」

 

写真を目の前のテーブルに置くと,桐島は唐突に溜息を吐くと難しい顔になった。

 

「だが端樹島にヘリがあったのは想定外だったな。」

「機体はMi-26(ヘイロー)だと思われますが,厄介ですね。」

「こいつの搭載量なら一気に80人程を輸送できる。厄介以外の物ではない。」

 

Mi-26 NATOコードネーム ヘイロー。

世界初の8枚翼を持ち,現在生産されているヘリコプターで世界最重を誇る大型輸送ヘリだ。

 

最大離陸重量56t。定員80名というそのチート級の性能はその秘めた実力を物語っていた。

 

「どうしますか? こちらも潰しますか?」

「可能であればやらせたいが,果たしてどうなることやら。」

 

目次の地図を見てもらえれば分かると思うのだが,築館・多千穂島と端樹島の距離は結構離れている。

 

そもそも第1目標が築館・多千穂島なので,端樹島は第2目標という事になるのだ。

 

「話が逸れたが作戦完了後,特殊作戦群が飛鷹島に降下して作戦終了だ。」

 

作戦について言い終わると後ろの椅子に座った。そしてCICの全員に聞こえる様に言った。

 

「この作戦は文字通りの天王山の戦いだ。これに勝ったものがこの戦いの全てを制せる。

皆はそう考えてもらいたい。だからそこ負けてはいけない。いや駄目なのだ。今日本の運命は我々の手に握らされているのさ。」

 

桐島は1度目をとじて開けると,意を決して言った。

 

「絶対に勝つぞ。02:00をもってしてOperation朱雀。作戦開始だ。」




ガスタービンと聞いてJR四国の2000系が思い浮かんだのは僕だけですかね?

ガスタービンの2000系ってなんぞやって人は電車でDを見ようね。

あと活動報告書いたので見ていってください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=241498&uid=274301


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Episode.21 不穏

「なんだ?·····」

 

朱雀列島西方10kmの上空9000mを悠然と翔んでいたA-50(シュメーリ)Шмель(レーダー)に異変が起きた。

 

「どうしたんだ?」

「あ,中佐。これを見てくださいよ。」

 

中佐がレーダー画面を見ると,画面は白く染まっていて機能を失っていた。

 

「何を動かしても反応が無いのか?」

「ええ。故障ですかね····」

「全くこんな場所で故障なんてついてないな。」

 

彼らは知るよしもなかったが,この時朱雀列島の南西50kmの空域でEA-6C(プラウラー)が電波妨害を開始していたのだ。

 

「空港の方に連絡を入れてくれ。一応司令部の方にも伝えるように言ってくれ。」

 

通信員が通信を開始しようとした直後,アラート音が鳴り響いた。このアラート音はレーダーにロックオンされた(・・・・・・・・・・・・・)事を意味していた。

 

「ロックオンされた!?」

 

その直後彼らを強い衝撃が襲った。その衝撃が収まらぬうちに今度は下向きの衝撃が加わった。

 

中佐が最後にみた光景。それは朱い火を吐く ソロヴィヨーフ D-30KUターボファンエンジンだった。

 

それから数分後。A-50は海面へと墜ちた。

 

A-50の乗組員16人の意識はこの海の底に永遠に消えることになった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「第1目標撃墜確認。第2目標への攻撃に移ります。」

 

朱雀列島西方20kmの空域を6機のF-35JC(ライトニング)が飛んでいた。

A-50(メインスティ)を墜としたAIM-120(AMRAAM)を放ったEagle1に乗るイーグル隊隊長 青木柊は自らのヘッドアップディスプレイシステム(HMDS)から光点が消えるのを確認した。

 

A-50(ターゲット)は墜ちた。次はSu-35(Fighter)だ!!制空権をこっちの物にするぞ! Eagle2.3.4行くぞ! Eagle5.6は援護を頼む!」

『Eagle2 了解(ラジャー)

『Eagle3 Copy』

『Eagle4 (以下略)』

 

4機のF-35JCが自らのエンジンであるプラット・アンド・ホイットニー F135-PW-100の出力をあげる。

 

4羽の鉄の鳥が空を舞いだした。

 

Eagle隊の後方を飛んでいるE-2C(ホークアイ)AN/APS-120(レーダー)が捉えた機影がHUDSに写った。

 

「来たなSu-35(フランカーE1)!」

 

光点の数は4。味方の数も4で同数だ。

 

同数の戦いならば数の戦いではなく質の戦いだ。

 

「先手をとられたか!!」

 

Su-35が先手をうった。2発のK-74M(アーチャー)が放たれた。赤外線誘導(IRH)によって誘導されたミサイル()F-35JC(ライトニング)へと向かっていった。

 

青木は直ぐ様AN/ALJ-45J(チャフ・フレア)をばらまいて回避行動を取る。

 

機体が上昇すると共に強烈なGが襲いかかってくる。視界消滅(ブラックアウト)を防ぐための耐Gスーツが下半身を締め付ける。

 

青木が見えない敵(重力)と戦っている最中,後方から爆発音が響き,視界の隅に赤い光が見えた。ミサイルを撃墜したのだ。

 

その瞬間一気に操縦桿を倒して一気に機体を下へと向けた。視界消滅(ブラックアウト)の危険が視界赤化(レッドアウト)へと変わる。

 

瞳孔がはっきり開いた青木の目は自らの機体の先に飛んでいるSu-35を捉えた。

 

「FOX2!!」

 

ハードポイントより2本のAIM-9X(サイドワインダー)が放たれると共に,機体を垂直に戻した。

 

赤外線画像(IIR)によって誘導された2本のミサイル()が正確無比に命中し,Su-35を燃やした。

リューリカ=サトゥールン AL-35Fターボファンエンジンを破壊され,機能を喪失したSu-35からパイロットが脱出(ベイルアウト)したかと思うと,翼が外れ機体は爆発した。

 

「よし1機!!」

 

青木が撃墜を確認すると各機からも報告が入ってきた。

 

『Eagle2よりEagle1へ。此方も1機落としました!』

『Eagle3よりEagle1へ。此方は逃してしまいました。』

 

撃墜報告や逃した等の報告が入るなか,悲鳴とも聞こえる通信が入った。

 

『Eagle4よりEagle1へ!! 敵につかれた!!』

 

救援要請ともとれる通信。事実上のSOSだ。

 

“仲間を失っては行けない。失ったら永遠に後悔する”渡島から言われた言葉に従って青木は操縦桿を操作した。

 

「Eagle1よりEagle4へ! 救援に向かう!!」

 

Eagle1は左旋回して加速した。E-2C(ホークアイ)から送られた情報でEagle4の居場所へと向かう。

 

Eagle4は大きく右に旋回しながら逃げていた。だがSu-35も逃すかと旋回して追尾していた。

当たらないながらも放たれていたGSh-30-1(30mm砲)が恐怖というダメージを与えていた。

 

Eagle1は緩やかに上に上がると,右半回転しながら急降下した。

回転と降下の2つが青木に強烈なGを加えた。だがターゲットの背後へとつくことが出来た。

 

「FOX2!!」

 

再びAIM-9X(サイドワインダー)が放たれる。

 

敵機の死角からの攻撃。対処する間もなく無慈悲にミサイルが命中し,機体を破壊した。

黒い爆煙を切り裂いてEagle1はEagle4と並ぶ。

 

そこにEagle2・3も合流してEagle隊が集結した。

 

「敵機3機撃墜確認。よくやった!!」

 

AWACS 1機に戦闘機 3機を撃墜し,味方の損害は0の大戦果だ。

 

これで朱雀列島の制空権は確保した。後はストーク隊の仕事だ。

 

「Eagle1よりStork1へ。制空権は確保した。後は頼むぞ! 以上(オーバー)。」

『Stork1よりEagle1へ。了解(ラジャー)! 後は任せてください! 以上(オーバー)。』

 

連絡を受けたストーク隊隊長の黄山翔弥の威勢の良い返事と共にストーク隊 6機は築館・多千穂両島へと向かった。

 

それが悲劇への一本道だとは知らずに。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

A-50(シュメーリ)が墜とされたか······」

 

蘭島の司令部でユラージはレアルから報告を聞いた。

 

A-50(シュメーリ)だけではありません。海上警備中だった「グロームキー」が護衛艦によって戦闘不能に陥り,現在ウラジオストクへの帰路についています。」

 

レアルはタブレットを操作しながら冷静に答えた。その仮面の様に固まっていた顔が少し驚いた顔に変わった。

 

「指令訂正があります。先程第2機動部隊(日本の艦隊)が放った航空隊によって上空警戒中のSu-35が3機落とされたとの事です。」

 

レアルの更なる報告にユラージはため息をついた。

 

「艦隊からの増援が来るまで何としてでも耐えないとな。ヘリ部隊は既に避難させているのだろうな?」

「勿論です。自衛隊機の残骸は端に寄せ,全9機を何とか置くことが出来ました。

ですがその結果基地内は航空機の移動が出来ない程ですがね。」

 

レアルの言葉の通り,現在の飛鷹島空港は各種物資を運んできたIl-76(キャンディット) 2機にヘリ9機,さらに占領時の攻撃で破壊されたF-15J(イーグル)AH-64D(アッパチ)CH-47(チヌーク)・U-125・UH-60J等10機以上の自衛隊機の残骸に空港に止まっていた民間機よって一杯だった。

その光景にパイロット達は“満員電車のようだ”と言ったとか言わなかったとか。

 

「取り敢えず攻撃が終わったら速やかにIl-76を本土の方に返してくれ。じゃないと容量がもたない。」

「えぇ,飛行場の方に優勢させるよう言っときます。」

「そうしてくれ。あそこが使えるようになるとまさに“シ連の硫黄島”だな。」

「前線基地になるのは確かですが,今のままですとその地位も危ういですがね。」

 

第二次世界大戦中,アメリカ軍は日本爆撃の護衛を行わせる為の前線基地として硫黄島に上陸し,多大な犠牲をはらって占領した。

その結果,基地よりP-51が発進して爆撃隊を護衛したり,損傷を受けたB-29が不時着したりなどその位置関係の力を存分に発揮した。

 

朱雀列島から能登半島の先端 珠洲岬までは300kmない程。

 

こんなに近ければ危険レベルの話ではなくなる。ここから航空機が離陸すれば意図も簡単に本土へと侵入出来てしまう。

 

更に朱雀列島から東京までの距離は約600km程。これは東京から青森位の距離と思ってもらってよい。

 

脅威処ではない。だがこの話は日本だけではない。

 

朱雀列島とシ連最大の軍港ウラジオストクまでは約500km。これは東京から新花巻位と同じだ。

 

朱雀列島は日本とシ連双方にとって重要でかつ危険な場所であるのだ。

 

「ところでレアル。カメラ(・・・)の準備は出来ているか?」

「勿論です。各島に3つずつ高画質なのを設置し,SDカードの準備も出来てあります。これで自衛隊機を確実に撮れます。」

 

そのレアルの返事を聞くと,ユラージはニヤリと表情をしつつも意志を決めた目でレアルを見つめた。

 

「両島の防衛隊に伝えろ。“敵機を全力かつ,戦術的に確実に落とせ。君たち次第で日本の運命(未来)は決まる”と。

それと艦隊の方にも再度確認を入れてくれ。あの決戦主義者のレバルだからな。」

「了解しました。」

 

返事をするとレアルは部屋を去った。

 

静かになった部屋に1人残ったユラージは煙草(カールトン)を取り出し,火をつけて吸い出した。

 

「さあ祭り(Фестиваль)の幕を開けようか。」



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Episode.22 撃墜

空母いぶき 13巻買いました。

※2024/2/6 後書き削除


02:00頃朱雀列島 築館島南西15kmの海域を「DDG-203 たかちほ」は航行していた。

 

現在「たかちほ」は単艦で敵地へと向かっていた。しかも装甲は無いに等しい······いや無いと言った方がいい。

 

こんな危険な行動に出ているのには理由がある。寧ろ理由が無いわけない。

 

「早く撃ってもらった方が我々も楽なんですがね~」

「敵が予想通りに動くなんてあり得ないんだよ。常に戦場というのは動く物なんだから。」

 

「たかちほ」の現在の任務は囮。対艦ミサイルを引き付ける標的()なのだ。

 

分かりやすくするとストーク隊が対艦ミサイルへの攻撃を行うためのお膳立てであった。

 

対艦ミサイルの位置は衛星写真でおおよそ判明しているが,攻撃におおよその情報なんて通用しない。必要なのは正確な情報だ。

 

その為に「たかちほ」に放たれた対艦ミサイルを辿って,正確な発射地点を発見するという策に出たのだ。

 

だがこの計画には失敗要素も多かった。そもそも敵の興味が「たかちほ」に向いていない限りこの作戦は成功しない。

 

だからそこ今乗組員達はへんな話だが,敵“に撃ってくれ”と祈っていた。

 

そしてその祈りは届くことになった。

 

「敵ミサイル発射!! 数2! 対艦です!!」

「かかった!」

 

港から白い()を吐き出しながら放たれた2基のHY-1(シルクワーム)が高く空へと舞い上がった。

 

電子戦(ECM)用意! 万が一に備えて主砲も撃てるようにしろ!」

「艦長。この距離では127mm砲(主砲)より20mm機関砲(CIWS)の方が宜しいかと。」

「ではそのようにしてくれ。」

 

砲雷長の指摘を受けていると,妨害電波(ジャミング)が照射された。

 

1基が振動を起こしたかと思うとそのまま進路を見失って虚空へと向かっていくが,残る1基は何事もなくそのまま「たかちほ」へと向かっていった。

 

「敵ミサイル1基向かってきます!!」

20mm機関砲(CIWS)迎撃開始(コントロールオープン)!!」

 

CIWSの6連装ガトリング砲が火を吹き,排出された空薬莢が甲板に新しい傷を作り出す。

 

弾幕が形成され,その中に突入したミサイルは複数の弾丸が命中し,爆発した。

爆発の光が艦橋を直撃し,艦橋乗組員は無意識に目を瞑っていた。

 

「敵ミサイル全発撃墜確認。」

 

全ミサイルが撃墜されると,築館島でも動きがあった。

ミサイルが発射されたポイントにミサイル発射とは別の煙が巻き上がると,紅い炎を上げて大爆発を起こした。

 

濃い灰色の煙が上がり,その上を切り裂くようにF-35JB(ストーク6)が通り抜けていった。

 

「ミサイル発射ポイント爆発確認。第1目標破壊成功(コンプリート)

この様子ですと空港もやったようですね。」

 

映像には手前から上がる黒煙と共に,奥からも黒煙が上がるのを確認出来た。

 

「そのようだな。我々も次へ移ろう。航海長面舵一杯だ!」

 

「たかちほ」の艦首が波を切り裂きながら進路を変える。「たかちほ」は進路を多千穂島へと変えた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

多千穂島西方5km。ストーク隊は海面スレスレの低空で接近していた。

 

北西からは「たかちほ」が向かっており,作戦開始が近づいていた。

 

先手を撃ったのはシ連側だった。多千穂港に停泊している大型艦の奥から2本のミサイルの煙が発生する。

 

「見つけた!! ミサイルは港駐車場だ! 港には一切当てないように行かなきゃな。 当たったら後が相当面倒くさいからなw」

 

ストーク隊 隊長の黄山が機体を左に旋回させながら上昇する。

 

多千穂島の南側には列島内で一番の規模の港があり,その規模は楽にフェリーが泊まれる程である。その為現在はシ連の揚陸艦 「BDK-101 オスリャービャ」が停泊していた。

 

だが今回の目標は揚陸艦ではない。確かに揚陸艦も重要な目標だが,それよりも大事な物がある。

 

ヘッドマウントディスプレイ(HUDS)にはミサイルが発射されて空になった2基の発射台とコンテナに入った予備弾倉が写っていた。

 

「FOX2!!」

 

機内に内蔵されているウェポンベイの扉が開き,中からAGM-65(マーベリック)が放たれる。

 

海上自衛隊はAGM-65を対地ではなく,対艦(・・)用に導入した。しかも搭載機はP-3C(オライオン)やP-1等の哨戒機だった。

 

だが実際には対艦ではなく空対地ミサイル(ASM)の代名詞に恥じることなく目標に命中し,爆煙を上げた。

 

爆煙と共に機材の破片やコンテナや駐車場を舗装するアスファルト・止まっていた車の残骸,操作や警備をしていた隊員達の肉片が巻き上がる。

 

駐車場は予備のミサイルと車のガソリンも合わさって,激しく爆発して燃え出した。

 

「やりすぎたかな·······だがこれは仕方ないんだ。」

 

黄山は自分に言い聞かせる用に言った。

 

『Stork5よりStork1へ。築館島の空港及びミサイル群は破壊しました。

ですが,阿月空港にはヘリが1基もいませんでした。以上(オーバー)。』

「Stork1よりStork5へ。了解した。対空火器に気を付けろ! 以上(オーバー)!」

 

(ヘリが1機もいなかったのか········避難させたのか? それは後で考えよう。今は残る1基を潰すだけだ。)

 

築館島の対艦ミサイル4基と多千穂島の2基は破壊され,残すは後2基だけだった。

従って自動的に次の目標になる。だが,未だにその場所が不明だ。

 

現在ストーク隊は多千穂島の南を超低空で飛行して,対空火器から逃れていた。

 

(「たかちほ」につられて撃ってくれ! でないと作戦が!)

 

黄山は右手で十字架をなぞって祈った。その祈りは伝わった。

 

多千穂島の東の高台から白い()が上がる。再びシルクワームが放たれたのだ。

 

「次のポイントはあの駐車場か! Stork2は一緒に来い!!」

『Stork2 了解(ラジャー)!』

 

2機のF-35JB(鉄の鳥)が翼を翻して目標地点に向かう。既にウェポンベイは開いていつでも放てるようになっていた。

 

ヘッドマウントディスプレイ(HUDS)が発射位置を捉えたが,黄山は異変に気がついた。

 

「あれは········!?」

 

目標の高台駐車場にはSY-1(シルクワーム)の発射機が2機あったが,彼はそれよりも手前に止めてある2台のKAMAZ-6500(トラック)の荷台の上に何かが乗っていることに気がついた。

 

明らかに建設用の工場車両ではない。じゃあ87式自走高射機関砲(AW)みたいなのかというとそれでも生ぬるかった。

 

荷台に乗っていたのは,対空ミサイル12基と連装対空機関砲2基を積んでいた。

その姿通りの航空機キラー(ハリネズミ)だった。

 

SA-22(グレイハウンド)!? なんで彼奴が!? Stork2! 攻撃は中止だ! あの丘から離れろ!!」

 

刹那2台のパーンツィリ-S1が火を吹いた。計12発の57E6(SAM)と2基の2A38M(30mm連装機関砲)が雨の様に放たれる。

 

それと共に周りにいた兵士も時間差で9K38(イグラ)を何本も撃ち出した。

 

30本以上のミサイルが2機へと襲いかかった。

 

「かわせぇぇ!!」

 

黄山は自棄糞気味に操縦桿を右に大きく動かし,機体を横に向けた。

そしてそのまま回転しながら低空飛行に移った。

 

キャノピーの1枚先には多千穂島の家屋が手を伸ばせば届くんじゃないだろうかという所まで接近していて非常に危険だったが,黄山の操縦テクニックで飛行した。

 

彼の機を追尾していたミサイル群も目標を見失い,道路や家屋に激突して追いかけているのは1発もなかった。

 

キャノピー越しの地上にはシ連兵の姿がうっすらと見えた。大半の者が何かに捕まるなどして身を守っていたが,中には持っている小銃で撃とうとする者もいた。

 

ストーク1は操縦桿を戻して機を水平にし,上昇し出した。

 

黄山は安心したが,それも束の間だった。

 

視界の隅が一瞬紅く光る。この瞬間黄山は全身を恐怖に包まれた。

“まさか········”最悪の展開(シナリオ)が頭に思い浮かぶ。そうではないと思いたい。いやそうあってほしくない。

 

だが確認しない事には答え合わせが出来ない。黄山は自分自身に覚悟を決めて振り返った。

 

そして視線の先に見えたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンジンから火を吐くStork2の姿だった。

 

「小林ぃぃぃ!!」

 

黄山の悲鳴とも聞こえる叫びはストーク2には届くわけもなく,エンジン(心臓)を失ったストーク2はそのまま多千穂島公民館脇の畑に落下して紅い花火を上げた。

 

紅い花火は紅い炎を巻き上げて燃え上がり,周りを昼間の様に照らし出した。

その炎はストーク1も下から明確に見えるくらい明るく照らした。

 

エンジンの轟音もあって多くのシ連兵士がストーク1を見ていた。

そして公民館脇の駐車場に配置されていたT-90戦車上部の12.7mm重機関銃がストーク1に火を吹いた。

 

ストーク1は高度を上げて退避する。操縦しながら黄山は呆然としていた。

 

T-90の存在や作戦失敗なんかどうでも良かった。今の黄山はある1つの事によって支配されていた。

 

(小林が·········小林が死んだ·······)

 

艦隊初の戦死者。最悪の結末に黄山は動揺していた。

 

さっきまで一緒に話していたStork2のパイロット 小林 (かい)

彼はベイルアウトする暇もなかったのだろうか。機体共にそのまま地上へと墜ちていった。

彼とはもう話すことも出来ない。あの声はもう2度と聞くことが出来ない。

彼の寿司屋の親父の面白い話や,自分自身の面白体験談等はストーク隊を盛り上げてくれた。

 

そんな話の続きは永遠に聞けなくなってしまった。

 

(俺の責任だ·······飛行団司令(かしら)に何て言えば良いんだ······)

 

そんな暗くネガティブな気持ちになっていた黄山に追い討ちをかける連絡が入ってきた。

 

E-2C(ラディ1) よりStork1へ! 艦隊より増援と思われる敵機確認! 数8!』

「8だと!? 生方(うぶかた)それは本当か!?」

『ああ,本当だ! あと本名で呼ぶな!!』

 

動揺のあまり,E-2C(ホークアイ)の航空管制士官の本名 生方牧雄を黄山は読んでしまった。

 

ストーク隊は現在5機。対して増援は8機。尚且つ相手は地上を制している。

 

黄山がとるべき道は決まっていた。暗くなっていた気持ちを無理矢理でも切り替えた。

 

今自分にやるべき事はただ1つ。これ以上誰も失わない事だと。

 

「Stork1より全機へ! 撤退だ!! 艦隊に戻るぞ!!

なんとしてでも逃げきれ!!」

 

ストーク隊 全5機は進路を西にとった。



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Episode.23 誤算

時間は少し巻きもどって多千穂島の公民館脇の駐車場。

ここには「オスリャービャ」が輸送してきたT-90が配備されていた。

その脇で警戒していた兵士はあることに気がついた。

 

какие(何だ)?」

 

彼の耳にはジェット機特有の轟音が聞こえていた。友軍機かと一瞬思ったが,聞こえる方向は島の西側からだ。

 

彼はずっとここで周りを警戒していたために,その辺りを飛んだ友軍機は分かっていたが,そっち方面には友軍機が飛んでいかなかったのだ。

 

その為にこの違和感に気がつけたのだ。

 

это странно(おかしいな)? Ταм Что Улетело Ηе должен бьιл(あっちには飛んでいったのはなかったはず)?」

 

彼が頭の中に疑問を浮かべているとそれは突如として起こった。

視界の端の方で昼間の様に明るくなったかと思いきや,爆発音が聞こえてきたのだ。

 

Κакой()!?」

 

彼の目線の先には多千穂港があったが,その付近から激しく燃え上がっており,背後の「オスリャービャ」が幻想的に照らされていた。

 

彼がその様子に驚いていると,同じく警戒していた兵士達も気づいたようだった。

 

Это из поρта(港の方からだよな)!?」

что-то случилосЬ(何かあったのか)!?」

 

爆発に驚いていたのはシ連兵だけではない。公民館に集められて拘束されていた島民達も爆発音に目が覚めたのだ。

 

「何かあったのか?」

「何か爆発したの?」

「おい港の方が燃えてるぞ!?」

 

皆思い思いにカーテンと窓を開けて,燃えている港を指差しながらざわつき出した。

 

「オイ! 窓カラ離レロ!!」

 

日本語を話せる担当のシ連兵が日本語で島民に呼び掛け,自ら手に持っているAN-94を向けて警告した。

それに続いて隣の兵士達も同じように構える。

 

島民達は銃に怯えて手を上げたが,ここにいる者はあることに気がついた。

 

さっきからジェット機の轟音が鳴り響いているが,その音が徐々に近づき出している事に。

 

島民の意識はその轟音に向いており,シ連兵も島民から轟音(そっち)に向いていた。

 

闇の中で赤い炎を後方から出して飛んでいた2機のF-35JB(ライトニングⅡ)の姿を。

 

「自衛隊だ!!」

 

そこにいた者は皆がF-35JB(ストーク1・2)に意識が向かっていた。

ある者は驚嘆を,ある者は畏怖を,そしてある者は自衛隊に対しての感動を抱いた。

 

そんな中拘束されていたのであろう子供が窓から身を乗り出して,F-35JB(自衛隊機)に向けて手を振りだした。

 

手を振った事でようやくシ連兵達は自分達がF-35JB(ストーク1・2)に意識を捕らわれていた事に気づいた。

 

「オイ下ガレ! サモナイトコウダ!!」

 

持っていたAN-94を公民館の壁に向けて1発放つ。1発の5.45×39mm弾が壁に命中して弾痕を残す。

 

実弾の威力を目の前で見た島民達は恐怖で(おのの)いたが,突如として空が一瞬朱く染まった。

“何が起きた!?”と敵味方どちらも空を見上げるとそこにはミサイルを被弾したF-35JB(ストーク2)がいた。

 

「あぁ!?」

Становиться(なっ)!?」

 

さっきまで銃に戦いていた島民達も,銃を構えていたシ連兵士もその様子に驚愕していた。

 

赤い炎と黒煙を激しく上げているF-35JB(ストーク2)はそのまま抵抗する事なく操作を失って降下し出した。

そしてその行き先は自分達のいる場所の近くだとその場にいた誰もが気づいた。

 

Я упаду(墜ちるぞ)!? Уходи(離れろ)!!」

 

戦車長の警告でシ連兵士達が急いで逃げるように走り出した。

 

公民館の島民達も急いで窓を閉め,カーテンを閉めて体を低くする等の対策を行った。

 

被弾したF-35JB(ストーク2)は公民館脇の畑に墜落した。

 

墜落によってタンク内の燃料やウェポンベイに残っていたAGM-65(マーベリック)に引火して大爆発を起こし,周りを昼間のように照らした。

 

周りのシ連兵士や島民達には肌が熱い熱で焼かれそうな事以外は何も無かったが,目の前で激しく燃える業火に常人より訓練された軍人ですらも怖じ気づいてる様に見えた。

 

Принесите огнетушителЬ(消火器持ってこい)!! Ραно(早く)!!」

 

その指示の元F-35JB(ストーク2)が引き起こしたこの大火事にシ連兵達が大急ぎで対処する。

周りから消火器を無理矢理でも持ってきて火を消そうとしている最中,T-90の上にいた3尉は超低空を飛んでいるF-35JB(ストーク1)に気がついた。

 

その機体は炎で明るく照らされており,“撃ってください”と言わんばかりだ。

 

その衝動に3尉は駆られてしまった。

 

T-90上部の12.7mm(Kord)重機関銃を操作して,機体に銃口を向けると,トリガーをひいた。

 

銃口より12.7mmの銃弾が放たれる。放たれた銃弾は闇夜に線を描きながら進んでいく。

 

F-35JB(ストーク1)にまっすぐ進んだ銃弾だったが,空気抵抗と重力によってその軌道は徐々に下に曲がっていき,そのまま目標を外して弧を描きながら地上へと落下していった。

 

3尉はそのまま狂った照準を合わせようとしたが,後頭部を強打された。

何事かと思って振り替えるとそこには上司である1佐が立っていた。1佐の表情は怒りに満ちていた。

 

тупой(バカが)!! Чем это Πомоги мне здесь(そんなことよりこっちを手伝え)!!」

 

こっぴどく叱られた3尉は直ぐ様戦車を飛び降りて周りから水の入ったバケツを受け取って,火にかけた。

 

結局この火が完全に鎮火したのは朝日が登る頃だったが,闇夜に現れた紅蓮の朱き炎は公民館に集められていた島民達に恐怖と自衛隊への後ろめたさを感じさせるのだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「ストーク隊が墜とされただと!?」

 

ストーク2撃墜の報告を受けた「DDG-203 たかちほ」のCIC内は騒然とした。

 

通信士が受け取った内容に戸惑いながらも,続きを読み出した。

 

「ストーク2撃墜と敵機増援によってストーク隊は作戦を中断して艦隊への帰路についたとの事です。」

「作戦失敗か·········」

 

艦長の鏡石が俯いているなか,事態は急変した。

 

『艦橋よりCICへ!! 港の敵戦車が本艦に発砲!!』

「戦車!?」

 

港の戦車こと2両のT-90の2A46 125mm滑腔砲が海上に向けて放たれた。

この砲から放たれた榴弾(HEF)の射程は10000m(10km)。

 

「たかちほ」の現在地は島からちょうど10kmの海上。当たる可能性はなきにしもあらずといった状態だった。

 

「奴ら正気か!?」

「正気ですよ! それにもし榴弾なんかが当たったら本艦は間違いなく沈みます!!」

 

何回も言うがイージス艦に装甲等あるわけない。“1発でも当たれば終わり”ただそれだけだ。

 

「航海長面舵一杯だ!! 離れるぞ! 砲雷長迎撃出来るか!」

「駄目です! 本艦のSPY-1D(V)(レーダー)では捉えられず,主砲以外の迎撃が不可能です!!」

「よし! 第1・2主砲 射撃用意!!」

「主砲旋回!!」

 

船体を軋ませて右に旋回しながら,艦橋前部の2基のMk.45 5inch砲が再び火を吹く。此方の最大射程は20kmを優位に越え,大きなアドバンテージだったが,ここでは何の意味もなしていなかった。

 

「たかちほ」の砲弾は港の海面に白い大きな水飛沫上げて連続で着弾する。

高い水飛沫が1種の煙幕となって「たかちほ」の身を隠した。

 

その間にも「たかちほ」は島から離れていくが,巨大な水飛沫を切り裂いて砲弾が「たかちほ」へと飛んできた。

 

飛んできた砲弾を視認した艦橋の見張り員は即叫んだ。

 

「敵砲弾飛んできます! 直撃コース!!」

 

その言葉を聞いた艦橋の航海員は独断で操舵輪を回した。船は更に右へと向きを変えた。

 

艦尾のすぐ左脇に着弾した榴弾が海中で爆発する。爆発で発生した衝撃が「たかちほ」へと襲いかかった。

 

「たかちほ」が大きく揺れる。波が甲板の12.7mm砲の空薬莢を浚い,部屋に置いていった物が落ち,人がよろめいた。

 

だが揺れが収まるとそれ以外には何にも起こらなかった。もし砲弾が直撃したとなると

 

「勝手に舵を変えるなんて······彼奴やりますね。」

「あの航海員は我々を救ってくれたな。······被害報告!」

 

各所から“異状なし”と報告が来たが,1ヶ所だけ違っていた。

 

『此方艦橋! 負傷者1名!』

「艦橋。負傷の具合は?」

『転倒による軽症です!! 現在医務室に向かってます!』

 

負傷した隊員は問題ないと分かるとCICは安堵の空気が漂った。

その空気を読んだ鏡石の隣にいた隊員が質問した。

 

「艦長。これからどうしますか?」

「作戦が失敗した以上この海域にいる理由等無い! 撤退だ! 艦隊に合流するぞ!!」

 

「たかちほ」は航路を西に向けた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「あまぎ」のCICは沈黙に支配されていた。ストーク2が撃墜され,墜落した。パイロットの小林は脱出(ベイルアウト)せずそのまま機体と共に墜ちていった。

 

機体は激しく炎上したことから,彼の生存は0()に等しかった。

 

第2機動部隊初の死者。この事実は桐島を大きく痛め付けた。

 

彼の心の強度はガラス以下だ。何か自身にとって衝撃的な事が起こればその心には直すのに莫大な時間がかかる深く大きな傷がつく。

 

2017年の“松島F-2B墜落事故”の時も彼の心は酷く傷ついた。

傷の原因は飛行停止処分でF-2のパイロットになれなかった事ではなかった。

さっきまで話していた仲間を失ってしまった事だった。

 

勿論自分は関係ない。だがあんなに簡単に仲間が消えてしまった事に彼の心は傷ついてしまった。

 

彼はその傷を隠しながら日常を暮らしていたが,その傷が表面だけでも直るには半年はかかっていた。

 

そしてこの事態が塞がれていた傷口を開ける事は容易だった。

今の桐島の心はあと少しで壊れてしまうところまで来ていた。

 

「我々は負けたのか········くそ!!」

「艦長·······」

 

目の前の台を右手で台パンし,鬱憤を晴らそうとしたが全くと言って良い程晴れやしない。

 

自身の心は今まで体験したことがないぐらい壊れており,もう崩壊寸前だったが,何とかしても持たせなければいけなかった。

 

ここで艦長である桐島が壊れてしまえば,艦隊が壊滅することは明らかだったからだ。

 

「飛行甲板。万が一だHH-60H(レスキューホーク)を発艦させろ。」

 

震えそうな手で通信機を掴み,HH-60H(レスキューホーク)の発艦を指示すると,回線を切り替えて今度は艦隊全部に連絡した。

 

「全艦に連絡。イーグル・ストーク隊収用後,経路を西にとれ。給油ポイントに向かうぞ。」

 

通信機を置くと,桐島はCICを立ち去ろうとする。無論それに気づかない人はおらず,水上が問いかけた。

 

「艦長? 何処へ向かうのですか?」

「飛行甲板に行ってくる。CICは任せたぞ。」

 

質問に答えた桐島は足早に去ろうとしたが,それも再び水上が止めた。

 

「艦長。せめて理由を教えてください。」

 

桐島は足を止める。顔を水上達の方に見せたが,その表情は黒い髪でしっかりとは見えなかった。

桐島は返事をしたがその声はいつもの桐島とはまるで別人だった。

 

「ストーク隊の隊長に直接話を聞いてくる。こういう事は直接聞かないとしっかりと伝わらないからな。」

 

そう言って桐島はCICを出ていった。再びCICは静寂が支配した。

だが静寂というのはいつか破られる物だ。

 

「やっぱり艦長は苦手だ······」

 

誰かがそう言ったのを火種として皆が艦長に抱いた事を次々と言い出した。

 

「艦長ってもともと空自出身だから波長が合わなかったけど,作戦失敗でまさかあんなになるとは·····」

「正直言って信じられないな。」

「やっぱり桐島(あの人)は艦長には向いてなさそうだな。」

「それには同感だ。」

「まだ海自の精神が染み渡ってないんだと思うぜ。」

 

皆が思い思いに話していると砲雷長の宇津木が1種の脅迫をかけた。

 

「お前達そんな無駄話をしている暇があるようなら,一人一人の部屋を“台風”するぞ。良いのか?」

『結構です!!』

 

息を合わせたかの様にピッタリな言葉に宇津木はクスッと微笑んだ。

 

「宇津木。艦長は大丈夫なのだろうか?」

「私には分かりませんが,恐らくもう一撃何かが来れば壊れてしまいそうだと言う事は分かります。」

「その場合艦隊はもたないだろうな······」

「敵艦隊との決戦前に瓦解(がかい)·······世界一恥ずかしい戦いの終わり方になってしまいますね。」

 

水上と宇津木が桐島について心配している中,艦橋でも桐島を心配する声が静かに上がっていた。

 

「桐島·········」




※台風とは

熱帯低気圧がある一定の領域にまで発達した自然の方ではなく教育期間中に自室の清掃や整理・整頓の状態が悪いと教官が行うある一種の儀式である。

因みに部隊配備されてからは恐らく無いと思われる為,もし宇津木が本当にやった場合上から怒られる可能性は高い。


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Episode.24 降下開始

筆がのらなくて更新遅くなりました··········

毎日更新やっている人とかどういう生活してるんですか(困惑)·······

特に二次創作界隈の皆様。


第2機動部隊がイーグル・ストーク隊を回収している頃,朱雀列島の南東20kmの空域。漆黒に覆われた空を3機の航空機が編隊を組んで飛んでいた。

 

美保基地所属の第403飛行隊のC-2輸送機だ。この編隊は美保基地から入間基地に飛び,ある隊員と装備を積んで朱雀列島へと飛んでいた。

 

編隊の中央を飛んでいるC-2の貨物室には約100名程の自衛隊員が椅子に座っていた。

 

彼らは特殊作戦群。陸上自衛隊が誇る特殊部隊だ。

 

現在彼らは飛鷹島への降下の準備をしていた。

 

彼らとは少し離れた場所の椅子に特殊作戦群長の海藤大也が座っていた。

彼はコックピットからやってきた隊員からある連絡を受けていた。それを受け取った海藤は隣に座っている副官に話しかけた。

 

「習志野からの連絡だ。第2機動部隊が負けたそうだ。」

「何ですと!?」

 

副官が驚きながら振り向く。副官は動揺明らかに動揺していたが,海藤はただ冷静に内容を伝えた。

 

F-35JC(ライトニングⅡ)1機撃墜と敵機増援で撤退したとのことだ。

対艦ミサイルは1基だけ破壊できていないとの事だ。」

「作戦が失敗となると,我々は大丈夫なのでしょうか? それにミサイルが破壊できていないとなると水機団にも影響が出ますが。」

 

副官が不安そうに海藤に話すが,この言葉にも海藤は冷静に返した。

 

特戦群(我々)は作戦が失敗しても任務を果たすだけだ。

それは水機団も同じさ。ミサイルは第2機動部隊がちゃんと破壊してくれる筈さ。」

 

そう言うと海藤は立ち上がって隊員の元へ向かった。その顔はさっき副官と話していた時とは別物だった。

 

「あと数分で降下地点に到着する。我々の任務は島を取り返すことだ!!

皆訓練通りだ!! 自分を信じて突き進め!!」

「「「おぉ!!」」」

 

海藤の強い熱意が入った言葉に隊員達が活気づいた。

 

機体後方のカーゴドアが開く。扉の先は暗く冷たい水面と何にも見えない漆黒の空が広がっていた。

 

一度入ったら永遠に帰ってこれない····まるでブラックホールの様にも感じられた。

 

だが彼らは恐れない。こんな訓練は幾度も行った。

 

“その訓練が使われる時が来た!” 隊員達の心には恐怖ではなく歓喜の感情があった。

 

「降下開始!!」

 

海藤の宣言で1人また1人とC-2から飛び降りていく。

 

自分以外の隊員達が降りた事を確認すると自らも飛び降りた。

 

冷たい空気の壁が肌を強く打ち付ける。ある程度重力に身を任せていると,背中の13式空挺傘が開き落下速度が抑えられた。

 

1番機は特戦群隊員を全て下ろすと,高度を下げて退避したが残りの2機はそのまま飛鷹島に向かって飛んだ。

 

この2機には特戦群向けの装備が搭載されている。装備の内容は16話を見てもらいたいが,この2機は装備を島に下ろすために島上空を通過せざるおえないのだ。

 

島上空を通過するという事は落とされる危険性が非常に高く,まさに決死の任務なのだ。

 

そしてそれは現実にかした。

 

沈黙の暗闇を切り裂くかのように轟音が鳴り響いた。

 

轟音が鳴り止むと2・3番機からチャフとフレアが巻かれる。

 

刹那2番機に爆発が起きた。

 

2番機の左翼のゼネラル・エレクトリック(GE) CF6-80C2K1F ターボファンエンジンが被弾して火を吐いていた。

 

「2番機!?」

 

2番機の高度は徐々に下がっていった。この様子に周りの特殊な訓練を幾度も受けた隊員達も動揺している様に見えた。

 

(2番機には指揮通信車やらが乗っていたが·······諦めるしかないな。)

 

考えている間にも2番機の高度は海面へと近づいていた。1度機首が上がり,機体も上昇に転じるがこの事で事態は更に悪化した。

機体の上昇が止まり,垂直に近い角度で落ちだした。こうなってしまっては抗う手段は残っていない。

 

重力に従ってC-2は海面へと吸い込まれた。高い波飛沫と機体の破片が舞い上がった。

 

水飛沫が海藤の顔にもかかり,かかった水飛沫を払いのけた。想定外の事態に隊長である彼は冷静に判断した。

 

(2番機がやられたという事は恐らく3番機もやられる! 3番機までやられたら島奪還は不可能だ。

まさか島に降りる前に作戦失敗になるとは······)

 

だが2発目は撃たれてこなかった。海藤の目線の先には島で何かが黒煙を上げているのが見えた。

 

3番機はそのまま島上空へと向かっていった。

 

(撃ってこない········何か起きているが,突っ込むしかない!)

 

島には最初に降りた隊員が着地しており,物質降下を受け取る準備をしていた。

 

海藤も着地の時が近づく。徐々に地面が近くなっていき,最初は点でしか見えなかった人影もうっすらだが表情すら見える様になってきた。

 

足が地面に触れ,一回転して着地の衝撃を抑える。

 

「上陸成功と。」

 

他の隊員が3番機を見守るなか,海藤の元に1人の自衛隊員が近づいてきた。

その顔は特戦群の見知った顔ではなかった。

 

「あなた方は空挺団か?」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

時間は少しだけ遡る。

 

飛鷹島南東の平原に数名の影があった。それはシ連兵の物ではなかった。

 

「呼ばれてきてみたが,一体ここに何があるというのだ。」

 

魚島敬次三佐以下数名の飛鷹島に隠れていた自衛隊員だ。

 

彼らは周囲を交代で警戒していた隊員から“来てください”と言われた為に護衛の常盤ら数名を連れて来ていたのだ。

 

「それで谷川。呼んだ理由はなんだ?」

「三佐。あれがその理由です。」

「あれは········」

 

彼らの目線の先には住民から徴収したであろう軽トラックの荷台に乗る複数のシ連兵士がいた。

 

彼らは皆双眼鏡で南東の空を見つめていた。

 

谷川から双眼鏡を受け取って同じように南東の空を見つめると,そこには3機の鯨の様な機体 C-2輸送機が写っていた。

 

「あれは······C-2!?」

 

魚島は時々だが飛鷹島空港に来ていた入間基地配備の第402飛行隊所属のC-2を見ていたので分かったのだ。

 

「C-2って······輸送機ですか?」

「ああそうだ。だが奴ら何をしに来たのだ!?」

 

魚島がC-2を見ていると機体後部から何かが落ちていくのが見えた。

何かの部品かと思ったが,その数は増えていき,意図的な物であると気づき,そして濃緑のパラシュートが開いた事でそれが人であると分かった。

 

自衛隊で空挺降下する部隊は限られている。その中で1番有名な部隊の名前を言った。

 

「空挺団!?」

 

C-2から約100名程の隊員が降りると,機体は高度を下げ離脱するが,残りの2機は離脱せずにそのまま飛鷹島に向かって飛んでいた。

 

その時シ連兵が動いた。双眼鏡を下ろして荷台から長い筒状の何かを取り出すと両手で右肩に乗せた。

 

(携帯ミサイル(MANPADS)?)

 

そう思ったとき長い筒状の物 9K38(イグラ)が轟音と共に放たれた。

 

C-2からド派手なフレアとチャフが巻かれたが高度が低かった為に降下は無く,9K38(イグラ)はC-2に命中した。

 

「「「あぁぁ!?」」」

 

C-2のエンジンが火を吐く。シ連兵達は撃墜に子供みたいに大喜びしていた。

その様子に愕然としていると後ろにいた月崎が魚島に訴えた。

 

「このままだと残りの1機も落とされます!! 今奴らを止めないと被害が拡大します!! それでいいんですか!!」

「確かにそうだが······今の我々にはそこまでの武器が···」

「ここにあります!! 迷っている暇などありません!!」

「おい!·······これは後で始末書だな····」

 

月崎は独断でシ連兵に向けて5.56mm機関銃(MINIMI)を放った。

弾丸は照準が合わないのか周りの地面や軽トラの車体に当たって,地面や車体を凹ませた。

 

だがシ連兵の気を引き寄せるのには充分だった。

 

5.56mm機関銃(MINIMI)を軽々と振り回す月崎の姿に2人は呆気にとられた。

 

5.56mm機関銃(MINIMI)をここまで使いこなすなんて·······」

「これは私達より強いんじゃないかな······」

「何か言った!!」

「「いえ何も!」」

 

2人は誤魔化しつつ,銃撃を避けるために場所を移動しだした。

 

因みに言っておくが5.56mm機関銃(MINIMI)の重量は約8kg。比較として89式5.56mm小銃は約3.5kg。

 

········女が弱いという常識は自衛隊では通用しないようだ。

 

さておき銃口から放たれた5.56×45mm NATO弾が1番手前の兵士の体に命中する。

弾を受けた兵士は車から落ち,残りの兵士はAN-94を撃ってきた。

 

「逃げるぞ! こっちだ!!」

 

さっきまでいた場所の目先の地面に5.45×39mm弾が命中し,砂埃をあげる。

 

彼らは大きな岩の影に隠れた。シ連兵はそこへ銃撃を浴びせるが高い音を立てて岩に弾かれた。

 

「懲りないやつらだ。ならこれでも食らえ!!」

 

常盤によって89式小銃の先端に取り付けられた06式小銃てき弾が車両へと向かって放たれる。

 

弧を描いて落下し,荷台で爆発すると,そこに置いてあった9K38(イグラ)を巻き込んで派手に誘爆した。

 

軽トラは辛うじて骨組みを残していたが最早使い物にならないのは確かだった。

 

周りの芝生は爆発によって破壊された軽トラの燃料タンクから漏れでたガソリンに引火して,燃え上がり偶然ながらも空挺降下する隊員達の目印になったのだった。

 

次々と自衛隊員が着地する。着地の仕方は皆が手慣れており,幾度も訓練されてきた事を示していた。

 

魚島は彼らの正体を知る為に1人に話しかけた。

 

「あなた方は空挺団か?」

「いいや。我々は特戦群だ。」

「特戦群·······」

 

魚島が話しかけた人物 海藤大也と話していると3番機のカーゴドアから16式機動戦闘車等の武器が投下された。

 

プラットホームに乗せられた16式は物料傘1号によってゆっくりとした速度で地上へと向かっていた。

 

「16式!?」

「またなんという物を······」

 

常盤と魚島が驚いているなか,16式機動戦闘車は地面へと落ちた。

それにに84式無反動砲(カールグスタフ)91式携帯地対空誘導弾(P-SAM)等が続いた。

 

全ての物資を下ろし終えた3番機は機首を上げて上昇に転じる。だがその刹那C-2の左翼に何かが命中し爆発した。

隊員達は驚愕していると,後ろから風切り音がなっている事に気がつき,後ろを向くとそこには1機の攻撃ヘリがいた。

 

Mi-28N(ハボック)!!」

 

Mi-28Nの機首に取り付けれた2A42 30mm機関砲が自衛隊員に火を吹いた。

30mmの弾丸はさっき魚島らが隠れていた岩をいとも簡単に破壊した。

 

隊員達は16式の影や,森林に隠れたが1人だけ違っていた。

 

Mi-28の赤外線カメラは捉えていた。たった1人だけ堂々と立っている若き2等陸尉 常盤蒼也の姿を。

 

「プレゼントだ! 貰ってけ!!」

 

常磐の捨て台詞と共に91式携帯地対空誘導弾(P-SAM)が放たれた。

 

砲身後部から火を出して,白い煙を出して放たれた弾頭はそのままMi-28N(ハボック)に命中した。

 

機内の燃料と弾薬・パイロンのミサイルに引火・誘爆し,朱く光ると瞬く間に爆発した。

 

「うおぉ!!」

 

Mi-28N(ハボック)は激しく燃えながら地上へと落下した。

周りの草に引火して火柱の様に燃え上がった。

 

爆発の衝撃波で常盤は飛ばされて倒れるが,そんな重い怪我ではなかったようで直ぐに起き上がることが出来た。

 

そんな常盤に異変を感じて様子を見に来た妙高が近寄った。

 

「おい! 常盤大丈夫か!!」

「うん! 大丈夫!!」

「なんて危険すぎる事をお前はやるんだ! だがよくやってくれた。」

 

火柱を見ながら妙高が嬉しくも呆れもある複雑な気持ちになっていると別の隊員が叫んだ。

 

「敵戦車1両来ます!!」

 

2人がその方向を見ると火柱の後ろに1台の車両の影が見えた。

影には長い砲身が写っていた為に戦闘車両ということが明確だった。

 

「戦車!? この島にもいるのか!?」

「戦車!? 84式無反動砲(ハチヨン)を使いましょう!!」

「いやあれは戦車ではない!! BMD-4だ!!」

 

だがよくよく見れば戦闘車両の大きさは戦車と比べれば小さい上に,砲身もそこまで大きくは見えなかった。

 

その正体はBMD-4。空中投下が可能な歩兵戦闘者で,砲塔には2A72(30mm機関砲)2A70(100mm滑腔砲)が搭載されていた。

 

因みに100mm滑腔砲はT-55戦車の主砲と同じである······比較対象として日本の89式装甲戦闘車の主武装は35mm機関砲だ·········

 

もし装甲装置が履帯(クローラー)ではなく車輪(タイヤ)だったら装輪装甲車の仲間でも問題なさそうだ。

 

さておきBMD-4の100mm滑腔砲が彼らの元へ向く。装甲車から逃げようと思ったその時だった。

後方からエンジンの始動音がなったかと思いきや,いきなりエンジン始動の犯人 16式機動戦闘車が動き出した。

 

足周りが履帯(クローラー)ではなく車輪(タイヤ)の13式は高速でBMD-4の右側面に移動すると車体上部に搭載された砲塔が回転して狙いを定めると,105mmライフル砲が火を吹いた。

放たれた105mm装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)がBMD-4の側面に命中し,直撃した装甲板は紙の様にぐにゃぐにゃになり,何の意味もなさないまま車両ごと爆発し散らばった。

 

砲塔は爆風で浮き上がり,あった場所からズレて落下するとそのまま車両は動かなくなった。

 

「撃破確認!!」

 

敵車両撃破に隊員達が歓喜の雄叫びを上げるなか,魚島が冷静に状況を判断した。

 

「皆ここから急いで引き上げるぞ!! 特戦群の皆さんもついてきてください!!」

 

その冷静な魚島の指示に従って特戦群の隊員達含めて全員+装備品が森林へとその身を隠した。

そんな指揮の様子を見ていた海藤が独り言を呟いた。

 

「あれが魚島敬次か·········やっぱり北西(きたにし)が見込んだ男だ。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「敵輸送機1機撃墜,1機不時着(・・・)。我々の被害はMi-28N 1機,BMD-4 1両です。」

「そうか·········御苦労だった。」

 

蘭島 シ連軍司令部で報告を受け取った第3軍司令.ユラージ・チュイコフは複雑な表情になった。

 

輸送機2機を引き換えに攻撃ヘリと戦闘車1つずつを喪失という勝ったのか負けたのか分からない戦果だったからだ。

 

「この戦闘は痛み分けだったな········だが言ってしまえばBMD-4(戦闘車)は地味に痛かったな·······」

「BMD-4 4両のうち,降下すぐに1両をAH-64D(敵ヘリ)の攻撃で失い,そして今回の喪失で戦力は半分です。」

 

実は上陸開始時にBMD-4がIl-76MDMから飛鷹島に空中投下され,地面へと落ちた直後,奇跡的に離陸できたAH-64D(アパッチ・ロングボウ)のM230A1 30mm機関砲によって撃破されていたのだ。

 

そのAH-64D(アパッチ・ロングボウ)もシ連兵の9K38(イグラ)によって落とされたのだが,いきなり装甲戦闘車1両を失ったのは痛手だった。

 

そして先程もう1両失った。飛鷹島に展開する装甲戦力は半分に落ちていた。

 

「先程本国からの連絡で,“明日増援戦力を派遣する”との事ですので一先ずは安心でしょう。」

「まあ来る途中に何もなければよいのだがな·······」

 

何かフラグにしかならない事を言ったようだったが,話は別の話題へと変わった。

 

「それにしてもだ·······あの輸送機(・・・)はどうするんだ?」

「これに関しては私も何も言えません········取り敢えず今は基地内に置いておくしか····」

 

2人が言う鯨とは先程Mi-28N(ハボック)によって被弾したC-2 3番機の事だ。

 

この機体なんと左側のエンジンが壊れたまま飛鷹島空港まで飛び,更に強行着陸したのだ。

しかも滑走路からは逸れてしまったものの,着陸に成功してしまったのだ。

 

結果死者どころか負傷者も出ずに済み,C-2の乗組員はそのままシ連兵に拘束されたのだった。

 

因みにこの時隊員達は皆清々しい程の笑顔だったようでシ連兵達が恐怖を抱いたとかなんだとか。

 

「取り敢えず輸送機(あれ)に関しては戦況が安定したら何とかしましょう。

して司令。作戦通り主役(・・)を呼びますか?」

「勿論だ。誤算はあったがこれで舞台作成は終わった。あとは主役(・・)に任せるだけだな。

レアル直ぐに端樹島の第24独立特殊任務旅団(主役)に連絡してくれ。」

 

レアルはそのまま退室した。ユラージは少なくなった自身の愛用煙草 カールトンに火をつけて吸出した。

 

ユラージはソファーの背もたれに寄りかかって天井を見上げた。

 

「こっちは順調に進んでいる。あと不安要素があるとしたら艦隊か········」

 

朱雀列島の夜は更けていった。



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Episode.25 衝撃

11/18 横田基地を百里基地に変更。


Operation 朱雀失敗によって「DDH-185 あまぎ」CICは沈黙していたが,500km以上離れた東京都千代田区 総理大臣官邸地下の危機管理センターも沈黙に包まれていた。

 

作戦失敗の報告が入った途端,誰も話す者はいなくなった。ストーク隊パイロット戦死等の報告が入ると尚更だった。

 

「作戦失敗·······不味いことになりましたね······」

 

鈴村の言葉にあまり軍事に知識が無い本庄が聞いた。

 

「ですが総理。F-35JB(ライトニングⅡ)の撃墜によるパイロットの戦死・対艦ミサイルの破壊失敗等作戦の半分が失敗しましたが,ミサイルの半分は撃破出来ましたしそれに特戦群を送り込めたので実質成功では?」

「確かにそれだけを見れば成功ですが,私の言っている場所はそこでは無い!!」

 

鈴村は机を思いっきり叩いた。その見たことがない程に苛立っている様子に本庄はビクッとして思わず一歩引き下がった。

 

「本庄君の話は当たってはいますが! それよりもこの戦いに破れたという事実が一番不味いんですよ。」

 

鈴村の明らかに不機嫌な様子に危機管理センターの空気は今までにない位に重くなっていた。

 

「今の日本(我々)に必要なのは勝利という言葉です! この状況は言ってしまえば火に水ではなく油を注いだ様な物です。」

 

火に油を注ぐと激しく燃える様に,ただでさえ信用を失っていた政府に更に敗北のニュースが入ると,信頼は地に落ちるのは明らかだろう。

 

この事で国会前でデモが起きるならまだ良い方だ。もしこれでクーデター等による政権交代が起きてしまえば,国内が更に混乱するのは目に見えていた。

 

国内が乱れているなかで,国外の問題に対処するなんて不可能に近いだろう。

 

「我々は最悪の展開を招いてしまいましたね······」

 

今までにない程に重い空気の中,官房長官の大洋が鈴村に向かって言った。

 

「総理。今回の件についても早急に記者会見を行うべきでしょう。

前回の様にシ連に先手をとられてはいけません。」

「全くもってその通りです。もし前回の様に行ったら更に批判を食らうでしょう。ならば早めに公表して最低限に抑える必要があります。

防衛大臣。自衛隊の方から何か連絡とか着ていますか?」

 

防衛大臣 栃木がさっき受け取った紙を見ながら答えた。

 

統合任務部隊(JTF)からの連絡によると作戦失敗を受けて,全体的に作戦の見直しを行うとの事です。

それと先程岐阜のEP-1がシ連軍の無線を傍受した模様で,増援部隊と補給艦隊についての物でした。」

 

P-1哨戒機を改造した電子戦データ収集機 EP-1はテストフライトの段階だったが,国の有事ということで岐阜基地を離陸して岩国の第81航空隊所属のEP-3と共に任務についていたのだが,搭載されていた電子機器がシ連側の通信を傍受したのだ。

 

ここで言っときますが,EP-3等にそういう電子機器が積まれているかは分かりません。

 

「傍受した通信によると本日06:00と07:00頃にウラジオストク港を各自出港するとの事です。

統合任務部隊(JTF)はこの船団を各自撃破すると計画しているとの事です。」

 

各所から“おぉ!!”と声があがり,重苦しかった空間が徐々に消えていく。

 

「航路予想海域に一番近いのは······第3潜水艦隊です。無難に行けばこの艦隊にやらせるのが最もとの事です。」

第3潜水艦隊(ファントム)にやらせるんですか······仮に撃沈されたら放射能物質(・・・・・)が漏れだすことになって世界の敵になってしまうのに。」

 

本庄と同じく軍事に疎い経済産業大臣の音次が口を尖らせて愚痴を漏らしたが,動じる事なく栃木は続けた。

 

「確かにもし攻撃され沈んでしまったら,確実に漏れだすことになりますが,シ連軍もこれは攻撃を行うことが出来ないと分かっていると期待しておきますよ。」

 

音次は納得してないようだったが,これ以上言うと話が進まなくなる事から口から出掛けた言葉を押さえ込んだ。

 

音次が話さなくなったのを確認した外務大臣の安川は立ち上がって,発言した。

 

「総理。外務省は再度シ連に交渉を行います。同じように中国にも行います。

それと共に外務省(我々)は国連に提訴しようと考えてますが,よろしいでしょうか?」

「よろしいです。国連で認められたのなら我々は非常に有利にたつことが出来ます。

もしかしたらそれによってシ連が引くという可能性もなくもないですからね。」

 

鈴村がほぼ0に近い期待を言ったその時だった。

今まで一言も喋らなかった副総理の大森が突如として声をあげたのは。

 

「そ,総理! 大変です!! これを見てください!!」

 

いきなり狼狽した大森に困惑しながら,鈴村らは大森が指差したパソコンの画面を見て,驚愕した。

 

「これは!?」

 

画面には日本語で“シ連軍にF-35が撃墜される瞬間”という見出しと共に撃墜されるF-35JB(ストーク2)の映像が流れていた。

 

たった30分前に上がったばかりだったが,既に再生数は10万を越しており,コメントも1000に達しようとしていた。

 

上げたアカウント名はロシア語で書かれており,シ連側の策略だということが明らかだった。

 

「我々はまたも先手をとられたのか········」

「しかも撃墜される所を鮮明に撮られてますね。こりゃあネットが騒ぎだしますよ。」

「先手をとられてしまいましたが,我々も早急に手を打ちましょう。

5時から会見を行います。準備を急いでください! 各メディアにも連絡を!」

 

その鈴村の言葉を受けてセンター室内にいた全員が行動を開始した。

 

安川の隣にいた外務事務次官の三崎も安川の指示で部屋の外へと向かった。

 

「········だから駄目なんです(・・・・・・・・・)。」

 

誰にも聞こえない様にそう呟きながら部屋を出た三崎は部屋の外で待機していた外務省職員に内容を伝えると,トイレの個室へと駆け込んだ。

用を足すわけではなく,別の目的の為に個室に来る必要があったからだ。

 

三崎はポケットからスマホを取り出し,操作しだした。画面に書かれていた文字は日本語ではなくロシア語(・・・・)だった。

 

そして書いていた文章の大半の内容は先程話し合われた今後の政府や自衛隊の対応についてだった。

 

そう,彼女は政府の中核にいながら,シ連に国家機密クラスの情報を流していたのだ。

 

それは金で雇われたとかではなく,自らの意思で行っているのだった。

 

「この国の罪はこれで償われる······平和の為には必要な犠牲なのです。」

 

メール送信してそう独り言を誰にも聞かれないように呟くと,偽装の為に水を流して個室を出て,平常を装って戻った。

 

その独り言が聞かれていたとは知らずに。

 

「やっぱりなのか········」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「F-35撃墜に加えて,舞鶴港で不審船騒ぎ······全くこの国には今,一体何が起きているの?」

 

鈴村の会見から約1時間程経過した頃,OREジャーナルの仕事場でパソコンを操作しながら滝川はそう愚痴を漏らした。

 

彼女は徹夜で朱雀列島やシ連軍・第2機動部隊について調べていた。そこに舞い込んできたF-35撃墜の動画に鈴村総理の会見・それに舞鶴港で発生した不審船騒ぎによって彼女の頭はパンク寸前だった。

側に置いてある缶コーヒーを飲んで,眠気を無理矢理にでも覚ます。

 

ふと隣を見るとグッスリと机にふして気持ち良さそうと寝ている木戸の姿が視界に写った。

 

無性に怒りが芽生え,無意識の内に脇に置いてあったファイルで頭を叩いた。叩かれた衝撃で木戸は目を覚ました。

 

「ん~·······あ,俺寝てました?」

「寝てるも何もグッスリと爆睡だったよ! 私が一生懸命調べている隣で寝ていたから叩いちゃたわよ!!」

「仕方ないじゃないですか! 自然の定理には誰だって逆らえまs」

「何? 進一お前寝ていたのか?」

「あ編集長!! グッスリ寝てました!!」

「バカが!! 罰として眠気覚ましの缶コーヒー買ってこい!! 早く買って来ないと給料減らすぞ!!」

「えぇ減給!? すぐ買ってきます!!」

 

減給という単語に刺激され,完全に目を覚ました木戸は缶コーヒーを買いに駆け出した。

 

「編集長本当に減給するんですか?」

「本当にそんなことしたらここ潰れるぞ。」

 

荻窪の言葉が冗談だった事に滝川は安堵した。

 

「それで滝川。お前は寝ないで調べたんだから何か掴めたのか?」

「取り敢えず言える事としてはネットは炎上が止む気配がありませんよ。こんな朝早くからご苦労様ですよ。」

 

現在日本の各種ネットは炎上の真っ只中だった。例でTwitterを見てみると。

 

“自衛隊敗北!? 自衛隊も落ちたな。”

“自衛隊は今度こそは勝ってください!!”

“もうこれ駄目だよ。日本政府は交渉してください。”

“(上のコメントに対して)出来ないからこうなってんだよ!! じゃなかったらとっくに終わっているわ!!”

“東京にミサイル来たりするのかな······”

“(上のコメ以下略)東京にミサイルなんて簡単に来るぞ”

“もう外国逃げま~す!!”

“空港めっちゃ混んでる!! 早くしろよ!! こっちは命かかってんだぞ!!”

 

上述のは一部の切り取りが,今の投稿の大半が戦争関連の事だった。しかもこれはまだましな方で,根も葉もない噂やデマを流す悪質な物もあり,国内は文字通り混乱していた。

 

コンビニ等の店では買い占めが相次ぎ,Twitterに上がった画像では商品棚がほぼ全て空になっていた。

 

「今日本中は混乱の坩堝(るつぼ)だ·······これも一種のシ連の作戦かもな。」

「国内を混乱させ,シ連(自分達)への対応を遅らせ,その間に確実に朱雀列島を手にする·····嫌らしいですね。」

「戦争に嫌らしいも綺麗もあるか。全面戦争にでもなれば日本も同じような事ぐらいするだろうよ。

で調べた事はこれだけか?」

「いえ,他にも日本海沿岸には陸自部隊が迎撃の為に待機しているらしいです。」

「それに関してはこっちも把握している。ネットには嫌という程写真が上がっているからな。

ほら見ろ。10式がトレーラーで運ばれているぞ。」

 

荻窪のパソコンの画面には10式戦車が73式特大型セミトレーラーと23式特大型セミトレーラーで輸送されている写真が写っていた。

 

実際北海道と本州の日本海沿岸にはシ連軍の上陸に備えて陸自部隊が展開しており,上陸船艇を迎撃するために16式機動戦闘車・10式戦車・89式装甲戦闘車()・99式自走155mmりゅう弾砲・19式装輪自走りゅう弾砲・多連装ロケットシステム(MLRS)155mmりゅう弾砲(FH-70)に加え,シ連艦艇を遠距離から撃破すべく88式地対艦誘導弾(SSM-1)・96式多目的誘導弾システム・中距離多目的誘導弾等が配備されていた。

そして挙げ句の果てには退役寸前の74式戦車までもが展開されていた。

 

勿論上陸だけでなく弾道ミサイル(ICBM)やTu-95等の爆撃機に対する防衛手段として,87式自走高射機関砲(87AW)03式中距離地対空誘導弾(SAM-4)・11式短距離地対空誘導弾・93式近距離地対空誘導弾(SAM-3)81式短距離地対空誘導弾(SAM-1)が展開しており,こちらもどっから持ってきたのか分からないが,03式に置き換えられら筈のホークや35mm2連装高射機関砲(L-90)までもが配備についているという文字通りカオスな状態がなっていた。

 

同じように陸自のヘリ部隊もいつでも出撃可能状態になっており,帯広や八戸・目達原駐屯地等に配備されているAH-1S(コブラ)AH-64D(アパッチ・ロングボウ)OH-1(ニンジャ)等がハイドラ70ロケット弾やBGM-71(TOW)AGM-114(ヘルファイア)を装備して,エプロンで待機している写真がネット上には上がっていた。

 

それは海自や空自も同じで築城・三沢・八戸・岩国・鹿屋基地に待機しているF-2AやP-1には22式空対艦誘導弾(ASM-3)93式空対艦誘導弾(ASM-2)91式空対空誘導弾(ACM-1C)・JDAMそして先日正規採用された新型兵器 24式空対艦誘導弾(ACM-2C)等がハードポイントに搭載されていた。

 

勿論対空戦闘も想定しており,千歳・三沢・百里・新田原・那覇基地のF-35JA(ライトニング)F-15J(イーグル)にはAIM-120(AMRAAM)をはじめ,04式空対空誘導弾(AAM-5)99式空対空誘導弾(AAM-4)90式空対空誘導弾(AAM-3)等が搭載され,日本を守るべくほとんどの機体がスクランブル出来るようになっていた。

 

そしてこの待機部隊には小松基地所属の第303飛行隊(303SQ)第306飛行隊(306SQ)も加わっていた。

 

この2部隊は小松基地が使用不能になったあと,小牧基地配備の第404飛行隊所属のKC-767の助けを借りて,岐阜・小牧両基地に着陸出来たのだ。

 

両部隊合わせて4機の機体を失ったが,戦意は落ちるどころか仲間の仇を討たせてくれと上昇を続けており,現在岐阜・小牧両基地で99式空対空誘導弾(AAM-4)04式空対空誘導弾(AAM-5)をハードポイントに満載して出撃は未だかと待っているのであった。

 

「これじゃあまるでゴ〇ラが来たみたいですね。」

「確かに例えとしてある意味当たっているな。」

 

滝川の鋭い例えに荻窪が感心していると,缶コーヒーを買いに行った進一が残念そうな表情で帰ってきた。

 

「どうしたんだ進一? 缶コーヒー買ってきたんだろうな?」

「いえそれが·········ここ周辺の自動販売機を全部見たんですけど缶コーヒーやコーラにサイダーとか自販機の物がほとんど売り切れてました。」

「マジか·········」

 

流石の荻窪ですら想定外の答えに思考が止まった。

 

「こんな身近にも影響が出ているなんてな。で進一,コーヒーの代わりは何か買ってきたのか?」

「それが······缶コーヒー以外もほとんど無くてあったのはエナジードリンク位しか······」

「バカ! コーヒーなけりゃあそっち買えばいいんだよ!! もう一回行って今すぐ買ってこい!!」

 

荻窪に怒鳴られた進一は慌てて駆け出し,再び下への階段を下り出した。

 

「全くあのバカは········!?」

 

荻窪は進一のバカっぷりに呆れていたが,パソコンに舞い込んだ写真を見た瞬間吹っ飛んだ。

 

「おいおい··········マジかよ。」

 

荻窪のパソコンには百里基地に着陸する白鳥·······

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

B-1(ランサー)が写っていた。




鈴村総理
大森副総理
栃木防衛大臣
大洋官房長官
音次経済産業大臣
安川外務大臣

この6人には明らかなモデルがあります。分かる人には分かったかもしれません。

ヒントは北海道です。

あと先日書いた活動報告です。気になったら読んでください。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=244158&uid=274301


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Episode.26 揺らぐ世界

日本で朝日が見えようとしている頃,アメリカ合衆国首都 ワシントンDCは日が沈み,月の優美な光が街を照らしていた。

 

街の中心に位置する世界一有名な大統領官邸 ホワイトハウス。

 

ホワイトハウス 西棟(ウェストウィング)大統領執務室(オーバルオフィス)隣の大統領専用書斎で,現アメリカ合衆国第48代大統領 マイケル・テアラーは頭を抱えていた。

 

「いつか来るとは思っていたが,まさかここまで戦局がシ連側に傾くとは·······」

 

日本とシ連が開戦してから約1日程経っていたが,ここまでの戦いは全てシ連側が勝利しており,誰が見ても自衛隊が勝っているとは言わないだろう。

 

これは事実以外何でもなかったが,アメリカには想定外の事態だった。

 

国防総省(ペンタゴン)の建てた経過予測では“互角の戦闘が続く”とされたが,実際にはシ連の一方勝ちだった。

 

この予想外の事態に国防長官であるトーマス・ジェンソンが顔面蒼白になって,大統領に報告したというのだからどれだけ想定外だったのかが分かるだろう。

 

「ここでもし負けたら日本そのものが維持できなくなる。これは第7艦隊を投入せざるおえないのか·······」

 

マイケルが悩んでいると不意にテーブルにコーヒーが置かれた。

コーヒーを置いた犯人は彼の妻 メアリー・テアラーだ。

 

「メアリー。君の気遣いはいつまでも的確だね。」

「私が何年あなたの妻をしていると思っているの? あなたが望むもの位簡単に分かりますよ。」

 

笑いながらメアリーは書斎から立ち去り,書斎は再び大統領たった1人になる。

静かになった書斎で陶磁器のコーヒーカップに入ったブラックコーヒーを飲んで落ち着いた。

 

「いつもよりちょっと熱いが,これで落ち着けたな。」

 

コーヒーを飲み終えてソーサーに置くと,目の前の書斎机の奥に置いてあった写真立てを手に取った。

そこに飾ってあった写真は笑顔でカメラを向く,マイケルと鈴村のだった。

 

「この八方塞がりの状況を君だったらどう攻略するかね。ミスタースズムラ。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

ところかわって東の空に朝日が昇ったシベリア社会主義連邦 セヴェロバイカリスク。

 

バイカル湖北端の1974年に誕生した比較的新しいこの街は今 シ連の最高指導者が極秘で来ているという噂で密かに盛り上がっていた。

 

その噂通り街郊外の大きな屋敷には専用車 AURUS(アルウス) SENAT(セナート) リムジンL700が止めてあり,その屋敷の中には乗ってきた張本人 レジェーブ・レフトスがいた。

 

「いやぁ~わざわざ公務で忙しい中,イルクーツクから着てくれてどうもありがとう。」

「いえいえとんでもありません。何れにせよ先生(・・)には伝えなければいけない内容なので,手間が省けて寧ろよかったです。」

 

シ連の現最高指導者がこんなに下手に出ている様子を国民が見たら一大事と思うだろう。

そんな人物が今彼の目の前に座っていた。

 

その人物の名はアスーラ・チェイコフ。この世界において彼の名を知らない人物はいない。

 

彼は元々シベリア軍管区司令官という優秀な軍人だったが,ソ連崩壊をきっかけに秘めていた野望の為にクーデターを起こした。

兵士と民衆を扇動し,チタ・イルクーツク・ウラジオストク・ハバロフスク等を占領した。

 

ソ連から生まれ変わったロシア連邦もこの事態を重く見て鎮圧しようとしたが,これに促されて起きた“モスクワ事変”への対処におわれた為に,まともな軍を送ることが出来なかった。

 

その結果,イルクーツクを首都とするシベリア社会主義連邦通称シ連を建国し,自らは初代書記長へと就任した。

 

レジェーブはその時から彼の側に仕えていた腹心で,今彼が最高指導者の座にいるのもその影響が大きかった。

 

そして彼自身が政治を行うことはほぼ無く,そのほとんどがアスーラの指示で行われており,レジェーブは事実上の操り人形と言っても過言ではなかった。

 

この事は周囲の国々には知られていなかったが,この事実を日本が知ったらまるで平安時代の院政だと表現するかもしれない。

 

「それで········占領作戦はどうなっている?」

「信じられない程に順調です。朱雀列島(バレリ オーストラフ)はあと数日で我々の元へ帰ってくるでしょう。」

「そうかそうか。では素直に祝ってもよろしいのかね?」

「えぇ問題ありません。日本軍は我々に2度も敗北していますので,予定より早く終わるかも知れませんよ。」

 

このレジェーブの言葉にアスーラは笑顔だった顔が一瞬で真剣な表情に変わった。

 

「レジェーブ。お前の発言から察するに,日本軍いや自衛隊は大したことないと思っている様だが,それは間違いだ。

自衛隊はシ連軍(我々)と並ぶ程強いぞ。」

「先生。それは可笑しいです。自衛隊が我々と並ぶ程なら何故2度も敗北したのですか?」

「簡単な話だ。奴らは実戦経験が無いからだ。」

 

レジェーブはアスーラの話を上手く理解できない様だが,無視して話を続けた。

 

「日本は太平洋戦争から80年間一切戦った事が無い。それに対して我々は“トゥーヴァ紛争”“アルタイ紛争”等多くの戦争を経験して来たのだ。

幾ら装備や訓練の質が良くても,実戦で使えなければ意味は無い。」

「なるほど。納得出来ました。要に外見は強そうだが,中身はボロボロだという事ですね。」

 

レジェーブも漸く理解できたのか,自分なりの解釈を話したが,アスーラは首を横に振った。

 

「だがな。幾ら実戦経験が無いからとはいっても,油断してはいけない。

“cape”からの情報はしっかりと分析して,確実に先手を取るように言っといてくれ。

彼らに先手を取られたら,負けたも同然だからな。」

「それに対しては承知しております。第3軍司令のユラージや太平洋艦隊司令のスバルには先手を取り続けるように何度も伝えておりますので。

先程も日本の潜水艦を1隻追い払ったとの連絡がありましたもの。」

「そうかよくやった。今のところ艦隊の方には被害は出てないのだろう?」

「えぇ出ておりません。それは日本も同じですがね·····」

 

残念そうにレジェーブは言った為に気まずい空気になるのを察した,アスーラは話題を変えた。

 

「レジェーブ。お前は分かっていると思うが,我々の目標は朱雀列島(バレリ オーストラフ)だけではない。

私の目標はシ連をローマ帝国のように何世代に渡って語り継がれる国家にする事だ。」

「分かっております。ですが一言言わせていただくのなら,“語り継がれる”のでなく“何世代に渡って存在する”国家だと私は思っています。」

「それもそうだな········これは一本取られたわ。」

 

レジェーブに一本取られたアスーラは豪快に笑いだした。それにつられるようにレジェーブも笑いだした。

 

2人の豪快な笑い声がセヴェロバイカリスクの朝焼けの空に消えていくのであった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

セヴェロバイカリスクから約1500km南東の中華人民共和国首都 北京。

中国政治の中心地 中南海の1室に数名の男女が集まっていた。

その中の1人の男が窓際に寄りかかっている1人の女性に向けて話し出した。

 

「昨日からずっと外交部の方に“早く参戦してくれ”との電話が来ています。

担当者が“もう辞めたい”と言うぐらいですので,相当な量だと思いますが主席(・・)どう致しますか?」

「もう留守番電話で対応しなさい。それと担当職員には充分な休暇を取らせる様にしなさい。」

 

主席と呼ばれた人物 李・呂寧(リー・ロネイ)の言葉に報告した党員は“了解しました”と返した。

 

40代ながら誰もが振り返る美貌を持つ彼女は中華人民共和国建国以来初となる女性主席として世界中に名を知られていた。

彼女は左手で顔にかかった自らの長い黒髪をかき分け,自身の左側に座っていた男に向かって話し出した。

 

「全く本当にシ連(あの国)の外交は自国が良ければいいんですから。

外交部も毎回大変な苦労でしょう。」

「その通りですよ主席。毎回我々を格下に見て交渉を行うのですから。

そのせいで我々はどれ程の損害を負ったものか。」

「全くです。それに比べて北朝鮮は早急に見切りをつけたのですから,どれ程我々がシ連にべったりだったのかが分かりますよ。」

「そうですね。貴女が主席にならなければ外交部の幹部一新なんて出来ませんでしたから。」

 

彼女が主席になって真っ先に行ったのは,シ連に対してべったりの外交部幹部の一掃だった。

最早“八月十八日の政変”を思い浮かべる様な人事移動・事実上の更迭によって外交部幹部は一新した。

 

それによって新たに外務大臣になった王・念真(ワン・ニアンジェン)は溜め息をつきながら話を続けた。

 

「さっきの電話の話ですが,私直々にも電話が何件も来ていますし,家へと帰る間際にシ連大使が直々にやって来て“早く日本を攻撃してくれ”と訴えてきましたよ。

お陰で帰るのが予定より遅くなって,妻に説教されましたよ。

これを裁判に訴えても完全に勝訴出来る位ですよ。」

「あなたの奥さんは約束に厳しいですからね······それで日本へ交渉の事は伝えましたか?」

 

真面目な話になった途端少し緩んでいた(ワン)の顔は仕事の物に変わった。

 

「先程東京の(ジョウ)の元へ伝えました。現在のアジア大洋州局局長は非常に優秀ですから大丈夫だと思います。」

「そうですか。シ連軍の方はどうですか?」

 

李の言葉にテーブルを挟んで彼女の正面に立っていた男が答えた。

 

「現在ハバロフスク・ボリショイ空港には70機以上の軍用機が駐留しています。

ウラジオストクの港には依然として「ウラジオストク」を旗艦とする近海艦隊が停泊中ですので,こちらの攻撃(・・)は難しいかと。

なのでハバロフスクとチェグエフカのみの奇襲(・・)になりますが宜しいですか?」

「許可します········最も一番たちの悪い奇襲ですがね。」

「軍部から言わせて貰いますと卑怯な奇襲よりもあの近海艦隊と戦う方が地獄ですよ·········まあ万が一の為に港湾封鎖は行いますが。」

 

彼がそこまでシ連の近海艦隊を警戒するのには理由があった。

近海艦隊にはウリヤノフスク級の2番艦の「S-108 ウラジオストク」を旗艦に,キーロフ級3隻を配備する世界的にも有力な艦隊だったために流石の中国でも手が出せなかったのだ。

 

「安慶天柱山空港のと大房身国際空港の部隊(・・)はいつでも出撃可能です。

また空挺部隊(・・・・)を乗せたY-20(輸送機)も鞍山空軍基地に着くと思われます。

同じく派遣艦隊と北海艦隊は既に出撃準備を終えています。後は貴女の指示を待つだけです。」

 

軍部から派遣された男の言葉を全て聞くと,彼女は意を決した目を見開いた。

ちょうどその時雲に隠れていた日の光が差し込み,彼女は照らした。

 

「北海艦隊を東シナ海に展開しなさい。(がわ)だけでも日本を攻めると見せかける(・・・・・・・・・・・・)のです。

派遣艦隊と潜水艦隊も同様にウラジオストクを出港し,朱雀列島に向かわせるように。」

 

彼女の言葉に男頷き,一礼すると部屋から去っていった。(ワン)も退室して広くなった部屋に李の独り言は響き渡った。

 

シ連(あなた方)は道を踏み外した。あなたが今歩いているのはシルクロードではなく,ただの崖沿いの獣道だ。

そこから谷底に落ちないことを祈りますよ。」



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Episode.27 桐島龍樹と葛城辰馬

※祝UA3000!!


『11時の方角に艦影2! 「AOE-427 いなわしろ」と「DE-232 せんだい」です!!』

 

「DDH-185 あまぎ」の艦橋の窓に東の空から朝日が差し込む。

 

双眼鏡のレンズの先には舞鶴港からわざわざやってきた補給艦 「AOE-427 いなわしろ」と護衛の「DE-232 せんだい」が並走して接近する様子が写っていた。

 

「本来ならここに第1輸送隊もいた筈だったんだろ?」

「そうらしいぜ。あの不審船さえなければなぁ~」

「願望を言っても何も変わりはしないさ。それよりも自分の仕事をしっかりとやれ。」

 

どうやらさっき聞いた話によると,第1輸送隊の出港直前にCL74 ゆらかぜ(巡視艇)による警告を無視して不審船が接近した為に第1輸送隊は出港を取り止め,PLH10 だいせん(巡視船)による強制捜査を行った所,中は無人であったことに加え,大量の爆発物が見つかったために舞鶴海上保安部総動員で犯人の捜索と周囲の安全確認を行っている為に出港は大幅に遅れているとの事だ。

 

全くやってくれるぜ。E-767(AWACS)撃墜に,小松基地襲撃そして今回の不審船妨害。

卑怯な策だが,我々の行動を制限するには充分すぎる。

 

日本にスパイ防止法が出来たのはたった10年程前。それまで何度も国会で話し合われたそうだが,野党やマスメディアの反発によって全て廃案になったそうだ。

 

野党やマスメディアは一体どれ程まで日本を弱らせたいのだろうか········在日め····

 

「副長。艦長がお出でです。」

 

3等海尉の言葉で現実へと引き戻された。双眼鏡から外れた目線の先に桐島の姿が現れた。

 

「敬礼!」

 

艦橋要員全員が敬礼し,桐島も敬礼し返した。

 

「気を緩めて大丈夫だ。私は何時も通りただ給油を見に来ただけだからな。」

 

そう言って桐島は艦橋脇のデッキに向かい,艦橋右舷の欄干に両手を乗せ,身を委ねた。

目線の先には並走しながら洋上給油の準備をする「いなわしろ」が写っており,「いなわしろ」の反対側には同じく洋上給油を行う「DD-117 ふじなみ」が並走していた。

 

給油ポストから給油蛇管が甲板員によって曳索され,本艦の給油レシーバーへと接続され,給油が開始される。

 

「艦長って給油の時に毎回ここに来ますよね。何でなんでしょうかね?」

 

艦橋要員の1人がそう言ったのをきっかけに,次々と仕事をしながら話し出した。

 

「あれなんじゃないか? 素直に給油が好きだから来ているとか。」

「あり得るかもだけど,艦長って元戦闘機パイロットだろ? 戦闘機ならよく給油するから見慣れてるんじゃないのか?」

「でも戦闘機と船の給油は全く違うぜ。危険度だって段違いだぜ。」

「なら本当に何でだろうな········」

 

艦長への疑問は尽きることはない。俺ですらまだ知らない1面があるくらいだ。

 

疑惑はプラナリアの様に知れば知る程増えていく。今増える原因が目の前にいるのなら,少しでも減らした方が良いに決まっている。

 

俺は桐島の元へと向かった。

 

「艦長。給油がそんなに珍しいですか?」

「戦闘機も空中給油はするが,その様子を安心して見ることは出来ないからな。

こうやって安全に出来る燃料補給ってのが,未だに慣れなくてな。」

 

俺は海の男だが,航空機の空中給油は危険が伴う事は知っている。実際に何回も事故が発生して犠牲者が出ているのだから。

 

だからといってこっちが安全な訳でもない。給油レシーバーの周りには万が一の際の消化要員が完全装備で待機している。

まだ空中給油の方が消化要員の面だけで見ると楽だろうが,それ以外は桁違いの難易度だ。

 

「確かにこっちの方がまだ安全性はあるかもしれませんが,危険性は変わりません。

どちらにしろ給油中は戦闘が制限されるので,不利なのは間違いないです。」

 

桐島は“そんなの分かりきっているさ”と笑いながら返した。

まるでその表情は仮面(・・)作られている(・・・・・・)様だった。

 

「さっき航空機格納庫に行ってきたよ。」

 

その笑っていた表情が1秒も経たぬ内に冷たく深海に沈んだ物に変わる。

 

F-35JB(ライトニングⅡ)の並びの中に1ヶ所だけ空っぽな空間が出来ていたさ。

数時間前まであそこには確かに機体が止まっていたんだ。たった数時間でいなくなってしまった。」

 

桐島は続けた。

 

「パイロットや整備員も皆表情が沈んでいた。何時か来る定めだと分かってはいたが,実際に来るとこんなにキツい物なんだな。」

 

暗く沈んだその顔には悲しみと共に苦しみが浮かんでいるように見えた。ちょっと揺さぶれば直ぐに涙が漏れてしまいそうなそんな脆い表情だった。

 

「「かつらぎ」に増援を頼むという手もあったんだぞ。もしかしたらそれで状況が変わるかもしれなかったのに。」

「それはきっと無理だっただろうね。第一にあの葛城だ。受け入れるわけないさ。」

 

何故か無性に腹がたってきた。恐らくこいつは葛城とは話していない。

なのに多分という妄想だけで話を決めていた。

 

桐島が言った葛城の言葉は桐島自身が出した一人二役の言葉だろう。

 

本人と通信でも話をせずにこうだろうと決めたこいつに腹がたった。

 

「話もしてないのに勝手に決めつけんなよ!! 無理だろうってそれはただの妄想だろ! 実際話さない限り結果は分からないんだよ!!」

 

無意識の内に言葉が出ていた。

 

「人ってのは話し合わなければ進まないんだ!! お前の様に誰とも話さずに1人で結論なんかつけんじゃねぇ!!」

 

桐島の顔は俺の反論を想定外としていたのか,信じられないといった表情になっていた。

 

「艦長。少しの間いなくなるがいいか?」

「·········何処に行くんだ?」

「俺は葛城と話してくる。お前が話したくないのなら俺が話に行ってやるよ。」

「わざわざ行く必要はあるのか?」

「お前は人付き合いを全部ネットだけで済ませられると思ってんのか。それに会ってみないと話せない事があるかもしれないだろ。」

 

そう言い捨てると俺はこの事をCICに伝えるために艦橋へと歩き·······いや言い忘れてた事があった。

 

「最後に! お前のその言い方だと作戦は失敗した様に言っているが!!

あの作戦は特殊作戦群を送り込むための陽動だ。機体は失ったが作戦は成功した。それを覚えておきな!」

 

そして今度こそ艦橋へと向かっていった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

長瀬を乗せて発艦したSH-60K(シーホーク)は「DDH-186 かつらぎ」の航空甲板へと着陸した。

 

機体側面の扉を開けて,航空甲板に長瀬は降り立った。目的の艦長 葛城辰馬は艦橋脇のデッキにいた。

長瀬は艦橋内の階段を使ってその場所まで向かった。

 

「空母の艦長ってのは皆洋上給油に興味を示すのか?」

「その言い方は桐島も同じことをしていた様だね。」

 

葛城 辰馬。長瀬が彼について知っている情報は桐島と同期でどちらも優秀なパイロットだという事と,父親が航空幕僚長の葛城武功だという事だけだった。

 

「しかし「あまぎ」の副長自らお出でになるとは。こんなこと考えてもいませんでしたよ。」

「艦長がいつまでもストーク2の事を引きずっているからな。

あんな様子じゃ俺の意見なんて到底聞き入れてくれるわけなかったから俺自身が来たわけさ。」

「なるほどねぇ~まあ桐島の反応は予想通り(・・・・)かな。

それで桐島は今何処にいると思う?」

「恐らく自室だろうな。艦内で1人になれるのはそこだけだろうし。」

「その答えはNoだね。」

「何!?」

 

自身の答えが間違いと言われた長瀬は思わず声をあげた。

 

「彼がいるのはきっとF-35(ライトニングⅡ)のコックピットだろうね。

元パイロットならば彼処まで1人になれる場所は無いからね。」

 

葛城の答えに長瀬は納得せざる終えなかった。パイロットはコックピットこそが居場所。だから落ち着く。

この理論に歯向かう言葉が見あたらない程完璧だった。

 

長瀬はこの理論を受け入れるしかなかった。

 

「あなたと艦長はどちらも優秀なパイロットだったんですよね?

なら何故海自の方に来たんですか?」

「確かにそれも良かったけど,もしその道を行ってたら僕の経歴は幕僚長の息子だけだっただろうね。

僕がこの道に来たのは父とは別の道を行きたかったからだよ。君だって知っているよね? 僕の父さんの事。」

葛城武功(航空幕僚長)の事か。」

 

長瀬の言葉に葛城はやっぱりかといった顔をした。だが葛城はそこに“でも”と付け加えた。

 

「僕が自衛隊に入りたかった理由は父親に憧れたんじゃない。

自衛隊を変えたかった(・・・・・・・・・・)からさ。」

「変えたかった·········それはどの意味でだ?」

 

自衛隊を変えるには色々な解釈が出来る。自衛隊の名前を変える・装備を変える・戦略を変える等々······大きな事から小さな事まで解釈は山のようにある。

 

だが葛城の答えはどれでもなかった。

 

「僕が変えたかったのは自衛隊が持っているイメージさ。」

「イメージ? 意味がわからん。」

「今の自衛隊には慢心という病気が隊内だけじゃなく日本中に蔓延している。世界トップレベルの装備と練度を誇るから勝てる。

かつてそう言った旧日本軍も太平洋で破れ去った。」

 

1930年代当時アジア最強を誇った日本軍は太平洋戦争初盤で連勝し,アメリカを歌唱力し,慢心するに至った。

だがミッドウェー海戦・ガダルカナル島の戦いで破れ,そのまま巻き返すこと無く破れ去った。

 

そんな事ぐらい長瀬どころか桐島ですら知っていた。

 

戦後創立した自衛隊もその事を教訓に入れて現在まで来ている筈だ。

だからこそ長瀬は彼の言っていることが分からなかった。

 

「理由は何にしろ,隊員や日本国民が自衛隊を過大評価しているのは事実だ。

そしてそれが崩れ落ちた時の影響力は信じられない物になる。下手すれば国を揺るがしかねない程のね。」

「もしかして········あの会議の時に反対したのはそれがりゆうなのか?」

「それも1個だね。未だに戦力が不透明だったからね。それともう一個は······」

 

一度話を切って息を吸った。

 

 

 

 

 

 

 

「桐島の為さ。」

「何?···········」

 

再びの想定外の答えに長瀬はただ唖然とした。

 

「君だって分かっているでしょ。彼が他の艦長から信頼されていないのが目に見えていたからね。

渡島先輩から聞かなかったかい? 彼は弱い人間だって。」

「だがあの時確かにお前は“戦争にさせない為だ”と言ったぞ。」

「会話には時に(フェイク)を混ぜるものだよ。それにあの時僕も戦争になるって分かっていたからね。」

「じゃあ増援を断ったのは?」

「万が一の備えさ。例え「あまぎ」の第47航空団(航空隊)がやられても反撃できる様にね。」

 

全部葛城の先を見据えた策略だったことに長瀬は唖然とするしかなかった。

 

「なんで艦長·······桐島をそんなに助けるんだ? 2人は仲が悪いんじゃ」

「仲は悪いかもね。でも僕ぐらいしか彼を構う人はいないから。」

 

そう言うと葛城は桐島と初めて会った時の事を語りだした。

 

「航空学生として入ってきた当時から彼は異質だった。他の隊員達とは全く違う雰囲気を漂わせていたよ。

仲間では彼の事を“防府北の一匹狼”と影で読んでいたさ。」

「“防府北の一匹狼”·········何か雰囲気似ていると思ったがやっぱりあいつだったのか。」

「知っているのかい!?」

「俺のあいつと同時期に防衛大学校に入学したさ。その頃学校中に航空学生にも変な奴がいるって噂になっていたんだ。

まさか艦長だったとは·········」

「こっちもそこまで彼の話が広がっていることにビックリだ。」

 

葛城にとって初めての事実に彼は驚いた。しかし直ぐに話を続けた。

 

「桐島はとても優秀だったさ。成績は毎回上位。追試は1個も無しとまるでフィクションの天才を具現化した様な生徒だった。

だけどそんな彼を構おうとする奴なんていなかった。寧ろ出来なかった。

彼だけはまるで別の次元で暮らしているようで,彼の周りには自然に見えない壁が作られていていたさ。もし彼と話すなら必ず僕経由だったね。」

「桐島は何故あなたとは話せたんだ?」

「単純さ。僕と桐島は同室だったからさ。」

 

長瀬は納得した。葛城と話を続けた。

 

「同室なら自然と話さなきゃいけなかったからね。まあその結果彼と堂々と話せるのは僕位しかいなかったけど。」

 

予想していた以上に重かった話に長瀬は溜息をついた。そんな様子に葛城は話を変えた。

 

「ちょっと聞くけど君は彼が1度ブルーインパルスのパイロット候補にもなったてのは聞いたことあるかい?」

「待てそんな話聞いたことないぞ!」

 

自衛隊員ならば誰もが知っている第11飛行隊ことブルーインパルス。

難易度の高い曲芸飛行を行うために高度な飛行技術が問われ,彼処に選ばれるということは非常に優秀なパイロットだということになる。

 

それのパイロット候補に桐島が選ばれたという新事実に長瀬は驚愕した。

驚愕する長瀬に葛城は笑って返した。

 

「どうやら初めて知ったみたいだね。そりゃあ彼奴がこの事を言う筈無いか。

彼は選ばれたけどその場で断った。理由は単純。言わなくてもわかるよね。」

「腕だけはあるが,団体行動が苦手········なんか大戦時のエースパイロットの様だな。」

「正にそうだったね。桐島と僕は2人揃って松島の第21飛行隊に行って,そこで出会ったんだよ。渡島音弥先輩に。」

 

葛城はその頃を思い出したかのように笑いながら話し出した。

 

「松島でも先輩や教官は彼にあまり構うことが出来なかったけれど,先輩はしょっちゅう絡んできたさ。

その結果先輩経由で話せる人も増えてきた中,あの事故が起きたんだ。」

「“F-2B墜落事故”か········」

「あの事件で僕達は死というものが間近だと痛感した。そして桐島へのダメージも大きかった。

その殉職したパイロットがやっと話せる様になった内の1人だったからね。」

 

さっきとは一変して暗い表情になった葛城は話すのを躊躇うように言葉を繋ぎだした。

 

「あれから彼とは話しづらくなって,彼と話していた人は先輩を除いてほとんどが離れていったさ。

その後彼は築城の第8飛行隊,僕は三沢の第3飛行隊と別れてかつらぎ(この船)の艦長になるまで会う事はなかったさ。」

 

その言葉の後,2人の間にはどちらも話さない静寂が出現した。

その1分程続いた静寂を破ったのは葛城だった。

 

「僕の話を聞いてくれてありがとうね。君もそろそろ時間だろう。最後に僕が君に言いたいのは」

 

葛城が言いかけたその時,「かつらぎ」乗組員の2等海士が息を荒くして,2人に駆け寄ってきた。

 

「艦長!! 哨戒中のSH-60K(ホーク4)敵潜(・・)発見した模様!!」

 

この連絡に2人は“なっ!?”と声を揃えて驚愕すると,長瀬は舌打ちした。

 

「チッ最悪のタイミングで·········俺は直ぐ様「あまぎ」へ戻る。

ありがとうな色々と話聞けたぜ。」

「それはこっちのセリフだ。最後にこれだけは言わせてくれ。彼の事を頼むよ。」

 

そう葛城は言うと,走り去っていった。長瀬も直ぐ様航空甲板のSH-60K(シーホーク)の元に向かった。

 

IHI T-700-IHI-401 C2ターボシャフトエンジンが機体上部の4枚の羽を回し,飛び立つ。

 

飛び立ったSH-60K(シーホーク)の機内でパイロットの鷲津が話しかけてきた。

 

「副長。敵潜の艦種は判明したのですが···········厄介です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵潜は971型(アクラ型)です。」

 

「な!?··········」




最初は長瀬の一人称視点なんですが,やっぱ一人称は難しいですね·····

あと航空学生についてですが,ちょっと見直した所不都合があったので書き直しました。それと作者は自衛隊学校についてあまり知らないので間違っている部分があるかもしれません。
その場合はコメントで教えてください。

話は変わりますけど,何時見ても思いますが“日本国召喚”のブログのコメント欄荒れすぎじゃない·······

そんなに不満あるのなら自分で書いてみろ!!って言いたくなるわ。

あと二次創作wikiのコメも案外荒れているという······平和に会話できんのか······


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Episode.28 核の鯨

「状況を再確認する。」

 

「DDH-186 かつらぎ」から帰艦した長瀬を加えて,桐島による2度目の状況確認が始まった。

 

「本艦隊前方10kmの海域に971型(アクラ型)4隻が200m程の距離を開けて深度200で展開している明らかに艦隊包囲の陣形だ。」

「1隻ですら厄介なのに4隻もとは········」

 

水上が思わず愚痴をこぼした。それに長瀬も同感する。

 

「それはCIC(ここ)の誰もが思っていますよ。ただでさえ厄介なのに攻撃も出来ない(・・・・)んですから。」

「迂闊に攻撃してもし原子炉(・・・)が破損したら元も子もないからな。」

 

971型潜水艦。NATOコードネームアクラ型原子力潜水艦。

 

その文字通りアクラ型は動力に原子炉を使用している。

 

原子力潜水艦は燃料を気にせずに長時間潜航出来るという潜水艦乗りにとってはメリットしかない夢のシステムだ。

 

だが勿論夢のシステムにもデメリットが存在する。万が一沈没事故が起きた場合に原子炉内の放射性物質が漏れ出し,海洋汚染が発生するかもしれないからだ。

 

一度放射性物質による海洋汚染が起きればその海域が完全に元に戻るまでに10年はかかるのは容易に想像できよう。

 

そして現在の状況はそれを越える程に難解な状況だった。

 

「仮に撃沈してしまったら放射性物質が漏れ出すのは確実だろう。

そうなってしまっては例え勝ったとしても世界から向けられるのは非難だ。」

「撃沈は出来ない········いや不可能か。」

「撃沈せずに敵を撃破しなければいけない·······こんな難題を我々は解かなければいけなんだよ。」

 

敵潜は驚異である為に沈めるか,撤退させなければいけないのが常識だ。

 

だが原子力潜水艦はそれが上述の理由で不可能だ。つまり撃沈どころか原子炉を損傷させずに敵を撃破しなければいけないのだ。

 

「しかも最悪な事に我々は現在燃料給油中だ。今行っている艦は?」

「「DDG-203 たかちほ」と「DD-131 しらぬい」です。どちらも給油を取り止めて給油ホースを収用中です。

完了まであと5分はかかるかと。」

 

隊員の報告に長瀬は再び溜息をつき,額に手を当てた。

 

「よりによって「しらぬい」か·······「しらぬい」の方を優先させる様にしてくれないか。」

「勿論そうするつもりだが。現在のこの状況,副長ならどの状況にどう対処しますか?」

 

いきなり話を振られて長瀬は一瞬動作が止まったが,直ぐに台の上の地図を指差した。

 

「取り敢えず幾つかの案が浮かぶが,一番手っ取り早いのは「AOE-427 いなわしろ」を連れてこの海域を去ることだが,この状況から推測してシ連(奴ら)がなんなかの対策をしていない訳がないだろう。

かといってこの場で留まってもそれこそ格好の的だ。つまり我々に残された選択肢は迎撃のみって事だ。

今動ける船は?」

「現時点で対応可能な艦は本艦と「DDH-181 ひゅうが」・「DDG-204 あそ」・「DDG-175 みょうこう」・「DD-115 たかなみ」・「DD-117 ふじなみ」・「DD-124 はつづき」・「DD-125 しもつき」の8隻です。

この内敵潜に一番近いのは艦隊前方を警戒中の「みょうこう」・「はつづき」・「しもつき」です。」

「その3隻でまずは対応させるしかないか。まあまだ敵潜と真っ正面から向かい合っているのが幸いか。」

 

現時点の双方の艦の位置は艦首を向けている為に,自然に正対していた。

この状況はどちらも艦側面を向けていないために確実な攻撃が出来ず,戦線膠着に陥っており,どちらにとっても良くない状況だった。

 

「敵潜を撃沈出来ないとなると,自動的に対潜ミサイル(ASW)と短魚雷は選択肢から除外される。

そうなるの残るのは対潜爆弾と主砲等の火器のみ。決め手には欠けますが,敵潜()を追い払うには充分でしょう。」

「主砲で潜水艦に攻撃が出来るのか?」

 

桐島の疑問に長瀬が返答した。

 

「主砲で撃沈なんて夢物語だが,敵潜乗組員へのダメージは大きくなるだろう。」

「主砲と対潜爆弾を使用して,敵潜乗組員の神経を壊す·····確かに艦を傷つけずに迎撃出来るが,果たして上手くいくのか?」

「どうなるかはやってみなければ分かりません。それに主砲を使う場合は第2機動部隊(こちら)が動かなければ話になりませんので,トリガーを引く手は我々に委ねられています。」

「火蓋を切るのは我々の行動次第·········やはりここは動いた方が得策か?」

 

桐島のそんな愚問に長瀬は冷たい表情で答えた。

 

「どんなに装甲が固い船であっても,魚雷が命中したら,1発で海の底だ。

そんな物を何十本も有している敵潜()を目の前で放っておくか?

これは逃げることの出来ない戦いだ。逃げたらそれは負けだ。」

 

長瀬の言葉に桐島も意を決し,通信機を手に取った。

 

「全艦対潜戦闘用意!!」

 

その言葉で艦と航空機が動き出した。艦橋へと戻ろうとする長瀬を桐島は引き留めた。

 

「副長あなたに操艦を一任します。」

「了解しました。ではこちらも「DDH-181 ひゅうが」のSH-60K(艦載機)を全部離陸させる様に言ってください。」

「それやらお安いご用だ。」

 

桐島が「ひゅうが」艦長の九条霧矢一佐へと連絡している間に長瀬は艦橋へと向かった。

 

「艦隊に1本足りとも魚雷を当たらせはしない!!」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

先手を打ったのは自衛隊だった。

 

「DDH-181 ひゅうが」から発艦したSH-60K(シーホーク)の左側面から敵潜がいると推測される海域に何本ものソノブイが海中に投下される。

 

敵潜の想定海域に円を描くように投下し,敵潜の細部位置を特定する戦術 ジェリーによって正確に敵潜は捉えられた。

 

その情報に基づき,SH-60K(ホーク7)のウェポンパイロンから4発の航空爆雷が投下され,水中で爆発し,高い水飛沫が上がる。

 

航空爆雷は対潜ミサイル(ASW)の発達によって,世界中で衰退の道を歩いていたりするが,威嚇用としては非常に有効な為に今でも使用されているのだ。

 

爆発音が鳴り止むとSH-60K(ホーク1)が海中に下ろしていたHQS-104 ディッピングソナーが敵潜の推進音を捉えた。

 

『敵潜深度200 変わりません!!』

「敵は中々の芯を持っているようだな。」

 

「DDG-175 みょうこう」艦長の舘 黒太1等海佐が敵潜に感心の声をあげた。

 

現在「みょうこう」の周りにはあきづき型の2隻が並走して敵潜へと一直線に向かっていた。

敵潜にとってこれ程美味しい獲物などいない。

 

『敵潜魚雷発射!! 数4!!』

「「しもつき」増速!! 本艦進路を横切ります!!」

「機関後進!!」

 

「みょうこう」右舷にいた「DD-125 しもつき」が増速した。「みょうこう」の進路を遮るように取舵を切った為に,舘は急いで機関後進を命じた。

 

「しもつき」右舷から4本の自走式デコイ(MOD)が投下される。

取舵を切って「しもつき」が「みょうこう」左舷を通っている間にも4本のデコイは対魚雷防御(TCM)指揮管制装置によって管制され,敵魚雷へと直進した。

 

「食いついたか?」

「いえ,右の2本は食いつきましたが,残りの2本はそのまま向かってきます。」

「何? 1本ならまだしも2本も同時に故障なんてあり得ない·····まさか!」

 

舘は辿り着いた考えを信じて新たな指示を出した。

 

「主砲を左に回せ!!」

「主砲をですか!?」

「あの魚雷は無誘導(・・・)だ!! デコイは効かない!! 魚雷に撃て!!」

 

「みょうこう」前甲板に設置してあるオート・メラーラ54口径5inch単装砲が左へと旋回する。

 

旋回が終わると「みょうこう」の主砲が連続して火を吹いた。

 

砲弾が着水し,砲弾と魚雷双方が爆発し,高い水飛沫が上がる。

水飛沫を切り裂くように「DD-124 はつづき」が20ノット以上の速度で現れた。

 

「はつづき」艦長の天空 佑は両手で台をしっかりと掴んで自艦の速度に耐えていた。

 

「はつづき」(こいつ)は「しらぬい」と違って対潜向けじゃないが,やってやる!

主砲撃てぇ!!」

 

Mk.45 62口径5inch単装砲が右前へと向き,轟音と共に放たれた。

毎分16発の間隔で放たれた砲弾が8km程離れた海上に着弾し,水飛沫が上がる。

 

潜水艦というのは言ってしまえば大きな密室だ。窓は一切無く,伝わるのは音と振動だけだ。

ただでさえ精神が磨り減っている所に連続して爆発音と振動が伝われば,精神を更に痛め付けるだろう。

 

“撃沈せずに勝つ”。この方法は命中弾を出すことなく,敵潜に勝つ事が出来る効率的な方法だ。

 

天空はこれに僅かな期待を託していたが,敵潜は動じなかった。

SH-60K(ホーク2)から悲鳴の様な通信が入った。

 

『敵潜魚雷発射! 数16!!』

「16!?」

 

さっきと一桁も違う数に動揺したが,天空は冷静に対処した。

 

自走式デコイ(MOD)発射!」

 

右舷甲板の自走式デコイランチャーが右旋回し,4本のデコイが投下された。

投射型静止式ジャマー(FAJ)の妨害電波もあって,計5本の魚雷を誤爆させたが,それでも残りの本数は2桁のままだった。

 

自走式デコイ(MOD)だけじゃ全迎撃は不可能だ!! 後方の艦に伝えてくれ!!

それと曳航具は降ろしてあるか?」

「勿論です!!」

「じゃあ欺瞞信号発射!!」

 

艦尾から海中に投下された曳航具4型から欺瞞信号が発射される。

曳航具4型は艦尾から曳航しながら,欺瞞信号を発して自艦を敵のホーミング魚雷を防ぐ物であり,1種の対魚雷デコイだ。

 

だがそれに引き付けられた物はたった1本だけで魚雷の数は未だに2桁のままだった。

 

魚雷群は対魚雷装備が無いために何も出来ない「みょうこう」と自走式デコイ(MOD)再装填中の「しもつき」の脇を通過して艦隊後方へと向かっていった。

 

「やってくる魚雷(魚さん達)を全部網で水揚げしましょうかね? まあ「たかなみ」(この子)は曳航具以外対魚雷兵装はないんだけどね。」

 

魚雷群の前に「DD-115 たかなみ」艦長の金島佑月二佐はまるで魚を追い込んだ子供のように楽しそうに言っていた。

 

「マスカー展開!!」

『マスカー投下!!』

 

SH-60K(ホーク5・6)からパラシュートを開きながらマスカー弾が海中に投下された。

 

同じように「たかなみ」の艦底からマスカーが放出された。

 

マスカーは自艦の艦底等にある複数の穴から空気を出して,自艦が発生させる音を空気の泡で包み,魚雷等の攻撃をそらす装置で,「たかなみ」の周りと進路上の海面には白い泡が無数に出現していた。

 

魚雷群(あの子達)はもう5km以上も泳いで来ているのだから,神経なんてもうとっくに壊れているのでしょ?」

 

金島の言ったとおり,やってきていた魚雷群はマスカーによって「たかなみ」に命中する事なく脇を通過し,両舷に設置されたM61 バルカン(多銃身式20ミリ機関砲)と「DDG-204 あそ」の20mm機関砲(CIWS)によって処分されて行った。

 

魚雷全弾が命中しなかった事に「はつづき」CICは歓声が上がるが,直ぐにその声は消えることになった。

 

「敵潜なっ!? 敵潜発射物は魚雷じゃありません!!」

「魚雷じゃないという事はミサイルか!?」

 

天空の言葉の直後,海面に高い水飛沫と共に海中から何が現れた。

海上から姿を現したミサイル RK-55(サンプソン)は真っ直ぐ空へと舞い上がった。

敵ミサイルが向かっていった先に何があるかは彼ら全員が分かりきった事だった。

 

「ミサイルの標的は補給艦か!!」

 

ミサイルは「みょうこう」の隣を通って補給艦の方向へと向かっていった。

余りの近さに前方の3隻は対応が出来なかったが,後方の「たかなみ」が迎撃に成功した。

 

RIM-162(ESSM)発射!!」

 

Mk.41VLSから赤い炎を上げて1発のRIM-162(ESSM)が放たれた。

 

2本の矢は空中で衝突し,赤と黒の花を咲かせた。赤と黒の花弁が散ったあと,再び水飛沫が出現した。

 

「敵潜ミサイル発射!! 数3!!」

「「しらぬい」RIM-162(ESSM)発射! 数3!」

 

「DD-131 しらぬい」によってミサイルが撃墜されたと同じ頃,「AOE-427 いなわしろ」の補給を受けていた「DDG-203 たかちほ」艦長の鏡石博也一佐は苛立っていた。

 

理由は給油ホースの取り外しが遅れていたからだ。

 

「まだなのか·········とっくに「しらぬい」は終わったというのに·······」

 

組んだ手の指先を動かしながら,いまかいまかと待っていると,望んでいた連絡が入った。

 

『給油ホース取り外されました! いつでも行けます!!』

「機関始動!!」

 

4基のゼネラル・エレクトリック LM2500ガスタービンエンジンが始動し,排水量10030tの船体が動き出す。

 

本隊へと合流しようその時だった。SH-60K(ホーク11)から悲鳴の様な通信が入ったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本艦9時方向に敵潜反応!? 数2!!』




潜水艦のミサイル発射方法が分かんなかったんで,魚雷発射管から撃つ感じにしましたけど,あっているんですかね?

間違ってたらコメント下さい。


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Episode.29 魚雷命中

「9時方向にだと!?」

 

入った報告に「DDH-185 あまぎ」の戦闘指揮所(CIC)は驚愕に包まれた。正面に原子力敵潜が4隻もいるにも関わらず,更に2隻もの敵潜が側面に出現した事は桐島に冷や汗をかかせるのに充分だった。

 

直ぐ様桐島は通信機を手に取った。

 

SH-60K(ホーク11)! 艦種は分かるか!?」

『艦種は636型(キロ型)です!!』

「キロ型·········ディーゼル機関の艦だな!!」

 

頭に蓄えてある僅かな軍艦に関する記憶を手繰り寄せて,答えを導き出すと,通信相手を切り替えた。

 

「「たかちほ」と「ふじなみ」は9時方向の敵潜へと向かえ!! 万が一の場合は撃沈(・・)してもかまわん!!

「せんだい」は「いなわしろ」を護衛しながら海域を離れろ!!」

 

桐島の言葉にCIC要員は耳を疑った。あの艦長が撃沈(・・)しても良いと自ら言ったのだ。

他の隊員と同じように船務長の水上も同じことを思っていた。

 

「艦長! 撃沈しても宜しいのですか!?」

キロ型(あの船)はまだディーゼル機関だ!! まだ撃沈しても原子力潜水艦(あの艦)よりはまだましだ!!」

 

その言葉に水上は覚悟を決めたのだと判断した。それは他のCIC要員もそう判断した。

 

「現在艦隊の注意は正面の敵潜に向いています!! 側面から雷撃されたら確実に艦隊は瓦解します!!」

「分かっている! だからこそ確実に敵潜を落とす!!」

 

桐島が意志を固め,宣言をした時「DDG-203 たかちほ」艦長の鏡石が叫んだ。

 

『取舵いっぱい!! 本艦は9時方向の敵潜へと向かうぞ!!』

 

「たかちほ」と「ふじなみ」は取舵を取って,左舷の敵潜へと向かって言った。

刹那艦隊右舷を哨戒していたSH-60K(ホーク13)からさっきと並ぶかのように叫びながら報告が入った。

 

『艦隊3時方向にも敵潜1!!』

「3時方向·······挟み込まれた!!」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「DDG-203 たかちほ」と「DD-117 ふじなみ」は艦隊左側面の敵潜へと向かっていった。

 

『敵潜魚雷発射! 数6!!』

自走式デコイ(MOD)発射!!」

 

「たかちほ」左舷に装備された自走式デコイ(MOD)ランチャーと投射型静止式ジャマー(FAJ)ランチャーが左旋回し,4本のデコイとFAJが投下された。

 

敵魚雷がデコイに食いつき,射線から逸れると「たかちほ」のオート・メラーラ 127mm砲 2基と「ふじなみ」のMk.45 5inch砲が左旋回し,砲弾が放れた。

 

砲弾はデコイと魚雷が入り乱れる海域に着弾し,敵魚雷・デコイ・砲弾の3つが交わり,大きな爆発と高い水飛沫を上げた。

 

最初にこの敵潜を発見したSH-60K(ホーク11・12)から敵潜が潜む海域に対潜爆弾が投下され,艦と乗組員に確実なダメージを与えていった。

 

だがそれでも状況は劣勢だった。

 

「艦隊正面の敵潜ミサイル発射!!」

『「しもつき」20mm機関砲(CIWS)迎撃開始!!』

 

「あまぎ」CICのディスプレイ上には動きが不安定な艦隊と10機以上のSH-60K(シーホーク)が乱雑して,混沌としていた。

 

「果たして本当に大丈夫なのか!?」

 

3方向全てを敵の潜水艦によって囲まれている状況は桐島の心を徐々に圧迫していった。もう彼の心にさっきのような意志は消えていた。

 

『敵潜魚雷発射!! 数10!!』

『敵潜魚雷発射!! 数6!!』

 

同時に入ったこの報告に桐島は思考が追い付かなかった。

 

「何!? 艦隊両側面から魚雷だと!?」

『取舵40! 魚雷に正対しろ!!』

 

咄嗟に操艦を任せられていた長瀬が指示を出し,「DDH-185 あまぎ」を右へと向かせた。

 

船体を軋ませながら「あまぎ」は面舵をきった。面舵の衝撃で桐島は正気に戻ることが出来た。

 

「マスカー起動!!」

 

艦底のマスカー装置が起動し,艦周辺の海は泡で埋まった。

 

「あまぎ」の正面と背後からはどちらも魚雷が迫っている。CIC要員は皆が冷や汗を流しながらディスプレイを食い入るように見つめた。

 

艦と魚雷の距離が狭まっていく。2km·········1km····500m···近くなっていくに連れて恐怖の度合いは増していった。

 

遂に魚雷は100mをきった。緊張の値がMaxに達した。

 

あるものは目を瞑って最後を待った。だがそれは来なかった。

 

魚雷はマスカーによって目標から逸らされ,艦から僅か10m程の場所を並通過していた。

そして両方向から来た魚雷はすれ違ったがそれぞれ1本ずつ激突し,爆発すると連鎖して大爆発が起きた。

 

海上にこれまでに無い程大きな水飛沫が上がり,「あまぎ」の航空甲板とデッキを濡らした。

水滴は艦橋の窓にもつく程だったために爆発がどれ程だったのかを想像できるだろう。

 

魚雷が当たらなかった事に桐島以下乗組員皆は心から安堵した刹那,艦隊全体に響き渡る程の轟音が鳴り響いた。轟音の数は2。それも全て右から。

 

この時彼ら全員がある最悪の答えに至った。誰もが信じたくないと虚実へと目を逸らしたが現実は非情だった。

 

画面に今まで写っていたPRIスコープの画面がカメラ映像へと切り替わり,CICにいた全員がディスプレイに写っている物

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しく炎上している「AOE-427 いなわしろ」の姿を目に焼き付けた。

 

「いなわしろ」は船体中央部から火柱が補給ステーションの柱を越すぐらいに立ち上がり,補給用燃料タンクに引火したというのが目に見えていた。

高い黒煙が船体を包み込み,燃えている事以外に映像から「いなわしろ」について分かることが,魚雷が全て右舷に命中して傾いていることしかなくなっていた。

 

左隣には護衛の「DE-232 せんだい」が現在でも存在していた為に左舷の魚雷は「せんだい」が防いだのだと想像できた。

 

刹那「せんだい」の艦中央部から8発のRUR-5(アスロック)が放たれる。

空を切り裂くように飛ぶ8本の(アスロック)の後部からパラシュートを開くと,(アスロック)は減速しながら海面へと着水した。

 

着水から1分程経過すると海面に8本の高い水飛沫が上がった。

水飛沫が収まった海域に異変が起きた。

 

海面がこれまでとは違う動きをすると,海水を切り裂く様に黒い金属の鯨 シ連海軍太平洋艦隊第7潜水旅団所属「B-190 クラスノカメンスク」は海上に姿を現した。

 

黒い船体の一部の金属板の端が捲れあがっていた為に至近距離で爆発したと予想できた。

 

恐らく「せんだい」の艦長が独断で放った物だと容易に想像できたが,この行動が桐島を動かすには充分だった。直ぐ様通信機を手に取り,艦隊全体に連絡を行った。

 

「空いている艦は「いなわしろ」を救護しろ!! 「たかちほ」・「しらぬい」は9時方向の敵潜を撃破しろ!! 容赦はしなくてよい!!

前方の潜水艦にも警戒の目を向けておけ!!」

 

桐島の命令を受け,艦隊が再び動き出す。

 

「あそ」と「ふじなみ」・「ながなみ」・「せんだい」の4隻が「いなわしろ」へと接近し,「たかちほ」と「しらぬい」は9時方向の敵潜へと向かっていった。

 

「DD-131 しらぬい」が増速し,「たかちほ」を追い抜いた。「しらぬい」の戦闘指揮所(CIC)で艦長の西園寺安月2等海佐が難しい顔をしていた。

 

「最後の警告だ。ピンを打て!」

「艦長いいんですか? 逆に刺激するかもしれませんよ。」

「構わん。それにこうしないと私自身が納得できない。」

 

艦長の指示通り「しらぬい」艦首下のソナーからピンガーを打たれた。

 

敵艦に向けてピンガーを放つという事は,“お前を沈められる(・・・・・)”という事と同じであって,一種の降伏勧告の様な物であった。

 

だが敵潜は怯む処か血気盛んになり,魚雷発射管の扉を開けた。

 

「彼らには聞かなかったか······07式の発射用意は出来てるか?」

「出来てます! 艦長の指示さえあればいつでも!!」

「よし·········07式発射!!」

 

Mk.41VKSから1本の激しい白い煙を上げて07式垂直発射魚雷投射ロケットが空へと飛び出した。

推力制御装置が分離して超音速で飛行し,前部弾体を分離させた。

 

前部弾体がパラシュートで減速し,フェアリングが外れ,内部から12式魚雷が露出し,パラシュートを切り離して着水した。

 

広帯域音響振動子アレイによって誘導された12式魚雷は自身に一番近い潜水艦へと一直線に向かっていった。

 

海上にこれまでに無い程高い水飛沫と金属音が響き渡った。HQS-104 ディッピングソナーを海中に下ろして観測していたSH-60K(ホーク1)の観測員が,今までに聞いたことの無い奇怪な音を聴きながら,発することすら辛そうな様子で

 

『敵潜艦内に浸水音。敵潜沈降していきます············』

 

この連絡に戦闘指揮所(CIC)は静まり返った。西園寺は右手を強く握りしめた。

 

「我々はスイッチ1個で50人以上の命の火を消した。この事を永遠に忘れるな。」

 

彼がそう言った頃,艦隊正面でも動きがあった。

 

「艦長本当にやるんですか?··········成功しても曳航具は確実に失いますし,失敗したら艦自体が持たない可能性も·····」

「だからと言って他に選択肢があるか? あるわけないだろ。

原子力潜水艦を沈めずに撃破するにはこれくらいしか方法は残ってないんだ。

それに曳航具なんて幾らでも替えが出来る。君は隊員を失うより,装備を失う方が怖いのかい?」

「いえ! そんなこと滅相も思っていません!!」

「そう。なら良いけれど。」

 

「DD-124 はつづき」艦長天空寺 佑は視線をさっきまで話していた隊員からCICのディスプレイへと移した。

 

この艦が行っている起死回生の方法。それは艦尾の曳航具を使用して敵潜を撃破する事だった。

 

詳しく説明すると現在「はつづき」は敵原子力潜水艦隊の真上にいた。

アクラ型は上部への攻撃手段を持っておらず,万が一可能だとしても「はつづき」を撃沈する事は味方を撃沈する事と等しいために,攻撃は不可能という正に不覚の場所だった。

 

しかし攻撃できないのは「はつづき」側も同様で,こちらも攻撃すれば自艦を沈めてしまう為にどちらも睨み合うしか出来なかった。

 

だが天空寺はこれを好機と見た。彼は曳航具をギリギリ伸ばしてまで敵潜艦尾付近に下ろして,糸をスクリューに絡ませて航行不能に追い込もうとしていた。

 

これは大きな賭けであった。曳航具が投下された後,スクリューに引っ掛かるかは誰にも分からない。

もしかしたら引っ掛からずにそのまま海中に漂うだけかもしれないし,仮に掛かったとしても糸が切れたり,敵潜の出力に「はつづき」が負けるかもしれないし,最悪自艦のスクリューに絡んで自滅する可能性だってあり得るのだ。

 

正に生死を賭けた博打だった。

 

CIC要員全員が結末を黙って見守った。

 

博打に勝ったのは「はつづき」だった。艦全体に大きな振動が起こり,収まらぬ内に艦が別方向へと引っ張られていった。

 

「艦長本当にやりましたね!!」

「まだだ! ここからが勝負だ!! 機関全力!!」

 

「はつづき」のロールス・ロイス SM1Cガスタービンエンジン4基が全力で稼働し出した。

敵潜もOK-650B加圧水型原子炉1基を全力稼働させ,抵抗しようとするが,1と4では勝負にならないのは目に見えていた。

 

引っ張られていた「はつづき」が引っ張る側へと変わり,曳航具(仕掛け)に引っ掛かった敵潜()を仲間の元へと誘導した。

 

「敵潜激突します!!」

 

ソナー要員がそう叫んでから10秒も経たぬ内に,海中で敵潜同士が衝突した。

金属同士が衝突して船体が軋んでいく様子が,奇怪な音をたてながら海中を伝わって周囲に響き渡った。

その余りの音の奇怪さに思わずソナー要員がつけていたヘッドホンを外すぐらいだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「敵潜浮上!!」

 

海面を切り裂いて黒い塊 アクラ型原子力潜水艦が艦隊前方に浮上した。

艦側面には大きな傷痕が痛々しく残っており,衝突の激しさを物語っていた。

 

「みょうこう」・「はつづき」・「しもつき」が主砲を向け,敵潜を威圧した。

 

だがここで想定外の事が起きた。敵潜のセイルに乗組員が現れたかと思うと,大きな白い布(・・・)を潜望鏡にくくりつけたのだ。

 

誰がどう見ても降伏(・・)の白旗だった。

 

CICのディスプレイでこれを見ていた思わず桐島は呟いた。

 

「これは想定外だ·········」

 

桐島が動揺していると通信員が驚いた顔で振り向いた。

 

「艦長。敵潜の艦長が話をしたいとの事です。相手は流暢な日本語を話しています。」

「わかった。対応しよう。」

 

周波数を敵潜に変えた通信機を手に取ると,流暢な日本語が聞こえてきた。

 

『日本艦隊の司令官聞こえるか? 私が「K-295 サマラ」艦長のライジェル・カルストだ。』

「私が海上自衛隊第2機動部隊司令代理の桐島だ。ライジェルと言ったな。日本語がお上手なようで。」

『お褒めの言葉をありがとう。私は数年間日本に赴任してのでね。』

 

前置きをこれくらいにして桐島は本題へと踏み込んだ。

 

「貴艦の降伏理由を詳しく聞かせて頂きたい。まあ大方予想はついているが。」

『現在本艦は先程の衝突で甚大な損傷を負った。この損傷具合ではウラジオストクへの帰港は不可能と判断して降伏に至ったのだ。』

「懸命な判断を感謝する。日本は“ジュネーブ条約”に基づきあなた方に対処するだろう。」

 

ジュネーブ条約は読者の殆んどが知っていると思われるが,簡潔に纏めると“捕虜に人道的な扱いをせよ”という国際条約だ。

 

『そうか。私含め乗組員の安全を感謝する。』

「あなたは乗組員思いの優秀な艦長なのだな。」

 

この桐島の発言にライジェルは通信機の向こうで戸惑った。

 

『何を言っている? 艦長となればこの様な判断は当たり前だろ?

艦長の1番の任務は艦と乗組員を生かす事だ。ふざけたプライドで艦と乗組員を失うなんて艦長を名乗ることは出来ない。

貴官はお若いように感じられるが艦長であろう? 自身の身と乗組員を天秤にかけるからどちらが重いかは一目瞭然だろ?』

 

桐島は戸惑った。答えが出ずに長い1分が過ぎた。

 

「······当たり前だ·········だがもしかしたら私はあなたみたいな判断は出来ないかもしれない。」

『そうか··········いつか貴官とは対面して話してみたいものだ。』

 

通信は切られた。暗く沈んだ顔を上げて未だに炎上している「いなわしろ」を画面越しに見ながら桐島は水上に聞いた。

 

「「いなわしろ」の死傷者は何名程になると思う?」

「「いなわしろ」の乗組員は総員145名。あの様子ですと少なくとも30名は下らないでしょう。」

「30·········」

 

今までとは桁の違う数に桐島は俯いた。

 

「艦長。艦橋から通信です。」

「分かった。すぐ出る。」

 

桐島はさっき置いたばかりの通信機を再び手に取った。

 

「CICより艦橋へ。桐島だ。」

『艦長。大事な話があるのでヘッドセットをお願いします。』

 

1分も経たぬ前に取った通信機をまた台の上に置き,ヘッドセットを装着した。

 

「それでわざわざこうやってする話しとはなんだ?」

『その声の様子ですと大いに悩んでいるようですね·····』

「········葛城から何か吹き込まれたのか?」

『ある意味そうだと言っておきます。』

 

長瀬は“さて”と一言置いて本題へと切り込んだ。

 

『今艦長あなたは敵潜を撃沈したことを重く受け止めているように感じられますが,どうですか?』

「当たり前だ! あの1発で何人の人間が死んだと思っているんだ!!」

『あなたは先程“容赦はしなくてもよい”と言った。これは敵潜をあなたは沈めて良いと解釈できる。

つまりあなたには撃沈するという覚悟(・・・・・・・・・)があったと我々は認識するのだがそれでいいのですか?』

「··········」

『答えがでないのであれば我々だけで判断しますが,よろしいですね。』

 

返事がなかったので,長瀬は溜息を吐いた。

 

艦長(あなた)だっていつか来るとは思っていた筈です?

戦闘になった以上撃沈も味方の犠牲も避けられません。我々はそれを乗り越えなければ更なる悲劇を産むだけです。』

 

一区切りうって話を続けた。

 

『これは乗り越えなければいけない試練です。これを乗り越えなければあなたはこの戦いに負けます。

そしてあなたは失いたくなかった物までも失うでしょう。位よりも大事な物を。』

 

そう言い放つと長瀬は通信を一方的に切った。ヘッドセットを肩におろした桐島は「いなわしろ」に救助活動を行いつつ,降伏した「サマラ」へも対処する艦隊を見ながら呟いた。

 

「あいつ。ますます葛城に似てきたな········」

 

その独り言は桐島以外誰の耳にも入らなかった。




曳航具をスクリューに絡める下りは“沈黙の艦隊”から持ってきました。

パクり?············じゃあどうやって原子力潜水艦倒すんだよ··········


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Episode.30 特戦群の戦い

※7/20 9mm機関けん銃をH&K MP7(4.6mm短機関銃(B))に変更


朱雀列島より北東に70km程進んだ海上。朝鮮半島と日本列島に挟まれた海をその艦隊は南南東に進んでいた。

 

中央に300mもの空母を置き,両脇に250mものミサイル巡洋艦を,艦隊正面に対艦ミサイルを満載した巡洋艦を配備し,その周囲を駆逐艦とフリゲートで輪形陣を形成していた。

 

シ連海軍太平洋艦隊総数13隻を束ねる旗艦「S-107 ウリヤノフスク」の飛行甲板に今,1機のSu-33(フランカーD)が着艦しようとしていた。

 

「ウリヤノフスク」の巨大な航空甲板には発艦用のカタパルトとスキージャンプ式を備えた飛行甲板と着艦用のアングルド・デッキの2つが存在している。

 

Su-33はアングルド・デッキの方に降下していき,機体下部からランディングギアが収容カバーを開けて現れる。

 

ランディングギアは飛行甲板に接地し,甲板上に設置してあるアレスティング・ワイヤーに機体後部のアレスティング・フックが引っ掛かり,機体の速度を更に落とした。

 

飛行甲板中央部分で機体は停止しパイロットが降りると,待機していた牽引車に誘導されてエレベーターで格納庫へと下ろされた。

 

「チャイカ隊全機着艦! 未帰艦機無し!!」

「そうかご苦労だった。」

 

シ連海軍太平洋艦隊司令 レバル・スグワークは椅子に座りながら連絡員の報告に返事を返した。

 

連絡員が去るとレバルは溜息をついてぼやいた。

 

「しかし我々にはいつ出番が回ってくるのだ? 開戦から既に1日経過しているのに,たった1回しか攻撃を仕掛けられていないのだぞ!!」

「それはお察しします。ですが先程潜水艦隊の攻撃によって補給艦1隻を大破させたとの報告が入っています。

しかし「B-187 コムソモリスク・ナ・アムーレ」を喪失,「B-190 クラスノカメンスク」・「K-332 カシャロット」損傷,「K-295 サマラ」が降伏と甚大な被害を食らったそうです。」

「「サマラ」が降伏か········艦長があのライジェルなら納得だな。」

 

「サマラ」艦長 ライジェル・カルストは乗組員想いの艦長としてシ連海軍内に名が知れ渡っており,彼が艦の損傷で日本に降伏したという事に,レバルは納得した。

 

「しかし補給艦を失っているのは此方もだ。何回やっても通信は通じない。果たしていつ合流できるのだ?」

「それは私にも分かりません········ですが可能性としては自衛隊にやられた可能性も考えた方が宜しいかと。」

「まあ··········それが一番可能性としては高いな。だが対潜護衛として中国海軍の派遣艦隊がいる筈なのだが·····さっきだって自衛隊の潜水艦を撃破していただろ?」

「えぇ数時間前に1隻ほど。」

 

シ連は今回の朱雀列島侵攻にあたって,中国より恒久的に派遣されている中国海軍 派遣艦隊にシーレーン防御を任せていた。

 

現にその力を発揮しており,数時間程前に任務中の第2潜水艦群第4潜水隊所属の「SS-598 やえしお」を撃破(・・)したばかりであった。

 

そして現在派遣艦隊旗艦「101 南昌」以下10隻とシ連海軍近海艦隊が総出で対潜警戒を行っているのだ。

 

「まあ我々としてはまずは第2機動部隊を潰すのが先決だ。

第2機動部隊(あの艦隊)を潰さないと朱雀列島(バレリ オーストラフ)の占領は不可能で且つ増援も送ることが出来ないからな。

取り敢えず周囲の警戒は怠らない様にしてくれ。」

 

シ連海軍太平洋艦隊は日本海の荒波を切り裂きながら進んでいく。

 

シ連海軍太平洋艦隊所属艦艇

空母「S-107 ウリヤノフスク」

ミサイル巡洋艦「801 アドミラル・ラーザリェフ」

       「806 ジダーノフ」

       「2010 ヴァリャーク」

駆逐艦「アドミラル・バシスティ」

   「アドミラル・クロチェフ」

   「ブールヌイ」

   「ブィーストルイ」

   「ベズボヤーズネンヌイ」

フリゲート「335 グロームキー」(「DDG-203 たかちほ」との戦

     闘で損傷し,ウラジオストクに撤退中)

     「339 アルダー・ツィデンジャポフ」

     「グレミャーシュチイ」

     「プロヴォールヌイ」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

所変わって朱雀列島(バレリ オーストラフ) 飛鷹島 飛鷹島空港。

 

エプロンの移動を邪魔していたIl-76MDM(キャンディッド)が全てウラジオストクに帰り,不時着したC-2も滑走路脇に寄せられ,漸く機能が復活したこの場に2機の巨大なヘリが着陸した。

 

世界初の8枚の回転翼(ローター)を持つ,世界最重のヘリコプター Mi-26 NATOコードネーム ヘイロー。

 

機体後部のカーゴドアが開き,中から総数90名。2機合わせて180名のシ連軍人が降りてきた。

 

軍人は皆シ連製のAK-47を持ち,他の者とは明らかに異なる雰囲気を漂わせていた。

 

空港の建物からやってきた4名の1人が彼らのトップである大佐に握手した。

 

「わざわざこの島に来てくださって誠に感謝します。私が飛鷹島航空基地司令のロイザム・ウルーザルス少将と申します。」

「いえ少将殿お止めください。位でいえばあなたの方が上なのですから。

それで例の自衛隊の特殊部隊が潜伏している山とはあれの事ですか?」

 

位が自らよりも下なのに低姿勢のロイザムに第24独立特殊任務旅団旅団長 サレス・ノイガールは困惑したが,直ぐに頭を仕事へと切り替えた。

 

「えぇ,昨晩輸送機で降下していきました。我々はそのうちの1機を撃墜・1機を不時着させましたが,攻撃ヘリ1機と戦闘車1両を失いました。

先程から脇に見えている日の丸をつけた機体が,不時着させた機体です。」

 

不時着したC-2を横目に見ながらロイザムは話を続けた。

 

「恐らく奴らはこの飛行場を破壊するのが目的でしょう。ここを破壊されてしまえば朱雀列島(バレリ オーストラフ)の占領は不可能と言えます。

そこであなた方に彼らを一掃して頂きたいのです。」

 

ロイザムの説明にサレスは自信満々に答えた。

 

「任せてください。何のために我々がここに来たと思っているんですか!

皆!! 敵は自衛隊の特殊部隊だが恐れることはない!! 自らの訓練を信じ,戦え!!」

『おぉぉぉぉぉぉ!!』

 

特殊任務旅団の隊員達は皆が大きな雄叫びを上げた。その様子にロイザムは安心した表情を浮かべた。

 

「皆は恐れるどころか,逆に喜んでいます。安心して我々に任せてください。」

「これなら安心して任せられそうです。」

 

ロイザムとサレスはがっしりと握手をした。そして彼ら総数180名は飛鷹島唯一の山 作東山(さくとやま)へと向かっていった。

 

この様子をシ連兵以外の者が密かに監視しているものがいた。

 

「これは非常に不味いな········」

 

特殊作戦群所属の彼 江山一尉は今までいた木陰から素早く移動した。

 

10分程木々と雑草が生い茂る森を走って抜けると,何年も前に放棄されたであろう建物が見えてきた。

 

だがこの建物に明らかに似合わない89式小銃を構えた自衛隊員が2名程立っていた。

 

仲間が帰還した事を確認した2人はやってきた江山に敬礼をした。江山も軽く敬礼を返すと,中へと入った。

 

中には簡易テーブルを囲むように10名程の自衛隊員が座っていた。

 

「報告します! シ連軍は200名程の特殊部隊を送り込んできた模様!!

30分以内に山内に入る模様!!」

「やはり早いな········特殊部隊は恐らく第24独立特殊任務旅団だろうな。」

 

特殊作戦群団長 海藤大也は顎に手を当てて,気難しい顔をした。

 

「奴らとて無闇に突っ込んでくる訳ない。恐らく事前調査や航空写真で潜伏場所の目星をつけているのだろう。

ここがバレるのも時間の問題だ。」

「移転場所は既に数ヶ所の候補がありますが,そこも奴らは目をつけているでしょう。」

「ならば洞窟にでも籠るか? それとも打って出て敵を殲滅するか?」

「それも1個の手ですが,敵も精鋭。ただではいかないのは確実でしょう。

死傷者も50名程出ると想定した方がよろしいかと。」

「50名·········」

 

50という数字に同席していた魚島が動揺していると,同じく同席していた1人の幹部が

 

「団長。ならばあのポイントを使いましょう。幾ら奴らが事前調査したとしても,あそこなら気づいていないでしょう!!」

 

彼が地図で指差した場所を全員が覗き込んだ。特戦群の面々は皆が納得した様な表情を浮かべた。

 

「なるほどここか······」

「確かにここなら奴らを袋の鼠に出来る!」

「やってみる価値はあるかと!!」

 

皆が意見を述べるなか,海藤だけがさっきと同じように難しい顔をしていた。

 

「仮に追い込んだとしても彼らを殲滅出来る程の弾はあるのか?

それに加減をしないと我々まで巻き込むことになってしまうぞ。」

「弾に関しては効果的に使うのが宜しいでしょう。防弾装備外の頭部を狙う等して確実に仕留める様にと通告しましょう。」

「じゃあそうしてくれ。まあちゃんと出来るか分からんが。」

 

海藤は立ち上がって,

 

「まあどちらにせよ。このポイントなら効果的に敵を殲滅出来る。山内の言った通りやる価値はある。

ここで動かなかったら状況は変わらないだろう。魚島殿はここの防衛に当たってくれ。万が一の為に16式(16MCV)を残しておこう。

さあ皆行動開始だ!!」

 

海藤の言葉で特戦群の幹部らが一斉に行動を始めた。だからこそたった1人座ったまま考え込む魚島は目立っていた。

 

(何故彼らは初めての場所なのにこんなに熟知しているんだ·········まるでここでの戦闘を想定していた(・・・・・・・・・)様だ····)

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

一方の第24独立特殊任務旅団は作東山に入って既に1時間が経過していた。

 

彼らは中腹付近の平坦な場所にテントを張って仮拠点にしていた。

平坦と言っても地形が平坦なだけで,テントの周囲は木々で生い茂っており,簡単には見つからないようになっていた。

 

「敵は優秀ですね。これ程まで敵地に入ったというのに一切反応がないのですから。」

「ああ,自衛隊は噂通り優秀だな。この様子だときっと奇襲を仕掛けてくるだろう。警戒を怠らない様に監視部隊にしっかり言ってくれ!!」

 

張られたテント1個でサレスと副旅団長はテーブルを挟んで話し込んでいた。

山に入って既に1時間が経っているというのに彼らは自衛隊に関する手がかりを一切掴むことが出来ず,サレスは自衛隊への噂を確信へと変えていた。

 

その時,テントの外から銃声が鳴り響いた。

 

「何事だ!!」

 

彼が叫ぶとほぼ同時に隊員の1人がテントに駆け込んできた。

 

「自衛隊です!! 正面から監視部隊を襲撃して行きました!!」

「遂に来たか!! 第297独立特殊任務支隊を追撃に回せ!!」

 

冷静に判断したサレスの命令で第297独立特殊任務支隊80名が追撃を始めた。

 

逃走する自衛隊員は10名程。彼らは時々後方を銃を撃って妨害しながら逃走しており,彼らはそれを頼りに追跡を続けていた。

 

支隊長のガリアーは部下と共に追いかけていたが,心には疑問が浮かんでいた。

 

(何かがおかしい·········いきなり正面から来るなんて。まるで自ら見つかりに!?)

 

ガリアーは急いで走っていた足を止めた。

 

「全員止まれぇ!! これは罠だ!!」

 

だがもう遅かった。生い茂る木々が開けたと思いきや,そこは直径20m程の大きな窪地だった。

先頭のシ連兵達は止まろうとしたが,後ろの仲間に押され,次々と斜面を滑って深さ3m程の窪地の底に落ちていった。

 

そしてそれは連鎖して続き,ガリアー以下30名程は止まることが出来たが,50名のシ連兵が窪地の底へと転落した。

 

彼らは周囲を見回して気づいた。窪地の周囲は全て自衛隊員によって包囲されている事に。

 

「てぇ!!」

 

一斉に自衛隊員が持っている64・89・20式小銃,5.56mm機関銃(MINIMI)が火を吹いた。

 

7.62×51mm・5.56×45mm NATO弾がシ連兵の体を意図も簡単に貫いた。

 

シ連兵も防弾ジョッキを着ていたが,弾は主に覆われれいない顔などを中心に行われ,また1人また1人と生きている者は減っていった。

 

勿論ガリアー以下残った兵にも容赦なく撃ち込まれ,部隊は混乱に陥った。

 

そんな中でもガリアーは落ち着いていた。

 

(この窪地はこちら側の傾斜がなだらかだ。自衛隊(奴ら)に一撃を食らわせたら脱出出来るかもしれない。

だがどうすれば······)

 

ふと彼の頬の脇を銃弾が通ると,後ろにいた仲間に当たった。仲間は一撃で地面へと倒れたが,ガリアーは彼がRPG-7を持っていたことに気がついた。

 

「これだ!!」

 

彼は仲間が持っていたRPG-7を自らの手にとって構え,反対側の崖に向け放った。

 

強烈な発射ガスが反動で後ろに排出され,彼は思わず尻餅をついた。

 

発射薬(ブースター)と安定翼を切り離してロケットモーターに点火した弾頭が対角線上の崖に命中した。

 

RPG-7は対戦車用だが,その弾頭は地面を破壊するには充分だった。

 

弾頭は爆発し小さいながらも自衛隊員20名程を巻き込みながら崖崩れを起こした。

 

崖崩れはシ連兵達の目の前で止まり,シ連兵達は防衛から一斉に攻撃に移行した。

 

そこから先は乱戦だった。自衛隊員とシ連兵が入り乱れ,同士討ちを恐れて支援射撃は躊躇われ,近代戦には似つかわない殴り合いが始まった。

 

現場では銃弾が,拳が味方に幾度も当たり,敵軍の兵器を手にとって反撃を行い,その場の誰もが状況を把握できていなかった。

 

戦闘はまだ3分程しか経過していなかったが,この現場にいた全員が体感で1時間程が過ぎているように感じれた。

 

「全軍引け!! これ以上やっても泥沼になるだけだ!!」

 

戦闘は止めたのは海藤の言葉だった。彼の背後から06式小銃てき弾と放たれ,自らもH&K MP7(4.6mm短機関銃(B))を放ち,ガリアーらを牽制した。

 

彼らはかわして直撃を逃れられたが,数名が9mm機関拳銃の毎分1200発の発射速度と06式の破片にやられた。

 

「こっちも引けぇ!!」

 

ガリアーの命令でシ連兵も斜面を登って退却し出した。自衛隊側も崩れた崖を登って窪地から脱出した。

 

この際敵の背中を撃とうとする兵士は敵味方誰もいず,どちらも自軍の兵の救援を行っていた。

 

こうして特殊作戦群と第24独立特殊任務旅団の初戦は双方30名程の死傷者を出し,決着がつかない消化不良で幕をおろした。




今回の戦闘なんですけど書いた本人ですら消化不良なので出来は勘弁してください。
というかこの後ちゃんと陸上戦のシーン書けるのかな··

なんかブログのコメント欄で騒がれてましたが,日本国召喚打ち切りとか本当なんすか?······

日本国召喚好きだから打ち切りとかマジで悲しいんですけど········終わるとしてもせめてアニュンリールや魔帝の情報教えてください。


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Episode.31 偽善

私の名前は三崎 霞。日本国外務省の外務事務次官を務めてます。

 

私がここに入った目的は日本を正しい道に正すため。但しシ連という敵国の力を持ってして。

 

私が生まれた2000年は既に“New Fieet計画”が国会で荒れながらも可決され,既に“あまぎ型航空母艦”2隻の購入が決定していた頃でした。

 

それから5年・10年経っていくにつれて情勢は変わっていく一方で,“あまぎ型”の4隻配備と“しょうかく型航空母艦”2隻の購入・“いぶき型イージス巡洋艦”の建造等々自衛隊は徐々に戦力を拡大させて行きました。

 

中学生になる頃には,この日本情勢に違和感を覚えていた。日本は太平洋戦争の様な悲劇を繰り返させない為に憲法9条で戦争を禁止していた。

 

確かに国防の為に空母を2隻買うのは納得できる。だが更に4隻の購入に,巡洋艦8隻の建造は誰にだっておかしいと思う。

 

明らかに憲法違反を違反している。だがネットを見るとそういう声より“よく判断してくれました”や“やっとシ連と同じ場所に立った”等と日本政府を称賛する声が圧倒的多数だった。

 

私は絶望した。政府に対してでもあるが,国民に対してもだ。

 

政府による誤った政策を国民は反対せずに受け入れた。まるで国民は永遠に消えることの無い悪夢を見せられていた様に感じられた。

 

私はこの時直ぐに意志は決まった。私がこの悪夢を見せようとしている日本を変えると。

誤った方向へと進んでいる自衛隊を定位置に戻すと。正しい道へと正すと。

 

1個言っておくが,だからといって私は“自衛隊廃止”等言っている左翼とは違う。

軍が無ければ国を守れないのは当たり前だが,それだって限度はある。

 

“専守防衛の国家が空母なんていらない”なんて声には私は反対するが,だからと言って空母6隻は多すぎる。

ヘリ空母を加えれば10隻だ。世界で2番目の空母保有国家で1位のアメリカとはたった数隻だけの違い。

 

アメリカという戦争を経済の道具とする国家。そんな国と同じようになるのではないか。

そんな恐怖が私の心に芽生えた。

 

その後高校・短大と卒業した私は念願の政府機関 外務省へと入った。

 

私は敢えて政党とかではなく外務省へと入った。野党はただ文句を言うだけのいてもいなくてもいいモブ以下の存在だ。

 

与党に関しても私は好感を持っていないので即却下した。そもそも当選しなければ関われないので結果は最初から決まっていたのかもしれない。

 

自衛隊? そんなのは論外もいいところだ。そもそも私運動ベタだし·········

 

話を戻そう。

 

自分で言うのもなんだが,私は外務省に入って才能を発揮した。

“外務省のエリートアイドル”という渾名を勝手に付けられ,外務省以外でも名前を知られるようになっていった。

 

その活躍が目に止まり,私はたった24歳にして外務事務次官に就任した。

 

就任の際に“若すぎる!!”と野党から言われたが,鈴村総理の“若いと才能は比例しません”の一言で押しきられ,私は外務事務次官への就任が決定した。

 

この時だけは素直に政府に感謝した。

 

こうして外務事務次官に就任したが,これと前後してシ連へも接触した。

 

私は最初から自分だけで変えること·····言い換えれば自国だけでこの悪夢を晴らす事は不可能だと察していた。

 

だからと手をこまねいている訳ではなく,別の国の力でこの夢を強制的に晴らそうと決まっていた。

 

その国として選んだのがソビエト連邦に変わって,日本を悪夢に染めた原因 シベリア連邦だった。

 

最初にシ連スパイに接触した際に自らの遡上を明かすと,彼らは目を点にして慌てた。

外務省のエリートが接触したのだから当然だろう。

 

だが何回も会って話していく内に私が本気だと察したのか,シ連国家保安委員会(KGB)の日本トップに会わせてくれた。

 

トップと話すと当たり前だがスパイと疑われたので“何か未公開の情報をよこせ”と言われた。

そこで私は何とかして手に入れた当時未公開だった防衛費の情報を流した。

 

渡された情報を最初は疑いの目を向けていたシ連スパイだったが,数日後に発表された公式の防衛費と寸分の狂いがなかった為に,情報が本物だったと彼らは骨の髄まで痛感した様だった。

 

私は彼らから“cope”というコードネームを与えられた。名前とそのまんまなのは気にしないでくれ。

 

それからも詳細は省略するが,様々な情報をシ連側に流した。

どれもこれも正確な物だったので,彼らは大いに喜んでいた。

 

そして私はシ連が朱雀列島を占領しようと動いている事を知った。

“これは大いなチャンスだと”直ぐ分かった。これで日本を変えられるかもしれないから。

 

日本人が日本を変えようとしても実質は何にも変わらない。だが他国からだとどうだ? 火縄銃の伝来・黒船来航。どちらも日本は根本から変わった。

 

日本を変えるには国内の小さな内的要因ではなく,外国の大きな外的要因で変えるしかないと判断したのだ。

 

ここで日本が負けたとなったら国民····いや世界は目を覚ますだろう。“日本が空母を持ってもどうせ負ける”と。

 

そして再び空母を持たず,戦争等を起こさない国家になると私は考えた。

取らぬ狸の皮算用だって? そもそも人生ってそんなものだろう。それに皮算用に思われたらそれを現実にしてしまえばいいんだから。

 

だからこそ私はシ連に情報を流し続けた。例え誰から何と言われようと自分の正義を貫くために。

 

黒く染まってしまった日本を再び白くする為に。

 

そしてどうだ。朱雀列島占領から日本は1勝5敗という圧倒的不利な状況に陥った。

自分でもまさかここまでいくとは思っていなかった。これも私のお陰かもしれない(自画自賛)

 

特殊作戦群の際には勇気を振り絞って質問をした。一部から変な目で見られたが,これが日本の為だと考えて恥ずかしさを振り切った。

 

他にも空いた時間を見つけては,多数の人物から情報を聞いて,それをシ連側へと送った。

 

それ以外にも事前に手に入れた極秘情報も流した。これは入念に入念を重ねた結果なのかもしれないな。

 

だがそんな私でも誤算が2つあった。1つ目は先程仲間からの情報で横田の米軍基地にB-1爆撃機が着陸したとの情報が入った。

 

“米軍の爆撃機が!?”と最初は驚愕したが,よくよく見ると何かおかしい事が次々と分かった。

 

まずやってきたのはB-1 1機だけで,しかも翼には日本機の国籍マークである赤い丸がでかでかと書かれていた。

 

言いたいことはもう分かるだろう。このB-1は日本の爆撃機(・・・・・・)だ。

遂に爆撃機までと当初は思ったが,それ以上にこの機体が脅威だということが分かるとそれどころではなくなった。

 

B-1爆撃機の航続距離は約12000km。これは計算上では東京からモスクワまで無着陸で飛べるという事だ。

 

モスクワまで飛べるという事は,シ連本土への攻撃など容易く出来る。

ウラジオストクなんて空襲されたらそれは太平洋艦隊の終わりを意味していた。

 

だがここにもある疑問点があった。現在B-1が配備されているアンダーセン基地等を徹底的に調べても日の丸をつけたB-1なんていないという。

 

つまりこれは日本が買ったB-1は今横田にいる1機だけ(・・・・)という事になる。

 

1機だけという事は撃墜されればもう後はない。ここが分からない。

 

果たして何故1機しか無いのか? ただ単純に予算が無かったのか,それともアメリカの圧力で1機だけになったのか,果たして自衛隊側の策略なのか私には分からない。

 

果たしてこの機体がどういう事になるかはそっちの担当に任せることにしよう。

 

そしてもう1個の誤差は第2機動部隊との戦闘で潜水艦隊に結構な被害が出たことだ。

だが戦闘開幕直前の会談で“幾らかの艦艇を失うかもしれないが許容範囲内だ”と言っていたので恐らく数ミリの誤差の範囲だろう。

 

だいぶ話が長引いてしまったな。そろそろ目の前の事に目を向けよう。

 

現在安川外務大臣はアジア大洋州局長 嬉島政道との対談をしている。その為に私が替わりとしてここに残っているのだ。

 

外務副大臣はシ連への交渉で張り付けになっているために急遽だが,私が選ばれたのだ。

 

現在の話の内容は今後の戦闘についてだ。シ連の潜水艦によって貴重な補給艦を事実上喪失し,日本は反撃しシ連潜水艦1隻を沈めた。

 

約1時間程前に会見を行った大洋官房長官と鈴村総理が帰ってきてからは,ずっと今後の事についての話が続いていた。

 

“はたしてシ連に勝てるのか!?”,“防衛省はどうしている!?”,“今度負けたら確実に日本は終わる!?”等々発言の半分はネガティブな事だった。

 

だが言ってしまえばそんなこと今はどうでもよかった。

 

現在の私の一番の懸念。それがさっきから鈴村総理らの話に出ている“Operation蒼龍”という単語だ。

 

名前から軍事的な作戦というのは断定できるが,一体何の作戦なのかが全くといって良い程掴めない。

 

ここで情報を掴んで伝えればシ連側を更に優位にする事が可能で,日本側の戦意を削いで早急的に停戦まで持っていけるかもしれない。

 

そういう淡い希望を抱きながら私は意を決して聞いた。

 

「総理。先程から何回も“Operation蒼龍”と言っておりますが,私は失礼ながら知りませんので教えて頂いても結構ですか?」

 

周りの訝しげな視線が突き刺さる。私の質問が恥ずかしいのは分かりきっている。

だが例えこうしてでも聞かなければいけないと私の本能がそう言っているのだから。

 

私の質問に鈴村総理はしっかりと答えてくれた。

 

「あぁ,そうでしたね。君はまだ話を聞いていませんでしたね。

Operation蒼龍とは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北方領土奪還作戦(・・・・・・・・)です。」

 

··············は?

 

今目の前の男はなんと言った!?

 

「北方領土は北海道最東端の納沙布岬まで約30km程でシ連軍北海道上陸の可能性が非常に高く,朱雀列島以上に危険な場所であるために奪還作戦を決行したのです。」

 

一体どういうことだ?········北方領土?·······そこを自衛隊が?·······

 

私の脳内が処理に追い付いていない中,栃木防衛大臣が手元に置いてあったタブレット端末を手にとって画面を見た。

 

「総理。第1機動部隊より連絡が入りました。択捉・国後島両島のレーダー施設と飛行場を破壊し,制空権を確保したとのこと。

なお損害は0だそうです。」

 

················は? 択捉と国後のレーダーサイトと飛行場を破壊して制空権を確保しただと?

 

しかも第1機動部隊は第7艦隊との演習で来れなかったはず·········なのにどうして!!

 

「尚,あと1時間程で第7師団と第1空挺団による強襲上陸が開始されるとの事です。」

「シ連も皮肉ですだな。まさか朱雀列島でしたことを自らもされるとは。」

「これで我々に神風が吹いてくれると幸いなんだがなぁ~」

 

官房長官や副総理の何て事の無い言葉が私の心を確実に壊していく。

 

どうしてだ··········今まで完璧に進んでいた筈なのにいきなり何故こんな事になってしまったんだ!?

 

「どうしたのですか? 体調が優れないように見えますが?」

 

不味い·······ここでボロを出してはこれまでが水の泡だ。

 

「外務省職員は皆シ連や中国への対応に終われて休息が出来ていないと安川外務大臣から聞きました。

今のうちにちゃんと休息をお取りくださいませ。」

「そうさせていただきます··········」

 

鈴村総理の優しさに従って私は外務大臣政務官に代わりを任せて危機管理センターを出た。

 

部屋を出た私は迷わず個室トイレに駆け込んだ。

 

ドアの鍵を閉めると,壁にもたれ掛かり,そのままズルズルと床に座り込んだ。

 

あの話からたった数分経過しただけなのに既に全身に冷や汗をかいている。

体もまるで関節が壊れているかのように動かない。

 

気持ちを落ち着かせようとすると胃の中の物が一気に逆流してきた。

 

思わず便器に胃の中の物を吐いた。それ程までおかしくなっていたんだと自分でも驚いた。

 

さっきまでの意地はもはや何処にもなく,ここにいたのは目の前の現実にただ呆然としつくしているただの少女だ。

 

今から伝えても間に合わない。いやもう無理だ。まんまと嵌められた。

 

もしかして総理は私がスパイだと分かっていたのか!? そして敢えて見逃していたのか!?

 

もしそうだったら私はただ総理によって踊らされている操り人形(マリオネット)じゃないか!!

 

········最悪だ。私はただいいように使われた人形だ。KGBもきっと私を見放すだろう。もしかしたら暗殺するかもしれない。

 

例え日本にすがっても,警察に逮捕されるのは目に見えている。

ハッピーエンドという結果は到底来るわけがない······

 

私は一体どうしたらいいのだろうか··········




瀬名さん消えちゃったよ·········

二次創作怖い············

今回はテストが近かったので更新遅れました。

次回ですけど本音を言うともう出来ていますので明日ぐらいに更新します。


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Episode.32 蒼龍始動

※2023年8月13日
第4航空団を第3航空団に変更


北海道の東方に約10個程の島で構成された諸島が存在する。

 

太平洋戦争終戦以来80年以上に渡り,日本とシ連(ソ連)の議論の話題となった場所 北方領土。

 

北方領土最大の島 択捉島。島の南部に位置する火山 小田萌山にシ連軍はレーダーサイトを建設し,何時や来るかもしれない自衛隊に備えていた。

 

本日も何人ものレーダー員がディスプレイを見ながら日々の業務を行っていた。

そこにある隊員が陶器製のカップに並々のココアを入れて仲間の元に渡した。

 

「やっぱりこういう寒い日は暖かいココアが一番だ!」

 

渡された彼が嬉しそうにココアを飲み始めたその時だった。彼の目の前のディスプレイに突如として光点が出現した。

 

思わず彼は手を滑らせ,飲んでいたココアをカップごと床に落として,床に溢れたココアと割れた陶器カップの破片が広がった.

 

「なっ······なな!? どういう事だ!?」

 

彼の叫び声とカップの割れた音で周りも異変に気がついたようだった。

 

皆がディスプレイを見たのと同時に窓から眩い光が差し込み,時間差で爆発音が鳴り響き,窓ガラスは粉々に割れた。

それとほぼ同時にディスプレイの画面は黒く染まった。

 

ガラスが割れ,窓枠しか残っていない窓から隊員の1人が周囲を見渡すと,レーダーサイトがあった場所が原型を留めておらず,紅蓮の炎と黒煙に覆われていた。

 

「レーダーサイトが!! レーダーサイトがやられた!!」

 

彼の叫びがレーダー員を驚愕させているなか,彼らの目の前を3機の戦闘機がドップラー効果を発生させながら通過した。

 

彼らの目の前を通過したF-35JB(ライトニングⅡ)の胴体から火を吐き出しながら2発のミサイルが放たれ,1分も経たぬ内に爆発が起こり,遅れて爆音が聞こえてきた。

 

皆が爆発が起きた場所に何があるかは知っていた。

 

「飛行場が!!」

「おいおい嘘だろ!?」

 

小田萌山から北東に数kmの場所には軍用空港 ブレヴェスニク空港が存在する。

空港には5機のSu-35(フランカーE1)が配備されているが,飛び立つ気配は全く無い。

 

「なんと言う事だ···········」

 

彼らは迎撃される事なく択捉島の空を飛んでいるF-35JB(ライトニングⅡ)を見ながら,膝から崩れ落ちた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

北方領土から南南東に90km進んだ海域に2隻の巨大空母を中心に置いた艦隊が存在した。

 

艦隊先頭を「DDG-174 きりしま」が進み,中央の空母2隻の横には「DDG-201 いぶき」と「DDG-202 みょうぎ」が並走し,艦隊最後尾には「DDH-183 いずも」が守り,その間を6隻の護衛艦が展開していた。

 

中央の巨大空母 しょうかく型航空母艦「DDH-189 しょうかく」の戦闘指揮所(CIC)で2人の男女が話していた。

 

「択捉島と国後島の空港は全部叩いたそうだ。民間機は巻き込まれていないそうだが,何かと不安だよ。」

「そうならなかったのですから過度な不安は逆に神経を痛め付けますよ。」

 

「しょうかく」艦長 剱崎一輝(つるぎざき かずき)の言葉に隣に座っていた第1機動部隊(・・・・・・)司令で海上自衛隊初の女性司令官 榊原紫葉(さかきばら しよう)海将は“それもそうだな”と返した。

 

「取り敢えず後方の第2輸送隊の方に上陸用意って連絡してくれ。」

 

剱崎が艦隊後方に待機している第2輸送隊へと連絡しているのを横目に見ながら,座っている椅子の肘掛けを撫でる様に触れた。

 

「お前は一体何年ぶりの実戦かな? なあコンステレーション(・・・・・・・・・)。」

 

しょうかく型航空母艦はアメリカ海軍最後の通常動力空母キティホーク級航空母艦をフォレスタル級の様に退役後購入し,編入した物で「DDH-189 しょうかく」は元々「CV-64 コンステレーション」・「DDH-190 ずいかく」は「CV-66 アメリカ」を改造した物だ。

 

残りの「CV-63 キティホーク」と「CV-67 ジョン・F・ケネディ」は台湾海軍の方に渡され,中国が脅威を感じたのはまた別の話。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

一方の第1機動部隊より発艦したF-35JB(ライトニングⅡ)によって制空権を事実上失った択捉島では,自衛隊による上陸作戦の可能性が高まっていたために,海岸線沿いに戦力を集めていた。

 

島中の戦車・装甲車・トラック等の多数の軍用車両に加え,多数重火器・小火器が結集しており,上陸する自衛隊を撃破すべく兵士達の士気は高まっていた。

 

「士気が高いのは良いことなんだが空回りしなきゃいいがな·······」

 

択捉島駐屯部隊司令のターライド・スパークリア大佐は海岸で一番高い小山の頂上でこの様子を見ながら,高まり続けている士気に不安を漏らしたが,隣の参謀が不安など一切存在しないかのように返事をした。

 

「司令ご安心を!! 島内の戦力を結集したのですから自衛隊等一撃です!!

それにこの島にはK-300P(パスチオン-P)もあるんですから安泰ですよ!!」

「だといいがな·······」

 

ターライドは神威岳の方に配備されているであろう巨大な箱を積んだトラックを思い浮かべた。

 

K-300P NATOコードネーム SS-C-5 ストゥージ。シ連が2015年に開発した最も新しい地対艦ミサイル(SSM)で1両あたり2発のP-800(オーニクス)を放つことができ,空母打撃群・揚陸艦艇等を沿岸から攻撃する為に作られた正に艦艇キラーだ。

 

このミサイルが択捉島には2ユニット 8両・国後島には1ユニット 4両配備されており計24発のP-800(オーニクス)を発射可能だった。

 

この切り札に慢心している参謀に不安要素が更に増えたターライドが頭を抱えると,移動式レーダー車両から呼ぶ声がしたので彼は車内へと入った。

 

彼が車両内部のレーダー画面を見ると,画面はノイズが入った様に乱れており,正確な情報を掴むことが不可能になっていた。

 

「司令!! レーダーの調子がおかしいです!! 電子対抗手段(ECM)を使われた模様!!」

「くそ!! やりやがったな自衛隊め!! 全方位を警戒する様に全軍に通達しろ!!」

 

ターライドはレーダー妨害が日本の仕業だと判断すると共に,攻撃が近いと察した為,全軍に周囲の警戒を命じた。

 

この電子対抗攻撃(ECM)は安全圏を飛んでいた入間基地を離陸した航空戦術教導団電子作戦群所属のEC-2によって行われた物で,この機を駐留軍(彼ら)に撃墜する事は不可能だった。

 

「色丹島方面から敵機多数!!」

 

外からの叫びにターライドが車両から出て,首から下げていた双眼鏡で色丹島の方向である南西方向を見ると,青い空に擬態するかのように蒼い機影が幾つも浮かび上がっていた。

 

機体後部の巨大な単発エンジン,コックピット下の特徴的なエアインテーク,そして機体全体を包み込む蒼い洋上迷彩。

 

三沢基地を離陸した第3航空団所属のF-2A 6機は同じく飛び立った第601飛行隊所属のE-2D(アドバンスド ホークアイ)の指揮の元,攻撃地点へと向かっていた。

 

「不味い········全軍散開!! 一兵でも生き残れ!!」

 

ターライドが直ぐ様指示を出すが,もう手遅れだった。

 

E-2D(サティー1)よりF-2A(ベティー1)へ。まもなく攻撃目標地点。検討を祈る。」

了解(ラジャー)!』

 

IHI/GE F-110-IHI-129 ターボファンエンジンの出力が増加し,速度が上昇する。

 

爆弾(Fire)投下用意(lady)······(Now)!!』

 

操縦桿のボタンを操作して,主翼のハードポイントから4発のLJDAM(レーザーJDAM)が投下された。

 

エアインテーク脇に取り付けられたAN/AAQ-33スナイパーポッドのレーザー誘導を受け,計8発のLJDAMは目標地点に落下して爆撃した。

 

目標地点に置いてあったT-90や装甲戦闘車両 BMP-T・最新鋭の重歩兵戦闘車 T-15・クルガネツ-25・152mm自走榴弾砲(2S35 コアリツィヤ-SV)・パンツィーリ-S1がいとも簡単に吹き飛ばされる。

 

他のF-2A 3機もMk.82(500ポンド爆弾)を1機あたり12発ずつ投下して,目標地点を精密爆撃した。

 

残りの1機はLJDAM(レーダーJDAM)を神威岳のK-300P(パスチオン-P)に直撃させ,16発の対艦ミサイルの弾頭が誘爆,周囲を巻き込みながら巨大な爆発が起きた。

巨大な衝撃波が周囲を無慈悲に襲い,黒い爆煙が高く舞い上がる。

 

機体が去り,爆煙が消えた後にそこに残ったのは深く抉れた地面と,車両や兵器であった物の残骸,まるで炭の様に黒く焼き焦げ,原型を留めていない遺体だけだった。

 

択捉島以外にも国後島・色丹島にも計18機のF-2Aによる精密爆撃が行われ,陸上戦力の大半を失った。

 

結果,たった1時間にして北方領土のシ連軍は制空権・制海権に加え,大半の陸上戦力を喪失した。




この回書くのめっちゃ楽しかったです。そのお陰で最新話より早く書き終わったのは内緒w

今回は文字数は少ないですが,その分内容は濃いと思っています。

シ連レーダー員のくだりは「こりゃあ旨いココアだぜ」を思い浮かべながら書きましたw

次回も明日更新です。


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Episode.33 ワンサイドゲーム

2021 5/25 部隊名を追加


北方領土攻撃中の第1機動部隊の後方5kmの海域に300m越えの巨大空母を中心に複数の巡洋艦・駆逐艦で輪形陣を構成した艦隊が航行していた。

 

アメリカ海軍艦隊の中で唯一恒久的にアメリカ国外に母港を保有し,世界の艦隊の中でも精鋭の艦隊 第7艦隊は悠然と航行していた。

 

艦隊中央のジェラルド・フォード級「CVN-80 エンタープライズ」の艦橋(アイランド)では1人の将校が報告を受けていた。

 

「「DDH-189 しょうかく」より通信! “我が航空隊,北方領土全域の制空権を確保した。これより上陸作戦に移行する”以上!」

「御苦労だった。下がって良い。」

 

「エンタープライズ」艦長 ライダー・J・マッカートニー大佐は報告した兵が下がると,5km先に展開している第1機動部隊の方角を見た。

 

「最初は第2機動部隊があれだからどうなるかヒヤヒヤしたが,まさかここまで一方的とは········最早シ連軍がかわいそうに感じるレベルだ。」

 

彼の言葉は最早シ連への同情も感じられる程だった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

F-2Aによる爆撃から1時間が経った頃。

 

択捉島の海岸10kmの海域に3隻の輸送艦で構成された第2輸送隊と護衛の「DD-105 いなづま」と「DD-110 たかなみ」が展開していた。

 

第2輸送隊はシ連・中国との島嶼戦(とうしょせん)に備えると同時に,災害派遣等でも第1輸送隊のおおすみ型3隻では足りなかった事から,アメリカ海軍の新型揚陸艦 アメリカ級強襲揚陸艦 フライトⅡをモデルに建造された“つがる型揚陸艦”3隻を配備された新鋭の輸送艦部隊である。

 

「LST-4004 つがる」・「LST-4005 ねむろ」・「LST-4006 のと」の艦尾門扉が開き,ウェルドックからエアクッション艇(LCAC)が1隻ずつ海上に下ろされた。

 

それとほぼ同時にヘリコプター甲板からも各艦3機ずつヘリコプターが離陸した。

 

爆撃を辛うじて生き残ったマイトン少佐はもうただの障害物に化したT-15の陰から双眼鏡で飛び立った機体を捉えた。

 

AH-1Z(ヴァイパー)···········」

 

人1人しか入れない程横幅が細い灰色の機体構造・機体上部のエンジン脇の2つの巨大なエアインテーク・コックピット下に取り付けられたヘルメットと連動するガトリング砲。

 

本来AH-1S(コブラ)の代機はAH-64D(アパッチ・ロングボウ)62機の予定だったが30機に縮小され,代わりに配備したのがAH-1シリーズの最新型 AH-1Z(ヴァイパー)だった。

 

当初は野党から“金の無駄遣い”等論争を起こしたが,現在第1対戦車ヘリコプター隊所属のAH-1Z(ヴァイパー) 9機は自らの役割を果たすべく飛来した。

 

敵残存部隊に対して両脇の小翼(スタブウイング)に取り付けられた2基のミサイルポッドからハイドラ70ロケット弾が19発ずつ1機あたり計38発放たれた。

 

ロケット弾が着弾し,兵士や武器を吹き飛ばし,地面が抉れた。

M197機関砲による追い討ちも拍車をかけ,たった数分でシ連軍は海岸から消えていた。

 

マイトン少佐も逃げようとしたが,爆発の衝撃で転倒して頭を強打し,そのまま意識を落とした。

 

穴ぼこだらけになった海岸に計6隻のエアクッション艇(LCAC)が乗り上げた。

 

エアクッション艇(LCAC)前面の扉が開き,自衛隊員の誘導の元,搭載されていた車両と人員は択捉島へと降り立った。

 

搭載物を全て下ろすと,エアクッション艇(LCAC)は再び扉を閉め,海岸を離礁し,輸送艦とのピストン輸送の仕事につくのだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「くそっ!! ここまで我々がやられるなんて!!」

 

択捉島で奇跡的に爆撃を免れたT-90のキューポラから車長のライトン大尉は周囲を見渡しながら不満を爆発させていた。

 

彼が配備されていた部隊はT-90を10両程配備する戦車連隊だったが,F-2AとAH-1Z(ヴァイパー)の無慈悲な攻撃で現在はたった2両しか残っていなかった。

 

ライトンは組織的な攻撃は不可能と判断して,自衛隊への待ち伏せ攻撃を行うべく,現在もう1両のT-90と共に物陰に隠れていた。

 

だが突如反対側に配備されていたT-90が爆発した。砲塔が爆発で空中に持ち上がり,元あった位置からずれて車体に落下した。

 

「なっ··········」

 

ライトンは思わず言葉を失った。そして彼は双眼鏡で辺りを見回すと,T-90(仲間)を撃破した犯人を見つけた。

 

四角く画張った砲塔・なだらかに後部に上がっていく車体・特徴的な濃い色の迷彩。

 

「90式········」

 

第7師団第7偵察隊所属の90式戦車が彼の視線に写った。

 

彼は咄嗟に自らの危険を察した。90式()T-90(仲間)を簡単に撃破した。

つまり奴の目標は自車だということが自動的に導かれたのだった。

 

「主砲を敵戦車に向けろ!! 急げ!!」

 

T-90の回転砲塔が右旋回する。主砲の直線上で90式と交差した。

 

Стрельба(発射)!!」

 

T-90の2A46 125mm滑腔砲が90式に向け放たれた。長い矢の様な物の周りについていた装弾筒が分離し,長い矢の様な物 APFSDSが90式側面へと直撃した。

 

「命中だぁ!! これでぇ······あ?·····あぁぁぁぁ!?」

 

ライトンは情けない声をあげた。弾頭が直撃した90式戦車は装甲が歪んだだけだったからだ。

 

それもそのはず90式戦車の装甲は拘束セラミック型を装備しており,砲弾が命中したら逆に装甲を強化して砲弾自体を破壊し,万が一破壊してもその際に発生する高熱でセラミックが再焼結し自己再生するという異世界転生チート主人公ですら呆然とするレベルのチート能力なのだ。

 

ライトンが驚愕して固まっている間に90式は自らの砲塔をT-90へと向けた。

 

ドイツ ラインメタル社が開発した傑作戦車砲 ラインメタル 120mm L44滑腔砲が火を吹いた。

 

T-90と同じように装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)が放たれ,T-90の車体に一直線に衝突した。

 

直撃した場所はよりによって爆発反応装甲(ERA)が存在しない車体中央下部の履帯だった。

T-90の原型であるT-72は,弾薬を被弾の可能性が低い車体底部に集約しているのだが,その構造の結果誘爆した際に爆風が戦闘室を直撃し,一撃で戦闘不能に陥るというとんでもない欠陥を抱えていた。

 

実際に湾岸戦争やイラク戦争でそういった撃破された例があり,その実例がこの現場にも適応されていた。

 

APFSDSの侵徹体と衝撃波が車内に侵入し,回転型自動装填装置(6ЭЦ40)を破壊した。

自動装填装置が破壊され,ちょうど装填中だった弾頭が誘爆し,車体底部の弾薬を巻き込んで大爆発した。

 

砲塔は吹き飛び,車体は内部から破壊され,ライトン大尉以下乗組員を肉片に変え,そのままT-90はただの鉄屑に化した。

 

戦車2両を撃破した90式は本部隊を安全に上陸させるために進軍した。

 

途中人海戦術で撃破しようとした部隊に対しては,砲塔上面に取り付けられたブローニングM2重機関銃(12.7mm重機関銃M2)で対処した。

 

その際に対戦車擲弾発射器 RPG-32の直撃を受け,機銃手が損傷する事態が起きたが,車体自体に重大な損傷はなく,機銃手も「つがる」で治療され,一命を取り留めた。

 

この他にも後方から奇襲しようとした部隊もいたが,同じく第7偵察隊所属の2両の89式装甲戦闘車のエリコンKD 35mm機関砲で一掃された。

 

偵察隊の先導の元,第7師団 第72戦車連隊と第11普通科連隊第1・2・4普通科中隊が上陸し進軍を開始した。

 

連続の攻撃で組織的な攻撃が不可能になったシ連軍は散発的な攻撃を行っただけで,第7師団は島の中央部へと容易に進軍出来た。

 

択捉島最大の都市 紗那村(クリリスク)に到着した彼らは直ぐ様駐屯軍司令部を占拠した。

 

占拠過程で残党兵からの反撃があったものの,直ぐに殲滅された。

 

択捉島駐屯軍司令のターライド大佐は先程のF-2Aの爆撃で戦死していた為に代行していた中佐は降伏を決定した。

 

択捉島駐屯軍降伏と同時刻,別の場所でも戦闘が起きていた。

 

択捉島から国後島に向かった3機のAH-1Z(ヴァイパー)の機首のM197機関砲が回転しながら毎分650発の発射速度で20mm口径弾が地上に斉射された。

 

小翼(スタブウイング)にハイドラと共に装備されていたAGM-114(ヘルファイア)が放たれ,T-80Uを簡単に撃破した。

 

地上の脅威が無くなり,AH-1Z(ヴァイパー)が去ると,同じくヘリコプター甲板から離陸した北部方面ヘリコプター隊のUH-1Y(ヴェノム)6機が上空に現れた。

 

「よし。降下開始!!」

 

機体側面の扉が開き,地上へと数本のワイヤーが垂らされると,それを伝ってある意味頭のおかしい陸上自衛隊の中でも一番おかしい部隊 第1空挺団第3普通科中隊60名が国後島メンデレーエフ空港へと降り立った。

 

いとも簡単に着地すると直ぐ様自らとワイヤーを切り離して,空港に隣接している国後島駐屯軍司令部へと迷わず向かった。

 

司令部内はやけに閑散としていて廃墟の様な雰囲気を漂わせていたが,空挺団中隊長大河以下全員は直ぐに罠だと気がついた。

 

「奴ら待ち伏せしているな。警戒しておけ! 何処から攻撃が来るか分からんぞ!!」

 

周囲を万全に見渡し,厳重に警戒しながら彼らは進んでいく。

 

進んでいくと左に90°折れ曲がった曲がり角に突き当たった。L字の先は顔を出さなければ視認できないだろう。

 

彼らはそこで一時停止した。中隊長の大河に隊員の1人である 宮崎が話しかけた。

 

「中隊長黒ですか? 白ですか?」

「黒だろうな。」

 

大河はMk.2破片手榴弾のピンを口で抜き,廊下の奥へと投げた。手榴弾が爆発し,何かが崩れる音と金属物が地面に当たる音が響いた。

 

「それっ! 突撃ぃ!!」

 

宮崎以下数名の隊員が煙の奥の人影に向けて89式小銃を放った。

 

人影が地面に倒れると,彼らは無駄の無い動きで素早く目的地へと進んだ。

“司令官室”と書かれた部屋の扉を先程の様に手榴弾で爆破して室内へと突入した。

 

中にいた駐屯軍司令は直ぐに降伏した。

 

この他色丹島・歯舞群島でも同様に攻撃が行わ,それぞれ降伏した。

 

最初の攻撃からたった数時間で北方領土全域は日本の占領化に下った。




日本国召喚wikiの兵器ページが有能すぎる······90式のセラミック装甲めっちゃ分かりやすかった。

あそこまで有能なサイトって他にありますかね?

3日連続更新は今回で終わりですので,次回から通常に戻ります。


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Episode.34 風向き

※2021 7/19 内容を変更
第7潜水隊を第7潜水隊と第8潜水隊に変更
ハープーンの発射位置をVLSから魚雷発射管に変更&攻撃手段からトマホークを削除。

※2021 8/3 艦名を変更
「SS-514 とうりゅう」を「SS-514 しんりゅう」へ変更&第2潜水隊群第4潜水隊に「SS-512 とうりゅう」を追加。


北方領土奪還作戦“Operation蒼龍”が実施されている頃。「DDH-185 あまぎ」艦長 桐島は格納庫にいた。

彼の目の前には十数機のF-35JC(ライトニングⅡ)が機首を艦首に向けて並んでいた。

 

桐島はその内の1機に手をかざした。

 

彼は元々パイロットだ。艦よりも機の方をよく知っている。

 

明らかに艦長より戦闘機パイロットが天職の彼がわざわざ艦長になったのは,自らの意思だ。

 

だがそんな自分の思いは叶うわけがなかった甘すぎた妄想だと彼は痛感した。

 

「何か悩んでそうだな。まあ大体さっきの事だろ?」

 

桐島が振り返ると,そこには渡島がいた。

 

渡島のさっきの事とは「AOE-427 いなわしろ」が被雷したことだ。

 

あの後雷撃で大破した「いなわしろ」と降伏した「K-295 サマラ」の護衛の為に,第14護衛隊「DD-151 あさぎり」と「DD-156 さわぎり」が舞鶴から急行し,「DE-232 せんだい」と共に護衛して舞鶴へと帰港した。

 

「いなわしろ」が大破した為に艦隊の半分の艦艇しか補給を受けられなかったが,故に艦隊はあと1回しか戦えなく(・・・・・・・・)なっていた。

 

これはつまりあと1回の戦闘で全てを終わらせろ(・・・・・・・・・・・・・・・・)と言っている様な物だ。

 

一応舞鶴には「AOE-425 ましゅう」もいるが,自衛艦隊司令部は貴重な補給艦を失ったために慎重になっており,派遣は不可能だと彼は思っていた。

 

だが彼の事を痛め付けていたのは艦隊の事ではなかった。

 

「確かにそっちもですが,大半は自分についてですよ。」

 

彼は先程の潜水艦隊との戦闘前に“艦隊に一本たりとも魚雷を当たらせはしない”と宣言した。

これは艦隊の士気高揚目的ではなく自らへの(くさび)だった。

 

だがその楔は1時間も経たない内に無意味な物へと化した。楔はボロボロに砕け散り,楔で自ら開けた穴が自らを痛みつける最悪の状態だった。

 

「もう壊れてしまいそうですよ······たった1隻の船ですら守れないのですから。」

「“壊れてしまいそう”か········言ってしまうと余計壊れやすくなってしまうがいいのか?」

「問題ないです。どうせいつか壊れてしまいますから··」

 

自信など最早割れたガラスの様に意味をなさなくなっていた。

そんな様子の桐島に渡島は怒りを感じた。

 

彼は分かっていた。桐島(こいつ)はこういう奴だと。

自らの当初の計画が破綻すると全てが破綻するのが桐島の悪い癖だ。

彼が艦長になると分かった時,渡島は困惑した。彼が艦長で果たして成り立つのか? 彼によって何か起きるんじゃないかと。

 

その後彼は第47航空団司令として「DDH-185 あまぎ」へと着任した。

 

その際に久々に桐島と対面したが,副艦長の長瀬と艦隊司令で義父の石見のサポートもあってしっかりと仕事がこなせていると感じた。

 

彼自身も慣れない環境で頑張っているのだろうと思ったが,それと同時にどちらかが欠けた場合彼のメンタルが保てるのかという疑問が浮かんだ。

 

そしてそれは最悪の場面で襲来した。艦隊司令が事故でいない時にシ連が朱雀列島を占領した。

 

艦隊指揮権と「あまぎ」艦長という2つの枷が重くのし掛かった。

重くのし掛かった2つの枷は桐島のメンタルを簡単に壊していった。

 

「自分は1時間前に言ったことも達成できないようなただの無能ですよ。」

 

もう彼は自信を失っている。それは彼以外の誰が見ても分かることだったが,彼はそれを隠していた。

 

桐島が壊れれば艦隊全てが崩れ去る。桐島はそれを一番理解していたが,隠せば隠すほどメンタルは痛め付けられていった。

 

「一雨来そうなので······機体を宜しく頼みますよ。」

 

そう言い残して桐島は格納庫から去った。残された渡島はただそこに立っていた。

 

「一雨···あいつまさか!?··········副艦長に伝えないければ!!」

 

自身の嫌な予感を消すために渡島は行動を開始するのであった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

桐島と渡島の話とほぼ同時刻。

 

朱雀列島北北東80kmの海上を7隻の船で構成された船団が航行していた。

 

朱雀列島増援部隊を乗せたシ連海軍大型揚陸艦「BDK-11 ペレスヴェート」と護衛の駆逐艦2隻とコルベット4隻で構成された船団は輪形陣で朱雀列島へと進んでいた。

 

先頭は対潜能力に優れたウダロイⅡ級駆逐艦「アドミラル・トリブツ」と「マルシャル・シャポシニコフ」が進み,搭載されている対潜ヘリ Ka-27(ヘリックス)と共に厳重な対潜体制を敷いていた。

 

「私がもし潜水艦の艦だったら,こんな厳重な対潜対策している艦隊になんか攻撃したくないもんだ。

こんな艦隊を相手にする日本の潜水艦が可哀想だと思わず思ってしまうよ。」

 

輪形陣先頭に陣取っている「アドミラル・トリブツ」の艦橋で艦長はそう呟いた。

艦橋要員がその発言に笑っていると,レーダー員がいきなり大声をあげた。

 

「1時方向敵ミサイル!! 距離30km!! 数4!!」

 

艦橋にさっきまで漂っていたまったりとした空気は一瞬で消え失せた。

艦長は冷静に判断を下した。

 

「「ペレスヴェート」に近づけるな!! 艦対空ミサイル(SAM)発射!! 全発撃ち落とせぇ!!」

 

「アドミラル・トリブツ」の前甲板の8連装回転式VLSから3K95(キンジャール)が4発撃ち上がり,迫ってくる敵ミサイルへと直撃した。

 

ミサイル同士がぶつかって爆発したために,「アドミラル・トリブツ」の船体は揺れ,艦橋の窓は爆風で痺れる様に揺れた。

 

「ミサイル全発撃墜!! あ!? 10時方向からミサイル!! 距離30!! 数4!!」

「そっちからもか!! 母体は航空機か!? それとも潜水艦か!?」

「詳細不明!!」

 

隣の「マルシャル・シャポシニコフ」から艦対空ミサイル(SAM)が撃ち上がり,飛んでくるミサイルを撃墜する。

 

だが1分も経たぬ内に正面の海上から再び敵ミサイルが6発ずつそれぞれ5秒の時間差を保ちながら亜音速で接近してきた。

「アドミラル・トリブツ」の艦長は冷静に状況を把握して指示を出した。

 

艦対空ミサイル(SAM)は間に合わない!! 主砲とCIWS発射!!」

 

2隻の駆逐艦の前甲板に設置されている2基の100mm単装速射砲(AK-100)と船体のAK-630(CIWS)が火を吹いた。

 

残るコルベット4隻と「ペレスヴェート」も自らの76mm単装両用砲(AK-176M)AK-630M(CIWS)で迎撃を開始した。

 

艦隊から10km程でミサイルは上昇(ホップアップ)を始める。

被弾面積が拡大した所に「マルシャル・シャポシニコフ」から放たれた主砲砲弾がミサイル本体に直撃した。

 

直撃したミサイルは軌道を乱し,隣を飛んでいた自衛隊(味方)のミサイルと接触し,連鎖して爆発した。

 

連鎖爆発でたった1発の砲弾で計3本のミサイルを撃墜に成功する大戦果をあげたが,彼らの幸運はそれまでだった。

 

「ペレスヴェート」から見て5時方向で対空砲火を必死に打ち上げていたタランタル型コルベット「R-20」に1発の艦対艦ミサイル(SSM)が直撃した。

 

巨大な閃光が周囲を包み込み,爆発の轟音が響き渡る。

 

光が止むとさっきまで「R-20」がいた場所には船体の残骸と燃料が広がっているだけだった。

 

「「R-20」·····轟沈!!」

 

見張り員の報告に「ペレスヴェート」の艦橋は恐怖に包まれた。

 

さっきタランタル級コルベット「R-20」と言ったが,この艦の艦種は大型ミサイル艇で,タランタル級ミサイル艇と言った方が間違いないかもしれない。

 

艦橋の両脇にソ連(シ連)製の艦対艦ミサイル(SSM)3M80(モスキート)連装発射機2基計4発を装備している。

着弾した1発の艦対艦ミサイル(SSM)はそれを一瞬で誘爆させ,排水量500t程のミサイル艇を漁礁へと変えた。

 

彼らが目の前の惨劇に動揺していると,今度は2時方向で光がはぜた。

 

光と轟音が空中を切り裂くように響き渡った。光と轟音が収まるとそこにいた筈の「R-261」は海の底に消えていた。

 

艦橋にいた者は皆察した。“次に殺られるのは「アドミラル・トリブツ」(あの艦)だと”。

 

恐怖に戦く中,Ka-27(ヘリックス)から衝撃の報告が入った。

 

6時方向(・・・・)からミサイル!! 距離30km!! 数6!!』

「なんだとぉ!?」

 

この報告で皆敵が潜水艦だと察したがそれどころではなかった。

6時方向。つまり艦隊の一種の死角でもある真裏からミサイルが来るという事だ。

 

しかも艦隊後方を護衛するのはAK-630M(CIWS)しか対空兵装のないタランタル級コルベット。

 

直ぐ様AK-630M(CIWS)を旋回させ攻撃するが,ミサイルに当たることはなく,敵ミサイルはシースキミング状態から急上昇(ホップアップ)し,誘導方式を慣性航法(INS)からアクティブ・レーダー・ホーミング(ARH)へと変え,まるでジェットコースターの様な急降下(ダイブ)を始めた。

 

漸く駆逐艦から艦対空ミサイル(SAM)が発射されたがもう遅かった。

 

3発のUGM-84(ハープーン)が「BDK-11 ペレスヴェート」の船体に直撃した。

 

搭載されていた燃料・弾薬に引火し,誘爆を起こす。艦内から起きた爆発で船体は簡単に崩壊していった。

 

シ連軍朱雀列島増援部隊を乗せた「ペレスヴェート」と3隻のコルベットは10分程で海の藻屑へと化した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

シ連海軍艦隊から南西110kmの海中。深度10mの暗い海にその3隻は展開していた。

 

第3潜水隊群第7潜水隊。別名“亡霊艦隊(ファントムフリート)

 

こう呼ばれているのには理由がある。何故なら艦隊を構成している艦が全て原子力動力艦(・・・・・・)だからだ。

 

日本初の原子力軍艦であった為に,メディアや野党等は猛反発し,内閣不信任決議案提出による衆議院選挙に至る事態にまで発展した。

 

結果導入に賛成の鈴村隆治が前総理の荒山鉄二を抑えて第100代総理大臣に就任した為に導入が決定し,現在に至っていた。

 

ただし“日本初”と言っても日本による新造艦ではなく,全てアメリカ海軍“ロサンゼルス級原子力潜水艦”の退役艦を自衛隊が購入した物だった。

 

時々メディアや本で“新造艦”と間違えられる事もあるという余談はさておきこの6隻は艦首の魚雷発射管からUGM-84(ハープーン)を発射して敵船団を半壊させた。

 

と言ってもこの艦隊はタランタル級2隻を沈めただけで,残る1隻と「ペレスヴェート」(本命)は後方に展開した同じ第3潜水隊群第8潜水隊所属の「SSN-717 オリンピア(SS-516 かいりゅう)」と「SSN-715 バッファロー(SS-517 こうりゅう)」によって行われた物だったが。

 

「敵艦隊半壊········初陣にしては上出来の戦果だったな。」

 

ロサンゼルス級原子力潜水艦もといひりゅう型原子力潜水艦「SSN-669 ジャクソンビル(SS-513 ひりゅう)」の艦長の発令所で礼記 遙人(らいき はると)1等海佐は戦果を確認した。

 

周囲の駆逐艦2隻とコルベット1隻は乗組員の救助に追われて,敵潜に向ける目は少なくなっていたこともあって「SSN-700 ダラス(SS-514 しんりゅう)」が危険を犯して接近し,潜望鏡で艦長自ら確認した為にこの情報は確実だと礼記は確信した。

 

「これでシ連海軍は貴重な揚陸艦を失った。もう迂闊に動かすことは出来ないだろうな。」

「まるで今の海自の補給艦(うちら)みたいですね。」

「気の効いた皮肉だな。そういえばさっきの通信は何だったんだ?」

「それなんですが········」

 

話していた乗組員は話しづらそうに躊躇ったが,通信内容を礼記に伝えだした。

 

「「SS-509 せいりゅう」からの通信で,“ウラジオストク東90kmの海域で,シ連海軍補給艦が攻撃を受け炎上中。攻撃先は不明”だそうです·····」

「········どういうことだ?」

「どうと言われても答えようが······」

 

彼らは困惑した。

 

彼ら以下現在日本海で行動している第2潜水隊群と第3潜水隊群に市ヶ谷の防衛省から“シ連及び中国の補給艦を沈めろ”と連絡が入った。

 

貴重な補給艦が殺られ,防衛省が怒り狂っている事が通信だけで彼らに伝わった。

 

第6潜水隊の「SS-509 せいりゅう」も同じ部隊の「SS-506 こくりゅう」と「SS-512 とうりゅう」を連れて,補給艦を探し回っていた所,偶然遭遇したのだろうと礼記は考えたが,あることが突っかかった。

 

(この内容だと自衛隊(我々)以外の攻撃でシ連の補給艦が沈んだという解釈になるが,だとすると一体何から攻撃を食らったんだ?)

 

礼記は考えたが,納得できる答えが出ることはなかった。

 

「通信手。「せいりゅう」に“近海に友軍艦以外の艦艇は存在するか”と連絡してくれ。」

 

潜水艦の通信方法には幾つかの種類があって,海中深くまで到達する極超長波(ULF)通信・超長波(VLF)通信等があるがこちらの2つは地上からの単方向通信で,潜水艦が発信する事は出来ない。

 

その為彼らが使用する通信方法はマイクロ波通信が基本である。

 

「ひりゅう」はマストの通信アンテナを海上に上げ,通信衛星経由でのマイクロ波通信を行った。

 

返信は10分程で来た。

 

「返信来ました。“近海には中国海軍派遣艦隊6隻及び091型原子力潜水艦1隻を確認”だとの事。」

「友軍艦は無しか······」

 

新たに得られた情報から礼記はある答えに至った。

 

「まさか中国海軍がやったのか?」

「そんなのあり得ないですよ。第一中国にはシ連を攻撃する理由がありませんし。」

 

隣の副長はこの考えを真っ先に否定した。礼記自身もこの答えには納得出来てなかった為に,

 

「それもそうだな。シ連と中国は同盟関係にあるしな。」

 

礼記は現時点で答えのでない疑問を頭の隅に置いて船の指揮へと意識を振り向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その答えが大当たりだとは知らずに。




小説のあらすじがなんか違和感が満載でしたので変えました。
その結果長くなってしまいましたw

あと今更ですが日本国召喚6巻買いました。


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Episode.35 密告

外務大臣の安川孝之(やすかわ たかゆき)とアジア大洋州局局長 嬉島雅樹(うれしま まさき)は現在港区の中国大使館の会議室にいた。

 

現在時刻は13時になろうという頃。彼らは5分程ソファーに座って駐日大使が来るのを今か今かと待っていた。

 

「まだなのか·········もう13時になるぞ。」

「大臣。現在大使館は非常に立て込んでいて,仕事が詰まりに詰まっている可能性もあるので,一旦落ち着きましょう。

·······まあ呼び出して待たせるあちらもあちらですが。」

 

嬉島は安川を落ち着かせようとして,本音が盛大に漏れていたが安川は敢えて流した。

 

と,会議室とドアが開かれ,1人のスーツを着た男性が入ってきた。

 

「長らく待たせてしまって申し訳ありません。本国から急の電話が入ったもんでして。」

 

流暢な日本語で挨拶してきた駐日中国大使 周・浩宇(ヂョウ・ハオユー)は目の前のソファーへと座った。

 

周が座ると安川が口を開いた。

 

「いえ,我々も5分前に来たばかりですから。それで私直々に話したい話とはなんでしょうか?」

 

いきなり斬り込んだ安川に嬉島は驚いたが,周は動じずに答えた。

 

「単刀直入に言わせて貰いましょう。中国(我々)はシ連へと宣戦布告(・・・・)を行います。」

 

2人は瞳孔を見開いて驚愕した。

 

「申し訳ありませんが,もう一回言って貰って結構ですか?」

「えぇ,我々中国はシ連へと宣戦布告を行い,貴国の朱雀列島奪還を支援します。」

 

安川は自分の耳が狂っているのではないかと疑い,思わず左耳を左の小指でかいた。

 

中国が日本を支援する。日中の政治について知識を得ている者ならこの言葉を信じるなんてまず思わないだろう。

 

日本と中国は長らく尖閣諸島を巡って対立しており,いきなり手を組もうなんて言っても信じる事が出来ないのが当たり前だろう。

 

それは安川も同じだった。彼は外務大臣であったために,中国政府との会談に関する情報を逸早く正確に手に入れる事が出来ていた。

 

その為にこれまでに中国が取ってきた行動をほぼ把握しており,個人的には“武力攻撃以外解決は不可能”だと考えていた。

 

だからこそこんな発言が余計信じられなかった。チラッと横を見ても長らくアジア大洋洲局局長として会談を行ってきた嬉島ですら,驚きの顔をしていた。

 

安川はこうしていては埒が明かないと察し,口を開けた。

 

「つまり中国はシ連を裏切るという事ですか。」

「そう考えて貰って結構です。」

 

キッパリと言い切った周の言葉に安川は彼の言っている事が本気だと感じたが,未だに中国が手を組む代わりに何をしてくるかが分からず,ただ黙り込んだ。

 

「その顔は信じられないと語ってますね。まあ無理もありません。

証拠と言ってはなんですが,先程我が軍の駆逐艦がシ連の補給艦を撃沈したと連絡が入りました。

恐らく貴国でも情報収集衛星か何かでもう確認しているでしょう。」

 

シ連の補給艦·········そう第6潜水隊が炎上しているのを確認したシ連海軍補給艦「ボリス・ブトマ」の事だ。

 

この補給艦は護衛のタランタル型コルベット「R-11」・「R-297」と共に太平洋艦隊への補給へと向かった所を中国海軍派遣艦隊所属の「115 瀋陽(シェンヤン)」・「116 石家荘(セッカソウ)」の艦対艦ミサイル(SSM) YJ-83を食らって反撃する事なく護衛もろとも文字通り撃沈したのだ。

 

「確か貴国の補給艦も1隻殺られてましたな。これで双方同じ条件になりましたな。」

 

“日本に対して恩を売ったのだろうか?”と安川は考察した。

 

「補給艦撃沈に関しては感謝したい所ですが,数時間前に貴国の北海艦隊が母港の青島を出撃したのを確認しましたが,それに関してはどうするつもりで?」

「北海艦隊はシ連を欺くために出撃させただけであって,攻撃を行う意志はありませんよ。

もし信じられないのであれば貴国の艦艇か航空機で艦隊を監視すれば良いでしょう。」

 

再び斬り込んだ安川に難なく返した周に2人は返事を返せなかった。

 

自国の艦隊を他国の軍に監視させる。それが軍事同盟を結んでいる国家ならまだしも,今回はまさかの対立している国家の軍にやらせるという行為に中国(彼ら)が本気で言っているのだと2人はもう一度確信した。

 

だが2人は未だに信じる事は出来なかった。

 

世の中には“昨日の敵は今日の友”という(ことわざ)が存在するが,2人はその(ことわざ)が中国に通用するとは思えていなかった。

 

2人は例え今2国が手を取り合っても,尖閣諸島の問題は解決する筈がなく,寧ろ悪化するのではないかと推測していた。

 

シ連を倒した対価として尖閣諸島を要求する。中国ならざらにあり得そうな要求だと安川は思っていた。

 

だが周は予想の斜め上を言っていた。

 

「言わせて頂きますが,今回の事態について我々は日本に対価は求めません(・・・・・・・・・・・)。」

 

安川は一瞬“聞き間違いか?”と思って右頬を軽く叩いたが,叩かれた感覚が顔に伝わったために,現在だと思い知らされた。

 

「今回の共同戦線による朱雀列島奪還が成功した場合,体制がボロボロなシ連はいとも簡単に崩壊するでしょう。

もし仮にシ連が崩壊した場合我々は多くの利益を得ることが出来ます。

貴国から無理矢理でも利益を得るより,充分に且つ多くの利益を得られるのです。」

 

周は一区切り打って,持ってきていたペットボトルの水を飲んで喉を潤すと,

 

「ですが勘違いしないで頂きたい。我々はシ連を倒すために,あなた方と一時的な共同戦線を貼るだけであって尖閣諸島に関しては譲る気はありません。

シ連を倒したら共同戦線も即解散ですよ。」

「そうですか。あなた方の意見は充分に分かりました。

ですが私はあなた方が朱雀列島をどさくさに紛れて占領するのではないかと感じましたが,そこはどうなんですか?」

 

再び斬り込んだ安川は今回こそは手応えを得た。

 

だが周は一旦黙ったが,少し苦笑いすると,

 

「それについてですが,そもそも朱雀列島は我々にとって使い道はありません。仮に領土に組み込んでも飛び地になるので,占領に一苦労するのが素人でも目に見えています。

我々が尖閣諸島や南沙諸島へと進出しているのは,しっかりとした利益を得られるからであって,何の利益を得られない朱雀列島を占領するのはただ国に負担を与えるだけですから。

ですがもしかつての関東軍の様に軍部が従わないのであれば,国連に訴えて貰っても結構です。

今回だけは我々も賛成(・・・・・)しましょう。」

 

安川と嬉島の2人はもう呆気にとられるしかなかった。

 

“ここまで日本に譲歩する中国があったか!?”それが2人の同じ思いだった。

“目の前の人物は中国人じゃなくて日本人じゃないのか!?”なんて安川が考えていたら周が口を開いた。

 

「驚かれるのも無理はありませんよ。我々中国にとってシ連からの解放は国民誰もが望む事です。」

 

周は続けた。

 

「シ連の建国に感銘を受けた当時のバカな政府は,シ連と軍事的な同盟を結びました。

恐らくソ連の技術を盗んで,国家繁栄に使おうと画策したのでしょうが,実際我々は使われるばかり。

あちらがウリヤノフスク級空母(原子力空母)を就役させてからは,我々に大きな圧力をかけ始め,軟弱な政府はそれに従った。

こんなバカな国家,絵本の中にだってありませんよ。」

 

周の右拳は強く握られており,シ連に対する強い憎しみを感じられた。

 

「ただの傀儡国家とかした中国を変えてくれたのは(リー)主席です。

シ連にすがり付いていた腐敗した幹部を一新し,政府内の空気を一新させてくれました。

私だってただの外交部の役員の1人だった所を,拾ってくださって今こうして話せるのですから。

主席はシ連を倒す事を望んでいます。主席はその為には“アメリカとでも手を組む”と言っておりました。

あなた方に受けられないのは最初から分かっておりますが,我々は本気です。どうかそこはご理解をお願い致します。」

 

そう言って周は頭を下げた。常に低姿勢だった周にもう2人は驚かなくなっていた。

最初から何も話していなかった嬉島が小声で,安川に話しかけた。

 

「大臣どういたしましょう? 私にはあまりに上手く出来すぎて信用できませんが,大臣としてはどうですか?」

「私もそこには納得だ。だがな·····」

 

嬉島は“だが?”と疑問系で安川に疑問の答えを聞いた。

 

「彼個人としては本気なのだろう。私個人としては国家としては信用出来ませんが,あの方自身は信用出来ると思っています。

そして何よりここで手を組むしか,突破口を開くことが出来ません。」

 

安川は外交官だ。彼はかつて駐米及び駐韓日本大使を勤めた事がある。

そして幾度もアメリカ・韓国政府と難航な交渉を行った経験を持っている。

 

外務大臣になった後も各国の駐日大使と幾度も会談を実施した。

その為に大使の言葉遣いや仕草で会談内容の本気度を察する事が出来るようになっていた。

 

今回の周の様子から彼は中国が共同戦線を本気で行おうとしているのだと察していた。

 

そして何より彼······いや日本政府は今回の事案の早期終結を望んでいる。

 

大陸国家のシ連と島国の日本。もし総力戦になった場合にどちらに軍配が上がるかは一目瞭然だった。

 

恐らく中国も同じ大陸国家のシ連との全面戦争を行わずに崩壊へと導こうと画策したのだろうと安川は睨んだ。

 

世界には“敵の敵は味方”という(ことわざ)や呉越同舟といった四字熟語がある。

 

共通の敵に対して敵同士ながら手を組む。所謂利害の一致だ。

そしてこの言葉は今使うべきだと彼は意志を固めた。

 

安川はソファーから立ち上がった。

 

「分かりました。その提案受け入れましょう。貴国には呉越同舟という,双方の危機に瀕した際には敵同士でも協力するといった(ことわざ)があります。

それは正に今の様な事を言います。アジアを脅かす強大な悪に我々は手を取り合って立ち向かいましょう。」

 

安川の言葉に周は立ち上がって,安川の手を掴んだ。安川は“ですが”と付け加えて,

 

「敢えて宣言させて頂きますが,あなた方がもし裏切った際には容赦は致しませんので,そこのところをどうか宜しく。」

「その言葉があなた方に返ってこないように,我々としても願っておきますよ。」

 

皮肉の言葉を双方にかけながら,安川と周は固い握手をするのだった。




右足の小指に何か出来物が出来てマジで痛かったから病院行ったら,水虫でした········かなりキツい

今話書いて痛感しました。やはり僕には語彙力が無いと··········


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Episode.36 告白

日本海には日本海低気圧という気候現象が存在する。

 

日本海を発達しながら東或いは北東に進んでいく低気圧の事で,“冬の嵐”や“春一番”を引き起こす物と思ってもらえれば結構だ。

 

現在第2機動部隊はその低気圧に近づきあった。

 

「気象衛星“ひまわり9・10号”の観測によると,中心気圧は962ha(ヘクトパスカル)。“2012年4月の低気圧”と並ぶ程の爆弾低気圧·······というかもう台風です。」

 

通信士の報告を桐島は静かに聞いていた。戦闘指揮所(CIC)のディスプレイには2つの気象衛星によって観測された雲画像が写っていた。

 

「気象班によると風速はおよそ30m/s。“こんなの台風レベルだ”と言っていました。」

「よりによってなんでこんな時に来るんだ·······」

 

水上のぼやきにつられてCIC要員が次々と口を開いた。

 

「船務長の通りだな。よりによってなんで今来るんだ?」

「こんな大きいの耐えられるのか?」

「こんなので負けたら軍艦失格だぞ!!」

「機体傷つかないかな·········」

 

CICがざわつくなか,長瀬が口を開いた。

 

「こんな低気圧に遭遇なんて訓練でもなかった。しかも今回は戦闘時と来た。俺達はどんだけついてないんだ?····」

「そんなことぼやいても避けられないのは目に見えている。だが俺ですらまさかこんな化物に戦闘時に遭遇するなんて夢にも思わなかったが。」

 

そう言うと桐島は長瀬の方を向き,

 

「指揮権限を副長に譲ります。」

「了解しました。大体予想できますが,一応理由を聞いておきます。」

 

長瀬の問いに桐島は,

 

「航空機と船の荒天時への対処は全く違う。船の対処は船を知っている者に任せるのが妥当でしょう。」

 

長瀬以下CIC全員が納得したような顔をした。桐島は通信機を手に取った。

 

「CICより格納庫へ。艦隊はこれから荒れた海域に突入する。機体をしっかりと固定していただきたい。」

『了解した。機体を一切傷つけないように努力する。』

「応急長。応急工作員の準備は万全か?」

 

桐島は応急長の鷲尾颯太に聞いた。

 

「応急工作員全員が既に万全状態で待機中です。」

 

この返答に桐島は“よし”と頷いた。桐島は再び通信機を手に取った。

通信の相手は艦隊全部だった。

 

『「あまぎ」艦長の桐島だ。これより艦隊は巨大低気圧へと突入する。

各艦自由操艦をとられよ!! 自艦の安全を優先せよ!!』

 

通信を終え通信機を置くと,桐島は長瀬の方を向き,

 

艦隊を頼みますよ(・・・・・・・・)。」

 

そう言って歩き出した。思わず長瀬は聞いた。

 

「何処に行くんですか? 艦長。」

「万が一の為に艦内を見回ります。船内で何かあったら艦長の私の責任ですから。」

 

そう言って桐島はCICを退室した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

第2機動部隊11隻は荒れた海へと突入した。

 

高い波が船体を激しく揺らし,激しい雨が船体を叩きつけた。

波を越えるごとに船は前後に揺れ,乗組員も慣性の法則で大きく揺さぶられた。

 

それは艦橋も例外ではない。船が揺れると同時に乗組員も揺さぶられ,何かに掴まなければ立っていられない程だった。

 

そんな中長瀬は冷静に立っていた。彼は冷静に指示を出しているように見えたが,内心では別の事を考えていた。

 

(さっきの言葉と言い,艦長の心が不安定になっているのは確定だな。

渡島(飛行団司令)の言った通りだ·····)

 

彼が思い出していたのは,渡島との会話だった。

 

艦橋に向かう際に通路で彼が話しかけてきた。その際に彼は言った。

 

『桐島の心は不安定になっている。いつ壊れるか分からない。

そうならない為にも桐島の事を頼む。』

 

度重なる連敗。その事実が彼の心を抉るのは容易だった。加えて現在指揮権限は副艦長の長瀬の元にある。

 

さっきの「艦隊を頼みますよ(・・・・・・・・)」といい,彼のそんな言葉が何かを不穏な事を匂わせるには充分だった。

 

そう長瀬が考えていた最中,通信機をとって答えると,“ヘッドセットをお願いします”と言われたので彼は素直にヘッドセットをつけた。

相手はCICの水上だった。

 

『副艦長。そちらに艦長いませんか?』

「いやここにはいないが,何かあったのか?」

『それが·········艦長が見当たらないんです。格納庫や機関室・食堂や自室も見たんですが,何処にもいなかったんです。』

「トイレにでも行ってるんじゃないのか?」

『それがですね。もう20分も目撃情報がなくて······』

「何!?」

 

長瀬は驚愕した。20分もトイレに籠っているのなら,誰かしら気づく筈だ。

水上の話から1回捜索を行ったが,見当たらず“もしかして”と思って通信を行ったと想像できた。

 

20分以上捜索しても見当たらない。長瀬にはある答えが導かれていた。

 

咄嗟にヘッドセットに叫んだ。

 

「他の隊員にはもう伝えたのか!?」

『いえ,CIC要員以下数名程しかまだ知っていません!』

「よし分かった!! そっちも絶対に口外するな!!」

 

ヘッドセットを取って,周囲を見ると,長瀬の様子から“緊急事態が起きた”と艦橋要員は覚悟を決めた表情をしていた。

 

「手の空いている隊員で艦長を探せ!! それとこの事を他の者に口外するな。絶対にだ。いいな!!」

 

手の空いていた隊員が艦橋の階段(ラッタル)を駆け下りた。

 

数名の隊員と長瀬しかいなくなった艦橋で,長瀬は思考に浸った。

 

(まさかとは思うが自殺(・・)!?······あり得るな。 こんなに海が荒れていては人一人落ちたって気づきやしない!!)

 

長瀬の頭に浮かんだ最悪の結末。こんなに波が高い荒れた海に1度落ちてしまえば,助けるどころか,見つけることすら困難だ。

そもそも落ちたという事すら分からないかもしれない程だ。

 

さっきの匂わせと言い,今の桐島()に自殺する理由等何個も浮かんだ。

 

加えて指揮権限も副艦長に譲渡済み。もし今桐島が消えても,大丈夫なようになっていた。

 

長瀬は最悪の結末に戦いているなか,さっき探しに行った隊員の1人が戻ってきた。

 

「副長!! 艦長いました!!」

「早いな!! どこだ!!」

「艦橋甲板出入り口です!!」

「何だと!?」

 

長瀬は想定よりも相当早い発見報告にホッとしたが,居場所を聞くと,隣の一等海尉に指揮を任せ,直ぐに駆け出した。

 

隊員の誘導の元,彼は発見場所に向かった。

 

航空甲板には強い雨が激しく打ち付け,甲板全体を濡らしていた。

甲板上に機体は1機たりとも存在しない。

 

そこを見つめる様に桐島はたった1人で立っていた。開いた扉に背中をよりかけ,荒れ狂う海とそれに懸命に抗う艦隊を見つめていた。

 

長瀬は誘導してきた隊員を捜索に出した隊員に“艦長が見つかった”と連絡するように言って去らせた。

 

桐島の顔は荒れ狂う海にうっすらと恐怖を感じているかのような表情だった。

 

「もしかして雨で頭を冷やす気か? それともなんだ自殺願望か?」

「第二次大戦中に船から海に落ちて行方不明になった将軍はいたらしいけど,出来ればそうなりたくはないね。」

 

長瀬の言葉に,冗談を言って返そうとした桐島の声は弱かった。

まるで自分を見失った人間の様に。誰も彼を助けることは出来ず,ただ冷たき雨が冷酷に彼を痛め付けていた。

 

「葛城から聞いただろ? 俺は弱い人間だって。

誰かに合わせる事が苦手で,いつも自分のペースで進むしか出来ない。

よくぞこんな人間が自衛隊に入って戦闘機パイロットになれたもんだよ。」

 

長瀬は話を静かに聞いた。

 

「インパルスからの誘いを断ったのも,合わせる事が不可能だと分かっていたからさ。

あんな連携が命の場所に俺みたいな場違いが入ったらどうなるか分かるだろ?」

 

桐島の皮肉まじりの言葉に,長瀬は返す言葉がなかった。そんな長瀬の様子に気まずくなったのか分からないが,桐島は話を変えた。

 

「ちょっと質問だ。そんな俺がなんでこの船の艦長に立候補したと思う?」

「········逃げたかったからか?」

 

長瀬の返答に桐島は目を見開いた。だが直ぐにそんな表情は冷たき仮面に書き消された。

 

「ある意味当たりかな。正確には自分を変えたかったんだよ。

こんな大海という広い場所に出ればこんな自分を変えられるだろうと思っていたが,現実ってのはそう甘くなかった。」

 

桐島は話を続ける。

 

「愚かだよ。自分が実施した作戦は失敗。加えて補給艦も事実上の喪失。

こんな結果になるなら,最初から指揮権限をあなたに譲渡していた方がよかったよ。」

 

桐島の嘆きに長瀬はため息をついた。目の前の桐島龍樹という人物を見ながら,

 

「石見司令だって,艦長が“代理が勤まる”と思って託したんです。

ならその責務を果たすべきです! 我々で朱雀列島を奪還するためにも」

「·········そう言いきれたら俺も嬉しいんだがな···」

 

長瀬の言葉を遮って,桐島は話し出した。

 

「最初は俺もそう思っていたさ。でも司令から受け継ぐ際に知ってしまったんだよ。

朱雀列島防衛プラン(・・・・・・・・・)という真実を」

「“朱雀列島防衛プラン”?··········」

 

長瀬はその単語に覚えがなかった。もしそんなのがあったら,既に聞いている筈だからだ。

 

桐島はやはりという顔をすると,その重い口を開いた。

 

「お前は知らないだろうな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日本は最初から朱雀列島を守る気はなかった(・・・・・・・・)んだ。」




先日「戦翼のシグルドリーヴァ」1話を視聴しました。

設定といい,キャラといい,映像といい中々良い作品でした。

個人的には中村さんと杉田さんとマフィア梶田のパイロットコンビが凄く印象に残りましたww

あと司令官の声が藤原啓治だったら最高だった········

文中の“船から海に転落死した将軍”の話ですが,実際に1942年 3月26日に大西洋でアメリカ海軍戦艦「ワシントン」からジョン・W・ウィルコックス少将が転落し,行方不明となっている実話です。


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Episode.37 選択肢

※UA4000!!

最初に言っておきますが,僕は前話の様な話を書くのが非常に苦手です。
今話も語彙力が信じられない程低下していますのでどうか暖かい目で見ていってください。

··········苦手なら書くなや。という話は受け付けません。


「それはどういうことですか?」

 

桐島と長瀬が一対一の会話をしている頃,朱雀列島 飛鷹島の洞穴にて朱雀警備隊普通科中隊中隊長の魚島と特殊作戦群群長の海藤は桐島がした話と全く同じ内容の話をしていた。

 

「そのまんまさ。自衛隊は朱雀列島を本気で守ろうとしていない。

正確には敢えて敵に渡そう(・・・・・・・・)としていたかな。」

 

“朱雀列島を自衛隊は見捨てた”そうとも言いきれる内容に魚島は頭の処理が追い付いていなかった。

 

「朱雀列島を捨てるって·····ここから東京までは約500kmですよ!!

ここが陥落すれば東京なんてあっという間に火の海ですよ!!」

「確かにそうだね········でもさ。それなら何でそんな重要な島に500名程しか配備してないんだろうね?」

 

海藤の質問交じりの言葉に魚島は答える事が出来なかった。

 

「答えは単純。そもそも逃げることを想定していたから。朱雀列島の島々に立て籠って,ゲリラ戦を仕掛けるためにね。」

 

質問の答えに魚島はある言葉を思い出した。飛鷹島に逃走する前に北西司令に言われた言葉“隊員を引き連れて飛鷹島へ脱出しろ”

 

魚島は2日を要してその言葉の真意を把握したのだった。

 

「じゃあ北西司令はこれを知ってああ言ったのか·····」

「当たり前さ。司令官が知らなかったら大問題だよ。恐らく司令官は君に託したんだろうね。」

 

司令がそこまで考えていたのかと魚島は驚愕した。

 

「もしかして警備隊と同じように航空自衛隊の戦力が少なかったのも····」

「同じだね。守ってますよ感を島民らに示すために。

AH-1S(コブラ)といった旧式が配備されているのも撃墜されても惜しくないからだと思うよ。」

 

海藤が個人的な意見を口から吐くと,魚島が聞いた。

 

「さっきあなたは“君に託した”と言いましたが,それも計画の内なんでしょうか?」

「これは憶測だけど,この様な事態に対して何重に対策を組んでいたんだろうね。

司令が死んでも指揮を取れるように候補を何人も用意して統率できる様に。」

「·······徹底的ですね。それが本当だとしたら私はそれに選ばれたって事ですよね?」

「そうなるね。北西司令も君を見込んでいたらしいしね。」

 

司令が自分の事を評価していた事に,魚島は少し喜びを得たが,直ぐにその感情を打ち消した。

 

「先程の話からこれは推測ですが,あなた方特戦群もこの事を知っていたのですね?」

「勿論だ。特殊作戦群にとって朱雀列島奪還は課せられた任務の一個だ。

だから幾度もここに視察にきて,各島の地形を徹底的に調べ上げたさ。」

 

この海藤の話で魚島はさっきの違和感の正体に気がついた。

 

「だからここの地理に詳しかったのか······」

「さっきの攻撃だって,ここの地形を把握していないと実行は不可能だったさ。

最もその攻撃で結構な被害を受けたけどね。」

 

海藤の目線の先には手当てを受けている特戦群隊員達の姿があった。

先程の戦闘で多くの隊員が傷つき,倒れた。仲間を失った彼の目には悲しみと自分への怒りが激しく籠っていた。

 

「彼らを巻き込んでしまったからには,きっちりと取り返さないと示しがつかない。

君達も協力してくれるよね?」

 

そう言った海藤の顔は戦士その物だった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「つまり政府()は,ここを罠にシ連を誘きだそうとしていたって事か。

········なんて皮肉な話なんだろうな?」

「皮肉以外何かあるのか?」

 

桐島から“朱雀列島防衛プラン”の内容を聞いた長瀬は思わず苦笑いした。

 

(はな)から日本政府と自衛隊は朱雀列島を捨て駒にしていたという事実に長瀬は苦笑いせずにはいられなかった。

 

桐島の表情は変わらず,失意に満ちていた。失意の表情の中話し出した。

 

「俺はこの話を司令権限を引き継ぐ際に司令から聞いて驚いたよ。

“日本はこんなにも黒かったのか”って思ったさ。そして同時にプレッシャーも大きくかかったさ。」

 

桐島の声はか弱く,自信を失っている様に感じられた。

 

「捨て駒として渡すということは奪還することが当然だ。それが果たして俺に出来るのか·······もし失敗したらどう弁明すれば良いのか。どう奪還すれば良いのか······考える度に,プレッシャーは増えていった。

何時からか,そんな事態が俺が指揮している間に起きてほしくないと願うようになっていった。

でも実際にそれは起きた。俺は何百万分の一の大凶を当てる不幸な男さ。」

 

桐島は自信を失っていた。“自分のせいで負けた”・“自分のせいで誰かが傷ついた”そうやって自らを追い詰め,抱え込んだ結果自信を喪失した。

 

そうとしか結論が出なかった長瀬は桐島に対して

 

「このまま指揮系統を俺が引き継ぐ,もしくは指揮系統を艦長が持つ。

どちらかの選択肢を選んでください。」

 

突然選択肢を選べと言われ,桐島は黙り込んだ。そんな様子の桐島に長瀬は遂に堪忍袋の緒が切れた。

 

「じゃあどうしたいんだよ!!」

 

思わず口調が変わっていたが,それを無視して長瀬は歩み寄った。

 

「今の話を聞いている限り,責任を1人で背負うしかないと思っているようだがそれは間違っている!!

人ってのは1人で生きていけるわけないんだよ!! 無人島で独り暮らししたってな,見えていない何処かで絶対に誰かの支えを受けているんだよ!!」

 

無意識のうちに胸倉を掴んで,桐島を揺さぶった。

 

「石見司令だってお前に託せると思って託したんだ!! お前がもしただの道化師(ピエロ)だったら託してなんていない!!」

 

そう言いきった長瀬はふと自分が艦長の胸倉を掴んでいた事に気づいて手を離した。

手を離された桐島は船の揺れもあって,そのまま床にへたり込んだ。

 

長瀬は下を向いて桐島を見ながら,

 

「確かにお前は船の艦長にはむいてないかもな。だけどな,自衛隊に職業は何個あると思ってんだ?

その中にお前の天職がある可能性なんて幾らでもあるかもしれないんだぞ。」

 

こう言って“最後に”と付け加えると,

 

「お前が本当にやりたい道へ行け。もしそれに反対する奴がいても無視しろ。

自分の進む道は自分でしか選ぶ権利は存在しないのだから。」

 

その言葉を最後に2人の周辺の空間を静寂が支配した。たった数分の経過時間も2人には数時間に感じられた。

 

静寂を破ったのは桐島だった。

 

「··········やっぱり俺には艦長は無理だったか。」

 

桐島は呟く様に話し出した。

 

「こんな重圧のかかる仕事なんか俺には苦手どころじゃない話だった。これなら前のように戦闘機パイロットをやっていた方がよかった··········馬鹿だな俺は。」

 

桐島は右手で後ろの手すりを握って立ち上がりつつ,

 

副長(お前)の言葉で吹っ切れた。嫌な道があるなら無理矢理進まず迂回しても,引き返してもいい。

“前に進まなきゃいけない”なんて間違いだ。未来ってのは案外近くにあるかもしれないのだから。」

 

長瀬の言葉で立ち直り始めた桐島に長瀬は驚きを覚えた。自分でもあんな言葉は気休めにしかならないと感じていたからだ。

 

「自分で言うのもなんだが,あんな言葉で本当に吹っ切れたのか?」

「人を刺激するのは,何気ない言葉なんだよ。」

 

桐島のそんな発言に“人生分からないもんだな”と長瀬は思わずにいられなかった。

 

ふと壁に背中を預けると長瀬は先の通路でどうしようもなく立っている隊員を見つけた。

きっと話し込んでいたのを見て,引き下がっていたのだろう。

 

「·······どうした? 何か連絡でも入ったのか?」

「は,はい。先程第1機動部隊が北方四島に奇襲を仕掛け,占領したとのことです。」

 

この報告に2人は驚いたと同時に一種の希望が芽生えた。長瀬は桐島の方を振り向きながら,

 

「世界はまだ俺達を見捨てて無いようだぜ。」

「どうやら神様はまだ勝つ術を残してあげてるらしいな。」

 

桐島は長瀬の方を向きながら,

 

「考え直してみるよ。この俺が本当に艦長に相応しい(ふさわ)のかどうか。

だが,まずは目の前の事態を解決してからじゃないと話にならないな。」

 

その言葉に長瀬は手応えを得た表情になり,通信内容を報告した隊員もうっすらと笑みを浮かべていた。

 

「副長。この嵐を抜けたら航空団長を呼んで,作戦立案の会議だな!」

 

桐島の顔にはうっすらとだが,笑みが戻りつつあった。




書いた感想:語彙力死滅


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Episode.38 宣言

東京都千代田区の高層ビルの3階のオフィスにはネットニュース会社OREjournalの本社がある。

 

このオフィスの一番奥には30インチの薄型テレビが置かれている。

この中くらいの大きさのテレビの前に現在この場にいる社員のほぼ全てが集まっていた。

 

「そろそろだな·······」

 

OREジャーナル社長の荻窪大介は正面の壁掛け時計を見ながらそう言った。

壁掛け時計は既に13:58を指していた。(てのひら)のスマートフォンの時計も13:58を示しているので,時計に狂いは無いと確認した。

 

彼らが集まっている理由。それは1時間程前に突如として中国政府が14:00から会見を行うと発表したからだった。

 

突然発表されたこの知らせに社内はざわついた。用事や取材で出かけている者を除いたほぼ全員が会見を見ることを決断していた。

 

「始まったぞ!!」

 

社員の1人がそう叫んだ。

 

テレビの画面が今まで写っていた日本の報道番組のスタジオから会見場へと変わる。

 

会見場の最奥の高座に設置された会見台には既に1人の人物が上がっていて,マイクの確認を行っていた。

 

中華人民共和国初の女性主席 李・呂寧(リー・ロネイ)が一旦周りを確認すると口を開いて話し出したが,中国語の為,分かる人を除いて日本人には理解不能だった。

 

それは日本のテレビ局も理解しており,話に数秒遅れて翻訳の声が聞こえてくる。

 

『世界中の皆様もご存じであると思うが,昨日シ連軍が日本の朱雀列島を占領した。

シ連が建国されてから既に30年。あの国は自国の利益だけを求めて,戦争を幾度と行った。戦争の度に我が国含め同盟国が不利益を被ってきた。

皆もこう思っているのではないか“シ連は目の上の敵だと”

そして今回の朱雀列島占領。今回もシ連は我々に参戦を要請してきた。

日本の地理に詳しい者なら分かると思うが,朱雀列島は中国から見て飛び地だ。あんな所で戦えだなんて冗談も良い所だ。

シ連(あの国)は道を踏み外しすぎた。我々にはシ連を正しい道に戻さなければいけないという使命がある。

よって我々は,え···········』

 

通訳の声が止まる。数秒のラグののち,再び声が聞こえてきた。

 

『失礼しました。我々中国はシ連に対して宣戦布告を行うことをここに宣言します。』

 

その瞬間椅子に座っていた荻窪がギャグマンガの様に転げ落ちた。

転げ落ちる音がオフィス中に反響する。

 

荻窪は床に当たって痛む体を起こしながら,

 

「·········一体どういうことだ。俺の耳が遂に狂ったのか?」

「いやそれなら俺や瀧川さんの耳も狂ったことになるんで正常だと思います。」

 

テレビからは『既に各所基地から離陸した我空軍の機体がシ連本土を攻撃しに向かっている』という通訳の声が聞こえていた。

 

「本当にこれは事実なんですか········」

「夢では無いという事はこれは事実という事なんだろうな。」

 

完全に起き上がって,転げた衝撃で傾いた椅子を直して再び座りながら荻窪は瀧川の問いに答えた。

 

「でもこれはとてつもなく大きな事だな。単純に軍だけで見ると,180万の陸軍兵士・空母2隻に原潜10隻・戦闘機700機・爆撃機150機が味方になるのだから日本としては素直に安堵したい所だろうな。」

 

そう一呼吸で言いきった荻窪に木戸進一(愛すべきバカ)は,

 

「というか前から思ってましたけど社長ってそういう軍事知識に詳しいですよね。」

 

急な爆弾発言に荻窪は“え·······”と戸惑った。

 

「確かに·······前も別のニュース会社の軍事系記事を間違ってると言ったら,本当に違っていて炎上した事がありましたよね。」

 

瀧川以下無慈悲な追撃で荻窪は更に困惑した。周りの同乗する声が彼を更に追い詰めた。

 

前も言ったがこの男は筋金入りの軍事オタクだ。だが瀧川以下社員はこの事実を知らない。

正確には知るよしもないだろう。

 

彼は自分が軍事オタクであることを隠している。例え軍事系の批判記事を見ても“ふざけるなぁ!!”と叫びたい気持ちを我慢していたのだが,所々でボロを出していた様だ。

 

「」

 

荻窪が必死に誤魔化そうとするが,この時この場にいた全員が“絶対そうだ·····”と確信した。

 

荻窪の足掻きは裏目に出すぎた様だ。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「どうやら奴らは本気でシ連に戦争を仕掛けるみたいですね。」

 

総理大臣官邸 総理執務室で鈴村隆治(すずむらたかはる)総理大臣は中国政府の会見を見て,こう呟いた。

 

「こう宣言してもらったからにはそれ相応の戦果をあげて貰わないといけませんがね。」

 

同じく見ていた副総理の大森弘正(おおもりひろまさ)の言葉に官房長官の大洋洋司(たいようようじ)が“しかし”と言った。

 

「私には中国の事が信用できません。昨日までいがみ合っていたのにいきなりこんな事になるなんて,絶対裏がありますよ。

外務大臣何でこんな提案をすんなり受け入れたんですか?」

 

大洋のぼやきに外務大臣の安川孝之(やすかわたかゆき)は驚きつつも答えた。

 

「仕方ありませんよ。あの場ではそう言うしかなかったのですから。

ですが一時的でも中国の驚異を消せるのであれば,戦果はあったとは言えますがね。」

「そう簡単に行きますかねぇ。」

 

安川の話に鈴村が割り込んだ。

 

「中国というのはシ連よりも強敵です。ああ言ってもいつ裏切ってくるか分かりませんからね。

防衛大臣。北海艦隊への監視はどうですか?」

「現在築城基地の第6飛行隊と呉の第3潜水隊によって監視を続けています。

万が一の場合に備えて第8飛行隊と対馬の第8ミサイル連隊も出撃待機状態にしております。」

 

鈴村の問いに防衛大臣栃木昇二(とちぎしょうじ)が答えた。

 

栃木の言った通り対馬南東70kmの海上に展開している空母「山東」以下13隻で構成された北海艦隊の監視として築城基地第8航空団第6飛行隊所属のF-2A 6機が93式空対艦誘導弾(ASM-2)を4発装備して上空から,第1潜水群第3潜水隊の「SS-504 けんりゅう」以下4隻が海中から監視を行っていた。

 

更に築城基地に残っている第8飛行隊のF-2Aも22式空対艦誘導弾(ASM-3)4発のフル武装状態で待機しており,対馬の対馬駐屯地には12式地対艦誘導弾を配備する第8ミサイル連隊が展開しているために,万が一北海艦隊が日本に対して攻撃を行った際への対処を可能にしていた。

 

話を戻して,真剣な顔をして副総理らが考えている中経済産業大臣の音次辰馬(おとつぎたつま)が口を開いた。

 

「経済産業大臣として言わせて頂くのであれば,“早く終わってほしい”の一言ですね。

分かりきっていると思いますが,日本全体で物価が上昇して一種のインフレ状態になっています。

このまま上昇し続ければジンバブエの様に崩壊する可能性だってあり得ます。」

 

世界最大のインフレを引き起こしたジンバブエを出された為に,残りの4人にも実感がわいた。

 

現に日本の物価は上昇が止まっておらず,ネット上で不安の声が嘆かれていた。

 

音次もこの状況を良くは思っておらず,早急に対処を行いたいが手がないという状況に陥っていた。

 

音次は付け加えるように,

 

「確かに中国と手を組むというのは納得できないのかもしれませんが,早急に事態を終わらせたのなら手をとる方が懸命です。

彼らは“日本から対価は取らない”と言ったのですから。」

「どうでしょうかね?」

 

鈴村は座っている回転椅子を180°回して大森らに背中を向けた。

 

「確かに彼らは“日本から対価は取らない”と言いましたが,正確には“今は(・・)日本から対価を取らない”でしょうね。」

「この戦いが終わったら請求してくる······なんて汚い手を使うんですかね。」

 

大洋が鈴村の推測に嘆くが,鈴村は“まあ”と付け加えて,

 

「あちらがそういう手を使うのでしたら我々も利用させて貰いましょう。利用できるものは利用した方が特ですからね。」

 

そう言うと鈴村は外を見た。窓越しの東京(摩天楼)には灰色の雲が覆い被さっており,今すぐにでも雨が降りそうな雰囲気を漂わせていた。

 

「一雨来そうですね。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「流石です主席,素晴らしい演説でした。」

「お世辞はよしなさい。あんな演説子供でも出来ますよ。」

 

会見を終え,自らの執務室へと戻る李・呂寧(リー・ロネイ)に副主席の張・浩然(チョウ・ハオラン)が過度に褒め称えたが李はそれを否定した。

 

「演説なんて事前に用意された原稿をただ読むだけです。それで特に個人差なんて生じない筈です。

本当に演説が優れているのは世界中を見てもヒトラー位です。」

 

そう李が言い切ったと同時に2人は執務室前に着いた。李がドアノブに手を掛けたと同時に振り返りながら,

 

「すまないが1人にしてくれないか? 少し落ち着きたい。」

 

李の言葉に張は“分かりました”と言って扉の前で立ち去った。

 

扉を開け,広い執務室に入った李。広く静寂が支配していた執務室に不気味な笑い声が響き始めた。最初はとても小さかったが,いつの間にか部屋中に響き渡る位まで大きくなっていた。

 

静寂に響き渡る不気味で不規則な笑い声。それを出していたのは李だった。

 

「計画通り········あとは日本がシ連と戦って勝つだけ!! もうシ連に希望なんて無い! そして日本も!!」

 

彼女は叫び上がる。中国最年少且つ初の女性主席 李・呂寧(リー・ロネイ)

中華人民共和国設立以来またとない秀才の本性は世界支配という野望を抱えるただの魔女だった。

 

シ連(あなた達)の行く場所は永遠の地獄!! 地獄の底で永遠に苦しみながら私達の永遠の栄光を見続けなさい!!

世界は中国(私達)に逆らえない!! 世界を支配するのはアメリカでもロシアでも無い!! 我々中国だ!!

日本なんて私達がいなければ直ぐに崩れ去る様な脆い国家! 私達に従わざる終えない!!

いずれ尖閣諸島も手に入れましょう。彼処さえ手に入れば我々が世界を握れるのだから!!」

 

彼女の不気味な笑い声が北京の街の騒音に消えていった。




ふと思ったんですが,飛行船ってレーダーに写ったりするんですかね?

知っているかたがいたらコメントで教えてください。


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Episode.39 ウラジオストク沖海戦

今回32話と33話の様な回を一纏めにしたらどうなる?と思ってやった結果8000字越えました

·········こんなに長いのは久々に書きました。


シベリア社会主義連邦 ハバロフスク。

 

ハバロフスク地方の中心都市のこの街には,シベリア航空軍配下の第7航空・防空軍の司令部が存在する。

 

司令部が置かれているハバロフスク・ボリショイ基地の司令官室にて,司令官のアレクサンドル・リッター中将はテレビに釘つけになっていた。

 

内容は中国がシ連に宣戦布告したという物であったが,正直言ってそんなのどうでも良かった。

 

彼の一番の懸念。それは中国軍機が既に攻撃に向かっている(・・・・・・・・・)こと。

そして10分程前に中国軍機がこの基地に向け飛んでいる(・・・・・・・・・・・・)のをレーダーが捉えていたことだ。

 

彼は隣に置いてあった固定電話の子機を急いで取ると,レーダー施設の番号を入力した。

 

入力し終え,子機を耳に当てると同時に“ガチャ”という音がスピーカーを通じて聞こえてきた。

 

「おい! 中国軍の機体は何処まで近づいている!?」

『司令!! 中国軍の爆撃機(・・・)が基地南西40km地点まで接近しています!!』

「なんだと!? 奴ら汚い手を!! 直ぐに戦闘機をスクランブルさせろ!!」

『直ぐ様フルバの第303親衛混成航空師団に連r』

 

通信が突如として切られた。アレクサンドルが何故と考える前に窓から強烈な閃光と爆音と共に衝撃波が侵入し,窓ガラスを粉々に破壊した。

 

衝撃波にアレクサンドルも座っていた椅子ごと床に倒れるが,直ぐに立ち上がって窓から外を見た。

 

彼の視線の先には激しく黒煙を上げながら燃え上がる滑走路が写っていた。

横に目を向けると,滑走路と同じように原型を留めず,黒煙を上げて燃え上がるレーダーアンテナと通信アンテナが見えた。

 

その黒煙で覆い隠されてそうな空を擬態するかのように黒く溶け込んだ7機の戦闘機が飛んでいた。

迎撃するものはいない。対空火器が届かない高所を飛んでいた。そもそも動ける対空火器はこの時点で残っていなかった。

 

「全てやられたのか·······」

 

アレクサンドルが太刀打ちできない現実に絶望する中,上空に新たに現れた存在が更に彼を追い詰めた。

 

細長い胴体。胴体に接着するように配置された2基のエンジン。長い後退翼。

 

旧ソビエト連邦が開発した初のジェット爆撃機 Tu-16(バジャー)を中国がライセンス生産し,改良を加えた大型爆撃機 H-6 5機は編隊を組んで上空に現れた。

 

Tu-16は初期のシ連空軍が使用しており,アレクサンドルはTu-16に搭乗経験のある希少な隊員の1人だ。

 

だからこそ,H-6の恐ろしさが目に見えて分かった。

 

「き,基地内の防空火器全て使用して撃ち落とせ!! 急げ!!」

 

アレクサンドルが自分に出来る最大限の指示を出したが,それは全て無駄だった。

 

胴体の爆弾倉(ウェポンベイ)から計6tもの航空爆弾が基地一体に投下された。

5機合わせて30tの爆弾がハバロフスク・ボリショイ基地を無慈悲に破壊した。

 

ハバロフスク・ボリショイ基地は殲撃20型(J-20) 7機による滑走路・レーダー・対空火器攻撃と,轟炸6型(H-6) 5機の絨毯爆撃によって完全に破壊された。

 

基地に置かれていたAn-12()・An-24・An-26・Mi-24/35・Mi-8・Mi-26・Ka-52A等の機体は完全に破壊され,唯一奇跡的に残っていた地対空ミサイル(SAM) S-300も力を発揮する前に破壊され残骸へとかした。

 

アレクサンドル以下この基地にいたシ連兵のほとんどが爆撃によって消し炭へと成り果てた。

 

そしてそれはウラジオストクから北東に300kmのチュグエフカでも同様だったが,こちらではJ-20 1機,H-6 3機が墜とされたのだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「ハバロフスクがやられた!?」

 

ウラジオストク郊外の軍港に停泊しているウリヤノフスク級原子力空母「S-108 ウラジオストク」の艦橋で,シ連海軍近海艦隊司令官 グラフ・メイジェフはハバロフスクの空軍基地がやられた連絡を聞いた。

 

「ハバロフスクの基地がやられたという事は,ウラジオストク(ここ)もやられる可能性が大です!!

司令早く出港を!!」

 

「ウラジオストク」の艦長が萎縮した顔で出港を何度も迫った。実際「ウラジオストク」は原子力機関を装備している為に動くことは可能だ。

 

だが動いたからと言って助かる訳ではない。空母を護衛する駆逐艦はその殆んどが通常の蒸気タービン機関で動いている。

 

護衛無しで単独で航行している空母なんて“どうぞ狙ってください”と言っているような物だ。

 

まず第一に原子力機関は動いているが,船が動くには重い錨を上げ,停泊している埠頭からタグボートの力を借りて離れなければいけないので出港には最低でも30分はかかってしまう。

 

どちらにしよシ連海軍近海艦隊旗艦「ウラジオストク」はウラジオストク港(ここ)に居ることしか出来なかった。

 

「出港を急がせろ!! モタモタしていれば中国軍にやられるぞ!!」

 

グラフは出港を急がせる様に乗組員に言ったが,そう言った直後,艦隊司令部から衝撃の通信が入った。

 

『哨戒中のIl-38(シニャーツャ7)より南南西100kmの海域に中国軍艦艇6隻展開中との事!!

なおIl-38(シニャーツャ7)は通信途絶!!』

「中国軍艦艇·······派遣艦隊のか!!」

 

グラフは即結論付けた。本来であればウラジオストク港には中国が派遣した中国海軍派遣艦隊がいるのだが,現在は朱雀列島占領支援の為に出払っていたのだ。

 

しかし中国がシ連に宣戦布告したことで,派遣艦隊は自動的にウラジオストク~朱雀列島間のラインを封鎖する状態へとなっていた。

 

その艦隊がこの近海艦隊をウラジオストクに封じ込めようとしているのだと結論づけたが,ここである疑問が生じた。

 

派遣艦隊の総艦数は10隻。哨戒機の報告では湾入口に展開しているのは6隻。

残る4隻は何処に行ったのか。それを考える余裕はグラフには存在していなかった。

 

何故なら考える間もなく,新たに通信が入ったからだ。

 

『敵機探知!! 距離40!! 数30!!』

「艦隊の前にまずは航空機の襲来か!! 」

 

グラフは次々と変わる戦場に辛うじて対応しようとしていた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

ウラジオストク南西40kmの高度3000mの空。

 

青く染まっている空を30もの航空機(音速の鳥)は飛んでいた。

 

そのうちの18機はまるで烏の様に真っ黒に塗られていた。

 

主翼の先に隣接させるようにカナード翼を設置した“クロースカップルドデルタ翼”を持つ,中国が誇る第5世代ジェット戦闘機且つ中国初のステルス機 J20は白鳥の大移動の様な陣形でシベリアの蒼い空を飛んでいた。

 

先頭を飛ぶJ-20隊の編隊長劉 宇航(リュウ・ユーハン)上尉は後方50kmに展開するKJ-2000(空警2000)から送られてきた情報を確認していた。

 

「敵戦闘機12機接近中か。だからチュグエフカの基地も同時に叩いてほしいと何度も言ったんだが··········」

 

劉は思わず溜息をついた。

 

チュグエフカにもJ-20の先制攻撃隊とH-6の爆撃隊は飛んだのだが,ハバロフスクより遅れて接近したために,戦闘機の離陸を許したのだった。

 

爆撃は一応成功したが,J-20 1機とH-6 3機を失うという結構な痛手を受けてしまった。

一応離陸した機体も撃墜はしたのだが,数機程逃がしたとのことだ。

 

そして現在レーダーには12機の機影が写っていた。恐らく全てチュグエフカから機体だろう。

目の前の敵機よりウラジオストクに向かっている敵機への迎撃を優先したのだろうと劉は推測した。

 

「全く仕事を増やしやがって······まあ,パイロットの血が騒ぐから良しとするか! 行くぞお前ら!!」

 

J-20のWS-15ターボファンエンジンの出力をあげ,9機のJ-20(烏達)は戦場へと進んだ。

 

「ミサイル発射!!」

 

爆弾倉(ウェポンベイ)の扉が開き,中に搭載されていた2発の長距離空対空ミサイル(AAM) PL-15が放たれた。

 

視界外射程ミサイルのPL-15 計18発は搭載されたアクティブ・フェーズドアレイ・アンテナ(AESA)の正確な誘導を受けて敵機へと向かった。

 

レーダー上の光点が不規則的な動きをし出したが,PL-15は無慈悲に追尾した。

 

光点同士が重なり,PL-15の光点全てと敵機の光点がいくつか消えた。

 

残っている光点は6個。

 

「6機撃墜········あと6機か!! 各機急旋回!!」

 

劉の急旋回の指示と同時に6つの敵機の光点から小さな光点が12も発生した。

 

敵機が空対空ミサイル(AAM)を放ったのだ。

 

劉のJ-20は操縦桿を左に傾け,左急旋回を行うと共にチャフとフレアをばらまき,迫ってきていた2発の空対空ミサイル(AAM)を誤爆させた。

 

機体を水平に戻すと,既に1機の敵機が10km圏内に入っていた。

両機とも空対空ミサイル(AAM)を撃つ間もなく,マッハ0.8ですれ違った。

 

すれ違う瞬間に劉はシ連機の方へ顔を向けた。

 

「こうして戦うとはな,Mig-31。」

 

Mig-31 NATOコードネーム フォックスハウンド

 

Mig-25(フォックスバット)の改良型で,低高度で侵入する巡航ミサイルや爆撃機への対応能力を強化した迎撃戦闘機だ。

 

チュグエフカの基地にはMig-25/31が30機程配備されており,アメリカ軍機への対処を行っていたが,まさか中国機と戦う事になるとは恐らく双方も思っていなかっただろう。

 

劉は機体を180°方向転換させた。高いG(加速度)が劉の体に襲いかかり,着ている耐Gスーツが下半身を締め付ける。

 

急な旋回に視野が暗くなり,色調を失う(グレイアウト)状態になりながらもMig-31の背後についた。

 

2基のエンジン出力を更にあげ,Mig-31をミサイル射程内に入れようとした。

 

幾らMig-31がMig25の大幅改良型だとしても,相手のJ-20は全てが新しく作成された新型機。

結果は戦う前から目に見えていた。

 

「行け!!」

 

劉は冷徹に操縦桿のボタンを押して,左翼のハードポイントに取り付けられていた短距離空対空ミサイル(AAM) PL-10が発射された。

 

赤外線画像誘導によって正確に追尾した1本のミサイルはMig-31のエンジン部に命中し,黒煙を上げ回転しながら下へと落下していった。

 

「良いパイロットだったな。楽しませてもらったぞ。」

 

劉は自機のPPIスコープを見た。戦闘空域から離れた場所に残る21機はウラジオストクへと一直線に向かっていた。

 

21機のうち9機は護衛のJ-20だったが,残る12機はJ-20とは違いステルス性は一切感じさせないが,コックピット脇の2基のエアインテークと高翼に配置された後退翼は独特なシルエットを演出していた。

 

中国人民解放軍が保有する全天候型戦闘爆撃機 JH-7A 12機は既に近海艦隊をミサイルの射程に捉えていた。

 

「頼むぞ。発射!!」

 

隊長の指示で両翼のハードポイントから対レーダーミサイル(ARM)空対艦ミサイル(ASM) YJ-91が4発ずつ計48発放たれた。

 

自機のPPIスコープで発射されたのを確認すると隊長は,

 

「全機旋回せよ! 鞍山に退避だ!!」

 

操縦桿を右に傾け,機体を右旋回させる。隊長機に続いて各機が続いて旋回を行い始めたが,その内の1機に閃光が走った。

 

光が発生した方を見ると,1機のJH-7Aが黒煙を上げて重力に従って落下していた。

 

『7番機がやられた!?』

「くそっ! 地対空ミサイルだ!! 全機散開しろ!!」

 

彼の予測は大当たり。ウラジオストクの対岸 ペレヴォズナヤにはS-300PS/PMを配備する第589親衛対空ミサイル連隊が展開しており,中国軍機が射程に入るやいなや搭載されている対空ミサイルを放ったのだ。

 

隊長は直ぐに散開を命じたが,2機のJ-20が低空飛行に移った。

シ連軍のレーダーに写らない様に地面スレスレを飛び,対空ミサイル部隊に気付かれずに近づくと爆弾倉(ウェポンベイ)から2本ずつPL-10を放った。

 

本来は航空機に対して放つミサイルだったが,この事態に早急に対処するために無茶を承知で地上目標へと放った。

 

計4本のPL-10は対空ミサイル部隊へと着弾した。その内の1発がS-300PSの補給車両に命中し,発射機に補給中だったミサイル弾頭に誘爆した。

 

大爆発が起こり,対空ミサイル部隊は一時的に麻痺状態に至った。

 

この隙を見て,隊長は叫んだ。

 

「全機急いで鞍山に撤退せよ!! 戦果確認は海軍に任せる!!」

 

編隊は既に4機を落とされていたが,アフターバーナー(A/B)を作動させて急いで地対空ミサイルの射程外へと逃走した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「先程の戦闘で敵フリゲート2隻撃沈,駆逐艦1隻大破・巡洋艦1隻損傷させるも,J-20 2機,JH-7A3機の計5機を喪失したとの事です。」

「最新鋭のステルス機を持ちながらこのざまか·······」

 

瀋陽(シェンヤン)級駆逐艦「115 瀋陽」の戦闘指揮所(CIC)で艦長 馬・宇辰(マー・ユーチェン)上校が愚痴を吐いた。

 

30機もの戦闘機を投入しながらも撃沈及び損傷は4隻。しかも5機を失ってこの戦果だ。

“技術はあっても練度が足りていない”と,空軍に一種の哀れみを(マー)は感じた。

 

現在「瀋陽」以下6隻の艦隊がウラジオストク南南西60kmに展開していた。

各艦の距離は10km程でかなり広範囲に展開している事が分かる。

 

こう展開している理由はシ連海戦近海艦隊をウラジオストクに封じ込める為であったが,既に一部の艦艇は動き出していたために戦闘は免れる事は不可能になっていた。

 

「まあ,愚痴を言っても仕方ないか。今は前の敵だけを見よう。」

 

そう言うと(マー)は艦隊全体に面舵の指示を出した。

 

艦艇が一切のズレなく面舵を切って,船体を右へと傾けた。

 

6隻全てが旋回を終えると,近海艦隊に対して側面を向ける形になっており,T字戦法状態になっていた。

 

T字戦法はリッサ海戦やスリガオ海峡海戦で使われた戦法で,接近してくる敵艦艇に対して自艦隊の集中砲火で各個撃破するもので,作者的には最も勝てる海戦術だと思っている。

 

勿論それは(マー)も認識しており,この機を逃してはいなかった。

彼は威勢良く叫んだ。

 

「対艦ミサイル発射用意!!」

 

(マー)の言葉に火器担当の士官がパネルのトグルスイッチを操作して,ミサイル類のセーフティを解除していく。

 

セーフティが全て解除された時,通信担当の中尉にKJ-2000(早期警戒管制機)から通信が入った。

 

KJ-2000(空警2000)がシ連海軍巡洋艦2 駆逐艦1 フリゲート2を探知した模様!!

湾出口に向け航行しているとのこと!!」

「わざわざおいでなすったか!」

 

近海艦隊がわざわざ戦場に出てきた事に,(マー)のアドレナリンは上昇した。

 

火器担当の士官が前準備を終えたことを伝えた。後は(マー)の口から2文字の言葉が出るのを待つだけ。

 

「撃てぇ!!」

 

(マー)の威勢の良い合図で2隻の駆逐艦と4隻のコルベットから艦中央部から朱い発射炎を上げながら,16発の艦対艦ミサイル(SSM) YJ-83()は放たれた。

 

固形燃料を使用したロケットブースターを使いきると,ターボジェットに移行して,超低空飛行(シースキミング)を行いながらシ連艦隊へと接近していった。

 

発射煙が空気中に分解して艦橋からの視界がクリアになると(マー)は艦隊に180°回頭を指示した。

まだ残っている艦対艦ミサイル(SSM)を放つためだ。

 

艦隊が一斉に面舵をきっていると戦闘指揮所(CIC)のディスプレイ上でシ連艦隊から10本以上の艦対空ミサイル(SAM)が撃ち上がり,YJ-83の数を減らしていった。

 

艦隊に近づくにつれ短SAMや主砲・CIWSも対空攻撃に加わり,対空砲火の密度は増していった。

 

だが全ては撃ち落とす事が出来ず,計4本のYJ-83が艦隊に着弾した。

 

先頭を航行していた駆逐艦に2発,巡洋艦・フリゲートに各1発ずつ着弾し,確実なダメージを与えた。

 

「艦隊前方の駆逐艦・巡洋艦・フリゲートに命中!! 被害規模は不明!!」

「4分の1に減らされてしまったが,当たったから良しとするか。

次のミサイルで最後だ! 確実に当てろよ!!」

 

その頃に艦隊は既に180°回頭を終え,2回目の艦対艦ミサイル(SSM)の発射準備に移っていた。

 

コルベット4隻が発射準備に入ったと同時に敵艦隊後方の巡洋艦から光点がディスプレイ上に出現した。

最初は1個だけだったが,徐々に数を増やしていき最終的に10個になっていた。

 

「敵巡洋艦ミサイル発射!! 数10!!」

「巡洋艦という事は恐らくP-700(グラニート)だ!! 絶対撃ち落とせ!! 本艦と「石家荘(セッカソウ)」で対空戦闘を行う!! S-300F(フォールト)発射!!」

 

瀋陽級駆逐艦2隻の前甲板に搭載された2基の8連装リボルバー式VLSから計10発の48N6E2(艦対空ミサイル)が発射された。

 

TVMとセミアクティブ・レーダー・ホーミング(SARH)によって誘導された10本のミサイルがシ連のミサイルを撃ち落とす為に向かっていった。

 

この2隻が対空戦闘を行ったのは数時間前にシ連海軍補給艦「ボリス・ブトマ」を周りのコルベット2隻と共に沈めた際にYJ-83 8発を使用している為に既にミサイル在庫が底をついていたからだ。

 

対艦攻撃が出来ない2隻に対して残るコルベット4隻はYJ-83 8発を放った。

 

最後の艦対艦ミサイル8発が向かっていくと,同時に先程放たれた光点同士が交差し,半分のミサイルが消えるが,残る5発は落とされずそのまま艦隊へと向かってきていた。

 

2隻の駆逐艦は後部上部構造物のS-300F(フォールト)を放って迎撃するが,それでも3発のミサイルが艦隊へと近づいていていたが,その内の2発はよりによって「瀋陽」の前方を航行するコルベットへと向かっていた。

 

056型コルベットの後方建造物の上に搭載された近接防空システム(近SAM) HHQ-10が火を吹いた。

 

放たれた8発の小型対空ミサイルが接近しつつあったP-700(グラニート)の1発に直撃し,大爆発を起こした。

 

艦を強い衝撃波が襲い,コルベットと「瀋陽」を激しく揺らす。揺れが収まって「瀋陽」の艦橋見張り員の視線に飛び込んできたのは,目の前のコルベットの船体に直撃寸前(・・・・)P-700(グラニート)だった。

 

数秒後,コルベットは爆炎に包まれた。閃光が周囲を走り思わず艦橋見張り員は双眼鏡から目を反らした。

 

「「501 信陽(シンヨウ)」被弾!!」

 

艦橋見張り員の必死の報告に(マー)は目上のディスプレイを見た。

切り替わった画面に写っていたのはP-700(グラニート)が1発着弾し激しく黒煙を上げて炎上している「501 信陽」。

 

056型コルベットの排水量は1500t。あぶくま型より小さな船体が750kgの弾頭に耐えられる訳がなかった。

 

船体の弾薬庫に炎が燃え移り,先程と同じくらいの爆発が起きる。

爆発によって艦構造物は破壊され,船体に歪みが発生し,「信陽」の船体は左側に傾き始めていた。

 

「「信陽」沈みます!!」

 

船体が傾く速度は徐々に増していき,既に角度は60°に達し沈没は確定だった。

傾いた甲板から乗組員が命からがら海へと飛び込んで退艦しているのが遠目でも確認出来る。

 

「「580 大同(ダイドウ)」と「590 威海(イカイ)」を救助に回せ!!

残る3隻はシ連のミサイルを迎撃して援護せよ!! 乗員救出次第本国に戻るぞ!!」

 

「信陽」と同型の「580 大同(ダイドウ)」と「590 威海(イカイ)」が危険を犯して救助を行い,残る3隻が再び放たれたP-400(グラニート) 3発を撃ち落として救助を援護した。

 

確認できる範囲の乗員を救出し終える頃には「信陽」の船体は既に半分が海中に消えていて,海上には本来見ることが出来ないはずの艦尾のスクリューがはっきりと見えていた。

 

救出終了の連絡が「瀋陽」に入ると(マー)は直ぐ様北海道方面への撤退を指示し,中国海戦派遣艦隊はウラジオストクを後にした。

 

後にこの戦いは“ウラジオストク沖海戦”と呼ばれ,中国とシ連始めての戦いとして教科書に載ることになった。

 

この戦いで中国軍はコルベット「501 信陽(シンヨウ)」と戦闘機6機,爆撃機3機とパイロット17名,「信陽」乗員19名を失い,シ連軍は駆逐艦「ボエヴォイ」,フリゲート「トゥマン」・「アドミラル・スピリドノフ」と戦闘機以下各種軍用機67機に地対空ミサイル S-300PS/PM 4両を喪失するという甚大な被害を負った。

 

また近海艦隊所属のキーロフ級ミサイル巡洋艦「805 ロシア」・「807 スヴェルドルフ」が損傷したためにシ連海軍近海艦隊は事実上の半壊状態にかした。

 

そしてこの戦闘が戦況に影響を与えたのは言うまでもないだろう。




東側のFOXの様な認識コードが分からん·······

調べても分からなかったので,“発射”と表現する事にしました。

これ分かる人何者········?

あと定期テストが近いので次回の投稿は遅れます。


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Episode.40 勝利の法則

2021 4/6 第3潜水隊群を第6地対艦ミサイル連隊へと変更。


第2機動部隊は現在隠岐島東北東120kmの海域を南西に航行していた。

 

既に嵐を抜けてから2時間が経過しており,負傷者の対処含め艦隊は既に立て直しが完了していた。

 

艦自体にダメージは見られず,艦隊は嵐を乗り越える事に成功したと皆が感じていた。

 

そんな艦隊の旗艦「DDH-185 あまぎ」の1室に艦長の桐島龍樹,副長の長瀬竜也,第47航空団司令 渡島音弥はいた。

 

彼らの前には日本海の海図と将棋の駒がバラバラと置かれていた。

 

「今頃あの嵐は朱雀列島やシ連艦隊を襲っている真っ只中か?」

「その嵐で1隻ぐらい消えてくれればこちらも楽なんですがね。」

「そんな馬鹿みたいな話あるか。もしあったらシ連海軍がとんでもない雑魚だったというオチだぞ。

まあもしそうだったら我々としては非常に楽なんだが。」

 

3人が夢のまた夢のような途方もない話をする。それは未だに直接対決のしたことがない艦隊への畏怖から彼らにしか分からない。

 

「雑談もここまでにして,本題に入りましょう。」

 

本題······シ連海軍太平洋艦隊との決戦。ここにいる3人はそれをしっかりと理解していた。

 

「まず前段階として呉の第1輸送隊が現在長門市北30km地点を航行しています。

これとの合流を行ってから作戦を実行に移します。」

 

「LST-4001 おおすみ」以下3隻で構成された第1輸送隊は現在第4護衛艦隊所属の「DDG-179 まや」・「DD-104 きりさめ」・「DD-112 まきなみ」の護衛と共に山口県長門市北30kmの沖合いを北北東に航行しており,あと2時間弱で合流できる見込みだった。

 

第1輸送隊が運んでいるのは朱雀列島奪還用の部隊で,相浦駐屯地が誇る日本版海兵隊こと水陸機動団2中隊だ。

 

それ以外にも水陸機動団が使用するAAV7等の装備を積んでおり,甲板には第6対戦車ヘリコプター連隊のAH-1Z(ヴァイパー)や輸送航空隊のV-22(オスプレイ)が搭載されており,朱雀列島奪還への日本の本気度がどれ程の物かを伺えた。

 

「水機団を安全に上陸させる為にも何としても我々は太平洋艦隊を撃破しなければならない。」

 

桐島は地図上に将棋の駒を並べ出した。隠岐島沖に王将(あまぎ)を囲むように金将(たかちほ・あそ)銀将(みょうこう)飛車(かつらぎ)香車(ひゅうが)歩兵(護衛艦)が並べられ,朱雀列島の北東側にも同じように王将を囲むように駒が並べられた。

 

「現在太平洋艦隊は朱雀列島北東70kmの海域を南南西へと航行しており,我が艦隊へと接近しようとしているのが目に見えて分かります。

我々の目的はこの艦隊を殲滅する事です。」

 

ここまで言ったところで渡島が,

 

「話を遮って悪いが,今回は夜間になるが攻撃に航空隊は出すのだろうな?」

「勿論です。今回の攻撃に際して航空隊はクロウ・ストーク隊を太平洋艦隊へ,クレイン・スパロー隊を朱雀列島に,イーグル・ファルコン両隊で艦隊防空を行う感じでいきたいと思います。」

「綺麗に3つに分けたな。」

 

6つの航空隊を2つずつに分け,それぞれに別々の役割を持たせる。

艦隊の司令官なら常識的に判断する方法だ。

 

「それでシ連艦隊はやはり空対艦誘導弾(ASM)で沈めるのか? それともJSMか長距離対艦ミサイル(LRASM)か?」

「いえどれも違います。」

 

搭載できる且つ現在艦に積んである対艦ミサイルを全て言ったのに全部違っていた事に渡島は戸惑った。

勿論桐島はこの反応は想定済みだ。

 

「正確に言えば空対艦誘導弾(ASM)()使わないです。」

「つまり空対艦誘導弾(ASM)じゃないということは使うのは艦対艦誘導弾(SSM)ということか。」

 

長瀬の言葉に桐島は頷いた。桐島は説明するように,

 

「「あまぎ型」及び「ひゅうが型」以外の護衛艦には艦対艦誘導弾(SSM)がそれぞれ8発ずつ搭載されていて,第2機動部隊にはこのタイプ護衛艦が計8隻。合計で64発の艦対艦誘導弾(SSM)が積まれています。

これを2回に分けて敵艦隊に撃ち込むという事です。」

 

対艦ミサイルによる飽和攻撃を行おうとする桐島に長瀬は納得した。

 

「半分に分けても32発。まあまあな本数だぞこれ·····」

「それに加えて三沢・百里のF-2A,厚木のP-1・P-3C,第6地対艦ミサイル連隊による一斉攻撃を行い,太平洋艦隊を攻撃します。」

 

各所の航空戦力を集計させて行われる艦隊への200発を越える対艦ミサイルの飽和攻撃に長瀬は“敵じゃなくてよかった”と心の中で思ってしまった。

 

「だが空対艦誘導弾(ASM)を積まないということは艦隊攻撃は何で行うんだ?

そもそも敵艦隊への飽和攻撃を行うのであれば飛行隊自体いらないのでは?」

 

渡島のストレートな疑問に桐島は,

 

「ストーク隊の装備は半分を空対空誘導弾(AAM)。残りを91式爆弾用誘導装置(GCS-1)とします。」

「91式?」

 

長瀬は戸惑った。長瀬は勿論この兵器の事を知っている。

 

91式爆弾用誘導装置(GCS-1)500lb爆弾(Mk.82)に取り付けて対艦誘導爆弾へと変える国産兵器で,誘導爆弾では珍しく赤外線誘導(IRH)を採用しており,空対艦誘導弾(ASM)と比べて比較的安価な対艦兵器だ。

 

これを言った後桐島は思い出した様な顔をして,

 

「先程話忘れましたが,本艦隊と浜松の早期警戒管制機(AWACS)で飽和攻撃から「ウリヤノフスク」とキーロフ級2隻を予め除外しておき,残った3隻をストーク隊で戦闘不能に追い込もうと思います。」

「なるほど········読めたぞ。つまりは原子力動力艦を無力感するわけか。」

 

桐島は長瀬の言葉に頷いた。

 

ウリヤノフスク級航空母艦とキーロフ級ミサイル巡洋艦はそれぞれ機関に原子力を使っており,撃沈した場合放射線物質が漏れだす可能性が非常に高いために迂闊に攻撃は出来なかった。

 

そこで桐島は空対空誘導弾(AAM)91式爆弾用誘導装置(GCS-1)を使用して艦橋以下艦上構造物を破壊して戦闘不能状態に追い込もうと考えたのだ。

 

空対空誘導弾(AAM)で「ウリヤノフスク」の航空甲板を,91式(GCS-1)でキーロフ級の艦橋を破壊して戦闘能力を失わせ,そのまま降伏へと追い込みます。」

「降伏·······まあ動けなくなっているのであれば妥当な判断だな。」

 

“これが作戦の内容だ”と桐島は言いきると,テーブルに置いてあったペットボトルの水で喉を潤した。

一区切りついたと長瀬は判断して,

 

「だが本当にいいのか。うちらが配備している艦対艦誘導弾(SSM)の射程はおおよそ100km。シ連が持っているのは500kmを余裕で越えている。

単純に空対艦誘導弾(ASM)を使った方が良いんじゃないか? いつ敵艦隊から攻撃を食らうか分からない状況で敵へとつっこむのか?」

 

長瀬の言葉は正論だった。艦隊司令官の使命は“敵を殲滅する”事ではなく,“艦隊を守ること”だ。

無闇に味方を敵へと突っ込ませて全滅させるような司令官はハッキリ言って無能だ。

 

桐島は長瀬の1mmもずれていない正論に,戸惑う事は一切無かった。

寧ろそれを待っていたかのような顔をしていた。

 

「恐らく敵さんもそれだと思っている筈だ。それならこっちは裏を描けばいい。

それにもしその射程500kmを越えるミサイルが飛んできたしても撃ち落とせばいいのだから。

敵が何発も撃ってくれればその分残弾は減っていくのだから。」

「簡単に言ってくれるな。まあその方が士気は上がるかも知れないがな。」

「俺も無鉄砲で言ったんじゃないさ。しっかり策は考えてある。」

「そうか。それなら聞かせて貰おうか。」

 

桐島は自分の考えを話した。その話が終わる頃には長瀬はその考えに納得していた。

 

「なるほどな。確かにそれなら艦隊は我々よりも迫って来るミサイルを優先せざる終えない。

中々良いんじゃないのか?」

「空自にもこういう考えの出来る奴はいるのさ。俺が空しか見ていないとでも思ったのか?」

 

桐島が自分自身を皮肉しながら返した。と長瀬と同じように静かに聞いていた渡島が,

 

「だがその考えではちょっと不十分だな。いくら夜間とは言え,朱雀列島のSu-35(フランカーE1)がこっちに来る可能性は充分にあり得る。

イーグルとファルコン隊のどちらかはしっかり上げておいてくれ。」

「勿論そうするつもりです。敵艦隊が直ぐに艦載機をあげる可能性だってあり得ますからね。

万が一潜水艦が現れた際に備えてSH-60J・K(シーホーク)で徹底的に哨戒を行います。」

 

「いなわしろ」の様な悲劇を二度と起こさないために桐島は重ねに重ねて策をとった。

 

彼らは絶対に勝たなければならない。

 

日本を守る為に,自らの使命の為に,顔も知らない誰かの明日を守る為に,

 

例え自らを犠牲にしても自らより大きな物を守る為に,

 

「他に意見は·········無いようですね。」

 

長瀬と渡島。2人の覚悟は話が始まった時から既に決まっていた。

反対の言葉なんて出るわけがなかった。

 

「作戦開始は19:00頃。それまで艦隊・航空隊への連絡,確認をお願いします。」

「勿論そうさせて貰うつもりだ。」

 

そう言って渡島は部下達に伝えるために部屋を去った。長瀬も“艦内の事はやっておくからな”と言い残して去ろうとしたが,

 

「副長。」

 

すれ違おうとした長瀬を桐島が引き留めた。長瀬はその場に立ち止まった。

 

「さっきの選択肢の事だが,あれ選択肢なんてなかったんだろ。」

「·········気づいていたか。」

 

桐島の言葉に長瀬はうっすらと笑った。

 

「選択肢ってのは説教するための口実だったんだろ。どっちに転んだって納得のいく理由になるように。」

「100点満点だ。」

「全く人の悪いことやら。」

 

自分の内心を読まれたにも関わらず,長瀬は笑っていた。そんな彼に桐島は呆れた様な表情をしたが,彼もどこか笑っているようだった。

 

「他の艦への連絡はお願いしますよ。それよりもやるべきことがありますか?」

「俺は葛城と一対一で話してみるさ。奴と正面からタイマンしてやる。」

「1発KOを待ってますよ。」

 

そう言って長瀬も部屋を去った。そこまで広くない部屋にたった1人になった桐島はふと笑うとさっきまでの沈んでいた声とは全く違う自信満々に言った。

 

「勝利の法則は決まった。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

茨城県百里基地。

 

茨城県のほぼ真ん中に位置する民間と自衛隊の共用飛行場のこの基地にはF-2Aを運用する第3飛行隊とF-15J(イーグル)を運用する第304飛行隊が配備されていたが,現在この基地にどちらにも所属していない機体が駐留していた。

 

F-2やF-15J(イーグル)の2~3倍の全長と細長い後進翼(・・・)を持つ巨大な(軍用機)

 

その名はB-1B(ランサー)。アメリカが総力をもって開発した戦略爆撃機だ。

 

だが百里に留置されている機体の垂直尾翼には米空軍の五芒星ではなく日本の赤い日の丸が鮮やかに描かれていた。

 

この機体は米空軍ではなく航空自衛隊が保有する日本初の爆撃機だ。

 

アメリカ政府との交渉の末に漸く手に入れた日本が誇る切り札。

グアムのアンダーセン基地に今まで留め置かれていたが,シ連による朱雀列島占領を受け,急遽この百里基地に到着して現在離陸準備を進めている最中だった。

 

この異様な機体に戦闘機パイロットや整備員はもとより,ターミナルで手続きを待っている乗客らの興味は釘付けだった。

 

格納庫脇で見つめている整備員2人もそうだった。

 

「実物は始めて見たが·······ここまで大きいとは。」

「やっぱり爆撃機は格が違いますね。」

 

彼らは第304飛行隊(テング・ウォリアーズ)の整備員だったが,現時点でF-15J(イーグル)緊急発進(スクランブル)が無いことと,整備が一段落したのでこうして巨大な爆撃機を眺めていたのだ。

 

「これどうやら政府では“白鳥”と呼ばれているそうですけど灰色なのに何で白鳥なんでしょうかね?」

「さあな。Tu-160(ブラックジャック)と間違えたんじゃないか?」

「よりによってシ連のパクリに·······」

 

渾名の本当の由来はB-1B(ランサー)の別名“死の白鳥”から取られたのだが,それを知らない2人は勘違いをしながら話を続けた。

 

B-1B(ランサー)のゼネラル・エレクトリック F-101-GE-102 ターボファンエンジン 4基が出力を上げ始めた。4基のターボファンエンジンの聞き慣れない轟音が周囲へと響き始めた。

 

「すげえな。F-15J(イーグル)のエンジンとは数も凄さも桁違いだ!」

 

百里基地のくの字に曲がった誘導路を避けて,巨大な爆撃機は反対側を通って滑走路端へと到着した。

 

滑走路脇の基地全体を囲むフェンスの外にはこの爆撃機を撮ろうと脚立の上に座ったりしているや,“爆撃機は日本にいらない”等と描かれたプラカードを持った人々が大勢集まっていた。

 

「わざわざご苦労様だな。仕事も休んであんな馬鹿みたいな事やって一体何の意味になるんだ。」

「何も見えていない左翼(バカ共)の耳障りな叫び声には腹立つが,こんな田舎まで来てデモ活動を行う行動力には感心するな。

その行動力をもっと別の方に使って欲しいけどな。」

 

2人がそんなことを言っているとB-1B(ランサー)に変化が生じた。

 

後ろに伸びていた翼が広がって(・・・・・・)まるでテーパー翼の様な形状に変わったのだ。

 

これこそがB-1B(ランサー)の真骨頂 可変翼機能(・・・・・)

高速飛行や加速時には翼を畳んで空気抵抗を減らし,離着陸時等は広げて揚力や揚抗比を高める飛行状態によって翼形状を変える事が可能で,これ機能のお陰でこの機体(B-1)は生き残れたと言っても過言ではないだろう。

 

翼を全開に広げたB-1(ランサー)は管制塔の指示を受けると,エンジン出力を上げて轟音と共に空へと舞い上がった。

 

強い風が基地全体を覆い,思わず2人は被っている帽子を手で押さえた。

 

「離陸もやっぱ半端ねえな! 吹き飛ばされそうだぜ!!」

「全くだ!! こんなの何十機も持っている米軍を尊敬するぜ!!」

 

整備員の1人がB-1(ランサー)が飛んでいった方角を見上げると,B-1B(ランサー)は4基のエンジンから白い線を描き,陽炎を出現させながら,まるで鳥の様に飛び去っていた。

 

軍用機とは思えない美しさに整備員は思わず,

 

「いつかあいつの整備をしてみたいな。難しそうだが,やりがいはありそうだぜ。」

「確かにそうかもな。お,次はF-2のお出ましだ!!」

 

B-1B(ランサー)が飛び去った滑走路から翼のハードポイントに22式空対艦誘導弾(ASM-3) 4発と翼端に04式空対空誘導弾(AAM-5) 2発に増槽2基とフル装備した第3飛行隊のF-2Aがエンジンから紅い光を吐きながら空へと飛び上がり始めた。

 

次々とF-2Aが舞い上がっていく空は,時間と黒い雲で薄暗くなりつつあった。

 

「天気予報通りだとそろそろ降りそうだな。」

「そうだな。これじゃあ洗濯物乾かねえじゃねえか。」

「そっちの心配かよ。」

 

2人の整備員は戦場とは無縁の日常的な会話をしながら本来の作業場へと戻るのだった。




※長文注意
やっとテストが終わりました(色々ヤバいけど)。なんで書きたいこと書かせてください。

テスト期間中敢えて手をつけないようにしてたら,なんか色々と忘れて編集ペースが進まなかった········1週間ぐらい離れただけでこうなるんですから出来るだけ更新早めで行きたいです。

·············と言いつつも次回は36.37話の様な回なので早速更新遅れるかも。

まあ愚痴は程々にして3900t級護衛艦の2番艦が「くまの」に決まりましたね。

川の名前なのは予想は出来たけれど艦番号「2」って····誰が予想できるんですか?

あとこの小説で「FFM-2 くまの」をどういう感じで出しましょうかね?

それと11/29のSGT Rd.8 FUJIの結果が衝撃過ぎる。まさかあんな結末になるなんて······
作者は日産信者ですが,あのレースだけは“日産がいなくてよかった”と思わざる終えませんでした。
このレースはきっと2003.07.10のSUGO並に伝説のレースになりそうですね。

7月に燃えた「ボノム・リシャール」は退役になりましたね。
まあ既にアメリカ級がありますし,自衛隊だって「MSC-682 のとじま」が事故で退役になったんですから。


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Episode.41 My Wish

遅れてすいません。

サボった結果こんなに期間が空いてしまいました。


あと数分で18:00になろうとする東京は激しい雨が打ち付けていた。

 

それは総理官邸がある千代田区も同じで,官邸前の道路には既に水溜まりが出来ていおり,車が通る度にタイヤが水溜まりの水を跳ねていた。

 

官邸前の政府の公用車を止まるロータリーに外務事務次官 三崎霞は傘も指さずに立っていた。

 

雨が彼女の体を激しく打ち付け,髪も服も全て濡れていた。

 

だがそれ以上に彼女の心は酷く原型がなくなる程に壊れていた。

 

北方領土奪還作戦を察知出来なかった事でシ連の信頼を完全に失い,“裏切り者!!”と言われて通信も切られ,何度も連絡をしたが帰ってくるのは留守番電話の無機質な音声。

 

彼女は右手に持っていたスマートフォンを地面に強く叩きつけた。アスファルトと衝突した衝撃が保護フィルムを貫通して画面がひび割れ,ただのガラクタへと成り果てた。

 

もう彼女に頼るべき存在は皆無となった。

 

彼女はこの事実を受け入れる事が出来なかった······出来るわけがなかった。

ただ彼女は呆然と立ち尽くしていた。

 

「いつまでそこで立っているのですか? そんなに雨に当たっては風邪を引いてしまいますよ。」

 

後ろから雨の音を通り越して聴こえた声。彼女が恐る恐る振り替えるとそこには総理秘書官 本庄香月が傘を指して立っていた。

 

咄嗟に三崎はスーツの奥に隠していたMP-446(ヴァイキング)を左手で取り出しながら,右手でスライドを引いて構えた。だがそこで動きが止まった。

 

動かした筈のスライドがホールドオープンしていたからだ。

これが意味するのは弾丸が入っていない(・・・・・・・・・)事。

 

これでは今手に持っている銃はただの玩具(おもちゃ)以下の価値しかない。

 

三崎は引き金を引こうとするも,引き金は無情に動く気配を見せなかった。

動かないと分かっていても尚抗おうとする三崎を前に,

 

「先程誰かは知りませんが,弾を抜いていかれたようです。いい加減現実を見た方が良いと思われますが?」

 

本庄の言葉が心に突き刺さる。ただでさえ傷ついていた彼女の心の傷を抉った。

 

「どうして·········」

 

三崎の漏れた声は徐々に大きくなっていった。

 

「どうしてこうなるの!? 私はただこの国の為に!! この国を正しくするためにやっていた!!

それなのにどうして!! どうして!?」

 

元々濡れていた彼女の顔に目から透明な液体が流れ出す。

 

「何が間違っていた!? 日本を········この国を救おうとしただけなのに!!

私は悪役なんかじゃない!! 正義のヒーローの筈だったのに·····なんで·····なんで!? なんで!?」

 

彼女の叫び声が雨の東京に響き渡る。本庄の顔は途中から呆れた様な表情になっていた。

 

「あのさ,さっきから“正義”とか“ヒーロー”とかうるさいけどさ,あんたの中のヒーローって一体何なの?」

「·······」

「敵国の政府に侵入して情報を味方に渡すだけでヒーローなの?

もしあなたみたいのがヒーローだとしたら私だってヒーローなんだけど。」

 

本庄の冷徹な言葉が心の傷口を抉る。何回も何回も抉り続け,傷口は塞がらない程大きくなっていった。

本庄はそうなっているとは露知らず,冷徹な言葉を続けた。

 

「こんな事しか出来ないんじゃ貴女に正義を感じる者は誰1人としていない。

貴女はただそんな自分正義という純粋な想いをいいように使われただけ。」

「黙れよ·······」

「あなたはヒーローなんかじゃない。ましてやそんなことをしてヒーローだなんてヒーローの名が汚れるよ。」

「黙れっつってんだよ!!」

 

三崎は吠えた。口調も声調もさっきとは別人の様に変わり,心に余裕がない様な様子で言葉を吐き出し続けた。

 

「私は正義なんだ!! 頼朝だって信長だって裏切りなんて何回もした!!

でも歴史は彼らを正義とした! 今は悪だとしても何時かは正義として世の中に認めらr」

「それは違います。」

 

どこからともなく声が聴こえた。2人はよく聞く声。特に本庄に関しては毎日の様に聴いている声。

 

三崎は声の主に瞳孔を見開いて唖然としていた。声がした方向に本庄が振り替えると,そこにはいた。

 

「総理········」

 

日本国第100代内閣総理大臣 鈴村隆治。国民から“ミスター”と呼ばれ,支持率も高い現総理大臣。

 

そんな彼が傘も指さずに立っていた。周囲を6名のセキュリティポリスが囲っていたが,それでも危険なことにはかわりなかった。

思わず本庄が自分の傘を渡そうとするが,彼はそれを拒否した。

 

「貴女の考えは確かに正しい。日本を平和な道へと導きたい。日本政府の人間としてとても良い人材です。」

「そ,総理·······」

 

鈴村の言葉に三崎は顔が和らいだ。だが鈴村は“ですが”と言って,

 

「貴女の考えだけは(・・・)正しいですが,その為にシ連へと情報を渡してしまうとは。

そんな事をして貴女は本当に良かったと思ってるんですか?」

 

本庄よりも鋭く尖った言葉が三崎に無慈悲に突き刺さる。

 

「間違った事をしない人間はいません。私だってあなただって,私も名も知らない誰かだって間違った事はします。

もしこの世界に間違わない人間がいるとしたらフィクションの中だけでしょう。」

 

話を一区切りさせるが,尚も鈴村は辛辣な言葉をかけた。

 

「貴女の行いは間違っています。貴女の行いで何人もの人間が死にました。

貴女の行動で死ぬ筈ではなかった人間が死にました。その事実を分かっているのですか?」

 

鈴村の辛辣な言葉は無慈悲に続く。

 

「貴女は自分を“正義のヒーロー”だと勘違いしている。純粋な気持ちで行い始めた情報提供はいつの間にか自分をヒーローへと勘違いさせたのですね。

貴女は“ヒーロー気取りのただの出来損ない”。ヒーローを名乗る資格などありません。」

 

無情に言いきった鈴村に三崎の心は完全に壊れた。

 

三崎は無意識の内に自らの蟀谷(こめかみ)MP-446(ヴァイキング)の銃口を当てた。

自殺しようと何度も引き金を引くが,銃は未だにスライドストップ状態。弾等出るわけがなかった。

 

「弾は出ませんよ。私が(・・)抜きましたので。」

 

鈴村の何気ない発言に三崎は再び瞳孔を見開いた。それは本庄も同じだった。

 

「どうすれば········」

 

そんなか弱い声が三崎から漏れた。

 

「どうすればいいんだよ!? 死ぬことも逃げることも出来ない!! もう何も出来ることなんて何も······」

 

掠れた叫び声が2人の耳に入る。悲しい叫び声にセキュリティポリスも顔を(しか)めたが,鈴村の表情は寧ろ悲しげだった。

 

「貴女は少し考えが足りてない様ですね。」

 

そう悲しげな声でボソリと吐くと,

 

「人生は何年あると思ってるんですか? 例え実刑判決を受けたとしても死刑もしくは無期懲役で無い限りシャバへと戻ってこれます。

シャバへと戻ってきた人へと風当たりは厳しいですが,世界は広い。日本が嫌だった国外へと言って誰も知らない場所で静かに暮らすのも良い選択肢です。」

「········」

「どうやら私達の神は貴女にも希望を残しているようです。せっかく与えてくれた物を貴女はそのまま握りつぶしてなかったことにするのですか?」

 

鈴村の言葉に三崎は顔を上げた。顔の表情には希望が宿っているようにも見えた。

 

「私にもまだ希望があるんですか?」

「挫折を経験しない人間はいません。そして誰もが立ち直れる強さを持っています。

貴女も例外ではありません。」

 

どん底の絶望から一転して,希望の糸口が現れた三崎の目は光を宿していた。

“こんな自分にも希望はある”・“やり直すことが出来る”。そんなさっきの暗い考えとは一変して明るい考えが彼女の頭をよぎった。

 

だが,現実というものは非情だった。

 

「伏せろ!!」

 

鈴村がいきなりそう言って体を地面に伏せた。本庄処かセキュリティポリスですらポカンとした顔をしていた。

 

三崎は何かを言おうとしたがその言葉は出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三崎の体を1発の銃弾が貫いた事によって。銃弾が貫いた三崎は濡れている地面へと力なく倒れこんだ。

 

三崎の奥には暗闇に紛れるかのように黒く塗られたトヨタ・カローラ NRE210の後席の窓から一丁の銃口が覗いていた。

 

その事実に漸く気がついたセキュリティポリスは鈴村を伏せようとするが,彼らの護衛対象である鈴村から1発の銃声が鳴った。

 

鈴村は自らの体を伏せる際に隣のセキュリティポリスのベルトのホルダーからS&W M37を素早く抜き去ると左手でグリップをさげ,引き金を躊躇無く引いた。

 

放たれた.38スペシャル弾は400mも離れているカローラの右リアタイヤへと迷うこと無く命中し,右リアタイヤがパンクしたカローラはそのまま制御を失って路肩へと激突して止まった。

 

「嘘だろ·······」

 

誰かがそうボソリと言った。総理大臣が拳銃を撃つこともだが,撃たれた銃弾がリアタイヤへと迷うこと無く当たっている。

 

総理大臣とは思えない銃の腕に皆は驚愕していた。

 

「元特殊部隊だった頃の血は残っていた様ですね。」

 

そうボソリと鈴村が呟くと,M37を元の持ち主に返却して,

 

「急いで捕まえないと逃げられてしまいますよ。」

 

そう言って鈴村は倒れた三崎の元へと向かった。

 

銃弾は三崎の左胸を貫いており,傷口から赤い鮮血が流れ出していた。

今までフィクションでしか見たことの無い光景に本庄は傘を落としている事にも気づかなかった。

 

「は,早く医者を!!」

「良いんです········」

 

本庄が辛うじて出した声で周囲に叫んだが,それを遮ったのは意外にも三崎だった。

 

「これで良いんです·······悪役として誇れる最後です·····」

 

三崎の顔は悲しんでいるようにも見えたが,喜んでいるようにも見えた。

 

「やっぱり悪役を世界は見捨てたようですね······仕方ありませんね。」

 

三崎が咳き込むと口からも紅い鮮血が漏れ出す。しかし三崎は話すのをやめなかった。

今にも聴こえなくなりそうな微かな声で,

 

「もし生まれ変わったら·······今度は·····本当に日本の為に······」

 

三崎は言葉を言いきる事はなかった。鈴村が握っていた右手から力が抜け,そのまま地面へと重力に従って落下した。

 

辛うじて上がっていた頭も瞼を閉じるとそのまま下へとあり得ない角度で曲がりそのまま動かなくなった。

 

鈴村はもう動かなくなった三崎をゆっくりとアスファルトの地面に置くと,手を合わせた。

鈴村はただの亡骸へとかした三崎から目を離さずに,

 

「惜しい人材でした········こんな老人より若い人が死なれると何とも言えない気持ちになってしまいます。」

 

彼の言葉には後悔しているという本心が混じっている様にも感じられた。

目の前で亡くなった三崎を見続けていた鈴村に本庄が傘を被せた。既に2人ともずぶ濡れになっていたためになんの役にもたっていなかったが。

 

「もしかしたら彼女は助けられたかもしれないのに·······」

 

本庄がやりきれない思いで鈴村へと話しかけるが,彼は“いえ”と言って,

 

「貴女は自らの役目を全うしたのですから何も問題はありません。

それにあの様な殺害担当がいることを考慮しなかった私の責任でもあります。」

 

鈴村はそう言いきった。本庄はこの話は終わりにすべきと判断して別の話へと変えた。

 

「先程“部下が弾を抜いといた”と言いましたが,総理自ら抜かれたのですね。

それにあんな離れていた車のタイヤに正確に命中させるなんて,話には聞いていましたが凄腕ですね。」

「あれでも落ちた方です。現職の隊員達には敵わないと思いますがね。」

「充分敵うと思いますよ。まああくまで個人的な予想ですけど。」

特戦群(・・・)にいたのは15年も前です。15年も離れれば,全く別物ですよ。」

 

そう言っていると三崎の亡骸が担架に乗せられて運ばれていった。

車に乗っていた狙撃手と運転手も警備員に引き渡されたらしく,車の撤去に取りかかろうとしていた。

 

「彼女は私を守って事故死という形にしましょう。そうした方が彼女も,家族も恵まれましょう。」

 

そう言うと鈴村は振り替えって去ろうとしたが,立ち止まって本庄に聞こえる様に,

 

「彼女が歪んでいながらも望んでいた平和な日本。叶えるのはとても難しいですが,総理大臣としてできる限り叶えてやりたいです。」

 

そう言うと今度こそ彼は官邸内へと戻っていった。




英国海軍空母「クイーン・エリザベス」が日本近海に展開ってマジすか·········
こんな状況だけど横須賀行きたい。

しかも艦載機のF-35Bの整備をオーストラリアじゃなくて小牧でやるって,こりゃあ小牧に物凄い人集まりそう。


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Episode.42 幕開け

東京で1人の外交官がこの世を去った頃,朱雀列島の蘭島も雨に襲われていた。

 

雨はアスファルトの地面には水溜まりが出来ており,近くに止めてあったウラル-4320の荷台の幌にも打ち付け,独特な音を発していた。

 

司令部の建物にも例外なく雨は打ち付け,窓に当たった雨は水滴として下へと流れ,地面を泥へと変えていた。

 

そんな中シ連陸軍第3軍司令官 ユラージ・チュイコフと参謀 レアル・ストラータは,司令部の入り口に立っていた。2人の数m先は雨が激しく打ち付けていた。

 

ユラージは自らの愛用煙草 (カールトン)を吸おうとしたが,湿気で濡れていた為に残念そうな顔をしながら煙草を胸ポケットに閉まった。

 

ユラージは両手を胸の前で組むと,

 

「正面に自衛隊,後方に中国軍。我々は正に四面楚歌だな。」

「下手すればそれより酷い状況ですがね。」

 

ユラージの発言にレアルが冷静に指摘する。レアルは何時でもこう冷静な男だと5年も一緒にいるユラージは分かっていたかのような表情に自然のうちになった。

 

「この雨で日本の特殊部隊も何かしら傷ついてくれれば幸いだが,そんなうまい話あるわけないもんな。」

「そうなった場合我々も傷つくのが確定ですが?」

 

またもレアルは遊び心の無い言葉をかける。

 

「それとレアル。自衛隊のB-1(ランサー)が百里基地を離陸したらしい。」

 

レアルは即答しなかったが,すぐに眼鏡を上に上げると,

 

cape(裏切り者)の情報を信じるんですか?」

「いやこれは別の諜報員からの確実な情報だ。向かった方角は北西······つまり朱雀列島(ここ)だ。」

「司令部を狙おうとしてるのでしょうか? 移動されれば終わりなのですがね。」

 

レアルは“理解できない”とも聞こえる言葉を投げ掛けたが,ユラージは分かりきっているように,

 

B-1(ランサー)の爆弾搭載量はおおよそ34t。どこに逃げたって発見されて爆撃されるのがオチだ。

そこでレアル。君は嵐が過ぎ去り次第飛鷹島の飛行場へと向かってくれ。」

「·············は?」

 

レアルは初めて応対に困った。ユラージの言葉の意志が理解できなかったからだ。

 

「私が飛鷹島に行く理由は何ですか?」

「理由? そんなの簡単だ。司令部の分散だ。」

 

ユラージは説明を続ける。

 

「指揮系統が止まれば部隊なんて簡単に崩壊する。自衛隊もバカじゃない。それぐらい分かっているだろう。

つまり我々は司令部を集中させてはいけない。各所に分散させる,若しくは権限を移動させるしかない。」

「話が読めました。司令部を2つの島に移動させる事で,片方がやられても指揮を保てるようにするのですね。」

 

レアルの補足にユラージは“そのとおり”と頷いて,

 

「分散すればその分だけ質は落ちるが,それでも部隊が瓦解するよりはマシだろう。

だが分散した結果,無能な奴が指揮官になってしまえばどちらにしろバットエンドだ。だからこそお前だ。お前ならしっかり束ねられる筈だと思っているからな。」

「そういうわけですか。司令がそう考えているなら私も従って向かうことにしましょう。

それで司令。私はどうやって飛鷹島へ行くのですか?」

 

レアルの疑問にユラージは,

 

「今小学校の校庭に止まっているKa-52(ホーカムB)で阿月空港に向かうついでに同乗してくれ。」

「あんな狭いのに乗るのですか··········」

 

レアルはこの会話で本音を言った様にも感じられた。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

嵐がシ連海軍太平洋艦隊を襲う。荒波が駆逐艦の前甲板を越え,艦橋に海水の滝を叩きつける。

 

艦内も荒波で大きく揺れ,熟練の乗組員も手すりに掴まっていないと立っていられなかった。

 

「S-107 ウリヤノフスク」も例外なく,荒波が船体を叩きつけ,まるでお風呂の玩具(おもちゃ)のようになっていた。

 

既に航空機を格納した航空甲板に唯一残っている構造物 艦橋に太平洋艦隊司令のレバル・スグワークはいた。

 

彼は椅子から立ち上がっており,座っていた椅子の背もたれを左手で掴んでバランスを取っていた。

 

「全く自衛隊艦隊の前に嵐とは! 一体我々と第2機動部隊が戦えるのは何時になるのだ!?」

 

戦いもせずに艦隊が嵐に呑まれた為に,レバルは不満を爆発させていた。

そこに艦橋内の機器にしがみついていた隊員が大声で,

 

「司令!! やはり嵐に突っ込むのは危険だったのでは!! 我が艦隊はこれが初陣(・・)です!!

只でさえ緊張している者が多いのに,これでは戦闘時に使えません!!」

 

彼の隣にいた隊員も,

 

「そうですよ!! 何故わざわざ危険な道を選んだのですか!?」

 

2人の叫びは艦橋内に響き渡ったが,レバルは動揺しておらず,寧ろ喜んでいた。

 

「2人に聞くが,お前達は自分が戦いに慣れていると思っているのか?

全く違う。そんなのただの妄想だ。本当の戦争ってのは何倍も残酷だ。

お前達が勘違いしているには体験したことが無いだけで,こんな嵐で音をあげているようじゃお前達には早すぎた様だな。

2人とも今何歳だ?」

「5月で23です········」

「25です·········」

 

2人はレバルの言葉に反論の余地を失っていた。

 

「思ったより若かったな······今のうちに現実を体験しておけ,それが将来の役に立つ。」

 

そう言いきると2人の艦橋要員は,元の仕事へと意識を集中させた。

レバルもその様子に安心した様に見えたが本心は全く違っていた。

 

「嵐もそうだが,レーダーはまだ写らんのか?」

「はい。まだノイズが激しいです。直るには時間がかかりそうです。」

 

艦隊に発生している問題は嵐だけではなく,レーダーにも発生していた。艦艇のレーダー画面は不規則なノイズが発生していて,役目を失っていた。

その為に太平洋艦隊(彼ら)は目視での周囲確認をやらざる終えなかった。

 

「はたまたこれがこの嵐のせいなのか,それとも人為的な物なのかさっぱり分からん。

可能性としては両方あり得そうだからな。第2機動部隊の位置は分かっているのだな。」

「おおよそですが,朱雀列島(バレリオーストラフ)南西に300kmの海域だと思われます。」

 

艦隊要員のその言葉にレバルは口先を上げながら,

 

「嵐を抜け次第,艦載機を発艦させろ。おおよその位置は分かっているのなら先制攻撃を浴びせてやる。」

 

レバルは目の前の優秀な敵に対して子供のように心の底から喜んでいた。

 

そしてさっき言葉が全て自分らの艦隊に返ってくる事になるとは知らずに。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

能登半島の最先端部 珠洲岬北東50km 高度2000mの空。

 

蒼い空に馴染むかのような水色の胴体。翼に取り付けられた4基のIHI F7-IHI-10 ターボファンエンジン,翼のハードポイントには今年導入されたばかりの最新兵器 24式空対艦誘導弾(ASM-2C)を計8発取り付けていた。

 

海上自衛隊が保有する日本が独自に開発した対潜哨戒機 P-1 16機は綺麗に編隊を組んで黒に支配されていた空を飛んでいた。

 

海上自衛隊第3航空隊所属の16機は厚木海軍飛行場を離陸して,シ連艦隊へと翼の空対艦誘導弾(ASM)群をお見舞いすべく飛んでいた。

 

コックピットのレーダーには後方50kmを飛んでいるE-767(J-WACS)が探知した輪形陣を構成するシ連海軍太平洋艦隊がハッキリと写っていた。

艦隊中央の一番巨大な光点(ウリヤノフスク)からは小さな光点が幾つも出現しており,Su-33(艦載機)が発艦したことを意味していた。

 

「悠々と出てきたな。ここで終わらせてやる!!」

 

操縦席後方の席に座っている指揮官 山岡が意気揚々と声を上げる。

いつも通りの様子に操縦席に座っているパイロットも落ち着いて操縦できていた。

 

右側に座っていたパイロットがふと思い出したように,

 

「しかしよく空自がE-767(J-WACS)出してくれましたよね。

聞いた噂によると頑なに出撃を断っていたらしいですが。」

空自上層部(奴ら)だって只でさえ貴重な機体を失いたくないんだろうな。

だが決戦となれば話は別だ。この為に温存していたのだと信じたいよ。」

 

第602飛行隊所属の早期警戒管制機(AWCAS)E-767は世界で4機しか存在しない貴重な機体。

その内の1機を既に昨日の戦闘で失っていた為に,上層部は出撃に慎重になっていたが,今回の決戦にあたって腹を括ったようだ。

 

浜松基地を離陸したE-767(J-WCAS)第306飛行隊(ゴールデンイーグルス)所属のF-15J(イーグル) 2機の護衛を連れてを旋回していた。

 

「しかし司令。本当に敵艦隊への電子妨害(ジャミング)には成功しているんですよね?」

「恐らくな。幾らEC-2が電子妨害(ジャミング)を行っているとはいえ不安だな。」

 

彼らが口にしていたEC-2とは,空自の電子戦訓練機で前任のEC-1の置き換えで導入された新鋭機で,本来は名前にあるとおり電子戦の訓練に使われる機体だが,今回の実戦投入を受けリミッターを取り外して機器をフル稼働させていた。

 

この機体は入間基地を離陸し,北方領土奪還作戦において電子妨害(ジャミング)を実施してF-2Aの爆撃を支援し,入間への帰路につかせようとしたが,決戦と言う事で急遽千歳の第203飛行隊(シークレットイーグルス)F-15J(イーグル) 2機と共に男鹿半島西150kmの空域を飛んでいるのだった。

 

「敵艦隊。24式空対艦誘導弾(ASM-2C)の射程にはもう入っています! 」

 

機首のHPS-106レーダーが探知した情報を受け取った山岡は“そうか”と一言置くと,

 

「採用1年で実戦投入とはこの兵器は非常に運がついているぞ!!」

 

なんかずれているような前置きを言いきると,右手を前に付き出して宣言した。

 

発射(Fire)!!」

 

その声で8発の24式空対艦誘導弾(ASM-2C)がハードポイントから切り離れた。

 

重力に従って落下していく誘導弾後部のターボジェットエンジンが出力をあげ,白い線を描きながら目視では見えない標的へと向かって海面スレスレを飛び始めた。

 

16機のP-1から放たれた24式空対艦誘導弾(ASM-2C) 計128発はシ連艦隊へと迷わず向かっていった。

 

決戦の火蓋は落とされた。




愚痴を言わせてください。

先日新型地対艦誘導弾の予算が大幅に上がり,航空機搭載型と艦船搭載型も開発するという事になりましたが,よくもまあ半月でこうも軍事情報がバンバン更新されましたね······

お陰でこの小説の設定との調整が大変です。只でさえ現実と色々違っているのに········

UP-1Bの話も妄想ですので恐らく実際とは違っていると思います。

あと全く違う話で,しかも構想段階なんですけど,日本国召喚のIFで,“日本の転移場所がムーとミリシアルの間だったら”というのを考えています。

もしまとまったら連載するかも?


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Episode.43 飽和

※祝UA5000!!

2021 4/6 飽和攻撃に第6地対艦ミサイル連隊を追加。


シ連海軍太平洋艦隊は凡そ2時間かけて激しい春の嵐を抜けた。

脱落艦や損傷艦はおらず嵐に入る前と同じ陣形を再び組み直す事が出来ていた。

 

艦隊中央の旗艦 「S-104 ウリヤノフスク」の航空甲板からジェット機特有の甲高い轟音を出して艦載機が何機も発艦していた。

 

4発ものKh-59(オーヴォト)を搭載したSu-33(シーフランカー) 16機は約200km先の第2機動部隊へ攻撃する為に編隊を組んで夜空に飛び立った。

 

2基のリューリカ=サトゥールン AL-31F-M1から排出された空気が赤い尾となって夜空に流星を描いた。

 

第1次攻撃隊(チャイカ隊)発艦完了!! 続いてアリオール隊発艦準備に移れ!!」

 

航空甲板の2基の蒸気カタパルトにはSu-33(シーフランカー)と同じく搭載機のMig-29K(ラーストチカ)が乗せられようとしていた。

アリオール隊のMig-29K(ラーストチカ) 14機には空対艦ミサイル(ASM)を積んだSu-33(シーフランカー)とは違い,空対空ミサイル(AAM)が搭載されていた。

 

アリオール隊の使命は艦隊防空。やって来るであろう自衛隊機へと対応する為にR-73を8発搭載して飛び立とうとしていた。

 

だが飛び立とうとカタパルトにセットされた瞬間,艦橋内にレーダー員の叫びが響いた。

 

「艦隊10時方向よりミサイル!! 数162!!」

 

その叫びに艦橋はどよめいた。だがレバルは寧ろ喜んでいる様に見えた。

 

「いきなり100発以上とは大盤振る舞いだな!! アリオール隊の発艦を中止させろ!! 全艦対空戦闘用意!!」

 

「801 アドミラル・ラーザリェフ」以下3隻の巡洋艦のリボルバー式VLSから複数のS-300F(フォールト)が発射される。

 

約100kmの射程を持つ艦対空ミサイル(SAM) 5V55RMが迫ってくる24式空対艦誘導弾(ASM-2C)へ流れ星の様な光の尾をひいて向かっていた。

 

双方のミサイル同士が交差して何発もの光点がレーダー上から消えたが,未だに100発以上の空対艦誘導弾(ASM)が艦隊へと接近していた。

 

5隻の駆逐艦と3隻のフリゲートも搭載している艦対空ミサイル(SAM)を撃ち上げ,何発も迎撃を行う。

 

嵐上がりの夜空にミサイル(流れ星)が何本も現れ,赤い花火を何回も発生させる。

空対艦誘導弾(ASM)は何発も撃墜されるが,未だに無くなる気配は全くと言って良い程なかった。

 

各艦が独断で4K33(オサーM)3K95(キンジャール)を撃ち上げ必死に迎撃する。

挙げ句の果てにはAK-130 30mmCIWSやコルチークも使用して,必死の迎撃を行う。

 

だが密度の高い対空砲火も虚しく遂に被弾する艦が現れた。

 

「「ベズボヤーズネンヌイ」被弾!!」

 

艦隊左前に展開していたソヴレメンヌイ級「956 ベズボヤーズネンヌイ」の艦中央部に24式空対艦誘導弾(ASM-2C)が命中した。

 

搭載されていた弾頭が爆発し,船体構造物を破壊する。爆発が艦橋脇のP-270(モスキート)艦対艦ミサイル(SSM)に誘爆し,艦橋を盛大に吹き飛ばした。

艦前方のAK-130 130mm連装速射砲もまるで羽毛の様に吹き飛び,海面へと落下した。

 

激しく燃え上がる「ベズボヤーズネンヌイ」は艦隊を不気味に照らし上げていた。

 

「「ベズボヤーズネンヌイ」炎上!! 速度低下!!」

「ここで1隻喪失か········他の艦はどうだ!!」

 

レバルは舌打ちをして悔しがりながら,他艦の被害を聞いた。

 

「「339 アルダー・ツィデンジャポフ」に至近弾。損害は軽微とのこと。それ以外被害はありません!!」

 

失ったのは駆逐艦1隻だけ。まだ何とか補うことが出来る。そう結論づけたレバルだったが,戦場に想定外はつきもの。

 

レーダー員が叫んだ。

 

「艦隊7時方向よりミサイル!! 数80!!」

「何だとぉ!?」

 

艦隊の7時方向·······つまり東北東から対艦ミサイルが80発も飛んできたのだ。

この報告に艦隊が困難しない訳がなかった。

 

「北東方向からミサイル·······一体どこのどいつがそんな物を撃ったのだ!?」

 

80発の対艦ミサイルを放った犯人。それは三沢基地第4飛行隊所属のF-2A 20機だ。

 

この部隊は昼間に択捉・国後両島への対地攻撃を行っており,帰投してまもなく次の出撃となったのだ。

過労死するぐらいの激務だったが,パイロットは音を上げてはいなかった。

 

現在F-2A 20機は朱雀列島北東200kmでハードポイントの93式空対艦誘導弾(ASM-2) 計80発を発射して漸く三沢基地への帰路へとついていた。

 

そんなことは知るよしもなかったが,レバルはすぐに迎撃の指示を出した。

 

各巡洋艦や駆逐艦・フリゲートから艦対空ミサイル(SAM)が撃つ上がるが,さっきとはあることが違っていた。

 

「数が少なすぎる!! これでは迎撃が不可能ではないか!!」

 

それは数だった。艦隊はさっきの空対艦誘導弾(ASM) 162発の迎撃で多くの弾頭を使用していた。

 

弾頭にも限りはある。しかもミサイルとなればそれは余計少なくなる。

撃ち上がるミサイルの数は時間と共に少なくなっていき,代わりに自衛隊の空対艦誘導弾(ASM)が接近しつつあった。

 

各艦が主砲やCIWSを放って迎撃するが,焼石に水。次々に空対艦誘導弾(ASM)が至近弾・もしくは着弾した。

 

「「956 ブィーストヌイ」・「プロヴォールヌイ」被弾!!」

「「アドミラル・バシスティ」炎上!!」

 

次々と被弾・炎上の報告が入る。レバルの視界には嫌でも燃え上がり,誘爆して船体を破壊する様子が目に入った。

 

既に「956 ベズボヤーズネンヌイ」と「プロヴォールヌイ」は船体を海へと沈めつつあり,「ブィーストヌイ」と「アドミラル・バシスティ」も艦橋以下構造物を破壊されつつあって沈没は免れないのが分かりきっていた。

 

そんな中艦隊先頭を()く巡洋艦に1発の93式空対艦誘導弾(ASM-2)が命中した。

 

「「2010 ヴァリャーク」被弾!!」

「何!? あいつに着弾したら不味いぞ!!」

 

レバルが青白い顔で言った直後,「ヴァリャーク」の船体が光に包まれた。

夜であるにも関わらず,周囲は昼間のように明るく照らされた。

光から遅れて強い衝撃が艦を襲い,艦橋のガラスが軋むような音を立てた。

 

「「ヴァリャーク」·········消えました。」

 

光が収まるとそこに「ヴァリャーク」の姿はなかった。「ヴァリャーク」ことスラヴァ級ミサイル巡洋艦には射程700kmを越える艦対艦ミサイル(SSM) P-1000(ヴルカーン)が計16発搭載されている。

 

しかもVLSではなく90式艦対艦誘導弾(SSM-1)の様に筒状の発射筒に入った状態で艦上部構造物脇に8本ずつ配置されていた。

 

もし16発全て誘爆した場合どうなるかはもう分かるだろう。

 

未使用の燃料・弾頭,更には各種誘導弾・砲弾にまで誘爆し,「ヴァリャーク」を艦内部から一瞬で破壊する。

 

正に今「ヴァリャーク」は轟沈·······いや爆沈したと言って良いだろう。

 

更に最悪なことに誘爆が右斜め後ろを航行していた駆逐艦「ブールヌイ」に届き,「ブールヌイ」の前主砲の弾薬に誘爆し,艦首ごと吹き飛ばした。

 

排水量11000tの巡洋艦が一瞬で沈んだことに「S-107 ウリヤノフスク」艦橋は静まり返った。

ミサイル襲来に喜んでいたレバルの顔から笑みは消え失せており,まるで病人の様に青白くなっていた。

 

そんなレバルをレーダー員の報告が更に痛みつけた。

 

「艦隊9時方向からミサイル!! 数60!!」

 

更なるミサイルの襲来にレバルは思わず膝から崩れ落ちた。

 

「何てことだ··········」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「シ連艦隊既に艦隊の半数の艦艇を喪失した模様。」

 

レーダー員の冷静な声が「DDH-185 あまぎ」CICに響き渡る。冷静な理由は目の前の惨状に神経が壊されたのかもしれない。

 

CICのディスプレイにはシ連艦隊とそれを襲うミサイルが光点として現れていたが,その光景は最早恐怖を覚える程だった。

 

2度ものミサイルの飽和攻撃によって艦対空ミサイル(SAM)の残量がほぼ無くなっていた艦隊に,百里基地の第3飛行隊所属のF-2A 15機から放たれた22式空対艦誘導弾(ASM-3)と佐渡島に配備された第6対戦車ミサイル連隊所属の88式地対艦誘導弾(SSM-1)が無慈悲に襲いかかっていた。

 

迎撃する力無く,艦隊へと次々に着弾し艦艇を何隻も戦闘不能・もしくは撃沈に追い込んでいた。

 

攻撃が終わる頃,ディスプレイ上では残っているのは旗艦の「ウリヤノフスク」と並走するように航行する2隻のミサイル巡洋艦に駆逐艦1隻・フリゲート1隻だけで,残る艦は撃沈もしくは戦闘不能で落伍していた。

 

「第1段階は完了だな。まさかここでは上手く行ってしまうとは思っていなかったが。」

 

桐島もこの現状に少し恐怖を感じている様にも感じれる言葉を言った。

彼も第1段階で周囲の邪魔な艦を全て凪払う事が出来るとは思っておらず,出来て半分と思っていたのだが,結果は大成功だった。

 

「艦隊の方は殲滅しましたが,艦載機隊がこっちに向かっています。

迎撃の方は既に発艦したイーグル隊で行いますが,万が一のためにを取らせましょう。」

「勿論そうするつもりだ。艦載機の襲来は予想できた事だ。そう慌てることはない。」

 

桐島は水上の指摘を受け取りつつも,慌てないように諭した。

 

第2機動部隊は第1輸送隊及び護衛の3隻と合流に成功し,本格的な朱雀列島奪還作戦を始めようとしていた。

 

しかし現在合流したばかりの艦隊とは別れて,第2機動部隊11隻はシ連艦隊との決戦へと駒を進めていた。

 

シ連艦隊との距離は凡そ200km。既に艦対艦誘導弾(SSM)の射程距離だが,同時にシ連艦隊の艦対艦誘導弾(SSM)の射程圏内に入っている事にもなる。

 

今まで撃ってこなかったのは,艦隊が飽和攻撃を受けていて撃つ暇がなかったからで,飽和攻撃が終了した今はいつでも撃たれる可能性がある緊張した状態だった。

 

「シ連艦隊が飽和攻撃を受けている最中に接近し,艦対艦誘導弾(SSM)を撃ち込んで引き返す。

聞いた時は“成功するわけ無い”と思っていましたが,案外行くもんですね。」

 

水上が意外そうな声を上げて言った。事実水上らは上述の作戦を聞いた時,“失敗する”・“成功しない”と声をあげた。

 

だが実際やってみると上手く行った為に彼らは桐島への評価を少し高めていた。

当の桐島はというと,

 

「今回は上手く行っただけで,次やった時にこうなるかは分からないさ。

敵だって馬鹿じゃない。学習して対策を考えてくるかもしれないし,こっちが同じことを食らうかもしれない。

成功したのはただ運が良かっただけ。もう一回成功したいのならいるか分からない女神に祈るべきだな。」

 

冗談交じりのこの言葉にCICの各所から微かな微笑の声が聞こえた。

桐島にも聞こえてはいるが無視をして,

 

「これから第2段階に移ろうと思うが,この艦数では32発もいらないな。 10発程度で大丈夫だろう。」

「大丈夫ですか? 幾ら少なくなったとはいえ油断大敵。せめて20発程で宜しいのでは?」

 

水上の指摘に桐島は頭を掻きながら,

 

「艦隊全隻を狙うわけではないから10発で充分だろう。艦隊ももう艦対空ミサイル(SAM)を残していないから撃墜される心配もないだろう。

それにそんなにバカスカ撃てる程艦対艦誘導弾(SSM)は安くないんだよ。」

「本音は金ですか········」

 

結局は金の問題かと水上は溜め息をした。

 

そんな水上を横目に見つつ,桐島は通信機を手にとった。

 

「艦隊取舵! 右舷の「あそ」・「ながなみ」・「はつづき」は艦対艦誘導弾(SSM)発射準備!!

発射指示はそれぞれの艦長にお任せする。」

『了解しました。艦対艦誘導弾(SSM)発射!!』

 

艦隊は取舵をきって艦首を北北西へと向けた。

 

艦隊が転舵し終わると,「DDG-204 あそ」・「DD-115 ながなみ」・「DD-124 はつづき」の艦中央から白い煙を上げて艦対艦誘導弾(SSM)が4発づつ放たれた。

 

90式艦対艦誘導弾(SSM-1) 8発・17式艦対艦誘導弾(SSM-2)4発。計12発が約200km先のシ連艦隊へと迷うこと無く向かっていった。

 

ディスプレイで12発の光点が1000kmを越える速度でシ連艦隊へと向かっていく。

とその時シ連艦隊から光点が幾つも出現した。

 

「迎撃ミサイルか!? 奴らまだ残していたのか!!」

 

桐島が咄嗟に自己で分析したが,答えは違った。

 

「敵艦隊ミサイル発射!! 数10!! 本艦隊に向かってきます!!」




作者の住む県にコロナがヤバい·········一気にクラスターが何件も出て市だけで100人越えた·····

外出がガチで怖くなる··········


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Episode.44 被弾

新年明けましておめでとうございます!

去年の1月1日覚えていますか? この小説の連載が始まった日です!!

まさか完結まで1年かかるとは思ってませんでしたが,今年もよろしくお願いします!!

では本編どうぞ·········今回戦闘シーンむちゃくちゃかも。


艦隊南南東60kmの高度2000mの夜空。星空に覆われた世界に10本の流れ星が出現する。

 

もしこの光景を人々が見たら幻想的だと思うだろうが,同時に轟音で耳を塞ぐだろう。

 

流れ星の尾を描いているのは10機のF-35JC(ライトニングⅡ)。機体後部のエンジンノズルから排出された光が流れ星の様に見えていたのだ。

 

艦隊防空を担当するイーグル隊。その隊長である青木柊は任務の重大さを感じていた。

 

もう後がない決戦。ここで負ければ日本が負けたも同然。艦隊を勝たせる為,日本を勝たせる為にはこの攻撃を凌がなければならない。

 

既にヘッドマウントディスプレイ(HMD)に写されているレーダー画面には12機の敵機編隊がハッキリと写されていた。

 

敵編隊とは500mの高度差というアドバンテージがある。このアドバンテージを使わなければ勝つことは出来ない。

イーグル隊に損失機はいないが,この戦いで出る可能性は非常に高い。撃墜されない方が可笑しいと言ってもいいだろう。

 

なら損失を最小限にして勝たなければならない。アドバンテージを有効に使って奇跡を起こす確率を大きくするしかない。

 

青木は覚悟を決めた。操縦桿を握る力が強まる。

 

「全機兵装使用自由(ウェポンズフリー)!! 艦隊には近づかせるな!!」

 

その合図と共に青木は操縦桿を右に倒し,一気に機体を降下させた。

それに続いて他の機も降下を開始する。

 

強いGが体を襲い,対Gスーツが必死に稼働しパイロットの下半身を締め付ける。

 

機体が降下にするに連れて,眼球に血が集まって視界が赤くなるレッドアウトがうっすらと起き始めた。

 

既にレーダーは敵機をロックオンしている。後はミサイルを放つだけ。

 

「FOX3!!」

 

ウェポンベイが開き,中に搭載されていたAIM-120(AMRAAM) 2発が放たれた。

 

視程外射程ミサイル(BVRAAM)であるAIM-120(AMRAAM )は搭載されている慣性航法装置(INS)に従って敵機へと向かった。

 

敵編隊も接近するAIM-120(AMRAAM)に気づいたのか,チャフとフレアをばらまいて回避行動を取った。だが500mという距離はあまりにも近すぎた。

 

ヘッドマウントディスプレイ(HMD)に写っていた敵機16機の光点のうち6つが消滅する。

 

直ぐ様機首を上に向け上昇体制を取ると,操縦桿を右に傾け機体の進路を右へと変える。

 

残った敵機10機は散開したが,イーグル隊は各自別れて敵機と一対一の戦闘を開始した。

 

青木も自機の視界の先にいるSu-33(フランカーD)に目標を定めた。

 

「俺の相手はお前だ!!」

 

青木の目の前の敵機はフラップを動かして機体を急速に降下させる。続くように青木も降下を行う。

 

「FOX2!!」

 

操縦桿のボタンを押して,両翼のハードポイントに搭載されていた04式空対空誘導弾(AAM-5)1発づつ放たれた。

 

推進材の固体燃料を消費して,自らの慣性航法装置(INS)に従って目標へと突き進んだ。

 

敵機はそのまま海面に向け降下を続けていく。

 

そして海面に接触するかに思えたが,機体は海面スレスレで降下をやめ,垂直飛行を再開した。

 

04式空対空誘導弾(AAM-5) 2発は追尾することが出来ず,そのまま海面に突撃した。

水中で爆発し,高い水飛沫が上がる。

 

水飛沫をかわして青木の機体(イーグル1)は敵機の追尾を再開した。

 

刹那敵機に変化が起きた。エンジンノズルから排出されていた排気がオレンジに染まり,速度が上昇したのだ。

 

この変化の原因を青木は一瞬で見抜いた。

 

(アフターバーナー(A/B)だと!? こいつら意地でも射程圏内に行く気か!!)

 

ジェットエンジンの排気にもう一度燃料を吹き付けて燃焼させる事で高推力を得る事が出来る機構 アフターバーナー(A/B)

燃料の消費は早くなるがその分速度は早くなる切り札的装備だ。

 

敵機のこの行動に青木は非常に戸惑った。

 

(アフターバーナー(A/B)をここで使ったら間違いなく燃料が持たない!!

機体を犠牲にしてまでも叩き込みたいのか!!)

 

先述の通りアフターバーナー(A/B)は平常時より多くの燃料を消費する。

そして現在使用しているSu-33(シーフランカー)には約800kgもあるKh-59(オーヴォト)を発搭載している。故に燃料消費量はアフターバーナー(A/B)を使わずとも増えていた。

 

つまり彼らは機体を犠牲にしてまでも第2機動部隊へとミサイルを叩き込もうとしているのだった。

 

青木は加速を続ける敵機に再びミサイルの照準を合わせた。

 

その時だった。敵機はハードポイントからKh-59(オーヴォト)を放った。

 

ミサイル(重荷)を下ろて身軽になったSu-33(フランカーD)は加速度を増して一気に上空へと上がった。追いかけるのようにイーグル1も上昇を開始した。

 

降下から一転して上昇へと移ったが,青木は信じられない様な光景を目にした。

 

目の前を飛んでいたSu-33(フランカーD)が宙返りをする途中でいきなり失速して宇宙(そら)を向いていた機首が重力に従って下を向いて落下し出したのだ。

 

彼は燃料切れかと思ったが,次の瞬間失速していた筈のSu-33(フランカーD)はエンジン出力を取り戻して体制を立て直していた。

 

(しまった!!)

 

彼が思った頃にはコックピットにレーダーロックオンを意味する警報がなっていた。

 

敵機はイーグル1に向けて翼端のR-73 空対空ミサイル(AAM) 2発を発射した。

 

青木は直ぐ様機体を加速させた。2発の空対空ミサイル(AAM)がマッハ2.5の速度で迫ってくる。

 

機体が上昇するに伴って体にかかるGの数値が比べ物にならない程上がっていく。

幾ら対Gスーツがあるとはいえ,危険な状態であることにかわりない。

 

彼は賭けに出た。搭載されているAN/ALE-45J(チャフ・フレアディスペンサー)からチャフとフレアをばらまき,即座に機体を右旋回させた。

 

チャフ・フレアによってR-73(空対空ミサイル)は爆発し,彼は難を逃れた。

 

彼はそれを確認しつつ,機体を180°旋回して元来た方向へと進んだ。

ヘッドマウントディスプレイ(HMD)は既にSu-33(フランカーD)を捉えていた。

 

彼は操縦桿のボタンを押して,機首のGAU-22/A(25mmガトリング砲)を放った。

 

25mm口径弾がSu-33(フランカーD)の機体の外装を突き破り,内部へと着弾する。

機体は内部から爆発し,重力に従って海面へと落下を始めた。

 

その上をイーグル1は飛ぶと右旋回して落下していく機体を見つめた。

 

海面へと落下していく機体の脇にパイロットが緊急脱出(ベイルアウト)してパラシュートで降下している様子を彼は確認した。

 

「イーグル1より「あまぎ」へ! 敵機パイロットがベイルアウトした模様!! Over(オーバー)!!」

『「あまぎ」よりイーグル1へ! 了解した。今すぐは無理だがHH-60H(レスキューホーク)を派遣する。生きて帰ってこい!! Over(オーバー)!!』

 

そう言って通信はきられた。静かになった空間で青木は独り言を呟いた。

 

「役目は果たしました。後はお願いしますよ。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「3時方向より敵ミサイル!! 数10!! 距離140km!!」

 

イーグル隊がSu-33(フランカーD)と空戦を開始した頃,艦隊の方には艦隊から放たれた艦対艦ミサイル(SSM) 10発が接近しつつあった。

 

「DDH-185 あまぎ」CICのディスプレイでは艦対艦ミサイル(SSM)を示す光点が凄まじい速度で迫っているのが一目で分かった。

 

「流石シ連製。速度がうちらのとは桁違いだ。」

 

桐島が敵ミサイルを褒めるが,表情に余裕がないことが目に見えて分かった。

 

「「あそ」スタンダードミサイル6(SM-6)発射!!」

 

「DDG-204 あそ」の前甲板VLSからスタンダード・ミサイル6(SM-6) 10発が放たれた。

 

各種飛行物体を目的として開発されたミサイルで,その射程と最大高度は対空目標の撃墜に柔軟に対応できると高らかに宣言できるだろう。

 

「あそ」のAN/SPY-1D(V)多機能レーダーが捕捉した目標に向けてMk.99 ミサイル射撃指揮装置の補助を受けながら目標へと向かっていった。

 

マッハ2.5で迫るミサイル(流れ星)SM-6(彗星)が交差し,上空に花火を咲かせた。

 

「目標8発撃墜!! 2発抜けました!! 」

 

レーダー員が報告した。そしてまるで予測していたかのように「DD-115 たかなみ」から2発の発展型シースパロー(ESSM)が発射された。

 

ミサイル同士がさっきよりも近くではぜた。光点同士がレーダー上で交差した後,映っていたのは尚も接近する1発のP-800(オーニクス)の光点だった。

 

「敵ミサイル1発抜けました!! 本艦に向かってきます!!」

「チャフ発射!! 砲雷長SeeRAMで対応せよ!!」

 

艦側面のスポンソンに搭載されているチャフロケット発射装置がチャフの詰まったロケット弾を勢い良く射出した。

上空でロケットは破裂し,銀色の雨を「DDH-185 あまぎ」に降らせた。

 

砲雷長の宇津木も心の底では恐怖を感じていたが,冷静に発射指示を出した。

 

「SeeRAM発射!」

 

元々搭載されていたRIM-7(シースパロー)を撤去して搭載された艦対空ミサイル(近SAM) SeeRAM 11発が迫ってくる敵ミサイルへ放たれた。

 

SeeRAMの隣に設置されているファランクス(CIWS)も銃口を上に向け,発射を今か今かと待っていた。

 

だがファランクス(CIWS)が火を吹く前にミサイルは11発のミサイルで撃墜された。

 

「あまぎ」上空でミサイルが爆発した為に,航空甲板及び艦橋を激しい光が照らした。

 

CICには光は届かなかったが,遅れて衝撃波が艦を揺らした為に,CICも若干だが揺れた。

 

揺れが収まり桐島がディスプレイを見ると,迫っていた筈の光点は1つも残っていなかった。

危機を脱した事に安堵したが,戦場は心が落ち着くのを待ってはくれない。

 

「5時方向よりミサイル!! 数6!! 距離50km!! イーグル隊の撃ち漏らしかと思われます!!」

「「DD-131 しらぬい」・「DD-124 はつづき」共に発展型シースパロー(ESSM)発射!!」

 

再び迫ってくる敵ミサイルに艦隊後方に展開していた「はつづき」と「しらぬい」が3発づつ発展型シースパロー(ESSM)を発射した。

 

ミサイル同士がそれぞれの目標へと向かっていく最中今度は1時方向からも2発の空対艦ミサイル(ASM)が接近している事をレーダーが捉えた。

 

一瞬の隙もなく変わっていく状況に桐島は思わず,

 

「こりゃ1種の飽和攻撃だな。」

 

と呟いた。

 

艦隊への攻撃はまだ終わることはない。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

発展型シースパロー(ESSM)発射!!」

 

艦長の金島佑月一等海佐の合図で,Mk.41 VLSの蓋が開き,2発の発展型シースパロー(ESSM)が発射された。

 

2発のESSM(流星)は敵空対艦ミサイル(ASM)に向け,飛揚を開始した。

ディスプレイ上でミサイルが交差し,敵空対艦ミサイル(ASM)が消滅する。

 

「おかしい·······」

 

唐突に金島はそう呟いた。その言葉に隣にいた溝口は思わず反応した。

 

「艦長。おかしいとはどういうことですか?」

「可笑しいと思わないの? 排水量20000tの艦なら10発しかミサイル搭載しているわけない。

なのに何故10発しか撃ってこなかった·········」

 

金島の疑問を聞いて思わず溝口は,

 

「まさかとは思いますが,さっきのは()だったりして。」

 

彼は冗談で言ったつもりだったが,金島はその言葉に反応した。

 

「可能性は充分にあり得るな。レーダー何か不審な物は捉えているか?」

「いえ,そのような物はまだ!?」

 

レーダー員は平常通り話していたが,突如驚愕して声を荒げた。

 

「本艦3時方向より飛行物体!! 数4!! 距離60km!!」

「溝口。君の言葉が当たった様だ!! 発展型シースパロー(ESSM)発射!!」

 

再び前甲板のMk.41 mad 18 VLS 1セルの蓋が開き,ミサイル・セルから発展型シースパロー(ESSM) 4発が発射された。

 

ミサイル同士がマッハ2.5とマッハ1.6でぶつかり合った。

 

「敵ミサイル全発撃!?」

「どうした!?」

「敵ミサイル1発抜けました!!」

 

この報告に金島は驚愕した。既にミサイルとの距離は15kmをきろうとしている。

このままでは「あまぎ」への直撃は免れない。

 

ファランクス(CIWS )射撃開始!!」

 

艦後甲板のヘリ格納庫上の高性能20mm機関砲(ファランクス)が回転して銃口がミサイルへと向いた。

6連装の20mmバルカン砲が高速で回転しながら上部のセンサーでミサイルを捕捉しながら20mm口径弾を撃つ·········はずだった(・・・・・)

 

ファランクス(CIWS)動作しません!!」

「まさか·········ジャム!?」

 

弾詰まり等の銃関係の機械的トラブル ジャム。それが最悪の場面で発生した。

 

ジャムは弾詰まり以外にも薬莢噛み・二重装填・撃鉄損傷等の総称であるために何が原因で,どこで起きたのかは直ぐには分からず,尚且つ直ぐ直るわけでもなく,直していたらその間に「あまぎ」に着弾する事を金島は分かりきっていた。

 

金島はそれらを分かりきった上で決断した。

 

「全速後進!! ミサイルの射線に入れ!!」

 

最初の四文字の言葉でCICの全員が艦長のしたいことが分かった。

「ながなみ」を盾にして(・・・・・・・・・)「あまぎ」を守る。

 

艦長だってこの手段は使いたくなかった。だがこの艦を犠牲にしてまでも守らないと,艦隊がいや日本全体が悲劇に包まれかねない。

 

金島は座っていた椅子の肘掛を強く握りしめながら,

 

「誰かを守る。その対象は自衛官にも当てはまるのですよ。」

 

直後「ながなみ」は光に包まれた。




久々に空戦シーン書いたのですがやっぱりムズい······

F-35JCが04式空対空誘導弾(AAM-5)を搭載できた事と,機首に機銃を搭載しているのは,自衛隊独自改造によるものですので勘違いのないようにお願いします。

これは本編に関係あるかどうか分からないんですけど,12式地対艦誘導弾を改良?して射程1500kmにするらしいですね。

射程1500kmのミサイルとか最早弾道ミサイルじゃ·······比較として北朝鮮の準中距離弾道ミサイル ノドンの射程は1500~2000kmです。


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Episode.45 意地

突如として「DD-115 ながなみ」の方向が昼間の様に明るく染まった。激しい光に遅れること数秒後,爆風が船体を揺らした。

 

「DDH-185 あまぎ」艦橋にいた副艦長の長瀬以下艦橋要員は光から目を隠すと共に手摺(てすり)に捕まって衝撃から身を守った。

 

光と衝撃が収まり,艦橋要員が衝撃が来た「ながなみ」の方向を見ると,彼らの視線には被弾した「DD-115 ながなみ」の艦影が目に入った。

 

「「DD-115 ながなみ」が!?」

「艦尾が燃えているぞ!!」

「艦を盾にしたのか!?」

 

副艦長の長瀬も「ながなみ」の行動に驚きながら,首に下げていた双眼鏡を手に構えた。

 

ピントを合わせてボンヤリとしていた視界がクッキリとすりと「ながなみ」の様子が鮮明に移り混んだ。

 

被弾した艦尾から黒煙が上がり,船体も破口から流入した海水によって右に傾きつつあった。

 

「艦尾に命中弾······あれはもう航行不能だ····」

 

長瀬の予測は正しく,P-800(オーニクス)が艦尾に命中した為に爆発が推進軸を破壊して航行不能へと追い込んでいた。

 

だが長瀬は躊躇無くこの判断を行った「ながなみ」艦長 金島佑月に驚きを隠せずにいた。

 

(艦を犠牲にしてまでも「あまぎ」を守った。あんな事自衛隊でも出来る奴はそうはいない。

しかも「ながなみ」の艦長はあの金島だ·······女性ならではの意地というべきかな。)

 

女だからと見くびっていた長瀬は,“その考えを改めるべきだな”と認識させられたのだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「何とか耐えてくれた様だ·········」

 

「DD-115 ながなみ」のCICは被弾で大きく揺れ,隊員は皆何かにつかまって耐えていた。

金島も肘掛をがっしりと掴んでいたが,衝撃で思わず手を離して目の前の机へと倒れてしまった。

 

幸い彼女の適度な大きさの胸部装甲がクッションとなって,体への衝撃は若干和らいでおり,直ぐに立ち直す事が出来た。

 

椅子に体を戻しながら平行して損害を伝える様に指示した。

 

「船体右舷後方に被弾!! 第7・10居住区・発電機室・ヘリ甲板に甚大な被害!! 後方ファランクス(CIWS)使用不能!!」

「負傷者はどうなった!?」

「まだ分かりませんが相当な数になるかと·······」

「応急修理班を急いで向かわせろ!! 負傷者の数を正確に把握するように!!」

 

金島は急いで指示を出すと,椅子に座りながら目上のディスプレイを見上げた。

 

ディスプレイ上に敵機及びミサイルを意味する光点は1つも写っておらず,攻撃は終わったのだということを彼女は理解した。

 

それから数分経過して応急修理班から悲惨な通信が入ってきた。

 

『応急修理班より第7・10居住区及び水側機器室・発電機室にて死傷者21名確認!!』

「21········」

 

被弾現場から伝わってきた情報に思わず金島は歯を食い閉めた。

自分の行動で21人もの隊員が負傷または死亡したという事実は彼女自身のメンタルを傷つけた。

 

分かっていたことではあるのだが,それでも彼女を痛め付けるには充分だった。

 

「艦長。「あまぎ」艦長から通信が入りました。」

 

このタイミングで入ってきた通信に思わず“狙っていたのか?”と金島は思ってしまったが,彼女は通信機を手に取った。

 

「「ながなみ」艦長の金島です。」

『桐島だ。艦長は無事なようだな。貴艦は直ぐ様舞鶴への帰港を命じる。』

「ええ,貴方に言われずともそうするつもりでしたよ。」

 

金島の言葉に桐島は一瞬詰まったが直ぐに,

 

『貴女も同意見の様だな。』

「当たり前ですよ。本艦は見てわかる通り艦尾を損傷して戦闘不能に陥っています。

その状態で戦場に突入すれば間違いなく撃沈されます。そうなった場合乗組員175名に死者が出るのは間違いありません。

そして沈没から生き残ったとしても戦いの最中救助できるわけなく,救助を行っている最中に攻撃を食らってしまって更なる死者が出る二次災害になる可能性は容易にあり得ます。

それ以前に戦場に行けるかすら分かりませんが。」

『最早航行不能だろう。舞鶴の「AMS-4301 ひうち」に曳航(えいこう)してもらって舞鶴に帰った方が良いだろう。』

曳航(えいこう)中に襲撃される可能性も捨てられませんがね。」

 

金島の笑えない冗談に桐島はどう返せば良いか苦笑いのような声が通信機越しに聞こえた。

金島も“不味かったかな”と思わせるような表情をして,話を切り替えようとした。

 

「桐島艦長へ。本艦以外に損傷した艦はおりませんか? それとシ連艦隊はどうなっていますか?」

『貴艦以外は皆無傷だ。シ連艦隊へは既にクロウ隊とストーク隊が艦隊攻撃に向かっている。当分は安泰だと信じたいがな。』

「その結果は神が知るのみだけです。」

 

そう言って金島は通信機を切った。金島は背もたれに深く寄りかかって,目線を天井へと向けた。

 

「艦長として乗組員の命を預かっているのなら,彼らを家に帰すのも艦長の使命の1つだが,それなら私は艦長失格だな。」

 

金島は自分が言った言葉に発散させることの出来ない思いを誰にも気づかれないようにぶつけるのだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

艦隊北東90kmの高度1000mの夜空を「DDH-185 あまぎ」を発艦したクロウ隊 16機が編隊を組んで飛んでいた。

 

クロウ1のパイロット 赤羽正敏のヘッドマウントディスプレイ(HMD)には同じく「あまぎ」から発艦したE-2C(ホークアイ)が艦隊北東40kmの上空を旋回しながら,機体に搭載されたAN/APS-145レーダーが捉えた情報が次々と入ってくる。

 

その情報によるとクロウ隊の正面100kmに「ウリヤノフスク」を発艦した敵機編隊 14機が展開しているとの事だ。

 

「恐らく敵機はMig-29K(ファルクラム)········F-35JC(こいつ)に申し分ない相手だ!!」

 

赤羽はこれから戦うことになる相手に興奮していたが,直ぐに興奮する神経を落ち着かせた。

彼は自身の機体 クロウ1に搭載させているミサイルを再確認した。

 

(クロウ1(こいつ)が搭載している空対空誘導弾(AAM)はウェポンベイにAIM-9X(サイドワインダー)4発,ハードポイントに04式空対空誘導弾(AAM-5) 4発。

今すぐ撃ちたくなるが,相手だって警戒している筈。タイミングを見計らって撃たないと直ぐ様残弾0だ!!)

 

赤羽の操縦桿を握る手に力が入る。赤羽の脳内には作戦説明時に桐島から言われた言葉が何回も繰り返して聞こえていた。

 

“シ連艦隊の周囲には20機もの敵編隊が展開している。クロウ隊の任務は敵編隊を引き付けストーク隊の突入を支援する事だ”

 

敵機編隊を引き付け,その隙にストーク隊をシ連艦隊へと突入させる。

ストーク隊が搭載しているのは軽い空対空誘導弾(AAM)91式爆弾用誘導装置(GCS-1)だがそれでも空気抵抗は増加して空戦の危険は増す。

 

彼らを安全に戦場へと送るための重要な役割をクロウ隊は担ったのだ。赤羽以下パイロットには重い重荷がかかっているだろう。

 

敵編隊への距離は既に100kmを切っており,90kmも切ろうとしていた。

空対空ミサイル(AAM)の射程圏内に着々と近づいていく。

 

赤羽はクロウ隊の全機に対して通信を行った。

 

「クロウ1より全機へ!! 敵機の総数は我々より少ないが油断するな!! 我々は全力でストーク隊の突入を支援するぞ!!」

 

返事は帰ってこないが,皆が覚悟を決めていると赤羽は判断した。

 

「FOX3!!」

 

彼らはウェポンベイを開いて,2発ずつAIM-120D(AMRAAM)を発射した。

 

空戦の火蓋が切られた。




護衛艦の内部構造がよく分からなかったので,応急修理班が伝えた部屋は調べて出てきた単語をただ合わせただけですので読者のご理解をよろしくお願いします(強制します)

というか軍艦内部って軍事機密だから分からなくて当たり前なんですがね········

適度な大きさの胸部装甲ってのは照月位のサイズを想像してください()


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Episode.46 艦隊崩壊

ふと日本国召喚×仮面ライダービルドを思い付いたのだが,設定を煮詰めるのが難しすぎて一時間で諦めた。

あと今回も無理矢理かも··········


「どうやら空戦が始まったようだな。」

 

海面スレスレを飛びながら,ストーク隊隊長 黄山翔弥はイーグル隊と敵戦闘機部隊の空戦が始まった事を知った。

 

現在ストーク隊のF-35JB(ライトニングⅡ) 11機は朱雀列島南30kmの海上をスレスレに飛んでいた。

 

海面スレスレに飛ぶこと(シースキミング)によって敵のレーダー探知から少しでも免れ様という魂胆だ。

だが海面スレスレを飛ぶという事は,一回バランスを崩してしまえばそのまま海面に突っ込む事になる。

 

その為,各パイロットは神経を使いながら操縦桿を握っていた。

 

最も隊長の黄山は別の不安要素を気にしていたのだが。

 

(唯一の不安は積んでいるミサイルがウェポンベイに搭載できない04式空対空誘導弾(AAM-5)な事だな。)

 

現在ストーク1含め6機が搭載しているのはウェポンベイに搭載する事の出来ない04式空対空誘導弾(AAM-5) 4発をハードポイントに搭載していた。

 

これには“ステルス性が無くなる”と航空団司令の渡島に抗議したのだが,“ウェポンベイに搭載可能なミサイルの残弾がもう無い”と言われてしまい言い返す事が出来なかった。

 

出撃前に他のパイロットから聞いた話では,“AIM-120(AMRAAM)の残弾はあるが勿体無いから使わないのでは”とも言ってた。

 

“決戦なのに·······”と黄山は心の底で愚痴をついた。

 

その時だった。上空管制を行っていたE-2C(ホークアイ)から通信が入った。

 

E-2C(ホーク1)よりF-35JC(ストーク1)へ!! ストーク隊の正面50kmに敵編隊!! 数6!! オーバー!!』

「何!? 敵機が他にもいたのか!!」

 

思わず黄山は舌打ちをした。よくよく考えれば艦隊周辺に展開していた20機のうち14機しかいなかった時点で可笑しいと思えば良かったと彼は後悔したが,直ぐ様思考を切り替えた。

 

「ストーク1より全機へ!! 敵機の数は少ない!! だが油断するな!! ストーク3・4は迎撃を! 残りはそのまま艦隊に向かうぞ!!」

『ストーク3 了解(ラジャー)!!』

『ストーク4 了解(コピー)!!』

 

そう宣言すると同じように低空を飛んでいたストーク3・4がエンジン出力を上昇させ,機首を上空に上げて敵機へと向かっていった。

 

敵編隊への距離が40kmを切った時,敵機 6機のうち4機が突如として降下を開始した。

この行動の理由を黄山は直ぐに特定できた。

 

「4機で我々を全機撃墜する気か!?」

 

黄山は瞳孔を見開いた。現在ストーク隊 9機が飛んでいるのは海面スレスレ。

この状態で攻撃を受けた場合に向かえるのは左右と上方向だけになってしまう。

 

しかし今の敵機は上空から迫っており,事実上逃げ道は無くなっていた。

そうしている間に敵機は短距離空対空ミサイル(AAM) 計8発を発射した。

 

迫ってくるミサイルに対して黄山は効果的な考えが思い浮かばなかった。

辛うじて思い浮かんだ考えをじっくりと煮込む間もなく全機へ通信を行った。

 

「ストーク1より全機へ!! 全機上昇してチャフとフレアを着弾寸前にばらまけ!!」

 

通信を終えると直ぐに操縦桿を手前に引いて上昇を開始した。

ストーク1に続いて他の機体も海面から水飛沫を上げながら上昇を始めた。

 

敵ミサイルはそうとも知らず無慈悲に迫ってくる。コックピット内のミサイル警報装置(NAWS)のアラートが響いており,視界に見えるのも時間の問題だった。

 

「今だ!!」

 

黄山は機体内部のAN/ALE-45J(チャフ/フレアディスペンサー)からチャフとフレアをばらまくと,操縦桿を右に傾けた。

 

機体は真横に90°傾き,接近していたR-73(アーチャー)はチャフとフレアによって爆発し,ストーク1は難を逃れた。

 

黄山は一安心したが,ストーク5から悲鳴の様な通信が入った。

 

『ストーク8と11がやられた!!』

 

一気に2機も落とされた事実に黄山は無能な自分を恨みたくなったが,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)に敵機を意味する光点が出現した事でそう考えるは暇はなくなった。

 

黄山は機体を今度は降下させた。敵機もストーク1をつけるように降下を始めた。

 

黄山は機体を左右に小刻みにずらして敵ミサイルのロックオンから逃れようとした。

だが敵機のパイロットもそれを対処できない程無能ではない。

 

ストーク1のコックピットにミサイル警報装置(NAWS)のアラートが響き渡る。

黄山がチャフ・フレアのスイッチに手を掛けたその瞬間だった。

 

後方の敵機が突如として爆発したのだ。

 

“何だ!?”と黄山が答えを出す前に答えが隣に現れた。1機のF-35JB(ライトニングⅡ)がコックピット内のパイロットが見えるぐらい近くを並走して飛んでいた。

 

黄山は並走する機体 ストーク5のパイロットに対して通信を行った。

 

「ストーク1よりストーク5へ!! 大丈夫なのか! 空母に撃ち込む分の空対空ミサイル(AAM)の残弾はあるのか!!」

『大丈夫ですよ。空母に叩きつける分の空対空ミサイル(AAM)は隊長が確保しているのですから。攻撃できる機体が1機でも残っていれば充分です!!』

 

そう意気揚々と宣言したストーク5のパイロットはサムズアップをしていた。

そして左旋回して去っていった。

 

そんなストーク5の様子に黄山はフッと笑った。こんな自分の為にわざわざ部下が花道を作ってくれた事に最早バカバカしく思えていた。

 

「すまないな。わざわざこんな俺のために·······」

 

黄山は海面スレスレを単機で空戦海域を去っていった。

 

それから敵艦隊へ向け飛び続けて10分程が経過し,日付も変わろうとしていた時。

遂に敵艦隊を空対空誘導弾(AAM)の射程に捉えた。目標は艦隊中央の航空母艦。

 

黄山の操縦桿を握る手に自然と力が入る。覚悟を決めて宣言する。

 

「FOX2!!」

 

撃墜された仲間への思いを籠めて,ハードポイントから04式空対空誘導弾(AAM-5)4発が発射された。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「艦隊2時方向より敵ミサイル!! 数4!! 距離30!!」

「馬鹿な!? 何故そこまで気づかなかった!!」

「艦長! そんなこと今はいい!!」

 

突如として入った情報に「S-107 ウリヤノフスク」艦長がレーダー員を怒鳴ったが,艦隊司令のレバルが制止した。

 

レバルは直ぐに指示を出した。

 

「右舷・左舷前方CIWS攻撃開始せよ!!」

 

右舷と左舷のスポンソンに搭載されているコールチク 2基の30mmガトリング砲(GSh-6-30)がミサイルに向けて火を吹いた。

 

漆黒の夜空に毎分4000~6000発の30×165mm口径弾が800m/sの初速で赤い線を描きながら,接近してくるミサイルに向けて放たれた。

 

火を吹きはじめて10秒程経過したとき,銃弾が向かっていく先で1発の花火が炸裂した様に見えた。

 

花火が炸裂した際の光は艦橋からも視認する事ができ,艦橋要員から歓声が上がった。

 

歓声は直ぐ書き消された。3発の04式空対空誘導弾(AAM-5)が航空甲板へと着弾した事によって。

 

「うおぉ!!」

 

着弾の衝撃で艦橋は揺れ,レバルも司令官席の背もたれに捕まることで何とか耐えていた。

 

揺れが収まりミサイルが着弾した航空甲板を見てみると,そこはまるで陸上戦の戦場後の様だった。

 

着弾場所が大きく破損し,爆発の衝撃で壊れた油圧装置から漏れでた油に引火して火災も発生していた。

 

艦橋要員がこの惨状に驚愕しているとここからは確認できない甲板の損傷箇所の報告が入ってきた。

 

「カタパルト大破!! アレスティング・ワイヤー切断!! エレベーター動作しません!!」

「してやられた·········」

 

レバルが背もたれを叩いて悔しがっていると,「ウリヤノフスク」右舷側を航行していた「806 ジダーノフ」から突如として爆発が起きた。

 

「「ジダーノフ」が········」

 

艦橋の誰かがそう呟いた。

 

F-35JB(ライトニングⅡ)から投下された91式爆弾用誘導装置(GCS-1)は艦内部の熱源を正確に捉えて,狂うこと無く直撃した。

 

2発の91式爆弾用誘導装置(GCS-1)は前甲板の各種VLSと艦中央の艦橋を破壊し,その戦闘能力を正確に奪っていた。

 

それから間もなくして反対側を航行していた「801 アドミラル・ラーザリェフ」にも2発の91式爆撃用誘導装置(GCS-1)が命中した。

 

こちらも同じく前甲板と艦橋を直撃しており,戦闘能力を喪失した。

 

3隻から爆炎が上がるなか,艦隊司令のレバルは“ふっ”と笑って,

 

「艦隊全滅か··········」

 

と呟いた。

 

シ連海軍太平洋艦隊にはこの3隻以外にも駆逐艦「アドミラル・バシスティ」とフリゲート「グレミャーシュチイ」が残っていたのだが,2隻とも飽和攻撃によって戦闘能力は喪失しており,「グレミャーシュチイ」に至っては海底へと傾き始めている状態だった。

 

つまりこの時を持ってしてシ連海軍太平洋艦隊は崩壊したのだ。




僕が一番書くのに時間がかかるシーンって人対人の感情的なシーンと空戦シーンだと思ってます。

空戦シーンって味方も敵も色々と難しすぎて筆が進まない······一方的な戦いを書く人が多い理由が分かった気がします。


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Episode.47 朱雀

先日日本国召喚のコメント欄に合ったコメント(要約)で“戦闘シーンで説明文は避ける”と言ったものがありました。

自分でも自覚してますけど,僕は説明文を書くのが好きなので各所で多用しています。

これは変えるつもりは一切無いと思いますけど次回作では出来るだけそう言うのは後書きに移そうかなと考えてます。

·········というか*←こんなマーク押したら吹き出し?が出るのってどうやるんですか?

2021 4/6 伝承の内容を少し変更しました。


ストーク隊がシ連艦隊へと向かっている頃,朱雀列島東70kmの海上を百里基地を離陸した自衛隊初の爆撃機 B-1B(ランサー)が飛んでいた。

 

現在B-1B(ランサー)は翼を折り畳んだ状態且つ低空で飛行しており,シ連軍のレーダー探知から逃れていた。

尚且つ灰色の機体塗装が夜空に溶け込んでおり,目視でも見つけるのは困難になっていた。

 

「そろそろ第一爆撃ポイントだな。」

 

機長の山形がコックピットの機器を確認しながら言った。

 

機体内部の3つのウェポンベイには精密誘導爆弾 GBU-38(JDAM) が専用のロータリーランチャーにそれぞれ16発ずつ搭載されており,爆撃を今か今かと待っていた。

 

E-767(J-WACS)からの報告だと飛鷹島の航空隊 10機はイーグル隊 16機と交戦を開始したとの情報です。」

「航空障害も無しか。電子攻撃(EA)が行われているのなら,本当に安心できるけどな。

突っ込んで撃墜されて死んだなんて親父に言ったら殺されるぞ俺。」

 

隣の操縦席に座っている副パイロットと情報を共有しつつ,山形は冗談を言った。

 

副パイロットは苦笑いしたが,直ぐに仕事の顔に戻って,

 

「念のため確認しますけど,飛鷹島には爆撃しないんですよね?」

「ああ,飛鷹島には特殊作戦群が展開している。幾ら精密誘導だからといって誤爆(フレンドリーファイア)の可能性があるからな。友軍に爆弾落としたなんていうバットエンドはお断りだ。」

 

冗談を交えつつ言葉を返す山形に副パイロットは内心呆れつつ,再び苦笑いした。

 

「さて冗談はここまでにして,そろそろ仕事をこなさなきゃな。」

 

山形が冗談を敢えて交えていた事と,仕事モードに切り替わった事に副パイロットは安心しつつ,自分自身も仕事モードへと切り替えた。

 

「両翼展開!!」

 

山形と副パイロットがコックピット各所のスイッチを操作すると,B-1B(ランサー)の翼が徐々に広がり始め,後進翼だった翼は横長いテーパー翼へと変化していた。

 

テーパー翼になったことで,空気抵抗が増加して自然と速度が低下する。

それと共に操縦桿を引いて,機体を上昇に転じさせた。

 

「ウェポンベイ開け!!」

 

機体下部の一番機首側のウェポンベイの両開き扉がゆっくりと開き,中のロータリーランチャーの周囲に16発取り付けられた 精密誘導爆弾(JDAM)が姿を現す。

 

蘭島で一番高い場所に位置する朱雀警備隊司令部がハッキリと視界に入った。

 

爆弾(Fire)投下用意(lady)·······(now)!!」

 

精密誘導爆弾(JDAM)が1発ずつ投下を開始した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

蘭島の朱雀警備隊司令部から南へ4km程の雑木林。落葉して細かい枝までもがくっきりと見える物静かな森に幾つもの足跡が反響する。

 

足跡を発している軍団は皆緑色や茶色で迷彩された服を身に纏っているが,自らの姿を隠す筈の迷彩がかえって彼らを目立たせていた。

 

そんな事も気にせず彼らは何処か寂しげな雑木林の中央付近で足を止めた。

 

「ここなら辛うじて大丈夫ですかね?」

「視界を完全に遮る物はないが,寧ろこっちの方が視野が広くて逃げやすそうだ。」

 

隊員の言葉にシ連陸軍第3軍司令のユラージ・チュイコフ中将が皮肉を混ぜながら返す。

 

彼らはスパイの情報から司令部爆撃の可能性が高いことから,司令部から離れることで逃れようとしていた。

 

だが念には念をいれて,レアル以下一部の司令部要員を飛鷹島に送り,残った要員も2手に分かれて少しでも保てるようにしていた。

 

「そろそろレアルが乗ったヘリが着く頃だと思うのだが,通信は繋がるか?」

「ノイズしか聞こえません!」

電子対抗手段(ECM)か······小癪(こしゃく)な真似を!!」

 

ユラージが怒りを露にして,右手の拳で木の幹を勢い良く殴った。

 

現に朱雀列島 築館島西40km地点で「DDH-186 かつらぎ」を発艦したEA-6C(プラウラー)が昨日と同じように電子攻撃(EA)を実施して朱雀列島全体をジャミングしていた。

 

故に通信機はノイズばかりでただのお荷物へと化していた。

 

と彼らの鼓膜にジェット機特有の音が微かに聞こえた。その音は次第に高まっていき,音源が接近している事を知らしめていた。

 

隊員の1人が木々の隙間から双眼鏡を覗いて,音が聞こえてくる方を見てみると,巨大な1機の爆撃機の姿を捉えた。

 

「でけぇ········Tu-160(ベールイ・レーベチ)ぐらいあるんじゃねえか?」

 

実際はTu-160(ブラックジャック)の方が10m程大きいのはさておき,音の発信元ことB-1B(ランサー)のウェポンベイから次々と精密誘導爆弾(JDAM)が落とされていく。

 

重力と内蔵されている慣性誘導システム(INS)グローバル・ポジショニング・システム(GPS)に従って一寸の狂いなく司令部を直撃した。

 

コンクリート造りの司令部が意図も簡単に吹き飛び,周囲に轟音とコンクリート片を撒き散らした。

 

爆発の轟音が聴覚を,光と炎が視覚を無慈悲に襲った。五感の内2つを刺激していた轟音と光が突如として増して彼らを襲ってきた。

 

「弾薬に誘爆した!!」

 

隊員の1人が叫んだ。司令部の周辺には揚陸艦から下ろされていた弾薬が置かれていた。

 

一応弾薬は誘爆を避けて各所に分散させようとしていたのだが,何せ急な移動になったために移動が追い付かず爆撃が始まった時にも司令部付近に弾薬が残っていたのだ。

 

既に破壊された司令部一体を弾薬の誘爆が無慈悲に破壊していき,爆発のよる鉄骨が崩れる様な嫌な音が島中に響き渡った。

 

その時だった。誘爆した弾薬の一部がユラージらがいる雑木林へと飛んできた。

思わずユラージらは飛んでくる弾薬から逃げ出そうとした。

 

飛んできた弾薬は高さ5m程の小高い丘にぶつかると爆発した。

地面が抉れ,周囲に土が撒き散る。爆発の衝撃波によって木々の一部は根元から折れて倒れ始めていた。

 

「おわあぁぁ!!」

 

後ろから普段のユラージからは考えられない様な悲鳴が聞こえた。

 

「し,司令!!」

 

隊員らが振り替えると,爆発で根元から折れた(くぬぎ)の木がユラージの両足を直撃しており,身動きが取れなくなっていた。

 

爆発地点の周辺は爆発による火災が発生しており,ユラージの場所とは20m程しか離れていなかった。

ユラージは出せる限りの声で隊員達に呼び掛けた。

 

「お前達!! 俺はもう助からんから逃げろ!! これは命令だ!!」

 

ユラージは自分はもう助からないと判断して,他の隊員達に逃げるように言った。

だがその命令に従う者は1人もいなかった。ユラージの元に小佐が駆け寄ってくると,ユラージの足の状態を確認し出した。

 

「お前達··········?」

「司令。人生唯一の命令違反させてもらいます!! 皆そうだろ!!」

 

小佐のその言葉に顔を横に振るものはいなかった。

 

「伍長! 医療班を呼べ!! 司令が負傷したと伝えろ!! 俺達は木を持ち上げるぞ!!」

 

伍長と呼ばれた隊員が医療班を呼びに向かい,隊員達はユラージを押し潰している木を持ち上げる組と付近の溜め池から水を組み上げて火災を消す組に分かれて司令官を何としてでも助けようとした。

 

部下達が炎や命令違反の処分を恐れもせず,ユラージを決死に助けようとする姿にユラージは笑った。

 

「良い部下を持ちすぎたな·········」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

蘭島南側に建てられた島唯一の公民館。いつもは島民達集まる場所として使われているが,現在は島民の収容場所になっていた。

 

公民館の周囲をAN-94 アサルトライフルを持ったシ連兵が厳重に警備しており,脱走なんて持っての他だった。

それは収容されている200名程の島民達も分かりきっている為,皆が静かに救援が来ることを祈って眠りについていた。

 

突如窓から強烈な光が差し込んだ。数秒遅れて轟音と衝撃波が公民館を包み込んだ。

この光と轟音と衝撃波によって島民達は強制的に夢の世界から引きずり下ろされる事になった。

 

「何だぁ!? 一体何じゃぁ!!」

「自衛隊が来たのか!? 来たのか!?」

 

突然起きたこの出来事に島民達は混乱に陥った。それは周囲を警戒していたシ連兵も同じで,ロシア語で会話している為に内容は理解できなかったが,慌てているという事だけは分かった。

 

閉められていたカーテンを開けて島民達は爆発が起こった方向を思わず見た。

すると夜空に赤い線を描きながら遠ざかっていく,B-1B(ランサー)の機体の姿が赤い炎によって照らし出されていた。

 

「あれって米軍の爆撃機じゃn」

 

軍用機に知識のある男性がB-1B(ランサー)を指差しながら,喋りだしたかと思ったらそれを遮る様に声が響いた。

 

「朱雀じゃ·········」

 

彼らが声のした方を見ると,島1の長老が照らされいるB-1B(ランサー)を指差していた。

彼女は去っていくB-1B(ランサー)に向かって,両手を祈る様に合わせた。

 

()()の通り朱雀が我々を救ってくれたのじゃ······」

 

手を合わせて拝んでいるのを見て,他の島民達も次々と手を合わせて拝んだ。

 

この島民達は皆,昔から伝わるある言い伝えを思い出していた。

 

かつてまだ日本が倭国(わこく)と呼ばれていた時代。当時は隋の領地だったこの列島に10万を越える所属不明の大軍が攻めてきた。

 

この頃既に列島に島民は住んでいたものの,その数は少なく,この大軍に勝つ見込み等0に近かった。

 

そうこうしている間に大軍が列島を襲った。島民は老人から子供までが戦ったが多勢に無勢,桁違いの数と()()()()()()()によって島民の多くが殺され,全滅寸前にまで追い込まれてしまった。

 

島民皆が玉砕するしかないと思ったその時だった。突如として曇っていた空に白く巨大な鳥が出現した。

 

白い巨鳥(きょちょう)は大軍へと襲いかかり,大軍を根こそぎ殲滅し,彼らが乗ってきた船も口から吐いた白い炎で全て焼き払った。

 

この光景を見た島民達は立ち上がって,辛うじて残っていた大軍を全滅へと追い込んだ。

 

大軍を全滅させた白い巨鳥(きょちょう)は列島の上空を周回した後南西の空へと飛び去っていった。

 

この出来事に島民は白い巨鳥(きょちょう)を崇める様になり,巨鳥(きょちょう)はいつしか朱雀(すざく)と呼ばれるようになり,この列島も“朱雀列島”と名付けられた。

 

元寇によってこの列島を手に入れた日本も朱雀列島という名を現在まで使用した。

 

そしてこの伝承の最後にはこう書かれている。

 

“再び我々が危機に陥った時,再び朱雀が現れて我々を救うだろう”




朱雀列島と名前がついているので,その理由付けも必要だと思った事と,切り札としてB-1(ランサー)出したかったのでどうせならと合わせましたw

こう言う伝承的なのって案外現実でもあったりしてw

裏設定ですが,あの時現れた謎の大軍と巨鳥(朱雀)が一体何だったのかは今でも研究者で意見が割れていたりします。

話変わりますけど爆弾投下の合図って良く爆弾投下用意(Drop lady)って言いますけど,僕はFire ladyを使ってます。

これってどっちが正しいんですかね?


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Episode.48 滑走路

*←これの使い方を教えて貰ったので,練習も含めてバンバン使って行きます!!


B-1B(ランサー)の蘭・多千穂・築館島への爆撃から凡そ30分が経過した頃,唯一爆撃を免れた飛鷹島の山林に紛れるように迷彩柄のテントが幾つも建てられていた。

 

明らかに急遽建てられた感満載のテントの1つに彼ら·····第24独立特殊任務旅団を率いるサレス・ノイガール大佐が折り畳み式の椅子に座っていた。

彼の椅子にはAK-74········ではなく先程の自衛隊との戦闘で鹵獲した89式5.56mm小銃が立て掛けてあった。

 

銃床を下にして立て掛けてある89式小銃の銃口を撫でていると,テントの幕が開けられ1人の軍曹が入ってきた。

 

「大佐。情報が集まりました。先程のB-1B(爆撃機)の爆撃で蘭島司令部は完全に破壊されました。

ユラージ司令は離脱していたために難を逃れたものの,誘爆で負傷され,現在治療中とのこと。命に別状は無い模様です。」

「そうか··········司令の命が無事なら安心だ。」

 

サレスは司令が命に別状が無いことに安堵した。だがそれを軍曹の報告が無慈悲に打ち砕いた。

 

「多千穂島ですが,司令部施設を破壊され司令官は行方不明とのこと。

築館島は司令官こそ無事でしたが,駐機されていた攻撃ヘリ部隊*1を壊滅されたとのことです。」

「状況は宜しくないな··········」

 

彼の言葉の通り状況はシ連の宜しくない方向に進んでいる。いつこの島が爆撃されても可笑しくはなかったのだが,日本は行わなかった。

 

その理由が果たして何なのか彼らには分からなかったが,寧ろ爆撃されなかった事でじわじわと恐怖が増していくのを彼は感じていた。

 

報告を伝えた軍曹も恐らくそうなのか,顔をしかめていた。

 

不気味で気まずい空気がテント内に流れていたその時,1発の重い発砲音が彼の鼓膜を襲った。

遅れて発砲時の衝撃による風がテントの裾を捲って侵入してきた。

 

「なんだ!?」

 

彼は立ち上がりながら発砲音の正体を探った。答えは直ぐに出た。

 

(この様な発砲音は·········戦車砲か!?)

 

明らかに小銃や拳銃の様な軽い音ではなく,体の底に響くぐらいの重い音。

こんな音が出せるのは戦車や自走砲の様な100mm以上の口径を持つごく一部の車両だ。

 

一応飛鷹島には100mmの滑腔砲を装備するBMD-4(歩兵戦闘車 )が1両いるが,彼が覚えている限りでは飛鷹島空港の防衛についている筈。

 

つまり今の発砲音の正体は自衛隊の16式機動戦闘車(装輪装甲車)の物だ。

 

サレスがそう結論つけたと同時に明らかに人の手によってテントが捲りあげられた。

サレスが思わず椅子に立て掛けた89式に手をかけるが,現れたのは周辺を警戒していた一等兵だった。

 

「大佐!! 2時方向に自衛隊の装甲車両を確認!! 空砲を放って離脱した模様!!」

「空砲だと!? 奴ら何をしに······」

 

サレスは自衛隊側の行動が読めなくて困惑したが,困惑する暇など無いと知らせるように,再び重い発砲音が鼓膜を強く刺激した。

 

発砲音によって現実に引き戻されたサレスは指示を仰いでいる一等兵と軍曹に向けて,

 

「部隊は動かすな!! 最低限の反撃しつつ現状を維持しろ!! 敵車両に対して対戦車擲弾発射機(RPG)を撃て!!」

 

そう言いきった。

 

サレスの判断は正しかった。彼の脳内には数時間前の戦闘の光景がハッキリと映し出されていた。

敵味方入り乱れる乱戦。あの状態になれば,敵味方双方にそれ相応の被害が出る。

 

それは彼や隊員達が望んでいない戦い方だ。さっきはあっちの手の内だったが,今度は我々の手の内に納めてやる。

サレスには無意識の内にそんな願望を抱いていた。

 

だがサレスは知らなかった。既に自衛隊(彼ら)の手の中に落ちている事を。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

第24独立特殊任務旅団と自衛隊の間で多くの銃弾が交わっている頃,海東ら60名程の特殊作戦群隊員と10名程の自衛隊の隊員達は飛鷹島空港を見下ろせる高台に陣取っていた。

 

「しかしこんな絶好の高台を抑えていないなんて,シ連軍って馬鹿しかいないんですか?」

「そう言って油断していると,逆襲を食らうぞ。まあそれが出来るか分からないけど。」

 

シ連軍をあからさまに馬鹿にする隊員を海東が注意したが,その言葉にはシ連軍への侮辱が混じっていた。

 

海東は今現在も自動小銃の発砲音が聞こえる森林の方向を向いた。

あの暗い森で戦闘の指揮をとっているのは魚島敬次3佐だ。

 

今回の作戦立案時に魚島は敵司令部への()()攻撃の指揮官に自ら立候補した。

 

さっきの海藤との一対一の話が原因なのかは分からないが,自ら戦場へと向かおうとした彼を海藤は指揮官へと任命した。

 

「今のところは計画通り。魚島君が計画通りやってのけることを期待するよ。」

 

海東が魚島に重い期待をかけている脇で,海藤の副官でもある高崎が,ある人物と話していた。

 

その人物は航空自衛隊の整備員が着ているグレーのデジタル迷彩が印刷された作業着を見に纏っていた。

 

「それで妙高院君だっけ? 抜き道を知っているのだろ?」

「院が余計です。確実な抜け道を知っています。通るのが大変ですけど,特殊作戦群(あなた方)なら簡単ですよね?」

特殊作戦群(我々)を舐めないでもらいたいな。早速そこへ案内して貰おうか?」

 

高崎の急かす言葉にこの場で唯一の航空自衛隊隊員 妙高恵也は“ついてきてください”と一言行って山の方へと向かった。

枯れ草を掻き分けながら進む妙高に高崎以下30名が小鴨のように列をなしてついていった。

 

列が完全に見えなくなると,海藤は歩いて高台の先に向かった。

首から下げている双眼鏡を手にとって,飛鷹島空港を隅々まで見つめた。

 

配備されていた戦闘機が全て出撃した空港にはKa-52(ホーカムB)がたった1機だけ置かれており,閑散とした空港の様に戦場でありながら静寂が支配していた。

 

「不気味な暗い静かだけど,そっちの方が楽だ。84式無反動砲(B)(カールグスタフ)の準備は出来てるか? 橋川。」

「勿論出来てます。ですけどこれ01式軽対戦車誘導弾(マルヒト)でもよかったんじゃないですか?」

「車両以外射撃不能*201式軽対戦車誘導弾(めんどくさい物)と標的に余裕が効く84mm無反動砲(B)(カールグスタフ)のどっちが良いかは言うまでもないだろう?」

「まあそういうことなら·········それと滑走路は()()()()()()()()んですよね?」

「ああ,滑走路を破壊されたらこっちが困るからね。」

 

海藤がそう言いつけたのを確認して,橋川という名の隊員は84式無反動砲(カールグスタフ)を構えた。

自らの目で照準器を覗き,標的の歩兵戦闘車を確実に捉えた。

 

「目標は歩兵戦闘車··········発射(Fire)!!」

 

トリガーを引くと後方に燃料ガスを噴射しながら,砲弾が射出された。

放たれた84mmの対戦車榴弾がエプロンに止まっているBMD-4(歩兵戦闘車)へと一直線に向かい,直撃した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

時を少し戻して,飛鷹島空港の建物にKa-52(アリガートル)の揺れる座席に搭乗して,腰を痛めたレアル・スグワークがやってきた。

 

彼は今も痛む腰を右手で擦すっていた。彼の状態を察したのか,隊員の1人が折り畳み式の椅子を差し出した。

レアルはそれを受け取って展開して,座ると黒い生地で覆われている背もたれに寄りかかった。

 

背中を背もたれに寄りかけて休んでいると,飛鷹島司令のロイザム・ウルザールス少将が近づいてきた。

階級が上でも下でも対等に接する為に,隊員から好かれている彼はレアルと視線を合わせるかの様に自らも椅子に座った。

 

「攻撃ヘリに同乗して来るとは········私だったら耐えられませんな。」

「私も二度と乗りたくないですね。それでこの島の様子はどうですか?」

 

レアルの苦労に同情したロイザムは,彼の質問に真剣な表情をした。

 

「どうやら先程動きがあったようです。サレスは無闇には攻撃せずに現状維持の体制を取ったらしいです。」

「ここで動きましたか·········島への爆撃とほぼ同時刻に動き出したということは動揺で動きを封じようとしたのでしょうか?

もしくはそれとも何か狙いがあって行ったのか?」

 

レアルがそう言った刹那滑走路方向の窓から光が差し込んだ。光に遅れて爆音と衝撃波が建物を包んだ。

レアルらは咄嗟に目を隠して光から目を保護した。光が落ち着くと,音と光の発信源を見た。

 

そこには······

 

「BMD-4が!!」

「まさか!?」

 

空港周辺を警戒していた筈の歩兵戦闘車 BMD-4が大破した姿で彼らの目に写った。

車体はぐにゃぐにゃになり,履帯はハズレ,砲身は折れ曲がっていた。

 

先程まで動いていた歩兵戦闘車はただの残骸へと化したのだ。

 

彼らが驚愕している中,レアルは窓を開けて外にいる兵達に指示を出した。

 

「急いで消火しろ!! 機体に誘爆させるな!!」

 

レアルは指示を出している中,滑走路へと84mm無反動砲(カールグスタフ)の砲弾が着弾するのを見た。

 

正確には滑走路上で榴弾が爆発して,破片が滑走路上に撒き散るのを。

あれでは滑走路は使えない。あの状態で着陸すればタイヤがパンクするのが目に見えている。

 

片付けるのは10分ぐらいで済むだろう。だが今の状況では10分はとても長く感じる時間だった。

 

まだ上を飛んでいる航空隊から着陸の言葉は入っていないが,現にいつ帰ってくるか分からない。

········そもそも落ちていなければの話ではあるが。

 

BMD-4から漏れでたディーゼル燃料に引火して激しく燃える炎に隊員が鹵獲した航空自衛隊の破壊機救難消防車を操作して消火剤をかけていた。

本来の使い方では無いのだが,それでもやらないよりはマシの理論で消化を続けた。

 

ロイザムも大声を出して指示を出し,隊員らも通信機等を使って各所と連絡を行っていた。

 

とその時。レアルらは後ろの方から爆発音がしたのを聞いた。その音は小さく,幾重に障害物を挟んだ先で爆発したのだろうがその爆発した地点は明らかに建物内だった。

 

「まさか奴らこれを狙って!!」

 

レアルが咄嗟に叫ぶと同時にロイザムがドアの封鎖を命じた。

ドアの一番近くにいた隊員が勢いよくドアを閉めた。鍵を閉め,折り畳み式テーブルや折り畳み式椅子等の部屋にあったものを使って急造のバリケードを作り上げた。

 

こんな雑なバリケード突破されるのは間違いないのだが,それでも時間は稼げるだろうと彼らは見込んでいた。

 

重厚な足音が連なって近づいてくる。音源は徐々に近くなってきて,ドアの前で止まった。

 

レアルは本能的にもうダメだと判断して窓から飛び出そうとしたが,そこで彼は見てしまった。

 

エプロン上で手を上げて降参しているシ連兵とM4カービンを向けている自衛隊員の姿を。

 

「幾らなんでも······」

 

レアルがそう言ったと同時に自衛隊が仕掛けた手榴弾で扉が爆発した。

爆風でレアルは窓枠に頭をぶつけ,そのまま体を窓枠に乗せる形で倒れ込んだ。

 

意識は辛うじてあったが,視界はぶつかった衝撃でボンヤリしていた。

 

そんなレアルを特戦群隊員は無理やり引き剥がして,何処から持ってきたのか分からないが,手錠で拘束した。

 

「司令部確保!!」

 

隊員の1人がそう宣言した。特殊部隊としての常識を叩き込まれた特殊作戦群(彼ら)はただ頷くだけで喜びを露にした。

 

レアルは拘束されながらも周囲を見回した。先程の爆発でドアは上下真っ二つに裂かれ,接続していた金具と共に残骸として床に散らばっていた。

扉の前に置かれていたテーブルや椅子も周辺に転がっており,その中で自分やロイザムら司令部要員が拘束されているのだと知った。

 

そんな彼に話し声が聞こえてきた。

 

「いやぁ。まさか抜け道が防空壕とは,我々も見落としてました。」

「ここは旧軍時から重要拠点でしたから,こういう設備は各所にあったらしいですよ。*3まあ半分は壊されたらしいですけどね。」

 

レアルは1人だけ違う格好をした隊員とトップと思われる人物が話しているのを見ていた。

恐らくシ連軍人には日本語が分からないと判断して話しているのだろうが,日本語が理解出来るレアルは会話の内容を理解していた。

 

「空港制圧が思ったより早く完了しそうだな。山下,本隊に信号弾を撃ってくれ。

本隊は()()()()()に向かってくれるようにしよう。」

 

山下と呼ばれた隊員が窓を開けて,21.5mm信号けん銃(53式信号拳銃)の銃口を上に向けてトリガーを引いた。

 

夜でも見易い様に白い煙を纏わせながら,撃ち上がった発光弾が白い光をチカチカと発光させた。

昼間でも目立つ発光弾は暗い夜空によってより一層輝いた。

 

山下が信号拳銃を終いながら,戻っていくのを見ていたレアルは口を開いた。

 

「その紋章は········どこの部隊だ?」

 

拘束した司令部の1人がいきなり日本語を話したことに,訓練を受けた彼らですら驚き銃を構えようとするが,高崎が止めてレアルの元へと歩を進めた。

 

「まさか日本語が話せるとは······私は陸上自衛隊の高崎3佐だ。」

「3佐ということは小佐か。私はレアル・スグワーク中佐だ。

1つ頼みがある。」

「“解放してくれ”とかは無しだからな。」

 

高崎は念を押すように言ったが,“そんな馬鹿げた物ではない”と言った。

 

「私事で申し訳ないが·······私にはウラジオストクに家族がいる。家族の元には帰れるのか。それだけを聞きたい。」

 

レアルの表情は真剣だった。高崎にも1歳の息子がいるために,彼の心境は充分理解できる。

だが現在は任務中。私事は禁句だ。それを理解していた高崎はレアルの目線に合わせる様に体を下げた。

 

「今すぐとは行かないが,ここは日本だ。ちゃんと生きて返してくれるだろうよ。」

「そうか········」

 

レアルは高崎の返事に安堵した様な表情をした。それから間もなく高崎は最低限の兵士を残して何処かへ行ってしまった。

 

自衛隊員に起こされて壁に寄りかかっていたレアルはふとウラジオストクに残している年下の妻と5歳の娘を思った。

 

(暫くは会えないが,帰ったら満面の笑顔を見せてくれよ······)

*1
築館島にあるヘリ空港 阿月空港にはKa-52(ホーカムB)Mi-28N(ハボック)等の攻撃ヘリ,Mi-26(ヘイロー)等の輸送ヘリが置かれていた

*2
システム起動時に熱探知が必要で,車両以外の各種目標への射撃が困難らしい(wikiより)

*3
ソ連との最前線且つ朝鮮半島への補給線だったために,明治時代から砲台が置かれ,戦時中は陸軍航空隊が2部隊配備されていた




なんか最近UAの数が好調ぽい? “継続は力なり”なんでしょうかね?

あと久々にとある魔術の禁書目録の単行本呼んだので,それっぽい書き方をしました?

やっぱり鎌池先生の語学力凄すぎる。


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Episode.49 前段階

朱雀列島南西60kmの海上に第2機動部隊は展開していた。

 

「DDH-185 あまぎ」所属のF-35JC(イーグル隊) 12機が上空警戒を,「DDH-181 ひゅうが」から発艦した複数のSH-60K(シーホーク)が夜間ながら対潜警戒を実施し,HH-60(レスキューホーク)が自衛隊・シ連問わずパイロットの捜索をライトを周囲に照射して行っていた。

 

艦隊中央の旗艦こと「DDH-185 あまぎ」の戦闘指揮所(CIC )に置かれた司令官用の椅子に桐島は座っていた。

 

既に腕時計の針は午前3時を指していた。桐島を回避することが不可能な眠気が襲うが,蟀谷(こめかみ)をデコピンして強制的に眠気を覚ました。

 

彼がふと顔を上げると,目の前のディスプレイには浸水で傾く「DD-115 ながなみ」と周囲に停泊している「DDG-203 たかちほ」と「DD-131 しらぬい」が写っていた。

 

「ながなみ」の浸水は既に止まってはいるが,依然傾いたままで,予断を許さない状況だった。

 

「取り敢えず浸水が収まってなりよりだな········沈没は免れたのだから。」

 

沈没という最悪のシナリオを免れたことに,桐島は安堵した。

だが沈没回避=被害軽微ではない。それを裏付けるかのように隊員の1人が桐島に「ながなみ」の被害状況を伝えた。

 

「「ながなみ」の損害集計完了しました。推進軸2軸共に損傷して航行不能。ヘリ甲板及びヘリ格納庫上部のファランクス(CIWS)使用不能。

死者8名。負傷者11名です。」

「酷いな······」

 

被害報告に桐島の隣にいた水上が顔をしかめた。彼は“だが”と付け加えると,

 

「沈没していたら死傷者がより多かったでしょう。この程度で収まった事を素直に喜びましょう。」

「だな。もう1発ミサイルが当たっていたら,撃沈もあり得ただろうな。

最もフォークランド紛争では不発弾で沈んだ艦もいたらしいがな。」

 

不発弾で沈んだ42型駆逐艦 シェフィールド(とあるイギリス駆逐艦)を比較として出したが,水上の目は“それと比べないでくれ”と言っているようだった。*1

 

桐島はそんな水上の様子を察し,話を変えた。

 

「クレイン・スパローの攻撃も成功した。島への砲撃が完了次第,上陸部隊を上陸させる。朱雀列島が落ちるのも時間の問題になるだろうな。」

 

“ただ”と桐島は付け加える。

 

「ゲリラ戦となったら被害は大きくなるかもな。」

「地の利はこっちにあります。幾ら攻めより守りがやりやすいとはいえ,勝敗は見えていると思います。」

 

水上はそう答えた。そんな発言を聞いて桐島は“考えすぎた”と脳内で言った。

 

「杞憂········だったかもな。」

 

桐島はそう言いきって,話を終わらせようとしたが,思い出したかのように,

 

「ああそうだ。「かつらぎ」の()()()()はどうなった?」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

築館島南西30kmの漆黒に包まれた海を数本の航跡(ウェーキ)が切り裂く。

 

海上自衛隊初の巡洋艦 いぶき型イージス巡洋艦*24番艦 「DDG-204 あそ」を先頭に「DDG-175 みょうこう」・「DD-117 ふじなみ」・「DD-125 しもつき」の計4隻が,単縦陣を形成して航行していた。

 

制空権はクレイン隊が既に日本のものにしており,制海権も太平洋艦隊が崩壊した為に,日本のものになったと言って良いだろう。

 

「あそ」の戦闘指揮所(CIC)で艦長の花月 大雅(はなづき たいが)1佐はただ冷静に画面を見つめていた。

その目は現在の状況に疑問を抱いているかのようにも感じられた。

 

「あまりに静かすぎる········何かの罠じゃないのか?」

「恐らくですが,上陸戦に備えて“手を出すな”と命令されているのでは?」

「なるほど········確かにそれなら合致がつくな。」

 

自衛隊でも珍しい女性の先任伍長の意見に花月は納得した表情を浮かべた。

花月は右腕の日本製のアナログ式腕時計を確認した。時計の針は午前3時10分を指そうとしていた。

 

「作戦開始時刻だ。主砲を左舷に旋回!!」

 

前甲板に高さを変えて搭載されていたMk.45 5inch砲が左舷へと旋回する。

他の3隻も単装の主砲を左舷へと旋回させた。

 

「目標対艦ミサイル発射機!! 撃ぇ!!」

 

2門のMk.45 5inch砲が火を吹いた。続くように残る3隻も自らの5inch砲やオート・メラーラ 127mm砲の発砲を開始した。

 

放たれた5inchの砲弾が続々と築館島へ着弾する。沿岸に配備されていた地対艦ミサイル(GSM) 3K60(バル)に狂うこと無く命中し,確実に破壊していく。

 

2回,3回と放たれた砲弾は1発も外れることなく着弾し,多千穂島の地上戦力を次々と破壊していった。

そのうちの1発が弾薬に誘爆し,盛大な爆煙を上げた。

 

爆煙が未だ築館島上空に漂うなか,「あそ」から発艦したSH-60K(シーホーク)が弾着地点を捉えた映像を「あそ」の戦闘指揮所(CIC)へと送信した。

続けて弾着地点を目視で確認した搭乗員から通信が入った。

 

SH-60K(シーホーク)より報告! 敵地上目標の破壊確認!!」

 

砲雷長が“良い腕前になったな”と部下を誉める横で花月は冷静に状況を判断した。

 

築館島(ここ)での任務は終わりだ。あとは水機団の仕事だ。我々は多千穂島(次の標的)へ向かうぞ。面舵20°!!」

 

艦尾の舵を傾けて,「あそ」は多千穂島へと進路を変えた。糸に引っ張られているかのように,残りの3隻も同じく面舵を切った。

 

多千穂島(次の目標)へと航行を開始した中,CICの通信士のヘッドホンに通信が入った。

通信の内容に通信士が声を荒らげて報告した。

 

E-767(JWACS)より,蘭島北北東35km地点に艦隊を確認した模様!!」

「艦隊? シ連艦隊は既に全滅したはずだ。*3となると····」

 

花月は答えを出す前にディスプレイと向き合っていたレーダー士が答えを言った。

 

「艦種識別! 055型駆逐艦 1,江凱(ジャンカイ)型フリゲート1,056型コルベット 2!!」

「中国艦··········派遣艦隊のか!」

 

先任伍長が“確かにウラジオストクの艦艇数は少なかったからな。”と納得した様な声をあげる中,花月はあからさまに不機嫌そうな顔をした。

 

中国嫌いの彼だが,観念したかのな表情と共に頭をかきむしりながら,

 

「いつもはいけ好かない奴らだが,今日だけは中国に感謝だな。」

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

蘭島東25kmの海上を海自と同じように4隻の艦隊が単縦陣を形成して航行していた。

 

艦隊を率いるのは12000tという米海軍のタイコンデロガ級よりも大きい船体*4を持つ駆逐艦 055型駆逐艦の1番艦 「101 南昌(ナンショウ)」。

 

前甲板のH/PJ-38(130mm単装速射砲)から放たれた砲弾が1発1発確実に蘭島の地上目標へと着弾していく。

 

埠頭に配備された自国製の地対艦ミサイル(GSM) SY-1(シルクワーム)の発射機を着弾と共に鉄屑に変えた。

 

「南昌」に続くように江凱型フリゲート 「554 塩城(エンジョウ)」や056型コルベット 「581 営口(エイコウ)」・「502 黄石(コウセキ)」も自らの76mm単装速射砲を旋回させて,砲撃を開始した。

 

次々と弾着し,蘭島に黒い煙が何本も上がる。

 

海自のSH-60K(シーホーク)と同じように上空を飛ぶ哨戒ヘリ Z-20が弾着地点の様子を確認してCICへと伝えた。

 

『』

「上出来だ。腕を上げたじゃないか。」

 

中国海軍ウラジオストク派遣艦隊司令 曹・浩然(ツァオ・ハオラン)大校(大佐)が砲撃の出来に砲雷士官を誉めた。

 

砲雷士官は嬉しそうな笑顔を曹へと返した。そんな様子に曹が内心で喜んでいると,後ろに立っていた小校(小佐)が彼に話しかけた。

 

「この後自衛隊は各島に部隊を上陸させる様ですが,たった3隻の揚陸艦で何とかなるのでしょうか?」

「主要な蘭・多千穂・築館島には本部隊を,端樹島にはヘリボンを行うと思うが,それだけだと()()()()。」

 

曹は冷酷に言いきった。そんな曹の様子に小校は焦った。

 

「大丈夫なのでしょうか? 朱雀列島が奪還出来なきゃ我々も危険に晒されますが·····」

「まあ大丈夫だろう。こういう時の為に政府は()()()()を出撃させたんだから。」

 

さっきとはうってかわって自信満々な曹の様子に小校は

 

「確かにそうですね。ただ漁夫の利を得に来たと勘違いされそうなのが,不安ですけど。」

「そこはあっちで何とかしてくれる筈だ。それに期待しよう。」

 

そう言いきった曹は右手で被っている略帽のつばを持ち,左手で略帽の後ろを持って,略帽を整えた。

 

「さあ我々は課された仕事を終わらせるだけだ。」

*1
シェフィールドはフォークランド紛争でアルゼンチン軍のエクゾセミサイルを被弾し,不発ながらも様々な事が重なって沈没した

*2
詳細は19話参照

*3
実際には全艦戦闘不能状態

*4
タイコンデロガ級は凡そ10000t程

でかすぎる·····




前後書きに書いたとおりイギリス海軍のクイーン・エリザベス級航空母艦が日本に来ることが確定しましたね。

それにアメリカ海軍の「ザ・サリヴァンズ」が合流するのはまだ分かるとして········“ドイツ海軍 フリゲートを日本に派遣”ってどういうことすか!?

これ嘘か本当かまだ分かりませんけど,実現したら日独伊三国同盟でも果たせなかったドイツ海軍艦艇来航?にでもなんですかね·········


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Episode.50 上陸

遂に50話!! 約一年かかってここまで来ました!! 苦労は色々ありましたが,達成感は半端内です!!

あとUA6000達成!! こんな駄作を読んでくれてありがとうございます!!

では,本編どうぞ


朱雀列島で3番目に大きな巨島 多千穂島。列島内で最大の港とコンビナートがあり,新潟港とのカーフェリーも週に4往復出ている等,朱雀列島を支える重要な拠点だと堂々と宣言できるだろう。

 

この島の西10kmの海上に第1輸送隊所属のおおすみ型輸送艦 1隻が展開していた。

第4護衛艦隊の「DD-104 きりさめ」の護衛の元,おおすみ型輸送艦「LST-4001 おおすみ」が展開していた。

 

船体後方の艦尾門扉は既に展開済みなので,後は司令官の“GO!!”の指示を待つだけだった。

 

ウェルドック内には本来搭載しているLCAC-1級エア・クッション艇(LCAC)ではなく,水陸両用能力を持つ装甲兵員輸送車 AAV7。

既に配備開始から半世紀も経っているが,その能力は劣っておらず,今でも最前線で使われる優秀な車両だ。

 

その車列の最奥に1台だけ武装を搭載せず,車体後部に8本ものアンテナを立たせているAAV7がいた。

 

この車両の正体は指揮通信型のAAV7。司令部からの指示を前線部隊に知らせたり,前線の様子を司令部に伝えたりする中継車の役割を持つ車両だ。

 

そんな車両上部のキューポラに腰かけている隊員とキューポラから顔を出している隊員が束の間の雑談を楽しんでいた。

 

「なあこれから戦場に突っ込むんだろ? なんか実感わかねえな。」

「お前は訓練では“実戦は訓練とは違う”って言ってたくせに。」

「その時々で人の考えってのは直ぐに変わるんだよ。」

「流石“片方振り子”の大戸だなw」

「何やら楽しく話をしている様だな。」

 

2人の会話に割り込むようにそんな声が聞こえた。その声に2人は凍ったかのように話を止めた。

 

2人が声がかけられた方を恐る恐る見ると,そこには1人の自衛官がいた。

 

角谷 仁也(かどや じんや)。第1水陸機動連隊を率いる最年少の連隊長兼彼らの上司だ。

 

「か,角谷連隊長!? も,申し訳ありません!!」

「いや寧ろ安心した。初の実戦で過度に緊張していないか不安だったからな。

君達のその様子だと大丈夫そうだ。」

「ええ,シ連軍なんかに緊張するわけありません!!」

「連隊長。こいつの意見は参考にしないでください。」

 

2人の会話に角谷は微笑した。彼自身自衛隊では珍しい茶髪*1で,歳も31という若さで1等陸佐となり,最年少で第1水陸機動連隊連隊長に就任した。

 

最初は歳もあって水陸機動団団長や,隊員達から不安がられてたが,噂通りの指揮能力を発揮して不安を払拭した。

そして現在は隊員達と歳が近いこともあって,こうやって親しく話せていたのだ。

 

「楽しく話すのは大変結構だが,これから行くのは本物の戦場だ。

もしかしたら「おおすみ」(ここ)に戻って来れないかもしれない。それだけは理解しておいてくれ。」

「連隊長。蘭島や築館島の方は大丈夫なんでしょうか?」

「蘭島の事は第2連隊がやってくれる筈だ。我々は多千穂島(目の前)の敵を打ち砕くだけだ。

君達の仕事は我々に情報を伝えることだ。しっかり情報を伝えてくれよ。」

 

そう捨て台詞の様に返事すると,角谷は後方車両の上を何台も経由して*2,自分が乗る車両へと向かった。

 

キューポラの蓋を開けて車内へと乗り込んだ。車内には完全武装の隊員達が軍事車両特有の硬い椅子に座って待機していた。

 

「これから我々は戦場へと向かう。初めての実戦だが,訓練を思い出せ! 我々の手に日本の未来はかかっている!!」

「連隊長。敵は水際と持久戦のどっちで来ますかね?」

「さあな。それは相手司令官の気分次第だ。私の予想では敵は既に司令部を失っているから,それ程時間はかからないと思うが。」

 

角谷がそう返事した時,戦闘上陸大隊所属の隊員の操縦でAAV7は動き出した。ウェルドックから艦尾門扉を経由して冷たい日本海へと滑り込んだ。

 

水上独特の浮遊感が車体を経由して隊員達へと伝わっていく。

角谷は揺れる車両の中,自分がやってきた方へ向かった。梯子を登って,キューポラから顔だけを出して周囲を見回した。

 

AAV7は車体の大半を海中へと沈め,車体にぶつかった波が顔に当たりかける程近くを通りすがった。

 

AAV7から眺める「LST-4001 おおすみ」はまるで万里の長城の様に高く聳え立っていた。

 

その「おおすみ」の航空甲板から第6対戦車ヘリコプター連隊所属のAH-1Z(ヴァイパー)や輸送航空隊配備のV-22(オスプレイ)がそれぞれの目標に向かって次々と飛び立っていた。

 

2機のAH-1Z(ヴァイパー)が時速400kmの速度を使って,AAV7を軽々と追い抜く。

スタブウィングに取り付けられたミサイルポッドからハイドラ70ロケット弾が赤い閃光を上げて何本も放たれる。

 

多千穂島の海岸に幾つもの煙の柱が立つ。煙が晴れない内に機首のM197 20mm機関砲が回転しながら毎分650発の速度で弾丸を発射した。

 

「上陸するぞ!! 発煙筒炊け!!」

 

車体上部の新型砲塔(UGWS)から白いスモークが発生して,突入する第1水陸機動連隊を包み込んだ。

 

浮遊感が一瞬で消え,代わりに履帯が砂地の地面を駆ける感覚が伝わった。

 

「LST-4001 おおすみ」から発進したAAV7は次々とウォータージェット推進から履帯での移動へと変えて多千穂島へと上陸した。

 

多千穂島への上陸を成功させた角谷は勝利を確信した···········()()()()()

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「おいおい,敵は統制力を失っているから直ぐに制圧出来るって言ったのは,何処のどいつだ!!」

「貴方ですよ。隊長。」

 

角谷の愚痴に隣にいた隊員が突っ込みを入れた。

 

彼が愚痴を言うのも無理はない。シ連軍は想定以上の反撃を行ってきたのだ。

 

既にAAV7 2両。AH-1Z(ヴァイパー) 1機を失い,20名近くの隊員を失っていた。

 

こんな現状に第1水陸機動連隊も黙っているわけ無く,AAV7 車体上部の新型砲塔(UGWS)から主武装のMk.19 自動擲弾銃や副武装のブローニングM2重機関銃を使って反撃を行っていた。

 

だが車両周辺に留まっている隊員達とはAAV7から降りている隊員もいた。

彼らの一部はAAV7に積み込んでいた 120mm迫撃砲 RTを部隊の後方に展開して,迫撃砲弾を何発も発射した。

 

約8000mの射程を持つ迫撃砲で敵部隊をアウトレイジに潰していくのだが,敵も黙ってはいない。

貴重な歩兵戦闘車(IFV) BMD-4を投入し,反撃していた。

 

100mm滑腔砲から放たれた砲弾が建物へと着弾し,大量の破片を撒き散らす。

後方の2S9 ノーナ-S 120mm自走砲も120mm直射・迫撃両用砲を発砲し,迫撃砲の様な曲射射撃を水陸機動連隊へと直撃させた。

 

飛んでくる破片から角谷は身を隠す。その場でトランシーバーを操作して後方の指揮通信型AAV7に乗る通信士へと通信した。

 

「とっくに築館島は落ちた筈だ!! そっちのAH-1Z(ヴァイパー)の増援は来れるのか!?」

『築館島のAH-1Z(ヴァイパー)部隊も反撃が激しく,損傷する機体が相次ぎ,弾薬や燃料も消費した事もあって「おおすみ」へと撤退したとのことです!!』

「何分ぐらいでこっちにこれるか!?」

『それはまだ分かりません!!』

 

さっき話した大戸と呼ばれた隊員がさっきとはうってかわって正確に情報を角谷へと伝える。

人を軽々と判断してはいけないと彼が思い直しているとあっち側がざわつき出した。

 

『どうした高畠······な!? 早期警戒管制機(E-767)が朱雀列島西北西30kmにて機影探知!! 数23!!』

「機影だと? 西北西ということは中国軍か!! 機種は判別出来るか!!」

『正確には不明ですが,恐らく戦闘機と輸送機かと!!』

「輸送機? 戦闘機は話が分かるが········まさか!?」

 

角谷がある考えに辿り着いた時,角谷の耳にジェット機特有の轟音が微かに聞こえた。

徐々に大きくなっていくその音の音源の方向に角谷が向くと,その正体が判明した。

 

「あれか!!」

 

角谷の目線の先には4機の機体が映っていた。F-2のような機体形状・単発・エアインテーク。

だがF-16やF-2とは違ってエアインテークは四角く,ついている筈のないカナード翼もあり,F-2とは違う機体だという事を示していた。

 

中国空軍ジェット戦闘機 J-10。NATOコードネーム ファイアバード。

中国が独自開発した第4世代ジェット戦闘機はリューリカ・サトゥールン AL-31FNシリーズ 3ターボファンエンジンの出力を上げ,低空飛行で多千穂島へと飛来した。

 

機体の11個のハードポイントからFT-2滑空誘導爆弾(飛騰2型)や無誘導爆弾が次々と投下され,多千穂島の地面を大きく揺らした。

 

滑空誘導爆弾はBMD-4を正確に直撃し,鉄屑に変えた。無誘導爆弾もシ連軍の陣地へと着弾し,土煙と共に陣地を破壊した。

シ連軍兵士が持っていたであろう武器と共に意図も簡単に舞い上がり,電線や建物の屋根へと強く落下した。

 

この惨状に角谷や顔をしかめたが,直ぐにそれは消え失せた。

J-10の去って直ぐに別の機体が視界に入ったからだ。

 

「あれは確か·······Y-20だったか?」

 

角谷の頭上に現れた物。それは中国人民解放軍空軍の大型輸送機 Y-20。

Il-76(キャンディッド)を参考に開発された大型輸送機 4機は,4基のソロヴィヨーフ D-30KP-2 ターボファンエンジンの気高い轟音が周囲の空に響き渡り,周囲の水機団隊員の鼓膜へも侵入した。

 

水機団隊員が見上げる中,Y-20のカーゴドアが開き,黒い空に目立たない様に黒く塗られたパラシュートを使って搭乗していた中国軍兵士が降下を開始した。

 

中国軍兵士と共に4つのパラシュートに支えられながら,3つの大きな物体もY-20から滑るように下ろされた。

 

「03式空挺歩兵戦闘車だ!!」

 

水機団の誰かがそう叫んだ。

 

中国軍初の空挺戦闘車 03式空挺歩兵戦闘車。Y-20に搭載された3両がパラシュートと共に多千穂島へと緩やかに落下した。

 

中国軍兵士も次々と降り立ち,行動を開始した。

 

水機団隊員はまさかの中国兵に89式小銃や20式小銃を向けた。

その事に気づいたのか,中国軍兵士の1人が駆け寄ってきた。

 

水機団隊員は小銃の引き金に指をおいて何時でも撃てるようにした。

だが,その引き金が引かれることはなかった。

 

「中華人民解放軍空挺兵第133旅団及び第134旅団!! 自衛隊の援軍に参りました!!」

 

流暢な日本語で話しかけられた彼らは唖然とした。それを予想していたかのように日本語を話す中国兵は間置かず,

 

「我が国には呉越同舟という四字熟語があります。何時もは敵同士ですが,今は手を取り合ってシ連という悪魔を共に倒しましょう!!」

 

驚愕を隠せない水機団隊員を押し退けて,角谷は日本語を話す中国兵士の元に向かった。

 

向き合った2人。最初に口を開いたのは角谷だった。

 

「まさかあなた方と共に戦えるとは思っていなかった。

短い間だが,宜しく頼むよ。」

「ええ,私も同意見です。あなた方が我々の敵として恥じないか見させて貰いますよ。」

 

2人は固い握手を交わした。歴史上初の日中共同戦線がここに結成された。

*1
自衛隊は基本的に茶髪は駄目だが,彼は地毛な為に特例で許された

*2
ウェルドック内でこんなこと出来るのか?




前話を8時ぴったりに投稿したら,1日で90以上のUAを頂きました。

いつもは0時ぴったりに出すんですが,0時に出されるより8時に出した方がUAが伸びたりするんですかねぇ?

あとお気に入りとUAの伸びが嬉しくです。


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Episode.51 交渉

遅れてすいません。こういう系の話し書くの下手なのに加えてテストも被ったので·······

地震の影響ではないです。まあテスト1日延期にはなりましたがね·······

そしてまさかのタイトルのスペルミスが発覚。スペルミスった状態で一年以上やってきたのかよ·······


漆黒に支配されていた空が太陽によって徐々に明るく染まり始めた頃。

 

「DDH-186 かつらぎ」のアングルド・デッキに次々とF-35JC(ライトニングⅡ)が降り立った。

このF-35は艦隊周辺の警戒にあたっていたファルコン隊の機体で,燃料の残量が少なくなった事と,パイロットの休息の為に「DDH-185 あまぎ」のイーグル隊と交代して「かつらぎ()」へと帰り始めていた。

 

次々と航空甲板(アングルド・デッキ)へと着艦するF-35JC(ライトニングⅡ)を上空から見下ろしている1機のF-35JC(ライトニングⅡ)がいた。

 

「そろそろ順番か。やっぱり何回やっても緊張するな。」

 

ファルコン隊を率いる隊長 有馬はアメリカ留学経験もあるエリートパイロットだったが,そんな彼ですら空母への着艦は緊張するものだった。

 

コックピットのスイッチを操作し,機首の下部や機体の両脇のカバーが開き,中に収納されていたランディングギアが出現する。

 

“JBような垂直離着陸機(VTOL機)ならもっと楽なのに”と考えながら機体の高度と速度を徐々に落とし始める。

 

航空甲板脇に設置されている光学着艦支援装置(OLS)を確認すると,中央のオレンジのライトと左右の緑色のライトが横一列に並んでおり,正しく着艦コースに入っていることを有馬は確認した。

 

前輪が最初に甲板に接地し,続いて後輪も接地する。

 

アレスティングワイヤーが自機のフックに引っ掛かり,強制的に速度が落とされる。

わずか2秒で0kmまで落とされた事による衝撃が有馬へと伝わる。

 

キャノピーが前方向に開き,脇に梯子がかけられる。有馬は梯子をゆっくりと降り,甲板へと降り立った。

 

甲板上に待機していた各種要員が,機体に近づき仕事を開始し,前方のランディングギアには牽引車(トラクター)のトーバーが連結され始めていた。

 

有馬は部下達が待っているであろうブリーフィングルームへと向かおうとしたが,ふと足が止まった。

 

「本当に信じられないな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて。」

 

彼の視線の先に止まっている機体。それはシ連海軍のSu-33だ。

さっきまで空戦を繰り広げていた筈の機体が今敵空母の上で羽を休めていた。

 

有馬がSu-33(フランカーD)を見ていると,有馬の機体の誘導を終えた航空機誘導員(マーシャラー)の槇下が頭をかきながら近づいてきた。

 

「大変だったんですよ。スペースは確保しなきゃだし,ロシア語話せる奴を探したり,これって佐渡空港とかでも出来たんじゃないんですか?」

「こいつらは燃料が特にヤバかったからここに着艦したそうだ。

Su-35も燃料がヤバかったそうだが空母に着艦出来ず,無理して飛鷹島空港に行ったそうが,艦載機のSu-33(こいつ)は着艦できるからな。」

「そうですけど···········あの着艦の仕方凄かったですよ。

多分誰か撮っていると思うんで後で見ますか?」

「“絶対に真似すんな”と念のため彼奴らに行っとくか。」

 

有馬は撮影されたであろう動画を見て興奮しているであろう部下の事を思うと,胃が痛むのであった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

「艦長。イーグル隊が配置につきました。」

「「DDH-181 ひゅうが」より“()()()()()の出撃準備は完了した”との報告です。」

「分かった。ではこちらも動こうか。」

 

通信士の報告を受けた桐島は椅子から立ち上がった。

 

「通信士。シ連艦隊と通信出来るか?」

「いつでも出来ます。」

 

通信士の返事に桐島は“よし”と覚悟を決めた。通信機を手に取った桐島に水上が不安そうに声をかけた。

 

「艦長。ロシア語が出来るのですか?」

「ロシア語なんか覚えられるか。英語だったら一応会話できる位には習得しているが。」

「降伏勧告でもするのですか?」

 

水上のその言葉を聞いた桐島は,発した張本人を見た。水上の表情は内心に抱いている不安を無理やり隠している様にも見えた。

 

「その様子だと不安そうだな。」

「不安以外の何があるというのですか? 相手はシ連です。既に艦隊戦力は消滅しましたが何をしてくるか分かりません。

これ以上の被害を出すわけにはいきませんので。」

「その為の“特別警備隊”だ。こういうときの為に彼らはあるのだから。」

 

桐島の言う“特別警備隊”は不審船の武装解除及び無力化・対象船舶及び艦艇への移乗強襲等,船への突入を専門とした自衛隊初の特殊部隊だ。

 

今回の朱雀列島占領を受けて本拠地の江田島から舞鶴へと向かい,シ連艦隊との決戦前に舞鶴航空基地から第21航空群第23航空隊第231飛行隊所属*1SH-60J(シーホーク)で「DDH-181 ひゅうが」へと飛来し,現在は「ひゅうが」の艦載ヘリコプター MCH-101に乗り換えて待機していた。

 

桐島は交渉炸裂した場合は特別警備隊を「S-107 ウリヤノフスク」に突入させ,制圧しようと考えていた。

 

「確かに相手は断ってくるかもしれないが,やってみなければ分からないさ。」

 

そう言って桐島は通信機のボタンを押した。

 

This is the Japanese Navy second task force.(こちらは海上自衛隊第2機動部隊だ) I want to talk with the commander of your fleet.(貴艦隊の司令と話がしたい)

 

想像していたよりも流暢な英語で話された挨拶から約1分後に返事は返ってきた。

 

This is the(こちらは,) Siberia Union Navy United States Pacific Fleet.(シ連海軍太平洋艦隊だ)I am Rebaru suguwrok of the commander.(私が司令のレバル・スグワークだ)

 

“英語だ·······”。戦闘指揮所(CIC)の隊員達は皆そう思った。

 

読者(皆様)に予め伝えておくが,これから始まる桐島とレバルの英語での会話を日本語でお伝えする。

理由は·········

 

 

 

 

面倒臭いからだ。

 

「貴方が司令官か。私は「あまぎ」艦長 桐島龍樹だ。司令官が不在のため,代理で指揮を取っている。

我々第2機動部隊は貴艦隊に降伏を勧告する。もし受け入れられないのであれば,撤退をお勧めする。

それと貴殿方の空母から発艦した艦載機の内,一部は我々が緊急着陸させた。

パイロットも皆生きている。貴殿方が降伏に応じればパイロット(捕虜)は返却しよう。

貴殿方の懸命なる判断を期待しておく。」

『それは我々の状況を分かっていて発言しているのかね?』

 

レバルは即答した。

 

『この艦隊で今まともに動けるのは航空機運用能力を失った本艦だけだ。

のこりは艦橋()を失った巡洋艦 2隻と沈みかけのフリゲート 1隻のみ。

この状況で降伏以外の選択肢があるならどのような物か聞いてみたいものだ。』

「その答えは私も聞いてみたいが,それを聞く暇はなさそうだ。」

 

一回言葉を切って,桐島は話を再開した。

 

「もう一度確認するが,降伏するという事で宜しいな。」

『勿論だ。それと一言言わせてくれ。

我々は日本を甘く見ていた様だ。私自身は自衛隊を驚異だと思っていたが,まさかここまでやるとは思いもよらなかった。

我々海軍は陸軍や空軍に比べ実戦経験は無いに等しい。初の実戦が完敗なのは悔しいが,これを糧にして我々は成長して進んでいきたいと思う。

その前に私は再び海軍につけるか分からないがな。』

 

あまり笑えない冗談を言ったレバルに,桐島は反応に困ったが,直ぐに脳内に記録(インプット)されている単語を繋ぎ合わせた。

 

「貴方の言葉は誉め言葉として受け取っておこう。朱雀列島周辺に展開させていた別動隊を貴艦隊の周囲に向かわせよう。

貴方から他に話すことはあるか?」

『1個だけあるぞ。私が今話している君に対してな。』

 

話が自分に対してだった事に桐島は内心驚くが,表情には出さずに話し合いを再開した。

 

「電話番号とかなら答えられないぞ。」

『そんな事ではない。確か名を“キリシマ”と言ったな。声を聞く限り若く感じるが,何歳だ?』

「1月に28になったばかりだ。」

 

この発言に通信機越しに“おぉ···”と声を詰まらせるレバルの声が桐島に聞こえた。

 

『28とはこりゃ驚いた。私の13も下じゃないか。しかも司令代理でこの指揮能力とは,中々の才能だな。』

「止めてください。私は多くの死者を出した無能な指揮官ですよ。」

『それは違うな。』

 

若干食いぎみにレバルは言葉を発した。

 

『犠牲の無い戦いなど空想(フィクション)にしか存在しない。

戦いに犠牲は付き物だ。この戦いももしかしたら2倍の死者が出ていたかもしれない。

司令官というのはその犠牲を最小限に抑えるために存在する。戦死者が敵より少なければその指揮官は有能だと私は考えているよ。

君が無能と言ったら私の立ち位置はどうなるのかね? 君の考えだと全ての司令官がヒトラー*2と同じになってしまうぞ』

 

レバルの話を桐島は一言も逃がさず真剣に聞いていた。

 

『長話を失礼したな。そろそろ終わらせて頂こう。

だが君は伸び代がある。いつか君と直で会ってみたいものだ。』

「貴方の話は敵ながらとても良い話だった。私も貴方とは一回会ってみたいものだ。

では別動隊を貴艦隊の周囲に向かわせるので,以降は我々の指示に従ってもらおう。では」

 

そう言って桐島は通信を切った。肩の力を抜き,気分をリラックスさせた。

 

「通信士。官邸に“敵艦隊は降伏勧告に応じた”と連絡してくれ。」

 

桐島は通信士に対して言うと,正面を向いた。

 

「有能な指揮官は相手より犠牲者が少ない方······か。」

 

レバルから言われた言葉を繰り返して,桐島はただ1点を見つめていた。

真っ正面のディスプレイを通り越した桐島以外には見えない何かを見つめていた。

 

この時,桐島は彼自身の運命を変える大きな答えを決めたのだった。

*1
長いわ

*2
言わずもがな。

軍事には無能だけどドイツを復興させた天才ではあるのですけどね······




英語での会話は翻訳アプリを使ったので間違っている可能性が高いです。
すいません。英語が出来ないのにわざわざ使って······というか()に納めるのが非常に大変だった。
というより変なことになったが解決法が分からんから許してくれ。

というより本編自体色々と無理矢理やったり,語彙力が無くて文章量が少なくなっていますがね。

話変わりますけど,地震マジで怖かった·······いきなり警報なったと思ったらドカン!!と来たんだから。
作者の住んでいる場所は6弱でした。自室も酷い有り様でしたが,模型に甚大な被害はなく,唯一の被害は加湿用のコップが割れたことのみ·········

“災害は忘れた頃やってくる”と言いますけど,あの震災から約10年後に再び大地震。
神様が忘れない様に定期的に起こしているんでしょうかね?

久々に自衛隊結構やらかしましたね······「SS-501 そうりゅう」最低でも半年はドック入り確定すね。

というか約4000tの潜水艦と50000tの貨物船衝突で,よく沈みませんでしたね········とある紅茶の国では客船で軽巡沈めましたからね······

日本国召喚系の話なので見たい方は見ていってね。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=255633&uid=274301


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Episode.52 解放

“火葬戦記”のタグを追加しました。それ以外にこの作品を表現するタグなんて無いよなぁ。


「ん?········」

 

気を失っていたシ連陸軍第3軍司令 ユラージ・チュイコフ中将は目を覚ました。

瞼を広げて視界が開けると,視線の先には濃緑(のうりょく)のテントの屋根が入ってきた。

 

ユラージがチラッと横を見ると,見るからに気弱そうな兵士が折り畳み式の椅子に座っているのが見えた。

 

ユラージは彼の事を知っていた。余りに気が弱すぎた為に部隊内で有名になっていたからだ。

 

「ユラージ司令大丈夫ですか!?」

「あぁ,私は大丈夫だ。君こそ大丈夫かね?」

「私は身体的にも精神的にも無事です。ただ·······戦況は宜しくないです。」

 

その発言にユラージはただ“そうか”と言った。

 

「敵の部隊は分かったか?」

「おおよそですが,水陸機動団かと。」

「水陸機動団·········確か日本版海兵隊とかだったな。」

 

まるで観念したかのような表情を浮かべた刹那,連続した銃声が響いた。

甲高い銃声に気弱な兵士はビクンと驚いて立ち上がった。

 

「まさかもう!?」

 

気弱な兵士が言い終わる前に銃声の正体はテント内へと自ら入ってきた。

 

Πодними свою руку(手を上げろ)!!」

 

20式小銃を構えながら,ロシア語でそう言ったのは第2水陸機動連隊所属の二等陸尉だった。

 

気弱な兵士はその声に従う形で手を上げた。その様子を確認した二等陸尉は寝ているユラージへと目を向けた。

 

「そしてこっちは·····中将!? ということは·········!?」

 

二等陸尉が日本語で話しているために,ユラージは内容は理解出来なかったが,驚いているいうことだけは分かった。

自衛隊員は急いでテントから頭だけを出して,

 

「連隊長!! 敵の指揮官を発見しました!!」

「何だと!? 案内しろ!!」

 

外から聞こえる足音が徐々に近くなっていき,テントが勢いよく開けられる。

そこから中に入ってきた人物はユラージの姿を見ると,目を見開いた。

 

「確かにこれは指揮官のユラージだ·······爆撃で死んだと思っていたが,まさか生きているとは。

谷川よくやったぞ!!」

 

連隊長は予想以上の獲物を確保した事に隠しきれない笑みを顔に浮かべていた。

 

とその時。何か嫌な予感を察したのか,手錠がかけられようとしていた気弱な兵士が声を荒げた。

 

Πодождоте(待ってくれ)!! Командир ранен(司令は負傷されておられる)!!」

 

気弱な兵士は二等陸尉こと谷川が20式小銃を向けたことで再び小さな悲鳴と共に手を上げた。

谷川は振り返って,

 

「連隊長。どうやら敵の司令官は負傷されておられるようです。」

「その様だな。結構な怪我をしているようだ。」

 

連隊長はユラージの各所に巻かれている包帯を見て,薄々と感ずいていたが,確信へと変わった。

連隊長はテントから顔を出して,

 

「山本,本部へ連絡してくれ,“敵の指揮官を確保した”と。それと“敵指揮官は負傷しているようだ。「LST-4002 しもきた」に急患の連絡をお願いする”とな。」

 

外で待機していた山本と呼ばれた通信士は,背中に背負っていた広帯域多目的無線機(Z-100)を使って,本部へと連絡を行った。

 

それを見ていた連隊長は谷川を呼ぶと,ある事を伝えた。谷川は頷くとユラージの元へ向かった。

 

не беспокойся(安心しろ) Не эабирает жиэнь(命を奪ったりはしない)

 

ロシア語で話しかけられたユラージはその内容に安心すると,そのまま自衛隊を身を委ねる事を決めたのだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

朱雀列島第2の島。飛鷹島の北東には列島内唯一の小中一貫校が存在している。

 

本来なら中心である蘭島に置かれる筈だった学校は建てられる土地が確保できず,やむを得ず飛鷹島へと建築されていた。

 

既に日は東から登り始め,一週間の始まりの月曜日を迎えており,学校にも生徒達が来る筈だったのだが········今はそんな事言ってられる余裕はなかった。

 

2日前に突如として上陸したシ連軍によって島民らは,強制的に学校の体育館に閉じ込められていた。

 

シ連軍の占領・拘束・収容。そしてこの状況がいつ終わるのか。

答えの見えない不安に島民らは夜も眠れぬ思いだった。

 

そして数時間前の爆発音がより一層彼らの神経を尖らせていた。

 

“シ連兵に殺されるのでは”、“体育館ごと燃やされるのではないのか”。

島民らの過度な恐怖心は時間が経つにつれて酷くなっていった。

 

そしてその張り詰めた緊張の糸を切る様に銃声が鳴り響いた。

乾いた銃声が何回も鼓膜を刺激する。銃声は島民らの神経に何倍も増強されて響き渡る。

 

Кто ты(何者だ)!?」

 

外からシ連兵の叫び声と銃声が響く。内容は理解できないが,銃声がすぐ近くで鳴った事で恐怖心は最上限へと達した。

 

鉄製のドアが少しずつ開かれる。鉄と鉄が擦れる音を立てて,ドアは開かれた。

島民らが恐怖の目で見つめるなか,ドアから入ってきたのはシ連兵ではなかった。

 

黄緑や茶色や黒を使った迷彩に塗装された防弾チョッキ3型を身に纏い,同じような迷彩服と88式鉄帽を装着した男達だった。

 

彼らはその姿を見た瞬間,恐怖心は消え去った。

 

「安心してください。我々は自衛隊です!!」

 

そしてかけられたこの言葉で彼らは確信した。

 

“自分たちは助かった”と。

 

「やっと来てくれたぞぉ!!」

「助かった! 助かったんだぁ!!」

「やってくれると思ったぜ自衛隊さん!!」

 

島民らは解放されたという解放感に今まで溜まっていた感情を吐き出すように声を上げ始めた。

 

自衛隊員こと特戦群隊員もそれを予想していたのか,冷静に落ち着かせようとした。

 

「皆さん落ち着いてください! まだシ連兵が周囲にいるかもしれませんので。

それとシ連軍が捨てた武器や爆薬があるかもしれないので,確認が済むまで外にも出ないでください!!」

「も,もしかしてさっきの爆発もお前達か!?」

「爆発?······ああ,先程のは空港に立て籠っていたシ連軍に撃ったものですのでご安心を!!」

 

自衛隊員のその発言に島民らは“そういうことかぁ”・“心配して損した”と次々とぼやきだした。

とその時,島民らの中にいた1人の老人が特戦群隊員の元へと向かった。

 

その老人は隊員の前に来ると口を開いた。

 

「なあ自衛隊さん。ちょっといいか?」

 

老人の口調から何かを察したのか,近くにいた男性が老人に声をかけた。

 

「ちょちょっと待ちなって,寛治じいさん」

「なあに別に愚痴を言いに来た訳ではねぇ。自衛隊さんよぉ」

 

寛治と呼ばれた老人は,止めようとした男性にそういうと再び特戦群隊員に向き合った。

 

特戦群隊員は落ち着きながら次に出てくる言葉を待ち構えたが,彼の口から出てきたのは意外な言葉だった。

 

「取り敢えず旨いメシを食わせてくれねぇか? シ連(あいつら)のメシは不味くてなぁ。」

「旨いメシですか········生憎持ち合わせは少ないので,あなた方の家のキッチンと冷蔵庫を使わせて貰えば作れるかも知れませんね。」

「そうかそうかぁ。でも冷蔵庫の中のもの腐っちゃてるかも知れねえから,まずは食材取るところからだなぁ!」

 

そういうと寛治は豪快に笑いだした。今までの鬱憤を晴らすかのような笑い声に釣られて周りの島民らや特戦群隊員達も笑いだした。

 

飛鷹島の一角に戦場とはかけはなれた笑い声が響き渡った。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

飛鷹島で笑い声が響き渡った頃,多千穂島では未だに銃弾が激しく飛び交っていた。

 

自衛隊の89式小銃の5.56×45mm NATO弾や中国軍の03式自動歩槍の5.8×42mm弾とシ連軍のAN-94の5.45×39mm弾が幾度となくすれ違う。

 

大半の銃弾は大気を切り裂くか民家の壁に着弾していたが,兵士に命中した弾は赤い鮮血と共に体を貫き,体中に痛みを拡散させた。

 

それが敵味方双方に何度も発生しており,状況は膠着状態に陥っていた。

膠着の原因はシ連軍が立て籠っている施設 朱雀警察署の入口にトラックや自動車等をかき集めて急造のバリケードを作っていたからだ。

 

だがそれよりもバリケード前に展開しているシ連軍戦車 T-80Uの方が厄介だった。

 

当初は6両もいたT-80UはF-35JB(ライトニングⅡ)AH-1Z(ヴァイパー)の攻撃でこの1両以外は全て撃破されており,何もできずに撃破されたT-80U(兄弟達)の恨みを全て背負って,単身奮闘していた。

 

主砲こそ撃ってないものの,存在自体が驚異となる戦車相手に連隊長の角谷は苛立っていた。

 

「埒が明かん!! 誰か84式無反動砲(カールグスタフ)を前線に持っていけ!!」

 

角谷がそう呼び掛け,自衛隊員が84式無反動砲(カールグスタフ)を持ってくるよりも早く,建物の影から履帯の独特な音と共に,中国軍の03式空挺歩兵戦闘車が現れた。

 

車体上部の砲塔両脇に取り付けられた対戦車ミサイル(ATM) HJ-8がバックブラストと共に発射された。

 

戦車等の装甲車両を破壊する為に作られ,装甲を突き破る為のノイマン効果を発生させる特殊な形状をした2発の弾頭が有線半自動指令照準線一致誘導方式(SACLOS)の指示の通り,T-80Uへと突撃した。

 

とその時,T-80Uに搭載されていたアクティブ防護システム(APS) アリーナが作動し,2発の防御弾が毎秒200mの速度で迫ってくる HJ-8へと発車された。

 

防御弾はHJ-8に着弾する前に爆発して,破片を下へと撒き散らした。

撒き散らした破片がHJ-8の本体に命中し,傷つける。傷つけられた事で弾頭は内部の精密機器を乱され,T-80Uに着弾する前に爆発した。

 

T-80Uの20m先で破裂したHJ-8はうっすらと明るくなり始めた空を,赤い光球で更に明るく染めた。

 

そんな明るく染まった空間を切り裂くように,1発の84mm無反動砲(カールグスタフ)の砲弾が現れ,T-80Uの複合装甲を貫いて車体へと命中し,意図も簡単に破壊した。

 

この攻撃を行ったのは言うまでもないだろう。第1水陸機動連隊だ。

 

「持ってくるように言って正解だったな。邪魔者は消えた! 迫撃砲発射!!」

 

角谷の指示に部隊の後方に展開していた水陸機動団特科連隊と第1水陸機動連隊の120mm迫撃砲RTやL16 81mm迫撃砲が一斉に火を吹く。

 

高く弧を描いて飛ぶ迫撃砲の砲弾が甲高い独特な音を立てて落下し,着弾する。

砲弾が爆発し急造のバリケードは簡単に破壊された。

 

03式の30mm機関砲も火を吹き,シ連兵に向けて榴弾を何発も発射し,バリケード付近のシ連兵を1人残らず殺害した。

 

「第3中隊突入!!」

 

バリケードの破口から何人もの第1水陸機動連隊第3中隊(1水機-3)が敷地内へと突入していく。

 

ガラス製の扉を割って,建物内へと侵入する第3中隊の隊員をAAV-7のキューポラから見つめていた。

とその時角谷に声がかけられた。

 

「どうやら戦況は決したようですね。」

 

話しかけたのは,日本語が話せる中国軍兵士だった。

角谷は今話している日本語が話せる中国兵が日本語専門の翻訳だということを既に理解していた。

 

「どうやらそのようだな。」

 

角谷はそう返したが,実を言うと彼は中国軍(友軍)に対して疑問を抱いてきた。

 

中国が尖閣諸島や南シナ海で行っている事について,日本でどうかと聞くと恐らく10人中9人が良くない感情を抱いているだろう*1

 

角谷もそう思っている1人だ。彼が思っている偏見と,現在彼らが行っている行動を重ね合わせると,何か良からぬ事を考えているのではないかと考えるのも無理はないだろう。

 

その疑念が今でも晴らすことが出来なかった角谷は,こちらの埒も晴らそうと思いきった。

 

「今聞く話じゃないかもだが,敢えて言わせてくれ。お前達はどさくさに紛れてこの列島を奪う気じゃないのか?」

 

角谷の発言に翻訳は面食らうかと思っていたが,返ってきた言葉は想定外のものだった。

 

「それは違いますね。我々にこの列島を占領しろという命令受けていません。これは確実に言えます。」

 

角谷は翻訳を驚かす筈が,寧ろ自分の方が驚かされた。角谷はその核心を得るために更に踏み込んだ。

 

「本当か? 俺には信じられないが。」

「もしそれでも信じられないというなら我々の司令官に会われた方が宜しいかと。」

 

翻訳の言葉に角谷はニヤリとした。司令官なら占領しないという言葉の確実な裏付けを得られるからだ。

 

それに中国軍の司令官には個人的に会ってみたいと思っていたからだ。

 

「ではそうさせてもらおう。そろそろ施設の制圧も終わりそうだしな。」

 

角谷がそう言った数分後,多千穂島のシ連軍は日中合同軍に降伏した。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

所変わって東京都千代田区の首相官邸。日を跨いで振り続けた雨は既に上がり,太陽の光が官邸の外見を再び照らし始めた。

 

首相官邸の地階の危機管理センターには総理大臣の鈴村隆治以下内閣のメンバーが既に2日間程籠ってこの事態の対処に当たっていた。

 

2日間も籠りっきりでそろそろ皆がウンザリし出していたが,現在に限ってはそれは綺麗サッパリ消えていた。

 

理由は単純。第2機動部隊から朗報が入ってきたからだ。

 

『第2機動部隊より首相官邸へ。別動隊が降伏したシ連艦隊との合流に成功したとのこと。

それと数分前に多千穂島の奪還に成功したとの情報が入ってきました。

これで朱雀列島は完全奪還という形になります。

死傷者についてですが,海自は「DD-115 ながなみ」とパイロット含め30名。陸自は15名の総数45名との事です。』

「分かりました。捕虜はジュネーブ条約に従って扱ってください。

それと戦死者については手厚く弔って上げるようにお願いします。」

『了解しました。』

 

そう言って通信は切られた。鈴村は直ぐ様官房長官 大洋洋司を向くと,指示を出した。

 

「官房長官。会見の準備を。」

「国民に伝えるのですね。」

 

大洋の質問に鈴村は首を縦にふった。

 

「この戦いの結末を全国民·····いえ全世界が知りたがっているでしょう。」

*1
偏見ですけどね·····




ふと最初の話を見返したら,山のように矛盾点見つけたので色々変更しました。

なんで実質囮の航空隊にF-15JやAH-64Dを入れるんだよ·······と思ったのでF-4EJとAH-1Sに変更しました。

まあファントムとコブラ出せたのでこれはこれでOKですかね?

見返して思ったのは昔の自分を恨みたい。こんな作品 火葬戦記確定ですね。


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Episode.53 勝利宣言

東京の摩天楼に朝日が登り,山手線等の首都圏鉄道路線は通勤ラッシュの時間を迎えていた。

 

サラリーマンが満員電車にいつも通り苦しんでいる中,首相官邸の会見場にはテレビ局のカメラや,新聞社の記者が集まり始めていた。

 

今から30分程前に突如として会見が行われる事が政府から発表された。

この発表に報道機関は慌てた。テレビ局は急いで朝のニュース番組の構成を変更し,新聞社は号外の準備をしだし,輪転機を止める準備をしだした。

 

そしてこの会見場も記者達やカメラスタッフが,電話をしたりして慌てているのが誰の目に入っても分かる。

 

そんな中でOREjournalの編集長 荻窪大介と記者の木戸進一は落ち着いていた。

木戸は未だに慌ている周囲を見渡すと,隣に座る編集長を向いて,

 

「幾らなんでも編集長が来ることもなかったんじゃないですか?」

「バカやろう。ここで緊急の記者会見があるという事は何か動きがあったという事だ。」

 

昨日の中国による会見で,周囲に隠れミリオタが完全にバレてしまった荻窪は,寧ろ重荷がなくなったかのように意気揚々としていた。

 

この会見の事を知るな否や,その辺にいた木戸を連れて会見場へとやって来ていたのだ。

 

無理矢理連れてこられた木戸は,内心不満だったが編集長に言うと何を言われるか分からないので心の中で思っていた。

 

「あと2分か。」

 

荻窪の右腕の腕時計が示す時間は7:58を回ろうとしている。

会見の予定開催時刻は8:00。

 

「編集長。この会見は朱雀列島関連だと思いますが,一体どんな内容なんでしょうね?」

「良い報告であると願いたいな。」

 

そして腕時計の長針は0を指した。同時に第100代内閣総理大臣 鈴村隆治が会見場へと姿を現した。

 

カメラのフラッシュが鈴村の姿を照らし,リポーターは総理が現れた事をニュース番組のスタジオへと伝えた。

 

鈴村が会見場のお立ち台へ上がると,フラッシュも収まる。

 

演台に置かれたスタンドマイクの前に立ち,1回咳き込むとその口を開いた。

 

「シ連軍の朱雀列島侵攻から既に2日が経過しました。国民の皆様もただならぬ不安を抱いて過ごしているのだろうと思われます。

さてこの会見を見ている皆様は感づいていると思われますが,この会見の主な内容は朱雀列島とシ連艦隊についてです。」

 

鈴村の言葉に皆が息を呑んだ。記者やリポーターは鈴村の発言を一言も聞き逃さぬ様に聴覚の感度を最大限に上げて,カメラマンは歴史的な瞬間をカメラに納めるべくシャッターに指をかけてその瞬間を待った。

 

「皆様は長い経緯を語るよりも結論を知りたいでしょう。

結論を申し上げると,シ連艦隊は全滅しました。海上自衛隊及び航空自衛隊の飽和攻撃で空母1隻と巡洋艦2隻を残して全て撃沈させられました。」

 

鈴村の核爆弾クラスの発言に,会見場は凍りついた。

 

今,目の前の総理は何と言った? シ連艦隊が全滅した? しかもたった一夜で?

 

会見場にいる人々は皆が脳内でそう思った。皆が自らの思考に鈴村の言葉(それ)を脳に理解させるよりも早く,鈴村が再び口を開いた。

 

「そして先程第2機動部隊よりシ連艦隊が降服に応じたと連絡が入りました。

朱雀列島についても陸上自衛隊が全島の奪還に成功したとのことです。」

 

更なる鈴村は核爆弾クラスの発言に,会見場は再び凍りついた。

 

シ連艦隊が降伏というのはまださっきの話で理解出来なくもない。

だが朱雀列島が奪還に成功した? 1島だけでなく全島? しかもこっちもたった一夜で?

 

まるでフィクションの様な急展開に会見場の人々やこの会見をテレビやスマホ,電車の液晶ディスプレイで見ている通勤中のサラリーマンや通学中の学生らの脳内は追い付かなくなっていた。

 

こうなるのを見越していたのかどうかは分からないが,鈴村は彼らに対して再び口を開いた。

 

「一言で言わせてもらいましょう。我々はシ連に勝利したのです。」

 

その言葉を聞いた国民らは瞬間的に理解した。日本がこの戦に勝利した事を。

 

そして会見場は歓声に包まれた。記者達は立ち上がって喜びの雄叫びを上げた。

 

リポーターはこの情報をスタジオに声を荒げながらその情報を伝え,カメラマンはその様子を逃さずSDカードへと記録した。

 

木戸も立ち上がって素直に喜んだが,隣の荻窪はさっきと変わらず座っていた。

荻窪のそんな様子に木戸は素直に疑問を抱き,質問した。

 

その様子をお立ち台から見つめていた鈴村は,会見を再開する為に喜ぶ人々を制した。

鈴村が制した事で,記者達の声は次第に小さくなっていった。

 

声が小さくなった事を確認した鈴村は再び口を開いた。

 

「皆さんが喜ぶのは自由です。ですがこの戦いで何百,いや何千という人間が失くなりました。

これは非常に悲しいことです。ですがもし我々の選択が1つ間違っていたら,万単位の死者が出ていた可能性だってあります。

この戦いで我々も62名もの戦死者を出しました。もしかしたら死者が多かったのは我々だったかもしれません。その事を充分理解して頂けると私としては幸いです。」

 

そう言った鈴村の姿を見ていた荻窪はふと口を開いた。

 

「日本は変わるな。」

「え?」

 

木戸はばか正直に荻窪の言葉に疑問を抱いた。

 

「この戦いをきっかけに日本は変わるだろうな。戦いというのは良い意味でも悪い意味でも変える力がある。

その力をどう制御するかで政治家というのは決まってくるがこの総理なら良い意味に持っていけそうだな。」

 

荻窪のその言葉を木戸は自分なりに理解しようと必死に脳を動かしたが,理解できるのは遠そうだ。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

会見を終えた鈴村は右肩を左手で揉みながら首相官邸の通路を歩いていた。

会見開始から1時間以上が経過し,既に時計の針は9:21を指していた。

 

と鈴村の元へ総理秘書官の本庄香月がやって来た。官邸の女神とも言われている彼女だったが,その顔は優れていなかった。

 

「総理。お疲れさまでした。」

「いえいえ私はただ台本通りに読んだだけです。まあただアドリブを付け加えましたがね。」

「···········」

 

鈴村はそう言って,本庄を微笑でもさせる筈だったが,当の本庄の顔は優れなかった。

 

「どうしましたか?········ああ,三崎君の事を思っていたのですね。」

 

鈴村の発言は図星だった。彼女は目の前で撃たれて呆気なく死んだ。彼女自身はこんな事は刑事ドラマというフィクションの中でしか起きることはないと,思っていたがそれは現実で起きてしまった。

 

確かに三崎には何か違和感を感じており,密かに調べた結果シ連のスパイだった。だからこそ死ぬのは当たり前といえばそうだが,何かより良い結果はなかったのかとずっと自問自答していた。

 

「彼女に助かる道はあったのでしょうか·······」

「助かる道ですか······」

 

心の中だけで言っていた事が漏れていた事に,本庄の頬は赤くなったが,鈴村はそれを気にせず話し出した。

 

「取り敢えず言えるのはこの世界には彼女の犠牲が必要だったという事ですね。」

「は?·········」

 

鈴村の言葉の意味を本庄は一切理解できなかった。

 

「平和な世界には犠牲が必要です。良い人も悪い人も全てを助けるなんて不可能も良いところですよ。

平和を得るには何かを捨てなければならない。それが今回は三崎君とシ連艦隊だったという訳です。」

「そんな残酷な·····」

「世界は残酷な物で出来ています。感動の結末なんて100回の戦争で1つあるか無いか位なものです。」

 

鈴村は“しかし”と付け加えると,

 

「何か私達の言葉や行動が1つでも変わっていたら,もしかしたら三崎君が助かった世界もあったかもしれませんね。

まあ何が彼女の命を奪う引き金になったかは,神ぐらいしか分かりませんがね。」

 

鈴村が付け加えた言葉で言葉の意味を理解した本庄は,

 

「はは·······」

 

そう失笑した。自分の考えていたこととは全く違う考え。

神? そんな物が話に出てくるなんて馬鹿馬鹿しいと思わざる思えなかった。

 

そしてそう言われない限り理解できなかった自分に対しても失笑した。

 

「神ってただの偽善者なんですね。」

「神なんて偶像の塊ですよ。国民が私達に付ける勝手な印象と同じですよ。

君もまた成長しましたね。」

 

本庄の自分に対して笑う姿に鈴村はそう言った。そして彼は再び歩き出した。

 

「行きましょう。我々にやることは山のように残っています。」

 

そう言われた本庄は180°振り返って,自らの仕事を行うべく鈴村へと付いていった。




3900t型護衛艦がもがみ型護衛艦に決まりましたね。個人的に無難な名前になってよかったですね。

あとこれ色々考えた結果追加した設定ですが,“New Fleet計画”でたかなみ型やあきづき型が10隻ずつになっているので,更に小さいあぶくま型が増産されないのはおかしいんじゃないかと思ったので,こちらも10隻建造されたという設定を追加します。

艦名? この作品では出てこないんで考えてないです······本音はもがみ型と被ったらどうしようとなっているだけ。

あと関係の無い話ですけど,米海軍のアメリカ級やサン・アントニオ級に陸自の10式戦車等の自衛隊車両って搭載出来るのでしょうかね?

毎度すいません。作者がニワカなせいで······


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Episode.54 変わる世界

祝UA7000!!


東京から太平洋を挟んで1万5500km離れた北アメリカ大陸に位置するアメリカ合衆国。

東部のメリーランド州とバージニア州に挟まれたポトマック川の河畔に比較的規模も小さく人口も少ない都市が存在した。

 

超大国アメリカ合衆国の首都のワシントンD.Cは意外にも規模としては小さい。

だがアメリカの政治を担うアメリカ合衆国議会の議事堂,アメリカの軍事を担う国防総省 ペンタゴン,アメリカの歴史を物語るリンカーン記念堂やスミソニアン博物館等のアメリカを象徴する物が多く存在しており,アメリカの中心と堂々と言える都市だろう。

 

そんなワシントンD.Cの中心部に位置するのが,アメリカで最も有名な住居 ホワイトハウス。

 

米英戦争によって焼き焦げた外壁を白く塗った事からそう呼ばれる様になった大統領官邸の西棟(ウエストウイング)にある大統領執務室(オーバルオフィス)に第48代大統領 マイケル・テアラーはいた。

 

彼は左手をズボンのポケットにいれ,もう片方の手で受話器を耳へと当てていた。

 

「その情報は確かなのだね?」

『はい。シ連艦隊は全滅し,朱雀列島も奪還されたとの事です。

我々の偵察衛星が撮影した写真の解析結果と日本政府の発表した内容から100%確実かと。』

「そうか········だがまさか僅か1日でこんなに戦況が逆転するとは,まるでミッドウェー海戦のようだね。」

『私が勝手に名付けるなら“21世紀のミッドウェー海戦”でしょうかね?』

 

電話の相手は国防長官のトーマス・ジェンソンだ。2日前とは打って変わって,意気揚々とマイケルへと国防総省(ペンタゴン)が掴んだ情報を話していた。

 

それを内心感じつつ,マイケルは別の話題をふった。

 

「それとロシア連邦については何か情報は入っているか? こんな絶好の機会をロシアが逃す筈がないだろ?」

『えぇ,ロシア領内の各基地からTu-160M(ブラックジャック)Tu-95MS(ベアH)と言った爆撃機部隊が離陸を開始した模様で,戦闘機や輸送機等も離陸準備を開始しているとの事です。

またムルマンスクやアルハンゲリスクの艦隊にも動きがあったようですが,まだ詳細は不明です。』

「いや動いたと分かっただけでも戦果だ。また何かあったら伝えてくれ。」

 

そう言ってマイケルは電話を切った。マイケルは間置かずに電話のボタンを押して次の連絡先の番号を打った。

 

マイケルが打った連絡先はアメリカ合衆国国際連合大使のリラ・ハール・フィルアットだ。

 

「リラ君か? 国連に緊急特別総会を開催するように促してくれ。

英国やフランスにも私が話しておこう。何ならロシアへも話しておいた方が良いか?」

『えぇ,お願いします。私の方にも先程中国から“緊急特別総会を開く為に協力をお願いします”と連絡が入りました。』

 

リラの女神の様な声がマイケルの鼓膜に響く。実際彼女はその美貌から“国連の女神”とメディアや世界中の国民から言われていた。

 

「中国も実質味方という事か,こんな馬鹿みたいな話もあるもんだな。」

『私だって信じられませんよ。ですけど味方になったのなら利用するだけ利用してやりましょうよ。』

 

女神とは裏腹にどす黒い考えを提案したリラにマイケルは笑いを返した。

 

「ははは········君の判断に任せるよ。」

 

そう言ってマイケルは電話を切り,窓越しに空を見上げた。日が登った東京とは真逆にワシントンは日が沈み,空は恒星と夜の町の光が入り交じっていた。

 

「シ連も遂に終わりだな。もっと早く終わると思っていたが30年も続くなんてな。

遂に冷戦が終わるか········私も教科書に乗ったりするのかね?」

 

彼は広い大統領執務室(オーバルオフィス)でたった1人で冗談交じりの独り言を言ったのだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

シ連ことシベリア社会主義連邦の首都 イルクーツク。

 

世界で最も深い湖 バイカル湖の西岸内陸に位置し,ロシア極東部と中央アジアを結ぶ交通の要衝として栄え,その街並みの美しさから“シベリアのパリ”とも呼ばれるシ連有数の都市だ。

 

そんな都市の一角にシ連政治の中心地 “フタローイ・クレムリン”は存在する。

 

モスクワのクレムリン広場を模して作られたこの場所は現在これまでに無い程ざわついていた。

 

理由は明確だ。朱雀列島(バレリオーストラフ)占領作戦が完全失敗したからだ。

 

朱雀列島(バレリオーストラフ)は自衛隊によって奪還され,太平洋艦隊も壊滅した。

想定を遥かに越える大損害を受けたシ連上層部は混乱の真っ只中だった。

 

「これはどういう事だぁ!!」

 

そう物凄い剣幕で怒鳴り散らしたのはシ連書記長のレジェーブ・レフトスだ。

自らの執務室でシ連海軍司令長官 ウーラスト・シュチュワフ相手に激しく言葉をと共に右手をテーブルに叩きつけた。

 

ウーラストは高い衝撃音に動揺せずに口を開く。

 

「申し訳ありません。ここまでの損害が出るのは想定外でした。」

「想定外で済むか!! この責任は一体どうするのかね!! こんな結果を聞いたらアスーラ・チェイコフ(先生)はどんな顔をすると思うか!!」

 

“こんな時にも国民より先生か·····”とウーラストは心の中で呆れていた。

 

とその時ウーラストの背後の木製の扉が勢いよく開けられた。

扉から入ってきたのは若い政府職員だ。政府職員は息を切らしながらレジェーブを向いて,

 

「書記長!!」

「一体なんだこんな時に!?」

「ノヴォシビルスクの部隊で反乱が発生しました!!」

「何だと!? こんな時に!! 直ぐ様部隊を派遣して鎮圧せよ!!」

 

レジェーブがそう指示を出した刹那,別の政府職員が部屋へと滑り込んできた。

 

「書記長!! ハバロフスクとヤクーツクでも部隊の反乱が発生しました!!

それにチタでは民衆の暴動も発生したとのこと!!」

「ハバロフスクにヤクーツクにチタだと!?」

「次々と意味が分からんことばかり起きる!! 一体何故だ!?」

 

連鎖的に起きる反乱にレジェーブは頭を抱えたが,ウーラストは連鎖的に起きた理由を突き止めていた。

 

(こんなに早く情報が伝わるとは······政府職員の中にスパイでもいるんじゃないのか?)

 

誰かが朱雀列島上陸作戦完全失敗の情報を流し,それを好機と見たシ連に対して好感を持っていない人々が軍,市民関係なく立ち上がったのだと。

そして今やシベリアの奥地であっても携帯電話が通じる時代。立ち上がった情報はあっという間に世界中に拡散し,それに続く形で連鎖的にこの状況が起きたのだと。

 

ウーラストがそう考えているとロシア人特有の青い瞳を持つ女性政府職員が,息を切らしながら部屋へとやって来た。

 

「今度はなんだ!?」

「書記長!! ウラル山脈のレーダーサイトがロシア連邦の航空隊部隊が我が国に接近するのを確認したとの事です!!」

「ロ,ロシア連邦だと!?」

 

“ロシア連邦”という単語が出た瞬間,レジェーブ以下その場にいた者は皆青ざめた。

 

青ざめた理由は単純。“ロシアが来たらシ連はもう負ける”と察したからだ。

只でさえ部隊や民衆の反乱が起きている中で,だめ押しのロシア連邦。

 

誰もが愕然とするなか,勢いよくニスが塗られた木製のテーブルが叩かれた。

 

皆がその音源へと振り替えると,呼吸が乱れつつあるレジェーブが視界に写った。

 

レジェーブはまるで壊れたラジオの様に“ハハハ····”という乾いた笑いを繰り返した。

 

「ハハハ·······やはりロシアは卑怯だな······徹底抗戦だ!! 国内中の戦力をロシアへと向けろ!!

ウーラスト君。君も何とか手を打ってくれ!! 出し惜しみはするな!!」

 

ウーラストは耳を疑った。自分の持つ主戦力の太平洋艦隊は既に全滅し,残っているのは半壊した近海艦隊や練習機含む航空隊,そして沿岸防衛部隊だ。

 

だがその戦力の大半はオホーツク海沿いに配置されており,内陸のイルクーツクには極少数しかいない。

 

しかもその極少数も半数が戦闘とは無縁の裏方だ。実戦では戦力処か邪魔にしかならない。

 

そしてレジェーブの“出し惜しみはするな!!”。“こいつはオホーツク海沿岸まで戦線後退してもまだ戦う気なのか”とウーラストは自己解釈した。

 

周りの政府職員もウーラストと同じように,戸惑いの表情をうかべていた浮かべていた。

 

「何をしている!? 早く私の指示を全土に伝えろ!!」

 

レジェーブの怒鳴り声で政府職員はこの部屋に来た時と同じように,駆け出した。同じように部屋を出たウーラストはある確信を得た。

 

“もうシ連は駄目だと”

 

ウーラストは密かにシ連からの亡命ルートを考え始めるのだった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

混乱が起こり始めたイルクーツクから南西に約200kmの華北平原の東北端に中華人民共和国の首都 北京はある。

 

人口は約2100万人で,アジア処か世界でも有数の大都市と言っても過言ではない。街には高いビルが連立していたが,年間を通しても珍しい高濃度の黄砂で霞んでいた。

片側3車線の道路も黄砂の影響で自動車によって埋め尽くされ,クラクションが鳴り止まなかった。

 

そんな北京の中心部西城区に中国政治の中心地 中南海は存在する。

 

かつては皇帝の離宮だったこの場所は,現在中国共産党の本部が置かれ,中華人民共和国主席の官邸でもある。

 

その一室で中華人民共和国の最高指導者 李・呂寧(リー・ロネイ)が報告を受けていた。

 

「以上が朱雀列島における自衛隊の行動一覧です。朱雀列島のシ連軍は跡形も無い程に崩壊しました。

よってしてシ連は崩壊待ったなしと思われます。万が一に備えて空軍と陸軍に出撃待機命令を出された方が宜しいかと。」

 

中央軍事委員会から派遣された士官 劉・思斉(リュウ・スーチー)上尉は現地部隊から送られてきた情報も交えて(リー)へと報告していた。

 

報告を終えて書類から顔を上げた(リュウ)は,(リー)が自らの思考モードに入ったと察した。

 

「これでシ連は終わり········ウラジオストクさえ手に入れば,日本を落とせる。

そして日本の次は韓国・台湾········そしてアメリカ········」

 

(リー)自身は心の中だけで言っている筈なのだが,実際の所口から駄々漏れていた。

それを強調する様に彼女の表情も国内外の評判とは真逆な黒く歪んだ物へと変わっていた。

 

勿論は(リュウ)この事にはとっくに慣れきっていた。

 

最初の頃は毎回指摘していたのだが,直る気配が全くなかった事と,外務大臣の(ワン)から意味が無いと言われた為にもう諦めていた。

 

だがこのままでは話を聞いているとは思えないので,わざとらしく咳払いをした。

咳払いで(リー)は現実へと引き戻された。(リュウ)は心の中で溜息をつきつつ,口を開いた。

 

「それで出撃待機命令はどうしましょうか?」

「勿論出してくれ。シ連軍がこっちに来られたら元も子もないからな。」

「了解しました。北部戦区*1の部隊に国境周辺への出撃命令を下しますね·······」

 

ここまで言いかけた(リュウ)はふと(リー)を見た。

そして再び呆れた。(リー)がまた自らの世界へ入っていたからだ。

 

「これでいつでも攻め込める。待てよ·········敢えて何か言いがかりをつけて攻め混むのもありだな·······いや国連にああ言ってしまったから無理か·····」

 

(リー)の独り言を聞きながら,(リュウ)何とかならないものなのかと彼は叶えるのが絶望的に難しい願いを抱くのだった。

*1
主に内モンゴル自治区等




とある二次創作作品の影響で“とある飛行士シリーズ”読みたいなと思ってたらうちの学校の図書室にあった·······本当になんなのうちの学校の図書室。

んで先日のあの迷惑メールは何すか? 僕は1分位で削除しました。

そして突然の発表ですが,次回で最終回です。駆け足ですけど許してください。


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Episode.55 終結

今回で物語自体は最終回ですが,後書きみたいなものを投稿するので事実上もう1話あります。

それと今回最後に急展開起きますので,それを理解しておいてください。


朱雀列島3番目の島 多千穂島。数日前からシ連軍によって占領されていたが,自衛隊の第1水陸機動連隊及び中国軍の共同攻撃で今日の午前6時頃に奪還に成功していた。

 

既に日は高く登り,多千穂島へと光を照らしていた。その光は解放された島民達にとってまるで希望の光の様に感じられ,年配者は手を合わせて祈りを捧げる程だった。

 

解放された住民達が「LST-4001 おおすみ」からV-22(オスプレイ)で輸送された医療セットと同じく派遣された医者の診察を受けているなか,第1水陸機動連隊連隊長の角谷仁也一佐はある場所に案内されていた。

 

翻訳の中国兵に従ってやって来たのは多千穂島唯一の公園だった。

災害時の避難場所を兼ねている為に無駄に広い敷地の端に檜で作られた東屋がポツンと立っていた。

 

本来は島民らが雑談や休憩に使われる東屋に,1人の軍人が座っていた。

 

「角谷1佐。こちらが隊長の孫・王静(ソン・ワンジン)上校です。」

 

翻訳の中国兵が手のひらを上にして,角谷の視線を向けながらそう紹介した。

角谷は迷わず手を差し出した。

 

「始めまして。陸上自衛隊水陸機動団第1水陸機動連隊連隊長の角谷仁也一佐だ。」

 

翻訳の中国兵が(ソン)へと角谷の言葉を中国語で伝えた。

その言葉を聞いた(ソン)は笑顔で手を差し出した。角谷と(ワン)は握手をした。

 

「ハジメマシテ。我是孫子王静香(私は孫・王静上校です)

 

後半の内容は理解できなかったが,おおよそ予想できた。

 

「お座りください。立ち話も何でしょうから。」

 

翻訳の中国兵に促され,角谷は檜製の椅子に座った。椅子に座った(ワン)はさっきとはうってかわって真剣な眼差しへと目付きを変えた。

 

角谷もほぼ無意識の内に真剣な表情になる。先に口を開いたのは角谷だった。

 

「時間もありませんので,単刀直入に言いましょう。あなた方中国軍は朱雀列島を占領する気はあるのか? それともないのか教えて頂きたい。

出来れば理由つきでお願いしたい。」

 

角谷の発言を翻訳の中国兵が中国語に変換して(ワン)へと伝えた。

そして(ワン)の発言を日本語に変換して翻訳の中国兵は角谷へと返事を伝えた。

 

「“我々中国軍及び我が政府は朱雀列島をあなた方から奪う気は全くありません”と言ってます。

“理由としては見て分かる通りこの列島は我が国からでは他国の領地・領空・領海を通らなければ到達できない。

確かに戦略的価値は高いかもしれないが,それよりも補給の維持の難しさというデメリットがメリットを上回る”と言っています。」

「なるほど········つまりあなた方は朱雀列島を奪う気はないと信じて宜しいですね。」

 

角谷の言葉を翻訳の中国兵は再び中国語へと変換して(ワン)へと伝えた。

翻訳の中国兵は(ワン)の言葉を日本語へと変換して,

 

「“そのとおりです”との事ですよ。」

 

角谷はその言葉を内心信じてはいなかったが,ここで粘っても何も変わらないと分かっていた為に信じていることにした。

とそう考えていた角谷に翻訳の中国兵から声がかけられた。

 

「“しかしあなたは若いですね。幾つですか?”だそうです。」

 

自衛隊内でもよく言われる言葉を中国軍にも言われた事に角谷は苦笑いしながら,

 

「10月で32歳だ。」

 

そう言った。

翻訳の中国兵も“おぉ····”とびっくりしつつ(ソン)へと内容を伝えた。

(ソン)も目を見開いてびっくりした表情をした。

 

「“私の10も下で連隊長ですから,あなたはエリート路線間違いなしでしょう。いつの日か幕僚長になってしまうのでは?”だそうですよ。」

「よく言われますよ。まあそこまで行く気はさらさら無いですが。」

 

角谷は面倒くさそうにそう言った。ふと右腕の耐水腕時計を見ると,時計の長針は10の数字を刺そうしていた。

 

「おっとそろそろ10時ですね。私はこの後上の方に戦況報告をしなければいけませんのでここで失礼させて頂きます。」

 

角谷の言葉を翻訳の中国兵が中国語に,(ワン)の言葉を日本語へと翻訳した。

 

「“私も上に報告するので,我々もここで失礼させて頂きます。

またいつかあなたと会いましょう。その時までに私も日本語を覚えておこうと思います。”」

「えぇ,今度会う時が敵同士ではないことを祈ります。」

 

そう言って角谷と(ワン)は再び握手をした。この2人が再び会うのはいつになるのか,それは2人には分かる筈もなかった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

サファイアの様な蒼い海が一面に広がる日本海。太陽は厚い雲に隠れているが,アクアマリンの空とサファイアの海が支配するこの海に日本とシ連の艦隊は展開していた。

 

ただシ連海軍太平洋艦隊は壊滅していた為に実質海上自衛隊第2機動部隊のみが展開している状態だった。

 

現在シ連艦隊の残存艦隊3隻の周囲には第2機動部隊が展開していた。

第2機動部隊の護衛艦はそれぞれ艦尾から縄をシ連艦艇へと伸ばす準備をしていた。シ連艦艇を舞鶴へと曳航する為だ。

 

この海域には甲板を空対空誘導弾(AAM)によって破壊された「S-107 ウリヤノフスク」と91式爆弾用誘導装置(GCS-1)によって上部構造物を破壊された「801 アドミラル・ラーザリェフ」と「806 ロシア」の他にも沈没を免れていたフリゲート「グレミャーシュチイ」が浮いていた。

 

だが船体の損傷が激しく舞鶴までの曳航が不可能と判断され,「DD-117 ふじなみ」から発射された97式魚雷が命中し,海底への一方通行の旅を開始していた。

既に海面に姿を現しているのは艦尾のみになっていた。

 

そんな艦隊の様子を「DDH-185 あまぎ」艦長 桐島龍樹1等海佐は艦橋脇で眺めていた。

手すりに手を掴んで極寒の海に落ちないように気を付けながら,ただ曳航の準備を見つめていた。

 

そんな桐島の元に副艦長の長瀬竜也2等海佐がやって来た。

 

「わざわざここに来なくても準備の様子は見れますよ。それともわざわざ見なければ済まない(たち)なんですか?」

「どうなんだろうな? 俺自身も分からないな。」

 

長瀬の疑問を桐島は曖昧に返した。長瀬はこれ以上聞いても無駄だと判断したのか,追及する事はせずに手すりに身を預けてた。

 

「俺,司令が病院から帰って来たら艦長辞めるわ。」

 

唐突な発言に長瀬は目を見開いた。桐島は長瀬が返事を返す前に理由を付け加えた。

 

「この戦いで分かったさ。俺は戦場にいるんじゃなくて後方から指揮を取る方が似合っているってな。」

「じゃあなんだ。防衛庁でも行くのか?」

「防衛庁はちょっと合わなそうだな。個人的には自衛艦隊司令部がちょうど良さそうだが。」

 

桐島はそう言って自分の考えを長瀬へと伝えた。桐島の発言を長瀬は何も言わず聞いた。

 

この2日間の戦いで何かが変わった。2日の間に想定外の事態が何回も起きたこと,自らの考えなんか甘過ぎたと彼は痛感したのだと長瀬は解釈した。

 

と長瀬はふとあることに気づいた。

 

「ということは,艦長の後任は俺という事か?」

「どうだろうな? 副艦長かもしれないし,葛城かもしれないし,はたまた関係ない場所から来るかもしれないぞ。」

「まあこの艦隊に入れるなら俺はどの役職でも良いけどな。」

「果たしてそんなので良いのか?」

 

桐島は長瀬の言葉に疑問を抱いたが,答えは無さそうだと感じた。

桐島は手すりから手を離して,

 

「俺の考えなんて甘過ぎた。副艦長とのあの説教で教えて貰ったさ。で分かったさ,こんな場所は俺にはあわなかったと。

ここで区切りをつけて,考えをやり直そうと思う。俺はまだ未熟だった。副艦長と再び会えるかどうか分からないけど,もし会う機会があったら,また自分なりの考えを作っておくさ。」

 

そう長瀬へと宣言した。そして“それから”と前置きして,

 

「副艦長。俺がいなくなった後のこの艦隊を頼むぞ。」

 

そう頼み込んだ。長瀬は“ふっ”と微笑した。

 

「言われずともやりますよ。艦長も自らのアイデンティティを再構築される事を期待してますよ。」

「任しておけ。」

 

桐島がそう言った時,ちょうど雲に隠れていた太陽が桐島の顔を照らした。照らされた桐島の表情は新しい夢を見つけた子供の様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球とは全く異なる空間。

 

その空間の周囲は一切の穢れの無い純白に包まれ,それ以外の不純物は1mmたりとも存在しない。

 

その空間の一角にある建物が立っていた。

 

その建造物は白い石造りの柱が幾重にも並び,同じく白い石で作られた屋根には裏側まで細かな装飾が施されていた。

もし我々がこの建物を見たならば,まるでギリシャのアテネ・パルテノン神殿そっくりだと思うだろう。

 

そんな神殿の内部には同じく石造りの長テーブルと椅子が設置されており,まるで会議場の様になっていた。

 

そんな場所にポツンと1人の女性が座っていた。

 

女性は白とピンク色のロリータワンピースを纏っており,白いタイツと黒の革靴をブラブラと揺らしていた。

薄ベージュの髪には星の形をしたアクセサリーをつけ,まるでマネキンの様に細い指には赤や青の宝石がついた指輪が何個もはまっていた。

 

自分の好きなものをこれでもかと纏ったかのような彼女の前には2つの球体がホログラムで存在していた。

 

両方とも青い海に大小の大陸がある惑星だったが,大陸の形がどちらも違う為に2つが()()()()だと分かる。

 

片方は3つの大洋と6つの大陸が存在する見覚えのある物だったが,もう片方は()()()()()()()()()2()()()(),()1()0()()()()()()()()()()()

 

女性は見覚えのある星 地球の外縁を指でなぞる様に動かすと,ホログラムが回転して映っている場所も続いて回りだす。

 

女性はある一点で指を止めた。彼女が指を止めた場所には()()()()が寸分の狂いなく存在していた。

 

「私の予想通りね。()()()()()()()()なら送っても問題無さそうだわ。」

「悪趣味もいいところだな。サリシャ。」

 

彼女が独り言の様に言った言葉に後ろからそんな返事が聞こえた。

“サリシャ”と呼ばれた女性は体を石造りの椅子の上で90°回転させると,声の主である女性を見た。

 

その女性は白い空間とは真逆の黒と青のストライプ模様のTシャツに黒の長袖パーカーを羽織っており,手首にはじゃらじゃらと金属製のチェーンを下げていた。

 

下半身も短すぎると言っていい程の黒のスカートを履いて,白と青のニーソと朱色のスニーカーを身に付けていた。

 

声の主を横目に見ながらサリシャはホログラムの方向へと振り返りながら言葉を返した。

 

「誰かと思ったらミネリスじゃない。あなたがここに自ら来るなんて珍しいわね。明日霰でも降るんじゃない?」

「ここに霰なんて降るわけないだろ。」

 

ミネリスと呼ばれた女性はふてくされながら,返事をした。ふと

 

「あれならあいつらを貸して上げてもいいぞ。少しの間ならいなくても何とかなるぞ。」

「辞めておくわ。()()()()()()()()()()にはちゃんとした役割があるんだし。」

 

そう言うとサリシャはホログラムの2つの星の間に右手を入れた。

 

そして2つの星の間で指を鳴らした瞬間,2つの星を結ぶかのように細い線が現れた。

光ファイバーの線程に細いその線はただ2つの星の間に孤独に存在していた。

 

「これが組上がるのは凡そ1年後。そうすれば2()()()()()()()()()()()()()

さすれば双方の世界が交わり,新たな物語が産まれるわ。」

「新たな物語というか,あんたがやってるのはルリーシェの尻拭いに過ぎないんだけど?」

「尻拭いでもいいじゃん。ルリーシェ本人はこの世界でしっかり実刑を受けているんだから。

それよりももっと重罰を下せばいいのかしら?」

「誰がそんなこと言った?」

 

サリシャとの会話のキャッチボールの球が逸れまくっている様子にミネリスは溜め息をつくと,180°反転して歩きだした。

 

「もう帰るの?」

「元々来た理由は暇潰しだからな。それにあんたといると余計に体力を使って疲れそうなのが一番だ。」

 

サリシャの疑問をそう投げ返したミネリスはこの場をそのまま去っていった。

 

再び一人きりとなったこの場でサリシャは不気味な程に上機嫌だった。

一定のリズムを刻んで指でテーブルを叩き,鼻歌を歌いながら,

 

「頼むわね。地球の皆さん方。」

 

と独り言を言った。

 

サリシャの行った行動が2つの星の運命が誰にも予想出来ない道へと進むことになるとは,この時地球の全人類は知るよしもなかった。



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後書き

この物語を読んでくれた皆さんこんにちは。作者の霧悠です。

今回は物語の完結ということで後書きという形で色々話していこうと思います。

 

・書くきっかけ

 

取り敢えずまずは書くきっかけですね。読者の皆さんは薄々感づいているかと思いますが,この物語の原作は“空母いぶき”です。

 

但し漫画版ではなく,劇場版ですがね。色々と言われている劇場版いぶきですが,見た当時はとても興奮した訳ですよ。

その勢いでこの物語を作ろうと決めたのです。

 

物語の参考として“空母いぶき”は全巻買って全部読みました。その結果色々と“空母いぶき”の似た展開が結構ありましたね。

 

イーグル・クロウ・ストーク隊も“空母いぶき”のアルバトロス・ターキー・スパロウをパク········オマージュしたものですし,特殊作戦群がC-2で降下・「DDG-203 たかちほ」の上部構造物のみ砲撃等々·········言い逃れ出来ない程にパクってます。

 

ですが流石に不味いと感じた僕は“空母いぶきとは別の世界”として描くことにしました。

 

空母の甲板を空対空誘導弾(AAM)で破壊する・いぶき型イージス巡洋艦を出す等“空母いぶき”とは一応別の世界として描きました。

 

そして“空母いぶき”との一番の違いは中国が味方という事ですかね?

 

中国を何故味方にしたかというと,ただ中国が可哀想だなと思ったからです。

色々な現代戦記で中国が敵として自衛隊や米軍にぼこぼこにされる事が多くあり,ろくな活躍もせずに負ける事が多すぎて可哀想だと作者は思いました。

 

なので時には味方として活躍させようと思って,この様な展開にしました。

ただ中国に関しても,設定の変更が多々ありましたがね。

 

・登場人物について

 

次は登場人物についてですね。この作品には何十人もの登場人物が出てきますが,この内の半数はある作品から持ってきたものです。

 

それは“仮面ライダー”です。平成仮面ライダーについて知識がある人は名前が似ているなと思ったかもしれませんが,正にその通りです。

 

理由としては脳内でキャラの言葉や動きが表現しやすい事と,単純に仮面ライダーが好きだからです。

 

ただモデルとはかけはなれた性格や言葉遣いになってしまいましたがね·······

 

ただ当てはまらない人物もいまして,鈴村さん等の政府関係者は水曜どうでしょう関係から,本庄等は個人的な知り合いから取りました。

 

シ連の登場人物はロシアっぽい語句を組み合わせて,中国の登場人物はネットで中国人の性・名前に関する記事を見ながら作り上げました。

 

ただレアル等は設定段階では存在してないキャラで,物語の展開上必要になって作ったキャラは結構多かったりします。

 

···········個人的に後書きで色々書いたり,桐島の“勝利の法則”とか匂わせてたけど全く気づいていなさそうでちょっと悲しかった。

 

・個人的な評価

 

最後に個人的なこの物語の評価ですが,間違いなく駄作だと僕は思っています。

 

処女作という事もありますが,何より自分が物語を作る事を甘く見すぎていたという事が大きいです。

 

上述の登場人物といい書いている段階で即興で付け加えたり・変更したり・減らしたり・挙げ句の果てには消滅したキャラや設定が結構あります。

 

当初はユラージや金島さんは退場させるつもりでしたが,書いている最中で“果たしてこれで良いのか?”と思って変えた結果生き残っちゃいました。

 

中国に関しても元々は内戦の結果“北中国”と“南中国”に別れたという設定でした。

でしたが,“流石に無理があるのでは?”と思い,書く直前で変更されました。

 

書ききれない程色々やらかしていて,個人的には“どうしてこうなった·····”と後悔しています。

 

・次回作について

最後は多分気になっている人はいないとは思いますが,続編についてです。

 

結論から言うと続編はあります。ただ今作みたいな現代戦記ではなく,“日本国召喚”の様な“地球なめんなファンタジー”系の作品になります。

 

既に設定製作等は進んでおり,今作の反省を生かして設定を詰め込んだ結果もうメモ帳6枚目に達するほどになっており,果たしていつ連載できるやら········的な感じになってます。

 

今作に出たキャラは全て出す予定で,出ることが出来なかったキャラ等も登場させる予定ですので,もし連載が始まったらぜひ読んでください。

 

後書きもなんかそれっぽい事は書けませんでしたが,取り敢えずこんな作品を読んでくれてありがとうございました。

 

またどこかでお会いしましょう。それでは~



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